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[26956] 【ネタ】とある騎士(ナイト)の七罪装備(グラットン)【習作】
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/05/18 23:19
はじめまして、作者のオニオンソードと申します。


本作は、とある科学の超電磁砲×FFⅪ(?)のクロスオーバーSSです。

色々とSSを読んでいるうちに、つい書きたくなってしまったため、

文章や展開の構成など不慣れではありますが、書いてみようと書いた次第でございます。

お見苦しい点は多々ありましょうが、もしよろしければ読んでやってください。




[26956] BA・仕様変更・近況報告
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/05/19 01:13
2011/05/19 01:09

#15の追投稿時における文章の消滅を修正。
意図的な文字化け文を入れたことにより文字コードがおかしくなったことが原因ではないかと思います。
メモ帳の文章をWordで書き直したら治ったので;

投稿当初に見に来て頂いた方には深くお詫び申し上げたいと思いますorz


2011/05/18 23:08

やったぁぁぁ!できたぁ!全部できたぁ!!
褒めてよ悟史くーん!!!私がやりたいことは…これで全部……!!!
あーっはっはっはぁ!!!!!

……追投稿が遅れて本当にすいませんでしたッ!!
本当は一昨日には完成してる算段だったんですが、書いてるうちに、
あれよあれよと15kbとほど長くなってしまいました。

―主な変更内容―
今回の追投稿と共に、序盤がFF11のみのものに変更されました。
序盤の変更と共に、「扉だらけの通路~」的文章が「《禁断の口》」に修正されました。
ブロントさんの二つ名が、「白夜の騎士」から「大極の騎士」になりました。
文字化けは仕様です。

……変えすぎですねorz
しっかり話が組み立ててれば、こんなことには……!


2011/04/30 21:44

追投稿文を作成中に、
「あれ、そういえば黒子の一人称って「私(わたくし)」とか「黒子は」、だけど、
 わたくしの表記って「私」だっけ?「わたくし」だっけ?」、と思い至りインデックス3巻にて検証したところ、
「わたくし」だった為、これまでの全文の該当箇所を修正いたします。

二人称も「貴方(アナタ)」じゃなくて「あなた」(禁書)か「アナタ」(電磁)っぽいですし、
むう、色々至らなくて申し訳ありません。


2011/04/26 20:50【重要】

現在、序盤の描写―ブロントさんが学園都市入りする場面―の、ドリフターズではないヴァージョンを……
つまりは純粋にFFⅪの要素だけで他世界に飛ばされるようにする構成を考えています。

今はまだ文章にして書き上げようという段階ですので、少し先でしょうが、改変が可能な状況です。
なんのクロスオーバーかを分かりやすくするために、序盤を改変するべきでしょうか?
一度あのドリフターズな始まり方をしたのだから、このまま進めるべきでしょうか?

よろしければ、意見を頂ければ幸いです。


2011/04/21 01:41

書きかけの文章を操作ミスでロストしてしまったのでバックアップからやり直し中です;
更新はもう少々お待ちください(焼き土下座)。


2011/04/14 20:50

読者様の指摘で誤字を修正させて頂きました。
そろそそ筆者は微妙な誤字も許されない緊張感を生んで執筆すべき!失踪したくないならそうすべき!

なんとこの記事のPVが10000を超えていました!
といってもなんの値かいまいち把握出来ていないのですけども…閲覧数ですかね?
なんにしても大台はきっと良いことですね、ありがとうございます!


2011/04/14 3:41

俺はとんずらを使って普通ならとっくに書き上がってる時間できょうきょ投稿すると
「やっと書けたのか!」「おそい!」「きた!SSきた!」「サポSSきた!」「もう(内容)忘れてる!」と大ブーイング状態だった。

やっとこさ続きが書けました、遅くなって申し訳ありません。


2011/04/12 22:17

SSを書くための時間が取れない!取りにくい!
只今合間を縫って書いておりますので、続きは少々お待ちいただけると嬉しいです。
不甲斐ない筆者を許してくだしゃあ;;


2011/04/06 3:57

SS形式に改善中に消してしまったのか、消えていた文章を補完。
美琴が望まないと分かっていたのに、理由もなしに黒子が美琴の望まないことをするという、
消えている文章がないことで、理由のない矛盾が生じる訳の分からない文章になっていました。
何度も誤植誤字をし続ける浅はかさは愚かしい、良く寝て頭冷やしますorz


2011/04/06 3:48

作品内における誤植と誤字を変更。
コピペし過ぎました;
話をキリの良いところまで書くまではsage進行をメインに。


2011/04/05 3:05

作品内における誤字を修正。
空白記事を記事を詰めることで無くしました。


2011/04/04 23:05

文章を細かく切りすぎているという不具合があったので修正しようと思ったのですが、
自分の力量では一気に書き上げるということがまだ出来ないため、
過去に書いたものはひと括りにし、新しいものを一番下に持っていくという方式にしてみます。

結局細かく掲示板が上がるので根本的な解決にはなってないのですが、
「貴方って、本当に最低の屑だわ!」と言われないよう、今後はなるべく長くしてあげるように致します。


2011/04/04 8:00

投稿済みの内容を、台本形式からSS(っぽい)形式に変更してみました。
こうですか!? わかりません><
真のSS筆者は思わずSSをしてしまってる真のSS筆者だからもててるのだから、
変えても少々おかしいかもしれませんが、
郷に入っては郷に従え、今後はこの形式で行こうと思います。



[26956] 第1話 上 #1改~#10
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/05/18 23:05
5種族の人間と、幾種類かの獣人が争いながら住んでいる、
剣と魔法と広大な大地の幻想世界、《ヴァナ・ディール》。

その世界の一部に、モンスターと冒険者が跋扈する3つの大陸と、大小の島々がある。

冒険者は主にモンスターを狩って日々の生活を営んでいるため、
逆にモンスターに狩られてしまうことも決して少なくはない。

此処、《クフィム島・ベヒーモスの縄張り》はHNM(ハイレベルノートリアスモンスター)という凶悪なモンスターの巣窟で、
それらを狩る者たち、HNMLSという冒険者の集団が多くこの場所で戦利品欲しさに張り込んでいるのだが――


アアッ、ニンジャサンガヤラレター!
メインタテナシジャカテナイヨー!
ヤメロ!シニタクナ-イ!シニタクナーイ!シニタクナーーーーイ!!
ブロントサンハヤクキテーハヤクキテー!


現に今も、強敵《キングベヒーモス》にパーティーを支える要となる冒険者が倒れされてしまったらしく、
防戦ぎみとはいえなんとか保たれていたパワーバランスが崩れ、生き残りの冒険者たちの悲鳴がこだまする。

その悲鳴が、集合時間に遅れてしまったので急ぐ最高の騎士の長い耳に届いた。


「おいィ? また忍者はアワレにもメイン盾の役割を果たせずくずれそうになっているっぽいな?
 おれは今日も《とんずら》を使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦することになった」


貧弱一般人と一線を画す一級廃人にして、どのLSでも引張りだこなナイトである彼――
ブロントさんは、「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいるLSメンバーを守るため、
《ヴァナ・ディール》の大地をカカカカッと《とんずら》を使って駆けてゆく。

《とんずら》を使ったブロントさんはまさに俊足、氷で覆われた荒野もなんのその。
LSメン達の元へ普通ならまだ付かない時間で助けに入ることが出来るのだ。


「そのように急いて何処へ行く、大極の騎士」

「!?」


が、もう少しでベヒーモスの生息地の手前というところで、ブロントさんの行く手を塞ぐように、妙な男が現れた。

ざんばら髪に、無精ひげ、体格や身体の特徴的にヒュームのようにも見える。
絶望でも味わったかのように表情で、死んだ魚みたいに淀んだ目をする、どこかくたびれているような男。

妙と言えば格好も妙だ。
ボロ布のようなってしまっているローブ―頭の無い《エラント装備》のようにも見える―の上に、
もはや鉄くずにしてしまった方が良いぐらいの鎧―ボロボロだが形状は《アビスキュイラス》に似ているような気がする―を着けるという、
なんだか良く分からないけったいな装備をしている。

男の装備は全て白を基調としているようなのだが、全て黒くくすみ、汚れていて、男が纏うくたびれた空気をより一層強調している。
ブロントさんの身につけるまっさらな装備、《ガラントアーマー》とは、まさしく雲泥の差である。

ブロントさんが驚いたのは、男の妙な格好もあるのだが、それだけではない。

ベヒーモスの縄張りは、多くの冒険者がモンスターを狩りに来る場所だ。
ただ人間が居て声を掛けられただけ。
その程度の事、驚くような理由ではないのだが……

この男は、『突然目の前に現れた』のだ。

以前に、時間の流れをパラパラ漫画で例える話をどこかで見聞したことがあるのだが、
この男は、その時間というパラパラ漫画に突然描き足されたかのように現れたのだ。

そして、不思議なことに、この場には普段ならば居るはずの他の冒険者やモンスターが、今はどこにも居ない。


「…どうした、怯えているのかエルヴァーン。
 怯懦はタルタルが持つ心の闇であろう?」

「お、おもえは……?!」


ブロントさんに問い掛けながらも、ブロントさんを見ていないかのように投げやりな態度の、くたびれた男。

ブロントさんは不良界でも結構有名でケンカとかでもたいしてビビる事はまず無い。
だが、今回はおかしい。
この男を見ていると、なにか心の昏い部分が…魂が……ちりちりとざわめくのだ。

胸の奥底から来る妙なざわめきに、身体から力が抜けて、ガクッと膝が折れそうになる。
それでも懸命に食いしばって、ブロントさんは謎の男を睨みつけた。


「お前は、いったい…なんなんですかねぇ……!?」


ブロントさんからの問いに、くたびれた男は、
怯えているかのように視線は反らす癖に、憎悪や嫉妬に溢れたような表情をしながら、尊大な口調で答えた。


「我は汝、汝は我。
 我は汝ら人間の父であり、汝は我が断片の一つよ」

「…「訳わからんね」「笑う坪どこ?」。
 【電波】【いりません】【かえれ】。
 おまえの言葉を菊ぐらいなら、おれは牙をむくだろうな!」


男がなにを言っているのかブロントさんには本当に理解不能状態だった。
ただ理解可能なのは、このまま男を放っておけば、なにかヤバそうな予感がするという事だけだ。

地面を蹴って一足飛びにくたびれた男へと肉薄し、腰から愛刀・グラットンソードを抜き放つ。


「ほう…それでこそだエルヴァーン。
 驕慢の身で振るう暴食の刃、我が身に突き立ててみるか?」

「グラットンスウィフトで!!」


Burontは、《スウィフトブレ――もとい、《グラットンスウィフト》の構え。
高速の刃による目にも止まらぬ三連撃が、くたびれた男を襲い――


「バラバラに引き裂いてやろうか?」


バラバラに引き裂いた。
大物ぶっていた割には、男は呆気ないぐらい簡単にブロントさんに斃されてしまった。
ヒットポイントが0になったのか、地面に倒れプリケツを晒す。

避けもせず防ぎもせず、ただ棒立ちでブロントさんにズタズタにされたところを見ると、ただのバカだったのかもしれない。

男が動かないことを見届け、ブロントさんは剣を収めて目的地に目を向ける。


「…おっととこんな奴に窯っている暇はにいだよ。
 今度こそ俺は普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦するぞ」


男のレイズ待ちの死体を跨ぎ、再び《とんずら》で駆けだそうとするブロントさんを、


「…だから、そのように急いて何処へ行こうというのだ、大極の騎士よ」


誰かが後から声を掛けて、それを中断させた。


「ぬっ!?」


驚き振り向くブロントさん。
振り向いた瞬間、いつの間にか背後に立っていた誰かに首根っこを掴まれ、ワンハンドネックハンギングツリーのように
持ち上げられた。


「ぐっ…!」
(7、721(ナニィ)っ!?)

「ははは、なにを驚く。
 父は子を持ち上げてあやすものではないか?」


ブロントさんを持ち上げているのは、先ほどブロントさんが斬り捨てたはずのくたびれた男だった。


(あ、あり得ぬえ! 確かにコイツはさっきバラバラに引き裂いたんだが!?)


確かにバラバラに引き裂いた手応えがあったし、男は確かに戦闘不能のようだったのに……

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「ブロントさんは 男の死体を跨ごうと思ったら いつのまにか男に背後に回られていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが ブロントさんも 何をされたのか わからなかった…
頭がおかしくなって死にそう―今は窒息で死にそうなんですがねぇ?―だった… リレイズ掛けてあったとか超スピードだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

首から手を離させようと必死にもがくブロントさん。
だが、くたびれた男は先ほどの脆弱ぶりはどこへ行ったのか、蹴っても殴ってもビクともしない。


「汝が向かう先は友の元に非ず」


男の言葉とともに、男の背後で地面が割れ、地中から《禁断の口》が現れた。

《禁断の口》、それは《ヴァナ・ディール》各地に存在する不気味な意匠の謎の門。
《禁断の口》の向こうは、通常ならば行けぬ場所へ繋がっている。

だが、この《禁断の口》は過去世界やアビセアを繋ぐものとはどこか異なるような……

男がブロントさんを掴む手とは逆の手で指し示す。


「この門の向こう、だ」


ブロントさんを締める男の指に、
ブロントさんを持ち上げる男の腕に、
より一層力が籠る。


「がッ…あァ……ッ!!」
(門の中に投げ入れるツモりか!?)


ブロントさんも先ほどよりも力強く足掻こうとするが、呼吸が上手く出来なくて力が上手く入れられない。
どんどん意識が遠のきそうになっていく……


「我が復活と死への礎となれ…ブロント……!」


このまま命ロストなのかよ、とブロントさんがあきらめ顔になり、
いよいよ《禁断の口》へブロントさんが放り込まれるというところで――


『待ちなさい!!』


凛とした女性の声が、寒々しい荒野に響き渡った。


「…遅かったな、《女神》よ」


くたびれた男の指から少し力が抜け、ようやくブロントさんは地面に足がついた。


「げほっ! がはっ!! はぁ……げふ……!」


今度はなんなんですかねぇ?、とブロントさんが霞む目を開けると、クフィム島の分厚い曇り空が割れ、一筋の温かな光が差し込んできた。

その差し込む光とともに、誰かが此処へ降りてくる。
遠目にはヒュームの女性のようだが、ヴァナ・ディールではレビテトは禁呪だ。

ティアラを着けた光り輝く長く美しいブロンドの髪をなびかせ、
ウィンダスの《星の神子》っぽい白いドレスローブのようなものをはためかせて、ブロントさんたちの元に飛来した。

本来は優しい表情が似合うであろうその神秘的な美貌は、今は険しさしかない。


「…何処へ向かうつもりなの!?」


飛来した女の問いに、くたびれた男は、


「何処へ、か……ああ、もう分かっているのだな、《女神》よ。
 識る為ではなく確認の為に我が口から聞きたいのだな、《女神》よ」


芝居でも演じているかのように、答えた。


「クリスタルの光が届かぬ地へだ!」
 

答えと異変は同時だった。
《禁断の口》が突然鳴動し、空気をぐんぐん吸い込み始めた。
吸引力の変わらない唯一つの掃除機であるダイソンもびっくりの吸引力だ。


「なっ!?」

「おっ、おいィ!?」

「はっはっはっはっはっ!!」


《禁断の口》の傍に居たブロントさんとくたびれた男は、当然ながら《禁断の口》に吸い寄せられる。


「お、お、おっ、おいやめろ馬鹿! このイベントははやくも終了ですね!
 不意だま重力物体199とか汚いなさすがアトモスきたない!
 俺はこれでアトモスきらいになったなあもりにもひきょう過ぎるでしょう!?
 やはりアトモスよりやはりディアボロスだな今回のこと、でッ……!
 ぬわーーっ!!」


懸命に抵抗しようにも、時既に時間切れ。
既に身体は浮いてしまって踏ん張ることも出来ない。
ブロントさんとくたびれた男は《禁断の口》に吸い込まれてしまった。


「ま、待って!!」


女が慌てて駆け寄るも、呼び出した男が居なくなってしまったが為か、《禁断の口》はうんともすんとも言わない。

女が自らも飛び込もうと門に触れようとしたところで、何処からともなくくたびれた男の声が響き渡る。


『止せ、《女神》よ。 汝は我とは違う。
 この門の中は、直にクリスタル無き世界に通じる。
 もし汝が我を追いこちらに来れば、汝は神としての力を失うことになるやもしれぬぞ?
 汝の守護無きヴァナ・ディールは、一体どうなるのであろうな?』

「っ! それは……!」


男の言うとおりだ。
自分はこの世界を見守らなければならない。
彼から生み出した人の子らが生きる、この世界を……


『聞こ――か、女神よ』


どこからともなく響く声が、どんどん聞こえづらくなってきた。
男の言うとおり、門の中はクリスタルの光が届かない世界と繋がりつつあるのかもしれない。


「待って! 行かないで!」

『我が命を守――者…よ 、――再び「復活」する 。
 そしておまえの望――死へ…と…虚―る闇の―へ――
 永遠の―黙を――落ちるべ…く……
 今度こそ…――こそが、永劫―別れ――ルタ――――』

「行か…ないで……」


女は男の目的を知っている。
彼が何をするためにあの騎士を連れ去ったかを……
それでも、彼女は、彼女は愛する人に……


「…ロ…マシ……」


《禁断の口》の前で泣き崩れる女。
もう聞こえぬであろうことを知りながら、声にならない声で、愛する人の名を呼んだ。




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


ブロントさんが飲み込まれた門の中は、光あふれるクフィム島とは打って変わって無明の暗黒空間だった。


「真っ暗で、なにも見えにい……」


落ちているのか飛んでいるのかも分からない。
とりあえず妙な浮遊感を感じるため、地に足がついてないのは確かなようだ。

一緒に吸い込まれたであろうくたびれた男も見当たらない。
ターゲットする対象もないし、《フラッシュ》や《ホーリー》で一瞬でも辺りを照らそうとするも、
発生した光はなにもない闇の中に飲み込まれるだけで視界を確保することも出来ない。

もう、どこから此処に入ってきたのか分からなくなっちゃった。
小さな明かりが集まってオカエリクダサイ(←なぜか反転できない)と文字を作ることもない。
これでは流石のナイトもお手上げネガ侍だった。


「おれのリアル生活より充実したヴァナ生活も、此処で幕ギレんあんですかねぇ……
 我がヴァナ人生に一片のクイナ氏と言いたいんだけどよ……
 LSメンを守れずこうやって裏世界でひっそりと幕を閉じるあるさまでは……
 m理炎でいっぱい、なのは…確定的に……明らか――」


―――

―――――――――

――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――




時を少し遡らせて、ブロントさんが奇妙な《禁断の口》に飲み込まれる少し前へ。

時も違って、場所も変わる。
しかし、流れ出せばいつかは二つの世界が交わるかもしれない。

そこは、幻想的な世界《ヴァナ・ディール》とは真逆な場所、科学技術の最先端が集まった閉鎖的な空間。
一つの街でありながら一つの世界。
その街の総人口の8割を学生が占め、その学生たちは授業の一環として、日夜ある特殊な技術を学んでいる。

《学園都市》、それが、もう一つの世界の名前。

《学園都市》には23の学区が存在する。
その23学区の中でも取り分け巨大な面積を持つ《第七学区》の広場で、4人の少女たちが知り合ったばかりの友人同士、
交友を深めるため、仲良くじゃれたり談笑しながらクレープ屋で買ったクレープをベンチでパクついていると、
その内の一人、花飾りを付けた少女が、なんでもない日常風景の中にある違和感に気がつく。


「ん? どうかしたの? 初春」

「いえ、あそこの銀行なんですけど……
 なんで昼間っからシャッターを下ろしているんでしょう?」


花飾りの少女が指し示した銀行は、確かに完全にシャッターが降りていた。
平日の昼日中、余裕で営業時間だというのに確かにおかしい。

花飾りの少女・初春飾利の疑問に、セミロングの少女が同意しようとしたところで――

銀行のシャッターが突如内側から爆発した。


「な、なんなの!?」


誰もがその異変に驚く中、初春、そして連れの一人が即座に反応、対応をする。


「初春! 警備員(アンチスキル)への連絡と、怪我人の有無の確認! 急いでくださいな!」

「は、はい!」

「黒子!」


黒子、と呼ばれたツーテールの少女は、スカートのポケットに忍ばせていた腕章を付けながら、
「いけませんわ、お姉様」と、セミショートの少女をやんわりと制した。


「《学園都市》の治安維持は、わたくしたち《風紀委員》(ジャッジメント)のお仕事――
 今度こそ、お行儀良くしていてくださいな」


『お姉様』、と呼ばれたセミショートの少女は、自分も彼女らと一緒に、
真昼間から騒ぎを起こした馬鹿をとっちめてやろうと思ったのだが、
それはいらぬ心配だと言われてしまった。

黒子には、朝にも一般人が事件に首を突っ込まないようにと釘を刺されている。


「分かったわ。
 それじゃ、バシッと解決してらっしゃい」

「ええ、どうぞそこでごゆるりとしていてくださいませ」 


――――――――――――――――――――――


「おらっ! グズグズすんなっ!!」


黒煙が上がる銀行のシャッターから2人ほど男性が出てきた。
中肉中背のと肥満な巨漢の二人組。


「ま、待ってくれよ……へっへへ、大量に詰め込んだぜ」


そこへ、さらに奥からひょろっとした小男が合流する。
男らは皆揃ってバンディットマスクのようにバンダナで下半分を隠しており、
そして手にはものを入れすぎて膨らんでいる安っぽい鞄を持っている。
小男の鞄からは札束が覗いているので、十中八九彼らの持つ鞄の中身は全て奪った現金であろう。

奴らが強盗をしていたため、銀行のシャッターは閉まっていたのだ。


(火災から現金を守る、煙を吸わないように布を口に巻いた銀行員にはとても見えませんものね)

「ったく……
 よっしゃ! じゃあ引き揚げるぞ! さっさとしねえと――」

「お待ちなさい!」

「「「!?」」」


黒子は先回りをし、銀行から逃げ出そうとする強盗たちの行く手をさえぎった。
そしていつものごとく名乗りを上げる。
犯罪者たちをおののかせる自らの所属の名を。


「風紀委員ですの!
 器物破損、および強盗の現行犯で、拘束します!」

「ジャ…! じ……?」

「あ……?あ……?」

「ああ……?」

「む?」
(こ、この反応は……)


腕章を見せつけ、自らを風紀委員であることを誇示することによって、強盗を足止めすることができた。
だが、これは……


「「「ふっ、ふへひゃはははははははははは!!wwwww」」」

「あんだよこんガキ!www」

「じゃ、風紀委員も人手不足かぁ?ww あはひゃwww」

「むっ……」ムカチン


強盗たちは、最初こそ風紀委員という単語に肝を冷やした。
だが、その自分たちを拘束しに来たという「じゃっじめんと」がただの子供だったため、
警戒するどころか笑いだしたのだった。

この反応には慣れているものの、いや、慣れているから腹が立つ。
黒子はオーラとして見えそうな怒気を纏ってツカツカと強盗に歩み寄る。

笑い転げていた強盗らのうち、肥満の巨漢がそれに気付いた。


「! ぅおら、おじょーちゃんww」


黒子の前に一歩ずしん、と脅しを込めて踏み出す。

女子中学生の黒子と、成人に近いぐらいの肥満の強盗犯。
二人の体格差は、圧倒的だった。


「けーさつごっこはよそでやりな。
 とっととどっかにいかねえとぉ……ケガしちゃうぜえ!?」


下卑た笑いを上げて黒子に掴みかかろうとする肥満強盗。

ただの正義感が強いだけの子供に対する示威行為であるならば、それで十分だろう。
だが、学生によって形成された治安維持組織、風紀委員の一員である黒子が、
ただの子供であるはずがない。


「……そうゆう三下のセリフは――」

「おっ!?」


黒子は肥満強盗の力任せに突き出した腕をひらりとかわし、腕をとる。
次に隙だらけの足を払い、相手の力を利用して投げ、肥満強盗を地面に叩き伏せた。


「ぬぐおっ!?」

「死亡フラグですわよ?」


背中から地面に叩きつけられた肥満強盗は、目を回して気絶した。


「んなあ!?」

「て、テメエ……!」


仲間の一人がやられて、遅まきながら前に立ち塞がった子供が、
自分たちの恐れていた脅威だとようやく認識した強盗たち。
だがもう遅い、風紀委員がすぐ傍にいることを知らず犯罪を犯した自らの不幸を呪うしかないのだ。


「…すごい」

「さっすが黒子ー」


初春と黒子の連れの少女たちは友人の活躍に感嘆の声を上げる。
だが二人のその感嘆は、言い争う声に打ち破られた。


「ダメですって! 今広場から出たら――」

「でも!」


広場には、事件に巻き込まれぬよう銀行周囲にいた一般人を、黒子と同じく風紀委員である初春が誘導しているのだが、
その初春が、要救助者の女性となにやら揉めているではないか。

犯人の鎮圧は黒子に任せるとしても、誘導ぐらいは手伝えるかもしれない。
『お姉様』と呼ばれた少女とセミロングの少女は初春を手伝いに向かった。


「どうしたの?」

「それが……」


何があったのか二人に事情を尋ねると、この女性バスガイドが引率してきた子供の一人が、
バスに忘れ物を取りに行ったきり、どこにも見当たらないと言う。

もしその子が事件に巻き込まれでもすれば、黒子もその子も危ない。
事情を聴いた彼女らは、手分けして子供の捜索に当たることにした。


――――――――――――――――――――――


仲間があんなちんけなガキに片手で捻られてしまった。
その事実と風紀委員の実力に怯えて、小男の強盗が、リーダー格である中肉中背の強盗に詰め寄る。


「ど、どうするんスか!? 丘原さん!?」

「!? 馬鹿野郎! なんのために顔隠してると思ってんだ!」

「ひ、ひぃ……! す、すいません!!」

「ちっ…!」


《学園都市》には、《書庫》(バンク)と呼ばれる総合データベースがある。
今聞かれた自分の名前と、シャッターを破壊した『方法』からきっとすぐに
自分の身元が割れ、足がついてしまうだろう。

強盗のリーダー格、丘原燎多が逃げ切るには、目の前の風紀委員の口を封じる以外になくなってしまった。


「やるじゃねえか、さすがガキでも風紀委員、見た目どおりじゃねえって訳だ。
 だが俺だってな――」


丘原は、自らの『武器』を取りだす。
それは鈍器でも銃器でも刃物でもない、学園都市の学生ならではの『武器』。
丘原の掌の上に、突然ゴウッと炎が生まれた。


「《放火能力者》(パイロキネシスト)……ったく」

「今さら後悔してもおせえぞ。
 俺はこれでも強能力(レベル3)の能力者なんだぜ?」

「はっ。
 戦う前から手の内を見せてどうするつもりですの?
 そういうものはぎりぎりまで隠しておくものでしょうに」

「んだと……!
 俺を本気にさせたからには――」


この驚くべき光景に、ドイツ軍人――もとい、白井黒子はうろたえない。
相手が放火能力者と見るや否や、突然あさっての方向に走り出した。


「テメエにはケシズミになっ…て……へ?」


急な出来事に一瞬呆けそうになる丘原。
でかい口を叩いていたので、目の前の風紀委員もてっきりそこそこの能力者だと思ったのだが、
一目散に走り出すその有様では、ただ虚勢を張っていただけなのだろうか?


「丘原さん! あのガキ逃げちまいますよ!」

「言われるまでもねえ! 逃がすかよぉ!」


仲間の声で我に返り、走り出した黒子に向かって火球を放った。
放たれた火球は、当たればとてもただでは済まなさそうな勢いだ。
おそらく銀行のシャッターもこれで吹き飛ばしたのであろう。

丘原の狙いは正確に黒子を捉えている、走っては避けられそうにもない。
哀れ少女はこんがりと上手に焼け死んでしまうのか?
いやいや、そんなことはありえない。
この恐るべき灼熱の魔弾を黒子は――


「誰が――」


空気を裂く、ヒュンという小刻みな音と共に、その場から消えることで回避した。


「消えた!?」

「逃げますの?」


消えた黒子は一瞬で丘原の顔前に現れる。


「なぁっ!?」


また消えたと思えば、今度は丘原の後頭部にドロップキックを放つ。
また消えたと思えば、今度は倒れた丘原を、太もものホルダーに仕込んだ金属矢を《転移》させ、
丘原の服と地面を縫い付けることで拘束した。


「ひっ、ひいいいいいいいいい!?」

「て、《空間移動能力者》(テレポーター)……!?」

「これ以上抵抗するなら――」

「はっ…」


自分たちの相手がどんな《能力者》か知った小男は逃げだした。
逃げられない丘原の顔は恐怖で歪む。


「次は金属矢(コレ)を、体内に直接《空間移動》(テレポート)させますわよ?」

「ま、参りました……」


黒子は拘束した相手を嗜虐的な表情で見下ろした。
《空間移動》、それが黒子の《能力》。

物理法則を捻じ曲げて超常現象を起こす力、《超能力》。
これこそが、この《学園都市》で学生たちが学ぶ特殊な技術なのだ。


――――――――――――――――――――――


黒子が丘原をズバッと鮮やかに鎮圧した一方――


「初春さん、そっちは?」

「だめですー!」

「どこいったのよぉ、もう!」


初春たちはバスガイドの証言のもと、忘れ物を取りに行ったまま戻らないという男の子を捜している。
『お姉様』と初春はバスの中と周辺を、バスガイドはバスの近くの茂みや物影を――


「うーん……」


そしてセミロングの少女は、バスより少し離れた位置で男の子を探していた。
小さな子供がどこにも見つからないという事実が捜索に熱を入れ、少女の感覚を研ぎ澄ませる。
その研ぎ澄まされた耳に、不穏な声が届いた。


「ひっ、ひぃ……あん? なんだお前……!
 ちょうど良い! 一緒に来い!」

「え? なにおにーちゃん、だれー?」

「んっ?」
(一緒に、来い?)

小さな子供の声と切羽詰まったような男の声。
セミロングの少女が振り返ればなんと、黒子が丘原に気を取られている隙に逃げ出した小男が、
子供を人質に取ろうとしているではないか。


「え……あ……!」


風紀委員の初春と、強力な能力を持つ『お姉様』、二人に知らせて助力を乞う暇は、ない。


「うん……!」
(あたしだって……!)


彼女たちのようにといかなくとも、力のない自分にだってやれることはあるはずだと、
セミロングの少女、佐天涙子は子供を助けようと駆けだした。


「やっぱり、広場の方をもう一度さが――」

「アアっ!?んだテメェ!? 離せよ!!」

「!?」


バス周辺では一向に子供が見つからないため、近くにいた初春とバスガイドに出そうとした『お姉様』の指示は、
より大きな声にかき消されてしまった。
突如響いた男の怒鳴り声に、その場に居る全員の視線が集中する。


「ダメぇ!!」


なんとそこには、強盗に連れていかれる子供を必死に助けようとする、佐天さんの姿があった。

どれだけ小男が恫喝しても佐天さんは子供を抱き締めて離さない。
このままではあの空間移動能力者から逃げられないと判断した小男は――


「クソッ! クソッ! クッソォ!!」

「きゃあ!!」


佐天さんを蹴り飛ばすことによって、自分だけでも逃げ出しそうとした。
蹴られても、佐天さんは子供を決して離さない。
小男はその気迫に圧されて尻尾を巻いて逃げだした。


「ッ!!」


佐天さんを、蹴った。
よほど風紀委員に捕まるのが怖かったのだろう、恐怖から逃げる時、人は必死になるものだ。
だがその行為は、絶対に選んではいけない選択肢だった。
強能力者も相手にならないような能力者が『お姉様』と慕う、最強の電磁砲の引き金を、小男は引いた。

――――――――空気が/帯電/する。


「佐天さんっ!!」

「なっ……くうっ!!」


目の前で親友が蹴られ、初春は無事を確かめに駆け寄った。
黒子は自らの失態を悟り、挽回せんと逃げた小男へ金属矢を放とうとしたところで――


「黒子ぉっ!!」


尊敬する『お姉様』からの一喝に、あの強盗犯を怯えさせた風紀委員が、強力な空間移動能力者が、萎縮してしまう。


「……え?」

「こっからは私の個人的なケンカだから――」


それまでは後輩に任せておけば大丈夫だと静観していた電撃姫が、
友人を傷つけられることによって燃え上がった怒りの炎を電気に変えて、動き出す。


「手、出させてもらうわよ?」

「あー……」
(これは、止めるだけ無駄ですわね)

「お、思い出した……!」

「ん?」


そんな怒れる『お姉様』の様子を見た丘原が、地面に縫い付けられたまま実に説明的なセリフを喋りだした。


「風紀委員には捕まったが最後、身も心も踏みにじって再起不能にする、
 最悪の空間移動能力者が居て――」

ィィィィ……

「誰のことですの、それ?」


小男は逃走用に停めてあった車に逃げ込めたものの、


「クソガキどもがぁ……!
 ガキにナメられたままでおめおめ逃げられるかよ……
 ひひひ、丘原さんとスプーキー(肥満強盗)の弔い合戦だ!」


と一矢報いる腹積もりでいた。
そんなことをするぐらいなら、逃げた方が良かったと思うことになる相手が居るとも知らず。


イィィィィィィィィィィ……
                             
「更にはその空間移動能力者の、身も心も虜にする、最強の《電撃使い》(エレクトロマスター)が……!」

「へっへっへっ……こうなりゃてめえらまとめてえ……!」


乗り込んだ車で全員轢き殺そうと、小男は車を旋回させて、
『お姉様』…最強の電撃使いに向かいあい、脅しとばかりにエンジンを吹かす。
だが、そんな程度のこと、彼女は気にも留めない。


オイィィィィィィィィィィィィィ……

「そう、あの方こそが、学園都市230万人の頂点――」

オイィィィィィィィィィィィィィィィィ……

「7人の超能力者(レベル5)の第三位――」

「おいィィィィィィィィィィィィィィィィィィ……」

「んもぅ!さっきからなんなんですの!?
 人がお姉様の素晴らしさを讃える口上をしてる時は静かにしてくださいまし!!」

「し、白井さん! あれ見てください!」

「あれ?」

「上ですって! 上!!」

「うえ?」


佐天さんと初春の二人の言葉に従い、空を仰ぐ黒子。
「いったい何があると言うんですの?」、と少々不機嫌気味に視線を移せばそこには――

「な、なんですのぉ!?あれは!?」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


小男が佐天さんを蹴った直後ぐらい――

少女らが強盗相手にすったもんだしてる間もブロントさんはまだ謎空間でぷかぷか浮いていた。

これはバグかもしれないと思い、GMコールをしたりしても無反応だったり、
勝利条件が限られすぎて手も足も引っ込んだ状態(カメェ)。

とりあえず今は暇つぶしにくだらないことを考えている。


「さっきのログに「いっぱい、なのは…」とかあるんだが、管理局の白い悪魔がいっぱいとかちょとsYレならんしょ……」


……聞いてくれる人がいないと、むなしい発見だった。

いったいいつまでこうしていなければならないのか、流石に退屈を通り越してムカついてくると――
それまで一筋の光も射さない扉の中の謎空間に、急激に変化が起き始めた。


「うおっまぶしっ。
 いくら俺が光と闇が両方備わった思考のナイトといっても不意だまフラッシュとかあもりにもひきょう過ぎるでしょう…?
 …お、なんだ急にPOPしてきた>>風」


光が満ちて、風が起こる。
日の光を浴びることは、空気の流れを感じることは、こんなにも素晴らしいことなのか。
目が眩んでいるので言葉だけは憎々しいものが滲んでいるが、ブロントさんは心の中で喜び、安堵していた。


「……しかす妙に風が強すぐるんですがねぇ?
 だが、なんというかふじきと寒くはにいな?」


元々ブロントさんがいたクフィム島は氷で覆われた荒野のエリア。
こんなにも明るい場所ではなく、こんな勢いの風が吹けばもっと寒いし、
風は湿ったような風であって、こんなにもカラッとした心地よいものではない。

冷静に考えるとおかしいことだらけなので、眩んだ目の視界も即座に元通りにしちぇしまう超パワー!で目を開き、
ブロントさんは今、自分がどこにいるかを確かめてみる。

光に慣れた視界に飛び込んだのは青。白。青の美しいコントラスト。
今、ブロントさんは空に抱かれていた。

つまりは……なぜかとんでもない高所から落下している最中である。


「oili misu みうs。
 おいィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!?」


―――

―――――――――

――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――




「鳥だ!」

「飛行機ですよ!」

「スーパーマンですの!ってやってる場合じゃありませんの!!」


『お姉様』と小男、人対車が向かい合ってのチキン・レースをしている間に落下しようとしているあれは明らかに……


「お姉様ぁー! 空から鎧姿の男が!!」

「ふえっ?」


『お姉様』は後輩からの突然の意味不明な言葉に驚きつつ、指でコインを弾いた。

それは、彼女の通り名にして必殺技、《超電磁砲》(レールガン)の予備動作。


――――――――――――――――――――――


空ばかり見てもいられない。
落ちるのは勝手だがそれなりの落ち方をしなければ、このままでは命ロストしてしまうのは確定的に明らかである。

ブロントさんはなんとか身体を捻って、ちょうどスカイダイビングをするような形にした。
視界からは青と白がなくなり、代わりに広がるのは灰色が豊富なコンクリートジャングルだ。

とても氷で覆われた荒野とは思えない。
というか、いったい自分がどこへ向かって落ちているのかも、ブロントさんには分からなかった。


「だが今はソルを郵貯に考えている時間はないんですわ!?
 こっ、このままではおれの寿命が地面とキッスでマッハなんだが!?
 命ロストが怖いなら>>1カバチ化やるしかぬえ!!
 /sh うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


ここで問題だ! この絶体絶命の状況でどうやって生き残るか?
3択―ひとつだけ選びなさい。

答え①ハンサムのブロントさんは突如起死回生のアイデアがひらめく。
答え②LSメンがきて助けてくれる。
答え③どうしようもない。現実は非情である。
答え⑩<死ぬよ。 ②<【えっ!?】 ⑩<このまま死ぬ。


「/sh 俺の答えがどうやって③だって証拠だよ!
 /sh メチャメチャきびしい人達がふいに見せたやさしさのせいだったりするんだろうねという
 /sh 名セリフを知らないのかよ真実はいつも①つしかにいので以下レスひ不要です!」


――――――――――――――――――――――       


「やってやるぅ! やってやんぞぉ!!
 どうせやっちまうなら一人や二人ぐらいじゃ済まさねえぜえ!!」


完全にぶち切れた小男は、アクセル全開で走り出す。
人間が作り上げた高速で動く鉄の塊。
これにかかれば脆い人間なんてイチコロだ。


「まずは短髪のガキィ……!
 なにも怖くないって顔しやがって気に入らねえんだよ……
 テメエからだぁ!!
 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


実際『お姉様』は彼らになんの危害も加えていないのだが、
どうやら目の前に立ち塞がっているのが気に入らないらしい。
追い込まれすぎて発想が狂人の域に達している。

『お姉様』まであと僅か、というところでエンジンがうるさいはずの車内なのに、不思議とどこからか叫びが聞こえてきた。


「――にいので以下レスひ不要です!」

「ひゃひゃひゃひゃ……ひょ?」

「生半可なナイトには真似できない……!」


小男はきっと、自分の身に何が起こったかまったく理解不能状態だっただろう。
空から黄金の鉄の塊が降ってくるなど、誰が予想出来るだろうか。


「《インビンシブル》!!」

「ぎょはぁーーー!?」


黄金の鉄の塊で出来たナイトが、鋼装備に遅れをとるはずがない。
貧弱一般乗用車は、天から舞い降りた一級廃人の持つプレシャーに耐え切れずアワレにもズタズタになり、小男は交通事故に等しい衝撃を受けて気絶した。


――――――――――――――――――――――


車は急に止まれないという法則を、上からとんでもない衝撃を叩きつけるという荒業で、
一瞬ジャックナイフの様に後輪を上げ、強盗の車は止まった。
だが、急に止まれないのは車だけではない。


「ええっ!?なに!?
 なにいきなり降ってきてるわけ!?」

「み、御坂さん!ストップですって! ストップ!!」

「電撃を収めてくださいましお姉様!!」

「そ、そんなこと言われても!!」


全てが急すぎて時既に時間切れ。
佐天さんと黒子の必死の呼び掛けも虚しく、《超電磁砲》・御坂美琴の腕では何輪ものスパークの火花が咲き続ける。


「れ、《レールガン》だって急に停められないわよー!!」

「ドラグスレイブみたいなものなんですかぁ!?」


初春のツッコミは少々マニアック過ぎるきらいがあるのだが、
今は誰にもそこへ更にツッコむほどの余裕はなかった。


――――――――――――――――――――――


「……実際俺は不良界でも結構有名でケンカとかでもたいしてビビる事はまず無かったが生まれて初めてほんの少しビビった」


むくり、と、ルーフとボンネットが著しく凹んだ車からブロントさんは起き上がる。
ブロントさんが取った行動は、ナイトの《アビリティ》の一つである《インビンシブル》を使うことによって自分の身を守ろうという方法だった。

《インビンシブル》――

この《アビリティ》は、効果が続く間物理攻撃に対して無敵になれるという強力な《アビリティ》だ。
ただし効果時間は30秒、再び使用するのにしばらく時間を置かねばならないという面も備えていて実に謙虚である。

高高度からの落下ダメージをも防げるかは分からない―ヴァナにはにいからな―がゆえの賭けだったが、身体に異常は見受けられない。

「ほむ……なんとか上手くい――」


った感、と、ブロントさんは言葉を続けることが出来なかった。
追撃の《レールガン》で、ブロントさんの危機は更に加速したからだ。

《レールガン》――

御坂美琴の指先から放たれたコインは、
丘原の用いた火球とはその威力も火ではない威力というあるさまだ。

それは必殺技、正しく必殺の威力を持つ代物である。

音速の3倍以上のスピードで飛んでくる砲弾を避けることや防ぐことなど……常人には到底不可能だ。
音よりも早い攻撃、予めでなければ察知することすら出来はしない。
これを凌げる存在、それは、彼女と同格の能力者かあるいは、とある少年だけだろう。

圧倒的な破壊の波に遅れて、その威力を物語る衝撃音が辺りに鳴り響いた。




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


「あ…あ……」

もうもうと黒い煙が立ち込め、アスファルトには美琴が撃ったものの爪痕がくっきりと、
つけられている。
…やって、しまった。


「~~ッ!!
 初春! 怪我人の容体の確認と救急車の手配を! 一刻を争いますわ!!」

「は、はい!!」

「……あっ……え……ええ?」

「お、奥津ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!(小男強盗)」


黒子の即選即決の指示に初春は従い、携帯を片手に恐る恐るレールガンの着弾地点へと向かった。
佐天さんは目の前の急な出来事を理解は出来てもついていけないという感じだ。
丘原は子分が目の前で爆発させられて、磔にされたまま子分の名を叫んだ。

…急なことだった。
本当に急なことだった。


「ああっ……あああ……!!」

「お姉様……っ!」


美琴は、自分がしてしまったことを真っ向から受け止めて、ショックを受けているようだ。
黒子は後輩として先輩を、風紀委員として能力使用者を、そのショックから和らげるための対応をする。


「しっかりしてくださいましお姉様!!
 まだ死傷者が出たとは限りませんの!!」

「……無事な訳、ないじゃない」

「…おね――」

「無事な訳ないじゃない!! 黒子、アンタも見たでしょ……?
 私のレールガンが、人間に、直撃したのよ……?」

「それ…は……」


美琴は、本当は車の手前ほどにレールガンを着弾させて、爆風をぶち当てて車を吹っ飛ばすつもりだった。
でも、実際のレールガンの軌道は、突然のことに演算が乱れたのか、
空から降ってきた人間に、直撃するコースだった。

空から落ちてきたのだから、車の上に落ちた時点で普通なら死んでいるだろう。
だが、車の上の人間は着弾する前に、確かにむくりと起き上がった、生きていた。
助かったはずの命を、自分がこの手で奪い去ってしまったのだ。


「テメェ…! 《超電磁砲》……!
 よくも俺の子分をやりやがったなぁ!!」


丘原の怨嗟に、美琴はビクッと身体を震わせる。
丘原は尚も恨み節を吐こうとするが、黒子が強く睨むと言葉を詰まらせた。


「黒…子、私……人を、人を……」

「お姉様!!」


黒子は美琴をぎゅうっと抱き締めた。
「事故だった」、「仕方なかった」。
そんな言葉は自分から言うことは出来ないし、責任感の強い美琴も望んでいないだろう。
だが、このままでは、美琴が壊れてしまうように思われたのだ。


「黒、子……黒子、黒子ぉ……!」

「お姉様……」


普段の美琴なら、抱きつけば真っ赤になって黒子に電撃を浴びせるであろう。
だが今、そこに常の《超電磁砲》はいない。
そこにいるのは、自身の能力で強盗も無関係の人間も無差別に殺めてしまった重責に苦しむ、ただの少女だった。

ならば、白井黒子は、例え自他が望まぬかもしれない行為でも言葉でも、
御坂美琴を守るために言葉を紡ぎ、そして行おう。
例え歪んでいても、それが黒子の美琴への愛なのだから。


「お姉様! 此度のことは不幸が積み重なった事故でした!
 …もし、お姉様が罪に問われるならば、それはお姉様だけの罪ではありません。
 黒子にも責任がありますの。
 わたくしが、わたくしが慢心などせず犯人を即座に確保していればこのようなことには……!」

「ううん、そんなことない!
 私がレールガンを使わなければ良かったんだから……!」

「……あのー」

「いえ! お姉様はわたくしの尻拭いと佐天さんの仇討ちをされただけですもの……!
 全ての咎は、元を辿れば全てわたくしにありますの!!」
    
「いや、でも、私が手を出さなければこんなことには――!」

「すいませーん、もしもし?」


美琴と黒子が二人して「私が悪い」「いえわたくしが悪いんですの」と罪を被りあっていると、
佐天さんが申し訳なさそうに話しかけてきた。


「あら、佐天さん……
 色々言いたいことがあるでしょうが……
 申し訳ありません、まだ少しお姉様をそっとしておいて差し上げてくれませんこと……?」

「大丈夫よ、黒子……
 ごめんなさい、佐天さん……折角友達になれたのに、私……」

「ああ、いやぁ、その……大変盛り上がってるところ悪いと思うんですけど……」

「? どうかしまして?」


佐天さんの妙な歯切れの悪さに、今まで抱きあって号泣していた二人はキョトンとしてしまう。
二人が落ち着いて聞く態勢に入ったので、ある方向を指さし、
佐天さんは、ゆっくりと自分にも言い聞かせるように話しだした。


「ええと、信じがたいんですけど……
 なんか、無事っぽいっていうか、ほぼ軽傷みたいですよ、降ってきた人も、強盗も」

「………………」

「………………」

「「な、なんですってー!!」」


それは確かに信じがたい内容だった。
二人は佐天さんが指さした方向を見ると、立ち込めていた黒煙はすっかり晴れ、
そこにはまるで、レールガンが撃ち込まれる前のような光景が広がっている。


「「…………オウフ」」


車中には昏倒する強盗、そして車の上には鎧姿の男が大の字になって呻いていた。


――――――――――――――――――――――


「…い、いったい今度は、なにがおこったのあk……
 理解不能状態なんです、が、ねぇ?」


妙なエリアに飛ばされてしまったかと思えば、次はブロントサンインザスカイ、
槍なしハイジャンプを乗り切ったかと思えば訳も分からず攻撃されてご覧のありさまだよ。

インビン防御が発動していなければ即死という状況であったが、
そんなこと、ブロントさんは知るよしもない。
直接のダメージは無効化できたものの、それでも爆音とある程度の衝撃は追加効果か追加ダメージの範囲なのか、
無効化出来ずにくらってしまったようだが。

それでも「RPG-7をぶっ放されたかと思えばスタングレネードだったでござる」、
そう思えば安いものだ。


「むう……」

「あの、大丈夫ですか? 私の言ってること、分かりますか?」


頭を振りながら着地時と同様に車からむくりと起き上がると、
見たこともないような装備をしたヒュムっぽい♀がおずおずと話しかけてきた。


「ご無事ですか? どこか痛むところはありませんか?」


倒れていたところを見られていたのか、そう思ったブロントさんは咳払いをひとつ。


「ナイトは名実ともに唯一ぬにの盾だからよこのぐらいぜんえzんHEAD-CHA-LA。
 …ちょとくらくあrするような気もするがそんなことはなかった」

「は、はあ……?」


ブロントさんは強さを口で語ったりしないので、優雅に車から降り、
その両カモシカの足で、決して、決して足元をふらつかせることなくしっかり大地に立つことによって、
メイン盾は健在であることを知らしめた。
ヒュムっぽい♀はブロントさんの扱う美しい日本語に聞き入って呆然としている。

しかし、このヒュムっぽい♀の装備は本当に変わっている。
頭装備が《コサージュ》にしては花が多すぎるし、胴装備も両脚装備も防具っぽくないし、ジョブもなんだかよく分からない。
せいぜい近そうなものがあるとしたら学者辺りだろうか?


マア… ホントニイキテマスノ。
ホントニ!?ホントニシンデナイノ!?
ダイジョウブデスヨミサカサン、イッテミマショウ。


ちょっと離れたあたりから、このヒュムっぽい♀と似たような装備のキャラが近づいてくる。

とりあえず今は玄奘を把握すべきでFA!、と頭の中で結論付け、ブロントさんはヒュムっぽい♀に話を聞くことにした。


「それよりもなにが起こったのか説明してくださいますか^^; JOJOで言うと重ちー。
 「ゴブ字ですか?」とか聞くと言うことはお前はおれになにが怒ったか知っているのだと思った」

「しげ……? ええと、実はかくかくしかじかでして――」


ブロントさんはヒュムっぽい♀から、
自分が空から降臨したら後からきた短髪のヒュムっぽい♀の《レールガン》―WSか?―に巻き込まれた系の
伝説があったことを聞きだした。


「まるまるうまうまという訳なのか。「」なるほどなというか鬼なる。
 (俺のインビンがヘイトがおれに鬱ったという意見もあるんだが)
 ならばそこの短髪は俺になにか言うべきこちょがあるのではにいか?」


ブロントさんの指摘に、短髪ヒュムっぽい♀がギクリとしたか鬼なった。


「なっ……!
 だ、だって、アンタが落ちてこなかったら、全部丸く収まったんだし……」

「はぁー……お姉様?」

「ここは一応きちっと謝っちゃった方がいいですよ、御坂さん」


ツインヒュムっぽい♀が深いため息をつき、ロン毛ヒュム♀っぽい♀がやさしく忠告してやっていた。
ナメタ言葉を使った短髪ヒュムっぽい♀はツインテールとロン毛に頭が上がらないらしく、
少し逡巡してから――


「うう…わ、分かってるわよ! その……ごめんなさい!!」

「……良いぞ。
 おれが降ってこなければというロンにもいちちあるしな。
 俺は心が広大だからな過ぎ去ったことをネガネガしないし相手の言葉も受け止める。
 自分の心に広さが怖い」


素直に謝ってきたので許してやった。
これこそまさに礼儀正しい大人の対応、ヒュムっぽい♀たちは「素晴らしいナイトだすばらしい」と神格化することになるだろう(リアル話)。


「あ、ありがとう……(苦笑)」

「…なにやら変わった喋り方をする殿方ですのね……」ヒソヒソ

「まさか言語野に障害が……」ヒソヒソ

「いやぁ、そんなことはないんじゃない?」ヒソヒソ


ヒュムっぽい♀がなにやらこそこそ話しているようなので、目の前で内緒話は良くないと注意してやろうとしたら、
ウウウウウウウウウウウウウっと遠くからサイレンが聞こえてきた。

花飾りヒュムっぽい♀とツインヒュムっぽい♀―長いから偽ヒュム♀でいいべ―が、
安心したような顔をする。


「どうやら、警備員(アンチスキル)と風紀委員の応援が来たようですわね。
 初春は怪我人の有無を報告、わたくしは犯人を警備員に引き渡してきますの」

「了解です」


花飾り偽ヒュム♀はツイン偽ヒュム♀の命令されてどっかいった。


「お姉様、佐天さんとその殿方の介抱をお願いしてもよろしいですか?」

「任せといて。
 いってらっしゃい、黒子」

「ええ、それでは――」


ツイン偽ヒュム♀は短髪偽ヒュム♀にブロントさんの回復を頼んだと思ったら、
ブロントさんが下敷きにしていた車の中に居たレイズ待ちしてたっぽい♂と一緒に消えた。


「なん…だと……」


ほんの少しビビったので周りを見回したら、ツイン偽ヒュム♀はちょと遠くでさっきの♂を引っ掴んで立っていた。


(即ログアウトしてログインしちぇいるんだとしたら、ひょっとしたらこいつらはGMなんですかねぇ?)

「じゃあ佐天さん、風紀委員と警備員の邪魔にならないように向こういこっか。
 たぶん鞄の中に絆創膏とかあるからさ」

「そうですね、分かりました」

「ほら、アンタもいらっしゃい」

「…うむ」

短髪偽ヒュム♀がブロントさんについてくるように言ってくる。
権力者にはへたにさかららない方がいいと考え、ブロントさんはその言葉に従うことにした。


――――――――――――――――――――――


美琴と佐天さん、そしてブロントさんの3りは、要救助者のいる広場に戻った。
鞄を置いておいたベンチにケガ人2りに掛けて貰い、美琴が2りの介抱に回る。


「さて、それじゃあ佐天さんから診てみよっか」

「ええっ! いいですよ、あたしは大したケガした訳じゃありませんし、
 この人を優先させた方が良いと思いますけど……」


佐天さんはちらり、と同じくベンチに座っている鎧姿の男性を見上げる。
仏頂面で変な喋り方をする変な格好の変な人。
平気そうにしてるけど、確実に自分よりは大事に至っているのではないかと佐天さんは考えた。

さて、佐天さんに心配をされているブロントさんはと言うと――


(…こんな場所、見たことも聞いたこともないんだが?)


不意だまでくらった少々のダメージのことなど気に留めている場合ではなかった。
見慣れぬ景色、建物、PC、NPCなどが乱れるリージョンに、ブロントさんは仏頂面を歪ませることなく困惑している。


「そう?
 っていうことなんだけど、アンタ、ケガとかしてるの?」

「………………」
(ひょとすると此処は今度実装される予定の新エリアのようななにかではないか?
 おれは本能的に主人公タイプダから実装前にToLoveるかテストprayで来てしまったのだと考えれば
 areはイベントという結論に見事な推理だと関心はするがどこもおかしくはないな)

「ちょっと、聞いてる?」

「…む? 何か用かな?」


美琴は、「聞いてなかったんかい」、と呆れが鬼なるも、一応佐天さんの手前、もう一度ブロントさんに聞いてみる。


「だから、アンタは平気かって聞いてるの。
 ケガとか、してないわけ?」

「ああ、そうううことか。
 最高の武器と最強の防御力を持っているおれにはお前の持ってるWSすら効きにくい(頑固)。
 男ならこれくらいチョロイ事だからレディーファウストにすろ(この辺の心配りが人気の秘訣)」

「それを言うなら、レディーファーストでしょうが。
(まあ、防いだか何かしてない限りケガどころか死んでてもおかしくないはずだしね……)
 ほらね、そうゆうことだから、蹴られたところ診せて」

「は…はい」
(い、いいのかなぁ……?)


佐天さんが遠慮がちにそう答えると、美琴が患部を診るために佐天さんの顔を覗き込む。
佐天さんの頬には内出血と少しだけとはいえすり傷が出来ていた。
それを見て、美琴は少し悲しそうに顔をしかめて悪態をつき、手当てにかかる。


「ああ、もう……女の子の顔を蹴るなんて信じられないわねあんにゃろう!
 ウェットティッシュで消毒して、と……大きめの絆創膏、あったかしら……?」

「あ、あいたたたた……」
(うわぁー、今あたしレベル5の人に手当てしてもらってるよー……
 やっぱり辞退して自分でした方が良かったかな?)


美琴が佐天さんのケガの大きさに見合う絆創膏を自分と黒子の鞄から探っていると、横で座っていたブロントさんが首を突っ込んできた。


「ふむ、この程度か」

「ちょっとちょっと、ケガしてる女の子の顔なんてマジマジ見るんじゃないわよ。
 邪魔だから大人しく座って――」

「コレなら《ケアル》で十分ではにいか?」


Burontは、Satensanに《ケアル》を唱えた。
暖かな光とともに佐天さんの傷が癒えていく。


「なっ!?」


佐天さんの頬の傷があっという間に綺麗さっぱり治ってしまった。
美琴が目の前の出来事に愕然としていると、ブロントさんが「うむ」と納得いったかのように頷く。

       
「我(オレ)ながら見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない。
 自慢じゃないがPT組んでる時に「ヴァナの佐古下柳ですね」と言われた事もある」

「え、あれっ?」


佐天さんは自分に何が起こったか理解できていないようで、ケガのあった頬を触ったり突いたりしている。


「痛く、ない……
 おぉー! ありがとうございます!」


佐天さんも美琴も、今ブロントさんが使った白魔法、《ケアル》に驚いていた。
もっとも、佐天さんと美琴では驚きの意味合いが違うのだが。


「困ったときは御館様だからよ迷惑にならないていおdの辻ケアルはとうえzんの行為」

「えっと、良く分からないですけど…凄いんですね!」

「それほどでもない」


褒められて嬉しいのか、ブロントさんは仏頂面を少し緩ませて、謙虚にそれほどでもないと言った。
だが、どうやら今の行為が行えることは、この街では必ずしも良いことではないようだ。


「……それほどでもあるでしょう?」

「えっ、御坂さん……?」


美琴が、佐天さんを守るようにブロントさんとの間に割って入った。


「今、佐天さんを治療した能力はなに? 《肉体再生》(オートリバース)かしら?
 でも、軽傷とはいえあっという間に他人の傷まで治せる《肉体再生能力者》(オートリバーサー)なんて、
 聞いたことがないんだけど、ね」

「…はー?」


美琴とブロントさんの間に不穏な空気が流れ始める。
といっても、美琴が警戒色を発するので、ブロントさんもそれに警戒しているだけなのだが。

佐天さんには、いったいどうして美琴が警戒色を強めているのか分からなかった。


「仮にアンタの能力が――そうね、強能力者以上の《肉体再生》だとして、
 どうやって私のレールガンを凌いだのかしら?
 無理なはずよ、どんな《肉体再生能力者》だって――
 『レールガンのダメージを全て受け止めて、すぐ近くに居た人間も軽傷で済ませられるように守って、
 そして負ったはずの重傷を即座に回復する』ような――
 そんな凌ぎ方は、防御する能力じゃない《肉体再生》には出来ないはずだわ」

「…お前がなにを言いたいのか皆目拳王がつたないんですがねぇ。
 たしかにミステリーを残すのは勝手だがそれなりのやり方があるでしょう?
 言いたいことがあるならしゃっきり言うべき死にたくないならそうすべき」

「ふ、二人とも急にどうしちゃったんですかっ?」


どんどん喧嘩腰に近くなっていく二人をなだめる為に、今度は美琴に庇われていた佐天さんが二人の間に割って入ろうとする。
だが、美琴もブロントさんも、どちらも引く気はないようだ。


「じゃあ言ってやるわ――」 
(空から降ってくるし鎧に剣に盾って格好で既に怪しいってレベルじゃないんだけど……
 レールガンを平気で凌いで他人の傷も治せるような能力の持ち主。
 どんな能力にしても、そんな能力者がまともな立場の人間な訳がない!
 もしコイツが危険なやつなら……佐天さんたちを守らないとっ!)

「御坂、さん……?」


佐天さんは、美琴が自分を見る目になにか真剣みが混じっていることに気がついた。
だが、その意図はただの学生である佐天さんには分からない。


「アンタ、何者よ……!?」


問いかけながら、いつでも攻撃が可能なように帯電する。
ブロントさんの返答は――


「そう言うお前は何ももなんだよ。
 見ろ、見事なカウンターで返した調子に乗ってるからこうやって痛い目に遭う」


美琴はブロントさんの言葉を受けて、吉本新喜劇ばりのズッコケを見せた。
空気が張り詰めていたような気がしたが、別にそんなことはなかったぜ。


「み、御坂さん、大丈夫ですか?」

「あ…ありがとう、佐天さん」


見事なズッコケを見せた美琴を、佐天さんが手を差し伸べて立たせる。


「アンタねえ、それ言う!? 自分で言えって言ったくせにそれ言う!?
 こう…もっとそれらしい返し方ってあるんじゃないの!?」

「そももも人に名前を聞くときは自分から名乗るものだと思った(しきたり)」

「んぐっ……! そりゃあ、そうだけど……」

「だがなんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情けだからよ、今カイは答えてやっても良いぞ」

「どっちなのよ!」

(大変だなぁ、きっとツッコミ体質なんだね、って……あれっ、なんかあたし空気になってない?
 全然話についていけてないんだけど、頑張って喋った方がいいのかなぁ)


佐天さんはとりあえず二人の間で、美琴とブロントさんの掛け合いを見守りつつ、此処だというところで口を挟むことにした。
美琴がじたんだを踏み終えると、ブロントさんが誇り高く名乗りを上げる。


「おれはブロントだし謙虚だから呼ぶときはさん付けで良い。
 種族は見てんお通りエルでジョブは黄金の鉄の塊で出来たナイト、名実ともに唯一ぬにの盾だぞ。
 最強の武具装備をしているから全身からかもし出すエネルギー量がオーラとして見えそうになり
 リアル世界よりも充実したヴァナ生活が認可されているがリアルでも伝説の不良としておソルられてる。
 FFではナイトだがリアルではモンクタイプだからなケンカも強いしみんなが俺に注目する」


明白に明瞭な自己紹介が終わっても、それを聞かされた2りはどう返事をしていいか分からなかった。
入ってきた情報は多い、多いのだが……


「…名前以外意味が分かんなかったのはあたしだけですかね?」

「奇遇だね、私も分かんなかった……まあそれは置いとくわ」

「置いといちゃうんですか!?」

「コイツにいちいちつっこんでたら話が進まなそうなんだもん。
 で? アンタからはまだ肝心なことが聞けてないんだけど?」

「【えっ!?】」


ブロントさん自身としては会心の名乗りだったがために、ブロントさんには今の名乗りになにが足りなかったか分からない。


「えっ、じゃないわよ。
 能力とレベルを言えっつってんの」


美琴が足りない点を忠告してくれたみたいだが、ブロントさんの頭にはクエスチョンマークが溢れかえる。


「俺は能ろyくがなにを指してるか謎みたいだった。
 レベルはナ75/シ37だが俺は強さを口で説明したりしない。
 口で説明するくらいなら俺は牙をむくだろうな。
 おれパンチングマシンで100とか普通に出すし」

「75とか37ってなにそれ、ふざけてんの?
 ていうか、能力が分からないってどうゆうことよ?
 まさか、アンタも身体検査(システムスキャン)では無能力者(レベル0)判定とか言い出すんじゃないでしょうね……?」
(それとも能力じゃなくて、ひょっとしてあの鎧に秘密があるのかしら……
 ふざけた格好だけど実は最新鋭の《駆動鎧》(パワードスーツ)だとか?
 ……《駆動鎧》ってよりは、どうみてもただのコスプレよね)


彼我の常識と知識の食い違いがまだはっきり見えないため、双方ともに違和感を覚えるより先に相手がわざとはぐらかしているように思えてしまう。
美琴は相手の素性がまったく見えてこないからいまいち警戒が解けないし、
ブロントさんは美琴たちが情報源である以上、訳の分からない質問をされようとコミュニケーションを取らざるを得ない。


(パンチングマシンで100ってあたしらからすれば凄いけど、男の人でそれって凄いのかなぁ?)


一方、佐天さんは双方の思惑に関係なくブロントさんの言葉に真っ当な疑問を感じていた。


「「システムスキャン?」「誰それ?」「外人?」「歌?」こんなもんだから、
 お前の今までのレスみとも「訳分からんね」「笑う坪どこ?」ほらこんなもん」

「ケンカ腰な上に言ってることは分からないんだけど、言いたいことはなぜか伝わってきますね……」

「理解しても腹が立つけどね。
 それにしても身体検査が分からないってどうゆう……?」


ブロントさんの言葉の内容にそろそろ違和感を覚え始める2り。
黙り込んで考え込んでしまうが、放置されるブロントさんとしては堪ったものではない。


「さっきからずっとお前らのターンだがそれは犯罪だぞ!
 おれが名乗ったんだからお前らも名乗れよ俺が埃高い四魂の騎士じゃなかったら既にお前らは海の中。
 それくらいも出来ない卑怯者はマジでかなぐり捨てんぞ?」


ブロントさんにはまだ現状を把握するための情報が足りない。
とりあえず名前を名乗らせることで会話を続行させる。


「ん、それもそうね。
 私の名前は御坂美琴、制服見りゃ分かるかもしれないけど常盤台中学に通ってる学生よ。
 能力判定はレベル5、常盤台の《超電磁砲》って言えば分かるでしょ?」


美琴はこの《学園都市》では超有名人だ。
名前、所属、二つ名、どれをとっても《学園都市》の住人に名乗るには十二分なのだが――


「「御坂美琴?」「誰それ?」「川本真琴?」「1/2?」こんなもんだから、
 お前の言葉から思いどそうも「聞いたことないね」「常盤台ってどこ?」ほらこんなもん」

「ええっ!?」


学園都市第三位のレベル5、《超電磁砲》の御坂美琴といえば常盤台のエース^^
常盤台といえば強能力者以上の学生しか通えない超名門お嬢様学校。
これは《学園都市》にいる人間にとっては常識である。

ところがぎっちょん、このブロントさんに常識は通用しにい。


「ほ、ホントに知らないの?」

「うーん、ちょっと言葉を変えて似たようなセリフを続けて言うあたりマジっぽいですねえ」


別に美琴は、自分が有名人であることを鼻に掛けたりはしない。
自分のことを知らない人も居るであろうことを分かっている。
でも、常盤台も《超電磁砲》も知らない、という相手が《学園都市》に居ることは衝撃だった。


「ふむ……
 美心、自分のことをただももではないと思いこんえdしまうことは中学生には稀に良くあるらしいぞ?
 リアルで痛い目を見る前で良かったなリアルだったらお前はもう死んでるぞ。
 俺は不良だからよお前の黒歴史をふれてまわらないし馬鹿にするやつはズタズタにする。
 お前全力で安心していいぞ」

「うわぁ……」
(あれは、憐みの眼だ……)


ブロントさんとしては、目上の者として目下の者に優しく接したつもりなのだが――


「ひ、人を中二病扱いしといて…あまつさえ名前も間違えるとはいい度胸ね……!!」


美琴としては屈辱以外の何物でもない。
知らないのはまだいい、1ヶ月前のバカだってそうだった。
だが、このいかにも可哀想な年下の子を相手にしています、という態度が気に入らない。


「なんだ急に顔を真っ赤にしてビリビリしだした>>いm琴。
 やはり思わずナイトをしてしまっている真のナイトだからもててるという事実だな。
 だが俺はみんなのメイン盾だからなお前だけを守ってやるわけにはいかないのだよ(誠実)」


ぷちっ。
美琴の中で、なにかが音を立てて切れた。


「誰がオマエみたいなやつに惚れるかあああああああッ!!」


怒りのボルテージが振りきれたのか、美琴は辺り構わず電撃を放った。
だが近くにいるのはブロントさんだけではない。


「え、ちょっ! きゃあ!?」

「おい馬鹿やめろ!!」


ズガッシャァっという轟音とともに、広場の一角が電光で輝いた。


――――――――――――――――――――――


「奥津ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
 本当に無事で、無事で良かったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「スプーキー…丘原さん、どうしちまったんだ?」

「いや、俺もさっき起きたばっかでなにがなんだかよ……」


銀行前では、警備員と風紀委員の現場整理と検証、そして犯人の搬送が行われている。
犯人の護送車へ乗り込む際には、警備員だけでなく実際に彼らを捕縛した黒子も立ち会った。


「アナタの能力もなかなかでしたわよ。
 それだけ子分を大切に思えるなら、今度は道を外さず、もう一度出直すことが出来ますわよね?」


黒子は子分の無事を喜ぶ丘原に、そう声を掛けた。
丘原は涙を拭いて答える。


「…ああ。 こいつらの為にも、出てきたら真っ当な生き方を探さねえとな……
 あの光景を見たら、もう危険な目には合わせられねえよ」

「お、丘原さん……ッ!」

「あの光景って俺になにが起こったか分かんねえッスけど、感動したッス……!
 一生アンタについていきます!!」

「お、おまえらあああああああああああああああああああああ!!」


手錠をされているため、手の自由が効かず、おしくらまんじゅうのようにして額を突きあわせて号泣する男3り。


「ま、まあ、アナタがたが社会に復帰できるよう、わたくしも祈っておりますわ。
(あ、暑苦しいにもほどがありますの……! これだから殿方というのは……)
 さ、そろそろ乗り込んでくださいまし」

「ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~ッ!!
 …そうですね、分かりました! 《空間移動能力者》の姐さん!」

「「姐さん!」」

「…姐さんはやめてくださいな」


そろそろ犯人を乗り込ませないと先輩に怒られてしまう。
風紀委員と話しこんでいる犯人たちに眼鏡の警備員が乗り込むよう促さそうとしたところで――

ズガッシャァ、と突然広場の一角で放電現象が起こった。

その場に居合わせた警備員と風紀委員が全員新たな事件かと構える。


「! なななななんですか何事ですかぁ!?」


訂正、犯人の護送車乗り込みを任されている眼鏡の警備員だけ、驚いてその場で縮こまった。
皆が構える中、黒子だけは誰の仕業か即座に理解したのでため息をつく。


「はぁ……
(お姉様ったら、お上の目が近くにありますのになにをしてらっしゃるんでしょう?
 軽率な行動はお慎み頂きたいものですが……)
 皆さま、申し訳ありません。
 あれはわたくしの友人によるものですので、どうかお気になさらぬようお願い致しますの」


黒子の言葉に、初春と眼鏡の警備員を除く他の風紀委員と警備員たちが顔を見合わせてどうしたものかと悩む。


「…まあいいじゃん?
 問題ないって言うなら今のはほっとくじゃんよ」


悩む人間が多い中、ジャージを着た警備員の鶴の一声で、悩んでいた全員が各自の仕事に戻っていった。
黒子はホッとして、ジャージの警備員に礼を言う。


「あの、ありがとうございますの」

「ん?
 いいっていいって、たぶん今の、今回の捕りものに協力してくれた奴だろ?」


警備員の指摘に黒子はぎくりとなるが、特に隠す理由もないのでそのまま頷く。


「ええ、その通りですの」

「じゃあ今回のお手柄に免じて、さっきのはそれで見なかったことするじゃんよ。
 でも次はないから、そう伝えとくように」


ジャージを着た警備員はそう言って、未だに縮こまっている眼鏡の警備員の元へ歩いていった。


「ほら鉄装、お前はいつまでビビって縮こまってんだ!
 早く容疑者を護送車に乗せるじゃん!」

「はひぃ!? す、すいません黄泉川先生ぇーー!!」

「まったく……」


警備員と話し終えると、応援の風紀委員に報告を終えた初春が駆け寄ってきた。


「今の、もしかして御坂さんですか?
 なんていうか、慣れてますよね、白井さん」

「ええ、お姉様の隣に居れば、これぐらいの電撃が走ったところで驚きませんわよ」


黒子は、やれやれといった感じに肩をすくめる。


「おおかた、先ほどの妙な殿方がお姉様に無礼でも働いたのではなくて?
 さ、初春、早く事後処理を終わらせてしまいますわよ。
 またお姉様が暴れだしては、わたくしも庇えませんもの」

「あっ、はい! 待ってくださいよ、白井さーん」


――――――――――――――――――――――


「あれ…あ、たし……?」
(なんとも、ない?)


美琴の電撃に巻き込まれると思って、目を閉じて身を縮こまらせていた佐天さん。
自分の身になにも起こってないのはなんでだろうと目を開けると、佐天さんの前には大きな盾が立っていた。


「フレも敵も構わずサんダーするとかちょとsYレならんしょこれは……!?」

「完全に防いだ……! なんなのよ、アンタのその装備、いや、能力……!?」


美琴の電撃は、貧弱一般能力者にとっては地獄の宴とも言える電撃だ。
だがブロントさんは美琴の電撃を「なんだこれは?」と避けまくるし、
その場に居た佐天さんをきょうきょ《かばう》で庇い、「ほう・・」て下段ガードを固め守り切る。


「今は武器防具の話を聞きたがるよるも大事なことがあるんではにいのか!?
 バカみたいにヒットした頭を冷やせ見事!
 お前フレをアワレにも骨にしたいのかよ!?」

「それは……って! 誰のせいだと思――」

「口で言い訳するくらいならおれは先に謝るだろうな。
 おまえもし化して「すいまえんでした」が、言えない馬鹿ですか?」

「うっ…… そうゆうわけじゃ、ないけど……」
(なんで人を小馬鹿にして煽るような態度とる癖に正論を振りかざせるのよ!!
 こんな理不尽な正論生まれて初めて聞いたわ……)


美琴のヘイトを稼いだのはブロントさんだが、ブロントさんの挑発に乗ったのは美琴だ。
守るつもりだった佐天さんを、ブロントさんが居なければ傷つけてしまうかもしれなかったのは事実。
ブロントさんの言うとおりにしてしまうのは実に癪だが、美琴は佐天さんに謝らなければならないと思った。


「佐天さん、ごめんね、大丈夫だった?」

「ああ、いやいや、この人があたしを庇ってくれたから……全然、気にしないでいいですからね?」
(私が御坂さんでもたぶん電撃放ってるし)

「ほう、即座にフレを許せるとはなかなか見上げた心崖と関心はするがどこもおかしくはないな。
 おもえは……左辺というのか? ジュースをおごってやろう」


佐天さんの心に広さが怖い、ブロントさんはお腰につけたアイテム袋から2本、缶ジュースを取りだした。


「ど、どうも……
 あたしは佐天です、佐天涙子っていうんですよ」
(わっ、このジュース買ったばっかみたいに冷たい! なんで!?)

「いmころ、お前もよく自分のひを認めてちゃんとフレに謝れたな。
 ジュースをおごってやろう」


取り出した2本目のジュースは美琴の分だった。
佐天さんのと同じ冷たいジュースが美琴の手に渡された。


「えっ、うん……」


ブロントさんの予想外の対応に思わず素直に受け取ってしまった美琴。


「セブ●UPって、チョイスが渋いですねー」

「ほむ、お前はなかなか分かっているようだな>>うりこ。
 7アッポは働く大人の醍醐味だからよ、飲めば元気がぽこじゃか湧いてくる感」

「ふふっ、ぽこじゃかなんて表現初めて聞きましたよ。
 どこかの方言なんですか?」

「どこでもいいだろ言語学者なのかよ」

(貶してきたと思ったら説教して、それが終わったら褒めてきて……
 もう、本当になんなのよコイツ……)


いつまでも手の中のジュースを眺めていてもぬるくなるだけだ。
プルトップを引いて、一口飲む。


「……美味しい」


なんだか、怒っていたのも疑っていたのも馬鹿らしくてどうでもよくなってしまった。
先ほどまでの怒りが気の抜けたコーラの様に落ち着き、美琴は一先ず目の前の不審者を疑うのをやめることにした。


「それにしても《学園都市》って変わった飲み物ばっかりだと思ってましたけど、ちゃんと外の飲み物とか売ってるんだぁ」


佐天さんの何気ない一言に、ブロントさんがぴくり、と反応する。


「学andトシ……?
 総入れ歯うっかり聞き損なってしまったようだな。
 みおkと、るっこ、おれは今どこにいるのか分からにいのだがここはヴァナのどの辺なんですかねえ?
 LSメンが心配が鬼なってるだろうから俺はそろろろカカッとジュノに帰らねばならないんですわ」


大事なことを忘れていた。
ブロントさんには現状把握が必要だったのだ。
今の雰囲気なら雑談の話題として聞いてもなにもおかしくはない、
そう判断してブロントさんは道を尋ねる感覚で質問をした。

「は? 此処は《学園都市》の第七学区だけど……」

「さっきも言ってましたよね、ヴァナって……
 ヴァナとかジュノって、場所のことですか?」


返ってきた答えは、ブロントさんの推理を遥かに裏切るものだった。


「お、おいィ……? 分からないわけないはずではないか?
 《ヴァナ・ディール》は俺らが冒険しる世界の名前だしジュノは《ジュノ大公国》でFA!」

「う゛ぁなでぃーる……? じゅのたいこうこく……?
 ええと、外国のことなのかな?」

「でも聞いたことないわね、そんな国」

「だが…ッ! 本当に、知らないのか……?」


なんだそれは、問い詰めたくなったが、美琴と佐天さんが嘘をついてるような感じがしない。
美琴は、さっきの自己紹介もふざけているのではないかと言っていた。

ブロントさんの顔色がみるみるうちに蒼くなっていく……


「佐天さーん! 御坂さーん! お待たせしましたー!」

「まったく、折角の親睦会でしたのに、ついてませんわね。
 …あら、皆さんどうされましたの?」


事後処理を終えて、黒子たちが戻ってきた。
3人の様子がおかしいので、首をかしげる。
ブロントさんは、先ほどGMのような動きだと思った黒子と初めて此処で会った初春に詰め寄る。


「お前ら! おもえらはヴァナとジュノを知ってるのではないか!?」

「は、はぁ? う゛ぁなってなんのことですの?
 知っていますの? 初春」

「い、いえ、少なくとも私は聞いたことのない言葉ですね……」

「なっ……」


2りの答えに、ブロントさんはよろよろと後ずさる。


「ちょ、ちょっと、アンタどうしたのよ!?」


美琴がブロントさんの様子があまりに激変したので心配になって声をかける。
ブロントさんは、先ほどケガの有無を聞かれた時のように、これぐらいチョロイ事、と答えられない。


「俺は…俺は……」


ブロントさんは、あの妙な《禁断の口》に飲まれた時、
自分のヴァナ人生が裏世界でひっそりと幕を閉じてしまうことを覚悟したが――


「本当に裏世界に来てしまったとでもいうのかよ……ッ!?」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


美琴たちが居る《第七学区》、その巨大な面積の中には大小様々な施設や建物がある。
その中でも、取り分け異彩を放つ建物があった。
その建物には窓がない。
ドアもない、階段もない、エレベーターもなければ通路もない。

建物として機能するはずもない《窓のないビル》の内部、だだっ広い空間に設置されている巨大な生命維持槽。
そこに満たされた弱アルカリ性培養液の中に、手術衣を纏った『人間』が逆さまに浮かんでいる。

男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』――
『彼』の名はアレイスター=クロウリー、学園都市の最大権力者、《学園都市総括理事長》である。

今彼は、学園都市の空に突如現れ、
その場に居合わせた第三位の《超電磁砲》と接触した《異常》(ブロントさん)をどう処理するか、その判断を付けかねていた。


「あれは、なんだ……?
 空に顕現した扉、あれは科学か、魔術か、それとも――」


アレイスターは誰に語りかけるでもなく自問自答する。


「あの鎧姿の男の正体も判断が付けがたい。
 だが少なくとも、即座に行動を起こすようには見えないな……
 刺激せず観察に徹し、『プラン』の障害になるならばこれを排除することにしよう」


未知に対する妥当な判断。
かつての大魔術師をもって未だ知らぬもの。
その事実に、アレイスターは嘲笑気味に口角を軽く持ち上げた。


「あれもまた、いくつもの可能性の一つなら……
 あれは一体なにを証明してくれるのかな?」


―――

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[26956] 第1話 中 #11~#14
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/05/23 22:39
「ええと……ブロンドさん、と申されましたか?」

「おれが金髪の雑魚に見えるならお前の目は意味ないな後ろから破壊してやろうか?」

「アンタだって散々人の名前間違えてんだから、いちいち噛みついてんじゃないわよ」

「俺がどうやって名前を間違えてるって証拠だよ!」

「ブロントさん、私の名前を呼んでもらえますか?」

「家財r」

「ほら、間違えてるじゃない」

「ブロントさんにツッコんじゃ駄目ですよ御坂さん、話がどんどん逸れちゃいますって」


ブロントさんがなにやらかなり訳ありの様なので、近くにあったファミレス、《ジョナサン》へ入り、
そこで落ち着いてから話を聴くことにした。

店内へ入ると、誰もがブロントさんを3回連続見つめる。
ブロントさんが光属性のリアルモンク属性だから一目置かれる存在であるため致し方ないのだ。


(西洋鎧だ……)
(西洋鎧が中学生と仲良くしてる……)
(通報……)

「そ、そうね……」
(ううっ…視線が痛い……!)


自分たちで連れてきておいてなんだが、ブロントさんと店に入ったことを少し後悔し始めた美琴たちだった。

黒子が気を取り直して話を再開させる。


「失礼しました、ブロントさん…ですわね?
 アナタの仰ることをまとめてみますと、アナタはこの《学園都市》の住人――
 いえ、この世界の住人ではない、と」

「うむ」

「本来アナタは、ええと――」

「《ヴァナ・ディール》ですよ、白井さん」


初春がササッとサポートへ回った。
まぁ2りのコンビネーションはまさしく鬼の力と言ったところかな。


「そう、その《ヴァナ・ディール》という世界を旅する冒険者で、
 お仲間の危機に駆けつけようとしたところ、なにやら不思議な場所に出てしまい、
 そこを抜けだしたと思えば、気が付いたらこの《学園都市》に来てしまった、ということですのね?」

「流石ほくろの読解スキルはA+といったところか」

「ほくろじゃなくてくろこですの!!」


この間違いは許されざる間違いだ。
黒子がツーテールを威嚇するようにおっ立てて怒る。


「おっととちょっとわずかに読み方が誤用だっただけのこと。
 ホメていることにえmんじて許すことが必要不可欠」

「ふん、次はありませんからちゃんと覚えてくださいな」


ぷいっ、と黒子がそっぽを向く。
どうやら今のはなかなか機嫌を悪くさせてしまったらしい。


「そっ、それにしても異世界から飛ばされてくるなんて、まるでファンタジーものの主人公みたいですねっ!」
   

初春が場の空気を和まそうと無邪気を装ってブロントさんに話題を振る。
中一に気を遣わせる恥知らずな内藤がいた!

だがブロントさんの心には、そんなことよりも『主人公』という言葉の方が琴線に触れた。

   
「俺は本能的に主人公タイプだからヒュンな事から異世界に賭場される系の話は稀に良くあるのだが
 事前に飛ばさるるとわかっていれば対応も出来るが今回は分からなかった場合なので手の打ち様が遅れてしまったらしい。
 貧弱一般主人公ならここで諦めが鬼なって人工的に淘汰されるのが目に見えているのだが一級主人公はフレがフレを呼ぶ(暴風)。
 二個とと戻子のフレが国家権力だったことでおれは世界がよく見えると思った」


目を輝かせてにわかに饒舌になるブロントさん。
どうやらその様子は美琴たちには可笑しかったらしく、その証拠に笑顔が出てしまう。


「ええ、学園都市の治安維持はわたくしたち風紀委員の務め――」

「困っている人を放っておくわけにはいきませんからね。
 私たちが全力でサポートしますよ!」

「ホント、運が良かったわね。 感謝しなさいよ?」

「でも初春は頼りにならないんじゃないかなぁ?」

「えぇー、ひどいですよ、佐天さーん……」

「「「「「あはは、あはは、あはははは!
    あはは、あはは、あはははは!
    あはは、あはは、あはははは……(フェードアウト)」」」」」


ブロントさんたち5りが座っている席を中心にレストラン内に笑顔が溢れていく。
その光景に心打たれたレストランの店長が後日、その光景をモチーフに黄金の鉄の塊で出来た油絵を描き上げ店内に飾ったところ、
大変評判が良く、その絵を一目見ようと足を運ぶ貧弱一般人で店の売り上げがばつ牛ンに上が――


「って!! んなわけあるかーーーーーっ!!!」


今まで空気を読んでいたが、ヒャア がまんできねぇ 0だ!
とばかりに、美琴がリアクションを取りつつ勢いよく立ちあがった。
肘を脇腹につけて両の掌を上に向け背筋を伸ばした支配者のポーズが光る。

ブロントさんの自分は異世界から来た系の発言にいよいよ御坂美琴の電子メス(ツッコミ)が入れられた。


「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」

「おいあもりビリビリするなハゲるぞ」

「ハゲてない!
 百歩譲ってアンタが無能力者か、まあありえないだろうけど外部の人間かなんだかってことを納得してもいいわ……
 でもね、異世界人だなんてそんな突飛な話を誰が信じられるのよ!!」

「お姉様、落ち着いてくださいですの」


怒涛の勢いの美琴を、黒子が優しい声でなだめようとする。


「だって《学園都市》ですのよ?
 なにがあったって不思議じゃありませんの」

「…そりゃそうよねー。 学園都市だもんね!」


そう、此処は《学園都市》。
最先端の科学技術の粋が集められて作られている街なのである。
だから、この街ではどんな不可思議なことが起ころうとも《学園都市》ということで――


「納得できる訳ないでしょ!!
 え、ていうかなに、黒子、コイツの言うこと信じてるの?
 MMRのノリなの?」

「進み過ぎた科学が異世界への扉を開いてしまう――
 ロマンがあって素晴らしいとは思いませんこと?」


黒子は、古いSF映画やB級映画の未来的な描写に出てきそうな現象とかアイテムとか、
それ系のおバカな近未来が好きだった。


「なにそれこわい。
 …初春さん! 初春さんは信じてないよね!?」

「私も夢があっていいと思いますけど……」

「風紀委員としてそれでいいの!?
 かたってるだけで不審者かもしれないのよ!? もう十二分に不審者だけど!」

「お前いきなり不審者扱いされる奴の気持ち考えたことありますか?」

「アンタは黙ってなさい、私は初春さんに聞いてるのよ。
 かもって言ってやってるのがせめてもの情けなんだからね!」


ぎりぎり、と歯を食いしばって睨み合うブロントさんと美琴。
苦笑しながら初春が美琴の問いに答える。


「あはは…でも、ブロントさんがなにをしたってわけでもなく、言動と格好以外は不審な点も特にありませんから……」

「うぅっ……! さ、佐天さぁ~~~ん……」


藁にもすがる思いで美琴は佐天さんに話題を振る。


「ま、まあ、あたしは別に信じてませんよ?」

「佐天さん……っ!」


大袈裟だろうが、窮地に味方が現れることのなんと心強いことか。
佐天さんマジ佐天使。


「でもホントだったら面白そうですよねー」

「佐天さああああああああああああああん!?」


佐天使は堕天使だった。
自分の意見の支持率の低さにショックを受け、美琴はテーブルへ突っ伏す。


「異世界人という証拠を出せといわれても出せるわけがないと言う理屈で最初から俺の勝率は100%だった」

「勝ったと思ってんじゃないわよ……」

「もう勝負ついてるから」

「ぐぬぬ……!」


ブロントさんが美琴にどや顔で追撃を入れると、再び2りで睨み合い。
なんともまあらちが開かないので、黒子が口を開いた。


「と、冗談はさておき――」


その前置きに、ブロントさんを除く少女3りが微妙な顔をする。


(冗談だったんですか?)

(冗談だったんだ?)

(黒子、結構本気のトーンだったような気がしたけど……)

「? なんですの、その顔は。
 …とにかく、ブロントさんは身元不明ということもありますし、一度《一七七支部》に来て頂いた方がよろしいですの」

「七七七イブ?」

「《風紀委員活動第一七七支部》、私たち風紀委員の詰め所ですよ」


ブロントさんが聞き慣れない言葉に疑問の声を挙げると、初春が補足を入れてくれた。
だが、その補足を聞いたブロントさんは渋い顔をする。


「…それって間接的とはいえ警察署と同様だろ……
 おれは汚い取り調べで色々調べられて人生がゲームオーバーになる」


ヴァナでは有名人のブロントさんも、此処ではよそ者でしかない。
先ほど美琴に反発はしたものの、一応自分が彼女らにとっては不審者でしかないことを、ブロントさん自身も良く分かっていた。
故に、助けてもらえる分には助かるが、公的機関に引き渡しとなると、即座に首を縦に振ることが出来ない。


「取り調べなどと言うほどのものではありませんが、やはりわたくしどもとしましては、
 少し検めさせて頂かねばなりませんの」

「だーいじょうぶですよ、やましいことがなければきっとなんにもありませんって」

「それに、もし行くあてがないなら支部に泊めてあげられると思います。
 といっても、一時的に犯人を留置するための簡易な場所なってしまうんですが」

「願ったり叶ったりじゃない、路頭に迷うよりはいいでしょ?」


美琴たちがそれを汲み取ってくれたのか、フォローを入れた。

突然の事態に戸惑う自分を励まし、そして突飛な話―ヴァナ的には時空間移動も異空間移動も珍しくはないのだが―をしたと言うのに、
こうも親身になって話を聞いてくれる。

憎まれ口を叩く美琴だって、なんだかんだと言いながらこうして付き合ってくれている。


(奈良ここはリア♀4りの遺稿に沿うべきではにいか?)


そう考えたブロントさんは――


「激しく同意ですね。
 詰め所連行は悪者にとっては地獄の宴だが俺にとっては神の賜物だからよ、権力者にはへたにさかららない方がいいと思った」


首肯し、彼女らの指示に従ってやるという旨を伝えた。


「決まりですわね」


黒子が軽く手を打った。
議朗はこれで終いだ、ということである。


「それじゃ、そろそろ出ましょうか?
 あ、此処の支払いは、今日は全部私がやっとくわね」

「ええっ、そんなの悪いですよ」


美琴の申し出に、佐天さんが驚く。


(お姉さまはどちらかと言うと気前の良い方ではありますが……?)


黒子は珍しいこともあるものだと思い、


(流石お嬢様学校の生徒さんです! 格好いいなぁ…)


初春は憧れの眼差しを向けるのだった。


「いいのよ、ドリンクバーとデザートだけって程度なら割り勘するの面倒だし、さっきのお詫びも兼ねてってことで」

「「おわび?」」


どうやら先ほど佐天さんを電撃に巻き込んでしまったことへの、美琴なりの償いのつもりらしい。
そんなことを知らない初春と黒子の頭の中でクエスチョンマークが飛び交う。


「そんな…気にしなくてもいいのに」

「私の気が済まないの。 だから、ね?
 それに、どうせそこの首長さんはお金を持ってないってオチでしょ?」

「おい人の身体的特徴で呼ぶなよそういう悪口は名誉毀損で犯罪行為だからお前は死ぬ」


ナイトは美琴よりも高みにいるから不審者扱いにも笑顔だったが、
アルパカ呼ばわりにはいい加減にしろよと言わざるを得なかった。

だが流石にブロントさんの扱い方が分かってきたのか、
「はいはいごめんごめん」と、美琴はこれをさらりと流す。


「で、お金持ってるの? 日本円よ、円。
 他のお金は使えないわよ」

「【むむむ】」


ブロントさんはリアル世界よりも充実したヴァナ生活が認可されているが、リアル生活もあまりに充実している。
日本円がなければ支払いが出来ないことなど言われるまでもない常識なのだ。

が、


「……《ギル》しかにい;;」

「? 《ギル》って、なんですか?」


今のブロントさんの手持ちには日本円などなかった。
今度はブロントさんが初春に聞き慣れない言葉の説明をする。


「ほむ…実物を見たほうがはやいな」


ブロントさんがアイテム袋とは別の、腰に提げた袋をテーブルに置いた。
ジャラリ、とその中身が少しテーブルにこぼれる。


「わっ、金貨だ!」

「まあ…これは……」

「これが、ブロントさんが普段使っているお金なんですか?」

「うむ、《ギル》はヴァナの胸痛通貨だな。
 もとおmとはジュノだけで使われていたものなんだが、まああその辺の説明はいいだろ」

「ふーん…ホントに予想通り持ってないとはねー……」
(…小道具にしちゃあ妙に良く出来てるし、この金貨、かなり使い込まれてる感じがする。
 てことはコレ、本当にどっかのお金なのかしら……)


美琴はテーブルの上の金貨を一つ拾い、観察する。
自分が扱うゲームセンターのメダルや500円玉と変わらぬぐらいの大きさ、重さ。
見たことのないデザインが彫り込まれた、外国に行けば普通に使われていそうな硬貨だ。


(これがなんであれ、コイツの正体が余計に訳が分からなくなるだけね。
 学園都市にだって外国人が住んでない訳じゃないし、まあ黒子が風紀委員活動支部に連れてくって言うなら、
 それで私がコイツの件に首を突っ込む必要もないんだろうけど……)

「? なんだ急にギルを三回連続で見つめだした>>巫女兎」

「……え? ああ、別になんでもないわよ」


美琴が熱心にギルを見つめているので、なんとなく気になったブロントさん。


「そうか? お前も欲すければ持っていって良いぞ」

「持っていっていいって――」


言われて、美琴が他3りを見れば、


「それじゃあ、1枚頂きますね」

「じゃああたしも1枚もーらおっと」

「ではわたくしも」


と、一枚ずつギルを自らの懐にしまっている。


「いいの? 一応これってどこのか知らないけど、お金なんでしょ?」

「良いぞ、使えない金なんて無用の超物ではないか?
 一級廃人のギルの貯蔵は十分だからよ、欲しければ隙に持ってけ」


仮にも金銭なのだが、ブロントさんはしれっとしたものだ。
遠慮は余計であるらしい。


「…そうね、それじゃあ此処の代金の代わりに貰っとくことにするわ」

「ほう、見事な等価交換だと感心するがどこもおかしくはないな。
 英語で言うとアルケミー」


美琴はギルを一枚ポケットにしまい、伝票を持って席を立った。


――――――――――――――――――――――


「Alchemy!?」

「こんな序盤でですか?!」


店を出たら突如佐天さんと初春が空を仰いで意味不明の言葉を叫んだ。


「店を出るなりいきなりどうしたんですの!?」

「いやぁ、なんだか言わないといけないような気がして(・ω<)」テヘペロ

「私は口が勝手に……」

「洋式美という異常な超状現象だな」

「は、はあ…そうゆうものですの?」


ブロントさんは驚きもせず、うんうんと頷いている。
今の黒子には理解出来ない領域の話のようなので、黒子は考えるのをやめた。

そうこうしていると、支払いを終えた美琴が扉を開けて出てきたので、


「お姉様、ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした、御坂さん」

「なんか、ホント、ありがとうございます」

「地層になったぞ」


それぞれ美琴に礼を言った。


「一人だけ化石でも発掘出来そうなんだけど……
 さて、それじゃあ今日はこの辺で解散かしらね」


もう少しするとこの街では、学生たちが一斉に帰らなければならない時刻になる。
《完全下校時刻》というもので、午後6時以降は交通機関、学生が利用しそうな店も閉店、
おまけに夜の街を歩くことで学校の自分への心証が悪くなってしまうかもしれない。
普通の学生は完全下校時刻をなるべく守って学生寮へ帰るのだ。

「そうですわね」、と黒子もそれに賛同する。


「では、わたくしと初春、それとブロントさんはこのまま第一七七支部に向かいますので、ここで失礼させていただきますの。
 初春、ブロントさん」

「はい、白井さん。
 佐天さん、御坂さん、さようならです」

「うん、初春はまた明日学校でね。
 白井さんとブロントさんは、またいつかってことで」

「二人とも、風紀委員とはいえ遅くならないように気をつけるのよ?
 まあ悪意とかは無さそうだし、そのコスプレバカのこと頼むわ」

「バカって言う方がバカだという名セリフを知らないのかよ」

「さっきの金貨叩き返して、アンタの食事代今すぐに耳を揃えて払ってもらってもいいのよ?」

「すいまえんでした;;」


別れの場でもビリビリする美琴に、プリケツ土下座をするブロントさん。
第1印象は決して良いものではない二人だが、いや第2第3の印象もまあ良いとは言えないのだが。


「まったく……」

「むう……」


こういう奴なんだ、と、短時間しか共に過ごしていない相手を、互いに面白いやつだと思えるようになっていた。

だから、新しく出来た二人の友人と同じように、美琴はブロントさんに別れを言う。


「またね、ブロント」

「さんをつけろよデコ助野郎!!」
「さんをつけろですのデコ助野郎!!」
「さんをつけてくださいよデコ助野郎!!」
「さんをつけなさいよデコ助野郎!!」

「きゃぁっ!?」


さんをつけろよデコ助野郎!!

4りがまったく同じタイミングに上げた異句同意の怒号に、美琴は思わず後ずさった。
美琴の悲鳴を聞いて、ブロントさん以外の3りがはっとする。


「ななnあ、なによいきなり!?」

「あ、あら? 申し訳ありませんのお姉様、なにやら無意識に言葉が……」

「私もです……」

「あたしも……あれ?ブロントさん?」


土下座をしていたブロントさんがゆっくりと立ち上がる。
全身からかもし出すエネルギー量がオーラとして見えそうになり、陽炎のように辺りの空気が揺らめいている(ような気がする)。


「さんつけろデンキッ!!
 相手を挑発する言葉は非常に人をふるかいにする。
 もう結構ウデとか血管血走ってるから騒ぐと危険」

「…な、なによ! そんなに怒ることじゃ……」


怒れるブロントさんを見て唖然とする美琴。
すると、そこへ初春が、


「あーあー御坂さんのせいでブロントさん怒っちゃいましたわー」

「えっ?」


まるでらしくない煽りを入れてきた。
いや、初春だけではない。


「お姉様ww早く訂正をしてくださいましwww」

「はやくwはやくwはやくw」

「ええっ!? 黒子…佐天さん……皆、どうしちゃったのよ!?」


いきなりの豹変。
彼女たちが本性を曝け出したのか?
否、そうではない。
彼女たちの変貌は美琴がブロントさんを呼び捨てにしたことから始まった。


「まさか、ブロントになにかされ――」

「さんを!!」
「つけてください!!」
「ですの!!」
「デコ助ええええええええええええええッ!!」

「ひぃっ!?」


お前まだブロントさんを呼び捨てにしよるんか!!

あまりにも綺麗なローテーショントークに美琴はドン引きだ。
突然友人たちが敵に回ってしまうほどのブロントさんが持つ絶望的なカリスマも誇るカリスマを前に、美琴はなす術もなかった。

本能的な恐怖に、口が言われたとおりに言葉を紡ぐ。


「ぶ、ロント、さん……」

「…おいィ? お前らは今の言葉聞こえたか?」

「聞こえました」

「確かに言いましたね」

「わたくしのログにもちゃんとありますの」


美琴がちゃんとブロントさんに敬称を付けた事によって、ブロントさんの全身からかもし出されていたオーラがすーっと引いていく。


「なら許すまうs!」

「…なんだってのよぉ……?」


なにがなんだか分からないが、ともかく危機は脱したようで、緊張していた美琴の体から力が抜けた。
へたり込みたい気分だったが、そこはぐっと堪える。

美琴がさんをつけなかったことにより変な空間になったので一同無言の沈黙状態だったが、
黒子は話題を戻す為美琴が落ち着くと同時に咳払いをした。


「こほん、話が反れたので改めて――失礼しますわ、お姉様。
 首を狩られる心配がないからといって、あまり遅くなりませんように」

「…うん、分かってるって。
 門限までにはちゃんと寮に帰るから心配いらないわよ」

「ええ、是非そうしてくださいな。
 初春、ブロントさん、行きますわよ」

「はい」
「うむ」


黒子とのやりとりで、美琴はいつもの調子を少し取り戻せたらしい。
それを見届け、黒子は初春とブロントさんを連れて歩きだした。


「あれ、白井さん、徒歩で行くんですか?」


いつもなら支部に用事がある場合は黒子の《空間移動》でパッと向かうので、初春は疑問に思った。


「んー、わたくしとて能力で行きたいところですが――」


黒子がブロントさんの巨躯を上から下へとねめ回した。
2m近い長身に、かなり重たそうな装備。


「3人同時なんて、明らかに重量オーバーですの。
 それほど遠くもない距離ですし、徒歩で十分ですわよ」

「黄金鉄の塊で出来たナイトのプレシャーに耐えきれないのは恥ずべきことではにいぞ黒古。
 ただそのテレポんトが体験できないのはちょと【残念です】」

「ああ、確かに初めてならどんな風なのか体験したくなる気持ちは分かるかもしれません。
 白井さん、あとでブロントさんを飛ばしてあげたらどうですか?」

「初春…能力はおもちゃじゃありませんのよ?
 まあでも、少しぐらいならいいでしょう。 近距離なら危険もありませんし」

「ゲイとクリステルとテレポINTなしにテレポる気分がどう言うものかはナイトだから味あわないのかもうダメかと思ったが
 流石一級テレポんターは格が違った。
 やっぱりテレポ出来る人すごいなーあこがれちゃうなー」

「褒めてもなにも出ませんわよ?」

「と言いつつ、嬉しそうですね、白井さん」

「だっ、誰が喜んでるって証拠ですの!?」


ワイワイガヤガヤ、あれこれと会話を交しながら美琴と佐天さんから離れていく黒子たち。

夕刻というのは、どうにも寂しさを感じる時間ではないだろうか?
夕日に照らされて歩く3りを見て、残った2り――
美琴と佐天さんは幾ばくかの寂寥感を覚えた。


「……ふふっ、楽しそうですね」

「……そうねー」


残された者同士、微妙かつ複雑な笑顔で顔を見合わせる二人。
すると――


「三言ォ! りうこォ!」

「ふぇ?」
「ん?」


ブロントさんが振り返って2りの名を大声で呼んだ。


「俺のほうからはまだお前らにKOOLな去り際に捨てセリフを言ってなかったらしいぞ!
 おれが思うにお前らにはかなり世話になってしまったのではないかまあ一般論でね! 感謝sるぞ美琴!涙子!
 また会えるだろうな!(確信) おもえらはもう俺のフレだからよー!」


別れを告げ、大きく手を振り、ブロントさんはまた黒子たちと歩き出した。
黒子が「突然叫ぶとは何事ですの!」、とブロントさんに文句を言っている。

突然のことでポカンとする2り。
こんな公衆の面前で大声で名前を呼ばれて別れるなんて、小学生ならまだしも中学生の彼女らには恥ずかし過ぎ――


「…あっ、名前……」

「……なによ、ちゃーんと人の名前呼べるんじゃない」


2りの表情に、もう寂しさの影はどこにもない。
圧倒的な光属性を前にすればそんなものはただの雑魚でしかなかった(リアル話)。


「御坂さんは、これからどうするんですか?」

「そうねえ……
 私はこのまま寮に帰ろうかな、あんまり遅くなると黒子がうるさいし」

「あははっ、じゃあ、あたしとも此処でさよならですかね。
 あたしは夕飯の買い物してから帰りますんで」

「そっか…じゃあね、佐天さん」

「はい、御坂さん」


そうして2りはそれぞれの帰路に――


「――あっ!」

「ん? どうかしました?」


着く前に、美琴は大事なことを思い出した。

美琴は佐天さんをじっと見つめた。
優しい視線に、佐天さんは同性でありながらもついドキッとしてしまう。


(な、なんだろう……?)

「色々あり過ぎて言い損ねちゃったけど……お手柄だったね、佐天さん」

「えっ、っと、なにがでふか?」
(ああ、呂律が微妙に回ってない。
 お、落ち着けあたし! 深呼吸! 転龍呼吸法!!
 ってどうやるの!?)

「強盗から助けたじゃない、男の子」


「お手柄」がなんのことだか思いつかなかった―考えてなかった?―佐天さんは、
美琴の言葉で「あ、ああー、あの事ですか」、と納得がいった。


「でも別に、あれはとっさに必死でなんとかしなきゃって思ったら身体が動いただけですし……
 あたし、能力なんてないから、あんなことしか――」


実際に犯人を捕まえたのは黒子と美琴、被害を最低限に抑えたのは周囲の人間を広場に牽引した初春。
自分は身体を張ってようやく子供一人を助けられただけ。

(ひょっとしたら足を引っ張っちゃっただけなんじゃないかな?)
(すごい能力を持ってる御坂さんたちとか、《風紀委員》の初春なら、あたしが居なくても助けられたんじゃないかな?)
能力の無い(レベル0の)佐天さんは、どうしても、そう考えてしまう。


「能力がないのにでしゃばっちゃって、あはは、蹴られ損でカッコ悪かったかなぁなんて。
 大人しく御坂さんたちに任せておけば良かったですよね」


表面上は笑顔の佐天さんだが、心は決して笑顔ではない。
強がりの自傷で、佐天さんの心が傷ついていく。


「あ、あはは……」
(あたし、なに言ってるんだろ……)


この話題は終わりにしてしまいたかった。
自分の無力さを、痛いぐらいに感じてしまうから。


「ううん、そんなことない」


だが、佐天さんは勘違いをしている。
美琴は能力の事など話題に挙げていない。


「能力がどうこうじゃない、佐天さんがやったことは凄いことなんだから――」


佐天さんの行動を、佐天涙子に敬意を表している。


「すごく、かっこ良かったよ」

「っ!」


その一言で、佐天さんの胸がきゅうっと一杯になった。

高レベル能力者から能力なんて関係ないと言われても、無能力者からしてみれば、
「そんなの説得力ないよ!」、と言ってやりたくなる。
これは妬みからくる曲解かもしれない。

だけど、それと同時に憧れもある。
自分が目指す場所に一足早く辿り着いた者に対する憧れ。

その憧れの高みにいる人間から認められた。

ネガティブな気持ちが、誇らしさで塗り替えられていく。


「それが言いたかっただけだから、引き止めてごめん。
 じゃあね」


美琴が帰ろうとすると、


「み、御坂さんも!!」


今度は佐天さんが引き止めた。


「ん? なぁに?」

「御坂さんも……」


御坂美琴は、「佐天涙子」と知り合った。
佐天涙子は、「レベル5」の御坂美琴と知り合った。

今はコンプレックスが少し邪魔をするかもしれない。
でもきっとこれが、その壁を取り払う第一歩になる。


「御坂さんも、すごく、カッコ良かったです!」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


「ブロントさん。
 支部の中ではくれぐれも! くれっぐれっもっ!
 大人しく普通にしてくださいましね!?」

「おいィ…お前にはそのセリフを何度も言った実績があるようなんだが?」

「大事なことなので4回言っていますよ。
 でもブロントさん、言っても無駄かもしれませんけど、喧嘩を売るような真似をしないでくださいね?」

「喧嘩を売りたくてうるんじゃない売れてしまう者が不良」

「…はぁ……
 わたくし、ひょっとしてとんでもない判断ミスをしてしまったのでしょうか……?」


とあるビルディングの2階に、通常のビルディングには不似合いなほどセキュリティが施された扉がある。
その扉を開くには、今黒子が受けているような指紋・静脈・指先の微振動パターンのチェックをクリアしなければならない。
そうしてようやくロックが外れた扉の先にある場所、そここそが、《風紀委員活動第一七七支部》なのである。

黒子がガチャリと扉を開く音に、デスクワークをしていたメガネを掛けたグラマラスな女子高生が反応する。


「あら?
 白井さん、初春さん、こんな時間にどうしたの?」

「ああ、固法先輩。
 ええ…まあ、少しばかり支部に野暮用…がありまして……」

「そ、そうなんですよー……」


いざ支部にブロントさんを連れてきてはみたものの、もし他の風紀委員に遭遇した場合、
ブロントさんをどう説明したらいいか名案が出なかったので、2りはしどろもどろになってしまう。

なんとも行き当たりばったりな話だが、3りには他に行く場所もなかった。


「野暮用って、今日の報告書は明日で――って、そちらの方は?
 ……随分と変わった格好をしているようだけど」

「あ、ああっ! こちらの殿方は――」


黒子がそれっぽい誤魔化しをしようとしたところで、


「俺はただの通りすがりの古代からいるナイト。
 ブロントという名前だからブロントさんと呼んで良いぞ」


ブロントさんがスパッと自己紹介をした。


(あちゃー……)

(先ほどあれだけ普通にしてくださいましと申したのになにをしてくれやがってますのおおおおおおおお!?)

「通りすがり……? 2人の知り合いじゃないの?」

「ええと! ええっと……! ブロントさんはですねー……!」


このままでは疑われて、ブロントさんの補導歴に新たな伝説が刻まれてしまう。
初春は必死にフォローに回ろうとする。


「さっきフレ登録要求を承認した」

「へ?」
「え?」


が、速さが足りない。


「? つまり、どうゆうことなの?」


某シノビ漫画の主人公のように聞かれた。
これは説明せざるを得ない。


「俺は新しいフレとだべっている時に見知らぬリージョンに来てしまったことに気づいたんだが
 シャウトで助けを求めると偶然ジャージメントが近くでシーフ捕まえていた。
 俺はああヒロインは本当に偶然常に近くを通りかかるもんだなと納得した。
 しかもおれにこのリージョンのことを教えて「もう大丈夫ですか?」といって必要最低限以上の
 施しだけでなく自分たちのHPに案内してくれる不器用だが細心の心配をしている姿に孤高の風紀委員だったな。
 俺がそのあるさまを「素晴らしいじゃんジメットだすばらしい」と褒め称えると
 急にもじもじしだしたですのリア♀と花畑リア♀からフレンド登録の要請が来た。
 ナイトは最強だと思った(リアル話)」


ブロントさんの明白に明瞭な説明を受け、固法は吟味しているのか、固まってしまった。
しばし沈黙した後、口を開く。


「……白井さん、初春さん」

「は、はいっ!」(も、もうダメですの……)
「は、はいっ!」(おしまいですね……)


ですのリア♀と花畑リア♀は覚悟を決めた。
もう確実に不審人物と思われただろう、貧弱一般風紀委員では先輩廃風紀委員からブロントさんをかばえない。

さよならブロントさん!

終わったッ! 第1話完!

来週のこの記事からは新SS、【ネタ】ファイナルφなる・あぷろーち【FF11×φなる】をお送りし――


「強盗確保後に迷子の手助けだなんて、凄く頑張ってるわね!
 疲れてるでしょう? 冷蔵庫の中の牛乳を飲むといいわ」

「「【えっ!?】」」


だが固法は微塵も疑わない。
助かった、終わったと思ったよ。


(借りに終わったら誰がこのおれの代わりを升めるんですかねぇ?)

「ブロントさん、とおっしゃいましたよね?
 ようこそ、一七七支部へ。
 私は彼女たちの……上司みたいなものですね。 固法美偉と言います」

「ほう、三井は2りのBA後といったところかな。
 2りの未来は明るいのではにいかまあ一般論でね?(戦闘力話)」

「まあ、お世辞が上手ですね。
 ブロントさんもどうですか、ムサシノ牛乳。
 やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳ですよ?」

「ウルガランミルクをおごることはあっても武者志乃牛ン乳をおごられることは初めてだな。
 今のところ我慢してるけどいつノドの渇くが爆発するかわからない」

「あら、じゃあパックでそのままお渡しした方がいいのかしら?」

「9杯でいい」


ブロントさんと楽しそうに会話をし、固法は給湯室へと入っていった。
目を丸くして顔を見合わせる黒子と初春。


「なにやら……」

「上手くいってますね……?」

「余計な気苦労でしたの?」

「白井さん、ちょっといいかしらー?」


が…駄目っ……!
安心出来るかと思ったところで、固法から呼び出しが掛かった。


「」


絶句する黒子。


「……白井さん! ガンバです!」

「…はぁー……本当に覚悟を決めた方が良いかもしれませんわね」


黒子は意を決して、トボトボと給湯室へと入った。


――――――――――――――――――――――


流し台にはカップが2つ。
固法の手にもカップが2つあった。


「ごめんなさいね、プラスチックのお盆がこの前割れちゃったの。
 そっちが貴方たちの分だから、お願いね」

「は、はいですの」


言われたとおりカップを2つ手に取る黒子。


「ねえ白井さん、あのブロントって人……」

「ッ!?」
(き、来ましたわねっ!?)


取り乱し、黒子は思わずカップを落としそうになる。
平常心ですのよ黒子、と心中で唱えて立て直す。

…先輩から話しかけられてこの反応は実に失礼な気がして少し反省もした。


「ブロントさんがどうかされまして?」

「ええ、外国の方なのよね?
 アッシュブロンドの髪色にあの顔立ち、背も随分と高いし日本語が変わってるし。
 甲冑姿だけど、最近はああゆうのが流行ってるのかしらね?」

「あー……」


無邪気に語る固法の姿、黒子の肩の力がぐんっと抜けた。
もうゴーストやらガイアは囁きまくるし神も言っている気がする。
ここで先輩は丸めこめると。


「そうですわね、その通りですの。
(自称・異世界人ですし、まあ間違ってませんわね。
 かといって迷い込んで不法侵入されたんですのよー、などと言えませんし……)
 なんでも学園都市の進んだ技術や学問に関心があってこちらに来たとかで――」

「へえ、学生か研究者なの?」

「ええと、そうではないようですが……」
(前もって用意しておいたカバーストーリーなら良いですが、即興でどう取り繕えば……!
 というかわたくしが此処までする必要は――)

「じゃあ、あの人はいったい――」

「…そう!
 あの殿方は手違いで子供向け学園都市案内ツアーでこの街に来てしまったんですの!」

「え、それって、今日現場に居合わせた、あの保護者同伴でバスに乗って都市内を巡るってやつ?
 でも、普通あんな日帰りツアーに――」


自分が頑張る必要があるかはどうかを考えている暇があるなら、
口から出た嘘を少しでもそれらしく取り繕うほうに回した方が良いようだ。

嘘を一度吐いてしまえばもう行くところまで行くしかない。
黒子は自分から作り出した舞台でひたすら即興詩を歌うことになった。


「外国の方ですから! そのような間違いがあったようなんですの!
 まあ、それでも途中で気付かれたようなのでバスが停留している時にこっそりと抜け出したのですが、
 その後に《武装無能力者集団》(スキルアウト)に襲われて金銭や他の着替えを含む荷物は奪われてしまったそうですの」

「まあ…そうだったの……それはいつ頃くらいか――」

「これから! これからその聴取等をしようと思ってますの!
 だから心配いりませんのよ! 固法先輩の手を煩わせたりは決して!致しませんから!」

「そ、そう? それならいいんだけど」

(もう一息! 今日の黒子は阿修羅すら凌駕し欺く存在ですの!)
「つきましては、ブロントさんは行くあてがないようですし、今夜は此処にお泊めしたいのですが、
 よろしいでしょうか?」

「えっ、そんな事しなくても警備員に事情を話せばたぶんホテルを取ることも出来るし、
 外部の人間を支部に置いたままにしておくのは――」

「本人たっての希望ですの!
 暴漢にみすみす金品を奪われた自分がまっとうな場所に泊まるわけにはいかないという、
 ええと、お国の風習、だとかで…それで支部にある留置用の部屋を紹介しましたら、
 「そんな場所があるのか!」「ひどい!」「きた! ブタ箱きた!」「メインブタ箱きた!」「これで泊まれる!」、
 と大歓迎状態だったんですの」
(こ、これは流石に我ながら無理がある気がしますの!!)


最初からボロボロだが更にどんどんボロが出始める後輩風紀委員、黒子のカバーストーリー。
それに対して先輩風紀委員、固法の返答やいかに――


「……変わった風習があるのねえ」

「…固法先輩、それでいいんですの?」

「えっ、なに? 私、なにか変なこと言った?」

「いえ、是非そのままの先輩で居てくださいまし……」ホロリ
(こんな先輩に嘘をついて、黒子の良心はズタズタにされましたの……)


罪悪感に営まれながらも、黒子は、「メゲナイ、ショゲナイ、泣いちゃダメですの」、と自分を鼓舞し踏ん張った。


「留置用の部屋でしたら内部から鍵を開けることは出来ませんし、
 少しぐらいでしたら外部の人間を支部に泊めても問題ないのではありませんこと?」

「そうね……まあ、いいでしょう。
 分かったわ、許可します」

「ありがとうございます、きっとブロントさんも喜ばれますの」
(完 全 論 破 ですの!)


ブロントさんが得たもの――豚箱での宿泊権利。
黒子の胃をストレスでマッハにしながらの苦労――priceless。

お金で買えない価値はあったのだろうか?


――――――――――――――――――――――


「天使のように白く夜風のように冷たく月のようにまろやかで恋のように甘い。
 これが武者志乃牛ン乳の味か」

「ねっ、美味しいでしょう?
 やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳ですよ」

「うわぁー、グルメ評論家みたいなコメントですね」

「どこかで聞きかじったセリフを使いたくて言っただけではありませんの?」


固法たちが運んできた牛乳を受け取り一服する一同。

我々の放課後ミルクタイムだ――
こう表記すると間違ってはいないのに…いやらしい…


「下ネタはやめておけと言っているサル!」

「下ネタなんて誰も言ってませんの!!」

「お前らじゃにい、第四の壁がまほろ系の仕事なので気にしないふぇ下さい(約束)」

「?」
(やっぱり、この人の言っていることは良く分かりませんの……)

「ふふっ、本当に変わった人ね」

「あ、あははは……」


固法先輩の無邪気な言葉に苦笑で答える初春。


「変わっていると言えば、ブロントさんのお国の風習もかなり変わってらっしゃるみたいですね」

「んぶふぅっ!!」

「わあ! いきなり噴き出してどうしたんですか白井さん!? 汚いですよ!?」

「」ゲフッ!ゴヒュ!


追撃の無邪気な言葉に、黒子は白い霧を噴いて応えた。


「なん…だと……」


ブロントさんは、どこかで誰かの霊圧が消えてしまったかのように驚く。


「当たりに船とはこういうのを言うのではないか……!?
 美偉はヴァナのことを知っているという事実にああこれで帰れるのかと今後の展開に大きな希望を持った!」

「きゃ!?」


ずずい、と固法に詰め寄るブロントさん。
鎧姿の巨漢が突然詰め寄ってきたので、少々肝を冷やす固法。


「あの…いえ、知っているという訳ではないんですけど、さっき白井さんから――」

「せせ先輩とのお話も良いですがそろそろ聴取を始めますのよブロントさん!
 さあさあ! さあさあっ!!」


このままではブロントさんに自分の並べ立てた嘘八百をばらされるのは必定。
固法が余計なこと―かなり失礼―を言う前に、黒子はブロントさんを引き剝がしにかかった。


「白井さん口元を拭いてください!! 牛乳が垂れてますからぁ!」


良い判断だが、衛生面ではいただけない。


「ちょっ、ちょっとどうしたの? 白井さん?」

「おいィ? おれは今民意と話を――」


黄金の鉄の塊重すぎワロエナイ。
多少鍛えてはいても黒子の細腕では、ブロントさんの腕を引っ張ってもぜんえzんビクともしなかった。

あまりに動かないものだから、


「いいから向こうにいきなさいっ!!」


Kurokoの《テレポート》!

つい力が入って、掴んでいたブロントさんを飛ばしてしまった。


「してるんd」


ブロントさんが消えたのち、壁の向こうの隣室から重たいものが落ちる音と、「ム牛ン」といううめき声が聞こえてきた。


「…白井さん、今日の貴方、少しおかしいわよ?」


能力者は、能力が日常でも扱いやすい便利なものであると多用しがちである。

だが、今のはおかしい。
今日の黒子の妙な慌てっぷりがなにか隠し事でもしているかのように、今更ながら固法はそう感じたのである。


「いいーえー? 黒子はいつも通りの平常運転ですの」


口元の白い顎鬚を拭いながら視線を反らして誤魔化そうとする黒子。


「固法先輩、白井さんが変なのはいつものことじゃないですか――
 っへいひゃい! いひゃいでふよひはいふぁん!!」
[訳:って痛い! 痛いですよ白井さん!!]


黒子は初春の両頬をつねり上げた。


「誰がいつも通りの変態で平常運転ですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」

「へんはいはあんへいっへらいふゃらいへふふぁぁ!」
[訳:変態だなんて言ってないじゃないですかぁ!]

「だとしてもそんなフォローが――!」

「そっか、それもそうよね」

「え゛」


固法はあっさり納得した。


「それじゃあ私は先にあがるから――
 二人とも、ちゃんと消灯とか施錠とかは忘れないようにするのよ?」


そして帰り支度を始める。


「いたた……
 ヒドイですよ、白井さん……白井さん……?」

「」
(黒子は、黒子はもう少し、日頃の行いを改めるべきなのでしょうか……?)


――――――――――――――――――――――


固法が支部から出た後、のっそりとブロントさんが隣室から出てきた。
少々埃を被っているあたり、どうやら物置にでも空間移動させられたようだ。


「不意だまテレポとかいらないですストレス貯まるので(苦笑)」

「わっ、わたくしはただ約束通り、少し飛ばして差し上げただけですの!」

「約束を守るのは勝手だがそれなりのやり方があるでしょう?
 いきなり天井近くにみょんな体勢で鳥羽されて尻モチつかされたんですわ?お?
 おい、ワレの尻か?」

「どしたー?
 …んですか、ブロントさん」
(ブロントさんと出会ってから、勝手に口が言葉を発しているような……
 気のせいですかね?)

「それについては、わざとじゃありませんの……」
(この殿方、予想以上に重いですの。
 長身鎧姿のせいでわたくしの飛ばせる限界質量―130.7kgですの―に近いのではないでしょうか……
 距離がなかったからいいものの、咄嗟とはいえ軽率でした。
 この方を飛ばすときは、集中してないとケガをさせてしまうかもしれませんわね)

「あまり白井さんを責めないでください、ブロントさん。
 白井さんが口八丁と能力、自己犠牲を払って支部に泊まれるようにしてくれたんですから」

「…ええ、そうですわね……」
(第三者の口から改めて言われると、黒子はなぜここまでこんなののために身体を張ってしまったのでしょう……)


黒子にしてみれば訳が分からないことは言うし、威圧的なのか友好的かも分からないブロントさん。
よくまあ「こんな殿方、守る価値なんかない!わたくしはもうブロントさんのために動きたくない!」、となってしまわないものだ。

初春の言葉を受けて、ブロントさんは少しばつが悪そうにした。

「それを言わるると何も言えなくなっちぇしまう感。
 「」確かにな、感謝はスレどモンクを言うスジがないのは確定的に明らか。
 くおrこにも理由があったんだなと俺はここで一歩引くことにした(謙虚)。
 おもわずいさぎよい武の心がでてしまった結果だった」

「いえ…まあ……わたくしも少々強引過ぎましたので」
(そこで素直に謝られてしまうと…どうにもこの方を相手にすると調子が狂いますわね。
 なんというか、見た目とギャップが…そう、まるで生意気盛りの子供と年上の男性をいっぺんに相手にしているような気分ですの……)

「ほう、自分のひを認めてしまったその謙虚さは慎ましい流石美床のフレだな。
 ジュースをおごってやろう」


佐天さんたちにそうしたように、ブロントさんはアイテム袋から1本缶ジュースを取り出し、黒子にそれを差し出した。


「牛乳を飲んだばかりなのですが……ありがとうございますの。
 …つぶ入りコーンスープ? なんであったかいんですの、これ」

「えっ、ちょっと良いですか?」


黒子の感想に興味を持った初春が、黒子の持つ缶ジュースに触れる。


「わ、本当に温かいですねえ。 今自販機から買ったみたいに――」


温度が保たれている缶ジュース――
初春には、この現象に覚えがあった。


「ひょっとして、ブロントさんも《常温保存》(サーマルハンド)が使えるんですか!?」


《常温保存》、それは読んで字のごとく、持っているものの温度を一定に保つ能力である。


「そのサンバルカン度もテレポんとと同じで超能力派閥のやつなんですかねぇ?
 おれは超能力とかいう《アビリティ》を持ってないって俺は言ってたぞ。
 これが証拠ログ。
 
 Mikoto>こんにちはBurontさん
 Buront> 何か用かな?
 Mikoto> 超能力持ってますか?
 Buront> 持ってない
 Mikoto> そうですかありがとうグラットンすごいですね
 Buront>それほどでもない

 やはり持っていなかった!
 しかもグラットン持ってるのに謙虚にそれほどでもないと言った!」

「勝手にお姉様の発言を捏造しないでくださいまし!
 金属矢を体内に直接ぶち込まれたいんですの!? この首長!」

「お、おいィ……なにいきなり頭ヒットしてるわけ?」

「ふんっ……!」


美琴を軽口―ブロントさんにその気はない―に使われたようで、黒子のフラストレーションが少し爆発する。

いつもなら、「俺がどうしてログ捏造したって証拠だよ!」、と返すブロントさんも、烈火のごとく怒る黒子にはたじたじだ。

黒子は今ので少々スッキリしたようで、ちびちびとコーンスープを飲み始めた。


「………………」
(冷房の効いた屋内で熱いコーンスープ…これはどうなのでしょうね)

「おいィ……?」
(いったいなんだったんですかねぇ…?)

「ぐらっとん……?
 じゃあ、どうやって保温してるんですか?
 ひょっとして、その袋に秘密があるんですね!」

「む?」


ブロントさんの提げるアイテム袋に興味を示す初春。
頭がヒットした(?)黒子のことは一先ず置いておいて、初春の疑問に答えることにした。


「"A secret makes a man man..."
 あさり、男はイミフを装備して男らしくなるものだからな。
 禁則事項をまさぐる真似はしないふぇください(約束)。
 代わりにお前にもジュースをおごってやろう」

「むぅ……わかりました」
(…って、言っておかないと、ジュースをおごってもらえませんからね…)

「まああ違う技術でもたまたま同じ現像が起こる事がまれによくあるらしい。
 いつか教えることもないかもしれないということで飾るは気長に待つしかなかった」


そう言ってまた1本、ジュースを取り出して初春に渡した。


「はい、期待しないで待ってます」
(アンバサのいちごウォーター? ……こんな味、あったんですねえ)

「…どうしても話したくないことは話さずともよろしいですが――
 話して頂かねばならないことは話して頂きますの」


黒子は手にしていたコーンスープを一気に音を立てて飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨てた。

ちょっとまだ熱かったのか、食道辺りを擦りながら、


「よろしいですわね、ブロントさん?」


と涙目で黒子はブロントさんに向き合った。
キメ顔でそう言った、ならともかくこれではどうにも締まらない。


「…うむ」
「…はい」


空気を読んだ2り。
ブロントさんは机に座り、初春はPC前にスタンバイした。
形式がそれっぽくなれば、流石に弛緩していた空気が若干引き締まる。

此処には牛乳を飲みに来たわけではない、ブロントさんの事情を更に詳しく聞くために来たのだから――


「さあ、それでは今度はわたくしどもと《お話》をしましょう。
 アナタのことを、詳しく聞かせてくださいな」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


「そういえば、初春はよく《常温保存》なんて能力がパッと思いついたものですの。
 わたくしは該当しそうな能力なんて、とんと思いつかなかったものですが……」

「【えっ!?】
 あ、や、と、友達がちょうどそういう能力の子だったものですから……
 ひょっとしたら同じかなぁ、同じだったら嬉しいなぁなんて思っただけで、
 べ、別に他意はないんですよ?」

「ああ、そうでしたの……?」

「そ、そうなんですよ、あっはははははぁ~あー……」

「……おれが思うに此処は追球ンしては池ないのではないか?
 うむ、知らにいが絶対そうだという意見」


―――――――――


―――


コトコト…クツクツ…
鍋の中では肉と野菜が泳ぎ、周囲には何とも言えない良い香りが漂っている。


「ふんふふ~♪
 Du brachstふんjahrein barふふ~ん♪」


黒子たちがブロントさんへ聴取をしている一方、佐天さんは買い物を終え家へ帰り、エプロンを着けて夕飯を作っていた。

中学生とはいえ、この姿を見てときめかない男がいるだろうか? いやいない! 反語!!
うろ覚えなのに歌なんか歌っちゃうところも……ガハハ! グッドだー!

…閑話休題。
学園都市は人口の8割が学生の街。
学生の殆どはこうしてアパートやマンションにも似た集合住宅のような学生寮の一室で生活する。

どこぞのお嬢様学校のような名門校ならば、食堂などで食事を取ることも出来るし、ある程度の家事もメイドがしてくれるのだが、
佐天さんと初春の所属する第7学区立柵川中学は、言ってしまえば普通の公立中学である。
家事は全て、自分たちの手でせねばならないのだ。


(今日は凄かったなぁ…初春、白井さんに…御坂さん……)


鍋の中身をおたまで混ぜながら、佐天さんは先ほどのジョナサン前での美琴との事を振り返る。


――――――――――――――――――――――


「御坂さんも、すごく、カッコ良かったです!」


佐天さんは自分が感じたこと、今出せる思いの丈を美琴へ打ち明けた。


(い、言った! 言っちゃった!)


言ってから、なんだか自分は会ったばかり人間に凄く恥ずかしいことをしているのではないか、という気分にもなってくる。
さて、そう言われた美琴の反応は、


「………………」


顔を少し赤らめて固まる、というものだった。

画面の前の貴方は次に、
「この作品って人が硬直することが多すぎじゃね?」
と思う!

…再び閑話休題。
美琴が反応しない=自分はかなりヤってしまった。
佐天さんは瞬時にそう結論付けた。

(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 
 いきなりカッコいいですとか言われてもそりゃ訳分かんないよね!
 こ、此処はもうあれしかない!)
「じゃ、じゃあ! あたしはこれでっ!!」


しゅばっ!と佐天さんは美琴に手を振った佐天さんは回れ右をして、


「さ、さらだばーっ!!」
(逃げるんだよォォォーーーーーーッ!! どいてーッ、ヤジ馬の人たちーッ!)


そのまま、美琴から逃げ出した。


「えっ!? さ、佐天さん!?」


美琴の制止の声も聞く耳持たず、スタコラサッサと一目散に逃げ出した。


――――――――――――――――――――――


「…今度会う時、どうしたら良いのかなぁ……」


ため息をつき、鍋を混ぜる手が止まる。
今こうして思い返しても頭を抱えて床を転がりまわってしまいたい。
なんであんな事言っちゃったんだろう、と考えていると、ふと、佐天さんは思い至る。


(今度、か…今度なんて、あるのかな?)


よくよく考えれば向こうは―あんまりお嬢様っぽくなかったけど―常盤台のお嬢様、
初春・黒子という中継点があったから今日たまたま知り合えたものの、今度なんていつあるのだろう?


(相手は学園都市の上から数えたほうが早いぐらい凄い人で、あたしは一介の無能力者。
 また会うかも分からないんだからぐちゃぐちゃ考えてもしょうがないよね)


――能力がどうこうじゃない、佐天さんがやったことは凄いことなんだから――


「…なんていうか、御坂さんって、高レベル能力者っぽくもないよね」


柵川中学は学園都市の中でも、本当に並ぐらいといった感じの学校なのだが、それでも一応高レベル能力者が何人か在籍している。
だが、佐天さんの知る限り、そいつらは皆ロクな奴らじゃない。

高レベルの学校に通えば十把一絡げの実力しかないのに、わざわざ自分のレベルより下の学校に通うことで、
自分より下の人間がいる愉悦に浸る為に通っているような奴ばかり。

でもこれは柵川中学に限ったことではないようで、どこの学校にも高レベル能力者というのは、
決して評判が良いとは、言えないようだった。
学校外の友人たちから、高レベル能力者に対する愚痴はよく聞かされる。

能力を笠に着た、上から目線のいけすかない奴――それが高レベル能力者。
そう、思っていた。

御坂美琴。

学園都市第3位で常盤台のエース、高レベル能力者の最たる人間と今日半日接したことで、
佐天さんはその考えを少し改める必要があるのかもしれないと、感じた。

美琴とそれ以外の高レベル能力者、どうして差がついたのか…慢心、環境の違い――
なんて、考えたところで美琴のことをまだよく知らない佐天さんには分かりはしないのだが。


(あっ、ぽくないって言えば、あの人もあんまりそれっぽい感じはしなかったなぁ……)


美琴のことを考えていた佐天さんが次に思いついたのは、ブロントさんだった。

そっと自分の頬に触れる。
今頃ならば、少し腫れだし、触れれば鈍い痛みを生む傷があるはずの頬。
だが今は、いつも通りの若さ溢れるなめらかなでスベスベな頬。

痛みも傷跡も、どこにもない。

ブロントさんは決して自分の実力を誇ってないという感じではなかった。
どちらかと言えば、自分に自信が溢れているといえる。
だというのに、決して嫌味にならず、むしろ頼れるように思えた。


(ブロントさんは、自分には能力なんてないって言ってた…それって、能力開発を受けてないかレベル0ってことだよね。
 じゃああたしの顔の傷を治したのはなんだったんだろう……?)


他人の傷が治せる、そんな事はそれなりのレベルでなければ出来ないはずである。

ブロントさんが言うとおり、ブロントさんが異世界の住人だから?とも思ったが、
ゲームやマンガの話じゃないんだから、とその考えを捨てた。


(能力じゃなくてそれ以外のなにかなら…もしかして、あたしも、ああゆう風になれるのかな?
 レベル5の能力をものともしない…強力な力から誰かを守るために立ち塞がれる……
 そう、まるで、本当にゲームやマンガのヒーローみたいに――)


佐天さんが物思いに耽っていると、コトコトという鍋の中身が煮える音だけが響く台所に、
突然ジュウウウウウウウ!という激しい音が飛び込んだ。


「ふえっ!? あっ!やばっ! お鍋が……」


鍋が思いっきり噴き零れてしまった。
佐天さんは慌ててコンロの火―IHだから火はないけど―を緩める。


「あっちゃあ…料理してる時にボーっとしちゃダメだよね……」


考え込むなんてあたしらしくないなぁ、そう内省しつつ、佐天さんは料理を再開した。




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


「ただいまですの、お姉様」

「おかえりー、随分遅かったわね?」


第七学区にある常盤台中学学生寮の二〇八号室、美琴と黒子は此処で二人で暮らしている。

現在時刻は午後8時を少し過ぎたぐらいだ。
常盤台寮生としてはあまりに遅すぎる帰宅をしたルームメイトに、美琴は自習をしながら
声を掛ける。


「ええ、まあ……色々と難航していたもので」

「仕事熱心なのもいいけど、頑張り過ぎないように気をつけなさいよ?
 風紀委員活動があったって言っても、寮監が居たら、アンタ今頃首が狩られてるんだから」

「仕事熱心なのは寮監の方ですの。
 過労が祟り、階段からすべり落ちて足を骨折……
 いかず後家は仕事しか楽しみがないからああなるんですの」

「こぉら、陰口叩かないの。
 多少やることは過激だし融通は利かないけど、悪い人じゃないでしょ?
 同じ寮に住んでる家族みたいものなんだしさ」

「ふん……まあ、わたくしどものために働き過ぎたのは事実ですの。
 今度お見舞いに行ってやっても、良いかもしれませんわね……」

「ふふっ、アンタもたいがい素直じゃないわね」

(……お姉様、それはツッコミ待ちですの?)


ある程度キリの良いところまで学習したのか、美琴がペンを置く。


「よし、と……それじゃ、ご飯食べに行こっか」

「え……?
 お姉様、まだ夕食をとっていらっしゃらなかったんですの?」

「なんとなく、アンタが遅くなるんじゃないかって思ったからねー。
 みんなが食べ終わった後に一人でってのも、味気ないでしょ?」

「お姉様……」

「ま、まあ!
 まだ遅いようだったら、もうほっといて食べに行こうかなぁって――
 …黒子?」


顔を伏せてぷるぷる震えている黒子。
美琴が声を掛けると、黒子がゆっくりと顔を上げた。


「お姉様が…黒子のことをそんなにもっ! 想ってくださるなんてっ!
 わたくしは今! 猛烈に感っ動っ!していますのッ!!」


目の幅涙を滝のように流していた。


「そ、そんな大げさな――」

「いいっえ!
 お姉様のその優しさは! 値千金では納まらぬほど素晴らしいものですのよ!
 黒子が! 黒子がその優しさにお応えするにはもう、こうするしかぁ!!」


Kurokoは、《裸神活殺拳》(Cast Off)の構え。
黒子は着ていた衣服を全て脱ぎ捨てた。


「ちょ! バカ! なんでそうなるのよ!?」

「うふふひひひ……
 さあ! 夕食の前に黒子を召し上がってくださいませ!
 おっねえっさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」


Kurokoは、《伝統的な女体への飛び込み方》(ルパンダイブ)の構え。
黒子は一糸纏わぬ姿で、美琴へと飛び掛かった。


「だったらアンタには、これでもご馳走してやるわよぉ!!」


Mikotoは、《対自販機用回し蹴り》(チェイサァァァァァァァァ!!)の構え。
気合の入った掛け声とともに、学生寮全体に、何かが壁に叩きつけられる音が響いた。


――――――――――――――――――――――


「もう…お姉様のツン照れ屋さん!」

「表出なさい。
 照れ隠しにエレクトリッガーしてあげるから」

「す、すいまえんですの;;」
(それは某スーパーロボットの技でしょうか?
 それともあのシンプ○ンみたいな殿方の技でしょうか?
 ……どっちも出来ますわね)

「ふんっ」

美琴たちは学生寮内に設けられている食堂で食事を取っていた。

常盤台の学生寮は、古めかしい洋館のような建物となっているのだが、内装も外装通りまるで貴族の邸宅のような作りになっている。
食堂、とはいっても言葉通りの雰囲気ではなく、テーブルがなければ落ち着いた感じのするちょっとしたパーティホールのような場所である。

常ならば、生活リズムが厳しく定められているため、この時間帯に食堂を利用する学生はまあ多くはないのだが、
今は美琴と黒子以外にも何人かの寮生が食事をとりながら談笑をしている。

美琴は自分のサラダのレタスをフォークで刺しながら、不機嫌そうに―主な理由は黒子だが―黒子に尋ねた。


「で、どうだったのよ?」

「? どう、とは?」

「アイツよ、あの鎧バカ。
 アイツが何処の誰かは分かったの?」

「ああ……
 率直に申し上げますと…その……なにも分かりませんでしたの」

「なにも……?」

「ええ、なにも」


黒子は美琴たちと別れてからのことを話し始めた。


――――――――――――――――――――――


時間が少し戻って、第一七七支部にて――


「さあ、きりきり話して頂きますわ!」


威勢良くブロントさんへ聴取開始、まずは簡単な質問から。


「まずはフルネームをお教え願ってもよろしいですの?」

「Brilliant Unruly Razer Of Noble Tether」

「【えっ?】」

「古ネんムはBrilliant Unruly Razer Of Noble Tether」

「ぶ、ブリリアント……
 ――申し訳ありませんが、こちらに書いて頂いても……?」

「良いぞ」


黒子が手元に置いていた紙とペンをブロントさんへ渡すと、サラサラと筆記体で書き上げた。
まあ、自分の名前なので当然である。


「ははぁ、これでブリリアント・アンルーリー・レーザー・オブ・ノーブルテザーと読むんですのね?
 なるほど、頭文字を取ってBurontですの……初春!」

「はーい、むわ~っかしてください!
 それにしてもカッコいい名前ですね、中二病な感じがします」

「おいィ…?」


褒め言葉です、気にしてはいけない。


――――――――――――――――――――――


「結論から言いますと……
 ブロントさん…Brilliant Unruly Razer Of Noble Tetherという人物は、《書庫》(バンク)にも、
 ここ数日で学園都市へ『正規』にアクセスした外部の人間の中にも、どこにも存在しませんの」

「ふうん……
 となると、『不正』にアクセスしてきた人間ってことで片付くんじゃない?」

「お姉様は、外部から正規のルート以外で学園都市に入ってきた人間だと思いますの?」

「思わないわね」


美琴の否定は、ブロントさんがそんなことをする人間とは思えない、という理由から来るものではなく――


「来るもの拒むし、去るものは地の果てまで追っかける――
 ある種、監獄よりもセキュリティーが厳重なのがこの街よ。
 不正アクセスなんて普通なら出来っこないし、やろうとする馬鹿も…まずいないんじゃないかしら?」

「その通りですの」


黒子は、はぁ、とため息を吐いた。


「となると、あの殿方はどこの誰なのか……
 年齢・人種も不明。
 能力、と言いますかあの方のチカラも正体不明。
 正直、わたくしどもでは今のところお手上げといった感じですわね」

「実はあいつが虚言妄言並べ立ててるだけで、そのフルネームも偽名でしかないって感じはしないの?」


美琴の言葉に、困ったような笑顔を見せる黒子。


「ブロントさんの話される内容自体は、とても空想溢れるものばかりですから、わたくしも、そう疑いはしているんですの。
 ですが――」


――――――――――――――――――――――


再び時は第一七七支部での黒子たちの聴取に戻る。

一通り聞き終えたところで、聴取は一旦中断。
黒子はブロントさんの言葉を軽くまとめたメモに目を落とした。


(なんですの、これは……
 まとめのメモがまともじゃなくなってしまいましたの)


黒子が戸惑っているメモの内容を少し取り上げてみると、

職業・ナイト、メイン盾……職業不明
人種・エルヴァーン……人種というか民族?
年齢・プライバシーの心外は犯罪だぞ!……年齢不詳

などと書かれている。

(わたくし、詳しく聞かせてくださいと言いましたわよね?
 プライバシーの侵害は犯罪だぞ!ってなんのためにアナタに来てもらったと思ってるんですの!?)


黒子の額に青筋が立ちそうになる。

持ち物について尋ねたら、ハイソウビとかいう自分の身につけている物について、黒子が止めるまでひたすら語られた。

能力について尋ねた時は――


「はい! では私からの質問です。
 ブロントさんはどうやって、御坂さんのレールガンから身を守ったんですか?
 あと、佐天さんの傷も治療した方法も聞きたいです」


切り出したのは初春からだった。


「ああ、そういえば詳しくは聞いてませんでしたの。
(初春、良いタイミングですの!
 ブロントさんはハイソウビとかいう物の話でなにやら上機嫌になっているようですし、これははぐらかされずに話して頂けるやも……
 なにか身元の糸口になれば良いのですが)
 どうやったか、話して頂けますか?」

「うむ、FFでも初心者の館があるからなランク1からの質問には答えてやろうと思った。
 英語で言うとカナード」

「カナードと言うと…安定翼ですわね?」


なぜ安定翼が今出てくるのか理解不能な黒子。


「死の恐怖ですか(笑)」

「なに笑ってんだPKするぞ」


またか、黒子がホルスターから愛用している例のアレを取り出す。


「…聴取が終わりませんから話を進めませんこと?(暗黒微笑)」(E 金属矢)

「「すいまえんでした;;」」


ブロントさんとの聴取はこうやって妙に話題が反れる。
黒子と初春、どちらかがブロントさんのペースに乗ってしまったらどちらかが軌道修正するようにしなければならない。


「まああ話を戻すとだな、俺はあの時ナイトの《ジョブアビリティ》の《インビンシブル》を使っていた系の逸話があるのだよ。
 るーこに使ったのは《ケアル》、こっちはどちかというと白魔法派閥になるぞ」

「じょぶあびりてぃ?」

「白魔法、ですか?」

「……起訴厨の基礎の説明をするからおもえらは耳をカッポ汁べき」


そこからブロントさんが扱うチカラについて基礎の説明を受けたのだが、
黒子たちには不明な用語が多すぎて簡単にしか理解は出来なかった。


(糸口どころか、迷宮の入り口なってしまいましたわね……)


メモから目を離し、黒子は自分の腕を見る。

以前に犯人を拘束する際に打ち身になってしまった場所があったので、
説明ではなくブロントさんに《ケアル》を実際に使って見せてもらったのだ。
結果はご覧のあるさま、痣もなにも無くなってしまった。


(ブロントさんのチカラは本物、これは間違いありませんの。
 防御能力(インビンシブル)の方は、実践して貰う訳にはいきませんのでこれは未確認として……)


実証でもブロントさんがケガをする可能性がある以上、インビンシブルの実践は頼めない。


(ですが、お姉様の超電磁砲を防いだのは事実、未確認と言えるか……
 これはまさか、実現不可能とされている多重能力者(デュアルスキル)……
 いえ、そんなはずは…でも回復、防御を同時に行える能力とは一体……
 では、ブロントさんが仰る通り、あれは能力ではなくアビリティとかいう良く分からないチカラ……
 しかし、これを超能力ではないと断ずるのはあまりにも――
 う~む…う~~~む……う~~~~~~~~~~~~む………!)

「しかす、この街はえごいな」
   

黒子が思考の迷路で迷っていると、ブロントさんと初春の会話が聞こえてきた。


「なんといっても、最先端の科学技術が集まった街ですからね。
 外部の人には、結構驚かれることが多いと思いますよ」

「うむ」

「やっぱり、学生が超能力者っていうのには驚かれました?」

「いや、それほどでもない」

「あ、ブロントさんが住んでらっしゃる場所では、冒険者ならアビリティとか魔法が使えるんですもんね」

「落蕾は日常ちゃめしごとだからチョロイ事(リアルヴァナ史)。
 えごいところはイロイロあるが街中にロボットが掃除していたという事実には関心が鬼なった」

「清掃ロボットですか?
 あれは私も初めて学園都市に来たときはビックリしましたねえ」

「清掃ロボットがいる→街の美観が充実→環境が豊かなので性格も良い→彼女ができる。
 清掃ロボットがいない→街の美観が世紀末→心が狭く顔にまででてくる→ヒャッハー!
 清掃ロボットの治安スキルはまさしくゴミの力と言ったところかな」

「でも、実はあれって、一台7000円なんですよ?」

「おいおい(苦笑)。
 おれがそんな嘘にだまされると思った浅はかさは愚かしい。
 ヨミヨミですよ? かざちの作戦は」

「本当なんですって、前に通販番組で売ってました」

「俺が思うにぜんえzん別の商品だったのではないか?
 見た目がたまたま同じになる事はまれによくあるらしい」

「えー……でもちゃんと清掃ロボット4649って紹介してたんですよ」

「かぁりは素人だな賞品名もまれによく同じになったりする。
 だがヴァナでも魔法人形がホイホイ渡さるるという実績があるから風見の証言を異議あり!するのは難しい」

「魔法人形?
 ヴァナ・ディールにもロボットがあるんですか?」

「ロbotに煮たものはあるぞ。
 オートマトン、魔法人形、カーディアンとかがそうだな」

「学園都市以外にそんなに技術が進んでいる場所があるなんて、びっくりです……」

「…良いことばかりじゃにいけどな……
 魔法人形は聖作者に性格が煮たりするからよ……」

「え?」

「………………」


錯視『水の区のShatoto』。
想起『石の区の博士人形』。
想起『ヒロインズコンバットでのアドリブ説明』。
想起『あら! わたくし、ぶち切れますわよ』。


「………………ッ!!」

「ブロントさん? ど、どうされたんですか?」


なにかを思い出して震えるブロントさん。
どうしたら良いか分からず手をこまねいている初春。


「…………ふむ」


ブロントさんの故郷(?)の話で談笑していた2り見ていて、黒子は――


――――――――――――――――――――――


「こんなもの、風紀委員の判断としては間違っているのですが……
 自然に夢物語のような話をするあの方を見ていると、わたくしにはどうも、あの方が嘘を吐いているとは思えないんですの」

「本当だった方がロマンがあって素晴らしいからねー」


ニヤニヤしながら答える美琴。


「もう、お姉様! 茶化さないでくださいな。
 とにかく、どう判断を着けていいか分からないんですの」

「どうしたら良いか分からないなら、警備員に任せればいいじゃない」


風紀委員(コドモ)に手が負えないなら警備員(オトナ)に任せる。
これは正しい判断なのだが――


「ブロントさんを警備員に引き渡しても、たぶんあの調子ではずっと塀の中から出られなくなるのではないでしょうか」

「ま、確かにそうでしょうね。
 不正アクセスとみなされてひたすら尋問の日々、でもアイツがもしも自分の意思でこの街に来たって訳じゃないのなら、
 それはちょっと、って思ってるってとこかしらね、アンタは」

「ええ、決して悪人ではないようですし、引き渡しまでは……
 かといって、あのまま支部に拘置しておくことも出来ませんし……」


スラスラ進んでいくので、まるで拾ったペットを親にばれずにどこで飼おうか相談しているように錯覚しそうになるが、
実状は、不法入都者を匿うという自らの立場を危険にしかねない行為である。


「ていうか、大丈夫なの?
 風紀委員としてアイツを匿って」

「わたくしは別に学園都市の狗という訳ではありませんもの。
 風紀委員としては間違っていても、自分が正しいと思った時ぐらい、融通ぐらい効かせますわ」

「ふぅん、黒子がそう言うなんてねー」


後輩の珍しい一面が見れて、少し嬉しい美琴。
美琴自身としても、このままでは後味が悪いし、黒子に協力するのは決してやぶさかではなかった。


「まあ、私も関係ないわけじゃないし、黒子がそう言うなら協力するけどさ。
 アイツを置いておけるような場所ねえ」

「ただ置いておくだけではダメですわね、あの通り怪しさ全開ですもの。
 社会的保障がありそうな住み込みで働けるような場所、そんなものがあれば完璧でしょうか」

「あはは、そんな都合のいい場所が――」


その時、美琴に電流走る。


「あるじゃない」

「えっ、そんなところがありますの?」

「ふっふっふ、黒子、あとは任せなさい!
 私に良い考えがあるわ」

「お姉様! それは露骨な失敗フラグですの!」

「さて、そうと決まったら色々準備しなくっちゃね!
 黒子、悪いけど食器片付けといて!」


美琴は皿に少し残っていた料理をサッと平らげて、食堂から飛び出していった。


「お姉様! お待ちになってくださいですの!
 お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


黒子はただ、
お姉様の使った食器…はぁはぁ……、と少し興奮して、美琴に残された食器を片付けるかどうするか迷いながら、
美琴を見送る他なかった。


――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――




[26956] 第1話 #15 New!
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73
Date: 2011/06/05 20:43
「ほむ……」


明りの落とされた風紀委員活動第一七七支部には、今はブロントさんしかおらず、
ブロントさんはあてがわれた部屋の布団で横になり、窓から夜空を眺めていた。
今は鎧を脱いで楽な格好をしている。
用意されているのがベッドじゃなくて良かったなベッドだったらお前小さくて寝れにいぞ。

ブロントさんは犯罪者ではないのだが、固法が言っていたように、
外部の人間を支部にそのまま置いておく訳にはいかないので、
ブロントさんが宿泊する部屋のカギはきっちり外側から掛けられている。

こればっかりは黒子や初春が温情を掛けて外すなどということは出来ない。

それでも、水や食料は風紀委員の非常食から提供してくれたし、トイレは備え付けられている。
軟禁状態とはいえ、通常この部屋を利用し縄に繋がれていなければならない人間に比べれば、良い待遇と言えよう。


「そろそそ食事の時間だな……」


初春から暇つぶし用にと与えられた情報端末で時間を確認する。
だが、ブロントさんは食事をする気にはなれなかった。
食事効果が得られそうにないとか、そういう効率的な問題ではなく、食欲がないのだ。


「………………」


寝返りを打った際に、手の中にある情報端末が床に転がる。
ブロントさんは先ほどまで、ネットに繋いでいた。
初春が帰る前に、黒子にしていたある報告を、自分の目で確かめるために。

…ブロントさんの名誉のために言うが、決して盗み聞きをした訳ではない。
ブロントイヤーは地獄耳、聞きたくてきくんじゃない聞こえてしまうのがブロントイヤーだ。


「ヴァナ・ディール、ジュノ大公国という場所はこの世界には存在しません。
 少なくとも、ネットの海をさらってもそれらしき場所の情報はどこにもありませんでした。
「ブロントさんが持っていたギルという通貨、写真を撮って情報を募ったりしてみたのですけれど……
 今のところ、誰も見たことも聞いたこともないみたいです。
「ブロントさんが話してくれたことは、ブロントさんがいた世界は……この世界にはどこにもないんです」

コノセカイノドコニモソンザイシナインデス。


…その通りだった。
ネットのどこにも、ヴァナに関する情報はない。

口では裏世界に来てしまったのかよと言ってはいたものの、ヴァナと学園都市は地続きで同じ空の下にあると、
そう、心の底では思っていたのに……
この部屋の鉄格子がはめ込まれた窓から見える月も、星も、ヴァナのそれとはまるで違う――

リアルが、最強のプレッシャーとなって、圧し掛かってくる。
ダイヤモンド・パワーの精神力の持ち主でなければ耐えられない程の、プレシャーだ。


「おれは、【かえれ】るん、ですかねぇ……」


黒子と初春は、それでもブロントさんを決して嘘つきだと言わなかった。
本音では多少疑いはしているだろう、が、ブロントさんにはそれでも嬉しかった。
それでも、それでも……
見ず知らずの地で親切にしてくれる人間がいる、そんな幸せがあったとしても――


「………………」


こんなにも幸せなのに、ブロントさんは、こんなにも1りだった。

ただでさえネガり易い状態なのにこのまま起きていると、
「あのおかしいヒュム♂♀にカカッ割らなければ良かったんですかねぇ」とか、
「なんでおれがこんな目に会うのあk理解不能状態」とか、
ネガが更に加速してしまいそうだったので、ブロントさんは掛け布団を引っ被って寝てしまうことにした。

心身ともに疲れていたのか、布団の中の優しい暗闇の中だと、どんどん、瞼が落ちてくる。

ブロントさんの意識は、ゆるやかにシャッタアウトされていった――




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


……トさん

おいィ・・・おいィ・・・

……ロントさん!

おいィ・・・おいィ・・・?

「ブロントさん!」

「おいィ!?」


名前を呼ばれて、ブロントさんは飛び起きる。
視界がぼやけるので、目を擦ろうと顔に手をやると、なぜか手には籠手が着けられていた。
否、籠手だけではない。
外したはずの装備はきっちり装備しているし、というかブロントさんは布団で横になっていたはずなのだが、
いつの間にかテーブルに突っ伏して眠っていたらしい。

そこは、見知らぬ天井のある一七七支部の一室ではなかった。
船乗りや商人、そして冒険者で賑わう、見慣れたはずの酒場なのだが、さっきまでの状況を踏まえると、
とてもではないが自分が此処に居るという実感を、ブロントさんは持つことが出来ない。


「…こ、此処は、どこなんですかねぇ?」


おずおずと、ブロントさんがは自分が突っ伏していたテーブルに同席している紫プラモと目線付けた黒装束に――
旧知の仲間に、自分がどこにいるかを尋ねた。

呆れが鬼なっていた竜騎士は、妙な質問をするブロントさんを心配し、
同じく呆れが鬼なっていた忍者は、その呆れの色をますます深くさせた。


「え? ただの寝落ちだと思ったんだが、大丈夫かい?
 体調が悪いなら無理をしない方がいい^^;」

「はっ…!
 そいつはバカだから体調なんて崩さねえよ。 おおかた――
 「ナイトは引っ張りだこだからこう誘いがあっては一人の時間も作れない(リアル話)(キリッ」
 とかなんとか妄想じみた夢でも見てたんだろうさ。
 ナイトは玉ねぎマラソンでもやってるのがお似合いだぜ」


紳士的な振る舞いをする竜騎士に、憎まれ口を叩く忍者。
間違えようもない、ブロントさんの大切なフレだ。

此処は、そう、バストゥーク港にある《蒸気の羊亭》。
ブロントさんがフレ達に声を掛けて夕食を一緒に取ろうと誘ったのだった。


「リューサン、忍者……なんでもにいぞ。
 忍者の言うとおりちょとリアルな悪夢(ユメ)をジャスト1分間見てただけからよ英語で言うとデイドリーム」

「夜なのに白昼夢とか聞いたことないんで抜けますね^^;
 ったく、人を呼びつけといて寝落ちとは良い根性してやがる。
 夢もキボーもなくしてやろうか」

「まあまあ、良いじゃないか、こうして起きてくれたんだし。
 俺はブロントさんがこうして夕食に誘ってくれるのはありがたいと思っているよ。
 皆で食事をするのは賑やかで楽しいからな」

「あめえ、リューサンはブロントに甘すぎんだよ。
 ガツンと言ってやらねえとこの馬鹿が永遠に調子に乗り続けるだろうが。
 だいたい、賑やかってレベルじゃねえぞこの集まり。 やかましいだけだ」

「そう言う割には、忍者は毎回参加してるじゃないか」

「ばっ……! そりゃあ、あれだよ、参加しねえとコイツがうるせえからな。
 顔出した方が効率が良いんだよ!」

「そうか、じゃあそういうことにしておくのである^^」

「………………」

「……なんだよ、黙りこくっちまってきもちわりいな。
 ブロント、いつもはテメエが騒音の源だっつーのによ」

「本当に大丈夫かい、ブロントさん?
 どうにも様子がおかしいぞ?」

「…いや、本とウニなんにもにいだよ」


一度はあきらめ顔になったがブロントさんだが、バストゥークにいることが証明された以上ヴァナに帰ってこれたのは一目瞭然で、
そこには悲しみとかが残らなかった。
ブロントさんは今、帰るべき場所にいる、こんなに嬉しいことはないだろう。

そしてその嬉しさを加速させるように、ぽこじゃかとフレが集まってくる。


「あらあら^^^^♪♪
 なんだったら^^♪私がケアルしてあげましょうか?^^^^^♪♪♪」


^^♪を振りまきながら、白魔道士のヒュム♀がブロントさんへにこやかに治療を申し出てきた。
ありがたい申し出のはずなのだが、ブロントさん3りは一気に戦慄した表情になる。


「お前にケアルさせたらなに要求されるかわかんねえだろうが!」

「ヴァナのブラックジャックといったところだろうか;」

「【ケアル】【せっかくだけど遠慮します】。
 おもえの治療を受けるまでもにいから心肺すんな、いやしないでくだちい;;」


それもそのはず。
彼女―臼姫は、初心者には優しいのだが、廃人相手には容赦なし。
回復でも頼もうものなら、莫大な報酬を要求され、支払いを渋れば命ロストは必至。
かくも恐ろしい臼魔道士なのである。


「あら残念^^^^♪♪♪♪
 でもそうね^^♪♪とりあえずお腹が膨れたら治るんじゃない?^^^♪♪♪」


彼女がそう言うと、両手剣を背負ったナイトのヒュム♂が、カカッwwとトレイを持って現れた。


「今ここにwwww西京モテ期のwww俺様wwwww後輪wwwwww
 きたwww料理きたwwメイン料理キタ━━━━(゜∀゜)━━━━wwwww
 こwwれwwでww勝つるwwwwww」


見た目は金髪イケメンだというのに、喋ると残念な草植系男子・内藤がいつもどうり草を生やしていると、
後ろから同じようにトレイで料理を運んできたシーフのエル♂が軽く内藤に蹴りを入れた。


「wwオウフwwwwww」

「いいからwwwお前は黙って運べよwwww」


更に同じく料理を運ぶ黒魔道士のタル♂が、それを見てゲラゲラ笑う。


「つーかwwお前の運んでんの《蒸留水》だろがwwwww
 まあww水がねえとwwパンなんてww食えたもんじゃねえからwwwwwある意味メインだけどよwwww
 ・えちょ 水が主食とかないわーwwwどんだけ赤貧だよwwww修正されてwwwwww
 ミスwwwwwティックアークwwwって良ゲーだよねwwww」

「あんたたちもさっさと運びなさいよ~^^♪♪♪♪」

「wwww……はい」
「wwww……はい」

「うはwwwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwwww」


ナイトの内藤、白魔の臼姫、シーフの通風、黒魔の墨樽――
彼らは、戦死がリーダーを務める、《LS「Boooooooomerang」(ブーメラン)》というグループの一員である。
内藤、通風、墨樽たちがつるんで馬鹿をやり、臼姫はその暴走を抑えてまとめ上げるという間柄にある。
内藤は常にTP上昇中の暴走状態であるため気にもしないが、痛風や墨樽たちは臼姫に頭が上がらず、
今もこうして彼女に良いようにこき使われてしまっている。


「お、料理が来たな。
 これからはいただきますを言わずに料理に手を漬けるやつが悪者でFA!」

「なんもしてねえのに仕切るのだけは立派だなwww
 流石ランク⑩だぜwwwww」


「さっきまでグースカ寝てた癖によwww」と、ブロントさんに呆れる通風に、汚い忍者が賛同する。


「調子が戻ったらこれだからな。
 コイツにゃあ心配するだけ無駄なんだよ」

「ははは、なんともないようならそれでいいじゃないか。
 皆元気が一番なのである^^」


リューサンがフォローを入れると、墨樽が口を挟んできた。


「おいww元気はいいがなwwwテメエら誰か《マトンのロースト》早く取れよwww
 タルにテーブルの上まで運べとかwwwおにちく過ぎんだろwwwww」


タルタルは非常に身体の小さな種族である為、大柄の個体でもその身長は1mにも満たない。
平均身長約170cmのヒュームが多く暮らすバストゥークのテーブルは、タルタルには椅子にでも座らない限り、かなり高いのだ。

「ああ、すまないな」と、
リューサンが料理を墨樽から受け取ろうと手を伸ばしたら、


「では、拙者に任されよwwww」


別の方向から伸びた手が《マトンのロースト》をひょいと持ち上げた。

墨樽から料理を受け取ったのはヒゲをたくわえた壮年の侍。
その姿を見て、蒸留水を置いていた内藤が草を生やしてはしゃぐ。


「遅いwwwやっと来たのかwwwww
 カイエン殿wwww重役ww出勤wwwズルいザマスwwwwwwww
 遅刻はwwwww幻獣注意www幻獣注意ですwwwよwwwww」

「やや、相済まんでござるよwwww」


カイエン殿、と呼ばれた侍は、料理を置きながら謝り、遅刻の理由を話した。


「道中にて魔物の凶刃に倒れそうになっている御仁がいたものでなwww
 つい助太刀をしちゃったのでござるよwwwwww
 慣れないうちは焦って前に出過ぎるものでござるからなぁwww拙者も昔はそうであった……www」


「まあやんごとない事情があった訳でござるwwwww」と、説明を締めるカイエン。
これは広大な心を持って許してやるべきだと、ブロントさんは思った。


「ほう、経験が生きたな。
 ちゃんと無実を証明したことで充実した食生活が認可されるぞ。
 見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない」


初心者に(は)優しい臼姫もこれに賛同する。


「人助けしてたならしょうがないわね^^♪♪
 そうじゃなかったら《トゥルーストライク》の刑だけど^^^^♪♪♪」

「なんと、それは危ういところでござったwww
 いやあカイエン殿も大変でござるなwwww」

「「「「「「「お前がカイエンだろ!」」」」」」」

「かたじけのうござるwwwwかたじけのうござるwwwwww」


…なお、FFⅥにて同名のキャラが存在するが、きっとこのござるとは関係ないんじゃないかな。
グラフィックとかそっくりだけど、ううん、知らないけど絶対そう。

いつものお約束をしたところで、ブロントさんが音頭を取る。


「メンチも揃ったな…じゃああそろそろ「いただきます」すっかー」

「おー^^」
「おーwwwwww」
「おー^^^♪♪」

「わぁいww」
「わぁいwww」
「わぁい^^でござるwww」

「わ、わぁい……」


各々がそれにのり、いざ食事を始めようというその時、バーン!!と、扉が勢いよく吹き飛ばされた。


「通風???こかにゃ!? ここにいるはずにゃ!><」


扉の向こうから、狩人のミスラが飛び込んでくる。


「内藤しゃんたちはブロントしゃんたちと一緒でしゅたか(=´∇`=)」


遅れて、獣使いのタル♂がとことこと入店してきた。

ダイナミック入店したと思ったらにわかに伏字を叫ぶミスラを見て、通風がまるで孔明の人形を見た司馬懿のような声を上げる。


「げーっ 猫狩!
 ちっwww聞いた声だと思ったらwwwww糞ネカマじゃねーかwwww
 …なんでwww教えてもないのに来てんだよwwww」

「ネカマじゃないにゃ><
 ウチが通風ちんの居場所を分からないはずなんてないんだにゃ!
 通風ち~~ん><」


通風の姿を目にしたとたんにガバッと通風にすり寄るミスラ、猫狩。
そんな2りの様子を見て、内藤と墨樽が囃し立て歌う。


「ヒューッ!wwww通風熱すぎwww修正されてwwwwww
 ㍍⊃wwww蕩れてしまいそーwwwww好きだなーんてwww絶対にwwwww
 いぇーいwwwwwなぁーいwwwwwwww」

「ネカマに夢中の糞シーフwwwww発見wwww
 その愛に触れたならwwwwwwwもう後戻りなど出来ないwwwwwww
 初めての衝動に戸惑うだwwwwwけwwwwwww」

「馬鹿言ってんじゃねえ!www」


内藤と墨樽の煽りに少しむきになった通風は、猫狩を引き剥がした。


「にゃぁ~通風ち~ん><;」


通風に拒否されてしょぼくれる猫狩。
するとブロントさんが、


「気にするでにいぞネコ、あいつはちょと照り臭いだけだべ」


と、猫狩を慰め、


「うにゃ!? ブロントちん…じゃあ……」

「俺が許すぞ。
 痛風はお前にもんだからよ、好きにすろッ!」

「さっすが~、ブロントちんは話がわかるッ!
「あ、にゃー><」


そして背中を押しけしかける。


「痛風ち~~~~~~~~~~~ん!!><」ガバァ

「テメェwwwブロントwwwwwwふざけんなぁ!wwwwww」

「モテモテ凄いですね。
 モテランク⑩の人すごいなーあこがれちゃうなー」


ブロントさんなりの応援とささやかな仕返しだった。


「アホか、寝てたお前がわりいだろうが」


…まったくもって忍者のツッコミは正しかった。


「ふう…あれじゃああの2人の先行きが不安でしゅ(´・ω・`)
 ブロントしゃんの言うとおりに、通風しゃんがもう少し素直になってくれると良いのでしゅが……(´∀`;)」

「獣様殿、もう一杯いかがですかな?wwww」

「ああ、ありがとうございましゅ、カイエンしゃん(=´∇`=)」


猫狩と共に入店した獣タル、獣様は、カイエンと共に騒ぎに巻き込まれる一歩手前でカイエンの煎れた茶を一緒に啜っていた。
代わりを貰って、また一口啜る。


「だけど、急に走り出した時はまさかと思ったけど、ホントにいたのは驚きでしゅ(´・ω・`)」

「猫狩の通風を探す能力はww
 素で臼姫や獣様のシステム超越に近いものがあるよなwwww」


獣様の言葉に、暗黒騎士のヒュム♂が乗っかる。


「あ、餡刻しゃんもいたんでしゅね(´∀`)」

「ああwwwずっとwwww」


餡黒、と呼ばれたヒュム♂はいつから居たのか知らないが、どうやらずっとこの店に居たらしい。
あまりに存在感が希薄すぎて「そこにいたのにいなかった」という表情になる。
現に今も、獣様の隣に座っているカイエンは、どうやら餡黒を認識していないようだ。

というか、餡黒をそこに居ると認識できるのは獣様ともう一人ぐらいなもので、
久々に自身が認識された餡黒は大いに喜びはしゃぎだした。


「/sh ていうか久々に認知キタ―――(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)―――!!!
 なんだかな人によってはこのログだってどうせ空白にしか見えないんだろうけどさもう二度と話せないかと思ったよ!
 ちくしょう! 俺別にキャラ薄くないよなぁ!?
 一般人どころかLSメンまで俺のこと忘れたふりはするわバグ扱――」

赤魔子は餡刻に《サイレス》を唱えた。

「ちょwwwおまwwwww」
「あ。(´・ω・`)」


はしゃぐ餡黒に《サイレス》を唱えて黙らせたのは、餡黒を認識出来るもう一人、おさげのエル♀赤魔道士、赤魔子。
餡黒と一緒にこの店に来ていたのかもしれない。


赤魔子は獣様にうんざりした表情を見せた。


彼女は基本的に喋らない。
感情表現コマンドのみで、自らの意思を他者に伝える。
今のはたぶん、「まただよ(笑)」とでも言いたいのかもしれない。

餡黒は一度はしゃぎだすと聞かされる方が引くぐらいのマシンガントークで話しだす為、
彼女が先手を打って《サイレス》を掛けたのは実に賢い選択なのだが……


「おおww赤魔子殿、久しくでござるなwwww
 いきなりこんなところで魔法を放つなど、あまり褒められぬぞ?wwwwww」

赤魔子はカイエンに丁寧におじぎした。
赤魔子はひどく落ち込んだ。

「よいよい、分かってくれれば良いのだwwww幸い誰にも被害は出ておらぬようだしなwww
 赤魔子殿、赤魔子殿も宜しければご一緒に夕食は如何かな?wwwww」

赤魔子はカイエンにうなずいた。
赤魔子は喜んだ。


赤魔子は喋らないが、決して認識されないということはない。
感情コマンド/mutedを使っているわけでもないのに押し黙っていなければならなくなった餡黒は、
もう獣様と赤魔子以外には認識されないが。


「は、ははは…まただよ……(笑)」

「あ、餡黒しゃん……(´;ω;`)ウッ」


《サイレス》によってかかるステータス異常《静寂》は、《やまびこ草》という薬品で治療することが出来る。
《やまびこ草》は別段さして珍しい薬品ではなく、冒険者の必携薬と言っても良い薬品だ。
現に獣様も餡黒も、《やまびこ草》を持っている。

だが、赤魔子が餡黒に掛ける《サイレス》は、まるで《静寂》ではなく上位状態異常《沈黙》でもかかるというのか、
《やまびこ草》や《サイレナ》、《万能膏》や《万能薬》だってなぜか治療することが出来ない。
つまり、2りではお手上げなのだ。
時間が解決するのを待つ以外、手立てが無いのだ。

餡黒がアワレ過ぎて、獣様にはもう見ていられない。
餡黒を観測できる人間は、誰も居なくなった。


――――――――――――――――――――――


…しかし、フレがぽこじゃか集まってくるとは言ったがちょと集まり過ぎではないか?
登場人物がシェイハシェイハと出てくるからちっとも食事(展開)が進まないし、
キャラの濃すぎる人間が一点集中し過ぎて、各々が勝手に動くからもう集まりはしっちゃかめっちゃかだ。

此処は一つ、ブロントさんにビシッとまとめて貰おう。


「お前らいい下限食事をする気はないのか?;
 何か草原がいつまで立っても鬼の首みたいに草生やしてるが時代は進んでる。
 このままでは俺の胃が空腹でマッハなんだが?」


ブロントさんは空腹を訴えて、愉快な仲間達に食事の開始を促した。


「いや、ブロントさんはしっかり流れに乗っていたと思うんだが……」


リューサンの言うとおり、狩猫の背中を押したのはブロントさんだった。


「…俺のログにはなにもないな。
 おまえら馬鹿みたいにはしゃぎまわってるとギガトンパンチ食らったら即死で瞬殺されるぞ。
 このパンチで北海道の多くの不良を殺してきた。
 分かったらさっさと席に着くべき死にたくないならそうすべき」

「「「「「「「「hai!(www)(^^^♪♪)(でござるwww)」」」」」」」」
赤魔子はブロントさんに敬礼した。


大いに強引なところはあるのだが、やはりまぁブロントさんの統率力は鬼の力と言ったところかな。
汚い忍者以外の全員が思わず「hai!」と言ってしまっていた。

だが、まとまったところで問題がある。
汚い忍者とリューサンがそれを指摘した。


「数を増やそうがどうでもいいけどよ、席が足りねえぞ」

「確かに、料理も明らかに人数分足りてないな」


元々は8りの予定が、いつの間にやらなんの因果か11り。
行くぜ野郎どもォ!レッツパーリィ!!といくにはちょっと席も料理も謙虚すぎる。


「まあまあ、今から新しく注文すれば良いではござらんかwwww
 座席も空いておるテーブルをくっつければ良いwwww」

「それじゃあ^^♪♪♪また内藤たちに働いてもらいましょうかしら^^^^♪♪♪」

「まwwたwwwだwwwwよwwwww」


さらりと再び内藤たちをこき使おうとする臼姫。
しかし大丈夫だ、問題ない。


「でもwwみんなで力を合わせればwwwwナニもww問題wwナッシングwwww」


そうとも、彼には心強い仲間たちが居るのだから!
振り返れば、ほら――!


パーティメンバーがいません。

「うはwwwwwwおkkkkwwwwwwwwwwwwww」


通風、墨樽、猫狩、餡黒、赤魔子……
心強い仲間たち(爆笑)は陰も形もなくなっていた。


「あの、内藤しゃん、後から参加した立場でしゅし、ボクがお手伝いしましゅよ(`・ω・´)」


先ほど助けてあげられなかった友人と内藤がダブったのか、カイエンの隣で茶を啜っていた獣様が、
むん(`・ω・´)と胸を張って内藤の前に出た。


「マジで?wwww
 うはwwwwww獣様ボスケテwwwwwwwww」

「^^^^^^♪♪♪」


Usuhimeは、《スカルブレイカー》の構え。
内藤の脳天に片手棍の一撃が炸裂し、内藤は目を回した。


「うほっwwwイタイwwwwwお星さまキラキラいっぱいだずwwwwwwww
 /sh 美星ちゃんと一緒に艶体観測wwwwwww俺様の望遠鏡でwwwwww美星ちゃんの中を観測したいなwwwww
 /sh なんちゃってwwwwwwwww」

「やあねぇ、獣様はなにもしなくて良いのよ?^^♪♪♪」


廃人には厳しい臼姫も、獣様には非常に甘い。 可愛くて優しいは正義だ。
目の前で―いつものことだけど―いきなり内藤がぶっ叩かれてビビる獣様。


「あの、でも、一人じゃきついでしゅし……(・ω・`)」


一応食い下がってみるものの、


「いや、獣様は音無く茶を飲んでいれば良いぞ。
 内藤は内藤だが雁にもナイトだからよ、ナイトならソロでもこれぐらいチョロイ事(この辺の心配りが人気の秘訣)」


ブロントさんも獣様には甘かった。


「うはwwwwwwおこここkwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


それを聞いて、未だに頭上に星を浮かべながら、内藤はふらふらと店員の元へ向かっていった。
内藤がなにを考えているかなど推して測る事も出来ないが、とりあえず本当に自分だけで料理を追加しに行ったようだ。

獣様は、「本当に手伝わなくていいんでしゅか?(´・ω・`)」と、ブロントさんに尋ねようと思った。
しかし――


「じゃあお前も行ってこいよ、ブロント」

「は? なんで俺が手伝うのか理解不能状態」

「《レジストスリープ》出来ずにグースカ寝てたナイトなんて内藤に決まってんだろ」

「ちょっとわずかにシエスタしただけで揚げ足取りかよ……
 また忍者の汚い工作活動がはじまったな、あもりにもひきょう過ぎる――」


ブロントさんと汚い忍者はいつも通りディスりあい宇宙の真っ最中。
獣様は、黙って席に着き、自らの無力さにしょぼくれた。

一部始終を見ていたリューサンが、そっと獣様の肩を叩く。


「獣様、俺は内藤を手伝いに行くつもりだけど……一緒に来るかな?」

「え、でも……(´・ω・`)」

「自分がどうしてもしたいことなら、反対されてもやってみた方が良い。
 獣様はどうしたいんだい?」

「や、やりましゅ!(・ω・´;) ボクも手伝いたいでしゅ!(=´∇`=)」

「そうか」


獣様の返事に、リューサンはその顔に笑みを浮かべる。


「そういうことなんだ、構わないだろう、臼姫?」

「別に^^♪♪好きにしたらいいんじゃないかしら^^^^♪♪♪
 …運ぶ途中で落としたりしたらおしおきさせて貰うけどね^^^^^♪♪♪♪」

「が、頑張りましゅ……((´Д`;)))」

「ははは、頑張らないとな、獣様」

「^^♪」
(私は別に獣様を、とは言ってないわよ^^^♪♪リューサン^^^^♪♪)


その一見微笑ましい気のする光景を見てカイエンは、「若いでござるなぁ……wwwwww」、と独りごちるのだった。

――あれ?
ブロントさんが本能的に主役タイプだったと思ったらいつの間にかリューサンが主役だった……
どういうことなの……
主役とそのライバル的立ち位置のはずの2りは未だにディスりあい宇宙だしもう『とある科学の超電磁槍(グングニル)』でいいんじゃ――


「うん?」
「あれ?(・ω・`)」
「あら?^^^♪♪」
「やや?wwww」


ブロントさんと忍者を除く4りが、ある一点を見て疑問の声を上げた。
その視線の先では、数人の冒険者が、なにやら揉め事を起こしているようだが――


――――――――――――――――――――――


内藤が臼姫に《スカルブレイカー》をくらった時ぐらい――

ブロントさんたちが陣取っているテーブル群から少し離れた座席にて、一組の男女が食事をしていた。


「あの一帯なんなんですかー?
 さっきから、sayやらshoutで騒がし過ぎるじゃないですかー?」


どうやら、片割れのヒュム♀忍者・ちるちゃんは、ブロントさんたちが騒がしいのがお気に召さないようで、


「よしくん、ちょっと文句いってきてくださいよ」


同席しているヒュム♂侍に、そんなことを言う。


「アタッカーとして誘われたからにはしょうがありませんねww」


なにもしょうがなくない気がするのだが、しょうがない、のだろうか。

Yoshihiroの《黙想》!
よしくんはリゲイン効果を得た。


「/sh 【はああああああああああああああああ《黙想》!】
 /sh どこの誰かは知りませんけど、【天に帰る時が来たようだな!】」


《黙想》マクロを叫び、長弓・《重藤弓》を取り出すヒュム侍♂・よしくん。
騒がしくしたって理由でいきなり刃傷沙汰とかちょとsYレならんしょこれは……
誰か男の人呼んでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!


「ファイナルそこまでだ」


地の文の祈りが天に届いたのか、よしくんが矢に手を伸ばしたところで流石に見かねたのか、
一人静かに飲んでいたエル♂ナイトが2りを止めに入った。
ああヒーローは本当に偶然常に近くを通りかかるもんだなと納得してしまう。


「酒場とは、冒険者がファイナル疲れを癒すファイナル憩いの場所だ。
 彼らはファイナル少しいき過ぎだがファイナル正しい使い方をしている。
 ファイナル静かに飲みたいならば《音楽の森レストラン》あたりをファイナルおススメしよう。
 此処でファイナル無粋な真似をするのは止してもらえないか?」

「はー?
 あなた初対面に向かっていきなりファイナル無粋とかなにさまのつもりなんですか?
 ハラスメント行為とかんじました」

「ファイナル違う。
 注意と忠告であって、キミたちにファイナルハラスメント行為をしようとした訳ではないんだ。
 すまない、オレの言い方がファイナル悪かったのなら謝ろう」

「謝って済むなら警察はいらないっていうwwwww
 ハラスメント行為と感じてしまったのですから、慰謝料を私たちにくださいね^^;」


ファイナル真摯な対応をするファイナル紳士なエル♂ナイト、ファイナルタツヤさん。

だが、ちるちゃんとよしくんはファイタツさんにご立腹のようだ。
このままなぜか慰謝料を請求されてしまうのだろうか?


『そんなヤツらには千の言葉より残酷な俺という説得力』


ファイタツさんのピンチに、突然何者かが蝶のように舞いながら割り込んできた。
それは《フォースアーメット》という鉄仮面で顔を隠し、《エルヴジレ》に《ピスケースサブリガ》という露出度溢れる装備を着こなす、
セクスィーでいかにも伊達ワルそうなエル♂だった。

…ちなみに上記にセリフらしきものが書いてあるが、伊達ワル男は語らない。
ただその美しき舞いが観る者にそう訴えてくるのだ。


「キミは……?」


ファイタツさんが突然の闖入者に驚いていると、


赤魔子はファイナルタツヤをつんつんつついた。


背中をつんつんと突かれた。
振り向けば、そこにいるのは内藤の前から姿を消した赤魔子だった。


赤魔子は楽しげにステップを踏んだ。
赤魔子はファイナルタツヤを賞賛した。

「…キミたちはオレにファイナル賛同してくれるのか?
 ……そうだな、ファイナル正義の心を失わなければ説得を出来ないはずはない!
 見知らぬ賛同者よ、ありがとう。 ファイナル感謝する」

「…なんでそれで意思の流通ができるんですかー?」


おそらくファイタツさんの彼らの意思に対する解釈は正しいのだろうが、第三者から見れば、
ひたすら踊る人間や感情表現コマンドを連発するだけの人間と意思疎通するという奇妙な光景しか見えない。

ちるちゃんがジト目でファイタツさんたちを見る気持ちも分からなくはなかった。


「間違えなくへんなひとたちとかんじますし。
 よしくん、やっぱりこの人たちの撲滅しますからよろしくですしおすし」

『大人の淫靡な夏果実はガキのクチには合わねぇ。 
 来いよ。 俺の吐息は子守唄。 黒に抱かれて、クレバーに眠りな』


変人駆逐のために、片手刀・《千手院力王》と《不動》を取り出すちるちゃん。
伊達ワル男・ヴぁーんさんは蜂のように踊りながら、腰に提げた2本の片手棍・《チャームステッキ+1》を抜くことでそれに応える。


赤魔子は気合いをいれた!!


赤魔子もやる気まんまんだ。


「いや、ファイナルちょっと待ってくれ、オレはファイナル肉体言語で話をしたいわけでは――」

「ザ子供が数を増やすなんてひどいじゃないかおい!」


ちるちゃんとヴぁーんさん、それに赤魔子へ待ったを掛けようとしたファイタツさんの声をよしくんの怒号が遮った。
改めて《重藤弓》を構え直すよしくん、誰に狙いを定めようかと考えて、ふと、自分と相手の戦力を比べてみる。

純粋な戦力の数もそうだが、相手方は装備もしっかりしているし、ナ踊―いや、ナイト?―赤という、
まあ悪いというほどの構成じゃない、というか火力はあっても回復役のいないこちらより明らかに――


「……急用ができたので帰りますね^^;」

「はー!? こんな時間に用事ってありえるんですかー!?」


急用が出来てしまったのでちるちゃんを置いて戦略的撤退をしようとするよしくん。
ちるちゃんの非難も省みず長弓をしまって走り出すが、


「そうはい神埼wwwwwなんてなwwwwww」


しかし まわりこまれて しまった!
だがそれはファイタツさんでもヴぁーんさんでも赤魔子でもない。
よしくんの前に立ち塞がったのは通風だった。


「ヴぁーんさんの舞いを見ないで帰ろうなんて、そうは問屋が卸さねえよwwwww
 絶やしちゃあならねえのさwwwこの美しき流れをなwwwww」

「なにお前加わっちゃってんの?wwwバカなの?www氏ぬの?wwww
 めんどくせえことしてんじゃねーよwwwwww」

「にゃにゃにゃ。 ヴぁーんちんだにゃ、ひさしぶり~><」

『世代を超えて受け継いだ黒騎士スピリッツ。
 お前ら、自分という「トレジャー」は見失わないでいるか?』

「はいww心に抱いたブラックダイヤモンドは砕けませんwwwwww」

「まっくろく○すけにゃ!><」

「…wwwwなにこれwww全然ついてけねえんだけどwwwwwwww
 ・えちょ キャッチコピーでwwwww会話してんじゃwwwwねえよwwwww
 あとジ○リはwwwwwやめテ!wwwwwwwうぇwwwww
 ミスwwwwwティークってwwww劇場版だとなんでwwww裸なのかな?wwwww」


ヴぁーんさんと通風は、通風がサポ踊時代に師弟関係だったりする。
扱き使われるのが嫌で逃げていた通風だっが、師匠が居てはこそこそしている訳にはいかなかった。

同じく逃げていたのに通風の事情に巻き込まれた墨樽。
ひたすら通風に付いていく猫狩。
なんとなくフラフラしてたらファイタツさんとヴぁーんさんが面白そうだった赤魔子。

これで計8りの冒険者がこの揉め事の中にいる訳だが、こんな大人数の揉め事に、
他の利用客の目に留まらない訳がない。

リューサンたちが彼らを発見したのは、ちょうどこれぐらいの時だった。


「おいwwwwwww臼がwwこっち見てwww笑ってるぞwwwwおいwww
 あーあww糞シーフのせいでwww撲殺確定だよwwwwバカ野郎wwwww
 もうどうにでもなーれwwwwよしwwwお前らwwwwケンカしろwwwww」

「通風ちんの敵はウチの敵! やーってやるにゃー!><」


墨樽はやけっぱちになってロッドを構え、猫狩は事情を聞かずに敵対姿勢に入った。


「って訳だからよwwwww手ぇ貸してやるよパラ忍wwwwwwww」

「どういう訳だかファイナル分からん。 分からないがオレは別に――」

赤魔子はファイナルタツヤと共に気合いをいれた!!

「!? ファイナル捏造だ! オレにやる気は――」

「なにをいつまでぺらぺらくっちゃべってるんですかー?」


Chiluhaは、《烈》の構え。
ちるちゃんの二刀による攻撃が右、左、右、とファイタツさんに放たれる。


「ぐっ!?」

赤魔子はビックリした。
赤魔子はファイナルタツヤを見て慌てた。

「あちゃ、声をかけなければ良かったですかね?
 避けられたせいでダメージは浅いですし《麻痺》もしてないじゃないですかー」


WS(ウェポンスキル)が完全に決まらなかったので、ちるちゃんは唇をとがらせた。


「あなたたちを撲滅したら次はよしくんを撲滅するんですし、やる気がないならさっさとプリケツさらしてくださいよ」


そして、今度こそはと刀を振るい、もう一度ファイタツさんに斬りかかる。


『疾風をまとった男こそ夏の女神に愛される!』


Vaanは、《ヴぁーんコプター》の構え。
ステッキを持った両腕を広げてきりもみしながらちるちゃんに突っ込んだ。


「おとと、あぶないじゃないですかー」


攻撃を中断して、ちるちゃんはファイタツさんから距離を取り、
赤魔子とヴぁーんさんはファイタツさんを庇うように立つ。


「…随分とファイナル好戦的なんだな、キミは」

「えー、冒険者ってそういうもんじゃないですかー」


ファイタツさんが浅いとはいえ傷を庇ったりせず、懲りることなく話しかけてきたので、
ちるちゃんは右手の《千手院力王》を弄びながら答えた。


「腕前と効率がものをゆう世界なんですよ?
 話し合いでゆうこときかそうとかやっぱりあなたへんなひとだってかんじますし。
 力づくでやるつもりがないなら、始めから首をいれなきゃいいんですよー」

「そんなファイナル世界だからこそ、ファイナル憩いの場所がファイナル必要なんだ。
 オレは此処で事をファイナル荒げたくはない」

「そうですかー。
 でも力のない正義は正義にならないってえらい人がいってたような気がしますし、
 そんなことじゃあなたの意志ってなんにもなりませんよね?」

「力ならファイナルあるさ、だからおm――」

『だから俺が此処にいる。
 磨き続けた己に伊達ワルの神は裏切らない』

赤魔子はうなづいた。


ちるちゃんの刀を弄ぶ手が、止まった。


「つまり、そこのファイナルうるさい人の代わりにあなたたちが戦うんですか。
 いいですよ、どうせみんな撲滅するつもりですしおすし」

赤魔子は自分の顔をバシッとたたいた。
赤魔子はちるちゃんに指差して見せた。

『漲る自信が勝負をいつもヴィクトリーに導く。
 シーンの最前線に立ち続ける覚悟はあるか?』


一気に闘争の空気が満ちる酒場の一角。
ファイタツさんは、自分の為に戦おうとしてくれている彼らに、こう言った。


「いや、キミたちが此処で戦っては結局ファイナル騒ぎになるんだが……
 本当にオレにファイナル賛同してくれたなら表でやる気はファイナルないのか?;;」


皆性格尖ってるし話を聞かないのがデフォルトですからね、仕方ないね……
エル♂パラ忍の子かわいそう;;


「あっちはバチバチ火花飛ばしてやがるがwwwどうすんだ、侍の兄ちゃんwwww」

「用事があるんだろwwwめんどくせえからwwwwwいっちまえよwwwww
 「Q(急に)Y(用事が)K(来た)なので抜けますね^^;」とかいう侍が居るって晒し確定だけどなwwwwww」

「弱虫毛虫はきらいにゃ、どっかいけ~」


ファイタツさんが苦悩する一方、通風たち3りはひたすらによしくんを煽りまくっていた。
そもそも3りによしくんと戦う理由はない。

通風からすれば、ヴぁーんさんがちるちゃんを相手する以上よしくんはもうどうでもいい。
墨樽は少しでも時間があるならほとぼりが冷めるまで自分だけでも臼姫から逃げたいし、
猫狩はそもそも通風に付いてきただけだ。

さて、よしくんはどうするのか?


「大した用事ではありませんでしたから、もういいんですw」


どうやら撤退する気はもうないらしい。
しまった長弓をゆっくり取り出して――


「それに、そこまでコケにされたらやるっきゃないですよね^^;
 粘着質のごムイどもが集まってくるから掃除中なうっと(ピピピ」


落ち着いた口調とは裏腹に、慣れた動作で素早く矢立てから矢を取り出し、弦に添えてぎゅっと引き絞った。

それを見て通風たちも臨戦態勢に――


「通風とwww墨樽wwwやっとハケーンwwwwww
 二人でwwwwサボり系の仕事とかwwwwwマジ勘弁wwwww」ブンwシャカwwブンww


入ろうとしたら、内藤がのこのこやってきた。


「おまwwwなんでこのタイミングでwwwwwwww」

「くwwwうwwwきwwwよwwwめwwwよwwwwww」

「な、内藤ちん、今はそれどころじゃないんだにゃ><;」

「俺様だけwwww仲魔ハズレにしちゃwwwwwイヤンwwwwww
 bokuのwwwwwお腹の小人さんがwwwwwwピィピィwww泣くんだよねぇwwwwww
 遊びも良いけどwwwwwご飯買いにwwwwい か な――」


Yoshihiroは、《サイドワインダー》の構え。
よしくんの弓から放たれた強烈な矢は内藤に命中した。


「アワビューwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」ガンッwガガガガンッwww

「なっ、内藤ちーーーーーーんっ!!><」


猫狩は叫んだ。


「肉盾乙wwww」ゲラゲラゲラ
「肉盾乙wwww」ゲラゲラゲラ


通風と墨樽は腹を抱えて笑った。


「…その人ってあなたたちの仲間だと思ったんですけど、違うんですか?^^;」

「wwwwwあ?wwwwいや、否定してえところだがよwwwwwww
 こんなんでも残念なことに同じLSのメンバーだぜ?wwwwww」

「仲間がやられたってのに爆笑するなんて、随分と薄情なんですね^^;
 やはりごムイはごムイということですかw」

「は?wwwwバカみてえなやられ方しやがったら笑い飛ばしてやる方がいいじゃねえかwwwww
 ・えちょ 空気読まずにwwwwやられにくるとかwwwwwバカ以前にwwwwwありえねえーwwwwwwwwww
 ミスwwwwマル・ユリカがwwwwww当初はウザキャラだと思っていた時期がwwww
 俺にもありましたwwwwwwww」

「薄情だなんてことはないにゃん、だって――」


今度こそ、通風たちは武器を構える。


「今からボコして仇とりゃそれでいいだろwwwww」

「やき入れてやんよwwwwwよし逃げ野郎wwww」

「でも逃げようたってもう遅いにゃ!」

「…ごムイってのは訂正させてもらいますねw」


長弓から両手刀《ソボロ助広》に持ち替えるよしくん。
今、廃人たちの戦いの火蓋が切られた。


「ちょwwwみんなカッコヨスwwwwwwww
 俺様もwwwww俺様もwwwwww目立ちたゐwwwwwwwwww」

「うっせwwwww死体役は寝てろwwwwwww」

「うはwwwwwwおkwwwwwwwwwww」


――――――――――――――――――――――


「あらあら^^♪♪あいつらあんなところで遊んでるわね^^^♪♪♪」

「う、臼姫……?」


臼姫から漂うどす黒いオーラに、リューサンを初めとしたその場にいる全員が冷や汗を流す。
ブロントさんと忍者がディスりあいを止めるほどである。


「おしおき…いいえ^^♪」


「処刑しなくっちゃ^^^^^^^^^♪♪♪♪♪」


片手棍をかついで通風たちのもとへゆっくり歩いてゆく臼姫。
全員が酒場に血の雨が降るのを幻視した。


「た、大変だ! み、みんな! あの騒ぎを止めに行こう!」

「あんな恐ろしいい敵を作りたくないので僕はやめときますごめんなさい」


ブロントさんはビビっていた。


「はっ、ははは! や、やはりナイトはビビりでござるな^^;
 ゆ、唯一無二の盾ならあいつらの盾でもしてこいよ!」

「そ、そういうおもえは蝉であいつらを守らなくていいのかよっ!」

「た、他人の喧嘩の仲裁なんて効率が悪いこと出来るかっ!」


忍者もビビっていた。


「いやいや、酒場に冒険者のケンカは付きものでござるよwwww
 はぁ~、他人のケンカで茶が美味いでござるwwwww」


カイエンは……良く分からない。


「…し、仕方にいな! 盾がなくてはHNMが倒せるはずもないからよ!
 俺がいってやれば汚い蝉盾も草侍も必要ないべ!」

「て、テメエ……! 
 ――俺が行ってやるよ、ナイトじゃ心もとねえだろからな!」

「ふむ、たまには騒ぎに加わるのも一興でござるかなwwww
 拙者の《月光》が火を噴くでござるよ!wwwww」

「「《月光》乱発はやめろ(といっているゴザル)!」」

「…手伝ってくれるならもうなんでもいいよ;」


リューサンは呆れが鬼なって嘆息した。


「みなしゃん、僕も仲裁する側に周りましゅよ(`・ω・´)」

「うむ、助かるぞ、獣様。
 相手はあの臼だからよ、一人でも多いPTなら経験値ロストしないで済むぞ」

「えへへ…(*´・ω・`*)」

「…しょうがねえなwwww俺の背負った業を魅せつけてやるかwwwww」

餡黒しゃんも仲裁する方に助太刀してくれるみたいでしゅ(=´∇`=)」

餡黒…? それは誰だい? もう一人知り合いが来てくれるのかな?」

「ですよねー……www」

「あ、餡黒しゃん……(´;ω;`)」

「………………」
(比較的まともな奴だと思ってたんだが、やっぱこいつも内藤の仲間だな。
 なにもないところ見て涙ぐんでやがる……)


全会一致で止めに行くことが決定したところで、
争う集団の中から「/sh (((((;゚Д゚)))))ピギャァァァァァァァァァァァアァアアアァ」という断末魔が響いた。


「/sh 糞樽しゃ~~~~ん!!!!!!」

「はっはっはっwwwwもう臼姫殿は暴れておるなwwwww
 早く行かねば手遅れになってしまうでござるよwwwwww」


確かにぐずぐずしていては、臼姫に全滅させられてしまうかもしれない。


「…いろんな山脈があるとそれをまとえmるのも楽じゃないなやはり中心人物でヌードメーカーのナイトが不在ではやはりダメ。
 俺はヴァナに居てやらなければならないと思った(確信)。
 行くぞ、お前ら!」


今までちょっと周りが濃すぎて目立てなかったのを挽回するかのように、ブロントさんが号令を出す。
即席5りPT+1りは臼姫を止めに向かった。




―――

―――――――――


「…だから、そのように急いて何処へ行こうというのだ、《大極の騎士》よ」

「……e?」


どこかで、聞いた声がする。

その声が聞こえた途端、《蒸気の羊亭》からはブロントさん以外誰も居なくなった。
汚い忍者も、リューサンも、カイエンも、内藤も、通風も、墨樽も、臼姫も、猫狩も、獣様も、餡黒も、赤魔子も、ファイナルタツヤも、ヴぁーんも、ちるはも、よしひろも、店員たちも、自分たち以外の他の客たちも、誰も、誰も、誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も、居なくなった。

声は、背後からする。
ブロントさんが意を決して振り向けば、そこにあるのは《禁断の口》だ。
ブロントさんをオ¬コ都に送り込んだ例の《禁ケ莖ハカ・


「おい、馬鹿、やめろ……」

『汝が向かう先は友の元に非ず』


ア童uケ莖ハカ罰ヒ鳴動し、全てを飲み込み始めた。


「やめろ……!」

『この門の向こう、だ』


全てが壊れて、崩れて、全てが飲みキ=アレア雎ツアアォアa
ヴァナ・ディールに還ってこれたのに、ブロントさんはまたア瞳¬コ都ア罰ヌコフアアア雎邀ハアシアa


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

『我が復活と死への礎となれ…ブロント……!』


身体が浮く、サアシ<アシア`カ罰螻、アニアアa
アレアサエロキ=アレア雎邀`アレアサシeアハアアニアクオテアヌコフアアア雎邀a
クワアソエチアテオア゙カァア、アニア闇の中に落ちる時に、


「キ導ァアΤニアアテアΤΥ夢,イ擺uイ`アΤ・」


誰かが、泣いているような、気がした。


――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――




「うおああああああああああっ!?」

「うわぁ!?」
「きゃあ!?」


再び《禁断の口》に飲まれ、ブロントさんは飛び起きる。
嫌な汗が流れる額に手をやると、なぜか手には籠手が着けられていなかった。
否、籠手だけではない。
着けていたはずの装備はきっちり外しているし、というかブロントさんは酒場に居たはずなのだが、
いつの間にか布団で横になっていたらしい。

そこは、見慣れた酒場である《蒸気の羊亭》ではなかった。
調度品も家具も置いておらず、仕切りも何もないトイレが部屋の隅に設置され、窓には鉄格子が嵌まっている、
見知らぬ天井のある薄汚れた一室なのだが、さっきまでの状況を踏まえると、
とてもではないが自分が此処に居るという実感を、ブロントさんは持つことが出来ない。
否、持ちたくない。


「…此処は、どこなんですかねぇ?」


なぜ彼女らが此処にいるのか理由が分からないが、
灰色のプリーツスカートと半袖のブラウスの上にサマーセーターを着た、
目を丸くしてブロントさんを見ている少女たちに――
昨日知り合ったばかりのフレに、此処がどこだか分かっていながら、自分がどこにいるかを尋ねた。

驚きが鬼なっていたツーテールの少女は、妙な質問をするブロントさんを心配し、
同じく驚きが鬼なっていたセミショートの少女は、少し笑って手に持っていたペットボトルをブロントさんに差し出した。


「え? 此処は学園都市の風紀委員活動第一七七支部の一室ですの。
 アナタには、昨日は此処に泊まって頂いたのですが、お忘れですの?」

「忘れてるってよりは、寝ぼけてるんじゃない?
 ほら、これ、ミネラルウォーター。
 飲めば少しは頭も冴えるでしょ?」


丁寧な言葉遣いのツーテールに、冒険者のような凛々しさを持つ短髪。
間違えようもない、ブロントさんの新たなフレだ。

此処は、そう、学園都市の――
学園都市……ヴァナ・ディールでは、ない。


「黒子、美琴……なんでもにいぞ。
 幹人の言うとおりちょっとわずかに眠り過ぎちぇしまっただけからよ童話で言うと三年寝太郎」


おれがヴァナに帰れたのは夢だったのかよ、と、ブロントさんは心の中でひどく落胆した。
昨晩見た悪夢は、結末を除けばとても素晴らしい夢だったから、とても落胆した。
自分が居るべき場所に居ることと、居るべき場所に居ないことは、こんなにも差があるものかと、
痛感してしまったから。

だが、そんなことは目の前の少女らには関係ないことだ。
ブロントさんは心中を悟られまいと、なんでもないように美琴から水を受け取った。


「ちょっとわずかはどこ行ったのよ。
 しかしまあ、用途が用途とはいえ――」


美琴はブロントさんが一晩過ごした場所を見渡す。


「長居はしたくない環境ね。
 アンタ、こんな所でちゃんと休めたの?」

「一応定期的に掃除をしたりはしていますが、本来風紀を乱した学生が勾留される場所ですので……仕方ありませんの」

「しらにいのかどんな所でもアミバ都古のKOS-MOS荘だった。
 世の中には押入れとか棺桶だけがHPのやつもいるからそれに比べたら男ならコレくらいチョロイ事」

「その、ホームポイント? たぶん住み家ってことなんでしょうけど、
 アンタは良くても、いつまでも支部に居てもらうって訳にもいかないのは、分かるわよね?」


副音声としては「つまり出てけってことよ、言わせないでよ恥ずかしい」といったところか。
……まあ、そこまで強い意味はないだろうが。


「グラットン持ってる人は廃人だから頭が良い人が多いんだよ。
 俺はINT500ぐらいある思考の騎士だからお前に言われるでもなく羨望を把握済み。
 そももも冒険者はニシエヒガシエ名無し草なんですわ。
 HPロストしても生きていけるからよ、まあ見てなw」


美琴に言われるまでもなく、ブロントさんは此処に長居するつもりはなかった。


「その日のうちに風紀委員支部に逆戻りでしょうからやめてくださいまし。
 もちろん今度は、客人としてではありませんのよ?」


けど、そんなの黒子が許さない。


「【むむむ】」

「なにがむむむよ!」

「奈良、おもえらはおれにどうしろって言うんですかねえ?」

「…ふっふっふっ……」


仏頂面の巨漢が少し拗ねたような目で、自信満々で不敵に笑うガイナ立ちの少女を見上げている。
黒子にはこの図がどうにもシュールに見えた。


(お姉様…昨晩はああ仰っていましたが、いったいどうするおつもりなんでしょう?)


黒子は寮で働くメイドに文句を言われるまで食堂に残り、
美琴の使ったフォークを大人しく返すか懐にしまうか延々考えていた為、
美琴がなにを画策しているかをまだ知らない。

ちなみに美琴の食器は、尊大な態度のメイド見習いにちゃんと回収されましたとさ。


「聞いて驚きなさいブロント…さん!
 この学園都市第3位のレベル5・御坂美琴が!
 アンタが衣・職・住、全てを手に入れられる方法を考えてきてやったわ!」


自信満々に胸を張り―張るほど胸がな――ウボァー!―高らかに秘策の存在を宣言する美琴。
自信満々の割には「ブロント…さん」と呼ぶ辺り、まだ昨日のこともあって、
呼び捨てにするのがちょっと怖いのかもしれない。


「……はー?
 「衣・職・住」とかあまりにも文章力が結核しているバカは見たことない。
 おまえの幹事力のなさにおれは呆れが鬼なる」

「アンタが言うな!
 だいたい、食料は別だからこれで合ってるのよ!」

「お姉様…常盤台の学生がダジャレというのは、わたくし、どうかと思いますの……」

「う…うるさいうるさいうるさい! と・に・か・く、どうなのよ!?
 私のこの良い考えに乗るの!? 乗らないの!?」

「ひょとするとおもえらはそれを教える為に麻っぱらからこんなところに奇譚ですかねぇ?」

「そうよ。
 わざわざ学校行く前に寄ってやったんだからありがたく思いなさいよね」


それは本当にありがたいことだ。
行く場所もないブロントさんには、どんな条件の場所であっても、
留まれる場所が出来るなら、それは一つ返事で教えて貰うべきだ。

だが、ブロントさんは――


「良い考え【いりません】」

「そうよね。
 アンタには行く場所もないみたいだし、そのなりじゃ下手に街を歩き廻れないもんね。
 まあでも遠慮することはないわよ、自分の意思で来たって訳じゃないなら仕方ないんだしさ――
 ってえ、いらんのかい!」


美琴、渾身のノリツッコミ。


「……え? 本当にいらないの?」


なにやらブロントさんの反応が芳しくないとは思っていたが、まさか断られるとは思わなかった。


「さっき冒険者は名無し草って言ってたべ。
 俺はヴァナに帰る方法をいっこきゅもはやく探さなくてはならないからな。
 この街でおさまるわけにいかぬだろうとおれは旅支度を始める」


そう言ってブロントさんは布団から立ち上がり、カカッと武器防具を装備し始めた。


「ちょ、ちょっと!」

「ブロントさん! まさか、本当に今すぐ出ていくおつもりなんですの?」

「おもえらはヴァナのことを分からないなら俺に此処にトドまる理由はないのだよ。
 それにおまえらにはもう十分に助けられたからよこのままでは罪悪感に営まれて俺の胃がストレスでマッハなんだが?」


今ブロントさんは、落ち着く場所を手に入れてからゆっくり帰る方法を探そうという気になれなかった。
昨晩見た故郷(ヴァナ)の夢に背中を押されているというのもあるかもしれない。

でもそれ以上に、これ以上美琴たちの手を焼かせたくなかった。

善意を振り切るというのは、いささかブロントさんの胸が痛む。
だが、彼女たちは学生――自分のような根なし草とは違った彼女たちの生活があるのだ。
自分のような人間が近くに居ては、そう遠くないうちに不和が生じるはず。

まさか見ず知らずの人間が落ち着ける場所を探してくれているとまでは思わなかっただけに、
ブロントさんは、既に自分は引き際を誤ったとすら思っていた。

しかし、素早いな流石一級廃人すばやい。
ブロントさんはあっという間に準備を整えた。
そして部屋から出て行こうとする。


「ちょっと待ちなさいよ!」

「そうです!
 出て行ったところで、どこへ向かうというのですか!?」

「この街に手カガリがないなら他の街に行く。
 心肺しなくても邪魔するやつは親のダイヤの結婚指輪のネックレスを指にはめてぶん殴るからダウンする。
 多分奥歯が揺れるくらいの威力はあるはずだしね」

「力ずくで行く気ですの……?
 そんな無茶を宣言されて風紀委員が黙っ――」

「ちょっと待てって……言ってんでしょうがぁ!!」


Mikotoは、《お嬢ヤクザキック》(6c)の構え。


「おうわぁ!?」


ブロントさんは美琴に背中を蹴られてバランスを崩し、壁に顔面をぶつけた。


「お、お姉様……!?」

「なっ!何をするだァーーーーーッ」


黒子は美琴の突然の蛮行に仰天し、ブロントさんは顔を痛そうに抑えながら美琴に抗議する。


「あ、アンタが人の話を聞かないから悪いんでしょうがっ!
(ちょっと足止め程度に蹴るつもりだったんだけど、力加減間違えちゃった……)
 だいたいねえ…黙って聞いてりゃなんなのよ!?」

「いえ、お姉様はぜんえzん黙って聞いてませんの」

「(∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ 。
 アンタが謙虚さをかもそうとしてようが私の知ったこっちゃないのよ!
 こういうのは断った方が気まずくなるって分っかんないかなぁ」

「む、むう……駄菓子菓子――」

「和菓子も洋菓子もない!
 アンタこの街じゃ、私たち以外に頼れる人間居ないんでしょ?
 私たちは、アンタの友達なんでしょ?」

「ソレは、そうなんだが――」

「だったら!」


ブロントさんの言葉をひたすら封殺する美琴。
ブロントさんがなにを考えてるか、なにを思ってるかなんて美琴には分からない。
あの気に食わない女王蜂(メンタルアウト)ならともかく、だ。

でも、それでも汲み取れるものだってある。
美琴は、ブロントさんが遠慮して妙な壁を設けようとしているのが気に入らない。

互いに友達と、認めあったのだから――


「……だったら、私たちに頼りなさいよ。
 友達ってのはさ、そうゆうもんでしょ?」

「…お姉様の言うとおりですの。
 お友達をお助けするのは当たり前ではなくて?
 風紀を乱さない限り、ですけれど」


黒子も、美琴に追従した。


「巫女子……グロ子……」


フレが自分を助けようと手を差し伸べているのに、焦っていたとはいえ、
それを余計な御世話と言わんばかりに伸ばされた手を払ってしまったことを、
ブロントさんは心の中で少し恥じた。

勿論、彼女らの言葉で180度改心したという訳ではない。

自分が彼女らの手を借り過ぎるのは間違っていると思うし、
彼女らが昨日今日出会った友人に多少善良過ぎるのも、少し心配になるぐらいだ。

だが、2りは、しっかりとブロントさんの目を見て、心を込めて、説得してくれている。


(毒を食らわばサラマンダーだな……)


言葉も使い方も違います。


「すまにいな、その通りだと見事なカウンターで返されてしまった感。
 言い返そうと必死に回転させたが言い返す言葉が必要なかった」

「…わたくしの名前の間違え方だけ悪意がありませんこと?
 シリアスが壊れるって言われたばかりなのにまるで成長していませんの……」

「コイツは名前間違えるのがデフォだから気にしちゃダメよ、黒子。
 ていうかブロント…さん、アンタ、学園都市から出られないわよ?」

「【えっ!?】」

「IDがないと出入り出来ないのよ、この街は。
 ……あったって簡単には出来ないけどね。
 だからアンタは、必然的にこの街に当分は居ないといけないわけ」

「マジで?」


満足に出入りも出来ぬえとかロープレのダンジョンかよ、と、ブロントさんは驚きが鬼なる。


「マジですの。
 でも、わたくしはこの街に留まるのは悪いことではないと思います。
 ブロントさんが他の者の意思でこの街に来させられたということは、帰る手掛かりもきっとこの街にあるはず……
 ですから、お姉様の提案に、騙されたと思って乗ってみませんか?」


黒子の問いの後、しばし一同無言の沈黙状態。

黙っていても、ブロントさんは迷っている訳じゃない。

昨日だって彼女たちを信じたのだ。
もう少しだけ、力を借りようと、決断してある。


「乗るぞ」


ブロントさんは美琴に手を差し出す。


「お前の良い考えと屋良に乗る。
 やはりソロよりやはりPTだな…今回のでそれが良く分かったよ>>350 >>965感謝。
 俺だけではミギーもヒ・ダリも分からず裏世界でひっそりと幕を閉じてしまう可能性があった」
   
「ふん……わかりゃいいのよ」


美琴はそれに応えて軽く握手を交わした。


(イイハナシダナー……ですの)


黒子は少し熱くなった目頭に軽くハンカチをあてた。


「でも、ただ教えるってわけにはいかないわ」


美琴のこの一言で、2りの感動が一気に醒める。

ブロントさんと黒子は、まるで《バインド》がかかったような気分になった。
急に美琴の笑顔が、怖くなったような気がして。


「……【えーっと・・・】」

(すごく…嫌な予感ですの……)

「昨日の食事代と同じよ、等価交換――
 英語で言うとアルケミー、だっけ?」

「…おれがお前にしてやれることなどあんまりナイト思うんですがねぇ?」

「だったら身体で払いなさい」


ブロントさんは不良だからよバイクはノーヘルだし握手は左手でする。
左手での握手は、相手を嫌うとか、つまりはケンカを売るという意味合いがあるとかないとか。


「私と勝負しなさい、それが交換条件よ」


「ああ、やっぱり……」、黒子は目眩がしそうになった。


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