第一次2年全クラス試験召喚戦争も終わって週末。
「映画を見に行きましょう」
私は秀吉と映画に行くことにしました。
「別によいのじゃが…どうしたのじゃ?突然」
「せっかくの休日なんだし、秀吉といろいろと遊んで回りたいからね」
「…速攻でホテルに連れ込むのは無しじゃぞ?」
「じゃあトイレに連れ込むわ」
「何をする気じゃ!?」
冗談なのに何でそんなに必死になるのですか。
「そんなアブノーマルな事はしたことないじゃない」
「主ならやりかねんじゃろう」
秀吉は私を何だと思ってるのですか。
別にそんなに頻繁にはやってないではないですか。
それに秀吉が倒れてからそんなに激しいのはしてないのです。
そのかわりスキンシップは常時とってますが。
まあなんとなくむかつくので、
「秀吉が望むなら…どんな責めでも、耐え…られるわ」
「何故ワシが強要したような感じになっておるのじゃ!?」
とりあえず弄ります。
「まあアブノーマルプレイはお預けとして」
「じゃから、ワシは望んでおらぬからの!?」
◇
さて、と言うわけで映画館に来たわけですが。
「あら、美波に瑞希?」
「あ、彩ちゃんに木下君」
「おぉ、お主らも映画かの?」
「はい♪そうなんです」
そういえば明久の『約束』のほうはまだでしたね。
瑞希を見た瞬間、何故か悪寒がしました。何故でしょう?
「で、明久はそこで何を固まってるの?」
「あ、彩…」
すごい煤けてますね明久。
「ちょうどいいから、二人とも彩たちと一緒に見てきなよ…僕はいいから」
両手に花でそのコメントはないと思います。
「あのねえ…明――」
「あきらめろ明久」
私の声を後ろから誰かが遮ります。
誰かと思ったら、鎖につながれた雄二でした。
「男とは、無力だ」
抵抗をあきらめたのか、力なくいう雄二。
「…雄二、どれがみたい?」
「早く自由になりたい」
「じゃあ、地獄の黙示録」
「おい待て!それ3時間23分もあるぞ!?」
「2回見る」
「1日の授業より長いじゃねえかそれ!」
「授業の間、雄二に会えない、う・め・あ・わ・せ」
そういう時間の共有のしかたはどうかと思うのですが。
「あー、だめよ翔子ちゃん」
「…彩」
「おぉ彩!今の俺にはお前が女神に見える」
なんか雄二が私を拝んでいます。
「ここに如月ホテルのスイートルームのカードキーがあるわ」
ですが残念、邪神のほうです。
「そんなあからさまなフラグに従えるか!俺は帰あがががががががががが」
雄二、その台詞のほうが死亡フラグですよ。
「彩、いつもありがとう」
「いえいえ、本当は秀吉と行くつもりだったんだけどね」
「…秀吉ーーーっ!!」
「雄二、強く生きるのじゃ…」
「とりあえず、せっかくだから一緒の映画を見ない?」
ちょっとあおるだけで延々と収拾がつかないので提案します。
「…どれを見るの?」
「これ」
そういって私は『28年後』という題名のゾンビ映画を指差す。
あの向日葵どもがどたばたやってる映画の監督の前作なのです。
とりあえず秀吉に見せておこうと思っていたのでした。
「あ、あの…パニック映画はちょっと」
「あー、ウチもちょっと…」
瑞希と美波が正反対の反応を見せる。
「怖くなったら、明久に抱きつけばいいじゃない」
なので二人に耳打ちをしてみます。
「い、いいですね!私、一度見てみたかったんです!」
「私も!ちょっと前から気になってたんだ!」
二人とも分かりやすいですね。
「翔子たちはどうする?」
「問題ない」
「じゃあ…僕はー―」
「とりあえずチケットもらってくるわ。株主優待でタダだし。学生7人」
「ハイ学生7人気絶した学生1人1回分ですね♪」
なぜ気絶した雄二だけ分けるのか疑問ですがまあいいのです。
「で、明久どうしたの?」
「なんでもないよ!?さあ美波に瑞希さん行こうか!」
現金なやつですね。
◇
「こ、怖かったです」
「そうねー思い出すだけで失神しそう」
「ショッピングモールでの生活いいなあ…」
「映画館のロビーから記憶がないんだが…」
「なら、雄二、また見ましょう。ホテルで」
ダッ(雄二が駆け出す音)
ビリビリビリビリ(雄二が頚動脈にスタンガンを当てられた音)
ズルズルズル(雄二が引きずられていく音)
映画館から出てきたみんなは五者五様の感想を述べている。
翔子たちは早くもホテルに直行するらしい。
「秀吉、どうだった?」
「うむ、物語のメリハリといい、役者たちの演技といい、流石としか言いようがない。特にハンディカムで取った風の演出は臨場感が出ておった」
「演技は誰が一番よかったと思う?」
「やはり、あの銃砲店の店主じゃな」
「40点」
「手厳しいのう」
さて、映画を見たらおなかが減ったのです。
「そろそろお昼にしない?」
「あ、それなら私、お弁当を作ってきたんです」
「っ!」
瑞希のセリフに私の肩がびくりと跳ねます。
「む?どうしたのじゃ彩」
「い、いいいいいえななななななんでででもないわ。あ、ああ!そうだ!わたわたわたしもお弁当を作ってきたの」
こここここんなことももももあろろうかと、お弁当という名の万一の備えを持ってきてよかったのです。
「あ、ウチも一応持ってきたわ」
どうやら、女性陣は全員お弁当を持ってきたようです。
…さっきの悪寒はこれのせいだったのですね。
そしてやって来ました公園。
コンビニで買った使い捨てランチマットを広げて私たちは自分たちが持ってきたお弁当を出します。
正直、ずっと前に招待されちゃ宮中晩餐会並みに緊張します。
命の危険がある分宮中晩餐会以上かもしれません。
感覚としてはサファリパークに檻なしの車で入った気分です。
と言うか、今までに経験したどんなものよりも上回る恐怖が私に駆け巡っています。
この平和な現代で実際に命の危険になんて早々遭遇しませんからね。
ちなみに美波には飲み物を買いに行ってもらいました。
「姫路さんのお弁当かあー楽しみだなあー」
「うむ、でもワシは食べなれた彩の弁当の方が」
それを知ってか知らずか、秀吉と明久はのんきな会話をしています。
目の前には私、美波、そして瑞希のお弁当。
それぞれ和食、サンドイッチ、洋食と言う感じになっています。
「わぁ瑞希のお弁当本当においしそう」
「そうじゃの、どれも色鮮やかじゃし外で食べるお昼というかんじじゃの」
「ね、ねえ早く食べようよ」
明久、貴方は何でそう死に急ぐことを!!
「…じゃあお先に」
そう思ってると何故かいつの間にか現れたムッツリーニがから揚げを口に放り込んでいた。
「な、なんでムッツリーニがいるんだよ!?」
「自主ト――」
ガタン ガクガクガクガク
なのよ?と突っ込むまもなくムッツリーニが真後ろに倒れて痙攣しています。
「なんだ?ムッツリーニが倒れているようだけど」
「あ、雄二。ホテルに行ったんじゃないの?」
「何とか逃げてきた…」
「とりあえず瑞希さんのお弁当とか食べてみない?」
「ほう、なかなかに美味そうだな。どれ(パク)」
ドタン ビクビクビク
雄二、私の警告を覚えていますか?
「…雄二。こんなところにいたの」
「あ、翔子ちゃん」
「捕まえてくれて、ありがとう」
あれは、あり地獄のようにあがいたらますます状況が悪化すると言う意味でもあったのですよ。
翔子に引きずられていく雄二を尻目に、私は心の中でそう雄二に言いました。
「あの、ムッツリーニ君どうしたんですか?」
「……(グッ)」
瑞希の言葉に反応するようにムッツリーニは起き上がり右手でグッと親指を立てる。
…ひじを必死に押さえて腕…というよりも全身の痙攣を抑えて、ですが。
このままでは殺されます。
そう判断した私は
「あ、ちょっとお箸忘れちゃったから、ちょっと買いに行ってくる」
「え?あ、はい。わかりました」
この場からたとうとし、
ポーチから予備のケータイを弄って自分のケータイに電話をかけ、
咎を背負う~罪人から~(着うた)
「Hello, Speaking. What!? …ごめん瑞希、私の代わりに買ってきてくれない」
突然かかってきた電話に対応するそぶりで瑞希に代わりに買いに行ってもらいってもらう。
そしてその瞬間、
「ごふっ…!!」
ムッツリーニがおびただしい量の血を流しながら真後ろに倒れた。
いつもとは異なり、口からの出血で。
「ムッツリーニーー!!!!」
「ねえ、秀吉…砒素ってニンニク臭がするのよ?…味付けにいいと思わない?」
「…彩、まさか」
「化学の『授業で習った内容』をそのまんま料理にも当てはめてるの、瑞希って」
絶望の表情で私は秀吉に答えます。
「と、言うことは…」
「あのお弁当は、正直『化学兵器』レベルよ…一回料理を教えようとしたことがあったんだけど…」
「だけど…?何なのじゃ!?」
「いろいろあって、出来上がった料理にはウランが多量に含まれていたわ」
「何故ウランが出てくるのじゃ!?」
私に聞かないでよ。
「まあ、そんなわけだから、明久」
「な、なに?」
「完食しなさい」
「僕に死ねって!?」
「…いい、明久。元々今日、私は貴方たちと合流する予定じゃなかったの。そして、瑞希はおそらく、美波もお弁当を作ってくると知っていた、その上でお弁当を作ってきた。これが意味すること、分かる?」
「えーと?」
「明久、貴方のために作ってきたのよ」
「ぼ、僕のために!?」
「そう、そして『愛は世界を救う』と言うわ。世界すら救えるんだから、この毒物がふんだんに使われたお弁当を食べても、きっと明久を瑞希の愛が救ってくれるわ。あとは…わかるわね?」
まじめな表情で、明久を見つめる。
「…うん。分かったよ」
何かに至ったようで、明久は瑞希のお弁当箱をつかんだと思うと、
「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
すごい勢いで食べ始め、
「ゴファ!?」
次の瞬間吐血しました。
「あ、明久ーーっ!!」
秀吉が叫びます。
これで命の危険は去ったのです。
「愛は世界を救わない、と」
「彩、明久が!明久の瞳孔がすごい開いておるぞ!!」
「大丈夫よ。…たぶん」
「その根拠はどこから来るのじゃ!?」
「秀吉、長生きする魔法の言葉を教えてあげる」
「なんじゃ!?」
『私は何も見なかった。私は何も知らない』
「…」
「さ、私が作ってきたお弁当を食べましょう」
「………そうじゃの」
ようやく環境に適応してきたようで、私は嬉しいですよ秀吉。
◇
「ふぅぁ…心地よいのぅ…」
あの修羅場も終わり、なんかいろいろとあきらめた秀吉は私の膝の上で舟をこいでいます。
ちなみに、明久はあの後なんか復帰して美波と瑞希とでなんか両手に花状態になっています。
しかし、なんと言う至福。秀吉のふやけた寝顔で私のMP
萌えポイント
はマッハで有頂天です。
今ならばどんな質問にも答えてしまいそうなので――ってメールです。
はいはい、返信、と。
そういえば何のメールですかね?
『from:お姉さましらないですか?』
『to:明久といちゃついてるよ』
―ー送信者:清水美春
…やっちゃったWA♪
「お姉さまっ!」
「み、美春!?」
次の瞬間にはどこから現れたのか、美春が美波に突っ込んでいました。
「ぶべら!?」
明久に膝蹴りを食らわせながら。
「ひどいですわお姉さまこんな心地のよい昼下がりにわたしと一緒にいないどころかこんな薄汚い豚野郎と一緒に白昼堂々情事だなんて!」
「何の話よ!?は、はなしなさいー!!」
…まあ、隣の喧騒を片目に和やかな昼を過ごすと言うのもいいかもしれません。
「ぬぅ…どうしたのじゃ彩…なにやら騒がしいが」
「明久がらみよ」
「なら仕方がないのぅ…ふにぁ…」
隣では、何とか見張るを引き離した美波が明久を盾に…あ、3人そろって逃げ出した。
美春も全力で追いかけていきますね。
美波…それは貴方にとって悪手よ。まあそれ以上の手があるとは思いませんけど。
そんなことを考えながら私は秀吉の艶やかな髪を撫でながら溜まったメールの対応をするのでした。