――扉を開いた先は、崩壊した世界だった。
まるでお伽話に出てくる世界の終末のように、破壊されたビルが、橋が空へと浮かんでいる。
――そして、光を纏った巨大な“魔女”が、舞い踊るかのように佇む。
~アキラメロ~
~オマエニウンメイハカエラレナイ~
――そんな言葉を振り払うように、小さな影が“魔女”へと飛び掛っていく。
しかし、“魔女”は空に浮かぶ建物の残骸を操ると、それを小さな影へと放つ。
小さな影は“時を止めたかのような動き”でそれを避けていくが、今度は禍々しい光が小さな影へと襲いかかる。
――圧倒的、まさにその言葉がふさわしい。それ程までに、“魔女”と小さな影の力の差は明白だった。
「……酷い……」
「仕方ないよ。彼女一人では荷が重すぎた……でも、彼女も覚悟の上だろう」
――そんな“魔女”と小さな影の戦いを、見つめる“少女”が居た。
“少女”が漏らした言葉に、傍らに居た白い影がそう答える。白い影の声には感情がうかがい知れず、何を考えているかが分からない。
「そんな……あんまりだよっ!!こんなのってないよっ!!」
“魔女”の猛攻を受け止めきれず、吹き飛ばされた小さな影を眺めながら、“少女”は叫ぶ。
その時――小さな影と、“少女”の視線が交わる。すると、小さな声は絶望に包まれた声をあげる。
諦めるんじゃねぇっ!!
その時、少女の耳に声が響く。そして、闇に包まれた世界に――まばゆい光が差し込む。
――そして、光に包まれながら現れたのは……赤と青の身体に銀色のプロテクターを纏った“巨人”だった。
“巨人”はゆっくりと“少女”に向けて右手を差しのべると、その掌に抱いていた小さな影を優しく下ろすと、“少女”と視線を交わす。
避けようのない滅びも、嘆きも、全て覆すことができる――その為の力が、俺達にはあるっ!!
「本当なの……?私なんかでも、本当に何かできるの?こんな結末を、変えられるのっ!?」
当たり前だ……だから、俺に力を貸してくれっ!!
まどかっ!!
++++++++
「……ふみゅ……?」
目覚めれば、そこは自分のベッドの上だった。
抱き枕にしていた桃色の人形を抱えたまま、“少女”はゆっくりと体を起こす。
「ふぅわぁぁ……夢オチ……?」
まだ、自分にふりかかる運命を知らないまま、“少女”――鹿目まどかは、人形を抱きしめつつのんきな声をあげていた。
++++++++
それから、鹿目まどかは運命の歯車に巻き込まれることとなる。
謎の転校生、暁美ほむら。“魔女”と呼ばれる存在に、“魔法少女”である巴マミと、その友達という“キュゥべえ”。
――そして、今日。鹿目まどかは、新たな“運命”と出会う
ば、馬鹿……こんなことやってる場合じゃ……今度の魔女は、これまでとは訳が違う……っ!!
「ティロ・フィナーレッ!!」
唐突に、本当に唐突にだが……まどかは先ほどのやりとり――憧れの存在である巴マミによって、動きを制限された暁美ほむらの言葉を思い出した。
目の前では、マミが敵である魔女に向かって、必殺の一撃を放ったところである。巨大な砲塔から放たれた弾丸は、小さな人形のような姿をした魔女の腹部をいともたやすく貫いた。
(なんだろう……なんだか、嫌な予感がする……っ!!)
「マミさんっ!!」
「ま、まどかっ!?」
親友の美樹さやかの制止を振り切り、まどかはマミの元へと走りだす。
――それと同時に、魔女に変化が起きる。
魔女の外観が突如膨れ上がると、黒い蛇のような身体を持つファンシーな顔の怪物が現れ――マミへと一気に接近し、その口を開いた。
マミは、あっけにとられた表情で怪物を眺めており、動こうとも――いや、一連の流れが急すぎて動けなかったというのが正しいか――ともかく、怪物の動きを見ていることしかできなかった。
「マミさんっ!!」
(お願い……誰か……)
本当に……これから、私と一緒に戦ってくれるの?傍にいて……くれるの?
はい……私なんかでよければ。
参ったな……まだまだちゃんと先輩ぶってなきゃいけないのにな……やっぱり私、駄目な子だ。
まどかの脳裏に、先程のやりとりが思い浮かぶ。そして、心の中で強い想いが生まれる。
(私に……マミさんを助ける力をっ!!)
そして、まどかの体は……淡い金色の光に包まれた。
++++++++
「……え?」
――美樹さやかには、目の前で起きた事態が理解できなかった。
突然まどかが走りだしたこと。
魔女の中から怪物が現れて、マミに襲いかかったこと。
そして……まどかが光に包まれたかと思うと、轟音と共に怪物が突然吹き飛ばされたこと。
「……キュウべえ……あれは、いったい……どういうことっ!!いつの間に、まどかと契約していたのよっ!?」
さやかはマミの方を指さしながら、傍らにいたキュゥべえに質問を投げかける。
――そう、怪物を吹き飛ばしたのはまどかなのだ。しかも、光に包まれた後のまどかは……変わっていた。
赤と青を基調としたドレスに、胸部を包み込む銀色のプロテクターと、中央に輝く水色のクリスタル。
頭部には水色の宝石をあしらったティアラと、ツインテールの根本に後方へと伸びた飾りが備えられている。
それは、さやかの認識からすれば……“魔法少女”と呼ぶにふさわしい姿だった。
「違うよさやか。僕はまだ、まどかとは契約していない……だから、まどかは魔法少女になれるはずがないんだ。」
「……え?」
――だが、キュゥべえから返ってきたのは、否定の言葉だった。
「それに、あれは魔法少女とは違う“力”を感じる……あれがなんなのかは、僕にも皆目検討がつかない」
「じゃあ、まどかはいったい……」
そんなこと話している合間にも、状況は動き始めていた。
まどかがいつの間にか両手に構えていた銀色に輝くブーメランを投げつけ怪物をひるませると、マミがマスケット銃を展開し砲火を怪物へと浴びせていく。
だが、怪物が倒れる気配はない。それどころか、ダメージを与えるたびにまるで蛇が脱皮するかのように新たな怪物が現れる。
「……あぁもうっ!!どうなってるのよいったいっ!?」
「ダメージを与えるたびに再生されちゃあ、2人が先に力尽きるのが先だね。」
「じゃあ、どうすれば……」
その時、爆発音が響く。さやかとキュゥべえがその方向に振り向くと、そこには魔法少女の姿になったほむらが立っていた。
「あんた、どうしてっ!?」
「……本体は倒したわ。これで、あの魔女を倒すことができる。」
その言葉を聞いていたのか、まどかは両手に構えていたブーメランを重ねると、身の丈ほどもある三日月状の剣へと変化させる。
そして、まどかは宙に舞い上がるとその剣を怪物へ向かって振り下ろした。
++++++++
「……あれは、いったいなに?」
魔女との戦いが終わり、マミ達に気づかれる前にその場を去ったほむらは、自宅へと向かう中1人考え込んでいた。
彼女の記憶では、巴マミはあの場で死ぬはずだったし、鹿目まどかが“魔法少女”以外の力を手にすることなどありえないのだから。
「……けれど、これはチャンス。あいつの思い通りには……」
「その話、あたしも混ぜてもらっていいか?」
――その時、ほむらの前に1人の人物が現れる。その姿を見たほむらの顔は、普段の無表情からは想像できない程驚愕に包まれた。
「あんた、そんな顔もできるんだ……まぁとにかく……食うかい?」
「……どうして……あなたがここに……」
「佐倉……杏子……!!」
(つづくか?)
あとがき
……まどかマギカ9話を視聴し、どうしようもない気持ちになった&円谷がまさかのまどかネタを使ったので書いてみました。まだまどかが終わってないのであれですが、妄想だけは止まらないぜっ!!(いろいろツッコミどころはありますけど気にしないでください。)
願わくば、魔法少女達にハッピーエンドを……