初めまして、ぼくの名前は鳴海翔太。中学二年生です。誕生日は二月十四日なので、プレゼントはいつもチョコレート関係です。甘いものは結構好きなので特に困ることはありません。
ぼくは一年生の二学期が終わるまで陸上部にいました。冬休みを終えた三学期からは生徒会のお手伝いを始めました。
理由は、生徒会長の西野弥生先輩と仲良くなったからです。
これからぼくとやよ先輩――ああ、弥生先輩のあだ名です。やよ先輩は何故か本名ではなく、『やよ』と呼ばれています。友達には『やよちゃん』後輩には『やよ先輩』という風に。でも幼馴染の二人は『弥生』と本名を呼び捨てです。不思議です。でもあだ名ってそういうものだと思います。
やよ先輩は、先輩と言うくらいだから年上です。いっこ上です。今は中学三年生です。
話がそれました。
えっと……これからぼくとやよ先輩のことを話そうと思います。
ぼくがやよ先輩と初めて話をしたのは、夏休みが終わって一週間くらいした部活中。グラウンドのトラックを千メートル分を走りきった直後でした。もう少し走りたかったのですが、千メートルと決まっていたので仕方がないことでした。長距離走が好きなぼくには不満です。
その日はいい天気で、女子が「日に焼ける」とぷんぷんしていました。日焼け止めを忘れたそうです。でもその子はもともと色黒で、日に焼けてもそんなに変わらないと思いました。
「すごいねえ、少年。同じところを延々と走ってるなんてよっぽど好きじゃないと出来ないよー」
ぼくにそう声をかけてきたのがやよ先輩でした。最初話しかけられたのが判らなくて、後ろを見ましたが誰もいなかったのでぼくになんだ、とのんびりと思いました。親や友達には「翔太はぼんやりし過ぎ」とよく褒められます。
「はい、ぼく走るのが好きなんです」
のんびりとしたぼくの反応にやよ先輩は気にせず、人懐っこく笑ってくれました。
「へー」
注意されないことをいいことに、ぼくは聞かれてもいないことを口にしていました。
「歩くのも好きです」
「じゃあ散歩も好きなの?」
「はい」
なんとなく嬉しくなって笑顔でうなずきました。
「おじいちゃんみたいだね」
「はい、よく言われます」
本当によく言われることなので腹も立ちませんでした。
二人でほけーと笑い合い、あることに気がつきました。
「ところであなたは誰ですか?」
やよ先輩は首を傾げ、不思議そうにぼくを見た後、ぽんと手を叩きました。
「初めまして、次の生徒会長をつけねらう西野弥生と申します」
そう言って頭を下げたやよ先輩に対してぼくは丁寧な人だと思いました。
「初めまして、鳴海翔太です。陸上部の一年です」
「陸上部なんだー」
グラウンドのトラックを運動着を着て走るのは別に陸上部だけじゃないので変な発言だとは思いませんでした。基礎体力をつけるためにバドミントン部やテニス部の人たちが走っているのを見たことがあったからです。でも、一人で走っているのは陸上部だけです。
「西野先輩は部活に入っているんですか?」
「ううん、帰宅部。暇だし面白そうだから生徒会長やろうと思ったの」
生徒会なんて良く判らないものをやる動機なんてそんなものだと思いました。
「ほいじゃあ、私もう行くね。生徒会の選挙のときは、この西野弥生に清き一票を!」
本物の選挙立候補みたいなことを行って、やよ先輩は笑顔でぼくに手を振って去っていきました。もちろん、他の陸上部の部員にも挨拶を忘れません。
選挙活動は大変なんだなと思いました。