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[26504] 【まだ生きてるよ】IS -Shield of Aegis-【IS×恋する乙女と守護の楯】+α【アンケートおわり】
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/10/30 03:03
男の娘成分という事で、シールド9こと如月修史山田妙子の介入。

*注意事項(増えます)
・妙子ちゃんはIS使えます。男の娘だから
・設子さんルートの重大なネタバレ有り
・オリIS登場
・設子さんマジ天使
・恋楯の世界観?知らん
・多少の無茶は、全部束さんのせい
・元々はみんなのアニキ、瑞穂ちゃんでやろうかと考えていた
・プラズマ=なんか凄い便利なヤツ
・設定などに「機械仕掛けのイヴ」の世界観が含まれます

以上を踏まえた上、ご覧ください。

3/15 公開

修正情報
4/9 第七話、プラズマコートの発動時の表現の修正

4/1 新作の予告編公開
4/2 4/1はエイプリルフールでしたー



[26504] 第一話「しょあくのこんげん×2」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/03/16 01:25
 「要人警護の任務は了解しましたが……しかもまた潜入ミッションですか?」
 
 新たに与えられた指令に、眉をひそめる。正直潜入ミッションという言葉にあまりいい思い出は無い。
 具体的に言うと、つい二日ほど前に卒業したセント・テレジア学院とか、聖應女学院とか。

 「まぁそんないやそうな顔をするな。今回は設子ちゃんも一緒だから」
 「今回も、の間違いでしょう」

 課長ののんきな言葉に俺は嘆息を禁じえない。

 「で、その設子はどこに居るんですか?」

 そう、俺と設子のペアこと「アイギスの双循」で任務を受ける時に設子がその場に居ない事は今までなかった。

 「うむ、設子君には予め準備が必要だったのでもう既に説明をし、準備をしてもらっている」
 「そうですか、それならいいんですけど」

 はて、一体準備とは何のことなのだろうか?そしてそれは俺はする必要があるのだろうか。幾つかの疑問があるものの、ひとまずは課長の話に耳を傾ける。

 「それで、今回の護衛対象はこの少年だ」

 そういって手渡される資料。

 「コイツは……」

 その資料に書かれた人物を俺は知っている。
 いや、今やその少年は世界一有名な日本人とも言える存在。
 世界で唯一マルチフォーム・スーツIS――インフィニット・ストラトスを扱える男。「織斑一夏」。

 「そう、彼は現在世界で最も危険に晒される可能性のある存在として、我々に警護の依頼が来たのだ」

 確かに、彼の存在価値はヘタをすると一国のトップにも匹敵すると冗談交じりで語られたりする。

 「ですが、何でそんな重要人物の警護が俺たちへ?言っちゃあなんですが、彼のことはそれこそ政府が総力を上げて身柄を守っているんでしょう?」
 「そうだ。とはいえ日常生活が万事安全とはいえない」

 たしかにそうだ。だからこそ俺たちのような生業が成立するのだが。

 「それに、ISを唯一扱える男を遊ばせるほど彼らも暢気ではない。よって、織斑一夏はIS操縦者養成機関であるIS学園に入学する事になった」

 IS学園――課長が言ったようにIS操縦者の養成機関であり、「あらゆる国家に属さず、企業の干渉を受けない」といった特殊性を持つ。
 確かにここに入学すれば、少なくとも卒業するまでの三年間は『政治的な』脅威から織斑一夏の身を守る事が出来る。
 だが、それはあくまでも外側、そして『組織的』なものからのことであり、『個人』から『個人』を守るのはほぼ不可能だろう。極端な話、彼を狙う組織に属する人間を一人入学させるだけで織斑一夏の安全性は途端に崩れてしまう。
 いや、だからこその俺たちか。公の存在などが潜り込めない所をガードするのが俺たち特殊要人護衛課の仕事の一つでもある。

 「ん?ちょっとまってください」
 「一体どうしたんだ?」

 そこで、俺はある致命的なことに気がついた。
 何度も述べているが、IS学園はIS操縦者の養成機関。入試のテストこそあるが、それ以前の大前提、それは当然のように「ISを動かせる事」。

 「俺にISは動かせません。よって俺がIS学園に潜入する事なんて不可能です」

 そう、まず俺はISを動かす事が出来ない。
 織斑一夏という前例が存在する以上、ISを操縦できる男が皆無と断ずるのは早計だろうが、そんな都合がいい話がそう転がっているわけが無い。
 もしそんなものが転がっていると言うのなら、それは最早偶然ではなく陰謀だ。

 「あぁそのことか。それなら問題ない。気にするな」
 「は?いや、流石にそういうわけにもいかないでしょう」

 第一、IS学園の特性上「護衛の任務の為に」という理由で潜入することすらおそらく不可能であろう。

 「そのことについては、ある人物から説明がある」
 「ある人物?」
 「あぁ、そろそろ……おぉ、来た来た」

 そういって課長がドアの方向に視線を向けるのに習って俺も後ろのドアへと振り向く。
 そこから入ってきたのはやけに疲れた様子の設子と……

 「やっほー、しゅーくーん!!おっひさー」

 ブルーをベースにセンターが白いワンピース、そして頭にウサギの耳のような機械をつけたハイテンション女がものすごく盛大に手を振っている。

 「た、束ぇ!?」

 その人物こそISの開発者にして現在絶賛国際的に失踪中。そして、何故かバ課長と交流があり彼女の失踪事件の際にその繋がりで一時的にとはいえ俺がガードし、その時に妙に俺のことを気に入った女、『篠ノ乃束』。

 「そうでーっす、束さんでーす。しゅーくん、ご結婚おめでとー」
 「は?」

 は、結婚?なにそれ。

 「え?だってきょーくんがしゅーくんの嫁だーって言うから、私メンドクサイの我慢してこの子のISの設計してあげるんだよー」
 「バァ課長ぉぉおおお!!」

 束の発言を聞いた瞬間振り向きざまに裏拳を放つが、さっきまで俺の後ろに居た課長は既に大きく俺から距離をとっている。

 「なんだよー、事実だろー。折角のパパの好意を無碍にするなよー」
 「するなよー」

 課長の戯言に束が続く。そう、この二人ふざけている時のテンションというか、波長が非常に似通っている。だからこそ仲がいいのかもしれないが。

 「はぁ……で、話を戻しますけど、俺がIS学園に入るのに問題ないってどういうことなんですか?」
 「それは束さんが説明しよう!実はしゅーくんには私を護衛してた時に、こっそりISが動かせないかテストしてたのですよ」
 「は?」

 なんだそれ。

 「いやー、しゅーくん女の子っぽかったからもしかしたらISも起動するんじゃないかなーって。そしたら起動しちゃったんだよ。実はしゅーくんこそ史上初の男のIS操縦者だったのだ!」

 もしかしたら、他の男の娘でもIS起動するかもしれないねっ。と続ける束。ねっ、じゃねえよ……

 「まあそういうわけで、ISを動かせるかどうかの問題はなくなったわけだ。というわけで、シールド9はIS学園に入学する為に頑張って受験勉強をしてくれたまえ。あ、これ受験票ね」
 「はぁ……って、課長なんですかこれっ」
 「なにって、だから受験票」
 「そんなのわかっとるわ!」

 そんな事より、この受験票の名前欄!

 「どーして、受験者氏名が山田妙子になってるんだ!!」
 「ふっ、甘いなシールド9。少数を隠すには大衆の中。少数の中に少数を隠したところで逆に目立つだけだぞ」

 確かに、それはそうだが……

 「まあ、受験資格自体はどうにかねじ込む事は出来たが、入学できるかどうかはお前次第だ。というわけで三日後のテストに必ず合格するように。これは任務だからな」

 三日後って、まじかよ……






 結果報告。
 どうにかIS学園の入学試験には設子共々合格しました。筆記試験は散々だったが、試験官との模擬戦で試験官を倒したのがよかったらしい。まぁ、突っ込んできた相手の腕を取って合気の要領で思いっきり背中から地面へ叩きつけただけなのだが。
 あと、課長経由で聞いたのだが束がなにやらクール便で俺に送りつけているらしい。絶対碌な物じゃ無いだろう。




―あとがき
 やっちまったぜ!
 修史妙子主人公でこのSSは続きます。あ、ちなみに原作基準です。
 ちなみにこの妙子ちゃん、束さんに対しては何故か非常にぞんざいです。何故だ……
 なお、この妙子ちゃんは元々利怜が考えてたSSの案である、おとボクの聖應学院での警護任務を請け負っていた過去があります。いや、だからどうというわけじゃないけど。



[26504] 第二話「妙子様がみてる」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/04/02 03:12
 四月初頭。晴れてIS学園の生徒として潜入した俺たちは、おそらく何らかの力が加わったのだろう、織斑一夏と同じクラスとなった。
 そして最初のショートホームルーム。窓際最後列の席に座る俺からは最前列中央の席に座る織斑一夏が無茶苦茶緊張しているのが手に取るようにわかる。
 あぁ、その気持ちはわかるぞ。俺も事情は違うものの、女の中で男一人の環境。大丈夫だ、俺が見ているぞ織斑一夏。
 まぁ、ほぼ教室の端と端の席である俺の席順はガードをするには決して向いていないが、窓際というのはそれはそれでガードには好都合だ。
 また、奇しくも一夏の左隣の席は設子だ。
猫かぶりお嬢様モードの設子ならお前の心のオアシスにもなろう。じゃない、いざとなったら素早い対応も出来る。


 そんな感じで観察していたら、自己紹介の順番になって名乗る一夏。だが、その内容はただ名前を言うだけ。まぁ、気持ちはわかるが一夏もそれだけで済む空気じゃないと察したのだろう、何か言おうと視線を彷徨わせてから結局――

 「以上です」

 がたたっ。と、ずっこける女子多数。あー、こういうノリはテレジアの時はなかったな。と、的外れな事を思う。
 しかしそんな一夏の頭に黒いスーツを着た長身の女性が出席簿を叩きつける。

 「げえっ、関羽!?」
 「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 といって再度出席簿アタックを喰らわす女性。
 たしか彼女は織斑千冬。織斑一夏の姉にして束の幼馴染にして、IS国際大会モンド・グロッソの初代チャンピオン。
 まぁ、俺の彼女に対する知識の半分近くは束の惚気話?からの情報だが。
 それはそれとして、要するにIS界の英雄というべきかヒロインの登場に教室内が沸き立つ。
 うん。やっぱテレジアとは空気が違うな。もっとも、テレジアが特殊すぎたんだろうが。


 それからてんやわんやあって一時間目の授業。
 およそ半月強の電話帳のような参考書の詰め込み教育と、テレジアに主席入学した経歴を持つ設子とのマンツーマンの勉強のおかげでどうにか授業についていく。 苦労した甲斐はあったな。一夏は電話帳と間違えて捨てたらしいが。
 一時間目が終わって休み時間。
 俺はターゲットの織斑一夏……ではなくその隣の設子の席へと向かう。
 これは予め打ち合わせで決めていた事。
 設子曰く、複数のメンバーでターゲットに近づくにはまず窓口となる人間を作り、その人間を通して知り合いになるのが有効な方法の一つであるとのことらしい。
 その知識の情報源が一体何処からなのかはこの際目を瞑り、その作戦を元にまずは俺と設子が仲が良いというのを一夏に印象付けるべく、今は設子と行動を共にしているのだ。
 そして肝心の一夏といえば、動物園の珍獣のようにひたすら女子生徒に遠巻きに様子を伺われている状況に死にそうな顔をしている。

 「なんというか……凄い事になってますね」
 「えぇ、一夏さまの顔色も悪いようですし。心配です」

 憂いの表情で隣の一夏へ視線を向ける設子。流石設子、相変わらずの猫かぶりお嬢様モード、パネェ。
 と、心の中でサムズアップしたら睨まれた。
 閑話休題。
 これはさっさと一夏を気遣うということで話しかけた方が早いんじゃないかという結論に至って、いざ話しかけようとしたところにポニーテールの少女が一夏に話しかける。

 「……箒?」

 その少女の姿を見て、一夏がその少女に問いかける。
 箒……そうか、彼女が束の妹の篠ノ乃箒か。
 箒は周囲の目を気にして一夏を連れ立って廊下へと出て行く。
 結局二時間目のチャイムが鳴るまで一夏たちは戻ってこなかったので、次の時間に仕掛けることとなった。
 ちなみに、一夏はチャイムが鳴っても戻ってこなかったので千冬に再度殴られていた。


 そして二時間目の休み時間。
 今度こそはと一夏に語りかけようとした俺たちだが、再びそれは妨げられる。

 「ちょっと、よろしくて?」

 そう言って一夏に話しかけたのは豪奢な金髪を蓄えた外国人の少女。
 確か彼女の名前はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生。
 一応あらかじめ常にISを所持・展開できる各学年の代表候補生並びに専用機持ちについては、任務において脅威や不確定要素になる可能性を考慮して簡単なパーソナルデータは頭に入っている。

 「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 が、一夏は知らなかったらしい。まぁ、俺も資料をもらうまで知らなかったからしょうがないだろ。
 とはいえそんなのでまかり通るほど彼女のプライドは安くはなかったらしい。
 ついでに言うと一夏は代表候補生というものも知らなく(俺もそうだった)、セシリアの怒りに油を注いでいる。
 しかし、彼女は持ち前のプライドの高さ?でひとつ咳払いをすると、どうにか気を持ち直した。

 「わからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 へえ、それはすごい。あれ?でも俺たちも教官を倒したよな?視線を向ければ、設子も頷く。
 だが、そんな俺たちをよそに一夏も少し不思議そうな顔をしながら――

 「俺も倒したぞ、教官」
 「は……?」

 そんな一夏の発言に酷くショックを受けたのだろう、彼女の口からは気の抜けた言葉が漏れる。

 「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
 「女子ではってオチじゃないのか?」

 以外と情報伝達がずさんだな。と思うが、これはある意味話題に乗るチャンスだと考え、設子にもう一度アイコンタクトを送る。彼女も俺の意図に気がついたようで、再び頷く。
 そしてここぞとばかりに俺は口を開く。

 「あのー、その教官でしたら、あたしたちも倒したのですが」
 「なあ!?」
 「へー。すごいな」

 更に素っ頓狂な声を上げるセシリアに、単純に感心する一夏。すごい温度差だな。

 「あれ?でもそれじゃあ結局、女子でも教官を倒したのってセシリアだけじゃないんだな」

 ただでさえ精神的に揺さぶられている状態なのに、そんな追い討ちのセリフまでかけられてセシリアの瞳が若干虚ろになる。一夏、恐ろしい子!!

 「あの、わたくしたちはとある事情で試験を受けたのが三月の中頃でしたので、情報が入ってこなかったのでは」
 「いや、設子さん。それフォローになってません」
 「?」
 「ははは……」

 設子の天然発言に一夏は苦笑いをこぼす。

 「まあ、これから隣の席のよしみで仲良くしてくれ……えぇと」
 「真田設子です。一夏さま」
 「い、一夏さまぁ?!」
 「設子さんはそういう人なんですよ、一夏さん。あ、あたしは山田妙子です。山田先生と名字がかぶってしまっているので、妙子と呼び捨てで呼んでくださってかまいません」

 というか、男に山田なんて呼ばれるといけすかない野郎を一人思い出すから勘弁してほしい。いかん、なんか変なトラウマができてしまっている。

 「あぁ、よろしく。真田さん、妙子」

 その言葉がちょうど合図だったかのように三時間目のチャイムが鳴り響く。
 そしてやってきた三時間目。
 紆余曲折あって、クラス代表を決めるにあたって一夏とセシリアが決闘することになった。
 一夏はどうしてこうなった。と愚痴っていたが、俺は男としてお前を応援しているぞ、一夏。


 更に時は流れて放課後。
 俺はルームメイトの設子と一緒に寮の部屋で荷物の整理。ちなみに部屋は一夏の隣だ。
 本当に外部からの干渉は受けないのか?IS学園。

 「なんというか、えらい事になってたな。一夏」
 「そのことについてだが、織斑はセシリアとの決闘の為に居残りをして特訓をするとも言っていたな」

 俺たちだけということもあり、素の状態の設子が漏らす。

 「マジか……いや、そうなると逆に行動範囲が限定されるから都合がいいな」
 「そうだな。それでは予定通り明日は私が校舎内の確認にいかせてもらうぞ」
 「あぁ。わかった」

 見取り図だけではわからないIS学園内部を、俺と設子は交替で見てまわる事にしている。ちなみに、今日は俺で明日が設子だ。

 「さてと、荷物の整理も終わった事だし……」

 と言って部屋の中央に置かれた段ボール箱に目をやる。
 上面にはクール便を示すものと「生物」「天地無用」のシールが貼られている。なお、それぞれのシールの下に「じゃないよ」と手書きで書かれている。意味がわからない。
 そして、差出人の名前は「篠ノ乃束」。うん、やっぱり開けたくない。

 「いっそ、このまま捨ててしまおうか……」
 「修史」
 「……わかったよ。開ければいいんだろ」

 設子の視線に耐え切れず、腹を括ってダンボールの封を切る。

 「……………」

 あれだ、言葉も出ないとはこういうことをいうんだろうな。

 「これは……にんじん?」

 脇から覗き込んだ設子が中に入ってるものを言い当てる。
 そう、ニンジンだ。ニンジンが段ボール箱の中にごろんと一個入っている。勿論、普通のニンジンではなく段ボール箱のサイズいっぱいの特大サイズのメカニンジンだが。
 そして葉っぱの部分には「PULL」と書かれたタグが付いている。
 引っ張らなきゃダメなんだろうなぁ、これ。
 特大メカニンジンを箱から出し、葉っぱの部分を引っ張ると殊の外あっさり抜ける。
 葉っぱの部分が抜けるとそれがロックになっていたようで、ニンジンが縦に割れてその中に収められていたものが顔を出す。

 「手紙と、指輪?」

 そこに収められていたのは一枚の便箋と、これといった装飾も無い黒い光沢を放っている一つの指輪。
 俺は設子と共に便箋に眼をやる。

 『やっほー、しゅーくん。女の子パラダイスをいっくんと一緒にエンジョイしてるかなー?
 さてと、長々と書くのはメンドクサイからズバット言っちゃうよ。この手紙と一緒に入っていた指輪は束さん謹製の結婚指輪だよー……って、あぁ、勢い余って投げ捨てないでよ?しゅーくん。大切なしゅーくん専用のISなんだから』

 手紙を読みながら、無意識に指輪をゴミ箱に投げつけようとしていた手を慌てて止める。
 これがIS?そうか、待機状態というやつなのか。

 『ちなみに結婚指輪ってのも本当だよ?しっかりしゅーくんの薬指のサイズだからね』

 やっぱり投げつけてやろうか……

 『この前採ったしゅーくんのデータでフィッティングしてあるけど、必ず一度起動させて最新版に更新しといてね。本当は最後まで私が面倒見てあげたかったんだけど、束さんは束さんで忙しいので後はそっちでやってね。
 そうそう、肝心な事を書いてなかったね。しゅーくん専用のISの名前は「黒百こくびゃく」。しゅーくんの好みに合わせて防御特化仕様だよ。詳しいスペックデーターは黒百の中に入ってるから自分で見てね。
 それじゃあ、この手紙は読み終わった後に自動的に消滅する事は無いから、大事に取っておいてね。ばいばーい。

 P.S.
 しゅーくんは専用機持ちとして入学した事に変えていたから。束さん気っが利くー♪』

 「ふぅ……」

 手紙を読み終え俺は盛大にため息を付く。手紙の中でも疲れる奴め。

 「黒百、か……」

 天井の照明にかざしながら、黒い指輪を指先でもてあそぶ。
 展開した黒百がどんなものか気にならないと言えば嘘になるが、流石に最終調整を終えていないのをこんなところで起動するわけにはいかない。折を見てアリーナで動かしてみるか。

 「設子、一夏を誘ってそろそろ晩飯を食いに行かないか?」
 「そうだな。そうしようか」

 設子を連れ立って部屋を出ようとすると、隣の部屋から大きな物音が聞こえてくる。
 隣の部屋だとは言え、防音設備の整ったIS学園の寮内でこれだけの物音が立つということは、中では相当な大騒ぎだろう。

 「設子っ」
 「あぁ、修史は先に」

 短いやり取りをして、俺は一夏の部屋へと向かうべくドアを開ける。
 俺の眼に入ってきたのはドアに寄りかかる一夏と、その顔の真横でドアから生える木刀の切っ先と何事かと野次馬に集まってくる女子多数。

 「……箒、箒さん、部屋に入れてください。すぐに。まずいことになるので。というか謝るので。頼みます。頼む。この通り」

 ドアに向かって頭の上で合掌して、なりふりかまわずひたすら謝り通す一夏。
 どうやら、襲撃者というわけではなさそうだが……
 そして、長い長い沈黙。

 「入れ」

 いくばか経って、ドアから箒が顔を出す。
 その姿は雑に着込んだ胴着と、ポニーテールを下ろした濡れた髪。
 あぁなるほど、部屋備え付けのシャワールームから出てきた同室の彼女と出くわして、揉めたのか。
 事の推移を見届けた俺は、部屋に戻る。
 部屋の中では設子がいつでも突入できる格好でいたので、もう大丈夫だと言う事を告げる。

 「あー、突入する必要は無いぞ。ただの……青春だ」

 俺の言葉にに設子はよくわからないといった風に首をかしげる。
 結局一夏に気を使って声は掛けず、晩飯は俺と設子の二人だけで行ったのだった。




―あとがき
 一夏とのファーストコンタクトと、専用IS登場でござるの巻。
 展開の都合と、利怜のうっかりでイベントが多少前後する事がありますが、あしからず。
 そして遂に出しちゃったタエちゃん専用IS「黒百」。詳しい事については追々。
 次回は一夏の特訓と、黒百登場未定。(何



[26504] 第三話「妙子さんと大きな楯」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/03/21 16:09
 IS学園入学二日目。
 朝食を取るべく設子と食堂へ行くと一夏と篠ノ乃箒が朝食そろって朝食を取っている。これは好都合。

 「あの、一夏さん、箒さん。一緒に朝食いいですか?」
 「ん?おぉ、いいぜ」

 一夏の了承を得て同じテーブルに着くと、周囲から「出遅れた!」とか「まだ二日目だよ」といったざわめきの声が上がる。
 それに一夏は辟易……を通り越してぐったりしている。
 かつてテレジアで俺も似たようなことがありその気持ちはよくわかる身として、一夏に同情の視線を送る。

 「ん?俺の顔になんか付いてるか」
 「あ、いえ。なんだか疲れているようなので」
 「あぁ、こうも四六時中注目されてるとキツイ。いっそ妙子たちみたいに話しかけてくれた方が、いくらかマシだよ」
 
 といっても、一度に大勢で来られても困るけど、と嘆息する一夏。どうやら既に経験済みらしい。
 
 「ですけど、こういったことも時間がたてば落ち着くと思いますよ。妙子さまの時もそうでしたし」
 「妙子が?」
 「えぇ。前の学校でのことですけど、妙子さまは皆さんからとても慕われてたんですよ」
 「ちょっ、設子さん!?」

 いきなりナニ言い出すんだ!?

 「……そういえば、二人って最初から仲良かったみたいだけど、同じ中学なのか?」
 「同じクラスだったんですよ」

 いやまぁ、確かにセント・テレジアまえの学校の話だが……
 噛み合ってる様でちっとも噛み合ってない会話を余所に、同席しているはずの箒は一人で黙々と和膳を片付けて勢いよく席を立つ。

 「……織斑、私は先に行くぞ」

 どう見ても不機嫌ですというオーラ全開な箒に対して一方の一夏はというと。

 「ん?ああ。また後でな」
 「箒さま随分と急いで食べていたようですけど、どうしたのでしょう?」
 「さぁ……?」

 まるで気づいた様子が無い、だと……
 俺が一夏に驚愕していると食堂へ手を鳴らして織斑千冬が食堂に残っている生徒を急かすので慌てて残りを掻きこむ。グラウンド十週なんて冗談じゃない。


 休み時間となり、昨日までは遠巻きに一夏のことを窺っていた女子生徒たちが、今度は我先にと一夏に話しかけようとしてちょっとした人だかりが出来ている。

 「あら、あなたはいかないんですの?」
 「え?」

 突然掛けられた声に振り向くと、そこにはセシリア・オルコットがいた。
 その表情は向こうから話しかけたにもかかわらず、決して芳しくない。まそりゃあ、自分だけ試験管を倒したのだと思ったら他にも三人居るわ、そのうちの一人が俺だからなんだろうけど。だがそれでもコミュニケーションをとろうとしてるのは、俺が(見た目は)女だからだと思うとテンションがだだ下がりになる。

 「あまり大勢で詰め寄ってもホラ、一夏さん大変でしょうし。でも、以外ですね」
 「なにがですか?」
 「てっきり一夏さん同様試験官を倒したあたしたちにはあまり良い感情を持っていないんじゃないかと」
 「……昨日はわたくしも少々ヒートアップしすぎましたわ」

 頬を赤らめて小さな声で呟くセシリア。一晩経って、クラス代表を決める為の騒ぎで一夏を含めて日本諸共散々に扱き下ろしてたことについては、それなりに恥じているらしい。
 セシリアに対して悪い子じゃないんだな。と感心したものの、次の休み時間に一夏の専用ISの件について嬉々として噛み付きに行ったところを見ると、単純に男である一夏のことを舐めているだけなのかもしれない。
 そして、一種の男性嫌いのセシリアにまでしっかり女扱いされている自分が、とても悲しくなった。
 だが悲観にくれている俺の耳に、ドスン。という音が入ってくる。
 これは、人の倒れる音だ。その音源を探して教室内に目を向けると、一夏が床に仰向けに倒れていた。
 何事かと思い席を立って、一夏たちのすぐそばの席の設子に事情を聞けば、箒の腕をとって食堂まで連れていこうとした一夏を投げ飛ばしたらしい。
 肝心の一夏に目を向けると、箒の腕を再びとって引っ張っていく。当然のように抵抗する箒。

 「黙ってついてこい」

 一夏がピシャリと言いつけた捉え様によっては命令をするような口調に、箒は顔を俯けてされるがままに付いていく。その顔はほんのり赤い。
 やだ、一夏マジ男前。


 ***


 ……はい、現状を5W1Hで確認。
 Who……篠ノ乃箒と織斑一夏が
 Why……セシリア・オルコットとの模擬戦のために
 Where……IS学園の剣道場で
 What……ISの特訓と称して
 How……ひたすら剣道の修練をして
 When……もう六日目。

 「あの、試合はもう明日なんですけどISの訓練はしないんですか?」
 「……はっ!!」

 俺の問いかけに、竹刀での素振りをしていた一夏が今の今まで失念してたといわんばかりに、息を呑む。
 おいおい、忘れてるなよ……

 「そうだよ箒、俺お前にISの事について教えてくれって言ったのに、何でずっと竹刀振ってるんだよ!」
 「………」

 一夏に詰め寄られた箒は「余計な事を言ってくれるな」と言わんばかりに俺のほうを見てくる。いや、単に詰め寄ってくる一夏から視線を逸らしてるだけなのかもしれないが。

 「どうすんだよ、セシリアとの勝負もう明日じゃねぇか……」
 「し、しかたないだろう、お前のISもないんだからな」

 そう、試合前日になっても一夏のISは未だに届いていない。こうなると、試合そのものにISが届くのかも怪しい。

 「いや、そこは知識とか、基本的なことを――!」
 「で、一夏さんはあの電話帳は何処まで読んだんですか?」
 「………あー」
 「目 を そ ら す な !」

 なんだよ、この二人どっこいどっこいじゃねぇかよ。

 「はぁ……じゃああたし、用事あるから。ガンバレ、一夏さん」
 「あ、妙子!?」

 すがるような一夏の声を無視して、俺は剣道場からアリーナへ向かい設子と合流する。
 一夏の特訓に付き合ってたり、単純にISについての勉強を設子に見てもらってたりしてすっかり黒百の最終調整をするのを忘れてた。
 いい加減起動させたほうがいいだろうと言う事で、貰ってから一週間ほどしてからの初起動。

 「でも、どうせなら設子と一緒にIS使って連携の確認をしたかったんだけどなあ」
 「仕方ないですわ。この時期の一年生はまだISに触るのも禁じられていますし」

 そう、どんなおためごかしをしたところで現代におけるISの有り様は兵器そのもの。
 たとえ予めISの勉強をしていた生徒であろうと、一年生へのISの貸し出しは実際にISを使っての授業が始まる四月中旬まで禁止されている。もっとも、あくまで禁止されているのはIS学園が用意した訓練機であって、専用機持などはその場限りではないのだが。

 「だよなぁ。まあしょうがないか……それじゃあ――」

 心を一度落ち着かせ、右手薬指に嵌められた(流石に左薬指に嵌める勇気はなかった)黒の指輪を体の前に突き出す。
 待機状態のISは脳波やらなんやら、細かい理屈は忘れたが集中し、念じる事で展開する。

 (出ろ、黒百――)

 俺の意志に呼応するように量子化された黒百が、光の粒子となって俺の身体を包み込む。
 それは一秒にも満たないわずかな時間。しかし、光の粒子が収まった時にはソレはもう俺の体の一部となっていた。

 そいつを一言で表すなら、その名が示すように黒。
 エネルギーシールドと絶対防御という保護機構があるISにとって、ボディアーマーなどの必要性は薄れて久しく、あったとしても年々高速化していくISの機動性を確保する為に最小限だ。
 しかしこの黒百には胸部全体を覆う黒い装甲板がある。いや、ボディアーマーだけではない。黒百には重量軽減のためオミットされた各種装甲があり、更に重量を増したことによって低下した機動性を補うかのようにいくつものバーニアが取り付けられている。
 また、両肩の後ろにはバーニア兼スラスターの非固定浮遊部位が浮いている。通常肩部のアンロックユニットは肩の横側にあるものだから、珍しいと言えば珍しいつくりである。
 それに加え下半身は第二世代IS「打鉄」のような大型のサイドスカートアーマーが特徴であり、スペックデータによれば、このスカートアーマーも内側にバーニアこそ付いているものの、本来の使用用途で言えば楯らしい。
 全体のシルエットはISとしては珍しく直線的で重厚。だが、その一方左腕は肘下からにアーマーパーツはあるものの、酷く貧相だ。

 「これが黒百……」

 一応入学試験の時にISを動かしたとはいえ、パーソナライズされた専用機からもたらされる感覚はまるで違う。
 言葉にするのはむずかしいが、試験の時はあくまでも『装着している』という感覚が常にあったのだが、この黒百はまるで俺の体の一部かのように馴染むし違和感というものが無い。
 一歩進めば全身装甲さながらの重装甲ではあるが、束の手紙にあったように防御特化と言うのは伊達では無いらしい。

 「とりあえず、露出が少ないのは助かった……」

 胸はボディアーマーで、股間は腰のフロントアーマーとスカート状のアンロックユニットで隠れている。
 黒百のスペックデータを確認していると、青いワンピースにウサミミをつけたデフォルメ化された女の子――十中八九、束が目の前に開かれていたウィンドウを押しやり、映像データが展開される。

 「ん?なんだこれ」
 「どうかなされたんですか?妙子さま」
 「いや、これ……」

 問いかける設子に腰を落として視線の高さを合わせると、目の前で流れる映像データを投射する。

 『はろはろ、しゅーくん。なぜなに束さんの時間だよー』

 いや、時間だよー言われても。
 ちなみに、さっきから再生を止めようとしているがその辺りの操作が一切きかない。いっそのことISを待機状態にしようとするがこれにまでロックが掛けられている。

 『しゅーくんのために黒百の性能解説をするよー。まず、手紙にも書いたけどこの黒百は防御特化タイプ。要所の装甲を傾斜装甲にすることで実弾への防御性能はダンチ!ダンテじゃないよ!!』

 どうでもいい。

 『まあ、装甲いっぱいだからその分機動力落ちてるけど、ブースターで加速度は確保されてるよ。そしてそして、黒百の最大の特徴にして専用装備――じゃーん!!』

 そういってデフォルメ束が取り出したのは、巨大な楯。どのくらい巨大化というと、束の身長を越すくらい。まぁ、デフォルメ画での話だが。

 『黒百専用複合防御循「天石てんせき」!』

 束が言うのに呼応して、新たなウィンドウが開き天石のスペックが表示される。

 『この天石は私のお手製だから、ちゃんと防御すれば第三世代兵器ぐらい・・・・・・・・・ならよゆーで防いじゃうよん』

 おいおい、第三世代兵器ぐらいはって、やりすぎだろ束。

 『それじゃあ、最新データへの更新とフィッティングが終わったから、天石が展開できるよ。なお、このメッセージデータは天石の展開と共に自動で破棄されないから、大事にとっておいてね』

 そう締めて映像データが自動的に閉じる。
 いや、手紙の時もそうだが自動で消えないならその締めやめろよ。と思っていると目の前に新たなウィンドウが展開される。

 『「天石」展開準備完了。展開しますか?
  YES/NO』

 俺は立ち上がり、設子を一歩下がらせてからYESを選択。すると左腕が光の粒子に包まれ、形を成していく。

 「まあ、本当に大きな楯ですね」
 「あぁ」

 設子が言うように、光が収まると左腕にはISを装着状態でもなお身の丈以上のサイズの、巨大すぎる黒い楯が現われる。
 そのあまりにも大きすぎる楯を保持する為に、左腕は肘から下が完全に天石が覆う形になっている。左腕が貧相だったのは、あくまで天石を保持させる為……いや、正確に言うならば天石そのものが左腕パーツと言う事なのだろう。

 「肩のアンロックユニットが後ろに付いてるのも、干渉を避けるためか」
 「でしょうね」

 巨大すぎる楯はヘタに動かせば他のパーツに当たってしまいそうだったが、黒百自体があまりゴテゴテしていないのと、アンロックユニットが元から干渉を避けるようにプログラムされているのか、うまいように避ける。

 「これは、慣れるまでに時間がかかりそうだな……」
 「見ているくらいしか出来ませんが、わたくしならいくらでもお付き合いしますよ。妙子さま」
 「ありがとう、それで十分だ」

 こうして俺は日曜の午後いっぱいを使って、俺は新しく手に入れたISを使いこなせるように専念した。


 そして、一夜明けて遂に一夏とセシリアの決闘の日が来た――。



 ―あとがき
 黒百のデザインを考えるのにグーグルの画像検索で“白式”と言うキーワードでの画像を検索すると、白い百式ばっか出てくるorz
 
 一話一束さん。きっと総発言文字数で言えば、妙子をのぞけば全メンバー中で一番かも。いや、もしかしたら妙ちゃんすら……

 黒百専用装備「天石」のお披露目。この天石、語源は日本神話に登場するフツノヌシが修理したという説話がある「天石楯(あめのいわたて)」から。
 本当は「アイギス」って名前にしようかと思ってたけど、束さんブランドということで和名に変更。そんな裏話。
 細かな性能?もちろん引っ張りますとも。

 また、原作読み直してたらISが待機状態になるのはフィッティングしてからじゃないとという文を発見したので、二話を修正しました。三話はそれを基準にしてるので、若干言い回し等が変化しています。



[26504] 第四話「男ゴコロ、男の娘。」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/03/22 16:13
 ISアリーナのピットに俺と一夏、設子に箒のここ一週間の一夏の特訓に顔を出してた事によって出来たグループが集まる。

 「一夏さま、妙子さまから特訓の方は芳しく無いと伺ったのですが、大丈夫ですか?」
 「……大丈夫じゃない。問題だ」
 「ネタで返す余裕があるなら、そこは嘘でも大丈夫だって言いましょうよ!」

 大変だ、一夏が錯乱している。

 「妙子、俺この試合が終わったら、クラス代表になるんだ……」
 「何でわざわざフラグを立てるんですか!?」

 というか、何で俺に言う……
 あぁそうか、ちゃんとネタをネタとして理解して突っ込むからか。

 「いい加減落ち着け、馬鹿者」
 「あだぁっ!!」

 いい感じに脳にきていた一夏の脳天を、山田先生を引き連れた千冬が引っ叩く。

 「千冬姉」

 と、うっかり下の名前で呼ぶからもう一度引っ叩かれる一夏。

 「織斑先生と呼べ、学習しろ。さもなくば死ね」
 「あの、先生方はどうしてこちらへ?」

 この勝負の見届け人兼、監督責任者としてモニタールームの方に居るはずの二人がどうして?と言う意味で、設子がおずおずと尋ねる。

 「あ、そうでしたっ。織斑くん、来ました!織斑くんの専用ISが!!」
 「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」
 「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えて見せろ、一夏」
 「え?え?なん……」
 「一夏さま、落ち着いてください」
 「ありがとう設子さん。俺を気遣ってくれるのは真田さんだけだ」
 
 混乱してるところに優しい言葉を掛けられ、設子の手をとって感動する一夏。
ちなみに、一夏はここ一週間で相変わらずさん付けだが、設子を下の名前で呼ぶようになった。

 「「さっさといけ!!」」

 もっとも、千冬と箒の二人にはその行動がお気に召さなかったようで、二人に頭を引っ叩かれる。
 そして開かれるピット搬入口の扉。
 そこに鎮座していたのは圧倒的な『白』。

 「これが……」
 「はい!織斑くんの専用IS『白式』です!」
 「体を動かせ。すぐに装着しろ。時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。できなければ負けるだけだ。わかったな」

 捲くし立てるように言う千冬に促されて、一夏は白式を装着する。

 「ISのハイパーセンサーは問題なく動いてるな。一夏、気分は悪くないか?」
 「大丈夫、千冬姉。いける」
 「そうか」

 白式を纏った今の一夏には、ハイパーセンサー越しに全周囲の情報が入ってきている。昨日黒百を使った俺はソレを知っているので、背を向けた一夏にかまわず声を掛ける。

 「一夏さん、行ってらっしゃい」
 「あぁ、行ってくる」

 ついでに、俺の横で何か言いたげな箒の肩を叩いて、彼女の後押しをしてやる。

 「………勝って来い。一夏」
 「おう、勝って来るぜ」

 そういってISを操り、一夏はピットから飛び立つ。
 よし一夏、セシリアにしっかりと見せつけてやれ。男の意地ってやつを。


 一夏が飛び立って千冬と山田先生に連れられて、俺たちはアリーナのモニタールームで一夏とセシリアの試合を観戦している。
 セシリアの大型のレーザーライフルの砲撃を受け左ショルダーアーマーが弾け飛ぶ。
 その砲撃を文字通り引き金にして、セシリアのレーザー砲による連続砲撃。
 圧倒的にIS操作経験の少ない一夏にそれは凌ぎ切れるものではなく、初弾のように直撃こそ避けるが、それも辛うじて。というだけだ。
 一夏も応戦するために武器を展開するが、出てきたのは実体剣一本のみ。
 流石にそれだけじゃないだろうと事の推移を見守るが、二十分以上も剣一本で果敢を通り越して無茶、無謀な突撃を繰り返しているのを見ると、本当に白式に搭載されているのはあれだけのようだ。

 「二十七分。このブルー・ティアーズを相手に初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわね」

 オープンチャンネルの会話はモニタールームにも入ってきて、セシリアの勝ち誇った台詞が俺たちにも聞こえてくる。
 ブルー・ティアーズの肩部アンロックユニットに搭載された機動砲台『ブルー・ティアーズ』による全周囲砲撃によって、一夏のシールドエネルギーも残り僅か。
 後の無い一夏。セシリアは二機のブルー・ティアーズによる多角砲撃に加え、既に装甲を失っている左足に向けて一夏が体勢を崩すタイミングにあわせてレーザーライフルで狙う。
 が、一夏もそこに当たれば即敗北と理解しているようで、気合と共に無理な体勢ながら急加速でブルー・ティアーズの砲撃をかいくぐり、セシリアに体ごとぶつかる。
 その衝撃で砲口がそれて一命を取り留める。

 「無茶苦茶しますわね。けれど、無駄な足掻きっ!」

 セシリアが距離をとってから待機していたもう二機に指示を送るが、一夏は今度は的確にブルー・ティアーズの砲撃をかいくぐり遂に一機を一刀に伏せる。

 「なんですって!?」

 思いもよらない反撃に驚愕しているセシリアに、一夏は大上段から一気に攻め込む。
 とはいえ黙って距離を詰めさせるセシリアでもなく、下がりながらブルー・ティアーズへ新に指示を下す。

 「この兵器はお前が命令を送らないと動かない!しかも――」

 だがセシリアのその動作は織り込み済みと言わんばかりに、再び危なげなくレーザーを回避して更に一機破壊する。

 「その時、お前はそれ以外の攻撃をできない。制御に意識を集中させてるからだ。そうだろ?」

 言葉尻こそは問いかけだったがその自信に満ちた口調と表情は、既に確信しているに違いない。

 気づいたのか。

 と言うのが正直な感想である。
 いくら剣道を収めていたとはいえ、初めての実戦とISの起動が二回目という圧倒的な経験不足、それに三次元方向からの砲撃によるプレッシャー。
 セシリアだって、そんなあからさまで致命的な弱点を悟らせないように戦術を組んでいたはずだ。なのに一夏は気がついた。

 「すごいですねぇ。織斑くん」

 山田先生が感嘆の声を上げる一方で、千冬の表情は忌々しげに歪んでいる。

 「あの馬鹿者。浮かれているな」
 「え?どうしてわかるんですか?」
 「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう。あれは、あいつの昔からのクセだ。あれが出るときは、大抵簡単なミスをする」

 言われて見れば、確かに一夏の左手は忙しなく動いている。

 「へぇぇぇぇ……。さすがご姉弟ですねー。そんな細かいことまでわかるなんて」
 「ま、まあ、なんだ。あれでも一応私の弟だからな……」

 山田先生に言われてハッとする千冬。なんだかんだで弟に甘いんだろうなこの人。すっかり照れている。

 「あー、照れてるんですかー?照れてるんですねー?」

 俺と同じように思ったのかここぞとばかりにからかう山田先生に、千冬のヘッドロックが炸裂する。

 「いたたたたたっっ!」
 「私はからかわれるのが嫌いだ」
 「はっ、はいっ!わかりましたっ!わかりましたから、離し――あうううっ!」

 ……うん。思ってても言わなくてよかった。


 ざわめいているモニタールームを余所に、試合は大きく動く。
 残り二機のブルー・ティアーズを屠り、一気に詰め寄る一夏。
 タイミング的には、セシリアがライフルの照準を合わせるのも間に合わないだろう。
 だがおかしい――代表候補生というエリートである彼女がいくら虚を突かれたとはいえ、ブルー・ティアーズ二機を落とされる間に回避行動の一つもとっていないというのは、果たしてありえるのだろうか?
 モニター越しに見る彼女。その口元には――笑み?
 その表情に、一夏は何か感じたのだろう。慌てて制動を掛けるが、それよりも早く彼女のサイドスカートアーマーが動き出し、一夏の方を向く。

 「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」

 セシリアの叫びと共に、ブルー・ティアーズの砲口からミサイルが発射された。

 「一夏っ……!」

 爆煙に消える一夏を見て、箒が悲鳴にも似た声をあげる。
 騒いでいた千冬と山田先生も同時にモニターを注視する。もちろん、俺と設子もだ。

 「――ふん。機体に救われたな、馬鹿者め」

 モニターいっぱいに広がっていた黒煙が晴れると、言葉に安堵の色を混ぜながら千冬がそう悪態をつく。
 まだわずかに残っていた煙を、まるで引き裂くかのように掃うのは、戦闘開始時から続いていたフォーマットとフィッティングが遂に完了し、一夏のためだけに再誕した『白』。
 機械的だったその装甲はより鋭角なフォルムとなり、手に持っていた剣はショートソードのような形状から大きく反りの入った太刀に近い形となっている。
 
 「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 自身の変貌を確認し終えた一夏が呟く。

 「俺も、俺の家族を守る」

 どこか遠いところを見ているような目をしていた一夏だったが、今度はセシリアを――自分が倒す敵を真っ直ぐ見据える。
 今まで以上に腹を決め、自らの進むべきところだけを真っ直ぐ見る一夏の表情。
 以前、世間話の最中一夏に聞いたことがある。ISちからを手に入れたら何をしたいのかと。
 それに一夏は少し考えてから、笑いながら答えた。「何かを守りたい」と。

 「とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ!」

 誰にでもなく、自分に言い聞かせるように言う一夏。大事なものを守るためになら、いくらでも頑張れる。

 「一夏……」

 俺にはその気持ちがよくわかり、モニターを見るのにも自然と熱が入る。

 「………」

 ふと視線を感じそちらを向くと、箒が驚いたような、少し困ったような、それでいてムッとした表情で俺を見ている。

 「??」

 そんな目で見られる心当たりなんかまったく無く、助けを求めるように設子を見るが、あからさまに表情にこそ出さないが、何か面白がっているような雰囲気を放っている。
 結局よくわからないのでモニターに意識を戻すと、一夏の独白に痺れを切らせたセシリアが仕掛ける。
 だが、初期設定の状態でもブルー・ティアーズの砲撃を避けきった一夏にとって、一次移行を終え一夏専用に調整チューニング)され研ぎ澄まチューンアップされた白式を駆る一夏は、それまでよりも素早く移動するブルー・ティアーズ二機をすれ違いざまに斬り捨て、続けざまに先ほどよりも圧倒的に早く安定した加速でセシリアへ肉薄する。
 脇構えの刀身が変形すると、エネルギーが集まり変形した刀身を鍔や鎬にしてエネルギーによる刀身を形成する。

 「おおおおっ!」

 気合一閃。振りぬいた斬撃がセシリアを捉える直前に、決着を告げるブザーが鳴り響いた。

 『試合終了。勝者――セシリア・オルコット』

 というアナウンスが流れて、場所を問わずこの試合を見ていた人間が状況を把握しきれずに一様にぽかんとしている。
 だが、俺も同様に呆然とはしているがそれよりも、一夏の持つエネルギーブレードに視線が、意識が持っていかれる

 「零落白夜……?」

 零落白夜――ISの持つシールドエネルギーを攻撃力に転化させるワンオフアビリティ。
 かつて、織斑千冬の乗機『暮桜』の持っていた能力であり、第一回モンド・グロッソにおいて彼女が優勝するのを担った超攻撃特化能力。

 「ほう、よく気がついたな」
 「え、えぇ」

 俺の呟きを耳聡く聞いた千冬の珍しく感心した声に、俺は上の空で答える。
 零落白夜に気づいた?そんなわけ無い。ついこないだまでISになんら縁のなかった俺が、数年前の大会のことなんて知るわけが無い。
 
(黒百……?)

 ただ、黒百が己の存在感をアピールしている。そんな気がした。




 -あとがき
 はっ、一話一束さんが遂に途絶えた!――もとい、クラス代表決定戦。
 なんで妙ちゃんは零落白夜に気がついたんだろうね。ふっしぎー(棒読み)
 とりあえず、嫁ーズが集合するまでは、巻き気分で。べつにちょろい人とかツンデレ拗らせて自分からわざわざフラグ折にいってる人たちをディスってるわけじゃないんだからねッ――以上、ツンデレサービスでした。



[26504] 第五話「織斑一夏クラス代表就任記念パーティー」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/03/30 17:05
 「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 一夏とセシリアの決闘の次の日。朝のSHRで嬉しそうに喋る山田先生に、ヒートアップするクラスメイト一同。
 突然告げられたクラス代表の決定に、混乱の極みに達する一夏。
 俺と設子も知っている。昨日の晩のうちに、クラスの女子一同にメールによって告げられている。女子ネットワークすげぇな。

 「先生、質問です。」
 「はい、織斑くん」
 「俺は昨日試合に負けたんですが、なんでクラス代表になってるんでしょうか?」
 「それは――」
 「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 一夏の質問に答えようとする山田先生の言葉を遮って、セシリアが立ち上がり腰に手を当てた得意のポーズで高らかに言う。
 なんというか辞退と言う言葉を、こんな胸を張って言う人間はじめて見た。
 そんなくだらない事を考えながら結局クラス女子の満場一致と、千冬に出席簿で叩かれるという予定調和の末、朝のSHRは終わり、一時間目が始まるまでの時間に一夏の席へ向かう。

 「クラス代表おめでとうございます。一夏さん」
 「妙子か……」
 「えらくテンションが低いですね」
 「考えてみたら、俺別にクラス代表になりたかったわけじゃないんだよなぁ。って」
 「ただの売り言葉に買い言葉でしたからね」

 忘れてたんかい。というか、勝ってたらどうするつもりだったんだろうか。

 「あ、それと」
 「ん?」
 「フラグ回収おめでとうございます」
 「??」

 俺の言葉に首をかしげる一夏。

 「ほら、試合が始まる前にあたしに言ったじゃないですか。試合が終わったら、クラス代表になるって」
 「……そ、それのせいかぁぁぁ」

 完全に思い出したのだろう、肺の息全てを出し切るようにして盛大に頭を抱える。
 いやまぁ、本当にあんな一言が原因なワケは無いはずなのだが、それで一夏の精神的逃げ場が出来るのなら……まぁ、放っておこう。



 一夏がクラス代表となってからしばらく経った。
 最初の一週間こそ一夏VSセシリアだなんていう特級イベントが、後はいたって平常運転だった……もっとも、一夏の(女)周りを除けばの話であるが。
 具体例を示すのは、一夏の尊厳と乙女の純情に考慮して伏せておく事にする。
 まあ、ほっといても後から湯水のようにネタは湧いてくるだろう。少なくとも、そう判断できるくらいにはアイツのフラグ建築士っぷりは目にしてきた。
 で、そんな感じの内容で定時報告したら、

 「はぁ?シールド9は報告一つもロクに出来ないんですか?そんなトンチキな事を言ってないでしっかり報告してください」

 滅茶苦茶怒られた。これが所用で不在だった課長の代わりに報告を受けたりおの、第一声だ。
 いや、りおはわかってない。あの特一種一級フラグ建築士の底力を知らないから言えるんだ。ちなみに特一種は朴念仁の事を指す。

 「妙子さま、そろそろお時間ですよ」
 「もうそんな時間ですか?」

 設子に言われて時間を確認する。
 この後一夏のクラス代表就任記念パーティーを、食堂を借りて行う事になっている。

 「ちょっと待ってください、報告はまだ終わってません!」

 確かに指定された集合時間まではまだ三十分近く時間があるな。

 「ですけど、早く行くに越した事はありませんわ。準備のお手伝いもありますし」

 そう言って設子は、俺の腕を引っ張って部屋を出て行こうとする。

 「ちょ、人の話を……聞いてるんですか!?修史!!」
 「まったく、貴様はいつもうるさいな」
 「なっ、だいたいあなたはっ――」
 「ああもう!二人ともストップ!止まれって!!」

 喧嘩を始める二人を、設子の手を振り切って慌てて止めに入る。
 設子とりおのこの二人、非常に仲が悪い。
 りおの生い立ちを考えると設子に対して心中割り切れないものがあるのかもしれないが、設子は設子で俺以外の相手に対してああいった感情的な態度をとるのもまた珍しい。
 テレジアに居た頃有里に相談したところ、

 「そりゃあ、あんたと仲良く話してるのにヤキモチ妬いてるんでしょ」
 「ヤキモチって……まあ、仮にそうだとしてもなんでりおだけなんだ?」

 女心にはとんと縁がない俺だが、女子の中に男一人だけ。というシチュエーションが嫉妬心を煽るモノだというのはなんとなく見当が付かない事も無い。
 だけどそれがテレジアの生徒――特に撫子会のメンバーならともかく、なぜ滅多に会う事の無いりおだけが相手なのか。

 「あー、そうねぇ。多分あの子がアイギスの子だからじゃないの?」
 「ん?どういう意味だ」
 「いくら雪乃さまや蓮さん、鞠奈さんに正体がばれたとはいえ、結局はあの子達と私たちは住む世界が違うわ。本来なら、会おうと思って会える人たちじゃないのよ」

 それは、確かに。テレジアに通うような家柄の人間なら私的に会おうとしても容易では無いだろうし、そもそもそんな機会も無いだろう。

 「それはわかったけど、それなら有里は?」
 「それはわたしも修史に気があると見られて……るなんてあんたは考え付いて無いわよねぇ……」
 「ん?なんか言ったか?」

 有里がなにかぶつぶつ言っているが、声が小さすぎて聞き取れなかったので聞き返す。

 「なんでもないわ。それにわたしもほら、なんだかんだ言っても別の組織の人間だから。この仕事が終わればあんたとも会う事は無いでしょ。だけどあのりおって子はこの仕事が終わっても唯一関係がなくならない女の子なのよ、警戒の一つや二つするはずよね」
 「ほー……」
 「あんたわかってないで頷いてるでしょ」
 「いや、いくら俺でもそこまで鈍感じゃねーよ」

 と言う事らしい。もっとも有里に言わせれば、だいぶすっ飛んだ恋愛観らしいが。

 「とりあえずりお、報告は後でまとめて出しておくから。それじゃあ」
 「……行くぞ修史」
 「設子、猫、猫被りなおせ!」

 通信機を切り、一人で歩き出す設子に並ぶ。
 うーむ、どうやってフォローしたものか……


 「というわけでっ!織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
 「おめでと~!」

 乱射されるクラッカーと三十人を超す女子達の洗礼を受ける一夏。
 クラスメイトとの唱和と共に、食堂で行われる織斑一夏クラス代表就任記念パーティーが始まる。
 いやなんで三十人以上いるんだよ、絶対余所のクラスの奴が混じってるな。

 「……………はぁ」

 周囲の女子が各々盛り上がってる横で、当の一夏は深いため息をついている。

 「随分深いため息ですね」
 「ん?あぁ、妙子か」
 「ポテト、いかがです?」
 「ああ、貰うよ」

 振り返る一夏に手に持っていたフライドポテトが山盛りの皿を差し出すと、一夏と一緒にパクつく。

 「それでクラス代表、気に入らないんですか?」
 「気に入らない……というのはちょっと違うんだよな。まあ元々やりたいかやりたくなかったかと言えば、やりたくはなかったけど」
 「本気でやりあって負けたのに、結果(クラス代表)だけは自分の方に転んだのが納得いかない?」
 「あぁ、そんな感じだな」

 ポテト8:会話2な感じで、盛り上がってる女子の一団をぼんやり眺めていると、目の前に女子生徒が勢いよく現われる。

 「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~!」

 オーと盛り上がる女子一同。食堂にいる全員の注目をいまや集めている一夏。
 気づいたらそわそわした様子のセシリアや、ぶすっとした顔でお茶を飲んでいる箒が一夏の近くに陣取っている。

 「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 それからハイテンションのまま一夏へのインタビュー(捏造10割)をしてから、対戦相手のセシリアにもインタビューをし流れるように写真撮影となる。
 というか、あんなやりかたでは写真を撮るだけでいいんじゃないか?と思う。

 「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」
 「74.375です」
 「………」

 無言だ!さっきまであんなにテンション高かった彼女が、一夏たちの写真に入り込むのに俺の横に陣取った設子がすかさず答えたもんだから、無言でシャッター切った!
 というか、設子はまだ機嫌悪かったのか!!

 「なんで全員入ってるんだ?」

 一夏とセシリアの写真を撮る事になった瞬間、女子全員のアイコンタクトによってです。
 俺?テレジアで鍛えられてます……うぅっ(涙)
 こうして一夏のクラス代表就任記念パーティーは、十時近くまで盛り上がって幕を閉じた。



 「なあ設子、いい加減機嫌直してくれよ」
 「なんのことだ、私は別に腹を立ててなんかいない」

 パーティーが終わって自室に戻り、二人でベットに並んで腰を掛けていたのだが設子は体育座りになって体ごとそっぽを向いてしまう。
 設子はへこんだりいじけたりすると体育座りになるから、ある意味ものすごくわかりやすいんだけどな。
 うーむしかし、りおとの事はわりと毎度の事なのでそこまで尾を引く事も無い。今回も精々一晩すれば収まると思うのだが、かといってりおと顔を合わす度にこうなるのを何時までも放っておくわけにもいくまい。

 「設子……」
 「私だってわかっている……仕事には影響を出させないし、あいつと会うのは仕方ない事だし、私だって次からは気をつける……」
 「そうじゃない。そうじゃないよ、設子」

 そういってさらに身を縮こまらせる設子の身体を、後ろから抱きしめる。

 「なにも全部設子が悪いなんて言わないし、言えない。お前を不安がらせるような事をしていた俺だって悪いんだ」
 「そ、それこそ私が勝手にしてるだけだろっ」
 「いいや。忘れるな、俺はお前の恋人だろ?だからさ、もっと我侭になってくれてもいいんだよ」

 素の設子は態度や喋り方こそ強気で苛烈なイメージがあるが、その実はとてもやさしく、甘えん坊で素で天然だったりして、そして非常に寂しがり屋だ。
 そりゃあ、時に俺は設子の事を怒らせたりヤキモチを妬かせてしまう事もあり、また時には設子も甘えたりお願いをしてくることもあるが、設子が我侭を言う事は無い。いや、あったとしても少なくとも俺は気付いていない。
 設子にだって俺に対して要求だってあるはずだ。りおに突っかかるのもその証拠だろう。
 だけど、設子はその事にも自分が悪いと言った。
 うん。やっぱそれじゃあダメだ。正直ヤキモチを妬かれるのは意外と悪く無い気分だ。だってそれだけ俺のことを大事に思ってくれているのだから。でも、それを自分のせいだなんて男として相手に言わせちゃ駄目だ。

 「修史」
 「なんだ?」

 肩越しに振り振り返る設子の顔は、今にでも泣き出してしまいそうな、弱りきった表情。

 「じゃあ、もっとぎゅってしてくれ」
 「……あぁ」

 それは我侭じゃなくて単なるおねだりなんだが、俺は何も言わずによりいっそう強く抱きしめて、首を伸ばして設子の唇にキスをする……





 ―あとがき
 え、途中で終わってるんじゃないかって?んなこといったって、最後まで書いたら板移さなきゃならないじゃないか。(何
 そんなわけでサブタイ無視して、まさかのアダルトタイム。馬鹿め、それ(サブタイ)は影武者だ。
 今回は恋楯よりのお話になりました。
 イチャイチャし始めてから、一文書く毎に部屋の中をうろついて悶えてたら話が進まない進まない。
 そして変な恋愛観もたせちゃったりしたけど、軽く修史依存症の設子さん可愛いよ、設子さん。特にSD文庫版とか。あと設子さんの天然は素、というのをどっかで見たことがあったのでそれ基準。
 修史君の方は修史君の方で、一年近くバカップルやってるのでそれなりに彼氏レベル高め。でも一年近くりおとの事を放置してる辺り鈍感クンなのは相変わらず。

 さぁて、次からはIS話に戻してツンデレ拗らせて自分からフラグ折ってる人の登場だよ!



[26504] 第六話「逆転妙子 ~交じり合わない逆転~」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/04/07 03:28
 朝、設子と共に教室に入るとなにやら教室の中が騒がしい。

 「なにか、あったんですか?」
 
 何事かと思い、相変わらず女子が集まっている一夏の席に近づく。

 「あぁなんでも転、こぉお!?」

 振り向いて俺の顔を見た一夏の語尾が、面白いくらい跳ね上がる。

 「なんですか、人の顔を見るなり変な声出して」
 「いや、その……」

 何故か異様にしどろもどろになっている一夏。
 まずい、もしかしてウィッグがずれてたりしてるのか?でも、もしそうだったら設子が言ってくれてるし、朝食堂に行ったときには特に問題にはなってなかったはずなんだけど。

 「なんか、一晩中風男が倒せなかった人みたいになってるよー」

 そう言ってきたのは一夏の席に集まってた女子の一人、たれ目で妙に眠たげな間延びした服の袖と口調が特徴の本音。
 単純に寝不足とかいえないのか。

 「いや妙子の場合ただの寝不足と言うか、こう根本的に生命力が削られてると言うか」
 「あー、今日のあたしはデフォルトでHPゲージが赤色なので」
 「常に瀕死状態!昨日あの後一体何があった!?」

 いやー、色々と。

 「昨日のパーティーの余韻が抜けなくて、ついつい夜更かしをしてしまって……」

 もっとも、正直に話すわけにはいかないのでそう言っておく。うん、嘘はついてない。

 「あー、わかるわかる。私たちもあの後盛り上がったしねー」

 その言葉に何人かが続いて頷く。
 その反応を見て、パーティーが終わる頃にはすっかりぐったりとしていた一夏は「マジか……」みたいな顔をしている。

 「んー?でも、その割にはせっちゃんは元気そうだよねぇ」
 「そうですか?わたくしも今日は少し寝不足気味ですから、織斑先生に怒られないようにと、ドキドキしています」

 設子は何食わぬ顔ですっとぼけるが、意外と鋭い本音に内心ビビっていると教室のドアが勢いよく開け放たれる。

 「ちょっと!転校生の話はどうなったのよ!!」

 現れたのは髪を両端で縛ったいわゆるツインテールの女の子が仁王立ちしてる。

 「鈴……?お前、鈴か?」
 「そうよ、中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってのに……なんで転校生の話題がどっかいっちゃうのよ!」
 「?」
 
 どうやら一夏の知り合いらしいが、どういうことかと一夏のほうを振り向く。

 「あー、さっきまで二組に転校生が来るって話をしてたんだよ」
 「それがあの子ってわけですか」
 「そういうことみたいだな」
 
 そしてきっと一夏の周りで話題が出るのを見越して出待ちしてたのに、俺の顔色が悪かったことで話が逸れたもんだから、我慢できずに出てきちゃったんだろう。悪いことしたかな。

 「おい」
 「なによ!?」

 鈴音が突如後ろから掛けられた声にいらつきながら振り返ると、その脳天に出席簿が振り下ろされる。あぁ、もうSHRの時間か。
 この場に集まってる皆とお互い目配せして早々に自分の席に戻る。
 もたもたしてて、とばっちりを喰らうのはゴメンだ。
 案の定、一夏のことを睨みつけてた箒とセシリアは一夏共々千冬に出席簿攻撃をされていた。



 放課後になって第三アリーナ、そこにはブルー・ティアーズのセシリアと白式の一夏、そして訓練機である打鉄を纏った箒が居る。
 おそらく一夏を徹底的にしごき挙げるつもりなのだろう。
 事の発端は、昼休みに凰鈴音と再び出会った事だ。
 どうやら鈴音は一夏いわくセカンド幼馴染らしいのだが、そのことでヒートアップしてるセシリアと箒を見て、このままで行くと軽く一夏の命が危険そうなのでいざとなった時に止められるように心構えをしておく。

 「では一夏、始めるとしよう。刀を抜け」
 「お待ちなさい!一夏さんのお相手をするのはこのわたくし、セシリア・オルコットでしてよ!」

 いざ斬りかからんとする箒の刀を、セシリアがブルー・ティアーズ用の近接兵装インターセプターとスターライトmkⅢを手に割って入る。
 その光景を一夏はうわぁという表情で見ている。うん、気持ちはわかるぞ、お前の訓練は何処にいったんだろうな。
 と思ってたら、箒とセシリアが一斉のこっちを向く――いや、こっちじゃないな、一夏をだ。

 「一夏!!」
 「何を黙って見ていますの!?」
 「うえっ!?何を黙ってって……どちっちかに味方したら、お前ら怒るだろ?」
 「当然だ!」
 「当然ですわ!」

 ぅゎーぉ、理っ不尽ー。
 この後、俺と一緒に理不尽さに閉口してた一夏は2対1でボコボコにされた。
 手を出すほどじゃないと思ってそのまま見てたけど、たまに箒とセシリアに「お前もくんのか?ァアン?」的な視線を送られた時は、本気で帰ろうかと思った。
 まぁ、常々二人の指導の仕方に口を出しては睨まれてるんだけどさ、でも擬音も秒単位の説明も人にモノを教えるやり方じゃあないんだよ。
 おかげで一夏には感謝され、二人には鋭い視線を向けられる……まったくもって貧乏クジじゃないか。
 夕食後、設子に愚痴ったら昨晩のデレっぷりが嘘だったかのように、災難だったな。の一言だけだった。
 贅沢は言わない。でも、もうちょっとだけ構って欲しかった。

 「というわけだから、部屋代わって」
 「……………」
 「…………」
 「………」

 部屋のドアを勢いよく開け放ち、大きく宣言する鈴音。

 「あの、一夏さんの部屋は隣ですよ」
 「………ごめん、ありがと」

 しずしずと部屋のドアを閉め、しばらくすると隣からドアを開く音が響く。
 ドアを開けて状況確認。

 「というわけだから、部屋代わって」
 「ふ、ふざけるなっ!なぜ私がそのようなことをしなくてはならない!?」

 うん、反対側の隣に行かなくて良かったな。


 あれから数週間ほどたった。
 この時期に行われるクラス交流戦ことクラスリーグマッチ。開催までもう一週間を切っており、俺たち一組の対戦相手は鈴音が(もぎ取った)クラス代表である二組。
 ……なのであるがどうやら鈴音が俺たちの部屋に間違って突入してきた日、あの後一夏が何かしらやらかしたようで、たまに一夏と遭遇するとこれでもかってくらいに不機嫌オーラを撒き散らしている。

 「……はあぁぁ」

 今俺の目の前で盛大に溜息をついているのが一夏。
 夜、食堂の自販機にドリンクを買いに行ったところ、同じ目的だった一夏と鉢合わせたのだ。

 「どうしたんですか?これ見よがしに溜息ついて」
 「……妙子か。いや、鈴の事でな」
 「あー、またなんかやらかしたんですか?」
 「やらかしたってなんだよ」

 やらかしたは、やらかしただ。一夏関係者ならおおよそ当たりが付くワードだろう。

 「まあ聞いてくれよ……」

 ここ数週間の原因の出来事――『酢豚の約束事件(命名・俺)』のあらましと、今日アリーナで起きた事を聞く。

 「女の子……特に鈴音みたいな子に胸の話題を出すとか、自殺願望でもあるのか?」

 いかん、あまりのことに素で喋っちゃった。

 「みなまで言うな……」

 よかった、ヘコんでて気付いて無い。
 さて、ちゃんと相談に乗ってやるか……とはいえ、聞いた限りじゃ一夏に日があるとは思えないし……

 「うーん、鈴音さんは意味が違うって言ったんですよね?」
 「おう」

 意味が違う……だめだ、思い浮かばない。
 んー……そうだ思考の迷路に迷い込んだ時は、発想を逆転させるんだ。
 その言葉がどういった意味を持つのか。ではなく、どういった意味でその言葉を使ったのかを。
 毎日一夏に酢豚を奢る。この言葉をどういった意味で使ったのか……ん、待てよ?

 「一夏さん」
 「ん?」
 「本当に鈴音さんは毎日酢豚を奢ってくれるって言ったんですか?一語一句間違いなく」
 「いや、一語一句って言われるとちょっと……なにせ小学校か中学校の頃の話しだしなぁ」

 つまり、あの約束の内容には一夏の意訳大なり小なり混じっているということか。
 一度キーワードを整理しよう。
 一夏は昔鈴音と「料理がうまくなったら毎日酢豚を奢ってくれる」という約束をした。しかし、この言葉に鈴音は違うと言った。でもそれは全部が全部ではないはず、一夏が意訳している部分が違うんだ。では、それの本当の意味は?
 鈴音はどんな意図で一夏に酢豚を作ると言った?酢豚を作ることに、どんな意味を持たせた?

 「あ……」
 「どうした?なにかわかったのか」
 「もしかしたら……」

 もしかしたら。と自分で思うが同時に、発想が飛躍しすぎだと思う。

 「いや、でも自分でも流石にこれは無いと思うし」
 「頼むっ、今はちょっとでもヒントが欲しいんだッ!」

 真剣な顔をして、肩を掴んで詰め寄ってくる一夏。
 その勢いにたたらを踏むと背中には壁の感触。
 馬鹿お前っ、ラブコメ体質の奴がそんなことしたら……!

 「何をやっとるか、一夏ぁ!!」

 はい、篠ノ乃箒さん入りまーす。

 「なんだよ、今妙子と大事な話を……」
 「戻ってくるのが遅いと思って、見に来たら……婦女子を壁に押さえつけて、どういう大事な話をするつもりだ!?」
 「え?あ、いや、これは誤解で……い、痛たたたぁあ!!箒、耳っ!耳を引っ張るな!!」

 今の自分の状態に気付き、しどろもどろで弁解しようとする一夏だが、怒りゲージが吹っ切れた箒には通用するはずもなく、どこかに連れ去られてしまった。

 「………戻るか」

 そうごちて、ドナドナを口ずさみながら鈴音の件で思いついた事をもう一度頭の中で反芻する……うん、ないな。
 まさか「お前の味噌汁を~」的な意味じゃないだろう。





 -あとがき
 あるぇー?鈴がただのかわいそうな子に……おかしい、当初の予定では妙子のスーパーフォロータイムが始まる予定だったのにいつの間にか、推理パートが始まっている。
 いや、決して嫌いなわけじゃないよ?愛を持ってるよ、愛を持った上でこの扱いなんだよ。鬼畜過ぎるな俺!
 次回で一巻分が終わる予定、はず、エニシング。



[26504] 第七話「侵入者」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/04/09 14:51
 クラス代表リーグ当日。
 入場率120%超の満員御礼状態の第二アリーナ。
 第一試合は既に始まっており、混雑を嫌った俺、設子、セシリア、箒のいつものメンバーでピットから教師陣と一緒にリアルタイムモニター越しに試合を観戦する。

 「なんだあれは……?」

 試合が始まり、最初の切結びで甲龍のパワーに押されきるのを嫌い、距離をとろうとした一夏が見えない攻撃によって弾き飛ばされるのを見ていた箒のつぶやきに、答えたのはセシリアだ。

 「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す、ブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器ですわ」
 「ようするに、空気砲ですか?」
 「……えぇ、まぁ………」

 俺なりに解釈しようとしたがどうやらセシリアには不評だったらしく、表情が微妙に歪んでいる。
 で、最初に問いかけた箒はというと、セシリアの説明なんて聞かないでモニターに写る一夏の姿に釘付けだ。自分で尋ねたんだから、最後まで聞いてやれよ。
 勝負は終始鈴音の見えない攻撃を、一夏が辛うじて避けているという状態だ。
 拡張領域を持たない故に初期装備の雪片一本の白式にとって、位置取りは最重要案件。
 クラスリーグが始まるまでの間、徹底的に近接戦闘と移動系の訓練をしてきたことによって手に入れたスキル『瞬間加速』からの零落白夜による強襲がうまく決まれば、代表候補生相手でも勝てるというのがおおよその見解だ。
 
 「鈴」
 「なによ」
 「本気で行くからな」

 どうにかして距離をとって鈴音と対峙した一夏が、そう宣言する。
 ブースターのエネルギーを圧縮させ文字通り、瞬間的に超加速をするイグニッションブーストと、シールドエネルギーそのものを攻撃力に転化させる零落白夜の組み合わせは、白式のエネルギーを大幅に喰う為早い段階に使わないと十全の力を発揮することができない。一夏もそれをしっかり念頭においての早々のこの台詞だろう。
 鈴音はもう一度連結させた青竜刀を構えなおすと、突っ込んでくる一夏を衝撃砲で迎撃する。
 シールドを削られながらも、雪片の間合いに収め――振り下ろされる一刀と迎え撃つ一撃は、轟音によってかき消された。

 「なんだっ!?」

 ピット内に警告音アラートが鳴り響く。

 「システム破損!なにかがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです」
 「試合中止!!織斑、凰ただちに退避しろッ」

 千冬の指示により観客の退避が始まるが、いかんせんもとより収容人数を超過していた為なかなか進まない。
 そして晴れた黒煙から現われたのは一体の鈍色の影。

 「あれは……IS!?」

 それはISというには異形の姿。
 全身装甲のボディであり巨大な両腕は全身よりも長く伸び、両腕の先には計四門の砲口。おそらくさっきの衝撃の正体はアイツの砲撃による一撃。
 通常アリーナは観客席やアリーナ外への流れ弾を防ぐ為に遮断シールドによって文字通り遮られており、競技用のISの兵装であるならば白式の零落白夜のようなシールドそのものに干渉する為の攻撃でなければ破られる事は無い。
 だが、奴はそれを破って外部から突入してきた。それだけの威力をあのISは待っているという事か。
 やがて侵入者はその両腕を一夏や鈴音の方へ突き出す。

 「あぶねえっ!」

 オープンチャンネルで言い合っていた鈴音にビーム砲が放たれるが、間一髪一夏が鈴音を掻っ攫って難を逃れる。

 「ちょ、ちょっと、馬鹿!離しなさいよ!!」
 「お、おい、暴れるな。――って、馬鹿!殴るな!」
 「う、うるさいうるさいうるさいっ!」

 一夏の腕の中で暴れる鈴音を見て、何か未だ言葉にならない感情が胸の奥から湧き上がってくる。

 「どうかなさいましたか?妙子さま」
 「え?いえ、何でもありません……」

 そう誤魔化すが、湧き上がってくる感情は次第に強く明確になっていく……そう、「言いやがったな、あのアマァ!」と。
 自分自身理由はわからない、そしてまったくもって意味もわからなかったが峠を越えたのか、その感情はやがて霧散した。
 一体なんだったのかと首を傾げるが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 「先生、一夏たちへの救援は!?」
 「そうしたいところだが――これを見ろ」

 千冬に渡された端末に表示されてるのは、第二アリーナのステータス。
 遮断シールドレベル4、さらに表へ出る扉は全てロック――
 端末をセシリアや箒へ渡すと、心の中で舌打ちをする。
 完全に出遅れた――なまじ正確な情報を期待してモニタールームに残っていたのは、失敗だった。

 「もしもし!?織斑くん聞いてます!?凰さんも!聞いてますー!?」

 一夏と鈴音が観客の避難が終わるまで囮になるといって奴に向かっていくと、山田先生はかわいそうなくらい焦りを見せて二人に呼びかける。

 「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」
 「お、お、織斑先生!何をのんきなことを言ってるんですか!?」
 「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」

 千冬は千冬でコーヒーカップにスプーンを運び、クールに言い放つ。んだが……

 「織斑先生、それ塩です……」
 「…………」

 俺の指摘に千冬は手元を確認すると、無言でポットに戻す。

 「なぜ塩があるんだ……」

 それはわからないが、蓋にはでかでかと「塩」と書いた紙が張り付いている。

 「あっ!やっぱり弟さんのことが心配なんですね!?だからそんなミスを――」
 「………」

 山田先生が、某発明ボーイのごとくひらめいた!といわんばかりに言うが、返ってきたのは重い沈黙。

 「山田先生、コーヒーをどうぞ」
 「へ?あ、あの、それ塩が入ってるやつじゃ……」
 「どうぞ」

 千冬の圧力に屈し、コーヒー(微塩)を涙目で受け取る山田先生。

 「い、いただきます……」
 「熱いので一気に飲むといい」

 なんというか、この人は一夏とセシリアの対決の時にあのヘッドロックで学ばなかったのだろうか……



 「一夏さん……何もできないことが、歯痒いですわ……」
 「何、どちらにしてもお前は突入隊に入れないから安心しろ」

 端末を見終えたらしいセシリアの呟きに、千冬が見ている方がかわいそうになるくらいに攻め立てる。
 なんだかんだで千冬もだいぶイラついているのだな。と、横目で見ていると設子に肩を叩かれる。
 振り返った俺に設子が目配せをするその先には、今まさにモニタールーム出て行く箒の姿。ちらりと見えた横顔は真剣そのもの。
 その横顔に尋常じゃない雰囲気が見えたので設子に頼む。と意味を込めて頷くと、設子も頷き返し箒を追って出て行く。

 「(さて、中に入れないからといって、ここでただ中の様子を眺めてるわけにはいかないよな……)」

 幸い一夏と鈴音はオープンチャンネルで会話しているので、周波数を合わせれば黒百で音を拾える。
 ならば後は何処で出待ちをするかだな。
 とりあえず、モニタールームに居るだけでは何もすることは出来ない。
 まず最初は突入班が作業してるハッチへ向かうが、野次馬と思われあっさり叩き出されてしまう。

 「……なあ、鈴。あいつの動きって何かに似てないか?」

 さてどうしたものかとアリーナ内を歩き回っていると、一夏の問いかけが耳に入る。もっとも、盗聴してる向けたものではないのだが。

 「いや、なんつーか……機械じみてないか?」
 「ISは機械よ」
 「そういうんじゃなくてだな。えーと……あれって本当に人が乗ってるのか?」

 そういわれた鈴音も思い当たるフシがあるのか、どうやら二人は相手が無人機であることを前提に動くようだ。
 そして、一夏の言った「無人機相手なら全力で攻撃できる」。
 この言葉に、確証はなかったものの俺はアリーナ内の通路を駆け出す。
 目的地は、アリーナの客席。


 たどり着いたその先では既に先客が――ブルー・ティアーズを起動させていたセシリアの姿。

 「あら、妙子さん。急にどこかに行ってしまったので、気にしていたんですのよ?」
 「あはは。何かできることはないかなーと思って走り回ってたんですけど、セシリアさんの姿が見えたものですから。でも、どうやらここに来て正解だったようですね。一番の特等席です」

 一応盗聴している事を隠す意味も込めて、そう言う。

 「そうですの。では、今からこのセシリア・オルコットの勇姿を――」
 「一夏ぁっ!」

 ごらんくださいな。とでも続けようとしたセシリアの声を遮って、スピーカーからハウリングをきかせながら箒の声が響く。

 「箒さん!?」
 「妙子さん、あちらですわ!」

 思わぬ人物の登場に声を上げる俺に、ハイパーセンサーの視覚で箒を捕らえたらしいセシリアが指を刺す方向は、たしか中継室。
 セシリアが映像を外部モニターに映し出してくれたおかげで、中の様子が見える。
 そこにはおそらく、審判とナレーターの二人がのびていて、いまだマイク越しに叫んでいる箒を設子が羽交い絞めにして引き離そうとしている。
 そして侵入者も声の主に気がついたのか、中継室にセンサーアイを向ける。

 「セシリアさん!」
 「えぇ、わかっていますわ!」

 俺の叫びにセシリアがビットを展開させながら狙撃ポイントへ移動するのと同時に、侵入者が砲口を中継室へ向け出す。

 「ああもうっ……!どうなっても知らないわよ!」

 これが一夏の作戦なのだろう。
 衝撃砲のエネルギーを瞬間加速の推進エネルギーに転換させて突っ込んでくる一夏を脅威と見たのか、中継室に向けて差し出した右腕をすぐさま一夏へ向けなおすが、それでも一夏の方が一歩早く右腕を切り落とすものの、左腕からのカウンターを喰らい、一夏と敵の左腕の間からはエネルギーの粒子が溢れ出る。
 零距離から遮断シールドを突き破るレーザーを喰らっては、もうほぼシールドエネルギーが残っていない白式はひとたまりもないだろう。

 「「一夏っ!」」

 箒と鈴音の悲鳴交じりの呼びかけに、一夏はあえて「そちら」を向かず冷静に一言、尋ねる。

 「……狙いは?」
 「完璧ですわ!」

 一夏が予め宣言していた通り全力の零落白夜の一撃は、相手の腕だけではなくその後ろの遮断シールドをも斬り裂いた。
 目の前で吹き荒れる衝撃波に耐えながら、セシリアが計五門のレーザー砲で侵入者を狙い撃つのを見る。
 認識範囲外からの攻撃。
 普通の人間ですら余程の事ではない限り対応できない攻撃に、比較的単純なプログラムしか組み込まれてないであろう侵入者に対処できるわけもなく、地上に落下していく。

 「ギリギリのタイミングでしたわ」
 「セシリアなら、やってくれると思っていたさ」

 打ち合わせ無しの即興の奇襲もうまくいき、一夏の信頼の言葉にすっかり照れていつセシリア、客席に俺の姿を捉えわざわざ手を振ってくる一夏、間一髪のところで一夏が助かり、その上一夏共々最も奴と長い間戦っていて、すっかり緊張の糸が切れた鈴音。
 だからだろうか、それとも実戦経験の無さが生んだ詰めの甘さなのだろうか、一夏たち越しに倒れている奴のセンサーレンズに、再び光が灯っているのに気がついたのが俺だけだったのは。

 「――ッ!」

 判断は一瞬。迷いは無い。
 遮断シールドの無い観客席の縁に足をかけ、飛び出す。
 俺の突然の行動に全員が驚愕の表情を露にするが、それを無視して黒百を展開させる。
 するとPICの効果により独特の浮遊感は消え去り、背部アンロックユニットと各所に取り付けられた推進器ブースターによって一気に一夏へ詰め寄る。
 一方の侵入者も残った左腕を振り上げると、一夏へ向けてその砲門を差し向ける。
 黒百のハイパーセンサー越しに奴の左腕に集まっている規格外のエネルギー量が表示される。おそらく、遮断シールドを突き破ったのと同等の一撃。
 狙われて初めて奴の再起動に気がついた一夏が振り返るのを横目に、一夏と敵ISの間に天石を構えて割り込む。

 「妙子!?」

 一夏の叫びを背後に聞き、俺は天石に指示を送る。

 Plasma Coat Active

 眼前にそう表示されると、天石の四隅の装甲が開き、姿を現したプラズマ放出ユニットから、天石前面に高圧縮プラズマによるレーザー偏向フィールドを展開させるのと同時に、敵の高出力レーザーが天石を襲う。
 ステータスチェック――オールグリーン。
 まともに攻撃を防ぐのはこれが初めてだったが、天石は確実に相手のレーザーに耐えている。

 「おぉおおおお!!」

 気合と共に右腕を振りぬく所作に合わせて武器を呼び出し、ブースターを吹かし相手との距離を詰める。
 手にはSHE社製試作型スタンナイフ。
 ISと対比しても大型のサバイバルナイフサイズのそれは、その名が示す様に対象に高圧電流を流す事によってISそのものの電装系をショートさせるのが目的であり、またその電撃から搭乗者を守るために絶対防御を誘発させる副次的効果がある……どう考えても競技規定違反になりそうなシロモノであるが、無人機きかい相手ならむしろちょうどいい。
 天石でレーザーを遮りながら、相手の突き出した左腕へスタンナイフを突き立てる。

 「これで!」

 刺さった箇所から端子がせり上がり電流を流し出す。
 高すぎる電流は敵の内部回路を焼き切り、煙を噴き上げ砲口から放たれていたレーザーは次第に出力を落とし消え去る。さらに電流は敵の駆動系へまで影響を与え四肢がビクンビクンと無秩序に痙攣を起こしたかのようにわななくと、やがて敵ISはくずおれる。
 最後にもう一度電流を流して完全に沈黙したのを確認すると、ナイフを引き抜き『収納』する。
 実際は僅かな時間でのやりとりだったが、真正面からあんな出力の攻撃を受けるのは心臓に悪すぎる。

 「妙子、無事か!?」
 「あぁ」

 一息つき、ようやく一夏たちが駆け寄ってくる。

 「妙子さん、そのISは一体?」

 セシリアの問いは、この場にいる全員の気持ちを代弁したものだろう。一夏も鈴音も固唾をのんで俺の答えを待つ。
 まぁ、いままでそんなそぶりを見せなかった奴が急にISを装着して現われれば、当然の反応だろう。

 「こいつは、黒百。あたしの専用機たてです」



 あの無人機を倒したすぐ後、一夏が破壊した遮断シールドから突入部隊がやってきて後始末が始まった。
 今回の件は早々に緘口令が敷かれた。一生徒である俺たちには情報が入ってくる事はもう無いだろう。
 そして俺とセシリアは、ISの無断使用ということで千冬から反省文の提出を言い渡されただけで、大したお咎めは無かった。
 無論俺は黒百について問われはしたが、IS学園在学中は生徒こそ所属はIS学園に帰属するが、ISそのものに関しては開発元などの機密の塊な様なもので最低限のデータさえ提出しておけばよく、いつだか束がデータに細工していたことにより、結局は搬入が遅れていたという扱いになった。
 もっとも、千冬にしては大分ぬるい対応だったのはおそらく、白式の展開を解いた後にISの保護機能が切れ衝撃砲をまともに喰らった反動でぶっ倒れた一夏を見舞いに行ったからだと思う。

 「まったく、敵の攻撃を正面から受けるなんて肝が冷えたぞ」

 で、諸々の作業(反省文とか緘口令の誓約書とか)が終わり俺は今寮の自室で設子に愚痴られていた。

 「いや、天石なら大丈夫だろうなと……」
 「それでもだっ!ISを使うようなことになったら、私はお前の背中を守る事もできず、ただ指をくわえて見ているしかできないんだ……」
 「設子……」

 肩を震わせながらそんな風に言われてしまっては、何も言い返すことはできない。
 ごめん。と、なにに謝っているのか自分でもわからなかったが、設子の振るえを止めてやりたくて抱きしめる。
 廊下の方から「付き合ってもらう!」と聞こえたのは……きっと気のせい。




 ―あとがき
 やっちまった。
 ……なにが、とは言わない。
 天石のプラズマコートについて……ぶっちゃけIフィールドバリア。実弾攻撃は防ぎません。あと、プラズマで本当にそんなことできるのかとか考えちゃダメ。ゼッタイ。
 プラズマはなまら便利なトンデモSF設定の強い味方。ということで。
 あと、途中で出てきたSHE社はアイギスの開発部門の窓口として協力してくれている会社。公には黒百もSHE社製のIS扱い。
 SHE社製防弾胸パット一組希望小売価格¥7900―。



おまけ IS インフィニット・ストラトス シールド9たん

 MISSION1「どーしてもこーしても」
 設子「…………」
 シールド9たん「どーしてこうなった」(設子の頭の上)
 設子「……中の人的に、でしょうか?」
 シールド9たん「中の人などいない!!」

 MISSION2「窓際最後列(第二話より)」
 真耶「それではみなさん、何か質問はありますか?」
 シールド9たん「はいっ、先生」
 真耶「はい、なんでしょう?」
 シールド9たん「何も見えません!」
 真耶「先生も、山田さんがどこに居るのかわかりません(涙)」

 MISSION3「中央最前戦」
 一夏「えっと、乗り心地はどうだ?」
 シールド9たん「おかげさまで、黒板が良く見えます」(一夏の頭の上)
 一夏「でもいいのか?俺の頭の上で」
 シールド9たん「どういうことですか?」
 一夏「ほら、俺の頭って千冬姉によく狙われてるし――」
 千冬「だれが貴様の頭を狙ってるって?あと、織斑先生だといったろ。覚えろ馬鹿者」
 シールド9たん「――!!」(ダイブ回避)
バシン!!
 シールド9たん「ちょ……!お、おま……!!(言葉にならない叫び)」
 千冬「む、す、すまん……」



[26504] 第八話「シンパシー」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/04/13 00:01
 六月の最初の日曜日。俺はIS学園から遠く離れたSHEこと「Soichiro Honma Electronics」の本社ビルへ来ていた。
 その目的は先月の一件で黒百と試作型のスタンナイフを使った後のデータ取りのためだ。
 本当ならもっと早くするべき事柄なんだろうけど、データ取りの責任者の都合で今日まで先延ばしになっていた。
 しかも間の悪い事に護衛対象である一夏が今日外出届を出していたので、一夏の方は設子にまかせっきりとなっている。

 「どうも如月君、お待たせしました」
 「いえ、おきになさらずに。あとすいません、非常に不本意なんですけど、この格好の時は人の目もあるので山田でお願いします……」
 
 SHEの一部人間は俺の正体を知っている。今俺の目の前にいる井深さんもその一人だ。

 「了解しました。それではこちらへ」

 井深さんに連れられてやってきたのは、SHEのIS専門開発部門の第七研究室。
 他の研究室は五つまでしかないのに、何故第六研究室を飛ばして第七なのかと聞いたら「第六研究室という名前は色々いわくがありまして、縁起が悪いんですよ」という答えが返ってきた。

 「では始めましょうか……まずは、スタンナイフに関しての報告書は読ませていただきました。いやぁ、やっぱり出力高すぎましたか?」
 「やっぱりって、分かってて持たせたんですか!?」
 「いやぁ、開発部の人たちが悪乗りして作ったやつですから」
 「んなもん、なおさら持たせないでください!」

 「あっはっはっ」と言って頭の後ろを掻く井深さんを見ながら、嘆息する。なんというか、この人は非常に掴みにくい。
 
 「まぁ、スタンナイフに関してはまだ改良の余地ありと言う事ですね。それと、山田さんのご要望の品ですが、こちらについては一応完成しましたので後で実際に使って試してください」
 「マジですか?頼んでから半月くらいしか経ってないんですけど」
 「まぁ、要求された機能自体はそんなに難しいものじゃありませんでしたし、構造的に既存の物を流用できましたから意外と早く完成したんですよ」

 井深さんはあっさりと言うが、その技術を発展させたら現在のISの基幹システムに大きな楔を打ち込むようなものを俺は頼んだはずなんだが……

 「それでは、そろそろ今日の本題と参りましょうか」

 今日の本題とはずばり、SHE側が用意した仮想敵との実戦を想定した模擬戦。
 会場として用意されたのは、どう考えても建築基準法をぶっちぎっているSHE本社の地下に広がる巨大な空間。
 場所柄、学園のアリーナのように空中戦が出来るほどではないが、三次元戦闘をするには十分すぎる広さだ。

 「それでは準備をお願いします。武装の方はこちらで指示しますので、それを使ってください」
 「了解しました」

 それから始まったデータとりという名の模擬戦じゅうりんは、正直思い出したくも無い。
 あえてダイジェストで伝えるならば、こうだ。
 メイド服の人がいきなり変身したり、銀髪のツインテールの子にリボンでやたらめったら切り刻まれて、セメント係数高めの紅髪の子に撃たれまくったと思ったら、最後に「興が乗った」とかいって最初の相手の2Pカラーみたいな人にボコボコにされた。
 それと、帰りがけに「一応、性転換させる装置がありますけど、使います?」と恐ろしい事を言われたが、全力でNOと言って逃げ帰ってきた。遠くで「胸を大きくするのもありますよー」と聞こえた気がしたが、それは幻聴だ。絶対……そうであってくれ。

 「……大丈夫か?」

 そしてコレが、寮に帰ってからの設子の第一声。
 それに俺はベッドに倒れこみながら首を振って……次の日の朝までそれ以降の記憶は無かった。


 開けて月曜日。昨日の疲れが抜けきれず遅刻ギリギリで教室に飛び込んだ俺。教室の目の前で千冬が三秒くらい足を止めてくれた時の感動は、後生大事に持っていく事にする。
 
 「ええとですね、今日は転校生を紹介します!しかも二名です!」
 「「「ええええええええっ!?」」」

 その後、千冬からIS実習に関する通達の後に山田先生によるHRの第一声。
 これに情報網をかいくぐり二人も転校生がやってきた事に、噂好きのお年頃である彼女たちが驚かないことがあろうか?いや、驚かないはずが無い。反語。

 「失礼します」
 「…………」

 だが、教室に入ってきた二人の人物を見て、そのざわめきはぴたりと止まる。
 なんたって、そのうちの一人が……

 「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
 「……男?」

 そう、男。XY染色体をもった俺と一夏を含めた、三人目の男のIS操縦者。
 俺が漏らしたその一言を皮切りに、教室内が再び騒然とする。
 特に非常にさわやかな笑みと丁寧な物腰は、貴公子然としていてこの年頃の少女達の琴線にクリティカルヒットだったようだ。

 「あー、騒ぐな。静かにしろ」
 「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 千冬の鬱陶しそうな声と山田先生のいっぱいいっぱいな嘆願もあって、騒がしさも一時的に収まるが、長い銀髪と左目の眼帯が特徴のもう一人の転校生は、腕組みをしたまま沈黙を保っている。
 いや、唯一その視線は千冬のほうに向けられている。
 視線を向けられた千冬もそれに気付き彼女を促すと、それに敬礼して答える。

 「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 ………………………
 …………………

 「あ、あの、以上……ですか?」
 「以上だ」

 以上らしかった。
 しかし、妙な話だ。定時連絡の際には転校生が来るなんて情報は一つも無かった。
 単に俺が昨夜ぶっ倒れていたからという可能性も無くはないが、後姿だけだが設子もこの二人の登場には驚いていたようだし、何よりも二名とも一切情報がつかめなかったというのが不自然すぎる。アイギスの情報網もそこまでヤワではない。  (ちなみに、鈴音の情報についてもアイギスは掴んでいたが、前日にりおと設子が喧嘩したせいで伝え忘れると言う、プロにあるまじき失態が後に発覚した。)
考えを巡らせていると、不意に教室内を乾いた音が響く。
 音源を確認しようと視線を巡らせると、頬を抑えてる一夏の前で鋭い眼光を向けるラウラ。
 なんというか……波乱の予感しかしねぇ。



 「……あぁ。そういうわけだから、今の二名の素性調査を頼む」

 午前中のIS実習が終わり、昼食前に校舎の人気の無い場所でアイギスへの今日の転校生の素性調査の依頼し、通信端末を懐に仕舞う。
 とりあえず敵であるにしろそうでないにしろ、この時期に正体不明の転校生×2内一人は男とあれば、何かあると考えるのが自然だろう。
 特に、ラウラ・ボーデヴィッヒの方は最初から一夏に対して敵対心バリバリであるし。

 「とはいえ、多分どっかの軍の人間か何かだとは思うんだけどな……」

 彼女の挙動の一つ一つを見る限り、どこかできっちりと訓練を受けてきた人間というのは間違いないと思う。
 彼女自身にもそれを隠そうとする意志も見えないこともあり、そういう結論に至るのは至極感嘆だった。

 「それって、ラウラのことか?」
 「――ッ!?い、一夏さん?何時からそこに……」

 不意に掛けられた声に振り返ると、そこには一夏の姿。

 「いや、今さっきだけど。箒やシャルルたちと屋上で昼飯食うから、一緒にどうかって誘いに来たんだ」

 そうか……それなら、まずい事は聞かれてないか。

 「そうですか、それならご一緒させてもらいますね。……それで、ラウラさんのことって、どういう意味ですか?」
 「あぁ、さっき軍人がどうとか言ってたろ?」
 「え、えぇ」
 「実は千冬姉って、むかしドイツ軍でIS操縦の指導教官をやってたらしくてさ、それで千冬姉のことをラウラって『教官』って呼んでたろ?だから、ラウラってドイツの軍人なんだろうなって」
 「あぁ、成る程……」

 とはいえ、なんで正規の訓練を受けた軍人がわざわざ、養成機関であるIS学園に来たのか……まさか千冬を追って来た。と言うわけでもないだろうしな、期間的に。

 「ま、とりあえず早く行こうぜ。もうシャルルたち待たせてるし」
 「わかりました……あ、そうだ。設子さんも呼んでいいですか?」
 「おう、飯は皆で食ったほうがうまいしな」

 そんなわけで、昼食を買ってから設子も呼んで俺、一夏、シャルル、設子、箒、鈴音、セシリアの計七人で昼食をとることになったんだが……

 「……どういうことだ」

 箒さんが非常にご立腹です!!
 どうやら元々は箒が一夏を誘ったらしいのだが、そこは流石の朴念神(誤字にあらず)。そこに俺らを誘ったものだから箒の怒りが有頂天に達しているそうだ。

 「はい一夏。アンタの分」
 「おお、酢豚だ!」

 という鈴音をきっかけに一夏の元には鈴音の酢豚とセシリアの食品サンプル(形状:サンドイッチ)と箒のお弁当が並ぶ。すげぇ、こいつ昼飯一食分女に貢がせただけでまかないやがった。

 と、購買仲間のシャルルと設子と並んで一夏を眺める。

 「それにしても……」
 「ん、どうしたの?山田さん」

 シャルルの横顔を見ていると、こちらに気付いたシャルルが振り向く。

 「いえ、なんというかシャルルさんを見ていると不思議と親近感が湧くと言うか……鏡を見ている気分になるというか……」

 自分でも把握しきれない不思議な感情がなぜかおきてくる。

 「あー、それは僕もなんかわかる気がする。でも、鏡合わせって言うのは何がってわけじゃないけど、なんか違う気がする」
 「なるほど、言われてみればそうかもしれませんね」

 かがみ合わせの左右対称……というよりかはどちらかと言えばコインの裏と表と言った方がいいのかもしれない。限りなく同じような存在でありながら、決して交わる事の無い……

 「そう、いわば人間失格と」
 「欠陥製品のような……」

 二人でそう言い合うと、お互いの視線がぶつかる。

 「……」
 「………」
 「「友よ!!」」

 そして固く結ばれる右手と右手。

 「た、妙子さま?」

 設子がなにやらものすごく動揺した風だが、この何処から湧き出でるシンパシーの前には些細な問題だ。というか、自分でふっといてアレだが、今のネタが通じるとは思わなかった。流石日本のロボットアニメが視聴率100%とった国。



 俺とシャルルがソウルメイトとなってから五日。土曜日の授業は半ドンのIS学園の午後は、もっぱら全開放されたアリーナでの自主訓練が主流であり、俺たちもその時間を使ってトレーニングを行っている。

 「一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ。妙子たちからは教えてもらってなかったの?」
 「あはは、あたしも銃は正直苦手ですから……」

 もっとも、それ以前に先週SHE社に行くまで、後付装備イコライザはスタンナイフ一丁というステキ仕様だったので、教えようにも教えられなかったのだが。

 「一応、設子さんからはある程度レクチャーは受けてたんだが……」
 「それでも、知識として知ってるだけって感じかな」

 ちなみに、この五日間でシャルルは箒、セシリア、鈴音の三人は模擬戦ならまだしも、ものを教えるのに向いていない……ぶっちゃけ役に立たないというのを理解したようで、最初の頃こそ三人に気を使って途中途中声を掛けていたが、最近は俺に倣って最初から頭数に入れていないような扱いになっている。

 「じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか」

 一夏はシャルルが使用許可を出したアサルトライフルを使って射撃武器の練習を始めたようなので、俺と設子は一夏たちに声を掛けてから少し離れて月末の学年別トーナメントへ向けてのトレーニングを始める。

 「それにしても、ラウラ・ボーデヴィッヒではなくシャルル・デュノアの方が調査が難航するというのも、妙な話だな」

 設子が操る訓練機「ラファール・リヴァイヴ」と模擬戦をしていると、設子がプライベートチャンネルを使って話しかけてくる。

 「片やドイツ軍の特殊部隊隊長と、片や世界で二人しかいない男のIS操縦者……どちらも情報統制が有って然るべき存在ではあるんだがな」

 俺もプライベートチャンネルで設子に答えながら、アイギスに調査依頼してから三日後に届いたラウラの調査報告の内容を思い出し、五日経って未だに掴めていないシャルルについての報告が上がっていない不可解さに眉をひそめる。

 「修史、それは違うぞ。男のIS操縦者は世界で三人だ。自分を入れ忘れるな」

 なぜかキメ顔で言ってくる設子の言葉に頭を抱える。いや、模擬戦中だから実際に頭を抱えたりはしないが、気持ち的には盛大に頭を抱える。

 「っと――設子、ストップ」

 右手を差し出して止まれの合図。

 「どうした?」

 構えていたアサルトライフルを下ろすと、近寄ってくる設子にちょうど真下にいる一夏たちを指で指す。

 「あれは、ラウラ・ボーデヴィッヒ?」

 そう、転校初日で一夏に張り手をかましたことである意味学園内でも有名人のラウラ。
 そのラウラがISを起動状態にしてアリーナで一夏と向かい合っているものだから、周囲の生徒達からも注目を集めている。
 ISのハイパーセンサーを使って下の会話を音を拾う。

 「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」

 ラウラが言っているのはおそらく第二回モンド・グロッソの事だろう。この大会の決勝当日、一夏はとある組織によって拉致され千冬は決勝戦を放り出してこれを救出した時の事だろう。
 もっとも、千冬はこの時の借りを返すためにISの指導教官としてドイツ軍へ出向していたので、傍から聞けばただの言い掛かりなだけだが、ラウラは千冬に心酔しているようなので言っても無意味だろう。

 「また今度な」
 「ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 言うや否や、ラウラのISの肩に装備された実弾砲が火を噴く。
 しかし、横合いから割り込んだシャルル――よりもずっと手前に突如上空から落ちて地面に突き立った黒い壁――天石によって阻まれ、傾斜のあるその表面に当たった弾丸は明後日の方向へと弾かれる。

 「あ、すいませーん。楯落としちゃったんですけど、大丈夫でしたかー?」

 オープンチャンネルで呼びかける俺の声に、その場に居た全員が俺を仰ぎ見る。

 「いや、落としたって……」

 呆れ顔の一夏だが、無理も無い。なにせ、天石は黒百の左腕と一体となっているので、手を離せば落ちるようなものではない……まぁ、ぶっちゃけ悪い予感がしたので俺が二人の間に天石を投げつけたわけなのだが。
 で、当然のごとく水を差されたラウラからすれば面白くないのは当然の事であって、右肩の大型レールガンの砲口を向けてくる。

 「そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!」

 一触即発の空気を割いたのは、アリーナのスピーカーから聞こえた教師の声。
 おそらく騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。
 水を差されて興が削がれたようで、ラウラはゲートへ向かって去っていく。

 「無茶苦茶するな、妙子……」

 天石を回収する為に降り立つと、一夏がすかさず言ってくる。

 「そうですね。無茶は一夏さんのお家芸ですもんね」
 「そ、そんなことないぞ?」

 IS起動二回目で代表候補生相手に戦ったり、衝撃砲を背中に受けてイグニッション・ブーストのエネルギーに転化させようとするのを無茶と言わずになんと言う。
設子が「いや、お前も人のこと言えないからな」とプライベートチャンネルで言ってきたが、意図的にスルー。

 「まぁ、とりあえず助かったよ。ありがとう」
 「いえいえ、どういたしまして」

 アリーナの閉館時間も迫っていたので、その後は特に何をするわけでなく解散する事になった。
 ラウラが組織として一夏を狙っている可能性は調査をした結果こそ『極めて低い』であったが、どうやらそんなのに関係なく騒動が起こるのは間違いないだろうな。



 ―あとがき
 ……自重?なにそれ、美味しいの?
 出しちゃった……正直、日曜日のパートでやりたい事はやった。SHE社でのことをあまり詳しく書くとクロスジャンルが「恋楯×イヴWithIS」になるので、割愛。要望があれば書きます。ただし後の展開へのネタバレを含むのでそれが終わればだけど。
 



[26504] 第九話「黒×黒」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/05/02 10:45
 アリーナでの一件の後、アリーナの女子更衣室から早々に逃げ出して自室のシャワーを使おうと部屋に戻ると、見計らったかのようなタイミングで鳴り出した通信機をとる。

 「はい、こちらシールド9」
 「あ、修史ですか」

 通信機から返ってきたのは、どこかホッとした様子のりお。
 まあ、この前の一件以来りおからの通信は初めてなので身構えるのもわからないでもないが。

 「設子ならアリーナのシャワールームを使ってるから、まだ戻っては来ないと思うぞ」
 「う……そ、そうですか」

 りおのあからさまにほっとした声に苦笑しながら、先を促す。

 「それで、用件は?もしかしてシャルルの調査結果か?」
 「はい。その通りです……結論から言います。デュノア家にシャルル・デュノアという名前の人間は存在していません」
 「……なんだって?」

 思いもよらない言葉に、おもわず聞き返してしまう。

 「隠し子という可能性も考慮して調べましたが、男児はいませんでした」
 「男児は?」
 「はい。ですが数年前にシャルロットという名前の少女がデュノア家に引き取られています。年齢は、今年で16だそうです」
 「シャルルとシャルロットか……」

 名前が似ているだけ……というにはシャルルの存在があまりにも不確か過ぎる。

 「また、4月の末頃からシャルロット・デュノアの足取りがつかめなくなっています」
 「……りお、すまないがまた後で連絡するッ」

 その言葉の意味を理解した俺は通信機を乱暴に切り、部屋を飛び出す。
 もしかしたら、緊急性は低いかもしれない。
 なにより、不可解な点はいくつもあるがシャルルを敵と断定するには確固たる証拠に乏しく、一夏を狙うのであれば同室というアドバンテージがあるにもかかわらず今日まで行動を起こさなかったというのも気になる。
 だが、万が一にも今日行動を起こさないという理由にもならない。
 そして、その万が一を防ぐ為に俺はわざわざこのIS学園に潜入してきたんだ。

 「一夏さん、居ますか!?」

 いつもの行動パターンであるならば、そろそろ一夏が部屋に戻っているはずなので隣の一夏の部屋のドアをノック無しで勢いよく開けると、バタンッと洗面所のドアが閉まる音が響く。

 「ちょ、一夏っ、何で入ってくるのぉ!?」
 「うわぁ、ごめん!」
 「って、こっち見ないでっ」
 「いや、シャルルが風呂のドアを――!!」
 「――あ!」

 洗面所で一夏とシャルルがドタバタと暴れていたが、どうやらシャルルがシャワールームのドアを閉めることで決着が付いたようだ。

 「で、一夏さん、なにしてるんですか?」
 「お、ぉおう!?」

 とりあえず一段落付いたのを見計らってからの問いに返ってきたのは、尻上がりとか通り越してもうただの裏声しか出てない。

 「あ、いや、風呂にな……?」

 洗面所のドアからバツが悪そうに出てくる。
 その顔は言うまでもなく真っ赤である。
 あぁ、こりゃ、本当にシャルル・デュノアは女だったのだろう。もしこれで、シャルルが男にもかかわらず一夏が顔を赤くしてたのならば、俺はIS学園を去らなければならないだろう。貞操的な意味で。
 一応、確認の意味を込めてカマでも掛けてみるか……

 「で、一夏さんどうでしたか?Bくらいはありましたか」
 「あれはC……もしかしたらDもありう――「一夏ぁ!!」
 「……あ」

 ドア越しからシャルルに怒鳴られて、一夏は自分の失言に気付いたようだ。

 「……一夏、妙子、話したいことがあるから話したいことがあるから、時間いい?」
 「あぁ」
 「はい。大丈夫ですよ」


 ドアを通して弱々しく告げる声に俺と一夏はそろって頷く。
 それからしばらくしてドアから出てきたのはシャルルで、その姿は何処をどうとっても立派な『女の子』だった。


 やがてシャルルの口から語られたデュノア社の行いに怒り心頭といった様子の一夏の手は硬く、強く握られている。
 資料によれば一夏は幼少の頃に両親共に蒸発し、千冬の手一つで育てられていたとあった。故に、親の行いと言うものに思うところがあるのだろう。
 確かに胸糞の悪い話ではあるが、それ以上に俺には一夏のガードとしてシャルルに確認しなければならないことがある。

 「シャルルはこれからどうするつもりですか?」
 「どうするもなにも、一度ばれちゃったんだから後は時間の問題だと思う……フランス政府も事の真相を知れば黙ってないだろうし。僕も、よくて強制帰国の後に牢屋行き。かな?」
 「普通に考えたらそうでしょうね」

 俺の突き放すかのような物言いに一夏が無言で厳しい視線を飛ばしてくるが、それを無視して言葉を続ける。

 「だけど時間の問題と言う事は、同時に時間はあるってことだ。ここ五日ほどでも、白式の稼動データは外部からよりは圧倒的に多く手に入ったはずです。その情報を送るだけでもデュノア社からすればある意味最低限の目的は果たせたと言えるでしょうし、先ほども言いましたがまだ時間はあります。そう、データを送るには十二分に」

 ある意味俺のような立場が本来示すものではないのだが、そういった事態に対する牽制にはなる。
 もっとも、一夏の視線がよりきつくなったのだが。

 「大丈夫、安心して。そんな事はしないよ……一夏や妙子に軽蔑はされたくないからね」

 悲しげな笑みを浮かべて言うシャルルに、俺は胸をなでおろし腰掛けていた椅子から立ち上がる。

 「IS学園の特性の一つとして、学園生はあらゆる外部機関からの介入を退ける事が出来ます」

 俺が学園に入学をする時には最大のネックであり、一夏の身柄を守るには最も有効と思える規則たて

 「特記事項第二一……!」

 一夏は俺の言葉の意図するところに気付いたようで、今までの厳しいものとは別の視線を送る。

 「それじゃああたしはここで。成り行きで聞きましたけど、部外者のあたしはあまり首をつっこまないほうがいいでしょうし」

 そのまま部屋のドアを開けて部屋を出て行く前に、振り返ってシャルルに向かってどうしてもいいたかった事を言う。

 「これだけ言っておきます。もしあなたが間違った事をしようしたらぶん殴ってでも止めます。そして、それで反省したら笑って許します……そういうのが、親友ってものでしょ?」

 シャルルの反応を見ずに俺はそのまま自分の部屋に戻る。
 とりあえず、シャルルには悪いが事のあらまし……少なくともデュノア社の狙いとシャルルがそれに反目していると言う事だけは伝えさせてもらう。
 大分長い時間一夏の部屋に居たのだが、設子はまだ戻ってないようだった。俺はこれ幸いにと自分のベットに潜り込んで、自分のさっきふと出た台詞の臭さに設子がもどってくるまで悶絶して過ごした。



 次の日、教室に出向くと教室内はとある噂で持ちきりだった。いわく、月末の学園トーナメントで優勝した者は織斑一夏と交際できる。というもの。
 一体何処からそんなわけのわからん噂が出てきたのかと考えてみれば、先月箒が廊下で大声でそんな事を言っていたのを思い出して自分の席に居る箒の様子を窺えば、ぱっと見平常心を保っているようだが、目はものすごく泳いでいた。



 放課後になり俺は足早にアリーナへ向かう。
 先日SHE社に行った際にSHE社製の新しい装備を受領していたものの、一向に正体のつかめないシャルルのこともあってそれどころじゃなかったのだが、昨晩その問題も一応の片が付いたので放課後になって早々にアリーナへ向かう。

 「まさか第三アリーナ以外何処もいっぱいだったとは……」

 自分の迂闊さを呪いながら黒百を起動させて第三アリーナのピットからアリーナへ出ると、そこには見知った人物たち――ぶっちゃけ鈴とセシリアが二人掛りでラウラ相手にバトルをおっぱじめている。

 「ちょ、鈴さんにセシリアさん、なにやってるんですか!?」
 「なにって、この陰険眼帯を――」
 「ブチのめすのですわ!!」

 事情はわからないが鈴音もセシリアも相当殺気立っているのがその台詞だけで手に取るようにわかる。
 しかし、そんな二人を嘲笑うかのようにラウラは二対一の状況にもかかわらず二人を圧倒している。

 「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」

 ラウラが右手を突き出すと鈴の放った衝撃砲の弾丸は掻き消え、セシリアのビットは空中で突如動きを止める。

 「あれは……」

 俺のハイパーセンサーがラウラが手を掲げる先に発生するエネルギー場を検知する。
 黒百の中にあるデーターベースに照会させると結果はすぐに現われた。
 その正体は Active Inertial Canceler 慣性停止能力――頭文字をとってAICと呼ばれるISの制動制御を行うPICを発展させた第三世代兵器。
 AIC内における物質の運動エネルギーは尽く失われる。大気に圧力をかけ指向性を持たせた運動エネルギーを放つ衝撃砲の弾を打ち消したのも、周囲を飛び回るビットの動きを止めたのもこれの為だろう。
 鈴音はラウラの両腕のプラズマブレードと両肩両腰部に備えられたワイヤーブレードの計八方向からの連撃に押されながら、至近距離で叩き込もうと衝撃砲を起動させる。

 「くっ!」
 「甘いな。この状況でウェイトのある空間圧兵器を使うとは」

 その言葉どおり、衝撃砲の砲弾が放たれるよりも前にラウラからの砲撃が肩アーマーを吹き飛ばす。

 「もらった」
 「させませんわ!」

 吹き飛ばされた衝撃で姿勢を崩す鈴音に止めを刺そうと突き出したプラズマブレードを、セシリアがスターライトmkⅢを楯に割り込む。
 さらに腰のミサイルビットから至近距離での直接砲撃。
 轟音と共に吹き荒れる爆風に撃ったセシリア自身、鈴音と共に地面へ叩きつけられる。

 「無茶苦茶するわね、アンタ……」
 「苦情は後で。けれど、これなら確実にダメージが――」

 これまでの戦闘のダメージを含め互いにボロボロの状態だが、今の爆発の直撃を受け無事であるはずがない――そう思っていた二人だが、煙が晴れたそこには無傷とまではいかないがダメージを感じさせない出で立ちでなおも中にたたずむラウラの姿を見て言葉緒失う。
 十中八九、AICで爆発のエネルギーを殺したのだろう。

 「終わりか?ならば――私の番だ」

 言うと同時に瞬間加速で鈴音へ肉薄し蹴り飛ばすと、セシリアへの至近距離からの実弾砲撃によって鈴音と同じ方向へ吹き飛し、二人をまとめてワイヤーブレードで拘束する。
 更に拳を構えワイヤーを引き戻――そうとしたところで、間に飛んで割って入ってきた『それ』を避ける為にワイヤーを解き大きく二人から離れる。

 「貴様、昨日といい今日といい――」

 ラウラが忌々しげに『それ』が飛んできた方向へ視線を向ける。
 その相手は、これ以上の戦闘はまずいと判断してISのパワーに任せてオーバースローの全力投球で天石を投げつけたこの俺。
 ラウラに避けられ、俺から大きく離れた事によって量子化された天石を左腕に再展開して俺は言う。

 「それまでだ。勝負はもう付いたはずだ」
 「ちょ、なに勝手なこと言ってるのよ!」
 「そうですわ、これから私達の逆転劇が始まるのですわよ」
 「大口を叩くのは、自力で立ってからにしてください」
 「「うっ……」」

 ラウラに言ったのに真っ先に反応してきた互いに身体を支えながらようやく起き上がった鈴音とセシリアを黙らせ、「それだけ喋る元気があるなら大人しくピットに戻ってください」と伝え右手には日曜に受領した大型ハンドガン状のSHE製カートリッジ式キセノンリアクター『ゼノン・スターター』を展開する。

 「ふん。そのような防御特化の重鈍な機体でこのシュヴァルツェア・レーゲンを相手に出来ると思っているのか?」
 「そちらこそ、その程度の兵装で黒百の装甲を抜けられるとは思わない事ですよ」

 挑発の応酬に、元々昨日と今日続けて水を差した相手である俺にラウラは完全に狙いを移す。
 鈴音たちからとりあえず注意を逸らすのには成功したかと、心の中で胸をなでおろす。

 「素人に毛が生えた程度の腕前で粋がるな!」

 ラウラの叫びと共に向けられてくる肩の大型レールキャノンの砲口から逃げるように急上昇し、俺もゼノン・スターターの銃口を向ける。
 しかしラウラは俺が予測していたよりも早く狙いを付け直し、放たれたレールガンの砲弾こそ天石で防ぐが予想以上に強い衝撃によってこちらの照準がずれゼノン・スターターから放たれるプラズマ火球が砲撃後即座に瞬間加速で接近してくるラウラの脇を突き抜け地面を大きく抉る。

 「このっ!」

 即座にゼノン・スターターを拡散モードで放つがあっさり回避されてしまい、お返しにと両肩から放たれたワイヤーブレードを天石の面積の広さを用いてまとめて防ぐ。
 しかしラウラは更に両腰のワイヤーブレードと両腕のプラズマブレードで更に攻め立ててくる。
 ワイヤーブレードとプラズマブレードの猛攻をプラズマコーティングを施した天石で、下から迫るものはシールド兼用のサイドスカートアーマーで、更にその間を縫ってくるワイヤーブレードはブレードモードにしたゼノン・スターターと黒百本体の装甲の厚い箇所で防ぎ、払う。
 格闘戦に秀でた鈴音を追い詰めたコンビネーションを同様に下がりながら受けつつも、ぶっちゃけ先ほどラウラが指摘した通り黒百は基本的に攻撃手段に乏しい。が、ところがぎっちょん「あの」SHE社が作ったのが多目的銃だけである筈が無い。
 俺はゼノン・スターターの代わりに今日の本来の目的であった新装備その2を展開し、右腕を大きく振るう。

 「なに!?」

 ラウラにとって左側のワイヤーブレードが三基とも動きを止める。否、新に呼び出した武器がワイヤーブレードを絡め取ったのだ。
 ――多次元照準ブレードデバイス『殺衣』。
 右手首に展開したリング状のパーツから伸びる単分子ワイヤーブレードを芯に、極薄の結晶物質でコーティングされ励起状態で黒から緑色に変色した二本のリボンが、軌道演算プログラム『ラプラスデーモンVerⅡ』とイメージ・インターフェイスによってほぼ操縦者の意志通りに動く、後付型第三世代兵器。流石SHE社、技術力のブレイクスルーっぷりがぱない。
 根元の部分でそれぞれワイヤーを絡め取っている殺衣に更に指令を送る。
 するとラプラスデーモンで最適化された軌道によって、捲きつけていた場所より先の部分が鎌首を上げ今度は向かって左へ。
 殺衣の登場にラウラの動きが一瞬鈍りながらも、特に脅威は無いとしてかまわず振るう右のワイヤーブレードにタイミングを合わせ殺衣で三本ともワイヤーを切断する。

 「な、……ちっ!」

 従来の兵器ではありえない軌道を見せる殺衣に驚きを露にしながらも、予め装填してあったのだろう発射態勢に移る肩のレールキャノンの砲口に天石を合わせ、ワイヤーブレードに捲きつけていた殺衣を解いて着弾の衝撃をそのまま利用して距離をとる。

 「これでお得意の連続攻撃は封じました、もう片方も切り落としてあげますよ!」

 励起状態の二本の殺衣を前に突き出すように二本並べて幅広のブレードのようにして構え、今度は俺の方からラウラへと接近する。

 「馬鹿正直に前から突っ込んできて――そんなに停止結界の餌食になりたいようだな!」

 ラウラが右腕を差し出すのにあわせて天石を向き合わせる。普通だったら身体よりも大きい天石を向けるのはAIC相手には的を大きくするだけなのだが――

 「AICだって突き詰めればただのエネルギー波。ならば逆位相の波をぶつけてやれば!」

 進路上に発生させられたAICの力場に、天石の表面に展開された逆位相のエネルギー波がぶつかり相殺され、俺は遮られる事はない。
 AICを展開するために動きを止めていたラウラは慌てて離れようとし砲撃してくるが、天石でまとめて受け止め、殺衣を伸ばし足に捲きつけ先ほどラウラが鈴音にやったように振り子の原理で地面へと投げつける。
 ISのパワーで地面に叩きつけられる直前にラウラは急制動で地面への直撃を回避するものの、それによって一時的に止まった動きを見逃さず、ゼノン・スターターのキセノンカートリッジを入れ替えて全てのエネルギーを銃口の先に螺旋状に形成し、距離を詰めて突きつけるが持ち前の機動力で紙一重で避け距離をとる。
 舞台は空中から地上に移ったものの俺はあえて追撃はせず、むしろ構えていた両腕を下ろす。

 「さて、タイムアップのようですね」
 「どういうつもりだ?」

 真意を測りきれずに未だ臨戦態勢のラウラに、今しがたアリーナへ入ってきた人物へ顔を向け見ろとジェスチャーする。

 「な、教官」

 そこにはスーツ姿でIS用の近接実体ブレードを肩に担いだ千冬と、その後ろからまるで家臣かのようについてくる無手ではあるがISを展開した一夏とシャルル、そして生身の設子と箒の姿も。

 「真田達から話は聞いた――模擬戦をするのはかまわん。多少の怪我もISを扱うに当たって避けられない事だ、大目に見よう。だが、学園のアリーナは貴様達のものだけではない。他の生徒からも苦情が入っている。これ以上の戦闘は黙認しかねる」

 元々今日は使用人数が少なかった第三アリーナであるが、俺とラウラの戦闘は周りを気にすることなくかなり広範囲で行っていたから、苦情の一つも来るだろう。特に天石で弾いた流れ弾とか、ラウラに避けられたプラズマ火球とか……あれ?もしかしてかなり俺が悪い?

 「今回のペナルティとして山田とボーデヴィッヒは学年別トーナメントまで一切の私闘を禁ずる。決着を付けたいのならば、トーナメントでつけることだな」
 「教官がそう仰るなら」

 千冬の言葉に素直に頷いたラウラはそのままISを解除。
 お前はどうなんだ?と鋭い視線を受けてくる千冬に首肯して、俺もISを解除する。

 「よし、では解散しろ!」

 パンッ!と強く響いた文字通り手打ちの音が、アリーナ内に響いた。



 ―あとがき
 大分間が空いて申し訳ありません。すべては第二次Zとアルケミマイスターと大帝国がわるいんです……ごめんなさい、本当は三回くらい書き直ししたせいもあります。
 今回のサブタイにあたって「組織力ちからわざ」という案もありました。主にシャルルの身元割れイベント的に。というか、アイギスなら一企業の小細工くらいなら暴いてしまうであろうと言う過大評価。
 そして書き直しの最大の要因戦闘シーン。
 本編じゃあまり目立った機能ではないので明言してませんが、黒百の解析能力は他のISに比べて秀でています。相手の手札をより正確に理解して、効果的な防御手段をとる、的な理由で。まぁ、今回は対応システムが搭載されていたのでなお更――おっと、口が滑った。(何
 AICの中和に関しては独自設定。一応原作ではエネルギーで空間に作用を与えるものと書かれているので、そっからの妄想。
 書き直しの原因その2.SHE社製後付装備――多くは語るまい。ただ、やりすぎて書いてる途中でISモノじゃなくなったんだ。



[26504] 第十話「どっちにしろ俺が死ぬ」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/05/18 03:33
千冬の仲裁の後、俺たちはセシリアと鈴音が治療を受けているという保健室へ向かう。

 「二人とも、大丈夫でしたか?」

 ベッドの上の二人は所々包帯が巻かれている。

 「大した事無いわ。ちょっとした打ち身程度よ」
 「そうですわ。それに、あのまま続けていても勝っていました」

 どう考えてもただの強がりなのだが一夏の前では格好付けたいのだろし、あまり追求してはかわいそうなので黙っておく。

 「そういえば、やけにタイミングよく全員来ましたけど」
 「あの、実はわたくしたち観客席でラウラさまとの戦いを見ていたんです」

 セシリアと鈴音の肩がビクンと震える。きっと傷が痛んだんだな、そういうことにしておこう。
 設子が言うにはどうやら俺がアリーナに出て鈴音たちの戦いを見ていたのと同じようなタイミングで、設子たちはアリーナの客席側からあの戦いを見ていたらしい。
 そして、俺が割り込んだことで退避したセシリアと鈴音を保健室へ連れて行き、職員室にいた位置冬を引っ張ってきたのが事の次第らしい。
 
 「そうだったんですか。まあ、あたしはおかげで助かりましたけど」
 「助かったって……俺は最初と最後の方をチラッと見ただけだけど、結構いい勝負してたんじゃないか?」
 「まさか。最初のうちは防御特化の黒百で守りに徹してたから、最後の方はただの奇策がうまくいっていただけですよ。ラウラさんは二度目が通用する相手じゃないですよ」

 元々俺自身攻撃が下手と言うのもあるし、ラウラがAICを破られたショックで一時的に思考が止まっていたからこそ地面にまで引き摺り下ろせたのだ。
 あのまま続けても、最終的に捌ききれなかった攻撃によってエネルギー切れを起こすのが関の山だろう。

 「まあそんな事より、あたしとしてはセシリアさんと鈴さんが無事だったのなら、それでいいんですけどね」
 「「へぁ!?」」
 安心させるように笑いかけると、なにやら変な声を上げる二人。

 「……?」

 一体なんなのだろうと首をかしげていると、廊下の方から地鳴りと言うか地響きと言うか、バッファローの群がこちらへ向かってきた時と似たような……と思考を巡らせていると保健室の扉が勢いよく開き、大量の女子生徒が押しかけてくる――一夏とシャルルの元へ。

 「織斑君!」
 「デュノア君!!」
 「「「「「これ!!」」」」」

 押しかけた女子達は一夏とシャルルを取り囲むと一枚の用紙を突きつける。

 「えっと、なになに――『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組みでの参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」

 と途中まで一夏が読み上げたのを遮って女子達は二人にこう告げる。
 
 「私と組もう、織斑君!」
 「私と組んで、デュノア君!」

 一斉に下を向いて手を差し出す光景は、テレビ番組の告白企画の物に似ている。
 と、蚊帳の外の俺は暢気に眺めているが当の一夏とシャルルは困惑の表情を浮かべている。
 特にシャルルは実は女という事情を鑑みると、ペアを組むと言う事は常時より必要以上に接触の機会が多くなり、それによって性別がばれる危険性も格段に上がる。
 普段はニブいくせにいち早くシャルルが危惧している事に気付いたらしい一夏は、女子達の波を掻き分ける様に手を上へ伸ばし宣言する。

 「悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれ」

 きっぱりと宣言したのがよかったのだろう、詰め寄っていた女子たちも口々に 「まぁ、そういうことなら……」「他の女子と組まれるよりはいいし……」「やっぱ刀一本の織斑君が攻めよね……」と言って波が引いていったかのように各々保健室から出て行く。あと、最後の奴は要注意人物として顔は覚えたぞ。
 とりあえず一段落着いた……と思いきや、ベドの上の怪我人二人が締め上げんばかりに一夏に詰め寄る。
 
 「一夏っ!」
 「一夏さんっ!」
 「あ、あたしと組みなさいよ!幼馴染でしょうが!」
 「いえ、クラスメイトとしてここはわたくしと!」

 なんともまぁ元気な事で……欲望に忠実すぎるな、この二人。なんでここまでのバイタリティがあるのに一夏に真っ向から告白しないのか不思議でしょうがない。

 「残念ですが、それは認められません」

 そういって割って入ってきたのは山田先生。

 「な、なんでですか!?」

 とはいえそんな一言で引く二人でもなく、噛み付く鈴音にセシリアも横で首を縦に振って同意する。

 「おふたりのISの状態を先ほどチェックしてきましたが、ダメージレベルはぎりぎりB。後一撃大きいのを貰っていたのなら、ダメージレベルはCを超えていましたと思います。ただ、幸いトーナメントまでは後二週間ありますから、こちらの見立てでは修復に専念すればトーナメント自体には出られるでしょう」
 「それでしたら!」

 今度はセシリアの食い下がる声に山田先生は小さく首を振る。

 「とはいえこちらが許可を下ろすまではIS起動は大事をとって禁止します。またそれに伴い、特例として原則凰鈴音、セシリア・オルコット両名はトーナメントのペアの事前申請は両名でのペアのみ許可する」

 山田先生の普段とは違う、まるで指令書をそのまま読み上げたような口調は不思議と有無を言わせない雰囲気を漂わせるが、言われた方ははなから言って素直に聞くタイプでもなく、どういうことかと視線と態度でこれでもかと言うほどアピールしている。
 そんな二人に、あまり押しの強くない山田先生が助けを求めるようにこっちを向いてくる。
いや、教員がそれじゃダメだろ。と思いつつも、このままでは山田先生が可哀想過ぎるので助け舟を出す事にする。

 「要するに、どうせ試合までIS動かせないのに無理に組んで、二週間組んだ相手を遊ばせておくわけにはいかないから、出場するのならペアが決まらなかった人と同条件……それが嫌ならお互いが組む分には許可する。ってことですよね?」

 と言って山田先生の方を向くと、その通りだとばかりに何度も頭を上下させる。
 忌憚の無い俺の言い様にさしもの二人も今度こそ口を閉ざしてしまう。
 というか、目に見えてがっくり項垂れている二人を見て流石に罪悪感が湧いてくる。

 「そ、そういえば何で二人はラウラとバトルしようとしたんだ?」

 そんな場の空気を感じ取った一夏が場の空気を換えようとした発言だが……うん、多分おそらくだが確実に話題を間違っていると思うんだ。
 案の定慌て出す二人の様子を見て聡いシャルルは事の起こりに気付いたようで、自分の予測を口に出そうとしたところで二人に口を押さえて取り押さえられる。
意外と元気そうだな、二人とも。



 ――「後で部屋に一人で来てくれないかな?」

 あの後保健室を出て解散する間際にシャルルに耳打ちされた言葉に、こっそり聞こえていたらしい箒が顔を真っ赤にしてこちらをガン見していた姿に頭を抱えながら、俺は言われたとおりにシャルル……と一夏の部屋の扉をノックする。

 「いらっしゃい……きてくれてありがとう、妙子」

 向かい入れてくれたシャルルに促されて中に入ると、一夏の姿は無い。いわく、また騒ぎになる前に早々に職員室にペア申請の書類を提出に行ったらしい。
 もっとも、一夏にそんな機転の利いた事ができるはずもなくシャルルの助言があったからこそで、あいつに任せていたらもう一回くらい騒ぎが起きていた事は想像に難くない。

 「それであたしを呼んだのは……昨日のことですね?」
 「うん、そう。学校じゃなかなか話せる事じゃないからね」

 微苦笑し、シャルルは椅子に座って向き合う俺に対して改めて居住まいを正すと訥々と、俺が昨夜この部屋を出て行ってからのことを話し出す。
 どうやら一夏は上手くやったらしい。

 「それと、昨日はありがとう。妙子の言葉、嬉しかったよ」
 「え?」

 急な感謝の言葉に首をかしげる。そんな喜ばれるような事言ったっけ?

 「ほら、あんなこと話した後でも僕のこと親友って言ってくれたでしょ?秘密を持っていた僕を笑って許してくれるって、親友って呼んでくれる人ができるなんて、ここに来る前は思っても見なかったから」

 本当に嬉しかったんだ。と、儚げな笑みを浮かべ年頃の少女のように……いや、これこそがシャルルの――否、シャルロット・デュノアの本来の姿なのだろう。
 だが止めてくれ。俺にそんな風に感謝しないでくれ。昨日の事は思い出させるな、恥死する。あと、そういう表情は一夏に向けてくれ。設子に撃ち殺される……どっちにしろ俺が死ぬ。
 ……という冗談は置いといて。
 シャルル、お前は俺に感謝する必要なんかない。俺は、遠からずお前の信頼を裏切りアイギスへ全てを報告するだろう。現に昨夜設子には、りおからの報告とシャルルがデュノア社から受けた命令の内容とシャルル自らそれを放棄した事を告げたが、察しのいい設子ならもうカラクリに気付いたろうしアイギスの方でも調査は進んでいるはずだしな。
 甘えるのなら、一夏にしておけ。



 あれから二週間、良くも悪くも何事も無く学年別トーナメント当日。
 結局鈴音とセシリアは抽選になって知らない奴と組むよりかはマシ……というか、自分達の誘いを袖にした一夏をボッコボコにしてやろうということで、二人で組む事になった。
 なんだ、俺は一体どうすればよかったんだ?抽選になれとでも言うのか?と一夏がぼやいていたのは二人には告げてない。一夏の生命の安全の為に。うん、俺ガードの仕事を立派に果たしているな。
 俺は当然、ラファール・リヴァイヴを駆る設子と組み、一番の大穴はペアが決まっていなかった箒と、ペアなんかさらさら組む気が無かったラウラが唯一の抽選組みとしてペアを組んだ事。
 言っちゃあなんだが、箒は社交性ないからなぁ……誰だ、グーグル先生に「箒は」で調べようとした奴。束に殺されるぞ。まぁ、社交性が無い遠因は束にありそうだけど。
 で、社交性は無いけど引き金ならぬ鯉口がゆるい以外は概ね常識的な箒はラウラの方へ行ったが、帰ってこない。

 「それにしても、あっついわねー」
 「神道を滅殺すれば、火もまた涼し。ですわ」

 ベンチに座り、普段は猫科のような凛とした居住まいの鈴音も今は暑さで萎びており、その横のセシリアもボーっと天井から下がるアリーナの様子を映しているモニターを見上げている。
 というか何処の宗教狩りだ、それは。とは思うが、明らかに収容人数をオーバーしている更衣室は冷房がガンガンに利いているのにもかかわらず温度と湿度はうなぎ登りで、俺も正直突っ込む気力も無い。
 ある意味既存の衣類としては最も快適なインナーであるはずのISスーツ一丁の状態でも、梅雨の時期というのも相俟って不快指数はとっくにカンスト。特に東アジア圏外からの留学生組は概ね更衣室にいる時点で既にグロッキーだ。

 「……妙子さま、あとは……よろ、しくおねがい、しますわ………」
 「ちょ、設子さーん!?」

 特に設子がヤバイ、さっきから目が虚ろだ。

 「っ。皆さま、対戦表が決まったようですわよ」

 とセシリアが声を上げる。
 システム的に伸びに伸びていたトーナメント表。それがついにさっきまでアリーナの様子を映していたモニターに表示される。
 
 「なっ」
 「へぇ」
 「あら」
 「まぁ」

 トーナメント表を見て俺、鈴音、セシリア、設子と四者四様に声をあげる。

 『Bブロック・一回戦第一組
  セシリア・オルコット 凰鈴音ペア 対 真田設子 山田妙子ペア』




 「何でわざわざ第一試合なのよ……」
 「そうですわ、コレはきっと何かの陰謀ですわ……」

 第二アリーナでのBブロック第一試合。
 ISを起動し、アリーナの地上で試合の開始のアラームを待つ間、鈴音とセシリアは止まない愚痴をこぼしている。
 その理由は一夏の試合が、奇しくもAブロックの第一試合だからである。
 要するに、一夏の応援を受ける事もなければ、一夏を応援する事もできない。
 二人のテンションが下がるには十二分の理由だった。

 「とはいえ、専用機持ちを第一試合に集中させるってのも、確かに作為くさいですけどねぇ」

 そんな二人と対面して同意しながら、対戦表に書かれた一夏たちの対戦ペアを思い出す。
 まさか、箒とラウラのペアと一回戦に当たるとなるとは……元々ラウラ本人が一夏に対して強い敵愾心を持っているのは周知の事実であり、俺自身少なからず巻き込まれていると言う事もあり確かにAブロックの試合は気になるが、それはそれ。
事前に設子と話し合った結果、この急なトーナメントのタッグマッチ化は実戦を想定したものだと言うのが俺たちの共通見解だ。そしてその原因はおそらく五月にあった乱入事件。
 ああいった事態に対しての――特に専用機持ちたちの自衛能力の強化が今回の目的なのだろう。
 なら、せっかくならば本当のタッグマッチと言うのを教えてやろう――鈴音とセシリアとの対戦が決まった際、珍しく設子がそう提案してきた。きっと不快指数が高く、イラついていたのが原因だろう。
 だが、俺としても俺と設子のペアが負けるという事態は、それが例え第三世代の専用機二人相手だとしても面白くないというのは事実だ。
 ならばやる事は簡単。偶然にもAブロックと同じ専用機×2VS専用機&訓練機の戦いだ。向こうはどうなるかわからないが……俺たちは勝つぞ。



 -あとがき
 どうも、今期のフェイバリットアニメは、TIGER&BUNNYとDOG DAYSの利怜です。何故言ったし。
 まさかの戦闘シーン寸止め。いや、元々一話に収めるつもりだったのだけど、長すぎる+二巻分完結させたいので分割。
 次回の戦闘シーンは試験的に三人称視点で書いてみます。次の投稿は、週末までにできる……はず。
 



[26504] 第十一話「タッグマッチ」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/05/23 02:04
 試合開始のカウントが0になると同時に、F1のスタートシグナルのような音が響き、両ペア共に動き出す。

 「いくわよぉ!」

 連結状態の双天牙月を構え気合と共に距離を詰める鈴音を影にする形で、セシリアはビームタイプのブルー・ティアーズを四機全て射出。
 近接格闘タイプアタッカーの甲龍と中距離射撃タイプガンナーのブルー・ティアーズというある意味最もスタンダードなフォーメーション。
 鈴音の絶え間無い連戟を修史は天石で受け止める。
 その二人の周囲を旋回するビットを上空に飛び上がった設子が両手に展開したアサルトライフル牽制し、その動きをスターライトmkⅢでセシリアが制する。

 「……あんた、なんでセシリアの攻撃に反応しないのよ」

 双天牙月と天石で鍔迫り合い状態になると、鈴音が修史に疑問を投げかける。
 そう、修史は周囲を飛び回り、時に発射態勢をとるビットに反応らしい反応を取らない。ハイパーセンサーによって拡張された視覚はそれを捕らえているのにも関わらずに、だ。

 「それは……あたしが一人で戦っているわけじゃないからですよ!」

 実際、ビットからの砲撃はセシリアの狙撃をかいくぐり、もしくはラファール・リヴァイヴに取り付けられているシールドで防いだ設子によって全て阻まれ、一度も放たれる事は無かった。
 そして修史の叫びと共に、鈴音のハイパーセンサーからアラートが放たれる。

 『上空より接敵――警告、ロックオン確認』


 セシリアの狙撃によって動きを制限されていた設子だったが、修史が鈴音を鍔迫り合いに持ち込みその動きを止めるのを見るや否や、修史の援護に入ろうと二人に近づこうとする設子にセシリアは冷静に二人から離れるように狙い撃ち、設子の動きを誘導させる……そう、設子の狙った方向へ。

 「……しまっ――!」

 そのことに気付いて声を上げた時には時既に遅くライフルの射線に誘導された結果、狙撃に集中しすぎて制御がおざなりになった修史達の真上で狙いを定めていたビットのすぐ近くまで移動した設子は、問答無用で手に持ったアサルトライフルでブルー・ティアーズを一機沈黙させる。
 穴の開いたブルー・ティアーズの包囲網を突破し、設子は上空から二丁のライフルを構え鈴音との距離を詰める。
 鳴り響く警告音に鈴音は目を向けず、ISが送り込んでくるデータと己の勘のみで迫り来る弾丸を修史から大きく距離をとることで避け、置き土産といわんばかりに衝撃砲を設子に向かって放つが苦し紛れの砲撃はあっさり避けられる。

 「ちょっと、アンタせっかくのチャンスに何してんのよ!?」
 「あなたこそ、とっと衝撃砲を撃てばよかったものを!」

 二人の従来の作戦は鈴音が格闘戦で修史の動きを止めその間にセシリアがビットで、もしくはその砲撃を無理に避けようとして生まれた隙を突いてガードの固い黒百を早々に機能停止に追い込む予定だったのだが、それは模擬戦からの経験上あまり積極的に攻めの姿勢には出ず、十分に御せる相手とした設子の予想外の反撃に阻まれた。
 だが、それ以上に二人は以前の授業で教師相手とはいえ二人掛でなお連携とも言えない戦いで敗北し、次に即興とはいえラウラ・ボーデヴィッヒ相手に負けたとはいえ互いをフォローするという形でそれなりのコンビネーションを見せた二人は、コンビを組んでからISを用いた訓練ができない分コンビネーションのパターンとそれに伴う戦術の構築に腐心してきた。しかし、だからこそ作戦を遵守するあまり二人は臨機応変さに欠けた。
 故に、セシリアは設子にかまわずビットで狙撃していれば、鈴音はセシリアの狙撃を待たずに衝撃砲を放っていれば、幾ばかのダメージを負おうとも修史に大きなダメージを与える最大のチャンスを逃した。

 「さて、次はあたしたちの番ですよ?」

 修史がそう宣言すると二人は揃ってセシリアと鈴音に迫る。

 『セシリア、プランC!』
 『わかってますわ!』

 プランC、最初の作戦で修史に致命傷を負わせられなかった場合、次に狙うのは訓練機である設子を突破力のある鈴音の甲龍による各個撃破。
 奇しくもAブロックと同じ戦局となるがセシリアと鈴音は、端的に言うなれば相手が悪かった。
 セシリアが修史を設子から離す為、三機のビットとライフルで正面左右上からの四点斉射。いかにエネルギー攻撃を無効化する天石を持つ黒百でも、多方向からの射撃をかわしきるには大きくルートを変更しなければならない。

 「殺衣!」

 だがそれすらも承知の上で速度を落とさず、修史はイメージだけで展開できる殺衣を声に出すことによって右腕に、バングルのように二基同時に呼び出す。
 計四本の殺衣。修史の技量では自在に操るのは二本が限界なのだが、SHE社によって搭載されたプログラムに動作を全て託す事によって、斬撃軌道の多様性は無くなるものの修史ではできなかった殺衣本来の複雑な機動を再現できるようになる。

 『殺衣、モーションエミュレータ起動ラン
  パターンプログラム、決定セレクト。コールネーム「我は何を知るか?ク・セ・ジュ展開リバレート

  殺衣・イージスモード   』

 ハイパーセンサーに起動文が表示されるや、四本の殺衣は予めインプットされていた通りに、複雑に動き出す。
 四本の殺衣が格子状に組み合わさり、一枚の楯となる。
 セシリアは殺衣がもう一つの楯になった事に驚くが、それでも冷静にライフルを構え指先と頭の中のビットのトリガーとを引く。
 正面からの牽制、次に足止めの左右からの砲撃、そして最後に頭上からの本命。順番に微妙にタイミングをずらし、回避する方向にあわせて誤差を修正しながらそれぞれの砲口からレーザーが放たれる。
 だが修史はまず正面から来る一射目を両足を前に大きく振り反作用で減速しながら、サマーソルトの要領で頭部を中心に身体を前に大きく逸らす事によってレーザーを背面から見送る。そして左右の足止め用のレーザーをサマーソルトの回転はそのままに左腕のプラズマコーティングを施した天石で、右手の電磁防循を張ったイージスモードの殺衣でそれぞれ受け止める。更に上空から狙う最後の一発がISの反重力制御の重心を予めわざとずらしておくことで、セシリアが狙った場所より僅かにズレた軸線によって、鼻先掠めるようにちょうど逆さになった修史の頭上を抜けていく。

 「うそっ、一発も当たりませんの!?」

 修史の元々持っていた弾丸に対しての人間離れした察知能力とハイパーセンサーによって強化された五感が、ISの重力を無視した機動による変態じみた回避を実現させたのだ。
 そして驚愕するセシリアへ修史に釘付けになっていたビットを尻目に設子が肉薄する。

 「飛んで火に入る夏の虫ってね」

 しかしそこに割って入った鈴音が衝撃砲を放つ。
 衝撃砲を避けるために突撃を遮られた設子に鈴音は作戦通りに双天牙月を分離した状態で迫る。

 「っ!」

 それに迎え撃つ為に設子は両手のアサルトライフルを手放し、収納するよりも早く二本の近接用ショートダガーを展開する。

 「そんなのじゃ止められないわよ!」

 ショートダガーより広い間合いの双天牙月と、ラファール・リヴァイヴよりパワーのある甲龍。その決定的な差をもって鈴音はかまわず両手の双天牙月で左右から挟みこむように振るうが、設子はそれを高度を落としながらしゃがみこむ事によって避ける。

 「なんのっ」

 設子に避けられた事によって交差状態になった両腕を返す刀で再度斬り付ける。

 「――そこっ」

 腕が開き切っ先が迫りながら二本の刃の根元が交差するその時、設子が左手に持っていたダガーを刃の交差点に突き入れる。
 ガキィッ!と鈍い音を立て三本の刃が噛み合い、双天牙月が動きを止める。

 「なっ!?」

 曲芸じみた絶技に驚き声を上げ、噛み合った刃を外すために腕の力を緩めたところに設子の蹴りと右手のダガーが続けざまに振るわれる。
 引こうとする鈴音を左手で突き立てたダガーを押し込むことで更に距離を詰め、零距離と言う近すぎる間合いでは衝撃砲を撃つ事もできず、逆に設子の絶え間なく振るわれるショートダガーによってシールドエネルギーは確実に削られていく。
 設子に喰い付かれた鈴音を援護する為にセシリアがビットとライフルで設子を狙おうとするが、振り切ろうとする鈴音と離すまいとする設子の二人は代わる代わる互いの位置を変え、まともに狙いを付けられず、鈴音に当たらないように撃てたとしても天石を構えた修史がそれを悉く阻み、殺衣の代わりに呼び出したゼノン・スターターの銃撃で逆にビットを狙い、遂には一機撃ち落されてしまう。

 「いいかげん、はなれなさいよ!」

 引く事では振り切れないと悟った鈴音は、甲龍のパワーに任せて強引に設子を押しのける。
 パワータイプの専用機、加えて言うならば第三世代の甲龍の力任せの動きに訓練機であるラファール・リヴァイヴが耐えられるはずも無く、地上付近まで自ら下がる事で反動を抑えながらも殺しきれない隙を狙い衝撃砲を放つが、それまでセシリアを牽制していた修史が素早く割ってはいる。

 「そう何度も素直に受け止めさせないわよ!」

 しかし、修史のフォローを読んでいた鈴音は設子に向けて放ったのとは逆の既に発射態勢を整えていた衝撃砲を放ち、それから左右交互に撃ち続ける。
 いかに高い防御力を誇る天石と言いえども、この連続砲撃には耐えられまい。一通り撃ち終え、衝撃砲の圧縮弾の余波で舞った砂塵が晴れるのを待つ。

 「コレで無傷でしたのなら、少々引きますわ……」

 残り二機となったレーザータイプのビットを随伴させながら、土煙を中心に鈴音と対角線上で衝撃砲から逃れようと土煙から出て来たところを狙う為、ライフルを構えていたセシリアが晴れていく土煙に隙無く銃口を向けながらそう呟く。

 「引くって、いくらなんでも酷すぎやしません?」

 しかしその予想を裏切り、姿を現したのは天石にすら一切のダメージ痕を残すことなく、設子を背に庇い立っている修史の姿。
 再三にわたる想定外の事態に、いっそ吹っ切れたセシリアと鈴音の二人は驚きつつも原因を考えるよりも先にそれぞれすぐさま砲撃を再開するが修史は鈴音に、設子はセシリアに向かって飛び立ち回避する。
 鈴音は接近する修史を正面から左右交互に放たれる衝撃砲の連射で迎え撃つが、修史は天石で受け止めると速度を落とすことなく依然と突き進む。

 「なんで!?」

 そのことに吹っ切れたつもりだった鈴音も声を上げる。本来であれば、衝撃砲はその名の通り衝撃波そのものをぶつける事によって相手のガードの上からでもその衝撃は伝わり、今の修史のようにそれをものともしない接近は本来ありえない事のはずなのである。
 遂には近接レンジに持ち込まれた鈴音は連結状態の双天牙月を得意の回転運動を用いた連撃でブレードモードのゼノン・スターターを切り払うと、続けざまにボディを狙うが天石で防ぐ修史。
 だが、一度防がれた程度では双天牙月の連撃は止まらない。更に回転速度を上げ、防がれるのもかまわず再び天石へと打ち付けられるそれは、本人の意図に反し天石に当たるとその動きを止める。
 それどころか振るった鈴音には天石に当たった感触すら与えずに、まるで運動エネルギーそのものが天石に触れた瞬間かき消されたかのような……そんなデジャヴを感じている鈴音に修史がかまわずゼノン・スターターを突き出し、身体を逸らして避けようとするものの修史の狙い違わず左肩のアンロック・ユニットへゼノン・スターターが突き刺さる。

 「くうぅ」

 プラズマで出来た刀身によって内部機関が小爆破を起こすショルダーアーマーをISが安全の為自動的にパージするのを強制的に中断させ、射出する方向を調整し修史に向けてパージさせてぶつける。
 流石の修史も防ぐ事ができずぶつかった反動で二人に距離が開く。
 そこへ鈴音はもう一度回転連檄を繰り出す。自分が仮定した天石の機能を確かめる為に。

 「やぁぁあああ!」

 気合と共に天石に叩きつけられる双天牙月は天石に触れた瞬間動きを止め、力を篭めるもビクともしない。
 鈴音は心の中で確信し呟く、やはりか――衝撃砲の砲弾を正面から受けてもものともせず、力を篭めてもまるで固定されたように動かなくなる双天牙月。この現象は間違いなく二週間前、自分達がその身を持って痛感したAICそのものと。
 押しても引いても動かない双天牙月だが鈴音は冷静に、素早くAICの発動範囲を見極める。腕や身体は――問題なく動く。握っている双天牙月は天石から離れない。だがその範囲は天石と接地している面のみ――。ならばと、双天牙月を分離させ逆手になった状態でカウンターとばかりに突きつけるゼノン・スターターをもう一度払いのける。
 天石から離れない方は思い切って収納してから再展開し、両手で持った双天牙月と更に生き残った方の衝撃砲で、防がれ動きを止めたのは先ほどと同様一度収納し再展開させる方法で攻撃し続ける。
 一夏にAICの攻略法は自分で考えろと言ったものの、鈴音も何も考えていないなんて事はなかった。
 その結果AICの発動条件として高い集中力を必要とし、ラウラがAICの発動場所に向けて手を差し出すのも発動のイメージをしやすくするものという事。そしてその為、発動させようとしてから実際に発動するまでにタイムラグが生じる事。故に、鈴音は修史に向けてもその動きを読ませないよう攻撃のパターンをその軌道を、時にフェイントを織り交ぜながらAICを発動させるだけの余裕を生み出させないほどの絶え間ない連撃――それが、鈴音が考えついた一対一の状態でのAIC攻略法。
 鈴音の猛攻によって修史の攻撃の手は弱まり、次第に防御一辺倒になっていく。だと言うのに、AICによって先ほどから何度も攻撃を止められてしまう。
 それもそのはずだった。修史はAICを発動させるのに集中などしていない。
 天石には確かに鈴音の読み通りAICの展開機能が取り付けられているが、AICの最大のウィークポイントである展開場所への明確なイメージと集中。それを天石は発生地点をその表面のみに制限しAICを機械的に展開することによって、その弱点を克服している。もっとも、それは修史の攻撃を確実に受け止めるガードスキルと、天石を開発した篠ノ乃束の技術力が可能とした荒業を通り越したチート機能であり、相互干渉の問題からプラズマコーティングとの併用はできないのだが。


 一方、当初の予定と違い設子の相手をすることになったセシリアは二機となったレーザータイプのビットに加え、腰部のミサイルタイプのビットも射出して設子を狙う。

 「どうしてこのわたくしが、訓練機相手に一発もまともに!」

 ビットとライフルによる絶え間ない全方位攻撃に晒されながらも、設子は巧みにかわし防ぐ。
 ビットは本来よりも数を減らしているものの、セシリアの射撃技能はその程度で抜けられるようなものではい。
 右後方と正面下方からのレーザータイプのビットからの射撃、加えて左側から同時発射するもののレーザーより弾速の劣るミサイルがレーザーを二発を避け、一発をシールドで防ぎ、その場から大きく離れる設子の移動先に誘導しながら迫るがそれを右手のアサルトライフルで振り返って迎撃、更に後ろから飛んでくるもう一発のミサイルを宙返りしながら左手のショートダガーでその弾頭を切り落とし、慣性の法則に倣ってミサイルはそのまま爆発することなく失速していく。
 設子のアクロバチックな反応に舌を巻きつつ、同時に眉をひそめる。ラファール・リヴァイヴのスペックではあのような回避行動は本来間に合わないはずなのである。
 おまけに散発的に繰り返されるビットへの精密射撃。
 元々訓練や模擬戦などで設子の射撃能力の高さは目を見張るものがあった。
 セシリアは自分の銃の腕前は学年内ならトップクラス――いや、いっそ学年トップと自負しており、実際セシリアはそれに見合う能力を持っている。
 しかし今の設子のそれは最早次元が違う。
 最大の差は対象に銃を向けてから引き金を引くまでのスピード。ISはその高すぎると言っても過言ではない機動性から、銃口を向けて相手をロックし相対速度、反動、姿勢制御、弾道予測、コンディションによる弾道のズレ、その他諸々の修正を機械ないし手動で行う必要があり、それが終わってから初めて引き金を引くためどうしてもタイムラグが生じる。
 しかし設子にはそれが殆ど存在しない。もちろん狙いが甘いまま、銃の連射性能に物を言わせて撃ちながら照準補正をするやり方もあるが、設子は一発一発の狙いが的確だ。
 もっとも、設子と同じような事をできる人間は居ないわけではない。だが、それは国家代表やそれに見合うだけの力を持った一部の三年生であり、少なくとも代表候補生である自分には真似できないもの。
 そしてもう一つは攻撃に対する反応速度。これといって高度なマニューバーこそ使っていないのにもかかわらず、まるで来る事がわかっているかのように攻撃に対し的確かつ最小限の回避行動。
 実のところ、ISのハイパーセンサーによって強化された五感は、通常の攻撃ならば十分に目で追えるだけの恩恵をもたらしている。だが人間はいくら見えているからといって全ての攻撃に対処できるわけがない。思考が、反応が追いつかない。
 そういった意味では本質的に人間はISの機能を十全に引き出しているとは言えない。一方それを乗り越える為のヴォーダン・オージェなどの技術があるのだが、一般的にIS戦闘での強さは起動時間に比例すると言われるのは単純にISの操縦能力に加え思考、判断、反応速度を高速戦闘に慣らすという意味合いもある。
 しかし設子のIS起動時間はどんなに多くても100時間に満たないはずなのにあの反応速度。もし今設子のリヴァイヴの稼働効率を見たらとんでもないことになっているのではないかと、少し現実逃避しながら内心の焦りを無理矢理覆い隠す。
 セシリアの焦り、それはそれぞれの武装の残弾数。元々装弾数の少ないミサイルは残り一発ずつの計二発。レーザービットのエネルギーも残り四分の一を切り、スターライトMkⅢも残り三分の一強。早い段階にビットを二機落とされたのがまずかった。しかも、妙子も設子も執拗にビットだけを狙い続ける。まるで、それさえ無ければ何時でもお前の事なんて倒せるぞと言わんばかりに。
 そのプレッシャーから、セシリアはエネルギー切れの可能性を孕みつつも攻撃の手を緩める事ができない。
 最後の一発となったミサイルを確実に当てるため、既に全弾撃ち尽くした方のミサイルタイプのビットを後方から設子に直接ぶつけようとするが、設子はそのセシリアらしからぬ大胆な動きに驚いたような表情になるものの冷静に高度を上げてかわした先に、レーザーを二方向から三連射。これも全弾かわされ、シールドで受け止められるが構わない。
 再びミサイルタイプのビットを差し向けるが、既に弾切れをしたことはビットを直接ぶつけるだなんて方法を取った時点で見抜かれているだろう。設子は迫り来るビットを無理に避けようとせず右手のアサルトライフルの引き金を十分に引き寄せてから引く。
 かかった――!
 セシリアは心の中でほくそえむ。再度向かったビットは最初に向けた撃ち尽くしたものではなく、避けられ通り過ぎた先で最後の一発を残していたものと設子がレーザーを避けている間に入れ替えたもの。ただ突撃するだけのものと見せかけたビットの砲口からミサイルが至近距離で発射され、アサルトライフルから放たれた弾丸によりすぐさま撃ち落され爆発するが、その爆発はビットそのものにも誘爆しその威力を高める。

 「くぅう――!」

 まさかのビットによる自爆攻撃。その大爆発に呑まれ、爆風によって吹き飛ばされた設子の姿勢が大きく崩れる。

 「そこですわ!」

 ようやく訪れた最大のチャンスに、スターライトMkⅢを連射する。
 無理に体勢を立て直そうとして動きを止めることを嫌った設子は、半ば錐揉み状態で落下するまま直撃を受けたら大ダメージは免れない胴体をシールドで隠しながら、身体の重心をずらす事によってライフルの直撃を避ける。
 だが続けざまに放たれるレーザーは遂に胴体部を覆っていたシールドへ当たる。
 当初設子はシールドに攻撃か当たった場合、その反動を利用して体勢を立て直そうとしていた。
 しかし、その思惑をはずれレーザーの直撃を受けたシールドは弾け跳んだ。
 幾度となく防いできたレーザーによってエネルギー兵器に対して耐久値の低い実体シールドの限界が訪れたのだ。それはすなわち設子の反応に、ISの方が先に根を上げたと言う事。
 その衝撃によって設子は地上へと落下していく。

 「設子さん!……くっ」

 その姿を見た修史は天石のAICとPICの両方を切ったことによりシールドエネルギーを削りながらも反動で大きく距離をとり、設子の元へ駆け寄る。

 「しまっ!」

 鈴音は、先ほどまでその名の通り岩の如く全ての攻撃に対し鉄壁を誇っていた修史が見せた予想外の後退に、反応が遅れてしまった。
 落下する設子を修史は、セシリアと鈴音の砲撃を黒百の装甲に物を言わせて突っ切り、地上付近で抱きとめた。

 『大丈夫か?』
 『大丈夫だ、問題ない……とは言いきれんな』
 『……そうか』

 プライベート・チャンネルで呼びかけ、返ってきた言葉に一瞬深読みしそうになった修史だが、そこは言葉をぐっと飲み込んで頷いてみせる。大丈夫だ、問題ない。相手はただの天然だ、と。
 設子と修史は地上で体勢を正し、セシリアと鈴音は空中で合流する。

 『機体情報チェック――残りシールドエネルギーは48。実体ダメージは左のシールド、スラスター三枚に右肩と、右足を丸ごと持っていかれた……残りの弾薬数は問題ないが、機動性能が40%以下まで落ち込んでいる。それと右のシールドも、もって後数発だな』
 『こっちはAICを使いっぱなしだったからエネルギーが結構怪しいな、キセノンカートリッジも残り二本。実体ダメージこそ無いが、シールドエネルギーも思ったより削られたな』
 『それと、セシリアのビットはミサイルタイプは既に弾切れだ。他の兵装も残りエネルギーは乏しいだろう』
 『俺のほうは鈴音の左の衝撃砲を潰した。ただ、天石のAIC展開能力に気付いたみたいだが、俺にAICを展開させるため集中させないようにずっと連続攻撃をしてきてたから、条件には気づいてないと思う。』

 『わたくしは本体にこそダメージはありませんが、ブルー・ティアーズがレーザータイプは二機、弾道タイプ一機がやられましたわ。弾道タイプの残り一機も弾切れで、残った物も、ライフルを含めてそれぞれ精々10発程度のエネルギーしかありませんわ』
 『あたしの方は、設子の攻撃でエネルギーも装甲もぼろぼろ。その上妙子に龍咆を片方持っていかれたわ……あと、最大の問題が一つ』
 『なんですの?もったいぶらずにおっしゃってください』
 『妙子の機体にAICが搭載されていたわ。ラウラほど展開範囲は広くないようで剣先を止められただけだから、部分展開の要領で収納と再展開を連続して使ってどうにか押さえ込んだけど……』
 『あなた、それは――』

 半ば高速切替ラピッド・スイッチまがいの荒業。それを高速切替ができない鈴音が無理にやろうとすれば、その負担は計り知れないだろう。

 『えぇ、おかげでさっきからずっと頭がガンガンいってるし、休み無く攻撃してたから体力的にもやばいわ』

 二グループともすぐさま機体の現状の把握と共有を行い、自身の損耗と相手に与えたダメージを考慮し共に一つの結論に至る。
 それはすなわち次のアプローチで決着が付くであろうこと。
 そして、これまでのように実質一対一の状況では消耗戦にしかならないということ。

 『設子、まずフロントは俺がやる』
 『わかった、先に凰鈴音を片付けよう。ブルー・ティアーズの残弾は残り僅かなはずだ、余裕があるうちにアタッカーを沈める』
 『了解――向こうは多分先に設子を狙うはずだ、気をつけろよな』
 『ふっ、誰にものを言っている』

 『セシリア、先に弱ってる設子を狙うわよ』
 『わかりましたわ。ですが気をつけてください。設子さんの装備がアサルトライフルとナイフの二つだけとは思えませんわ』

 そうして設子を狙う鈴音と、鈴音を狙う修史が空中でぶつかり合う。
 打ち合った反動で距離をとり修史の脇を抜けていこうとした鈴音だが、修史はそれを見越したかのように衝撃をものともせずに強引に前進し、距離を開けさせようとはしない。

 「くっ、どきなさいよっ!」
 「いいえ、離しませんよ……って、これは一夏さんに言って欲しい台詞でしたね」
 「なっ!?」
 「隙あり!!」

 いきなり卑怯くさい手で動揺させ、鈴音を蹴り落とす。
 その先には、修史と鈴音の脇をすり抜けていったビットの攻撃を避けている設子。
 設子はあえて地上に残り、ビットの下方向からの攻撃を封じる。
 普通だったらその方法は頭上を押さえられるため得策ではないのだが、ビットの数が半分以下の現状では、二方向同時かセシリアのライフルを含めた時間差での三方向であり、地面を蹴る事によって落ちた機動力をカバーする。
 落下方向に設子の姿を確認すると、そのまま分離状態の双天牙月を構えて上空から強襲する。
 設子は鈴音の姿を確認すると地を蹴り、アサルトライフルで牽制し、それをもかいくぐってきた頭上からの一撃をナイフで受け流す。

 『セシリア!』
 『無理ですわ!』

 鈴音はセシリアに援護射撃を求めるが、返ってきた声にハイパーセンサーでセシリアの姿を確認すると、ちょうど背後で修史のゼノン・スターターによる射撃で追い立てられておりビットを操作する所ではない。
 ならばと、そのまま設子に意識を戻すとその右手にはそれまで手にあったアサルトライフルではなく、つい3週間ほど前授業で真耶にあっさりやられた時のとどめの一撃であるグレネードランチャー。
 奇しくもセシリアの予想通りに隠し持っていた、設子の奥の手。

 「いっ?!」

 銃口を向けられ、その時の記憶が甦りほぼ条件反射で仰け反りながら距離をとるが設子はかまわず引き金を引き、弾倉にあった弾を全て撃ち尽くす。
 そうして撃ち出されたグレネードは、鈴音の正面をすり抜ける。

 「――っ、セシリア!」

 しかしすぐさまに自分の背後に立つセシリアのことを思い出し振り返る。
 その先では四本の殺衣に四肢を絡め取られ、グレネード弾の雨に投げつけられたセシリア。
 セシリアに着弾したグレネードは爆音を響かせ、爆煙からは機能停止状態となったセシリアが落下する。
 落ちていくセシリアをハイパーセンサーの端に収めながら鈴音は双天牙月を連結させ、シールドを構える設子に甲龍のパワーに任せたフルスイングでシールドを吹き飛ばし、更にその勢いのまま身体と双天牙月を回転させもう一度設子へ打ち込む。
 設子はシールドで一撃を防いでいる間に弾切れのグレネードランチャーの変わりに呼び出したダガーを両手に、双天牙月へと腕を突き出す。
 すると一体どういう力が働いたのか鈴音の両腕は上へと跳ね上がり、双天牙月は手から離れて宙を舞う。だがそれに構うことなくチャージしていた衝撃砲を放ち、シールドも無く避けられる距離にも居ない設子はまともにその弾丸を受け吹き飛ぶ。
 既に機体に限界が来ていた設子のラファール・リヴァイヴは、地面を転がりながら機能を停止させる。
 更に振り返れば、上空から吶喊してくる修史の姿。

 『殺衣、モーションエミュレーター起動
  パターンプログラム「ツイスト・ストリングス」展開
  殺衣・ランスモード』

 四本の殺衣がゼノン・スターターを持った右腕ごと包み込みながら絡まりあうように捻じれ、一本の螺旋状の槍となる。

 「おおぉぉぉおお!!」

 気合と共に既に回避は不可能な距離の修史に、鈴音は手を離れた双天牙月を再び収納と再展開で呼び出そうとするが頭痛の影響でもうできなくなっている。そして修史の右腕が突き出されると、鈴音は覚悟を決めその両手を穂先に合わせて勢い胸の前で合わせる。
 
 「なっ、白刃取り!?」

 修史が驚き声を上げたように、鈴音の両掌には槍状になった殺衣の穂先が挟み込まれている。

 「これでもう、逃がさないわよっ!」

 力ずくで修史の一撃を受け止めた鈴音は、衝撃砲へエネルギーを集中させる。
 既にセシリアとの交戦で天石のエネルギーを使い切った黒百では、衝撃砲を耐えられて後二発。右腕は鈴音に押さえられて、今から収納して離れようとしても間に合わない。
 収納する間を惜しんでゼノン・スターターごとランスモードにした殺衣の中で、残量が半分となった最後のキセノンカートリッジの全エネルギーを放出させる。
 殺衣を突き破る勢いで出したつもりのエネルギーは、捻じれた殺衣の内側に沿って螺旋状に変形する。本来ならばキセノンカートリッジを丸まる一本使ってようやく形成できる通称、ドリルモード。
 殺衣を芯として螺旋状に形成されて殺衣の中で燻っているプラズマエネルギーと右腕をこの一撃に込めた思いを元々この攻撃を使っていた少女の言葉を思い出し、再度鈴音に突き出す。
 
 「渦巻きて穿てぇっ、叡智の螺旋っ!!」

 回転エネルギーを伴って放出されたキセノンプラズマは鈴音の腕をアーマーごと一気に弾き飛ばし、自由になり未だプラズマを纏った殺衣を衝撃で体勢を崩した鈴音に突き立てる。

 「らぁあああ!!」

 気合と共に振り抜き、タイミングを合わせ残ったプラズマも全てぶつける。
 その一撃で絶対防御を発動させながら吹き飛んだ鈴音を目で追いながら、修史は呟く。

 「……穿て、じゃなくって砕けだったっけ?」

 試合終了のブザーが響くのを聞きながら、修史は心底どうでもいいことを考えていた。




 ―あとがき
 言いたい事と、言わなくちゃいけない事と、言いたくない事と、言っちゃいけないことが渦巻いてる。多分その内砕ける。
 と言うわけで、まさかの文字数一万突破。多分今迄で一番長かった第十一話です。
 というか、二巻分終わってないじゃないか!週末じゃないじゃないか!とか色々ありますでしょうね、ごめんなさい。(素直)
 試しに三人称で書いてみたけど、半分くらい書いた辺りで軽く後悔した。自分で読み返しても軽く読みずらい。(ナニ
 でももう大分書いちゃったから止められない。
 途中までは、妙子と設子が何しでかすかわからない感を出したかったから、どちらかと言うと、鈴セシリア組よりの視点。
 最後の方鈴がイヤボーンしてるけど、気にしない。

 りんいんは そうてんがげつの こうそくさいてんかいを おぼえた
 せしりあは びっとの じばくこうげきを おぼえた

 原作に無い技を覚えるのって、流入系の醍醐味だよね。でも、セシリアの自爆攻撃って、よくよく思い返してみればサイレント・ゼフィルスの攻撃法だよね。……うん、アレを参考にしてブルー・ティアーズでやってみたってことにしよう。



[26504] 第十二話「技名を叫ぶ的な意味で」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/06/03 19:09
 お互い甚大なダメージを負いながらも、どうにか一回戦を突破した俺たち。
 設子のラファールは二回戦までには修理が間に合わないとのことで乗り換え、俺の殺衣も最後の一撃がかなり無茶だったらしく起動しなくなった。
 だが、それはAブロックの一夏たちの試合で起きたラウラの機体の暴走によってタッグマッチ自体が中止になった為に、杞憂に終わった。
 正直またか。と言う思いがあるものの、特に怪我人は出なかったとのことなので胸をなでおろす。
 それと、中止になった分の試合はデータとりの為に一回戦分だけはやるらしい。
俺は休日を利用して、SHE社に殺衣と黒百の調整の為に出向いている。
 
 ちなみに試合後の主な出来事を四行でまとめると――
  シャルル――もとい、シャルロットが女として再転入した。
  ラウラがデレた。
  デレたラウラに設子がシンパシーを感じたらしく、よくシャルロットと共に可愛がっている。
  一夏が女の嫉妬で死にそう。

 とりあえず最後のはいつも通りとして、シャルロットはまぁわかるが、一体いつラウラにフラグを立てたんだろうな、あの男は。まさかいきなり教室でキスをするとは思わなかった。
 
 「さて、殺衣はただ稼動限界を超えただけですね。調整して後でお返しします」

 「それと……」といって井深さんはパソコンのキーボードを何度か叩く。

 「如月君が最後に甲龍に向けて放った一撃に関してですが、なかなか面白い事になっていましたよ」
 「面白い事ですか?」
 
 鈴音に最後に打ち込んだキセノンプラズマを纏ったランスモードでの殺衣の一撃は、そのパターンを黒百が記憶したらしく、攻撃パターンの一つとしてライブラリに保存されてあるのだが何故か起動することができないので、井深さんに見てもらった次第だ。

 「えぇ、技名コールネームは『智慧の穿渦ゼノン・クラスター・インペトゥス(ちえのせんか)』。起動文は『渦巻きて穿て、叡智の螺旋』……このどちらかを、叫ぶと起動するようですね」
 「は?叫ぶんですか?」
 「所謂、音声認識です。如月君が最初に使った時、イリアの真似して声を出したのをどうやら黒百が気に入ったようですね」

 いや、気に入ったって、気に入ったって!

 「あの、俺……というかISってどちらかと言えばリアル系のはずなんですけど……」
 「ですけど、うちの製品はスーパーよりです」

 それは、技を叫ぶ的な意味でですか?
 何故かきっぱり言い返されてしまって井深さんは再び黒百を繋いだコンピューターでなにやら作業を始める。

 「ところで、さっきから何やってるんですか?」
 「黒百の機体に掛かった外装系のプロテクトを外そうとしてるんですけど……どうやらコア・ネットワークを利用してリアルタイムでセキュリティコードを書き換えるプログラムがあるみたいですね」
 「それって、外してもいいものなんですか?」
 「というか、これ外さないとパッケージの換装すらできません。普通、こんなところにここまで厳重なロックは掛かってないものなのですけどね。一応黒百用のパッケージ開発も行なっているんですが、このままじゃあ宝の持ち腐れになってしまいますし……整備用のマシンだけじゃ限界ですね。まあ急ぐほどの事ではないので、パッケージの方が完成したらちゃんとしたマシンでちゃちゃっと解いちゃいましょう」

 束が施したプロテクトをちゃちゃっと解こうとする井深さんに、なにか不穏当なものを感じるが、そうですか。とだけ返しておく。
 どうせ知ったところで碌な事じゃないから。


 SHE社を出て電車に乗って一時間強。設子と待ち合わせした一夏いわく「駅前」こと市内最大のショッピングモール『レゾナンス』前の設子との待ち合わせの場所へ向かう。

 「設子さん、お待たせしました」
 「いいえ、わたくしもちょうど今来たところですわ」

 そんなテンプレートなやり取りをしつつ建物の中に入る。ちなみに、聞きたくも無かったのだが課長いわく、この手のやりとりは「だが、それがいい!」らしい。禿ればいいのに。
 今日の目的は、明日に迫った臨海学校に持っていく水着を設子が持っていなかったので急遽買出し。
 学校指定の水着は何をトチ狂ったのか所謂「スク水」。どうしてこうなった。
流石にそんなイロモノを着せるわけにも行かないので課長に無理言って、今日偶然にも買出しに出かけるらしい一夏の護衛を他のエージェントに頼んで時間を作ったのだ。おかげで、今度課の皆に紅茶を淹れてやらなくてはなくなった。
 どうやら以前課長が言っていた、課の中で紅茶が流行っているのは本当だったらしい……どうしてこうなった。(二回目)


 で、設子と買い物に二階に来たはいいんだが、肝心の買う物の売り場は……うん、無理だ。

 「じゃあ、設子さん、あたしはそこで待ってます」
 「え、妙子さまは選んでくださらないんですか?」
 「え、いや、だ、だって……あっ!あたしも買うものがありますから!!じゃあ、そういうわけで!!」

 右手をシュタッと挙げて、その場を立ち去る。
 いや、そんなものはないが。咄嗟に思いついた言い訳だけど。
 設子知ってるか?俺の女性恐怖症はまだ完治していない。

 「さてどうしたものか……」

 そうごちて、どうやって時間を潰すか考える。
 周りを見れば、シーズン的な問題か布面積の低い極地用水中装備(水着)が右を見ても左を見てもディスプレイされている。

 「余所のフロアに行くか……」

 そう思ってエスカレーターへ足を向けると、女性向け水着売り場のコーナーに佇むなにやら見慣れた木が。

 「こんにちは、唐変木いちかさん」
 「おぉ、妙子。奇遇だな、こんなところで」

 流石唐変木。俺の言葉のイントネーションに気づきもしない。

 「あー、あたしは設子さんと一緒にいわゆる駆け込み組みです。そういう一夏さんこそどうして……あっ、あの、人の趣味をとやかく言うつもりは無いんですが、人目もありますしできれば水着はあちらの方で買ったほうがいいかと」

 そういって、メンズの水着を売っている方を指差す。

 「ちがうよっ!!」

 なんだ、違うのか。

 「俺もシャルと一緒に明日の買い物に来て、今は千冬姉の清算待ち」

 そう言って視線を向ける先には、水着を持ってレジに並ぶ千冬の姿。
 シャルロットと買い物に来てどうして、なんで千冬の水着の清算待ちしてんだよ、お前。

 「どうしてそうなった……」
 「俺にもわからん……いや、何を言っているのかわからないと思うが――」
 「はいはい、それはいいですから」

 律儀にネタをネタで返して来る一夏を遮る。

 「で、肝心のシャルロットはどうしたんですか?」
 「いやそれが、千冬姉と一緒に買い物に来てた山田先生が、気を利かせてくれたみたいで、なんか連れて行っちゃったんだよ」
 「はぁ、なるほど」

 姉弟水入らずってワケか。
 それなら俺も邪魔しちゃ悪いよな。一応アイギスのガードがそこらに潜んでいるだろうけど、地上最強の生物であろう千冬が一緒に居るのであればなんの心配も無いだろう。

 「妙子さまお一人で行ってしまうなんて……探したんですよ?」
 「すまん、待たせたか?一夏」
 「あー!妙子、あんたそんなところでなにやってんのよ!」
 「そうですわっ、ちゃっかり一夏さんと二人きりだなんて!!」
 「あの、二人とも少し落ち着こうよ……」

 奇しくも設子と千冬、鈴音にセシリア、シャルロットが同時に合流する。
 ちなみに山田先生が何故か居ないのだが、話を聞いてみるとはぐれたらしい。何やっているんだ、あの人は。
 まあ、幸い千冬が携帯で呼び出して事なき終えたのだが。


 それから千冬と山田先生とは別れ、6人でとりあえずファミレスで昼食を取ってから明日の臨海学校の買出しと言う名目のただのショッピングに。

 「ところで、そろそろラウラさんは出てきてもいいんじゃないんですか?」

 と俺が背後の物陰に声を掛けると、制服姿のラウラがおずおずと出てくる。
 ラウラの尾行に気づいてなかった一夏たちはその姿に驚いている。

 「む、気づいていたのか……」
 「えぇ、さっきファミレスで席を立った時にたまたま」

 本当は水着売り場を離れてすぐ気づいたのだが、ラウラだからという理由で放っておいたのだが、ラウラには似合わないあまりにもお粗末な尾行の仕方で逆に気になってしまい思わず声を掛けてしまった。
 ラウラはなぜか顔を赤くしてモジモジとしながら、ちらちらと一夏の方を見てはよりいっそう顔を赤くしてうつむくと言うのを繰り返している。

 「で、みんななんか買いたい物ってあるのか?」

 しかし一夏はそれを総スルー。これはもう、流石としか言い様がない。

 「んー、もう準備自体は済ませちゃってるし、あたしは特に無いかなぁ」
 「僕もあとはこまごまとしたものだけだから、買うのは最後でいいかな」
 「そうですわね、わたくしもこれといっては」
 「わたくしもですわ」

 鈴音シャルロット、セシリアと設子もノープラン。ラウラは今役に立ちそうもないし、いきなり計画が頓挫しかけてる。

 「あー、それじゃああたし茶葉を買いに行こうと思ってるんですけど、いいですか?」

 それならと、今度課長たちに飲ませる分の茶葉を買っておきたかったので、そう提案する。

 「茶葉って、妙子お茶淹れられるのか?」
 「えぇ、紅茶ですけれど」
 「それなら、わたくしが良いお店を知っていますわ」

 するとセシリアがすかさずいつものポーズで言う。
 ちなみに一夏が横で「へー、流石イギリス人」とか言っているけど、正直それは関係ないと思うぞ。

 「このお店が、この辺りでは一番品揃えが豊富ですわ」

 そういって案内された店は、セシリアの言う通りいろんな種類の茶葉が並んでいる紅茶の茶葉専門店。
 確かにこれは自慢げに言うだけある。

 「えっと――あったあった」

 いつも買う銘柄の茶葉を棚から見つけて手に取る。

 「どんなの買って……うぉっ、高ッ!?」

 棚に並べてあった値札を見て一夏が驚く。

 「まぁその分、味はいいですけどね。なんなら今度淹れましょうか?」
 「おぉ、そりゃ楽しみだ」
 「ふふふ。妙子さん、わたくしの前で紅茶を淹れようなどと10年早いですわッ!」
 「さすがセシリア。イギリスの貴族だけある」
 「えぇ、これでも紅茶には一家言ありましてよ」

 素直に感心する一夏に鼻高々といったセシリアだが、そんな感心のされ方でいいのか?英国貴族。

 「ところで一夏が大分驚いてたけど、妙子は何を買うの……って、これイギリスの王室御用達のシロモノだよ!?」
 「ほ、ほんとうですわ」
 「あー、そういえばあたしに教えてくれた人も、そんなこと言ってたような」

 俺の言葉に、シャルロットとセシリアがぽかんとして言う。

 「へー、やっぱ値段だけはあるんだな」
 「いや、そんな簡単なものじゃないよ、一夏。この銘柄は他のものに比べて、本当に美味しく淹れるのが特別難しいものなんだよ。それこそ、王室お抱えレベルってくらい」
 「まぁそうは言っても、『これをまともに淹れられるようになれば、ほかが多少不恰好でもそれなりに見れるようになるから、死んでも覚えなさい』って言われて叩き込まれたんですけどね」

 ほんと、あの時は素で「ここは、地獄だ……」とか呟いたからなぁ。

 「叩き込まれたって、普通そんな軽々しく言える台詞ではないですわよ……あなたに紅茶の淹れ方叩き込んだ人って、何者ですの?」

 セシリアが思いのほか食いついてくるけど、やっぱイギリス人としてその辺りは気になるのだろうか?

 「何者って……えぇと春日崎グループの代表で、春日崎雪乃ですけど……言ってもわかりませんよね?」
 「「春日崎グループ代表!?」」
 「「春日崎雪乃!?」」

 一夏と鈴音が春日崎グループに、セシリアとシャルロットが雪乃名前に同時に驚く。
 日本では春日崎グループはかなり有名なので一夏とかつて日本で暮らしていた鈴音が驚くのはわかるが、セシリアとシャルロットのヨーロッパ組が雪乃の名前に驚くとは思わなかった。
 ちなみに、ラウラはものすごく一夏を見てるだけ。

 「二人とも、春日崎雪乃を知ってるんですか?」
 「知ってるも何も!」
 「日本人の少女が女王陛下に紅茶を淹れて認められたというのは、当時ではイギリス国内外問わずニュースになりましたわっ」

 シャルロットの言葉に次いでのセシリアの説明に、シャルロットも何度も首を縦に振る。
 そういえば、そんな武勇伝も雪乃から聞いたこともあったような……

 「ですが、その程度で引くわたくしでもありませんわ!」

 よろめく身体をたたらを踏みつつも耐え、額に汗を流しながらも気丈に言い放つセシリアに、シャルロットが「おぉ、耐えた!!」と感動している。

 なんだ、これ。

 「こうして、後に『放課後ティータイム』と呼ばれることになったこのお茶会は、一夏さまの貧乏舌の露呈と、セシリアさま側のセコンドのシャルロットさまのタオル投入という結果に終わりました」
 「……あの、設子さん何やってるんですか?」
 「基本的に出ずっぱりなのに殆ど台詞が無いので、その分の埋め合わせですわ」

 ごめんなさい。




 ――あとがき
 タイトル詐欺シリーズその2。
 妙子の紅茶スキルは前々からやってみたいとおもっていたネタの一つです。
 これでお嬢様キャラ、一夏のことを「さん」付け、紅茶スキル、射撃能力と、どんどん双循にキャラを喰われていくセシリア。後残ってるのは……金髪ドリル?
 そして再び登場、井深さん。そろそろ「自粛」とか「自重」と言う言葉が、利怜の辞書の中で「勢い」「やったもん勝ち」辺りの言葉に上書きサレテユク。



[26504] 第十三話「明日から本気出す(原作の展開含めて)」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/06/20 16:27
 「「っ―――うーーーーーーーーーーーみーーーーーーーーー!!!!」」

 バスがトンネルを抜け、太陽の光を反射させてキラキラと輝くオーシャンブルーにクラスの女子達が声を合わせて叫ぶ。
 う、うるせぇ……そういうのは、ビーチに出てからやるものだろ、密室の車内でやるなよ。

 「おい貴様等、そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 千冬の号令に皆さっと従う。こんな所に来てまで殴られたくないからな……決して調教とか、そういうことではない。多分。


 旅館に着くと女将に挨拶をしてから、本日は終日自由行動とあって皆早々に割り振られた部屋に荷物を置くと着替えに別館へ向かう。

 「さぁてと、俺も着替えに行くか……あぁ、欝だ」

 何が悲しくて女物の水着にならないといけないんだろう……テレジアは水泳の授業もなかったから特に問題が無かったんだがなぁ。

 「まぁ、コレがあるから、いいか」

 そういってバックの中から秘密兵器を取り出し、着替える場所があるという別館へ足を向ける。
 途中で一緒になったセシリアと設子と本館の渡り廊下を歩いていると、一夏がひっくりかえっている姿が見えた。

 「こんなところで何してるんですか?一夏さん」
 「そのだな、ミミがな」
 「ミミ?」

 はて、どこか記憶に引っかかるフレーズだが、一体なんだったか。

 「いや、束さんが――」

 束?
 首をかしげていると、空気を切り裂き何かが高速で接近する音が響く。

 「ッ!一夏さん!!」
 「うぉぁ!?」

 一夏の腕を取り、強引に自分の身体の影へと投げる。
 設子もセシリアの前へと位置を移す。
 そして俺は飛来物を確認する為に上空へ目を向けると――

 「「「「に、にんじん?」」」」

 その場に居る全員が思わず声を揃えてその物体の名を叫ぶ。
 轟音と衝撃と共に地面に突き刺さったそれは、紛れもなくニンジンの形をしたもの。
 思い出した。ミミ(?)とこのニンジン型の物体。これは――

 「にゃははははっ、引っかかったねいっくん!!」

 篠ノ乃束!!
 ニンジンが縦に真っ二つに割れて出てきた束は、白のワイシャツに紫のストライプのベストとスラックス、そしてシルクハットをかぶった格好で一夏の手からネコミミを受け取り帽子のつばの根元に左右それぞれ取り付ける。
 三月に見た時はアリスと時計うさぎの一人アリスだったが、今度は一人アリスはアリスでも帽子屋とチェシャ猫か?しかもチェシャ猫が紫ってディ○ニーの影響はいってるな、確実に。

 「にゃんにゃん。いっくん、箒ちゃん知らない?さっきまでこの辺に居たはずなんだけどニャ」
 「ちょ、束さんやめてくださいっ」

 一夏の胸に猫パンチをしながら猫語で箒の所在を尋ねる束。うぜぇ……

 「あ、しゅ、じゃなかった。たーちゃんもおひさー」
 「そのジャングルの王者みたいな呼び方止めろ」
 「じゃあ、たっちゃん」
 「死んだ双子の弟の為にマウンドに立つ奴みたいな呼び方も止めろ」
 「もー、注文多いなぁ。注文が多いのは料理屋だけで十分だよ!それじゃあ、とても妥協してたえちゃんで手を打つニャン」

 思い出したかのような語尾にイラッっとしながら、その辺りが妥当だと、黙って頷く。

 「さてさて、箒ちゃんは、ど・こ・か……」

 辺りをきょろきょろしていた束だが、ある一転に視線が行くと、その動きを止める。
 しかもその顔は青ざめ、表情も「あ。ヤベェ」という心情を物語っているかのようだ。

 「あ、え……束さん、ちょ~っと用事思い出しちゃったから……またね!アデュー!!」

 そう言って猛ダッシュでどこかへ走り去っていく束。
 一体どういうことだ?気になって束が見ていた方向に視線を向けると、ここに居る全員そうなのだが――いまいち状況を把握できていない設子の姿。

 「あ、あの、一夏さん妙子さん、さっきの方は一体?」
 「えっと、あの人は篠ノ乃束さんで」
 「箒さんのお姉さんです」
 「篠ノ乃束って……篠ノ乃博士ですの!?」

 そう、その篠ノ乃博士。

 「それより俺は束さんと妙子が知り合いで、束さんが妙子の名前を覚えてるってのの方が気になるんだが」

 まぁ、確かに束の習性を知ってれば当然の反応だろうな……誤魔化したけど。


 更衣室が個室タイプだったことに心底感謝しながら着替えを済ましビーチに出ると、早速一夏争奪戦を始めている連中を余所に、俺は周囲の散策を始める。
 いくらここがIS学園の臨海学校ということで一般客が少ないとはいえ、元々は普通の海水浴場であるこの辺りは学園内に比べれば警備も大分甘くなる。
 その上ここら辺の土地は岩場やら崖と言った地形も多いので、そのため実際に自分の足で周囲を確認する必要もある。
 ビーチへ戻るとバスタオルでビックデュオ・マミーみたいなのを引き連れたシャルロットと設子の姿。
 何をやってるんだ、あれは……いや、あのバスタオルぐるぐるは飛び出した二本の髪の毛からラウラだとは思うんだが。

 「あ、妙子さま」

 こちらに気付いた設子がやってくる。

 「あの妙子さま、この水着、いかがですか?」

 恥ずかしそうに顔を赤らめながらも手を後ろで回して水着の姿をさらけ出す。
 設子の水着はラベンダー色のビキニタイプで出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる設子のボディラインを引き立て、腰には水着と同色のパレオを巻いておりパレオには白で花の模様があしらわれている。

 「えっとその、た……大変、美しい、です」

 いかん!なんか無茶苦茶しどろもどろになってる!!

 「よぉ、シャルに妙子に設子さんに……なんだ、そのバスタオルおばけは」

 お互い恥ずかしさでにっちもさっちもいかなくなっている俺たちと、それを不思議そうに見ているシャルロットに一夏が声を掛けてくる。まぁ、最後の方は季節限定地方妖怪バスタオルマミーに首をかしげているが。

 「ほら、出てきなって。大丈夫だから」
 「だ、だ、大丈夫かどうかは私が決める」

 どうやら水着姿を一夏に見せるのが恥ずかしいらしいラウラが何度かシャルロットと押し問答を繰り返すが、一向に出てこないラウラについにシャルロットが痺れを切らす。

 「うーん。ラウラが出てこないなら僕も一夏と遊びに行っちゃおうかなぁ……妙子たちはどうする?一緒に来る?」

 押してもだめなら引いてみろ、ってか。

 「いえ、あたしはさっき散々あちこち回ったので、ちょっと休憩しようと思いますけど」
 「わたくしも、浜でゆっくりしようかと思います」
 「そう?じゃあ一夏、僕と二人でいこっ」

 一夏とラウラの二人からは見えない位置で俺たちにサムズアップしてくるシャルロット。
 別に休憩したかったのも本当だし、そこまでありがたがられるほどじゃないけど。とりあえず、サムズアップを返しておく。

 「ま、待てっ。私も行こう」
 「そのまんまの格好で?」

 しかし遂に折れ、シャルロットの挑発に乗せられるままコンパチラウラがそのバスタオルを一気に剥ぎ取る。
 そこから出てきたのはかなりローなきわどい黒にフリルをふんだんにあしらったゴスロリ調と言うのだろうか?そんな水着を身に纏い、本人の小柄な体系やツインテールにした髪と相俟ってセクシーというよりかは、可愛いらしいといった雰囲気を出している。
 恥ずかしがっているラウラを褒め、そのままの流れでシャルロットも褒める自給自足のフラグへし折り男が、こちらを向く。

 「?なんですか」
 「なぁ、妙子。言っていいか?いや、言うぞ」

 そんなに気張って、一体なんだというのだろうか。

 「何でお前、のほほんさんと同じような水着?なんだよ!」

 そう言って一夏は、俺の着ぐるみ水着を指差す。

 「なんですか一夏さん、あたしに肌を晒せって言うんですか?訴えますよ」
 「辛辣!」
 「というか、この神が(俺のために)あしらえた様なデザインになんか文句あるんですか?」
 「え、なに?妙子それ本気で言ってるのか!?」

 ちなみに、先週に行われた「ドキッ☆一組女子だけの水着ファッションショー(強制参加)」という地獄としか思えないイベントで本音が持ってきたものを参考に、自分で型紙から起こした物でいざとなった時に動きを阻害しないように作られている。

 「あとなんだ、その一度でも関わりを持ったら不幸になってしまいそうなデザイン」
 「そうですか?」
 「あぁ、その白猫のシルエットに耳の部分から垂れ下がっている手のようなウサギの耳のような謎のパーツ、一見ファンシーのようで感情の全く見えない赤いビー玉のような目。そして、それら全てが組み合った事で何処からとも無く湧き上がる殺意……」
 「えらい言われようですね」

 そんなくだらない話をしていると、一夏が女子達にビーチボールに連れ出されていった。
 俺も誘われたが丁重に断った。いや、本当にゆっくりしたいんだ。




 日中の自由行動を終え夕食を食べると、俺はいくつかの荷物を持って旅館の前に止めてあるタクシーに一人乗り込む。

 「それじゃあ織斑先生、行ってきます」
 「あぁ。帰りは明日の午前中だったな」
 「一応作業状況次第ですけど、朝の試験運用にはちょっと間に合わないかもしれませんけど」
 「まあ事情が事情だ、お前が気にする事ではない」
 「はい、では」

 千冬に見送られ俺が向かうのは、ここから車で約一時間ほどの場所にあるSHEの支社。
 以前井深さんが言っていたように黒百の装甲類のプロテクトを解除する為にはそれなりの時間と設備が必要となり、今回の臨海学校の新装備の運用試験にあわせて本気で解除をする気らしく、新しいパッケージ装備と共に井深さんが来ているのでそこで落ち合う予定なのだ。
 そして車で走ること一時間強。SHEの支社へ着くと、井深さんに迎えられる。

 「こんばんは、山田さん」
 「こんばんは。それで井深さん、早速始めるんですか?」

 タクシーから荷物の類を持って降りると、早速問いかける。

 「いえ、本格的な作業は明日の朝おこないます。もともと厄介なのはパスコードがころころ変わる事だけですし、今晩一晩掛けてゆっくりプログラム自体を解析すれば明日の朝一には終わるでしょう。山田さんも今日は疲れてるでしょうし、ゆっくりしてくださっていいですよ」

 それは正直助かる。
 水着姿の女子が日中は常に周囲にいる状態とか、正直精神的にかなり辛かった。
 それから井深さんに社員寮の空いている一室に案内されてから、黒百を預ける。
 明日の予定を打ち合わせしている時に、井深さんがあんまりセキュリティを破るのに時間を取っていない事について質問したら「大丈夫です。明日から本気出しますから」と、何故かまるでダメ人間のような答えが返ってきたことに一抹の不安を抱えながら、俺はベッドに潜り込む。
とりあえず今日はSHEに泊り込むとして、明日の寝床はどうしようかと考える。
 まさか旅館で他の女子と同室で寝るわけにもいかないし……いざとなったら徹夜か。





 ―あとがき
 だいぶ間が空いてしまいましたが、おはこんばんにちは。
 今回はちょっと短かったけど、基本的にやりたかったネタが出来たので満足。
 次回、ついに黒百の新パッケージ登場(予定)と、最初はそこそこ意味を持たせてたけど、話を進めていくうちに特にそんな事は無くなった黒百のネーミングの由来が明らかになります。

 それとちょっとしたアンケートです。
 今後王道展開として黒百の強化イベントを行おうかと考えているんですが、その方向性についてのアンケート。(というか、意識調査)

 A:原型無視のSHE社技術をふんだんに使った魔改造「コードネーム:黒百・改」
 B:とりあえず真っ当にセカンドシフト「コードネーム:黒百・双」
 C:なんかそれ以外(希望があれば、ご自由にお書きください)
 D:いや、あえてこのままで

 とりあえずこんな感じで、一応期間は15話目くらいまでの予定でふ。



[26504] 第十四話「遅れていいのは生え際の後退と……」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:30fc8b69
Date: 2011/10/30 02:36
 IS学園の臨海学校二日目。
 本日は初日とは違い、午前から夜まで各種装備の試験運用並びにそのデータ取りが行われる。
 ラウラ・ボーデヴィッヒの遅刻というアクシデントという事こそ起きたが、それ以外には特に問題も無く織斑千冬の口から解散が告げられ、篠ノ之箒が呼び止められるのとかぶるように『奴』が砂煙を上げながらやってきた。
 生身でありえない速度を出しながら織斑千冬の元へと向かい返り討ちにあったのは、昨日目の前に振ってきたのと同一人物――篠ノ之束。
 その登場にいくばかの混乱とざわめきをもたらした篠ノ之束は一通り織斑千冬と戯れた後、頭上を指差すと大型のコンテナが二つ落下してくる。
 落下と同時に片方のコンテナのこちらを向いた面が手前に倒れ、その中にあったモノを晒す。

 「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを全て上回る束さんお手製ISだよ!」

 現行機のスペックを全て上回るというとんでもない発言をさらりと言い放った篠ノ之束は、篠ノ之箒を強引に促しフィッティング作業へと入る。
 
 「あ、ねえねえそこの――えっと……キミ!」

 その様子に耳を傾けながら作業を続けていると、篠ノ之束に呼び止められる。もっとも、最後まで名前は出てこなかったようだが。
 しょうがないので『私』は自分の名を名乗りながら振り返る。

 「真田設子ですわ。篠ノ之博士」
 「そうそう、キミ。ちょっとこっち来て」
 
 初めて会った時も今回も、私が名乗りはするにすれ名前を呼ぶ気はなさそうな篠ノ之束の呼びかけに、一度許可を取るように織斑千冬の反応を窺うように見ると、小さく頷いたのを確認し私は篠ノ之束の元へ近づく。
 とはいえ織斑千冬も弟の織斑一夏のように顔に出してこそ驚きはしていないが、篠ノ之束が私の事を呼んだことに驚いているようだ。

 「それで、ご用件は?」
 「よぅし、私もいっくんの白式の方見たいからとっとと終わらせようかっ」

 本人を目の前にしてとんでもなく失礼な物言いをする束に呼応するかのように、二つ目のコンテナが一つ目と同じように開く。

 「じゃんじゃかじゃーん。束さんが頼まれてたのをすっかり忘れてて、昨日一晩で組み上げた一夜城ならぬ一夜IS『紫蓬しほう』!キミの専用機だよ」

 軽く聞き逃せないような台詞もあった気がするが「ヤツの行動を気にしたら負け」「欠陥品は掴ませても、不良品は掴ませないから気にするな」という修史に「気にするし、気にもなる」と言い返したのは記憶に新しい。
 そんな私の回想はともかく、篠ノ之束の口からもたらされた私の専用機という言葉が周囲を更にざわめきたてさせる。
 篠ノ之箒の紅椿の場合は言葉を選ばなければ「篠ノ之箒への身内贔屓」の一言で片がつく。だが、私へのこのIS――紫蓬の受け渡しは一見まったくもって理由がつかめない。
 まさか結婚の祝儀と悪乗りの産物だとは誰が分かろうか。いや、分かられても困るだろうが。

 「それじゃ、こっちのフィッティングもちゃっちゃと済ませちゃおうか」

 篠ノ之束の指示に従い、私は紫蓬に身を預ける。
 紅椿の時のように忙しなくコンソールをいじっている束であるが、篠ノ之箒と対する時とは違いその口数は無しに等しく唯一喋ったのは「紫蓬は中距離高速戦闘型」であることと「待機状態は黒百とおそろいの指輪タイプ」だけだった。

 「よぉし、おわりー。いっくん、白式みせてー」

 そして篠ノ之束はさっさと織斑一夏の方へ行き、続いて紅椿の試運転へと忙しなく動いていく。
 その間に紫蓬のフィッティングとパーソナライズも終えたようだが、こちらに関しては相変わらず殆どノーリアクションだ。
 仕方がないので、紅椿の試運転を横目に紫蓬のスペックや装備を確認する。

 機体色はその名の通り紫を基調とし、各部には濃淡のバリエーションを加えた全体的に紫色で統一されている。
 基本的に黒百のように過度な装甲も無く、凹凸も少なく流線型で各所の装甲も必要最低限といった、紫蓬はISとしては非常におとなしい――場合によっては貧相なシルエットで、これは高速戦闘型という篠ノ之束の言を取るのならば相手の攻撃に対し回避行動が前提となっているからだろう。
 またISは機能的に接地を前提としていない故か膝下から足先まで一体になっているものが多いが、紫蓬は足首と別れている造りになっており踝の辺りのパーツから膝上まで伸びて覆う形になっているパーツが特徴的で、頭部ユニットは額当てのような形をしている。
 そして、背部プラズマウィングユニット「黎明」は肩口から膝裏までと上下に長細い形をしており、プラズマリアクターであるバックパックにあるレールをスイングして脇の下から下部を前方へ向けてプラズマ砲としても使える固定装備で、その他の主装備はプラズマブレードマグナム「焔心えんしん」と「夕凪」の二丁とある。

 私が紫蓬の確認を行っていると、少し離れたところで山田真耶が慌てて織斑千冬に詰め寄っている。
 それから二言三言言葉を交わすと、周囲の生徒達の目を気にしてか軍用の暗号手話へと切り替えてやり取りを続ける。
 その内容を読み取ると、どうやらハワイ沖で稼動実験をしていたアメリカとイスラエルが共同開発していた軍用ISが暴走を起こしたらしい。
 山田真耶とのやり取りを終えると、織斑千冬はすぐさま作業を行っている生徒たちを集めると即時の撤収と待機を命じる。

 「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!――それと、篠ノ之と真田も来い」
 「はい!」

 織斑千冬の召集に大きく返事をしたのは、以外にも篠ノ之箒であった。




 空間投射ディスプレイによって司令室と化した大座敷・風花の間で織斑千冬によって今回の事態のあらましが説明される。

 「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視空域から離脱したとの連絡があった」

 先ほどの山田真耶と織斑千冬のやりとりを思い出しながらも、私は織斑一夏同様うろたえた表情を見せる。
 しかしそんな一夏を余所に各国の代表候補生達はもたらされる情報を元に意見交換をして、作戦を練り上げる。
 とはいえ、常に高速で移動する相手に取れる策となるならば、一撃必殺――ワンショット・ワンキル……ではなく、ワンアプローチ・ワンダウンが唯一にして最良だろう。
 やがて皆もそれに気付いたのだろう。その視線が一斉に織斑一夏へ向けられる。

 「お、俺ぇ!?」
 「「「「当然」」」」

 急に槍玉に挙げられ戸惑いの声を上げる織斑一夏に各国の代表候補生達は声を重ねる。

 「あの、一夏さま。状況が状況ですし、無理をなされない方が……」

 しかし、私は『真田設子』として気遣う立場に立つ。

 「そうだな、真田の言うとおりだ。織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」
 「――やります。俺が、やってみせます」

 しかし織斑一夏は逆に己を奮い立たせ、力強く頷いてみせる。

 「設子さん、気を使ってもらって悪いな」
 「いいえ、お友達同士です。当然ですわ」

 そう受け答えする私に、五人の少女達の視線が突き刺さる……あぁ、これか。修史がたまに感じる理不尽な視線というのは。

 「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度を出せる機体はどれだ?」
 「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」
 「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
 「二十時間です」
 「ふむ……それならば適任――「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」

 織斑千冬の声を遮り、天井から逆さに顔を出した篠ノ之束が現われる。

 「……山田先生、室外への強制退去を」
 「えっ!?は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください……」

 篠ノ之束は、捕まえようとする山田真耶を常人離れした軽い身のこなしで避けながら、言葉を続ける。

 「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にインプリンティング!」

 刷り込みインプリンティングをしてどうしようというのだろうか、この女は。

 「あ、ちがった、ナウ・プリンティングなう!ここは断・然!紅椿と紫蓬の出番なんだよっ!」
 「なに?」
 「二機のスペックデータ見てみて!パッケージなんかなくても超高速機動ができるんだよ!」

 そう言うと、数枚のディスプレイが織斑千冬を囲うように現われる。

 「まず紅椿の展開装甲を調整して、ほいほほい。紫蓬は何もせずに装甲ばーん!んで、コレでスピードはばっちしだね!」

 展開装甲……紫蓬のスペックにも通常時と装甲展開時という二通りのスペックが記載されていたが、それのことだろうか?

 「そこな小首を傾げてぷりちーないっくんのために説明!展開装甲というのはね、この天才束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよー」
 「「「「「「第四世代!?」」」」」」

 篠ノ之束の言葉に、その場にいた全員が驚きの声を上げる。
 それもそのはずだ。各国が第三世代機の実用化に躍起になっている現代において、その技術を用いた紅椿はそれらの努力を全て無に還してしまう代物なのだから。

 「第四世代とは、『パッケージ換装を必要としない万能機』という、現在絶賛絵に描いた餅のものっ。そして、具体的には武装転換のプロトタイプとして白式の雪片弐型に、機動転換のプロトタイプとして紫蓬の黎明に使用されてまーす」
 「「「「えっ!」」」」

 その言葉に、専用機持ちたちが私と織斑一夏に視線を集中させる。

 「そんで、いい感じにデータが取れたから紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてあります。システム最大稼動時にはスペックデータは倍率ドン、更に倍★」

 その言葉に皆絶句する。
 基本のスペックデータだけでも現行機を上回っている紅椿の能力が倍増されるとなればそれがどれほど恐ろしい事か、想像に難くない。

 「それにしても白式と紅椿と紫蓬がいるってのに、黒百だけいないのは束さん的にはツマンナイかなー」
 「え、それってどういう意味ですか?」

 黒百を作ったのが篠ノ之束だということを知らないほかのメンバーの気持ちを代表するように、織斑一夏が問いかける。

 「あれ、知らないんだっけ?黒百もたえちゃんの専用機として私が作ったんだよー」

 本日何度目かの驚きを露にする面々を尻目に、白式と同時進行だったからおかげで白式の完成も遅れちゃったんだけどね。なんて悪びれもなく続ける。

 「白式の発展機にして並び立つ者として紅椿、その過渡期の紫蓬。そして、白式の姉妹機にしてライバル機。白と相対し、相剋する黒――すなわち『剋白』なんだよ」

 そのことに、私ははっとする。
 攻撃一辺倒の白式と防御一辺倒の黒百。
 確かにそれは故事の如く相容れず、相対する関係かもしれない。

 「ま、そんなことより今は作戦のことだねっ!」
 「あぁ、そうだな……束、紅椿と紫蓬の調整にはどれくらい時間が掛かる?」

 織斑千冬にしても言いたいことは山ほどあるのだろうが、それを飲み込んで話を続ける。

 「お、織斑先生!?わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功してみせますわ」
 「そのパッケージは量子変換インストールしてあるのか?」
 「うっ……」

 唯一高機動パッケージを所有していたセシリア・オルコットが声を荒げるが、織斑千冬のにべもない問いに、声を詰まらせる。

 「ちなみに紅椿の調整は七分もあれば余裕だし、紫蓬に至っては調整もいらないよっ」

 そして篠ノ之束のその一言が決め手となった。

 「よし。では本作戦では織斑、篠ノ之、真田の三名による追跡および撃墜を目的とする。作戦開始は三十分後。各員、ただちに準備にかかれ」

 織斑千冬が手を叩くのを皮切りに、教員達が慌しく準備に取り掛かる。




 三十分後の午前十一時半。作戦開始の時間となり私たちは、太陽が強く照り付ける砂浜でISを展開する。

 「――以上のように本作戦の要は、織斑の零落白夜による一撃必殺だ。真田は織斑の援護と現場での指揮を任せる」
 「了解いたしました」
 「織斑先生、私も状況に応じて一夏のサポートをします」
 「そうだな。だが、無理はするな。真田も篠ノ之も専用機を使い始めての実戦は皆無だ。何が起きるかわからない」
 「わかりました。出来る範囲で支援します」

 一見普段どおりだが、篠ノ之箒はまるで新しい玩具を買い与えられたばかりの子供のような……いいや、最早「その通り」なのだろう。
 一言で言うならば『浮かれている』。
 だが、それは実戦では命取りだ。

 「織斑、真田――どうも篠ノ之は浮かれているな。あんな状態ではなにかを仕損じるやもしれん。いざという時はサポートしてやれ」

 実際、織斑千冬からもプライベートチャンネルを通して深刻そうな口調で伝えられる。

 「わかりました。ちゃんと意識しておきます」
 「お任せください」

 織斑一夏も同じ危惧を抱いていたのだろう、異口同音で頷く。

 「それでは――作戦を開始する!」

 その合図と共に織斑一夏は篠ノ之箒の肩に手を掛け、私は織斑一夏の肩に手を掛ける。
 ちょうど篠ノ之箒と私で織斑一夏を挟み込む形で高度五百メートルまで一気に飛翔する。

 「暫時衛星リンク確立……情報照合完了。目標の現在位置、ならびに紫蓬とのデータリンク確認。設子、いいか?」
 「はい、いつでも行けますわ」

 互いに確認を取り、私たちは機体の装甲を展開する。
 脚部の大型アーマーがその名称に違わず文字通りスライドする事で展開する。
そして背中の黎明の先端が跳ね上がり、接続部を基点にV字に縦に割れ、そのV字に割れた黎明から黒百のものと同型のバックパックのプラズマリアクターを通して、プラズマの翼を形作る。
 最後に額当て状の頭部アーマーからバイザーが降りてくると、通常のハイパーセンサーから高速機動用の超高感度ハイパーセンサーへと切り替わる。

 「一夏、一気に近づく。しっかりつかまっていろ!」
 「お、おう!」

 ラファール・リヴァイヴのものとは比べ物にならない加速を受けながら、機体は瞬く間に銀の福音へと近づく。

 「見えたぞ!」

 篠ノ之箒の声に合わせて、私は織斑一夏の方から手を離す。

 「それでは一夏さま、御武運を」
 「あぁ。設子さんのほうも、援護頼むぜ」

 機体の高度をさらに上げ、両手に焔心と夕凪を展開しその二つを前後に連結する。
 プラズマブレードマグナムの長距離狙撃砲スナイパーライフル形態。
 この作戦では紅椿を白式の『足』として使用し、私はこのライフルでターゲットの牽制と足止めをする。

 「うおおおおおっ!」

 気合と共に振り下ろされる零落白夜を発動させた雪片弐型が銀の福音に触れる瞬間、福音はトップスピードのまま反転。
 驚きで一時的に動きが止まる織斑一夏。そこに福音からのオープンチャンネルを通し機械音声が聞こえる。

 「敵機確認。迎撃モードへ移行。銀の鐘シルバーベル稼動開始」

 「このっぉ!」

 その声に構わず雪片弐型を振り下ろすも、それは福音が一回転する事でミリ単位で逸れる。流石、重要軍事機密といったところだろうか。

 「わたくしが抑えます、一夏さまはもう一度!」
 「――あぁ、わかった!」

 そして再度切りかかる織斑一夏に合わせ、私も福音に対し進行方向を塞ぐ様にライフルを続けざまに撃つ。
 しかしなおも当たらない。
 頭部から生える羽のようなスラスターを駆使し、まるで宙を舞う木の葉のようにひらひらと避けてゆく。

 「くっ、この……!」

 それに焦れた織斑一夏の大振りな一撃。
 それを避け、体制が崩れた織斑一夏に福音は羽を広げその内側を向ける。そこから覗くのは、いくつもの砲門――

 「させませんっ!」

 させまいと狙い撃つが、福音は軽やかに避けながら弾を発射する。
 避けきれずに白式の腕に着弾したエネルギー弾が爆ぜる。

 「箒さま、わたくしは右から行きますので左から福音を抑えてください!一夏さまはその隙に」
 「あぁ!」
 「了解!」

 そう指示を出して、焔心と夕凪を分離させトップスピードで福音に詰め寄りブレード部で、同様に二本のブレードを展開した紅椿と共に切りかかる。

 「はぁあああああっ!」
 「くっ――」

 私と篠ノ之箒との連撃に最初のうちは回避していた福音も、次第に防御を使い始め篠ノ之箒の猛攻はさらに苛烈さを増していくが、同時に私の中では焦りが強くなる。
 理由は単純。エネルギーの残量が残り少ないからだ。
 最大の原因は展開装甲。装甲の展開部から常にエネルギーを吐き出し続けるこれは、零落白夜同様起動させるだけで常時エネルギーを消耗し続ける。
 バックユニットと脚部の一部分だけであり、尚且つ機動に能力を一元化しエネルギー効率のよいプラズマリアクターを搭載した紫蓬ですらこうなのだ、現行のスペックを全て上回っているという紅椿はもちろんエネルギー総量も紫蓬より上だろうが、それでもなお展開装甲を全身に持ち攻撃、防御、機動全てにエネルギーを使う紅椿の消費速度は上だろう。
 二人掛かりの手数任せという力技で福音を抑えられるのも今回が限度だろう。

 「La――――――♪」

 歌うような機械音声が流れると、そのスラスターの全ての砲門を開きその身体を一回転させ、エネルギー弾を放つ。
 計三十六門の砲口からの全方位射撃。
 一斉射撃のために一時的に動きが止まった福音。
 絶好の機会――しかし織斑一夏は瞬時加速で銀の福音を、そしてその光弾を追い抜き零落白夜のブレードをぶつけて撃ち落す。

 「何をしている!?せっかくのチャンスに――」
 「船がいるんだ!海上は先生達が封鎖したはずなのに――あぁくそっ、密漁船か!」

 確かに織斑一夏の言うようにその背後には船舶の姿を確認できる。
 動きを止めた織斑一夏を狙い目だと判断した福音は、その砲門を白式に向ける。だが私はそれより早く彼の元へと近づき、篠ノ之箒の方向へ思いっきり蹴り飛ばす。
 しかし既に発射されていた光弾を、船への直撃コースのものだけを選び黎明のウィングを閉じ脇下から前方へスライド、先端部が上下に開口させ砲撃形態へ移行させると両手のプラズママグナムと共に誘爆を誘いながら狙い撃つが、最後にどうしても捌ききれないものを焔心と夕凪を投げつけ、再度ウィングを展開し後退してその場から離れる。

 「っと――設子さん、何を!?」

 篠ノ之箒に支えられながら態勢を立て直した織斑一夏から戸惑いの声が向けられる。

 「あんな風に船の正面に居たところで船を火線に晒すだけですわっ、一度固まって福音より高度を上げてください」
 「わ、わかった!」

 織斑一夏は私の鋭い語気に怯みながら指示に従おうとするが、篠ノ之箒はそれに納得いかないようだった。

 「くっ、一夏も設子も、犯罪者など――」
 「箒!!……箒、そんな寂しいこと言うなよ。力を手にしたら、弱いやつのことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。らしくない、全然らしくないぜ」

 その戒めの言葉に大きく動揺し、力の抜けた手から零れ落ちる刀はその半ばで量子化される。
 まずい、具現維持限界リミット・ダウン――!
 やはり元々足として使っていたのに加え、展開装甲によるエネルギーの消費が原因か。よく見れば、雪片弐型のエネルギーも既に切れている。
 銀の福音も茫然自失状態の篠ノ之箒を見逃すはずもなく、素早く狙いを定める。

 「くっ――!」

 それをさせまいと再び砲撃形態にした黎明を撃ち込むが、それを福音は持ち前の機動で回避しながら紅椿へとエネルギー弾を発射する。

 「箒ぃぃぃいいい!」

 そこへ咆哮と共に、自身も既に殆どエネルギーの残っていない白式で織斑一夏が篠ノ之箒を抱きかかえるようにして射線へ割り込む。

 「ぐあああああ!!!」

 着弾による爆発に身を晒され叫びを上げ、やがてその体が大きく傾く。
 そのまま織斑一夏は篠ノ之箒を抱きしめながら、海へ高い水柱を立てて墜落する。

 「(ちっ!)」

 私は心の中で大きく悪態をつく。
 作戦は完全に失敗。
 海へ落ちた二人の身を案じながらも、目の前でこちらをターゲットと定めた銀の福音をどうにかしない限り助けに行くことも出来ない。
 手持ちの武器である焔心と夕凪は既になく、黎明は展開中の砲撃は行えずおまけに紫蓬自体のエネルギー残量も残り僅か。
 引くにも進むにもいかないこの状況で福音は確実にしとめるつもりなのだろう、砲口をこちらに向けた状態で距離を詰めてくる。
 万事休す――!総思った瞬間に、福音の体が向かって左の方向へ何かに突き飛ばされたかのように吹き飛ぶ。

 「なにっ!?」

 あの圧倒的な回避性能を誇った福音が反応する間も無く弾き飛ばされるのを驚きながら見送る私の眼前で、私のよく知った人物が、私の知らない『黒』で、体勢を崩しながら回避が間に合わないと判断して左のウィングで防御する福音に向けて、超高速で殴りかかった。




 ―あとがき
 まさかの設子さん視点!さらに設子さんの専用機も登場のスーパー設子さんタイム!!その割にはピンチだったけれども。
 紫蓬の見た目を既存のものと当てはめて簡単に説明するならば、
 色→冥夜専用武御雷(マブラヴ)、背中→F91(ガンダム)、手持ち武器→ストライクフリーダム(同左)、足→デモンベイン(デモンベイン)。決して足はティエレンじゃない。
 焔心と夕凪のネーミングのネタは某企業の突撃社長と前世が重機の人。
 黎明は夜明け→宵の明星から。ぶっちゃけそのまんま。更にはプラズマウィングですよ、プラズマウィング。あの人にもついてるヤツですよ。
 そしてあっさりと告げられてさっくりと流された黒百のネーミングの由来。まあ、ストーリー的な伏線は既に消えちゃったので完全に蛇足だけれども。
 
 大分好き勝手やった14話ですが、その最たるものが利怜史上最も適当なネーミングのサブタイ。もしかしたら直す。


 さて、アンケートは現在も継続中です。詳しくは十三話あとがき参照です。



[26504] 第十五話「鐘を打ち鳴らす者」
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:30fc8b69
Date: 2011/10/30 15:38
 「ハワイ沖で、ですか?」

 黒百のプロテクトを外す為にキーボードを忙しなく叩いている井深さんをラボの隅にあったパイプ椅子に座りって手持ち無沙汰の状態で眺めていたら、不意に井深さんが告げた言葉に思わず鸚鵡返しで聞き返してしまう。

 「えぇ。およそ三十分前ほどですが、ハワイ沖で起動実験を行っていたアメリカとイスラエが共同開発していた第三世代IS『銀の福音シルバリオ・ゴスペル』が暴走事故を起こし、太平洋を西進しているそうです」

 再び、今度はより具体的に伝えられた事態を聞いてその内容をより吟味する……前に、もっと気にしなきゃいけないことに気付く。

 「あの、第三世代ISの……それも機動実験の暴走事故なんてAクラスの国家機密なんじゃないですか?」
 「あー、どうせ雅兄のことだからろくでもない方法だろうから気にしないほうがいいわよ」

 尋ねた俺にそう答えたのは井深さんがプロテクトを外したら、すぐにマッチング作業に入れるように指揮を取っていた本間社長だった。
 というか、ろくでもないって……いや、この人のことなんだからそうではないかなぁとは思わないでもないんだが。

 「ところで、何でそれを俺に?」

 支部内を動き回るにあたって仕方なく女装したものの、今この部屋にいるのは皆俺のことを知っている人物なので男の口調で問いかける。

 「先程そのISの予測進路の計算結果が出たんですが、太平洋を一直線に西進。ぶっちゃけ日本のここら辺の海域を通るはずなんですよね」
 「それはまた……」

 なんといえばいいのか……都合が良いというべきか、都合が良すぎるというべきか。

 「事件の機密性やその他諸々を考えると、十中八九IS学園にお鉢が回ってくるでしょうね」
「ですね」

 実際、この会話の約一時間半後にアメリカ政府から国際IS機関を通じてIS学園へ機能の停止もしくは撃破の指示が降ったと井深さんから再び聞かされた。

  「ゴメンね如月君、すぐにでも駆けつけたいかもしれないけど今の状態の黒百で行っていいとは言えないからね」

 井深さんの言ったとおり、セキュリティ関係がいとも容易く突破されたが、思いのほか黒百の換装作業で時間を食ってしまっている。
普通だったら量子変換すればいいものの、どうやら黒百は後付装備ならともかく白式みたいに他のパーツを受け付けないように設定されているらしい。もっとも、白式のようにコアそのものが受け付けないのではなく、量子変換させた規定外のパーツをIS側から認識しないようにという悪意のある方向で。もっとも、外部からの直接入力は受け付けるらしくこれが今のところ一番時間が掛かっているらしい。
 それでこの事を知った井深さんは一言「ふっ、面白いですね」と言ってから「どうにかするもの作ってきます」と言ってラボを出て行った。どうやら自分のマシンで作業するらしいとは本間社長の談。
 もっとも、ISのより基幹部に近いその仕様をどうにかするものを本来EIが専門である門外漢の井深さんがあっさり作ると言うのを聞いて、専門家は嘲笑うか嘗めるなと激怒するかではないかと思われるが、井深さんが完成させて専門家がへこむ方に俺は賭ける。ただし、その時ラボにいた全員が同じ方に賭けたので賭けは成立しなかった。

 「いえ、それは全然かまいません。向こうには俺よりずっとIS慣れしてる人がたくさんいますからね」
 「信頼してるんだね。でも、大切な人が大変な時に何もできない……ううん、目の前にいるのに同じ所に立てない辛さってのは、あたしにも分かるよ」
 「………」

 きっと下手な慰めとか、そういうのじゃないんだろう。本間社長の口から出る台詞と、それに伴う強い感情を見て俺は言葉を失う。
 数年前に起きたM.C.によるSHEのTOBの成立と同時に、SHE創始者にして現在絶賛行方不明中の本間宗一郎の娘にしてM.C.の社長ジョナサン・J・マッコイの養女というある意味とんでもない経歴を持ったこの本間樹里社長はおそらく相当波乱万丈な体験をして、そうして出てきた言葉なのだと分かる。

 「よしっ、これで終わりっ」

 本間社長の声に俺は思考に割いていた意識を戻す。さっきまで見た感じではもう少し時間が掛かりそうだったのだが、俺が思ったよりも考えに没頭していたのか本間社長の手並みが鮮やかだったのか、本間社長の言ったとおり既に作業は終えていた。

 「それじゃあ、このまま黒百の再起動と如月君にフィッティングさせるから、長々と待たせて悪かったけど如月君はスタンバイお願い」
 「分かりました」

 本間社長の指示に従って俺を迎え入れるように装甲を開いた黒百に背を預ける。

 「それじゃ黒百再起動。再起動後はフィッティング作業に移行して」

 本間社長の指示に従って作業用の端末の前にいた人が端末をいじり、しばらくすると再起動が終了し、フィッティングの作業に移るという旨が伝えられる。
 するとまず腰周りのパーツが俺の体を固定し、両肩の後ろ側から覆うように胸部パーツが左右に分かれた状態で降りてきて胸の前で合わさる。続いて肩、両腕、足と順に俺の身体に装着されていく。
 全てのパーツか装着し終えると続いてハイパーセンサーが起動する。

 「――んっ!」

 起動したことによって生じた感覚のブレに一瞬眩暈を起こしそうになるが、何とか耐える。

 「大丈夫?あー、先に言っておけばよかったね」

 どういうことか?と視線で問いかけると本間社長はこう答える。

 「あのね、今の黒百のハイパーセンサーは高速機動用にハイパーセンサーの感度が普段より跳ね上がっていてね、これは周囲の情報をより多く操縦者に送る為に感覚を鋭敏化させるの。これによって相対的に周囲の動きが普段よりスローモーションに見えたりするわけ」

 成る程、要するに無茶苦茶動体視力がよくなって所謂「止まって見える」状態に近いものになっているのを脳が処理しきれなくなってるってわけか。

 「まぁそれも、使っていくうちに慣れてくると思うからそんなに気にしなくてもいいと思うわ」
 「分かりました」
 
 それからある程度動作確認をしているうちに、視界も慣れてきた。

 「それじゃあ本間社長、申し訳ないんですけど」
 「あーうん。本当は慣らしどころか試運転も済ませてないマシンを使わせるのは抵抗があるんだけど……ここはウチの技術者を信じるってことで」

 冷静に考えるととてつもなく怖いことを言われている気がするが、動作確認中に井深さんから銀の福音の対処に設子と一夏と箒が向かったと聞けば、俺が動かない理由が無くなるといってもいいだろう。

 「それじゃあ、雅兄は結局戻ってこなかったけど、あたしだけでも表くらいまでは見送るよ」

 ISを装着したまま屋内を歩くのは少しアレだったので一度待機状態に戻してから、本間社長と共に屋外へ出て黒百を再度展開する。
 そのシルエットは今までの黒百と大きく違う。装甲そのものが厚いのは相変わらずだが上腕や腹部、太ももの辺りなどの装甲が本体軽量化のために取り外されており、脚部も今までのような足首から分かれたタイプではなく膝下から足先まで一体化したもので背部のアンロック・ユニットであるブースターも大型化されている。
 また、腰周りを全体を覆うようなスカートアーマーではなく、両腰に中型のブースターとスラスターを一体化させたブースターユニットがある。
 そして左腕には天石の代わりに取り付けられた天石より3周りほど小さく取り回しを考えて厚さ自体も普通の楯よりやや厚いくらいで、このマルチアームドアームデバイス「天陣てんじん」には物理楯のほかに攻撃兵装も搭載されていることから、耐久値は普通の倍程度らしい。
というか「程度」という言葉の基準が明らかにおかしい。

「それじゃあ、お世話になりました」
 「いいよ気にしないで、それに本当はまだ弄りたい所とかあるし、後でこっちからIS学園が使ってる旅館の方に顔出すから」

 はい。と頷いてから上空へ飛翔する。すると通信を求める表示が出てきたので承認したら、モニターに現われたのは以前模擬戦の時に相手した変身するメイド服姿の――そう、確か名前はティエラさんだ。

 「お久しぶりです如月さん、ティエラといいますけど覚えていらっしゃいますか?」
 「はい、模擬戦の時はお世話になりました」
 
 うん、まあ色んな意味で。

 「あ、こちらこそお世話になりました。それでですね、雅也さんからの情報でIS学園側とシルバリオ・ゴスペルが交戦状態に入ったそうです。また、周囲の空海域共に教員陣が封鎖しているそうなので、こちら側から見つからないルートで誘導させてもらいます」

 そういうと視界に新たなフレームが二つ現われ自分の現在位置とシルバリオ・ゴスペルとの位置、また何処からかの衛星からの映像と思わしき上空から俯瞰するアングルで設子達がシルバリオ・ゴスペルト戦闘している映像が映し出される。
成る程、それは助かる。ただ、どうやってその辺りの情報を得ているのかは……考えないようにしよう。
 ティエラさんの指示に従い、海面ギリギリをステルス状態で進む。
 PICが効いているにもかかわらず俺が感じたことの無いGによる息苦しさを感じながら、それまでの黒百とは比べ物にならない加速度と最高速度に舌を巻く。

 「如月さん、後10秒で戦闘空域に突入します」
 「了解、このまま交戦に入ります」

 現場を映し出すモニタフレームでは既に一夏と箒が海へと堕ちていく姿が映し出されている。この分だと設子も危ないだろう。
 俺は左腕の天陣に命じて火器管制のロックを解除し、本体から超高圧縮プラズマエネルギーを送る。
 天陣の内部上部にある射撃兵装に搭載された重力制御デバイスによる擬似重力場がその圧縮されたプラズマをより収束させる。
 連射性こそ低いがとにかく弾速に命をかけて、開発主任が「速さが足りない!」と半狂乱になりながら開発していたと本間社長が笑いながら話していた。そして相変わらずSHEの芸風が違いすぎて理解できない。
 その逸話を聞いて若干不安は残るものの、左腕を前へと突き出し未だ距離のあるシルバリオ・ゴスペルへと照準をつける。
最後に残った設子に確実に止めを刺すためか、距離を詰めているシルバリオ・ゴスペルの左側面の機動の要であるウィング・スラスターへ重力偏向収束プラズマ砲「天陽アマツヒ」を放つ。
 バシュッ。という渇いた音と共に放たれるプラズマ弾だが、弾速を突き詰めたという謳い文句に違わず、その弾道は高機動用に機能拡張されたハイパーセンサーですらほとんど視認することが出来なかった。
 当然、そんな速度の弾を認識外から放たれたシルバリオ・ゴスペルはなす術なく被弾し、その体勢を大きく傾ける。
 俺はその隙を見逃さずブースターに更に火を入れて天陣のもう一つの武装を起動させる。
 天陣の内部下部にあるリニア機構内でプラズマを槍状に圧縮、形成。
 左腕を振りかぶり、攻撃したことによって不要になったステルスを切った俺を視認してどうにか体勢を持ち直すも回避が間に合わないと判断し、既にダメージを負った左のウィング・バインダーを楯のように差し向けるシルバリオ・ゴスペルに体ごとぶつかる様に近づき左腕を突き出す。
 
 「だぁあああああ!」

 インパクトの瞬間に内部で形成されたプラズマ塊をリニア機構によって打ち出す、電磁投射雷槍リニア・パイルバンカー天破封塵パニッシュメント」。
 その直撃を受けてウィング・バインダーを砕かれながら海へと落ちてゆく。
 その姿を見送りながらも気を抜かず、設子を背に置き海面をサーチする。
 本当は設子に駆け寄ったり一夏たちの救出に移りたいのだが、その隙にシルバリオ・ゴスペルに狙い撃たれたら意味が無い。

 「………」
 「如月さん、その位置から約2kmの位置でシルバリオ・ゴスペルを確認しました。おそらく海中を移動したのでしょう」
 
 そういえばティエラさんとの通信は切れてなかったなと思い出しながら、体の力を抜く。

 「設子、大丈夫だったか?」

 既に危険が無いならばと、プライベートチャンネルで語り掛け紫のISを身に纏う設子に振り返る。

 「あぁ、どうにか……な」

 多分初めて聞いた設子の疲労困憊といった風な声に、本当にギリギリだったのだと胸を撫で下ろす。
 元々この空域をモニターしていたのだろう、IS学園側もシルバリオ・ゴスペルの離脱を確認してかこちらに近寄ってくる。多分、一夏たちの回収も任せておけば問題はずだ。
 俺は設子に近寄り支えながら、この後きっと勝手に乱入したことをどやされるんだろうな溜息を漏らす。




 ―あとがき
 気がついたら四半年以上更新していなかったという。皆さん、利怜はまだ生きています。
 前回は設子さん押しでしたが、今回はイヴ押し。遂に恋楯×イヴWithISになっちゃいました。
 天陣の見た目はぶっちゃけブリッツガンダムの右腕のあれ。つーか、パニッシュメントに至ってはやってることはヘブン・ストライク。

 あと、チラ裏で新規投稿しようとしたけどうまくいかないのって俺だけ?



[26504] 【ネタ予告】IS×萌え2次DX【予定は未定】
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/04/02 00:04
IS×萌え2次DX 予告編



 19XX年。
 織斑一夏は、戦華散る大空を翔けていた――

 「それじゃあいっくん、がんばってね~ん」
 「ちょ、えぇえええ!?」

 とりあえず全ての元凶にしておけば、なんでもありな篠ノ乃束によって第二次世界大戦の時代に飛ばされた一夏。
 
 「あんたは……?」
 「私は零式艦上戦闘機――レイだ」
 
 そして一夏は出会う、歴史の闇に葬られた乙女達と――


 「俺があの戦闘機を、あれに乗ってたパイロットを、俺が……殺した?」
 「余計な事を考えるな一夏。それが、戦争だ」

 人の死が正当化される戦場――答えの出ないいに、一夏の心は地へと堕ちる。

 「あなたは、何のためになら戦える?思い出して、あなたは初めにその力で何をしたかったの?」
 「俺は……俺は、誰かを守りたいと――自分の大切な人に守られるだけじゃなくて、自分が大切な人を守りたいって」
 「そう……それじゃあ、お願い。あの子たちを守ってあげて。空であの子たちを守れる男の子は、一夏くんだけなんだから」

 「……大変だな、男ってやつは」
 「えぇそうよ。だけどその男を安心して送り出してあげるのが、出来た女の仕事よ。だから、辛くなったら私が支えてあげる。なんたって、私が一番お姉さんなんだから」
 「ありがとう、あかぎ……でも、自分で出来る女って言うのはどうかと思うぞ?」

 「大丈夫なのか?一夏」
 「あぁ、大丈夫だ。俺は決めたんだ――俺は戦う。どんなに辛くても、苦しくなるってわかっていても。それで仲間を守れるなら、俺は――戦える!」

 自らを支える柱を思い出し、自らを支えてくれる仲間を思い、一夏は再び空を翔る――

◇◆◇

 「えっと、Ti……た……大河ー?」
 「私をタイガーと呼ぶな!!」

 ドイツ軍に出向したり。


 「おねーさんが、優しく教えて、あ、げ、る」
 「え、あ、ちょ……」
 
 悪魔のサイレンに射撃を習ったり――射撃ったら射撃だ。


 「えーと、まずはスパゲッティーに……」
 「おにいやんちゃう、スパゲティや」
 「……スパゲティを最初に短く折ってから茹でて――あぁ、短くなった分早く茹で上がるから注意な。それでポテトサラダとかに混ぜたりしたり――あぁあと、普通のスパゲッティトマトケチャップとピーマン、タマネギにベーコンを混ぜて――ほい、ナポリタン」
 「お、おぉおお!?なんやこれ、ただ混ぜただけやのにめっちゃうまいやん!おにいやんは、パスタ界の風雲児や!」
 「いや、そんな大げさな……」
 「みんなー、ちょっとこっち来ぃー!パスタ界の革命家の登場やー!」
 「なんやー?」「パスタ革命やてー?」「パスタ旋風ー?」「パスタセンセーションやー!!」
 「ちょ、群がるなっ、お、重い!!」

 ベローチェ達おこさまに懐かれたり。


 「んー?」
 「どうかしたのか?イチカ」
 「いや、この輸送車なんだけどナンか変な感じが……(ペタペタ」
 「そうか?オレは特にそうは感じないけど……気になるんなら中身検めたらどうだ?」
 「おう、そうする(ピラッ」
 「――ッ、貴方!!さっきから人の胸を執拗にも、も、もみしだいた挙句ッ!す、スカートをめくるなんて!!」
 「えっ――マチルダ!?」

 連合軍の偽装作戦を見破ったり。

 
 「ニャーはネコニャー。お前の持ってるそれ、なんにゃのニャ?」
 「えっと、たらこだけど……食べるか?」

 野生?の猫に餌付けしたり。

 
 「ちょっとオマエ!アリスになにするんだよ!!」
 「なにって、悪い子にはおしおき――おしりぺんぺんだろ」

 双胴の悪魔におしおきしたり。


 されど、迫り来る歴史の足音は止まない。

◇◆◇

 「これで、終わりです」
 「これは本当にまずいわね……でも、皆を守るためですもの――」
 「全艦、目標正面敵空母――撃ェ!!」
 「やらせるかぁあああ!!白式!俺に仲間を、あかぎを守らせろぉおおおおお!!!」
 「なっ、たった一機で一斉掃射の射線上に!?」
 「一夏くん!!」
 
 数え切れないほどの連装砲と魚雷によって広がる爆煙――いつかのように、それを切り裂き現われたのは深雪のように何者にも汚されず、羅刹のごとく疾く立ち塞がるものを切り裂く『白』。

 「……呼んだか?あかぎ」
 「馬鹿なっ、あれほどの攻撃を受けて無傷ですって!?」
 「雪羅、シールドモード解除……武装一覧に新しい武器?……これは、近接用実体ブレード『主翼切弐型』?」

 今ここに、新たなる歴史が動き出す。
 されど忘れるな、歴史の闇へと葬り去りし暗き力も、またこの時代にあることを……

◇◆◇

 RIREI Presents

 IS Infinite Stratos   ×   Moe Moe World Wars 2nd Deluxe


 「あの子たちを助けてあげていっくん。あの子たちは――」

                                 comeing soon...






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 やっちまったZE!
 そんなわけでエイプリルフールネタのIS×萌え2次。
 ISを知って武装神姫より、鋼の乙女を先にイメージした身としてはやらないわけにはいかないだろうと……
 一体誰得なんだろうね。



[26504] 【ネタ】一夏千冬逆転兄妹+束全力介入で一夏×束モノ【予定は未定】 修正済
Name: 利怜◆ef51f0bf ID:3d06dbd3
Date: 2011/06/08 19:28
 
 プルルルルッ――プルルルルッ――プルルルルッ

 ポケットの中で味気ないデフォルトのままの着信音を響かせている携帯に、俺は手元の書類から目を離して携帯を取り出してディスプレイに表示された発信者の名前を見て深く溜息をつく。

 嗚呼、また面倒事か、と。

 未だ鳴り止まない携帯の通話ボタンをしぶしぶ押して携帯を耳に当てると、歳のわりに甲高い声を響かせ電話の主が喋り出す。

 「ハロハロ、ボンソワール。あなたのラブリーエンジェ――」ブツッ。ツーツーツー。

 電話に出たら、なにやら頭がお沸きになっている方が出てきたので早々に、無常に、一遍の躊躇も無く電話を切る。
 再度鳴る電話に一分、二分、三分――いくら待ってもいくら待っても鳴り止まない電話に俺のほうが先に根を上げる。

 「いきなり切るなんて酷いよー!」
 「酷いのはお前の頭だ……で、何の用だよ」
 「私実はハロハロってまだ食べた事無いんだけど、あれって美味しいのかな?」

 知らんがな。俺も食べた事ねーよ。

 「で、用事はそれだけか?なら切ってからお前の番号を着信拒否にするぞ」
 「問答無用で着信拒否って酷いんじゃないカナ、酷いんじゃないカナ?」
 「二回言うな」

 下手に相手をしても調子に乗せるだけだと言うのに、抗いきれない何かによって俺は我慢できずに突っ込みを入れてしまう。

 「まぁそれは今度一緒に食べに行けばいいだけなんだけど、ちょっとマジメなお話しがしたいな」

 先ほどのお気楽な様子と一変してトーンの下がった声に、俺は電話越しの人物の名前を呼ぶ。

 「なんだ?束」
 「なあに?いっくん。そんなシリアスな声出しちゃって」

 先にそういう声を出したのはどっちだ。と言うのを押さえ、俺は10年来の幼馴染に先を促す。

 「あのね、箒ちゃんが来年からIS学園に入学する事になったんだ」
 「箒ちゃんが……?まだ学園の入試は先だろ」

 束の妹である篠ノ之箒。かつて彼女らが近所に住んでいた頃は、よく篠ノ之道場に顔を出していた故に面識があった。最も、俺より妹のほうがクラスメイトと言う事もあって仲が良かったはずだが。
 だがそれよりも気になる事がある。世界で唯一のIS操縦者養成学校であるIS学園。
 その性質上入学試験に推薦入試と呼ばれるものは『一応』存在せず、複数回に分けて行われる試験の第一回も未だ始まっていない。それなのに、束の口からは確定事項のように告げられた。

 「また、何かやらかしたのか?」
 「んーんー、今回は私は何もやってないよ」

 その言葉を信じるとするならば、それを決めたのはおそらく政府の方だろう。
 束の妹と言う立場は、本人にその気が無くとも多くの人間や組織を何かしらの形で刺激し、その累は問答無用で向かってくる。故に、彼女は昔から要人保護プログラムによって不自由な生活を強いられていたはずだ。
 そして今回、それは大なり小なり人生の指針にかかわりが生まれるであろう高校の進学先にまで及んだと言うわけか。

 「引越しの度に箒ちゃんってばいやそうな顔するし、ほんともー、束さんもイライラが溜まってきちゃうんだよねー」
 「それに関しては束、お前の自業自得だろ。馬鹿者」

 やたら物騒な事を言っているが、割といつもの事なので俺もいつもどおりの答えを返す。

 「まーそんなわけで、千冬ちゃんもどうかなってお誘い」
 「………」

 束の言葉に思わず口を噤む。
 聞き様によってはただの世間話……まぁ、当事者が居ないところで当人以外の人間が話す内容ではないのだが。それでもこいつが言うと大分意味合いが変わってくる。
 なにせ、学生時代ずっと俺と同じクラスにならんが為に裏で暗躍してたくらいだ。本人達にその気が無くても、気がついたら……なんて事態になっていても不思議じゃあない。

 「……まあ、薦めては見るさ」

 なんて欺瞞に満ちた言葉なのだろう。そう思いながらも言わずにはいられない。

 「あはは、それじゃあよろしくね」

 能天気な口ぶりにイラッと来るが、言っても詮無い事なので言葉を飲み込む。
 ただし、一つだけどうしても言っておかなければならない事だけは伝える。

 「俺にお前を止めるなんてできるとは思っちゃいないが、あまり物騒な手段は考えるなよ。……でないと、俺はお前を許せなくなる」
 「ゆるせなくなる!?え、そんな急に求婚されても……」
 「おい、勝手に変なルビ振るんじゃない。俺は本気で言ってるんだがな」
 「あはは、わかってるよいっくん。さっきの声、洒落にならないくらい怖かったから。ちょっとドキドキしちゃったよ、性的に」

 最低のネタだ……

 「どちらにしろ、シャレじゃないからな」
 「うんわかるよ、いっくんシスコンだもんね。かくいう私も箒ちゃんラブ!」
 「それは聞いてない。つか、なんだシスコンって」
 「シスター・コンプライアンス。絶対★妹遵守主義」
 「シスコンの意味を聞いてるんじゃない!しかもコンプレックスじゃないのか!!」

 後その和名の造語も色々と危険すぎる!

 「はあ……もういい。切るぞ」
 「うん。それじゃあまたね、いっくん」

 携帯を机の上に放ると、一つ溜息をつく。あぁ、面倒なことになった。
 とはいえ、何時までも愚痴っていても仕方がない。
 俺は席を立つと、妹の部屋の前まで行きそのドアをノックする。

 「千冬、すこしいいか?」
 「ん、なに?一兄(いちにい)?」

 ドアを開けて、俺の妹の織斑千冬が尋ねてくる。

 「お前さ、IS学園行く気ないか?」
 「……はい?」





 あれから時は流れ季節は四月。
 いわゆる入学式のシーズンとなり、かく言う俺の勤め先であるIS学園もまた多くの新入生を迎えている。


 マルチフォームスーツ、インフィニット・ストラトス。通称IS。
 そのISを開発したのは二十歳前後の極東の小娘――まぁ、ぶっちゃ束。
 その束がISを世間に発表した際、「現行兵器を全て凌駕する」といった言葉を信じなかった世界に対して束が行ったのは日本に対して照準可能なミサイル二三四一機の同時ジャックと、俺の操る一機の白銀のISによるそれらの全撃破による『白騎士事件』。
 って、いかん。世間的にはあの事件の実行犯諸々は秘密だったか――まぁ、察しのいい人間は大体気付いてるだろうからいいか。
 ちなみに白騎士事件のミサイルジャックだが、もう一つの案として俺と当時から親交のあった俺の幼馴染と親友の妹、さらにその妹のクラスメイトにして親友の四人で各国の紛争地域に武力介入すると言うのもあったが、諸々の事情でボツとなった。
 で、当初は宇宙開発を目的として開発されながらも当時現存するあらゆる軍事兵器を凌駕したそれは、その方向性を歪め軍事兵器としての有用性の元、競技用としての側面を持たされながら世界に広がっていった。
 そのISの中枢機関たるISコアは何故か女性にしか反応せず、社会は女性優位の風潮に満ちていったのは誰が予想していただろうか……
 女性にしか扱えないISの操縦者を育成するこのIS学園でなぜ男である俺が勤めているかと言うと、それは俺が史上初にして唯一のISを起動できる男だからだ。
 そして、俺は今年担任を受け持つ事になった1年1組の教室の教室に入る。

 「あ、織斑先生、もう用事はいいんですか?」
 「あぁ。それとクラスの挨拶を任せて悪かったな、山田先生」

 俺の姿を見てこのクラスの副担任にして、先ほどちらっと話に出した親友の妹のクラスメイトだった山田真耶が声を掛けてくる。

 「い、いえ、副担任ですからこれくらいはしないとっ」

 あわあわとする真耶をほほえましいなー。と思ってみているとなんか、次第に真っ赤になっていく。ヤバイ、ちょっと面白い。

 「って、一兄!?」

 その驚きの声に振り返ると最前列中央の席に居る千冬。
 その千冬に俺はとりあえずチョップ

 「あいたっ」
 「別にそんなに強くしてないだろう。あと、学園では織斑先生と呼べ」
 「一兄はデフォルトで馬鹿力なんだから、軽くても痛いのよ」
 「お、り、む、ら?」
 
 両手で頭を押さえながら言い返してくる千冬にもう一度右手を振りかぶってみせる。

 「ひぃ。ごめんなさいっ、織斑先生!」

 頭を抑えながら首を引っ込める千冬。まぁ、二発目は勘弁してやるか。
 それから改めて、俺は教壇の前に立ち自己紹介をする。

 「諸君、俺は織斑一夏。このクラスの担任で、君たち一年をこの一年間で使い物になるように育てるのが仕事だ」

 そう一息で告げると、一瞬の間をおき教室内は黄色い歓声であふれかえる。
 それに対し俺は「静かにしろ」と手を打ち鳴らすと、まるで波が引いたかのように一瞬で静かになるクラス。
 え、なんだこの軍もびっくりの訓練された動き。
 まあ静かになったからいいか。と自分に言い聞かせ、話を続ける。

 「それと、このクラスのもう一人の副担任を紹介する」
 「えぇっ!?なんですかそれ!?」
 「まぁ、今朝決まったことだからな」

 俺の台詞に驚く真耶。俺が遅れる事になった用事もその辺りの都合だ。

 「それじゃあ紹介する――入って来い」

 教室のドアを開け、その前で待たせていた人物に声を掛けるが一向に反応が無い。
 廊下に顔を出してその姿を探すが、影も形もありゃしない。
 あのやろ、大人しく待ってろって言ったのに……あぁもう、生徒達も何事かとざわついてるじゃないか。

 「じゃんじゃじゃーん。呼ばれて飛び出て別方向!!」

 背後からの声に振り向くと、そこには窓のサッシに器用に立ってポーズを決める馬鹿が一人。

 「姉さん!?」
 「束さん!?」

 千冬と箒ちゃんが揃って声を上げ、その人物の名前を呼ぶ。
 そう、そいつこそISを独力で開発した天才にして、今の歪となった世界を生み出した天災、篠ノ之束。ちなみに今日のファッションは一人ヘンゼルとグレーテル。右半分が男物で左半分が女物の服を着たあしゅら男爵みたいな感じ。
 この野郎、今朝いきなり職員室に現われたと思ったら一年一組の副担にしろとか言い出してきた。おかげで俺は朝一のクラス紹介の仕事を真耶に任せることになった。

 「ただの人間には興味ありません!というか、箒ちゃんといっくんとちーちゃん以外には大して興味ありません!!」
 「じゃあなんで、来たんだ馬鹿モン」

 本当、何で来たんだこいつ……






 ――あとがき(兼解説)

友人「一夏千冬逆転兄妹+束全力介入で一夏×束モノを書いてくれ!」
利怜「だが断る」
友人「お願いします、書いてください。そして俺を萌えさせて下さい(土下座)」

 概ねこんな感じの会話で書くことに、大体本編8話位書いてた時期に。
 
友人(人物設定と、それに伴うワンシーンのサンプル読んだ)「千冬成分入った一夏はわかるが、千冬もう別人じゃね?」
利怜「むしろ、一夏化した千冬?」
友人「だがそれがいい」
利怜「ええんかい」

 最早千冬がオリキャラ化と言わんばかりに別人と化してるけど、まさかのGOサイン。
 そんな感じで一話書き上げたが……続くかわかんない。というか、考えてない。
 そして何も考えてないからネタバレなんか気にしない。でも続くかもしれないから、気になる人はこっからは見ないように。




 ネタバレ1:一夏の話に出てきた幼馴染その他は、幼馴染→鈴 親友→弾 親友の妹→蘭。で、親友の妹の友達で真耶。更に一夏経由で束がたまーに紛れ込んだこの6人が学生時代のグループ。一夏の教育(しつけ)で鈴たちは束も辛うじて認識化。辛うじて(2回目)

 ネタバレ2:武力介入ネタの割り振りは エクシア→一夏 デュナメス→真耶 キュリオス→鈴 ヴァーチェ→蘭。

 これ以上は何も考えてない。いや、マジで。


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