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[25623] 【完結】『東方超人禁』(東方×とある魔術の禁書目録)
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:6c2363a9
Date: 2011/02/10 17:55
『東方超人禁 〜The super break daily.』






電波です。電波作品です。電波以外の何物でもありません。


中編くらいの長さだと思われます。


話の内容としては、禁書目録のキャラ何人(?)かが東方世界に元々居て、異変を起こし、それを我らが巫女こと霊夢さんが解決するという内容です。

もしかしたら何時か、霊夢以外のキャラも書くかもしれませんが。
【候補は魔理沙、咲夜、チルノ、妖夢、鈴仙、早苗の幻想郷若手(?)メンバーに、天子(若手なのか?)です】


幻想郷関係の細かい設定話はすっ飛ばしています。正直面倒なので。
そのため、東方の設定を知らないと「うん?」と首を傾げてしまう可能性が高いです。


東方の世界観にキャラ達を合わせているため、かなり改変がありますが電波なんで勘弁して下さい。


改変の例としては、"空をデフォで飛べる"や、"超能力が『〜程度の能力』になったり"とか"原作に無い戦い方をする"といったような感じです。


後、男なのに弾幕ごっこをしてるじゃねぇか!?というのには、そこはクロスということで御勘弁を……


なのにゲーム色を強めにしたため、かなり単純というか突然というか味気ない?内容かもです。


そして上条さん、インデックスさん、浜面さん、滝壺さんは残念ながら出て来ません。




では開始……の前に、宣伝っぽいのを。




現在、チラ裏板にて投稿している多重クロス(とある、シャナ、東方、ネギま)作品の『とある世界達の反逆戦争』。
かなり人を選ぶ作品になっていますが、読んでいただけたら嬉しいです。




では、今度こそ開始です













バックストーリー




幻想郷は平和だった。

夏の太陽が幻想郷の全てを、余すことなく照らし出している。

幻想郷は平和だった。

「……平和、"だった"のよねぇ……」

ため息を、一つ。
青空の元、幻想郷の空を飛ぶ紅と白の改造巫女服に身を包む一人の少女は、憂鬱な気分に落とされていた。
自らの能力を用いて空を飛ぶ、彼女の名は博麗霊夢。
幻想郷の、博麗の巫女であり、妖怪退治の専門家でもある彼女は今、異変解決に乗り出していた。

そう、"異変"。

今まで様々な異変が、この幻想郷で起きて来たが今回の異変は──

「っと」

彼女は飛行の状態から急停止。
空中にピタリと止まって滞空する。
何も変哲の無い、普通の場所。
地面にも空にも特に何も無いその空間に、


"震動"が走った。


「っ……」

ビリビリと、空気や大地と同時に彼女の体を"震動"が叩く。
予想していたとはいえ、多少は体に響いた。
これは地震や、龍の咆哮などではない。
地震ならば大地が揺れるはずだし、咆哮ならば落雷の轟音のごとく、空気の震動は音とならなければならない。
故に、これは、

「空間が直接震動しているなんて……全く、いい迷惑よ」

物理的な意味での震動では無く、空間的な"震動"。
世界自身が、直接震えているのだ。
こういった現象は魔法を展開した時の魔力共振によって起こされる場合もあるが、世界規模になるともはや人間や妖怪の手で起こせるレベルでは無い。

「神か、もっと別の何かか。まぁどちらにしろ、こんなんじゃおちおちお茶も飲んでられないわ」

かなり酷い現象なのだが、霊夢の言葉は軽い。
普段の調子を崩さず、彼女は再び飛ぶ。
実際の所、この現象に物理的な害は無い。物や人が震えてると同時、大地も空気も空間も震えているのだから。
なので、精々夜中に叩き起こされる危険があるくらいか。
後はお茶を一杯飲む憩いの時が、邪魔されるような。
結局は、そんな物。


楽園の巫女は、今回も気楽に異変解決に出かける。














~楽園の巫女~
博麗霊夢
移動速度☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆☆
攻撃力☆☆☆
特技:当たり判定が小さい
スペルカード
霊符「夢想封印」
夢符「二重結界」など


~普通の魔法使い~
霧雨魔理沙
移動速度☆☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆
攻撃力☆☆☆☆☆
特技:アイテム回収範囲が広い
スペルカード
恋符「マスタースパーク」
魔符「スターダストレヴァリエ」など


~完全で瀟洒なメイド~
十六夜咲夜
移動速度☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆
攻撃力☆☆☆
特技:アイテムの落下速度が遅い
スペルカード
幻符「殺人ドール」
時符「プライベートスクエア」など


~氷の妖精~
チルノ
移動速度☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆
攻撃力☆☆
特技:弾幕を凍らせれる
スペルカード
氷符「アイシクルフォール」
凍符「パーフェクトフリーズ」など


~半人半霊の庭師~
魂魄妖夢
移動速度☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆
攻撃力☆☆☆☆
特技:弾幕を剣で消せる
スペルカード
人符「現世斬」
迷符「纏縛剣」など


~狂気の赤眼~
鈴仙・優曇華院・イナバ
移動速度☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆
攻撃力☆☆☆☆
特技:掠り範囲が広い
スペルカード
波符「月面波紋(ルナウェーブ)」
散符「栄華之夢(ルナメガロポリス)」など



~祀られる風の人間~
東風谷早苗
移動速度☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆
攻撃力☆☆☆
特技:アイテム出現率が高い
スペルカード
蛇符「神代大蛇」
蛙符「手管の蝦蟇」など


~非想非非想天の娘~
比那名居天子
移動速度☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆
攻撃力☆☆☆☆☆
特技:ボスに対するスペルカードの威力が高い
スペルカード
剣技「気炎万丈の剣」
非想「非想非非想の剣」など









少女祈祷中……







[25623] Stage1 ~意味不明超人~ 削板軍覇
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:6c2363a9
Date: 2011/01/26 13:02




Stage1 〜夏の花道〜




爽やかな風が吹く道

人妖問わず陽気を感じるこの道の先に

一体何が存在するのか















「あー、良い陽気ね……」

空を飛びながら、霊夢は呟く。
夏、今の時期に花が咲き乱れるこの道は人妖問わずに気分を和ませる。
緩やかな坂道が続くこの道の頭上を、霊夢は高速で飛行していた。
表情は先程までの不機嫌さとうって変わって、明るい。
花のような笑顔で、眼下に広がる花達を眺める。

「これで震動が無ければ最高なんだけど」

そして僅かに歪められた。
早く犯人を筒巻きにして、風景を見ながらお茶を飲みたいものだと思う。
平和平穏が一番。


「いやー、確かに気持ちいなここ」


そんな彼女に、ワンテンポ遅れた同意の声が一つ。
霊夢はゆったりとスピードを落とし、傍らへと向き直る。
突然の声に、特に驚いた様子も無い。

「そうね。でも"震動"は要らないの」

再度同意を求めるように繰り返した。
彼女の黒い瞳に映るのは、一人の少年。
年は十代後半といった所か。
頭に白い鉢巻きを巻き、太陽のマークが施されたシャツに白いズボンという風貌だ。
彼は霊夢と同じように笑っていたが、その笑みは海のような荒々しさを感じさせる。
不思議な、気圏を纏うその姿は、しかしかなりの実力を持っていると、彼女には分かった。


〜意味不明超人~ 削板軍覇(そぎいたぐんは)


霊夢は知らないが、それが彼の名前である。

さて、霊夢としてはこの異変について何か知っているかも知れない、ということを考えての問いかけだ。
別に馬鹿正直に答えてもらうつもりは無い。
少し怪しいと思ったら即座に力づくで聞き出すだけである。
無茶苦茶だと思うが、そうやって勘と運と力のみで今まで異変を解決して来たのだから、末恐ろしい。

そんな彼女へ、削板は、

「震動?なんだそりゃ?」
「……」

別の意味で馬鹿正直に答えた。
その嘘偽りが感じ取れない姿に、霊夢は思わず沈黙。
幻想郷に偶に居る、阿呆で馬鹿な存在だった。
予想外の言動にため息を吐いてから、用は無くなったとばかりに問いかける。

「……先行っていい?」

しかし無理だろうなぁ、と彼女は思う。
今までの経験上、こういった輩は……

「まってくれ」

やはりだった。
突如、
ブワッ、と。
周囲の空気が重くなる。
何らかの力だろう、全身からビリビリとした威圧感を放ちながら、削板は笑みを浮かべている。
そんな笑みの理由は、霊夢には嫌という程理解できた。

「アンタ、博麗の巫女だろう?一度戦ってみたかったんだ!」

戦闘狂特有の、交戦的な笑みだ。
両者の服がはためき、その場に異質なる、戦場の雰囲気を走らせる。

「生憎、私はアンタに興味なんか無いんだけど」
「俺は強くなりたいんだ!誰よりも強く……!だから、戦ってくれ!」
「人の話は耳をかっぽじって聞けって言われなかった?」

彼女は呆れ顔で皮肉を放つが、

「耳かきなんか無いぞ?」

削板は純真なままの素直さで返してくる。やりにくいことこの上無い。熱血漢は何処へ行った。
はぁ、と。
霊夢は本日何度目か分からないため息を吐き出してから、

「耳かきが無いから、代わりにお札をあげる」
「来い!」

札と針を神速の速さで取り出し、交戦的な男へ向き直った。

こんな唐突で理不尽な戦いもまた、彼女達の日常。


楽しい楽しい、弾幕ごっこの始まりである。












彼女の手から小手調べとばかりに放たれたのは、誘導性が高い札の弾幕。
数十を越す、茜色の札は僅かな曲線を描き、削板へと迫った。
周囲をぐるりと舞うように迫る札へ、

「ふんっ!」

彼は気合いで答える。
一声とともに、両手が真横へ勢いよく開かれ、強く剛力を持ってして握り込められた。

(?)

疑問に思いつつ距離を取る霊夢が見つめる中、彼は空中から動かない。
何らかの術を展開する様子も見られなかった。
なのに、
ボバッ!っと。
内側から弾けた"何か"によって、札が全て掻き消された。

「むっ」

そんな不可視不可解な現象に、霊夢は不機嫌そうに唸るだけで済ませる。
幻想郷において常識などというのは最初っから役に立たないものだからだ。
しかしそれでも、戦いの思考として疑問が浮かぶ。

(霊力でも魔力でも法力でも無いわね……アイツ特有の力?)
「さすがは博麗の巫女だな。容赦ねぇ」

思考をしている間にも、削板は不適な笑みで呟いている。
博麗の巫女というのはどういう風に言い伝えられているんだ、と彼女は問いかけたくなったが堪えた。
多分、この男が色々おかしいだけだろうと信じて。

「今度はこっちから行かせてもらうぜ!」

彼はごそごそとズボンのポケットを探ったかと思うと、勢いよく何かを引き出す。
それは、一枚の白いカード。
スペルカードと呼ばれる、弾幕戦に使われる物だった。
カードを掲げ、彼は発動を宣言する。


「気合「すごいパンチ」!」


カッ!と、スペル発動時独特の光と効果音が、辺りに響き渡った。
それと同時に、彼の力たる理解不能の何かが、削板の体に充満したのが肌から直に感じ取れた。

「ネーミングセンス無いわねぇ……」

あんまりといえばあんまりな名称に、自然と霊夢は愚痴る。
何というか、やる気や戦闘意欲、危機感を無造作に削り取るような名称だ。
しかし、

「っ!?」

ゾクッ、と。
彼女は反射的に袖口からスペルカードを引き抜いていた。
それは今までありとあらゆる敵と戦って来た中で培って来た戦場勘のお陰で、霊夢は躊躇いなくスペルを発動させる。

「夢符「二重結界」!」
「おおおおおおおおおおっっ!!」

霊夢の前に霊力によって編まれた二重の高度な結界が張られるのと、削板が彼女に向かって右拳を正拳突きで放つのはほぼ同時だった。
何かを込めた拳が振り切られた、瞬間、

二十メートルは距離があった霊夢へ、正確には前に張られた結界へ、馬鹿みたいな衝撃が襲った。

「うぐっ!?」

ガガガガガガッ!!と、力尽くで結界を突破しようとする不可視の力へ、霊夢は結界を右手で支え、押し返す。
その拮抗によって霊力が弾け、火花を上げた。

(今の……!?)

流石の霊夢も、今の現象には驚かざるを得ない。
何せ不可視というだけならともかく、拳から何かを、弾幕を打ち出したにしては幾ら何でも到達が速すぎる。
しかもどうやら壁のごとく面の攻撃のようで、結界全体に満遍なく均等な力が加わっている。

(どんな力か知らないけど、弾幕ごっこには反則的な力ね……っ!)

不可視、到達スピードがほぼゼロ、面の攻撃、おまけに威力も高いと来た。
全くもって反則的。恐らく、大概の人妖はこの一撃でノックダウンだろう。

「っ、はっ!」

結界を弾けさせ、相殺。
轟音とともに大気が弾け、極地的な豪風が吹き荒れた。

「さすがに根性あるな!初撃を無傷で切り抜けられたのは始めてだ!」
「お褒めに預かり光栄、ね!」

そんな会話を交わしながらもまだ風は吹き荒れ、スペルは終了していない。
霊夢のスペルは一時的な、瞬間的に強力な力を発生させるタイプのスペルだったが、削板のは一定時間弾幕を放つタイプ。
彼はまだ、一つしか弾幕を放っていないのだから。

今度はちゃんと視界に納めれる、光弾が五つ赤と青と黄色の三色を迸らせながら彼から迫ってきた。
だがスピードも普通。ただ誘導性が高いだけとなれば霊夢に躱せない道理は無い。
五方から迫る弾幕を、彼女はさらりと舞うがごとく躱す。
回転する視界の中、彼女は光弾が何やらカラフルな爆煙を撒き散らしているのを捉える。

「……」

本能のままに、回避。
煙から離れる。
それを測ったかのように、煙が幾つもの弾幕となり、周囲へとゆっくり漂い始めた。
見た目は丸い煙の塊とはいえ、弾幕。被弾すればダメージは避けられない。
しかし誘導性はゼロ。
周囲の空間を漂うだけで、彼女には万が一でも当たる可能性は無いだろう。
だが──

「すごいパーンチ!」

──それもこの不可視の弾幕を組み合わせれば、必殺の檻となる。
削板のこの見えない速すぎる壁弾幕。
弱点が一つ。
それは力を右拳に集中する僅かな時間と、撃つ軌道修正が不可能なことだ。
だから、この弾幕を躱す手は一つ。
右拳に力を溜めている間に全力で壁の範囲から逃れ、拳が振り切られる前に逃げ切ること。
しかも基本的に拳を振り切った後は隙だらけなので、攻撃のチャンスが生まれる。
しかし煙の弾幕が広がる中、そんな事が出来る者が──

「はぁぁっ!」

いた。
時に肌すれすれで躱し、時に力尽くで弾幕を破壊し、彼女は高速で突っ切る。
削板を中心に、一気に右の方向へと。
そして削板の腕が振り抜かれ、壁の弾幕が放たれる。
音もなく、前兆もなくそれは空間を叩く、
が、

「生憎と、さっきのでもう見切ってんのよ!」

チッ、と。
髪が僅かに壁に触れた。
それだけだった。

「何っ!?」

ギリギリ躱された、その事に削板の口からも驚きが零れる。
何故か?
ギリギリ"躱せた"のでは無く、ギリギリ"躱された"のに気がついたからだ。
先程の結界による防御。
あの時の結界にぶち当たった弾幕の大きさを、霊夢は正確に把握していた。
そして削板の拳からの範囲を計算し、ギリギリで躱す。
ギリギリで躱した場合のメリットは、

「ふっ!」

いち早く、攻めに転ずることが出来る。
霊夢は空を裂き、神速の速さを持ってして彼へと飛ぶ。
削板も近付かせないとばかりに煙を撒く弾幕を放つが、数瞬進む前に打ち落とされ、掻き消される。

「らあっ!」
「ぐおっ!?」

そして容赦なく、蹴りを叩き込んだ。
巫女服の紅いスカートを綺麗に翻し、削板の顔面を蹴り飛ばす。
その際、また何らかの力に弾かれる感覚が走った。

(体全体を覆ってる。普通の弾幕じゃ、意味無いわね)

かなり頑丈なのだろう。
霊力で強化した足に返ってきた反動に顔をしかめ、足を振り切る。
彼はグルグルと回転しながら宙を吹っ飛び、僅かに落下しかけながらも持ち直した。
あてて……と呻きつつ、しかしその瞳から闘志は消えない。

「早速一枚破られっちまったか。だけどこれはどうだ!」

削板は、次なるスペルカードを瞬時に発動させた。
その手並みは早く、やはり彼がただ者で無いと分かる。

「気力「かめかめ覇」!」

次に訪れしは光弾の嵐。
青い光を放つ、様々な大きさの弾幕が適当に撒き散らされる。
大地にも直撃しているのだろう。
遥か下方にある地上で爆音が轟いた。

見る者によっては、寒気を生むその光景。
だが、相手が悪い。

「後ろががら空きよ」
「ぐえっ!?」

ドゴッ!!と、一撃。
霊力キックを再度、しかも首の後ろから叩き込まれ、スペルを強制的に中断されてしまう。
咳き込みながらも、音速を持ってして距離を取り、削板はその姿を見る。

「あーあ、地面に何個か当たってるじゃない」

博麗の巫女は渺々とした姿でそこに居た。
霊夢は削板が感知出来ない程の自然さで彼の後ろに回り、蹴りを叩き込んだのだ。
瞬時に弾幕の弱点を看破し、本格的になる前に潰す。
言うだけは簡単で、やるのは難しい行為を、彼女は平然とやってのけた。
削板の闘志が、更に燃え上がる。
相手が強ければ強いこそ、挑戦する価値があるから。

「さすがは、さすがは博麗の巫女……!」

だから、圧倒的な実力差があるというのに、彼は笑っていた。
暑苦しい、漫画の主人公のような姿。
その姿をじと目で見る霊夢。

(……チルノを思い出すわねー)

そんなどうしようもない考えをされているとも知らず、削板は大気を震わせ、吠えた。


「俺の最大パワーだ!「ナンバーセブン」!!」」


瞬間、今まで以上の力に大気が爆発するような轟音。
普通の生物ならそこに居るだけで死んでしまいそうな威圧感が、場を飲み込む。
そんな状態でも、霊夢は余裕の態度を崩さない。

まず最初に展開されたのは、赤の大玉。
彼の周りをグルグルと周り、赤い煙を撒き散らす。
大玉が周囲を回る度に煙の層は螺旋階段のように、捩れながらも形を留めた。
次は黄色の光弾。
まるで星のように、削板の頭上から降り注ぐ。ストレート、ただ真っ直ぐに。
最後に青い壁。
長方形の真っ平らな壁が幾つも出現し、空間をかき乱す。

これら三つのパターンが幾重にも混じり合い、虹のように空間に色を描いた。
まさに弾幕の真骨頂。見た目の美しさと躱す難しさをかね揃えた、奥義。

その大玉を、煙玉を、霊夢は力尽くで突き抜ける。

「お」

その黄色の星を、軌道を完璧に読みきって躱す。

「お」

その青い壁を、他の弾幕と相殺させて無くす。

「おおっ!?」

十秒で、霊夢は削板の前に辿り着いた。
今まで削板が闘って来た、誰よりも早く霊夢は彼の前に浮かぶ。
その姿は正に、幻想の守護者というべき、強者の姿。

「ふんっ!」

削板は、拳を放つ。
蹴られる前にと放たれた拳は、岩をも跡形も無く消し飛ばす威力がある。
その鋼の拳を霊夢は体を半歩分、横にずらして躱し、

「手加減しないわよ」

ピトッ、と。
彼の腹に手を当てた。
白い手には、一枚のカード。
彼が、回避行動を取る前に彼女は言葉を紡ぐ。




「霊符「夢想封印」」




宣言通り、手加減無しの弾幕が直接叩き込まれた。













「くそー、一瞬寝ちまった!」
「…………」

夏の花道。
花の中で大の字に寝転がる削板を、霊夢は呆れと驚きの目で見る。
全力で叩き込んだ筈だが予想以上に頑丈だったのか、大地に墜落した時にはもう既に起きていた。
一瞬気絶したため、彼は負けと思っている。
霊夢としても無駄な力の消耗はしたくないので、何も言わなかった。再戦などこりごりだ。

「やっぱり根性が足りねぇ。一から鍛え直すぜ!その時はまた、闘ってくれよ」
「……」

勝手に色々言っているが、霊夢の意思は何処にあるのだろうか?
スペルカードルール的に断れないとはいえ。

「じゃあな!うぉおおおおおおおおっ!!」

そして花道に似つかわしくない、熱気を放ちながら彼は何処へと走って消える。
数秒後に障害がさっぱり居なくなった、花道を彼女は見る。

そしてポツリと一言。

「……これだから戦争は無くならないのね」














少女祈祷中……










設定


~意味不明超人~

名前・削板軍覇

種族・人間

能力・「意味不明の何かを使う程度の能力」


山奥に住んでいたが、家が壊れたため(※1)人里に引っ越して来た人間。
非常に陽気で明るく、人里においても一際目立つ男である。
よく人里で仕事の手伝いをしていたり、湖で氷精などと修行(※2)をしている姿が見られている。
腕っぷしが強く、偶に妖怪退治や護衛の仕事なども請け負っているとのこと。
比較的交友関係が広く、下は氷精、上は風見幽香(※3)などとはば広い。
大概の知り合いが強さを求めて戦い、知り合った者ばかりである。
何故命をかけてまで強さを求めるのかは判明していない。(※4)。

性格上、危険度は零と言って問題ないだろう。むしろ、正義感が強いため助けられることも多い。
傍目から見ているには楽しい人物だが、絡まれるとかなり騒がしいが、実害は殆ど無い。

彼の能力は「意味不明の何かを使う程度の能力」
名前の通り、不可視不理解な何かを使う力で、本人でさえ、自分の力がどんなものか理解していない。
妖怪の賢者によると、彼の力は「次の時代の力」とのことで、恐らくは霊力や魔力の派生では無い、全くの新種の力だと思われる。
起こる現象としては色とりどりの爆煙を撒き散らしたり、到達速度零の弾幕を放ったりというのが例に上げられる。


※1
何故壊れたかは不明だが、恐らく誰かの弾幕ごっこの余波を受けて倒壊したらしい。

※2
修行だけで無く、遊んでいることもある。面倒見のいい男だ。

※3
あの風見幽香と戦って生きているということが、彼の実力を物語っている。勝負には負けたようだ。

※4
筆者が尋ねた所「男は何時でも強さを求めるもんだ」と誤魔化された。




スペルカード集

気合「すごいパンチ」
気力「かめかめ覇」
気合「すごいキック」
根性「ヒーロキック」
気合「すごいラッシュ」
気力「気合斬」
気力「エネルギー覇」
根性「秘技・弾幕拳」
気合「クラッシュハリケーン」
根気「キーブレイク」
根性「真っ赤なスターライト」
気力「カラフル爆炎」
気人「秘技・超人力」

「ナンバーセブン」

計14枚






[25623] Stage2 ~閃光の女王~ 麦野沈利
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:6c2363a9
Date: 2011/01/27 09:06




Stage2 ~閃光の女王~ 麦野沈利




Stage2 〜銀舞い散る森~




魔法の森の外れに煌びやかな場所がある

空気中の魔力によって光が舞う幻想の光景

それは、自然が生み出した一つの芸術だった













「さて、こんな所まで来ちゃったけど」

銀の森。
魔法の森の外れにあるここは、霧では無く銀に覆われている。
煌びやに光る、魔力の結晶。
その輝きは宝石のようで、しかし手には触れられない、遠き幻想。
偶にこの光景を見るために訪れに来る者が居るほど、この空間は美しいが霊夢はあまり嬉しくは無かった。
魔力を肌で感じ取れるため、纏わり付く感覚が鬱陶しいのもある。
が、問題はそこでは無く、

「この先に何か居そうね」

自分の勘が、またもや面倒そうなことになると警告したからだ。
しかも揉め事を感知する勘だが、異変を解決するためには此方へ行けと警告している。
つまりは、面倒だがなんとかしなければならないということ。


「あら、何かってのは酷いんじゃない?」


森の中を縫うように飛んでいた彼女にかけられた、女性の声。
一拍おかず、声の持ち主は霊夢の前に瞬時に現れた。
膝を曲げゆっくり着地するその姿はまるで何処かの貴人のようだが、本質は全く別だと霊夢は知っている。
噂でしか聞いたことは無かった。
茶色の少しカールした長髪。
透き通る茶色の瞳。
整った美貌。
黄色の洋風ドレスに、黒いハイヒールと呼ばれる靴。
それらが噂の全てと合致した。


~閃光の女王~ 麦野沈利(むぎのしずり)


出会ったら絶対に怒らせるな、普通に接しろと言われている、極一部に対して危険度最大級の人間。
何でも怒れば性格が変わり、森を一つ地図から消したこともあるとか。
霊夢としては、自分もそれくらい出来るので怖くは無いが、面倒なのはごめんだ。

「一体何のよう?私今忙しいのよおばさん」
「…………いきなりねぇ。これはたっぷりイジメがいがありそうだ」

しかし、何故か突然麦野の雰囲気が変わる。
僅かに口調も変化していた。
思わず首を傾げる霊夢。さっぱり起こる理由が分からない。

「私なんか言った?」
「しかも自覚無し、と。これは根本的に"お話"しなきゃなぁぁぁ……」

……だめか。
彼女はそう悟った。
この後霊夢がどんな言動を放とうが、目の前の女性は確実に自分に挑んで来る。
既にカードを一枚取り出し、此方へ向けていることからもそれは伺えた。
なので霊夢は諦め、お払い棒を左手に持ち、問いかける。

「"お話"はやっぱりお茶を交えるべきだと思うのよ」
「そう?お茶は用意出来ないけど和菓子くらいは用意出来るわよ。目が眩むくらいの」

和菓子、ねぇ……と彼女は呟き、嘆息をつく。

「甘ければいいんだけどね」

その言葉に、麦野は凶悪な、鬼人の如き笑みを浮かべ、

「残念……文字通り死ぬ程苦くて苦しいから」
「……苦いのはお茶だけで充分なんだけど」

さて、"お話"の始まりは最初の一撃から。

全く甘く無い一撃から始まる。


楽しい楽しい、弾幕ごっこが始まる。












ボンッ、と木々を突き破り、空中に出現する人影が二つ。
太陽の元でも銀が舞うひんやりした、木々の上空の空間に、二人は同時に飛び出した。


「光線「メルトダウナー」!」


先手必勝とばかりに、麦野の左手から目を瞑りたくなる閃光が溢れ出した。
それは大気を、大気に含む魔力をも焼き、熱を発している。
名称と似たような力を使う知り合いの経験から、霊夢は真上へと飛ぶ。
瞬間、霊夢の居た場所を光が突き抜けた。

「っと」

ズアアアアアアアアアアッ!!という、怖気を誘う轟音。
耳に入れつつ、彼女は光を見る。
麦野から放たれた光線は一本。
だが、その一本がとんでもなく巨大だ。
霊夢の身長の三倍は太く、魔法の森を衝撃波でなぎ倒し、遥か遠くまで突き抜けていた。
怖るべき威力。
単純な破壊力なら、幻想郷においてもトップクラスだろう。

「チッ!」

あからさまな舌打ちを聞き、霊夢は視線を光線から光線を放った当人へと戻す。
位置的に下方となった麦野の表情に浮かんでいるのは、外したという苛立ちのみ。
大きな舌打ちといい、表情の豹変といい、やはり激情すると性格が変わるというのは真実のようだ。

「その程度?」
「言ってくれんじゃねぇかクソガキ……!」

だからこそ、霊夢はあえて挑発する。
雑魚弾幕など要らない。
早くスペルを使え、全て打ち破るから、と。

「後悔すんじゃねぇぞ!?閃光「シリコンバーン」!」

次に起こったのは、小さな物だった。
極小の、光の玉。
それが此方に狙いを定める彼女の指先に浮かんでいる。
余裕の態度で見下ろす霊夢へ、光の玉はゆっくり縮み……
弾けた。

「!?」

閃光が、煌く。
細い光の筋が飛んだと思った時には、既に二本に分かれていて、更に二本が四本、四本が八本、八本が十六本と枝分かれしてゆき、霊夢の元へ届く頃には二百を越していた。
そして届く直前で更に倍になり、四百を越す。
細いレーザーの、束。

「っ」
「どうしたどうしたァ!?まだ一発だぞォ!」

シュパァァァァァァッ!!と、連続した切り裂く音を耳に響かせ、なんとか霊夢は筋の間を縫って躱す。
まるで幾重にも枝分かれした滝のようだが、まだ一発なのだ。

次は三つ。
麦野の前に、霊夢へと向けて光が浮かぶ。

先程の三倍の光の筋が、彼女を襲った。
視界を覆い尽くす程の閃光は、遠目で見ると巨大な一本に見えるが、本当は幾重にも分かれた閃光。

「もう死んじまった、てかァ?博麗の巫女さんよォ!」

次々弾幕を形成し、放ちながら麦野は感情のままに叫ぶ。
もはや空間は光によって目視が難しい程明るく、膨大な熱量が辺り一帯に旋風を起こす。
ゴウゴウ吹き荒れる風の中、麦野は凶悪な笑みを浮かべつつ、更に追加の弾幕を形成する。


「オラァ!次は十発
「さすがにそれは遠慮しとくわ」


何かが空を飛び、
麦野の顔面横から、爆発が起きた。

「ガッ!?」

彼女は衝撃で意識が吹き飛びそうになりながらも、堪える。
しかしスペルは中断されたため、空間に響いていた轟音と閃光は突如として消えた。
攻撃を受けたと分かったのは、爆発の残照たる霊力を感じ取ったからだろう。
爆風によって乱れた髪を強引に整え、其方を見る。

「今ので勝ちだと思ったんだけど、面倒ね」

爆発を炸裂させた犯人、霊夢がそこに居た。
余裕の態度と言動を、全く崩すこと無く。
上空に居た筈なのに今は麦野と同じ高さに居る。
ということは、あの光の束を躱しきったのだろう。
しかしその体に、傷は無い。
顔を労わるように抑えつつ、彼女は憤怒の色を強くした。

「舐めやがって……舐めやがって舐めやがってェェェッ!!」
「お菓子じゃないんだから舐めないわよ」

霊夢の何気ない一言が、更に麦野の怒りに火を注ぐ。
彼女が見守る中、麦野はカードを掲げ、吠えた。
空間に響く、絶叫。


「永光「サテライト」!!」


答えるように、ブンッ、と光の球体が出現した。
但し、出現場所は二人が浮かぶ空間の、更に上空。
大中小の個々によって全く大きさの違う光球は、ランダムで宙をグルグル動き回って居る。

「消し飛べ!」

吐き捨てるように麦野が叫んだ瞬間、光球が"光"を吹いた。
空気をぶった斬る、恐ろしい紅色の光線。
光球自体が、術を放つための砲台だったのだ。
地上へ、正確には浮かんで居る霊夢を中心とした地点に、豪雨のごとく光は降り注ぐ。
大地が爆音を立てながら刳れ、地盤と木々が悲鳴を上げながら消し飛ぶ。

「ハハハハハハハハッッ!」

自らの前に降り注ぐ、光の雨を見て、麦野は笑っていた。
圧倒的な破壊の力。
それを気に食わない相手に叩き込むという、歓喜の感情。

「どうだ!これが私の力だ!思い知ったかクソガキィ!」

感情の思うがままに、彼女は更に出力を上げる。
一層轟音が強まり、更に麦野は高笑いしようと──


「えぇ、よーく分かったわ」


──した所で、幻聴を聞いた。
いや、幻聴では、無い。
光の雨の合間。
僅かに音が途切れた瞬間に、今の声は場に響いた。
博麗霊夢の声が。

「だから、もうお終い!」

彼女は、光の中に居た。
秒間四百を越す破壊の豪雨の中、霊夢は弾幕を躱し続けたのだ。
頭上から降り注ぐ、一発でも喰らえば終わりの攻撃を。
今も、躱しながら攻撃の準備を整えていた。

「なっ」

その余りにも常人を逸脱した実力に、麦野が何かを言おうとした所で、


光の雨の合間から、札と針の嵐が彼女へ殺到し、直撃し、大爆発を引き起こす。
黒煙を体から僅かに放ちながら、彼女は力の抜けた体で、大地に墜落して行った。




(──ふぅ)

霊夢はその姿を見下ろし、肺に溜まった空気を吐き出す。
スペルが解除され、光の雨が止む。
それを確認して、霊夢は自分の真下の大地を見やる。
光線によって森はもはや跡形も無く、円形場に破壊の跡が刻まれていた。
暫く、この地面には雑草も生えないだろう。

「全く、やり過ぎよ。しかも──」

破壊の跡を見てため息を吐く霊夢。
人里の人間に何か言われないだろうか、と自分勝手な心配をしつつ、


「まだ、終わってないし」


ゴバッ!
効果音で表すなら、そんな音。
森から、相手が墜落した場所から閃光が立ち昇る。
正に、閃光と呼ぶに相応しいその光は、

龍の滝上りのように、グィ、と上昇した。

はっ?と、霊夢が首を傾げる前に、


「「イリュージョン・ザ・サン」」


突然、太陽が生まれた。
巨大な、巨大な光の塊。
物理的に、空間的に相手を焼き尽くす光が逆巻きて球を作り出す。
神々しささえ感じる程の、破壊の化身。
一目で霊夢は、太陽のような球体の中心に麦野が居ると把握した。

(……自分は光線の壁に守られて、相手には)

太陽から、紅い閃光が周囲に放たれる。
完全に無差別で無慈悲な、必殺の嵐。
轟音を立て、空気をブチ抜きながら辺りにばら撒かれたのは当然、霊夢にも迫る。
一発でも受けたらヤバイ光を次々、霊夢は軽く躱す。
動きに恐怖は見えなかった。
眼前に迫った腕くらいの光線を、首をそらして躱しながら、

「適当に大火力で攻める、と!」

足元を貫こうとした光線には札をぶつけ、相殺。
爆発によって黒煙が生まれるが、すぐ光によって切り開かれた。

「だけど……」

巨大な光の塊が霊夢の真っ正面から迫る。
遊撃であろう、光の弾幕を放ちながら迫ってくる。
太陽が直に迫ってくる威圧感。
しかし、霊夢は余裕を崩さない。
普段の暢気さもあったが、とある確信があったからだ。

「……そろそろ限界でしょ」

弾幕をひらりひらりと躱しながら、彼女は一枚のカードを取り出して、言葉を一つ。
スペルの宣言。己の奥義の名前を、小さく唇を動かして。


「霊符「夢想封印 集」」


カードが弾けた。
内側に秘められし力を発動させ、現実に具現化する。
七色の巨大な光球が霊夢の周りを一回まわったかと思った時には、
遊撃の弾幕を掻き消し、光と太陽が衝突していた。
空間に音と衝撃が響き、辺りが一瞬、嵐に包まれる。

耳を壊すような轟音と、吹き荒れる風の中、

「……クソ、が」

息も荒く、麦野が生身の姿で空に浮いていた。
太陽を形成していた光は何処へと消え去り、後には太陽の光と風が吹くだけ。
殺人光線は、もう跡形も無かった。

「やっぱり、力を出し尽くすタイプのスペルか」

偶に、そんなスペルがある。
後の事を考えず、全力で相手を葬り去るための一撃必殺のスペルが。
しかし後を考えていないため、一度でも破られると、こうなる。

「チッ……次は……」

むしろ、破られて尚浮かんでいられた彼女は、ある意味異常だ。
やがて体力を本当に全部使いきった麦野は目を閉じ、ゆっくり墜落してゆく。

ボロボロの、環境が破壊されつくされた元森に落ちて行く彼女を見て、霊夢はふと思った。

にっこりと笑って、一言。

「やっぱり、甘い方がいいわね」














少女祈祷中……













設定


~閃光の女王~

名前・麦野沈利

種族・人間

能力・「光線を使う程度の能力」


魔法の森の外れに住む女性。
見た目の姿が大変麗しく、彼女の影を追う男性は少なくない。
性格は普段は冷静で落ち着いた雰囲気だが、戦闘中や怒り狂った時に恐ろしいまでに豹変する。
主な目撃情報は魔法の森近くと人里だが、幻想郷を放浪することもある。
普段は妖怪退治で生計を立てているらしい(※1)。
交友関係は少ないが、幾人かと仲が悪い(※2)らしく、よって全体的にあまり友好度は高いとは言えない。

普段は冷静で落ち着いており、冷酷でもある。怒らせたら、命の保障は無い。
が、此方から何らかの粗相をしでかさなければ怒ることは無いので(※3)余り問題は無いと言える。
会ったら普通に接するのが一番である。

彼女の能力は「光線を使う程度の能力」と名前の通り。
光線を撃てるという、先天的才能が無くても出来る技能だが、彼女の場合威力が桁違い(※4)である。
光線を回転させて盾のようにしたり、僅かだが曲げることも可能らしい。
単純な戦闘力で見ると、とてつもなく恐ろしい能力である。


※1
護衛の仕事はしない。本人曰く「誰かを守るのは苦手」とのこと

※2
主に風見幽香や八雲紫など。いずれも、弾幕ごっこに負けた恨み。

※3
怒らせても、直ぐに謝れば許してもらえることもある。常識はあるほうだ。

※4
森を一つ、地図から消したという話もある。




スペルカード集

光線「メルトダウナー」
光線「シリコンバーン」
永光「サテライト」
光符「メルトダウン」
光線「クリスタルレーザー」
永光「サイエンスサクリファイス」
紅光「血の涙」
死光「キリリングダウナー」
偽光「マスタースパーク」
死光「スパイラルバースト」
光線「パラサイトレイ」
願光「明日の光」
神光「エターナルオブダウナー」

「イリュージョン・ザ・サン」

合計14枚





[25623] Stage3 〜電撃姫〜 御坂美琴
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:6c2363a9
Date: 2011/01/28 17:26




Stage3 ~灼熱の砂丘~




辺り一面を砂が覆う、枯果てた土地

昼は地獄、夜も地獄

そんな災厄の土地に居るのは、物好きばかり













「あ、暑い……」

思わず口からそんな言葉が漏れるのを、霊夢は抑えきれなかった。
ジリジリと太陽の光が大気と肌を焼き、汗が止まらない。
ここは砂色に覆われた土地。
水が無い、乾いた土地だ。
こんな所を好む人妖の精神が、霊夢にはさっぱり理解できない。
大気は熱によって歪み、太陽の光は砂漠の砂に反射して地獄の連鎖を繰り返す。
結界を使えば少しはマシになるだろうが、涼むために霊力を使うのはなんだか負けた気がする。

「うぅ、暑い暑い暑い……」

ブツブツ文句を呟いても、暑さが収まる訳はない。
せめて速く飛んで風をうみ、体を涼まそうとした所に、


「ちょろーと、いい?」


声がかけられた。
改造巫女服の首元をパタパタ仰ぎながら、彼女は気怠そうに其方へ視線をやる。
視線の先には、一人の少女。
霊夢よりも年下に見えるぐらいで、茶色の短髪から時折青い火花が散っている。
白いワンピースに身を包んだヒラヒラした格好で、涼しそうだなと思うと同時少々子供っぽいなと観察しながら思う。
彼女がそんなことを、熱によってぼんやりした頭で考えていると、

「私は御坂美琴。お願いがあるんだけど?」


~電撃姫〜 御坂美琴(みさかみこと)


その名前は、風の噂で耳に入れたことがあるような、ないような。
確か、河童の……?
のんびりした思考で考えつつ、霊夢は無駄にニコニコしている美琴へ手を振りながら返した。

「生憎、私はこの先に用事があるの。異変を解決しなきゃなんないから」

とりつく間も無い、明らかな拒絶の意思。
そんなあからさまな態度に、彼女はピクリと、青筋を一つ浮かばせる。


「……勘がいいわね」


美琴の、何処か怪しい一言を耳に入れた瞬間、霊夢の意識がハッキリとなった。
ブワッと、大気が震える感覚が辺りに広がり、体を膨大な霊力が包み始める。
暑さなど忘れたかのようにダレていた顔が引き締まって、博麗の巫女が光臨した。

「へぇー……ようやく当たりね」

うきうきとした、興奮を隠さない表情と口調で、霊夢は紡ぐ。
そう、ようやくだ。
いらない戦いを二つもしたが、その分はこいつに叩きつければいい。
全くもって、巫女らしくない考えだが。

「当たったから、何?」
「当たったら、後は解決するだけよ」

バラッ、と。
霊夢の手から宙に札が舞い散る。
桜の花の如く、柔らかに、美しく。
戦闘準備を整える彼女へ、此方も短髪から火花を更に散らし、美琴は不敵という言葉がしっくり合う笑みで笑った。

「通すと思う?」
「残念、門番は倒される役でしか無いのよ」

むっ、と表情を歪める美琴。

「門番じゃなくて、せめて番人にしなさいよ」
「一緒じゃない」
「一緒じゃないわよ」

ハァ、と。
目の前で美琴があからさまなため息を吐のにも気にせず、針を右手に、お払い棒を左手に持つ。
揺らぎないその姿こそ、霊夢の姿。
しかし相対する美琴の姿もまた、一つの勇者だろう。
一瞬で全身を青い雷撃が包み、雷の化身のような姿。
バチバチと、雷撃音が空間に響く。

「本気で感電させるけど、悪く思わないでよね!」
「落雷になんか、人生で一度も当たったことないけど?」

紫電が散り、大地を揺らす。

異変解決のために、空飛ぶ巫女は弾幕を撃つ。


楽しい楽しい、弾幕ごっこを始めるために。














ザ、ザザ、ザザザザザザッ!!
──耳にまず入ったのは、そんな異音だった。

「?」

明らかに雷撃の火花の音では無い、その音。
それは、真下の砂に覆われた大地から。
下へと目をやる。

「っ?」

砂が盛り上がっていた。
いや、正確には茶色の砂から黒い砂が迫り出して来ている。
モグラが出てくるかのように。
ジワジワと、茶色が黒に浸食されてゆく。
咄嗟の判断で、霊夢は舞っていた札全てを大地へ向けて飛ばした。
茜色の札は紙ではあり得ないスピードで大地に落下し、爆発する。
色とりどりの爆発が、砂を一気に吹き飛ばした。

「はっ!」
「とっ」

雷撃が走る。
顔を其方へと向けずに、彼女は勘のままに体を下方へずらした。
三条の雷が、霊夢の体ギリギリを通過して霧散する。
チッ、と舌打ちが鳴った。

「本当に勘がいいわね!」

叫びとともに、今度は雷では無い攻撃が放たれた。
それは、大地から。
舞っていた爆風を突き破り、漆黒の物理的な弾幕が次々と上空の霊夢へ殺到する。

「よっと」

が、予め読んでいた彼女は、僅かな結界を張ってやり過ごした。
美琴の方は向いておらず、ただただ結界にぶつかっては散る黒い砂を観察し、思考する。

(……特殊な砂?雷とこの砂が、あいつの力みたいね)
「余所見してていいの!?」

ザザザザッ、と、今度は近くから。
結界を解き、霊夢は身を宙に踊らせる。
周りを囲むのは、黒い砂の剣。
元を辿ってみると、美琴の周りを黒い砂が渦巻いていた。

「行け!」

美琴の叫びとともに、黒刃がまるで触手のように霊夢を切り裂かんと迫る。
周囲、ほぼ全てから迫る刃の檻を見て、

「──そこ!」

一番薄いと感じた刃を消し飛ばし、脱出した。
僅かに黒い砂を体に貼り付けながら、霊夢は美琴を再度見て──

「!?」

居なかった。
黒刃の元を見ても、ただ黒い砂の塊があるだけで彼女は居ない。

「落雷「天下無双の轟雷」!」

霊夢は、飛んだ。
上空──、真上に何時のまにか存在していた美琴へと。
しかし、霊夢が彼女へ到達する遥か前に、スペルが発動した。
光を放ち、起きた現象は突然空が黒くなるということ。

(?)

疑問に思って、ハッとなる。
雲が、太陽の光を遮っていた。
──ただし、青い雷を迸らせる黒雲が。


ゴシャアアアアアアアアアアアッッ!!!!


天地を引き裂くような轟音と、衝撃波が、辺りをかき乱す。

巨大な雲から放たれた巨大な雷は幾重にも重なり、全てを打ち抜いた。
大地は勿論のこと、まだ浮かんでいた黒い砂さえも同様に。
巨大な熱量によって砂は溶け、衝撃で吹き飛ぶ。
極地的な雷の雨。
常識という言葉が吹き飛んでいる幻想郷においても、異常な現象。

「…………嘘」

そんな、圧倒的な力を放った美琴は思わずそう口に出していた。
何故か?

「だから言ったでしょ。落雷になんか、当たったこと無いって」

落雷の嵐に包まれた筈の霊夢が、傷一つ無く浮かんでいたからだ。
大した回避行動もとっていないというのに、彼女は全くの無傷。
確かに今の弾幕(そう言っていいのか疑問はあるが)は美琴も細かい操作が出来ない。
落雷とは、そういう物だ。
つまり、霊夢が傷一つ無いのは運の結果。
天下無双の幸運。

「……電磁「レールガン」!」

抜き打ちでスペルが発動された。
美琴のカードを持っていた右手から、何かが超高速で放たれる。
灼熱の赤色を撒き散らし、空間に残照を残す砲撃。
それは、マスタースパークのような破壊光線では無く、メルトダウナーのような貫通消滅光線でも無い。
物理的な、超高速砲弾だった。

「むっ」

いきなりな攻撃に、しかし霊夢は必要最低限の動きで躱す。
ついでとばかりに針を三つ程飛すのを忘れない。
キュボッ!!と、かなり先の大地に衝突して轟音を上げる自分の必殺技を見つつ、美琴は眼前に迫った針をつかみ取った。
素手で、何の躊躇いも無く。

「反応がいいわね」
「まっ、能力の関係上よ。アンタも攻撃が理不尽に全部外れる、なーんてことは無いみたいね」

だったら、と。
美琴は言葉をためて、


「躱しきれない攻撃を叩き込む!砂鉄「ブラックウォール」!!」


宣言とともに、スペルカードが弾けて空へと消える。
シンッ、と沈黙の音が響くような時間が生まれた。
数秒経って、しかし何も起こらない。
疑問に思った霊夢は、美琴の後方に、

津波を、見た。

「ブッ!?」

思わず吹き出す。
常識的に考えて、陸のこの場所で津波など起こらない。
だが現に起こっていた。
真っ黒で、巨大な津波が。
津波の正体は黒い砂こと砂鉄。
高さ百メートルはありそうな砂鉄の壁が砂丘から引き摺りだされ、此方へと迫って来て居るのだった。
地の利もあるとはいえ、巨大な能力行使。
しかも、美琴の顔からして、疲れた様子は見えない。

「さぁ、どう躱す!?」

言われなくても、と霊夢は思ったが口には出さない。
ただ、安全かつ確実に躱せる方法を探していた。

(壁をぶち抜く……は、ダメね。見た所結構薄いからスペル無しでも行けそうだけど、壁の厚みを操作されたら終わりだし。上に逃げる……も、ダメか。なんか浮いてるから、追いかけられるわね……)

ならば、と。
霊夢はカードを取り出す。
絶対的において切り札を切らないのは、馬鹿のすることだとばかりに。

「霊符「夢想妙珠」」

霊力による大玉が、壁を蹂躙した。

「──っぐぅ!?」

そうとしかその瞬間の光景を、美琴は説明し切れなかった。
突如、彼女の周りに数珠のように連なった弾幕が現れたと思った時には、神速の早さをもってして背後の砂壁をぶち抜いていた。
少ない衝撃波を自分の背中側から受け、僅かにふらつく美琴は前を無理矢理見る。
穴だらけとなった壁は美琴のことなど気にせずに霊夢へと迫っていたが、当然、壁に開いた穴から楽々脱出される。

「思ったより脆かったわね」
「……アンタの攻撃が異常なのよ」

呑気にそんなことを言う霊夢を見て、美琴はため息とともに指を軽くならす。
パチン、という小気味のいい音とともに、砂鉄が壁の形を崩し地面へと吸い込まれていった。

「もう、手加減なんてしてられないわね」

バチィッ!と、簡単な電気の弾丸がばら撒かれる。
周囲へ均等にばら撒かれた電撃は、霊夢の札によって一つ残らず撃墜された。
容赦ない、その姿。

「電磁「エレキトリック」」

しかし時間としては充分だったのだろう。
彼女の手から次なるスペルが発動された。
霊夢は自分も一枚スペルを準備しつつ、次の現象を待つ。

「はっ!」

砂鉄が、電撃を纏った砂鉄が出現した。
ランダムで宙に出現し、それは様々な形を持ってして宙を舞う。
槍のような、棘のような、剣のような、共通点といえば鋭いということぐらいしか無い、凶器の形で。

「ん……?」

手加減無しと言った割には、やけに手緩いなと霊夢は思ったが直後に認識を改める。
空間に漂う凶器。

それらを繋ぐ、電気の縄が出現した。

バチバチ!と、天然のロープは熱を発散する。
宙に、雷の網が生まれた。
青い雷のロープに囲まれた霊夢は、しかし慌てない。
落ち着いて、弾幕を見極める。
上、下、右、左、前、後。
ランダムに迫る弾幕の、自分に関係する物だけを意識の中に入れた。

そうすると、僅かな抜け道が見えてくる。

「ふんっ!」

胸元に直撃しそうになった雷を胸を限界まで反らして躱し、態勢を崩したまま、砂鉄の塊を躱す。
アクロバティックな動きだが、見るものがいれば気がつくだろう。
動きに、一瞬の無駄も無いことに。

空中で逆さまになったまま、彼女はぐるりと一回転。
手から札を放つ。
札は弾幕に衝突し、爆発。
一気に霊夢を仕留めようとしていた、杭型の砂鉄弾幕全てが粉々になった。

「スペルブレイク」

ヒラリ、と紅と白の服を翻しながら彼女は呟く。
さて、次はと思う間もなく、




「雷撃姫「天雷・弾幕結界」!!」




「っ!?」

とんでもない、スペルカードの名が告げられた。
「弾幕結界」。
ある程度の実力を持つものは、皆その名に恐怖を、もしくは警戒を抱く。
何故なら幻想郷において、この名を持つスペルは凶悪な物だという認識が存在するからだ。
そして、それは美琴が持つこの弾幕結界にも変わりは無かった。

先程の砂鉄の弾幕とうって変わり、全てが雷撃によって構成されている。
ただ、剣の形をしているもの。
球体の状態で留まっているもの。
杭型の状態で留まっているもの。
全てが、中心に霊夢をおいて並んで包囲している。
隙間無く、何重にも弾幕の層を重ねて。
完璧な、結界のように。
一発一発が必殺の雷であり、見るものに絶望を与えてもおかしくない、その光景。

「いけっ!」

美琴の叫びが一つ。
瞬間、
宙に留まっていた雷撃全てが、中心の霊夢へと収束した。
空気を焼きながらそれは彼女を消滅させんと迫る。
雷のように迫り、
弾丸のように迫り、




「大結界「博麗弾幕結界」」




全てを、撃ち落とされた。
「弾幕結界」に。

「──」

圧巻の、光景。
霊夢が隠し持っていたスペルが発動した時、周囲に弾幕が形成され、ぶつかり合い、完全に相殺しあったのだ。
札が、霊力の弾丸が、大玉が、針が、全ての雷撃を打ち破り、脅威を消す。
本来なら相手を殲滅するための弾幕は、同じ名を冠するスペルカードを打ち破るために使われたのだった。

「──っ、くっ!」

放心状態から、美琴は漸く復帰する。
しかし、もう余裕など何処にも無い。

「──終わり?」

そんな彼女へ、冷静に、余裕を持ち、霊夢は尋ねる。
周りを舞う爆煙など気にせず、ただただ勝負のために。
本当に人間なのか疑いたくなるその姿。
だが、美琴とてここまで来て後には引けない。


「「only my railgun」!!」


故に、最後の切り札を発動させる。
今までに無い轟音が場に満ち、

雷の天使が、光臨した。

そう。
「天使」
今のその姿を、それ以外のなんと呼べというのだろう。
背中から十以上に分かれた雷の幻想的な翼を背負う、その姿を。
彼女の背中から伸び翼はゆっくりと、長くなって行く。
御坂美琴の、限界の力。
天に近付こうとして作り出した、究極の雷。
彼女は翼を僅かに揺らし、霊夢を見る。
瞳は何処までも青色に染まっていて、背中に背負った蒼雷の翼と、よく似合っていた。

「……来なさい」

絵にしたら、恐らく金で買えないくらいの幻想光景。
しかし霊夢は、光景に見とれ続けることは無い。
今はまだ、弾幕ごっこの最中なのだから。

「……はぁぁあああああああああっ!!」

閃光が、走った。
雷を軸にした、彼女が撃てる最強の一撃。
手からのみしか放たれ無かったそれは、今や翼からも放たれ神々しき弾幕光線とかす。

それらを霊夢は、ことごとく躱した。

鳥のように上昇し、岩のように落下し、風のようにゆらりゆらりと動く。
見るもの全てを引きつけるその優雅な躱し方に、美琴は思わず苦笑した。

博麗の巫女は、大地に着弾して起こる轟音も気にせず、彼女の目の前へと躍り出る。


勝敗は、鮮やかに結した。











「うぐっ……いたたたた……」

砂に埋もれかけながら、美琴はそう呟いた。
その姿を霊夢はからっとした笑顔で見ている。
自分で撃墜した者に向けるとは思えない類いの笑みだ。

「じゃあ、先に行かせてもらうわよ」
「ちくしょう……」

霊夢は美琴の捨て台詞を無視して飛び立つ。
弾幕ごっこの最中に方角など分からなくなった筈だが、彼女は迷い無く進んで行く。
彼女の目的はこの異変の主謀者であって、番人などでは無い。
揺らぎ無い、遠ざかって行く紅白の姿。

その姿に、口に入った砂を吐き出しながら美琴は呟く。

「アイツ等でもちょっとキツイかな?」

















少女祈祷中……













設定


〜雷撃姫~

名前・御坂美琴

種族・人間

能力・「主に雷や磁力を操る程度の能力」


幻想郷の外れに住む、幼き少女。
正義心が強くて子供っぽく(※1)、人里などでもよく見かけられる。
性格のためか、よく寺子屋の子供達と一緒に遊んだり、逆に授業(※2)をしていることもあるようだ。
能力の関係上か、河童達の研究にも助力しており、度々妖怪の山でも見られる。
人妖ともに交流関係があり、仲がいいため友好度は悪くない。
具体的には妖怪の山の巫女(※3)や、河童や天狗など。

性格は素直で無く(※4)怒るたびに雷が煌くが、余程のことが無い限り人妖ともに殺しはしない。
精々、一ヶ月寝たきりにする程度である(※5)。
人に対しては特に優しくて、頼みを言えば引き受けたり助けてもらえることも多い(※6)。
むしろ彼女に危害を加えなどしたら、その背後の人物によって更に危険になるだろう。
本人の力も本物で(※7)彼女が悪人では無くよかったというべきか。

彼女の能力は「主に雷や磁力を操る程度の能力」である。
雷を幾らでも自由に生み出し、操作が可能で、磁力の力によって砂鉄を操り武器や壁にすることも可能のようだ。
更に本人からの情報によると磁力の力場を常時辺りに撒いているため、目を閉じていても大体周囲の様子が分かるという(※8)。
そして肉体を電気によって僅かに強化し、反応の速さも上げているとのことだ(※9)。


※1
服装なども子供っぽいと、周囲から度々からかわれている。

※2
あくまで慈善事業なので、お金は貰っていない。どうやら大量の財宝を売って生活している様子だ。

※3
異変前から知り合いだったようだが、どう知り合ったのかは不明である。

※4
「アイツが素直ォ?ンなこと龍が死ぬくれェあり得ねェだろォが」と言われた。

※5
本人曰く「雷は意外と手加減し易いから楽」とのこと。

※6
彼女には最強の守護者が居る。

※7
八雲紫なども認める、弾幕ごっこにおいては幻想郷最強クラスである。

※8
よって彼女に不意打ちや奇襲の類いは無駄らしい。

※9
何故簡単に自分の秘密をバラすのかというと「バレた所で意味ないでしょ」とのこと。




スペルカード集

落雷「天下無双の轟雷」
電磁「レールガン」
砂鉄「ブラックウォール」
電磁「エレキトリック」
雷撃姫「天雷・弾幕結界」
電磁「スパイラルレールガン」
落雷「10おくぼると」
砂鉄「黒い砂嵐」
落雷「超天空雷」
電磁「ブラックレールガン」
砂鉄「プライドブレイカー」
電磁「雷鋼の鎚」
黒雷「黒電一閃」
天雷「無双雷牙」
蒼雷「神速の咆哮」
迅雷「天空舞雷」
電光「レールガン・改」

「only my railgun」

合計18枚





[25623] Stage4 〜常識の破壊者〜 垣根帝督
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:6c2363a9
Date: 2011/01/31 16:38




Stage4 ~忘れられし岩場~




誰も寄り付かず、全ての存在から忘れられた岩場

故に何者もそこに来ることは無く

ただ岩のみが、時の流れに身を任せる















「さて、そろそろかしら?」

ごつごつした灰色の物体──通称、岩が溢れ返る場所の上空。
紅と白の服を揺らしながら、霊夢は飛んでいた。
戦闘から真っ直ぐ飛ぶと、待っていたのは北と南と西を全て山に囲まれた岩場。
残りの入り口たる場所は、先程の砂丘のみ。
完全に孤立した、誰も、妖精の姿すら見当たらない岩場を霊夢は眺める。
彼女の勘がここに今回の異変の主が居ると訴えていた。
しかしながら、勘はしょせん勘。
ハッキリとした目的地が分かる筈も無いし、異変の主が誰なのか、どんな目的なのかということも分から無い。
なので、捜索するのだ。
見つけたら理由を聞く前に殴る気満々で。

「というわけで、さっさと出て来なさいよー」

そんな心中の狂喜を平然と隠し、霊夢は見る者全てを癒すような笑みを浮かべながらただ進む。
……見る者によっては、逆に気味悪く思う笑みだった。
そして笑みのせいか、元々人が居ないせいか、彼女に答えてひょこひょこ出て来る者は居ない。

「……」

そのことに気がついたのか、気がついていないのか。
空中で、霊夢の動きが止まる。
はためいていた巫女服の揺れが、一瞬だけ収まった。

直後、


「──異常「白翼無限舞踏」!」


轟!!と。
上空から、突然弾幕がやって来た。
弾幕の姿は、羽。
白銀の雪を連想させる、見事なまでに白い鳥の羽。
それらが、百を越すそれらが、
まるでダーツの羽のように、上空から一直線に降り注いで来た。
高い音とともに空を翔てくる羽は、見た目の美しさとは裏腹に確実に人を殺せる威力を持っていると、霊夢には直感で感じ取れる。

「ひゅっ!」

なので無論、たやすく躱した。
それは雨を躱すに等しい行為だったが、彼女はサラリと横に移動し攻撃範囲から逃れる。
が、追尾機能でもあるのだろう。
大量の羽の内、半分程が横に直角で曲がり、霊夢を追う。

「ふんっ!」

霊夢は腕を振った。
指には札が数枚乱暴に掴まれており、振られることによって高速で放たれる。
瞬速を持って飛んだ札は、しかし羽へと向かわない。
羽の弾幕による壁。
その更に上に居る"者"へと札は襲い掛かり、

「おわっ!?」

ドカンッ!!と、大爆発。
爆炎による轟音が響くと同時、美しき羽の弾幕は突如として消える。
スペルを中断されたからだ。
つまりは、爆煙を払って再度霊夢の前に現れた者が、突然の襲撃者。
上空に居るであろうその姿を、霊夢は岩場にある一つの巨石に足を付け、眺める。

そこに居たのは天使だった。

御坂美琴とはまた違う翼を持つ者が、居た。
ただ美琴の翼が膨大な威力を放出するために作り出したものだとするなら、その翼は、まず間違い無く本物の天使の翼だった。
純白の羽で形成された、巨大なる三対の翼。
柔らかで、何処か生物的で、幻想的な、不思議な翼。
本来は鳥にしかついていない翼は今、一つ十メートルという馬鹿みたいな長さで存在し、

一人の人間の背に、存在している。

年は霊夢と差程変わらない。
ただ男で長身、外界産のようなツルツルした素材で出来た赤色の上着を見事に着こなしていることから、実際よりも大人に見える。
若干色の薄い茶色の前髪を揺らし、男はニヤリと笑う。

「やるじゃねぇか」


~常識の破壊者~ 垣根帝督(かきねていとく)


それが、この明らかに人間の枠を超えた者の名。

「人間じゃない?」
「悪いな。人間だ」

翼を生やしていることから人間ではないのかと思ったが、否定され納得する。
よく見ると、羽の一つ一つが何らかの力で構成された物であると分かったからだ。

「で、アンタが異変の犯人……じゃ、ないわね」
「おいおい、少しは疑ってもいいんじゃねぇのか?」

ワザとらしく、垣根はやれやれと首を横に振る。
馬鹿にするような、というより馬鹿にした態度。
失礼な行動に対して、霊夢はニッコリ笑い、


「いや、アンタ如きに異変が起こせるとは思えないし」


喧嘩を、売った。
花のような笑顔で喧嘩売られ、ビキリ!と、整った彼の顔に青筋が浮かぶ。

「……ムカついた。さすがは博麗の巫女。対したムカつきっぷりだ」
「牛乳でも飲んだら?」

更に挑発の言葉が、霊夢の口から紡がれた。
この時点で翼から放たれるプレッシャーが、中級妖怪程度のレベルなら逃げる程にまで達している。

「適当に脅すだけにしようかと思ったが変更だ。テメェはここで素敵で愉快なオブジェに変えてやる」
「残念。アンタみたいな三下は倒されるのが常識よ」
「ハッ……知らねぇならよく覚えとけ」

バサァァッ!!と、白銀の翼が、天に伸びた。
長く、長く。
神々さを発し、天からの贈り物を受け取るように大きく、広く。

「俺に、そんな常識は通用しねぇ」
「まぁ、世の中常識が通用する方が少ないでしょ」

暴風が吹き荒れ、弾幕が唸りをあげる。

世界は戦いに震え、始まりを告げる。


楽しい楽しい、弾幕ごっこの始まりを。










ゴウッ!と、迫る巨大な物体。
自分を叩き潰さんとする物体の正体は、巨大な翼。
霊力を込めたお払い棒で、翼を弾く。

「オラッ!」

乱暴な言葉とともに、三対の翼が大剣のように振られた。
頭上から己を叩き切ろうと、巨大な長さになって迫る翼を、霊夢は岩を蹴って躱す。
クルリ、と宙を舞い、自分の居た岩を翼が叩き潰すのを感じつつ、彼女は別の巨岩に着地した。
曲芸師の如き舞。
しかし、拍手は無く、次に迫ったのは右と左から迫る翼の大剣だった。

「──っ、と」

ハサミのように閉じる翼の領域を見極め、霊夢はまたしても上へ飛ぶ。

「かかった!」
「どっちが?」

読んでいたのだろう。
追撃の羽弾幕が、真正面から迫った。
霊夢は手元に四角い結界防壁を張ってやり過ごし、逆に着弾時の衝撃を利用して距離を取る。

霊夢は接近戦が得意な方では無い。
もっとも、そこら辺の妖怪などを簡単に瞬殺するくらいの戦闘力はある。
ただ、上の領域においてはそうでない。
というより、霊夢は遠距離戦の方が圧倒的に強いのだ。
故にまず、距離を取る。

垣根はそれを最初の激突で気がついていたのだろう。
翼を武器とした接近戦で、彼は戦っていた。
だが、今。
距離を取られる。

「チッ!」

翼をはためかせ、機動力の全てで迫ろうとするが、

「ぐおっ!?」

突如、後ろからの爆発により、態勢が致命的なまでに崩れた。
翼の散った羽。
その隙間から見えたのは、とんでもない距離のカーブを描いて此方に迫る誘導弾だった。

(おいおい!なんつー技術だ!)

垣根が翼で弾幕をかき消している間に、霊夢はまるで疾風のように距離を取り、その手に針と札を持つ。
そして、

「はぁぁっ!」

全部、投げつけた。
空気の層を乱暴に切り開いて、札と針は一気に垣根へと向かう。
更に、次の攻撃はこれだとばかりに、霊夢は霊力を右腕に収束させていた。
無言のプレッシャーとともに迫る、弾幕の嵐。
一転して不利な光景を見た垣根は、

「あぁ、クソ。異常「殺人太陽光」!」

二枚目のスペルを、発動させた。

瞬間、翼の一つが弾ける。
羽の塊であった翼が弾けたため、翼を構成していた羽が空に撒き散らされる。
ヒラヒラと、雪のようにゆったりと羽は舞い散り、

「っ!」

霊夢は全くの勘で飛び退いた。
あと少し遅ければ、結界を張っていただろう。
チカッ、と羽に太陽の光が当たった瞬間、
一条の、強い太陽光が彼女の居た場所を通過する。
鏡のように、羽が太陽光を反射した。
その過程で、ただの太陽光が全く別物になったと、霊夢には分かる。

「言っただろ?常識は通用しねぇってな」
「っ」

舞う羽からの太陽光を、霊夢はなんとか躱す。
三つの閃光は、傍目からは普通の光にしか見えない。
ただの光にしか。


ジュウウウウウウウウッ!!


当たった岩が、溶けていることを除けば。

「っ!」

鏡の要領で複雑に反射してくる光を、霊夢は急降下して躱す。
太陽光からは何も感じない。
だが、もはや普通の光では無い。

「──なるほど」

彼女は納得する。
確かに、これには常識が通用しない。
常識的に考えて、普通の太陽光が、岩を溶かすだけの力を持つ訳がない。
物理法則においての、非常識。

だが、

「所詮は、弾幕よ」

霊夢は、札と針を投擲し、
撃ち落とした。
宙に浮いていた羽の、全てを。
百発百中という言葉があるが、今霊夢が行ったことはその言葉通りのもの。

百の羽を、全て狂いなく撃ち落とす。

「もうかよ!」

早くも自分のスペルが破壊されたことに、垣根は声を荒げた。
羽に反射した太陽光が殺人光線になっていたのだから、鏡たる羽が無くなった今、必然的に殺人太陽光も消え去る。
空間に満ちていた異常の法則は、今は無い。

「ほら、次はいいの?」

空中を、まるで雲のように漂う彼女からの挑発。
ギシリッ、と垣根は奥歯を噛み締めてから叫んだ。


「上等だ!異法「完全封殺」!」


三枚目のスペルカードが、発動した。
光を辺りに放ち、爆発するような効果音が、寂れた岩場に響き渡る。

………………………

が、

「……?」

何も、起きない。
ただ翼が復活して大きく広げられただけで、それ以外は何も起きない。
スペルをミスした訳では無いだろう。
現に、彼女の瞳に映る垣根の表情には笑みが浮かんでいた。

ボバッ!と、一振り。
彼の翼が一つ振られ、同じ高さに浮かぶ霊夢へと、羽が解き放たれる。
矢のように迫る羽を見て、取り敢えず霊夢は右に動こうとして、

左に、動いた。

「っっ!?」

おかしい。
そう彼女が思った時には、躱せた筈の弾幕が目の前にまで来ていた。
咄嗟に結界を張る。
結界に着弾した羽はスパークを散らしたかと思うと、
白い閃光を撒き、炸裂した。

「うぐっ!」

左手で結界を支え、霊夢はなんとか耐え忍ぶ。
本来なら躱している所なのだが、右に動いたつもりが左に動いていたのだ。

(幻覚系……!)
「はっ、どうだ。少しは効いたんじゃねぇのか?」

今までの余裕の笑みを消せたのが嬉しかったのか。
垣根は笑いながら、翼を振るう。
翼が振るわれる度に、羽の矢が次々と暴風とともに放たれた。
剣を振るったような、空気を切り裂く音を耳に入れつつ、霊夢は考える。

(能力を使えば関係無いけど、疲れるし、やっぱり普通に躱した方が楽ね)

本当に命懸けの状況なのかと、疑いたくなる思考の内容。
フワフワと風船のように軽い思考を終えて霊夢は結界を解く。
解くとほぼ同時に第二陣の羽が迫るが、

彼女は、ゆっくりと体を動かして羽の攻撃範囲から逃れた。

「なに!?」

これに驚いたのは垣根だ。
現在、二人が居る空間は垣根の能力によって非常識が支配する空間となっている。
空を飛ぶ際の法則に介入し、逆の方向に体が動くという新たな法則がこの場において適応されているため、霊夢も右に動こうとすれば左に、上に動こうとすれば下に動くことになる。

なのに霊夢は、自由に空を飛んで、弾幕から逃げていた。
他人から見れば、普通に飛んでいるとしか思えない姿で。

「馴れると簡単ね」

そんな一言が彼女の口から放たれ、爆発音の合間に響く。

「たった一回でだと……!?」

戦慄した。
もう、天才などというレベルでは無い。
たった一回の失敗でここまで完璧を得れる者を、天才などという言葉で表すのは無理だ。

「隙あり」
「がっ!?」

衝撃。
垣根が茫然としている間に霊夢は彼の手元まで接近し、顎に容赦無い蹴り上げを叩き込んでいた。

「この……っ!」

彼が顎を抑え、反撃しようとした時にはもうそこに霊夢の姿は無い。
二十メートル程離れ、紅白の服を揺らす。

「……」

微動だにしないその姿に、垣根の目が段々と平坦になってゆく。
舐められている。
そんな言葉が垣根の中に生まれた。

「霊符「夢想封印」!」

しかし霊夢に、そんな思考に付き合ってやる道理は無い。
彼女の周囲に七色の光球が現れ、集束。
一気に解き放たれて、垣根へと迫った。


「異物「ダークマター」!」


霊夢の遠慮無い、怒涛の攻撃。
反射的に彼は、スペルカードを発動させた。
自分の中で、二番目に強いスペルを。
それだけ、彼は非常識を楽に超えてくる巫女に追い詰められていた。

空間が、歪む。

「?」

比喩では無く、彼の周囲の空間が歪んだ。
背後の景色が霞んで捻れ、ひび割れる。
疑問に思いながらも、霊夢は光球を向かわせ、垣根へと叩きこんだ。

そして、爆発が霊夢に向かって起きる。

「っ!?」

本来ならば、爆風も爆炎も全てが相手に叩きつけられる筈。
しかしながら、何故か爆発は全て、霊夢に向かって跳ね返って来た。
二十メートルの距離があった筈の、彼女へと。

「くっ!夢符「二重結界」!」

正面に、スペルカードによる結界を瞬時に展開。
展開と同時に、自分の霊力による衝撃が襲った。
思わず体が後ろに押される。

(反射……!?いや、爆発の法則が変わったって所?)

どちらにせよ、攻撃を防がれるどころか跳ね返されるのならば、攻撃をしなければいい。
そう考えた所で──

ゴシャァッ!!と、何も無いのに霊夢の体が吹き飛んだ。

「──!?」

念動力、もしくは風系の攻撃。
そんなことを考えているうちにも体からミキミキと嫌な悲鳴があがり、ゴミのように空を舞う。

「ぎ、ぐっ!」

十メートル程上空に打ち上げられた所で、漸く霊夢は体を反転させて態勢を元に戻す。
視線を走らせると、空間の歪みはいたる所にあった。
透明な何かはゆっくり宙を回転しながら飛び回り、異界の法則を内側に秘めている。

「……攻撃で消すのは無理ね」

わき腹から走る痛みに顔をしかめつつ、彼女は憎たらしげに空間の歪みを睨みつけた。
歪みから普通の光球型弾幕が撒き散らされ、躱すのも非常に億劫だ。
なので霊夢は、

「──そこ!」

勘のままに、札を放った。
一枚の札は何も無い空間へと"直撃"し、爆発。

轟音が、響いた。

「ぶわっぷ!?なんでだ!?」

爆煙の中、飛び出して来たのは垣根。
今の一撃はそれなりに効いたのか、スペルは解除され、歪みは一つ残らず消える。
彼はどうやら何らかの非常識を使って姿を隠していたらしい。
先程の攻撃はアイツだろう、と霊夢は勝手に決めつけた。
それは、事実だったが。

「テメェ……どうして俺の居場所が……」

彼の煙を払いながらの言葉に、霊夢はたった一文字。

「勘」
「…………」

今まで、このスペルを破ったことのある、誰とも違う返答に、垣根は思わず笑いたくなった。
勘、と言った者は何人か居れど、それ等は全て実戦から導き出した本能の答え。
なのに、彼女の勘は、本当にただの勘だと分かってしまうくらい、本人の言葉に重みが無かった。

「面白ぇ……」

ニヤリ、と。
垣根の表情に、これまでとは違う笑みが浮かぶ。
その笑みの正体は、好奇心。
霊夢がどこまでやれるのか、自分が彼女に対してどれ程戦えるのかという、そんな闘争心に裏打ちされた、感情。

「見せて見やがれ!」

故に彼は笑う。
笑って、放つ。


「「天界からの未元物質」!!」


自分の、最大のスペルを。

「……」

威圧感は、空から。
頭上に展開された羽による雲。
白銀の輝きを放つそれから、羽が降る。
一つ一つに、異界の法則を秘めて。

「……」

霊夢は前へと飛んだ。
居た場所を、死の太陽光が駆け抜ける。

と思ったら、ギシッ、と体に物理的な圧迫感。
重力が倍増しているのか、と思いつつ更に前進。

キュンッ!!
と、極光の残照を引いた羽の槍が、彼女へと降り注ぐ。
霊夢は結界も張らず、ただ光の中を突き抜ける。

更に突然、空間が爆発した。
腹の底まで響く爆音を無視し、彼女は一気にスピードを上げる。

狙いは、ただ一つ。

「ハッ!」

垣根帝督のみ。
彼は三対の、更に巨大になった翼を乱雑に振るった。
振っただけで、低級妖怪ならば死んでもおかしくない烈風が吹き荒れ、霊夢を襲う。

「ふっ」

彼女は一息吐く。
それだけしか、口から何も言わなかった。
烈風をお払い棒で無理矢理叩き伏せ、翼による刃を手を付いて反らす。
翼自体にも、膨大な熱量が備わっているにもかかわらずだ。
恐らく、膨大な霊力でねじ伏せているのだろう。
霊夢は、伸ばされた翼の上を道のように走る。

「ラァッ!」

最後の抵抗と言っていい、蹴り。
垣根は己の非常識と霊力に強化された蹴りを放つ。
突き出された左足の蹴りを、霊夢は踏んづけて、

カウンターの、回し蹴りを叩き込んだ。
















「さっさと行っちまえ」
「あら、さっきとはやけに態度が違うのね」

遥か上空。
墜落し、地面に横たわる垣根を見下ろしながら、霊夢は笑う。
その笑みからストレスが解消出来たということが、誰にでも分かる。
なので少しイラッと来ながらも、垣根は岩に背を預けて、

「ハッ、ウダウダ言うつもりはねぇよ。精々、もっとやべぇ怪物共と戦って来い」
「遠慮無くそうさせてもらうわ」

彼の言葉になんら躊躇いを見せず、博麗の巫女は飛んで行く。
呆れた、とばかりに垣根はため息を一つ。
遥か下方の彼の態度など気にせず、霊夢は疑問に思い、一言呟く。
軽く、とても軽く。

「化物って、何処から何処までなのかしら」















少女祈祷中……












設定


~常識の破壊者~

名前・垣根帝督

種族・人間

能力・「非常識を使う程度の能力」


御坂美琴など(※1)とともに暮らす、番人の男(※2)。
性格は軽く、しかし怒った時には冷酷となる。
幻想郷の各地を放浪しているようで、様々な場所で見られている。
ただ当ても無く旅をするのが好きなようで、戦うために旅をしている訳ではない(※3)。
そのため人妖共に交友範囲が広く、特に女性には優しい(※4)。
人里においても、様々な人間と歩いている姿が見られた。

性格上、彼は敵対しなければ特に何もして来ない。
仮に向こうから接触を図って来た場合でも、普通にすれば問題は無い。最低限の常識はある。
ただ、彼は敵に対しては完全なまでに容赦が無いため(※5)、喧嘩を売ったり襲ったりするのは禁物である。
実力も高い上、彼の能力は強さという物を関係しなくするようなこともあるため、なるべく強い者でも戦わないことをお勧めする。

彼の能力は「非常識使う程度の能力」であり、常識を無くすという摩訶不思議な能力である。
背中に展開される翼は彼曰く「非常識というモノの塊」ということで、彼の能力をこの世に浸食させるために必要な物らしい。
能力の説明を言葉で説明するのは難しく、例を上げると、
・太陽の光が岩を溶かす熱線になる。
・重力が逆さまになって、物が浮かぶ。
などという、非常識な現象が起きる。
「異界の法則をこの世に引き摺りだし、操る力」とは、八雲紫の言葉。
ただ、まだこの能力には先があるようだ(※6)。


※1
他に二、三人(?)程居るのが確認されている。

※2
本人は番人を止めたいらしい。

※3
なのだが、交戦的ではある。

※4
女好きなのだろうか?

※5
ごく稀に、情けをかけることもあるらしい。

※6
「概念的な常識を壊す能力になるかもしれない」とのこと。




スペルカード集

異常「白翼無限舞踏」
異常「殺人太陽光」
異法「完全封殺」
異物「ダークマター」
異常「風神白羽桜」
異物「ダークマター・未現出」
非常識「暗黒物質」
異法「虚像壁光」
異人「迷い込んだ異世界」
異常「天人墜落」

「天界からの未元物質」

合計11枚





[25623] Stage5 〜最強の存在〜 一方通行
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:6c2363a9
Date: 2011/02/02 17:08




Stage5 ~深淵の洞窟~




真っ暗闇の世界に光は無く

人生の先行きを示すかのように

絶望の象徴たる闇が溢れ返っている













「あー、面倒ね」

霊夢の声が洞窟内にキィィィン、と高く木霊する。
彼女は苛つきが多少込められた、不機嫌な声音で愚痴を零していた。
巨大な洞窟内。
岩場に存在した入り口から飛び込んだのも束の間、早々に霊夢は外に出たくなった。
広さは問題無い。
地底なのかと疑いたくなる程、洞窟内は広かった。
しかし、暗い。全く明かりが無い。
地底と違って光苔の一つも無かったのだ。
そのため、霊夢は飛びながら霊力による明かりを灯さなければならなかった。そうしなければ、飛ぶどころか歩くことさえままならない。

「……って、あれ?」

が、一際大きな空間に飛び出した瞬間、霊夢の目に映ったのは炎だった。
炎、といっても灼熱の火の海が広がっていた訳ではない。
かがり火。
空洞の壁に、ロウソクや松の枝が幾つも取り付けられていて、全てに真っ赤な火が灯っている。
暗闇の世界は火のお陰で、光の広間を浮かび上がらせていた。

「……」

広い、広間だった。
端から端まで㎞単位の長さがあり、天井は高過ぎて見えない。
天然の洞窟には似合わない人工的な光景だが、少し青みがかかった岩盤が天然の光景を連想させ、妙なミスマッチを描き出している。

そこに、一人の男が霊夢に背を向けて立っていた。

男、というよりは少年と言ってもいい風貌。
炎の赤に照らされる髪は銀の光を放ち、体は全て黒い服に覆われている。
靴でさえ、黒。
なのに、隙間から見える肌はとにかく白い。
雪のように白く、触れただけで壊れてしまいそうな線の細さが見える。

普通の洞窟なら、旅人だとすますことも出来ただろう。
しかし、ここはあの番人に守られた洞窟。
普通の旅人が、ここに居る訳が無い。

「……あんたがこの異変の犯人?」

霊夢の声が、彼女が思った以上に響く。

「あァ?」

他人が居ることに、漸く気が付いたのか。
彼は、霊夢へ振り向いた。
真紅の眼光を、殺気に光らせ。


~最強の存在~ 一方通行(アクセラレータ)


霊夢は思う。

(今までとは、違う)

博麗の巫女になって以来、最大の警報を頭が鳴らしていた。
この目の前の存在は、レベルが違う。
今まで数々の存在と、彼女は戦って来た。
妖怪、妖精、魔法使い、吸血鬼、幽霊、宇宙人、閻魔、死神、巫女、神、覚り妖怪、スキマ妖怪、天人、更には月人まで。
幻想郷において実力を持つ者達の殆ど戦い、勝ったり負けたりして来た。

しかし、それらのどれにも感じなかった得体の知れない力を、霊夢は今、感じ取っている。

「オイオイ……まさかあのメルヘン野郎、負けやがったのか」
「と、いうことは貴方が異変を起こした犯人ね」
「ンな訳ねェだろボケ。何が悲しくてンな無駄なことしなくちゃなンねェンだよ」

きょとん、となって、首を傾げる。
言葉から嘘は感じ取れない。
それどころか、逆に迷惑しているという気持ちが伝わって来た。

「本当に?」
「そうだって言ってンだろ。つゥか、今からその馬鹿をブン殴りに行くとこだボケ」

……暴言にイラッときつつ、彼女は更に問い詰める。

「だったら誰よ。私は早くお茶を飲みたいのよ」
「さっさと家に帰って飲ンでろォ」
「そうするわ。異変を解決してからね」

引き下がらない霊夢。
彼女の性質を理解したのか、一方通行はハァ、と息を吐く。

「メンドクセェ、こっちは忙しいンだ。死ンでも文句言うンじゃねェぞ」
「死んだら口は動かないわよ。死人に口無しって知らない?」

霊夢の周りに、霊力が集束し始めた。
それに伴い、空気の渦が生まれて行く。
洞窟に響き渡る、轟風による騒音。
対して一方通行は、特に何もしない。
ただ黙ってポケットに両手を突っ込み、殺気を充満させるだけ。
殺気は重く深く、吐き気がするような気分の悪さを与えて来る。
しかし霊夢の表情が、姿が揺らぐことは無い。

「地獄までの一方通行だ。超特急で送り届けてやる」
「分かった、逆走すればいいのね」

空間は限界に達して、弾ける。

膨大な人外の力は響き渡り、ぶつかり合う。


楽しい楽しい、弾幕ごっこの合図。












声が一つ。

「奇術「ミスティックレイター」」

いきなりだった。
開始一秒と経たずに、スペル発動。
どうやら本当に、彼は急いでいるらしい。
そう考えつつ、霊夢は地を蹴って飛び上がり、距離を取る。
高い高い洞窟の空間に浮かんだ彼女は、一方通行の手元を見た。
スペルカードが握られていた手に集まる光は、黒。
黒い、弾幕。
華やかさも求められる弾幕ごっこにおいては、珍しい色だった。
黒い魔力の塊が彼の右手から解き放たれる。
レーザーの様に伸びたそれは、一気に空中を駆け巡った。
キュンッ!と、響く音。

「んむ」

対して霊夢は一気に反転。
一方通行に接近する。
そして目の前に壁のように迫ったレーザーを紙一重で躱した。
迷い無い、サラリとした超人技。
彼はその姿を見て、

「曲がれ」

パチン、と指を鳴らした。

「っ!」

瞬間、レーザーが曲がった。
それも十に分裂し、直角に曲がって行く。
普通、弾幕というのは大概が緩やかなカーブを描いて曲がるが、これは完全な九十度に曲がって空間を駆け巡っていた。
空間に、黒いレーザーによる網が出来て行く。
予測不可能、更には普通に無いレーザーの軌道。
霊夢は一方通行への接近を止め、身を翻して背後からのレーザーを躱す。

「なるほど」

確かに、一部には美しいと言われそうな弾幕だ。
だけど、霊夢には綺麗だと思えない。
故に、

「はぁぁっ!」

札を纏めて投げつけた。
十枚程ボールのように纏められた札の塊は、超高速を持ってして今だに地面に足を付けている一方通行に、
たやすく、直撃した。
トゴォォォンッ!!と、轟音が洞窟を揺らす。

(……?)

周囲を翔ていたレーザーが消えて行くのを見つつ、高い天井へと立ち昇る白煙の元を見下ろす。
おかしい。
今の一撃は、躱せた筈だ。

だとすれば、躱す必要が無いのか──

「……メンドクセェなァ、クソったれ!」

そして、予感は正しかった。
突如として暴風が吹きすさび、白煙のカーテンが消し飛ぶ。
現れたのは、全くの無傷たる少年。

「バリア?」

そう考えて、だとすればどれくらいの強度なのかと予想する。
だが、相手は待ってくれない。

「幻葬「夜闇の幻影殺戮鬼」!」


ユラリ、と。
霊夢の周りに、弾幕が出現した。
幻影のように、夢幻のように。


「──」

突然の現象に、彼女は直ぐに対応した。
自分に向かって迫る小さな白い光弾を、お払い棒で強制的に叩き落とす。
その間に黒い光線が駆け巡り、結界で一本だけ弾くことにより、自分が躱せる空間を生み出す。
正に神業。
超人の域の力だ。
それを見て、

「ハッ、中々やンじゃねェか。どォりでアイツ等が負ける訳だ!」

下方からの、賞賛と苛立ちが混じった声。
霊夢の鮮やかな手並みに、これ以上スペルを続けても意味が無いと悟ったのだろう。
一方通行の一言と共に、スペルが消え、違うスペルが再度、発動する。

「幻世「アクセル・ワールド」!」

怒涛の攻めだった。
本当の意味で休む間も無い、攻めの連続。
霊夢はしかし、怯まない。
スペルの内容を見極め、飛ぶ。

今度のスペルは変速的だった。

そう、変速。

赤いレーザーが駆け抜けたと思えば、一つ一つの到達速度が全く違う。
神速の早さで迫るのもあれば、亀のように遅いものもある。
しかも、途中でスピードが変わるのだ。
フェイントがここまで明らかに込められたものも珍しい、と彼女は考えながら、僅かな赤色の隙間を潜り抜け、札で誘爆させ、体をレーザーの範囲から脱出させる。
今まで一方通行のこのスペルを受けた誰よりも早い速度で。
余裕を無くさず、彼女は飛ぶ。
鳥のように、蝶のように。
一方通行の口から、僅かな苛立ちの吐息が零れた。

「霊符「夢想封印」!」

そして、反撃。
七つの光球は出現と同時に下方に、開始から一本も動いていない一方通行へと迫る。
縦に七つ並び、さながら龍のごとく。

「チッ」

そこで霊夢は、一方通行の行動を一つ残らず見ていた。
そのために、態々光球のスピードをズラして飛び込ませたのだから。

まず一つ目を、一方通行は右手を当てて"反らした"。
まるで右手によって、光球が操作されたかのように。
光球があらぬ方向へ飛んで行くのにも構わず、続けてやって来た光球に対し、

「方符「ストレートジャック」!」

新たなスペルを放つ。
紅いレーザー群は姿を消し、代わりに一方通行の周りに光が出現した。
小さな小さな光球。
ビー玉ぐらいの白い球体。

それが、真っ直ぐレーザーとして放たれる。

普通のレーザーが大砲なら、これは機関銃だ。
空気を焼く効果音が連続して鳴り響き、レーザーは七色の光球を貫き、爆発させる。
膨大な熱量が一方通行の体を叩くが、彼に堪えた様子は無く。

「うぜェ!」

右手を、背後に振るった。
音も無く弾かれる、最後の光球。
七つのうち一つだけ、一方通行の背後から回っていたのだ。
そういう風に弾幕を操作出来る霊夢も異常だが、それに反応出来る一方通行も異常だ。
二人共、常識という言葉が馬鹿に見える行為を、やすやすとやってのける。
爆煙と白煙と砂埃が立ち昇り、視界がきかない中、一方通行は更にスペルを発動させる。

「幻符「インディグネイション」」

──幻想の象徴たる、黒い光の剣が出現した。
クルクルと、途轍も無い力を込められた光の剣は舞う。
自分の周りを舞うその剣に、彼は命令を与えようとして、

「っ!?」

白煙の先に、彼女が居ないと気が付いた。
一瞬、完全に一方通行の思考が停止する。

(一体、何処に)
「そんなにどんどんスペルを使わないの。勿体無い。スペルってのはね──」

後ろ。
一方通行が振り向く前に、


「──こういう風に使うのよ。宝具「陰陽鬼神玉」」


スペルカードを構えていた霊夢の左手から、巨大な陰陽玉が発射された。
全長十メートル以上ありそうな、巨大な砲弾。
ゴバッ!!と、砂埃ごと大地を抉り取り、砲弾は一方通行に直撃

して何故か上空へと吹き飛んだ。

霊夢は何もしていない。
なのに、まるで陰陽玉が自ら天を目指したかのような、異常な程自然な動きだった。

「……アンタの手に触れられたらアウトみたいね」
「クソったれが……」

陰陽玉が衝突する寸前、一方通行は自分の弾幕を利用して衝突までの時間を僅かにながら稼いだ。
自分の弾幕が消される前に彼は陰陽玉に向き直り、左手を叩きつける。
直後に、陰陽玉は上へと飛んだ。
其処までが、霊夢が見た全てである。
対して、自分の絶対的な防御について指摘された一方通行は顔を下に向けている。
表情は、見えない。

「……あァ、メンドクセェ。メンドクセェメンドクセェ」

覇気の無い、やる気零の声。
先程までの戦いが嘘のように、彼の言葉に力が無い。

「……」

霊夢は、


「本気出すの面倒だなァ、オイ」


後ろに、全力で飛んだ。
が、気がつけば一方通行は距離を詰めており、足を振りかぶっていた。
異常なスピードに、驚く暇は無い。
結界を、瞬時に張る。
細い足から繰り出されたとは思えない威力の衝撃が、結界を襲った。

(しまっ、壊れ……っ!)

ビキリッ!と、嫌な音が一つ。
見ると、結界にはヒビが。
自分の結界にヒビが入るという、久しい危機に霊夢は叫ぶ。

「夢符「二重結界」!」

重々しい霊力の響きと共に、結界が出現。
流石にこれは突き破れないのか、結界に衝突した自分の足を見て、
笑う、一方通行。

「吹き飛びやがれ」
「っ!」

霊夢は、吹き飛んだ。
張った結界ごと。
ボールのように、宙を飛ぶ。
結界ごと吹き飛ばすなど馬鹿げた話以前に、一体どうやったら出来るのか。

「──っ、と!」

壁にぶつかる直前に、霊夢は結界を解き、壁に着地する。
多少、壁からひび割れた音が鳴るが、気にする余裕は無い。

「方向「プラズマハンマー」」

灼熱の塊が、一つ。
見上げた先には、更に高く飛んだ一方通行が居た。
その白い手に、巨大な死の光球を持って。
先程の陰陽玉に勝る大きさの光球は、まだ距離がある霊夢にさえ感じる熱波を放っている。
そんな物が今、霊夢に叩きつけられようとしていた。

「──」

一拍置かず、衝突。
壁にぶつかった光球はしかし、炸裂しない。
熱量を持ってして壁を溶かし、滑らかなクレーターを生み出し続けた。
ジュワァァァァァァァァッ!!と、油が弾ける音とともに水蒸気などの煙が生まれ、空間を満たす。
遅れて、暴風が全てを巻き込み、吹き荒れた。
惨劇という言葉がしっくりと合う、光景。

「……ようやく終わったか」

惨劇を生み出した、宙に浮かぶ一方通行の口から零れたのは、そんな言葉。
死んだかもしれないが、そんなことは彼の知るところでは無い。

「随分と無駄使いしちまったしなァ」

消費スペル数六枚。
時間を幾分か縮められたのかもしれないが、最後のスペル以外はみな無駄撃ちだったのを考えると、やはり勿体無い。
というよりも、あんなに次々と鮮やかに躱されるなどとは思わなかった。

「クソ、焦ってたか……」

そうだ。
彼は焦っている。
この後、アレと戦わなければならないのだから。
故に、あんな風な泥沼の戦いを──




「はっ!」




背中側からの衝撃が、彼を襲った。

(あ、ぎっ!?)

背後からの、強襲。
一体誰なのかと、吹き飛びながら視線を動かす。
自分が居た場所に浮かぶのは、紅と白の服に身を包んだ、空飛ぶ巫女。
彼女はしてやったという表情で、笑っていた。
何が起きたのか理解しても、時は既に遅く、
意識が、闇に落ちて行く。
体も、大地へと落ちて行く。




「やっと一発通ったわね」

霊夢はそう感想を漏らす。
彼女はあの巨大な光球を喰らってはいなかった。
己の特技の一つたる空間移動を利用して、一方通行の背後へと飛んだのだ。
そして全力で飛び蹴りを見舞ってやった。
疲れるのでもう二度としたくない、と彼女は思いつつ、

「それにしても……」

疑問を呟く。
得体のしれない敵だと思う。
スペルを連発するのは、まぁいい。
異変で焦っていたという理由があるからだ。
だが、勘が伝えてくる危険。
霊夢は勘に従い、蹴りの際にも間に結界を挟んでいた。
触れると、不味いと勘が言っていたから。

「本気を出して無かったのね」

ハァ、とため息を一つ。
霊夢が顔を上げ、呟いた瞬間、




一方通行が、眼前に出現した。




落下していた、彼が。
完全な一撃を見舞ってやった、彼が。
紅い血のような瞳を見開き、表情を悪魔のように歪めて。
その背中には、一対の黒い翼。
翼から感じられるのは爆発的な感情の波動と、周りにある力全てを融合させたような歪な力の雰囲気。
ギチギチと、悲鳴を上げる黒い翼が横薙ぎに振るわれた。

「さっきまでのスペルは、これを温存するためね」
「──」

悪魔の一撃に、霊夢は普段の陽気な雰囲気を消さなかった。
ただのスペル合戦が、漸く終わったからだ。
これから始まるのが、本当の意味での弾幕ごっこ。
ギッガガガガガガッ!!という、轟音。
翼は巨大になり、遥か後方の壁を削り取りながら迫る。
霊夢はクルリ、と横回転。翼を受け流すように、無駄なく躱した。
針と札を構え、腕を振りかぶる。


「「アクセラレイター」」


そんな声とともに、羽が舞う。
黒曜石のように刺々しかった翼から羽が落ちる。
欠片は何故か、普通の羽へと変化して宙を舞い、
黒い光線となって空気を裂く。
早さが違い、直角に、緩やかに曲がる異世界のよう光線の嵐を、霊夢は躱す。
首をずらして躱して、直ぐに曲がって頭部に迫ってもお払い棒を挟んで防いでいた。
そんなこと異常なことをしながら、霊夢は一点を見つめ、上へと光線を避けて飛ぶ。


「──ォォオオオオオオオオオッッ!!」

翼が再度、振るわれた。


轟!という、空気の悲鳴とともに、光線の嵐ごと空間を裂く一撃。
光線の残りかすが、空中に散る様は粉雪のよう。
黒い雪など、誰の為にあるのか分からないが。

「痛ぅ……やるわね」

そして、宙に佇む霊夢は躱しきれて無かった。
僅かに、足元から血が流れる。
足の脹脛に掠ったのだ。
掠ったとはいえ、霊夢が一撃を貰う。
それだけ、一方通行の力は凄まじいということ。

「一体どんな能力なんだか……」

さてどうしようか、と霊夢は呑気に一言。
こうなった以上、この力をねじ伏せるしか無い訳だが……

「……アレ、使うしかないかぁ」

彼女は、本当の切り札を使用する。
気が進まないと、ぼやきながら。




「「夢想天生」」




霊夢が、消えた。

「!?」

本能のままに──一種の暴走状態に陥りながらも戦っていた一方通行が見たのは、敵が消える光景。
彼の能力を使えば、敵を見つけるのは簡単だ。
霊力、魔力などの向きを辿ればいい。
間違い無く、辿れる筈だ。
アレでさえ、この能力を使えば見つけれるのだから。

だが、感じない。何も、感じない。

姿が見えない、とか。
空間移動をした、とか。
そんなことでは無く、ただ、消えた。
まるで、世界という器から解き放たれたかのように。

(小細工を……っ!)

ギリリッ、と、歯軋りの奇怪な音が鳴り、

「ァァアアッ!」

翼が縦に振られる。
岩盤が抉れ、噴煙が巻き起こった。
其処に居るというのは、分かる。
ぼんやりとだが、其処に居る。
攻撃も干渉も、何も出来ないのに。

ズラリ、と。
空中に展開されるのは、千を越す茜色の札。
それらが、一気に一方通行へと迫る。
恐ろしげな、弾幕の壁。

「ラァァッ!!」

翼が振るわれるが、それでも全ての札を消すのは無理だ。
水を刀切ろうとするようなもの。
半分程は異常な追尾機能によって、一方通行の体へ迫る。

「ッ!」

右手で払う。
左手で払う。
手に触れた札は、何故か見当違いな方向へと飛んでゆき、誘爆してしまう。
払う、払う、払う、払う。
とにかく、彼は自分の体に触れさせ無いよう、手で全てを払う。

「ラストォ!!」

最後の一枚。
顔面に迫った札を掴み、投げ捨てる。
どうだ、と言わんばかりに彼は前を見て、




「もらった」




霊夢が、腕を振りかぶって浮かんでいた。

「──」

何時の間に、とか。何故、とか。
呟く暇など、博麗の巫女は与えない。
袖が揺れ動き、真っ直ぐに腕が振られた。
振られ手からは、今日一番の早さで投擲された針。

翼は間に合わない。手も間に合わない。


完全に、直撃した。


のだが。

「っ!?」

バシッ!と、反射的に霊夢はつかみ取る。
つかみ取ったのは、針。
今し方、自分が放った針だ。

(戻って、来た?)

なんとなく予想。
何らかの力で反射された。
しかし、何かの壁に当たって反射されたにしては余りにも帰ってくるスピードが早過ぎた。

(もう!一体何なの!?)

未知の力に苛立ち、とにかく動こうとした所で。

「……負けだ」

フッ、と。
翼が消えた。
音も無く翼は空気に溶けて消え、洞窟内は無音の空間へと戻る。
破壊の面影が残るとはいえ、ここは、戦場では無くなった。
突然の降参に、首を傾げる霊夢。
誰もがするように、彼女は言葉を投げかけた。

「……私、アンタに一撃しか喰らわせてないんだけど」
「うるせェ。俺が負けだって言ってンだよ。こっちにもプライドってのがあるくらい分かンだろォが」

戦闘中からは想像出来ない程のローテンション。
霊夢はもやもやした何かが心に溜まるのを感じて、だが異変のこともあるので、それ以上何も言わなかった。

「……じゃあ行かせてもらうわよ」
「アイツが何を考えてるのかサッパリ分からねェが、オマエならなンとかなるかもな」

適当に返す、一方通行。
どうやら、本当に彼は霊夢に異変解決を任せたようだった。
その姿は、何処か吹っ切れている。
納得行かないが、仕方無い。
ため息を吐き出して、彼女は空を飛ぶ。

「因みに、アイツってどんな奴?」

霊夢は洞窟の更に奥へとフワフワ飛んでゆきつつ、ふと尋ねた。
対して反対側の出口へと向かっていた一方通行は、たった一言で質問に答えを返す。
重く、されど軽く。

「化物」















少女祈祷中……












設定


~最強の存在~

名前・一方通行

種族・人間

能力・「あらゆる力の向きを操作する程度の能力」


御坂美琴などと同じ(※1)、番人の一人。
性格は普段は冷静低血圧、戦いの中などでは恐ろしいまでに怖い。
御坂美琴に付き合ってでしか、家から出たことは無かったようだが、異変後からは偶に各地で見られるようになる。
外見から滲む雰囲気は恐ろしく、彼の口からは簡単に殺人予告が飛び出す。
が、彼の本質は善人とのことで(※2)一部の者達からは好意を向けられている。
全体的に見れば友好度は低いとはいえ、彼の本質を見極めたり助けられたり(※3)した者達からの好意は、決して小さな物では無い。
ただ、過去に何かあったのか人と触れ合うことを拒んでいる風である(※4)

彼に敵対すればまず勝ち目は無い。
余程の強者であっても、彼を倒すのは恐らく不可能である(※5)。
ただ彼は弱い者を虐殺したりなどはせず、必要の無い戦いは行わない。
逆に、人妖共に助けることもあるようだ。
ただし、彼の大切な者達に手を出した場合、その者は地獄よりも恐ろしいものを味わうだろう。

彼の能力は「あらゆる力の向きを操作する程度の能力」であり、史上最強の能力と言っても過言ではない。
自分の体に触れる、この世の全ての力を操ることが出来るというのは、彼は全ての物理的魔術的な干渉を跳ねのけることが出来るということであり、その気になれば体に触れるだけで血の流れを操作し、殺すことも可能。
また、龍脈や結界などの力の向きも自由に操作でき、どんな力を持ってしても彼に傷を負わせることは出来ないと言われている(※6)。
『反射の膜』という、自動で彼が望んだ物を反射する力もあり、彼に不意打ちは無駄である。
ただ、弾幕ごっこにおいては「卑怯」ということで、反射を解除している。能力自体は使用しているようだ。
反射の役割は、普段は有害な物、時々人の声まで反射している(※7)。
また、時折彼の背から生える翼は彼の能力を利用して作られた「力の集合体」とのこと。


※1
同居しているらしい。

※2
閻魔からの情報である。まず間違い無いだろう。

※3
悪党の美学、らしい。

※4
十六夜咲夜と雰囲気が似ていることから何らの関係、もしくは似たような過去があるのでは無いかと思われる。

※5
隙間妖怪や神、月人や龍神でも勝てないのでは無いか。

※6
境界操作や閻魔の裁き、ありとあらゆる様々な物がきかない。閻魔は魂を裁く際、大丈夫なのかと心配している。

※7
「あ、あの人は私が近くで言ってるのにっ、近く、近くですよっ!?なのに無視してぇ……!」などと閻魔が錯乱する程、声の反射は完璧である。



スペルカード集

奇術「ミスティックレイター」
幻葬「夜闇の幻影殺戮鬼」
幻世「アクセル・ワールド」
方符「ストレートジャック」
幻符「インディグネイション」
方向「プラズマハンマー」
空虚「エンドディスティ二ー」
方符「アクセルシューティング」
銀符「ハンドブレイクスプリング」
方符「パーソナルリアリティ」
傷魂「リアルピッシア」
幻符「マリアッチリバイバル」
方向「ウィングプロテス」
光速「P. スピード」
銀符「バウンガルレイト」
奇術「ミステリーカード」

「アクセラレイター」

合計17枚





[25623] Stage6 〜守護天使〜 エイワス
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:6c2363a9
Date: 2011/02/05 12:49




Stage6 ~天使の空間~




本来ならば何であろうと立ち入れない領域

その空間は天でも無く地でも無く空でも無く

この世の全てとかけ離れていた














「──」

そこは、幻想だった。

言葉の表現としておかしいのは理解している。
しかし最も適切な言葉を上げるとなると、やはり幻想だと言うべきだ。
博麗霊夢は、素直にそう思う。
黒い、空間。
背後の入り口から先に広がっているのは、無限の空間。
入り口の後ろにさえ、何も無い。
地面が無く、空を飛ばなければ真っ逆さまに落ちて行くだろう。
黒い世界には、光がある。
小さな小さな光点が、遠くに。
沢山の光点は銀河のようで、まるで月から見た宇宙のよう。

「来たか。君が来ると思っていたよ」

そんな、幻想の空間に通る声。
空気を震わせたとは思えないような、透き通った声。
これ程、声で無いとはっきり分かる声も少ない。

「……アンタが異変の犯人ね」
「そうだ。良く来てくれたね、歓迎しよう。生憎と、お茶は出せないが」

声の主は、ふわりと霊夢の前に浮く。
紅白の巫女服を揺らす彼女は、ソレを見た。
一目見て思ったのは、人間では無いということ。
長い、宝石の如く輝く金の髪に、金で作られたような輝くローブ。
ローブの隙間から見える素足は、彫像のように白く完璧だった。
瞳は、透き通る蒼さ。
人では無い者の、輝き。


~守護天使~ エイワス


ここまで人の外見に違和感を覚える人外は、始めてだった。

(結構、やばいかもね……)

弾幕ごっこは単純な実力で決まらないとはいえ、実力も少なからず関わってくる。
そういう意味では、目の前の人外はかなりの危険度だと、霊夢の勘を含む全てが警報を鳴らしていた。

「それじゃあ、今すぐ異変を止めなさい」

霊夢の言葉に、揺らぎは無いが。

「ふむ。私の目的はもう果たされた。なのでもうjhamlguxnyを解除してもいいのだが──」
「はっ?」

言葉に紛れ込んだ、不思議な言語。
まるでノイズをかけたかのような、変な言語に霊夢の耳には聞こえた。
エイワスも失敗だと思ったのだろう。
顎に手を当てつつ、

「いや、すまない。言語に表すのは難しい事柄なのだよ。簡単に言うと、そうだな。『震動』と言おうか」

魔術などでは、言語で説明出来ない事柄が幾つか実在する。
膨大な理論と概念と現象を、一言で纏めれる言葉が存在しない、もしくは世界が表し切れ無いのだ。
霊夢は幸いにもそれを知っていたため、特にどうこう言うつもりは無かった。

「で?目的が何か知らないんだけど、もう『震動』を止めてもらえるかしら?」
「ほう、意外だな。博麗の巫女」

彼、もしくは彼女は笑う。
まるで、玩具を見つけた子供のような、少しばかり悪寒が走る笑顔。

「君は力づくで問題を解決するのだろう?」
「それは私だけじゃないわよ。他の奴らだってそうでしょ?」

心外だ、と言わんばかりの態度で反論する霊夢。
しかし、エイワスの言葉に揺らぎは無く、得体のしれない言葉は続く。

「そうだな。だが、君は違う。博麗の巫女──誰にも縛られず、何物にも縛られない。誰に対しても平等で、絶対的な中立。余りにも、異常な存在」

霊夢の表情が歪んだ。
当たり前だ。
自分の性格やら存在のあり方やらを赤の他人に事細かく言われたりしたら、誰だって多少は不愉快になる。

「故に、君は自分の望む通りに行動出来る訳だ。ならば何故、その力を振るうのを躊躇う?」
「……あのねぇ」

はぁ、と霊夢はため息を吐く。
そんな簡単なことか、とばかりに。
吐いて、吐いて、吐き出してから、疑問を投げかけた人外へこう答えた。


「面倒だからに決まってるでしょ」


質問の答えが、予想外だったのだろう。
呆然と、エイワスの表情から力が抜けた。
目を見開き、キョトンという擬音が似合う表情。
それは、次の瞬間に一転して、

「フ、フフフッ……」

笑いに転じた。
顎に手を当て、緩やかな微笑みを浮かべる。
絵にしたら間違い無く一世紀以上に渡って名を響かせる名作になるだろう。
それだけ、その姿は完璧なまでに美しい。

「何よ」
「いやいや、博麗の巫女は常識にすら縛られないのかと思うとつい、な」
「最低限の常識はあるわよ。異変を解決するくらいには」

他人が聞いたら首を傾げてしまいそうな反論。
それを受けて、エイワスは更に笑みを深めつつ言葉を発する。

「興味深いな。やはり、異変を起こして正解だったよ」
「馬鹿みたいな目的ね。こっちは大変迷惑だったってのに」
「蜂蜜代わりの餌としては、丁度いいと思ったのだがね」
「まぁいいわ」

で、と。
霊夢の言葉が区切られると同時、札が彼女の周りを舞い始めた。
空間が特殊でも札の動きに差異がないことを、彼女は確認する。
面倒だと、思いながら。

「目的も、心底苛つくけど叶えたようだし、震動を止めてもらえるのよね?」
「そうだな……こんな言葉がある」

エイワスは、上へと浮かぶ。
上や下などの概念が辛うじて存在するその空間で、
それは両腕を横に広げた。
磔にされた聖人のように、穏やかに、美しく。


瞬間、翼が出現した。


蒼い、翼だった。
逆に目に悪影響をもたらしそうな程輝く翼。
異常な程の力を持つ翼が、遮る物のない空間に広々と広がる。
百メートルを越す翼は、空間へと蒼白い不気味な光を放ち、エイワスの頭上には、一つの蒼い輪。
これこそが、真の天使の姿。
しかし、霊夢が引き下がることはない。

「『汝が法を示せ。それが汝の法とならん』」
「良い言葉ね。間違い無く私向き」

幻想郷の巫女として、博麗霊夢として、彼女は構える。
対するエイワスは、未だに笑っていて、翼だけが僅かに縮小した。

「見せてみたまえ、君の法を」
「私の法は結構キツイわよ!」

弾幕と弾幕が衝突し、無限の演奏曲となる。

響き渡るのは、光と音。


楽しい楽しい、弾幕ごっこの証。














ドパアンッ!!と、音が何処までも響き渡った。
大地も天も無いため、音が現実ではあり得ない距離まで響いて行く。
音の原因たる大量の札を放った霊夢は、

「むっ」

顔をしかめる。
放った茜色の札の数は百。
文字通りの弾幕として放ったそれは、全て吹き飛ばされていた。
蒼い翼の一振りで。真横に翼が振られただけで。
簡単に、一瞬の拮抗さえ無く。
烈風は彼女の体を叩き、空間を何処までも吹き荒んで行く。

(まいったわね)

どうやら単純な力の総量が桁違いのようだ。
一方通行より、ある意味ヤバイ敵。
普通のただの殺し合いなら、霊夢の勝ち目は一割を切っていたかもしれない。
それくらい、目の前の存在は危険だった。
そもそも、世界へ何の影響も無しに存在していいものでは無い。
この天使かどうかさえ怪しい存在に勝てる者など、精々龍神くらいだろう。

だが、これは弾幕ごっこなのだ。
妖精でさえ神様に勝てる。
それが、弾幕ごっこの肝。

「さて、まずは一枚目と行こうか」

翼を背中側に伸ばし、エイワスは告げる。
表情はこれからの楽しみ以外、眼中に無いと分かる笑み。
その手には、何時のまにか一枚の蒼いカードが握られていた。
星のように輝くカードは、エイワスの意思を持ってして発動する。
彼女の上空から、何処までも響く不思議な声が放たれた。


「第一番目「銀の如きもの」」


霊夢は飛んだ。
その動きに一瞬経たず、銀が弾ける。
先程の翼の攻撃を、霊夢は体を下げることで躱した。
かなりの余裕を持って。
が、これは弾幕だ。
そして、体を高速で動かさないと当たるような。

「くっ!」

襲ってきたのは、小さな銀色の礫。
流星群のように空間を駆け巡り、時折合体したり分離しながら空間を埋め尽くしてゆく。
かなり、動きとしては単純な弾幕だった。
一つ一つの威力と速度と、数を除けば。
威力は、森を吹き飛ばす程。
速度は、音速と同格。

数は、万を越していた。

「っ!」

視界を埋め尽くす銀色。
圧倒的な弾幕。
普通の者ならば躱すことを諦め、最低限の被弾で済ませようとするだろう。
中には、音速以上の速度で弾幕に対抗したり、弾幕自体を破壊する者も居るかも知れない。


だが、霊夢は躱した。


「!」

ジグザグに、スピードに緩急をつけながら横移動を繰り返す。
頬を銀色が掠るのにも構わず、流星の中を翔る。
結界を張ることも、弾幕を相殺することもない。
ただ、躱す。
身を捻って、袖が撃ち抜かれても彼女は前進を止めず、

「ふっ!」
「ほう」

エイワスの十メートル手前まで接近した。
今だに弾幕は星となって降り注いでいるが、彼女は無視している。何故か、彼女の居る場所には弾幕が降り注がなかった。
関心したように呟く人外へと、彼女は腕を振るう。
生半可な一撃では駄目だ。
それなりの一撃を叩き込まなければ、スペルブレイクさえ不可能。

「霊符「夢想封印 集」!」

なので、それなりの力を叩き込む。
霊力の波動による、スペル発動の光と音が巻き起こる。
普段よりも輝く光球が彼女の周りに出現し、真っ直ぐ解き放たれた。
銀色の礫を砕き、光球は虹の輝きを放ちながら、浮かぶエイワスへと向かう。
エイワスは、一切の防御行動を取らなかった。
翼さえも、ぴくりとも動かない。まるで、全てを受け入る女神のように。

そして、まともに衝突。

光が炸裂し、大爆発が引き起こされた。
空気を震わす轟音が、辺りを駆け巡る。
音とともに衝撃による波が、周囲を叩く。

「っ、とっ!」

衝撃波は近付いていた霊夢の体さえ叩いた。
僅かに吹き飛ばされ、宙でバク転を演じる。
周りに、銀色の礫は無い。
全て消え去っていた。

(スペルブレイク)

まず一枚。
そう霊夢は考えた。
次のスペルの準備をしつつ、彼女は爆破点を見る。
不自然な風が吹いているため、爆煙は普通の三倍以上のスピードで消えて行く。
そんな中、霊夢は見た。

爆煙の中から、全くの無傷で出てくるエイワスの姿を。

「……あんた、本当に何者?今まで幻想郷にあんたみたいのが居るって知らなかったんだけど」
「色々事情があってね。私はjmuykgbhから──いや、すまない。『ここ』から出る際には力が落ちるのだよ」

周囲の空間を指しながら、エイワスは霊夢の疑問へ簡素に答えた。

「『ここ』は特別であり、私は大量の力をこの場で振るえる。異変を起こせたのも、この空間があってこそだ」

さて、と区切る。
エイワスは、視線を上げた。
その蒼い透明な無機物の視線が、博麗霊夢の全てを捉える。
視線を受けて、僅かに彼女の手に力が入った。

「まさか、無傷で突破されるとは。正直予想外だ」
「無傷じゃないわよ」

ヒラヒラと、撃ち抜かれて穴が空いてしまった袖を見せつけながら霊夢は呆れながら返した。
その言葉に、エイワスは小さく笑う。

「ふふっ、確かにそうだな」
「後で弁償しなさいよ」
「そういうのは御坂美琴に言ってくれると助かる。私はそういうのが苦手なのだ」
「?」

誰、それ?と首を傾げるが、思い出す。
確か雷を使っていた少女がそんな名前だった筈だ。
納得する霊夢を差し置いて、


「第二番目「金の如きもの」」


黄金の魔法陣が展開された。

「っ!」

下方。百メートルは下の空間。
km単位で展開された巨大な魔法陣。
遥か遠くまで広がっているこの魔法陣は、スペルによる現象だろう。
普通に考えて、魔法陣から弾幕が発射されるに違いない。
そしてレーザー型の弾幕だった場合、躱す難易度は最大級となる。

(魔法陣の外へ移動するのは無理。となると)

莫大な力が魔法陣に集まっているのを感じつつ、しかし霊夢の思考に慌てた様子はない。
ただ落ち着いて、状況を計算し、考える。
銀色の礫は躱せると分かったからこそ、躱したのだ。
次は躱せる感じがしない。
キュィィィィンッ、と、魔法陣の各所に黄金が集束し、


「夢境「二重大結界」!!」


巨大な結界が張られると同時に、閃光として弾けた。
爆音を置き去りにして、上へと光は翔る。
下から上へと舞い上がる、黄金の滝登り。
数百、数千を越す光線は空間を突き抜けて行く。
青い霊力で編まれた結界へと当たった物は直撃して尚惜し進もうとしたが、結界に弾かれて有らぬ方向へと残照を残して消えた。
しかし当然のように、光線を浴び続ける結界にも多大な負荷がかかる。

「ぐっ、ぐぐぐっっ……!」

マスタースパークとはまた違う、連続した光線による衝撃。
霊夢はそれを、両手で押さえつける。
目が眩みチカチカしながらも、とにかく霊力を維持して結界を持たせようとするその姿に、弾幕を放つ余裕は無い。
本来ならば、このスペルは弾幕も幾つか放てるというのに。

(面倒ね、ほんと……!)

しかし、

「はぁぁぁっ!」

甲高い音を立てて、結界が砕け散った。
欠片が舞い、青い光を放ちながら消えて行く。
黄金の魔法陣は、もうない。
時間切れによるスペルブレイク。
正に丁度、間一髪だった。

「──っ!」

そして直ぐに体を動かす。
残像が見えてもおかしくない程の速さで避け、
縦に振られた蒼い翼の轟風に、体を吹き飛ばされた。
轟!!と、後になってから響く空気の音。
これで余波だというのだから、まともに当たってしまえばどうなっていたのか。
まず間違いなくグチャグチャのドロドロに……

「うぇ」

気持ち悪い想像をし、吐き気がこみ上げつつも霊夢は態勢を立て直す。
翼が振られた際に放出されたのか、蒼い羽の弾幕が僅かに揺れ動きながら迫ってきた。
光の軌跡を描くそれらを、針や札で撃墜する。
スペルは確かに桁違いの出力だが、普通の弾幕は差程異常ではない。

「当たらなければどうってことない、ってね」

今度は斜め上からの翼を、逆に前へと飛ぶことで躱す。
目指すは翼の主たる、人外。
エイワスは、真っ正面から迫って来る霊夢を目を細めて眺めた。
巫女服を空気抵抗ではためかせるその姿は、幻想郷の守護神と呼んでも差しつかえ無いだろう。
そして。

「では、三枚目と行こう」

天使は、更なる試練を吐き出す。
全くもって容赦が無いが、霊夢に文句を言う時間は無かった。


「第三番目「貴き水の石」」


今度の弾幕は、水。
膨大な水の塊がエイワスの目の前に凝縮されたかと思うと、背中の翼に叩き潰され、破裂する。
精錬たる刃となった水の塊が、周囲へと撒き散らされた。

「っ……」

霊夢は体を急停止させ、一旦宙に留まる。
そして迫って来た水の刃を──

「!?」

──掴み取った。

どんな方法で生まれていようが、水は水。
ナイフのように掴みとることなど、本来なら不可能だ。
だがこの弾幕は違う。
水が、完全な固体へと変質していた。
石のような鉱石へと。

ブクブク!と、何かの音が背後から響く。

其方を見ると、今にも破裂しそうになった水の塊が出現していた。
彼女が慌てて移動すると同時に、破裂。
辺りに水を、不思議な固体によるナイフがばら撒かれる。
そしてナイフ同士が衝突すると、水のように合体した。

「やけに変化が多い弾幕、ね!」

文句を彼女が叫ぶと同時、合体した水の塊が再度破裂し分離する。
それによって生まれた破片を、霊夢は体を下に下げて避けた。
そんな現象が、空間の至る所で起きて次々と炸裂音が宇宙のようなこの場に響き渡り、水の刃による牢獄が形成された。
正直に言って、休む間も無いこの弾幕はかなりの苦痛をしいらせる。
単純な水の刃という弾丸だからこそ、一気に躱すような芸当が許されない。

「……」

霊夢は、それでも揺らがない。
ゆらりゆらり、まるでダンスのごとく、弾幕を綺麗に躱す。
まるで躱す姿が舞いのようで、死の弾幕の中でこそ、その姿が映えるのだと見るものに思わせた。

「これ程、弾幕を躱す姿が似合う巫女も居るまい。やはり興味深いよ、博麗霊夢」

エイワスは見下ろしながら賞賛を送る。
何時、移動したのか。
霊夢と弾幕の範囲より更に上空に浮いていた。
ふわりふわりと、雲のように。
パチン、と。
エイワスの指が鳴ることにより、弾幕が消失した。
突然、躱し続けていた水の刃が消えたことにより、霊夢は動揺


「そこぉっ!霊符「夢想封印」!!」


してなかった。
それどころかスペルカードを発動し、反撃までやってのける。
更に光球を収束させつつ、札を周囲に展開させ連撃の準備まで整えていた。
経験や才能だけでどうにかなるレベルではない。
直感や攻撃に移れる思い切りのいい性格。
それらがあってこその、超人技。

「それでこそだ」

人外、エイワスはそう呟いてから、


「第四番目「火の究極なる閃光」」


四枚目を、発動させた。
蒼いカードが弾け、蒼い閃光が一閃。
手から放たれたそれは、剣のように振り下ろされた。

「──!」

彼女は、夢想封印と札の全てを光線へと叩きつける。
が、ジュッ、という音とともに攻撃の全てが蒼い光に掻き消えた。
背筋に嫌な汗が一筋流れた後に、真上から閃光が振り下ろされる。
まるで魔剣だった。
全てを消し去る、最凶の剣。

「冗談じゃないわ、よっ!」

翼よりも遥かに危険な閃光から、霊夢は距離を取る。
熱波が肌を焼くが、大した物ではない。
余波など気にしている場合では無かった。
直接閃光を浴びてしまえば、気体の仲間入りをしてしまう。

(本人を叩く!)

そう考えて、同時にまかれた小さな蒼い光球を躱す。
閃光に当たりさえしなければ、勝てる自信が有った。
蒼い雨、弾幕を避けながら上昇して行く。

「そう簡単に行くかな」

エイワスのそんな呟きが、耳元で聞こえたかのように響いた。
蒼い光球を相殺していた霊夢へ、閃光が横薙ぎに振られる。
熱波が、襲い掛かって来る。

「宝符「陰陽宝玉」!」

閃光に、陰陽玉が衝突した。
零秒で放たれた陽と陰の二つで構成されている宝玉は、蒼い閃光と僅かな時間、拮抗する。
だが僅か数秒足らずで破壊され、溶かされた。
空気となった陰陽玉を消し飛ばし、閃光は宙を通過する。

陰陽玉を放った霊夢は、居ない。

「むっ」

エイワスは即座に手から溢れ出ていた閃光を消し去り、手を後ろへとやる。

「はっ!」

普通の人間では絶対にあり得ないレベルの霊力が練られた蹴りが、その手へ勢いよく叩き込まれた。
エイワスの手は負荷に耐え切れず消し飛び、銀色の欠片となる。
一気に彼女は、そのまま顔面をも蹴り飛ばした。
ドゴンッ!!という激突音。
空気の層を貫いて、エイワスの体が、あの翼が、吹き飛んで行く。

「よし」

蹴りを叩き込んだ彼女、霊夢は納得の声を上げた。
翼による反撃を冒してまで背後に回ったかいは有った。
空間移動をした価値も、充分。

「スペルブレイク。さぁ、次は?」

お払い棒を改めて握り直し、彼女は問いかける。
壁が無いため、遥か遠くに吹き飛んで行くエイワス。
その姿が、

突如、五メートル前に現れる。

霊夢は大して驚かない。
大方、空間移動でもしたのだろう。
しかし、直ぐに腕が再生されついるのには少しだけ苛ついた。
かなりの労力が無に帰ったようで、いい気分はしない。

「本気では無いとはいえ、天使の肉体を一部破損させるとは。君は私の予想を軽々と飛び越えていくな」
「ならさっさと負けてくれない?」

本心からの言葉を投げかけるが、エイワスはただ笑っている。

「では、それなりの努力をするべきだ」
「努力は嫌いなのよ」


……ギチ、ギチッ、メギメギッ……!!


異音が、響く。
会話を交わしながら、お互いの間に力場が生まれ始めた。
とんでもない量の力が、二人の間を渦巻き、弾け、霧散し、収束する。
方や霊力、方や天使の力。
双方の力は膨大で、目に見えて変化が生まれる。
霊夢の髪が、服が。はためき、僅かに逆立ち始めた。
お払い棒には青い霊力が集中し、空気を蜃気楼のように歪ませる。
エイワスの翼が更に伸び始めた。後方へと長大に、長く長く。
輝きを増し、遥か太古の太陽の如く蒼の光を放ちながら、翼は長く長く増大して行く。

次の一撃が、最後の一撃となり、もっとも巨大で強力で美しい一撃となる。

二人を見たもの全てが、そう思う。
見た瞬間、分かってしまう。
そこに理由など無く、ただそうなのだからとしか言いようがない。

「さて、ではラストだ。期待しているよ」
「言われなくても」

キュパッ、と。
空気の層を突き破って二人は同時に後方へと飛ぶ。
二人の間は一気に五十メートルまで広がり、普通の存在が意思疎通するには難しい間となった。
だが、この二人にはそんなもの関係無い。

「全力で叩き潰す!!」

霊夢の叫びとともに、辺りへ霊力の波動が放たれた。
物質的にさえ吹き飛ばされかねない波動。
それを受けて、エイワスは、

「それでは、行くぞ?」

一旦問いに間を開けて、




「「法の書」」




短い一言だった。
最後を飾るにしては、余りにも短く軽い一言。
最大の一撃だという重みも、最強の一撃だという荒々しさも、言葉には篭っていない。

ただ、翼だけがそれに反応し、強く羽ばたいた。

翼は単純な風では無い、もっと別の何かを浮力に変えて、エイワスの体を上へと押し上げる。
一瞬で点となり、霊夢の目にはもはやただの蒼い光点にしか見えなくなった。




そして、光点は彼女へと墜落する。




様々な大きさの蒼い光弾を率いる、龍星となって。
龍。
全てを引き裂き、喰らい尽くし、存在を消し去る物。
霊夢は上を見上げ、勘と経験が命じるままに飛ぶ。
熱波と衝撃音が鳴り、

音を後方へ置き去りにして、星となったエイワスが霊夢の居る空間を引き裂いた。

「きゃっ!?」

悲鳴が漏れる。
躱したのだが、ギロチンのように両サイドに広げられた翼から吹き出す烈風によって霊夢の体が強制的に飛ばされたのだ。
圧巻の光景。
蒼い光が空間に散り、幻想的な姿を作り出す。
予想以上の一撃に、霊夢の意識が吹き飛びかけるが、

「ぐっ、ふんっ!!」

体を無理矢理制止させ、踏ん張った。
それでも二十メートルは吹き飛んでいる。
それでも蒼い光弾が近くを通過して行くことから、とんでもない広範囲へ弾幕がばらまかれているのだろう。
下へ視線をやると、遥か下方に蒼い光点が。

(次のは、躱せない)

運の要素が強過ぎた。
賭けに出ることに、霊夢が躊躇うくらいには。
ただでさえ弾幕の範囲が広いというのに、あの突撃には対抗出来そうに無い。
隕石を普通の人間が受け止められないのと同じだ。
あの一撃は、真正面から対抗しても無駄の一言で片付けられるもの。

「……仕方無い」

なので、搦め手で行くしか無い。
音速移動、時止め、氷結、特別な斬撃、高度な幻術、奇跡の力、気質操作。
者によって様々な手段を取るであろう。

そして、霊夢も。




「「夢想天生」」




己の力を最大限に行使した。

「!」

エイワスは、空間を通過したのに何の感触も無いことに、驚ろく。
そして今度は、霊夢の姿が無いことに二度目の驚き。

(ふむ?どこかに隠れたか?)

エイワスは宙で急に止まる。
それによって轟風と弾幕が凄まじい速度で弾き出されるが、人外は特に気にしない。
今空間上に漂っている蒼い弾幕達に感覚を向けても、霊夢の気配は感じ取れなかった。
何処に居るのか。
何らかの力を使ったのか。

(私が、居ることを認識出来ないとは……)

エイワスは今までの長い生の中で、三番目くらいの驚きを味わっていた。
自分の力が最大限振るえる『ここ』で、相手を認識出来ないなどという現象が起きるとは。
しかし、感じ取れないならば感じ取れないなりの戦い方がある。

(一掃)

翼が横に広がり、振るわれた。
ギュパッ!!と三次元空間を切り裂いてしまったのでは無いかと心配してしまうような音が鳴り、蒼い残照が走る。
それとともに、蒼い欠片で構成された羽の弾丸も。
縦、横、斜め。
自分から数百メートルの範囲を一対の翼が駆け巡り、大剣のように全てを破壊してゆく。
風が吹く前に次の風が吹こうとしてぶつかり合い、相殺した余波がまた翼によって叩き潰される。
神秘も幻想も、全てを破壊してしまいそうな最強の嵐。
その中に、半透明な姿になった博麗霊夢を見た。
干渉を全て遮るような、異端の力だ。
そう長く使えないだろう。

(さて、どうする?)

エイワスが、そう思った時だった。


突如として、茜色の壁が出現する。


壁の正体は、弾幕。
札による霊弾達。
それらが千を超えて、エイワスへと殺到した。
視界を埋めつくし、一つ一つが何処までも追いかける追尾性を持って。

(なるほど。数で来たか。だが)

関心し、しかしエイワスから圧倒的余裕は消え去らない。
第一、既にエイワスは一度弾幕の壁を消し去っているのだから。

腕が振られ、黄金の衣が連なって動く。

それだけで、弾幕の壁の一部がごっそりともぎ取られた。
百枚程が消え、残りの弾幕のコントロールが効かなくなったのか、一気にばらけ、エイワスの後方へと飛んで行く。
エイワスは其方を見ない。
第二陣が迫っていたからだ。

「物量で押し切れるなどとは思わないことだ」

札が、次は二千。
普通の人妖ならば絶望しておかしくない物量だが、エイワスにとっては塵に等しい。

翼が動く。

蒼が散ったと思った時には、弾幕は全て消えていた。
遅れて烈風が吹き、空間が悲鳴を上げる。
僅かに残った札は、第一陣と同じように何処へ消えて行った。
漂っていた自分の弾幕すら掻き消し、エイワスは頷く。

「……なるほどなるほど、"そういうことか"」

そして、




後ろに居る、博麗霊夢を視界に入れた。




「してやられたな」

最初の弾幕は囮。
いや、二度目の弾幕も全て。
半透明とはいえ、僅かながら視界に捉えることが出来る彼女は弾幕の壁に紛れて接近していたのだろう。
翼の一撃を受けるかもしれない危険を冒して、彼女はエイワスへ正面から迫ったということ。

代償を払えば、それなりの結果が帰ってくるのがこの世界の理。

「終わりよ」

霊夢の宣言。
段々と色がはっきりし始めているその指先には、一枚のカード。
莫大な霊力が込められたそれを服へと直に突きつけられ、エイワスは苦笑する。
少女の言葉が、ただの死刑判決にしか聞こえなかったからだ。
翼を振るえば反撃出来るかもしれないが、余りにも彼女が近過ぎて自分にまでダメージが及ぶ可能性がある。下手をすると、躱されるかもしれない。
なので、エイワスはこう答える。

「そうだな。私の負けだ」

本気でないとはいえ、エイワスが負けることなど久方ぶりのこと。
しかしエイワスは特に疑問を抱かない。
それは恐らく、




「神霊「夢想封印」」




博麗霊夢という存在に、納得したからだ。




巨大なる虹の光が、空間を満たし、炸裂した。










この一撃にて、『超天震異変』は終了を迎える。

















少女祈祷中……









設定


~守護天使~

名前・エイワス

種族・天使?

能力・「主に天使の力を使う程度の能力」


一方通行などが形式上仕えている天使と呼ばれる者。
性格は比較的穏やか。全ての者に対して余裕がある。
何らかの事情があり、極一部の者達の前でしかその姿を現さない。謎の存在。
天使とは本来、神より下の僕的存在であり、莫大な力の塊に最低限の思考能力を付与した物だという(※1)。
一部の天使には人間のような思考能力が与えられているが、それでもエイワスのような者は異常である。
明らかに天使という存在から外れた天使であり「世界の歪み」とは八雲紫の言。
守護天使と呼ばれてはいるが、神学や宗教で説明出来ない天使のためそう呼ばれているに過ぎない。
魔女達の話によると、アレイスター・クロウリーという世界最大の魔術師(※2)に『法の書』と呼ばれる魔導書の内容を伝えた天使なのではないかということらしい(※3)。
ただその場合、一体何故一つの場所に巨大な力ごと縛られているのかは不明である(※4)。
興味を持った者にしか接触しないため基本的に交友範囲が狭く、気まぐれな行動が多い。

今まで相対して来た者達全てが無事なため、危険度は零。
その代わり、見た目の存在に驚くだろう。

能力は「主に天使の力を使う程度の能力」。
主にとなっているのは、明らかに天使の力以外にも使っているためである(※5)。
ただその力の正体は分からず、本人も多くは語らない。
本人曰く、「次の時代の観点を持ってして私を見れば分かる」とのこと。
翼は天使の記号を持ってはいるが、本当の天使の力で構成されていないようだ。


※1
山の神達からの情報。

※2
誇り高い彼女達が世界最大と呼ぶ魔術師である。どんな者なのか想像がつかない。

※3
有名な物らしく、正しければ全魔術師の憧れだとか。

※4
七曜の魔女の推測によると、何らかの封印をアレイスター、もしくは別の何者かがかけたのでは無いか。

※5
相対した魔女曰く「あんな言葉に表せない力は始めてだぜ」とのこと。




スペルカード集

第一番目「銀の如きもの」
第二番目「金の如きもの」
第三番目「貴き水の石」
第四番目「火の究極なる閃光」
■■「Abrahadabra」アブラハラブラ
■■「Hoor」ホール
■■「Aum」オウム
■■「Coph-Nia」コフ-ニア
■■「Ra」ラー
■■「Bahlasti」バーラスティ
■■「Ompehda」オムペーダ
■■「Hadit」ハディート
■■「Nu」ヌー
■■「Ra-Hoor-Khuit」ラー-ホール-クイト
■■「Bes-na-Maut」ベス-ナ-マウト
■■「Niut」ヌィット
■■「Ta-Nech」ター-ネク
■■「Mentu」メントゥ
■■「Ankh-af-na-khonsu」アンク-アフ-ナ-コンス
■■「Tum」トゥーム
■■「Khephar」ケベラ
■■「Ahathoor」アハトール
■■「Khabs」クハブス
■■「Khu」クー
■■「Hoor-pa-kraat」ホール-パ-クラアト
■■「Heru-ra-ha」ヘル-ラ-ハ
■■「Hrumachis」フルマキス
■■「Ra-Hoor-Khu」ラー-ホール-クー
■■「Kiblah」キブラー
■■「Tahuti」タフティー
■■「Asar」アサル
■■「Isa」イサ
■■「Thelemites」セレマイト
■■「obeah」オベア
■■「wanag」ワンガ
■■「Aiwass」アイワス

「法の書」

合計37枚





[25623] ED ~エンディング〜
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:6c2363a9
Date: 2011/02/05 19:10




エンディング




幻想郷に、平穏が戻った。

幻想郷の東の境界に位置する神社、博麗神社。
夏の光がサンサンと世界に降り注ぐ。
天使によって生まれていたあの意味不明な『震動』は止み、憩いのお茶の時を邪魔する物はない。
なのだが、彼女はその前に日課たる掃除をしている。
そのため、実際にはまだお茶を飲んでいなかった。
広い博麗神社の掃除を、ゆっくりまったり彼女はこなす。

「お久しぶり」
「んっ?」

竹箒を持って石畳を掃いていた霊夢に声がかけられた。
声がかけられた方を見ると、階段を登って来たであろう人物が其処にいた。
白と黄色のワンピース。茶色の短髪からは、時折火花を散らす。
御坂美琴。
彼女は笑いながら、霊夢の元へ歩み寄って来る。

「あぁ、いらっしゃい。素敵な賽銭箱はそこよ」
「神社の巫女さんがそんなこと言っていいの?」
「いいのよ、私は私なんだから」

何物にも縛られない彼女の言葉に苦笑しつつ、彼女は小銭を賽銭箱に投げ入れる。十メートル程離れていたが。
カシャンッ、と大きな金属音。
かなり乱暴な行為に霊夢は僅かに顔を顰める。
が、

「──オマエ、神社の賽銭箱に金なンか入れてどうすンだよ」
「……意外ね。あんたが来るとは」

次に現れた人物に、予想を覆されて霊夢の動きが止まる。
白い髪に、紅い目。
ただ者とは思えない雰囲気を滲ませる彼の名は、一方通行。
明らかに偽名だが、周りの人は余り突っ込まない。

「ほらよ」
「あら、これ……」

近づいて来て手渡された物に霊夢は更に驚いた。
渡されたのは、檜の木で作られた綺麗な箱。
その中身を羊羹。
人里でも高くて美味しいので有名な、高級品の羊羹だ。

「こんなもの渡されるなんて、明日は槍でも降るのかしら」
「別に俺ァ、槍が降っても構わねェがなァ」

確かに彼なら大丈夫だろう、と霊夢は思う。
むしろ弾幕の雨でも大丈夫なのかも知れない。




「これはこの前のお詫び。改めて……この間の異変、ごめんなさい」
「お詫び、ねぇ」

縁側に座り、羊羹を爪楊枝で刺しながら呟く。
紫色の固形体はたやすく爪楊枝を受け入れ、引っ付く。
羊羹を食べるために、彼女達は少々早いお茶の時間へ移っていた。
ただ、一方通行は甘い物が苦手なのか、霊夢と美琴が羊羹を間に挟んで座っているのに対し、一人離れて寝転んでいる。
何しに来たんだろう、と思わないでも無いが、触れないことにした。

「あの馬鹿、楽しむためだけに異変なんか起こして、その上本人が謝罪に来ていないとか礼儀をわきまえ無いにも程があるけど……」
「一応、一言謝罪は受けたし、別にいいわよ」

あむ、と彼女は羊羹を口に含む。
甘い深い味わいが、口の中に浸透してゆく。

「そういえば、番人のもう一人は?白い翼の」

二人は同時に口を開き、

「「干されてる」」
「そう」

……霊夢は普通にスルーした。
そして、緑茶を口に含む。
深い苦味が、口内を満たして行った。
蝉が鳴き、のんびりとした、ほのかな時間。






「やぁ」
「ごほっ!?」
「ひゃっ!?」




霊夢はお茶を喉に詰まらせ、美琴は飛び跳ねた。
二人の反応速度を持ってしても、それは余りにも突然だったからだ。
慌てて二人が声がした方を見ると、そこには堂々と室内に立つ人外が一人。
ゆらゆら揺れる衣を身に纏った天使、エイワス。

「呼ばれた気がして飛んで来た。何か用かね?」
「よいしょォォォッ!!」

メゴシャッ!!と、打撃音が鳴る。
原因は一方通行の飛び蹴り。音源はエイワスの頬。
一方通行の見事な蹴りは爽やか笑顔を浮かべていたエイワスを綺麗に吹き飛ばし、床に直撃させた。

「いきなりだな、一方通行。だがいい蹴りだったよ」
「当たり前だァ、オマエのためのキックだからなァァァッ」

容赦なく追撃。
床に倒れたエイワスの首をしめ、ロックをかます一方通行。
相手が人間なら、というより妖怪でも危険なくらい力を込めているが、縁側に座り直した二人の少女は止めない。
死ぬ筈が無いし、少々驚かされた仕返しもあったからだ。

「少し手加減してくれると更に良いんだがね」
「聞こえませン」

段々と顔が青くなってゆく、エイワス。
やはり人外といえども(もしくは今の肉体は人間に近いのか)首絞めは辛いらしい。
ふと、霊夢は再度お茶を飲みつつ疑問を尋ねた。

「そういえば、あんた私とかが異変解決に乗り出さなかったらどうしたの?」
「うむ。次の手を打っていただろう」

首を絞められているが、不思議と言葉には影響は無く、いつも通りの声。
異常な現象を無視し、羊羹を爪楊枝で器用に切り分けながら美琴が問う。

「その内容は?」
「大天使でも召還しようかと。何、たかが山一つが更地になるだけだ」

美琴はへぇー、と頷いてから、


「一方通行、GO」
「了解」
「むっ、待ちたま」


暫く、博麗神社にエイワスの苦悶の声が木霊したそうな。




霊夢は声やら悲鳴やら爆音やら様々な音を耳に入れつつ、お茶をゆっくりとすする。
木々の間から差す木漏れ日が、明るい。

「夏ね……」

ポツリ、と告げられた彼女の表情は、笑顔。
偶には、こういうのもいい。
こういう、のんびりした時間も。
彼女はもう一度、お茶をすする。


幻想郷は、今日も平和だった。




霊夢END















後書き
ども、始めまして。もしくはお久しぶりです。
雷です。
いかづちでも、かみなりでも、らいでも、さんだーでも、好きな読み方でどうぞ。

さて、今作品は東方のゲーム色を利用した手抜きandズルいクロス作品です。嘘です。結構頑張りました。
東方のゲームは結構ストーリー的には淡々としています(STGなので当たり前といったら当たり前ですが)。
そうした淡々とした会話や描写がかなり難しく、垣根戦からは大分素の描写になってしまいました。
ですが普段とは全く違うことに挑戦出来たので、まぁいいか(えっ
東方らしさを出す際、一番難しかったのはエンディングです。
台詞形式が使えないので、結構難しい……
後、霊夢ってよくよく考えると、もうちょいテンション高いかな?紅魔郷では結構落ち着いた雰囲気だったけど、緋想天やってると……むむむ

こういうタイプのクロス作品は無い……というか、今まで自分は見たことがありません。
結構思いつくと思うんですが、やはり上級者の人達はこういうタイプの作品より、ちゃんとした長編とかの方が書きやすいのでしょうね。

しっかし、自分で見ても思うけどこれクロスの必要無くね?オリキャラでよくね?的な。
ただ一応理由は有ったり。


①オリキャラだと、説明の文を増やさなくてはならない。
②オリキャラだと、先入観がゼロのため全体的に文章の量が増幅してしまう。
③淡々とした文章が書けなくなる。
④何らかの作品のキャラを使えば、先入観によって大分キャラ描写を省略出来る。戦闘描写も。
⑤オリキャラをポンッと出すより、他の原作キャラを使った方が受け入れられやすい(多分)。
⑥そも、作者自身が全くゼロからのキャラ描写が馬鹿みたいに苦手である。


一番最後の理由が半分を占めてるんじゃなかろうな、俺ェ……

作者反省中……

では、この辺りで。
自分はチラ裏に戻ります。

長い後書きを読んでいただき、ありがとうございまし













































StageEX◁






EXバックストーリー




とある日。
普段は来客が居ない博麗神社にて。
グラグラと、世界が揺れた。
勿論、ただの地震な訳が無い。
全てが揺れ動く、あの『震動』。
ただ、前に比べれば少しは弱い。

「……どういうこと?」
「さぁ……?」
「知るかボケ」

方や冷や汗をかきながら、方や煎餅を転がって齧りながらの疑問に答える。
疑問に不確かな返答しか得れなかった霊夢は、息を吐く。
番人二人は役に立たない。

「またあのエイワスって奴?」
「じゃねェの?」
「寝転がって言っても説得力皆無だから起きなさいって」

駄目な夫としっかり者の母のような会話を聞きつつ、霊夢は考える。
あの天使は確かに馬鹿でむかつくが、まさか同じことを二度やることはあるまい。
ならば、何らかの理由があると見るべきか。

「私行ってくるから、賽銭箱盗むんじゃないわよ」
「誰が好き好ンで空箱盗むンだよ」
「ちょっと、失礼にも程があるでしょうが。幾ら本当のことでも」

背後での一方通行と美琴の言葉を無視して、霊夢はまたもや空を飛ぶ。

「まっ、今度はそこまで危険な感じはしないしね」

博麗の巫女は地面を蹴って、そう呟いた。

「……"アイツ"も、そろそろ外に出ても大丈夫だろ」
「?」
「なンでもねェ」

その飛んで行く姿を、一方通行は静かに見つめていた。
瞳に、何らかの願いを込めながら。


巫女本人は知らず、願いを受ける。
そして、彼女はそれにすら縛られず、空を飛んで行く。

















~楽園の巫女~
博麗霊夢
移動速度☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆☆
攻撃力☆☆☆
特技:当たり判定が小さい
スペルカード
霊符「夢想封印」
夢符「二重結界」など


~普通の魔法使い~
霧雨魔理沙
移動速度☆☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆
攻撃力☆☆☆☆☆
特技:アイテム回収範囲が広い
スペルカード
恋符「マスタースパーク」
魔符「スターダストレヴァリエ」など


~完全で瀟洒なメイド~
十六夜咲夜
移動速度☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆
攻撃力☆☆☆
特技:アイテムの落下速度が遅い
スペルカード
幻符「殺人ドール」
時符「プライベートスクエア」など


~氷の妖精~
チルノ
移動速度☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆
攻撃力☆☆
特技:弾幕を凍らせれる
スペルカード
氷符「アイシクルフォール」
凍符「パーフェクトフリーズ」など


~半人半霊の庭師~
魂魄妖夢
移動速度☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆
攻撃力☆☆☆☆
特技:弾幕を剣で消せる
スペルカード
人符「現世斬」
迷符「纏縛剣」など


~狂気の赤眼~
鈴仙・優曇華院・イナバ
移動速度☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆
攻撃力☆☆☆☆
特技:掠り範囲が広い
スペルカード
波符「月面波紋(ルナウェーブ)」
散符「栄華之夢(ルナメガロポリス)」など


~祀られる風の人間~
東風谷早苗
移動速度☆☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆
攻撃力☆☆☆
特技:アイテム出現率が高い
スペルカード
蛇符「神代大蛇」
蛙符「手管の蝦蟇」など


~非想非非想天の娘~
比那名居天子
移動速度☆☆☆
攻撃範囲☆☆☆☆
攻撃力☆☆☆☆☆
特技:ボスに対するスペルカードの威力が高い
スペルカード
剣技「気炎万丈の剣」
非想「非想非非想の剣」など









少女祈祷中……






[25623] StageEX 〜人工天使〜 風斬氷華
Name: 雷◆c4b80eb2 ID:6c2363a9
Date: 2011/02/10 18:20




StageEX ~天使の領域~




そこには何が居るのか

誰が居るのか誰が在るのか誰が存在しているのか

人ならぬその身は、何者なのか














「あの馬鹿天使は何処に居るんだか」

ポツリ、と。
霊夢の声が呟かれる。
声は壁に反響して、直ぐに消えた。
彼女が現在居るのはあの洞窟。
一方通行と激突した、真っ暗闇の洞窟だった。
何故か今回は洞窟の壁全てにロウソクが取り付けられており、その全てに火が灯っている。
ズラリと壁に白いロウソクが並ぶ光景は見ようによっては死への道の様で怖いが、霊夢は全然気にしない。
寧ろ、他のことが気になっていた。

(空間が弄られている?)

視界からだけではない。
感覚的な物を肌から感じ取り、違和感は現実となる。
この前来た時と違い、明らかに洞窟の形状が違う。
どうやら魔術的手法で空間自体が変わっているようだった。

「何処に繋がってるのよ」

はぁ、とため息を吐く。
あの天使がこんな回りくどい方法で"呼んでいる"のだ。
どう考えたって絶対に面倒な物に違いない。
それも、とびっきり凶悪な。
勘が無くとも分かる嫌な予感に、霊夢は憂鬱になりながらも飛ぶ。
異変は起きている。
即解決しなければ、解決してなかったのかとまわりから疑われる羽目になるだろう。
もう手遅れな気もしないでは無いが。

「はぁ……うん?」

ため息を再度吐き出し、視線を前に戻した霊夢は首を傾げた。
洞窟の先に、白い何かがある。
百メートル程先がただ真っ白になっていて、薄暗い洞窟から見たそれはとんでもなく目立った。

「……?」

不審に思いながらも霊夢はスピードを上げ、一気に突っ込む。
ここで怖じ気つかないのが彼女らしい。
ただでさえ、かなりのスピードだったのに更に上げたため直線百メートルの距離は僅か三秒程で縮まり、
白い空間へと飛び込んだ。

「──」

真っ白だった。
辺り一面、全てが。
背後の洞窟も穴から覗く光景は薄暗いのに、壁自体は真っ白。しかも鑢か何かで削られたように平らでツルツル。
床(と思う)も似たような物で、足をつけて見て壁との同色による視界の感覚が狂う。
向こう側の壁や天井は見えない。
例え壁や天井があったとしても、色が同じで認識出来ないだろう。

「光が無いのに……」

疑問を彼女は紡ぐ。
光によって物が照らされる以上、必ず色というものには差異が生まれる。
壁と床ならば尚更。光の当たる強さ、向きが違うのだから色が同じというのは絶対にあり得ない。
なのに、この空間は全てが同じ白色。
そもそも、光が存在していないのだろう。

「……いや」

推論を、霊夢は立てる。
恐らくこの場所は何も無いのだ。
本当に、何も。
多分、世界から"全て"を取り除いたらこんな四角い箱のような白い空間が広がっているのかもしれない。
世界という玩具を納める、空間という玩具箱の姿。

そこで霊夢は、一人の姿を見る。

彼女から僅かに離れて立ち尽くす誰か。
背を向けられている所為で顔が見えないが、恐らく長い茶髪からして女性だろう。
白いワンピース──壁などよりも光沢が激しい白銀の服を着た少女へ、霊夢は声をかけた。

「ちょっと」
「わひゃい!?」

ビクリッ!と、肩が跳ねる。
飛び上がった少女は恐る恐るといった風に、此方を眺めて来た。
外見は極普通の少女。
茶色の長髪に、茶色の瞳。
その色にデジャウを感じて、御坂美琴と同じ色だと気づく。

しかし彼女が放つ異能の感覚が、普通の人間では無いことを示している。
異常な、あらゆる見えない力を合わせたかのような気配が。


~人工天使~ 風斬氷華(かざぎりひょうか)


霊夢は肌と感覚で異常を感じ、未だにおどおどした彼女へと問う。

「あんた、一体誰?」
「え、えーと、風斬氷華と言います……種族は、天使です……」
「……?」

風斬という少女からの言葉に、霊夢は僅かながら首を傾げた。
天使──あのエイワスと同格の存在としては、また違った違和感を感じる。

「私は、その、特別で……創られてから調整のために、ここに居るんです」
「創られてから?」
「は、はい……世界への影響を最小に抑えて『顕現』するためには、調整が必要だったみたいで……」
「ふーん……」

創られた、と聞かされても霊夢の態度に動揺は無い。
それよりも、勝手に面倒そうなことを作ってくれたあの馬鹿でありがたみの欠片も無い天使への苛立ちが増す。
苛立ちを僅かに声の端に感じさせながら、霊夢は言葉を紡ぐ。

「ここの空間がこんなのなのも、あんたの所為?」
「エイワスさんが言うには、私には『情報』が無いから、半身たるこの空間が無になっているのだと……」
「面倒な事情ね……で、それはいいとして」

ジロリ、と霊夢の眼光が敵意の光を放つ。
「ヒッ!?」という小さな悲鳴が風斬の唇から零れ落ちたが彼女は気にせず、現在において最大の問題に踏み込む。

「外でさっきから細かい『震動』が起きてるんだけど、何か知らない?」
「……す、すみません……」

ペコペコ頭を下げる風斬。
小動物のようなその態度に毒気を抜かれ、ふぅ、と肺に溜まった息を吐き出す。
手がかりはなしか、と新たな憂鬱が生まれ始めた直後、

「あっ、でもエイワスさんから伝言が……」
「なに?」
「『君なりの法を教えてやってくれ』、です。あの、どういう意味なんでしょう……?」
「……なるほど。つまりあんたの社会研修のために、私は呼ばれたって訳」
「……?」

風斬は意味が分かっていないのだろう。
おどおどした表情で、霊夢の真意を伺うかのように上目遣いで見つめている。
霊夢は視線を受け、ニッコリと笑ってから、

「じゃあ、始めましょうか」

針と札を、両手に握り締めた。
突然の行いに茫然となる風斬氷華。
が、直ぐに復活し、両手を宙でさまよわせ、おろおろし始めた。

「え、えぇぇぇぇっ!?」
「知ってるでしょ、弾幕ごっこ」
「知ってますけど……」
「なら何処にも問題は無いわね」

自信満々、淀みなく返され、彼女は混乱したまま口から言葉を出す。

「そうなんでしょうか……?」
「そんなものよ」
「う、うぅ……」

完全に押し切られ、手がダランと下がる。
「それでしたら……」と、風斬の言葉が途切れ、彼女の両手が少し開かれた。
瞬間、


その背中から、雷撃の翼が展開される。


バチバチッ!!という騒音を世に奏で、幾重にも分離した黄金の雷撃による翼が伸びて行く。
変化はそれだけで無く、髪色は雷撃の色が混じったかのようにひと回り明るくなり、ベージュのような光を放つ。
瞳と、その頭上に生まれた天使の環は虹色で出来ていた。
見た目人間から、見た目も天使へ。
所々に御坂美琴の面影があるなぁ、と思いつつ、霊夢は足に力を入れる。

「えっと……不束者ですが、どうかよろしくお願いします」
「お見合いじゃないんだから、こう言いなさい」

ボウッ!!と、風が一気に吹き荒れる。
莫大な霊力が突然練られたことにより、大気が反応して風が吹いたのだ。
勿論そんな馬鹿みたいな量の霊力を練ったのは、風斬の前に立つ、博麗の巫女。
霊夢は、告げる。

「かかって来い!ってね!」
「け、喧嘩じゃないんですから~」
「えっ?喧嘩でしょ?」
「……弾幕ごっこですよね?」
「ほら、喧嘩じゃない」

呻く風斬。
笑う霊夢。

「私、弾幕ごっこ始めてなんですよ……」
「人生何事も経験よ」
「私人間じゃないんですが……」
「じゃあ天生?どちらにしろ、教えて上げる」

霊夢は言葉に一拍置いて溜め、
叫んだ。

「楽しい楽しい、弾幕ごっこをね!」
「……楽しいんでしょうか?」

互いの事情を全て無視して、弾幕ごっこは始まる。

細かいことなどは気にせず、彼女達は空を、大地を、天を舞う。


楽しい楽しい、弾幕ごっこを楽しむために。


















「──はぁっ!」

先手とばかりに、上空に飛び上がった風斬から放たれたのは、雷の雨。
紫電の残滓を引き、彼女から下方へ向かって放たれる幾つもの雷の狙いは、立ったまま佇む霊夢。
轟音と共に放たれた雷を、彼女は見つめ、

「ふっ」
「!?」

一歩だけ動いた。
横に一歩。
足が白い空間を踏んだとほぼ同時に、周囲一帯に雷光が突き刺さる。
黄金の雷は熱量による衝撃波を辺りへと撒き散らし、爆音を生み出す。
空間の壁は形を崩さず、壊れることも無かった。
ただ、驚異的な暴風と衝撃により僅かに揺れる。
そんな中、

「だから、落雷には人生で一度も当たったことないのよ」

衝撃波のみを結界で適当に弾き、霊夢はそこに立っていた。
周囲に降り注いだ雷など大して気にもかけず。
彼女は一歩動いただけで風斬の雷を躱していた。
真っ白な空間の中、雷の光にと爆風によって僅かに視界が揺らぎながら、霊夢は感想を告げる。

「弾幕ごっこ初心者ね」

今の弾幕を霊夢が躱せたのは、ただ運だけの物では無い。
風斬の弾幕が単調過ぎたのだ。
全ての雷が直線に放射され、間も均等。
着弾時間も全て同時となれば、躱すのはた易い。
もっとも、威力はかなりの物だが。

「弾幕ってのは──」
「っ!」

霊夢は両手を高く振りかぶり、その姿に反応した風斬へ、

「──こういうの、よっ!」

札の壁を放った。
幾重にも折り重なる札の壁を見て、上空に浮かんでいた風斬の翼がはためく。

「くっ!」

キュンッ!と、音速に届くスピードで彼女は上昇。
空で雷の翼で飛ぶ姿は、神話に出て来そうな程美しかった。
金色に近くなった長髪をなびかせ、虹色の瞳で彼女は下を見る。

「えっ!?」

あり得ない物を見たかのように、風斬の表情に驚きが混じる。
下から、札の束が我先にと迫って来ていた。
音速で飛ぶ彼女に追いつこうと、急上昇しているのだ。

(なんていう追尾……)

本来ならば絶対にあり得ないレベルの追尾機能を見せられ、驚愕に思考が埋め尽くされる風斬の、

「残念、そっちは囮よ」

真上。

「っ!」

気がついた時には、既に霊夢は更に上空へと先回りしている。
紅白の服をはためかせる彼女の右手に浮かぶのは、集束された霊力の弾丸。
そして、躊躇なくそれを真下へ、風斬に向かって投げつけた。
轟!!と、空気が押され音が鳴る。

「──っ!」

上からは青い霊力の弾丸。下からは茜色の札弾幕。
見事なまでに挟み撃ちを受け、逃げ場を無くした風斬は一秒の更に半分以下の時間で何かを胸元から取り出す。
取り出したのは、一枚のカード。

勿論、

「能力「オフェンスアーマー」!」

スペルカードだ。
宣言によって力を解放されたカードから波動のように出現するのは、彼女の体を中心とした空気の壁。
球状の透明な壁は札と弾丸の直撃をまともに受け、しかし揺らがない。
ほっ、と。翼を広げ空気の壁に守られる風斬の顔に安堵が浮かぶ。
が、

「ていっ!」
「えっ──」

霊夢はその小さな安堵の時でさえ、容赦が無い。
空気の膜へと己の足を叩きつけ、吹き飛ばす。
結界のようなタイプなら空中に固定される力があるため、砕くことしか出来ないがこういった体を強化したり覆ったりするタイプのスペルならばそれごと吹き飛ばせるのだ。
そうはいっても普通は向こうも抵抗するため、ここまで鮮やかに蹴り飛ばすのは無理だ。

「くっ……!」

だが、風斬は鞠のように下に叩きつけられる。
衝撃は風の防護膜が防ぎ、土で出来た大地ではないため、白い地面が壊れることは無い。
故にテンテンと彼女の体──正確には防護膜による鞠は跳ねて行き、やがてスペルが解けると風が消え、体が投げ出された。
投げ出された体を翼を利用して何とか持ち直し、着地。
普通よりも小さな摩擦音を立て、足を踏ん張らせる。

「はぁ、はぁ……」
「筋は悪くないわね」

宙に漂いながら、霊夢はその姿を眺めていた。
彼女の顔や体からは余裕というものがありありと感じられる。
肉体的なスペックならば風斬の方が勝っている筈なのに。
それを遥かに凌駕する程の実力が、霊夢にはある。

「……貴方、本当に人間ですか?」
「当たり前じゃない」

下からの質問に、寧ろそれ以外の何に見えるのかと思いながら返す。
人の姿をした妖怪や人から一種の進化を遂げた天人や月人には独特の雰囲気があり、人間で無いことは一目で分かる筈だ。
霊夢はれっきとした人間である。

「というか、同じ人間ならもっと信じれない奴が居るでしょうが」
「あっ、確かに……一方通行さんの方が……」

ポンッ、と手を打つ風斬は納得した雰囲気を醸し出す。
本当に弾幕ごっこの内容を理解しているのだろうかと霊夢は思いながらも、地面らしきものに降り立った。
距離は、約二十メートル。

「さて、スペルはいいの?」
「……す、すみません……」

風斬も場違いな行動に気がついたのだろう。
顔を赤に染めながら胸元に手をやる。

(天使も照れたりするのね)

そんなことを考えていると、

「行きます……!能力「シンクロトロン」!!」

態々呼びかけてから、宣言によってスペルが発動した。
風斬の翼から零れ落ちるように、黄金の直方体が出現。
クルクルと周りながら、徐々に数が増えて行く。

「……」

大きさは大した物ではない。
精々、一辺が三十センチ程度。
小さな欠片が舞い、桜吹雪のように上へと金の螺旋が上昇して行く。
それは、竜巻。
瓦礫では無く、金を巻き込んだ竜巻だった。

「はっ!」

掛け声とともに、螺旋から弾かれるように欠片が周囲へとばら撒かれた。
数は五十程。
斜め上から矢のように迫るそれを見て、
しかし余りの弾幕の薄さに違和感を霊夢が覚えた所で、
欠片が凝縮し、弾けた。

「──!」

咄嗟に後ろへと体を宙に浮かばせて避け、轟音を耳の鼓膜に叩きつけられる。
ドゴオンッ!!と、欠片は次々弾け、爆発して爆煙とともに更に小さな弾丸を撒き散らした。
一気に厚くなった弾幕を見て、へぇ、と霊夢の口から言葉が零れる。

(中々やるじゃない。あいつから色々教わったのかしらね)

脳内にぶっきらぼうな口調で風斬に弾幕について教える一方通行、というイメージが浮かび、霊夢は思わず苦笑。
しかしその間にも彼女は弾幕を次々と避けている。
しかも普段のように飛んで躱すのではなく、地面に足を、手を叩きつけて。

無論、驚くのは弾幕を放ち続けながらも唖然としている風斬のみ。
曲芸師のような身こなしに、風斬のあやふやな知識が紡がれる。

「そ、そういえば、巫女は、踊りが得意って話が……」

手を翳しながら呟いた彼女へ、

「巫女が得意なのは、舞いと」
「なっ!?」

すぐ側まで霊夢が接近していた。
全く気配を感じさせず、風斬の手元へと。
袖が分離し、袴ではなくスカートの改造巫女服を揺らし、
お払い棒を振りかぶり、多大なる霊力を込めて。

「弾幕よ!」
「っあ!」

霊夢がお払い棒を振り切る前に、翼が振るわれた。
数十に渡る翼が、一斉に。
乱雑に振られたため、烈風と紫電が吹き荒れ、空間がかき乱される。
飛びかかった状態でバランスを崩した霊夢を尻目に、風斬は上空へと一瞬で距離を取った。

「能力「トリックアート」!」

そして、新たなスペルを発動させる。
既に衝撃によってスペルは破られており、スペル発動に問題はない。

「むっ?」

バランスを取り直し、霊夢は少しだけ宙に浮かぶ。
そしてスペルを発動した風斬を見上げて、疑問の声を上げた。

彼女の姿が、ブレている。

眩暈でもしたのかと目を擦るが、依然として彼女の輪郭がぼやけてブレる。
やがてブレは酷くなり、遂にはまるで三人居るのではないかと勘違いしてしまうくらいブレて、

バッ!と、風斬氷華が三人に分裂した。

分裂した、というよりは分身が生まれたと言うべきか。
同じ外見、同じ翼の風斬が更に二人。
かなり異常だった。というよりは、現実の世界ではあり得ないだろう光景だ。

彼女『達』は翼を、手を振りかぶり、振り下ろす。
途端に空気を裂いて雷の弾幕と、翼の刃が空間を覆い尽くした。

「これまた面倒なのを!」

霊夢は、三倍となった弾幕を見ても引かない。
それどころか笑って頭上の彼女達へと飛ぶ。
真正面から、彼女は突っ込んだ。
翼の刃を体をズラして躱し、雷弾を全て正確に針で撃ち抜く。
ドンッ!という、巨大な爆発によって爆煙と爆音が大気を揺らした。
爆音に構わず、霊夢は爆煙を吹き飛ばして進む。
驚愕に目を見開く、瓜二つ、いや三つの姿を捉えて、

「こいつ!」

勘に任せて弾幕を張っていた内の一人へと、踵下ろしを繰り出した。

「えぇっ!?」

風斬は慌てて両手を頭の上で交差させ、霊力の篭った踵下ろしを防ぐ。
と、同時に。
パシュン、という効果音とともに分身体が弾けて消えた。
光が霧散し、キラキラと金粉に似た力の欠片が漂う。
なんとか空中で踏ん張りつつ、風斬は両手に力を込めながらも動揺を隠しきれない。

「どうして、一撃で……」
「勘」

短く、一言だけ霊夢は返す。
淀みない一言を聞き、思考が停止しかける風斬。
慌てて彼女は首を振り、両手を使って霊夢を押しのけた。
また、距離が出来る。

(やっぱりこいつは、馬鹿天使みたいに圧倒的じゃあないみたいね)

霊夢はくるり、と宙で反転。
そのままふわふわと滞空した。

「……勘、って……そんな馬鹿な」
「そうだから仕方ないじゃない」

信じられない、という表情の彼女へ、霊夢は一枚のカードを翳す。

「霊符「夢想封印」」

瞬間、霊力による光が迸り、七色の光球が爆発的な効果音とともに生まれ、空を翔けた。
直進するそれの狙いは、同じ高さに浮かぶ風斬。
七つの光球はそれぞれの方向から彼女を叩き潰そうと散開し、一斉に襲い掛かる。

「能力「ファイヤスロアー」!」

しかし、風斬もなれて来たのだろう。
彼女の叫びとともに火線が辺りを駆け、誘爆させる。

「むむっ」

爆風の余波を受けながら、霊夢は身を屈める。
頭上を、炎の線が通過した。
周囲に目をやると、まるで檻を形成するかのように炎の線が宙を駆け巡っている。

「中々、やるわね」
「まだです!」

風斬の言葉は正しかった。
突如火線の炎は分裂、中心を霊夢として、一気に凝縮する。
周囲の全てから炎の弾幕が迫ってくるのは、圧巻と言う他がない。

「神技「八方鬼縛陣」!」

霊夢の実力は、更にその上を行くとはいえ。

「っ!?」

ゴバッ!!と。
突然、彼女に霊力が集中したかと思うと、一気に光の柱が聳え立つ。
空気を強引に蹴散らし、轟音を立てるそれは結界。
結界に当たった瞬間、炎の弾幕達は跡形も無く消え去って行く。

「くっ、能力「エアロハンド」!」

炎の弾幕では貫け無いと判断したのだろう。
風斬は新たなスペルを代わりに発動させ、その手に空気の砲弾を出現させた。
右手を力一杯振り絞り、解き放つ。

「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」

ギュボッ!!と、真空を生み出して空気の砲弾は空を吹きすさんだ。
数秒経たず、高速で砲弾は結界へと直撃し、

爆散した。

「今のでも、駄目なの……?」

驚く彼女を無視するかのように、結界がどんどん薄れて行く。
結界によって、霊夢の動きが止まっている今がチャンスなのだ。
逃すことは、出来ない。


「天使「エクスカリバー」!!」


彼女の手に、雷の聖剣が生まれた。
大きな、刀身だけで三メートルはありそうな巨大な大剣。
熱を発し、天からの雷の破壊力を形にした武器。
雷で編まれ、時折バチバチと揺らぎを見せる聖剣を、風斬は背中に這わすように振り被る。
そして、

「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

一気に振り下ろした。
と、同時に刃も更に伸び、全長百メートルを越す。
音はしない。
音がするほど、その剣は生易しいものではなかった。
十分、霊夢に届く距離。

「っと、容赦ないわね」

他人が聞いたらそれはお前だよ、と言われそうなことを言いつつ、霊夢は大剣すらも軽く避ける。
だが風斬は諦めなかった。

「たぁっ!」

振り下ろした大剣を戻し、今度は横薙ぎ。
ついでとばかりに翼の幾つかも縦から振り下ろす。
頭上からの雷、横からの雷。
形がある雷という無茶苦茶な物に挟まれても、霊夢の表情は変わらない。
余裕というものが、そこにはあった。

「霊符「夢想封印  集」!」

掛け声とともに、雷の聖剣が吹き飛んだ。
壮大な爆音と共に黒煙が出現し、白が中心になっていた視界を塗り潰す。

「!」

霊力の弾幕によって消し飛ばされたのだと理解し、しかしそのまま振り切る。
黒煙を切り開くのは、聖剣。
瞬時に、それこそ雷と同じスピードで再生した雷の聖剣。
金色の刃は熱を持ってして黒煙を、上から振り下ろした翼の残骸すら切り開いた。

そして、そこには何もない。

「──えっ?」

自分の攻撃が空振りした。
その事実に、彼女が驚いた瞬間、




「宝符「陰陽宝玉」」




背後から、巨大な何かが出現した。
一瞬と呼ばれる時間の間に、首を動かして風斬はそれを見る。
それは、視界を埋め尽くす巨大な陰陽玉。
そして、振りかぶるのは、博麗霊夢。

(マズ──)

僅かな思考の時間すら与えずに、
陰陽玉が、風斬氷華の肉体に叩き込まれ、押し潰された。




「はっ!」

霊夢はそんな声を発し、両手から札を放る。
真っ白な空間の下方、地面には陰陽玉がデンッと存在しており、それには風斬が押し潰されている筈だった。

しかし、霊夢は札を飛ばす。

普通ならここで決着はついており、これ以上の追撃は明らかな無駄行為。

(嫌な予感がする……)

だが霊夢は自分の勘に従い、札に霊力を込め、放つ。
茜色の札達は術者たる霊夢の力に従い、下方の陰陽玉へと霞む速さで突撃してゆく。
そして、






「「ヒューズ=カザキリ」」






全てが、消し飛んだ。

「あつっ!?」

視界を遮るのは、太陽のような閃光。
咄嗟に手を翳し、それでも遮れ切れなかったため、結界を張る。
青い壁が出来たことでようやく目を開けるようになり、霊夢はゆっくりと瞼を上げていく。

そこに居たのは、堕天使。

全長五十メートルはある、巨大な堕天使がそこに居た。
巨大な白いローブのような服のスカート部分が下の空間にめり込み、ドロドロに溶け出したキャンドルに似た形状になっている。
目や鼻は全て表面の凹凸で表されており、生物的な外見が全くと言っていいほどない。
ソレに加え、背中からは透明なガラスのような翼が十を超える数生えており、金色の輪っかが歪みながらも頭の上をくるくる回っていた。

「……でか」

そんな姿を見て、霊夢の第一声がこんなのだということが彼女の驚き様を表している。
今まで、災害級──自分含めて──嵐や地震と同等の破壊を行える者達と戦っては来たが、実際にここまで巨大な者と戦うのは始めてだった。
妖怪退治とて、ここまで巨大な妖怪と遭遇したこと自体がまず無い。

「jpgeukLastijgdavwqt」
「……いや、何言ってるのかさっぱりなんだけど」

口のような部分をもごもごさせて、堕天使、恐らくは風斬は何かを喋ろうとしている。
しかしながら雑音が混じったような不思議な音声なので、霊夢には奇怪な音としか感じ取れなかった。

「まっ、意味は大方分かるけどね」

バラッ、と。
札が彼女の周囲を舞う。
堕天使から驚いたような雰囲気が伝わって来た。
大方、自分の姿を前にして、それでも立ち向かう霊夢に驚愕しているのだろう。
無理もない。
普通の人間は、よっぽどの馬鹿で無い限り身一つで怪獣と戦おうなんて思わないだろう。

だが、幻想郷においてそんな常識は通用しない。

「最後ってことでしょ?だったら私も──」

音を立てず、札が静止した。
しんっ、と空間が静まりかえる音が鳴ったような気がするくらい、音というものが消える。

そして、


空間を、音が裂く。


「aaaaaaaaaaa!!!!」

ガラスのような翼が、両端から一気に広がり、木の枝のように枝分かれしてゆく。
一本一本に途轍もない威力を秘めて、翼の全てが振り下ろされた。
もはや、本当の意味での災害になってしまったスペルへ、霊夢は突き進む。
最初の翼の欠片に衝突間際で、彼女の唇がポツリと動く。






「──「夢想天生」──」






轟音が、空間中を満たした。











「きゅう」
「始めてにしては上的だけど、まだまだね」

目を回して倒れている風斬に、霊夢は簡単に告げる。
辺りには先程の戦闘の跡など無く、同じような白い空間が続いていた。
風斬は呻きながら、なんとか言葉を返す。

「最後のが、破られるなんて……」
「そんなものよ。弾幕ごっこっていうのは。無駄な常識は捨て去りなさい」

適当さを感じる返答に、風斬は顔を小さく顰めた。

「私の常識が間違っていたんでしょうか……」
「いーえ、前提が間違ってる。一から物事を見てるからそうなるのよ。零から物事を見なさい」
「そんな……ものでしょうか……」
「そんなものよ」

ニコリ、と博麗霊夢は笑い、上から覗きこむ。
少しだけ汚れた巫女服を揺らし、彼女はこう言った。


「では──ようこそ幻想郷へ」

















設定


~人工天使~

名前・風斬氷華

種族・人工天使

能力・「あらゆる能力を使える程度の能力」


幻想郷から生まれたと言われる、天使。
性格は多少恐がりであり、余り人付きあいは得意な方では無い(※1)。
本人自身も自分を『創られた存在』と語っており、人工的な天使である。
天使のような存在が創られたという話は神話の中でしかなく、しかも彼女の話によると創ったのは一方通行とのこと(※2)。
一方通行の能力を利用して大気や空間に満ちる『力』をかき集め、術式によって自意識を与え、天使としての記号を与えることにより人工の天使として生まれた。
これだけの技術は歴史に残るどころか、歴史を塗り替える危険性すらあるとして現在その技法は封印(※3)されている。
一方通行が何故彼女を創り出したのかは、彼にしか分からない。
当初は余りの力の大きさに、一方通行やエイワス以外の者と会えなかったようだが、今では度々人里などでも見られる。
彼女の髪や目の色が茶色、及び背中に生える翼が雷なのは『一方通行の持つ、天使へのイメージによって構成されている』からだという(※4)。

遭遇したら、逆に逃げられることもある。
彼女に危害を加えた場合、その者の命は保障出来ない(※5)。

能力は「あらゆる能力を使える程度の能力」。
彼女自身が『力』の集合体のため、その力を使えるのは当然ともいえる。
ただ、一つの力を引き出すというのはかなり難しいらしく(※6)、彼女はその力に擬似的な天使の力を加えることで、力を使っている。
ある意味無敵の力だが、使い勝手がいいとはいえない。


※1
一部の者達を除く。

※2
エイワスも関わっているらしいが、大体は一方通行の手による物。

※3
封印に渋った研究者達もいたが、山の神達の主張によって封印された。

※4
筆者は、一方通行が持つ天使へのイメージのモデルは御坂美琴ではないかと推測している。

※5
一方通行などが居るため。

※6
本人曰く「砂漠から一握りの砂を掻き出すようなもの」とのこと。




スペルカード集

能力「オフェンスアーマー」
能力「シンクロトロン」
能力「トリックアート」
能力「ファイヤスロアー」
能力「エアロハンド」
天使「エクスカリバー」
能力「テレキネシス」
能力「インシュレーション」
能力「ショックアブソーバー」
能力「ハイドロハンド」
能力「パイロキネシス」
能力「エレクトロマスター」
能力「エアバッグ」
能力「エアロシューター」
能力「テレポート」
能力「ダミーチェック」
AIM「カウンターストップ」
AIM「マルチスキル」
能力「イコールスピード」
AIM「AIMバースト」
天使「天雷招来」

「ヒューズ=カザキリ」

合計22枚










EX後書き

EXステージ、及び『東方超人禁 〜The super break daily.』終了です。
どうもありがとうございました。
風斬戦は完璧なオマケなんで、質が悪いかもしれない。すみません……
後書きも前で結構書いたので、書くこと書くこと……と。
この作品を書いてて一番最初に思ったのはこれ誰かゲームにしてくれねぇかなぁ、ということ。弾幕結界を使う美琴とかマジ見たい。後ビーム放つ一方通行とか。

しかし、前の後書きでも思ったけどクロスの意味がかなり危ない作品だなぁ……
まぁ、このままじゃ本当にクロスの意味が無くなるので、何時か短編でも書こうかな、と。
『とある世界達の反逆戦争』(近々その他板に移動するかも)の方で調子が悪くなればですけど。

ちなみに、次書くとしたら、


『東方超人禁』の短編。もしくは、他キャラの会話と一方通行戦かエイワス戦。

『東方魔本紀』(東方×リリカルなのは)

『東方灼炎剣』(東方×灼眼のシャナ)

『東方雷英義』(東方×魔法先生ネギま)


のどれかになると思います。
シャナの奴以外は、何処に投稿すればいいのか迷いますが(汗
後上記以外のでネタがあるとすれば『東方超幻書』(とある魔術)とか。
あれだ、自分の知っている作品の少なさに絶望する。他に東方とクロス出来そうなの何かあったけか……FFやテイルズとかは行けるかな?あれ?テイルズ結構行けるかも?

と、最後までグタグタですみませんでした。

最後にキャラ達に対する自分の感想やら設定話を。



博麗霊夢
この作品のタイトルの超人は彼女なのではないかと思う。
まぁ、主人公補正とかついてるし。チルノとかでも勝てるようにしないと、話が終わってしまう(笑
でも圧倒的実力。
そして圧倒的にお賽銭は少ない。
妖怪退治でお金を稼げるのにも限度があるため、別の収入源を考え中。お酒とか。余り深刻に考えないのが彼女らしい。


削板軍覇
直ぐにやられちゃうのは1ボスだから。でも格ゲーだと人間最強かも。
能力の説明が一番簡単だった。ここまで意味不明だと一周して楽だね。
チルノとよく一緒に居るみたいです。一緒に幽香とかに挑んでボコボコにされてそうだ。


麦野沈利
名前の変換が面倒でした。沈利。打ち憎い。
光線トリガーハッピーの女王様。でもマスタースパークには負けます。そしてキレます。環境破壊よくしてます。
多分短編とかで一番出しにくいキャラ。なのに紫とかと出して見たくなるのは何故だ。


御坂美琴
弾幕結界が使えます。だけど本家には叶わなかった……!
弾幕ごっこならレミリアとかよりも強いかも!でもチルノにでも負ける。そういうのが弾幕ごっこ。
一方通行にフラグ立ってるのかな?よく分かんない。
寺小屋の子供にスカート捲られるシーンとか書きたいぜい。
ツンデレはもうシーズン過ぎたんじゃないかな?素直になろうぜ!
一方通行の世話とかしてる優し子。嫁にするならこういう子がいい。


垣根帝督
名前変換面倒ですなぁ!提督に改名してくれぇ……
月人の化学兵器は妖怪にとっての天敵だけど、垣根の力は化学の天敵です。
強い筈なのに美琴以上にあっさり負ける。残念!相性が悪過ぎた……っ!
あだ名はメルヘン。本当にメルヘン野郎って言われてる。しかも自覚はあるそうな。
取り合えず付き合う女の子は一人にしましょう。
そしてEDで「干されてる」と言われたのに誰にも突っ込んでもらえない……っ!残念!


一方通行
東方設定にしたら史上最強の存在に!異空間や神の力も利かない。そして自転エネルギーどころか龍脈の力を操作出来るとか幻想郷終わった。
だけど本人はそんなことしません。それに本人曰く「餓死させりゃいいだろォが」いや、あの。自分を殺す方法を真面目に言うのはちょっと……
エイワスにも勝てる。正に最強。でも手こずる。最強と強者は=で結ばれるとは限らない。
異変まで、一日ダラダラ過ごしてました。家からも余り出ない。食事とかは美琴が用意してくれる。つまりは究極のニート。もげろ。

ちなみに一方通行のスペルは咲夜さんのと似たようにワザとした。この二人ってかなり似てる気がする。


エイワス
法の書などの資料を見ながら書いたので頭が痛くなった。何あの意味不明の文字の羅列は……
チート。流石にこの世界においては惑星を破壊したりするのは難しいみたいだけど、大陸の一つや二つなら壊せる。
異変を起こしたのはただ単純に霊夢達に興味があったから。と、見せかけて紫との……
でも大天使を召喚するのは止めてくれ。下手すると幻想郷どころか月や世界の歴史が終わります。終わらない気もするけど。
正直、影が薄くなったので何時か出番が……あったらいいな。
ニート二号。天使ニートというのも新しいかもしれない。
美琴が売っている財宝はこいつのだったりする。財宝を見つけてこっそり持ってくるみたいだけど、それは強盗だから。星くんを見習え。


風斬氷華
出すかどうか迷った。正直EXステージをするかどうかも。
まっ、オマケとしてですね。一応天使だし。
性格があれです、今時の女性には珍しいおどおどした性格。自分の友人とは大違いだ!
東方世界ではもっと珍しい。でも人工の存在、ってのは意外と珍しくない。うろ覚えだけど、昔メイドロボもいた筈だし。人工天使は新しいというか前衛的ですが!
彼女の能力が一番大変だった。意味不明だけどある程度はっきりしている能力が、一番書きにくいね!
そしてオリジナル設定満載。ははっ、原作無視も此処まで来ると笑え……ない……
ちゃんと美琴の手伝いとかしてます。見習え、他の天使ども。




結構はっちゃけた作品でしたが、ここまで付き合ってくれてありがとうございました。
これからも、頑張って行きたいと思いますので、どうかよろしくお願いしますってなんだかこれじゃ選挙の宣伝みたいだな。

ま、まぁ。本当にありがとうございました。ソレ以外に言える言葉がありません。
特に感想を書いてくれている方達には、返信という形でしか感謝が表せません。申し訳無い。
心の底から感謝を。ありがとうございました!

















































オマケスキット「頑張れえーき様!」


映姫
「いいですか?貴方の能力は確かに強力無比。使い方によっては善にも悪にもなる。
だが、それだけではない。巨大な力というのは、時として災いの元にもなるのです。
貴方はそれを自覚している。しかし、自覚していながら貴方は最善の手段を取ろうとしない。
誰かが危険に晒されて初めて、その場その場での力づくの手段しか使わない。
これが意味するところは分かりますね?」


「そう。貴方は少し、自分を恐がり過ぎている」


「過去に人を殺し、自分の災いの力がどれだけ巨大な物かを認識したせいで、貴方は周りから遠ざかりつつある。
恐れとは、確かに災厄を未然に防ぐにはいい手段でしょう。
だけど、貴方は恐がり過ぎて周りがよく見えていない。自分に向けられる感情を、正しく認識していない。
貴方はもう一人では無い。既に何人もの者達と貴方には繋がりがある。
繋がりを自ら断ち切るのは貴方だけが不幸になるのでは無く、繋がりを持った者達でさえも不幸にするということを、忘れてはならない」


「改めて周りを見渡し、自分の力と恐れずに向き合うこと」


映姫「それが、今の貴方に積める善行です」
一方通行「言っとくが、音全部反射してるから聞こえねェぞ」

映姫「な、何してるんですかぁぁぁぁぁっ!わわっ、私の話を聞きなさいと何度も何度も何度もぉ……っ!」
一方通行「さて、出かけるか」
映姫「まっ、待ちなさいっ、逃げるなぁーっ!」





オマケ後書き
えーき様可愛いと言われて書いた。
可愛いかどうか分からない。反省はしているが後悔は……して、ない。うん。
後改行、携帯の方は大変申し訳ない……



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