「要人警護の任務は了解しましたが……しかもまた潜入ミッションですか?」
新たに与えられた指令に、眉をひそめる。正直潜入ミッションという言葉にあまりいい思い出は無い。
具体的に言うと、つい二日ほど前に卒業したセント・テレジア学院とか、聖應女学院とか。
「まぁそんないやそうな顔をするな。今回は設子ちゃんも一緒だから」
「今回も、の間違いでしょう」
課長ののんきな言葉に俺は嘆息を禁じえない。
「で、その設子はどこに居るんですか?」
そう、俺と設子のペアこと「アイギスの双循」で任務を受ける時に設子がその場に居ない事は今までなかった。
「うむ、設子君には予め準備が必要だったのでもう既に説明をし、準備をしてもらっている」
「そうですか、それならいいんですけど」
はて、一体準備とは何のことなのだろうか?そしてそれは俺はする必要があるのだろうか。幾つかの疑問があるものの、ひとまずは課長の話に耳を傾ける。
「それで、今回の護衛対象はこの少年だ」
そういって手渡される資料。
「コイツは……」
その資料に書かれた人物を俺は知っている。
いや、今やその少年は世界一有名な日本人とも言える存在。
世界で唯一マルチフォーム・スーツIS――インフィニット・ストラトスを扱える男。「織斑一夏」。
「そう、彼は現在世界で最も危険に晒される可能性のある存在として、我々に警護の依頼が来たのだ」
確かに、彼の存在価値はヘタをすると一国のトップにも匹敵すると冗談交じりで語られたりする。
「ですが、何でそんな重要人物の警護が俺たちへ?言っちゃあなんですが、彼のことはそれこそ政府が総力を上げて身柄を守っているんでしょう?」
「そうだ。とはいえ日常生活が万事安全とはいえない」
たしかにそうだ。だからこそ俺たちのような生業が成立するのだが。
「それに、ISを唯一扱える男を遊ばせるほど彼らも暢気ではない。よって、織斑一夏はIS操縦者養成機関であるIS学園に入学する事になった」
IS学園――課長が言ったようにIS操縦者の養成機関であり、「あらゆる国家に属さず、企業の干渉を受けない」といった特殊性を持つ。
確かにここに入学すれば、少なくとも卒業するまでの三年間は『政治的な』脅威から織斑一夏の身を守る事が出来る。
だが、それはあくまでも外側、そして『組織的』なものからのことであり、『個人』から『個人』を守るのはほぼ不可能だろう。極端な話、彼を狙う組織に属する人間を一人入学させるだけで織斑一夏の安全性は途端に崩れてしまう。
いや、だからこその俺たちか。公の存在などが潜り込めない所をガードするのが俺たち特殊要人護衛課の仕事の一つでもある。
「ん?ちょっとまってください」
「一体どうしたんだ?」
そこで、俺はある致命的なことに気がついた。
何度も述べているが、IS学園はIS操縦者の養成機関。入試のテストこそあるが、それ以前の大前提、それは当然のように「ISを動かせる事」。
「俺にISは動かせません。よって俺がIS学園に潜入する事なんて不可能です」
そう、まず俺はISを動かす事が出来ない。
織斑一夏という前例が存在する以上、ISを操縦できる男が皆無と断ずるのは早計だろうが、そんな都合がいい話がそう転がっているわけが無い。
もしそんなものが転がっていると言うのなら、それは最早偶然ではなく陰謀だ。
「あぁそのことか。それなら問題ない。気にするな」
「は?いや、流石にそういうわけにもいかないでしょう」
第一、IS学園の特性上「護衛の任務の為に」という理由で潜入することすらおそらく不可能であろう。
「そのことについては、ある人物から説明がある」
「ある人物?」
「あぁ、そろそろ……おぉ、来た来た」
そういって課長がドアの方向に視線を向けるのに習って俺も後ろのドアへと振り向く。
そこから入ってきたのはやけに疲れた様子の設子と……
「やっほー、しゅーくーん!!おっひさー」
ブルーをベースにセンターが白いワンピース、そして頭にウサギの耳のような機械をつけたハイテンション女がものすごく盛大に手を振っている。
「た、束ぇ!?」
その人物こそISの開発者にして現在絶賛国際的に失踪中。そして、何故かバ課長と交流があり彼女の失踪事件の際にその繋がりで一時的にとはいえ俺がガードし、その時に妙に俺のことを気に入った女、『篠ノ乃束』。
「そうでーっす、束さんでーす。しゅーくん、ご結婚おめでとー」
「は?」
は、結婚?なにそれ。
「え?だってきょーくんがしゅーくんの嫁だーって言うから、私メンドクサイの我慢してこの子のISの設計してあげるんだよー」
「バァ課長ぉぉおおお!!」
束の発言を聞いた瞬間振り向きざまに裏拳を放つが、さっきまで俺の後ろに居た課長は既に大きく俺から距離をとっている。
「なんだよー、事実だろー。折角のパパの好意を無碍にするなよー」
「するなよー」
課長の戯言に束が続く。そう、この二人ふざけている時のテンションというか、波長が非常に似通っている。だからこそ仲がいいのかもしれないが。
「はぁ……で、話を戻しますけど、俺がIS学園に入るのに問題ないってどういうことなんですか?」
「それは束さんが説明しよう!実はしゅーくんには私を護衛してた時に、こっそりISが動かせないかテストしてたのですよ」
「は?」
なんだそれ。
「いやー、しゅーくん女の子っぽかったからもしかしたらISも起動するんじゃないかなーって。そしたら起動しちゃったんだよ。実はしゅーくんこそ史上初の男のIS操縦者だったのだ!」
もしかしたら、他の男の娘でもIS起動するかもしれないねっ。と続ける束。ねっ、じゃねえよ……
「まあそういうわけで、ISを動かせるかどうかの問題はなくなったわけだ。というわけで、シールド9はIS学園に入学する為に頑張って受験勉強をしてくれたまえ。あ、これ受験票ね」
「はぁ……って、課長なんですかこれっ」
「なにって、だから受験票」
「そんなのわかっとるわ!」
そんな事より、この受験票の名前欄!
「どーして、受験者氏名が山田妙子になってるんだ!!」
「ふっ、甘いなシールド9。少数を隠すには大衆の中。少数の中に少数を隠したところで逆に目立つだけだぞ」
確かに、それはそうだが……
「まあ、受験資格自体はどうにかねじ込む事は出来たが、入学できるかどうかはお前次第だ。というわけで三日後のテストに必ず合格するように。これは任務だからな」
三日後って、まじかよ……
結果報告。
どうにかIS学園の入学試験には設子共々合格しました。筆記試験は散々だったが、試験官との模擬戦で試験官を倒したのがよかったらしい。まぁ、突っ込んできた相手の腕を取って合気の要領で思いっきり背中から地面へ叩きつけただけなのだが。
あと、課長経由で聞いたのだが束がなにやらクール便で俺に送りつけているらしい。絶対碌な物じゃ無いだろう。
―あとがき
やっちまったぜ!
修史妙子主人公でこのSSは続きます。あ、ちなみに原作基準です。
ちなみにこの妙子ちゃん、束さんに対しては何故か非常にぞんざいです。何故だ……
なお、この妙子ちゃんは元々利怜が考えてたSSの案である、おとボクの聖應学院での警護任務を請け負っていた過去があります。いや、だからどうというわけじゃないけど。