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[26399] 【習作】週替わり短編集 【再投稿】異世界出張
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/08/01 12:45
地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。
何と言っていいかわかりませんが、皆さんのご無事をお祈りしています。
感想を書きこんでくれた読者様や追っている作品の作者様の中に被災者がいると思うと恐ろしくて仕方ないのが正直なところです。
この地震で被災された全ての方々に祈りを。





その名の通り一週間で完結するような作品を週替わりで連載出来たらな、と思ってます。
改稿のみの作品あり。
あくまで希望。あくまで夢。実は既に締め切り破り……。
うまく短編に収まって完結出来たら投稿してみます。
まずは完結癖と投稿癖をつけて行こうという所存。
次の短編が始まる時に前の短編は消しますので、気にいったのがあったら保存してやってください。




[26399] セカつく! プロローグ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/03/18 20:22




 気がつけば、俺は真っ暗な場所に閉じ込められていた。
 俺の名は佐々木創太。道を歩いていたら、急に空間が裂けて、その真っ黒な裂け目に吸い込まれ。体が破裂した事だけを覚えている。
 悪夢のような、信じられない出来事。痛みを感じる間も無い死。最後に見えた、高校生の女の子の引き攣った顔。
 だから、ここはきっと死後の世界。死んだ理由はわからないけど、暖かい、真っ黒な場所で、俺は眠っていた。
 ごめんな、作りかけの俺の嫁、エルフのフィギュアよ。瞼の裏に精巧に思い浮かぶのは、まるで生きているかのような会心の作のエルフの顔。名前をシルフィー。
 彼女のしなやかな手足を、はっとする笑顔を思い返すたび、俺は実感する。
 ――ああ、俺は死んだのだ。ぼんやりした頭で考えて、ただぼんやりと日々を過ごしていた。しかし、しばらくすると、段々意識がはっきりするようになり、自分が真っ黒な殻に包まれている事を認識した。
 待てよ、死後の世界ってずっと意識があるのか!?
 俺は恐怖の悲鳴をあげて、思い切り俺を囲む殻を叩いた。
 狂ったように叩き続ける。握りしめた手が痛んだ。どれほど、そうしていたろう。殻が微妙にひび割れて来たのに気づく。
 俺はそれに勇気づけられ、なおも殻を叩く。
 小さな穴が開いて、俺は殻から外を覗いた。
 色鮮やかなどでかい鳥共と、見るからに怪しい化け物共が、俺の方を見ていた。
 俺はばっと殻に隠れる。
 色鮮やかな鳥は、イメージとしては鳳凰だろうか? あるいは赤に、あるいは青に、あるいは黒に、あるいは白に。七色というのもあった。羽毛は滑らかで光沢があり、すらりとしていて、尾羽は長い。そして、理知的に輝くこれもまた色彩鮮やかな目。それは目を見張るほど美しく、俺と同じほど大きくなければ、ずっと眺めていたいほどだ。しかし、あれに突かれたら俺は間違いなく死ぬ。理知的な目? 鳥に知能を期待するやつは、馬鹿だ。少なくとも俺は、鳥にお手や待てを教えたなんて話は聞いた事がない。
 野放しの猛獣共よりもっとご遠慮したい化け物どもは、なんと表現すればいいのだろう。手短に言うと、メデューサ(蛇女)、サイクロプス(一つ目の鬼)ケルベロス(三つ首の狼)、そしてエント(木)の4体。
 一瞬しか見なかったが、その異様さは目に焼きついて離れなかった。
 メデューサはナイスバディで、なんと裸だ。様々な色の細い蛇が髪の毛だが、ここで一つ強調しておきたいのは、髪の毛は決してうねうねと動いたりはしないと言う事だ。肌は緑がかっていて、目は金色。整った顔立ち。しなやかな手足と、張り出た胸。何より、ナイスバディで、ナイスバディで、ナイスバディだ。あれは俺の嫁の上を行く。顔を見たら石になるとの事だが、俺は石にならなかった。一瞬だけだから大丈夫だったのか? いずれにしろ、超危険。
 サイクロプスは、一つ目で太くて低い角があり、青っぽく、両手足は丸太のようでだ。ふうふうと息をしており、明らかに何かに怒っている。危険だ、危険すぎる。
 ケルベロスは、左の顔から赤、青、茶と色が三つに分かれており、太い牙が光り、荒い息を吐く口からは唾液が零れおちている。毛並みは荒く、爪も伸びている。尻尾はふさふさで、二本だった。これを危険と言わず、何を危険というのか。
 エント。木である。根が幾重にも伸びており、四方に広がっている。その根は短い。様々な葉と花が芽吹いていて、顔のような物はない。
 ただ、枝をぶんぶんと動かしているので生きているとわかった。
 どうしたものかと思ったその時、卵からぬくもりが消えた。いや、離れた気配がする。

「クックドゥルドゥー!」

 耳をつんざく、どこか呑気な動物の鳴き声。
 陶器の割れるような音と共に、唐突に俺の目の前に黄色の物体が出現した。
 ぞっとする。その黄色の大きな物は、両手で覆えるほどに大きい。

「ひっ……」

 押し殺した悲鳴が、一瞬後に俺の口から洩れる。
 俺が殻にぴったりと張り付いていなければ、間違いなく頭を黄色の突起に頭を貫かれて死んでいた。
 サワサワと葉っぱがなる音がする。

『末子よ。汝が早く出なかった為、母が心配している。さあ、出るが良い』

 頭の中に響く、意思のようなものを感じた。優しい声。
 末子? 意味がわからない。けれど、この殻の中は決して安全ではないらしい。
 俺は勇気を絞り出し、殻の外を覗き……無理無理、やっぱり無理!
 あんな化け物、死ぬって。
 そこで、俺は殺気を感じてとっさに蹲った。
 連続した陶器の音。黄色い突起の乱舞。
 ため息が、二つ。
大きな殻が俺の目の前に突き立った。それは白い殻だった。
そして、俺は黄色の突起の正体を知って、絶句した。

「コケ?」

それは、見上げんばかりに大きい、真っ白な羽毛の、そしてとことんでぶった……鶏だったのだ。

『母は乱暴に過ぎる』

 苛立って両腕を組むサイクロプス。

『末子ちゃん。話し方はわかる?』

しゃがみ込み、俺に微笑みかけるメデューサ。
 その時、ようやく俺は素っ裸である事と、化け物であろうが胸が美しい事は共通である事に気づき、違う意味でしゃがみ込んだのだった。




[26399] セカつく! 一話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/03/18 20:30




 俺は、卵の内側にへばりついていた殻の膜を体に巻き付けて、ぼんやりと俺の産まれた新たな世界を眺めていた。卵の内側の膜は、体に巻き付けた途端、ヒラヒラしたローブの服へと変わった。もう何があっても驚かないぞ。
 新たな世界にいるのは、俺も含めてたったの六体の化け物。断じて六人とは言わない。言ってやらない。そして、美しい鳳凰達。
 ここで一番偉いのは、間違いなく俺の目の前をのたのた歩く、デブな鶏、命名クックだ。
 このデブな鶏、クックは、神である。恐らく、この宇宙で最も偉い神、創造神という位置づけだと思われる。そう思う理由はある。というか、一目瞭然だった。
 クックが羽ばたけば、その羽毛は飛び散って鳳凰となる。
 その姿は幻想的で、酷く美しい。
 クックが糞をすれば、それはあるいは赤く輝き、あるいは冷たく凍り、あるいは肥沃な大地の星となってくるくる廻りだす。
 そして、産んだ卵からはメデューサ、サイクロプス、ケルベロス、エント、そして俺が産まれたらしい。彼らには名が無かったらしく、俺が名前をつけると、喜んで受け入れてくれた。しかし鳳凰は、全員纏めて鳳凰と名付けた為、鳳凰達から文句を言われ、以後彼らは自分達で名前をつけあっている。そうそう、サイクロプスとメデューサは膜を服に、エントとケルベロスはマントにしている。彼らに服の概念はないが、俺のを見て羨ましくなったらしい。
 鳳凰は空を飛んでばかりいるし、ケルベロスはそんな鳳凰を追いかけてばかりだし、エントはひたすら光合成をしているし、メデューサはお昼寝をしてばかり。
 クックはというと、混沌を食べている。
 混沌とは、混沌としか言うほかない。あらゆる世界の元であり、クックを生みし物、という事を本能的に知っていた。
 そして、最後にサイクロプス。サイクロプスは、混沌で何かを作っていた。
 作っていたが、混沌とはクックの餌であり、サイクロプスの力で手を加えられた混沌は、言うなれば調理された混沌である。
 クックはどこにいても目ざとくそれを見つけ、食らうのだ。
 俺は、特にそれをぼんやりと見つめていた。
 最高傑作らしい、よくわからない、あえて言うなら豚のようにみえるそれを食われて、サイクロプスは怒った。

「母よ! いい加減にしないか!」

 いい加減、頭に来たらしく、怒鳴るサイクロプス。

「コケ?」

 しかし、クックに比べて酷く小さいサイクロプスがいくら怒っても、いや、そうでなくとも間違いなく脳味噌が獣並みのクックに、理解など出来るはずも無く。
 半ばショック状態の俺は、ぼんやりと周囲を見つめていた。

「は、ははは。俺、こんな世界で生きて死ぬのかな」

 黒髪、黒目、中肉中背の体。中性的な顔立ち。幸い、俺の姿は生前と変わらなかった。けれど、それが何の気休めになると言うのか。
 そこに、鳳凰のエトが降り立ってくる。燃えるような深紅の羽毛は、いつ見ても美しい。エトは初めに生まれた鳳凰らしく、好奇心旺盛でよく話に来る。

「創太よ、今日はもう寝るがいい」

 エトが、中々寝ない悪い子に言い聞かせるように囁いた。

「なんでだよ、エト」

 それを聞いたサイクロプスやケルベロス、エントが集まって来た。

「寝るのか、創太」

 サイクロプスがどんと俺の隣に腰を降ろし、ケルベロスが俺の足元に蹲り、エントが枝をさやめかせる。さすがに初めの頃よりは慣れたけど、まだ怖い。

「寝ないよ、どうしたんだよ」

 俺は、今更、皆が日本語を喋っているのに気付いて怖くなった。

「創太の心は、喋っている時か夢を見ている時しか読みとれない。ソータの夢は面白い。いろんな変わった物がある」

 心を読まれていたのか。そう言われて、嬉しい人などいるだろうか。
 俺が不機嫌な顔をすると、エトは小首を傾げる。
 人間の細やかな心遣いが、獣に通じると思っちゃ駄目だよな。
 俺はため息をついて、横になった。
 サイクロプスが、クックを見て悔しそうに言う。

「母が作った物を食べさえしなければ、ソータの夢見る賑やかな世界を作れるものを」

「そんな事が出来るのか?」

 俺が思わず驚いて聞くと、サイクロプスは大きく頷いた。

「できるのだ。混沌を捏ねて作った物に命を吹き込めば、それは生き物となる」

 マジで。俺らって本当に神様なんだ。あ、でもいくら作っても、クックに食われるんだっけ。それに、ねっ転がっているここって、何気に宇宙だよな。こんな所で生き物が生きていられると思わない。
 俺はやる。やってやる。自分の作った物が生きて動くなら、俺は俺の嫁を作ってやる。
 俺の職業は、人形細工師だったのだ。作った人形が動くなど、細工師冥利に尽きるではないか。俺はエルフの嫁を作る!
 決意して、英気を養う為に俺は眠った。
 その日見た夢は、俺が神様として君臨する夢だった。
 サイクロプスはますますやる気に満ちて混沌へと向かい、メデューサもそろそろとそちらへ向かった。
 しかし、出来る子である俺は違う。
 俺は、星をじっと睨む。重要なのは、真っ赤に燃える星と、肥沃で水を良く含んだ星である。
 真っ赤に燃える星は見るからに熱そうだから、肥沃な星の方を移動させよう。それに、太陽と惑星だけじゃいかにも寂しい。余裕があったら他の星も。
 俺は星に触れて、力を込める。

「やだっ創太がウンチ触ってる!」

 美しい姉、メデューサの声なんか、気にしない。気にしないったら気にしない。でもちょっと落ち込んだ。
 どういう風に動くか思い描きながら星を移動させると、不思議とそのように星は動いた。
 それを、それぞれぶつからないよう七つ程作る。出来る子の俺は、姉兄や鳳凰の分、プラス予備も作るのである。自分もやる! と言ってくるのを見越しての事である。
 それに、競争とか面白そうじゃないか? 向こうが乗ってきてくれるまで、俺が育てる事になるけど。
 そして、エントがあちこちに落とした種を拾い、それぞれの星に植えていった。
 どうせどの種がどの実かわからないので、適当である。

「創太、お母様のうんちとエントのふけを混ぜて、何しているの?」

 物凄く嫌そうな顔で、メデューサが聞いてくる。
 五月蠅い、放っとけよ。蛇女でも、女に何か言われるのはそれなりにショックなんだ。

「創太、その手で近寄るなよ?」

 サイクロプスが物凄く嫌そうな顔をして、距離を取った。
 エントは、顔は無いけど凄くショックを受けた顔で落ち込んでいるし、ケルベロスまで遠くに移動している。
 今に見てろ。薄情者め。
 疲れきった俺は、眠りに落ちた。
 目が覚めると、きゃあきゃあ言うメデューサの声で目が覚めた。

「見て、見て創太! エントの赤ちゃんが! 早くうんちから出してあげてよ!」

 メデューサが目を輝かせて、俺に手を汚させようとする。蛇までもが、嬉しげにのたうちまわっていた。まあ、いいか。勝手に触られなくて良かった。
 俺が見ると、七つの惑星の内一つだけが芽吹いていた。惑星、ケルベロスだ。
 色々な種を植えただけあり、様々な花が細かく咲いているのも見えて、俺は表情を和ませた。

「これはこれで、いいんだよ。見てろよ、メデューサ。他の惑星も緑の惑星にして見せるから」

「惑星? 惑星。素敵な響きね」

 メデューサは、俄然興味を持ったようだった。
 俺は唯一成功した星を参考に、他の星の配置を変える。
 エントはそれをじっと見つめている。そして、無言で集めていたらしい種を差し出してくれる。俺の手に触れない様に、慎重に受け渡す。やっぱりうんちは駄目ですか、そうですか。エント、お前植物だろうに。
 最初に作る生き物はミミズとかかな―。あれだと簡単だし。そう思いながら、俺は次の段階に進むべく、惑星ケルベロスを前に腕組みをした。
 そして俺は、ふとケルベロスの毛が落ちているのに気付き、それを惑星にまぶしてみた。
 それは小さな狼の群れとなり、惑星に降り立つ。

「まぁぁ!」

「おお……」

「バウッワウッ」

 ワサワサ。
 それぞれの喜びを示す。兄と姉達。俺も、狼達に注目する。
 最初は楽しそうに跳ねまわっていた狼達だが、しばらくするとやせ細り、皆死んでしまった。
 うん、そうだね。草食動物がないと駄目だよね。むしろ、共食いをしなかった事を褒めたい。

「なんで、動かなくなっちゃったんだろう……」

 しょんぼりした顔で、メデューサが呟いた。

「お腹が減って死んじゃったんだよ」

 死というイメージを意識して送ってみる。そうすると、メデューサは恐ろしい顔をした。

「死……なんて恐ろしいの。私達もいつか死ぬのかしら?」

「わからない」

 俺が首を振ると、メデューサは視線を狼の死骸に移した。

「可哀想に。混沌をばらまけば、飢えずに済んだのかしら?」

「多分、草食動物……植物を食べるちいちゃな動物が必要だったんだと思うよ」

 食物連鎖のイメージを送ると、メデューサはそのうす緑色の陶磁器のような手を口に当て、まあ、と呟いた。
 ケルベロスも痛ましげな視線を送る。
 サイクロプスは早速興味を示し、俺に問うた。

「で、俺の星はどれなんだ? お前、皆の分作ったんだろ? どうすれば、ウンチがこの緑色の綺麗な球みたいになるんだ?」

 問われて、俺は一際大きな惑星を指差した。

「ウンコって言うのやめようぜ。サイクロプス星はこれだ。星って言うんだ。この燃えている星に熱すぎず、寒すぎない様に惑星……育てる星を近付けて、それからエントの種……断じてふけじゃないからな、を埋めるんだ」

「ねぇ、私の分もあるの? 私の分もやってよ」

「ばうっ」

 ケルベロスまでもが、楽しそうに吠えたてる。姉兄達を乗せるのは上手く言ったようだ。俺は思わずにんまりとした。

「ああ、わかってるよ」

 すると、遠くでそれを伺っていたエトがたまらず降りて来た。毛が、若干逆立っている。

「創太よ。まさか、我らを仲間外れにするのではあるまいな」

「エト達は全員でこれな。さすがに鳳凰の数の惑星は作れないよ」


 すると、エトは大きく頷いた。
「残念だが、仕方あるまい。惑星鳳凰か。しかし、自分で名づけられんのもつまらんな。皆、新たにつける名前を話し合おうではないか」

 エトが呼びかけると、鳥達が集まって口々に鳴いた。
 あれじゃ絶対決まらんな。
 そうやって星の周囲で騒いでいると、クックがやってきた。

「クックドゥルドゥー!」

 クックは一声鳴いて、ふうっと息を吹きかける。
 すると、ひょこひょこっと小さな鶏が出現した。

「あら。凄いわ、お母様。でも、すぐに飢えて死んじゃうんじゃないの?」

 鶏達は、しきりに大地をつつく。小さな物を食べているのが目に付いた。

「大丈夫みたいだ。食べる物はあるみたい」

 俺はケルベロスの毛をもう一度落としてみた。
 生まれた狼達は、小さなクック達を食らう。

「何をしているの!?」

「母よ!」

 メデューサが叫び、サイクロプスまでも心配して声をあげた。
 ケルベロスが尾を丸めて隠れ、エントがその美しい花を萎れさせた。

「食物連鎖って言うんだ」

 俺はイメージを送る。姉兄は、顔を顰めてそれを見守る。
 ケルベロスの分身は驚くべき事に、取り過ぎる事をせず、必要最低限だけ食らって徐々に増えていった。
 俺は次に、遠く離れた地の星を砕いてこねた。
 メデューサや、星を動かし始めたサイクロプスでさえ顔を顰める。
 エントは自分の惑星に種をばらまくのに必死で、こちらを見てさえいなかった。ケルベロスは尾を振って小さなクック達を眺めている。
 俺は、混沌をちぎる。さすがに混沌をちぎるのは力がいった。これを軽々とやってのけるサイクロプスはやはり強い。
 ちぎった混沌を運ぶとクックがそれにつられるように付いてきたが、星と混ぜ出すと興味を失い、去って行った。
 こんとんと星を混ぜて捏ねるのは、酷く力がいった。力を込めて、何度も捏ねる。
 完全に星と混沌が一体化するまで。
 どれほど混ぜていたろうか。
 エントの星が緑に覆われ、サイクロプスの惑星が芽吹いたのだから相当な時間が経ったと思う。
 俺の顔まで土が飛び、汗だくになったが、ここにシャワーなんて便利な物は無い。
 酷く嫌そうな顔で見ていたサイクロプスが、大きく声をあげた。

「そうか、母が食べない混沌を作っているのか!」

「凄いわ!」

 サイクロプスが叫び、メデューサが声をあげる。
 しかし、あくまでも離れた位置で、だ。そこに断固たる心の壁を感じていた。
 いいさ。俺はこれで作ったエルフの嫁に慰めてもらうんだ。
 そして、疲れきった俺は倒れ込むように眠った。



[26399] セカつく! 二話
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/03/21 10:31



 メデューサの、美しい笑い声。ケルベロスの吠えたてる声、緑の囁き声、サイクロプスの雄叫び、鳳凰達のあーだこーだ言う声。
 五月蠅いと言うよりも、嫌な予感に飛び起きる。
 そこには、完成した動く粘土細工に勝利の雄叫びをあげるサイクロプスとそれを褒め称えるメデューサの姿があった。鳳凰達は、あれを作れ、これを作れと無茶な要求をし続けている。
 使われている粘土細工はもちろん、俺のである。

「おいおい、俺の分もちゃんと残してくれよ」

 すると、サイクロプスは悪気のない笑みで答える。大口開けて笑う姿はちょっと怖い。

「ああ、夢中になって全部使う所だった。星は俺がちょうどいい位置に動かしておいたぞ」

 見ると、全ての惑星に緑が根付いている。エントが、自分も褒めろとばかりに手を振った。

「ありがとう、サイクロプス、エント」

 俺は礼を言って、七つの緑の星を観察した。
 いつの間にやら、全ての惑星でクックが大繁殖しており、惑星ケルベロスでは狼が、惑星サイクロプスでは幼稚園児が絵で書いたような、スライムのようなヘドロのような、よくわからない生き物がぽつんと草を食んでいた。
 俺は粘土を半分ほどサイクロプスの元から救助して、俺の星の隣に置いた。
 俺は粘土を一掴み持ち、よく手の中で捏ねながら、エトに頼んだ。

「エト、お前の綺麗な羽を分けてくれないか」

「む、その手でか。母君の排泄物を触った手でか。あまり気は進まないが、仕方あるまい。代わりに我に生き物を作れ。そしてシャランディアに放すのだ」

 俺は苦笑して頷く。そして、エトの羽を何本か抜き、人形の骨組みとした。
 驚いた事に、粘土は羽に触れるとその色が映った。
 そこで俺は鳳凰達を呼び、頼んで羽を集めた。そして羽を卵の殻に並べる。
 エトの羽を粘土で包み、人の形を作っていく。
 その後、卵の殻の尖った部分や羽で顔を削りだし、作っていた。
 作業に集中していてふと気がつくと、いつの間にか卵の殻と羽は見慣れた俺の仕事道具……立派なパレットと工具へと変じていた。この辺、驚いていても仕方がない。俺達は神なのである。こういう事もある。
 そして俺は、エルフの嫁を作りだした。
 金の髪に蒼い瞳。すらりとした体型に整った顔。
 その素晴らしい出来に、エトがほぅ、とため息をつく。

「これは素晴らしいな」

「それは俺の嫁にするから触るなよ? 見てろよ。いろんな種類の生き物を作ってやる」

 虫。魚。動物。幻獣。そして嫁以外の人族。
 俺がそれらを作っていると、鳳凰が集まってきた。
 うわあ、今度は俺に要求をするつもりだよ。
 案の定、あーだこーだ言ってくるのを聞き流しながら作る。
 一つ一つ作った物を並べて行った。
 粘土を使いつくすと、俺は倒れるようにまた眠った。
 また起きると、作った物は俺の嫁以外、全て無くなっていた。

「おいいいい!」

 各星では、むろん俺の作った生き物が繁殖して歩きまわっている。
 だが一つ言わせてもらう。魚は空や大地を泳ぐもんじゃねえんだよ!
 メデューサ達は、お互いの星で育った生き物を交換していた。手つかずなのは、予備の星位だ。ちなみにサイクロプスは落ち込んで隅っこで丸くなっている。

「おいおい、俺の人形を取るなよ」

「嫁は触っていないわよ?」

 はいはい、そうですか。
 俺は色んな生き物を各星から取り戻し、俺の星、ファンタジーアースに放り込んだ
 後魚は一部海に戻した。
 嫁には最大の物をくれてやりたい。
 俺は皆に息を吹き込んでもらい、勝手にクックも息を吹き込み、そして最後に俺は息を吹き込むのではなく、自らの血を一滴垂らした。
 俺の半身。全ての神と多くの鳳凰から加護を得た者。
 俺はエトランディアと名をつけ、そっと俺の星……ファンタジーアースに降ろした。

「じゃあな。次会う時はいつかわからないけど、元気にしてろよ」

 そして、俺は驚くメデューサ達を尻目に、ファンタジーアースへと降り立ったのだった。
 うっそうとした森に横たわる嫁をみると、俺の心は暖かくなる。
 黄金の髪。美しい顔。引き締まった体。そして、その瞳は閉じられているが、海のような蒼のはずだ。
 俺はそっと嫁の肩をゆすった。

「エトランディア、起きろ、エトランディア」

 エトランディアが目を覚まし、俺を見て跪いた。

「創太様……」

「創太でいい。お前は俺の妻なのだから」

 その美しい瞳を見つめながら囁く。

「さて、住むのに良い場所を探そう」

 俺はエトランディアが立ちあがるのに手を貸して、辺りを見回した。

「木の上の家とか、いいと思うんだが……。鋸がないからなぁ」

 そう言うと、エトランディアはにこりと笑って木に対して指を振った。
 指から出る炎が、木を切り倒す。

「私はエト様の羽を骨とするものですから、炎を扱うのが得意です」

 エトの羽にはそんな意味があったのか。じゃあ、生き物はそれぞれ魔法を使えるわけだ。

「そ……そうか。じゃあ、家は頼もうかな。俺は食べられそうな果物を取ってくる」

 俺、足手まといにならないといいけど。
 俺はまず蔦を見つけ、編んで鞄を作り、そこに果物を入れた。
 果物を持って帰ると、既に木の上に小さな家が出来ていた。
 梯子をのぼり、エトランディアに果物を持っていく。
 するとエトランディアは、果物をより分け始めた。

「わかるのか?」

「エント様の祝福を受けておりますから」

 ……本当に俺、足手まといになりそうだ。
 とにかく、俺とエトランディアの生活は始まった。
 木の上の家から釣竿を垂らし、魚を釣って、エトランディアに焼いてもらい、野菜を煮て、果物を添えて食べる。
 エトランディアが妊娠している間は力が使えなくなるそうだから、それまでにサバイバル出来るようにならないと。
 俺とエトランディアはせっせと働いた。
 一年後、エトランディアが身ごもり、やがて娘が産まれた。
 娘が産まれた時、空が真っ赤になり、巨大な鳥が降りてくる。エトだ。

「創太よ。祝いを述べよう。そしてこの子はエトナと名付けるのだ」

「相変わらず強引だな。ま、いいよ。この子はエトナだ」

 俺がエトナを見せると、エトがそっと頬ずりをして、自らの羽を一枚抜きとって言った。

「創太、この羽をやろう。受け取るがいい」

 羽なんて、いくつも貰っているんだけどな。そう思って俺が羽を受け取ると、羽は燃え盛り、美しい宝玉となった。
 俺はエトに礼を言い、エトを見送った。
 宝玉を使えば、俺にも炎の力が使えた。
 次々と産まれてくる子供達を育てながら、エトランディアと平和な時を過ごしていると、森に異質な生き物の集団が現れた。
 俺が作り、ケルベロスが息を吹き込んだ獣人である。
 ガウガウと不安と苛立ちに吠える彼らの元に、俺は歩み寄った。

「獣人よ。我が兄の愛し子よ。何を怯えている?」

 俺がイメージを送りながら問うと、獣人達は怯えと怒りをぶつけてくる。

「何も恐れる事は無い。腹が減っているのか? クック」

 俺が意思を込めて言うと、鶏の集団が駆けてくる。
 俺はそれを一匹抱きしめ、言った。

「一人一匹、取るがいい」

 獣人達が震える手で鶏を持ちあげると、俺は宝玉を掲げる。それが輝いたその瞬間、鶏が業火に燃えた。
 皮も毛も綺麗に焼けて肉となった鶏を齧る。もちろん、火傷はしていない。

「どうした、腹が減っているのだろう。食べるといい」

 獣人達はごくりと喉を鳴らし、肉に齧りついた。
 そこで話を聞いた所によると、西の方に人間の一大国家があり、そこでは人間以外の種族が迫害されているらしい。ちなみに人間はサイクロプスが息を吹き込んだ。
 元気な一族である。
 とにかく獣人は、神が降臨したとの噂を聞き、直訴して救ってもらう為に一族で移動して来たというのだ。

「言っておくが、人間もまた俺の兄の愛し子。人間を滅ぼせなんて願いは聞き届けられんぞ」

『では、神よ。我らは滅ぼされてもいいとでも!?』

「そうは言っていない。世界は広い。ここの森の周辺は俺達以外に人族がいない。ここで暮らすといい。それも嫌だというなら、お前達の星へと送ってやる」

『我らの星?』

「お前達の守護神の支配する星だ」

 俺が指で空を四角く切り取ると、ケルベロス星の映像が見える。
 そこはドラゴンの闊歩する弱肉強食の大地と化していた。
 そこに暮らす獣人はもう体格からして全然違う。大きく、強く、獰猛であった。

『……ここで暮させて下さい』

「向こうは向こうで楽しそうだけどな」

 ちなみに人間の本星のサイクロプス星も戦争で中々愉快な事になっているようである。
 どの惑星でも、自分の加護する種族をよく引き立てているようだ。
 俺もエルフ族が第一種族になるよう、それなりに工作はするつもりである。
 しかし、人間の町か。楽しそうだな。今度、出かけてみようか。



[26399] お品書き兼後書き
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/03/08 22:54
平成22年
三月八日 第一回「ちょっと異世界に出張します」








「ちょっと異世界に出張します後書き」
 第一回は「宇宙人に転生したけど地球に観光に行く」の改訂版にしようと思ったのですが、筆が進まず、思いついてしまったので見切り発車。だらだら長く続きそうなので無理やり終わらせたら今度は短すぎるというオチが。でも上手い事改稿出来ず。日曜にチェックして削除・次の短編を投稿して、月曜に発送予定。こ、これから上達して行くんですよ!
これを一年、週一本、月四本、年四八本送り続けたら、諦めてデビューさせてもらえないだろうか。無理か。要はそれで自分が上達するか、ですよね。せめて一次は、一次だけは突破したいです。一時突破できないと、評価シートすら貰えないので。
どこまで続けられるか、来週あたりには既に挫折しているかも知れませんが、皆さん、よろしくお付き合いの程お願いします。
目標は来年の今頃まで続ける事です。その後は長編完結作品を書けるか頑張ってみるつもり。
一人の書いた物を大量に読ませてしまう某賞の審査員様方には、今ここで伏してお詫び申し上げます。



[26399] プロットと予定集(超ネタばれ)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/03/09 21:50
プロットと今後の予定集

「ちょっと異世界に出張します」

 魔道国家日本は自衛隊を未開の異世界に転生させた。
 黒木二尉は王子として転生。女好き。メイドもTSも婚約者のツンデレも等しく大好き。
 赤石二尉は機織り女としてTS転生。セリーナに淡い恋心を抱いている。
 ある日、正体がばれてしまう黒木二尉。
 赤石二尉の元に押し掛ける王子共。王子は国家の為、セリーナと共にヒーロー二人の心をゲッチューし、利用し尽くす事を誓う。
 王位争いも絡み、あーだこーだやっている時、魔王の襲撃が起きる。
 命を落とすセリーナ。手に入った魔王の鉱石。
 迷う自衛官達。結局、魔王の鉱石を使い、セリーナを救う。
 魔王の鉱石を使った大魔法を行った事で、アメリカに世界が見つかってしまう。
 外交? 何それという勢いで魔王軍を狩っていくアメリカ軍と、こうなっては仕方ないとばかりに介入する日本軍。
 簡単に、魔王を倒せた。その事が知られ、気まずい思いをする自衛官。
 そこで、セリーナが告げる。
 でも、王位はブラックだから。
 いやいやいやいや、日本祟られちゃう。祟られちゃうよ! ふふふ、知りませんわ。
 しっかり日本と交渉しなさいよー。
 
次回作(予定)「ご主人様なんて大嫌い!」

 セスティア王国では貴族には二つの加護がある。使い魔とたった一つ属性を選び、習得できる魔法である。
 ただし、使い魔はただ一対のそれを自ら見つけ、呪文を唱えなくてはならない。
 使い魔は中々見つけられる物ではなく、一生見つからずに終わる者も多い。
双子の王女ミリーナとセリーナ、王甥アレクセイは中々使い魔を見つけられずにいた。表向きは。
幼いころ、ミリーナは弟王子を使い魔にしていたのだ。
言いだせないアレクセイ。何も知らないミリーナ。
使い魔だって事は認めたくはないが、ご主人様の上に立つわけにはいかない!
ミリーナを王位に継がせるべく、アレクセイの戦いが始まった。
しかし、ミリーナには重大な欠点があった。脳筋馬鹿だったのだ……。
大きな手柄を立て、セリーナに勝つ。その為に、アレクセイはミリーナに隣国との戦争の終結をさせる事をたくらむ。
 砂漠である隣国の目的はこの国の食料。植物の神に願い、砂漠でも育つ穀物を手に入れたアレクセイはミリーナにそれを差し出す。しかしミリーナは脳筋だった。無条件でそれを渡そうとするミリーナ。そこで華麗に手柄を持ちさるセリーナ。
大ピンチ!
~ここの展開は書いてる途中で考えよう~
ついに正体がばれてしまった主人公。
それで始まったのは、アレクセイの取り合いだった。
しかし、そこであることが判明する。契約は双方向の物。
アレクセイがミリーナを主と認めなければ、契約は完遂しない。
そして、ミリーナの勉強が始まるのだった。



[26399] 【再投稿】異世界出張
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/08/01 12:45
「絞り取りたいですぅ」
 スーツを着たエルフの女の子が口を尖らせて呟いた。
「絞り取りたいのぉ」
 老成した口調で、これもスーツ姿のエルフの男の子がしみじみと頷く。
「無批判、無コスト、無労力で絞り取りまくりたいですぅ」
 再度、エルフの女の子が言う。すると、周囲のエルフの幼児達はうんうんと頷いた。
 そこは会議室だった。子供の背丈に合わせた小さく広いテーブルに、エルフの幼児達が円になって座っている。中央には、一つの世界の映像が映っていた。
 彼らはこう見えて、齢三十を超えている。その上、日本の要人達の転生体であり、異世界省の役人達である。異世界省のトップである十賢者は、エルフに転生した日本人から選ばれる決まりである。
 平成二十二年。日本は、異世界より現れし魔王の出現を持って魔道国家へと姿を変えた。貪欲に魔術を学び、戦闘に必要な呪文から日常生活に必要な呪文、果ては異世界転移呪文、転生の呪文と言った様々な呪文と、異世界からの難民という名の技術と遺伝子を手に入れた。その主なエネルギー源は、皮肉な事に魔王とその配下の死後、死体の代わりに現れる鉱石だった。それは、ただちに新たなエネルギー源として取り入れられていったのである。
 初めは良かった。魔王は地球を含めた周辺世界で次々と増殖して暴れ回っており、日本は心置きなく正義の旗を翳して魔王を狩りまくった。異世界間の貿易も大いに実を結んだ。
 しかし、しかしである。初めは感謝し、贈り物すらくれた異世界群も、次第に魔王の鉱石に対して税金をかけるようになり、取り分を求めるようになり、使い方を調べるようになり、やがて使えるようになり、輸出を止め、ついには輸入国家となっていったのである。
 これは不味い。魔王は残虐の限りを尽くす事で増殖する為、養殖するというわけにはいかないのだ。基本的に、早急に狩らなければならない存在であり、狩ったらそれまでの存在なのである。日本という性質上、他の世界で好き勝手させて一定期間たったら狩るという手法は取れないのだ。しかも、ライバルの国、世界はいくらでもあるのである。
 テーブルに映し出された世界は、日本が独自に見つけた魔王が増殖しまくっている世界であり、彼らはこれに対する対処法を考えていた。
「勝手に軍を出して狩ると警戒、攻撃され、許可を求めると鉱石の秘密を探りだされる。難しいのぅ」
「いっその事、王族を狙って転生者を送り込んでみては?」
 異世界進出する時、転生を用いるのは常套手段である。それによって相手の文化を完璧に吸収し、安全性を確認する為の道具を取り寄せて十分なテストをして仲間を招き寄せるのである。転生の対象を選ぶのは難しいが、大体の地域は指定できるため、数を打てば当たらない事はない。ちなみに、それに対する防衛手段もちゃんとあり、日本の要人は例外なく妻にその術を施している。
「それ、もう提案したですぅ。神様に、祟るよ? とお叱りの言葉を受けたですぅ」
 可愛らしく唇を尖らせる女の子。こうしていると可愛らしいが、彼女は十賢者の長、異世界省の大臣で、一人で魔王を退治して見せた日本きっての凄腕でもある。
「祟られるのは嫌じゃのぅ」
「鉱石の価値を知られずに鉱石を狩るには、どうしたものですか……」
 そこで、部屋にあったテレビの電源が入り、予約されていた子供むけの番組群が流れだした。中身は大人とは言え、体は幼児の物である。体に意識が引っ張られる事もある。
 結論として、十賢者は例外なくライダー物、戦隊物、魔女っ子物と続く番組に見入っていた。
 番組が終わり、テレビが消えると、一人が提案する。
「正義の味方ならば、魔物退治をしても違和感がないのでは?」
「いい考えですぅ。魔王退治じゃないのが味噌ですぅ。町を襲いに来た大型の魔物をちまちま撃退して、鉱石を送ってもらうですぅ。出稼ぎですぅ。早速自衛隊から身寄りがなくて独身なのを引き抜いてくるですぅ」
 エルフの幼児達は、早速書類を書き始めた。


 轟音。
 町を覆う結界が振動する。それにぶつかるは、ドラゴンのような強大な魔物とそれに率いられしリザードマンの数々。
 人々は怯え、家に立てこもり、兵士達は結界が破れた時の為に結界のすぐ内側で剣を構え、それに守られる形で、結界師達は神の祈りを唱えてひたすらに結界を強化していた。人々の頭には、色鮮やかな宝石が輝いている。
 兵士達は、震えながらも待っていた。
 彼らのヒーローが到着するのを。
 その時、空を切る音と共に、家々の上を飛びながら現れる二つの人影が現れた。炎をあしらった真っ赤なスーツを着た男と、夜をあしらった真っ黒なスーツを着た男。スーツは全身を覆っていて、わかるのは体型ぐらいだ。
「影ある所に光あり!」
「悪ある所に正義あり!」
 そして、ポーズを取る二人。
「ヒーローレッド! 参上!」
「ヒーローブラック! 参上!」
 兵士達が歓声を上げる。
「レッドファイヤー!」
 レッドが杖を突きだして唱えると、それはドラゴンに直撃した。
 その間も二人は、結界の外へと走りぬけて行く。
 結界を出るのと、倒れかかったドラゴンが尻尾でレッドを攻撃するのは同時だった。
 しかし、既にブラックは準備を終えている。
「ブラックサンダ―!」
 黒い雷がドラゴンを襲う。ドラゴンは壮絶な悲鳴をあげて、倒れていく。
 飛び降りざま、ドラゴンの変じた巨大な鉱石を杖に吸収して、ブラックとレッドは着地。
 二人同時に、赤と黒の魔法の鞭を取り出して、リザードマンに振るった。
 次々と鉱石へと変じて行くリザードマン達。二、三時間で全てのリザードマンは石へと戻り、二人は肩で息をしながら杖を地面に当てた。
 ぞぞぞぞぞぞ、という音を立てながら、鉱石は杖に吸収されていく。
「今日、は、はぁ、大物、だぞ。はぁ、はぁ。綾杉たん、が、はぁ、喜ぶな」
「お前、はぁ、こんな、はぁ、僻地に、飛ばされて。まだ、はぁ、綾杉大臣に、はぁ、忠誠を、誓ってるのか? だ、駄目だ、俺、今日風邪気味で……」
 ぼそぼそとした会話。嬉しげなブラックと呆れた様子のレッド。
 ふらついたレッドを、ブラックが支える。
「……大丈夫か? また、食事持っていくから」
 二人は元自衛隊、現在は自衛隊兼王子と自衛隊兼機織りである。
 彼らの受難は、思えばこの日から始まったのだ。
 

 兵士達の歓声。ヒーローが勝ったと叫ぶ声。それは離宮にあっても激しく聞こえてきた。
「ブラット様、ブラット様! どこでいらっしゃいますか?」
 おいおい、誰も入るなっつったのに入ったのかよ。リアルメイドだから許すけど。ミモリア帝国王子ブラット、自衛隊員黒木大輔二尉、ヒーローブラック、つまり俺はため息をついて窓の外に張り付いた。
 今日は人が多くて隠れるのが大変だ。赤石二尉の奴に食事、持って行ってやれるかな……。
 三、二、一、俺はゾンビになる!
 口からよだれを垂れ流し、うあ――と声を出す。この時、目は虚ろにするのがポイントだ。
「ブラット様! こちらにいらっしゃったのですね。いつの間に外へ……今日は目出度き日。ブラット様も食卓に参れと、王からのご命令です」
 え。半公的な食事会に俺を出すなんて、頭いかれてんの?
「あ――げ――」
 俺は頭を振りながら丸まってみた。
「ブラット様、ご不安にならなくても大丈夫ですよ。私が付いていますから」
 そ、そうか。参加するのか。やだなぁ……。
 俺は、メイドに手を引かれて、嫌々ながらに食事会へと向かった。
「それでね、凄いんだ! ヒーローブラックが、ブラックサンダ―って」
 結界師をしている弟王子のカナンが言うのを微笑ましく聞きながら、俺は手づかみで物を食っていた。冷たい視線が最近心地よくなってきた今日この頃である。特に婚約者のセリーナの絶対零度の視線に貫かれるのが快感である。ここまでやって廃嫡されないどころか、俺を王にと推す馬鹿がいて、娘を婚約者に差し出す貴族がいるのだから、絶対王政って恐ろしい。
 しかし、俺は絶対に王になるわけにはいかない。転生による王位乗っ取りをやらかせば、日本が神様に祟られるのである。くそ、貴族辺りに転生出来たらベストだったのに。
 そう、これは全て日本の為。腹いっぱいになると、皿を投げて遊んだり、スカートをめくったりするのも日本の為なのである。ちなみにメイドの今日のパンツは白か。や、役得だなんて思ってないんだからね!
 努力の甲斐あって俺は早々に連れていかれ、風呂に入らされ、着替えさせられて離宮へと戻った。
 やれやれ、今日も頑張った。そして俺は早々に眠りについた。
 深夜。好きな時に起きられるのが、俺の特技である。
 俺は早速部屋に隠したお菓子を取り出すが、些か量が少ない。仕方ないか。
 俺はそっと部屋を出て、少ない警備の目を掻い潜って台所へと向かった。
 ざっと材料を確認し、減ってもわからなそうな物だけを拝借する。
 直接生活費を赤石二尉に渡せればいいんだが、俺が手に入れられるのは、金貨や宝石、絹の類だけ。そんな物を庶民の店で売り払えば、どこで手に入れたって話になる。
 だから、俺に出来るのは食事を持って行ってやる事ぐらいだ。他に何か出来る事がないかは、考え中だ。
 俺は炒めた野菜と肉の切れはしや穀物をたっぷりのお湯に入れて味付けし、おかゆもどきを作る。一口味見をして、味を確認。
 それをたくさんある水筒のような入れ物三つにそそぎいれ、しっかりと蓋をする。
 空になった鍋は綺麗に洗った。
「こんなもんでいいかなっと」
 杖をくるくると回し、赤石二尉の所に転移魔法で行くか、飛空魔法で行くか考える。
 せっかくの良い月夜。
 この世界だと、夜に灯りをつけるのは贅沢になるから、人に合う確率はかなり少ない。それに、飛ぶのも久しぶりだ。
「変っ身! なんてな。さーて、レッドの見舞いに行かないと」
 俺は小さく笑い、ヒーローブラックの姿で台所を出る所で、セリーナとカナンと目があった。
「あ――う――」
 ゾンビに成りきるんだ、俺! あ、でももうヒーローブラックになっちゃっている!
「あ、あわわ……、お前達、なんでここに……」
「あ、兄上……? 兄上、兄上!?」
 兄上とひたすら連呼するカナン。どうでもいいけど兄上って呼んでくれたの今が初めてだよな、カナン。
「ヒーローブラック……ヒーローブラックですの!? 気狂いとはいえ王子の離宮から食料泥棒が現れたと聞いたから、直々に捕まえてやろうかと思ったら……」
 驚愕して口に手を当てるセリーナ。セリーナ、手を掴むのはやめろ。スーツの上からでも痛い。
「ばれたからには仕方がない……。俺は、天へと帰ります!」
 そう言って手を振り払いつつダッシュで逃げた俺は、結界の壁にぶち当たって頭を抑えた。気がつけば結界に囲まれている。
 そういやカナンもセリーナも、王都を守る一級結界師だったな……。俺ってもしかしてやばい?
「出して!? ここから出して!?」
「ヒーローブラック……兄上がヒーローブラックだったなんて!」
「ブラット様、普段のあれは演技だったのですか……?」
 セリーナ、いきなり呼び捨てから様に格上げか。
「良しわかった。二人とも、まず落ち着け。取引をしないか」
 二人はじっと俺を見つめる。
「俺がヒーローブラックだという事は秘密にしてくれないか」
 二人は首を振った。
「何故ですか、兄上! 国政上から言っても、兄上がヒーローブラックであると示す事は非常に有益です」
「そうですわ。ブラット様がヒーローならば、私も鼻が高いですわ」
「もしも内緒にしてくれるなら、変身セットをやろう」
 幸い、こんな事もあろうかと、変身セットを預かっていた。
 日本政府も鬼ではない。どうしても人数が足りなくて町を守りきれない時、現地人に預ける為の装備を渡して貰っていたのだ。
 こう見えても二人とも結界師だし、ヒーローに憧れている節があった。ちょっとは心が揺れ動くはず!
「わかった」
「わかりましたわ。その代り、レッドのお見舞いに連れて行って下さいませ。心配ですわ」
 早い、変わり身早いぞお前達!
 俺は観念してため息を吐き、変身セットを渡して赤石二尉の所に三人で飛んでいったのだった。


 俺は変身を解いて、レッドの家の前へと立った。小さくコンコンと扉を叩いて、そっと戸を開ける。カナン達はそのまま来た。ちなみに、彼らの変身姿はカナンがいかにも大魔導師っぽい姿でセリーナが魔法少女である。
入ってすぐ目につくのは小さな機織り機と、小さな寝台。それと台所。
 一部屋だけの小さな家だが、これでもレッドは全財産をはたいてこの家を手に入れている。家族とは別居中の方がヒーロー稼業にはちょうどいいのだ。
「レイアー。無事か?」
 寝台に横たわり、荒い息を吐くやせ細った女。これがヒーローレッド、赤石武二尉、そしてレイアだった。赤石二尉に比べたら、俺は本当にラッキーである。ゾンビの真似ぐらい、どうという事はない。問題は、ただ一つ。俺が、TSっ娘にも萌えるという事……! い、いけないわブラット! 私達同僚なのよ! まあ、普通にこんな事を考えているとばれたら赤石二尉にぶち殺されるので言わないが。しかし、例え中の人が男だろうと、おっぱいに罪は無い。そう、俺は思うのだ。ちっぱいだろうがおっぱいはおっぱい。俺は、おっぱいを平等に愛す男である。
「ブラット……助かる……」
 掠れた色っぽい声で言う赤石二尉。
 俺はそんな考えを押し隠しながら、おかゆを冷ましながら与えてやる。
「うう……気持ち悪い……」
「大丈夫か? 医師を用意できたらいいんだが……。やっぱり自然に援助するには、俺が娶るしかないのかもな」
 気狂い王子と庶民のカップル。王位も継ぐ事は無くなるだろうし一石二鳥である。主に俺が。後は出会いの場をどうにかするだけだ。無能の振りをしつつ脱走大作戦を決行するにはどうすればいいのか、俺は頭を悩ませた。
 もちろん、子作りはしない。TSは見て楽しむものであり、元男の同僚のおっぱいを揉む以上の事はさすがに俺でもノーである。おっぱい揉んだ時点で赤石二尉に殺されるだろうが。
「それをやるなら俺は死ぬ」
 赤石二尉はぶんぶんと首を振ると、くらりと揺れてゲストを見つめた。
「セリーナ姫……カナン王子……?」
 二人の事は何度も助けているので、面識がある。カナン王子は何故か頬を染めていた。
「レイア……。その、レッドが女性だったなんて……じゃなくて、その……結婚して下さい!」
「ブラット様、私の事はどうするおつもりですの!?」
「説明しろ、ブラット……」
「あ、あはは……」
 そして説明タイムを終えると、レイアは頭を抑えた。
「姫、王子。これは命がけなのですよ」
「僕は毎回、命を掛けて結界を張っている」
「……」
「レイアにはわからぬだろうな。僕は、僕達は、守ることしかできない。魔物に対抗する為の結界を張る事は出来るけど、ヒーローのように攻撃する力は持たない。剣も弓も魔物には通じなかった。町を丸ごと結界で包み、交易も途絶え、あの町は無事か、知り合いの結界師は無事町に着いたか、心配でならなかった。魔物の襲撃に、いつ結界が破れるかと怯えていた。でも、ヒーローは全てをぶち壊した。あの時の気持ちは、持てる者には絶対にわからない。あの力を貰えると聞いて、断る馬鹿はいない」
 カナン王子の真剣な顔に、俺達は視線を逸らした。
 結界張りに命を掛けているというのは事実である。俺達は、何度も二人を助けて来た。
 ごめんな。この世界の事を公表すれば、「HERO!」とか「ヒャッハー!」とか「資源!資源!」とか叫ぶ各国各世界の部隊が現れて一か月ぐらいで魔物資源を採集し尽くして、三十年ぐらいでばら撒かれる技術と貿易で俺達の同類に仲間入り出来るのに、黙っていてごめんな。でも、もれなく移民も押し付けられるし、石油があれば持っていかれるし、それは嫌だろ? 俺達だって、これ以上ライバルが増えるのは嫌なのである。
 俺達の出稼ぎのお陰で、日本は定期的に二番目に大きい鉱石である四天王クラスの鉱石を得る事が出来、ほくほく顔だと報告を受けている。運がいい時は、魔王の鉱石すら手に入るのだ。
 ぶっちゃけ、この世界が魔鉱石の輸入の九十%を占めている。
 そんな日本政府に、この牧場を手放すという選択肢はない。後千年、いや永遠に絞り取るつもりである。
 その代り、しっかり町は守護させて頂きます。
 それが、日本政府の決定なのである。
「ま、まあまあ。お前には休息が必要だよ、レイア。二人はしっかり俺が守るからさ。養生してくれ。しばらくは出勤しないで良いから。じゃあ、俺達、もう行くよ。三日後、この水筒のお粥が無くなった頃に来る」
「そ、そうだな。ブラット、頼んだぞ」
そして、俺達は飛んで郊外に行き、攻撃呪文の練習をした。
「魔法は無駄遣いするなよ。このメーターが無くなったら魔力を失うから」
 俺は杖にあるメーターを指差した。
「杖に力が入っているのか?」
「そう言う事だ。無くなったら俺かレッドが補充する」
 杖には表メーターと裏メーターの二つがある。
 表メーターは使用可能な魔力のメーターで、裏は本当のメーターだ。
 魔鉱石を吸うと魔力が回復するのをばれてはならない為、現地人に渡す杖はこういう作りになっている。リセットボタンを押せば、使用可能魔力のメーターがマックスまで戻るというわけだ。
 使い方も非常に簡単になっている。それは、この杖を使う事で魔術を習得されては困るからである。
 一通り術の感覚を覚えさせると、俺達は城に帰って、俺はぐっすり眠った。
 ぐっすり眠った事を後悔するのは、その日の昼近く。
 カナンとセリーナが医師を連れて貧民街へ出かけたという騒ぎを聞いた時である。


 さすがに、王族の用意した食事は美味い。菓子を残さず平らげ、貰ったお粥を啜って一息ついた時、ドアをどんどんと叩く音がして、俺は水筒を隠した。
 よろめきながら問う。
「どなたですか?」
「俺だ、レイア。キストだ! 風邪を引いたって言うじゃないか。俺が看病してやるから、この扉を開けろ!」
「キスト様、結構です。帰って下さい」
 俺はため息をついた。俺の作った着物の買い手であるこの商人は、俺に懸想をしている。何度も叩きのめしてやったにもかかわらず、こうして家に押し掛けたり圧力を掛けたりしてくるのだ。お陰でただでさえ貧乏なのが、尚更着物が売れずに飢える羽目になる。心配させたくないから、黒木二尉には言っていないが。気狂い王子の噂を聞けば、あっちもあっちで苦労しているのだとわかるから。
「レイア、人が大人しくしていりゃつけあがりやがって! 着物を売れない様にしてやろうか!」
 あー、もう帰っちゃおうかな。俺は思わず遠い目をした。しかし、それだと黒木二尉とセリーナ、カナンだけでこの町を守らせる事になる。俺はこの町にそれなりに愛着を持っていたし、黒木に苦労を掛けたくないし、成功報酬の転生選択権と、ひと財産と言えるほどの報酬付きの超長期休暇は惜しかった。
 まあ、貞操と引き換えにするほどのもんじゃないけどな。
 そこに、何やら騒がしい物音が聞こえる。
「王子!?」
 そんな声が聞こえて、思わず鍵を開けてドアを開けると、なんかいた。
 具体的にお付きの者を引き連れた王族が。
「おお! レイア! 医師を連れて来たぞ!」
 俺は無言で戸を閉める。何考えてるんだ? 馬鹿なのか? 馬鹿なんだな?
 扉に張り付いて慌てている間にドアを開けられて前につんのめる。しまった、動揺のあまり鍵を掛けるのを忘れていた。
「我が婚約者レイア! 医師を連れて来たぞ」
「人違いです」
 たっぷりと冷や汗を流して答える。お付きの者達はそれはもう動揺した。
「王子、この者は一体、どういうお知り合いで?」
「出陣して皆とはぐれた時に助けられたのだ。この者は僕の恩人であり、想い人だ」
 助けたのは事実であるし、一応ヒーローだという事を隠してくれてはいるようだが、意味がない、意味がないぞ!
「カナン王子殿下、ならば恩を今すぐ返して下さい。具体的に言うとすぐに帰って二度と来ないでください。それで十分恩返しになります」
 お付きの者としては、王子に美人とは言えこんな庶民を娶せる事など論外である。しかし、大事な大事な王子が振られるのも論外である。
「貴様ぁ! カナン王子殿下のどこが不満だというのだぁ!」
「男だって時点で既にアウト」
「変態とカミングアウトしおった!?」
 驚くお付きの者と対照的に、カナン王子は冷静にふっと笑った。
「僕はレイアの為なら女装も厭わない」
「厭え」
 思わず突っ込みを入れる俺。ブラットの奴、弟に変な影響与えてるんじゃないだろうな!? 大体、レッドが女だと知ったのも、俺と会ったのもつい昨日の事。好かれるような事は何一つした覚えがない!
「どうでもよいから、医師にかかれ。病気で死んだらなんとする。ほれほれほれ」
 医師を押し付けるカナン王子。セリーナがバスケット一杯に食べ物を持ってきて俺の手に押し付けた。
「レイア。私の可愛い義妹。病気が治ったら一緒にお買い物に行きましょうね?」
「ブラット――――――! 婚約者と弟ぐらいきちんと見張っとけ!」
 思わず叫ぶ俺に対して、捨てられた子犬のような顔をするカナン王子。
「やはり兄上の方がいいのか?」
「ななななななんですと!? お、王族を二股に掛けたばかりか、我が皇子より気狂い王子の方が良いと!?」
 すったもんだをしていると、俺はいよいよ具合が悪くなってよろめいた。
 そこをすかさず王宮に掻っ攫われる。
 これからどうなるんだ俺。とりあえず黒木二尉を殴る。


 王子達が赤石二尉の所へ!? どうしよう、赤石二尉が危ない。こんな時、俺が出来る事はただ一つ!
 三・二・一・レッツゾンビ!
「あ――が――」
 人目がある所では俺は無力なのだ。ごめんよ、赤石二尉……。
 そんな俺の近くで、話す声があった。
「ち、気狂い王子め。見るのも汚らわしい。操り人形とは言え、王位を継がせたらすぐに幽閉してやる。しかし……庶民相手とはいえ、カナン王子に子供が出来ればカナン派が力を持つやも知れぬ」
「ご安心ください、大臣。暗殺者を差し向けております。王子が王宮に連れて来た時が命日です」
 赤石二尉は今は風邪をひいている。こりゃ、護衛が大変そうだな。俺はこっそりため息をつき、王子達の到着を待って合流した。
「ブラット! おま……ええ?」
「あ――が――」
 俺なりに歓迎の意を示してみると、赤石二尉は渋々と握手し、ため息をついた。
 医師の診察が終わり、王子とセリーナが公務へと向かい、俺と赤石二尉の二人だけになる。
「ブラット……」
 俺は赤石二尉をジェスチャーで黙らせ、耳を澄ます。
 鎧のぶつかり合う音が聞こえ、赤石二尉は飛び起きてすぐよろめく。
「お前は寝てろ」
 TSしてても女の子。ここは男が守ってやらねばいかんだろ。
 扉があけ放たれ、兵士達が剣を構える。
「気狂い王子は傷つける……な、よ?」
 跳躍。俺は先頭の兵士の顎を蹴り抜いた。
「悪いな。目撃者は消させてもらう」
 にやりと笑い、剣を取り出して切る。人間を傷つける事の忌避感は、魔物を倒す事で払拭されていた。
「ななな、気狂い王子が喋った!?」
「恨むなら依頼主を恨んでくれよ?」
 切る、切る、切る。最後の一人を切り倒した途端、その向こう側に人影が。
 まだいたか!
 俺は剣を振りかざし、跳躍。しかし、それは結界に阻まれた。
 ちっ結界師……か……ってああ!?
「いくら目撃者は消すと言っても、ワシは例外にしてくれんかのう?」
 父上だった。
「あ――が――」
 レッツゾンビタイム。
「知っておったよ」
 なんですと?
「知っておったよ。朝早く体を鍛えているのを見ておったからの」
「い、いつから?」
「五歳ぐらいからかの。出なきゃセリーナとの婚約を許可せんわ。ついでだから言うが、神に何かしら命を受けている所も見ておるぞ、ヒーローブラックよ。次の王位お前だから」
 なんでもない事のように父上は告げる。
「ちょっと作戦タイムいいですか?」
「うむ」
 俺は振りむき、赤石二尉に飛びついた。
「レイアーっどうしよう!?」
「この無能っどうするかって、どうするんだ!?」
 とりあえずその時は父上を思いとどまらせたが、次の日からが大変だった。
「ブラット様。一緒に食事に参りましょう」
 そう言って、セリーナが腕を絡め、胸を当ててくる。凄く……柔らかい!
 メイドが絶対零度の視線を突き刺してくる。凄く……冷たい!
 赤石二尉がカナンに付きまとわれて助けろと瞳で訴えてくる。凄く……萌える!
 現実逃避にそんな馬鹿な事を考えている間にも、政治的状況はどんどん変わっていく。
「セリーナ姫が何故か気狂い王子と急に仲良く……?」
「馬鹿な、あの聡明な姫が……」
「聞きましたかな? なんでも、賊を気狂い王子が退治されたとか、あれは仮の姿だとか……」
 レッツゾンビ!
「あ――が――」
 それで、こちらを伺っていた大臣達は首を振った。
「いつもの気狂い皇子ですな」
「あれが仮の姿とか……産まれた時から演技していたとでも?」
 よしよし。そのまま反対派に回ってくれよ……。
「兄上――!」
 カナンが笑顔で駆けてくる。その手に持っている物騒に輝く物はなんだ、弟よ。
 カナンが大上段に振りあげた剣を、とっさに蹴り飛ばす。あぶねぇよ!
「やっぱり兄上、素でも相当強い。ずるいですよ兄上、僕にも武術を教えてください」
 俺の周囲で硬直する大臣達。
 今のは偶然! 偶然です! 俺はカナンを人気のない場所に連れ込み、怒鳴りこんだ。
「お前、いい加減にしろ! 秘密って言っただろう!」
「ちゃんとヒーローブラックな事は言ってませんよ。第一、王位を継ぎたくないなら、いかにも操りやすそうな行動はやめる事です。実力を隠すから、それを知る物はまだ見ぬ真の実力を期待し、それ以外の者は利用しようと侮るのです」
 カナンの澄ました顔も憎らしい。
「そうかなぁ……仕方ない。やってみるか……」
 試しに、ゾンビの真似をやめてみた。大騒ぎになって、派閥が様変わりした。主に俺派に。
「謀ったな、カナン!」
「兄上って本当抜けてますねぇ……」
 ふっと笑うカナン。
「まさか、お前も王位を継ぎたくないのか?」
 カナンは、にっこりと笑う。
「どんな事をしてでもヒーロー一味を王国の指揮下に置きたいだけです。約束通り兄上の正体は告げませんよ、兄上の正体だけはね……」
 計画通り、という顔のカナン。もうやだこの弟。
 こうして、俺はじりじりと王位を固めさせられていった。
 真実をぶちまければ皇太子辞める事ができるんだろうが、その後どうするかって話なんだよなぁ。
 そのままずるずると言って、俺とセリーナは婚姻を結び、四人で戦う日々が過ぎて言った。


 一年後。予知に激しい反応があり、俺は飛び起きる。隣で眠るセリーナを揺すり起こし、カナンと赤石二尉に召集を掛けた。
「レッド! こいつは……」
「ああ、ブラック。大物だ」
 結界に近づく黒い塊。それは魔王だった。
 この、圧倒的存在感。こいつを仕留めれば、綾杉たんから間違いなく褒められる。
 俺とレッドは舌なめずりして杖を握りしめる。
「カナンとセリーナは援護! 出過ぎるなよ!」
 俺は指示を出し、魔王に向かって走る。視界の端に四天王が映ったが、雑魚は無視だ。次々と放たれる触手を掻い潜り、ブラックサンダ―を初めとした、各種の必殺技を放つ。袋玉からバズーカも出して併用する。魔法と物理の同時攻撃が魔王を倒す早道なのだ。レッドと連携を取りながら、少しずつ魔王の体力を削っていく。俺達は久々の大物に夢中になっていて、カナンやセリーナの事なんて見ちゃいなかった。
 どれほど戦っていただろうか。
 最後の止めに、俺はありったけの魔力を拳に込めて、魔王を打ち抜く。
 途端現れる、巨大な鉱石。俺達は魔王を倒したのだ!
 この黒々とした巨大な鉱石は、死者蘇生すら可能とする。原子力発電の代わりにもなるし、ミサイルにもなるし、巨大なバリアにもなる。その分値段も高く、これ一つで小国の国家予算にもなると言われている。
「やったな! レッド! これはすぐ帰還と綾杉たんのキスが進呈されるレベル」
 思わず俺は喜びの声を上げ、レッドはいつものように呆れた声を上げた。
「お前、セリーナと結婚したんだから綾杉たんとか言うのやめろ。カナン、セリー……ナ?」
 レッドの声が掠れる。
 振りかえると、四天王と戦うカナン。倒れているセリーナ。
 そう、俺達は雑魚をそのまんまにして、魔王だけを倒して今まで喜んでいたのだ。
「セリーナ? セリ――――――ナ――――――!」
 俺はセリーナに駆け寄った。レッドが四天王を魔法で打ち抜く。
 嘘だろう!? なんで動かないんだ!? ちょっと目を離していただけなのに!
 俺はとっさに魔王の鉱石に手を伸ばす。そう、魔王の鉱石は、死者すら生きかえらせる。
「何をするつもりだ、やめろ!」
 俺達を守り、戦いながら叫ぶレッド。
「セリーナを生きかえらせる。今なら、まだ間に合うはずだ」
「俺達は鉱石を集めに来ているんだぞ!? 死者蘇生なんて大魔法を使えば、アメリカを初めとした他の魔道国家にも気付かれる! そうなった場合の経済的損失がお前に払いきれるのか!?」
 そう言ったレッドの声は震えていた。
 わかっている。人間の命は地球より重いとか、金に変えられないなんて話は嘘っぱちだ。
 それで言うなら、魔王の鉱石をきちんと活用すれば、、一つの命より遥かに多くの命を養い、救う事が出来るのだ。まして、セリーナは日本政府にとって他人なのである。
 それでも、俺は……俺はっ!
 セリーナは、俺の妻なのだ!
 俺は魔王の鉱石に触れて、ろうろうと呪文を唱えた。
 鉱石が発光する。それはまるで小さな太陽のようだった。それは光り輝きながらセリーナの体内へと沈み、セリーナの腹辺りから凄まじい光が天空を貫いた。
 この魂を呼び戻す光は、世界すら飛び出して輝くだろう。
 そうして、魔鉱石ハンター達を引き寄せるのだ。


 天空を、アメリカ軍と自衛隊の艦隊が覆う。場所がばれてしまえば、後はもう競争だ。
 セリーナを生きかえらせてすぐ、アメリカ軍が動いた。そして、報告を受けた自衛隊もまた、この国に続々と艦隊を送っていた。
「HERO! いい事しながら金儲けするって気持ちいいっ」
「ヒャッハー! この世界は天国かぁ!?」
「予算! 予算!」
 大喜びの軍人達。魔王は、魔物は、次々と降り立った軍人達狩られていく。
 当然、その様子は大騒ぎとなり、彼らを落ち着かせるため、俺達は全ての事情を説明する羽目に陥っていた。
 俺達が、ヒーローなんかじゃなくて、鉱石狙いのコソ泥だという事も。
 俺達が、本当の子供じゃない、転生体だという事も。
 何もかも。
 そして、数日後。
「びっくりするほど簡単に魔王が駆除されていきますのね」
 城のテラスで空を見つめるセリーナ。
 二日ほど寝ていたが、今はもう変わりなく動けるようだ。その表情は、外を見ている為に見えない。
「セリーナ……」
 俺は何と言っていいかわからず、言い淀む。
「それが天の国の制服ですの? ブラット……いえ、クロキニイ」
 俺は黙って頷く。
 俺と赤石二尉は自衛隊の制服に着替えていた。これから、地球に帰るのである。
 既に報告も、健康検査と地球の大気への適性検査も済んでいた。
 これで、セリーナともお別れである。
 泣くな、俺。俺には綾杉たんがいるじゃないか! 後TSっ娘の赤石二尉も。
 振りむいたセリーナは、意外にも笑っていた。ふわふわの金髪が風に流れ、美しかった。
「帰られる前に、こちらにいらして……。陛下が、英雄の功績を称えると」
 俺は頷いてセリーナに招かれるままに玉座へと向かった。
 セリーナには、ひたすら申し訳なかった。カナンは立派な王になるだろう。
 騙していたにも関わらず、英雄と言ってくれた父上にも感謝しなくては。
 大臣達に見守られ、進む俺。
 父上は、おもむろに俺の額に手を当てて言った。
「王位を王子、ブラットに譲渡する」
「いやいやいやいや、ちょっと待って!? 祟られる、祟られちゃうぅっ! 何故ですか父上!?」
 叫ぶ間にも、俺の額の宝石は物凄い勢いで発光・発熱している。なんなの? なんなのこれ!?
「もはや日本やアメリカとやらと無関係ではいられない。少しでもコネのある方を選ぶのは当然じゃろう」
「俺は転生者ですよ!? 心は日本人です!」
「王位継承をすると結界神様に逆らえなくなるから問題はない。この国の為、励めよ」
「何その奴隷契約!? 日本が祟られて綾杉たんに嫌われたらどうするんだよ!?」
 ぎゃあぎゃあと俺は喚くが、そんな事知らないという様に父上は笑った。
 こうして、俺の出張は終わり、自衛隊員から王様へと転職を余儀なくされたのだった。


 スーツ姿の可愛らしいエルフの女の子……綾杉たんが、俺の辞表届でぱたぱたと仰ぎながら、俺を見つめて口を開いた。
「魔王の鉱石を現地人に使ったのは非常に問題なのですぅ」
「すみません……」
 綾杉たんは、小さくため息をついていった。
「一応元は取れたのですぅ。特に最後の大収穫では中々の量の魔王の鉱石が取れたのですぅ。総数三七個。一つの世界から取れる数としては最大ですぅ。うまうまですぅ。神様からも枷付きの王位で、周囲も納得しているならと祟らないで貰えたですぅ」
「は」
 綾杉たんは、きっと俺を睨む。
「それでも、罰は受けてもらうですぅ。永遠に絞り取れた事を考慮すれば、黒木二尉の日本に与えた損害は果てしないですぅ」
「はい……」
 俺は下を向いた。どんな恐ろしい罰が与えられるのか。王様だから殺されはしないだろうが、その代り財産没収と国外追放は堅いだろう。
「黒木二尉に対する罰はただ一つ。セリーナを永遠に愛し、大切にするですぅ」
「は!」
 綾杉たんはふんわりと微笑んだ。魔道国家日本になっても、やっぱり日本は日本なのである。



[26399] ゴミ溜め(再掲載だけであげるのは申し訳ないのでゴミを置いておきます)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/08/01 13:03
 見えない目。いい匂い。本能のままに動く体。何かを吸う。それはとても美味しかった。
 何か、大きい物に体を舐められる。私は、幸せだった。
 ……そうして、私は数カ月をまどろみの中で過ごした。目が見えるようになった頃、私は唐突に自分が元は人であった事を思い出した。
 しかし、今の私は犬として生まれ変わっていた。
 元人としては文句の一つも言いたい所だが、私の父、ポチと母のシロはとてもかっこいい犬で、弟妹達は(断じて私が長女なのだ)とても可愛らしかった。
 片岡進さんと言ういい飼い主にも恵まれ、私は幸せだった。
 ……ポチが、人間の姿になるのを目撃するまでは。

「ととととと、父ちゃん!? ちょのちゅがたはいったい……!」

「私達は、ワイルドハーフ種犬なのだよ、クロ」

 衝撃の事実だった。
 ワイルドハーフの世界? あれって飼い主食うじゃん!
 私は子犬である事を利用して、飼い主の片岡さんの胸を見た。半月じゃん!

「父ちゃん、駄目よ! ちゅぐにこの家を出るの。進さんを食べちゃいの!?」

 父さんは、驚いた顔をした後、切なげな顔をして、笑った。

「進は全てを知っているよ。それでも、私達は離れらないのだ」

「じゃ、じゃあどうちゅるのよ!」

「そうだな、お前は子犬達を任せてもいいほど、しっかりしている。頃合いかもな」

 父さんは、笑う。その理由はすぐにわかった。
 母さんと、父さんは自殺した。
 いや……。絶対にいや……。自分で死ぬなんて、絶対にいや!

「私は、人と情を交わすなんて絶対に、嫌! 父さんと、母さんみたいに死ぬなんて……! いやぁぁぁっ」

 私の叫びと共に、ブラックホールのような物が現れ、私達を飲みこんだ。
 気がつけば、私達は魔法陣の上にいた。
 目の前には、ローブ姿の男達。
 手をかざしている、銀髪の、立派な服装をした男の子。その子は、いや、その人達全てが若干戸惑っているようだった。
 光が、私達を包む。それは、私達を素通りした。
 交わされる、言葉。ただし、それは日本語じゃなかった。
 匂いから感じ取れるのは、大別して二種類だった。若干の驚きと、安堵。男の子に対する嘲笑。私達には何かが無い。だから、私達を縛れない。そして、もう一種類は、男の子を思う気持ち。落胆。
 ……情報を、集めなくては。
 
「私の名はキリク。歓迎しよう、私の小さな使い魔達よ」

 何故か、少年の言葉の意味だけがはっきりとわかる。
 これは、まさかゼロの使い魔世界じゃなかろうな。いや、あれは鏡か。
 とにかく、弟妹達を守らなければ。私は、緊張に身を固くするのだった。
 私達は、その場で少年に名づけられ、丁重に部屋に運ばれた。
 そして、私達は簡単なしつけを受けた後、再度少年……キリクの元へと送られたのだった。
 それまでの間にわかった事。
 キリクは、とても偉い人だと言う事。兄が二人いると言う事。
 長兄は竜の使い魔、次男は虎の使い魔を持っていると言う事。
 五匹もの使い魔を持つと言うのが、異例な事。
 召喚した生き物をコントロールするのにはあるものが必要で、私達にはあるものが無いゆえに操れなかった事。
 そのせいで、キリクが馬鹿にされている事。
 私は、弟妹達に言い聞かせた。

『いい事。ここでは、普通の犬の振りをした方がいいみちゃい。絶対に人間の言葉で喋っちゃ駄目よ。でも、言葉は覚えなきゃ駄目』

『むずかちーい』

『パパぁ……ママぁ……』

『しゅしゅむはー?』

『諸行無常』

『もう会えにゃいの。ここで頑張るしかにゃいの。でも、私が守ってあげりゅかりゃ、泣いちゃ駄目』

 私は、弟妹達に言い聞かせるのだった。
 しかし、心配は杞憂となる。弟妹達は、所詮は犬だった。

『キリク―!』
『構って―!』
『遊んで―!』
『汝の相手をしてやっても構わぬぞ』

 弟妹達は、あっという間にキリクに懐いた。
 振り振りとちぎれんばかりに振られる尻尾が可愛らしい。
 それに、生後一年ほどが立ち、私達はそれなりに大きくなっていた。
 キリクも、優しく接してくれる。キリクは、どんな場所に私達がついて行っても、嫌な顔一つしなかった。私は、キリクの勉強の時、必ず横にくっついて、必死こいて字と言葉を覚えた。

「ははは。わかるのか、ルミナ」

 そうしてキリクは笑って、書物を読んでくれる。
 私は、順調に文字を学んでいた。必死だった。
 そうしている間に、キリクが第三王子だと言う事がわかった。
 悪いが、私はキリクの使い魔になるつもりはない。ある程度の知識を得たら、弟妹達を連れて流浪の旅に出るつもりだ。そうだ、野犬としてでも暮らそう、それがいい。
 そんなある日の事だった。
 食事の時も私達はキリクと共にいる。その時、私と弟妹は悪意を嗅ぎ取った。
 嫌な匂い。私達は、協力してそのお皿をひっくり返した。

「どうしたんだ、ルミナ。君らしくない」

 めっとキリクが私達を叱る。

「キリクの使い魔は、しつけ一つされておらぬのか」

 次男のレイフォンが嘲笑する。嘲笑している間に、虎のフォンが床に落ちたスープを舐めた。

『駄目よ、毒が入っているわ!』

『エサ。エサ。エサ』

 駄目だ、言葉が通じているけど通じてない。

「……兄上のフォンは、誠にしつけが行き届いておりますね」

 キリクはにっこりと返す。その時、フォンが苦しみ始めた。

「こ、これは毒!? フォン! フォン! 誰か医師を!」

 レイフォンが顔を蒼褪めさせてフォンを揺する。心から心配する匂い。ちょっと意外だ。
 しかし、大丈夫だろうか?
 とにかく、その場は騒然となった。
 フォンは強い使い魔だった事もあり、一命を取り留めた。
 それから、キリクを見る目が僅かに変わった。この事をきっかけに、私達は狩りに行く事になってしまったのだ。
 王家の持つ森林で、狩りをおこなう。
 これは、正直言ってチャンスだ。

『丁度いいわ。逃げましょうよ』

 私の提案に、弟妹達は反対した。

『えー!? キリクといたい』

『……キリク、好き』

『あたし、キリク大好きだよ!』

『我らは反対じゃ、姉上。今更我らが野生に戻れようものか』

『父さんと母さんの道を辿るつもり?』

 弟妹達は、黙る。末っ子のレイチェルが、私を宥めた。

『姉上。もうしばし、様子を見てはいかがじゃ? 気付かぬか? この悪意を』

 そして私は気付く。スープに感じた、あの悪意。また、キリクが狙われていると言うの?

『……キリクを狙う犯人を捕まえるまでだからね』

 私の言葉に、弟妹達は頷いた。
 そして、狩りの時間。
 心が嗅げる私達は、自分で獲物を取ってくる事は出来なかったけど、狩りの手伝いは出来た。自分で獲物を取ってくる事が出来ない理由は簡単だ。箱入りの私達には、獲物を噛み殺すと言う事が出来なかったのだ。それでも、キリクは喜んでくれた。
 獲物を追いたてる為、少し森に入った時だった。
 悪意が高まったのを感じて、私は悪意の方に吠えたてた。
 飛んで来る矢。
 とっさに私を庇って、覆いかぶさるキリク。
 キリクに突き刺さる矢。矢の向かってきた方向に走る弟妹達。
 ……結局の所、私が一番に人型に変身した。キリクに一番に気を許してしまったのは、私だったのだ。
 キリクは、幸い気付かなかったらしい。
 私はキリクの傷を癒すと、疲れて犬の姿に戻り、倒れてしまった。
 気がつけば、私は部屋で寝かされていた。
 私が目覚めると、弟妹達が、ぱっと顔を輝かせて抱きついてきた。

「ルミナ! 良かった!」

「……ルミナねぇ、起きた」

「良かったよぉ、お姉ちゃん!」

「仕立て人は捕まったぞえ。やったのは第二王子の母よ。軟禁の刑となったわ。……それで、この地を出るのかえ?」

 レイチェルの言葉に、私は頷いた。

「だって、私は死にたくない。キリクを、殺したくも無いもの」

「姉ちゃん、もう少しだけ、もう少しだけ……」

 私は首を振った。
 これ以上傍にいると、離れられなくなるから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




主人公:異世界の魔法使いの王族の息子
メインヒロイン:忍者の娘:
ロリっ子:エスパーの女の子:
熟女:エイリアンの天才科学者:
敵:エイリアン
敵:異世界のもろもろ
 

プロローグ 仮面の魔術師がいた。その魔術師は議会を支配していた。
一章 何気ないクラスの一日。主人公は、女の子に告白し、その女の子に振り向いてもらえるよう必死の努力を始めていた。そんな時、空に大写しになるエイリアン。エイリアンは、宇宙連合に主人公が復帰するよう求めていた。
二章 大騒ぎになる地球。しかし、主人公は断固として宇宙連合に復帰するつもりはなかった。部下が護衛を寄こすが、それは女の子との仲を裂く事にしかならなかった。何故なら、主人公が童貞を失うと、魔力を失ってしまうからだ。さらには、主人公の子を得ようとする勢力も現れる。
三章 女の子が浚われようとする時、主人公は助けようとする。しかし、女の子は退魔士だった! エイリアンに退魔の術は通用しない。主人公は飛び出して女の子を救う。その後、女の子に攻撃を食らう主人公。気絶した所を浚われる。

四章  女の子達が助けに来てくれた。退魔士の封印を解かれた魔術師、復活する。戦う魔術師。

エピローグ
そして彼女の父親に会いに行く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は流れ星に激突されて命を落とした。
火の玉が凄いスピードで落ちて来て、アッと思う暇もなかった。
そして、現在は白い空間の中にいる。
数人の人間と共に。

「ここはどこなんだ」

「流れ星が落ちて来て……そっから覚えてないな」

「「「え、貴方達も!?」」」

 そこへ、弓を持って羽の生えた美少女が降りてくる。

「はいはーい、注目注目―」

「な、なんだ!? 天使!?」

「はいはい、そのとーり。突然だけど、貴方達は私が殺させてもらいました。貴方達は神様の卵です。これから試験をして、受かったら神様になります。落ちたら神具の材料ねー」

 俺が殺された!?

「てめー、どういう……」

 天使が矢を放ち、放たれた矢が文句を言おうとした男の頬をかすめた。
 全員、青ざめて黙る。それを見て、天使はニィッと笑った。

「素直でけっこーけっこー。逆らおうなんて考えないでね♪」

 なんてめちゃくちゃなんだ。

「な、なんで……」

「貴方達には事故によってばら撒かれた神の力が宿っているわ。そして、その素質のある人間を放っておくわけにはいかないの。神様になるか、神具になるか……どちらかしか選択肢はないわ」

「神様って何をするんだ? 神具って?」

 俺の問いに、天使は無邪気に笑った。

「あーら、いい子ちゃんね。大したことないわ、世界の管理をするだけよ。人の姿を取って人として生活する事も出来るわ。神具はただ物に宿るだけ。でも、辛いわよー。神具になるのは。なんたって、自分じゃもう動けなくなるんだからね。さ、練習ステージに案内するわ。好きな籤を選んでね」

 天使が差し出した籤を俺は引く。なにかわかんないけど、従うしか選択肢がないみたいだ。矢で貫かれるのは怖いし、相手は人間じゃない。物になるなんて、俺はごめんだ。それだったら、俺は神となる。

「お、おい……」

「仕方ないだろ、俺達に拒否権があるか? 俺は神具とやらになるのは嫌だ」

 迷った様子を見せて、結局は全員が籤を引いた。
 その籤に書かれていた言葉を見て、俺は呆然とする。
 シヴィライゼーション4……?
 顔を上げると、俺達は黙って籤を見せあった。

「RPGツクール(1)」

「RPGツクール(2)」

「RPGツクール(3)」

「シムシティ」

「シヴィライゼーション」

 はぁ!? 何だこれは。ゲームのタイトルじゃないか。
 シヴィライゼーションはちょうどおととい買ってきてプレイしたから良く覚えている。
 それに、なんでRPGツクールが3つもあるんだ。

「はいオッケー。じゃあ、移動するわねー。合格基準は各自考えて行動してちょーだい」

「ちょ……ま……」

 俺達それぞれの足元に大穴があき、俺達は放りだされる!
 そして、落ちていく途中で、様々な情報が俺の頭を掠めた。

――シングルプレイ

――パンゲア

――気候 温帯

――海面 中

――世界の大きさ 最小

――海岸線 ランダム

――指導者 徳川家康

――指導者名 彩翁

――文明の名称 日本

――略称 日本

――文明の国名 日本

――難易度 開拓者

――ゲーム速度 普通

良くわからないが、確か開拓者はもっとも簡単な難易度。マップの広さ最小だし、難易度はかなり低いみたいだが……。
地面に墜落して、俺は一瞬気を失った。
地面には大穴があいている。
俺は腰をさする。にしても、彩翁って誰だ。もしかしなくても、俺の事なのか?
 顔を上げると、開拓者らしき人達が俺を見つめていた。

「あ、あの……」

「指示をお待ちしています」

「えっと……」

「指示をお待ちしています」

 ぶっちゃけ怖いです……。ええと、まず初めに開拓者に都市を作らせないと……。
 そう思って俺が見回すと、資源のマークがうっすらと見える。
 食料、ハンマー、コインの三つが揃ってる場所がいいんだっけ? そんな場所は一つだけだが……。俺は宝石のマークに強く気を惹かれた。
 宝石の横の森林。そこには水があり、コインすらないもののハンマーと食料もある。
 よし、そこにしてしまえ!
 
「あ、あっちだ。あっちに行け」

 そう言って俺は開拓者に指示をした。

「了解」

 俺は開拓者の人達に連れていかれ、宝石地帯の横の森林に移動した。ついでに、近くにいた戦士も呼ぶ。戦士たちが急に止まった。
 
「どうしたんだ?」

「ターンを終了して下さい」

「ああ、そうか。ターンか」

 俺がターンを終了すると、凄まじい速さで時が加速される。
 俺の目が完全に回ってしまい、へたり込んだ頃に再度時がゆっくり動きだした。

「指示をお待ちしています」

「あ、ああ。都市を作れ」

 うーん、要領はわかったけど……こんなのが神になる為のテストなのか?
 俺は首を傾げた。
 開拓者がどろりと溶けて、地面から建物が出てくる。
 俺は酷く驚いた。
 建物から話しかけられる。

「何を作りますか?」

「あ、ああ。戦士を」

 そして元から来た戦士が移動して来た。これでターンエンド。
 次に目が覚めると、都市にダークエルフが住んでいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は死神。一度死んで、自ら命を絶った罰としてファンタジー世界で死神なんぞをやっている。命を絶った事は後悔している。お陰で、今目が回りそうなほど大変なのだから。

「だぁーっ無理! 一人じゃ絶対無理!」

 俺の仕事は、一万年に一度の霊が力を持って暴れる百年期に備えて悪霊を減らす事だ。しかし、もうそろそろ百年期だというのに一向に悪量が減らない。
 ある日、耐えきれずに俺が上司に直談判すると、上司は眠そうな目をして言った。
 
「君と同じ罪人が現れたから、その人に手伝ってもらおうかねぇ。ついでに、君も頑張っているようだから、体をあげるよ」

「本当か!?」

 俺はその提案に飛び付いた。
 なんでも、その対象は俺が働いている地域にある国のアーシェリーと言う姫らしい。
 俺より霊力が強いんだとか。早速俺は王宮にある森に向かった。そこで姫は入水自殺を図ったと言う。

「いやぁぁぁ!」

 泉の上で、姫は悪霊に連れ去られんとしていた。俺は死神の鎌を振るい、姫を助ける。
 うわ、ピンクのフリルのドレスなんて初めて見たよ。ぞっとするほど綺麗なお姫様は、俺をきっと睨んできた。

「助けてやったんだから、睨むなよ、アーシェリー」

「貴方は何者ですか、無礼者」

「死神。知らない?」

 姫は目を見開いて、視線を落とした。

「そう」

「お前は自殺をしようとした。それは何より重い罪だ。それを償う為、俺に協力して悪霊退治するのがお前の罰。受け取れ、死神の力。想像しろよ。お前の戦う姿を。武器を」

 俺が上司から渡された死神の力を渡すと、姫は剣を持った真っ黒なドレス姿に変わった。
 ちなみに俺は黒いローブに仮面、鎌と言う姿だ。

「……と、体の方をどうにかしないとな。ちょっと借りるぞ、アーシェ」

「何を!」

 俺はすっとアーシェの体に入る。そして湖から這い上がった。激しくせき込む。
 アーシェは俺を散々に罵倒している。自殺したかったのに生き延びようとしているんだから、まぁ当たり前のことだろう。
 馬の蹄の音が聞こえ、俺はここです、と声をあげた。
 やるだけやって、ぼろが出ない内に体から抜け出す。
 大騒ぎになったのを怒りで震えるアーシェと共に眺め、俺は言った。

「これで体の方は、まあ安泰だな。じゃあ、レッスン1。空を飛ぶ事から初めよっか」

「ふざけないで! 私を誰だと思って……」

「ただの罪人だろ。俺と同じだ」

 アーシェは怒りで顔を青白くし、口をパクパクとさせる。
 
「腹が立ったなら、追いかけて来いよ」

 早速アーシェは俺を睨み、試行錯誤し始めた。
 俺は空を飛んで、アーシェは俺を追いかけて王宮へ向かう。
 王宮を見て、俺はオイオイと声をあげた。

「ものすっげぇ悪霊の数じゃねぇか……」

 アーシェの足が思わず止まり、ひっと声をあげて後ずさった。

「に・げ・ん・な。戦い方はわかるだろ? これが俺達の罰だ。俺は助けないからな―」

 そうして俺は鎌を振るった。アーシェが逃げる。無駄だ。悪霊は死神を認識すると襲ってくる。悪霊は、アーシェを認識すると、一つの大きな塊となってアーシェを攻撃した。なんか恨まれてないか、アーシェ?

「いやぁぁぁぁぁ!」

 アーシェが目をつむって、剣の腹でぶったたいた。
 悪霊は俺の方向へ飛ばされて来る。

「やるじゃねーか、アーシェ!」

「何よ、その呼び方! 無礼ですわ!」

 俺は全く聞かずに、悪霊の塊に鎌で切りかかる。
 思い切り突き立てると、悪霊は四散した。倒れたのではない。固まっていた悪霊が散り散りに飛び散ったのだ。

「やべっ」

「何をやってますの!?」

 飛んでくる悪霊を、アーシェがぶったぎりながら叫んだ。
 なんだ、適応してるじゃねーか。
 しかし、悪霊の勢いは凄まじい。
 アーシェは徐々に押されていった。

「いや……。いやああああああ! 私、死にたくありませんわ!」

 アーシェが叫ぶ。俺はアーシェの前に降り立った。

「良く言った、アーシェ。なら、やるしかねーよなぁぁぁ!」

 そういって俺は悪霊共に切りかかっていった。
 三時間後、ようやく、俺とアーシェは全ての悪霊を退治する。
 アーシェは、ふらふらしながら屋敷へと戻り、屋敷のベッドに寝た自分の上に倒れ込み、すうっと消えた。体に戻ったのだ。
 翌朝、ふらりと起き上ってアーシェは呟いた。

「悪夢を見ましたわ……」

 そして、アーシェは俺の方を見て口をパクパクさせた。
 アーシェが起きた事に驚いたメイドが慌ててパタパタと医師を呼びに行く。
 俺はアーシェに手を振って見せた。

「なんで貴方がここにいますのー!?」

 なんでって、パートナーだろ、俺達。

「言っとくけど、今のお前誰もいない所に向かって叫んでる狂人だぜ?」

「あ、あなたねぇ! ……そう、別にいいですわ。今更狂人扱い受けたって……」

 暗い目でアーシェが言う。
 医師が戻ってきて、アーシェはメイドに命じる。

「喉が渇きましたわ。水を」

 慌てたメイドが水をこぼしてしまうと、アーシェは凄まじい勢いで怒り始めた。
 俺はそれを呆れた目で見ながら言った。

「お前、本当に良家の子女か? 悪霊みて―だな」

「なんですって!?」

キッとアーシェがメイドの後ろにいる俺を睨む。するとメイドは竦み上がった。

「もうそれぐらいで許してやれよ。お前、本当ならもう死んでる身なんだし、罪人なんだし。自分の分際をわきまえたら?」

「五月蠅いわね! ……ごほっごほっ」

 おお、水差しを投げやがった。水差しは俺をすりぬけて割れる。
 アーシェは病み上がりの体で暴れたもんだから、咳込んでやがる。
 ま、いいや。
 
「そういや、お前真っ先に狙われてたけど、恨みでも買ってんの? これからは気をつけた方がいいぜ。悪霊に食い殺されんのは嫌なんだろ?」

「っ……」

「じゃあ、これから毎晩お前の魂引きずり出しにやってくるから」

「下賤な者ごときが……!」

 アーシェが俺を睨んで言うと、俺の前にいたメイドがついに泣きだして、走り去っていった。
 アーシェは散々当たり散らして、暴れまくった。
 




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