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[26825] WeLl done 燃えた列島 (旧題 鋼の棺桶 ロボ系)
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:208f0740
Date: 2011/08/10 23:11
 改めまして、ヒロシキと申します。
このたび、タイトルを「鋼の棺桶」から「WeLl done 燃えた列島」と改めました。
改訂の経緯としましては感想掲示板の方に載っているので割愛します。

うん、程よくチュウニ臭くていい感じではないかと自負してます。(ちょっと引いた方申し訳ないです)


初めていらした方用に軽い説明をさせていただきます。

 基本主人公が軽いので、鬱展開にはなりません、シンジ君的な主人公をお求めの方にはオススメできません。
 また、パロディ・ギャグが古臭い、若しくはカスいことが多いので、引いてしまう方にもオススメできません。
 また、色々人間関係がアレだったり、キャラ立ちしてないキャラが居たりと、未熟な部分がかなりありますので、不快に思われた方申し訳ありません。
 その他、気になった点ございましたら感想版の方にお願いいたします。できるだけ改善していきたいと思っています。





[26825] 第1話 始まりの沼津
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:6b326cfa
Date: 2011/08/10 23:25
 ※4/1 20:24 誤字等改訂
 ※4/9 16:35 w消去
 ※8/10 23:11 消し忘れw消去 題名変更


プロローグ

起床のブザーが鳴り響く。


ここ数カ月で身体に組み込まれたルーチンが俺をたたき起す。

バタバタと身支度をし、廊下で部屋ごとに点呼、終了し次第外へGO。

10分も経てばグラウンドの集会場に全員が集まり、整列完了。

壇上に人が上がる。
胸にキラキラと勲章を飾った軍服の中年男。
瀬川中将…だったか。

「まず初めに、おめでとう。
諸君らは厳しい入隊訓練を乗り越えてきた。
そして本日、WLによる模擬戦・演習という最終試験が課せられる。
今まで培ってきた体・知・技の全てを動員し、素晴らしい結果を残してくれたまえ。
期待している。」

短い…!

いつもならフルコースなのに、今日は2分以内に終わった!
皆顔には出さないが同じ気持ちでいっぱいだろう。
瀬川五郎万歳!(本日限定)

ジーク・ゴロウ!(本日限定)ジーク・ゴロウ!(本日限定) ジーク・ゴロウ!(本日限定)

以下5行省略

はい、脳内国民はさておき、今は7月。
今日みたいな真夏日に2時間コースを喰らおうものなら即熱中症だ。
散っていった仲間たちも少なくない(死んでません、勝手に殺してはいけません)。
朝だっていうのにコンクリがじりじりと俺の身体を焼き続ける。

「解散!各自食堂にて朝食を摂れ!その後6:30よりミーティングルームに集合!!」

「篠田ぁ!!」

俺の名が呼ばれる。

「はっ、ハイ!!」

「復唱しろ!!」

「ハッ!各自食堂にて朝食!6:30よりミーティングルームに集合!」

「よし!」

毎度の鬼軍曹復唱指名タイムだ。
あの人軍曹じゃないんだけど…ここでは厳しい人=軍曹でとおっている。

この施設にいるWL候補生は約20人、周期的にそろそろ喰らうと思っていたが、実際指名されると慌ててしまう。

WLとはWeapon Luck の意、いわゆるモビル○ーツ、ヴァン○ァーだ、間違ってもA○みたいな鬼畜機動したりプライ○アーマーで攻撃弾いたりするバケモンではない。
(伏せ文字が多すぎるぜ)

WLはウェルと発音する。


こいつの候補生、結構つらいお。
全高10m程度の機体の中で座って戦うっていうのに初めは歩兵科と同じ訓練。
全高10mなだけに機体の振動がパねぇ。

吐き気が止まらん。
最初乗った時は降りた直後にゲロッた。
“出る!!まだ出る!!”みたいな。

ここに志願したのは、小さいころからガンダ○に憧れていたのもあるが、やっぱつらい。
つっても後戻りできないこの地獄。

なんの話だったっけか………WLか。

確かどっかの技術者が開発して“武器掛け”、つまりWeapon Rack と名付けたらしいが、あまりにそのまんまで、ボタン一つで戦う、ゲーム感覚の戦闘になっちまうとかで現代戦の象徴とまで揶揄されたらしい、どっかのゴシップ記事が波を呼んだとかなんとか…。
で、“運”という文字に差し替えられた。

こっちのタマがあたるように。
あっちのタマが外れますように。
生きて帰れますように。

だったか?
とりあえず人間味ある名前を付け加えて、命を賭けていることを強調したらしい。

日本での、
“アソビじゃないんだぞ♡”
のA○B48のCMはあまりにも有名。
アレのせいで非難に拍車がかかったと言っても過言でないレベルだ。

正直俺ら現場にとっちゃどうでもいい。
や、確かに可愛い娘いるけど…。質を量でカバーするのはいかがなものかと…。

はい、サーセン、そっちじゃなかったスね。


話戻しましょ、「戻る」ボタン押されたら堪らん。

モニターの向こうの戦闘に痛みが伴わないという考えそのものがおかしい気もするが、考え方は人それぞれなのだろう。

そんなこんなでずいぶんと批判されてきているが、
実際歩行重機の開発で、通常車両が進入できないところで救助活動ができるようになったりと、いいことも少なくない。

WLを導入するに当たって、自衛隊は軍じゃないからこんな兵器は必要ない、とかいろいろ揉めたようだ。

機関はディーゼルで特にガ○ダムみたいなヤバいもんは積んでないのに…。

そんなことしてたら周りの国が全部WL編成の機甲部隊作っちまったってんで慌て始める。
慌ててるうちに戦争、アフリカの独裁国家とアメリゴ・エギリル・ホランスその他をメインにした軍隊とがおっぱじめた。

もうヒドイヒドイ…戦場はWLの独壇場に近いと言っても過言ではなかった。
機動力こそ航空機に劣るものの、対地攻撃はもとより、対空攻撃能力もズバ抜けていた。
装備さえ変えれば戦艦すら一撃で沈めることもできる。

ハープーンミサイルでいいじゃん、と思ったアナタ!

今の時代ステルス装甲がはやっててミサイルの命中率がだだ下がりなう。
ロックオンそのものが難しい時代なのだ。

既存の兵器じゃろくに太刀打ちできん、ってんで即WL導入の流れができた。
で、気がついたら自衛隊が隊じゃなくて軍、自衛軍になったってオチだ。

WL運ぶには揚陸艦が必要だからねぇ…。
自衛隊のままじゃおおっぴらに配備できなかったんでしょ。

それに伴って階級もアメリゴと同じように小・中・大の尉官・佐官・将官に変更された、なんでって言われても…ねぇ、お偉方の考えることは分かりませんよ。

偉い人にしかわからんのです。

あ、無論核装備は禁じられてます。

そんなこんなで導入が遅れたせいでWLの基本性能は世界有数の最底辺。
ここの第3期生である俺らは1stシーズンと呼ばれるエリート(?)の仲間入りを果たしつつある(先輩方をそう呼ぶ人見たことないけどネ)。
あくまで日本限定のエリートだけど。

「おいマコト、何一人でブツブツ言ってんだ?さっさと飯行くぞ。」

「んお、すまん、なんか話さずにはいられなかったんだ。」

「アホか、雄二も健太も行っちまったぞ。」

橋本龍一郎、俺のルームメイトだ。
目の前にいるリュウは健康的な日焼けが目を引くマッスルガイ。

俺がブツブツ痛いこと言ってても見捨てないでくれるいい奴。

よく俺とつるむせいかマッソー&モヤシで呼称される。
別に俺がモヤシってわけじゃない。
やや小柄なだけなのに…。(156cm、十分小柄ですね)

高野雄二、小野田健太とも結構つるむんだけど、なぜか奴らにはあだ名がない。
ちなみに2人とも俺のルームメイト。
ちなみに2人とも俺より背が高い。

……ダンチだ。

何食ったらそんなデカクなんだてめぇら…くそぉ。

まぁリュウだけは俺を名前で呼んでくれるし、気の置けない大事な仲間よ。
小走りで、次第に近づく食堂から良いにおいがする。

「おばちゃん!今日の朝はなんだい!?」

勢いよく扉を開き、仲のいい食堂のおばちゃんに声をかける。

名前?知らん。
強いて言うなら“飯くれるおばちゃん”だ。

「おう!今日は特製サバ味噌だよ!これ食って今日の試験がんばんな!」

キタァァー―――――――!
サバ味噌!!
待ってました!!!

漁港が近いせいか魚がんまい!
ばあちゃんの味噌がたまらん!
コレが唯一の毎日の楽しみですよ、ホント。

昼はレーションでゲロマズだし、へたすりゃ訓練で夜もレーションだし。
(ほぼ)毎回あったかい飯食えるのは朝だけです。(ウルウル

速攻トレーにご飯・サバ味噌・味噌汁・キュウリのぬか漬けを取り、雄二の隣に着く。
言うまでもなく飯は大盛りだ。

早食いと大食いならば負けん。

リュウが向かいの健太の横に座る。
この4人が部隊員なうえにルームメイト、なもんだから気がつきゃ結構仲良しになってた。
共同訓練もあったので他の部隊員とも面識が結構ある。
あんまり話す機会ないけどね。

ちなみに俺隊長…。


隊長だよ?ホント。
誰よりも小さいし誰よりも童顔だけど。

「ところで聞いたか?今日の模擬戦の相手、正規軍の連中らしいぜ、しかも1期生!」

コップの麦茶を飲みほしながら雄二が話しかけてくる。
こういう情報を仕入れるのだけは訓練生随一だ。
困ったときや作戦内容で分からんことがあればコイツに聞きゃなんとかなる。

「1期生だと!?」

なぜか超反応したのは健太。
強化人間もびっくりの反応速度だ。

「1期生と言えば…伝説の嶋野桐栄中尉じゃないか!!」

「…誰?」×3

「知らんのか!!頭脳明晰、容姿端麗!!
WL操縦において彼女の右に出る者はいないという伝説の女性ぞ!!」

なるほど、2つ目だなポイントは。
俺、リュウ、雄二は目を会わせて頷く。
こういう情報を仕入れるのだけは訓練生随一だ。

…とゆうかこういうことだけに才能を使うやつは珍しいだろう。
そっち関係はこの変態に聞けばだいたいなんとかなる。

「とはいえ、気になるなソイツ。」

サバ味噌をほおばりながらリュウが口を開く。

「この施設の1期生は約15人、俺ら3期生は20人、模擬戦やるなら複数対複数。
となればかなりの数の1期生が駆りだされるとみて間違いないだろう。」

結構深刻な顔をしている。

「アレ?でもさ、
1期生1小隊に3期生が各小隊で何セットかに分けて模擬戦すればいけるんじゃねーか?」

飯をかっこみながら聞いてみる。

「バカ、よく考えろ、
そんなことしたらいくら1期生でも疲労がたまって正しく評価できないだろ?
それに、もしそうだとしても、
健太の言うことが正しけりゃその1小隊のなかに嶋野とやらが入る可能性は高い。」

だろ?とアイコンタクトをとられ、確かに、とうなずいた。
評価する側がカンタンに負けちまうような編成で来るとは思えん。
それだけ強い奴が模擬戦に入る可能性があるならマークしておきたい。

「なんにせよ、その女については調べた方がいいな。」

リュウは一番言いたかったことを言い切り、また食事に戻った。

「つってももう模擬戦まで半日もないぜ?」

雄二がもっともなことを言う。
確かに…。

「そのためにコイツがいるんだろ?」

また顔をあげて顎で指すしぐさをする。
リュウの顎の先には…。

「こいつか…。」×2

雄二と見事にハモった。
健太が音をたてて味噌汁をすすっている。

この変態なら…きっと。
当の本人は全く気付いていなかった。



本編 タイトル…変態よ、大志を抱け!!(嘘

朝食が終わり、俺たちはミーティングルームへと向かう。

「なぁ健、さっきの件頼むぜ。」

一応念押ししておく、コイツ忘れっぽいから(とゆうかさっき聞いてなかった気が…。

「ほえ?」

…。
……キサマ。

「嶋野のことだよ!そいつの戦闘データとか調達頼むぜ!」

「ああ、コレでいいか?」

そう差し出された1枚のメモリースティック(64GB)。
まさか64GB目いっぱい入ってるのか…!?

「こいつに全て入ってる、あとで見な。」

コイツ…。
本当はスゴイ奴なのかもしれない。
健太=変態の方程式を変える時が来たようだ。
今まで変態であるならば健太、健太であるならば変態、だったからな。

「俺は完ペキ主義なのさ、こっちのデータも全収録だぜ。」

そう言ってジェスチャーするはボンキュッボン。


……。
………そいや入隊時に身体測定があったな。
忘れもしない、俺のトラウマの諸悪の根源だ。


あの時の絶望を…俺は忘れない。
そしていつか…見返してやる日が来ることを信じている!!

ってまさか!!?

「…89…6……85…。」

コイツ…犯罪者だ。
いまにも鼻血出しそうな顔しやがって……。
ぽや~としながらなにやらぶつぶつ言っていた。

なんか無性に腹立つ…。

やはり変態は変態でしかないのか。

とりま、ほおっておくことにした。

世界の常識はそうそう覆りはしないようだ。

もらった記憶媒体に使える情報が入っていることだけを祈ろう。


~1時間後~
「以上だ!」

佐々木勝男鬼軍曹のブリーフィングが終わる。
そばの、別小隊の奴が恒例の復唱をさせられている。
思ったとおり例の嶋野が入っている。
1期生の部隊は3個小隊、WLは計9機。
若干予想は外れたがまぁ問題なかろ。

それを演習場で20機の3期生と戦う。
3期生側が指定されたフラッグを一定時間死守すれば勝ちである。
こっちは1小隊4機の編成、それが5小隊、数でいえば倍以上の戦力差がある。

手渡されたのは、使用できる火器類のリスト、機体スペック、演習場の地形データ、それに仮想敵機の機種及びそのパイロットデータだ、残念ながら敵の布陣はわからない。
まぁ相手の編成がちっと分かってるだけでもめっけモンだろ。

中央に巨大なアメリゴ製陸戦艇の残骸があり、周囲を瓦礫の山が取り囲み、あちらこちらに障害物のポールが立っている。
WLの歩行にかなり支障が出そうだ。

今回は小隊個々の戦闘力だけではなくその連携も必要となっている。
かなり…厳しいかもしれない。
出撃まで、演習開始まであと3時間…。

まずは各小隊長とブリーフィングを開くべきだろう。




宿舎の一室を借りての作戦会議。
そこに第2小隊隊長である俺を始めとした、各隊長が集まった。
試験が試験なだけに皆真剣である。

プロジェクターで映しだされた演習場の立体図が俺たちの顔を暗くさせる。

「まずどう戦うかを決めたいと思う。」

真田第1小隊長が口を開く。

「守るか、攻めるか…ですよね。」

「そう、数ではこちらが勝っている、
フラッグがあるこの中心地点の周りを取り囲むのも手だ。
一方で、こちらの数が勝っているからこそ守りを残して索敵破壊を行うのも手だ。」

「守るのが無難なんじゃないか?日没までフラッグを死守すれば勝ちなんだ。」

第5小隊の奴の発言がなにか気になる。
そもそも20対9という時点でこちらが有利なわけだし、ゲリラ戦を挑まれやすい索敵破壊をするメリットはあんまりない気がする。

「いや、俺は攻めるべきだと思う。」

俺は素直にそう思った。
なぜ?と聞かれる前に理由を言う。

「2倍の戦力差があり、かつ目標がフラッグの死守である場合、
勝つことだけを考えるならその周囲を守るのがベストだと思う。
だけど、今回のこの数の差はそうさせるために仕組まれたことのように思える。
安直に守りに徹するのは危険じゃないか?
なにか、あちらに策がある気がする。」

むぅ、と皆が考え込み始める。

向こうの使用機体はわかるが使う兵装までは明らかになっていない。
フラッグ周辺に20機を配置すればかなりの密度になるのは目に見えている。
そこを一網打尽に攻撃されるかもしれないし、遠距離狙撃を喰らう恐れもある。

そこがなにか気になっていた…。


かといって約半々・8機と12機を索敵・守備に分けたとしても、練度で劣る3期生がほぼサシ状態で1期生に勝てるとは思えない。
いかに損害を少なく目標を達成するか、それによって俺たちの評価が変わる。

「わかった、確かにそうだな。
ただ守る戦闘はナシの方向で行こう、モヤシ、具体的にどうする?」

真田ぁ…。
でももうモヤシでとおってしまっているから何を言っても無駄なんだけど、納得いかねぇ。
一度決めたことはやりとおす完璧主義(?)な奴だが…あだ名でもそういう能力発揮しないで…。

ちくせう。
いつか見返してやるぜぃ~。

「そうだな、1小隊をフラッグの直援に回し、残りでフラッグをぐるりと囲むな。」

「待てよ、それじゃガチガチの守りじゃないか。」

まぁ待て、と他の小隊長を制する。

「ここからがミソだよ!次第に円を広げるように、残った4小隊16機でクリアリングを行うんだ、円周を広げれば広げる程間隔が広がってしまうが、左右との連携、背後との連携が一番取りやすいと思う、万が一抜けられても直援とクリアリングラインとで挟み撃ちにできるしな。」

「ふむ、いいなそれは、守るでもなく攻めるでもなく、中途半端さが気に入った。」

「モヤシのくせしてやるなぁ、完璧主義の真田が気に入ってるみたいだぜ!」

隣にいる第3小隊長に背中をバシバシされる。
いてぇバカ…。
自分の案が採用されるのはなんとなくうれしいもんだ。

「よし、あとは配置・兵装を決めるぞ!何が来るかわからんからな、まず配置だが…。」

真田…仕切り能力高くて助かるわ。
言いたいこと言えば汲んでくれるし…。
あ~、健からもらったあれも見ないとな。


~格納庫~
小隊長会議も済み、あとは搭乗待機となる。
作戦時間である11:30まであと1時間と30分。

俺たちが使う自衛軍の主力機、多摩型WL。
ぶっちゃけアメリゴ軍のおさがりだ。
訓練機としては申し分なく、性能もバランスがとれていて扱いやすい。
…ブースト性能はカスだが、ずっしりとした重量感が安心させてくれる。

乗ればわかる。

分厚い装甲板に囲まれたコクピットに座れば、ありき日のアカンボの時を思い出す。
一撃喰らえばお陀仏な動力炉のすぐ横にコクピットがあるってのに…不思議だ。

対する1期生機は日原型、俺らの多摩型を発展させた自衛軍独自のWLだ。

多摩型とは異なり装甲がかなり薄化しているのが特徴だが、それに応じて機動力がアップ、さらに追加ブースターの装備によって、短時間ではあるが飛行が可能である。
流石に飛んでライン突破はされないと思うが。
さらに頭部パーツも換装されていてセンサー類が充実している。
模擬戦では最悪の相手だ。

そんな情報を整理しながらもらったメモリーを眺める。
犯罪同然の行為で収録されたものなので他の隊の連中に見せるわけにはいかない。
お、フォルダでたでた。

戦闘データ、
演習場カメラモニター、
身体測定データ、
基地内監視カメラ、
…。
秘密データ…。

……最初の2つ以外が危険すぎるな。
基地監視カメラって…ハッキングしてまで映ってるシーン集めてんのかw。
秘密データってなんだ、ロックかかってるし。

まぁいいか…。
演習場カメラモニターは…と。

凄い。
嶋野桐栄の戦闘の全てのシーンがおさまっている。
毎回角度は変わるが、御愛嬌というやつだろう。
奴の魂が詰まっていると言っても過言ではない。

だが、凄い。
今度は嶋野の戦闘スタイルの方ね。
どうやら1期生同士の演習のようだが、左右へのステップ、機体に負担をかけないその着地技術、この機動を日原型でされるとやっかいだ。
目をやるたびに白い機体が軽やかに動き回る。

…。
……。

…!
基本的に射撃がメインとなりやすいWL戦で彼女はほぼ全てを接近戦で制している。
右・左のステップ後に突進、手甲のブレードソード(模擬戦用)で脚部を一閃。

だいたいこのパターンで敵機が沈んでいる。
シールド装備の機体も、とっさにボディユニットを防御してしまっていて脚が丸出しになっているようだ。

彼女…全ての演習で09式軽機関銃を使っている。
銃身が短く取り回しが良いだけのばら撒きマシンガン…。
彼女の射撃は牽制と考えていいようだな。

ちなみにナントカ式ってのは何年に開発されたかっていうのを表すモノで、09式は2009年に開発されたって意味でふ。

嶋野が狙うフットユニットは、WL乗りにとっては生命線でもある。

ちなみに脚部をやられた者は砲台としても戦えるが、被弾を避けられないため死に至りやすい、だから“脚やられ”は戦闘が治まるまでじっとしているのが普通だ。

いわゆる、WL乗りの暗黙の了解というやつだ。

しかし、何度見ても思う、
彼女は殺さずに戦闘力を奪う、そんな戦い方をしている。

それはさておき、なんとか癖を見つけることはできた。

作戦開始まであと30分。

「ブラボー1より各機、作戦の確認を行う!」

作戦中は第二小隊とか言い難いからブラボーとかで呼び合ってます、ハイ。
サイドモニターにリュウ・雄・健の3人の顔が映る。

「いいか、今回の作戦目標は全敵機の撃破だ。
チームアルファはフラッグ守備、ブラボー・チャーリー・デルタ・エコーの4小隊でフラッグを中心に展開、クリアリングを行う。我々の小隊は北部陸戦艇残骸近辺を担当するため、取り回しの良い11式突撃銃・小型シールド・ブレードナイフを装備する。
例の嶋野桐栄がくる可能性もある、コレの対策を今から伝えるからよく聞け!」

一瞬皆の顔が緊張する。

「やつの攻撃パターンは右・左・突進・脚部近接攻撃、だ!
攻撃時は姿勢を低く保ち、不用意に銃口をブレさせるな!それと、発見ししだい近隣の友軍機と連携を取れ、絶対に先行するんじゃないぞ!」

「了解!」

力強い返事が返ってくる。
健の顔アイコンだけが画面に残る。

「で、隊長、他の隊には言ったんですか?対策法。」

「言ってない、出所聞かれたら答えらんないもん、よくて除隊、へたすりゃ軍法会議だぜ?」

「デスヨネ。」

「全機通信ログ消しとけよ、00:00に本部にログ行くからなこの機体。」

「了解!!」

力強いです。
頼もしいっす。

さて、そろそろ移動する時刻だ。

「おーい、出撃だ!行ってこい!!」

外部マイクが声を拾う。

三崎整備長。
手を振っている、が恰幅がいいせいか(デブ)全身が揺れているようにも見える。

まさに毛玉海牛……。

なんか、しんそこウケルんだが…。

「ブラボーチーム出撃します!」

なんとか押さえこんで音頭を取る。

既に他のチームは出撃している。
演習場まであと数分、コクピットで上下に揺さぶられることになる。

俺、あんまり乗り物強くないんだよね。

正直搭乗関係の訓練が一番厳しかった。
だいぶ慣れてきたけど…。
無限の時間に感じられた移動もすぐ終わり、演習場の入り口を抜ける。

またしばらく上下にシェイクされながら予定ポイントへ向かう。

「アルファ1へ、こちらブラボー1、北部クリアリングラインに着いた。」

「了解した、他の隊が配置に着くまで待機しろ、演習開始まであと3分だ。」

了解、そう返事しつつ周りを見回す。
視界が悪い、残骸が多い、結構多い。
もらった地形データが古かったのか?
これじゃ目視は難しいな。
隠れられたりしたら発見は容易じゃない。

前にも言ったが現代戦ではステルス装甲・塗料が普及してきたために通常のレーダーがアテにならない。
こう金属片が多ければ磁気センサーもアウト。
最近の機体は冷却系・熱遮断塗装も充実しているからサーマルセンサーでの発見も難しい。
しかも実際の戦場なんて熱源だらけで更にアテにならん。

何に頼ればいいかっていうと…音響センサー。
10mクラスの機動兵器が無音で動くことは不可能だ、どの方向からどれくらいの大きさのモノが動いたかしかモニターに出てこないから曖昧だが、ないよりずっといい。
砲弾の着弾位置もだいたいわかるし。

あとは目視!
根性!!
GUTSだ!!!

「各員、センサーには目を光らせとけよ、模擬戦の開始だ!」

演習場の端にいる戦闘指揮車から信号弾が上がる。
あそこから各地点をモニターしてる。

「アルファ1より全機!クリアリングを開始せよ!僚機とスピードを合わせろよ!!」

「了解!」

真田の顔が一瞬表示され、また消える。

1歩、また1歩進む。
残骸の影、隙間ポールの後ろ、WLがいそうな場所を確認しつつ輪を広げていく。

「こちら異常なし!」

「こちらアルファ1よりブラボー1へ、
無線状況がそちらとだけ悪い、もういちど報告せよ!」

定期的にアルファチームに連絡を入れることになっているが…、
無線は出撃前にチェックしたはずだ。
となると…。

「こち…チー…エコー!敵…を補足!数…3、1個小隊…!」

左から爆音が聞こえる。

「ブラボー1了解!ブラボー4を増援に向かわせる。」
「こ…らデル……了解……ルタ2を…援に………せる。」

無線に本格的にノイズが入り始めた、やはり敵にはジャミング装備の機体がいるのか。
仮想敵機リストには装備までは書いてなかった。
とりあえず予定通り接敵した両隣から1機づつ援護に行くのは滞りないようだ。
これで西部は6対3に一応持ちこめた。
のこりの6機だ、問題は……。

「来た…!こ…ら…ームチャーリー!…機は…2、…、4…まだいる!…2個小隊だ!」

挟撃か!?
各小隊の機動力で撹乱をしてくると思ったが、単純に戦力を分けてきたか。
だが、まだ南北の6機、フラッグに3機残っている。
ほぼ2対1の戦況下で勝てると踏んだのか?

「こ……デルタ!東…ラインの支援…向…う………!」

もう無線機からは雑音しか聞こえない。
ジャミングの効果が強くなったのか…。

軍人として持ち場を離れるのは最悪の行為だが、このままココにいても仕方がない。
デルタの連中も同じ考えなのだろう。
東西に全敵機が確認された以上ここにとどまる必要はない…か。

「リュウ!雄!俺らも東の援護に回る!」

「了解!」

この至近距離なら通信は問題ないようだ。

「デル…より全…へ!敵……5……!6…じゃない!!ど…かに1機隠…てるぞ!!」

騒がしい無線機がかろうじて拾った一声。
何度も叫んで今にも枯れそうな声。

「なん…だと!?」

東は5機?
4機以上いたから2個小隊だと勘違いしたか…。
この瓦礫だらけの視界、責められはしないが……。

不意に純白の疾風が視界の端を通り過ぎていく。
同時に音響センサーが画面に線状の軌跡を残す。

「ぐあっ!こちらブラボー2雄二!脚部被弾アラート!損壊度レッド、継戦不能!」

なに!?
無論本当に破壊されたわけではない。
模擬弾・模擬ブレードが接触した個所とのコネクトを、模擬戦用プログラムが切っているのだ。

「リュウ!カバーしてくれ!」

白のカラーリング、奴か。

左手のシールドを投げ捨て、左腕格納式のブレードナイフを展開する。
東西の戦況は分からないが、この白い野郎(女だけど)以外は常識的な強さだ、なんとかなる(多分)。
各地で互角の戦いはできているはずだし、フラッグ地点の3機もいる。

「ここでお前を倒せれば、俺たちの勝ちだ!」

不意打ちさえ喰らわなければ望みはある。

機体を前に出す。
右腕の11式突撃銃が激しく硝煙を吹き、地面に黄色いペイントをなすりつけていく。
ペイントの波より一足早く純白の日原型が滑走し、後退、障害物の陰に隠れる。

「いいぞ距離を保てた!リュウは右からまわりこめ!一機で来たことを後悔させてやる!」

「わかった!」

激しいディーゼル機関の爆音が、走行の振動が、アサルトライフルの爆音と振動があいまって気持ち悪い。
軽い吐き気をもよおしながら足もとのペダルを踏み込む。

「近接して抑え込む!なんとか狙い撃ってくれ!」

背部の2基のノズルから真っ赤な炎と黒煙がたちあがり、
と同時にずんぐりした機体が飛ぶ。

狙うは敵機が逃げ込んだ残骸の向こう。
リュウがじきに射程におさめる、そこで足止めすれば相打ちででも倒せる自信がある。

「コッチが推進力ないからって、甘く見るなよ!!」

事実日原型と異なり、多摩型にはジャンプする能力しかない。
だが、推進剤をすべて使えばそれなりの飛翔も不可能じゃない、ノズルも着地も危険な状態になるが、なんとしても先制したい。

着地は気合でカバーする。

計器が激しく目盛りを振り、推進剤容量がみるみる減っていく。
下腹に強烈なGを感じ、赤く点灯する機内照明に目を細める。

ノズルが…もう……。

浮遊感。

入隊直後なら即グロッキークラスだが…まだ耐えられる。
噴射ノズルが溶けかけたようだ。
推進剤ももうわずか、自由落下するより道はない。

だが、それで十分だ。

白い機体がこちらを向く、気付かれたが…状況は大して変わるまい!!

右手の突撃銃でフラッグ側へ乱射する。
あちら側へ逃げられないようにすれば挟み撃ちにできる、と同時に左手のブレードナイフを重力に任せて突き下ろす。

気持ち悪い浮遊感にとどめが刺される。

着地と同時に大地がえぐれ、土ぼこりが盛大に巻き起こり、一瞬だけ煙幕代わりになった。
今ので一瞬奴の牽制射が当たりにくくはなったか。
ダメージパネルの脚部が赤く点灯し、俺の嘔吐レベルもレッドゾーンに突入している。

着地の直前に白い残像が右に流れていった。

外した…。
でも奴は俺とリュウ機の間に逃げた。

…勝てる。

「捉え…、マコト!!合わ…ろ…!」

リュウの声。

向こうも日原型を射程に入れたようだ。

「わかった!!だがコッチは着地の影響で脚が動かん!援護しかできんぞ!!」

「わかっ…るよ!無茶し…がって…!!」

膝をついた多摩型からペイント弾を吐き出させる。
胸部に設置された15ミリ弾だ。
本来牽制用だが、ペイント弾なら威力は関係ない。
かすればいい…。
ライフルの弾はもうほとんど残っていない、なのにやみくもに撃つわけにもいかんだろ。

日原型の方は…、
奴はどちらを先にかたずけるか決めていたようだ。
頭部のバイザーがこちらを向き、明るく光る。

障害物の地点を巧妙に渡り歩き、背を見せたリュウ機からの射撃をかわす。

「すま……!そ…ち…行っ……!」

こいつがジャミング源か…!
僚機との無線がみるみる聞きとりづらくなっていく。
だが…正直今となっては無線の有無は関係ない…。

リュウ機の射程を抜けて直進してくる日原型…。


焦る思い

焦るな、熱くなるな…。

落ち着け…奴の癖は見切ったんだ……。


サシ状態だからこそ奴は癖を出すはずだ…。

牽制の15ミリをばら撒き続ける。

無論あたるわけないが、なんとかあの癖モーションに入らせたい。

………あと30m

……来た!!

右ステップ、

左ステップ、

そして…、

「行け!根性みせやがれぇ!多摩ぁぁぁ!!!」

力の限りフットペダルを踏み込む
推進剤は残り4%、ノズルも半壊。

こっちが動けないと思い込んでいるアイツを…。

弱々しい光がノズルの奥から漏れだす。

「行けーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

人生…根性あれば半分はなんとかなる。
多摩型(コイツ)もその半分に入ったらしい。

弱々しかった一筋の光が急激に増え、濁流となる。

それは一瞬で消え失せてしまったが、重い機体を前のめりにさせるには十分すぎた。

突進しブレードを構えようとしていた嶋野が一瞬怯む。
間合い取りが重要となる近接戦、それを崩したのだから当然ちゃ当然だ。

出し切っていないブレードをアサルトライフルで押さえこみ、体当たりをかます。

二転三転。

視界がぐるぐる回る。

装甲厚、重量では勝っている、日原型ではひとたまりもあるまい…。
こみ上げる吐き気を必死に飲み込む。

口中に広がる苦みを感じながらブレードナイフをヤツのコクピットに当てる。


今まで憎らしいくらい灯っていたバイザーの光が消えていく。
撃墜扱いになったようだ…。

「勝った…か?」

ジャミング機を無力化したおかげで周囲との無線も回復する。
どこも戦闘を終えたようだ。
無論損害はあるが負けはしていない。

「大丈夫か?お前乗り物よえぇクセに無理すんなよ…。」

心配したようにリュウ機が近寄ってくる。

「あんまり大ジョブじゃない…、ちょっちゲロッた……。つかあんま寄るな!吐き気が…振動が……。」

「だせぇな、相変わらず!俺もモヤシって呼ぼうかね。」

「それだけはマヂ勘弁してくれ…ウップ…」

思い出しゲロりそうになるのを必死にこらえる。

演習終了の信号弾も上がり、俺たちはめでたく作戦を終えた。

組み敷いていた日原の目に光がつく。


模擬戦終了と共に機体が動くようになったのだ。

健も雄も機体が動くようになるだろう。

「帰るかね、リュウ!」

「ああ!」

俺たちはめでたく基地へ戻れる。
夕飯はあったかい飯が食えそうだ。





エピローグ

「マコト…聞いたか?西部の奴ら迫撃砲装備してたんだってよ。」

「?それがどうかしたか?」

「つまりな、密集形態とってたら瞬殺されてたってことだよ!てめぇのおかげさ。」

格納庫から食堂までの道すがら、雄と話していた。
他の奴らとも話したかったが既に酒モード入りつつあって話にならん。

「じゃあアレだな、今度何かで恩返せよ!てめぇ速攻即落ちだったんだし!」

「はいはい…わかったよ。」

さてさて、ここからは戦場という名のパラダイスさ…。



「おばちゃーーーーん!!夕飯なんだーい!?」

毎度のようにドアを強く開け放つ。

「来たか食欲魔人!今日は天ぷらだよ!皆の合格祝いよ!」

おおおおお。
粗末な皿に所狭しとイカ、エビ、キス、かぼちゃ、オクラ…、
むむ!?タマネギの天ぷらまで!!??

いいよ、分かってるよおばちゃん、サイコーだよ。
俺はあんたに一生付いて行くよ。

超高速で食い物をトレーに乗せる。

ダッシュでテーブルに向かうぜ!!

「わたしを堕としたのはお前か?」

俺の顔が陰に入った。

…。
……。
………。
へ?

デカイデカイ…。
170は超えてるよこのヒト…。

俺よりも頭一つ分でかい女が目の前に立つ。

「もう一度聞く、お前か?わたしを堕としたのは…。」

「♡堕としただなんて♡…♡きゃ…」

斜め後ろにいた健の声が、轟音とともにかき消える。

パンチが見えなかった…(汗

汗が…汗がヤバい……。

滅多なこと言ったら消される…!

「そ…それが、どどどどうかしましたか?」

今にもジャンピング土下座ゑ門しそうな足腰をいさめながら言葉を返す。
凄く綺麗なヒトなんだけど…気迫が…ヤヴぁい。

「どうということはない、共に食事をと思ってな。」

むぉ?
これは…!?

「いわゆるツンデ…」

眼前に拳が迫る。

きぃやぁぁぁ……。

「レ?」

止まった…鼻先で触れるか触れないかのところで拳が止まっている。

「冗談ではない!」

「は…ハイ。」

「あちらのテラスへ行こう、此処は騒がしい…。」

「は…ハイ。」

後ろではリュウ達が呆然としている。
約1名は死亡している。

綺麗な花には棘があるというが…核弾頭搭載型とは聞いてないぜ…。

関わるのはこれっきりにしたい…。

それが俺の切実なる願いだった。



だが数日後、その思いは砕かれ、共に戦地を巡ることになる。
この安らかなゆりかごが、鋼鉄の棺桶だったということを思い知らされた。







今にして思えば、あの頃が一番幸せだったのではないか…。
ただ与えられた任務・訓練をこなし、仲間たちとバカ騒ぎできたあの頃が……。


                        

                     Fin




[26825] 第2話 凶暴姉妹
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:6b326cfa
Date: 2011/08/10 23:25
※ 4/9 16:40 w抹消
※ 8/10 23:20 消し忘れw消去 題名変更 


プロプロローグ

昨日の模擬戦から一夜あけた今日。
大部分の(元)訓練生が酒でダウンしている中、2小隊のメンツが会議室を占拠している。


「さて、今日皆に集まってもらったのは他でもない。」

俺、こと、篠田 まこと少尉(予定)の真剣味を帯びた口調に、第2小隊の面々が顔を見合わせる。






「実はコレ、前回で終わってたハズなんだ。」

気を利かせた照明が俺だけをスポットライトする。



「なん…だと!?」
「これだけ前回引っ張っといて!?終わり…!?」

机が強く叩かれ、雄二、健太が口々に文句を言う。


俺にとっても衝撃的な新事実だった。

即興で何かストーリー作ってはやめ、作ってはやめを繰り返していたあの野郎が…。
まさかここでもやっちまうとは…。



「終わりか…。」

「そうだ。」


腕を組み、深く腰掛けていたリュウが声を発する。



「イングリッシュではFin、イタリ―では……。」

「聞いてませんよ!!そんなこと!
わかりましたよ!ネタがないんでしょうあのバカは!!俺がネタになってやりますって!!!」

「まて健!!どこへ行く!!!??」


「お医者さんに~♪行きましょお~♪」


ちょ、コラ。
そんなショボイパクリしたら底の浅さが露呈するだけだろが…。
止める間もなく健太が飛びだす。

不味い、非常にマズイ……。

あいつのことだ、18禁モノにして固定層を引きこむつもりだ。
2話目にしてそんなことしたらどうなるか分かっているのか…アイツ。

どうするマコト…。
考えろ……何か手があるハズだ…。



「話は聞いたよ…、諸君。」

ドアの開く音。
謎のBGMと共に現れたその男は逆光でよく顔がわからん。

「誰だ!?」

少女漫画的なキラキラ感を全身に浴び、一人の(中年)男が廊下のバックライトに映える。
ビラビラした服まで着てるし。

…。
……。
………。

「あの、ドアあけっぱなしはやめてくれません?」

「すまんすまん。」


「コホン、では改めて…。」

シュババッ
最早擬音でしか表現できない動きを決める男。

「何を隠そう!!わたしはこの施設の所長!!」

謎の決めポーズを取る変態2号。

またもや気ぃ利かして照明が室内 全体 をパッと明るくする。




照明にまで見捨てられたか…所長……。
一応スポットしてやれよ室内センサー。

最早登場シーンでコケているというのに…。
まぶしい笑顔を絶やさない……非常にイラつきます、中将殿。


沈黙。





しばし沈黙。







まだ(以下略。







「ショチョウダッチューノ♡」


「今それどころじゃないんですよ!!!!」

長い沈黙を突き破って雄が机を叩く。

あぁっ!
日頃おとなしい雄がブチギレ状態に。
拳がわなわなしてる…ちょ、コレやべって。

確かに無駄に再現率高くてアレだったが…。
こんなことで怒ってたらこいつらの隊長務まらんし。


しかし瀬川所長…並(のバカ)ではない。



「HAHAHAHAHHA、話は聞いたと言っただろう!セガワイアーを舐めてもらっては困るな!!」

や、セガワイアーって、どうせドアに耳ひっつけてただけでしょ。

聞いたことがある(とゆうか昨日嶋野さんに聞いたし)。
この施設(ココ)には伝説のバカが住むと……。
まさか所長だったとは……。

「要はネタがあればいいのだろう!?あのバカ作者でも引っ張れるような!!」

ちょ、アンタどこ向いて誰に言ってんの…。
あんたよりバカなの居ないから、作者もここまでノリで書いて超後悔してるからw。

「そう!!先ほど救急の方から救助要請が来てな、シラフのお前らに出てもらおうと思ったんだ。」

イカン、このままではグズグズのギャグ小説に……ってえ?




プロローグ

出動命令が下り、俺たち第2小隊は各WLへ搭乗開始する。
バカ変態1号の姿が見えないが、まぁそのうちくるだろ。

「作戦の内容を説明する、救助目標は愛鷹山山道から転落した観光バス。
被害者は約25人、崖下がかなり入り組んでいて通常車両の進入には時間がかかる。また高い木々に囲まれた場所に転落したため救助ヘリも降下、接近できない。」

ヒュッと雄が口笛を吹く。

「誰が119番したんです?そんな山奥じゃ携帯も繋がらないのでは。」

「うむ、どうやら伝書鳩?的なもので連絡してきたようだ。」

モニターの向こうの所長が送られてきたであろう書類に目を通しながら顔をしかめる。
施設中が今日は休みだったからな、皆酒飲んで沈んでんだろ。
ご苦労様です所長。

「まぁこの世にゃ奇怪なこともあるからねぇ…。」

バカ2号を見つめる、無論鈍いので気付くはずもない。

「それはそうと、鳩で知らせてきたのならもう時間的に手遅れになっている可能性が高いと思いますが。」

まぁ、確かにそのとおりだ。
救助に行ったら全滅でしたは勘弁したいところだぜ。

「そこは問題ない、既に救急ヘリが上空待機している。
報告によれば、軽症の者が何名かおり、彼らに応急処置はさせたそうだ。危険な状態が続いているものの、早急に対処すれば助けられる者が多い、とのことだ。」

「了解!ならやりがいあるってもんです!」

人助け好きだからね、リュウは…。

「聞いての通り今回はキャリーヘリからの降下作戦だ、軟着陸できるようにマニュアル呼んどけよ!
ついでに、おまえたちには居住バックパックを持ってってもらう、オペバージョンだ。
ヘリでの輸送でも間に合わん者がいるようだ、事故現場で手術するらしい、ドクターは救助ヘリ内で待機している、着利後に降下するそうだ。」

「りょーかい!」

んな一度に言われてもなぁ…。
とりあえず居住バックパックとはWLの背中に背負う長距離行軍用の装備、寝床やら簡易コンロやらが一式詰まっている奴だ、1機でキャンプできると考えればいい。
で、オペVerってのが今回みたいな緊急災害時用の装備。
簡単に言えば簡易気密テントの中に病院の手術室が入ったようなモンだ。

「言い忘れてたが、貴様らの多摩型はスラスター性能が低いからな、臨時でプロペラントを付けるよう三崎整備長に頼んでおいた、一応問題ないはずだ、チェックしてくれ。」

そんな急ごしらえで駆りだすのかい。
コンソールパネルを叩き機体の各部をチェックする。


特には…ないかな?


ちなみにキャリーヘリとは空を使ってWLを運搬するヘリコプター。
エイみたいな形をしていて、WLの両肩のラックとでくっつける、要はぶら下がってる感じ。
その気になれば上にも載せられるくらいペイロードと強度があるため、WL以外の運搬にも結構使われてる。

「ブラボーチーム、準備はいいか?」

「はっ!!」×2

ん?
かける2??
待てよ?
変態がまだ来てないのか。

「所長!変態の確保お願いしてもいいですか、今格納庫にいないようなので。」

所長のアイコンが画面に映し出される。

「わかった、小野田健太だね?」

「そうです、つい本当のこと言ってしまいました。」

仮(強調)にも所長の前でなんてことを…しまったぁ……。

「健太をお願いします、では我々は出撃します。」

「わかった、とりあえずもう1人シラフなやつが残っていたので出撃準備させたぞ、健太君の代わりに連れて行け。すでにキャリーヘリとドッキング完了し、滑走路に待機している。」

「はっ。」

シラフなやつ?
確か昨日飲んでなかったのって……。

「遅かったな。」

格納庫を出ると聞いた声が無線から出てくる。

「デスヨネ。」

出たよ、ツンデレデカ女。
てかこいつが今回は俺の隊に…?

無理無理。
ムリだって……。

「キミがちゃんと指揮んなさいよ♡」

所長の顔が一瞬出て消える。

あっのやろおおぉぉぉ……。
訳わかんねーよ。
階級あっちのが上なんだからアイツに指揮らせろよ…。

「をい!さっさとドッキングしろ!モタモタしてっと置いてくぞ!ガキ!」

ヘリのパイロットに怒られた…。

「すんません。」

よく見れば係留作業に入ってないのは俺だけ、リュウも雄もすでにドッキングし始めている。

気まずい、非常に気まずい。



超速で連結を完了させる。
俺…天才かも……。

「や、それはない、安心していい。」

「うっせーよリュウ!!ヒトの心読むんじゃねー、
あー、お待たせしました、ドッキング完了!」

「んじゃ、行くぜ!目的地までだいたい30分ってとこだな、それまで空の旅を楽しんでくれ。」

4機のキャリーヘリがそれぞれ荷物を抱えて大空へ飛び立つ。
サイドバイサイドの大型ヘリコプター、間に合うかな…?

目的の愛鷹山まで約数十km。

向こうに着いたらどうするか決めなきゃ、
軟着陸のマニュアルを読みこまなきゃ、
現地の救急隊との連絡を取り合わなきゃ、

……。
・・……・…・・・。

やることが多いが、もう俺は限界だ。
巨大ブランコが高速移動してるような感覚…。

む・……り………ゲ……・・・。

俺の意識はそこで途絶えた。


本編…新感覚!!恐怖の空中スプラッシュ!!!(しません

「お目覚めかい?モヤシ。」

あん?
ああ、ヘリコのあんちゃんか。
お前までモヤシ呼ばわりすんのかい。

さては真田の根回しだな……。
ってかココどこ…?

「愛鷹山まで配達してやったぜ?あとは降下だけだ、さっさと準備しな、あちらさんもそう長くは飛んでられんからな。」

モニターにウィンドウが開き、救命ヘリの様子が映し出された。
確かに、そう何時間も滞空はできないからな。

「よし!降りるぞ!各機パージ準備!!」

気絶していたおかげで地獄の時間を過ごさずに済んだ、あとは降下中にスプラッシュしないよう気をつけるだけだ。

「了解。」×3

「こちらブラボー5、ブラボー1、軟着陸に不安があるならわたしの言うとおりにスラスターを吹かせ。」

「!了解、助かる。」

正直マニュアル1ページも読めてない……。
嶋野さんが女神に見えた一瞬だった。

「救命ヘリ!こちら沼津自衛軍パイロット養成施設、第2小隊隊長の篠田です。
これより降下を開始します。降下成功後、オペ用バックパックを開放致しますので降下地点確保後、降りてきて下さい!」


「こちら、ドクターヘリ、了解。
外科医2人、看護師2人、薬品コンテナを複数を運んできている、頼んだぞ!」

「了解。」

だいぶ積んできたようだな。
よく見りゃ機体にコンテナ係留してるし。

「降下開始5秒前、……3…2…1……、パージ!!」

頭上のラック解放レバーを下すと、前回とは比較にならない浮遊感が俺を襲う。

ブランコのったことのある男なら分かるだろう、なんか…キン○マがフライングしてるような感覚…。

「コレ耐えられるヤツ…バッカス……。」

降下開始。

かなり低空から降りるためパラシュートの類は付けていない。
あとは嶋野さん頼みダス。

「あと3秒でスラスターを徐々に吹かせ……今だ!」

「あいよ。」

自由落下する機体に制動がかかり始める。
例の気持ち悪さは下っぱらの痛みに変わっていき、毎度のように喉でせき止める。

プロペラントタンクの中身の減少に比例して、高度計の数値減少がどんどん穏やかになる。
落下した観光バス近辺の木々の枝葉をへし折りつつ降下。
流石にWLでも樹に正面衝突したら無事ではすまないが、その辺も考えて降下してきているから無問題(タブン。

「あとはヒザをクッションにしろ、それでずいぶん変わる!」

了解。

WLの脚が大地に沈む
ダメージパネルは一瞬、負荷を示すイエローになったが、今はグリーンに戻っている。

「各機、損傷はないか?」

「ありませんよ、むしろこっちが隊長に聞きたいくらいです。」

雄…ヒドイお……。

「酔いは大丈夫か?」

!!
嶋野…さん!?

「無我夢中だったらだいぶマトモだったよ、ちゅか…心配してくれてるのか?」

「違う!貴様がダウンすると面倒だからだ!!」

ツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンデレ。

無線の切れた後の音がそう言ってる気がする。

「各機予定通り行くぞ!
ブラボー2,3はオペバックパックの展開、テントの準備!
俺とブラボー5は医療チーム降下予定地の露払いだ、かかれ!!」

「了解!!」×2

嶋野さん…返事してくれなくなっちゃた。

いそいそと準備にかかる。
両腕に装備したブレードナイフで辺りの木々を切り倒し、降下地点を空ける。
嶋野機もブレードソードで伐採しまくっている。
無心だ…無心でやってるよあのヒト…(コワス。

コレ、ホントは対WL用のなんだけどねー。
つってもなんてこたない、ただのでかい金属ナイフだ。
ブレードナイフは約2m程度、ブレードソードは3m程度の刃渡りだ。
樹の幹にナイフを何度かブッ刺して、WLの両腕でへし折る。
あとはヘリコプターのローターにひっかかりそうなのを削っていく。

対WL戦の時は刺突して攻撃する。
いくら硬い金属ブレードでも同じ金属であるWL相手では効果が薄い。
ゆえに関節部や頭部、武器等を狙ってピンポイントで刺し込んで破壊するのが基本。
特にヒザ関節なんかはWLの全重量を支えているため、シャフトの1本でもヒビ入れさせたらもう、そのWLは戦闘不能だ。

そんなこんなでだいぶ掃除が出来上がる。

黙々とやれば早いんだね…。

切り株を引っこ抜くのはこのWLでも難しいため、できるだけ削って邪魔にならないようにした。

あとは誘導…。


うまくいけばいいが……。

「こちらブラボー5、隊長は下で負傷者の救出作業を手伝ってください、誘導はわたしがやります。」

「…了解。」

彼女の顔が表示されるが…、気迫が…なんかオーラがヤバい…。
美人じゃなきゃSound Only に設定したくなるほどw。

事故現場へWLを向かわせる、できるだけ振動を起こさないよう、ゆっくりと。

簡易手術室の準備ができたのか、リュウ、雄の2人も事故現場にいる。

「マコト!医療チームは来たか!?」

「リュウか、すぐ来る!!誰が一番ヤバいんだ!?」

コクピットからワイヤーで地上に降り立つ。

「この爺さんだ、なんでも数日前に頭ぶつけたらしいが、どうやら脳溢血らしい。」

あ?
脳溢血?
確かに外傷はあまりない、奇跡に近いレベルだ、これだけの事故で…。

「この事故が原因じゃねーのか?」

「わからんが…そのようだ、最悪のタイミングで発症したとしか思えん、早くしないと間に合わんぞ…。」

「わかった、とりあえず揺らさないように簡易手術室に運ぶぞ!他は!!?」

その老人を担架に乗せつつ、雄に聞いた。

「骨折、打撲・その他はいるが応急処置は完了した、あとはその人だけだ。」

「生き残ったのはそれだけか?」

「ああ……。」

そこにいたのはわずか5、6人、全員、応急処置で使う止血帯をどこかしらに巻いていた。
生き残ったのがこれだけいる時点で喜ぶべきなのだろうが…

「マコト!今はこっちを優先だ!行くぞ!!」

「あ、ああ。」

俺たちが簡易手術室に着くころには医療チームが万全の態勢で待っていた。

「あとは我々に任せてください。必ず、救ってみせますよ。」

「はっ、設備等不十分かもしれませんがよろしくお願いします。」

それとあの子、彼女に返してあげて下さい。



「伝書鳩?」

簡易オペ室の外、もう一つのテントの先に鳩がとまっている。

「ええ、鳩のおかげで上空と地上で対話できたのですよ、老人が一人脳溢血だというのも、彼女のほうから教えてくれましたし。
あの子(鳩)も人懐っこいですからやりやすかったですよ。」

なぬ…?
てこたぁだいぶアタマいいやつなのか…。
医療にも精通しているたぁ感心だわ。
どんな奴なんだろ…。

とりあえず鳩に寄っていく。
ヘリコプターの中まで飛び込む勇者だ、ちったぁ丁重に迎えよう。

鳩と目が合う。





ぬ、ヤキトリ風情がメンチ切るとは…。

最早称賛の思いは飛んでいた。

「あ、隊長!」

「どうかしたか?雄。」

「実は…嶋野中尉の縁者だという方がいらっしゃるんですが…。
…いったい何やってるんです?鳩相手に睨み合って…。」

「気にするな、これは漢の戦いだ、
ってえ?縁者?嶋野さんの?」

「はい、それで、確認を本部と取ったところ……、どうやら休暇中の外交官だということで、即刻保護しろとの命令が下りました。」

「マヂ?」

「マジです。」

「わかった、わかったよ、隊長が責任もって保護しますよ。」

こういうとき一番面倒だ。
お偉いさん系の仕事は部隊の上の奴が相手せにゃならん。
まぁその外交官、どんな奴か興味はあったからいいんだが。

「雄!!ちょっち待った!あのヤキトリ、連れて来てくれ。」

捕まえようとしても逃げる逃げる。
飛んで逃げないのがますますむかつく。

………。

「はい、どうぞ。」

「もう捕まえたのか、早いな。」

「いえ、普通に手を出したら乗ってきてくれましたけど?」

んん?

試しに手を出す。

がぶ。

…。
……。
………。

落ち着け、落ち着くんだ。
相手はただのヤキトリ…もとい鳩だ。

寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心
寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心
寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心
寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心寛大な心。

がぶがぶがぶがぶがぶがぶがぶ……。

「こんのヤキトリ野郎がぁぁぁぁぁぁ!!!
人間様なめるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇえぇええーーーーーーーーー!!!!」

「ちょ、モヤシ!?やめろって、相手は鳥だぞ!落ち着けって!!」

普段おとなしい雄が取りみだし、ダチの時の口調になってまで俺を止めた。

「はー、はー、はー。」

いかん、取りみだしてしまった。
背後から両腕を押さえられ、やっと落ち着く。

「なぁ、キミ、あのおにーさんに付いてってあげてくれないか?
キミの主人の所に案内するからさ。」

見えた!
俺は確かに見た!!

奴の、
“チッ、しょうがねーナ”という顔が!!!

しかも超しぶしぶ肩まで上がってくるし!
相変わらずコッチガン見してくるし!!
近くで見るとコエ―よ鳩!!!

「はは、隊長もやっと懐かれましたね。」

おい雄…おま、
どこをどうやったら懐かれてるって思えるの!?
アイツさっきからコッチ睨みながら首左右に振ってんだけど!

「それで、その子の飼い主、隊長のWL内で待っているようにと言っておきましたので、お願いします。」

「え?」

え?
いくら外交官だからって…WLに入れていいの?


見れば雄が ちょっちいい?的なしぐさをしている。

「つい先ほど、バス運転手の遺体を発見したのですが……。」

ふむふむ?

あと耳元で吐息はヤメレ。

「その…遺体がかろうじて原型をとどめている程度でしたので、分かりにくかったのですが…頭部に1発、銃創がありました。
ほぼ即死と思われます。」

な…!?

「そういうことですので…お願い致します。」

「わかった。雄たちは他のケガ人のケアにあたれ。」

了解、と軽く敬礼をして雄が立ち去る。

「暗殺…?」

外交官が休暇でココにいるとは思わなかった。
もし運転手の銃創が本物だとしたら、マヂで暗殺騒ぎになる。

それに…外交官が身分を明かして休暇することはまずない。(タブン
どこでどんな計画を以って休暇をとるかは、その直属の上司くらいしか知らないはず。
他にありえるとすれば最高ランクの権力者、その肉親だろう。

それに今回九死に一生を得た嶋野外交官はTVなど映像には一切でないが、かなりのやり手だという噂だ。
よもや桐栄さんの身内とは思わんかったが。
確か…ユシア相手がメインだったか?

とりあえず帰るには、中いかないとな。



~多摩型内部~

機体胸部のワイヤーをリモコンで降ろす。

上が無駄に騒がしい。




「おそいぞー!!いつまでまたせるんだー!!」

!?


「あ!あたしのトーコ!」

肩にひっついていたヤキトリが飼い主の手に戻る。

だが、俺は忘れない、
奴が俺の肩に爪を食い込まそうとしていたことを……。

お前は敵だ。

「えっと…お名前は…?」

「んー、嶋野真奈美!」

「えっと…おじょうちゃんが…あの外交官?」

「うん!」

「えっと…もしかして、桐栄さんとは姉妹?」

「うん!」

なん…だと。
俺のなかで外交官=おっさん、という方程式だったが…。

よもや幼女だとは思わなかったし、聞かなかったぞ…。

まさか………。
あの野郎…キャラで人気取りに来やがったか!?

幼女・ツインテ、ニーソ(縞柄)!?

狙いすぎだろ。

「こらー!はやく連れてけよー。」




・・・。



「そこ、俺のシート・・・。」

堂々と、ど真ん中に座っておいて施設まで連れてけとは…。
姉妹そろって横暴極まりない……。

どうやって操縦せいっつーねん。

「ブラボー1、そろそろ後続が到着する、わたしたちは帰還して構わんだろう。」

「お姉さま!!」

返事する前に・…。

「!!真奈美か!?どうしてここに?」

「へへー、山で観光ツアーしてたらさー、こうなっちゃったぁー。」

「…おまえなぁ、連絡くらいよこせ、てっきりまだユシアに滞在していたと思ったぞ。」

「ごめんゴメーン!」





…。
……。

確かに肉親との再会は喜ばしい。
だが………、

あえて言おう、

そこ、俺のシート……。







エピローグ

「はー、ようやっと作戦終了か…。」

基地に辿りつき、キャリーヘリと再び合流し、嗚咽との戦いを制した。

乗降用の梯子が臨時に設置され真奈美ちゃんが降りていく。

彼女が降りてったあとには鳩の糞まみれのコクピットが残った。
クソ…真奈美ちゃんの前ではいい子ぶりやがって…。
どんだけクソすんだよ、腹ん中どうなってんだヤキトリ野郎め。

「ん、御苦労。」

お。

モニターに瀬川所長の顔がでる。
でたはいいがちょうどヤキトリ野郎の糞が付いてる場所…。

顔が見えんぞ。

「報告書を頼む、何やら不穏な動きが見えるからな…。」

了解。

「それはいいんだが、その服、なんとかなりませんか?中将?」

朝見たまんまのビロビロ服、はっきり言ってダサいお。

「む、これは趣味だ、気にするな、覚えてるだろ?本来今日は休みだ、どんな格好しようが構うまい。」

「そりゃそうですけど。」

顔ウィンドウが消え、フンだけが残る。

かー、やってらんねー。
助けに行った先では20人近く死んでるわ、
コクピット糞まみれにされるわ、
コクピット前で20分立ちっぱだわ…。

あー。

空けっぱなしのコクピットの向こうにツインテールがなびく。

「あ?」

「へへー、お礼忘れてた~♪」

エ?

CHU!!

…おでこにやわこい感触が走る。

……エ?

「助けてくれてアリガト、隊長さん!」


「……ぶ…ブ…ブラボー1……?」

え?

・・・・・・。

桐栄…さん?モニター越しに殺気とばすのやめて下さいません?

「篠田マコトォォォ!!貴様!!何をしてるかあぁあぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

え?ちょ?なに?
俺がキスしかけたように映ってんの!?

おかしくない?

「待った!桐栄さん!?俺悪くない、悪くないって!!」

「待っていろ!今修正しに行ってやる!!」

モニター内の長髪が怒りに震えている。

「じゃね!バイビー♪」

コクピットから速攻で逃げる真奈美…。

は…謀ったな………シャ○。

は…ははは、
謀られたYO………○ャア。

ハッチが解放されたコクピットから見える夕日がきれいだ……。













「女にモテルっていいスね。」

「ああ。」

「アレ…死にますよね。」

「ああ。」

「そいや、健のバカ何やってんスかね。」

「知らん、また下らんことやって営倉放り込まれてるんだろ。」


新たにバカの仲間入りをした3人を横目に、リュウ・雄 両名は夕日を眺める。

ああはなるまい。
2人に共通した思いだった……。


~営倉~

「僕が…僕が一番エロをうまく使えるんだ!!」

リュウは彼をよく理解していたと思われる……。

                 Fin



[26825] 第3話 砕かれた空
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:6b326cfa
Date: 2011/08/10 23:25
 ※ 8/10 23:21 題名変更


プロローグ

~会議室~

「ふぅん、昨日はそんなことがあったのか…。」

「おうよ、テメェらがいびきかいてる間にチャチャッとな!」

会議室にいるのは私、真田 治也と篠田 まこと、それに…彼の後ろで眠そうにしている少女。
この3人だ。
たまには他小隊の人とも、じっくり話がしたくてチェスに誘ってみた、ということで今2人で遊んでいる。

まぁ、他の小隊とはいっても今は第2小隊のこいつだけだが…。



ちなみに明日の修了式までわたしたちは一応訓練生扱い、それまでは休暇、というわけです。

昨日一昨日と出撃する羽目になった第2小隊の隊員たちはまだ寝ている。
疲労も限界だったのだろう…。
マコト君だけは起きて真奈美ちゃんとPGPをやっていた。
モンスターパンターといったか?
ちょっと前、大人気で手が出せなかったのがお手頃価格だったらしい。


「しかし、余裕綽々なわりには体中ボロボロだな?」

あちこちに打撲の跡が痛々しいマコト。
何があったかは想像に難くない。

考えながらポーンを手に取る。
所長から借りてきたという大理石製のコマ、手に持った時の冷たい感じが気持ちいい。
なぜか黒のキングの十字架が折れているが…。

「気にすんな、色々あったんだよ。あ、馬とり、王手!」

マコトの手の下でコトリと音がし、こちらへ攻撃してくる。

「おい、チェスはチェックだろうが、馬じゃなくてナイトと呼べ。」

「まぁまぁ、細かいこた気にすんなよ、おら、詰みだ。」

「なっ!?」

よく見る。
キングに逃げ場はない…、周りを味方のコマで防御しすぎていたのが祟ったか…。

「むぅ、またか。…しかし、面白い奴だよ、お前は。」

なんで?という顔をするマコトに対して続ける。

「初めて会ったときは生涯で1番許せないちゃらんぽらんだったのに……。
いまでは唯一許せるちゃらんぽらんだからな。」

「ヲイ、ソレ…褒めてんのか貶してんのか、どっちだよ。」


褒めてるんだよ…。



「ひまだぞー。いつまでツマンナイもんやってるんだー。」

さっきから彼の背中にひっついているもう一人が耐えかねた声を出す。

……マコトの頭を殴るのはやめてあげて欲しいものだな。
アレ以上ネジが飛んだらどうなるかわからん。

嶋野 真奈美…。前回彼が助けたとかで、以来無駄に付きまとっているという。

「ホラ!コレやるんだぞ!!そんなんしまえ!!!」

わっ!

スライドするように置かれるは“人生ゲームDX”、
机の上にあったコマが弾き落とされそうになる。



これ借り物!!



私とマコトで前のめりキャッチをする、壊したら申し訳が立たないどころではない…。
しかし、所長もよく貸出許可してくれたものだ。

「テメ!ちったぁ落ち着け!!それでも外交官か?」

「なにが“それでも”なのかはわからないけど、そおだよ!」

「まぁまぁ、確かにチェスばかりで飽きていたところだ、いいだろマコト?相手は一応子供だ、ムキになるなよ…。」

なにやらギチギチと歯ぎしりしてブツブツ言っているが…、あれが橋本が言っていた解説モード……というやつなのか?

「ホラ、お前からだ。」

「おう。」

一瞬で元に戻り、無邪気にさいころを受け取る。

振る。

「お!俺医者~♪」

「あー、ずるー。」

「へへー、強者はなににおいても強いのさ~♪HAHAHA~」

……、マコト…何考えているか全くわからんな……。

あるときはただのバカ、
あるときは熱血バカ、
またあるときは正真正銘のスーパーバカ。



…なんだ、結局バカか…。

だが、時折、戦闘において驚異的な力を発揮する。
洞察力に優れ、大胆かつ繊細な戦闘をこなす……。
まるで、“才能”という獣に“バカ”という分厚い着ぐるみがかぶさっているようだ。

「てかお前なんでまだ付いてくるんだ?仕事どうした、シ・ゴ・ト!」

「休暇あしたまでなんだよねー、このまえ殺されそうにもなってたみたいだしー、ココにいれば安全かなーって♪」

「あのなぁ…。」

嶋野真奈美程の人間が彼に懐いている、
そのことが彼の人間性を保証していると言っても過言ではない。

だが正直、小学生くらいの年齢の彼女と何の違和感なく話せている、というのはいかがなものかと思うが。
もう少し大人びていれば素晴らしい指揮官になれるはずだけれど。

「そういえば、その件でなにか心当たりはあるのか?」

嶋野真奈美…彼女は幼いとはいえ外交官だ、それも最近軍備強化をしているユシア相手。
何かしらの恨み、障害と思われてはいないのだろうか。

「ユシア側には恨まれてないと思うんだけどね、自衛軍の官僚の方に…ちょっと、ね。」

「や、ははは~、よくわかんないや~♪」


一瞬仕事での彼女になりかけたようだ。

わずかに本気になった真奈美の顔が目をかすめた。

仕事として共に活動したことはないが、政府高官である父からよく彼女のことを聞かされた。

“女を甘く見ると痛い目見る、常に相手の内側を探れ”と……。

無論それだけではないが。

「おい、真田!お前のターンだぜ!!さっさとしろ。」

「すまん、考え事をしていた…。」

手にしたさいころを転がす……。

今思えば、こいつとの出会いが、俺を柔らかくしたんだ。

”中途半端”を許せるほどに…。








~所長室~

ない!

「ない!!」

「ないんだけど!!!」

机の下にもぐり、下を探す。


「ちょっ、誰か知らない!?早く館内放送しなさいって!!捜索班の編成まだ!?」

私は焦っていた…。
このまえヤフオクで落とした23150円の大理石製チェスセット。
アレを毎朝磨くのが日課なのに!!

「有田君!!ちょっと!はやくしてって!!」

必死に秘書官の名前を呼ぶ。

「中将!落ち着いてください、そんな私的なことで施設の人間、備品が使えるわけないでしょ?」

「だってアレは…。」

「だってじゃありません!!」

有田君からオーラが出る。
う…動けない……!?

「サ…サイコヒット…!?」

おかっぱ頭の有田嬢から繰り出される威圧に私はただただひれ伏すだけだった。
は…ハ○ーン様……!?

「だいたい中将が訳わかんない服着てバカやったり!毎朝ニヤニヤしながらチェス盤磨いたり!力入れ過ぎてキングのアタマ折ったり!!それで指切って救急班呼びだそうとしたり!!!あなたが何かするたびに秘書官のわたしまで変な噂されるんですよ!!??」

「ご…ごめんなさい。」

自然と身体が土下座していた。

自衛軍に入る女性は強すぎる……。
次の秘書官は男にしなければ…。

そう堅く決心した朝であった。









~格納庫~

「んお、もう朝か…。」

不覚にも酔いつぶれてしまったわい。
久しぶりに1期の奴らと会ったもんじゃからな、はしゃぎ過ぎたようじゃ。

「なはは、やっと起きたか?三崎よ。」

「ぬぅ、勝男か…。」

「お前も衰えたもんだ、ビア樽の異名が泣いておるぞ?」

「ほっとけ。」

ぼりぼりと頭をかきながら膨らんだ腹を見つめる。
昔から酒ばかりがぶ飲みしていたせいかこんな身体になっちまった。

よく見れば辺りには酔いつぶれた1期生がうようよいる。


「こいつら雑魚だったな、飲み比べ挑むからもっとイケるかと思ったんだが。」

佐々木勝男が物悲しそうな眼を宙へ向ける。

「がはは、貴様のザル加減には誰も敵わんわ!!」

わしももう10年若けりゃなぁ、こやつと張りあえたんじゃが……。

「を?仕事すんのか?
やめとけやめとけ!どうせ今日は何にもねぇ日だ、身体休めて肝臓こき使えや!」

仕事に行こうとしたワシを引きとめる。
…差し出された杯は受けねば恥だ。

男として、
そう、漢として…。


仕事といっても、昨日臨時で取り付けた、第2小隊のプロペラントタンク取り外しくらいしかない。機体整備は昨日の夕方に仕上げが終わっている。

「フン、貴様がまだまだ青二才だと教えてくれるわ!」


格納庫の隅で、漢たちの闘いがひっそりと始まった…。







~来賓個室~


外からはけたたましいセミの声がする。

特にやることもない。

今回、この沼津パイロット養成施設へはゲストとして来たことになっている。
故に各個人には十分な広さの個室が与えられていおり、快適なはずなのだが…。

「ひとりは…怖い……。」

ただひとり…、
薄っぺらい毛布にくるまり、ベッドに横たわる。



わたしは意気地なし……。



ひとりが嫌だと思いつつも、ひとりであろうとしている。
ヒトに接近しようとしても、気がつけば足を遠ざけている。



今のウルフ小隊でも、隊員たちはわたしに口を聞いてはくれるが、心は開いてくれない。



…。


知っているか?
“ウルフ”はわたしだけなのだ……。



明日、修了式に立ち会えば元の配置に戻ることになるだろう。
そうなればセミの声も聞こえなくなる…。





外から聞こえるセミの声が、とてもうらやましい………。




本編…砕かれた空


~所長室~

「瀬川所長!!」

有田秘書官が所長室のドアを勢いよく開ける。

「…どうして……内線に出ないんです!?」

「はぅ!?ス…スマン、集中してて気が付かなかった!な、このとおりだから!」

いきなり土下座ですか…。
威厳もへったくれもありませんわね。

見ればあちこちひっくり返された跡。
アレから半日近く探し続けていたのかしら……。

その集中力を通常業務に割り振ってくれれば…。

あああああああイライラしますわ!

「とにかく!至急コントロールルームへお越しください!!探しといてあげますから!チェスセット!!」

瀬川五郎は半ば押し出されるように所長室をあとにした。



このコンマ数秒で顔にアザが増えたのは言うまでもない。



~中央制御室(CR)~

「何があった!?」

首元のネクタイをキュッと締めつつ自動ドアを通り過ぎる。


スイッチのOnとOffの明確な違いが、この瀬川五郎の魅力といえよう。

「ちょ、所長…あなたこそ何かあったんですか!?」

あちこちの士官が憐れむような声をかけてくれる。
そんなにボコボコか?ワシの顔……。

「有田さん…殴り過ぎでしょ…。」

そんな声があちこちで聞こえる。
彼女のバイオレンスぶりはちょっとした名物だ、既に。

「所長!友好コードを発しない航空機、複数の音紋をキャッチ、当施設に接近中です。あと10分で接触します!」

気を取り直したレーダー担当士官が声を荒げる。
仕方のないことだ、今までこんなイレギュラーなことは起きたことがないのだから。

「機種は?」

「音紋より照合、UH-60型3、CH-47型ヘリコプター5、CH-11キャリーヘリ9!!大隊規模、もしくはそれ以上です!!」

この施設のレーダーは最新型の指向性音紋レーダー、今日のように晴れていた日なら、ある程度の音を発するモノならほぼ確実にキャッチすることができる。
しかも音紋データと照合することで早期に敵戦力がわかるという優れモノだ。

新しい装備なので、今のところ試験的に、当施設にしか配備されていないが……。


ただ、雷雨のような悪天候時はほぼ使用が不可能に陥るので通常のレーダー(電波、磁気、熱量センサー)も装備している。
まぁ、悪天候で空を飛ぶリスクを冒す航空機はまずいないんだが…。

「所属はわかるか?」

「待って下さい、現在対空監視員が調査しています、が、既に暗いため確認が難しいとのことです。」

「ぬぅ、無線で呼びかけろ!貴隊の隊長官命、所属、当基地接近の目的を問う、と!」


「りょ、了解!」

「警戒警報を鳴らせ、イエローだ!!」

CR(コントロールルーム)が慌ただしくなる。
他基地への確認に奔走する下士官、
正体不明の部隊に通信を試みる士官、

各通路脇に設置された警報装置が黄色い光を寸刻みに放出する。

私はただ、座っていることしかできなかった…。


日本の国土で戦争なぞ起きない、そうタカをくくっていたのかもしれない……。





~ラウンジ~

“所属不明機接近!各員配置に付け!!繰り返す!所属不~”

!?

警戒警報!?

「イエローだ、マコト!行くぞ!」

返しそびれたチェスで遊んでいたリュウが急ぎ格納庫へと向かう。
白のキングの十字架もクラッシュしたが、まぁバランス的にちょうどいい塩梅だろう。


返す時、どうしよ……。


「ああ、今行く!先行け!!」

警戒レベルイエロー、“各員配置につけ”。
自衛軍で定められた警報における第3位の危険度だ。

戦闘が回避される可能性はあるが、戦闘になるその可能性が否定できない、そういった場合に発令される。

四の五の考えてる暇はねーか、

流石にこんな状況でバカやる気はない…、
とりあえず所長に気付かれないように返す方法だけ、考えておこう……。

後で修理するために、砕けた頭の方をポケットにほおりこむ。


~第3格納庫~

「オヤジ!機体はできてるか!?」

「やかましいわ!!そんな大声で怒鳴るんじゃねー!!完璧だよ!俺の腕なめてんのか?」

酒瓶片手にそう言われても説得力ないんだが…。

とはいえ、いつもの三崎整備長らしいと言えばそのとおり。
慣れ過ぎて信用すらできてくる。

解放されたコクピットへと続く特設階段を、甲高い金属音を響かせながら走る。



「隊長、遅いですよ!」

奥の多摩型の外部スピーカーから久しぶりーな感じの声が響く。

「健か!営倉だったんじゃないのか?」

「へへっ、あんなとこ交渉すりゃ1発ですって!!」

さては看守に何か握らせやがったな…、こいつというやつは、
相も変わらず…。

コクピットに滑り込む。
左脇のスイッチを複数入れ、多摩型を緊急起動、澄んだ音がしばし響く。

「CR!情報をくれ!何があった!?」

起動したてのゆるやかな振動が身体をほぐしてくれる。

「こちらCR!現在こちらも情報収集中だ、
現在分かっていることを伝える、
現在大隊規模の未確認勢力が当施設に接近中だ、目的は不明、複数のWLを搭載していると思われる。
万が一…備…て各小…長には独自…作……動権限が与え…れて…る、活用し…くれ。」

「!?」

模擬戦で味わったあの恐怖感。
自分が孤立する、あの恐怖…。

背後の動力が俺の鼓動と呼応して本格起動する。

これは……。

「全機!格納庫から出ろ!!急げ!!!」

間髪いれずに格納庫全体が激震に見舞われる。

パネルを叩き、ディスプレイの一角と基地外部モニターとをリンクさせる。

何があったのか…。

司令塔西部のカメラをスクリーンオン。

…、薄暗い中、激しい炎が黒煙を上げながら火の粉を飛ばしている。

これは…隣か!?
右隣の4番格納庫があとかたもない。


確かあそこはチャーリーチームの…、
いつもなら2,3は出てくる軽口も今はでてこない。

そうしている間にも
無誘導型の爆弾・ミサイルが次々と飛来してくる。


っ!!


操縦桿を押し込む。
機体を前進させ、
手にしたブレードナイフでシャッターを斬り飛ばす。

激しい騒音と共に滑走路脇にシャッターの破片が転がる。

迷っている暇はない………。


燃え盛る火炎が、俺たちを あ た た か く 迎えてくれることだろう…。


そう、ココは 戦 場 だ。

多摩型のヘッドセンサーが、シャッターの向こうの世界を凝視している…。




~中央制御室(CR)~

強い振動と共に電源がダウンする、バッテリーでも稼働できる、各計器の光が目にまぶしい。

アラートを示す黄色い光が小刻みに顔を映し出す。

「所長!主電源供給施設に被害!非常電源に切り替えます!!
西部格納庫にも被害!詳細はわかりませんがWL部隊の損耗を確認!」

「中将!なおも熱源接近!!無誘導ミサイル多数確認!」

まずった、こうもあからさまだとは……。



「緊急事態だ!!警報をEレッドに変更!
保有戦力を全て展開しろ!各砲座の偽装解除急げ!各個に応戦開始だ!!
通信士官!なんとか周囲の基地と連絡を取れ!!」

この施設は重要施設ゆえ一応の対空火器は存在する、が最近は情勢が情勢なため表向きは固定火器類はない、ということになっている。

一応パイロットの養成施設だからな…ここは。
そう今まで思っており、そんな火器は必要ないと思っていた。
まさか役に立つとはね…。


まばゆかった黄色い警報機の光が、更に激しい鮮烈な紅に変わる。
非常電源のわずかな明かりが目への負担を軽くする。

生きているうちにこの警戒レベルを見ることになろうとはな…。





~施設東部滑走路周辺~

機体コンソールパネルの端に真紅の点滅が表示される。

コンディションEレッド…だと……!?

Emergency Red 通称Eレッド…。

“緊急的な脅威下にある、あらゆる人員・方法を用いて対処せよ”


まぁ、この地獄絵図を見ればそれも納得……か。

「隊長!敵ミサイル群第2波来ます!!」

雄の悲痛な声が耳をつんざく。

「各員衝撃に備えろ!すでに滑走路へは着弾済みだ、ココでじっとしていろ、当たりはしない!!」

少し大げさに言いすぎたか、だがそうでもなければ浮足だってしまうかもしれん…。

なにしろ初陣なのだから、俺たちは…。
第一、これだけめちゃくちゃになった滑走路だ、もう狙う意義もないだろう。


施設からの火線も次第に伸び始める。

この施設に対空火器があったとは……。

再び、揺れる…。

空から降りしきる炎の雨が地上の対空砲火を洗い流していく、
ひとつひとつ、的確に…。



けたたましいローター音が上空に広がる。
数が多すぎて音響センサーでは把握しきれない…。



「来るぞ!!敵WLだ、迎撃しろ!!」

対空兵装を黙らせたとあればあとすることは一つ。
降下、制圧だ。

もうほとんど日も沈んでいる、目視による迎撃は厳しいが…やるしかない。

モニターの端ではアルファの連中が迎撃を開始している。
4機とも無事だったようだ…。

「アルファ1よりブラボー1へ、聞…えるか?
西側の部隊で残った…は俺たちだけだ、デルタの連中も格納庫ごとヤられた!!
敵WLはこちらで押さえる!!敵の人員輸送ヘリ…優先して落として…れ!」

「了解した、敵WLは少なくとも4個小隊は居る。こちらからもある程度は支援するぞ!」

「頼む…。」

わずかに通信が妨害されるが、問題はない。


「ブラボー1より各機!俺たちは優先的にツインローターの人員ヘリを狙う!
特殊部隊にでも施設に入られたらそれこそ終わりだ!」

「敵WLはどうするんです!?放っておいたらこっちがやられますよ!」

「なんとかあしらえ!そうしなきゃ施設が落ちる!
アルファチームは横に広く展開し始めている!ブラボーチームもそれに従うぞ、敵ヘリがどこに着陸するかわからん!目視し次第撃墜しろ!
最悪敵WLは真田たちに任せろ!!」

すでに日も落ち、目視がどんどん厳しくなってきている…。なんとか見つけないと…。


敵は西から侵攻している、対する俺たちは南北に伸びる滑走路に広く、満遍なく布陣している。何がどう来るかわからない以上これより良策はないだろう。

俺はアルファ1と共に中央部の防御に就いている。

「こちらブラボー2!敵WL確認、3機降下してきている!」

「こちらアルファ4、戦闘ヘリを確認。」

「こちらブラボー4、健だ!WL4機確認、1機落としたぜ!」

敵補足、の報告がひっきりなしにつながる。
まだ…敵人員ヘリ確認の連絡はない…。

WL機甲部隊で地上を黙らせてから降下するつもりか……。
それとも西部を避けて東に着陸するつもりか!?


「ブラボー1!ボヤボヤするな!!敵が来ている!WL3機だ。」

「わかっている!」

手にした10式長距離ライフルを放つ。
まばゆい閃光が自機を一瞬照らす、

尾を引く光弾が着地した瞬間の敵機に吸い込まれる。

「見たか!?一丁あがりだ!」

本来長距離戦用のをこの距離で放ったんだ、動力部を撃ち抜いたハズ。

敵WLが崩れ落ち…

爆発が起こる。

思ったよりも規模が大きい……、
まさかここまでとは…。


飛散するパーツ…。
前面装甲に何かが当たる金属音。


何かのはずみで目の前に頭部パーツが転がる。


そう、今俺はヒトを殺した。


悩むな…、
考えるな…。


「た、隊長!!」

さっきよりもひどい声が俺の思考を止めてくれた。

「何があった?ブラボー3?」




「て、敵は……自衛軍です!!」


「なんだと!?」


さっき撃破したWLの炎を受け、敵のWLが闇に映える…。


その肩には見間違えようもない証があった。

無垢なる白に、父なる太陽……。

そう、見間違えようもない、アレは……。



「こちらブラボー2!マコト!!敵の機種を見ろ!!西日本で開発されていた南秋型に北秋型だ!!
機体性能が違いすぎる!!このままでは押し切られるぞ!」

「なに…!?」

噂には聞いていた…、西日本にあるWL研究施設が開発していたという北秋型と南秋型…。

前衛となるべく開発された北秋型、日原型で示された耐久性の問題を克服した機動力ある機体、
後衛となるべく開発された南秋型、砲撃戦に特化した大火力の機体…。

噂が真実ならこのままでは全滅する…。

ここには旧式の多摩型しかない…、
ブラボーチーム全機に未だプロペラントタンクが装着されているが気休めにもならん。
とゆうか被弾時に誘爆する危険がある。

パラシュート降下中の無防備状態とはいえ、さっき数機落とせただけでも奇跡に近い。

どうすればいい?

人員ヘリ撃破のために上を向いているヒマがない。
このままでは…。



敵のアサルトライフルが闇夜に点滅する。

「くっ!」

狙いが正確だ…。

左右にそれぞれ持った操縦桿、両足のフットペダルを絶え間なく動かす。


それに呼応するように重い多摩型が左右にステップを繰り返す。

だが所詮は旧型、

みるみるうちにダメージパネルの各所が黄色く塗りつぶされていく。
特に関節部は酷い、無理な機動を強いたためか他の部位よりも警告色が濃い。

それにこう連射されてはロングライフルを照準する暇もない…。
一番近くにあった武装を持って来たんだが…ここで泣きを見るとはっ…。



…一瞬のスキが見えれば……クソッ!!


頼みの真田も南秋型に苦戦している。





「!?」

不意に背後からミサイルが飛ぶ、目視で放たれた一筋の光…。


ソレは俺の脇を過ぎ、北秋型の肩に命中する。
モニターを焼く光と共に北秋型のバランスが崩れる。

「今だ!!!」

この近距離なら外さない、わずかな時間で狙いも付けられる……。
再び光の筋が空を斬り進む。


狙い違わず北秋型の右足が吹き飛ぶ。

脚さえ壊せば無力化できる…、
それが実践できたことを、今誇らしく思う。



にしてもさっきの支援攻撃は…?

「佐々木鬼軍曹!!」

いつも持っているアルマイト製の酒ボトル、それを煽りながらガッツポーズをとるチョビヒゲ…。
佐々木勝男だ。

「バッキャロォイ!!テメェはなってねぇンだよぉい!!あと俺は大尉だぁ!!」

だいぶ酔ってるな…。


「さっきの中将の指示が聞こえなかったのかぁん!?
テメェらはさっさと現有戦力かき集めてぇ!!
南のヘリポートに連れてこぉい!!今すぐだ!!」

「はっ、了解であります!」

通信に不具合があったのだろうか…、一切聞こえなかった。

「それとぉぉぉぉ!!キサマらヒヨッコが見逃してたぁ輸送ヘリ!ウチの東側でゴミ共バラバラ落としていきやがったからなぁ!」

ゲ、人員ヘリ見ないと思ったら、やはり施設をまたいで東側で戦力を落としたのか…。
さっきの勝男大尉の言い方だと、もう施設は放棄するものと見ていいだろう。

間髪いれず、勝男大尉の後ろから装甲車が近寄ってくる。

「聞こえるか?ブラボー1…じゃったかのう?
集めた戦力でこの装甲車の支援を頼む。
コイツにゃ嶋野外交官も乗っておるからの、無事脱出させにゃならん。」

「…了解、とりあえず各戦線ともに不利ですが持ちこたえています、今のうち、先に南部に向かってください!すぐに戦力を集結させます!!」

あいよ!

動き出す装甲車に勝男大尉が走ってしがみつく。


「見な!!ホントぉにツエぇ奴は生身でもツエぇんだよ!!」

またもやチョビヒゲからミサイルが放たれる。

装甲車の外に設けられた取っ手を掴み、器用に照準をつけていた。

バケモノか…!?

今度は………遠くで真田が戦っていた南秋型だ…。


背部の動力部に直撃、大爆発を起こす。


「ダーーーーーーハハハハハハハ!!!!」

単発式のミサイルを投げ捨て、また酒を煽る。




「アルファ1だ、さっきのはお前か?ありがとう。」

「いや、…まぁそういうことにしておいてくれ…。」

いちいち説明するのがめんどくさい…。
第一なんて言えばいいんだ…。


「とりあえず戦力を固めて南部へ移動する、ヘリで脱出するようだ…。真田もメンツを集めてくれ!」

「それなら問題ない…。」

「なに!?」

「アルファチームで生き残ったのは……俺だけだ。」

そうか…。
クソマメな奴のことだ、基地の外部カメラ使って部隊員の戦闘区域を逐一チェックしていたのだろう…。

「わかった、こっちの奴らを集める!
ブラボー1より各機!!無事か!?
よく凌いでくれた!これより南部ヘリポートへ向かう、そこから脱出だ!」

「ブラボー2、了解!やっとか、助かったぜ。」

「ブラボー3了解!!死ぬかと思いましたよ!」

「ブラボー4らじゃ!!逃げるのだけは、得意なんでね♪」

たった数分の出来事が数時間にも思えた…。
生き残ってくれるとは…たいしたエースたちだよ…。

機体の性能差が戦力の決定的な差じゃねーってのはリアルだな、
学校卒業したてのペーペーがここまでやれるってのも、にわかには信じられないが。

「真田!すまないがブラボー3・4と南部への道を切り開いてくれ!
俺は北面のリュウの支援に向かう!」

「了解した。」




一番戦力が多く降下した南西部、ブラボー4、健の持ち場を突破する必要がある。
先に向かった三崎整備長もその手前で待機しているはずだ…。

それに戦線を放棄したわけだから北西部からもWLが侵攻してくる。

つまりリュウ機と健機が今一番危険といえよう。
雄の担当地区は建造物が多い、まだしばらく持ちこたえるはずだ。




自機前方にドンパチが見える。

「こちらブラボー2!待たせた!すまんが色々おみやげ付きだ、食うのを手伝ってくれ!」

「了解した、こちらでも捕捉している、リュウ!照明弾を上げられるか?」


「照明弾!?できなくはないが…俺が丸見えになるぞ?」

ただでさえ動きが鈍い多摩型だ、丸見えになれば攻撃をよけきるのは難しいだろう。

「だが、頼む、信じてくれ。」

俺のメインアームは10式長距離狙撃銃。
ボルトアクション式じゃないため、一発ごとに薬室の薬莢を手動で捨てたりはしないですむ。

つまり…ある程度連射が効く。
2機程度であればほぼ同時に撃破も不可能ではない。


リュウを危険にさらしてしまうが、ここで時間を食うわけにはいかない。

問題は…俺にそれだけの技量があるかどうかだ……。

「わかった、信じてやるよ…。3カウント後に照明弾を打ち上げる、頼むぜ?」

「ああ!任せな。できるだけ敵に向けて上げてくれ!」

シート脇にある照準器を目の前に持ってくる。
アームで固定したソレからは今、暗闇しかみえない…。

「ああ!……3、2、1…発射!」

リュウ機のバックパックから明るい花火が上がる。
花火と違うのはずっと明るい…というところだろうか。

「……見えた!!」


リュウ機が丸裸になる…が、敵機も見える…1……2…。

敵は2機、どちらも北秋型か…。

左手で照準器の倍率を上げ…

右手の親指をひねる。

スコープが一瞬真っ白になり、敵機の片足が吹き飛ぶ。

「次!!」

戦闘の基本は敵の意表を突くことだ…。
どんなことでもいい、
今みたいに、状況的に上げるはずのない照明弾を上げることでもだ。

五感のどこかに強い刺激を与えればヒトは怯む。
そう、最低でも一瞬は、敵が戸惑う。
用心深い軍人ならなおさら…。

そしてほんのわずかな隙、それが状況を変えてしまうこともある。

今回のように…。

やっぱりロングライフルを拾ってきてよかった…、ちょっと、さっきの思いを改める。

空薬莢の排出と共に2体目が沈黙する。
パイロットは恐らく無事だろ…。
脚狙ったし…。

「大丈夫だったか?左腕吹っ飛んでるが…。」

リュウの多摩型の左腕がかなりボロボロだ、
ボディの盾代わりに使っていたな…、さては。

「ヘーキだよ、ま、危なかったけどな!誰かさんのおかげで……正直信じてなかったんだが…(ポソッ」


……丸聞こえなんだよ…。

コイツ……、
後ろから撃っちゃおっかな…もぉ。

「スマンスマン!今度は南か?」

「そうだ、俺らも急ぐぞ、このままだと孤立する…。」

俺たちは急ぐ、だが…間に合うのか…?






~滑走路南西~

俺とリュウがなんとか辿りついた先、

「遅かったな…待ちわびたよ…。」

そ…その声わ……。

フットユニットが両断された北秋型を足蹴に、純白の日原型が待っていた。



「む、礼の一つもないのか?お前らを待っててやったんだぞ?」

む、なんか礼を要求されると礼を言いたくなくなる…。
複雑なお年頃って奴だな。


「というか……
俺たちがくるまでその北秋型、踏んづけてたの!?」

「いわゆる…ポージング……?」

「う……。」

「そ、そんなことはどうでもいい!早く逃げるぞ!!既にお前の部下たちはヘリポートに辿りついているはずだ!!」

「了解!」

よし、礼をいわんですんだぜぃ。
まだ桐栄さんとは出会って3日かそこらだが…意外と御し易い女性です。

……まぁミスると昨日みたいな大惨事になるけどな…。

なんにせよ、楽しい仲間には違いない。



無駄に(強調)目立つ白い機体を傍に、南部へと機体をおし進める。






~南部ヘリポート~

「こちらウルフ1より2、3へ!!待たせた!あとは任せてお前たちは脱出しろ!!」

なんとか間に合った。
護衛に残したウルフ小隊は無事のようだ……。

「こちらウルフ2!指示通り3期の連中と装甲車を離脱させました!!フィンチ・オウル小隊も生存機は脱出完了!!」

「了解…。」


ひときわ大きな爆発がモニターを焼き尽くす。

「マコト!!キャリーヘリがっ!!」

「わかっている!」

ブラボー小隊の叫びを無線が拾う。

2機残っていたキャリーヘリのうちの1機が大破・炎上したのだ。
だがそちらばかりに注意を向ければもう1機も落とされるかもしれない。
敵にはまだ数機、WLが残っている…。


「こちらストーク4!!これ以上離陸は伸ばせない!!脱出するなら早くしやがれ!!」

パイロットの焦りを表すかのようにローターの回転が早まる。

キャリーヘリに積めるWLは最大2機…、
それに…荷重ギリになる2機積みは機動力が落ちる、今の状況では命取りになりかねない。

「ウルフ2、3!機体を放棄して乗り込め!自爆設定を1分後にセット!わたしたちがそれまで援護する!」

「しかし!隊長は!?」

「貴様らの機体爆発を煙幕にする!いいから行け!死にたくないだろう!!!」

「りょ、了解…。」

うん、あとは奴らが脱出するまで守ればいい……。

「ブラボー1、2!お前たちも行け!」

もうひとりとして死なせたくない…。

いつもの09式を広範囲にばら撒きながら通信をおこなう。
こんな銃ではなんににもならないけど…気休めにはなる。


「ふざけんな!お前はどうすんだよ!!一人で死ぬ気じゃあねえだろうな!!」

激昂したマコトの声がコクピットに響く。

大規模な爆発が2つ、周囲を揺るがしす。
あれからまだ1分しか経っていない。
激しい黒煙がキャリーヘリ周辺を黒く塗りつぶす。

「わたしは死なない!だから行け!!」




「っ……わかった、いいな!!ゼって―死ぬなよ!?テメェが死ぬと胸くそ悪ぃ!!」

うれしい。折れてくれた……、この3日間、強情さを見せ続けた成果が出たのかもしれない。

至近弾が擦過……。

!!

煙幕があるとはいえこれ以上の時間稼ぎは難しそうだ…。

「当たり前だ。それに、死ねない理由もある……。」


「いいな!?約束したぞ!?
リュウ!!聞いた通りだ!機体を放棄する!さっさと行くぞ!!」

「りょ、了解した!」

多摩型2機が火線をばら撒きながら後退する。




……?


敵が…?

同時に敵の攻撃も…不意に止む…。
どういうこと?

背部カメラのスクリーン位置には豆粒みたいな2人、ヘリへ走っていく。

なにはともあれ脱出はなんとかできそうだ…。

「?」

何かが接近してくる…。
コクピットの中に未確認機接近のアラートが鳴る。
音響センサーにもその兆候が現れる。

西方距離200……。



…110

60…

かなりのスピード…。
こちらからは30m先も見えない…確認はできないが、確実に近づいて来ている。

20……!?

「上!!??」

平面の計器に表示される音響センサー、
ゆえに上空の敵だろうとなんだろうと2次元的な間合いしかわからない。

しまった…、

音の大きさ・速度からして通常の戦闘機、ヘリではない、

キャリーヘリか……!

「ストーク4!はやく離脱しろ!敵WLが新たに降下してくる!!」


怒鳴り声に煽られるようにじわじわと上昇し始めるCH-11ストーク4…。



眼前に黒い塊が降ってくる。

「……!なんだこいつは…!?」

すらりと伸びた四肢、
頭部両脇から伸びる大型のアンテナ装置。
背部に装備した、2枚の翼のような大型スタビライザー。

そしてなにより、真紅の光を放つセンサーが、恐怖心をかきたてる…。

新型がまだいた?



そいつは何も銃火器を携えていない。

あるのは右腕に装備している大型のブレードのみ。
わたしのブレードソードよりもさらに長いモノだ。


「わたしはモルモットか!!」

敵機が後退していったのも納得できる、
こいつの戦闘データを取る、というオマケ付きだとしたなら…。

黒い機体が跳ねる、

「!!」

左腕のブレードソードで敵機の斬撃を受ける。

コクピットに座っていてもわかる…、左腕関節部へのダメージが…。
関節部の悲鳴がダメージパネルに反映されていく。

こっちより細身なくせに、なんて出力…。

少しでも態勢を崩せば両断される。

機動力ではこちらを圧倒的に凌駕しているはず、
なのに…あえてパワーで押し切ろうとする…。


新しいおべべで無茶な遊びをする…。


まるで子供だ、こいつは……。

「どうする、桐栄?」

日原型には胸部15ミリは搭載されていない、
それに…自由な右腕の09式も、残弾はわずか、動力系を狙ったところで撃ち抜けはしない。

打つ手が…ない。

白と黒、2機のつばぜり合いが続く。


左腕に火花が散り始める。



もう、限界か……。
“注意”だった機内アラートが“警告”に変わる。

「ごめん…、約束…守れなかったみたい……。」




「あきらめるな!!!」

!?



ヘリのローター音が黒煙の中に見える。

地上での、WLの火災の音でレーダーい表示されにくかったのか…。


「んなこたどうでもいい!!
ライトアームで俺の多摩型を撃ち抜け!背部のプロペラントだ!!
その距離なら数発で撃ち抜けるはずだ!!!」

視線をマコトの顔アイコンからモニターに移す。
確かに…敵機が邪魔で見えにくいが、多摩型がこちらに背を向けて黙りこんでいる。

アレがマコトたちの機体か…。

撃つのはどうにも気が引けるけど、他に手もなさそう。

照準をそのプロペラントタンクに付ける。
かなり近い、外しはしない…。

「ごめん…。」

右腕を突き出す。
小刻みな閃光が多摩型に吸い込まれていく。

間髪いれずに爆発が2つ、連鎖的におこる。
プロペラントの爆発と、多摩型自身の爆発。

その2つの爆風を受けた敵機が態勢を崩す。

この距離で、この規模の爆風を受けてろくにダメージを受けないなんて…。

「邪魔よ!!」

とはいえ、敵を払いのけるのは造作もなかった。
射撃の為に突きだした右腕と、上半身を使って敵を地面に叩きつける。


「よし!!はやくこっちに飛び移れ!!」

見えていたのか、マコトの声がコクピットに広がる。

「キャリーヘリ下部のラックだ!」

止めを刺している暇はない、既に後退していた敵WL部隊が再び前進を始めている。

「了解した!」

上昇を始めるCH-11、

推進剤は十分に残っている…、飛んで機体下部の取っ手を掴むのには問題ない。

からっぽの09式を投げ捨て、スラスターをめいっぱい吹かす。

訓練生時代に搭乗した多摩型とは大違いだ。

幸い敵WL隊とは距離がある。
逃げ切れるだろう…。

優位に立ったがゆえに、ツメを甘くしたな…。

敵の指揮官は凡々…か、ま、助かったが……。






エピローグ


「む?ひとつの礼もないのか?桐 栄 中尉…?」


!!
無線の向こうでゲラゲラ笑っているマコトが見える…。

こ…こいつ……。


「待っててやったのになぁ~♪」


く…くくく…くそぉ……。

わたしだってさっきの礼はもらってないのに……!!


「そういえば…敵の動きが鈍かったが…アレ、どういうことなんだ?」

橋本龍一郎の声がマコトの脇から漏れてくる。
いいぞ橋本、よく話を逸らした。

「アレか?バカだなリュウはよ!?」

「なんだと!?」

「よく考えな!あったらしいヤツで来るのはいいが慣熟訓練をしてなかったんだよ!奴ら!!
まぁ新しすぎる機体だからな、そんなヒマなかったんだろうよ。
リュウもWL乗りならわかるだろ?
機体によってだいぶクセがあるんだよ!近距離、長距離特化の北秋・南秋型ならなおさらだ!
慣れてもいねぇ最新型で戦おうとするからああなる。
ま、なんで自衛軍が俺らを攻撃するかはわかんねーけどな。」


小馬鹿にしたような口調でも解説は欠かさない、なかなか便利な主人公だ…。
周りが楽できるっていうものね。


ん?…主人公…?なに?…それ……。
我ながら訳がわからんことを口にしてしまった。



「そういえば…そこ、ヘリのコクピットじゃない?パイロットはどうした?」

マコトの顔の脇から見える計器類が、どう見てもヘリのだ。

「あー、ああ、パイロットの野郎なら、逃げるって言って聞かなかったんでチト寝てもらった…。」

「あれだろ?前モヤシって言われた腹いせだろ?」

「うるせーよ、リュウ!」


ふふ。

なぜかこいつらと居ると気が落ち着く。
仲間の1人として見てもらえる。




それが…うれしくて。


でも、かなしくて……。









大きな荷物を付けたキャリーヘリが雲を抜ける。

眼下に広がる一面の雲、



地上の光が
雲の薄い部分を赤く照らしている…。

まるで粉々になったように、

そう…まるで、砕かれた空………。




         Fin




[26825] 第4話  湯けむり 筺体大決戦!
Name: ヒロシキ◆0114d2c8 ID:6b326cfa
Date: 2011/08/10 23:25
 ※ 8/10 23:23 題名変更

プロローグ

ヘリの、コクピットのわずかな照明が俺の顔を照らす。

先ほど連絡がついた横須賀からは、俺たちの到着を待ってから詳細を伝える、と来た。
向こうもまだ詳細を掴んでいないようだったが、東日本の施設の多くが攻撃を受けたらしい。


味方であるはずの自衛軍からの攻撃。
敵とおぼしき自衛軍は西方から仕掛けてきた。


まさか、西日本が戦争仕掛けてきた…なんてことはないと思いたいが…。


「マコト、大丈夫か?」

「あ、ああ、心配すんな。ちと夜更かししすぎただけだ。」

目をしぱしぱさせる、
施設での戦闘からここ、酔いは感じない。

必死…だったからかなァ。

あ、こりゃ…アカンな、何しても無駄だわ。
事実、あくびしようが何しようが、眠気に拍車をかけるだけだ。


「そうかい、まぁ横須賀基地まで40分くらいある、すこし寝ておけ。」


リュウと居ると気を使わなくて済むのが最高だ。
何かしたいなと思えば、気がつけばリュウがいち早く気付いてくれる。
そしてアクションを起こしてくれる。

どっかのデカ女にも見習ってほしいもんだぜ。

「へっ、ずいぶん優しい…じゃ、……ねーの…。」

意識が途絶える、
限界だ。










つめたい。


あたたかかった身体がすぐに冷えきる。


ここは、どこだ?



精神患者がいそうな、全面が真っ白な部屋。


ガラスの容器におさまった俺……。

動けない?

いや、動けなくはないが、起き上がれない…。


必死に手足を動かす。

だが、状況は何も変わらず、視界には小さな手だけが映し出される。

これは、赤ん坊……?俺なのか?




誰かが覗きこむ。

眼鏡をした、陰湿そうな研究員…
天井に備え付けられた蛍光灯の光が、そいつの顔を陰にする。

誰…?


手にした注射器から液が押し出される。
太い針、


そして、その先端が近づく…。

そして、全身を揺さぶるような衝撃が、体中に広がる。





「っ!!!!!!!!!」


「おい!マコト!?大丈夫か?」

う…ん?
そうか、ここはヘリコの中だ。

「うなされていたぞ、をい。」

「あ、ああ、大丈夫だ、今はどのへんだ?」

「今ちょうど横須賀に着いたところだよ。」

ああ、確かにそうだな、
ヘリの窓から見える照明がコンクリ固めのヘリポートを映し出している、後ろの方には桐栄さんの白い機体も見える。

さっきの痛みは着陸時の衝撃か、どおりでリアルなわけだ。

とはいえ、ゲームでもし過ぎたのかもしれない、あんなベタなネタが夢に出てくるとは…。


自分が特別な存在だと、ヒトは思いたがる。
だが現実は、そうじゃあない…。

シートベルトをはずし、
後ろでノビているヘリパイロットを、引きずりながら乗降口へと歩き出す。

このキャリーヘリで脱出したのは施設職員を含めて18人。

ひとりひとりの顔を出口で見る。

やつれきっている…。
たった数時間でこうも変わるものか。

皆が降りたのを確認し、俺も降りる。

横須賀、第1護衛隊群が配備されている基地…。

それくらいしかしらねぇ。
東京湾近くに作られたヘリポートに降り立つ。

んー、とドコだ?
きょろきょろ辺りを見回す。
WL機甲部隊は特に陸上自衛軍のみに配属されてるわけではないが…。
つい先日まで訓練生だったもんだからこの基地の中身はわからない(ぶっちゃけまだ沼津養成施設しか知らんが)。


「沼津の方たちですね?
ぶしつけですが責任者の方はおられますか?」

若い士官が駆け寄ってくる、ココの人間だろう。

責任者…か、階級的には桐栄さんが中尉、俺が少尉(予定)、リュウは准尉(予定)、ヘリコの野郎は…知らんがとりあえず下だった気がする。

「アレが最高位ですね。」

そう言って指をさす。

わたし?という顔で桐栄さんがこっちを見据える。
そう、あんた、というように俺は顔をこくこくとする。

「あのぉ…上官にアレはないんじゃないですか、さすがに…。」

「あ、スンマセン、今のは気にしないでください。」

「それで、その、えっと、次に階級の高い方は…?」

「あ、俺だね。」

やけに腰が低い人だ。
見たところ俺の階級(予定)より高そうな人なのに。

「その、ですね…沼津の状況が知りたいと、司令がお呼びです。司令室までお越し願えますか?」

ああ、そういうことか。
俺らよりも先に脱出した奴らでは最期までわからんからな。

「わかりました、案内、よろしくお願いします。」

「承知いたしました。」


リュウたちとは一旦別れ、若い士官、俺、桐栄さんの3人で近くの建物に入る。

「ここは横須賀の総督部なんです、基地司令室はここの2階にあるんですよ。」

へー、ととりあえず相づちを打っておく。
他にどう言えばいいのかわからんかった、というのがホントのところか。
あと何か言っていた気もするが…、

「桐栄さん、何言ってた?」

「いや、聞いていなかったな。」

それぐらい、聞いててわかりにくい話の長さだった。
まぁ基地施設の紹介だったんだろう、タブン…。

エレベーターに乗る、2階ごときでコレを使うとは…。

ん…待てよ?

「コレ、司令メチャ厳しいんでねーの?」

「どうしてだ?」

案内人の後ろでひみつ会議が行われる。
当人はペラペラと解説に勤しんでいて振り返る気配もない。
ぽそぽそ話すぐらいでは気付きそうもないな。

「よく考えろ、部下のあいつがあれだけビシッとしてんだ、きっと司令なんかもっとやべぇ頑礼儀作法至上主義者にちげぇねぇ。」

「む…、言ってることは何となくわかったが、確かにやりづらいな、それは。」



ここです、と案内されたのはいい木目をした両開きのドアの前。

「小島司令、お二人をお連れいたしました。」

わざわざ扉まで開けてくれる。

「おう、待ってました!ささ、入って下さい。」

「あ、は、はい!」

俺と桐栄さんはぺこぺこしながら中に入る。


なんか、
めちゃフランクな人じゃないの…。

「おいっ、こりゃどういうことだ!?」

「わたしが知るか!」

小声で討論が交わされる。

「なにボソボソしてんだ?」

うぃ?
小島司令っぽい人の前に2人が立っている。

「んん?お、お前は…。」

「や、そんなに驚くこたないだろ。」

いや、真田…、お前がいることに驚いてんじゃなくて。

「アレ?なんで有田秘書官までここに?」

この司令室では今、沼津施設の状況報告をしているはず。
こういうのは階級高い人が行うしきたりだけど…、秘書官ってそんな階級高かったっけ?
てか所長はどこいった?

「わたしは中佐だよ、篠田訓練生?」

いっ?

「ま、まぁ、そうなんだよ、俺もさっき知ったんだけど。」

頭をぽりぽり掻きながら真田がそう言う、俺と同じ反応をして何か言われたのだろう。
有田秘書官のバイオレンスぶりは噂に聞いている。

気をつけないと危険だ、目をつけられたら終わる……。

「さて、再会の挨拶はそこまでにして、篠田くん?施設の状況を司令に伝えてくれないか。」

「は、はい!」

(名前、割れてる時点でどうかと思うが…。)

そんな目をしてこちらを見る桐栄さんと真田。
俺の心が読まれた!?

まぁそんな気がしただけだから、そんなこたないと思うけど。


「それでは、報告します……





(長いので割愛)





          。」





本編 前編

「…………・・・、報告は以上です。
この戦闘データを参照すれば詳しくわかるでしょう。」

そう言って1枚のメモリーを司令に手渡す。

「そんなもの、いつの間に?」

「ああ、脱出間際に多摩型から引き抜いたんだよ。役立つと思ってね。」

ふふん、と自慢げに話す。
思い入れのあるアイツを捨てて逃げる羽目になったんだ、心ぐらいは持って帰ってやらんと…。

「そうか、だいたいのことはわかった、じゃあ今度はこっちが状況を伝えよう。」


唾を飲み込む。



「あー、まぁ俺の口から説明するよりコッチのが早いな。」

チョ…、溜めるだけ溜めてそれは…。
緊張が瞬時に崩れる。

小島司令が手にするはビデオテープ。
かなり前時代的な遺産が出てきたな、オイ。

小島司令が卓上のテレビをこっちに向け、下にあるであろうビデオデッキをいじり始める。

…なんで司令室にビデオ?

「よし、見たまえ。」


テレビがパッとつく。

『ふたりはプ・リ・キュア♪プ・リ~♪♪』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

司令、
ないよ、ソレは…。

タイミング的にも、年齢的にも…。

後ろにいる有田中佐から超殺気が向けられている気がする。
司令と彼女の間にいる俺は気まずいというか、背中が痛い。


「ほ…ホラ!今のはサ…その、アレだよ。
友達に頼まれてたヤツなんだって!あとで渡すつもりだったんだって!」

・・・。
言い訳までガキくせぇ…。

どこのアタマもこんなバカばっかなのか?
大ジョブなのか?自衛軍…。


「ん、コホン。
あー、まぁ俺の口から説明するよりコッチのが早いな!」

だが、立ち直りの早さはやはり凄まじい、
堂々と、さっきと同じセリフでやり過ごそうとしている。

「これを見たまえ。」

やはり歴戦の猛者だ(俺たち)、あれほどのことがあってもほとんど動じない。
持つべきものは無能な上司か?
や、それはないな…。





「……我々西日本自衛軍は、我らに与せぬ全ての自衛軍に対し宣戦を布告する!」

一時停止を指す2本の縦線が画面に映る。

は?

「エ?」


今度ばかりは動じずにはいられない。

「そういうことだ、・・・続けても、いいかな?」

「は、い。」

深呼吸を挟んで俺は答える。
周りの奴らもまだ飲み込めていないようだ。

「夢のようだがクーデターだ。
既に各地の官邸、自衛軍基地が攻撃を受けている。
首謀と思われるこの男は佐世保の司令、前田靖。
軍事だけじゃなく、政治手腕もキテる奴だそうだ。政治家も何人かあっち側に行ったって情報もある。」


…。


「まだ現実味が湧かないか。
貴様らとて数時間前に戦っただろう?我が国の国旗をペイントした機体と。
お前らが思っていた以上に日本は不安定だったんだよ、経済も、軍事も…。」

「し、しかし!
政権を軍に戻して何をするつもりなんですか?」

知るかよ、というしぐさで小島司令が続ける。

「もともと奴は今の政治に不満を持っていた、それは知っていたし、この世界じゃ有名だった、だがな、ここまでやるバカだとは思わなかったぜ。
って、おうおう、そんなに心配そうな顔するな。
今、政府側が安保理に助けを求めている。それさえうまくいけばこの騒ぎもおさまってくる。ま、貴様らは、今日は休め。」

「しかし、彼の部下たちはなぜ従うんです!?」

おかしい、そんな危険な男の指示に従うような奴らが自衛軍に?

「ああ、お前は知らなかったか、ここ数年、妙に人事が騒がしかったんだ。
理由もきちんとした内容だったし、そんなだから気にも留めていなかったんだが…。」

こうなっちまった、とお手上げのポーズを取る。

「今頃奴の周りはシンパだらけだろうよ。」

そんな…。

「もういい、休め。」

はい…。


「宿舎までお連れします。」

丁寧な士官が再び、道を示してくれる。





~宿舎~

「それじゃ、マコト。わたしはあっちの個室だから。」

桐栄さんが軽く手を振って遠ざかっていく。

ちっ、女はいいよな、個室あてがわれてよ。

ん…?
いま、名前を?
気のせいか。




って?
アレは有田中佐?

桐栄さんと別れ、自分の部屋の前に立った時、向こうを歩く中佐が見えた。
俺の部屋の向かいの方、屋外へと続く道だ。

あと、つけてみるか…。

コンクリ製の床が乾いた音を廊下に漏らす。

確か…ここ。

有田中佐が出ていったと思しきドアから出る。

「篠田君か?」

っ、いきなりばれた…、結構静かに出たつもりだったんだが…。

「いつから…気付いていました?」

「廊下で私を追い始めた時からだ。」


…俺、探偵的な稼業は向いてないのか。

「で?私に何か言うことでもあるのか?」

ありません、と答える。
事実、何となくついてきただけだし…。

「そうか、ならいい、安心したよ。」

「そういえば、所長は…?」

彼女の顔を見て、ふと思い出す。
あのどうしようもない所長、彼女は常に彼の傍にいたはずなのに…。

有田さんが深くため息をつく。

「言うことはないんじゃなかったのかい?安心した矢先にこれか…。」

夜の外灯が彼女の顔に、深い、影を作りだす。
短く、肩で切りそろえた髪が風に揺れる。

「篠田君、沼津での、あれだけの奇襲で、コントロールルームが攻撃を受けなかったと思うのかい?」

かすかに声が震える。

「思いません。」

「では、そういうことだ。」

うつむきながら傍の手すりに寄りかかる。
彼女は再び、深いため息をつき、空を見上げる。
濁り、星すら見えない空を、飽きもせず眺めつづけている。


「好き…だったんですか?」

俺はただ、立ちつくしながら、聞いてしまった、力になってあげたかった、ただそれだけだ。

「嫌いじゃなかったさ、でもね、好きでもなかった…。
あのまま日が経てば好きになったんだろうけれど……ね、もう、この気持ちが進むことも、退がる事もないの。
ねぇ、私は…どうすればいいのかな?」

頬を一筋の光が伝う。



涙交じりに語る有田忍さんを前に、俺はどうしようもなかった。

まさかここまでうち明けてくるとは……。
思ったよりもハードな地雷を踏んじまったようだ。

虫の声が、しばし空白の時間を埋めてくれる。
物悲しいBGMを俺たちはただ聴いていた。



「有田さん、これを…。」

思い出したように、俺はポケットに突っ込んで忘れていた、アレを取りだす。

「それは…」

そう、白のキングの十字架…。
かなり小さい、爪の先くらいのソレだけれど、彼女の所長の思い出、それは溢れるように残っていることだろう。

「あ、あああああぁぁぁぁぁあ……!」

駒の破片を受け取り、崩れ落ちる忍…。
俺には彼女を抱いてやることも、慰めてやることもできない。

「忍さん…夜は冷えますから、早めに中に入って下さいね。」

来ていたジャンパーを忍さんにかける。

俺は、過ちを犯したかもしれない、彼女の心を、所長につなぎとめてしまった…。



ドアの軋む音が、いつもより大きく聞こえた。





今日の自分のねぐら、
そこへ繋がるドアを開く。

「お、どうだった?状況は…ってすげぇ顔だな、鏡見るか?」

相も変わらず第2小隊の雰囲気は軽い。
やっぱ俺たちゃ相部屋か。

差し出された鏡をのぞき見る。
確かにひどいわ、ヘリ内で見た誰よりも…。

「まぁこれで顔ふきなよ。」

弁当とかによく付いてくる個別包装のおしぼり。
雄、いつも持ち歩いてんのか。ババくせーよ…。


「んじゃまぁ、報告してもらいまひょか。」

手にしたゲーム機を放りだし、ベットから健が身を乗り出す。

「ああ、そのことなんだがな……。」

さっき司令室であった話をそのままする。
皆、思ったよりは驚かなかったようだ、ついさっきあれだけドンパチしたからだろうか。
ただ単純な奴らだからか…。
驚きよりも、そうか、という認知の度合いが強かった。

「で?これから俺らはどうすりゃいいんだ?」

「わからないな。
一応ここにもWL部隊はあるみたいだし、俺とリュウのは沼津に置いて来ちまってて(俺のは壊れたがな)部隊行動が取れないし、東日本各地の連携が取れるようになるまでは、出る幕ないかもな。」

ヘタに「僕らも戦いますぅ」的なことをすればかえって混乱を招きかねない。
どこの誰?お前…、みたいにさ。
ここは大人しく待機するのが吉だろう。

何かあれば司令の方から連絡が来るはず。

「で?わたしはどうすればいいのかな?」

…。

「で?なんでお前がココにいる?」

2段になったベットの上にツインテールのヤツがいた。
気付かなかったぞ、どんだけ溶け込んでるんだ…。

「えー、だってぇ~、お部屋いてもヒマだし~。」

PGPしながら、こっちに向けた足をぱたぱたさせる。
このぼりぼり食う音はポテチか?

「ここは男の相部屋だ、一応女なんだし、自覚もってくれよ…。」

「いいんじゃねーの?
遊びに来てるだけだし、それにコイツ、モンパン強いぜ、お前もやるか?」

布団の上に放ったPGPを拾い、再びピコピコ始める。
図太いというかなんというか、こいつ(健限定)神経使ったことあるんかいな。

「あのな、今日はそれどころじゃねーだろ、もう寝ねーと明日からつらいぞ。」

モンパン、モンスターパンターの略。
目的のモンスターを自分だけの戦車で倒す、新感覚ゲーム…。
倒した敵の素材で装甲厚、砲塔、動力、ペイントなどのカスタマイズを行っていく。
パッケージには、二次大戦で名を馳せたパンター戦車がアップになっている。
前作はどっかの県民と同じ数だけ売れたとかで大騒ぎしてたな。

俺もつい先日中古で買って結構楽しんだ。
まぁ楽しいけど、今はちょっとね、そんな気分じゃないかな。

「だって~、眠くないモン。眠れないモン!」

「あのな、お前も明日から忙しくなるんじゃないのか?外交官なんだろ?」

そう言って諭そうとすると、
真奈美はもぞもぞと布団の上で旋回し、こちらに顔を向ける。
めっさふくれっ面しとる…。

「私、職場戻りたくないなぁ。」



「だって~、今回の件で私、絶対なにか言われるモン。」



「なにか…とは?」

真奈美がちょっと、困った顔をする。

「まぁ、お兄ちゃんたちは信用できるから言っちゃうけどサ、私ってユシア相手がメインだったじゃない?」

あー、そうね。
そういやそんな話あったな。

「つい先日ね、その前田靖少将とユシアとの軍事的な繋がりを見つけちゃったのよ。」

はい?

「え?ってことは西自衛軍はユシアの支援を受けてるのか?」

「まぁ、そうなっちゃうわね。」

最早どう反応していいのかもわからない。
自衛軍による離反、沼津の陥落、おまけに他国家まで介入…。

「それは上に報告したのか?」

「したわよ!これでも仕事はきちんとしてるのよ!?証拠の書類も含めて全部、ね。
でもなきゃ休暇なんて取らないわよ。」

手にしたゲーム機から視線をこちらに向け、激しい口調で話す真奈美。
自分のした仕事への絶対的な自信がそうさせているのか。

「むぅ、ってなると…真奈美ちゃんが休み取ったのが一昨日、
その前には前田って奴のやることはばれてたわけだ、それなのにフツ―にクーデター起きてるってなると…」

「ま、嶋野の上司があっち側だったってことだな。」

本をアイマスク代わりにしていたリュウが〆る。
さっきから黙ってたからてっきり寝てたかと思ったぜ。

「そう、なるわ。
多分、証拠が詰まった私の事務所も、パソコンも押さえられているでしょうね。」

そうか、それであの暗殺騒ぎか。
証拠は握りつぶせば何とかなる、あとは口封じで…ってことだな。
暗殺が失敗したからクーデターの開始を早めた、そういうことなのかもしれない。

「どうする真奈美ちゃん、司令に報告に行くか?。」

・・・
彼女は黙っている。

自分が生きていると分かればまた、命を狙われかねないからだろう。


「わかった、行方不明者のリストに真奈美ちゃんの名前を入れておこう。」


「ホント!?ほんとにホント?」

っ!!
真奈美ちゃんがベットの上から飛びかかってくる。

いくら相手が小さいとはいえ態勢が悪かった、腰に鈍い痛みが走り、頬から冷や汗が垂れる。

「モヤシ…正気か?ヘタすりゃ戸籍が…。」

心配そうに雄が話しかけてくる。
結構慎重な奴だ。

「そのための行方不明だろ?
最終的に病院かなんかで意識不明でしたって診断書もらえば問題なしだ。
行方不明ってなってる奴をあえて探し出して殺そうとするやつはいないだろうしな。」

そういうもんか、と言う雄に
そういうもんだ、と俺は答えた。

大学生のころはしょっちゅうつてのある医師に偽造してもらったもんだ…。
おかげで出席してなくても考慮してもらえたし。

とと、こら関係ないな…。


「大好きだよぉ!まことぉ!!」

改めて真奈美ちゃんにはぐはぐされる(噛まれたんじゃないよ。




そして空気読め的にここのドアが開く。

「マコト?話したいことがあるんだが…いいか…な……って……。」

・・・

状況確認(俺脳内)

俺の首に手をまわした嶋野真奈美。
ドアを開けた嶋野桐栄。
ドアまで約1.5m、
窓まで2~3m、

逃げ場…なし。

浮き上がる血管。

憐れむ仲間。


俺、終了・・…。

状況確認終わり(約0.5秒)

「マコトおぉぉぉぉぉぉぉ!」

あ、超デジャビュ…。
この前の戦慄が身体を襲う。



「あ、篠田君ちょっといいかな?」

室内のテレビカメラが明るく光る。

殺害現場の瞬間を見せるわけにはいかないのか、桐栄さんの拳が止まる。

とりあえず命拾いした、と考えてよさそうだ。

「あー、お取り込み中かな?」

全然、と手を振って答える。
我ながらちとオーバー過ぎたかもしれん(アクションが。

「それならいいんだが、ちと用事がある。今迎えを寄越したからそいつのあとについてってくれ。」

「了解です。」

いきなりですか、1日くらい空くかと思っていたんだが…、というか眠いんだが…。
タイミングを見計らったようにさっきの若い士官がやってきた。

「はいはい、今行くよ。」

「おっと、そうそう、小野田健太、嶋野桐栄 両名は司令室まで来てね、至急だよ?」

小さくせき込むように健が、桐栄さんがモニターを見る。

「や、悪くない話だから。そんな渋い顔しないで。」

モニターの中の小島司令が大きく笑う。

「では、篠田まことさん、こちらへ。」

「あいよ。
いいな?お前ら、早く寝とけよ?」

念のためリュウ達に釘を刺しておく。
リュウは規則正しく生活できるんだが…他のバカ(主に健)がフリーダム過ぎるからな、
また処罰されないように気を付けて騒いで欲しいもんだ、とばっちりは俺に来るんだから。

俺は前を歩く士官のあとについていく。

いったい、何の用なんだろ…。





~司令室~

「うむ、来てもらったのは他でもない。」

きちんと敬礼をするおれ、桐栄を前に小島孝は敬礼で返す。
なんだっておれがこんなとこに…。

「キミらの任務はこれだ。」

小島司令から差し出されたモノを見る。
かなりの数のチケット。

「はい?」

「や、コレが任務。」

「司令、銭湯の貸し切りチケットにしか見えないのですが…。」

横で渋い顔をした桐栄さんが発言する。
普段は見られない彼女の顔に、ちょっちドキドキするおれ。

「うん、どう見ても銭湯のチケットだね。
これはね、私からの労いだよ、労い。
君らよく沼津の職員をアレだけ救出できたって感心してるのよ、わたしゃ。」

はぁ、そうですか、としか答えなかった。

「それで、そのチケット…ですか。」

「そおです、ウルフ小隊、アルファ小隊、ブラボー小隊、それに有田君たち職員数人の分。
結構手配大変だったんだから、汗流して、明日十分休んでくれ。」

「基地防衛の人手は足りているのでしょうか?」

「あーあー、その点は心配いらん、敵の動きからしてもしばらくはココを攻めたりはしてこないさ。
私の苦労を無駄にしないようにしてくれよ?」

そこまで言われたら受け取らないわけにもいかないだろな、それに、明日まで休めるたぁいい感じだ。
いきなり基地防衛戦に駆り出されないで済むんだから。


「了解いたしました、ありがたく頂戴いたします。
ただ、緊急の際には私たちにもお知らせください、我ら沼津の者も戦います。」

えー、そこは嘘でも休みたいでーすって言おうよ。

「わかった、んじゃ、作戦開始だ。行って疲れ落としてこい!」

はっ

そう言って桐栄さんが部屋から退出する。
んじゃ、俺も…。
男どもの分のチケットを持って出ようとする……と、

「健太君、ちょっといいかな?」

呼びとめられる。

とりあえず残る。

「君にもう一つの任務だ。それも、極秘の…。」

唾を飲み込む音が頭に響く。

「これを渡せば全てわかってくれると思う。」


差し出されたモノに目をやる。

こ、これは…

「こ、高性能小型カメラ!!」


司令と目を合わせる。

「内訳は?」

「全 員 分だ、出来によって報酬を上乗せしよう。」

再び司令と目を合わせる。
最早語ることはあるまい、司令からの贈り物を受け取る。


おれは司令室をあとにした。

おれの、おれの戦場へ向かうために…。

あの司令とは馬が合いそうな気がする。







~総督部地下~

若い士官が厳重なセキュリティをひとつひとつ開けていく。

「はい、ここですよ、まことさん。」

案内されるがままに地下の一室に入る。

「ここは?」

暗かった室内に明かりがともる。
4台のコクピットが並んでいる、バーチャルシュミレーター用のヤツか。

「あなたの戦闘データ、見せてもらいました。
突然でなんですが、あなたをテストパイロットとして当基地で雇用したいのです。」

彼が手にしたデータチップ、アレはおれの多摩型の…。

どうやら受けなきゃならないみたいだな…。
コレだけのセキュリティのところに足を踏み入れちまったんだ、断ってしまえば、ただでは帰してくれないだろう。

促されるままに一台のシュミレーターに入る。

「引き受けてくれてありがとう、自己紹介がまだだったね。僕は加藤学、中尉だ、よろしくね。」

よく言う…。

「俺は篠田まこと、少尉(予定)だ。」


にしても、このコクピット、金をかけているのがわかる。
こういうシュミレーターは実機と同じ造りをしているもんだが…、ここまで装備が整っている機体、コストがかかり過ぎないか?

「まこと君、いいかい?さっそくシュミレーションを始めるよ。」

加藤少尉の声と共に、シュミレーター内のモニターに映像が映し出される。

「?このWLJ-004(AN)ってなんぞ?」

起動時に映し出される文字列、

「ああ、それはその実験機の型番ですよ、WLなんたらっていう型番は多摩型にもあったでしょ?」

そういや、そうだったっけ。
ずっと多摩たま呼んでたからな、そんなモンすっ飛んでたぜ…。


「いくよ、任務は簡単、敵機を全て撃破すればいい。」

READY?

指を操縦桿に食い込ませる、慣れない機体でどこまでやれるのか。
だが、シュミレーターならそうそう酔いは来ないからな、なんとかなるだろう。

「見せてくれ、君の力を…。」

GO!!

状況は市街戦、昼、上空より侵入した敵WLの撃破。
仮想敵機は「清-08式」、華国の機体なのだが、いいのか?勝手に敵扱いして…。

まぁいいか、

音響、その他のセンサーで敵の位置を確認しつつ機体を滑らせる。
若干ノイズが大きいが、なんとか識別できる。
だが…この上下への揺れはどうにかならんもんかな、完璧に再現されている…うっぷ……。
並行して自機の兵装を確認。


「…嘘だろ?」


パネルに表示された武装は2つ、そのどちらもが俺を動揺させた。

ライトアーム…レールガン
レフトアーム…レーザーブレード。

実用化されていたのか、レーザー兵器が…。
てっきり実態弾系の武器がすべてだと思っていたが、あるじゃないか…ビー○サーベル。

こんな大電力を消費する兵装をWLに積みこむなんて…、一瞬で電力を吸い取られるんじゃねぇのか?


あ……そうでもないのか。
レールガンもレーザーブレードも、電力供給はバッテリーパック形式だ。

マガジン形式のバッテリーだけでコレが撃てるとは、驚異的だ…。

とはいえ、どちらも長期戦には向かない装備だな。



コクピット内に警報が鳴る。
捕捉されたようだ、後方からの攻撃が至近距離に着弾する。
アサルトライフルのようだ。

「やってみるか!」

機体を振り返らせ、照準をつける。
敵機の主兵装はまだ有効射程内ではないはずだ、なのに撃ってくる
…所詮はバーチャル、か…。


レールガンへの電力チャージが完了する。
思ったよりも早い。
砲身からが青白い光が漏れだしている。


右手の動きと連動して、モニターが一瞬青白く染まる。
昼、という設定なのになんて明るさ…。

光が直進し、

敵の脚部へ命中する、

破壊した敵機がうつ伏せに倒れ、脚部から黒煙を上げ始める。

無駄にリアルに作り込んである、まるで現実だ、これは…。
無論武装による爆発、土煙等も完全に作りこまれている。
ゆえに実戦同様の戦術が使えるみたいだ、何回かシュミレーターに乗ったことはあったが、これだけのモノは初めてだ。

レールガン下部からバッテリーパックが排出される、1発あたり1パック使うのか…。
残りのパックは両肩シールド裏に各2、腰部アーマーに2個。

レールガン自体の弾倉も残り6発。

今の戦闘で他の奴らが寄ってくるなこりゃ、
腰部のパックをレールガンへ装着し、機体を移動させる。

すごくなめらかなで、静かな挙動が、俺の酔いにやさしい…。




~せんとう前~

「ここか、その銭湯とやらは。」

おれは件のカメラを胸に銭湯の戸の前に立つ。

「わ~い♪お姉さまとお風呂~♪」

モヤシの言ったように行方不明者リストに名前が載った嶋野(小)だが、堂々と外に出てきた。
ペットの鳩まで一緒とは…。
幼女は射程外なんだが、まぁニーズはあるだろう。

「じゃあ行くか。」

リュウが戸を開け、中に消えていく。
続いて真田、雄、有田秘書官、ウルフ小隊の面々が続く。

おれは戸の脇に立って皆を先に入れる。
レディーファーストってヤツかな?若干男どもも先行ったが…。

「すまんな小野田。」

「さんきゅ~♪」

嶋野姉妹が通る。
これで終わり、おれも中に入るべ。

「いらっしゃいませ、横須賀の方々ですね、話は聞いております、ごゆっくりどうぞ。」

さあさぁ、と老・経営者に指し示されるままに男湯の方へと向かう。
女湯へ行くには番頭の婆さんの前を通る必要があるな…。

正面突破はやはり無理そう。

「じいちゃんたち!あたしのトーコ、預かっといてね!」

「おお?ひよっこ共のお出ましか!遅かったなぁ!!」

「んが?」

鬼軍曹に三崎整備長…既に出来上がってやがる…。
そいつらに自分の鳩を預けるとは、中々度胸があるじゃないの。

ってか風呂にも入らず休憩所で酒盛りをしているのか。

真奈美ちゃんにとっては愛するペットの預り所と化しているが…。
まぁさして邪魔にはならないだろう、どうせずっと酒飲んでるんだろうし。



男湯ののれんをくぐり、
更衣室の木製ロッカーに衣類を脱いで放り込む。
無論たたみなんてしない。

大事なカメラ、でかいバックパック(防水密閉式)を両手に湯への道を開ける。

ここの銭湯については来る前に調べ済みだ。

まずは屋内の湯、大して広くない湯船に、やや広めの流し場、一枚の壁を挟んで女湯がある。

一歩一歩タイルを踏みしめる。

そしてあの奥の戸、アレが露天への入り口だ…。
ここの目玉、周りの私有林の真ん中に位置する大露天岩風呂。

私有林の周りは高い塀で囲まれているが、隣接する男湯・女湯から私有林へは低い柵しかない。ちなみにこの露天、広いうえにいびつな形の湯船、更にあちこちに岩が入っている。
さらにさらに!!
今は真夜中、暗いうえに、夏とはいえ気温もそれほど高すぎはしない。
つまり、湯気でもカムフラ出来るんだよ、これが…。


正面が無理でも裏からの突破なら不可能ではない!!(クワッ



とはいえ、ここの名物は露天、女性陣も速攻で外へ出ていることだろう。
いくら湯煙があるからといっても見つかりかねん。(ショボーン



とりあえず勇者たちを集める必要があるだろう、団結しておけば色々役に立つ。

まずは……

「おい!雄!!ちょっといいか?」

湯煙で真っ白な中、雄二の姿を見つける、まずは親友を引きこんでおくべきだろう。
ウブなわりにムッツリだから大ジョブなハズ。

「これから女湯へ行く、仲間になれ。」

は?という顔を浮かべる雄。

「ええ?覗くの?」

「バカ!覗かネーよ!撮るんだよ!!」

手にしたカメラを見せびらかす。

「でもさ…。」

なかなかしぶといな、
むぅ、致し方ない、こうなれば…。

「いいか、雄、耳をすませろ。いいから!!」

騒ぐ雄を押さえつけ、無理やり女湯側の壁に押し当てる。
向こう側は花園、そうじゃない会話もそれらしく聞こえるはずだ、そうなりゃこっち側の人間にできる。


・・・
・・・・・・
…・・………・…………・・・・・・・。

「どうだ、これでもまだ行かないか?」

…?

「雄?」

水音が…?
赤い水が雄の鼻からおかしいくらいに漏れだしている。

視界の一部が赤くにじむ。

雄ぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーー!!!

「おいっ!雄!?
ちょ、そこのアンタ!運ぶの手伝ってくれ!」

たしかウルフ小隊唯一の男パイロット…名前は知らないけど、助けを借りることにした。


とりあえずカメラとバックパックを近くに置く。

俺が頭、奴に足を持ってもらい、更衣室へ出る。


「おーい!ばあちゃん!!氷嚢とか、持ってきてくれー!」

さっきの番頭していた婆さんに色々と物資を要請した。
その間ウルフの彼は雄の尾翼を押たりして止血してくれていた。

「健太だっけ?お前の連れどうしたよ?まだ湯に浸かってねぇんだろ?」

「あーあー、まぁ気にしないでくれ、コイツムッツリだからサ。」

「ムッツリか!ははは、鼻血吹くなら実物拝んでからにするんだな!」

だろ?
と下らないことで場が盛り上がる。

「はいはい、この方の手当ては私に任せなさい、せっかく銭湯来たんだ、満喫しとくれよ。」

よっしゃ、とウルフの彼が立ちあがる。

「んじゃ、任せましたよ。」

おれも、満喫しなくちゃな!




残念だが、雄はもう戦えないだろう。
リュウや真田は堅物だし、あとはコイツに賭けるしか……。

そう思い、彼をじっと見つめる。



「!、俺も行くぜ!!」

まだ何も言っていないのに…。
コイツ…やるな!

「白井良一だ。」

「おれは小野田健太。」

おれと彼は改めて中へと入っていく。固く握った俺たちの拳がその決意を表していると言っても過言ではない。






~総督部地下~

4台並ぶシュミレーターのうち、手前の一つが激しく稼働する。

なるほど、ね。
僕はシュミレーター横でパネルを見ている。
中々、まこと君は才能あるみたいだ、初めて扱う機体にクセのある兵装を使っているのに
人並み以上に戦えている。


シュミレーターのライブモニターが青白い光で包まれる。
今ので3機目か。



ん……?

だが、その割にスコアが伸びない。
アレだけ正確に敵機を撃破しているのだからもっと高いスコアが出てもおかしくはないのに…。

パネルを操作し、撃破した機体の詳細を表示する。

「なるほど…ね。」

全ての被弾個所が脚部に集中している、それも一番脆いヒザ関節。
このシュミレーションにおいては敵機の完全な撃破が高得点につながる。
彼の戦い方では低いスコアになるのもいたしかたないか…。

「これでは選べないな。」

何人かの候補パイロットから実機訓練をする者を決めるつもりだったのだが…、これでは比べられない。


「まこと君?これから別のシュミレーションを開始する。少し待ってくれ。」

まことの入ったシュミレーターと、隣のヤツとをリンクさせる。

あとは僕が入るだけ、
パネルでデータの回収ができていることを確認して、急ぎ隣のシュミレーターへと入る。


飛びこむようにシートに座り、シートベルトをつける。

パネルを叩き、設定を始める。

使う機体は…北秋型でいいな。
まこと君からもらったチップを元に作った北秋型のデータ、シュミレーターのシートの造りとは異なるが、使ってみたい。

僕に実機は使えないが、シュミレーターなら十分にいける。

「待たせたね、今度の敵は1機、そいつを破壊すればシュミレーション終了だ。」

「わかった、やってみるよ。」

まこと君は気付いていないようだ、これが僕とのサシだということに。

READY?

毎度の文句がモニターに表示される。


GO!

始まる、
フィールドはさっきと同じ市街地、僕の使う武装は11式突撃銃を2丁。
加えて両腕甲にブレードソードを装備している。

あわせてかなりの重量になるが、障害物も多いし、この機体の機動力は高い、特に問題ないだろう。

射程は向こうに分がある、速やかに接近する必要があるな…。

機体を滑走させ、まこと機の方へと接近していく。

「それに…その機体の弱点はわかっている!」

彼の使う機体、WL-004(AN)は東日本で、空自・海自が共同で開発した新鋭機。
空・海での広域戦闘を想定してセンサー類の感度が、デフォルトで引き上げられている。

その耳の良さが命取りだ…。

脇の計器をいじくり、バックパックの射出口を開ける。

次にいかにもスイッチ、な音をたたせて指を弾く。

北秋型からチャフ・フレア弾頭が上空に放り出される。
多摩、日原、北秋型はそれぞれ同型のバックパックをしょっており、そこに色々便利な物が詰まっているのだ、
この射出時の、ワイン栓を抜いた時のような音がたまらなく好き。

暇があってはシュミレーターで遊んでしまう。(イケナイんだけどね…


そうこうしているうちに小さな破裂音が戦場に花咲く。
辺りが金属片やら熱源やらでいっぱいになる。
こちらのセンサーもオジャンだが、有視界戦闘なら自信がある。

それに、向こうのセンサーはこっちとは比べられない程酷くなっているはずだ。
無論機体のセンサー感度を落とせば対処できるだろうが、初めて使う機体ではそれもできまい。


「耳が聞こえない中どう戦うのか、見物だよ。」


機体がセンサーの闇に溶け込んでゆく…。






~せんとう開始~



「いいか、作戦を説明する。」

おれの言葉に白井が頷く。
とりあえず身体をあっためるために露天に入りながら議論することにした。
テンションも俄然あがってくる。

「いいか、目標は露天に集中している、
今音紋照合(盗み聞き)したところ身体を洗っているウルフ2、つまり赤嶺由真以外が集結している。」

ふむふむ、と相づちを続けている。

「唯一有田忍中佐の居場所が判明しないが…かねてからの予定どうり、まずは目標の注意を入り口側にそらそうと思う。」

「なるほど、で?策は?」

フフン、と鼻を鳴らす。
余裕こそが成し得る所業だろう。

露天のドアに影が映る…。

頃あいだ。

「そこはもう考え済みだ!
銭湯になくてはならぬ必須アイテム!そしてなおかつ万人の心を掴んで離さないアルティメットアイテム!!」

正義のヒーロー的な決めポーズを決める、身体が火照ってテンションゲージが振り切りつつあるようだ。



「さぁさ!牛乳は要らんかね?有料だけどさ!」

曇りガラスのドアがスライドされ、牛乳瓶を入れたトレーを両手に、婆さんが入ってくる。


「おう!!おばちゃん俺フルーツ牛乳ね!」

「あいよ!」

近くまで寄ってきた婆さんがトレーから黄色い包装をされた瓶を取りだす。
そう、これぞマジックアイテム。


「そっちはなんにするね?」

「俺?俺は…フツーの牛乳かな?」

外しにくい紙蓋を爪ではがし取り、一気飲みをする。

…っ・・・っ…っ・・・っ…かーーーーーーー!

まったりとした甘さがたまらない。
この世にこれだけ人を満足させるアイテムがあるだろうか。(反語


「ばあちゃん、コレ女どもにもあげてやってくれねーか?俺の奢りって言ってやってくれ!」

コレが止めだ…。

「あいよ。あっちの旦那達にもやってから行くからね、ちっと待ってぇな。」

そう言って婆さんはリュウ・真田の方へと歩き出す。
奴はコーヒー牛乳派…だったっけか?

空いた牛乳瓶をタイルの上に置く、コトリと音をたてるのがまたいい。
風呂場の中で飲む牛乳は格別だナァ。

「なるほどね、アレがリーサルウェポンってか?」

ちびりちびりと飲む白井が感心したように話しかけてくる。

我が戦略に一点の曇りなし…。

「ってか、よく先にこっち来るってわかったな、女湯に行った後だったら無理だったんじゃねーか?」


ふふふ、

「ばかめ、婆ちゃんってのは男の子を可愛がるモンなんだよ!番頭がどんな奴かも予習済みさ。」

ほへー、としきりに感心し続ける白井良一を横目に、ちょっと得意げになる。


「あとは婆さんが向こう行ったのを確認して突撃すればいい。」

「だな!」


しかし、湯…ったけぇ…。
これは、いいものダァ……。

もやもやっとした湯けむりが夢心地に拍車をかけてくる。




「それじゃ、女湯の方にも行ってくるよ!」

リュウにも売り終わったらしく、いそいそとドアの方へと向かう番頭の婆さん。

「おうよ。」

「覚悟しときなよ?私の見立てだと、あの女性陣は飲むよ?」

どんとこいだぜ、
それ以上のモンを見せてもらうわけだから安いもんだ。
カメラ等の機器は露天の奥に隠してある、このもやでは発見される心配もない。


腰の曲がりかけた婆さんがドアの向こうに消え、影も見えなくなる。


……。

急に帰ってくる心配もなさそう。


「出撃るぞ!」

「ああ!!」

漢には進まねばならぬときがある。
ややもすれば死ぬかもしれん作戦でも、そこに桃源郷が存在するのであれば…。

おれと白井は、湯水をかき分けながら露天奥へと歩を進める。






~総督部地下~

「敵の機種は…?」

新たな追加シュミレーションが開始されて数分が経過する。
敵機の種類もわからない。

音響センサーは街の喧騒で、あちこちから反応が出てきている。
モニターのあちこちに通常車両、走って逃げようとする民間人が表示されている。

「なにもこんなところまで作り込まなくってもさ!!」

もしも流れ弾が当たったら、と思うとぞっとする。そこまで作りこまれていないことを切に願うが…。

この時点でアテになるのは磁気と熱量センサーなのだが…どっちも自動車とかのノイズが入る。

わかりにくい…。


めっちゃ不利じゃねーか?コレ…。


!!?


上空で爆発?

同時に全ての索敵装備が使えなくなる。どこもノイズで完全に埋まってしまった。

チャフに、フレアか!?

っ…、
忌々しく歯を噛み合わせる。


今度の敵はさっきのバーチャルとは違う!
ココまで徹底的にこっちのセンサーを狂わせにくるとは…。

汗で操縦桿が滑る、

が、そんなこともお構いなしにモニターを食い入るように見つめる。
機体の頭部が左右に振られ、情報をモニターに映し続ける。


どこから来る?

普通に考えるなら背後から…、だがその裏をかく、ということも考えられる。

しかもこっちのメインアームは連射が効かない、
仕留めるなら一瞬で仕留めねばこっちがやられるだろう…。

「なら!」


フットペダルを深く踏み込む。

多摩型とは比べ物にならない推力がスカイブルーの機体を持ち上げる。

上空ならこちらも敵を見つけやすい、既に捕捉されているからこそできる選択だった。




地面の一点が激しく光る。



「見つけた!!」

こちらの突然の挙動に焦って発砲したのか、二筋の火線がこちらに伸びてくる。

上空にいれば下が被害を受けることもない。

…所詮はシュミレーションなのに、もうクセだな。

機体を削る乾いた音が響くが、大したダメージは受けていない、
肩部シールドにあたったようだ…。


足の動きが激しさを増し、空中での機動が素早くなるにつれ、機体背部の2枚のウイングバインダーがオートで展開する。
上空での姿勢制御をサポートしているようだ、いつか多摩型で大ジャンプをした時とは大違いの安定性能。




充填済みのレールガンを敵機に向ける、



最大出力で射出された実体弾がにもないアスファルトを大きくえぐり土煙をたてる。、


「外した!?」

こちらが撃つよりも早く建物に隠れた、
思ったよりも素早い…、本当に北秋型か?


ノズルの温度上昇を示すサインがパネルに点滅する、
そういつまでも滞空してはいられないか…。

目を下方カメラに移す。

……!

すぐ近くに空き地がある、

一旦休ませよう…、
この機体、かなり余裕のあるスラスターを持っているようだが、やはり長時間の連続噴射では熱が籠ってしまうようだ。


大きな地響きが土煙を巻き起こす。

3辺をビルで囲まれた空き地、ここなら守りやすいだろう。
それぞれの窓には若干ながら人影が見え隠れする。

先ほどカラになったパックを排出、新たに装着する。
残弾は残り3発、

相も変わらずセンサー類は騒がしい、本命の影すら見えない。


「まだか?」

どれだけ時間が経っただろうか、たった数秒が永遠の時に感じられる。


!?

装甲をなでる瓦礫の音…。





影…?
自機の影が急に大きく、いびつになる。




これは…!?


「上か!!」

背後のビルの上から!

落ちつけよ、状況は…、
確実に仕留める気なら、敵はブレードで近接戦を挑んでくるはずだ。


操縦桿を全力でひねり、全速で振り向かせる、

親指を、武器と連動したスイッチに当て、レーザーブレードを振り向きざまに薙ぎ払う。

瞬間火力を最重視されている兵装ゆえに長時間の使用はできない、が、一瞬であるあらば、


「負けはしない!!」

ブレード発振器から形成されたレーザーが空を斬り裂く。


一瞬だった…。

どうなったかはもう詳しくはわからない、無我夢中だったんだ。

ただ、切り落とされた敵機のブレードが遠くのコンクリートに突き刺さり、北秋型が道路の方向に流れていった、
そして、電力を使い切ったパックが大地に沈んだのは確かだ。



態勢を崩し、倒れ込んだ北秋型がアサルトライフルを構える。

「!!」


とっさにフットペダルを踏み込んだ……


はずが、足が動かない。
正確には動かせなかった…、今ここをどけば…後ろのビルは……。


至近距離から放たれた55ミリが雨霰のように降り注ぎ、前面装甲をはがしていく。

コクピット内が轟音に包まれる。

「しまった!!」

ダメージパネルが一気にレッドゾーンに達し、頭部が黒く塗りつぶされる。
頭部が失陥した…、それと同時にモニターのほとんどが消えてしまう。

今見えるのは肩部のサブカメラに腰部の下、後部カメラのみ…、




そうか、これはシュミレーションだった…。

…気にする必要は、ないんだった…。

瞬く間に各部位とのコネクトが途絶え、シュミレーターが停止する。
撃墜、されちゃったみたいだ…。




俺は首を横に振りながらシュミレーターから出る。
目と鼻の先にある情報収集機、入る前までそこにいた加藤中尉はそこにはいなかった。

「あれ?中尉?」

「ここですよ!」

背後から彼の声、
振り向けば彼もまたシュミレーターから出てくるところではないか。

「アレ?なんでそこに?」

「あら、気付かなかったんですか?さっきの北秋型は僕ですよ!」

ああ、
なるへ~、どおりで前の清-08とはダンチなわけだ。
人が操ってたんじゃあナァ…。

「だけど、あんなに強いんだったら中尉の方が向いてるんじゃない?テストパイロット。」

なにか照れくさそうに頭をかきはじめる加藤学。

「ふふふ、ありがと。
でもね、僕、実機になると途端に操縦できなくなるんだ。だからこいつのテストパイロットは無理なんだよ。」



「シュミレーターではいけるのに?乗り物酔いが酷いとか…?」

「さぁね、特に乗り物に弱くはないんだけど…
と言うより、乗り物に凄く弱かったらシュミレーターも無理でしょ!」

ははは、確かに…、
俺はこらえてるけどな。

「とりあえず今日は夜分遅くにありがとう、手間、かけちゃったね。貴重なデータは今後に生かさせてもらうよ。」

そういや今、夜だっけか…。
シュミレーションが真昼間だったもんだから、時間感覚が一瞬ずれちまったぜ。
夜だと自覚し始めると、急に身体が眠気を探し出してくる。

「そうそう、君の部隊員たちはこの近くの銭湯に行ってるはずだよ、まこと君も疲れ落としてきたら?」

銭湯か…大好きだけど、今は眠いんだ……。(それに財布が…

「タダだよ!」

シャキーン!!

なら話は違うな、無料ときたら行くしかねぇ、どんなに疲れていてもだ!!

差し出されたチケットを掴み、もと来た道を駆けだす。
ここのセキュリティ、出る分には身分証等は要らないようだ…。







シュミレーターの騒音もなくなり、静まり返った研究施設。

「元気だね、彼…。」

やはり彼が一番向いているかもしれない、
手にした複数の資料のうち、1枚を除いてシュレッダーにかける。

あとは司令に連絡すれば今日の仕事は終わり、僕もゆっくりしよう…。






~決戦(銭湯)~

「どうだ!?」

向こうの壁に耳を当てている白井、ヤツに状況を聞く。

「……イケルな!案の定牛乳婆に喰いついてやがる。」

よし、あとは突撃あるのみだ。

「行くぞ!油断するなよ!!」

「了解!!」

露天の岩によじ登り、裏の林とを区切る竹製の柵を乗り越える。
あとは向こうへと歩くだけだ…。

「ここが正念場だ、ぬかるなよ?」

「当たり前だぜ!」

男湯、女湯を隔てるベルリンの壁。
今まさに、それを乗り越えるのだ。(迂回して

壁の向こうを念のため確認する。

……いない、な。

よし、牛乳飲み放題が効いたようだ。
財布は寒くなるが心は熱い!

「行くぜ!!」

迅速に柵を乗り越え、音・波たてないよう静かに露天に滑り込む。

しばし、女湯に浸かる一時を味わう。

これは、一人の男にとっては小さな1歩だが、漢達にとっては偉大な飛躍である…

コレわ歴史に残るな…。



ワレ・モクヒョウ・ニ・セッキン・セリ
アト・ニ・ツヅケ…


ハンドサインを送り、柵の向こうで待機している良一に行動を促す。

そろそろ目標が露天に戻ってくるはずだ…。
バックパックから双眼鏡を取りだし、偵察する。

…、湯けむりのおかげでよく見えないか。
とはいえシルエットはわかる、

興奮に胸が高まる。

お?

おおお?

おおおおお?

タッパの小さな、しょっちゅう動く奴・出るとこ出て締まるとこ締まってる奴・あとは……、

ちっ惜しむらくは靄ではっきり見えないことだが…まぁパソコンでデータ修正すれば何とかなるだろう。

いそいそとカメラで撮影を開始する。

「で?小野田君の本命は誰だ?」

「本命?そりゃ嶋野桐栄さんに決まって………って?え??」


背後からした声、どう考えても白井良一のモノじゃあない。
双眼鏡にかろうじて見える人数は3人、となると……?

ゆっくり振り返ると、身体にタオルをビッチリ巻いた中佐が湯につかっていた。


タオル巻いて湯に浸かるのはマナー違反だお…。
てか汗がとまらない、
………。

「中佐…?なんで、ここに?」

おれは恐る恐る聞く、まだ岩の上にいる良一も口をパクパクさせている。

「いや、ただひとりで温まっていたら、君らが見えてな、中々いい作戦だ…。」

…中佐の顔が赤いぞ、キレてる!?キレてるよね!?
まずい、非常にマズイ…。

ここでバラされたら間違いなく死亡する。
ダブルバイオレンスで間違いなく片道切符が手に入っちまう!!


「わっ、わわっ!!」

高い水柱と水音をたてて、良一がお湯に落ちる。
ビビって滑りやがったか、コノヤロ……。




「…?忍さぁーん?大丈夫ですかぁ?」

聞きなれない声がする、恐らくアレがウルフ小隊員、赤嶺由真だろう、

ってマヂメに分析している暇はないじゃねーか!!
激しくせき込む良一の口を押さえ、とっさに岩陰に隠れる。


「なんでもない!少し足を滑らせただけだ!!」


??

「気をつけてくださいねー!」

「心配掛けてすまない!」

????

なんで?
有田中佐が向こうの女性陣をあしらってくれた・・・?
どゆこと?

「予め一人でいたいと彼女らには言っておいたからな、私の傍にいればバレなくて済むぞ?」

…悪魔的な笑顔で顔近づけないでください、ホント頼みますから。

「なんでですか?」

ぐったりしている良一に代わって中佐に聞く。
なにかよからぬことをたくらんでいるに違いない。(おれらのコレはよからぬことではない

「なに、ただ此処で潰すよりもいじった方が面白いと思ったからだ、気にするな。」

…、
鬼か、このおばはん…。

「どうする?私の写真でも撮るか?」

腕を頭の上で組み、悩殺(?)的なポーズをしてくる。

ぬぅぅぅぅ、思ったよりもいい体つきしてやがる…、
さっき見えた一番ムチ×2な奴よりはアレだが…オバンのくせしてなかなか…・…。
だが…負けん!おれにはおれのポリシーがある。おれは…無防備なシーンが撮りたいんだ!!


「誰が撮りますか!オバサンなんて!!」

「お、オバ…!?」

悔しさまぎれに発した一言、
まさかそれが死亡フラグだったなんて……。

(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
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(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗
(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗(汗


「あ…あの?忍中佐・・・?」

彼女の周りの湯が大きく波紋をたてる。
湿っているはずの髪が怒髪天になっている…、

ちょ、コレ…ヤバくね?



「わ、私は…私はまだ28だぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」




ありた しのぶ が あらわれた !!

コマンド

たたかう            けんた          りょーいち
どうぐ            HP 30 / 30     HP 10 / 40
▶にげる           MP 15 / 50      MP 2 / 30
どげざ             

頭の中にRPGのせんとうBGMが流れる。


「逃げるっきゃねーーーーー!!!」

完全に噴火している。

土下座なんてしたところで人生・The・Final的な感じで即終了になっちまう!
女性に年齢ネタは禁物だが…ここまでキテルとは思わんかった…、

起きた良一と共に湯をかき分け、出口へと向かう。
間には女連中がいるがもうかまやしない、突っ切って逃げないと死ぬ気がする…。

ええい、足にまとわりつく湯がわずらわしい!

「うわ!!?ケンタ!?」

「なんで!?白井が!?」

慌てふためく女性陣のど真ん中を突っ切る。

激しい水しぶきが辺りを覆う。
恥ずかしそうにタオルで隠すその様子、その反応が堪らんのだが…、

「今はそんなこと言ってられねぇぇーーーーーーーーーーー!!!!」

背後に死神が迫っているのだ、立ち止まってホンワカしている暇などない。

いかに危険な状況とはいえ、カメラだけはしっかりと握る。
白井と共にドアをぶち破り、室内の浴室になだれこむ。

女湯のドアは木製のようで、蹴破っても留め具が外れたぐらいだ、すぐ直せるだろ…。

転がるようにタイルの上を走り、滑り、駆け抜ける。

「待たんか貴様らあぁぁぁぁ!!!!」

つるつる滑るタイルと焦りが心拍を跳ね上げる。

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいって!!

確実に指一本だけでどっかの冷蔵庫粉砕できるって!!
戦闘力、桁がヤバいって!!!



やっとの思いで更衣室に飛びこむ。

まだある程度距離がある。

「良一!なんかでドアを固定しろ!!これじゃ逃げ切れん!!」

即座に白井が近くにあった清掃用のモップで、戸につっかえ棒を立てる。
この辺の反応の早さは軍ならでは、と言えるか。

「よし!これなら…」




ゲ!!

凄まじい破砕音が脱衣所に響き渡る。

砕け、飛散した木片が板打ちされた床に落ちていく、


安心したのも束の間だった、怒りに震えた彼女が徐々に姿を現す。
どうやって逃げろと…?
ためらいもなく備品破壊したぞ……。



「健太!破られた!!逃げよう!!」

「言われんでも逃げるわ!!!」


こうなったら逃げる先はただ一つ、

「外行くぞ!」

タオル一枚腰に纏っただけだが、逃げ切るにはそうするしかないだろう、男湯に逃げたところでフクロられるのがオチだ。

それに、少しでもオバンに理性が残っているのなら、女がタオル一枚で外へ飛び出す、なんてことはしない……はず。



折れ曲がった通路を駆け、のれんを抜ける。

視界のはしっこで飲んだくれているおっさんどもが妙に憎たらしい。

あと少し、たった5m…

隣で派手にこける良一。
足の裏が濡れたまま全力で走ったからだ…、足ふきマットはちゃんと踏んでおけって…。

キミの勇姿は忘れない…(ブワッ

出口までほんの少し、
背後からのプレッシャーが近づいてくる。

ほんのちょっと、あと1歩…

おれは出口に向かって飛びこむ。

床を蹴った体が宙を飛ぶ。


「小野田ぁぁぁぁぁぁ!!!」

背後からも床を蹴る大きな音が聞こえる。

止めを刺しに来たか!?なんとか逃げねば!!






「さぁて、あったま・……ってえ?」

閉まっていた戸がスライドする。

え?

向こうにいるのはモヤシ……。

「ちょ!?モヤシ!どけって!!」

「へ?」

何が起こっているのか全く読めていないモヤシ、どうすることも出来ずにただ立ち尽くしている。

恐らく、ヤツの目には飛び込んでくる2人が映っているに違いない。



ゴシャッ!!

まさに擬音どおり聞こえた鈍い音。

おれの飛びこみがモヤシにヒットした音ではないらしい。

あっ!?

右手に持ったカメラがはずみで吹っ飛ぶ。
カメラが飲んだくれの方向へ…、一瞬一瞬がスローモーに見える。


コマ送りに見える世界の中、上では足の裏を、顔面で受け止めているモヤシ。
オバン…その格好で飛び蹴りとは、やるな…。

モヤシを蹴り飛ばした反動で中佐は着地、タックルする形になったおれはモヤシと共に表の土の上に放りだされる。

もう見えないが、機械が壊れる音がする。

カメラが…(ショボーン。


「し、忍…さん、げ…元気そうで、なにより…です。」


何言ってんだ?モヤシ…。
元気過ぎて困るぐらいだっつーの!

「し、篠田!?すまない!!」

モヤシを心配して駆け寄る中佐の声も足音も、俺には死刑執行のカウントダウンにしか聞こえなかった。






任務、失敗……。










エピローグ

「なんだ?そりゃ…?」

もう何杯目になるだろうか、杯をテーブルに置き、勝男がワシに聞いてくる。

「知らん、フィルム…みたいじゃがのう。」

ついさっき足もとに転がっていた小さな円筒形の物体、カメラのフィルムのようだ。

「さっきの騒ぎと関係あるのか?」

アレだけ飲んでまだまともに会話が成り立つ、というのは驚異的なのだろうか。

「さあな、興味もないわい。」

「だな!!」

手にしたソレをそこらに投げ捨てる。
どこか狭いところにでもハマったのか、小刻みにはねかえる音が聞こえる。

「ホレ、お前も飲むか?」

小皿に熱燗をなみなみと注ぎ、もうひとり(?)の飲み仲間に差し出す。




その晩、


鳩の舌鼓(鳴き声)と2人の断末魔が銭湯に響いたという…。






 銭湯盗撮大作戦   決算

女湯露天ドア   修理費 31,200円
女湯脱衣所ドア  修理費 66,150円

牛乳代 男湯   100×4 400円
    女湯   100×42 4,200円
カメラ修理費       36,758円
            
計           138,708円也(健太、良一持ち)


         作戦失敗


         Fin




[26825] 第5話 出撃
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:e347917e
Date: 2011/08/10 23:25
※ 8/10 23:25 題名変更

プロローグ

館内放送を受け、俺は司令室のドアを開く。

第2小隊のメンツ(一部除く)、第1小隊の真田、有田中佐、それに…

それに…というか、昨日の真夜中の銭湯にいた連中ばかりだ、例外は加藤中尉と司令くらいか。
そいつらが今、司令室にいる。

「昨日は楽しかったかい?」

若干2名を欠いた俺たちを前に、ボコボコにされた顔をこちらに向ける司令。
来る前に何があったかは推して知るべし、というやつか…。




誰も返事はしない、まァ楽しかったんじゃないだろうか…、なんだかんだでバカ騒ぎできたわけだ。
小島司令なりの元気の付け方なのだろう。

視線を脇に向ける、

昨日のことが嘘のように有田中佐は凛としている。

心折れるかと思えばこうも気丈にふるまえる、
不思議だな、女ってやつは……。

「まぁ、今日はそんな話を聞かせるために集まってもらったのではない。
急な話だが…明日、佐世保へ向かってもらう…。」


!!

「どういうことです?」

そう口にしてしまうのも致し方ない、あまりにも急すぎる…。
こちらは劣勢だというのに、敵の本拠地に向かえなどと。


「昨日の国連安保理の件はどうなったのです?」

少なくとも昨日までの話ではそういうはずだった、叛乱を起こした自衛軍部隊に対し、国連の介入があればことは収束する。

そう、そのはずだった…。


「今現在も開催されているが…好ましくない、我が国…というか東日本への支援を渋る常任国があった。」

・・・
まさか…
手渡された資料に目をやる。


「ユシア、ですか?」

俺の、いや、俺たちの疑問を桐栄さんが口にする。

「それだけじゃない、華国も乗り気じゃなかった。
2大国に拒否権を使われて国連はほぼ凍結状態だ、頼みの綱のアメリゴも、アフリカ出兵でかなり疲弊した状況だ。
大統領は支援のために動いてくれているらしいが、議会の方で揉めに揉めている。
それに…第一今回の件は造反部隊とはいえどちらも日本だからな、支援する側にとっても一筋縄ではいかぬようだ。」

「そ、そんな…。」

司令室が重苦しい雰囲気で包まれる。
日米安保条約は基本的に外敵からの攻撃を想定したモノ、
それに…資料を見た限りではアメリゴ軍自体に被害は出ていないようだ、この状況下でアメリゴは動くのだろうか。


「それにな…前田は声明でアメリゴへの友好関係を反故にする気はない、民間施設等にも一切手出ししない、と言い放ちおった。
事実今現在まで被害報告は来ていない、緊急的な危機に瀕していない以上アメリゴを参戦させるのは骨だろう。
安全保障条約も色々と解釈できるようだしな。
とはいえ、どうにも臭いユシア、華国との繋がりが証明できれば動かせるかもしれん。」

司令の顔が暗い、そんな証拠、あればとっくに公開しているだろう。

「今現在の戦線はどうなのです?」

正直それが心配だ、皆を代表して(?)聞いてみる。
それほどいい答えは返ってこないと分かり切っているが…。


「現在戦線…じゃなくて各基地での戦況は一時停滞している、奴らも準備が足りなかったのかな?
が、このまま放置しておけばWL性能で勝る奴らに押し切られるだろう。」

ウチ(東日本)には実験機開発部門しかねーんだよ、と続ける小島司令。

基本的に西日本に生産施設が集中し、軍備を強化し始めた華国から遠いためか、東日本への新型機の配備は滞っていた。
広報担当の第1護衛隊がいるのもあり、新型となる機体の試験機体は東日本で開発されるのだが…設計図があっても生産ラインがなければお手上げだ。
今各地の基地に残されているのは良くて日原型だろう。

それにそうか、攻撃対象が東日本自衛軍基地・政府官邸である以上“線”を構築する必要はない、“点”でいいんだ。

向こうが民間に被害を出さないと宣言した以上ソレは徹底してくるだろう。
ここで東日本が民間に被害を出しでもすれば世論は向こうにつきかねない、

「向こうの用意した土俵で戦わざるを得ない…か。」

資料のページをめくる。
部隊編成、配置が事細かに羅列されている。
ありすぎて今ここで自分の名を探すのは骨だぜ、
だが…あの奇襲じみた攻撃の中、これだけ戦力の立て直しができるとは…意外と素晴らしい手腕の持ち主なのかもしれない。

「話を戻そう、国連、アメリゴの支援の望みが薄い以上、これ以上の戦闘の長期化は日本にとっても打撃となる。
そういうわけで敵本拠地の佐世保を急襲したいと思う、頭を崩せば蜂起をおさまっていくだろう。」

手にした紙切れをほおりなげる仕草をする。

なるほどね、そういう経緯か…。

「48時間後、全東日本基地より、西日本各基地に向かって攻撃を開始する。
敵の目を釘付けにするのが目的だ、君らは艦艇所属のWL部隊として作戦の中核を担ってもらいたい。」

「中核…ですか?」

今まで黙っていた桐栄さんが口を開く。

「そう、72時間後に行う佐世保への攻撃に加わってもらいたいのだ…。」

「人選は…?」

なおも彼女は続ける。

「お前らの練度が一番高いと判断した、実戦経験も一番あるしな、それだけだ。
詳しい辞令はこの加藤に聞け、俺はちと疲れた…。」

椅子に深く腰掛ける挙動と共に、背もたれが軋む音がする。
司令はそのまま死んだように眠り始めた。やはり、徹夜であれだけの作業はこたえたのだろうな。

「司令はお疲れのご様子ですから、場所を改めさせていただいてもよろしいですか?」

深々と礼をしながら加藤中尉が口を開く。

「いいぜ、どこでだ?」

「あなた方が搭乗するフネの中にしましょう…。」




本編 出撃

「あなた方が所属するフネは新造艦です、設計自体はだいぶ前から出ていたのですが…なかなか予算が取れなくって。」

暗い通路を複数の足音が協奏曲を奏でる。
先頭から加藤中尉、俺、桐栄中尉、リュウ、雄、有田中佐、真田、赤嶺少尉と続く。
昨日の負傷で健、白井は治療室送り、真奈美ちゃんにお見舞いを頼んでおいた。

しかし、暗いぞ…。

赤くともる光源のなか、加藤中尉が計器をいじり始める。
スイッチの位置を示すわずかな光を頼りに彼の手指が動いている、暗くてよくわからないけど…。




ドックの中が光で満たされる。


「こいつは…?」

急な明るさに目を細めるも、その、目の前にある巨躯はいやおうでも視界に入った。

巨大な艦、
通常の護衛艦約2隻分の横幅、縦の長さは2隻分とまではいかないようだがかなり長い。

「“むらくも”」

「え?」

「その艦の名前だよ。
群がり、集まった雲…気の赴くままに現れ、そして消えてゆく“自由”、それがこの艦に託された思い。」

「思い…?」

俺の質問に答える者はいなかった。
なんだろうか、この微妙な空気は……。

「とにかく中に入ろう、君たちには働いてもらうことになるんだ。
早いうちにフネに馴染んでおいてほしいからね。」

船へと続くタラップを駆けあがる加藤中尉。
俺たちもそれにならい、艦の甲板に乗る。

向かう先は作戦指揮室、しーあいしー…だったっけか?
そこに行くらしい。




~CIC~

自衛艦の中に入るのは初めてだからなんとも比較できないが、思ったよりも広いもんだ、
あちこちに厳重なハッチが設けられていて区画間の移動は面倒だけど…。

最後のハッチをくぐると、青白い光を放つ機器がたくさんある部屋に出る。
これが例のCICとやらだろう。
場所で言うと航海艦橋のすぐ下、だろうか?

「皆来たかな?
あとでこのフネの見学をしてもらうけど、まず説明するよ。
この“むらくも”はWLの搭載・運用も可能な護衛艦、装備された光学迷彩とステルス装甲によりほぼ完全な潜航行動ができるのが特徴だ、それで………」

…相変わらずなげぇな、話。
まぢめに聞いてんのは雄・真田とリュウ、有田中佐に桐栄さん・赤嶺少尉か…

って、俺以外じゃん。
あ、意外と皆まじめ君なのねみんな…。

「………とういうわけだ、質問、あるかな?」

あ、はいはい!

必死に手を挙げる。
全然聞いてなかった作戦内容なんぞどうでもいい…。
それより気になることがある。

「なんで、自衛軍にこんな戦闘もできるWL搭載艦があるんだ?」

侵略行為すら出来そうなこの艦に疑惑を持つな、と言う方がおかしいだろ、俺たちゃ自衛軍なんだ。

「…。
このフネは海上における救命活動、被災地域海岸への物資揚陸の目的で建造を始めました。
WLが搭載できる、というのは副次的なものでしかないんですよ。」

ふーん、
そういうもんか。

「まだありますか?」

唸る俺に、残りの質問の催促をしてくる。

「ああ、光学迷彩、っていったか?
アレ、電気喰うと思うんだが、動力は…なに?」

「無論ガスタービンです。
ゆえに電力を消費する潜航行動は、長時間はとれません。」

なるほど、ね。

「ん、それだけ。」

作戦内容は改めて知らされるからその時でいいだろう。
今はどうにもキナ臭いこの艦について少しでも知ることができただけで良しとしよう。
見た感じ艤装等は完全に終了している。

それもだいぶ前に、

なぜいままで進水しなかったのか、出来なかった理由がある気がする…。
まぁ、俺のカンでしかないけどね…。

「大丈夫か?マコト?」

「ああ、なんでもない、リュウ。」

頭を振る、今考えてもいたしかたない。
今は騒ぎを治めることが先決だ。

「見学、行くみたいだぜ?解説モードはそこまでにしな。」

「あ、ああ。行くよ。」

一同は艦内を巡る。
小学生の社会科見学みたいな気分だ。




数時間後



「ふーっ。」

休憩室でドリンクをあけることにした。
サイダー缶を開けると、心地よい破裂音が耳をなでてくれる。
とりあえず機関室はガスタービンで安心したぜ…。

原子力に、核の力に畏怖を抱く。
ヒトとして、日本人として当然だろう…。
てか艦内の案内だけでこれだけかかるとは、
別に広くてどうしようもないってわけじゃねぇ、解説が長いんだよ…あのやろ。


「これで終わりだね、あとは自室の荷物を運びいれてくれ。それと、まこと君?」


「なんだ?」

「これから、ちょっといいかな?」

まだあるのか。
皆の憐れむ目が俺に集中する。

…。

「んじゃ行ってくるよ桐栄さん~。」

「なぜわたしにいちいち言う?普通に行けばいいだろう!?」

「だってぇ…さみしいでしょ?俺がいないと!」

言った瞬間にブチブチキレかけているのがわかる。
中々予想通りで楽しい…。(命がけだが

「ウソウソ!コレ預かっててくれないか?」

そう言って飲みかけのサイダーを手渡す。
フン、と鼻で息をしつつも受け取ってくれるいい人です。

「まこと君?行きますよー!」

「ゴメン!今行くから!
リュウ、俺らの隊の荷物まとめ頼んでいいか?」

リュウに荷物まとめを押し付け、ドアを出る。
今度はどこへ連れてかれるのかな?


加藤中尉の曲がっていった先に向かって走る。





~総督部地下~

艦から降り、いつか来たセキュリティの中を進む。

ふと、足を止める。


「加藤中尉…?」

「どうしました?」

俺が見いる先、薄暗くて以前はわからなかったがもう一つ、厳重な隔壁が降りている。


大きくペイントされたLv7の文字列、
全てのセキュリティレベルの中でも最高ランクの機密を持つモノ。

「そこはいけません!
例えどんな内容であれ、僕に質問に答える権限がありません…。」

…?

「もとから期待しちゃいなかったさ。
ただ、中尉が中身まで知っていたのは予想外だったけどね。」

正直、何があるんでしょうね、的な回答が返ってくるとおもったが…。
何が入ってるんだろ、さっきの慌てふためき具合が気になるが、

まぁいいか。

「すまん、行こう。」

「ええ、あまりきょろきょろしないでくださいね。」

「わかってるよ。」

先日入ったセキュリティを抜けるとあのシュミレーター室に出る。

「確か昨日案内したのは此処までだったね。」


急に立ち止まる、昨夜のシュミレーターの前だ。

こちらに背を向けたまま加藤中尉は続ける。

「君をWL-004(AN)、神通型のパイロットにしたいのです、お願いできますか?」

「…またか、どうせ拒否することはできないんだろう?」

「ふふ、ばれましたか?」

体をようやくこちらに向け、舌をちょっと出す。
…しかし、コイツ女っぽいな。
初めて会ったときから思っていたがいちいち仕草が女っぽい…。

実わ女でした~(テヘッ
とはならんだろうな…まさか。

「一応理由、聞かせてくれないか?」

「いいですよ、先日のシュミレーションの結果から、もっとも適性があると判断いたしました。
ちょっとデータは持ち合わせていないんですが…。」

そう、としか答えなかった。
他の候補とやらのデータを知らんし、それ以外答えようもない。

「では、実機に案内しますよ。
あなたには攻撃隊の中核を担ってもらわねばなりませんし、機体の特性をよく掴んでいてほしいですから。」


そして、奥に隠れるようにある扉のセキュリティにカードを通す。

しかし、急な展開だな。
もう少しゆったりできないものか。



厳重にロックされた扉が開き始める。
カードを通すと自動で開くヤツだけど、戸が重すぎるのかだいぶゆっくりだ。

その先、淡い照明が陰影をくっきりと見せるそのハンガー。

コンクリ張りの床を歩くうちにあらわになっていくその機体。

「これか…?」

「そう、これが神通型です。」

シュミレーターに乗った時はカメラの都合で、腕や脚、背部の様子しかわからなかったが…、

なんというか、綺麗な機体だ。

品のいいスカイブルーに、引き締まった体つきをしている。

昨日の経験を思い返す。

やや大型の肩部アーマーに装着されている折りたたみ式のシールド、
かなり薄っぺらいモノだが、あの稼働域を考えると姿勢制御用として使うのが主なのだろうか。

それに、胸部に至ってはコクピット以外に何が入ってるんだ、というほどコンパクトだ。

これで、本当に戦えるのか?

「驚いているようですね、あの見かけでは無理もありませんが…。
この機体の動力はディーゼルでも原子力でもありません。」

「!?」

「そう、この機体はバッテリーユニットが動力なのです。
ディーゼルのような騒音も、原子力のように容積を喰う心配も、放射線の問題もありません。
唯一問題といえば稼働時間が若干短くなっていることですが、それを補って余りある性能を獲得しています。」

電気…?
そうだったのか、確かにシュミレーター内も静かなものだった。
アレでは音響センサーにもひっかかりにくいだろう。



「では、僕はこれから司令に報告に向かわねばなりませんので失礼します。
機体に慣れて行ってください、このカードがあればいつでも此処に入れますから、今夜の搬入まで自由に使って下さい。」

手渡されたカードを受け取る。

Lv6、

レールガン・レーザー兵器を実用化した脅威の実験機ですら、最高セキュリティレベルではないのか…。

目をやれば加藤中尉はすでにロックの向こう。


後ろを向き、そびえる鋼の巨人を見上げる。





~むらくも 艦内休憩室~

休憩室に設けられたテレビが、連日今回の騒動について報道している。
いまだどこの局も実態を掴めていないようだ、法律系専門家などが推測の域で語っている。
まぁ、当事者の自衛官すらまともにわかっていないんだけれど…。

「しかし、日本人はどうかしているな。
こんな時ですら常日頃の出勤をしているなんて、度胸があるのか、平和ボケしているのか。」

「まぁ、な、いくら民間への攻撃はしないと言っても限界があるだろうに…。」

目の前のサイダー缶を見つめる傍ら、そんな真田と橋本の会話が聞こえる。

あと個人ですることといえば荷物の搬入だが、正直体一つで横須賀まで来たものだから、特に荷物と言える荷物はない。

あとは、司令室でもらった配属の紙を確認して、WLの格納でも手伝おうかな。

「日本の経済活動を途絶えさせるわけにはいかない、といったところだろう、日本の生命線だからな…。」

「う~ん、経済か、大変ですね。」

二人の会話に有田中佐、高野が混じっていく。
有田中佐も会話に混じっている、だいぶ、馴染んできているようだ。

赤嶺少尉はソファーの上でじっとしている。



ただ黙り、目を閉じて座りつづける。

・・・



だいぶ外が騒がしい。

「なにかしら…?」

右手に缶を握り、立ち上がる。

もと来た道、通路との境目、階段との境目を抜け


甲板に出る。

手すりに寄りかかる、
どうやら乗組員に招集がかかったようだ、出航の準備をし始めている。
明朝出発とあれば遅すぎるくらいだが、まぁなんとかなるんだろう。
皆は特に外の様子を気にしていないのか、今出てきたハッチから人気は感じられない。


「…また、戦うのか。」


手にした缶を少しだけ傾け、遠慮深くすする。
口の中で冷たくはじける感覚が、身体を順々に冷やしていく。

ただ、頬だけはあたたかくなっていた…。




~医療棟 101病室~

「おらおら~!おきろばかども~!!」

果物を乗せたバスケットを抱え、101号室のドアを足を使って開ける。

昨日アレだけのことをしでかした奴らの見舞いをしなきゃならないなんて。
なんかフクザツな気持ち。

勢いよく開けた先には二人揃ってゲームしているバカふたり。

「お、真奈美ちゃんじゃん!何それ?果物!?」

見舞ってあげたのに第一声が物欲って・・・。
自分でもわかるわ、頭の血管が切れかけてるのが。

「あんたたちねぇ!!すこしは反省しなさいよ!!」

ちょっとおどけた仕草を見せる健太、あちこち包帯だらけの身体でよくやるわ…。

「あんたたち、うごけるの?」

「まぁ動けるけどね、医者が結構心配性でさ。」

ぐるぐる頭に包帯を巻いた白井が、頭をかきながら答える。
昨晩の銭湯は地獄絵図だったのに、アレを喰らってまだこれだけ元気があるなんて…、

「ついでにしんじゃえばよかったのに…。」

「バカ、桐栄さんの裸体拝むまで死ねるかよ。」

イラッ。


…妹の目の前で堂々と姉の名を出すなんて、
そりゃあたしは姉さまみたくスタイルは良くないわよ、でも時間が経てば…


ぷちっ、

あたしだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

「くらいなさい!!!」

全身を躍動させ、手にしたバスケットから取り出したメロンを…

「こんのぶぁかやろおおおぉぉぉぉ!!」

渾身の一撃を放つ。

ジャ○おじさんさながらのスナップが健太の頭をクラッシュする。

はぁ、はぁ、はぁ…。




「っ…ま、まだだ、まだ死ねない!」


コイツ、まだ動くの!?
はじけ飛んだ柔らかな果肉を顔中に付けて、健太が起き上がる。
なにが、彼をここまで?

「俺は、まだ…見ていないんだ!!」

…。

ここまでバカだなんて、
不思議なものね、男ってやつは…。

海よりも深いため息が病室に充満する。






~夜 むらくも 格納ドック~

シュミレーターでくたくたになった身体を引きずり、ドックへのドアを開く。

「ホラホラ!!急げ!明朝出発なんだ!!」

途端に元気すぎる声がココまで聞こえてくる。

各種物資、WL各機を順番に搭載していく補給班、
格納待ちの機体・コンテナが船体脇の踊り場に並べられている。

全員テンションが高いが中でもひときわおかしい気力値を示す若者がいる。
さっきの声の主だろう、一発で見つけられるわ、これわ…。

150いってるな、あれは…。

「なんか手伝おうか?」

近づき、声をかける。

なんとなく、そう言わなきゃならない感じがするほど何もしていない俺。
確かに神通型いじって疲れちゃいるが、ただボーっと休むというのも気が引ける。

「ああ!コイツのパイロットだろ?アンタ!」

親指で背後を指す、先に運ばれてきた神通型が佇んでいる。

「そうだけど…。」

「なら休んでな!コイツはオレたちの仕事だ!!オメェにやらせるわけにゃいかねぇ!」

頑として聞かないタイプか、
さぁさぁと促されるまま、コンクリ上に固定されたベンチに座り込む。


…、
やることがないとこんなにヒマなもんか…。

「篠田…」



背後から声がする、
振り向けば桐栄さんがサイダーの缶を持っている。

「まさか?その缶ずっと持ってたのか?」

まさかここまで律儀だとは…。

「違う…その、……こ、零してしまったんだ、そう、零してしまったんだ、お前のサイダー。
だから、これはその…お詫びだ。」




「大丈夫か?なんか赤いぞ。
こぼしても別にかまわねーのに…まぁ、とりあえずサンキュー。」

桐栄さんから缶を受け取る。
買ってきたばかりなのか、とても冷えている、今日みたいに気温の高い日には助かる。

「って、いつまで突っ立ってるんだ?座れよ。」

もはや階級なんてないがごとし、だった。
どうも敬語というのは苦手でいけない、流石に初対面でタメ口きいたりはしないが…
もとの上官がいい加減だと部下もいい加減になるのかもしれないな。

「飲むか?」

開けてちょっと口をつけた缶を差し出してみる。

「っ!!要らん、もぅ、飲んだ…からな。」

みるみる真っ赤っ赤になっていくのを眺める。


アレ?

今回はキレないな…。
だが、見ていて面白い。




「やあ。どうかね、調子は。」

「あ、司令!」

傍のドアが開き、司令と加藤中尉が出てくる。

「見ての通りですよ、どれくらいかかるのかは正確にはわかりませんが、進捗状況からいってあと2,3時間で終わるでしょう。」

「ん、上出来だ。」

満足げに顎をさすっている。

「他の皆はどうしているかね?」

続けて質問をかけてくる、

「さぁ、よくわかりませんが、艦の自室で待機しているのでは?」

「ふむ、30分後にちとミーティング開こうと思う、艦内作戦室で待っていてくれ。」

「了解。」

手にしたサイダーを煽る。

「ところで、いつまでそのコードを使うんだね?」

「は?」

「や、だからブラボーという呼称のことだよ。
君らはもう訓練生じゃない、正規の部隊が訓練時のコードを使っていては色々とまずくないか?」

ああ、そういうことか。
確かに通常の部隊は動物の名を冠したコードで呼びあってるけど…。

「ってかアレ?なんで日本なのに英語なんです?しかも動物…。」

「や、かわいいだろ?」

へ?

「それだけですか?」

「…それだけだお?」


……。
そこは嘘でもいいからアメリゴとの共同作戦時用、とでも言おうよ。

「い、いえ、ブラボーの名には思い入れがありますし、このままで行けるのなら行きたいと思います。」

「そうか、まぁそれならそれでもいいんだが。」

超残念そうな顔で小島司令は歩き出す。
大方なにかしらウチの隊用に考えてきてたんだろう。

そして、補給部隊の中にふたりは割って入っていく、激励のつもりなのか
アレ、邪魔になってんじゃねーのかな…。

「さぁて、俺らも中入るか…。」

横を向き、桐栄さんに目を向ける。

…?

「桐栄さん?いきてる?」

「あ、そ、そうね、行きましょうか。」

どうも桐栄さんの調子が…、
まぁ聞いても答えちゃくれないんだろうな。
今までの経験がそう語りかける。





~むらくも 艦内作戦室~

「はいはーい!主役の登場だよ~!」

松葉杖をついた健・白井少尉が作戦室に入ってくる。
だいぶ酷い目にあったようだな、奴らも。

俺以外の皆は完全にシカトしている。

「さて、説明しようか。」

ん、やはりシカトされているね。
彼の唯一の理解者である小島司令さえも無視しおった、
てか話の内容が重すぎるだけか?

さておき、ここは集中して聞かないとネ。



「今回の作戦だが、正直に言おう。

成功率は低い。」


!!

「敵本拠地の佐世保は九州の奥まったところにある、
そこまでたどり着くには複数の敵基地の前を通る必要がある。いかに“むらくも”といえど察知される可能性は高い。」

作戦ボード上でデジタル表示された日本列島が映し出される。
敵勢力のモノと思われる基地・施設が赤く点滅する。

そのなか青い1条の曲線が描かれているが…コレが“むらくも”の予定航路だろうか。

司令、これから死地に送り出そうとする奴らにネガティブな思いを吹きこむなよ…。
作戦立案者はあんただろうに。

「だが、これ以上の戦闘の長期化は日本経済その他の弱化につながり、防衛戦力そのものへの、国民の不信感も高まる。
政府側の意向も早期解決でまとまっている。」



「それで…強行作戦ですか?」

赤嶺、少尉?
今まで影が薄すぎた彼女が口を開く。

「そうなる、海上においても陽動を行う予定だが…。」


「死んでこい、とおっしゃるのですか?」

!?
声が震えている、コレは…。



「もういやなんですよ…殺すのも!殺されそうになるのも!!」

っ、やはりか。
影が薄かったんじゃない、自分で自分を納得させるために黙り込んでいたのだろう。
しかも、周りに心配を与えないよう適度に会話を交えながら。

安全な場所に居る、その思いが彼女を保たせていたのか。
そんな彼女をまた戦地に送り込めば…。



「少尉!!」

静寂を破った桐栄さんの声。
その声は荒い。

「隊長!あたしはあなたとは違うんです!
人がたくさん死んでいく中で、そんな風にはふるまえない!!」



「そんな平気な顔なんてできない!!!」

悲痛な叫びが作戦室にこだまする。

手で顔を覆い崩れ落ちる赤嶺。
解き放たれたハッチから通りすがりが覗いている。




「…白井、傷だらけなところ悪いが、赤嶺を医療棟へ連れていってやってくれ。」

おれですか?

そうだ、とアイコンタクトを互いに取っている。

「わたしでは赤嶺を助けられない。」

「…了解。」

俺はただ見ているだけだった。


「由真、行くぜ。立てるか?」

松葉杖と赤嶺を器用に連れ、作戦室を退出していく。
作戦室に充満していた緊張がわずかに和らぐ。



「司令、申し訳ありません。部下の不祥事はわたしの責任です。」

ふたり欠けた作戦室で桐栄さんが第一声を放つ。

「なに、構いはしない。
実際死んでこいとしか言えないからな、この作戦では…。」

再び重い空気が滲み出る。

「再開する、“むらくも”は可能な限り潜航行動をとりつつ九州を迂回しつつ接近。
しかるのちWLによる制圧を図る。」

先ほどの作戦ボード上の青い筋が点滅する。
どう見ても何箇所か敵基地のまん前を通っているんだが…。

「接敵した場合は?」

「持てる戦力を以って排除、だ。
それ以降はウェーキ等を気にせずに全速で接近、最悪長距離ミサイルの使用も許可する。」

長距離ミサイル…?
最近のヤツの精度は確かに良いが、外れればただではすまん被害が出かねないぞ。

それだけ本気、ということか
あまり人命を天秤にかけたくはないが、内紛解決のためならいたしかたないのか。

「ソレ、無理がありませんか?」

「無理は承知だ!
第1護衛隊に陽動作戦をさせる、戦闘になったら潜航し、どさくさにまぎれて離脱しろ。
大湊基地で難を逃れた“せとぎり”“まきなみ”“はまぎり”も東日本第2護衛隊として日本海で陽動を行う。
敵海上戦力も分散するはずだ。」


潜航、“むらくも”に搭載された光学迷彩を駆動させ、航行することを言う。
いかにも最強装備に見えるが、
電力の都合上、長時間は動かないうえに海上にできる航跡は隠せない、
ぶっちゃけ微速を超えてしまえば一瞬でばれかねない代物。

無理でもやれ、か。


遺書…書いとこうかな。
洒落にならないけど。





エピローグ

東西内紛勃発から3日目の朝。

「各部署、報告!!」

航海艦橋に有田中佐、いや、有田艦長の声が響く。

WL搭乗員はヒマだ、
や、ホントは待機室って持ち場があるんだけど、出航にあたってはやることがないの…。

まぁそんなこんなで艦橋の手すりにもたれて窓から見える景色を眺める。

既にドック内への注水は完了し、機関も始動済み、
あとは艦長の号令を待つだけ…。



通信士官が司令の声をスピーカーに流す。

「有田中佐、よろしく頼む。」

「はっ。」

起死回生を賭けた出撃、
これが失敗すれば東側は負けるだろう。

リアルにそれだけの戦力差がある。

他国家がアテにならん以上、
首謀者を潰す、その一点を除いて勝つ道はない。


「出航する!機関微速!!」

凛とした声が再び耳に伝わる。

120人の決意を代弁した声を背に、“むらくも”は旅立つ。

3日後、全てが終わることを信じて…。



         Fin





[26825] 第6話 苛み 前編
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:a8a709cf
Date: 2011/08/10 23:26
※ 8/10 23:25 題名変更

プロローグ

紺碧の大地を走る一条の白い航跡。
“むらくも”の残すそのウェーキがまっすぐに伸びている。

現在“むらくも”は第1護衛隊と別れ、南西に向かって航路を取っている、
察知されにくいよう陸地と距離を保ちながら。

3日後のガチ陽動攻撃とは別に、第1護衛隊による海上からのプチ陽動が始まる予定だ。

そして本艦の行動の詳細は横須賀司令・第1護衛隊旗艦“ひゅうが”の艦長以下数名度にしか知らされていない。
それだけ情報が漏れないよう努力しているらしい。

それもこれも3日後に控える奇襲攻撃の為だという。

あとは運次第なのかなぁ?


だが、そんな外の様子も格納庫の中ではよくわからない。
神通型のコクピットで計器をいじると、気持ちのいい起動音が満ちてくる。
盛大に広げたマニュアルのせいで見えないがパネル類も点滅していることだろう。



なんというか、やることが全くない…、
他の部署手伝おうにも何やっていいか全くわからんし、
ゲームしてたら中佐にボコられるし、
もおコクピットでひきこもるしかないって。

おかげでだいぶ馴染んだこのシート、これなら今すぐにでも実戦ができそうだ。

正面には艦首リフト、あそこから出れば航海艦橋のすぐ目の前。

この“むらくも”艦内格納庫には神通型1、日原型4が格納されている。
本来3機までしか入らないところを無理やり入れたらしい…
おかげでゲートがある艦首、艦尾側に位置するWLからしか出撃できない。


・・・沼津を戦い抜いた多摩はどうしたかっつーと、

「おれはどうすりゃいいのよ!?」


あ、さっそくやってる。
解放してあるコクピットの向こう、コンテナの傍だ、


「しょうがないだろ、多摩型じゃ足手まといなんだから。」

「お・れ・のモビル○ーツ!!」

「ウェルな、間違えんなよ、健。」

愛機を置いてけぼりされた健はだいぶご立腹のようだ。
あんな重い機体使ったら海に沈むわ…
リアル水没王子かっつーの。

「いいよなリュウはよ!日原に乗れるんだからサ!」

「誰が乗るかはシュミレーターで決めたんだし、文句はナシだぜ?」

戦闘に耐えられなくなった赤嶺少尉の代わりに誰が乗るかでそこそこ揉めたようだ。
もちろん彼女は横須賀で待機している。

機体配分としては、
神通型…俺、日原型…桐栄さん、白井少尉、リュウ、真田という形になっている。

健と雄は予備要員としての搭乗だ。

「くぉら!!ガキども!
パーツの上で遊んでんじゃねぇ!!」


…あのジィさんも乗ってたのか、
相も変わらず酒瓶を片手に喚き散らしている。
奴が禁酒するときは日本の終わりが来るときだな、こりゃ。

「ちょっ!?スパナは危ないって!スパナは!!」

右手で振り回される新装備が驚異的だ。
蜘蛛の子を散らすように逃げていく健たち、

・・・

三崎整備長、コンテナ内のビニールカバーをしきりに剥ぎ取っている。
海中戦用の追加装備、だったかな?アレ。



整備員総出で後ろの日原型を改修しているようだ、ここまで金属音がする。

その音にまじってやかましいほど元気な声が聞こえる。
この騒がしさだと搬入時の補給部隊も乗り込んでいるのだろうか。


この騒がしさ、沼津での日常がよみがえったようにも見える。

あの頃はよかったお、
なーんも考えずに、やることやってりゃ良かったんだ。




…そろそろ飯の時間かな?

おなかに搭載されたセンサーが大音響で警報を鳴らす。

なんだかんだで朝飯にまだありつけていない。
昨晩みたいにクソマズイ軍めしはヤだぞ…。


そいや沼津のおばちゃんどうしたかな~、そうそう死にゃしねーと思うんだが。(ワスレテタなんて言えない…

まるで出来の悪い中年のように過去を振り返る、




!?


格納庫が赤い警戒色で埋め尽くされる。
同時にけたたましい警報が鳴り響く。

これは、レッドアラート!?

「もう捕捉されたのか!?」

下ではバタバタと配置についていく足音がする。

朝飯なんて考えてる暇はないじゃないか…クソ!


マニュアルを機外にほおりなげ、
重低音を響かせながらコクピットハッチを閉じる。







本編 早すぎた接敵


~“むらくも”航海艦橋~

相も変わらず目に優しくない 赤 が艦橋を彩る。

「思ったよりも早かったな。」

自分でも驚くくらい冷静な声が出る。
出航からまだ10時間…、
大事を取ってかなり遠回りしてきているため目的地からはまだ遠い。

「索敵班!敵艦種・艦数は!?」

索敵を担当する士官がディスプレイを食い入るように見つめている。

「前方に敵艦4!距離50,000!」

近い、どうしてここまで接近されたの?
待ち伏せされていた…?

「艦隊先頭に“こんごう”を確認!第5護衛隊と推定されます!」

第5護衛隊…、
第1護衛隊群に属するも叛乱初期に奪取された艦隊。


確か第5隊は佐世保にいた…、だからこそ開戦直後に艦隊が乗っ取られたのだけれど、
なぜ、佐世保にいた艦がココにいるの?


対応が早すぎる?


「敵艦ミサイル発射!数は…6!」

「迎撃ミサイル発射準備!」

合図と共に、艦前部の埋め込み式のサイロから白煙がもくもくとあがる。
ワンテンポ遅れて6条のミサイルが尾を引いて飛び立っていく。

今指揮をしている此処は航海を主として設計された艦橋だが、一応各武装の制御もできる。
ほんとうならこの下にある戦闘艦橋に移行した方がいいんだけど…。
指揮に空白の時間を、一瞬でも入れたら命取りになる。

1隻相手に護衛艦4隻って…。

「続いて敵艦よりヘリコプター発進!」

逃げられないわね、これは。


遠距離で爆発したミサイル群が汚い花を咲かせる、



「敵艦発砲!!」

水柱が前方にたちあがる。


悩んでいる暇はないか…。

「光学迷彩展開用意!艦前面だけでいい!」

前面に迷彩を施せば目視による攻撃にはある程度効果が出るはず、
消費する電力も30%程度で済む。

ブリッジクルーによる復唱がかかる、

「通信士!無線封鎖解除!第1護衛隊・横須賀と連絡を取れ!」

「!?しかしそれでは傍受されて本艦の行動が読まれてしまう恐れが!」

「既に捕捉されている!いいから急げ!!」

「ハッ。」

続けて艦長席脇にある艦内用無線を取る。

「格納庫!WLは出せるか!?」

「…だめじゃ!日原型は改装中で出せん!
イケるのは神通ぐらいじゃが…っておい!まだゲートは開いておらん!大人しくしてろ!」

三崎整備長が何やら向こうで叫んでいる。




「か、艦長!一番ゲートが…。」

操舵士が感嘆にも聞こえる声を漏らす。


艦橋の窓に空色の機体現れてくる。
艦橋前部に設置されたWL発進口、そこからのリフトに神通型が乗っているのだ。

日の光に輝く空色の装甲は 神々しい の一言に尽きた。


「ブラボー1、神通!出撃します!!」

背部ウィングから覗くスラスター計4基がまばゆい光を放ち始める。


みるみる光点が小さくなっていく。

「待て!単騎で行くな!!」

無線に向かい叫ぶ私の声も届きはしなかった。
無論ここで止めても、彼1機に頼ることしかできないのだが。






~伊豆半島沖 300km地点 ~

水面すれすれを飛行する神通型。
機体の各機器も正常、温まったスラスターが快適な空を約束する。(一般人にとっては


「…!!!……!!!!!!」


こうるさい通信を切る。

帰ったらただじゃ済みそうにねーな、こら…。

さっきの中佐のセリフからしてヤバいフラグが立ったのは間違いない。

「こらなんとしてでも戦果上げて、許し乞うしかねーよ。」

軽く吐き気を覚えながら機体を加速させる。
どんなに滑らかな乗り物でも吐き気が出てくる、それが真の乗り物酔い。
いわゆるゲボラーである。



下らんことを考えているうちに、敵ヘリコプターからミサイルが連続発射される。
熱源、音響センサーにかなりの数の反応が増え、警報が耳に刺さる。

いまどきWLを誘導ミサイルで狙うバカはいない、機体にもよるが回避は難しくないし、なにより誘導しづらい。

となれば艦狙いか。

近年自衛艦もステルス装甲に換装されたが、その巨大な熱源を隠し通すのは不可能だ。
ゆえに熱源探知型のミサイルで誘導することができる。
以前よりも誘導しにくくなったと言われているが、艦はそれほど高速では動けないのであまり影響がない。

低空から接近してくるミサイル群。

「へへっ、マシンガンも持ってきて正解だったな。」

右腕にレールガン、左腕に11式アサルトライフルを積んできた。
11式用のマガジンまで持ってくる余裕は流石になかったが…。

レーダーの波紋が、自機とミサイル群との間隔がみるみる狭まっていく様子を映し出す。


「落ちろよ!」

白煙をなびかせて接近してくる奴らを見据え、左腕をわずかに動かす。
ずっしりとした砲身が日の光を浴びる、


そして指をひねる、
赤熱した銃身から、轟音と共に鋼鉄の刃が乱れ飛ぶ、
途切れ途切れの光がミサイルの一つを火球にくるむ。

水面すれすれで爆発した。
海面に巨大な柱が立ちあがる。

「やった!」

そして、その爆風に接触した左右のミサイルが誘爆を起こし始める。



「あの弾頭…、普通よりも炸薬の量が多い!?」

あわよくば1基落とす分の弾で複数ヤろうと思っていたんだが、思いのほか爆発の規模が大きい。
まぁ一気に落とせて助かりはしたが。

「今度はこっちの番だ!」

フットペダルを踏み込み、スラスターを吹かす。
微調整される姿勢制御を動きを感じつつ突進する。


展開されたウィングバインダーが黒煙を切り裂き、敵ヘリコプター部隊が眼前に迫る。
最早釘づけ状態でガン見だ。

ホバリングしている、8機か。

「終わりだ!!」

もちレールガンでヘリコを狙う不経済な真似はしない。

左腕に積んだ銃身が激しく硝煙を吐き出す。

俺も吐き出せる状況なら吐き出したいよ…。

敵機にかするかどうかきわどいところへ鉄屑が尾を引く。
相手の姿がコクピットカバー越しに見えるんだもの、粉砕はWL以上にイヤよ、見えそうで…。


数機のテールローターがもぎ取られ、バランスを失い落下していく。
あの様子なら上手く着水できるだろう。

我ながらチキンすぎるな…。
敵を殺せない、
軍人としては最低の部類に入るのかもしれない。





一気に撃墜しなかったから当然だが、残った敵機が目に留まる。

アレ?

ヘリコプターの脇になにも付いてない…、
さっき落としたミサイルの数はそれほど多くはないよね、たしか。
ヘリって積載そんなに少なかったっけ?

……

一瞬考え込む。




!!

しまった!!

背後を振り返る、さっきの爆発からまだ時間は経っていない。


海面に白い軌跡が残っている。

やっぱか!!

「こちらブラボー1!“むらくも”へ!!
海面の乱れに混じって魚雷が進んでいる!注意してくれ!」

第一波のミサイルで海面をかき乱し、音に紛れて第二波の魚雷で不意打ちをする。
そんな算段だったのだろう、

とはいえ艦まで距離がある、迎撃はできるだろう。

やっぱ早くに出撃して良かった、
ミサイルの爆発地点がもっと艦側だったら危険だったやもしれん…。


「味なマネを!」

機体を反転させ、背部の光を増大させる。
もうろくな武器を積んでいないヘリコはどうでもいい、ヘリコプター部隊と交差し、敵の艦隊に突っ込む。

敵艦から放たれる対空散弾を3次元的に避わし、肉薄していく。
時たま装甲をこする音がするが、音の程度に比例してダメージはない。

上下左右に機体を振っているせいか背部の動きがせわしない。
ノズルもだいぶ熱くなっている、

「もう少し、粘ってくれよ!」

パネルをチラ見しつつ機体をなだめる。
海水で冷やすという手(マニュアルにあったし)もあるからそれほど問題はないんだが。

今にも漏れそうなゲロタンクを乗せた神通が敵艦隊の左舷に回り込む。

「これでっ!」

右腕のレールガンの照準をそれ用の機器に回す。

「って、どこ狙えば…?」

よく考えれば艦って人いっぱいいるじゃんか…。
艦橋しかり機関室しかり、大事な部分には結構人いるって。

狙いが定まらない照準器が間延びした電子音をたてる。

・・・

そんなこと考えている間にファランクスの線が無数に交錯する。

「わわっ!」

ちょっ!
分厚い弾幕が複数艦からまとめて伸びてくる。

考え事しているときにソレはねーよ、誰だよ、艦は左舷が薄いって言った奴…。

機体を翻し、やや距離を取る。

空中宙返りのせいで喉の弁を越えそうになる、
若干被弾したのか、装甲を削る不快な音が中に響いた。

だがそれほどのダメージはない、


どうする?

上手く敵艦の推進部だけ破壊でき、航行不能に追いやっても、その攻撃システムが生きていれば戦闘を続けてくるだろう。
“むらくも”が敵射程内から離脱するにはだいぶ時間がかかる、それまで防御しきれるだろうか…。

ここで被害少しでも少なく、そして生き残らせるにはどうすればいい?



答えは簡単、敵を沈めればいい。

やろうと思えば機関部を撃ち抜くだけの火力はある。
だが、すっぱりと決断ができない。

・・・

「やるしかないのか…?」

再びレールガンの照準器とリンクさせる。

対象をターゲットサイト中央に捉えたソレからは小刻みな電子音が頭に響く。








~“むらくも”戦闘艦橋~

戦闘開始から1時間強が経過した。

「敵艦隊沈黙。」

索敵班からの報告が入る。

「そう、ブラボー1は?」

「既に着艦しています、あんまり調子良くないみたいでしたけど。」



「気になりますか?彼のことが。」

隣に立つ加藤中尉が口を出してくる。

「まぁな。」

たった1機で4隻を戦闘不能に追いやった。
それだけの能力を持つ者だ、気にならぬわけがない。

それに…

「艦長、横須賀の小島司令が“会議を行うと言っています。」

「わかったわ、会議室に回線まわしておいて。」

テレビ電話を使った会議、
どうせ今後の対応だろう、これだけあっさり見つかってしまったんだ、奇襲なんてできようはずもない。
作戦を考えついた司令も司令だけど、承認した政府はなんなのかしらね。

「あとお願いね、中尉。」

加藤学が頷くのを見て、私は会議室へと歩みを進める。
結局、作戦なしの特攻になりそうな予感…。





~“むらくも”格納庫~

今までずっといじられていた日原がリフト前に立つ、

ようやく海水中用に換装された日原型が日の目を見る…


はずだった。

「戦闘が終わった?」

「そうそう、もう降りてきていいぞ。
あのガキももう着艦しておる、すぐリフトで降りてくるさ。」

さぁこれから出撃するか、という意気込みが一気に萎える。
モニターには戦闘中から飲んだくれている整備長の顔が映っている。

ブラボー1が、マコトがそんなに強くなっていたなんて…。
いつだったか演習で落とされてからというもの、彼には驚かされ続けている。

機体のおかげってだけじゃなさそうね。



リフト到着を示すブザーが鳴り響く、

さぁ、英雄様のご到着、
今度はどんな顔をしているのかしら?


格納庫に到着した神通型に人が寄っていく。
橋本に小野田、高野に真田、白井、整備長を始めとした補給部隊。

増長した顔が目に浮かぶわ、
わたしはここで、見させてもらいましょう。

日原型のバイザーが彼の機体へと向く。



!?

重低音と共に開いていくコクピットの向こうには…

「ま…マコト?」

キーを操作し、モニターに望遠をかける。

「なにがあったの…!?」

居て当然の彼は確かに居た。

だが、
吐瀉物で身体を汚し、気を失った姿でシートに鎮座している。

これは…?

大至急呼ばれた救護班、
コクピットから彼を連れ出す橋本。
担架に積まれるマコト、そしてそれについて格納庫を出るその戦友たち。

その有様を、わたしはただ見つめるだけであった。






[26825] 第6話 苛み 後編
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:1a0f8aaf
Date: 2011/08/10 23:26
※ 8/10 23:26 題名変更

~医務室~


重たい瞼が光を通す。
真っ白な天井が、ここが医務室のベットだという音を教えてくれる。

「起きたか!?」
「マコト!」
「大丈夫ですか!?」


あぁ…目、醒めちまった

心配そうな顔で覗きこむ友人知人、
そんな声などお構いなしに返事を返さず、再び目を閉じる。


「ヲイ!大丈夫か!?」
「マコト!?」

心配している声を、医務官が遮る。
ベットの周りにたむろう彼らを追いたて、何やら説明をしているようだ。ボソボソと声が聞こえる。


「わかりました、また後で来ます。」

リュウの声が聞こえ、ぞろぞろと床をこする音がする。



そして辺りが静寂に包まれる。
時折ブーツ特有の足音がするが、医務官のモノだろう、

俺は今、後悔している。
返事を返さなかったことにではない、WL乗りになると決意した過去に…だ。

致しかたなかった…
そんな月並みな言葉で納得できたなら、どれだけ楽だろう。
ちょっと前まで送っていた訓練時代が遠い過去のように思えてくる。

くそっ、俺らしくもねぇ…

まぁなんというか
自慢じゃねーが、俺のこの軽い性格はある種の長所だと自負していた。
なのに目の前に広がるのは自責の重圧感だけ、ショボイ冗談のひとつも湧いてこねぇ。

無理矢理リセットしようと、上体を起こして頭を振る、
いずれこうなることはわかっていたはずだ。

今更悩んだところで…



…静かだった室内に足音が増える。

「中尉?今は面会できる状態じゃあないんで…おごっ!?」


おごっ?

ココまで響く重い振動。

何かが倒れ込む音、
なにが起きたかは想像に難くないが。


診察室とを隔てるカーテン、それがレールをなぞる音と共に開けられる。

「マコト…起きていたのか。」

毎度バイオレンス彼女、桐栄さんがベット脇のパイプ椅子に腰を落ち着かせる。

「大丈夫なのか?」

「…大丈夫だよ。」

視線を合わせずに返事を返す。

「人殺しは慣れないかい?」

…!

「まぁ、誰も慣れる奴なんていないし、慣れちゃいけないんだけどね。」

「やっぱ俺落ち込んでる風に見えるか?」

「それは誰から見てもよくわかるさ、アレだけ見事にぶっ倒れていれば、ね。」

やっぱり?とちょっと舌を出して返事を返す。
懸命に出そうとした軽さがあまりに中途半端で、自分でも嫌悪を覚える。

「それで、ちょっと話したいことがあるんだ。マコトのプラスになるかはわからないんだけど…」


しばし沈黙を空けて、彼女は語りだす。
神妙な顔で語り始める桐栄さんに、俺は顔の筋肉を引き締めた。

「わたしたち一期生は海外に派兵させられたことがあったの。
もちろん訓練生時代に、よ。

自衛軍としてではなくアメリゴ軍として。当時真っ盛りだったアフリカ独裁国家への制裁、それに駆り出されたの、無論政府の議決なんて無視した非公式の派兵だった。

最低限の技量しか持たない養成部隊、それを丸々実戦に放り込もうというわけよ。
もちろん軍内部でも批判は出たけど、無理矢理その方法が採られてしまった。
WLパイロットの緊急的な配備、そしてなにより実戦のノウハウを得ることに躍起になっていたの。
そして、わたしたちに拒否という道はなかった。」

・・・
吸いこんだ息を全て吐き出したのか、荒い息と共に桐栄さんの肩が上下する。
うつむいているせいか表情が読みとれない。

「知ってた?
わたしたち1期生は途中で増員されたのよ?初めからいたのは、わたしひとりだけ…」

震えるような、いや、震えた声がカーテンで区切られた空間を満たしていく。
海外派兵?増員?
あまりに急過ぎる話の展開に頭が付いて行けない。
舞い上がる疑問は山のようにある、だが、ひとつだけはっきりしたことがある。

結果だ

この語りから、おのずと悲劇性が見えてくる。


「そしてあの日が…… 「もういいよ。」

「え…?」

無意識のうちに彼女の声を遮っていた。

「それ以上言わなくてもいい、言いたいことはもう伝わったさ。」

桐栄さんが伝えたいことはわかる。
彼女が今の俺と同じか、それ以上に酷い場面にあったのだろう。
でも、俺は相対的なことで自身の痛みを和らげることなどできない。
[ぼくだっていたいんだ、だからきみもがまんしよう]
なんていうことは不可能だ。

だってそうだろう?
人がどんなに同じ状況下で苦しんでいるとわかっても、共感しあえる程度が関の山、
根本的な“痛み”の解決にはならない。




……

いや、俺はただ思い出したくないだけかもしれない。
彼女の話を介してよみがえるだろうあの光景を…


考え込んでいたためか、彼女の表情の機微に俺は気付けなかった。

「ごめん、らしくなかったかしらね…わたし。
愚痴みたいな昔話はやめるわ。でも、それだと来た意味がなくなってしまうから…もうひとつだけ、話をさせて。」

「?」

返事をする前に桐栄さんが口を開く。

「WLの基本理論を打ちだした人、篠田は知っている?」

しばらく考え込み、思いついたように顔を上げる。

「確か、ライナー・ベルトホルト…」

沼津で勉強したWL創設史、そのドクツ人の名が筆頭にがあったはず。
数年前に病死したという話だが

「そう、彼は晩年WLの平和利用を唱え続けていたわ。」

「そうだったっけか。」

「軍事大国からの資金援助に研究費を頼っていた博士は、戦闘用のOSの開発に着手せざるをえなかった。
そして彼の作りだしたその根本的な部分は全ての機体に、例外なく共通で搭載されている。
これも習ったわね?」

「ああ。OSの完成度が高過ぎたがゆえに、現在もその基礎を使い続けているんだっけか。
確かそれに関連して、起動系の回路が妙に容積喰ってるとかいう話も聞いたことがあるな。」

WL関連の雑誌は沼津時代に制覇した。
OSと連動して、駆動に必要な指令を出すだけの装置。
それだけのモノがかなり大がかりな装置になって組み込まれているとか何とか。
色々ありそうなだけに結構ゴシップ系のネタにされてたな。

「そう、だからわたしは思うの。
ライナー博士はWLに何かを託したんじゃないかって。
あれだけ平和利用を唄った人が嫌々作った戦闘用OS、それによくわからない回路が組み込まれているんだもの。」

結局、新兵器だとか洗脳装置だとか…雑誌では変な憶測しか書いてなかったが、
それと比べれば今の桐栄さんの考えはナシじゃあない。
アリとも言い切れないけど…

「博士が遺した真実を知るために、わたしはWLに乗りつづけている。それがあるから、わたしは戦える。
これがあったから、過去を乗り越えることができた。」

そしてこの為なら、前だけを見て歩いてゆける、
彼女はそう付け加えた。
その話を聞けなかった俺には、それがどれほどの信念なのかはわからないが、生半可なものではないのだろう。

「あなたもそういう何かを見つけなさい。
殺さない戦いをするのは大事、でもそれができない状況に陥ったとき、死んでしまう。」

パイプ椅子が床を削る音が響く。

「これからの戦い、篠田がカギを握ることになる。
あなたのちょっとした選択が、百人以上の命を左右することを忘れないで…」

踵を返す渇いた音が、いやに俺の中でこだまする。






エピローグ

「っ!本当ですか?」

会議室に映る小島司令、“ひゅうが”艦長の顔。
私の顔も同様にモニターされていることだろう。

「そうだ、有田君。
残念だが内通者がいる可能性が高い。それも貴艦に、だ。」

「…はい。」

この艦の行動は外部に知られるわけにはいかなかった、奇襲をやろうというのだから当然なのだが、
これだけ情報漏洩を防ぐ努力をしたにもかかわらず西側に察知された。

「もういちど確認させてください、本艦が敵レーダーに捕捉された、という可能性はゼロですか?」

「ゼロ、とまではいかないが限りなくゼロに近い。
そいつにはカネを湯水のように使った対レーダー装備が詰まっているんだからな。
すぐに探知されるようでは困る。」

「そうですか。」

確かに接敵が早すぎた、
こちらの出撃をよほど早期に察知していない限りあのように待ち伏せはできないだろう。
事前に…、そう考えるとスパイの存在を疑うのが当然か。

「うむ。
“ひゅうが”艦長もワシも、貴艦の行動をリークするような真似はしとらんし、その裏付けもある。
となると“むらくも”の乗員が怪しい、というわけだ。」

「了解しました。その件はどうにかいたします。」

司令に向け軽く敬礼を返す、
確かクルーは全員、身元調査等を受けてきている。それを突破した内通者を探し出すのは骨かもしれない。

「最悪できなくてもいい、正直そっちに力を割かれすぎても困る。
もはや重要な情報はあらかた知られてしまったことだろうしな。」

「はぁ…それで?こっちの件はどうするんですか?」

手にした薄層電子ボードをひらひらさせる。
戦闘後に横須賀から送られてきたデータファイルだ。

「竣工がだいぶ前に終わっているのに艦船登録がまだなんておかしいな、とは思いましたよ。」

「ああ、そちらの処理も中佐に任せよう。
今更 “むらくも”を作戦からは外せんしな、今どうこう議論している暇はないのだ。
ワシもついさっき知ったことなんだ、勘弁してくれ。」

「任せようって…このことを知っているクルーはどれだけいるんですか?」

モニターの中の司令が中空に指を弾く。

「恐らく整備士を含めごく少数だ、何か困ったら加藤中尉を頼れ。
その艦の現技術責任者は中尉だ、奴なら全容を把握しているだろう。
作戦の詳細は追って指示する、以上だ。」

プッと切れたモニターを前にため息をつく。
今後の流れ、目的が露見したため戦力を集めての突破、制圧。

第1護衛隊とのランデブーポイントは潮岬沖。
奇襲が不可能とわかったために艦隊総力で敵布陣を突破・佐世保を制圧しろ、とのこと。

「また…無茶なことばっかり。」

先に予定されていた陽動攻撃も繰り上げられ、こちらへの負担は減る…はず。
それでも難しい、
左右からの攻撃に容赦なく晒される下関ルートはリスクが大きすぎる、
となれば九州を迂回しなければならない。

距離もあるし敵の攻撃も決して緩いわけではない。
多難すぎる未来に頭が痛くなる。

「まずは仲間探し、かしらね。」

侵攻ルートの問題はひとまず置いておいて、スパイ探しをするのはひとりでは無理。
信頼できるクルーを引き込む必要があるだろう。
“ひゅうが”との合流まで7・8時間、それまでに洗い出しましょう…。

座り心地の良かった椅子から立ち上がり、背伸びをしながら会議室を後にする。




             Fin





ご無沙汰してます、ヒロシキ(気持ち)MK-Ⅱです。
いつか組み込もうと思ってた開発者の絡みです。
まさかこんな形になっちまうとは予想ができなかった…
一ヶ月近く空いたくせに4000字w
しかもロボなくせにロボ戦がないww
さらに話の中身わありがちな悩みwww

最後のドンパチのために若干身辺整理をしていると思っていただければ、と思います。




[26825] 第7 話 真実 前編
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:126bee93
Date: 2011/08/10 23:27
※ 8/10 23:28 題名変更

プロローグ
~格納庫~

格納庫2Fの通路をとぼとぼと歩く。
右手には俺の機体、神通型が佇んでいる。

医務官は相も変わらず気絶していたので、とりあえず書き置きして出てきたのだ。
あそこに居てもどうにもならなさそうだったし…

「おっ?マコトじゃねーか!」

軍艦には場違いなくらい明るい声が背中にあたる。

「三崎整備長…」

「どうした、機体が気になったか!?」

「いえ、ちょっと聞きたいことが…」

「んん?」

まぁとりあえず入れや、と近くのデータ集積室に誘導される。
なんで集積室?と思ったがすぐに納得した。

部屋の一角にテーブルが設置されており、近くの棚には これでもか というくらいの酒がズラリと並んでいる。
冷蔵庫まで…

「なるほど、そっちのデータがあるんですか…。」

机に置かれた酒の解説を見る。

「そ!今はコレがメインじゃぃ…
まだ大して戦闘してね―からロクなデータないしな!」

ガハハ、と大笑いしながら酒瓶のひとつを寄越す。

「…あの、これは?」

「飲め!飲まにゃ語れんこともあるだろうて!」

あの、だからって1升瓶は…

「冗談じゃ、で?話ってのはなんじゃらほい?」

かわって差し出されたグラスを受け取り、って結局飲ませるのかい。

「あ、はい、その…」

ついさっき医務室で聞いた話、桐栄さんの名前は出さずに口にした。
正直、完全には信じきれない。
彼女は実在するかのように話していたが、俺のこの目で確かめたわけではない。
それに、沼津でもどうせやらせだろうと思って特に気にも留めなかったほど酷い記事だったし…

「ふむ、その話か。」

「そうです。」

なみなみと注がれたグラスを一気に煽り、
機械油にまみれた腕が机に叩きつけるように置かれる。

「…確かに存在する。」

!!

「だが、それがなんなのかはワシにも見当がつかん。」

「それは、どういう?」

「コクピット周り、それに駆動系の周りにこびりつくようにあるんじゃ。
一時期ワシも興味が湧いてな、廃棄直前の多摩型をバラしたことがあった。」

空になった器に瓶を傾けながらさらに続ける。

「じゃが、なにもわからんかった。
ひとつわかったことといえば、その回路をいじくるとWLの起動自体ができなくなる、ってことじゃな。」

「起動できなくなる?」

目の前の琥珀色の液体に口をつける。
アルコール特有の、喉を掻きまわす感覚が脳を麻痺させる。

「そう、機械的には壊れるはずのない処置でも整備マニュアル以外の部分をいじくった途端に、だ。
原理のわからん装置を使うような感覚じゃな。WL自体は使えるがその原理の一部はよくわかってない。
例えるなら携帯電話…とかかぬ?マコトも知らんじゃろ?携帯の原理。」

「まぁ、それは…」

「そう、どうやって動くのかはその企業しか知らん。
じゃが手足のように使いこなせる。こういうのをブラックボックスというんじゃが、
ちょっと意味違うが、この謎の回路もソレの一種と考えられるわい。」

気がつけば手にしたグラスが透明に戻っていた。
澄んだ音をたてて崩れる氷がひどく冷たい。

「コイツは極度にブラックボックス化されていると思っても差し支えないな。
原理を知っているのは…いまは亡きライナー博士だけ、WLを直すワシらは整備マニュアルにあることしか知らん。」

「でも設計図があればわかるんじゃないんですか?何がどう働くか、とか。」

フフン、と鼻息を鳴らし三崎整備長が語り始める。

「おかしなことに設計図上では起動シグナルの発信しかしないことになっとる。
ワシも何かあるとはふんどるんじゃが…。」

それほど得体の知れないモノに今まで乗っていたのか、俺たちは。
一息入れてから、さらに続ける。

「それで、それがライナー博士の残した人道的装置だ、という可能性はありますか?」

人道的装置、自分で言っててなんだが、どんなものかは想像もつかない。
不意に三崎整備長の喉仏が止まり、天井を向いていた瓶底が机と口付けする。

「…ありえなくはない、というレベルでしか話はできんわい。
ヤツの晩年の平和利用運動への熱の入りようは凄まじかった、OS開発段階で例の装置を媒介とした“なにか”が組み込まれていてもおかしくはない。」

「やはり、推測しかできませんよね。」

軽いため息をつく。
おやっさんがわからないんじゃこら永遠にわかりそうもねぇな。


「ふふふ…」



「整備長?」

怪しく笑い始めるジィさんを前にして、?が頭に浮かんだ。

「いや、ワシがこの話をしたのはお前で二人目だな、と思ってな。」



「それは…?」

「ああ、嶋野の奴にも昔、同じ話をしてやったわい。」

目の前の老人が酒瓶を煽る。

そうか、桐栄さんも同じような情報をどこかから仕入れて…

しかし、場合によっては人の死をも厭わない覚悟と目的…探せったってそう簡単に探せるものか。
俺も追える何かかもしれないと思ってココに足を運んだが、無駄骨だったかもしれない。


「まぁ、そうシケたツラすんじゃねぇよ!酒が不味くなるわ!」

おら飲め!と促されるままに、空になったグラスが重くなっていく。

・・・

「酒は笑って飲むのが一番!嫌な思い出も全部洗い流しちまいな!」

そばで笑ってくれる人がいる、それだけでも俺の心は軽くなっていく気がする。
たとえそれが歳のイッた爺さんでも…

そうだな…

たっぷり入ったグラスを整備長の前に上げる。

「お!わかってるじゃねーか!」

グラスがぶつかる甲高い音色が、一瞬で部屋中に満ち満ちていく。
光とグラスの織り成す煌めき、その美しさにしばしまどろむ。









……………………

「で?あんたたちはなにしているのかしら?」





本編 

「なんというか、すみません…」

「うぃ~」

データ集積室で正座する男ふたり。
経過を述べるまでもないが、部屋に入ってきた忍さんに見つかったために起こった惨劇だ。

「医務室の書置きを見て来てみれば…こんな有事に酒盛りとはどういうことかしら?」

圧倒的なまでの闘気を体に纏い、腕組みした中佐が見下ろしている。

「や、なんというか…成り行きというか。」

「漢から酒とったらなにも残らんわい!」


―――――――!!!!!!
―――――――――――――――――!!!!!!
―――――――――――――――――――――――――――!!!!!!

無意識に中佐の声をシャットアウトする、それくらいに酷い罵詈雑言が飛ぶ。

鬱だ、死のう

心の弱い子が聞いたらこうなりそうなレヴェル…

「…まぁいいわ、マコト君もその調子だと復活したみたいだし。二人とも話を聞いて。」

はい?

「―――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――というわけ。」

「はい?量があり過ぎて聞き取れないんですけど…」

「たく、もう一度言うわよ?この艦に西側の内通者がいる、それを見つけるのを手伝ってほしいのよ。」

「あの、俺
忘れ去られてますけど乗り物酔い酷いんですけど、出来れば横になってたいな、なんて…。」

―――グゴゴゴゴ!

「……なんでもないれふ。」

まるで蛇に呑み込まれた蛙。
最早消化(言いなりに)される運命にある。

「そ、それで何をすればいいんです?」

「そうねぇ、各部署の通信ログをあたってもらえないかしら。艦長の私がやってもいいんだけど…色々忙しいから。」

「ま、要するにパシリってやつじゃ。ナハハハ」

「整備長は私と一緒にクル―名簿をあたってもらいます!167名分調査するんですからね!」

うゲぇ、と酒臭い息を吐き出すジィさんが急に哀れに思えてきた。

「ってかなんで俺らなんですか?」

わざわざ格納庫の隅までやってきて頼むような面倒をする必要はないと思うんだが…

「そんなの簡単よ、一番信頼できる奴を手駒に欲しかったの。」

口元を緩めた表情でこちらをじっと見る。
…手駒って表現がヒドス

「整備長は酒とWL以外興味がないし、マコトは・・・…・……」

「?」

「とにかく!あんたたちは絶対にスパイじゃないってわかってるんだから!」

「そ、それはどうも…。」

~~~~!!!
ハイ!わかったら即実行!!と部屋から蹴りだされる。


いってぇ!

尻もちをついたせいでケツがっ!
音をたてて閉じられたドア、おまけにロック音まで聞こえるという…


どうするか、正直気乗りしないが、丁度いいかもしれない。
体を動かことができるし、なによりじっくり考えこまないで済む。

「とりあえずは近くの機関室だな。」









足音が遠ざかっていく。

「で、これから調べるのはクル―だけじゃないんじゃろ?」

相変わらず酒臭い息を吐き出しながら、三崎整備長が言葉を投げかけてくる。

「…ええ。」

「この前の戦いで救助した西側の隊員もなんだろ?」

「ええ。」

これから調査する彼らはスパイの件とは無関係だが、得られる情報は今のうちに得ておきたい。

「今のアイツの精神状態を考慮し、捕虜の件は伝えなかった…そんなところじゃろ?」

「えぇ。」

今のマコトは不安定だ。
先の戦闘で約13名の隊員を保護した、そう、たった13人…
あの時緊急発艦したためレールガン用バッテリーマガジン数は5、対する敵艦は4。
ほぼ一隻を一発で沈めねばならない状況だった。

ゆえに機関部を至近距離で撃ち抜く戦法を取らざるを得なかった。
救助した13人はいずれも重軽傷を負っている、それをマコトに伝えれば…

「まぁ、捕虜はひとまず担当に任せて、私たちはクルーを洗うわよ。」

なんにせよ、あの捕虜たちは今外部と連絡を取れる状況にはない。
それに、ほぼ全員が心的外傷後ストレス障害…つまりPTSD状態に陥っている。まともな思考ができているはずもない。

「はいよ。」










~佐世保基地地下研究所~

「うんうん」

部屋の半分が機材で埋まり、もう半分が資料で埋もれた研究室、
そこでひとり軽快にキーボードを叩く男がいた。

画面のタブが点滅する。
敵艦から送られてきたシグナルをキャッチしたようだ。

「白根!いるか?ってうぇ!?」

白根と呼ばれた男の背後から声がする。
まるで道端の糞を踏んだような声だ。

「おや?長官じゃないですか、いかがなさいました?」

振り向けばココの基地の長官、前田靖が立っていた。

「う、うむ、例のヤツをこの目で見ておきたくてな。」

「あーはいはい、どぞどぞ、こっちですよ。」

が、長官、こと前田靖は足を踏み出さない。

「どこ、踏めばいい?」

彼の眼下に広がる書類の地層。
そのどれもに大事だった研究データが記してある。

「どーぞふんずけちゃって下さい、全部頭入ってますから。」

「あ、ああ。なら、遠慮なく…」

口とは裏腹に恐る恐る足を出す長官。
綺麗な部屋で過ごしてきたのだろうか、紙を踏んで歩くことに違和感を覚えるようだ。

「コレです。」

研究室の片隅においてあるショーケース、その中にあるチップを白根は満足げに指差した。

「…ちっさいな。」

そう言いたくなるのもわかる。
AIプログラム“Reaper”ほんの爪先くらいの、マイクロSDカードだ。
攻撃目標・作戦内容・帰還先を入力するだけで一切を自身で判断・行動することを可能にする装置。
今までの無人機は遠隔操作という形を取っていたために様々な問題があった。
操縦者のメンタル面であったり、戦争への畏怖の喪失であったり…
非人道的任務すらこなせるそれは我が師の望むものではないかもしれない、がこれを足掛かりに

「そらまぁ、コアですからね、マシンの。」

「そか。」

「はい。」

「すぐ使えるか?」

「すぐ使えます。」

「ホントか?」

「怒りますよ?」

「すまん」

「…システム専用の機体の調整もある程度済んでいます。
それに現行機の記憶媒体スロットに差し込むだけでシステム“Reaper”がインストールされるんで、汎用性もありますよ。」

「うん。正直、ユシア・幹国からの人員支援はないから助かった。」

「それはどうも。しかしよく2ヶ国も支援してくれますねぇ、仲がいいわけでもないのに。」

「領土問題をエサにちらつかせたのさ、あの程度の損失で日本が変われるのなら安い買い物だ。」

戦闘に必要な物資の多くは他国から得ているのが現状。
それゆえに元々人員が少なかった西側が東側を圧倒できていた。
だが、当初3日で掌握するはずだった横須賀が態勢を整え反撃の兆しを見せている。
機体の確保はなんとかなるが、パイロットの補充は簡単ではない。
それで今まで開発してきた“Reaper”が日の目を見ることになった。

「やはり、外交官に証拠を掴まれたのが痛かったな…」

政治的なことはあんまりわからないっていうのに、よく僕に愚痴ってくる。
ん…わからないから愚痴るのに適しているのかな?

どうやら、
万が一他国の支援を受けている証拠が残っていた場合、参戦を決めあぐねているアメリゴが東側に付くと予想したそうだ。
なんでかはよくわからん、彼なりに考えた結果か。
そのために決起を早め、嶋野外交官の暗殺まで行ったらしい。
もう少し、準備期間があれば…というやつか。

「そうなの?」

「そうだ。」

「あ、長官長官、例のヤツから信号が届いてますよ。」

「?」

「“むらくも”のですよ。」

ちょっと考え込む前田靖を前に、僕はちょっと幸先不安になってきた。
自分で指示したことくらい覚えとこうよ。

「ああ、あれか。しかし運がよかったな、20年前の奴があの艦に乗っていたなんてな。」

「正確には22年前です。
とりあえずコントロールルームの方にも情報が行ってますんで、確認してください。」

まぁ偶然とはいえ、助かった。
“むらくも”の遮蔽兵装はかなりのモノ、この信号がなければ発見に手間取っただろう。

「わかった、それとこれ、さっそく使わせてもらうぞ?」

そばにあったゴム手袋を装着し、ガラスケースの中のチップを拾い上げる。

「どうぞ、あ、戦闘データはこっちにも回して下さいね。」

「わかってる。」

再び長官は紙の海を横断する、
紙がクシャクシャになる心地よい音を跡に、研究室を後にした。


彼の気配が完全になくなったのを確認し、受話器を取る。
そして、覚えていた数列をプッシュする。

RRRRRRRRRR……

「ん、制御型WLの仕事を頼みたいのだが……そう、調整が終わったらこっちから種子島に送るよ。うん、じゃあ頼むよ。」

なにも聞こえなくなった受話器を静かに置く。

「あとはデータ待ち、だね。」

いつぞやの実戦テストは失敗したからなぁ。
基本データを積まずに実戦経験をさせようとしたのは、我ながら浅はかだった。

何日も前に買ってそのままの缶コーヒーを煽る。二・三度叩いたPCの画面に表示された文字列。
“Reaper”の原型となったシステム…

あと少し、見ていてください。
PCの脇、置かれた写真立てで笑う老人。

―ライナー博士……











~“むらくも”機関室~

「……ぁ?」

「どうかしたか?」

「いや、耳鳴りがしただけだ。気にすんな。」

道中会ったリュウと機関室のログ漁りをしている。
搭乗待機を一旦解いてもらったようで、のんびりとお茶してたので捕まえてきた。
健太や雄はどこ行ったかわからんかったし、探す暇もなかった。
どうやら機関部担当の士官と知り合いだったらしく、割と楽に作業が始められた。
一応秘密裏の調査なので口にチャックをお願いしといた。

そんななか、ちょっち耳鳴りにも似た吐き気を催したのだ。

「大丈夫か?」

画面と睨めっこしながら真田が言葉を送ってくる。

「ああ、前にも似たような感覚があったけど、まぁ船酔いだろ。」

こっちもこっちでヘッドホンしながら画面をガン見しながら返事を返す。
これというのもログがクソ多いせいだ。
機関室中の全ての通信機器の通話履歴は全てココに集積されるのだが、いかんせん数がヤヴぁい。
整備に関わる大事な会話からホントどうでもいいダジャレまで、全部。

そう全部、大事だから2回言いますとも。
全部チェックですよ、ええ(3回目)。

「リュウが居て助かったぜ。」

ひとりでこの作業を、と考えるとゾッとする。

「なに、構わないさ。」

黙々と作業が続く。

黙々と…

黙……

も………

「もう無理だ!」

目の前のパネルを叩き、ヘッドホンを放りなげる。
季節がら元々暑い艦内が余計に暑く感じる、ヘッドホンを十数分かけただけで耳が蒸れてくるほどだ。
コレにあと艦橋のログがまるまる残ってる…だと!?

俺はあと何回再生すればいい…

「少し、休憩するか?」

「ああ!」

全く、それらしいのが見当たらねーぞ。どれもこれも大した内容でもねーし。
ここの通信設備じゃなかったのか?


「なぁ、マコト」

隣からリュウのマジな声が発せられる、今度は俺の眼を見据えながら。

「どした?改まって…」

「なんともないのか?」

なんとも?…ああ、前の戦闘でのアレか。戦闘が終わり帰還途中で意識を失い、機体がオートに切り替えた。
なんともないと言えば嘘になる、現に今でもあの苦みが容易に思い返されるし。

「迷惑かけた。」

「迷惑だなんて思っちゃいない、医務官からはしばらく面会できないレベルだと聞いたんだ…」

「心配してくれてありがとよ。まだ完全じゃねーが、平気さ。」

「そうか。」

それっきり、会話が途絶える。
元々リュウはネタがないとそう話さない奴だから、コレが普通なんだが…

なにか静かな、寂しさのようなものが俺の中を支配していく。

「ま、ささっとやっちまおうか。」

再び沈黙の時間が訪れる。
聞こえるのはクリックするマウスの音だけ。

「あ?」

「どうしたマコト?」

「急に新しいログが増えてやがる。」

単純にログが増えるのは当然だ、今も機関部のクルーが無線を使っているのだから。
だが、発信元がおかしかった。
今、目の前で調べているログ蓄積機を兼ねた大型通信装置が信号を発していた…
それも数分前…

「なんでだ!?いつの間に?」

だが、その原因を突き止めるまではいかなかった。
それもそのはず、ここ数日で嫌というほど聞いた耳障りな音が室内を満たしたのだ。

「敵襲!?」

「またか!」

これで何度目だ?ここ数日の出来事が何十年も続いたような錯覚をうける。
艦が沈んではスパイどころではなくなっちまう。











~戦闘艦橋~

慌ただしくハッチを抜ける。

「状況報告!空気読めないバカはどこのどいつ!?」

まだ全然洗い出し済んでないのに…

「10時方向に敵航空機を確認、第1波マッハ2.8、機種不明、5機編成。後続の第2波はマッハ2.0、F-15J、5機編成です!」

「対空戦闘用意急げ!射程に入り次第迎撃開始!」

「…敵第1波、射程に入ります。スタンダードミサイル発射!」

バチバチとスイッチを弾く音、それと連動して軽い振動が戦闘ブリッジを揺さぶる。



「ミサイル、目標に接近。」

「敵機回避機動を取ります!!更に加速!そんな!?」

!?

モニターに映し出される機種不明機、遠目からは夕日に映える鳥のよう。
ソレが5機、見事なまでのアクロバット機動を披露している。総計10条の白煙が茜色のキャンバスに壮大な軌跡を描く。
あんな動きで中のパイロットがただで済むのか!?

「艦長!」

悲鳴ともとれる声が作戦ボードを見つめる私に届く。

「第1護衛艦隊が攻撃を受けています!救援を求めていますが、どうします!?」
「ミサイル命中せず、敵機なおも接近中!」
「艦長!格納庫から出撃許可要請が来ています!」

様々な報告が頭を交錯する。

「速射砲に対空散弾装填、CIWS!接近に備えて!日原型は艦橋前後に配置、固定砲台代わりになりなさい!
通信士!神通型パイロットの様子は!?」

「あ、ハイ!現在搭乗待機しています!モニターしている限りでは特に問題ありません!」

「そうか。」

手にした内線を神通型に繋ぐ、そして一息、二息深呼吸をして…

「マコト、準備はいい?」






~神通型コクピット~

淡い蒼の機体が格納庫に佇む。

かすかな振動、
それが神通型をとおして俺の手を震わす

VLSから発射されたミサイルか…音紋が自機から離れるように軌跡を残してゆく。
震えの止まらない手で操縦桿を握りなおす。


「マコト、準備はいい?」



「忍さん…」

「作戦中は艦長と呼んで、
実は第1護衛隊が攻撃を受けているの、これの救援をお願い。」

「はい…」

「あなたでなければ僚艦を助けられないわ、自分のしたこと、することに自信を持ちなさい。」

Sound Only のモニターが声を再生する、自信…?

「神通型でもこの距離は厳しいから、三崎整備長あり合わせで作ってくれていたユニットに乗ってもらうわ。
詳しくは彼に聞いて、それじゃ…気をつけてね。」

プッツリと音声が止まる。

そして入れ替わりで赤いお顔のジィさんが映る。

「よぅ!お前にゃコイツに乗ってもらう、海上用のWL運搬ホバーじゃ!」

画面に転送されてきた画像が映る。
平べったい、WLを2機は運べそうな広さだ。なぜかヒラメかカレイを連想させる形状である。

「ホントは資材運搬用だったんじゃがぬ!改造してしもうたわい!!こんなとこで役立つとは思わんかった!」

相も変わらず豪快な笑い声がコクピットを満たす。

「ホレ!そういうわけじゃ、リフトに乗ってるヒラメに乗らんか!」

「りょ、了解!コレ、俺だけで行くんですか?」

ってかやっぱ愛称はヒラメなのか…
横を向いて何やら指示していたジィさんがこちらに向き直る。

「いんや、コイツも行く。」

不意に、そばのモニターに新たなウィンドウが現れる。

「ブラボ―1、わたしも行く。」

桐栄さん…
まるで初めて会った時のような口調、

「早くしろ、後ろがつかえている。」

「ご、ゴメン。」

促されるままにヒラメと呼ばれたホバークラフトに乗る。
間髪いれずに桐栄さんの日原型水中仕様が乗っかる。

「よし、リフト上げるぞぃ!行き先は中のバカどもに教えてある、お前らはどんと構えておけ!
向こうはかなりヤバいみたいだからな!覚悟しておけ!」

バカども?


「オス!久しぶりの登場だぜ!!健太様推参!!」
「健、何言ってるかわかんないんだけど…」

ああ、こいつらか。WLが割り当てられなくて腐っていた二人。

「そういうわけじゃ、いつまでもタダ飯食わせるわけにはいかんのでな。」

――

昇降機のギアがまわり始める重い音

リフトが上がる、少しすると視界の半分が装甲板の灰色で埋まってしまう。
ところどころに位置しているナトリウムランプがまぶしいオレンジ色を脳に届けてくる。

急に視界が開ける、甲板だ。



「んじゃあ、いっくぜぇぇぇ!!」

ゲート上に寝そべるヒラメが急発進する。

「っあ!?」

ヒラメが甲板から跳ねる。
激しい水音が辺りを震わし、そんなことお構いなしと高速で水上を走り始める。

「チョ…まっ!」

ココ最近大人しかった吐き気がマズイ…
船は結構ヤバいんだ、俺…なのによりによってこんな荒い運転!!

「我慢しろよッ!!」


「お、覚えてろケンタァァァァァァア――――――――――!!」

夕暮れに俺の声が木霊する。



[26825] 第7話 真実 中編
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:182b710d
Date: 2011/08/10 23:28
※ 8/10 23:29 題名変更

~戦闘艦橋~

「ヒラメ、ブラボー1・ウルフ1を搭載し発進」

「そう」

遠く離れていくヒラメをボード越しに感じ、胸がすく思いを感じる。
っと、そんな場合じゃないわ。

「敵機は!?」

「第1波あと1分で接触!後続第2波、8分後接触します」
「敵機なおも加速中!マッハ3.0を記録!」

よし、向こうにはいかなかったようだな。

「急げ!近接防御!」
「は、ハッ!」

艦全体が鈍い振動に震える。
接近してくる戦闘機に向かって、赤熱した閃光が吸いこまれていく。

当たった、そう誰もが思う状況が一変した。

「!!」

跳ねた。

そう、文字どおり跳ねたのだ。
機下部にまばゆい光が放出されるのと同時に、上方へ機体を急上昇したのを見た。

「ば、バカな!?」

対空散弾の散布界を一気に離脱する機動だと!?

「敵機、ミサイル発射!数3!」

やや扁平な四角錘のボディから放たれた煙の筋が確認できる。
かなり近い!

「迎撃!ファランクスの一部を回して!
ウルフ3、ブラボー2!お前たちは敵機の迎撃に専念しろ!」

「「りょ、了解!」」

動揺した声が返ってくるが、そんなこともお構いなしに指示を続ける。
警報の高鳴りが激しくなっていく。

「チャフ・フレア緊急射出!」

こんな近距離で戦うなんて…

ッ!!
激しい振動が戦闘ブリッジを襲う。
警報が鳴らないということは直撃は避けられたのか、

モニターのひとつがパッと明るくなる。

「ウルフ2、敵1撃墜!」

艦外部カメラからの情報が表示される。
黒煙を引き、海面に吸い込まれていく敵機が目に入った。

そうか!

「加藤中尉!CIWSを半分、マニュアルモードに移行して!!」

背後で火器管制をしていた副長兼砲術長の加藤に指示を飛ばす。

「今からですか!?」
「今からよ!」

橋本、やるわね。
素直にそう思った、基本的に並進運動しかできない通常の戦闘機相手なら、コンピュータ予測射撃で撃墜しやすいが…
これだけ変態機動をしてくる敵機だと話は別だ。
コンピュータでの予測が逆に命中しづらくしてしまう。なにしろ機体そのものをパワーであちこちに機動させているのだ。
なにしろ次どこへ跳ぶのか予想がつかない、これでは命中のさせようがない。
手動で撃った方がまだ当たる。
恐らく橋本はそれに気付き、WLの自動照準補正を切って手動で迎撃したのだろう。それでもかなりの技量を要求されるわ…

「作業完了!左右計4門を手動に切り替えました、砲手は誰を?」
「私が兼任する!加藤中尉!井上、島田!来い!!」

レーダー補助員を連れて、艦橋の角、手動火器管制機の前へと足を運ぶ。






~日原水中仕様型(ブラボー2)コクピット~

「やったか」

盛大な爆炎がモニターに焼き付けを起こしかける。
戦闘でできた黒煙を切り裂き、敵機が艦右舷側に通過していく。

「チョコマカと!」


両腕に装備したアサルトライフルが火線を伸ばす、
空薬莢と艦装甲とが奏でるメロディ、それがセンサーに波紋を残す。

「?中佐も気づいたか、流石…」

不意に、“むらくも”の弾幕が不規則な動きをし始める。
残り半分は従来通り正確に飛来してくるミサイルを落としていた。

伝えずとも伝わる、こんなに嬉しいことはない。
…とは言え簡単に当たるものじゃない、さっきのはまぐれに近かったしな。

「当たれ!当たれぇぇぇぇ!!」

艦後尾から、ウルフ3の叫びが聞こえる。
焦るまいとするが、そんな声を聞いているとこっちまで焦りが出てきてしまう。
あちらのミサイルは今のところ全て落とせている。バルカンの弾は迎撃できないが、致命傷にはならない。

敵機からの攻撃を凌いでいればいずれ勝機は来るはずだ…
どちらも決定打を与えられないまま時間が経過していく。



突如、均衡を破り警報が鳴る。

「衝突警報?」

急いでレーダーを確認する、
敵機が直進してくる。それも4機全てが、同時に…

「ウルフ3!迎撃だ!!」

「了解!」

四方八方から飛来してくるミサイルと未確認機。
“むらくも”を中心に鋼の粒子がばら撒かれてゆく。
幾つかが敵性反応をひとつひとつ潰し、そのたび真紅の花火が全方位に乱れ咲く。


「いけたか!?」

広がる爆風を装甲越しに感じつつ、希望的な観測をする。

「マズイ!抜かれた!!」

ウルフ3!?
艦左舷側、敵機が弾幕をヌけた。

「っ!」

左腕のライフルを左舷迎撃に向ける。流石に右手のまでは回せない、他を薄くするわけには…。

「コイツら、正気か?」

自機をミサイル代わりにするパイロット…
どれだけの覚悟を?

左手の微振動と連動し、敵機の装甲が剥げ落ちていく。
だが、止まらない。
垂直尾翼に直撃
だが、止まらない。
水平翼がもげる
だが、落ちない…
黒煙を吹きだしながら突進してくる戦闘機、それが目に焼きつく。

「対ショック防御!!」

そんな中佐の声と同時だった。










~ヒラメ~

「!?」

「どしたよ?マコト?」

軽い口調がスピーカーに流れる。

「いや、なんでもない。“むらくも”は無事かな…って」

「心配すんな、あいつらそう死ぬタマじゃねぇだろ」

健の言葉で不安が少しは取れていく、確かに殺しても死ぬような連中じゃない。


「で、ココだけの話、桐栄さんとは上手くいってるのか?」

健の顔がぬっと現われる。
……

「専用回線つないで何言うかと思えばソレかよ」

俺と健だけでの会話、対象以外との通信を切断することができる機能が通信装置にはある。
それ用の回線だと、緑色の点滅が教えてくれた。

「上手くいってないのか?」

「上手くどころかこの半日、口もきいてもらってないぞ…」

「えー」

えーじゃねーよ。

「そんなこと、健には関係ないだろ?」

「そんなこたねぇさ!全ての女性の幸せが俺の幸せだからな!」

コイツ…覗きの件をほっぽいていけしゃあしゃあと……

「アーアー、そろそろAくらい済んでるかと思ったんだけどナァ、
ちゃんとご機嫌とってたか?ちゃんと話かけたか?ちゃんと話を聞いてあげたのか?」


…!


「まぢかよ、その顔だと、してなかったみたいだな
女の子はデリケートなんだぜ?チョッとしたことで拗ねちゃうから気をつけな
ま、アタリはあったんだ、これからでも遅くはねぇ、戦闘後でもなんでもいいから修復しとけよ!」

「ああ。」

「見守ってるぜ?……っと、そろそろランデブーポイントか、通信切るぜ」

プッと緑色の光が消える。
心当たりがないこともない、
医務室での一件以来まだ半日も経ってないが、そのときから桐栄さんの態度が変わった。
なんというか他人行儀に…

なにかしらやっちまったんだろうか…俺。

「マコト!嶋野さん!準備はいいですか?」

モニターに雄の顔が映し出される。

「今回の作戦は攻撃を受けている第1護衛隊の救出です、現在旗艦“ひゅうが”が被弾、退艦命令が出されています
速やかに周辺海域の制圧をしてください
確認されている敵戦力は、水中用WL3機、敵航空機3機!
“しまかぜ”“むらさめ”“いかづち”は辛うじて持ちこたえています、急いでください!」

「了解した!」

「ブラボー1は敵航空機を、わたしは水中の敵機を排除する」

その言葉を最後に、右脇の嶋野機が水柱に消える。
WL1機でやれるものか、と思ったが、敵航空機を放置するのは危険だ。
すぐに片付けて支援しなきゃ…

足もとのペダルを一気に踏み込む。
ケツにかかる重圧をモノともせず、俺は飛び立つ。

「行くよ!!」









~“しまかぜ”艦橋~

「左舷魚雷命中!浸水!艦傾斜左に4度!!」

「ダメコン急げ!隔壁閉鎖、右舷タンク注水!」

Eレッドを示す紅い光が、荒ぶる艦長以下の怒声が艦橋に木霊する。
戦闘に入ってまだ10分前後、“旗艦”が落ち、この艦も危ない状況。
自衛軍に入って艦レーダー要員になったが、まさかこんな目に遭うとは思っていなかった。

注視していた敵マーカーから一筋の光点が伸びる。



「艦長!熱源反応!ミサイル来ます!!」

一直線に接近してくる光点に目が釘付けになる。

「!!チャフ射出!緊急回避だ!」
「ま、間に合いません!!」


一瞬


まだ見てないドラマのこと、故郷に残してきた両親のこと、今度会う約束をしていた恋人…
それらが頭をよぎる。

―ッ!!

反射的に目をつぶった。

―轟音

意味のないことだと分かっていても人間、反射だけはしてしまう。
もう俺の身体はミンチよりヒデェやって状態だろう…

ってアラ?

「生きてる…?」

「伍長!状況を報告しろ!!」
「は、はい!」

キャプテンシートの方から、俺に向かって罵声が飛んでくる。
訳がわからないまま目の前のパネルへと目を落とすが、艦の状況は変わらず、だった
ただ一ヶ所だけ違うことが、

「艦長!救援です!“むらくも”からの救援ですよ!」

レーダーに友好コードを発する機影を複数見つけた、助かった…
顔の筋肉がゆるんでいくのがわかる。
先ほどのミサイルも“むらくも”のWLが撃墜したのだろう。
我ながら情けない走馬灯だったぜ、最初に思い浮かぶのがドラマってどんなカスだ俺…


「先ほどのミサイルによる艦体ダメージは軽微。あ、支援部隊から通信が来ています。」

「スクリーンに出せ」

「はっ」

――ザ…
「お、繋がった繋がった!
こちら“むらくも”所属のホバーパイロット、小野田少尉です。後は我々に任せてください。
負傷者の回収を優先してお願いします。」

「了解した、援護が必要になったらいつでも要請してくれ
聞いたな!?敵が接近してきた場合だけ迎撃しろ!下手に手出しはするな、味方にあたりかねん!
艦隊を“ひゅうが”を中心に囲え、救助作業を始める!!」

艦長が敬礼を返すと同時に指示が出る。
指示と同時に通信士官が、火器管制士官が、レーダー担当士官(俺)が動き出す。




~神通型(ブラボー1)コクピット~

「間に合った!」

黒い残渣を残す海面上に満足げな声を漏らす。

空になったバッテリーパックが排出される音
ライトアームに次弾が装填される音
そして、新たに砲身に電力がチャージされる音

レールガンでミサイルを落とすのはちょっと不安だったが、なんとかなったようだ。
数百人の命を救えた、今はそれが嬉しい。

「よし、この調子でガシガシ行くぜ!」

チャージが完了した青白い砲身を空に向ける。
敵機F-15J、高性能だが、戦闘機ゆえに進路を予測しやすい。

「落ちろよ!」

指の動きに呼応し、大空と同化した弾頭が吐き出される。

一瞬のち、片翼を剥ぎ取られた敵機が黒煙を噴き始め…
…落ちそうで落ちない。
流石は生残性の高い機体だ。
とはいえ、すぐに限界が来たのかインジェクションシートが敵機から飛び出す。

「ん、上手くいったな」

リロードを行いつつ、次の敵機を探す。
さっさと片付けて、桐栄さんを援護しなきゃな。

心のもやもやが、今は晴れている。




~日原水中仕様型(ウルフ1)コクピット~

洋上が騒がしい、彼らも戦い始めたようだ。
視界に映る蒼の世界…目視による敵の捕捉は容易でない。
ソナーに映る音紋は3つ、
こちらに気づいたよう、こちらを囲うように散開していく。

敵機は北秋型の水中戦用、
こちらの日原型とは性能差があるが、水中での戦闘ならば特に気にならないレベルだろう。
ソナー光点の動きをみる限り、
4基の背部スクリューを持つこの「三崎カスタム(彼曰く)」の機動力が彼らのより劣るとは到底思えない。

それに…この程度の数ならひとりでやれる。
助けなんて、いらない。

顔の筋肉を一切動かさず、左親指をひねる。
と同時に左腕連装の魚雷発射管から激しい水流が2条、溢れ出る。

通称トロ箱。なんでもFish Box、“魚雷箱”の愛称だそうだ…
機体に乗る前、偉そうに言っていた整備長の顔が思い浮かぶ。

……

開発者が名前を付けるのは普通だけど、ホンットネーミングセンスないわね。
口の中で小さく舌打ちをする。

名前はともかくとして、現在の水中WL戦では最強の装備と言えるだろう。
もともと艦船用の97式短魚雷を流用したのだ。一撃一撃が潜水艦を大破させる威力を持っている。
無論、10m前後のWLに直接命中はしない、ゆえに最初から外れることを前提に、目標から50m圏内に達したら自爆するようにセットしてある。
使用炸薬を数割増ししているため発生する爆圧は凄まじい、
陸上WLを水中用に改修した程度の機体ではひとたまりもないだろう。例え迎撃できたとしても機体へのダメージは計り知れない。
それで外付けされているバラストタンクを破壊してやれば、それで終わる。

唯一の難点としては、至近距離で使えないこと、それと装弾数・重量に問題があることぐらいだろうか。

―ッ!

爆発音が水中を伝わってくる。
一際大きな波紋がソナーを覆い、2つの光点が深々度へと反応を遠ざけていく。

「思惑どおり、進んだかしらね」

水圧は全てに等しく破壊をもたらす、水中での絶対的な法…
それを利用した「撃たれたら最後」、といった類の武器。今は相手方にその武器がないことに感謝するほかない。
ついでにちょっとだけ、整備長に感謝した。

のこるは一機、

空になった発射管を投げ捨て、背部に装着してあった“花槍”を装備する。
水中で唯一有効な近・中距離兵器、作動原理は簡単。
推進機の付いたパイルバンカーが有線で誘導し、花弁のように展開する鉤爪が…

…!

コックピットをアラートが赤く染める、向こうのランスが接近しているようだ。
水中でのWL戦はいかに相手を捕捉し、いかに早く弾を撃ち込むかにある。水中で鈍った機動力では回避は困難だからだ。

先に撃たれてしまった、でも…

「…こんなもの」

すっと目を閉じる。
モニターに映るのは薄暗い蒼の世界、こんな光景を注視していれば焦りが出、精神が擦り減る。
不必要な情報は要らない。
敵ワイヤーとの距離を示すソナー反響音、その感覚が次第に狭まっていく。



「……いま!!」

こちらから発信する音、跳ねかえってくる音…それらがわたしの鼓膜を時間差で揺さぶる。
それが今、一致する!

瞬間的に、なにも装備していない右腕を駆動させる。

――ッ!

確かな手ごたえとやかましいまでのソナー警報。

目を開く。鋼鉄の腕が掴んだワイヤー、3本の鉤爪と中心部に位置したパイルバンカーが自機の目の前に映っていた。
このアングルで見るのは初めてだが、それらの配置がまるで花のよう…
外から見たら、花を摘んだ鋼の巨人…なのかしら?

そんな無駄なことを思いつつ、お返しとばかりに左腕の“花槍”を飛ばす。
最高速45ノットのワイヤーが紺碧の海を走る。


発射して数十秒が経過する。
そろそろ、着弾の時間。

―――――――ズッ!

不意に機体が揺れる。
パイルバンカーが鉄を穿つ音…それが時間差でソナーを騒がす。
次第に深度を増していく光点。

これで、全部か。

「…ごめん」

聞く者が誰もいない中、口から贖罪の言葉が漏れる、
ワイヤーを巻き戻す音が、散っていった戦士たちへの鎮魂歌のように聞こえた。
自分の答えのために他の命を奪う、許されないことかもしれない…だけど、これ以外に道はないんだ…

両肩・背部のバラストタンクが海水を吐き出し、機体が浮上していく。







~むらくも 艦橋~

――――――――――!!!

傍の手すりにしがみついていた下士官が空を飛ぶ
電源が揺れる
計器から火花が散る

―激震


揺れが収まり、必死にしがみついた射撃管制席から立ち上がる。

「被害は!?」

「…第17区画全損、第16区画にも損傷!負傷者多数!
っ、左舷側レーダーアレイ大破しています!索敵能力大幅に低下!!」

頭を打ったのか、真っ赤に染めた顔を計器に向け、必死に報告を続ける士官。

「救護班・消化班を差し向けなさい!救助完了後隔壁閉鎖!他には!?」

続けて報告していた彼のその顔が不意に歪む。

「艦長!光学迷彩制御装置に損傷確認!起動状態から変更できません!!」

「!?」

「使用電力が限界値を超えます!
ただちに攻撃オプションを制限してください!このままでは30秒後には全てのシステムがダウンします!」

モニターの一角に消費電力が表示される。
許容値を示すラインを大幅に超えている、これが事実なら戦っている場合ではない。

「……」


「艦長!敵第2波との接触予定時刻が迫っています!」
「中佐!」
「艦長!」

あちらこちらから指示を仰ぐ声が聞こえる。
目をつぶる。
どうするか……



…決めた。

「迎撃態勢を崩すな!未確認機は全て落とした、あとは通常の戦闘機だけだ!!畏れることはない!」

「?それでは本艦の電力が!」

「いいからやりなさい!」

「は、はっ!」

もはや警報なんて耳に入らない。
ただ食い入るように電力を示すバーを見つめていた、どう説明するものか…と。

「加藤中尉、いいわね?」

傍で補佐をしていた加藤学が静かに頷く。


「敵戦闘機第2波、交戦圏に到達、迎撃を開始します」
「電力ダウンまで15…14…13……」

「ミサイル照準合わせよし、発射」
「9…8…7……」

様々な情報が交錯する中、ひと際異彩を放つカウントダウン。
艦が再び揺れる。

「あと5秒です!中佐!!早く対応を!!」

艦橋が緊張に包まれる。
だが、私は何も言わない。

「ミサイル、敵2に命中、撃墜しました」
「3……2……1……!!」





………


依然警報は鳴りつづけ、各計器は正常に作動している。

「!?なんで?供給量を40%もオーバーしているのに!?」

焦りを隠せないオペレーター、無理もない。
だって、この艦は……


       後篇に続く











微妙な切れ方です、サーセン。
タイトルは全然思い浮かばず、まだそのまんまです、さーせん。

今更なんですが、自分の主義(?)として感想版は皆様の感想だけにしたいので、
勝手ながらこの場をお借りしてお返事したいと思います。


今までちゃんとした感想へのお返事を書かなかったので、いまさらですが改めたここに書きたいと思います。

>ta様、すみません。俺ボトムズはノーマークでした…。やはりかぶっているとまずいかと思い、タイトル変更に踏み切った次第です。
覗いて下さってありがとうございます。

>あんくらすた様、そう言っていただけて嬉しいです。これから先ギャグが入れ辛くなっていますが、必死こいて頑張るので見捨てないでください(土下座衛門
前書き等、すみませんでした。

>yasube様、平に申し訳ありません。
前書き等はだいぶ前に改善しました、いかがでしょうか。「面白い」その言葉で救われます。

>REX様、ロボパートは結構不安だったのでそう言っていただけて良かったです。
最新の方はお口に合うか分かりませんが、ご賞味ください。
ショボイギャグは俺の性分と言いますか、なんというか…申し訳ないです。

>nat様、感想2回もありがとうございます!
後半はどうしてもギャグを入れにくい展開だったので、序盤に飛ばしてしまいました…
ロボ戦はもっと精進していきたいと思います(ギャグも磨きたいでふ。

>ブラボー6様、正直こういった名前の作者様が居るとは思いもしませんでした…
桃源郷の暑い夏、楽しく読ませていただいてます(まだ途中ですが)。

>風鈴様、申し訳ありません。以前も謝罪いたしましたが、改めて謝りたいと思います。
願わくば、今一度このページを開いてくださることを。

>ひらめ様、前書き後書き集の方に記載してあります。ちょっと長いですが、読んでいただければと思います。
ご意見ありがとうございます。おかげで自分の中でも世界観がすこし定着しました。

>葛原様、最後になってしまい申し訳ありません。初感想ありがとうございます。
ご感想の一部を第2話の方で生かさせてもらいました。

改めて、お読みいただいた皆様に感謝をしたいと思います。
ありがとうございます。

話の方はまだそれなりに続きます。





[26825] 第7話 真実 後編
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:208f0740
Date: 2011/08/10 23:37

~ ?? ~


さざ波が砂浜を洗っていく。

「海…か」

どうしたんだい?急に…

僕はもの憂げな彼女に声をかけた。
麦わらの中から、浜風にそよぐ栗色の長髪。
抱き締めれば折れてしまいそうな程華奢な体つき、それが日照りに晒される。

「いえ、藻屑だな…って」

……
少し休もう?外に居過ぎては身体に毒だ

ずっと海の向こうを見て離れない彼女の肩を抱く、
さ、と促し海辺のロッジへと戻り始める。

海沿いに建てられた丸太づくりの小屋、小屋と言っても軽く20坪分くらいの大きさがある。

「もぅ半年になるのね、学……


       あの臨界実験から」

よりそう彼女の身体は、どこか冷たかった。





~“むらくも”戦闘艦橋 加藤 学SIDE~

!?
今のは、昔の…
ここは“むらくも”の中だ、フェードアウトしていた警報を脳がようやっと認識し始める。
モニター脇のタイムパネルがゆっくりと0に近づく。

「電源ダウンまであと5秒!!…3……2……1……!!」

0(ゼロ)になった…
依然警報は鳴りつづけるが、各計器は正常に作動している。

「!?なんで?供給量を40%もオーバーしているのに!?」
「落ちつきなさい!!」

どっしりと構えた有田中佐の口から怒鳴り声が発せられる。
彼女はおもむろにキーを取り出し、作戦ボードの一角に差し込んだ。

せり出してきたキーボードを叩く音

それらが一区切りついたその途端、供給量を示す電力バーが急激に伸びた
そぅ、伸びたのである…あれほど電力に余裕のなさを象徴した赤いパネルがグリーンへと戻ってゆく。
誰もがモニター上に視線を釘づけにし、唖然としていた、本来の仕事もしばし忘れ…

事実関係を良く知る僕でさえ、その急変ぶりには驚きを隠せない。

「な…なんで?」

オペレーターの顔が青い。
そう、何も知らない彼らは訳がわからないだろう。真実を知って彼らは何を思うのだろうか、
騙されたことへの憤りか、ありのままを受け入れてくれるのか…それとも、日本人としての怒りに身を震わすのか?

ふと、ここにはいない青年の顔が思い浮かぶ。
結果として僕は彼を騙すことになった。
違うんだ、騙す気はなかった、ただ僕は彼女に日の目を見せてやりたかった…それだけなんだ。

再び艦が揺れる、体制を崩さないよう近くの手すりをしっかりと握る。
至近距離でミサイルが爆発したのか?

「ひるむなっ!
結論から言うわ、この艦は原子力艦よ!それを念頭に入れて全ての作業を再開しなさい!!
言いたいことは後で聞く!」

凛とした声が分解しそうになった指揮系統をたてなおしていく。

「聞いたね!?電力消費は度外視していい!今は敵を退けるんだ!!」

すさかず中佐のフォローを入れる、
これ以上 彼女 を傷つけるわけにはいかない…!








~神通型コクピット 篠田 まことSIDE~

澄んだ音と共にヒラメが“むらくも”のリフト上に乗りかかる。
先の第1護衛隊の救助作業はスムーズに進んでいた、どこか心配になった俺たちは一度“むらくも”に戻ることにしたのだ。

手元をいじり、ハッチを解放する。
ワイヤーを伝い、黒煙を上げて佇む灰白色の艦体に降り立った。
ついさっきまで戦闘をしていたのか、海面がかなり撹拌され、航空機の機首、破片が浮かんでいる。


艦内が混乱しているのか、管制に呼びかけてもリフトが降りない。

「どうしたんだ…そんなに中酷いのか?」

「降りていくしかないんじゃねえか?幸い穴は盛大に空いてんだ」

ヒラメの上からひょっこりと顔を出した健が、アゴで突入口を指した。
10m近くある大穴、黒煙を噴きだす原因のひとつ。

「…コレ、中入って大丈夫なのかよ!?死なね?ガチで死にそうなんだけど!」

「あ、大丈夫みたいですよ?今艦内の状況を調べましたが、消化も済んでますし
ただ、消火剤まみれになってますね」

耳に当てた無線から今度はユウの声がする、どうしても俺に行かせたいのかお前ら。
うーん、死なないのがわかっていいんだが、消火剤でベタるのはちょっとね…

「じゃ、じゃあ行ってくるぜ。留守番ヨロな」

しかたねぇなとぼやき、おそるおそるロープを垂らし、周囲のべたべたを気にしながら降りる。
だいぶ喰らったようだ、防御区画が大きく削り取られている。

穴の最下層につく、といっても横にえぐれているのでそれほど深くはない、2階層分くらいだろうか。

「うぇ、ベタベタ…」

降りた隔壁の解除コードを叩きこんでいく、消火剤まみれの端末が気持ち悪い。
そしてなにより焦げくさい。

―――

盛大に軋む音と共に隔壁が開く。
打って変わって綺麗な区画を、戦闘艦橋目指して歩く。
ねっとりと足の裏に絡みつく消火剤が、俺の足取りを重くしている。

――ザッ


艦内放送…

「“むらくも”全乗員へ。艦長の有田だ、重要な話がある」

中佐?

「本来なら出航前にキチンと話さねばならなかったのでしょうが、故あってそれができずこの有様。
先に謝らせてほしい」

??
いつしか俺は足を止めていた、
これからスピーカーから何が漏れだしてくるのか、それを一言一句聞き洩らさないようにと。

「この艦には禁止されている原子炉を搭載しています。
それにまつわるデータを艦のデータベースに載せておきました、各自端末より確認をしてください。
次に、今後の対応ですが……」

「!?」

そんなばかな、頭の中でループ再生される言葉。だが、それに答える者はここにはいない。
放送では希望者の下船を認めるなど、かなり真実味を帯びた事後策が流されている。これが冗談、等という事態にはならないだろう。

「……質問は応急修理が完了する16:00まで受け付ける、艦長室まで来て欲しい。以上だ」

そういえば機関室は静かなものだった、出撃前の機関室を思い出す。ガスタービンならもっとドス効いた音がしていたはず。


「マコト!戻ってたのか」

!?

「リュウか、真田に白井も」

「うん、搭乗待機がようやっと解かれたんでね、艦長室の方へ行こうかと思ったんだ」

ひとり元気そうな真田がこちらに返事を返してくる。
リュウと白井は結構厳しそうだ。

「ん?ああ、甲板のスペースのせいで私だけ出撃できなくてね。退屈だったけど、疲れなかったよ、
凄くヒヤヒヤしたけどね。」

・・・

「そうか、俺は急ぐから…また後でな!」

「?あ、ああ…」

一瞬あいつらと行こうかとも思ったけど、一緒に行く気にはどうしてもなれない。
別に嫌いだからとかじゃないんだが、なんかこう…
俺は通路を疾走する。ただ、艦長室へと向かった。







~“むらくも”艦長室 まことSIDE~

「どいてくれっ!」

群がるクル―たちを押しのけ、順番待ちの列を追い抜いていく。不平を言う奴の声も聞こえたが、今はそんなことに構っている暇はない。
ドアを開く。

ちょうど前に入っていた奴の質問が終わったところなのか、はね開けたドアの先で鉢合わせをする。
すごすごと俺の脇をすり抜けていった、そんなに怖い顔をしていたのか?俺…

「失礼します」

艦長室へと足を踏み出す、ふわふわのカーペットのおかげで、身体が妙に不安定になった気がする。
机の向こうで腕を組む有田中佐

「うん、失礼だね。順番は守るべきじゃないのか?」

それに、彼女の後ろに居るのは加藤中尉か…

深呼吸をする。

「教えてくれ!」

「ふぅ…まずは落ちついてくれないか?」
「落ちつけ…だって!?そんなことができるか!」

一瞬激昂しそうになるのを抑える。
だめだ、ここで怒ってしまっては話にならなくなる。

「なぜ隠していたんだ?いや、それよりもだ…どうしてこんな艦が自衛軍に存在する!?」

抑えきれない自分の心が言葉の端々を尖らせる。

「…ここでその話をして何か意味があるのかしら。こうしてこの艦は原子力で稼働している、正直これ以上の説明の余地はないんじゃない?
理由を説明してもその事実は変わらないし、マコトの選択肢は 続ける か 降りる かだけ。
それに、作戦時間は予定より繰り上げられて時間が押しているの。説明している時間も、本当はないんだ。
まぁ、理由を聞かないと日本のために戦えない、というのなら話は別だけど…」

っ!
いつもより高圧的な中佐の対応に、不快感を覚える。

「あなたはっ!どういうつもりですか!?」

「落ちつけと言ったでしょう、私自身も少し苛立っているの、申し訳ないんだけど少しだけ、我慢して…」

向こうも同じような回答を何度も繰り返したのだろう。頭を掻きむしりながら、ぼさぼさになった顔でこちらを見てくる。
改めて彼女を見る、だいぶやつれた様子だ、あんな状況では棘の効いた対応になるのも頷ける。
ったく、俺も俺だ、忍さんにあたったところでなにも好転しはしない。

「す…すみません、俺も頭に血が上っていたようです」

「ぅん、それでいい。
どうあがいたってこの艦が原子力艦だという事実は変わらない、私だって実態を知って死にたくなったわ。
だけど、今できることは批判することでも、絶望することでもない…」

そのとおり…としか言いようがないか、ここで“むらくも”を放棄すれば佐世保攻略の成功率が下がる、それ以前に戦力的に佐世保に辿りつくこと自体が難しくなってしまう。

「つまり、ありていに言うと…俺たちだけは絶対に残れということですかね」

「そう ありてい に言えば、そうなるわ、今あなたたちに下艦されては戦力が足りなくなるの。
マコト、あなたが望むのであればこの艦の真相を伝えます、ただ…今後も力を貸すと約束してほしい」



「それは、ぜひお願いします。自身の母艦についてわかることはできるだけ知っておきたいですから」

有田中佐のアゴが少し動く。
それに呼応するかのように、後ろでずっと待機していた加藤学が前に出てくる。

「詳しくは中尉に聞いてほしい、私は他のクルーたちに説明してくる」

カーペットをなぞる音が、ドアのしまる音と共に聞こえなくなる。
この部屋、今気付いたが防音設備が完備しているのか。外の喧騒が一切聞こえない。



「さて何から話そうか。建造の経緯を話すのは後にして、彼女…いや、このフネそのものについて話そう」

目を合わせ、語り始める学中尉。
彼女?

「昔、ある科学者がいたんだ。
人間が豊かに暮らせるために、より便利に生きていけるように、そういう志を持った美しいひとだった。
限られた資源を最大限に利用する、あらたなエネルギー源が見つからない今、核燃料への関心は高まってゆく。たとえどんなことが起こり、反核が進もうと、いずれは核を使わざるをえなくなる。
そう、彼女は原子炉を研究していた。より安全で高出力のものを、と。
そして事件が起きた、ちょうど6年前だ…」

これは…長くなる予感が。
自分から聞きたいと言った以上話の腰を折るような真似は出来ないし、ヤベ。

「彼女の設計した原子炉の臨界実験を行ったときだ、本来核物質が臨界に達する前の段階で実験は終了するはずが、なぜか臨界状態を迎えてしまった。それだけならいい、原子炉容器そのものも、発注した物とは違った、より劣る構造をしていた。
わかるか?」

「…発注ミス、でないとすれば嵌められた、ということでしょうかね?」

いつもの中尉の落ちついた物腰が、このうえない凄みを醸し出している。
今は話を合わせておくべきだろう。

「そうだ、本来なら完璧だったはずだ。それが反対派共に妨害され、試験に失敗したことで有無を言わさず計画は白紙化。そればかりか被爆した研究者・作業員たちへの補償もままならなかった…僕は、徐々に弱っていく彼女をただ見ることしかできなかったんだよ!!」

「じゃあ、この艦にはその女性の作った原子炉が?」

そういうことか、いきなり昔話をするから何かと思ったが。

「ああ、正確には設計図通りに建造しなおしたものだがな。どうだ?通常の駆動に加え、激しい戦闘にも耐えているじゃないか!
このフネは彼女そのモノだ、彼女の理想そのモノなんだよ!」

「…」

だんだんと興奮を露わにしていく中尉を前に、俺は何も言えなかった。
“むらくも”に、失った女性の影を追っている…狂気とも言える一面を俺は見ている。
出航前に 艦 ではなく フネ と呼んでいたのは、その女性を物扱いすることへの抵抗からなのか?
艦とその女性を同一視している時点でどうかとも思うが…

「中尉には、その女性しか見えてないんだな」

「…そのとおりだね。正直、僕は彼女以外の人間はどうでもいい。
人としていけないことだとは思うけど、それだけ僕は彼女を愛していたんだ」

……

「わかった、あともうひとつだけ聞きたいんだけど、この艦は開発部が建造したのか?」

東日本に重点的に存在する軍備開発部、たいていの新兵器はこっちがわで設計・試作されているはず。
まぁ北秋型と南秋型は例外だが…

「あぁ、建造の経緯の方を話し忘れていたね、質問の答えはYesだ。上の連中も原子力艦運用のノウハウが欲しかったんだろう、僕が彼女の改修案を提出した時もすんなり通っていたからね。
そのおかげで非公式のWL搭載型護衛艦“むらくも”が完成した、というわけさ。
さ、僕の話はこれでお終いだ、僕の勝手に付き合わせてすまないけど、許してほしい…」

燃焼しきったのか、いつもどおりに戻っている加藤 学。あれほど沈着冷静そうな人がこうも激情する。それも女関係とは。
近寄りがたかった気がしてたけど、結構人間臭い面も持っているんだ…

「なに、アンタが気に病むことはないさ、過程はどうあれ、中尉のおかげでこの艦は戦えたんだ。聞いたぜ?結構ヤバかったんだろ?」

「あ、ああ。そう言ってもらえるだけで、気が楽になるよ…ありがとう」

艦長室に来る間にあちこちでこの話で持ちきりだったものな、俺みたいに怒りを露わにする奴、原子炉のおかげで戦えたんだと肯定する奴。
俺は…俺自身 どっち かはわからない、だが少なくとも艦を降りるつもりはない。
クルーたちも、説明さえしっかりすれば、下艦する者は少なさそうな雰囲気だった。

「いいってことよ。じゃ、俺は機体をしまってくるよ。リフトの制御を格納庫の方にお願いしてくれ、頼むぜ!」

「ああ、任せてくれ」

俺は通路を歩く、さっきまでうっとおしいほどだった人だかりも、今ではほとんど気にならない。
忍さんがだいぶ苦戦している様子も見て取れる。

「聞こえるか?桐栄さんに健、雄。色々わかったぜ……」

俺は首から下げたままのヘッドフォン型無線を開きながら、仲間と愛機の待つ甲板へと急ぐ。
さっきまでの怒りはどこかへ飛んでいた、本来やるべきことを成す、それを意識したからだろうか。
今回のことでも動じない心ができた気がする。
妙なくらいのやる気が、俺の心に満ち満ちていた。

とはいえ、上層部が原子力を容認するなど、おちおち戦争もやってられないものだ…









エピローグ

これから行われる作戦のためか、すっからかんになった横須賀滑走路が窓から見える。
一番広いゲストルームをあてがわれ、念のためにと付けられた護衛とお茶を飲んでいる。

「は~い!質問でぇ~す!!」

「!?」

傍にいたお守(護衛)が目を見開く。

「ど、どうかなさいましたか!?嶋野外交官殿!」

マジで心配そうな、基地外(残念な人)を見る目がこっちに向く。お茶を飲んでいるときだったら確実に戻していたことだろう。

「なんであたしの出番ないの!?」

「や、そう仰られても…というよりですね、本編でそういった類の発言は控えていただきませんと…」

「ヤダヤダヤダ~!最後に出たシーンがメロン投げるだけだなんて!」

「あの、自分…名前すら出ない“護衛”なんですが、それからしたら十分すぎる程かと…」

じたじたする真奈美をよそに、達観した眼差しが宙を舞う。

「あ~、もー!こないだまでいた勝男大尉はどうしたの?彼となら前線で華々しい活躍ができそうだわ!」

もちろんそんな悲しみに共感するような娘ではなかった。いかに出番をもぎとるか、それのみに頭がいっている様子。

「た、大尉は陽動作戦のためにもうここを発ちましたよ!」

「なーんーでー!!」


横須賀は、今は平和そうである。





後書き

書いててどんどん自分で自分の首絞めている気がします。
無理やり感漂ううえにダラダラした感じになってきてしまったので、追々直していきたいです。
完璧描写し忘れてたキャラが居過ぎてちゃべーコトになっているので、ポツポツ織り交ぜていきたいと思います。

今までテキトウだったタイトルを刷新、心機一転書いていきたいでふ。
わかりにくいので機械系の解説ページも作っていきます。



[26825] 第8話 ふたり
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:37d239a0
Date: 2011/09/14 01:05



プロローグ

日が暮れた。
応急修理を完了した“むらくも”以下3艦は九州南部、佐多岬を迂回するルートを選択し、巡航速度で航行している。
3日後とされていた陽動はくり上げられ、2日後となったらしい。
それにより当初よりスケジュールが押しているが、間に合わないことはない。むしろ内陸側、のルートを選択した際の、接敵の方が厄介だ。

「ふぅ…」

「有田艦長、先の戦闘の報告書がまとまりました」

「ん、ありがと中尉。申し訳ないけど、かいつまんで読んでくれる?ちょっと疲れちゃった」

「は、では僭越ながら
まず本艦の被害ですが、第17区画が全損、第10・16・38区画が損傷。死者11名、負傷者47名、うち重傷8名、下艦を希望する者は6名です。下艦希望者・重傷者は先ほど、元“ひゅうが”所属ヘリにて横須賀に搬送いたしました。また損傷により電磁迷彩が機能せず、回復の見込みもありません。以上、艦のシフトの変更等が必要なレベルとなっています。艦隊戦力は“ひゅうが”の脱落により23%減少、陸戦部隊については39%を損耗しました。第1護衛隊各艦も損傷しており、稼働率は平均67%になっています。
次に、先の戦闘で回収した敵未確認機の残骸ですが、解析した結果、無人機であることが判明しました」



「無人?」

「はい、プログラムそのものは消失していましてシステムの全容は明らかになっていませんが、敵未確認機の機首残骸をを見る限り、間違いないかと推測されます。」

「そう」

保有WL数に決定的な差、それに追い打ちをかけるかのような無人システム、
以後、特攻まがいの戦闘を仕掛けてくる恐れがある、他方向から複数機に体当たりをされればひとたまりもないだろう。
戦時中の米軍の気持ちがわかる気がするわ。

「厳しいわね」

「はい、最悪遠洋からの攻撃も覚悟しなければならないかもしれません」


「加藤中尉?その選択はナシよ、こちらから民間人に危害を加えるわけにはいかないの
危害が加わる可能性の高い武装は使えないわ。兵員、WLを上陸させての直接占拠、これだけは決定事項よ」

今までは海の上で、しかも民間船侵入禁止海域に設定された部分で戦っていた。だからミサイルでも機関砲でもなんでも大丈夫だったが…
敵施設が陸にあるとなれば話は別だ。

「…は」

一瞬口ごもった中尉がさがり、視界から外れる。
今は日本全体が緊張状態にあるしている、そんななか少しでも民間人に危害を加えたなら、そのことは大きく報道されることだろう。そうなれば一方が叩かれ、世論は西に傾く。
先ほど通信した横須賀からは、それだけは絶対に避けるようとのお達しがきた。
そして、作戦の修正と陽動作戦の早期実施が決定されたというが、これで好転するとも思えない。
在日米軍が動けば変わるかもしれないが、紛争が始まってまだ1週間も経っていない、
昨日の今日ではアメリゴも判断・行動できまい。

「どうしたものかしらね」

―ふぅ

小さな吐息とともに、背もたれが軋んだ。





本編 

~ 翌日AM 05:30 食堂 篠田まこと~

「んむ?」

しぱしぱする目をこすりながら食堂に入る。いつもよりも贅沢な臭いが空腹なお腹を締めつける。
朝食の時間ジャストなせいかあまり人はいない、端っこの席には、さっきまでシフトが入っていた真田と桐栄さんがいる。
昨日の一件の後処理でも手伝わされたのか、ふたりとも結構な頻度であくびしちょる。

「って…朝から焼肉かよ!」

食べてるモノは、と覗きこめばまさかの焼肉…まぁ食えるけどさ、なんか朝から贅沢すぎるのぅ。昨日までのショボイ飯とは大違いや。
コッチに気付いたのか、真田が顔を向ける。

「おはよう、モヤシ。よく眠れたようだな…」

くまだらけの視線をこちらに向ける真田、セリフの端々に棘を感じる。

「あ~!良く眠れたな~!起きたばっかだから焼き肉とか胃に重いや!」

わざとらしく伸びして見せたりする、予め配膳されたトレーを受け取り、さりげなく桐栄さんの隣に座った。
お手拭きをで念入りに拭きながら横をチラ、と確認する……返事はない。

「…ヤフ!いっただっきやーす!!」

正直焼き肉なんかより桐栄さんの、俺に対する冷たい態度の方が胃に重い、
なんとか状況を打破すべく隣に座ったは良いものの、なんと声かけしたらよいものか全くわからん。
真田がいるだけに、声かけのしづらさに拍車がかかっている。

そもそもなんで無視されてんだっけか?
ああ、そうだ、確か医務室での件以来だから…

そんなこんなでひたすらガっついているような姿勢を見せざるを得ない、だって間がもたないんだもん。

「えらいがっつくなぁ、そんなに腹減っていたのか?」
「…・・んぐ・ばか、そうじゃねぇって…・」

こうしているうちに俺と真田の会話しか出てこないくなる。完全に桐栄さんアウェー状態、マズイぞこれは

「じゃ…わたしはこれで」

「もう行くのかい?いくらなんでも早すぎやしないか。本当なら今からが朝食の時間だ、ゆっくり食休み取ったらどうだ?」

ふたりとも若干早く当番を切り上げてきたのか。
早くに食事を終えた桐栄さんを引きとめる。真田、ナイスだ!

「疲れたから休みたいんだ」

デスヨネー、やっぱひきとめても無駄だったか。
ココに居るよりも自室にいる方がよほど休まるのだろう…というか休まるだろう。

どうせ俺なんか…

「モヤシ?どうかしたか?」

心配そうな視線を向けてくる真田、ここは話を聞いてもらうか、愚痴れりゃ整理もつくしな。

「いやぁ、実はカクカクシカジカ………」
「ははぁなるほど、カクカクシカジカってわけか。」

「そうなんだって、どうすりゃいいと思う?」
「バカ!カクカクシカジカだけでわかるか!阿呆かお前は!」

「デスヨネー」

もう数度バカを連呼されつつも桐栄さんがろくに取り合ってくれないこと、その原因がどうやら医務室での一件、 とある話 を聞かなかったことにあること、を伝えた。

「そう!なんでかはよくわからねーんだけど、桐栄さんの対応が素っ気なさすぎというかなんというか」

「なるほどね、彼女、私と話すときは至って普通なんだが…。マコトと会ったときにふてくされた感じがするのはそういうわけか」

「おおよ、なんかいい案ねーか?」

もはや藁にもすがりたい気分だ。このままでは最悪の状況で佐世保攻略に臨まにゃならんくなる。

「そうだね、その前にひとつ聞きたいんだけど…」

「あ?」

「モヤシは嶋野をどう思っているんだ?」

「へ?」

口が開いて閉まらない。
どうやらガチで言っているみたいだ、真剣みを帯びた眼差しが俺の瞳を貫く。
一瞬回答に困り、黙りこんだ。

「どうって、どうということはないさ」

彼女は友人であり戦友であり仲間である。
これ以上に何かを抱くことなどないし、第一こんな状況では…

「本当にそう思っているのか?」

「…ああ」

「まぁ、いいか。お前がそう言うならこれ以上は何も言わない。
だがモヤシ…老婆心ながらひとつ言っておこう、恐らくお前は嶋野を拒絶したも同然だ」

「どういうことだ?」

「そこは自分で考えろ、“女を甘く見ていると痛い目を見る。常に相手の内側を探れ”」

真田が席を立ち、食器を返却口に戻していく。

「なんだそれ!意味わかんねぇよ!」
「まぁ、女性の心理は男には理解しがたいってことさ、逆もまた然りだがな…」

だから仕事でも交際でも摩擦ができる 最後にそう言い放ち、真田は食堂から出ていった。
後に残された俺、

「内面を探れ?そんなこと言ったって相手が覗かせてくれねぇんだから…」

残った肉片に箸を伸ばす、そして噛みしめる。

味が濃い…喉が渇く





~ AM 06:00 格納庫 篠田まこと~

「ハァ」

格納庫の片隅、ベンチにすわってため息を漏らす。
あと5分、本当なら搭乗待機してなきゃいけないのだが…今はコックピットの閉塞感に耐えられる気がしない。

結局俺はなんで戦ってたんだろうか…

「っわ!?」

冷やっこい感覚が首筋を走る。
大昔の出来事に感じられる、ドックでの記憶がよみがえる。

「桐……じゃなくてジジィか」

「フン、悪かったな。ジジィで!」

缶ビール両手に、背後に立つ三崎整備長、飲め、という具合に突き出された缶。
整備長には悪いが、桐栄さんだったら…と思わんこともない。

「なんかやたら出番多くないか?アンタ。ブラボーの奴ら役が喰われてるんだが…」

「何かと都合のいいポジションじゃからな!これぐらいメリットねぇとやってられんわ!!」

相も変わらず豪快な笑い方をし、片方の缶を煽る。缶が空になったのか、既に黄色い水滴がポタポタと落ちるのみである。

「で、なんか悩みごとかの?」

口髭に泡をたくさんひっ付けながらこっちを向きなおした三崎整備長。

「飲んで忘れろ、はナシですよ。だいたい飲みませんからね」

「チッ…つれないのぅ」

気持ちのいい破裂音、結局両方アンタが飲むんかい…
取り留めないやりとりが身体に染みこんでいく
そうだったな、俺は…仲間を、ひいてはこれまでの日本を守るために戦うんだ、そう決めたはず。
いけないな、ちょっとしたことで意思が揺らいでしまう。

「で、なにか用でもあるんですか?」

毎度頬が赤くない時があるのか…ってくらい赤い頬を左右に振っている。

「おお!そうじゃそうじゃ。今朝方おぬしのWL、改造しちった!」
「は?いきなりなんですか!?」

「や、だから…神通型ってエネルギー喰う武器ばっかで持久力なかったじゃろ?瞬間火力だけで勝てる程戦場は甘くないと思ったんじゃ」

マァ確かに、レールガンとレーザーブレードだけじゃあ持久力なんてないけど。でも、あんまり変な改造されて重量が増えるのは歓迎できない。

「で、何したんです?」

「心配すんな、そんな変態改造はしておらんわ、したかったけどの。ただちょっと、20ミリ機関砲を左腕にな」

なんだ、それくらいなら… と思った瞬間謎が発生する。
どっから20ミリ持ってきた!?
WLの携行する火器類はたいてい20ミリ以上の口径を持つし、“むらくも”に改造用のパーツなぞあるはずもなく…

っ!

「まさか…」

「そじゃ、“むらくも”の対空火器パクってきたb」

「……」

「安心せい、昨日の戦闘で損傷したCIWSを修理したヤツじゃ。艦の生きとる火器数は変わっとらん」
「あたりまえですって!」

ったく、毎度毎度予想の斜め上を行く行動をしてくれる…

「そういうわけじゃからコックピットで機体バランスの調整しとくれ、弾倉もそれなりの使ったから結構軸ずれたかもしれん」

「はぁ、了解です。そのこと…艦長には内緒にしてくださいよ、殺されちゃいますから」

「あたぼうよ!」

とりあえずそこを後にする。
目の前にそびえる空色の巨人、右腕甲部に小型のドラムマガジンが見える、さっき見た時は気付かなかった。
左手にレーザーブレードを装備しているから仕方ないのかもしれないが、レールガンと相まって機体右側の荷重がヤバいのでは…?
神通型のすぐ後ろには桐栄さんの日原型、パーソナルカラーの白が目を引く。

梯子を上がり、甲高い音をたたせてタラップを抜ける。



「桐栄さん!?」
「!」

覗きこんだコックピット、中に桐栄さんが陣取っている。
俺がするべきはずの調整を彼女がしている、頼まれたのは俺…どうしてだ?

「…整備長にお前の機体の調整を頼まれた、ただそれだけだ」

「どういうこった?」

「それはわたしのセリフだ、お前は艦長直々の命令で任務遂行中ではないのか?」

「…!?」

はっ とタラップから下を覗きこむ、そっぽを向いて缶を煽るジジィ。
どこから情報を仕入れたのか、真田にしかまだ話してないのに。あいつら、変な気を使いやがって…

「まぁいい、用がないのなら少し離れていてくれないか?機体調整に支障が出る、わたしは万全を期したいんだ」

「…スマン」

黙々とパネルを叩く桐栄さんの様子に、一歩さがる。
さっき一瞬こっちに向いた彼女の漆黒の瞳、今はただ下に向いている。


「…調整、頼んだよ」

あまりの気まずさに、俺はその場を後にした、ただ一言だけ、なんとかひり出した後に。








「なんじゃ…根性無しじゃのう」

たくましい腕が呑み終えた缶をゴミ箱に投げ捨てる。







盛大に外し、ばつが悪そうに拾いに行くことになったが、それはそれ。世の中かっこよくは決まらんものである。





~AM10:00 真田個室 真田治也 ~

「というようにだ、集まってもらったのは他でもない」

借りてきたミッションボードに情報が映し出される。
集まったのは 橋本・小野田・三崎整備長・白井・私の5人。今の時間帯は高野と嶋野が搭乗待機をしており、篠田は自室に引きこもっている。
なぜ整備長がいるか?
さっきモヤシのことを話したら「俺もやる」とのこと、面白がっているのか心配しているのか…

「おぅよ、格納庫で引き合わせてやったつーのによぉ、あの腰ぬけめ」
「そぉだそぉだ!モヤシのやろぉ女心がわかってねーゼよ」
「おおともさ!」

ひたすらマコトバッシングにふける整備長と小野田・白井トリオ。

「まずは原因究明からいこう、今回の篠田と嶋野の間に何があったかだ」

「ほぅほぅ?」×4

作戦ボードに立体映像が映し出される。高野に即席で作ってもらったプログラムだ。
今日のために、いらんというのにわざわざ作ってくれたらしい、情報処理系の能力なら彼はピカイチだろう。

「私が聞いたところによると、彼はこのように、先日医療室のベットで横になっていたらしい」

ボード上の嶋野の口が動き、立体で吹き出しが出る。

「ここからが問題のワンシーンだ、よく見てくれ」




『――そしてあの日が…『もういいよ』』
『え?』




『事実(第6話後編)を元に再現されたイメージ映像です』のテロップが下の方に流れる。

(本当に芸が細かいな…)

っと、今は高野の仕事っぷりに感心している場合ではないな。

「そうだ、今見てもらったように篠田は嶋野の話を遮ったらしい。それがどうも彼女にとっては重要な話だったようだ
モヤシと嶋野が不仲になった最初の原因はここにあるんだろう、初めは意外と些細なものだ」

「っかし、話止めただけでシカト騒ぎかい…、女って怖いねぇ」
「んだんだ」

しきりに顔を縦に振るふたり

「まぁ、その程度で…と思うかもしれないが、それは安易じゃないのかな。
嶋野はそれだけそのことをモヤシに伝えたかったんだろうし、それを僕らがとやかく言うことはできないさ」

今私たちにできることは、生まれた亀裂の原因を取り除く手伝いをすること、ただそれだけだ。

「それで?ふたりを会わせるのは良いとして、それからどうするんだ?既に一度失敗しているんだろう?」

橋本のもっともな意見、確かにそれで済むなら格納庫で解決しているだろう。

「そこだ。とりあえず、原因と考えられるその“話”を嶋野の口からしてもらうように仕向ける、そうしなければ何も始まらんからな。
その方法ははなんとか考えよう、その分野のスペシャリストがいることだし」

アゴで、ある男を指す。
ブラボー小隊の一翼を担う変態、そう…小野田健太。上手くやればいい案を出してくれるだろう。

「ま、そう来るだろうと思ったぜ、任せな。最高のセッティング考えてやんよ」

「助かる」

会議は続く、
シフトの関係で一旦抜け、数時間後にまた戻ってくる、そんなことを数回繰り返した。
意見がまとまった頃には既に日が暮れ、空には星が出ていた。







~ PM 8:20 篠田個室 篠田まこと ~

今日ほど時間を長く感じた日はなかった。戦闘どころか、レーダーにひっかかる影などなく、至って平和な一日だった。
そして個室をあてがわれ、こんなに良かったと思うことも今までなかった、こんな弱気な顔をあいつらに見せられるもんか。

『―お前は彼女を拒絶したも同然だ』、そんな真田の声が頭の中をリピートする。
どうしてだ、桐栄さんのあの話の続きに何が…?

それにあのときは仕方なかったんだ、俺は、あんな共感を誘うだけの 慰め は聞くに堪えなかっ…

慰め?

桐栄さんは俺を慰めようとして言ったのか?
頭の中をひとつの可能性がよぎる。

 桐栄さんは助けを求めていたのか?

俺を慰めるためでなく、逆に俺に慰めて欲しいためだったとしたら…
だが、普通に考えてあの状況、他人が悩んでいるときにそんな話を切り出すものなのか?
とはいえそう考えれば、真田が『女を甘く見ていると痛い目を見る。常に相手の内側を探れ』と言った意味もなんとなくわかる。
彼女の思惑は行動と間逆だったのかもしれない…

っ!

今思い出した、彼女のあの時の顔には同情の色はなかった。あったのはただ 悲しみ と 救いを求める目 だけだ…
気の強い彼女のことだ、きっとあの時ふたりきりになった貴重な時間に全てを俺に打ち明けようとしたんだろう。
一番自分に共感してくれる時機をうかがっていたのかもしれない。

それを、俺は…!


くそっ、喉が渇いた
横になっていたベッドから上体を起こす。時計の針が半に近づき、シフトの時間の到来を知らせる。

―チッ

今すぐ走っていけない自分の不甲斐なさに怒りを覚える。こんなときに、シフトがどうとか考えているようでは…
今は無視してでも桐栄さんに会いに行くべきではないのか!?

床に落ちているジャケットを羽織り、ドアノブを捻る。

―?

紙がハラリと落ちる、ドアの隙間に挟まっていたようだ。

「これは…?」

紙をひらく乾いた音
中にはワードで書かれた短い文、

―PM 8:30より、“むらくも”後部甲板にて待つ      嶋野桐栄

「桐栄さん…」






~ PM 8:28 “むらくも”後部甲板 篠田まこと~

「この辺りのはずだが…」

艦尾のひらけた場所に出る、後部ゲートだ、この真下が格納庫にあたる。格納庫まではそんなに遠くない、少しくらい遅刻したって構いはしない。
艦が中の光を漏らさぬようにしているのか、やけに星が明るく感じる。

「…!桐栄さん」

見つけた
薄暗い中、ただひとり甲板の上に佇む人影、
闇夜に溶け込む黒い長髪が、彼女の肩から上の輪郭を滑らかに仕立てている。

「待っていたぞ、マコト」

彼女がこちらを振り向く。

「わたしに用とはなんだ?」

!?
一瞬手にした置手紙に目をやる、明朝体で書かれた字が薄暗い中に見え隠れする。

「…そういうことか、あのおせっかい共め」

紙面の向こう側に堂々と見える仲間たちの顔、おせっかいを通り越して頼もしさまで感じてしまう。

「?」

「いや、コッチの話だ、気にしないでくれ」

首をかしげる桐栄さんの手にもやはり紙が握られている。
ベッタベタな会わせ方しやがって…
だが、わざわざお膳立てしてくれたんだ、乗らない手はないだろう。いずれこうして会うつもりだったし。

「待たせてごめん、来てくれてうれしいよ」

「ああ」

敷かれたレールに上手く乗りながら、手に持った紙をくしゃくしゃにして尻ポケットに捻じ込む。

「どう話したらいいものやら…」




…直球だな。

「医務室での話の続き、俺に聞かせてくれないか?」

「!」

数度の深い呼吸から練りだされた言葉。
暗くてよくわからないが、一瞬桐栄さんの少し驚いたような顔が…

「どういう風の吹きまわし?」

「なんて言うのかな。もう一度、俺を信じてほしいんだ」

「…ッどうして?」

やはり桐栄さんの眼には、俺が彼女を拒絶したように映っているらしい。

「あの時は俺も頭がどうかしてたんだ…、この手で人殺して。
だけどおかしいよな、俺は沼津で何人も殺ってたんだ、それなのに数百人単位で殺して初めて悩むなんてさ」

「…」

今まで面と向かっていた彼女の視線が逸れる。

「俺は卑怯な男さ。だから沼津の時は正面から“死”に向き合おうとはしなかった、だからあの時桐栄さんの思いを受け止められなかった」

荒い息が塩気のある風に掻き消される。

「だが今は違う、桐栄!俺は今までの日本を、仲間を守るために戦う!そのためならどんな犠牲だって厭わない!!
それだけの覚悟を決めた!桐栄を受け入れるだけの素地を手に入れた!!」

「…仲間」

「ああ!もう目を背けない!絶対にだ!!」





「わたしも、仲間に入っているのかな」

小さく顔を振り、こちらに問いかけてくる桐栄。

「当たり前だ」

小さく、それでいて太い声を贈る、最早声の大きさは不要だろう。
目の前の桐栄が、顔にかかった漆黒の髪を掻き上げる。


「長くなるけど、いいかな…」

切れ長の目から送られる淡い期待の光



「ああ、かまやしねぇさ!」

届いた…、ほんの少しだけ、俺は胸をなでおろした。






~PM 8:37 “むらくも”後部甲板 機雷投射機 脇~

俺と桐栄は今、最後尾の機雷投射機の傍に腰かけている。
唯一灯る足もとの光が、幼少時にやった 夏の怪談 を思わせる演出を生み出す。

「続き、派兵されたあとからだったかな
アメリゴ側もそれほど戦力としてアテにならないわたしたちを補給部隊付きの護衛部隊としたの。



そして、あの日…





  アフリカ リビス共和国国境周辺


砂で濁った大地、一歩一歩踏みしめる多摩型5個小隊、足もとで砂煙をあげるトラック群。
既に日も半分落ち、気温計が徐々に下がり始めている。
砂で下半身が黄土色に染まるのは、自衛軍WL多摩型。

「にしてもよかったよ、補給部隊の護衛でさ」

「クラ!作戦中にベラベラ私語ってんじゃねぇ!!」

「うへっ」

そうそう、もう一人日本から来ていたんだった、毎度軽口を叩くウルフ2を叱りつけ、黙らせた張本人。
目付役として来た佐々木勝男軍曹。よりによってWLとは無関係の歩兵科の人…

「いいか!ちっと気ぃ抜くだけで昇天すっかもしれねぇンだ!気ぃつけろ!!」

「りょおかい」

やれやれ
はぁ、とついたため息と同時に、首元で小さく音を鳴らすドックタグ、アメリゴ軍としての認識票…。

「こんなもの作ってまで…。」

上下に揺さぶられてもう半日、目的地までまだ半分も通過していない。

『Hey!Wolf1!!(おい、ウルフ1!!)』


補給部隊からの通信、彼らはアメリゴ人、当然英語が無線機から漏れ出てくる。
わたしの脳内言語はもちろん日本語、ゆえに頭の中には日本語に変換されて伝わる。

『この辺りはもう暗い、今日はここで野営するぞ!』

「了解」

彼らに対しては英語で返す。

「ウルフ1より各小隊機へ、今日はここで野営するわ、周辺の警戒は予定通り。それ以外は設営の手伝いよ!」

「了解!」

この1週間でWL操縦がだいぶ上達したように思える。
ここへ来るまでは、部隊の代表格だからと自惚れていた節もあったけど、まだまだだったんだなって思い知らされた。
部隊につきっきりになっている外人の教導官もすごく教え方が上手い人だし、なにより経験が豊富だ。
この人来日させれば済んだ気もするんだけど…。

『これからテントを張るぜ、手助け頼むよ?ひよこちゃん!』

「…了解です。」

半人前ゆえに当然なのだが、人によってはひよこ呼ばわりしてくる。ウチの小隊は完全に名前負けじゃないの…
ウルフだなんて、恥ずかしすぎるわ。

アメリゴ軍に一時移籍することから、部隊名が英名に変わった。
向こうが呼びやすいように、という配慮だろう。名前は小島准将が決めたらしい。

「ウルフ各機、所定の場所に駐機して降りるわ。」

「了解です」
「了解」
「あいよ」

所定位置で多摩型をかがませる。
機内に張り付けたスケジュールをざっと見なおし、手探りでハッチのスイッチを弾く。

重苦しい音、
徐々に開けていく砂原からは生ぬるい風が吹き込んでくる。

ここへ来てもう1週間か…

ぽっかり開いたハッチをくぐり抜ける。今のところ何事もなく済んでる。
コクピット脇に設置されているアンカー、それを伝って下へと降り立った。

哨戒任務に就いていない機が左右に、次々に並んでいく。
多摩型がかがむ、関節の軋む音、それが複数重なると耳触りなことこのうえない。

ッ!

前方は前方でガラガラと何かが崩れる音、こんどはなに?よそ見をしていたせいで心臓に響く、身体に悪いわ…。

『ちょっ!キリエ!助けて!!』

目の前で崩れかけたパイプの束と格闘している中年。
アレが教導官クリストフ、一人でできないこともまず一人で取り組む人…いわゆる熱血漢・めんどくさい人。

「今行くわ、ちょっと堪えてて!」

両脇に降りてきたウルフ連中も駆りだして骨組み作りを始める。







―30分経過―


『サンキューキリエ…とその他。』

……

「その他って酷くないすか?」

「酷いわね。」

彼に悪気はない、だけどこの扱いは…。
無口な3番機パイロットはいつも通り何も話さないし。
4番機の奴は途中で逃げたし

『手伝いサンキューな!ちゃんと休んどけ!それも軍人の責務の一つだ!』

「はい」




29番テント内


ふぁ…

しゅごく眠い。
あと30分で警戒任務の交代だけど、これはまずい。


「嶋野さん、眠れないんですかぁ?」

隣の簡易ベット、さっきまでぐっすりだった別小隊の子が目をこすっている。
わたしを含めて自衛軍WLの女性パイロットはこのふたり。珍しいことに補給部隊の連中にも女性はいない。
だからテント丸々一つを二人で独占できているわけだが…

「ええ、任務の前は眠くても眠れなくて。」

「哨戒ですよ?そんなに緊張しなくても嶋野さんなら余裕ですって!でも、今から寝たら間に合いませんねぇ、ガム、食べます?」

彼女が日本からこっそり持って来たというガム、それを一枚貰った。
包装をはがす音が妙に大きく聞こえる、それくらい辺りは静かだった。

…甘い。

「あのさ、甘くて眠気が増すんだけど…」

「何言ってるんですか~、辛いガムなんてガムじゃないですよぅ~」

ひとしきりいい終わった後、また倒れるように眠りだす。
そういうものなのかしら?

未だ甘さを残すガムを一心に咀嚼し、意識を保つ。




…・・・…

不意に腰に下げた無線機がざわめきだす。

「こちらラビー1、そろそろ時間だぜ?交代よろしく頼む。」

今警戒に当たっている小隊長からの通信、
とりあえず了解、とだけ返し寝袋から抜け出した。

テントと外界を隔てる布、その向こうには青い世界が待っていた。月明かりがなければ真っ暗なくらい…

一見岩だらけ、砂だらけの大地でも、よくよく見れば幻想的といえなくもない。
闇夜の青にわずかに聞こえる虫の声、白銀に輝く丸い月。

あぁ、これで戦争がなければねぇ、
そんなことを呟きながら乗機の方へと向かう。







はぁ~

眠いわ

この数分で何回呟いただろうか。
ようやく着いた多摩型脚部の端末、それをいじくる。

休めるときにちゃんと休む。それが軍人としての常識、って彼には言われているけれど…

「眠れないときは眠れないわよ。」

最早味のしなくなった塊を舌の上で転がす。
掴んだアンカーが巻き取られる音、と同時に身体が重力に逆らって上昇する。



急に強烈な光源が目に入る、ラビー小隊の多摩型、その肩につけられたサーチライトだ。
次第に接近してくる地響きが眠気を覚まさせる。

「ラビー1、まだ予定より早いんじゃない?」

地響きの主、うさぎさん小隊に無線を入れる。

「なは、勘弁してくれよ。もうクタクタだぜ。」

そばに寄ってきた多摩型があいさつ代わりに手を振る。
あとよろしく、そう言っているようにしかとれない。

「わかった、もう帰って寝なさい!あとで覚えてなさいよ。」

「うえ、グーはまじで勘弁だぜ?」

まだ2・3・4番機が来てないけど、なんとかなるかな。

駐機を始めたラビー小隊を横目に警戒を開始する。
あまり感度のよくないセンサー装置を総動員して各方向を探る。と、ぼんやり見える人の熱源。
大きさからして人間のもの、キャンプ内の人たちかしら?

・・・

それにしては、動きが…

「ラビー1?センサー上で動いてる人影って輸送隊の人たち?」

「あ?おかしいな、さっきはそんな動くヤツなんかなかったぜ?静かなもんだったよ」

じゃあ、これって…?
再びディスプレイに目を落とそうとした刹那

―エ?

瞳の上を光弾が横切る。
綺麗に両断された視界の先、
解き放たれたコクピット内に吸い込まれていく。

「ラビー1!!」

必死で叫んだ問いかけに答える者はなく、かわりに爆風が応えてくれた。

「ッ!」

装甲を焼く轟音が響き、右サイドのカメラが変調をきたす。
モニター越しだからダメージは来ない、そう分かっていてもつい腕で顔を覆ってしまう。
それだけの爆音が響いたのだ。

あとに残ったのは胸部に大穴があいた多摩型だけ、
そこにコクピットがあっただなんて信じられないくらい、ぐしゃぐしゃになっている…


死んだ?

「嘘、だってさっきまであんなに…」

こ憎たらしい声で哨戒任務を押し付けた青年、それが…?
赤黒く染まった体を、力なくうつむかせる多摩型

っ!!

立て続けに飛来する熱源が周囲の多摩型に着弾し、
脚部ユニット、頭部ユニットに被弾した無人のWLはなすすべなく崩れ落ちていく。

狙いが正確…
そんな光景を目にして浮かび上がる感情はふたつ、

恐怖



絶望


全身に鳥肌がたち、状況確認すらできない。
死を前にして歯がカチカチと鳴る。



「バカが!起きろぃ嶋野!!ボサッとしてんじゃねぇ!!」

スピーカーから出る声に殴りつけられる。


「佐々木軍曹!?」

「下は後手後手に回って話にならねぇ!残ったWLの指揮を執って叩きつぶせ!多少の損害は気にすんな!」

「は、はい!」

叱咤されるままに返事をする。

「残ったラビー小隊はわたしの指揮下に入れ!」

ラビー小隊を自分の指揮下に入れつつ、どう戦うかを模索する。
いくらアメリゴ軍とはいえ、補給部隊の戦闘能力は低い。しかも奇襲を受けた形にあるとなれば圧倒的に不利だ。
索敵した限りでは兵員輸送車両がかすかに見えるが既に中身は空だろう、主力は歩兵で間違いない。

「敵のランチャーに気をつけて攻撃開始!っサーチライトを切って、シールドを上手く使いなさい!」

少しでも下の負担を軽くしなければ…

「了解!」
「し、嶋野さん!」

「どうしたの!?」

「これは…どうやって攻撃すればいいんですか!?」

眼下に広がる銃声、光源と言えば月明かりと銃火器の閃光くらいか。

「照明弾を使いなさい、あせらないで判断して!」

「はっ」

相手を見つけられたとしても、多摩型が装備するのは07式突撃銃、肩部15ミリ、ブレードナイフのみ。
対歩兵用には向かないモノばかり、本当なら対人散弾等を用いるのがベストなのだろう、だがイメージの問題からか自衛軍にそんな兵装はない。

「…銃火器の使用は慎重に、誤射を減らすのよ!」

「了解!」

だが実際にひよっこが上手く戦えるわけがない、味方を踏むわけにもいかず、かといって動かぬわけにもいかず、
敵味方が入り乱れてしまった今、WLは置物同然であった。
あっという間に撃ち尽くしたメインアームを手放しもせず、ただひたすら飛来するランチャーに身をゆだねるしかない。

「た、隊ちょ…!!!」

次第に届かなくなる無線、周囲をあかあかと照らす爆炎


それで…………」



桐栄の言葉が急に止まる。

「桐栄、大丈夫か?無理しなくていい」

「ん、大丈夫
あのあとは、佐々木大尉とクリストフ教導官からの指示で包囲網を一点突破したんだ、突破の先陣はわたしが務めた、
その時は全ての兵装が弾切れになったものだから、敵を倒すには機体をぶつけるしかなかった」

機体を?

「それって!?」

「そう、踏みつぶしたのよ、人を…」

!!

「わたしがランチャーを凌ぎつつ敵の一角を切り崩し、佐々木大尉たちで一気に抜けたわ、
必死だったとはいえ、あのときの感触は…」

「桐栄…」

「何度WLを降りようと思ったかわからない!だけど生き残ったのはわたしと大尉だけ、いつしか本当の1期生は記録から消され、新たに人が集められた!
このままじゃ、わたしまで降りたら誰も彼らのことを思う人がいなくなるんじゃないかって…」

「誰にも相談できない中でわたしはずっと悩んできた!過去を振り返らない佐々木大尉を羨ましく思った!見習って強くあろうと心がけてきた!」

「だけど強くなるたびに、上手く指揮できなかった自分が情けなくてっ!」

「本当はわかっていたんだ、あのとき医務室でこんな話をすれば、マコトの性格からして拒絶されるだろうことは…
それでも、同じ痛みを味わったマコトなら、わたしを理解してくれると信じたかったんだ」

「本当、すまなかった」

ひととおり思いを吐き出した桐栄を横に、俺はただ謝るしかできなかった。
俺があともう少し人の心を理解できていれば…

「ありがとう…」

伏せていた視界が大きく揺らぐ。

「へ?」

俺の胸に飛び込んできた、今までの彼女からは信じられない行動にただただ戸惑いを覚える。

「今こうしてわたしを受け止めてくれた、それが嬉しい」

「ああ」

「もう少しだけ、このままにさせてくれ」

「いいぜ、気が済むまでな」

天上の月が、これでもかというくらい、明るい光を俺たちに注いでいた。



…なにか忘れている気もするが、忘れてしまう程度のことだ、どうでもいいだろう。














エピローグ

「作戦成功…なんですかね?」

作戦立案者である小野田健太が小声で言う。

「まぁ、軽く成功だな」



「この人さえ止められればな!」×5

見事に全メンツの声がハモる。

「放して!!あの遅刻バカにお灸据えてやるんだから!!」

「ちょっ!今イイとこなんですから!やめて下さいって艦長!!」

アルファ・ブラボー・ウルフ・整備 の面々でなんとか有田中佐を抑え込む。マコト、ひとときの天国を噛みしめるといい、明日からは地獄だぞ。
中佐の左腕をなんとか抑えながら、マコトのことを羨ましくも憐れんだ白井であったとさ。





 オマケ

「で、どっから湧いてきやがった?」

とうとう明日に迫った大規模陽動作戦のため、小田原駐屯地に身を置く佐々木勝男、
目の前に現れたのは見覚えのある幼女。

「横須賀から抜け出してきたのよ、話があって…」

「帰んな」
「んなっ!?」

「ガキがしゃしゃり出ていいような世界じゃない、後悔するぞ」

傍のアルマイト缶を煽る勝男大尉、そんな挑発的な態度に、目の前の女の子が憤慨する。

「ちょっと!どういうことよ!」

「どうもこうもねぇ、ガキに戦争なんざ見させるもんじゃねぇってこったぃ」

「ガキガキ言わないでよっ!あたしには嶋野真奈美っていう名前があるんだから!」

自身の年相応ともとれる態度で食らいつく目の前の幼女に、妙な違和感を覚える。

「で?そのガキがどうして小田原くんだりまできたんだぁ?」

「…もぅ」

コホン、と咳払いをする幼女。背伸びした態度が妙に愛らしさを漂わせる。

「大尉、今までのあなたの戦闘データを見させてもらいました、
それを見込んでお願いしたいのです、私を敵施設のコントロールルームまで導いていただきたい」

先ほどまでとは打って変わって大人びた口調、やはりこちらが本来の彼女なのだろう、と先ほどの違和感の理由に納得する。
…二重人格ってわけではないみたいだな、一瞬そう思えるほどの違いっぷりだが。
見た目で油断させてつけ入る、なかなか喰えない女だ。

「…まぁいいか、聞いてやろう」

これだけしたたかなコイツのことだ、なにかしらこの戦争に勝つ算段を立てているんだろう。話を聞く価値はありそうだな、
案が使えるようなら使えばいい、使えないようなら横須賀に蹴り戻すだけだ…






後書き
文量のせいで読みにくいかもしれません、申し訳ないです。区切りのいい場所がなかなかなかったもので。
人間ドラマに一応の(無理やり)一区切りを付けました、歯が浮きそうです(汗
とりあえず人間関係という 後顧の憂い は断ったので、ガッツリドコドコ行きたいッス。







[26825] 第9話 ひとケタの戦い 前編
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:b08ce012
Date: 2011/11/06 00:17
めっさ長いです、申し訳ない(13000字くらい…)



プロローグ

いつにない緊張感にブリーフィングルームが満たされる、あと5時間後、佐世保攻略作戦が始まる。

部屋が異様に静かだ、周りに座る6人の瞼は閉じられたまま。ほどなくして蝶つがいの軋む音が加藤中尉の来訪を告げる。クマだらけの顔をこすり、いそいそとプロジェクターをいじり始めた。慣れていないのか、何度も指が空を惑う。
やがて、パッと青い光がスクリーンを埋めた。

「じゃ、始めよう。今朝伝えたとおりだ、作戦内容に変更はない。5機編成のWL部隊による敵戦力の撃破、安全を確保したのち上陸部隊による敵拠点の制圧!」

複数の不安そうな声が上がる、だがそんなことお構いなしに話は続く。

「衛星写真・開戦前のデータから予測される敵機だが、基地施設には多摩型・日原型に関しては合わせて6機程度。
北秋・南秋型が各4機、護衛艦数隻、F-15Jが複数機、先日の無人機が数機。今現在確認されているのはこれだけだ」

「これだけって…まだいるのか?」

次々と羅列されていく敵戦力の数に、つい声が漏れてしまう。

「その可能性はある、沼津で君らが遭遇した黒いWL、あれもここにあるかもしれん」

黒いWLか、あの時はキャリーヘリの中から見ていただけだったが、傍目から見てもアイツは神通型と同格、もしくは上の機動性を持っているように見えた。
操縦者のウデはともかくとして、どこか不気味な機体だった。

「とにかく、今回の作戦は相手の指揮系統をいかに叩くかに集約される、戦力的には向こうが上だからね」

加藤中尉の人差し指が、スクリーン上に青と赤の矢印を表示させる。青がこっち、赤が向こう、ほぼ赤一色だ。
青の一番敵側に位置する神通型、それに続いてヒラメに乗った日原水中型2機、その後ろに海中から進む残りの日原水中型2機。

「まず、マコト君の神通型を起点とし、敵防衛線に穴を開ける。その穴を通じて嶋野中尉・橋本准尉の日原水中仕様型 計3機で敵陣深くまで侵入、
突入部隊は敵指揮施設を優先して撃破。指揮系統に乱れが出たところを後続の白井・真田両少尉の重武装日原水中仕様型、及び陸戦隊が制圧する」

ディスプレイ上の神通型・日原水中型2機が、赤だらけの佐世保に突入する。

本拠地を攻めるとなればそれなりの迎撃が待っているだろう、それなのにこんな…

「確かに危険だが、敵施設内に入り込みさえすれば敵は同士撃ちを恐れて撃てなくなるはずだ」

3機のこじ開けた突破口から、崩すように進撃する残りの青いユニット。これが白井・真田の日原型か。

「そんな作戦…!」

「マコト君、キミは反対なようだけれど、戦力差はざっと3倍、どう戦うというんだ?」

「っ!!」

「そう、こちらの戦力は少ない、まともに当たればすぐに全滅するだろう」

加藤中尉の言葉に、再び部屋が重苦しくなる。
さっきから中尉にくってかかっているのは俺だけ…。なんとなく、他の皆はわかっていたのだろうか、こういう作戦にならざるを得ないことを。

「ならどうするのか?持てる最大の戦力で、一点を貫く!他の防衛線に目もくれず…だ!それしかないんじゃないか?」

「…」

正直、今の俺には返す言葉がない。

「更に追い打ちをかけるようで悪いが…コンピュータでシミュレートした作戦成功率は1割あるかないか、作戦成功時に期待される生還機は…

1機だ」


!!


そう、俺だって気づいてはいたさ、こんな作戦になるんじゃないかって。だからこそ、あえて口にしなかった。
だけど…こうして改めて事実を突き付けられると、身体が畏縮する。先に降りた赤嶺少尉の気持ちが、何となくわかる気がした。

「陽動を行い敵戦力の分散を図り、また幾通りも作戦を考えてなお、これが一番まともな数字だったんだよ」

ブリーフィングが終わる、
                      あと、4時間…






本編

~格納庫 まことside ~

馴染んだ神通型のシートが、俺の腰を沈みこませる。
機内の時計が11:07を示す。
       もう、30分もない。


「しっかしあんなこと、作戦開始直前に言わなくたっていいのにな」

「でも、なにも知らされないで行くよりはだいぶいいと思うよ?」

三崎整備長により新たに改良が施されたヒラメ、言うなればヒラメ改か。
頭をボリボリと掻きむしるブラボー4、健。そして眠そうに眼をこするブラボー3、雄。
彼らが乗るヒラメ改は対空兵装を新たに装備したとかで扱いが複雑になったらしい。
モニターの中でも、膝にマニュアルを置いているのがわかるくらい、ふたりともしきりに下をガン見している。
その ため息交じりの声 がマニュアルに向けられたものでないことくらいはわかる。

「そう考えると、昨日から食事が豪勢だったのも、なーんか納得だな」

ウルフ3、白井。昨日の朝から焼肉、昼は具沢山横須賀カレー、夜よせ鍋…おかしいと思ったら今日この作戦。
死ぬかもしれない俺たちを送り出す餞別みたいなものだったのか、

確かに納得。

それに、だいぶ前から作戦の概要は決まっていたように思えてならない。なんせ食材は横須賀でしか仕入れてないのだから。
ぎりぎりまで知らない方がいいと判断されたか…

「…」

無言のままのブラボー2、リュウ。

「どっちにしろ、私たちは軍人でここは戦場なんだ、やることはひとつしかないだろう」

真田…アルファ小隊唯一の生き残り。沼津からこっち、あいつはどんな気持ちで戦ってきたのか。1年近くを寝食共にした連中との別れ、それも一気に…。決して心の弱さを見せない男、心から尊敬できるよ。

次々にモニター上で声を発しては消えてゆく戦友たちの顔。
そして…

「不安か?」

ウルフ1、桐栄の顔が映る。艶やかな肌ににこやかな笑窪、一瞬別人かと見紛うほどだ。
人に胸の内を話す、たったそれだけで雰囲気も変わるもんなんだなぁ。
…彼女は今まで孤独だった、他人に言えない悩みがあった、辛い過去を背負っていた。
だが、それを打ち明けられる仲間ができた(俺でっせ俺!)。
そう、桐栄はもうひとりじゃない。孤独と団結という、相反する意味合いを持つオオカミ、彼女は昨夜、後者のオオカミに生まれ変わったんだ。
もう、今までの孤独に心身を削ることはないだろう。もし苦しくても、俺というよりどころがある。

「ああ、そりゃねぇ」

「あんな話を聞けば…か?安心しろ」
「?」

モニターの中の瞳がじっとこちらを向く。吸い込まれそうな黒い瞳、決意の炎を燃やした瞳が、一直線に俺を見据えている。
顔の表情としては微笑んでいるのに、声と視線は本気だ。

「1機しか生還できないのなら、わたしはお前を守りぬく、どんなことがあってもだ」

「…」

「ま、まぁ最初は作戦上無理だけど…って、恥ずかしいだろうが。なんとか言ったらどうだ、マコト?」

「いや、男が言わなきゃならん言葉を先に言われちゃったと思ってなぁ」

俺の言葉に、みるみる桐栄の肌色が紅潮していく。かぁいい……
そんな中、俺の中でもひとつの決意が再び固まる。

「なんか情けない限りだぜ」

「昨日のだけで十分、男らしいさ…」

絞り出すように呟かれたひとこと。

「へ?」
「なんでもない!!聞き返すな!」

久々にツンデレ桐栄を見た気がする、いや、どっちかっていうとデレデレに近いか?
ツンツンもツンデレもいいがデレデレの桐栄はもっとイイ…



「さぁて、ガキども!そろそろ私語禁だ、死ぬ覚悟は出来たか?」

モニターに現れた三崎整備長が赤ら顔を向ける。モニター越しからでも臭いそうなアルコール感、しかも空気読めない発言かよ。
少しナーバスな俺たちにその言い方はないだろ。

「ジィさん…そらねーだろ」

今一番、皆が気にしていることをズケズケと言う整備長に、少しばかり辟易する。

「お?作戦聞かなかったのか?」
「そうじゃねぇって…ってか今度の作戦内容、知ってのか?港出る前から」

「まぁな、そうじゃなきゃこんな追加装備なんぞそうホイホイ作れるもんでもないじゃろ」

整備長が片手に持った書類をカメラに向ける。表紙はなく、そこには神通型の“追加装甲付加案”があった。
その書類の分厚さから見て、日原型やヒラメの改修案も入っているのだろう。

「部品しか仕入れなかったから組み立てと調整に手間取ったがな!じゃが“トロ箱”は正真正銘ワシのオリジナルじゃぞ!」

「海に沈みましたがね」

前回の戦闘で桐栄が空になった“トロ箱”を捨ててしまったらしい。おかげでワンオフの装備だった“トロ箱”はロスト。
三崎整備長がショボくれたのは言うまでもない。

「嶋野ぉ!覚えちょれよ!」

「す、すみません…三崎さん」




「ったくよぉ、どうせなら最後まで内緒にしとけってんだ」

先ほどと同じ内容をブ―たれる健。あいつだって好きで愚痴を言ってるんじゃないだろう、皆の気持ちを代弁しているだけだ。
誰かが不満を言う、その様子を見れば回りも落ち付いてくる、そう考えたんだろう。

「ガハハ!ちげぇねぇ!!」

相変わらず豪快な笑い方のメタボじじぃ。
次々に消化されていく雑談、そんな光景を、俺は守りたい。かつて自分の中で導いた結論を反芻する。


「だが、聞いてよかったさ、俺は…」
「?」×6

「全員を生き残らせる、っつー覚悟ができた!」

一瞬時間が止まる。とめどなく続いた駄弁りも途絶え、装甲越しの視線を感じる。我ながら臭いセリフ、見事に滑ったか…


「いいねぇ、ぜひそうしたいもんです!」
「いいぞモヤシ!」
「マコトを信じるさ、俺は」
「へへっ、イタすぎて痺れるぜ!」
「お前が言うと、何となく、そのとおりになりそうだな」


と思いきや、目の前のモニターが瞬時にパンクするほど窓が出てきた。みんな一言二言、言いたいことを残して消えていく。
だが、大本命からの通信がまだだ。



来たっ!

「…」
「どうだったよ、バッチリ決めたぜ!」

「で、具体的にどうする気?」
「…サーセン、考えてません」

コックピット中に充満するため息が聞こえる。とりあえず謝るしかない。これから迷惑をかけるから…

「それ、他には言うなよ?」
「りょおかいっす!」

「だが、あの覚悟とやらは素晴らしいと思う、よかったよ…」

キタ――!
本日2回目ですよえぇ。
や、桐栄のあのセリフが聞きたいからカッコつけたわけじゃない、一応どうしようかってのは考えてある。
だが、そんなに効果的な案ってわけじゃあない。生きて帰ったらボコボコにされそうだけど。

「じき作戦開始よ、決意を行動に移してごらんなさい!」

「あぁ!」

力強い返事をモニターに向かって返す俺、うなずく桐栄。

今、作戦開始の秒針が走る。




「じゃ、先行きますよ」

格納庫の中を神通型が闊歩する。とはいってもコックピットからじゃモニターが上下に揺れるだけだけど。
ついでにミックスされる胃袋がヤバいが慣れればどうということは…ない、タブン。

「じゃあ、リフト上げるぞぃ」

重低音と共に視界が暗くなる。もう何度も見た鉛色の空間、所々アクセントで光る橙色のランプが神通型の装甲を鈍く照らす。



そして…
 まぶしい

真昼の太陽がリフト上に影を落とす。視界に広がる碧い海。

「マコト君?準備は良い?」

目もくらむような明るさのなか、モニターの一角が艦橋と繋がる。忍中佐…

「心残りだらけですけど、まぁ問題ないです」

「ん、ま、そんなもんでしょ。今さらだけど、糧食班から連絡事項があるわ」

「?」

一瞬つまみ食いがバレたのかとヒヤヒヤしたが、すぐに呼ばれた理由が納得いった。

「どうやら誤って一食分、豪勢な食材を多く仕入れてしまったようよ。おまけに冷蔵庫の調子も悪い、とのこと」



「…!」

艦長たちが言いたいことは一瞬でわかった、

「必ず、生きて帰ります!」

「うん、温かい食事を用意しておくよ、お前たち!」

「了解!ブラボー1、発艦します!」

俺が皆を生きて帰らすんだ…!
下腹部のGが身体の中身を骨盤に押し付ける。幾重もの光を吐き出すウィングバインダーがいつにも増して推力を生み出している。

皆が生き残る方法、そりゃ簡単だ。全ての攻撃を俺が受ければいい、そうすれば味方に飛ぶ弾はなくなる、そうすれば誰も被弾することはない。
仲間が出撃するのは、遅くても精々数分後。
ヒラメよりも足が速いこの機体なら、5分近くはラグが生じるはずだ。上手くすればアイツらが出撃前に接敵できる。
その時間で敵施設を破壊できれば…いや、破壊できずとも敵の弾薬を減らせればそれでいい。


太陽光に煌めく水色の装甲
眼下に広がる海が、辺りを漂う雲きれが後ろへと流れていく。

「ブラボー1、先行し過ぎだ。突入部隊との距離が開きすぎている!聞こえ…」

艦から送られてくるオペレーターの声、俺はゆるやかな動作で無線を遮断する。

「皆ゴメンな、俺なりにやってみたいんだ」

機体パネルに目をやる、増加されたプロペラントに、若干追加された前面シールド層。
出航してこの方、次々増えていった新装備、どれも整備長が横須賀から徹夜し続けて組み上げた逸品だ。

ってか、いいかげん乗り物酔いにも慣れてきたぜ、四六時中乗り物酔いしていると酔っている状態が普通の状態になっちまう。
まぁ戻すときは戻しちまうが。今心配なのは陸に戻った時だ。揺れていることに慣れた俺の体がどう反応するか…
もしかしたら凄まじい反動が歓迎してくれるかもしれない。

ちょっとした現実逃避が、数分間をあっという間に感じさせる。
そろそろ佐世保基地が展開している防衛線に接触か。
熱源、音紋センサーに映る光点。飛来するF-15J、先日“むらくも”に大穴をあけた無人機2機、護衛艦が3隻。

一瞬護衛艦の名前が表示されるが、センサー機能を操作して、その表示を消す。
沈めるんだ、俺たち7人が、“むらくも”が生き残るために…!

「!」

そう思った矢先に響く警報、 Missle Alertの文字列が視界をふさぐ。

「…いいぞ、もっと来い!!」

普段なら慌てる場面、でも今の俺は落ち付いていられる。無数に迫るVLS、戦闘機からのミサイル群、それらを前に機体を急上昇させる。

「っんぅ!!」

機体背部、腰部追加スラスターから噴出される輝きの帯、尻から臓物が飛びだすような負荷が一気にかかる。絞り出すように出た吐息が声にならない声を奏でる。

ミ、ミサイルに誘導性能があるとはいえ、その旋回性能を超える角度で突入すればっ!!

「ああああぁぁぁぁぁ!!」

咆哮、

ソラに弛んだ弦を張っていくMk-41、美しい軌跡を蒼いキャンバスに残すF-15J・無人機、そしてそれを率いるニ足歩行重機。
肩部ウィングシールドの動きが微調整され、神通型の最適な飛行の補助をする。

「邪魔だよ!!」

俺の手足が、操縦桿・フットペダルを大きく捻りこむ。
背部スラスターが大きくわななき、神通型の巨体が180度、前転するように体の向きを変えた。
頭に血が溜まる、天地逆の態勢のもと、右腕甲部に増設された20ミリのトリガーを引く。

バラ撒かれる閃光。後方から追尾してきた敵無人機、F-15J数機が爆炎に包まれ、後続の良イーグルも左右に散開していく。

よし、無人機をひとつ潰せた…あとひとつ!

有人機には不可能な機動をやってのける目の前の機、昨夜あの機体のレスポンスパターンを計算しといたんだぜ(主にユウが)。
奴らは攻撃が当たると予想される部分を最短距離の移動で回避する傾向がある。そう、右主翼に当たる場合は機体を左に回避する、といった具合にだ。
ヤツが装備している小型スラスターの推力を加味すれば…直後の無人機の機動が読める!

もしくは、ズレなく機体先頭から射撃を加えれば、わずかに回避指令を出すのが遅くなり、その差で弾が命中するだろう。

さっきのは半分運に近いけど…それは内緒だ。

「今度は違うぜっ!」

2時方向を飛ぶ無人機に対し、20ミリを敵右主翼に狙いを付け、射撃する。
同時にフットペダルを最大まで踏み込み、ある座標に突進、

「落ちろ!!」

左腕の機微と共に繰り出される神通型の左拳
吸い込まれるように拳に激突する無人戦闘機、計算通りだ…

激しい衝突音と共に体勢を崩した無人機が海中に沈む。マニュピレータがチョイ警告色濃くなったが問題なかろう。

イーグルたちは背を見せて周囲を旋回している、これで少しは時間が稼げる。
戦闘機は一度目標を正面から外してしまえば、再旋回してロックオンするのに時間がかかる。ソレが上下左右どの方向にも動ける神通型ならなおさらだ。
唯一厄介だったあの無人機も、幸い2機とも落とすことができた。

今のうちに敵艦を…!

空が白い筋で細切れにされた頃、コックピットに、敵護衛艦をロックオンしたことを示す電子音が鳴る。

荒れた息を整え、右腕を操作する。

「沈めぇぇ!!」

右マニュピレータから伸びる2本のレール、青白い雷光が視界を赤く焦がすのに、そう時間はかからない…








~“むらくも”甲板 健太side ~

「なんだって!マコトがもう接敵した!?」
「!?」

隣のユウの表情が驚愕に包まれる、モヤシがもう戦っている?どれだけスピードだしてんだ?
こっちはまだ艦の上で準備体操中だってのに…!あのバカ!!

「こちらブラボー4、中佐!急行します、発艦許可を!」

「いいわ、急いで! …マコトめ!!」

有田中佐もだいぶご立腹の様子、まぁそらそーだわな。作戦ガン無視して突進しやがって…
生き残…れるかはわからんが、モヤシの野郎、帰ってきても死ぬな、こりゃ。

「さぁてと、飛ばすぜ、お二人さん!準備は良いか?」

「問題ない」
「大丈夫よ!」

ホバークラフトが澄んだ駆動音を、おれの心臓が濁った鼓動を、それぞれ脳幹に響かせる。

「ヒラメ改、発艦!」

慣性が身体をシートにめり込ませ、ヒラメ改が跳ぶ。
背中に2機のWLを積載したヒラメ改が水面をバウンドし、白い水飛沫が周囲に雨を降らせていく。



海面を滑るホバークラフト、その上にたて膝をついて鎮座する日原水中仕様型2機

「じゃあ、ラストの確認するぞ、おれらのヒラメ改が防空を担当、敵の目を引き付ける。嶋野さんとリュウは適当なとこで海中に降りてくれ」

「了解」
「ああ」

「幸いモヤシのバカたれが前線に突っ込んでるから、コッチに攻撃がバンバン降ってくるこたないと思うが、上陸し次第バカモヤシの援護しねぇとな」

ボリボリと頭を掻く、満足にシャワーを浴びていないせいか、フケが少しばかり落ちてくる。


「わかっている」
「うん、マコトめ…」

「もうそろそろモヤシ、上陸しているね」

ひとり突っ走ってどうなるってンだ。自分を囮にしようって腹なんだろうが、そういう考えは気にくわね―んだよ。
おれたちは仲間じゃねーか…





~佐世保基地~

「もうすぐ佐世保だ!」

海上の戦力はだいぶ削いだ、あとは海中に敵WLがいるかもしれない。が、空中からじゃどうしようもない。

見えた、佐世保…、長かった道のりがもうすぐ終わる。
だがそんな感慨に浸る間もなく、灰色の敷地から無数の光が走ってくる。対空機銃の織り成す筋は厚く、汗腺から冷たい液が流れ出してくるほど。

「ここさえ抜ければっ!!」

最早震えているのか操縦しているのかわからない、両手足の小刻みな動き。同時に神通型がアクロバットな機動を披露する。
関節に負荷が掛かるが、手加減した機動で避けられるほどの余裕はない。

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

ココさえ抜ければ…地上に降り立ちさえすれば対空砲座に晒されずに済む。基地内に入りこみさえすれば…敵も迂闊には撃ってこられない!
降りて敵を破壊するほど仲間が生き残れる!!

姿勢制御には向かない背部大型スラスター2基、先ほどから沈黙を貫いていたノズルに光明が走る。

通常ではありえない速度で減少する高度計のメーター。
神通型の背部から漏れだす光は上向きに広がっている、その様子を背部カメラでチラリと確認した。

神通型の落下速度にワンテンポ遅れて、幾重もの光が、さっきまで機体があった場所を刺し貫いていく。
もし、落下速度をやわらげるために逆方向にスラスターを吹かしていたら、あっという間に蜂の巣にされていただろう。
もう後には引けない!ただ進むのみ!!

―!

鈍い衝撃が機体を揺らす。
右肩のウィングが欠損したようだ、神通型の揺れが激しくなる。

「まだだっ!!」

真奈美たちを救出した時の作戦を思い返す、

そいや、あんときもこんな浮遊感が…


高度計がゼロを示す。
同時にコンクリ張りの地面が粉砕され、破片が装甲を撫でる。

 多摩型でコレやってたらペシャンコだったな…

いつだったか、桐栄たち1期生(正確には1.5期生か?)と演習した時のことを思い返す。
あの時はジャンプしてからの自由落下で足がもっていかれた。
神通型は軽量化され、また脚部に衝撃緩衝装置が付いているおかげか、ダメージパネルに目立った警告色はない。

降り立った場所は格納庫が林立する地区。加藤中尉の読みどおり、今のところ敵の砲弾は飛んでこない。
流石に火器類を自分の基地で使うのは気が引けているのだろうか?

だが、まだ安心するのは早い。まだWLは一機も落としていない、海中に何機か出撃ているとしても、3個小隊分近くはまだ残っているはずだ。
それまでになんとか敵の数を減らさないと…!


警報!?

「いや、音紋が…?」

重要な索敵装備のひとつである音紋センサーが異常を示している。
そこかしこから波紋が出ているのだ。大きさはWLと同等、だがWLではない…気がする。

「コイツか…」

格納庫脇に隠すように置かれた妙な装置、それがモニターにズームされる。
ドラム缶を大きくしたような、妙な形。その胴体から伸びるニードルがコンクリに突き刺さっている。

「くっそ!!」

どうやらニードルが地面を揺らしているらしい。それもWLと同じ強度と波長で…
おかげでセンサーが敵の誤認を連発し、アラートを鳴らし続けている。
空気中を伝わってきた音だけを拾うと言う手もあるが、ドラム缶自身もかなりの音を出していて厳しそうだ。

「防衛線が突破された時の対策もバッチリか…」

こちらのセンサーが効かないのと同様、向こうも効かないはず。だが…

ここは敵地だ。

向こうには観測員がいるはず、コッチの動きは筒抜けと考えるべきだろう。
仲間と足並みを合わせていれば…、そう後悔しなくもないが、さっきまでのミサイルと弾丸のオンパレードをヒラメ達が回避しきれる気がしない。これはこれでまだマシな選択だったのかもしれない。

今がどうであれ、格納庫地区に降り立つことで、敵WLの多くの目をこちらに向けることはできたのだ。

「何事もポジティブシンキングってやつだな」

ピンチなはずなのに、それほど恐怖感はない。むしろ懐かしさのような安堵をおぼえる。
自分以外は敵なんだ、熱源センサーに丸頼りでも問題あるまい。

「自分以外の動くヤツを潰せばいいんだろう?簡単だ」

……まっ赤っ赤。
…嘘です調子乗りました。
だがそれでもさっきのドラム缶野郎とWLの区別はつく。ホラ、今目の前動いてるのが…

「うげ!?」

そびえる倉庫群から、不意に現れた北秋型、手にした11式突撃銃がこちらを向く。
とっさに、再装填の完了したレールガンをぶっ放す。

交錯する青と赤の火線

敵WLの腰部を、紙きれのように吹き飛ばす蒼い実体弾。
神通型の前部シールド層を蜂の巣にする真紅の弾丸。

敵機の爆発と、神通型の追加シールド層をパージする音が重なる。
地面のコンクリートにヒビを入れる装甲片。

「もう保たないのか!」

だが、この装甲がなかったら…と思うとゾッとする。シミュレーターでのあの落とされる感覚が蘇ってくる。
気持ちを切り替えるように、レールガンのバッテリーが煙と共に排出される。さっき海上で3発、今1発使ったから、あと2発。
弾が圧倒的に足りない、20ミリとレーザーブレードを上手く使わないとマズイな…







~佐世保近海 桐栄side ~

「はぁぁ、相変わらずやってくれてるねー」
「ホント、コレ…どんなチートしたら出来るんだよ」

目の前に広がる惨状にヒラメのパイロット二人が畏怖を込めた愚痴を漏らす、
救命ボートで埋め尽くされた海面をかき分けるように、ヒラメ改は進む。

「マコト、上手くなったわね」

一方で純粋に感心するわたし、いつだったか5隻を沈めたときの敵生存者が13人だということを考えると、沈め方がソフトになったように思える。

「救命ボートのおかげで攻撃もされないみたいね、ブラボー2」

「ああ、マコトらしい置き土産だな」

ソナーに映る光点は二つ、敵の水中型なのだろうが、友軍への誤射を恐れてか撃ってこない。

「どうする?ここで釣りでもしてくかい?ウルフ1、ブラボー2?」

バカみたいに軽い口調がブラボー4から出てくる。健太…とか言ったわね、彼。

「それもいいが、さっさと佐世保に辿りつくべきだろう。それに、相手も“花槍”を持っているならやりようはある」

やりよう…?

「まぁそういうことだ、早く行けウルフ1、援護してやる」

「りょ、了解」

「よし、ウルフ1を攻撃する敵機を排除する!ヒラメ、この座標に移動してくれ、もう1機が射程外だ」

リュウの声で突入部隊が動く、意外だったけど、彼も結構やるのね。

「ウルフ1、例の物は持ったのか?」

「ええ、このとおり」

 右腕にマウントした装備が日の光を反射する。
左右のレバーの動きで日原型の巨躯が一瞬宙を浮き、瞬間的に視界が蒼く染まる。

盛大に立つ水柱。

「じゃあ、任せたわよブラボー2!」

「任せろ」

水中に入ってしまえば海上の動きはよくわからない。ちょっと不安だけれど、橋本少尉のあの自信のありようを見るに、信用してもよさそうだった。

「待ってなさいよ…マコト!」

バックパック左右に設置されたスクリュー、それらが海水を掻き乱し始める。
操縦席脇のヘッドフォンに手を伸ばす。水中戦では音が生死を分かつ、それは重々承知している。
こんな視界じゃぁね…
モニターいっぱいに広がの濁った蒼、それに向かって呟いてみる。

―!!

発射音がヘッドフォンを介して聞こえてくる。心臓に響くこの音は…

「花槍!」

ひとつではない、ふたつ。
ふたつか…これじゃ先日みたいな掴み取って対処することは出来そうもない。

「ブラボー2…橋本少尉、お願い!」

今の私にできることはただ進むだけ。マコトを守る、そう決めたのだもの。


背後に聞こえるふたつの着水音、4つに増える小さな航跡。
わたしはそっとヘッドフォンを外す。そういうことね…ワイヤーを伸ばしている間は回避行動が制限される。

首から下げたヘッドフォンから凄まじい破砕音が響く。

それを利用したのか、
わたしの機体を囮にして先に撃たせ、撃った機体が避けられないところを2本の花槍で刺す…
救命ボートの海を前に焦らされていた敵機には効果的ね。

なんにせよ、これで防衛線に穴が開いた。
あとは左右の敵が来る前に基地施設を破壊し、後から来る上陸部隊を助けなければ…







~佐世保基地 まことside~

「ふたつめ!」

硝煙の上がる右腕を降ろしながら、崩れ落ちる敵北秋型を見下ろす。
この調子でうじゃうじゃ来たらかなわんわ。


「!?」

一際大きな赤がセンサーを埋める。

目の前で、内側から引き裂かれていく格納庫…
コンクリと金属でできたハンガ―が一瞬にして崩れ落ち、地面を穿っていく。

見上げる程の灰色の巨人。
彼の機が落とす影が自機を覆い、初めて俺は正気に戻る。

「…なんだこいつは?」

神通型の2倍はあるか?その圧倒的なまでの巨躯が太陽を背に歩を進めてくる。
自衛軍の資料にはなかったはず、
となると今度の騒ぎのために拵えた新型か…

外観を分析する。
その図体は神通型の1.5~2倍近く、
やや丸みを帯びたフォルムの胴体に強靭そうな四肢が生えている。全体的にずんぐりした印象を受ける。
腕には何も装備していないし、機体は灰色。

丸腰?ロールアウトしたてなのか?

敵機の右腕がこちらに向けられる

「そんなわけないか!」

嫌な予感がし、脇のハンガーの裏へと機体を隠す。
一瞬だが、敵機の腕が変形したのを見た。


―!!

予感は確信に変わり、背中を預けていたハンガーが吹き飛ぶ。

「がっ!」

背後から襲う破片に押され、自機が前かがみに倒れる。

ヤバ…

急ぎ機体を敵機の方に向け、姿勢をたてなおす。
巻き起こる土煙のなか、一歩一歩 歩み寄ってくる敵。
こちらに向けたままの右腕から煙が立っている、どうやら腕部にバズーカが仕込んであるようだ。
となると、あの肘の大型アーマーの裏には弾倉があるのか。あのサイズのバズーカ、弾丸もだいぶ大きいはず。
そんな弾頭を機体内に格納はできまい。

「そんな装甲、レールガンがあればっ!」

わずかに土ぼこりが治まった直後、俺は右の人差し指を捻る。
狙うは敵バズーカ弾倉、いくら装甲が厚くても、あの程度ならコイツで撃ち抜ける…!

稲妻のように駆ける蒼い道筋、外すはずのない距離で、その光が逸れた。

「なっ!?」

確かにターゲットスコープに捉えていたはずの敵の装甲はほぼ無傷。
レールガンの弾は命中したはずだ。
敵機に接触した直前、軌道を違えた弾丸は、何もないアスファルトを砕き大穴をあけた。

「まさか…」

確かめるように右腕の20ミリをばら撒く。
硝煙の煙が視界の一部を埋め、赤熱した鉄屑が高速で射出される。

そして…
敵の巨大な機体が爆ぜた。撃破したのではない、重厚な全身から小さな瞬きが起こっているのだ。
それらが合わさり、まるで全身が小刻みに爆発しているように見えた。

それらの瞬きに応じるように運動を変える真紅の鏃。周囲のハンガ―が、アスファルトが、ハチの巣になっていく。

「リアクティブアーマー!?」

爆発反応装甲…
確か被弾した直後に、装甲の一部を炸薬によって射出することにより、直撃弾を防御するための装備だと聞いたことがある。
確かメタルジェットがどうとかあった気がするが…

どうやら何層もの爆発反応装甲があの機体を覆っているようだ、
ヘタに接近戦を仕掛けて装甲片が自機を直撃したら、たまったものではい。頼みのレールガンも残弾1
ヘタに飛ぼうものなら敵の対空砲火のクロスファイアが待っている。

これじゃ手も足も出ないじゃないか!?

敵の通常サイズのWLが出てこないところを見ると、装甲片によるダメージはかなりの物なのだろう。

「何か手はないのか!?」

轟音と共に空を裂く敵バズーカ弾、それを前かがみに避わし、コックピットでひとり臍をかむ。

弾が十分にあれば…!!
敵のリアクティブアーマーを一点だけでも丸裸にできたかもしれないのに!
腕部に据え付けられたドラムマガジンが―EMPTY―の5文字を憎々しげに映し出す。

 やるしかないのか?

左腕にマウントされたレーザーブレード、バッテリーも2個フルに装填されている。これなら約10秒間のブレード展開が可能だ。

だがここで機体を失えば…

「くっそ!怖気づくな!俺は仲間を守るって誓っただろう!!」

どちらにせよ、コイツをヤらねば俺たちは生き残れない!


「ここで…足止めされるわけにはいかないんだぁぁぁ――――!!」

ひとりコックピットで絶叫する。俺の叫びに呼応して神通型の身体が最大駆動で加速する。
瞬間的に形成される光の刃



「なんだ!?」

あとコンマ数秒、そんなときに雨霰のように降り注ぐ射線、
反応した爆発反応装甲が装甲片をまき散らす。

誰だ?
桐栄達が来るにはまだ早すぎる、俺たち以外で戦える者が?

『Hey,Japanese! Hit it as much as possible! Now!!(そこの!ありったけぶち込め!今だ!!)』

!?
急に聞こえてくる英語、“緊急通信”が封鎖した無線をこじ開けたのか…

「言われんでも!」

甲高い装甲の悲鳴

左腕が、よろめいた敵胴体に突きささる。丸裸になった敵装甲は思いのほか簡単に切り裂けた。
ブレードを引き抜き、代わりに捻じ込んだレールガン、

「お見舞いしてやるぜ、コレがホントの零距離だっ!!」

引いた引き金、動力を撃ち抜いた感触、目の前の灰色の機体から溢れ出す爆風。
フットペダルを最大に踏み込み、背後にバックステップをとる。

「しかし、俺たち以外にだれが?」

地に伏せる灰色の巨躯を片目に、援護が跳んできた方向に注意を向ける。
佐世保の対空砲火が天を焼いている、
神通型のカメラアイを 望遠 に設定し、しばし天を仰ぐ。

地上から噴き上がる火線の嵐を縫うように機動するWL3機。

「アレは…」

アトラス?
アメリゴで開発された新鋭機、シンプルなラインと余裕のあるペイロードが売りの高性能機…

ネイビーブルーに塗装された3機が次々に目の前に降り立つ。

『ハッ!案外ぬるい基地だな!』

『そりゃまぁ、俺ら3機に攻撃が分散しましたからねぇ』

オンにした通信装置から英語の塊が飛んでくる、
頭の中で翻訳しなければ…

「神通型、篠田少尉です、支援感謝します」

とりあえず、命の恩人に敬意をこめて挨拶をおくる(日本語で)。

『んおぅ!俺は所属第2機甲小隊のクリストフ大尉だ、じゃんじゃん感謝してよ?』

相手は英語で返してくる。
なぜか、それぞれ英語と日本語で話す、という奇妙な会話が始まる。

「しかし、なぜ米軍が!?」

『まぁ後は戦闘が終わったら…だ、貴様もさっさと味方と合流して暴れろ!シャーク小隊全機!Aフォーメーションで一気に抜く!遅れるな!』

『了解!』×2

『それと、篠田少尉…』

アトラスの1機がこちらに顔を向ける。女性の声、滑らかな英語が俺の頭に響く。

「なんでしょう?」

『零距離射撃の意味、違う』

「…」

やや大型のフェイスガードを装備したアトラスは、その頭部を元に戻す。
そして地上を滑走していく濃紺のWLたち。

…恥ずかしい(というかどんだけ日本語慣れしてんだコイツらわ)
少し凹んだ。昂ぶっていた気持ちが急速にクールダウンする。

しかし、なぜ今更米軍が動いた?

「正式に政府側に支援が決まったのか…?」

「そういうこと!」

この声わ…
声の主がディスプレイを最大サイズで蹂躙する。
真奈美だ。

「バカッ!前が見えねー!!」

「バカたぁなによ!せっかくアメリゴを味方につけてあげたっていうのに!!」

「ヘ?」

「あたしが!敵基地のコンピュータから西側の裏に他国家がついていることを突き止めたの!それをアメリゴに送ったのよ!」

若干興奮ぎみの真奈美がドヤ顔を送ってくる。
ははぁ、西側が勝つと国内への影響力が弱まるとか、そういうことをアメリゴに教えたってわけね。

「ってか!侵入とか、そんな危ない真似してたのかよ!横須賀で大人しくしてろって言っただろ!」

「そんなこと言わなくたっていいじゃない!大丈夫よ、今は横須賀に帰るヘリの中だし、佐々木大尉がついてくれたもの」

楽しかったわよ、そう言う真奈美の顔が無邪気に微笑む。

「あのなぁ…」

「今はそんな話あとにしましょ、いまはやることをやりましょう」

「はいよ」

通信が切れる。
そうだ、クリストフ…昨夜の桐栄の昔話に出てきた教導官!幼い桐栄…といった雰囲気の真奈美を見て思い出した。
ちらっとしか話に出てこなかったからな、記憶に残りにくかったのか。

空っ欠になった兵装を握りしめ、機体を格納庫の森から飛び出させる。
先のアトラス型3機の突入を皮切りに、アメリゴ軍による攻撃が始まりつつある。これだけ基地の火力が分散していれば皆も無事辿りつけるだろう。

そして、司令部を潰す、絶好のチャンスだ…

今だ見ぬ黒いWLの存在を危惧しつつも、俺は奥地へと機を進める。



   後編に続く





後書き

更新がめがっさ空いちゃいました。(誰も待ってないから無問題って気もしなくもないですがw
後編 次話 後日談 で終わらせられそうな感じです。もうカウントダウンでっせ。
長すぎて読む気失せるかもしれないので、いつか前中後に分けたいっす。
今まで読んで来てくれた人ありがとう、そしてあと3投稿分、見てやってください。



[26825] 前書き、後書き集
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:8e76483d
Date: 2011/06/19 23:18
色々ありまして全前書き、後書きをこちらにコピペしました。

字数数えたら6,000字近くて…消すのモッタイナイ!と思ったのでこっちに移動です。



第1話前

クリックしていただきありがとうございます。
最後まで読んでいただけたら幸いです。

初投稿なうえ、ミリタリーモノということで、そっちのファンの方々からすれば
☆SHINE★ボケナス♡
ってな感じですが、

HAHAHA、ださっ(プッ

という風に鼻で笑って下さって結構です。
用語…あんまりわかってないけど使いたかったんだふ……。

読んで…みて下さい。

ちなみに題材がハポン(日本)ですのでどうしても漢字の名前になります。
ゆえに実在しそうな名前になってしまい非常に不安です。

とりあえず実在の個人、団体とは一切関係ないモノにしようと努力しました。

実在してたらごめんなさい、ゆるして…。



第1話後
ありがとうございますぅ~。
ここまで読んでくれたあなた!
多分10の指に入りますよ、確信してマス!

いかがでしたか、
”いかが”なだけに最後のメニューも烏賊でしたが……。





サーセン。
まぢサーセン。
もう調子こかないんでゆるして下さい。

完全に次回あります的な臭いプンプンしてますが、エピローグ使っちまったんでここで終了してます。

当たり前だ!!カスが!!

という以外の思いを秘めている方、どうぞ感想の方に…。
や、批判な方もどうぞどうぞ、的確な叩きは上達の1歩だと確信しております(多分。

また続き読みたいと思われた奇特な方、いましたら感想にでも”キボンヌ”(古いww)してください。

あ、作中主人公の名前がちゃんと出ませんでしたが、

篠田 まこと です。

名前は平仮名、真であり、誠であれ、ということですね。

聞いてねぇよそんなこと、というあなた!

ひらにスミマセン。


え~此度SS投稿掲示板に出馬しました、ヒロシキ、ヒロシキでございます~。SS投稿掲示版の明るい未来のため~、どうか~、どうか清き一票をお願いいたします~。











どこの政治家やねん!!??

という突っ込みをしてくれたアナタ!
才能あります。

その能力を大事にしてくださいー。

ではでは。

ほんにありがとうございますぅ。



第2話前


引き続き2話目となります。

第2話ページ見てるってことはある程度興味もってるってことッスよね!
信じていいっスよね!!

意外と根性出してみれば何とかなるモノで、ゴロ寝ゲームしながらでも1日で書き切れました。

前回適当に書いた、根性が世界の半分だ的な発言は間違ってはなかったのかと。
感想版の方のおかげでしょうか。(嘘でも力湧きます


ハイ、
先に申し上げます。

ごめんなさい。

前作の流れで行くと完全にギャグ小説化しそうだったので、
最初ギャグ、
途中シリア…ス?(疑問形
〆ギャグ。
の構成にしました。

全然そうは見えないぞボケ!
と感じられた方、サーセン。

しかも今回おニュー装備のお披露目はありますが一切戦いません。
さらに正確には1.5話目というのが正しい位置づけになってます。
オマケに勢いで書いたので、見直してないです。じゃから「は?」的な部分も浮き彫りになってるかと存じます。

あと先の見通し考えて書いてませんので、更新が超遅くなると思います、
生温かい目で見守っていただけたら幸いです。



第2話後

いかがでしたか?

若干今回も烏賊ネタで天丼しようと思ったんですが……
フクロにされそうなんで自重します。


はい、
で、感想箱で、あえて聞かれたんですが、
あえて答えようと思います。(ガチで)

読むのだりぃという方、一気に下の塊ぶっこ抜いていいです。

Q1…WLが対地攻撃、対空攻撃に優れているのは何故!?

A…対地攻撃からいきますが、代表的な戦車VS WLを考えます。まず戦車VS戦車を考えてください。
どっちも平べったいっすね。こいつらで撃ちあったとします。戦車のタマが命中しうるのは敵戦車の全面のみです(迫撃砲等は考えません)。無論戦車は前面装甲がフツーに分厚いわけですから(被弾しやすいからね)命中しても粉砕できるとは限りません。しかも目標の晒している体躯が前面だけなので命中率も自然落ちていきます。それに射界にも限界があり、対空用の砲塔がないと航空機に手も足も出ません。一方WLは約10mです。ライフルは約6m位置から撃たれるとしましょう。戦車と比べて高い分相手の天井が見えます。往々にして戦車の上部装甲は比較的薄い(被弾を想定していない)ので撃破できる確率が上がります。しかも見えるのが前面及び上面ですので少なからず命中率も向上するでしょう。
「それは向こうも同じでしょ!!」
というアナタ!
MS…もといWLはマニュピレーターがあります。故にあらゆる戦況に対応できるのですが、「シールド」というものも存在します。なにも陸戦型ガンダ○のような取り回しを優先したシールドだけがシールドではありません。しかもこの作品におけるWLは若干ながら飛ぶことができます。空中への攻撃手段が乏しい戦車に対し、そこそこのサイズのシールドを装備していれば、WLがタンクに負ける可能性は皆無といっていいと思います。


…長ーなおい。

次、対空攻撃がなぜ優れている!?
はい、この世界においてミサイルによる誘導攻撃はかなり難しい(ステルス装甲ですね)ものとなっています(誘導しないわけではありません)。航空機は特性上常に直進します(ヘリコとか除く)、故にじっくり照準をつけるというのが困難だと考えます。
ちゅうことで航空機にWLが落とされる可能性は0ではありませんが低い確率と見ていいでしょう。
一方で、WLから航空機に関してですが、常に前進するという特性をもつ航空機であるがゆえに予測射撃がしやすいでしょう。ただ航空機は3次元的に飛び回るので苦労するかもしれません。無論高高度からの絨毯爆撃にたいしては長距離ライフル等を装備しない限りWLは無力と言えるかもしれません。

以上、全般的に見てWLの攻撃力は対地、対空どちらに対しても有効かと思われます。

長すぎるよ…興味あった人もどっか行ったよコレ。

でもまだ終わりじゃナーイ。

Q2、WLが装備変更したら戦艦沈む?ありえねくね?
作品を無駄にリアルにする、それが俺の目標です。
コレの発言はマコトによるもので、学者、ナレーターによるものではありません。
「じゃあなんぞや?」
つまりある種の噂話と言えるでしょう(無責任)。
いわば巡洋艦を無力化できるほどの弾頭が開発されたとして(ハープーンにできますから通常弾頭でもできるかと思います←曖昧)、その実験に立ち会った者が弾頭の威力をあちこちに宣伝します。

上層部には正確な威力が伝えられたとしても、一般兵以下の訓練生に正確な情報が行くという保証はありません。噂は噂を呼び、尾ひれ羽ひれいっぱい付いたのかもしれません(苦しい…!?。

まぁ分かりやすく言えば宇宙○紀のシャ○・アズ○ブルの撃墜スコアと一緒です。
5隻の戦艦がどーとか行ってますが3席はサラミ○です。

生き残ったあなたは勇者です。






最期…だいぶ苦しかった気もしますがこじつけだけなら右に出るものはいないと自負しております(左は定かではない。


はい、以上です。

少しでも楽しんで読んでいただけたならもう嬉しいことこの上ないです。

うんちく臭くなってごめんなさい、
「俺のこじつけ最強!!HUuuuuuuuuuu!!」
という方、よろしければ感想にお願いします。


ちなみに前回あんまり活躍しなかった雄二氏をそこそこ登場させてみました。

機会があれば皆のプロフィールも晒したいと思います。


ではでは

ご愛読ありがとうございます―。



第3話前前


ちわっす。

毎度ヒロシキでござんす。

はてさて、実は感想箱の方に…

「おまえの作品なに?Wの使い方分かってんのかタコ!」

というご指摘がありました。
いやはや、ついに来てしまいましたよ!!

正直にいいます。






知りません(ローリングバクテン宙返り土下座





完全にフィーリングで付けたいときに付けたいだけ付けてましたお。

世の中根性で半分~とうんたらかんたら述べましたが、だぶりゅー は根性がわの半分には含まれなかった模様でふ…。


まぁ、ご指摘した方がこのページを開くことは2度とないとは思います。
がしかし、少なくとも1人以上の方に不快な思いをさせてしまった以上お詫びしなければならないかと思います。

この場を用い、謝罪させていただきます。

申し訳ありません。



ハイ、
さて、過ぎたことは気にしない性質(タチ)ですので今回の概要いきたいと思います。(Wは使わないようにしました~♪)

今回は各キャラ(主要キャラ&登場回数少ないキャラ)の掘りさげをメインに作られております。

(そうしないと後々「は?」となりやすいからでふ、ガマンしてチョ。)
故に戦闘パートは存在いたしません。

ロボ描写見たかった方、

サーセン。

ただ次回はガチシリアス(?)に突入する可能性が大ですので、ロボ系バトルも自然多くなります。


なお、今回のみ、試験的に主人公以外の目線で、オムニバス形式で話が同時展開していきます。
故にその場での視点となるキャラの思いを綴っております。
(つまりあっぱー(頭が)的な描写が非常に少なくなっております。)

ですので、前回までのようなウケ狙いな部分が少ないです。

楽しみにしていた方、申し訳ありません。
次回シリアス編展開予定ですが、できる限りウケポイントを設置していきたいと思っておりますので、






見捨てないで……。←結論



今回のUpはプロローグのみですので約3000字で収まっています。
細かい時間などにどうぞ。

(参考…1話約12000字、2話約9000字)



前書き長いですがまだ続きます。

俺が足りない脳みそ振り絞って考え出した題名。

ggってみました。

「なん…だと!?」

ボトム○が真っ先に出てくるじゃありませんか!!??

しまったぁぁぁぁぁあ!!!パくられたぁぁぁ!!!(違います。

万が一ボト○ズ的な何かを期待して読んでおられた方…。

サーセン、ホントサーセン。

俺ボ○ムズノーマークでした……。


長くなりましたが、どうぞ、プロローグをご覧ください。


第3話前後

すまねぇぇぇ!!楽しみにしてた皆ぁあぁぁぁぁ!!!!(居るのか!?居るよね!?
今日は大学行ってたんだ――――!

決してNEET(通称NT)じゃないんだ!
俺はオールドタ○プだったんだよ……。

次は期待に添えるようガンバル!!(キリッ



第3話後前

ヤバい…もう毎日かあさんならぬ毎日こうしんが終わった…。


なんかズルズル更新間隔が開きそうなヒロシキです、ちわっす。



てか今思った、このSS板ツワモノ大杉…。
なんだPVウン十万って……。
バケモノか…。
基本性能の差をまざまざと見せつけられた瞬間であります。





さてさて、今回は予告通りガチシリアス(?)展開を目指しました~。
それはなぜか…。


ネタがないからです(キリッ!

ぶっちゃけ現代日本を模写って書いているんですが……、

あんまりおおっぴらに戦闘できないジャマイカ!!!!(気づくの遅い
どうする!?アイ○ル~♪的な感じだったのが3日前。

じゃあ自分を極限に追い込もうと、1話完結型の話じゃズルズル逃げちゃうだろうと(俺の心が)。
ちゅうわけで逃げないようにババッとデカい話を持ち上げた次第でございます。

おかげでロボ描写ばっか……。

意訳)ギャグがなくなってしまった…。

さすがにヒト死んでる中で主人公にスーパーバカさせるわけにもいかず…。
しかもかなり考えないで設定(警報その他)練ったので粗くてもイヂメないで…。

広域での戦闘を描写しているため、セリフのないキャラはトコトンないのであしからず。

硬めな文体になっちゃった気もするけど…、




見捨てないで……←またかい。


第3話後後

どうだったでしょ。

ナイワーかHuuuuuu!かのどっちかな気もしますが…(圧倒的に前者寄り)。

なんで味方が攻撃してくんの!?バカなの?死ぬの?

的なお考えをお持ちの方、

次回明かそうと思ってます…、お待ちください。

や、何も考えてないとかそんなんじゃないよ?決して!

…信じてない視線を感じる今日この頃です。


読んでくれてありがとうございますー。
また近いうちにお会いできるといいんですが。


第4話前前


ちす、最近前書きが言い訳だらけになってるヒロシキです。

根性とひらめきだけで乗り切ってきたSS、最近精神ポイント足りなくて危険な状況にあります。


前話で急速に話を展開させたせいで
以降にのんびりした話が入れにくくなってしまいまして…。


仕方ないのでチョッチ無理してぶちこみました。
このUPだと振りだけですが、がんばって人間を書きたいと思います。

(ロボバトルないです今回…)


てかなんでいきなりそんな人間関係?バカじゃないの?


と思われる方多いかと存じます。


ぢつは感想の方に…

>戦闘パートとか結構面白かったので~
>戦闘パートに移ると~
>ロボ戦が~


という感じの方がいらしまして…、

や、嬉しいですよ?
いっちゃん不安だった部分が以外と高評価で!!

だがbutしかし、

「俺…キャラが上手くかけてないのか!?」

ってなりまして…、

ツンデレデレな桐栄、エロ担当健太、ブレーキ役リュウ、潤滑剤、雄二。

こいつらを使ってなんとかせねば……と思ったのです。



長いですがもちっとお付き合いください、

加えてですね、横須賀基地とか出しちゃいましたけど実在のものとは一切違う、ということを念頭においてください。(沼津には基地、施設はありません多分…)
間取りも設定も全部テキトーですので。

加えて、かなりアンチョコなストーリー展開になりそうですが…というかなってますが、読んでいただければーと思います。

感想書いてくださった

葛原氏、ひらめ氏、風鈴氏、ブラボー6氏、nat氏、REX氏、(記入日時順)

ありがとうございます。



第4話前後


はい、まぁアリ…でしょうかね?
タイトルにロボモノって堂々書きながらロボ出てこない話があるっつーのは。

まぁ、そんなこんなでいつか書いてみたかった温泉(銭湯)話、次回堂々完結!!

前回セリフ出し忘れた嶋野(小)、なんだかんだであんまり登場してない健、+ダブルオヤジ、名もないウルフ小隊の面々で頑張りたいと思います。

どんな批判が来てもへこたれない勇気!!
大事ですね。

ロボ系期待してた方サーセン。
次はチョッチロボ入るんでゆるして…。



第4話後 前後合同

紆余曲折あってここに前・後書きです。
詳細は感想箱の方をば…、


若干健太君のフェチズムというかなんというかはわたしと共通しているところがないこともないです。




ちょ……変態を見る目で見ないでください、頼みます。

そんなこんなで書ききった銭湯戦闘編、どないだったでしょうか。

おそらくココは野ざらし状態になっていくと思われますが、
たまに、

「こんなバカ居たっけーハハハァ!」

みたいに思っていただければ、と思います。



第5話

ここ見てくれてる人いるのかな?なんて思うヒロシキです。
どうにも予防線という名の言い訳をしないと不安でたまりません。

書く時間がとれくて1週間以上間空いてしもた…。

なにも原因なしでロボ戦は無理だったので今回は振りだけで終わってます。
ゴメンナサイ…。

最後はロボオンパレードにしたいと思っていますので前菜代わりに人間関係を見ていただければ、と思います。

ない知識をできるだけカバーしようと色々こじつけましたが、これはナイ的なのがありましたら教えていただきたいと思います。

なんとか軌道修正してみますので…。

読んでいただきありがとうございます。


第6話前

最近周りのおもろいSS読んで衝撃を受けているヒロシキでふ。
いきあたりばったりも極みに達しまして時間がないどころかネタが…。

キャラも適当に出しまくってたら登場シーンの割り振りがっ。

毎度読んでくれた方、チラ見してくれた方、ありがとうございます。


第6話分のやつは第6話後篇の最後に載ってます。







第7話前。

タイトル横につけましたとおりです。
ずっと前に言い訳的に書いちゃいましたが、若干最低野郎、もといボトム的なアレと思われがちですので
タイトル変えようかと思います。
次回投稿ごろまでにはなんとか考えられるといいかな。
なにか「こんなのカッコよくね!?」的なのがあればアドバイスしていただけると嬉しいでふ。(なんせわたしセンスがっ……)

そしてそして話でふが、若干暴走気味です。
とりあえず今までの記事から使えそうなネタを掘りだしてラストスパートを賭けています。
あと敵側がどんなコトしているのか、本土でどんなコト起きているかもぼちぼち書いてきたいです。

今日の教訓、「行きあたりバッタ」はやめませう。




[26825] 人物・組織 紹介 ネタばれはなし(タブン)
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:1a0f8aaf
Date: 2011/11/06 00:20
人物・組織 紹介

考えなしにキャラ出しまくってたらとんでもないことに…
とりあえずヒロシキ自身の中での整理も含めて こんな奴なのか~ と感じていただければ幸いです。

※随時増えると思います
※白根司 追加
※クリストフ追加


篠田 まこと(少尉)…22歳。幼少時に見てきたアニメにより、WLパイロットへなることを決意。低い身長をコンプレックスにしており、“モヤシ”の異名(?)を持つ。別段ヒョロヒョロな体型ではないのだが、周りにガッチリした奴がいたのが災いしたらしい。大食い。非常に軽い性格なるも状況判断・WL操縦に秀でており、訓練施設第2小隊(ブラボー)の隊長を務めることになる。作戦時はブラボー1と呼称されている。ツンデレ要素を持つ桐栄をいじって遊んで(遊ばれて)いる。乗り物酔いが酷いわりには結構無茶な操縦している。

橋本 龍一郎(准尉)…27歳。通称リュウ、寡黙な性格でまことを唯一マコトと呼んでくれる彼の親友。筋骨隆々のマッスルガイ、マッソーの異名(?)を持つ、でもその名で呼ばれることはまずない。作戦時はブラボー2である。寡黙な性格で第2小隊以外との交友があまりない。気配りのできるややまともな人。

高野 雄二(准尉)…21歳。通称 雄、中性的な性格でコレといって目立たないが、情報収集(作戦関連)においては人並み以上の才能を見せる。バカぞろいの第2小隊の良心とも言える。作戦時はブラボー3と呼ばれる、若干むっつり。後半出番なくて涙目。

小野田 健太(准尉)…20歳。通称 健、エロ担当の第2小隊きってのバカ。逃げ足、状勢を読む能力にたけるが、自身が戦闘で生かそうとする機会は少ない、というか皆無。もっぱらそっち関連で役立っており、ソレ系の情報収集能力には目を見張るものがある。作戦時はブラボー4の名で通る。

真田 治也(少尉)…24歳。沼津養成施設における第3期生。育ちのいいエリート、といった印象を受けるが、嫌味なところはなく周囲に対する気配りも忘れない人物。持ち前の仕切り能力を発揮して第1小隊の指揮をとる。まともな人に分類される数少ない一人。

嶋野 桐栄(中尉)…24歳。沼津訓練施設の第1期生、近接格闘戦において並はずれたセンスを持つ。無論それは白兵戦においても同様で、ほぼ毎日バカ相手に鉄拳が振るわれる。まことに敗北を喫してからなにかと接触の機会が多く、次第に興味から好意を抱くようになる。また、部下と完全に打ち解け、友人関係にもなっている彼を羨ましくも思っている。東北地方、秋田駐屯地に配属されており、第1小隊(ウルフ)の隊長を務める。ありがちな暗い過去を引きずるも立ち直りWLに乗りつづけている。

嶋野 真奈美(外交官)…13歳。桐栄とは年の離れた姉妹、通称 嶋野(小)。桁はずれな頭脳で飛び級を繰り返し(海外で卒業)、ついには日本で外交官の地位を得た。不穏な動きを見せる西日本、ユシアを相手に奔走するも事件勃発を防げなかった。子供が外交官、という良くないイメージを国民に与えないためにテレビ等映像には一切出演していない。

白井 良一(少尉)…25歳。ウルフ小隊唯一の男パイロット。ウルフにおける健太みたいな男。訓練校時代の華であった桐栄、由真と同じ隊という恵まれた状況にありながら今まで一切アクションを取っていなかった。一応理性を持つエロ志士といえる。ウルフ3で通っている。

赤嶺 由真(少尉)…23歳。至って普通の女性士官、なんでもそつなくこなす逸材ではあるが、器用貧乏ともいえなくもない。桐栄を畏敬の念を込めた目で見ている。もともと戦闘に不向きな性格なのか、沼津で経験した実戦で恐怖がその身に刻み込まれ、畏縮し始める。数いる変人たちの中、マトモな人に分類される希少な方である。(普通すぎるがゆえに出番がない、てか使いにくい)作戦行動時はウルフ2の名で呼ばれる。

有田 忍(中佐)…28歳。極めてバイオレンスな女性士官、彼女の鉄拳に血を吸わせた男は星の数にものぼるとかなんとか。沼津養成施設において瀬川中将の秘書官…もといお目付け役を担う。あまりにバカ過ぎる所長に対し、怒りを通り越して母性にも似た感情を抱き始める。

瀬川 五郎(中将)…52歳。沼津養成施設の所長、彼のもとで育った士官たちは個性的だ、との評価が多い。本人もブッ飛んだバカであるからしょうがないとも言える。とはいえ所長としての仕事はそれなりにこなしており、無能でないがゆえに扱いに困る、という見方をしばしばされる。本人曰く、「肩書は伊達じゃない!」。沼津強襲時に死亡(多分)。

佐々木 勝男(大尉)…47歳。自称士官学校出のエリート、沼津養成施設で教官を務める。“他人に厳しく自分に甘く”がモットー。おかげで鬼軍曹の通り名がついてしまった、とはいえ、的確な訓練から上層部からの評価は高い。地味に個人での戦闘力は最強クラスを誇る。本来士官学校をでていないと士官にはなれないのだが、若いころの海外出兵で活躍を見せ、例外でなれたらしい。が、記録照会ができないために陰口を叩かれている。

三崎 紀人(伍長)…65歳。万年伍長の整備班の古株。部隊の親父であり、パイロットの卵を育てる施設においては彼の整備能力が不可欠であった。若いころはかなりの酒豪として知られ、その頃に勝男と出会いライバルとなる。整備する上で必要な、最低限のWL・装甲車等兵器の操縦ができる。最近メタボ気味。下の名前が出てこない哀れな人。

小島 孝(少将)…61歳。横須賀海自基地の司令。有能な指揮官であるが、アニメオタクであったりとバカが過ぎる面もある。今回の事件において、脱出してきた部隊を短期のうちにまとめ上げ、反攻作戦を行う手腕を見せた。東日本での兵器開発に力を注いでいた。

加藤 学(中尉)…25歳。小島司令の右腕として、兵器開発を始めとした補佐を担う。シュミレーター上での戦闘能力は非常に高いが、実機訓練になると途端に弱くなる特異な人物。ライナー博士の活動に参加していたこともある。

会田 美知代(給仕)…53歳。沼津養成施設で調理・配膳をこなしてきた人物。まこととは仲が良く、毎回大盛りにしてあげている。なんだかんだで沼津を脱出し、横須賀でも同じ職につくことになった。出番ナシ。

前田 靖(大将)…55歳。現在の日本に不満を抱く自衛官。近隣の各国と密約を結び、武装蜂起を企てる。嶋野(小)にその証拠を握られたために決起を早める、結果としてそれが戦闘の膠着を生んだ。

ライナー・ベルトホルト(独研究者)…故72歳。ドクツに生まれ、イギリルの研究者となる。WLの基礎概念を生み出し、基幹システムを開発した人物。本人は人類の為に、とニ足歩行重機の設計を行うが、ドクツ政府が軍事目的で資金的援助を行っていたこともあり、最終的に軍用のOS開発をも強いられた。ドクツで軍用WLの開発をさせられたことに反発しイギリルへと亡命した博士だが、そこでも軍用のWL開発を強いられることになる。当初Weapon Rackと命名したのも、軍への当てつけなのかもしれない。晩年はWLの平和利用を声高らかに謳い、各国を周るも活動中に病に倒れ、帰らぬ人となる。


※白根 司(研究者)…48歳。ライナー博士を師と仰ぐ天才的人物で、佐世保基地内に研究施設を持つ研究者である。人的資源をつかわない無人WLの開発を試みる。ライナー博士の弟子として動いていた時期があり、彼の思想を誤って理解している節がある。

クリストフ・ラングラン(米中尉)…47歳。日本WLパイロットの育成を助けた人。とりあえずできそうにないことでも取り組んでみる、というのがモットー。基本無茶をする人。佐世保攻略の手助けをすべく先陣を切る。桐栄、佐々木とは仲がいい。














日本(ヒノモト)…いわずもがなハポン。いちおう民主主義ではある。WLが歴史の表舞台に立ったことにより世界の軍事均衡が崩れた。このことを受け、憲法改正が国民の支持を得て執り行われた。これにより今まで自衛隊であった組織が自衛軍という形に変更され、今まで中々保持できなかった揚陸艦・空母の類が編成できるようになった。艦船装備は世界水準のはるか上をいくものの(WL関連は最底辺)、表立った戦闘を行っていないために練度は低い。なお、自衛隊が軍に格上げされたことに伴い指揮権の拡大が行われ、軍部の政治的権力が増大してきている。だいぶ戦前に近い感じ。

西日本…ハポン・ウェスタニアと読む(嘘)。華国・ユシア・幹国などの支援により佐世保を拠点に西日本自衛軍が蜂起を起こした。開戦後、便宜上東西に日本を分けて敵味方を区別をしている。WL製造ラインの多くは西側にあり、WL保有数という面では非常に有利。

東日本…ハポン・イースタニアと…(以下略)。デン子ちゃんの住む地。西日本の決起により劣勢に追い込まれる。東側の拠点は横須賀で、WL開発機構の多くはこちらに偏っている。多くの試作機を抱えるもまともに稼働する機体が少なく、しかも扱えるパイロットの養成が追い付いていない。

アメリゴ(米)…いわずもがな豪快なんでもあり大国。経済的な赤字が続いたために世界の警察として各国に部隊を駐留させるのが難しくなっている。そのため、日本の自衛隊を軍に変更し、海外に駐留できるように取り計らっている。近々駐留地域を少なくし、空いた穴を同盟国の日本軍に埋めさせようとしている。イギリルから得たWL設計図を元にWLA-004 ファントム(多摩型)を開発し、それを発展させていっている。

イギリル(英)…いわずもがな紅茶の国(船旅限定)。ドクツから亡命してきたライナー博士を擁し、独自のWL開発を目指す。今回の事件には関与していない。

ホランス(仏)…いわずもがなお貴族の国。イギリル同様関与していない。

ドクツ(独)…いわずもがなソーセージとビールの国。WLの開発者の出身国、平和利用を目指していたライナー博士に戦闘用のWLを開発させ、いち早く軍隊に配備した国。博士の亡命によりWL新開発が遅れる。

沼津訓練施設…瀬川五郎が所長を務める自衛軍のWLパイロット養成施設。日本に3つある養成施設の一つで、最も多くのパイロットを輩出してきた。一期生は15人、二期生は32人、三期生は20人となっており、一期生のみ1小隊3機、二・三期生は1小隊4機編成となっている。ちなみに日本全国併せてWLパイロット数は120人前後。





[26825] 機体・武装紹介
Name: ヒロシキ◆fbfd4583 ID:37d239a0
Date: 2011/11/06 00:18

随時追加していきます。

11/6 アトラス追加


・WLU-004(日本名 WLJ-001)……純アメリゴ産のWL。機関はディーゼル、それゆえにうるさく、燃費も悪い。だが操縦性と信頼性では群を抜いており、訓練生用の機体として重宝される。アメリゴでは「ファントム」、日本では「多摩型」と呼ばれる。単眼のカメラアイを持つが、ちと見た目が怖いのでバイザーで隠してある。固定武装として15ミリバルカン砲が肩部に装備されている、また重厚なフォルムを持ち、意外にマニアが多い。順次退役予定。
全高10.5m。

・WLJ-002……俗に「日原型」と称される。WLJ-001で明らかになった致命的なまでに低い機動性を改善することを目指した機体。重厚だった装甲を半分近くにまで減らし、各部に追加スラスター、プロペラントタンクを追加、近接格闘にやや特化した形になった。それにより広くなった行動範囲をサポートするためにセンサー類も高性能なものが搭載されている。動力はやはりディーゼル。小さな単眼カメラが複数バイザーの裏に隠れている、15ミリは装備されておらず、軽量化を徹底されている。順次多摩型と入れ替えが行われる予定。
全高10.3m(装甲削った分全長と幅が縮んだ。)

・WLJ-003N……「北秋型」。日原型の後継機種として造られた。アメリゴで開発された新型装甲板を採用、機体重量を減らしつつ、強度の確保が達成された機体。固定兵装はなく、それが機体の軽量化に一躍かっている。単眼&補助カメラが頭部に付いている。相変わらずバイザーかぶっている。北秋・多摩・日原は共通して背部バックパックに照明弾・チャフ・フレア弾頭を装備している。評価試験等、量産にあたった調整がまだだが、文句なしの性能を持つ。
全高10.5m。

・WLJ-003S……「南秋型」。日原型の後継機種のひとつ、長距離戦闘を主体として戦う。このため右肩にキャノン砲を、右腕、左腕には連装ミサイルを搭載している。北秋型と比べて全体的に装甲が厚いが、砲弾を保持しておくバックパックはやや脆弱で、被弾すると誘爆する危険がある。基本構造は北秋型と同様。
全高12.7m(キャノン砲弾倉部分込み)。

・WLJ-004[A/N]……自衛空軍・海軍が共同で開発した機体。「神通型」と呼称される。多摩系列とは違った開発ラインを通っており、何らかの機体の簡易型とされている。広範囲での戦闘を想定し、最新のセンサー類及び大出力のスラスターが随所に設置されている。動力はバッテリーで音紋センサーに引っかかりにくい特性を持つ。外観としては背部に2基のウィングバインダー、両肩に可変式ウィングシールドを持ち、空力特性を向上させている。特筆すべきはその兵装で、WL携行型のレールガン・レーザーブレードがある。いずれもバッテリーパック形式のマガジンを使用するため、連射ができず、また装弾数も限られている。しかしその威力は絶大で、数多くの戦果をあげた。
全高11.8m。

・WLU-010……「Atlus」アメリゴ製の新鋭機。機動性に特化した性能を持つ。攻撃力は装備した武器に依存するが、かなりペイロードに余裕があるため、あらゆる兵装が装備できる。かなり質素なフォルムで、生産性・整備性にも優れる。頭の角がチャームポイント。
全高10.8m。





  武装


・09式機関銃……とにかくばら撒く機関銃。威力・精度共に低いレベルだが、牽制用と割り切るのであれば使い勝手は悪くない。

・10式突撃銃……それなりに精度の高いアサルトライフル。威力も標準的で、自衛軍WLの基本装備となっている。

・10式狙撃銃……貫通力を高めた弾頭を使用する。上手く使えばそれなりに連射できるため、愛用する者も多い。

・レールガン……神通型用に作られた小型レールガン。弾頭用マガジンと充電用バッテリーマガジンを持つ。弾倉には6発弾頭が入っており、神通型の腰・両肩にそれぞれ2個ずつバッテリーパックを装備する。一発撃つごとにバッテリーの交換、再充電が必要なので連射はできない。

・レーザーブレード…バッテリーパックを使用するレーザートーチのようなもの。電力を瞬間的に熱エネルギーに変換することで対象を切断する。あまりに消費電力が大きいために、ブレード形成可能時間はバッテリーパックひとつあたり1秒前後となっている。ブレード発振基には2つのバッテリーが装着できる。

・ブレードソード…約3mの鋼の剣。ソードというものの、それほど鋭いわけでなく叩き折る、といった趣の武器。素材はWLの装甲板と大して変わらないため、対WL戦では関節部・頭部等脆い部分を狙う必要がある。

・ブレードナイフ…約2mの刃渡り。単に携行しやすいようにブレードソードを短くした物。取り回しが非常に良くなっている。長さの関係からか、ブレードソードより折れることは少ない。ただし当然のことながらリーチ上に問題がある。

・FishBox…三崎整備長謹製のWL携行型2連装魚雷発射基。97式短魚雷を使用している、通称トロ箱。彼の気まぐれで炸薬量が決まるため、破壊力は不安定且つ未知数。即席水中用WLに対しては最強の装備と言える(機体外にバラストタンクが設置されているため)。近距離での発射は自殺行為である。

・10式水中破城槌…水中戦用の近・中距離兵器。有線式のパイルバンカーである。その性能を最大限に引き出すために、鉤爪が3本付いており、目標に噛みつくようにパイルバンカーを固定、その後撃ち込む形になる。貫通力に優れており、命中場所によっては一撃で敵を破壊することも可能。その形状から“花槍”と呼称されることもある。別にワイヤーを飛ばさずに、腕につけたまま使うこともできる。射程は2000m程度。たまにワイヤーがこんがらがる。

・対人散弾…弾頭のカテゴリの一種、対歩兵戦を想定して作られており、発射後弾頭が分解、無数の鉄片が一定範囲を薙ぎ払う。海外のWLは装備することもあるが、自衛軍のみ、対人兵器というイメージの悪さから導入が見送られている。


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