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[27010] 【習作・オリ主】インフィニット・ストラトス -Code Cthulhu-
Name: うどん求道者◆753eebb1 ID:67d0c2cd
Date: 2011/04/17 03:48
初めまして。この度、この掲示板でSSを投稿させていただきます、うどん求道者と申す者です。

友人経由でISを知り、原作を読んでみたところドストレートにハマってしまい、勢い余って二次創作を書いてしまいました。

まだISに触れた歴が浅い者なので原作の雰囲気や設定を損なってしまうかもしれませんが、そういった部分はご指摘していただけると嬉しいです。

「まーたにわかが二次創作なんて作りやがった」と、いう目で読んでいただけると幸いです。

本作はオリジナル主人公で世界第二のISを起動できる男の娘という設定ですので、そういったモノが苦手な方がいましたらスイマセン。

・オリ主ですので雰囲気や設定を損なう恐れあり。
・原作設定と大なり小なり違いがある部分が出たりする恐れがあります。
・作者はオルコッ党員
・「どうしてこうなるまで放っておいたんだ」的な展開

地雷要素てんこ盛りですが、地雷原を突っ走る方はどうぞよろしくお願いします。

それでは、原作者の弓弦イズル様と読者の皆さまに感謝を込め、執筆していきたいと思います。



[27010] インフィニット・ストラトス -Code Cthulhu- プロローグ
Name: うどん求道者◆753eebb1 ID:67d0c2cd
Date: 2011/04/06 19:20
「おめでとう、無事起動したようだな。
 これが君専用のISとなり、IS学園への転入が正式に決定した。」

…システム初期化完了
最適化段階に移行します…

脳におびただしい量の情報が恐ろしいほどの違和感の無さで入り込んでくる中、
聞き覚えある厳かな女性の声が聞こえた。

…いや、若干の安堵と喜びが混じっているあたりこれは祝いの言葉なのだろう。

昨今のコンピューターでもこの情報量の処理はパンクしかねないというのに驚くほど自然に、
まるで最初から知っていたかのように送り込まれる桁の振り切れた数値。
なのにどうも知覚は敏感だ、今なら動体視力もマサイ族に負ける気もしない。

…最適化完了、武装確認…

Cobalt…
Tentacle…
Hive…
UL94-5VA shield…
Lewis Gun model-IS…
Hive…
Under dress pierce…

「君のISの名は海神…ポセイドンだ。
これから優秀なIS操縦士として精進してくれ。」

海神…
ポセイ…ドン?

いや…、この子の名はそんなもんじゃない。

「いえ…、Ct…?Hu…?
………クトゥルフ?」

そうだ、この名だ。

「…クトゥルフか。
確かに、ポセイドンよりは似合う名だな。」

…我ながらいいネーミングセンスだ。

神話のポセイドンとは似ても似つかぬ、スカート状に張り巡らされた蛸の触手のような装甲。
アンチレーザー材質のゴム状の表面は腕に絡みつくような感覚さえある。
背中の羽は一体何の役に立つのかという位小さな蝙蝠の羽の様な補助ブースター。

…これが、今までこの一瞬からこれから三年間の高校生活のためだけに捧げられてきた私の形なんだから。
せっかくだからいい名前を付けなきゃいけないしな。



転入…か。
どうせなら桜咲く並木道をらんらんと歩きたいところだが私を出迎えてくれたのはみずみずしさを帯びた紫陽花だった。
…それもその筈、今は6月、ちょうど梅雨真っ盛りの優鬱な時期だ。
くぅ、もっと早く私のISの配備が済んでいれば自然な形で私の高校生活はスタートしていたというのに…。

「はぁ…、まぁド腐れ縁のあいつもいることだし何とかなるか。」

学校という小さな箱型社会では最初の人間関係というのはかなり重要なものだ。
転入という形で学校に入って来たとかそういうパターンは一歩間違えば卒業までぼっちという恐ろしい現状もある。
それに私は普通の人間が持っているレベル以上の隠しごとがあるときた。
人付き合いには慎重にならねばな…。

とは言え、同じ専用機持ちで顔見知りで…周りに明かしはしないし明かさせないけど同性のあいつがいる。

「よし、どうにでもなるわね。」

余計な考え事はここでシャットアウトさせ、真白の制服のスカートをひらりと揺らしながら私はIS学園の校舎へと足を運んだ。



入学から二カ月ほど経つが相変わらずこの席、この状況には慣れはしない。
しかし、女の子たちは待ってくれないのだろうか、俺の存在に慣れ切った女の子はSHRが始まる直前まで取り合うかの如く俺を取り囲み質問攻めにする。
はぁ…、誰かこの生活に助け舟でも出してくれないだろうか…。

…ちなみに幼馴染の箒はすでに助け舟としての戦力は期待していない。
今も相変わらずの無愛想な顔で窓の外を眺めている。

「お前は窓際族か…その若さで…何ともったいない…」

「…?」

こんなにざわついてる教室で誰にも聞こえないように呟いた筈なのにこういう言葉にはしっかり反応する。
いったいどんな地獄耳してるんだよ。

「は~い!!みなさ~ん!!SHR始めるので席について下さ~い!!」

…山田先生、多分今日も全員出席…いや、人数と席の数が一致しないな…、って事は誰か休みか?

「みなさ~ん!!SHR始めるので席についてくださいよ~!!」

泣きそうな声で教壇で叫ぶ山田先生。
皆、席についてあげようよ、山田先生泣いちゃうよ?
あぁ…泣いた。

…まぁ、しかしこんなのは日常茶飯事であり、山田先生も助け舟としての戦力は期待できず…。

「とうにSHRの時間だというのに何を騒ぎ立てている!!
全員ただちに席に付け!!」

教室に響く力強く開け放たれるドアの音とそれを越える強烈な怒鳴り声。
さすがの女の子たちもびくりと背筋を振わせまるで肉食動物に睨まれた草食動物の群れが一目散に逃げるかのように各々の席に駆け込む。

…おぉ、出た、一番嬉しくないけど一番強力な助け舟!!
泣く子も群がる女の子も黙る鬼の千冬姉!!

「全く…、初日っからこうとは転入生に全く示しのつかん奴らだな。」

おっと、鬼の金棒は今日は修理に出してるのかいつもの鬼の剣幕での心砕かれるお説教タイム…と、言う訳ではなくこめかみを押さえ小さく愚痴を漏らす…って、へ?

「へ?転入生!?」

思わず千冬姉の言葉に反応してしまい若干裏返った声でリピートしてしまう。
来ましたよ、学園お約束イベントの転入生登場。
なるほど、席が一つ空いていたのもそのせいだったのか。
なら今日は全員出席です山田先生。

「え!?ウソ!?転入生!?」
「マジ?二カ月目にして転入生来る!?」
「もしかして一夏君みたいなすごいIS使いかな!?」

勿論驚くのは俺だけではないだろう。
つい先ほど静まり返っていた教室も転入生話題で再び湧き上がる。

「織斑…、集団を乱すな!!」

おーおー騒いでるなと後ろを振り向いた瞬間、千冬姉の怒号と強烈な衝撃が後頭部に直撃する。

「―――――ッッッ!!」

何も後頭部を、よりによって千冬姉の腕力で殴りつける事は無いだろうか。
いつもは前頭部への打撃がメインだが後頭部はマズイ、この姉は可愛い弟を撲殺するつもりなのか?

正直、後頭部への痛打で感覚がマヒしてるのかどうかはわからないが周りが一気に静まり返る。
そうだね、流石に殺人未遂現場見れば皆ビビって静まり返るよね。

「…コホン、今から諸君らのクラスに編入する転入生を紹介する。
さぁ、教室に入りたまえ。」

咳払いをして場を仕切り直した千冬姉は恐らく廊下に控えているのであろう転入生に目を向ける。
クラス全員の視線も教室のドアの方に集まり、視線の集中砲火が教室のドアに降り注ぐ。
緊張の一瞬…後ろの女の子たちも某賭博漫画の如くざわ…ざわ…とざわめき出す。

「はい、織斑先生。」

聞こえてきたのは可愛らしい女の子の声。
…あーあ、ちょっと転入生と聞いて俺と同じ男が来るという期待が心のどこかにあったのだろう。
しかし原則ISを使えるのは女性だけという現実を前にそれは甘すぎる考えだったようだ。
そしてそれでも期待を打ち破られ落ち込んでいる自分がどこまでも悔しい。

「いや…待てよ?これってどこかで聞き覚えが…?」

先ほど多大なダメージを受けた脳で生き残っていた思い出の何かが反応したのだろうか。
しかし、その思案に耽る間もなく、教室に一人の少女がいかにも上品な歩き方で教壇の前へと歩いて行った。

「皆さん、初めまして。
今日この時から皆さんとご一緒にISを学びます。
八十御蕎麦(やそおそば)と申す者です、宜しくお願いしますね♪」

お嬢様を思わせる上品な言葉使いと長めにしてある制服のスカートの裾を掴んでの一礼。
そして最後は極めつけのスマイル。

容姿も端麗で女性らしいフォルムをしたきっと美人に相当する女の子だろう。
後ろの婦女子の皆さまの歓声がものすごい事になっている位だ…。

「…って、ちょっとまて。」

八十…御蕎麦?
姿をパッと見ただけでは気づかなかったが流石にこんな珍しい名前を聞けば思い出す。

「…ふふっ」

そして俺の動揺に気付いたのかわざとらしく微笑む。
これは…うん、確定だ。

「お前もかぁぁぁぁぁっ!?」

そう、こいつは俺の幼馴染で…、女の子らしい可愛い顔立ちで美人だった…。
その実、体は男で男友達でもあった正真正銘の野郎だからな!!

あまりの驚きに勢いよく席を立ちあがったのはいいが、待っていたのは前頭部への強烈なダイレクトアタックだった。


あとがき
ここを利用させていただくのは初めてになりますので処女作となります。
どうも、初めまして、うどん求道者と申す者です。
ISのオリ主での二次創作ですが、
何番煎じかわかりません男の娘主人公です。
タイトルが不吉な感じですが多分原作のイメージを壊さないように気をつけていきたいと思います。

私自身、最近ISを知り、原作を読み進めている最中ですので設定の間違いやキャラ崩壊が酷い場合はご指摘いただけると助かります。

それでは、まだまだ始まったばかりですが応援していただけると嬉しいです。



[27010] インフィニット・ストラトス -Code Cthulhu- 第一話
Name: うどん求道者◆753eebb1 ID:67d0c2cd
Date: 2011/04/06 15:04
「インフィニット・ストラトス―――、通称IS
宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ。
当初は宇宙空間への進出が主な目的として開発されていたが、IS発表後に間もなく起きた事件により軍事兵器としてISの関心が高まる。
機動性、攻撃力、制圧力、どれにおいても過去の兵器を上回る性能を誇り、
それ以降、飛行用パワード・スーツとしての軍事転用が行われて行った。」

…梅雨真っ盛りのこの時期で雨こそ振ってないもののぐちゃぐちゃなグラウンドを利用するにも利用できず、本来ならばとうに実戦演習等の本格的なISの訓練が始まるわけだが、アリーナも他クラスが利用しているためこの時間は皆揃って座学に努めるというわけだ。

…と、言っても今私が音読してるこの分厚い教科書もここにいる全てのクラスメイトが入学から半月以内で叩きこまれた事だし、私だって入学以前から十分に学習している。

ただ、私が今日からIS学園に転入したという事もあり1年1組のこの時間の授業は特別にISの基礎倫理のおさらい、という事になった。
普通ならさっさと新しい知識を大急ぎで取り入れるべき体制の学園だというのに、
あの千冬さん…、おっと、織斑先生でさえ「時に基本を復習することも大切だ」と仰ってるようなので誰一人反論できず淡々と授業が進められる。

「ただし、ISを起動できるのは原因は不明ながら女性のみとされており、原則、ISは女性専用の兵器であるとされている…。」

で、その例外なのが私と…、このクラスの代表である男友達の織斑一夏。
まぁ、一夏に関しては世界初のISを起動できる男として全世界でニュースになったけど。
私は…、同じ男だとしても一夏とはまた都合が違う。

女にしか扱えない兵器…、その上その戦闘力は従来の兵器がクズ鉄に見えるほど。
そんなものが存在すれば当然、社会は女尊男卑の傾向に偏ってしまう。
すると、そんなISを男性が起動できるような開発を進めてしまうものだ。

そして、その試みの被験者となったのが私…。
結果としては男性が起動可能のISと言っても普通の男性が起動できる代物にはならなかった。
なので男性を女性に限りなく近づける事によって起動可能にできるようにしたということだ。
と、なると性転換すればいいという話になるが、それでは元男の女が増えるだけで根本的な解決にならないし、昨今騒がれている少子化問題に拍車をかけるだけになってしまう。
なので、幼少期から性転換手術こそ行わずも女性ホルモンを人為的に投与する事によって体の基盤は男として保ちつつ、外見を女性に近づけるという実験が行われた。
これによって生殖機能を持ちながらも限りなく女性に近い男性になれる…というわけだが。
そうそう話は上手くいく筈がなく、被験体となった私以外の子供たちの多くはは奇形化、原因不明の突然死、いかにもモルモットらしい展開を遂げている。
無論、こんな非人道的な実験は国の機密として秘密裏に行われている事であり、こんな実験に我が子を報酬金目当てで差し出す親も親でどうしようもないクズだという事だ。

…そして私はその被験体の一人で、最も女に近い男。
このIS…、『海神』を起動できた生き残り。
八十(やそ)蕎麦屋の跡取りとして生まれたごく普通の男の子の私がまさかこんな事になるなんて、とても十年前の五歳の私には想像もつかなかったか。

「…でも、一夏君という例もありますしISは女性の特権と言う事でもないかもしれませんね。」

私は教科書から目を離し、一夏の方を見て微笑む。

「はい、八十さんありがとうございます。
初日だというのにしっかりとISの基礎倫理は押さえていますね、優秀な子だわぁ…。」

うんうんと頷き感心している山田先生。
微妙にサイズがあってないメガネが上下に揺れている。
…メガネ屋さんで新しいの買った方がいいですよ、割とマジで。

まぁ、私の転入が今日になったのは私の専用IS…『海神』
開発部はポセイドンと名付けたけど私はクトゥルフと呼んでるこの子の配備が遅れたからだし。
その間は政府から送られてきたISの『あなたの街の電話貼』数冊分に及ぶ教科書やマニュアルを叩きこまれたからこの位お茶の子さいさいだ。蕎麦湯の方が好きだけど。

…今思えば私は世界で二番目のISを起動出来る男というわけだ。
一夏は…、まぁちょっとした腐れ縁で私が男って事を知ってるけど。
それでも、理由もわからぬままISを起動できた男の一夏より
理論的に、男でISを起動できた私が政府の隠蔽により持て囃されないのはちょっと悔しいかな。
まぁ、私ったら戸籍上女で登録されてるし仕方ないか。

そんな事を考えながら席に座り思案に耽っているとつまらない授業はすぐに終わった。



「ねぇねぇ、御蕎麦さんってあの八十蕎麦の娘さんなんだよね!!
やっぱり蕎麦作るの上手なのかな?」

「えぇ、一応跡取りとして蕎麦作りに関してはまだお店の味には及ばずとも自信はありますよ。
今度皆さんにおご馳走したいですね。」

「ところで一夏君と知り合いっぽさそうだけどどういう関係なの?」

「私が小さい時お店に来てくれてたお客さんでその時にお友達だっただけですよ…、あはは。」

まぁ…、SHRは織斑先生に恐れて何も聞かれずにすぐさま一現目の授業に入ったわけだが、それも終わって休み時間となるとクラスの皆が転入生の私に押し掛け質問攻めにする。
ここ地元じゃ有名な高級老舗蕎麦屋の八十蕎麦の跡取りであるというのと、一夏と知り合いであるというのが合わさってとにかく質問のバリエーションがすごい。
てっきりIS学園とか言うからISの事とかいかにもエリートチックな事を聞かれると思ったが、そんなことはなく、いたって年頃の女の子らしい質問内容だった。

あ、ちなみに蕎麦作りは今からでも店を構える位の腕は持ち合わせているつもりだ。
まぁ、一夏と知り合いだという件はいずれバレるにしろ、SHRで一夏が絶叫したせいでその時期が今日に早まってしまった、というところか。

「はぁ…、仮にもエリートの集うここIS学園でこのような陳腐な質問をなさるなんて…。」

形容するならまさに英国貴族っぽい下賤の者を見下すかの様な口調の声。
と、私の前に立っていた女の子も道を譲るかの様に突然立ち退く。
そして私の目の前に現れたのは…。

「八十さん、つまらない質問ばかりで飽きた頃でしょう。
八十蕎麦屋はわたくしの祖国でも良くお耳にしましたわ、今度御馳走になりたいくらい…。
…あら、失礼。 自己紹介が遅れましたわ。
初めまして、わたくしはセシリア・オルコット…、イギリス代表候補生入試主席ですわ。」

何だか代表なんたらとその肩書きも大層なものだ、ここは合わせてやるか。

「まぁ…、まさかとは思いましたが貴女とご一緒のクラスだなんて光栄です。
クラスメイトとして宜しくお願いしますね。
あ、それとお店の方にも是非お越しになって下さい♪」

うん、そして私はこのネーチャンを知らない。
でもこの手の手合いは適当に話を合わせとかないと後々面倒なので適当に返す。

「ふふふ…、どこかの誰かさんと違ってご丁寧な挨拶ですわね。
これからの学園生活で解らない所があるなら教えて差し上げてもよろしくてよ。」

さっきの返事が良かったのだろうか、このセシリアとか言う英国淑女に相当気にいられたようだ。
うん、第一印象って大事だよね。

…しっかし、流石英国淑女と言ったところか、日本人に比べ発育も良く、同じ一五歳とは思えぬほどの美しい体のライン、やけに気取ったポーズも自然に似合っているので一層美しさが際立たれる。
うん、ねーちゃんいいおっぱいと尻をしとるのぅ…、と私がオッサンならそう漏らしてる筈だ。

ん?いや、私だってこんな姿だけど男だしさ。
そりゃあ美人を見れば興奮するし思春期男子特有の無限の性欲くらいは持ち合わせていますよ。
…とは言え、ここで皆に男とばれれば今後の計画と生活に支障をきたすのでぐっと抑える。

「それで…セシリアさん?
私に何か用があるんじゃないですか?」

「あら失礼、うっかり言うべき事を忘れてしまっていましたわ。
八十さん、貴女もわたくしや一夏さんと同じく専用ISを持つ方と先生方からお聞きしましたが…、
是非、その事についてお話していただけないかしら?」

専用IS…、あぁ、クトゥルフの事か。
やっとIS学園らしい質問が来た…。

「えっ?せ、専用IS!?」
「専用IS持ちがこのクラスに三人も!?」

そりゃ騒ぐだろう。
世界のISの絶対数は467機、それにその内の専用機となるとそれこそエリート中のエリートだ。
まぁ、私の場合は人体実験兼ねた試験運用という名目だが。
と、そんなことより私自身も驚いた。
このセシリアとかいうのはともかく、まさか一夏が専用機を運用してるだなんて思いもしなかった。
…一夏も私の様に実験体として扱われていなければいいが。

しかし専用機の一言でクラス中はお祭り騒ぎだ。
これではセシリアも話そうにも話せない状況になり、呆れたようにぶつぶつとぼやく。

「おい、御蕎麦…。」

と、黄色い女の子の声に混ざって違和感ありまくりの野郎の声が。

「あら、一夏君。何か用?」

「…あぁ、ちょっとついてきてくれ。」

すると一夏は私の腕を掴み廊下で話そうと促す。
…やはりまっとうな男には適わないのだろうか、腕を掴まれた時にはひょいと体が引っ張られてしまった。

「ちょ、ちょっと一夏さん!?まだわたくしと八十さんのお話は終わってませんわよ!!」

席を立ちあがるセシリアだが、お祭中の女の子の人ごみにはばかれ、苛立ちに一度地団駄を踏んでそこに立ちつくす。
ごめんごめん、野郎との話が終わったら後で付き合うからさ。



と、言う事で騒がしい教室から出て廊下で一夏と二人っきりになる。
未だ一夏に腕を掴まれてるこの姿を見られたら間違いなく勘違いされるだろう。
いや、冗談じゃない。私ホモじゃないし。

「…ふぅーっ」

自分を落ち付けるように深呼吸をする一夏。
ちょっと待て、まさかの愛の告白か?
と、言うよりお前はまさかのおホモだちか!?
しばらく合わないうちにこいつは一体何に目覚めたんだ。

「御蕎麦、見た目はこんなんだがお前もISを起動出来たのかよ!?
ってか、世界で二番目のISを起動できる男じゃないかお前!!」

深呼吸してたのに全然落ちつけて無いじゃないか。
…しかしこんな用件か。良かった、まだ同性愛に目覚めてはいないようだな。

「ちょっと一夏、声が大きい!!
他の子に私が男ってバレたらどうすんだよ。」

「…あ、す、すまん。
…確かに俺もそれで今苦労してるしな。」

…まぁISを起動出来たがために女子校状態であるIS学園というこの時代の男にとって異質な空間である所に強制入学したんだもんな…、その苦労は…、

「あ、いや…、そう意味じゃなくてだよ。
私は戸籍上女に登録されてるし…、こんな見た目だろ?
実質、世界第二なんだろうけど公には発表されないわけ。
ほら、テレビや新聞にも一夏の時の様に私の名前なかったでしょ?」

IS企業にとっては、ひいて世界にとっては大いなる一歩かもしれないが実験内容が内容だ。
それを知られれば非人道的と非難される事は間違いないから私が男である事は隠蔽される。
故に、私は専用機を持った少女としてしか扱われていない。

「そう言えば…、って、どうして戸籍が女なんだ?
外見はどうであれ、一応お前だって男だろう?」

まぁ、疑問に思うのは当然か。
一夏は私が男だというのを知ってはいるが…、実験の内容自体は知らないし教えてもいない、彼が知るべきでもない。
生まれつき女っぽいだけ、とまだ女らしい体つきになってない時にはそう思われていたんだろう。
今は胸だって年相応の女の子並に膨らみ、男の様な声変わりだってしていない。
女らしい、を通り越して見た目では完全に私は女だった。

「それは…一夏は知らなくていいよ。
一夏がISを使える事とかそういうのにも関係ない事だし。
…それじゃあ、二現目始まるから私は戻るよ。」

「おい…、ちょ、御蕎麦!?
関係ないってどういう事だよ!?」

嘘はついてない。
関わらなければ本当に関係ない事だから…。



あとがき

プロローグと一緒に作っておいた第一話でした。
どうも、うどん求道者です。

何だか人体実験等のきな臭い設定になってしまった…と、言うよりそういう作品が大好きな私でした。

御蕎麦の転入は時期的にはシャルルたちが入ってくる直前、と言うところでしょうか。
そうなると1年1組は転入ラッシュですね、忙しい6月です。

今回はセシリアさんを登場させてみましたが、出番は少なめでキャラ崩壊の恐れは…、多分ないと思いますがおかしな点があったらご教授していただけると嬉しいです。

それでは、今回まではオリ主の御蕎麦がメインになってしまいましたが次回から色んなヒロインを活躍させたいと思います。



[27010] インフィニット・ストラトス -Code Cthulhu- 第二話
Name: うどん求道者◆753eebb1 ID:67d0c2cd
Date: 2011/10/03 03:10
「…さっきはきつく言い過ぎたかな?」

後ろを振り向いてみると一夏が追ってくるような気配はない。
まぁ、あんな事言ったんだから当然といえば当然だが…。

一夏には関係ない…、か。
正確には関係していて欲しくない、と私は言いたかったけどそれを言ってしまえば一夏の性格の事だ、突っ込むなと言っても私の事情に首を突っ込んでくるだろう。

あいつとはなんだかんだ言って唯一の男友達として仲良くやっていきたいし。
昔のように、いつも通り接してくれればそれでいいんだから。
私のこの身体の件について触れてくれなければ今まで通り幼馴染で居られる。
だから、一夏を拒絶するつもりで言った言葉ではない。
…まぁ、私が男って事バラしたら…、バラすけどね

「でもセオリーに反して追いかけてこないのはそれはそれで腹立つわ…。」

しかし、あいつとは小学校卒業以降は顔を合わせていないが結構薄情なやつに変わったんだろうか?

「それにしても…」

一夏とのさっきの事は置いておくとして…、廊下にやけに人が少ない。
ふと3組の教室を見ると生徒は皆机に座って教科書やノートを出し…。

「あぁ、つまりは…。」

背筋に冷たい物を感じて恐る恐る腕時計を見る。
二時限目まで…、
……

タイムリミットは25秒!!

やべぇよ、二現目は千冬さんの授業だよ!!
いくら顔見知りと言えど朝見たようなあの出席簿アタックだけは喰らいたくないッッッ!!


迫る生命の危機、なりふり構ってられない私は女の子走りなんてちょろいもんでなく陸上選手のそれのように廊下を駆け抜ける。


「3…、2…、1…、
……0。
よし、遅刻だな。」

その頃、1年1組の教室内、
ドアの目の前では腕時計を見ながら出席簿片手にカウントする千冬教員。
カウントゼロと同時に出席簿を天高く掲げいつでも神の鉄槌を下す準備を済ませる。
響くチャイムはその光景を目にする生徒たちにとっては鎮魂歌の様にも聞こえた。

かくして、本日1年1組の新たな仲間となった転入生は若い命を散らすこととなる…
と、いう事は流石にあり得ないが既にクラス全体の空気が御通夜のテンションである。

「スイマセンっっっ!!遅れましたぁっ!!」

バァン!!と勢いよく開かれるドアの音と一緒に
パァン!!と小気味いい打撃音が教室中に響き渡った。

ドアを開けた瞬間に天から鉄槌が降り注ぎ強い衝撃と共に後ろに大きくのけ反る。
あまりに突然なので悲鳴を上げる暇すらない…、が、間違いない、この音は今朝一夏が散々喰らってた千冬さんの出席簿アタックだ。
ってか、千冬さん私に転入前ISの基礎起動教えてくれる時はこんな事しなかったのに!!

「ひぃぃっ!?スイマセンスイマセン千冬さん!!実は迷子になってて!!」

「織斑先生と呼べ。」

そして二発目の出席簿脳天直撃弾。
人体もISのようにダメージが数値表示されれば今の二発でどれくらい喰らっただろうか?
それほどに容赦ない一撃、クラスの皆が千冬さんを畏怖してる理由が転入初日で判明した。
知り合いとは言えどここは学園、だめよ私とあなたは教師と生徒、と言う事です。

「転入初日と言う事で道に迷ったということは考慮して手加減はしておいた。
授業を遅らせるな、早く席に着け。」

これが手加減なら1年1組は地獄だぜ、フゥー!!ハァ―!!
と今後の学園生活が恐ろしい。
そんな不安を胸に未だひりひりする頭を押さえつつ私は自分の席に向かう。

…うん、そこ皆クスクス笑ったりしようよ。
こういう時だけIS学園らしく優等生っぽくするの止めようよ。
まるで私が生命に関わる甚大な怪我を負ったかのようなテンションで見るのは止めて欲しいな。

そして私が席に着くと何事もなかったかのように千冬さん…、いや織斑先生のありがたーい授業が始まった。

…って言うかさ、一夏。
何で私より後ろにいた筈のお前が平然と授業の準備を終えて席に座ってたわけ?



「…以上、三現目はアリーナでの模擬戦闘を行う。
各人着替えをすぐに済ませてアリーナに集合、いいな?」

次は実習授業だからか、他クラスより少しばかり早く織斑先生の授業が終わる。
あれだね、体育の授業の前は更衣の分の時間を考慮して早めに終わるやつ。
実習授業って事は実際にISを起動させ模擬戦闘を行ったりするやつだ。
もう6月だし、クラスの皆は転入生用IS学園のパンフレットによると5月のクラス対抗戦をとうに経験したつわもの達ばかり、全員参加制の実戦を皆が経験している。
私とて千冬さんや専属研究員に転入ギリギリまでISの基礎動作やクトゥルフの武装のテストなど叩きこまれたわけだが、IS同士で戦うというのは入試試験以降、それも試験の時の様な生ぬるい仕様無しで戦うのは初めてだ。
知識や基礎の部分では皆と並んでいるにしろ、やはり戦いの勘というものはどうしても皆とは遅れがあるのは確か…。

と、いうのは今の私がどう心配しようがどうしようもない事実なのでこれ以上は考えないでおく。
それで実習演習では当然ISを用いるわけだが、ISを起動する際には専用のISスーツを着用する必要がある。
ISが原則女性にしか起動できないというのもあり、ISスーツは形に差異はあれど基本的にはレオタード状の露出こそ多いが実用的で動きやすい形の衣装だ。
まぁ、専用機持ちのISスーツはISそのものに量子変換された状態で登録されてるから一々着替えなくてもIS起動と同時にスーツと衣装が入れ替わるわけだから、専用機持ちである私と一夏、そしてセシリアとかいう英国淑女は元々更衣の必要はない…のだが、
実は量子変換されたISスーツと服装をIS起動と同時に自動的に行わせるとえらく時間がかかる上、IS自体のエネルギー消耗がかなり多い。
そういうことで皆と同様、あらかじめISスーツに着替えておくということになるのだ。

あぁ、ついでに専用ISはいつでもどこでもISを起動できる様に持ち運びが可能となっている。
その時の形態を待機形態とか言って普通はアクセサリー形状と言われてはいるが…。
にもかかわらず、私のクトゥルフの待機形態は御世辞にもアクセサリーとは言い難い形状だ。
開発部の人たち嘘ついてるんじゃないだろうね?
そんな量産型のISと違う専用機だが、当然の如く許可されてる場所は制限があってそれを破れば法に触れるし少なくともIS学園に居られなくなる。
私たちの様な歳場も行かない少年少女が扱っているという事で意識してない部分もあるだろうが、ISは立派な『兵器』なのだから。
元は宇宙での活動を可能にするマルチフォーム・スーツとして開発されていたが、結果としては戦争の道具、つまり殺しの道具としての力がある事に違いはない。
…幸いな事に、今はこのISは国家防衛力とスポーツの一つとしてしか利用されてないけどね。

「…よし、流石に初日っからISを忘れてるって事はないわね。」

私はいつも身につけるにはちょっと季節的に面倒という理由で鞄の中に入れていたクトゥルフを確認して、更衣室へと向かう女の子について行くように立ち上がる。

「ちょ、おい御蕎麦!!お前はこっちだろ!?」

鞄を持って皆について行こうとしたところを突然、野郎に掴まれた。
いや、まぁ確かに生物学的には私も野郎なんだけどさ。

「ちょ…、ちょっと一夏君?
一夏君は男の子です…よね?
幾ら幼馴染だからって昔の様に一緒に着替えろだなんて…。」

私はその野郎…、一夏に振り返りわざとらしく、周りに聞こえるように返してやった。
下半身のアレさえ見られなければ私はどう見ても女、幾ら女子同士でも下の下着までは乙女の恥じらいと言う事で脱ぐ事はないから一緒に着替えようともばれる事は普通にない。
今のも一夏は私が男という事を知っているからついつい反射的に言ってしまったんだろう。

「う、認めたくはないが確かにお前の言う通り…
って、なんか俺が誤解されるような言い方は止めろよ!!」

「キャー!!一夏君ったらケダモノー!!」
「昔の様に…って、ええっ!?織斑君と御蕎麦ちゃんってそんな関係だったの!?」

本来なら急いで更衣を済ませなければならないのだが、女の子たちも立ち止まり一斉に私と一夏を取り囲む。
そしてそんな女性勢の中でも恐ろしいオーラを放っているのが二人…、これ殺気って言うんだよね。

「ほぅ…、お前も随分落ちぶれたものだな一夏…。」

ポニーテールときつい印象を受ける釣り目が特徴的な仁王立ちの少女…、確か名前は篠ノ之箒。
一夏の幼馴染の女の子でたしか実家は剣道の道場だったとか。
小学校時代、一夏繋がりで名前と顔は知っていたものの当時性別がバレないようにと同年代との付き合いを避けていた私とは交友は無かった。
私としても名前を聞いてやっと思い出した位だが、昔とは随分容姿は変わったものだ。
ただ、一夏の話に聞いてたまさに武士道の鏡、ってのはわかる気がする。
そして片手には何故か竹刀が握られている。
これって銃刀法的にどうなの?教えて詳しい人。

「見損ないましたわよ…、一夏さん…。」

そして箒と一緒に一夏に歩み寄るもう一人はセシリア・オルコット。
英国淑女らしいやけに似合った腰に手を当てたポーズの美しさは健在だ。
ただ、その表情には明らかに青筋が浮かんでいる。
勿論、セシリアの腰に手を当ててない方の手には「あなたの街の電話帳」一冊分に相当するISの教科書-初級編-が武器として握られている。
使用者の腕力は問わずとしてその武器そのものの攻撃力は千冬さんの出席簿をはるかに上回る。
もしこれを持っているのがセシリアでなく千冬さんだったら死人が出るだろう。

「ちょ、ちょっと待てよ二人とも…、これは誤解で…。」

じりじりと一夏に歩み寄る二人。
女尊男卑の時代の現代でも女性に対して割と堂々と接している一夏も今回ばかりはブルブルと震えまくっている。
さっきまで囃し立てていた女子も箒とセシリアの剣幕に固唾を飲んで立ちつくすあたり、要するに今一夏に迫っているのは万人に共通して現れる死への恐怖とかそういった類のやつだ。
まぁ私は内心、ざまぁと心の中で笑ってるが。

「「問答無用(ですわ)!!!!!」」

ベグシャア!!と、某生物災害ホラーサバイバルゲーム第一作目のクリティカルヒット音が教室中に鳴り響く。
竹刀の乾いた打撃音と鈍器特有のあの鈍い打撃音が重なるとこんなにも猟奇的な音になるのか。

「…うわ待て止め…ッ!?へブラィ!?」

謎の悲鳴を上げながら1メートルほど吹き飛ばされ、追い打ちかの如く教壇に頭を強打する一夏。
なおイスラエル人の出自は不明とされているがカナンの諸都市から逃れた奴隷たちが定住した説や、アラム地方から定住したという説があり、多様な出自を持つ人々の中からヤハウェ神信仰の部族が集まりイスラエル部族連合が形成されたものであると考えられている。
ちなみにこれ、来週の教養課程の古代イスラエル文明の小テストに出るそうです。

教壇にもたれる様に倒れ込む一夏を見て救急車を呼ぼうと携帯電話を取り出す女の子がいるが、この場合は警察もどうせ呼ぶなら呼んだ方がいいと思う。

「ふん、ただでさえ短い更衣時間をさらに短くしてしまいましたわ。
八十さん、女子更衣室に案内しますからわたくしたちについてきてください。」

「また私以外にも幼馴染だなんて…、私は聞いていなかったぞ…!!
もういい、時間がもったいない…、さっさと更衣室に行くぞ!!」

倒れ込む一夏を一瞥するとセシリアと箒は私の手を取りぐいぐい引っ張っていく。
それとどうでもいいけど箒ちゃん、そこ怒るとこ違うんじゃない?

思いのほか力強い二人に連行されるような形で教室の外に出た私たちに続いて他の女子生徒達も教室からぞろぞろ出ていく。
「一夏君ったらそういう趣味もあったのね…」とかそういう幻滅に似た声と
「織斑君かわいそー」という先ほどの惨状を憐れむ声がひそひそと聞こえていた。

かくして、IS学園唯一の男子であり、公式には世界で唯一ISを起動できる男である織斑一夏の尊い犠牲により1年1組女子生徒の更衣時間の平和は守られたのだ。
…うん、ちょっと調子に乗り過ぎたな。
まさかセシリアと箒があんな制裁を下すとは思わなかった。
後で一夏に謝っとこう。



「わぁ…、御蕎麦ちゃんって結構着やせするタイプなんだね~。」

「そんなことないですよ~、って、恥ずかしいからあんまり見ないでください~!!」

いやいや、お嬢さんの身体もまたええ乳をしておりますよ…。
うむ、自分の乳房を見るのは慣れているが他人の物を見るのはまた一段と趣深い。

「ほほーぅ、やっちーったら脱いだら脱いだで肌も真っ白で美人さんだねぇ…。
蕎麦に秘密があるのかな!?そうなのかな!?」

「いや、多分関係ないと思いますよ…、ってやっちーって私の事ですか。」

私の身体をべたべた触りながら感心してのほほんとした声を漏らす女の子。
ただし最期のくだりにだけ妙に力が入っている。
それに声だけじゃなく顔も凄く眠そうな感じの子だ。
…しかしやっちーってなんだ?
今までこの御蕎麦という破壊力溢れる名前であだ名をつけられる事はなかったが、こんな呼ばれ方をしたのは初めてだ。
うーん、名字が八十でやそと読むからやっちー…か?
しかし、蕎麦に美容効果か…、今度コラーゲン配合の新作蕎麦でも作ってみるとするか。
うん、良いヒントが得られた。ありがとう、のほほんさん。



………キャッキャ
……キャッキャうふふ
そして数えきれない時が過ぎ…
たら流石にまずい、次こそは千冬さんに本気の一撃を喰らってしまう。

トップレス姿の女子生徒との戯れもほどほどに鏡の前に立ち、ISスーツ着用の準備をする。
……鏡に映るのは1年1組の女子生徒の中でも比較的美人に相当するであろう自分の姿。
年相応に膨らんだ女性らしい乳房に細身ではあるが女性らしい起伏のあるボディライン。
絹の様な白い髪と宝石のような碧眼、乳白色の肌が可憐な少女としての私の人物像を強調する。
まぁ、見慣れてるし自分の身体って訳だから今更何も感じる事はない。

でも、同じ男同士として、もし一夏と同じ更衣室に行っていたら…、うん、一夏には刺激が強すぎるだろうな、今の私の身体は。

そんな事を考えてるうちにISスーツへの着替えは終わり、鏡の中の私は紺色のレオタード姿の少女に変身していた。
他の皆も各々の着替えが済んだそうで、ISスーツから色々とはみ出してる部分が無いかとか、実習に備えて髪を結ったりと最終チェックの段階に取りかかっている。
まぁ、ISの起動には全く関係ない乙女の最終チェックだけど。

そしてISスーツに着替えた今、専用機持ちの私はもういつでもISを展開できる状態だ。
それは同じ専用機持ちのセシリアにしても同じ事。
彼女もISスーツを身に纏い、戦闘準備はいつでもOKといった様子だ。

…専用機持ちじゃないけど箒もセシリアや私とは違う意味でいつでもかかって来いというような闘気を放っているが。
先ほどの一夏への竹刀の一撃を目の当たりにしてるし、その印象はまさに抜き身の日本刀そのものだ。

「……八十さん?
貴女…、どう見ても待機状態のISを身につけてないように見えますが…?」

同じ専用機持ちとして気になるのだろうか、量産機である打鉄を用いる一般生徒とまったく変わりない様子の私に対し不思議そうな顔をしてセシリアが尋ねる。
耳を覆う長いブロンドの髪をかき分けている仕草でわざわざ聞いてくれる、ということは彼女の耳に鈍く光るイヤーカフスは彼女のISの待機形態ということだろう。
実にわかりやすいアクセサリー形状だ。
ってか、イヤーカフスなんて普通の高校で付けてたら校則違反もいいところだろう。

「あぁ…、セシリアさんのISはアクセサリー状になるんですね…。
私のはちょっと面倒くさい形なんで鞄に入れてるんですけど。」

まぁこの状態でも起動できるんだけど身につけていない、という指摘は適切だ。
ってか、鞄の中に入ってるままの私のIS…、クトゥルフを起動させたら鞄の中が滅茶苦茶になる。

「アクセサリー状じゃないですって?
それじゃあ…、一夏さんの様に日ごろ身につけるのには不便な形と言う事かしら?」

「うーん、一夏君のISの待機形態がどんな物かはわかりませんけど…。
身につけるのに不便、と言うよりは季節とかそういうので身につけるのを躊躇うというか…。
えっと…、説明するより実際にお見せした方が早そうですね。」

どうせ授業には手に持って行かなきゃいけないものだし、鞄の中で眠っているクトゥルフをがさごそとかき分けながら探す。
…更衣室に来る前、鞄の中にあるのは確認してたけどなんせ転入当日だ。
放課後までに決まるらしいが寮に持って行く道具やただでさえ大きな教科書を入れ込んだ鞄の中は更衣室に移動しただけでごっちゃごちゃになっている。

がさごそと鞄を漁っているうちにいつの間にか私に皆の注目が集まる。
…専用機持ちがどれだけ希少な者かというのはわかるけどあんまり注目しないで欲しい…。
いや、万が一教室に忘れてたとかだったら洒落にならない…、というよりそんな事があったら間違いなく遅刻で千冬さんに殺される。
そんな事はあってはならないのだ、さぁ出て来いクトゥルフ。

「……お待たせしました。
これが私のIS、クトゥルフです。」

呼びかけに応じたのか、鞄の奥底に眠っていたクトゥルフを引きずり出し、両手で広げて披露する。

「そういう事ですの…、確かに、この時期にそれは暑苦しいですわね。」

私が両手に掲げるクトゥルフ…、今のまんまではどう見ても見た目は衣服の部類であるのだ。
オシャレを知らない人が見れば合羽と形容するであろう外見だが、十代の高校生の少女にこれが分からないほど無頓着な女の子はいないだろう。
そう、その正体は俗に言うケープと呼ばれる肩からマントのように羽織る袖の無い外衣である。
まぁ、ケープにも色々と様式があって、育ちもいいだろうセシリアには結構なじみ深そうだが説明は割愛。
実際に羽織ってみると、丈も短く、最近のファッション誌に載る様な所謂オシャレな若い女の子向けの外見をしている。
質の良いスエードの生地にふわふわとした肌触りのいい黒色の狐毛。
特に肩を露出しているISスーツ姿ではその上質さが肌で伝わってくる。

やはりオシャレに敏感なお年頃なのだろうか、皆のクトゥルフを見つめる羨望の眼差しはISとしてではなく高級ブランド品の衣装を見るそれだ。

私もこの形が嫌いという訳ではなく、むしろ嬉しい位に感じているんだが…。

「…冬物ですわね。」

さすが英国淑女、育ちがいいのかあっさりと断言する。
そう、6月のこのジメジメした気候でこれを羽織るのは季節はずれにも程があるのだ。


あとがき

二話目も何とか書き終えました。
どうも、うどん求道者です。

前回は割と重めな雰囲気でしたが今回は私の趣味前回のお馬鹿展開豊富な回になってしまいました。
反省はしてますが後悔は(ry
恐らく今回のテンションが私のいつものテンションだと思いますので以後も話が吹っ飛ばない程度にやっていきたいかと思います。
ちなみに今回酷い目に遭った一夏ですが彼は生きてます。


そう言えば白式の待機形態がガントレットであったり、男のISの待機形態は何かと面倒という共通点が…、という裏設定が原作にあるのかはわかりませんが。
でもアニメではブレスレッドなんですよね一夏。
普通にアクセサリーじゃん。

次回、ついにISの醍醐味であるバトルパートを書くので楽しみです。



[27010] インフィニット・ストラトス -Code Cthulhu- 第三話
Name: うどん求道者◆753eebb1 ID:67d0c2cd
Date: 2011/05/05 00:27
「…と、織斑君以外はちゃんと揃っているようですね。
体調が優れない人は今のうちに手を上げて下さいね~?」

ここはIS学園第二アリーナ、文字通りISの試合用に建築された専用施設。
実習授業やクラス対抗戦などの学校行事、放課後には生徒の自主訓練など幅広く使われている。

今は実習演習と言う事でISスーツを着用した1年1組生徒は出席番号順に整列しているのであった。
ちなみに今は山田先生が出席確認しているようだが、名字がやで始まり、列の後ろの方にいる私からでは山田先生の頭頂部しか見えない。
私も背は低い方だとは思うが、ホント山田先生って教師なのか疑わしいくらい背が低く私たちと同じ学生と間違えそうな感じだ。
いや…、待てよ…、私だってここ最近身長が全く伸びないし、もしかしたら私も山田先生の様な感じの大人になってしまうのかもしれない…。
自分が普通の人間とは色々違うのはわかっているが、それは少し困るな、牛乳飲もう…。

ちなみに列には並んでないが一夏もあの惨劇から無事生還し、今新たな地獄を体験中だ。
あのトラブルのお陰で着替えが遅れてしまい授業に3分遅刻。
息を切らして走ってきた一夏を待ち受けていたのはもちろん、千冬さんの出席簿である。
秒単位の遅刻でもあの出席簿が飛んでくるのだ。
分単位の遅刻をした一夏はさらに、列から外されアリーナ内を一周走らされている。
直径200メートルの円形状のアリーナステージ、まぁ一周700メートルくらいか。

とりあえず…、死ぬな一夏、強く生きろ、と心の中でエールを送り、視線を先生方の方に移す。
丁度山田先生の出席確認が終わったのか、列の前に千冬さんが歩み出る。
そしていつもの厳しさがモロに伝わる表情で私たちを一瞥し、口を開いた。

「前に話したが、今回の実習は格闘戦、射撃の実戦による模擬戦闘を行う。
先の事件で今月末に延期となったクラス対抗戦と、近いうちに行う二組との合同演習に備え各人実戦に慣れておくように。
それと…、今日転入生としてこのクラスに加わった八十もこの実習に加わる。」

え…?
延期となったって、クラス対抗戦ってまだ始まって無かったのか?
先の事件、ってことは何かアクシデントが起きたということなんだろうが…。

「…では、第一試合の組み合わせを…。
いや、そろそろか…。
八十、前に出ろ。」

ふと思い出したように腕時計を見て何かを確認すると、突然私の方を向いて前に出ろの一言。

「はい…?」

一体何の用かはわからないがとりあえずクトゥルフを両手に握ったまま千冬さんの隣、列の目の前に移動する。

「…皆も知っていると思うが八十はオルコット、織斑と同様専用機持ちだ。
だがISの初期起動を行ったのは5月の中旬、経験としては諸君らの方が1か月分豊富と言う事だ。」

「織斑先生?」

千冬さんが一区切り言い終わると列の中から一人手が挙がった。
この声はセシリアか。

「どうした?質問なら手短に言え、オルコット。」

「織斑先生が八十さんのIS起動歴をご存知なのはよろしいんですが…、
それを仰ると言う事は、つまりわたくしたちに手加減をしろと言う事でしょうか?」

若干不満げな声で千冬さんに尋ねるセシリア。
それを聞いた千冬さんは表情一つ変えずに答える。

「話は最後まで聞け、オルコット。
実際に八十はまだ実戦の経験が皆無で、今回の模擬戦闘が初の実戦となる。
ただし、転入後に彼女と諸君らとの実力の差で全体の授業を遅らせないために、彼女がISに触れてから転入ギリギリまでISの基礎動作、知識の全てを私が叩きこんでおいた。
少なくとも今の八十はこの模擬戦闘に諸君らと参加が可能なレベルと私は判断している。」

千冬さんの話を黙って聞いている生徒たちも驚きを隠せないのかざわめきが起こる。
千冬さんは一夏のお姉さんとして知り合いだったから意識していなかったが…。
確かに、『モンド・グロッソ』総合優勝者、織斑千冬の個人指導なのだ。
それがどれだけ偉大な事か、考えてみればIS操縦者としてどれだけ名誉な事だろう。

「皆静かに…、だから手加減だなんて考えなくていい。
そして第一試合は八十の初実戦とする。
試合相手の立候補者は挙手すること。」


「…うわぁ、み、皆さんやる気満々ですね。」

千冬さんが私にISを叩きこんだ、のくだりで数人の目の色が変わったのは確認したが…。
1年1組のほとんどがずばばっと手を挙げる。
もちろん箒とセシリアもしっかりと手を挙げている。

「…ほぅ、血気盛んな事だ。」

感心する千冬さん。
…でもさっきからちらちらと腕時計を見てるが一体どうしたんだろうか?

「あ、あのー、織斑先生?もしかして私…、ここの皆さんと?」

「…なんだ?ここの全員を相手にするのか?」

「いえいえいえいえ!!一人づつで!!」

いくら千冬さんに鍛えられたからと言っても、さすがにそれは冗談にならない。
私が習ったのはあくまで基礎動作、その基礎動作もここの皆は4月、5月の時点で身につけている筈である。
皆はどう思っているか知らないが、転入前の半月の特訓は千冬さんの言葉通り差を埋めるためだけのものでしかないんだから。
…しかし、そう考えるのは千冬さんに失礼…か?

「そうか、ならばこの中から一人…っと、
やっと戻ってきたか。
3分45秒…、たかが1キロメートルにも満たない距離でどれだけ時間をかけているんだお前は。」

先ほどアリーナ内を走らされていた一夏がぜいぜいと息を切らしながら戻ってくる。
そして左手は膝に付けたまま…、だが純白の騎士の小手…、ガントレットをつけた右手はしっかりと、力強く天の方向へと向いていた。
恐らく、あのガントレットが一夏のISだろう。
セシリアが更衣室で言ってた常備するには面倒な形状、とはこのことか。
正直言ってまだ私のはオシャレの範疇だが一夏のは悲惨だな…。
アレつけて歩きまわったら不審者扱いされるぞ。

「織斑、私は構わないがその状態でやるか?」

「……大丈夫、御蕎麦とは…俺にやらせて下さい。」

呼吸が整わない状態だが、その一言一言は力強く千冬さんに伝える。

「そうか…。
よし、八十の相手は織斑に決まりだ。
二人ともピットに向かえ。」

「あ、はい…」

一夏は小さく「よし」と呟くとやっと呼吸も整ったのか、ピットに向けて真っ直ぐ歩きだす。
私も千冬さんに返事をし、クトゥルフを片手に抱え、一夏とは反対側のピットに向かう。

「…あの~、一夏?」

でも流石に一言謝っておこうと思い、一夏のとなりに駆け寄り声をかける。

「……………。」

…ギリッと無言で睨まれ、そのまま無視される形で一夏はピットに入っていく。

「やっば…、こりゃ相当怒ってるね…。」

一夏がこんな怒り方をするのは…、基本的にアホみたいな理由で自分がとんでもない目にあわされた時にするやつだ。
昔はよ~くそんな感じで喧嘩してたが…、って、今からISに乗るんだぞ?

普通なら笑える幼馴染との男同士の喧嘩なんだが、今回ばかりは洒落にならない気がする。
まさかね、と苦笑いしながら私もピットへと向かった…。



――戦闘待機状態のISを感知。
操縦者織斑一夏。
ISネーム「白式」
戦闘タイプ近接格闘型。

ピット・ゲートはまだ閉まったままだがクトゥルフのハイパーセンサーはその先にいる「敵」の姿を確認している。
恐らく、向こう側の一夏も同じように私を感知しているだろう。
ゲート開放まで残り二・〇五七一八四二二秒…。
こんなわずかな時間でもISのハイパーセンサーは戦場であるアリーナの地形等を把握し、それを行いながらオートクチュール、およびパッケージの武装の弾倉への初期リロードを行っている。

…ゲート開放。
同時にクトゥルフのPIC地形最適化が終了。
私の身体に圧し掛かる地球の重力が一気に失せ、ふわりと宙に浮く。

一夏のIS…、白式はすでにアリーナのステージ上で腕を組んで待ちかまえている。
待機形態からも大方想像はついていたが、中世の騎士を想わせるフォルムの装甲。
うん、見たまんま近接特化だと言う事が分かる。脳筋フォルムだな。
…と、ゲートが開放され既に一秒とちょっと、戦闘開始まで0・八秒くらいか。
私もそろそろ出ないとな、と姿勢を少し前かがみにクトゥルフが前進しやすい体勢を取る。
同時に前進命令、下半身に集中したスカート状の触手装甲が生物の様に蠢き、勢いよくゲートから飛び出した。



「…まるで蛸、ですわね。」

一方、試合順番が第二試合に決定したセシリアがリアルタイムモニターを見ながら呟く。
転入初日である八十御蕎麦のISを展開した状態を見るのは彼女の個人指導を担当していた千冬を除き、1年1組の生徒が目にするのはこれが初めてだ。
専用機、ということで高いスペックを持つ機体である事は想像がつくが、あのケープ状だった独特の待機形態同様、展開時の形状もかなり独特の形状をしている。

外見の傾向としてスカート状の装甲と脚部装甲は大体、どのISも差異こそあれど鎧のような形をしているのがほととんど…、だが八十御蕎麦の装甲はその例に外れ、どう見ても従来のISとは異なる形をしている。
スカート状の装甲は八本の触手の様な装甲が密集して360°を覆う形になっており、その一本一本が独立して動くものだから、まさに触手そのものだ。
それにその触手装甲の表面も鋼鉄にあるような光沢が無い異質な質感。
恐らく何らかのコーティングか或いは別の素材を使っているのだろうが、その黒に近い深海の様な藍色の装甲はより生物らしさを醸し出している。

そんな特徴的な下半身の装甲を見て誰もが連想するのは、海洋棲の軟体生物、蛸だろう。
ゲートから飛び出す姿もまるで蛸壺から飛び出すかのようだ。

「ですが…、やけに上半身の装甲が手薄ですわね…。」

ISの防御能力のほとんどはシールドバリアーが賄うので、装甲が薄い部分があったとしても特に支障はないのだが、それでも通常のISにあるような肩の非固定浮遊部位、アンロック・ユニットの装甲が全く無いというのは珍しい事だ。
装甲の硬度によるが、弾頭に対しての盾などとして決して無駄ではない防御要素だと言うのに彼女のISにはそれが全くないのだ。
その代わりにあるのが、背中にある小さな蝙蝠の羽の様な部位。
翼膜部分が発光していると言う事は、恐らく加速の補助となるブースターだと思われるが…。
しかし、その機能を果たすにしては小さすぎる、一体何の役に立つと言うのだろうか?

「あれが八十のIS、名は『海神』ポセイドンだ。」

同じくモニターを見ている千冬が口を開く。
『海神』ポセイドンとは八十御蕎麦のISにつけられた正式名称だ。
実際にモニターに映っているIS名には八十御蕎麦が言うようなクトゥルフという名はない。

「ポセイドン?八十さんはクトゥルフと言っていましたが?」

そんな名は八十御蕎麦本人からも聞いてはいない。
すかさず千冬に問いかけるセシリア。

「クトゥルフと言うのは八十が勝手に付けた名だ。
…まぁ、何を思って命名したかは知らんが、ポセイドンよりは似合っているとは思うがな。」

「…確かに、そうですわね。」

見たまんま蛸のそれにポセイドンと言う名は確かに似合わない。
神話のポセイドンがどんな扱いかはわからないが、蛸のポセイドンと言うのは聞いた事が無い。

妙に納得し頷く一同。

「さて、機体の特徴、性能については諸君ら自身で学べ。
しかし…、それにしても両者動きだすのが遅い…、何をやっているのだか…。」

…とうに戦闘開始だというのに未だ動かない織斑一夏と八十御蕎麦。
個人間秘匿通信、プライベート・チャネルで話しているのだろうか、二人の様子はわからない。

…二人の様子も気になる…が、
どうでもいいのだがさっきから山田真耶が見当たらないのも何故かセシリアは気にかけていた。
本当にどうでもいいのだが何故か無性に気になってしまう。

「あの…、織斑先生?
特に要はないのですけど…、山田先生は今どこに?」

「山田君か?それなら八十の寮の部屋割に職員室に向かったぞ?」

そうですか、と聞きたい事は聞けたのだが。

「(何だかわたくし嫌な予感がしますわ…)」

それでも何かと気になって仕方ないセシリアだった。



「…あのさぁ、一夏。
えっと…さっきは…、ゴメンネっ?」

二者のISがアリーナのステージ上に立った今、とうに戦闘は始まっているのだが…。
とりあえず一夏に謝罪の言葉だけは言っておく。
個人間秘匿通信を一夏のIS、白式に繋ぐ。
頭の右後ろ側で通話をするイメージ…、というやつだ。

「……御蕎麦、お前俺に何の恨みがあるって言うんだよ…。」

うん、やっぱりいつもの一夏の声じゃない。
低く唸るような、忌々しさを込めた怨嗟の声だ。

「い、いやー…、特に何の恨みもないし、ただからかおうと思っただけで…。
まさか箒ちゃんやセシリアさんがとそこらへんは想定外だったし…。」

こういう時は正直に言っておくのがベターだ。
真摯に謝っているという気持ちを伝えるにはまずは己の行いを…

――警告!!
敵IS攻撃態勢に移行。
武装種類、近接格闘兵器の展開を確認。

え?マジ?
いやいや、マジだ。
白式の腕が一瞬発光し、一振りの刀が現れる。
武装名…『雪片弐型』
全長1.6メートルのIS用太刀型接近戦兵器。
それ以外に武装と思われる兵器を装備していないということは隠し玉でもない限り、これが白式の唯一の兵器だと言うことだろう。
と、ここまでISのセンサーで通常の何倍にも研ぎ澄まされた知覚が感知する。

「お前!!小学校の時でもその手の冗談はやめろってあんだけ言ってたし、
高校生になった今じゃ冗談じゃ済まないってレベルってことは解ってんだろうが!!」

あちらもISの知覚は十分に研ぎ澄まされているのだ、さっきの一言から1秒も経たずに武装を展開し瞬時加速を行い突っ込んでくる。
これが生身だったら数秒のレスポンスの遅れがあっただろうが、ISだとこんなにも早まってしまうのか。
流石現行最強の兵器IS、危険極まりない。

しかし、殴られるならまだしも流石に太刀で斬られるのは不味い。

――上方へ急上昇し緊急回避。
武装『Cobalt』転送…!!

命令と同時にクトゥルフの機体はアリーナステージの天上すれすれまで急上昇する。
真下には雪片を空に振り抜いた白式…、をロックオン。
0コンマ一秒もかからずターゲットの確認と命中精度の演算が終了すると、急上昇と同時に転送させておいた換装武装、Cobaltと重火器運用に伴う衝撃を緩和させるための巨大なアームが右腕に展開完了していた。
名の通りコバルトブルー配色の所謂ロケットランチャーが、まるで肥大化しているような右腕の装甲の手に握られている。
弾頭は既に装填済み、命中精度は聊か不安があるが牽制と割り切りトリガーを引く。

「…上かっ!!」

Cobaltの弾頭が発射されると同時に、白式は雪片を真上の私を穿つかのように構え急上昇。
そして弾頭と交わる瞬間、一瞬の太刀の振り抜きでそれを真っ二つにする。
二つに分かれた弾頭は、慣性のついたまま白式の横を通り抜け爆散した。

「…ちょ、避けるならまだしも切り落とすなんてね。」

ISの性能も勿論だが、一夏自身の剣の腕も相当の物だ。
流石、小学生時代剣道で無類の強さを誇っていただけはあるという事か。
思えば身体の差こそあれど、一夏に殴り合いの喧嘩で勝った事は一度もなかったな。

「だけど…、今の私なら負けないっ!!」

真下から突っ込んでくる白式と正面に向き合う。
射出後でまだ弾頭がリロードされていないCobaltは一度解除し、手ぶらになった巨大な右腕を後ろに引く。

「うおおおおっ!!」

雄叫びを上げ雪片を突きだす一夏。
雪片の軌道をギリギリまで右腕の拳を握りしめながら観察する。

…よし、このパターンなら撃墜可能!!
馬鹿正直な程真っ直ぐな雪片の軌道を機体を大きく反らし切っ先から外し、
そして眼前に刀身の半分が通過した所で、右腕の反動吸収機構を逆噴射させる。
バシュッ、と空気を一気に抜かすような音と共に、巨大な右腕は鉄槌を下すかの如く白式を叩き潰す。
本来は重火器の反動と逆方向に力を加えることで反動を無効にするアームだが、こういう使い方だってその巨大さも相まって有効である。

「ううおっ!?」

巨大な拳は一夏の頭部に命中し、急上昇する白式はその衝撃で地に墜落という形で急降下していく。

――機体ダメージ、ダメージ12.
シールドエネルギー残量508。
実体ダメージ、レベル微小。

…かわした筈と思っていたが、白式を叩き落としたのを確認するとクトゥルフが機体ダメージの警告を発する。
まぁ、ギリギリのところで避けたと言うのもあって直撃こそ免れたが装甲の一部を掠めたようだ。

「うっわ…、掠っただけでこれって、とんでもないパワーだな…。」

しかし、ダメージの量なら頭部への直撃を受けた一夏の方が甚大だろう。
とりあえずはこちらが先手を取ったと言う事だ。

「畜生…ッ!!」

普通、脳天からあんな一撃を喰らえば気絶は間違いないのだが、ISのシールドバリアーと絶対防御のシステムが働き、地に叩きつけられる前に姿勢を立て直す白式。

当然、私も今の一撃で仕留めたとは思っていない。
安全な距離を保つため白式とは反対側へと移動し、一度仕切り直しにする。

「ちょっと一夏!!いきなり斬りかかる事はないだろう!?」

さっきは何とか撃墜したが、正直言って咄嗟に反応して殴ったようなものであり、要するにまぐれと言うやつである。
結果としては一夏を翻弄したようなものだが、今のは私にとっても結構危なかったのだ。

「そういうお前こそ何の躊躇いなく殴りかかってるじゃねぇか!!」

「だからって黙って斬られるわけにもいかないでしょうが!!
私だってさっきのは結構ひやひやしたんだよ!!」

「嘘つけ!!どう見ても今のは全部計算してやってただろ!!
この性悪オカマ!!更衣前のアレだって全部計算ずくだったんだろうが!!」

カチン。

「誰がオカマだ!!大体、人が謝ってるってのにお前はありもしない容疑かけるってのか!!
上等だこの野郎、口で分かんないなら望み通り身体で分からせてやるよ!!」

――武装『Hive』展開、標的補足。
Cobalt、リロード完了、再転送…。

スカート状に広がる触手装甲の後方部分、左右前から3番目の5番触手、6番触手の装甲側面が開き、無数の弾頭が顔を出す。
同時に新しい弾頭の装填を終えたCobaltを右腕に再び展開させる。

「お、御蕎麦?す、すまん今のは言いすぎた…、ってうおああぁーっ!?」

幼馴染の激昂に驚き、怒りに身を任せていた一夏も流石に冷静さを取り戻す。
だが気づいた時には時すでに遅し、触れてはならない逆鱗に触れた彼の目の前には無数の弾頭が弾幕を形成していた。



あとがき

ついに ねんがんの バトルパート を かけたぞ!!
どうも、うどん求道者です。

ついに始まりました御蕎麦のクトゥルフvs一夏の白式。
千冬さんとのマンツーマン指導という至りつくせりな背景の御蕎麦も善戦してるようです。

模擬戦闘と言うよりもう喧嘩に近いですけどね。
しかし、クトゥルフの武装名がすべて英名なんですが読みやすいようにカタカナ表記にすべきでしょうか?
それともこのままにしようかちょっと考え中です。

次回、二人の戦闘…、もとい喧嘩の決着をつけます。



[27010] インフィニット・ストラトス -Code Cthulhu- 第四話
Name: うどん求道者◆753eebb1 ID:67d0c2cd
Date: 2011/05/05 00:30
「…ほぅ、初戦にしてはいい反応だ。」

先ほどの一夏と御蕎麦の攻防に感心する千冬。
無論、二人の戦闘を観戦している生徒達も実習とは思えない苛烈な戦闘に釘づけになり、歓声が沸き起こっている。

海神…、いや、クトゥルフの戦闘タイプは未だ掴めない所があるが、あの近接特化型としてトップクラスの性能を誇る白式を咄嗟の機転を利かして巨大な拳で撃墜したのだ。

「射撃補佐用のアームを利用するなんて…、なかなか考えますわね。」

遠距離型ISを用いるセシリアには武装と同時に展開されたクトゥルフの巨大な右腕がどんな役割を果たす物かの知識は持っていた。
光線兵器と違い、実弾兵器は一撃の破壊力…、特に装甲に対してまんべんなく被害を与えられる光線兵器とは真逆の性質の兵器だ。
ただし、その衝撃は光線兵器のそれを上回り、その大きさもIS用に旧世代の実弾兵器より一回り大きい事から射撃後に大きな隙が出来てしまう。
その衝撃を吸収し、すぐに次の行動に移れるよう、大きさは異なれど射撃を主とするISの腕部装甲にそのような機構がついているのは珍しい事ではない。
しかし、それを近接格闘に転用する…、というのは実戦経験の乏しい御蕎麦が行ったと考えると驚くべき応用力の高さだ。

「武装だけが攻撃手段で無いという指導をしっかり覚えていたようだな。」

…やはりこの人の教育の賜物だ。
近接格闘において歴代最強の名を残す織斑千冬。
その個人指導を受けた御蕎麦がさっきのような発想をするのも実は必然なのかもしれない…。

「…と、戦局は八十が有利…か。」

「…ハッ!? い、一夏さん!?」

少しの間モニターから目を離して千冬の話を聞いている間に、一旦仕切り直しとなっていた両者が動き出す。
モニターに映るのは無数の弾頭の弾幕を目の前にした白式。
恐らく、クトゥルフの武装…、これも実弾兵器、所謂ミサイルポッドの様なものか。
これには流石の一夏も一つ一つ弾頭を斬り落とす事もできない。
一夏にとって不利な状況であるのは確かだ、思わずセシリアも声を上げる。

「一発の威力は微小だがこの数だ…、さぁ、どう切り抜けるやら…。」



「…っと、危ねぇっ!?」

ターゲットである自分目がけて飛んでくる小型の弾頭を間一髪でかわす…、が、姿勢を直す間もなく嵐のように弾頭が飛んでくる。
数発は避けようが、この数相手ではどうしても被弾は免れない。
実際に既に数発が装甲に命中し、ごく僅かであるがダメージが蓄積する。
幸い、一発一発の威力が低いためか、よほど当たり所が悪くない限り態勢を大きく崩す事はない。

「…ならっ!!突っ込むまで!!」

瞬時加速…、同時に雪片を構え突撃の態勢を取る。
このまま多少の被弾は覚悟し、御蕎麦の懐に潜り込もうという算段だ。
御蕎麦の放つ『Hive』と言う名の小型弾頭に紛れて撃たれる主砲、『Cobalt』には警戒しつつ、
ホーミングする小型弾頭の誘爆を誘う様、アリーナの外側から回り込むように接近。
それでも装甲の一部が爆ぜ、ダメージ警告は鳴り響くが被害は微少、気にすることなく加速を続ける。
御蕎麦にはない実戦経験からか、その判断に迷いはない。
そして…、なによりこれが織斑一夏らしい戦い方であると果敢に突撃する白式が体現していた。


――敵IS接近…。
近接武装『Tentacle』ロック解除!!

Hiveの弾幕を目の前にした時は驚いてこそいたが、一夏はすぐに態勢を変え、再び私に接近する。
さすが経験に差があると言うやつだろうか、中途半端な迷いはそこにない。
それに怒りに身を任せた初撃と違い、今の一夏には冷静さがある。
さっきのように武装無しで迎え撃てるわけがあるまい…。
そして何より…、こいつで串刺しにしないと私の気も済まないのだから。

武装展開の命令を出すと、各部触手装甲の先端から、カシャッ、というロックが外れる音が響く。
形状に変化こそないがこれで武装の展開は完了だ。
いや、むしろこの武装はISを展開させた時にはすでに装甲の内部に最初から在ったのだから。

「おおおおっ!!」

脇構の構えの白式が、弾頭の爆発による煙を切り裂き現れる。
雪片の刀身は通常時にない輝きを帯び、センサーが高エネルギー反応を示す。
私も一夏の剣の構え様な型はないが、クトゥルフの近接戦闘に最も適した構えとして身体を反らし、脚と触手装甲の先端を一夏に向ける。

「来いよ一夏!!何処までもクレバーに抱きしめてやる!!」

刃に私の胴を抜かれる前に、クトゥルフの触手装甲を傘の様に広げ、某ライダーヒーロー第一号の必殺キックの如く白式に突っ込む。

「…っ!?な、何だって!?」

クトゥルフの抱擁が白式の一閃をわずかに上回り、白式に覆いかぶさる。
一夏の研ぎ澄まされた剣の一閃が決して遅いわけではない。
私のクトゥルフの触手装甲の制御イメージは指。
長年鍛えた蕎麦打ちによって研ぎ澄まされた指の感覚は一夏の剣に負けるつもりはない。

四肢を絡め取るように一夏を捉えた触手装甲。
腕の自由を奪われ、振り抜こうとした雪片もわずかの所で届かない。
現に、私の胴の横スレスレにはぴたりと止まった雪片、
刀身の激しい光は、獲物を前にしたものの仕留めきれない歯痒さのようなものを表したかのようだ。

「クソっ!!離せ…って…ぐああぁっ!!」

拘束を解こうとじたばたする白式。
逃がすまい、爪を立てるイメージで白式を拘束する触手に命令を出す。
ガシュッ、と重厚な装甲を穿つかのような音と一緒に一夏は苦悶の声を上げ抵抗する動きを止める。

――敵IS拘束。
全触手装甲『Tentacle』展開完了…。
近接戦闘形態『Under dress pierce』へ以降!!

これがクトゥルフの真価、全ての触手装甲に仕込まれた突剣が容赦なく白式の装甲を穿ち、さらに拘束を強める。
…クトゥルフの蛸の様な外見の機体をフルに活かす為に搭載されたオートクチュールである。



「勝負あったか…。」

モニターに映る八本の触手に四肢の自由を奪われ、さらに装甲を穿たれた白式。
それを見た千冬はすぐに二人の勝敗を悟った。
いや、この絶望的状況で一夏の勝利をイメージする者など…。

「…どうした一夏!!それくらい振りほどけ!!」

一人いた。
声が届く筈など無いが箒はモニター越しの一夏に渇を入れる。

「この状況で振りほどける筈が無いでしょう…。
確かに一夏さんにとっては必殺の間合いですが…、四肢の自由を封じられた上、楔を打たれてはあの刀も振り抜けませんわ。
それこそ、八十さんが拘束を緩めでもしない限り。」

「そ、そんな事はない!!
見ろ、確かに八十に一太刀加えるのは無理だが…、自身を拘束している触手を断ち切る事なら…!!」

あくまで現実的な判断を下すセシリア。
だが、その表情は箒と同じく一夏を心配する顔だ。
…しかし、箒の判断も決して間違いではない。

「そうですわね…、ですが箒さん。
あの状況でそれだけの冷静さを保っていられるでしょうか…?」

白式に絡みつき突剣で装甲を穿つそのクトゥルフ様子は…、まさに捕食中の蛸そのものの姿。
外野の自分たちなら他人事として冷静な思考をめぐらす事が出来るが、実際に対峙している一夏にそれが出来るかと言うと、かなり無理がある話だ。

…一度に八本の突剣から四肢の装甲を穿たれているのだ。
恐らく、白式の受けたダメージは甚大なもの、
それに実際に生身の四肢を穿たれるような痛覚はないとしても、神経情報として操縦者にも痛覚が走るのだ。
そして何よりあの体勢、痛覚で増長された恐怖は例え絶対防御により死の恐れが無いISでも操縦者の判断を鈍らせる。

だが、絶望的と言えど全くの勝機が無いわけでない。
あの一夏の事だ、どこかでチャンスを掴むだろうと願う他はなかった。

「ところで…、織斑先生。
八十さんのあの武装…、始めは遠距離戦闘型のISと思っていましたが、近接戦闘、あるいは遠近バランス型のISでしたのね。」

「その通りだ。
遠近どちらかと言えば近接戦闘に寄った武装…。
本領である近接兵器の全てはあの触手装甲に仕込まれているのが何よりの特徴だな。」

「表向きには遠距離戦闘型と思わせる武装で欺き、
懐に飛び込んできた相手を貫く…、と言ったタイプか…。」

とにかく御蕎麦のISがどのような特性を持っているかは、さっきまでの流れで大抵は把握できた。
生徒の中にはなるほどと頷く者もいれば、これはやり辛い相手だと頭を抱える者もいる。
千冬の解説に続き口を開いた箒もあまりいい表情はしていない。

「あぁ、近接戦闘を主とする者には戦い辛い相手だ。
そして一夏…、いや織斑の最も苦手とするタイプになるだろうな。」

一瞬だけ一夏を生徒としてでなく弟としての呼称で呼んでしまう千冬。
やはり姉弟関係ということで一夏を心配する部分は少なからずあるのだろう。



「さて、一夏…、いくら私と一夏の仲でもさっきの一言は聞き捨てならないなぁ…。」

表情に怒りを浮かべたままの御蕎麦が上体を少し上げて身動きの取れない一夏に向けにやりと微笑む。
その笑みはどこかサディストを思わせる邪悪さが込められていた。

「ちょ…、御蕎麦…、さっきのは俺も言い過ぎたって…。」

御蕎麦のからかいで酷い目に遭った一夏だが、幼馴染の逆鱗に触れてしまった事と、
自分の放った言葉が目の前の御蕎麦にとって、ただの侮辱以上の意味を持つ言葉だと思い出していた。
今の一夏からは怒りの色が失せ、代わりに友を怒らせてしまった事の反省の念が多く出ている。

「ま、ISに乗ってる事だし多分に痛めつけたって大丈夫…、死にはしない。」

――武装『Lewis Gun model-IS』展開。
標的、敵IS『白式』

御蕎麦の右腕装甲に展開された機関銃。
今は鉄クズ同様の旧世代の兵器、ルイス機関銃と同じ形をしたアンティークモデルの武装だ。
銃身の上に設置された特徴的な皿型のマガジン、
バレルに巻かれた空冷放熱カバーは、軽機関銃でありながらもまるで大砲かの様に思わせる。

銃口は一夏の眼前、生身で喰らえば間違いなく即死の零距離射撃。
ISの絶対防御により生は保障されてるとは言え、思わず目を閉じてしまう。

「わ、わかった!!降参!!俺が悪かったからその銃下ろせ!!」

「だから大丈夫だって言ってるじゃない…。
でも…、」

死 に た ま へ

巨大なアームの指がトリガーにかかり、御蕎麦がトドメの一言を放つ。

…ズガガガガガガガガガッ!!!!
目の前で立て続けに射出される対IS用7.7mmの弾丸。
生身に直撃する事はないが、バリアーを貫通せんとするその威力。
ISは凶弾から操縦者を護るため絶対防御のシステムを発動し、一瞬の内にシールドエネルギーが落ちていく。
頭部を激しく揺らされるような衝撃、おまけに銃口からのマズル・ファイアで視界がチカチカする。

敗北が確定したかに見えるこの瞬間、
しかし、白式のハイパーセンサーの数値から一夏何かに気づいたようだ。


…雪片を握った右腕を押さえつける触手の力が弱まった!?
これなら…!!雪片の能力で御蕎麦に一太刀入れられる!!
こっちのシールドエネルギーは…、ええい!!考えるな俺!!どうにせよやらねばやられる!!

「うおおおおおおおおおっ!!!」

銃声とダメージ警告が激しく鳴り響く中、一夏は雪片を握る右腕に全力を込め、右腕を抑え込んでいた触手を振り払う。

「えっ!?…嘘っ!?」

白式の腕に触手装甲を払いのけられた衝撃で大きく態勢を崩す御蕎麦。
機関銃の銃口も明後日の方向に傾き、トリガーを引きっぱなしのそれは何もない空間に銃弾を放ち続ける。

そして次の瞬間、激しい閃光がクトゥルフを貫き、勝敗は決した。



『模擬戦闘終了、勝者――織斑一夏』

「はぁ…はぁ…。」

未だ零距離射撃を喰らった俺の頭はくらくらしているが、間一髪で御蕎麦に勝利したみたいだ。
あの時、拘束から逃れた右腕で御蕎麦の脇腹めがけて深々と雪片を突き立てたのが俺の勝因らしい。
敵のバリアーを無効とし本体へ直接ダメージを与える雪片の特殊能力、その時の白式のエネルギー残量も怪しく、クラス代表決定戦のセシリアとの時の二の轍を踏む恐れがあったが。

「シールドエネルギー残量6ぅ…?
ホント、一か八かだったなこりゃ…。」

やはりあの時無我夢中になって剣を突き立てたのは正解だった。
少しでも判断が遅れていれば雪片の特殊能力を発動するためのエネルギー残量が銃弾によって削られていたはずだ。
何故あの時触手装甲の力が緩んだのかは分からないが、それだけ御蕎麦も怒りで冷静さを無くしていたんだろう。
俺も最初は怒りにまかせて突っ込んでいたがお互いさまってことか…。

「…あの、さ。
一夏…、野郎をお姫様だっこして楽しい?」

っと、目の前の野郎も口が利けるくらいに意識を取り戻したようだ。
雪片の一撃で絶対防御が発動、一気にシールドエネルギーがゼロとなり武装の全てが解除され戦闘機能が停止する。
操縦者の安全を確保するために一度着地すると御蕎麦のISが解除されたと言う事だ。
で、仕方が無いので生身の御蕎麦を抱えているというわけ。

「楽しくはねぇよ、でもお前今直ぐには歩けないだろ?」

「むむぅ…、いや、そうだけどさ…。
外野の皆の黄色い歓声がね…。」

…なんだ、このキャーキャーとか言う声は俺たちの戦いを称賛する歓声じゃないのか?
って、いや何で怒ってるんだよ箒とセシリア。
ISのハイパーセンサーのお陰で観客席にいる箒とセシリアの表情も丸見えだ。
千冬姉は…、やっぱなんだかんだで俺の事心配してたんだな。本人に言ったら殺されるが。

「一夏…、客席じゃなくてモニタの方見て。」

今度は何か恥ずかしがるように御蕎麦が口を開く。
促されるままモニタに注意を向けると…。

「げっ…。」

白式を展開したままの俺が御蕎麦を抱える姿は、まさに純白の騎士が姫君を抱き抱えるそれ。
それでも箒とセシリアが怒ってる理由はわからないが、これはちょっと気恥ずかしい。

いやいやいやいやいやいや、ないない、それはない。
確かに見た目は1年1組の中でもかなり美人な方かもしれないが、こいつは男だ。
野郎、Male、オス、記号では♂。
冗談抜きで俺はそんな変な気を起こすつもりはない。
同性愛になんて目覚めちゃいないぞ。
確か…、その筋の人にノンケと呼ばれる普通の健全な男子高校生だ。

「一夏、何かすごい失礼な事考えてるだろ?
いや、でも私だってノーマルだからな?
私ホモじゃないし。」

そうそう、俺と御蕎麦は健全な関係の男友達です、婦女子の皆さまは誤解なさらぬよう。
…いや、じゃあ御蕎麦ってやっぱり恋愛対象とかは女なのか?
ううむ、興味深いが詮索は止めよう。

「馬鹿な事考えるな。」

流石男の友情、言わずとも考えが読み取られる。
そ、そんなに睨むなよ、わかった、そういうとこ詮索しないから。

「…でもまぁ、今回も一夏には勝てなかったなぁ。
今回ばかりは自信があったのに。」

「当然だ、最近もまた鍛え始めたからな。」

中学の頃のブランクはあったが最近箒に鍛えられたのもあってだいぶ勘は戻っている。
少なくとも御蕎麦に喧嘩で負ける気はない。
これで13戦13勝0敗だ。

「まぁ、今回のはちょっとヤバかったけどな。
危うくお前に白星あげるとこだったぜ。」

「ふん、ISの経験の差で負けただけさ。
次はこうは行かないぞ?首洗って待ってろよ、一夏。」

そう言うと、幼い少年の様な表情でにっ、と笑う御蕎麦。
やれるもんならやってみろ、と俺も同じような笑みを返す。

…そう言えば小学生の頃、こいつと取っ組み合いの喧嘩した後もこんな感じだったな。
喧嘩両成敗の言葉があるように、どっちが悪いってのもなしでゴメンの一言は絶対に言わない。

そして、一旦俺は御蕎麦をアリーナステージの出口に下ろし、また後でな、と手を振ってピットへと向かった。


その後…、

「八十、初の実戦にしては良い動きだった。
今後もその調子で精進してくれ。
織斑もあの劣勢を覆し、あの時の二の轍を踏まなかったのは成長した証だ。」

俺と御蕎麦は千冬姉に呼び出され、なんとあの千冬姉にお褒めの御言葉を頂く事になった。
確かに、ピットから出た後は御蕎麦も俺も模擬戦闘を見ていた女子から拍手喝采を浴びた位だし、俺としてもさっきの戦闘には手ごたえがあった。

「よってお前たちには個人的に称賛を送りたい。
後で職員室に来るように。」

うん、文面ではすごく嬉しいけど。
千冬姉、それ人褒める時の目じゃないよ。
御蕎麦も嫌な予感がしたのか声を震わせ返事をする。


もちろんその後職員室で待ち受けていたのは千冬姉の出席簿。
いつもよりパワー3割増しの、特殊な趣味の人にとってはありがた~いご褒美を頂いた。
…文字通り、喧嘩両成敗である。
思い出すのも恐ろしい地獄を御蕎麦と乗り切った俺と御蕎麦の友情が深まった気がするのは気のせいだろうか。



「ねぇねぇ、八十さん?
織斑先生からご褒美とか言われてたけど何貰ったの?」

「休み時間もずっと一夏君と一緒に千冬様に褒められてたのよね!!
一夏君との戦闘も凄かったけど、御蕎麦ちゃんってもしかして天才!?」

何も知らないのって幸せな事だよね。
ご褒美?今から帰りのSHRあるからその時に千冬さんの前で奇声を上げながら席を立ちあがり、教壇の前に出て盆踊りを踊れば漏れなく貰える応募者全員サービスだよ。
もしくはブレイクダンスでも可。

初日っから一夏との激戦を繰り広げ、おまけに表面上千冬さんに褒められた私はすっかりクラスの注目の的だ。
押し寄せてくる質問の波は朝の時よりもずっと重厚に。押しつぶされそうだ。

まぁ、休み時間は全て一夏と一緒に職員室で千冬さんに怒られて、ここにはいなかったからやっと聞きたい事を聞ける、と言った所なんだろうか。
あくまで模擬戦闘である筈のISの試合で一夏と喧嘩していた、と言う事が千冬さんにバレバレだったらしく、
「ISを喧嘩の道具に使うとは何事か!!」と出席簿で殴られた後、お説教が…。
個人間秘匿通信で一夏とどつき合ってたから他の皆にはバレてないが、
一夏の姉と言う事で私の性別も一夏とはよく喧嘩する仲と言うのを知っているからだろうか、千冬さんにはお見通しだったそうだ。
…あぁ、やだやだ、もう思い出したくない。
皆頼むから記憶をほじくり返さないで。

「いやぁ…、そんなことは無いですし…。
織斑先生からも何か貰ったわけじゃないですから…。
えっと…、織斑先生の弟さんの一夏君に聞いた方がいいんじゃないですか?」

すると女子の注目は私から一夏に移る。
「何で俺に振るんだよ」と言う目で私を睨む一夏。
すまん。
私はこれ以上耐えられそうにない。


さて、質問攻めの波は引いたとこだし私はこれから放課後の予定でも考えるとしよう。
…と、思ったとこだがそういえば私は今日から寮生活だと言うのにまだ自室が決定していない。
部屋割の担当は山田先生だったが、千冬さんに呼ばれて職員室に行った時も寮の見取り図を前にうーんと唸っていたのを思い出す。

「八十さん?
お隣、よろしいかしら?」

「…セシリアさん?
どうかしましたか…?」

流石英国淑女、人の隣に立つ時もわざわざ一声かけてくれるとはさすが育ちがいい。

「皆さんと同じような質問内容になるかもしれませんが…、
職員室で織斑先生とどんなお話をなさってらしたの?
一夏さんに聞いても答えてくれなかったので…。」

流石一夏、お前も私と同じ手を使ったか。

「い、いえ…、とくに一夏君と同じく特に何も無かったですよ。」

その答えを知りたければSHR中にビートルズ歌いながら席を立ちあがり伝統舞踊ジグでも踊ってみれば漏れなく…、
いや、何かセシリアがそれやったら逆に歓声沸きそうだな。
よし、これらをスコッチ飲んでべろべろに酔った状態でやると漏れなくご褒美をもらえるぞ。

「そうですの…、それじゃあ決着ついた後の一夏さんに抱きかかえられて…」

「あ、八十さ~ん!!
それにオルコットさんも…、丁度いいタイミングですね。」

セシリアが何か言おうとしたその時、どこからともなく寮の見取り図らしきものを持った山田先生がひょっこり現れる。

「山田先生?
まだSHRの時間じゃ…って、もしかして寮のお部屋が決まったんですか?」

山田先生が間に割り込む形になったのか途中で口を閉じるセシリア。
しかし、先生の話の方が優先順位としては高そうだ。
セシリアに後で聞くね、と一礼して詫び山田先生に注目する。

「はいっ、お待たせしましたがやっと八十さんのお部屋が決まりましたよ。
…と、言ってもどうしても同室にせざるを得なかったんですが…。」

申し訳なさそうに頭をぺこりと下げる山田先生。
いや、そんな顔で頭下げられると本当に教師として意識できなくなるから怖い。

「いえいえ、そんな謝らないでください山田先生。
私は別に同室でも構いませんから…。」

すると山田先生は何かに許しを貰ったかのような安心した顔をして胸をなでる。
それに謝るだなんてとんでもない、頭を下げたいのはこっちの方だ。
学園側にも女で登録されてる私が男の一夏と同室と言う事はまず、あり得ないだろう。
そうなると一夏以外は全員女のIS学園では夢の同棲生活…、もとい同居生活ができるのだ。
よくやった山田先生、やっぱり貴女は1年1組の女神です。

「それで…、どなたと同じ部屋なんですか?」

さぁ、緊張の瞬間です。
もちろん、同居するなら美少女が一番。
例えば、今隣にいるセシリアとか…

「はい、八十さんはオルコットさんと同じ部屋に決定しました。
ちょうどお話してるとこでしたし、二人とも仲良くしてるようで安心しましたよ~。」

…うっひょ~、山田先生、貴女は私の心が読めるのか。
しかも千冬さんとは違って他人の幸せのためにその能力を行使してくれるとは…。

「はい、山田先生♪
それじゃあ…、セシリアさん、改めてよろしくお願いしますね?」

出来るだけ本心は抑えてるつもりだがどうしても口調がルンルンとしてしまう。
隣のセシリアは呆気にとられてる感じだが、特に嫌な表情はしていないしこれはお互いの合意の元の同居ということになるんだな。

「あ、あの…山田先生?
八十さんと同室と言うのは構わないんですけど…、今わたくしと同室の人は?」

「大丈夫です、その子は別の人のお部屋にお引越ししますので。
以前からお部屋を変更したいと申告してた子ですし…。」

…部屋を変更したい?
まぁ、部屋の騒音やらそういうので申告したんだろう。
ちなみに私の実家は幾度と改修工事を重ねた蕎麦屋、そんな騒音の中普通に寝て過ごすくらいの図太さは持ち合わせている。

「…?まぁ、それなら今日から八十さんがルームメイトと言う事ですわね。
八十さん、わたくしこそこれからよろしくお願いしますわ。」

「はふぅ…、これで部屋割も無事終わりました…。
八十さん、実家からのお荷物も届いてますので後で職員室に来て下さいね?」

荷物、と言っても全部私が手配した物で、今日持ってきた鞄に入れてない普段着や下着。
後は蕎麦作りに最低限必要な私専用の包丁と麺棒くらいだし大した量ではないだろう。

「それじゃあ、さっきセシリアさんが尋ねてた…」

山田先生が再び職員室へ戻った後、言いかけだったセシリアの質問に答えてやろうと思ったが…。

「全員席に着け、SHRを始める。」

帰りのSHRぴったりに教室に入って全員を席に着かせる千冬さん。
…まぁ、これからしばらく同じ部屋なんだし後でいくらでも話は出来るだろう。



あとがき

一夏と御蕎麦の男同士のガチ喧嘩、今回は一夏の勝ちのようです。

どうも、うどん求道者です。
3話でバトルパート書いて盛り上がったテンションのまま書いてしまった4話です。
喧嘩のあとは後腐れなく爽やかな男同士の友情っぽいのを演出しようかなと思ってましたがどうでしょうか?

そしてついにセシリアとの同室が決定した御蕎麦。
我が身に流れるオルコッ党の血には抗えなかったか…。



[27010] インフィニット・ストラトス -Code Cthulhu- 第五話
Name: うどん求道者◆753eebb1 ID:67d0c2cd
Date: 2011/05/05 00:31

目の前に広がる豪華絢爛空間。
職員室に荷物の入ったキャリーバッグを取りに行って、山田先生の案内の通りセシリアの寮室のドアを開けた先はまさに異空間。

例えるなら中世の上流貴族のそれだ、ルネッサンスな匂いがプンプンする。
…いやいやいやいや、待て、落ちつけ私。
IS学園の技術力はついに某狸型ロボットの秘密兵器どこでもドアに並んだのか?

そんなことはない、確かにISの技術は革命的な物だが、まだまだあんな未来ノリノリな世界じゃない。
少なくともチューブ状の道路を車が空を飛ぶような世界にはなってない。
ん?あれも近未来だが別の作品か?

ともかく、とにかくここは学園の寮なはずがない。
いくら育ちのいいセシリアでも寮室をこんな風にするわけがないだろう。
そう、この今私がくぐったどこでもドアをくぐればそこには、いつもの漫画で散らかった部屋と押し入れで眠るどら焼きが大好きな僕の大切な友達…、すいません、出る場所間違えました。

よし、色々とヤバそうなジョークはよして一旦廊下に出てルームナンバーを見る。
……間違いない、セシリアの部屋のルームナンバーだ。

「あ、あの…八十さん?
セシリアさんの部屋に…何か…?」

部屋に入ってすぐさま荷物も置かずに出てきた私を心配そうに尋ねる山田先生。
しかし、山田先生も私の心境かわかるのか苦笑いを浮かべている。
先生ならこの件について何か知っているのかもしれない、おしえて!!山田先生!!

「山田先生…、ここIS学園に野比のびたという名前の生徒はいらっしゃいますか?
特徴としては学業の成績が悪く、運動神経も悪いメガネの子ですがやけに射撃精度の高い…。」

「八十さん…、それは男子の名前だからまずあり得ませんよ。
って、もしかして私の事を言ったんですか!?」

いや、前半のツッコミは良かったが後半何故そうなる。
もしかして山田先生は子供の頃ジャイアンやスネ夫にいじめられていたのか?
確かにメガネと言う共通点もあるし、子供の頃はどことなくトロそうな女の子だったとか言われても確かに不思議ではない…、
って、教師相手にこんな失礼な事考えたりしちゃいけない、もし口にでもすれば千冬さんに殺される。

「いえ…、そういう意味じゃないですけどスイマセン。
と、とりあえず部屋に入って荷物下ろしますんでもう大丈夫です…。」

「えっと…、もしお部屋の事で相談があったら早めにお願いしますね?」

山田先生も先ほど垣間見た異空間に居心地が悪くなったのか、苦笑いも結構無理のある感じだ。
…ここで立ち往生してると余計面倒な事になりそうだ…、よし、覚悟を決めろ私。
私もぎこちない一礼をしてもう一度、これから自室となるセシリアの部屋のドアを開いた…。



「し、失礼しまーす…。」

「あ、八十さん…。」

…やっぱりドアの先は先程と変わらず豪華絢爛空間。
明らかに備えつけの物ではない豪華な机と椅子に腰かけているセシリアが申し訳なさそうな表情でこちらを見る。
あぁ、そういや家具などの持ち込みはオッケーだしねこの寮。
実は私も座布団を二枚持ってきてるんだよね。

「えっと…、セシリアさん?
ここの部屋にある物全部…、セシリアさんのです…よね?」

それはともあれ、とりあえず部屋のスペースをかなりの割合で占めている天蓋付きベッドは何なんですか。

「は、はい…、すいません八十さん、私物が多くて居心地が悪いかもしれませんが…。」

同じ私物が多いという意味でも部屋そのものはある程度整理整頓されてて足の踏み場もちゃんとあるのだが…。
と、言うよりかはこの部屋全体がセシリアの私物の様な空間と表現するのが一番しっくりくる。
まさに、ザ・セシリアワールド
私の時が止まる。

いや、なんだ…この妙な沈黙は。
時が動き出すまでの間が持たないので辺りを見渡す事にしよう。

…天蓋付きベッドと言う時点で規格外だと言うのに、明らかに高級品と分かるソファーや大インチのプラズマテレビ…。
なんだこれ、映画のCMのロゴがやけに立体的に見える。
なになに…、沈黙シリーズ最新作制作決定?
派手な爆発シーンとアクションの最期に、笑顔の無敵主人公が握手のつもりか手を差し出す。
ファンサービスのつもりなんだろうが、本物のファンならあんたに握手なんてしたら手を捻りつぶされるのは百も承知だよ。
しかし、実際に手を伸ばせば触れれそうな立体感に思わず手が伸びてしまう。
あぁ、これが最近話題の3D機能搭載テレビなのか。
まんまと映像技術力に騙された私は、これが映画ならお約束通りセガールに手を握り潰されて手刀で気絶させられるとこだろう。

次に気になった日ごろセシリアが使ってるであろう痕跡のある化粧台には、
そんじょそこらの化粧品なんかと比べて桁が二個くらい違いそうな香水などが置いてある。
部屋に漂うこの香りはこの香水からか? 
ルネッサンスの香り香水…、これで貴女も英国淑女ですわ!!おーっほっほっほほ!!
いや、何かが違う…、ってか日本でそんなCMやっても下品なだけだ…。
そしてルネッサンスの香り+無駄に気品あふれる壁紙のお陰で、ここが寮の一室である事を忘れてしまいそうになる。

ええい、一つ一つに突っ込んでいたら日が暮れる。
私の時よ動きだせ。

「全部高そうなものばかりですね…。
えっと…、とりあえずここに荷物置いといていいですか?」

「あっ、お荷物でしたら…、化粧台の横にでも置いておいてください。
お洋服は…、一応クローゼットの中も整理しておいたのでスペースはあるかと…。」

言われるままに荷物を置き、とりあえずクローゼットの中を覗いてみる。
……セシリアさん、貴女は舞台役者か何かですか?
所狭しと架けられた洋服の数々、
まぁ本人も整理したとは言ってたし、申し分程度に小さな空きスペースはあるようだが…。
幸い、あまり私服は持ってきてないし就寝着については畳んで直せるから問題ないんだけどね…。


とにかく学生の寮ととしては異質すぎる空間、
この場で平然としていられるセシリアは一体何者なんだろうか。
もう部屋を見渡すだけで変な笑いが出るほどやり辛い…。

とにかくマトモそうな空間を探して気を落ちつけるんだ。
緑色の物は精神を落ちつける作用があるらしい…が、どの家具も該当する色がない。
どうして貴族の日常品はやけに高貴な赤色が多いんだよ。
赤色は人の注意力を促すから信号機とかにも使われているのは広く知られてる事で…。

「セシリアさん、ちょっとキッチンの方見たいんですが…、いいですか?」

「ええ、あまり使ってはいませんけどね。」

まさかキッチンも豪華絢爛仕様で純金の食器やら置かれている事は…、多分ないと思う。
あまり使ってないと言うくらいだから、そこぐらいはマトモな場所に違いない。


…と、まさかこれは!!

「あっ!!もしかしてこれってパネェソニック製の携帯式旅行用小型冷蔵庫じゃないですか!!
な、中開けていいですか!?」


自炊用に備えられているキッチンの横にはなんと、ISの冷却パーツの開発に一役買った超大手電化製品製造会社パネェソニックの最新型小型冷蔵庫が置かれてある。
小型でありながらも作り置きの料理の味を劣化させない奇跡の冷却技術は、まさに社名に違わぬパネェの一言だ。
もちろん、元々備えつけの冷蔵庫もかなりの性能を誇る高級品…。
流石IS学園、所々金がかかっているのは知っているがまさかここまでの物だったのか。

「え、えぇ…、そっちの冷蔵庫には飲み物とデザートくらいしか入ってませんが…。」

許可を取るとすぐさま冷蔵庫を開いて内容物確認。
飲みかけの缶ジュース数本、ケーキの入った箱が一つ。
空きスペースは…、ケーキを詰めて置けば蕎麦二人前はギリギリ入りそうだ。
備えつけの冷蔵庫の方には…、サンドイッチ用のパンとハム、レタス…あと卵か。
パスタ麺も入ってるがこれは必要ない、あとトマトペーストも帰れ。

なになに…、調味料入れには砂糖、塩、何か高そうなペッパー。
流石英国淑女、高級紅茶葉とコーヒー豆は完備してるか…。
そしてこの空きスペースには蕎麦粉と小麦粉を置こう…。

「や、八十さん…!?」

「あ、ごめんなさいセシリアさん。
ついつい冷蔵庫とか食品関係全部把握しちゃいました。」

「そ、そういうことですか…?
でも冷蔵庫は開けて2秒も経たずに閉じてましたけど…。」

しまった、ついつい料理人としての血が騒いだ…。
セシリアも女の子とは言え、同年代の子がプロ仕様の厨房チェックの様子を見ればそれは引くだろう。

「あぁ…、そう言えば八十さんは八十蕎麦屋の後継ぎでしたわね。
流石プロの早技と言うもの…、かしら?」

「いえいえ、まだまだ修行不足ですよ~」

うちのお爺ちゃんはこれを私の半分の時間で終わらせるんだからまだまだ修行が足りない。
…課題としてはもっと冷蔵庫を眺める時の視野を広げるべきか。
おっと、いつの間にか蕎麦を打ち始めようかと腕まくりをするところだった。
蕎麦粉と小麦粉は荷物の中に当然入っているが、入室早々蕎麦を作り始めるのはセシリアに失礼だろう。
それに学生用のキッチン施設もあるからそこを見てからでもいいだろうし。
ここは一先ずルームメイトとして親睦を深めよう。

「っと、何だか色々順序おかしくなっちゃう前に夕食までお話でもしますか。」

「そうですわね…、あ、こちらの椅子にお掛けになって。」

と、セシリアのテーブル挟んで向かい側にあるやけに豪華な椅子に腰をかける。
テーブル上に置かれてるのは…、ISの企業別カタログか。

「…そう言えば八十さんのIS、どの企業のカタログにも載ってませんでしたが…、
八十さんも所謂テストパイロットかしら?」

「そうですね……、企業…ですか…。」

最新型ISの開発の試験運用としてIS学園に入学、或いは編入と言う形で入った生徒は全学年で見れば少なくはない。
IS学園は将来ISを用い国防力となりうるパイロットの育成…、これは海外からの生徒に多くみられる傾向だが。
そしてもう一つ、条約でISに関する開発情報は義務的に開示しなければならない、という義務があるのだが、それでは単純な基本性能の高いISでごった返すことになってしまう。
と、言う事でその条約の対象外となるIS学園の生徒をテストパイロットとし、新技術を試験運用させたりしていると言う事だ。
IS学園で三年間の戦闘経験値、新技術の試験データ…、そして何より自己成長するISだからこそ発現できるその機体唯一の能力…、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の発現。
最期の単一仕様能力については、三年間で生徒が発現させる確率は極稀であるが、それ以外のデータはその企業のIS開発にとって他企業より一歩リードさせる重要な要素となるだろう。

日本国家の機密事項として私とクトゥルフは実験内容もISの開発内容も世間に明かされてないわけだし、区分するなら国家所属だろう。
実際、IS学園側にも日本国家所属と登録されてた気がする。

「私のは…、日本国家所属のISですけどテストパイロットだって言うのは正解ですね。」

まぁ、テストパイロットって言えばそうなんだろうが…。
私の場合、正しくは実験体なんだろう。

「なるほど…、どうりで載って無いわけですわ…。」

そりゃそうだろう、ここ『どの国にも所属しない場所』のIS学園の外ではクトゥルフは恐らくどの企業にも存在すら知られてないかもしれない。
仮に存在を知られたとしてもIS学園にあるうちは手出しはされないし、私のIS学園卒業と同時にクトゥルフはデータ回収の目的で国に回収される。
そう、この子はいずれ闇に葬られ新たなIS開発のための布石となるためだけの存在だ。
それが終われば私の人体実験も終わりを迎える事になる…。

「まぁ、IS学園を出て世間に触れる形になれば情報も開示されるでしょうね…。
…さて、ISのお話はここら辺にして、今度はセシリアさんの質問に答えましょうか。」

「質問…?」

もしかして本人が忘れて…、と言う事ではなさそうだ。
しかし何故か急に顔を赤くするセシリア。
あれか、性の悩みか?そうか、性の悩みなら私に任せなさい。

「あ、あの…、これは質問と言うより…ちょっと気になっただけでして…
今思えばお答えして頂かなくてもいいようなよくないような…。」

セシリアらしくない支離滅裂とした発言だ。
しかし、乙女が顔を真っ赤にする質問なんてあっちが言いたくなくても聞きたくなるのが男の性。
いや、助平心ってやつか。

「これから同じ部屋で生活するんですし、遠慮なんてしないでくださいよ。
あっ…、もしかして一夏君の事ですか?」

「は、はいっ!?な、何故それを!?」

図星ですか、でもそういやあの時一夏がどうとかと言っていたな。
…顔が茹で蛸状態ってことは…、あぁ…。

「一夏君とは前にも話した通り小さい頃からの付き合いですんで、なんなりとどうぞ?」

「そ、その……、今日の模擬戦闘での事なんですが…。」

模擬戦闘?ってことはISの話か?

「戦闘後一夏さんとやけに親しげに…、それに抱き抱えられながら何を話してらしたのですか!?」

「……あぁ~。」

…一夏ぁ、お前って奴は罪なやつだよ。
私はてっきりあの箒って子一筋だと思ってたんだがそれに飽き足らず女を食うか…。
と、アイツが致命的なまでの唐変木じゃなけりゃ私はこう思ってただろう。
まぁ、IS学園で唯一の男子だったし、そりゃやけに女子に人気あるなとは思っていたが…。
だが模擬戦後に露呈するあの恋愛感情に対する鈍さ、まぁ私が男だと言うのを知ってるからなのもあるが…、
はっきり言おう、アイツの鈍さは病気の域だ。
本来、思春期男子よりずっと男性ホルモンが少ない私でさえ助平心と言うのを持ち合わせているのに、
一夏のそれは小学生男子のピュアハートそのものだ。
ん?助平心と恋愛は違う?
男の思春期の恋愛なんてヤリたい盛りの代名詞じゃないか。
エロスの神はそう囁いている。

…まぁしかし、今日からルームメイトとなるのもあるし、何より一夏の事を知ってるからこそ、
一夏に恋焦がれるセシリアがなんだか可哀想に思えてくる。

「…ええとですね、一夏君と私は皆にも言ってる様にただの幼馴染です。
それに…、一夏君自身、すごく失礼しちゃいますけど私の事、男友達の様に思ってますから…。
あの時喋ってたのも模擬戦の内容のお話くらいですよ。」

まぁ、一夏からあまり異性として見られてないというのは本当だ。
ってか、一夏は私の正体知ってるし私とて一夏と二人っきりの時は出来るだけ男っぽい口調で話すようにもしてる。
それでも、私も体つきはもう女だから異性として見られてしまうのは別に構わないが、恋愛感情を持たれるだなんて冗談ではない。

嘘をついたつもりはないが、セシリアもそれを真に受けてほっと胸をなでおろす。

「そうでしたの…。
と、言う事は八十さんも?」

「そうですね、一夏君とは私もそんな関係でいいや、と思ってますよ。」

これも本心です。
いや、だって私ホモじゃないし。
ってか、さっきの一言からセシリアの表情がどんどん、ぱぁっと華やいでいく。

「そういうことですのね、つまり八十さんと一夏さんはただの幼馴染と言う事ですのね!!」

そしてテンションが最高潮となったセシリアは椅子から立ち上がり…、
おぉ、出た、あの腰に手を当て『おーっほっほっほっほ!!』と、お嬢様笑い。
漫画の世界だけの笑い方だと思ったらマジでやる人がいたよ、しかも今日から同居人。

「ところで…、セシリアさん?
これからルームメイトと言う事ですし、セシリアさんも私の事名前で呼んで欲しい…かな?」

「そう言われればそうですわね。
それでは…、御蕎麦さん?
御蕎麦さんもわたくしの事はどうぞ気軽にセシリアと呼んでくださいな。」

「…う~ん、呼び捨てはちょっと苦手ですので…。
じゃあ…、セシリアちゃんで。」

私、個人的に女の子はちゃん付けで呼んだ方が興奮するんだよね。

「セシリアちゃん…、ですか?
な、何だか気恥ずかしいですわね。」

「いいじゃないですか~、女の子同士ですし。」

後にこの言葉があらゆる事象の免罪符になるという事を、今のセシリアが知る由は無かった…。



「ふぅ…さすがIS学園、食堂のご飯も大満足ですよ~。」

時刻は午後八時を上回った所。
食堂で一通り夕食を取った私は自室のソファーで腹を擦りながらくつろぐ。
まぁ、このソファー…ってか家具全般は全部セシリアのだけど。
それにしてもこの感触…、尻から腰にかけてまるで温水に浸かってるかのような心地よさでこのまま深いまどろみに落ちてしまいそうになる…。

「そりゃああれだけ食べれば満足する筈ですわ…。
見かけによらず一夏さんみたいに沢山食べるのですね。」

「そ、そうですかぁ?
食べざかりってのもあるんですけどね、あはは…。」

いやいや、思春期の女性と男性では意外と女性の方が食う量多かったりするんだぞ…?
って、私男なんだけどさ。
でも確かにセシリアの食事量も少なかったし…
そうか、原因は一夏だな。
あやつめ、自らの存在がIS学園の生徒全体にダイエットを推進させるとは…、あの鈍さからして思ってもいないだろう。
ますます罪深い男だ。

「あれだけ食べておいて体系維持できてるのは羨ましいですわ…。」

ちょっと拗ねた顔でぱくりとケーキを口に頬張るセシリア。
いや、だから太る要因ってのはそういった間食にあるんだって。

「ところで、御蕎麦さんもケーキ食べます?」

「え?それならもちろん!!」

私もデブ街道まっしぐらか。
いや、こんな高級ケーキちらつかされたら太るデメリットなんて気にもしないね。
ビバ、デブ!!



「…さて、それじゃあそろそろ入浴の時間ですわね。
わたくしはシャワーを使いますので御蕎麦さんは…、この時間なら他の皆さんについて行けば大浴場に辿り着ける筈ですわ。」

そういえばそんな時間だ。
ぺろりとケーキを平らげ、別腹も本腹も充足したところだしここは一っ風呂浸かりたいところだ。
だが…、残念ながらいくら私でも大浴場となると話は別だ。

「あ、私もお風呂よりシャワー派なのでセシリアちゃんの後にシャワー浴びますよ。」

流石に女子更衣室に合法的に潜入できる私でも、全裸になる大浴場には潜入出来ない。
何故なら、下半身には女性には間違いなくついていない男性の象徴がひっついているからだ。
…あくまで私は生殖機能を残した状態での女性に最も近い男性。
風呂の湯気の先にめくるめく若い女体が待ち受けている事が分かっていても、そこに入る事は許されない男子のジレンマ。
かといって男湯にも入るわけにもいけない身体だから必然的にシャワーのみとなってしまう。

「そうでしたの?
でしたら御蕎麦さんがお先にどうぞ。」

「いえいえ、ここはセシリアちゃんが…。」

どうぞどうぞと譲り合うその様は某お笑い芸人のアレだ。
もう一人いたらネタが完成するんだけど三人同室は流石に無理がある。

「はぁ…、でしたらわたくしが先に使いますね。」

「はいはい、ごゆっくりどうぞ~。」

根負けしたのか、セシリアは制服のボタンを外してシャワーに入る準備を…
…って、うほっ。
これはいい女体…!!
するりと現れた背中とやたらエロい黒のブラに一瞬酔いそうになる。
更衣室で見たときとはまた違う興奮があるのは二人っきりの部屋だからだろう。
そう、ここは二人っきりの密室空間。
今動かなきゃ…、男じゃねぇ!!

「ひゃぁっ!?
お、御蕎麦さん!?いきなり何を!?」

「いえいえ、そんなに驚かないでくださいよセシリアちゃん…?」

衝動に駆られ立ち上がり、そのままセシリアの背中に回り込みブラのホックに手を伸ばす。
突然の事と背中に伝わる指の感触に思わず声を上げるセシリア。
そんなセシリアにあくまで落ち付いた口調で言い諭す私の目つきは恐らく性犯罪者のそれと同じだろう。

「セシリアちゃんも今日は疲れてますでしょうし…、これくらいはルームメイトとしてお手伝いさせてくださいよ。」

「い、いえ…、気持ちは嬉しいですがこれくらい一人で…。
そ、それに…こう脱がされるのは恥ずかしいですわ…。」

顔を赤らめながら答えるセシリアはより一層の艶めかしさの様なものをむんむんと放つ。
こんな初々しい反応をされるとおじさん興奮しちゃうなぁ…。

「ふふっ、いいじゃないですか~、女の子同士ですし。
これもスキンシップの一つですよ。」

そう、正体がばれていないため女の子同士という認識のセシリアは恥ずかしがってはいるものの、これと言った抵抗はしていない。
そんなセシリアのブラのホックを外すのは何の造作もないこと、ちょろいもんだぜ。
しかし、これは立派な性犯罪である。
よい子は真似しちゃダメだぜ。

「わぁ……、セシリアちゃんの胸…凄いです…。」

ブラによる拘束力を失った乳房がぷるんと揺れてその全貌が露わになる。
さすが白人と言ったところか、若干十五歳にしてこの大きさ、ボリュームは流石と言ったところだ。
思わず手が伸びてソフトなタッチで掴んでしまう。

「お、御蕎麦さん…?
んっ…、手つきが随分いやらしいというか…。」

「いやぁ…、同じ女として羨ましいなぁ…って。」

「そ、そうですか…?
わたくし、あまり自信はないのですが…」

何?このサイズで自信が無いとはイギリスは地獄だぜ、フゥー!!ハァ―!!
いや、この場合天国だ。
飯は不味いから躊躇ってたけど、イギリスのヌーディストビーチに行ってみたい。

「そ、その…、こう密着されると…脱ごうにも脱げないんですが…?」

「あ、あぁ!!そうでした!!では下の方も脱ぎ脱ぎしましょうね~!!」

こんな身体に好きでなったわけではないが、今日、この時ばかりはそれに感謝します。
地球に生まれて本当によかった…

「御蕎麦さん!?さっきから目つきが凄く怖いですわよ!?」

「大丈夫です、夜はまだまだ永いですから…!!」


この後、数十分に及ぶ脱衣を経て、やっとのことでセシリアがシャワーを浴びる事になったのはIS学園で御蕎麦とセシリア本人以外、誰も知る由が無かった。



「はふぅ…、やっと八十さんの部屋割も終わりました…。
八十さんもクラスに馴染めてるようですしこれで一件落着です…。」

職員寮の休憩所で一息つくIS学園1年1組副担任、山田真耶。
つい先ほど入浴を終えた所なのか、少しばかり肌が火照っている。

「御苦労、山田先生。
ところで…、来日予定がずれて明日転入になる二人の部屋も決まっているのか?
そう言えば朝にも明日の二人の事を生徒たちに話さなかったようだが…。」

缶コーヒーを片手に真耶の隣に立つ1年1組担任の織斑千冬。
はて?二人の転入生とはいったい誰だろうか?
確かに急な転入はIS学園の性質上珍しくはあってもあり得ない話ではないが…。

「…山田先生。
ドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒとフランス代表候補生、シャルル・デュノアの件だが…。」

あぁ、あぁ…、いましたね。
確かにいましたね、確か二日くらい前に政府から通達が来ていた…。

「あ…、えっと…。」

うっかり忘れていただなんて言えば目の前の人物に何をされるかわからない。
千冬もそれに気づいているのか目が笑っていない笑みを向けてくる。

「…とりあえず織斑先生もお疲れ様です。
私は明日に備えますので…。」

「…?山田先生、そっちは職員事務室だが…。」

釘のように背中に突き刺さる視線、この人は分かって言っている。

「今夜は永くなりそうです…ふぇぇん…。」

「そうか、御苦労。」

真耶の涙声を聞くと特に怒鳴りもせずに自室へ戻っていく千冬。
…しかし、休憩所の机に置かれている圧縮されたスチール缶がそのすべてを語っていた。

山田真耶の夜も、まだ始まったばかりである。



ついにやってしまった感があるのですが後悔はしてません。

どうも、うどん求道者です。

説明不要の変態回になってしまいました。
どうみてもセクハラです、ありがとうございました。

次回はラウラさんやシャルルが転入してきます。



[27010] インフィニット・ストラトス -Code Cthulhu- 第六話
Name: うどん求道者◆753eebb1 ID:67d0c2cd
Date: 2011/05/05 00:32
「……で、どうだ?御蕎麦?
お前なら大丈夫だと思うけど昨日は寝れたか?」

「あぁ、心配御無用。
寮生活ってのも楽しいものだね、一夏。」

IS学園生活二日目の朝、全寮制の学校なんて初めての私を気遣ってかの言葉だろう。
それに私は体裁上さえ女でも一夏と同じ男、自分以外はほぼすべて女の状況下では緊張で眠れない夜ってのは、確かに思春期男子の心境ではあって当然だろう。
まぁ、私はそんなこと無かったけど。

「色々あり過ぎて驚きはしたけど、それさえ気にしなければセシリアちゃんの部屋も快適だし。
そういう一夏だって入学当初は大変だったんじゃないの?」

「そりゃ大変だったさ…、制服ならともあれ寮内では目のやり場に困るし、今もだけど風呂は使えないし…。
まぁ、幸いにも部屋は幼馴染の箒との同室だったし眠れない事はなかったけどさ。
ともあれ、お前の順応具合だけは羨ましいよ…。」

流石女子校と言ったところだろうか、一夏の言う通り無防備な格好の子はかなり多い。
一夏も流石にそういった部分は意識してしまうのだろう。

…って、ちょっと待て。
何で私はともかく一夏が女子と同室になっているんだ?
私の場合は外見的にはどう見ても女だし、戸籍上も女だから仕方ないが、一夏はどっからどう見ても男だ。
箒が一夏と幼馴染なのは知っているが、だからといって年頃の男女が同室とは、これはいかがなものだろうか?

「…おい、一夏。
箒って…、あの篠ノ之箒さんの事だよね?」

「あぁ、そうだけど。
それがどうかしたのか?」

あっさりと答えやがったよこいつ。
ってか、事の重大さが分かんないのか?

「そ、そうなのか…。
で、ヤったのか?」

幼馴染で同室…、これはお約束通りのパターンになる事は違いない。
例え一夏の鈍さを持ってしても男としての本能を完全に抑えられる訳はないだろう。

「ん?やったって…何を?」

「いや、ナニをだよ。」

「いやいや、だから何なんだよ、質問を質問で返さないでくれよ。」


…これは 深刻だ。


「…コホン、一夏、八十。
私がどうとか言っているが何を話しているんだ?」

噂をすればなんとやら、一夏と私の間に今話題の篠ノ之箒が割り込んでくる。
結構離れて話してたのによく聞こえたな…、一夏がいつか言ってた気がするけど地獄耳とはこのことか?

「あ、箒さん…。
一夏君に入学当初のお話を聞いていただけで…。」

「お、丁度いい所に。
なぁ箒、俺…、箒と同じ部屋だった時にお前に何かしたか?」

「ちょ…っ、一夏君、その発言地雷…。」

踏むようなもんだぞ、と言いたいところだが私が男だという事を知らない箒の前では口調を咄嗟に変えなければならない。
そのせいか一夏を制止するのも叶わず、時すでに遅しと言わんばかりに箒は眉をピクピクと震わせ怒りを顕わにしていた。

「…あぁ、それはそれは大変な事をしたな。
お前自身は気付いてすらいないだろうがなッッッ!!」

「うおっ!?い、いきなり怒鳴るなよ箒…。」

恐ろしい剣幕で一夏を怒鳴りつける箒。
昨日の様に竹刀での殺人剣は無かったが、クラス全員の注目が集まるほどの迫力だ。

「フンっ……。」

それだけ言い終わるといつも以上に不機嫌そうな顔で席に戻っていく箒。
しかし、その横顔は所謂「…どうしよう、思わず怒鳴りつけちゃったわ、一夏に嫌われたらどうしよう」的なバツの悪そうな表情をしていた。
第三者の視点である私だからこそその表情の微妙な変化に気がついたんだろう。
あ、台詞の所は私の脳内妄想です。

「……う~ん、何だかどうも最近箒の機嫌悪くさせてる気がするな。
やっぱ何か変な事したんだろうか、俺。」

無知とは実に恐ろしい事である。
自覚が全くない故に箒が怒った理由も分からず頭を抱える一夏、お前はホントに罪な男だぜ。

「はぁ…、一夏。
とりあえず謝ろう、とか考えてるんだろうけど事態悪化させるからやめとけよ。」

「いや、でも箒も俺が何かしたって言ってるみたいだし…、兎にも角にも謝るしかないだろ?」

「少なくとも、何で箒さんが怒ったのか、その理由が分かるまで一夏は黙ってろ。
……で、話は変わるけど一夏は女心弄ぶ男ってどう思う?」

そんな一夏に答えは教えないけど答えに限りなく近いヒントを与えてやろう。
まぁ、男同士、幼馴染の仲だしこれくらいの情はかけてやらなくもない。

「なんか唐突だな……。
まぁ、そういう男は馬に蹴られて死んじまえ、って言葉もあるしそんなのは男として最低だと思うな。」

自分の言葉にうんうんと頷きながら答える一夏。
言いたい事はわかるが、馬に蹴られるのは『人の恋路を邪魔するやつ』だよ。

「そうかそうか…、そうだよな、私もそういうのは死んでしまえばいいと思うよ。」

「だよな…、って、それが箒が怒った理由とどんな関係があるんだよ?」

……一夏め、友が折角かけた情けを無駄にするというのかお前は?

「…まだわかんない?」

「まだもなにもさっきの話が何に繋がるんだよ?」

だめだこいつ、早くなんとかしないと。

「死ね、今すぐ死ね、骨まで砕けろ。」

ピシッ

「あだっ!?
っておい!!どうしてそこでお前も怒ってるんだよ!?」

あまりに呆れたので一夏にデコピン一発入れておいてさっさと席に戻る。
あぁ、もう…。
何でかわからないけど、私も一夏のこういうとこ、結構ムカつくんだよね…。



…随分と今日はついてるんだかついていないんだか、朝っぱらから幼馴染に怒鳴られるわデコピンされるわと散々な目に遭うもんだ。
しかも怒りを買った理由が分からいときたからなおさら性質が悪い。
IS学園唯一の男友達である御蕎麦に理由を聞こうとしても、逆に怒られて一発かまされたあと席に戻っていったため原因はこのまま闇に葬り去られたままだ。

「こうなると気軽に話せる話し相手居なくなるんだよな…。」

はぁ…、とため息を洩らしながら仕方なく一年一組最前列である自分の席に座り込む。
決して俺がコミュニケーション能力に障害があるとかそういうわけではないが、こうなってしまうと誰かが話しかけてくるまでまともな話し相手がいなくなるのである。
所謂ガン待ちの姿勢。

御蕎麦は見た目は女子そのものだし、有名老舗蕎麦屋の跡取り、つい昨日転入したばっかりの転入生、おまけに専用機持ちということで話題性はいくらでもあり、自分の席に戻った後はルームメイトのセシリアや他の女子たちと和気藹々とおしゃべりを交わしている。
…いや、自分で言うのはなんだが俺だってクラス内で注目を集めやすい背景は御蕎麦以上にあるから完全に孤立って事は無いんだが。
だがいかんせん俺はごく普通の年頃の思春期男子であり、女が苦手という訳ではないが、同年代の女子とは中々話題がかみ合わない、というより俺自身が理解できない部分がある。
小学生の高学年くらいからだろうか、男女間でどうしても理解できない世界の隔たりの様なものが芽生えていくのは。
俺だって出来れば皆と仲良くしていきたいが、やはり男の俺にはオンナゴコロというのは未だよく分からないものなのだ。
それ故に、ごくごく自然に女子と話せる御蕎麦がここIS学園では少しばかり羨ましく感じる。

「器用なやつだよな…アイツ。」

あ、でもゆくゆくは店を継ぐわけだし料理の腕だってそりゃプロ同然だろうから手先は器用な筈だよな…。
その器用さとは違うのは分かってるが。

「……そういえば、織斑君のISスーツってどこのやつなの?
って、織斑君?さっき篠ノ乃さんに怒鳴られたショックで放心してるのかな?」

と、思案に耽っている間に何やらカタログを持ったクラスメイトが声をかけてきたみたいだ。
ISスーツ?あぁ、じゃあそのカタログはISスーツのカタログか。

「…おっと、悪い。ちょっと考え事してただけ…。
で、俺のISスーツの事?
…あー、確か特注品らしくてな。
男のISスーツは無いから、どっかのラボで作ったらしいよ。
えーと、元はイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる。」

咄嗟に答えた割にはよく覚えていたな、俺。
最近は一生懸命勉強している成果というやつだろう。
そうそう、ちなみにISスーツは名の通りIS展開時に体に着ている特殊なフィットネススーツのこと。
まぁ、このスーツ無しでもISは動かせるんだがどうしてもISの反応が鈍ってしまうらしい。
えーと、なんだったかな…。

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、ダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。
また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完璧に受け止める事が出来ます。
あ、でも衝撃までは吸収しないのであしからず。」

すらすらと説明しながら現れたのは山田先生。
へぇ、銃弾を防ぎ止めるってこんなに薄い素材なのにすごいなISスーツ。

「山ちゃん詳しい!!」

「一応先生ですからね…、あはは。」

感心する女子生徒に乾いた笑みで返す山田先生。
あれ、いつもなら
『あ、あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと…。』
から始まりクラスの皆にからかわれる感じなんだけど。

「山ぴー見直した!!」
「まーやんすごぉい!!」
「流石マヤマヤ!!」

囃し立てるクラスメイトに山田先生は乾いた笑みのまま返している。
入学から二カ月くらい。
山田先生にはもう既に8つくらいの愛称がついている。
皆に好かれている証拠なのだろう、これも人徳がなせる業だ。
どうでもいいけど山田先生の本名は山田摩耶、前から読んでも後ろから読んでもヤマダマヤ。
そりゃあだ名も付けやすい…、俺もなんか考えてみるか…。
……いや、やっぱやめとこう、千冬姉に殺される。

ってか、山田先生さっきから目が笑ってませんよね?
よーく観察すればクマ出来てますけど昨夜は眠れましたか?
…山田先生、何があったか知りませんがあなた疲れているんですね。
おい皆気付いてやれよ、山田先生可哀想だろ。

しかし無邪気にざわつく教室は一向に収まる気配はなく…

「諸君、おはよう。」

「お、おはようございます!!」

あれ、一瞬で沈静化した。
いままでざわついていたのが嘘だったかのようにクラスの皆は軍隊整列にと変わる。
あ、いや、これ例えだよ。
ここはIS学園、間違ってもウジ虫から一人前の海兵隊になるまで鍛え抜かれるキャンプとか違う。

…コホン、とにかく一組担任、織斑千冬の登場でクラスは一斉に静まり返り各々の席に脱兎のごとく戻っていく。
流石俺の姉であり、元日本代表IS操縦者で今はIS学園教師。
己にも他人にも厳しく、教師である今の姿はまさに某鬼軍曹そのもの…、とか言ったら本人に殺されるだろうか?いや、殺されるだろう。
いかん、変な事考えるな俺、こんな事考えてる間に千冬姉に思考読みとられたりでもすればベトナム行く前に死んでしまう。
あぁ、もう…、何で昨夜の深夜洋画劇場でフルメタル・ジャケットやってたんだよ。

「……。」

やばい、心が読まれたのか千冬姉の冷たい視線を感じる。
うわぁ、この人睨んでるよ、可愛い弟をそんな恐ろしい目で睨まないでくれよ。

「……夜更かしは感心しないぞ、織斑。」

え?夜更かし?
まぁ、流石に深夜に映画丸丸一本分の時間を使うのは夜更かしなんだろうが…。
って、何で放送時間知ってるんだよ、さてや千冬姉も観てたんだな。

「…コホン、本日から本格的な実戦訓練を開始する。
さしずめ昨日の演習は今日の予行練習の様なものだ、
説明の必要はないと思うが専用機持ち以外は訓練機を用いた授業になるので各人気を引き締める様に。
なお、各人のISスーツが届くまでは今まで通り学校指定のISスーツを用いるので忘れないように。
忘れたものは学校指定の水着で授業を受けてもらう。
それもないものは…、まぁ下着でも構わんだろう。」

いや待て、そこは構ってくれよと俺のみならずクラス全員が心の中で突っ込んでいただろう。
女子同士でもそれは気恥ずかしいだろうし、現にこのクラスには男の俺がいるのだ。
流石に下着はいかんだろう、下着は。

ちなみにどうでもいいけどIS学園の学校指定水着は今じゃ絶滅危惧種のスクール水着。
恋愛シュミレーションゲームの舞台で出てきそうな紺色のアレ、俺はそういうのやらないからよく分からないが五反田が喜びそうだ。何故かわからないけど御蕎麦も転入時これ聞いて喜んでた。

あぁ、そういや五反田で思い出したけどここってブルマーなんだよな。
これも五反田が以下略で御蕎麦も以下略。
ってか、一応御蕎麦って女子で登録されてるからスクール水着もブルマーも自分が着る事になるんだぞ?
まぁ、既に女子の制服だし私服も女子のそれだから突っ込みようがないが、あいつってそういう趣味あるのか?

あ、ちなみに俺は普通にハーフパンツだぞ。
何より俺がブルマー履いて誰が喜ぶんだよ。
俺はその筋の人からノンケと呼ばれる健全な男子高校生。ん?これはちょっと使いどころが違うか?

「あ、皆さんご存知のようですが本日が皆さんのISスーツの申し込み開始日なのでよく考えた上で選んでくださいね。」

相変わらず目が虚ろな山田先生の説明で続く。
千冬姉、山田先生絶対寝不足だよ、休ませてやれよ。

「…私からは以上だ。
では山田先生、ホームルームを。」

「は、はいっ。」

連絡事項を言い終えた千冬姉が山田先生にバトンタッチする。
眠そうに眼をこすっていた最中だったらしく、慌てて自分の頬を叩いて渇を入れる様を見ると心から『もういい…休めッッッ』と言いたくなる。
これ何の漫画だったけな。


「…え、ええ~っと。
今日も嬉しいお知らせで皆さんの新しいお友達を紹介します…。
…そ、それも二人です。」

「「「えええええええっ!?」」」

……そりゃざわつく。
…いくらIS学園だからって転入生に続いて二日連続、それも同じクラスで転校生ってあり得ないだろ。
ってか、昨日御蕎麦が転入したんだから二組とか三組とかに分散させろよ。

ざわつくクラスの中、割と冷静な事を考えていたら、教室のドアが開いた。

「失礼します。」
「…………。」

そしてクラス入ってくる二人の転校生。
まるで時が止まったかのようにざわつきもピタリ、と止まった。

…そりゃそうだ。
その内一人は御蕎麦の時と違って、正真正銘の男だったんだから。



「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。
この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします。」

転校生のシャルルはにこやかな顔で挨拶をし、一礼する。
クラス全員が私を含め呆気にとられてるのは説明するまでもないだろう。
一夏の時のようにまっとうな男がここIS学園に転入してくるなんて普通はあり得ない事だし。


「お、男…?」

誰かがそう呟いた。

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を―」

なるほど、一夏以外にもISを動かせた男がいたわけか。
あ、私も同じようなもんだけど、それとこれとは事情が違う。

それにしても人懐っこそうな顔。それも礼儀正しく良いとこ育ちの様な品性すら感じられる中性的な顔立ち。
髪は濃い金髪で後ろで丁寧に束ねられている。
体つきは一夏とは違って華奢でスマートな感じですらっと伸びた脚が格好いい。
うん、一夏とは正反対の印象の子ね。表現するなら『貴公子』みたいな感じかな?
あんまり野郎臭くもないし私としては好みかも。
…いやいや、私ホモじゃないし。

「きゃ…」

「はい?」

「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

これってソニックウェーブとかいうやつなんだろうか。
クラスの中心を起点に一斉に女子の黄色い歓声があっという間に伝播する。
こりゃあ余所のクラスにも丸々聞こえてしまうだろう。

「男子!!二人目の男子!!」
「しかもうちのクラス!!」
「美系!!守ってあげたくなる系の!!」
「地球に生まれて良かった~~~!!」

皆元気だなぁ。
ちなみに余所のクラスがまだ覗きに来ないのは今はHR中だからだろう。
きっと職員の皆さんが必死になって制止してるに違いない、お疲れ様です。

「あー、騒ぐな。静かにしろ。」

そんなクラスのお祭り騒ぎ具合を見て面倒くさそうに千冬さんがぼやく。
千冬さんってこういう女の子の反応ってのが苦手なんだよなぁ…、美人なのにもったいない。

「み、皆さんお静かに~!!
まだ自己紹介が終わってませんから~!!」

はっとした山田先生が必死に皆を押さえつける。
さっきまで眠たそうだったけどあのソニックウェーブの衝撃で目が覚めたんだろう。

……あ、それに転校生はもう一人いるんだよ。皆気付いてやろうよ。
しかも、男の転校生の存在あっても意識の外に置くには難しい位、異端な格好の転校生。
一応私も男だし皆ほどシャルルばかりに注目してないが故にその少女にも気が行ってしまう。

私と同じ、或いはそれよりちょっと輝きの強い銀髪を腰辺りまで伸ばしている。
しかし、特に手入れしているような感じではなく伸ばしっぱなしな感じのそれだ。
う~ん、髪質はよさそうなんだけどもったいない。
そして何より目を引くのは左目の眼帯。
それも医療用のやつじゃなくてバリバリの軍人臭がする黒眼帯。
開いている方の右目は赤色だが視線の温度は限りなくゼロに近い。

…印象はそのまんま『軍人』だ。いや、恐らく軍人だろう。
昨夜の深夜洋画劇場で観た映画思い出す…。
口で糞垂れる前と後に『サー』を付けたりしないのかな。
あ、でも千冬さんは女性だし『サー』はないか…。
しかし、軍人を見るのは初めてじゃないにしろその迫力は凄まじい。
背丈はシャルルよりも低く、多分このクラスの女子の中でも小さい部類に入るだろう。
しかし、その身から滲み出る冷たく鋭い軍人特有の気配は、隣に並んだシャルルと同じ背丈と錯覚させるようなものを感じる。

「………」

当の本人は未だ口を開かず、腕を組みながらクラスの皆をくだらなそうに一瞥し、その後は視点はただ一点、千冬さんだけを向けていた。
その光景にさっきまで騒ぎたてていたクラスも静まり返る。

「…挨拶をしろ、ラウラ。」

「はい、教官。」

さっきまでの佇まいを直して素直に返事をする転校生―ラウラにクラス一同はぽかんとしている。
ほぅら、やっぱこの子軍人だよ。
って、千冬さんが教官?

一方、異国の敬礼を向けられた千冬さんはさっきとはまた違った面倒くさそうな顔をした。

「ここではそう呼ぶな。
私はもう教官ではないし、ここではお前も一般生徒。
私の事は織斑先生と呼べ。」

「了解しました。」

そう答えたラウラはぴっと伸ばした手を体の真横につけ、足をかかとに合わせてぴんと背筋を伸ばす。
所謂正しい『気をつけ』の姿勢だ。
洗練されたその姿勢には、普通の少女がやった時の様な滑稽さは一切ない。

ところで…、さっき千冬さんを教官と言っていたあたりでこの転校生がドイツの軍人、あるいは軍施設関係者というのは見当がついた。
まぁ、私の転入前、千冬さんから個人訓練を見てもらう前に私のIS―クトゥルフの開発関係者から千冬さんがIS学園教師になる前に一年ほどドイツで教官やっていたという話を聞いてたからだけど。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

と、そんな事を考えている内に千冬さんの命令通りに名乗り上げるラウラ。

「…………」

…はい、名前だけですか。
続く言葉を待つクラスメイトの沈黙、ラウラは名を口にしたきりまた貝のように口を閉ざす。

「あ、あの~、以上…ですか?」

「以上だ。」

この空気にいたたまれなくなった山田先生が恐らく寝不足だろう体調の中、出来る限りの笑顔でラウラに問いかけるも、返ってきたのは無慈悲な即答。
…やばい、山田先生ショックのあまり俯いちまったよ。
しかも心なしか色がどんどん抜けて真っ白に燃え尽きようとしているよ、転入初日から先生いじめんなよラウラちゃん。

ちなみに最前列の席にいる一夏はより鮮明に山田先生の顔色を窺えるからか、これ以上にない憐みの表情を浮かべている。

「!! 貴様が――」

「……?」

まぁ、一夏の席が教壇に一番近いからだろうか、一夏とラウラの視線が交わる。
と、それと同時に怒りに近い表情を浮かべたラウラがすたすたと一夏に近づいて行き…

バシンッ!!

「………」

「…う?」

一夏の目の前に着くや否や炸裂する無駄のない平手打ち。
あまりに突然の事に『殴られた』という認識も朧な一夏は結構間抜けた声を洩らす。

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!!」

…はい?
いや、流石の私もこりゃ驚く。わけがわからないよ。
皆だってそうだ、あのサムライガールの箒ちゃんだってぽかんと口をあけている。
なんせ、転入したばっかりの転校生がいきなりクラスメイトを殴ったのだ。
いや、もしかしてこれがドイツ式の友好の証か?
だとしたらドイツは地獄だぜ、以下略。

「いきなり何しやがる!!」

殴られた本人もやっと混乱から戻ってきたのか、一夏も怒りに声を荒げる。

「ふん……。」

しかし、一発殴って言いたい事を言い終えたからか、一夏を完全無視して立ち去っていく。
そして空いている席に座れば腕を組み、目を閉じて微動だともしなくなる。
誰が見ても分かる通り、完全な拒絶の意思の表れだ。

「あー……ゴホンゴホン!!
ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。
今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!!」

滅茶苦茶嫌悪になったクラス内の空気を仕切り直す為か、普段以上に無理のある咳払いで切り出す千冬さん。
解散の一言と共にぱんぱんと手を叩き皆の行動を促す。

殴られた一夏は当然だろうが、私も少々これは腑に落ちない、というより腹が立ってるわけだがそうは言ってられない。
転校生のシャルルを巡って廊下中が大渋滞すること間違いなしだろう。
さっさと着替えてグラウンドに出なければ遅刻も免れない。

しかし、いきなり一夏をひっぱたいたラウラ・ボーデヴィッヒに対し、他人事である筈の私が苛立ちを感じているのかは何故だろうか…?

自分でもよく分からない所から込み上げてくる感情、だけど他人事である筈の私が今からラウラに食いかかるというのはお角違いなわけで、それが一層歯痒く感じる。

…何だろう、とりあえず分かる事は私らしくないってことくらいか。


あとがき

とりあえず原作に沿って進めてみました。
どうも、うどん求道者です。

何故か一夏を殴ったラウラに腹が立ってる御蕎麦、
それは友情ゆえか愛ゆえか、今後の展開により一夏との濃厚なホモスレの(ry
嘘です、全力でセシリアを応援します。

最近アニメ6話のシャルルのあのシーンを観ましたが、何とかオルコッ党に踏みとどまれました。
と、言う訳で次回はシャルを全面に押します。


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