とある海岸線。
金色の綺麗な髪をポニーテールでまとめた見た目6~7歳くらいの女の子。
その純粋な眼は、ひたすら目の前の海へと注がれていた。
その眼に映るのは、緑色の髪、活発そうなまさに『男の子』という感じを体一杯に表現させて海の中ではしゃぎまわっている幼馴染。
「おーい、マリン?こっち来て一緒に泳ごうぜ?気持ちいいよ~?」
その男の子から声をかけられる。
マリンと呼ばれた女の子は、嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、
「うん!!今行くよ、サム!」
喜色満面の大声で返事をし、海に向かって走り始めた。
うみ物語~プロローグ~ ファーストコンタクト
「あ~、今日も楽しかったね、サム」
「うん、でもさ、マリンも泳ぎ上手になったよな?前まですぐに沈んでいたのにさ」
「あ、まだそれ言う?むぅ・・・私だってがんばってるんだからね?」
「あはは、ゴメンてば。機嫌直せよマリン。・・・あ、ほら。あそこに駄菓子屋あるぞ?好きなやつ1個だけ奢ってやるからさ」
「ホント?やった~!」
「はぁ、こうでも言わないとマリンずっと機嫌悪いんだからな・・・」
「ん?何か言った?サム」
「え?う、ううん?何でもない」
「でね?今度私んちの隣の空き家があったでしょ?そこに誰か引っ越してくるんだって!」
「へー、そうなんだ?引っ越してくるのってどういう人なんだろ」
「もしかしたら私たちと同じくらいの子が来るかも!?」
「あはは、それだったら友達になってくれるかな?」
「うんうん、なってくれるよ、絶対!!」
空がそろそろ夕焼けを彩る時。
二人仲良く、体全体で喜怒哀楽を表現しながら歩く子供二人に、道行く通行人が優しい目を向けながら通り過ぎていく。
緑髪の男の子こと、『立岩沙夢』(たていわ さむ)ことサム。両親との3人暮らし。
金髪の女の子こと『海原真理』(うなばら まり)ことマリン。両親、妹との4人暮らし。
この二人が住んでいる町は、とある地方の人口数百人の漁村である。
近年どんどん寂れていき、若者の姿は少ない。
若者は街の方に出て行き、残っているのは10数人の30代を除けば殆どが50歳以上の高齢者。
そんな中、毎日のように元気に漁村を闊歩する二人は、殆どの村民の周知とするところであった。
毎晩同じ時間に散歩するお爺さん、お婆さんはこれが楽しみで散歩する、と語る。
「「こんにちは~!!」」
駄菓子屋に到着し、二人揃って元気な挨拶をする。
駄菓子屋の主人はお婆さんであり、もう高齢ともあって中々耳が聞こえにくいのだ。
だが、二人の元気な挨拶はしっかりとお婆さんの耳に届く。
「はい、いらっしゃい。あらあら、二人ともホントに仲が良いわね~・・・」
「うん!!わたしサムのこと大好きだもん!」
「マリンてば、ホントにすごいよな・・・オレ、口に出してなんか言えない・・ブツブツ」
マリンの直線的とも言える口上に顔を真っ赤にして俯くサム。
それを見て不思議がるマリン。
「あらあら、まあまあ・・・」
お婆さんはいつものこと、と、温かい目で二人を見守る。
「ほ、ほら、マリン?せっかく買いに来たんだし、どれが良いんだ?早く決めようぜ」
「??変なサム・・・えっとね~・・・コレ!!」
サムの誤魔化しに可愛らしく首をかしげながらも、マリンはおもちゃコーナーに行き、そこであるものを手に取る。
それは一つ100円もしないような、おもちゃのブレスレット。
黄色の綺麗な色をしていて、向日葵のような笑顔をするマリンにぴったりのように感じた。
サムはそう思いながらも口には出さず、それを受け取ってお婆さんの所に持って行く。
「ん、それで良いんだな?婆ちゃん、これちょうだい!」
「はい、毎度。80円だよ。・・・へぇ・・・マリンちゃん、良いのを見つけたね~・・・」
「え?うん、綺麗だし、サムからのプレゼントだからね!」
「そうかいそうかい・・・これはね?好きな人と一緒になる為のおまじないがしてあるのさ。マリンちゃん、これをずっと大事にしなさい・・・?」
「?良く分からないけど分かった!ありがと、お婆ちゃん!」
マリンは、嬉しそうに早速手首につけ、軽い足取りで外の方に出て行った。
それを見て、サムは首からさげていたガマグチのサイフから100円玉を取り出す。
「婆ちゃん、100円ね?」
「はい、20円のお釣りだよ・・・ねぇ、サム」
「ん?なんだ?婆ちゃん」
サムに手招きし、自分の方に引き寄せると、お婆さんは棚の中からあるものを取り出した。
それは、先ほどサムがマリンに買ってあげたブレスレットと色違いのブレスレット。
「?婆ちゃん、これって・・・」
「いいかい、サム。これはお婆ちゃんからのプレゼントだ。マリンちゃんにも言ったけど、これを無くさないように持っておくんだ・・・いいかい?」
「わぁ・・・なんか、緑色に光ってきれいだな~・・・」
お婆さんは、サムを見つめながらもそれ以上は何も言わない。
やがて、ひとしきり満足したサムが、
「なあ、これいくら?マリンとお揃いだからな、欲しくなった」
と聞いた。
「言ったじゃないか、サム。これはお婆ちゃんからのプレゼントだって。でも・・・そうだね。じゃあお代をもらおうかね」
「え?プレゼントじゃなかったの?」
途端に表情を歪ませるサム。子供特有の表情の変化だ。
「いいや、プレゼントさね。お代と言ってもお金はいらないよ。そうだね~・・・今から10年経って、それを持ってマリンちゃんとウチに着てくれたらそれで良いよ。覚えていたら・・・で良いから」
何とも不思議な要求をしてくるお婆さんに、サムは不思議そうに視線を向けるが、やがて。
「うん、分かった!絶対マリンと一緒に来るよ。オレと婆ちゃんとの約束だ!!」
元気よく返事し、待たせているマリンの元に駆けていくサム。
それを見ながら、お婆さんはポツリと独りごちた。
手の中には、いつのまにか取り出していた一枚の写真。
「さてさて、『運命の環』か・・・あれがあの二人にどういう運命をもたらすのか・・・サム、マリン・・・そして・・・」
『初めまして!私海原真里。マリンって呼んでね!』
『オレは立岩沙夢。サムでいいぜ』
『え・・え・・・わ、私は・・・』
~そして10年が過ぎる・・・~
「きゃ~、遅刻遅刻!やっば~・・・」
お約束であるパンを口に咥え、青色のセミロングの髪を靡かせて一人の少女が走る。
目元には泣き黒子を有し、勝気な感じの視線、そして耳元の髪は軽いロールが巻く。
手首には、マリンのとは色違いの青色のブレスレットが輝く。
『環ノ口 倫』(わのくち りん)ことワリン。10年前にマリンの住む家の隣に引っ越してきた。両親と弟、妹の5人暮らし。
その姿を見た男子は必ず振り返るほどの美貌を持ち、それでいてそれを重きに思っていない。
・・・その走る姿が何よりの証拠であろうことは、幼馴染のマリンは良く知っていた。
「ワリン!早く早くぅ!このペースじゃあ遅れちゃうよぉ~」
「分かってるわよ、マリン!ったく、この私としたことがとんだ失態ね・・・まさかマリンに起こされるとは!!」
「むぅ、そんなこと言ったら今度から起こしてやらないから」
「はあ、はあ、はあ・・・っく、その上からの物言いもムカツクけど・・・・はあ、はあ・・・何でアンタの方がそんなに足速いのよぉ~!!」
「ん~・・・わかんない」
「走りながら可愛らしく首をかしげないで、お願いだから!!」
姦しく走る二人。
16歳という思春期において、この二人が何をもたらすのか。
そして。
この場にいるはずのもう一人は?
様々な海環境で渦巻く、3人が奏でる恋話『うみ物語』。
次話、『放浪』
私達を放っておいて、許せないわね、マリン!?
ん?んー、サムがいればそれでいいよ。
くっ、この天然っ子は・・・!