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[27272] 【習作・ネタ】宇宙生物インキュベータ(マップス×まどかマギカ+独自解釈)
Name: 温泉街◆a77021ce ID:11184927
Date: 2011/04/18 18:57
これは久々にマップスを見て思いついた本当に思いつきな内容です
まどか?
当分出来ないかと……だって主人公がインキュベータですから

都合の良い設定の為にマップスを利用させて頂いています

面白いかと言われると首をかしげる内容です

ただひたすらに宇宙を救う為に奔走するインキュベータ達の姿を書くだけです

それでも良いなら、どうか暖かい眼で作品に眼を通していただけると幸いです



[27272] 『歩みの始まり』
Name: 温泉街◆a77021ce ID:11184927
Date: 2011/04/18 18:59
 世界が存在するが、それは巨大な水だと仮定しよう

 水の中のあちらこちらに無数の水泡があるが、それを宇宙としよう

 宇宙の中に更に無数の水泡があるが、今度はそれを銀河としよう

 銀河の中にまた更に無数の水泡があるが、それは星としよう

 星の中に無数のバクテリアが存在するが、それは星に生きるあらゆる生命体である


 命あるならばそれはいつか滅びる


 その単位が星か銀河か宇宙か……あるいは世界かの差だけ

 だが滅びはあまりにも慈悲深くも無慈悲に訪れる

 泡が一瞬で消えてしまうように苦しむ間も嘆く間もなく消えてしまう

 そしてその単位が宇宙ならば、誰もが等しく一瞬で消えてしまう

 誰にも覚えられる事もなく、誰かに様々な事を伝える間もなく一瞬で消えてしまう


「お父様……いつか消えてしまうの?」

「そうだよ、この星が恒星の周りを二回周るとこの宇宙は消えてしまうんだ……だからね」


 その次元で初めてソレを認識した彼等はある一つの記録装置を、後に種族となる物を作り出した

 歴史・文化・種族・文明・星の形状などのあらゆる事を記録する一つの記録装置を作り出した


「それは?」

「ブゥアー(記録装置)だよ。これが私達の宇宙の全てを覚え、私達は情報として新たな命をこの子の中で繋いでいくんだ」

「それは何処に行くの?」

「こことは違う宇宙だよ、そしてこの子はそこの全てを記録して滅びを見届けて更に別の宇宙へと旅立つんだ
 そして私達は新たな仲間を迎え入れて一緒に生きていくんだ……滅びる事のない永遠の情報の中で……一緒に見届けていくんだ」


 ブゥアーはとある星から飛び立ち、大いなる創造主が宇宙の終焉に飲まれる瞬間の一瞬を捉えた

 宇宙から見れば豆粒にも満たない彼は、無感動の感情に何かを抱きながらただ与えられた使命に順ずる

 無数に存在する宇宙を記録する途方もない旅路を歩みだす

 途方もない旅路で仲間を様々な方法で増やし、いつしか伝承族と呼ばれ・名乗るようになる


 そして十二兆・八千六百億・二千四十七番目の宇宙を観測した時……彼はある事を思いついた 



『宇宙の滅びを回避する方法はないだろうか?』



 記録を続けていくにつけれてブゥアーは肥大化し直径十万光年もある脳味噌の怪物に達した彼はもうまもなく滅びる宇宙の一つをまた見ながらそう思った

 既に自分は大きくなりすぎ生きるのにブラックホールや超新星爆発のエネルギーを捕食しなければならない存在となっていた

 だから自分が生きられるのならば……ある種の宇宙となった自分が生きられるのだから宇宙も生きられる、延命出来る筈だ

 そんな考えを持ったブゥアーは最後に残ったとある星の一人の青年を伝承族に引き入れる事にした

 自分達とは違う方向で宇宙を見届ける為にブゥアーは仲間を作り出したがあくまでそれは保険でしかない

 元々自分は滅びる世界を見届ける物であり、自分は滅びずこれからも見届けるものだと信じているから

 それをあくまでの保険として自分の体内で大切に保存し、また様々な目的に応じた者達をひそかに製造し保険としておいた


 そしてそれは的中してしまう


 小さな銀河をエネルギーに変換して腹を満たす計画が身内争いやその銀河に住む生命体によって頓挫し……不甲斐なくも敗れ去ってしまったのだ

 たった百八十億の宇宙艦隊を前に最強と謳われていた伝承族は敗れ去ってしまう

 宇宙と宇宙の隙間で爆発してしまうブゥアーの体内から保険として製造された者達が人知れず旅立ち、各々の目的へと向かって散った


 ある者は父親であるブゥアーの後継者を探し出し記録をし続ける為に


 ある者は何故自分達はあまりにも小さな存在に敗れ去ってしまったのかを探る為に


 ある者はいつか来るブゥアー復活の為により良いエネルギーの補給方法を見つけ出す為に



 そして彼もまた生み出された理由の為に……宇宙崩壊を阻止する為に別の宇宙へと旅立っていった



 やがて辿り着いた宇宙の小さな星で彼は出会う



 自らをインキュベータと呼称する不思議な力を持った生命体達と出会い、彼等と話をする事となった

 もっとも共通言語を持たないので伝承族の能力である超能力で思念会話をしてだが


「初めて見るが君は何と言う種族なんだい?」

「私は伝承族とガフリオンと言ってこの宇宙とは違う宇宙から旅をして辿り着いた者だ」


 インキュベータは無数に存在するが全員が僅かな差しかない同じ思考や能力を持つその星の生命体で、その宇宙の様々な星に分散して生活していると言う

 比較的友好的な種族であったのでガフリオンもまた伝承族とは何なのかを彼等に話す事にした

 父ブゥアーから託された旅路の記憶の一部を話し伝承族が来るべき終わりを見届け、その宇宙に生きた命を永遠の命とする存在と話した


「……やはりこの宇宙は消えるのか?」

「やはり?」

「……我々はその可能性を知り宇宙延命の方法を求めて奔走している。君が望むなら我々と共にこの宇宙を……この宇宙と生きる方法を探したい」


 ガフリオンはその言葉に対して……小さく頷いた

 長い長い地獄の始まりだとしても、二つの種族は見出せない答えを求めて奔走を始める

 いつか来る終わりを来させない為の途方もない旅路を歩みだす









 補足説明

 マップス世界設定における宇宙には膨張限界が存在し、限界と寿命を迎えた宇宙はやがて爆発や宇宙全土の劇的な冷却によって滅びてしまう運命にある
 少なくとも”たった”数千億年は維持出来ると推定されている(原作中に主人公達の宇宙の寿命をそう言った)


 ブゥアー
 とある世界で一番最初に生まれた文明が宇宙崩壊を察知して作り出した『宇宙を記録する生体記録装置』の名前
 外宇宙への脱出を諦めた者達が、自分達を覚えてもらい忘却の彼方へと消えてしまい死ぬのを回避する為に作り出した
 ワンピースでヒルルクの言っていた『人が死ぬのは忘れ去られた時』をせめて回避する為に生まれたと言えば判ると思う
 巨大な脳味噌の化け物で星やブラックホール……果ては銀河を食べる事で延命しながら様々な宇宙を記録していく究極の化け物
 宇宙を記録し記録した者達を生かす為に結果として宇宙を喰らい尽くす存在で(成長した自身の維持に全宇宙を食べないといけない程)、数十兆もの宇宙を計測した情報の塊
 ここまで説明すると悪の権化だがその思想や想いへの賛同者はかなり存在しており、自分達の文化や文明の記録を願い出た者達も実は多い
 伝承族の皇帝なのだが実は伝承族ではない

 
 伝承族
 ブゥアーがその超能力などで異星人の細胞を弄くって生み出した自分の模倣品達の総称
 年齢と言う概念が存在せず形態毎に分割されている(素材となった種族のままの一歳・二歳・直径一万キロメートルの生首の三歳など)
 惑星や宇宙船を超能力で生み出したり星を牽引してしまえるだけの念動力が武器で一人いるだけで下手な星を制圧出来る強さ
 ブゥアーの思想に賛同した者達もいれば『素質があるから』などの理由から無理矢理伝承族にされた者達が存在する
 その為、最初のブゥアーは伝承族と呼ぶにはある意味でふさわしくない
 なお伝承族で自分がどんな宇宙にいてどんな種族でどんな生活をしていたかを覚えている者達はごく僅かしかいない
 なのでそもそもの元凶であるブゥアーに故郷を滅ぼされた記憶がない




[27272] 『辛き道を』
Name: 温泉街◆a77021ce ID:11184927
Date: 2011/04/20 11:03
 宇宙崩壊を回避する為にガフリオンとインキュベータは早速研究を始めた。

 ガフリオンが持つ伝承族の記憶の映像をインキュベータ達はそれこそ無数と呼ぶべき数で見る事に専念する。

 インキュベータ達は全員がある種の繋がった思考を持ち、これによって全員が一人の見たものや感じた考えを理解出来る。

 それを最大限に生かして数兆の宇宙が辿った……数えるのも面倒な歴史を見届けひたすらに論理を組み立て続けていく。


「この宇宙は生命体同士の戦争によって滅んでしまった」

「これは宇宙全体が突然冷たくなり凍り付いてしまった」

「一つの惑星の爆発が連鎖的に全てを吹き飛ばした」

「小さなブラックホールの出現と肥大化によって飲み込まれてしまった」

「宇宙の中を生命体が埋め尽くして破裂してしまった」

「小さくなって全てが押しつぶされてしまった」

「突然膨張を始めて全てが何処かに飛んでいってしまった」


 滅びの理由はそれこそ無数だった。

 だが全てにおいてある共通点が存在している事が判明した。



「だが確かなのは全て吹き飛んでしまう事だ」



 宇宙の寿命と言うべきだろう。

 かつてブゥアーを生み出した『最初の文明』のようにいつか宇宙は必ず跡形もなく吹き飛んでしまう。

 どうやっても避けることの出来ない全ての宇宙が辿った最後にインキュベータ達は恐怖するしかない。

 この結論に至るまでで既に数百億年の月日を夕に費やししまっただけに、彼等は時間の浪費を極端に恐れだした。



「早いもので宇宙誕生から数千億年だ……この宇宙がいつ生まれて今がいつになるのかなんて到底知りえない」



 『自分達にあとどれだけの時間があるのか?』

 それが判らない恐怖に彼等はとにかく震え、どうすれば良いのか悩みだした。


「残された時間を計測するのか?」

「いやそれよりも早く延命方法を模索するべきだ」


 そんな恐怖から始まる統一思考の論理は泥沼へと陥っていく。


 どうすればいい?


 何をすればいい?


 誰を頼るのか?


 個体差が僅かしかない彼等の論議は誰もが似たような答えしか見出せない。

 だからどんなに頑張っても時間ばかりが過ぎ去っていく。

 他の惑星の技術や文明を持つ者達の様子を除いても宇宙が崩壊するなど考えている者達は少ない。

 それにそんな事を定理してもそれらは『ありえない』と嘲笑され、誰にも見向きされない絵空事へと消えていく。


「どうする、その研究者達を仲間に引き入れるのか?」


「思考が違えば言い争いになるだけだ……我々だけで遂行するんだ」


 ガフリオンの言葉に彼等はあくまでも統一思考に基づく自分達の考えを優先し仲間を作ることを拒否した。

 下手な仲間を増やし内乱となるのを危惧した彼等は自分達以外をあまり信用せず、その思考に対しても否定的になった。

 無論ガフリオンに対しては別だがそれでも宇宙崩壊を知らない他文明への関心そのものをしないようになっていく。


 それからまた数百億年が過ぎ去るが答えは一向に見出せない。


 誰かに頼ることも出来ず、同じような思考を持ち信頼できる技術力を持つ文明も現れない日々。

 あるのはとにかく延命させる為の手段への模索であり、その考えに固執していくようになった。


 そして時間は無慈悲に追いつく。


「……反応が消えた」

「何のだ?」

「宇宙の端っこで監視していた我々が……一斉に消えた」


 宇宙全体の収縮。

 ビックバンに向けてこの宇宙が縮退を始めた兆しを感知してしまった。

 それはより大きな焦りを生み出す。

 あまりにも明確すぎる終わりの兆しに何故か彼等の思考は焦燥に支配さなかった。


「時間がもうない……一緒に別の宇宙に逃げよう、そこでまた探せば良い」


 ガフリオンは彼等にそう提案した。

 ここで駄目でも別の宇宙へと逃げてそこでまた方法を模索すれば良いと言った。

 次の宇宙への脱出は伝承族であるガフリオンから言わせれば何の問題もない簡単な事でインキュベータ達を引き連れるのも簡単だった。

 同じ目的を持つ仲間としてガフリオンが差し出した手を意外にもインキュベータ達は取らなかった。


「我々はこの宇宙が好きだ……そしてここは我々の故郷なんだ……研究を妥協したくない」


「そんな余裕はない! もう終わりが来る、今なら逃げ切れるんだぞ!?」


 彷徨い別の宇宙へと旅立つのが当たり前の伝承族にとってその思考はまったく理解出来ないものでしかない。

 逃げられる可能性とそこから始められる未来があるのに、敗北した今にこだわる必要性を理解出来ないのだ。

 数百億年も共に進まなかったとはいえ研究を続けてきた仲間をガフリオンは見捨てたいと思わない。


「……良く聞いて欲しい、我々には実は特別な力があるんだ。そしてそれを使えば君を過去の世界へと飛ばす事が出来る」


「タイムマシンがあるとでも言うのか!? そんな都合の良い装置がこの宇宙で完成していたのか!?」


 宇宙は広い。

 だからタイムマシンの製造に着手した文明は多いがその多くが失敗し成功したとしてもそれが歴史を変えるには至らない。

 それに対してインキュベータ達の代表とも言える個体が首を横に振る。

 そして何処からともなく光り輝く鉱石をくわえた個体がガフリオンにそれを手渡す。



「我々は力を得れた……君達伝承族の記憶を覗いて研究した力だ。そしてそれはその一番目で唯一間に合った装置だ」



 ガフリオンの手にある鉱石が淡く桃色の光を放ち、それはやがてより強くなってガフリオンを飲み込むまでになる。



「この奇跡の力を使って君の意識を私達が出会ったあの日へと記憶などを持ちえた状態で逆行させる……それが今回の成果だ
 そしてその鉱石には我々の今回のこの研究といつこの終わりが始まったのかを記録させてある、その中身を過去の我々に渡してくれ」



 ガフリオンの頭の中に数百億年掛けて築きあげられた『奇跡の力』に関する情報が流れ込む。

 数兆の宇宙の歴史を記憶出来る伝承族のガフリオンにとってそれは取るに足らない量の情報だ。

 既に眩い光に飲まれ彼等の姿を確認出来ないガフリオンは見えない眼で彼等を探し手を伸ばす。



「故郷は故郷で我々はここに居たい、失いたくない……だから延命への模索を諦めたくないんだ。彷徨う君には判らないかも知れない
 判って貰わなくていい、だがそれでもどうか過去の我々にそれを届けてくれ。我侭だとしてもこの宇宙を守り抜く為に君を利用させてくれ」



 ガフリオンの身体から力が一気に抜けてしまい意識が朦朧としだす。



「さよなら……我々の友達」



 意識を手放した直後……その宇宙は一瞬にして全てを吹き飛ばした。

 だがそれも大きな次元から見ればちっぽけな光であり数十兆を超える中の一つの光でしかない。

 そこに生きた多くの者達の願いや生活・未来に馳せた希望など知る由もなく。


 その宇宙は消え去った。


 ただ一つの希望を遥か前の時間に託して。


 そしてガフリオンの意識は数百億年前のこの宇宙にたどり着いたばかりに戻ってきていた。

 インキュベータ達の宇宙延命に託した研究の一つは確かに身を結んだのだ。

 たった一人の友と呼んだ異星人を過去の世界へと送り出し、その奇跡を信じて。



「……記憶がある。彼等の託した情報もある」



 宇宙空間の真っ只中。

 普通ならば到底生きられない空間の中をガフリオンは放心状態で漂っている。

 過去の世界に送り出す研究が完成している事への驚き以上に彼等の行為に対して何か思っているからだ。


 彼等はもういない。


 数百億年を映像を見て、宇宙を救う為に共に費やした仲間達はもういない。

 これから出会うのは彼等に良く似たまったく違う存在でしかないのだ。



「……一人くらい居てくれれば良いのに」



 それは一人取り残された事への小さな呟きだった。

 このまま彼等との記憶を胸にこの宇宙を見捨てる事も出来る。

 これから出会う彼等にあって最初にあった彼等の記憶を歪められるのは、ガフリオンには認めがたい現実でしかない。

 だが……託された。



『我々はここが好きなんだ……研究を妥協させないでくれ』



 たった一人の友としてガフリオンには託された物がある。

 彼等がその命と思考で作り上げた宇宙延命の為の切り札である『奇跡を起こす』能力。

 それは思念の力を持って生み出す能力で、現に時間逆行を成功させてみせた。

 代わりに宇宙規模で強い思考や思念を持つ生命体の命を貪ってようやく完成しえた技術だとしても……だ。



「伝えないと……この奇跡を」



 ガフリオンは突き動かされた。

 それは彼が始めて生まれて出会った友と呼べる相手からの頼みだから。

 自分と同じ目的を持った仲間の願いだから。

 もしガフリオンが失うことに慣れていたならば、この技術を持ち逃げしていただろう。


「行かないと、彼等に伝えないと」


 放心状態だったガフリオンの眼に強い意思が宿り、その身体がテレポートによって消える。

 数光年先のあのインキュベータ達が住む惑星へと超能力で跳んだのだ。

 伝承族の超能力を持ってすればその位のワープなど朝飯前である。

 何せ強大になればその能力で宇宙に存在する物質から宇宙船や銀河系すら作り出せるのだから。



「見ない種族だな?」



「遠い未来からこの宇宙崩壊を阻止する為にやってきた君達の仲間さ」



 地獄がここから始まる。

 宇宙全土を巻き込んだ壮絶な地獄が。








 補足説明

 時間逆行
 マップスの世界では精度の良し悪しは二の次だとしてもタイムマシンが実在する
 インキュベータの『奇跡の力』はまどか原作中に一人の少女に過去への逆行能力を与えている


 インキュベータ
 ほむらがキュウべぇの事をそう呼んだ(孵卵器と言う意味で人工孵化装置の事・一応自称もしている)
 ソウルジェムの劣化から生まれたグリフシードから卵から孵るように出てくるのでピッタリと言える
 何故なら魔女はキュウべぇ達と契約して魔法少女にならねば生まれないのだから、奴等は文字通り『孵す者』なのでしょうね
 全員で一人であり一人で全員であり、無数のキュウべぇが存在するがその全てが繋がった思考を持つ
 統一思考は今ならバジュラやBETAと言えば判って貰えるだろう
 『宇宙全体の資源(エネルギー)枯渇を阻止し宇宙の寿命を延ばす事』を目的としており、その為に活動している異星人
 二話時点ではあくまで『宇宙の寿命による崩壊を阻止する為に』活動している


 外宇宙への脱出
 ブゥアーを生み出した文明は『民族全てを逃がすようなワームホールは作れない』と発言している
 つまり極少数ならば別の宇宙への脱出は可能であったが彼等はあえてそれをしなかった


 まどか達が出るのはいつになるか……だってマップスから見たQB達の話だから



[27272] 『またここから』
Name: 温泉街◆a77021ce ID:11184927
Date: 2011/04/22 17:27
 二週目と言うべきか、ガフリオンは帰ってきた。

 数百億年前のその宇宙であり、そう遠くない終わりに近づきつつある時間に。


「我々の仲間だと?」


「言葉よりも映像と情報の方が早いだろう」


 ガフリオンはインキュベータ達にあの数百億年の日々を鮮明に見せていく。

 困惑・混乱・奔走するガフリオンから見たその日々を。

 映像と宇宙崩壊について知りえたその時間と作業について。


 それはどんな言葉よりも説得力のあるものとしてインキュベータ達に押し付けられた。


 無論彼等は大いに混乱するしかなかった。

 突然現れた異星人が自分達と共に宇宙崩壊を阻止するべく研究している姿をいきなり見せ付けられたのだから。



「信じてくれるなら……未来の君達の研究を託せるんだ! 信じてくれ」



 突然現れた異星人に映像を見せられ、そして信じてくれと言われて彼等は信じれるほどお人好しではなかった。

 大半の個体が不信感を示す、当然と言えば当然であり統一思考の僅かな差は論議する。

 だが極僅かな個体の『信頼しよう』と言う言葉に多くの個体が賛同する事になる。


 『嘘ならば奪うだけ奪ってしまえば良い』


 そんな考えを持ちながら彼等はガフリオンと共に歩む道を選び取る。


「我々は君を信頼する、未来の我々が君に託した研究を教えてくれ」


「……あぁ!」


 研究内容はテレパシーで代表格となっている個体を通じてインキュベータ全体に普及していった。

 統一思考からなる意識の力……伝承族と同じ超能力をこの瞬間彼等は手に入れこの宇宙崩壊までのタイムリミットも理解した。

 意識を過去の世界へと飛ばしてしまう事すら可能とさせるその力は、まさに宇宙延命に掛ける小さな希望となる。


「判ったのはこの力は生命体の意識・感情の力を必要とする事だ。未来の我々は君を過去に飛ばす為に我々全員の意識を集中させたようだね」


「伝承族の力は脳波などから作られるエスパー能力だからな、その気になれば銀河系の一つくらい作れる」


「装置となるこの鉱石も強い感情が必要になるね。そんじょそこらの生命体の感情じゃまったく足りない……数万はいるかな」


 彼等は未来の自分達の情報を素早く解析し、過去へと飛ばした能力の正体を理解し未来の自分達のガフリオンに対する信頼も理解した。

 だが現在の奇跡の力はあまりにも膨大な犠牲が必要であり、加えてその範疇もまだまだ少なく弱い。

 もしこれが凄まじい力を持っていたならば未来の彼等は『宇宙の延命』を望んだだろうが、それはなかったのが答え。

 未来を手に入れるにはこの奇跡の力を持って延命を成功させるか、あるいは延命への道筋を手に入れる事である。

 いかなる距離を持っても時間のロスなく繋がる彼等は素早く行動を開始しだす。


「過去へ飛ぶための量を確保して、それからこの力をより強くしよう……僕等の代でもきっと宇宙延命は間に合わない」

「君は自分を”僕”と呼称する個体なんだな。そして既に飽きらめるんだな」

「そうだよ。僕は少なくとも間に合うなんて思ってない……それに過去に飛べる奇跡があるならそれを最大限に活用すれば良いんだよ
 未来の僕達が君をあんなに信頼してるんだもの、だから僕はもう一度君を信じて過去へと飛ばす。僕達の希望を繋いで欲しいんだ」


 僅かな差でも、それは大きな差でもある。

 あの彼等は最後の一瞬まで考え抜いたのに対して、この彼等は既に自分達は間に合わないと諦めている。


 代わりに出来る限りの情報を集めて次の自分達への道を作り出す。


 その犠牲となるのを既に覚悟して動いていた。

 近い死への恐怖を過去の自分達へ希望を託すと言う大きな使命感で無理矢理押し込めているのだ。


「君は未来の僕等に聞いたね? 逃げないかって?」

「あぁ」

「僕等はね……ここ以外に生きられる自信がないんだ。たとえ他の何を犠牲にしてでもこの故郷を守りたい、生きられる自信がないからさ
 誰か一人でも生きていれば勝ちだとしても、その勝利を『外に出た』なんて不甲斐ないものにしたくないんだ……この宇宙が好きだから余計に」


 それは遠くない内の滅びを知り、そして未来の自分達が逃げないと知ったからこその言葉と言える。



「未来の僕等は何もわからないから奔走して、そして過去の世界へと逃げる道を選び取った。でも自分達よりも君を選んだ、選んでしまった」


 彼が星空を見上げると星空の星の一つが消えた。


「今……僕等の一つが消えた。でもそこに恐怖はない、何故なら僕等は一つで全て・全てで一つだから。倒れてもどれかがいれば勝ちだ」


 ガフリオンもまた星空を見上げる。

 何処か遠い星がまた消えた。


「未来の僕等はその誰かを君にしたんだ。でも今度は一緒に行くよ、この宇宙を救うんだ」


 その言葉にガフリオンは小さく答えた。

 それは前の彼よりも少しだけ仲間想いな個体が零した小さな信頼の証だった。

 内側に利用するだけしたら殺しても良いと考えているとしても、その個体は少しだけガフリオンを信頼した。


 それから数百億年の月日を費やして、インキュベータはその宇宙に存在する全ての思考を持つ生命体を試し続けた。


 どうすれば奇跡の力が強くなるのか?

 どうすれば宇宙延命へと繋げられるか?

 どうすればよい明確な形で次の過去へと繋げる事が出来るのか?


 ガフリオンと言う膨大な知識を持つ賢人と共に模索した。



「判ったよ。もっともこの装置が強く奇跡の力を発揮するのは希望と絶望だ。僕等にはどういったものなのか判らないけど」



 既に宇宙の縮退が始まり、崩壊は秒読みの段階へと到達した。

 彼を除いた全てのインキュベータが縮退を始める宇宙を集め続けた奇跡の力が押し留めようとするが全てが無駄。

 押し留めようと軌跡の力を使った個体は瞬く間に小さくなる宇宙に飲み込まれてその命を消失させていく。



「だけどその強さにはむらつきがある、だからこの宇宙に存在するどの種族がもっとも強い力を発揮出来るのかを探さないといけない」


「他の個体は……どうやら君の言ったとおり宇宙の収縮を止める事は出来てないみたいだ」


「当たり前だよ。だけどその情報も今も僕の中に流れ込んでくる……さぁもう時間がない行こう」



 あの日のように鉱石が強い光を放ちそして過去へと二人の意識を飛ばすタイムマシンへと変貌する。

 この宇宙中の思考や感情を持つ生命体の無数の命を喰って生まれた装置の光はどんどん強くなっていく。

 宇宙の誰からも理解されず信じられなかった宇宙崩壊を回避する為の研究は結局間に合わなかった。

 数百億年のタイムのミットもこの研究の前ではあまりにも短い時間でしかない。



「行こう過去へ……僕等の未来を変えるんだ!」



「あぁ行こう。この宇宙を救うために」



 光は二人を飲み込み、やがてその身体が中身を失い倒れる。

 その数秒後……宇宙の一つが消し飛ぶ。

 全てを飲み込んで綺麗さっぱり消えてしまう。



 そしてガフリオンはまた過去へと飛ぶ。



 目覚めた時……既に大きな違いが生まれていた。

 目の前の生命体は白く小さな身体は地球で言う犬?みたいな身体に垂れ下がった耳や赤い眼はとても特徴的だ。


「……やっと起きたね」


「”君”なのか?」


「あぁそうだよ、ちょっと面白い実験と結果を見つけたからね。こんな姿になったんだ」


 彼はそんな姿を笑いその小さな身体をガフリオンにすり寄せる。



「さぁここからまた始めよう」



 ガフリオンは知らない。

 それが小さな少女達の出会いをもたらして、苦悩の始まりを意味するなど。

 また知りえる訳がなかった。

 自分達が無二にして強大なる宇宙の敵になっているなど。

 魔女の夜は始まってしまっていた。 





 補足説明

 
 インキュベータ達は宇宙人でまだ綺麗です
 広大な宇宙のエネルギー資源が凄まじい勢いで枯渇しているのを知っている事からおそらく生息域は宇宙全土
 
 と言うか連中の言ってる事からしてそう遠くない内に人類が宇宙文明の一つとして名を上げるのを知っている?
 それが今作のループ設定の一つにもなっています

 また前回で説明したがインキュベータは卵を孵す装置の名前 

 ほむらがそう呼んだのは『魔法少女を生んで魔女を生み出す存在』だからだと思われる
 魔女は魔法少女のソウルジェムから生まれてくる存在なので、そう呼称した可能性がある
 なので正確な種族の名前とは言えない可能性がある
 彼等が自分達の事をそう呼んだのもそれに合わせて地球人に理解させる為?


 地球の価値や特色(宇宙から見た)
 マップスの世界観における地球は文化レベルが低く宇宙から見て貴重な資源が存在していない
 また特撮ヒーローの存在を『特殊部隊』と信じており彼等の報復を恐れて侵略しなかったと言う
 なおジェット機は『とんでもない値で売れる超骨董品・地球はそういう意味では宝の山』らしい
 更にサンタクロスが宇宙で活躍するヒーローに似ている事から『彼の拠点ではないか?』とも疑われていた
 核兵器の威力レベルは『軍人に泥団子をぶつける子供レベル』だそうだ
 こういった理由から地球は宇宙人の干渉を受けていなかったとされる
 まどかマギカでは宇宙でも有数の感情と思考を持つから狙われると言う不運を発揮しているが……


 ブゥアーの誤算と不確定な未来

 『AとBが戦いAが勝った』でも『再計算したらBが勝ち、以後Bが勝ち続ける未来が答えになる』

 宇宙記録中しその未来を演算する途中でブゥアーはソレを知る
 『ならどちら最初の未来は何だったのか?』と言う疑問はブゥアーの中で恐怖となっていく
 記録の生命を約束した自分が演算ミスなど許されるわけない、それは大切な創造主の想いに背くから
 だからブゥアーは自分の中にそのミスの原因を探る一対のシステムを製造する(続編のネクストシートに現れる)
 やがてそのブゥアーの演算ミスは敗北と消滅を招く
 この世には言い表せない何かがある……勇者はソレを計算にも出ない誤算が起こす奇跡と表現しましたが
 インキュベータ達は誤算をするのでしょうか



[27272] 『奇跡の対価』
Name: 温泉街◆a77021ce ID:11184927
Date: 2011/04/25 23:39
 ガフリオンの意識の転移は『ガフリオンがこの宇宙にたどり着いた』時であり、一時的に意識を失い宇宙を彷徨う。

 そんなまた戻ってきたガフリオンの前に現れたのは前回共に逆行した彼だった。

 最寄の星へと降り立ち彼はさっそく事の次第を話し始める。


「この鉱石にして装置であるソウルジェムはね、強く複雑な思考と感情を持つ生命体であればあるほどその強さを増すんだ
 その生命体から取り出した……魂とでも言えば良いのかな? まぁようは命こそ僕等の宇宙を救う唯一無二の希望なんだよ
 そしてこれは希望と絶望の感情を込められて生まれたのが一番強い輝きを持って、可能とする力の領域も増える事が判ったんだ」

「……まるで生贄砲だな」


 『生贄砲』

 ブゥアーが宇宙でもっともエネルギー変換に優れた方法として生み出した『感情をエネルギーとする』一種の技術の名前である。
 その力は凄まじくネズミ一匹殺すだけで……そのネズミが発した死への恐怖や絶望から生まれたエネルギーが全てを破壊する力となってしまう。
 威力に換算するならばネズミ一匹で地球クラスの惑星の地表を焼き払うには充分すぎる威力を発揮するとんでもない兵器だ。


 失敗するがブゥアーはこれを銀河とそこに住む生命体全てを弾倉とした『銀河砲』を使用しようとした。


 それによって全宇宙を食べねば維持出来ないであろう自分の身体を維持するのに充分なエネルギーが得られると計算出来たからである。
 元々伝承族の超能力は直径一万キロメートルを超える脳波から生み出される思念の力。
 だから意思や感情が持つ力に関しては一歩も二歩も理解と利用方法に秀でていてた。
 それを彼に話した所、彼は光明を得たとばかりに微笑んだ。


「そうだ、感情は力なんだ……そして希望と絶望はこの宇宙のあちらこちらに転がっている」


 宇宙はあまりにも広い……それこそ文明発達が一定以上になれば戦争の概念が生まれ絶望が満ち溢れだす。

 眠れない夜に怯える者達。

 大切な人を守らんとする者達。

 戦いに溺れ強者との戦いを望む者達。

 理由や形は違えど何かしらの望みを持ち、そして自分の非力に嘆いている者達などそれこそ腐るほど存在する。

 戦いでなくとも別の形も腐るほど存在する。

 あの人に振り向いてもらいたい。

 幸せな家庭を築き上げたい。

 夢を手に入れたい。


「だから僕達はそんな絶望に敗れた存在に奇跡を与えるんだ、希望に満ちた未来を手に入れ他者を絶望のどん底へと突き落とさせる」


「そしてその絶望のどん底の者達に奇跡を与えて希望を生み出させる。そしてまた絶望に叩き落された連中が希望を求める」


 それはあまりにも惨たらしい連鎖と言えた。

 だが自分が幸せになる為には他人を突き落としていかないといけないのは事実で、避けられない現実だ。

 ガフリオンと彼等はそれを少し手助けするのだ……少しだけそのサイクルを加速させるだけ。


「宇宙を救う為には仕方ないことだ。むしろ僕等はその無意味な願いや人生に希望と成し遂げる力を与えるんだ」

「感謝して貰いたいか?」

「まさか? 僕等はあくまで絶望は小さく……希望は大きくするよ。いつかこの宇宙のみんながこの戦いの意味を知ってくれるまで」


 それは何を思ってかの発言かなど判らない。
 だが彼等は手に入れた奇跡の力で何かを知ったのだ。
 ましてやそんな可愛らしいと呼ぶべき姿をするに到る何かが。


「さっ始めよう! 僕等の奇跡でこの宇宙を救うんだ!」


 それから二人の戦いが始まった。
 様々な惑星の戦争や紛争に飛び込んでは力を望む者達に奇跡の力を与える。
 特に強い願いを持つ者達を探して色んな星を飛び回った。


「あっアナタ達だれ!?」


 そして一人の少女と出会う。

 その惑星各地で戦争が起きておりその少女はいつも眠れぬ夜に怯えていた。

 だから戦火に怯えず眠れる夜を誰よりも手に入れたいと考えていたが実現する力など持ち合わせていなかった。

 戦火に怯えながら星空を見上げて居もしない神にただひたすらに祈る毎日を過ごしていた。


「落ち着いて聞いて欲しいんだ。僕達には力がある……君の願いを叶えられる力があるんだ。どんな願いでも叶えてみせる力がある」


 彼のその可愛らしい外見に少女はすぐに油断し、フレンドリーに手を振るガフリオンにも警戒を解いた。
 少なくとも敵ではないと思ったからである。


「そんな事が出来るの?」

「出来るよ。でも対価が必要なんだ」


 対価と言う言葉に少女は露骨に顔を歪ませ警戒心を露にする。
 特に発育しだした身体を守るように毛布を抱き寄せ二人から離れる。


「まぁ待ってくれ、対価と言っても支払いは君が死んでからだ」

「そうだよ。僕達はある目的の為に戦っていてその為に夢を成し遂げた人の力が必要なんだ」


 ここで二人は学習する、強い思考と感情を持つ生命体はリスクを負う事を極端に恐れてしまう性質を共通して抱えている。
 だから都合の悪い事をはぐらかして少しでリスクを意識させない方法を見出さねばならないと言う結論を理解する。
 だがそれに関して二人はまさに天性の才能と催眠術などによる簡単な誘導術を持ち合わせていたのでそう難しい話にはならない。


「僕達は来る終焉に立ち向かう為に戦っているんだ」

「終焉? なんなのそれ?」

「論より証拠だろう、少し頭が痛くなるが我慢してくれ」


 ガフリオンが少女にそう遠くない未来を見せる。

 収縮を始めて最後には大爆発で消えてしまう抗いようのない未来の映像。

 そしてそれは少女の脳にはあまりにも理解しがたい映像で、それこそ骨董無形な御伽噺のような出来事なだけに簡単に理解を示してはくれない。

 そもそもこの星の寿命はソレが来るよりも早く尽きてしまい消滅する運命にあるのだから、それこそ遠い未来の話となってしまう。

 だから理解されない。


「でもこれは本当の出来事なんだ。そしてソレを回避する為に僕等は戦う為のエネルギーがいる……絶望と希望の感情の力が」


「君が死んだ後に我々は君からそのエネルギーを回収しそれを使ってこの終焉に立ち向かう。だから対価は最後に払うものになる」


 そんな説明も少女には理解されず、判らないと半ば錯乱しつつあった。

 『使えない』

 『失敗した』

 二人はそう考えてまた別の存在を探す事を決意する……なにせ候補は宇宙全域なのだからそれこそ幾らでも居る。

 きっとこの少女よりも理解を示してくれる者がいる。

 だから二人が諦めて惑星から飛び立とうとした時……少女の村に悲鳴と火の手があがりだす。


「戦争のようだね、まっ僕達を理解出来ないならここで死ぬと良いよ。別に代わりは幾らでもいるから」


 彼は冷淡にそう突き放す。


「ねぇ……アナタ達の奇跡ならこんな事は無くなるの?」


 その言葉に二人は立ち止まった。


「出来るよ、何せ奇跡を謳うんだ……この世界の終焉に立ち向かうんだ」


「こんな辺地の立ち止まるようじゃ始まらないよ」


 その言葉には覚悟があった。

 この宇宙で唯一終焉を知り立ち向かう為に動いているからこその覚悟が。

 既に一度宇宙の終わりを見届けたからこその重みを持った言葉を二人は言い放った。


「契約して、こんな悲しい事がこの世から無くなるように……私は私のような子達を見たくない」


 彼がガフリオンの肩に乗り、少女を見る。


「契約はなった! さぁ……戦おう!」


 少女の身体からソウルジェムが出てくる、その光は強い光を放つ。
 光が少女を包み込み、収まった中から現れたのはフリルのドレスを身に纏い美しく淡い光を纏う存在となっていた。
 意思の力から生まれる神秘の力を武器に、自分の願いの為に数多もの敵をなぎ払う一騎当千の別格なる存在。

 魔法少女へと少女は進化した。


「えっこれ……私なの?」


「そうだよ、悲しい事を無くす為に君が手に入れた姿と力だ。そしてその力は意思に比例して強くなる」


 魔法少女となった彼女が部屋に飛び込んできた敵国の兵士に手をかざすと、巨大な歯車が現れてその兵士を押しつぶした。
 潰れてしまった兵士と自分のかざした手を交互に眺める。
 だがそこには殺してしまった罪悪感よりも、変えられる明確な力を得た事への興奮が宿っている。


「行ってきます」


 少女は家から飛び出すと村を荒らしまわる兵士達を次々と歯車で押しつぶしていく。
 何処からともなく現れて自分達だけを正確無比に押しつぶすその歯車に兵士達は瞬く間に戦意を消失していく。


「流石は伝承族の遺伝子……あんなちっぽけな個体にあんな力を与えるなんて」

「それをそうする奇跡の力も大概だがな?」


 部屋からその虐殺劇を眺める二人は自分達の奇跡が起こす劇場を眺めるだけ。
 既に怯える側の筈の少女は脅かす側へと立ち位置を変え、逃げ回る敵を全て殺していく。
 その顔には返り血と自分が強者であると言う愉悦を宿した笑顔が張り付いている。
 全ての兵士を殺し、村を守った少女は意外にもすぐに行動を起こす。


「二人ともついて来て、きっと私のような人はもっと居るから」


 魔法少女となった彼女は恐れる様子もなく二人に命令を下す。



「この世界からこんな悲しい事を無くすの」



 強引に突き進みだす彼女を二人は仕方なく見守っていく事にする。
 なにせ初めてのテストケースだけにその眼で見届けておきたかったからだ。
 あとはほんの少しの興味から生まれた好奇心から。


 それから彼女……ワプルとガフリオンとインキュベータはその惑星各地でその名を轟かせていく。


 魔法と言う神秘の力と比類なき力を持って各地の戦乱を解決に尽力し人々から賛辞を受け取る存在となった。
 世界から争い事を無くすと言う骨董無形な夢はあまりにも綺麗であり、その輝きに多くの者達が魅せられてる。
 いつしか賛同者は増え、争いを無くす運動がその星全域を包み込んだ。


「数年で済むなんて……本当に奇跡なのねこの力」

「ひどいなぁ、僕の力を少しは信用して欲しいよねぇガフリオン?」

「危ないのを何度も助けたからな、でもこれからどうするんだ?」


 僅か数年でその星の戦争はなくなり、平和と話し合いと星空へと旅立つ為の準備が着々と進みつつある。
 もうこの星では彼女の願いは叶えられない。
 この星の自分のような存在はこれからなくなっていくのだから。

 彼が加えているワプルのソウルジェムは希望を生み出し絶望を退けた輝きをまるで太陽のように放っている。

 それはワプルが希望を捨てずに絶望を照らしていったからに他ならない。



「故郷に一度挨拶して、それでアナタ達と一緒に旅がしたいな。もっと広い世界を見て私も長生きして世界の終焉に立ち向かうの!
 無論今の私の力なんて知れてるけれど……きっとこれから旅をしていく途上で色んな仲間に会えるだろうから戦力はうなぎ上りよ
 そしていつか皆で希望を願うの! 皆でこの世界が終わらないように、これから出会う人達もみんな幸せになれますようにって!」



 少女と言うよりも女性となったワプルだが、その性格にはいまだ少女らしさが残っている。
 そしてそんなお気楽な言葉にため息を吐き出す他二人だがその顔はとても幸せそうに笑っている。
 希望の奇跡が小さくとも自分達の思想を広げられる事を理解出来た……とても大きな収穫と言えた。


「じゃあ早くいこっか? 数年ぶりの帰郷だもの、きっと待ってくれてるよ」

「えぇ」


 だがそんな夢はいとも簡単に崩れ去る。
 何てことはない、ワプルの故郷は平和の為に犠牲となった・戦いに敗北した者達の報復を受けただけの事。
 焼け落ち何もないそこを見たワプルは狂いながらとにかく村のあちらこちらを探し回った。
 お世話になっていた医者の家・幼馴染の家・小さな学校代わりの塾・そして自分の家族が待つ家。
 そのどれにもあったのは黒こげの死体だけ。



「私は……こんなのが嫌だから戦ってきたのに、こうなるのが嫌だから頑張ってきたのに」



 ワプルの夢は燃え尽きた。

 ひたすらに夢へと戦い燃えていた。

 奇跡は対価としてワプルに故郷を要求してしまったのだ。



「ガフリオン!」



 インキュベータがくわえていたワプルのソウルジェムから希望の光が瞬く間に消えていく。
 代わりにそれは凄まじい勢いでどす黒く濁っていき、その濁りに比例するように内包している力が増大していく。
 それは伝承族の生贄砲と同じ。
 絶望や恐怖の感情がこの世の感情でもっとも力強い力を持つと言う証明となる。
 希望の力を信じた矢先に絶望のあまりにの強さに屈服させられる。
 ガフリオンの信じた夢もまたあっけなく砕け散った瞬間であった。


「私は……こうならない為にこうならない為に」


「行こうワプル、もう君の故郷はないんだ」


 ガフリオンは泣き崩れるワプルを抱き寄せようとするが彼にそれを止められる。
 
 何故止めたのかを尋ねるよりも早く、ワプルの身体に異変が起きだす。

 普通では聞けないような異様な音と共に身体が巨大化し全長十メートルはあろう巨人へと変貌する。

 身体には魔法少女の時に纏っていたドレスを纏い周囲には無数の歯車のような物が彼女を守るように浮遊していた。


「三歳になったのか? こんな短期間に?」

「そうだよ、魔法少女はいつか君の遺伝子に飲み込まれてあんな存在になる。そして生前に成し遂げられなかった事を成し遂げようと暴れまわる
 力を使いきるか……奇跡を成し続けた対価としてソウルジェムに力が満ち足りた瞬間に少女達は成長して魔女に成ってしまう事が判ったんだ
 奇跡なんて小さな子供しか見れないようなモノの中に生きた少女は……現実を知って大人になって絶望の淵であぁなってしまうのは避けられない
 唯一の救いはその費やした日々がこの宇宙を救う為の最大の功績になることだろう、ワプルはおそらく魔女の中でも最強だろうから更に絶望を生む」

「そしてあの子は何処かで暴れ、苦しんだ連中を更に奇跡の餌食にして魔女を産んで・対抗する少女を生んでそれがまた……か」


 魔女ワプルはまるで苦しみを理解して欲しいと言いたげに歌いだす。

 そして周囲に浮いていた歯車達が惑星全土へど飛び散り、世界をその歯車でつぶし始める。



「そう……これは壮大な自作自演なんだよ。皆を困らせる魔女を倒す為に僕等が魔法少女を生み出し、そしてその子達がまた新たな魔女になる
 これは正当な対価なんだ、この宇宙を救う為に礎となるならば皆も本望だろうし僕等の奇跡の終わりはこれでも確かにあの子達の夢を叶えたんだ
 悪を倒す正義が生まれるけどそれそのものがいつか自分達が倒してきた悪となってしまう絶望の繰り返し。それが僕等の研究の答えの一つなんだよ」



 この星が壊されるその風景を眺めながら二人は何もせず見届けるしかない。
 確かに希望の終わりを迎えるだろう子達もいる。
 だが皮肉にもエネルギーならば絶望の方が何倍も強くて価値がある。
 この星の各地にいる魔法少女や魔法使い達がワプルへと戦いを挑むが全て簡単に倒されてしまう。


「誰かの為に犠牲になってきた子の強さだ……そう信じて突き進んだ夢に裏切られた絶望の力は半端な奴等の力じゃどうしようもない」

「ならあの子は何処に?」

「おそらく直感に近いモノで別の星へ行くよ、そこにある苦しみを断ち切る為にあの魔女はひたすらに暴れまわるんだ
 それが一番苦しみを生んでいるとも知らずに本能にも似た感覚に身を任せて暴れまわる。だから僕等はそこに新しい子をこさえれば良い
 候補なんて幾らでもいるんだ、みんなこの宇宙の延命の為なら死ぬのなんて怖くないだろうし良いじゃないか? 素晴らしい事だよ」


 インキュベータはそう言いながら笑った。

 それは限りなく同一に近い個体で構築された種族で、個体差を理解し切れていないからこそ言う言葉に笑顔。

 彼にとって自分達は宇宙を救う存在であり、その他多数はあくまでエネルギー候補でしかない。

 あまりにも割り切られた残酷な考えとも言えたがガフリオンはそれに対して何も言わない。

 伝承族もまた自分達が生きる為に銀河や宇宙一つの生命体を皆殺しにしようとしたのだ……非難出来る道理などない。


「さっ行こう、もっと効率の良いエネルギーの変換方法を考えるんだ。それでいつか……きっと」


 ガフリオンと共に星から飛び立つその姿は何処か寂しげに何度も地表で暴れるワプルを見た。
 それは哀れみか、あるいは不甲斐なさか。

 『いつかきっと』の言葉にどんな想いが託されているのかなど誰もわからない。

 良い方向に進めと願うのか。
 あるいは純粋にもっとエネルギーになれと言いたいのか。
 滅びてしまう世界を知った生命である彼等はそれを知らず夢に生きる少年少女達を眺め続けた。

 それからも二人はずっと宇宙中の星を巡り奇跡と絶望を作り続ける。

 絶望の淵にある人などを狙い契約しその傍に無数の個体の内の一つを補佐役として同伴させておく。
 あとは出来る限りの事をするだけ。
 魔法少女や魔法使いを生み出してはそれらの希望を大きく実らせて、そしていつか来る奇跡の対価に屈服させる。
 絶望に飲まれた者達はやがて化け物へと変貌し、更なる害悪として更なる奇跡の増産を強要させていく。


 壮大な自作自演が二百億年続き、彼等の手元には途方もないエネルギーが集められた。


「随分と集まったね……まぁ良し悪しを気にしないならの話だけどね」

「でもどうやって宇宙にこの供物を捧げるんだ? 生贄砲の弾にして何処かに撃ちだすか?」

「とりあえず試してみて、無数の絶望に彩られた弾倉で宇宙の希望とするんだ。あぁ過去への跳躍分はしっかりとっとくから」


 この宇宙の中心点。
 それはやがて膨張限界を迎えた自分自身を支える柱を失い縮退と共に消え去る点。 
 とある星の地表に散りばめられた無数のソウルジェムであった鉱石から眼に見えない何かがガフリオンの手のひらに集まる。
 そして引き金を引かれたソレは巨大な光の柱となって宇宙に確かな輝きとなって宇宙に捧げられた。


「……後は数百億年後に来るだろう終わりがどれだけ引き伸ばされるかだね」


 地表を埋め尽くしていた鉱石から光が消え、本当にただの石くれになっていた。
 無数の命と魂を物質化されたソレは役目を終えてただのゴミに成り下がったのだ。


「何とかなるさ……きっと」


 そして滅びの時は二千億年後へと遅行した。
 研究の成功に喜ぶべきだったが、既に二人に喜ぶ余裕などなかった。


 他ならない宇宙が無数の文明のによるエネルギー資源の枯渇によって滅びを迎えつつあったからだ。


 それはたとえ宇宙の寿命を延ばしても、いや……伸ばしたからこそ生まれたどうしようもない新しい問題である。

 宇宙全土で残された僅かな資源を巡った戦争が勃発し、そして魔女達の製造は爆発的な速度で早まり奇跡のバーゲンセールが起きた。

 乱立する奇跡がお互いの奇跡を潰し合い、無数の魔女同士が宇宙を埋め尽くさんばかりに生まれ殺しあう。

 魔女達を産む元凶である二人は宇宙全域の敵として生き残った文明に執拗に狙われ、宇宙の敵として認識されてしまった。

 執拗に追い立てられ無数に存在したインキュベータの群も二桁しか生き残っておらずガフリオンも既に深手を負っている。


「ハハハハハ……これが僕等の起こした奇跡の対価なんだ。誰も僕等の努力を理解してくれない、あぁなんてしっぺ返しなんだ」


「それどころか宇宙を滅ぼす化け物を量産する輩と来たんだ。全部ホントなだけに何の反論も出来ない」


「過去へ飛ぼう……そして今度は宇宙のエネルギーを満たすんだ。宇宙の延命もしながら、きっと出来る僕等だもの」


 宇宙の縮退を見届けながら二人の意識と記憶はまた過去の世界へと飛ぶ。

 努力した結果として『宇宙の敵』と蔑まれる道が待ち構えている。

 だから今度も変えねばならない。

 より良い未来を掴み取る為に。




 補足説明

 二人の過去への逆行
 過去へと意識と記憶を持って飛ぶ
 その時間軸は『ガフリオンがこの宇宙にたどり着いた時間』
 ただしガフリオンは過去から流れてきた情報の処理で寝ている為に少しだけ活動開始が遅い


 魔女化の都合の良い理由として伝承族の年齢採用
 『魔法使い』なる存在は効率の良いエネルギー採取が判るまでにおそらく居たであろう存在です
 この作品だと素質があるならば無差別に契約していますから余計にいないとおかしい感じが


 魔法使い・魔法少女(仮)
 今作では『伝承族の遺伝子に書き換えられた異星人』と言う設定になっております
 伝承族は意思と思念で超能力を発動するので、魔法と言う存在を発現させるには凄く都合が良いです
 しかし本来は直径一万キロメートルの脳味噌から作りだされる力で人間の小さな脳への負荷は絶大
 やがて能力を使用しすぎた者達はその全てを伝承族に飲み込まれ化け物(三歳)となる、と言った感じ
 様々なモノを呼び出せるのも魔法と言う名の超能力……マップスの連中は本気で宇宙船一つ作れますから
 むしろ人間の小さな脳ならマスケット銃を呼んだりするのはかなり能力限界としてピッタリです


 魔女
 今作では『伝承族の遺伝子に飲まれた生命体の成れの果て』と言う位置づけです
 伝承族は力の使いすぎでも最悪強制的に成長するのでまさにピッタリ
 原作では魔力の消耗や絶望に飲まれた魔法少女がたどり着く成れの果て
 生前の目的か何かを行動理念として活動する存在で普通なら魔法少女(伝承族)一人で倒せる強さ
 ソウルジェムから孵化して死ぬとソウルジェムの穢れを吸収出来るグリーフシードを落とす存在


 伝承族の遺伝子
 他生命体の遺伝子を乗っ取り書き換え、それの記憶や意識などを『伝承族の都合の良いもの』としてしまう存在
 マップスのとあるキャラはこの遺伝子こそが伝承族と言っており、この遺伝子を注入しただけで超能力を得ている
 ただしあらゆる遺伝子の奥深くへと進入し書き換えてしまうので遺伝子分解が起きた際は蒸発する運命にある




 今作でのワルプルギスの夜は最初の怪物と言う立ち位置で伝承族の遺伝子を持つと言う設定

 だからデタラメなくらいに強い……しかし原作のアイツは本当に地球産なんでしょうか?
 そもそも激戦区(意図的?)でもあるまどか達の下に現れたのはいったい何故?
 そしてアイツの生前の深く関わる物とは何なのか?

 一応ワルプルギスの夜は春の到来を待つ・死者が好き勝手しだすのでかがり火で追い払うなどの祭りらしいです


 わざわざそんな名前をつけていると言う事はワルプルギスの夜は春を手に入れられなかった魔法少女の成れの果てなのでしょうか?

 だから今作の元になった子は『大人だけど子供な部分があって倒した奴等(死者)に故郷を蹂躙される』なんて絶望にしたんですが?
 あとインキュベータ達はどうやって魂の物質化に成功したのか……どんな研究をすればそんな事が可能になるのやら

 皆さんはどう考えますか?



[27272] 『変える者』
Name: 温泉街◆a77021ce ID:11184927
Date: 2011/04/30 00:44
 暁美=ほむら。

 彼女は大切な友達である鹿目=まどかを助ける為にキュウべぇと契約して時間干渉能力を手に入れた魔法少女。
 その力で過去の世界へと逆行しワルプルギスの夜と言う魔女を倒し幸せな未来を手に入れようとしている。

 しかし自分一人の力ではどうこう出来るような相手ではない。

 まどかと共に戦い打ち勝つも代わりに親友であったまどかが魔女化し、ここでキュウべぇの奇跡の内実を知る。

 そして過去へと戻りこの真実を打ち明けるも錯乱した先輩魔法少女の巴=マミによって仲間が死ぬ。

 生き残ったまどかと共にまたワルプルギスの夜へと挑むもまたまどかによって救われただけ。
 それどころか魔女化させない為に自分の手でまどかの息の根を止めると言う地獄を味わい自らの非力さを知る。


『キュウべぇに騙される前の……私を助けてあげて』


 過去へと飛ぶ時に託された想い。

 それはただ一人で戦う定めにあるほむらの心を支える唯一のものである。
 仲間に真実を打ち明けられず利用しかない道・まどかを助ける為に他人を平然と犠牲にする道しかない。
 あまりにも強大な敵にたった一人で立ち向かう、あるいは捨て駒としてかつての仲間達を犠牲にする。


「……今度こそ助けるから……負けないから」


 小さな心は擦り切れながらもたった一つの約束と脳裏に描く幸せな未来の為にその歩みを止めさせない。
 
 必ずキュウべぇの思惑を破り約束を果たす為に、はむらはまた戦いを始めた。

 まず手始めに魔女に対抗しえる武器を集め、まどかの危険となりうる魔女を掃討する事から始まる。
 魔女がいる限りどんな形でまどかが巻き込まれキュウべぇに契約をさせられるか判らない以上は一体でも少ないほうが良い。
 時を止める能力と様々な武器で次々と魔女を打ち倒し、キュウべぇを殺しながらまどかへの接触を阻止しようとした。


 だが接触阻止は失敗し、先輩魔法少女である巴=マミを殺すお菓子の魔女も仕留めれなかった。

 
 ほむらにとって巴=マミは対処しがたい相手の一人である。

 キュウべぇを信じ魔法少女として魔女を倒し皆を守ると言う生き様に生き、しかし孤独故に他人を求める。
 高潔な英雄のような生き様は他人を否応なく引き寄せる魅力がある……それは人間の歴史から来る特有の感覚とも言えた。
 傲慢で自分の事しか考えない悪代官と自分を犠牲にしながら皆の為に戦う英雄では魅力が違いすぎる。
 しかもマミはかつて真実を知ってしまった為に錯乱し魔女を産まない為にと仲間を殺した人物でもあった。

 されど死ねばマミの遺志を継いで新しい魔法少女が生まれる。

 また別の場所から魔女を狩る事に集中し逆に小物による被害を見過ごす魔法少女も来る引き金。

 まさに対処のしようがない存在としてほむらの前に立ちふさがる相手。


「このままなら……また」


 そしてマミはお菓子の魔女と戦う。

 新しい仲間が増えると言う未来を描き精神的にハイになってしまっているマミはお菓子の魔女を圧倒した。
 マスケット銃と呼ばれる銃を呼び出し(作り出し)正確に狙い魔女を追い詰め、隙をついて銃で殴打して吹き飛ばす。
 空中で姿勢の取れない魔女の身動きをリボンで封じ、大砲を呼び出し魔女を粉砕する……それは歴戦の技と強さ。

 だがお菓子の魔女は死んでいない。

 口から人間の顔がある芋虫のようなモノを吐き出し、それは一瞬でマミの下へとたどり着く。
 大きく開いた口には鋭い歯があり、それはマミの頭を食い千切らんと大きく開かれている。


 このままならマミは頭を食い千切られて死ぬ。


 助けるか見捨てるか……僅かな時間の間に悩み答えを出す筈であった。

 しかしそれは突然現れた妙な鎧を着た男の手によって大きく変えられる事となる。


「ここに隠れてろ」


 現れた男は人間とは思えない素早さでマミを抱き上げ口から逃がすと物陰に隠れているまとがとその親友の美樹=さやかに託す。
 それから僅かな距離を一瞬にして詰めると芋虫のようなソレを素手で引きちぎり、更にそのまま強引に魔女を引き寄せる。
 引き寄せられた魔女が何かするよりも右腕の握り拳が魔女の小さな頭を捕らえ勢いをそのままに地面へと振りぬく。
 頭が潰れる音がし芋虫のようなソレが動きを止め、その芋虫のようなモノも頭部を両腕でバラバラに解体する。
 更にズボンから何かの玉を取り出すとソレを弾き飛ばし椅子の上に座っているもう一体の魔女らしきものをソレが貫く。
 到底指弾とは思えない速度で飛来した玉は魔女らしきモノの頭を綺麗に吹き飛ばし、完全に止めを刺した。

 流れるような戦いによってお菓子の魔女は死に結界がなくなり小さなグリフシードを男が魔法を解いてから拾い上げマミに手渡す。


「間に合って良かった、生きててなによりだ」

「えっと……アナタは?」


 ほむらは物陰に隠れながら聞き耳を立てる。
 今まで一度もなかった……そもそも男の魔法使いなど初めて見ただけにほむらは慎重に様子を伺った。
 もしかしたらこれまでにない打開策となりうる存在だけに、真剣かつ慎重に聞き耳を立てる。

「彼はダイナック=ゲンって言って数年前に男なのに素質があって僕と契約した凄腕の魔法……使いだよ
 この頃ここらの魔女が増えてきて危なくなってきたから頼れるゲンに来て貰ったんだ、腕はさっきの通りさ」

「十八で君達より少し年上か、とにかくこの激戦区を戦い抜いてる巴=マミ……さんを助けられて何よりだ
 力だけが取り柄でね。契約の力で平均的な奴の数倍の力が使えるから200m一秒フラットも軽い軽い
 今までもさっきみたいに身体一つで戦ってきたんだが倒せる相手で良かったしキュウべぇの期待に副えて良かった」

 それからもマミ達三人を安心させるように振舞うその姿は好青年と言った感じで少なくともマミは既に頬を染めている。
 無論聡明であるマミ本人もつり橋効果と言う事は理解しているとしても、その顔は確かな熱を帯びているのが見て取れる。

 加えて腰が抜けてしまい立てないマミと言うをゲンは背負い家まで送り届けると言い出す。

 まどかとさやかの二人も見送ると言い出すがそれをキュウべぇが遮る。

「僕がついてるから安心してよ。それにまどか達もそろそろ帰らないとマズイよ?」

「……うん」

「巴先輩に何かしたら承知しないからな!?」

 まどかとさやかはキュウべぇの言葉に押されてか渋々家へと帰りだす。
 ほむらはまどかを守る為に尾行しようかと考えたが、目の前の可能性を重視してそれを押し殺して三人を尾行する。
 これ自体がキュウべぇが二人に契約を迫る作戦かも知れないが、それでもほむらは三人の尾行を続ける。

「あの……重くないですか?」

「魔女を素手で殺すような男なんだ、この位は軽いし……役得だからな」

 ゲンの言葉にマミは自分の年頃以上に発育している胸が当たっている事に気づき更に顔を赤くしてしまう。
 それでも歩けないのは事実であり恥ずかしさを押し殺しながらゲンの背中に身体を預ける。 

 そんな風景を見たほむらは……少しだけ足を止めて自分の胸をさすった。

 少なくとももう少し大きくあって欲しいと考えているのだろう。
 とにかく気づかれず怪しまれないように尾行し会話を聞きながら気づけばマンションにまで辿りついていた。


「もう大丈夫ですから。それと本当にありがとうございます」


 マンションの入り口にたどり着いたマミは何とか立てるようになっており、何度もゲンにお礼を言う。
 一方でゲンは『そんなの気にするな。後輩で仲間の為だからな』と口説き落とすような言葉を平然と言う。
 聞いた瞬間ほむらは全身が一気に鳥肌となり悪寒で身体が冷たくなるが言われた本人のマミはまた顔を真っ赤にしてしまう。
 とりあえずほむらの中でゲンは『女たらし』と言う位置づけとなった。


「今回の借りは俺がピンチになったら返してくれ、しばらくはここに居るから先輩を頼れよ?」


 肩に一度手を置いて少しおどけたように笑いながらそう言うとゲンは手を振りながらマミに別れを告げた。

 ゲンの姿が見えなくなるまでマミは手を振り、見えなくなると手渡されたグリフシードを大切そうに握り締める。

 既にその視線はたとえつり橋効果から来るものだとしても恋する乙女そのものとなっていた。


「……今日は僕がついてるけど、マミにはゲンが傍にいた方が良かったかもね」

「そっそんなのじゃ」

「まっ少しは心を落ち着けた方が良いだろうし今日は我慢してね。何ならゲンについて教えてあげても良いよ?」


 もう茹蛸のように真っ赤なマミに追い討ちを掛けるキュウべぇと恥ずかしさを隠そうとするマミ。
 それはまるで親友の姿そのものであり、もし裏側に潜むどす黒いモノがなければ本当に素晴らしい風景だろう。
 ほむらはその風景をとても不機嫌だが同時に言いえない複雑そうな表情で眺めてからゲンの後を全力で追いかけた。
 
 既に夜へとなった街の裏路地に作られた結界の中、ゲンは単身魔女と戦っていた。


「……初めて見る」


 ほむらにとってそれは初めて見る魔女で一言で言えば『頭がないのに鱗一つ一つに目玉のある蛇』と言う姿。

 大きさも太さだけで成人男性の背丈ほどはあり、その巨体さながら蛇だからか地面を素早く滑っていく。
 無数の眼がゲンを見ており不透明なガラスで出来た壁や床を滑りながらその巨体をゲンに叩きつける。

 だがゲンはそれを真っ向から受け止めるとそのまま強引に投げ飛ばし不透明なガラスの壁に叩きつける。

 ガラスの壁に亀裂が入りのた打ち回る蛇の魔女に止めを刺そうと近づくがそれを遮るように無数の小さな蛇がゲンに襲い掛かる。
 魔女の使い魔である子蛇達はその牙をゲンの肌に突きたてようとするが当の本人はさっさと包囲から跳躍で逃げ出し距離を取った。
 周囲は全てガラスでありそこから次々と子蛇達が姿を現し母である蛇の魔女を守ろうと地面を這いずっていく。

 自慢の身体能力もあまりの数が現れた事で優位を保てなくなってしまい窮地に陥る。

 指弾で親玉を狙うも自分の命をなんとも思わない子蛇達の壁によって遮られ、ゲンの顔から余裕の表情が消えた。


「こりゃあ……やばいな」


 腹をくくったのか拳を握り締め這いずりくる子蛇達を迎え撃とうとするゲンをほむらは援護する事に決めた。
 何処からともなく取り出すのは二丁のマシンガンでありその光が放たれるのに合わせて唸る射撃音と吹き飛ぶ子蛇達。
 片手持ちにも関わらずそれは見当違いな方向には飛ばす群れをなしている子蛇達の群れに当たりその身体を吹き飛ばしていく。

 驚愕しているゲンの傍に跳躍しながらも絶えず弾幕を展開する。


「援護するわ、アナタは魔女を」


 マシンガンの弾が切れたので今度はショットガンを腕に巻いている時計のような盾から取り出して乱射。
 元々広範囲にばら撒く弾が装填されているので銃口が火を噴く度に子蛇が千切れ飛んでいく。
 それから子蛇達を誘導するように移動を始め弾が切れると手馴れた手つきで予備の弾を込めて射撃を再開する。


「任せておけ! 使い魔は頼んだ!」


 子蛇の群れが割れた事で壁が薄くなりゲンはまた一足で蛇の魔女へと間合いを詰める。
 無数の眼がゲンを見ていた筈だか200mを一秒足らずで間合いを詰めた為に反応が追いつかない。
 目玉の一つを振りかぶった拳が貫き引き抜くと緑色の血が噴出し殴ったゲンの身体を染めていく。

 臆する事無く身体の一部をまた掴み投げ飛ばして壁にぶつけると素早く尻尾へと回り込みそれを掴む。

 それから力任せに蛇の魔女を壁に叩きつけ、ほむらを追う子蛇達へと叩きつけ一気に掃討してしまう。
 もはや馬鹿げた力量であり魔女の世界を文字通り魔女本人の身体を棍棒代わりに粉砕していく。


「止めを刺すから振り回すのをやめて」


「あっすまんすまん。いつもはこうして死ぬまで振り回すかバラバラにしてやってたし仲間がいなかったからつい」


 最後に思いっきり蛇の魔女を叩きつけると動かなくなり、ほむらは本当にどこから持ち出したのか判らないロケットランチャーを構える。

 流石にゲンも驚き慌てて蛇の魔女から離れるとほむらは何の躊躇いもなく引き金を引いた。

 ロケットランチャーの直撃によって魔女の身体は綺麗に吹き飛び、絶命した事によって結界がなくなりグリフシードが転がる。


「……とんでもないな君は、魔法少女なのにそんな現代兵器を乱発出来る子なんて初めて見たぞ」


「むしろ私はあんなのような男がいるのが驚きよ」


 ほむらはグリフシードを拾うとソレをゲンに投げ渡す。


「まぁ特別なのは判るさ……周りの奴等はアイツが見えないのに俺だけ見えたりして、契約したら今の身体だ
 魔女を倒すのも嫌いじゃないしアイツの頼みならやるのが契約の内容だ。ただ男が一人いたってだけさ」


 ほむらは迷った。

 強さに関しては申し分ない。
 魔女を投げ飛ばすような馬鹿げた身体能力は来る戦いにおいてとても役立つのは間違いない。
 加えて驚異的な弾速を誇る指弾も多少だが遠距離攻撃としては優秀と評価出来る。
 魔女の頭を貫通して吹き飛ばすような威力があるのでそこらの魔女相手でも充分に通じる武器。
 


(でも……アイツ等を親友と呼ぶ相手には)



 マミも同じようにキュウべぇを信頼しており、魔女の真実を知った際に錯乱して仲間を殺してしまった過去がある。
 それがほむらに他人を頼らせない要因の一つになっているのだが、それでもほむらは迷った。
 この人物は真実を話せば判ってくれるのではないだろうか?

 自分達よりも年上で理解力もある。

 ならば真実を話しても通じる筈……だからほむらは意を決してゲンに話す事を決意した。
 ダメならばそれまで、もし理解してくれるなら頼れる戦力になる。
 そう思ったからほむらは意を決して話す事を決意したのだ。


「話がしたいの……この街の未来を賭けたとても大切な」



 ほむらは知らない。

 目の前の男こそ自分達の悲劇の元凶である事に。

 魔法使いなどではなく変身している宇宙人である事に。

 話をしたいと切り出した時にほくそ笑んだ事に。

 二人を物陰から見ている白い影がいる事に。





 補足説明

 十鬼島=ゲン
 銀河の予言にある銀河を統一し伝承族に立ち向かう伝説の勇者……なのだが本人はまったくその気はない
 それにその勇者の伝承も伝承族が自分達の計画の為に作り出したものと知った為と言うのも原因
 最終決戦で活躍するも行方不明となり記録でも『偉大だが先行したあげくに行方不明したダメ勇者』と言うものになっている 
 ただしダメ勇者と言う姿は『銀河の勝利は勇者の奇跡ではなく皆の奇跡』として銀河の意識を少しでも良い方向に持っていく為でもあった
 どんな種族に対しても偏見を持たず接する態度や真剣に向き合う姿勢は銀河の英雄でありゲンと出会って変わった者は数多くいる
 宇宙船の操縦や度重なる戦闘と特訓による経験によって強化人間などを相手に白兵戦をして打ち勝つほどの実力と身体能力を持つ
 なお瀕死になる事が多くもっとも酷いのでは心臓に風穴を開けられたが治療が間に合い生き残ったと言うもの
 


 驚異的な身体能力の謎
 人間は危険に備えて自分の力を常にセーブしている
 これが開放されるのが『火事場の馬鹿力』であり伝承族曰く『平時の四倍』
 だが種族としてその更に四倍の力が使える事になっている
 これに『精神と肉体の完全な同調による16倍の力』を掛け合わせた者をゲンは使う事で驚異的な力を発揮できる
 その数値は256倍となり、200m一秒フラットの高速移動や怪力を発揮出来るようになっている
 ガフリオンもコレと似たようなものを使う事で驚異的な身体能力を実現させていると言う設定



 蛇の魔女と子蛇達
 本作オリジナルの魔女
 曇った世界に生きる魔女で性質は『美貌』・使い魔は『賛辞』・鏡を使って現実を直視させればもがき苦しむ
 老いと醜さを嫌い契約した少女の成れの果てで、もっとも醜い自分の頭や顔がない
 自分の過剰なまでに理想化された昔の顔を思い描き、醜かった頃の顔を拒絶して鏡が曇っている
 鏡が曇っている事で自分がもっとも醜い魔女となっている事も理解出来ない
 周りの使い魔達は彼女をひたすら称える事でちっぽけな自己満足を維持させている
 だが周りの人間の様々な美しさをその無数の眼で見つめ拒絶し殺害し、醜くなった死体を見て満足しようとする魔女
 契約して美貌を手に入れるも人格や人間としての器の醜さを指摘され誰にも振り向かれない現実に絶望した
 人間性と言う美しさを理解出来たならばもっと違う道があっただろう魔法少女の成れの果て



[27272] 『青き円卓と魔法少女』
Name: 温泉街◆a77021ce ID:11184927
Date: 2011/05/03 16:24
 時間は少しだけ遡る。
 また戻ってきたガフリオンは宇宙の真っ只中をまた浮かんでいた。
 眠りながら成功した研究と前回について整理しながら。
 だが次なる問題として現れたのは延命した分、生き残ってしまった文明の進歩に伴うエネルギーの枯渇。


「判っていた問題としても……辛いな」


 宇宙の技術は凄まじく、地球の傍にある太陽と言う恒星と同規模の恒星のエネルギーを”一時間程度”で使い切ってしまう文明がゴロゴロしているのが宇宙である。
 ましてやそんな文明が日夜覇権争いなどでそんな消費量を誇る兵器を量産してしまうのだから宇宙が持つ筈がない。
 無論宇宙の何処かにはまったく発達していない文明もあれば、新エネルギー開発に着手している文明もある。
 また炭素生命体を資源として採掘する種族や逆に珪素生命体を資源として採掘し、そういった関係から全面戦争へと発展する文明は星の数ほどあった。

 戦争の激化は兵器の歴史……より強大な力の為に更に多くのエネルギーが貪り喰われていった。


「……奇跡か」


 確かにそれは奇跡としか言いようのない事だ。
 伝承族数十兆の宇宙の旅路で『宇宙の延命』に成功したのはガフリオンが初めてであり、それは快挙と言える功績だ。

 またインキュベータ達が過去へと時間跳躍する技術を確立させたのも奇跡の御技に他ならない。

 感情をエネルギーに変えられる技術を持っているのも伝承族であり、インキュベータはそれを改良して更にエネルギーとなる対象を増やした。
 更にソウルジェムと呼ばれる存在として物質化させておくなどその技術力はおそらく早々ない奇跡の技術開発である。


「馬鹿げた話だ」


 宇宙崩壊を阻止するべく奔走した二人を待っていたのは、壮大な自作自演に対するしっぺ返し。
 何せ宇宙崩壊を延命させている限り他の種族に理解される日はない。
 判らせる為に宇宙崩落を招けばそれでその時間軸での人生は幕を下ろす。

 なりふりかまわずエネルギーを集めた結果として、宇宙を救う奇跡の対価として『理解されず宇宙の敵になる』結末。

 それは自分達がどこまでも残酷な皮肉でしかない。
 全宇宙からエネルギーを集めなければ宇宙を充分な時間延命させられないのに、それが原因で敵となってしまう。


「でもまだ希望はあるよ、宇宙にエネルギーを与えれば僕等は資源枯渇を救う救世主だ」


 漂っていたガフリオンの前にまた彼が白く小さな身体を持ってきている。
 広大な宇宙の中から良く探し出していると褒め称えるべきだろう。


「それで解決になるのか? そもそも私は既に一族の役目を果たしている……この宇宙に義理立ている理由はない」


 既に過去に飛ぶ奇跡によって『救った存在に理解されない』対価を背負っている二人。
 特に伝承族であり『宇宙延命の方法』を見つけ出したガフリオンにとって既に自分が生まれた目的は果たしている。
 この情報を手土産に各宇宙に散った仲間の下に移動すると言う選択肢が自分にはあるのだ。
 彼等のようにこの宇宙に固執する理由など何処にも存在しない……ガフリオンの中に”この”宇宙の為と言う考えはない。
 父ブゥアーが復活するか、あるいは後継者が生まれればガフリオンは忠実な部下としてその一生を終える役目がある。
 既に伝承族としての使命感がガフリオンを変えつつあり、おそらくこのままなら彼等を見捨てるだろう。


「そうだろうね。元々最初の僕のわがままが君をここに縛り付けているんだ……僕等は既に君から有意義な情報を貰ってるんだ
 君を縛り付ける理由もないし、それを僕等は君がここを旅立つのを選ぶのなら止めはしない。あとはひたすらに作業しかないんだし
 魔法少女を増やして魔女を増やしてソレでエネルギーを回収して後は枯渇に対して備えるだけの機械のような日々しか待ってない」


 だが意外にも彼等はガフリオンを止めない。

 それはたった四・五回の旅路の中に宿った彼等なりの考えから来るものである。
 確かに四・五回程度だがその一回は”数百億年”と言う普通の種族ならば到底達し得ない長い長い道筋だから。
 周った回数は少なくとも共に過ごしてきた長過ぎる旅路は彼等の思考の中に例外を生むには充分だった。

 それはバクと呼ぶものだとしても、彼等は確かにその思考の奥底に打ち付けられた確かな認識である。


「僕等はこれからより素質ある種族が住む星を行く」

「何処に?」

「世界に小さな警告を与えるように小さく活動しながらあの星を僕等は待つ。君はあのに行ってないから判らないだろうけど
 あの青い星には他の星の生命体なんて凌駕するような感情とエネルギーを生み出す知的生命体が六十億も住む事になる辺地の惑星」


 その星の名前をガフリオンは良く知っている。

 その星の勇者と呼ばれる者を知っている。

 その星が起こした奇跡の意味を知っている。


「地球か?」

「知ってるのかい?」

「私の記憶の映像で見ただろうに……我々を打ち破り銀河に奇跡を起こした辺地の惑星の事を」


 その宇宙の銀河の一つに予言が存在していた。

 要約すれば


 『一つの種族が銀河を巻き込む大戦争を引き起こす
  されど怯えるなかれ、銀河に住む種族の全ての諍いを取り除く勇者が現れる
  かの故郷”青き円卓”にて彼の勇者は全ての種族を率い戦う
  そしてそれによって銀河は統一され永劫の平穏を約束するだろう』


 そんな予言だが、それは銀河規模で絶望を生む為の情報操作で生まれた偽りの予言。
 予言を信じ伝承族に立ち向かってきた者達を全て打ち破り、その絶望を火種に生贄砲を使い腹を満たす。

 伝承族五十億年にわたる大計画の中心となったのが”青き円卓”こと地球である。

 外宇宙に来てまさか地球に出会えるなどガフリオンは考えても居なかったが、それも宇宙の面白さと言えた。

「へぇ……まっあそこに生まれる人間って種族は文明は低いけど感情の力は間違いなくこの宇宙一と言えるものだ
 そしてそこで僕等は絶望が生むエネルギーの強さを今一度理解したからこそその星の人間達を利用する事にしたんだ
 前の君は生贄砲なんかの調整に忙しかったみたいだから声を掛けなかったけど今回はどうする? 仇の地に行くのかい?」

「敵討ちなど興味はないさ。滅びるべくして滅びたなら、負けたなら受け入れるだけで良い
 ましてやあのダイナック=ゲンのいない地球を滅ぼした所で何の憂さ晴らしにもならん
 だが外宇宙の我々(伝承族)が干渉しなかった地球がどんな形になるのか……見てみたいからな」

 それは純粋な興味である。
 伝承族のガフリオンが与えられた記憶の中でこんな事例はただの一度たりとも存在し得ない出来事だ。 
 数十兆の宇宙の歴史の中でただ一つの自然的に同一の文明と種族が繁栄する星が存在すると言う出来事。

 おそらくガフリオンでなくとも興味を示すだろう。


「あれ、別の宇宙に行かないのかい?」


「感情があるとこういった事もあるものだ」


 ガフリオンは渡る気をすっかり無くし、彼等はそんなガフリオンを理解出来ないと言いたげに溜息を吐き出す。
 インキュベータは個体差がほとんどない群であり、全てが同一の為に他者と言う存在の理解に苦しむ生命体である。
 だがそんな彼等も何故かガフリオンに限ってはそんな事をする理由もなんとなくだが判るような気がした。
 どうしてガフリオンと言う異星人があんなに嬉しそうな顔をするのか。

「しばらく地球の観察に行ってくる」

「他を手伝って欲しいんだけど」

「地球の件が住んだら手伝うさ」

 そう言いながらガフリオンはその場所からテレポートし姿を消す。
 次に姿を現したのは太陽の光によってその周囲に強く青く光を放つ惑星としては小さな分類に入る星。
 全体の七割が水によって埋め尽くされ、僅かな大陸に進んでいない文明の生命体達がひしめく事になる星。
 銀河から青き円卓と呼ばれ、辺地でめぼしい資源もないので他の宇宙文明から捨て置かれたちっぽけな存在。
 その近くにある月の地表だった。

「やれやれいきなり飛ぶからここに来るのも一苦労だよ、次からは何処に出るのか教えてくれると助かるんだけど」

「すまないすまない、どうしても見たくてな……しかし相変わらず辺地で文明発達の遅い星だな
 ところで変な異星人とかが流れ着いた痕跡はあったか? 地球の生命体はそういうのの末裔だ」

「君が考え事に夢中にならなかったら地球生誕の瞬間にも立ち会えて監視も出来たのに僕等にそれを聞くの?
 まっ確かにこの星に地球人や虫の元になった異星人は確かに流れ込んだよ、それを覚えているのは居ないけどね
 ”次”からはしっかり自分で見張ってくれると僕等も楽になるから頼むよ……見張りの数増やすの面倒だし」

 彼等のそんな愚痴にガフリオンは盛大に笑わされ、また彼等は溜息を吐き出す。
 地球の生命体は宇宙を彷徨う故郷を無くした種族の集まり『彷徨える星人』の末裔達である。
 伝承族を倒す原動力となったダイナック=ゲンも、そんな彼等の血筋の一人であった。
 この地球もどうやら似たような運命を辿っているようであった。 


「あっそれと君にお願いがあるんだ」

「お願い?」

「前回手に入れたエネルギーの中に途方もないのが混じってたけどあったんだけどそれはこの地球の少女達から採取したものなんだ
 成長過程にある少女達に君の力を与えて僕等は奇跡を起こし、希望に満ちたその子達を絶望のどん底に叩き落してあげる
 それによって生まれるエネルギーは凄まじい限り……だが絶望を与える前に死なれたら凄く困るんだよ、熟す前に取られるのは面倒
 だから君は『いざとなったら颯爽と助ける英雄』になって欲しいんだ。少女達の異性の希望として……最後の絶望を彩る為に」

「……くだらない演劇をしろと言うのか?」

「宇宙を助ける為なら安いものじゃないか、僕等だって悪意がある訳じゃない。全てはいつか来る終焉に立ち向かう為の通過儀礼なんだ
 それにこのままのペースなら地球文明が他の宇宙文明と接触した頃には枯渇と絶望へと向かう宇宙しか待ち受けていない
 彼女達の子孫が少しでも笑顔である為に僕等は価値ある物を価値がある内に残そうとしている……それは決して悪い事じゃない筈だろう?
 でないと誰がこんな戦う力もない姿になるものか……次があるとしてもやり方を選ぶような余裕は僕等にはない”今”は二度と来ないんだ」


 長い長い時間を生きていてるからこそ、終わりを知るからこそ他者を気にしていられない。
 彼等には次はあるが今はもう二度とやって来ないのだ。
 それを焦りと取るか責任感と取るかはインキューベータ達の思想や行動理念に対する考え方次第だろう。
 小さな星の小さな命の犠牲で宇宙の命と言う奇跡を起こせるならば、その犠牲は致し方ないものとして始末出来るのだから。

 だから彼等は決して手を抜かない。

 自分達の行いが宇宙の寿命を延ばす奇跡を担っているだけにその考えは真剣なものなのだ。
 そんな頼みにガフリオンも了承を意味するように小さく頷く。


「それとどうやら僕達の邪魔をする子が一人いるから気をつけて……仮にも君の遺伝子を組む子だけに油断は禁物だよ
 後は君の頭の中に『この時代の資源』について流し込んでおくから、邪魔をする子の目的を探りながら上手く立ち回ってね。僕等も最大限援護するからさ」


「良い友を持ったな。じゃあちょっと仕事に出てくる」


 頭の中にその情報を受け取ったガフリオンは月面から地球の国の一つ『日本』の『見滝原市』にとテレポートする。

 外見はかつて自分達を打ち倒した地球人の18歳の少年である『十鬼島=ゲン(宇宙共用語でダイナック=ゲン)』へとその外見を変えていた。

 背丈はほどほどにあり茶色の髪の毛は風にそよぐほどはあり、銀河中を旅し戦った肉体は同年代のソレとは中身の出来を遥かに上回る。

 服装は適当な地球人の男性の格好を真似ており、着ているジャージも原子や分子操作で全てその場で作り出し纏っている。


「良く似合ってるじゃないか」


 路地裏の人気のない場所に下りたガフリオンの足元には既にインキュベータが前回より得たその姿で待っていた。

「……で?」

「まず”僕”はこの星ではキュウべぇって名乗ってる。誰かがつけてくれたんだろうけど……どうでも良いや、とにかくここでそう呼んでくれるかな
 あとは最大の資源になる鹿目=まどかって子が最高の資源になるには周りの友達に生きて最後の敵にぶつかって貰わないと困るんだ
 そう遠くない内にまず巴=マミが前回通りなら死ぬ。彼女は孤独を恐れて無意識に仲間を求めてる、だからまどかの友達の美樹=さやかを引き込む
 性質が似てる者達は惹かれ合う、僕等の計画が歪まないなら何の障害もなく僕等は宇宙を億単位で救う希望の力を手に入れられるんだ……よろしくね」

 言いたい事を言うだけ言うとキュウべぇは路地裏の暗闇の中に消えて見えなくなってしまう。
 そしてお菓子の魔女とマミの戦いに介入をして倒し信頼を手に入れ、同時に自分達の邪魔をするほむらの存在に気づく。
 だから適当に人気のない場所へと誘導しているところで蛇の魔女に巻き込まれ、なし崩し的に共闘し退けた。


 そしてほむらのお眼鏡に適った事によってゲン(ガフリオン)は路地裏で話をする事に。


 内容は『この街の未来にとても重要な事』であり、ガフリオンとしても親友であるキュウべぇと自分の計画の障害になりうる存在は知っておきたい。
 たとえたった百年程度で一生を終えるような存在でも小石によってこけてしまうのは珍しくはない。
 何せ自分の父であり先達であった伝承族は馬鹿にしていた地球人や様々な宇宙人の連合軍に敗れたのが良い例として教訓となっている。


「二週間後……この街にワルプルギスの夜が来る。それは私一人でも巴=マミ一人でも倒せるような相手じゃない」

「……共闘か? 確かにキュウべぇからも異様な強さを持つ奴だとは聞いてるぞ、今まで何人もの魔法少女が返り討ちにあったくらいだからな」


 これに関してはキュウべぇが事前に情報を流し込んでいたから吐き出せる嘘である。
 確かにワルプルギスの夜と思わしき魔女の強さを知っているがガフリオンから言わせればとるに足らない相手であった。
 強いが伝承族としての超能力を使えば……それこそ宇宙船の一つでも作り出しぶつけてやれば事足りる程度の認識でしかない。
 別にこの街がどうなろうと知った事ではないが必要なのは『資源の回収』であり、強すぎる魔女は不要な存在と言えた。

 疾風に勁草を知るのにも限度がある。

 必要な果実まで摘み取るような存在はまさに壮大な自作自演には不要すぎる存在としか言えない。
 だからガフリオンはゲンと言う一人の魔法使いとしてほむらが共闘を望むならそれに付き合う心積もりである。

「そうね、アレの強さはどうしようもない位で勝てる見込みは少ない……でも勝てない訳じゃない」

「魔女化する覚悟があれば……か?」

 その言葉にほむらは顔色を変えたがすぐに元の無表情を持ち直す。
 少なくとも知っている事への驚きを意味しているのは間違いない。
 だからかほむらの表情は無表情だがどこか不安や恐怖を持った不思議な顔をした。


「……どうなるのか知っててアレに協力するの、その終わりがアレが守るはずもない約束をしたのを知ってて?」


「でもそれが無かったら今の俺はここにいない。終わりは残酷でもキュウべぇと契約した事で確かな幸せがある
 誰かの為に戦いたい・力が欲しいから・まっ挙げだせば色んな願いを持って契約した奴等を見てきた
 終わりがどれだけ惨めでもその道のりは確かに幸せだったのを知ってる……むしろ化け物になるのは当然なんだろう
 魂を賭けた願いで楽しい日々を幸せの素晴らしさを失いながら知るんだ。この命の絶望を確かに振り払ったのはアイツなんだ」


「そんなの違う、アレはそんな優しい願いなんて持ってない。あるのは自分達の目的の為に私達を利用するだけよ
 魔女を生み出して本当の事を継げずに嘘で塗り固められた奇跡なんて餌で私達を食い物にしていく最低最悪の敵
 アレがいるからどうしようもない苦しみばかり広がって、今日もその餌食になったのが二人いたのは真実だから」


 ほむらの物言いに思わずガフリオンは笑ってしまった。
 確かに自分達の行いは絶対に良い事ではないのは承知しているがそれでもここまで言われれば清清しい。
 助ける気持ちもあるがそれ以上に宇宙の為に死ねと言っているだけに最低最悪な奴と言うレッテルはこの上なく似合う。


「……じゃあ君の願いは何なんだ?」


 ほむらはその問いに背を向けて決別の意を示しながら歩き出す。



「私には大切な友達がいる……この世の誰よりも大切で助けたい親友が」



 そう言い残して姿を消してしまう。
 両腕を組み溜息を吐き出すガフリオンの肩に今まで物陰で監視していたキュウべぇが着地し器用に止まる。
 少なくとも感じ取れる範囲からほむらがいなくなってしまったのを確認したからだ。


「覚えてないのか?」

「じゃあ君はあの子の言った嘘の奇跡で魔女化した子達を全員覚えているかい?」

「ないな……覚えててワプルくらいだな」

「僕等を見習って欲しいな。ちゃんと素質の良いのは覚えてるからね」


 伝承族の寿命から言わせれば地球人の一生など本来は瞬きの間に等しい。
 そんな僅かな時間で覚えられる訳がなくキュウべぇも何の悪気も無くそう答える。
 二人にとって必要なのは『宇宙を救う資源』でありそれ以外は本当にどうでも良いのだ。


「でもいつ話した? 口を滑らすとは思えないが」

「……たぶん時間操作系統だろうね。それで僕等と同じように干渉しているなら辻褄も合うし」


 ガフリオンを覗き込む赤い眼は『消す?』と尋ねているがガフリオンは首を横に振る。
 キュウべぇにとって障害となりうる存在であるほむらを消したい所だがガフリオンが賛同しない。
 その顔は嗤っており悪巧みをしていると言っているような笑顔でキュウべぇも何故か顔がニヤケタ。


「見てみようじゃないか、あの子の大切な友達をとやらを。あとは計画の遂行の為に」


 それは他者を弄ぶ悪人。
 他人の努力を嘲笑う笑顔。
 統一思考による他者を理解出来ない種族と目的の為ならばあらゆる者達を利用する種族。

 二つの種族の笑みがその日の暗闇に消えた。


 それから二週間の間をガフリオンは来る演劇の道具の支度に費やす。


 かつてダイナック=ゲンが身に纏った鎧をちゃんとした物として作り出し、地球の文明では到底作り出せない兵器を製造した。
 その中には拳銃サイズの大きさにまでダウンサイズした生贄砲が存在している。
 キュウべぇの描いた演劇の終わりをするのにもっとも適した兵器としてそれはこの世に作り出された。
 なによりガフリオン自身もまたその演劇でもっとも重要な役所でありミスは許されない。
 でも 難しいこともない面倒なこともない、ただほんの少しだけ手を加えるだけの簡単な仕事なのだから。


 二週間の時間を持って作り上げられた演劇の舞台はそうして開幕した。


 魔女の影響か街は大規模災害に見舞われ市民は避難し、ただ突然の来訪に怯えるしかない。
 されどそんな一般人にはそうとしか見えない存在の正体を知り立ち向かう四人の少女が既に結界の中にいる。


 崩壊した街。


 中に浮かぶ無数の物。


 錆び付いた歯車は何を舞わすのかを忘れ。

 かつて願った願いに破れ希望を失い絶望に飲まれ。

 道化役者達は何を願い伝えたいかも忘れて愚かさと共に踊り狂う。

 逆さの巨人は回らない歯車にその身を吊るし動かない時に生きる。

 あらゆる願いの終わりを意味し、あらゆる努力と希望を無力へと帰す魔女。

 かつて誰よりも誰かの為に戦い続けた少女の成れの果てから始まった物語。

 本能とも呼べるモノから起因する自分と同じ敗者達を救い(取り込み)辿りついた最強の魔女。


 『ワルプルギスの夜』


 壮大な目的の犠牲となった者達は真実の果てに無力を知りてたどり着いた姿の果て。

 苦しみからの救済を願いながらも無力を知る。

 他者を救う願いながらも無力に敗れる。 

 希望を願いながらも無力に屈する。

 幾多もの願いと絶望の果てに無力を知った死者のソレは新たな無力を積み上げんと今ここに幕を開けた。



「流石に最強の魔女だけあって中々だな……ワプルの願いが産んだ対価か」



 既に始まった戦いをガフリオンはただ自分の登場する時間を待ちながら見ている。
 キュウべぇは既に目的の為に行動を始めており今この戦いの場にはいない。

 黄と赤と青と黒の光があまりにも残酷な力の差にも屈せず戦いを続けてる風景。

 それは観衆に『頑張れ』と言う希望を抱かせる一方で時間経過に合わせて『無理』と理解させていく。
 元々制限のある側と制限のない側の戦いではどちらが有利か? など言うまでもない。
 なにより無力を意味するワルプルギスの魔女が相手なのだから無力しか存在し得ないのだ。


「奇跡の対価……本当の願いを奪う、どうしてそうなったのかは誰にも判らないんだ。悪いのは私達だとしても何処から悪かったのか」


 ポツリと呟くゲンの姿をしているガフリオンの隣には真っ青な人型の影が佇んでいる。
 再会を懐かしんでいるのか、あるいは自分をこんな眼に合わせた事への怒りを意味しているのかも判らない。
 でもその使い魔は戦いを眺めるガフリオンに対して何もせず、ただその独白を聞くように佇む。
 おそらく本能とも呼べる部分で姿形は違えど理解しているからなのだろう。


「希望で夢を見た子達がいた。魔女にならずその生涯を終えた子や絶望に負けなかった子もいた……立ち向かえた子もいた
 ワプル……君が宇宙で見てきたのは本当に無力な奴等だけか? 今のように希望を持って立ち向かっているようなのもいた筈だ
 使い魔は自分の行いを保身の為か? もしワプルならきっと違うだろう。なにせ『皆を救おうとした』皆の英雄なんだから」


 ガフリオンの呟きは……吐露はまた続く。


「誇っていいんだ。君達の命はたった数百億年で滅びてしまうこの宇宙を救えるこの世の何よりも力強い光として生きる
 無力じゃない……私達は宇宙には理解されないが君達を理解してやる事もその無力を無力でないと言ってやれる力がある
 だからここで私達の計画にもう一度だけ協力して欲しいんだ……そして君達の舞台に上がるのを許して欲しい
 宇宙に生きる無数の命を向こう数千億年の未来を作り出す為に、この壮大な自作自演の目的を成し遂げる為に」


 使い魔の影の口が少しだけ笑い、それから消えてしまう。
 彼女は理解出来たのだろう。 


 『自分がしてきた事は無駄でも無力ではなかった』と


 それは自分達の命に価値を求めた者が素直な言葉がもたらした奇跡なのかも知れない。



(準備出来たよ)



 だが舞台はまだ幕を下ろさない。

 元凶たる二人はまだ果たしていないから。


「馬鹿な子だ……私達が口に関しては誰にも負けないのを知っていたのに」


 そして役者が揃い行動を始める。


 

 補足説明

 ワルプルギスの夜
 原作では『無数の残骸の集合体』だそうです
 魔女本体は『無力』・使い魔は『道化役者』
 願いに敗れた無力とキュウべぇに踊られた道化と言ったところでしょうね
 本気になれば地上の文明を滅ぼせる強さらしいですが……強すぎるだろう
 この作品だと生贄砲やプロミネンス砲で一撃確殺出来るとして


 奇跡の対価
 キュウべぇが絶望に叩き落す為にしたのかも知れないし、キュウべぇですら干渉出来ない領域なのかも知れない
 今作の場合『皆の住む宇宙を守る為に助けている皆にその功績や努力を理解されない』と言う感じ
 そうなるとほむらの『出会いを変えまどかを助ける』は『出会いは変えられるが最後はまどかが苦しむ』になる
 マミの『助けて』は『助けたいのに助けられる・助けられる立場になると死ぬ』と言った感じか
 『皆が父の話を理解するように』が『父親が自分を理解してくれない』だったりと本当に救われない残酷な現実である
 願いの逆を突きつけられる残酷な法則


 青き円卓
 伝承族の作り上げた銀河を統一する勇者の予言にある地球の事
 銀河の様々な種族がここで集結し生き残りを賭けて結託する場所
 マップスでは遠い昔、外宇宙から来た宇宙人達と人間が交わっている為に宇宙屈指の混血人の巣食う星でもある 
 十鬼島=ゲンはこの星出身でありその一族の末裔であり後に伝承族を倒す
 マップスでは宇宙人の襲来によって統一政府が設立されており、地球人同士の諍いをする余裕がないと言う事になっている
 しかし伝承族に生贄砲の火種にされかけたり、まどかマギカではキュウべぇに眼をつけられたりと不運極まりない



 ワルプルギスの説得については言い訳しません
 ただその戦いの意味を知り始まりを知り、そしてソレを覚えてくれているキャラがいたらああなるのではないかと
 『無力』を知り自分達は『道化役者』でしかないと知ってああなったのにああ言ってやったら
 きっとそれはとても幸せで『無力』である事を否定してやれると思ったからです
 ガフリオンと言う長寿キャラの存在も少しソレを考えたから生まれてきました
 もっと描写を書ける実力があればよかったんですが、自分の実力ではこんなもののようです


 あとチラシ裏からその他板への移動ですが……これって移動したら

 『チラシ裏から』ってタイトルに書くんでしょうか?

 感想が三十越えれたら移動しようかな~とは思ってるのですが



[27272] 『舞台装置の演劇役者』
Name: 温泉街◆a77021ce ID:11184927
Date: 2011/05/07 22:42
 圧倒的。

 四対一と言う戦いにも関わらず少女達はまったく勝てない。
 それまでに圧倒的な魔女としてワルプルギスは立ちふさがる。


 青い光・美樹=さやかがワルプルギスから放たれた火球の直撃によって倒れふす。


 魔法少女はソウルジェムが無事ならば戦い続ける事が可能であり、さやかはもう一度立ち上がろうとした。
 だが心の何処かで『勝てない』と言う絶望がその動作を鈍らせ追撃を避ける力を与えなかった。
 ビルの鉄骨がその腹を貫きその勢いは殺される事なく、鉄骨はさやかを地面に縫い付ける柱となる。


 赤い光・佐倉=杏子はその槍で飛来する歯車を破壊し戦っていた。


 だが無数の瓦礫による物量によって押し潰され倒壊したビルの残骸によって身動きを封じられる。
 手の槍を支え柱に瓦礫による圧殺を回避するも瓦礫によって足が完全に潰されており動けない。
 また肝心の腕も右は瓦礫によって引き抜く事が出来ず、左は槍と一緒に瓦礫を支える為に使えない。



 黄色い光・巴=マミは飛来する全てを撃ち落していた。



 仲間である二人に迫る攻撃を防ぎ歯車を撃つ事で軌道を逸らすもあまりにも豆鉄砲な火力。
 必殺であるティロフィナーレを持ってしても出来るのは巨大な歯車を半壊させ飛来するビルを粉砕する事。
 防ぐ為にしか力を使えず息切れを起こしてしまい、ワルプルギスの衝撃波によって地面に叩きつけられ意識を朦朧とさせる。


 最後の黒い光・暁美=ほむらは他の面々が倒れてからも孤軍奮闘し”努力”した。


 巨大なビルが体当たりしてくるのを避け、逃げた先に飛んでくる火球を紙一重でなんとか凌ぐ。
 不安定な足場をなんとかやり繰りし現代兵器でも特に火力のある武器で応戦し叩き込み続けたが結果は無残。
 それは『戦艦の装甲に子供が石を投げつける』程度の力しかなく、圧倒的な地力差に追い詰められていく。
 そして衝撃波によって宙を漂う大木に叩きつけられた所で『居て欲しくない二人』の存在に気づいた。


「ひどいよ……こんなのってないよ……」

「そうだね、彼女達じゃ荷が重すぎた……あの魔女はそれほどに強かったんだ」


 ほむらの霞む視界に映る誰よりも優先されるべき大切な親友と倒すべき存在が悠然と佇む姿。

 それは彼女にとってなによりも見覚えのある光景であり、そうさせない為に戦い続けてきたのだ。

 なのに肝心な時に身体が動かない。

 身体を縫い付けるように太い枝が身体を貫いており、ほむらはなんとか折ろうとするも出来ない。

 時間を稼ごうにも時間を止める能力はこれまでの戦いで過剰な使用に耐えられず限界を迎えてしまっている為に使えない。


「でもね……まどかにはこんな現実を覆す力があるんだ。君にしか出来ない、君だからこそ出来る奇跡の力が
 彼女達や僕には出来ないまどかにしか出来ない事。僕にはその奇跡を起こす事が出来るけどそれは君の意思がいる」


 青い影の使い魔達が二人に迫るがそれを鎧を纏ったゲンが光線銃で瞬く間に全て撃ち抜く。
 そこからまた飛来するビルに向けて背負っている巨大な大砲の銃口を向けて引き金を引き絞る。
 宇宙戦艦の主砲に用いられるプロミネンス砲の光線は地球の貧弱な建築物を簡単に貫いてワルプルギスの右腕を吹き飛ばす。

「ゲン!」

「ダイナックさん!?」

「おい! ここは危険だ! 早く逃げるんだ!」

 右腕を吹き飛ばされたワルプルギスは怒りを露にするかのように自身の周囲を浮かぶ歯車を差し向ける。
 まどかに対して怒鳴るように言うとゲンは大砲を背負ったまま二人を巻き込まないように別の場所へと跳んでいく。
 最初は十数機あった十数階立てのビルほどもある車輪も既に半分を切っていたがそれでも半分残っている巨大な歯車がゲンを潰そうと迫る。  
 だが引き金と共に放たれる光の柱によって簡単に消し飛ばされ、それどころかワルプルギスは左腕を失う。

 鹿目=まどかもほむらも生き残っている全員が『勝てるかも』と希望を抱いた。


 されど黒幕がそんな事をする訳がない。


 だからわざと弱くなる。


 ワルプルギスの本気とも言える神速の体当たり、全長三十メートルを超える巨体は空気の壁を越えて突撃してきた。
 幾ら常人を超えた能力も限界はあり避けきれずに切り札であるプロミネンス砲を破壊され一気に形勢逆転となる。
 ソニックブームで地面に叩きつけられたゲンは素早く立て直すが追撃は火球となって容赦なく続く。
 降り注ぐ火球を避けながら隙を見てビルの破片を全力投球、とんでもない速度で放たれる投球はワルプルギスの身体にめり込む。


「……まだいけるぞ!!」


 だがその希望も降り注ぐ火球の一つがマミの下へと飛来した事で潰える。

 ゲンはまだ動けていない、あるいはソレを避けられるまで回復していないマミを庇ったのだ。

 吹き飛ばされる鎧と攻撃の直撃よって出来る痛みから叫ぶゲン。

 容赦ない追撃の巻き添えを避けさせる為にゲンはマミを突き飛ばし、マミの視界は直後に無数の火球に飲まれるゲンの姿を見る。



「……やめて……やめて……やめて」



 怒りをぶつけるかのように降り注ぐ火球によってゲンは執拗な攻撃によって消し炭となってしまった。
 マミは朦朧とした意識の中で消し炭となったゲンのもとへと歩き何度もか弱い声でゲンを呼びながら身体を揺らす。
 されど返答はなくマミはそのかつて形があった黒い物を抱き寄せて自分の非力さを嘆き涙を流してしまう。


 そしてまどかの視界にはそんな二人の姿以外に倒れた親友や友達の姿があり、未だ君臨する魔女の姿がある。


 その眼は強い意思があり、それは明確な願いの形とエネルギーを増幅させる役目を担う。
 変わらぬ表情のキュウべぇはソレを見て無表情の仮面の下に懸命に計画の成就を喜ぶ。


「お願い……私に力を貸して。こんな結末を変える力を!」


「まどかーーー! ソイツの言葉に騙されないでーーー!!」


 ほむらは叫んだ。

 繰り返さない為に。

 生まれてはいけない魔女を産ませない為に。

 自分の努力が砕け散らぬように。



「私が”皆”を助けるから、私も皆と戦うから」



 それはほむらに向けたとびっきりの笑顔であり、何も知らないからこそ出来る笑顔であった。
 大切な友達を助ける為に選び取る勇気を手に入れたまどかはキュウべぇの契約の下に魔法少女となる。

 さやかの素質を十とするならば、まどかの素質は億単位に等しい。

 それに更に強い感情の力が上乗せされた素質は契約と共に開花を向かえ比類ない力を与える。

 皮肉にもワルプルギスと良く似たデザインのドレスは桃色を基調としてあり、その手には矢のない弓が握られている。



「力の使い方は身体が理解してくれてる! あとは君の意思の強さでワルプルギスの夜を倒すんだ!!」



 その光にワルプルギスの顔は何処か悲しげな表情をしながら、身体の周りに火球を作り出すとそれを一つの巨大な塊へと変えた。

 対するまどかが弓の光の弦を引くと輝かしい光の矢が形成される。

 皆を守ると言う強い意志の眼はワルプルギスを見据え、光の矢は弓の大きさを遥かに超えた巨大な矢と化す。
 本当ならば怯えて良いのにまどかはまったく怯えなず覚悟と決意に満ちた威風がより矢を鍛え上げていく。
 自分のソウルジェムが矢の大きさに比例して凄まじい勢いで輝きを失っていくのも気づかずに。

 先手を取ったのはワルプルギス……巨大な火球をまどかへと放つとそれに追従するようにあの体当たりを行う。

 一つの巨大な火球と化したワルプルギスに対してまどかは『全身全霊』の最初で最後の一撃を放つ。


 競り勝ったのは命を賭けた矢だった。


 均衡すら生まれない圧倒的な一撃によってワルプルギスの夜と言う魔女は消滅した。



『……と』




「……えっ?」



 ワルプルギスが消滅する直前にまどかは誰かの掠れた声を聞いた……何と言ったのかは聞き取れなかったが。
 それでもワルプルギスの夜は消滅しグリーフシードを産むこともなく消えてしまったが勝利を喜ぶ筈であった。

 だが緻密に作られた計画はついに成就される。

 真っ黒になったソウルジェムが意味するのは倒してきた魔女と同じ魔女となる結末。

 そんな事など知らないまどかは自分の全身を襲う激痛の意味も判らずにただ声をあげながらもがき苦しむ。
 やがてその身体は聞くに堪えない音をあげながら変貌していき、周囲にある”物体”を取り込みながら急成長していく。
 親友・先輩・仲間を取り込みなお満たされぬ腹は更に物体を取り込もうと成長を続ける。
 その感触はただの人間である少女に異様な感覚と絶望を与え、その感情の力を爆発的に高めた。

 死ぬ筈だったまどかの仲間を助けたのはこの時の為。

 されど仲間を取り込む感覚は度し難い感触を本人に与え、そのエネルギーとしての価値をより高める。
 膨大なエネルギーを吐き出しながらもほむらは魔女として姿を変えていき、天を貫くような巨体を持つ魔女と化した。


「よくもまぁ……やっぱり素質は侮れないね」



 キュウべぇが見上げるのは一つ前の世界にて産まれた最強の一角となった魔女。
 『皆を助ける・不幸な結末を変える』と言う願いから産まれ『この世の不幸を無くす為に皆を殺す』為に生きる救済の魔女。
 地球クラスの惑星を十日で滅ぼすだけの強さと惑星を覆いつくす巨大な結界を生み出すだけの力を兼ね備えた優しい少女の成れの果て。

 優しい願い故に奇跡の対価は残酷なまでに厳しさを与える。

 そう遠くない内に世界は結界で覆われ、地球の文明は十日も持たずに彼女の純粋な善意によって滅びるだろう。
 この世から不幸を無くす為に不幸となりうる全てを滅ぼす事で彼女は『幸せ』だと誤解するのだから。



「……また、助けられなかった」



 ほむらはワルプルギスの衝撃によって突き刺さっていた木ごと吹き飛ばされ、幸運にも魔女化に巻き込まれずに済んだ。
 されどその身体は精神的に既に死んでおり悠然と佇むもっとも助けたかった相手の成れの果てを見ているだけ。
 持ち合わせた数多もの武器はまったく通じず結果として戦いに敗北し目的を果たせずに終わってしまう。
 過去へ戻ろうとするも既に砂時計は過去へと戻るだけの力は残されておらず、それもほむらを死なせている要因。
 予備のグリフシードもなくその心は『いっそまどかに取り込まれたい・まどかに殺されたい』と願ってすらいる。

 僅かに残弾の残っているカトラスと言う拳銃の銃口を自分のソウルジェムに向ける。

 だが引き金が引かれるよりも早くゲンの手が銃を奪い取った。


「……まだ生きてるか?」


 元々魔法使いでもないゲン(ガフリオン)はその超能力で自分の身体を原子分解させ別の場所で再生させて生き延びていた。
 消し炭になったのは纏っていた鎧だが生き延びてたゲンは右腕は肘先からなく・顔も左半分で黒ずみ・両足が崩れ落ちる。 
 いかにも奇跡的に生き延びた手の込んだ演出も今のほむらにはあまり効果がない。

 それでもゲンは倒壊しているビルの瓦礫になんとか背中を預けるように這いずり魔女の巨体を見上げる。

 胸元のソウルジェムに似せた鉱石には亀裂が走っており、それによって身体を再生出来ないと言う演出も欠かさない。
 またほむらがまだ生きている事に安堵するように大きく息を吐き出し諦めを示すかのようにほむらに話しかける。


「あの子が守りたかった子なのか?」


 ほむらは頷く。


「凄いよな……俺達が束になっても勝てないのを一人で倒すんだからさ。でもどうしてこうなるのを知ってたんだ?」

「私は過去に戻れる力がある……でももう過去に戻る力はない。私のも黒いからそう遠くない内に魔女になる」


 助けられなかった後悔・勝てるかも知れなかったが負けた悔しさ・助ける筈の相手にまた救われた現実。
 ほむらの眼は溜め込んでいた涙を流し始め、ほむらは声を押し殺しながら泣きだす。


「……ソウルジェムが浄化出来れば過去に戻れるのか」


 またほむらは小さく頷く。
 それに対してゲンは歯を食いしばりながらポケットから蛇の魔女を倒した時に手に入れた空のグリフシードを取り出す。
 取り出した所でゲンの残っていた腕も肩から千切れ落ち、グリフシードがコロコロと音を立てながらほむらの下に転がる。

 ほむらの眼にそれは希望にもまた戦えと言うようにつきつけられる残酷な現実にも見えた。

 だが動かせる腕はそれを使い自身のソウルジェムを浄化し砂時計の残量も元へと戻していた。
 未だ心の奥底では戦えう勇気を持っている事に気づかされたほむらは唖然し、ゲンは頼もしいと笑う。

「俺はもう無理だけど……そっちは変えたんだよな?」

「変える、変えて見せる」

「なら魔法の言葉を教えてやるよ」

 ソウルジェムに更に亀裂が走る……ソウルジェムは魂そのものであり砕けるのが意味するのは死だ。
 直す術はなくゲンの命が風前の灯である事はほむらにも理解出来ているからこそ何も言わない。


「キュウべぇは……合理主義者だ……『一万の価値のある意思』と『二万を稼ぐ人間』なら……どちらを選ぶかは判るな?」


 ゲンはそれを伝え、小さく『頑張れ』と言いながらソウルジェムの崩壊と共に地面に横たわった。
 ほむらは何も言わずに横たわった身体を丁寧に瓦礫に背を預けて体勢を整える。
 言い残してくれた魔法の言葉の意味を考えながら……まだ見開いたままの眼を優しく閉じる。


「まどか……次は絶対に助けるから」


 つい先ほどまで死に掛けていたとは思えない強い意志の宿った言葉を言い放つと奇跡の力によって姿が消え、ほむらの意思は全ての始まりの日の時間へと逆行する。

 そして無人と化した結界の中で黒幕のキュウべぇがゲンの下に現れ、ゲンの身体は瞬く間に元の姿へと戻る。

 ボロボロだった身体など影もなくキュウべぇがその頭に器用に上ると気に入ったのかそこにまた器用に立つ。


「ご苦労様、いやぁより純度を増す為とは言え苦労したよ。でもいらない事を教えたのかな?」

「まさか? 過去に戻れる能力者を好き勝手振り回せる仲間に引き入れられたらこっちはこっちの奇跡が使えると思わないか?」

「……そうだね。僕は君を過去へと送り出して君は延命に成功するけど誰にも理解されない、だから資源危機を理解されない」


 だからガフリオンは『魔法の言葉』をほむらに教えた。
 過去への逆行などで奇跡の対価支払いによって使える切り札が一つなくなっているが、ほむらを引き込めば大きく変わる。
 時間操作能力を利用する事で使える奇跡を増やせる……あとはそれをどう使うかでガフリオン達の戦いは大きく変わっていく。
 数千億年の月日を生きる二人の策略は既に今回得れた材料から次回への明確な道筋を描き出す。


「あとはアレの後始末だね……もし奇跡の対価なんてなかったら、まどかもワプルもあんな苦しみを背負わなくて良かったのにさ」

「それと希望の方が価値があればな。絶望なんてものに縋る必要がなければこんな事をしなくても済んだのにな」


 救済の魔女が悠然と佇んでいる姿は二人には神々しさよりもその弱弱しさが気になってしまう。
 使い魔もなくただ一人世界を見ながら幸せを求めるその姿は純粋な優しさが過ぎたものの化身。


「ワプルもまどかもさ……皆を助けるって言う子は決まってさ『その皆の中に自分がいないんだよね』
 僕には理解出来ないよ。皆ってのは全てに相当する筈なのにさ、ああした子はどれもこれも自分を含まないんだ
 不思議だよね……どうして自分も助かるのに入れられないんだろう? そうすればもっと違うだろうにさ」


 ガフリオンの頭の上でキュウべぇは心底理解出来ないと言いたげに吐露する。


「まっ後始末はするよ……あんな魔女がいたら良質な資源地の地球が滅びちゃうからさ」

「その後始末は私だろ?」

「まぁ僕等は弱い仕方ないよ、そういう訳だからよろしくね」


 キュウべぇはそう言うとさっさと頭から下り結界の外へと抜け、ガフリオンは懐から小さくした生贄砲を取り出しその銃口を救済の魔女へと向ける。
 本来ならば適当な生命体を殺さなければ弾薬が存在しないのだがガフリオンの周りには倒された筈のワルプルギスの使い魔達が存在していた。

 青い影達は全員がガフリオンを見ている。

 そしてその影の口は思い思いの言葉を伝える為にに動く。


『あの子を助けてあげて』


『私達のような苦しみを与えないで』


『あの子にただ一言伝えたいの』


 影が消えていく度に生贄砲に少しずつだがエネルギーが充填されていく。
 絶望に沈み敗れてただ暴れまわるだけだったかつての魔法使いや少女達のたった一言の想いが。
 皆の幸せを願い戦い、幸せを願いながらもまったく逆の事をしている少女であった者に伝える言葉。


 充填された生贄砲は引き金と共にその集められた願いを吐き出す。


 それは救済の魔女の作り出す盾を容易に貫いたソレは彼女に大きな風穴を開けた。



『もういいの……ありがとう』



 数え切れない先達達の最後に残された自我から集められた言葉と想いは救済の魔女に届いたのだろう。
 身体は再生せず風穴の開いた部分からゆっくりと壊れていく。
 雲で隠れている顔には確かな一筋の涙が流れているのが確認出来る。 


 確かな幸せを知った救済の魔女は、幾多もの先達の感謝の言葉に見送られながら崩れ去った。


 たった一回……されど一回で多くの人を助けた彼女は残された、かすかな心でソレを感じ取り死んだ。
 自壊していく、消え行く結界と共に救済の魔女は多くの人々の感謝の念を送られながら救済されたのだった。



「……後始末はしたぞ、あの子は救われたんだから、今度は君が救われる番だ」



 満点の夜空に燦然と輝く星の光を見上げながら宇宙を救う者は過去へと跳んだ少女に届かない言葉を呟く。

 たとえどれほど外道で非道な事をしているとしても、今のガフリオンは確かに本心からソレを願う。

 感謝と希望の想いを撃ち出した生贄砲の奇跡を見届けたからか。

 あるいは自分と同じように大切な仲間の為に戦っているから少しだけ共感したからか。



「魔法の言葉をちゃんと使えば……だがな」



 伝承族にはあるまじき優しさを持ちガフリオン。

 親友を得て”後始末”をするまでに到ったキュウべぇ。

 バクは確かな勢いで世界を変えつつあった。

 宇宙から見れば豆粒にもみたない小さな世界を。





 補足説明

 救済の魔女
 鹿目=まどかが辿りつく成れの果ての一つ
 キュウべぇ曰く『地球くらいなら十日で滅ぼせる』くらいの強さを持つ
 原作を見たら判るがとにかくデカイ……竜巻が人の形を成しているような感じでもはや”天災”
 魔法少女の素質に恵まれている天才だけにまさに天災
 この世から不幸を無くす為に結界に取り込んだ人々を殺してしまう
 ある偉人曰く『死は全てを解決する』を地でいくのに加えて根っこは純粋な善意だから性質が悪い
 今作では生贄砲+ワルプルギスの夜の感謝によって『幸運』を知って自壊する
 と言うか作者的に「救済の魔女が救済されないのはダメだろ」とこんな形での救済をした
 むしろあのまどかが救済の魔女になったのはバトル漫画によくあるテレパシーみたいなので真実を知ったからだと思ってます
 キュウべぇを拒絶するように地球を覆う結界とか終わりが悲惨なだけに幸せを願ったりしてますから


 魔法少女達
 キュウべぇがよりまどかに絶望を与える為に生かした者達
 まどかが魔女化する際に巻き込み、その計りがたい苦痛と絶望を与える為に生かした
 まさにその一瞬の為に生かされただけ、善意など微塵も存在しない
 そしてまったく記号に等しいのはキュウべぇ達から見た感を強くしたいからです
 おそらく原作でも連中から見たさやか達はこの程度だと思うんですよ
 実物を確認されない程度の書類一枚で済むような薄っぺらさって感じで


 生贄砲の言い訳
 伝承族の超技術の一つ
 生命体の持つ感情(原作では死の感情)をエネルギーに変換して撃ち出す兵器
 なお本来は砲身なきものであり、マップス原作ではソレを強引に機械化している
 思念兵器でもあり、マップス設定で使いたかったモノの筆頭格
 威力は低くとも感謝の念を救済の魔女に撃ち出し伝える事で、願いに満たされながら死ぬ
 コレをぜひとも使いたかった……当初の予定は生き残った面々の生きる意志をワルプルギスに撃ち出す予定でした



 キュウべぇらくしないかも知れませんが、強すぎるアレを消せるなら消していたでしょう
 それに実際キュウべぇが良質な資源地である地球を見捨てたのは結構非効率だと思ってます
 だからガフリオンと生贄砲によって消してもらいました……あの地球はどう進んでいくのでしょうね
 まぁキュウべぇに採掘されて滅びるしかないんですけど


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