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[26619] 【魔法少女まどか☆マギカ】霊能青年ただお☆マギカ【GS美神】 完結
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/04/01 02:48
この作品は以下の要素を含みます。

・独自解釈
・10話までの設定
・キャラ崩壊
・ご都合主義

それでも構わないという方は、是非ご覧下さい。
























ビル裏。
広い空き地。
クレーター。
湧き上がる煙。
なにやら激しい戦闘があったことを髣髴とさせるその空間に、1人の男がうつ伏せに倒れていた。
年は18前後。
中肉中背。身体的特徴は見当たらない。
服装はジーパンにジージャンにバンダナ。丈夫さ、そして汚れなどに気を使ったファッションであろう。
服が全身を覆っているので、怪我などは見当たらないが、この惨状を見れば無事であるとは考えにくい。
そんな青年に歩み寄る少女が1人。
クレーターから少し離れた所で立ち止まり、青年を凝視している。
その瞳には何の感情も見受けられない。どうしようもない無表情。
諦め、達観、絶望、屈折、悔恨、不信。  
カウンセラーを名乗る有象無象らは、少女を『そう』表現するであろう。
しかし、もしここに少女のことを深く理解する人間が居れば、それは真逆の評価になる。
それは期待。
希望と言ってもいい。
見る人が見れば、少女の考えていることが透けて見えたかもしれない。
もしかしたら、ひょっとして、いやしかし。
表情は揺れていないように見えるが、心は揺れている。
期待している、希望を抱いている。目の前の青年に。
何故か。
何故少女は、クレーターに沈む、冴えない青年に期待するのか。
その理由はを知るためには、一時間程時間を巻き戻す必要がある。
そして、その刻こそが、青年と少女の人生の転機となったのだった。

















******************************



【横島がクレーターに沈む一時間前】
















キュゥべえがまどかに近づかないように妨害をした帰り道、私は魔女に遭遇した。
『前回』はこのタイミングでは魔女に会わなかった。
やはり、繰返すたびに細かい違いが出てしまうのだろうか?
だが、それは好都合でもある。
現状のままでは、まどかを救うのは難しい。
前回はそれなりにうまくいったのだが、最後の最後でインキュベーターにしてやられた。
今回は、ワルプルギスの夜に対抗する為に、2人、最低でも1人の協力を要請するつもりだ。
理想としては、巴マミと佐倉杏子に協力してもらうことだ。
しかし、佐倉杏子はともかく、巴マミを説得するのは難題である。
巴マミにとって、キュゥべえは命の恩人である。
妄信に近いそれを、キュゥべえに抱いてる巴マミを、どうやって説得すればいいのか。
私からソウルジェムを離して、実際に『肉体が死ぬ』ところを見せれば納得するかもしれないが……、
『前々回』を思い返すに、その行為は危険すぎる。
……もう少し巴マミを理解するべきか?
そう思いながらも、私はまどかを最優先に行動してしまう。
例え巴マミを理解することがまどかを救う近道になるかもしれないとしても、私はそれを容易く実行には移せない。
本当は、まどかから一時たりとも目を離したくないのだ。
私の時間移動も、無制限である、と思い込むほど楽観はできない。
これが最後のチャンスかもしれない。
そう思うと、まどか以外のことは諦めがちになってしまう。
そんなよそ事(私にとってはむしろ本命)を考えながら、魔女の使い魔を殺していく。
この魔女がまどかを襲い、キュゥべえがそれを利用するかもしれない。
魔女は可能な限り私が殺す。それが最善。
そう思い、機械のように使い魔を削除していく。
気配が近い。もうすぐだ。


「……音。
これは……悲鳴?」


あと少しで魔女、といったタイミングで、私の耳に人間の声が飛び込んでくる。
この空間は魔女の結界のようなものだが、そこに人間が迷い込むのは珍しくない。
むしろ、積極的にソレを行う魔女も多数確認したことがある。
だが……、


「……っ!」


目の前の光景は、『それどころではなかった』。
魔女と戦えるのは、魔法少女…、もう少し広い定義で言うならば『キュゥべえが見えるモノ』のみだ。
それ以外は魔女を知覚することが出来ないし、攻撃などもってのほかだ。
魔女には、普通の銃器は効かないし(私のは魔力を付与している)、そもそも普通の人間には視認すらできない。
だから、目前の光景はおかしいのだ。
『高校生くらいの男が手から剣のような物を出して魔女と戦う』なんて、考えられない。
いや、キュゥべえは少女とじゃないと契約できないわけじゃない。それが一番効率が良いから、そうしているだけだ。
だから、少女以外が魔女と戦っているのは、まだいい。
しかし、アレは魔法じゃない。アレはもっと別の何かだ。


「ひいいいいいい!!
突然変な所にワープしたと思ったら、滅茶苦茶グロいのに襲われるしっ!
こいつ弱いけどっ、攻撃にギャグがないっ!
死んでしまう! 死ぬのはヤダっ!
だずげでみがみざ~ん!」


だって、魔法少女は魔女に苦戦なんかしない。
油断、慢心、相性、経験不足、才能不足、知識不足。
最低でも、上のうち2つが該当しない限り、魔法少女は魔女に負けたりしない。
『そういうバランスなのだ』。
これは魔法少女に絶望してもらい、その際のエネルギーを回収する為に、インキュベーターが仕組んだマッチポンプ。
よって魔法少女には『死なれては困る』のだ。
だから魔女と魔法少女の間には、実力差が存在する。
ワルプルギスのような例外はともかく、普通は楽に勝てる。
目の前の魔女も、ただの雑魚。
一度の時間停止で簡単に殺せるだろう。
つまり、『あの青年はエネルギー回収効率判断中の昔に作られた魔法少年』だという仮定は成り立たない。年季のある戦い方ではない。
私たちとは『違う特別』の人間なのだろう。
何故あの青年が魔女と戦えているのか、あの剣のような物は何なのか、疑問は尽きないが……しかし、助けよう。
他人は積極的に助ける。
それはまどかが望み、行っていたことだ。
まどかの身の安全に支障が出ない限り、私もそれに従う。
青年は魔女から逃げるように走り回り、遠距離攻撃を剣で撃退している。
よって、今の青年は、魔女からかなり距離が離れている。
この距離なら手榴弾の爆風は、まず届かないだろう。
そう判断し、時間を止めようとした……その時。


「かかったなアホゥめがっ!
あんなの半分嘘泣きじゃボケェェェ!
美神霊能事務所なめんな! 往生せいやあああ!」


突然振り返った青年は、勝ち誇ったような顔(非常に悪人くさい)をしながら、野球選手のような構えをする。
手には小さな珠のような物を握っている。
相手を油断させて、遠くから爆発物でドカンといったところか? サイズが小さい気もするが、きっとそういう作戦だろう。
……魔女には明確な意思が存在しないので、今のような騙す行為に意味なんてないけど、それは黙っておこう。


「喰らえっ、大リーガーボールッ!!」


素人目に見ても、かなり雑なフォームで投げたソレは、意外なことに、魔女の元まで余裕で届いた。
鍛えられている……ようには見えない。
魔法少女と同じで、なにかしらの身体能力強化ができるのだろうか?
そうした疑問の上投げられた珠は、魔女に当たって、砕けた。
…瞬間、


「なっ……!」


爆発が起きた。
それはいい、想定していた。
しかし、『ここまで大きな爆発は想定していなかった』。
私の一番利用する武器、手榴弾を1とすると、今の爆発は10くらいの規模である。
おかしいと思った。『いくらなんでも離れすぎ』だと。
しかし、この爆発を見れば納得できる。むしろ未だ近いくらいだ。


「……もしかしたら」


青年から目を離せない。
もしかしたら……、もしかしたら彼は、イレギュラーかもしれない。
彼がまどかを救う『鍵』かもしれない。
そう思うと、居ても発ってもいられず、私は青年の元へ駆け出した。
……しかし、


「ああっ! 今の俺すごく輝いてる!
ねーちゃん! どっかに俺の活躍を見てた、綺麗で乳のでかいねーちゃんはおらんか!?」


魔女を倒すと、異常空間は元に戻る。
今回もそうだった。
しかし、青年の起こした爆発は、『現実の世界にまで影響した』。


「…ん?
君は……」


青年が私に気づいた。
それに動揺し、一手遅れてしまった。


「…お姉さ、ンゴッ!!」


『青年の起こした爆発により舞い上げられたのだろう木片が、青年の頭に直撃した』。
青年が何を言おうとしてたかは分からないまま、青年はその場に倒れこみ、クレーターの中に落ちていった。
これが、謎の青年と、私の出会いだった。





















*************************************











少女は青年の元に歩み寄る。
木片は頭に直撃していた。それなりに血が出ている。
脳震盪を起こしたのだろう。しばらくは目覚めまい。
少女は青年に期待をしていた。
通常なら、ここで行う行為は『近寄る』ではなく『救急車を呼ぶ』だ。
しかし、それをしてしまうと、二度と青年とは会えないかもしれない。
それは避けたい。逃がしたくない。
少女は思う。
絶望しかけていた。諦めるなと、自分に言い聞かせていた。
横になるたびに、友達の涙を思い出した。
しかし、これならば『敵』の裏をかけるかもしれない。
少女はそう思考し、青年を自らの部屋で介抱するという選択肢をとる。
少女が青年の体に触れようとした……、その時。


「あー、死ぬかと思った」

「……!」


そんな間抜けな声とともに、青年は起き上がる。
大き目の木片が直撃したのに。それなりに高い所から落ちてきたのに。
しかし、青年はまるでギャグ漫画かのように起き上がり、次の瞬間には血が止まっていた。
青年の名前は横島忠夫。
この世界の……いや、少女にとっての、救世主である。
物語は崩れ、動き出した。






























書いちゃったよ。
続くのかこれ? 続けれるのかこれ?
とりあえず頑張ります。











おまけ





「…右手に炎(の文珠)、…左手に氷(の文珠)。
大魔道師ポップの技……お借りします!
発動しろ! メドロー……って熱い! 冷たい! 死んでしまう!」

「漫画の技を試すな! おのれは小学生かっ!」




私の中の横島はこんなイメージ。







[26619] 2話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/03/25 18:04












無機質……ではないが、異質な部屋であることは確かだ。
私は自分の部屋を、そう評価している。
私くらいの年齢の女の子は、こんな部屋には住まないだろう。
もちろん、以前の私もこんな部屋には住んでいなかった。
ここは実家から少し離れたアパート。今の私の家だ。
両親は私に遠慮している。病気の最中、仕事の関係であまり見舞いに来れず、私の命を内心諦めていたからだろう。
だから私が、『少しの間1人で暮らしたい』と言った時、心配こそすれども、反対はしなかった。
私とて、両親と一緒に暮らしたい。見舞いにこれなくても、優しくされた覚えは有る。
…だが、まどかを救うには、管理される生活は不都合が多すぎる。
だからこそ、私は1人で暮らしているし、それにより男を部屋に上げるのに何の悶着もなかった。


「ここがほむらちゃんの部屋かぁ……。
1人暮らしなんだな」

「…ええ、そうよ」


部屋に男性をあげるという行為に、多少の緊張を覚える。
が、まあ、それはいい。
今は確認しなければいけないことが多すぎる。
私の些細な感情など、捨て置け。


「それで、道すがらに聞いたことは本当なの?」

「ああ、どうやら『俺は異世界に来てしまった』らしい」


目の前の青年……、名は横島忠夫と言うらしい。これからは横島と呼ぶことにする。
…その横島が言うには、ここは自分の居た世界ではないらしい。
霊障、神族、魔族、そしてGSゴーストスイーパー
私は、いままでそんな存在の話は聞いたこと無い。
そう言うと、横島は額に汗を流して、頭を抱えてしまったのだ。


「明日からはあの乳と尻と太ももを拝めないなんて……!
性格はともかく、あんなの世界に数人しか居ないくらい上玉なのに…!」


……まあ、横島の性癖はどうでもいい。年下は範囲外らしいし。
横島が異世界人だと言う事実を簡単に受け入れられた私は(こんな非常識な人間と同じだと思いたくない)、さらに詳しく話を聞いた。
原因はなんなのかと問うた。もしかしたらキュゥべえが何かしたのではないかと思ったのだ。
しかし、その返答は正反対。むしろ、『自分が原因』らしかった。


「ううううっ、文珠の暴走で異世界に来てしまうとは……!
美神さんにシバかれるっ! おキヌちゃんに泣かれる!
ぐああああ! 西条の野郎! 俺の居ない間に美神さんに手を出すなんて…この卑怯者が!」


床を叩きながら涙を流す横島。
人の部屋だという認識はあるのだろうか?
……ともかく、家に来るまでの間に聞くべきことは聞いた。
横島の能力。
1つは『霊力』の圧縮による、剣や盾の生成。
そしてもう1つは……文珠。
任意の文字を入れることで、『その通りの現象が発動する』珠。『エネルギーの塊』。
1つの文字で起こせる現象には限りがあるが、複数組み合わせることでその壁すら乗り越えられる。
1つなら他人でも使用できるが、複数使用は本人のみしか制御できない。
『爆』の一文字だけだと威力は小さいが(それでも『大した威力』だが)『大爆発』といった感じで、3文字使えば、爆発の規模は大幅に上昇する。
そして、横島の上司が、『体から離れた魂を、文珠で肉体に戻す実験』をやっている。
以前そのようなことがあり、危機に陥ったため、次は迅速に対応出来る様に……とのことだ。GSというのも危険な職業なのだろう。
そして実験は成功。
『幽体戻入』の4文字で、魂を肉体に戻す奇跡が成功したらしい。
これは、かなり有用な情報である。今後の展開を大きく左右するだろう。
……もちろん、これらの情報は私が根掘り葉掘り聞いた結果である。
それゆえに、確信できたことがある。
横島は敵ではない。
自分の能力の詳細を、初対面の相手にここまで説明してしまうような間抜けが、敵であるはずが無い。
そして、横島はこの世界に戸籍が存在しない。
だから……、


「あなたには悪いけど、リビングで寝てもらうことになるわ。
寝室は1つしかないの。ごめんなさい」

「ええ子や……!
人の心の暖かさで涙が……!
これが美神さんだったらどんな対価を要求されるかっ!」

「対価は文珠でいいわ。
1日につき2つお願い」

「そんなこったろーと思ったよちくしょおおおお!」


涙を流しながら、器用に叫ぶ横島。
一日に作れる文珠は2つが限界。
そして、帰るには最低でも5つ以上の文珠が必要らしい(もっとも、5つの文珠制御は成功したことないらしいが)。
だから、今の私の発言は『元の世界に帰さない』宣言にも聞こえただろう。


「安心して。
私が文珠を要求するのは3週間程度の間だけよ。
それ以降は、あなたが帰れるまで衣食住を賄うと誓うわ。
ついでにお小遣いも」

「なんでもお申し付けくださいほむら様
この横島っ、あなたの為に働かさせていただきます!」


態度を一変させる横島。
なんという小物なのだろう。
所持金も500円しかないそうだし、これではどっちが年上だかわからない。
……まあいい。
重要なのは横島の性格ではなく、能力なのだから。


「くそうっ、全部貧乏が悪いんや!
金さえあればこんな……、バイトでもするか?
いやでも戸籍がないしなぁ……」

「それじゃあ、私はやることがあるから出るわ。
合鍵はここに置いておくから、なくさないようにしなさい」


なにやらブツブツ言っている横島を無視して、一方的に用件だけ告げて立ち上がる。
……そうだ、忘れてた。
これだけは伝えないと。


「……あと、白い獣には気をつけなさい。
人の心に付け入る悪魔よ」

「タチの悪い魔族みたいなもんか?」


タチの良い魔族がいるのだろうか?
……まあいい。私には関係のない話だ。
とりあえず肯定だけしておこう。


「そうよ」

「うい、忠告ありがとなっ。
それで、ほむらちゃん。会ってからずっと聞きたかったことがあるんだが……」


珍しく……、本当に珍しく真剣な表情だ。
異世界に来てしまっても馬鹿なことしか言えない男が真剣になる話……。
嫌な予感がする。
しかし、聞かないわけにもいかない。私は続きを促した。


「言ってみなさい」

「うむっ。
ほむらちゃんってかなり可愛いが……、お姉さんとか居る?」

「………」

「申し訳ありませんでした!」


殺した。目で。
土下座している横島に背を向け、部屋を出る。
横島の能力は、私が望んでいた以上のモノだった。
しかし、戦闘能力自体は、お世辞にも高いとは言えない。
彼の展開する剣(ハンズオブグローリー……だったっけ?)や文珠は強力なのだが、彼自身が貧弱すぎる。
精神的な問題を度外視しても、魔女と戦うべきではない。
彼は人間なのだ。私とは違う。
だから、致命傷は致命傷になるし、そのまま死ぬこともある。
彼が死んでしまっては、文珠を手に入れれなくなる。それは駄目だ。
……それに、


「…もう、誰にも頼らない」


横島からは文珠を貰う。
それを使い、『巴マミ、佐倉杏子と取引をして』ワルプルギスの夜を殺す。
そこに『信頼』は必要ない。
私はドアを開け、外に出て、鍵をかけた。
今度こそ…、終わらせる……!




















******************************

















「しっかし、ほむらちゃんは恐ろしいなー。
あれでほんま中学生か? 年下の女の子に本能的に土下座しちゃったぞ、俺」


ほむらに与えられた部屋から出て、町に乗り出した横島。
実は腹が減って死にそうなのだが、己の煩悩を優先した質問をしたせいで、食事を逃してしまった。
所持金は500円。給料日前なのである。
アシュタロス事件の時点で、GSの相場レベルまで給料を上げてもらっていた(それでも安い方だが)から、ここまで貧乏なのも久しぶりなのだろう。
顔に入っている縦線が、いっそう深刻である。


「………腹がへった!
ああっ、俺のアホ! あそこでほむらちゃんに、飯をくれって言えば、ご馳走してくれただろうにっ!
……でもほむらちゃん可愛いもんなー。お姉さんとかいたら期待できるんだけどなー」


いっそお母さんでも――とかアホなことを呟きながら街中を歩く横島。
貧乏臭い外見も合わさって、完全に不審者である。


「しかし、異世界に来てしまった以上、補導されるわけにはいかんっ。戸籍がないからなっ!
当分はナンパを控えて……」


そんな横島の前を、1人の女性が横切る。
茶髪のショートヘア、赤いフレームのメガネ、大人しめの服装。
そして……結構大きな胸。
それらから導きされる答えは……!


「生まれる前から愛してましたあああああああああ!!」

「きゃああああああああああああっ!?」


この男、馬鹿である。
いきなり初対面の女性に飛び掛り、鞄で撃退されて地に伏せる。
…やりすぎた? という表情で女性が覗き込むと、横島は物凄い勢いで立ち上がり、女性の手を掴む。


「地味で大人しい感じなのに、そのスタイル!
おキヌちゃんはスタイルがアレだったが、お姉さんはそのあたり素晴らしい!
そんなあなたに、ぼかぁ……ぼかぁもうっ!」

「な、ナンパは困ります!」

「ぐはぁっ!!」


今度は、振るわれた鞄が、素晴らしい角度で顎に直撃。
横島の膝から力が抜けて、崩れ落ちるように倒れた。
女性はそれを見て走り去ってしまった。
そのまま、放置される横島。


「…やっぱり顔かぁ! 顔があかんのかぁ!
イケメンなんて死んでしまえっ! ついでにカップルも死ねっ!」


そういう問題じゃねえ。
完全に自業自得である。
警察に捕まったらどうするつもりだ。


「……ん?」


ふと横島が足元に眼を向ける。
そこには、先ほどの女性の鞄から落ちたであろう雑誌があった。
よくある女性ファッション誌だが、横島の目は表紙の見出しに向けられていた。
曰く、『驚異!?開運カリスマ占い師!!』。


「……これだっ!!」


いきなり走り出す横島。
彼が何をするつもりなのかは、大体予想がつくが、うまくいかない確信がある。
なぜならば……、占いが好きなのは、女性と『カップル』だからだ。




















**********************************












「くそっ! なんて時代だっ!」


閃きから1時間。
街中で占いの露天を開く妖しい男の姿があった。
横島である。


「若い女の子は遠めに見るだけで入って来んし、来るのはババアとカップルばかり……!
そんなに幸せか!? 平日の昼から町を歩く暇人どもめっ!
覚えてろよ…、カップルが存在する限り、第二第三の恐竜が現れ……」


案の定、客であるカップルを破綻させようとして、失敗していた。
ブツブツ言いながら、数十本の細長い棒(100均で購入)をジャラジャラさせている姿は、怪しすぎて逆に占いが当たりそうだった。
まあ、実際横島の占いは、この世界の基準で言えば、かなり当たるほうである。
棒を使った占いは、細かいところまでは分からないが、素早く行うことの出来る単純な占いだ。
人並み以上に霊力のある横島は、この程度の占いなら的中率50%を叩きだせる。(ちなみに美神は的中率100%だから、まだまだGSとしての格が違う。)
そんな、人間として最低だが、占い師としては優秀な横島の元に、1人の少女が現れた。
しかも、客としてだ。


「すいません、占いお願いしても良いですか?」


金髪を短く縦に巻き、白い制服に赤いリボン、チェックのスカートといういでたちの少女。
名は巴マミ。
この物語の重要人物であり、暁美ほむら同様、魔法少女だった。
無論、横島はそんなことは知らない。
ただ、この出会いは物語を大きく動かす出来事であったことだけ、追記しておく。
























おまけ



「いやあああああ!!
修行なんていやあああああああ! おうち帰るううううう!」

「うっさい!
あんたには文珠3個以上の併用くらい出来てもらわないと困るのよ!
私が教育をサボってると思われるでしょ!?」

「だったらなんで妙神山なんすか!?
しかも小竜姫様じゃなく猿が相手だしっ!
美神さんが教えてくださいよっ!」

「文珠なんてあんたしか使えないんだから、私が教えれるわけないでしょ?
それでも良いなら構わないけど……」

「じゃあ…!」

「でも、私の修行は厳しいわよ?
山猿の100倍以上は」

「漢横島! 妙神山に行って来まーす!」

「はい、行ってらっしゃい」


そんな修行開始風景。







[26619] 3話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/03/25 18:05


路上の占い屋。
『当たる!』『安い!』などの広告が張られている。非常に胡散臭い。
そんな露店のどこに心を動かされたのか疑問だが、巴マミは占いを受ける為に敷居を跨いだ。


「巴マミちゃん……、中学校3年生ね」

「は、はい」


まずは一般的な質問をする横島。
細長い棒をジャラジャラさせながら真剣な眼差しをマミに向ける。
占い師としては若すぎる気もするが、生来の胡散臭さがそれをカヴァーし、実に『それっぽかった』。
無論、横島は真面目に占いなんてしてない。


「(この戦力で中学生だと!?
おれはロリコンではないっ、ロリコンではないが……、来年から女子高生っ!
ならセーフじゃないか? 女子高生なら年下でもセーフじゃないか!?)」


良く分からん思考を繰り広げ、目を血走らせる横島。
年齢的にはセーフだが、表情がアウトである。
そんな表情のまま、数十枚の棒を、台の上に広げる。
これが横島にできる占いのやり方だ。
棒の並びと間隔で、目の前の相手の未来を占うのである。


「マミちゃんは……大きな悩みを抱えてるね?
新しくできた友だちとの関係……かな?」

「な、何故それを!?」


まあ、こんなのでもプロである。
そこら辺の占い師の真似事くらい出来る。
誰にでもある程度当てはまる質問をし、言い当て、信用させる。
そんな占い師としての技術を、『本当の占い』で再現してみせる。
そう、この程度の占いなら何てことは無い。
しかし、横島の占いは『何てこと有る』結果も出してしまった。


「………これは!」

「…え?」


マミの近い未来が見えてしまった横島は絶句する。
どうしてマミに限って『いつもは見えない明確な未来』が見えてしまったかというと、それはマミが美人だからだ。
横島は占いながら、『成長したらめっちゃ綺麗になるんやろうなー、見てみたいなー、一年後絶対ナンパしよう』などと考えていた。
そう、『マミの未来について、煩悩を含めた思考をしていた』のである。
よって、横島も見るつもりが無かった未来まで見えてしまった。


「……その、何がわかったんですか?」


マミが不安そうな顔で横島を覗き込む。
いきなり占い師が驚いた顔で硬直したら、驚きもする。
そもそもマミが占いを受けようと思ったのは、本当に軽い気持ちだった。
500円という値段が、たまたまコンビニを出たマミの手に握られていたお釣りと同額であり、この後の予定も特に無かったからである。
しかし、悩みがあるのは確かだ。
最近出来た友人。
彼女たちは私と一緒に戦ってくれるのだろうか。
一緒に戦って欲しいと思っている。
私の不安と孤独を癒して欲しいと、思っている。
だがそれは、結果的に彼女たちを危険に巻き込んでしまうのではないか?
彼女たちは私に憧憬を抱いてくれているが、理解はしていない。
『本当に死ぬかもしれない』などと、理解していない。
そんな不安が襲い掛かり、しかしせっかくの友達が遠のいてしまうのが怖くて、言い出せない。
そう、彼女は寂しかったのだ。


「うむっ!
今年の運勢は、金運上昇、恋愛運そのまま、友達運上昇だなっ!」

「ええっ!?
そ、そんな雑誌の記事みたいな……。
もっとこう……、ないんですか?」


そんな、若干思いつめてたマミに返ってきた返答は、まるで安っぽい占いのそれだった。
いや、まあ500円だから、実際に安いのだが。


「ラッキーカラーはピンク、ラッキーアイテムなら恵方巻きだぞ?」

「そういうのじゃなくてっ!」


机を両手で叩いて、身を乗り出すマミ。
どうやら横島の占いに、そこそこの期待を抱いていたようだ。
しかし、どうやら横島は真面目に答える気がないようだ。


「とりあえず目の前の危機に備える為には、『油断大敵』という言葉を忘れないようにすることだなっ!
じゃあ俺は店を閉める! マミちゃんも暗くなる前に帰るんだぞー」


物凄いスピードで店を畳んで、走り去る横島。
残されたのは、呆然と佇むマミだけであった。


「……まだお金払ってない」


巴マミ、見た目どおり律儀であった。

















********************************


















『油断大敵』
私にその言葉を投げかけたのは、先日会った占い師だった。
私とて、それなりの修羅場を潜っている。
そんな言葉、言われるまでもないと思って意識の底に沈めていたが、…今になってそれを思い出した。
だって、まどかが、魔法少女になって初めての友人が、一緒に戦ってくれるといったから……、舞い上がってしまった。
心が温かくて、体が軽くて、寂しさなんて吹き飛んで、何も恐くなくなった。
しかし、恐怖がないということは、戦闘において致命的だ。
私はいつも通り……いや、いつもより調子良く魔女を追い詰め、止めを刺した……はずだった。


「…………え?」


倒したはずの魔女の口から、脱皮でもするかのように、本当の姿を現した。
それは、魔女を倒したと思い、油断しきっていた私が反応できない速度で、私の元に体を伸ばしてきた。
魔女が口を開く。
ぎらぎらとした歯が見える。
噛まれたら痛そうだな、なんて間抜けな思考が頭をよぎる。
体は動かない。
思考だけ進む。
走馬灯と言う奴だろうか。
周りの風景が、まるでスローモーションのように進む。
でも……、体は……、動かない。
死にたくない。昨日何食べたんだっけ。鹿目まどかは大丈夫だろうか。死にたくない。占い師さん。油断大敵。やだ。死ぬ。
嬉しかった。鹿目まどか。美樹さやか。紅茶好き。死ぬ。マスケット銃。 間に合わない。恋もしてないのに。 死にたくない。
暁美ほむら。忠告。拘束。聞いておけばよかった。 占いの代金払ってない。死にたくない。避けないと。もう間に合わない。
ぎらぎら。 チーズ探す。 歯がぎらぎらぎらぎら。 私を噛み砕こうと。友達。 死にたくない。 お菓子。 恐い。恐くない。死ぬ。
死にたくない。 これからだったのに。 もう1人じゃない。 また1人。死にたくない。 孤独。 慢心。 油断大敵。死にたくない。
死にたくない。 死にたくない。 死にたくない。 死にたくない。 死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、
死にたくない、 死にたくない、 死にたくない、死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!
死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!





                        …………死ぬ。






「………ぁ」


絶望した。
諦めた。
せっかく1人じゃなくなったのに。
せっかく一緒に戦う友達が出来たのに。
すごく、すごく嬉しかったのに。
自分が死ぬのが嫌だ。
自分が死んだ後を想像するのも嫌だ。
友達が死んでしまう。
涙が出そうだ。
しかし、涙を出す時間すらない。


誰か……助けてよっ!


答える人なんて居ない。
分かっている。
鹿目まどかにも、美樹さやかにも、戦う力は無い。
暁美ほむらは自分が拘束した。
佐倉杏子は遠い場所に居る。
……そう、誰も居ない。
私を救う人なんて、誰も居ない、……はずなのに。



「……ぅぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」

「……きゃっ!」


私は掻っ攫われた。
その場から。
私の地獄から。
墓場から。
まるで突風に攫われるように、物凄い力で吹き飛ばされたように。
私は攫われた。


「ま、間に合った!」


男の人の声が聞こえる。
どこかで聞いた声だ。
どうやら、誰かに抱えられているらしい。
誰だろう、凄く……暖かい。
誰か確かめる為に、上を見上げる。


「……占い師……さん?」


先日会った占い師が、こんな顔をしていたような気がする。
なんで?
どうして?
ここに男性が来れるはずがないだとか、どうして助けてくれたのかとか、何者なんだろうとか、お金払わないとだとか。
色々な思考が浮かんでは消える。
とりあえず、もたれかかってみる。
…すごく、暖かかった。
だから、少しだけ身を任せることにした。
まだ、魔女は倒してないけど……、少しだけ、このまま人の暖かさを感じていたかった。
……私は、助かったんだ。
涙が、出た。



















********************************




【巴マミ救出1時間前】











巴マミは家に帰るため道路を歩いていた。
いつも通りの光景。
何もおかしい所はない。


「……ぬう、まだ危ない目にあってないぞ。
やっぱり俺の占いが間違ってたのか?」


……訂正。
顔を覆うほど大きな、真っ黒のサングラスをかけた不審者がそこにいた。
横島である。


「なんか知らんが、マミちゃんに危機が迫っている!
あんな1年後が楽しみな女の子の肌に傷をつける事態なんて……パパ許しませんよっ!」


どうやらこの男、今日一日中マミをストーキングしているようだ。
警察が通りかかればその場でアウト。ギリギリの戦いである。


「しっかし、死ぬほどの危機なんてめったにないしなぁ……。
車にでも轢かれるのか? それとも、ほむらちゃんの言ってた魔法少女というやつなのか?」


横島も、ほむらから魔法少女についての説明は、最低限受けている。
先日横島が倒した存在が“魔女”であり、横島の世界で言う“悪霊”であるということ。
横島の世界と違い、“魔女”は一般に認知はされていない(この話を聞いた横島は、「給料はどっからでるんだ?」と疑問を抱いた)。
“魔法少女”という“GS”のような者のみが“魔女”を倒すことができて、ほむらがその“魔法少女”であるということ。


「魔女って言うから魔鈴さんみたいなのを想像したのに……とんだゲテモノだったもんなぁ」


マミが“魔法少女”ならば『死ぬような危機』というのも理解できる。
調度年齢も合致しているし、ひょっとしたらそういうことかもしれない、と横島は思考する。


「だったら俺だけでなく、ほむらちゃんを呼ぶべきだったな。
痛いのは嫌だし、戦いなんてもっと嫌だ。死ぬかもしれんしなっ!」


だんだん腰が引けていく横島。
逃げたい。というよりマミじゃなかったら、逃げてほむらに知らせているだろう。
しかし、マミは将来有望な女の子。来年から女子高生。
他の人間ならともかく、横島がこの場から逃げれるはずも無かった。


「文珠は3つか……、なんとかなる……かな?
うん、なんとかなる。なんとかならんかったら呪ってやる! 神を!」


汗をだらだらと流しながら、自分に言い聞かせるように呟く横島。
手持ちの文珠は3つ。
この世界に来た時に持っていた文珠1つと、今日作った2つだ。
そのうち2つは、ほむらへの家賃なのだが、降りかかる火の粉を払う為なら、使用許可を得ている。
家賃を渡すのはその日の夜。
それまでに、危険な目に会ってしまったら使っても構わないと言われているのだ。
そして今、世界の宝である美少女の身に、火の粉が降りかかろうとしている。


「来年から女子高生……!
発育のいい胸……! めっちゃ美人!
ここで助けてヒーローとして刷り込みすれば、後は一気にっ!」


犯罪チックな表情をしながらストーキングをする横島。
その体からは、溢れんばかりの霊力が湧き上がり、鼻血が滝のように流れている。もう1つ文珠と血溜ができそうな勢いである。
そんな危険人物にストーキングされているマミの元に、ピンク色の髪をした少女が駆けて来る。


「あれは……もしかして鹿目まどかちゃん?」


まどかの特徴はほむらから聞いている。
彼女が危険な目にあっていたら、『最優先で』助けろと言われているのだ。


「っておい! 走り出しちまったぞ!」


まどかがマミに話しかけると、マミは焦った顔をして、まどかと2人で走り出してしまった。
慌てて追いかけるも、気づかれないようにする為、どうしてもスピードが出せない。
しかも、慣れない道ゆえに、どうしても迷ってしまう。
そして、たどり着いた先は……。


「病院?」


横島は辺りに目を走らせる。
すると、なにやら場が揺らいでいる場所にマミとまどかが触れ、その瞬間姿が消えるのを見た。


「むう……、やっぱりか……。
やっかいなことになったなあ……」


横島は思考する。
この先に進めば、命の危険があるかもしれない。
しかし、鹿目まどかを危機から救うのは最優先事項。それを破ったらほむらの家から追い出されるだろう。
別に宿なんてなくても生きていける。文珠もあるし、2,3日堪えれば良いだけだ。
……しかし。


「俺の命と、ほむらちゃんの手料理……」


ここで助けに向かわなかったら、女の子の手料理から、コンビニの廃棄へと落ちぶれることになるだろう。
答えはもう、決まっていた。


「ふ……ふふふふふふふふ。
手料理じゃボケえええええええ!!
俺は目前の欲望の為に将来を捨てることが出来る男なんじゃあああああああああ!!」


叫びながら結界の中に飛び込む横島。
すぐに辺りを見渡す。
すると、近くに見知った顔があった。


「……ほむらちゃん?」

「……横島」


なんと家主である暁美ほむらが緊縛されていたのだ。
ほむらがあと2つ年をとっていたら横島の煩悩がメルトダウンしていたのだが、そこはロリコンじゃないことに定評のある横島。
煩悩が溢れるのを抑えた。


「こんなところでSMプレイか?
若いうちからそういうプレイをすると年食ってから苦労するぞ」

「………………晩御飯抜き」

「申し訳ありませんほむら様。
わたくしめはあなたの忠実なしもべです。犬です。
だから夕食抜きは勘弁してっ!」


年下の女の子に土下座をする横島。
ほむらの視線は冷たいままだが、会った時同様、何かを期待するような目を向けている。


「横島、あなたが巴マミをストーキングしてたのは知っているわ」

「ぎくっ!」


仰け反り、汗をだらだら流す横島。


「ち、違う! 誤解なんや!
俺はただあの乳が失われるのは惜しいとっ!
……って違う! せ、正義の心に目覚めて!」


しどろもどろの言い訳を始める横島。
しかし、ほむらは横島の言い訳に興味はないようだ。
そのまま話を続ける。


「今回の魔女は巴マミとの相性が最悪よ。
下手したら、……死ぬ」

「!?」


シリアスな展開に焦る横島。
しかし、それは分かっていたことだ。
マミが危険だとわかったからストーキングしていたのだから、焦りこそすれ、驚きはしなかった。


「私ならあの魔女を簡単に殺せる。
でも、私は巴マミの魔法のせいで動けない。
だから、あなたが行って説得を……」


ここで言葉は切れた。
いや、ほむらが話すのを止めたわけではない。
ただ単に、話を聞く相手……横島がその場から消えたのだ。

『超加速』

横島の手に握られた3つの文珠に、その文字が刻まれた瞬間……、ほむらは横島を見失ったのだった。
























***********************************















「マミちゃん! 早くほむらちゃんの拘束を解いてくれ!」

「……え、でも」


私を助けてくれた占い師さんが放った第一声がそれだった。
どういうことだろう? 占い師さんは暁美ほむらとグルなのだろうか?
しかし、彼は私を助けてくれた。
ひょっとして、暁美ほむらも、私の敵ではない?


「君はあの魔女との相性が最悪らしいっ!
このままでは俺も君も死んでしまう! だから早く!」

「でも占い師さんも一緒に戦えば、きっと」


魔法少女でもないのに、あんなとんでもないスピードが出せる彼の正体が気になるが、十分な戦力であることは確かだ。
目の前の魔女の特性は脱皮を模倣した『再生』。
確かに私では分が悪いけど、2人なら……、


「俺は超スピードを出しすぎて、筋肉痛で動けんのじゃああああ!
だから速く!」

「ええっ!?」


き、筋肉痛!?
魔力不足とかじゃなく、筋肉痛!?
どういった原理であんなスピードを出したか謎だが、確かにそれでは戦力にならない。
などと考えている間に、先ほどの恵方巻きのような見た目の魔女が、私たちに襲い掛かってきた。
ここは一旦撤退して……。


「ひいいいいいいい!?
こ、こっち来たああああああ!」

「と、とりあえず逃げ……!
って、は、離して下さいっ!」


占い師さんが私を強く抱きしめているせいで、うまく動けない!
男の人が、こんな至近距離に居て、しかも抱きしめられているという事実にやっと気づいた私は、途端に頬が赤くなるのに気づく。
しかし、今はそんな甘い思考に浸る余裕はない!


「だ、だから筋肉痛で動けんと……!
ああっ、手ェ痛い! 足痛いっ!
小錦が……! 小錦がああああああ!」

「きゃあああああ!!」


唯一自由になる右腕でマスケット銃を召喚し、魔女にありったけの弾丸を撃ち込む。
いつもみたいに優雅さなんて気にしている余裕は無い。
ただ我武者羅に、撃つ!


「……ふぅ」

「……な、なんとかなったのか?」

「まだ仕留めてないですっ。
すぐにまた攻撃してきますよ!」


魔女が怯んで私達から身をそらす。
思わず息をついてしまった。
が、まだ終わっていない!


「くそっ!
マミちゃん! 俺を置いて逃げ…………ないでえええええええ!
やっぱり見捨てんといてえええええ! 1人は嫌じゃあああああ! 死ぬのはいやじゃああああ!」

「だから動けないんですってばっ!」


芸人みたいに叫ぶ占い師さん。
その姿に、思わず穏やかなキャラを崩しかけない突っ込みをしてしまった。
すっごく情けない。
……助けてくれたときはカッコイイって思ったのに!


「ヒッ! また来る!
……そ、そうだ! ほむらちゃんを解放してくれればあいつなんて!
マミちゃん! はやくあのランボーを戦場に解き放つんだっ!
『暁美ほむら怒りの魔女狩り』の開始じゃああああああ!」


ラ、ランボーって……。
そんな感じの女の子には見えなかったけど……、まあそれはいい。
問題は……、


「……そんなの、『もうとっくにやってます!』」


そう。
『拘束なんて、とっくに解いている』!
彼女を拘束した場所からここまでは、それなりに距離がある。
今私たちを助けに来てくれるなんて、それこそ占い師さんみたいな超スピードを出すか。『時間でも止めない限り』不可能だ。


「ひいいいいいいいいいいいいい!?」

「きゃああああああああああああ!?」


横島さんが泣きながら悲鳴を上げる。
私もそれに倣う。
このまま死んじゃうかもしれないのに、まるでギャグ漫画みたいな泣き笑いだ。
もう無理かも……、なんて思った瞬間、最近よく聞く冷淡な声が場に響いた。


「……待たせたわね」


どうやってこの短い間で駆けつけたのか。
キャラに似合わず、額に汗をかいている彼女は、そのまま魔女と戦闘を始めた。


「遅いやないかほむらちゃん!
恐かった、恐かったよおおおおお!!」

「静かにしなさい。
すぐに……始末するから」


そこからは一方的だった。
消えたり現れたりする彼女に魔女は翻弄され、爆発でダメージを蓄積されたのち、本体を叩かれ、あっけなく消滅した。
それを見た瞬間、死の恐怖がよみがえり、体が震え始めた。
魔法少女として、死に掛けた経験は多い。
しかし、最近は安定していたから、油断してた。
体が震える。
占い師さんの体も震えている。
筋肉痛なのだろう。


「……くすっ」


思わずふきだす。
震えも止まってしまった。
私を助けてくれた人。
情けなくて、格好悪い人。
でも……、暖かい人。
もう少しだけ、この人に身を任せることにした。
美樹さんと鹿目さんがこちらに走り寄ってくる。
彼女たちがここに着くまでは、守られる女の子でいよう。
憧れの先輩役は、ちょっとだけお休み。
私は目を閉じた。
涙は、乾いていた。




























おまけ


>なんとかならんかったら呪ってやる! 神を!

キーやん「えっ」









横島の超加速は、GS原作の超加速ではなく、それを模倣した物です。
文珠の霊力を最大限に使い、物凄いスピードを出します。
だからこそ、使った後の体へのががががが。という感じの設定です。



追記
side○○ って書くの必要ですか?
感想で、必要ないと言われたので、今後はなくそうか迷ってます。
よろしければ、ご意見お願いいたします。






[26619] 4話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/03/25 10:51





魔女撃退後。
ほむらは、腕の中の柔らかい感触で幸せになりつつも中学生に興奮しまいと床に頭を打ち付ける横島からマミを引っぺがした。
そしてそのまま、マミはまどかに『魔法少女になるのは、少し待って欲しい』とだけ告げて、
魔法少女同士で話すことがあるからと、ほむらの家に行ってしまった。
マミの言葉はおそらく、ほむらへの義理なのだろう。
ほむらの目的は、まどかが魔法少女になるのを阻止すること。
マミはそう認識しているので、ほむらと話し合おうと決めた今、その意志だけでも一時的に尊重することにしたのだ。
そして、何の力もない2人を無事家に送り届ける係は勿論……、


「へー別の世界からねー……。
魔法少女といい別世界といい、最近不思議なことが多いなぁ」

「まあ、俺は元の世界の英雄だからな!
世界転覆を狙う魔王を倒した男、GS横島とは俺のことさっ!」


横島である。
確認のしようが無いホラ(一部本当)を吹いて年下の女の子をたぶらかそうとしていた。


「ご、ごめんなさいっ。
聞いたこと無いです……」

「まあ別世界だからな、当然だろう。
元の世界の俺は……、それはもうモテモテだからなっ! 世界の半分の女が俺に惚れとった!」


横島とは、止める者がいないと地の果てまで調子に乗る男である。
無論、2人とも信じていない様子だが。


「でもうそ臭いなー。
確かにマミさんを華麗に助けたときは、格好良かったけど……、横島さんってなんとなくヘタレなイメージが……」

「さ、さやかちゃん!
初対面の人に失礼だよっ!」

「ヘタレ……、年下の女の子にヘタレって……」


さやかが歯に着せぬ本音をぶつける。
まどかがそれを窘めるが、フォローは入れない。
どうやら似たような感想を抱いていたようだ。
メンタルの強い横島ですら凹んでいる。正直な言葉が一番人を傷つけるのだ。


「でも、マミさんを助けてくれて本当にありがとうございますっ!
わたしあの時、マミさんと約束したのに、それを果たせないんじゃないかって凄く怖くて……」

「ははは、あの時はほんとブルッちゃったね……。
私達は何も出来なかったから……、本当に感謝してるよ、ありがとっ!」

「お、おうっ!(す、素直な眼差しが心に痛いっ! い、言えない! 助ける為とはいえストーキングしてたなんて言えない!)」


しかも下心込みのストーキングだった。
とてもじゃないが、多感な中学生に言える内容ではない。


「でもさぁ、なんで転校生のところに住んでるの?」

「まあ、倒れていた俺を介抱してくれたというのが一番の理由だな」

「魔女と戦ったんですよね?
すごいなぁ……生身のまま戦えるなんて……」

「……うっ」


まどかが横島に尊敬の眼差しを向ける。
横島が怯む。
これがストライク圏内の女の子ならともかく、相手は女子中学生。
調子に乗って武勇伝を語るのもいいが、やりすぎるとほむらにバレる。
そして、まどかはほむらにとって重要な人物らしい。
下手なこと吹き込んで、信じてしまったら怒られるかもしれん。
そんな思考が横島の頭を駆け巡っていた。


「ホテルとかに住んじゃえばいいじゃん。
女子中学生の家に泊まる男子高校生って、ちょっと犯罪だよ?」


まあ、正論である。
横島にとって、それはありがたいタイミングで投げかけられた言葉だった。


「金が無い!」

「そんな胸を張って言わなくても……」

「みんな貧乏が悪いんやっ!
でも俺は泣かんっ! 泣いてばっかの弱虫は庭に咲くひまわりに笑われるんやッ!」

「あ、あはははは……」


横島の剣幕に若干引いてるまどか。
まあ、大人しい感じのまどかが今の横島に戸惑うのは当然だろう。
尊敬の念も若干薄れ、『凄いけど、かなり変な人』という印象で固まったようだ。


「それにほむらちゃんの作る飯がうまい! しかも将来が楽しみな美人でもあるっ!
2年後には女子高生だしな! 高校生同士だから何の問題も……」


どうやらこの横島、マミだけでなくほむらにまで期待をしているようだ。
まあ、2人とも中学生とは思えない雰囲気をかもし出しているので、『同じ高校生ならOK』と思ってしまうのだろう。
しかし……、


「……ん? でも横島さんそんとき高校卒業してるじゃん」

「いま高校2年生なら……、そうだね。
大学生か社会人だよ」

「……しまった!
やっぱりマミちゃんを狙う方が無難なのか!? あのスタイルは確かに素晴らしい!
でも何故だろう……、セクハラしたらどついてくるような女の子の方が安心してしまうっ!
俺ってMなのか!? だとしたら完全に美神さんのせいだ! 慰謝料請求した後、罪悪感につけこんで一発……!」


おのれの計画の穴を突かれ暴走を始める横島。
あたまを抱えながら体を捻られる姿は、完全に通報ものだった。
あと、知らなかったのか? 美神は罪悪感など感じない。


「横島さん、落ち着いてー」

「ぶべらっ!」


そんな横島を落ち着かせるため、さやかがバットでフルスイングをかます。
初対面のはずなのに、長年の友人でも中々できないほどフランクに絡んでいる。
よっぽど相性が良いのだろう。


「そうだ! そういう女しか周りに居なかったから慣れてしまっただけだ!
おれはMやないっ! Mやないんやあああああ!」


しかし、さやかの突っ込みを別の方向で受け取ったのか、今度は電柱に頭を叩きつけ始めた。
額から血がだらだらとあふれ出す。完全にスプラッタである。


「よ、横島さんっ!? ち、血がっ!」


まどかがおろおろしながらも近寄る。
しかし、その声に反応した横島が振り返ると……、


「……ん? どうかした、まどかちゃん?」

「止まってる!?」

「さすが異世界人だねー」


まるで宇宙人のような扱いを受ける横島。
まあ、間違ってはない。
ギャグ時空の人間は、シリアス世界の人間から見れば、人外のそれである。
……と、そんな話をしているうちに、目的地に着いたようだ。


「あ、わたしここまでで良いよっ!
悪いねっ、わざわざ送ってもらっちゃって!」

「そうか、……家を出るときは気をつけるんだぞー。
俺みたいに襲われるかもしれんからなっ!」

「また明日ね、さやかちゃんっ」


さばさばとした態度で礼を言うさやか。
そんなさやかを送り届けた横島は、最後に1つだけ質問をする。


「……そういえばまどかちゃん、1つだけ気になることがあるから、質問してもいいか?」

「は、はい。
なんでしょう?」

「お姉さんとか居る?
まどかちゃんに似て可愛い感じで、ぽやっとしてるとなお……」


カキーンっと、渇いた音が辺りに響いた。
美樹さやか、本日2度目のホームランである。























***********************************















「……にわかに、信じられないわ」


暁美ほむらの家で話を聞く。
その為に訪れた彼女の家で聞いた話は、とてもではないが信じれない……、信じたくないものであった。


「真実よ。
だからこそ私は……、鹿目まどかが魔法少女になるのを阻止しなければならない」

「…………」


彼女の話は実にシンプルだった。

・ソウルジェムは魔法少女の魂そのもの。肉体は器でしかない。
・ソウルジェムが濁りきるとグリーフシードになる。
・すべてはキュゥべえのマッチポンプ。
・今から2週間半後にワルプルギスの夜が現れる。

これだけだ。
しかし、これを信じてしまっては、今までの私が否定されてしまう。
正義だと思っていた。
魔女は悪い存在。
魔法少女はそれを倒す存在。
でも、魔女が魔法少女の成れの果てだとしたら、私も悪い存在に“成る”ということで……。
そして、私の今までしてきたことは、人殺しだということで……。
信じたく、なかった。


「……まだあなたのことは信用できないけど、占い師さん……、横島さんのことは信じるわ。
だって、あんな馬鹿な人に裏があるとは思えないもの。
だから……、あなたが『敵ではないっていうだけ』なら信じるつもりだった。
……でも、これは……」

「私も、今のだけで信じてもらおうなんて思ってないわ。
真実は元凶に聞けば良い」

「……え」


彼女の目線は私の後ろを向いている。
その先に『元凶』がいる?
でも、彼女の話をそのまま受け入れるなら、元凶は……、つまり……。


「……キュゥべえ」

「やあ、面白そうな話をしてるねっ。
ボクにも聞かせてよ。特に、『さっきの横島とかいう子について』」


いつも通りだ。
別に醜悪な姿になっていたり、口調が雑になってたりなんてしない。
でも、なぜだろう……。
『それが物凄く恐ろしいモノの見えてしまう』のは……。


「……キュゥべえ、暁美さんが言っていてことは本当なの?」


違うよね?――という言葉が喉から出掛かり、詰まる。
私には選択肢が無かった。
魔法少女にならなければ死んでいたのだから。
そして、その原因である事故は魔女の可能性があると言った……、キュゥべえが。
では何故、『なんであのとき都合よくキュゥべえは現場に居たのだろう』?
魔法少女も連れずに、どうして魔女に接触しかねない場所に居たのだろう?
なんでキュゥべえは魔女の気配が分かるのだろう? なんで色々知っているのだろう?
そもそも、『キュゥべえは何者なんだ』?
それなりに長い付き合いなのに、そんなことも知らない。
そして、私の疑問はすぐに回答がなされることになる。
……キュゥべえ自身から。


「うんっ、本当だよ。
もっとも、ワルプルギスに関しては初耳だけどね」

「……なっ!?」

「『そんなことはどうでもいいからさっ』、横島のことを教えてよ!
個人があれほどのエネルギーを保有してるなんて信じられないよ!
『アレ』がいっぱい居れば、こんな僻地で細々とノルマ達成の為に苦心する必要がないからねっ」


あっさりと、あまりにあっさりと認められた真実。
しかも、認めた本人は、『どうでもよさそうに』答えた。
今はそれより、もっと重要なことがあるだろう、と言わんばかりに。


「残念ながら、彼のような存在は例外よ。『他には存在しないわ』。
それに、『あのエネルギーは彼しか使えないわ』。
残念だったわね」

「ふーん……」


2人が睨みあう。
いや、目線が鋭いのは暁美さんだけだ。
キュゥべえは変わらない。いつもと変わらない愛嬌のある顔だ。
『私を騙したのに』、それがバレた……いや、バラしたというのに、何も変わらない。
今までの私が揺らぐ。
わたしは魔女の卵。災害の元。両親の敵と同じ。人間の……敵。
体が震える。
そんなモノに友達を誘おうとしていたの?
私は良い。
そうだとわかったなら、『ソウルジェムが濁る前に砕けば良いのだ』。
魔女になって人を襲うくらいなら自殺する。
私の両親を奪ったモノになるくらいだったら、死んだほうがマシだ。
でも、『鹿目さんを巻き込むのだけは駄目だ』。
彼女は有り得ないほどの素質を持っている。彼女が魔女になってしまったらその強さは計り知れない。
それに……彼女は『友達』だ。
巻き込みたくない。巻き込んではいけない。
鹿目さんに魔法少女になるのを待って欲しいと伝えてよかった。
ああ、それにしても空気が冷たい。
心が沈んでいく。
……遠い昔を思い出す。
こんなとき、お父さんが私を抱きしめてくれたっけ……。
私が泣きそうなときにすぐ気づいて、優しく頭を撫でてくれた。
……でも、なぜだろう。
辛い現実から眼を逸らし、泣き出しそうな自分を慰めてくれるその姿が、横島さんと重なるのは……。
……ああ、あの暖かさを感じたい。
知りたくなかった真実を知ってしまった私は、今日感じた暖かさを回想するのだった。
























**********************************





















「横島さんは……すごいですね……」

「……へ?」


まどかを家まで送る道中。
急にまどかから話しかけられた横島は、戸惑いつつも反応する。


「わたしって何の取りえもなくて、誰の役にも立てなくて、このまま『なんでもないわたし』のままなのかなって……」

「…………」


急に始まったまどかの独白に目を白黒させる横島。
まどかの言葉に、いつの日かのおキヌを思い出した。


「だから、マミさんと会って、魔法少女の存在を知って、わたしにその才能があるって聞いたとき、運命だと思ったんです。
こんな私でも役に立てるんだって思ったら……嬉しくて」

「……ふーん」


生返事をしてまどかの独白を聞く横島。
自分はGS試験中になんかい泣いたかわからんのに、強い子やなぁ、とか思って聞いているようだ。


「でも、今は怖いんです。
横島さんが来てくれたから良かったけど、あのままだとマミさんは死んでたと思います。
それがわかったら体が震えてきて、憧れていたものは、死と隣りあわせだってやっと気づいて……」


まどかの体が小刻みに震える。
小刻みなそれは、夢を見ていた少女の挫折を意味していた。
プリキュア的魔法少女だと思ってたらニトロ的魔法少女でだったでござるといった心境である。


「誰かを守る為に命を賭けるってすごいと思います。
わたしも、誰かの役に立つなら、頑張りたいって、戦いたいって思ってました。
……でも」


まるで懺悔でもするかのように。
話して楽になってしまおうといったように。
まどかは独白を続ける。


「……恐い」


初めて顔を上げた。
目には涙が浮かび、体の震えは大きくなっている。


「恐いんです。
死んでしまうのが。約束したのに。一緒に戦うって。
それでも……あんな現実を見てしまったら、……恐い」


まどかは悪くない。
『マミが楽に勝ちすぎていたのだ』。
だから、誰かを守っているという、格好良いという、綺麗な側面しか見えなかった。
でも、気づいてしまった。
危険だと言うことに。
死ぬかも知れないということに。


「気づいてないかもしれませんけど、ずっと震えてます。
横島さんが明るく振舞ってくれたから少し落ち着きましたけど……、やっぱり止まりません」


再びうつむいて、体を抱くようにして震えを抑える。


「卑怯だってわかってます。
一緒に戦うって約束したのに……、凄く喜んでくれたのに……、1人は寂しいって言ってたのに……」


――それでも――


「……恐い」


それは、懺悔だった。
マミに、魔法少女になるのを待って欲しいと言われたとき、喜んでしまった、そのことに対する。
約束を反故してしまったことに対する……懺悔。
そんなまどかに対し、ようやく横島が口を開く。


「当たり前だろ?」


いつものあっけからんとした表情で、ただそれだけ、言った。


「……え?」

「死ぬのが恐くない人間なんて居ないって。
俺もさっきの戦いで何回泣いたことか」


恐くない戦いなんて無い。
横島ほどでは無いだろうが、誰だって恐いのだ。


「でも、今は全然平気そう……」

「慣れてるからなっ。
あんなの、美神さんの折檻に比べたら天国だっつーの」


孫悟空の修行の数倍きついことに定評のあるGS美神の折檻が受けれるのは、美神霊能事務所だけっ!


「(美神さんって恐い人なんだなぁ……)」


まどかの頭に、世紀末拳王的な姿が浮かぶ。
ベクトルは違うが、同じくらい恐ろしいことに変わりは無い。


「それにまどかちゃんにだって出来ることはあると思うぞ?」

「……そんな、ないです。わたしなんて」


以前こんなことおキヌちゃんにも言ったなぁ、なんて思いながら、喋る言葉を考える横島。
シリアスと同じくらい、泣いている女の子が苦手なのだ。


「自分の苦労を分かってくれる友達が居るだけで嬉しいもんさ。
マミちゃんだって、君たちに会えて嬉しいと思ってるはずだぞ?
『これからも変わらず接してあげればいい』。それだけで良いと思うよ?」


しかし、まどかはそれに納得できない。
マミはこう言ったのだ。
一緒に戦ってくれることが嬉しい、と。


「でも、……1人で戦うのは寂しいって……」

「『それは俺とほむらちゃんの役目だ』」

「……あ」


まどかの中で何かが繋がった。
それは逃避かもしれない。
しかし、マミがそれで良いというのなら、そのほうがいいと思ったのだ。


「だから心配しないでいいって!
ほむらちゃんがマミちゃんの戦いをサポートするから、まどかちゃんはマミちゃんの私生活を彩ってあげてくれよ。
魔法少女になんてならなくても、それだけで十分さっ!」

「…………はい、そうですね。
明日マミさんともう一回話し合います。
自分勝手だけど……、恐いって、伝えようと思います」


それでも一緒に戦って欲しいとマミが言うのなら、魔法少女になって戦おう。
恐いけど、誰かの役に立ちたいという気持ちは今でもある。
そしてそれ以上に、マミと、もっと仲良くなりたいという気持ちが強かった。
それは仲間としてでも、友達としてでも築けるかもしれない。
まどかはようやく涙を拭い、前を向いた。


「おうっ!
俺としては魔法少女になってほしくないけどなっ!
極個人的な意味で!」


ちなみにここで言う個人的な意味とは、ほむらのことである。
『まどかが魔法少女になるのを阻止しなさい』と言われているのだ。
つまり、ここまで言った台詞はそういう意味合いが強かったりする。
まあ、純粋に将来有望な子が危ない目にあうのはちょっと……、という考えもあったのだろうが。


「……ありがとうございますっ」


だから、まどかの純粋な感謝が胸に痛かったりした。


「(すまんマミちゃん!
俺も戦うから勘弁してっ! ほむらちゃん怒らすと恐いんやっ!
ああ、でも戦うのは恐い。怪我するのはヤダ。
戦いはほむらちゃんに任せて、俺はサポートに徹しよう! そうしよう!
ほむらちゃんは『護』の文珠持ってるし、いざとなっても大丈夫だろう!)」


そんな感じで、3歳年下の女の子の相談に乗った横島は、この世界に来て初めて、戦う覚悟を決めたのだった。
経緯がちょっと情けないけど。
















おまけ


「悲しみを背負い、4文字制御に成功した俺ならできるっ!
いくぞ……!『夢想転生』!」

「……まさかっ、これはっ……!」←てきとーな敵A

「これで俺は完全に透明になった! 攻撃は通じんっ!
ふふふ……、喰らえ! 横島パンチっ!」

「うわあああああああああ!!
…………あれ?」

「しまった! 拳も透明にしてしまった!」

「アホかっ!!」


初期設定の夢想転生はこんな感じだったはず。
最初読んだときは疑問に思ったもんだ。















難産です。物凄く。
次もたぶんこんな感じです。
見捨てないで、生暖かいめで見守っていただけるとありがたいです。






[26619] 5話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/03/25 19:42









鍵を回す音が聞こえる
どうやら、この家のもう1人の住人が帰ってきたようだ。


「ただいまー」

「ああ……、お帰りなさい横島」


……横島さん。
なぜか彼がいるだけで安心できる。
頼りになる……ではない。
お世辞にもカッコイイとは言えない。
……でも、穏やかな気持ちになれる。
お兄さんが居たら、こんな感じなんだろうなぁ。
1人っ子の私にとって、兄弟というのは憧れそのものである。


「……ボクは邪魔みたいだね。
先に帰るとするよ」


キュゥべえが立ち上がる。
未だに正体不明である横島さんと共に居るのは得策ではないとでも思ったのだろう。
しかし、私はまだキュゥべえに聞かなければならないことがある。


「1つだけ教えてキュゥべえ。
どうしてそのことを黙っていたの?」


契約時は仕方ない。
そんな余裕はなかった。
しかし、それでも、ソウルジェムのことだけでも教えて欲しかった。


「……よくわからないけど、君たちは魂の有り所を重視する傾向にあるんだろ?
だったら知らないほうが効率よく戦えると思ったからさ」


不思議そうな顔をしながら私を見つめるキュゥべえ。
まるで、『君たちの事を思っての行動なのに、何が不満なんだい?』とでも言い出しかねない雰囲気だ。


「……私は良い。
どっちにしろあのままだと死んでいたもの。
でも、鹿目さん達には伝えるべきじゃないの?
彼女たちが知らないうちに、彼女たちを魔女の卵にするつもりだったの?」


それではただの詐欺だ。
契約ではない。


「どうしてマミが怒るんだい?
まどかがどうなろうと、君には関係ないじゃないか?」


どうして?
決まってる! それは、鹿目さんが……、


「彼女は『友達』なの!
私のことを分かってくれた……、大切なっ!」


友達なのだ。
大切な。
しかし、私の感情は、キュゥべえには届かなかった。


「それこそ、わけがわからないよ。
『人間なんて沢山居るだろう』? 『減ったのなら、補充すれば良いだけじゃないか』」

「……っ!」


それで終わり。
もう話すことは無いと言わんばかりに部屋を出て、横島さんとすれ違う瞬間、小声で呟く。


「君はとても興味深い。
是非今度2人だけで会話したいね」

「残念ながらお断りだ!
お前と話すと、ほむらちゃんに怒られるからなっ!
それに……」


……ああ、初めて見た。
今までは笑った顔か泣いてる顔、調子に乗ってる顔しか見なかったが……、『彼は怒っている』。


「俺は人を消耗品扱いする奴が大嫌いだ!
お前なんぞ再生怪人並の扱いで屠ってくれるわっ!」


キュゥべえに対して中指を立て威嚇する横島さん。
キュゥべえはそれに対し、軽くため息をつき、部屋を出た。
凍っていた空気が弛緩する。
……友達だと思ってた。
恩人だと思ってた。
しかし、利用されていただけだった。
私の命が目的だった。
だからキュゥべえは……敵だ。
ようやく、確信できた。
そして今度は、暁美さんが口を開く。
彼女の顔に感情は見えない。
しかし、私は見ていた。『歯を食いしばっている彼女を』。
彼女も魔法少女だ。
おそらく、私と同じくらい口惜しいのだろう。


「……横島も座りなさい」

「……ふんっ!」


横島さんは怒りが覚めぬ様子で、そのまま座る。
テーブルを挟んで、目の前に暁美さん、右に横島さんといった感じだ。
……少しだけ安心する。遠い昔、お父さんと一緒に居た時の感じに近い。
どうやら私は、私の想像以上に横島さんに甘えているようだ。まるで、お兄さんが居たらこうするだろうというくらい。
悲しみ。怒り。
そんな感情が薄れていく。


「さて、『これまでのこと』は説明したわ。
今から話すのは、『これからのこと』よ」

「これから?」


……今の暁美さんの言葉はどういうことだろう?
話を聞く限り、鹿目さんが魔法少女になるのを阻止し、『私達3人』でワルプルギスを倒すのが目的のはず。
まだ接触してもいない魔女の対策を練ろうというの?
……いや、暁美さんは『キュゥべえの本当の目的を知っていた』。
ならば、彼女の力は情報を得ることに長けているのかもしれない。
そういう『祈り』だったのなら、可能なことだろう。
そんなことを考えていた私に、予想外の言葉が投げかけられる。


「巴マミ……、あなたが『人間』に戻れるとしたら、どうする?」

「……え?」


私は人間で……いや、肉体に魂が無い以上、それを人間とは定義できないかもしれない。
つまりそれは、私が魔法少女でなくなれるということ?
『そんなことが可能なの』?


「可能よ。
……横島ならば」

「……えっ? お、おれ?」


蚊帳の外だと思っていたのか、考え事をしていた横島さんが、驚いたような声を上げる。
横島さんの能力は運動能力じゃないの? もしかしたら、もっと別の何かなのだろうか?


「そうよ。
魔法少女とあの獣についての詳細は後で説明するわ。
でも先ずは質問に答えて頂戴。
あなたは『幽体戻入』で制御に成功してるのでしょう?
その文珠で、魔族との契約で盗られてしまった魂の結晶のようなものを、死んでない肉体に戻すことは出来る?」

「……できる。
魂が外に出てしまっているだけなら、それを肉体に戻すことは可能だぞ。『試したからな』。
まあ、契約で雁字搦めなら4文字必要だろうけど」

「だったら問題ないわ。『あなたは私達を人間に戻せる』」


魔族? 文珠? 4文字? 制御?
話しについていけない。
しかし……元に戻れる? 普通の女の子に?
もう戦わないでも良いの? 私の恐怖と孤独は終わるの? 完全に?
聞かないと、話を!


「ちょっと待って!
話が見えないわ。横島さんの能力について詳しく教えてくれる?」


真剣な眼差しで暁美さんを見つめる。
ここが分岐点だ。私の人生の。


「……ええ。
すべて説明するわ。私の立てた作戦と、その目的について……。
そのかわり、聞くからには協力して貰うわよ?」

「……」


うなずく。
暁美さんは正しかった。ならば信じよう。
横島さんは私を助けてくれた。だから信じよう。
そうして暁美さんは、彼女の作戦とやらを話し始める。
……物語が動いた。
そんな気がした。




















***********************




















「それじゃあ私は美樹さやかの元に行くわ。
横島は大人しくしてなさい。キュゥべえに付きまとわれるのは嫌でしょう?」


キュゥべえが横島にどういった干渉をしてくるかわからない。
横島は人一倍欲望が強いので、奇跡という蜜にあがなえない可能性もある。


「はいよ。
っと、その前にほむらちゃんに聞きたいことがあるんだけど……」

「……言ってみなさい」


……また姉がどうのという話しだろうか?
とりあえず阿保なことを言ったら引き金を引こう。
なんとなくイライラするからだ。


「まどかちゃんを救うことだけが重要みたいなこと言ってたけど……、『本当はみんな助けたいんだろ』?」


予想外に真面目な話。
しかし、それは聞き捨てならないことだった。
私は既に決意している。
まどかを救うために何でも利用すると。
だから、それ以外に眼を向けるのは傲慢だ。


「……計画に必要なだけよ。
まどかを守る為ならすべてを利用するわ。
それが私の『祈り』だもの」


そう。それが私の祈り。
そのためだけに、私の命はある。
すべてはまどか……、初めての友達の為に。
でも……、


「『それでも』、可能なら、全員救いたいんだろ?」

「……もう行くわ」


……やめて。
私の決意を揺らがせないで。
まどかの為に、巴マミを利用する…………恩人。
まどかの為に、美樹さやかを利用する…………友達。
まどかの為に、佐倉杏子を利用する…………戦友。
……巴マミは未熟な私を何度も助けてくれた。彼女が居なければ、私の祈りは途中で途絶えていた。
……美樹さやかは友達だった。何度か辛いことも言われたが、それでもまどかと同じように、私を友達と言ってくれた。
……佐倉杏子は私を慮ってくれた。魔法少女として経験の少ない私を、素直ではないが、気にかけてくれた。
しかし、駄目だ。
望んではいけない。
『みんなを助けたい』なんて、思ってはいけない。
一番大切なものを、見失ってはいけない!
…………なのに。


「もっと欲張りにならんといかんぞ、若いんだからなっ!
俺の上司なんて、世界を救うから金よこせって政府を強請ろうとする人間だった」


横島が、へらへら笑いながらそんなことを言う。
彼の話も、少しだけなら聞いている。
私達と同じか、それ以上の激戦。覚悟があったはずだ。
そんな男が、欲張りになれと言う。


「でも、だからこそ……、あの人は強かった。
従業員の危機でも、世界の危機でも、自分の危機でも、あの人は絶対に諦めなかった。
だからこそ……強かった」


回想するように語る横島。
その人のことが本当に好きなのだろう。尊敬してるのだろう。
それが、よく知らない私にも伝わってくる。


「ほむらちゃんにそんな業突くになって欲しいわけじゃないが、諦めるのは良くないと思うぞ?
全部に手を伸ばしてみよう。俺も協力すっから」

「……横島」


正直キャラじゃない。
ビビリの癖に、簡単に死んでしまうのに、私はあなたを……利用してるだけなのに……。
優しい笑みを浮かべてくる。
揺らぐ。
欲張りになる。
『みんな大切だと、気づいてしまう』!


「なにより俺はあの淫獣が気に食わんっ!
将来有望な女の子達に危険な戦いを強いるなど……雄の風上にもおけんやつだっ!
あんな鬼畜外道は、正義のGS、横島忠夫が成敗してやるわ! ハーハッハッハッハァッ!!」


…………安心してしまった。
横島が居れば大丈夫だと、思ってしまった。
……どうやら私は、巴マミ……いや、マミさんが助かったことが嬉しいらしい。
だから、それを行った横島を信じてしまった。
しかし……それ認めるのは……口惜しい。


「……下心が見えてるわよ?」


苦し紛れの反撃。
しかし、横島は狼狽する。


「そ、そんなもん見えてたまるかっ!
ちゃんと隠しとるわっ! ……って、……うん?
は、謀ったな!?」


どうやら今の台詞は、わたしの好感度を上げようという意図があったらしい。
以前なら嫌悪しか感じないはずなのだが……少し嬉しいと感じてしまう。


「……くすっ」


そんな私が可笑しくて、思わず笑みがこぼれる。
笑ったのはどれだけ振りだろう。酷く遠い記憶だ。
……横島のおかげで事態は好転した。
インキュベーターの魔の手から逃れる用意ができた。
これが物語なら、横島は私の王子様なのかもしれない。
友達を助けたい平民に手を差し伸べる王子様。
そんな物語を、病院のベッドで読んだ気がする。


「ねえ横島」

「……ん? なんだ?」

「帰ってきたら、あなたの居た世界の話が聞きたいわ。
少しだけ……聞かせて頂戴」


今まで興味がなかった横島のことがもっと知りたくて、問いかける。
今まで生きてきて、こんな感情は初めてだ。
しかし、本で読んだことはある。
つり橋効果。
まあつまり、そういうことなのだろう。


「おうっ!
俺の武勇伝を聞かしたるわいっ!」


私はそれに頷いて、部屋を出た。
……鍵はかけなかった。
なんとなく、かけたくなかった。


「…………ふぅ」


恋する乙女は強いらしい。
ならば、私はそう在ろう。
友達をみんな助ける、好きな人を手に入れる。


「……両方やらなくちゃならないのが『乙女』のつらいところね」


私は今、覚悟を決めた。
これは私が、少しだけ欲張りになった日の話である。

































さやかに対するほむほむの感情は本作限定でしょうね。
原作では、良くて無関心ですから。
まあ、二次SSなのでそこらへんはご了承ください。









[26619] 6話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/03/27 23:18




まどかの家。
まどかの部屋。
入るのは久しぶりだ。
かなり前に来た時とまるで変わってない。綺麗な部屋だった。


「急にどうしたのさやかちゃん?
わたしの家に泊まりたいなんて……」

「あ、あはははっ、ちょっとね!
それより、私の渡した『お守り』はちゃんと持った?」


念の為確認する。
それも『私の仕事』だ。
魔法少女にとってのソウルジェムのように、肌身離さず持っていてもらわないと意味が無い。
渡すときにそう言ったので大丈夫だと思うが、確認は大切である。
……ほら、まどかは偶に凄く抜けてるから。


「……う、うんっ。
さやかちゃんって占いとか信じない子だと思ってたから驚いちゃったけど、ちゃんと持ってるよ」

「ひっどいなー。確かにその通りだけど。
……まあ、肌身離さず持っててよ? 約束だからねー」


約束。
そう、約束なのだ。
あの、転校生……、暁美ほむらとの。













*************************





【シャルロッテとの戦いのがあった日の夜】











横島さんに送ってもらった私は、そのまま家を出て病院に来た。
勿論、恭介が心配だったからである。
しかし、そこで私は、意外な人物に会った。


「…………転校生」


恭介の無事を確認して、一階までエレベーターで降りたとき、目の前に居た。
まるで私を待ち構えていたかのように。


「家に帰ったのではなかったの? 美樹さやか」

「帰ったよ。
でも、その後に私が何をしようと勝手でしょ?」

「……そうね」


思わず口調が攻撃的になる。
いけない、こいつ……暁美ほむらは、マミさんが勝てなかった魔女を倒してくれた恩人なのだ。
私をどうにかするつもりなら、とっくにやっている。
つまり……敵じゃない。


「……ん、ごめん。
マミさんを助けてくれたのはあんたなのに、いつまでも意固地になって」

「構わないわ」


気にしてないようだ。
一瞬、歯を食いしばったかに見えたが、気のせいだったのだろう。


「それで、何しに来たの?
病院に縁があるようには見えないけど……」

「あなたに会いに来たのよ、美樹さやか」


ここまでは予想通り。
この病院に来る人間で、こいつと縁があるのは私くらいだろう……たぶん。
そしておそらく、私に会いに来た理由は……、


「…………まどかのことについて?」

「そうよ」


……『予想通りだ』。
マミさんから、こいつがまどかが魔法少女になるのを邪魔しようとしていると聞いたことがある。
その時マミさんは、自分より強い存在が許せないからだろうと言ってたが……、そうは思えない。
だって、こいつは凄く強い。
マミさんみたいな格好良さはないが、あの魔女を手玉に取れるなんて、普通じゃないと思う。
それにマミさんを助けてくれたし。


「……こんな所じゃなんだしさ、外で話そうか」


とりあえず場所を移動する。
病院内では静かに。
頻繁に通う人間にとっては常識だ。
ほむらは小さく頷いて、私についてくる。
そして病院の外のベンチに座り、話を再会する。


「それで?
あんたがまどかを狙ってるのはマミさんから聞いて知ってたけど、私に何をして欲しいわけ?」

「鹿目まどかが魔法少女になるのを阻止して欲しい。
あの子に一番近いのは、あなただから」


……マミさんの言っていた通りだ。
でも、どうして?
理由がわからない。


「どうして?
まさか、まどかを慮ってとかじゃないでしょ?」

「……まどかを慮って、よ」


昨日までの私だったら、絶対に信じない。
でも、今のこいつの表情は、それを信じるに足るものだった。


「なんか、雰囲気違うじゃん。
ずっと鉄仮面だったのに、今は本当にまどかを心配してるのがわかるよ」


最近転入したばかりのこいつが、どうしてここまでまどかに構うのか分からない。
でも、まどかを心配しているという言葉を信じることにした。
……だけど、残念ながら期待にはそえない。


「でもそれ、無理かもしれない」

「……理由を聞いてもいいかしら」


いつもと変わらぬ無表情で私を見つめてくる。
まるで、すべて見透かされたような気分になる。


「私は……戦いたい。
あんたと横島さんがいればマミさんは大丈夫かもしれない。
けど、私は誰かの為に力を使いたいんだ。マミさんのように」


そう。
マミさんは魔女との戦いで死にそうだった。
今はこいつと横島さんが居るが、それで大丈夫だという保障はない。
だから、私も戦う。
マミさんと一緒に、誰かの為に力を振るう。
自分ではなく、みんなの為に。
そう思っていた。
思っていた……のに、


「……嘘ね」

「……は?」


真顔で否定された。
そしてそのまま、無表情のまま、言葉を続ける。


「好きな人の怪我を治してあげたいのでしょう?
上条君……だったかしら。
さっきのあなたの台詞は、それの後付にすぎない。感動的な台詞だけれど……無意味よ」


まるでドラマみたいな言い回しだ。
これがそれなりに仲の良い奴だったら、適当にどついた後からかうのだが、そんな空気ではない。
それに、こいつは私にとって聞き捨てなら無いことを口にした。


「あんた、なんでそれを……!」


それを知ってるのはまどかと仁美だけだ。
なのに、どうしてこいつが知っている!?


「単純な話よ。
私も、学校に行く前は病院にいたの。
心臓の病気でね」

「……嘘でしょ?
だって、最近まで入院していた奴が、あんなに運動できるはずが……」


嘘にしては切れ味が悪い。
体育の授業で、運動神経の権化みたいな走りしといて、心臓病ときた。
信じれるはず……ない。
そう、信じれない。普通は……、


「魔法少女の力よ」

「……!」


それは……どういう……


「魔法少女は自分の肉体を魔力で強化できる。
ただの器だもの。戦闘に不利な要素を取り除くくらい容易いわ」

「器って、何を……」


まるで、魔法少女が、マミさんが、自分が、化け物であるかのように……


「化け物なのよ、私たちは」

「……!」


こいつと話していると、心を見透かされた気分になる。
偶然だろうが、心臓に悪い。
そして、気分も悪い。


「自分の体を戦いやすいように変化できる。
心臓に穴が空いても死なない。腕が千切れても再生する。
健康状態も、筋肉も、視力も、思いのまま。
……ほら、人間じゃあないでしょ?」

「そ、んな……」


そう言って、ペーパーナイフで指先を傷つける。
その傷は、私の目の前で、じゅぐじゅぐと、まるでSF映画のエイリアンのように治っていく。
それはまるで、化け物のようで……、映画やドラマでの、『敵役』のようで……。
おかしい……。ありえない……!
だって『魔法少女は正義の味方』で、敵が化け物で、それを倒すのは尊いことで……。
正義の味方は格好良くて、優しくて、それなのに、そのはずなのに……!
『正しいことをすることで恭介が助かるなら良いと思ってたのに』!


「『あなたはまだ間に合う』。
魔法少女になんて、なるべきではないわ」

「…………」


誰かの為になりたい。
何処かで誰かが犠牲になるのが許せない。
その想いは本物だ。
……でも! 『私は自分の恋の方が大切だった』。
腕が生え変わるような化け物になってしまったら、恋なんてできない。
そんな体で、抱きしめて欲しいなんて……、キスして欲しいなんて……、言えない!


「もちろん、ただとは言わない。
まどかをキュゥべえの契約から守ってくれるなら……、
あなたの思い人の怪我、私が治してあげる」

「……え!?」


思わず、身を乗り出してしまう。
それと同時に、自己嫌悪。
私は、目の前の女の子が、自分は化け物だと言ったのに、否定の言葉も出せなかった。
それは違うと……、人と少し違うだけで、あなたは『人間』だと、言えなかった。


「今なら……少しだけれどあなたの気持ちがわかるわ。
恋をするという気持ちがね。
それが実るかどうかは私のあずかり知らない領域だけれど……、応援してるわ」


そんなことを、初めて見せる小さな笑みと共に私に告げる。
自分は『化け物』だなんて言いながら、『恋がわかる』と言う。
……強い。
今日一日で暁美ほむらに対する評価がずいぶん変わった。
そして……、キュゥべえへの評価も。
キュゥべえに悪意は無いかもしれない。
けど、あれは『奇跡と引き換えに人を化け物に変えてしまう悪魔』だ。
そして私は、恋を語る女の子を化け物だと認識し、それを否定すらできない臆病者だ。
……そんな私の自責の念なんか知らないまま、暁美ほむらは、語る。


「だから、あなたの思い人の怪我を治す代わりに、まどかを守って。
彼女を魔法少女になんて、しないで。キュゥべえの言葉に『耳を貸させないで』。
そして……」


















***************************





















「『魔法少女の秘密は黙っておいて』、か……」


……結局、恭介の腕は完治した。
私の願いは、叶ったのだ。
ならば、それに対する対価……まどかの保護は全力で行う。
これは、私の義務だ。


「どうしたの、さやかちゃん?」

「……ううん、なんでもないよ」


暁美ほむらは、彼女を化け物扱いした私を許した。
……いや、恐らく、『気づいてすらいなかった』。
自分に向けられる嫌悪の眼差しに、侮蔑の眼差しに……。
つまり、人の悪意を感じ取れないほど人付き合いが希薄なのに……、彼女は私を信用した。
まどかを、大切な人を守って欲しいと、言ってくれた。
『だから信頼する』!
これは同情であり、贖罪だ。
暁美ほむらを信頼するのは、自分の為だ。『自分が納得する為だ』!
そして私は、彼女を『仲間』だと認識する。
彼女を侮蔑した私が、仲間を名乗るのはおこがましいかもしれない。
しかし、『暁美ほむらは鹿目まどかの為に行動している』!
自分の親友の為に苦心する人を見たらどうする? 助けようとするだろう。
誰だってそうだと思う。だから、私も『そう』する。
そして、同じ信念の元に行動する者同士を、『仲間』と表現する作品は多い。
『だから、私と暁美ほむらは仲間だ』!
暁美ほむらはまどかの為に行動する。私はそれに協力する。
まどかを魔法少女にさせない。……絶対に。
……私は『護』と書かれた球体を手で転がす。
それは、暁美ほむらが私に渡した物だ。
魔女から身を護る『お守り』らしい。
まどかと私、両方がそれを持っている。
……それを握り締める。
暁美ほむらはまどかに人間を止めさせないために頑張っている。
大切な人の為に、それを護る為に、全力をつくす。
……私が尊敬したのは、人を助けるという『行為』ではない。
その『精神』だ!
だから私は、暁美ほむらを『尊敬』する!
『人の役に立ちたい』なんて漠然とした綺麗な言葉ではなく、『大切な人を守りたい』という魂の叫びを、私は尊敬する。
そして……、『異端』を受け入れられなかった小さな私は、彼女に協力する過程で『成長』する。してみせる。
私のなりたかった『私』に、なってみせる。


「まどか、勝手に魔法少女になっちゃ駄目だよ?
約束だからね?」

「う、うん……」


恭介を助けてくれた恩を返す。
私が成長する。
一石二鳥だ。
……さて、まずはまどかの家に一月ほど泊まる言い訳を考えよう。
それが私にとっての、最初の試練だった。






















******************************




















顔を覆いつくすほどの大きさのサングラスとマスク。
怪しい人を見かけたら通報してくださいという文句を聞いたことがある人なら、10人中9人が通報するだろう怪しさだった。
あえて語る必要はないかもしれないが、その人物の名を明かそう。
横島忠夫である。


「マミちゃんとほむらちゃんは可愛い!
だがっ、彼女たちはまだ中学生! 手を出すわけにはいかん!」


手には本屋の袋がぶら下げられており、必要以上にキョロキョロしている。
その行動だけで、袋の中身が分かってしまうほどの挙動不審だった。
無粋にも、袋の中身を細かく説明すると……、エロ本である。
横島忠夫17歳。
年齢を詐称してエロ本を買った帰り道だった。


「……マミちゃんが俺を見る目ってシロに似てるんだよなー。
まあ、一回助けたくらいで俺に惚れる女なんて、そういないってことはわかってるが……」


落胆したように肩を落とす横島。
シロとは、彼の妹分みたいな存在である。
尊敬されている(勘違いを含む)という自覚はあるが、それが男女間の感情でないことは重々承知だった。
つまり、巴マミとの間にフラグなど立っていなかったのである。


「くそっ! イケメンなんて死ね!
頭撫でたり、笑っただけでフラグが立つイケメンなんて死んでしまええええええええ!」


どこから取り出したのか、藁人形を電柱に打ち付ける。
遠い世界で、ダンピールの青年が胸を抑えながら倒れた。


「ほむらちゃんに至っては、最近美神さんみたいだもんなぁ……。
ちょっとテレビや雑誌で可愛い子見てると、銃口を頭に押し付けてくるし……」


手ごたえを感じ気が済んだのか、今度はうな垂れ始める横島。
それはツンデレ(派生型)だと思うが、残念ながら横島はそれに気づけない。
99%美神のせいである。


「…………」


間。


「よし、裏道を通って帰ろう!
どこでほむらちゃんに会うかわからんからなっ!」


汗を流しながら裏道に入る横島。
他の女性とフラグが立った時の美神を思い出したのだろう。
体が震え、顔に縦線が入っている。
そして、彼は遭遇する。
最後の登場人物に。


「……殺気!?」


何かを感じ取り、とっさに身をかわす横島。
一瞬前まで横島が居た場所には、槍のようなものが刺さっていた。
敵襲である。


「うそっ!?
完璧に奇襲が成功したと思ったのに……」


襲撃者らしき者は驚きの声を上げる。
意外にも襲撃者は幼い女性であり、特徴的な赤い服から、彼女が魔法少女だと分かる。
しかし横島は、そんな言葉など聞こえていない様子で、地面に膝を付き、震えている。
手には本屋の名前の書かれた袋と、バラバラになったエロ本であった物。
横島の希望であり、憩いであったソレは、今では唯の燃えるゴミである。


「だれじゃ貴様ああああああ!!
俺のっ、俺の唯一の憩いであるエロ本をよくもおおおおおおお!!
ほむらちゃんがくれるお小遣いは1日500円なんだぞおおおおお!!
昼飯は出ないんだぞおおおおおおお!!」


嫌に庶民的なことを叫びながら泣く横島。
彼は今、悲しみにつつまれていた。


「ああっ! 3日間節約してようやく買ったのに……!」


ボロボロと涙をこぼす。
3日間、彼がどのような食生活を送ったのか、想像に難しくない。
そんな彼の努力を、目の前の少女は一瞬で無駄にしたのだ。


「流石マミの奴を監禁するだけあるね。
魔法少女でもないのに……、やるじゃないか」


しかしその涙も、少女から発せられた言葉によって止まる。
あまりに、見に覚えがなさ過ぎたからだ。


「…………は? 監禁?」


換金? 官金? 桿菌?
いや、監禁。
誰が? 誰を?
俺が? マミちゃんを?
……なんで?
そんな思考が、横島の頭を駆け巡る。
しかし、どうやら考える暇もないようだ。


「マミの為にやるわけじゃないけど、あんたはここで倒す!
安心しな! 居場所を吐かせる為に、命だけは助けてやるよっ!」


こうして霊能力者と魔法少女の戦いが始まった。
魔法少女の名は佐倉杏子。
横島がこの世界で初めて敵対する魔法少女だった。
































上条君『療』・『癒』・『治』どれかの文珠で回復の巻。
使ったのは1つです。
美樹さやか は 黄金の精神(?) を 手に入れた!……たぶん。



追記の設定。

・まどかの魔女化によって得れるエネルギー=文珠10個
・まどかの世界の個人及び宇宙が持ってるエネルギー<<<GS世界の個人及び宇宙の持ってるエネルギー
しかし、
魔法少女<<<GSとかいうわけではないです。念の為。
あくまでエネルギー保有値です。
つまり、
まどかの感情エネルギーは異常=横島の煩悩は異常
状態。
GSの世界の水準が高すぎる(神とかいるし)ので、こういう設定にしました。

おかしくね? と思うところがあったらご指摘ください。
答えれる範囲でお答えします。
しかし、大きな矛盾が出ても、シナリオは出来ちゃってるので変更が出来ません。
そこだけご了承ください。



[26619] 7話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/03/28 21:43



突然襲い掛かってきた少女に対して、横島は応戦するそぶりすら見せずに逃げ出した。
なぜならば戦いたくないからだ。
正確に言えば、正面から戦うのが苦手だからだ。
だから一先ず逃げ出し、罠を張る余裕を作ろうとした。
しかし、相手はそれを予想していたようだ。
地の利がない横島は、まんまと人気のない工場に誘導されてしまった。
罠に嵌めるつもりが嵌められていた。
横島の現状は、そんな感じである。


「ぬああああああああああああああああ!?
俺が何をしたっていうんだあああああああああ!?」


叫びながら苛烈な攻撃をかわす横島。
その動きはまるでギャグ漫画のようだった。某国民的RPGだったらMPを吸い取られていただろう。
一方杏子は、自分の攻撃が理不尽な動きで避けられていることに苛立ち、ますます攻撃の手を強める。


「だからっ! マミの奴を誘拐したって言ってんだろうがっ!」

「誰だそんなデマを流した奴はっ!」


デマかどうかは置いておいて(初対面の怪しい男とそれなりに付き合いの長い奴なら、後者を信じる)、杏子は、情報をよこした奴の言葉を思い出す。


『マミと連絡が取れなくなったんだ。横島とかいう男とマミが会ってからね。
危険かもしれないから、少し調べてよ』


そんな言葉を吐いたのは、白いフェレットのような獣だった。


「キュゥべえ」

「あんの淫獣めがああああああああああ!!
ぶっ殺してやるぁああああああああああ!!」


思わず舌が回らない横島。
怒りと恐怖で顔がものすんごいことになってる。
子供が見たら、泣くか笑うかのどっちかだろう。
そして、そんな表情のまま杏子の攻撃をハンズオブグローリーで流す。


「(強いっ!
美神さんほどではないが、雪之丞くらいには強いっ!
つまり俺より強い! どうする!? どうするんだ俺!?)」


きょろきょろと辺りを見渡す横島。
しかし、周りには特に使えそうな物はない。
そんなことをしている間にも、杏子の攻撃は一層苛烈さを増す。


「おいおい、思ってたよりしつこいじゃないかっ!
さっさとお前を片付けて、マミの奴に助けた報酬としてグリーフシードを貰う予定だったのに…よっ!」

「おわっ!?」


横島は、蛇のように不規則な動きをする多節槍をギリギリで避け、ハンズオブグローで弾き、徐々に距離をとる。


「蝶のように舞い……!」

「なに……!?」


左右にステップを踏み、槍を回避。
無駄だらけな動きしかしなかった横島の、初めて意味がある動きに杏子が動揺し、攻撃を外す。
結果、隙ができる。


「ゴキブリのように逃げるっ!」

「……ってコラ! 真面目にやりやがれ!」


隙だらけの自分を攻撃せず逃げる横島に突っ込みをいれる杏子。
どうにか体勢を立て直し、横島の逃げる先に多節槍を叩きこむ。
しかし、それは読まれていた。


「と見せかけて……、蜂のように刺す!」


全速力で走っていた横島は、急に体を翻し杏子に攻撃を与えんと飛び掛る。
杏子の攻撃は横島の背を通過した。迎撃は間に合わない。
……普通は。


「……なら私は……、蜘蛛のように捕らえるっ!」


杏子の武器は伸縮・湾曲・分割が自在な多節槍。
横島の背後の多節槍が曲がり、伸び、分割し、横島を取り囲む!
それはまるで、蜘蛛の巣のように!


「なにいいいいいいいいいい!?」

「くたばりやがれ!」


見渡す限りの刃、刃、刃、刃、刃、刃、刃、刃、刃、刃、刃、刃!
それらがすべて、不規則に横島へ降り注ぐ!


「のわあああああああああああ!!」


激しい音と衝撃。
それと共に湧き上がる煙。


「……やったか?」


……ああ、そんなことを言うと。


「馬鹿めっ! お前の攻撃など通じんわっ!」

「……っ! 何処だ!?」


杏子の作った『巣』から横島が消えていた。
それを確認すると同時に、どこからか声が聞こえてくる。


「フハハハハッ! 何処に居るかわかるまいっ!」

「何処だっ! 何処から声が…………あ?」


モクモクと立ち込めていた煙が完全に晴れる。
『巣』を作ったところが鮮明に見えるようになった。
すると、なにやら違和感のある景色が見えてくる。


「…………」


スタスタと横島が居た筈の場所に向かって歩く杏子。
そこには、人が1人入れるくらいの、不自然な穴があった。
……覗き込む。


「……………………おい」

「……バレたっ!?」


横島が居た。
『穴』の文珠で防空壕を作り、杏子の攻撃をかわしたのだ。
杏子には、それがどのようにして作られたかはわからないが、頭に血が上りそれどころではない。


「舐めてんのかっ!!」

「ひいっ!?」


横島が咄嗟に穴から脱出する。
それとタッチの差で、杏子の攻撃が通過する。


「逃げるなっ! 一発殴らせろっ!」

「槍持ちながら言う台詞じゃないわあああああ!
銃刀法違反んんんんんんん!!」

「魔法だから良いんだよっ!」


再び、狭い倉庫内での追いかけっこが始まった。
どうやらこの戦い、長引きそうである。
























***************************


















あれ(暁美ほむらとの契約)以来、私はまどかと共に帰るよう心がけていた。
以前の私なら毎日のように恭介のところへ寄るのだが、今はまだ駄目だ。
私は、『まどかを魔法少女にしない』という行為の報酬として『恭介の傷を治す』という奇跡を得た。前払いで、だ。
つまり、契約を完遂して初めて、私は恭介の為に頑張ったということになる。
その後、告白しよう。私はそう決意した。
仁美もそれに納得してくれた。
……まあ、急に頭を下げてお願いされたら断れない性格だったというのもあるだろうが。
とりあえず、あと一週間ほど、私はまどかをキュゥべえの『契約』から守る義務がある。
だから私は、ひと時たりとも離れず(ほぼ文字通り)まどかを警護していた。
今日の帰りもそうだった。
いつも通りまどかを誘い、『私の部屋が料理で爆発した』と言い訳をして(無理が有り過ぎて笑えてくる)まどかの家に泊めてもらうのだ。
しかし、帰り道、『いつも通りじゃない奴』に遭遇した。
いや、一週間ほど前、マミさんと会ったばかりのころは、『それ』がいつも通りになりかけていたのだ。
だが、今の私にとって、そいつは出会いたくない奴宇宙一だった。


「……キュゥべえ」

「久しぶりだねっ! まどか、さやか」


まどかには既に、マミさんとの対話を終えている。

『魔法少女にならないで欲しい。理由は言えないけど、お願い。
……でも、これからも私の友達でいて欲しい。普通の女の子として、普通じゃない女の子の私を、友達だと思って欲しいの。
その理由なら言えるわ。
……寂しいから。
そして、鹿目さんが好きだから』

こんな感じだった。
まどかは見た目どおり情に弱い。
だから、涙を流しながらこれに頷き、学校では暇があればマミさんの元へ行くようになった。
つまり、今のまどかは簡単な誘惑には屈しない。
友達との約束だからだ。
故に心配することはない。私はキュゥべえを無視しようとした。
それが、最善だと思ったからだ。
……しかし、こいつは聞き捨てなら無い言葉を発した。


「横島忠夫がピンチだ!
君たちしか助けれる子はいないんだ……ついてきてよ!」

















******************************
















「くそっ!
サイキックソーサー!」

「甘い!」


横島が投げた霊力の盾を、杏子が冷静に撃墜する。
衝撃で槍が吹っ飛ぶが、『分解して衝撃を殺す』。
そしてそのまま、曲がり、伸びて、横島を攻撃する!


「その武器は卑怯じゃあああああ!
やり直しを要求するっ!」

「お前こそ卑怯だろうがっ!
さっきの穴はなんだ!? どうやって作った!」

「誰がおしえるかボケェェェェェ!!」


横島が避ける、避ける、避ける!
まるで獣だ。
しかし、動きが獣のそれでも、体は人間。
横島は限界だった。体力的な意味で。


「……!? しまったっ!」


疲れがピークを迎えたのか、足をとられてしまった横島。
無論、杏子がその隙を見逃すはずが無い!


「終わりだ! 変態野郎!」

「……文珠っ!」


切っ先は鋭く、横島の体を突き刺すコースを描いた。
しかしそれは、不思議な力に阻まれることになる。

『護』

横島の目前。
そこで杏子の攻撃は止まる。
まるで壁にぶつかったように、弾かれる!


「なにっ!?」


理解不能。
そんな表情で横島を見つめる杏子。
無論その隙を見逃さない!


「隙ありいいいいいいいい!!」

「……チッ!」


攻守が逆転し、横島が攻撃に転じる。
杏子はそれを槍で防ぐ。
形勢は逆転した、かに見えた。


「(…………くっ!)」


横島が顔を顰める。
先ほどのやり取りで横島は足を痛めていたのだ。
この攻防、長くは持たない。
横島がそれを一番実感していた。


















******************************


















「横島さんが襲われてるよ、さやかちゃん!
ほむらちゃんに連絡は繋がらないの!?」

「なんでかわかんないけど、繋がらないよ!
マミさんもだっ!」


キュゥべえに案内された先の工場で、横島さんが襲われていた。
襲っているのは赤い魔法少女。
そいつは、暁美ほむらが言っていた『協力してもらう候補』の特徴にそっくりだった。
つまり、この戦いは恐らくキュゥべえが仕組んだもの。
電波が繋がらないのも、こいつが何かをしてるから。
……薄ら寒い。
こんな奴を友達だと思ってたのか、私は。


「あの2人の戦いを止めるのは、ボクには不可能だ。
でも、まどか。君が魔法少女になりさえすれば、2人とも無傷で戦いを止められる」


いつもの表情。
こいつが仕組んだマッチポンプなのに。
自分のたくらみがうまくいきそうなのに、笑みの1つも浮かべない。
……気持ち悪い。
こいつには感情がないのだろうか。


「……でも、私はっ」

「このままだと横島は負けてしまう。
君たちが彼を助けないというのなら、ボクは他の誰かに助けを求めに行かなくちゃいけない。
たぶん、間に合わないだろうけどね」


まどかの心が揺れている。
付き合いが長いので、それくらいわかる。
この子はいつもそうだ。
大切な誰かの為に、簡単に自分を危機に放り込む。
いつもなら、まどかが怪我しないようにフォローするに止めて、やりたいようにやらせるのだが……、今回はそうもいかない。
まどかを魔法少女にしてしまっては、暁美ほむらを裏切ることになる。
彼女の信用を……、信じて用いてくれた思いを、踏みにじることになる。
そしてなにより……、恭介に顔向けできない。
ならば、私に出来ることは1つ。
横島さんを助けることだ。
あの2人の戦いに入れるとは思えない。
だからこそ、遠距離から援護する必要がある。


「まどか、マミさんとの約束……忘れてないよね?」

「でも……! このままだと横島さんがっ!」

「……大丈夫。私に任せて」

「さやかちゃん……」


横島さんを助ける。
暁美ほむらの大切な人を……助ける。
……うん、少しやる気が出てきた。
さあ、気張っていこう。
























**************************

















横島は追い詰められていた。
文珠を使い逆転した攻守も、今では元通り。防戦一方である。


「土下座! 土下座するから許してっ!」

「その前にマミの居場所を言えっつーの!」

「知るかそんなもん!
住所どころか電話番号も知らんわっ! というか携帯持っとらんわ!」

「奇遇だな……!」


私もだよ!――と言いながら一撃を振り降ろす杏子。
横島の膝が落ちる。
足のダメージは、かなり深刻になってきていた。
それを誤魔化すように、攻撃に転じようとハンズオブグローリーを振るう横島。
しかし、駄目。
そんな稚拙な攻撃は、それなりに経験のある杏子には届かない。


「じゃああれだ! マミちゃんに会いに行こう!
無事を確認したら戦うのを止めよう、そうしよう!」

「……とりあえず、私はお前に一撃ぶち込むまで止める気ないがなっ!」

「死んでしまうわっ!」


よほど先ほどの穴が気に食わなかったのだろう。
魔法少女の武器は、手加減が可能である。
刃を丸めて非殺傷にすることもできる。
よって、杏子の一撃を貰っても、滅茶苦茶痛いだけで済むのだが……横島はそんなこと知らない。
だから、必死で抗う。


「……うおっ!?」


しかし、限界。
横島が膝を突く。
杏子がその隙を突く。
横島の文珠は1日2つ。
既に両方使ってしまった。
故にもう、後が無い。
だから……


「横島さんっ!」


『それ』は予想外だった。
さやかがほむらを信頼していることが。
おそらく、その事実はほむらにとっても意外だっただろう。
ほむらは、さやかの思い人の怪我を治すという報酬を先払いすることで、まどかの身辺警護を頼んだのだ。
そこの説得に意図はなかった。
『交渉』だったのだ。
思い人の腕を治す代わりに、まどかを一ヶ月ほど保護する。そういう契約。
ゆえに予想外。
『さやかが横島を助ける為に危険を承知で飛び込む』など、予想外だったのだ。
キュゥべえにとっても、何も知らなかった杏子にとっても。
さやかが割り込んだことで、杏子の攻撃は弾かれる。
さやかの手には『護』と書かれた珠が握られていた。
暁美ほむらから、受け取ったものである。


「さやかちゃん!?」

「ここに来てからおかしいんです。いえ、正確には『この倉庫に入ってから』何かがおかしい!
だから、壊してください!」

「……おい!
『お前はマミの後輩で、こいつがマミを誘拐したと知って、だから傍観してたんじゃあ……!』」


杏子が発する言葉に、しかし2人は驚きはしなかった。
すべてはキュゥべえの策略で、目の前の少女は騙されただけだと思っていたからだ。
だから、さやかは先日自分に渡された『護』の文珠を使い、杏子の攻撃を防いだ。
そして、横島に『倉庫の壁を壊して欲しい』との意図を伝えた。
そして、横島は期待に答えた。


「……!
伸びろ! ハンズオブグローリー!」


ありったけの霊力を込める。
狭く深くではなく、広く浅く。
なるべく大きく、それでいて倉庫の壁を壊せる程度の破壊力を。
そして、倉庫の壁は破壊された。
それと同時に、2人の魔法少女が現れる。


「ケホッ! 埃がヤバい……。
というかなんで私じゃなく倉庫の壁なんて攻撃して……、
…………あれ? マミ?」

「……杏子」


消えた3人を、偶然倉庫のすぐ近くで探していた巴マミと暁美ほむらは、突然大きな魔力を感じた場所に駆けつけた。
そして、杏子は助けてやろうと思っていた本人が突然現れて混乱する。


「おいキュゥべえ! これは一体…………キュゥべえ?」


……こうして横島と杏子の戦いは終わりを告げたのだった。




















捕捉。


原作的には
横島≧美神>雪之丞
なのかな? 無論、GSとしての知識は計算に入れないで、だけど。
まあ、横島は自分を過小評価する傾向にあるので、()の中は気にしないで下さい。

原作の上条君は、急に治った腕と、それに関係するさやかが少し恐かっただけ。だから避けた。
その隙間に緑がボレーシュートを決めたという考察の元、話を作りました。
よってこの世界の上条君は、さやかと良好な関係を築けてます。主に学内で。(治療したのは女医に変装したほむらなのでさやかは無関係だと思ってる)
だから上条君とさやかと緑は、本作後学園ラブコメ開始安定ですね氏ね。

前回の*****の間には、1週間以上のキングクリムゾンが入ってます。
よってワルプルギスはもうすぐ。
決戦は近いです。最終回も近いです。



[26619] 8話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/03/28 23:01










あの横島とかいうふざけた奴との戦闘の後、私は暁美ほむらとかいう魔法少女の部屋に来ていた。
そこで話された内容は……話したやつの正気を疑う内容だった。


「正気じゃない……、そんな話を信じたのか?
普通の人間に戻れるなんて話を? 本気で?」


そんなことは有り得ないんだ。
私たちは誰かの悪意のせいで無理矢理戦っているとかではない。
仕方なく戦っているとかではないのではないのだ。
『奇跡の代償』として……、戦っているのだ。
この戦いは自業自得なんだ。


「……ええ。
杏子だって体験したでしょう? 横島さんの能力を」


なのにこいつは、誰よりも使命感と義憤を抱いていた魔法少女は、人間に戻れると信じている。
自分の望みの代償が戦いなのに、それを放棄しようとしている。


「聞いたし見たし体験したさ。
でも、うまくいくとは思えない。
だって私たちは自分で奇跡を祈り、その代償として戦ってるんだぞ?」

「……そうね。
でも、その契約は正しいものではなかった。
契約書を見せずに口頭だけで概要を告げ、サインをさせるようなものよ。キュゥべえの契約は」

「それは……そうだけどよ」


息が詰まる。
確かに、私たちはキュゥべえに騙されていた。
暁美ほむらとかいう魔法少女はソレを証明してみせた。
『横島とかいう男に、ソウルジェムを預けるという、正気を疑うようなことをしてまで』。
私たちは、エネルギータンクにされていたのだ。キュゥべえに。
この身はすでに死人。
魂は見えないなんてしたり顔で語る学者どもに見せてやりたい。
私の魂は、私の掌にある。
気をつけないと無くしてしまいそうなほど小さくて、重さなんてないも同然だ。
それは、人の命の軽さを表現しているのかもしれなかった。


「別に、信じろとは言わないわ」

「暁美、ほむら……」


少し感傷に浸っていた私に、もう1人の魔法少女が声をかける。
他人に、その意味を知っているくせに、魂を預けた奴だ。


「もうすぐワルプルギスの夜が訪れる。
あなたは私たちと一緒に戦う。
その報酬として、普通の女の子に戻すという契約よ」

「だから、その報酬の部分が信じれないっつってんだよ」


……まあ、ワルプルギスを放っておくつもりは無い。
1人で勝てるというほど自惚れてもいない。
しかし、納得がいかないんだ。
どうしてそこまで人を信じれる?
さっきの戦いで割り込んできた『青い奴』もだ。
普通の人間が私たちの戦いに割り込めば、死んでもおかしくない。
それを承知で飛び込んできたあいつが、遠い記憶の誰かと被る。
人を助けたいという想いが、私を苛む。


「もし無理だった場合……そうね、満漢全席でもご馳走してあげるわ」

「……おいおいおいおいおいおい被保護者!
おまえ金持ちのお嬢ちゃんか、どうしようも無い馬鹿のどっちだ?
あれは高いとかそういう次元じゃないんだぞ?」


……一旦思考停止。
こいつは中国4000年(の食)を舐めた!
そもそも満漢全席とは宮廷料理なのだ。1日で食べるものではない。
しかも詳細な資料が無いから復元から始めないといけないし、作るには時間、金、人が大量に必要なのだ。
それを1人の人間が……、しかも扶養されてるような奴が、ご馳走するだと?
冗談を言っている目じゃないし、私は食べ物に対しては妥協しない。
……こいつ、どれだけ横島って奴を信じてるんだ?


「それくらい横島も、その能力も信じているのよ」


真顔で言ってのける。
……ビーフジャーキーを食いちぎる。
私の負けだ。
横島を信じるわけじゃないが、マミとほむらを信じよう。
約束を反故するような奴じゃない、って意味でな。


「……マミのやり方は気にくわないが、嫌いじゃない。
そいつは頭が固くて強情だが、覚悟も信念もある。
そのマミが信じる男を、私も信じてみることにするよ」


ワルプルギスを倒したら満漢全席か、モチベーションが上がるな。
何かの間違いで人間に戻れるという期待も、良いスパイスだ。


「(…………それに)」


私が協力しなかったら、あの青い奴は絶対に戦場に来る。
文珠とかいうやつを手に、死を覚悟して、乗り込んでくるだろう。
私はそれを許容できない。
あいつは……私の父さんに似ているんだ。
……回想する。
あの戦いの後の会話を。



+++++++++++++++++++++++++++++

【横島VS杏子 戦後】




私は武器を納めた後、まっさきに青い奴に食って掛かった。
なんで飛び込んできたのか、問い詰める為に。


「他人の為に命を捨てるなんて……正気か?」

「他人じゃないよ。仲間だ」


あいつは、真剣な顔でそんなことをのたまった。
違う、自分じゃないということは、他人なんだ。
意思も理想も価値観もなにもかも違う……他人。


「……他人さ。友人も、家族でさえも。
誰かの為に力を振るっても、そいつがそれを喜ぶとは限らない。
最悪の結果になるかもしれない。
だから、力は自分の為だけに振るうべきなんだ」


それは私の人生の教訓。
だから、こいつを窘めたかった。
それは自分の為にならない。
理想論は自分と、周りに多大な危害を加える可能性が在る。
正義の味方は……存在しない。
しかし……、


「……あんたは正しいよ。
人の気持ちを完全に理解なんて出来ない。
例え理解出来ても、その人の為を思った行動が、迷惑だと思われてしまうこともある。
『誰かの為』っていうのは、想像以上に不安定で、傷つく人も多い」

「……」


こいつはそれを理解していた。
理解したうえで、続けて言った。


「あんたは正しい。
『自分の為』っていうのは、物凄く簡単で、自分しか傷つかない。
頑なに『それ』を行うあんたは、きっと……凄く優しい子なんだと思う」

「……チッ」


まるで見透かされた気分だった。
誰か、遠い記憶の先で、似たようなことを言っている奴を思い出す。
その人は、誰も居ない教会で、椅子や机に向かって喋り続けていた。


「『それでも私は大切な人を助けたい』!
見返りなんて無いかもしれない、傷つくことを言われるかもしれない。
でも、『何もしなかったという事実を抱え込むよりは』……何倍もマシだ」




++++++++++++++++++++++++++++++++





「…………」


私はあいつを放っておけない。
危ういからだ。
私が戦いに加わらないとあいつが出張りそうだし、加わったとしても何かしらしようとするはずだ。
だから、私があいつを止めないといけない。


「……まるで強迫観念だな。
初対面のやつなのに……、どうして私はここまであいつを気にかけるんだ?」


良く分からない。
良く分からないが……、今度こそはという意思が私の中に目覚める。
『今度こそは、救ってみせる』という意思が。
助けれなかった誰かが、父なのか、他の誰かなのかは分からないが、私はそれに従うことにした。


「……なんだ。
結局私は……、何も変わってない」


何故か笑いがこみ上げてきた。
結局……どこまでいっても私は、父さんの娘だったのだ。
それが少し嫌で、凄く……嬉しかった。
















********************************















自分より若い女の子だけの空間に堪えかねて外に出た横島。
公園のベンチに座り、ジュースを飲みながら夕焼けをぼーっと見つめている。
そんな横島に、話しかける存在が現れた。


「やあ、横島。
こうやって話すのは初めてだね」


キュゥべえである。
まるで知り合いに挨拶するかのように気軽に声をかけ、当然のように隣に座った。
横島はハンズオブグローリーを展開する。杏子戦での怨みがあるのだろう。


「出たな淫獣!
今すぐ成敗してくれるわっ!」


一撃叩き込もうと振り上げた時、異常に気づいた。
キュゥべえは横島の攻撃を避けようともしなかったのだ。
そして、ほむらの語った事実を思い出す。
目の前にいるキュゥべえは、あくまで器なのだと事実を。


「…………」


夕食を食べて落ち着いたし、何より今は夕日を見ていたい気分だった。
横島はハンズオブグローリーを納め、再び夕日に眼を向ける。


「そんなことしないでも、ボクはすでにボロボロだよ。
君の力をエネルギーに変換する方法が思いつかなかったから、当初の予定通りまどかに契約してもらおうと思ったのに……。
つくづく君はボクの計算を超える。
おかげでボクのノルマ達成までの道のりが10年ほど長引きそうだよ」

「ふんっ!
ペラペラと喋ってどういうつもりだ?
俺に何を言っても無駄だぞ。なぜなら決定権がないからな!」


めんどくさそうにキュゥべえの相手をする横島。
真面目に話す気はないようだ。


「ボクと契約して、奇跡を起さないかい? 横島」

「……なに?」


キュゥべえの言葉に小さく反応する横島。
その言葉に惹かれない人間がいるだろうか? いや、いない。
横島ほど欲望の強い人間ならなおさらだ。


「ボクは君の力を前借して奇跡を起すことができる。
君ほどの力があれば、なんでも叶うよ」

「じゃあ、美人で俺の言うことを何でも聞く裸のねーちゃんが欲しいとかもできるのか!?」


表情に力を入れて問う横島。
以前サンタクロースに頼んでも叶わなかった願いだけに、拳を握り締めながら目を見開くほどの力の入れようである。


「できるよ。君がそれを望むならね」


あっさりと答えるキュゥべえ。
横島はキュゥべえを見つめ、質問を重ねる。


「元の世界に戻りたいとかも?」

「できるよ」


確認するように、キュゥべえの顔を見る横島。
そして、質問を……重ねる。


「それじゃあ……一度死んだ存在を蘇らせることは、できるのか?」


最初の質問と違い、醒めた表情で行った質問だった。
気の抜けた、力の入ってない声。
それに対する回答は……、


「……それは、やってみないとわからないね。
前例がないから何とも言えないけど、まるで不可能というわけではないと……」

「『嘘だな』」


キュゥべえが言い終わる前に、横島がその言葉を否定した。
そのままキュゥべえから視線を外し、再び夕日に目をむける。


「…………」

「そこで『できる』って迷わず言えない癖に、なにが『奇跡を起せる』だ。
最後に言ったこと以外なら『俺にも出来る』。
俺にとってお前は、ただの胡散臭い獣でしかないんだよ」


珍しく……本当に珍しくシリアスな言葉を吐く横島。
めんどくさそうに自分の言葉の解説をし、鬱陶しい存在を追い払うように手を振る。
消えろ、という意味なのだろう。


「……やっぱり駄目か。
仕方ない。君の事は諦めることにするよ」


うな垂れ、踵を返すキュゥべえ。
とことことベンチから離れるも、途中で振り返る。


「……最後に1つだけ聞いて良いかな?」

「……なんだ?」


いつも通り、何も変わらない表情で質問を投げかける。


「どうして暁美ほむらを信じてるんだい?
ボクが君の敵だと言ったのは彼女だろ?
どうして彼女のほうを信じるんだい? 衣食住を賄ってくれたから? それくらいならボクでも出来る」


感情がない存在が、感情に疑問を抱いた。
果たしてどういった心境の変化か……いや、『心境』などない。


「……そんなもん、決まってるだろ」


夕日から視線を外し、頭の悪そうな笑みを浮かべながら、答える。


「可愛い女の子だからだ! 将来も有望だし、飯もうまい!
胡散臭い獣と胡散臭い女の子なら、胡散臭い女の子を信じる!
それが『俺』だ!」


最初に出会ったのがほむらではなく、マミだったのなら、キュゥべえと共に行動する未来もあったのかもしれない。
しかし、人生に『もし』はありえない。2人の道は、決して交わることはないだろう。


「…………それが感情ってやつなのかな?」


――わけがわからないよ――
横島に向けていた顔を逸らし、前を向くキュゥべえ。
……今度こそ、居なくなった。


「……まあ、それだけじゃないがな」


再び夕日に眼を向ける横島。
横島がこうやって夕日を見つめるときは、ある女性を思い出している時だ。
その女性の名はルシオラ。
横島と死に別れてしまった恋人である。


「似てるんだよなぁ……。
どこが? って言われると困るけど……」


半笑いのような表情で言う横島。
横島は、彼女の死を引きずってはいない。
今でも悲しい気持ちになる時はあるが、それでも、彼女は自分の中に居るのだ。
子供が生まれたとき、ルシオラに与えられなかった愛を与えてやれば良い。
だから、『ルシオラのことはもういい』。
今はほむらのことだ。
彼女はルシオラに似た雰囲気を背負っている。
正確に言うと、『最後に見たルシオラの雰囲気』を常に背負っている。
強い覚悟、献身……愛情。
……危うい。


「……ああしかしっ!
美人でなんでも言うことを聞いてくれる裸のねーちゃんを逃すとは!俺の馬鹿っ!
いやでもほむらちゃんを裏切るわけには……、ああでも餌は美味そうだった! 」


頭を抱えながら転がる横島。
夕日はもう、沈んでいた。
ワルプルギスの夜が現れるまで2日。
決戦は、目前だ。
















[26619] 9話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/03/30 01:57
【ワルプルギスの夜】










予想以上……いや、『経験以上』。
ワルプルギスの夜を認識した私が感じた印象がそれだ。
今までの時間軸のワルプルギス夜はここまで強大ではなかった。
私の知っているワルプルギスならば魔法少女2人で相打ち。
3人居れば、全員生還できる『可能性』があった。
しかし……、目の前の存在は、『3人でも相打ちが限界かもしれない』という存在まで膨れ上がっている。


「……キュゥべえの仕業ね」


今まで、ワルプルギスの力が変動したことは無かった。
それなのに、今それが起こったという事実は、誰かの作為であるという推測に結びつく。
それが出来て、やる可能性がある人物は……、キュゥべえのみ。


「私たちが倒せなければ、まどかを魔法少女にする……ということでしょうね」


もしかしたら横島が標的かもしれないが、どれだけ考えてもしょうがない。
どっちにしろ、私達のやることは1つ。
『魔法少女だけでワルプルギスの夜を倒す』。
最初から変わらない、作戦だ。


「おいっ、本当にこれって持ってるだけで良いのか?
なにか特別なアクションとかは必要ない?」


杏子が『護』の文珠を摘みながら問いかけてくる。
私達3人とさやかにに、それぞれ1つずつ『護』の文珠を渡したのだ。
そして私が集めていた文珠は、手元に18個だけ残して、あとは横島に返した。
あれだけの数の文珠を私が持っていても、宝の持ち腐れだからだ。


「ええ、持ってるだけで大丈夫よ。
危険が迫ったとき、勝手に作動してくれるわ」

「へー……、便利だな」


文珠をしげしげと見る杏子。
前知識がない為、ワルプルギスの異常に気づいてるのは私だけだ。
巴マミもワルプルギスの強大さに驚いてはいるが、戦意は失っていない。


「結界が広すぎる……。
私たちが負けるか……、戦闘が長引くだけで街に影響が出そうね」


言いながら、文珠を握り締めるマミ。
義憤に目覚めたのだろう。
彼女は事故で両親を失っている。
故に、魔女によって引き起こされる犠牲が見過ごせない。


「……さて、『結界』の準備は済んだかしら?」


今度は非戦闘員に眼を向ける。
ワルプルギスの夜は、結界の範囲が広すぎて、魔法を知っている者は強制的に中に閉じ込められる。
つまり、まどかとさやかも魔女の結界内にいるのだ。


「おうっ!
2つの制御くらいなら余裕だっ」


横島の手には『結界』と書かれた2つの文珠が存在している。
強制的に魔女の結界に閉じ込められるなら、その中に『別の結界』を作れば良い。
2つの文字を使った文珠は強力だ。
ワルプルギスの攻撃でも、簡単には壊れないだろう。


「そう、それじゃあ美樹さやかと鹿目まどかを頼んだわよ」

「まどかは私が抑えておくから、ほむらも頑張んなさいよ!」

「さやかちゃん……人を猛獣みたいに言わないでよっ」


私は3人が一箇所に固まるのを見届け、踵を返す。
戦いは厳しいものになるだろうが、それを悟られるわけにはいかない。
横島と美樹さやかの場合、自分も参加するとか言い出すだろうし、まどかもそれに追従するはずだ。
私たちが苦戦をしている所を見られれば、まどかは魔法少女になってしまう。
それは、前回でわかっている。
だから私は、まどか達に事実を教えないまま戦いに赴かなければならない……のだが、


「あれ? 横島は戦闘に加わらないのかよ」

「……当然でしょう?
横島は人間なのよ。致命傷を負えば死んでしまう、人間なの。
この戦いには向かないわ」

「えっ!? そうなの!?」


横島が驚きの声を上げる。
……そういえば伝えてなかった気がする。
しかし、問題はない。
横島は基本ビビリだし、戦いも好きじゃない。
だから、残っても良いと言えば喜んで……、


「大丈夫なのか? ほむらちゃん達だけじゃあ厳しそうだけど……」

「……どういうことかしら?」


まだワルプルギスに接触していない。
感じるのは気配だけだ。
私は経験があるから、相手の力量がある程度つかめるが、横島は違うはず。
なのにどうして、気配だけで相手の力量がわかる?


「この気配だとべスパ並…………ああ、俺の世界の上級魔族な。
ぶっちゃけ、俺が加勢しても無事に帰ってこれるかどうか……」

「えっ!?」


まどかが驚いたような声を上げる。
さやかも同様に、こちらを心配するような表情を向けてくる。
……横島が、これほどの存在との戦闘経験があるとは予想外だった。
みんなにこの戦いの難易度がバレてしまう。
どうすれば……、


「おいおい、そんなに強いのか?
話しに聞いてたのと違うな」


まあ良いけど――と言いながら振り返り、武器を展開する杏子。
そのまま数歩歩き、ふと立ち止まり、頭だけ振りかえる。


「おい、青いの」

「美樹さやか! いい加減名前ぐらい覚えなよ!」


さやかが杏子にかみつく。
会ってまだ2日しか経っていないのに、早くも仲が良さそうである。
……私にはないコミュニケーション能力だ。


「お前は鹿目まどかの傍に居ろよ?
『私達に加勢しようなんて思うな』。この間とは違って、死ぬぞ。簡単に」


真剣な……、殺気すらのせた表情でさやかを睨む杏子。
さやかも、それに怯むことなく受け止め、返答する。


「…………わかってる。
まどかを護るのが私の『義務』だから。
魔女は、あんた達に任せるよ」

「おうっ、任せろ。
それじゃあ後は頼んだぞ、さやか」


最後に真面目に名前を呼ぶというベタな会話回しで締め、正面を向き、再び足を進めた。
そして、緩く手を挙げ、それを軽く振る。


「それじゃあ先行ってるぞー」


まるで物語に出てくるニヒルキャラのように戦場に向かう杏子。
しかし、これは映画でも小説でもない。現実だ。
その先は死地。
最後まで軽いノリを崩さなかった彼女には、みんなを安心させたいという意図があったのだろう。


「……私も先に行くわね。
横島さん、2人をよろしくお願いします」

「……お、おい!」


巴マミも、横島に軽く挨拶をして杏子を追いかける。
横島がそれを止めようとするも、珍しく耳を貸さずに駆けていった。
残されたの私は、まどかを一瞥し、拳を握り締める。
今度こそ守ってみせる。あなたをキュゥべえの餌になんかさせない。
そして……横島も。彼に死んで欲しくない。
二度と会えなくてもい。だから、生きていて欲しい。
そのためなら、私は命を賭けられる。


「……私も行くわ。
大丈夫。私たちだけで倒してみせるから」

「で、でもほむらちゃん達だけじゃ……」


横島が私を止めようとする。
おそらく、自分も戦うとか言い出すつもりだろう。
馬鹿でスケベでビビリで弱虫のくせに……、優しい。


「横島、私はあなたが好きよ」

「……!」


抱え込もうと思っていた言葉が、口から出る。
横島が驚愕したような表情をしている。友情か愛情か計りかねているのだろう。


「あなたを異性として愛しているの。
人との触れ合いに慣れてない私の感情は、ひょっとしたらありがちな麻疹でしかないかもしれない。
でも……、私はあなたに死んで欲しくない」


まどかは私の初めての友達で、横島は私の初恋の人。
どちらも大切で、失いたくない。
まどかを救うと約束した。横島を帰すと約束した。
……目を閉じる。
心の中で約束を反芻する。
……うん、ワルプルギスの夜ごときで立ち止まるわけにはいかない。


「だから、横島はまどか達とここに居て。
もう2度と……、大切な人を失いたくないの」

「……ほむら、ちゃん」


もう二度と、あんな想いはしたくない。
次は横島が居ないかもしれない。
だから、私は命を賭して勝負をする。
もちろん、死ぬ気なんてさらさらない。
これは……私の覚悟だ。


「大丈夫よ。
アレを倒したら、横島が帰れるように協力するわ。
だからあなたはここに残って。私の帰りを待っていて」


そう言って、振りかえる。
横島は、俯いたままだ。
ここに長く居ると、私の決意が鈍ってしまう。
もう会えないかもしれないと思うと、胸が締め付けられるように痛い。
抱きしめられたい。キスしたい。愛し合いたい。
……でも、駄目だ。
私は戦わなくてはいけない。
これが私の使命で、試練なのだから。


「……さやか、まどかをお願い」

「……うんっ!」


さあ行こう、私の戦場へ。


















*************************************













「さやかちゃん……!」

「駄目だよまどか!
あいつは……ほむらはまどかを助ける為に頑張ってるんだよ!
それなのに、今ここでまどかが戦いに参加して、もしもの事があったら……あいつ、絶対に悲しむ」


暁美ほむらが去った後、まどかがキュゥべえを探しに行こうと言い出した。
しかし、それは許されない。
まどかを魔法少女にしてしまうことは、暁美ほむらの想いを踏みにじることになる!


「でもっ! このままだとほむらちゃんたちが死んじゃうよ!
だって、あんな今生の別れみたいなこと……!」


まどかが涙を流しながら訴える。
現状は思っていたより最悪だ。
魔法少女が3人も揃えば簡単に勝てると予想されていた魔女は、予想を遥に超える力を持っていた。
このままだと、勝てたとしても誰も帰ってこないかもしれない。


「……くっ!」


私は横島さんに目を向けそうになり……、逸らす。
……駄目だ。
彼は人間だから、魔女と戦うのに向いてない。
今回の魔女は宙に浮いているらしい。
運動神経が人間レベルから逸脱してない横島さんでは、魔女に攻撃を加えることすら難しいだろう。
そんな彼に、戦って欲しいと思うのは、残酷なことだ。
でも……どうすればっ!


「……さやかちゃん」

「…………え?」


今までずっと俯いてた横島さんが、初めて声を出す。
拳を握り締め、顔を上げた。
その表情は、今までの横島さんからは想像できないほど真剣なそれだった。


「わりぃ、俺行ってくるわ」


軽くそう告げ、私たちに向け文珠を2つ投げる
『結界』
私とまどかを、光の筒のようなモノで包む。
もうこの中に誰も侵入できないし、出ることもできない。


「横島さんっ! 私も!」


まどかが結界を叩く。どうしても参加する気だ。
わたしはそれを止めようとした。
しかし、その前に横島さんが口を出す。


「まどかちゃんは駄目だ!」

「……!」


初めて聞く横島さんの怒声に驚くまどか。
その表情のまま、説明を口にする。


「ほむらちゃんは信じてくれてるけど、俺の文珠で『戻れるかどうか確証はない』んだ。
だから、君たちに魔法少女になってもらっちゃ困る!」


言い終わった横島さんは、
そのまま暁美ほむら達が向かっていった方向を向き、走り出そうとした。
私はそれを止める。
約束してほしいことが、あったのだ。


「……横島さん。
ひとつだけ、約束してください」

「……」


沈黙で答えられる。
私は言葉を続けた。
私の希望を……、明るい未来を……、約束して欲しくて。


「生きて……、帰ってきてください。
みんなで、また、一緒に……」


声が震える。
肝心な所で、人任せになってしまう自分が情けない。
適材適所だとは分かっているが……それでも、もどかしい。
そんな私の鬱憤を晴らすように、横島さんが笑顔で『約束』してくれた。


「……任せろっ!
GS横島! 美女と美少女との約束は絶対に破らんっ!」


そう言って、走り出す。
すぐに私の視界から消える。
横島さんは笑顔で『約束』してくれた。
だから私は彼を信じよう。
みんなを助けてくれると。


「…………」


まどかが俯いたままへこんでる。
私は何もできない、とか思ってるんだろう。
まどかの肩に手を回す。


「……祈ろう? まどか。
みんなが帰って来てくれますように、ってさ」


いつも通り、学校で見せるような笑顔で言ってみせる。
彼なら大丈夫だと。
何も出来なかった私達の前でマミさんを救ってくれた横島さんを信じようという思いを込めて。


「……うん」


まどかが涙を擦り、頷く。
2人で祈った。みんなの無事を。
きっと大丈夫だという、確信を込めて。























**********************************


















ワルプルギスとの戦いは、経験以上に、そして予想通りに厳しかった。
私の能力が、人と協力するのに向かないということには気づいていたが、それを度外視しても、ワルプルギスが強すぎた。
3人とも限界。
これ以上戦い続ければ、ソウルジェムが濁りきってしまう可能性もある。


「思ったよりきついわね……」

「ああ、ちょっとこれはマジだな。
ほむらがいるから、まだなんとかなってるが……このままじゃジリ貧だ」


ワルプルギスの攻撃を、時間を止めて味方を突き飛ばす、という方法でかわし、隙をみて攻撃するという無茶な作戦。
今までのワルプルギスなら何とかなったかもしれないが、こいつ相手は厳しい。
何故なら、生半可な攻撃ではダメージすら与えられないからだ。


「……私が囮になるわ。
その隙に2人は総攻撃をしかけて」


故に、勝ち目はそれしかない。
私の弱点は、遠距離の敵に致命傷を与えれないこと。
機関銃を使えばワルプルギスにも有効打は与えれるかもしれないが、アレは隙が大きすぎる。


「囮ねぇ……、意味あるのか?
あいつの攻撃、正に手当たり次第って感じだぞ?」

「…………」


杏子の疑問の声も無視して突っ込む。
どっちにしろこのままではジリ貧どころか、敗北しかありえない。
今は、躊躇っている時間1秒1秒が惜しい!


「……何も言わずに行っちまいやがった」

「……行くわよ!」


巴マミが攻撃態勢に入る。
杏子もそれに続く。
それを確認した瞬間、時間を止めた。
カチリ、という機械音が鳴る。
私の中での、時間を止めるイメージだ。
景色が凍り、世界から色が無くなる。
私は杏子たちの反対側に『現れ』、ワルプルギスに拳銃を放つ。
……反応した!


「ったく! 仕方ねえ……、なあっ!」


2人が攻撃を放つ。
杏子の攻撃はワルプルギスの守りを叩き、本体への道を切り開く。
そしてそこに……!


「ティロ・フィナーレ!」


巴マミの一撃が入る。
私達の中でも、一番威力が高い攻撃だ。
これで沈まなければ勝ち目が……、


「……マジかよ」

「無傷……!?」


……反対側に居た私には、今の攻撃の成果を直接見ることはできない。
しかし、聞こえてきた声は、私に絶望を感じさせるには十分だった。
そして……、


「……きゃっ!」


大きな一撃。
建物のようなものが飛んでくる。
時間停止を駆使して避けるが、間に合わない!


「………………ああ」


惜しかった……な。
あともう一歩だったのに。
そんな思考が頭をよぎる。
約束を破りたくない。でも、体が動かない。
ワルプルギスの攻撃がスローモーションに見える。
だんだん迫ってくる。押しつぶされる。
……そういえば、こいつに殺されるのは初めてかもしれない。
というか私が死んだらどうなるのだろう?
『戻る』のか、『戻らない』のか。
今まで逆行は自分の意思で行っていた。
だから、ここで死んだら私は終わりなのだろう。
…………嫌だな。
もうまどかに会えない。横島に会えない。
私が死んだら、まどかが魔法少女になってしまう。
横島が、こいつと戦ってしまう。
嫌だな。嫌だ、死にたくない。死ぬわけにはいかない。
でも……、体が動かない。
攻撃は目前まで迫っている。
もう無理だ。
体が動いたとしても、時間を止めたとしても、間に合わない。
こんなタイミングで助けれるなんて……それこそヒーローじゃなきゃ……、


「…………ぅぉぉぉぉぉ!」


諦めを抱いた瞬間、聞こえてきた。
声。
大好きな人の声。
巴マミを救ってくれた声。
美樹さやかを救ってくれた声。
杏子と同盟を結べた功績者の声。
まどかを救ってくれる……声。


「ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」


掻っ攫われる。
紙一重の差で、私の居た場所が叩き潰される。
『飛翔』
横島の手には、そう書かれた2つの文珠が握られていた。


「……横島!? どうしてっ!」


『ありがとう』は出てこなかった。
『嬉しい』も、出てこなかった。
何で来てしまったのか、ここは危険なのに!
横島には無事で居て欲しかったのに!
でも……、


「うるさいっ!
守られるのはいい! 助けられるのもいい!
でも、女の子に無理させてっ、命がけで守ってもらうのは無理だっ!
それだけは許容できないっ!」


横島が感情を露にして怒る。
強く、強く抱きしめられる。


「『もう失うのは嫌だ』って!?
そんなの、『俺だって同じだっ』!!」


私を失いたくないと、私が『大切な存在』だと、言ってくれた。
それはおそらく、私が望んでやまないモノとは違うだろうけれど……それでも、涙が出るくらい嬉しかった。


「……おいおいおいおい、ヒーローっぽく登場したのはいいけどさ、どうすんだよアレ。
手に余るどころじゃないぞ」

「そうですっ!
私たちはある程度の攻撃なら耐えれますが、横島さんは……!」


横島が私を抱えたまま滑空し、杏子たちの元に戻る。
それと同時に、2人は横島に駆け寄る。
その光景を、他人事のように見つめる私が居た。
……駄目だ。
もう、『嬉しい』と『幸せ』しか頭に浮かんでこない。
どんどん一回目の私にキャラが戻っていく。
戦闘中なのに、致命的である。


「裏技があるんだが……、霊力が足りん!
だから……、ほむらちゃん!」

「は、はいっ」


声をかけられた。
いつの間にか私は横島の腕から出て、1人で立っていた。
完全に茫然自失である。


「へい、パース!」

「え、えっと……キャッチ!」


横島が私に丸い珠を投げる。
私は、慌ててそれをキャッチする。
それは文珠だった。
そしてそこには、こんな文字が書いてあった。
『育』


「ええっ!?」


文珠が光る。
それと同時に、私の視点が上がる。
自分の姿が変わっていくのが分かる。
私の両親の外見から考えて……、今の私は20歳前後の外見。
それなりに背は高いつもりだったが、身長はさらに伸びるらしい。
そして、私の服のサイズは変わってくれない。
つまり、スカートの丈が非常に危険な感じになる。
……胸も成長するようだ。ボタンが2つほどはじけてしまった。
結果……、企画物の深夜番組みたいな格好の私が出来上がった。
恥ずかしい……!


「よっしゃああああああ!!
煩悩全開!!」


そんな私を見て、横島が雄たけびを上げる。
……少し嬉しい自分がいた。


「お前…、アホかっ!!
この状況で何を……!」


杏子が的確な質問を飛ばす。
巴マミにいたっては、目を見開いて硬直している。
現状がいまいち理解できないのだろう。
しかし、私は知っている。
横島の力の源が、『煩悩』だということを……!


「3人とも下がってろ!
今夜の俺は、一味違うぞおおおおっ!!」


横島が懐から文珠を取り出す。
その数は4つ。
今の横島が制御できる、限界の数だ。
そこには、こう書かれていた。


『魔神想起』


文珠が光る。
瞬間、とんでもない力の奔流と、圧迫感が横島からあふれ出す。
その力は……、前回最後に見た魔女以上の……!


「これで……てめえなんか敵じゃねええええ!!」


青っぽい紫の戦隊物スーツを着ているような格好になった横島。
しかし、その力は本物。
目の前の魔女など、敵ではない!


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」


父親の大樹の話しをしてくれたことがあった。
今の横島の攻撃は、正に話しの中で聞いたそれだった。
重く、速いラッシュ!
ワルプルギスの周りに浮かぶ歯車が一撃で砕ける。
本体にヒビが入る。
正に圧倒的。完全に別格の存在。


「……すげぇ。
なんだあいつ、本当に人間か?」

「流石横島さんっ! 私のお兄さん候補!」


……巴マミが復活すると同時に、ちょっと不穏な台詞を吐く。
そんな小さなことが気になるくらい、横島は圧倒的だった。
あと一撃。
それでワルプルギスは倒れる。


「これで……、終わりだああああああ! ……あ?」

「……あ」


……その声を上げたのは誰だったか。
もしかしたら全員かもしれない。
そしてそこから先は、巴マミを助けた時のデジャブだった。


「馬鹿なあああああああ!? こんなに早く効果が切れるだとっ!?
も、文珠で……! い、いかんっ反動がでかすぎる! 使えん!
うわあああああああああああああ!?」


自由落下する横島。
時間を止めないと!
……といった焦りは、あっさりと覆る。
杏子が武器を使って、横島を器用に捉える。
まるで釣りでもするかのように、横島はこちらに引き寄せられた。


「ったく……、締まらねえなあ……、らしいけど」

「ここまで消耗させれば、私たちでも止めが刺せるわね」


杏子が横島を見て軽く笑い、巴マミがワルプルギスを見つめる。
あれは既に死に体。
後は私達で殺せる!


「……横島」

「うう……、すまん。
格好良く決めようと思ったんだが……。
ああっ! しかもほむらちゃんの変身も解けてるし! 貴重なナイスバディーがはっ!?」


殴った。
何となく、気に食わなかった。
今の私を見て欲しいとか、そんな少女漫画的なアレではない。決して。


「お願いだから……心配させないで」


冗談はともかく、心配したのは本当だ。
横島の胸に顔を押し付ける。
色々安心して涙が出てしまったからだ。


「……すまん」


謝りながら、私の頭を撫でてくれる。
優しい笑顔。
力が溢れてくる。動けないほど痛めつけられていた体が、嬉しいという感情で癒されていく。


「でも……、ありがとう。
助けてくれた時、凄く……嬉しかったわ」


感謝の言葉。
やっと口から出た。


「おうっ!
俺は正義のGSだからな! ピンチの女の子を助けるのは当然だ!」


……私だから、というわけじゃないのが不満だが、今は良い。
未来が見えてきたのだ。『特別』という喜びは、先の未来にとっておこう。


「……それじゃあまあ、正義のGSさんがやり残した仕事を片付けるとするか!」

「横島さんが作ったチャンス……無駄にはしないわよっ!」


2人の言葉に頷く。
私の因縁……。
ワルプルギスは既にボロボロだ。
私たちにも余裕が若干残っている。
まどかは魔法少女になっていない。
正に、最高の状況!


「今度こそ……終わらせる!」





♪BRAVE PHOENIX♪






ワルプルギスが、苦し紛れの攻撃を仕掛けんと、自分の周りに鉄塊を浮遊させる。
しかし、そんな隙は逃さない!


「攻撃なんて、させるかよっ!」


杏子の攻撃が、ワルプルギスの周りの鉄塊を排除する。
そしてそのまま、ワルプルギス本体にダメージを与える。
横島の付けたヒビが大きくなる!


「この一撃で……突破口を開く!」


巴マミが構えを取る。
自身の大技。本日二度目の必殺技。
狙いはヒビの中心。
そして、その先にあるだろう核の露出!


「ティロ……フィナーレ!!」


ワルプルギスの本体が砕かれる。
そして、巨大なその体の中、中心に、コアのようなものが浮かんでいる。
それがアイツの弱点!
アレを砕けば……私たちの勝ち!


「暁美さん!!」


ワルプルギスがコアの周りに使い魔を出し、コアを隠そうとする。
それを巴マミのマスケット銃が、正確無比に打ち落とす!


「行けえええええほむらああああ!!」


ワルプルギスが金属塊を浮かばせ、私たち向けて飛ばしてくる。
それを、杏子の多節槍が打ち落とし、さらにその鎖でコアへの道を作る!


「ほむらちゃん!」


横島さんが私の手を握る。
そこには何も書かれてない文珠が握られていた。
私の手と、横島の手が交わる中で、それに文字が刻まれる!


「……うんっ!」


カチリ
時間が止まる。
杏子の鎖を渡り、巴マミが撃退した使い魔を踏みつけ、ワルプルギスのコアへと駆ける!


「……あなたとの因縁も、これで終わり!」


コアの目前まで着いた。
間髪居れず、私は先ほど横島に渡された文珠を投げる。


『爆』


時間は止まったまま。
爆発の範囲から逃げる為、私は来た道を戻る。
そして……、振りかえる。


「さようなら、ワルプルギスの夜。
私の勝ちよ」


時は動き出す。
耳を劈くような爆発音が響き渡った。
それは、ワルプルギスの夜という魔女の断末魔の代わりになった。
……私たちの勝利が決まった。
運命は……、変わったのだ。
それを確認した私は、横島の元に戻り、その腕の中で眠りについた。
久しぶりに……、魘されない夢を見た。




























本作設定の捕捉

今までのワルプルギスの夜=中級魔族
今回のワルプルギスの夜=上級魔族
杏子・マミ=美神令子
ほむほむ=美神美智恵
さやか=西条
まどか=斉天大聖
「救済」の魔女≦アシュ様
まどかが魔女化することによって得られる瞬間エネルギー(QBの残りノルマ)=文珠10個

*「救済」の魔女=まどかが魔女化した姿

『魔神想起』の後動けなかったのは、無理矢理高次元の存在を投影したため、霊力の流れがしっちゃかめっちゃかになったという設定。
問題なく動けますが、1時間ほど霊力の行使ができなくなるというペナルティーをつけました。


次回が最終回の予定です。







[26619] 最終話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:d6490c69
Date: 2011/04/02 07:53



ワルプルギスの夜による結界が閉じる。
魔法少女2人と横島は、戦いの疲れか、その場に座り込む。
ほむらはまだ疲れが取れないようで、地面に横になっている。
すると、そこに2人の人間が走り寄ってきた。
まどかとさやかである。


「マミさん! ほむらちゃん!」


まどかが涙を流しながら、寝付いていたほむらに飛びつく。
ほむらがそれに驚き、勢いよく上半身を持ち上げる。
そして、自分にしがみついているまどかを見て、笑顔を浮かべた。


「やったじゃん!
全員無事だね!」

「当然だろ? 私を誰だと思ってるんだ!」


さやかが驚きの声を上げる。
それに対して、杏子がガッツポーズを取り、啖呵を上げる。
大きな敵を倒した後だからだろうか、いつもより若干テンションが高いようだ。


「住所不定無職でしょ?」

「……確かにそうだけどよ。
身も蓋もねえなあ、おい」


そしてさやかの正論により、上がったテンションは底辺まで急降下した。
そんなやりとりが終わった後、まどかの力を借りてほむらが立ち上がる。
未だに足元が覚束ない。


「……ワルプルギスも倒せたことだし、さっそく人間に戻れるかどうか試してみましょうか」

「……おいおい、起きて大丈夫なのかよ?
別に今すぐじゃなくても良いんだぞ」


満漢全席の用意には時間がかかりそうだし――なんてことを言いながらほむらを心配する杏子。
しかし、ほむらはまどかの支えを離れ、一人で立ち上がった。
魔法を使ったのか、みるみる回復していく。
そして、それによって溜まった穢れをグリーフシードで吸収し、いつものほむらに戻る。


「それじゃあ横島、お願い」

「……それなんだが」


マミと杏子に視線を走らせ、横島にお願いをする。
しかし横島はそれに素直に従わない。なにやら理由があるようだ。


「なにか問題があるんですか?」

「うむ、霊力は戻ったんだが、文珠4つを制御するには実力以上の霊力が必要なのだ。
さっきも、ほむらちゃんに文珠を1つ使ってそれを補充したしな」

「あれはそういう意味だったのか。
テンション上げる為のセクハラだと思ったぜ」


結構ひどいことを言う杏子。
しかし、4文字制御に制限があるということが初耳だった。
てっきり、さっきの変身だけが特別だと思っていたほむらは、驚きの表情を浮かべる。


「だから何か俺の気持ちを高ぶらせるものを合法的に要求でき……じゃなくて、必要なのだ!」

「……!」


拳を握り締めながら高説を垂れる横島。
そこでさらに驚くのはほむら。
さっきの4文字制御では、自分がそのエネルギー源になったのだ(成長した姿ではあったが)。
つまりそれは、あれと同じことがもう一回起こるということで……、そう思うと顔が火照っていくのがわかる。


「というわけでまどかちゃん! 美人でスタイルの良いお母様をここに呼んで……!」

「……ひっ!?」


しかし……横島はどこまでも横島であった。
まどかに迫り、欲望をさらけ出した顔で手を握る。まどかはびっくりして硬直してしまった。
そして、横島がその台詞を吐いた瞬間、閃光が走る。
みんながそれに気づいたときには、既にボロ雑巾が1つ出来上がっていた。


「……気合で何とかしなさい」

「ずみばぜんでじだ……」


まるで彼の上司の折檻を受けた後のような姿になってしまった横島。
さっきまでの可愛かったほむらを回想し、少し涙が出そうになる。
……自分の責任なのに。


「それじゃあマミちゃんから……、行くぞ!」

「はいっ」


あっという間に立ち直り、マミに合図を送る横島。
手には四つの文珠が握られている。
そして、それに1つずつ文字が浮かんでいく。

『幽体戻入』

横島はそれを制御しようとして、思い切り握り締める。
そして数秒後ゆっくりと手を開き、4つの文珠をマミに向けて軽く放る。


「…………!」


瞬間、マミのソウルジェムから『もや』のようなものが湧き上がり、マミの体に吸い込まれていく。
それを受け入れた瞬間、マミの体はビクンッと跳ね、前のめりに倒れる。
そして2、3秒経過した頃、ゆっくりと立ち上がる。


「……戻れた……の?」


マミの手に握られているソウルジェムから色が失われていた。
しかし、それだけではわからない。
実際に、ソウルジェムを体から離して、それでも自分の体が動くか確かめる必要がある。


「ソウルジェムを私に預けてもらってもいいかしら?」

「…………お願い」


ほんの一瞬だけ躊躇って、マミはソウルジェムをほむらに渡す。
ほむらが、その場からゆっくりと移動する。
10m20m30m40m50m……、どんどん離れていく。
以前は100m前後でほむらの『肉体』が死んだ。ならば、その地点に行くまでは安心できない。
ほむらは止まらず、ゆっくりと移動する。
80m90m100m…………、


「…………っ!」


遠く離れたほむらを見て、マミが目を瞑る。
もし戻れてなかったら、そろそろだ。
しかし、ほむらの歩みは一定に進む。その距離に感慨などないと言わんばかりに。
当然だ。陸上選手でもないのに、正確な距離など分かるはずもない。
110m120m130m…………。
結局、200mを超えたあたりで、ようやくほむらは歩みを止めた。
マミの体は、生きていた。


「開放……されたのね」


肉体は死ななかった。
つまり、マミは使命から開放されたのだ。


「マジかよ……、お前って凄かったんだな……」

「こう見えても剣と銃を装備した悪徳公務員を成敗し、改心させた男だからなっ!」


杏子が驚き、横島を尊敬の眼差しで見つめる。
ワルプルギスを圧倒した時点で『情けない男』という評価は撤回していたのだが、こんな奇跡を起せるとは思ってなかったのだろう。
横島の軽口にも、疑問を抱かない程度には、横島という男を尊敬していた。


「じゃあ私も頼むよ。
いい加減、疲れてきたところだったしな」


それがどういった意味での言葉なのかは分からないが、彼女は魔法少女を止めることに抵抗は無い様子だった。
横島の『奇跡』を受け入れる。

『幽体戻入』

そして、マミと同じような症状を起し、彼女も義務から解放された。
もう、自分の為に化け物と戦ったり、見ず知らずの誰かを犠牲にすることもない。


「……んーっ!
なんとなく、開放感があるな。
学校を卒業した時に教科書を捨てる時のアレだ、良い気分だぜ」


体を伸ばしながら、清清しいといった表情で喜びの声を上げる。
マミほど魔法少女という義務に悲観してはいなかったが、彼女も自身の運命に疲れていたのだろう。


「じゃあ最後にほむらちゃんを……!」

「それはもう少し後よ。
……出てきなさいキュゥべえ、居るんでしょう?」


まどかが期待の眼差しを横島に向ける。
理由は分からないが、ほむらがまどかを人一倍気にかけていたのは、まどか本人も良く知っていた。
しかし、ほむらはその言葉に一時的な否定の言葉は返す。
そして、自身の仇敵の存在を、呼ぶ。


「やあ、みんな3日ぶりくらいかな?」


その存在は、まるで当然のように現れた。
まるで最初からそこに居たかのように。
彼女たちが気づいてなかっただけではないかと思うほど、自然に。


「……キュゥべえ」

「よく顔を出せたなぁ、おいっ!
ここで始末してやっても良いんだぞ?」


マミが何ともいえない表情でかつての友に呼びかけ、杏子は分かり易い敵意をぶつける。
しかし、キュゥべえはそれにまったく取り合わず、横島だけを見る。


「それにしても驚いたよ。
君たちだけじゃあ、絶対にワルプルギスを倒せないとふんでいたのに。
しかも魔法少女から戻れる『奇跡』を起すなんてね。
本当に……横島はボクの予想を超えてばかりだ」


表情はない。
いつも通り。
なんで正直に呼び出しに応じたのか分からない。


「……今更あなたに恨み言を言うつもりはないわ。
その行為に意味はないし、私の目的は既に達成された」

「そう。
ボクとしてもそっちのほうがありがたいかな。
新しい舞台を用意しないといけないしね。
時間には一定の価値がある。
それの無駄遣いはもったいないよ。君たちもそう思うだろう?」


ほむらの言葉を受けても、キュゥべえは何も変わらなかった。
以前、感情を理解しようとしたそぶりが、まるで幻であったかのように。
この存在はなにも変わっていなかった。


「その必要はないわ」


そういってほむらはキュゥべえに向け文珠を放る。
その数10個。
キュゥべえは、その赤い眼差しで文珠を凝視する。
何も書かれていないそれを、分析するかのように。


「今まであなたに嘘をついてたわ。
これは横島が生み出すエネルギーの結晶。
あなたなら、これをそのまま活用できるでしょう」

「……ひどいなあ、嘘をつくなんて。
てっきり君たちが使う武器のようなものだと思ってたよ」


言いながら、前足で文珠を転がす。
文珠の分析をしているのだろう。
そして、理解した。
それが高濃度で高品質なエネルギーの塊であるということを。


「……うんっ。
これだけあればボクのノルマは達成だね」


そう言って、文珠を『背中の方の口』で取り込む。


「……きゅっぷいっ」


よく分からない効果音と共に文珠を消化し終える。
これで、キュゥべえの目的は達成された。


「ならとっとと消えやがれ。
おまえの顔見てると蹴飛ばしたくなってくるんだよ」


杏子がキュゥべえを威嚇する。
しかし、魔法少女でない者に興味などないと言わんばかりにそれを無視して、ほむらに疑問を投げかける。


「暁美ほむら、最後に1つだけ聞いてもいいかな?」

「……なに?」

「どうしてボクにこれを渡したんだい?
ボクの目的を邪魔するのが目的だと思ってたんだけど……」


キュゥべえからすれば、それは当然の疑問。
ほむらは自分を妨害する存在で、その理由自体に興味はなかった。
だからこそ、どうして自分の目的に協力するようなことをしたのか疑問に思ったのだ。


「……あなたは、私がまどかが魔法少女になるのを防ぎたかった理由がわかるのかしら?」


この質問の答えは、人間なら……感情を理解できる存在ならば、迷うことなく分かるモノだった。
しかし、目の前の存在は、それが分からない存在だった。


「……さあ?
君の『祈り』がそういったものだったということは分かるけど、それに至る感情の機微までは分からないね」


横島が顔を顰める。
横島は、自分の世界で多くの敵と戦った。
そして、それらの存在には例外なく、『人間らしさ』があった。
先ほど模した魔神ですら、そういったものはあったのだ。
しかし、目の前の存在にはそれがない。
……強い嫌悪感。
まるで、機械と会話をしているような。


「なら、どれだけ時間をかけてもあなたには理解不可能よ」

「……そっか。
じゃあボクはもう行くよ。この惑星に、もう用はないからね」


そして、感情を理解しないから、答えにも執着をしない。
疑問に対する答えが提供されないのなら、諦める。
人間の行動における理由なんて、問い詰めるほどの価値はないと言わんばかりに。


「待ちなさい。
あなたは質問をした。私はそれに答えた。
なら、私の質問にもあなたは答えるべきよ」


しかし、ほむらはここでずうずうしい言い分を通す。
どうやら、さっきの言葉はほむらなりの答えであったようだ。


「……さっきのが回答になるとは思えないけど、まあいいや。
言ってみてよ。ボクは君たちと違って嘘はつかないからね。安心して良いよ」


聞く人によっては、嫌味ともとれる台詞だが、当然キュゥべえにそんな意図は無い。
事実を述べただけだ。
不公平だと認識したから指摘し、自分は嘘をつかないという事実を述べただけ。


「あなたは……インキュベーターはあなた以外にもいるのかしら?」

「……それは、ボクが多数いるのかという質問なのか、『ボク』が多数いるという質問かで答えが違ってくるのだけど……、
おそらく前者のことだろうね」


ほむらの質問に、キュゥべえは少し思考を走らせ、ほむらが知りたい答えを導き出す。
そして、当然のようにそれに答える。
ノルマは達成した。
もう、都合の悪いことを暈す必要はないのだ。


「『ボク』という存在は一種類しか存在しない。
この体はあくまで『端末』だから、それぞれに個性と言う概念は存在しない。
そして、この『端末』はこの惑星に複数存在している。
だから質問の回答は、『イエス』になる」


つまりそれは、キュゥでえという契約の獣は多数存在するが、それを操っているのは1つの存在だということだ。
よって、自分たち以外にも魔法少女は多数存在する。
その事実を確認したほむらは、顔を顰める。


「だけど、ボクのノルマが達成したということは、『ボク』のノルマも達成したということになる。
よって、今この瞬間から『ボク』という存在はこの世界から居なくなるね」


どうやら契約の獣は一斉に居なくなるようだ。
さやかはその言葉に胸をなでおろす。
自分は契約をしなかったが、同じような存在が身近に現れ、似たような事態が起こることを恐れていたのだろう。
……しかし、マミはその言葉で安心など出来なかったようで、驚愕に目を見開いている。


「……あなたが生み出した魔女や魔法少女はどうなるの?」

「さあ?
それは君たちの問題だからね。ボクは干渉しないよ」


マミが驚いた理由がこれである。
魔女は未だに存在する。魔法少女も同様に。
つまり、魔女が原因で死ぬ存在はこれからも現れるということだ。『自分の両親のように』。
横島もその事実に怒りを覚えたのか、下を向きながらブツブツと呟いている。


「……てめぇいい加減に!」

「もういいかい?
それじゃあボクは帰るとするよ」


杏子が怒りを露にするも、キュゥべえはそれを無視して背を向ける。
呼ばれたから来ただけで、質問されたから答えただけで、それ以上ここに居る理由は無い。
そういうことなのだろう。


「……待てよキュゥべえ」


そんなキュゥべえを呼び止める男がいた。
無論横島だ。この場に男は1人しかいない。


「まだ何か聞きたいことがあるのかい? 横島」

「お前は主にどこで活動してたんだ?
詳しい場所を教えろ」


尊大な態度で(キュゥべえに戦闘力はないから)聞く横島。
しかし、さっきとは違い、キュゥべえが質問に答える理由は無い。


「……ボクにそれを答える義務は」

「ほらよ」


ぽいっ、っと文珠を4個放り投げた。
キュゥべえはそれを一瞥した後、自分に取り込む。
エネルギーはどれだけあっても困らない。そういうことなのだろう。


「……日本の長崎県長崎市、石川県金沢市、アメリカのカルフォルニア州サンディエゴ、ケンタッキー州ルイビル、
中国の北京西城区、ドイツのブレーメンミッテ区、イギリスのロンドンシティ・オブ・ロンドン……。
こんなところかな」


さらさらと答えるキュゥべえ。
日本だけだと思いきや、世界範囲で行われていた活動に驚く少女たち。
しかし、それを聞いた横島は、あくまで冷静に質問を投げかける。


「…………ちなみにそこで契約した魔法少女に巨乳のねーちゃんは」

「……一度脳みそを取り替えた方がいいかしら?」


ボケた。制裁された。
銃口を頭に押し付けられ大人しくなる横島。


「言うこと言ったらさっさと消えやがれ淫獣めがっ!」

「……お前って本当反撃しない相手には強気だよな」


キュゥべえに向けて中指を立てて挑発する。
杏子の一言がそういった行動のすべてを物語っていた。


「うん、そうするよ。
君たちが世界中の魔女をどうしようが勝手だけど、応援の言葉だけ送っておくよ。
頑張ってね」


そう言って、今度こそ消えるキュゥべえ。
文字通り、掻き消えるようにその存在は地球という惑星から消え去った。
まるで悪夢のように。


「なーにが頑張って、だっ!
てめえが産み落とした災害のくせによ!」

「あれを友達だと思ってたなんて……寒気がするわ」

「私たちは……キュゥべえにとってエネルギータンクでしかなかったんだね」


悪態をつく杏子とマミ。
そして、悲しげな表情を見せるまどか。
人間なら当然の反応だろう。
アレは、人類の敵である。
アレに嫌悪を抱くのは、人間として当然なのだ。
だから……、


「……フフフフフフフ」

「……よ、横島さん?」


ここで黒い笑みを浮かべる横島は周りから浮いていた。
というか引かれていた。主にマミから。


「フーハッハッハッハ!
馬鹿めっ! 俺が仕込んだ文珠に気づかんとはなっ!」


そういって透明っぽいシートを取り出す横島。
それは、『文珠と同じ色だった』。
文字の書かれた文珠にそれを貼れば、まるで何も書かれてないと思えてしまうほどに!

『完全消滅』

それが先ほどキュゥべえに渡した4つの文珠に書かれていた文字。
キュゥべえとうう端末が消え、宇宙のどこかに存在するやつらと一緒になったあたりで効果発動。
見事、裏ボスを討ち取ったのだ。
ちなみに、このシートを作ったのは美神。
理由はもちろん敵を騙す為だ。
今回横島は、キュゥべえが人類の敵(美少女的な意味で)と認識した瞬間から、こそこそとその準備をしていた。


「ああいう奴は難癖つけて何度も来るに決まってる!
だから消滅させてやったわ! 再生怪人のようにな!」


こんな理不尽があるかっ!――という叫びが聞こえそうだ。
しかし、奴らには感情がないみたいだし、案外消える瞬間を認識しても、消えるという事実以外何も感じなかったかもしれない。
宇宙の寿命を延ばすために人間を何人か犠牲にした存在。
客観的に見れば、それは必要な犠牲であったという者もいるかもしれない。
しかし、犠牲になった側に、そんな理論は通用しない。
知りもしない遠い未来誰かの為に犠牲になれる人間などいない。
また、そういうことがあると知ってしまうと、それが恐ろしくてしかたなくなる。
ならば、次犠牲にならないように、消すべきなのだ。存在ごと。
こうしてキュゥべえという人類の敵は消え去った。まるで雑魚の再生怪人のように。


「……なんか、すげえあっさりだなおい。
もっとこう……ラスボス戦的なあれがさぁ……あるじゃん?」

「淫獣にそんな展開はもったいないわ!
それに、楽して勝てるに越したことはないっ!」

「それはまあ……、そうですけど」

「ヒーローっぽくないなぁ……」

「あ、あはははは…………」


緊張感が高まっていただけに、どこか納得のいかない杏子、マミ、さやか、まどか。
ほむらは我関せずといった様子。今更キュゥべえがどうなろうと興味はないのだろう。


「それじゃあほむらちゃんにも文珠を……」


一通り台無し感を味わった一同は、まどかの言葉で、当初の目的を思い出す。
そういえばほむらが未だ魔法少女のままだった。


「まだ駄目よ」

「……ほむら、お前まさか……!」


しかし、ほむらがまさかの拒否。
キュゥべえとの会話を思い返し、ほむらの考えを悟った杏子が驚きの声をあげる。


「そうよ。
他の魔法少女も助け、魔女を駆逐する」


真っ直ぐな目をしながら、ほむらは発言する。
どうやら、他の魔法少女にも救いを与えようというつもりらしい。


「じゃあ、私たちをすぐに人間に戻したのは……」

「……そう。
あなた達を巻き込みたくなかったもの」

「暁美さん…………」


杏子の疑問に答える。
戦うのは自分だけで良い。そういうつもりなのだろうか。
ワルプルギス戦で協力したのに、ここで突き放したほむらに、マミは悲しみを覚えた。


「どうしてそこまで……!」


まどかが目に涙を浮かべながら問い詰める。
ほむらはその言葉を受けても、表情1つ変えなかった。
……いや、むしろ笑みを浮かべていた。


「……勘違いしないで。
あなたの考えてるような自己犠牲ではないわ」

「え?」


自己犠牲。
自分が危険な目にあおうとも、みんなを救ってみせる。
ほむらの行動は、そういった意味合いのモノであると、ここに居る全員が認識していた。
しかし、ほむらはそれを否定する。
短い疑問の声は、きっと全員が上げたものだった。


「私たちと同じように、キュゥべえに人生を弄ばれた子がたくさん居るわ。私はそれを助けたい。
なぜなら、『見知らぬ誰かのために力を振るいたい』というのが、私の初めての友達の祈りだったから」


まどかをチラリと見るほむら。
それは、聖母のように優しい表情だった。
ほむらにはこういったことが多い。
まどかは『ほむらのすべて』を知ってはいないが、自分と何らかの関係があるということには気づいていた。


「そして、もう1つの理由は……横島、あなたよ」

「……へ? お、おれ?」


まどかから目線を離し、横島を見つめる。
その顔は、先ほどとは打って変わって苛烈なものだった。
そう、例えるなら……女の顔。


「そう。
さっきの戦いでわかったわ。横島は私を異性として見ていない」

「そりゃあ中学生をそんな目で見たら犯罪……」


当然である。
高校生の段階で年下が好きというのは、大分変態的なアレだ。
横島は煩悩の大きさが異常なだけで、その異常はアブノーマル的な意味ではないのだ。


「だから」


目を細め、表情に力を入れる。
そして、まるでムジュンを追求する弁護士のように、横島に指を突きつける!


「横島と世界中を周り、その過程で私に惚れさせる。
横島を必ず手に入れてみせる……!」


高らかな宣言。
それを聞いたみんなの反応が↓のとおりである。


「なん……だと……!?」

「……予想外だ」

「……愛だねっ!」

「愛なら仕方ない……のかな?」

「……それだけの為に私達との共闘を排除したの?」


上から、横島、杏子、さやか、まどか、マミの順である。
先ほどの文章の時、ほむらが何を考えていたか述べよという問題があったとしたら、それは恐ろしい難問になっただろう。
だって今までとキャラが違いすぎる。


「ええ、ごめんなさい。
どうやら私は、思っていたより『諦めが悪いみたい』」

「ワルプルギスを倒したら帰してくれるんじゃなかったのか!?」


諦めないこと定評のあるほむら。
横島が、詐欺だっ! といわんばかりの勢いで叫ぶ。
女に飢えているのに、寄ってくるのは年下(ビンボール、無論社会的な意味で)ばかり。
横島の精神は色々限界だった。
確かにほむらのことは大切だが、そういう目で見たことは一回しかないのだ(ワルプルギス戦参照)。


「横島はまだ5つの文珠を制御できないのでしょう?
『異世界転移』は4文字では不可能よ。
それに、時間軸も指定しないと不安だし、異世界がどれだけあるかわからない。
だから世界を旅して私に惚れるついでに、修行をすればいいのよ」

「……ついでっすか?」


しかし、そんな横島の(女に)渇いた叫びも、ほむらの正論の前にあえなく敗れる。
しかも、まったく的外れというわけでもなかった。
ワルプルギス戦では、確かに文珠4つの制御には尋常じゃないほどの煩悩パワーが必要だったのだ。
しかし今の横島は、それなりに集中すれば、それに成功できる程度に成長している。
よって、旅の中で成長する可能性も大いにあった。
……まあ、あくまで『ついで』らしいが。


「ついでよ。
この町に戻ってくる頃には、元の世界に帰りたいなんて言えなくしてあげるわ」


随分と男らしい台詞を吐くほむら。
恋愛関係で問題を抱えているさやかなんかは、うんうんと頷きながら尊敬の眼差しをほむらに向ける。


「……なんかキャラ変わったな。
今のお前、凄く生き生きしてるよ」


杏子が呆れたような視線をほむらに向ける。
しかし、まるっきり理解できないというわけでもないようだ。


「……まあ、頑張れば?
お前たちの関係がどうなろうと知ったこっちゃないけど……、とりあえず生きて帰ってこいよ」


そう言って、そっぽを向きながら激励する杏子。
他のみんなもそれに続く。


「行ってらっしゃい横島さん!
また会いましょうね!」


マミが満面の笑みで送り出す。
どうやらこのまま旅立たないといけない空気が出来上がってしまったようだ。


「……いやいやいやいやいやいや!
ほむらちゃんまだ中学生だろ!? 両親とかにはどう説明するんだよ!」


一瞬流されそうになるも、正論で反撃をする横島。
しかし、悲しいことに横島ではほむらを言い負かせることなど不可能であった。


「自分探しの旅ということにするわ」

「お金は!?」

「アルバイトでもしながら稼ぎましょう、2人で」

「極貧生活は辛いんだぞ!
何度空腹を我慢しながら寝たことかっ!」

「大丈夫よ。
私は未だ魔法少女だもの。2、3日くらい食事を取らなくても問題ないわ」

「俺が大丈夫やないやんかああああああ!!」


最終的に叫び声で締める。
どうやら2人の旅立ちが決まったようだ。
……そして、そんなギャグ空間にも、終わりが告げる。
旅立ちということは、別れがあるということなのだ。
この2人にも。


「…………ほむらちゃん」

「…………まどか」


まどかの為に何度も繰り返したほむら。
それを知らないまどか。
その2人が今、見つめあう。


「どうしてほむらちゃんがこんなに私に気を使ってくれるのか分からない。
ほむらちゃんに何があったのか私は知らないし、私達の関係もすごく曖昧だと思う」

「…………」


まどかはほむらの頑張りを一部しか知らない。
ほむらが話してないからだ。
しかし、それでも、2人は、時間を越えて、親友だった。


「だから、改めて言わせて」


まどかが軽く深呼吸をする。
そして、目を大きく開き、ここ数日で一番の笑顔で、言った。


「ほむらちゃん……私と、友達になってください」


2人は、今、始まった。
ほむらはまどかを……初めての友達を救うために、何度も絶望した。
まどかは、それを直接しらなくても、自分のことを思ってくれているという事実には気づいていた。
だからこそ、今からが始まり。
近いようで、もっとも遠かった2人が、今、重なった。


「…………うん……、うんっ!」


ほむらの目から涙が零れ落ちる。
それは、まどかの願いを聞いて以来の涙だった。


「いつか、ほむらちゃんが背負っていたものを聞かせてくれると嬉しいな」

「うん、絶対……話すから!」


まどかがほむらに歩み寄り、手を握る。
ほむらは下を向きながら、涙を流しながら、返事をする。約束を、する。
今は未だ、覚悟が出来ないけれど、いつか絶対にという意思を込めて。


「横島さん」

「……うん?」


ほむらの手を握ったまま、まどかは横島のほうを向く。
その表情は、自分には取りえがないと悲観していた少女と同じものだとは思えないほど、凛々しいものだった。


「ほむらちゃんを……よろしくお願いします。
もし泣かせたりしたら、許さないんだからっ!」

「俺ってそんなイメージ!?
中学生に手なんぞ出さんわっ!」


そういう意味じゃないんだけどなぁ――と、横島の返事に感想を溢すも、それが横島に伝わることは無い。
でもまあ、ほむらの想いが成就するかどうかは分からないが、ほむらが傷つくようなことにはならない。
そのぐらい、まどかも横島という男を信頼していた。


「それじゃあさよなら……まどか」


ほむらがまどかの手を離し、涙のせいで赤くなった瞳を隠さず、別れを告げる。
しかし、まどかはそれを遮った。


「違うよほむらちゃん」

「……え?」


軽く戸惑うほむらから一歩遠ざかり、溢れんばかりの笑顔を向ける。
それは、ほむらが憧れた、『鹿目さん』の笑顔だった。


「私たちは友達なんだもん。
絶対にまた会うんだから……、さよならじゃなくて、『またね』でしょ?」


ほむらの目から、一粒の涙が落ちる。
そして、ほむらは腕で涙を拭い、精一杯の笑顔と共に、再会を誓う挨拶を、初めての友人と交わした。


「…………またね、まどか!」

「うん、またねっ! ほむらちゃん!」



♪connect♪























***************************

















あれから数年。
……なんて書き出しで始まるエピローグは有触れているかもしれないけれど、私はそれでいいと思う。
だってこれは、私たちの有触れた愛と友情の物語なのだから。
意外性も悲劇性もない。
あたりまえのように物事を解決し、あたりまえのようにハッピーエンドが訪れる物語なのだ。


「おはよう、さやかちゃん!」

「おはよっ、まどか!」


まあ数年って言っても、1年と数ヶ月しかたってないんだけどね。
今、私たちは中学3年生の秋。受験とかで色々忙しい時期だ。
それでも毎朝待ち合わせて登校して、今みたいに一緒に下校する私たちは、きっと人よりのんびりさんなのかもしれない。


「杏子さんはどうなの? 元気にしてるかな?」

「あー……、あいつは元気だよ、無駄に。
なーんか、料理学校に入るんだっ! ってアルバイトしてる。
お母さんも何故か杏子のこと気にいちゃってさぁ……、他人を自分の娘と同じ部屋に住ませるってどうよ?」

「あ、あははは……」


そう、杏子さんはあれからさやかちゃんの家に居候している。
マミさんが一緒に住もう、って声をかけたみたいなんだけど、なぜか拒否してさやかちゃんの家にもぐりこんだ。
そして、さやかちゃんのお母さんに気に入られ、今はアルバイトで食費を払いながら、料理の勉強中らしい。
怒られるかもしれないけど、ラーメン屋さんとか似合いそうだなぁって勝手に思ってる。


「ったく、あいつったら常時なにか食べてんだよ?
しかも結構頻繁にそれをくれるし……、おかげで体重2kgも増えちゃったじゃん!」


仁美に負けちゃう! ダイエットしないと!――って感じで気合をいれるさやかちゃん。
現在上条君争奪戦が仁美ちゃんとさやかちゃんの間で繰り広げられている。
現在有利なのは、幼馴染補正のあるさやかちゃん。
でも押しの弱いさやかちゃんは、優柔不断な上条君に強いアタックを仕掛けられず、仁美ちゃんの積極的なアプローチを見て、いつもハンカチを噛んでいるのだ。
ちなみに2人は仲が良い。
今日仁美ちゃんが居ないのは、唯の偶然だ。
決してNice boat 的な展開にはならないので安心してください。


「そういえば、まどかの志望校あれでしょ?
マミさんと一緒の所でしょ? レベル高いけどだいじょうぶー?」

「う、うん。
今のままだと無理だけど、頑張ってみようと思うの。
マミさんは……私の大切な友達だから、一緒の高校に行きたいなって」


なんとここら辺りで一番の進学校に合格したマミさん。
将来の夢は教師らしい。
こんな綺麗な先生がいたら憧れちゃうなぁ……、って言ったら照れてた。
そして、そんなお調子者の私は、マミさんを追いかけて猛勉強中。
成果は……それなり。
やればできるって言葉は、少なくとも勉強に関しては本当だったみたいだ。
勿論限度はあるけどね。


「……変わったね、まどかもさ」

「え? そ、そうかな?」


急に変わったって言われると驚く。
思わず髪型とかチェックしてしまう。
…………よし、寝癖はなし。


「そうだよ。
前のまどかなら、『私には無理だよ、勉強苦手だもん。マミさんはすごいなぁ』で終わらせてたと思うよ。
なんというか、自分に自信がなくて、普通ってことにコンプレックスを感じてたじゃん」

「あははは……」


見られてるなぁ……、と思った。
確かに、以前の私ならそう言ったかもしれない。
しかし、あの事件以来、わたしの感じていた特別っていうのは、何か違うんじゃないかって気づいた。


「結局、自分に取りえがないだとか、誰の役にも立てないなんてのは、頑張れない自分に対する言い訳だったんだなぁ、って思ったの」


そう、前の私は、特別じゃないことを言い訳にして、夢が無いことを言い訳にして、臆病な自分を言い訳にして……努力を放棄してた。
なにもしなくても、降って湧いてくる『特別』を待っていたんだ。怠け者のように。


「将来とか夢とか、未だ分からないことだらけだけど……、自分らしく、一生懸命生きてみようかなって……そう決めたの」


だけど、それじゃあ前に進めない。
実を結ぶなんて保障は何処にもないけど、努力しないことには何も変わらない。
変わりたいと願うなら、まずは頑張ってみないと駄目だって……、そんな当たり前のことにようやく気づいた。


「……そっか。
頑張りなよ? 私も頑張るからさ!」

「うんっ!」


さやかちゃんの応援の言葉に頷く。
頑張ってる人に、頑張れって言うのは酷だという人も居るけど、それが友達の言葉なら、本当に励ましになる。
あの事件は悲しいことも、傷つくことも多かったけど……、そんな友達が3人も増えた事実は、素直に嬉しかった。
そんな感じでいつも通り、家に帰る途中でさやかちゃんと別れ、自らの帰路につく。
とりあえず勉強をしないといけないなあ……。まだまだ届かない距離にあるし。

それに、杏子さんのアルバイト先にも顔を出さないと。
あれで結構寂しがりやな杏子さんは、顔を出すたび「食うかい?」の一言と共に料理を一品をおまけしてくれる。
さやかちゃんに聞いた話では、自分の給料の中から出しているようだ。
そうとは知らずに何回かご馳走になってしまったので、次行くときには何かお返しをしないといけない。
うまい棒のセットとか喜ぶかなぁ?

……そんなことを考えながら歩いていたら、家まで着いた。
私は玄関を開け、家に入ろうとする。


……コツッ


すると、後ろから小さな足音が聞こえてきた。
1年ちょっと前に何度も聞いた音だ。
懐かしい……私の友達の音。
私はゆっくり振りかえり、可能な限りの満面の笑みで、久しぶりに会う友達を迎えた。


「おかえり!」
















                           ――END――

















ほむデレが書けて楽しかった。
私の都合上駆け足気味になってしまい、まことに申し訳ありません。
今まで読んでいただき、ありがとうございます。それでは。
……あ、あと私昨日(3月30日)が誕生日でした。更新休んだ言い訳です。申し訳ないです。








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