世界が存在するが、それは巨大な水だと仮定しよう
水の中のあちらこちらに無数の水泡があるが、それを宇宙としよう
宇宙の中に更に無数の水泡があるが、今度はそれを銀河としよう
銀河の中にまた更に無数の水泡があるが、それは星としよう
星の中に無数のバクテリアが存在するが、それは星に生きるあらゆる生命体である
命あるならばそれはいつか滅びる
その単位が星か銀河か宇宙か……あるいは世界かの差だけ
だが滅びはあまりにも慈悲深くも無慈悲に訪れる
泡が一瞬で消えてしまうように苦しむ間も嘆く間もなく消えてしまう
そしてその単位が宇宙ならば、誰もが等しく一瞬で消えてしまう
誰にも覚えられる事もなく、誰かに様々な事を伝える間もなく一瞬で消えてしまう
「お父様……いつか消えてしまうの?」
「そうだよ、この星が恒星の周りを二回周るとこの宇宙は消えてしまうんだ……だからね」
その次元で初めてソレを認識した彼等はある一つの記録装置を、後に種族となる物を作り出した
歴史・文化・種族・文明・星の形状などのあらゆる事を記録する一つの記録装置を作り出した
「それは?」
「ブゥアー(記録装置)だよ。これが私達の宇宙の全てを覚え、私達は情報として新たな命をこの子の中で繋いでいくんだ」
「それは何処に行くの?」
「こことは違う宇宙だよ、そしてこの子はそこの全てを記録して滅びを見届けて更に別の宇宙へと旅立つんだ
そして私達は新たな仲間を迎え入れて一緒に生きていくんだ……滅びる事のない永遠の情報の中で……一緒に見届けていくんだ」
ブゥアーはとある星から飛び立ち、大いなる創造主が宇宙の終焉に飲まれる瞬間の一瞬を捉えた
宇宙から見れば豆粒にも満たない彼は、無感動の感情に何かを抱きながらただ与えられた使命に順ずる
無数に存在する宇宙を記録する途方もない旅路を歩みだす
途方もない旅路で仲間を様々な方法で増やし、いつしか伝承族と呼ばれ・名乗るようになる
そして十二兆・八千六百億・二千四十七番目の宇宙を観測した時……彼はある事を思いついた
『宇宙の滅びを回避する方法はないだろうか?』
記録を続けていくにつけれてブゥアーは肥大化し直径十万光年もある脳味噌の怪物に達した彼はもうまもなく滅びる宇宙の一つをまた見ながらそう思った
既に自分は大きくなりすぎ生きるのにブラックホールや超新星爆発のエネルギーを捕食しなければならない存在となっていた
だから自分が生きられるのならば……ある種の宇宙となった自分が生きられるのだから宇宙も生きられる、延命出来る筈だ
そんな考えを持ったブゥアーは最後に残ったとある星の一人の青年を伝承族に引き入れる事にした
自分達とは違う方向で宇宙を見届ける為にブゥアーは仲間を作り出したがあくまでそれは保険でしかない
元々自分は滅びる世界を見届ける物であり、自分は滅びずこれからも見届けるものだと信じているから
それをあくまでの保険として自分の体内で大切に保存し、また様々な目的に応じた者達をひそかに製造し保険としておいた
そしてそれは的中してしまう
小さな銀河をエネルギーに変換して腹を満たす計画が身内争いやその銀河に住む生命体によって頓挫し……不甲斐なくも敗れ去ってしまったのだ
たった百八十億の宇宙艦隊を前に最強と謳われていた伝承族は敗れ去ってしまう
宇宙と宇宙の隙間で爆発してしまうブゥアーの体内から保険として製造された者達が人知れず旅立ち、各々の目的へと向かって散った
ある者は父親であるブゥアーの後継者を探し出し記録をし続ける為に
ある者は何故自分達はあまりにも小さな存在に敗れ去ってしまったのかを探る為に
ある者はいつか来るブゥアー復活の為により良いエネルギーの補給方法を見つけ出す為に
そして彼もまた生み出された理由の為に……宇宙崩壊を阻止する為に別の宇宙へと旅立っていった
やがて辿り着いた宇宙の小さな星で彼は出会う
自らをインキュベータと呼称する不思議な力を持った生命体達と出会い、彼等と話をする事となった
もっとも共通言語を持たないので伝承族の能力である超能力で思念会話をしてだが
「初めて見るが君は何と言う種族なんだい?」
「私は伝承族とガフリオンと言ってこの宇宙とは違う宇宙から旅をして辿り着いた者だ」
インキュベータは無数に存在するが全員が僅かな差しかない同じ思考や能力を持つその星の生命体で、その宇宙の様々な星に分散して生活していると言う
比較的友好的な種族であったのでガフリオンもまた伝承族とは何なのかを彼等に話す事にした
父ブゥアーから託された旅路の記憶の一部を話し伝承族が来るべき終わりを見届け、その宇宙に生きた命を永遠の命とする存在と話した
「……やはりこの宇宙は消えるのか?」
「やはり?」
「……我々はその可能性を知り宇宙延命の方法を求めて奔走している。君が望むなら我々と共にこの宇宙を……この宇宙と生きる方法を探したい」
ガフリオンはその言葉に対して……小さく頷いた
長い長い地獄の始まりだとしても、二つの種族は見出せない答えを求めて奔走を始める
いつか来る終わりを来させない為の途方もない旅路を歩みだす
補足説明
マップス世界設定における宇宙には膨張限界が存在し、限界と寿命を迎えた宇宙はやがて爆発や宇宙全土の劇的な冷却によって滅びてしまう運命にある
少なくとも”たった”数千億年は維持出来ると推定されている(原作中に主人公達の宇宙の寿命をそう言った)
ブゥアー
とある世界で一番最初に生まれた文明が宇宙崩壊を察知して作り出した『宇宙を記録する生体記録装置』の名前
外宇宙への脱出を諦めた者達が、自分達を覚えてもらい忘却の彼方へと消えてしまい死ぬのを回避する為に作り出した
ワンピースでヒルルクの言っていた『人が死ぬのは忘れ去られた時』をせめて回避する為に生まれたと言えば判ると思う
巨大な脳味噌の化け物で星やブラックホール……果ては銀河を食べる事で延命しながら様々な宇宙を記録していく究極の化け物
宇宙を記録し記録した者達を生かす為に結果として宇宙を喰らい尽くす存在で(成長した自身の維持に全宇宙を食べないといけない程)、数十兆もの宇宙を計測した情報の塊
ここまで説明すると悪の権化だがその思想や想いへの賛同者はかなり存在しており、自分達の文化や文明の記録を願い出た者達も実は多い
伝承族の皇帝なのだが実は伝承族ではない
伝承族
ブゥアーがその超能力などで異星人の細胞を弄くって生み出した自分の模倣品達の総称
年齢と言う概念が存在せず形態毎に分割されている(素材となった種族のままの一歳・二歳・直径一万キロメートルの生首の三歳など)
惑星や宇宙船を超能力で生み出したり星を牽引してしまえるだけの念動力が武器で一人いるだけで下手な星を制圧出来る強さ
ブゥアーの思想に賛同した者達もいれば『素質があるから』などの理由から無理矢理伝承族にされた者達が存在する
その為、最初のブゥアーは伝承族と呼ぶにはある意味でふさわしくない
なお伝承族で自分がどんな宇宙にいてどんな種族でどんな生活をしていたかを覚えている者達はごく僅かしかいない
なのでそもそもの元凶であるブゥアーに故郷を滅ぼされた記憶がない