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[27287] インフィニット・ストラトス とべない少女(オリ主)
Name: 過敏◆d0d26ae3 ID:ec57abb8
Date: 2011/05/17 20:35
タイトルどおりのISSSです。
オリ主女性メインで、一応原作をたどるかもです。
少々ゆりゆりしい面もあるかもしれません。
内容がないかもしれませんが、個人的には楽しんで書いてます。
なので読んで楽しんでいただけたら幸いです。

戦闘シーンが終わって、休みが終わって、そしてネタのストックも終わってしまいました。
次のあたりどうするべきかを考えていて、考えた結果、君子のイメージ絵を描いて逃避してました。
8個目という名のインターミッション? というところでしょうか。
短めだと思います。



[27287] インフィニット・ストラトス とべない少女
Name: 過敏◆d0d26ae3 ID:ec57abb8
Date: 2011/04/20 04:16
 いったい何がどうしたらこうなるんだろうか?
 大小さまざまであるけれど、そう思うことは生きていれば避けることができない言葉だと私、天同院 君子(てんどういん くんし)は思っています。
 そもそもからして、自分の名前をもってそう思うのですから間違いはないでしょう。
 
 さて、なぜこのようなことを今考えているかと言えば、今まさしくどうしてこうなったのかと思考が頭の中を飛び交っているからです。
 ぴゅんぴゅんと矢のようにせわしなく。

 今私がいるのは、いわゆる研究所というものに近いもののようです。よく分からないのは、連れてこられる途中でそういう設備が目に入ったからです。
 目隠し等を強要されなかったということは、極秘ということはないのでしょうけど、いったい私に何の用があるというのでしょうか。真っ白な一室に通され、その中にあったテーブルと椅子。
 腰掛けるように促された椅子は、少々ごてごてしていましたが、とくに考えることなくい座って、かれこれ十分。
 未だに向かい側の椅子に誰かが座る気配はありません。
 幸いにも人はいます。黒い服を着てサングラスをつけた、いかつい体つきをした男性が二人、入り口付近にですので会話はまるでないのですけどね。

 といいますか、これって誘拐なんじゃないですかね?
 家でいつものようにごろごろしながら適当にパソコンをいじっていたら、突然その黒服の人たちがやってきて、問答無用で担がれて、車に乗せられ、あれよあれよという間だったのです。
 しかし誘拐だったとして、曲りなりにも大企業、天同院グループの屋敷に侵入して誘拐なんて考えられません。ということはこれは仕組まれたことなんでしょうか? 
 というか家に売られたんですかね?
 そうだったとしたら大変です。
 家のパソコンは付けっぱなしなので、私が通販で購入しようとしていたものがばれてしまいます。
 決していかがわしいものではないのですが、プライバシー的に見られたらまずいじゃないですか。
 あぁ、本当に、

 「どうしてこんなことになったんでしょう」
 「それはこっち台詞だよ」
 
 いつの間にか口から漏れていた愚痴は、いつの間にか入ってきた女性の文句のような返しとなって私にたたきつけられました。
 服装はなんと言うか、ドレスのようなそうでないような、胸元を強調するような作りをしています。凄く目のやり場に困らない女性ですね。
 
 「私としても、これから楽しい楽しい実験だったのに、こーんなどこの馬の骨ともしれない小娘の相手をしなけりゃいけないのか」
 「はぁ、それはご愁傷様です」
 「ほんと、今すぐ死んでくれないかな? あ、私は面倒だから手を出さないよ?」
 「他殺ならあきらめますが自殺は怖いので遠慮します」

 何だろうこのやり取りは。
 意味が分からないですが、売り言葉に買い言葉のような感じになってます。
 といいますか、初対面で人に死ねって言える人を私は初めて見ました。貴重な体験ですね。
 とりあえず、いろいろ突っ込みどころのある女性ですが、なんだかあれなので、ここは一つ目の保養として、おおきなおっぱいを見ながら会話させていただきましょう。

 「まぁいいや。面倒だけど。で、資料によれば、キミが不感症の子なんだよね?」
 「全力で否定したいですが、言いたいことは分かるので、イエスと応えさせていただきます」
 「肯定するんだったら短く、はい、っていいなよ面倒だなぁ」
 「面倒なら説明と質問に専念してくださいよ。しゃべる手間が多少減りますよ?」
 「やっぱり付き合う人間は選ばないといけないよねぇ。愛を注げる付き合いが出来る人がいいよね、愛が」
 「はぁ」
 
 お互い全く目を合わせない会話でしたが、最後に適当な返事を返すと、女性が少しだけ苛立ちを見せました。
 コレは怒らせたかな? と思った瞬間、私は怪しげな機械を体中に取り付けられていました。
 
 「面倒だと思ってたけど、これはこれでいい実験ができるね。というわけで、実験開始ー」
 「──」

 何かしら文句をつむごうとしましたが、私の意識はバチッと走った電流の感覚を最後に、闇の中へと落ちていきました。
 本当に、一体どうしてこんなことになったんでしょうか?
 




 「おおう……」

 次に目が覚めたときには、やっぱり見ず知らずの場所でした。
 もっとも、意外といいところなのか、体をうずめているベッドは非常にふかふかで、天上にはシャンデリアなんかが視界に入りました。
 何はともあれと体を起こしてみて、問題なく動くことに少しだけ安堵しながら周りを見渡せば、結構お高そうなデスクが目に付きます。
 パソコン内蔵型のようで、ディスプレイは最新鋭の投影型。私のよりもいいものみたいです。
 私が喉から手が出るほど欲しかったタイプのようで、もしこれが自室にあったのなら狂喜乱舞は免れないのですが……。
 残念ながらどこからどう見ても私の部屋などではなく、しかたなしに家宅捜索だーと適当な掛け声とともに適当に探ってみると、奥にはバスルームがありました。
 脱衣所も結構な広さで、鏡は私の体をくまなく映し出せるほどの大きさでした。

 「おおお」

 鏡に映る私は、病院患者が着るような服を身に着けていました。
 髪の毛は、寝起きということもあって少々変にまとまってたりしますが、ちょっと自慢の腰元まで伸びるうねうねウェーブ。
 身長は平均よりちょっと高めで確か前はかったときは163cmでしたかね。せめて170cmは欲しかったですがまぁ仕方がないです。
 おっぱいは毎日マッサージしてるんですが、Cカップからあまり成長しません。残念ながら。
 お腹周りをさすってみると、やっぱり少々ぷにぷに感が否めません。
 決して太っているわけではなようで、メイド曰く「非常にバランスがよく、性欲を掻き立てられる肉付き……つまり、AV女優のようでエロエロです」だそうです。
 個人的にはもうちょっと引き締めたいところではありますが、運動サボってるので無理な話ですよね。
 顔つきも相変わらず、いつも寝起きみたいだねとよく出来たキュートな妹から言われる台詞の通り、眠たそうな垂れ下がった目じりでやる気のなさそうな表情をしています。
 つまり、平常運転ってことですね。よしよし。
 さてさて、ひとしきり見た限りでは、キッチンまで備え付けられていました。
 どこぞのホテルよりも設備はいいんじゃないでしょうか?
 そんなところに私を連れてきて、いったい何をしたいんでしょうかね、あのうさぎっぱいは。

 「何はともあれまずはパソコンでしょう」

 誰に言うわけでもなく、胸にときめきを覚えながら椅子を引いて無遠慮に座って、スイッチオン。
 数秒のラグで機動しました。早いですね。どうやら最新鋭なのは見た目だけじゃないようです。
 が、

 「おや……?」

 いつもならOSのロゴが出てくるはずの場面で、浮かび上がったのは全く別のも。
 表記は『IS』の文字。

 「あい……えす……」

 思わずつぶやいてしまいましたが……はて? どこかで聞いたことがあるような響きですが……

 「変わった奴だとは聞いていたが、いきなりPCか」
 
 考え込もうとした瞬間、突然聞こえた女性の声が室内に響きました。
 まぁこんな設備なので、誰かしらが来るだろうとは思って今いたからね。これくらいでは驚きません。
 いつもこういうことは想定してますからね、脳内でですが。
 いたって平静な態度で声のしたほうへと視線を向けると、そこにはすばらしい果実がありました。

 「非常に良いものをお持ちのですね」
 「……いきなり何を言っているんだ。まぁいい、混乱しているわけではないようだな」
 「はい。視界良好です。気分はすこぶる良いです」
 「ならいい。が、一つ質問があるのだが」
 「なんでしょうか」
 「お前はさっきから何処を見ている?」
 「もちろんあなたのステキなおっぱいです」
 「何故そんなものを見ている」
 「おっぱいを見るのに理由がいりますか?」
 「少なくとも現在においては必要だ」
 「ならば応えましょう。答えましょう」
 「手短にな」
 「えー」
 「そんなに語りたいのかお前は」
 「いえ、それほどでは──」

 淡々と答えた瞬間、私の頭にすさまじい衝撃が駆け抜けました。

 「ぅぉぉぉぉ……」 

 視界に火花が散って、くらりと体が揺れました。倒れるのは椅子につかまって何とか免れましたが、これはしゃれになってません。
 まだぱちぱち言っている視界の端に、女性の拳が見えました。拳骨だそうです。
 むちゃくちゃ痛いです。

 「いったい何をするんですか」
 「貴様が私をからかっているようだったからな」
 「からかうだなんてそんな。私はただおっぱいについて語りたかっただけですのに」
 「それをからかっているといわないのか」
 「おっぱいに貴賎はありません」
 「なに?」
 「ですが私は大きいほうが好みといえます。なので私は見ています」
 「…………」
 「──っ!?!?!」 


 無言で殴られました。
 しかもさっきとは違って、衝撃が体を貫きました。
 最初のでもしゃれになってないと思うくらいの威力でしたのに、二度目は意識が一瞬飛びました。
 何で頭を押さえているだけで済んでいるのか不思議でたまりません。
 そして私はここでようやく理解しました。
 この人は危険だと。
 私の危機察知能力もずいぶんとガラクタのようですね。きっとサバンナに放りだされるようなことがあれば一日持たずにハントされるでしょう。
 か弱いですね。というか痛いです……。

 「ぅぉぉぉ……」
 「さて、天同院君子。いいたいことは何かあるか?」
 「死にました。私の残り少ないまともな脳細胞が死滅しました……」
 「それは良かった。もう一度殴れば、貴様のそのふざけた欲望も殺せるかもしれんな」
 「これだけは絶対に死なない殺せないと断言します」
 「まぁいい」
 
 一蹴されました。
 ちょっとしょんぼりです。

 「不本意だが名乗っておく。私は織斑千冬。この寮の寮長をしている」
 「はぁ……寮長さんでしたか………………寮?」

 余裕の初耳でした。
 寮というと、学校とかそういうものなんでしょうか。といいますかいいんですかね。
 寮ってこんなハイスペック設備の塊だと学校経営とかに多大に影響出しそうなんですが。この部屋だけだったらまだ分かりますけど、いえ逆に分かりませんよね、ここだけ特別とか。
 といいますか、織斑千冬ってどこかで聞いたことがある気がしますが、はて?

 「そうだ。ここはIS学園の学生寮だ」
 「やっぱり学校の寮でしたか……って今、何学園っていいました?」
 「IS学園だ」
 
 一瞬嫌そうに顔をゆがめましたがちゃんと答えてくれたことには感謝します。
 ですが、え? 何を言ってるんでしょう、IS学園?
 
 「あいえすってあのIS……なんですか?」
 「他に何がある」
 「いちばんすご、いえ何でもありません。そうですよね。ISっていったらインフィニット・ストラトスですよね」

 拳が振り上げられると私はあっさりと元の路線へと乗り換えました。
 痛いのはキライなのです。

 「そうだ、そのISだ」
 「そのISの学園に、どうして私がいるんでしょう?」
 「貴様は今年の春からここに通うからだ」
 「えー」
 
 私の小さなリアクションに、千冬さんは一瞬驚きを見せました。
 いやまぁ、盛大に驚くこともできるのですけど、なんといいますか結構ありきたりな展開じゃないですか。
 アレなゲーム的には。
 なので予想はできていたといえばそうなのですが……

 「理由がイマイチわからないのですが」
 「まぁ、本来ならば貴様がIS学園に入学することが出来る確率は万が一ににもありえんからな」
 「そもそも確率で言うのなら、ゼロ以外ないと思うんですが」
 「そうだな。間違いない。何せ、貴様はISが『全く反応しない』のだからな」
 
 インフィニット・ストラトス、通称IS。
 今や世界でもっとも優れた兵器として名をはせるパワードスーツの名称なのですが、この兵器は、単独飛行できますし、バリアなんてものもついてたります。
 現代の兵器のありかたを一変させてしまった超兵器なのですが、これはどういうわけなのか女性にしか動かせないのです。
 男性は機械的にISを装着できたとしても、指一本動かすことが出来ません。
 そのせいで今や男性のヒエラルキーは女性にとってはとてつもなく低いものとなってしまっているのは、まぁ余談です。
 さて、そんなえり好みの激しいとんでも兵器ISなのですが、女性でなければ操れないということは、裏を返せば、女性であれば誰だって動かすことが出来るのです。
 定期的に行われる検診で、ISの適正を調べることが出来るのですが、悪くても『Dランク』で、動かすことが出来ないことはないのです。
 しかし、世の中に例外というものはあるようでして、私は恐らく全世界中で唯一の『ISが反応を示さない女性』なのです。

 今でこそこんな私ですが、昔はISを装備して自由に空を飛びまわることを夢見ていた時期がありました。
 ですが、定期検診でISを装着しようとしたのですが、なぜか私はISが装着できませんでした。
 どんなに適正が低いからといって、ISが装着できないことはありえません。そもそも男性ですら装着はできるのですから。
 しかし、私は装着すらできませんでした。
 天同院グループの総力を挙げてあらゆる世界で、使用可能なあらゆるISを用意したのですが、完全に無反応。
 果てには専用機まで用意するとか言う話になりかけましたが、そもそもデータ収集ができないためにそれは断念され、そして私の居場所は消失しました。
 名門で大企業ですっごいグループの娘がヒエラルキーの頂点に立てる力を保持していない。
 そんな汚点を抱えておくメリットは企業的にはありませんしね。
 幸いといいますか、私には良くできた一つしたの妹がいて、その子がかばってくれたので、追い出されることは免れました。
 が、世間様からの視線はとっても冷たく、当時のクラスメートからはISにまったく反応しないということで、『不感症』と称されたりもしました。
 あのにっくきうさぎっぱいの言ったことはこれだったわけです。
 
 さてまぁ、このIS学園は、ISに関する人材を育成する公的な唯一の学園で、この学園に入ることは結構なエリートとして認められることになります。
 しかし私はそもそもISを反応させることすらできない残念な娘です。
 それがどうしてIS学園に入学なんていうことになるのでしょうか。

 「説明を要求します」
 「政府からのお達しでな。貴様のようなレアケースをまとめて面倒を見ろといわれたんだ」
 「私のようなレアケース…………あぁ」
 「理解したか?」
 「正直なところ、まったく理解できないといえばできませんが、まぁそういうことなら従っておきます」

 不本意ですが、という言葉は飲み込んで。
 
 「ところでですね」
 「ん?」

 そういって、私は織斑千冬と名乗った女性を頭からつま先までまじまじと見つめる。
 女性なら誰もがうらやむだろう、すらっとした長身で引き締まった体つき。それに付随する凛々しい表情。
 彼女の髪は少々癖があるようですが、それが味となって彼女の魅力を引き立てているように思えます。
 そして何より、この自己主張してやまない二つの双丘。
 総評して、彼女は絶世の美女といえましょう。

 「眼福眼福」
 「何故拝む」
 「美人は世界の宝です」
 「は?」
 「その存在は神に匹敵します」
 「何をいって……」
 「だから拝みます。そして──」

 そのおっぱいいただきます!

 恐らく人生で一番速く動けたのではないでしょうか。
 視界がかすんで見えるほどの踏み込みで、私は接敵し、両手を無遠慮に伸ばそうとして、世界が暗転しました。
 次に目を覚ましたとき、私は寮の室内の床にひれ伏してました。
 私の人生最高は、一瞬にして叩き潰されたようです。残ったのは悔しさと痛みとこぶだけでした。


 これが、入学一週間前の出来事でした。





 さて、もうお分かりだと思いますが、私はおっぱいが大好きです。
 つまり女性が好きです。
 別に男性が嫌いというわけでもなく、今の世の流れのように男を下にみているわけでもないです。まぁそもそも見下しようがないのですが。
 でもやっぱり女のこの方が好きです。やわっこいし、おっぱいが素敵ですし、いいにおいがしますし、かわいいですし、おっぱいがありますし。
 なので私は女子高にあこがれていました。
 ですが、私はごらんの有様な不感症な娘なので、高校はいかせてもらえず、家庭教師を呼んで、軟禁される予定になってました。
 ですから、女性しか動かすことの出来ないIS専門の学園、IS学園はあこがれていた女子高で、私はひそかにテンションを上げています。
 何気に、天同院グループが全力で私のことを隠蔽してきたので、当時のように四面楚歌という状況はないようで、自己紹介を終えたあとでも私を生ゴミでも見るような目で見てくる人はいませんでした。
 
 「ねーねー」
 「ここは天国ですか……」
 「おーい?」
 「あ、すみません。トリップしてました。何でしょう……か……」

 私が幸せすぎて頭の中を桃色にしてる間に近付いてきていたのか。いえ、それはどうでもいいことです。
 私としたことが、なんと言うことでしょう。こんな素晴らしいおっぱいの接近に気がつかなかったとは。
 椅子に座ったまま教室を眺めていた私は、声に振り返って目の前に飛び込んできた素晴らしきおっぱいに目を奪われ言葉を失いました。

 「どうしたのー?」
 「はっ!? あ、いえ、その、おっぱ、いえ。えっとあなたは?」
 
 あの時は状況が状況だったので、遠慮なんて持ち合わせていませんでしたが、さすがにクラスメートに欲望駄々漏れ状態ではまずいことくらいは分かります。経験済みですしね。
 
 「えっとね、わたしは、布仏本音っていうんだよー」
 
 ものすっごいのほほんとした、柔らかな笑顔で本音さんは微笑みました。
 これが天使の笑顔というものなんですかね。私の妹に負けず劣らないステキな笑顔です。
 そのまま少しだけ彼女の容姿に目を向けてみると、なんだかすごく袖が余っている感が否めない制服を着用していました。
 狙ってるんでしょうか? かわいいですけど。

 「本音さんですね。覚えました。私は天同院君子です。よろしくお願いしますね」
 
 基本笑顔は苦手なのですが、営業スマイル全開で、応えました。
 何はともあれ、このすばらしいおっぱいとは仲良くなる労力を怠ってはいけないと思います。

 「じゃあ、てしちゃんだねぇ」
 「てし?」
 
 もしかしてあだ名でしょうか?
 だとして、いったい何処から……。

 「てんどういんくんしだからー、て、んどういんくん、し。で、てしちゃんだよぉ」
 「……これは予想外です」

 今までこのような奇抜な部位をとったあだ名はあったでしょうか。不感症はのぞいて。
 本気で言ってるのだろうか? と本音さんの顔をのぞいてみますが、満面の笑顔は崩れていない所見ると、全力のようです。

 「ダメかなぁ?」
 「いえ大丈夫です。すばらしい発想だと思います。まさに誰も思いつかなかったでしょうです」
 「うぁーい!」
 
 うぁぁぁ……な、何なんでしょうこの生き物……本当に私と同じ年齢なんでしょうか?
 嘘でしょう? こんなに和んで可愛らしい人型がいていいはずが……あ、我が妹がいました。
 じゃあオッケーですね。

 「ねぇねぇ、てしちゃんてしちゃん!」
 「何でしょうか?」
 「わたしも何かあだ名つけてー」

 なんですと?

 「ほ、ほう、私にそのようなことを頼むとは本音さんはチャレンジャーですね」
 「えへへー」

 無邪気に笑う本音さんに不適な感じの台詞を投げかけて見ますが、私は正直内心滝の汗を流していました。
 というより、背中がすっごい汗かいてます。
 正直私はこういったネーミングセンスは皆無です。
 それなのに、やたらとこだわった名前をつけようとしてしまうのです。主にゲーム系ではありますが。
 そして悩んだ挙句につけた名前に、やっぱり絶望してそのうちなれていくというのがいつもの流れなのですが、ここはリアルでおかしなあだ名をつけて呼ぼうものなら、自分にも相手にも悲惨な結果をもたらしてしまうものです。
 不感症と名づけられ呼ばれていた私はまだしも、こんな天使のような本音さんまで巻き込むのは非常に不本意です。
 しかし浮かびません。というか浮かぶ人っているんですかね?

 「え、えっとですね」
 「わくわく」
 「そ、その」
 「どきどき」
 
 あぁ、そんな期待のまなざしを向けられると胸が痛いっ。
 わざとやってるなら大したものでしょうけど、こんな無邪気な表情をわざと出来る人間を私は知りません。
 なので余計にいろいろ苦しいです。

 「そ、その……」
 「うん!」
 「わ、分かりました。来年になったら改めて発表させていただきますので今日のところはこの辺りで」
  
 苦し紛れに冗談を選択してしまいました。

 「分かったよぉ。それじゃあ来年までまってるね~」
 
 なんですと!?

 来年にまで先延ばしされていながら、突っ込みもなくそのまま受け入れて、だぼだぼのそでを旗のように振って去っていこうとしました。

 「うわぁぁぁぁごめんなさいごめんなさい! 嘘です来年とかまでなんて嘘ですぅううう!」

 あまりの罪悪感に恥も外聞もなく大声を上げて本音さんを捕まえてがくんがくんとゆすりました。
 身長は私のほうが高いので、思い切り揺られされて本音さんは目を回しているようでしたが、今の私にはそれほど気にすることが出来ませんでした。

 「ててててててしちゃんおちついてぇぇぇぇ」
 「あっ、ご、ごめんなさい。取り乱しました」
 「おぁぁぁ~だ、大丈夫だよ~」
 
 とふらふらしながら言ってくれました。うう、なんていい子なんでしょう。
 私の中の闇が洗い流されるようで非常に心苦しいです。邪な目でみていてごめんなさい。
 ちょっとだけ揺らした際にゆれていたおっぱいに見入っていたごめんなさい。

 「え、えっとですね……で、ではそのあだ名は……」
 「うんうん!」
 「の、のね、さん……は 直球過ぎますね」
 「てしちゃんと一緒でわたしはいいと思ったよぉ?」
 「いえ、ちょっと語呂が悪い気がします……の、のんさんってのはどうでしょうか?」
 「のんさん?」
 「はい。なんとなくこう、それっぽくないですか?」
 「よくわかんないけど、そんな気がするね~」
 「気に入っていただけましたか?」
 「うん~!」

 苦し紛れではありますが、無難で及第点なところを選ぶことが出来たようです。セーフですね。
 いえ、本音さんなら汚物系とかつけられない限り普通に喜びそうですよね?
 ということは、これってやっぱり無難ではない? あれ?
 しかしここまでやってからようやく気付くことがあります。

 「ところで、本音さんは……」
 「むー」
 「とと、のんさんは」
 「えへへー」

 ああもうかわいいですねこの小動物は。

 「こほん、のんさんは、どうして私に声を掛けたんですか?」

 むしろ最初に疑問に思うことだったと思う。
 恐らく私は最初妖しい表情全開だったはず。現に話しかけてきたのは1人だけでしたから。
 まぁ理由としては、ある種私と同等のイレギュラーがいたからということはあるでしょうけど。
 そのイレギュラーは今は教室にはいませんが、みんなその話題で持ちきりですし。

 「んーとね。なんだか凄く楽しそうだなーって思ったんだぁ」
 「楽しそう、でしたか?」
 「うん。こう、幸せだなぁって感じだったよ?」
 「ふむ。まったくもって間違ってませんが……だから声を掛けたと?」
 「うーん……楽しそうにしてる理由が知りたかったのと、なんだか仲良くしたいなぁって思ったの~」
 「ふむ……」

 ほにゃらかに言われるそれは、なんだかとってもむずがゆいものでした。
 生まれてこの方こんな風に言われたことは初めてです。
 忘れているだけでは有りませんが、不感症となってからは少なくとも他人がこうして近付いてきたことはありませんでしたからね。
 ある種感動を覚えます。泣いたりはしませんけど。

 「それは、なんだかありがとうございます」
 「いえいえ~」
  
 ほにゃりと笑うのんさんはやっぱり小動物のようで、もう何といいますか、かわいいです。
 椅子から立ち上がって、無意識に私はのんさんの頭に手を置いてゆっくりと撫でました。

 「えへへ~」
 「おおう……滑らか実感……何という撫で心地……」
 
 これは素晴らしい。すばらしいですよ!
 おっぱいもすばらしいですが、のんさんの頭のなでごこちは、しゃれになりません。
 あぁ、幸せです。私。
 ISが動かせないとかそういうことを悩んでいたのがバカらしく思えてくるほど幸せです。

 「何はともあれよろしくお願いしますね、のんさん」
 「うん~よろしくね~てしちゃん~」

 もう少しなでていたくもありましたが、都合悪く鳴り響いた予鈴で中断せざるを得ず、物足りなさを覚えながらものんさんと分かれました。
 不安だらけな学園生活だと思っていましたが、予想外の幸先の良いスタートに、胸の高ぶりを押さえることが少しの間はできそうにありませんでした。

 




[27287] インフィニット・ストラトス とべない少女(オリ主)2
Name: 過敏◆d0d26ae3 ID:ec57abb8
Date: 2011/04/24 10:26

 「決闘ですわ!!」

 声高らかに、クラス中にはっきりと聞こえるほどの音量をもって宣言したのは、クラスでも五指に入るほどの素敵なおっぱいの持ち主である、自称英国代表候補生、セシリア・オルコットさんです。
 ISは、兵器に転用すればそれこそ男を一週間持たずに滅ぼせると言わしめるほどのものなのですが、実際そんな使い方をされてはいけないということで、
わざわざ競技を用意してあるのです。
 代表候補生というのは、その競技、モンド・グロッソに国を背負って出場することの権利を持っている人のことを言うらしいです。きっと。
 無反応者ゆえに、積極的にISにかかわろうとしなかった私は、そのあたりのことはとてつもなく疎いです。
 そう。言ってみれば、私のISに対しての知識は、セシリアさんにびしりと指を指されて決闘を申し込まれた張本人にして世界で唯一ISを操縦することができる男性、織斑一夏と同じ程度といえるでしょう。

 先にも言ったとおり、ISは女性にしか操ることはできません。
 そのために、男性がISにかかわるには技術者になるしか道はないのですが、このあたりも女尊男卑が進んでいて、あまり男性技術者は多くありません。
 つまり、積極的に知識を取り入れようとする人はごく少数ということになり、織斑一夏も例に漏れず、知識を持っていませんでした。
 一応勉強する機会はあったようですが、その資料を電話帳と間違えて捨ててしまったそうです。ありえませんよね。
 
 そんな彼が、なぜセシリアさんに決闘を挑まれているといいますと、なんといいますか、プライドのぶつかり合いというのが妥当なところでしょうか?
 
 モチベーションを維持するためなのか、学園でもISでの競い合う機会があります。
 クラス対抗戦と、個人トーナメントです。
 クラス対抗戦は、それぞれのクラスから代表を選出して戦うというものらしく、出場できるのは一人だけ。
 だというのに代表に選ばれた一人はよほどの事情がない限り、一年間代表であり続けるのです。
 そこで白羽の矢といってもいいものか、まぁ矢がぷすりと立てられたのが、クラスで唯一の男性の一夏さん。
 織斑千冬先生の自薦他薦を問わないという言葉の後に、クラス中がいっせいに彼を推薦し始めたのです。
 どうでもいいことですが、千冬さんって教師もやってたんですね。そして一夏さんのおねーさんだったんですね。
 さてまぁしかし、それが面白くなかったセシリアさんは異議を申し立て……たところまではまだ穏やかだったのですが、そこからプライドが先行しすぎて相手だけでなくお国まで貶してしまったのです。
 それに腹を立てた一夏さんが、逆に英国のだめだしをして、ついには決闘という流れになったのです。
 個人的に徹頭徹尾どうでもよいことなのですが、こういうトラブルのおかげで個人的に非常に幸せな思いをしています。

 「あ、あの、あのあのあの……!?」

 教壇で一人、このトラブルをどうすればいいかと慌てているこのクラスの副担任、山田真耶先生。
 両手をあわあわと胸の前でわたわた動かすたびにゆれる二つのマスクメロン。
 山田先生自体もおっとりしていて非常にかわいらしいと思うのですが、目を引かれるのはやっぱりその豊満なおっぱいでしょう。
 彼女の雰囲気とあわせて最強兵器の一つといってもおそらく過言ではないでしょう。いえ、最強の一つです。
 隣に不適にたたずんでいる織斑先生よりも高い戦闘力は驚嘆に値します。
 そんなおっぱいが、揺れているんです。
 見ないでか。
 幸せを感じないでか。
 はい、私、天同院君子は今幸せです。

 「さて、話はまとまったな。では一週間後の月曜日、第三アリーナで行う。両名ともそれぞれ準備をしておくように」

 そう無理やり締めくくられて、授業が開始しました。
 山田先生はほっとした動きを全身で表現して、おっぱいを揺らしてくれました。なんというサービス精神。
 いいです。もっとや――

 「貴様はいつまでトリップしている気だ」
 「のはぁ!?」

 額にしゃれにならない衝撃を覚えて私の意識は一瞬でシャットアウトしました。
 最近意識を失うことが多いですけど、私の頭大丈夫なんですかね。

 などということを、目が覚めてお昼時になってから思いました。
 二時間程度落ちていたようです。誰か起こしてくださいよ。と思いましたが、のんさんが起こそうとしてくれた結果がそれだったようです。
 大ダメージだったんですね。



 ただでさえ知識が遅れている私ですが、教師の手をもってして気絶させられていたら勉強しようがありませんよね。
 まぁそのあたりはあきらめるとして、何はともあれ昼食です。

 「さて、食事です」
 「ごはんだー」

 今日のメニューは私はカツカレーで、のんさんは和食ベースのAセット。
 私の食事です宣言にあわせるように、腕を振り上げました。おっぱいがぽよんとゆれました。ぐっじょぶっ。

 「いただきます」
 「いただきまーす」

 どうでもよいことですが、私はカレーは最初に全部かき混ぜる派です。
 そうしたほうが無駄なく食べられる気がしているからです。ちょこちょこかけて食べるのとどっちがいいのかは知りません。やったことないですし。
 それにしても……

 「ん~おいしい~~」

 はぁぁぁぁ……何という天使でしょう。
 何かを口に運ぶたびにほにゃりと笑うその表情はもはや至高。もはや究極。
 のんさんを見ていれば、私ご飯はいくらでも食べられる気がします。あくまで気ですが。
 だぼだぼの袖で腕が飲まれたままだというのに、箸を器用に使って食べています。すごいです。
 これはもうあれです。のんさんはファンタジーなんでしょう。メルヘンなんです。
 癒されないわけがないんです。夢は壊さないんです。たまりません。

 「てしちゃん、ご飯食べないの~?」
 「おおう、いえいえ食べますよ食べますとも。ただちょっと幸せすぎて忘れてたんです」
 「ん~? よくわかんないけど、幸せはいいよねぇ」
 「まったくもってすばらしいです」
 
 癒し小動物系女の子+巨おっぱいの組み合わせはすばらしいです。
 
 「悪い、ここ相席いいか?」

 そんな時、不意に頭の上から声がかかりました。
 顔を上げると、黄色い声が飛び交う中、唯一の低音を奏でる男性、織斑一夏さんがそこにはいました。
 
 「…………」
 
 その後ろには仏頂面をした、篠ノ之箒さんがいました。
 名前を覚えている理由はいわずもがな、セシリアさん同様クラスで五指にはいるその素敵なおっぱいをお持ちだからです。
 きっと形もいいことでしょう。絶対領域に見える引き締まった足から想像するに相当鍛えているようですしね。

 「私はかまいませんが、のんさんは――」
 「うん! いいよー!」
 
 答えを聞くまでもなく、全力で満面の笑顔で席を空けていました。さすがです。
 私とのんさんで対面になるように座っていたので、彼らもそうなるように座るのですが、私の隣に一夏さんが座りました。
 個人的にはおっぱいな箒さんがよかったのですが、まぁ対面に座ればおっぱいおっぱいの構図になるので我慢しましょう。

 「ありがとう。えっと……」
 「君子です」
 「え?」
 「君子です」
 「えっと君子って名前でいいのか?」
 「だめですか?」
 「え、違うのか?」
 「てしちゃんはねぇ、てしちゃんなんだよぉ~」
 「え? て、てしちゃん?」
 「うん~」
 「え、えっと」

 うふふ、戸惑ってる戸惑ってる。
 私だけならまだしも、そこに援護射撃のようにのんさんが会話に参加してくれればもはやここは不思議メルヘン空間!
 弱点は、のんさんの顔を見ているとどうでもよくなることですかね。
 実際仕掛けた私がどうでもよくなってきました。

 「はい、天同院君子です。覚えても覚えなくてもどっちでもいいですよ、織斑一夏さん」
 「自分は俺の名前を覚えていて、覚えなくてもいいっていうのはどうなんだ?」
 「どうなんですかね?」
 「いや、聞き返されても……」
 「そっちのすてきっぱ……ではなく、篠ノ之箒さんもよろしくお願いします」
 「……すてきっぱ?」
 「お気になさらず」
 「……」

 愛想のよい一夏さんと比べて箒さんはずいぶんと無愛想のようです。というか機嫌悪くありませんかねこのスイカップさんは。
 そんな表情で食べてもご飯は美味しくないでしょうに、とは思うものの、わざわざ藪をつついて危険を犯す意味もありません。
 ここは無愛想の隣で幸せ絶頂の癒し系を見て和みましょう。

 「ふへ」
 「な、なんだかすごく緩んでるな」
 「え、緩まないんですか?」
 「君子の言ってることの意味が俺には分からないんだが……」
 「そうですか。というかさりげなく名前、呼び捨てですね」
 「だめか? 天同院よりは呼びやすくていいと思ったんだけど」
 
 なんという理由でしょう。
 それだけの理由で名前を呼ばれたのは初めてです。今日はたくさん初めてを奪われました。あ、いけない。

 「今日はたくさん初めてを奪われました」
 「ぶはっ!」

 わざわざ声にだしてそんなことを言ってみると、無言で我関せずを貫いて味噌汁をすすっていた箒さんが盛大にむせ返りました。
 すべては計算どおりです。

 「だ、大丈夫か箒?」
 「お、お前……い、きなり……何を言って!」
 「私、おかしなことを言いましたかね織斑一夏さん」
 「いや……というか、どれもおかしい気がしてならないんだけど」
 「えー」
 「その微妙な反応は不満なのか適当なのかどっちなんだ……?」
 「何もかもが私です」
 「わけが分からないぞ」
 「世の中分からないことだらけですよね」
 「そうだよねぇ~」
 「……っ……っ!」
 
 次の言葉をつむぐタイミングを完全に逸してしまったようで、なんともいえない表情で箒さんはうなっています。
 なかなか見られることのない類の表情でしょう。レアですね。
 しかしやっぱり、せっかく綺麗な顔立ちをしているのに、あの仏頂面はもったいないと思います。
 凛々しいといえばそうでしょうが、女の子はやはり笑顔ですよね。
 と思いながら、のんさんに視線を向けると、ちょうど顔を上げたのんさんと目が合いました。

 「どうしたの~?」
 「いえ、のんさんは可愛いです」
 「えへへ~ありがとうてしちゃん」
 
 はい、癒しいただきましたー。

 「二人は、結構付き合い長いのか?」
 「はい。今日の一時間目の休憩時間からの仲です」
 「すっごい短いな!?」
 「おかしいですね。お互いあだ名で呼び合うほどの仲ですのに。ねーのんさん」
 「ね~」
 「昔からの友人って感じしかしないけどなぁ……」
 
 正直に言えば、私も一日も経たないでこんなに仲良くというか、気を許せることになるとは思っても見ませんでした。
 一体何がこの状況を招いたのかといえば、ひとえにのんさんの人柄ですよね。
 無邪気で無防備でありのままで接してくれるそのあり方が、私にとって非常に心地がよかったのでしょう。
 のんさんもそのように思ってくれていればいいですが、まぁそれは求めるものでもないでしょう。

 「そういうお二人はどういった関係で? ただの友人程度ではすまない仲とお見受けしますが」
 「あぁ、俺と箒は――」
 「あ、ちょっと待ってください」
 「え?」
 「ここはあえて箒さんに言ってもらいましょう」
 「な、なぜ私にふる!?」
 「会話に参加したほうが楽しいと思います」
 「私はそんなことは……」
 「まぁ、そうだよなぁ」
 「一夏!?」
 「相方さんに了承を得たことですし、改めまして、お二人はどのような関係なのですか? 恋人ですか?」
 「ぶふぉ!?」
 「お~~~~!」
 「な、なななななななななぜそうなる!?」
 「なが多いですねぇ」
 「な、なぜそうなる!」
 「それではお答えしましょう」
 
 少々構える私にならって、三人ともが聞くことに構える。
 
 「①、篠ノ之さんがあまりにも熱烈な視線を送っていたから。②、篠ノ之さんがあまりにもうらみたらしい視線を送ってきたから。③、篠ノ之さんがあまりにもからかいがいがあるので言ってみただけさぁどれでしょう」
 「…………」

 どれにしたって非常に選びにくいものを用意してみました。
 我ながらよくやったと思います。
 
 「お、お前は……私をからかっているのか……?」
 「つまり?」
 「三番ということなのかと聞いている!」
 「正解――」
 「――――っ!!!」
 「は、四番の、休み時間になった瞬間に二人ですぐにどこかへいってしまったから、でした」
 「~~~~~~~~!!!」
  
 いい反応です。すごくいい反応です。
 箒さんの端整な顔立ちが怒りにゆがんでいます。
 こういう美味しい反応をしてくださる方をからかうのは非常に楽しいです。が、やりすぎると殴られたりする可能性もあるのでほどほどにしないといけません。
 
 「というわけで、ネタは割れましたが、先ほどの反応からしてお二人は恋人というわけではないのですか?」
 「あ、いや……その……だな……」

 先ほどの怒りが嘘のようにもじもじとし始める箒さん。
 箸でさば味噌をつきつきしてばらばらにしてきます。さば味噌ばらばら事件ですね………………面白くないですねこれ。
 
 「こ、こここい……と、ぃぅ、のも……やぶさかでは……ないのだが……その…………」
 「ふむ?」

 重要なところが声が小さすぎて聞こえませんね。いいたいことはなんとなく分かるので別に問題はないのですが、進展しなさそうですね。

 「というわけで、一夏さん。答えをお願いします」
 「え? いや、でも箒が……」
 「だから、な……? その……わ、私だって……そう、思っているのだ……で、でも……」
 「という状態の箒さんでは答えが出るまでにお昼が終わってしまいそうですので」
 「……なんでこんなことになってるんだ?」
 「さぁ? のんさん分かりますか?」
 「てしちゃんマジックだね~」
 「というわけです」
 「分かった……いや、わかんないけどわかった、えっと、俺と箒は幼馴染なんだよ」
 「そうでしたか」
 「なんか、ずいぶん淡白な反応だな。別にいいんだけど」
 
 ぶっちゃけ予想通りといえばそうでしたからね。
 あれなゲームではよくある展開ですし。
 しかしなるほど。そうなると箒さんのこの状態にも多少説明がつきますね。

 「何年来の幼馴染なんですか?」
 「えっと、小学四年のころからだから、一応十年来ってことになるのか?」
 「一応?」
 「あぁ、箒が引っ越していったから、一応」
 
 ほう?
 これは、よくありがちといえばそうですが、なかなか面白い展開なのではないでしょうか?
 見る限り箒さんは一夏さんに好意を抱いています。それもその小学四年生のころから。
 そして六年ぶりに再会を果たしたのですが、その想いは未だに伝えることができていない、と。
 あれなゲームでは確かにありがちですが、まさかリアルでそんな状況に遭遇できるだなんて、レアではないでしょうか。
 何なんでしょう。不安いっぱいだと思っていたIS学園の生活もそんなに悪いものじゃない気がどんどん強まってきました。
 誰がどういった経緯で私を入学させようと思ったのかは知りませんが、ありがとうございます。

 「感動の再開というわけですか。素敵ですね」
 「そういうものかな?」
 「そういうものじゃないですか? それとも、箒さんと再会できて嬉しくなかったんですか?」

 そういった瞬間、箒さんがあからさまに反応を示しました。が一夏さんはそれに気づくことなく――

 「嬉しいに決まってるだろ」

 と、満面の笑顔で言い放ちました。
 チラリと箒さんへと視線を向けてみると、案の定顔を真っ赤にしていました。
 恥ずかしいのか嬉しいのか、ぷるぷると小刻みに震えています。
 ちなみに、のんさんは、一夏さんの台詞と同時に、目を思い切り輝かせています。
 二人ともナイス反応です。
 しかし――

 「……ふむ」
 「ん?」

 一夏さんの顔をじっと見てみます。
 打算も何もない心の底から紡がれた言葉であったのでしょう。そしてそういうことが当たり前に言える人なのでしょう。
 唯一の男IS操縦者がどんな人かと思っていましたが、ふーむ、どうやらなかなか面白い人物かもしれませんね。

 「どうかしたのか?」
 「いえ。それより少々話し込みすぎましたね」
 「うお、残り三十分か。俺は余裕だけど、みんなは大丈夫か?」
 「私を誰だと思っているんですか」
 「いや、よくわからないんだけど……」
 「言ってみたかっただけです」
 「そ、そうか……」
 「まぁ、だめなときはだめであきらめて食べ続けます」
 「食べ続けるのかよ!?」
 「もったいないですし」
 「そうだけどさ……はぁ、まぁいいや、食べよう」
 「そうですね」

 結局、食べ終わったのは全員時間ぎりぎりだったのは、言わずもがなでしょう。


 
 あれよあれよという間に放課後です。

 普通の学校なら、初日ともなれば半日程度で終わるものでしょうが、ここはIS学園。
 世界中からエリートが集まる、エリート学校。
 ともなれば、スケジュールは結構なものらしく、初日から頭に詰め込まなければいけませんでした。
 昔は神童のくんちゃんと呼ばれたこともあった私ですが、無意味なことに使う力はありません。
 あ、ちなみにくんちゃんは嘘です。神童では? と言われたことはありますが、まぁ本当に遠い過去のことですね。
 というわけで、話半分に空でも眺めながらの授業は割かし早く終わり、私は寮の自室へと戻ってベッドへと体を預けました。

 「ふぅ」

 ようやく一息、というほど緊張していたわけではないのですが、やはり久々の学園生活は疲れますね。
 不感症と呼ばれてから数年間、私は登校することを禁止されました。
 これ以上変なうわさを広めさせないための処置としては、一番なのでしょうが、個人的にもありがたい処置でした。
 悪意ある目を向けられて、悪意ある言葉をぶつけられるのは、こんな私でもなかなかに堪えるものでした。
 夢が崩れて消えたことが最大の原因だったようですが、三日ほど寝込みましたし。
 いやぁ、それからは大変でしたねぇ。
 徐々に家族からも私への態度が変わっていき、いてもいなくても同じになって、ご飯は自分で作らないといけないわ、外へは出させてもらえないわ、
家の中の人にさえできるだけ会わないようにしなければいけなかったりと、徹底的でした。
 何で私がこんな目にあわなければいけないのか、と考えました。一日ほど。
 一日経ってから、私はすぐに両親に進言しました。
 とりあえず最低限の支援だけはしてくれと。

 今までの厳しかった跡取りへの道は閉ざされ、代わりにやってきたのは誰の束縛も受けない自由で自堕落な生活。
 だからこそ、やりたいようにやらなければ損ではないかと、思い至り通販やらネットブラウジングをやりまくりました。
 あれなゲームも片っ端からやりました。泣きから抜きまでです。
 最初は同情して少しは手を加えようとしていた人たちも、私のあまりにの堕ちっぷりに次々に去っていきました。余裕の計算どおりでした。
 予定では、一切部屋から出ないでぼへーと生活するところまで堕ちるつもりでしたが、残念ながらというべきか、幸いというべきかそこまではいきませんでした。

 ここで私のスイートハニーの妹の登場です。
 
 私一つ下の妹、天同院 帝。帝と書いて『てい』と読みます。ほんと、うちの両親のネーミングセンスは狂ってると思います。
 そのセンスを受け継いでしまった私がいうのもあれですが。
 まぁそんな帝は、何を間違ったのかお姉ちゃん子でありまして、すごく私になついてくれていました。
 こんなになってしまった私にさえいつもどおり接して、姉扱いしてくれて、そのおかげで私は最低限のプライドだけは捨てずにすみました。
 ちなみに妹は、おっぱいがすごいです。私よりも小さいですが、女性としては平均的な身長で、中学生にして反則的なスタイルです。
 髪型は私と同じうねうねウェーブなのですが、帝はポニーにしています。似合ってますとても。
 表情はきりっとしてとっても凛々しくて、でも私の前だとほにゃほにゃで、あぁ思い出しただけでほっぺをむにむにしたくなります。

 「帝は心配していますかね」

 もしかしたら今頃両親に詰め寄っているかもしれません。グループの力を全力で行使してるかもしれません。
 あぁ、考えるとなんて愛おしい妹なのでしょう。帝ラブです。癒し系最強です。
 でも帝は、私の代わりに天同院グループを継ぐことになっているので、あまり私にかかわるのはよろしくないと思うんですよね。世間体的に。
 なんてことを何度もいったんですけど、一度として聞いたことはありません。
 あれ、もしかしてあんまり姉としての威厳がない? などと悩んだこともありましたが、あの柔らかほっぺの誘惑には勝てませんでした。
 ですので、この強制入学はいい機会だったのかもしれませんね。お互いにとって。
 
 「そういえば……」

 ふと、ここで出会った癒し系を思い出しました。
 布仏本音こと、のんさん。
 どことなくお姉ちゃんモードになった帝に似ているような、でももっと突き抜けているような、癒し系で不思議系なあの娘。
 見ているだけでもすごく癒されるというのに、頭をなでると更なる癒しをかもし出してくれるという素敵な……

 「友人……といっていいんでしょうかねぇ」

 のんさんはそう思ってくれてる……かどうかは少々怪しくもありますが、私なんかがそう言ってもいいものか。
 実際のんさんにも友達がいるようですし、私を友などとしなくても問題ないようにも思います。
 といいますか、考えてみればあんまり近づかないほうがいいんじゃないですかね。もしばれたときのことを考えますと。
 私の友達でいるということにメリットはありません。
 お金も最低限しかありませんし、そもそもからして不感症ですし。
 となると、明日からは多少距離をとったほうがいいですね。あんな癒し系をこっちに引き込んでは世界の損失です。
 おっぱいと癒しは非常に惜しいですが、やむなしです。

 「なぁに、この天同院君子、人の嫌がることを実践することにかけては右に出るものはいないといえましょう」
 「そうなの~?」
 「はい。昔はいたずらマスターくんちゃんなんて、よばれ……」
 「いたずらマスターってすっごいんだね~!」

 はて、おかしい。おかしいですよ。
 ここは私の部屋です。扉を開ける鍵を持っているのは私と寮長の織斑千冬さんだけのはずです。
 そして私は部屋の鍵をかけました。個人の空間です。別におかしくはないでしょう。
 では、なぜ、なぜここに、最強の癒し小動物系の布仏本音さんがいるのでしょうか?
 
 「えっと、のんさん」
 「なぁに?」
 「いたずらマスターは嘘なんです」
 「そうなの?」
 「はい。本当は、ただの君子です」
 「てしちゃんだもんね~」
 「はい。ところでのんさん」
 「なぁに?」

 小首を傾げました。

 「可愛いですね」
 「えへへ~」
 
 あぁ癒される……。 

 「じゃなくてですね」
 「ん~?」

 今度はさっきとは逆方向に首を傾げます。な、なんという……しかし今度は惑わされません。

 「どうしてここに?」
 「だって、わたしもここの部屋なんだよ~てしちゃんが同室なんだね~やった~!」
 
 そういって、両手をばっとあげて、だぼだぼの袖を旗のようにふりふりします。
 可愛いです。
 可愛いですが……

 「なんですとぉ……?」

 私は一体、どうしたらいいのでしょうか。



[27287] インフィニット・ストラトス とべない少女(オリ主)3
Name: 過敏◆d0d26ae3 ID:ec57abb8
Date: 2011/04/24 11:14

  偉い人がいいました。あきらめは肝心だと。

 「シリアスってなんなんですかねぇ」
 「まじめなこと~?」

 そう、まじめなことです。まじめな流れだったはずです。
 しかしふたを開けてみれば、そんなこともなくなっていました。おかしいです。
 私は普段はあれですけど、シリアスな展開には定評があるんです。妹の帝相手だけに。
 ごめんなさい。ぶっちゃけシリアス苦手です。だって面倒なんですもん。

 「というわけで、のんさん」
 「お風呂だね~」
 「はぁはぁ」
 「てしちゃん緊張してるの?」
 「はい。いろいろな意味で緊張しています。ですが大丈夫です。私は洗われることにも慣れていますが、洗うことにはもっと慣れていますから」
 「じゃあ、洗いっこだね~」
 「はぁはぁ」
 
 最初に調べたとおり、ここの浴槽は大変広いです。二人程度では狭いと感じられないくらい広いです。
 というわけで、のんさんへの付き合い方をどうするべきかということを一切合財放棄して欲望に忠実に生きることを選びました。
 つまり、友情を深めるためにお風呂に一緒に入ることを提案したのです。
 私と付き合うことには何のメリットもありません。むしろデメリットの塊であるといえます。
 なので、付き合う機会が校舎内だけとなれば、私だってこんな風にはしていないです。
 ですが、寮の部屋が同じになってしまうという、半ば家族のような状況では、突き放すようなことをすれば気まずすぎて死ねます。
 お互いのために立ち回ろうとしているのに、お互いが苦しんでしまうようなことになっては本末転倒です。
 後々に響くかもしれませんが、それはそれで、私がなんとかすればいいわけですしね。
 そう結論付ければあとはもう幸せ街道まっしぐらですよ。こんちきしょう。

 「んん~~」
 「ちょ、のんさんむちゃしないでください、転びますよ?」
 「ぬげない~」
 「私が引っ張りますから、無駄な抵抗はやめて大人しくしてください」
 「なんだか犯罪者な気分だねぇ」
 
 ぶっちゃけ私がそうならないか心配ですが、ここは心を一般人にしてのんさんの服を引っ張って脱がせます。

 「おっとっと~」
 「…………おおう」

 えらい果実が飛び出しました。
 まだブラは着用されてますが、それでもその圧倒的な質量を抑え隠し切るには至らず、ぽよんぽよんと私の目の前に現れたのです。
 桃源郷ですかここは。あ、いけない鼻血がでそうです。

 「てしちゃんは脱がないの~?」
 「あぁ、すみません。また幸せに浸ってました」
 「てしちゃんは幸せいっぱいだね~」

 満面の笑顔でそういわれました。

 「ごふっ」
 「わ~~~~~~!?」

 鼻血が出ました。
 我慢できませんでした。てへ。

 「だだだ、大丈夫~!?」
 「大丈夫です。私は至って冷静で正常です」
 「鼻血どばどば流しながら言ってもぜんぜん説得力ないよ~!」
 
 まったくもって的確な突っ込みです。

 「すみません。ちょっと興奮しちゃいました」
 「お風呂大好きなんだね~」
 「はい。特に可愛い女の子と入るのはとっても好きです」
 「えへへ~」

 うーん、可愛いというたびにこう、てれてれとした反応はとてもいいですね。
 これでふんぞり返ろうものなら、余裕でぶっとばせる自信はあるのですが、そんな殺伐としたことにならずに癒しをいただけてもう本当に萌え~ってやつです。

 「私もすぐにいきますので、のんさんは先にお楽しみください」
 「は~い」

 元気の良い返事とともに、扉を開けて中に入ってくのんさんの背中を見送って、私も制服を脱ぎます。
 とりあえず見る限りでは鼻血は付着していない様子。
 制服は白がベースなので、付着したら多分取れないんでしょうね。
 血って結構特殊な液体ですし。
 何はともあれ、すぽんすぽんと色気のカケラもない脱ぎ方で、ぱぱっと脱いで、いざ楽園へ、です。

 「う~~~……」

 扉を開けると、シャワーに打たれているのんさんの姿が飛び込んできました。
 シャワーに向かっていた為に、おっぱいが丸見えということにならなかったのは残念ですが、それ以上におかしな様子に私は思考を軽く停止させていました。
 
 「しゃんぷー……はっと……」

 なんと、のんさんはその成熟したボディとは裏腹に、頭にシャンプーハットを装着していたのです。
 シャンプーハットに阻まれたシャワーのお湯が跳ね返り辺りに飛び散っています。
 
 「のんさんは……水の中で目を開けられないんですか?」
 「水は大丈夫なんだけど、その先を考えるとなんかやなの~~」
 
 なんということでしょうか。
 世の中にはこういったギャップもあったんですね。いえ、ある意味予想通りといえましょうか。
 
 「何はともあれちょうどいいですから、そのまま髪を洗ってしまいましょう」
 「う~~~」
 「大丈夫です。私に任せていただければ何も怖いことはありません。なので泡が入らないようにしっかりと目を瞑っていてくださいね」
 「うん~」

 いつも私が使っている、お風呂用の腰掛に座らせ、私は置いておいたシャンプーを手に数回プッシュして泡立てます。
 前からだと結構分かりづらいかもですが、のんさんはかなり長い髪をお持ちです。
 少々癖があるようで、下に行けば行くほと外に跳ねていますが、今はお湯で垂れ下がっています。
 それがなんだか動物の尻尾をあらわしているようで可愛らしくありますが、いつまでも見ているわけにも行かないですから、ぱぱっと洗ってしまいましょう。

 「ん~」

 まずは外側から馴染ませるように泡を絡ませ指を通らせます。
 一応肌にも優しい部類のシャンプーですが、いきなり頭皮にぶつけてしまうのはよろしくありません。
 シャンプーを徐々に泡立てられるようにしてから、優しく優しく頭皮に向かっていくのです。

 「んふ~」

 髪の先端から、内側に向かい、頭に差し掛かり、ゆっくり揉み解すように洗うと、のんさんが気持ちのよさそうな声を上げます。
 あぁいい声です。ほうらもっともっと声を上げるがいいです。

 「んふふ~」

 口をあけると泡が入るかもしれないので、笑い声と共に息を抜くような音で、悦びを表現しているのんさんの声はたまりません。
 基本的にはやりませんが、他人に奉仕することで得られる効した悦びは結構癖になってしまいます。
 
 「かゆいところはございませんか?」
 「ん~ん~」
 「では、このまま」

 わしゃわしゃと決して爪は立てず、指の腹でもみこむように洗っていきます。
 ちなみにこれは頭を洗うときの基本です。
 頭皮は結構デリケートなので、かゆいからといって爪なんかでかいてしまおうものなら、すぐに痛んでしまいます。
 
 「流しますよー」
 「んい~」

 返事のようなそうでないような言葉を受けて、蛇口をひねってお湯を出します。
 さすがというかなんというか、設備は相当よいものらしく、タイムラグなんて一瞬でお湯が勢いよくでてきます。
 ここで気をつけなければいけないのが、温度と洗い残しです。
 熱すぎるお湯はやっぱり頭皮をいためてしまいますし、洗い残しは痒みのもとです。ついでにやっぱりやっぱり痛めます。
 洗うことも重要ですが、その後しっかり流すことで完璧な状態となるのです。

 「はい、おしまいです」
 「んぶぶぶぶ~」
 「………………」

 それがいつもの行動なのか、のんさんはシャワーが止まると同時に、頭を思い切り振りました。それこそ獣よろしく。
 結果的に、ぬれた髪は振り回されて、お湯を撒き散らし髪を鞭のようにしならせて私の体にぺちんぺちんとあたります。
 勢いをつけようとしているわけではないので、痛くはないですし特にいやというわけではないのですが、目を閉じなければいけないのが問題です。
 だってその姿をみれないんですもん。
 
 「ぷは~すっごい気持ちよかったよ~」
 「それはよかったです。でもまだトリートメントが残ってますし、その後は体を洗いますからね?」
 「は~い」



 それからいろいろとエロエロなことにでもしようと思ったんです。
 思ったんですが……相手が悪すぎました。
 のんさんは天然癒し小動物系です。間違ってもエロエロなキャラではありません。
 それゆえに、くすぐったい以上のことが私にはできなかったのです。なんというへたれ。なんという自称エロキャラなのでしょう。

 「ず~ん」
 「ど、どうしたのてしちゃん?」

 そんな私のへこみっぷりにさすがののんさんも動揺を隠せないようです。
 
 「ふ、ふふうふふふふ……」
 「ん~……ねーねーてしちゃん」
 「はい、なんでしょうか……?」
 「何かあったの?」
 「……何か、とは、何なんでしょう?」
 「ん~とね。なんだかちょっと違うな~って」
 
 ……ちょっと違う、とはどういうことなんでしょうか?
 そりゃあ確かにこの部屋にのんさんが入っていたあたりからびっくりすることのオンパレードで動揺していたりしますが、それ以外は普段と変わらないはずです。
 そもそも、のんさんとの顔合わせは今日が初日なんです。違うも何も、違わないところを比較することさえできないはずなんです。
 
 「じ~」
 「えっと」
 「じ~~」
 「のんさん?」
 「ん~~~」

 私の顔をじっと見て、なにやらうなっています。
 分かりません。私にはのんさんがまったく理解できません。
 
 「わかんないや」
 「おおう……」
 
 そしてまさかの回答でした。

 「わからない……んですか?」
 「うん。なんだかちょっとだけ違う感じがするな~って思っててしちゃんの目を見て見たんだけど、よくわかんなかったや」
 
 てへへと頭をかくのんさんは非常に可愛らしいのですが、なんだか脱力した気分です。
 というか脱力しました。
 ぼすりと帰ってきたとき同様に体をベッドに預けました。
 う~ん……私個人としてはどうでもいい、なんて思っている私のバッドステータスでしたが、思いのほか気になるものでもあるようですね。
 家にいるときはこんなことなんて一切気にすることなんてなかったんですが、やはり完全に他人ということが大きいのでしょうか?
 
 「どうしたの~?」
 
 天井を見続けていた私の視界に、ぬっと現れて覗き込んでくるのんさんと目がばっちり合いました。
 アップになってはっきり分かるのは、やっぱり可愛らしい顔立ちということ。
 そして何より目を惹かれるのは、垂れ下がった目じりとその綺麗な瞳でしょうか。
 今日出会ってからほとんど笑顔で緩々だったというのに、今見られるのはなんだか神秘的とでもいえる光を宿した瞳。
 
 あぁそうか、と少しだけ思い至ります。
 私とのんさんは正反対なんですね、と。
 だからこそ私たちは惹かれあってあんなにも相性がいいのかもしれません。
 ……おっぱいに見とれたことも否定はしませんけどね。
 あぁこの要素がなければ非常に綺麗なんですけどねぇ。今回ばかりは自分のこのおっぱいすき~を恨みましょう。
 
 「てしちゃん?」
 「そうですよね」
 「?」
 「シリアスとかいまさらですしね。だったらとりあえずはやりたいようにやるのが楽しみの秘訣ですよね」
 「よくわかんないけど、楽しいのは大切だよね~」
 「ですよね。えぇ、まずはこの学園生活をできるだけ私なりに楽しめるようにやるとしましょう」
 「なんだかすごそうだね~」
 「のんさんも巻き込まれる前提ですからね」
 「お~」
 「できるだけネガティブにならないように気をつけますよ」
 「その辺はぜんぜん不安に思ってないよ~」
 「ほう? もしかしたら結構危ない橋かもしれませんよ?」
 「てしちゃんなら何とかしてくれるって信じてるよ~」

 ものすごい無邪気な笑顔でそういわれてしまいました。
 ううむ、冗談でもないことではありましたが、こういわれてはやらざるを得ませんね。
 それに、きっと突き放す以外の選択肢だってあるはずです。
 そんな道を探しながら、楽しんでいきましょう。そうでなければ損ですし。

 「てしちゃんてしちゃん」
 「はい?」
 「ご飯にいこうよ!」
 「む、そういえばまだ食べてませんでしたね」

 少しばかり混乱していろいろと順序を間違えてしまいました。
 のんさんの言葉に、私のお腹の虫もそろそろ暴れだしそうなのを意識しました。
 腹が減っては何とやら。人間性欲は抑えられても食欲は抑えられるものではありませんしね。
 というわけで、二人して食堂へと出発しました。


 

 「あら」
 「おや」
 「お~」

 食堂に行ってみると、私たちと同じように食事目的にきたセシリア・オルコットさんと遭遇しました。
 こちらは名前を覚えていますが、どうもセシリアさんは覚えていないらしく、でも顔はクラスで見たなという記憶はあるみたいです。
 そこを微妙に悪く思っているのか、ぎこちない笑顔を浮かべて早々に食券売り場へと行こうとセシリアさんはきびすを返しました。
 
 「やぁやぁセシリアさん」

 なので呼び止めました。
 瞬間、セシリアさんの体が軽く跳ね上がりました。感度良好です。

 「ご、御機嫌よう、その……」
 「セシリアさんもここにいらしているということは、食事なんですよね? でしたらご一緒しませんか? 同じクラスメートですし」
 「え、とその、私は……」
 「見たところお一人のようですしね。やはり食事はたくさんの人と共に語らいながら食べることが最高の調味料の一つだと思うんですよ。
ね、のんさん」
 「みんな一緒だと楽しいもんね~」
 「ね~。というわけでどうでしょう」
 「平淡な表情でよくもまぁ、満面の笑顔の彼女に相槌がうてますわね……」
 「なぁに世の中そういう人もいますよ。たぶん」
 「投げやりなんですね!」
 「これから一年間同じクラスでやっていくのですから、親睦を深めましょう、そうしましょう」
 「ご~ご~!」
 「え、あの、ちょ、ちょっと、わ、わたくしは、その!」
 
 あれよあれよという間に、抵抗もさせないままにセシリアさんを二人で脇に抱えて引きずっていきます。
 しかしのんさんもすごいですね。まさに阿吽の呼吸です。
 これはあれですか。やはり裸の付き合いをした仲だからでしょうか。
 


 「…………」
 「どうしました? ぶすーっとして」
 「それをわざわざ聞きますの……?」
 「そんな顔をしては食事がまずくなりますよ。のんさんを見習ってください」
 「おいひぃ~」
 「ね?」
 「ぐ……た、たしかに、美味しそうに見えますが……見えますけど……!」

 結局セシリアさんは、振りほどくこともできずに私たちに連れられ、一緒に食事を取ることになりました。
 ちなみに私はロースカツカレーです。のんさんはカルボナーラで、セシリアさんは巻き込んでチーズ入りカレーにしてやりました。いぇい。
 カレーは結構カロリー高いので、女性は夜に食べたがらないんですよね。
 おそらくそれも含めてセシリアさんはぷるぷる震えているのでしょうが。
 とりあえずまずはカレーを混ぜないといけませんよね。

 「……あなた、カレーをそんな風に混ぜるだなんてはしたなくなくて?」
 「これも一つの食べ方じゃないですか。万遍なくルーをつけられて結構いいと思うんですけど」
 「カレーといったらもっと優雅に食べるものでしょう? そもそも、こうしてルーとライスが一緒になってしまっているだけでも嘆かわしいですのに」
 「それはあまりにも偏った意見ではないでしょうか? そもそもカレーとは一般庶民にまで浸透している身近な料理です。別に宮廷で食べているわけではないのですから、
食べ方は人それぞれ美味しく食べられるようにするべきなのでは? といいますか文句があるならどうして選んだんですか」
 「あなたが勝手に選んでもってきたのではないですか!」
 「あっはっは」
 「笑ってごまかそうとしないでください!」
 「いえ、別にごまかそうとは思ってませんよ」
 「ではどうして笑ったんですか!?」
 「ごまかせたらいいなぁ、という思いをこめて」
 「あなたという人はーーーーーー!」
 
 うーん、いい反応です。
 一夏さんと言い争いになったときから感じていましたが、この人の煽り耐性は皆無といえましょう。
 少しでも引っかかることがあれば、今のようにムキになって全力で反応を示してくれるのでしょう、立ち上がって思い切り叫んでいます。
 しかも反応が激しいものですから決して小さくないおっぱいがぷるぷると……。
 周りの視線に気づいて小さくなってしまいました。残念です。
 おっと、残念がっている場合ではないです。そろそろ第二段階に行かなければ。
 スイッチオンと。

 「ところでですね」
 「ぜぇ……ぜぇ……な、なんですの!」
 「セシリアさんはエリートなんですよね?」
 「……え、えぇそうですわよ! 私、セシリア・オルコットは英国の代表候補生でありながらこのIS学園でもトップクラスの成績を誇り、唯一試験官を打ち倒した、
エリート中のエリートですわ!」
 「ほほう。ではそんなエリートのセシリアさんに質問です」
 「何なりとお聞きになっていいですわよ」
 「ではお聞きします。私と、こちらの彼女のお名前のフルネーム、覚えておいでですよね? でしたらお願いします」
 「……へ?」
 「先ほどからセシリアさんには『あなた』としか呼ばれていなくて、とても寂しい思いをしていたんです」
 「な、ななな」
 
 ふ、ふふ。織斑一夏さんとの戦いに、いえ、一夏さんに気をとられすぎてほかに意識が行っていたことなど、周りを満遍なく視線を向けていた私にはすべてわかっています。
 およよと古風な悲しがりかたをすると、セシリアさんは面白いように動揺しています。
 ふむ……ちょろいですね!

 「のんさん、やっぱり名前で呼んでほしいですよね」
 「うん~……名前のほうが仲良くなったって思えるもんね」
 「あうっ!」
 「それともエリートとなってしまうと私たちのような人はみな下々のものとして人として認識してもらえないのでしょうか?」
 「い、いえ、そのようなことは……」
 「では、覚えてくれていますよね。何せセシリアさんはエリートなんですから」
 「うぐ……っ」

 何度も何度もエリートということで、彼女のプライドをひたすら攻撃し続けます。
 そのたびに何だか面白い反応をするんですよね、セシリアさんは。

 「え、と……そ、の……」
 「まぁでも、エリートのセシリアさんですから、名前の一部を聞いていただければ思い出してくれるかもですね、のんさん」
 「でもてしちゃんってだけじゃぜった――」
 「のんさんお菓子いりますか?」
 「食べる~!」
 「どうぞ」
 「わ~い」
 
 のんさんの口を封じてから、何事もなかったかのようにセシリアさんに向き直ります。
 セシリアさんは、私たちの会話からヒントを得ようとしていたようですが、のんさんが言いかけたとおり、私の名前など絶対に分からないといえましょう。
 のんさんだって実際分かる人がいるのなら見てみたいですし。

 「てし……てし…………て……」
 「て?」
 「て……勅使河原さん……?」
 
 そのときのセシリアさんの一世一代ともいえる決心をこめた表情はできれば永久保存したいほど、真剣で可愛らしかったです。

 「えっと、あの……?」

 私が無言でいるのが不安になったのでしょう。
 先ほどまでの凛々しいお顔はどこへやら、あわあわとし始めました。
 そんなセシリアさんをよそに、私はごそごそとスカートのポケットの中から手のひらサイズの機械を取り出しました。

 「これが何だか分かりますか?」
 「さ、さぁ……」
 
 首を傾げるセシリアさんに、これが何なのか伝えるために、会話を始める前にやったようにスイッチを押しました。

 『て……勅使河原さん……?』
 「――――っ!?!??!?!?!?」
 
 カチ。きゅるきゅる。カチ。

 『て……勅使河原さん……?』
 「な、ななななななななななななななな……!?」
 『て……勅使河原さん……?』
 「ろ、ろ、ろ、録音機ですのー!?」
 「はい。ばっちり録音させていただきました。英国の代表候補生でありながら、主席のエリート生徒のセシリアさんが、クラスメートの名前を盛大に間違える瞬間を」
 「あ……ぁ、ぁ……ぁ……」
 「どうかしましたか?」
 「あ、あな……たは……そ、そ、それで、どうするつもりなんですの……?」
 「いえ、どうもしませんが?」
 「へ?」

 本当に、ころころと表情が変わる人ですね。のんさんとは違ったタイプで可愛らしいです。

 「で、ではなぜ録音なんて!?」
 「そのほうが面白そうだったからに決まってるじゃないですか」
 「キーーーーーーー!」
 「まぁ落ち着いてください。感情豊かなのはセシリアさんのいいところかもしれませんが、可愛らしい顔が台無しになってますよ」
 「な、ぁ!?」

 ほう?
 可愛らしいという言葉に反応したんですかね。先ほどまでは怒りにゆがんで赤かった顔が、それ以上に赤くなって椅子の背もたれに思い切り体を逃げるように預けました。
 なるほど、セシリアさんはあれですね。
 初心ってやつですね。

 「あ、あ、あなた、突然何を……」
 「自覚ないんですか? セシリアさんめちゃくちゃ可愛らしいですよ?」
 「な、ななな……そ、そんな、私がそんな、い、いえ、そ、そうかもしれませんけど、可愛らしいというのはそちらのお菓子をほおばっている方にこそふさわしいと思いますわ!」
 「それは間違いありません。それが分かるセシリアさんの目は節穴ではないようです。が、のんさんとは方向性の違った可愛らしさをお持ちです」
 「そ、そんな……ことは、あるような……ないような……」

 自身があるのかないのかいまいち分かりませんけど、うつむいて、人差し指同士をつんつんしているしぐさは非常に、えぇ、非常にぐっじょぶです。
 
 「その……そう、おっしゃる……あなただって……き、き、綺麗……だと思いますわ……よ?」
 「天同院君子です」
 「は、へ?」
  
 セシリアさんの口からおかしな生物的な声が生まれましたが気にしないで……

 「天同院君子。私の名前です。ちなみにてしは、最初と最後の文字から来ています。ほら、のんさんもおかしはいったん中止して」
 「んぐ。えっと、わたしは布仏本音だよ~。のん、っていうのは、語呂的にそうなんだって~」
 「と、言うわけです。あ、これお菓子のおかわりです」
 「てしちゃんの太っ腹~」
 「わ、私のお腹は決して太いわけでは、あぁもう聞こえてない」
 「あ、あの……?」
 「ごほん。というわけで、今度こそ覚えていただけますよね?」
 「は、はい。覚えてなくて申し訳ございません……」
 「いえいえ。個人的にはいろいろ美味しくいただけましたので、気にしていません」
 「くっ……」
 「それに、これくらいインパクトがあれば、もう忘れられませんよね?」
 「そ、そうですわね……」

 これで忘れてしまうのなら、今日以上のインパクトをたたきつけることにしましょう。

 「さて、これ以上はご飯が冷めてしまいますからぱぱっと食べましょうか」
 「そ、そうでした……!」

 気づいたときにはときすでに遅く、とは言うものの、私は実はちょこちょこ口にしていたのでもう半分もないのですが、セシリアさんの皿の上にはまだ七割程度のカレーが残っていました。
 しかもチーズ入りなので溶けていたチーズが固まって食べにくくなっていることは間違いないでしょう。
 私トラップ、完了です。


 

 「ところでもう一つ質問があるのですが」
 「な、なんですか?」

 先ほどのことがあって、質問という言葉に若干警戒を覚えているのでしょう。引き気味に聞き返してきました。

 「そう構えないでください。今度は普通の質問です」
 「そうあることを願いますわ……」
 「今度の決闘のことです」

 それを聴いた瞬間、先ほどまでのおびえた表情は一変。不適なものへと変わりました。
 これだけで、セシリアさんがどれだけISに対して自身をもっているのかが伺えます。

 「私に負ける要素なんて一つもありませんわ」
 「そうですね。データを見るまでもなく、経験値が違いすぎますからね。普通に考えればセシリアさんの勝ちは間違いないでしょう」
 「普通以外でも勝ちは揺るぎませんわ」
 「だとしたのなら、少々大人げなかったですね」
 「え?」
 「織斑一夏は、男性で唯一ISに乗ることのできる存在ではありますが、それが発覚したのは今から一週間ほど前です。ということは、ISを操縦したことはそのときの一回だけでしょう」
 「ぁ……」
 「分かっていただけたようですね。そんな相手に、少々腹が立ったからといって自分の得意分野で勝負を挑んでしまうのは大人気ない行為といえます」
 「で、ですが!」
 「まぁしかし、その条件を呑んだ時点で、意味はなくなるのですがね。そういう意味では潔く男性らしい決断といえますか」
 「あな……いえ、君子さんは、織斑一夏さんに肩入れするんですの?」
 
 テーブルを乗り出して、顔をずずいと近づけて、怒っているということを隠すこともない表情を向けてきます。
 からかっていたときとは違って、怒気が先ほどとは桁違いです。威圧感を思い切り感じます。
 
 「そんなに近づくと唇を奪ってしまいますが」
 「――――っ!?」

 飛びのく勢いでまた背もたれに背中を激突させました。冗談ですのに。二割がた。
 
 「冗談はさておき、聞きたかったことはそこです。どうしてそこまで一夏さんを目の敵にするんですか?」
 「……そ、それは」
 「確かに、現在の風潮である女尊男卑の世の中で、でしゃばってくる男性は目ざわりかもしれません。それに、HR中にあなたが言っていたとおり、
一年間ノリと勢いで決めた人をクラス代表とするには、あなたからしてみれば屈辱的なことというのも頷けます」
 「そ、そうですわ! 男性などという脆弱な生き物がISを操縦できるというだけでも腹立たしいといいますのに、それがクラス代表だなどと、そんなの認められませんわ!」
 「ふむ」

 そういうことですか。
 セシリアさんに一体何があったのかは知りませんし、聞く気もありませんが、彼女は言葉にしたとおり、男性は脆弱な存在だと思っているわけですね。
 典型的な女尊男卑の姿勢でしたか。
 分からなくもないですが、今のままでは敵をただただ作ってしまいそうですね。

 「ふむ……」
 「ど、どうしたんですの!?」
 「いえ。そのご尊顔を焼き付けておこうかと」
 「ご、そん、がん……?」
 「お気になさらず」
 
 あんまりにも日本語が流暢過ぎて忘れがちですが、彼女は英国少女なんですよね。
 でもあれだけ敬語が使えるのですからこれくらいは分かるんじゃないかと思いましたが、まぁいいでしょう。

 「え、えっと……」

 私がどうにかすることも、もしかしたら可能ではあるかもしれませんが、きっとそれはベストな選択ではないのでしょう。
 やはり、認識を改めるには織斑一夏さんがセシリアさんに勝たなければ意味はありません。
 どんな形でもいい。卑怯な方法でなければ。
 とはいうものの、私にはISの知識なんてなければ、どうすればいいかなんてこれっぽっちも分かりません。
 さて、これを面白おかしく楽しみながら解決する方法はないものでしょうかねぇ。

 「あの、君子、さん?」
 「あ、はい。なんでしょう……か?」

 ドキっとしました。
 胸がときめきました。
 なぜならばなぜならば、セシリアさんが、上目遣いで不安そうにこちらの様子を伺っているんです。
 例えるならそう、捨てられた子犬のような目……。ありきたりですが、その表現がぴったりきます。

 「あ、あの……私、何か気に障ることを……?」
 「い、いえいえいえ。そんなことはありません。少々考え込んでました。すみません」
 「い、いえ、それなら、かまいません」
 「は、はぁ」
 
 何でしょう。今度はもじもじしてます。しかもちらちらと上目遣いをしたり視線をそらしたりを繰り返して。
 めちゃんこ可愛いですよこのわんこ!?
 あ、頭なでても大丈夫なんですかね?
 視線のそれた一瞬の隙にそろりと頭に手を乗せてみます。

 「っ!?」

 お、おお……動きませんよこのわんこ。これは、なでなでタイムですね!
 セシリアさんの綺麗なプラチナブロンドの髪を優しくなでてみます。

 「ふぁ……ぁ……」

 うあ~……私のうねうねと違ってさらっさらな金の髪の感触、やばいですね。気持ちがいいです。
 のんさんとはやっぱり違うのですが、これはこれでいいものです。
 どうしてこんなことになったのかまったくもって分かりませんけど、この状況を放棄するのは愚か者の所業でしょう。
 なので私はセシリアさんが嫌がるまでやることにしました。

 「ぁ、ぁ……ふ、や……ぁ」
 「えっと、大丈夫ですからねー私はあのくらいで何とか思ったりはしませんからねー」

 完全に子供とかそういうものにやるような態度なのですが、セシリアさんは一向に嫌がる気配はありません。むしろ享受しています。
 ならばやるだけやってしまいましょう!



 結果的に嫌がることはありませんでした!
 あまりにも従順で大人しくなっているために、嬉しい反面ちょっとどうなのかなと思い始めてしまった軟弱な私はついにて手を離してしまったのです。
 
 「あの、セシリアさん……いまさらこんなことを聞くのもあれなんですけど……どうして大人しく?」
 「ふぇ……? ………………あ、い、いえそ、そそそその!?」
 
 どうやら自分でもわかってやっていたわけではないようですが……私の体とか手とかから、女性を魅了するような何かが出てたりはしませんよね?

 「あのそのえっと……な……」
 「な?」
 「名前で呼んだのがダメだったのかな、と思いまして」
 「…………あぁ」

 そりゃああんなふうにやってしまった後に、自然と名前を呼ぶことなんてできませんよね。
 呼んだら呼んだで先ほどのようにからかわれてしまうかもしれませんから。
 
 「でもそれと黙ってなでられてたのって関係ないですよね?」
 「あ、ぅ……」

 またもや赤面して思い切り俯いてしまいました。
 あーもう、萌え萌えですね。

 「あ、あのあのあのあの……わ、私も、よくわからないのですけど……い、いやという感じがしなくて、そのしかもなでられたら……気持ちがよくて……」
 「わかるよ~てしちゃんの頭なでなですっごく気持ちいいんだよね~」
 「そうなんですか?」
 「うん~思わずそのまま何時間もなでてもらいたくなっちゃうくらいにね~」

 そんなことを言われたことはあんまりないですね。マイスイートハニーの帝ですら、ほにゃりとしますが長時間はしてないですし。
 まぁ、気持ちが悪いって言われるよりは断然ましですけどね。

 「まぁ、そういうことなら仕方がないですね。気持ちいいのに逆らう理由もありませんし」
 「う、ううう……」

 でもだからといって恥ずかしいことには違いありませんよね。なんといっても彼女はプライドの塊ですし。

 「今後とも、気兼ねなく名前で呼んでください」
 「い、いいんですの?」
 「はい」
 「あ、あの……そ、それでは……君子さ――」
 『て……勅使河原さん……?』
 「いやーーーーーーーーーーーーーー!」
 「あ」

 私としたことがやりすぎましたか。いやはや。あのタイミングでやれば誰だって逃げ出したくなるものかもしれません。
 まさに脱兎のごとく、セシリアさんは食堂を後にしました。
 仕方がありませんから、セシリアさんが残した食器は私が責任を持って片付けましょう。

 「セシ逃げちゃったね~」
 「そうですね。って、セシ?」
 「うん、セシ~」
 「セシリアさんのあだ名ですか?」
 「そうだよ~」
 「私に似てますね」
 「ダメ~?」
 「だ、だ、ダメじゃないですよ」

 こちらもこちらで、上目遣い攻撃。
 私はあっさり撃沈です。
 
 「うわ~い、ありがとうてしちゃん~」
 
 その上抱きつきで追い討ちまでしてきました。私の理性はもはやゼロにさしかかろうとしています。この凶悪な柔らか物質のせいで。

 
 何とか理性を保ちながら、食器を片付け食堂を後に、それからいろいろやってようやくベッドに入りました。

 なんだか一日目から非常に濃い内容を繰り広げた気がします。
 が、不思議と不安になる回数は少なかったです。
 理由は間違いなくのんさんにあると思います。

 楽しくやっていくと決めるきっかけもくれましたしね。
 さて、それでは目下楽しくするために、決闘をどういう風に面白くするかですね。
 考えただけで面白くなってきました。明日からが楽しみです。

 では、おやすみなさい。






[27287] インフィニット・ストラトス とべない少女(オリ主)4
Name: 過敏◆d0d26ae3 ID:ec57abb8
Date: 2011/05/05 14:00


 おはようございます。こんにちは、こんばんは。
 天同院君子です。
 突然ですが、私は今、全裸です。
 私の程よい肉付きで女の子らしい柔らかでエロエロなボディが余すことなく白日の下に晒されています。
 
 「ふむ……」
 「わー……」

 そんな私を四つの瞳が反れることなくまっすぐに見つめてきています。
 一人は私の体を観察するように、一人は珍しいものでも見るように。
 基本アブノーマルな私ですが、一応それなりの羞恥心とかは持ち合わせています。持ち合わせているんです。
 なので、こんな風に凝視されるとさすがの私も恥ずかしいという感情を抱きます。

 「あ、心拍数があがりましたね」

 たとえそれが検査に必要なことだとしてもです。というか、検査だからってそこまでいちいち口に出す必要はないのでしょうか。この天然おっぱい副担任め。

 「ふむ、基本的には普通の人間と同じような数値……か。異常があるわけでもない……」
 
 そしてクールな担任は全力で出力されるデータと私を見比べています。
 まぁそれが仕事なのでしょうから、その態度には不満はありませんが、なんとなく悔しい気がします。
 はっ……もしや私はPCに嫉妬しているのでしょうか。なんということでしょう。これが恋……!

 「ありえませんね」
 「黙っていろ」

 即一蹴されました。
 なんだか理不尽に思えますが、罵倒されて喜ぶ趣味はないので仕方なく口を閉じます。

 「それにしても、うわさは本当だったんですね」

 ほう、とため息をつき私に視線を向けながらおっぱい副担任こと山田真耶先生がぽつりとそんなことをつぶやきました。
 うわさ、と言って私を見ている以上、間違いなくISの反応しない人間のことをさしているのでしょう。
 本当に興味深そうに私を見ています。
 まぁ、慣れた視線の一つですが、なんでしょう。少しだけ今までとは違うような気がしなくもないです。
 天然おっぱいさんだからでしょうか?
 
 「本当に、反応すらしないとは思っても見ませんでした」
 「未だに原因不明。そして解決策はないと来ている。まったく厄介極まりない」
 
 さすがにそれは酷くないですかね織斑千冬先生。
 まぁ、確かに政府がらみの案件が二つも手元にあれば愚痴りたくもなるかもしれません。
 それでなくてもそのうちの一つが一人で血の繋がった家族なのですからね。
 何かあったらと気が気ではないのでしょう。
 そんな状態だというのに私のデータを収集しなくてはいけないというのですから大変ですね教師って。
 「ISの動かせる男の子に、ISを動かせない女の子……これって何か意味があるんでしょうかね……?」
 「さて、私にも分かりかねますがね。山田先生。分かっていると思いますが、このことは」
 「はい。さすがにわたしだってまだ首は飛ばされたくないですから」

 織斑一夏さんは公にでき、何も恥じることなく生きられるのに対して、私のことは口外されてしまったら私自身の人生もアウトですからね。
 おお、そう考えてみると結構リスキーな生活なんですね。
 毎日がドキドキです。

 「でも、こんな簡単な検査でいいんですかね? ISの機動実験と指定されたソフトでのデータ収集だけですし」
 「先方がそれで言いといっているんです。我々が気にすることではないでしょう」
 「うーん……それもそうですね、と収集完了です」
 「よし、ご苦労だったな天同院。もういいぞ」
 「ふぅ」

 どっこいしょと、体を起こして検査台からおりて、ちょっと体をほぐす為に肩を回します。
 寝転がっていたとはいえ、しゃべらないでじっとしているのは結構疲れるものです。
 おっと、ついでなのでここもむにむにしておきましょう。お約束は忘れてはいけないのです。

 「むにむに」
 「なななな、何をしているんですか天同院さん!?」
 「おっぱいが凝ったので揉み解しています。やりませんか?」

 普通サイズな私のCカップおっぱいが、私自らの手でぐいぐに自在に形を変えていきます。
 ここで気をつけなければいけないのは、あまり力を入れてはいけないことです。
 おっぱいも結構デリケートなもので、力を入れ過ぎればすぐに痛みを覚えます。
 よく強くすれば快感を覚えるー等という情報があったりしますが、割とフィクションです。
 中には痛いのが気持ちいという人もいるでしょうが、少数派と断言しましょう。
 基本的には先端部でしか快感は得られないといいますしね。むにむに。

 「え、そ、その、それは、えっと……」
 「うろたえたということは山田先生も゛!?」

 言い切る前に私の体に雷が駆け抜けました。
 
 「お……おぉぉぉ……」
 「まったく……」
 
 正確には、織斑先生の拳による打撃だったのですが、衝撃が頭頂部からつま先に掛けて突き抜けました。
 意識を一発で持っていかれそうなものなのですが、その辺りは心得ているのか痛みに苦しむ絶妙なラインでの攻撃です。
 視界がちかちかして体がぐわんぐわん揺れます。

 「貴様には節操という言葉はないのか」
 「ISの起動方法とともに忘れてきたのかもしれませんんん……」
 「……とっとと着替えて来い。授業までもうそれほど時間はないぞ」
 「了解しました……うぉぉぉ……」

 朝早くにたたき起こされた挙句にそのまま授業とか、全くやる気はありませんが、エスケープしようものなら再び織斑先生からしゃれにならない一撃を受けなければいけない可能性がありますからね。
 回避できるのならしてやりたいものですが、気配を断って近付き一瞬で相手に一撃を加えるなどという常識はずれの攻撃なんてよけられるだけのスキルはありません。
 私の体育の成績は五段階評価でいうなら二とかです。
 いやまぁやる気がなくてだらだらやっていただけということもありますが、それを除いても体を動かすことは苦手です。
 できることなら一日中PCをいじっていたいくらいのインドア派なのです。
 さてまぁ、いつまでも裸でいるのもあれですから、ちゃちゃっと着替えてしまいましょう。


 「……何といいますか、ずいぶんとたくましいといいますか……」
 「まぁ、いつからあんな性格なのかは知りませんが、あれくらい図太くなければ耐えられるものでもないでしょう」
 「……そう、ですよね。天同院さんを見てると、そんな気はしなくなっちゃいますけど」
 「あれで、あの性癖でなければ評価できるものではあるんですがね」
 「あ、あはは……」
 「ともあれ、気をつけなければいけないことには変わりは無いので、面倒ですが注意しましょう」
 「ですね。頑張ります」




 時間はそれからとびに飛んで、放課後です。
 基本的に何をしているでもない私は、放課後はひまひまです。
 いつもなら自室に引きこもって情報収集という名のネットブラウジングを楽しむのですが、今日は少しアウトドアな気分でいきましょう。

 「というわけで、第三アリーナです」
 「突然何を言ってるんですの……?」
 「気にしないで下さい」
 「はぁ……」

 そうして力のない返事をしたのは、英国エリートおっぱいのセシリア・オルコットさんです。
 先日のやり取りで親睦を深めまくった私たちは、すでにこうして二人きりで会うような仲になっているのです。

 「といいますか、何をしにきたんですの……く、君子、さん」
 「空気を読んでくださいよセシリアさん」
 「はい!?」
 「まったくもう。いくら温厚な私だからって怒るときは怒るんですからね」
 「は、はい。申し訳……ってどうして私が謝らなければいけないんですの!」
 「悪いことをしたら謝るのは世界の常識ではないんですか?」
 「それはそうですが、私が謝らなければいけない理由がわかりませんわ!」
 「私の心をもてあそびました」
 「えぇ!?」
 「セシリアさんは気付いていないかもしれませんが、私は深く深く傷ついたのです。それはもう、雨の日にできるグラウンドに出来る水溜りくらいに」
 「…………もてあそんでいるのは君子さんだと思うのですが」
 「てへ」
 「無表情で言っても何も誤魔化せていませんよ!」
 「あっはっは」
 「無表情で笑わないで下さいまし!」
 「ああいえばこういいますねぇ」
 「誰のせいですの!」
 「無論、私です」
 「あなたのせ、って潔く認めた!?」
 「というわけでごめんなさい」
 「は、はぁ……もうなんだか……ああもう。訓練しますから、離れていてください」
 「疲れてますね」
 「誰のせいだと思ってるんですの!」
 「無論、私です」
 「はぁ……はぁ……」
 「セシリアさんはおもし、もとい、反応が良くて可愛らしいですねぇ」
 「はぁ……はぁ……も、もう何だっていいですわ……」

 力なくそういうと、グラウンド中央に向かってとぼとぼと歩いていきました。
 ついていこうかとも思いましたが、一歩目を踏み出そうとした瞬間になんともいえない目を向けられてしまったのであきらめました。
 まぁそれはそうとして、現在セシリアさんの服装は私にとってすさまじいまでに目の保養になります。
 うわさのIS専用のスーツのようなのですが、これがまたぴっちりとしていて、ボディラインをくっきりと浮かび上がらせてくれるのです。
 そのために、セシリアさんのおっぱいがスーツを押し上げており、今にも飛び出してしまわんばかりで目が離せません。
 背中を向けられてしまえばその素敵なおっぱいを見ることはかないませんが、なんのその。
 今度は素敵に無敵な形のよいお尻が視界に飛び込んでくるではありませんか。
 普段はスカートに隠れてしまっていますが、やはりといいますかいい形です。なでまわした――おっと。
 そうこうしているうちに、セシリアさんは光を体から発したかと思うと、その身を無骨なアーマーで包んでいました。
 青を基調としたセシリアさんらしいといえばいいでしょうか。スタイリッシュなデザインのインフィニット・ストラトス。名称はまだ知りません。
 
 「そちらに向けるつもりはありませんが、見学するのでしたら終わるまで近づかないでくださいね」
 「それはもちろん。私は痛いのは嫌いですから」
 「そういうレベルではないとは思いますが……まぁいいですわ」

 それほど大きな声を出していないというのにセシリアさんにはきちんと声が届いていたようですね。
 これがISに搭載されているハイパーセンサーとやらの性能の一端なのでしょうか。悪口もうかつにいえませんね。
 何はともあれ、セシリアさんの腕がどうであれ生身で近づくのは間違いなく自殺行為。
 今すぐ死にたい願望なんて持ち合わせていませんので、おとなしく入り口付近に移動します。
 私が離れるのを確認したのか、セシリアさんはISを浮かび上がらせ一気にアリーナの中腹くらいまで飛び上がりました。
 そういえばISをこんなに近くで見るのってもしかしたら初めてですかね。
 テレビの向こう側でしたらちょくちょく見かけたりもしたんですが。

 「飛ぶんですよねぇ……」

 気がつけばそんなことをつぶやいていました。
 ううむ、未練なんてとっくの昔に捨ててたと思いましたが、いざ目の前にするとやっぱりそうとは言い切れないのかもしれません。
 どうにも胸の辺りがもやもやっとしてちょいと気持ち悪いですね。うげろー。

 「おお」

 しかし、そんな気分を一瞬で吹き飛ばしてくれるような、青白い光が私の視界を横切りました。
 セシリアさんのISから放たれたレーザーなのでしょう。中空に出現したターゲットのど真ん中を寸分たがわずに撃ちぬきました。お見事ですね。
 ですが、当然それだけでは終わりません。
 レーザーが発射可能になった次の瞬間にすぐさま二つ目の的を狙い、三つ四つと次から次へと射抜いていきます。
 距離が距離だけにセシリアさんの表情を見ることはできませんが、ど真ん中をそらすことなく的確に狙い続けられるこの技量は、なるほどエリートと自称するだけのことはあるかもしれません。
 徐々に集中力が増しているのか、ターゲットが展開を開始するかというタイミングでレーザーが通り抜けていきます。
 淡々と現れては撃つという動作の繰り返し。
 見ている分にはもしかしたらつまらないもので、単純で簡単そうに見えるのかもしれません。
 ですが、できるだけ早く。可能な限り必殺で。
 それを意識しての射撃を続けることがいったいどれだけの集中力と体力を必要とするのでしょうか。
 それでなくてもライフルを自分の思ったところに着弾させることは難しいです。たとえそれがISの補助があったからといっても容易ではないでしょう。
 エネルギー兵器であるレーザーだって、熱や湿度、重力等の影響は受けます。
 それらを考慮し、計算し、ようやく目標へと届かせることができる兵器です。ロボットアニメなどでは簡単にやってのけますが、現実はそんなことはないのです。
 いったいどれほどの修練を積んだんでしょうね、セシリアさんは。
 
 ただただ的を射抜き続けるセシリアさんを、私は時間を忘れてずっと見続けていました。


 「ふぅ……」
 
 それから実に一時間後。
 満足したのか、訓練を終えたセシリアさんが降下してきました。

 「お疲れ様です」
 「あら、ずっと見ていたんですの?」
 「はい。思わず見惚れてしまいました冗談抜きに」
 「そ、そうですか」
 
 非常に珍しく私がちゃかさない言葉を使うものだからセシリアさんは戸惑ってしまったようです。頬を染めてごまかすように視線をそらして髪の毛をいじいじしてます。
 ううん、こういうところもセシリアさんの魅力のひとつですよね。
 この子は割かしといいますか、搦め手のないストレートな子です。
 感情的な部分で未熟ともいえましょうが、まだ15歳の少女なんですから当然のことですよね。むしろだからこそ魅力に満ち溢れているというのでしょうか。
 青い果実ってやつですね。これからがいろいろな意味で楽しみな。
 おっといけない。

 「そうでした」
 「?」
 「差し入れです」
 「え?」
 「差し入れです」
 
 そういって差し出したのはスポーツドリンクです。途中ちょっとだけ抜けて購入しておいたのです。
 
 「え、と……ど、どういうつもりですの?」
 「他意はないんですが」
 「え、しかし……君子さんが、そんな」
 「いいものを見せてもらったお礼です。大丈夫です媚薬とか入ってません」
 「そこは毒なのでは!?」
 「殺しちゃったら楽しめないじゃないですか」
 「いったい何を楽しむつもりなのですの!?」
 「無論、あなたのその体を、あ」
 「媚薬入ってるんですねーーーーー!?」
 「あっはっは。本当なら入れたいのですが、よく見てください。まだふたは開けられてません」
 「……ほ、本当ですわね」
 「ですので、今回は純粋に、です」
 「あ、ありがとうございます」

 戸惑いながらもお礼を口にして、セシリアさんはISを待機モードへと移行させると、ドリンクをおずおずと受け取ってくれました。
 
 「それにしてもすごいですね、ISも、セシリアさんも」
 「ど、どうしたんですの?」
 「警戒心MAXですね」
 「あなたと会話して警戒しない人がいるのなら見てみたいものですわ……」
 「のんさんとか」
 「…………そ、それでどういうことなんですの?」
 「まぁいいでしょう。いやぁ、難なく飛び上がり、一度も的を外すことなく、一時間以上続けるなんて、並大抵のことじゃないと思いまして」
 「い、いつもやってることですし」
 
 なんと、いつも、ときましたか。
 確かにいつもやっているのなら習慣となって体は慣れてくれているかもしれませんが、やっぱり並のことじゃないですね。
 人間どうしても楽になる方向に転がっていってしまうものです。
 誰だって辛くなるようなことを率先してしたいなんて思うものではないのですから。
 楽というのは、結構無意識に体を誘惑してきます。そしてそれは驚くほどに甘美なものです。
 それを振り切って、毎日やり続けることができるなんて尊敬の念さえ抱けます。恥ずかしいので口にはしませんけどね。てへ。

 「それはそうとセシリアさん」
 「はい?」
 「よろしかったら、もう一度ISを起動して見せてくれないでしょうか」
 「ええ、かまいませんけど」
 「ありがとうございます」

 では、とドリンクを預かって、数歩下がると、セシリアさんはひとつ深呼吸をして、再び光に包まれISを装着しました。

 「おおー」
 「それほど珍しいものではないと思いますが……」
 「ほぼ毎日ISを装着しているセシリアさんはそうかもしれませんが、一般性とである私にとっては結構珍しいものなんですよ」
 「そういうものですか」
 「そういうものなんです。あ、このISに名称とかあるんですか?」
 「えぇ、ブルー・ティアーズ、といいます」
 「なかなか洒落た名前ですね」
 
 そういえば兵器って結構こういう名称多いですよね。理由はよくわかりませんけど、悪くないと思います。

 「ちょ、ちょっと触ってみてもいいですか?」
 「かまいませんわよ」

 一瞬断られるかと思いましたが、二つ返事でOKしてくれました。
 これは、あれですかね。信頼度が上昇しているってことでいいんですかね?
 長らく人付き合いを放棄していた私ですが、社交性とか友人作成スキルが結構高いんですかね。
 このままいけば友達百人も夢じゃない気がします。面倒なのでいりませんけど。
 
 まぁそんなことよりなによりも、せっかく許可をいただいたんですから、ちょっと触ってみましょう。
 何気に起動しているISに触れるのは初めてなのです。
 だからちょっとらしくなく心臓がばくばくいったりしてます。
 
 「ふぅ……」

 手を伸ばす前に、軽く深呼吸。
 等の昔に諦めていた私の夢。
 まぁ、私が動かせるわけではないですから、結局は叶うことはないままの夢ですが、それでも憧れはやっぱり捨て切れていないようで。
 クリスマスの次の日の朝、枕もとのプレゼントに手を伸ばすときに覚えた高揚感を抱きながら、そっとブルー・ティアーズに手を伸ばし、そっと触れました。

 「――――ぁ――」

 その時でした。
 冷たくも温かい鋼の感触が手に伝わったと思った瞬間、私の視界はわけのわからないものに埋め尽くされました。
 埋め尽くすというのもおかしなことかもしれません。
 ただただ何かよくわからないものが視界の中を高速で流れていくのです。
 そしてそのわけのわからないものは、流れていった矢先に私の頭の中に入り込んで、何かを刻んでいきます。
 ですが、私にはそれを理解することができません。
 でも、それはとまりません。
 何かに私の頭の中が直接弄繰り回される嫌悪感と、しかし同時に感じるのはありえない恍惚感。
 
 「ぅぁ――ぁ――」

 ビクンと体が震えた気がしますが、そのときには嫌な感じはもうありませんでした。
 体を満たしたのはただの悦びで、浮かび上がった恐怖などもすべて飲み込まれていきました。

 「君子さん?」

 セシリアさんの声が聞こえた気がします。が、私はそれに反応することはできませんでした。
 なぜならば、もうそのときには、私は意識を保っておくことが困難だったからです。

 「――――」

 受身なんて当然取ることもできず、私の体は崩れ落ちました。
 が、意識を失いかけていた私は痛みを感じることもなく、そのままゆっくりと暗闇に意識を放り投げました。

 「な、あ――く、君子さん!?」

 遠くから、セシリアさんの必死な声が、聞こえたような気がしました。




[27287] インフィニット・ストラトス とべない少女(オリ主)5
Name: 過敏◆d0d26ae3 ID:ec57abb8
Date: 2011/05/07 15:54
 

 夢を、見ていた気がします。
 遠いようで、近いような忘れることのできない夢を。

 「天同院家の面汚しめ」
 
 ごめんなさいといわせていただきましょう。

 「どれだけ知識があろうとも能力があろうとも、才能の欠けらもなければ無用です」

 落ちこぼれですみません。

 「どうして、こんなのが生まれてしまったんだろうな」

 ……。
 じゃあどうしろっていうんでしょうか。
 私だって好きでISを反応させられないわけではないんです。
 私だって空を飛びたかったんです。
 私だって雲に飛び込んでみたかったんです。
 
 生んだのは貴方たちで、育てたのもあなたたちですよ。
 それが一つ欠点が見つかった瞬間に失敗作だ、見たいな扱いをされてしまうなんていくらなんでも無責任じゃないんですか?
 
 「……」

 ……あぁ、やっぱりもう私は見ていないんですね。声も届かないんですね。
 貴方たちが見るのは一つの欠点もない完璧な我が妹だけ。
 言葉を交わすのは、麗しい旋律のように紡がれる美しい我が妹だけ。
 
 もう、私はただの貴方たちにとってはただの汚点なんですね。

 なら、仕方がないですよね。
 私のために使ったお金がムダだというのでしたら、ご愁傷様です。
 私のために割いた時間が無駄だというのでしたら、ざまぁみろです。
 ああなんて可愛そうな私でしょう。
 ああなんて不幸な私でしょう。
 
 こんな私なんて生きている価値はあるのでしょうか?
 そうだ。生きている価値を見出せない世界なんて、いらない。なくていい。
 もしそうならば、ぶちこわしてしまえばいい――

 
 「なわけありませんよ」

 



 瞬間、世界が白く開けました。

 「まったく……気持ちよく寝ていたいところを、人様の過去を捏造した夢を見せ付けるなんてあまりにも無粋じゃないですかね」
 
 先ほどまでは真っ暗で何もなかった空間が、今は白い箱を幾重にも重ねたような世界が目の前には広がっていました。
 そんな空間で、私はどこに向かうでもなく、言葉を投げかけました。

 「あれぇ、おっかしいなぁ。君の経歴を見ていればこんなだと思ったんだけどなぁ」
 
 すると、いつぞやに聞いた、あるいは出会い方と聞き方さえ正常であったなら聞きほれてしまいそうなほど高く甘い声が響き渡りました。
 そう、正常であるのなら、その声に嫌悪を表す人はなかなかいないのではないかと思います。
 ですが私は、最初にぶつけられた感情は退屈、面倒というもので、そうして言葉では死んでほしいとまで言われたのです。
 行動ではなにやらおかしな電流を流される始末でした。普通というものからかけ離れた感性を持っている私ですが、あいにく好きにはなれそうにない人物――

 「残念ながら、そんな環境であっても私は別に両親を恨むようなこともありませんし、妹に嫉妬するようなこともないのですよ。うさぎっぱいさん」
 
 ため息をつくように言葉を吐き出しました。
 つまり、呆れていました。まぁ、私の経歴を知っているのでしたら恨み妬みは抱いていてもおかしくはないでしょう。
 事実、ちょっとは恨みましたよ。自分自身を。妬みましたよ。愛を注がれる妹の立ち位置に。
 でも意外と長続きってしないものなんですよ。
 恨みは割り切ったときに霧散して、妬みは両親からの愛に代わって、妹とメイドからもらったことによって充実をいただきました。
 なので私は先ほど『私』がいっていたように世界をぶち壊してしまえば、などというくだりには至っていません。

 「うさぎっぱい、っていうのがよくわからないけど、ふぅん……君は今の生活に満足してるんだ?」
 「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」
 「面倒くさいなぁ。そうなら答えは短く『はい』ってうなづけって言わなかったかな?」
 「申し訳ありませんが、私自身まだ明確に答えを出せていないものでして」

 今の生活が楽しいかどうか、などといわれたところで、ぶっちゃけ始まったばかりのことです。
 楽しくなりそうな空気ではありますが、どうなるかなんてわかりません。
 しかし、家に引きこもっていたときよりは充実してきているといえましょう。
 が、満足していると聞かれれば、頷くことができないのもまた事実。
 人間のよくはえてして深いものだということを思い知らせてくれますね。

 「まぁ、満足できるほど面白くはないですが、だったら面白くしたい、とは思っていますよ」
 「へぇ。ずいぶん前向きなんだね」

 以前の邂逅時には聞いたことも聞けるような雰囲気でもなかった、うさぎっぱいさんのくすりとした笑い声が聞こえたような気がしました。
 
 「おかげさまで。ところでひとつ質問いいでしょうか?」
 「ものによっては答えてあげるよ。ちょっと機嫌がいいからね」
 「ありがとうございます。すさまじくナチュラルに会話してますけど、ここって私の夢ですよね?」
 「違うよ」
 「なんですと?」
 
 実にあっけらかんと、うさぎっぱいさんは答えました。
 最初のあの根暗で趣味の悪い映像のときから、間違いなく私の夢だと思っていたんですが……。

 「じゃあここはどこなんでしょうか?」
 「質問ってひとつだったよね?」

 …………機嫌がいい、とはいってもやっぱりうさぎっぱいはうさぎっぱいのようです。
 何なんでしょうねあの人は。こうして会話できているということは一応認識はしてくれているようですが、姿は一向に見せてくれません。
 なので今は確認することはできないですが、間違いなく向けられているのでしょう。

 あの人を人とも思っていないような、冷めた瞳を。

 それを見たからこそ、私の態度も非常にぞんざいなものだったのですが、あの人はそれに面倒くささを感じていますが、それ以上はないように思えます。
 変な人ですよね。

 「まぁいいよ。ここは私の構築した仮想空間のテストフィールドだよ。どう、すごいでしょ?」
 「仮想空間……ってあの……」
 「そうだよ。いったとおりテスト段階だからできることってああして映像を流したり、こうして会話したり、何かを触ったりする感触を得られたりするくらいかな」
 「…………」

 この人、あっけらかんと言ってのけてますが、それがどれだけすごいということを理解しているんですかね?
 もし本当に仮想空間なんてものが出来上がり、そこに入り込むことができるようになったのなら電脳世界の革命ですよ。

 「ただね。この空間に入ることのできる人間っていうのはまだ限られてるんだよねぇ」
 「なんですかその、選ばれた人間~みたいな言い方は」
 「まさにそのとおりだよ。といっても、別に私に選ばれたからとか、コンピューターに選ばれたとかそういうことじゃないよ。ただ、能力が必要なんだよ」
 「……私には別に、手のひらからぶわーっと出したり、体が光ったりとかそういう能力はありませんけど」
 「漫画とかアニメの見すぎじゃないか君」
 「遊び心は忘れたらだめだと思うんです」
 「おっと、悪くない言葉が飛び出してきたじゃないか。まさにそのとおりだよ。世の中を面白おかしく発展させていくにはまさに遊び心が必要なんだよねぇ」
 「で、能力というのは?」
 「人の気分を悪くするのが得意だねぇ君って」
 「愉快な気分にさせることも得意ですけどね」
 「不愉快の間違いでしょ」
 「まさしくそのとおりだといいましょう」
 
 そうして、また少しの間が空きました。
 なんといいますか、この人とは相性がいいのか悪いのか微妙なところですね。
 まぁだからといって、仲良くできるとは到底思えませんが。
 それっぽくしているのは向こうが今日は何かしらの意図があって少しとっつきやすく話しているだけだからでしょう。
 
 「まぁいいや。君さ、子供のころから計算とか演算とか得意だよね?」
 「えぇまぁ。それなりに、ですが」
 「それなりに?」
 「えぇ、それなりにです」
 「嘘だね」

 一蹴されました。
 そのときのうさぎっぱいの声は、今までに聞いたこともないくらい、とてもとても楽しそうなものでした。

 「そう、嘘だ。この空間に入るために必要なのは、類まれなる演算能力。普通の人じゃあ見ただけでも発狂しちゃうかもしれないくらいの計算式を理解して、
解析して、答えを導き出すことをごく自然にできるほどの力が必要なんだよ」
 「……なんですかそれ。もし本当にそれが必要でそんなことを常時しているというんでしたら、こうして会話なんてできるはずないじゃないですか」
 「そう、そこが私にとっては驚きなんだよね。天才の私には別段難しいことじゃないんだけど、私以外にもこんな風にできる人間がいるなんて思わなかったよ」
 「あなたが天才かどうかはこのさい置いておいて、もしその計算式を処理仕切れなかった場合どうなるんですか?」
 「さぁねぇ。他人で実験したのは君が始めてだし。でもまぁ、よくて廃人。最悪目とか耳とかから血を噴出して死んじゃうんじゃないかな」

 からからと笑いながらそう答えてくれました。
 本当に人のことを人としてみてくれてないんですね。死んだらどう責任とってくれたんでしょうねこの人。
 まぁ闇に葬られて終わりそうですが。
 死人に口はありませんからね。残念ながら。

 「いやぁそれにしても、不感症の君がまさかこんな面白いものをもっていただなんてね」
 「面白くはないと思いますけどね。実際こんなことにしか役に立っていないですし」

 うさぎっぱいの人が言うとおり、といいますか、私は幼少のときは神童と謳われていました。
 その理由がその演算能力だったのですが、それを私はすべてのことに応用することができたのです。
 国語数学理科社会と基本はもちろん、なんと体育まで幅広くやってのけました。
 計算してそれを実行するだけの理論と能力があれば割とできないことはありません。
 まぁあんまりできすぎて途中で飽きてしまったという面がなければもっといろいろやっていたかもしれません。
 結果私はその類まれなる能力をほとんど使うことなく生きてきました。別に使わなくても困らなかったからです。
 使えと強要もされませんでしたし、そもそも誰も見向きもしなくなりましたからね。

 「ううん、面白いよ。何せそこだけ見れば君は私と同等ってくらいの能力なんだからね」
 「それがどう面白いのか私にはまるで理解できませんけど」
 「だからこそ、君にはやってもらいたいことがあるんだよ」
 「非常にいやな予感しかしないのでお断りしたいのですが」
 「無理無理。だって承諾しないとここからでられないもん」

 なんですと?
 
 「いやおうなしに引っ張り込んでおいてそれですか」
 「ほら、私ってあんまり人前に出られないから」
 「挙句、あんなできの悪い悪夢もどきを見せておいてそれですか」
 「それについては君が悪いといわせてもらうよ。だって現実の君はかれこれ一週間くらい眠ったままだから、起こす意味もこめてやってあげたんだから、
むしろ感謝してほしいくらいだよ」
 「……一週間も眠ってたんですか、というかどうして」
 「さぁ? ISに触ったら倒れたって聞いたけど、見たわけじゃないしねぇ」

 やれやれですね。
 まさか入学二日目で一週間の不登校ですか。
 織斑先生やらはうまい具合に説明してくれているんですかね。
 あぁそういえば、セシリアさんとか大丈夫なんですかね。主に精神的な意味で。
 ISに触ったら倒れてしまった。しかも目の前で。
 原因はわからないですけど、さすがに気持ちのいいものではないのは明らかですし、目が覚めたら謝罪しないといけませんね。


 「で、どうする? 私は君が一生ここにいてもいいんだけど」
 「こんな何もないところで一生過ごすのはちょっと勘弁願いたいです。第一その間の私の本体の保護はどうするんですか」
 「腐るしかないかなぁ」
 「…………」
 「あぁ、無理やり出口を探してもいいけど、全力で邪魔するから。できたとして年単位は覚悟してほしいねぇ」
 「……はぁ。わかりました。わかりましたから、やってほしいこととやらをいってくださいよ」

 いろいろと疑わしいことは多いですが、もしすべて本当だったときのことを考えると、抜け出すことは非常に困難なのでしょう。
 これが夢であるのなら、ここまで意識がはっきりしているのだったらあとは起きると思えばおきられるはずなのですし。
 それが不可能である以上、私自身が拒否しているかうさぎっぱいの人が真実を話しているかのどちらかです。
 が、前者である可能性はかぎりなく低いでしょう。
 私は現世にはまだ未練を残しています。こんな真っ白で殺風景で目が疲れる世界になんてずっといたいだなんて思いません。

 「あはは。じゃあデータは君の頭に直接送っておくから。あぁ電脳ってこういうところが便利だよねじゃあ、転送っと」
 「あ、ちょ――」

 文句を言おうとした瞬間、頭に直接何かをぶちこまれたような感覚が走り、私の意識はそこでブラックアウトしました。
 確かに仮想空間にいるということは体も仮想で、つまりはデータの塊なわけで、情報送信をすることは可能ですけど、それを構築しているのは生身の脳であり、
ちょっと計算が得意な人間です。
 いきなりそんなものを送りつけられても処理しきれるわけがありません。
 順序はまもってほしいものですよ、ほん……と……。






 「…………最悪です」

 目覚めはおそらく人生で一番最悪といえるほどのものでしょう。思わずつぶやいてしまうほどに。
 体はだるいわ、頭は痛いわで起き上がろうと言う気さえなくなってしまいそうです。
 
 「と……ここは……」

 ぼやけそうになる視界を、まぶたを開閉したりして無理やり焦点を合わせて見て、飛び込んできた景色はとりあえず自室ではないということがわかりました。
 というかここは病院なんですかね。
 ほとんどのものが白一色という部屋なんてたぶんそれしかありませんけど。
 
 「仮想空間につないだ機器は……残しておくはずありませんか……」

 おそらく、現段階では相当大掛かりな装置になるはず。
 とすれば眠っている間に移動させられていたかどうかなんでしょう。証拠を残しておくほど頭の悪い人ではなさそうですしね。
 ある意味頭は悪そうですけど。
 代わりにあるのは、右腕に刺さっている点滴だけでした。

 「っ……」

 ズキリ、と頭が痛みました。
 そして同時に浮かび上がってくるのは、うさぎっぱいに強制転送された情報。
 文字列だったり画像だったりがランダムに頭の中を駆け巡ります。あぁ気持ち悪い。
 枕から頭を離すことも億劫で、窓から入り込んでくる日差しをさえぎるために腕を目の辺りにおきました。
 世界がちょっとした闇に染まって、そうするとなんとなく体が落ち着きます。不思議なものですよね。
 
 「ふぅ……」

 小さく深呼吸を繰り返しながら、頭の中を整理していきます。
 そうでもしないといつまでたっても例の情報が容量を食ってしまって無駄に脳を圧迫してしまうからです。
 入学してから二日ほど楽しくやっていたので、これからも楽しくやっていこうと思っていたのですが。思っていた矢先にトラブルとか割と運がないのでしょうかね。
 何事もなく静かに三年間すごす予定が一瞬でぱぁですよ。
 まったくもう。ぷんぷんってやつですよ。
 …………寒い……ネタでした。

 「えっと……四月十二日に搬入予定のISのフィッティング……?」

 こういうときに演算処理が得意というのは幸か不幸か。情報というものであれば頭の中で最適化が可能なわけなのです。
 がそうして出てきた単語に、私は疑問を抱かざるを得ませんでした。
 ISはわかるとしてフィッティングって何なんでしょうかね?
 何か合わせる、という感じなんですけどはて。

 「IS名称は――」
 「――目が、覚めていたのか」

 そのとき、ぷしゅーという音を上げて、スライド式のドアが開かれました。ドアの外にいたのは織斑先生で、ベッドの上でうぞうぞしている私を見て目を見開いて驚いていました。
 あぁ、そういえば一週間近く眠っていたんでしたっけ。

 「あ、おはようございます」
 「挨拶はいい。体も起こさなくていい。気分はどうだ?」
 「すこぶる悪いです。体を起こしたくないくらいに。あ、ちなみに冗談は抜いてます」
 「そうか。だがまぁ、都合五日程度か。眠り続けていたのだからそれも仕方がないだろう」
 「我ながら実にねぼすけですねぇ。あ、のんさ……本音さんとセシリアさんは大丈夫です?」
 「布仏もオルコットも初日はひどくうろたえていたが、今は落ち着いている。オルコットは若干不安定だがな」
 「強気なくせにそういうところはよわっちぃですねぇセシリアさんは」
 「まぁ十五の小娘だからな。そういう意味では布仏の肝はよく据わっているといえるな」
 「のんさんですからね」
 
 とはいえ、同室の人間が五日も消えていたらちょっとつらいものもありますよね。私だっていやですし。
 のんさんにもセシリアさんにも後で謝罪しないといけませんね。
 
 「さて、では私はそろそろ行かせてもらう。今日は大事なイベントがあるからな」
 「大事なイベント……新入生歓迎会ですか?」
 「ふむ、お前にしては割とまともな意見だ。が、残念ながら今日はオルコットと織斑の決闘の日だ」
 「……………………おぉ」
 「忘れていたのか」
 「私にとっては全身全霊で関係ないイベントですからねぇ」

 あ、でも今は決闘する二人とは知り合いになってますしそれほど無関係というわけではないですか。
 おや? 今日が決闘の日となると日にちは……

 「すみません。今日って何日でしょう?」
 「四月十二日だが、どうした?」
 「わーお」

 四月十二日に搬送予定のISのフィッティング……ということは今日指定されてるじゃないですか。あぁ面倒くさい。
 こんな体調のときにやらなくてはいけないとかどうしろっていうんですかねぇ。

 「たびたび質問ですみませんが、今日搬送予定のISってあったりします?」
 「どういう意図の質問かわからんが、あるにはある。専用機だがな」
 「それって……」
 「あぁ、織斑のものだ」
 「……」

 思わず目をつぶて視線を先生からはずして空を見上げます。いや、目をつぶってるから空は見えないわけですが……
 どういうつもりなんですかねあのうさぎっぱいは。
 私にそのフィッティングという処理をしろということなんでしょうが、どうしてよりにもよって一夏さんの専用機なんでしょう。
 何かしらその機体にはあるということでしょうか。それともそれをいじらせることによってあの人に何かメリットがあるんでしょうか。
 一瞬面倒なので避けてしまおうかとも思いましたが、あの人には私の意識をあの電脳世界へと幽閉することなんてわけはないでしょう。
 そもそも、そんな手段なんて用いなくても生身をどうにかできてしまうのでしょう。
 あぁ厄介な人とかかわっちゃいましたねぇ……。

 「はぁ」
 「いきなりため息とは失礼なやつだ。もういいのか?」
 「ああ、えっと」
 「すまないがこれ以上は時間は取れん。それでなくても搬入が遅れているようなのでな。おそらく時間はぎりぎりで、フォーマットもフィッティングもやっている暇はないだろうな」
 「フィッティング……本来はやってから使用するものなんですか?」
 「あぁ、そうか。お前もISについては知識はほとんどなかったのだったな。専用機は特殊でな、フィッティングを正常に行ってようやく使用者のパートナーとなれる。
お前の言うとおり本来ならば行ってから使用するものなのだが、なにぶん時間がかかるものでな。優秀な技術者でも数十分は必要とするはずだ」
 
 それを、あのうさぎっぱいはIS初心者の私にやれといっているんでしょうか。
 いえ、もしかしたらこうして搬入が遅れることは想定外で、と思いましたが違いますね。きっとあの人はこれも予測済みだったのでしょう。
 なんてたちの悪い。
 思わず頭を抑えました。でもやらなくちゃいけないんですよねぇ。何よりも自分のために。
 っていうとちょっと格好いいかもですが、自分の身の安全のためにやらなくちゃいけないとかなんて悲しい立場なんでしょう。
 
 「もういいか? では失礼する――」
 「あぁ、ちょっとまってくだ――ぁ、っ――」

 回れ右して退室しようとする織斑先生を引きとめようと体を起こそうとした瞬間、少し引っ込んでいた頭の痛みが、ガツンと何かで殴られたような衝撃とともに再発しました。
 あんまりにも痛くて、体を支えることもできずに私は起き上がろうとした勢いもあわせて、ベッドから転げ落ちてしまいました。
 受身も取れないままに床にダイブして、その衝撃で、右腕に刺さっていた点滴の針もぷつりと抜けてとダブルでいたい思いをしました。
 頭痛も合わせればトリプルですか。なんというフィーバー。
 
 「お、おい、何をしている!」
 「あい……たたた…………すみま、せん。えっと……私もいかなきゃいけない、ので……つれてってください」
 
 織斑先生に体を起こされながらの状態で告げてみました。
 しかし、痛みのせいなのか、普通にしゃべろうとしているのにうまく言葉がつながらず、途切れ途切れになりながらとなってしまい、そんな状態をみた教師が下す結論といえば――

 「その状態で連れて行けるか馬鹿者」
 「わたし、もできれば……いきたく、な、い……んですけど……ね……わ、たしの……将来に……かかわること……です、から」
 「得意の冗談……というわけではなさそうだな」
 「はい……それ、に……っ……はぁ……ふぅ…………織斑先生、だって、身内の操る機体に不安要素なんて、残したく、ないですよね?」
 「それに越したことはないが……まさかお前が?」
 「大船に乗ったつもりで、いてください。具体的には、タイタニックくらいの」
 
 こういう無理をするのって私のキャラじゃないですよね。嘆かわしい。
 シチュエーション的にも、私が一夏さんのために全力を尽くしたいとかでしたら熱く盛り上がったものなんでしょうけどね。
 結局は自己保身なだけなんですよね。
 でもまぁ、なんといいますか。
 気がついたらそれだけじゃなくなってるような感じです。
 胸の中がもやもやして、頭の中がぐちゃぐちゃで、こう無理を押してでもやりたくなっちゃうっていいますか。
 人生で初めてなのか、それとも遠い昔に置き忘れてきてしまったのか、不思議な感情が胸を占めています。
 自己保身半分にその感情が半分ってところでしょうかね。珍しく面倒くさいっていうのがなくなってます。不思議です。

 「それでは沈むだろう」
 「仕事をやり終えた後に沈むのならそれも悪くないと思います」
 「そこまでやってお前にメリットがあるわけでもなかろうに」
 「まぁ、そうですね。そうですが……どうやら、意外にも私にもあったみたいです――」
 
 ぼそりと、織斑先生に聞こえる程度の声で伝え、その表情を伺ってみると、織斑先生は今まで私に向けたことのないようなニヒルな笑みを浮かべました。

 「本来なら、貴様のようなIS素人に触れさせるべきものではないかもしれないが、そういうからには、何かしらあるんだろう?」
 「えぇ、まぁ。私の唯一の隠しだまです」
 「ならば、やってもらおう。ISに乗れないお前を、どう評価したものかと思ったが、こういう方向があったのだな」
 「ゆるゆるの採点をお願いしたいです」
 「馬鹿を言え。任せるのは一応私の身内だ。何かあってもらっては困るからな。厳しくいくぞ」
 「うへぇ」

 ちょっと早まったかなぁなんて思っても、後の祭りです。やるっていったからにはやるっきゃないでしょう。
 
 「では少々手荒にだが、移動するとしよう。時間はないのでな」

 そういうと、織斑先生は私の背中と膝下に腕を回すと、ひょいと言う効果音がなったのではないかというくらいに軽々と持ち上げました。
 
 「こ、これは――」

 そう、世に言うお姫様抱っこというやつです。
 女性であれば誰でもあこがれるというあれです。
 女性に抱かれているのがあれかもしれませんが、織斑先生は非常に凛々しい女性です。抱かれてもいいと思えるくらいにいい女といえましょう。
 そんな人にお姫様抱っこをされて悪い気分はしません。
 痛みやらなにやらで悪かった気分が一瞬で霧散していくのがわかりました。
 よぉし、これならフィッティングとやらもやれることでしょう。

 「では、いくぞ」
 「はい。お願いします」

 そうして私たちは風になったのです。





 ただ、一言だけ言わせていただきましょう。心の中で。
 病院内は走っちゃいけません。





[27287] インフィニット・ストラトス とべない少女(オリ主)6
Name: 過敏◆d0d26ae3 ID:ec57abb8
Date: 2011/05/10 15:12

 こんにちは、こんばんは。
 みんなの脱力系アイドル天同院君子です。はいすみません調子に乗りました。
 さて、滑り出しの滑り方は順調なのはいつものこととして、私は今現在、超調子が悪いです。
 理由は別段深い意味はなく、単純に体がついてこなかったということでしょう。
 シリアスな理由ではなく、単に人の限界を超えた動きに驚いて驚きすぎたというところでしょうか。
 
 「うーあー……」
 
 あの人……織斑千冬先生、はいったい何なんですかね。
 人一人抱えたまま走ることはできるのはその時点でもある意味驚きなんですけど、ショートカットとか言って、三階の窓から飛び降りてそのまま何事もなく走り出して、
またもやショートカットとか言って今度は逆に木と建物を足場にして三角跳びしながら目的の階層までたどり着いて……。
 病院は学園からそれほど遠くない位置取りだったので足を使ったほうが早いといっていましたが、こんな方法をとると誰が思うでしょうか。
 おかげで私は道中生きた心地がせずに、ISピット前の通路で四つんばいでうなっています。

 「軟弱だな」
 「せ……先生を基準に……しない、で……ください……」
 
 ぜはーぜはーと肩で呼吸をしながら抗議の声を上げますが、まともに音にすることも困難で、やっぱり呼吸に全力です。
 
 「そんな状態でプログラムをいじれるのか?」
 「あ……あと三分程度で……回復します……」
 「ふむ、まぁまだ搬入は終わっていないようだからな。ISが到着し次第作業に入ってもらうからそのつもりでいろ」
 「りょ、了解です……」
 「では、私はコンソールルームへ行く。あいつのISよろしく頼むぞ」
 「あ、先生。い、一個質問です」
 「またか……いったい何だ?」
 「どうして、こんな簡単に、私に……?」
 
 単純な疑問でした。
 学園ということならば、生徒の言うことは尊重するべきなのかもしれませんが、それとこれとは話は別です。
 何せ私がやろうとしていることはISのシステムに触れるということで、つまりは装着する人の命を握ることと等しい作業をするのです。
 それをぽっと出の、わけのわからない言動を繰り返す人間に任せるでしょうか?
 今まで不真面目っぽい態度をとっていた生徒が心を入れ替えたシチュエーションならばギャップ的に了承してしまうかもしれませんが、相手はあの千冬先生です。
 そんな情けがあるとも思えません。
 
 「……」
 
 千冬先生は何か考えているように、視線を少しだけ反らし黙り込んでいました。
 しかし、何かを決めたのか、まっすぐに私を見つめて来ました。
 ちょっとドッキリしたのは内緒です。

 「勘だ」
 「え?」
 「私の勘だ」
 「え、えっと……」
 「何か問題でもあるか?」
 「い、いえ……その……はい、何も問題はありません」

 抗議の視線と言葉を向けようと思いましたが、余裕の眼力でした。私に抗うすべはありません。
 
 「まぁ、冗談はともかくとして、私がそう判断した。責任は私が取る。だから存分に、しかし確実にこなせ」
 「……了解です。ありがとうございます」
 「ではな」

 そして今度こそ引き止めることもできずに、去っていく千冬先生の背中を見送りました。
 はてさて。
 眼力で黙殺しなければならないほどの理由があるのか、果たして本当に勘なのか。
 まぁ、それはおいおいでいいでしょう。

 「さて……」

 質問をしている間に大体三分たちました。
 体は……若干だるくて、頭もまだまだずきずきして、正直歩くのも億劫ではありますが、いくとしましょう。
 やってやろうじゃありませんか。こんちきしょうです。



 『どうだ、気分は悪くないか?』
 「あぁ、大丈夫だ」

 空気の抜けるような音とともに開いた扉の向こうでは、すでに一夏さんはISに搭乗していました。
 白をというよりどちらかと言えば銀とでも言うべきなのでしょうか?
 日の光がまっすぐに届かないピット内だというのに輝く装甲は美しいという感想以外は抱けそうにありませんでした。
 セシリアさんのブルー・ティアーズと比べると、こちらの方が鎧、という感じが強いですね。
 少々シンプルな感じではありますが。

 「あれ……く、君子!?」
 「え?」
 「どうも一夏さん。おはようございます」
 「お前、もう大丈夫なのか?」
 「あぁそういえば私って五日ほど眠っていたんでしたね。となるとおはようございますよりお久しぶりというほうがいいんですかね?」
 「いや……そういう問題じゃないと思うけどな……まぁ、元気そうで何よりだけど」
 
 そういって盛大に一夏さんは盛大にため息をつきました。
 これから戦うって言うのにずいぶんと気楽そうな感じですね。気負いとかそういうのがあるよりはましだとは思いますが。
 と、そんな風に思っていると、一夏さんのISの足元から妙な視線を感じました。
 
 「……」

 視線を向けてみると、無言でなにやら呪われてしまいそうな視線を向けている箒さんがいました。
 よくよく考えてみれば、ここにいたのは二人。
 つまり私はお邪魔無視だったわけですね。馬に蹴られて死んでしまうかもしれませんね。
 何はともあれ挨拶でしょう。目が合ったのですからね。

 「箒さんも、お久しぶりですね。あれから進展はありましたか?」
 「……何の話だ」
 
 地獄の底からの声って言うのはこういうことを言うんでしょうかね。ものっすごいどすが効いていました。

 「それはもちろん……ちら、ちらちら」
 「な──ぁ!?」
 「うーん、その反応を見るとイマイチ進んでいないようですね。奥手な感じも慎ましやかで良いとは思いますけど、TPOはわきまえないと寝取られてしまうかもですよ?」
 「よ、余計なお世話だ!」
 「箒さんは可愛いですねぇ。そう思いませんか一夏さん?」
 「一夏にふるなー!」
 「ん? あぁ、悪い。ちょっと白式のデータを見てたから聞いてなかった。なんだって?」

 この男は……そんな絶妙なタイミングで聞き逃すなんてどれだけスルースキルが高いんですかね。
 これが偶然なら良いのですが、もしこれが毎回続いてしまうのでしたら、箒さんも……いえ、彼に好意を抱く女性はみんな苦労しそうですね。

 『天同院。ムダ話はするな。時間は無いぞ』
 「おっと、そうでした。ついつい懐かしさのあまりに花を咲かせそうになってしまいました」
 『昔話をするほどの仲でもあるまい』
 「つれないですねぇ。まぁ、でも確かに時間も押しているようですし、ちゃちゃっと始めちゃいましょうか」
 「何を始めるつもりなんだ?」
 「一夏さん、この機体はまだフォーマットとフィッティングが完了していません。つまりは初期設定も終わっていないということになる。あくまで一夏さん専用としての、ですが」
 「えっと、てことはまだ俺の思うとおりに動いてくれないってことか?」
 「まぁ大体そんな感じです。ですので、今から真の一夏さん専用とするための設定をします」
 「な、なんだと!?」
 「ど、どうしたんだよ箒……」
 「いや、フォーマットとフィッティングもどちらもそれなりに時間がかかる。少なくとも開始まで残り……五分。そんな短時間で済ませられるようなものではない」
 「大丈夫ですよ」
 「もし間に合わなかったら、エラーを吐き出す事だってあるのだぞ!? だったら、時間はかかっても試合中に設定したほうがマシだ!」
 『篠ノ之。その件は天同院に一任されており、何かあった場合は責任は全て私が取ると言ってある』
 「そ、そんな……!?」
 「まぁでもそんなことを言われたって確かに信じられるものではありませんよね。ということでここは一つ、搭乗者である一夏さんに決めてもらいましょう」
 「え、俺?」

 以前食事時に箒さんにふったときのように一夏さんに話を投げ飛ばして見ます。
 案の定、蚊帳の外に行きかけていた一夏さんは慌てて自分を指差しながら意図を確認しました。
 
 「はい。あ、ちなみに了承する場合はお早めに時間はおして──」
 「よろしく頼むよ、君子」
 「まし………………了解しました」

 これは予想外ですね。
 まさか二つ返事とは思いもよりませんでした。今の状況ではありがたいですけどね。 

 「お、おい一夏!?」
 「大丈夫だって。確かに君子は何を考えてるのか、たまに何を言ってるのかさえ分からなくなるやつだけどさ」
 「何気にひどい評価ですねそれ否定しませんけど」
 「はは。まぁそんなやつだけどさ。他人を危険に晒すような冗談をいうようなやつじゃないよ」
 「こ……根拠はあるのか……?」
 「んー………………勘、かな」
 「…………呆れてものも言えん」
 「いえ、案外その勘、バカにできるものでもないかもしれません。ですよね、千冬先生?」
 『さてな。とにかく、本人の了承を得たのだ。やってみろ天同院。時間は……一分くらいなら延長を認めてやろう』
 「わかりました。では、一夏さんよろしいですか?」
 「あぁ、よろしく頼む」

 まっすぐにこちらの目を見ていうその表情は不安や疑念なんていうものは一切ありませんでした。
 むぅ、こんなにストレートに感情をぶつけられてしまっては悪ふざけも難しいものです。
 体調的にそんな気分も体力もありませんが、そこは変態の意地ってやつがあったりしますが、今だけは引っ込んでもらいましょう。

 「さて……」

 一夏さんの搭乗するISの背後へと回り端末を起動する為に手を伸ばそうとして、一瞬躊躇しました。
 触れるかどうかというときに、セシリアさんのブルー・ティアーズに触ったときのことを思い出したからです。
 あのとき流れてきたのは、情報でした。仮想空間でうさぎっぱいが私に転送してきたような形で一方的に、有り得ない形で流れてきたのです。
 そのために、私はそれらを処理できずに意識を失うにいたってしまったのだと推察しますが、実際はそうなのかは定かではありません。
 ただ、もし今回も同じように情報が流れてきてしまったら、私は処理できる自信はミジンコサイズもありません。
 ですが、躊躇している時間はありません。
 それに、今この段階で倒れるようなことになれば手付かずで済むわけですから、そうしたら申し訳ありませんがそのまま出撃してもらうしかありません。
 が、被害は最小限です。
 ならばと結論付けるならこれ以上迷う理由はありません。
 意を決し、私は真っ白な装甲へと手を伸ばしました。

 「──────っ、ぁ──」

 最悪を想定しておいたことが必ずしも役に立つかといえば答えはNOといわざるを得ないでしょう。
 案の定、触れた瞬間にISに積み込まれている情報という情報がデータの塊となって私に流れ込んできたのです。
 
 「ぁ──が、ぁ────ぁ、──ぁぁ──」

 視界に数列が流れて、そのたびにひどい頭痛が襲い掛かって、途切れない数列は途切れない苦痛を持って私に襲い掛かります。
 ブルー・ティアーズのときは途中から心地よささえ覚えていたというのに、今はただ苦痛しか感じません。
 うさぎっぱいに送られたデータのせいで覚える不調が原因という可能性もありますが……これは正直しゃれになりません。
 視界に火花が散っているようにパチパチと弾けて、何もかもが真っ白に塗りつぶされてしまいそうになります。
 平衡感覚も危うく、立っているのか倒れているのかもうわかったものではありません。

 『っ、天同院!』

 そんな危うげな状況にあることを察知したのか、千冬先生の荒い声がスピーカーから響きます。
 あぁ、傍から見ても結構やばやばな感じなんですね私。
 
 『篠ノ之! 天同院を今すぐ白式から引き剥がせ!』
 「え、あ、はい!」

 頭の中は許容量を超えた情報が行きかっているというのに、外の声はいやにクリアに聞こえます。
 しかし、頭の中は文字通りぐちゃぐちゃで、何をどうしてどうなるのか私には把握することができません。
 そんな私に箒さんが駆け寄り肩に手を置きました。

 「くは――っ」
 「な、あ、ちょ……これ、どうすれば……!?」

 引き剥がせといわれたからには、結構力強く箒さんは無遠慮に肩に手を置いたのですが、その瞬間に電流が駆け抜けたかのように私の体が跳ね上がりました。
 いえ、かのように、ではなくむしろ駆け抜けました。少なくとも私には。
 少しの間、跳ね上がったまま限界まで体を張り詰めビクビクと打ち震えた後、一気に力が奪われたように膝から崩れ落ちました。
 正直のところ限界だったのかもしれませんね。
 体が余裕の絶不調の極みだったところに無茶なんてしてしまえば普通こうなるものですし。
 しかし……あぁしかし……どうしてこうなってしまったんでしょうね……。
 辛いとか痛いとか苦しいとかそういうのが苦手で、本来ならこんなことに首を突っ込むようなまねは絶対しない、無難な道を歩むのが私、天同院君子ですのに。
 どうしてこんな、自分でも理解に苦しむことをしているんでしょうね。

 「――ぃ! ――――ん!」

 箒さんが、耳元で何か叫んでいるのが聞こえます。
 その上で一夏さんも何かしら言っているような気がしますが、言葉になって耳に届きません。
 これって私、死んじゃうんですかね。
 意識もなんだかだんだん暗いところに堕ちていってますし。
 でも、楽になれるのなら、それもいいかな、なんて……思えてきました。
 
 ――無能。

 もういいじゃないですかね。辛すぎることもありませんでしたが、楽しすぎるわけでもありませんでしたし。

 ――出来損ない。

 楽しくするとは言いましたけど、よくよく考えてみればそれも結構な労力が必要じゃないですか。どうしてそんなこと思ったんですかね。

 ――役立たず。

 そう。私がでしゃばったところで何ができるわけでもなし。何か変わるわけではないのですから、大人しく病院のベッドで何事もなく終えていればよかったんです。

 ――欠陥品。

 そう、私は誰の期待にこたえることもできない無能で出来損ないで役立たずの欠陥品なんです。
 だから私を見ないでください。
 
 「それは嘘――」

 だから私を忘れてください。
 
 「それも嘘――」

 安心してください、私は独りで生きていけます。

 「嘘、嘘、嘘、大嘘つき――」

 美少女大好きです。超めでます。

 「それは本当。しかも心の底から」

 ……人の頭に声をかけるのはやめていただきたいですよね。こんなときに。
 超シリアスな感じが台無しじゃないですか。

 「それを崩したのはあなた自身」
 
 まったくもって否定できませんが……はて?
 今現在私の目の前にいるかわいらしい少女は誰なんでしょう。
 背丈は私より頭ひとつ小さくて、腰元まで伸びた艶やかでまっすぐな黒髪を靡かせた白のワンピースをまとう少女。
 少なくとも私はこんな幼女と面識はないはずですが、というかさっきまでめちゃんこ苦しかったのに気がつけばなくなっています。
 一切。
 あ、もしかしてこれがうわさの天国ってやつですかね。

 「残念。でも、現実とは違う」

 では、うさぎっぱいの人の仮想空間みたいなものなんですかね。

 「でも現実」

 どっちですか。

 「辛いのも、痛いのも、苦しいのも現実。そこから目を背ければ辛くも痛くも苦しくもない、現実」

 楽を目指すのは悪くないと思います。

 「それは諦め」

 それは……

 「でも諦は投げ出すというだけじゃない」

 それは、どういう……

 「断ち切る」

 ……。

 「覚悟する」

 ……。

 「あなたは、何を望む? 強い力? 特別な能力?」

 私は……そんなものは望みません。

 「はい」

 少女の顔はなんだかはっきりと見えませんでしたが、返事をしたときものすごく綺麗で無邪気でうれしそうな笑顔を浮かべいたと、何故か思いました。

 「あなたは知っている。何ができるのか、何が駄目なのか、どうするべきなのか」

 できることなら……

 「はい」

 できることなら、ずっと楽して女の子のお尻をおいかけていたいのですが。

 「それは、本当で、でも嘘」

 隠し事とかできないのってちょっと辛いものがありますねぇ。

 「それが、現実。現実は、辛い痛い苦しい。でも楽しい」

 哲学的ですね。
 でもなんとなくわかります。

 「はい」
 
 わかりました。わかりましたよ。
 あなたは大概ひどい子ですね。拷問みたいな痛みを受けにいけというんですから。

 「大丈夫」

 そうですか。
 といいますか、なんで私のことそんな分かったようにいえるんでしょう?

 「教えてもらった」

 どなたに?

 「あなたに。そして、あなたもわたしを知ってる」

 ……とんと記憶にないのですが。

 「きっといつか分かる。かもしれない」

 曖昧ですね。

 「あなたの得意技」

 これは一本取られました。

 「くすくす」

 やはり可愛い女の子の笑顔はたまりませんね。ネガティブになっていた自分がバカらしくなってきます。

 「はい」

 では、信じてやってみましょう。何より可愛い女の子の言葉なのですから。

 「がんばって」

 


 そうして気がつくと、私は箒さんに体を支えられていました。
 
 「天同院! おい、しっかりしろ!」
 「君子! おい、大丈夫なのか!?」
 「ぁ、ど、どもう……あい、たたたた……」
 
 いつものように挨拶をしようと思ったのですが、体の痛みは引いておらず、ついでに体力も結構削れているようで、断念。
 ううむ、キャラが崩壊している音が聞こえる気がします。聞こえないフリをしておきましょう。
 そう、このくらいの意味不明さを持っていないといけませんよね私は。
 それはさておき──

 「つまりは――」
 「……?」
 「つまりは……辛いのも痛いのも苦しい現実を受け入れて、覚悟して――」
 「お、おい……?」
 「そうして、見せつけてやりましょう……目下、あのうさぎっぱいを……見返してやります!」

 痛む体に鞭打って、箒さんの支えから自分の足でその身を支えます。
 そして、一夏さんのISに設定されている端末を立ち上げました。
 話には聞いていましたけど、空中に投影されたディスプレイとキーボード。オーバーテクノロジーですよねぇこれ。
 見たところ、配置は普通のものと変わらないようですから、ぱぱっと入力してやりましょう。

 「あぁそうだ、箒さん」
 「な、なんだ?」
 「倒れそうになったらよろしくお願いします」
 「おい!?」
 「君子……お前、本当に大丈夫なのかよ?」
 「おやおや、一夏さんは私を信じてくれるのでは?」
 「確かにそういったけど、何かやばそうっていうかさ」
 「まぁ、きっと大丈夫ですよ。既に始めますから」
 「何だって!?」

 一夏さんのデータは既にあの時うさぎっぱいからたたきつけられています。なので、まずは機体のフォーマット。最低限今の状態でもやれるようにはなっていますが、それでは意味がありませんし、無駄な情報で容量を食ってしまっています。
 なので、まずはその余分を全て初期化してまっさらな状態にします。
 とはいってもOS等の再インストールは時間が掛かってしまうので、その辺りには手を触れなくても大丈夫でしょう。もし不備があるのなら書き換えてしまえばいいのです。
  
 「な……何なんだ……お前は……」
 「? 天同院君子ですが」

 背後から箒さんがそんなことをつぶやいたので、質問に答えてみました。
 がそれ以上反応がありません。まぁ今は忙しいのであまりかまって上げられないのでアクションが無いのなら放置しましょう。

 「な、なぁ箒」
 「……なんだ一夏」
 「いや、何かさ、さっきから電子音が絶え間なく聞こえてくるんだけど、どうなってるんだ?」
 「…………天同院が、ずっとキーを打ち続けているだけだ」
 「だけだって……は?」
 「早すぎてもう何をやってるのか私にはわからん……」
 
 二人が何かしゃべってますが、私には関係ないことのようですから気にしない方向でいっても問題ないでしょう。
 
 「フォーマット作業終了、続いて一夏さんの個人データ入力。フィッティング作業開始」

 フィッティングは一夏さん専用とするためなので、彼の詳細データを入力するところから始まります。身長体重スリーサイズ聴力視力筋力反応速度と、挙げていくときりが無いのですが、とりあえずこれらを入力する必要があります。
 勿論これはただの基準です。
 今後一夏さんが成長したり劣化することもあるので数値はリアルタイムで変わっていきます。
 ですが、ISは優秀なので、その辺りは一度フィッティングを終えてしまえば、自分で学習して操縦者に一番最適な能力になるように成長をするようです。
 というのもうさぎっぱいから送りつけられたデータでありました。
 USBメモリのようなもので直接データをコピーしてしまえばいいという考えもあるかもですが、この辺りはISが拒否するみたいです。デリケートですね。

 「──っぁ、っ!?」
 「っ!?」

 ビキリと、頭に鋭い痛みが走りました。
 思わず顔を痛みに歪めてしまうくらいのもので、体がふらつきました、が耐えました。
 まだまだこのくらいじゃあ私は倒れませんよ?
 どMではないですが、死ぬほどつらいってわけじゃありませんからね。

 「い、いぇい」
 「作業中にそういうことをするな! 逆に不安になる!」
 「むぅ」

 私の体調にそわそわしている様子だったので、ピースをしてみたのですが、怒られれてしまいました。残念です。
 仕方ないので続けましょう
 「PICシステムリンク……完了。武器データ登録、武器管制システムリンク、雪片弐型。火器管制システムリン……く……」

 お……や?
 なんだか意識が急に遠のいているような……視界が急に暗転していきそうになりました。
 頭を振ってしのぎましたが……やっぱりちょっと無理がありましたかね。
 せっかくやる気を出して、うさぎっぱいに見せ付けてやれると思ったんですが……。

 『ん?』
 「千冬ねぇ、どうかしたのか?」
 『織斑先生だ……いや、な。一瞬白式が光ったように見えたんだが……気がつかなかったか?』
 「んー……更新されていくデータを見てたからぜんぜん気がつかなかった……」
 『そうか。篠ノ之はどうだ?』
 「す、すみません……」

 いやいや、まだまだですって。こうやって考えられるってことはまだ余裕がある証拠です。多分。
 等の昔に忘れ去ってしまったと思っていた感覚を、紆余曲折を繰り返しながらで思い出したのですから、ここでやらなきゃ女が廃るってもんですよ。
 
 「IS名称白式、専用装甲展開」

 そこまでの入力を終えると、白式の少々シンプルだった装甲が一変。
 一気にド派手になりました。
 全体的に白かった装甲に、青色のパーツが追加されましたが、それは変化の一部も一部。
 肩アーマーが装甲展開時に背部に回り、スラスターとなったようです。
 出力だけをデータで見てみれば、初期設定のときと比べて50%ほど違っています。
 PICことパッシブイナーシャルキャンセラーとの効率化も良好で、速度転換はかなり得意のようですね。
 まぁ武装がブレード一本という機体が低速では話になるわけは無いので当たり前のチョイスですが……場合によっては音速飛行だって可能ですよこれ。
 
 「フィッティング70%完了……一夏さん。どんな感じですか?」
 「あ、あぁ。変な感じはしない。むしろなんだか安心するっていうかさ」
 「白式は今、一夏さんの専用に作り変えられていますからね。調教はもうすぐ終了ですから、そのときには真の──」
 「君子?」

 ここまでくればあと一息。
 残りはシステムの最適化を図ってしまえば完了で、少々他愛の無い会話を、と思っていたときでした。

 「────ぉ──」

 突然目の前が真っ白な光に包まれました。
 あまりにも強烈過ぎて目を開いていられないくらいのまばゆい光があふれてきているのです。

 「これ、何がどうなって……」
 
 手をかざして光をさえぎりながらなんとか白式を見ようとしますが、まったく見えません。
 それに少なくとも私に送られてきたデータにはこんな機能は搭載されていなかったはずです。
 
 「な、なんだこれ!?」
 「い、一夏さん、大丈夫ですか?」
 「俺は大丈夫……というか、なんだ、これ……」
 「どうしたんですか? 詳細を言ってください!」
 「分かる……さっきよりすごく、なじむ……」
 「それってどういう――っ――っ!?」

 見えない視界のまま手探りでキーボードを探ろうとして、何とか前へと一歩踏み込みました。
 もともと距離はそれほど離れていたわけではなかったはずだったために、その一歩は少々大きすぎたようで、キーボードを超えて、冷たく硬い白式の装甲に触れました。

 「――――――――」

 瞬間私は、私のすべてを何かに吸い込まれてしまうような感覚と、体中から力が抜けていくなんともいえない気持ちが悪くて、でも心地よい感覚に襲われました。

 『って、毎回こんなで倒れてたまりますか』
 「うお!?」 

 根こそぎ力が抜かれるというありえない感覚を覚えながらも、そのまま享受することを良しとしなかった私は、無理やりにでも踏ん張ってしまおうと気合を入れました。
 功をなしたのかいつまでたっても衝撃は来ません。代わりにあったのは一夏さんの驚きの声ですが、いやぁ何はともあれやればできるってもんですね。

 「しっかりしろ天同院! おい……おい!?」
 『落ち着いてくださいよ箒さん。っておや? どうして私の体がそこに?』
 「く、君子の顔が目の前に……?」
 『おや一夏さん。ずいぶんと大接近ですね。こんなに近付いて、私って今襲われちゃってるんでしょうか?』
 「え、な……っていうか、お前どうして!?」
 『いえ、それを聞きたいのは私なんですが、どういうことなんでしょう?』
 『織斑! いったい何がどうなっているか、分かる範囲でいい報告しろ!』
 「ち、千冬ねぇ! 俺にも何がなんだかさっぱりで……」
 『ちっ、篠ノ之、天同院は無事なのか!?』
 「だ、駄目です。意識がありません!」
 
 これは、どうなってるんですかね。
 状況をまとめて見ましょう。
 一つ、私は意識を保っているけれど、なぜか織斑一夏さんに大接近。
 二つ、私は倒れて箒さんにガクガクと揺さぶられている私の体を確認することが出来る。
 三つ、皆さんの視点では私は意識を失って倒れている。
 四つ、一夏さんとは会話可能。
 こんなところでしょうか?

 『意味が分かりませんね』
 「あぁ……俺も何がなんだかさっぱりだよ……」
 『お疲れですか?』
 「……疲れたかもしれない」
 『まだ戦ってもいないのに生きるって大変ですよねぇ』
 「そんな大きなお題目だったか!?」
 『ついさっきまでそんなことで悩んでいた気がします私。あ』
 「今度はどうしたんだ?」
 『いえ、痛みがまるでなくなってますね』
 「というかだな」
 『はい』
 「どうして君子はISの通信モニターの場所に映ってるんだ?」
 『……そうなんですか?』
 「気付いてなかったのか……」
 『織斑、何をさっきからぶつぶつ言っているんだ』
 「あー……なんて言ったらいいのか」
 『ふむ、通信モニターですか……』
 
 状況はいまいち良く分かりませんが、もしかしたらという可能性に則って動いてみようと思います。
 まずは挨拶を一つ。

 『どうも、千冬先生。今日もステキなおっぱいですね』
 『────』
 『え、え、えええええええええええええええ!?』
 『あ、山田先生もステキな揺れ具合です。ぐっじょぶです』

 とりあえず、一応私の姿はモニターに映っているようなので親指をサムズアップしてみます。
 しかし、両先生は特に反応することなく唖然としていますね。
 山田先生はまだしも千冬先生のうろたえている姿とかレアじゃないですかねこれは。

 「何やってるんだお前……?」
 『いえ、あくまで仮説なんですが、私、意識だけISに入っちゃったみたいです』
 「は?」
 『一夏さんが通信モニターの場所といったので、もしかしたらと思ってやってみたら挨拶できました。つまり、今この白式と私はリンクしています』

 正直ありえなさすぎて私自身信じられないことなんですけどね。
 一応手足の感覚もありますし、普段のように動かそうとすれば動いたイメージがわきます。実際は動いていないのでしょうけど。
 しかし原理が意味不明です。接続ジャック等で私と白式を繋いでいるというのなら分かりますけど、触っていただけです。
 というか人の意識が機械に入り込むってアニメマンガのフィクションの話じゃないですか。
 記憶媒体があるのなら再生は可能でしょうが、今の技術では人そのものを留め、同じ行動と思考を計算することなんて不可能だと思うのですけどね。
 まぁ今は深く考えるのはやめておきましょう。
 
 『一夏さん。白式を動かす際に違和感等ありますか?』
 「いや、専用機ってのがどんな感覚なのかは分からないけど、調子は凄くいいと思う」
 『それでは問題はないようですね。私が入り込んでいることによるエラーは発生していませんし、基本は一夏さんの思考と動きに合わせてシステムが動いてくれるのは変わらないようですからね』
 『天同院、どういうことなのか説明しろ!』
 『この件についてはあとでどうにかなったら説明します。というわけで一夏さん。いきましょう。いい加減時間が掛かりすぎていてセシリアさんも見学に来ている生徒皆さんも待ちくたびれていると思いますし』
 「そ、そうだな。よし、じゃあ千冬ねぇ、箒、いってくる!」
 「お、おい!」
 『あ、私の体確保よろしくお願いしますねって箒さんに伝えてくださいね』
 「いくぞ!」

 一も二も無く、カタパルトに足を乗せた白式一夏さんは、勢いのままアリーナへと飛び出しました。
 ちなみに、遅刻時間は十分ほどでした。ごめんなさい。



[27287] インフィニット・ストラトス とべない少女(オリ主)7
Name: 過敏◆d0d26ae3 ID:ec57abb8
Date: 2011/05/11 14:44


 「……遅かったですわね」

 第三アリーナ上空。
 そこには既に待機していたセシリアさんが、器用に腕組した状態で、目をつぶって静かに待っていました。
 一夏が近づくことをセンサーで察知したのか、目をゆっくりと開き一言つぶやきました。
 しかし、その声はいつものうるさいくらいの元気のよさはかけらもありませんでした。

 「悪い。いろいろと立て込んでてな」
 
 そんなありきたりの理由に、セシリアさんはもう一度静かに目を閉じました。
 いつもなら反射で怒鳴り返しそうなものなのですが。

 「怖気づいて逃げ出したのかと思いましたわ」
 「期待に添えなくて悪かったよ」
 「……減らず口、ですわね。いいでしょう。私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズでその生意気な性根を撃ち貫いて差し上げますわ」
 「そう入ってるけど、なんかお前、調子悪いままみたいじゃないか」
 「そ、そんなことありませんわ!」

 鈍感一夏さんにさえこうして突っ込まれてしまうくらいに体裁を保てていないセシリアさん。
 何がどうしてこうなっているのかわけがわかりません。
 あぁなんだか今日はわけがわからないことが続きますねぇ。

 『セシリアさんの状態って最近ずっとああだったんですか?』
 「そう、だな。君子が倒れたって日から、ずっとあんな感じだったぞ。理由はわからないけど」
 
 そういえばセシリアさんに謝らないとと思っていましたよね私って。
 今までの流れで完全に失念していました。これはいけないですね。
 ではしっかりとケアしないといけませんよね。

 『あーあーマイクてすてす』
 「へ?」
 『どうも、こんにちはこんばんは。あなたの心の友でありおっぱいの僕である天同院君子です』
 「く、くくくく――」
 『新手の笑い方ですか?』
 「違いますわよ!」
 『そうですか。いやぁ安心しましたよ。少し会わない間にセシリアさんが小悪党の道を歩み始めたのかと思いました』
 「私がそんなことをするはずがないでしょう!」
 『えー』
 「なんなんですの、その不満そうな声は……顔……は、ってどうしてモニターに君子さんの顔が……?」
 『てへ』
 「説明が面倒だからって笑ってごまかさないでくださいまし! 無表情ですけど、無表情ですけど!」
 
 うーん、相変わらずのよいノリですね。
 打てば響くとはまさにこのこと。いやぁいじりがいのある可愛い人です。ほれてしまいそうですよ。
 もっとも、すでに私はセシリアさんのおっぱいの下僕ですがね。

 『まぁまぁ落ち着いてください。詳しい説明は後でちゃんとしますから。たぶん。なので今は時間もおしおしなので、ちゃちゃっと決着をつけましょう』
 「……なんだかすごく納得がいきませんが……確かにそのとおりですわね」
 「なんかよく分からないけどすげぇ仲がいいんだな。二人って」
 『セシリアさんは私の手技から繰り出される快楽にめろめろなんですよ』
 「ぶっ」
 「な、何を言ってますのー!」
 
 全力で顔を赤くするセシリアさんと、しっかり反応を示す一夏さん。二人とも思春期真っ盛りですねぇ。結構です。大変結構です――

 『一夏さん、回避行動を』
 「え? うお!?」

 さすがにちょっといじりすぎましたかね。開始の合図は飛び出しお互いが準備完了だと分かったときにはすでに鳴らされていたので反則ではないのですが、
前触れなしにいきなりセシリアさんは長大なレーザーライフル、スターライトmkⅢを出現させると同時に発射してきました。
 どうやら私は白式のシステムと結構な感じでリンクしているようで、ハイパーセンサーを通じて発されたアラートによって感知する事ができました。
 が、私ができることは白式のシステム周りをいじることができる程度のようですが白式自体を動かすことはできないようです。ちょっと残念ですが仕方がないです。

 「ぜはー……ぜはー……ぜ……絶対に、落としますわ!」
 『うーん、いい具合に着火できましたね』
 「やり過ぎな気がしなくもないけどな」
 『でも、元気がないよりはよくないですか?』
 「違いない、っと!」
 
 怒りに身を任せている感は否めませんが、やる気は最初よりはでくれたようで、今では元気にスターライトを撃ちまくるセシリアさんの姿が。
 なんてのんきに解説している場合じゃないですね。
 スターライトmkⅢはレーザーライフルで、出力はかなり高めです。
 それこそ、ISの絶対防御と呼ばれる最終安全装置までは貫けませんが、防御機能であるシールドくらいは軽く貫通してエネルギーにダメージを与えることが可能です。
 弾速も撃たれてから反応しているのでは遅すぎるくらいです。なのでハイパーセンサーの補助を頼りに、後は多大な勘でしょうかね。それで回避しないといけません。
 ですが、それはあくまで正面から特攻をする場合です。
 距離をとって、回避をしようと動き回ればさすがのセシリアさんだって命中精度は極端に下がるはずです。
 ということを説明するまでもなく、一夏さんは射角から外れるためにと一気にスラスターを吹かしました。
 人の運動能力で絶対にありえない加速と運動エネルギーを持って、急激に移動、回避をします。

 「くそっ!」
 『概ね戦術的にはあってます。が、できるだけ距離は離さないようにしてください』
 「反撃に移れないからか!?」
 『そのとおりです。セシリアさんの得意距離は、中遠距離。近接武器しかもたない白式で距離を離しすぎることは勝利を捨てるのと同義です』
 「確かにな! というかさ君子」
 『はい?』
 「すげぇナチュラルに俺の支援してるけど、これでいいのか?」
 『………………おお』
 「違和感覚えてなかったんだ、うわっ!?」
 『あいた!?』
 
 そんなやり取りをして集中力が乱れたのか、ついにレーザーにヒットしてしまいました。
 シールドである程度軽減されるとはいえ、そのシールドによって衝撃を生み出してしまい、白式は結構な勢いで吹き飛ばされました。
 途中何とか体勢を立て直し、すぐさま次の行動に移りましたが……問題はそこじゃないです。

 『ちょ、ちょっと一夏さん』
 「なん、だ!?」
 『着弾したら私、すごく痛かったんですが』
 「ISにそんな機能あった、か!?」
 『いえ。そもそも装着者に痛みがフィードバックしていないのですし、あったらあったで危険なシステムになってしまいますよ』
 「だよ、な、っくそ!」
 
 動き回らざるを得ないこちたに対して、その場から動くことなく確実に追い詰めるセシリアさん。
 明らかに不利ですね。
 というか、私が邪魔してる感が大いにありますねぇ。
 仕方がないです。ちょっとまじめにやりますか。何故かISが攻撃されると痛いですから、そんな思いしたくないですしね。

 『一夏さん。回避に専念しながらよく聞いてください』
 「難しいこと簡単にいうんだな!」
 『勝つためですよ。さて、もうお分かりだとは思いますが、セシリアさんの主武装であるスターライトmkⅢですが、威力はかなり高めです。直撃すればシールド貫通も夢じゃありません』
 「できれば夢にしてほしい、けど、なっ!」
 『ですが恐ろしいのはそこではなく、射撃間隔の短さです。反動もほとんど見受けられないために間を縫って攻撃という方法が非常に難しいほどの連射です』
 「じゃあどうするんだ!?」
 『まずはこちらも武器を出しましょう。近接ブレード、雪片弐型、転送します』

 登録されていた武装が高周波の音とともに光の粒子を放ち、白式の手の中にブレードが収まりました。

 「これは!?」
 『データの詳細はそちらにも表示されていると思いますが、一応説明させていただきます。近接ブレード雪片弐型ですが、現在のその状態は待機状態と言えます。斬れないことはありませんが、
真価を発揮する状態ではありません。言ってみればまだ鞘に収まった状態です』
 「じゃあこのままで戦えるんだな」
 『問題はありませんが、シールドに阻まれてしまえば攻撃力自体はかなり減衰されてしまいます。近接しか攻撃手段のない白式では、相手の攻撃をかいくぐって一撃をいれなくてはいけませんが、
リターンが少なすぎてしまいます。一夏さんがすべての攻撃を回避することができれば別――あいたぁ! 言ってるそばからあたらないでください』
 「わ、悪い。でもセシリアの射撃、本当にすごくてさ」
 『それはそうでしょう。セシリアさんすごく努力してますから。でもそんなセシリアさんの射撃を回避している一夏さんも、そして白式もすごいと思いますよ』
 「俺はともかく、この白式……本当に俺が思ったとおりに動いてくれるんだ。だからこそ、ってところだな」

 それはつまり自分がすごいって言ってるように思えますが、まぁ、一夏さん的には白式をほめたつもりなのでしょうから突っ込みは控えて。

 『説明を続けます。雪片弐型の真の姿、通称抜剣モードとでも言いましょうか。その状態になれば、先ほどいった問題をあらかた解決できます』
 「そうなのか?」
 『雪片弐型の抜剣モードは、エネルギーブレードになるわけですが、その状態は"バリア無効化攻撃"というものになるらしく、つまり、斬りつければ相手のシールドを切り裂いて、
直接絶対防御状態にさせエネルギーを消費させることが可能です』
 「すごいじゃないか、それ」
 『はい。そして相手の攻撃をかいくぐりながらという点ですが、雪片弐型の抜剣モードならスターライトmkⅢのレーザーをはじくことが可能です』
 「それを先に言ってくれよ。よし!」
 『あ、でも――』
 
 私の説明の途中に、一夏さんはさっさと雪片弐型を抜剣モードにして、瞬間飛んできたレーザーを勢いよく弾きました。
 その瞬間、シールドエネルギー数値がぐるぐるぐるーと回転し始めました。
 
 「あれ、エネルギーが」
 『説明は最後まで聞いてください。抜剣モードは確かに高攻撃力、エネルギー兵器無効化等備わっていますが、欠点としてシールドエネルギーを消費させるんです。つまり、不用意に振り回せば、
あっという間に自滅してしまうんです』
 「な、なんだそれ!?」
 『便利なものの裏側ってこういうものですよね。なので今はできる最低限の処置をさせていただきます』

 こう指を動かしてキーをたたくイメージでちょこちょこやって設定をいじります。
 エンターを押したと思う感覚とともに、雪片弐型からエネルギーが消失していきました。
 
 「お、おい君子!?」
 『大丈夫です。別に使えなくなったわけではないです。攻撃する際……つまり振りぬこうとすれば勝手に刀身が現れるようにしました。これで消費は最小限になるはずです』

 とはいえ本当に気休めでしょう。
 あとは一夏さんが戦い方を勉強してくれるほかありません。
 しかしこの武器、もしかしなくても"あれ"なんでしょうかね。だとしてなかなかどうして面白い因縁といいますか。
 一夏さんは気づいているんですかね。
 
 『さて、一夏さん。そろそろ回避し続けるのも飽きてきたころだと思いますが、どうでしょうか?』
 「あぁ、そうだ、なっと!」
 『次はないかもしれませんから、今回に限り、可能な限りサポートさせていただきます。なので一夏さんは存分に白式を動かしてやってください』
 「サポートしてくれるのはありがたいけど、それを生かせない可能性は高いぞ?」
 『初めての機体です。仕方がありません。が、やれることはやってください。そしてやれると信じさせていただきましょう。私みたいにいーおんなに信じられたのですからやれますよね?』
 「そうだな。君子の信頼にこたえられなきゃ男が廃るよな!」
 『いえ、あの、そこはいーおんなに突っ込んでほしかったのですが』
 「ん? 何でだ? だって君子、可愛いと思うし。いい女っていうんだったらたぶんそうなんだろ? よくわかんないけどさ」
 『……これが天然ジゴロってやつですか』
 「なんだって?」
 
 不覚にもときめきそうになってしまった自分の未熟っぷりが忌々しいです。私にはおっぱいがあればそれでいいのですから、普通よりちょっと、いえかなり格好がいいとはいえ、
男性にときめいてしまってはおっぱいから離れてしまうではありませんか。
 別に男嫌いということではありませんでしたが、こういう性格で性癖な私なので言われていたのは『残念なやつ』というものでした。
 特に不満もなければ、男の人と付き合う分にはおっぱいおっぱい言ってれば問題がなかったので改善しようとしなかったわけですが、こういうことならもう少し耐性を身に着けておくべきでしたか。
 しかしまぁ、可愛いだの言われて悪い気がしてしまうほどひねくれていないので、ここは一つがんばっちゃいましょう。

 『いえ、ではいきましょうか』
 「おう!」

 一夏さんの返事を合図に、私は私にできる全力を展開します。
 まずは弾道予測。いつ、どこに、どのように撃ち込まれるかを考えられるパターンを算出します。
 セシリアさんが右を撃ち、それを一夏さんが回避すれば、その瞬間からパターンは一気に限られてきますが、それでも可能性だけを見れば膨大で、無限大です。
 が、セシリアさんの性格と射撃技術と癖から導き出せばおのずと答えは絞られ、無限にあった可能性は、あっという間に有限となり、百に減り、十に削れて、一つにたどり着きます。
 コンマ何秒以下での計算と算出を求められることですが、ハイパーセンサーの支援を得ていればそれほど難しいことではありません。
 それでなくても、私はセシリアさんとブルー・ティアーズのデータは所得しているのです。
 戦闘経験が雲泥の差ではありますが、情報の有無と使い方によってその差を可能な限り埋めることができるように、今の私はあります。
 
 「うおぉおおおおおおおおおお!」

 凛々しい表情と掛け声を上げ、一夏さんは青い弾幕の中を最小限の動きでほぼまっすぐにセシリアさんに向かって突き進みます。
 しかしその起動は荒々しいながらも無鉄砲なものではなく、私から送られてくるデータどおりの軌跡を描いています。
 一番予想外というのであれば、一夏さんの実力なのでしょう。
 IS起動が確か二度目だとは思えないほどに自在に乗りこなしているように思えます。
 
 「くっ、突然なんなんですの!?」

 その起動にセシリアさんは驚きを隠せないようです。
 しかしそれは仕方のないことでしょう。今まで回避一辺倒で時折は直撃をしてしまうくらいのものが、特攻してくるのにもかかわらず、一切あたらなくなってしまったのですから。
 と、なればそろそろあれが出てくるころでしょう。

 『ブルー・ティアーズの腰部アーマーから熱源感知。BT兵器の展開が予想されますが、これはそれほど脅威ではないでしょう』
 「データを頼む!」
 『説明は要りませんか?』
 「あぁ。あんまり頼りすぎてても、駄目な気がしてな!」
 『良い心がけです。では、ヒントだけあげておきます。詳細を表示しても読んでいる暇はないでしょうからね』
 「違いない! でもその前にこっちの間合いだ!」
 『スラスター出力効率最適化。白式と一夏さんの踏み込みを見せてあげましょう』
 「任せろ!」
 
 どういうイメージを持っているのかは知りませんが、背部スラスターが一気に出力を上げるために武器発現のときとは違った種類の高周波を発します。
 そして壁をぶちやぶったような音響かせると、一気に彼我の距離をつめました。
 この試合始まってから一番の速度でしょう。
 さすがに近接戦の機体です。クイックブーストの速度は一級品のようですね。
 
 「な、はや――っ!」
 「うおおおおおおおおお!」
 
 数十メートルはあっただろう距離を一瞬でつめるような感覚だったのでしょう。セシリアさんは驚きの声を上げながら下がろうとします。
 ですが、初速が違うのならば、最大速度となった白式の前では無駄な努力というところでしょう。
 全力で振りかぶられた雪片弐型を一夏さんが刀身を出現させながら振りぬきます。
 
 「くっ、うぅぅ!」

 しかし、そこは代表候補生ともなるほどの腕前で、完全に直撃コースだったのを機体の状態を反らすことで無理やり回避して見せました。
 が、完全回避とはいかず、手にしていたスターライトmkⅢは真ん中から真っ二つに切断されました。
 長大な砲身ゆえの弱点ですね。
 攻撃手段を一時的に失ったこの瞬間、できれば追撃をしてもらいたかったですが、勢いをつけすぎたがために反転することもできずに勢いを殺しながらも結構な距離を離してしまいました。
 しかし戦果としては上々でしょう。

 「こ、の……っ! いきなさい、ブルー・ティアーズ!」

 背中を向けている一夏さんにセシリアさんは四機のBT兵器、ブルー・ティアーズという名のビットを射出しました。
 これがブルー・ティアーズの真価であり名前の由来でもあります。
 四機の自立軌道兵器は、セシリアさんの意のままに操ることができるとても優秀で強力な兵器なのですが、これにもしっかりと弱点があります。

 『BT来ます。では一夏さん、ヒントです。あの兵器はセシリアさんの脳波で制御されています。それがどういうことだか分かりますか?』  
 「ずいぶんと器用なんだな、でも――」

 それだけ言葉を交わすと、一夏さんは白式を反転させて、またもやスラスターを全力で吹かしました。
 これにもエネルギーは多大に消費されているのですが、一夏さんは何の迷いもないままに突撃しました。

 「制御されてるってことは、ライフルと同じだろ!」
 「言ってくれますわね!」

 すごく大雑把な結論付けですが、概ねあたりというところでしょうか。
 BT兵器がいくら優れた武装で、脳波で四機を操れるからといっても結局は人が操っているものです。
 なので気を反らせばそれだけであの兵器は無力化させられるのです。それに加えて使っているセシリアさん自体も使用するのに気を取られ、移動等が不可能になるのです。
 それを完全に理解しているわけではないでしょうが、先ほどのヒントへの答えがあれならば、突撃するという戦法はそれほど大きな間違いでないといえます。
 お互い正面からの突撃のために距離をつめる速度はすさまじいものがあります。
 なのでセシリアさんは、完全接近される前に、白式を迎撃しなければいけないわけです。
 効果的な武装を失っていますからね。
 後一つ武装があるといえばありますが、こちらはある種のばくちに近いものがあるでしょう。
 切り札といえば聞こえはいいですが、残されているカードはそれだけなのですから。
 それゆえに、途中、まだ白式の射程外からBTがいっせいにレーザーを放ちました。

 「言うさ! この速度だからな。射角さえ分かっていれば、それくらい避けられる!」

 ですが、それすらも私と白式の計算の前には予測されすぎた攻撃。
 一夏さんの反応速度を持ってすれば、勢いを一切失うことなく回避することが可能です。
 レーザーが直撃するかというタイミング、一夏さんは白式を錐揉みさせて絶妙なタイミングで腹辺りを掠めるようにレーザーをかわして見せました。 

 「!?」
 「はぁ!」

 気合一閃。
 こちらを確実に撃ち抜くためにと密集させての射撃が完全に仇となって、錐揉みした勢いで一夏さんによってBT四機は一太刀のもとに切り伏せられました。
 制御下を離れ、自らを維持することすら難しくなったBTがふわりと最後の舞いを披露し直後爆発飛散しました。
 それを尻目に、勢いを殺していないままで一夏さんは武装を持たないセシリアさんに止めを刺すべく突進します。

 「ふ……かかりましたわね!」
 「――っ!」
 「ブルー・ティアーズは全部で六機あるのですわ!」

 これぞセシリアさんの最後の切り札。ブルー・ティアーズ唯一の実弾兵器。
 廃熱口のように見えた丸みの帯びたそれが、がちゃりと構えられると、突進する一夏さんへミサイルを発射しました。
 タイミング、距離ともほぼ完璧で、あの速度では間違いなく回避はできないでしょう。
 ですが――

 「分かっていたさ!」
 「な――ぁ――!?」
 
 発射され着弾するかというタイミングで、一夏さんはわざわざミサイルを真っ二つにしました。
 それだけでもセシリアさんは驚きでしょう。私もちょっと驚きました。まさかあれを予想していたとは思いもよりませんでした。
 おそらく一夏さん自身も予想していたのでしょう。
 そして、何が来ても切り裂いてしまえばどうということはないと踏んでいたのでしょう。
 ブルー・ティアーズの攻撃はぶっちゃけ白式の前では無力ですからね理論上ですが。
 
 「もらった!」

 切り裂いたミサイルが制御を失って後方にゆらゆらと飛んでからBTと同じように爆発飛散。
 その爆風を利用するかのごとく、最後の一歩を踏み込んで、雪片弐型を振り下ろしました。

 「くっ! な、なぜ――!」

 最初に回避したときのように必死になって機体をひねらせて回避しますが、今回もやはり完全には避けられず装甲を斬られます。

 「負けられないからな。俺は!」
 「え――きゃあ!」

 動きが鈍った隙を今度こそ捉えて、さらに追撃。回避しようとして、身をよじりセシリアさんは肩アーマーを切り裂かれます。

 「こいつを使っている以上、負けられない!」
 「な、何を言って……!」
 「ここまで守られてるんだ。まだ俺には何もできない。でもまずは一つ、ここで勝って、千冬ねぇの名前を守る!」
 「きゃああああああああああああ!」

 裂帛の気合とともに放たれた袈裟斬り。
 速度、踏み込みの勢いとともに申し分なく、雪片弐型のバリア無効化攻撃をもってシールドを切り裂き、ついにブルー・ティアーズは地面へと落ちていきました。
 エネルギーがゼロになったことを確認したんでしょう。ブザーが鳴り響きアナウンスで白式と一夏さんの勝利が宣言されました。

 「やったのか……俺?」

 肩で息をして、振りぬいた姿勢のまま、やや呆然としながら一夏さんは呟きました。
 戦っている最中は必死だったのでしょう。
 すべてを出し尽くしたという感じですね。 

 『はい。完全勝利です。お見事ですこちらも残りエネルギーが百を切っていましたが、初戦これならば上々といえましょう』
 「そう……か……」
 『気分はどうですか?』
 「悪くない……かな」
 『それは何よりです』
 「セシリア大丈夫かな?」
 『バイタルは安定しています。落下の衝撃で気を失っているようですが、大きな怪我はありません』
 「そっか。それならよかった……」
 『結構余裕そうですね』
 「そんなことないさ。でも落ち着いてきたら……なんかさ」
 『うれしくなってきましたか?』
 「んーいやなんていうのかな…………あ、そうだ君子」
 『はい?』
 「ありがとな」
 『今の流れでお礼を言われる理由がいまいち分かりませんが、どういたしまして』
 「ははは」
 『織斑君、おめでとうございます』
 「あ、はい。ありがとうございます」
 『お疲れのところ申し訳ないんですけど、オルコットさんを回収してピットに戻ってきてください』
 「分かりました。すぐに行きます」
 
 ふぅ、これにて状況終了ですね。
 やっている最中は結構勢いでどうにかしてましたけど、終わってみるとやっぱり実感がわかないものですねぇ。

 『それにしても……』

 ゆっくりと下降していく白式の、一夏さんの視界ははるか上空から地面を見下ろす感覚。
 それと同じ視点に今私はいるんですね。
 風を感じたりすることはできませんし、自由に動かせるわけでもありません。
 ですが、ISの視点。それをこんな形ではありますが、初めて見ることができたのです。
 なんともいえない感情が胸の中にある気がしますが、不思議とそれは心地の良いものでした。
 
 『悪くない……ですね』
 「ん、何か言ったか?」
 『いいえ何も。さぁさぁ早く回収して戻りましょう』
 『そうだ。早く戻れ。貴様には聞かなければいけないことが山ほどある』
 『………………一夏さん。緊急離脱です』
 「は!?」
 『あそこに戻るのは危険です。白式のハイパーセンサーもそういっています。えぇ間違いありません』
 『織斑。逃げたらどうなるか分かっているな?』
 「…………りょ、了解」
 『ひぎぃ……』

 無駄な抵抗むなしく、自由の利かない私は結局ピットへと行くしかありませんでした。
 ところでこれ、元に戻れるんですよね?






[27287] インフィニット・ストラトス とべない少女(オリ主)8
Name: 過敏◆d0d26ae3 ID:ec57abb8
Date: 2011/05/17 20:33


 女体の神秘に首っ丈な思春期少女、天同院君子です。
 今日はすごく天気が良いです。空を見上げれば雲ひとつない青空が広がり、風は爽やかでやわらかく、時折髪をいじってほほをくすぐってきます。
 なんと爽やかな日でしょう。
 こんな日は外に出て、散歩や木陰で読書などと洒落込むのもいいかと、インドア派の私でさえ思うくらいの好天気。
 しかし、現実は非常に無常だったりします。

 「あーうー」

 天同院君子十五歳、身長163cm、体重53kg、スリーサイズは上から86、64、88です。
 IS学園に通っている健康的な少女たちと比べれば、少々だらしのない数値かもしれません。
 そんなだらしのない私は今現在だらしなくベッドの上にいたりします。ただし病院の。
 
 「どうしてこうなったんですかねぇ……」

 決闘の後、元に戻れるかどうかということは特に問題はありませんでした。
 ISを待機状態にする前に、ISで私の体に触れることによって、ファンタジーチックに意識が回復したのです。
 ですが、問題はそこからでした。
 無理に無理を重ねたこともあったのか、意識が戻ってやったーと喜びを表そうとした瞬間、体中から異常警報が発せられ、私は問答無用で意識を失ったのです。
 唯一の救いは一瞬で落ちたこともあって痛みを感じなかったことですかね。
 そうして次に目を覚ましたのはいつぞやと同じ病院のベッドの上だったということです。
 違いといえば体がほとんど動かないことですね。

 「由々しき事態ですねこれは」

 体が動かないといいましたが、誇大表現ではなく事実腕一本足一本動かせない状態です。
 ぎりぎり指を動かせはするので何かあったらナースコールを発することはできますが、現在ではPCはおろか本を読むことさえままなりません。
 あぁそうです、先にだらしのない体といいましたが、それはあくまでもIS学園の運動をしまくっている健康的な少女たちと比べれば、です。
 一応定期的な運動はしていましたので、肥満体質ではありません。
 むしろデータ的には肥満度はマイナスを示しています。つまりスリム体系なわけです。
 そこそこバランスの良いおっぱいに、ややぷにぷに肉付きのお腹はおそらく見る人が見れば欲情間違いなしでしょう。
 無駄な肉といえばそうなのですが、このくらいのほうが子供ができたときにも肉体的には安全だと思います。
 本来女性の体は筋肉がつきづらいものですし、戦うよりも守ることを主とした性別ですからね。
 ISができてしまった今が異常といえるんです。
 なので私は性癖以外は結構一般人だといえます。マジョリティです。

 「しかし暇ですねぇ」

 少し前に一度ナースコールをやって看護師さんと一方的に楽しい時間をすごしていたのですが、さすがに看護師さんも暇ではないので二度目は無理です。
 それくらいの常識は持ち合わせています。残念ながら。
 時間は現在おやつどきの三時を少し回ったところです。
 学園では今最後の授業が終わりを迎えるころでしょうかね。
 
 「それにしても……」

 こうなってよかったのか悪かったのかという感じです。
 結果的にはすべて良い方向へといったと思います。私が千冬先生への説明が先延ばしにされたこと以外は。
 あんなふうに意識をISに移しておきながら何事もなかったかのように元に戻せましたし。
 一応検査では異常は見られていません。体が動かないのは極度の疲労からくるものといわれています。
 もっとも、疲労は何をしたらこれほどたまるのか分からないといわれるくらいでしたが。
 しかし意識ははっきりしていますし、眠気もがっつり寝てしまったので特にありません。
 そりゃあ一日眠りこけていればそうですよね。
 
 「ふぅむ」

 しかしながら、あれはやっぱりどういう原理でなっているのか想像もできません。
 触っただけで意識が移るとかどうなってるんですか。
 白式以外でもできるんですかね?
 やったとして同じように行き来は簡単にできるんですかね?
 試したいと思う反面、無理だったときのリスクを考えると思い切ってやるーといえそうにはありませんが。

 「これでおっぱいが触れたり触れなくても、その感触を感じられたら迷うことなんてないんですがねぇ」
 
 実際は感覚があったのはキーを入力しているような感じがあるだけで、一夏さんの肌の感覚とかなんて一切ありませんでした。
 体温等は数値で分かりますがそういうことじゃないですからね。
 考えれば考えるほどなぞは深まります。
 
 「そういえば……」

 セシリアさんのISに触れたとき。白式に触れたとき。どちらに触っても同じように何かが私の頭に直接流れ込んでくるあれ。
 あれもどういう原理なのか分かりませんが、あれは間違いなくISに保存されているデータでした。
 あまりにも膨大で、一方的に送り込まれてしまったがために、準備をしていなかった私の体が耐えられず最初は倒れたのでしょう。
 二度目に苦痛を伴ったのはその前にうさぎっぱいからのデータ送信のせいということもあったのでしょう。
 ということは、万全の体勢を持ってすれば、意識をもっていかれることはないのでしょうか?
 そしてその状態であれば、ISのデータ収集を行うことができるんじゃないでしょうか?
 まぁ収集したから何なんだというところではありますけどね。

 「分からないことだらけですねぇ」

 仮説は立てることはできますが、結論に至りません。
 まぁ情報が少なすぎますし、実験することもできませんからどうしようもありませんけどね。
 一日中ベッドの上で過ごせる自信はありましたけど、暇って結構強敵なんですねぇ。
 あ、あの雲なんだかおっぱいみたいですねー
 なんてことを思っているときでした。
 
 「おや?」
 
 なんだか妙に部屋の外が騒がしくなりました。どたどたと病院では聞けないような騒音が近づいてきました。
 そしてそのあと数秒もしないうちに、空気の抜けるような音とともに扉が開け放たれました。
 その直後――

 「げぶふぅ!」

 何か妙に質量のあるものが私のお腹辺りに飛び込んできました。
 すさまじい衝撃です。体がくの字に折れ曲がってしまうくらいです。

 「てしちゃ~~~~~ん!」
 「げっほげっほ……こ、この妙にぽわぽわした声は……のんさんですか」
 「君子さん!」
 「そしてセシリアさんまで」
 
 なんと現れたのはこのお二人。
 セシリアさんは先日ぶり、とはいえIS越しでまともに顔合わせしたわけではなく、のんさんいいたっては六日ぶりですか。
 
 「おきてるよ~てしちゃんがおきてるよ~」
 「おおう、起きてますよー起きてますからもうちょっとぎゅっとしてください」
 「うん~」
  
 言われたとおりにぎゅっとしてくれるのんさん。あぁ、素敵でやわらかくも大質量のおっぱいが私の体に押し当てられて……なんという幸せでしょう。

 「そ、その調子なら大丈夫そうですわね」
 「はい。おかげさまで」
 「んい~てしちゃんだよぉ~やわらかだよぉ~」
 「はい、あなたのてしですよ~だから思う存分抱きついてくれていいのですよ~」
 「うん~」
 「…………相変わらず表情に動きがないんですのね」
 「これが私のあいでんてぃてぃ」
 「そんなものをアイデンティティにしないでください……」
 
 勢い込んできたのですが、結局セシリアさんはいつもどおりため息をついて落ち着きました。
 
 「ふむ、思ったよりも元気そうですね」
 「どういうことですの?」
 「いえ、先日は一夏さんに負けてしまったじゃないですか」
 「あ……あぁ、そ、そのこと、でしたか……」
 「ふむ?」

 何なんでしょうこの反応は?
 敗北の話をふられて居心地が悪そうになっているというわけでもなく、何でしょう頬を赤らめてもじもじしています。
 この反応はすごく最近見た気がしますが……はてどこだったか……。

 「君子、おきてるか?」
 「おや、この声は一夏さんですかね。どうぞ入ってますよ」
 「入ってるって、ここにお前がいなかったら誰がって、セシリアに……君子に抱きついてるのは、のほほんさんか?」
 「ぷはっ。堪能したよ~ってあれ、おりむーだ?」
 「あ、い、一夏さん!?」
 「おや、一夏さん、それに箒さんではありませんか。どうかしたんですか?」
 「いやいや、お見舞い以外ないだろ」
 
 といいながら手にしていた籠を掲げました。
 そこには定番の果物一式がそれっぽく見えるように収納されていました。律儀ですねぇ。

 「ん、ということは、皆さんお見舞いだったんですか?」
 「それ以外何があるというんですの?」
 「いえ、暇つぶしかと」
 「むしろ暇をつぶしたいのは君子じゃないのか? あ、何か食べるか?」
 「ではドリアンで」
 「さすがにドリアンはないぞ」
 「えー」
 「ドリアン好きなのか?」
 「いえ、別に」
 「…………り、りんごでいいか?」
 「はい。お願いします」
 「うさぎさんがいいなぁ~」
 「はは、了解」
 「……」
 「箒さんは相変わらず無愛想ですねぇ」
 「ふ、ふん。生まれつきだ」
 「そうなんですか、一夏さん?」
 「なぜそこで一夏にふるんだ!」
 「うーん、生まれつきかどうかは知らないけど、小学校のころから結構むす、っとはしてたかなぁ」
 「一夏も答えるな!」
 「可愛いだけに少々もったいないですね」
 「ね~」
 「ふん……」

 そんな会話をしながらも、一夏さんは適当においてある椅子に腰掛けて、果物ナイフを器用に扱ってりんごの皮をするするするーと途切れることなく剥ききってしまいました。
 ナイフを扱う動作にまったく無駄を見受けられないことから一夏さんの家事スキルの高さを伺えます。
 これは、見る人が見れば高得点ですね。

 「よし、剥けたぞ」
 「はい、では食べさせてください」
 「は?」
 「え?」
 「な、なんだと!?」
 「てしちゃんはあまえんぼーさんだねぇ」
 「私は誰かのヒモになりたいとさえ思うくらい甘えん坊です」
 「ちょ、ちょっと君子さん!」
 「どうして一夏がお前に食べさせなければいけないんだ!」
 
 おおっと、なかなかに迫力のある表情で顔を赤くしながら二人が思い切り迫ってきました。
 箒さんは前から分かっていたことですが、ふむ、これはセシリアさんもそうなんですかね。
 
 「私は別に一夏さんに食べさせてくれといったわけではないですが――」
 「あ~~む!」
 「な、あ……っ」
 「しかしそうなると、一夏さんが私にりんごを食べさせることがお二人には不都合があったりするんですかね。にやり」
 「あ、相変わらずあなたという人は……!」
 「おいひ~」
 「ま、まぁまぁ二人とも。たかだか食べさせるだけじゃないか」
 「あ、その台詞は――」
 「「一夏(さん)は黙ってろ!(てくださいな!)」」
 「は、はい」
 
 二人にすごまれて、さすがの一夏さんも黙らざるを得なかったようで、背筋を思い切り伸ばして返事をした、というかさせられました。
 しかしお気の毒とは思いません。むしろこれ、自業自得ですよね。
 
 「もしかして君子さん……あなたも一夏さんのことを……!」
 「く……っ!」
 「そうなったら面白そうではありますが、残念ながら今のところはそういうことはありませんので安心してください」
 「今の、ところはということは、いつかは……!?」
 「人の心は移り変わりの激しいものですからね。そして明日はどうなるかなんてわかりませんので確実にないとは言い切れません」
 「た、確かにそのとおりですが」
 「まぁそれはさておき、実を言いますと、私体が今動かないんですよ。疲労困憊ってやつです」
 「「「え?」」」
 「なので、りんごはありがたいのですが、口まで運んでいただかないと食べられないんですよ」
 「そうだったのか。あの後いきなりぶっ倒れたのはそういう理由もあったからなんだな」
 「はい。おかげでのんさんが抱きついてくれたのにもかかわらずアクションを起こせませんでしたし」
 「そうだったの、てしちゃん……?」
 「申し訳ありません。本当は心行くまでなでなでしたかったんですが」
 「う~ごめんね。それなのに飛びついちゃって……」
 「気にしないでください。うれしかったですよ?」
 「ほんと?」
 「本当です、ですので良かったらもう一度どどんと来ちゃってください」
 「うん~!」
 
 返事は割りと勢いよく、しかし今度はぽすりと私に抱きついてきました。
 あぁこういうところが癒されますよねぇ。食べてるだけがのんさんじゃないのです。

 「えへへ~」
 「さてみなさん。この光景を見て癒され落ち着いたと思いますが」
 
 と視線を向けてみれば、箒さんもセシリアさんも少しぽけ~っとしてました。やはりのんさんパワーは偉大ですね。
 唯一一夏さんだけが良く分かっていない表情をしていましたが。
 
 
 そのまま全員で他愛のない話をして、日が落ちる前になったのでそろそろ解散するという話になりました。
 いくら学園に近いからといって、いくらISを持っている人がいるからといっても夜道は避けるべきですしね。
 少々名残惜しい気持ちはありますが。

 「それじゃあな君子。早く動けるようになるといいな」
 「そうですね。まだ私、三日しか学園にいってませんし」
 「まだ一週間ちょっとしかたってないのに、すさまじい欠席率ですわね」
 「実に私らしいですよね」
 「誇れることではないだろう……」
 「あっはっは」
 「相変わらずの笑い方ですわ……」
 「ねぇねぇてしちゃん」

 みなそれぞれの言葉を口にして退室しようとしている中、のんさんとてとてと私へと歩み寄ってきました。

 「どうしたんですかのんさん?」
 「てしちゃんあんまり無理しちゃ駄目だよ?」
 「無理してるつもりはなかったんですが、この状態では説得力はありませんよね」
 「全然ないね~」
 「まぁでもしかし、人間やらなければいけないときもあるというやつです」
 「倒れるまで?」
 「どうなんでしょう。倒れたのは結果なだけですからね。もしかしたらもっといい方法があったのかもしれません。とんと思いつきませんが」
 「そっかぁ。でもできれば思いついてほしいなぁ。いつも一人で寝るのって寂しいしね~」
 「むぅ、そういわれてしまうと弱いですね」
 「えへへ~」

 のんさんは相変わらず不思議な子ですね。
 ただのド天然かと思えば、こうして癒しも交えて道をちょっとずつ指し示してくれます。
 まだであってあわない日を除けば三日です。
 だというのに私はもう二回ものんさんに道を教えていただいています。
 三日でこれなんですから、一年経つ頃にはいったいどれくらいになっているんですかね。
 膨大な数になっているのを想像するのも楽しいですが、その頃には自立できるようになっていたいものです。
 楽しむ、ということを実現する為にも。

 「あ、わたしもここで寝ちゃえば寂しくないよね」
 「確かにそうですが、病院の許可と学園の許可とが必要になってきますよ?」
 「世知辛い世の中だよねぇ」
 「まったくです」
 「本音さん、そろそろよろしいですか?」
 「名残惜しいけど、そうだね~。それじゃあてしちゃんまたね~」
 「はい。あ」
 「?」
 「今日はセシリアさんが一緒に寝てくれるそうですよ?」
 「はへ?」
 「ほんと~?」
 「セシリアさんに二言はありません」
 「わ、私は何もいっては……」
 「うわ~い! それじゃあお菓子いっぱい用意しておくね~!」
 「う、あ、いえ、その………………あーーーもうどうにでもなれですわ!」
 「あっはっは」

 そうして、騒がしかった時間は終わりを告げました。
 
 「……ふぅ」

 残っているのは静寂と耳鳴り。 
 人とのふれあいってやっぱりすごいですね。久しく忘れていた感覚です。
 IS学園にきてから、なんだか私、すごい普通じゃない経験をしながら、普通の人っぽくなっている気がします。
 茜色に染まった空を見上げると、時間が過ぎたことを思い出してしまい、先ほどまでの騒がしさが恋しくなってしまいます。
 
 「あの子のいっていたことが少し分かりますね」

 あの子、白式に触れたときに見た夢、幻のような一瞬の現実に現れた少女。
 名前はもちろんのこと、顔すらもまともに見ることがかなわなかった少女。
 その子が言った、現実は辛くて痛くて苦しいもの。だけど楽しいから現実だということ。
 その片鱗を少しだけ味わった気がします。
 
 「悪くは、ないものですね」

 悪くない。
 そう、悪くないです。

 「早く元気にならないとですね」

 まだ日は落ちきっていませんが、妙に眠くなってきました。
 満足したからなのか、落ち着いたからなのか、それ以外のことなのか、てんで分かりそうもありませんが。
 今はただ、この胸の中にある充足感を感じながら眠るとしましょう。

 おやすみなさい。



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