「わたしはまた……あなたを救うことができなかった!」
ほむらの頬を幾筋もの涙が伝う。
ぽたぽたと落ちる雫は蒼白なまどかの顔を悲しく濡らした。
「ほむらちゃん……泣かないで」
泣き崩れるほむらの顔を霞む瞳で見つめて、それでもまどかはほほ笑んだ。
「わたしはもう、ダメだけど。ほむらちゃんはまだ生きてるから……だから、きっと大丈夫。今度こそ……今度こそ、わたしを……みんなを救って」
「無理よ……わたしにはもう……あなたを失うことに耐えられない……」
「そんなこと……いわないで。ね?」
まどかのふるえる手のひらが、そっとほむらの頬をなでる。
「ほむらちゃんのチカラは……きっと、みんなを……幸せにできるから。わたしなんかより……ずっと、ずっと……」
「わたしは! わたしはまどかさえ、幸せになってくれれば、他になにもいらないのに……」
「ダメだよ、ほむらちゃん。みんなの幸せが……わたしの幸せだから……だから、わたしだけを救おうなんて……そんなこと、思わないで」
ぐずる子供をあやすように。
聞き分けのない生徒に言い聞かせるように。
まどかは途切れがちな言葉を紡ぐ。
その言はひどくか弱くて、にも関わらず頑固で、一途で、最後までほむらの気持ちを欠片ほども斟酌してはくれなかった。
ただ、みんなのために。まどかの好きだった、この世界のために。
ほむらがあれほど望んだ、まどか自身の幸せは、そこにはなかった。
「まどかの……ばか……」
ほむらは呟く。
そして――リセット。
ほむらはまた、あの日にもどる――
―目 次―
I. 薔薇園の魔女
登場人物
暁美ほむら :魔法少女。時間を止めることができる。
鹿目まどか :ほむらのすべて。
有村さん :薔薇園の管理者。
有村(妹) :神隠しにあった少女。
女生徒 :名も知らぬ少女。
キュウベェ :白い悪魔。
II. 鳥かごの魔女
登場人物
暁美ほむら :魔法少女。時間を止めることができる。
鹿目まどか :ほむらのすべて。
アスカ :家出少女。
キョウコ :街に生きる少女
キュウベェ :白い悪魔。
III. 箱の魔女
登場人物
暁美ほむら :魔法少女。時間を止めることができる。
鹿目まどか :ほむらのすべて。
巴マミ :魔法少女。くるくる巻き髪。
井佐美エリカ:入院少女。
キュウベェ :白い悪魔。