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[26407] 【ネタ完結】魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/09 00:45
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 以下、このSSの主要な注意事項になります。

 ・[25789] 【ネタ完結】魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~
  上記の続編になります。
  上記を読んでいないと訳の分からない話が、もっと訳が分からなくなると思います。
 ・ギャグ系のため、有り得ないIFが多数発生します。
 ・ご都合主義で、独自設定、独自解釈をかなり盛り込みました。
  不快感を持った方は、無理に読み進めないでください。
 ・原作の設定や原作のキャラクターが好きな方は、苦痛を覚えるかもしれません。
  不快感を持った方は、無理に読み進めないでください。


 …


 最後に……。

 また、お世話になります。
 読む時も書く時も、非常に重宝しています。
 このサイトを管理運営してくれている管理人さんに感謝を致します。
 本当にありがとうございます。



[26407] 第1話 フェイトさん、またやさぐれる
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:05
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 思い出したくもない理由で助かったプレシアの命……。
 思い出したくもない理由で助かったアリシアの命……。
 何とも言えない後味が残った結末……。
 それでも訪れた幸せの時間……。

 プレシア一家は、時の庭園の動力炉を時空管理局に提示された値段の三倍で売りつけ、財産を作って地球で静かに暮らしていた。
 新しい住処は、海鳴市の喫茶翠屋の見えるマンションの一室。
 母親としての自覚を取り戻したプレシアが、フェイトのために友人と同じ学校に通えるように気を回してくれたお陰だ。
 母親のプレシアは、娘達に時間を費やせる喜びに浸り、娘の一人のアリシアは、今まで寂しくしていた分だけ、母親と妹に甘えた。
 そして、もう一人の娘のフェイトは、地球の学校に友人と通う傍ら、自分の力の使い方を使い魔のアルフと友人の高町なのはとで模索している最中だった。

 そんな日常の続く中、事件は突然起きた。
 フェイトとなのはは、帰宅中に強力な結界の中に閉じ込められた。

 現れた魔導師二人に、魔法少女としての戦いが始まった……。



  第1話 フェイトさん、またやさぐれる



 各々、デバイスを起動して久々の変身。
 黒衣の魔法少女と白衣の魔法少女。

 そして、戦闘開始から、十数分……。
 なのはとフェイトは、背中合わせに敵を睨む。


 「フェイトちゃん!
  あの人達……。」

 「うん、凄く強い。」


 三つ編みの赤い魔導師の少女の持つ鉄槌型のデバイス。
 ポニーテールの桃色の魔導師の持つ剣型のデバイス。
 どちらも、なのはとフェイトの持つデバイスよりも威力が高い。
 なのはは、シールドを砕かれてレイジングハートが小破。
 フェイトは、受けに回った時にバルディッシュを切断された。
 今は、リカバリーで修復し、外見からバルディッシュのダメージはない。


 「フェイトちゃん。
  あの結界、突破出来ると思う?」

 「少し難しいかな……。
  なのはの集束魔法なら抜けるかもしれないけど……。」

 「そっか……。
  じゃあ、私が隙を突いて結界に穴を空けるしかないね。」

 「その間、私が引きつける。」

 「うん。」


 役割を決め、準備に入る。
 なのはは、守備主体で魔力をチャージ。
 フェイトは、攻撃を仕掛けて時間を稼ぐ。


 「「いくよ!」」


 挟まれた状態を打開しようと走り出す。
 フェイトが前衛。
 なのはが後方。
 敵の魔導師が追って来ると距離が狭まる。
 フェイトは、周囲にフォトンスフィアを生成して槍型の魔法弾をセットする。


 「ファイア!」


 魔法弾の連続が鉄槌の魔導師と剣の魔導師に降り注ぐ。
 着弾を確認して、なのはが魔力チャージに入った。
 しかし、敵の勢いは止められなかった。


 「舐められたものだ……」


 着弾の煙から剣の魔導師が抜け出し、突き出される剣。
 フェイトは、剣をバルディッシュで受け止める。


 (このまま受け止めたら、さっきみたいに……)


 剣の魔導師のデバイスが音を立てる。
 さっきと同じ様に魔力が吹き上がり、バルディッシュが押され亀裂が入る。


 「このままじゃ……!」


 フェイトは受けながら、再度フォトンスフィアを展開する。
 狙いは、赤い鉄槌の騎士。
 最悪、バルディッシュが中破しても、時間は稼ぐと心に決める。


 「それをさせると思うか?」


 剣の魔導師がバックステップで距離を取り、デバイスが音を立てた後に変化する。
 剣が鞭のように伸びるとフォトンスフィアを破壊する。
 その攻撃は、射程に居るフェイト自身もシールドを展開して、ギリギリで防ぐほどだった。
 しかし、攻撃出来なかったということは、鉄槌の魔導師の足止めに失敗したということ。
 フェイトの横を鉄槌の魔導師が駆け抜けた。


 「拙い!」


 魔力チャージ中のなのはを助けるため、この結界を抜け出るため……。
 フェイトは口を強く結び、悪魔を呼び出すことを決意した。


 …


 鉄槌の魔導師が大きく振り被り、魔力チャージ中のなのはに迫る。


 『Protection.』

 「魔力ダメージで大人しくして貰う!
  貫け! アイゼン!」


 レイジングハートからのシールドと鉄槌の魔導師の鉄槌がぶつかる。
 そして、鉄槌の魔導師のデバイスが音を立て威力を高める。
 シールドに皹が入り、なのはが目を伏せた時、フェイトがなのはを押し出した。
 視線で鉄槌の魔導師のデバイスの軌道を確認し、フェイトは、歯を食い縛る。
 砕かれたなのはのシールドの後、飛んで来た鉄槌……。
 鉄槌は、フェイトの左側頭部に激突した。


 …


 ビチャリ……と、大量の血が不快な音を立ててコンクリートを濡らす。
 鉄槌の魔導師の手がデバイスを握ったまま震える。


 「あ…ああ……。
  バリアジャケットを抜いて……。
  気絶させるだけのつもり…だったのに……。」


 突き飛ばされた、なのはが叫ぶ。


 「フェイトちゃん!
  フェイトちゃん!」


 ニチャリと血が糸を引き、鉄槌の魔導師のデバイスが離れる。


 「わ、私は……。」


 鉄槌の魔導師は、顔面蒼白で後ずさる。


 「ヴィータ!」


 ヴィータと呼ばれた鉄槌の魔導師の側に、剣の魔導師が駆け寄る。


 「シグナム……。
  わ、私……。」

 「しっかりしろ!」

 「でも、はやてが……。
  はやての人生を血で汚さないようにって……。」


 シグナムと呼ばれた剣の魔導師が、頭を粉砕されたであろう魔法少女に目を向ける。
 そして、涙を流して叫びながら駆け寄る、もう一人の少女が目に映る。


 「っ!」


 最悪の結果になってしまったと、シグナムは、奥歯を噛み締める。
 しかし、殺してしまったはずの魔法少女が出血箇所を押さえて呟く。


 「フェイトの奴……。
  いくら緊急事態とはいえ……。」


 魔法少女が舌打ちして、出血箇所を押さえた手を見る。


 「派手に起こしてくれたもんだ……。
  頭蓋が砕けたんじゃないの……?」

 「……生きてる?」


 ヴィータの言葉に反応し、クマの出来た三白眼が睨みつける。


 「よくも好き勝手やってくれた……。
  このまま帰れると思うな……。」


 一方のなのはは、三歩手前で駆け寄るのを止めていた。


 「ま、まさか……。」


 やさぐれフェイトが目覚めた。



[26407] 第2話 やさぐれた戦いの結末……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:06
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 ヴィータが、やさぐれフェイトに話し掛ける。


 「お、お前……。
  だ、大丈夫なのか?」

 「これが大丈夫に見えるのか……?
  放って置けば、失血死に決まってる……。」

 「失血死……。」


 ヴィータは、主の人生を守るために立てた『人殺しはしない』という誓いが果たせそうにないと知ると、その場にペタンと尻餅を付いた。



  第2話 やさぐれた戦いの結末……



 正直なところ、フェイトからやさぐれフェイトに切り替わったことで、死ぬという事態は起きない。
 そもそも、何故、フェイトがやさぐれたのか?
 それは、『プロジェクトF.A.T.E』の先駆者の悪戯とも言える設定のためである。
 やさぐれフェイトは、脳にダメージを受けた時に脳を修復する間だけ、フェイトを守る擬似人格でしかない。
 しかし、切り替わった時、以下の状態になる。
 1.自分の周り半径5mにAMF:アンチ・マギリンク・フィールドを展開させて魔力結合をさせない。
 2.自身にはAMFC:アンチ・マギリンク・フィールド・キャンセラーを展開して、魔力を肉体強化に変換する。
 3.肉体の活性化。生命危機を脱するため、異常な回復能力が備わる。
 4.上記三点のせいで、魔導師ランクがゴミクラスまで下がる。

 そういう訳で、破壊された左側頭部は、フェイトのために傷が残らないように時間を掛けて回復中。
 それでも、派手に血を撒き散らして、スプラッター状態継続中に見える姿は、誰もが息を飲む。
 そんな中で、やさぐれフェイトがヴィータに声を掛ける。


 「オイ……。」

 「あ…あ……。」


 ヴィータは、完全に混乱している。
 やさぐれフェイトの呼び掛けにも答えられない。


 (そういえば、さっき面白いことを言ってた……。
  はやての人生を血で汚さないとかどうとか……。
  ひょっとして、誓約があるんじゃ……。)


 やさぐれフェイトは、予想通りかを確かめるため、なのはを使って確証を得ることにした。
 振り返り、なのはに話し掛ける。


 「なのは……。
  あたしは、あと少しで死ぬかもしれない……。」

 「う…そ……?」

 「本当……。
  今、話せているだけでも奇跡に近い……。
  フェイトと最後の別れの挨拶をさせてあげたかった……。」


 なのはの目に、再び涙が溜まり始める。


 「いや……。
  そんなのヤダよ……。」


 なのはは地面に蹲り、大粒の涙を流して泣き始めた。
 やさぐれフェイトは、なのはがしっかり泣いているのを確認するとヴィータを見る。
 ヴィータは、両手で頭を押さえ、『はやてが……』と何度も繰り返している。


 (どうも、はやてという人が関係しているみたい……。
  そして、それ故に殺しは出来ないと見た……。)


 やさぐれフェイトは、ヴィータとシグナムに見えないように邪悪な笑みを浮かべる。
 そして、再び、なのはに話し掛ける。


 「なのは……。
  少し考えたけど、失血死さえ回避出来れば助からないかな……?」

 「……え?」

 「言葉は、しっかりしてるし……。
  体も動く……。
  脳自体は、損傷が少ないと思う……。」

 「じゃあ……。」

 「うん……。
  血を止めた後で、精密検査を受けられれば……。」

 「……あ。」


 なのはは目を擦り、涙を拭うと立ち上がる。


 「でも、あの人達が邪魔してるから……。」


 やさぐれフェイトの指し示す、あの人達……。
 ヴィータとシグナムは、やさぐれフェイトの言葉が耳に入り、少し希望を見たような顔になっていた。
 ヴィータが、やさぐれフェイトに叫ぶ。


 「お前!
  本当に助かるのか!」

 「知らない……。」

 「でも、私らが結界解けば、助かるかもしれないんだろ!」

 「そうだね……。」

 「だったら、直ぐに結界を解くから病院に行けよ!」

 「ヤダ……。」

 「「「え?」」」


 敵と味方の声が重なった。


 「な、何でだよ!」

 「そうだよ!
  やさぐれちゃん!」

 「敵の思い通りにはならない……。
  このまま死ぬ……。」

 「何でだよ!
  おかしいだろ!」

 「助かるかどうかも分からないなら、
  あたしは、一矢報いる方を取ると、今、決めた……。」

 「ど、どういうことだよ?」


 やさぐれフェイトは、ヴィータとシグナムを指差す。


 「お前達は、本当は、あたし達を殺しちゃいけなかった……。
  さっき、うろたえたのは、そういうことだろう……?」

 「コイツ……!」
 「っ!」


 ヴィータとシグナムが、やさぐれフェイトを睨む。


 「さっさと失せろ……。
  そして、人を殺して汚してしまった人生を悔いるがいい……。
  死ぬのは悔しいが、それで満足してやる……。」

 「やさぐれちゃん!
  ダメだよ!
  助かるかもしれないなら努力しないと!」

 「なのは……。
  これは、プライドの問題……。
  あたしは、怒っている……。
  ・
  ・
  フェイトに対しても、なのはに対しても……。
  コイツらは、しちゃいけないことをした……。
  いきなり襲って傷つけた……。
  ・
  ・
  あたしの命に代えても……。
  プライドに代えても……。
  コイツらは、後悔させる必要がある……!」

 「やさぐれちゃん……。
  でも…でも……。」


 やさぐれフェイトは、なのはから離れてヴィータとシグナムを睨みつける。
 ヴィータとシグナムは、奥歯を噛み締めて睨み返した。
 そして、その時、なのはの胸から腕が突き出した。


 …


 なのはは、混乱気味にその現象を見ていた。
 自分の胸から腕が生えている。


 「……え?
  なに…これ……?」


 やさぐれフェイトは、なのはに気付くと地面を蹴った。
 変換した魔力が脚力に変わり、地面にしっかりと足跡を残す。
 一瞬、消えるような動作の後で、その腕を掴んだ。


 「コイツら……。
  まだ……!」

 「やさぐれちゃん?」


 一方のシグナムは、心の中で舌打ちしていた。


 (タイミングの悪い……。
  主のためにアイツを病院に行かせねばならぬというのに……。
  これでは交渉も出来ない。
  更なる不信感を与えてしまった。)


 シグナムの表情を読み取り、ヴィータが念話を飛ばす。


 『シグナム……。
  拙いんじゃないのか?』

 『ああ、最悪だ。
  状況を知らないシャマルが行動に出てしまった。
  このままでは、アイツが失血死して主の人生に致命的な汚点がつく……。』

 『そんなのダメだ!
  私らはいいけど、そのせいで、はやての人生を汚すのはダメだ!』

 『分かっている!』


 しかし、この状況を打破するいい案は思いつかなかった。


 …


 別の場所では、肩までの金髪の緑の魔導師が困惑していた。
 彼女は、自分のデバイスを使用し、別空間から、なのはのリンカーコアを狙って自分の手だけを空間転移させていた。
 そして、繋がっているはずの空間からリンカーコアを掴み損ね、抜き通ろうとした矢先……。


 「あれ? 抜けない?
  どうして!?
  どうして抜けないの!?」


 理由は、簡単だった。
 やさぐれフェイトのAMFが作用していたからだった。


 …


 なのはの胸から生える手。
 なのはが少し苦しそうにしているだけで、他に問題はなさそうだった。
 やさぐれフェイトは、ちらりとヴィータとシグナムを見る。


 (これも、アイツらの仲間の手に違いない……。)


 やさぐれフェイトは、不快感を強くする。
 そして、一方で別の気持ちも膨れ上がる。
 一瞬、邪悪な笑みを浮かべる。


 「死ぬ前にいいものを見せてやる……。
  この腕……。
  お前らの仲間のだよね……?」


 やさぐれフェイトの問い掛けを聞いて、ヴィータがシグナムに話し掛ける。


 「何で、シャマルは、掴まれたまま逃げないんだ?」

 「分からん……。
  だが、状況がますます悪くなった……。
  敵に病院へ連れて行かなければいけない者が居て、
  シャマルの腕が人質になってしまった……。」

 「シャマルは、どうなってんだ?」


 …


 シャマルは、焦っていた。


 「どうして!?
  どうして抜けないの!?」


 腕は、ビクともしない。
 押しても引いても動かない。
 別の空間の先で、AMFが効いているとは知る由もなかった。


 …


 やさぐれフェイトが邪悪な笑みを強くする。


 「返事がないなら、体に聞くしかない……。
  ・
  ・
  なのは、少しの我慢……。」

 「へ?」

 「今から、最後の力でこの腕を切断する……。」

 「せ……。」

 「血が噴き出しても吃驚しないで……。」

 「吃驚するよ!
  やめてよ!」


 …


 シグナムが複雑な顔をしている。


 「何か向こうが揉め出したな……。」

 「っつーか、何て恐ろしいことを考えてるんだ!」


 …


 なのはが本気で泣き出した。
 自分の胸の前で、腕が切断されて血が噴き出すなど、九歳の少女には耐えられない。


 「仕方ない……。
  じゃあ、指を一本ずつ捻り切るだけで許す……。」

 「やさぐれちゃん……。
  もう、やめて……。
  やめてよぅ……。
  ・
  ・
  うっ…うう……。
  ひぐ……ひっく…うぁぁぁ!」


 …


 ヴィータとシグナムは、本当に困っていた。


 「どうすればいいんだよ?
  もう一人の方が粘ってないと、シャマルの腕が持っていかれるぞ?」

 「切られてもシャマルの治療魔法で生えてくれば……。」

 「生えねーよ!
  っつーか!
  家に帰ってシャマルの腕が片方なくなってたら、
  はやてがショック死するって!」

 「そうだな……。」


 …


 シャマルも涙目になっていた……。


 「何か掴んでます!
  私の腕!
  どうなってるの!?
  ・
  ・
  ザフィーラ!
  ザフィーラ!
  助けてください!」


 …


 やさぐれフェイトが、なのはに優しく微笑む。


 「なのは……。
  人生辛いことも沢山あるんだよ……。
  ただ目の前で知らない人の腕がもげるだけ……。」

 「いや~~~!
  そんなの怖いよ!
  ・
  ・
  やめてよ!
  やめてよぅ……。
  うっ…ううっ……。」

 「大丈夫……。
  泣かないで……。
  ちょっと、バリアジャケットが血に染まるだけ……。」

 「やだ~~~!
  やだやだやだやだ~~~!」


 なのはの泣き方が絶叫に変わって来た。


 …


 シグナムが観念する。


 「何か……。
  もう、見ていられない……。
  降伏して負けを認めよう……。」

 「シグナム!」

 「どの道、アイツが死ねば我々の負けだ。
  シャマルの腕が切られても負けだ。」

 「っ! でも!
  ・
  ・
  仕方ねぇか……。
  そもそも、私がミスしたから……。」

 「全ては、主のためだ……。
  そして、我々は、失敗したのだ……。」


 シグナムの言葉にヴィータは、悔しそうに俯いた。
 そして、先に歩き出したシグナムに続いた。


 …


 なのはは、泣きながら必死に胸の腕を庇っていた。
 やさぐれフェイトには渡せない。
 この誰か分からない人の腕を傷つけさせない。
 いつしか本来の目的を忘れていた。
 もう、言葉はない。
 ただ泣きじゃくる。


 …


 シャマルは、沈んでいた。
 ザフィーラが来ない……。


 「一体、何が……。
  それにこの腕の感触……。」


 何かに守られているような温かい感覚……。
 さっきから腕を叩いている温かいものは涙だと分かった。


 「何だろう……。
  この相手にもの凄く悪いことをした気がする……。
  ・
  ・
  罪悪感が胸に広がっていく……。」


 …


 やさぐれフェイトの前で、なのはが動かなくなった。
 腕を守って蹲っている。
 涙を流して震えているだけになってしまった。


 (やり過ぎた……。)


 やさぐれフェイトは、頭をガシガシと掻くとクセ毛を作る。


 「いいか?」


 やさぐれフェイトは、視線を移す。
 一方のなのは、やさぐれフェイト以外の声に、過剰に反応した。


 「助けてください!
  やさぐれちゃんが、この腕を切断するって聞かないんです!」

 「…………。」

 ((どういった状況だ……。))


 ヴィータとシグナムは、激しく項垂れた。
 なのはを無視して、やさぐれフェイトが話し掛ける。


 「何の用……?」

 「我々の負けだ。
  お前に死なれるのも困るし、
  その腕を切られるのも困るのだ。」

 「はやてという人に関係あるんだね……?」

 「その通りだ。」


 やさぐれフェイトは、邪悪な笑みを浮かべた。


 「え? え?」


 なのはは、混乱していて訳が分からなかった。
 やさぐれフェイトは、なのはをまた無視する。


 「じゃあ、降伏の証を見せて……。」

 「股の下でも潜ればいいのか?」


 やさぐれフェイトは、首を振る。
 そして、シグナムとヴィータのデバイスを指差す。


 「それを待機状態にして渡して……。」

 「おま……!
  ふざけんな!」


 シグナムがヴィータを制する。


 「従おう。」

 「シグナム!」

 「いい子だ……。
  少し分かってないから、付け足しといてあげる……。
  逆らったら、次の標的になるのは『はやて』っていう子だ……。
  そっちの人は、理解しているみたいだよ……。
  死ぬかもしれない人間の凶行ってヤツを……。」


 ヴィータは、シグナムを見た後、やさぐれフェイトを見て舌打ちする。
 そして、自分のデバイスを待機状態のアクセサリーにすると、やさぐれフェイトに投げた。
 同様にシグナムもデバイスを待機状態に戻すと、やさぐれフェイトに手渡す。
 やさぐれフェイトは、にやりと笑うと、シグナムとヴィータのデバイスをバリアジャケットの胸の隙間に入れた。


 「約束だ。
  直ぐに病院に行って貰う。」

 「分かった……。
  腕も解放する……。
  あたしから離れて仲間に連絡して……。」


 シグナムとヴィータが、やさぐれフェイトとなのはから離れてシャマルに連絡を入れる。
 そして、念話が終わるのを確認すると、やさぐれフェイトも、なのはから離れてAMFの効果をなくす。
 やさぐれフェイトが離れると、なのはの胸から腕が消えた。
 やさぐれフェイトがあらためて、なのはに近づく。


 「大丈夫……?」

 「うん……。
  でも、やさぐれちゃんに酷いことされないって、
  安心感の方が上だよぅ……。」

 「よかったね……。」

 「全然よくないよ!」

 「冗談なのに……。」

 「……冗談?
  どういうこと?」


 シグナムが割って入る。


 「早く病院に行け。」

 「冗談なのに……。」

 「……冗談?
  どういうことだ?」

 「「「ん?」」」


 その場に居るやさぐれフェイト以外が首を傾げた。
 やさぐれフェイトは、出血部分をガシガシと掻く。
 すると、固形化して黒くなった血が粉のように舞った。


 「…………。」


 やさぐれフェイトが両手をあげる。


 「怪我なんて、とっくに治ってる……。」

 「じゃあ……。」

 「死ぬのも嘘……。」

 「う…そ……?」


 やさぐれフェイトは、口に人差し指を突っ込み、唾液をつける。
 そして、固形化した頭の血をちょんと付けて、ヴィータの腕を取る。


 「これ、あたしの携帯の番号……。」


 ヴィータの腕に携帯電話の番号が書かれる。
 携帯電話の番号は、傍から見るとダイイングメッセージのようにも見えた。
 そして、やさぐれフェイトは、なのはの手を掴むと歩き出す。


 「じゃあね……。
  明日、事情を聞いてあげる……。」


 なのはは混乱したまま、やさぐれフェイトに引かれるままオロオロして付いて行った。
 そして、シグナムとヴィータがポツンと残された。


 「ふざけんな!
  あのバカヤローが!」


 ヴィータは大声で叫び、シグナムは訳が分からずにがっくりと地面に手を着いた。
 そして、別の場所で、シャマルがザフィーラに怖かったと泣きついていた。



[26407] 第3話 やさぐれの帰宅Ⅰ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/07/09 14:18
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 帰り道……。
 バリアジャケットから聖祥の制服に戻った、なのはとやさぐれフェイト。
 なのはが怒りながら、やさぐれフェイトに話し掛けていた。


 「信じられないよ!
  あんなことをするなんて!」

 「何もしてない……。
  全ては、未遂で終わっている……。」

 「実行してたら、余計に怖いよ!
  警察に捕まってるよ!」

 「細かいことをネチネチと……。
  アルフか……。
  ・
  ・
  そんなことより……。」


 やさぐれフェイトは、損傷した待機状態のバルディッシュをなのはに渡す。


 「どうしたの?」

 「直して……。」

 「私、そんなの出来ないよ?」

 「あれ……。
  何故か時空管理局に繋がる、なのはの携帯電話……。
  連絡とって、直して貰って……。」

 「プレシアさんに頼めば?」

 「あれはダメだ……。
  娘にだらけて、牙を抜かれたアルフみたいになっている……。
  家事以外、やる気を見せない腑抜けた大人になってる……。」

 「世間一般的には、それを普通のお母さんと言うんだけど……。」

 「いいじゃないか……。
  レイジングハートも直さなきゃでしょ……?」

 「それはそうなんだけど……。」

 「時空管理局っていうのはね……。
  利用されるためにあるんだよ……。」

 「絶対に違うよ!」


 なのはの意見を無視して、やさぐれフェイトはバルディッシュを押し付ける。
 なのはは、盛大な溜息を吐いて、仕方なくリンディに連絡を入れることにした。



  第3話 やさぐれの帰宅Ⅰ



 なのはと別れ、やさぐれフェイトが自宅のマンションに戻る。
 ガチャリと扉を開けた音が帰宅を知らせる。
 アリシアがフェイトを迎えに玄関に走ったが、直ぐに泣いてプレシアのところに戻った。


 「どうしたの?」

 「フェイトが……。
  フェイトが……。」


 泣くアリシアをあやしながら、帰宅したフェイトの顔を見る。
 プレシアの顔が引き攣った。


 「あ、貴女……。」

 「短い別れだったな……。
  ほんの数ヶ月で、ご対面とは……。」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「何で、やさぐれてんのよ!」

 「山よりも高く、海よりも深い事情がある……。
  遂にフェイトが本気を出し、
  このタイトルをグラップラーフェイトに変えるために自分の頭を傷つけた……。
  これがフェイトの本気……。」


 プレシアが、やさぐれフェイトの襟首を掴む。


 「嘘ついてんじゃないわよ!
  一体、何があったのよ!」

 「帰りに変なのに襲われた……。」

 「襲われた?」

 「フェイトより強い魔導師……。
  結界に閉じ込められた……。
  気付かなかったの……?」

 「ふ……。
  アリシアに夢中で、それどころじゃなかったわ。」

 (この親馬鹿が……。)


 やさぐれフェイトは、舌打ちする。


 「それで?」

 「なのはを庇うのと結界の無効化を狙って、
  フェイトがあたしを呼び出した……。」

 「……何て無茶をするのよ。」

 「頭が割れ掛けたからね……。」

 「そんなに酷いの?」

 「暫くフェイトが起きそうにない……。」


 ガターンと何かが落ちる音がする。
 プレシア達が目を向けた先には、アルフが居た。


 「アルフか……。
  久しぶりのご主人様だ……。
  ほら、足の裏を舐めろ……。」


 足を出したやさぐれフェイトに、アルフのグーが炸裂した。


 「ふざけてんじゃないよ!
  フェイトは、どうしたのさ!」

 「だから、ノックダウンしてる……。
  前回よりも、酷く頭を打ってる……。
  記憶の修正とかそういうのじゃなくて気絶してる……。」

 「フェ、フェイト~~~!」


 アルフが頭を抱えて絶叫した。


 「まあ、気長に待て……。
  フェイトが目覚め次第、入れ替わるから……。
  人格の優先順位に変動はない……。」

 「……そうかい。
  しかし、一体、誰がフェイトを襲ったんだい?」

 「変な魔導師……。
  とりあえず、躾けといたから安心して……。」

 「あんた、凄いんだねぇ……。
  なのはとフェイトでも叶わなかったんだろ?」

 「戦わずして勝った……。
  相手の精神的トラウマをナイフで抉るように……。」

 「何やったのさ……。」

 「あまりの残虐ぶりに、なのはも泣き出すほど……。
  あたしには、残虐超人の資質もあるらしい……。
  あたしの活躍を事細かに話そうか……?」

 「説明聞かなくても、
  あんたに関わったって聞いただけで気の毒になって来た……。」


 アルフは、激しく項垂れた。
 やさぐれフェイトは、項垂れるアルフの肩を叩く。


 「見て……。
  戦利品に相手のデバイスを奪って来た……。」

 「もう、何も言えない……。」


 アルフは、プレシアにタッチした。
 プレシアは、溜息混じりに話を続ける。


 「それで、この一件は終わったの?」

 「多分……。
  今度、襲って来たら、アイツらの大事なものを踏みにじると言って来た……。」

 「どっちが悪者なのよ?」

 「勝てば官軍……。
  勝ったあたしが正義だ……。」


 プレシアは、額を押さえた。
 折角、フェイトと普通の親子関係を築いたというのに……。

 その時、やさぐれフェイトの携帯電話が鳴った。


 「きっと、敵からだ……。
  フェイトの部屋で話して来る……。」

 「ここで話せば?」


 やさぐれフェイトが唇の端を吊り上げる。


 「プレシアも積極的に関わりたい……?」

 「悪かったわ。
  さっさと行って頂戴。」


 やさぐれフェイトは、フェイトの部屋へと姿を消した。
 プレシアがアリシアを抱きかかえる。


 「フェイトのクマが消えるまで近づいちゃダメよ。」

 「……うん。」


 アリシアは、それとなく危険を感じ取っていた。


 …


 フェイトの部屋……。
 やさぐれフェイトは椅子に腰掛け、偉そうに足を組む。
 そして、携帯電話に出る。


 「あたしだ……。」

 『…………。』

 「ん……?
  間違い電話……?」

 『その、今日、会った……。』

 「やっぱり、お前か……。
  シグナンだっけ……。」

 『シグナムだ!』

 「で……?」

 『…………。』


 電話の向こうで、何かに耐える沈黙が挟まった。


 『……事情を聞くという話だったはずだが?』

 「ああ……。
  もう、何もしないなら許してあげる……。
  別に会わなくていい……。」

 『それは困る。
  こちらのデバイスを持って行かれたままだ。』

 「少しいい……?」

 『構わない。』

 「デバイスが必要ということは、
  また、辻斬りみたいなことをする気なの……?」

 『……お前には関係ないことだ。』

 「言葉遣いに気をつけろ……。
  ふざけたことばっかり言うと、
  デバイスをトイレに流すよ……。」

 『ふざけるな!』

 「どっちがふざけている……。
  あたしは、この街で暴れられるのは困ると言っている……。
  同じことを繰り返すなら、
  次に狙われるのは、フェイトのお母さんかもしれない……。
  そんなことを許すわけにはいかない……。」

 『それがお前の守る者か……。』

 「あたしのご主人様のだけど……。
  ・
  ・
  ところで……。
  昨日の戦いは、あたしも解せないところがあった……。
  襲って来たのに殺しちゃいけない……。
  だったら、何のために襲った……?」

 『それは言えない……。』

 「やっぱり、事情を聞く……。
  少し興味が出た……。」

 『興味本位で聞かれても困るのだが……。』

 「十時に聖祥小学校の近くのファミレスに来て……。」

 『まだ話すとも何とも……。』

 「待ってる……。」

 『ちょっと、ま……!』


 やさぐれフェイトは、携帯の電話を切った。
 そして、電源を切る。


 「少し世話を焼くか……。」


 やさぐれフェイトは、ガシガシと頭を掻くとクセ毛を作る。


 「プレシアとなのはに何かあったら、フェイトが困るし……。
  あの人達のデバイスも……。」


 やさぐれフェイトは、ポケットから奪ったデバイスを机の上に投げる。


 「要らないしね……。」


 やさぐれフェイトは、制服を脱ぐと箪笥を漁る。


 「黒ばっかり……。
  いいのないかな……?
  ・
  ・
  ん……?
  フェイト……。
  小学生で黒の下着か……。
  プレシアに隠れて買ったに違いない……。」


 色々と漁った後、着替え一式を持つ。
 そして、やさぐれフェイトは、風呂場へと向かった。



[26407] 第4話 やさぐれと守護騎士
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:07
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 本来なら、学校に行く時間……。
 しかし、プレシアは、学校に暫く家の都合で休むと連絡を入れていた。
 理由は簡単だ。
 人格の入れ替わったフェイトを学校に行かせるわけには行かないからだ。
 故に忠告が入る。


 「貴女、学校に行くんじゃないわよ。」

 「命令形の会話から始まるとは……。
  まあ、いい……。
  あんな面倒臭いもの……。」

 「家も出るんじゃないわよ。」

 「何で……?」

 「変な噂が立つからよ。」

 「ああ……。
  結局、フェイトは、あたしのサプライズをどう処理したの……?」

 「別人として処理したのよ。」

 「あたし凄い……。
  遂に別の人間を召喚したことに……。
  ・
  ・
  じゃあ、別に出掛けても平気じゃないか……。」

 「よくないわよ!
  フェイト、可哀そうだったのよ!
  性格の違いが認知されるまで大変だったんだから!」

 「ちょっと、待った……。
  だったら、ちゃんと別人が居ることも認知させないと拙い……。
  あれは、フェイトの嘘だったのかということになる……。」

 「……一理あるわね。」


 プレシアが顎に手を当て考え出した瞬間、やさぐれフェイトは家を出た。
 服装は前回と同じく、黒のシャツと白のパンツ。
 しかし、それだけでは寒いのでジャンバーを引っ掛けた。



  第4話 やさぐれと守護騎士



 やさぐれフェイトは、少し早いが約束のレストランへ向かう。
 『早朝メニューはじめました。』という看板が下がる。


 「日頃の行いのお陰……。
  朝早くからやっている……。」


 早朝八時半……。
 約束の一時間前にやさぐれフェイトは、レストランに突撃した。


 …


 十時……。
 シグナム、ヴィータ、シャマル、そして、別のサポートに回っていたザフィーラという逞しい亜人が、やさぐれフェイトの待つレストランに現われた。
 シグナムが、レストランの一番隅の席でドリアを食べているやさぐれフェイトを発見する。
 シグナム達は、やさぐれフェイトの居る席に向かう。


 「来てやったぞ。」

 「うむ……。
  座るといい……。」

 「その前にテーブルの上は、どうにかならんのか?」


 テーブルの上は、食べ終わった皿が盛大に並んでいた。
 やさぐれフェイトは紙ナプキンで口を拭くと、備え付けのボタンで店員さんを呼ぶ。


 「この人達が片付けろって……。」

 「申し訳ありません。」

 「お前、私らのせいにすんなよな。」

 「あと、そろそろデザート食べたい……。
  パフェを持って来て……。」

 「種類は、どれにしますか?」

 「全部……。」

 「全部?」

 「そう、全部……。」

 「……かしこまりました。」


 店員さんが引き攣った顔で、大量の皿をさげた。
 そして、テーブルの上をシグナムが拭く。
 シグナム、ヴィータ、ザフィーラが、やさぐれフェイトの向かいに座り、やさぐれフェイトの隣にシャマルが座った。
 やさぐれフェイトが、ドリアを食べるのを再開する。


 「お前、食うのをやめて話せよ。」

 「あたしは、聞く立場……。
  お前達が話す立場だ……。
  軽く自己紹介でもして、あたし達を襲った理由を話して……。」


 ヴィータは、舌打ちする。
 しかし、シグナムが話をしようと名乗る。


 「シグナムだ。」

 「ヴィータ……。」

 「ザフィーラ。」

 「シャマルです。」

 「やさぐれと呼ぶがいい……。」

 「「「「やさぐれ?」」」」


 妙にしっくり来る……。
 名前だかあだ名だか分からない呼び方……。


 「で……?
  あたし達を襲った理由は……?」

 「シグナム!
  本当にコイツに話さなきゃいけないのかよ!」

 「デバイスを渡したままでは蒐集に影響する。」

 「あ~!」


 ヴィータは、不満げに椅子に持たれ掛かった。
 その間にやさぐれフェイトは、ドリアを食べ終える。
 シグナムが話し出す。


 「我々は、主のために魔力の源であるリンカーコアを持つ者を探している。
  その者のリンカーコアから魔力を蒐集するのだ。」

 「主のため……。
  蒐集……。
  主って、はやてって言う人……?」

 「そうだ。
  主はやては、闇の書の呪いにより、体を悪くしている。」

 「闇の書……?」

 「蒐集することで、覚醒を果たし願いを叶えることの出来るロストロギアだ。
  主はやては、闇の書に主として選ばれた。
  そして、我等は、闇の書の主を守る守護騎士だ。」

 「闇の書の主……。
  その主を守る守護騎士……。
  ちょっと、カッコイイ……。
  ・
  ・
  でも、願いを叶えるのに、何で、呪いが掛かっているの……?」

 「闇の書は、密接に主はやてに絡み付き、
  抑圧された魔力が未熟なリンカーコアを蝕んでいるからだ。」


 シャマルが付け足す。


 「それで、はやてちゃんが闇の書の主として、真の覚醒を得れば……。
  はやてちゃんの病は消える。
  少なくとも進みは止まるんです。」

 「ふ~ん……。
  それさ……。
  フェイトとなのはに正直に話せば、
  魔力を提供してくれたと思う……。」

 「え?」

 「あたしが言うのもなんだけど……。
  なのはもフェイトも、かなりのお人好し……。
  ちゃんと話せば、献血する気持ちで協力してくれたはず……。」

 「……そうだったんですか。」


 やさぐれフェイトが頷く。
 ザフィーラが、やさぐれフェイトに話し掛ける。


 「では、我等に直ぐにでも協力してくれないか?」

 「少し遅いかもしれない……。
  昨日の戦闘でデバイスが壊されたから、
  なのはがデバイスの修理を時空管理局に頼んだ……。
  レイジングハートのデータから、
  時空管理局が動き出したかもしれない……。」

 「え~っと……。
  それは、既にダメだ。」

 「ん?」


 ヴィータの言葉に、やさぐれフェイトは首を傾げる。


 「私達、既に局員を襲ってリンカーコアを蒐集しちまった……。」

 「何してんだ馬鹿……。」

 「仕方ねーだろ!
  一刻も早く、蒐集しないといけないんだから!」

 「いっそ、時空管理局に頼んだら……?」

 「それは出来ねー!」

 「何で……?」

 「はやてに知られちゃうからだ!」

 「知られてもいいじゃん……。」

 「主はやては、他人を傷つけて蒐集することを望んでいない。
  これは、我等があくまで秘密裏に行なっていることだ。」

 「面倒臭い……。」

 「兎に角!
  はやてを助けるために蒐集しなくちゃいけないんだ!」


 テーブルに大量のパフェが運ばれて来る。
 やさぐれフェイトは、一個取ると食べ出す。


 「あ~! くそ!」


 ヴィータも、一個取ると食べ出す。


 「あたしの……。」

 「一つぐらい寄こせ!」

 「仕方ない……。
  ・
  ・
  話を戻すと……。
  そのはやてと言う人を助けるためには、
  蒐集をこれからもしなければいけない……。
  でも、蒐集は、人を傷つけるからしたくない……。
  でもでも、蒐集しないと、はやてって子の未熟なリンカーコアを
  抑圧された魔力が蝕み続ける……。
  体に影響が出てるから時間もない……。」

 「その通りだ。」


 シグナムの視線が、やさぐれフェイトを射抜いた。
 やさぐれフェイトは、スプーンを口に加えたまま頭を掻いてクセ毛を作る。


 「仕方なくだったのか……。
  あのさ……。」

 「何だ?」

 「一つ試したいことがある……。」

 「試す?」

 「変な話、一番は現状維持でしょ……。
  蒐集しないで人を傷つけない……。」

 「出来ることならな。」

 「で、影響を受けているのは抑圧された魔力なんだよね……?」

 「……ああ。」

 「あたしが側に居れば、呪いを打ち消せるかもしれないよ……。」

 「「「「!」」」」


 守護騎士達の目が、一斉にやさぐれフェイトに集まった。


 「あたしの体は、AMFを発生させている……。
  これは、半径5mの範囲で広がっていて、
  あたしに近づくほど強力になる……。
  そして、AMFというのは魔力を結合させない魔力無効化の能力……。
  つまり、あたしが、そのはやてって子の近くに居れば、
  魔力の抑圧なんて起きない……。
  結合しないで打ち消されるんだから……。」

 「本当か?」

 「うん……。
  ・
  ・
  シャモル……。」

 「シャマルです……。」

 「この前の腕って、シャマルのでしょ……?」

 「……ええ。」

 「抜けなくなったよね……?
  それって、守護騎士に有効なら、主にも有効なんじゃないの……?」

 「あ……。」


 シャマルが口を押さえる。
 ヴィータがパフェを倒して、やさぐれフェイトに顔を近づける。


 「じゃあ!
  はやての人生をこれ以上汚さずに何とかなるのか!」

 「試してみないと分からない……。
  それに問題もある……。」

 「何だよ? 問題って?」

 「あたしは、お前達の襲ったフェイトの擬似人格……。
  脳の修復が終わってフェイトが目覚めれば、
  眠りについてAMFも発動しなくなる……。
  つまり、それまでに、はやてって子のリンカーコアを成長させて、
  闇の書の魔力の抑圧に耐えられるようにしないといけない……。」

 「そっか……。」

 「でも!
  あなたが居れば、今以上にはやてちゃんの病気が進まないんですよね!」

 「試してみないと分からない……。」

 「膳は急げだ。」


 シグナムが立ち上がる。


 「やさぐれを連れて行くぞ。」


 守護騎士達は頷いた。


 「待て……。
  パフェを食べ終わってない……。」

 「そんなものは諦めろ!」

 「え……?」


 ザフィーラが、やさぐれフェイトを小脇に抱きかかえた。


 「ちょっと……!」


 シャマルが会計の書かれた紙を取る。


 「随分と食べましたね……。
  これ、おごりです!」

 「そんなものは要らない……。
  ゆっくり食べさせて……。」

 「行くぞ!」


 やさぐれフェイトは、守護騎士達に拉致された。



[26407] 第5話 やさぐれと守護騎士の主
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:07
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 守護騎士の住処……。
 また、守護騎士の主の家でもある。
 かなり立派なバリアフリー住宅。
 その扉を勢いよく、シグナムが開けた。


 「うわっ!」


 主の少女は、車椅子の上で、手を上にあげる。
 その主の前に簀巻きにされた金髪の少女が、ザフィーラの手でドカッと置かれた。
 主の少女とやさぐれフェイトの目が合う。


 「な、何やこれ?」

 「何なんだろうね……。」


 三白眼の下にクマのある目に、主の少女は少し怯えていた。



  第5話 やさぐれと守護騎士の主



 最近、お出掛けの多い守護騎士達に寂しく思っていた主の少女。
 そして、今日は、朝から四人とも出掛けると聞いていた。
 しかし、帰って来たと思えば、簀巻きの少女を担いで来た……。


 「これは、誘拐と言うんやないか?」

 「そうではありません。
  これは……。」


 説明しようとしたシグナムが止まった。
 何と言えばいいのか?
 思考中のシグナムに、やさぐれフェイトが口を挟む。


 「簀巻きにした時点で、誤解を生んだんじゃないの……?」

 「何で、簀巻きなんよ?」

 「ここに連れて来るのに暴れたので。」

 「やっぱり、誘拐やないの!」

 「そうではなく……。
  コイツは、主の病を治せるかもしれない生き物なのです。」

 「コラ……。
  あたしを人間じゃないように言うな……。」

 「?」


 主の少女が首を傾げる。
 そして、目の前で、簀巻きがバリバリと引き千切られる。
 やさぐれフェイトが、主の少女に近づく。


 「お願い、靴脱いで。」

 「ごめん……。」


 靴を脱いで、玄関に置くと再び近づく。
 やさぐれフェイトは、クマのある三白眼の目で主の少女を見下ろす。


 「どう……?」

 「どうって……。」

 「楽にならない……?」

 「そんなこと言われても……。
  ・
  ・
  ん?」


 主の少女は、車椅子に腰掛けたまま、手で腰の下辺りを擦る。


 「気のせいか……。
  何や、圧迫感が消えたような……。」

 「効いてるんじゃないの……?」


 やさぐれフェイトは、主の少女を指差して守護騎士に振り返る。
 シャマルが心配そうに、主の少女に話し掛ける。


 「はやてちゃん。
  どんな感じですか?」

 「どんな言われても……。
  言い難いわぁ……。
  ・
  ・
  何かが中和してるみたい……って、言うて分かる?」


 シャマルが嬉しそうに手を口に持って行く。
 ヴィータが、やさぐれフェイトを突っつく。


 「今度、離れてみろよ。
  そうすれば、分かるから。」

 「いいよ……。」


 やさぐれフェイトは、主の少女の車椅子持つ。
 そして、力強く玄関の反対方向に押した。
 主の少女が悲鳴を上げて離れていく。
 ヴィータのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「はやてに、何してんだよ!
  お前が離れろよ!」

 「だって……。
  車椅子なんて初めてで……。
  テンションが上がった……。」

 「馬鹿か! お前は!
  はやてが怪我でもしたら、どうすんだよ!」

 「大丈夫……。
  シャモルが治す……。」

 「シャマルです!
  そして、何で、私の能力を知ってんですか!」

 「簡単……。
  RPGで僧侶は、必須……。
  このパーティで、癒し系の性格は一人しか居ない……。」

 「「どういう意味だ。」」


 シグナムとヴィータから、何故か突っ込みが入った。
 ザフィーラは、呆れて忘れられている主の少女に確認を取りに向かっていた。


 「主、気分は?」

 「前に戻った感じ……。
  確かにあの子の近くに居る方が楽みたいや。」

 「そうですか。」


 ザフィーラが、車椅子を押して玄関に戻る。


 「どうやら、効果があるのは確かなようだ。」

 「じゃあ、コイツをはやての側に置いとけばいいんだな?」

 「そうなるな。」


 主の少女が質問する。


 「ところで。
  この人、どういう人なんや?」

 「…………。」


 守護騎士達は、説明に困った。
 やさぐれフェイトのことを説明するということは、自分達のしていたことを話さなければならない。
 それは、主の少女を悲しませることになる。
 なのに……やさぐれフェイトが話し出した。


 「あたしが説明してあげる……。」

 「「勝手に話すな!」」

 「何で? ええやない?」

 「いや、しかし……。」
 「はやて、それは……。」

 「安心しろ……。
  あたしは、こう見えて説明の達人だ……。」

 ((((嘘だ……。))))


 主の少女は、やさぐれフェイトの話に耳を傾ける。


 「まず、自己紹介を……。
  やさぐれと呼ぶといい……。」

 「やさぐれ? やさぐれちゃん?」

 「うむ……。
  君は……?」

 「八神はやて、言います。」

 「了解……。
  じゃあ、説明する……。
  実は、あたしには癒しの力がある……。」

 「どんな?」

 「近くに居ると、病気が少し良くなる……。」

 「少しだけ?」

 「少しだけ……。」

 (微妙やな……。)

 「シグナム達は、あたしを探して全国津々浦々と飛び回ってた……。」

 「そうなん?」

 「うむ……。
  あたしは、ある金持ちに監禁されて、
  汚い取り引きの材料にされていた……。
  そこに正義の使者の守護騎士達が乗り込み、
  あたしを助けてくれた……。
  あたしは、恩返しに八神家に来たというわけだ……。」

 「ふ~ん……。
  明らかに嘘やよね?」

 「…………。」


 やさぐれフェイトが守護騎士達を見る。


 「失敗した……。」

 「「「「当たり前だ!」」」」


 やさぐれフェイトは、頭を掻いてクセ毛を作る。


 「もう、ぶっちゃけ……。
  拉致された……。」

 「始めに戻ったんやけど……。」

 「もう、いい……。
  誘拐されたことで……。
  何か知らない力で、はやての体に干渉して治ってる……。」

 「何で、投げやりやの!」


 はやてがシグナムを見た。


 「理由は分かりませんが、
  彼女の力が主の病に有効なのは確かです。」

 「誘拐は?」

 「…………。」

 「何で、黙るんよ?」


 シグナムは、はやてから離れてやさぐれフェイトを呼ぶ。


 「何……?」

 「お前、ここに滞在可能なのか?」

 「うちは、放任主義だから大丈夫……。」


 嘘である。


 「そうか……。
  では、お前に頼っていいのだな?」

 「構わない……。
  あるものさえ、用意してくれれば……。」

 「何だ?」

 「刃牙のコミック……。
  全部、揃えて……。」

 「コミック?
  いいだろう。」

 「交渉成立……。」


 シグナムとやさぐれフェイトが握手する。
 シグナムとやさぐれフェイトが戻る。
 シグナムがはやてに話し掛ける。


 「主はやて、大丈夫です。」

 「……何が?」

 「彼女は、ここに滞在してくれます。
  誘拐ではありません。」

 「さっき話してた裏取り引きみたいの、何?」

 「気のせいです。」

 「…………。」

 (シグナムが少しおかしくなった……。)


 はやては、残りの守護騎士に振り返る。
 守護騎士達は、笑って誤魔化している。
 はやては、額を押さえる。


 「何や、よく分からんけど……。
  居候が一人増えたってことで、いいんやろか?」

 「これからよろしく……。
  あたしから、5m以上離れないでね……。」

 「お前が、はやてから離れるなよ。」


 ヴィータの言葉に他の者は頷いた。
 やさぐれフェイトは、舌打ちするとポケットを漁る。


 「仕方ない……。
  極力努力してやる……。
  ・
  ・
  あと、これ……。
  悪さしないみたいだから、返す……。」


 やさぐれフェイトが、ヴィータに奪ったデバイスを見せる。


 「お前……。」

 「約束して……。
  なのはに謝ること……。
  あたしが居る間に別の方法を探すこと……。」

 「分かった。
  約束する。」

 「うむ……。」


 やさぐれフェイトは、ヴィータにデバイスを返す。


 (ニチャ……。)

 「…………。」


 ヴィータの手の中で、アイゼンとレヴァンティンが粘ついている……。


 「ごめん……。
  ポケットのキャラメルが溶けた……。」


 ヴィータとシグナムのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。



[26407] 第6話 やさぐれとの生活①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:08
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 八神家に妙な居候が増えて三日……。
 寝食をともにして、はやての体の倦怠感というか違和感というものは止まっている。
 そして、それが証明されるように、昨日の病院の定期健診は成果があった。
 石田医師の嬉しそうに喜んでくれた顔が忘れられない。

 しかし、逆に言えば、この妙な居候を手放せないことが証明されたことにもなる。
 そして、その妙な居候は、はやてが隣で勉強しているにも拘らず、漫画を読んでいる。


 「勇次郎……。
  まさか、暫く見ない間に尖がり過ぎて雷が落ちるとは……。
  刃牙の表現は最高だ……。
  あたしも、こういう生き方をしたいと思わせられる……。
  そう、魔法少女とはこうあるべきだ……。」


 やさぐれフェイトは、範馬刃牙を読みながらニヤニヤと笑っている。
 はやては、やさぐれフェイトが二日ほど前から読み耽っている漫画が魔法少女に関するものとは思えなかった。
 



  第6話 やさぐれとの生活①



 場所は、テーブルとソファの並んだリビング……。
 一方の守護騎士達は、主の少女のリンカーコアを成長させる方法を話し合っていた。
 シャマルが顎に手を当てて話し出す。


 「私、ヴィータちゃんの言っていた
  『何か大事なことを忘れてる気がする』
  というのが気に掛かっているんです。」

 「実を言うと私もだ。」

 「シグナムも?」


 ザフィーラも無言で頷くと、全員が納得したことになる。


 「もしかしたら、それが重要な鍵になるかもしれないな。」

 「でもさ、シグナム。
  何を忘れてんだろう?
  私らの中には、主であるはやてに忠誠を誓うことと、
  はやてが闇の書の真の主として覚醒することで病気が治るってことだけだろ?」

 「ああ……。
  もしくは……。」

 「…………。」


 全員が押し黙る。
 蒐集して願いを叶えさせる方法が直ぐに頭を過ぎった。


 「あのさ……。
  よく思え出せねーんだけど……。
  今まで何回も転生を繰り返して来たはずなのに、
  戦い続けて来た記憶ばかり鮮明に残っていて……。
  主が願いを叶えた記憶がないんだ……。
  ・
  ・
  闇の書って、願いを叶えてくれるんだったよな?」

 「……そのはずですよ。
  だけど……。」

 「我等は、戦場を駆け抜けた記憶しかない。」


 ヴィータ、シャマル、ザフィーラの言葉にシグナムも考え込む。
 そもそも闇の書は、何をするロストロギアで、自分達は、何のために主を守るのか?
 シグナムは、両手で頭を押さえて俯く。


 (何かが変だ……。
  守護騎士である我等を呼んで覚醒が進み、
  主はやての病の麻痺が進んだ……。
  ・
  ・
  麻痺の進行は、抑圧された魔力が未熟なリンカーコアを蝕んだからだ。
  それなのに真の覚醒を果たして大丈夫なのか?
  更にリンカーコアを抑圧するのではないか?)

 「……どうして、我等は、主の覚醒を優先するのだ?」

 「「「シグナム?」」」

 「ヴィータの言った通りだ……。
  願いを叶えた記憶がないのに、
  何故、主の覚醒を果たせば病が治ると思っているのだ?」

 「…………。」


 分からない……。
 しかし、頭の片隅に優先すべきという確信がある。
 ザフィーラが口を開く。


 「確かに我等には、主の覚醒に対する手助けをしなければいけないという思いがある。
  欲求、衝動、そういうものがある……。
  しかし、それは本来、主が望むもの命令するものであり、
  我等、守護騎士の役目とは少し違う……。」

 「…………。」

 「この思い……。
  少し脇に置いておきませんか?」


 他の守護騎士達がシャマルを見る。


 「はやてちゃんのことを考えましょう。
  はやてちゃんの体のこと。
  はやてちゃんの未来のこと。
  ・
  ・
  幸い、あの子のお陰で病気が改善に向かってる。
  時間が出来た。
  だから、リンカーコアを成長させる方法を考えませんか?」

 「ああ、それがいい。」

 「私も賛成だ。」

 「うむ。」


 守護騎士の考えが一つの方に向く。
 ヴィータが腕を組む。


 「もしかしたら、アイツが居ればこのまま治るんじゃないか?」

 「それも考えられるが、主人格が目覚めるまでという話だ。」

 「だったら、主人格が目覚めそうになったら、
  アイゼンで、ぶっ叩けばいいんじゃないか?」

 「お前、また頭を割る気か?
  加減を間違えれば死にかねんぞ?」

 「それは……ダメだな。」

 「そうですよ。
  はやてちゃんの人生も考えないといけないんですから。」

 「じゃあ、はやてとアイツの距離を少しずつ離していくんだ。
  闇の書からの魔力の抑圧をコントロールして、
  はやてのリンカーコアを鍛えるんだ。」

 「それはいいかもしれんな。」

 「だろ?」

 「でも、今は、はやてちゃんの麻痺を完全に治癒したいですから、
  はやてちゃんと闇の書の魔力の行き渡しを止めて置きたいですね。」


 ザフィーラが、テーブルの上の闇の書を叩く。


 「これも、アイツに持っていて貰う方が良いのではないか?
  闇の書から『我等に魔力を提供しろ』という主に向かう命令も、
  主に向かわなくなるのではないか?」

 「なるほど……。」

 「上手くいけば、はやてちゃんに魔力の影響が一切なくなりますね。」

 「よし! じゃあ、実行に移そう!」


 ヴィータが闇の書を手に取った。


 …


 はやての部屋をヴィータが訪れる。
 ヴィータは、はやてとやさぐれフェイトに近寄ると、闇の書をやさぐれフェイトに突き出した。


 「お前、これも持ってろ!」

 「何で……?」

 「いいから、持ってろよ!
  はやてのためだ!」

 「ヴィータ?」


 はやての視線に、ヴィータは戸惑う。
 現在、言い訳を持ち合わせていない。


 「と、兎に角!
  ちゃんと持ってろよな!」


 ヴィータは逃げるように、はやての部屋を出て行った。
 やさぐれフェイトが押し付けられた闇の書を手に取る。


 「何、これ……?」

 「闇の書。
  それ、私が持ってたんよ。」

 「じゃあ、ヴィータのじゃないの……?」

 「そやね。」


 はやては、クスリと笑う。


 「どうする……?
  返そうか……?」

 「持ってて。
  よう分からんけど、あの子がすることに意味ないことはないと思うから。」

 「ふ~ん……。
  信用してんだ……。」

 「家族やからね。」

 「家族か……。」


 やさぐれフェイトは、闇の書を椅子の後ろに置く。


 「さすがに持ち続けるのはキツイ……。」

 「大きいからなぁ。
  ・
  ・
  もう少しで、今日の分が終わるから、
  終わったら買い物行こか?」

 「家で刃牙見てる……。」

 「ダ~メ。
  私が行くとこに、やさぐれちゃんは強制参加や。」

 「え~……。」

 「ずっと、見てたやないの。」

 「二度読み、三度読みするごとに味が濃くなる……。
  最近、烈海王に支点を置いて読み返してる……。」

 「それ、面白いん?」

 「世界観が変わる……。
  意味もなく壁とかにパンチ入れたくなるし、
  車に撥ねられる瞬間に集中力が高まって、
  死なないんじゃないかと思えて来る……。」

 「……どんな漫画なん?」

 「魔法少女を目指す全ての女の子に推奨出来る……。
  文部科学省認定も付けちゃう……。」

 「絶対付かんわ。
  表紙の絵の人の体付きからして思えへん。」

 「表紙で判断してはいけない……。
  貸してあげるから、読んでみて……。」

 「正直、あんま興味をそそられないんやけど……。」

 「分からないよ……?
  ただの読まず嫌いかもしれない……。
  試しに読んでみるといい……。」

 「じゃあ、後で貸してな。」

 「うむ……。
  そして、これからザフィーラに背中に鬼を出して貰う予定……。」

 「鬼?」

 「ザフィーラなら、きっと出来る……。
  だって、守護騎士だから……。」

 「そうなん?」

 「楽しみにしているといい……。
  主の期待には、きっと応えてくれる……。」

 (無理難題な気がする……。)


 リビングに戻った後、盛大なグーの炸裂音が響いた。
 そして、やさぐれフェイトの手の中で、闇の書がエラーコードを吐き続けているなど、この時、誰も予想していなかった。



[26407] 第7話 やさぐれとの生活②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:08
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 フェイトの住んでいたマンションをなのはが訪れる。
 インターホンを押すと、暫くしてプレシアがドアを開けた。


 「いらっしゃい。
  フェイトかしら?」

 「はい。
  デバイスの修理は、まだなんですけど、
  この前、襲って来た人達について分かったので。」

 「報告に来てくれたのね。
  ありがとう。
  でも……。
  やさぐれて帰って来て、
  その後、出掛けてから帰ってないのよ……。」

 「ゆ、行方不明ですか!?」

 「多分、違うわ……。
  アルフの話だと、やさぐれた時には無断で歩き回っていたそうよ。
  連絡も取らない、探したくても魔力探知出来ない、
  挙げ句の果てに自分から姿をくらましていたみたいだし……。」

 「すごく分かります……。
  やさぐれちゃん、自由過ぎるというか……。
  掴みどころがないっていうか……。」

 「そうなのよ。
  放っとくしかないのよ。
  だから、フェイトに戻った時に慰めることを考えて置かないと。」

 (また、あの日々が続くんだ……。
  フェイトちゃん、大丈夫かな……。)

 「でも、少し困ったの……。
  リンディさんから、戦った人達が闇の書っていう
  ロストロギアに関わっているって。」

 「ロストロギア?」

 「レイジングハートのデータに、
  闇の書って言われるものが映っていたんです。
  赤いバリアジャケットの子の腰の後ろに。」

 「それなのに……!
  あの馬鹿は、ほっつき歩いているのね……!」


 プレシアは、拳を握った。
 なのはは、プレシアの気持ちが少し分かった。
 自分も拳を握りたい気分だったからだ。



  第7話 やさぐれとの生活②



 やさぐれフェイトは、だらけていた。
 よそ様の家で堂々と……。
 ある意味、この生活は最高だった。
 自分のAMFのお陰で、やりたい放題出来る。
 三食昼寝付き。


 「あたしが居ないと、はやては病気になる……。
  諂って敬え……。」

 「お前な……。」


 やさぐれフェイトは、刃牙のコミックを片手にジュース。


 「もう、家に帰りたくない……。」

 「お前にAMFがなければ、
  直ぐにでも追い出すのだがな。」

 「帰ってもいいよ……。」

 「弱みに付け込んで……!」


 拳を握るシグナムを見て、やさぐれフェイトは、邪悪な笑みを浮かべる。
 そして、はやてに振り返る。


 「で……。
  はやての体調の方は……?」

 「凄く調子ええよ。
  検査の方も、いい結果だって言うてたよ。」

 「足は動くの……?」

 「さすがに直ぐには……。
  でも、感覚は戻って来てるんよ。」

 「一応の効果はあったんだ……。
  あたしの癒し効果……。」

 「毒がひっくり返ったんやろか?」

 「なら、果糖を溶かした水をバケツ一杯……。」

 「八神はやて復活!
  八神はやて復活!
  八神はやて復活!」


 ヴィータが復活コールを叫ぶ。
 やさぐれフェイト→はやて→ヴィータ 経由で、刃牙を読み回しした結果であった。


 「やらんから!」

 「え~!」

 「ノリの悪い……。」


 シグナムがヴィータに話し掛ける。


 「ヴィータ……。
  いつのまに、やさぐれと打ち解けたんだ?」

 「コイツ、結構、ネタを持っててよ。
  意外と面白いんだよ。
  はやてに頼んで、私も古本屋の全巻セットを買って貰っちゃったぜ。
  えへへ……。」

 「馬鹿か!
  と、いうか、お前か! あれは!」


 シグナムの指差す先には、新たに増えたドラゴンボール。


 「今度は、幽遊白書を揃えるといい……。」

 「それ以上、漫画を増やすな!」

 「そう言うな……。
  シグナムにも買って来た……。
  『るろうに剣心』全巻セット……。」

 「要るか!」

 「シグナム……。
  要らないんか……。」


 はやてが悲しそうに俯いた。


 「主はやてが買ったのですか!?」

 「喜んでくれるかと思ったんやけど……。」


 はやてが口に手を当て、目を伏せる。


 「泣かした……。」
 「泣かしたな。」

 「え、いや、これは……。」

 「…………。」


 シグナムは、『るろうに剣心』全巻セットを手に取る。


 「……読ませて頂きます。」

 「ほんま?」

 「はい。」


 はやては、笑顔を浮かべる。
 ヴィータとやさぐれフェイトが親指を立てる。


 「ナイス演技……。」
 「ナイス演技!」

 「何?」


 シグナムが、はやてに振り返ると、はやてが口に指を立ててた。


 「どうやら……。
  主はやても一緒に、お説教が必要なようですね……。」

 「…………。」


 シグナムのお説教タイムが始まった。


 …


 台所のテーブルで、シャマルとザフィーラがシグナム達を見ている。


 「随分と打ち解けたわね。」

 「打ち解けたのか?
  悪影響が出ていないか?」

 「……許容範囲ということで。」

 「まだ、解決法が見つかっていないというのに……。」

 「でも、元気は出たみたいですよ? 皆……。」

 「まあ、やる気がなければ何も出来ぬからな。
  それに今までの主に気を遣った行動よりも、心に躊躇いがない……。」

 「そうね。」


 シャマルは、生活が少し前に戻ったような気がしていた。
 そして、視線の先のシグナムが、少し活き活きとして見える。
 やさぐれフェイトに、盛大なグーを炸裂させるシグナム。


 (この光景が増えたせいかもしれない……。)


 もの静かだったシグナムに、新たな属性が芽生えようとしていた。


 …


 次の日……。
 八神家の庭では、シグナムとヴィータの模擬戦が行なわれていた。
 一日の中で、少しだけ感覚を養う短い時間である。
 縁側の直ぐ側では、車椅子に座ったはやてと窓から足を投げ出しているやさぐれフェイトが観戦していた。


 「しっかりと訓練してるんだね……。」

 「皆は、騎士やからね。」

 「広い庭があってよかった……。」

 「こういう使い方をするとは思えへんかったけどね。」


 シグナムの剣とヴィータの鉄槌が激しくぶつかる。


 「やっぱり、デバイスに差があるみたい……。
  バルディッシュは、シグナムの剣で切断されたのに、
  ヴィータのデバイスは、しっかりと受け止めてる……。」

 「戦ったの?」

 「フェイトがね……。」

 「フェイト?」

 「近いうちに会わせてあげる……。」

 「ほんま?
  楽しみやわぁ。」


 はやてが嬉しそうに微笑む。
 そして、鍔迫り合いの音がすると、はやてとやさぐれフェイトは、視線を戻す。
 視線の先で、シグナムが深く沈みこんだ。


 「飛天御剣流! 龍翔閃!」


 シグナムは、地面を力強く踏み込む。
 レヴァンティンの峰を片手で支え斬り上げると、ヴィータのアイゼンを弾き飛ばした。
 アイゼンが音を立てて転がる。
 ヴィータは、無言でシグナムを見る。


 「…………。」

 「何だ?」

 「シグナム、しっかり嵌ってんじゃないかよ!」

 「え?」

 「『え?』じゃねーよ!
  『るろうに剣心』読まなきゃ、技の名前なんて出ないだろうが!」


 シグナムは、頬を少し掻く。


 「あれは……。
  その……。
  良かった……。」

 「は?」

 「今、龍巻閃も練習してる……。」

 「…………。」


 はやては、可笑しそうに笑っている。


 「結局、同じ穴の狢か……。」


 やさぐれフェイトは、やれやれと両手をあげた。


 「シグナム……。」

 「な、何だ!?」

 (コイツも、馬鹿にする気か?)

 「その剣で、抜刀術は難しいんじゃない……?」

 「?」


 シグナムがレヴァンティンを見る。


 「騎士剣には反りがない……。
  抜刀術を使うには、鞘と日本刀特有の反りが必要なはず……。
  つまり、天翔ける龍の閃きを習得出来ないよ……。」

 「……そうか。
  ・
  ・
  レバンティンの第四の型を作るか……。」


 シグナムがレヴァンティンを両手で見据えて考え始めると、やさぐれフェイトは、にやりと笑う。
 そして、はやてに顔を近づける。


 「聞きました……?
  八神さんの奥様……。
  シグナムさんったら、すっかり嵌ってしまって……。」

 「何て言えばいいんや……。」

 「ヴィータ……。
  手本……。」

 「出来ねーよ。」

 「仕方ない……。
  ・
  ・
  馬鹿丸出しですわね……。
  お~ほっほっほっ……。」


 シグナムのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「明らかにお前が誘導しただろう!」

 「だって、漫画の技を習得した人なんて初めて見たし……。」

 「っ!
  ……仕方ないだろう。
  使ってみたら、柄を持った時よりも間合いが近い接近戦型だったのだから……。」


 やさぐれフェイトは、持ち方を試してみる。


 「本当だ……。
  柄を握る位置に刀身が来る……。」

 「私にない攻撃の間合いだった。
  この事実をどう解釈すればいい?」

 「それで、習得……?」

 「……不本意ながら。」

 「そっか……。
  でもさ……。」

 「何だ?」

 「技の名前は、叫ばなくていいんじゃない……?」

 「…………。」


 シグナムは、そのことに気付くと頭を抱えて蹲った。
 ヴィータとはやては、また可笑しそうに笑っていた。


 …


 八神家の人間は、段々とやさぐれフェイトを受け入れ始めた……。
 いや、やさぐれフェイトに汚染され始めていた……。
 グーの炸裂音が増え続けていく……。

 そして、そんなある日の夜……。
 事件が起きようとしていた。

 はやてのベッドでは、はやてとヴィータが眠っている。
 そのベッドの下では、やさぐれフェイトが布団で眠っている。
 そして、やさぐれフェイトは、もぞもぞと目を覚ました。


 「枕が柔らかい……。
  眠れない……。」


 辺りを見回すと丁度いいもの。


 「闇の書があった……。」


 柔らかい枕をポイッと投げ捨て、闇の書を枕にする。


 「この固さだ……。」


 そして、一時間後……。
 エラーコードを吐き続けていた闇の書に異変が起きた。



[26407] 第8話 やさぐれとの生活③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:09
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 深夜のエマージェンシーコール……。
 発しているのは、闇の書だ。
 しかし、緊急事態を知らせようにも、やさぐれフェイトのAMFのせいで、主にも守護騎士にも連絡は届かない。
 現在進行中の主への魔力接続エラーの無限ループの割り込み以外にも、緊急事態が発生している。
 それは……。


 「う~ん……。
  むにゃむにゃ……。
  はやへのみくじゃが……。」


 やさぐれフェイトの口から流れ出ている液体。
 動けない闇の書。
 本は、水に弱い。
 闇の書は、割り込みのエラーの緊急度を更に上げる。
 しかし、主からも守護騎士からも返信が返って来ない。

 事態は、進み続ける。
 ピチャンという雫単位が、いつのまにかダラダラと水溜り単位へ。
 そして……。


 「~~~!」


 何者かの悲鳴が響いた。



  第8話 やさぐれとの生活③



 耳元の大きな不協和音に、やさぐれフェイトは目を覚ました。
 口元の涎を拭い、目を擦る。
 目の前には、綺麗な銀髪の黒い服を着た女性がベタベタになっていた。


 「はて……?」


 やさぐれフェイトは、ガシガシと頭を掻いてクセ毛を作った後、見知らぬ女性に首を傾げる。
 件の女性は、闇の書を抱いて涙目になっていた。
 仕方なしにやさぐれフェイトは、はやてとヴィータを揺すって起こす。


 「……何?」
 「……何だよ?」

 「変なのが出て来た……。」

 「「……変なの?」」


 ヴィータは、件の女性を見て吹いた。


 「何で、闇の書の完成前に管制人格が出て来てんだよ!」

 「「管制人格(……)?」」

 「どうなってんだ……。」


 ヴィータは頭を抱えるが、数秒後には、はやての部屋を飛び出していた。
 残されたはやてとやさぐれフェイトと……ベタベタの管制人格。
 はやてが沈黙を破って部屋の出口を指差す。


 「えっと……。
  お風呂……使います?」


 はやての呼び掛けに管制人格は黙って頷く。
 そして、闇の書を差し出した。


 「申し訳ありませんが……。
  このベトベトになってしまった闇の書も、
  どうにかして頂けませんか?」

 「うぁ……。」


 表紙の半分以上が涎で濡れ、側面のページにも寝食して涎が線を引いている。
 はやては、ベッドから車椅子に乗る。


 「兎に角、こっち来て。
  案内するから。」

 「はい……。」


 深夜の八神家がバタバタし出した。


 …


 管制人格が風呂から上がる頃……。
 闇の書の涎は丁寧に拭かれ、ファブリーズを振り撒き、ドライヤーで乾燥中だった。
 そして、はやてと守護騎士達とやさぐれフェイトが見守る中で、シグナムから管制人格に質問が飛ぶ。


 「一体、何が起きたのだ?
  闇の書の完成前に姿を現わすなど……。」

 「それは、こちらも伺いたいところです。
  数日前から、主どころか守護騎士システムにもアクセス出来なくなりました。
  いくらエラーコードを送信しても受け付けません。
  そして、最大の危機に仕方なく目を覚ましました。」

 「最大の危機?」


 管制人格が、やさぐれフェイトを指差す。


 「彼女が闇の書を枕に……。
  そして、寝ながら涎を……。」


 シグナムのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「枕にするな!」

 「固い枕が欲しくて……。
  それに人間寝ている時こそ、油断するもの……。
  涎を垂らしてしまうのは、あたしだけじゃない……。」

 「垂らすなんてレベルじゃねーけどな。」


 闇の書にドライヤーを当てているヴィータが突っ込んだ。
 はやてが管制人格に話し掛ける。


 「ベタベタになってたんは、
  やさぐれちゃんの涎のせいなんやね?」

 「はい……。
  彼女の涎が体を作る際に反映されて……。
  闇の書と同じ様に私も……。」


 何とも言えない溜息が漏れる。
 今度は、シャマルが管制人格に質問する。


 「あの……。
  闇の書が完成しないと、あなたは、出て来ないはずですよね?
  大丈夫なんですか?」


 管制人格は、険しい表情をする。


 「大丈夫ではありません。」

 「え?」

 「そもそも闇の書というものは、精密なプログラムが組み込まれています。
  守護騎士システムや防衛プログラムなどがそうです。
  そして、プログラムを組む際に緊急事態に対する優先度を持った割り込みプログラムもあります。
  数日前から、主と守護騎士と魔力接続が出来なくなり、
  エラーコードを吐き続けていました。
  一向に返って来ない返信信号に、闇の書は、エラーの無限ループに入っていたということです。
  ・
  ・
  更に闇の書自体の危機……。
  涎による汚染により、別のエラーコードが発生し……。」

 「そ、それで?」

 「闇の書は、エラー中のエラーの無限ループから抜け出せず……完全に壊れています。」

 「…………。」


 守護騎士達にズーンと暗い影が落ちる。


 「こ、壊れた……。」

 「壊れた……。」

 「壊れちゃった……。」

 「どうすれば……。」

 「どうしようもありません。」


 やさぐれフェイトが、放心するヴィータから闇の書を取り上げる。


 「じゃあ、これはただの本……?」


 管制人格が頷く。


 「ただの本です。
  中で、延々とエラー解除を待っているので、
  何も出来なくなっています。」

 「エラーを解除すれば……?」

 「エラーの解除条件がないのです。
  主と守護騎士からの魔力接続のエラーは、
  接続が再開されるか、
  闇の書の魔力が尽き、新たな宿主を探す時にリセットされるかです。
  ・
  ・
  しかし、エラー中のエラーの解除条件など存在しません。」

 「何で、別のエラーが出たの……?」

 「私は、人格を持っています。
  唾液攻めに耐え切れず……。
  緊急時のエラーコードを発行してしまいました……。」

 「お前のせいか……。」

 「「「「「お前のせいだ!」」」」」


 管制人格以外の全員のグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
 やさぐれフェイトは、頭を擦る。


 「しかし、これからどうなるの……?
  守護騎士とか……。」

 「とりあえず、然るべき処置を取らないとこのままかと……。
  私達は、闇の書に切り離されたままです。」

 「そう……。
  ん……?
  切り離された……?」

 「闇の書にアクセス出来ないので、
  闇の書は、永遠に完成しません。」

 「…………。」


 守護騎士達は、考え込む。
 そして、ヴィータが呟く。


 「それって……。
  もしかして、全てが解決してないか?」

 「そうだな……。」

 (主はやてへの影響も……。)

 (闇の書が再生することも……。)

 (蒐集のために戦うことも……。)

 「全ては、あたしの計算通り……。」

 「「「「「嘘つくな!」」」」」


 やさぐれフェイトは、舌打ちした。
 この日……。
 やさぐれフェイトのせいで、壊れたロストロギア闇の書が、更に壊れてしまった。



[26407] 第9話 闇の書の秘密
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/09 00:40
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 八神家で闇の書が壊れたことなど知らず、時空管理局では闇の書の調査が進んでいた。
 そして、その情報は襲われたなのはにも知らされ、それを知らせに今日も訪れたテスタロッサ家……。


 「貴女も大変ねぇ……。」

 「本当は、やさぐれちゃんに知らせないといけないんですけど……。」

 「帰って来てないのよね……。」


 プレシアを前に、なのはは、お茶を啜る。
 最近、なのはとプレシアの距離は、妙に近づいている。
 被害者意識の共有だろうか……。


 「プレシアさん。
  やさぐれちゃんが帰って来た時に伝言して貰いたいので、
  聞いて貰っていいですか?」

 「聞かせて貰うわ。
  そして、本当にごめんなさい……。
  ちゃんとシメとくから。」

 「にゃはは……。」

 (やさぐれちゃん……。
  怒られるんだろうな……。)


 プレシアの笑顔に浮かぶ青筋を見て、なのはは、そう判断した。



  第9話 闇の書の秘密



 なのはの説明には、プレシア以外にアルフとアリシアも参加していた。
 なのはが話し出す。


 「上手く説明出来なかったら、ごめんなさい。
  なるべく頑張ります。」

 「大丈夫よ。
  分からないところは、知識で補うから。」

 「お願いします。
  ・
  ・
  えっと、ですね。
  リンディさんのお子さんで、クロノ君っていう執務官の男の子と、
  一緒にジュエルシードを集めてたユーノ君の調査の結果です。
  まず、クロノ君のお話から……。」

 「ええ、分かったわ。」

 「クロノ君の話ですと、闇の書は、凄く危ないものみたいなんです。
  魔力蓄積型のロストロギアで、
  真の力を発揮すると次元干渉レベルの巨大な力が働いてしまうみたいなんです。」

 「また、厄介なロストロギアね……。
  発動の条件は?」

 「全ページである666ページが埋まったらです。」

 「ページを埋めるの?」

 「はい。
  魔導師の魔力の根元となるリンカーコアを食べて、
  ページを増やしていく……みたいです。
  それで、私とフェイトちゃんが襲われることになりました。」


 プレシアは、顎に手を当てる。


 「そうか……。
  リンカーコアの純粋な魔力量なら、貴女達は……。」

 「はい。
  だから、プレシアさんもアルフさんも気をつけてください。」

 「わたしは?」


 アリシアが自分を指差す。


 「ごめんね。
  アリシアちゃんも。」

 「うん。」

 (アリシアの魔法資質は低いから、
  襲われることはないでしょうね……。)


 プレシアは、なのはが省略した理由を自己解釈する。


 「忠告、承ったわ。
  じゃあ、貴女達を襲った魔導師に気をつければいいのね?」

 「はい。
  でも、大丈夫ですか?
  リンディさんは、時空管理局で保護することも提案してくれていますよ?」

 「確かに……。
  アリシアを庇いながら戦うというのも……。」


 アルフは、少し困った顔になる。


 「私は、ここを離れられないよ。
  フェイトは、私のご主人様だから。」

 「そうですよね……。
  正直言うと、私もフェイトちゃんが気になって……。」

 (この子、本当にいい子だね……。)


 アルフは、入れ替わってしまっている擬似人格と比較した。
 プレシアが話を続ける。


 「貴女達を襲った魔導師が闇の書を完成させようとしているということは、
  その魔導師達が次元干渉レベルの何かをしようとしているのかしら?」

 「それが少し違うみたいで、私達を襲ったのは、
  闇の書を起動した時に現れた、主を守る守護騎士さん達みたいなんです。」

 「闇の書の機能?」

 「はい。
  ・
  ・
  『本体が破壊されるか所有者が死ぬかすると、
   白紙に戻って別の世界で再生する。
   様々な世界を渡り歩き、自らが生み出した守護者に護られ、
   魔力を喰って永遠を生きる……。
   破壊しても、何度でも再生する。
   停止させることの出来ない危険な魔導書……。』
  だそうです。」

 「本当に厄介ね……。」

 「でも……。」

 「?」

 「その守護騎士さん達をやさぐれちゃんが撃退して……。
  二人からデバイスを取り上げて……。」

 「何をしたのよ……。
  あの子は……。」

 「そのせいで、あれ以来、闇の書の蒐集は行なわれていないみたいです。」

 「役には立っているのね……。」

 「はい……。」


 役に立っているのか役に立っていないのか分からない、やさぐれフェイト……。
 微妙に空気が緩んだ場を仕切り直すため、全員がお茶を啜った。


 …


 お茶菓子に煎餅が出され、少し休憩を入れる……。
 そして、休憩が終わり、説明が再開される。


 「後は、ユーノ君の話だったわね?」

 「はい。
  ユーノ君は、時空管理局の無限……書庫?」

 「合っているわよ。」

 「すいません。
  その無限書庫で、闇の書の経歴を調べてくれたんです。
  元々は、
  『各地の偉大な魔導師の技術を収集し、
   研究するために作られた収集蓄積型の魔導書』
  夜天の魔導書というのが本来の名前です。
  さっき、少し話したように宿主を変えて旅する魔導書なんですけど、
  歴代の主の誰かが夜天の魔導書を改竄してしまって、
  収集蓄積型の魔導書が危険なものになってしまったみたいです。
  ・
  ・
  それに、他に心配なことも……。」

 「心配?」

 「その闇の書……。
  一定期間、頁の蒐集がないと持ち主自身のリンカーコアを侵食しちゃうって……。」

 「随分と悪質な改竄ね。
  頁の蒐集をしないとリンカーコアを侵食するんじゃ、
  持ち主は、蒐集せざるを得ないじゃない。
  しかも、蒐集が完成すれば、次元干渉レベルの力の発揮……。
  ・
  ・
  そして、貴女の心配は、蒐集のない状況で、
  苦しんでいるかもしれないリンカーコアを侵食されている持ち主さん?」

 「あの、その……はい。」

 (少し前なら、『甘いことを言って』と笑ったところだけど……。
  今は、その甘さも受け入れられる……。)


 プレシアは、微笑む。


 「私は、アリシアとフェイトのお母さんだから、
  ここを離れられないわ。
  そして、娘もその友達も傷つけると言うなら、
  再び戦うことになるでしょうね。」

 「プレシアさん……。」

 「無理をする気はないけど、協力はしてあげるわ。
  だから、時空管理局に言って置いて……。
  『次に戦闘が起きた時、私が時間を稼いであげるから、
   さっさとサポートしに来なさい』って。」


 アルフがプレシアを不思議そうな顔で見る。


 「いつになく、やる気じゃないか?」

 「大事な娘を”馬鹿にされた”ツケは大きいのよ。」

 「やさぐれのことを言ってんのかい……。」

 「そうよ。
  あんないい子が馬鹿になったのよ……。」


 アルフは、なのはに向かって両手を軽くあげる。
 なのはは、それを見て可笑しそうに笑った。


 …


 一方の八神家……。
 闇の書とか管制人格とかが呼び難いと管制人格に名前を付けることになっていた。
 はやてが管制人格に新たな名前を与えていた。


 「強く支えるもの 幸運の追い風 祝福のエール……。
  ・
  ・
  リインフォース……。」

 「マジで……。」

 「変やった?」

 「あたしは、なのはにやさぐれと名付けられたのに……。
  不公平だ……。
  贔屓だ贔屓だ……。」

 (恐ろしいほど、しっくり来る名前だと思う……。)


 新しい名前に管制人格は、嬉しそうに微笑む。
 とりあえず、これで名前を呼ぶ時に困ることはない。
 そして、名前を付け終わり一段落すると、シャマルがはやてに話し掛ける。


 「はやてちゃん。
  少し早いですけど、お風呂入っちゃいませんか?」

 「うん、ええよ。」

 「あたし、脱衣所の前に居るから……。」

 「ありがとな。」


 はやてがシャマルと風呂に入ると、直ぐにシグナムがやさぐれフェイトに話し掛けた。


 「実は、お前にお願いがあってな。」

 「ん……?」

 「闇の書が完全に壊れたか確認をしたいのだ。
  主はやてと闇の書から5m以上離れて、
  魔力の接続がないかを確認したい。」

 「それで、急にお風呂に誘ったのか……。
  じゃあ、リインフォースにも事情を話して、
  確認するのを手伝って貰う……。」


 リインフォースがシグナム達に近づく。


 「話は聞いていました。
  闇の書との接続の確認は、私が行ないます。」

 「分かった……。
  じゃあ、あたしはテレビのところまで行く……。」


 やさぐれフェイトがヴィータの見ているテレビの前に仁王立ちした。
 ヴィータとやさぐれフェイトの取っ組み合いが始まった。
 魔力キャンセルされて、通常の攻撃しか出来ないヴィータにやさぐれフェイトのパロスペシャルが極まる。


 「完全に壊れてしまったようです。
  主と守護騎士からの接続を受け付けたはずなのに、
  一向にエラーの無限ループから復帰しません。」

 「どうするべきか……。」

 「このままですと、次のことが考えられます。
  主の情報すら受け付けませんので、
  持ち主の死に転生するという機能が発動しません。」

 「今回の主の願いを考えると、
  このままで問題ないのだがな。」

 「一緒に仲良く暮らすこと……ですか?」

 「ああ。
  一番の問題は、主に掛かっていた呪いだったのだが、その心配もなくなった。
  主の願いを叶えるだけなら出来るということだ。」

 「そうですね……。
  しかし、我々は、主亡き後、どうなるか……。」

 「問題は、そこだな。
  今のままで、守護騎士システムは動作している。
  そして、お前も闇の書から抜け出している。
  ・
  ・
  このままという訳にはいかないだろうか?」

 「このまま……。」


 ヴィータの逆襲。
 やさぐれフェイトが技を解いた瞬間、ドロップキックを炸裂させる。
 続いて、ギロチンドロップを炸裂させた。


 「それは、我々の目的の放棄ではありませんか?」

 「それなのだが……。
  我々の本来の目的とは、何なのだろうか?
  闇の書の蒐集だけが目的だったのだろうか?」

 「シグナム……。」

 「すまない。
  詰まらないことを聞いた。
  私は、主はやてが健康な体を取り戻して、
  望む生活が出来ればそれでいい……。」

 「そうですね……。
  戦い続けて来た旅を、
  ここで終わりにしてもいいのかもしれません。」

 「主はやての願いは、我々の願いでもあるのかもしれない……。」

 「ええ……。」


 やさぐれフェイトは、トリケラトプス拳の構えを取る。
 ヴィータも、トリケラトプス拳の構えを取る。
 お互い床を蹴る。
 交差する両手、激突する頭。
 やさぐれフェイトとヴィータは、床に突っ伏した。


 「私達の旅の終わりか……。」


 シグナムとリインフォースがリビングに目を移す。
 視線の先には、でっかいコブを作って倒れる二人……。


 「……締まらんな。」

 「ええ……。」



[26407] 第10話 監視者の日記
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/09 00:40
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 闇の書について、第三の勢力と呼ぶものがある。
 闇の書の蒐集を手助けし、主の覚醒を望む者達……。
 主が覚醒した瞬間に、主を封印して闇の書の転生をさせずに永久に封印することが目的だ。
 そのために守護騎士達が動き出したことで、監視に移った。
 しかし、ある日を堺に守護騎士達は、蒐集を辞めてしまった。
 それは、変な居候が増えた日からだった気がする。



  第10話 監視者の日記



 ○月×日
 八神家に妙な居候が増えた……。
 何処から拾って来たのか?
 簀巻きにされて運ばれて来た。
 そんなことをしている場合か。
 さっさと蒐集をしろ。
 ・
 ・

 ○月△日
 何か完全に蒐集する気がない……。
 前々日までのシリアスな展開は何だったのか?
 変な居候を中心に守護騎士がおかしくなったように見える。
 端的に言えば……馬鹿になった?
 一体、何があった?
 本当にそんなことをしている場合か?
 主は、放置か?
 ・
 ・

 ○月▽日
 変な居候への突っ込みが凄過ぎる……。
 あんな突っ込み見たことがない。
 というか、居候は、ボケっぱなしか!
 何で、こんな変な居候を受け入れている!
 お前ら、本当に蒐集は、どうした!?
 ・
 ・

 ○月▲日
 気のせいだろうか……。
 主の少女の体調がよくなっている気がする。
 前は、隠れて痛みに耐えるような仕草をしていたのに、
 今では、そんな仕草も見せない。
 一体、何が?

 そして、居候!
 闇の書にカレーを溢すな!
 ・
 ・

 ○月▼日
 意味が分からない……。
 朝起きたら、管制人格と思われる者が居た。
 闇の書が完成したのか?
 ……そんなはずない。
 あの馬鹿騎士達は、一向に蒐集をしていない。

 何で、全員微妙な顔をしている?
 完成して困るのか?
 というか、完成したのか?
 何が起きた?
 誰か私に説明してくれ……。
 ・
 ・

 ○月□日
 よく分からない……。
 夜に居候の雰囲気が変わった。
 いきなり土下座をして謝っている。
 傍若無人な振る舞いをしていた彼女に何が?
 目つきが変わって、クマなくなったよね?
 ・
 ・

 ○月◇日
 気のせいだった……。
 相変わらずの突っ込みの嵐だ。
 特に烈火の将の突っ込みが容赦ない。
 死んだんじゃないかという突っ込みが炸裂しまくっている。
 瞬時に九回突くって……。
 鉄槌の騎士の地面に減り込む突っ込みが可愛く見える。

 そして、それでも懲りない居候……。
 あの子は、何がしたいのか?
 関係ないが、湖の騎士の呼び方が『シャモル』から『シャモス』に変わった。
 ・
 ・

 ○月■日
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 シグナム:ヴィータ:他:=6:3:1
 ・
 ・

 ○月◆日
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み  土下座  突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 ・
 ・

 ×月×日
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み  土下座  突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み  土下座  突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
  土下座  突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
  土下座  突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 ・
 ・

 -月-日
 突っ込み  土下座  突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み  土下座  突っ込み  土下座
 突っ込み 突っ込み 突っ込み  土下座   土下座
 突っ込み  土下座  突っ込み 突っ込み  土下座
 突っ込み  土下座  突っ込み 突っ込み 突っ込み
  土下座  突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み
 突っ込み 突っ込み  土下座  突っ込み  土下座
 突っ込み 突っ込み 突っ込み 突っ込み  土下座
  土下座  突っ込み 突っ込み  土下座  突っ込み
 突っ込み  土下座  突っ込み 突っ込み 突っ込み

 もう、やめよう……。
 ただの突っ込みの記録調査にしかならない……。
 何かおかしい……。
 おかしいことしか分からない……。
 闇の書、放置状態だし……。
 この土下座の割合が増えたのって、何か関係あるの?
 お父様に、何て報告すればいいの?
 ・
 ・


 …


 報告の日記を読み終わった時空管理局の一室……。


 「これは……。
  もう、報告ではないな……。」

 「こっちの神経が持たなくて……。」

 「前々日までは、普通だったんだけど……。
  もちろん、報告の方も……。」

 「…………。」

 「「「何が起きたんだ……。」」」


 ズーンと暗い空気だけが支配していた。



[26407] 第11話 やさぐれの帰宅Ⅱ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/07/09 14:18
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 プレシア一家の住むマンションを久々に訪れる。
 ドアノブを回し、扉を開ける。


 「ただいま……。」

 「よく平然と帰って来れたわね?」


 目の前には、仁王立ちするプレシアの素敵な笑顔。


 「ここは、あたしの家だから……。
  それにフェイトが泣いて頼んだ……。」

 「何処に行ってたのよ!
  この馬鹿娘!」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
 やさぐれフェイトは、頭を掻いてクセ毛を作る。


 「少しキレが鈍った……。
  シグナムは、もっと凄いよ……。」

 「じゃあ、望み通り炸裂させてやるわよ!」


 プレシアは、大きく振り被った。



  第11話 やさぐれの帰宅Ⅱ



 大きく振り被ったがら空きのプレシアの胸に、やさぐれフェイトがピッと人差し指を立てる。


 「油断し過ぎだ……。
  お前は、既に死んでいる……。」

 「死ぬわけないじゃない。」

 「今日は、フロントホックだったね……。」


 胸を襲う妙な違和感。
 プレシアは赤面すると、拳を振り抜いた。


 「馬鹿じゃないの!」


 プレシアが奥へと走って消えた。


 「愚か者め……。
  誰も秘孔とは言っていない……。」

 「それで、ブラを外す意味も分かんないけどね……。」

 「おお……。
  バルス……。」

 「繰り返すな!」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「よく覚えていた……。
  さすが、あたしの使い魔だ……。」

 「フェイトの使い魔だ!」

 「細かいことをネチネチと……。
  勝手に発情でもして、
  そこらの野良犬と家族でも作ればいいのに……。」

 「それは、冗談か? 
  皮肉か?
  嫌味か?
  からかってんのか?」

 「本気で思ってる……。」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
 やさぐれフェイトは、頭を掻くとクセ毛を強くする。


 「ご主人様とのスキンシップは、これぐらいでいいか……?
  そろそろ本題に入りたいから、
  プレシアとアルフにばっかり構ってられないんだけど……。」

 「今のスキンシップだったの!?」

 「ちゃんと、頭を撫でさせてやっただろう……。
  泣いて喜べ……。」


 アルフは、がっくりと近くの壁に持たれかかった。


 「ダメだ……。
  もう、ついていけない……。」


 やさぐれフェイトは、玄関で靴を脱ぐと奥に向かう。


 「ほら、いつまで俯いている……。
  さっさと来い……。
  馬鹿犬が……。」

 「怒る気力も失せた……。」


 アルフは、やさぐれフェイトに続いて、奥へと向かった。


 …


 リビングのソファーで、やさぐれフェイトは、偉そうに足を組む。
 向かいのプレシアとアルフは、既にやる気のない眼差しだ。
 プレシアの膝の上に居るアリシアは、そんな顔のプレシアに首を傾げている。


 「プレシア……。
  重要な話がある……。」

 「本当でしょうね?」

 「あたしが重要でないことをしたことがあるか……?」

 「ほとんどが重要じゃなかったと記憶してるわよ。」

 「悲しいことを言うな……。
  それは本人次第だ……。
  もし、そう感じているなら、
  プレシアは、人生を真剣に生きてないということだ……。
  あたしは、自分の一挙手一投足が重要と感じている……。」

 「よく堂々と嘘をつけるわね?」

 「嘘じゃない……。
  あたしは、短い時間しか居られない……。」

 「じゃあ、無駄としか思えない普段の行動は、何なのよ?」

 「それこそが重要なのだよ……。
  ワトソン君……。」

 「あんた、丸っきり答える気ないわね。」

 「で、話の続きなんだけど……。」

 ((無視した……。))

 「実は、ボランティアをしていて、
  それの相談をしたい……。」

 「「ボランティア?」」

 「うむ……。
  実は、闇の書という……。」

 「ちょっと、待ちなさい!」

 「ん……?」


 やさぐれフェイトは、首を傾げた。


 「何で、初っ端から闇の書の名前が出て来るのよ!」

 「ボランティアだから……。」

 「ボランティアは、置いておきなさい!
  何で、貴女達を襲った敵の持ち物が出て来るのかって聞いているのよ!」

 「何で、プレシアが知ってるの……?」

 「なのはちゃんが教えに来てくれたのよ。」

 「あの裏切り者め……。
  あたしに連絡しに来い……。」


 プレシアは、アリシアをアルフに渡すと、やさぐれフェイトにグーを炸裂させた。


 「貴女が行方をくらましていたんでしょうが!」

 「それでも健気に外に出て探すのが、
  友達というものだと思う……。」

 「だったら、携帯持ち歩きなさいよ!」

 「GPSで居場所がバレるからダメだ……。」

 「やっぱり、意図的に行方をくらましているじゃない!」

 「うるさい……。
  あたしは、縛られる女じゃないんだ……。」

 「少しぐらいの拘束は必要でしょう!」

 「しつこい……。
  どうせ数日で消えるんだから、
  それぐらい我慢しろ……。
  何様だ……。」

 「貴女がね!」

 「いい加減黙らないと、アリシア泣かすぞ……。」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「本当に馬鹿じゃないの!
  フェイトは、凄くいい子なのに!」

 「ったく……。
  我が侭な奴め……。
  分かった……。
  質問を先に聞いてやる……。
  言ってみろ……。」

 「毎回、出て来る度に言ってるけど……。
  何で、上から目線なのよ!」

 「ほら、早くしろ……。」

 (そして、またこのどうしようもない空気で……。)


 プレシアは、がっくりとテーブルに手を着いた。
 ダメージの回復しないプレシアの代わりに、アルフが質問する。


 「どうして、闇の書の名前が出て来たのかを教えておくれよ。
  プレシアもそれが気になったみたいだし。」

 「それか……。
  そいつらと暫く過ごしてたからだ……。」

 「へ~……。」


 今度は、アルフが暗く沈んだ。


 「何で、敵と一緒に……。」


 暗く沈み込むプレシアとアルフの頭をアリシアが撫でる。
 お構いなしに、やさぐれフェイトが続ける。


 「あたしが出掛けた日を覚えてる……?」

 「……いつの話だい?」

 「あたしがプレシアを煙に巻いた日……。」

 「ああ、覚えてるよ。」

 (煙に……。
  やっぱり、確信犯だったのか……!)


 プレシアは、拳を握った。


 「その日に事情を聞いた……。
  主が呪いに掛かってるという話で、
  その呪いを解くために闇の書を完成させようとしていた……。」

 (呪い?
  闇の書のリンカーコアの侵食でしょう?)


 プレシアは、やさぐれフェイトの説明を聞いて疑問を覚える。


 「でね……。
  その呪いをあたしのAMFで打ち消すボランティアをしてた……。」

 (AMFで、リンカーコアへの侵食を抑えていたわけね……。
  完全に勘違いしているけど、侵食するエネルギーもAMFなら可能かもしれない……。)

 「あんた、本当にボランティアしてたんだね?」

 「そうだよ……。
  で、プレシアにお願い……。」

 「何かしら?」


 やさぐれフェイトは、闇の書を取り出す。


 「これ、調べられない……?」

 「何? この汚い本?」

 「闇の書……。」

 「…………。」


 プレシアは、額に手を置く。
 何で、この変な生き物は問題ごとを持って来るのか?
 そもそも、これがここにあっちゃいけないだろう?


 「あと、色々あって……。
  壊れた……。」

 「…………。」

 「「壊れた!?」」


 アルフは、闇の書を手に取る。


 「『壊れた』じゃなくて『壊した』じゃないだろうね!?」

 「…………。」


 やさぐれフェイトは、目を逸らす。


 「いや、壊れた……。」

 ((絶対、嘘だ……。))


 プレシアは、溜息を吐く。


 「まあ、どっちでもいいわ……。
  壊そうが壊れようが、貴女のせいなんでしょう?」

 「何故……。」

 「それよりも問題は……。
  壊れたロストロギアが更に壊れたってことよね……。」

 「壊れたロストロギア……?」

 「なのはちゃんからの情報よ。
  その闇の書は、歴代の持ち主の誰かにより改竄されているのよ。」

 「じゃあ、初めから壊れてたの……?」

 「ええ。
  その証拠に闇の書を守る守護者が、
  改竄による主へのリンカーコアの侵食を知らずに呪いと言っていたでしょう?」

 「そうなんだ……。
  じゃあ、壊れても問題なかったんだ……。」

 「問題なくはないけど……。」

 「実は……。」


 やさぐれフェイトは、アルフから闇の書を受け取ると、かぎ十字のような闇の書のエンブレムに手を掛ける。
 そして、バリッと音をさせて剥がした。


 「守護騎士には内緒にしていたことがあって……。
  ここも壊して……。
  ではなく、壊れてた……。」


 プレシアとアルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「一体、何処まで壊したのよ!」

 「あんた、何やってるんだい!」

 「だから、色々と理由をつけて、
  プレシアに闇の書を直して貰いに来た……。」

 「この馬鹿は……!」

 「まあ、もう壊れてもいい雰囲気だから、
  問題はないと思うけど……。
  一応ね……。」

 「問題ないって、どういうことよ?」

 「壊れた時に闇の書の機能が壊れて、
  主を呪うことはなくなった……。」

 「え?」

 「だから、あたしがここに居れる……。
  主の呪いをAMFで打ち消す必要なし……。
  ・
  ・
  だから、プレシアは、このエンブレムをバレないように完全に修復を……。
  って、聞いてる……?」


 プレシアは、固まっている。
 やさぐれフェイトがプレシアの前で手を振る。


 「どうしたの……?」

 「どうやって捻じ曲がったんだろう……。
  守護騎士は、真実を知らないみたいだし……。
  時空管理局も困っているだろうし……。」

 「?」

 「貴女……。」

 「何……?」

 「一回、守護騎士達と話す必要があるわよ?」

 「プレシアが?」

 「いいえ……。
  時空管理局も含めてよ。」

 「?」


 やさぐれフェイトは、首を傾げた。



[26407] 第12話 何かが捻じ曲がっていく
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:09
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 プレシアは、盛大に溜息を吐いた。


 「仕方がないから、私が間に入ってあげるわ。
  その闇の書の関係の人と話をさせてくれる?」

 「うん……。
  電話して確認してみる……。」

 「何人ぐらい居るの?」

 「主のはやて……。
  管制人格のリインフォース……。
  烈火の将・シグナム……。
  鉄槌の騎士・ヴィータ……。
  盾の守護獣・ザフィーラ……。
  湖の騎士・ヘモス……。」

 「六人も居るのね。」

 「そうだよ……。」

 「時空管理局にも連絡を入れないといけないけど……。」

 「それは、闇の書の関係の人の
  お許しが出てからでいいんじゃないの……?」

 「そうね。
  じゃあ、終わったら、連絡してくれる?」

 「分かった……。
  時空管理局は、なのは経由でお願いする……。
  闇の書関係は、フェイトの部屋の携帯に電話番号が入ってるから、
  今から電話掛けて来る……。」


 やさぐれフェイトがリビングを出て行った。
 残されたアルフがプレシアに話し掛ける。


 「あのさ……。」

 「何かしら?」

 「フェイトの携帯がこの家にあって、
  そこに連絡先の電話番号があったんなら、
  フェイトの携帯から電話掛ければ連絡取れたなって……。」

 「…………。」


 プレシアは、激しく項垂れた。



  第12話 何かが捻じ曲がっていく



 八神家へ、二度目の電話……。
 やさぐれフェイトからの電話に誰かが出た。


 「あたしだ……。」

 『…………。』

 「返事しろ……。
  シグナム……。」

 『…………。』

 「この前、レヴァンティンのカートリッジに、
  ネギを詰めたのはあたしだ……。」

 『やっぱり、お前か!』

 「聞こえてんじゃん……。
  何で、返事しない……?」

 『私は、マナーを教えたはずだ。
  しっかりと自分の名前を名乗るようにと……。
  だから、名前を言うまで待ったのだ。』

 「オレオレ詐欺の防止策か……。
  くだらない……。」

 『な……!
  お前……!』

 「名前ぐらいディスプレイ表示しろ……。
  ごめん、機械オンチのシグナムには設定無理か……。」

 『久しく覚えがないぞ……。
  これほどの怒りを覚えたのは……。』

 「ゆとり教育のせいじゃないの……。
  キレ易い大人に育って……。」

 『この国で教育を受けた覚えはないのだがな!』

 「じゃあ、染み付いた哀しい性か……。
  修正出来ないところまで汚染は広がり、
  毒が末端まで広がり切ってしまったんだね……。
  さようなら……。
  シグナム……。」

 『何の話をしている!』

 「シグナムのどうしようもない性格……。」

 『お前を殺す……!』

 「最近、ガンダムWを見てたからね……。
  ヒイロ・ユイがいいって言ってたもんね……。」

 『全然違う!
  一体、何の用だ!』

 「話を逸らしたのはシグナム……。」

 『さっさと話せ!
  悪戯電話なら切るぞ!』

 「別に切ってもいいけど、後悔しない……?」

 『するか!』

 「そう……。」


 やさぐれフェイトは、電話を切った。


 …


 八神家……。
 リビングで大声を出していたシグナムに、全員の視線が集まっていた。


 「信じられん……。
  本当に切った……。」


 シグナムは、乱暴に電話の受話器を置いた。
 その態度に誰もが、相手が誰か分かっていた。
 頭から湯気が出そうなシグナムに、シャマルが話し掛ける。


 「やさぐれちゃんですか?」

 「アイツ以外に誰がいる!
  悪戯電話でも、ここまで悪質じゃないぞ!」

 「あはは……。」

 「しかも……!
  分解整備中のレヴァンティンのカートリッジに、
  ネギを詰めたのはアイツだ!」


 憤慨するシグナムに、ヴィータが話し掛ける。


 「いや、アイツ以外に誰がやるんだよ?
  私達は、自分のデバイスの大切さは、嫌って程、知ってるぞ?
  大切な相棒だからな。」

 「……その通りだったな。」

 「だから、アイツがキャラメルでベタベタにした時、
  マジで殺そうかと思った。」

 「そんなこともあったな。
  思い出したら、余計にイライラして来たが……。」

 「でも、主人格のあの性格の正反対さには吃驚したよな?」

 「あれを見ると耐えられる……。
  あまりの哀れさに耐えられる……。
  ・
  ・
  怒りが静まって来た……。」


 シグナムが落ち着きを取り戻し、はやてが微笑む。
 はやては、リインフォースに話し掛ける。


 「フェイトちゃんの方は、凄く落ち着いてんのよね?」

 「はい。
  少し恥ずかしがり屋で、食事の準備や後片付けもしっかりと。
  そして、その彼女が土下座するのは……。」

 「そうやね……。
  でも、それでいて、お互い嫌ってないのが不思議なんよ。」

 「何故、彼女達に信頼関係が築かれているのか……。
  大いなる謎ですね。」

 「ザフィーラは、どう思うん?」


 はやてが、ザフィーラに振ってみた。


 「私は、少し思い当たる節がある。
  最初の戦闘の時、主人格の彼女が信頼して、
  自分を傷つけてまで呼び出したのが壊れた人格の方だった。」

 (褒めてるみたいだけど……。
  ザフィーラも意外と辛口なこと言うとるなぁ……。
  壊れた人格って……。
  あの赤毛の犬の彼女の嘘話が、まだ許せないんやろか?)


 やさぐれフェイトの前科は、日々増えていっている。


 「そして、一番許せないのが……。
  あの壊れた人格の方に恩が出来たということだ……。」


 はやて以外にズーンと黒い影が落ちた。


 「はは……。
  この前、やっと話してくれた闇の書の……。
  呪いを解いてくれたんやっけ?」

 「あんなの有り得ない……。」

 「封印するでもなく……。」

 「防御プログラムを改竄するでもなく……。」

 「更に壊すって……。」

 「結果、機能を停止しましたが……。」


 そして、専門家に話を聞きに行くと、闇の書を持って八神家を勝手に出て行った。
 八神家に微妙な溜息が溢れた。
 ちなみに、はやての体への影響がないことにより、守護騎士達は、やっと真実を語ることが出来たばかりだった。
 尤も、口を滑らせたのは、ここに居ないやさぐれフェイトである。


 …


 十五分後……。
 八神家のインターホンが鳴った。
 シャマルがインターホンの受話器に走る。


 「はい。」


 しかし、シャマルを無視してドアノブが回り、やさぐれフェイトが入って来た。


 「何してんの……?」

 「だったら!
  何で、インターホンを押したんですか!」

 「連れが世間のルールだからとか言って……。」

 「はい? 連れ?」


 玄関のドアから、そっとプレシアが覗いていた。


 「どういう知り合い?」

 「シグナムが用件を言う前に切ってもいいって……。
  だから、勝手に連れて来た……。」

 「…………。」


 八神家を妙な沈黙が数秒支配する。
 既に上がり込んでいる、やさぐれフェイトの襟首をシグナムが掴んだ。


 「あの話は、本気だったのか!」

 「何言ってんの……?
  頭湧いたの……?」


 シグナムのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「あんな話、信じられるか!
  ひやかしだと思ったに決まっているだろう!」

 「自分で話を切り上げたくせに……。」

 (私が悪いのか……?)

 「「「「「いや、シグナム悪くないから。」」」」」


 はやて達から的確なフォローが飛んだ。


 「お邪魔しても、よろしいでしょうか?」

 「「「「「「あ。」」」」」」

 「いいよ……。
  上がって……。」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「何で、貴女がよそ様の家で仕切ってるの!」

 (ああ……。
  あっちもか……。)


 シグナムは、プレシアの行動に戦友のような感覚を覚えていた。


 …


 プレシアが、はやてを始めとした守護騎士一同に頭を下げる。


 「本当にご迷惑を……。
  本当は、煮るなり焼くなりして欲しいのですが、
  本物の娘を人質に取られているので……。
  私が頭を下げさせて頂きます。」

 「…………。」

 ((((((苦労してるな……。))))))


 プレシアが包装された箱を差し出す。


 「詰まらないものですが、お受け取りください。」

 「ありがとう……。
  これは、翠屋のケーキだね……。
  はやて……。
  人数分のコーヒー……。」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「だから、仕切るなって言ってるでしょう!」


 やさぐれフェイトは、包装紙を剥ぎ取る。


 「勝手に開けないで!」

 「…………。」

 「はやて……。
  開けていい……?」

 「開けてから聞いてんじゃないわよ!」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
 はやては、苦笑いを浮かべながら頷くと、シャマルと一緒にコーヒーを淹れる準備を始めた。
 プレシアは、ハアハアと肩で息をしていた。


 「シグナムの姿とダブって見えるな。」

 「私は、あのような感じだったのか?」

 「ああ。
  戦場でも見たことないぐらい怒ってた。」

 「…………。」


 シグナムは、プレシアを見て自己嫌悪した。
 烈火の将の威厳など、何処にもなくなっている気がした。
 やさぐれフェイトを床に突っ伏すほどグーを炸裂させた後、プレシアがあらためて話し出す。


 「プレシア・テスタロッサと言います。
  主人格のフェイトの母親です。」


 はやてとシャマルを除く守護騎士達が小さく頭を下げる。


 「闇の書のことについて馬鹿の方から聞きましたので、
  少しお話に参上しました。」

 「わざわざ、すみません。
  では、我々も名乗ります。」

 「聞いています。
  貴女が烈火の将・シグナムさんでしょう?」

 「……はい。」

 「そちらが、管制人格のリインフォースさん。
  鉄槌の騎士・ヴィータさん。
  盾の守護獣・ザフィーラさん。」


 リインフォース、ヴィータ、ザフィーラが順番に頷く。


 「さっきの女の子が主のはやてちゃん。
  そして、最後に湖の騎士・ヘモスさん。」

 「…………。」


 沈黙にプレシアは、首を傾げる。
 そして、パタパタと台所から走る音。


 「シャマルです!
  もう、原型もないじゃないですか!」

 「え?」


 プレシアが、やさぐれフェイトを見る。
 やさぐれフェイトは、親指を立てた。


 「何で、私だけ名前を間違えるんですか!」

 (ワザとだろ……。)


 ヴィータは、何となく分かっていたが口に出さなかった。
 やさぐれフェイトは、頭を掻くとクセ毛を作る。


 「ごめん……。
  シャモス……。」

 「シャマルです!」

 「ごめん……。
  シャモル……。」

 「シャマル!」

 「こんな感じで変わっていった……。」

 「誰に説明してんですか!」

 「はやて……。」

 「どうして、今、ここに居ない人に説明するんですか!」

 「あのドンくさかったシャマルが、
  あたしのお陰で、今やこんなにも素晴らしい切り返しが出来る……。
  人って変われるんだという素晴らしい証明だと思わない……?」

 「全然思いません!」

 「ヴィータも喜んでいたのに……。」

 「……何で、ヴィータちゃんが?」

 「面白い玩具に育ったと……。」


 シャマルは、キッとヴィータを睨んだ。


 「言ってねーよ!
  思ったけど……。」

 「酷い!」


 シャマルは、リインフォースに泣きついた。


 「お前、いい加減にしろよな。」

 「ヴィータも、人のことを言えない……。
  とどめを刺したのは、ヴィータ……。」

 「あそこは、言う流れだろ?」

 「守護騎士で一番冴えてるのって、ヴィータだよね……。」

 「真面目に相手すると被害を被るのは自分だからな。
  下手に抵抗するより、乗った方が楽だ。」

 ((((それで、最近、突っ込みが減ったのか……。))))


 八神家の突っ込みの比率は、日々変化していた。


 「ところで、いつになったら、
  闇の書について、話を出来るのかしら?」

 「「「「「あ。」」」」」


 プレシアの一言で、ようやく本題を思い出した。
 そして、シャマルは、台所に戻って、忘れていたはやての手伝いを再開した。


 …


 プレシアの持って来たお土産の翠屋のケーキと、はやてとシャマルの淹れたコーヒーがそれぞれの前に置かれる。
 そして、プレシアからの説明が始まった。


 「まず、知って置いて貰いたいこと。
  私は、フェイトの友達から時空管理局との繋がりがあるわ。」

 「まさか……。」


 シグナムが言い切る前に、プレシアが手で制する。


 「連絡は、まだ。
  貴女達が自首するか捕まるかで大きな違いがあるから。」

 「我々が自首しないと言った場合は?」

 「話は終わり。
  好きにすればいいわ。
  私と話し合った上で決めて頂戴。」

 「……分かった。」


 シグナムは、黙って聞くことにした。


 「まず、私が聞いていた管理局の情報と、
  その子から聞いた情報に大きな食い違いがあるわ。
  その子の話では闇の書の呪いが、はやてちゃんを蝕んでいた。
  でも、管理局の無限書庫で調べた結果では、
  それを呪いと言い換えるのはおかしいの。」

 「呪いじゃない?
  しかし、主はやてのリンカーコアを抑圧して蝕んでいたのだ。
  それを呪いと称しても、おかしくないはずだ。」

 「呪いじゃないの。
  闇の書が改竄されたためなのよ。
  歴代の持ち主の誰かが闇の書を壊した……。
  いえ、夜天の魔導書を闇の書にしてしまったと言った方がいいわね。」

 「夜天の魔導書……。」


 リインフォースと守護騎士達には懐かしい名前のような気がした。
 ヴィータが、ポツリと呟く。


 「大事な名前だった気がする……。」

 「だから、ヴィータちゃんは気になってたのかしら?」

 「シャマル……。
  そうかもしれない……。
  でも、それ以外にも……。」

 「目的かしら?」

 「うん……。
  多分……。」


 ヴィータは、リインフォースを見る。
 リインフォースも思い出せないと首を振った。
 はやてが、プレシアに質問する。


 「元の魔導書の目的は、分からないんですか?」

 「『各地の偉大な魔導師の技術を収集し、
   研究するために作られた収集蓄積型の魔導書』らしいわ。
  でも、これだと目的が分からないの。
  収集した魔導師の技術が、夜天の魔導書を作った本人の手元には戻らないから。」

 「そうやね……。」

 「あたしは、何となく分かる……。」

 「やさぐれちゃん?」

 「手元に戻らない以上、誰かに託すしかない……。」

 「誰かって?」

 「真の主だと思う……。」


 やさぐれフェイトの言葉にリインフォースが聞き返す。


 「真の主とは?」

 「このロストロギアは、プログラムの塊……。
  守護騎士システム……。
  管制プログラム……。
  防御プログラム……。
  ・
  ・
  なのに人格がある……。
  あたしは、リインフォースやシグナム達に心があるのは、
  真の主を選ぶためだと思う……。」

 「私達が選ぶのですか?」

 「さっきのヴィータの言葉だと忘れているようだったけど、
  心の一番奥では忘れていないはず……。
  だって、シグナム達は、主だったはやての命令を無視して命を助けようとした……。
  ただの主だったら、命令を遵守して死ぬのを見ていただけのはず……。」


 やさぐれフェイトが守護騎士達を見る。


 「真の主を見つけてた……。
  そして、忘れていたと思っていたけど忘れてなかった……。
  皆は、はやてを自分の意思で守ってた……。」

 「…………。」


 リインフォースと守護騎士達は、やさぐれフェイトの言葉に自分達の行動理念を思い返す。
 はやては、微笑んで付け加える。


 「私は、皆が夜天の魔導書のことを
  忘れていなかったことを覚えてるよ。」

 (((((覚えてる?)))))


 はやては、目を閉じると静かに話し出す。


 「闇の書の機動を確認しました……。
  我等、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にてございます……。
  夜天の主の下に集いし雲……。
  ヴォルケンリッター……。
  何なりと命令を……。
  ・
  ・
  夜天の主……言うてたよ。」

 「はやて……。
  覚えててくれたのか?」

 「大事な家族の出来た日や……。
  絶対に忘れへん……。」


 はやては、リインフォースを見る。


 「全てを管理してるリインフォースなら、
  『夜天の主』という言葉を消させなかった理由……思いだせるんやないの?」

 「私は……。
  私は……。」


 リインフォースは、思い出せないながらも、胸に残る想いを口にする。


 「私は、守りたかったのだと……思います。
  守護騎士達の心を消したくなかった……。
  そして、もう思い出せない夜天の魔導書を作った誰かの想いを……。
  きっと、守りたかった……。
  ・
  ・
  そう思えてならない……。」


 はやては、頷く。


 「私も、そう思う……。
  きっと、それが真実やと思う……。」


 闇の書の闇……。
 本来、壊れた防御プログラムだったはずの言葉。
 しかし、その闇は、いつしか管制人格と守護騎士達の心の影に変わっていた。
 そして、闇は、少しずつ晴らされていく。
 やさぐれフェイトが手を上げる。


 「あたしも、はやてと同じ……。
  守護騎士の心は、リインフォースに守られていたと思う……。
  よく分からないけど……。
  リインフォースの守護騎士を見守る目は、
  プレシアが、アリシアやフェイトに向ける目に近い気がする……。」

 「貴女……。
  そういう恥ずかしいことを言わないでくれる?」

 「じゃあ、いつも通り貶そうか……?」

 「黙ってなさい。」


 プレシアの言葉に、やさぐれフェイトは舌打ちする。
 プレシアが、はやて達に向き直る。


 「どうする?
  話の続きを聞く?
  後は、闇の書の改竄された主に及ぼす効果と、
  真の力を発揮したらの話だけど?」


 はやて達は、お互いを見合うと頷く。
 そして、はやてが代表して話す。


 「話は、聞きます。
  でも、管理局へも行きます。」

 「ええ……。
  いい判断だと思うわ。」

 「闇の書……。
  管理局で直るかな……?」

 「分からないわね……。
  どっちにしろ、はやてちゃんを真の主と認めるなら、
  蓄積された魔導師の技術を回収して渡す必要があるはずよ。
  そして、その壊れた魔導書を直すには管理局の力が必要……。
  ・
  ・
  それに教えて貰った通りの機能があるなら、
  直すか更なる改竄を加えなくてはいけないかもしれない。」


 リインフォースが、プレシアに質問する。


 「何故、更なる改竄が必要なのですか?」

 「まず、追加補足……。
  この子によって、闇の書が更に壊れてるのも知っている。
  そして、それを踏まえて続きを話すわよ。
  ・
  ・
  今、安定しているように見える闇の書も、
  このまま放置して大丈夫か分からないということ。
  『主の死という鍵』『闇の書本体の破壊という鍵』が切っ掛けで転生するかもしれない。
  闇の書の解析は、どうしても必要不可欠。
  何もしなかったせいで、貴女達が、再び他の誰かの手で蒐集するのは嫌でしょう?」


 全員が頷く。


 「だったら、今のうちに何とかするしかないわ。
  幸いにも、この子のお陰で時間を稼ぐことが出来たわ。
  それに……。」


 プレシアが、リインフォースを見る。


 「主の覚醒前に貴女が出て来れたというのは大きいんじゃなくて?」

 「はい。
  主の権限を使って闇の書を管理出来るものも多い。
  ただ……。
  未だ覚醒を果たしていない主に、権限が発動するか分かりませんが……。」

 「覚醒は出来ないわよ。
  無限書庫の歴史では覚醒した主によって、
  次元干渉レベルの力が発揮されるらしいから。」

 「では……。」

 「そこをどうするかを管理局の技術に頼る。」

 「そういうことですか……。」


 プレシアがガシガシと頭を掻いてクセ毛を作る。


 「問題は、貴女達がやっちゃったことの言い訳なのよね……。」


 守護騎士達は、申し訳なさそうに俯く。
 やさぐれフェイトが、プレシアを突っつく。


 「ここは、誠意を見せるしかない……。」

 「まあ、そうね。」

 「後は、あたしから、なのはに連絡を入れる……。
  皆、いいよね……?」


 はやて達が頷く。


 「日程は……?」

 「いつでもええよ。」

 「そう……?
  ・
  ・
  プレシア……。
  少しだけ問題……。」

 「何?」

 「あたしを連れて行くかどうか……。
  AMFの効いているあたしは、転送魔法を打ち消しちゃう……。
  フェイトを連れて行くなら、あたしの都合になる……。
  お留守番なら問題ない……。
  だけど、その時は、プレシアに全部お願いすることになる……。」

 「そうね……。
  貴女は、なのはちゃんに連絡を入れて終わりにしなさい。
  艦長さんに説明するなら、大人の私の方がいいわ。」

 「そうだね……。
  プレシア、ありがとう……。」

 「こういう外からの干渉で、
  人生を捻じ曲げられるのって好きじゃないだけよ。」

 「うん……。
  分かる……。
  優しいから、方法を間違っちゃったんだよね……。
  私達みたいに壊れる前でよかった……。」

 「ええ……。」

 「じゃあ、あたしは、なのはに連絡を入れて来る……。」


 やさぐれフェイトは、リビングを後にした。
 ヴィータが素直な感想を漏らす。


 「アイツも、普通に話せる時があるんだな。」

 「根っ子の部分は、フェイトと強く結びついているから……。
  よっぽどの場面じゃないと、いつもの調子だけど……。
  ・
  ・
  さて……。
  管理局に行くにしても、残りの説明をして置くわ。
  管理局に行ってから、質問で慌てるのも大変だし、
  しっかりと言い訳も考えて置かないと。」

 「ありがとな……。」

 「気にしなくていいわ。」


 プレシアは、項垂れる。


 「あの子がした悪さの償いだと思うと、
  これだけじゃ足りない気がしてならないから……。
  ・
  ・
  それに……。」


 プレシアが、シグナムを見る。


 「貴女からは、私と同じ被害者の臭いがするのよ……。」


 シグナムは、小さく呻くと眉間に皺を寄せる。


 「否定はしない。
  この家で一番被害を受けているのは、きっと私だ……。」

 「でしょうね……。
  だから、同情の念が消えなくて、
  協力しないわけにはいかないのよ……。」

 「貴女は、どんな仕打ちを?」

 「…………。」


 プレシアは、乾いた笑いを浮かべて視線を逸らす。
 救心と養命酒を一気飲みさせられたあげく、それが原因で病気が治って怒るに怒れないなどと……。


 (言える訳がない……。)


 シグナムは、何処となく察すると追求をやめた。
 プレシアを自分に重ねて哀れに思えた。


 「やめましょう……。
  全ては済んだことです……。」

 「そうね……。
  お互いのために……。」


 プレシアとシグナムは、視線を合わせると作り笑いの乾いた笑いを浮かべた。
 そして、闇の書事件は、そろそろ収束に向かおうとしていた。



[26407] 第13話 フェイトとなのは、久々の再会
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:10
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 プレシア一家の住むマンションの一室……。
 フェイトの部屋になのはが来ていた。
 小さなテーブルの上には、コーヒーが二つ。


 「久しぶりだね。
  フェイトちゃん。」

 「うん、なのは。
  久しぶり。」

 「この前は、ありがとう。
  私を助けてくれて……。
  それで、怪我させちゃって……。
  ごめんね……。」


 フェイトは、慌てて手を振る。


 「だ、大丈夫だから、気にしないで!
  ・
  ・
  その、結界を出るためには、
  もう一人の私の力が必要だったし……。」

 「ありがとう……。」

 「うん……。」


 なのはとフェイトは、久々の再会を果たしていた。



  第13話 フェイトとなのは、久々の再会



 なのはが、鞄からプリントの束を取り出す。


 「これ、お休みしてた分のプリント。」

 「ありがとう。
  結構、溜まっちゃったね……。」

 「後で、一緒にやろう。
  私が授業の内容を教えてあげるよ。」

 「ありがとう、なのは。」


 フェイトは、プリントを流し見て、ある程度の内容を確認すると勉強机の上に置いた。


 「今日、プレシアさんは、管理局に行ってるんだよね?」

 「うん。
  はやて達と一緒にリンディさんのところだよ。」

 「はやてちゃんって、どんな子?」

 「いい子だよ。
  とっても料理が上手なんだ。
  優しくて……。
  何処か強い感じ……。
  ・
  ・
  だから、守護騎士達も、はやてのために行動したんだと思う。」

 「事情があったんだよね……。」

 「うん……。
  私も、少しだけ分かる……。
  もう一人の私が暴走してなければ、
  私は、なのはと戦い続けていたかもしれなかったから。」

 「そうだね。
  デタラメだけど、やさぐれちゃんのお陰なんだよね。」

 「……うん。」

 「そのやさぐれちゃん。
  はやてちゃんの家で、悪さしなかったの?」


 フェイトは、苦笑いを浮かべる。


 「沢山したよ……。
  さっき、玄関で返して貰ったバルディッシュに搭載された機能があるでしょ?」

 「カートリッジシステムのこと?」

 「うん……。
  あの部分にネギ詰めたり……。」

 「あ、相変わらずだね……。」

 「シグナムを怒らせてばっかり……。」


 なのはは、苦笑いを浮かべる。


 「他にも商店街の福引でも……。」

 「福引?」

 「あのグルグル回して玉出すの分かる?」

 「うん。
  玉の色で賞品を貰えるヤツだよね?」

 「そう。
  あれを凄い雄叫びをあげて、思いっきり回したんだよ?
  信じられる?」

 「ちょっと……想像出来るかな?」


 なのはの頭には、『うおぉぉぉ……!』と雄叫びをあげてハンドルを回すやさぐれフェイトの勇姿が、ちょっとではなく、はっきりと浮かんでいた。


 「思い出すと凄い恥ずかしいよ……。」

 (そうだよね……。)

 「しかも、一回目で特賞出して、
  目玉商品をいきなり失くして……。
  商店街の人が涙目になってたよ。」

 「一気に福引の魅力が激減だね……。
  ちなみに商品は?」

 「……範馬勇次郎の1/1フィギュア。」


 なのはが、ガンッとテーブルに頭をぶつけた。


 「あの商店街の人達、何考えてんだろう……。
  それと特賞取ったこと、気にしなくて平気……。
  誰もそんなの欲しがらない……。」

 「そうかな?」

 「寧ろ、やさぐれちゃんが引き取ってくれて
  よかったと思う……。」


 なのはは、溜息を吐いて部屋を見回す。
 しかし、件のフィギュアはない。


 「勇次郎さんは?」

 「はやての家だよ。
  なのはが欲しかった?」

 「いらないよぅ……。」

 「そうだよね……。」


 フェイトは、小さく笑う。


 「はやてちゃんって子も、迷惑してんじゃないの?」

 「あ……。
  あれ、意外と役に立ったんだ。」

 「役に立つようなものなの?」

 「もう一人の私が、はやての部屋に置こうとして拒否されて、
  仕方なく玄関に置いてたら、泥棒を撃退したから。」

 「そんなことがあったの?」

 「夜に忍び込んで来たみたい。
  変な仮面が二つ残ってたよ。」

 「まあ、吃驚するよね……。
  玄関に範馬勇次郎が居たら……。」

 「しかも、両手をあげて構えたポーズ。」


 フェイトが勇次郎の戦闘スタイルをしてみる。


 (フェイトちゃんの中で、
  だんだんと刃牙の設定がデフォルト化していく……。
  そして、こんな可愛い勇次郎ポーズ初めて見た……。)


 読んだこともないのに蓄積されていく呪いのような知識……。
 なのはは、いつかアリサに聞いたトリケラトプス拳なるものをフェイトがしないか不安になった。


 「や、やさぐれちゃんの話は、もういいかな……。」

 「そうだね。
  こっちが疲れちゃうもんね。」

 「守護騎士さんのこと教えて。
  え、と……シグナムさん。」

 「……一番の被害者。」

 「…………。」


 なのはは、一筋の汗を流す。
 お互いコーヒーを一口。


 「ザフィーラさん。」

 「アルフの旦那さんになってる……。」

 「リインフォースさん。」

 「皆の逃げ道……。」

 「ヴィータちゃん。」

 「最近、感化されてる……。」

 「…………。」

 (はやてちゃんの家で何が……。)


 フェイトは、眉毛をハの字にしてコーヒーを更に一口。


 「じゃあ、最後にベヒーモスさん。」


 フェイトが吹いた。


 「フェ、フェイトちゃん!?」


 むせ返っているフェイトの背中を、なのはが擦る。


 「どうしたの?」

 「ゴホッ……。
  ケホッ……。
  ・
  ・
  ……ベヒーモスって?」

 「この前、やさぐれちゃんが電話で……。
  守護騎士最強の狂戦士だって……。」

 「シャマルだよ!」

 「そ、そうなの?」

 「また、要らないことに記憶の制限を掛けたんだ……。」

 「た、大変だね……。
  主人格のフェイトちゃんまで、からかう対象なんて……。」

 「本当だよ……。」

 「やさぐれちゃんの嘘だったのか……。
  守護騎士っていうから、
  そういう強い人が居るのかもって思っちゃった。」

 「シャマルは、優しそうな女の人だよ……。
  なのはが庇ってた手の人。」

 「その人だったんだ。
  ・
  ・
  そうだよね。
  あの手は、女の人だよね。」

 「うん。」

 「……あれ?
  何か拙いことを忘れているような……。」

 「拙いこと?」

 「まあ、いっか。
  やさぐれちゃんの話をしたからだよ。
  きっと……。」


 なのはは、笑って誤魔化した。


 …


 一方、時空管理局の一室……。


 「シャマルです!」

 「シャ、シャマルさん?
  ベヒーモスさんじゃなくて?」

 「何で、そんなモンスターみたいな名前になっているんですか!」


 やさぐれフェイト→なのは→リンディという伝達事項は、余計な波乱を管理局で起こしていた。



[26407] 第14話 そして、時空管理局では……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/04/12 01:10
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 時空管理局の一室……。
 そこには、今回の闇の書事件に関わった魔導師が集まっていた。
 なのはのデバイスのデータから情報を特定したことで、事件を担当したアースラ艦長のリンディとその息子で執務官のクロノ。
 無限書庫での調査を手伝ったユーノ。
 闇の書のせいで過去に決別出来ないグレアムとその使い魔二人、リーゼアリアとリーゼロッテ。
 そして、話は、なのはの連絡を元にリンディが確認をとり、シャマルが絶叫したところから始まる。


 「シャマルです!」

 「シャ、シャマルさん?
  ベヒーモスさんじゃなくて?」

 「何で、そんなモンスターみたいな名前になっているんですか!」

 「地球の協力者からの連絡では、間違いなくベヒーモスさんと……。」


 シャマルがリインフォースに泣きついた。
 この光景も何度見たか……。


 「おかしいわね……。
  なのはさんの話だと、月を見ると変身する生肉が大好きな方って……。
  普段は、天然系の少女に擬態していると……。」

 「その説明で気付いてくださいよ!
  私だけ、妙な説明があるの変だと思いませんでした!?」

 「その……。
  守護騎士の方は、基本、そういう方の集まりかと……。」

 「は?」


 守護騎士達の脳裏に悪魔の笑顔がちらついた。



  第14話 そして、時空管理局では……



 シグナムがリンディに話し掛ける。


 「嫌な予感しかしないが……。
  どんな内容が?」

 「え~っと……。
  貴方は、本当は男で……。」

 「違う!」

 「その胸は、闇の書から出て来てから豊胸手術したから、
  あまり触れないで欲しいと……。」

 「どんな情報だ!」


 シグナムがヴィータを引っ張る。


 「何て、聞いている!」

 「口から溶解液を吐き出す……。」

 「っなわけあるか!」


 ヴィータがザフィーラを引っ張る。


 「ザフィーラは!」

 「狼から人になる……?」

 「……何で、ザフィーラだけ本当なんだよ。」

 「…………。」


 兎に角、これでは話が進まない。
 シグナムがリンディに話す。


 「……その情報は忘れてください。
  ある者に吹き込まれた嘘です。」

 「はあ……。」


 プレシアは、隅で小さくなっていた。


 …


 フェイトの部屋……。


 「え~!?
  嘘なの!?」

 「嘘だよ……。」

 「シグナムさんが男じゃないのも?」

 「うん。」

 「ヴィータちゃんが溶解液吐かないのも?」

 「うん。」

 「ザフィーラさんが狼から人に変わるのも?」

 「それは本当……。」

 「どうしよう……。
  リンディさんに嘘言っちゃったよぅ……。」

 「よく信じたね?」

 「だって……。
  電話越しだと顔分かんないし……。
  闇の書の話が途中に挟まれてたし……。
  声だけは、真剣そのものだったんだもん……。」

 「なのは……。
  少し人を疑った方がいいよ。」

 「…………。」

 (何だろう……。
  そのセリフだけは、フェイトちゃんに言われたくない……。)


 結論、なのはもフェイトも同じぐらいアリサに言い包められている。


 …


 再び管理局の一室……。
 ようやく誤解が解けた。
 話をリセットして、リンディが質問する。


 「大凡の話は、なのはさんから伺っています。
  闇の書の改竄を貴女達は知らなかった。
  そして、主の命を守るために行動した結果が、
  今回の管理局魔導師のリンカーコアを奪うことだった。」

 「間違いありません。」

 「では……。
  知らなかったということを証明出来ますか?」


 その質問にプレシアが答える。


 「私が証人になるわ。
  彼女達は、主に対する改竄の影響。
  一定期間蒐集がないと主のリンカーコアを侵食することを
  呪いと思っていたから。」

 「と、言いますと?」

 「はやてちゃんのリンカーコアが未成熟だったために、
  闇の書の魔力の抑圧に耐えられないと判断していたのよ。
  だから、主として覚醒させてリンカーコアを成長させようとしていた。
  そして、闇の書の魔力の抑圧=呪いという言葉にしていた。」

 「なるほど。
  しかし、そうなれば次元干渉レベルの力が
  発揮されたのかもしれないのですよ?」

 「残念ながら、それも彼女達は知らなかったわ。
  そして、彼女達が、本来、蒐集する気がないのも証明出来る。」

 「蒐集する気がない?」

 「彼女達が現れたのは、半年前……。
  その半年間、彼女達は、蒐集を一度もしていない。
  それは、魔導師が襲われている事件が起きてないから分かるでしょう?」

 「はい。」

 「そして、半年前に現れたという証明は、現地の医師を訪ねれば分かるわ。
  半年前にはやてちゃんと会っているから。」

 「なるほど。
  分かりました。
  ・
  ・
  しかし、管理局の魔導師が襲われたのも事実。
  理由があるにしろ、これを許すわけにはいきません。」

 「それは、私が謝ります!」

 「はやてさん?」


 はやてが前に出て、強く声を張った。


 「皆、私のためにしたことです!
  だから……すいませんでした!」


 頭を下げたはやてに続いて、守護騎士達も前に出る。


 「主だけではなく、我々からも謝罪します。
  いかなる罰も受けるつもりです。」


 シグナムの言葉に守護騎士達も頭を下げた。


 「そうですか……。
  もう、頭を上げてください。
  ・
  ・
  クロノ執務官。」

 「はい。」

 「ここまでの話の経過から、
  彼女達を処罰すると、どのような処遇になりますか?」

 「今の話だけだと、それほど重い罪にはならないかと……。」


 クロノが、はやて達に向き直る。


 「ストリートファイトの闇討ちで怪我をさせて、
  指導員の注意だけで済んだという例もある。     …… ※1
  犠牲者の数が多いとはいえ、怪我人は少ない。
  闇の書に喰われたリンカーコアも、元に戻っている。
  ・
  ・
  軽犯罪で摘発されるか……。
  厳重注意か……。」

 「その程度よね?」

 「今のところは……。
  ちゃんと謝罪をしに、ここに来ているわけだし。
  ・
  ・
  問題は、闇の書がどう使われたかだ。」

 「そこの話は、これからということですよね?」


 リンディは、プレシアに尋ねた。


 (大したものだわ……。
  私が仲介役に入ったのも、守護騎士達の味方になっているのも知っていて……。
  ・
  ・
  何故か彼女とは、以心伝心が出来るのよね……。)


 プレシアは、顔には出さずに説明を始める。


 「説明の前に確認するわよ。
  闇の書は、本来の情報収集型から、悪質なロストロギアに変わってしまった。
  1.持ち主に強制的に蒐集を行なわせる悪質な改竄が施された。
    一定期間、頁の蒐集がないと持ち主自身のリンカーコアを侵食する。
  2.蒐集が完成すれば、次元干渉レベルの力の発揮。
  3.本体が破壊されるか所有者が死ぬかすると、白紙に戻って別の世界で再生する。
  故に停止させることの出来ない危険な魔導書になってしまった。」


 全員が頷く。


 「次に現在の闇の書の状態……。」


 プレシアが言い淀む。


 「非常に言い難いのだけど……。
  壊れた魔導書が更に壊れてるわ。」


 管理局側からは疑問符があがり、闇の書組からは溜息が漏れる。


 「実は……。
  私の娘の擬似人格が闇の書を……。」

 「?」

 「……壊しました。」

 「…………。」


 今まで黙っていたグレアムが質問する。


 「ど、どういうことかね?」

 「既に気付いていると思うけど……。
  この部屋でおかしなことが起きているでしょう……。」


 プレシアが指差す。


 「闇の書の主が、ピンピンしてること……。
  管制人格が闇の書完成の前に姿を見せていること……。」

 「やっぱり、管制人格だったのか……。」


 ユーノが質問する。


 「無限書庫の記録だと、
  覚醒した主が管理者権限を発動するために
  管制人格が出て来るはずですよね?」

 「その通りなんだけど……。」

 「?」

 「壊れていった経緯を話すと……。
  うちの娘の擬似人格が、そこの守護騎士との戦闘で目を覚まして……。」


 プレシアの歯切れは悪い。


 「どんな手を使ったか、返り討ちにした後で守護騎士に理由を聞いたらしく……。
  AMFという魔力を消す能力が擬似人格には働いていて……。
  それで呪い……もとい侵食を止めていたと……。
  ・
  ・
  ただ、完全に闇の書との接続を切り離したために、
  闇の書は、エラーの無限ループ状態に……。
  そして、決定的だったのが……。」

 「だったのが?」

 「あの馬鹿が闇の書を枕にして寝たことで……!」


 プレシアは拳を握り、管理局側の疑問は深まる。


 「寝ながら闇の書に涎を垂らしたもんだから、
  管制人格が緊急事態に目を覚ましてしまったのよ!」


 怒りのままに叫んだプレシアに対して、管理局側の人間は全員がこけた。


 「何で、そうなるんだ!」


 クロノの突っ込みは、尤もだった。


 「こっちだって、理解したくないわよ!」

 「一体、どういう状態なんだ!」

 『クロスケがキレてる……。』

 『クロノがキレなければ、私がキレてた……。』


 クロノの突っ込みの裏で、リーゼ姉妹の念話が流れていた。


 「きっちり説明してくれ!」

 「言いたくないけど、してあげるわよ!
  あの馬鹿のせいで、エラーにエラーの割り込みが入って、
  エラー解除出来なくなってるのよ!」

 「な……!」

 「だけど、そのエラーの優先順位が高いから、
  主への干渉も止まって、安定しちゃってるのよ!」


 クロノは、頭を抱えて座り込んだ。


 「有り得ない……。」

 『それでか……。
  守護騎士が蒐集しなくなったのは……。』

 『管制人格が出て来た理由も分かった……。』

 『でも……。』

 ((((((馬鹿過ぎるだろう……。))))))


 管理局の人間の姿は、昨日までの守護騎士の姿だった。


 「何か凄い虚しいぞ……。」

 「ヴィータ……。
  お前もか……。」

 「私達のせいじゃないのに、
  私達が馬鹿みたいだ……。」


 グレアムが額に手を置き、呟く。


 「つまり……。
  何百年と封印も出来なかった闇の書が、
  訳の分からない理由で安定しているのか……。」

 「認めたくないけど……。」


 クロノが、プレシアに叫ぶ。


 「納得出来るか!
  じゃあ、暴走前に闇の書に涎を掛ければ止まったのか!」

 「止まんないんと思うわよ。
  あくまで、その前に管制人格を呼び出すぐらいの
  エラー状態にして置かないといけないんだし……。
  ・
  ・
  はっきり言って、エラーにエラーを重ねるなんて暴挙をするわけないじゃない……。
  あの馬鹿以外に……」

 「その馬鹿が居れば、父さんはーーーっ!」

 「クロノ! 落ち着いて!」


 リンディがクロノを必死に宥める。
 プレシアがリンディ達を指差し、グレアムに質問する。


 「あの……何か悪い事でも?
  あの馬鹿を求めるなんて、相当なことですけど……。」

 「今は、やめて置こう……。
  クロノの心の傷を抉ることになる……。」


 ちなみにグレアムもリーゼ姉妹も、心の傷を抉られていた。


 …


 再びフェイトの部屋……。


 「アリシアちゃんとアルフさんは?」

 「一緒に付いて行ったよ。
  居住エリアで、アルフがアリシアの面倒を看てるって。」

 「そうなんだ。
  ・
  ・
  プレシアさん達、大丈夫かな?」

 「大丈夫だよ。
  母さんが居るんだもん。
  もう一人の私が居なければ、問題は起きないよ。」

 「そうだよね。」


 なのはとフェイトは、渦中の中心で、信頼していたプレシアが絶叫したなど思いもしなかった。
 そして、居ないはずのやさぐれフェイトの影響が、次元を挟んだ別の場所で迷惑を掛けているなど、知る由もなかった。


 …


 ※※※※※ 刑罰について ※※※※※

 ※1 …… 正直、管理局の刑罰はよく分かりません。
 ただ、wiki などを調べると vivid の方でアインハルトという少女がストリートファイトで闇討ちをしていた時、午前中で解放された経緯から、罪はそれほど大きくないと判断しました。
 ・蒐集時期が短いこと(多くは襲ってない。ワザと暈かして書いたつもり)。
 ・ヴィータが言っているように、はやての人生のために殺しはしていない。
 ・怪我とリンカーコアの魔力調達のみ。
  怪我…S級魔導師なら十分な手加減可能と判断。
  リンカーコア…なのはが数日で復活したところを見ると、実は、それほど大それたことではないのかもしれないと判断。
 以上の理由で、このSSの管理局の罪の扱いは低いものとしました。



[26407] 第15話 そろそろ幕引き……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/07/09 14:19
 == 魔法少女リリカルなのは A's ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 時空管理局の一室……。
 クロノは、両手で顔を覆ったまま、椅子からピクリとも動かない。
 リンディの代わりにユーノが隣で付き添っている。
 そして、誰もが精神的に疲れ切った中で、リンディが話を続ける。


 「それで、これからどうすれば……。」

 「休憩挟む?」

 「大丈夫です……。」


 リンディが、プレシアの提案を拒否する。


 「じゃあ、続けるわよ?
  幾ら安定していると言っても、試せないこともある。
  『主の死という鍵』『闇の書本体の破壊という鍵』により、
  闇の書が再生するかは試せない。
  これを阻止するために闇の書を解析して直すなり、更に改竄するなりする必要がある。」

 「ここからが本題ですね?」

 「ええ、管理局の技術を借りたいわ。」


 話は、ようやく本題へ。



  第15話 そろそろ幕引き……



 闇の書の解析……。
 現物を解析出来るという機会は、今回を措いてチャンスはない。
 幸いなことに管制人格のリインフォースが目覚めている。
 そして、約束の取り付けは上手くいった。

 約束を取り付けられた理由としては、安定しているとはいえ、危険なロストロギアであることに変わりはないこと。
 リンディ、クロノ、グレアムには深い因縁があったこと……。
 そして、その因縁を自分達で断ち切ることが出来るからである。
 私情は挟まれるが、それでも方向は一つに向きつつあった。

 その後、管理局は闇の書を預かり、リインフォースの力を借りて解析をすることになった。
 その間、はやてと守護騎士達は、再び地球の生活に戻ることになる。
 また、なのはとはやては、フェイトを通して友達になり、なのはは、はやてと守護騎士達から謝罪も受けた。
 そして、やさぐれフェイトの時間は、残り僅かになっていた……。


 …


 八神家……。
 夕飯の支度をしていたはやての後ろに、そっと誰かが立つ。


 「やさぐれちゃんやろ?」

 「よく分かったね……。」

 「その悪戯も何回目や?」

 「さすが、はやて……。
  修行の成果だね……。」

 「よく言いよるなぁ。」


 はやては、クスリと笑う。


 「あのね……。
  はやて……。」

 「ん?」

 「はやてのご飯が凄く美味しかったんだ……。」

 「ほんま?
  嬉しいわぁ。」

 「だから、ありがとうを言いに来た……。」

 「どうしたん?」

 「そろそろ眠りに着く……。」

 「眠り?」

 「フェイトに聞いたでしょ……?」

 「頭の修復の話?」

 「うん……。
  実は、フェイトは無理してた……。
  今回、こんなに長く出ているはずなかった……。
  ・
  ・
  一つは、あたしのため……。
  少し自由な時間をくれた……。
  もう一つは、はやてのため……。
  AMFの力で呪いを打ち消すために、頭を治すのを遅らせた……。」

 「フェイトちゃん……。」

 「そして、時間が来た……。
  はやてに最後のお別れを言おうと思った……。」

 「他の皆は?」

 「はやてから伝えてあげて……。
  久々に楽しかった……。
  フェイトの役に立ててよかった……。
  はやては、元気になるっぽい……。」

 「……やさぐれちゃんは?」

 「さっき、言った通り……。
  眠るだけ……。
  フェイトを通して夢を見る……。」


 はやてが振り返り、強く言葉を発する。


 「私、やさぐれちゃんのお陰で、今があると思う!」

 「そんなことない……。
  シグナム達が何とかした……。
  あたしは、少しお節介しただけ……。
  きっと、何も変わらなかった……。
  ・
  ・
  変わったとしたら、ヴィータのボケレベルとシグナムの突っ込みレベルが……。」

 「真面目な話をしてたんやけどね!」

 「あ……。
  時間だ……。」

 「嘘やろ!?」

 「嘘……。」


 はやてのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「はやて……。
  君の突っ込みが一番変わった……。
  八神家で、一番鋭い……。」

 「嬉しくないわ!」

 「冗談……。
  ほら、去り行くやさぐれさんに、
  優しい言葉を掛けて……。
  ・
  ・
  もう、いっそ愛の告白でもいいよ……。」

 「何で、女の子に愛の告白せなあかんのよ……。」

 「あたしへの告白は、フェイトが夜のサブミッションで返すから……。」

 「怒るで?」

 「じゃあ、あたしから……。」

 「へ?」


 やさぐれフェイトが、艶かしくはやての顎に手を当てる。
 はやては、少し上気する。


 「あたしの全てを……。」

 「…………。」

 「あたしの刃牙を全て君にあげる……。」

 「そんなことやと思ったわ!」


 再び、はやてのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「普通にお礼を言いたいんよ!」

 「愛を込めて蝶をつけて、『蝶最高だった』とか……?」

 「ありがとうや!」

 「やさぐれさんの照れ隠しなのに……。」

 「一体、誰がこんな性格に育てたんや……。」

 「育てたんじゃなくて、
  基礎理論を考えた人の設定……。」

 「誰?」


 やさぐれフェイトは、邪悪な笑みを浮かべるだけだった。


 「まあ、ええ。
  ・
  ・
  本当にありがとうな。」

 「うん……。
  確かに受け取った……。
  ・
  ・
  もう、行くね……。
  ご飯、美味しかった……。
  ありがとう……。
  じゃあね……。」

 「うん……。」

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 「六秒余った……。」


 はやてがこけた瞬間、やさぐれフェイトは、目を閉じた。
 クマが消えて目が開いた時、三白眼の目から綺麗な目に戻っていた。


 「ごめんね、はやて。
  本当に照れ隠しみたいだから。」

 「どっからが本当で、どっからが嘘なんだか……。
  ・
  ・
  もう、会えへんの?」

 「私が怪我しない限り……。」

 「じゃあ、これで最後やね。」

 「うん……。」

 「結局、お礼を言えたのかな?」

 「笑って居ればいいと思うよ。
  私の見ているものが、もう一人の私の夢になるから……。」

 「……うん。
  そうする……。」

 「じゃあ、私は帰るね。」

 「夕飯、食べていかないの?」

 「母さんが待ってるから。」

 「そう?」

 「じゃあね……。」


 フェイトの言葉は、はやての中で最後のやさぐれフェイトの言葉と重なった。
 そして、次の日から、やさぐれフェイトの姿は見えなくなった。


 …


 一ヶ月後……。
 フェイトは、自分の部屋で夢を見ていた。
 目の前には、姿を消したもう一人の自分。


 「少し気になって出て来た……。」

 「……唐突だね?」

 「闇の書……。
  どうなったの……?」

 「聞いてないし……。
  私の質問なんて無視だね……。」

 「で……?」

 「……何とかなりそうだって。」

 「よかったね……。」

 「信じられないけど、君のお陰だって……。」

 「ん……?」

 「闇の書……。
  完全に壊れてしまって、周りに魔力干渉がなかったんだって。
  だから、安全に改竄出来るって。」

 「凄い偶然だね……。」

 「偶然なのかな?
  君だからじゃないの?」

 「あたしは、どういう存在だ……。
  ・
  ・
  で……。
  どう、何とかなるの……?」

 「新しい防御プログラムを作るんだ。
  皆の心に残る姿を形にして、
  忘れていたと思った防御プログラムを作る……。
  姿も決まってる……。」

 「あたし……?」

 「それはないから。」

 「…………。」

 (フェイト……。
  少し寂しい……。
  ボケるか突っ込んで……。)

 「?」

 (天然か……。
  この子が、将来、突っ込み殺しの天然ボケを極めないことを祈ろう……。)

 「で……?」

 「あ、うん……。
  女の子……。
  融合騎って言うんだって……。」

 「融合騎なんてゴツイ名前だね……?
  ロボット……?」

 「違うよ!
  防御プログラムの能力!」

 「知ってて、からかっただけ……。」

 「悪質だよ!」

 「さっき、名前の突っ込みが返って来なかったということは、
  名前は、まだないんだよね……?
  ここは、あたしが実力を発揮するしかない……。」

 (流れを無視した……。
  そして、もう、変な名前を付けるのが分かる……。)

 「キングベヒーモス……。」

 (やっぱり……。
  ・
  ・
  ん?)


 フェイトは、目を覚ました。


 「あの名前って、このための伏線だったの!?」


 額に手を当てる。
 なのは達に話すか話すまいか……。
 そんな葛藤の生まれた朝の目覚めだった。

 フェイトは、溜息を吐く。
 今回、やさぐれフェイトは、何を残したのかと……。

 頭の中に渦巻くのは、八神家での大暴走による大混乱……。
 あの行動に意味があったとは思えない。
 それでも……。


 「みんなが笑っていられるのは、もう一人の私のお陰かもしれない……。」


 そんな気持ちだけが強く残ったのだった。



[26407] 後日談・第1話 あれから、三年……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/07/09 14:20
 == 魔法少女リリカルなのは ??? ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 やさぐれフェイト……。
 フェイトが頭に怪我をして、ほんの少しだけ出て来た擬似人格。
 悪戯好きで迷惑しか掛けなかったと思われる奇怪な行動は、思いの他、色んな副産物を残している。
 プレシアとアリシア……。
 テスタロッサ家の親子関係……。
 闇の書の管制人格リインフォース……。
 などなど。

 そもそも、何故、やさぐれフェイトなどという擬似人格が存在してしまったのか。



  後日談・第1話 あれから、三年……



 やさぐれフェイトが眠りについて、三年の時が流れていた。
 そして、その間の三人の主人公の少女の時間経過を少し書き記して置く。

 高町なのは:
 『ジュエルシード事件』『闇の書事件』にて魔法使いの才能を完全に開花させることもなく、時空管理局との深い繋がりを築きあげるまでに至っていない……あくまで、現地協力者の魔導師。

 そのため、時空管理局との接点が薄くなり、ジュエルシード事件で知り合い、闇の書事件で情報収集をしてくれたユーノと会う機会が少なくなってしまった。
 会う機会が少なくなってしまった原因は、ユーノが闇の書事件の一件から、時空管理局の無限書庫で働くようになってしまったこと。
 時空管理局と地球という果てしない距離が出来てしまった。
 故に、なのはとユーノの関係は、距離と同じ様に遠くなってしまうと思われていた。

 しかし、会えない時間の分だけ愛おしいのか、恋する乙女の力なのか……。
 なのはは、プレシアに弟子入りして転送魔法を習得し、週に一度の通い妻をしている。
 喫茶店経営の両親に料理を習い、日々、腕をあげ、愛の篭もった差し入れを届ける週末。
 時空管理局では、微笑ましかった小さな恋のメロディが、なのはの成長に伴い、憎しみの嫉妬の篭もった恨みの呪い唄に変わっていった。

 ちなみに、プレシアが協力してくれたのは、『やさぐれフェイト被害者の会』のメンバーだからである。


 八神はやて:
 闇の書の主として覚醒を果たさなかった魔導師。
 リンカーコアの成長が未熟なため、リインフォースから夜天の魔道書の知識を受け継げない中途半端な状態。
 真の夜天の主となるべく、リインフォースと新た生まれた制御プログラムの融合騎リインフォース・ツヴァイ……通称リインⅡに魔法の師事を受けている。
 現在、魔導師ランクは、Cランク。
 ただし、リインフォースとユニゾンすれば、SSランク。
 そして、リインⅡとユニゾンすれば、Aランク。
 ちなみに、リインフォースとリインⅡとの同時のユニゾンは出来ない。
 一度、試みて、自爆をしている。

 先に魔導師方面のことを記述したが、健康面も心配するようなことは起きていない。
 寧ろ、驚くべき回復を見せている。
 これは、やさぐれフェイトが大きく原因している。
 本来、闇の書からのリンカーコアの侵食が解除されたら、徐々に快方に向かうはずだった。
 しかし、やさぐれフェイトのAMFが、未熟なリンカーコアを抑圧する魔力の全てを結合解除してしまった。
 そのため、本来なら徐々に回復する事象が一気に解決してしまい、麻痺の回復という工程を飛ばして、弱った足の回復から始めるという状態になった。

 一方の守護騎士達も、元気にやっている。
 厳重注意で済んでしまった闇の書事件。
 奉仕活動などを強要されることなく、嘱託魔導師として時空管理局から依頼を受けて働いている。
 ただ、少しおかしくなっている……。
 部下に対する躾が、全てグーになっている。
 絶妙な力加減で、殴られた相手に怪我はなし。
 痛いと思わせつつもダメージを与えない。
 最近、部下として派遣された管理局員の中から、シグナムやヴィータに殴られたいという局員が急増中。
 そして、シグナムとヴィータは、そのことをプレシアに相談したりしている。

 ちなみに、プレシアが協力してくれたのは、『やさぐれフェイト被害者の会』のメンバーだからである。


 フェイト・テスタロッサ:
 現在も将来を模索中の魔導師。
 『ジュエルシード事件』『闇の書事件』で疾風迅雷の戦いをしたわけでもなく、それにより、悲しい事件から誰かを救い出せたわけでもない。
 そのため、自分の力が何の役に立つのかを未だ模索している。

 時空管理局に入って探すというのも手だが、母親であるプレシアは、組織の中で働くのを少し嫌っている気がある。
 それは仕方がないこと。
 かつて、組織の一員として魔導実験に参加して、無理やり押し進められた実験でアリシアを失った。
 今は、フェイトに対しても、アリシアに対しても、母親としての時間を捧げられている。
 嫌なことをを思い出させるような行動は控えたい。

 それに、今は、アリシアと普通の姉妹として生きていくのも悪くないと思っている。
 アルフも、それを認めてくれている。
 更にアルフは、成長に違いがあるフェイトとアリシアを気に掛けて、姿を変えてアリシアぐらいの子供の姿になってくれている。
 『学校に通うのも悪くないよ』と言ってくれるアルフに、フェイトは、頭があがらない。


 「私のこれからか……」


 フェイトは、将来について模索中。
 そして、母であるプレシアに相談してみることにした。

 ちなみに、プレシアが協力してくれたのは、『やさぐれフェイト被害者の会』のメンバーだからとは無関係である。


 …


 テスタロッサ家のマンション……。
 台所のテーブルに、中学校の制服を着たままのフェイトと普段着にエプロンを着けたままのプレシアが座っていた。


 「ごめんね。
  夕飯の支度中だったのに。」

 「構わないわよ。
  フェイトも、そういうことを考える歳になったのね。」

 「うん……。
  それで、少し母さんに聞きたくて。」

 「ええ。」

 「母さんは、どうやって将来を決めた?」


 プレシアは、昔の自分を少し振り返る。
 そして、ゆっくりと語り出す。


 「フェイトとは、少し状況が違うから参考になるかしら?
  私の場合は、直ぐ近くに魔法という技術があったの。
  自身の魔導師ランクを知ることも出来たし、
  それを活かす技術……魔法文化というものが当然のようにあった。
  だから、自分の才能を活かすのに迷うようなことは、それほど多くなかったわ。」

 「じゃあ、魔法に関わるようなこと以外は……」

 「あまり考えなかったわね。」

 「そう……。」


 プレシアは、小さく微笑む。


 「私のことなら、気に掛けなくてもいいわよ。
  フェイトが同じ道を進む可能性があっても、
  今は、しっかりと受け入れられるから。」

 「えっと、でも……。」

 「だから、時空管理局とかの話を
  無理にしないようにしなくてもいいわ。」

 「……気付いてたの?」

 「母親だから。」


 フェイトは、少し照れ隠しして俯く。


 「じゃ、じゃあ……。
  あのね……。
  ・
  ・
  私は、母さんみたいな研究者になれる……かな?」

 「研究者?
  そっちの方面に進みたいの?」

 「まだ、可能性の話なんだけど……。
  それなら、アリシアとも……。
  母さんとも、一緒にお仕事出来るかなって。」

 「私も?」

 「……ダメかな?」


 プレシアは、考え込んでしまう。
 確かに自分で選んだ仕事である以上、意欲を持って取り組んだ。
 しかし、その仕事が忙しくて、アリシアを一人にさせてしまった。
 そして、あの悪夢の実験が何もなく終わった時、自分の時間は、アリシアに全て捧げると誓った。
 それは、アリシアに対する罪滅ぼしではない。
 自分で、そう望んだことだ。
 アリシアと過ごす幸せな時間。

 そして、今は、そのアリシアの妹が欲しいという願いから、フェイトが生まれ、使い魔のアルフも家族に加わり、いつの間にか求めていた以上の大きなものに変わっている。
 しかし、大きくなり姿を変えたが、最初の願いのアリシアに全てを捧げるという意味は変わっていない。
 寧ろ、フェイトも幸せにしたいと思うし、フェイトが幸せであるということは、全てをアリシアに捧げるという一部だ。
 その中に、再び自分が仕事をするというのを含めていいのだろうか?
 プレシアは、フェイトに質問する。


 「私が仕事をするの……どう思う?」


 フェイトは、何となくだがプレシアが気に掛けていることを察する。
 きっと、母親でいることと仕事をすることは、別だと考えていると。


 「私は、母さんと何かをするのは楽しいと思う。
  母さんが取り仕切ってくれるなら、
  あんな悲しいことは起きないと思うし。」

 (私は、信頼されているのね。)


 プレシアは、嬉しそうに微笑む。
 自分は、しっかりと母親をやって来れたようだ。


 「フェイト……。
  ありがとう。
  考えて置くわ。」

 「うん……。
  ・
  ・
  じゃあ、少しそっち方面の勉強とかしようかな?」

 「いいかもしれないわね。」

 「どうせだから、もう一人の私の研究とかを調べようかな?」


 プレシアの顔が険しくなった。


 「何で、あの馬鹿なのよ?」

 「ちゃんと使えば、助けられる命もあるかもしれないよ。」

 「プロジェクトF.A.T.E……。
  あの藪医者の研究か……。」

 「ドクター……。
  ジェイル・スカリエッティ。
  まともに研究してれば、犯罪者じゃないのに。」

 「ジェイル・スカリエッティ?
  ジョイル・スカリエッティでしょう?」

 「え?」


 フェイトは、プレシアの口から出た別の名前に動けなくなった。



[26407] 後日談・第2話 喫茶店会議①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/07/09 14:20
 == 魔法少女リリカルなのは ??? ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 昨日、相談したプレシアの口から出た妙な名前……。
 ジェイル・スカリエッティならぬ、ジョイル・スカリエッティ。
 そのせいで、話は突如として終わりを迎えてしまった。
 フェイトは、頭を悩ませる。


 「ジェイル・スカリエッティが、
  プロジェクトF.A.T.E の基礎理論を作ったはずなのに……。」


 自分の部屋の机に突っ伏し、フェイトの頭の中は、グルグルと同じ言葉が回り続ける。
 やがて、ゆっくりと起き上がると携帯電話のメールを使って、親友二人に相談のメールを送信した。



  後日談・第2話 喫茶店会議①



 二日後……。
 フェイト、なのは、はやての三人の都合がつく。
 学校終わりの放課後に、近くに出来たばかりの喫茶店で話し合いをすることになる。
 そして、やって来ました喫茶店。


 「喫茶T……。」

 「何のTやろ?」

 「さあ?」


 三人は、小さな洋風の店の入り口を潜る。
 中に入ると『いらっしゃいませ』と声を掛けられ、店の一番奥に案内された。
 店内の入り口近くの席では、前髪の多い女の子が手紙を書いている。
 そして、奥に向かう途中の席では、白髪の少女と後ろ髪の長い少年が話をしている。


 「とがめ、チェリオを気合いを入れる掛け声として、
  日本中に流行らせることなんて可能なのか?」

 「うむ。
  私は、出来ると信じておるよ。」

 「そっか……。」

 「寧ろ、地図作りなど二の次だ。
  チェリオを流行らせることにこそ意味がある。」

 「どういうことだよ!?
  わかんないよ!
  オレには!」

 「七花、それも駒なのだよ。
  私にとっては……。」

 「……何のだよ?」

 「全ては、チェリオを気合いを入れる掛け声として流行らすための駒だった……。」

 「えぇ……。」

 「今までの旅も、奇策も、気持ちも……。
  そして、七花……。
  お前の存在すらもだ……。」

 「じゃあ、刀集めは?」

 「踏み台だ。
  よりインパクトを与えるための布石に他ならない。」

 「布石?」

 「そうだ。
  我々の行動を見た人間は、どう思っただろうか?
  私が繰り出すチェリオを見る度に、ときめき、感動し、萌えあがったに違いあるまい。」

 「いや、それだと気合いを入れたことにならないって。」

 「甘いな、七花。
  それは、私を見た視聴者の気持ちだ。
  私のチェリオにより、気合いが入ったのはお主だ。」

 「オレ?」

 「そうだ。
  思い出してみるがいい。
  あの時の私のチェリオがあったからこそ、勝てたという戦いが沢山あったはずだ。」

 「そうかな?」

 「そうだ。
  私が言うのだから間違いない。
  お主は、黙って私のチェリオを喰らい続けていればよいのだ。」

 「そうか?」

 「うむ。
  その行動を続けることこそが、
  チェリオを、気合いを入れる掛け声として流行らせる第一歩なのだ。」

 「よく分かんないけど、分かったよ。」

 「うむ。
  では、気合いを入れるぞ?
  チェリオ!」


 妙な掛け声の後に炸裂した拳を見ながら、三人は一番奥まで歩いて行き、席に座る。


 「今の子の声、なのはちゃんに似てなかった?」

 「そうかな?」

 「そっくりだったよ。」

 「そうかもしれないね。
  よくある声なんだよ、きっと。」

 ((そうなのかな?))


 少しの疑問を残したところで、店員さんが注文を聞きに来る。
 三人は、それぞれ飲み物を注文すると、本題に入ることにした。


 「フェイトちゃん。
  メールにあった相談って、何なん?」

 「実は、私の生まれについてなんだ。」

 「ん? それやったら、聞いてるよ。
  それについて、私達は、何も差別とかすることないし……。」

 「そ、そうじゃなくて……。」


 フェイトは、手を振って否定する。
 そして、なのはに頼んで、ユーノに取り寄せて貰った資料を鞄から取り出す。


 「これ、紙に印刷して来たもの。」

 「なになに?」


 なのはとはやてが、束ねられたプリントの題名を読む。


 「「プロジェクトF.A.T.Eについて。」」

 「これって、プレシアさんがフェイトちゃんを生み出した技術でしょ?」

 「そう。
  でも……。」


 なのはとはやてが、疑問符を浮かべる。


 「母さんが、研究した人をジョイル・スカリエッティって……。」

 「「ジョイル・スカリエッティ?」」


 なのはとはやてが、資料をパラパラと捲る。
 基礎理論を考えた人間は、ジェイル・スカリエッティのはずだ。


 「名前が違う……。」

 「そやね……。」

 「うん、そうなんだ。
  私の生まれのことだから、少し調べてたりしてたんだけど。
  二日前、母さんに聞いた名前とは違うんだ。
  それで、なのはに頼んで、ユーノから閲覧可能な資料を送って貰ったの。」

 「それで、相談やったんやね?」

 「うん……。」

 「…………。」


 正直、何と言っていいか分からない。
 なのはがフェイトに質問する。


 「プレシアさんの勘違いってことはないの?」

 「ないみたい。
  それに……ユーノから別の資料も送られて来て。」


 フェイトは、鞄からもう一つのプリントの束を出す。
 はやてが読み上げる。


 「ジョイル・スカリエッティの研究資料について……。
  実在してんの?
  ジョイル・スカリエッティ?」


 フェイトは、無言で頷いた。


 「中身は?」

 「怖くて、まだ見てない……。」

 「そ、そうかぁ……。
  概要だけでも読んでみない?」

 「……一緒に読んでくれる?」


 フェイトの問い掛けに、なのはとはやてが頷く。
 ジョイル・スカリエッティなる人物のプリントを捲り、研究成果を覗く。


 「「「あれ?」」」


 三人は、異口同音を口にした。


 「これ、プロジェクトF.A.T.Eだよ?」

 「ほんまや。」

 「印刷間違えたかな?」


 フェイトは、慌ててプリントの束を手に取る。
 しかし、右下のページとサブタイトルは、ジョイル・スカリエッティになっている。


 「あれ? え? どうして?」


 パラパラと捲り飛ばすと、別の研究資料が出て来た。


 「何これ?」


 フェイトは、プリントの束をテーブルの上に置いて頭を抱える。
 なのはがプリントの束を二つ並べて、上から見比べる。


 「丸っきり同じだね……。」

 「ほんま?
  ・
  ・
  本当だ……。
  でも、ジョイル・スカリエッティの方は、続きがあるよ?」

 「そうだね。」


 暫し沈黙。
 そして、はやてが口を開く。


 「もしかして……。
  名前が似てるから、
  保管する資料を間違えたんじゃないやろか?」

 「間違い……?」


 フェイトが顔を上げる。


 「そうや。
  ジェイル・スカリエッティの資料をジョイル・スカリエッティの資料にも入れて、
  ジョイル・スカリエッティの資料は、その差分だけ……。」


 フェイトは、ジョイル・スカリエッティのプリントの束から、プロジェクトF.A.T.Eの資料を抜き取る。
 そして、改めて概要を読む。


 「擬似人格と運命を歪ませる研究について……。
  擬似人格!?」


 なのはとはやての頭の中に、三年前に降臨した悪魔の笑みが過ぎった。


 「何か繋がったな……。」

 「うん……。
  どうして、やさぐれちゃんが擬似人格なのか分かった気がした……。」

 「…………。」


 フェイトは、声に出して読み進める。


 「この研究は、意図的に擬似人格を作るものである。
  作りあげた記憶の転写と言ってもいい。」

 「それって、プロジェクトF.A.T.Eの
  記憶のクローニング技術じゃ……。」

 「意図的に作るんやったら、違うんやないか?」


 フェイトは、続ける。


 「実験の結果、見事に人格を変えることに成功した。
  温和だった猿が活発的に変わった。
  ・
  ・
  猿……。」


 フェイトにズーンと黒い影が落ちた。
 なのはとはやてが必死に励ますと、フェイトは、何とか立ち直り、続きを読み始める。


 「……しかし、人格が変わるのは、与えた魔力が切れるまで。
  リンカーコアを持たない猿には、変えた人格を維持することは出来ない。
  つまり、人格を変えるには魔導師であることが条件だ。
  それで……。
  ・
  ・
  実験は、人体実験に移るからという理由で、ここで終わってる。」

 「ジョイル・スカリエッティは、一応、まともみたいやな。
  ジェイル・スカリエッティは、人体実験をしていたっていう話やから。」

 「そうだね。
  でも、実験される動物さんが可哀そうだよ。」

 「失言やった……。
  その通りや。
  ・
  ・
  フェイトちゃん、もう一つの方は?」

 「運命を歪ませる方?
  これ、何の研究なんだろう?
  ・
  ・
  人には変えられない大きな運命というものがある。
  しかし、それに抗う力というものがあることを信じたい。
  そして、占いなどの運気を学問と捉えた統計学から、
  何かを捧げることで運気をあげて、運命の何かを変えることが出来ないかと考えた。」

 「さっぱり、分からへん。」

 「私も。」

 「…………。」

 (心当たりがある……。
  もう一人の私の意味の分からない運の良さ……。)


 フェイトは、続ける。


 「更に、もう一つ運命を変える手法。
  これは、壊すと言う方が正しいかもしれない。
  デタラメにことを進め、自分の予測を凌駕した行動を取ること。」

 「何かジョイル・スカリエッティ……。
  おかしなことを言い出したな?」

 「と、いうか、誰かに近づいてる……。」

 「だったら、合わせればいいのではないか?
  デタラメな行動をして運気を上げて、
  何かが変われば、結果オーライにならないか?
  混ぜればいいじゃないか?」

 「「「結果オーライになるか!」」」

 「そして、混ぜるな!」


 三人は、ジョイル・スカリエッティなる者が、後半投げやりに研究をしていたと確信する。
 フェイトは、眉をひくつかせながら、震えた声で読み進める。


 「……とりあえず、対価として、魔導師の資質を犠牲にして運気を上げるっぽいものを作ってみた。
  ついでに、運命を変えるために少しデタラメな性格の擬似人格も。
  そして、研究成果を利用されないのも癪だから、
  擬似人格の研究成果と運命を変える成果をセットにしたものを
  転写前のブラックボックスのプログラムにした。
  つまり、私の研究成果を実行するには、このブラックボックスを組み込むしかない。
  ・
  ・
  余談……。
  実行するなら、対価となるそれ相応の魔法資質と、
  擬似人格を維持するだけの魔力量が必要になるため、実現は、ほぼ不可能と思われる。
  私には、人体実験をする勇気もないし……終わり。」


 フェイトは、がっくりと項垂れて額に手を置く。


 「ふふ……。」

 「「フェイトちゃん?」」

 「……何か分かっちゃった。」

 「…………。」


 フェイトは、乾いた笑みを浮かべ続ける。


 「……完成前の基礎理論のプロジェクトF.A.T.Eと、
  擬似人格と運命を歪ませる研究。
  これを母さんが完成させて、もう一人の私が生まれたんだ……。」

 「何たる偶然……。」

 「凄い確率だよね……。」

 「うっかり管理局の誰かがジェイル・スカリエッティの研究を
  ジョイル・スカリエッティの研究に追記……。
  うっかり名前を間違えて手に入れた研究を始めた母さん……。
  うっかり研究が成功して、私が生まれる……。」

 「そして、やさぐれちゃんも生まれた……。」

 「それに私達が巻き込まれたんか……。
  研究資料を見ると運気の底上げの研究が、
  この偶然を作りあげた気もするわ……。」

 「母さんは、知らないで二人の研究者の研究を完成させていたんだ……。
  本来、ジョイル・スカリエッティだけの研究だけじゃ成功しない。
  それをジェイル・スカリエッティの研究が足りない魔法資質を補った。」

 「プレシアさんが完成させるだけの才能を持ち合わせていたのも、
  今、考えると凄い偶然だよね?」

 「私……。
  よく死ななかったな……。」

 ((それが一番の奇跡かもしれない……。))


 フェイトは、ガンッとテーブルに頭を打ち付けた。
 なのはとはやては、苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
 なのはは、フェイトを励ます。


 「で、でも……。
  もしかしたら、やさぐれちゃんが出て来て、
  私達の運命は変わったかもしれないよ?」

 「いい方に変わったとは思えない……。
  だって、運気が上がってたのは、もう一人の私だけだもん……。」

 「そ、そうなの?
  はは……。」


 なのはは、『どうしよう?』とはやてを見る。
 はやても、『どうすれば……』と思い悩む。


 「あ、あれや!
  やさぐれちゃんのお陰で、
  プレシアさんが元気になったんちゃうか?」

 「……母さん?」

 「そうや!
  本来、不治の病だったんやろ?」

 「うん……。」

 「なら!」

 「そ、そうかな?」

 「きっと、他にも何か変わったはずや!」

 (思い当たらんけど……。)


 フェイトは、少し元気になる。


 「……そうだよね。」

 「「うん!」」


 その場は、とりあえず、それで落ち着いた。
 しかし、妙な事実が分かった。
 やさぐれフェイトは、プレシアのうっかりで生まれた。



[26407] 後日談・第3話 喫茶店会議②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/07/09 14:21
 == 魔法少女リリカルなのは ??? ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 今日も始まる喫茶店会議……。
 場所は、昨日と同じ喫茶T。
 なのはとはやてが、窓際の席でフェイトを待つ。
 そのフェイトが、お店に入る前に年上と思われる男子生徒に呼び止められるのが見える。


 「これは……。」

 「告白されてる?」


 なのはとはやての視線が釘付けになる。
 フェイトは、困ったようにオロオロしている。
 男子生徒は、必死に何かをフェイトに訴えている。


 「フェイトちゃんのピンチやな。」

 「あの男の子。
  はやてちゃん的には、どうなの?」

 「美形でスポーツマンタイプか……。」

 (あんなに離れてて、そこまで読み取れるんだ……。)

 「性格に裏がありそうやから、パスやね。」

 「そうなんだ。」

 「なのはちゃんには、身につかん能力やろうねぇ。
  愛しの旦那様が居るんだし……。」

 「……はやてちゃんの馬鹿。」


 赤くなるなのはを見ながら、はやては笑う。
 そして、そうこうしているうちに、男子生徒が地面に手を着いた。
 その男子生徒を置いて、フェイトが店に向かって来る。


 「玉砕したみたいやね。
  いいものを見せて貰った。」

 「少し可哀そう……。」


 喫茶店に入って来たフェイトが、なのはとはやてを見つけて駆け寄る。


 「何て、断わったん?」

 「見てたの?」

 「うん……で?」

 「烈 海王ぐらい強い人じゃないとダメって。」

 「少しじゃなくて、凄く可哀そうだよ!」


 なのはが吼えた。



  後日談・第3話 喫茶店会議②



 男子生徒の幻想を砕いたのは、何だったのか?
 フェイトにふられたこと? 違う。
 フェイトの言い方がきつかった? 違う。
 フェイトが、烈 海王を知っていた? 正解。
 清楚で奥ゆかしいイメージの少女の口から出て来た『烈 海王』の言葉。
 彼の頭の中で、何かが砕け散ったのだった。

 はやてが取調べをする刑事のように、テーブルに片腕を置く。
 そして、向かいに座るフェイトを尋問する。


 「シャキシャキ答えて貰おうか?
  一体、何を言ったんや?」

 「な、何って……。
  別に……。」

 「純情な乙女は、告白中に烈 海王なんて言わん。
  どういう過程で、烈 海王が出て来たのか?
  そこを説明して貰いたいだけや。」

 「え、えっと……。
  いきなり『好きです』って言われて……。
  困ってたら、『困らせてしまったようだね?』とか言われて……。」

 「好きって言われたんだ……。」

 「後半ムカツクこと言っとるよ?」

 「……そうかも。」

 「「で?」」

 「あ、うん。
  『好きなタイプを聞こうか?』って。
  『僕がそうなるように努力するから』って。」

 「それで答えのが……。」

 「烈 海王。」

 「おかしい!
  なのはちゃん!
  フェイトちゃん、おかしい!」

 「はやてちゃん!
  声、大きいよ!」


 なのはは、わたわたと慌てて、はやてを止める。
 はやては、席に座り直し、咳払いをする。
 そして、フェイトを睨む。


 「で、ほんまに烈 海王好きなん?」

 「嫌いじゃないけど、そんな人存在しないよ。」

 「じゃあ、嘘?」

 「うん。
  断わる言い訳を思いつかなかったから。」

 「どうして、烈 海王なん?」

 「多分、もう一人の私の趣味を享受出来る人は、
  この世に一人も居ないと思ったから。」

 「…………。」


 凄く納得出来る。


 「私、まだ恋愛とか分からないから……。
  言い訳には効果覿面なんだ。」

 「他に何を言ったか怖くなって来たよ。」


 なのはは、少し怖いものを想像する。


 「そんなに変なこと言ってないよ。」

 「本当?」

 「『打岩が出来るようになってからね』とか。」

 「へ?」

 「『站椿からやり直してね』とか。」

 「はい?」

 「『貴様は中国拳法を嘗めた!』って怒ったフリして逃げたりとか。」

 「…………。」

 「『貴様等の居る場所は、既に私が二千年前に通過した場所だ!』って言って逃げたり……。」


 なのはの想像通りだった。
 はやてが、ポンとフェイトの肩を叩く。


 「確かに効果覿面だけど、男が二度と寄り付かなくなる……。」

 「?」


 フェイトは、分からないと首を傾げる。


 「やさぐれちゃんの真似だけはしたらあかん。
  人として、何かを失くすから……。」

 「そう?」

 (もう、取り返しがつかないかもしれないけど……。)


 刃牙を読んでないのに、やさぐれフェイトと知識を共有するが故に蓄積した知識。
 大いなる誤解は、海鳴に刃牙女を降臨させ掛けていた。
 今のところ、回収可能なセーフティゾーン。
 親友により、辛くも救出された。


 「ねえねえ、本題に入ろうよ。」

 「そやそや。
  プレシアさんに聞いたんやろ?」

 「伝えた瞬間に廃人みたいに、真っ白になっちゃったけど……。」

 「…………。」


 思いの他、ショックが大きかったらしい。


 「最初、絶対に認めなかった……。
  そして、諦めて暫くして、管理局のせいにしてた……。」

 「子供みたい……。」

 「可愛い……」

 「最後は、訳の分からないものを実現した自分の才能が怖いって、
  自己完結の自画自賛で、話は終わったよ……。
  それで……。
  母さんは、あくまでプロジェクトF.A.T.Eを完成させたつもりだったんだって。」

 「じゃあ、ジェイル・スカリエッティの技術だけ?」

 「うん。
  ジョイル・スカリエッティは、余計だったって。」

 「ややこしいなぁ……。
  ジョイル・スカリエッティは、その後、どうなったん?」

 「消息不明。」

 「ジェイルの方は?」

 「現役の犯罪者をしてるみたい。」

 「結局、やさぐれちゃんの秘密は訳が分からんなぁ。」

 「そうだね。」

 「…………。」


 三人は、『う~ん』と悩む。


 「ところで……。」

 「「ん?」」

 「やさぐれちゃんの秘密が少し解き明かされたんやけど、何か起きたんやろか?」

 「……すっきりしたかな?」

 「寧ろ、余計なモヤモヤが増えた気しかしないけど……。」


 最初の疑問って、何だったっけ?
 結局、掘り返して分かった事実に納得出来るものはなく、妙な気分だけが心に残った。
 しかし、これもやさぐれがやさぐれであるが故の結果。
 フェイト達の脱力感は約束されたものだったのかもしれない。

 こうして、世界には知らなくてもいい、どうでもいいことが一つ増えた。


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