その日も、俺は悪夢を見た。
「ここが最終ボスか……いくぞ!みんな!」
(中略)
「エンダアアアアアアイヤアアアアア!」
――ガバッ
……夢か。
俺はいつこの悪夢から解放されるんだ……。
こういう時は狩りだ。狩りで気を紛らわそう……。
……ふう。
今日も半分ぐらいはノルマ終わったな。よしよし。
やはり気分転換には狩りに限る。
いつもどおり、レアモンスターを狩り、ひと通り周りの敵を掃除したら、
空に飛ばしたゴーくんの視界ジャックを行い、マップをサーチ。
「さて、レアモンスターはそろそろポップしてないかな……」
眼下に広がる真っ暗な闇。その中に、いろんな形のモンスターが存在する。
ここは高い木や岩に囲まれた荒野のマップ。
モンスターは自然動物タイプだが、象やキリン、サイやカバなど中型が多い。
うん、あいつらは中型になる。
ドラゴンとかがいる世界だから。大型ってのはああいうサイズ。
このマップの特徴は、とにかく広さだ。バカっぴろい。嫌になるほど広大。
SAOの広いマップは小山ぐらいあるのもあるしね。
レアモンスターがいるものの、遭遇するのは至難の業。
いや、レアに限らない。普通のモンスターも無駄に大移動するため、
モンスター自体は報酬高いにも関わらず、遭遇時間を考慮すると狩り効率が悪いマップなのだ。
ちなみにレアはもぐら型モンスター。DQでいうとメタル的なアレに相当する。
が、普通にさがすと見つけるのはかなり至難だ。地面に潜ってるし。
遭遇率はWeb小説で全く無条件で小説を読んでみたら、偶然神作品だった、ぐらいの率だ。
絶望的。
しかしそれも俺にとっては独占できる条件にしかならない。
真っ暗な視界のなか、オーラの形を読み取り、人を避け、モンスターをチェックしていく。
すると、奇妙なものが目に止まった。
(ん……?)
「どしたよ?猫サン」
一緒に狩りをしている漆黒が話かけてくる。
「いや……なんか、弱ってる人がちょっと離れたところにいる」
人……?
ここから少し遠い距離だが、人が戦っている。
いや、それ自体は問題ない。
問題は、その人物が全く場所を移動していないことだ。
ここのモンスターは突進型が多く、移動しないで戦うのは無謀。
なにより、オーラの光り方が弱い。
そして、ゾウ型モンスターのオーラと重なり、さらに弱くなった。
……しかも、周りにはさらにモンスターが集まっている。
もしかして……だが。
「これやばいかも……死にそう、かもしれん。麻痺とか」
「マジかヨ?どーすんだヨ?」
なんらかの事情で動けないとか。
確かにここに麻痺型モンスターはでる。
極稀に、木にハチ型モンスターが巣を作っているのだ。
周りが結構大きめの敵が多いだけに、つい見落としてしまうんだよな。
……ってそれどころじゃない。
本当に死にそうなら、決断しないといけない。
見捨てるか、助けにいくか。
どうする。見捨てても、デメリットはない。
助けに行った場合、名前を晒す可能性がある。
助けに行って心を傷つかせるなんて洒落にならん。
……って悩んでる場合じゃねえ。
人死なんて見過ごすほうがよっぽど精神にクリティカルだ。
「いや、いくぞ。細かいことは走りながら考えよう」
「アイアイサー!」
俺たちは既に駈け出していた。
漆黒だけいかせるという手もあるが……俺のほうが敏捷値は高いし。
時間的に見て、俺しか届かないということは充分にありえる。
……一応対策はあるしな!
名前を見せずに助ける方法を俺は既に、考案したのだ。
漆黒の事件からね。学習する男と呼んでほしい。
オーラの位置を確認し、爆速で走り抜ける。
一応、今のうちに対麻痺瓶も飲んでおこう。
漆黒にも注意しておかないと。
「あ、分かってると思うけど、くれぐれも言っておくけど、俺の名前と存在は絶対に出すなよ!
ていうかお前自身もあんまだすな」
「えー……まあ、分かったけどヨー」
漆黒が意外そうにかつしぶしぶと頷く。
意外そうな顔してんじゃねーよ!言っといてよかったぜ全く。
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第八話 「危うく死ぬところだった」
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瀕死のプレイヤーが視界に入る。
視界にフォーカスされたことで、標的の体力が映しだされる。
「おい漆黒。俺はモンスター始末してくるわ。お前はプレイヤーの保護と説明を頼むぜ。
麻痺はとかなくてもいい。下手に追われても面倒だからな。
回復させて適当に安全になったら、麻痺切れる前に切り上げて帰るのがベストだな」
「任せとけヨー!」
本当に大丈夫かな……。ちょっと高難易度な指示をだした気がする。
素直に回復させて即逃げしろのほうが……。
いや、悩んでても他に代案を指示する時間がない。
プレイヤーはかなりヤバイ、体力がレッドゾーンだ。
明らかにソロ。その上予想通りに麻痺。麻痺状態を示すカーソル点滅。
……ここからは、迅速さ、そしてコンビネーションが要求される。
漆黒に説明を任せるのは不安だが、万一を考えると俺自身がやるわけにもいかない。
俺はバレたら外こもり加速するが、漆黒自身はあいつはバレても気にしないしな。
俺の役目はモンスター排除……。
まずは……あのゾウもどきの排除だ!
プレイヤーのほうは、あと、1,2発で死んでしまう!
フードを深く被り、俺も突進する。
間に合えよおおおおおおお!
(うおおおおおおおおお!)
「アクセラレイド・パニッシュ!」
ドッカァアアア!!
十分な加速をつけた、槍の一撃が横腹から突き刺さる。
速度が上がるほどに威力が増すそれは、高いLVもあいまり、耐久度だけは高いここのモンスターであろうとおかまいなしに
モンスターごと体力を一気に全部吹き飛ばし、当座の危機を救う。
フッ、加速しながらもピンポイントで一点を貫かないと効果が薄いから結構難しいんだぜと自画自賛。
だが、周りにはまだたくさんのモンスターがいる!
プレイヤーからは絶対に顔を見られないよう、背中を向け雑魚を掃除しはじめる。
ま、プレイヤーを守ろうとすれば自然とこういう配置になるけどね。
サイが数体か……ゾウすら一撃で粉砕する俺の火力の前では甘い。
大体、モグラを狩りにきてるんであって、俺の適正LVはここをはるかに超える。
戦いはすぐ終わった。
よし……あとは俺がダッシュで立ち去って、漆黒の説明と帰還を待つだけだな。
待つだけなんだが……。
チラリと漆黒を見る。俺より敏捷値の遅いあいつは、ようやくこの場に追いついたらしい。
プレイヤーも漆黒のほうに視線を移したようだ。
……気になる。
立ち去る振りして、ちょっと話を聞きに行くか……。
俺は木に寄りかかってるプレイヤーの後ろの方へ交差するようにダッシュで立ち去る……とみせかけ
隠蔽スキルを最大限にいかし、こっそりと再び彼らの近くの茂みまで戻る。
あっちからは隠蔽スキル&茂みで見えず、音も結構届かないはずだ。
逆にこっちは聞き耳スキルのおかげで割と届く。
しかし、俺とフレンド扱いになってる漆黒が早速俺に気づく。
フレンドは同じエリアにいればマーカーでるからね……。
「あれ?猫サン、帰るはずジャ……」
(うわ!バカ!やめろ!お前がちゃんと保護するか見にきただけだ!
俺には一切話かけるな!視線も飛ばすな!)
焦ってWisメッセージを飛ばす。
「猫?」
うわ、この声……。女プレイヤーか。俺の位置からじゃ顔みえないんだよな。
男装……というわけでもないけどズボン系装備だから気づかなかったぜ。
最悪だ。もし俺の存在がバレたら、男以上に俺を拒否し、蔑んだ目でみるだろう。
嫌だ……俺にM属性はないぞ。
「いや、何でもないヨー」
「そうか……いや、ありがとう。危うく生命を落とすところだったよ」
「いえいえ、どういたしましてだヨー」
「本当に助かったよ。さっきの彼も君のPTメンバーか?」
「そんなのいなかったヨー」
「いや、君の目の前にいたプレイヤーだが……」
「きっと幽霊だヨ」
「いや、現にモンスターが彼によって倒されてるんだが……」
(おい、存在を言うなってそういう意味じゃねーよ!
明らかに見えてるものをいないっておかしいだろ。訂正しとくんだ漆黒)
「ゴメン、やっぱ生き返ってたヨ。その人は実在したヨ!」
そういう訂正じゃねぇ……。
でもこれ伝えたら、またやっぱり死んだヨとかいいそうだからやめておこう。
「……まあいい。彼の名前はなんていうんだ?」
「そ、それは言えないヨー」
あ、バカ。
「言えない……知らないんじゃなくてか?やはり知り合いなんじゃないか?」
やっぱり突っ込まれてるし……。この女バカじゃないな。
「そ、そういえばどう呼べばいいか聞いてなかったヨー。どういうんだヨ?」
その場で声をあげるな!くそ、確かに代替名を伝えなかったのは俺のミスだったか。
しかしWisで声を届けるオンリーというのもややこしいな。
「……ふむ、浅い仲なのか」
あ、でも勘違いしてくれたかも。ラッキー。
でも、絶対何らかの関係があることはもう確定してるだろな……。隠すだけ無駄か……。
「で、なんという名前なんだ彼は」
(漆黒、もういいから、なんか適当に名前あげとけ。
ありえない名前なら……いや、ありえない名前のほうがいいから。
俺が絶対に選びそうにないやつな!)
「え、えっと……『漆黒闇聖闘士†炎の吹雪(FireSnow)』だヨ!超カッチョイイていってたネ!」
「ブハッ」
このタイミングで吹くのをこらえた俺はマジ奇跡。俺の腹筋が危うく死ぬところだった。
ちなみに上の吹いたのは女のほうだから!
つーかおい、ふざけんな!
確かに俺が絶対に選びそうにない名前だし、おもいっきり
「ありえない」ともいった前科がある名前だけどそういう意味じゃねーよ!
しかも超カッコイイと思ってるという設定まで付属されてしまったぞ。
俺の黒歴史が勝手に追加されていく。
(おい、漆黒、その名前だけはやめろ。おかしいだろ!)
「サイコーなのに……」
(お前にとってそうでも俺に取っては違う!)
「そ、それは本気なのか……」
「勿論だヨ!すげーカッチョイイヨ!本気だヨ!」
(そっちの本気をきいてるんじゃないから。というか意味合い的には正気かという意味だ)
「そ、そうか……変わってるな……」
(おい、女が納得しかけてるぞ!今なら間に合う、その名前を訂正するんだ)
「いや、そういえば『†』は前と後ろにもついてた気がするヨーそっちのほうがさらにかっこいいカモ?っていってたかモ」
(そういう訂正じゃない!お前の名前付けの装飾はあれで充分だ!)
「いや……私にはちょっと……なんだそのセンス……」
(ほらどん引きしてんじゃねーか。
つか女もそこは食い下がれ!諦めるなよそこで!
なんかなしくずしに確定してしまったじゃないか!
あ、でも間違ってはいないのか?)
「ちなみに……君の名前はなんというのだ?」
「ちょ、ちょっと色々しゃべりすぎヨー!セッシャは阿修羅じゃないヨー。切っちゃうネ!」
(あ!おい!そこは聖徳太子だろ!)
阿修羅も確かに顔三つあるし、似たようなことできるだろうけどさ!
つかやべ、Wis拒否モードに入りやがった。確かに二重音声で会話なんて無理か。しまった。
やばい……漆黒がコントロール不可能になってしまった。大丈夫だろうか。
「そんなに畳み掛けたか……すまなかったな」
「いやいや、気にしないデいーヨ」
「で、あらためてきくが……君の名前は?」
「お尋ねモノは自分から名乗るのがマナーネ!」
そんな便利なお尋ね者がいたら、警察も楽でしょうがないな。
「……私はお尋ね者ではないが、まあいい。
私の名前は、桜花(おうか)という」
桜花(おうか)ねえ……聞いたことある気が……あるような、ないような。うーん、やっぱ知らないな。
多分漆黒も知らねえだろうな。
「おうか……ならば……貴様らに名乗る名はナイネ!」
……漆黒。それは、悪人相手の名乗りだ……。
その上、相手は一人だ……。
もう一つ突っ込むなら、自分の名を隠すぐらいなら、俺の名を隠して欲しかった……。
いや、隠れてるといえば隠れてるけど。
「……私の事を知ってるのか?」
「答える義務はないヨ」
女、良い事を教えてあげよう。
漆黒は「ならば」といったが、意味なんて絶対無い。
本気で知らないと思うぞ。
「いや、お礼もあるし、是非教えて欲しいのだが」
「フッ……もう二度とあわない者にかヨ?」
おい、言い方が物騒なんだが。
確かに二度と会うつもりはないけど。その言い方は誤解を招く!
女が今にも死にそうなだけに。
ていうか、回復してあげろよ。俺も指示がのびのびになってたけどさ。
「……。私に、何かするつもりか?」
ほら、なんか空気が剣呑になったぞ。無理も無いけど。
女も、現在進行形で麻痺中でしかもHPがレッドゾーンということを思い出したらしい。
俺はこめかみを片手で押さえる。なんか頭が痛くなってきた。
「フフ、当然ネ。しびれて動けヌ女性を男が見かけたら、することは一つネ」
先生!頭痛が痛いです!クラクラしてきた。誰か俺を助けてくれ。
ああ、間違ってない。確かに間違ってないが、間違ってる。
きっと漆黒はヒーロー的意味でいってる。でも日本語は難しいんだ!
「ほう……どうする気かな?」
「もちろん、すぐ楽にしてやるネ。天国いっちゃうかもヨー」
誰か通訳を!
漆黒の日本語を日本語に通訳する人を呼んでください!
どうみても変態的意味にしか聞こえない。
ヤバイ。空気が重すぎる。ただ回復して保護するだけなのになんでこんなことに。
「知らないのか、私に触れればハラスメント警告がでる。
いくら麻痺といえど、手首ぐらいは動くぞ」
「出ないようにする方法なんて、いくらでもあるヨ。
抵抗は無駄だヨー。諦めるヨー」
そうだ、こいつへの抵抗は無駄だぞ。いろんな意味で!
「……くッ。おのれ……変態め……」
「変態じゃないヨ!仮にそうだとしても、紳士でもあるヨー」
つまり、変態と言う名の紳士だな。間違いない。
いや、漆黒がやろうとしてるのは間違いなく普通の紳士的行為だが。
「そういや、どうして自力で回復しないんだヨ?」
ほう、漆黒にしては良い事を聞く。確かに気になるところだ。
「マゾか何かかヨー」
所詮は漆黒か。見直した俺がバカだった。
いいか漆黒、マゾは褒め言葉じゃないぞ。あとで教えてやる。
「まあそういう人は慣れてるけどヨー」
いや今教えよう。コイツを殺すことで。
「誰で」慣れてると言いたいんだおい。
「それこそ、私が答える義務は……」
「あ、分かった!あの遠くにあるアイテム袋だヨ!きっと使おうとして吹っ飛ばされたとみたヨ!」
「くッ……」
うお、こういうときだけなんて無駄に勘のイイヤツ。
おそらくそれで正解だ。
女のほうは知られたくなかっただろうなあ。命綱が……。
漆黒は、そのアイテム袋を拾いに行き、拾って戻ってきた。
「フッフッフ、これで謎は全て解けたネ。じゃあ、お待ちかねの時間ヨー」
「もう少しで、私のギルメンがくるぞ……」
女が脅す。だが漆黒は気にしない。俺は気にする。
「関係ないヨー」
サクリ、サクリ。
漆黒がゆっくり歩いて近づいてくる。
女が、なんとか手を伸ばして触ろうとするが……。
「邪魔しちゃダメヨー」
漆黒はするりとかわし、女の胸元へ手を伸ばす。
そして。
「ヒール!!」
回復結晶を使った。……ふう。やっと使ってくれたか。
もとより危険は排除しおわってたけど、これでとりあえず一安心だな。
「……え?」
「はい、これ袋だヨー。もう落としちゃダメネ。誰かのようにきつく縛りプレイしないトー」
「……は、あ、どうも……」
女はポカーンとしていたが、ようやく状況をつかめたらしい。
自分のHPバーやアイテムを見比べる。
HPは全快。麻痺も回復。アイテム袋も手元に。
っておい、漆黒の奴、全回復結晶を使ったのかよ!麻痺も治ってるし!
麻痺だけはどうせもうすぐ直るし残しておいても問題ないのに。逃げやすいから。
「……あー。助けて、くれたのか」
「拙者は武士だからネ!」
親指をたてて返す漆黒。
それはいいが、さっき紳士ゆーてなかったか。
「あーなんだ……。いわれてみれば、ああ……。
そういうことか……」
「頭おさえてどうかしたヨ?頭悪いかヨ?頭おかしい?頭大丈夫かヨ?」
「……」
悪いのはお前の頭で、おかしいのはお前の日本語で、色々大丈夫ではない。
あ、なんか女のほうから、こいつは真面目に相手するだけ無駄かも、っていうオーラを感じる!
その直感は正しいぞ。
できればもっと早く気づくべきだった!
「……まあ、いい。うん。ありがとう。お礼をせねばな」
「ハッハー見返り美人カヨ?そんなの武士の情け無用ネ!」
見返り美人はそういう意味じゃないぞ、漆黒……。
「そうか……。さっきの彼も同じということかね?
漆黒闇聖なにやらという名前ということだが……」
「シャイなんだヨー」
おい。まあ間違ってない……のか?
「美人の女の子には特に弱いんだヨー」
確かに弱い。弱いの意味が違うけど。蔑み的な意味で。
というかあの女の子は美人なのか。俺の茂みからじゃほぼ真横だし遠いしで見えないが。
「ほう……おだてても何もでないぞ。
人前にでれない理由ならいくつか想像つくが……
まさか、良く見えなかったがオレンジ(犯罪者カラー)かい?」
「まだ違うヨー」
おい、『まだ』はいらないだろ。未来永劫ねえよ。
お前を殴ってなる可能性以外。
「彼は名前の通り闇に生きて闇に死ぬ定めなんだヨー。
ミステリアスな拙者と同様、何も聞かないでほしいヨ」
俺がどんどん痛い子になっていく。
いやこの場合、漆黒が痛い子になっていくのか?女視点的には。
まあそれならいつものことか。
「ふむ……まあいいか。それより、少し話し相手になってくれないか?
私もソロでね。ちょっと退屈していたんだ」
「おー……?
うーん……。まあちょっとならいいけどヨー」
……え?
あれ、そういやさっき、ギルメンくるとかなんとかいってなかったか。
ちっとゴーくんで周りを見てみるか……。脅しだとおもってたが……。
ゲ。
なんか4人ぐらい固まってきてるぞ。こっちに見事に一直線に。
これギルメンじゃね?これだと後……数分で到着するな。
まずい。漆黒を4,5人もに囲ませたら、いや、このまましゃべり続けるだけでボロをだしかねんぞ。
なんだかんだで用件も済んだし、撤収させるか。
……女は、未だに木によりかかってるな。
よし。
俺はダッシュで木の後ろに素早く、かつ迅速に位置取る。
同時に、ロープをポーチから引きずり出し、女を木に縛り上げる。
「!」
女がびっくりしてるうちに、次はスカーフだ。
目隠しするように、頭に巻き付ける。
女がもがく。ほんの少しの時間で縄が耐久度を使いきりちぎれるだろうが、それで充分だ。
「あ、ねこ……えーと、超カッコイイ漆黒さ……」
「黙ってろマジで。去るぞ」
漆黒の腕をつかみ、全力で爆走。
来たときと同じように、俺達は一瞬でその場を離れた。
――――――
――――
――
……むう。
私は後悔していた。
「逃がしたか……。まさかまだ近くにいたとはな」
縄を引きちぎり、スカーフを取り外す。
1分程度で終わったが……。
だが、余りにも致命的な一分だった。
何か彼らが会話したと思ったら、そのまま足音が遠ざかり……。
そして、自由になったとき、視界には何もなかった。
油断した……。そう黄昏る私に、また新たな足音が響く。
それと、温かい声と。
「おーい、無事かー!」
「桜花サーン!無事でしたかー!?」
「桜花ちゃーん!」
「桜花……!」
「リーダー……、みんな……ああ、無事だ」
「もう、メールも全然返事ないしー心配したんですよ?」
「ほんとだっつーの」
「悪い……。実際、本当に危ないところだったよ。人に助けてもらわなければどうなっていたか」
「マジかよ。あぶねーなあ」
「ああ。ただ、その人達はろくに名も告げず何も受け取らず去ってしまってな。
相当高LVというぐらいしか分からない。だが私としては、是非捕まえて礼をしたい」
「何、そういう時のための、俺らだろ。それに、大事な嫁のためじゃん?頑張るのは当然よ」
「そうです!そういう人にはお礼しないと!そのための私たちのギルドですよ!」
「そうだよ。桜花ちゃん、私もさがすよー」
「探す……」
「すまんな。でも、リーダー。こんな時ぐらい、気を抜いてもいいんだぞ」
リーダーにはいつも負担をかけるな。我々全員がもっとしっかりしてればいいんだろうが。
こんな死の危険を感じるようでは全くダメだな。
「違ーよ、こういう時だからこそじゃん。いざというときは、普段がものをいうのさ。だから嫁さんよろしく頼むぜ」
「分かったよ。我らが旦那様、じゃあ、是非協力を」
「ふふ……頑張りましょう、桜花さん。旦那様」
「旦那様……と」
「おう、我ら『情報ギルド』<<ヴァルキリア・ナイツ>>の権威にかけて!探してやるじゃんよ!」
何、あれを一撃で倒す強さとなると、攻略組クラスに限られる。しかも上位層。
さらに両手の長槍使いとカタナ使いのコンビとなれば、もうほぼ特定といっていいはず。
一応片方の名前も聞いたしな。身長も両方大体分かった。
その上、あの妙なウザさだ。きっと目立つ。
そう難しい仕事にはならないだろう。
情報ギルドは貸しを作ることは好きでも、借りを作る事は好まない。早めに精算しておこう。
それが、私たちの生き方なのだから。
――――――
――――
――
「ヘックシッ!」
「ど、どうしたヨー」
「いや、なんか悪寒が……」
「ホームシックかヨー」
「ちげーよ!そのおかんじゃねえ。いや、おかんはきっと噂してると思うけど。
それで悪寒は覚えねえよ」
そーいや、家はどうなってんのかな。
頼むから、ゲームネームが現時点で分かってるとか無しでお願いします。
そんなんが伝わってたら、家に帰ってからもデスゲームが継続されてしまう。
「ちょっとあんた、おはなしがあるんだけど……」
い、嫌だ!名前について家族会議なんて死んでしまう!
はっ、さっきの悪寒はもしやこれか!?
ああッ、忘れたいのに勝手に黒歴史が色々追加されていく!
あーまた悪夢の種類が増えるナリィ……。
誰か助けてくれ……。
――――――――――――――――――――――――――――――
第八話 「危うく死ぬところだった」 終わり
第九話 「目と目があう瞬間」 へ続く