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[25676] 【ネタ】 貴族な勇者様(ドラクエ3)
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/01/30 09:18
  貴族な勇者様





 もしも勇者が思いっきり貴族だったら。

 

 

 今の状況を簡単に説明すると以下の様になる。

 

 親父が行方不明になりました(実質死亡)。

 英雄不在になりました。

 俺には才能がありました。

 親父の後継となるべく英才教育を受けました。

 先日元服しました。

 王様に呼び出されました。

 魔王を殺せと言われました。

 端金を渡されて城を追い出されました。←今ここ

 俺の人生は詰んでしまったらしい。

 

 そもそも、魔王ってのは絶対に倒せないのだから魔王なのである。普通に倒せる程度なら単なる強い魔物に過ぎない。

 それが証明されたのが十数年前の親父の一件だろう。

 大陸随一の豪傑とかいって調子扱いていた我が父上は、「魔王とか超余裕www」とほざいて手下Aに葬られて御臨終となった。

 所詮、人間の限界なんてそんなもんだ。精々、下級魔族と相打ちに持ってける位。

 絶望的に戦力差が開いているのが現状なんだ。我々人類は結界に護られた町で慎ましく生きるのが最良なのだ。

 だと言うのに、傲慢極まりない王様は魔族を駆逐しろと仰る。それも、高々100G程度で。

 遠回しな処刑命令なのかも知れない。昔、公の場で陛下のヅラを取った事を未だに恨んでいるのか。

 いっそ逃げようか。このまま実家に帰らずガザ―ブ辺りに潜伏するべきか。

 非常に魅力的なアイデアが一瞬浮かんだが、遺憾な事に実行するのは躊躇われた。

 あの糞王、もしも逃げやがったら一族郎党皆殺しなとか宣言したのだ。

 流石に家族が嬲り殺しにされると心が折れる事間違いなしなので、俺は無く無く依頼を引き受ける事にした。

 取り敢えずはルイーダか。

 アリアハン如きに留まってるカス冒険者なんぞ糞の役にも立つまいが、肉の壁位にはなるだろう。

 数も腐るほどいる事だ。人員不足に悩む事も無いだろう。

 勿論、奴らは断る事は出来ない。俺には勇者の特権がある。

 勇者は全国の冒険者の頂点に君臨する英雄であり、諸国の長より様々な権限が付与される。

 その内の一つに、絶対命令と言う物がある。

 内容は名が示す通りだ。底辺の屑職である冒険者共に命令権を有する。奴らに拒否権がない事は言うまでも無い。

 そもそも奴らは戸籍が無い塵野郎だ。王の気分次第で何時でも首を刎ねる事が出来る。

 俺達の様に選ばれた市民とは生まれながら土俵が違う。精々、搾り尽くしてやろう。

 俺は少しは使える道具が居る事を願いつつ、掃溜めの巣窟に足を運んだ。

 

 

 酒場に着いた俺は薄汚い扉を蹴り開ける。

 バガンッ、と小気味のいい音と共に老朽化した木材が弾け飛ぶ。

 俺は砕け散った破片を踏み躙りながら侵入し、シンプルに要件を告げる。

 「戦士と魔法使い、僧侶」

 いきなりで何を言ってるのか分からないのか。食事中の冒険者たちはあんぐりと口を開けるだけだった。

 やれやれ、理解力の無い低能はいやだ。これだから塵は嫌いだ。

 心優しい俺は仕方無く繰り返してやる事にする。

 「光栄に思え。俺と旅に出る権利をやる。―――来い」

 それなりに鍛えられているであろう奴らに目星を付け、手招きする。今度は伝わるだろう。

 (おや?)

 すぐにも喜んでと寄ってくるだろうと思ったが、何故だか静寂が場を包んだ。

 さては恥ずかしがって遠慮しているのかもしれない。俺は心が決まるまで待ってやる事にした。

 近場にあった席にドカリと腰を下ろし、テーブルに置かれた酒をがぶ飲みする。不味っ。

 俺は思わず吐き出していた。良くも、こんな泥水を飲めるもんだ。

 矢張り、俺様とは根底から違うな。所詮は家畜だ。

 料理には手を付ける気にはならなあった。どうせ豚の餌みたいな味だろう。食った事無いけど。

 特にする事も無いので、頬杖を付きながらフォークでテーブルを突き刺したりしていると・・・。

 「―――おい」

 何時の間にか、一人の男が俺に詰め寄って来ていた。

 中々にガタイが良い。見るからに戦士タイプだが、口応えがなってないのが気に掛かる。

 まぁ、おいおい調教してやれば済む話か。まともな教育も受けてないのだから止むを得ないだろう。

 「何だ。お前だけか? 他には―――」

 バンッ!

 おおう。何て柄の悪い奴だ。

 いきなりテーブルを叩きやがった為に、衝撃で餌が飛び散ってしまったじゃないか。

 掃除をするのが大変だなぁと思う一方で余りの素行の悪さに流石の俺もムッと来る。

 「出て行け。今なら問題にはせん」

 ドスの利いた声で俺を睨みつけて来る。

 俺としては全く動揺するレベルではなく不快になるだけだが、一般人からすればチビりそうになるかも知れない。

 一体こいつは何を切れているんだ? 俺には底辺の思考は理解出来ない。

 と言う訳で聞いてみる。何で怒ってらっしゃるの?

 俺の至極当然の疑問に男は眼を見開いて驚愕し、握り拳を作って何かを呟く。

 あっ。今、この野郎って言ったぞ。俺には聞こえた。

 「此処は。此処は俺達冒険者の寄りべだ。戸籍も後ろ盾も何も無い、俺達が唯一安らげる場所だ」

 ほう、こんな萎びたボロ小屋で落ち着けるのか。随分と安く上がるな。

 感心する間にも口上を並べ立てる男。やれ、古くからだの、ルイーダは凄いだの。良くもここまで褒めちぎれるものだ。

 「―――断じて、断じて貴様の様な甘餓鬼に汚されていい場所じゃない!!」

 この様に締め括られる。

 やけに熱い男だ。気に入らないなら気に入らないとはっきり言えばいいのに。

 何時の間にかゾロゾロと群がって来た連中にも目を配るが、全員同じような顔をしている。ああ、そうかい。

 大体理解した。弱っちぃ癖にプライドだけは一丁前って事を。

 こいつらは要らねぇや。俺はよっこらしょと腰を上げると、じゃあなと踵を返し―――

 「ああ、忘れ物があった」

 いけないいけない。俺は反回転位していた身体を一周させ先程の男にいま一度向き直り、腰の剣をすらりと引き抜くと。

 スパッ、と横薙ぎに軽く振るう。

 「・・あ?」

 少しして、間抜けた声を出した男の上半身がずるりと滑り落ちて行き・・・

 あーあ。また汚しちまったよ。

 俺は散らかった塵を掃除する意味を込めて、口内で文言を呟く。

 「悪ぃ。後片付けはしてくから。―――イオ」

 直後、室内に轟く爆音。

 今度こそ用が済んだので、迷惑料の100G札を投げつけて出て行く事にする。

 

 全く無為な時間を過ごしたもんだ。

 俺は帰り際に酒場の外壁に蹴りを入れ、自宅に帰る事にした。

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様 序
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:d4a04a16
Date: 2012/04/26 13:20
  貴族な勇者様 序





 一体何を間違ったのか。路地裏を駆けるボーガンは何度目かになる自問をした。

 仲間は既におっ死に残されたのは自分だけ。当初の目的は微塵も果たせず、押し寄せる猟犬共から必死に離れようとする。

 こんな事は初めてだった。今迄なら、仮に上手く行かなくても足が付いた事は無かった。己の足腰は都会のお坊ちゃんに遅れ取る様な柔な鍛え方ではない。

 今日に限って如何したと言うのだ。毎日農作業に従事する合間にも訓練は欠かした事は無い。田舎では何をしても一番だったのに。

 行動パターンを分析されたからか? 慎重さが失われたからか? いいや違う。

 答えは分かり切っていた。全てはあいつのせいだ。震えそうになる身体を抱き締めながら、一生忘れる事の出来ない光景を今でも鮮明に思い出す。

 

 化物。魔物との遭遇経験が少ない彼でも、そいつが尋常ではない怪異である事ははっきりと分かった。

 年頃は15、6位。少年と青年の境界に立った奴は一見すると女性と紛う美丈夫だった。

 男性の平均身長を僅かに下回る、160程度の痩躯に薄くルージュを引いた唇はしゃぶりつきたくなる色気を放っていた。

 彼を男と判断させたのは重力に逆らう様に立て上げた黒髪と、少女の腕力では振り回せない長剣を軽々と持っていたからだ。

 高めのボーイソプラノに驚いたボーガン達だが、少年の容貌を認識すると安堵は情欲へと色を変えた。

 容姿もそうだが身形が段違いだった。頭の天辺からつま先に掛けて、身に付けた衣装は平民が一生涯働いても手に入れられる物ではない。

 十中八九、貴族の子弟だろう。世間知らずな童が調子に乗って警察の真似事と言った所か。男達にどす黒い感情が込み上げて来た。

 皆、社会への不満から底辺に堕ちたならず者達だ。上流階級への鬱憤を晴らす機会を見逃す理由は無い。

 一片の穢れも無い肢体を滅茶苦茶にしてやりたかった。気が早い者は下半身に滾りを覚えていた。

 自分達は追い立てられる身だ。一箇所に長く留まる時間は無いが、この広い街を捜査する側も相当な骨である。監視役を置けば非常時の脱出も難しくは無かろう。

 目配せしたボーガンらは少年を取り囲む。手早く済ませば一周位は回せると算段した。

 「どうしたんだい、お嬢ちゃん?」

 手前の仲間が荒々しく腕を伸ばす。華奢な腕を押さえて身体を壁に叩き付ける。空かさず他の男が服を剥ぎ取りに掛かる。

 長らくチームを組んで来た彼らのフォーメーションは完璧で、互いの役割を熟知していた。蛮勇に突き動かされた無謀な少年は、抵抗する間も無く拘束される。

 ―――かに思われた。第三者の介入が無いか警戒していたボーガンは現状が理解出来なかった。分かった事は、苦楽を共にした仲間の腕からおびただしい量の血が流れている事だけだ。

 「誰が触れて良いと許可した? 一張羅に手垢を付けないで欲しいな」

 真逆の方向からの足跡。がっちり捕えている筈の少年が悠然と歩いていた。

 馬鹿な、それでは俺達が押さえ込んでいる奴は何だと言うんだ。男達は俯いて微動だにしない小柄を注視した。

 髪の毛を掴んで顔を持ち上げる。すると無表情だった少年(?)は今にも裂けんばかりに唇を歪め、

 「3、2、1、どかん」

 勢い良く点火した炸裂弾の様に弾け飛ぶ。至近距離で爆風を受けた数人はぐちゃぐちゃに引き千切られた。

 後ろで待機していたボーガン達は飛び散った肉片を点々と被り、ある者は目を見開き、又恐怖に震えた。

 唯、全員がそうなった訳ではない。アンダーグラウンドを生きて来た男達は、今回程悲惨では無いがそれなりの不幸に直面している。

 動けてしまったのだ。仲間の死に憤りを感じ、薄ら笑う糞餓鬼に報復の刃を向ける事が出来てしまった。結局、その胆力が更なる犠牲者を増やす事となった。

 「―――――」

 少年が何言かを口走った途端、彼の周囲より剛熱が発し、赤銅の炎が巻き起こった。

 勢い良く飛び掛かった男達に避けられはしない。創りだされた死地に自ら飛び込んでしまった。地獄への扉が開いたみたいに、一瞬の抵抗も許さず消滅した。

 残されたボーガン達は呆然としていた。闇に染まったと、悪党に堕ち切ったと思っていたが勘違いも甚だしい。

 「悪魔だ、正真正銘の怪物だぁ・・・」

 嗤っている。少年は、それはもう愉しそうに嗤い続けた。新しい玩具を与えられた子供の様に。

 その姿は年相応だ。蚊や蟻を面白半分に壊し、もがき苦しむ反応を興味津津に眺める特有の残虐性。成長の過程で形成される良心という概念が彼にはなかった。

 彼に取っては同じなのだ。虫を殺す事も、対象が人間に変わる事も。常軌を逸した次元の力よりも、少年の異質を何より恐れた。

 「悪魔とは酷いなぁ、こんなイケメンを掴まえて。あんまり苛めると――嬲り殺しちゃうぞ?」

 「う、ぁぁあああああああああああああああああああ!!?」

 ボーガン達の恐怖は最高潮に達した。誰もが見惚れる笑顔だったが、この場に於いてこれ以上無い恐慌をもたらした。

 成果だとか、失敗したとか関係なかった。助けてくれるならば官兵にだって縋り付く。あいつから離れられるならどんな事でもする。

 1メートルでも1センチでも離れる為に、ボーガンは脇目も振らず逃げ出した。

 

 初めからこうだった訳ではない。進んで人に迷惑を掛けた事は一度も無く、寧ろ善人と呼ばれる側に属していた。

 大都会から遥か離れた過疎地に彼は生まれた。村人全員合わせても20に届かない小さな山村だった。

 日が昇る前に起床して畑を耕し種を撒き、家畜に餌をやる。土地自体は狭かったが、働き手が兎に角少なかったので終わる頃にはとっぷりと暮れていた。

 とても豊かとは言えなかったが充実した毎日だった。嫁を貰って子供が出来て、漠然と描いた将来を辿るものと思っていた。

 歯車が狂ったのは何時だろう。凶作が続いた時か、親父が倒れたせいか、将又隣人が移住した事も影響しているかも知れない。

 村全体が高齢化した事もある。碌な資源も無い僻地だ。外部からの住民の増加が見込めない以上、寂れて行くのは当然だった。

 何度か離村も勧められた。都では若手の労働力が求められているし、単価の低い農作物を育てるより遥かに効率的だと。

 確かにそれが最も現実的な選択なんだろう。だが、ボーガンには家族がいた。十に満たない弟や嫁入り前の妹、臥せ気味の母を養わねばならなかった。

 愛着のある故郷を捨てる決心はどうしても出来なかった。けれども、まともに農業を営む事もままならない現状。苦渋の末、彼は出稼ぎを選んだ。

 定住ではないので日雇い労働だった。それでもボーガンは手渡される給料に目の玉が飛び出しそうになった。

 今迄満足していた自分は何だったのか。毎日土塗れになって、腰を痛めて得た収入の数倍にもなる金が簡単に手に入るのだ。

 一足先に上った友達を訪ねると更に魂消る。正規の職人となればもっと跳ね上がるらしい。所々に置かれた調度品は単なる消耗品と段違いの手間が掛かっていた。

 すれ違う人々が彼を見た途端口元を抑えて身体を震わせる。夢中で働いた時には気付かなかったが、己のみすぼらしい麻と違って丹念に織られた絹糸は光り輝いて見える。

 給金袋を握り締めた彼の足は配達屋では無く、ブティックに向かっていた。どうせ直ぐに稼げるのだ、生活水準を整える位は許されるだろう。

 思い返せばそれが奈落へ踏み込む一歩だった。新着に袖を通した己を見た途端、ボーガンの中で何かが崩れ去った。

 貪る様に物を買い漁った。仕送りすべき報酬は呆気無く財布から消えたが、賃金を前借して消費し続けた。

 典型的な都会病に陥っていた。既にボーガンの頭には家族の顔が浮かぶ事は無く、飽くなき欲望を叶える事のみを考えた。

 正職を得てからも彼は一向に変わらず、倍増した収入の大半を物品の購入に充てた。他にも酒、賭博、女ときりなしに吐き出した。

 爛れた生活は何時までも続かない。享楽に感けて努力を怠った彼は同期に置いて行かれ、年下にも追い抜かれた。雇い主に肩を叩かれるのに時間は掛からなかった。

 収入源を失ったボーガンに、これまで笑顔を向けていた金貸しの態度は一変する。返済の催促は激しくなり利息の積み増しを一方的に宣告された。

 再就職しようにも、業界に貢献する芽が無い彼を雇う親方は皆無だった。単発的な短期労働は舞い込んで来たが借金を返せる給料には届かない。

 この時ボーガンは漸く正気に戻ったが余りにも遅すぎた。深く底無し沼に嵌った身体は幾らもがいても浮かび上がる事は無い。

 いつしか重くなった足は場末の盛り場に向いていた。雀の涙の生活費は胃袋の中に消え、数刻後には全て吐き出された。

 もう村には帰れない。かと言って、ブラックリストに載った自分がまともに生きられるとも思えない。汚物に沈んだボーガンが思い至ったのは、更にゲロを被る事だけだ。

 そこから先は語るまでもない。家族に顔向け出来ない悪行を重ねた堕落者が処分対象になる事も。

 

 走り出してからどれ程の時間が経っただろうか。息は荒く、心臓は爆発寸前に鼓動する。酸素が欲しい、休みたい。

 心の中に悪魔が姿を覗かせた。もういいだろう、良く頑張ったじゃないか。

 その絶え間無い誘惑に頭を振り、疲労の限界を超えた両脚を回転させる。止まったら終わりだ、一度身体を甘やかせばもう自分の意志では制御出来なくなる。

 ボーガンは涙と鼻水を垂れ流しながら懸命に走った。もう少しだ、あとちょっと頑張れば街の外に出る。郊外の闇夜は俺の庭だ。

 歯を食い縛って彼の目に強烈な明りが差し込んだのはその時だった。魔物避けに常時点灯する照明が己に手を振っている。

 叩く閉ざされた門の横手には緊急用の階段がある。あれを登り切れば俺の勝ちだ。周囲に警備がいない事を確認したボーガンは一息に近付いた。

 「俺は最低限の生活がしたかっただけだ。自分で賄えないなら盗むしかないじゃないか。他にどうしろってんだ」

 ゴールに辿り着いた安堵か、ボーガンは大きく息を吐き出しながら慎重に段差を登る。

 此処まで、彼に落ち度は無かった。元々は一般人である事を考えれば十二分の力を発揮したと言っても良いだろう。それ故に。

 「―――だったら死ねばいいんじゃないか?」

 一体如何して予想出来ようか。誰に聞かせるでも無い不満混じりの独り言に返答があるなど。

 仮に十全の体力を保てたとして、その奇襲を知覚するのは不可能であったに違いない。

 暗黒の世界に突如として出現した閃光。朝日と勘違いしたか、幾らかの鳥獣のいびきが止まった。

 数瞬後、静寂を取り戻した時にはボーガンの姿はそこに無かった。上手く逃げ果せたのか、それとも捕まったのか。また、割り込んだ声の主は何者か。

 場に残った唯一つの証拠は、街壁にこびり付いた黒炭だけ。翌朝異変があったと気付けた市民は誰一人としていなかった。

 

 

 「陛下に置かれましてはご機嫌麗しく・・・」

 在り来たりな社交辞令を言ったものの、男の表情は全くの変化が無かった。

 およそ感情という物がすっかり欠如したからくり人形の様に無機質な視線を向けるばかりで、微細な呼吸(と言っても普通はまず分かるまい)が無ければ置き物と言われても納得してしまう。

 毎度の事だが、一々謙る意味はあるのだろうか。この場で全裸になってダンスを踊っても眉一つ動かさなそうである。

 適当に体裁を取り繕って頭を上げると、一拍程置いて男の口元は動きを見せた。

 「貴公を第二級勇者に任ずる。此方へ」

 導かれるままに差し出された短剣を受け取る。王家の紋章が刻まれた刀身は紛れも無い英雄の証明となる。この場を以って俺は人類の希望となったのだ。

 「謹んで拝命致します。我が剣は魔を断つ刃となり、この命は国家並びに臣民の安寧の為に」

 刃先で手の甲を切り、薄く流した血を白紙に垂らす。紅い雫が染みると共に隠された文字が浮かび上がった。

 この血判により契約は成された。人間として命が続く限り使命を全うする事が強制され、抗う事は許されなくなる。

 「勇者アルステット。汝、勇者アリアッティの影となり、世界を覆う闇を斬り払え」

 「はっ。この命に代えましても」

 惜しみの無い拍手に包まれながら、第四回任命式は終了した。

 

 それを知ったのは市街に蔓延る害虫を焼却し、仮の宿に戻る最中の事だった。

 傭兵業を兼ねる俺は定期的に城下町で依頼をこなしている。あんまり怠けているとランクの降格・剥奪が現実味を帯びるからな。

 実際、ギルドを除名されようが構わないのだが、俺の様な童顔の餓鬼が舐められない為には外面を整えておいて損は無い。

 いつもの様に適当に受ける任務。あっさりと終わる予定だった単純作業はその日に限ってスイーパー(塵掃除)だった。何でも小麦や薪を掠め取るコソ泥らしい。

 官兵(市内の警邏・治安維持を担う)がマークして目星を付けてはいたが骨の折れる労働だ。張り込みを何時間も続けた後の追い駆けっこは中々疲れる。

 一匹一匹と手足をもぎ取ったが肝心の頭は中々しぶとく、危く逃し掛けた。ずぶの素人相手に幻惑魔術を使う羽目になるなんてな。

 秩序を乱す屑を処理し終えた頃には、完全に日付が変わっていた。云十ゴールドの駄賃では割に合わな過ぎると言う物だ。

 とっとと爆睡しようと早歩き気味になった俺を妨害する馬鹿に斬り掛かっても仕方の無い事だろう。何故か俺の名を呼んでいた様な気がするが聞き間違いだ。

 「戯れが過ぎますぞ、フェリクス侯」

 首を切断する予定の斬撃が防がれた事に眉を顰め、今一度相手を注視して漸く気付いた。

 「何だ、近衛騎士【ロイヤルガード】様じゃないか。陛下の上で腰を振ってる時間じゃないのかな?」

 「―――侮辱する気ですか」

 険難だった雰囲気が膨れ上がり、殺意にまで上昇した。いつ抜剣しても可笑しく無い状況に俺は嗤った。

 「へぇ、冷血女【スノウフェアリー】も怒る事はあるんだな。安心したよ、ゼンマイ仕立てのオートマチックと思ってたぜ」

 近衛の連中は揃いも揃って国王のコピーみたいな能面だ。息を殺す様に人を殺し、拷問をした後に何喰わぬ顔で牛フィレを口に運ぶ様が目に浮かぶ。

 目の前の冷血ちゃんも暗殺者上がりと前科付きの人非人。股座開いた片手に毒牙を突き立てる位朝飯前だろう。

 「貴方の様な下衆が領主である事が残念でなりません。いえ、陛下のみが例外と言った方が良いのでしょうね」

 あの妄言を心地よく感じる狂信者とも添えなければなるまい。貴族への口応えも分からない下賤な雌犬は頭もイカレてやがる。

 騎士級って成り上がりは体面上は貴族だが、お情けで与えられた勲章如きで俺達と同等になったと勘違いする阿呆が大半だから困る。所詮、家畜は家畜だと言うのに。

 ここは甘やかしている飼い主に代わって躾けてやるべきか。もう一煽りで本性を現してくれるだろう。

 「それは失礼。オナホールに配慮する品性は持ってないんでねっと」

 利き手に重たい感触。舌を噛みそうになりながら流した剣は確実に俺を突き殺すつもりであった。

 近衛と交わす言葉はより直接的な暴力へと変わる。物言わぬ殺戮人形に戻った冷血は永遠の安息へと誘う。

 一旦、距離を取った冷血は闇に溶けた。サイレントキル、暗殺者の十八番である殺人技術。人間の気配が完璧に遮断された。

 こうなってしまうと捕捉はほぼ不可能と言って良い。殊深夜に一流の殺し屋と張り合う事自体が間違っている。

 全方位からの見えざる脅威に対して俺が抗じたのは一言の呟き。活劇小説宜しくの心眼なんぞは必要無い。それだけで十分だった。

 背中にチクリと痒みを覚える。直後に響いたのは金属物が地面を跳ねた音。手探りで持ち上げたそれは十数センチ程の刃物と分かる。ダークと呼ばれる投擲剣か。

 ナイフの形状を確かめる間にも羽虫の噛み付きは続いた。背だけでなく、足・腹・股間と的確に狙いを定めてシュラシュシュシュ。

 前横後と全方位からの襲撃を考えて、俺の半径数メートル~十数メートルをぐるぐる回っていると推測する。同一箇所を狙わないのは居場所を悟らせない為か。

 だが無駄な努力だ。如何なる隠形を用いようと傷を付けられなければ意味が無い。アリアハンの近衛騎士風情に、俺のスカラを貫く事など有り得ない。

 特に動く事無く、込み上げる欠伸を噛み殺す。その内に足下には無数の刃が重ねられていった。

 やがて静寂を迎える。諦めて逃げやがったかと肩を竦めた時だった。アキレス腱に異物感が走ったと思ったら俺の身体は一回転、強かに腰を打った。

 流れる様な動作で頭を固定され、喉元にひんやりと冷たい物が添えられる。暗闇に慣れた目が捉えたのは、馬乗りになって焦点の定まらない瞳で見下ろす女だった。

 「アウフヴィーダーゼーエン(さようなら)」

 躊躇なく腕を引かれる。無防備に晒された俺の喉から鮮血が迸――らなかった事に冷血は目を剥いた。

 刃を戻して刀身を撫でるも血脂にぬるついた感触は無く、磨かれた銀の光沢が相変わらずにあった。戦闘が始まって以来、冷血に初めて生じた隙だった。

 「ラナルータ」

 それを見逃す俺じゃない。サングラスを取り出して準備して置いた呪文を発動する。

 当然、夜目が発達した蝙蝠女に防ぐ手立ては無い。両眼を押さえて悶絶する女を払い除ける事は簡単だった。

 一時的に昼夜が逆転し、相手をはっきりと認識出来るようになったのは勝敗が着いたに等しい。唯一のアドバンテージを失った女を蹴り倒し、服に付いた埃を落とした。

 「貴族の殺人未遂。解雇所で済む問題じゃねぇよなぁ?」

 散々挑発しておいて何だが、この世で最も重要なものは権力だ。力を持たない弱者は喰われるだけ。正義の有無など関係無かった。

 「虫ケラの分際でプライドなんぞ持つからこうなる。大人しく犬コロしてりゃ良かったんだよ」

 冷血の懐を弄ると、仰々しく包れた文書が見つかった。国王直筆のサインは最重要機密の証。

 黙ってこいつを差出していれば贅沢な暮しを続けられたと言うのに。平民とはつくづく愚かな生き物である。

 未だに抵抗を試みる手首を踏み砕き、零れた短刀を放り投げる。悔しげに唇を噛み締める女の腹に腰を下ろして内容を朗読した俺は、久しぶりに大爆笑する事になった。

 「俺にあのカスの尻を拭かせるか。堪んねぇなぁ、おい」

 下敷きになっている女の事など如何でも良くなる渾身のギャクだ。チップは誰に渡せばいいんだろうな。

 

 奏でられる送迎曲を背景に、虫唾が走る茶番の幕が下ろされるのを只管に待った。刻まれた瘡痕を掻き毟りたくなる衝動を抑えながら。

 これ以上無く無意味な時間が過ぎ、二度と接する機会も無いだろう塵共と一通りの会話を重ねて行く。出席者の中には熱い目線を送る者もいたが無理矢理作った笑顔で撥ねつけた。

 催しの酣を越え残ったのが王を含めた重臣のみとなった頃、ずっしりとした包みを持った大臣が傍に寄る。

 「餞別を授ける。装備を整えるも良し、仲間を募るも自由である」

 有難く頂戴しますと掴んだなめし革の袋はやけに重い。この無駄な重量は銅貨に違いなく、この程度で揃えられる装備など高が知れるだろう。

 舌打ちしたくなったが王前だ。感謝の念を滲ませた風を装って礼をする。飲み代の足しにでもしようかね。

 仕事明けで早朝登城は厳しかった。これ以上はボロが出しかねないので、「そろそろ出立します」と背を向けて歩き出そうとする。

 「アルス。この任を通じて貴公が心身共に成長する事を切に願う」

 最後に放たれた王の言葉には反応せず、単調に歩を進めて城下に出る。

 聞き咎める者がいなくなった所で振り返り、道端に唾を吐き棄てた俺は忌々し気に王宮を睨んだ。

 「何時までも叶わない夢想を抱いているが良い、偽善者め」

 以降、再び訪れるまでその顔を思い起こす事は決して無かった。

 

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様2
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/01/30 09:22
  貴族な勇者様2





 帰宅した俺は、先程の酒の口直し+夕食を摂る事にした。

 自室に飯を運ばせる為にメイドに声を掛け、適当に見繕って来いと言ったのだが。

 「御曹司―――」

 さっさと部屋に帰ろうと背を向けた俺に控えめな声。振り返ると未だに侍女は留まっていた。

 何をしていると思ったが何かを言いたそうな目をしている。俺は仕方無く足を止め、続きを促した。

 「お嬢様がお呼びです。食堂にお出で下さい、と」

 メイドの言葉を信じるならば、我が妹が食卓に同席しろとの事。

 ほう。何時の間に帰って来ていたのか。長旅で故郷の味が恋しくなったのだろうか。

 別段従う理由も無いが、かと言って拒否するの為の明確な言い訳も無かった。

 まあ、偶には家族の団欒も良いだろうと思うので素直に行く事にする。

 俺は手振りでメイドに了解の意志表示をし、別館の食堂に大人しく足を運んだのだった。

 

 何と言う事だ。

 清潔に保たれていなくてはならない場所に異物が混入しているではないか。

 俺は視線の先の一点を指差し、傍に控えていた使用人の一人に命じる。あそこの塵を掃除しろと。

 だが使用人が即座に動く事は無かった。頻りに俺ともう一方―――妹を気にしている。

 少しイラっとする。何を迷ってやがる、主人の命令が聞けないのか。

 中々要領を得ないので、今度はやや眼力を込めて強めに言ってやる事にした。

 いいからさっさと―――

 「―――必要ありません。私が招待致しました」

 俺の言葉を断ち切ったのは妹だった。

 声量は決して大きく無いが力強い意思が込められており、室内によく響く。

 「御免なさい、レミィ。不快な思いをさせました」

 妹は横で紅茶を飲んでいた人間大の異物に謝罪する。貴族が平民に易々と頭を下げるなよ。

 異物、レミィは軽く頭を振り、気にして無いわと返し、

 「そいつの傲岸不遜っぷりにはとっくに慣れたもの」

 非常に冷めた、路傍の塵を見る様な目線を送りながら続けた。

 断じて平民風情が貴族に対して向けていい態度じゃない。半殺しにしたくなる衝動に駆られるが、鋼の心で何とか抑える。

 それに、非常に屈辱的な事だがこの女は俺の学友なのだった。

 王立アカデミーの同じ教室で勉強した間柄なので、米粒位のよしみはある。

 高貴な俺が一々反応するのも馬鹿らしい。ふんと鼻息と共に怒りを吐き出して溜飲を下げる。

 「一体どうしたんだ? そろそろ音を上げたのかい、勇者殿?」

 妹の正面の席に腰を下ろし、凱旋した妹を労ってやる。出来るだけレミィの方を見ない様にして。

 先日勇者に任命された俺だが、実は勇者は他にも存在する。

 それが我が妹、アリアであった。丁度半年前に指名を受けて旅立った記憶がある。

 本来なら魔力を持たない妹が勇者になれる事は無いのだが、超一流の剣術と品行方正な人格が決め手となったそうな。

 「旅路の経過を報告に来ただけです。明日には出立ちます」

 心配で仕方が無い俺を尻目に、妹は冷静に反応する。可愛げが無い事。

 とうとう俺に泣き付いて来たか思ったが、妹が項垂れる様子は無さそうだった。残念だ。

 律儀に糞陛下に会いに来るマメさには脱帽するよ。結構、暇なのだろうか。

 透かしたアリアの挫折が見れなかった残念がる俺に、レミィは付け加えて言う。

 「当たり前よ。アリアとアタシがいれば不可能はないわ」

 相変わらず生意気な女だ。単なる口先だけでないので殊更に厄介である。

 アカデミーの主席は当然ながら俺だった。が、俺に迫る形でトップ2、3もそこそこの成績を残していた。

 それがアリアであり、レミィであった。

 戦士としての素養は無いが、魔術師としてはトップクラスであり、俺に次ぐ才能を持っている。

 それはエリート養成科に選抜されるだけの実力はあるって事の証明でもある。他の奴らは枕営業を疑っていたが。

 確かに【セイバー】と【ウィッチ】が手を組めば、当面敵はいないだろう。そこらの雑魚な魔物では相手にはなるまい。

 精々頑張ればいいさ。何れ、人間の限界を知るその時まで。俺はその時まで楽をさせて貰おう。

 運ばれて来た料理の香りを堪能しながら、確実に訪れるであろう未来を想像し、俺はほくそ笑んだものだった。

 

 「話は変わりますが」

 夕食もたけなわとなり、デザートに差し掛かった所で妹が口を開く。

 俺はカップに注がれた茶を堪能しながら目を向ける。何だか良い予感がしないな。

 「ルイーダさんの所で一悶着あったようですね」

 咎める様な視線。随分と情報が早い。相変わらず鼻が利く女だ。

 何故責められているのか分からないが、俺にやましい所は全くないので素直に認め、

 「おう。少し、ボランティアをな」

 「ボランティア?」

 この返答は予想外だったのか、妹は責め気を削がれたらしい。

 それに調子を得た俺は用意していた理論を展開していく。

 「あそこに投入される税金は決して少なくない。故に調査しただけよ」

 ルイーダの酒場は正確に言えば、自営では無く公営に属する。

 俺達市民が支払った血税がそこそこに注ぎ込まれて運営しているのだ。

 私営ならともかく、公共機関ともなれば調査をするのは当然である。俺の様な大貴族となれば尚更知っておく必要がある。

 「確信したよ。見事に血税の無駄遣いだった」

 あんな適当な剣で即死する位だ。本当に、税金の無駄だと思うね。だから。

 「軽く仕分けしてやったのよ。公金に群がる塵共をな」

 そういう訳、と締めて妹の顔を改めて見る。

 おや、だんまりだ。俺の完璧な答弁に反論できないのかな。

 俺はティーカップを傾けて乾いた舌を潤しながら待つ事にした。うむ、旨―――

 「巫山戯ないで下さい! すると何ですか。力が無いと言う理由だけで彼らに手を掛けたと言うのですか!!」

 今日は良くテーブルを叩かれる日だ。危く鼻に入る所だったじゃないか。

 未だに興奮冷めやらぬ妹をどうどうと落ち着かせ、俺は優しく諭してやる。

 「いいか、冒険者に求められる物はなんだ? 腕っ節以外に何がある?」

 冒険者の役割は、未発掘の遺跡の調査や魔物討伐がメインとなる。

 町から出る事が出来ない一般人の代行として様々な任務を任されるのだ。その為に、高い報酬を払っている。

 だが、アリアハンの奴らは全然だ。全く、冒険者としての役割を果たせていない。

 考えて見れば分かるだろう。スライムや大烏とどっこいのカス共に何を期待出来ると言うのか。

 「な? 住民権も無い塵共に投資しても無意味だろ? 軍の経費を上乗せした方が余程良い」

 そもそも、この辺に出没する魔物は結界に侵入出来る力も無い。

 つまり奴らに存在意義は皆無と言う事になる。ある程度数を減らした方が効率的ではないか。

 非の打ち所のない理論だろう。―――だが、妹は未だに納得出来ないらしい。怒りに肩を震わせながら俺を睨み、

 「確かに兄様の言う事も理解出来なくはありません。ですが・・・」

 ああ、また始まったよ。アリアの得意技「SEEKYOU」が。勇者なんかやらないでシスターにでもなれってんだ。

 「それでも彼らは私達と同じ人間です! 同じ地より生まれた兄妹ではないですか!! それを―――」

 熱血してる所結構だが、それ以上は言わせなかった。妹の熱弁を手で制す。

 悪いが、そればかりは聞く訳には行かない。それだけは貴族として頷く訳には行かなかった。

 「勘違いするなよ、アリア。一体誰が平民を人間と認めた? 道具に肩入れするのもいい加減にしろ」

 「兄様!!」

 俺の暴言(アリアはそう思っているだろう)に怒気を強めて思わず立ち上がろうとするアリア。

 が、その腕を掴む手が別にあった。

 「もう止めときなよ。それ以上そいつに何を言っても押問答よ」

 もう行きましょうと立ち上がるレミィ。

 アリアに手を貸して、出口へと歩いて行く。そして最後に振り返り、

 「本当に、変わったね。昔のアンタはそこまで酷く無かったよ」

 扉が閉じられる。

 控えめな開閉音が静かに響いていた。

 何故だろう。高々平民の戯言なのに、何故かレミィの言葉は俺の頭を締め付けて離さなかった。

 

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様3
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/01/31 10:30
  貴族な勇者様3





 基本的に俺は正規勇者のサブである。

 縁の下の力持ちとして、最前線のアリアをサポートする事が主な仕事となる。

 とは言っても情報収集等のスパイ活動に勤しむ訳じゃない。その程度なら態々俺を動かす必要は無いのだ。

 俺に課せられた役目は塵掃除だ。妹の食い零しを根こそぎバキュームして行かねばならない。

 そんな物は傭兵にでも頼めよ思わなくもないが、予算を考えれば仕方あるまい。

 アリアハン周辺の発掘され尽くした迷宮ならそれでもいいが、魔王軍の本拠地に近付くに連れて当然、敵の力も増して行く。

 そうなると下級・中級の傭兵共では手に負えないし、上の奴らの報酬は馬鹿にならない。

 仮に全てを外注するとなれば国庫が傾きかねない事になる。

 まさか魔族の駆逐なんて夢物語の為に国を潰す訳にも行かないだろう。そこで、俺に白羽の矢が立ったって訳だ。

 この上無く面倒臭い事になったもんだ。これもあの糞親父の独善が招いた事だと思うと、腸が煮え繰り返る。

 こんな事ならさっさと殺しておくべきだった。直接手を掛けなくても、毒殺とかやり様はあるし。

 嗚呼。早く死んでくれないかなぁ、アリア。

 オルテガを凌ぐとも言われる剣姫がくたばればあの糞王も諦めが付くと思うんだがね。

 偽善の極致である陛下は俺を正勇者にはしたくないらしいからな。大貴族の癖に、糞陛下はやたらと貴族を嫌う。

 万人に開かれた国にするだと? 神にでもなったつもりか。

 俺の愚痴は止まる気配がまるでなかった。暫く毒を吐き出してからでないと出掛けられなそうだ。

 

 

 「あー、だるい」

 ナジミの塔に隠居する爺をぶっ殺して鍵を奪う事数時間。

 旅の疲れを癒す為にレーベで宿を取る事にする。出来ればこんなド田舎には1秒たりとも居座りたくないが。

 腰の剣を外してベットに放り投げ、もう一方にダイブする。

 取り敢えず、これで探索に必要なツールは確保出来た。

 何故だか知らないがこの世には奇妙な扉が存在し、それを開けるには特殊なカギが必要になる。

 アバカムなる解錠呪文があるにはあるが、強固な封印が施された扉には通用しないのだ。

 腰のバックパックからジャラ、と戦利品を取り出す。俺の掌には銀色の鍵が納まっていた。

 「魔法の鍵、か。骨折り損にはならなかったな」

 あの爺、中々面白い物を隠していやがった。魔法の鍵と言えば、トレジャーハンターなら喉から手が出る程に欲しがる逸品だ。

 馬鹿な男だった。大人しく渡していれば老い先短い生涯を全う出来たと言うのに。

 (オルテガ殿の魂は息子には受け継がれなんだ・・・)

 最後の言葉を思い出す。血塗れの皺枯れた顔を歪ませ、憐れむ様に俺を見ながらそう言ってのけた。

 結局、最後の最後まで俺の神経を逆撫でしてくれた爺さんは頭を踏み砕かれて死んでいった。

 盗賊崩れの塵野郎が俺に説教など、おこがましいにも程がある。殺されて当然だ。

 「誰が継ぐか。英雄気取りの平民如きの安い理想など」

 どいつもこいつもオルテガ、オルテガだ。

 下賤な流れ者に何故あそこまで人望が集まるのか。貴族には、下々の嗜好は理解出来んな。

 俺は不愉快な思いを抱えながらも目を閉じて、仮眠を取ろうとし―――

 「お客さん!!」

 「―――メラ」

 問答無用で火球を打ち込んでやった。そんなに死に急がなくてもいいだろうに。

 一体、この宿の接客はどうなっているんだ。ノックも無しに客室に入るなど、首を飛ばしてくれと言いたいのか。

 腰が砕けてあわあわと震えている礼儀の無い平民を見下ろし、

 「次は殺すぞ?」

 ほんの少し力を込めて睨みつけてやる。それだけでそいつの顔は蒼白から土気色に変わって行く。

 部屋を変えて、いやもう出て行くか?

 平民の股の間には黄ばんだ染みが広がっていた。臭くて仕方が無かった。

 

 「娘が、娘が攫われたんです!」

 頬を2・3発張って正気に戻した平民が言うには、そういう事らしい。

 何でも隣の村に出掛けていた娘の行方が知れなくなってしまったとの事。

 慌てて捜索をした所、現場付近で妖しい風体の男が父親(こいつな)に近付いて来て。

 「身代金5千G・・・ねぇ」

 小汚い字で綴られた脅迫状とおぼしき紙ぺらを仰ぎ見る。

 何ともベタなやり口な誘拐であった。金寄こせゴルァと言う主張がそこらに見受けられる。

 脅迫状から目を離し、チラリと男の顔を見る。瞳を潤ませて俺を見つめる中年の姿はかなりキモい。

 「お客様は冒険者とお見受けします。お礼は惜しみません! 何とぞ、何とぞ娘を!!」

 やっぱりそうだよなぁ。面倒臭くなって来た。

 少し考えてみよう。ここで俺が取るべき選択肢は何か。

 一番楽なのは、一切無視して村から出て行く事だ。むざむざトラブルに巻き込まれる理由は無い。

 本来なら真っ先にそうするのだが、今回に至っては少し事情が違う。

 それは、俺が貴族でありこいつらが平民であるという事。厄介な事に、レーベは俺の領地だった。

 この親父の態度から考えるに、未だ俺が貴族である事には気付かれてはいないだろう。

 だが、此処の村長とはそれなりに顔見知りなのだ。仮に俺が拒否すれば、この平民の口から洩れてしまうかも知れない。

 (あの貴族は、領民を平気で見捨てる薄情者だ)

 そんな噂が広まれば徴税・政策等の領地経営に響く事は間違いない。

 最悪、反乱が起こる可能性もある。無下にする訳には行かなかった。

 ではどうする。助ける事が確定した訳だが、身代金5千か・・・。

 残念な事に、今俺はそんな金を持ち合わせていない。家に帰れば当然用意出来るが、時間が掛かる。

 こういう時に貴族は面倒だ。大金を動かす時に署名しなければならない書類がやたらに多過ぎる。

 相手は誘拐なんて低俗な手段に訴える様な連中。おたおたしてたら娘は殺される。

 別段、俺としてはどうでも良い事だがこの親父は切れるだろう。何故、助けてくれなかったのだと。

 今の俺は貴族でなく一冒険者となっているのだ。金を取ってきますとか言ったらビビりの烙印を押されかねない。

 それに、俺に取ってこれはチャンスでもある。

 もしも上手く救出する事が出来れば、英雄として村民の支持を得る事が出来る。大胆な施策も実行出来るだろう。

 これしか無いか。金は用意できない時間も無いとくれば、やる事は一つ。

 「面を上げな。大の大人がみっともない」

 俺は俯いた平民の肩を叩き、此方を向かせる。

 涙でクシャクシャになった親父を爆笑したくなる衝動を何とか堪え、仮面を被る。

 「助けてやるよ。但し、報酬は弾んで貰う」

 ニヤリと口端をつり上げて笑う。ぶっきら棒だが根は優しい冒険者を演じて。

 俺は娘が犯されていませんようにと願いつつ、死んで無ければいいやと考えていた。

 心が破壊されていても肉体が無事なら治し様はある。ベホマで一発だ。

 流石に金を渡すまで殺しはしまい。俺の計画は実にシンプルだった。

 娘を連れて来た所で爆発呪文をブチ込んでやる。犯人は一網打尽、その後で死に掛けた娘を回復する。

 完璧だ。腕の一本位無くても大丈夫だろうし。

 俺は領民に、どんな難題を押し付けようか愉しみで仕方が無かった。

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様4
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/02/01 04:22
  貴族な勇者様4





 「どういうこった?」

 勇んで取引場所に向かった俺を待ち受けていたのは屍の山だった。

 誘拐犯と思しきゴロツキ共が無残に殺されている。一目では生存者は見当たらない。

 既に別の奴が助けたのだろうか。俺は手前にあった死体を観察する。

 (違うな・・・)

 殺害要因である傷痕から、明らかに人外の力が加わっている事が分かる。

 斬られた箇所、寧ろ削られていると言う方が正しいか。丁度脇腹の辺りがごっそりと無くなっていた。

 普通の人間にはまず出来ない芸当である。例外として化物染みた人間もいるにはいるが、少なくとも奴らはこんな所にはいない。

 恐らく、いや確実に魔物だ。しかも、かなり上位の種族の可能性が高い。

 ざっと見ただけだが、死体の主は相当に鍛えられた身体をしている。そんな強者を周辺の雑魚共が圧倒出来る訳が無い。

 臭い。真剣で臭っせぇ香りがぷんぷんしやがる。

 これは領民云々言ってられる次元じゃない気がする。下手すりゃ命に関わりかねん。

 矢張り帰ろう。あっさりと方針転換した俺は元来た道を戻ろうとする。

 ぐにゃり。何かを踏み付けた感触が伝わる。

 視線を下げて見るとそこにも野郎が転がっていた。ああ糞、ブランド物の靴が汚物で汚れる。

 俺は靴の価値を下げてくれた塵を蹴り飛ばし、今度こそ岐路に着こうとするが・・・。

 「―――う、ぅぅ・・・」

 か細い、爺婆には聞こえない程度の弱々しい声が鼓膜に流れ込んで来た。

 どうやら未だ生きていやがったらしい。下手に衝撃を与えたせいで起きてしまった。

 仕様が無い。情報収集と報告の為に色々聞いて置くか。

 いやいや転がした男に近付き、つま先で軽く小突く。

 「起きろ」

 ガスガスと打擲を続けると男の身体が徐々に揺れ始め、やがてゆっくりと目蓋が開かれた。

 「こ、こ・・は?」

 「レーベ東の平原だ。それより何があった」

 暫く現状認識に勤めていた男だったが、やがて意識がはっきりしてきた様だ。

 俺の言葉を咀嚼し、自分達の身に訪れた災厄を徐々に思いだし・・・

 「そうだお嬢! お嬢は無事なのか!?」

 途端に跳ね起きる。決して軽傷と言えない身体で中々のタフネスがあった。

 それにしてもお嬢だと? ゴロツキの一味に女も混じっていたのか。

 だがそんな事はどうでも良い。俺が真っ先に知りたいのは攫われた娘の行方だ。死んでるのか、生きているのか。

 「知るか。それより、てめぇらが拉致った女は如何した? 死んだか?」

 屈強なゴロツキ共が嬲り殺しにされる位だ。まず生存は期待できないだろうな。

 辺りを見回しても女の死体は無い。喰われちまったのかも知れん。

 「あ? 娘・・・。いや、違う! それは違うんだ!!」

 猛烈に首を振り、否定を続ける男。何がだよ。

 すっかりテンパってやがる。今いち訳が分からんので俺は男の胸倉を掴もうと腕を伸ばす。

 「何を言って―――」

 突如背筋に走る寒気。

 俺は身体を駆け抜けた直感と言う名の電流に逆らわなかった。

 あたふたするゴロツキ男に前蹴りを入れてふっ飛ばし、そのまま空中で回転する。

 直後、今まで俺達が立っていた直線上を赤色の閃光が駆け抜けて行く。

 あと少しでも反応が遅れていれば、俺はともかく男は蒸発していただろう。まだ、死んで貰う訳には行かない。

 一捻りして着地。後ろに向き直った俺が目にしたのは。

 (勘弁してくれよ。本当に)

 嫌~な予感ってのはどうしてこう的中するのか。どうせなら、ギャンブルの時に発揮して欲しい。

 1、2、3・・・合計4つか。俺からすれば大した労力じゃないが、この辺の冒険者に取っては絶望出来る光景。

 「おお? よーく避けたなぁぁあ?」

 中央の、有り得ない程に全身の筋肉が膨張した男が喋る。

 エリミネーターだと? 俺を怒らせるのも大概にしろ。

 どう考えてもアリアハンに出て来ていいレベルじゃないだろうが。A級クラスだぞ。

 周りの取り巻きも異色だ。ガルーダに、キラーエイプ、魔女。さっきの熱線はこの婆か。

 「有難てぇ~~。まぁた玩具が寄ってきやがったぁあ♪」

 それは嬉しそうに斧を取り出し、舌舐めずりをするマッチョ野郎。

 こびり付いた赤い染みが全てを物語っていた。こいつだ。

 「あ・・あいつだ。あの野郎が、皆を!!」

 後ろのゴロツキ男が同意する。震えながら指差す方向は俺と俺と同じ奴を捉えていた。

 どういう事だ。何故、こんな奴らがこの地に出て来れる?

 有り得ない事だ、と思考する。別に魔物の生息地が厳格に区分けされているのでは無く、純粋に異常だった。

 此処、アリアハン大陸に張り巡らされた結界は世界最高の精度だ。

 過去を遡る事数百年前。

 当時、魔物の進攻に頭を悩ませていた王が大賢者に創らせた聖障壁は、D級以上の魔物を締め出す事に成功した。

 それ以来強力な魔物が侵入できた事は一度も無い。俺をして、解析し切れない緻密な術式なんだからな。

 (結界が破られた? いや、基点には魔の者は近付けない筈だ)

 では何故。どうしてエリミネータークラスが存在できる?

 ますます以って分からない。俺は更に思考の海に埋没しようとし―――

 「なぁーに俯いてんだぁ? ビビって固まっちまったかぁぁあ」

 耳障りな声が響く。顔を上げれば、気持ち悪くなる筋肉野郎が腕を振りかぶっていた。

 取り敢えずは此処までか。後は、殺した後にじっくり考えよう。

 敵は大体B級前後。俺は即座に相応の術式を展開し、呪文を唱えて行く。

 「逝って来ぉぉおい!!」

 野太い腕が振り下ろされる。同時に左右の魔物が一息に俺達に飛び掛かってくる。

 俺は左手で剣を引き抜き、一瞬だけ後ろを振り返る。

 「死にたくなけりゃ走れ。全力でな」

 「あ、あんたは。おい、まさかこいつらと・・!?」

 お人好しなのか単なる弱気か。殺され掛かったんだから恐らく後者だろうが。

 俺はそれ程に筋肉質って訳でも長身でも無い。初見で俺を戦う者と判断するのは難しい。

 が、今長々と説明するのは自殺願望豊富な奴だけだ。忠告を果たした俺は前に向き直る。

 既に俺の意識からゴロツキは完全に葬られていた。一直線に近付く化け物共のみに注目する。

 50、40、30メートル。常軌を逸するスピードで距離を詰めて来る魔物。流石はB級。

 そしてその時が来る。残り十数メートルの所まで敵が踏み込むと同時に・・・

 「―――イオラ」

 編んでいた術を発動する。

 思わず目を覆いたくなる様な白色の光りが、全てを飲み込んで行く。

 見事に直撃だ。どれ程身体能力に優れ様が所詮は畜生。

 当然の結果に俺は満足する事は無い。爆発も納まらぬ中、猛烈スピードで敵陣に突っ込む。

 「死ね、死ね、死ね!」

 消滅し掛けていた魔物を細切れにしながら進む。

 遠くで馬鹿、という声が聞こえた気がした。まだいたのかあの男。

 心配するのは勝手だが、全く無意味だと言って置く。己が展開した術の影響を受けるなど2流以下の魔術師位だ。

 遠方で砲台に徹する魔術師とは違い、俺の様な魔法剣士には組み込んでおく戦術の一つだ。一見、暴挙と思える行動に呆気に取られている隙に―――

 「こんにちわ。―――そしてさようなら」

 ミスリル製の名剣を思い切り振り抜く。

 刀身をメラミでコーティングされた炎閃は、筋肉の鎧をあっさりと突き破った。



[25676] 貴族な勇者様5
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/02/02 06:31
  貴族な勇者様5





 フェリクス家史上ではお祖父様に次ぐ才能の持ち主である俺だが、死を覚悟した事が2回程ある。

 1回目はお祖父様に本気でお叱りを受けた時。これはマジ泣きする位に恐ろしかった。

 普段は聖人の様に優しかっただけに、あの時は心臓が止まりそうな恐怖を覚えたものだ。俺が敵わないと思う人間の一人である。

 そして2回目は・・・。余り言いたくないが己の限界を知った時だ。

 如何に人間が矮小な存在であるかを知りたければ、魔族と戦ってみると良い。軽く心が砕かれるぞ。

 初めてランクがB級になった時だ。腕利きのS級と連れ立って討伐に行った相手が運悪く魔族だった。

 あの時の絶望感は記憶に刷り込まれて一生離れそうにない。

 瞬殺だった。一太刀も入れる事も叶わず、一歩も動けずに首を刎ねられた。

 当時最強の名を欲しいままにしていた傭兵が、だ。

 未だに俺が何故生きていられたのか分からない。余りの無様な姿に殺意がそがれたのだろうか。

 魔族はやたらとプライドが高いと聞く。糞尿垂らして泣き喚く糞餓鬼なんぞに殺す価値を見出さなかったのかもな。

 何度思いだしても首を吊りたくなるが、それでも俺はラッキーだと思っている。

 危くもう少しで、最も忌むべき糞親父殿と同じ未来を辿る所だったからだ。あの屑平民と同じ末路など、成仏出来た物じゃない。

 以来、俺は極力危険な任務は避けて来た。

 S級確実と期待されながら、昇格に必要なA+レベルには一切手を付けずにB級以下のそれに甘んじた。

 お陰で妹にも追い着かれる始末だった。俺が正勇者になれない根底はそこにある可能性もある。

 アリアと同格である事は屈辱でしか無かったが死ぬよりマシだ。蛮勇に身を喰われた馬鹿共の様になるつもりは無い。

 「そう、思ってたんだがな」

 何時の間に歯車が狂ってしまったのだろう。

 無性に酸素を寄こせと喧しい心臓を黙らせ、大きく息を吐く。

 脚を大きく開き、身体を地面擦れ擦れまで傾けた獣の様な前傾姿勢。何時でも反応出来る様にステップを踏む事も忘れない。

 コンチクショウめ。高が村女を助ける程度の話じゃ無かったのか。それなのに―――

 「そろそろ終わりにしましょうか」

 ふさぁ、と髪を掻き上げながら煩わしそうに俺を見る。

 実際、蠅位にしか思っていないんだろう。魔族からすれば人間なぞ羽虫程度の認識だろうさ。

 だが気に喰わない。非常に気に喰わない事だ。

 「五月蠅ぇよ・・・。あの女と、妹と同じ面で見下ろしてんじゃねぇよ!!!」

 全身を有りっ丈の魔力で覆い、俺は超スピードで女魔族に特攻した。

 

 

 ― 一時間前 ―

 

 エリミネーターから聞き出した情報に依れば、敵は誘いの洞窟に巣を張っているらしい。

 矢張り敵は結界に気付いていた様だ。誘いの洞窟は聖障壁を支える基点の一つが設置されている。

 どうやってかは想像が付かないが、何らかの手段で封印を破ったのだ。それこそ、魔の者に寝返る様な馬鹿人間がいない限りは。

 だがそれは無い。拷問をし終えた俺は即座に王宮に戻り問い合わせた所、鍵はしっかりと管理されていたそうだ。

 封印の間への最後の関門には王家の鍵が必要となる。当時のアリアハン王は念には念を入れて何重にもセキュリティを施している。

 全くと言って宜しい予感がしなかった。明らかにイレギュラーな事態が発生している。

 俺は陛下に言った。これ以上はキツくね? と。

 確かにレーベは家の所領地だ。自分の土地の問題は自らで解決する必要がある。

 しかし貴族にも限界はある。己の手で捌き切れない時は頼ってもいいのだ。その為の、国であり王じゃないか。

 今迄培ってきた話術を総動員して説明した。

 A級の魔物が出現した事、想像以上に苦戦した事(嘘)、魔力が底を尽き掛けている事(たんまりあるけど)・・・。

 アリアを呼び寄せるべきだ。妹に押し付ける事が最善だと何度も主張したのだが。

 「―――貴公が、行くのだ」

 余程糞陛下は俺の人生を終わらせたいらしかった。既に0に迫っている俺の忠誠は更に下がる。

 流石に王命を出されては逆らう事は出来ない。俺は全力で嫌だったが大人しく首肯する。


 「仰せのままに・・・」

 その場に跪いた俺の両眼は床を貫かんばかりに睨み付けていた。

 

 「うわ、マジに生きてやがった」

 ゴロツキの言う通り、村娘は殺されていなかったらしい。

 魔の瘴気に当てられてぐったりと項垂れているものの、命に別条は無さそうだ。

 俺はこれでレーベに無茶振りが出来ると安心し、横のゴロツキにぼそりと呟く。

 「良かったな。惚れた女が無事で」

 「ばっ、何言ってんだ!!」

 すぐ傍でお嬢お嬢と喧しかったので言ってみたが、やはりホの字みたいである。

 遠目ではっきりとは分からないが、娘はそれなりに整った容姿をしていた。

 程良く肉が付いたメリハリのある身体にバランスの良い目鼻立ちだ。男どもが放って置かないだろう。

 これ位なら貴族の目に留まる事も―――

 (それはないか)

 想像し掛けた可能性を却下する。真性のロリぺド揃いの豚共の食指はそそるまい。

 俺は下らない妄想を中断し、現実世界に戻って来たオッサンと目を合わせる。

 「そろそろ踏み込むぞ。1・2・3だ」

 真顔に戻った俺にオッサンも気合いを入れる。頬を一発パンと張り、

 「お、おう。分かった」

 「じゃぁ、行くぞ。1・2―――」

 三を数えた所でダッシュ。進路を塞いでいた魔物共を葬りながら確保に向かう。

 彷徨う鎧、幻術師など群がる雑魚を敵を斬り捨てながら娘へと近付いて行く。

 「メラミ!」

 最後の敵を骨まで燃やす。

 轟々と火柱を上げて空気に溶ける化け物を尻目に俺は男に振り向き、

 「おら、とっとと女を助け・・・」

 返事は無かった。いや、する事が出来なかった。

 何も無いのだ。本来ならあるべき場所にそれが無い。

 ゆっくりと倒れて行く。頭一つ分軽くなった男の身体が。

 「困りますね。勝手に贄を持ち出されては」

 開いた口が塞がらない。そのまま顎まで持って行かれそうだ。

 驚愕は二つあった。この俺が、全く知覚出来なかったという事が一つ。そして・・・

 女だった。首を刎ね飛ばされたおっさんの後ろに、一人立っている。

 一体いつからそこにいたのか。まるで何百年も前から存在したかの様に、余りに自然とそこに在った。

 馬鹿な。何で、お前が此処にいやがる。

 俺は辛うじて唇を動かし、どうにかして目的の名を呟く。

 「あ・・り、あ・・・?」

 似ているとかそんな次元じゃ無い。まるであいつの顔を剥ぎ取ってそのままくっ付けたかの様に。

 どんな名画家でも、モシャスの達人でもコピーし切れない程に。

 唯一つ違う事は尋常じゃない魔気を放っている事だけ。兄である俺ですら、その点でしか区別出来そうにない。

 「アリアでは無く、アレアです」

 女神の様に穏やかな微笑と共に女は言った。無造作に剣を引き抜き、俺の喉に突き付けて。

 「貴方の魂を陛下に届ける者ですわ。―――お兄様」

 俺を兄と呼んだ女は。無駄な殺生が一切出来ない妹と同じ面の女は何でもなしに言ったのだ。

 お前を殺す、と。

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様6
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/02/03 11:50
  貴族な勇者様6





 俺の頭はかつて無い激情に沸騰しそうだった。

 此処まで頭に来るのは何時以来だったか。中々体験する事が出来ない憤りだ。

 顔面は偉い事になっているだろう。全身の血液が急速に集中している感覚がある。

 ビキビキと血管が浮き出て、少し突いただけで忽ちに破裂するに違いない。既に何本かはブチ切れているんじゃないか。

 基本的に、自分の沸点はそれ程低くは無いとは思う。だが、聖者の様に深い労わり心がある俺にも我慢できない事がある。

 貴族に取って平民に愚弄される事程屈辱的な事は無い。それが、自分より格下であれば当然の事だ。俺より上の人間など数える程だが。

 噛み砕かんばかりの勢いで歯軋りしながら、目の前の女を睨み付ける。視線だけで殺せるなら100は下るまい。

 一切の武器を持たず、無防備にも両手を広げる女。抱き締めてとでも言わんばかりだ。

 とても今が戦闘中だと思えない程に気を抜いたこの女は。不愉快極まりない妹と全く同じ顔でこう言った。

 「片手でお相手致しましょう」

 どうだ? 女に、それも普段散々と扱き下ろしている奴に舐め腐られたんだ。

 アレアとか名乗った女魔族。普段の俺なら仕方ないと割り切れただろうが、余りに偽善勇者と類似した容姿が俺の思考を鈍らせる。

 切れるなと言う方が無理があるだろう。俺に残された数%程の理性が必死に抑えようとするが全く効果が無かった。

 罠? 挑発? 知った事か。今の俺の頭に占める感情は唯一つだ。

 ぶっ殺してやる。俺の足下に跪かせ、命乞いをさせてやる。

 引き攣りつつある表情筋を何とか動かし、俺は如何にか笑みを形作りながら剣を握る握力を強めた。

 「上、等・・・! 精々、言い訳を考えてやがれぇぇぇえええええええええ!!」

 ピオリム、バイキルトを何重にも重ね掛けする。俗に言うアクセラレータだ。

 効果が切れた時の疲労感は半端じゃ無い。大乱交に明け暮れた翌日以上に何をするのも億劫になる。

 だが、構わない。この女の表情を歪められるなら、その首を刎ね飛ばせるなら。

 絶叫しながら突撃。剣を腰だめに構え、四足獣の様に地面を踏み駆ける。

 数百メートルはあった間を一瞬で詰めた俺は、思い切り良く剣を突き立てる。

 アレアの顔面を串刺しにする予定だった刃。だが、俺の期待した未来をアレアは簡単に打ち砕く。

 剣の腹に軽く手を添えて勢いを削ぎ、全体重を掛けていた俺の身体のバランスを崩す。

 元の体勢が余り良く無かった為に、ガクンと前のめりになる俺の身体。アレアはその隙を見逃す事は無かった。

 地面にダイブ仕掛ける俺の顎にスラリと伸びるしなやかな右足。このままだと俺の言語機能に障害を残す事になる。

 天より与えられた滑舌を壊されては堪らない。俺は剣を突き立てて身体を支え、それを軸に逆立ちをする。

 ひゅぉ、と漆黒の疾風が駆け抜けた時には既に俺の両足は天に伸び、地面を抉った蹴撃の餌食になる事を避ける。

 アレアが脚を引き戻す頃には俺の身体は天に浮かんでいた。剣先に魔力を注ぎ込む事で一時的にブーストしていたのだ。

 「行け!」

 呪文はとうに詠唱済みだ。掌に拳大の火の玉が幾つも浮かんでいる。

 選択した呪文はメラ。呪文の威力としては最低クラスだが、術の展開速度は最も早い。

 赤い礫が音速となって飛んで行く。この距離ならまず避けられない球が頭、両手足にバラけて迫る。

 倒せるなんて思っちゃいない。僅かな隙ができれば良いと思っていた。だがアレアの反応は俺の淡い期待を再び叩き潰す事になる。

 「シッ―――」

 ボクシングスタイル。拳闘と呼ばれる格闘技独特の構えをとったアレアは、上段三つのメラを弾き飛ばした。しかも律儀に片手だけで。

 ならば足下だけでも慌ててくれればと思ったが、これも見事に外れる事になる。

 何故ならアレアの両足は地べたから離れていたからだ。ジャブを放つと同時に俺目掛けて飛び上がっていた。

 常軌を逸した跳躍力で俺の目の前に迫ったアリア。間を置かずに渾身のストレートを放つ。

 とんでも無いスピードだ。およそ人間では反応が追い着かない拳速に、俺の顔面が潰されるのは確実と思える。

 俺は特に反応しようと思わなかった。言い訳では無く、純粋に防御する必要が無かったから。

 ドカンッ。まるで大砲が直撃したかの様な轟音が響き渡る。

 「つっ―――」

 だが、ダメージを受けたのは俺では無い。痛みに顔を顰めているのはアレアだ。

 笑い転げたくなる衝動に駆られたが、それはこいつを踏み躙る時まで取って置く。零れ落ちた機会を無にしてはならない。

 思わず拳を引っ込めたアレアの懐に潜り込み、たっぷりと魔力を染み込ませた愛剣を振り下ろす。

 「―――バギマ剣」

 風を味方に付けた俺の剣は空気抵抗をほぼ除外する事に成功し、脅威的な速度を生み出す事が出来た。

 流石の魔族も今度ばかりは完全回避とは行かなかったらしい。ザシュッ、という音が物語る様に、血飛沫が服の切れ端と共に舞って行く。

 何とか身体を捻る事で上半身と下半身が分離する事は避けた様だが、皮一枚と言う訳じゃ無さそうだ。傷口を押さえ、思わずアレアは後退する。

 「中々、面白い芸をお持ちですね」

 相変わらずの微笑を浮かべながらアレアが言う。だが、先程までの「超余裕ッスww」的な様子は無い。

 此処で俺は確信する。この女、どうやら魔術に精通したタイプの魔族では無い事を。

 魔術師型の魔族だったらあっさりと見破っただろう。その上で、直接物理攻撃を仕掛ける事は無かった筈。

 どうやら俺は、魔族に相対した恐怖と妹と同じ面と言う事で相当に縮こまっていたらしい。相性次第では、魔族とも渡り合う事が出来そうだ。

 思わぬ収穫を得た俺は少しだけ機嫌が良くなる。頭の沸騰度合いが70度位には下がって来てくれた様だ。

 冷静さを取り戻した事で、俺は自分のアドバンテージを自覚する事が出来た。

 ガチの戦闘力では俺はアレアには及ばない。が、こと魔術の面ではその構図は逆転すると言う事だ。

 恐らくだがこいつは魔術の素養が無い。手を抜かれているという事が無くも無いが、あれに気付けない事から間違いあるまい。

 それならば事は容易い。要は、強化版アリアと思えば良いのだ。

 規格外の身体能力を有するが搦め手には滅法弱い。それ故にあいつは俺には勝てない。そして、多分この女も。

 俺の構築した術が理解できていない今が絶好のチャンスである。これを利用しない手は有り得ない。

 今度切れるのはてめぇの番だ。俺はニヤニヤとそれは憎たらしい笑みを浮かべ、

 「ぶぁぁあああか! 誰が言うかってーの!!」

 無防備に飛び込む。素人の様な身体運びで隙を丸出しにして。

 当然、強烈なカウンターが帰って来る。今度は拳では無く、蹴りにシフト。弾丸の様な連蹴りが立て続けに襲い掛かる。

 当たったら内臓破裂所じゃ済まないだろう。ヒットする度に肉片が飛び散りそうだ。

 ―――あくまで、当たればだが。

 アレアの攻撃は再び阻まれる事になる。俺の身体を薄く覆う、見えざる壁によって。

 「ちっ、何が何やら・・・」

 舌打ちしながらも攻撃を止めないアレア。だが、無駄だ。

 そんな小技をどれだけ積んでも意味は無い。こいつは衝撃緩和では無く、無効化なのだから。

 マホカンタと言う呪文がある。魔術に携わる人間なら誰もが知っている対呪文障壁だ。

 こいつは効果持続時間中、一切の呪文を跳ね返すと言う効力がある。魔術師を相手にするなら極めて効果的な呪文である。

 凡人なら、ああそうか便利だなで終わらせる所だろう。が、俺はその先を考えた。

 (何故、対物理障壁は無いのか?)

 考えて見れば当然の疑問だろう。魔術を返せる呪文が創れるなら、その逆も出来るのではないか。

 それを実現したのがこれだ。俺を無敵せしめている魔力の壁、差し詰めアタカンタとでも命名するべきか。

 一定時間中、あらゆる物理攻撃を無効化する。

 勿論限度はあるだろうが、俺を舐め切って素手で挑んで来る馬鹿女では絶対に破れない。

 どれだけ迅かろうが、重たい衝撃力を備えていようが当たらなければどうと言う事は無い。

 俺は繰り返される蹴りの軌道を分析し、次のインパクト瞬間を計算する。そして―――

 「此処かなぁ?」

 見事に腹にヒット。正確には腹の上の壁だが。

 完全に読んでいた俺はアレアが脚を戻す前にガッチリと掴み取り、逆手に持った剣で斬り返した。

 「あっ・・・」

 今度は逃がさなかった。片足を抑えられていたアレアは身体をのけ反らせる事しか出来ず。

 目の前が鮮血で真っ赤に染まる。柄を握る手に残る感触は、間違い無く魔族の肉を斬り裂いていた。

 勝った。俺は勝利に向かって確かな手応えを得ていた。

 遠く無い勝利に向かい、着実に手を進めている実感が俺にはあった。

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様7
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/02/04 08:35
  貴族な勇者様7





 正直、驕っていた面があったかも知れない。

 合理的な行動を心掛けていたつもりだったけれども、何処かに油断があった。人間が魔族に勝てる訳が無いと。

 実際そうだった。私が今迄に葬って来た者達は何れも取るに足らない存在だった。

 軽くなぞっただけで手足は千切れ、大分間を置いて動いたにも関わらず私を捉える事が出来ない。

 初めは特に意識する事は無く、淡々と任務をこなしていた。

 人間は脆弱な生き物であると学んでいたし、出世の踏み台に過ぎないと思っていた。

 だけど、私は戦士だった。赤子の頃から鍛え上げた技術を目的達成の道具として腐らせたく無かった。

 何時の間にか私は戦闘に快楽を見出す様になっていたのだ。数多の同胞たちと凌ぎ合っている内に、これ無しでは生きていけなくなっていた。

 気付いた時には、私はハンデを背負いながら戦いに臨む様になっていた。

 時には目を瞑り時には片腕片足で。少しだけ制約を課しただけで、驚くほど愉しむ事が出来る様になった。

 今回もそうだ。何時もの様に片腕落ち、武器無しで戦闘力を落とし込んだ。

 対象は勇者だった。陛下が仰るには稀代の才を持った天才らしい。

 油断するなと言付けられた物の、私は特に意識する事無く戦場に赴いた。

 英雄と呼ばれた人間に幾度も失望させられていた私は、この男も所詮は人間と高を括っていた。

 その結果がこれだ。私は仰向けで洞窟の冷たい地面に横たわっていた。

 胸から太股に掛けて広がった裂傷によって、絶え間無く血液が流れ出している。

 如何に魔族とは言え不死身では無い。己の限界を超えれば当然に死の抱擁が待っている。

 (ありがとう御座います)

 それでも私は感謝していた。この様な機会を与えてくれた陛下に、そして―――

 冷酷な目で私を見下ろす人間、勇者アルスにニコリと微笑む。

 漸くです。一時間と持たない満身創痍の身となって漸く、私の願いは果たされる。

 「装具〈カヴァー〉」

 一言、呟く。魔術の才の無い私に使える唯一の文言を。

 暗雲が私の全身を包み込み、数瞬後には漆黒の鎧を纏っていた。

 これで私と貴方は対等。今迄の無礼はこの身を以って詫びさせて頂きます。

 召喚した愛刀、地獄のサーベルを杖にゆっくりと立ち上がる。さあ、存分に殺し合いましょう。

 

 

 

 (マジでヤバイ)

 幽鬼の如き足取りで迫るアレアに、俺はそこはかとない危機感を募らせていた。

 あいつの装備。あれは非常に不味い代物、魔神の鎧だ。

 武具の中に呪われた装備ってのがある。元使用者の怨念が籠った迷惑極まりない欠陥品だ。

 通常、こういった武具を使いこなす事など不可能だ。誤まって触っちまったら即座に境界に掛け込むしかない。

 高が人間如きが数十・数百年も増幅して来た負の念に抗える訳が無い。どれだけの性能を誇る装備だろうが、触らぬ神には何とやらだろう。

 でも魔の者は違う。元々が同じベクトルである異形達には呪いなど効果がある訳が無く、寧ろ力を増す事が出来る。

 ダークドワーフの中には、敢えて呪いを込めて武具を鍛える職人もいるそうだ。死ねばいいのに。

 薄れ掛かっていた魔気が跳ね上がった事からも間違いないだろう。アレアが着込んだ鎧も確実に呪鍛装備の類。

 何? 何故こうなる前に殺さなかったかだと?

 馬鹿野郎。出来たらとっくにやってるってんだ。俺の現状を考えて見ろ。

 俺はだらしなく地面にヘタリ込んでいた。情けない話だが腰が抜けちまったらしい。

 このタイミングじゃなくても良いだろうと思わせる絶妙な時にアクセラレータの効果が切れちまった。今の俺を殺す事なんぞスライムでも出来る。

 参った。これは本格的に詰んじまったじゃないか?

 流石に傷を治す事は叶わかったんだろう。覚束ない足取りの魔族だが、それでも着実に前進していた。

 このままでは、後少しもしない内に殺される。これまた怨念が染み込んだドス黒い剣に貫かれる事だろうよ。

 本格的に命の危機が迫る。だが、俺に出来る事は無い。

 呪を紡ぐ事は何とかなるかも知れんが、全く足腰が機能しない。魔法剣士としてはもう終わっている。

 では魔術師にクラスチェンジすればと思うだろうが、あの鎧を見ればやる気も奪われると言う物だ。

 今の俺に行使可能な魔術は精々が中級程度。最高の威力を誇るメラミでさえも魔神の鎧の前では肉球パンチみたいなもんだ。

 剣を握る事も逃げる事も出来ない。唱えられる呪文も効果が無い。

 いよいよ進退が極ったのか。俺の規範的な行動の何処に落ち度があったと言うのだろうか。

 何もかもがあの糞王のせいだ。聖人は権力者に忌み嫌われると言うのは本当だったか。俺は現宗派の開祖の最後を思い出した。

 次第に距離が短くなって来きやがった。漆黒の輪郭が徐々に明確になって来る。

 50、40、30と。俺の魂を冥府に送付する死神が鎌を揺らしながら近付いて来て・・・。

 「余裕のつもりですか?」

 ぴったりと鼻先に剣が添えられる。禍々しい瘴気に吐き気を催しそうになる。

 何故か俺を殺す事を躊躇う魔族。サーベル状の剣をしならせながら俺とのリターンマッチを望んでいた。

 阿保が。戦いたくても立てねぇんだよ。殺るならさっさと殺りやがれ。

 糞っ。確かに一矢報いはしたものの、まともに入ったのは最後の一太刀だけだ。とてもじゃないが借金を返せたとは思えない。

 プライドをズタズタに引き裂いた上に、母様から与えられた身体をタコ殴りにされたんだ。顔面変形する位は嬲りたかった。

 何か、何か無いのか。この状況を打開する、ロイヤルストレートフラッシュ的なアイデアは。

 奴が勘違いしている今がチャンスだ。考えろ、考えるんだ俺。

 表面上は嘲笑を浮かべながら、内心は破裂しそうなハートを抑えながらバックパックを弄る。何ぞおらんか。

 記憶と感触だけでアイテムを思い浮かべる。

 あー、拷問用の毒蛾のナイフに接近戦のパワーナックル。突っ込み用のハリセン・・駄目だ。

 ならばアイテムはどうだ。すごろく券にゴールドパスだと? ああそうだ。今度ギャンブルに出掛ける予定だった。

 だが賭け事に勤しむ為には今を打開しなければ。最後の最後、アクセサリーに望みを掛ける。

 ん? この感触は何だ。・・・ガーターベルトだと!? 誰がこんな物を!!

 俺はニーソ派だと何度言わせれば。ええい、そんな事はどうでもいい。碌な物が入ってやしない。

 駄目か。アリアハンの至宝たるアルスの命も此処までと言う事か。

 こうなったらいっそメガンテでもぶっ放してやろうか。最後の命の灯火を燃やし尽くすべきか。

 自分を犠牲にするのは大嫌いだ。俺は古文書を読み漁ってあらゆる呪文を極めて来たが、その類の物は覚えようとしなかった。

 傷ついた己を回復するホイミ系はともかく、ザオラルなどの蘇生魔術は一切手を付けようと思わなかった。

 メガで始まってザルで終わる呪文など最も忌避すべき選択だ。旺盛な知識欲にきつく言い聞かせたものだった。

 それよりも俺が選んだのは自爆だった。死ぬのは嫌だが敗けるより数百倍はマシだ。

 人生に一度しか機会の無い禁魔術を使う時がやって来たという事か。ああ、死ぬのは嫌だなぁ。

 何が嫌かって、この俺が糞平民勇者のアリアに劣ると思われる事が何より嫌だ。客観的に見れば、俺は誘いの洞窟如きで死んだカスって訳だし。

 しかし、他に方法は無い。殺されるなら殺した方が、一緒に死んだ方が遥かにマシだ。

 覚悟は決めた。後は、唱えるだけ。終焉のキーワードを。

 さようなら母様。天国のお祖父様、今そちらに向かいます。・・・糞親父、テメェには絶対会わん。

 唇を噛み破り、垂れ流れる血を咀嚼する。魔力を一切要しない代わりに、この呪文は血液を媒介にする必要がある。

 これで準備は整った。感謝しやがれアリア似の糞ビッチ魔族。超高貴族の俺様と逝ける事を。

 「メ、ガ―――ぶるぉぉあああああああああ!?」

 「無事ですか!? 兄様!!」

 ンテと言おうとした所で。

 突如、壁をブチ抜いた怪力女―――言わずもがな我が妹―――によって決起を阻まれる。

 腰の入った強烈な正拳突きは、俺を遥か天空へと錐揉みダイブさせる結果となった。

 ・・・やっぱり殺す。絶対に殺す。

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様8
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/02/05 13:46
  貴族な勇者様8





 「鬼才【フェノメーノ】も無様なもんね」

 アリアに遅れて現場に到着した魔女は会うなり俺を見下したものだった。

 相変わらず、目上の人間に対する言葉遣いがなってない女だ。

 その貧相な身体に教え込みたくなる衝動に駆られたが、残念な事に今の俺には無理な芸当だった。

 この鬱憤は次に晴らすと堅く誓い、俺はレミィに問う。

 「五月蠅い。―――で、てめぇらだけかよ?」

 深い深い溜息をつきながら俺は落胆を隠す事が出来なかった。これは何か、突っ込んでくれって事なのか。

 この土壇場で妹パーティーが駆けこんで来ると言う事は、糞叔父上が告げ口をした訳だ。

 だが、何故こいつらなのか。この俺が手を焼く相手に俺以下のカスを送って来てどうしようと言うのか。

 普通ならS級傭兵をブチ込むべき事態だと言うのに。本格的に痴呆が進行してしまったのだろうか。後継者は誰になるのだろう。

 「せっかく助けに来たってのに、ナチュラルにムカつくわねアンタ。死んでれば良かったのに」

 やばいやばい。せっかく抑えたマグマが再び息を吹き返して来た。落ち着け、落ち着け俺。

 こいつの教養が無いのは何時もの事だ。聖職者を越える忍耐を持つ俺に受け流せない筈が無い。

 俺を蔑むなど貴族ですら極刑物だが、神より慈悲深い俺は赦してやる事にする。剣を握っていたら分からなかったが。

 深呼吸深呼吸。さて、冷静アルスに戻った所で整理して見よう。

 先程より、チラチラと此方を覗いて来るアリアを見る。

 張り切って助けに来て御苦労と言いたいが、今回は余り期待出来そうにない。

 今回の相手は近接戦闘特化型の魔族。如何に化物染みた身体能力を誇るアリアとは言え、本当の化け物に敵う訳が無い。精々が囮役と言った所だろう。

 うん、レミィだと? ベギラマが最強魔術の塵に何が期待出来る。

 当初の案としては、アリアが踏ん張っている時にリレミトで脱出→ルーラのコンボを発動しようと思ったが、最後の一人を見て気が変わった。

 勇者様ご一行の面子は3名。妹アリア、糞女レミィ、そして―――

 俺は妹より遥か後方、隅っこでガクガク震えている女に目を移した。

 「ひゃうっ!」

 視線を受けるや殊更に怯える女。本当に冒険者かと思える程に。

 平民の名前なんぞ覚える気にもならないのでどうでも良い。重要なのは、こいつが僧侶だと言う事。

 戦闘力には全く期待出来ないが、この僧侶の治癒魔術は現状を打破する為に必要となる。

 アリアがぶっ壊した岩壁に魔族が埋もれている今がチャンスだ。俺は小動物を彷彿とさせる女の襟を掴み上げ、緊急会議場に放り投げた。

 

 「本当に大丈夫なんでしょうね」

 噛み付く事しか知らない狂犬レミィは何処までも牙を剥く。

 これも飼い主がしっかりとリードして置かないのが悪い。妹は管理者としての責務しっかり果たすべきだろう。

 何度説明すれば分かるんだ、この雌犬は。俺様の完璧にして崇高な作戦に穴がある訳が無いと言うのに。

 理解するまできっちりと理論詰めてやっても良いが、こういう輩と討論するのは骨が折れる上にストレスがやたらと溜まる。

 よって、最も効果的な方法で対処する事にする。俺はニヤニヤと見る者が不愉快になるだろう、それは下卑た笑みを浮かべた。

 「おやぁ? あれだけ偉そうな口を叩いといて今更ビビってんですかぁ?」

 高貴な俺には全く似つかわしくない表情だが、沸点が恐ろしく低い凶暴女には十分な効果があったので良しとする。

 案の上、ツリ目気味のまなじりを更に急角度にして俺を睨み付ける。

 「はぁぁああ!? 誰がブルってるってぇぇえええええええ!!」

 やんのかゴルァとがなり立てる狂犬魔術師。調教師の才のある俺は、見事にモチベーションを引き上げる事に成功したのだった。

 これで障害は無くなった。後は俺に従順な妹と、強く出られると断れない野ウサギ僧侶だけだ。

 では、全員一致という事でオペレーションを―――

 「ちょっと待ちなさいよ! 何勢いで誤魔化そうとしてんのよ!!」

 何とレミィが起き上り、喧嘩を売りたそうに此方を見ている。喧嘩を買いますか?

 →いいえ。もう、一切無視して進めましょう。元々戦力外ですし。

 懐いてくれる所悪いが、これ以上時間を無駄にする訳には行かない。俺はビッチマジシャンを脳裏から消し去る事にする。

 「アタシが言ってんのは、相手が悪過ぎるって事! そん位理解りなさいよ!!」

 ふん。反骨魂逞しい雌犬も身の程は弁えているらしい。確かに、現状を考えれば逃げの一手がベストに違いない。俺だってもうタイマンは懲り懲りだ。

 だが俺は貴族なのだ。自分の領地に害悪を残したまま放置出来るか。

 「阿呆が。結界をぶち壊す様な化物だぞ? あの女は確実に此処で殺す」

 戦闘に白熱して忘れがちだったが、アレアにはどうやって結界を突破したのか聞き出さねばならないのだ。

 もしもあんな巫山戯た真似が出来る奴がうじゃうじゃいれば、人間は終わりだ。今後の為にもそこはしっかり抑えねばならない。

 「それは分かってるけど・・・」

 幾ら無責任な成り上がり平民と言え、流石に思う所があったらしく勢いがダウンする。俺はここぞと更に激しく反撃を加えてやる。

 「大体、てめぇが術を重ね掛けられれば何の問題も無えんだよ。少しは自分の無能を省みたらどうだ」

 アクセラレータが余り使われないのは、何も肉体に掛かる負荷がだけが理由じゃない。それよりも問題は、術の制御にある。

 基本的に、一人の人間が一度に展開出来る魔術は一つだけだ。一流と称される魔術師ですら一度一魔の域を超える事は難しい。

 本来ならこの歳の餓鬼に期待する事が間違っているかも知れない。

 だが、この糞女は膨大な予算を注ぎ込んで創設されたエリート科の第三席なのだ。そこらのボンクラ魔術師の言い訳は通用しない。

 レミィがアクセラレータをアリアに使えれば高確率に勝利が約束されていた。俺は言外に役立たずと当て擦ってやる。

 「うぐっ。でも、重層魔術【スペルレイヤード】なんて普通は制御出来ないわよ・・・」

 アンタ位よと、何とか返すものの先程のドッグっぷりが見る影も無い程にしおらしくなるレミィ。その様を見て、俺はかなり気分が良くなる。

 このままイビリ倒そうと思ったが、今挫折されても困るだけなので手打ちにしよう。

 「平民は貴族の言う通りに動けば良いんだ。―――分かってるな、アリア?」

 作戦の成否はお前次第だと念を押す。アリアには壁役としてきっちり立ち塞がって貰わねばならん。

 俺が剣を握れない以上、この場において敵を抑えられるのはアリアしかいない。俺の準備が終わる前にこいつが倒れれば終わりだ。

 「勿論です。私は私の責を果たします」

 余りに堂々とした返事。同世代で此処まで清々しい顔で死地に赴ける奴がどれ程いるだろうか。

 少なくとも、所領で私財を肥やす事しか能が無い豚共では一生掛かっても真似できない。こいつは本当に生まれる所を間違えた。

 もしも平民じゃなかったら。母様の正式な第二子であったなら、アリアを愛する事が出来ただろうか。

 こいつのカリスマを目にする度に、そんな夢想を抱かずにはいられなかった。

 

 

 「御免なさい、アリア。私が未熟なせいで」

 まるで夫を戦地に送り出す嫁の様に、レミィは申し訳無さげに妹を抱き締める。

 仲が良いの結構だが、少し長時間かつ情熱過ぎじゃないか? 俺はレ○の気を少しだけ疑ってしまった。

 「はう・・・」

 ふと隣を見ると、僧侶も俺と同じ考えに至ったのか顔を赤らめている。尤も、俺とは違っていたく羨ましそうな眼だったが。

 熱いトークは直も続く。耳を塞ぎたくなる様な文句に、少しの疑惑がかなりの真実味を帯びて来た。

 救いがあるとすればアリアにその気が無い事か。昔からあいつは他人の告白を絶妙に受け流していた。今回も、鮮やかな回避を見せる。

 今いち噛み合う事の無い勇者と魔術師の会話は漸く佳境を迎えたらしい。されるがままだったアリアはレミィの背を優しく抱き止め、

 「心配要りませんよ、レミィ。私の後ろに兄様がいるのです」

 どうして敗ける事が有り得ましょうか、と。確かにその通りだが、何故に他人を此処まで信頼出来るのか。

 常日頃、ああも貶める相手に理解が出来んね。俺なら指を詰められても絶対にあり得ん。

 アリアの俺に向ける無条件の信頼は俺に複雑な思いを抱かせる。俺は不愉快な思いを断ち切るべく頭を振り、

 「いちゃつくのは帰ってベットインしてからにして貰おうか。―――来るぞ」

 直後、緩やかに膨れ上がっていた魔気が爆発した。

 積み重なっていた岩石が一瞬にして吹き飛ぶと、中から薄ら寒い瘴気を纏った黒騎士が現れる。

 何か回復してないか。刀に頼っていたバランスが万全になっているじゃないか。傷も治ったのかも知れない。

 やはり逃げて置くべきだったか。俺は後悔しながらも泣く泣く準備に掛かる。瞳を閉じて瞑想、残り少ない魔力を根こそぎ集めて行く。

 レミィも杖を構えて詠唱。僧侶は・・・その気の抜ける呪文はどうにかして欲しい。

 「―――行きます」

 無造作に剣を抜き、ダラりと垂れ下げるアリア。一見舐め腐った構えだが、そこそこ剣を齧った奴が見れば鳥肌モンだ。

 一瞬にしてアリアの姿が掻き消える。縮地と言われるジパング伝来の歩法であり、一歩が数十、数百メートルにも伸びるらしい。

 アリアが本気で殺る時にしか見られない技。矢張り、あいつをして敵魔族は脅威って事か。

 「一の太刀、始」

 恐るべき速度で間合いに入ったアリアは、それ以上に有り得ない迅さで剣を振るう。

 女魔族は、アリアの超速剣技に一歩も動く事が出来ずにいた。

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様9
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/02/06 13:36
  貴族な勇者様9





 アリアの剣は実の所、非常にシンプルだ。

 計三種の太刀により確実に敵を追い込み、勝利する。

 大抵の雑魚は「始め」で。出来る奴でも「追」で。一流所でも「終」の前に沈む。

 親父に教わったと言う基本の型を毎日繰り返して身体に叩き込み、遂には必殺剣まで昇華させた。

 やってる事はそこらの門下生と同じ事。だが、剣速・呼吸の次元が違い過ぎるので誰もが錯覚する。アリアは魔剣を持っていると。

 俺ですら三本、十合前後耐えられるかどうかなんだから無理も無いが。不愉快此処に極れりだが、剣の才だけは完全に妹が上だった。

 だが、その剣姫をして。アリアハン歴代最強の剣士の技を持ってしても。

 「何なのよ、あの化け物」

 苦笑いを浮かべるレミィ。癪で仕様が無いが、今回ばかりは激しく同意せざるを得ない。

 一体、奴の反射神経はどうなっているのか。ブロードソードの連撃をロングレイピア、2メートルを超える長物で完全無欠にいなしていた。

 頭・心臓・股間。狙われたら誰もが一瞬躊躇する個所への攻撃を事も無く捌き続ける。

 それも、軌道を読んでいる訳じゃない。明らかに放たれてから反応していた。奴の動体視力はどうなってやがる。

 アリアにはアクセラレータは掛かっていない。軽く、一段階ステータスを増した程度だ。

 が、それでも先程の俺に迫っているのだ。糞腹立つが。

 100は下らない重量の鎧を身につけて置いてあの動き。魔族ってのは心底卑怯な連中って事を確信する。

 此処まで差があるとマジで笑いが込み上げて来る。認め難い事に直面すれば自棄を起こすのが人間だ。

 「アンタ、良くあんな奴と独りで戦えたわね。弱みでも握ってたのかしら?」

 それは俺様が天才である事に他ならないからだが。もう一度やれと言われても困るけど。

 思わずレミィと軽口を叩きあう位には気が動転していた。俺は予想以上に宜しく無い状況と悟り、一層深い瞑想に入る。

 「兎に角、あいつの足を止めろ。魔力の続く限りぶっ放せ」

 「分かってるわ、よ!」

 少しの休憩を挟んでいたレミィは再び詠唱を始める。

 工程を大幅に省いた初等魔術、メラビット。威力は塵だが速射・連射用としては効果的だ。

 こうなったら消耗戦だ。弾薬が尽きるま撃ちまくるより他は無い。

 一刻も早く大砲の準備をしなければならない。未だに砲台が確保出来ていない現状は非常に不味い。

 右手の杖をより一層強く握り締める。この俺が杖に頼るなど、屈辱なんて言葉では言い尽くせないが文句を垂れてもいられない。

 「ふえええん。疲れますぅぅう」

 頭上で息絶え絶えに弱音を吐く僧侶には、常時回復呪文を使わせている。

 いくら弾丸の装填が完了しても、動く事の出来ない戦車に意味は無い。出来る限りアクセラレータの反動を軽減しなければ。

 我武者羅に剣を振るい続けるアリアにエールを送りつつ、俺は杖先に魔力を集束させていった。

 

 呆然と立ち尽くした女魔族、アレアは妹の渾身の斬撃を無防備に受け入れた。

 足下に着弾した火球に気を取られたか、初めて生じた決定的な綻びを逃すアリアじゃない。

 何処を狙うべきか。件の魔神の鎧は盤石で、一見、1ミリの穴も無いように見える。

 だが、如何に呪鍛装具が強固であろうと所詮は造り物だ。許容を超える速度・膂力が合わさる事で破壊は可能である。

 特に繋ぎ目の多い頭部は得てして脆い。フルアーマーの戦士を相手取るなら頭を狙うのが必定だった。

 アリアもそう踏んだのだろう。最速を誇る一の太刀をヘッドに叩き込むと決めていたらしい。

 縮地により懐に潜り込んだアリアは迷い無く最上段目掛けて剣を振り抜いた。

 幾ら人知を超える魔族とは言え、体勢が大きく乱れた上に重厚な鎧と長刀。俺は先の超回避が発揮されない事を只管祈った。

 普段全く神々を崇めていない俺もこの時ばかりは祈ったものだった。そして、日頃極めて良い行いを繰り返す俺の願いは天に届く。

 ガキャッ!!

 これ以上無いクリーンヒット。

 バイキルトにより強化されたアリアの腕力は、魔神の鎧のHPに打ち勝ったらしい。

 視界用の穴あき部分を中心に、徐々に兜に亀裂が入って行き―――金属片がバラバラに飛び散った。

 よっしゃと思う反面、俺はとても嫌な予感を覚えていた。何故、反応しなかったのか。

 アレアは全く動かなかった。回避が間に合わない風でなく、全然動こうとしなかったのだ。

 大したダメージが無い事が分かっていた? いや、それなら受けた直後に反撃に出る筈。

 でも奴は何らの動作に及ぶ事が無かった。唯、頭を垂れ下げて俯くばかり。

 アリアも不可解なんだろう。追撃の手を止めて、どういう事だと観察に努める。

 「・・・はは」

 嗤った。何分程経った頃か、聞き洩らす程に微量な声が流れ出る。

 初めはその程度だった。酷く薄い声量でアレアは嗤う。やがて、

 「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 狂笑という言葉がしっくり来るだろう。

 およそ、正常な思考の奴が発する事の無い勢いでアレアの超嗤が響き渡る。

 尋常じゃない寒気が走る。追い詰められた獅子が牙を剥いた様な感覚。とにかく異常なヤバさを醸し出していた。

 距離のある俺ですらこうなのだ。至近距離で叩き付けられたアリアはその比じゃないだろう。

 何とか鼓膜が破れる事は避けたが、無傷とは行かずに耳を抑えて後退する。心なしか、膝も笑っていた。

 「矢張り、貴方は最高ですお兄様。私の欲しい物を二つ、同時に与えて下さるなんて!!」

 それはそれは嬉しそうに嗤い続けるアレア。女の笑顔は見ていて嬉しくなる物だが、如何せん瞳孔が開き切っていた。

 怖い。俺は只管に恐怖を味っていた。女に此処まで後退りするのは母様を除けば初めてである。

 「それで、勇者アリア?」

 ゆっくりと頭を引き上げる。鎧を纏って以来、初めて見たその顔はこれ以上無い位に愉悦に彩られていた。

 二対の視線が交差する。鏡に映した様な全く同じ造形の目鼻立ち。

 違いがあるとすれば、両者の感情をを顕す表情が決定的に異なると言う事。

 一つは、悦び。そしてもう一つは―――

 ハッとする。何故俺は忘れていた? 妹が、俺と同じ状態に陥らないと如何して思えた?

 常に冷静だから、勇者だから? とんだ大馬鹿野郎だ。

 もしも行き成り自分と同じ面の野郎が前に出て来たら、誰もがそうなるだろうに。

 「私を、―――覚えているかしら?」

 「馬鹿野郎! 避けろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 それは余りに致命的な隙だった。

 如何なる達人とて、ほんの僅かなぶれが死に直結する。それが戦場と言う物だ。

 分かっていた。予想出来ていた筈なのに。

 「う、そ・・・」

 掠れる様なレミィの声。驚愕に震えるその視線の先には。

 握力を失った指先から剣が抜け落ちる。広く開けた空間内に、乾いた音が静かに響いた。

 アリアは。全国民の期待を一手に背負う勇者は。黒塗りの刃に胸を貫かれ、力無く膝を付いていた。

 「―――さて」

 深々と突き刺したサーベルを妹から引き抜いたアレアは、その視線を此方に向ける。

 支えを失ったアリアは静かに地に身を横たえた。貫かれた箇所を中心に、ゆっくりと赤い染みが広がる。

 「今度こそ終わりにしましょうか。その身体ではもう動けないでしょう?」

 流石にバレるよな。この状況で胡坐をかく奴は余程の大物かド阿呆だ。それこそ何か問題でも無い限りは。

 参ったな。僧侶の魔術で握力は戻った物の、下半身の感覚が曖昧だ。尻を上げようと思っても反応がまるで無い。

 カツカツと。鋼鉄の足装甲が奏でる無骨な金属音は死の宣告にも似て・・・。

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様10
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:d66554b5
Date: 2012/04/06 06:52
  貴族な勇者様10

 

 

 ずっと分からなかった事がある。何故、俺では無いのか。

 別に執着があった訳じゃない。寧ろ選ばれなくて清々した位だった。が、納得はいかなかった。

 勇者とは国の、世界全ての人類の希望だ。決して潤沢とは言えない国家予算を切り取り、市民に負担を強いてまで祭り上げるのだから生半可な力では務まらない。

 最強などと驕るつもりはない。そんな物、とうの昔に吐き棄てた。故に理解出来ない。

 俺は頂点ではない。だが少なくとも同世代に先を行かれた経験は無い。なのにあいつが称号を手に入れた。

 確かに妹は、アリアは強い。俺をして全力で臨まなければ瞬殺されるだろう。獣染みた反射神経・知覚能力、何よりあの悪魔的な剣術。

 英雄の素養は十分だ。順当に成長すれば教科書に名を刻む位にはなるかも知れない。しかし、伝説になれるかと言われれば首を傾げざるを得ない。

 完璧と言って良い妹に唯一欠ける才能。魔力、勇者を名乗るのに絶対条件と言われる第二の神経があいつには無かった。

 別に魔力位とほざく奴はアカデミーからやり直した方がいい。これの在る無しでは最終的に、大人と子供程の差が生じて来るのだ。

 例えばだ。一般的な人間の力を10とする。そして、それを補う魔力も10としよう。単純計算するとその人間の戦闘力は20となる。

 では魔術が行使出来ない場合はどうか。考えるまでも無いだろう。仮に天賦の才能が備わっていても技術の寄与など精々が3か4程度だ。

 魔力による強化(ブースト)を選べない時点でハンディを背負っている。未熟な内なら目立たないが、扱いに慣れて行く内にみるみる突き放される。

 有り得ないのだ。アリアに勇者になれと言う事は、父親の後を追えと死刑宣告をするのと変わらない。

 当然抗議した。死にたがりの馬鹿の命を惜しんでではない。有限の税を無駄にするなと王に掛け合った。

 結果は知っての通りだ。あの糞王は貴重な国庫金を溝に棄てる事を宣言しやがった。人格だの、品性だのといった下らないプライドに俺達は負けたのだ。

 

 

 「何、ですって?」

 圧倒的優位に立ちながらその女の腰は引けていた。

 最強の種族と言っても過言では無い超生物、その中でも屈指の力を持つ(と思われる)魔族は知らずの内に後退している。

 あいつが一歩踏み出すに合わせて一歩、また一歩と。大して広くも無い洞窟だ、直ぐに足は止まった。

 女魔族が浮かべるのは根源的な恐怖。明確な理由がある訳じゃない。が、生物として無意識にそれの怖ろしさを自覚しているのだ。

 「どうなってるの・・・?」

 掠れ声に振り向けば、何時の間に復活していたレミィが驚愕を顕わに呟いている。喜びよりも疑問が勝った形だ。

 アレアに迫る女、勇者アリアは満身創痍の身体を引き擦りながらも立っていた。ピクリとも動かなかった四肢は金色の迸りに包まれている。

 分かっているのは俺だけらしい。だが俺としてはこの阿呆みたいに口を半開きにしていたかった。合点したくなかった。

 「結局、偽物だったって事か」

 馬鹿馬鹿しい。余りにも己が滑稽で、剣を握っていればその場で自決していたに違いない。

 だってそうだろう。散々見下していた妹が、平民出の雑種が伝説の勇者だったのだから。

 デイン。存在しないと言われる五大(火・炎・爆・空・冷)外の攻撃魔術。行使するそれ自体が証左だ。

 単純な攻撃力だけじゃない。魔の者に対して絶対的優位に立つ神聖電撃は神の怒りを彷彿させるには足るインパクトを存分に備えている。

 黄金の雷を纏う神々しさ、正に代行者の如きなり。ボロボロになるまで読み込んだお伽話の一番の見せ場の節だ。

 「糞が・・・」

 こんな光景、見てるだけで鬱になる。惨めで仕方無い。

 だと言うのに目が離せない。それ所かアリアの一挙手一投足を食い入る様に見つめる俺がいた。

 疾風迅雷。芸が無いがそうとしか言いようが無いスピードだった。最早俺の目では捉える事が出来なかった。

 壁際に追い詰められたアレアとの距離を一瞬でゼロにしたアリアは金電を纏った剣を振るった、と思う。

 実際は肩が震えた様にしか見えなかった。完全に人類の限界を超えた妹は瞬く間に敵の鎧を分解していた。

 漆黒に覆われていた魔族の身体が忽ちに肌色を取り戻して行く。必死に避けようと試みるも傷付いて鈍った体力では僅かに時間を稼ぐ程度にしかならない。

 成す術無しとはこういう事を言うのだろう。魔神の鎧は遂に全装甲を剥ぎ取られ、繋ぎのラバーを残して塵と帰る。

 「くっ」

 その鎧が肉体を強制してしていたのか、防具が無くなったアレアは遂に膝を付く。剣を刺す事で辛うじて倒れずにいる。

 最後の一薙ぎ。必殺の状況となった敵の首を刎ねるべくアリアは刃を立てる。

 「な、めるなぁぁああああ!?」

 鼬の最後っ屁か。倒れ込みながら斬り上げたアレアの最後の足掻き。

 黒剣は神の加護を貫く事は出来ず、微塵に砕かれ。それでも若干の威力を殺す事に成功した結果は。

 「ぎぃ、ぁぁぁあああああああああああ!!!」

 魔族とは言え女だ。妹と瓜二つの端整な芸術に欠陥が生じた。

 恐らく二度と塞がる事は無いであろう深く、致命的な傷が真一文字に刻まれる事になった。

 果たして生死の程は。確かめたかったが俺の意識はそこで途切れる。マジックロスト(ガス欠)だ。

 

 

 

 「陛下、失礼致します」

 一礼して入室したのはフォーマルな燕尾服を纏った壮年の男。

 私は口をつけようとしたティーカップを一度置き、来訪者に振り返って出迎える。

 「あらセバスチャン、いらっしゃい。でもここでは人間よ。気を付けなさい?」

 私も、貴方もね。全く形態の異なる種族が異郷で暮らすのは簡単では無く、ボロが出ない様に仕草一つにも注意する必要があった。

 鮮やかな銀髪を撫で付けるオールバックは、「申し訳御座いません」と恭しく訂正した。そんなに畏まる事は無いのにね。

 それで何なのかしら? 楽しみのアフタヌーンティーを邪魔する理由は一体。私は直立不動で控える執事に促した。

 「御曹司の件ですが。先刻、御令嬢の魔力が途絶えまして御座います」

 ああ、その事ね。態々言わなくていいのに。子供達の事は私が一番分かっているのだから。律儀ね。

 傍の執事は優秀なのだけど、頭の固い所が玉に瑕。悪い言い方をすれば少しくどい。些細な問題も見逃さないのは美点だけども。

 「ええ。アルスは無事に勝利を納めた―――あら、何か不満がありそうね?」

 苦虫を噛み潰した風なセバスチャン。如何にも納得が行きませんと顔全体で主張していた。

 「そんなに予想外だったかしら。私は確信していたんだけど」

 まぁ、仕方が無いかもね。古参の特にセバスチャンみたいなタイプは血筋を何よりも重視する傾向があるから。

 アレアは私と、ある魔族の間に生まれた直系だった。魔術そのものには恵まれなかったけど、近接戦闘能力では地上軍でも有数だった。

 「は。半魔族【ディフェクト】が魔族を打倒するなど「大蛇」

 「腸を引き摺り出されたくなくば、二度とその名で息子を呼ぶな」

 流石に聞き流せない発言だった。無意識に魔力を解放した私の周囲は真っ白に塗り潰されていた。

 ディフェクト(出来損ない)とは魔族にも人間にもなれない半端者と言う蔑称。遊び半分で生み出された子供は魔族にこそ多い。

 「気を付けなさい。次は見逃さないわ」

 「申、し訳、御座いません」

 セバスチャンは只管に平伏し、一向に顔を上げなくなってしまった。少し大人げなかったかしら。

 可哀想になったので無理矢理起し、根に持っていない旨を伝え、それでも微動だにしなかったので閃光呪文を叩き込んでやった。

 

 「まぁ、それは兎も角として」

 こほんと咳払いをして話を戻す。覚醒したセバスチャンは黒焦げの服を払って佇まいを直した。

 「どんな形であれ、あの子はアレアを退けた。それは認めなさい」

 「本当に御曹司に任せる御積りですか。あの御方は、御令嬢の比ではありませぬ」

 仏頂面を取り戻したセバスチャンは、最終確認といった風に切り出した。分かり切っているけども確かめずにはいられないとばかりに。

 そこまで分かっているなら良いじゃない。私の意志は変わらない。例え天上の神々を敵に回してでもとも成し遂げて見せる。

 「限界なのよ。あの死に損ないの老いぼれに弄ばれるのは。同じ空間に存在するだけで虫唾が走る」

 力があれば何をしても良いのか。他者の運命を捻じ曲げる権利を与えられると言うのか。

 断末魔を、絶望を至高とし蹂躙する事にしか意義を見出せない哀れな成れの果て。私は認めない、認めて堪るか。

 「言ったでしょう。私ではゾーマを殺せない。その為のあの子なの」

 念の為の保険も用意してある。あれを発掘するのに要した時間と犠牲は決して少なくない。

 ・・・喋り過ぎたわね。疲れたので下がって頂戴。セバスチャンに背を向けるのと彼が退室するのはほぼ同時の事だった。

 「御心のままに。バラモス様」

 恭しい礼の後に訪れる静寂。窓から吹き込む柔らかな風に身を任せた私の目に、夫の遺影が映った。

 貴方は私を恨んでいるかしら。それでも私は―――



[25676] 貴族な勇者様11
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:24ef4825
Date: 2012/04/10 22:07
  貴族な勇者様11

 

 

 貴族に休みは無い。暇に見えたとしてもそれは綿密に調整されたスケジュールの賜物だ。

 特に俺様クラスの大貴族ともなれば小国並の領地を抱えるなんてざらにある。予め計画して置かなければとても回らない。

 実際携わるのは大まかなプロットと決裁位だが量が量だ。円滑な経営を続けるには優秀な駒をどれだけ獲得できるかに掛かっている。

 だが血筋が物を言うこの時代だ。それしか能が無い塵には事欠かないが、優秀と言える人間は限られている。

 ウチにしたって「考え」られるのは一握りの執事だけで残りは本当に糞っ垂れ。魔力が無限にあるなら人形で賄ってるね。

 下手に家柄が良いだけに報酬も馬鹿にならないと来てる。成果主義への体系移行が急務だと思っている。

 兎に角使えない人間が多いのだ。トップである俺がカバーしなければならない範囲は馬鹿広く、毎日カツカツなのだ。

 ぶっちゃけ勇者稼業なんぞに勤しんでいる暇は無く、王命が無ければ屋敷に引き籠って書類と睨めっこしてるよ。

 繰り返しになるが俺は非常に忙しい。無駄な事に時間を費やす余裕は無いのだ。・・・無いと言うのに。

 ふざけやがって。全く以って平民は俺を苛つかせる天才だぜ。そこに関しては尊敬する。

 

 

 「召喚された理由は言うまでもないな?」

 フェリクス邸執務室。家督を譲り受けた今では俺の書斎みたいなもんだ。常時は此処で大半を過ごす。

 現在、俺の聖域には場違いな人間が二人いる。色素の抜けた白髪を七三に分けた爺とそれなりに整った目鼻立ちの女。先日の一件の張本人である。

 化物との激闘から目覚めた俺を待っていたのは糞王の叱責だった。魔族を討ち取った英雄(は妹だけど)に対して何たる態度だろうか。

 城に引っ張られた俺はいたく不機嫌だったがそれも真相を聞くまでだった。半眼が一転して瞳孔が開いちまった。

 「狂言誘拐に五千Gの詐取。未遂にしても重刑不可避の立派な罪だ」

 比較的温いと言われるアリアハンも金銭犯罪には五月蠅い。金は正当な労働の対価として位置付けられているからだ。

 安易な違法行為で旨みを味わえばその堕落は経済を衰退させ、エスカレートすれば富裕層へ矛先が向きかねない。

 腕っ節に覚えのある冒険者共が大挙して屋敷に殴り込むかも知れない。私兵を抱えているのが常だが絶対数が違い過ぎる。

 そうさせない為の厳罰だ。初犯でも十年前後の労役が科されるし、強殺なんてした日には一族郎党磔に処される。

 幾ら劣等な平民と言ってもその程度の知識はあるのだろう。爺は顔を歪ませ、女は狼狽し顔面が蒼白となった。

 「反省している様で結構。判例に従えば財産没収に数年の強制労働を言い渡す所だ。通常なら、な」

 それで終わりならばどれだけ良かった事か。服用する胃薬の量を増やした主因はに比べれば可愛いとさえ思う。

 「所で」と一旦置いて、俺はとうとう本題を切り出した。

 「数日前にどこかの馬鹿が結界を破壊したらしいんだ。国民数万の命綱と言える聖壁をなあ。誰だか分からねぇが、とんでもない悪党もいたもんだぜ」

 二人の動揺具合が一層酷くなる。特に女の方はこの世の終わりを予感した顔となっている。

 「卑下する訳じゃないがアリアハンの軍事力は高くない。人間同士の戦争なんぞ久しく無いし、高ランクの魔物は結界に阻まれる。特に力を入れる必要は無いんだよ。それがちゃんと機能してるなら」

 俯く爺に土気色の女。私が関わりましたと告白している様なもんだが俺の怒りは納まらない。

 「だから上昇志向のある奴は大抵が国外に出る。より強い敵や、また危険な依頼をこなした方が効率が良いからな。分かるか?」

 椅子から立ち上がった俺は俯いたカス共に歩み寄り、手前にいた爺の腹を蹴り飛ばした。碌に身体も動かした事の無い老害は無様に引っくり返った。

 仰向けに倒れた死に損ないを更に踏み躙る。耳障りな苦鳴を漏らそうが足裏に込めた力を抜く気は全く無かった。

 「てめぇらのした事は国家転覆罪に他ならない。懲役云年? 一族郎党皆殺し、市中引き回しは覚悟して置け」

 誘いの洞窟に設置されていたのは最重要基点の一つ。勿論支点は他にもあるから全開放とはならなかったが、防御力が大幅に減退したのは明白だ。

 あの糞魔族が侵入出来たのがその証拠。不安定な聖域には高位の魔族なら制限付きで入り込めたと言う訳だ。あれで制限付きだってんだから馬鹿馬鹿しくなる。

 その後の調査で俺がぶっ殺したの以外に目ぼしい上級魔物は見掛けなかった。が、予断は許さず最厳重警戒は継続中。

 中央から呼んだ結界魔術師に24時間態勢で術式を展開して貰い、高ランクの冒険者達にも警邏を依頼した。初額で数万G、長引けば二桁などあっさり達成するだろう。

 そして金よりも余程痛いのが名誉の失墜。国王からの評価は地に堕ちているから良いが、他の官僚や諸侯の信頼を下げたのは厳しい。何派閥かは離反するかも知れない。

 「いいか家畜共。貴様等の死体を吊るす事は確定しているが、一つだけ質問に答えろ。どうやって結界の解除法を得た。あれは門外不出だった筈だ」

 踏み付けていた爺の襟を締め上げながら問う。頭を隅まで捏ね繰り回しても分からなかった。

 国家の存亡を左右する秘術である呪文は王家が保管している。持ち出すには国王と常任議員を含めた元老院の承認が必要だった。

 一介の平民如きがおいそれと手に入れられる代物じゃない。直接破壊するなぞ以っての他だ。ならば如何なる手段を用いた?

 老いぼれの顔面は一刻と青くなるが構うものか。証人はもう一人いるんだ、殺しちまって何らの問題は無い。

 「お止め下さい!!」

 酸素を欲した魚の様に爺が口をパクパクさせた頃、黙っていた女が遂に声を荒げた。割って入るように俺の腕を掴んだ女は、

 「悪いのは私なのです。己の欲に負けてしまった私が。ですから、責めるならば私を嬲って下さい!」

 中々に涙を誘う自己犠牲精神だ。ドラマなら感動のBGMが挿入される所だろう。

 だがなぁ、女。一体お前は誰に断って薄汚い手でこの俺に触れているのかな? 非常に不愉快なんだがねぇ。

 「そうかい。それならお言葉に甘えさせて貰って・・・」

 嘆願通りに爺を離した俺は女の肩に手を置いて圧縮した。痛覚を絶妙に刺激されて声にならない悲鳴を発した。

 完璧な力加減、気絶する程でも無く無視出来るレベルでも無い。人体の構造を把握する利点は医者だけに限られない。

 窒息状態から解放されて咳き込む爺を蹴り転がし、改めて女に向き直って続ける。

 「聞けば結婚を控えているそうじゃないか。俺は優しいからな、嫁入り前に傷を付けるなんて無粋な真似は慎むさ。安心してゲロってくれや」

 ぐいと肩に加えた握力を上げる。ギリギリで均衡を保っていた女は艶のある喘ぎを漏らした。

 「言います。一切告白します。ですから、お願いですからその御手を離して頂けませんか」

 やっぱり人を素直にさせる特効薬はダメージだよな。命令すんなよと最後に一握りした俺は女の言い訳に耳を傾けた。

 

 女の主張はこうだ。近々結婚が迫っていた女だったが、日時の経過と共に心身が不安定となっていった。

 食事は喉を通らず満足に睡眠も摂る事が出来ない。マリッジブルーと言われる兆候だった。そんな彼女を心配した周囲は一計を案じた。

 身代金五千Gを用意しろ。偽装誘拐を仕込む事で後ろ暗さを演出し、縁談の遅延・あわよくば破棄を狙ったのだと言う。主犯は俺の目の前で首を落とされた童貞野郎だと。

 俺が村を訪れたのも都合が良かった訳だ。勇者が出張る程の悪党に目を付けられていると知れれば、間違い無く相手は考える事だろう。平民が俺様を利用したという事実に沸騰し掛けたが先を促す。

 取引場所は俺が駆け付けた平原。そこで金を待つ予定だったが、時間を潰している最中にお嬢様に異変が生じたらしい。

 「声が聞こえたんです。とても気持ちの落ち着く心地よさで・・・」

 その声に従い、半ば操られる形で誘いの洞窟に足が進んだ。連れの連中には催したとでも誤魔化したんだろう。

 意識を保っていられたのは入口を潜るまでで、気付いた時には基点は破壊され、寒気のする様な美貌の女が微笑んでいたんだとか。

 「・・・・・・」

 話が終わって暫く、腕を組んで良く考える。考えて考えて考え尽くした末に俺は結論を出した。

 回復したばかりの魔力を掌に集める。小さな点は次第にマッチの灯火程になり、拳大まで膨張するのに時間は要し無かった。

 「残念ながら誠意が足りなかったらしいな。こいつにはてめぇらを100人殺しても釣りが来る力が込められている。その上でもう一度聞こう」

 火の玉を宙に浮かせる。揺らめいていた炎は徐々に勢力を広げ、部屋全体を紅蓮に染め上げた。目の前の平民二人は蒸し風呂に叩き込まれた様な熱さを味わっているだろう。

 「仮にその証言が事実だとして、それを真と言わせる手段を示してくれ。よもや罪人の言葉を信じろとでも?」

 かつて体験した事の無い圧倒的な暴力に、女は腰を抜かした。がくがくと足を震わせながらも何とか言葉を紡ぐ。

 「ですから、本当の事なんです。確かに証拠はありませんが頭に声が流れ込んで来て―――きゃあっ!」

 項を覆う辺りの後ろ髪を燃やしてやる。耳元で起きた爆発に女は思い切り仰け反った。

 仰天する女へと歩いた俺は脇腹を小突く。何度も入念につま先をめり込ませた後、乱雑に女の前髪を引き上げた。

 「はっきり言っちまえよ、私がやりましたって。守人はレーベから選出されるんだ。代々伝わる抜け道があるんじゃないのか?」

 至近距離で睨み、もう一方の手に更に炎を顕現させる。見せ付ける様に弄んだ球を接触擦れ擦れまで近付けた。

 嫌々と首を振る女。異臭に視線を下げれば失禁してやがった。汚らしい排泄物は高級絨毯に届く前に全て蒸発したが。

 「最後通告だ。どうやって封印を解いた? いい加減に白状しなければ―――」

 「余り領民を虐めるのは上品とは言えませんね、フェリクス侯」

 燃滅させんぞと言い切る前に、書斎を囲んだ業火がすっぱりと消え失せた。

 早過ぎる解術に眉を顰めながら漂って来た第四の音を探ると、扉に寄り掛かるように金髪を靡かせるノッポが立っていた。

 「ヴァレリオ卿。悪いが今は来賓に応じている間は無いのですがね」

 厄介な女が来やがった。舌打ちが隠せたかどうか、確証は無い。

 

 



[25676] 貴族な勇者様12
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:e98969d6
Date: 2012/04/14 02:09
  貴族な勇者様12

 

 

 封建制度で飯を食っている身だが、偶には文句も言いたくなるというものだ。

 共和国と違って上が黒と言えば真っ白でも頷かなければならない。権力を行使するという事は、その逆も受け入れる必要がある。

 餓鬼の頃より叩き込まれた基本原則だがどうしても耐えられない事もある。筆頭たる国王様の他にも俺の血管を突いて来る奴は存在した。

 貴族にも格があって、残念な事に我が家は頂点に位置してはいない。上から二番目の侯爵位に留まるのは別の理由もあるのだが。

 それを思い出すと血圧が限界を突破するので置いておく。問題なのは上司、公爵位にはパーフェクトノーブルの俺でも逆らえない事だ。

 現在俺をこめかみを痙攣させる原因は、公爵の中でも抹殺ランキングトップ(俺が独自に選出)に君臨する女だ。

 アルストロメリア・ヴァレリオ。アリアハンの全軍を統括する将軍閣下であり身分を越えたあらゆる階層から絶大な支持を集めている女傑。

 軍籍ではない俺は全く尊敬してないが公式・非公式を問わず、多数のファンクラブが存在するらしい。蔭口の一つでも叩けば、親衛隊により葬られるとの噂はあながち冗談じゃない。

 圧倒的な軍才(個人戦で俺様に及ばない事は言うまでもないが、軍略の類は国内最高峰)に加えて貧富で差別をしない人格者、止めに超絶美形と来れば人気が出ない筈が無かった。

 次期国王最右翼とも取沙汰されるが巫山戯るなと言いたいね。民衆の味方だか知らないが、そんな惰弱な支配者が生まれて見ろ。貴族制度延いては王制の根底を揺るがすよ。

 王は畏れられよ。どこかの哲学者も主張したがその通りだ。俺達は舐められたら終わりなんだ。絶対至上の存在として搾取しなければならない。

 「んぐっ、ぷは―――糞忌々しい」

 蔵から引っ張り出したドンぺリをグラスに注がずに直飲みする。酔わなきゃやってられん。

 あの尼、絶対に犯す。ぶっ壊れるまで姦して尊厳という尊厳を奪い尽くしてやる。人らしく死ねると思うなよ。

 断罪の邪魔をしたばかりでなく、所領の暫定統治だと? あれ程見事な越権は御目に掛かった事が無い。

 確かに目に余る大虐殺だとか度の過ぎた経営をしたなら認めよう。甘んじて罰を受けるが今回は不可抗力、寧ろ被害者と言って良い。

 我が領地の経済規模はアリアハンでも有数であり、民の平均収入も治安も上位。昨年の幸福度は1位にもなった。

 「これは陰謀だ。国王もグルになって俺を嵌めようって腹かよ」

 糞糞糞王の署名付きの令書は本物だった。現状において俺は領主としての地位を失ったのだ。

 乱暴に酒を煽る。空腹と相まって更にむかむかする。・・・母様まで抱き込みやがって、一体どんな手で懐柔したんだ。

 まさか紅茶じゃないだろうな。嗜好品大好きなあの人なら頷きかねない。御爺様も根を上げた自由人だし。

 唯一の戦力に期待出来ない以上、アルス包囲網は盤石になってしまった事になる。同士に俺以上の力を持つ者はいない為援助は見込めない。

 『事態が解決するまでは唯の勇者でありなさい』

 余裕たっぷりに足を組んだヴァレリオは嘲笑うかの様に俺の権利を奪いやがった。

 なぁにが愛が足りないだ、平民と共存しろだ。貴様等のような屑貴族がいるからカス共が付け上がるんだよ。

 アリアは他人を殺す覚悟も無い甘ったれだがヴァレリオは正真正銘の偽善者だ。全力で貴族・平民の格差是正に熱を上げていた。

 典型的な腐れ貴族、私腹を肥やす事しか頭に無い所謂豚と呼ばれる連中は徹底的に粛清された。資源を食い潰す塵に同情などしないが奴らの失態が敵の勢力を強大にしている事は無視出来ない。

 その点で俺が下手をこく事はないが、消された貴族が平民を異常に蔑んでいる事は共通している。

 家の乗っ取りまで想像するのは飛躍が過ぎるかも知れないが、俺の古典思想を捻子曲げようとしている事は確実。

 勇者への就任をゴリ押ししたのもあの女だ。平民との距離を縮める事で意識改革でも狙ったか。

 「どいつもこいつも。・・・舐めやがってぇぇえええええええ!!」

 飲み干した酒瓶を思い切り叩き割る。粉々になった硝子片と残液が絨毯に染み込んだ。

 全て気に入らなかった。あいつと同じ名であることすらも。出来るなら今すぐ改名したい所だ。

 アルス、正式にはアルステットだが、は俺に授ける名を迷ったオルテガにヴァレリオが主張したらしい。「弟が欲しかったのよ」とかほざいていた。

 「随分と回りくどい事をしてくれるじゃないか。俺をそうさせたのは貴様等だろうに―――!」

 激情に駆られて振り抜いた拳は卓上のアンティークを一網打尽に破壊する。中には苦労して競り落とした逸品もあったがそんな些事はどうでも良かった。

 このまま終わると思うな。必ずや返り咲き、貴族の面汚し共を駆逐してやるからな・・・!

 「おやおや、男のヒステリーはみっともないよ?」

 程良く熱が退いた所でドアが開く。遠慮なく入室したのは蒼髪をベリーショートに整えた麗人だった。

 キッチリと着こなした燕尾服は執事の証。十六にしてフェリクス家使用人のナンバー2、第二執事であると同時に俺の専属でもある。

 「入室を許可した覚えは無いが、まぁ良い。それよりも資料は用意出来たんだろうな?」

 俺の復権の鍵は結界の修復。それさえ元に戻ればすまし顔の将軍殿を追い出す事が出来る。

 言葉の上では容易に見えるがこれが相当に難儀な代物で、以前と同等の力を取り戻すには既存の術者では不可能だった。

 何せ構築者が伝説の賢人方だ。八賢と呼ばれた化物達が十数年の歳月を掛けて組んだ魔方陣をそこらの凡人に再現出来ようも無い。

 「僕を誰だと思っているんだい? 見つけたよ、存命の使途をね」

 自信満々に差し出された書類を確認すると、丁寧なゴシックでこう記されていた。

 ヨハン・メサイア。最後の賢人、クラリスの弟子にして後継者。本名は不明。【洗礼者】に【救世主】とは、半端じゃ無いナルシストだな。

 年齢・性別・出身地も不明。現在はテドンにて隠居生活を営む―――っておい。

 「ドヤ顔になっている所に水を差すが本当に調べたんだろうな。適当に想像したと言われた方が自然だぞ。その上テドンはねぇだろ」

 既に地図上から消え去った村だ。何でも対魔族の秘密兵器を温めていたと聞くが真偽は分からない。

 「酷いな。それが寝る間も惜しんで愛しい君の為に働いた幼馴染に掛ける言葉かい? 抱き締めてキス位くれても良いんじゃないか?」

 それに信憑性があれば舌まで入れてやるがな。三文作家だってもう少しまともな創作をするぞ。

 胸を張る執事をジロリと睨め付けてやると、何を勘違いしたのか肩を抱いて頬を赤らめたではないか。

 「そんな、流石に未だ早いよ。幾ら僕が劣情を誘って堪らない身体と言っても恥じらいって物をだねぇ・・御免冗談だよ。謝るから火の玉を消してくれないか」

 頭上に特大のメラミを展開した俺は無言で続けろと顎をしゃくる。次に戯言を抜かしたら愛犬の餌にしてやる。

 こほんと咳ばらいした執事は、テーブルの上の資料を手に取りクリップされたページを何枚か捲る。

 「いいかい? 君の言う通りテドンは確かに滅亡した。魔物が多くて正規軍は近寄れないが、冒険者達の話では無人の廃墟があるだけ。一見、テドンと言う名はこの世から消え去ったと言えるだろう。だけどね」

 執事が指差した箇所を見ると、二つの風景画がある。一つは荒廃した人里、もう一方は青緑が美しい秘境に佇む家々。

 何が言いたいんだと頭を傾げると同時に引っ掛かる物がある。この対照的な絵には何処となく共通点がある様な気がするのだ。

 「気付いたかい? これは同じ場所で摸写したテドンだよ」

 指摘に目を凝らせば、原形を留めていないが建物の配置、薙ぎ倒された木々の群生地は非常に似通っている。同村と言われれば納得は出来た。

 いや待て。だとすれば何故この写生画は一枚の羊皮紙に描かれているんだ。滅亡前後に同一者が同じ用紙で摸写したと言うのか。俺と目が合った執事はにやりと笑った。

 「ついでに補足するとテドンが滅びたのは十年以上前だよ。だけど、紙質を見て分かるようにこれが描かれたのはごく最近。反論は無いよね?」

 仮に此処がテドンだとすれば驚愕に値する。過去と未来が同時間に存在している事になる。

 時に干渉した? 時間に関する神秘は長年のテーマだが、誰一人として解明出来た者はいない。現存する旅の扉すら原理不明なのだ。

 「無くなった筈の村が蘇る。そんな離れ業が出来る人、あるいはシステムなのかも知れないけど、がいるんだ。確かめる価値はあると思わないかい?」

 執事のしてやったりな顔にはイラっと来たが、ガセ情報の可能性は大分減った事は間違いない。

 高速で外着に着替えた俺は立て掛けた愛剣を腰に下げ、一張羅を引っ掛けてワックスで髪を逆立たせる。

 家で燻ぶっているよりも遥かに有意義だ。目指すはテドン、旅客船の予約をして置かなければ。

 自室を出ようとドアノブに手を掛けると肩をチョンと叩かれた。振り返ると両眼を閉じて唇を突き出す痴女の姿があった。

 「―――バギ」

 突っ込みと言う名の寵愛をして颯爽と飛び出した。少し魔力を注ぎ過ぎたかな。

 

 

 「痛っ。おいおい、さっきから揺れ過ぎだろ。何だこの安馬車は」

 尻の痛くなる座席に天井の無い箱体。一雨降ったら風邪をひいてしまうじゃないか。

 隣の御者に愚痴るもぶすっと頬を膨らませて無視される。ムカついたのでほっぺたを引っ張ってやると「いひゃいじゃにゃいか」と反応があった。

 「仕方無いだろう。今の君は家の財を動かせないんだ。ポケットマネーを捻るしか無いじゃないか」

 渋々と答えた御者、昨日の突っ込みで後頭部を腫らした執事は不機嫌を体現する様だった。だってお前とキスすると唇がふやけるまで放さないんだもん。

 ヴァレリオめ、このアルス・フェリクスに庶民と同じ環境を強いるとは何て冷酷な女だ。やはり奴には相応の対応をしなければなるまい。

 「大体君は散財が過ぎるんだよ。用途も無い骨董品を幾ら増やしたら満足するんだ。この間メイド達もぼやいてたよ」

 何にでも理由を付けたがるのは心に余裕がない証拠だ。嗜みに金貨を積める位で無ければ貴族とは言えん。

 「大体、ルーラがあるのに態々車や船を用意しなくても良いだろう。その方が余程早いし」

 執事の態度に俺は嘆息した。何と風情の無い奴なんだ、これが俺の専属だと思うと先が思いやられるぞ。

 世界旅行を何度も経験している俺は大抵の地域にマーキングがある。ルーラを使えば一瞬で移動できるのは確かだ。

 「分かってないなぁレイよ。馬車や船舶が生まれたのは移動を助けるのが主題だが、旅に華を添えるという一面もあるんだぞ」

 ストレス極まりない管理職を務める俺には息抜きが必要なのだ。ゼンマイ仕掛けの人形の様に農工作業に従事する平民と一緒にしないで欲しい。

 家の危機には違いないがそこまで余裕が無い程でも無い。ならば急くよりもゆったり着実に事を進めた方が良い筈だ。

 ガタガタ揺れる背もたれに寄り掛かる。衝撃干渉の魔術で全身をコーティングすれば騒音も気にならなくなる。

 俺は目的地に到着するまで仮眠を摂ろうと目を瞑った。馬力を計算しても港まで1、2時間は要するだろう。

 

 「――る。アル。ちょっと良いかい?」

 「んあ? もう着いたのか」

 以外に早かったと身体を起すと節々が痛んだ。椅子の固さまでは無視出来なかった。

 眼前に広がるのは一面の蒼海。潮の香りが鼻腔を刺激する、という事も無く。馬車は最低限に舗装された荒野を疾走していた。

 「何だよ、そんなに構って欲しかったのか? まだ道半ばじゃないか」

 目蓋をごしごし擦りながらレイを軽く睨むが、従者はごめんと軽く謝罪して受け流し、後ろを指差した。

 面白い物でも見つけたのかと指先を辿る。寝ぼけ眼に入り込んだのは馬鹿でかい土煙だった。

 凄まじい振動から察するに相当な質量が駆け抜けている事は分かった。が、やや距離があって詳細は確認できない。

 「視てみたんだけど、魔物の狩りだね。人間を追い駆けてる」

 鷹の目は相変わらず。俺の視認限界は精々が1キロだがこの従者はその数十倍の距離を網羅する。

 へー、と感心しながら発生源を見つめているとレイは俺の顔を見つめて手綱と鞭を握った。命令次第で馬車は瞬く間に方向を転換するだろう。

 歴戦の騎乗兵の如き手綱捌きは見事と言う他は無い。本当に有能な女だ。

 「気にするな。飛ばせ」

 まぁ助けないんですけどね。今の俺は唯の貴族なので例え領民だろうと手を貸す義務も義理も無い。

 やっぱりねと溜息をついた執事は馬の前足に鞭を打つ。俺の指示通り、馬車は前方へ急加速をしたのだった。

 

 



[25676] 貴族な勇者様13
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:1904a605
Date: 2012/04/20 08:26
  貴族な勇者様13

 

 

 ボランティア(無償奉仕)は非常に有難い行為だ。

 通常なら見返りに発生する賃金を計上する事無く労働力を獲得する事が出来る。財布を開かずに事を成せる素晴らしさよ。

 流石に自領民と同程度に扱き使うのは問題になるが、それでも人手が増えるのは助かる。名ばかりのタカり野郎でなければ大歓迎だ。

 さて、此処まで考えて見るとボランティアは受ける側としては是非にと飛び上がりたくなる程嬉しいが、果たしてどれだけ信用出来るものだろう。

 天災や飢饉によ災害に駆け付けるのは分かる。同胞を救いたいという思いは集団社会の一員として芽生えるのは自然な事。

 だが、その危機が人工的な場合としたらどうだろう。例えば強盗・誘拐・殺人など、下手すれば能動者の生命に関わる場合は。

 普通の人間ならばまず遠慮するんじゃないか。自らを天秤に掛けてまで他人を助けたい、そこまで行くと気分が良いというより気味の悪さを覚えるのは不自然だろうか。

 自殺願望があるとか極度の被虐主義なら分からなくもないが、真っ先に行き着くのはそいつの人格への疑心。

 偽善とは正に歪みの極致である。勇者と言う名の人柱に進んで志願する連中は得てして心が壊れているものだ。

 欠陥品が辿る運命はご存知の通り。破滅を避けるには身の丈を知る事が何より重要なのだ。が、この時代ではそういう現実主義は嫌われるものらしい。

 

 

 アリアハン湾岸を抜け、他大陸に向けて舵を取る船中。

 目的地までは最速でも一週間近く掛かる長旅だ。青空と澄んだ海原に目を奪われるのも初めの内で、乗船者は如何に暇を潰すか模索する様になる。

 「いやぁ、本当に助かりました。何とお礼を言えばいいか・・・」

 「いえ。これも勇者として当然の事です」

 何度も頭を下げる男の肩を、遠慮するなと叩く女。素直に年下へ礼が出来るのは褒められたものだが俺の内心は全く晴れない。

 俺はボーイに運ばせた料理を平らげた後、食後のワインを喉に流し込む事を延々と続けていた。今日は自棄に酒が不味い。

 「お兄さん。それ、美味しいの?」

 やたら絡んで来る餓鬼もウザい。黙れと一睨みくれてやった後は存在そのものを無視している。

 何故に俺が平民と同室しているのか、奴らが高級船に乗り込めたかと言えば、そこの馬鹿執事が色気を出した以外に有り得ない。

 「何時まで不貞腐れてるんだい。こっちで一緒に飲もうよ」

 手招きする執事は俺の命令を無視しただけでなく、主を危険に晒すという従者としては最低の選択をした。

 馬車から覗いた魔物共の胃袋に入る予定だったのがレイと飲んでいる親父プラス足下の餓鬼。無視して直進すれば良いのに態々Uターンしやがった。

 勢い良く群れに突っ込んだと思ったら「呪文の準備をして」だぜ。化物が猛スピードで迫ってくれば生存本能に従わざるを得ず、咄嗟に疾風を巻き起こしてしまった。

 それが引き金となった。今迄は獲物を嬲る狩猟者だった魔物は全力で打ち倒す敵として俺を再認識し、元のターゲットなど忘れた様に飛び掛かった。

 仕方無く剣を抜いて、隣の反逆者に指示を出そうとした俺が見たのは平民共の手を引いて戦場を離れる執事である。魔力が奔流が荒れ地を更に不細工にしたのは言うまでも無い。

 「てめえの処分は追々決めるとしてだ」

 俺の心情を知った上で尚も唇を歪ませる女の制裁は後にして、今は部屋の空気を汚す塵を分別するべきだ。

 グラスを置いてナプキンで食事の汚れを落とし、厚かましくも貴族の私室に居座る畜生に目を向けた。

 「過ぎた事を言っても意味がないがな。てめえらは何で護衛の一人も付けずに彷徨っていた。今は戒厳令が敷かれてる事は知っている筈だ」

 結界が弱まった事でアリアハン各地の魔物は力を増している。最高レベルの警備が配置された王都周辺すら一人歩きは厳禁だった。

 平民が襲われていたのは港より少し離れた荒野。湾岸防備隊の他はほとんど人が割かれていない、言わば穴。喰い殺されても文句は言えない。

 流れの商人だろうか。それにしては軽装過ぎるか。島国のアリアハンに行商に来るには船を漕がねばならない。傭兵を連れて来ない訳が無かった。

 「えっ、戒厳令ですか? 済みませんが聞いてないですねぇ・・・。何分、田舎から出て来たばかりでして」

 「そいつは不運だったな。ちなみに何処から?」

 「アニス。小さな小さな村ですよ」

 淀みの無い返答。アニスはアリアハンでも最小の村だ。ド田舎オブド田舎として有名で、赴任したくない土地第一位でもある。

 あんな僻地じゃ伝達が遅れる理由も納得が行く。一応の説得力はあるか。

 男の顔を眺めても如何にもお人好しといった感じしかなく、一見何の変哲も無かった。

 「何処へ行くんだい。いい加減に機嫌を直したら?」

 「これ以上平民と同じ空気を吸ったんじゃ肺が腐っちまう。暫く出歩かせて貰う」

 背に掛けられるハスキーにぞんざいに応え、木製のドアの鍵を外した。

 帰って来るまでに追い出しとけよと残して隙間に身を滑らせる。何となく、喉に魚の骨が引っ掛かっていた。

 

 部屋を出てから真っ先に向かったのは船長室。軽くノックをして入室する。

 「おっさん、ちょっと聞きたい事が――御免なさい」

 タイミングを誤ったらしい。今度からはちゃんとアポを取る事にしよう。

 どれだけ行為に時間が掛かるか分からないので一服するか。懐には実家から持ち出したとっときが何本かある。

 曲がり角を進んで甲板への階段を踏もうとした所で、「待って下さい」と切羽詰まった声を背に受けた。

 「僕に何かご用でしょうかホモぺド野郎」

 振り返った先にいた変態は、上半身裸で汗まみれに荒い息とどう見てもご休憩の最中だった。あるいは事後かも知れないが。

 ゴキブリを見る様に口を手で覆って距離を取る。特異な嗜好を持つ連中には慣れてはいるが、ホモに加えてぺドとは手の施しようがない。

 俺はこんな屑に命を預けているのか。今度からは別の業者に乗り換えなければなるまい。取引先のリストから変態事業主の名を削除しようと誓う。

 「違うんですよこれは。魔が差したと言うか、偶にはパン以外の物を食べたくなったと言うか。詰まりですな・・・」

 浮気現場を押さえられた男はこんな感じになるのだろうか。実際この男には妻子がいた筈であり、ショタ相手でも不貞になるのか。

 それを指摘すると船長が垂れ流す汗は一層勢いを増し、脱水症状を引き起こす寸前までになる。嫁さんに告げ口しない見返りに、往復の旅費をチャラにする約束を切り出したのは船長からだ。

 「乗客名簿ですか?」

 乗り込んだ客船は完全予約制。目的地次第で期間が一月になる事もあり、衣食住を賄う側としては客にもそれなりの代償を求める。

 俺の様な常連の会員なら話は別だが初物には敷居が高い。年齢・職業・家族構成から犯罪歴、趣味と根掘り葉掘り個人情報を提出しなければならない。

 この手続きが大変面倒で、豪華遊覧の旅を諦める者も少なくない。俺の水準からすれば全然普通だけども。

 一方でリスクに見合った安全は約束される。乗組員は超が付く一流所が集まっており、海を余す事無く知り尽くしている。待機する傭兵も一線級ばかりだ。

 万が一の事態が起こっても解決出来る面子が揃っている。乗客に武器の携帯を許さないのも自信の表れだろう。

 だが俺の辞書に安心の文字は無い。常に億が一を頭の隅に入れて初めて腰を下ろせるのだ。熟睡するには未だ、拭い去る箇所が残っていた。

 「応よ。現客リストは手元にあんだろ? 物々しい黒服に渡した奴の原本が」

 船内には華美な衣装で固めた成金達に混じって厳つい野郎共がそこらに存在した。

 堅気の人間と思えない眼光は、一般人にはまず気付けないだろうがフナムシ一匹逃すまいとギラついていた。

 俺まで疑うのは不愉快の極みが良い心掛けだ。毎年顧客満足度トップ3に食い込んでいるのはこういった細かい積み重ねがある。

 「申し訳ありませんがアルス殿、ウチにも守秘義務ってのがあるんですよ。信頼があるからこそパーソナリティを晒して貰える訳で」

 そんな船の親父だから、反応も予測できた事である。先程の変態性が微塵も感じられないカリスマ社長振りが窺えた。

 ダンディーな顎髭を蓄えたその様は威厳に満ちていた。船員一人一人が独立出来る力を持ちながら、被用者に甘んじている最大の理由はこの男なのだろう。

 それだけに残念であった。俺に弱みを見せてしまったばかりに、創業時におっ立てた企業方針を破らせてしまう事が。心苦しくはあるけど仕方無いよね。

 「ですから――「浮気」何でも言って下さい! お客様に満足して頂く事が最高の喜びですから!!」

 地位や名誉は時として人を狂わせる。半泣きでファイルを取り出す男の背中からは哀愁が漂っていた。

 

 丁寧に記録された帳簿を追っていく。万単位の金を毟り取るだけあって並んでいる名前は錚々たるものだった。

 各国の大臣クラスに上級貴族、やたら長ったらしいのは王族だろうか。税金の無駄遣いをしてないか心配になったが、自国の官僚が含まれていなかったので良しとする。

 それだけに怪しい。地方の田五作が一生費やしても稼げない運賃をどうやって賄った? 単なる好奇心を超えた何かに突き動かされページを捲る指は止まらない。

 アニスアニスアニス。独自の文化を育んだアリアハンの地名は特徴的なので被る可能性は低い。国名は省いてANの頭文字を探し出す。

 「クラーク、クラゴ・・・。出身地はアニス、こいつか」

 結局最終頁まで進まねばならなかった。アリアハン、クラークで最後って事は、ファイルのソートは予約順なのか?

 それに気掛かりがもう一つある。こいつらの直前に俺の名があったのだ。

 客を選ぶがこの客船の人気は相当高い。権力で無理矢理捻じ込んだ俺と違って唯の金持ちは厳正な審査と抽選を潜り抜ける必要がある。

 1週間前に席が埋まる事もざらだ。予約順としたら、前日に連絡した俺が最後で無ければおかしい。

 「船長。最後のクラークって奴だが、何時頃申し込んで来たんだ? とても優遇するメリットは無いと思うが」

 「――あ? はいっ、クラークさんですか? 少々お待ちを!」

 打ちひしがれて呆然とした船長は少し遅れて戸棚を漁り、別の資料を手に取った。俺に渡したのより更に分厚く、より詳細な情報を綴じ込んでいるんだろう。

 温くなった茶を飲みつつ待つ事数分。おっさんが指差した箇所に記された一文を見て、カップを取り落としそうになった。

 俺は口内の液体をぐびりと飲み下して、ポケットから数百枚の小紙束を取り出した。

 「この船の見取り図はあるか」

 資料にはこう記録されていた。申込者の死亡に伴うキャンセル枠での繰り上がり、と。慈善なんてするもんじゃないと改めて思った瞬間だった。

 

 

 



[25676] 設定とか色々
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2012/04/17 08:32
  設定とか色々





 豆知識

 

 

 魔の者

 魔物と魔族を含めた魔王軍サイドの総称

 

 

 魔物

 所謂モンスター。攻略本参照。

 E級からS級に分けられる。アリアハン周辺のクラスはE級。

 

 

 魔族

 魔物を統括する支配階級。半端無く強い。

 

 

 冒険者

 各国のギルドに登録された何でも屋。

 主な任務は遺跡の調査や魔物の討伐等。

 

 

 傭兵

 魔の者や賞金首を狩る事に特化した戦闘者。

 E級からS級に分けられる。S級は低位魔族とガチで殴り合いが出来る程。

 

 

 フェリクス家

 アリアハンに数ある貴族の中でも名門中の名門。

 歴代当主は例外なく国政の要職に就く。先代当主の急死後は、孫のアルスに引き継がれている。

 

 

 結界

 魔物の進攻を食い止める為に構築された聖障壁。

 これにより一定階級以上の魔物の侵入を防ぎ、力を奪う効力もある。

 地域差があるが、魔族の本拠地に近付く程精度が落ちると言われている。

 

 

 

 オリジナル魔法

 

 

 アタカンタ

 有効範囲 自分一人

 消費MP:10

 アルスが創作したオリジナル魔法。

 物理攻撃を100ポイント前後遮断する。アルスの調子次第では200位までは拡大可能。

 

 

 魔法剣メラミ

 有効範囲 対象一人

 消費MP:12

 刀身をメラミでコーティングする。

 膨大な熱量を得る事が出来るが、生半可な武器では忽ちに溶けてしまう。

 

 

 魔法剣バギマ

 有効範囲 対象一人

 消費MP:12

 刀身をバギマでコーティングする。

 風の力を借りて空気抵抗を抑える事が出来る。

 

 

 

 人物紹介

 

 

 アルステット・フェリクス

 外道勇者。

 名門フェリクス家当主にして侯爵位の大貴族。

 規格外の魔力と魔術センスから鬼才【フェノメーノ】と評され、同業者の嫉妬と羨望混じりの視線を向けられる。

 古典派(貴族絶対主義)の急先鋒。貴族以外の人間、平民を徹底的に見下す。

 それは家族に対しても同様で、平民出の父や妹に対しても悪辣な態度をとる。

 只今パーティー募集中。

 

 ステータス

 LV:20

 HP:100

 MP:300

 装備

 ミスリルの剣 切れ味だけでなく、魔術伝導率も抜群に良い。

 貴族の服 高級素材をふんだんに用いて造られた服。意外と丈夫。

 貴族の靴 意匠が施されたブランド品。やはり丈夫。

 サークレット 幼少時より身に付けており決して外さない。

 戦闘タイプ

 剣士としてより魔術師としての素養に優れる。

 魔術のレベルは既に大魔導師クラスに達している。

 特技:魔法剣

 何となく出来そうという理由で編み出し、数多の剣士や魔術師を絶望させる。

 得意技

 イオ系(一度で敵を殲滅出来るから)

 

 

 アリア

 正道勇者。

 赤子の頃、オルテガに連れられて家に入った養子。

 天賦の才と努力を重ねた結果、剣姫【セイバー】の二つ名を与えられるまでになった。

 魔術の素養がゼロの為、身体能力の強化は仲間頼みとなる。

 選民思想に塗れた兄とは違い、民を憂える事の出来る人格者。

 父の後継として期待された兄が貴族様様の為、代わりに勇者としての道を歩んで行く事になる。

 現在、打倒バラモスの為に冒険中。

 

 ステータス

 LV:18

 HP:150

 MP:0

 装備

 鋼の剣 名工によって鍛えられた逸品。

 鋼の盾 限界まで軽量化した盾。

 鋼の服鎧 鋼糸が編み込まれた服。

 ブーツ アリアハン製の軍靴。

 戦闘タイプ

 純粋な戦士。

 剣士としての技量は超一流。

 彼女と十合も打ち合える人間はアルスを含めて極少数。

 特技:超剣技

 極限まで練り上げられた剣術はそれが既に必殺技。

 

 

 レミィ

 ツンケン魔術師。

 平民出身ながら、王立アカデミーに推薦入学を果たした才女。

 体術はからっきしだが、魔術の才能はピカ一。魔女【ウィッチ】は彼女のあり様を見事に表している。

 基本的に他人と距離を置くが幼馴染のアリアとはとても仲が良い。

 現在、打倒バラモスの為(正確にはアリアと居る為)に冒険中。

 

 ステータス

 LV:15

 HP:60

 MP:130

 装備

 祈りの杖 常時、一定量の魔力を集める杖。魔術師の必需品

 防護衣 魔力を練り込まれた衣。対魔力が高い。

 ウィッチハット 魔女と言えばこれ。

 ロングブーツ 太腿まで履くタイプのブーツ。

 戦闘タイプ

 典型的な魔術師。

 魔力量・知識は同世代でもトップクラス。

 中級の魔術は網羅しているが、回復呪文は使えない。

 特技:高速詠唱

 ある程度の工程は飛ばして発動可能。但し、威力は落ちる。

 

 

 アルストロメリア・ヴァレリオ

 アリアハン大将軍。

 名門ヴァレリオ家当主で、国内の軍事を統括する公爵位(貴族の頂点)を王より戴いている。

 穏健派貴族の中心人物で貴族制度の改革に信念を燃やす。

 アルスの名付け主。

 

 

 レイ

 フェリクス家第二執事にしてアルスの専属。

 常に燕尾服を身に付けるプロフェッショナル。

 

 以下、随時更新予定

 

 


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