私は部屋から出され、村正の所まで連れていかれた。
そこでは、緊張した様子で九條少尉が戦術機に乗りこんでいた。
村正には様々な計器が取り付けられている。
「村正、セットアップ」
村正の魔力炉が作動する。
「村正、目の前の人間を隣の部屋まで移動できるか」
「了解。転移の術式展開まで3分。カウント開始」
魔法陣の展開。そして、目の前の軍人の転移。
「おお……。この目で見るまでは、信じられなかったが……まるで魔法のようだ」
何人かの科学者が、計器を眺めている。有銘も心配そうな顔をして立っていた。
「九條様、お身体の方は平気ですか」
「僅かな疲れはあるが、全く問題はない。続けられる。そう心配するな、有銘。無理はしない」
テスト。私の許可も得ず。私は爪を噛む。
科学者達が私に気付き、敬礼した。父さんが混じっていた。
「鈴、凄いぞ! さすが私の子だ! これを発表すれば、お前の名が歴史に残るんだ」
「鈴殿、凄まじいですね、この新型装置は。一体どのような理論なのですか?」
「鳳凰のロールアウト、おめでとうございます」
口々に称えられると、悪い気はしない。何より、ようやく村正に会えた。
「九條少尉。村正は夏までに改修を終わらせねばならない。早速システムチェックを開始する」
「待て、鈴。貴様に頼みがある。私の戦術機も改良して欲しい。九條様が命を張って貴様の才を伸ばすと言っていた事、貴様にはそれだけの才があるとの言葉、私は侮っていた。しかし、九條様は文字通り命を掛け、貴様もそれだけの物を作った。九條様の意思が変わらぬと言うなら、私も御供する。九條様の身で試す前に、私の身で試せ」
私は、有銘の手を掴む。解析。S。レアスキル雷。魔力の解析をした一人目がSSS,二人目がS、しかもレアスキル持ちとはどういう事だ。この世界は魔力の多い者が多いのか? ならば何故私はまたAなのだ。理不尽だ。
「……能力値S。村正の適正値ギリギリのレベル。承諾。材料は」
「九條様の家に保管してあった予備の部品は全部持ってきているぞ、鈴」
私は、早速製作を開始した。九條家よりも人手があったので、雛・猛りの改修と武御雷・雷電の改修は進んだ。
父は、大東亜連合軍のお礼の手紙を見せ、事あるごとに私を褒めてくれた。
褒められる事は、決して嫌いではない。村正の製作は少し後回し気味になってしまうが……。パーツの準備はしてあった。焦る事は無い。
そして、私はバイトとして、蹂躙される予定地の各地から人を呼んだ。
九條家当主が協力してくれ、1000人程が集まった。
私はそれらのリンカ―コアを確認し、メモをしていく。
リンカ―コアの無かった700人程を返す。
10人に三人の割合で魔力持ち。なるほど。
その内、B以上のリンカ―コアの持ち主、32人を確保。
270人弱の人々に、私は発信器型デバイスを配り、言った。
これを使えば、そこに転移が出来る。
「コール、セットアップと言って」
口々に人々が唱える。小さいデバイスが光り、人々は驚いた。
「それは貴方達が握り、力を送り続ける限り作動し続ける。もしもベータに捕まり、ハイヴの最奥に行く事があったら、広い場所でこっそりそれを使って。ベータの奥なら奥ほどいい。ただし、作動させる前、した直後に殺されては意味がない。絶対にそれ以外に使っては駄目」
「助けに来てくれるって事か?」
「説明の拒否」
これは私の独自解釈だが、リーディングが成功しているのに、情報が取得できず、鏡のみがその情報を手に入れられたのには、炭素生命体を認めないと言うのもあるだろうが、鏡が……元からベータのシステムに組み込まれていて、アクセスキーを知っていたからとしか思えないのだ。もちろん、検証の必要はあるだろうが。
……例えば、リンカ―コアの持ち主が脳髄だけになった物に対して接触を試みるとか。
私は一番になりたい。ライバルが脳髄を得る事の邪魔には、その前に助けてしまう事が必須。しかし、脳髄があれば、私が先にベータの情報を得る事が出来るかもしれない。故なく壊す事はしない。拷問の末脳髄にされた者を意味無く死なせはしない。
「なんだか知らないが、それだけでいいんだな。わかった」
人々が頷いた。
そして、私はB以上の32人を呼ぶ。これはベータに殺させるには惜しいと判断した者達だ。
とりあえず、この者達には転移装置を与えて習熟をさせみよう。
何やら助手がいっぱい出来たから、装置と共に投げ与えておけばいい。
皆が口をそろえて大規模転移装置の除去は惜しいと言うし、褒められるのは大好きだから。
そして私は、村正の改修に取り掛かり始めた。
そういえば、何か選ばれなかった者も選ばれた者も身体検査されていたが、どうしたのだろうか。
まあ、そんな事はどうでもいい。
問題は村正だ。
有銘の戦術機の戦闘テストもしなくては。
私は急ピッチで頑張り続けた。その間に、避難民を助けた報償として何やら九條少尉が中尉になっていた。
そして、村正を完成させて一週間後。
ベータの大群が九州に押し寄せてきた。私達三人は、当然出陣した。
『鈴! 新機能とやら、本当に役に立つのだろうな! 雷電、セットアップ!』
『肯定。雛、セットアップ』
『事前に全ての機能を試して起きたかったが……村雨、セットアップ』
それぞれセットアップして、魔力炉を動かす。
まずは、小手調べ。
迫りくるベータに向かって、私は唱えた。二人が後に続く。
『術式起動。スターライトブレイカ―』
『術式起動、スターライトブレイカ―!』
『術式起動。スターライトブレイカ―』
三色の大きな光がベータに向かう。そこだけベータの群れに穴が開く。最も、それはすぐに塞がれた。勇者が戦況を覆せない理由はそこにある。それに、クラスの差も明らかだった。私の砲撃は、二、三体を倒しただけ。九條少尉の砲撃は群れの向こう側まで貫いた。
『す、鈴、なんだこの差は。機体の性能の差が激しすぎるぞ』
『機体の性能ではない。才の差。光線級、来た。九條中尉。有銘中尉。飛んで。九條中尉はバリア起動。有銘中尉はサンダ―ストーム起動。行って』
『鈴ぅ! 本気か貴様!?』
『ついてきてくれるか、有銘』
『九條様……くっ死んだら化けて出るからな!』
そして村正は雷電を庇う形で共に飛行。
バリア展開。光線級の攻撃集中。守る範囲は大きいが、SSSの魔力と魔力炉だ。
なんとか耐えきるはず。
村正のデータを監視していると、またもや魔力炉を限界まで行使、衝撃による機体の損傷もあるが、耐えきった。
有銘中尉が手を伸ばす。
『私の力、全て持って行け! サンダ―――――――スト――――――ム!』
それはまさに雷の嵐。目に見える範囲の全ての光線級の撃破。
しかし、既に九條中尉と有銘中尉の息は上がっている。二回、大魔法を使ったのだ。
『通常戦闘に移行。息が整ったら、訓練していた加速攻撃、新機能の武器攻撃の試験』
『くぅ、貴様、要求が多すぎるぞ!』
ベータの接敵。戦っていると、ベータに食いつかれて瀕死の戦術機が消えたのが目に移る。転移をしたのだ。
採用した32人は役立っているようである。
一日ほど戦っていたが、やがて戦闘は撤退戦へと移った。
基地へと帰った私達を待っていたのは、歓声だった。
「鈴博士! 素晴らしい戦いでした!」
「九條中尉、あの光の膜は一体!?」
「有銘中尉! サンダ―ストームと言いましたか、私、あれを見てもう、涙が出てしまって……」
「鈴博士! どうか私に戦術機を!」
「鈴博士! 明日から助手をさせて下さい!」
これこそが私の望んだ物。これこそが……。
私は、快感に身を任せる。一番を、絶対に死守して見せる。
そして、二ヶ月後。私は苛立ちに爪を噛んでいた。
端的に言って、日本は陥落しなかった。佐渡島はさすがに奪われたが、九條家当主が進言した九州集中守護、稼がれた一日の時間に引けた分厚い防衛線、光州で壊滅しなかった国連軍の援軍、死ななかった彩峰中将の指揮、何故か私の為とか言いながら援助に来た大東亜連合軍、忌々しくも、香月博士が手を加えた戦術機鳳凰やOSのXM9。米軍も出て行かなかったし、日本の防備は完璧に思えた。
私の助手はいつの間にか国際性溢れ100人くらいいて、あれはどうなんだ、これはこうしたい、どーのこうのと五月蠅いし。いらつきが限界に達すると、それを読んだかのように引っ込むが、うざったくてしょうがない。私のオーダーメイドを望む者が増えたのもいいが、戦術機型デバイスは個々に調整する主義の為すごく大変だ。まあ、一言命じれば先を争って手伝ってくれるから仕事は早く進むのだが。そういえば、なんで制服にオルタネイティヴ6と書いてあるのだろう? まあ、それはどうでもいい。問題はハイヴだ。
横浜ハイヴを凄く当てにしていたのに、それが建設されなかったなど計算外過ぎる。
佐渡島ハイヴに目的の物があるのだろうか? 不安だが、動くしかあるまい。
「父さん。欲しい物がある」
「なんだい、鈴! 父さん、鈴の願いならなんでも叶えてあげるよ」
「……佐渡島の土地を買って。全て」
父さんは眉を潜めた。
「しかし、あれはハイヴに……」
「だから安いはず。買って、私有地にしたい」
「出来るだけ努力してみよう」
父さんは頷き、その願いはただちに叶えられた。
後は、準備を整えて待つだけ。佐渡島に囚われた捕虜が、発信装置を使うのを。
私は量産型コールに呼ばれて、はっと顔を上げた。来た。連絡が来た!
これでハイヴの最奥まで行ける。後は、いつ捕虜を助けに行くかだけが問題だ。
何故なら、捕虜がベータのシステムに組み込まれた時こそ、脳味噌を介してベータのシステムに直接アクセスできるかが試せる時なのだから。いや、待てよ。脳味噌はハイヴを破壊すれば死ぬ。今回はハイヴの即時破壊が目的。というか、そうでないと押し寄せてきたベータに殺される。頭脳級さえ壊せばベータ達は撤退して行くだろうが。……テストは出来たとしてもどうせ短時間か。まあいい。最初の試みで何もかも出来るとは思わない。とりあえず、今日はぐっすり寝て、体調を整えてから出撃しよう。
助手のロシア系の女の子達が、何故か一斉にこちらを見た。
そんな事はどうでもいい。送られてきた座標を刻みつけ、準備の為に指示を出す。
何故か九條中尉と有銘が、慌てた様子で駆けて来た。ちょうどいい。
「九條中尉。明日、出かける。目的は佐渡島ハイヴ。……来る?」
「もちろんだ!」
「九條様の行く場所ならどこへでも」
私が頷くと、ロシア系女の子達や戦術機乗り、学者が息を切らせて走って来て言った。
「私達も、行きます!」
「俺達も!」
この人達、ハイヴに行くってわかっているのだろうか。