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[27244] 【一発ネタ】ある転生者の後悔(ネギま! オリ主モノ?)
Name: jy◆7daba336 ID:aacbcbc8
Date: 2011/04/17 00:59
・・・ネギま!オリ主でプロットがこんがらがってボツった作品の冒頭。
稚作にて、お目汚し、ご容赦下さい。




魔法世界《ムンドゥス・マギクス》のとあるありふれた魔法学校で、
その図書室の一角で、一人の少年が手元の学術書から視線を外して窓の外を眺めていた。

「はぁ…」

そして、芯のない、掠れ 揺れた溜息と共に、少年は俯いた。本に目を戻したわけではなく、長机に伏せるように大きく頭を垂れる。
年を追うごとに少しずつ白く染まっていく 艶の無い 赤錆のような髪の毛が、なお赤い夕暮れの西日に反射することもなく映えていた。

少年の目は暗い。
己の全てを後悔で塗り固めたような空気を纏う彼の、そんな気性を表す、暗く 妖《あやう》い目。
自らが棄ててしまったモノの記憶を、実体を持たない虚像を、いつまでも引き摺っている。

少年の名を『』と言う。
彼はこの魔法学校の4年生である。

7歳の彼は、あと3年ほどで魔法学校を卒業することになる。その後の道行きは、まだ決めていない。
ただ、卒業後に進むとしたら、彼は魔法関係ではなく、一般職に就きたいと考えている。彼は魔法使いとして生きようとは思わない。

なぜなら彼――転生者、■■ ■■は、自らが望んで入り込んだ物語に、身勝手にも失望していたからだ。

否、そもそも失望するほどの意思を、抱いていなかった。
彼には、自分が抱いていた期待とはなんだったか、それさえも思い出せないのだ。

過去の自分の突飛な思いつきと、ホームシックよりももっと現実的な感傷に呼び起こされた後悔が、日々、彼を蝕んでいた。
彼を、苦しめていた。








考え、自虐する。

ある日突然に降って沸いた、”好きなスタートで人生をやり直せる機会”において、なぜ、漫画の世界に生きることを望んだのだろうか?

漫画の世界に入り込むという荒唐無稽な事象が、どれほどの負担を自分に強いるか、それを認識していなかったからだ。
日々の暮らしを惰性で生きていければ満足で、
身篭っていた退屈は、それほどスケールの大きいものでなくとも紛らわせることが出来て、
この物語に対しての不満点はあれ、特別やりたいことがあるわけでもなかった。

あの日々を不満に思うほどのストレスと、
多少のことでは吹き飛ばせないジレンマと、
そして人生を捧げてしまえるような冒険への想いでもあれば、おそらく俺は違った。

でも、そうではなかった。
母親のお小言や勉強といった面倒なこともひっくるめて毎日を愛していたし、
友人たちとのくだらないお喋りと、ちょっといい買い物さえ出来れば、楽しかった。
ただ、俺はそんなあたりまえを自覚していなかった。暢気な子供の如き甘い認識。
転生を望んだのは、”そのとき”が退屈だったからで、ネギま!を選んだのはふと思いついたのがそれだったからだ。

そんな軽い思いつきで人生を投げ捨てた自分が憎い。
そして、過去の自分が残したこの世界もまた、憎悪の対象だ。
逆恨み、と知ってなお、俺にはそれ以外の術がない。
自責の言葉を、この一年だけでも1000は紡いだ。それでもまだ足りない。だから、自らを恨むと同時に、この世界を憎んだ。

自分の愚かさと醜さが嫌いで。そうと自覚しておきながら周囲にやつあたりしなければいけない自分の弱さがどうしても腹立たしかった。
自己認識や劣等感を誤魔化す方法などいくらでもあった。
でも、俺はあえてそれをしなかった。
安っぽいプライドにかまけて、自己評価だけは分不相応にまっすぐと現実を見据えて、自分と他人を比較したとき、どうしようもなく苦しくなった。

自己嫌悪だ。
愚かしいくせに分不相応なことばかり望む自分が一番嫌いだ。
分かっていて、そんな高望みを止められない自分が、一番憎い。

それでも、独りで居られれば、その醜さは自分の中だけで発散されるから、
転生という選択肢を選んだ咎を背負いたい気持ちも、正当化して喚きたい気持ちも、自己嫌悪という安易な逃げ道に逃れ続けていたいという気持ちも、同じだけあるから。

結局、俺は、今日も自虐するだけで日が暮れる。



そこまで思考して、俺はもう一度、俯いたたまま震え気味の溜息を吐き出した。
額に当てた冬用ローブの袖口で、冷たい汗を2、3度拭ってから、視界の隅に感じられた赤色の陽光が消えていることに気付いて窓を見上げる。
見上げる空は、思索と回想と自虐に囚われているうちに暗く染まっていた。

「…………」

無言で、開きっぱなしの本を畳んで魔法で元の場所へと納めた。
図書室の鍵も、魔法を使えば開閉自在である。
そうして廊下を抜け、校舎を後にする。

高地に立てられた学校の門からは、町の明かりとは別の光源に照らされた明るい夜空が広がっていた。
今の時間帯、街にはほとんど明かりが点いておらず、代わりに、前世での天の川レベルの星々が毎日空を彩る。
しかし、世界が明るいというのは、俺にとって苦痛に感じた。
煌々と輝く夜空が、なぜか少し気に入らない。

だからか、遮光のスペルを唱えて自分の視界の明度を下げた。サングラスを掛けた様に、瞳に擬似的な暗闇が生まれる。
次いで、索敵の魔法を使ってその暗闇の中を歩く。
完全に目が機能しないわけではないが、障害物にぶつかるかもしれない事を考慮して、最も周囲を把握するのに最適な”索敵”を用いた。
今も、魔法を使っていなければ気付けなかったろう、吐き棄てられたガムを避けた。
こういう些細な恩恵のために、魔法を使う。
俺にとって魔法とはその程度だ。
それなりに適正や保有魔力に優れていようと、俺はあの時目を輝かせた魔法の矢の撃ち合いに、今は微塵も興味が無い。

俺はもう、魔法を日常的に使っている。魔法中毒と言っていい。
そんな俺は、前世では魔法の利便性が危険だと、そうネット掲示板で鼻高々と書き込んでいた。
それが今となっては、堕落する以外にさして危険性が感じられない。
魔法の射手などの戦争用魔法は物騒だが、ようは関わらなければいいのだ。
エアコンと機関銃の違いも分かっていなかったのかと、前世の自分を笑ってやるしかできない。
前世の自分は、そんな力を浅慮で振り回すネギがどうとか嘯いていたものだが、自分がさっきから使っている魔法への覚悟だって”ただ便利だから”という浅はかさである。


こちらの世界で生きることになってから、何もかもが変わらずに居られなかった。
俺は凡俗だ。初志貫徹、というわけにはいかない。
魔法に対する嫌悪感はあった。
だが、今はもうない。
だって魔法の存在は便利だし、生活が楽だから。だから、もう嫌いじゃない。
結局、俺のネギま!世界への悪感情はその程度のものだ。
”志し”と言える程に魔法を反発する理由があったわけでもない。
そして今あるのは自己嫌悪から零れ落ちた八つ当たりだと、今もこうやって自覚している。
そんな中途半端な意思。醜い今と愚かな過去の残した僅かな残滓。

そう考えると、やはり自分が転生なんてことする器じゃないと気付かされる。
貫き通す意思はなく、いつだって自分は中途半端。
なにか極端な行動というのはあの転生が初めてだったはずだ。
それ以前も、それ以降も、自分は変わらず、”ある程度”で満足できてしまう。
そう、だからやはり、自分のような未熟者は、原作介入なんて身の丈にあわないことはしてはならないし、したくない。
ある程度で満足できてしまう自分が、極端へと走る覚悟も無いまま選択して、今こうして後悔しているのだから。
だから自分は、これ以上ネギま!に関わりたくない。
だから、自分はネギま!の世界にあって、何のアクションも起こさない。
これ以上、この世界に深入りすることは、自分には苦痛だし、なによりどんな取り返しのつかないことを抱え込んでしまうかが恐ろしい。
たとえその結果、異邦人のまま この世界で埋もれても、それは自分が選んでしまった事なのだから、受け入れるしかないのだ。







家に着いた。
周囲と比べればかなり立派な、けれどもその分小さな家。

扉を空けて、灯りを点ける。
誰も居ない部屋に、ベッドと机、ソファに暖炉が浮かび上がった。
上着を脱いで暖炉前のソファに腰掛けると、横に玄関手前から奥までの壁一面を覆う本棚が見える。
びっしりと並ぶ本の量は転生前の自分であればふざけた様子で悲鳴を上げていただろうほどだ。
本当に、何もかもが昔の自分とは大違いだ。
どうも憂鬱な気分になっているために、本を読み返したいなどと思うこともなく、天井を見上げた。

今日、何度目かも分からない溜息を吐く。
おそらく転生以来もう直ぐ10000の折り返し地点に到達する溜息だ。
原因は、つい先ほどまでの”異邦人として生きていくのも仕方ない”という思いをいつも揺るがせる、寂しい我が家。
この先もずっと、家族など現れないだろう家。
俺は既にこの世界で生きていく権利を与えられているし、この世界の住人は、確かに生きて自由意志で行動している。
だけれども、彼らはいざとなればネギま!の舞台装置になるし、俺は本来存在しない。
そう考えれば、誰かと関わりを持つことも躊躇ってしまうのだ。
自分の立ち位置すら定まらない未熟者の俺には、
そんな状態で足を踏み出すことができない臆病者の俺には、
自分が何をするべきで、何がしたいのか、分からないのだ。



魔法学校に通って4年。
未だに俺は、自分が何を目標に生きていけばいいのか分からず、ただ惰性で魔法を習い、学校へ通う。
自分はマギステル・マギになりたくはないし、なれる器とも思っていない。
魔法関係以外の職に就いて、このまま惰性で生きていけたらいい。そんな程度の認識だ。

そんな、
前世と変わらない展望だ。
怠惰に呑まれた未来像だ。
ただ違うのは、昔のようなお気楽では居られないことだけ。
異分子で異邦人の自分は、どこまで行こうとも誰かに心を許す気にはなれず、ただただ孤独だということだけ。

抱えているのは、この世界の生き辛さと、恨み。
魔法使いの愚直な熱心さへの尊敬と感謝。
醜く未熟で幼い、愚かな自分への憎悪。
そんな、絡まりすぎてぐちゃぐちゃの思考。

未だに、自分がこの先どうやって生きていけばいいのかとなると分からない。
ただ解ることは、
自分はこれからも、ネギま!の住人として生きてゆかねばならないこと。
そんな人生を自分は選んでしまったのだということ。
自分への憎しみや、この世界への八つ当たりは何の意味もないのだということ。



瞼が重い。瞳の奥が暗くなるような感覚がした。
時計の針は、ちょうど両方とも2で纏まっている。
灯りを消して、俺は浮遊魔法で、ベッドの毛布を自分に掛けた。
柔らかいソファの上、冷たい毛布に包まって、ゆっくりと、思考を閉じていく。


薄れる思考の中で気付くのは、こんな醜い自分が、明日もまた変わらない日常を歩めるのだという幸せ。






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