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[28072] 光菱財閥奮闘記!! 【9月25日 本編更新】
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/09/25 15:32
【光菱財閥奮闘記!!~1980年から頑張って~】
はじめまして、カバディと言います。

ここの先輩方の作品を読んで、感化してしまったしがない学生です。

初作品ですので拙い所ばかりになってしまうとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。


------本編に入る前に簡単な初期設定とお話の流れを--------

主人公は転生系に近く、「攻殻機動隊」という作品世界の2030年からマブラヴ世界の1980年へ、というお話です。

いろいろな世界の知識を持っていますが、ある問題のため欠落が発生しています。題名のとおり、原作でも出てくる光菱重工は財閥系企業として、その財閥に奇妙な習わしがあったなら…というお話になります。

話の流れとして~

主人公が知識チートを持ち、大きな権限を与えられますが、それだけで対抗できるわけもなく…いろいろな分野で四苦八苦しながらBETAという怪物を抑え込もうという、ちょっと現実味のある話を目指してます。

BETAが原作に隠された成長力を持ち、主人公がいかにその知識を活かして人類を導き、進化・物量チートのBETAに対抗するかが主題のため、どうしても内政・政治がメインとなり、戦闘が極端に少ないです。


――読者様に読み始めていただく前の注意事項――

1、主人公知識チート

2、この「現実世界の軍事技術で太刀打ちできない敵」がBETAとし、マブラヴ本作品よりもBETAが強い設定orそれ相応の人類が負けている理由を独自解釈している

3、上記の理由により独自設定だらけである

4、恋愛要素はない

5、自分なりに適度に現実的(笑)な物語にしなければと考えているため、所々否定的な面がある

6、マブラブの設定を借りた、オリ主によるオリジナル作品に近い作風のため原作開始時点にはもはや、原作開始時点からかけ離れたものとなっていることが予想されること

7、主人公がBETA大戦での人類を導く行政官でもあるため、戦術単位の戦闘描写がほとんどなく、外伝に戦闘描写を織り込もうとしていること


8、また上記にある通り、BETAの強さがUPしているので筆者の実力不足により少しご都合主義になってしまうかも?ということ


このような話となる予定のため、上記の内容が気に入らない読者様は大変心苦しいのですが、ご遠慮戴いたほうがよろしいかと思います。




※また、本編の内容に「ここはおかしいだろ」「こうしたほうが良いのでは?」等の感想・改善点に関する質問・疑問は大歓迎です。
コメント欄で受け答えを行っておりますので、読んで頂けたらと思います。すこし…ネタバレしたりしていますし…

気軽にコメントしていただければ励みになります。



最後に、自分の実力をつけるためなのですが長い目で見て頂けたら助かります。


では第1話をどうぞ

*********************************

BETA
-Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race-

サクロボスコ事件が発生した1967年に命名された「人類に敵対的な地球外異星起源種」と呼ばれる、人類歴史学上最大の危機を生み出す敵対的宇宙生物。

人類が初めて遭遇した地球外生命体であり、数多あるパラレルワールドの中で人類を滅亡の淵に追いやってきた、非炭素生命体からの殺戮の使者。その醜悪な見かけに相まって、純粋な暴力と物量による蹂躙は人類の半数を死に至らしめてさえ、止まることを知らない。

その人類の死神たるBETAから極東の島国を守るべくある儚い電子精霊が、多重世界から一つの奇跡を手繰り寄せようとしていた。

~《第16次元世界管理者日記より抜粋》~



1980年の1月7日、俺はこの日を一生忘れることはないだろう。
本来であれば生まれているわけがないこの時代、「昭和とか日本が幸せな時代じゃん。好景気に浮かれていられたんだろ?良いなあ」程度にしか思っていなかった歴史の一部であるはずのその年になぜ俺が関わってくるのか。

それはその日に俺がこの世界に"来る"はめになったからだ。

………いきなりのこの一文では何を言っているのかわからないだろうが、それが事実なのだから仕方ない。

俺の名は光宮 孝明。

本来ならば違う名前があったのだが、今書き記している時点の記憶には薄れてしまっている。転生?いや違う。どちらかと言えば憑依・・・になるのだろうか。

もちろん神様がいて「ごめんなさい 代わりに力を(ry」みたいな展開ではなく、事故という契機が合ったわけでもない。

いきなり人格と記憶だけ拉致られたのだ。
しかも今の体に入れられ、その体の持ち主の人格と融合してしまったらしい。

らしいというのは、この同化。俺をこの世界に呼び寄せたマリヱという人物(?)が言うには、天霊祭というバカげた儀式に捧げられた光宮 孝明という子供の精神を俺が乗っ取ってしまったハプニングらしいのだ。

…まあそんな小さいことはどうでも良い。

なにを俺言いたいかというと、『俺』はいきなり拉致されてこの世界に連行されてきたってところだ。

今でも「どこの独裁国家だっ!!」と遺憾の意(?)を表明したくなるが、マリヱという存在がある意味、国家を超越した存在であるからして裁ける人間もおらず、もはや時効と化しているのが笑えない。

そもそもマリヱという存在…人からは『神』と崇められ、実際は地球外生命体の残したオーパーツ《多元宇宙からの贈り物》らしく、もはや笑うしかない。

彼女が言うにはその星々に宿った生命が星外から来た脅威に対処するために作られた…らしいのだが。

その能力は、天霊祭を施行することで、平行世界から『記憶』を手繰り寄せ、契約者に与えるという、仮想ファンタジー的拉致行為であるのだが、その被害者が俺で、その記憶に『俺と言う人格』が憑いてきて人格が変わってしまった、ということだ。

マジで元の孝明くんと俺、可哀そうである。

まあその当時はパニックたあと当然のように怒ったわ。

孝明くんの事情も知らないし、いきなり連れてこられて頭痛いし、周りは森で、頭痛いし、目の前はどデカイ木がそびえ立っていたと来たものだ。

「はっ?」となってもおかしくないだろう。


その後、マリヱが出てきて一応の説明がされて…それにキレて八つ当たり。「早く家に帰せよ」ってね。

俺にだって人生があった。今じゃかなり忘れているが、俺が元いた世界は西暦2030年、光や電子となった意思をくみ取ることが出来る時代。

つまりは電脳化が進み、サイボーグ化がリアルと化した世界であり、その世界の日本に暮らしていたのがオレだったのだ。

そしてその時代の自分は、最先端のテクノロジーを駆使した電脳をもつ最先端サイボーグであり、少し後ろめたい過去を持つ新大学生だった。

家族構成は親無しで妹一人、その妹を養うために日々働きながら大学に通う苦学生だったのだ。

確かにこうして見ると捨ててきて良かったのかもしれない人生だ。お先真っ暗でもあったわけだし。…だが妹がいたし、いきなり「あなたは異世界にきました、帰れません」で納得するわけがないだろう。

だからマリヱに対してキレたのだ。893並の言葉を吐きながら。


だがマリエの「そうか・・・じゃあ記憶を消すか」とボソッと言われたことで
話し合いは決着。
マリエに泣き土下座をする羽目になった。

…確かに他の者から見ればシュールだろう。マリエは他の者から見ることが出来ない。

先ほどまでヒステリックにやられた9歳の子供がいきなり、木に向かって泣きながら土下座しているのだ。

俺付きのメイドさんが祭りの失敗と思うのも致し方ないと思う。

パニックにやられていたのは俺も同じであり、サイボーグであった身体がいきなり生身に変わって、しかも9歳という幼い身体。

周りはさっきの通りでマリヱの足は無く宙に浮いている。

頭は頭痛が駆け回り、電脳化していたために、儀式によって与えられた膨大な知識と知識が脳内を這いずり回っていた。

電脳世界で疑似的に経験できるデータとしての記憶ではなく、しっかりと時間をかけて培い、死んでいった現実の記憶が生身となった慣れない脳に過負荷をかけ、脳が混乱していたのだ。


そんな慣れない、わからない、知らない世界に来た俺。
混乱しますって。えっ?なにが一番混乱したかって?

そうだな…う~んこの身体?いきなり生身に変わっちゃったし。いや違うか…マリヱの足がない。これも違うな…


あっそうだっ!その後のマリヱの言葉が一番混乱したんだ。







「ああ、そうだそうだ。言い忘れておったな。お主の役割は日本を救うこと、ひいてはこの世界に来たBETAという異形の地球外生命体を殺しつくことだからな そこのところよろしく頼むぞ」











いや、
いやないない、いやだってね、あれだよ?100歩譲って、アニメや漫画の世界に来ちゃいました、これならわかる。いきなり生活や社会が変わっている世界、大変そうではあるけど大抵は魔法や、超能力など夢が溢れてる。生きる希望があるってもんだ。

でもBETAつったらあれだよ?マブラヴオルタなんていう人類のほとんどが食べられちゃって滅ぶのがデフォの作品なんだぜ?

ええええええええええええええっ!!!でしょ、しかも「マブラヴ世界に来ちゃったよ君」ってカミングアウトしやがったんだぜ?加害者が。

もうね、聞いた時はファビョったね。日本人なのに。今は笑い話のように居酒屋で言う自分の失敗談なんかのノリで話せるようにはなったけど、当時は悲惨な醜態さらしたもんだ。

地獄直行便まっしぐら人類に乗りこんでしまった俺…「どうすんだこれっ!!死んじゃうじゃん俺っ!!」になるでしょうに…


さて寝るか

《続く》


*******************************************************

次元管理電脳より追加報告

%7$# ※訂正しました※B‐147C世界・地球「マブラヴ世界」において

称号「救世主」が誕生しました。NEW!!

進化生命体NO・12「人」を管理する電子精霊#$(%#$(% ※訂正しました※人類俗称「マリヱ」がアクセスに成功しました。NEW!!


召喚した「救世主」に人格が発生。主人格がC-178D「攻殻機動隊世界」のものとなりました。NEW!!

これより情報収集に入ります。モードはどのようにいたしますか?


情報収集モード「制限B」―――了解。
次回報告から「救世主」周辺の情報補助を開始します。


救世主への補助はどのようにいたしますか?

―――了解「補助は一切なし」ハードモードとなりました。



「救世主」…視点変換…俗称を「主人公」に変更します。

《主人公ステータス》

身体データ・不明

精神:混乱中です・全てを把握できません



―――では《ストーリー》をスタートします。

※注意※
この作品は多重現実世界で発見された生命体が属する「地球」内におけるノンフィクションドラマです。

我々に似た進化型生命体「人類」を使った、生きた役者によるノンフィクションの物語のため、一部グロテスクな描写が発生することが予想されています。そのような描写があるため、成人年齢200歳を超えないお子様にお見せすることはおすすめできません。

万が一ですが、「人類」に同情的になった場合、このストーリーに干渉することは最初の投票結果による「初期設定」しか許されておりませんので、干渉することを禁止されております。


上記の項目をお守り頂ける方のみ観察できるストーリーとなっておりますのでご注意ください。

最後にこれから始まる物語は今現在、どこかでおこっているものをまとめた現実物語です。その臨場感をお楽しみください。

次元管理電脳から報告を終了します。
*************************************



[28072] 第Ⅰ章<始動編> 2話 契約 《7/6改訂更新》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/07/06 18:32
「マブラヴ」という作品がある

ストーリーは主人公である白銀武が彼の生きていた世界の平行世界に迷い込んでしまい、その平行世界で世界を滅ぼそうとする、陸戦型劣化宇宙怪獣(BETAとも言う)と戦う物語。

それが俺が知る、俺が巻き込まれたこの世界のあらすじだ。

ここで浮かぶ一つの疑問、2030年から来た者である「俺」が、この世界であるマブラヴという作品をなぜ知っているのか。

だが、唯一の趣味となった「ネットダイヴ」で情報の海の中から掘り出した、30年以上前のレトロ小説書庫に入っていたからだと言えるだろう。

その中でもお気に入りとして登録していたマブラヴという作品。

その作品は原作で起こったエロゲーとは思えない頭パックンチョ事件は、ある意味で新しい次元を開発した作品だと個人では思っている。(えっ?)

そのマブラヴについてだが、この作品の本編を簡単に説明するにあたって、元の世界のギャルゲ風な話と平行世界の軍事的な話の一周目とその経験を活かした二周目の話に別れている特徴があげられる。

人気のある二周目(マブラヴ オルタネィティヴ)では、一周目の知識と後悔が大半となっている経験を活かし、主人公が地球を救うために努力し、結果、多大な血を流しながらもBETAの司令塔である上位存在を見事撃破して終わっている。

しかしその結末はハッピーエンドでは決してなく、
"多大な血"の中にゲーム内のヒロインほぼ全てが入っているという、エロゲーでも珍しい「ヒドい結末」が最も良い"結果"となるヒドく現実的なゲームでもある。

言ってしまえば、主人公が主人公らしく未来知識を活かしてオレTUEEE!!しようとした。

が、人類のウチワモメに巻き込まれるという現実的な流れによって主人公の働きも虚しく、BETAが人類に対してオレTUEEE返しをされる結果になる話だ。(えっ?えっ?)


そんな物語という物の中で、最強の概念生物である「主人公」でもハッピーエンドは無理であるストーリーの中に、紛れ込んだオレ…

未来の知識を持つだけの個人など、禁則事項ごと光線級によって薙払われるのは、必定であるこの世…

どうすんだょぉおおおお!!!!!である。


たまたまオレが昔の作品が好きな少年(決して金がないから無料電子図書で読み漁っていたからではない)だったから良かったものの、原作知識が無ければ調子にのって「オリシュュュュユ!!万歳っ!!」と叫びながら戦車級のお口にダイヴしていたはずだ。




そんなことでこの世界が「マブラヴの世界」であると知らされた俺だが、その後の数日も混乱が続いたのは言うまでも無いだろう。


最初の混乱もあったけどマブラヴ世界ってのが拙かった。なにせ若い奴らのほとんどが戦場で御臨終するこの世界。最前線では女子高生が銃を持って錯乱して、結果喰われているのがデフォな世界だ。

そんな世界を救ってほしいと言われたのだ。なんの冗談と思うだろう。

それから考え、己の立場を十分に説明せず「助けて」なんて義務だけ言われた時には

「生きていくには軍に入るのがデフォなんだろうな~」と他人事のように思えたことを今でも思い出す。

だがだ。俺はそこまで楽観主義者ではない。
まず俺が思ったのは俺が衛士になれるのか?という根本的な疑問だった。
原作やいろいろなパラレルワールドでは出てくる登場人物は当然のように戦術機に載れる衛士になれていたが、ちょっとまってほしい。

衛士というのはエリート中のエリート、身体能力に優れた戦闘機のパイロットでさえ、ほとんどが合格できない特殊な才能、衛士特性が必要なものなのだ。

文字通り万に一人しか持ちえない衛士特性を、この俺が持っているとはどうしても思えない。

それは虚弱体質であるこの体のこともあるが、何より乗り物酔いしやすい体質だったのだ。身体が戦術機を拒絶していたわけだな。

それを知らずに、恵理子というメイドに

「俺衛士になったとしてBETAを倒すとしたら、いつから軍に入れば良いか
な」と聞いたら、

「坊ちゃま…まずは身体を鍛えるところからはじめましょうね」
と優しい目で見られたことを忘れない。あれは絶対心の中でなれないことを確信していた目だ。

などと、もはや恥ずかしい黒歴史と化している。
他にも自慢じゃないが精神的にも俺は軍人には向かないと自負している。

このご時世、国民に愛国心を呼び掛け、半強制的に戦場に送り出す世の中に『愛国心』の欠片ももたない人間がなじめるはずないし、なにより俺は恐れている。

なにを?死ぬことをだ。


戦場、前線に出ることはすなわち死に行くようなこの世界。もし仮に俺が、スーパーエリートソルジャーであり超合金スーパーロボットに乗って来訪したとしてもBETAに勝てるなどという満心を抱くことはないと言いきれるだろう。確実に逃げる。


たかだか一機や二機程度でこの戦争を終わらせられるとは到底、思えないし、その操縦者が俺であればもしかしたら死ぬかもしれないからだ。

そしてその当時知らされていたのはただ、身体少し頑丈で頭の回転が良く、知識がたくさんあるということだけ。絶望したね。これは死ぬって。

知識など、十分に使える立場でなければ即座に情報を活用できるわけではない。

そこまで這い上がるには時間が必要だし、この体はたかが8歳。国や企業が素直にこちらの言うこと聞くとは思えない。ていうか聞いた方が不気味だ。

仮に身体が成長したとして、だ。

知識があるとしてどこかの企業に売り込むか、この世界であれば香月博士のような存在に売り込みにいくことがデフォだが、こんなきな臭い世界で売り込みなど電波男か、それとも解体されるかぐらいだろう。人づきあい上手くないからな。


たぶん上手くいかなければ早々にあきらめて一人でアメリカに移民するため画策するに違いなかった。これが現実だからだ

死ぬのは怖い。何よりもだ。俺は英雄でもなく『主人公』になれる勇ましさなど持っていないし、持とうとも思えない人間だ。

自分が生き残るのであれば他者を踏み台にしてでも生きていく愚劣で、卑怯な、ただの人と思っている。それにあのBETAがそう簡単に倒せるとはどうしても思えなかったのだ。

『原作通りに進めたとしても、どこかでぶり返しがあるのでは?』と考えずにはいられなかった。

最後のオリジナルハイヴ攻略作戦、桜花作戦にしても、ゲームであれば、あれぐらい手に汗握る展開じゃなきゃ燃えねえよ、と粋がっていたが、実際はなんて事のない負け戦。失敗する可能性が高い戦争に賭けたくはないのがリアルの反応だろう。

原作のヒロイン達が死ぬのは見たくない?だが一度、原作どおりの展開を望むのなら、何かしらの手を打った場合、それが後で歴史の流れを変化するかもしれないのだ。手をこまねるしかないだろう。

そして最悪、俺がいた時点でもう原作通りに進まないかもしれない。

というより原作はもしかしてBETAの親玉が復活して20年後には人類が滅んでいるかも。

考え出したらとまらない。

仮に軍人として大成したとしてだ。20年前としてもたかだか一人の少年でしかなく、例え天才であったとしても人類をあのBETAに勝てるように出来るとはどうしても思えない。日本を救うだけで終わらないのだから。

それに地球、人類が危機に陥り、初手でミスをしたとして、その後に曲がりなりにも協力している体制で負けている人類が負けているのだ。大勢対大勢の戦いの中では個人と言うのはひどく無力だ。どう考えても無理だろう。

等等、完全にネガティブな考えに汚染されているが、しょうがないだろう。怖いのだから。これから上手く生きなければ死ぬのだから。

悲観的で否定的。そして自己保身の塊と。他者からして優れているとはどう見ても思えない。

裸一貫に近い形で、この世界のルールは原作を知っているだけ。それに記されていないところはわからない常識知らず。

ご都合主義に任せられるものではないし、この世界があのマブラヴ、実際に世界が滅ぶことを肯定している世界であるからして、喰われて死ぬ未来しか見えない。一言で言えば泣きたいほど怖かったのだ。

で、こんな状態の人類には愛国心もなく、宇宙に脱出すること前提で、物事を考えていたはずだった俺だけど。





この憑依した身体の家がその考えを変えてくれた。

なんと皇帝陛下の近衛として先祖代々仕えてきた光宮家。(天皇陛下じゃないんだね)それの長男に俺が当たるらしいのだから。

ん?それがどうした。聞いたことないぞ?と思うかもしれない。

確かにこの家は血統としてはそれほどスゴイというわけではない。歴代で見ても結局は歴史が長いだけの下っ端。将家というわけでないのだから。

だがその家を一躍有名にし、今の日本で権勢をふるうまでに成長させたのはその第83代になってから。時代で言えば明治に入ってからになる。




それが第83代目頭首 光宮 弥太郎。ここまで言えばわかるかも知れないがあの有名な光菱財閥初代総裁の家系だったのだ。

日本国内最大規模の財閥、光菱の長男、それが俺なのだ。
そもそもの話、その弥太郎さんがいきなりこんな巨大財閥を作るまでに押し上げたのは、このマリヱさんの力のおかげらしく。

財閥の記念として森の大天樹に埋まっていた神器(まぁオーパーツってやつか?)を持ちかえったことから始るのがこの祭り。俺が憑依した日の儀式なのだ。

そんなわけでその財閥創設者たる弥太郎様以外、初めての契約者がオレ。

とんでもない坊っちゃんでもあり、なんて玉の輿!!なんて目が¥になってしまう感じだがそれに降りかかる義務も並大抵のものじゃないのだから少し肩がこりそうだ。

なにせ、あのBETAをどうにかしろと言っているのだから。


だがこの立場は今考える上で最高の位置と言えるだろう。

己の知識、力、技術などを活かす上で最高に地位を得て、人類の総力を上げるのにかなり有利な立場にいる。

まあ厳密に言えば、財閥のためにその技術などの力を手に入れたわけで逆なわけだけど。

それに将来、おしとやかな奥さんとめっちゃ綺麗な美女がより取り見取り、選び放題な立場であり、金も使い放題。

これにもし失敗した場合にも、『宇宙への脱出チケット』が付いてくる約束まで結んだんだ。全力で戦えるし、この星に骨を埋めてやるさ。


いやあ~この世界に来たことで運が尽きたと思っていたけど、その分の運は他の所に回ってきたらしい。人生、良く出来ているもんだ。


クズ?なんとでも言え。俺は保身が一番。据え膳は全て食す小市民なのだ。

とまあダレから見ても英雄にはふさわしくない俺なのだが、幸運なことが一つある。もう一人の人格、孝明君が良い子だったことだ。

なんと、この体に乗り移る時に同化した影響で己の欲求に孝明くんの欲求が入り込んでしまっているのだ。

その望みは「ヒーローになりたい」という可愛げでありながら、死ぬ瞬間まで思い続けた熱い意志。


そんな"漢"の意志を受け継ぐことが俺の唯一の贖罪であり、守らなければならない誓いであり呪縛なったわけで…そんなこんなでこれからの2度目の人生、唯一の"目的"になったのである。

全世界の人類諸君、孝明くんに感謝しろよ。俺が俺であれば悲惨な将来かもしれないんだからな。

で、その孝明くんの意志を遂行するためにもこの時に正式な契約をマリヱと契約したのだ。己の利と心、プライドを守るために。






・・・・・・・とここまでかっこよくまとめてみたが、ここで終わらないのが小市民クオリティー。一つ心残りがあったのだ。


それが元の世界にいた妹だ。なにそれ?と思うかもしれないが、以前に説明したとおり、俺は他の世界から記憶と人格だけ拉致された者だ。元の世界に一人残した妹が心配になるのは自然なことだろう。

だがそのことを「俺、帰らなくても妹は大丈夫なのか?」と聞いたらマリヱから驚きの答えが返ってきたのは今でも記憶に新しい。


「お主は厳密に言えばお主本来のコピー。お主の元いた世界は記憶、精神までもデータとして扱うことができたのだろう?

元の世界から有用で、それでいて親和性の高い人の記憶を無秩序にひっぱり込んでいたら、その人格までもがついてきてしまったわけだ。

このような例はなかったが…おもしろいケースではある。ああ、心配しなくとも元の世界のお主は何も知らず、普通の生活を営んでおるぞ?」だって…


またしても「はっ?」となったのは言うまでもないだろう。

その後の説明も変で

「"情報"とは在るだけで"意味"を持つ。」のだそうだ。

多重なる世界の中でも唯一干渉し合うのが、そのものの在り方を導く"情報"

そのため、平行世界と言った聊かしか違いがない世界などが在る。

"我思う故に我あり"という言葉にもわかる通り、自分を思うことで世界を自覚し、両者に影響を与えていることを表しているのだとマリヱは言う。

結局は物質を司る原子や、全てを照らす光子でさえ、波の顕現であり、それに"在"を与えるのが神であり、人でもあること示しているのだそうだ。

先に言った我の力はその世界の在り方を繋げている"情報の海"に我が繋がって、元の世界から光宮家の血脈の幹たる情報の塊、その記憶を写し取るということだ。

つまり簡単に言えば、
並列に並ぶ世界群の中から我が探そうとする情報に該当したモノを探し出し、

その情報をコピーし、

当事者に与える力をマリヱは持っていることで俺がこのようになっていると説明された。

そして最も情報という力を持つのが、そのモノの在り方を示し自覚できるモノ、自分を自覚できる人の記憶ということ。

しかし、主は情報としての記憶だけでなく、その人格さえ有益である情報としてコピーされたということだ。

「…おそらく主の世界は、人格さえも情報と捉えるほどに発達した高度情報化社会を形成する世界だったのであろう。 人物の人格と精神までコピーできるほどにな。」

だとさ。簡単に言ってもいないし、なにを言っているのかわからない。これがゆとりの弊害ってやつか?それともマリヱがおかしいのか…どちらにしてもマジでやってられなくなった瞬間である。




そんな義務を果たすために、数多ある知識を有効に使うためにも俺の脳も改造(?)されたらしく、膨大な知識が一人の脳に収まるわけが無いので、そこはマリヱさんと脳内でデータを共有する体制になっているんだと。

それに付随して演算能力や記憶能力など、脳のスペックが100均の電卓とスパコン並に違いになった俺なのだが…

他にも身体がショッカー並にいじくられている。

結果だけ言えば睡眠時間の貯蓄や、身体能力の成長操作…いわゆる老化防止と身体能力の大幅なアップが行えるということで、チートここにありっ!!といったものだろう。

まあ元の世界で己の身体は義体であったため、生身でここまでハイスペックなのは奇妙な感じがするが、そこまで驚いたわけではない。

今考えると、並列演算や記憶フォルダの活用など自然に出来たため気づいた時は「あっそうか。この身体生身だったんだっけ…」といった感じだった。

もちろんデメリットはある。

こんなハイスペック、人間の身体が持つわけがないってことはバカでもわかるが、1日、7時間以上の睡眠が必ず必要になるらしい。

なんて健康な生活っ!!と言えなくもないが、これにも理由があり改造された俺は簡単に言ってしまえば、脳を酷使すれば強制的に睡眠(レム睡眠)に陥ってしまうのだ。どのような状態でも、な。
 
その防止のために適度な睡眠が必ず必要であり、ただ暮らすだけなら一カ月寝なくても良いのだが、脳内でとんでもない演算を繰り返せば死んでしまうので予防装置としていきなり寝てしまうのだとか


緊急停止ってパソコンかって突っ込みたかったが、マリヱと一心同体である時点で半分パソコンだった。人間を本格的にやめている。


他にも、この身体に"マリヱ"が定着するまで能力の全てが使えるわけではないこと。
主人格の記憶の定着がすむまで、情報としての他世界の記憶が欠落していること。
一月に一回、定期的に我の神器と同化している天霊樹の樹液を飲まなければならないこと。(これが異常にマズイ)
マリヱが他の人間には見えないため、独り言のように気味が悪がられること。

あとは先ほど述べたが身体の持ち主だった「孝明くん」の感情に引っ張られることが上げられるらしい。


ではそのデメリットの代わりとしてこれからの武器となる知識だが、これがとんでもない。ここはマリヱさんの説明から抜粋するが、


俺の今の時点で思い出されている記憶、つまりマリヱと共有して閲覧できる情報は、おおよそ7世界あるのだとか。

ここまで聞いていれば意味がわからないが、俺の世界を基準にした並列世界、…いや作品を基準にした世界か。その一つがこのマブラヴの世界ということで、それ以外の世界から無秩序に使える情報を取り寄せる力を持っていたマリヱ。


それからの話を聞くに

この世界は、何週目かのマブラヴの世界であるってことらしい


どうやらオレがいた世界にあったスパロボでいうリアル系作品のうち、オレが将来あり得ると思っている、実現性の高い技術を基準にマリヱが情報を集めたということらしいんだわ…

変に現実的なところをフィクションに求めてしまうことがここに来て仇になるとは…スパロボのスーパー系なら真ゲッターロボ量産とかで楽勝なのになと思ってのは内緒だ。


まぁ…わかりやすく使えそうな情報の例とその情報の修復具合をあげるとするなら

1、宇宙世紀0090年時点のアナハイム重工 第二技術部 部長の複合素材技術を中心にした転用可能な情報の27%ほどの記憶とデータ

2、フルメタルパニック ミスリルのAS開発第一人者、大型潜水艦技術士から55%

3、フロントミッション、OCU側 坂田重工 電子関連技術及び無線誘導技術 20%

4、アーマードコア 有澤重工、 砲、砲弾加工及び誘導技術関連体系と水素による発電基礎技術体系の30%

5、エヴァンゲリオン NERV技術開発部兵器部門担当者と
戦自研 N2爆雷小型改良を担当した第二研究所、研究員、合成食糧開発第一任者の3人の記憶と周辺データ42%

6、俺がいた基準世界の拉致られた時点の、2030年陸海空軍の兵器技術体系と一般電子関連技術体系が68%

7、そして一番大切な
この世界の並列世界(マブラヴALかな?)
光菱重工 不知火改良に携わり、その時にボーニングとのコネを使って亡命し、第4、5世代機の戦術機開発に携わった亡命技術者を基準に使えそうな情報が34%

それ以外にも活用できるであろう、20年以上先の経済や組織の運営などの知識、etc,etc…


といった具合に情報が復活しているらしい。

他にも自己修復技術や重力操作技術などもあるけど10%を切ってるものが多く、使えそうにない情報が俺の脳内にインプットされているわけだ。

この修復の度合いというのは今現在の、この世界の技術体系と俺自身の記憶分野によって収集・修復されるため、行き過ぎた技術の獲得には、レベルを上げる必要があるというのもゲームっぽい縛りが効いている。

そして手に入れた情報も人一人の情報処理能力を大幅に超えたものであるため、時間をかけて実用化のための情報に消化していかなければならないところは変にリアルだ。


―――つまりは断片的な情報の種を使って、この世界の人という豊饒な大地でその種を育て、立派な技術体系を構築しろってことだな。


なぜこんなまどろっこしいことをする必要があるのかは、この当時説明されていなかったが、脳の三割が宇宙人のオーバーテクノロジーによって敵対的吸収合併されたオレは、人の域を軽々と超えた演算力等(チートとも言う)を持っている。

だがもっとも大切な部分というのはヒトで形作られた世界であるため、もっともむずかしい「ヒトの感情」を理解するための因子という役割らしい。


そのためにも、ヒトのまま人を超えなければならない矛盾と戦い続けなければならないんだと。

言ってしまえばBETAと戦うには、救世主(なんか恥ずかしいが本当にそうなんだからしょうがない…)である俺自身が人類内での役回りを果たさなければならないため、超絶チート技術を持つことも必要ではある。


だがそれ以上に、これから生み出されていく人類内での争いの中で、この技術を活かせるための外交力と政治力として「オレ」という人格が必要だったというわけだ。


俺がそうなるかもしれなかったコンピュータ生命体がこの場にいれば言うだろう、「なぜ、人は無駄や害悪になるとわかっていること率先してやり、必要と断言できるものから目をそむけるのか」と。


たった一人しか「オレ」の考えを理解してくれるモノがいない状態でBETAに勝つには、

一人で文字通り、万の働きを乗数倍して活かさなければならず、

ヒトでいる幸せを味わうことが唯一の楽しみとなる戦乱の世をオレは謳歌せねばならず、

それが俺が「オレ」でいられる唯一の世界となってしまったわけだ。

まぁそんな鬱?話は置いといて、先の未来情報についてである。


マリヱに「こんなリアル系知識じゃなくてスーパー系…例えばゲッターとかならBETAよゆうじゃね?」とつ込んでみたのだがここでも、適切なツッコミを頂いた。

「オマエ、この世界の技術力でそのスーパー系の技術を実用化できるのは何時なんだ?」と。

まぁ冷静に考えればスーパー系といった隔絶とした技術を持つ世界とは、1980年って言っても国全体の技術力を上げるには19年じゃあ~追いつくには短いし、それに賭けるのはリスクが高すぎるわな…と後で気づいたのは言うまでもないだろう。

なにより、世界全体の人口と経済力を維持したい自分からしたら、早期に実現できる、この世界の兵器体系に近いリアル系の兵器のほうが良い。
その技術の派生した民間技術を経済にいかせることがデカいからだ。


まぁ、その技術(チート)単体で考えても、良くある二次作品の転生or憑依オリ主からしたら、その作品の悲惨さを如何にして軽減させるために 神様 (俺の場合はマリヱを作った地球外生命体だな) その人が自分を満足or何か必要な自体が発生したから俺のような"救世主"を投入してるわけなので、ある程度のチートは必要だ。

一つ残念なのは、この世界からしたらチートの必要量がまったく足りてないことなんだけどね…

なんせ年に1国は地図から消えている悲惨さな世界がこのマブラヴ世界であるからして。

原作でも博打のような作戦でボスを倒したわけで、失敗したらリアルに人類滅亡コースなのだからたかだか一人、この世界に来たからと言って「勇者」になれるわけではない。…ジャンヌダルクにはなれそうだが。



それでもマリヱに我がまま…「スパロボ世界から一個艦隊持ってくれば実用化せずとも良いんじゃね?」と愚痴ったら


「…主が今考えている妄想のように、いきなりでもスーパー兵器をこの世界に持ってくることが出来たとして、補給と修理が出来ずにゴミ屑になってしまうのは目に見えている。」

「それほどまでに現代の延長線上にある兵器というのは単独ではひどくもろい。」

「ビーム兵器であれ超兵器であれ、何かを消費せずに運用できる兵器もなければ、使えば使うほど使用限界を迎えてしまうことは物質であれば当然のこと。

(※ちなみに36mm、120㎜の砲身寿命は1万発ほどと見られており、レールガンやビーム兵器になるほど熱による部品劣化が速くなるためそれ以下になる)」


「人類を救うほどの技術で作られた戦術兵器というのは、それを他の世界で作りだし、継続的に使用できなければ意味がない。

それを維持するために必要な技術水準と工作機を含めた工場、それらを含めると本体の重量と作りだした時間、その何十倍の質量と時間が必要になるとおもうのだ?

もし生み出せたとしても、だ。単艦でその部隊の運用・修理・補給ができるのは一、二回の作戦までで、それ以上は無理なのは知っていてほしかっただけだ。」

「自己修復能力?工作機を内蔵している?そんな今の人類が喉から手が出るほど欲しい兵器が目の前にあったら、部隊員何人か拉致してコマンド部隊で制圧させてるわっ!!!

人類の現状なめんなっ!!!国家の存亡のためだったら虐殺が肯定される世界だぞ?

兵器なら戦場に出すよりも先にオーバーホールされて戦場に出れるのは10年後だ!!

BETAに勝つには純粋な国力、技術、そして人類を導くための政治力じゃ!!! 一機体で趨勢が変わったらここまで苦労しておらんわ、ボケ!!!」

とキャラをブチギレながら答えてくれた。相当ストレスたまってたみたいね。



では次に俺の立場についてだ。


先ほど光宮家長男(本来は五男だったが…天霊祭というイカれた儀式によって孝明くんと一人の妹以外の姉、兄達が犠牲になったらしい…マジで鬼畜である)と言ったが、それは光菱財閥次期総裁に決していることを意味する。

その己の知識以外にもっとも力になるだろう、己のバックとなる組織、光菱財閥とは?だがまあ知っているとは思うが説明しておこう。

この世界では太平洋戦争が条件付き降伏だったことにより財閥解体が行われなかったため、日本では今なお三大財閥(満井、光菱、隅友)としてあげられるほど巨大財閥である。

重工業、電子産業、銀行、商業、土木、自動車等幅広く手がけており、今の時点で世界のベスト30に入る総合企業グループであり、総合企業としてならアジアでこの財閥を超える組織は存在しない。

しかしまあ...上位欧米10社とは隔絶した規模の差があるため…欧米企業からしたら只の大手総合グループでしかないのは悲しいところでもある。

その(日本では)巨大財閥である光菱財閥だが名前の通り、岩崎弥太郎氏が作った三菱財閥に酷似している


―――のだが、違う点も多く見られるようだ。


それは、この日本に未だに征夷大将軍がいることが絡んでくる。

倒幕派と将軍家が大同団結して大政奉還し、五摂家が形成した帝国議会、その上位執政機関たる元枢府が作られたこの世界

その日本の歴史では、その元枢府の長が政威大将軍なり、皇帝→政威大将軍→政府といった複雑な政治体系をとっている。

その政治体系が現代まで続いているのがこの世界であり、皇帝陛下の近衛の出である光宮家は、創設者、初代総裁、光宮弥太郎がマリヱの力を借りて明治維新の流れに乗って大きくなったとされている。


そんな巨大財閥の次期総裁に俺がなるとは驚きの一言だろう。

さすがに今すぐってわけではないが財閥内と限られた場所だけでは、すぐにでも総裁の次にすげぇ権限を持てるらしく、早い時期…言ってしまえば二十歳手前くらいで総裁就任らしい…

次期当主なのは…上の兄達がいなくなったためなのはわかるけど裏とはいえ、いきなり総裁ってなんというご都合主義…まあ一人だけとは言え、前例がありその知識量に関してある程度の試験が課されるらしいがそれでも破格だろう。


まぁ…慣れるまでは父親たる当主が助けてくれるって言ってたけどさ…


そんな感じで現状の説明をマリヱにされ、やっとこさこの世界に介入しようとしたのは次の日からだった。

それは大天樹の写し身たる俺が初めて現世の人(財閥関係者のことね)に会う降霊の儀なんてものが執り行われたからこそ、このような言い方になったわけだが…

これまたビックリ!俺が一番上の上座だよ?なにそれって感じだったわ…


まぁ初代総裁しか成功者がいなかったため、形式だけ決めてあった初儀式だったわけなんだけど…

感想として、王族とか皇族って羨ましいって思えないって感じだったねぇ。あんなかったーい儀式やらなんやらを年がら年中やらされるって、疲れるだろ!!

しかもこんなんじゃ、この世界で友達できそうにないんだけどどうしよう!?まさかボッチ確定申告されたのかオレ!?ってぐらい。

でその後に家族に合ったわけだ。生贄にした当事者の親に。

正直会いたくなかったね…だってそうだろ?例え国のためとは言え、自分の子供何人も生贄にささげた親。しかもその成功者は最初の人間以外おらず、何十人、表に出ない人間を含めれば百に迫る子が死んでいるのだ。

そしてその親というのが現光菱財閥総裁。

それが俺の父 光宮  天元(てんげん)だ。
52歳のおっさんなんだが脂の乗ったやり手でコワモテのおっさんなんだが…
  
降霊の儀の時も一人だけ次元が違うオーラ出てたよ…漢っ!!って感じでホルモンバランスぶっ壊れてる感じの俺の苦手な感じ…
死ぬときに「我が人生に一片の悔い無しっ!!!」とか言いそうなあんな感じ。

だけど人としての器が大きいし仕事は出来る人であることは間違いない。

なにせ戦争に負けた日本。その中でアメリカに力を削がれてしまった財閥を、この20年の高度高成長で持ち直し、一躍世界に名だたる大財閥にしたってんだから、仕事命の冷徹おじさんなんだろうってことは予測はつくわなぁ…

しかも今は三人目の妻光宮 日名子 28歳(若っ!?うらやま…)良いとこ出らしいお嬢様がおれの母らしいんだけど、男としてうらやまけしからん男なのである。

まあ子供の中身の半分が別人であることを考えるとどっこいどっこいなわけだが、二重の意味でそんな男との対面がギクシャクすんのは当たり前だろ!!!常識的に考えてさぁ~!!!

そんで当日、親父と初(?)の面会の会話をしたんだが…



「おぉ~孝明があの天霊祭を乗り越えるとはなぁぁ~
パ~パ、パ~パは、とっても嬉しいぞぉ~ヽ(´ー`)ノ♪♪」


…ただの親バカだった。

とても与し易いから良いんだが本当に意外だ。
そんで話をしてみたんだが、本当に子供には甘かったのだ。しゃべり方も声も覇王なのだが、子が続々死んで逝ってしまったためか、とても気遣われたのを覚えている。

母親のほうも

「孝明っ!私の愛しい孝明!良かった、良かったわ!!!
無事にあの天霊祭を終えることが出来て…
私の初めての子が、あの天霊祭を受けるなんて聞いたときなんて・・ママは、ママはもうっ!」

と言って泣き出す始末。その後は色気ムンムンのナイスバディーのお母様が
「母親失格ね」やら「ごめんなさい」やら言いながらそのデカイ何かを押しつけて抱きついたりして…
心の中ではおっ立ってながら(ワーイ♪)家族談議を続けていたのだが…

その後、肝心のこれからについての話を親父と二人ですることになった。場の雰囲気から考えて、俺から切りだしたのだが、その時の親父の空気の変わりようがすごかった。

俺が将来の財閥について…天主の力を得た立場で切りだすと、

「ほう…おもしろい…やはり力はあったか。明日にしようかと思うっておったが…良いだろう。おい、おまえ!!」

とギャングのボスのようにニヤリと禍々しさ露わにした俺の父…完全に悪役だったね…


その圧倒される空気はやはり財閥を復活させた器の持ち主なんだ。と自覚させてしまうほどで、ただ単にこちらの言うことを聞く人物ではないのは即座にわかったほどだ。

もう一方の母親のほうも違う意味でやばかったが、色気的な意味で。マジでバルサンみたいに色気げ噴出してて、完全に親として見れません。あれで将家のお偉いところから嫁いできた人らしいんだが、プロポーションは外国人にも負けないだろう。


…まあ話は戻して親父のことだが、自分の人格などは伏せ、特定の部分を拡大したり歪曲しながら自身の状態について説明したのだが、

…もう顔が怖かった。

商才に富み、愛国心溢れる父だからこそその事実が嬉しかったのだが、笑い方が完全に悪役でもうね。

結局、さっきの甘い顔の父親の一面も持ってはいることもわかったし、それを律しているだけで、無いわけじゃないってことも嬉しかった。

なぜかって?やっぱり父親が尊敬できる人間というのは嬉しいものだろう。

しかも他人ではなく52歳といった歳になってしまった父には、後継者を育てる段階に入り、後継者候補が1人状態の父親には嬉しい誤算のはずだ。

そうなれば自然、財閥の運営についての勉強もさせてくれるわけで、未来の知識等を知ってても財閥の運営など、経験がものをいう分野ではミスもでるだろうから、純粋な知的欲求として教わりたかったのだ。

そうして最初は実力がものをいう技術系を中心にし、運営は慣れながら徐々にいきたいと考えていた。


そうして俺と親との団欒は進み、いきなり別人のようになった俺に対してもそのことを表に出さずにしゃべってくれた親にも感謝をしながら飯を食っていたわけだが、

その日の最後に、俺は言わなければならないことを父に言った。

その言葉は、「明日、兄上と姉上の墓参りに行きたいのです」というものだ。

父も「……そうだな…息子たちも喜ぶだろうよ…」と言ってくれたわけだが、これは打算や策謀抜きにして、同じ被害者として、なによりも冗談みたいな計画をやり抜く意思表明として何としてでも行っておきたかったからだ。

なにより自分がそうなったかもしれない、という恐怖と決別するためにも必要な儀式であり、これなくしては実行に移ることは出来ない…と孝明くんの感情が俺に訴えてきたことでもあるのだろう。



これが俺が行動を始めた日、夕暮がやけに綺麗だった日のお話だ。



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次元管理電脳より追加報告

主人公が自身を自覚しました。ステータス情報が閲覧可能になりました。NEW!!

主人公とマリヱが契約しました。能力の一部解放が開始されました。NEW!!

《ステータス》
名前:光宮 孝明 年齢8周期…訂正8歳
身体能力:8歳レベル     
強化手術をうけていないため一般的な人類幼少期レベル内です。

言うなればザコです。

精神状態:不安定
身体元の精神との同化レベルが現在、84パーセントのため、精神がいちぢるしく不安定になっているものと思われます。

言うなればキ○ガイです。

特異情報:第1段階クリア

数多ある人類世界の記憶を呼び覚ましました。この世界に近い技術体系の吸収が早いようです。

記憶された情報を実現できれば戦況を変化させることは可能でしょう。…実現できればですが。




・主人公が「光菱財閥」グループに登録されました。NEW!

主人公が光菱財閥内各種実権を手に入れました。NEW!※財閥によって完璧に隠ぺいされています。

「光菱財閥」関連情報を公開しました。NEW!
※1979年度版です

世界大企業ランキング 30位 
国際特許取得数    15位
日本国内企業規模   2位
従業員数(日本)    2位

《有力企業》光菱重工 光菱商事 光菱東京銀行 光菱石油等が挙げられます。

《特徴》世界でも結束が強い企業グループとして有名で、アメリカからの財閥干渉により規模は縮小していますがが、結束力は依然堅く、政府との繋がりも強いようです。

ですが戦後直後のアメリカからの影響で、光菱財閥に属していた企業が独立していったケースや他社との合弁企業があるため、財閥の影響を強く残す企業とそうでない企業の差が激しいようです。

例:光菱財閥と距離を置く企業として 日本建設機械 ミコン 東洋塗料など

以上 次元管理電脳からの追加報告を終了します。
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[28072] 第Ⅰ章<始動編> 3話 目標 《7/6改訂更新》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/07/06 18:33
1980年 1月14日

大戦略のお時間だよっ♪♪

ってことで兄姉たちの墓参りに家族で行った帰り、父親から

「3日後にこれからの光菱についての大方針を幹部達と話し合うことになった。
それまでにおまえが言うプレゼンテーションの内容を考えておけ。もちろん、言う内容は前日にワシに話しておくことも忘れずにな。」

と言われた孝明です。

でその会議の言うべき内容をマリヱさんと考えていたわけだ。

マリヱさんがこの世界のパソコンと規格が違うと言うことでいろいろと齟齬があったわけだが……まあそれは良いだろう。

では本題だ。

これからの俺らの行動を決めるためにも、目標と目的の順位付けから始めなくてはならない。

全ての行動もそうだけど、大きなことを成すには当たり前だが、自分の目標、指標にそって行動しなければ目的通りにはいかないもんだ。

しかもこれからの世界について(冗談ではなく)のことなんだからいい加減にはしてられない。

なまじ最新技術と未来知識といった最高の力を持ってしまっているわけだから、人類内の内輪もめの原因にならないためにも、慎重に目的と目標を定めなければならないわけだ。調子にのってCIAに捉えられたでは話にならないからだ。

で…マリヱさんに、「弥太郎さんの盟約って具体的にはどんな優先順序が存在するんだ?」ということを聞いてみたら、


「……主の聞きたいことから察するに、守るべき順位として
人類を守ることを前提に

・第一に地球にいるBETAへの勝利
・第二にこの日本のこと、
・第三にこの光宮財閥のこと、

といった感じだな」

という言葉が返ってきた。まあ勝利条件みたいなもんだな。

これを聞いて、まあそうだろうなと思ったよ。なにせ愛国心があった弥太郎さんだ。1に財閥と言わないだけでもマシだろう。

BETAに勝つ、ということだけを満たすならば史実以上の国力を持つ米帝に、日本がアメリカにとりいって奴隷国家として財閥を繁栄させたほうがやりやすい。

なにせほぼユーラシア大陸全土がBETAの生息圏の状態からスタートするマブラヴ。

そんな世界で戦うとしたら、指揮系統、開発スピードの両方から見ても史実以上の超大国アメリカの一国独裁のほうがいろいろやりやすいからだ。

…いろいろなデメリットはあるんだけどね



でも弥太郎さんのオーダーは違うわけだ。

この日本を中心に世界を救う、太平洋戦争で財閥の敵でもあるアメリカの力を殺ぎつつ、財閥をデカくするってのが弥太郎さんの採点では100点に近いと思う

―――契約者である俺は雇用者である弥太郎さんの言うこと聞かないといけないのが悲しいところだけど…


それを踏まえつつ考えたシロガネタケルがくる2001年までの大目標はこんな感じにしてみた。




一つ、《原作スタート時に日本の対BETA総合戦力を400%以上の向上。他国の対BETA総合戦力を300%以上の戦力向上を目指す。》

まず、原作のラストステージである桜花作戦のような、奇襲作戦を根幹に据えるのは下策に等しいと考えている。

戦術機数機と巨大なスーパー兵器による特攻、原作を見ていればかっこいいし、熱い展開ではあるのだが、なんども言うようにここは現実。そんな失敗したら人類滅亡一直線の作戦など認めるわけにはいかない。

俺のような保身第一主義の人間から言わせれば、もしルートが全部ふさがっていたり、新しいBETAがいました。なんてことが起こったらどうするのか聞いてみたい。

…まあ原作は良い。あれはあの時の最善の策ではあるのだから。

だがこの現実ではあの巨大財閥、光菱を操れる立場の人間が20年前からこの世界に関与出来るのだ。原作よりかは確実に良い流れに持っていける。

だからこそ、戦争においてもっとも大切な戦力の拡充を図ろうというのだ。もちろん日本だけ、などというちっぽけなことなどしない。というよりそんなことをすれば他国から目をつけられるし、良いことなどなにもない。近隣諸国を壁にするためにも成長してもらわなければ困るのだ。

さらに実際的なこと言えば決戦時、オリジナルハイヴの攻略一年以内にハイヴ半数を攻略することで、BETAを殲滅しようと考えていることからして、人類全体の力を底上げしなければならないのだ。

そのために21世紀を迎える時に人類の人口が10億ちょっとじゃ勝てないし(1980年時約30億)、BETAの成長を上回る戦力で押し切る必要があるためだ。





二つ、《国際社会において"アメリカ勢力と対等な日本を主とする勢力の構築》

これはBETAを駆逐するのが目に見えるようになった段階で、国土を奪還したい国である共産中国 ソ連 ヨーロッパ インド 中東といった国と、アメリカとの争いが大きな戦争にならないようにするためにも必要となる。

このままの歴史通りに行けば、争いに勝ったアメリカの独裁となるのは目に見えているし、そうなった国連っていうはファーストガンダムの地球連邦ととても近いと考えたためだ。

ソ中という的が早々に表舞台から消え、イギリスフランスさえもBETAの波にのまれてしまうこの世界、そのような世界であればアメリカが史実以上の一人勝ちの状態になるのは想像するのに難しくない。

そうして世界の市場全てを支配下に置いたマブラヴ世界のアメリカ。

その合衆国は、国内の日々高まる不安と不満を反らすためにあえて強硬策をとり、第5計画であるG弾至上主義を掲げる集団が国の頂点に長らくいついてしまっているのだ。

それ以外にも中国へのオリジナルハイヴ落着からの事実を一部歪曲、訂正して広げたアメリカのマスコミの影響で、1年後にはBETA恐怖論がアメリカ中に駆けめぐったことで、結果として過剰とも言える量の戦略核飽和攻撃を仕掛け、アメリカ軍単独でハイヴを確保したアメリカ。

それは近隣国にしてもっとも歴史の長い最友好国とも言えるカナダ政府を恫喝に近いことまでしてハイヴに関する同盟を結び、強硬な姿勢によって行動した結果だった。

後に大統領のヒステリックな行動と判断されたわけだが、政府はそれを後に正当化するために、BETA情報任務にもあたり、そのヒステリックの原因となったCIAを幅広く使うことになる。

なぜCIAなのかわからないが、ベトナム戦争やキューバ危機に代表されるCIAの失敗などは目に余るものがあり、周りからうとまれることを考えCIAが新たな敵としたのがBETAだったわけだ。

そうして対BETAへの大量破壊兵器使用を前提にした戦略を政府に進めたことでアメリカ政府は先のカナダへの行動に移ったと後年、見られている。

その暴走はそれ以後も続き、核の事後その影響が必要分よりも多くなったことを隠すため、核一発当たりの環境影響を事実よりも大きな物として流しており、この世界の常識として核の環境への影響はとても大きな物として捉えられている。(BETAの成分が拡散することを含めているからこそ、環境破壊が進んだと言う識者もいる)

そうした強硬策で功を成してしまい、オリジナルハイヴとG元素を独占しするという圧倒的な国益につながったアメリカ。
それは事後、CIAの働きもあってアメリカ国民もそれが正しいものとして認識していることもあり、徐々にアメリカの独断行動と諸外国への圧政は酷くなっていく。

もちろん完全にアメリカの良い面が消えたわけではなく、良き見聞を持つ政治家、軍人など多くいるし、多くの勢力があるのがアメリカだ。だが強硬派、後にG弾派となる勢力の国策が次々結果をだしてしまい、その温床のCIAの拡大へと繋がっていくことになる。

これは欧州の陥落、日本の身勝手(アメリカから見れば)に嫌気がさし、モンロー主義を凶暴化させてしまった状態だと俺は考えている。そうでなければあのアメリカがマブラヴ史実のような「如何にも悪役」としての立ち回りをするわけがない。


そんな状態のアメリカは欧州陥落の資本吸収や、単純に国際市場の縮小により史実以上に超大国となっている。

そうして世界のほとんどを傘下に置き、戦争続きによる影響で戦前列強の雰囲気が強いアメリカと、その中で誕生した強硬派による一党独裁体制。

それはいつの時代、どのような国でさえ政治を腐らせてしまう結果にアメリカも陥り、後の難民問題が点火点となってその牙は、国民に対しても圧政へと向いていく。

その頃のアメリカには「世界の警察」だったころの面影はなく、正に世界の覇者と言って良いだろう。

そんな世界のアメリカでは純粋に国益を取りに来るのは不思議でもなんでもない。

―――それが諸国の不況を買ってでも。


そうならないためにも、敵でもなければ味方ともいえない対等な勢力は必要になるわけで…

まぁ日本もしっかりシビリアンコントロールが出来る上でないといけないし、今の頭硬い状態じゃダメなんだけども。

それに人間は楽観し始めるとすぐ内部の勢力争いが常だし、それを仲介する勢力が日本の国益を無視しても必要と考えた。



…だがかなり難しいことでもあるんだよな

史実以上の米帝。

その資源に恵まれた国土、

安全圏に属するその立地、

世界最強になるために作られ得た、人類史最大の国力と科学力、
それを守るために形作られた最強の「軍事力」とそれに比例する「外交力」


そんな国と不平等条約に近い、今の日米和親条約を結んでいる今の日本。

光菱がアメリカの傘の中、国益のために成長していってもいずれ妨害にあうのは見えているわけだが、逆にそんな国にあらがおうという方針はGDP以上の開きある力の差から見れば自殺行為に等しい。


あれっ?つんでね?


まぁ…そんな環境からして、このままじゃあ史実通りに対等とは程遠い。

―――それに今のままのほうが日本が戦場になったときに、あの超大国の庇護化で戦えるのはとても楽だろう…からね。

今の現状をどうにか解消したとしても、じゃあ大東亜共栄圏♪と言った理想を掲げることはできないわけで。

人間だから欲に眩むヤツは必ず出てくるし、過去の面影と似て見られてしまうからなぁ…


まぁいろいろと問題があるけど、それについては今度ということにして…次っ!!




三つ、《光菱財閥の規模の増大と、協力企業の増加を見込んだ上での原作開始時比較での国力、GDP比600%アップ》

はぁっ!?600%って無理だろ!!って思うと思うんだけど

これは、日本にBETAの侵攻の阻止による国力の衰退(3600万と西日本の壊滅、一時西部関東占領)。

日本へのてこ入れをして、周辺諸国での遅滞防御戦術を使うことでの諸国を在命させることによる市場確保。

上記二つを未来知識と異世界パワーで実現させればいけると思うんだわ。なんせ20年近くも時間あるし。


それにこれからアメリカにケンカを売るようなもんだし、アメリカの国力の半分、欲を言えば三分の二はほしいところだ。

まぁ…今と比べて500パーセント増で7割だから、この世界のアメリカのチート具合はWW2時のアメリカと同じぐらいすごいよね…

もちろん光菱財閥だけの繁栄はもってのほか。12、5事件のようなアメリカに付け込まれる内乱を起こしてしまう原因になるからね。

だからこそ脳内にある知識を活用して、産業を促進。軍事という金を生み出さない分野を拡大するためにもそれ以上の速度で経済を促進させなければならないわけだ。



四つ、《前線国家への救済》

1980年1月現在、BETAは西進を強めている最中で、中東方面では帝政イランを飲み込み終えようとしている。

主攻となる欧州方面では、北欧のフィンランドに8個目となるロヴァニエミハイヴが来年には出来始めるであろう状態であり、ソ連、ポーランド以外の東欧陣営の国土で日々激戦を重ねているのが現状だ。

その二つの方面において光菱財閥がなにかしらのアクションを起こし、可能な限り国土の維持させるというのが、まず最初の目標である。

本来、マブラヴ史実において見れば1986年には反攻が無理な状態にまで打ちのめされた中東、欧州。

それを知る者からするば、俺なんかが来てから5~6年でどうにかできるものなのかと疑問に思うだろう。技術の習得、産業の促進、日本中枢への根回しなど一つだけ見ても数年で出来ることではないものがたくさんあるからだ。


しかし、本来の歴史※1を知るものからすると少々おかしなことにも気づくはずだろう。

本来、欧州は世界の先進国密集地帯であり、東西冷戦によってその時代最大の戦力密集地帯でもあったはずだということに。

普通であればそんな欧州が、中国一国で10年は持ちこたえられたBETAの攻勢を規模の違い、土地の違いがあったとしても7~8年で落とされるわけがないのだ。


それには戦史を紐解くに大きく分けて4つ理由があったと俺は結論付けた。

1・パレオロゴス作戦の失敗

東西の半分の戦力をつぎ込んだ大作戦(1978年)の失敗により、欧州に大きな痛手を負ってしまった過去。
それにより戦力の枯渇状態になっているのが今の欧州の状態であり、その作戦時に核使用の行動方針の差異によって東西の不仲が促進してしまったことも今の状態を作りだしている根本的な原因だろう。

2・ダンケルク作戦による資本の流出

先の大作戦の失敗から欧州各国が海外に脱出する計画が打ち出され、その計画により、欧州が貯蓄していた資金が戦争以上に減少してしまい、経済が混迷状態となっている。経済が上手くいかなければ国力の減衰、強いては戦争などと言うお遊びもできなくなる。


3・常任理事国フランス・イギリス・ソ連の発言力減少を狙うアメリカの采配

アメリカはパレオロゴス作戦の失敗から欧州を見限り、裏で欧州の救済から、欧州の資金回収へ方針転換したことが挙げられる。

これはそれまでNATOや国連の元に置かれた指揮権を、1980年3月にEU統合軍に引き渡されたことからもうかがえ、そのアメリカの協力が不可能になったからこそ欧州はダンケルク作戦を実行に移したのだろう。

そしてなにより、マブラヴ史実において最大の同盟国である日本に対して行った1998年の日本侵攻時の米軍撤退から、その行動方針がわかる。

この行動に対しても日本や東アジア諸国の反米感情が原因とも、日本の対応が悪かったとも言われているが、それにしても史実世界のアメリカから考えれば悪手にすぎる。同盟の一方的な破棄などしてしまえば、現代に置いてその国の信用が崩壊するからだ。


そう、この世界の米軍は駐屯している国を守るための陣地ではなく、東欧、ソ連が守れなかった国土の割譲のための策源地として居座っている、その方向性のほうが強いと見るべきだ。これは現職の大臣など国家を導く者達の発言からもうかがえる。

もちろん戦後からの投資した場所を守りたいとは思っているだろうが、欧州の脱出時の本国への引き抜きで回収できる見込みがたったのだろう。

そこは米帝、スーパードライだ。もちろんこれは極論ではある。アメリカ国民が前線国家の救済を願っていないわけではないし、政治家だってそうだろう。しかしそれが自国の失業率の上昇に繋がってくれば話は変わってくる。アメリカは良くも悪くも国益を第一にするのだから。

それにアメリカ国内に戦前の列強に似た覇権第一主義陣営が根強くなければ、この現状はありえない。


4・対BETA戦のノウハウ不足

地球であれば勝てると見込んでいた人類だが、光線級の存在により、その幻想は打ち破られた。その過去から10年と少し、その短い期間で西欧が主戦場になるまで敗戦に敗戦を重ねた人類はなにが原因で負けているかも良くわかっていない。

これは東側陣営の情報隠ぺいも原因の一つであり、正直な話、西側陣営が実際に戦って手に入れた情報というのはパレオロゴス作戦まで、東側陣営の数分の1でしかない。(個体情報は別として)

そのため戦術、戦略、研究ともに未熟であったためとみられ、第一世代戦術機のコンセプトの間違いもここから来ている。



現状説明が長くなったが、その4つの要素から欧州は戦力を整えられずに負けたのがマブラヴ史実なわけだ。


そんなことからもの上記3つの大目標のために介入しようってのが4つ目の前線国家への介入というわけだ。

もちろん人が死んでほしくないという理由があっての、この第4目標なのだが、それ以上にアメリカ以外の経済市場を確保しなければ日本の経済を成長させ続けることができないためでもあるし、欧州という巨大な市場と資本が無くなれば人類に暗い影を残すのは必定。

どうにかして中東、欧州を生きながらえさせなければBETAに勝っても第3次世界大戦並の悲劇が待っているだろう。もしかしたら植民地、奴隷制度に復活まであり得るかもしれない。



五つ、《オルタネィティヴ4への協力》

これは原作を知っている自分にとっても原作のキャラとお近づきになりたいって打算もある。だが、それ以上にBETAの主である非炭素生命体との和平にある。

原作でも判明しているだけで火星、月といった星までもが、ただの手先であるBETAに占領されている。
しかもこれに加えて10の何十乗だかの惑星を占領していることから考えても、俺の持つ知識の遙か上をいく文化レベルを持っている可能性が非常に高い。

それとの和平か、時間稼ぎが出来れば良いかなぁ…と思う。

それに国連主導であるオルタネイティヴ計画。その誘致国になれば対BETA戦略のイニシアティブを握り、戦力の向上と世界への発言力の向上になる。

それをいかして、アメリカの奴隷に見られている国連の中に、新たな派閥を生みだしアメリカの力を削ぐ結果になるとも考えているのだ。

オルタ3については俺個人が、その計画によって手に入る情報を知っているため、主にソ連に対する外交戦略に使っていこうと思っている。

下手に手を出せばオルタネイティヴ計画に大きな影響が出てしまうし、それによりオルタ4で重要な役割をする社 霞が生まれてこなかった、なんてことは困るからだ。
他にも、人の心を読める能力というのは警察、諜報等でも使えるわけで、ソ連に介入してどうにか人員を手に入れたい。





まぁ、この5つの目標にそった形でこれからの政戦両略を考えていくわけだ…


一目見ただけでありえないほどの大変さだってわかるよね~

特に2のアメリカに関しては、アメリカの横やりの中、この国の現状から変えるところからやらないといけないし、4なんかは単純に時間がない。


史実の第二次世界大戦前の20年前に日本に転生して常任理事国入りを目指すくらい大変だわ…なんという超ハードプレイ。人生、チベット自治区からスタート、みたいなもんだわ。


と、ここまでその目標を明確化してきたわけだが、これに加えてこの目標を阻害する可能性のあるファクターも把握していなければならない(めんどくせぇーー!!)


その阻害する可能性のあるファクターとは?

そのファクターの一つ、それはいつのマブラヴなの!?ってことだ。

この世界が何周目かわからないし、そもそもこの世界の主人公であるシロガネタケルはこの世界に来るの?って疑問も浮かぶ。来て欲しいものだけど…シロガネタケルが来ない時点でBETAに逆襲する手も考えた上で行動せにゃ~ならん…


次に2つ目、俺みたいな存在ってこの世界に1人か!?ってことだ。

これはマリヱみたいな特殊な物がそこらへんに転がっているわけじゃないから、可能性は低い……と思うんだが一応、念頭にいれといたほうが良い。こっちの気も知らないで、アメリカに行かれでもしたら、たまったもんじゃない。いきなりガンダムが星条旗背負って戦場に登場なんて笑えないからだ。


そして三つ目、
これが一番考えなきゃいけない、BETA側の成長だ。

BETAの成長は、情報をBETAの各固体→BETA各ハイヴ→オリジナルハイヴの上位存在に集められ、上位存在がこの地球の制圧を上位存在なりに計画的にするために戦略的に統括している。

それに合わせて地球制圧に邪魔であり有力な「災害」(敵対生命と認識されていない)である人類に合わせて学習し成長しているわけだ。

ならば、その敵中枢であるオリジナルハイヴを落とせば良いじゃん!!といってオリジナルハイヴを落とすのは多少大変ではあるが無理ではない…

中国を抹消する勢いで戦略核使えば良いからな。日本の被害も限りなくでかいけど。


が、オルタネィティヴ4計画総責任者である香月博士が言ったように人類の戦力をすり潰してオリジナルハイヴを落としても「30年の時間的猶予」しか貰えないわけだ。

その"猶予"は、BETAと戦い続けながらでの時間的余裕であり、しかもその時間というのは正確な情報というわけではないのだ。

原作ではその先が書かれていないため、もしかするとBETA側の緊急用ブラックボックスの中にある作戦継続遂行システムによって、オリジナルハイヴが破壊されて何年後にバックアップが誕生し

BETAの成長は止まらない!!!<完>ご愛読ありがとうございました。



みたいな可能性もある。そしてそれ以上の展開だって予想できるわけだ…


なにせ相手はカルダシェフの定義で言えば、最低でもタイプⅡ文明に相当する超先進文明の手先。

未だにタイプⅠ文明に達していない人類と比べればそんな簡単に攻略できるほうが怖いのは言うまでもないだろう

だからオルタ4に賭けているわけなんだが…

考えたくはないが…このファクターを考慮して行動しなくてはならない。考えたくない情報を阻害することは旧帝国と変わりない。


しかし、そんなにBETAの成長なんて考えなければならないものなの?超兵器でドンッ!!でいけるんじゃね?オマエ心配しすぎ…て思うかも知れないけど、BETAの成長のなにがヤバいって、BETAの対人類戦力として開発されたのが兵士級だけってところなんだよ。


それのどこがそんなヤバいのかって、人類の最大の障害であり、人類の航空戦力を文字通り、根こそぎ薙ぐ払った重・光線級は、資源の切り崩しなどに使われていたものを転用・改修しただけのものとされているところなのだ。

つまりは軍事転用した資源回収用固体にすぎないものを量産しているだけで滅亡されそうになっているのが今の人類ってわけ…

対人類用に改良されたり、知らない新種なんか出て来た日にゃ~即BAT ENDなんかもあり得るわけだ。



なんて無理ゲ!?って感じだが残念ながら命がかかっているわけで現実なんだよね…変わってくれる? まぁ~叶えられない冗談だけどね。


と、言っためんどうなファクターを考慮しつつこれからの作戦を考えなきゃならない…






改めてあげてみるとBETAの鬼畜具合がわかる…

今の人類ってのはBETAの間引きをやってるふりして、間引きされている状態だ。兵士の成熟にはとてつもない金がかかるのだが、使い捨てのように死んでいくため、兵器を使う側の人間の実力が成長せず、高価な兵器を活かせず共に喰われていく。

そして、前にも上げたとおりBETAは「脅威」と認定したら、成長する。

今の状態を例で言うなら、ブルドーザーやトラックといった重機を改良したものを大量生産して、良く考えずに邪魔モノを排除しているだけ。そんなんで対処出来てるんだから、敵としても見らるわけないってわけだ。…それが人類全体の寿命を延ばしている、と考えられればラッキーなんだろうけどね…


そもそも人類は地球環境内で生きていけるように進化したわけで、その体と文明は対外敵生命体に対する総力戦を考慮して進化してきたわけではない。


少しでも楽をしようとし、相手を疑い、地球というゆりかごの中で争いながら成長した人類は、人類内部でさえ「信用」である金を使ってでなければ戦力を作りだすことができない。

対してBETAはどこかの戦闘民族よろしく、外宇宙を侵略?するために生み出された純粋な戦闘生物だ。正面から勝てるわけがない。


ではそんな人類全体の憂鬱を取り除くにはどうすれば良いか?簡単だ。BETAを足止めしつつ、戦力を整え、緊急信号を発信する前にオリジナルハイヴ共々成長する前に全て落とす!!

幸いにしてBETA自体は超光速航法、超光速通信を持っていない。地球のハイヴを攻略することで、情報を隠ぺいし、月、火星のBETA進化を停滞させておきながら50年の時を稼げればイデオンでも使って月、火星を一気に攻略できる。

銀河全体に広がっている敵文明は地球や火星などからの信号が音信不通になっても許容範囲だろう。

なにせ銀河は広い。たがだが1惑星で発生した良くある原因不明の事故に戦力を集めるよりも他に対して集中したほうが良いのは自明の理だ。

それでも300年ほどの時の中で進化を続けることでBETAの親玉と対話できるように準備することが最善だろう。


それだけだ。それだけ……大変だ

…だけど、まだマシではあるんだよね。
…これが原作開始頃からスタートなんてゾッとする。


そもそもBETAの怖さってなに?って言われればだいたいは、その「物量」とは答えられるけど、BETAが人類に勝利しているのはなぜ?と言われると詰まってしまうはずだ。

ではそのBETAが人類に"勝利する要因"いうものを、素人考えではあるがこの世界唯一の未来知識の情報と現在の情報を知っている人間としての、要因を説明していきたい。

マリヱ「(話の途中から完全に愚痴になってるのだが…言わないほうが良いのだろうな…ストレス的に考えて)」




ではまず、BETAの地球における戦力、純粋な兵員についてだが

ハイヴ一個にBETAは20万+ハイヴの成長度、と言われフェイズ4より上になると個体数増加数は下がると言われている。

しかしそれはフェイズ4以上になると、ハイヴの支配地域が広がったためにハイヴの各部分に支部のような場所でBETAを地下に大量に休眠しているからということに人類はまだ気づいていないのだ。

そのために個体発見数が激減しているように見えるのであり、これがBETAの個体数が人類の予想と食い違うことの要因にもなっている。

つまりそれが人類の戦略方針に大きな影響を及ぼしているわけ
だ。

そうしてその見えない数が上乗せされたBETAが各ハイヴから「増援」という形で人類に押し寄せてくるのがこの現実。


原作内ではもっと少ない数値と予想されていたが、数ある平行世界の経験から推測するに、総BETA数は原作スタート時には・・・約1200万に達するものと推測され、最低でも1000万以上であると考えられる。


一見、物量で押しつぶしているBETAにしては少ないように?見えるだろう。

なにせこの世界では軍人さんが数千万人もいるからだ。が、これだけでも十分人類を滅ぼせるほどの数なのだ。


その理由の一つとして、現在、一つの国家(指揮系統)で維持できる兵数は約500万とされており、その中でもBETAに対して十分な戦闘力を持ち続けられるとされるのは、200万でも良いほうだからだ。

またその全ての戦力が一つの指揮系統に置かれているわけではなく、その戦力が足をひっぱり合い、内部で動作不良を起こすことが常であるのが人類の組織である「軍」である。


また人類の中の戦闘集団である軍は、国民全体を守るためのものであり、軍は国内に分散配置され、近隣諸国に対しても防備を割かなければならない。

そのため軍は対BETAに対しての戦力・研究共に人類にもBETAにも対応できる中途半端な兵器しか開発できていないのが実情となっている。



そんな状態で勝てるわけがない。

そして人間の戦争で戦略の一番の足枷になるのが補給問題だ。

例を挙げれば、米軍は全軍の6割以上が補給部隊であり、純粋な戦闘部隊員は100万人のうち40万以下になる。それほど大部隊になればなるほど兵站の難しさ、労力はかかってしまうのが人間の軍であり、限界でもある。

それは作戦や活動にも影響し、滞ればたちまち木偶の坊となって、良くて自滅、悪いと人類のお荷物となってしまう。しかも軍を養うために後方支援となる国民は軍の人口の100倍は必要であり、BETAのように個体数=兵数にはなり得ない。

しかしもう一方のBETAはとんでもないほどのエネルギー効率と手間暇がかからないというエコ?な機構をもつ。

通常時は部隊の半分以上を休眠状態にし、生産に力を割き、防衛時には生産をストップ、反応炉に蓄えている全エネルギーをも戦闘に回すことで、とんでもないほどのエネルギーをクリーンに活用できる。

しかも進行時には侵攻に特化した反応炉、前線補給炉というべき炉を用いて、(反応炉のエネルギーを受け取るか、電池式なのかわからないが)脅威的な進撃速度を維持し続けられる力がある。

そのためBETAには「兵站」が作戦選択を阻害する要素には成り得ないため、BETAは個体数=兵数となっている。サイヤ人もびっくりの戦闘種族なわけだ。

それだけでも脅威的なのに、人間のよりも個体に対する"価値"がとんでもなく低いため、特攻なんて当たり前、怪我したからどうしたの?を地でいっている。者ではなく物として扱われているため人権(BETA権?)が生じない。


また補給行動がないため、戦線に人類ではありえないほど(地雷?機雷なにそれおいしいの?)の戦力集中密度を実現。

それを阻止するために一番有効な空爆なのだが…


マッハ30を超える大陸間弾道弾を100発100中できる命中力、戦艦の装甲を瞬時に蒸発させるエネルギーをもつ、全天候型の超高出力光線兵器、"光線級"が邪魔をする。


これの出すレーザーは初期照射で相手に狙いつけ、
次射で通り道の空気を消し飛ばし、 
最後の本格照射で短時間だけ真空化した空間を通って、狙った範囲の空気を意図的にプラズマ化させる広範囲攻撃と単純なレーザー出力による破壊力を併せ持っている。

 正に化け物兵器だ。

重光線級のほうがそれが顕著となり、1照射で狙った範囲(天候によるが無力化半径は約30M)の砲弾やミサイルをプラズマ化させた空気で複数薙ぎ払う。マジで劣化ラミエルだ。

これによって形作られるBETAの迎撃網には生半可な砲撃、航空兵器を無力化させている。


これに加えて重要度の高いところから潰していく真面目さ(笑)

なにより個体別戦闘能力では人の10倍じゃきかないほどなわけで…1000万の四割以上が戦車級という不整地80キロオーバーの軽装甲車

…しかも総じて耐久力とタフさが尋常じゃなく、人間の死因で多い出血多量によるショック死がない。(※出血死もあるにはあるが、死ぬまでに多くの時間がかかるため、戦場では出血死になるまでに人間の塹壕まで走って行けるほどのタフさ)

そのため攻勢を凌ぐにはBETAの弱点をつくか、身体の大部分を破壊しなければならず、そうしなければ後方のBETA群の壁になりながら全力疾走してくる。

これを考えると人類の軍の主力である歩兵はBETAに対してほとんど戦力として数えることが出来ないわけなんだよね。1000万もの兵を養うより10万の戦術機甲部隊となるのは自明の理ってやつだな。(もちろん歩兵科は必要だよ?)

組織面からしても人格がないため社会を形成せず、内輪もめや、指揮系統の齟齬等の組織としての問題が生じない。(社長からしたらめっちゃうらやまっ!!!である。)

疲れを知らないその身体のため、エネルギー補給があらば何時間でも働けるし、そもそも周期リズムが無いため深夜でさえ万全の状態。

etc,etc…




原作見てて、ここまで追い詰められるとかこの世界の軍人バカですか?(笑)
なんて思ってたオレを小一時間ほど殴りたいっ!!
勝てないだけの理由はあるんだよっ!!


BETAの恐さは物量だけやないっ!!こちらが対応できない戦力集中密度での各個撃破、それを実現する機動力。なにより怖いのがこれからが成長期ってことなんやっ!!

他にも今挙げられるだけで、
《個体戦闘力》《走破性》《耐久性》《兵站能力》《連続稼働時間》《個体価値の低さ》《生産性》《機動力》《判断速度》《光線級》
と10個も人類に勝っている部分をあげられる。これ以外にも原作には書いてない、いやあげられていないことが沢山あるんだよ…

はぁ…

憂鬱になる…ハルヒの世界の長門とこっちの世界の長門(戦艦)を交換出来れば良いんだけど…
主にオレのテンション上げのために。



はぁ~・・・




マリヱ「(今回は最後まで愚痴だったな…こんなのでいいのか孝明よ…)」





つづく


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次元管理電脳より追加報告

主人公の方針が決定しました。NEW!

『1979年時の世界情報報告が加わりました。』NEW!
世界報告 1979年度版
・世界総人口 31億人 

※1974年に総人口の3割、7億人を超える人間がBETAに食べられ、それに比例する人間が餓死・中毒死(放射能・BETA由来物質)等により死んでいます。

その時に人類の総人口が27億人まで落ち込みを見せており、そこから前線国家の増加政策により少しずつ増えているようです。もちろん齧られなながらですが。

・年間死者行方不明者数 1億7600万人(BETAによる原因が9割強)
・世界経済規模 15兆2000億ドル ※1990年USドルベース
・国防費比率 13% ※そのうち人件費比率58%



『1979年BETA活動報告が加わりました。』NEW!

個体総数・計測不能 少なくとも300万体以上いると思われます。

ハイヴ総数8
フェイズ5・1か所
フェイズ4・4か所
フェイズ3・2か所
フェイズ2・0か所
フェイズ1・0か所

年間生産個体数・約40万体 
年間破壊個体数・約24万体

主攻勢・欧州中東方面です。
状態・生産を第1とした安定期です。


以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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筆者です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。



※1  世界、史実という言葉へのご説明

主人公が来た世界は、私たちがいる世界と非常に近い世界ですが違う世界でもあります。ですが、平行多重世界の基本となる世界がこの世界ということになり、報告義務がこちらの世界に沿った形になっている…という設定です。

そのためマブラヴの世界の史実を「マブラヴ史実」
主人公がいた世界の史実を「俺がいた世界の史実」
そして私たちの世界の史実に対しては「本来の史実」や単純に史実、歴史と表記させていただきます。

混乱の原因になってしまう恐れがあるため、先に書かせて頂きました。

後この世界、マブラヴの世界のアメリカはカナダ事件、欧州陥落、史実以上の覇権国家化、そしてG弾派の適策とCIAの暴挙を長られなかったことで腐るところまで腐ってしまった…としています。

史実のアメリカを見れば考えられないものですが、マブラヴではその奇跡のような偶然が重なり、屑になってるのでしょう…そうとしか考えられません。

さてそのアメリカをどのようにして目を覚まさせるのか…主人公大変そうです。

最後にコメントありがとうございました。他にもコメント心待ちにしておりますので、気軽にコメントよろしくお願いします。




では次回「会議」にて。

失礼します<(_ _)>




[28072] 第Ⅰ章<始動編> 4話 会議 《7/6改訂更新》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/07/06 18:35
――――1980年1月19日・東京の高層ビルの一角にて――――――

この日は初めて俺は光菱財閥の幹部連中と合うことになった。

親父の
「いささか急ではあったが、財閥のこれからの運営についての緊急会議を始める。
ここに集められた者たちには、忌憚なき意見を述べてほしい。」

という言葉から始められたこの会議は実質、俺のお目見えに関しての会議と言って良い代物、そのはずだった。

親父としては財閥内だけだが、俺という成功結果を公表して士気を上げたかったこともあるのだろう。前例としてほぼ身一つで光菱財閥という巨大コングロマリッドを作り上げた弥太郎初代総裁、それを凌ぐ可能性を持つ、息子。親父という商才溢れる天才に唯一足りなかった後継ぎ、それも特上の者が降って湧いたのだ。誰しも喜んでいたという。…そこのところは俺にはわからなかったが。

といってもこの光菱。以前述べたようにその財閥の象徴が「団結」と言うほど、親方日の丸、光宮家の忠臣がごとく働く社員が多い。

総裁のころから光菱に命を掲げ、父、祖父も光菱で働いていた者も数多くおり、商業の烈士達とまで呼ばれるほどの忠誠心をこの財閥にささげてくれるのだ。

どこからその心が来るのかわからないが、俺からしてみればやりづらいものがある。親父殿はそのおかげで20年前の経営不振となっていた光菱を建て直せたと言っていたが、社員の首を切らずに建て直すなど、親父の腕でなければ不可能だと思う。

まあそんな熱い烈士達の目を納得させられるかが、今回の試験なのだそうだ。
この場で上手く結果を残せばそのまま信用となり、早期に財閥を活用させ、BETAの動きを阻害することにも繋がる。そんな時間との勝負である以上、ここでしくじっていられない。


……まあそんなこと後から気づいたわけで実際は

「親父の体からすっげえオーラ出てんだけど、アレ枯渇しねえのかな?」
などといったバカげた疑問を、緊張から逃れるために思い浮かんでいたものだ。

そんな内心ばかばかしいことを考えていた俺だが、幹部からしたらいくら後継者としても、大事な会議で8歳のガキが総裁のとなりにいる状況に混乱、疑惑があったのだろう。見た感じ

「天主様はどのような人物か、使えるのか」という目でこちらを見てくるのだ。

まあその日集まった人数はそう多くなく、それだけであれば緊張するはずのないもの。たかだが数十人のおっさんの前でのスピーチ、そう割り切ってしまえば中学生ぐらいになれば簡単にこなせるようなものだった。

だが問題はその"質"にあったのだ。

なにせその会議に集められたのは国内第2位の大組織、『光菱財閥』の大幹部たち。総勢50万人以上の頂点である。

言うなれば精鋭中の精鋭であり、戦後の財閥衰退から今まで、財閥の力を取り戻すまで人生を賭してきた人生の先輩方なのだから、なんと言って良いやら、もうすごい。

何が言いたいかって言うと、ここにいるメンバー全員が父、天元のもと、光菱財閥を元の大財閥に押し戻した歴戦の超一流ビジネスマン達って奴なわけだ。

前の人生じゃ一生お目にかかれなかった空気を味わってきょどったな~ワ○ピースの覇気、商気色の覇気みたいなの当てられたみたいな感じ?そんなのないけど。


他にも数人いたにはいたがその時はそれが誰なのかは分かっていなかった。

しかし全員に一致しているのは、全員が全員実力者だということだけがわかり、ボッチ気分を味わっていたわけだ。こんなところで会議するなんて聞いてなかったんだけどなぁ…



でも臆してるだけじゃ何も生まれない。てことで自己紹介から始めたんだが…

発言と同時にかかる幾重もの、そして重厚な視線。今回の会議の重要度から言って、子供だからといって浮かれている者などいないのだろう。

だが、意外なことに視線に蔑みの色が一切なかったのを覚えている。このような席に子供が出席すること自体、許せない者が出てくると思ったのだが、これはありがたかった。

まぁーあいさつはガキにも見られず、大人の挨拶としては幼いところに収めたものにした

…まあ自分の手が震えていたことも演技なら100点だったんだけどね…

そうもいかなかったのは今考えると恥ずかしい思い出だ。


その後に親父から

「うむ、皆も忙しいだろうからな。時間が惜しい。早速本題に入らせて貰う。

―――気づいているとは思うが、亡き初代総裁がお持ちになった天霊樹の力。それが未来を視とうし、人ならざる力を与えるなどといった話を、どこからともなくとも聞いたことがあるだろう。

それを実際に受け継いだ、初の血族である我が息子からお主らに説明をさせようと今回集まって貰ったのだ。

その力を疑う者もいるだろう、今回の会議にしろ、重要な会議を抜け出す価値があるのかと思うのが普通であろうな。

だがこれから先、どのような話であっても最後まで席を立つことは断じて許さぬ。

今日この席で話合われる内容によって、今後の光菱、いや、日本の趨勢に関わってくることと、肝に銘じて聞いてほしい。」

というカリスマ性全開の仰々しい発言によって話し合いが始まった。

ざわざわしていた空気がこの一言で吹き飛ぶとは親父の重要度、そのカリスマ性が分かるだろう。


だからこそ、親父の影響下でこれからを生きていくことになることを危惧し、少し危険な賭けに出ることにした。


いきなりマリヱを召喚したのだ。如何にも神らしい恰好をさせて。

もちろん召喚というのも神器本体についていた映像装置をこちらの技術で光源を増幅させて映し出された3次元立体映像のことであり、実物ではない。

しかし、この神器の技術はこの時代には不可能な代物であり、この3Dの映像にはみんな驚いてたなあ…マリヱの美しさも合わさってだろうけど。

なぜそのようなことをするかだが、すぐにでも行動に移りたい俺としては、お試し期間なんてまどろっこしいものは無理にでもパージしたい。

だからこそマリヱという信じられる御神体を目の前に見せることで、信用度を上げようと画作したわけだ。


そうして厨2全開の「天来神マリヱ」として召喚されたマリヱ。この時の発言は財閥関係者を驚かせることになる。

なんと己の力(知識等)をneedーtoーknowを被せた上で話したのにも関わらず、一人の幹部が放った「財閥のどのようにして力を貸していただけるのか」という質問に対して「分からぬ」と返したのだ。

これには先ほどの驚きを超え、声を荒げた者もおり、その力が本当であれ嘘であれ事実を示そうとしない態度が気に喰わなかったのだろうと思う。

だからこそその後にマリヱにこう言ってもらったのだ。

「そこの孝明が亡き弥太郎の志を継いでおる。
そやつの望みならば、我は最大限の知を持って孝明の望みを叶えよう。だが我は"知"を孝明に渡すだけ、それを生かし改良していくのは孝明とおぬし達だ。」

と。

なぜNEED TO KNOWを被せたうえで本当のことを話さず、協力するのはオレ経由としたかだが

ぶっちゃけ、俺への求心力が得られないからだ。

それよりも、オーパーツであるマリヱを神に格上げし≧弥太郎さんにすることで、その力を得られる俺自身の格と重要度をすぐにでも上げ、俺自身の財閥内の重要性を上げておきたかったからだ。

そして俺が望むものが財閥、日本の繁栄にあることを明確にすることで、弥太郎さんの実績とマリヱの実力からくる求心力を得られると踏んだためでもある。

そうして明確な順位付けが自然に行われ、質問の方向がマリヱに俺を含んだ状態で再スタートし、今度は俺とマリヱの力がどのような物なのかを示してほしいと言う方向に流れていった。

人は信用が、実績が無ければ人を信じない。それが重要であればあるほど。というのは当たり前のことであり、いきなり神妙奇天烈なヤツが「俺は神だっ!!従えっ!!」と言われても現代社会で信じて従うヤツは皆無だろう。


そのために段階を踏んで、信用を勝ち取ることにしたのだ。

その第1段階が国内の最重要機密の情報。

1982年中ごろに実戦配備となるタイプ82、F-4の強化改修型である瑞鶴についてだ。

82式戦術歩行戦闘機 瑞鶴。

第1、5世代戦術機に相当する機体であり後年、傑作機としての呼び名も多く、日本のこれからのドクトリンを体現した戦術機であるこの機体。

また純国産第三世代戦術機不知火など、これからの開発に大きく関係している機体でもある。

しかし現時点、1981年初頭に始めて試作機が出来るという状態であり、その方向性をまとめる段階でしかない瑞鶴。計画が1979年からスタートしていることから考えれば当たり前だが、1982年までとは斯衛も無茶を言うものだ。

だが将来日本の各企業が城内省の苛烈極まる要求を実現する、言わずもがな、この国の誇る最新鋭機となる…予定の戦術機であることには変わりないのも事実ではある。今現在から見ると急ぎすぎて危なっかしい物だが。


で、それに関しての情報を披露したわけだ。しかも現時点でクリアされていない最重要機密情報を含んで、出来てもいないのにも関わらずボッコボッコに欠点を上げ連ねて。

これがどれだけのことか、情報の大切さを知るものであればわかるだろう。

曙計画から続く国産戦術機を目指している日本。その一歩である瑞鶴に関して、あらゆるデータで比較しその欠点をも上げ連ねたのだ。

それを聞いてその場にいた幹部、特に光菱重工関連幹部は額に青筋を立てていたほどキレていた。

…まあ実際、斯衛が企業に無理をさせて1,5世代機を作った時点でもう失敗であるわけで、瑞鶴自体が欠陥機というわけでもない。

斯衛の要求からしたら合格しており、拠点防衛用の戦術機としたら第1世代でも屈指だろう。いや良く企業は頑張った。(だからこそキレているわけだが…)

その証拠に斯衛も長年使い続けていることも解るし、頼んだ側の方針が間違っていただけだ。
…それが一番拙いんだけどね。しょうがないことではあるのだけど。

で、それに関してはその欠点を解消する術を明示しつつ、方法を財閥で考えていくこともその場で決定され、その中には配備を遅らせることも考慮に入れるさせるよう政治的に動くことも含んでいる。


…とまあここまでは信用を得るための点火点に過ぎない。

今行ったのは今現在の情報、その中でも国家機密に属する情報をを正確に知っていること。

重要なのはここからだ。

次にその力として開示した情報はなんと、アメリカが誇る第二世代戦術機・F-15についての情報だった。

F-15。さきほどの瑞鶴を否定した明確な理由としても紹介したかったこの機体は将来、全ての面において最強の第2世代戦術機の名を欲しいものにする、世界最優の戦術機だ。

1982年にはもう、その姿は試作型の演習披露などを通じて公にされる予定のその本機は、今の調子であれば1984年にはアメリカ本土を中心に配備され、将来アメリカの力の象徴として長年前線で君臨し続ける鋼の大鷲F-15。

米国の威信をかけて「最新鋭・最強の戦術機」として作らているこの機体。そんな最重要国家機密に属する情報など、他国が盗めるものではない。

で、あればだ。その情報元はどのようなものであれ、超状的なものであり、未来や現在の技術を超越した情報を持つ、そんな存在しかしかありえない。

そうすることでまたしても己の重要度と発言力を上げるために、そのスペックと実戦写真、そしてそこにいた技術者をもっとも驚かした1989年に採用することになるF-15Jの部分設計図。それを開示してみせたのだ。

マリヱの力もありその情報を映写機に映し、今現在試験飛行などで姿を現すXF-15との近似性による証明をすることでその有用性と脅威を、そしてそれに付随しての俺の情報解析度と価値を上げたようとしたのだ。


その映し出された映像は幹部達をあらゆる意味で驚かせた。

それは最初の第2世代機として1982年に正式に配備されるFー14トムキャット、今現在もっとも形ができており、試作機が公開されたばかりの物と似た体形を戦術機がそこに示されていた。

今までの戦術機と一線を超す機体が映し出されており、そうなるであろう未来の戦場で戦う姿が映し出されてもいたからだ。

あまり嬉しくない空気に淀んでいたのを覚えている。

それはそうだ。スペック、明かされた情報だけで見れば、局地戦用である瑞鶴でさえ1対7のキルレシオを示し、現に未来で発生する在日米軍との戦術機中隊格闘訓練での映像では、日本側がボロボロにやられていた。

それは極論だが敵一機で2個小隊を相手取ることができるという証明であり、米国との技術格差があまりにも大きすぎることを意味している。

―――未来のものだからしょうがないんだけど。



まあ、そうした超常的な「情報」によって信憑性を高めた俺。

どちらも今の日本に必要な戦術機の情報であり、周りの見る目は次第にこちらに好意的で宗徒が聖人を見るような、なにか格が違う者を見るようになっていた。


俺はそこで情報開示をやめて、次に会議に進みたくなる…所を抑えまたしてもある重要情報を開示することにした。

普通ならそんな情報開示のバーゲンセールのようなことは愚策に等しい。だが今開示した情報は改ざんの余地があり、そしてその諜報を駆使すれば不可能ではない代物がほとんどなのだ。

そのような不信を生じる要素を含ませたまま財閥を動かすことはできない。


ならばこそ己の神秘性を増し、これからの財閥の主導権を取るために財閥内で神格化させるために何が必要か…と考えて実施したのが


1月19日の会議当日に起こる、三陸沖で発生した三陸沖地震。その予知だった。



元来、人が神を神と信じるのはその人では成しえない力と知…そして自然災害を予知することであった。

自然災害、それも神の怒りとされてきた"地震"

それを予知するということは今の時代も、起こすものと同じ、信じるものが少なくなった"神"のごとき行いであるからに他ならないからだ。

そうした数々の神秘を見せた俺。それを見る幹部達の目は最初とは雲泥の差と言える眼差しでこちらを見ていた。

どのような疑い深いものでも、ここまでのことをされてある程度の実力(人の域を超えているが…)を持つ者として見なければならないだろう。

親父でさえ10年以上もかかった財閥内での信用、その半分ほどをこの時点で勝ち取ろうとしているのであり、次期財閥総裁に決まっていることから、その脅威の力は直接財閥のために使われることに不安はないだろう。


そうして自身の神秘性を上げた俺は、自然災害の予知を事前に災害救助に使えるのでは?という考えに幹部が至る前に言葉に重ねた。



「―――この事実において、いろいろな意見があるでしょう。あの地震の被害を最小限にできなかったのかと…

そう。このことを事前に通告したとしても、妄言とられるのが普通。

そのことを考慮したとしても、結果から見れば私は北海道の三陸に住む住人を見捨てたことになります。

"目の前に倒れている人間を放っておくような男に日本は救えない
"と聖徳太子は言うでしょう。ですが、私はあえて捨てます。私でさえも。


その事実を言われてから考えた者、そう考えることが不敬と考えた者、そして自分からその事実を公表してしまったことに驚きを隠せない者等、そこにいる幹部達を見回し、言葉を繋ぐ。

「なぜでしょうか?
それはここにいる皆様の信頼を勝ち取ることのほうがこの國の、私たちの愛する日本の国益に則していると判断したからですっ!!

私の力は変えられないであろう未来の知識、そうであっただろう未来、その技術です。確かにいろいろな力を含め、私は常人離れしているのは確かでしょう。マリヱ様からの力が宿っているのですから。
ですが一人であるのも変えられない事実。

その知識を如何にして使うか、厳密に言えばこの知識と力を有用に使える体制と人材を集めるかに今後の日の本の未来にかかわってくるのです。

国難の武足り得るならば、私は物と成りましょう。だからこそそれを使える者達となってほしい。この光菱、ひいてはこの日の本のために。そう私は思います。」

と言葉を重ね、幹部連中に活を入れた。

自分で言った言葉を他人に説明するのはとても恥ずかしいものだが、

愛国心…俺がいた日本ではある種のタブーのようになっていた言葉は、この世界ではある種の毒であると考え、なりふりかまってられないぶん、日本人の弱い部分をついたのだ。

日本人、いや日本人だからこそ団結という美徳をもっとも愛する。そうしなければ村社会である日本であるからして、省かれてしまうからでもあるが、今ここに至ってはとても有益な民族的特徴だろう。

だからこそ次はこの世界で勝ち抜いていける力を見せたわけだが、次は危機、その覚悟を見せてもらおう。利益によって生まれた団結を一層固めるためにも。

そうして会場の大きなスクリーンに映し出されたのは日本の上空から捉えた衛星写真が3枚。

同じ場所を写したのにも関わらず、その3枚の写真は何十年間かけて経済発展をした国のごとく、劇的な変化を物語っていた。

だがそこのにいる幹部達は気づく。これは経済発展による変化ではないと。

なぜならば右に行くほどに緑と、そして経済発展による灰色の建築物達の面積も小さくなり、代わりに茶色の土肌が露出するようになっていたからだ。

そう、それはこの世界に俺が来ることはなかったこの世界の史実。

その日本の未来である1998年時に起こったBETAによる日本侵攻。それを証明するその時の関西上空の衛星写真であった。

もはやこの会場のざわめきは消え去り、絶句による沈黙しか残っていない。

その写真自体は未来の帝国情報省のデータベースにあったものだ。

その当時、それほど厳重な管理が成された情報ではない。2001年の時点ではほとんど価値を見いだせなかったただのデータだ。

だがその情報が示していたのは1998年、その年に行われたBETAの日本侵攻。3600万人という甚大な被害とと九州から一時、関東まで蹂躙された結果を克明に写した写真だったのだ。

それに付随された写真の数々、ある者は喰われ、首都である京都が灰燼に化している写真達。

それはここにいる者の想像を絶する悲劇を詳細に現わしていた。

その当時、1億2000万を超えた日本の約3割の国民と半分の大地を蝕んだその事件は日本史上類を見ない負け戦。

あの第2次世界大戦でさえ被害は軍民合わせて400万を超えない域であるにも関わらず、それの10倍近くが約半年の期間で喰われていった日本史上最大の悲劇。


そうした悲劇を物語る写真を見て、その場にいた幹部達は気づいてしまった。いや日本人であればそれの意味することは何も言わずに理解してしまうものなのだろう。

――――「日本はBETAにあらがえなかった」ということに。


それほどまでに今現在のBETAへの恐怖は世界レベルで蔓延している。
何時その時が来るかを誰も口には出さないが、すぐに想像できてしてしまうほどに。

もちろん全ての国民とは言わない。だが財閥の幹部連中は皆、財閥の国際的に広がった情報網によってその現状は知っている。想像が出来てしまうほどにも。


そして写真は続く。

「…佐渡島とここは横浜か…」

幹部の一人がそうつぶやく。

その写真、その場所は荒廃していた。一つの原因、世界の膿によって。

それがハイヴ、あのBETAの巣だ。史実では甲21号ハイヴと呼ばれる佐渡島ハイヴと甲22号ハイヴと呼ばれる横浜ハイヴ。

それらによる国土の蹂躙を示したその写真は愛すべき大地、我らが母を侵された忌子を克明と記している。

「「「「「…………」」」」」」

もはや言葉もでない。

いままでの言葉を信じる者、信じていない者でさえ口を紡ぐほどの事実。それを見せられ冷静でいられる者などいない。

只一人―――俺だけを除いてだが。

目の前で年々高まっていた国民の"不安"が現実となって形となったことで呆然としている幹部達。

それは当たり前だ。国土の蹂躙という形が目の前にあるのだから。


だからこそ、そうならざる得ないからこそ卑怯だがこの場にいる者の求心力は得るために"その事実"が利用させてもらった。

この情報を見せられて冷静でいられる日本人などいない。幹部連中や他数名の者にしたって無意識的に、縋りつく存在に力を貸そうとするだろう。

―――俺のような存在に。


そうして誘導された衝動の元、相手の自発的な行動によって俺の主導の元に財閥が動いていく形になるまで止まらないだろう。止まるはずえない。



その後はもはや大勢のついた戦と変わらず、

「これで私の話を終わりにします。この私が知ってしまった未来にしないためにも、この未来技術と演算能力、そしてこうなってしまうかもしれないという覚悟を駆使してより一層の奮起をお願い致します。

亡き初代総裁もおっしゃった"国家的観念を持って全ての事業に当たれ。"それを実行する時が今なのです。」

という言葉を皮切りに「オレの知識を信じるか」というところから、この情報を活かしてこれからどのように未来を書き換えていくか、どうやっていくかのところまで行きついた。

その後は幹部達の不眠不休の話し合い(殴り合いさえ起こったらしい)によってある程度の方針が決まったわけだが…後で聞いた話なのだが、なんとここには幹部達以外にも重要人物がまぎれ、この会議を観察していたらしい。

始めての会議に余所者入れるなんて…と思ったけど、初代総裁である弥太郎曾祖父の秘密を知っている集団があったとか。


弥太郎さんは当時、その力を使って日本の政府や軍部、五摂家、そして皇家にまで人脈を構築していた。

商売としての横の繋がりと別にして、この国の意志決定にまで影響を与える「日本版フリーメイソンみたいな秘密組織」を作っていたということだ。これはすごい。

どんな知識を弥太郎さんが授かったのかわからないけど、その力を商売だけでなく国家のために使える意志は純粋に尊敬するものだ。
戦前と戦後の違いなのかもしれないが。

もちろん、零からのスタートで弥太郎さんとマリヱとの接続レベルも低かったため、財閥を大きく出来ても国家としての成功は収められるほどの影響はだせなかったらしいんだが…

なんとかアメリカとの戦争も条件付き降伏にまで出来たとか。

そう考えると俺より万倍すごいよね。0からここまでできるのは。


結局、戦後戦争責任もあって自動的に解散されたことになったらしいけど、人脈だけは保たれていたらしく、親父はその組織の復興と拡大を進めているらしいのだ。…そこらへん話してくれないんだよね…


で、その流れを汲む公家の皇室財産の管理人や、将家御用達の財産運用会社、日本銀行の運用委員会の委員長など日本の金を司り、信用の置ける人間を招いていた…とのこと。

で、今回の顔合わせはその組織との面会としても開かれたらしく、評価試験は一応は合格。

さきほどの《やりすぎな自己紹介》のおかげか未来知識を使って、光菱の資産だけでなく皇室、将家、日本銀行と裏で組んで大量の金を運用して、増やす計画を俺にやらせることになり、その信用度は予想を超えて高まった。

つまりはこれからの作戦資金にする重要な金を任されたことに他ならず、見事今回の試験に合格し計画にゴーサインが出されたわけだ。

(あとで親父に聞いたらパフォーマンスのやりすぎだと叱られたが…)


この闇の資産運用部門と、アメリカにばれないよう慎重に日本の根元に侵入する組織構築部門。そして、俺の未来技術を使った技術開発部門を主軸にした計画を実行していく運びになっていくわけだ。

まずは資金集めとはさすがではあるが、まず金が必要であるのはどの社会でも変わらないだろう。

だからこそ俺の最初の仕事は国内の金を増やし、そのほとんどをこちらの思惑で流せる体制作りとなるだろう。

さて頑張りますか、財閥の力を使ってね。



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次元管理電脳より追加報告

主人公が「光菱財閥」主要幹部と接触しました。NEW!

財閥主要人物における信用度が53%に向上しました。NEW!

光菱財閥内の緊急会議において「政府への干渉」「組織戦略の見直し」が取りきめられました。---成長予測が上方修正されました。NEW!



以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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筆者です。

途中、地震について書いた時、読者の中に地震被災者がいらっしゃる場合、そのお心を害してしまわないか、と消すか思い悩んだのですが、"変えられない未来"として作品内で表すと地震しか思い浮かばず、そのままとなりました。

気分を害してしまった読者の皆様が居りましたら、ここで謝罪致します。申し訳ありませんでした。




さてさて、本編です。頭の中の知識はまず、財閥の求心力を集めるために使いました。戦術機の設計図が手に入っても、今の日本じゃすぐに作れませんし、何より完成まじかのF-15を日本が似たもの作ったらアメリカの心象最悪ですからね。

また、ここまで求心力にこだわるのは、主人公が昔、人に裏切られた経験があるという裏設定があるためです。作品内で書こうと思ったら長くなって消しました。

それに今の主人公、小学生の悪ガキですし。コナン君が調子にのってる感じですね。

途中で出てきた
「国家的観念を持って全ての事業に当たれ。」もそうですが
「小僧に頭を下げると思うから情けないのだ。金に頭を下げるのだ」とはこの財閥のオリジナルである三菱財閥、その岩崎弥太郎さんの言葉の一文を抜き出した言葉があります。それをこの財閥の幹部達は実現できるのでしょうか。ちなみに子供とは孝明くんのことですよ♪


また"目の前に倒れている人間を放っておくような男に日本は救えない"という言葉も聖徳太子の言葉から引用しております。そうでもしないと言葉に力がないからです。…主に筆者の実力不足のため。


軽口はここらへんにして、本編のほうは、これから独自解釈による、独自設定、オリジナル歴史の嵐になっていきます。少々のご都合主義はお許しを。



では次回にて




[28072] 第Ⅰ章<始動編> 5話 瑞鶴 《7/6改訂更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/07/06 18:36
いろいろな並行世界の中でも異星人やらエイリアンに襲われる、異文化コミュニケーションの盛んすぎる国、日本。

噂では、並行世界の未来を受信して送信している「SAKUSYA」とよばれる電波ちゃんが多いためとも、日本人の肉が一番おいしいと言われていると…それは食人族だったか、まぁ…なんやかんやで襲われては救われる国である。


他の平行世界からすれば珍しく(?)日本原産、いや違った、日本を震源にした世界征服をもくろむ宇宙人ではなく、なんとお隣中国からのご出身の宇宙怪獣から襲われるのが今回の世界での日本の立ち回りだ。

しかも主人公が来た時には既に半殺しされた後という始末。主人公大変だよね…もちろん俺も。

その日本だが変わっていない点は元の世界と同じく、経済大国で米の僕であるという点だ。お米がおいしいからだと考える輩がいるが決して違う…よね?



しかしそれ以外にも基幹史実と違う点が多々見られる。

一つ、1944年に終わり、その後の世界情勢を形作ったWW2では、日本ではなくドイツのベルリンに核を落とされ、代わりに日本は条件付き降伏をしているという点。言ってみれば半属国化はしているがまだ半分残っているとこが違うという点。

二つ、ソ連が太平洋戦争に参加していないことを含め、日本は北方領土、樺太全島を領有したままである点。
千島列島は弥太郎総裁のおかげで、日露戦争時に相手の顔を立てるために「樺太全島と千島列島の交換」という形で決着がついたことにより、その後ソ連領に編入されている。

また冷戦構造が続く今でも、国民のソ連への感情は悪くなく唯一の障害がアメリカということになる。

三つ、日本は国号を大日本帝国から日本帝国に変えており、皇帝の下に征夷大将軍が、その下に政府がある三重政治体系を持つ珍しい国になっている点。

上二つが象徴のようになっているのはこの世界でも同じであり、武家がおり、史実の大日本帝国がアメリカに負け、そのまま有り続けた感じに近い。政治については…後に説明しよう。

四つ、史実より世界全体が科学力、特に宇宙工学を中心に上がっており、日本もその流れから航空宇宙軍を持っているという点

人型兵器を作れる技術があることからも人類の力を軍事に注ぎ込んでいることがわかる。
民間の技術もそれに付随する形で高いのだが、人類の減少等で需要が軍事にとられているため、贅沢品の市場が小さい。(正確に言えば小さくなり始めている)

五つ、日本が純粋な軍を保持している点

これは条件付き降伏と言うこともあり、法改正、憲法の改正はこの世界でも行われたわけだが、その変えられた度合いがまったく違い、大日本帝国憲法にまだ近い。

その中には『軍の所持』いわゆる9条が無く、それを守るためにあった日米安保もアメリカに頼りっ切りという状況ではないのだ。
どちらかと言えば、マブラヴ史実においてBETAの脅威が年々高まるにつれて、10年事にある日米安保更新時に少しづつアメリカの影響力が強まってきた流れ、と言える。

そのため日本帝国軍の規模は日本国力に準じた規模を誇っており、海軍では戦艦を軸にした変容な編成(日米安保時の条約に日本側に戦艦による打撃力を頼るとして、戦艦保有を義務付けている)によって海外遠征能力を削られてはいるが、その規模は世界第3位――英国軍がBETA欧州侵攻で増強、欧州の企業群が英国に退避して英国国力が増している――を誇り、陸軍にしたってその規模は70万人を超している。

それ以外にも航空宇宙軍を組織しており、その規模は年々拡大している。といってもアメリカの誘導線上であり、航空宇宙軍の装備の米製比率は全軍の中で一番高いのだが。

まあケチはつくが十分大国、地域覇権国家を名乗れる規模であり、その分の国際影響力はとても強く、特に東南アジアからオセアニア、南米との繋がりも強くなっている。


六つ、史実と同じく経済大国として世界に君臨してはいる日本。史実よりも早くアメリカの力によって軍を含めた復興が出来た見返りに、若干経済力は落ちているという点が違うのだ。

言ってみれば軍事にも国費を割かなければならず、国力総てを経済に傾倒出来なかったからだろう。

その分国際影響力は増しており、その貿易先の比率もアメリカがダントツ…ではあるが史実よりも少なく、東南アジアや南米など様々な国に輸出を行ってはいる。

が先の理由で規模だけは下がっており、実際の数値で表せば史実の約7割ほどのGDPであり、1981年時点の名目GDPは約7300億USドル、それに対してアメリカは史実より多い3兆4000億USドルとなっている。

(ちなみに2002年時点でのアメリカ、名目GDP12兆USドルに追いつくためには$ベースで日本は単純計算、経済成長率年平均14%を維持せねばならず、目標達成の7割でも12%を維持し続けなければならない・・・)

しかし1980年代初頭の日本は世界の不安の中、その工業力を活かして武器弾薬、物資、そして日本帝国お得意となる合成食料を大量に輸出している最中のため、史実以上に日本に取って天国だった時代とも言える。


その日本を救い、80年代後期から続く悪夢の大不況を回避するためにもあの財閥会議の後、財閥は一致団結して急激に動き出した。

(一致団結できない者がどこかに消えたとも言えるが…)


神器の接続技術の開発始動などを皮きりに、日本の皇家や摂家から借りた大量の資産の運用など、平行世界での何千人もの経験を知っている俺が中心と成って指令を下し、財閥は未来情報を有効に使った資産運用で莫大な利益を短期間で出していたのだ。


特にBETAの動きを利用してのものが大きい。
まだなにも防ぐ手立てがない以上、奪われるのは癪なので、そこにいる人、資源の獲得を格安で行うことで少なくない利益を上げたというわけだ。

そうして3か月を過ごしたことになる…たかが3か月だが、マブラヴ史実でも3か月で桜花作戦を成功させるところまで出来たのだ。されど3カ月と言えるだろう。

その半年間の金稼ぎ以外にも簡単に出来る技術の改良や、アドバイスだけで進むプロジェクトなどを筆頭に、4年以内に儲けを出せる事業を中心に行動している。

まず、何をするにでも投資する金額をアップしなきゃ始まらない。

儲けと売れるほどの技術を利用して各企業の関係を改善、友好的な買収に繋げていかなければ、日本の中でもギクシャクしてしまうからなのだが……

出る杭は打たれる日本の中でその抑圧の中、どれだけ飛び出せる環境を作るかが大切になってくるだろうからだ。

まあ、こうして良いスタートダッシュをきれたことは財閥にとって大きな物になるのは間違いないだろう。それほど財閥は活気づいているのだ。

そんなことで財閥の新しい軌道はどうにか定まってきたけど、一つだけ気づいてしまったことがある。

新技術の習得だけで時間ってめちゃめちゃ食うのね♪正直舐めてた(笑)

オリジナルせんじゅつきで俺TUEEEE!!作戦だが、戦術機開発ってBETAの驚異の中でさえ次世代の機体には普通、10年くらいはかかるもの。わかってたけど未来知識でどこまで短縮できるかだよなぁ…


そうしたことが原因で集められたのは光菱重工や関連子会社などの各兵器開発責任者や、日本の国産次世代機開発研究機構に出向くことになっている社員達である。


いわゆる日本の戦術機関係の第一人者達、つまり日本の最先端技術を担っている人材達。


この社員達はこの3カ月間、ある戦術機の開発と俺の知識を実用化するために基礎技術習得訓練(?)してもらったいたのだ。


「戦術機」ーTactical Surface Fighterー『戦術歩行戦闘機』の略称で現有兵器の花形とも言える兵器。

光線級によって絶望的になってしまった航空支援等、三次元起動を主とした高速機動を実現した人型新概念兵器であり、その高い任務適応能力を使った他の兵器体系では態様できない事態を全て、この兵器だけで満たそうと見込まれている兵器のことでもある。

言ってしまえば、この世界の対BETA戦で唯一対抗出来ている正面主力兵器体系のことである。



形としては全長は17~20m、第三世代機で重量は約60トン程度。

外見としては人の形から肩を大きくして手足を長くし、括れが半端じゃないほどできた人型に、武器を背負わせた…と言えば良いのかな?

重さを考えると人を戦術機並の大きさにした場合、約120トンくらいになりそうなので…そう考えると軽いが、航空兵器としてはいささか重すぎるという感じだ。

しかしお尻の当たりに付いている噴射跳躍システムの推力が、史実世界の驚きの倍以上に高いため、高い機動性を実現出来ているのがこの兵器を最強たらしめている所以である。


この跳躍ユニットと徒歩を駆使できる戦術機によって、補給が絶望的なアリの巣のようなハイヴを攻略しようと考えられているわけだ。

では肝心のお値段はっ!!

世界でもっともポピュラーなFー4が40億円!!


…高いよね。

第二世代最強のFー15Cが70億強、第三世代機の不知火が約110億。ちなみにF-22は160億以上!!!

※完全にこの数値は独自設定であり、時価単位ではなく1ドル=100円ほどの時の価値感覚です※

この価格からして戦闘機の倍ほどのお値段である戦術機だが甲21号作戦の時、全作戦参加機数約1500機。

全機揃えるのに軽く12兆円を超える計算…史実にその予算を使えるなら自衛隊に正規空母を完全装備で3隻ほどプレゼントしたいほどの予算をつぎ込んで、部隊は半壊、作戦的に失敗とはやってられないと思うのもうなずける。

だがこの戦術機こそ対BETA線の切り札なのだから、通常兵器であればこれ以上のコストがかかるのだからこれしかない、というのが今の人類の現状なのだ。


ならばなぜ戦術機のお値段がこんなに高くなるか、だがこれは戦闘機に足と腕生やして装甲を厚くしたようなもんだから、と言えるだろう。

複雑な構造である人型で、ヘリを凌駕する機動性と人のような複雑な動きの二つを実現した兵器。

重量比で比べてしまえば戦闘機の重量は20トンくらいとして単純に3倍、60トン近い重さの兵器であれば自然にお値段は高くなり。

しかも兵器と言う複雑な電子機器を内蔵した人類の矛は、それ以上に機構が複雑なために、乗数倍にコストが跳ね上がる。

それを努力と根性でコストを約倍にまで落としたところは涙を流して褒め称えたいと思う。

だがしかしだ。不知火一機より10式戦車1ダースを製造して改良したほうが良くね?

って思う人いるよね?俺もそう思ってたけどさ…


だがしかしっ!!!ってことがあるわけだ。

ここでいきなりだが光線級の紹介と一つの仮説を長々と紹介したいと思う。長いから読み飛ばしたほうが良いよ!

※読み飛ばし推奨説明文※

「光線級」俗称ではルクスやらマグヌスルクスと呼ばれる目玉が少女漫画並みにクリクリしている怪物。

その光線級ってのは基本、

直線で捉えられる物に対して強い2次元機動をする戦車なんかを的にするタイプ

ミサイルや砲弾など、光線級の視覚内(観測圏内)で"動いている"高脅威目標から順に反射で迎撃するタイプ

この2タイプの動作プログラムが体内にある…とされる。

(あまりに考察が長いため※マークまで読み飛ばし推奨)

そもそも光線級は資源の切り出しを主任務とされていたBETAであると見られているBETA。

だがその生息から資源を採掘している他のBETAを、宇宙空間から飛来する小隕石群から守る働きも担っていた、とも少数意見だが近年考えられるようになってきている。

その動作を改良することでBETAは降りかかる弾を撃墜するプログラムに昇華したと俺は数多くのデータから断定したのだ。

そのため、BETAの動作プログラムの目標動作予測プログラムは、目標の動作に対して、重力による影響、慣性等の影響等、隕石の迎撃に必要な要素を最優先に考慮されていると考えられる。

そうでなければ、隕石の迎撃など出来るわけがないしあそこまで即座に人類の行動に対処できない。

(これは上位存在が人類を災害とみなしている一つの理由として、それまでのプログラムで対応できてしまうためだとも考えられる)

そしてまた仮説で申し訳ないのだが、この迎撃プログラムは、光線級の持つレーダーのような知覚器官と、それらを複合した光線級の各個体が情報を共有することで導き出されていると考えられる。(以後これを共有迎撃システム群と呼ぶ)

それによって目標を指定範囲内に収め、照準用の初期レーザーで捉え、それから光線級の目線移動(反射)によって撃破している。

この反射は隕石迎撃プログラムを派生させたものであるからして、目標対象物前方に「反射の指定範囲」が置かれているものと予測されており、目線移動も直線的だ。

そのため光線級達個人(?)が形成するこの反射というものは、脅威的な精度を持つ共有迎撃システム群より精度が悪いと思われる。


これによって、危険度が高いターゲットを即座に選別し、個体に割り振り動作プログラムを変更して攻撃しているのでは?と予測できるわけだ。

そのため、一直線上にいる多目標を薙ぐことはなく、たまたまの誘爆、空気の広範囲のプラズマで焼いてしか対応できていないことも、この予測を裏図ける重要な証拠の足り得る。

つまりは何段階にも定められた防衛圏内に入った高脅威目標、(電子機器を持つ個体を優先される)を、共有迎撃システム群によって知覚。

それから各個体に目標指定範囲を振り分けられ、どちらかのプログラムを駆使して、各個体の働きだけで照準レーザーで捕捉し迎撃・撃破している。

というのがこの仮説の本筋だ。

このことが正しいとすれば、光線級の苦手なものは、光線級の持つプログラムにそぐわない、隕石の運動からかけ離れたものと考えられる。

つまりは慣性運動に頼らない急激な前後左右上下に動き、緩急がついた"生物のような"ものだ。

そうでなければ、弾道ミサイルや戦闘機等戦術機よりも早く予測が難しい兵器を全機撃墜できるのにも関わらず、戦術機が撃墜しずらいという理由が無くなってしまう。武くんの超絶技巧を駆使してもだ。

それによって、光線級の攻撃を避けるには相手の予測する「目標指定範囲」に入る前に方向を変化させ、次に範囲を選定された時には予測された方向とちがった場所にいることが一番となる。

つまり、戦術機みたいに、戦車のような二次元的な機動か反射で対応できる超速か、のどちらでもなく、ちょこまか動く兵器は光線級にとってはいちいち標準合わせるのがめんどくさいものってわけだ。

その動作プログラムの切り替え時間が他の戦力を生かす貴重な時間ともなる。

だからこそ、第一世代戦術機を一番多く破壊したのが光線級であることを除いても、第二世代機のようなちょこまか動くタイプの戦術機が開発されたわけだ。

これに対処するには迎撃総合システム自体を変えるか、人類を生物として見なすしかないため、そう変わらないだろうと予測できる。


※※※※

話が長くなったがその光線級対策と、三次元機動が必要なハイヴ内作戦において、最も適しうる兵器として生み出されたのが戦術機なのである。

その開発経緯からも対光線級と対ハイヴ攻略任務が主である兵器であり、他の任務は従である

…そのはずだったのだが人類の現状がそれを変えてしまった。

人間があの見つけられたら100発100中狙った獲物は逃さないを時で行く光線級に狙われた場合どうするか?

そう、パニくるよね。

そんな心理的な問題から、直線的な加速に頼った回避行動をとる衛士が後を絶たず、その武器を活かしきれずに撃墜されてしまう問題が急増しているのだ。

そうして戦闘機とさして変わらず撃ち落とされる戦術機は、本来持つスペックを発揮できずに撃墜、スクラップになっているのが今の現状なのだ。

―――人類で唯一、光線級に対抗できる兵器であるにもかかわらず、だ。

それでもその人型という点から最前線での重機にもなる万能機でもあるわけで重宝されている。

……そんな器用貧乏兵器の戦術機だがここまで聞いてみると

「だからそんな兵器いらなくね?今は負けてるんだから地上兵器量産&強化だろJK」って思うかもしれない。

だが現時点で地上に置いて、BETAよりも足の速い兵器は戦術機しかいないのだ。

待て待て、飛行機とか、ヘリとかあるじゃん。と聞こえてきそうなものだが、最低でも地上100m以上を飛ばなければならない飛行機は論外として、

戦闘ヘリと比べて見ても、常に高度60以上を取らなければならないヘリと、物陰に隠れることができ、地上での歩行が可能な戦術機とでは露出度と戦域滞在時間が違うのだ。

なにせ光線は直線。光線級危険範囲で見ても60メートルと20メートルでは安全区域が3倍以上違い、地上が平坦でない(山、森、地面の凹凸、ビル等)ために戦術機の安全性はそれ以上に上がる。



それに常に飛んでなければならないヘリでは戦域に長期にわたって滞在ができず、火力・行動自由度などからしても力不足になる。

そして最強の陸上兵器として君臨し続けてきた戦車だが、BETAの速度と走破性、どのような非整地であっても時速80キロで一日中移動できるBETAと比べれば、人間が動かせるどの地上兵器では追いかけっこで負けてしまうわけだ。戦車だってその走破性からして、BETAには勝てない。

ましてや走るコースが決まっている装甲車などと一緒に渋滞中に喰われてしまうこともざらだ。


ここまで説明してきたように、戦争において部隊の移動速度というのは勝つための重要なファクターである。

その考えの元で見れば、BETAに唯一対応できるのは戦術機だけであり、高度40M以下での匍匐飛行、場所も選ばない地上への緊急着陸、という運動性と機動性に加え、スナイパーのように山岳地帯から一方的な匍匐射撃が可能。

そして作戦自由度という点に置いても、敵の速度に合わせて後退しながらの包囲殲滅や迂回打撃。

後方に生きて戻り、武器弾薬を戦術機自体が補給して即座に戦場に戻ってこれる唯一の兵器と言うのは、今のところかなり理想論となっているが、魅力的であり、戦術機を対BETA戦、最強の兵器に押し上げる要因になっている。


他にはこの世界の技術がこんなトンデモ兵器を実用化するまで進化していることが大きく、整備性についても2~3日と言った短期間ならば修理をせずとも動かせる。(まぁ、そのツケが後になってくるのだが、急場を凌ぐ必要性が多い前線では、使いつぶせるだけまだましだ。)

政治的にもハイヴという敵の兵器製造基地を攻略する見込みのある戦術機は欲しがられるもので、歩兵からしても目の前で滞在し続けてくれるヒーローという心理的面も大きい等々いろいろある。


そんな戦術機、日本人(特に男性)が早く国産化してほしいと願っている兵器を実現化させるためにエキスパートを集め、2つの計画についての会議を行うことになったのは、この年の3月のことだった。


まず一つは、1982年までに実用化させなければならないとされる82式戦術機、通称瑞鶴についてのものだった。

この機体の特徴(欠点だけだが)については前回話したが、史実通りの物を完成させたところで即座に時代遅れの代物となることがほぼ決定している点が、もっとも欠点として上げられるだろう。

日本の歴史から言えば、ドレッドノートによって完成した瞬間から旧対化した香取型戦艦のようなもの。技術差があったからと言って、そんなところまで真似しなくても良いと思うんだが。


だからこそそんなミスを犯さないようにこの計画をどうにかするか、そんなための会議を行ったのだ。

といっても77年に撃震のライセンス生産を開始したばかりの国内メーカー。それらにとって史実通りの瑞鶴のままでも無理のある代物であるのは自明の理。

それをさらに強化することは俺と言う存在がいたとして無茶があり、

いまさら「国産でやりますからアメリカさん、今回の契約は無しの方向でお願いしや~す」と言っても通じないことはだれしもが分かる事だった。


だからこそ会議の内容は機体の妥協点等を煮詰め、どうにか未来に置いても“使える機体”に出来るよう、どうにかして斯衛、その上に属する城内省に認めさせるところから始まったのだ。

だがそのような根本的な部分から改めなければならないとすれば、それにはそれなりの正当な理由が必要となる。

なにせ78年に斯衛が「国産」として頼んだことが始まった今回の戦術機開発計画。

その当時は当然

「まだ2年もたっていないのに国産だとっ?ふざけてんのか!!ちょんまげ野郎ッッ!!」

とまで言ったかは定かではないが光菱、冨獄、河崎三社の軍需メーカー大手三社は怒ったものだ。

だが悲しいことにこの世界、上からの無理な命令は今に始まった物ではない。

どうにか現行戦術機、F-4Jの改修強化案頭を城内省に了承させ、血管が切れないように社員が我慢しつつ、話を丸く収めたメーカー側にとってはいまさら期日を伸ばしてほしいとは言えない事情があった。

それが国防に関わるものだとも分かっていたし、こちらから提示した妥協論(現実論だが)に話を合わせてもらったからだ。

しかし今の光菱としては、俺と言う存在がいるため、時代遅れの代物を作るのは、機体の親である立場からしても御免こうむりたい。そんな流れになっていたのだ。


そうして再度の妥協案のために「時間をもらえるならば想定以上の物を作れる」という実証技術をどう見せるか、うたがわれないようにするために会議が開かれたのが、本当の理由なのだ。




そうして政府、軍、そして最大の敵となる将家を筆頭とする城内省を説得するための席が設けられたわけだが…

まあ……予想通り荒れに荒れた。

一部の者がボイコットを敢行するまで、話はもう少しで暴力沙汰か?となるほど熱したほどで、

簡単に言ってしまえば

「おまえらが国産機が出来ないと言ったから、こっちは改良機でがまんしてやったんだぜ?だったら期日を満たせよバカ野郎」

と言ってきたのだ。

こちらからすれば

「第1世代機のままであれば良いけど、お前ら比べるのアメリカ製ばっかじゃん。あっち開発国だぜ?技術差がありすぎなんですけど。

それにあと何年もしないうちに第2世代機とか言うチョー強い機体達が出てくるのになに言ってんの?バカなの?現実見ろよ。」


……と言ってやりたかったが現実問題、あちらに言い分と立場が上であるのは事実。それを見直させるのは城内省のプライドの高さも相まって、難事と言ってよいものだったわけだ。

ではどうしたか?

まずはいわゆる遅滞戦術だ。1979年には始動していた計画をやり直すとは言えない以上、これからの技術進歩の観点からして計画の延長が必要じゃないか、とかけあったのだ。

これには時代の流れが助けてくれた。

その時代の流れというのが1980年に配備されたソ連製戦術機MIG23、その登場だった。


――MIG23。

1980年のその年に、ウラジオストクでの航空ショーにて「初の国産戦術機にして最新最強の戦術機」という肩書きと共に登場した初のソ連製戦術機であるその機体は開発したソ連の思惑通り、世界を驚愕させることになる。

アメリカが開発中のF-14と似たプロポーションをしている本機は、その航空ショーにおいて第1世代機を超える近接能力と機動性、そして運動性を見せつけ、奇しくもアメリカが求めていた『第2世代機』という方向性を、アメリカよりも早く実現させていたからだ。

だがマブラヴの歴史としては…結局のところ2年もたたないうちにアメリカに亡命したソ連軍人によってその情報が露呈。

万能とは程遠く、整備性が低いことがあきらかになり肩透かしも良い所のこの機体は、その問題点からソ連自身も自覚し、MIG27として再設計されている。今では相変わらず1.5世代機や準第2世代機としてしか西側からは見られていない不遇の機体でもあるだが、

概念的には第1世代戦術機のコンセプトである装甲防御ではなく、第2世代機の機動防御を目指しているのは外見からも分かる通り、目指すべき方向性は決して間違っていない。

だからこそこの機体を使って情報策略を、城内省と軍に仕掛けようと光菱は考えたのだ。

それは1980年当時は「アメリカ製の牙城崩れる?」との見出しでソ連製の導入を試みようとする歴史の流れ(西側諸国も打診したほど)

―――現にアメリカは史実でもその火消しに多量の金と情報公開を強いることになる―――を日本がミスリード、各社テレビ、新聞会社から商社までつかって、さらに過大に評したのだ。

それによって触発されるように各国がアメリカに対し、今開発中の第2世代戦術機の情報開示を要求。

さらにMIG23の脅威度が色あせないうちに、MIG23の外見から見られる特徴と示されるデータ、そしてソ連から回されたとした過大評価された情報(もちろん俺からの情報がほとんど)を城内省に開示したのだ。

※この情報を軍や城内省が信じたのは、これは元々日本とソ連との仲は史実よりも冷え切っていないことが大きく、
今現在はアメリカの庇護化に入った日本に対して『敵国』に属するがそれは表向きでしかなかったからだった…情報の確証度が高かったためでもあるが…)

この情報に城内省、並びに軍は驚く。今実現しようとしている戦術機が配備後すぐに陳腐化することが目に見えていたからだ。

そうした混乱に乗じる形で光菱は俺が持つデータを視覚データにして、媒体化。さらに演算能力による規格外のトライ&エラーを敢行。つまりは仮想空間で実験を繰り返し、この混乱で不安がっていた軍や政府を納得できる案を作り上げたのだ。

(もちろん説得用の見せかけで…現実はお寒い限りだが時間稼ぎにはなった)

これに加え、戦術機開発の日本における現状、所謂前提だが、結局のところ、ライセンス生産以上の能力を持つ企業が日本三大軍需企業以外いないというところが特徴の一つでありそれが上手く作用したのだ。

冨獄、河崎、そして光菱。日本の軍需を戦前から協力して満たしてきたこの三社。

その企業達が協力して話を進めれば大きな政治的発言力を得られるのだ。

こうして新型ソ連機の誕生と、最初から付きまとっていた技術格差と無理のあるスケジュール、そしてアメリカが開示した第2世代機の情報によって、

『今の第1世代に準じたコンセプトのままでは、将来早期に陳腐化してしまうとし第1世代改修機のままの早期配備計画の見直す』

という流れを作ることに成功する。

他にも、4年前に配備し始めた撃震もその余波を受けることは避けられず、奇しくも軍、斯衛、両軍ともにこちら側の言い分が正当なものだと認めざる得ないものとなったのだ。


ここまで行けばこちらのもので、先の"正当な理由"のもと各派閥に対し説得工作を始め、資産運用で貸しのある将家の上位名家を筆頭に、名だけとなった借金だらけの将家達を次々買収―訂正―後援して、城内省への説得工作を繰り広げ、

「光菱んところが新しい技術を開発中らしいし、企業側に時間をあげるのも良いんじゃないか?
第2世代と第1世代では求める方向からして違うみたいだし、さ。
いや、俺も悔しいよ?でも失敗作掴まされるよりかは良いじゃん?大将軍様の義のためにもさ、な?あいつら謝ってんだしさ。それとも第2世代機のライセンス生産しちゃう?」

企業側、冨獄と河崎に対しては、

「開発に関してはこちらも全面協力するし、新しい技術も開示する。それに生産ラインはそっちが主で良いよ。迷惑掛けたしね」とまで持ちかけたことで、多勢を占め

本来の1980年当時のような

「予算ももう決まっちゃってるし、このままの流れでいくしかないか…こっちから話の路線を改めると、ほら見たことかって相手側からチクチクつっこまれるし。マジで陰湿…」

といったような日本の悪癖による流れ作業にはならなかったのだ。


そうしてどうにか配備延期が決定し、大規模な計画見直しが打ち出された瑞鶴は配備年を84年まで繰り下げることが決定したのだ。




だが、問題はそこですまなかった。済むはずがなかったのだ。


なぜか?問題の先送りでしかないからだ。

そもそもこの瑞鶴には問題がありすぎた。
時期的な物もそうだが瑞鶴の求めるコンセプトに問題があったのだ。

結局のところ第1世代戦術機の改修を前提にした斯衛の機体。それをどうにか改造したとして基本構造からして限界が見えている。

だが、かといってあまりに無視した改造ではこれまでの瑞鶴の開発費用と時間が無駄になる。

加えて国内配備しかあり得ないこの機体に、如何に技術を結集したとして世界の戦況にはほとんど影響はでないし金と時間の無駄。

開き直って史実通りの瑞鶴として作ったとしても、日本に必要な代物とは思えないし、後で作る革新的な技術を盛り込んだ国産戦術機を開発した時に、斯衛から「光菱はあの時本気ではなかったのでは?」といらぬ軋轢を生んでしまう。

結局のところ斯衛の見栄、それに各種理由…技術的成長と日本としての国の維持が付きまとって計画された瑞鶴。

そんな形でありとあらゆる意味で難しいジレンマに陥ったわけだ。

この大きな、そして光菱に降りかかった最初の問題に対し、結局のところ開発部はまったく違う方向に計画はシフトさせていくことになる。

それは瑞鶴本来求められていた方向性をさらに拡張させたものと言って良いだろう。

瑞鶴は国産化が不可能になった時から、F-4を基準にした改修機、それも時間をかけずにスペックを上げ、尚且つ兵器としてコストの見合う機体として作られた経歴がある。

だからこそ、その存在意義を大幅拡大し、既存機である戦術機を如何に早く、そして低コストの改修でスペックを上げられるかに的を絞った、元来の改修機体開発計画ではなく、日本の現有戦術機を含んだ戦術改修総合計画にしたのだ。

その名の通り「不死鳥計画」と言う名になった本計画はマブラヴ史実におけるF-15のフェニックス構想踏襲したものに近く、

『瑞鶴』と限定した機体にするのではなく、

現行改修機A案―――

第1世代機であるF-4およびF-4Jを第2世代機基準ギリギリにシフトさせるために外部追加パーツ(跳躍ユニット、電子装備)などを用いて、第2世代を目指す。あくまで現行機を改修した上で配備するリサイクル機体―――※1984年より配備開始予定

既存戦術機の製造ラインを流用したカスタム機であるB案――

第2世代基準より少し下ほどのスペックだがA案よりも抜本的に改修を施し、内部も新規製造部品を多く使った、新規生産第2世代機――※1985年より配備開始予定

の二つの案を同時並行して開発し、その追加パーツの部分のほとんどを共通させようというのだ。

これであれば、いままでの瑞鶴の開発データが無駄になることもなく"なにかあったな"ぐらいの疑いで済むだろう。

何より配備から5年ほど(1977年配備)で実質的に陳腐化する第1世代機のF-4J激震を材料に、日本帝国陸軍も斯衛と同じく新規機体を購入することができる大きな魅力あるのだ。


「こんな無茶な計画を4年というハイペースで出来たものだな?というか不死鳥計画って…」とマリヱにも突っ込まれたが

今までの瑞鶴計画で得られたデータに加え、いろいろな戦術機などのロボットの技術から設計図が俺の脳内にあったからだ。万歳チートな身体。

そんなもんで

新素材による装甲材から来る機体軽量と、電磁伸縮炭素帯、出力ユニット、跳躍ユニットの改良によって浮いた機体重量分が多く、

ソフト面でも機体制御などの情報演算分野において俺の脳スペックが人外の域、「スパコンってなに?電卓?」に達しているために、改良が早く済んだのだ。

また将来の方向性を知っている分、内部スペースの利用方法を未来からカンニングしていたこともあり、第2世代機の基本であるOBWの搭載を考慮した影響(B案のみ)で、更新費用は少なくて済むことも総合的な費用削減に大きく繋がってくる。


こうして斯衛と陸軍という予算上で対立する両軍において共通機体を導入することが可能と成り、効率的な製造が可能となったのだ。

まあアメリカからすれば、日本のロイヤルガーディアン用のF-4改修計画が途中から勝手に変更されて、拡大。「なにやってんの?」と言った心境で迷惑この上ないだろう

…とそう思うかもしれない。

だが、アメリカは今も世界各国へF-4ライセンス生産を推し進めており、第1世代機にはもはや関心がないらしく、

「製造機数は増えるし、その分ライセンス料を適切に払ってもらえれば別に良いんじゃない?ほら第2世代機の開発進めようぜ♪」ということらしい。

こちらからしたら「なに、この時代のアメリカちょろいわwww」といった感じだが、

ソ連へのSU-27での技術譲渡の件や、国産化する気満々だった80年代後半の日本に対しF-15のライセンス生産を許している時点で、この世界のアメリカはそこらへんが優しいのだろう。たぶん…

MIG21も結局はF-4改修機であり、積極的に輸出をしているソ連を見逃しているアメリカからすれば、その分BETAを殺してもらえれば、と思っているのだろうか。

なにはともあれ瑞鶴計画変更と、陸軍機の改修を早期に実現できるのだから、良しとしよう。

結局のところ日本は2000年まで第1世代機である瑞鶴と撃震のまま、日本侵攻を迎えたのだから、その歴史を戦術機方面だけでも変える目途がたったのだからね



―――それがある計画の踏み台としても、だ。

~続く


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瑞鶴に関して

「そのまま放置」→「踏み台」になりました。なんという金の無駄遣いwww

※ 樺太日本領については、設定集において日本が抱える戦線が3つあり、九州、新潟、樺太となっている描写があり、海上防衛ラインもなぜか、樺太を含んでいることから日本領にさせていただきました。

普通ならおかしいですし、筆者の勘違いである可能性が高いのですが、とってつけたような言い訳を付け加え、日本に編入させていただいております。

では次回にて



[28072] 第Ⅰ章<始動編> 6話 初鷹 《7/6改訂更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/07/06 18:36
※pixivにてオリジナル戦術機を描きました。感想欄[30]にてリンクを設けました。 それか  pixiv 「光菱財閥 翔鷹」 で検索をお願い致します※

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前回意味深な発言によって話が終わったが、何のことは無い。それよりも重要な計画があったからだ。

それはマブラヴ史実にはありえない戦術機計画であり、光菱が主導する、新しい概念を持った国産戦術機開発計画。

それが第二世代戦術機、翔鷹開発計画『初鷹』のことである。


この計画は先の瑞鶴を凌ぐ極秘中の極秘な上、国家最重要計画とまでされており、

瑞鶴開発で試された数々の技術を導入しつつ、瑞鶴では使用することができなった知識をフルに使って実現しようとする「現時点で実現出来る最優の戦術機」を目指したものでもあり、言ってみればこれからの日本の切り札となる予定のものなのだ。

瑞鶴涙目WWW

まあ実際、この時代にないはずの戦術機を作ろうとしたって、将来の戦術機やモビルスーツなどを技術やノウハウ、ドクトリンの観点からもそのままコピーするわけにもいかず、この国が到達するレベルに合わせなければならないため、いきなり第3世代ッ!!には成り得ない。

しかしそのレベルでも本来の80年代の日本の技術からしたら、それこそ革命的なものとなるのだから、未来知識は恐ろしいものだ。

そもそも、先の瑞鶴計画を延長した理由の一つに翔鷹に必要な各種技術の把握を務める必要があったからであり、瑞鶴の方は冨獄、河崎に遠田技術等、技術がある中堅企業を組み込ませることで光菱は補助として開発する体制を構築されている。


そうして光菱はこちらに力を注ぎこむことになっているのだ。

そうして実現することになるのは全長16m、重量は50トンほどの小型戦術機。

第二世代の平均が18メートルなのだからずいぶん小さい機体になる予定のこの機体だが

「ずいぶんとがっしりした機体構造だ。」

戦術機開発に携わっている技術者がそう言ったように"第二世代"と言ったのにも関わらず、ずいぶんとがっしりした印象を受ける形をしているのだ。

現にその全長からしても胴体部分の大きさは完成時のF-14よりも大きい。

姿勢も人型のように背筋を伸ばしたものではなく前傾姿勢であり、手足などは短く太い。正に骨太な機体構造なのであり、「あれっ?第一世代じゃないのこれ?」と首をかしげたくなる外見をしていた。

しかし、構造力学上、遠心力から来る部品の摩耗を抑える狙いがあるために機体の小型化は非常に利点が多く、
元々日本企業が強い「小型化しながらの高性能化」を兵器でも実現しようと言う物で「兵器はデカければ良いわけではない」と証明したかったからでもある。

それに加え、瑞鶴と並行した素材開発計画の中でコストパフォーマンスが高い装甲と構造を他の世界から選出し、同出力を用いても120パーセントの運動性・機動性の向上が見込めるのも大きい。

そうして第2世代機の基本となる機動性の強化を実現しながら、小型化による運動性並びに低コスト化に繋がったのだ。

これから見た通り、この翔鷹は未来の素材技術やその知識による利点によって、まだあるアメリカとの基礎技術…つまりはノウハウという埋め難い差を、無理やり埋めようと考えているのであり、短期間で米製戦術機に勝つ唯一の手段と結論付けられたからだった。


だからこそ武装面で大切になってくる手腕についても挑戦的な改良が成されている。

全体の出力、人間で言えば筋力にあたる電磁伸縮炭素帯の新技術によって、長さを短くしながら出力向上の見込めるこの翔鷹では、その強みを活かすために新機構として、片腕で突撃砲所持時に突撃砲と腕がドッキングする機講が付随されたのだ。

これはサブアームが突撃砲を固定することで射撃反動の吸収、それによる集弾率の向上を目指したものであり、

腕と銃本体がドッキングすることで内部直接給弾方式も可能とした新機構、

継続射撃実行時には腰部装甲ブロック内にあるベルト式弾倉と繋いで、砲身寿命寸前までの継続射撃が可能なように変更されており、従来の戦術機の主兵装WS-16C突撃砲を用いれば、その装弾数(6000発)は3倍以上にまで膨れ上がる代物はそれだけで魅力的な武器となる。

またその機構を最大限活かすためのこの機体専用の突撃砲も開発中であることもここに付随させておこう。


それ以外にも火力を求めるために取り付けられた兵器があり、その一つがBETA中最大の個体数を誇る戦車級に対しての防衛火器。

我が社が現在東和工業と共同開発している歩兵用の12、7mm重機関銃を転用した…防衛重機銃だ。


主兵装によって数を減らし、撃ち漏らした小型BETAに対して使う防衛用火器であり、場所は射線を上げすぎず、後方射撃も可能で死角が少ない場所ということで、まぁ…場所としては股間…別名《チンチ○バルカン》とも呼ばれる兵器となってしまったこの機構。

真面目に考えてここなんだから蔑称には違いないのだが…実用性があるのだから、しょうがないと言いたい。


他にも、肩部装甲に基本装備として120mm低反動滑空砲などがあり

大型・光線級を主目標にした、これまでの突撃砲下部に取り付けられていた120㎜滑空砲の代わりのものとして開発されたこの機構は、

120㎜滑空砲各種弾頭と同じくクラスター弾と突撃級用の粘着榴弾、通常砲弾などからの自動選択式ロケットアシスト型榴弾砲など、さまざまな種類の砲弾を選択できる、この戦術機最大の火器である。

この3つの武装によって、弾薬搭載場所を1門1部分にすること等、徹底的なスペース活用によって弾薬搭載量を1.5倍以上になっており、作戦遂行能力は劇的に上がるこの翔鷹。

他にも、

・日本製戦術機の特徴となる腕部の格納式短刀収納をオミット。F-15のように脚に膝から脛にかけたラインにスーパーカーボン製ナイフを搭載。

・先の自己防衛火器と合わせて、戦車級対策としての機体各部から滑りやすい粘性型摩擦低下・炎症剤を噴出する機能を搭載。

・アーマードコアの水素電池技術による出力の大幅アップ。

・跳躍ユニットにアーマードコア劣化ノーマル並の噴出物に対する電磁・加速をかけるシステムを搭載し、燃費、出力ともの上昇。

・フライトユニットの配置転換を行い、太ももに燃料を容れることで燃料搭載量がアップ。

・OBLの劣化安価版を載せたり、フロントミッションの電子装置の改良型を搭載

・基本型の量産型Aタイプは、戦線構築用の戦域支援戦術機としての仕様を重点に置かれ、ハイヴ攻略を念頭に置かないことでさらにコストを下げる仕様。


等が挙げられ俺と同じ世界の他者から見れば
「なんだこれ…チート作品か。つまんね」と投げ出すレベルの全力投球をこの機体に詰め込んでいるこの機体。だってこれ現実なんだもんっ!!

とまあメリットだけ上げ連ねたが、削るべきところを削らなければただ高い日本製のままとなってしまうのは目に見えており、

ガンマウントシステムと管制ユニットを思い切って削った。

「あれっ?それもはや戦術機じゃなくね?」

と突っ込まれそうなものだが、どう考えてもデメリットがメリットを大きく超すことが無さそうな部分なのだ。この部分。


まず最初にガンマウントシステムの方の予想されるツッコミだが、

「確かにコストは安くなるだろうけど…それではBETAの物量の波にのまれる危険性、単独制圧力が下がるんじゃね?あのBETAだぜ?」

「近接戦闘長刀…いわゆる刀のの緊急展開に遅れるでしょ?JK」

と来るだろう。実際に技術者からそこらへんを指摘されたもんだ。何回も。

確かにそう考えるのも無理はない。今までの兵装担架システムは第3、4の腕として突撃砲も撃つことができ、単体の瞬間制圧力をあげる効果もあったからだ。

だがデメリットもある。

まず一つガンマウントが補助椀として突撃砲を撃つ場合、当たり前だが主腕で撃った場合より射撃の反動を抑えることが出来ない。

これは構造上、兵装担架システムを主としていることからも反動に耐えられる仕様になっていないためだが、

これでは銃弾がばらけすぎてしまうことと、前後方向だけに加え射撃角度に大きく制限がついている大きな欠点Gあるのだ。

これは唯でさえ銃弾の補給が出来ない戦場、その中でもBETAとの矢面に立つ戦術機に置いて、無駄弾が多いのは見逃すことのできない大きな問題となる。


しかも兵装担架システムに載っている兵装は日本も採用しているWS-16C突撃砲。

この突撃砲はその形から主腕に移し替えた形でしか補給ができないため、ガンマウントによる射撃はその補給問題からも緊急時しか行えない。

また兵装担架システムには突撃砲のためにガンマウントと、長刀を速く展開するためのブレードマウントの二種類がある。

これでは戦場の補給時に兵装担架システムが逆に予備兵装を選んでしまうという大きな問題が発生してしまうのだ。

それ以外にも、前戦で日々行われている戦争では戦術機は馬車車のように働いており、その補給に対しても前線から様々な要望が届けられている。

それは兵装担架自体にも及んでおり、補助腕であるはずのガンマウントシステムに対して

「腕4本のほうが効率が良いのでは?」
「攻撃に使うと反動ですぐに壊れる。もっと耐久度を上げてくれ」
「狙いに制限がありすぎて、全面掃討時と後方警戒時にしか使用できない」
「戦闘時に補助腕による補給では、マガジンを落としてしまう危険性が高い。どうにかしてくれ」
「多関節工業腕としても三次元把握が難しすぎて、これ以上のコストを下げることっは出来ない」
「てか補助腕なの?これ?」

と言った要望が出されており、利便性の高さから注目されたこのシステムだが、コストや耐久度と言った面から見れば運用に問題があることが分かってきたのだ。


まぁ、武器を載っけるシステムがでしゃばりすぎてもダメですよってことだわな。

(※もちろんこのシステムにも採用するメリットは多々ある)

そのために兵装担架システムをデチューンし、何にでも固定できる担架を取り付け、前傾姿勢に加えて担架を前方15°傾斜させることで武装を取りやすくする形にして、兵装担架が動いたり、ましてや銃を打つことも不可能にしてコストを下げる方向にまとまった。

ここで曲刀である74式が生きてくるわけでもあり、またここに後述するミサイルコンテナなどの副武等を装取り付けることも考慮されたものとなる。


これ以外にも新しい給弾方式が持っている腕からの直接給弾が可能であるため、補助椀に頼らずに済むことも大きいだろう。


そしてもう一つ、除外する要素があるのが戦術機の管制ユニットだ。


今も、そして将来も戦術機の管制ユニットはアメリカのマーキンベルガ―社という管制ユニットの大手が作り上げた国際標準の管制ユニットが主流となるこの世界。アメリカが圧倒的シェアを納めるためだが、その方向性が衛士の生存を第一にしているのが重宝されているからだろう。

なんと戦術機の中と強化外骨格を仕込んでまで生かそうとしているから驚かされる。

そのような一見過保護すぎるユニットシステムは衛士の人口当たりの少なさが原因と言え、管制ユニットに求められているものの第一に生存性が挙げられるほどである。


それに対して翔鷹を押す光菱は、またもや管制ユニットを情報処理と慣性低減を第一に、強化外骨格機構を思いっ切ってオミットした。

衛士強化装備の方に生存性等の面を強化して非常用装備と共に脱出という形にしたのである。

これはもちろん、衛士生存を下げるという不安から不興を買うと危惧されたが…強化外骨格などを含んでいる影響で管制ユニットがべらぼうに高い代物であることも見逃せない問題だと考えたからだ。

これは「大切である衛士特性を持つ者を守るため、しょうがないじゃん」
という至極真っ当な理由から疎外されてきたデメリット部分なのだが、その方向性がしっかりの生存性を上げているのならば、本来阻害されてしかるべきだろう。

だがそうではなくむしろ、衛士を安心して戦場に向かわせる、言わば形での安心を与えるための"ゆりかご"でしかない、とそう言われたらどうだろうか。

もちろんこれは極論だが、戦術機の特性上、戦術機が大破以上になるケースは、

・光線級による撃墜
・大型BETAの一撃による機動不全
・そして一番多いのが戦車級の波に飲み込まれる

この三つが圧倒的に多く、戦術機が活躍するのはBETAの犇めく最前線である以上、その中をたかが強化外骨格一つで生き述べられるほどBETAは甘くないのである。


それを証明するように衛士の戦術機大破後の生還率をおそろしく低く、それに付随して強化外骨格の使用率と使用時間は極端に低い。

もちろん、コストだけの問題で管制ユニットを新しいものに変えようというわけではない。

それはBETAの特性上、電子機器を多く積んでいる個体ほど狙われるという実状があるのだ。

この事実から言わせれば、脱出し生還するための物が逆に自らを狙われる危険性を上げている。

それならば、今の衛士強化装備を強化するほうが、逃げに徹する分生還率は高い…とも考えたのだ。

それに、使うことがほとんどない脱出用強化外骨格だが値段が高い上に、操縦席と同化している分整備が面倒なのがさらにやっかいなのだ。


ならば、新管制ユニットではその強化外骨格が埋めていたスペースをソフト面の強化と最初に言った衛士への慣性を低減させることでBETAの攻撃、墜落による衝撃死の減少。

そしてこの新管制ユニットの最大の特徴となる慣性低減によって、『低い衛士特性の者でもこの機体を操縦できる』という新しいメリットを生み出す方向舵を切り替えたのだ。


ただでさえ少ない衛士。

そもそも戦術機という物が

・戦闘機並の高G耐性
・悪路を通る車を遥かに超える連続振動に耐えられる耐性
・動作処理はもちろん後ろを含めた攻撃判定など、凡人ならば一人では処理しきれない量の情報処理

等、才能や希有な体質がいくつも必要であり、衛士が来なさなればならない課題が多すぎる。

…余談だが原作ででてくるキャラクターは全て、幼少期から特性試験に合格したからこそ最終衛士適正訓練に望めるわけで、それまでにふるい落とされる人間は数知れないだろう。

その現状をどうにかするためにもこの慣性低減機能に加え、この機体に積んである動作OSと、衛士強化装備の改良、との複合効果によって、その課題を低く設け、

翔鷹自身が火力に特化しているため、無理な機動が少ない砲撃が主体のために衛士特性が低い者を回せば、さらに戦線を持たせる戦力を多く作り出すことになるのだ。

そこから生み出される数値は驚くべきものであり、今までの適正訓練データと比較して、およそ7倍以上の人員の増加。
日常訓練として幼少期から訓練を取り入れればその3倍、従来の20倍の人員が衛士となれるのだ。

それだけの人数であれば、「衛士特性があれば衛士に乗らなければならない」という徴兵制のような士気低下には陥らず、十分な訓練時間を確保でき、10代の衛士が前線で死んでいくという軍の痴態をさらさずに済むだろう。


さらに地味な問題として、「衛士は将官以上の高給取り」と揶揄されるほどの人件費高騰にも繋がらないだろうことがメリットの一つとして上げられる。…衛士の高級は地味に軍の予算問題でもあったのだ。


また搭乗員選定枠を大きくすることで、衛士基本搭乗員を二名とした翔鷹。※一人も可能

これはまず第一の理由として戦術機、戦術機甲という搭乗者一人に対し、求められる情報処理量が非常に多いためだ。

戦闘機でもありながら、その手足を自分のように扱い、戦車のように多目標と対峙しつつ、長時間戦場にい続けなければならない戦術機の情報処理量は、異常すぎる。

原作見てるとオマエ慌てすぎwwwと思っていたものだが、実際では衛士という職種は、先に言った情報処理量から来るストレスに加え、

・常に「光線級に狙われるかもしれない」という緊張感。

・己一人に対し、何十億もする兵器を与えられ、さらに「人類の希望」とまで言われる衛士という役職の重さ。

・常に把握しなければならない情報料の多さ

そして戦術機という兵種からして、どこにいるかわからない敵に覚え続ける恒常的なストレスを何日も、何十時間も一人ぼっちで耐えなければならないのだ。

そりゃ~だれだって恐慌状態になる。新人なら尚更だし、相手はこちらを捕食する気持ち悪い外見の宇宙人だ。人食い大ゴキブリを女性新人のやらせたほうが、まだパニックにならないだろう。

そもそもBETAの戦法っていうのは、その物量をいかして寝ることもなく、四六時中連続して人類側の戦線に緊張と恐怖を与えることであり、単純なダメージだけではなく、精神的なダメージも蓄積させ、人類側がパニックを起こして自滅していくってのが常となっているのだ。

だからこの機体は俺一人の物じゃないことをわかりやすくして、相互にストレスを緩和してやれば良いし、搭乗中の仕事量も半分に減少できる。

戦闘ヘリにしても2名搭乗のほうが電子装置・情報処理装置搭載増加量よりも1人増やしたほうがスペースを小さく済む。(それだけ自動化させる電子装置は難しいのだ)

そうして二つの目的を持った管制ユニットは、衛士を短期で増加させることができ、BETAに対し有効的な兵器である戦術機の数をさらに増加させることができるのだ。

これら含めて、実際の総合的なコストパフォーマンスではF-15を凌ぐ翔鷹。

アメリカの横やりを抑えるべく、第二世代と言いながら第一世代のような外見を活かす狙いもあり、それに合わせて初期データは低く抑えられており、その外様でアメリカをだまそうとまでしているのだから、泣かせるこの機体。


この性能を概算でだが、見せた時には社員も泣いて喜んでいたものだ。

「まさかここまでとは…まだ完成してはいませんのでなんとも言えませんが…正直3カ月前に天主様から見させていただいたF-15でしたか?そのデータを見せられた時にはアメリカにはもう追い付けないのでは、と思っておりましたよ。」

と幹部連中にまでベタ褒めされてしまった…


だが、この機体の驚くべきところは先ほど上げた性能だけではないのである。

それがコスト。この衝鷹の初期量産機の予想額は約50億円とされているほどの安さにある。

「「「「なんとっ!!!!!!」」」

という言葉が幹部の口から合唱された通り、その値段は性能に比して異常とも言える安さだ。

それは新しい素材、技術によるブレイクスル―の成果と、新しい概念の構造、そして整備性、量産性等を重んじているからであり、「最優の戦術機」を目指したからである。

それには整備にまで及び、状態固定具によって〈整備姿勢〉…全靴姿勢を基本とした整備体制を用いることで整備費用削減に繋がっている。

他にも未来のアメリカを見習ったモジュール整備体制など整備ユニット自体も安く済むための方策から、そもそもの戦術機整備体制の見直し、もともとの機体自体の整備性の高さもあってライフサイクルコストではFー4Eを下回ることになる。

つまり、この機体、第一世代機の機体より総合的に安いのだ。どんな機体だよ…

これは米製戦術機が、戦場で使いつぶされるべき"陸上兵器"にも関わらず、拡張性を意識しすぎて大きくなりすぎている点が原因であり、

アメリカのような余裕のある国であればいざ知らず、前線国家にふさわしくないとして、拡張性を内部に求めるのではなく、外部モジュール追加で実現しようとしたからだ。

そこから派生した兵器では「今回の戦術機」では有用ではないと判断し、もっとも

それよりもこの機体が最も意識したのは、未来の戦術機ではなく、一年戦争でジオンをあわよくば勝利させるまでいたらせる「ザク」とした。

なぜ、あのやられキャラのザクなのか?だが、

ザクマシンガンといった、戦術機の使う120mmロケットアシスト弾と同程度の威力の120mm弾をマシンガンのように使用できるバカげた兵器を基本兵装として使用しつつ、オプション武器・装備も多彩で、様々な作戦環境に合わせてカスタマイズされた機体のバリエーションも多く作られている点が魅力だからだ。

他にも「戦いは数だぜ!!兄貴!!」の言葉からわかる通り、1年戦争時に8000機も量産できた量産性(極端な比較だが武御雷は年間30機)
少ない時間で各種兵装にカスタマイズできるポテンシャルの高さ、

どのような環境にも短時間での改修で、対応できる汎用性

バカでもできる整備性からいって、見習わなければならない最優秀量産人型兵器といえるからだ。


それ以外にも、地球の半分を支配された状態でザクを物量で圧させたほどの量産性を持つジム、その流れを汲む傑作機ジェガンやフルメタのM9など、さすがに全ての性能を実現できるとはいかないまでも、今の科学力で実現できる範囲でその欲しい技術を見習いつつ、開発することにしたわけだ。

(なおビーム兵器は人類の技術習熟不足、それによる連射性能不足、BETAの耐熱性の高さ、核エンジンを使うことが前提であるため不可とした)

これらザクなどの優れる点で大きな点としては、戦術機よりも靴裏部分が大きいことで大型戦術機に起こる地滑り(小さい範囲に重圧がかかりすぎることは地盤が弱い場所に部隊を展開できない)を抑えることができる点だ。

今の人よりも進んだ人類による量産性を限りなく追求した機体。
その努力の結晶、それを参考に流用したため、夢のような低コスト高スペック機を生めると考えた。

また、ザクのように、ブロック工法のような外部も含んだ改装を前提にすることで、デメリットである戦闘機で生じやすい空気抵抗値の誤差を生じさせることになっても、容易にカスタマイズできるのは有用であるとした。

これは戦車に通じるものでもあり、内部の余剰性と合わせて外部を増やすことは、跳躍ユニットなどの主機出力が上がれば自然と余剰分も増えるからだ。
(空気抵抗なんて考えたらあの外見おかしいしね、跳躍ユニットのパワーで押しつぶしてる感じだ)

…と、概要を説明しただけでも今までにない技術を盛りだくさんに含んでおり、素材形成技術などの新たな分野と今までにない方式には、さすがの光菱社員も困惑するほどの新しい要素を多分に含んだ計画となったこの初鷹計画。

だが、時間としても5年設けられていることや、瑞鶴のテストベットにできることと、3カ月前から始まった技術習得期間を設けたことで、Fー4のライセンス製造時やマブラヴ史実の瑞鶴よりかは難しくないと言えるだろう。

それにこれは初の純国産。今現在、人類の最前線国家は戦術機に、対応できない部分を全て任せている状態であり、多種多様な機体を開発できる贅沢な力は、我が国を含めてアメリカ以外ありえない状況。

そんな中、世界の希望として世界に売り出すためのこの機体には、どのような戦場でも簡易なカスタマイズ次第で対応できる夢のような機体となることが望まれており、翔鷹はそれを実現できる力を秘めていることはこの計画を知る日本人ならば、誰しもが知る。

そうであればこそ、その意気込みはそれら全ての者の人生を賭けた一作となり、その心が期日の濃縮として現わされていた。

その古き考えとして良く出される"根性論"の結果以外にも、第1世代機に使われていた技術も使いつつ、必要ない部分を全て削り、短期間で実現できそうな技術を中心に開発したことや、

全てにおいてアメリカに勝る戦術機を開発することは不可能である以上、その基本フレームの無駄のない構造と新兵装システムにより、たくさんの戦場、要求に改装することを望まれて生まれた本機体は、それを実現できれば正しく世紀の傑作量産機と呼ばれることに成るだろう。

いささか早すぎるとは思うが、早めに最新技術を習得させるためにも、やる気とモチベーションを維持できる「戦術機」の開発は必須だ。


そしてもう一つ、この機体を開発以外に大変だったことは、これが輸出を前提にした戦術機であることをあらゆる人に認めさせることだった。

「なっ!?なんですとっ!!初の国産、最新の技術を他国に売るのですか!?」

という反応からわかる通り、日本がアメリカの戦術機技術を真似、それが形になった場合、その技術を盗まれるのではないかという危惧が非常に大きかったのだ。

それを納めるのがとても大変だったのは言うまでも無いだろう。刺されるかと思ったほどだ。


そもそもなぜ売るのか?

周りからしたら初の国産、そして最新技術の集約品であるこの機体を今の世状で海外に出すことは、オナ禁された性犯罪重罪人と同じ部屋に自分の貴娘―――美少女ココ重要―――を同衾させることに等しい。


だが正直な話、この機体は日本を守るためというより、輸出して日本の国際社会での地位向上が目的の機体だからなのだ。

最新技術の塊であるこの機体を日本全体で製造させ、アメリカに負けない民間技術の習得し、界の力となるためにもこの兵器の至る所にある特許を世界で獲得することで、世界のスタンダードとして認知されるはずの戦術機を量産することは、後に国連の主要兵器に選ばれやすい利点にもなり得る。

そうなればそれに乗じる形で、海外諸国にあった改良機を共同して開発することで部品の互換性を高めることもでき、尚且つ両者との繋がりを強めることができ、大目標を達成する上で大きな役割と成り得るのだ。

そして、翔鷹の生産が終わった暁には世界で最良の「戦術機」の開発に移ることが出来る。



世界との協調、とても口当たりが良い言葉として良く世界のことを知らない者が言う世迷いごとに似た言葉だが、現状、事実であるのだから仕方ない。

それを実現するためのものである、という説明をまずしたのだが、何人かは苦い顔をしていた。

その一人は、
「…で、ですが…国内配備が遅れる可能性が…特に陸軍からは批判は避けられないと考えますが…」
とも言ってきた。確かに日本帝国陸軍並びに、斯衛は一切の遅延を許さないだろう…

だからこそ言い返したのだ。

「確かに軍も輸出することには反感もあるでしょう…。しかし、この機体はこの国全体の練習機と考えてほしいのです。

国力の増強のためでもありますが、兵器である以上、この機体の開発目的はこの国を外敵から守るためのものです。

それは軍も同じであり、後5年も持たないと言われる西欧を持たせ、中国、インドを維持することで、この国の国防と市場を確保する狙いがあることを理解してもらおうと考えております。

ここにいる皆様は知っている通り、このまま自国のための兵器だけを開発していれば、いずれ奴らはやってきます。そうならない防波堤を維持し続けることがこの国の国益となると考えてほしいのです。」

と。

ま、ぶっちゃけ、これからいろいろやるための金と貸しを作っとくことで後がやりやすいからではあるが。アメリカと違うというところを見せるのが大切だからでもある。

それにこの機体は量産性に富んだ機体、輸出しながらの国内配備も容易ではないが、不知火よりかは遥かにスムーズにいくだろう。

だからこそ集まってもらった社員にこう告げたのだ。

「そう、世界のための機体であるためには、遅くても1985年初旬までに輸出開始をしなくてはなりません。」

などという無理を。

「なっ!?」「いや、しかし…天主様…」「ですが…」

皆が驚いているのも無理はない。

瑞鶴の開発を初めて3年で実戦配備できたマブラヴ世界の史実があるが、それはF-4の改修機だからである。

今回のような純国産として初めて最初から作る戦術機ってのは基礎研究から初めて10年かけるのが普通だ。

あのアメリカでさえF-14を、パレオロゴス作戦(1978年9月終結)の膨大な戦闘記録の分析から、次世代戦術機仕様を仕立てることと平行する形で、海軍が推し進めていた海軍戦術機戦力の強化として開発新型艦載戦術機(後のF-14)に織り込み、完成させる快挙を成し遂げるまで、3年と3カ月。あアメリカでさえ海軍機の基礎開発から始めれば6年の歳月をかけているのだ。

米軍次期主力戦術機TSF-XであるF-15にしたって基礎計画があったとはいえ、実戦配備まで5年はかかっている。

※F-14の量産1号機が海軍に引き渡されたのが11月、開発メーカーであるグラナン社は1977年までF-11の改修に取り込んでいる※

それを、基礎から始めて量産体制を整えるまで6年弱、いくら1970代のF-4供給順降格から続く国産開発という夢を持ち続けていると言ってもアメリカと比べれば月とすっぽん。 やれるはずがない…と思うだろうが…


既に出来ている概念設計図。仮想実験をマリヱに手伝ってもらうことなど、己の能力を加味しても無理ではあっても無茶な計画ではないものとなっている。


それは1980年、俺が誕生してから始められた技術習得期間も影響しており、良いスタートを切れたことと、

もともと、アメリカが世界的な戦術機の供給不足によって同盟国に奨励した戦術機技術習得計画でも、日本は世界最多となる219名の研究チームを派遣したおり、国産化の意気込みは高かったのだ。

それが停滞しアメリカとの差が再度開き始めるのは、パレオロゴス作戦での戦訓を得られなかったことが大きい。

しかし、今回はそれが手に入っておりそれ以上の収穫を得ているのだ。F-15は無理でも安価なものは出来ると確信している。

それにもう一つ、1985年までに作られなければならない理由がある。

それはヨーロッパ、中東、インドに対してのBETAの攻勢が1984年後期から加速するため、量産性のある第二世代戦術機が最前線圏の国が欲しがっている点だ。

しかし戦術機の最先進国アメリカは、この時期に戦術機はF-14(1982年生産開始、しかも海軍機) F-15 (1984年生産開始、自国配備優先)F-16(1986年後期生産開始)と開発しているのだが、F-14 、F-15両機は高性能だがとんでもないほど高く、F-16 は生産開始が遅すぎて必要な時期に間に合っていない。

そんなところに、こんな安い機体が国連を通して前戦で活躍すれば、どんな国のものであろうと欲しがるだろうし、前線国家を持たせるためにも必要だったのだ。



まぁ、そんなこんなで会議が終わり、この日より境に光菱は国産戦術機を実現するために日夜を問わず働き、脅威的なペースで開発を進めていくことになる。

それは光菱総研や重工開発部がこの五年、不夜城のように電気がつけっぱなしになることからも分かることだが、そりゃあ国家の命運をかけた開発だからであり、その情熱はBETAも止められないほどのものだった。



そうした一連の流れの元、1980年のこの年日本は動き出すことになるわけだ。



……と、ここまでは長年の夢だった戦術機を開発できる目途が立ち、夢あふれる話しとしてここで話を切りたいところだが、一つ大前提を忘れてはならない。

BETAとの総力戦を行う上でもっとも大切なことである、

「戦術機だけを開発しても、BETA大戦には絶大な効果が期待できない」ということを、だ。


たしかに良く戦術機と比べられる戦闘ヘリでは、戦場に長く居続けることも、障害物が少ない砂漠でもない限り、NOE(5m以下の超低空匍匐飛行)が出来ないため、光線級の餌食になりやすい。

かといって戦車のように空中に逃げ道のない地上兵器では現状に対して不十分である。など他の兵器にはそれぞれ弱点がある。

しかし、それは万能兵器を量産すれば良いということには決して繋がらない。

それぞれの兵器を改良し、相互に弱点を補うことが人類の戦力でBETAに対抗する唯一の道なのだ。

そう考えれば、BETAと人類との戦争では一つの超兵器だけでは、戦術には影響はでるだろうが、戦略に影響がでるほどにはならないということもわかるだろう。

それほどに大きな戦争であり、それ以上に下手な兵器を開発してしまうと相手の進化を助長してしまう結果になってしまう。

ならやることは、今の戦力を有効に使って遅滞戦術を人類全体の基本戦略として行い、技術レベルと国力を増加させて、それに基づいた兵器群を使って一気に片を付けるしかない。

そうするためにも異世界の複合装甲技術や電子技術を転用してでの、対BETA用に開発した格安戦車や装甲車。

歩兵装備としては未来のアメリカが開発する歩兵一人で運用できる12.7mm重機関銃をさらに軽量化したものを主軸に、対BETA用地雷も開発中しているのであり、戦術機開発部だけが頑張り、日の目を見ていたわけではないことをまず、知ってほしかったのだ。


「ならなぜ戦術機をまず開発するのか?」だが、やる気を含め政治的にはとても重要で必要なものだからと言える。

戦術機はBETAに対抗できる唯一の正面戦力であるとされ、そのことから今や兵器の花形的兵器となっており、WW2前でいう戦艦のように国産戦術機の開発が大国にとっての「ステータス」にまでなっている。

そのため、「この国の戦術機は優秀だ。他の兵器や物資も優秀なのでは…」と信用に繋がるわけだし、セットにすることで他の兵器も売れるし、外交の切り札としても有効なのである。

だからこそそのカードを活かすためにも、戦術機以外の開発をしっかりしなくてはならないことを知ってほしかったのだ。



これからの財閥の躍進のためにも、それ以上に世界のためにも。



~第2章へ続く~


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次元管理電脳より1980年4月時点の追加情報を報告いたします。


主人公による内政カンフルが数種、開始されました。NEW!
《効果》
関連企業の業績が改善、成長度が上方修正される見込みです。


光菱財閥が所属する国「日本」の情報が公開されました。NEW!

《日本帝国》NEW!
・総人口 
1億2000万人※1975年より育児関連法案が改正され、出生数が増加されています。

・経済
GDP約210兆円 ※世界第二位の経済大国です。

・軍事力 
1980年度軍事費 約12兆円

第3位の海軍力を保持しています。
第9位の陸上戦力を保持しています。
第4位の宇宙戦力を保持しています。

・政治 
状態・混乱しています。国家指揮力が低下しています。同じ環境に近いアメリカ・ブラジル・メキシコと比較した場合、経済成長率を約11%損なわせています。

政府方針 「アメリカ追従・内需拡大政策」を選択しています。


・「光菱財閥」内における光菱重工・兵器製造計画が立ち上がりました。NEW!※1990年までの兵器製造方針が決まった模様です。

・光菱重工に対してのグループ内投資比率が最大となりました。NEW!
グループ内企業の新技術獲得機関として光菱重工を中心とする方針に決まりました。NEW!

・財閥最重要計画・国産戦術機計画「初鷹」が始動しました。NEW!



以上で追加報告を終了いたします。

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筆者です。異常に長くなりました…
区切りが悪いですが、これでⅠ章<始動編>が終わります。所謂地盤固め編ですね。Ⅱ章から戦場にかかわっていこうと思います。

では次回にて。


※オリジナル第二世代戦術機・翔鷹をpixivにて描いてみました。※

「光菱財閥 イラスト」か「光菱財閥 翔鷹」で検索をかけて戴ければ自分の作品群に当たると思いますので、そこから探してもらった方が早いかもしれません…

後は直接リンクを張ろうかと思ったのですが、ここでは直接リンクが禁止されていると聞いたため、

感想欄[30]にてリンクを張っております。それか、
HTTP://WWW.PIXIV.を小文字にして
net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=19440944
を付け加えて検索していただけると助かります。

このような形でも失礼に当たるのでしょうか…それであればすぐに消したいと思います。



[28072] <第Ⅰ章>設定 1980年編 
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/10/13 18:12
設定<第Ⅰ章>1980年編

主人公:『光宮孝明(みつみや こうめい)』身体年齢8歳

光宮家のよる儀式によってリアル生贄にされた少年。マジでかわいそうな子(体のほうは)

その生贄召喚されて孝明くんの中に入ってきたのが、「攻殻機動隊」世界の日本から連れてこられた汚い過去を持つ大学生…のコピー人格。ちょっとシスコンはいってる。

性格は"利"で割り切るタイプ。最初の激情は孝明くんにつられたことと八つ当たり。

知識の源泉として、貧乏であったため(妹につぎ込んでいたとも言う)、無料違法データバンク屋で何十年も前の過去のゲームや小説などを閲覧・使用していたため。


主人公自身は「レトロ好きだから」と言っているが自動販売機において500ml缶しか買わず、「自販で買うならセールで買ったほうが良いか」という性格のため、負けず嫌いで出た言葉だと考えられる。変にリアル思考だったのは思考戦車LOVEのため。

第Ⅰ章終りにて一言
「…アメリカぱねぇ。BETAマジぱねぇ…」




ヒロイン(?):『マリヱ』  年齢不詳

光菱財閥初代総裁 光宮弥太郎によって、発掘され復活した電子精霊。寿命何千年、何万年と言われる古代樹を母体に持ち、本体は地下深くにある…らしい。

この地球にいる理由は、「多種多様な生命の進化」を大事にする地球外知的生命体の気まぐれ。

あらゆる可能性を考慮し、生命の誕生しそうな星に、外敵が降りかかった時のみ覚醒する…予定だった「こんな時もあろうかと」の策の一環だったのだが、日本人が外国に開国シテク~ダサ~イと言われて焦った様を「地球外からの侵略か?」と勘違いして長い眠りから目覚めた天然精霊。

その生命の文化・技術・知性を学習して、その生命の"進化の可能性"のみで外敵に対抗することを是とする、ライオンもビックリのスパルタぶりである知的生命体が親。(BETA相手に限ってだが)

今の人類よりはるかに進んだ文明をもつ者達で、ちなみに文明全体で今はニート生活満喫中だとか。

マリヱ自身の人工性格は、言葉づかいから想像のつかない天然であり、ちょっとぬけている。
文化や思考面で人類の理解できない行動や判断が多いために主人公の中の人を呼んだとも言え、マリヱ自身が人でないために人の奇美に疎い。


第Ⅰ章終わりにて一言

「…天然とはどういうことか聞かせてもらおうか?筆者とやらよ。」「ちょ、えっ?」



第2ヒロイン(?):『速水 恵理呼』 

御歳、17歳の普通であらば高校に通っているはずの女の子。

光宮の傍流にあたる家がらであり、孤児だった彼女を養子にした過去を持つ。その本家への忠誠の表しとして、本家への家政婦を志願。

そのため、本編開始時に孝明くんの世話係となっていた。

世話係となった経緯は弟がいなかったこともあり、兄弟から省かれていた孝明くんに感情移入して、お姉さん役を買って出たことが始まり。

性格としては良くも悪くも女の子。憑依前の(姉に対する)純心な孝明くんの愛情から、ちょっとショタ子好きが入っている。

冗談抜きで孝明くん命。どんだけかって言うと憑依後の孝明くんが困惑を通り過ぎてどん引きするぐらい。

……改訂後、本編から姿が…



主人公の父親 『光宮 天元』 :52歳

マリヱの力も無く20代で戦後の財閥を取り仕切り、以前の財閥まで組織を復活させた、商才と覇気溢れる人物。

冷徹な判断を持ちながら人望にも恵まれており、現代の英雄と言っても良く、正直、人の格として主人公が太刀打ちすること敵わず、この人がいるからこそ主人公のチートを活かすことが出来ているとマリヱは分析している。

…そして主人公がやりやすいような環境づくり、下地作りから人との折衝を一手に引き受けているのにもかかわらず、本編での活躍が一切ないという冷遇っぷりは、アレキサンダー大王の父、フィリッポス2世に似ている。

だが敢えて息子、孝明にバレないようにやっているようで、その過去からして子供を甘やかしてしまいがち。

ちなみに×2 その2回の離婚原因は子供がらみ…




『光菱財閥』

日本が誇る大財閥であり、満井、隅友とともに俗に「三大閥」と呼ばれている。

本編で語られたように、三菱財閥と似たような歴史を辿っており、商標問題で韓国の四星財閥と対立中。

日本国内において皇道派に位置する財閥であり、将道右派と呼ばれる昨今の新興グループ(将家下位に属していた者が戦後、財を成し自身の権益を広げようとしている者たち)とは敵対関係になっている。

しかし公家でもある光菱と元枢府、五摂家との関係は比較的良好であり、瑞鶴選定時問題に斯衛を宥めたのは光菱の働きが大きい。

翔鷹発表時には逆に瑞鶴の性能に対して何か文句を言ってきそうではあるが…

(※瑞鶴選定時問題 
1978年、大手三大メーカー冨獄・光菱・川崎に対し、帝国城内省から斯衛専用の国産戦術機開発を命じた政治問題。

元々大手メーカーが戦術機をライセンス生産し始めたのは1977年からであるため、独力での純国産機の開発は不可能である主張する(事実その通り)の三社側と、純国産でないとダメっ!!と突っぱね続けた城内省との間で紛糾することになった問題である。

それを諌められたのは河崎重工が提案したF-4Jをベースとした改修案の優秀さと光菱の政治力の賜物である。

斯衛の不信感の背景には1976年に発覚したロックウィード事件(アメリカの航空・兵器製造会社による世界的大規模な汚職事件)によって海外企業、とくにアメリカの兵器企業に不信感を強めていた時期でもあり、事実、F-4製造メーカー マグダエル・ドグラムから後に政治資金献金事件(ドグラム・グラマン事件)が発覚しており、首相に対してF-4改修を賄賂によって進めていたことは確かなようだ。)



他の日本財閥と違うところと言えば、「組織の光菱」と呼ばれるほどの団結力を持つ組織であるという点があげられる。

だがその団結力の弊害として「癒着・天下り」が横行。

それに対し、財閥内で確固たる権力を握っていた天元によって1970年代後半に「粛清」とも影で揶揄された財閥内の改革が行われ、財閥内の無駄を省くことに成功した。

この時の、多くの戦後の戦友を財閥から解雇した時の内部争いは「光菱・内乱状態」と新聞に取りざたされたほどで、その時に「冷覇王」と呼ばれ、光菱の業績を下げた要因の一つになっている。

しかし組織内の自浄作用が働いたおかげで、今の財閥幹部たち(本編5話 会議に集められたメンバー)と優秀な技術者集団を形成することが可能になり、その財閥という組織の持つ利点、「判断速度」を活かしつつ、組織の拡大化に成功している。

その時の一環として光菱総合研究所、「総研」と呼ばれる研究機関を財閥内に設置。

財閥関連企業全ての最新技術習得機関としておかれたもので、各社の研究所の上に位置する財閥内最高峰の施設郡を持つ。
ちなみに主人公はだいたいはここで生活、いや研究している。
(本編第6話の翔鷹発表時も横浜に置かれる光菱重工先進技術研究センターではなくここで会合を開いている)

今現在の動きとしては、海外投資や政府資本の運用、国際特許の取得以外にも、

戦後の財閥縮小の煽りをくらい、光菱とつく企業なのにも関わらず、本家が主要株主ではない企業や、それによって名前を変えた元子会社が今現在多く存続しているため、その企業を再度の子会社化しようと邁進中。




国内対立組織としては

先ほど上げた将道派右派、

「満井財閥」など

満井財閥に関しては、満井自身が国内第1位の財閥として反映し続けてきたが、昨今の好景気に対し、財閥内の不和が目立つのと同時に、旧式体制によって企業利益率が低く、光菱財閥の追い上げに苦慮していることが大きな理由であり、隣の韓国、満井財閥と協力している四星財閥と光菱財閥が対立し、韓国内の元代財閥をプッシュしていることから、その対立問題が激化している。

海外友好企業としては

先の元代財閥とインドの巨大財閥 ダタ財閥など




国産第2世代戦術機『翔鷹』

乗員:1~2名
全長 16m 
重量50トン※A型 突撃砲含めず
兵装類最大搭載量:約18、5トン

最大速度:880km/h
巡航速度:660km/h
航続距離:1150km

光菱がその財閥の運命をかけて開発中の戦術機。
日本方式で第2世代機を目指しているため、アメリカから見れば新しい技術にも目を引くが、稚拙な部分も目立つ不思議な機体でもある。

機体としての特徴としては小型な上、胴体がでかく四肢が太い。
身長が低く、胴長短脚。正にアジア人の体系そのものであり、その分効率・コストが良いのだが、日本が好きな近接戦においてリーチが短くなっている。


主要武装は

まず専用の85式突撃支援砲

従来の36mm突撃砲の4倍の発射速度を実現でき、機体とのドッキングにより継続使用弾薬量も4倍以上となっていることが魅力。

弾薬搭載量も腰の貯蔵スペースに一括して置かれているため飛躍的に向上しており、翔鷹用に腰の部分の貯蔵パーツを総取っ換えすることで補給速度を上げられるのではないかと試案されている。


120mm低反動滑空砲

肩部装甲に取り付けられた重火器であり、支援砲撃用の重砲。
突撃砲に取り付けられた120mm滑空砲と比べ大型化されており、威力、射程、連射性能、装弾数ともに格段の向上がなされている。

専用砲弾も戦術機突撃砲よりロケットアシスト量が少なく、新技術により小型化に成功しながら十分な低反動性を実現できているため、
155㎜ほどの口径にして炸薬量を多くしたいのだが、新しい口径の弾頭を用いると兵站面で大きな問題となるため、仕方なく120㎜で以前のものとの共通規格を用いることになっている。

※以前の120mmも使用可能

他にも36mmバルカン、多目的ミサイルなどの新兵装が開発中。


対小型級防衛火器

歩兵用の12、7mm重機関銃を転用されたもので、その射撃範囲は前後150度に達する。戦車からすれば副砲レベルだが十分重火器。


またこの三か所の兵装に、腰砲弾貯蓄スペース、背中の担架部分を用いて各ポジション別の兵装に特化させるプラン《総合兵装選択システム》の構築を進めており、基本となるA型から爆装用のB型、戦術歩行輸送機としてのC型、斯衛使用のD型が開発が進められている。
※一番難航しているのが近接戦用のD型

また、順調に世界に広がり次第、さらに特化させた案も開発することが決まっており、戦域指揮官用の電子線装備などはすでに開発段階に入っている。



ソフト面

乗員が基本2名であることと、OSの改良により以前よりか自由が効くようになっており、新しい複合火器制御システムの開発によって一層の火力を実現できると言われている。

翔鷹に使われている新技術や特許などは膨大な数に上るが、その使用度で一番多いのは、このソフト部門であり、知識だけで実現出来る分野が大きいのがその理由であると考えられる。



跳躍ユニット

エンジン一基当たりのミリタリー推力300kN(…)、推力重量比:20対1を超える"このマブラヴ世界"ではアメリカと同レベルか、もしくは一部では優れているものを国産で実現することに成功している。

これは純粋なエンジン建造技術が発達したわけではなく、外科的に技術を取り入れて実現した物。

実際にいってみれば、それまでの戦術機と違い、ジェットエンジン燃焼時に排出するガスに対し、特殊な粒子を混合させ、その後に電磁加速装置によって排出ガス全てに再度加速をかける仕様になっており、アーマードコアという作品のザコ、ノーマルをさらに劣化させた技術を導入して実現している。

これは戦術機に見られる、ジェットとロケットのハイブリットではなく、ジェットと電磁加速のハイブリットである点が大きく、巡航状態の時も特殊な粒子を混入せずに加速をかけることで、推力と燃費効率を上げている。

その分の電気使用増加量を、水素電池の開発によってカバーしている形になる。



整備面

機体の小型化と負荷の低減、兵装担架システム、管制システムのコスト削減などなど、方向性に必要ないと見込んだ部分は徹底的に削った機体製造コストと、〈整備姿勢〉を取り入れたことにより整備負担が大幅に低下、ライフサイクルコストが第1世代機であるF-4Eを下回る事態が発生している。

他にも従来の戦術機と比べて総部品点数が4割ほど少なく、技術的難点として、外装を含めてカスタムできる利点を残したまま、この数を実現できたことに対し、疑問を投げかける海外技術者は多い…




[28072] 第Ⅱ章<暗躍編> 1話 商売 《10/28改訂更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/01/04 16:09
※またイラストを上げました。下手ですが、感想欄[53]にてリンクを張っております。

またケータイの方は「光菱財閥 イラスト 」で検索すればでると思います。

―――――――――――――――――――――――――




1984年1月日本某所

お久しぶりです。孝明です。
あの会議から、4年近く立ったかな?そのほとんどが閉じこもり生活という青春なにそれ?という生活を桜花?しているおれは、再来月で12歳、中学1年になる。

新しい自分デビューを決め込んで「学校どこ?」とマリヱや親に聞いてみれば、嫌なことを聞かれたように目をそらしつつ、

「あ、あ~それだがな、今も小学校は学校登録だけで通信学校していることになってるだろ?つまりは…そういうことだ。」

と言われ、同学年の友達が一生できないことが発覚した。

まあ他者視点から見れば、ここまで重要情報や超人的な演算能力を外に行かせることも、必要のない勉学に時間を割かせることもいらぬ事態しか招きかねないことは容易に想像がつく。

親も「なぜこの子が学校にもいけないのだ?人類のためとはいえ…この子の人生を捨てさせるのはあまりに忍びない」みたいな、罪悪感から来るバカ親っぷりが今も続いて…いや増しており、もうベッタベタな甘やかしが続いている。

まあ変わったことは身長も何センチか伸びたくらいかな?ぐらいで、歯が次々生えかわってくるのがうっとおしいくらいだな、実感できるのは。



ではここからは真面目な話。

俺が来てからのこの世界 1980年1月~1984年1月までにした介入のご報告をさせて頂こう。



まずは財閥に関する話。

あの会議など、財閥内で「その歳で判断してはならない天主様」という立場を作り上げることに成功。そのおかげで予想より早くこの世界に干渉することができたことが功を制し、財閥の成長はそれ以前とは雲泥の差とまで言われるまでとなった。

なにせこの4年で財閥の純粋な規模は、俺が来る前の3倍以上。

政界や財界にして光霊祭を信じていただいた政府高官ら、この日本の上層部にいるシンパを通じて順調に日本の中枢に浸食出来ている。

―――すごくね?

他にも、以前借りた日本銀行や皇家などからの大量の資金も完済して、前回以上の資産の運用を任されている状態。これが規模を大きくできた一番の理由なんだよね。

なんかマリヱの知識と三菱商事の優秀な社員に任せたら、とんでもないほど増えちゃった感じ。隠すのが大変だったほどだよ。周りの目が痛いのなんの。


まあ恨みを重ねてまで財閥を成長させているのはまずは世界への発言力を得るため。

主軸となる大型兵器は当たり前だが、未だに開発中。

そのため経済力とそれを活用した繋がりを使うことで現状、日本が海外にておおいに動けないために出来る範囲で影響を及ぼそうとしているわけだ。

まあ話としてみれば、じみぃ~な感じでつまらないとは思うが戦争がタダで出来ない以上、金を稼いでおかなければ後で躓いてしまう。


他の理由としても戦車や戦術機等の人類の主力兵器は、如実にその時代の技術レベルを反映してしまうため、まずは光菱財閥関連の軍需企業の技術レベルを上げるところから始めているためまずは経済…といったところが始めているわけだ

歩兵兵装等は一応完成して売り出してはいるんだが、銃器の販売で重要になる信用、つまり世界的に見た良い銃器を開発したことが久しくない企業であるため、売上げが伸び悩んでいる状態だ。


その軍事部門の主力商品は、瑞鶴の改修計画で生まれた低コスト化い成功したF-4の輸出仕様だ。

これは国内の戦術機メーカーと組んで、今出来うる徹底的なコスト削減と、2年前から輸出し始めたOSに対応したものを輸出しているのであり、近接戦仕様の日本F-4J撃震にもその技術と部品量産効果が加わり、日本戦術業界にも利益があるって寸法だ。

もちろんこの輸出仕様はアメリカの許可をもらっており、その輸出先も未だに十分な量に達していないところだけだ。

まぁ、ただのコスト下げた機体なだけだし、政治的な動きのおかげで売る出すことを許可されている。

その政治に対しては今度説明するとして、そのOSのおかげか売りあげは順調。欧州や中東に対して売り込みを開始しており、国連軍にも納入している。

全世界レベルでF-4の数が足りてないからこそだけど、今は貴重な兵器部門の売上頭だ。


そうそうこのF-4に搭載されている、このOSについて説明せねばならない。

戦術機のOSというのは生産数が少ないために民間に比べ無駄が多い。

アメリカなどは軍事用のOSに対して堅実に動いていれば良いって感じなため、意外に中はいい加減だ。さすがアメリカ合理的すぎる。

そのおかげもあって、マブラヴ史実において香月博士が短時間でスペックを脅威的に上げることができたわけだけどね。

それによって生まれたのがXM3シリーズだ。

それまで戦術機は「パイロットの安全を第一にした、かったい動きしかできない」操縦ソフトによって、複雑な構造の兵器という利点を生かし切れていなかった。ソフト面の大きな問題があったわけだ。新しい兵器のため技術が習熟するまでに時間がかかったとも言えるけどね。

それを解決したのが、マブラヴの主人公である白銀武発案のXM3だ。

これは今までの戦術機を既存の兵器の類として考えてることを放棄したことが大きい。

人型という不安定な重心を使い、兵器の寿命を削る代りにゲームのような無理のある動きを実現する、そんなソフトを実用化させたわけだ。

これに「極東の女狐」と言われるほどの才を持つ香月博士が、00ユニットを開発している上で培った、電子関連技術を使って最先端の演算能力を付加し、その概念で生まれてしまうだろう反応速度低下を、逆に20パーセントの向上という成果によって新しいOSのメリットにしてしまったわけだ。

これにより、マブラヴ史実では衛士の生存率が大幅に向上したと言われるほどの成果を出している。そのようなローリスク、ハイリターンな策を俺が見逃すはずなく、民間用演算機器関連の開発と連動して、優先的に開発をしている。

とは言っても、XMシリーズのXM3が開発されたのが2001年。未だに、量産機に搭載する場合のブレイクスルーが幾分かあるため、現用のソフトをできるかぎり短時間で改修、プログラムを改変・整理したのが光菱OS「クローバー」なのである。

これは、俺の規格外の超人的な計算力を即活かせる術として、速攻でできる内政術として最初から考えていた手段でもある。

整理されたプログラムによって処理速度が上がったOSは、基本ブロックに射撃補正(複数目標の同時ロック数増加と本体移動に対応した射撃補正) と各戦術機環境偏差を入れ、これに光線級発見時に即座に回避運動を取る緊急回避プログラムを入れたものを開発した。


これに付け加える形で部隊内データリンクを使った《相互支援射撃プログラム》か近接戦対応の《動作誤差修正プログラム》とキャンセル機能を含んで組んだものを選択していれる形にした。


相互支援射撃プログラムのほうは、味方を含めた射撃範囲を視覚で共有し、そこから溢れたBETAを警告して援護する、後方の砲術ポジション用のものとして、

後者の近接戦用プログラムは劣化XM3そのもので近接戦による即時判断に対応できる形にしたもので前衛用のものだ。

もちろん、無理な機動で間接やらのダメージが大きくなることを考慮して、ダメージを抑制する動作制御プログラムも組んでいるんだが、情報量が増えてしまうので…こちらはあまり上手くいっていない。

まぁXM3レベルまでになるには時間が必要だ。最初はそこまでの動作制御はいらないだろうから、ヴァージョンを更新しながら対応していくしかない。


…漠然と使いすぎれば一回の会戦で戦術機の稼働率が激減してしまうため考慮は必要だが…


そんなこんな二つのプログラムを作ったわけだが、両方のプログラムを積まないの?という疑問が浮かぶだろう。

もちろん両方積めた方が良いのだが、今の技術では処理速度が追いつかない。

そのために内部には圧縮した基礎コードを入れ、外部からのダウンロードによって衛士別にどちらかのタイプを選んで個人用の衛士強化装備からダウンロードする形にしている。


これから先としては、両方ともダウンロードすることはもちろん、先行入力による射撃補正から継続戦闘モードによる弾薬量維持のための連射速度変速プログラム、そして翔鷹に対応した適正火力支援プログラムを組もうと考えている。

これらは未だに大量にある「古い考えの戦術機」を戦力化するためのものだ。

第2世代戦術機を作るまでに時間がかかる以上、今ある戦術機(先ほどのF-4など)を増産しつつ、それをソフト面で強化して、各前線の将兵の生存率を上げ、戦場を持たせなければならない。


そもそもこの世界のコンピューター関連技術というのは1960年代から宇宙進出するほどコンピューター関連の技術は歪ではあるが進んでいる。

その理由はアメリカが史実以上にドイツに喰いこんでいるためだ。

ドイツのベルリンに核を落としたアメリカは、先進国である欧州での発言権がとんでもなくでかく、戦後、欧州の、特にドイツの優れた先進技術者を取りこんでアメリカはダイダロス計画を始動することになる。

これは宇宙に行くという夢のある理由をつけて、西側諸国である欧州の技術と市場を吸収、米国の各種技術をさらに進めることに成功させるための計画で、事実その通りになっている。

さすがアメリカ汚い。だから史実以上に欧州に憎まれているアメリカ。
植民地人に植民地にされた欧州、ざまぁwwwである。



しかし、兵器関連はそのぐらいしか好評なものはない。

OSの好調や戦術機の薄利多売方式で売上を伸ばしてはいるが、全体でみると、それを上回る開発・基礎研究費によって軍事部門は財閥の金喰い虫になっている。

言い訳じゃないんだが…将来を考えるとしょうがないんだよ…


「で、その赤字分を民間で儲けているわけか…」

「そうなるわけだ。マリヱさんの力を借りたおかげもあってね。」

とここで初登場のマリヱさん登場。俺としてはあまり新鮮味はないのだが、見た限りマジで絶世の美女。もうそろそろ俺の身体がマリヱさんの色香に反n「やめい、気持ち悪い。」
と、このように人の心を読む力があるのだ。もちろん契約した俺限定なのだが、プロテクト掛けてないとすぐこちらの考えを覗こうとするストーカー?「…何を考えておるのか筒抜けぞ?」…すいません

「…でだ。投資などの金融関係もそうだが、財閥本来の事業はどうなのだ?さすがに金融関連だけでは警戒されるだろう?」

おっと話を戻してくれた。「あとでその件はゆっくりと、じっくりとな」…ああ~お仕置きは後なのね。

なんでこんなに下っ端的な扱いなのかって?

なんのことはない、この人に生殺与奪権を与えてしまったのだ。俺がドジったせいでな。

マジでドジった…依然、契約の内容については説明したが、それに追加項目が小さく、マジで小さく書いてあったのだ。カイジかよっ!!

…ほんと契約結ぶ時にちゃんと確認しとくべきだよ?ホントに。ホントにね……

「もちろん、金融なんかは最初のスタートダッシュ剤なだけで、それを本業にするつもりはないよ?もちろん健全なもので、予想が簡単なものであれば良いけど、やみくもにやったらバブルになっちゃうからね。」

「$の価値が上がっているからな。ここ2年の円安で輸出産業は高調だろうから…そうだな、具体的な分野ではどの分野が好調なのだ?」

「一番大きいのはパソコン関係だろうね。」

「ああ…先進国、一家に一台パソコン計画だったか…名前からすればふざけているようにしか見えないが、あれがなあ」

マリヱの言った計画、「先進国一家に一台パソコン計画」は財閥の最重要計画として3年前から始動した計画のことである。

これはパソコンを母機、ケータイを子機として規格し、まず最初にこの時代の発達した無線技術を使った通信基地を規格化して量産。

簡易的な情報網を構築しようとする官民による一大プロジェクトだった。

「そもそもなぜパソコンから手をつけようと考えたのじゃ?」

ごもっともでもある。普通、マブラヴ世界に来たら軍、戦術機の開発を第一にするだろうし、その分野の技術の進んだこの世界に早期に利益を上げられるか、疑問に思ってのだろう。

「マリヱの知っている通り、軍事技術であった電子産業やネットなどの情報システムというのは、この世界では史実以上に進んでいるからね。

先のソフト関連技術によって同じ性能のものでも、規格があえば以前以上の環境を整えることは結構簡単だと分かったから、民間部門でもなんかできるかなと思って計画を作ってみたんだわ。ここまで大がかりになると思ってなかったけどね」

"進化というのは環境によって変わる"ではないが、人類もその環境が変わってしまえば、進む方向も技術の発達も変わってしまうのが普通なのだろう。


それでは、このマブラヴの世界はどうなのだろうか?

1958年時点で火星にまで探査衛星を送り込み、1961年には核パルス/ラムスクープドライヴを使って太陽系外進出もできる無人探査機を開発できるまでに習熟した、この世界の技術。

それは歪なほど、ある分野に集中して進化している歴史なのだろう。

2010年になっても火星に無人機が行くのがやっとの史実世界の人類からしたら、このマブラヴ世界が史実世界よりも進んでいる分野の中に、コンピュータや半導体等の技術があるのは不思議なことではないだろう。

なにせ宇宙の進出のために絶対不可欠な物なのだから。…と言えばそれまでだが個人的には歪すぎるだろうと思わなくもない。

それに加えて、戦術機という制御が困難な人型兵器を1974年に戦力化。
史実アメリカのデータリンクより遥かに進んだ、戦域統合データリンク。
2001年の時点で香月博士の因果量子論が組み立てば量子電脳を完成できる下地。
これを組み合わせれば国が管理している、その分野の技術はどれほどの物なのか想像がつかない。

とそう思ったマリヱさんがこちらを怪訝そうな目で見ている。

「光菱が入り込める余地などないのでは?」

とそう思っているのだろう。

「マリヱさんがそう思うのも無理はないんだけど、「どんな思いだ?我は何も言っておらんぞ?」

「…あれでしょ?技術はあるんだから今さら光菱が広めても広がるわけがない…とかその思ってんじゃないの?」

「…ふんっ!!」図星だこの子。わっかりやす~いWWW…ああすいません。そんな目で見ないでっ!!

「ゴホンッ!!ええ~そうだな。説明として適切なのは、技術はあっても発想が無いってところかな?」

「そんなものなのか?人間というものは?」

「そんなものだよ。というより技術よりも結局勝ち組になるのはその発想力だからね。今回もそういうことで、そもそもこの世界、パソコンは軍とかが使う高い物って決まった見方があるんだよ」

「?」

それは戦後も戦前の名残を色濃く残すこの世界、そのまま発展している点がこの世界のコンピュータ関連の発展に足枷となっているのであり、先の発言の根源でもある。

戦前の流れを色濃く残したままBETAとの戦争に突入した影響で、アメリカを含めて東西ともに、コンピュータ関連技術を軍事技術に指定。その影響から、この分野に規制を敷いている国や他国に売ることを自粛する企業はとても多く、発展する余地を奪っているのだ。


現に史実世界においても、実現できる技術はあるのに軍の管理が邪魔でできませんでした、や他の企業がしていないからしなかった、なんて事象は山ほどある。

それの極致がこの世界の「コンピュータ関連が軍のもの」「民間では高すぎて売れない」という思い込みで技術が急速に発達するための市場を潰す典型的な例をこの世界は実証していたのだ。

そもそも1995年レベルの技術はあってもその広がりをみせずに、ネットという世界を知らないこの世界。

世界の繋がりを見せない世界は進化のスピードが史実よりも衰えさせるのもので。

その影響とBETAとの争いも重なって1990年代から境に世界経済と同期して技術成長が停滞。

ゲームという発想さえ消えてしまう結果となったのがこの世界の21世紀の夜明けだ。

そのために他の世界と同じ技術と度量があっても発想がない。



「だからその考えを塗り替えるために日本の老舗である、光菱から各国に情報を公開したんだ。本来ならば中小国からすれば最新の技術を含んだものをね」

そうある条約に乗ってね。

もともと日本の場合は先に説明した後者のほうで、会社自体が自粛するケースで軍との関係を大事にし過ぎている。

それを改め、これまでの日本会社の社風からして、本来であれば許可しないはずの各種新技術を開示、各国でライセンス生産させることを許可しつつ、国連をも巻き込み、そのライセンス生産を格安で各国に許したことが大ヒットの原動力になった。

もともと日本に不足していたのは民間で売るという発想だ。軍に対しての働きかけを十分に行いつつも、ハードでは基幹部分だけ開発して、他は全世界の企業に任せる手法をとった。


各国の技術水準と規制を考え、パソコン本体の技術水準を1997年~2000年初頭のレベルに抑えた、安価で即生産できる商品を開発。

こちらが独占する局所的な高度な技術を使って、ブレイクスルーをおこなったこの規格商品は財閥を上げて対処しなければ、対応ができないほどバカ売れすることになる。

その基準自体が軍を中心にこの世界での"バカ売れ"の基準ではあるが、今回の世界で初となる一般用格安ノートパソコン(最初は無線方式のネット回線。あとから有線にも対応可能な別売りパーツで対応)と、基本機能しかついていないケータイをセットで販売したことで情報の海は世界に急激に広がりを見せたのだ。


これは、軍によって史実世界よりも進んでいた電波受信技術も大きく、強力なアンテナ基地を一つ作ることで、広域な範囲をカバーし、ケータイ、パソコンともに即ネットを始められる環境を作り出せるようにしたのだ。

「その当時は大変だったの。軍からは軍事機密漏えいだなんだと、突っ込まれておったではないか。売国ともな」

「まあね。それだけ発想が無かったからだけど、さらに進んだ技術がふんだんにあることを懇切丁寧に説明したら帰ってくれたよ。もともと戦術機開発で見せていた技術よりも一段低いからね。理解はしてくれたよ。本当は彼らも国のためを思って、言ってくれたんだ。良い人たちなんだよ?」

「帰りに懐を厚くしたヤツがか?」

「それでもさ。話を聞いてくれるならね」


まあ…多少の出費があったが軍の抑えが効き、販売に関してフリーハンドになってからは後は早かった。

今はまだネット回線を主としたのではなく無線、ケータイ方式でネットに繋ぐため、すぐに仕事の効率と娯楽を手に入る箱には皆が飛びついた。

複数払いにすることで世界全体的に爆発的に売れたわけだ。…他にも数々の理由があり、国内は元より世界でも広がりを見せ、光菱は世界で莫大な利益を上げることになる。

※全国にケータイ・ノートパソコン用アンテナを設置するのもN○Tと協力して、光菱財閥特有の「赤字?天主様と当主様の命だ!!文句言うな!!」で押し通した…今考えるとひどい…※


その計画を始動させるための元手としては、裏から手を回して日本政府から毎年運用利益を上げなければならなかった年金資金(当時で100兆近く)の一部をこの事業に投資してもらい、同時に日本国内の電機大手を買収。

それ以外の企業にも協力体制を確立したのだ。

「なぜここまで急激に増やしたのか?」
「独占していた方がよかったのでは?」

と良く聞かれるが、まずはそのほうが広がるのが早いし、相対的な利益が見込めるからだ。

俺が来た世界が、現実世界と双璧をなすまでになった電脳世界、電脳立国日本だからだろうけど、パソコンならばソフトやプログラム、データをダウンロードすることで仕事も遊びもできるわけで格安で人の娯楽と成り得る世界を知っている。

だからこそ、先のような技術開示を行い、蜘蛛の巣を広げることを第一としたわけで、

パソコンもケータイも中身を知ってもらえれば、最初は「計算機の派生品だろ?パソコンは仕事のための物だよ」「ケータイはどこでも会話できるから」といって買ったお客様も

実際は使ってみれば「ゲームからAVまで取りそろえてやがるっ!!」ということがわかり、仕事にも、己の欲を満たすこともできる知ってもらえれるば、さらにその販売量は増加するわけだ。

なにせ過去の歴史おいても民間パソコンが広まる要因の一つがエロサイトが見られるってことだったからね。

仕事、遊びを快適にできるソフト、サイトを次々と生み出すことにかけてはその未来を知る光菱に敵はいないわけで、パソコンと言うハードを制するのではなく、発想と言う分野のソフト、サイト開発部門を独占しようと考えたのだ。

そのために2000年代のOSやパソコンゲーム、合法有料18禁サイト、音楽・動画配信サイト、電子出版サイト等も光菱財閥が作って売り。

その法整備は進まないうちに、国連を通じて国際規約をこちらの有利な物を広げることができるのだ。

他にもネット専門のテレビ番組と情報サイト(○oogleみたいな)を合わせたものを作り上げ、初期に無料契約をする手はずになっており、

お得なパソコン情報から、世界共通のニュースを扱うことをモットー(余談だがこれイタリア語。日本語なら標語)に、世界中の各国の情報を扱うことで、各国のテレビ(情報娯楽)業界にまで進出することができている。

そうすれば必然的に、そのCMで一番多い光菱は販売ルートを客側が広げてくれることになり、利益しか生まれないし、情報規制がない今、後で説明する条約によって世界はこの光菱が牛耳るネット網を遮断できないので、新しい情報のこの網は光菱が独占し続けるだろう。

またエロサイトだけではないが、ケータイを簡易的なゲームボーイや、持ち運び便利な携帯端末としても売り出しており、売り上げは史実以上となったのだ。

…まあテレビなどでは技術公開などに関しても「人類のため、光菱ができることをやりたかったのです」キリッみたいなことをほざいてるが、まず第一に利益が見込めることを考えなければ財閥指導者として失格だ。(プロジェクトXや○イヤの夜明けをふざけて作ったら視聴率一位になってワロタWWW)


また設け以外にもメリットがたくさんある。

この計画自体が世界全体の作業効率を底上げし、人類全体の生産力を上げ各国の国力、GDP を上げてもらうためのものとして、低コストで世界に情報の海を広げたいと考え出された計画でもあるからだ。

つまりは史実世界におきた『IT革命』 
それを起こすことで世界経済の躍進を手助けしようというわけだ。

そうするためにも日本でのネット普及率とパソコン所持数の増加と経済成長率との関係性を国連を通じて世界に訴え、

世界に広げることがこれからの世界経済への好影響を与えるとして、各国軍によって管理されているパソコン関係の技術に対して規制緩和を促すよう、国連を通じて国際世論に訴えた。

代わりに各国の大手に対し、光菱から技術を開示し将来のこの民間産業に乗りだせる"公平な市場の創出"にすることを約束したおかげでもあるが、その市場に喰いついた軍需企業は多く、民間の力も相まって結局はなし崩し的に話が進むことになる。

何せこの世界じゃ人類の滅亡が目の前までやってきているのだから、これから軍事費は増大は目に見えている。

国民からすれば、ある程度の技術開示をしたところで人同士の戦争を考えてもいない彼らは、それよりもそれによる市場、つまりは仕事を欲しがった。

なにせこれからの将来として、増税は当たり前。そうすれば家計の中で最初に削られるのが娯楽費である以上、必然的に娯楽産業が小さくなっていくのは自明の理であり、アメリカとしてもその技術公開はもろ手を上げて協力してきた。アメリカが勝つと信じて。

またメリット以外にも娯楽が無くなれば必然的に贅沢は敵になり人の思考が硬直していってしまう。

それを取り除く必要があるとしたのだ。

現にその便利さと情報を仕入れることが出来るパソコンは、一つの革命であり、議論もできるネットに世界はのめり込んでいるわけで、公正な判断を養う手助け足り得るだろう。



またもうひとつは販売網だ。情報の流通量を増やすことに成功したことで、そのネットにリンクした販売網も同時に得たと言ってよく、

パソコンによる、より明確で簡単に使用できる情報通信ネットワークを世界に広げたおかげで、各国の特産を「光菱通販」と「光菱商事」によって世界経済にリンクさせることが成功。

さきほどのネットテレビによる広告販売も合わさり、国内だけでなく世界各国の物を気軽に取り寄せる手段が出来たのだ。


そうすれば、軍機的にも外貨不足に陥っている前線国家に対し、その国の安い特産を販売網を広げ、海外投資家の目を向けさせることが出来るのであり、民間だけでなく軍事にも手助けとなっているのだ。

この特産にもからくりがあるのだが、この流れによって前線国家の"特産"と後方先進国の"兵器"とを交換できることになり、経済の原理として交換時に付加価値を付ける《貿易》が盛んになり各国が国力、経済成長の原点にもなる。

資源と人の有効活用にもなるし、民間に埋もれた才能を発掘する網とすることでソフト開発も進むだろう。

…といろいろなメリットがあると考えて進めたわけなんだけど、これが予想以上に全世界広まってビックリしている。

全世界市場規模もあと3年で5倍ほどの成長になると予想されるほどであり、人口の増加=市場の拡大に繋がる上手い商売の今現在の売れ行きだが全世界で儲けがハンパない。

特許量だけでもそりゃぁもうすごいもんだ。

(※…地味に多元世界で出版されていた書物データを翻訳して電子出版したり、映画などを翻訳したものが好評なのは内緒だ。作者の名前が「ナラシノゴンベエ」とかおかしい点などあるけど…)


なぜこんなに広がっているのかって思うのだが、それは人の欲は成長の最大の糧だから、って説明が一番大きいものだろう。

物を消費して経済を大きくするのが"戦争のない世界"であれば普通の流れだが、戦時であれば民間品を消費することはおろそかにされがちだ。それが娯楽物であれば、あるほどに。

だからこそ、パソコンとネットワークで電子に価値を持たせ、それによる"欲"を満たす。

金を持ちながら、忙しいために"買う"という行動ができない者は現実世界でも非常に多い。消費量と世界の流れとして娯楽産業は衰退の一途をたどっているからだ。

「そんなこんなでパソコンがバカ売れ、技術が分かっていてもどのようにすれば安く、安全に出来る方法がわからなければ敵はいないから、あと数年は独占だろうね。…アメリカ以外では。」

「あそこでは世界の常識は通じず、逆に世界の常識を作ってしまう国だからな。」
こうして一年半足らずで、加入者が全国、全世界で日々増加中なのである。

法改正も先をみた形で行われ、元の世界でも問題となり続けている著作権問題等の対策をしている。


「しかし、ここまでスムーズに広げられた理由は"アレ"か?良く出来たと思うのだが、普通ならば他国が国内産業を外国企業に占められることを良しとしないだろう?」

たしかにその通り。普通ならばここまでの広がりを見せる前に各国が関税と法によるシャットアウトで締め出されるだろう。

「それが普通だろうね。3年だけでここまでの流れに持ち込めたのは、この世界のコンピューター・電子産業、情報産業等の技術が高かったこともだけど、やっぱり、それを広げられる理由を手に入れられたことが大きいと思うよ。」

全世界にここまで広まった理由は、先も述べた通り人の"欲望"だが、広がることができた理由は他にある。






―――この情報網<ネットワーク>が国連直轄だからだ。

アメリカが史実以上の力を得たのは"国際組織"である国連を傘下に収めることができたからだろう。

そのような歴史が証明していることを踏襲するためにも未だ"国際組織"である国連の状態の内に、国連の力を利用させていただいたのだ。

行ってみれば、アンテナ基地や有線ネットワークを国連の元、各国の企業と共同して建設。

ネット使用料ならびに、ネット網使用料を各国の企業に対し課税することができる国連はその旨味から、光菱に対して国連からの一任を得ることに成功し、この通販網を世界に認めさせることに成功したのだ。

これは光菱の協力する部分に対し低利であることが大きく、その表向きの料金のほとんどを国連税として課せられることになり、その国連税分がが分担金代わりと成り、国連の収入が「各国からの募金に近かった分担金」が「健全な使用料金による国連税」として払うことを意味する。

これは国連に対し、分担金の支払い額が一番多く、そのため一番影響力を持つアメリカを、平等な目線で国連が見ることができるのであり、アメリカの独り歩きを抑制することにも繋がるし、なにより分担金を支払わなかった国たちに、強制ではなく義務として応じさせることが出来るのだ。

またこの産業の大きさは将来、一国のGDPと同じほどの規模を秘めていることからも、その一部だけとはいえ、光菱にしてみればその収益は膨大だし、

そし何よりその利益のほとんどが国連に払われるということは、世界の難民を吸収する組織を強化することに繋がる。

そうして


―通販による物流に対して、効率的な輸送路を構築し―

―ネットの力で翻訳し、商品を世界に触れさせ   ―

―世界中の全ての貿易を扱う企業が所属させ    ―


―その儲けから国連への分担金とする       ―


という新しい流れに加え。

娯楽産業に指定された電子商品は、国連が翻訳することで別途の国連税を架されて、普通の商品との折り合いをつけられることや、

著作権違反の罰金について、著作者、権利を持つ企業と国連に払われることにしたりと、世界の個人貿易に対して国連をかませることで国連軍を増強することに成功したわけだ。

その理由として、そのほうがマナーの悪い奴らの目を国連という"世界"に反らせるためでもあるし、国連の分担金という"義務"で払うより罰として払わしたほうが反感が少ないと予想したためでもある。

それ以上に国連と蜜月の関係になることで、国連内の第五計画推進派(通称G弾派・アメリカ派閥)を抑え込み、純粋な国連としての役割を担ってもらいたいという狙いがあるためでもあるが。

またネット使用料と同じく、ネットの有料サイトの料金の何割かも国連に支払われ、国連に登録することが義務付けられることで、違反サイトの取り締まりが簡単になるし、著作権違反を起こす輩を取り締まるのに国連も積極的になるだろう。

将来、海賊版を製造して利益を粗稼ごうとする国家、企業を撲滅できるのだ。

そうして世界で公正であるネットを国連が形作り、活動資金を作りだせる方法を手に入れた国連は、国連に対する分担金に対して各国が義務として税金から出す方よりもネット使用の方が多くなり、全体でも多くなった。

それにマブラヴ世界の軍人は給料を使うことが少ないため、死に金が生まれてしまう。そうならないためにも国連に登録された通信販売を始めれば、使ってくれるだろうとも考えてもいる。


等々、金の周りを導き出して、産業を活性化させるのも世界の導き手としてが当然の義務だ。

その流れの一部が光菱に流れるお茶目は見逃してほしい…


これと同じくしてこの2年で国際法をいくつか施行させることに成功した。

中身は、他国の経済を破壊する敵対的な投資の規制(実質ヘッジファンドへの牽制)

行き過ぎた関税防壁の撤廃(国家ごとに200パーセント以上の関税をかける商品の数を制限する)等いろいろと未来において必要な国際条例をセットで施行させた。(ブロック経済への牽制)


これは国際社会を味方につけるために、国内の経済が縮小し始めている国家や発展途上国に対して大規模な円借款をして、代わりとして発展途上国、前線国家の票を獲得して国連議会を押し通したためでもある。

まぁこれも言わば、以前の無計画な円借款・ODAではなく将来に対する市場成長に対しての種まきであり、そのほとんどが日本製品を買うために帰ってくるか、将来進出する場所のインフラを整えるため、日本のゼネコンに対して委託された公共事業を行うことを国が許したことでもある。


……しかしここまで一国家が世界に対して口を出すことはいらぬ恨みを買われそうではあるが、以外にそうでもない。


これはネットが未だに広がっていない社会からして、著作権問題が国内だけで済んでいることと、関税問題では日本にも関わっている点だ。

未来を知っているものからしたら許さないものであるが、今は完全に欧米が著作権やライセンスを売る側であるため、これに協力的であり、未だに模造品を製造する技術がない国家からすれば、そんなことより金をくれ状態のためでもある。

言ってしまえば、そのうちやらなければならない条約を日本が勝手に身を削ってやってくれたように見えているため、この条約がこのスピード執行を許した要因である。


「国連組織に関税や税を架すことは国には出来ず、その税となるものは国連税として支払われ、その分、分担金は減る仕組みか…」

「分担金を一人当たり多く出しているアメリカ、オーストラリア等の大国や大国に準ずる国はこれに賛同するわけで、必然的に分担金は各国とも国力に比例したものになるから、大国の世論はこちらに対して好意的だよ。」

「言ってみれば世界のために、技術を開示したのだからな。国内では反対も多かったと聞いたが?」

「表向きね。碌に自分で調べずテレビや新聞などの情報を丸飲みしている連中は一時的に騒いでいたけど、年末の収支報告で沈静化したからね。

…こんな大事業、チートがないと割に合わないのはあっているんだけど。実際、グループ決算で黒字なだけで、施設敷設部門は赤字なんだけど。」


「そこは財閥系の強みだな。国とつながりが強い所は資金の流動が見えにくい。」

「これ以外に大きな事業は、コンピュータ・情報関連以外に、資源輸入事業、水素燃料電池等の事業だね。」

これらの事業は脳内知識が多く、比較的早期に利益を上げやすい事業のため、企業の発展に役立てるために選んだ。

輸出入に対してもパソコンを買ったもののほとんどが加入している通販サイトと光菱商事の企業向け通販サイトによって間接的に儲けを出している。

この通販に隠れて、国連が貿易に携わった影響から南米やアフリカからの資源輸入路が開かれた形になるわけで、アメリカにその販売路を抑えらる心配が無くなった。

前線の東西の国からの資源輸入路も特産にまぎれて国連を仲介しており、こちらからは国連軍への物資として"なにか"を輸出できる体制ができつつあり、総じてこれで日本への資源輸入路を確保でき、前線への輸出網を構築することが可能となったのだ。


それ以外の純粋な事業でも、記憶の中にあった栄養効率一辺倒の合成食糧を、毎日戦場で食した苦い経験が頭の中で引っ掛かったことから、合成食料事業に手を出したりした。

これは元々日本が合成食料輸出国だったから(正確には1980年代から輸出国に転じた)である。

もちろん光菱もその分野には手を出していたため、合成食料に旨み成分を含ませたり、高分子技術で栄養効率を上げたりとで、未だに原料は輸入だが輸出しての利幅がデカい合成食料事業がうれしい悲鳴をあげている。


アク○リアスのような粉飲料も販売しており、ここは衛士の食生活改善のためにも力をいれている。サイボーグ食料のような味気ないものはもうウンザリだ。前線の兵士で唯一の楽しみに昇華させるためにも食事を重点的に開発している。


それ以上に順調なのが新設したネットPEファンド、前線国家の政府系ファンドや国内銀行を誘っての光菱グループ(光菱財閥に協力的な企業)に投資している計画だ。

これは赤字企業を前提としたもので、技術力や魅力的な部分があるにもかかわらず経営陣がダメだったり、単に国家の情勢が拙かったりする場合に対して、

(この情報の成果は光菱グループのマーケティング力と未来知識のおかげでもあるが)

経済を好転させたい前線国家と取引して海外の会社を買収したり、逆に日本企業の赤字企業を買収し、

資金と技術を注入し、ネット通販による販路を広げてやるかわりに、
企業内の経営に口を出すことで、業績を好転。

株も最初に光菱などが資金を注入し株価が上がったところで、国内の家庭からの資金を運用する、ネット短期ファンドによる投資誘導。

たちまち株価が続伸し、最初に買い占めた光菱グループが持つ資産が増大することになる。


そんなことで短期銀行投資利益のほうも多大なるものとなっている。


他には造船業、海運業から始まり、各種特許量でも儲けを出しており、いろいろとチートつかいマクリング状態。

急激に輸出、輸入量が大きくなっているため、紙幣価値が変動しがちになりM料金は金(きん)や資源、土地を含んで表に出ないように払ってもらっている。

まぁ、BETAの活動が活性化し始めるこれから先が資源、土地、利権といったものの価値が急激に高くなる時期のため、今安く仕入れるためというのが目的でもあるわけだ。


その光菱の活動は国内だけに留まらず、財閥としての規模の大きさを活かして経済を始め、軍事、各国の政治にも介入し始めており、どこかの悪の大組織並に世界へ食指を伸ばしている。


「というわけで、こんだけ儲けたんだ、俺の小遣いよッ!!来いッ!!」
「と言いつつ、ついつい事業開発に回してしまうのがくせになり始めておるではないか…」

「実は一時は倒産するかもってほど借金したからなんだけどね(笑)その癖。」

「お主…笑えんぞ。」

「パトラッシュ…俺がんばったんだよ?一人でハイになるくらい良いじゃね?…と、友達いないんだし…」

「認めてしまったな。まあお主の地位から言って、親友などできるはずもないし、結婚も政略結婚だろうな。ま、頑張れ」

「絶望したっ!!俺の未来に絶望したっ!!」

少し考えればわかることだ。この世界の3次元にもはや希望はないことをっ!!

ならもう俺の希望は二次元しかないっ!!

早くマンガやコミケのあった世界に戻してやるっ!!

「まってろ、同人誌。まってろエロゲ―。公共の場で売れるよう仕向けてやっからな!!…そうだ、通訳すれば世界で売れるはずっ!!
ネットでもアニメ人気だし、東京ビックサイトで国際展覧会開くんだ。同人誌の」

「…コラコラ、立派な著作権違反ではないか。」

「そこは利用料払って、エロゲ―は規制ありだけど、ネットでばらまけば利益は出るでしょ」

「冗談で言ってるわけではないから困る…しかも利益が出そうなのがさらに悪い…」

…んっ!?でもこの世界って原作の中だから二次元なのか?
フラグが見えねぇーぞ!!どうなってんだ?

「…お主は時々バカになるのう」


続く~

*************************************
次元管理電脳より追加報告

主人公が所属する「光菱財閥」についての報告


1984年3月末決算報告より
財閥内連結決済において業績、売上・純利益共に過去最高を記録しました。NEW!  ※売上が兆円を超えました。

国内企業第1位になりました。NEW!

世界大企業ランキング29位→17位(光菱商事)に上がりました。NEW! 

国際特許登録数順位14位→4位になりました。(光菱ケミカル)NEW!  ※協力企業を含めての増加量は1位になります。

日本国内の提携・協力企業大手が新たに40社増えました。NEW!

海外の子会社化・提携・協力企業大手が累計30社を超えました。NEW!

以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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筆者です。Ⅱ章に入りました。今回も長くなってしまい申し訳ありません。

イラストのほうですが、前回のも含めて、ちゃんと検索にひっかるか心配です。検索できなかったぞ!!という方はお教えいただけると助かります。

絵の方向性としては、できればメカやリアル爺の絵のほうが好きなんですが、閲覧数で方向性を決めたいと思います。

では次回にて。






[28072] 第Ⅱ章<暗躍編> 2話 政治 《10/30改訂更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/10/30 15:50
今回は政治、国家戦略面の報告になる。

前回、民間のほうを中心に財閥が活躍していることを述べたが、これはある重大なことに気づいてしまったためだ。話の順序的な意味もあるのだが…まぁ良い。

そう、この世界の経済規模のままでは人類はBETAに勝てないということに。

いろいろと情報を収集するにあたって、徐々にこの世界の拙い構造と状況に気づいたわけだ。


戦争というのは国力が物を言う。

これは戦前、日本がアメリカに勝てなかった最大の理由として降りかかったものであり、変えられない事実として俺に、人類に降りかかっているのだ。

例えばだが、このままの社会体系のまま世界が進み、オレチート知識を軍事部門だけに力を入れた場合どうなるかだが、

端的に言えば、博打のような桜花作戦を行って、そのすきに敵のハイヴを多く攻略し、敵の指揮系統が復活し次第、また桜花作戦…という繰り返しになることが見込まれる。

…相手の成長を越える規模で技術成長できたらでだが…


そんなわけで、最終的に日本へBETA侵攻は避けられない事態に陥る可能性が高いというのが俺の考えでもある。

なぜかといえば世界全体の国力の成長力がBETAに負けているためだからというのが適切だろう。


ではこれからの未来において陥りやすい展開を簡単に述べてみると

1・先進国家を除いた前線国家のほとんどが、あと数年すれば軍事費の増大から"経済破綻"に。

軍事力を拠出できなくなった前線は弱い部分から雪崩のように抵抗力が消失してしまう。

2・そうなるとほとんどが難民となり他国経済のお荷物。並びに市場喪失。

3・難民によって余裕のある国家に余裕がなくなる。(いきなり総人口の1パーセント以上の移民吸収は治安・経済に悪影響)

4・それを統制するための法の施行と、それに対する難民の慢性的な暴動が発生。無駄な費用の増大

5・前線国家以外の国家規模の小さい国も次第に経済破綻、並びに長期的な不況突入

6・慢性的な世界不況突入

7・以降、経済発展がしずらい国家統制経済に各国が移行。世界成長率が低下。

という流れからBETAとの成長力の差によって人類の"総合軍事力"とBETAの"暴力"との差が如実に現れ、人類諸国家を各個撃破され人類弱体化。人類経済が縮小。(2000年時点でココ)

それによって経済成長の何の足しにもならない軍事費が増大。経済成長鈍化…以降ループ
に陥る。

これは俺がいた世界基軸世界の経済と比べると、余裕のない貧乏人の割合が世界基準で多くなってしまい、人類の成長を阻害しているのだ。

余裕とは成長のために必須のものであり、教育から始まり、技術の発展には余裕が必ず必要になる。

しかし今の国家には余裕が無く、軍事力を増大させることでその余裕を奪い、物量に物量で挑んでしまう人海戦術に近い戦法を取らざるをえない状態に陥っているのだ。

そして前線国家からはさらに金が逃げていき、成長に必要な投資が無くなってしまう。成長に必要な資金と時間が無くなれば成長はできなくなってしまうのだ。

そう。いくら手先の技術でBETAを倒そうとも、その戦力を形作る経済の発展が無ければいずれ負けてしまう。

それは資本主義でも社会主義でも人類の営みからすれば当然のことであるし、いくら素晴らしい技術でも当初のコストは高く、BETAの猛攻によって、それを使いこなす人間の練度が低い状態のまま、戦場に立たされる今の状態では豚に真珠状態に陥る。


そして一国の経済だけ(日本)が好転しても、世界経済からしたら焼け石に水状態である。


そこでその状態から脱するために、結果だけ述べると…









日本の中枢、政権与党と元枢府にこちらのシンパを増やして、現政権をこちらの味方で埋めてしまうことにしました。テヘっ♪



「てへっ♪ではないだろうっ!!…どうしてこうなった…」

「いやほら、なんかノリで」

「ノリとはなんだノリとはっ!!で、なぜこうも急激に行動に出たのだ?手伝っていた我が今言うのもおかしいものだが」

「もはや、1財閥だけで人類を救うのは無理だとわかった。なら手っ取り早くこの国の中枢をのっとる方針に決めた。終わり。」

「話にもならないわけだが…」

「前回の報告でも言った通り、国の行動をこちらが操作していたほうがいろいろとやりやすいんだよ。あたりまえだけど。だから国連やいろいろな産業に対して口出しができたわけだし。

もともと、光菱は政府との繋がりがとても強く、大政奉還を成功させるのに協力した政治的のも強い財閥でもある。…少し行動が速かったとは思うけどね。」

「そうだ。無理やりな介入はいらぬ憎しみを招く。日本の中にスパイを作るようなものだぞ?」

「そうなんだけど、時間がないんだ。本当に。悠長に時間をかけて国内を制御化に置くほうも考えたさ。そのほうが無理が無い。日本だけを見た場合それが最善だろうよ。





でもな。欧州は死ぬぞ?」

「…それは――――そうだが…」

その最善を目指したところで、一財閥が支援した体制ならば欧州・中東は1986年まで持たないだろう。経済的にも、軍事的にも。それほどまでに国家抵抗力を失った国はひどい。


「だからこそ、無理やりでも断行すると決めたんだ。俺は。
欧州という巨大なマーケットを失い、中東という経済の血である石油を失った後の世界は、もはや建て直すことは不可能だから、ね。

…時間がなかったとは言え、説明が不十分だったのは謝るよ。ごめん。」

「そうだな。そのほうが良いのは…理性ではわかる。だがな。その弊害でさきほどのニュースのようなことが起きたことも頭に入れておいてほしい。」

「…そうだね。…頭に入れておくよ、おかないとならないと思う。財閥を日本を主導する立場としてね」

「覚悟はあるようだな…ならば良い」


先ほどマリヱが言った"ある事件"とはこれまでの強硬策に関係してくる。

以前からその強硬策のためにも、広げてあった人脈と光霊祭のシンパを使って、所謂政治的な買収工作を行った光菱は


米国を心の底では嫌っている与野党幹部に対して、金と未来を知る上での適策をプレゼントしてこちらの味方につけ、

後援会の企業に対しては民間技術を渡す形になる合弁企業を設立。

俺が来た時の政権には退場頂き、国内のマスコミをも味方につけて新政権の総理には”カリスマ”だけ持つ演出家を選び選出。○泉総理の時と同じようにやらせて頂いたのが主な方法だ。

もちろん、そう簡単にのっとりなどできるわけがない

しかし、ここ最近の政治は自民党内での派閥争いが完全なドングリの背比べになっており、首相が1年持たないケースが非常に多かったのだ。

言うならば政治の空白期であり、その内情に付け込む形で、経団連の会長職がたまたまこちらのシンパであったことに加え、企業側を光菱派閥に染め上げ

日銀の総裁とも繋がりをもつことで、省庁に強い影響力を持つ大蔵省に味方を送り込み、さらに皇帝家の財産を預かる形になった光菱の力にあらがえる者はおらず、緩やかに、だが確実に政権を取ることができたわけだ。

企業側には民間技術と海外販路を、官僚側には軍の横やりを封じる代わりの代償を、

そして未だに強い発言力を持つ軍に対しては、こちらの技術を見せつけ、新しい戦術機とアメリカの庇護から抜け出す意志を見せつけることで、軍上層部を丸めこむことに成功。

5年の我慢をしてもらうことで国内のある程度の勢力に旨味を持たせた形になる。

もちろん弊害もあった。全てを丸く収めるほど万能ではなかったからだ。俺が。それが"事件"にかかわってくる。








―――前政権幹部らが、集団自殺したことだ。


その政治家たちが特に悪かったわけでもない。どんぐりの背比べのように悪さもしていた。が、良き行いもあったのだ。

それまで温めていたのだろう、アメリカとの関係改善。共産中国との関係修復。国内事業の整備。無理のない軍事費増大等、今で言うマニフェストはとても良かったのだ。己の政治生命を賭けたような出来だった。

しかし、こちら側に引き込んだ政界の長との中が悪かったのだ。
それに加えて交渉が上手くなく、良く言えば誠実、悪く言えばパッとしない政治家であり、味方も有能な者が少なく幹部数人でもっていたと言って良い。

しかし、そこまでやって首相になった時点では、いつもの与党政治家として見られる毎日。

出来る策は"癒着と妥協" そのすばらしい政策は、世論を味方にできなかった時点で無駄なぜい肉がつけざるを得ず、輝きを失っていた。

利害関係で政治が回らない事態に陥ってしまっていたのだ。

だから、追いつめた。

結局は依然までの日本の政策の延長線上でしかなかった策にのることもできず、これからの未来が見えている俺からしたら、負けが目に見えていた。

だから、それにしがみ付いていた"正しい政治家"共々この政界から退場してもらったのだ。


国がなにか大きな方向に変えるとき、世論を味方につけるには、"敵"としてなにかを切り捨てなければならない。

聞くわけのない忠告で、あきらめるわけのない正しい政治家。
そこから割り切り、それを餌にしたのだ。強硬策の必要な生贄にして。
悪人だけでなく、いらないとされた官僚、政治家、企業家。それらをすべて罠に嵌め、絡みとり、全て"悪"にした。


正に覇王。敵には恐怖を、それ以上に味方には利を。
そうすることで、一時的ではあるが"国"をこちらの組織の傘下においたのだ。

―――そうなることで自殺者が出ると知りつつも。

感情的な苦痛がなかったのか、と言われれば苦しんだものだ。罪悪感と言う独善に。

結果的に大勢の無罪の民の人生を破却することには変わらない訳で、それを切り捨てる覚悟というものが、ここまで心に来るものとは知らなかった。知らされていなかった。

所詮、マリヱの願いによってこの世界に来た俺は、その場の雰囲気で契約し、

その目的のため"自分が生き残ることを第一"に技術や国家の道を練り上げてきた俺に対し、その覚悟があるはずもなかったのだ。

己の所業によって確かに国は、人は救われるだろう。なにせそのための知識や力があるのだから確信がある。

だが、いくら成功と言ったって、その過程で人生を壊される人間がいるし、自分がそれを決断したから死んだ者もいる。そのことをただ知識として知っていて、理解しようとせず、ただのうのうと皆が、褒め称えることに、自身が成した業績に酔っていたのだ。

まったくと言って度し難い。己のやったこの覇道。その中で生まれるであろう不幸に目が行かなかったのだ。

だが政治家として、今の方向性が間違っていなかった、とは思っていない。冗談ではなく日本と言う母国に無理をさせて成長させてまで、人類を救おうとしないかぎり、BETAに勝てない事実はあらゆるデータが証明しており、だからこそ今の計画に後悔はない。

だが、その道に生まれた犠牲に目を向けずに歩み続ければ、いずれその犠牲の中に自分が入ることも考えて行かなければ人間ではいられなくなるだろう。

所詮は気持ちの持ちようだが、やりようによっては最善が次善の策に劣ることもあることを知らなければならないと、今回のことで教わった。人とは集団としての合理的な行動よりも、自己の利己的な利益に走るものなのだから。


そうした覚悟がなく行った、血を生贄に時間を削った強硬策。

それが成功したことで、日本の意志決定に口をだせるようになった俺は、あたらしい政権、国民の人気を集めている首相にはピエロになってもらい、これまでのアメリカ追随をしつつ国力を増加させていく道ではなく、一大方針転換を国是としてもらった。


「その生贄によって生まれたのが、日本による官民合わせた前線国家への支援強化か…自殺した閣僚はお主を呪うぞ」

「確かに国内経済を第一にしていた前政権からすれば、笑えない冗談だね。でもこのままだったら持たない。なら補強してやるしかないじゃないか。」

そうした覚悟の元、後の世でいる国際協調路線を日本は1981年より打ち出すことになる。

これは日本とアメリカとの間に発生している貿易摩擦解消の言い訳としつつ、欧州、中東の資源や財産を担保に円安輸出攻勢を行うことと言える物で、金をこちらの思惑で回しつつ、前線諸国の防備を強化しようというものだ。

以前までの日本であれば国力を温存する形を取り、国内の整備ならびに軍備の強化にまい進し、やがてその重みで経済は縮小。再度の軍事国家に堕ちて行った。

それを方針転換して、輸出企業、特に軍事産業とゼネコンに対する国内企業に還元するODAを行い、相手国の防衛力を強化。

内閣の人気に乗る形で実施した政府発行紙幣を使って国内の産業育成を促進させることを同時に行ったのだ。

この中に前回説明した「先進国家庭に一家に一台、パソコン計画」など国連を仲介した各種産業が入っており、

国内だけで言えば、パソコンを教育から、地方行政にまで配ることで、パソコンによる国家、地方公務員、国営企業に近い組織から特別財政法人までの効率化の促進。…に隠れてそのネットのパソコンによる情報網によって改善と無駄や不正を省く体制を確立することにも成功した。

(これによって摘発された者、内々に処罰された者を含めば万にも及び、国内改善を進めるにあたって大きな手助けとなった。)


これ以外にも、予算使用等に置いて改善を行った部署に対し、ボーナスが支払われたり、慈善事業を行う企業に関してその分の減税に踏み切るなど、あらゆる点を改める動きが活発化しており、国内経済の流動性も上がってきている。


「…そういえば軍政についてはどうしたのだ?確かお主の記憶では1981年に徴兵制に日本は移行していたではないか?今はまだ志願制だが、軍からの突き上げはどう説得したのだ?やはり金か?」

「…なんかマリヱの中で、俺は説得する時にすぐ賄賂使うキャラが定着してるね。そんなことしてないよ。」

「だがどうしたのだ?軍が徴兵制をもとめる以上、生半可な理由では奴らは矛を収めんだろう」


「そりゃあ大変だったさ。
志願制のままにしたのはそれを公約に織り込むことで、国民からの人気を上げられるっている政争に勝つためでもあったけど、なにより移民兵を導入することが先だと思ったからなんだよね」

「移民兵か…日本は外国の難民受け入れ数が少ないからの」

「まあ単一民族に近いせいで、外国人の受け入れは日本ではいらぬ問題をはらむものだからね。慣れてないから。

それでも世界の流れとして国連が提唱している移民受け入れを日本が拒否し続けるのも悪いっていうんで、この機に移民兵制度を取り入れようってことになったんだ。軍も将来の軍人の数が足らないって言っていたわけだし。」

「悪党だな」

「何とでもどうぞ。国益のためならなんだってするさ。これまでそうして犠牲にしてきたんだから、ここで歩みを止めていられない。」

この言葉の通り、後に作られる移民軍のため、最初は士官充足率を重視た軍政に変更した形を目指すよう政府は軍部を動かそうとし、徴兵制に対し断固とした否定的な態度を取ったのだ。


しかしこの動き、もちろん軍は反対し、その反対運動は激化の一途をたどった。

一刻も早い兵員の充足こそが将来くるBETAにあらがえる唯一の術であると声高に叫び、
己の進める行いが正義であり今の世の中、将来のことを考えれば、民に犠牲を払わせるのは仕方なく、兵役と言うのは国民としての当然の義務であると。


確かにその言葉、その通りではある。
BETAによる侵攻が止まらない今、その歴史によって兵力の増強として一番理に適っているのは人員の拡充だ。

それに国家、その集団のために一人一人が義務を行うのは、高度な協力体制の元、進歩してきた近代国家の造りからして、当然のことでもある。


しかし、国内の景気がよくなっている時の徴兵は害でしかないのは自明の理。その徴兵を行わずにすむ方法が無いわけではなく、そちらの方に国家が一大展開すれば、いらぬ軍に命と金をかける必要もないのだ。



だからこそ最初に、軍に"理"を説いた。


日本の国際発言力を増加させつつ、日本の防波堤となる前線国家への日本兵器の輸出とその補助は、良き時間稼ぎになると。

そうして東南アジア、中東、欧州を主とした国を味方に引き入れ、米国の守護から外れる一歩と成り得るのだから、それを削ぐ徴兵制は時期早々であり、兵器開発費の増額や、整備更新費用に重点を裂くべきだと言ったのだ。


他にも軍の利として、代わりに装備開発や施設などの費用増額を認めることで、アメリカとの差が大きかった各分野の技術、特に自動化への技術を向上。兵器技術の向上による輸出増と、そのコスト低下による装備拡充を約束したのも大きい。


また全軍にはびこっていた軍人数に対しての回答として、

国内の軍学校の数を増加と無償化、苦学生に対する生活費一部負担まで織り込み、

奨学金枠の増大と奨学金を貰う義務として予備役編入が付随されることや

無職者や低所得者、成績不適合者などから選択しての限定徴兵制度にすることで数は満たせるとし、

それでも収まらない軍に対し

増加の一途をたどる難民を積極的に登用する移民兵制度を導入することで、今まで限定していた難民問題を解決しつつ、人件費削減と人員増加の手助けになると説得したのだ。

これに経団連をはじめ、国連の流れに乗ることでさらに事業拡大がなる組織や企業が賛成。

その策を知ってはいたが、移民と言う不確定要素に兵器を握らせる不安をぬぐえなかった軍はひた隠しにしてきた部分を突かれ、

世界の流れとして、移民を受け入れる必要性を世界各国から言われ続けた日本からして、いくら軍部でもこちらの答えに違う回答で答えられては反対続けられるわけがなかったのだ。



他にもBETAの侵攻による軍人の死傷者上昇数を公開し、大陸での経験を持たない国家軍と、歴戦国の新人平均生存率と混乱に落ちいる者を比較。

それによって安全な今のうちに実戦経験を持つ軍人、とくに尉官から佐官の教育が必要であると説いたのも大きい。

なにせ国際連合軍に属するからには、中隊単位(中尉)で政治判断を迫られるたり、逆に軍団規模の軍を日本将官が任されるケースは少なくない。

そのためにも将来、日本を支える士官という中間層が大事になってくるのだ。

そう説明することで将来の大陸派遣軍の創設に前向きになってもらった。(さすがに今の生存率の低さでは派遣などさせないが)

まぁ…帝国軍の方も徴兵制に対して不満のある者は多く(新人がゆとり的な意味で)どちらかといえば誰かに諭してほしかったのかもしれない。

それに現政権の真意が米国追従を是としていないことが聞けたのが軍上層部はたぶん一番良かったんだと思う。

そうして一番厄介だった軍を説得、国内の組織をなだめつつ、新しい国家の在り方へとやっと、かじを切れるっ!!

―――わけがない。

そう、最後に一番日本に影響を持つ組織

米、世界最強国家アメリカが残っていたのだ。


史実以上の覇権超大国となる米帝様がそうそう、こちらの思い通りなるわけがない。

こちらの思惑がわかっているわけではないだろうが、日本の急転換についてアメリカがなにかしらのアクションを取るのは目に見えていたからだ。


そのアクションに対する対応策だが…以外だが今の世界では完全なアメリカの天下…になっているわけではないのが大きく作用した。





そのアメリカについてだが、この世界のアメリカも1981年から1989年まで共和党が政権を取り、元俳優のロナルド・レーガンが大統領となる予定であり、歴代大統領で比べても五本の指に入る高い人気を誇る人が今もアメリカを仕切っている。

史実世界では以前までのデタントに対して、反共と叫び、強いアメリカを目指して軍拡。

内政ではレーガノミックスに代表される減税と規制緩和、歳出拡大、財政赤字の増大という借金で軍事力を増大させる方針をとっている。

ではこの世界ではどうなのか。

70年代から始まるアメリカ以外の英・仏・ソ・中の4常任理事国の弱体化と、BETAをここまで大きくした4ヶ国の責任を上手く利用して、1979年のバンクーバー協定(ハイヴ攻略作戦時の国連の指揮権が上位に位置することが原則となる)というアメリカの意向に沿った形で作られた国際常識を作ることに成功したアメリカ。

これはアメリカの国力が確かに史実より増していることは証拠となるだろう。

だがしかし、未だ東西冷戦が抜けきっていないこの世界でも、アメリカの裏庭である中南米諸国で反米政権は生きているのが1980年の実情であり、これから「汚い戦争」と呼ばれる共産政権潰しが始まるのである。

(※90年代に入るときには中南米は完全に米軍の保護下に入る形になり軍事力の放棄、米州安全保障地域条約SAASTを結んでいる)


そして日本の立場は極東の東西情勢の急変で戦略的重要性の高くなっている現在、そんな国際情勢に乗る形で話を優位に進める必要がある。


そんな情勢の中で日本がした行動は、国連と世界への働きかけである。

この作品を知っている方は国連はアメリカの元にある。と言うだろうが、今の現状ではまだ違っている。

なにせ、バンクーバー協定を施行してからまで1年たらず、前線国家に睨まれて国連がすぐにアメリカの管理下におかれるだろうか。

―――答えは否だ。

そんな前線国家をなだめるためにレーガン政権は軍事プレゼンスを強化するために、前線国家への兵力と兵器の売買を国連を仲介して促進するわけだが、すぐに上手くいくわけがない。あからさま過ぎるからだ。


だからこそ、アメリカが国連を良いようにできるには時間がかかる。

それは中国、ソ連、フランス、イギリスといった常任理事国全て、国土が蝕まれ、アメリカの支援無しには立ち行かなくなってからであり、

1987年後半、同時にできる「純粋な国連軍の創設」による『国連統合軍』が発足するまでのことである。

そうなってからは国連と言う組織を仲介しつつ、亡国となった軍を養い、指揮権だけは握るアメリカに対し、逆らえる国家はいなくなり、次第に国連はアメリカの物になっていくのだ。


ならば、その前に対策をする必要があるとして、先の"国際協調路線の本分"

日本を中心に、アメリカの正義で形作られたバンクーバー協定という"善意"を利用して、前線であるソ連、東欧、中東、インド、欧州に対して、反米国家などが連盟で大々的な支援とその恒常的な体勢を作る必要があると国際世論に発表したのだ。

これには世界の過半数が賛成し、

まず日本が先駆けて、経済支援を主導。

ネットとそれに通ずる販路を形成した日本は、前線国家の外貨獲得手段の各品を世界に回す形をネット内に整えるのと同時に、

各資源地や市場への進出、及び提携を結ぶことで前線国家への経済成長を促し、

その経済黒字で発生した余剰資金(外貨準備高や米債)、切り札とした政府発行紙幣、これらを使った前線国家への無償、有償を含むODAと前線国家への財政積極投資を促すことにしたのだ。

そうすることで後方国家と前線国家間の結びつけが容易になった国際社会は中南米、アフリカの反米諸国や心の底では反米である諸国を巻き込んで、

「国家規模に比例した後方支援国家による、前線国家の支援を自主的に行う」

ということ“世界共存”を謡った、「京都協定」あのアメリカのバンクーバー協定を踏襲した協定が国連で生み出されたのだ。

(※これに乗る形で前回説明した国際法を施行してもらったから、あそこまですんなりいったわけでもある)


これならば、アメリカの世論も納得するだろう。


"人類が皆協力する聖戦"
           
           それには誰しもが酔う。


日本が協力することができない中ソには世界の共産国家が支援し、

中東、欧州、インドは西側諸国が支援すれば良い。

そうしてアメリカとの危機間を増大させている反米各国は前線国家を支援することで、アメリカに介入されない大義を得ることにも繋がり、アメリカの反米国家叩きを断念せざる得ない状況に追い込まれることになるのだ。

そう、アメリカが叩く国家は例外もなく"悪"なのだから。


そうすることでアメリカ世論を国際協調路線に誘導することに成功した日本。


そもそもアメリカはいろいろな顔と脳を持つ。

以前までのアメリカだったら、これまでの歴史通り、

パレオロゴス作戦の失敗から嫌戦気分が蔓延し、移民を主とした兵の派遣と、強いアメリカ、強いドル政策による高価な物資輸出を国益とする方針に転換するはずだった。

前線国家から金を発言力を吸い上げる政策にシフトし、あの嫌なアメリカになり下がるわけだ。

しかし、それを満面の笑みで行ったものかと聞かれるとそうではなく

アメリカに残る「善意による国際協調路線こそ国益だ」

とする一派を支援し、ロビー活動を行い、前線の状況を一部公開することと合わせて、国際世論に乗せた形でアメリカの方針を転換させたのだ。


それにより一層の国連軍への派遣に踏み切ったアメリカは日本の政策に横やりをいれることができずに、むしろ協力して後方支援国家の支援の協定を組んでくれたわけだ。

それから日本は、国際協調路線と呼ばれる政策を用いて、東南アジア、オセアニア各国と協力して経済同盟に結ぶことに成功しており、

経済協定から相互支援協定の二国間協定、

果てには地域経済同盟まで発展しており、近い将来、BETAを前提とした地域連合を生むことになるだろうと予測されているほどだ。


他にも、中南米に親日国家を誕生させることに成功させ、民政に移行したチリやブラジル等を支援しインフラ事業や一部兵器の輸出を請け負うことに成功している。


そう、この国策の大きな利点、「聖戦」ジハード

それを形作ったのが日本であるという点を活かしたのである。

これは日本が世界に導くリーダーの一人になる大きな一歩となり、

アメリカが高圧的行けばいくほど日本の国際重要度が高くなるというおいしい策で、その地位は金で買えるものではない。


そしてなによりの成功とするのが、マブラヴ史実よりも前線国家の武器弾薬の充足率の上昇と各国の義勇軍の派遣が適ったことだ。

(※1982時点の各国から派遣される以外の国連軍の規模は以外にも小さい)

アフリカや中南米の各国は発言力とアメリカからの睨みから逃れたいがために、この活動に積極的であり日本内部でも海外派遣がマスコミを通じて叫ばれ始めている。

もちろんその義勇軍のほとんどが砲兵主体の後方支援部隊だが、ないよりはマシだ。

本来なら80年代まで未だ発展途上国の域をでない各国が、
「その貴重な機甲部隊を前線に出すものか?」や、
「砲兵を満足に運用できるものなのか?」

といった問題が発生するが、この義勇軍にはまだカラクリがある。

もともと南米諸国やアフリカを始めとする、列強に属さなかった国において、BETAから遠ければ遠いほど、その軍事力は史実以上に弱体化しているのだ。

これは、それまで欧州各国はパレオロゴス作戦の失敗から、元植民地だったアフリカや中南米各国に対してこれ以上の発言力低下を嫌っていたことが関係してくる。

強気に出られてそれ以前の損害賠償を請求されることや不当な貿易関係になることを恐れていたからだ。

それに乗る形でアメリカが

「BETAが来た今、後方の国家が戦争をしている場合ではない。」として1970代後半から後方国家各国は兵器保有量が制限され始めており、軍が弱体化していく途中、という理由があったのだ。

しかし今回の第三者、日本の提言である今回の協定によって中南米やアフリカ各国の制限が一部解除。

前線国家への派兵部隊に関しては制限をフリーとし、

「派兵部隊は前線から帰ってからは解体する」という約条がないために実質、派遣したその部隊を自国内配備することを許されるという流れが生まれたのだ。

そうして派兵さえすれば、強力な軍の所持が可能というカラクリの元、発展途上国を筆頭に世界中で自国軍を拡大することになる。

だが国際協定による軍の弱体化によって5年ほどのノウハウが不足、悪ければ軍の技術が失われた国が続出。

それをどうにかするために日本が推薦する形で、昨今進められている前線国家の避難民受け入れ処置を拡大。

前線国家の軍需・物資生産プラントを後方国家に置く契約を結ばせることで

旧式化や不足している装甲戦闘車両、戦術機を始め、前線国家のメーカーが後方国家に売る体制を構築。後方国家としても税をとれるため、実質安く高価な兵器が手に入り、

前線国家としても安全で安定した土地での生産を臨むことが出来、外貨も獲得できるまたとない契約を結べる運びなったのだ。

そうして派遣および、前線国家の各プラント受け入れを表明した国は多く、

特に大きな動きを見せいているのがブラジル、アルゼンチン、チリ、ベネズエラ、エジプト、南アフリカ、リビア、メキシコの8カ国で、以前からアメリカの締め付けに強行に反対していた地域大国達だった。

その流れもあり、今回の京都協定によって国際規格と、後方各国の同時購入を促進させる動きが活性化。

欧州やソ連、インドから始まり、中東の合弁企業などからも後方国家兵器を買う状況になり、前線国家に金と義勇軍が手に入ることになったのである。

また日本は

「各国内に置かれる予定の軍需・物資プラントを、ある程度集中させる必要がある」として、先の八カ国に加え、全世界38か所に新造の街を作る援助を行った。

もちろんそこに日本企業が投資するためであり、発展途上国国境沿いに作られた経済特区を作るようになる。

そうして、産業の集中がなされることで、武器製造量が増加、前線国家の生産工場に対する共同融資により、拡大生産を実施。前線国家への兵、ならびに兵器までもこの一連の流れで増加したことになるのだ。


(※「すぐに使えるものではない」という指摘も、古参兵士の少なくなった欧州では、新人でも早期に戦力化できる方針にシフトしている影響とデータリンクシステムの確立もあり、以前より早期に部隊を戦力化できる体制ができている。)

他にも兵站問題に対しては超大国でありアメリカと、それをWW2で学んだ日本の補給部隊が派遣されており、前線より一歩引いた場所に大規模な各国共同部隊による砲兵陣地を見るケースも多くなっている。

これに大きな効果を上げているのが、この世界の自動翻訳技術だ。

以前ならば言語が通じないのがざらであったが、未来知識で強化したマブラヴ世界の自動翻訳機を実現して、多国籍部隊の運用をスムーズにする一助となっている。

こうなれば、あとは速い。

あのアメリカと日本という経済大国1位と2位の物資生産能力。大きな成果を上げられるだろうさ。



「そんなこんなで、世界の市場としての『欧州』と原油基地である『中東』を絶対に失わせないことに決定したからこそ、さっきの事件を起すまでの強硬策に出たわけで…

しょうがないとは言えないけど、最低限の犠牲で済んだ…って俺は思うよ。」

だから欧州と中東に対して3~4年程度しか持たないドーピング(国債やら特別債やら)と、

〈アフリカ、中南米〉→〈欧州〉→〈アメリカ・日本〉→〈資源を持つ前線国家〉

という金の流れを前回のネット網を合わせて作り上げたのであり、この時間稼ぎの策で、戦力をひねり出してからの一気打開の策を講じている最中なのだ。


「そうか…欧州と中東を失うことが前提ではないのだな…
それだけ聞けて良かった。

それに日本が手を出せないところには外交を使って、金の流れを作ることが前線にとって大きな成果があるとは思わなんだ。

てっきり技術が成熟するまで海外に手を出さないと思っていたのだがな。」

「そんな時間なかったでしょ…それにそんな悠長なことしてたら欧州・中東が死んじゃうよ?

だから民間と政治に注力して強硬策に走ったわけで、もうこんな無理のある方法はとりたくないよ。ホント…」

「たしかにな。無理があったことは我も認めよう。」

「今は良いよ。政策として成功しているからね。当時は売国~売国~って騒がれてたんだから。」

「それを強引に黙らしていたのはお主ではないか」

「…心が荒む…こんな歳から謀略の片棒を継がせようとは、ホントこの国終わってるよ。だれか美少女つれてきて~癒されたいよ~」

「(こんな者が日本の命運を握っていていいのか、弥太郎よ…)」


つづく…


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次元管理電脳より追加報告です。

1983年時点の改善点をご報告いたします。

《日本国内政治》

・国家指揮力が56ポイント上がりました。NEW!

※先進国最大となりました。
外国から独裁体制と批判が上がっています。
フランス・アメリカ内の3派閥が《敵対的》態度に変化しました。

ブラジル・インドネシア・エジプト・イギリス内の6派閥が《友好的》態度に変化しました。

・政治による経済補助成長率がプラスに変化しました。NEW!

(※経済成長率に対し1.12倍の修正が入る模様です。
原因は首相人気・派閥独裁による即時判断力が上がったこと・政府資産の流動性が上がったこと・官僚体制に対し、"粛清"した結果、作業効率がアップしたことが挙げられます。)

・上記の変化により政治状態が「混乱しています」→「安定しています」に変化しました。NEW!

・主人公が所属するグループが日本の政治中枢を抑えました。NEW!

・日本の政治方針が「アメリカ追従・内需拡大政策」→「国際協力・輸出中心政策」に変更になりました。NEW!

※赤字国債・国庫資産を流動的に運用しており、内需・外需を合わせて成長させようとしています※



軍の方針が"開発主導"となりました。NEW!

※軍人増加数が前年度を大きく割りました。予算が14%増加しました。アメリカとの各種軍事技術格差が縮まり始めました。経済に対して好影響を与えています。光菱重工に対する研究投資が増加されました。

・国内において"恨み"を持つ反対派閥が形成されました。NEW!
※軍部の一部が《敵対的》になりました。クーデター発生率が24%上昇しました。



《世界》

日本によって国際ルール《京都協定》が結ばれました。NEW!
※後方支援国家と前線国家との金の流れが促進されました。世界経済・成長率がプラス6%修正されました。(-4%→2%)

国際世論が「人類による聖戦」によって一時的に「人類共闘」主義に入りました。NEW!

※中南米・アフリカの軍備の制限が解除されました。軍需産業全体の規模・成長率が大幅の上方修正されました。これまで以上に供給が需要に追い付けなくなる可能性が高くなります。


日本を中心にした前線国家に対する経済カンフル剤が投与されました。NEW!
※前線国家政府の短期運用資産が34%上昇しました。金融市場が一部混乱しています。国内資金が一部不足する事態が発生しています。


日本の国際発言力が32ポイント上昇しました。NEW!
※経済・政治にプラス修正が入ります。

アメリカ、一部派閥において日本に対する態度が悪化しています。対米輸出に対して何らかの悪影響が出る可能性が高くなっています。


次元管理電脳からの追加報告を終了致します。

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※筆者です。

やっと前線国家への支援ができました。技術ではなく政治でですが…  長かった…本当に長かった。

主人公はこの2年間これを考えて整えてきたからこそ、この無理ができた…ことにしたいと思います。ずいぶんと無理がありますがご容赦を。

アメリカの大統領がレーガンさんなのは米海軍の正規空母、ニミッツ級の名前が本当にいた大統領だったので、史実に準じる形にしました。


それでは次回にて。



[28072] 第Ⅱ章<暗躍編> 3話 戦況 《11/4改訂更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/11/12 16:50
1984年1月13日日本某所


「さて、政治や民間のほうでいろいろと介入しているようだが、結果をどうなのだ?我は研究の手伝いなど今の情勢に疎くてな…」

「…焼け石に水が適切な表現かな?」
本当にそんな感じ、マジでやっている効果があるか見えないよ…鬱になるわ

「――国への根回しの方が上手くいったおかげで軌道に乗り始めたとは言え、すぐに好転するとは思ってもいなかったが…

これから先はどうするのだ?大きな変化さえ起きていないではないか。」

「無理だよ…まだ大きな行動は起こせやしない」

まぁ…残念な顔すんなや。そんな顔をするのも肯けるのだが。


「…理由を聞いても良いか?」

「知ってんじゃないの?」

「さすがにいつも主と繋がっているわけではないと言ったであろう…繋がるのは会話の理解を深める時などに限っている。」

繋がるってなんか卑猥だな♪

「お、お主よっ!!真面目に答えよっっ!!」

冗談で濁すことはできないか…まぁ仕方ない


「まぁ~もう少ししたら俺の部下、前の翔鷹発表会の時のおじさんが前線の状態を「ガチャ」あっ来たみたい。」

ちょうど来たのが最近、俺の直属?の部下になった藤崎さんというおじさんだ。

俺に対して敬いすぎず、軽んじすぎない程度に接してくれる人物で、評価報告等を任せた部署の責任者だ。


「あ、マリヱ様まで起しとは、報告については後ほどの方がよろしいでしょうか?」

あら、マリヱさん現界しちゃってる。めずらしいね。

「良いよ。ここでしちゃって。マリヱ様も報告を望んでおられるようだから。ちょうどいい。くれぐれも粗相のないようにね。」

「(お主よ…それは当てつけか、なにかと思って良いのか?)」
「(部下の前なんだ、しょうがないでしょ?)」「……」

「では失礼して――――まず始めにBETAの動向についての近況報告ですが天主様のご指摘した通り、中東にて新しいハイヴを作ろうとする動きが活発化しております。」

「やっぱりね。」

1984年1月現在、マブラヴ史実では9番目であるイラク領アンバールハイヴ(1984年9月)が建造されることが予測されている。

その事象を上手く活かすために中東に干渉していたこともあり、現在の動きについて予想するのは難しいことではなかった。

まだBETAが行動方針を変えるほど、俺がこの世界に干渉していないのだから、未だその未来の方向性は大きく変わっていないためだ。

現に中東ではその攻勢の激しさが増しており、そのための支援も国を上げて始めている。

――やっぱり未来知識は有効に使えるうちに使わないとね。


「これで、今現在BETAの勢力圏内は中東の帝政イラン、北欧のフィンランド、インド付近のネパール、ソ連のエニセイ川を結んだ範囲にまで拡大したことになり、主攻については依然と変わらず西進、欧州方面となっているのが現状となっております。」

これに加えてインド方面は以前からヒマラヤ山脈を使って戦況は比較的優位だが、中国、ソ連方面では主攻でないとはいえ、毎年国土を蝕まれている状態。

正に今現在、人と国土が喰われているのだ。



そして、BETAの主攻である西側はというと…

「次に中東方面の具体的な内容説明に移りたいと思います。

1983年より開始された各国合同軍…いわゆる国連派遣軍ですが、1982年と比較して、BETAの侵攻速度、民間被害者数、軍の死傷者数が目に見える形で減少しており、少しずつではありますが結果を出しております。

特に中東の石油、その産地が集中しているペルシア湾周辺からBETA
の攻勢を反らすことに成功しており、内陸のイラク、シリア方面に攻勢方向が変化したことは現在、国連派遣軍の最大の功績として国際社会で評価されているようです。」

これはとても大きい。世界の6割以上の石油がこのペルシア湾周辺に埋蔵されていることから、中東各国において弱い部分である海軍を国連軍が補完したことで、ペルシア湾での防備を強化した結果だ。

それ以外にも海中からイラン側の油田へと掘り進めており、陸上をBETAの勢力圏にされていながらでも、石油回収に余念がない。


「この結果からみても敵の攻勢をアラビア半島から反らす大目標は成功を収めたと光菱商事上層部共々判断しております。

また目的達成を果たしたことで、フェイズを繰り上げ後方の防衛線に随時部隊を下げると、中東の聖戦連合軍からの報告が届いております。」


「概ね予想通りの出来かな。やっぱり中東各国が後方に後退することにOK出させるにはアメリカと協力したことが大きいね。」

(主よっ!ちょっと良いか?)

(ん?脳内リンクか。どうした?)

(上手くいっているのならなぜ下がるのだ?国土を維持することは士気の面から見ても必要なものではないのか?)


(…BETAの侵攻が強い中東方向では、1970年代から日本も砂漠用の兵器を輸出して、遅滞防御に役立てていたんだ。史実でもね。

だけど…中東という土地が拙いんだ。

砂漠は、BETAの地中進行が楽な地形であり、地中の振動が吸収する効果があってBETAの有利な環境なんだよね。これに加えて光線級を遮る地形が乏しいし。

なもんで、史実では人類の奮闘むなしく蹂躙されるちゃうんだよ。だから後方の活かせる地形に防衛線を引いて、それが出来るまで遅滞防御を行ってもらうしかない。)


だが、しかしだ。今回は少し違う。

先の日本から発信された世界の動きによって年々後退してはいるが、その速度に変化が表れている。

そもそも中東は石油の宝庫であるため、今の世界情勢にのって味方を付けやすい地域だ。石油の値段があがるのは世界中の主婦の敵だからだ。

日本、この光菱にしてもその情勢に変わりなく、1980年より石油、海運事業に対し国家を含めた介入を施しており、中東への軍事用の物資輸出を行っているのだ。

そんなもんで、数多くの北アフリカをはじめとする義勇軍が中東に集結している。

主力としてアメリカ、北アフリカ各国、ブラジル、オーストラリア、インドネシア、そして日本を含む各国の義勇軍。

総数で言えば一個軍、三個艦隊に及ぶ数であり、所詮、後方支援部隊を主とした部隊であるのだが、遠征能力を持つ米軍の活躍が大きな影響を与えており、半年ほどで軍隊の形を成す体制が完了。

さすがは米軍、海外での大部隊遠征に慣れており、その力を十分に見せ付けてもらった。


「また、国連派遣軍のほうも米軍の実力もそうですが、日本の久坂中将の働きかけもあり、良好な関係を各国の義勇軍と築けていると報告がありました。」

「さすが、久坂さん。今回の派兵で一番必要な人は本当に彼だよな。死なないでほしい日本帝国軍人ナンバー1だね。」

この中東国連派遣軍の総指揮は国際派兵になれた米軍の大将に、兵站・国際問題に対処できる能力を持った日本の中将を副官につけたものとなった。

今回の派兵問題、日米双方による義勇軍の主導からしても当然の人事であるが、…マジでそんな人材、今の日本にとっては貴重すぎるから絶対帰って来いよっ!!っていう願いをしたのは言うまでもないだろう。

「しかし素人考えでありますが、国連派遣軍を各国別々に運用していることは、効率的とは言い難いと思うのですが…」

「(我もそう思うぞ)」

「しょうがないよ。この派兵の主な目的は前線で不足した砲撃支援を補うためのものなんだ。
各国の部隊が各部隊に散るのは仕方ないし、ただでさえ寄せ集め部隊なんだ。分散させたほうが責任問題をはっきり出来て、いくらかマシだと思うよ。」


この人事によって出された作戦方針は所詮後方部隊ということと各国の寄せ集め集団ということで前線国の部隊に厄介になりながら、散会。

連携が保たれると見込まれる規模で固まり、各戦線に足らなくなった砲兵部隊と工兵部隊をまわす程度のもので、実際の戦果を上げた部隊は米軍を除いて、調子にのって全滅寸前までに陥ったリビア派遣の機甲部隊ぐらいだろう。

「また、この国連派遣についてまだ"あちら側"からの抗議が出されており、与党幹部と乱闘騒ぎにまで発展したと報告が…」

「またかよ。まったく…国の方針として行っているのだから、それを批判するにしてももっと有益な抗議をしてほしいよ」

ちなみに今回の派兵だが、当然と言うべきか揉めた。議会炎上というほどに。

現政権側の俺らからしたら、この義勇軍派遣はこれまでの国家方針からして、しなければならない必須事項だ。が、あちら側からすれば「金だけで十分だろう軍を派遣する必要はない」と極左からすれば「侵略行為」極右からすれば「自軍拡充」の観点から批判してきたのだ。

だが、国連を主導したい日本がそのような「金だけ」の行動をとれば、世界を主導することなど夢でしかない。命をかけない者に己の命運を預けられる訳が無い。

それに加えて、日本軍に今の現状を直接見てもらうことのほうが重要であるという風に考えているのだ。

最近の好景気によって日本帝国軍全体に蔓延し始めた、硬直思考と勘違いを正し、国際協調に必要なコミュニケーション能力を持った将官・士官の育成。

それが戦場と会議室とを直接リンク出来るネットワークを作った意味でもあるし、そこから学び取ってほしかったのだ。今、日本の軍に求められている物を。


しかし、軍の中で現政権を気に喰わない者も多くいるのも事実で、それに近づいて、俺らに反対する勢力が今回の派兵を邪魔してきたのが、藤崎さんの言う「あちら側」と呼んだ勢力。


それが将家。それを隠れ蓑に五摂家を祀り上げて、こちらの動きを阻害しようとする「将道右派」と呼ばれる集団だ。

中身は将家に繋がりを持ち、この日本の上層にいる戦後財を成した人物達であり、思考は「出る杭は打ちプライドも高い」という、戦後の日本人の塊だ。

相手の言い分としては
「国内軍備を整えなければならない現状、国外に出せる余裕がない」という表向きな言い訳と、日本帝国陸軍が補給任務なんて地味な任務をしたくないというバカなものだ。


それに加えて正論も用意しているやつも乗ってきたから始末に負えない。これは軍の幕僚から吹き込まれたと見るべきだが…

・遠征能力が削られた今の帝国軍では戦略単位での行動を行う力がない。

・前線国家の戦力回復と釘打った、国内配備予定のF-4J撃震を改修してまでの戦術機の輸出政策は、戦術機不足の現状からも許容できるものではない。

・中東を含めた前線国家の環境に合わせた機体改修をする費用はどこから出るものなのか。今後使わない改修をするのはデメリットはどうするのか。


等々、人の方針に批判することだけには長け、その部分についてどうすれば良いのかという対案を出してこない屑である。

(容赦がないな、お主よ。一応正論なのだから屑ではなかろうに。)

(でもしょうがないじゃん。

国際協調という打ち出された国家方針に対して、全員が賛成したんだぜ?国会で、だ。ならば前向きに議論し、それを形作るのが政治家であり、官僚のはずなんじゃないの?

その議論の場で出てきた発言が
「野党だから」とか「責任を我々をなすりつけるのはやめてほしい」とか「予算問題からして」に始まり、最後には「そもそも我々は国民の声を代弁したのであって」で終わったんだよ?

自分の気に入らない部分があるんなら、相手の言い分のおかしな部分を上げて、それを修正し代案を出すことが両者にとって良い方向に導く第一手であり組織を代表する者なんだじゃないの?

こんなの正に無能が国の中枢にまだいることを物語るケースじゃん。

軍の方には、時代遅れとなりつつある第1世代機を売ってるのは2年後の更新をスムーズにするためだと説明して、納得してもらってんだからさ。)

(思考の途中から愚痴になっていることにはつっこんでおこう。自分の敵に対して強く言い過ぎるのは悪いくせだぞ?)

(もちろん、表には出さないよ。たぶん…)

(しっかりしてもらわなければ困るぞ。

……で先の国連派兵についてだが具体的な案を出したのであろうな?そうでなければ奴らが言うとおり、責任を共有しようという無能だぞ?)


(もちろんだよ。具体的には、民間の方を主軸に収めたものだね。

物資支援、民間企業の土建屋の力を合わせて、イラク、シリアにあるユーフラテス川を使った防御陣地を構築している途中なんだ。で、それが出来上がるまで遅滞戦術を行うことになっている。

そのために日本派遣軍の工兵部隊と補給部隊による後方支援部隊と、民間とで動いているわけで、純粋な規模だけではアメリカに次ぐほどの人員が派遣されているんだ。余裕のない前線国家は後方が杜撰だからね。)


(で実際の戦闘部隊は?軍が納得しないのだろう?)

そこにもしっかりと対策を立てているから安心してほしいマリヱさん


(F-4の輸出仕様を簡易的に砂漠仕様である中東用にして、アメリカ軍と日本の戦術機部隊に回して使っているのだ。

F-4なら前線でアメリカと共同して運用できるから補給等の心配がないし、どちらかと言えばアメリカの凄い所を学んできてほしいものだけどね。)

先の戦術機輸出問題で取り上げられた問題は、国連軍に所属の日本の部隊が運用する機体数も織り込まれており、その表だけ見れば国民から見れば国内戦術機の数が激減していることになる。

この処置は国連という一組織にアメリカ、日本などの連合部隊で運用するために成されたもので、日本の戦術機輸出数を増加させることにも繋がる策だ。


(後方部隊ではなかったのか?なぜ虎の子の戦術機甲部隊を…)

(今回、使用された戦術機は派兵が終わり次第、その場に「放棄」されるものなんだ。こちらが取りたいのは実践データと実戦経験だから、あちらもそれをよんで「放棄」されるまで部隊を大事に扱ってくれると思うよ?)

この派遣軍に多く含まれるのは、兵站、工兵、砲兵、衛士であり、日本国内で充足されている衛士のほとんどは前線で実戦を経験することになる。

これは海外のために衛士を使い潰す、というわけではなく。
前線軍の戦術機部隊を危険な任務につかせ、お客さんである日本の戦闘童貞部隊に掃討任務に就かせるためであり。

前線での戦術機の運用数は格段に上がる。

これに米軍との共同作戦と言うことで、ライバル心による士気の向上と、世界最強の米軍の強さを学び、尚且つ、死亡率の低い任務と言うことで練度の向上が見込め、

日本の輸出仕様のF-4と日本用のF-4J撃震との混在になってしまうが、運用する場所が限られている場合、一括で修理・補給ができる。

これは後方部隊がおざなりになっている前線国家の戦術機をも、日米の強力な後方兵站部隊によって修理することができるということであり、以前までであれば「共食い」されていた戦術機もまた活躍することができるのだ。

他にも日本の輸出仕様のF-4の売り上げにも繋がり、
日本の派遣部隊において、戦術機一機を衛士何名かで運用することで衛士のストレスを減らしつつ、衛士充足率を上げることが可能であり、その分余った分を中東に改修して売れるのだ。


これは単純な数学の問題であり、派遣される数が同じであっても、運用効率を上げる方法(大型前線補給基地の建設・整備部隊の集約・補給物資の定期運送・衛士充足率の向上)を確立すれば、稼働率・一機当たりの戦場使用時間も上がり、

それに加えて義勇軍の戦術機数を含むことで、戦域当たり、一つの部隊としてまとまって動かす機数が増加。その分、損耗率が下がるため

今までの中東が持っている分+日本の輸出分から、もろもろの理由から来る損耗度軽減をかけてやり。

それを1年ほど続ければ、中東側の戦術機数は約1.6倍まで膨れ上がることになるのだ。

代わりとして、製造しているF-4輸出仕様半分と、国内の撃震を次々改修して売り出しているので損耗を含め、日本の本土にある戦術機数は一時的で下がってしまう。(補充用の新規機体が国内に配備)

が、その分余る衛士数は部隊の充足率を上げるためや教育の充実に繋がるため、派遣活動が終了した部隊から教官を派遣することで、国内での衛士訓練を行っている教育機関に実機と実戦を知る者を回すことができる。

これは単純な戦術機数が増えてほしい軍上層部からしてみれば許せない問題であり、実際に苦情が多く寄せられたが、

前線に攻撃部隊を派遣したいといったのはそちらで、このままの部隊稼働率を維持したまま、派遣部隊における部隊当たりの衛士充足率を下げれば死傷者の上昇に繋がると説明した。

それに加え、前線への戦術機供給量が減ればその分、遠征している部隊に負担がかかると説明したら「ぐぬぬ」としか返ってこなかった。


またこれは経済的な利益い繋がってくる。

こうすることで価値のある状態のまま、第1世代国産戦術機F-4を前線国家に払い下げすることができるのであり、
一時的に下げた日本帝国の戦術機数を、その儲け分を使ってされに開発を促進しつつ、85年からの翔鷹の増産に繋げることで、より一層のコスト削減と量産数を確保できることが見込めるのだ。

まぁ…売られた機体以外にも、部隊交換時にまだ使えるとされた戦術機が"なぜか"使用不能とされ、それを"偶然"現地軍が回収してしまうことが多発する事件が露見すれば将道右派と呼ばれる者達は発狂しそうなものだが。

(あくどいの…)

(国益に則して、だからね。)


そうだ、そうだ。国益に則してると言えば今回の中東派兵の目的のほうも大切だった。

「あっ、そうだ。藤崎さん。油田のほうどうだって?無理させてるんでしょ?たしか。」

「今回の目的である中東の油田の方ですが、各油田プラントとも良好に稼働しており、以前から指摘されていたペルシャ湾の海底侵攻の兆候はBETAの攻勢がトルコ方面に反れた影響で未だないそうです。

油田開発については、光菱石油を筆頭とした日本石油連合と石油メジャーから数社が。
それに加わる形でマレーシアのペトロナス、ブラジルのペトロブラス、メキシコのペメックスが協力して中東各国の開発を行っており、石油備蓄基地のほうも随時完成する見込みです。」

これは1980年から続く中東の油田を守るために世界と、さらに光菱が介入し続けた結果であり、4年前から石油を年間使用量以上に抜き出しており、世界各国の石油備蓄基地で備蓄を開始しているのだ。


「良かった…海底侵攻とか洒落にならないからね。BETAの攻勢をトルコ方面によせて、対岸側には地雷群が大量に施設終えたことが大きいのかな。」


「国連派遣海軍のほうも、機雷の散布や米軍のトマホーク、日本の巡航ミサイルが大きな戦果を出しているようで、光線級のいない地域限定ですが効果を上げているようです。

…日本の海軍将兵が前に出ようとするきらいがありましたが、こちら側の将兵が抑えてくれているようで、部隊のほうは第4次派遣部隊と交代するのは明日になる予定です。
これにより新しい砲艦を持つ派遣部隊は全てになるとみられています。」


「まぁ~今回のローテーションの海外派兵も訓練と思って強くなってもらいたいよ。実際に撃ってみることが最大の訓練だからね。

海軍のほうは最初から海外派兵に積極的だったのは、外征訓練と実戦訓練を国際貢献という名で堂々とできるからなんだけど。

こちら側としても無人機とかの新兵器やら今後必要になってくるデータがとれたとか、光菱重工の派遣社員も言ってたし。」


「また今回の動きによって世界の石油消費量が若干ですが増加しており、以前まで進んでいた前線国家以外の資源国家が将来を見込んでの輸出を渋っていた動きを牽制できているようで、ここ1年の石油価格をおおもね安定しております。

また、OPECの提言もあり世界各国で備蓄を進行度が上がっており、代替えエネルギー産業と合わせて投資が活発になっているようです。

中東方面では以上になります。」

(頑張ってはいるのだな…)

(そんだけやって史実より被害数減少と侵攻を反らすことだけって結果なんだよね…マジで止まらない。何十万ものBETAが毎日、日夜問わず、攻めてきてるんだぜ?こんだけやっても止まらないとか、マジ半端じゃないアイツラ。宇宙人かよ)

(宇宙人だが?)

(ほら、言葉のあやって奴だ。それにまずいのは本当だし、このままだとユーフラテス川防衛陣地も持って4年かな。ってぐらいだし。イスカンダル復活ぐらい望まないと無理かも…)

(……さらっととんでもないことを言うな。お主は)



「―――もう一方の欧州方面についてです。

《東欧州社会主義同盟》傘下の東欧各国が協力して対応している状況ですが…こちらの結果は芳しくないと御報告が来ております。」

「…国連の部隊の被害は?」

「国連欧州派遣軍内では南アフリカ第24砲兵連隊がすでに壊滅的被害を被っており、他国の部隊でも防衛線を抜けた小型BETAによる被害が続出している状態です。

かわりに米軍・仏軍・英軍の合同戦術機甲部隊が前線を押し上げており、日本帝国・欧州派遣部隊もこの動きに協力してあたったと報告がありました。

―――これに関して追加報告ですが興味深い報告がありまして、その時に日本の戦術機甲部隊が使っていた83式自動擲弾砲にアメリカや西独軍が興味を示していると派遣社員から報告がありました。」

ーー《83式支援擲弾砲》ーー120㎜滑空砲専用に改良した試作兵器で、ドラムマガジンがついた戦術機用の支援砲撃用兵器だ。

「使ってくれたんだ、戦術機用のグレネードランチャー。
日本の技研が支援火器開発あきらめてたところに、ちょっとアドバイスして持っていかせたものなのだからあんまり期待はしてなかったんだけど。」

それの売り込みは今度にして、今は欧州の状況についてだ。

今回の欧州国連派遣軍だが、中東とは違って南アフリカ諸国や南米を中心に義勇軍を組んでいる。

欧州各国軍以外の新興国家は、まだ後方に属する国家で東西に分かれて合同訓練をしてから前線に出ているので部隊の運用に大きな問題はでていない。

が…西進の脅威は後方国家の軍隊では予想以上だったらしいんだよね…

「また、BETAは欧州に対して東ドイツ、チェコスロバキア方向の北側ルートと、カルパティア山脈に邪魔をされてなのか、ルーマニアのプルト川を目指す南側ルートに明確に分かれて西進している状況となっております。

戦況のほうは…どちらとも頑張っている、としか言えない状況ですね。」


藤崎さんが言葉を濁すのも無理もない。

肝心の戦況の方は1980年から1884年にかけて北部戦線ではポーランド全域とチェコの半分を喪失、そのまま東ドイツ国境戦を蝕み、もはや1984年いっぱいには西ドイツ国境線まで届こうというところだ。

南部方面はルーマニア、スロバキア、ハンガリーにかけたカルパティア山脈とプルト川を使って義勇軍と共同してかろうじて保っている状態であり、予断を許さないところにまで陥っている。

両方の戦線が今は繋がっているため、欧州戦線全てが協力できる形にはなっていることで今は持ちこたえているわけなんだが……マブラヴ史実ではこれから先、BETAの主攻である北部のほうがドイツ平原を主戦場とした影響で戦況が悪くなり、戦線が崩壊。

そこから南部にかけてBETAが流入し、簡単にハンガリー盆地一帯を奪われてしまう。


―――1985年、ブタペストハイヴができる2カ月前のことだ。


それを防ぐために国連を通じてスロバキアとオーストリア国境線近く、カルパティア山脈とアルプス山脈が繋がる一帯に新たな防衛ラインを築き上げている途中であり、将来的にも北部と南部のBETAの合流させないことになっている。


ここまで戦況が悪化した原因は東西陣営の仲がなかなか氷解しないためだ。

パレオロゴス作戦の大敗の原因がどっちにあるかで未だに東西の仲が悪い。特に北部の要、東西ドイツで。そんなことしている場合かっ!!!って感じだ。マジで。

それの顕著な例として1982年の東欧諸国支援策として他国を経由した形の密約会談が挙げられる。

西側諸国に内緒の物資支援の見返りに、西側諸国との融和を密約しようと思ったら、東西ドイツの官僚どもが言い合いになって…会議が異常に長引いた。

今の東ドイツの現状からは同情するけど、ほんとため息がでるよ…


※東ドイツについては「マブラヴ シュヴァルツェスマーケン」で調べるとわかると思います。まだ途中ですし、筆者が読んでいないのでなんとも言えないのですが…※


そんな東西ドイツも1982年の夏、先の京都協定の働きもあってようやく協力するようになったのだが、東側が陥落寸前『時すでに遅し』の状態に陥っている。

そんな西欧諸国は今、EU軍遠征と東側陣営を援助しつつ、後方で最後の力をしぼってEU統合軍の新編成部隊の編成を準備している途中なのだ。

と、藤崎さん続けて。

「では、失礼して、次は欧州の経済状況ですが、これは日本の支援などでによってある程度の余裕が生まれたようです。

EU内の軍事工場の拡大化と、両ドイツ国境線一帯を使った防衛ラインの建造も順調に進んでおり、日本のゼネコンと欧州の企業等が共同しているのが大きいかと。

これによって世界で類を見ないほどの大規模広域公共事業にまで発展しており、欧州不況を緩和しているとアメリカの経済ジャーナルも発表しておりました。」


―――ちなみに、この防衛ラインのことを、フランスは第2次マジノ線とか言っているのだが…他国からの目は冷ややかであることは言うまでもないだろう。

マブラヴ内の史実では1985年には雪崩のように西ドイツ、フランスの両大国が相次いで陥落している事実からすると笑えないネーミングセンスでもある。


等々、藤崎さんの報告は続き、

「ギリシャのほうはもっとひどく、おとなりのトルコの陥落は目前にせまっており、急いでボスポラス海峡を使って国連共同基地を作っている。」ことや、

「東欧の南側は支援する大国がない分、こちらとの協力に積極的。

ルーマニアの資源とのバーター取引が大きくなっており、F-4融通や、防衛陣地構築のための新型コンクリート資材になぜか重火器類が入っていたことは上手く隠せている。」

など、報告があり藤崎さんは次回方針を決める実務者会談のほうに
出て行っちゃった。お疲れ様である。…こっちが上だから御苦労さまかな?


「そんなことはどうでも良い。
それよりもさきほどの報告だ。以前からわかっていたことだが、義勇軍の派遣が戦況に大きな影響を与えていない以上どうするのだ?これではこれからの義勇軍の状況も先細りになろうぞ?」

あらあらマリヱさん怒ってます。まああそこまで金を動かし、義勇軍を派兵して、この惨場じゃ、怒るのも仕方ないかな


「あーーーコホン…それも大変なんだけど、それ以前に深刻な問題が、BETAとの前線国家には"金"が集まらないってことなんだよ。」

「……ふむ、続けろ。」

傾聴に値する話だと、考えてくれたようだ。感謝の極みッ!!


「続けるよ。1981年より開始された《ダンケルク作戦》…いわゆる欧州各国海外脱出計画により各国の企業が海外に拠点を移してしまうことから、必然的に欧州、中東の経済は混乱真っ只中なのはわかるよね?いくら計画的に行っているとはいえ夜逃げみたいなものなんだから。

それのせいもあって税収はダダ下がり、戦時であっても将来発生する敵国から奪う賠償金や土地がない以上、戦時国債が売れない。

そんなこんなで不十分な状態での戦時体制に移行するしかできないため、十分な戦力を確保することができないのが常なんだ。いくら欧州でもね。

それに加えて、逃げた企業は国賊呼ばわりされて問題になってるから価値が下がっている。日本企業が安く買えるから良いみたいだけど、その分欧州の資産は目減りしちゃうんだよね。」

今の世界、BETAという敵が現れてから人類の生活の進歩は急激に鈍り始めている。

それの主な原因はBETAという"脅威"に対するために死に金になりやすい軍事に金をつぎ込んでしまい、国力をすり減らして、回復不可能となる国が続出してるためだ。

そもそも戦争が外交の一手段に挙げられるのは、国益に基づく外国との交渉であるためで、勝利しても利益があげられない場合、それは失敗であるといえる。

その点から言えばBETAとの戦争は利益の上がらない戦争のため、いくら軍需で儲けても再生産ができないために、全体で見れば経済は縮小してしまうという"失敗"なのだ。


その失敗を取り返せる強い下地を作ることが重要と俺は考えたため、国際協調路線に乗った日本の介入。資源、人材の買い漁り、合成食料生産による、食料高騰の阻止と、経済、軍事の潤滑剤と成り得るコンピュータ関連事業等で全世界平均の一人当たりの国民総所得(GNI)を上げようとしていたわけだ。

それが少ない効果になろうとも、だが。

「しかし、日本が融資すれば…」

「やっているんだ。前回言った前線国家の特産を買い取るルートを確立したりとか国連を介しての支援とか地味に結果を残してるんだけどね。

でもさ。いくら光菱グループを中心に国連を通じて呼びかけはやったとして、将来に対して不安が残る場所に投資したい人間がいると思う?」

「う…しない、な。利益が出ない投資などするはずがない」

「でしょ?思いやりで融資する人もいないわけじゃないんだけど、その根本的な問題が解決できなければ、金が前線諸国に集まるわけないんだよ。

首相が人気だから大企業とかは融資してくれているみたいだけど、国民のほとんどはやっぱり、今好調の日本国内のほうに投資しているし、その方が健全で日本の国益にはなってる。」

「では…」

「まぁ~慌てなさんな。そんな現状を打開する素敵な策がある!!ってわけじゃないんだけど、その金を集める手段がないわけじゃ~ないんだ。」

裏技だけど

「…それとはなんだ?もったいぶらずに教えても良いではないかっ!!」


「はいはいわかったよ。そんなに焦らずとも教えるさ。う~ん、どこから話したら良いものか…そうだね、今光菱財閥とその協力企業は欧州、中東、インド東南アジアなどの前線国家に対して大規模な投資をしているのはさっきも言ったよね?」

「ああそう言っておったな。それでも金が足りんとも言っておった。」

「もちろん、それだけでは足りない。でも今前線国家では外貨、投資してもらえればなんだってする…とまではいかないけど、外国企業の誘致などには積極的なんだ。

なんたってBETAという脅威がせまってるわけだから、海外への避難民やその恐怖による経済の低迷なんかもあるし、近隣諸国と戦争している暇はない。

そこでこちらが推薦する地域…国境線近くなどの理由で開発があまり進んでこなかった地域を経済特区にしてもらい、

そこで光菱や日本企業連、アメリカの友好企業、南米や豪、インドネシアなどにおいて、日本企業が数割株を持つ後方国家の友好企業をまとめてある地域に誘致。

もともと将来は交通の要衝や良港になり得る土地ばかりの土地を、国際企業を誘致した工場群にすることで、生産性を上げよう…ってやつだね。」

「理想論ではないのか?そもそもインフラはどうする?聞いた限りでは失敗しそうなものだぞ?」

「もちろん前線に比較的近いんだ。危険性は高い。だけど前線国家である以上、危険は常に付きまとう。
なら、1980年からのODAに幾分かインフラが進んでいるその地区をこちらで開発して価値のある物にしてやろうというんだ。」

「いつからスタートしておるんだ。お主は…」

「海外への国際路線で多額のODAや円借款をさせたけど、そのほとんどはインフラ開発や工場建設だよ。その周辺の地域に日本の企業を進出させるためにね。」

他にもカンバ湾を持つインドのスラート、エジプトのカイロと道が通じ、アカバ湾の港ヨルダンのアカバなど、今は開発されていないが将来は大きな都市と成り得る土地など腐るほどある。

そこにこちらから投資、ODAによって前線までのインフラ拡張と並んで都市開発を推し進め、さらに企業を誘致すれば経済としても軍事としても好転する良い手だ。

それに近いと言っても比較論で700~800キロメートルの地方都市だから、海外へ避難しようとしていた者をこちらに誘致して、各国企業の工場や、周辺農地で働かせられるし、そこから運ばれる食糧や製品が、前線国家の外貨となるのだ。


「そうして、周辺諸国内で生まれる国際都市をさらに空港網やシーレーンなどで結んでやらば流通量は増やせるし、その分その都市が開発されれば、こちらとしても利益がでる。その都市の不動産を持っているわけだしね。

その不動産を守るためにも周辺諸国共同でのインフラと要塞線の構築。ならびにそれによって守られる地域の土地や、建物を買うことを推し進めて、不動産という安全性の高い商品を国内の銀行を通じて国民に紹介使用っていうわけ。

また最初に値崩れを起こされたら、溜まったものではないから、財閥の株価分の借金を国内の銀行からしてでも、投資してるんだけどね。」

他にも石油備蓄投資や株式、前線国家の国債やら、文化財、資源等買える物は全て購入ルートを作ってるし、先言った都市の重要であればあるほど、その地域に人が集まるわけで、崩壊という危険性はあるけど、守り続ければ大きな価値はグングン上がる商品を作りだしたのだ。


「もちろん、それが早期に実現するわけないから、今は日本の急成長ぶりによって、低利子の日本国債と政府発行紙幣を全世界への価値ある土地買いや、前線国家の国債の買いで時間を持たせているんだけどね…」

「……実情はお寒いかぎりではないか」

「まあ言っちゃえば、最初に日本の借金で前線諸国の開発、戦線維持費にあてているわけで

その間に、日本で物資や高技術による商品を海外に売って得た過剰黒字分を海外の広大な土地購入に充ててるわけで、平和な世界だったら立派な侵略行為なんだけどね。

BETAが消えてなくなれば完全な経済植民地化なわけだし、現に今の日本企業の進出での土地購入も、そう危惧されるレベルに達してる。」

「戦争をしているから…許される諸御用というやつだな」

「まあね。他にも日本光菱銀行と光菱商事の人脈を活かして、世界中で欧州BETA戦時国債や中東石油予約債を世界中に売りまわっているからあと2~3年は前線に金が回るはずなんだ。

なんせここ五年で日本の国家地方行政のプライマリーバランスは日本の高成長と、こちらが国の資産を運用したおかげで実質黒字。

本来なら赤字国債を発行する必要も、政府発行紙幣も刷る必要もないところを世界への投資…海外の前線国家の国債を買うために刷っているわけで

その他もろもろ含めて、年間十数兆円のお金が日本だけで前線国家に投資されているおり、他にも表に見えないところの貿易なんかを含めれば倍ほどが前線の都市、インフラ開発なんかに費やされてる。そりゃあ持つでしょ。」


「しかし、やはりというべきか、そのままでの利益ははとても低いのではないか。先も言っていたであろう。不安なものを人は投資しないと。」

「確かにそうなんだ。でもね、日本には"福引き"って素晴らしいものがあるよね?」

「…なんか嫌な予感がするのだが?」

まさにマリヱの予感通り、完全な悪だくみであり、俺は国家ぐるみの詐欺を企てたのだ。

それは特別債と称して、種類の違うの債権を複数入れた福引き形式の特殊な債権を売り、その中に危険度の高い債券を意図的に混ぜ込ませたもので

リーマンショックの裏の原因となった金融商法を使って、あの手この手で売りまいているわけだ。ーーー完全に詐欺だ。

その中には目玉の、各国の資源備蓄や石油に関する利付け債。それ以外にも欧州、中東が保存している文化芸術品や宝石類を含むことで客を引き寄せる魅力を散りばめられているそれは、本来であれば買わないものを中に込められており、その分、前線に金が貸し出される仕組みだ。


それに引き寄せられた顧客を中心に、日本でも10年以上の貯金を考えている家庭の投資先にしたりと、どんな手を使っても売っている。

これは中東や欧州の民間企業の将来発行する株を代貨にした「緊急戦時国債」を隠すダミーでもあり、欧州が世界各地に進出している各社の販売網をそのまま戴き、将来的に有望な欧州企業各社を傘下に入れるためでもある。

ちゃんと国益も考えてますよ、ってことだ。

「そんなこんなで、ネット通販や金融取引がネットで行えるようになったことで、中南米やアフリカ諸国の新興裕福層やアメリカを中心に大量の《戦時国債》を売り付けることができたわけだ。

そして投資が進めば欧州、中東株価も下がらず経済がある程度の時間だけだが、安定する。税収も安定できるんだ。」

そして、一度投資してしまったら、負けは許さないのが投資家だ。

アフリカや中南米の政府は、その国家の国民が投資してしまった欧州、中東の負けを許さないだろう。

以前はアメリカからの目をそむけるための支援だったが、国民が投資してしまったからには、国家規模の大規模の経済援助、有償融資が前線国家を助けになる。

「そして、国連がそれを促進させる発言をすれば、3年ほどだが、前線国家に金が集まるわけだ。とんでもなく、めんどくさかったけどね!!!!」


以前までは前線国家にはBETAの影響で投資が先細りしがちで、資産が目減りしていた。

そりゃあそうだ。BETAに蹂躙される可能性の高い場所に投資などしていられない。その影響によってほとんどの国家がGDP を維持するのがせいいっぱいとなり、だいたいがマイナス成長になってしまうわけだ。

だが、先のふくびき形式の特別債が金融業界で流行、いつのまにか自分が前線国家の株や土地、資源の取引権を持っていたケースが続出した今、

守り通せれば価値が跳ね上がる資産に対して、日本だけでなく世界中からの追加融資が組まれており、前線国家はその身を海外に売りつつも、自己を成長、BETAと戦い続けている。


両者の目的と利益が一致したほうが両者にとっても得になる典型的な例であり、無理やり集めた金ではあるが、利益を出している現状、その流れはBETAに前線国家が負けない限り続くだろう。





まぁ・・・欧州や中東を経済植民地にしたいってのもあるけどね(ニヤリッ

「ふむ。金は集まり、後方で戦力と陣地を整えているということか。義勇軍の先細りの心配もここ数年なら心配なさそうだな。

……前線での悲劇がこれで減れば良いのだが、な」


BETAと戦って以来、人類の人口増加は鈍化し続けている。

それの意味することは、その増加分をうち消すほどの数値、ひどい時は年間億単位の人々がBETAに喰われているということだ。

それ以外にも、国がBETAの影響で不安定になり、社会の不安感が増すことで、治安の悪化という悪循環が起こり、それによる二次被害(強盗殺人から感染病など)がとんでもないことになっているからだ。


とくにひどいのがBETAと今も戦っている前線国家だ。

情報が公開されている欧州だけでもお涙ちょうだいのドラマがノンフィクションで繰り広げられている。

なにせ、戦線が崩壊してしまった後での軍の時間稼ぎの常套手段が、殿部隊への死守命令。これならば良いほうで、もっとひどい時には民間人を見捨てての撤退などが行われているのだ。


そう、命を時間に換えた手段が最終手段なのである。


それだけ言えば、他国からしたら「負けているんのだから仕方ない」と言えるだろうが、内情を除けば言葉もでなくなる。

なにせ、そこからの退避は一握りの人間となるため、昨日までは助け合いを説いていた市長が市民に銃を乱射する事件や、自暴自棄となった隣人が強姦事件を起こすなどが絶えない、正に地獄絵図が発生する。

そうして取り残された人たちは何万単位でBETAの腹に収められ、軍からBETAへの「おやつ」にされるわけだ。


史実以上に兵力の充実を見せるこの世界の欧州でも、前線を抜いた旅団規模のBETAが西ドイツに侵攻した事件において、住民の退避が間に合わず、西ドイツの体育館に籠城していた幼い生徒たちが戦車級になぶられる事件が発生している。

その映像を見た時は、自動的働いた感情抑制操作プログラムによって仕事に支障はでなかったが、その映像を夢の中で情報の整理として何度も見る機会があるため、BETAへの復讐心が俺の中で滾り続けている。


このように、一年ごとに日本の何倍もの土地と日本全国の人口が、2年も絶たずに惨殺されている、という事実からしても人類が滅亡に進んでいるだけが実感できてしまう。

そんな心配からか、マリヱが疑問を投げかけくる。

「後悔しているのか?」と。

なにせいくらオレがテコ入れしたとしてもまだ4年。本格的に海外に介入し始めたのが3年前。

新しい概念や革新的な技術を含む兵器というのは開発に時間がかかるものであり、頭の中に設計図があったとしても、この時代の製造技術レベルに合わせて量産性も考慮したデチューン仕様にしなければならず、いろんなことに時間がかかってしまっている。

未来を変えるためにもいろいろな計画を立ち上げ、それが結果に結びつくまで時間が掛っていることは知っている。

だが、どれかが間違っているかもしれないと不安になるのは…仕方ないだろう。

いろいろと手を汚させて作り上げた今の環境…それがこれしか結果でないとは。

「もう一度聞く。後悔しているのか?」

聞きづらいことをズバって聞いてくるもんだ。そこがマリヱの良いところなんだけど。


「―――いや、それはない。これまでの決定と言うのは、その時の俺と俺を信じる部下とで決断したものなんだ。そのとき最善と考えて行ったことを否定したくないさ。」

そう言いきれる。反省はあるし不安もある。だが俺は人生後悔はしないように生きる主義なんだ。

「そう、か…」

「それに俺はこの世界にいるのは、孝明くんの意志を受け継いだからこそいるんだ。

そのこと自体、俺がやろうとしたわけでもないとしても孝明くんの精神を塗りつぶしたことには変わりない。
だからこそ、その意志だけでも受け継ぎ、BETAを滅ぼすことにまい進しなければならない。

それに加えた弥太郎さんのオーダー、俺自身の命を守ることがかかってるんだ。こんなことではくじけてられないよ。」

「ならば良い、ならば良いのだ…」


「最初から汚れている俺なんだ。最後まで汚れてやるさ。」

だからこそ、一つ一つ実現していかなかればならない。さきほどの決意のためにも



つづく

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次元管理電脳より追加報告

欧州戦況情報が追加されました。NEW!

《欧州戦況》
主人公が来てからの未来状況変化を表しました。


※アメリカを100とした暫定的数値です。※

「京都協定」の効果を表示しています。

〈戦力〉がプラス3ポイント上昇しました。NEW!
「53→48」となる未来が

「53
→49(※2年後、国連による直接的働きを抜いた数)
→52(※国連の直接的ポイントを追加した数)」

に変化しました。

〈兵站〉がプラス13ポイント上昇しました。NEW!
「46→39」となる未来が「46→39→52」に変化しました。

〈資金〉がプラス6ポイント上昇しました。NEW!
「71→49」となる未来が「71→57→63」に変化しました。

資産が5ポイント減少しました。NEW!
「89→63」となる未来が「89→73→68」に変化しました。

国土が2ポイント上昇しました。NEW!
「42→31」となる未来が「42→34→36」に変化しました。


・総合的な戦況報告
「滅亡的」→「敗戦確実」に変化しました。NEW!


※戦略的撤退の成功確立が《絶望的》から《肯定的》に変化しました

※欧州連合は戦力、国力の短期的維持に成功する見込みです。
南部・北部戦線共に苦境に陥っていますが、戦線の短期的維持は可能です。



〈人口〉が変化しました。NEW!

1980年時、欧州全域の総人口約5億9000万だったものが1984年現在、約5億200万にまで減少しております。

4年間の減少数(死者・移民)ですが史実では約2億5000万減の3億4000万人となる予定が主人公の介入により改善。5億人の維持に成功しております。

理由としてですが戦線の維持による移民・死者数が減少したこと、出生数が増加したことが含まれており、主戦場であった東欧近辺の国民はユーゴスラビアより東側陣営、北アフリカ地区に移民する流れが強まっております。


《戦況の変化理由》

後方からの物資援助、義勇軍派遣、資産の目減りがゆるやかになったこと、貿易の活性化、海外から働きかけによりEU内での不和がおさまったことがあげられます。


以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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筆者です。

またしても長くなりました。戦況について少々甘いのは…御愛嬌ということでおねがいします。

※イラストをpixivにて挙げました。

今回の中東の戦況を世界地図にて表したものです。

「中東1982~1984年戦況地図」
「1982~1984年欧州戦況図」 の二つです。

ケータイの方は「光菱財閥 イラスト」で作品群が見つかると思います。


イラストの感想等ありましたら、気軽にコメント頂けたらと思います。


では次回にて





[28072] 第Ⅱ章<暗躍編> 4話 量産 《11/8日改訂更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/11/19 16:59
1984年3月4日 大英帝国 ロンドン郊外

「これにて閉会。」

そう議長が言ったとたん、先ほどの喧騒が嘘のように場は静まりかえる。そうして血の流さない戦争が終結を迎え、その場からある者はしたり顔で、ある顔は悔しげにしながら部屋を後ずさっていく。

その戦場となった薄暗い部屋の中に集められたのは、各国の代表として集められた数々の老練な猛者たち。

たしかに個人の持つ武力としては貧弱ではあるが、外交、国の代表としての立場の話し合いでは無類の強さを持つ、スペシャリストばかりだった。

その歴戦の戦士が雌雄を決めた戦場、その残り香を残すその部屋に、いつまでも佇んでいる人物が一人いた。

「これにて例の議題について各国の内諾を得ることに成功した訳ですが…よろしかったのでしょうか、ぼっちゃま。」

そう言った人物は先ほどの会議でもっとも若くありながら、その列椀をおおいに振るった若者であり、今回の日本から派遣された非公式の日本代表者だ。

だが、先ほどまで身体から溢れだるその実力と冷静で冷徹な眼差しによって相手を射竦めた実力者として面影は、今はなぜかかけらもなく、ノートパソコンにその心に満たされた不安を投げかけている。

その先の代表者にして、今や光菱の裏の顔とも呼ばれる人物の名は光宮 吉弘。

今や世界中に広まったネット回線によって繋がれたテレビ電話回線を使って、ノートパソコン越しに俺に話かけてくるその相手だ。

「良かった…と言えるんじゃないかな。結局は計画通りにいったわけだし。―――てかオマエさっきの態度はどこ行ったんだよ。
ホントに操り人形としては一流だけど、己が何かをやるときになったとたん気弱になる癖無くせよ。」

その人物である彼は、最近になって光宮家の養子となった、役者育ちの人物である。

俺達本物の兄弟が儀式に失敗した時を見越して、あらゆる役職をこなせる人物として招き入れ、鍛えられた義兄であり、父天元が作りだした失敗作だ。

――失敗作。そう呼ばれる原因は、親父に鍛えられている時から問題になったいた。

"自身"がないこと。

自信と言い換えても良いが、誰かに命令されたのなら完璧の役をこなせるのだが…命令以外の判断はこなせないという、上に立つ者になければならない資質がまったくと言ってない人物である。

「そうは言っても、ぼっちゃま。こういう性格だからあなたに拾われたんじゃないですか。」

そう、父が見捨てたこの人物を俺は拾った。まだこの体で表舞台に立つことは出来ず、狙われる危険性を考えた場合、このまま裏で引きこもっていたほうが良いかなと判断して、影武者を用意することにしたのだ。

表舞台で、あらゆる役職の者と歓談し成果を残すため。"俺"が表舞台に立つまでに。


「そうなんだけど、見ててなんか情けなくなってくるんだよ。

…まぁ良いや。そんなんだから、俺のしゃべり相手になってくれるわけだし。

で、いつこっちに戻ってこれる?次は日本で韓国の役人たちと決めなきゃいけないことがあるんだよ。」

「ホントにこの仕事ハードですよ!さっきまでの冷や汗がまだ止まらないのに、もう帰ってこいとは…

まぁ帰るまでには、ロンドンからアメリカを回って2日ほどですけどっ!!休ませて下さいよ!!」

「大丈夫。おまえより俺の方が休んでないのは補償する。一週間後に休めるかもしんないから安心しろ。」

「1週間後で、まだ可能性だけとは……はぁ…就職先変えようかな。」

「じゃあ切るぞ。体内通信機器は今の科学力じゃ探知できないから安心しろよ。」それ開発すんの大変だったんだぞ?

「えっ?いm「ブツッツーーツーーツーーー」

「…もうそろそろ、休みやらないと可哀そうだから仕事、他の奴に回してやんなきゃなぁ…でも仕事つまってんだよなぁ。」

「その優しさは当事者に伝えなければ意味がないのではないか?大方吉弘に対してなのだろう?」
いきなりの登場ですね。マリヱさん。

「まぁ…相手は予想どおり、吉弘なんだけどね。仕事もつまってるからその優しさってやつもいかせるかわかんないんで、決定してからにしてるわけ。ぬかよろこびさせないためにね。」

「部下のことも、一応は考えているわけか。
で、その当事者は今、欧州に出向いているんだったな。

…重大な計画があったと言っていたが、それが成功したのか?」

「成功と言うより化かし合いに勝ったと言った方が良いかな。」
特にアメリカに対してだけどね。

「確か、 国際戦術機選定計画についての会議だったはずだな。―――で、結果のほうはどうなったのだ?翔鷹でも押し込んだのか?」

《国際戦術選定計画》
― International Tactical Surface  Fighter Project ―

今や緊急事態に陥っている前線国家のため、国連によって推薦される戦術機のことであり、国連直轄部隊の正式採用戦術機を選ぶための計画でもある。

史実では計画だけされ、政治問題により白紙撤回されたものだが、今回は京都協定に事前に盛り込まれているものだ。


「それこそ、まさかだよ。今回は事前の準備もあまり出来ないし、そもそも、まだ出来てもいない戦術機を押し込めないよ。」

「では、F-14あたりになるのか?」

マリヱがそう思うのは無理もない。
1984年時点での量産可能な戦術機でスペックが高いのはF-14、MIG27、ミラージュ2000の順であり、則配備できる純正第2世代機は海軍機のF-14しかないことになる。

しかし、だ。

「ところがどっこい、第一世代のF-5なんだ。欧州ではね」

マリヱがこちらを怪訝そうに見ている。

『F-5 フリーダムファイター』

1976年に海外輸出向けの機体として開発された、アメリカ製の第1世代戦術機であり、量産性の高さと安さにより欧州を中心にF-4以上の高評価を得ている機体である。

F-4で満たせないこの世界の戦術機需要を埋めるために開発された機体であり、その機体の世界貢献は計り知れないものと言える。

しかし、今回の計画から見れば第1世代機という時代にそぐわないコンセプトに沿って作られた旧式機体のため、世界で量産する必要性はまったくないはずの機体だ。

「…訳がありそうだな。そうでなければ第1世代機が選定されるわけがない。」

そのような機体を俺が進めている理由が分からない。そんな顔で見ているマリヱ。当然だわな。

「だれしもそう思うものだよね。そう、これには訳がある。」

そもそも、この計画は"国際"なんてついてるけど、言っちゃえば欧州のための戦術機計画だ。

1980年になってから出来た〈EU統合軍〉はそれまでのNATO軍よりも指揮系統があいまいなままである、ということはマリヱに言うまでもないだろう。

いまや、西ドイツ国境線が目の前まで来ている現在。そんな状態を打開するためにも即刻ヨーロッパ全軍を一つの指揮系統にまとめ上げなければならない。

しかし、その形を作りあげるための国産戦術機計画、史実の1980年から始まったECTSF(European Combat Tactical Surface Fighter)計画は、前線国家が配備すべき第2世代機の開発は間に合わず、結局その夢が実るのは第3世代機のタイフーンを待たなくてはならなくなった。

そのため、そのITSF計画自体はすぐに各国が見向きもしないものとなり、EU連合軍の指揮権もあいまいなままとなるのだが、

「そこで、F-5シリーズをこちらの技術を使って、改修する計画を打ち上げたんだ。」

その目玉が、戦術機の改造機だ。

そもそも、欧州、中東、そしてアフリカが採用しているライセンスF-5シリーズ(フランスのミラージュⅢ、イギリス、西ドイツ、イタリアのトーネード等)は、コストは低いがそれ以上に性能が低い。

そもそもF-5というものが練習機を改修したものであり、本格的な戦線に投入することを前提に考えられていない機体だったからだ。

その問題点をクリアするために日本、いや光菱財閥が国の許しを得て、非公式に(と言ってもバレているんだが…)無償技術協力で仕上げることで欧州、アフリカを中心に貸しを作るのが今回の作戦だ。

XFJ計画の国連承認ヴァージョンと考えていいだろう。

「そんな上手くいくものなのか?日本が携わろうにも不審がられるだろう。F-5系列は日本では製造していないのだから。」

マリヱの言うとおり、日本はF-5を自国配備していないってのは痛い。

その系列であるT-38は練習機として少数配備されてはいるが、日本の戦術機はF-4J撃震からも分かる通り、70年代では最新であったF-4を主力配備する大国の一つだった。

「まぁね。そう予想していたからこそ1981年に日本は、ESTSF計画を立ち上げた欧州主要国に対して、非公式に共同計画を打診していたんだよ。

あちらとしては日本の技術に不安を抱いてはいるが、その立場としてアメリカに頼り過ぎることを良しとしないことは同じだし、跡が無かったからね。

翔鷹と瑞鶴からの各種先進技術立証データや…あとは各種技術と、支援項目を見せたことである程度の信用と利点を得て、計画がスタート。将来、ITSF計画として計画が昇華することを両者が同意したんだ。」

「相手からすればこちらは債権者。半ば脅しだな。」


「相手に対する思いやりだよ。少々、無理やりであろうとそれが良いものであれば将来、脅しに屈したことを良いことと思える日も来るさ。…たぶんね」

相手からの礼などいらんから受け取ってもらいたいだけだ。じゃないと将来的に世界経済の半分近くが無くなってしまう。

「……」


ということで1980年代において一番有効な兵器が戦術機である以上、戦力を増強するための技術支援も必然的の戦術機の改修となる。

この改修案が上手くいかなかった場合、既存の第2世代戦術機ではそのコストの高さと、即時量産性の低さから数を揃えられず、欧州は史実のように墓場となるだろう。

そんな未来にしないためにも欧州の戦術機の技術にテコ入れをしようと考えたわけだ。

もともと欧州は先に言ったF-5シリーズの脆弱性を知っており、時間を稼いで自分達の第二世代の戦術機を協力して開発しようと1980年からESTF計画を立ち上げていた。

だが、マブラヴ史実では新しい概念である戦術機の開発はとても難しいものとなり、各国からの仕様の違いの擦り合わせもあって、計画を遅期として進まなかったわけだ。

そうなるところに日本が魅力的な技術を持参して

「新しい第2世代機を作るのは時間がかかるよね。今日本でも第1世代機の改修機を作ってるんだけど、共同でそっちもやってみない?そっちの国債買ってあげても良いからさ」

と、日本が次善策としてF-5改修機の話を持っていったことになる。


もともと瑞鶴への介入によって、F-4から始まる第1世代機を安価で第2世代機に更新・改修するための研究は進んでいた日本。

さらに幸いなことに頭の中にはF-5シリーズの最終改修型(2、5世代機と言われるミラージュ2000改等)の青写真と、

2005年までに人類が培ったBETAとの情報が入っていたため、今開発している戦術機の技術も取り入れながらF-5シリーズをこの時代に合わせて改造することはそう難しいことではなかった。

「で、光菱としても時間と予算をかけてられない瑞鶴計画と、先の欧州のESTSF計画とを合併することを両国とも合意。
それに反対してきそうなアメリカを巻き込み、世界中のF-4、F-5総合改修するための国際計画に昇華されたわけだ。」

「なんというか…普通ならば失敗しそうなものだな、その計画というのは」

「まあ国際協調路線によって日本が支援強化したことが国際社会で大きく取り上げられていた時だからね。
それが手伝ったのは言うまでもないけど、もともと世界的な不安が大きかったんだよ。これが実現できたのは」

「不安…か?」

「1978年のパレオロゴス作戦から見られる、今の戦術機の方向性の不安だね。
それは後年言われる第1世代機の装甲防御の否定のことなんだけど、今のままの戦術機ではなく、新しい概念の戦術機を前線国家は欲しがっていたんだ。」

その間違いには戦術機で10年近く戦い続けてきた前線諸国としては当然のように気づき始めていた。

人類との戦争では必要であった防御力。

装甲への重要性は戦車級の顎や光線級の出力の高さから見ても、対BETAで見れば正しく“焼け石に水”。そうであればその分を他の分野に分けた方が良いのではないか。という考えは当然噴出する。

「そういうものか…だが元は第1世代機だぞ?第2世代機のほうがやはり後のことを考えればよいのではないか?」


「それを言えるのは"生き残れた場合"なんだよ。マブラヴ史実から見ても1986年にはBETAと相対することになる。そして史実ではそのまま敗北することになるんだ。それまでに開発、もっと言えば量産体制を構築しておかなければ欧州は死ぬと言って良い。

それまでに第2世代機を開発し、欧州全域に十分な量を揃えることなんて現実的な見方をすれば不可能だ。」

もっといえばさらに早く、1984年頃から増産し、揃えなければ勝てない。経済が持たないのだ。

「それに航空機が無くなった今、BETAに機動性で唯一勝る戦術機が必要不可欠。
確かに他の戦力の補充も必要だけど、"動かせない戦力しかない"のと"動かせる戦力"があるのとでは、戦略の自由度としては圧倒的に違う。しかも相手はなにをするかわからないBETA。それに対応するための戦術はどうしても必要になる。大量にね。」

「だからこそコストが低い機体を、なのか。確かに全面戦争をここまで長続きするのであれば、今までの質を重視した量ではなく、量を最重要視しての質の向上に変わってくるのはわからんでもない。

だがな。後方国家が協力して第2世代機を大量に作ってやれば良いではないか。」

たしかにその通りだろう。後方の大国。アメリカ、日本が協力し、最近になって力をつけ始めた後方諸国の大国を巻き込んで製造してやれば数を生産することは可能だろう。

だが数を揃えたとしても意味は無いのだ。

「それを買うお金は前線国家のどこにあるんだい?中東はまだ良いよ。石油と言う莫大な利益の出る資源を持っている。それを担保にしてやれば無理やりだが、将来的に回収する見込みは立つだろう。

だが欧州にはそれがない。今の前線の欧州諸国は戦い続けて経済に傾調できていないし、なにもよりも金が無い。それで税が高いんだ。その分物の価値、物価が上昇するし、関税も上がってしまう。

そうなればどうなる?相手の売る物の価値に比べて、値段が高い。
そうなれば相手の物を買わないようにするだろう?

そうすれば自然と欧州は輸入超過に陥る。戦争するには海外からの物資、資源が大量に必要になるからだ。そうすればただ赤字が溜まるだけ。そうなれば?」

「通貨安がおこるだろう。その均衡を保つために。各国の価値が相対的に変化するはずだ。そうすれば輸出も行える。それをこちらが良き方向に誘導してやれば良いのではないか?」

「確かに相手の国の総合的価値が低いからこそ、通貨の価値が下がる。それは経済の基本だ。

だけど前線国家はこちらがどれだけ譲歩しようとも、戦争という重荷を背負っているんだ。輸出が利益を上げられるほどに下がれば、逆に輸入する物資、戦争に必要な海外からの輸入品のそれ以上に値段が上がる。

戦争が出来なくなってしまうんだよ。さっきマリヱがいった後方国家が協力して開発した安い第2世代機が、安く見えないほどにね。」

戦争が長続きしている前線諸国の通貨は現に軒並み低い。

この状態、行き過ぎた自国通貨安というのは輸出のメリットよりも輸入に対してデメリットが生じてしまう。

なにより戦争は国内の民間生産能力を軒並み奪ってしまうもの。それが揃えらないからこそ海外からの輸入に頼るのであって、暴論だが戦争や災害にさいなまれたときには自国通貨は高いほうがやりやすい。

これは戦争のない新興国にも言えることであり、ある程度の規模に成長したその国が、未だ経済基盤が未熟であった場合。どこからか派生した経済不安の煽り(今で言えば欧州危機)を喰らって、国内経済の不安の結びついた影響で行き過ぎた通貨安を起こすことがある。

その行き過ぎた通貨安は世界経済が好調であれば良いが、世界経済が不調の場合、安くても買い手が見つからず『買い叩かれる』と同じ状況に陥るのだ。

だからこそ、新興国が先進国に対しスワップ協定を結ぶわけでその利点は侵攻国側にしかなく、負担を肩代わりする側の国(日本やアメリカ)の利益は、相手国がつぶれるリスクが低下することしかない。


確かに外交としての貸しにはなる。だがそれを取り立てようとする意志と実行する力、言ってみれば軍事力がなければただ金を与え、通貨安という利点を相手に与えるだけだ。

(現実でもアメリカはそれが出来るが、日本は不可能。ブラジルのサムライ債での一方的な通知や韓国からの国家賠償と言う名での債権の放棄など、いろいろとしてやられている。欧州危機でのギリシャなどを見ても軍事力による取り立てが出来ない今の状況では、貸した側より借りた側の方が立場が上になる逆転現象が起きている。)

そして今回、欧州などの前線諸国との通貨スワップを結んだ所でBETAに滅ぼされてはそれも意味が無いのだ。

そうなってはまずい。


「前線国家としてもこちらの需要を満たせる低コスト第2世代機が喉から手が出るほどほしい。

また国際協調路線によって制限が無くなった後方国家、メキシコ、ブラジル、南アフリカなどだね。これらも新しい兵器である戦術機がほしかった。この需要はあるんだよ。だったらどうする?」

「前線諸国を組ませつつ、戦術機を開発しなければならないわけだな。」

「そしてその前線諸国で開発能力があるのは今のところ、西欧ぐらいしかない。そして今世界、日米を含めればあり余る第1世代機をそのままにしておくことはもったいない。

―――ならばだ。瑞鶴と同じことをしてやれば良いんじゃないか?
日米欧、西側先進国が組んでさ。」


「だからあそこまで瑞鶴のプランを修正しようとしていたのかッ!!」

そういうことだ。

今はまず"数"という前提。

そして欲しがっているのは機動防御を念頭にした戦術機が欲しいということ。

だが、高い戦術機を今から開発しようとしても時間がかかる

なら今あり待っている前線諸国を含めた第1世代機を、第2世代機のヴァージョンアップし、

その改修部品と共同で開発した新規改修機(改修比率をさらに上げた新規機体)を西欧を含めて計画するしかない。

そしてその余った分を払い下げてやれば良い。後方国家、規模が大きくない国家達に。


「だからこそ経済の不均調を取り除くために、前線国家である欧州にこの計画に一枚かませて、お金をやる必要があるんだ。

今現在、前線諸国の軍事費はその国GDPの15%を超えているのがざらだ。戦前の日本が常時14%ほど――※戦後は一貫してGDPの1%ほど。あの最強のアメリカでさえ3~6%で高い部類入る――だったことから考えればどれだけ経済に悪影響を示すかわかるだろう?

そして前線諸国は兵器がほしい。そして多く兵器を製造できれば自然にコストが下がり、一部は利益として還元される。大量生産はコスト安に繋がるし各国共同計画だからね。

流れとしては今現在、日米などの後方先進諸国が製造して配備してきたF-4、F-5を日米欧の共同で改修。その一部のラインを改造して最初から第2世代機準拠の機体にして前線諸国へと大量に回す。

さらに日米欧共同の新規製造機も前線国家に輸出するわけだ。ここは日米で前線国家の国債を買って金を与えてだね。

で欧州では一応は数を満たした時点で、F-5シリーズを一端後方へ回し、改修。それを諸外国、中南米やアフリカ、東南アジア諸国の中小国へと輸出する。

新規製造機は後方国家で危険性の高い中堅国リビア、エジプト、タイあとは南アフリカなどに限定許可してやれば喰いつくだろうしね。」

「アメリカや日本の純正第2世代機が出たらどうする?そちらを買う国が多くなるのは必定なのではないか?」

「確かにそうだ。でもいきなり今まで持っていなかった兵器、それの最新機だけを購入する軍がいると思う?

だれでも練習機から入るはずだ。そして第2世代機では優しい…というよりスペックが低い今回の機体を、ハイロ―ミックスのロー兼練習機とする国家が増えるんじゃないかな?」

「……そこは詳しく知らんので分からんが、確かにその通りのような気もするな。」


「もちろん世界最大の戦術機製造大国アメリカでもその満たせない需要についてはわかっていたからこそ、今回の案に納得してもらったわけだし、前線諸国の欧州がこちらに頭を下げ、あの日本が世界に好印象を与える行動をしている今、アメリカがそれを蹴るわけにはいかない状況があったればこそなんだけどね。アメリカが孤立しちゃうし。」

マブラヴ史実のようなアメリカの中途半端な独走を許さないためにも、未だ独走に踏む切れていないアメリカを協調の名で押さえつけ、方向性を変えたいがためでもあった。


それにアメリカとしても石油の産地である中東、大きな市場である欧州がつぶれることはなによりも避けたい。

そしてなにより国内に多くある第1世代機、存在価値が下がってしまった機体を各国に払い下げ出来るチャンスを得たことが大きい。第2世代機を生み出した国として是が非でもこの話に乗りたいだろうし、日本にすり寄り始めた世界各国をアメリカの威厳を示すためにもこの計画に同調することになったのだ。


「欧州の状況も史実よりかは少しだが明るいからな。ECTSF計画も活かせるわけか。」

「それに国際戦術機選定計画であることが生きてくる。」

計画のほうももっと合理的なものになっている。

日本の後押しもあり、前衛的なものとなったこの計画では、まず、北アフリカ諸国から国土を国連に貸し出した、"フリーブラッドゾーン"が創設され、そこで製造、活用されることが盛り込まれた。

"フリーブラッドゾーン"

またの名を国連直轄地と言い、文字通り国連が管理し、国による税が発生しない土地のことであり、あらゆる人種がいる国連軍基地が置かれる土地のことだ。

そして今回の計画は正に国際計画。

技術のあるアメリカ、西欧、日本が利益を享受できるように、国際共同でその土地で行われる計画となった。

「それにしても、先の瑞鶴をこの計画の一部にしたことに対して当然、城内省から苦情が来たんだろうな?

一度見直しを迫られ、陸軍と共同の機体となったことでも腹を立ていた斯衛だ。さらに国際計画に織り込むなど言語道断と考えるのが普通だろう。」

「もちろん斯衛の方から苦情が来たさ。こちらを切り殺す勢いでね。
だからこちらも言い返したわけだ。

“日々近づくBETAに対抗するための今回の国際戦術機計画であり、これが上手くいけばいくほど日本国土へのBETAの侵略の手は遠のく。

それを国際世論が望んだがために実現した今回の計画。

その一助足り得る技術を持っているのであれば、それを提示するのが大国の努め、一大勢力を作ろうとするのならば尚の事必然となってくるのではないのか?

それにそれが成ればBETAは日本より遠のきますぞ?”ってね。」

「正論だが…それで納得するはず無かろうに…」

「もちろんそれで納得するわけがない。
でも日本としての立場としては、戦術機技術による前線諸国への支援と言うのはその利益以上に立場向上に繋がるんだよ。一省庁の顔を窺うってその利を失うのは何とも惜しいし、物に関しては十分なものを開発しているんだ。これ以上の譲歩はないよ。」

「確かにそうだが、利よりも誇り、言ってみれば自尊心を守ることを第一とする、古き考えの輩がはびこる城内省だぞ?そこまで自尊心を砕いてはいつかはクーデターでも起こすのではないか?」

「確かにその言葉、冗談とは思えないんだよね~ほんと。今現在の経済の成長が日本の民間の力だけで実現したと思っている平和バカも多いし、そういう奴に限って爆発する。確かに経済成長はその自国の民の力でもあるけど、それを上手く舵とりできたからこそここまでの成長が出来たんだ。

なにより『政府を牛耳っている光菱らを消して、政威大将軍様に国のかじ取りを任せればもっと良い国になるのでは?いや絶対なる!!』と考える輩は絶対に出てくるさ。今の生活を当然の物と享受している者のなんと多いことか。」

「もはや愚痴だな。それにしても扱いに困るのは城内省か…軍部もだが己の不利益を力によって巻き返そうとする体制を変えていかなければなるまい。」

「戦前よりかは遥かにマシだけどね。クーデターを起こそうとする下地があるのは確かにまずいかな。

…おっと話が脱線してしまったね。話を戻すけど今回の計画で、これまで以上にアメリカの先進技術が手に入ること、そして次代の戦術機計画、内々に見せた国産戦術機に生きることで納得してもらい、次代の斯衛の戦術機開発まで我慢してもらうことで手を打ったわけなんだ。」

国際計画と成れば製造コストから、生産性から何から違う。計画よりも早く、そして安く第2世代戦術機を揃えることができるのは予算に限度の成る城内省としても利点になり得る。

そうして斯衛の予算が引かれずに各種装備を揃えることも教えてやったし、こちら側としても将来の将軍の復建に手を貸すことを了承。

さらに同時に翔鷹という純国産機製造計画が表に出たことで、長年の夢だった国産機製造が適うってことで矛を収めてくれたのだ。少し譲歩しすぎたとは思うけどね。

そうして斯衛を抑え、瑞鶴と機体が何時の間にか国産改修計画から、国際戦術機改修総合計画に吸収されることになるとはだれも予想しなかったことだろう。

陸軍に関しては翔鷹を早く配備できれば言いわけだし。


「で、次は国内の利害関係ではなく、海外の利害関係を調整しなければならなくなったわけだけど」

「困難を極めるだろうな。国際計画と言うのはいつもその方向性の舵取りと、その利権問題で対立し破局となる。」

「確かにね。これに関しては欧州と日本が共謀、アメリカに対して譲歩を引き出そうとしたわけだ。」

「ほう…確かライセンス料の引き下げだったか」

「そう。もともとF-4とF-5はアメリカからのライセンス料金は良心的だ。あのBETAを押し戻すためにも前線諸国には安かったんだよ。日本には少し割高だったけど」

まあアメリカからすれば今の戦術機の市場を形作るための策でもあったわけだけどね

「で最近の第1世代の否定、F-14の開発が表ざたになることでその流れが世界各国、アメリカ自身にも強まった今、さらなるライセンス料の価格下落につながったわけだ。そして1984年には最強の第2世代機であるF-15の配備開始。これによって完全に第1世代機の価値が薄まった。
戦前のドレットノート級の誕生による、大英帝国と同じ道だね。」


「それまでの戦艦を一気に旧式化せしめたドレットノート。たしかに画期的であり、さすがは大英帝国と言わしめた代物ではあるが、それの誕生によってもっともダメージを受けたのは何を隠そう、旧式艦を一番多く持っていたイギリス自身だったな。

確かに第2世代機の誕生は戦前の大英帝国と同じく、アメリカの己の首を縛ってしまった面もあるわけか」

「そういうこと。そのおかげもあってアメリカはこの計画でライセンス料の減衰分の利益を出さなくてはならなくなったわけだしね。

その頑張りが、日欧の先進技術を盛り込んだがための未熟な部分、製品としての完成度を上げる部分に尽力してくれたおかげで、早期に量産化されたわけだけど…その話は今度でいっか。

でさっきも言った通り、まずは数が必要と言うことで、それに同調するように日欧のライセンス料…技術特許料を下げて利益を少なくしつつ、計画の合理化を推し進めて、製造部品の振り分けなどを強調して押し占めることになったわけだ。

さらに製造コストが安くなるように日米欧の利益配分をどうするかだね。」

「それが中身か。国連の元とはいえ、製造してるのは各国企業だからな。そこの詰めの話になるわけだな。」

「そういうわけで会議の議題が、前線国家の代表達が国連幹部を巻き込んで、日米に対しての利益率とライセンス料の値下げを迫った…というのが今回の会議だったってわけだね。」

吉兄が行ったさっきの会議のことね。

「それで人芝居打ったということか。先に言った日欧が共謀というのは。
日本は確か、事前にライセンスを国連に無償譲渡する約束だったはずだから、これはアメリカの利益率を下げるための策略になるわけだな。」

「そういうわけ。利益率を最低限にしつつ、国連税の一部から補助金を出されるという段階で『日本はこれも京都協定の一部となる』
として日本はいやいや欧州の要請に従った形を演じたわけだ。

京都協定を進めた国としての責任としてね。

で、アメリカと一緒に妥協を強いられる形に会議が進行。前線国家の願いを聞くと言う形で妥協を強いられた日米はしょうがなく、値下げに踏み切ったわけだ。
純粋に考えれば日本に利益になる話じゃないからアメリカも疑わなかったしね。共謀に関しては」

これには欧州、ECTSF計画を主導したイギリスの働きが大きく、さすがは大英帝国。覇権を握っていた経験は伊達ではなかった。

また次期常任理事国を増加させる動きにはフランスと同じく、こちらの味方になることは了承してくれたので、日本が圧倒的に不利、というわけではない。


こうしてまで世界に大量に売られることが決まり、その量産性を日本の知識を使って実現しつつ、アメリカの習熟した技術で補完。

欧州の危機感によって計画が加速すれば後は先進諸国としての実力を見せてくれた。

もともとの日本の提示した基礎設計図とその概念が、後押しして計画は順調に進行。

世界の半分以上の規模を持っている国家群であればこれまで比べ、異常なほどの生産が可能になるだろうと世界から期待された。


「で、日米欧間の決着がついたことで人類全体での戦術機の量産開始が適ったわけだな。」

そうして
『いまだ世界の戦術機の主流である、第1世代機を早期に第2世代機に更新する必要がある。』

という名目の元、1981年時世界の大半であった2種、後に東側のベストセラー機であったMIG21が加わり

第1世代機を安価で第2世代機に改修する現行機改修案Aと

さらに第2世代機の数が圧倒的に足りない現状に合わせて、A案ではスッペクが低すぎるために新規製造機B案が浮上。

合計6種の機体計画が同時にスタートし、元々MIG21がF-4のライセンス生産・改修機であり、F-4とF-5とで似通った部分が多くあったため主機などを統一する流れになり、

量産効果を最大に見積もれるよう、その6種の中で部品共通部分を多くすることになったのだ。

もちろんと言うべきか、F-4、F-5、MIG21の中でもっとも第2世代機への改修が容易だったのはF-5だった。その方向性、機動性、運動性、そしてコストの点から見て、F-5の新規製造機がもっとも量産されることになり、この計画の名前でもあったグリフォンの名はF-5シリーズを指し、他の二機についてはGF-4やGーMIGと呼ばれているようだ。


また先に言った通り製造場所も先進諸国ではなく、前線国家に近く関税も税金も物価も低いフリーブラッドゾーンで製造。

F-5のB案を主流にして

F-5の部品製造数を欧州5米3日本2に

F-4は日本4米4欧州2に

MIG21は日本2米2ソ連2にソ連・東欧・中国のそれぞれの仕様に4

の割合で各国に割り振られ、各国がフリーブラッドゾーンに作った出向工場で製造。


日米欧の共同出資会社で組み立て・改修工場を立ち上げることで製造コストを低く見積もることができるとして、国連が後押ししたのだ。

「そんな感じでマリヱも知っている通り、F-4ではなくF-5をこの計画の主流とされて国連主力機に選定。

F-4は改修機A案を第一に、新規製造分に関しては後方国家のゆとりのある国が購入するぐらいで、F-5の新規製造分と比べて数は少なかったわけだ。」

「ここまで聞いておいてなんだが、なぜF-5なのだ?F-4のほうが優秀と聞くが。」

「それはやはりF-5のほうが機動性や運動性を重点に置かれていながらコストが低かったからかな。その分中身が単純だったんだよ。

いやな言い方だけど、F-4はその機体を改修して性能を上げようとすると、いらない部分が多すぎてコストパフォーマンスが低くなってしまうんだよね。」


だがF-4のほうにも利点が無いわけではなく、そのA/B案ともに、元瑞鶴としての斯衛が求めた敏捷性と高さと近接戦闘能力に対して、一定の評価を頂き、近接戦闘を好む国からはF-5案以上の評価を得ている。


「そうした理由からF-5が主力選定機に選ばれ訳で、今あるF-5シリーズの製造ラインを活用させつつ、未来のトーネードADV、ミラージュ2000改のデータを活かせる案として、

最初から作る本機体、ITSF83 グリフォン として売り出すトラッシェ2型。 各国改修使用3種と今あるF-5シリーズを改修するトラッシェ1型各国仕様との部品を共通させ、製造を開始しているのが現状なんだ。」

新造量産型と現造改修型の二種類を同期させ、早期に量産できる体制を作る、それが本計画の意義でもある。瑞鶴で見出した早期に第2世代機を揃えられる唯一の策だった。


そうして実現することになるグリフォンは改修型1983年から、新規製造型が1984年から配備されることになる。


ここまで早期に開発から量産までこぎつけられたのは

日本のデータからまるで未来を知っていたように出された将来設計図など数々の利点があったればこそであり、

なによりそれ以前に行っていた両計画・瑞鶴、ECTSF計画の研究成果に繋がったためであり、3年(瑞鶴が開始された6年近く)ほどでA・B案両方とも軌道に乗ることが出来た。

そんなこんなで1983年後期から最初の量産が開始されるという驚異的なスピードで製造されることとなったわけだ。


その機体の内容で特記すべき内容は、

近接戦を意識し、その要求仕様を追加パーツと内部基本構造の改修によって実現。

一部の装甲材料を変える点と不必要部分の装甲を削り、軽量・強化した上で主機出力を向上し、腰部の弾薬貯蔵量をUP。

また跳躍ユニットを主機換装と本体軽量化も相まって、F-5シリーズで航続性能が1.8倍、運動性がその外装変化と空気抵抗軽減、能動的重心移動を取り入れたこと、跳躍ユニットの強化によって1.6倍になっている点。

内部・ソフト面には特に力を入れ、アビオニクス、光線照射警戒装置、統合データリンクを強化し、日本が輸出しているOSを乗せ総合力をUP。

またその航続性能を活かした各武装オプション(制圧支援用クラスターミサイル装備等)も共有して採用することになった。

またF-4、MIG21の利点をそのまま残すため、両機の改修は全体的な性能向上に加えて近接戦の重要度をF-5よりも上げ、代わりにF-5のほうは機動性。航続性能などを上げることでいち早く戦場に到着できるような仕様でまとまっている。


唯一不満点として運動ベクトルがとんでもないほど変わってしまったため操縦特性が変わってしまったことはパイロットから不満が出ているらしいが…使っているうちに慣れてくれるだろう。

また、両方共に言えることは簡略化できる部分を徹底的に簡略化、この兵器開発に参加している各国で部品を共通させて単価を下げたことや、既存の工場を使えることから即座に量産体制を確立することがこの機体の魅力だ。


そしてそうすることで供給量を満たせる仕様になった今回の計画では、それを受け入れられる需要、京都協定によって生まれた『戦術機特需』が大きいだろう。




「で。新規製造分などはいかほど量産される見込みなのだ?」

お金の話のほうが好きみたいですね。マリヱさん…

「う~ん。最低でもF-5の新造2型が1万4000機、改修する1型一式が全世界にあるF-5シリーズの7割、2万4000機くらいにはなると思うよ。

他にはF-4の新規製造B案が6000、改修するF-4は1万8000ほどで、これにMIG21が付く加えられるから、約8万機近くの戦術機が新しく(一応は)第2世代機として生まれ変わることになるから、戦力は増えるだろうしね。」


この数は日米豪などの後方国家は何年後かに配備される純正第2世代機との更新費用を浮かすために、

前線国家の中でまだ余力のあるインド・西欧・中国・ソ連などの大量に第1世代機をもっていた国は自国の機体を早期にアップデートするために、この計画によってその大半が改修、前線国家に払い下げ、または自国配備を行うことが決定したためであり、

中南米、南アフリカ諸国という新しい市場を制するために、第Ⅱ世代機の先駆けとなる機体として、この次期を見込んだということもある。

そんな事情を含めると単純計算で5年ほどで、最低でも100~200兆円ほどの売上が見込める計算となる。さすが国際計画、半端じゃない。あのアメリカでさえ、市場占有率を下げてでもこの利益に喰いつこうとした理由が分かるはずだ。

それになにより、今回の機体の整備を完璧にに行える国は元々の製造元であるアメリカ以外おらず、改修工場に対しての投資量はアメリカが一番多い。

そこはアメリカ、ただでは倒れないってことの証明だ。

それ以外にも、アメリカのほうもF-15やF-14を日本の翔鷹と同じく、各国にHi-Low mix構想を各国に推し進める方針に転換する予定だったようで、今回の計画に対してもアメリカは好意的でもある。

なにせこの計画、1980年代には避けられそうにない中東、欧州の陥落を防ぐためのものであり、改修機A案の機体寿命が短いことからも、90年代から始まる先の戦術機の更新に、日米は切り替えていたのだ。


「だがやっと、正面戦力がそろうわけだな。上手くいけば7万機の戦術機、単純計算600個戦術機甲連隊近い戦力で、ユーラシアを囲むことが出来る。
そうすればさすがのBETAの侵攻も食い止めることができるはずだ。」

「そろうまでに何個連隊消滅するかはわからないけどね。
まぁ数はそろうよ。ここまで金をかけたんだ。これに国連のよる自走砲量産部隊を加えてやっと、今の敵の攻勢を十分に抑え込める。」

「このまま上手くいけばだがな。」


「まぁね。いくらかの損耗は勘定のうちに入ってるさ。

それにこれは数だけでなく、前線国家の中に共通規格を持つ戦術機が生まれたことになる。 国際派遣部隊の補給も以前よりかグッと楽になるし、こちらからの支援物資の中に戦術機の部品が含まれれば、緊急的な対応も、その整備も共同で来て効率化が進むんだ。

数字以上の利益が生まれたんだよ。……まあこれを押し込むために各国への円借款や経済支援を日本がしたわけでいくらかの不利益を被ったわけだけど、常任理事国入りが現実味を帯びるほどの成果を出したことには変わりはないさ。」

そういうことだ。利益だけでは、己の輸出による経常黒字を続けたところで、前線国家が疲弊しては将来、日本の国土にBETAを招き寄せることになりかねない。だからこそこちらが買い、あちらに売る、その貿易を成り立たせつつ、その武器輸出で前線を持たせていかなければならないのだ。

「で欧州の軍事に関して言えば戦術機の数には目途が立ったわけだが、その国家間の連携問題はどうにか取り除けたのか?史実の歴史ではその関係の溝が問題視されていたではないか。」

「もちろん、今回の国際計画もそのへんを整えるためでもあるよ。
日米に譲歩させておいて、自分達は仲間割れなんて近代国家として恥だからね。

これと同期してEUの指揮系統は、海軍はやはりイギリスが主導し、陸軍は西ドイツ、フランスが主導することになり、その最高指揮官は各国の推薦で決まることになったらしいし、欧州の状況も好転してきてる。

東欧に関しては、ばらばらにソ連との結びつきを大事にしていたわけだけど、東欧州社会主義同盟という国家連合を作って、ソ連とEUの支援の両方を受けつつ、EUと協調、欧州全土に北アフリカからの支援を含んだ協力体制の構築には成功しそうな感じだね。」


「欧州はそうかも知れんが、貧乏な中東のほうはどうするのだ?
未だに敵の攻勢が続いているのだろう?戦術機もそうだが、他もそろっていないのではないか?」

そう、中東は1984年に入ってから、ユーフラテス川防衛陣地に対して師団規模(3万)以上の大攻勢が毎月のように続いている。

今や半年前に計画的撤退を行ったのにも関わらず、以前までなら危機的な状況に陥っているほどの戦力が川の対岸側に集まりだしている。

具体的には約3カ月で戦線のどこかで軍団規模の攻勢が予想されるほどの危機に晒されている中東。

「それに対して中東のほうも先の戦術機計画以外の秘策があるんだ。」

「秘策?」

「そう秘策、貧乏国家のためのね」

いきなりではあるが「トヨタ戦争」を知っているだろうか。

この戦争ではチャド政府軍と反政府勢力の両者が、トヨタ自動車のピックアップトラックをテクニカルに改造・使用したことで有名となり、その企業名がついた内戦のことである。

その車両の荷台後部に大きく表示された「TOYOTA」のロゴが目立った為「トヨタ戦争」と呼ばれるようになった戦争のことであり、安易に軍用に転用される民生品の危険性を知らしめた戦争である。

その影響は先進国内ですさまじく、紛争地帯へ輸出することを批判する記事が掲載され、同時に各政党へのこの件に関するアンケートが行われるほどだ。

その戦争では、大量のピックアップトラックがほとんどそのままの形で、人員や物資の輸送に使用されたり、荷台に重機関銃や対戦車火器を搭載したりと、車上射撃まで可能にしたテクニカルと呼ばれる車両が広く使われていた。

そんな便利で安価な兵器は、紛争の趨勢を決める存在にすらなったもので、さらに長距離ロケット砲や対空砲を搭載することすらあったのだ。正に貧乏国の機甲部隊である。

「民生工業品を使った機械化部隊の量産計画だよ。

言っちゃえば、BETAのおかげで紛争が少なくなったこの世界で、人類との戦争でも使われた物を、BETA大戦に有効なものにできないかと考えたのが、今回の軍事転用を考慮した民生品開発計画なんだ。」

計画としては、日本の大手自動車会社が協力して、数種類の軍・民両用車(ジープ、ピックアップトラック等)を開発。
銃器周りを中心に技術協力することで、規格を統一、部品共有を促し、トータルコストを下げるのがこの計画の目的であり、薄利多売を基本として、民間でも利用できるように、信頼性を損なわない程度に燃費を上げ、電気自動車タイプも生産計画に入っている。


「そんな、民生品でも使えるものなのか?さきほどのように国際計画でもできるものだろう。」

「う~ん。それも出来るけど、大型自動車はやっぱりアメリカが強い。それやったらアメリカに有利すぎるから、日本国内の計画としたほうが良いんだ。」

そこがアメ車のだいご味でもあるが。

「まぁ、納得できるものだが、それだけではないだろう?」

「もちろんさ。まずは量産量が違う。各種パーツを共有化させて光菱・遠田・冨獄・自動車の大手が協力。最低でも300万台は国内、海外合わせて製造する予定だ。」

さきほどの通り、軍の軽自動車の単価は民生自動車の3倍は違う。
地雷対策等戦争に耐えられるような能力が必要でもあるからだ。

それが300万台。1台当たり能力は低いだろうが、俺の未来技術で若干だが燃費も耐久力も上がっており、民生品としての性能も高い。

それに加えて、値段も国からの大規模な補助金のおかげもあり、販売開始から2カ月しかたっていないが売上は好調だ。

国内では、田舎を中心に人気を博しており、海外ではインド、中東といった前線国を中心に売り上げを伸ばしている。

これは光菱が製造した、低燃費でありながら馬力がある新エンジンのおかげとも言え、各社に格安でライセンス生産をしたおかげで、この規格車は前線国家のスタンダードにまでなりそうな勢いとなっている。

それに付随して、各国にある自動車大型販売店には簡単な修理・改修機能を持たせて客に対してのサービスの向上計画も遂行中だ。

「量がスゴイのはわかった。しかし、そこまでの兵をどこから?」

「もちろん、軍の中で一番多い歩兵部隊だよ。」

ではなぜここまでBETAに対して民間品が有効と考えたかだが、それはBETA個体総合戦闘力の高さに対するためと言える。

BETA一体の戦闘力は極めて高く、その脅威に一番の被害が出てしまうのが一番多い歩兵部隊だ。

歩兵は、戦線で抗している場合はまだ良いが、大型BETAが出てくるとモブになり下がる。

それ以上に困るのが、後退や移動時だ。その時に襲われた時は、各個撃破され、ただ蹂躙される「足手まとい」となるのがBETA大戦の常となっている。

それを防ぐためにも強化外骨格部隊、本当の機械化歩兵が増えているわけだが、発展途上国のような貧乏国は歩兵全てを機械化することなど出来るわけがない。

「だったらその足でまといになってしまう、歩兵のほとんどを機械化(軍事用語的には・・・自動車化とも)しちゃえば良いじゃないと考えたのが、この計画だ。」



また、この計画は車だけではなく、大型船舶、低空飛行用ヘリ、そして装甲列車なんかも計画の中に入っている。


重火器は、中小型BETAの波に、ロケットランチャ―は大型BETAの破壊力に抗するために基本武装としてセットで販売することでさらにトータルコストは下げている。

さすがに今はまだ取り付ける兵器については、ソ連やアメリカなどの兵器製造大国に性能で負け、ブラジル南アフリカ中国エジプトといった途上国兵器製造国にコストで負けているため、海外の兵器が主流だが、そのうち追いつこうとしている。

こうして全てとは言わないまでも、貧乏国の軍隊でも軽機械化部隊を量産することが可能になったことは大きい。

BETAの戦力が集中する部分に、即座に移動したり、先回りして待ち伏せする機動防御を実行できるようになったからだ。

「他にも、部隊当たりの弾薬量を増加、機動力を持ち、データリンクも簡易的に構築できる。メリットはたくさんあるんだ。」


これは歩兵の最大の敵、「戦車級」の時速80キロの波、それまでの歩兵火力の射程である1キロ圏内を40秒ほどで突っ切るほどの物量に対抗できる瞬間弾薬投射量を中隊単位で持てるだろう。

それに車に搭載するナビと無線で集団運用、集団撤退もスムーズにいく。


「これは命の安い貧乏国にとっては唯一といって良い抵抗策であり、中東は石油生産国だから燃料不足は心配ないわけか。

しかし、ここまで有用ならなぜ、今まで計画されなかったのだ?」


「う~ん。それはBETAにインフラを破壊する概念もないって知らないし、自動車を大量製造できるなら兵器製造にラインをまわしてしまうからじゃないかな。兵器ならいらない部分を削る怖さがあるから単価が上がっちゃうし。

それに、1970代年まで自動車を安心して大量製造できる平和な国はアメリカしかいなかった。最近になって日本がでてきたわけだけどね。」


インフラを破壊する概念のないBETA相手であれば、戦場になったとしても使えるケースが多い。

その可能性があるのならば、自動車の燃費の良さを活かして陣地を移動でき、兵員輸送から地雷施設。
拠点防御のための速射砲台にまで転換できる前線での汎用性を持つ、今回の民生品転用計画の利点は大きい。

取り付ける兵器の汎用性の高さから言っても発展途上国(人件費の低い中国からインドなど)でも量産が可能な安価な兵器を取り付けることが可能である。

「その分、安全性が悲しいことになっているが…良いのか?」

「それはしょうがないよ。高いものは買えないんだから。
民生品だから耐衝撃性も低いし、光線級が出てくれば終わりだけど、何より安い。

換わりに火力と機動力が手に入ったことが大きいからトータルでは大きくプラスになっているし、そこは無視するしかないよ。」


以前よりかはマシである。難民にいきなり家をプレゼント出来ないように、前線の貧乏国家も、まだマシといったレベルの兵器を量産していくしか今は道が無い。

人類相手ならば防弾機能を考慮しなければならなかったが、大抵のBETAは銃のような遠距離兵器を有さないため、近づかせなければ被害は出ないとして、防御を無視。

衝撃で部分的に壊れやすくし、車の生存性を上げることとコストを下げるほうを選んだ。つまりは民生品の耐衝撃構造そのままだ。


他にも光線級が出てくれば致命的な脅威となるが、光線級は少ないためそこまでの対策は出来ない。

なにより戦車の正面装甲を瞬時に焼き切る光線級には、生半可な装甲は意味を持たないため、通常の歩兵よりも重火器を持てるようになったため撃破できる選択ができ、進歩にはなっている。


それにBETAに対しての追撃戦では、いつも逃げられていた人類に"足"が生まれたことは大きく、戦時体制以外は民間に貸し出せば良い。

それにそれを有功に運用するための道路建設、線路建設も国民が一家に一台車を持てば国民にも必要とされる。そうすれば民需、軍需を合わせて大規模な公共事業を進めることが出来るわけだ。



「ふう。これで一応は戦況が一段と落ち着けるわけだな。敵主攻正面の中東、欧州に対して戦力の増強がなった今、そう簡単には落ちんだろうが…」

「これだけでBETAに勝てるかというと…そうではないって言いたいんでしょ?わかってるよ、こんな計画の一つや二つで何十万の兵器を作ったところで足止めにしかならないってことにはねっ!!」


マジで痛い所をついてくる。このマリヱさん。一喜一憂しても良いじゃない、人間だもの。まあそんなこと言えば計画の主導者が人間らしく振る舞えるほど、人類の未来は明るくないとか言われそうだけど。俺まだ10歳超えた、とかそんくらいだぜ?勘弁してほしいものがあるよ…

「なら良いのだがな。」

マリヱさんが何かを言いたげにこちらを見ている。言いたいことはわかるけど鬱になる。

「……現時点での戦力と兵器では、BETAの巣であるハイヴ攻略は不可能、それを提唱しているのは誰でもない、オレだからね。わかっているさ。
…だからこそ、地上戦力を充足させてまで戦線を膠着状態にしたわけだけど。」

そういくら現在の地上戦力を整えようと、ハイヴ攻略は叶わない

それはパレオロゴス作戦やスワラージ作戦(1992年インド大陸反攻作戦)によって証明されてしまっている。

そもそもこちら側の陣地である、優位な地上戦でさえ敗北を重ねている時点で、ハイヴ内部で勝つのは夢のまた夢。

ハイヴの構造から見ても、地形的優位性は圧倒的にBETA側にあり、その走破性、機動力から見ても勝てるものではないのだ。

なにせハイヴはBETAの巣。地下内部の環境は極悪を極め、生身の人間が長期的に滞在できる場所ではなく(※酸素濃度、悪性ガス、高温多湿)、奇襲がしやすいように偽造横坑までついている。

それに加えて母艦級という、ハイヴ内を縦横無尽に移動でき尚且つ戦艦の主砲にまで耐えられるBETAがいるとなればお手上げ状態。

そんな中、現時点の戦術機では武器弾薬と敵の数の比率からして、大広間まで辿りつくことは不可能だろう。


ならば有効な策とは?


はっきり言えば現時点で有効な策などない。だからこそ時間を稼ぎ、地上の戦線を硬直状態にしながら、ハイヴ用の兵器を作る時間が必要なのだ。

「しかしだ孝明。今現在、人類が殺しているBETA数はBETAの生産予想数を大きく割り込んだままなのだぞ。
その予想に従えばBETAの個体数は数年後には約400万体を超える計算になる。それがどういうことになるかわからぬ主ではないだろう?」

聞きたくない現実を叩きつけてくれるマリヱさん…

それの意味することは

「BETAの本格的な攻勢、その時期の到来だろ?」


「そういうことだ。」

今現在、各ハイヴのBETA保有数は完全に必要量を超えている。

では、それ以上の数が全体で溜まった場合どうなるか?
その答えは新たな土地を求めることになるだろう。それは生物であれBETAであれ同じことだ。まことに困ったことなんだけど…ね


「もうそろそろ、後方のカシュガル、ウラリスク、ヴェリスク、スルグードの4つのハイヴを中心に、溢れる個体数が激増することになるのは主も知っているのだろう?

その数は少なく見積もっても約40万。これまでの経験から言えば50万を超えるだろう。

これが前線に到達するまでに如何に対策を企てるかだったのではなかったか?初期の戦略目標がだ。」

「うわぁ…それを言わないでよ…考えてる、考えてるさ。

でもホントBETAの物量、生産量が半端じゃないな。敵の生産工場を潰せないのは本当に痛い。困るってもんじゃないよ…」

そして今、BETAの攻勢期が迫ってきているのだ。これを凌がなければ人類の未来はないわけだが…


各ハイヴの生産された規定数以上の個体は、最前線に移動する。

そのことからわかることは…内陸部ハイヴの生産した戦力によって、今の時点の人類と比較した場合、約3倍の戦力が…BETA側で生産されている計算になる。


もちろんこれ全てが戦力として使われているわけではない。資源回収からハイヴ拡大、各地域維持、そして攻勢など、その目的が資源回収である以上、全てが攻勢に使われているわけではない。


が、使うこともできるのがBETAなのだ。どんだけ怖いかわかるだろうか…


これは先の国際計画が全世界に浸透すれば多少改善されるだろうが、敵の倍以上の回復速度は変わらないだろう。

しかも人類は、教育しなきゃ戦力化できない。つまり負け始めたらもう勝敗を変えられないわけだ。こんなんじゃいつまでも戦線は保てないってね。

しかも、それは通常時のことだ。戦力を貯めることでその回復力を見せずに着々と戦力をため続けてきたBETA。

それがあふれ出るのは遅くとも1984年後期。そこから3年はBETAの攻勢時期になる。

その主力が追加兵力50万。



史実の佐渡島ハイヴ、甲21号作戦時の約2倍の戦力がそろい、そのほとんど約30万の戦力が集中運用され、そのまとまった部隊がソ連、欧州、中東と順に打撃を与えていくのが史実である。




これを発見したのは1980年の8月。


BETAの行動データの整理から、欧州陥落の原因がなにであるかを突き止めようとして出てきたのがこの大規模定期便の存在だ。

7~8年に一回ほど余剰戦力を集中運用し、膠着していた戦線を吹き飛ばすための集団だと見られ、史実通りであればまずは北方ソ連を蹂躙してノギンスクハイヴを作り、そのまま逆時計周りに欧州をついたのが1985年ほど。これで西欧の2大巨頭、西ドイツ、フランスが無くなってしまうことになる。

現段階では史実より奮闘している影響でいくらか敵戦力の減少に成功し、BETA側の決行時期はいくらか伸ばしていると予想されているる。

これは人類の、いや光菱の努力の成果というものだろう。

だが、決行時期を延ばしたとしても、結局はハイヴを潰せる手段が無い以上、敵は来る。

それが遅くとも1986年。

敵の規模は先ほど述べた述べ50万のBETA。先進国でも1か月で制圧できるほどの規模だ。

正に圧倒的暴力っ!!!



上記二つの計画と、国連を通じた兵器の大量製造・共同購入は全て、これを耐えるものだったというわけだ。

そのためにも遅くても1986年後期までに、欧州・中東にそれぞれ2000機以上の戦術機とそれ以上の装甲車両。それを支援するための砲撃部隊。そしてそれを持たせる兵站部隊を持つ大組織を作りださなければならない。

その規模は3年で、今の日本帝国総兵力の2倍を作りだせと言われていることに等しく、日米が協力したとしても苦しいというのが本音だ。




「私の戦闘力は53万です。」これを言われた側の境地がわかる。

光が見えたと思っても、それを叩き潰してくるBETA。


しかし、負けが許されない。タイムリミットは長くて2年。これまで以上に頑張らなければいけないが、ミスッたらこれまでの努力が泡となる。





ふぅ…じゃあ他の話に変えて気分を変えなきゃな。






「じゃあ…BETAの方はこれ以上、特別な計画があるわけじゃないから次は、日本のほうだけど…

今現在、アメリカの勢力下に入っている日本は、国際社会で軍事的に成果を出さない限り、真の独立、日米同盟の改定はできるはずもないことはわかるよね。」

「うむ。日本の現状についてか。
輸出産業のほうもアメリカとの小さくない軋轢が発生している今、これ以上の行動は出来ないと聞いている。今でさえFー4のライセンス料を上げるとか脅してくるほどらしいぞ?どうするのだ?」


「そっちのほうは周りから既成事実で埋めていくしかない。

みんな意外に気づいてないけど、国内のアメリカの影響力と海外から見る日本の立場とを比べると、海外や国民からはアメリカの犬と見られがちだが、実際はそうでもないんだ。…ちなみに俺がした国際外交の前の話ね。」

「そうなのか?」

「じゃなきゃ征夷大将軍を大東亜戦争敗戦時に戦犯扱いしてるはずだ。皇帝ではなく、その代行者なのにだ。

それにBETAの日本侵攻時に米国の命令を聞かないなんて出来ねぇさ。

だからこそ、いまだに日本の影響力のある東南アジアと、オーストラリアとの関係を使おうと思ってる。日本とアメリカとの対等な友好国になるためにさ。」


「どういうことだ?」


「ぶっちゃけちゃうと、

オーストラリアに租借の打診をするってわけだ。」




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次元管理電脳より追加報告


中東戦況情報が追加されました。NEW!

《中東戦況》
主人公が来てからの2年間の未来状況変化です。

※アメリカを100とした暫定的数値です。※

京都協定の効果を表示しています。

国連戦術機選定計画・民生自動車量産化計画の効果を含めました。NEW!


〈戦力〉がプラス5ポイント上昇しました。NEW!
「36→29」となる未来が
「36
→31(※2年後、国連による直接的ポイントを抜いた数)
→36(※国連の直接的ポイントを追加した数)」に変化しました。

〈兵站〉がプラス11ポイント上昇しました。NEW!
「27→20」が「27→23→44」に変化しました。

〈資金〉がプラス6ポイント上昇しました。NEW!
「30→19」が「30→22→28」に変化しました。

〈資産・資源〉が18ポイント減少しました。NEW!
「118→63」が「118→93→75」に変化しました。

〈国土〉が2ポイント上昇しました。NEW!
「32→26」が「32→28→30」に変化しました。


・総合的な戦況報告です
「滅亡的」→「敗戦確実」に変化しました。NEW!
※戦略的撤退の成功確立が《絶望的》から《肯定的》に変化しました。※

中東連合は戦力、国力の短期的維持に成功する見込みです。

ユーフラテス川陣地よって敵の攻勢を止めることが成功しています。NEW!

※陣地修復率がBETAによる被害を上回っているため通常のBETAの攻勢なら6年は持ちこたえられると見込まれています。
ですが、BETA側が陣地に対して大規模な地下侵攻の準備を行っており、それに気づいていない人類という状況では、6年も持たないことが予測されます。


以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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筆者です。

話のほうもチートが過ぎると思いますが、温かく見守ってもらうと助かります。そしてなにより設定話が長いッ!!すいません…

各話継ぎ接ぎして約2万字追加して一話作ってみました。

※戦術機のイラスト2枚、pixivにて挙げました。

今回のお話で紹介される機体
国連統合軍 正式採用戦術機 ITSF83 (F-5ベース)グリフォンの2種類です。

ケータイの方並びに感想欄から探すのが面倒と言う方は「pixiv 光菱財閥」または、「光菱財閥」で作品群が見つかると思います。

では次回にて。



[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormnt‐》 第1話  集結 
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/01/04 16:10
1984年 3月7日 ルーマニア社会主義共和国 ドナウ川防衛ライン 
コンスタンツァ

ここは海に面しているからか、空気が塩辛い。

その空気に慣れたのはいつからか、そのような感慨にふけっていた時、その感慨から呼び覚ますように突然俺のノートパソコンが鳴り出した。

まさに幸せな夢から覚まさせるラブコール

ディスプレイに写っているその相手の名前は「光宮 吉弘」
俺の直属の上司の名だ。

ちっ、と舌打ちをしながら解りきっている相手とのテレビ電話を繋ぐ。

「buna dimineata。 で、良い時間ですよね。」

相手からあいさつが飛び込んできた。こちらを信頼しているとは思えない、なにも感情のない目で笑顔を作る上司。

「…そうですね。合っていますよ。そちらの時間は “こんにちは”でよろしかったですよね。」

こんな欧州の最前線、これから消えようとしている国の言葉を知っていることにも驚きつつ、「この天才ならば雑作もないのだろうな」と思いながら返事をしてみる俺。


相手は今、俺の恋しくなってきた母国、日本で飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている大財閥、その若頭だ。


「時差があるというのは、しょうがないにしても面倒なことだよね。

そうは思わないかい?黒野くん、ーーーーいや国連派遣軍所属 黒野 義古 大佐殿 のほうが良かったかな。」

良く覚えているもんだ。俺の下の名まで覚えているとは思っていなかったこともあるし、おれが昇進したことも頭に入れているとは思っていなかった。


俺の名は 黒野 義古 (よしふる)。今年で38歳になる光菱財閥の犬だ。

4年前になる光菱の光霊祭、その疑わしい祭りについて、友人と冗談を言い合っていたらいつの間にか軍に復帰し、そのまま国連軍に出向くことになった不運な中年男性だ。

その時、嘆いたのは言うもでもないだろう。

最近きな臭くなってきた日本の国内事情から、先に出て行ったほうが良いのかな、として大企業光菱に引き抜かれて数年。今度は戦場にまで出ていくことになった。

もちろん38歳にして大佐まで進めていることには感謝している。
給料が上がったからな。だが光菱に忠誠を誓う形で取って付けられたような国連軍の大佐階級に、命の危険性が付随してきたら誰だって嫌がるものだろう。

「良く覚えてくださいましたね、吉弘部長。」

そんな計らいをしてくれた人が目の前にいる。彼が言うには「君は優秀だからこそ選ばれたんだ。それは君の給料にもある通りだろう?」などと言っていた。

確かにありがたかったものだ。給料が高いこともそうだが、俺の妻は日本にいる数少ない移民者、ポーランド人だったからだ。

結婚したときには周りからいろいろ言われたものだし、軍でも省き者にされて、少佐に上がってからも窓際配置なんていつものことだった。




だからと言って、前線配置はないだろう…


「まぁ、あいさつはこのくらいにして、君の部隊は今どんな感じですか?報告書を見てはいますけど、君の口からその雰囲気を聞きたくて。

―――何か補助が必要じゃないかと思ったのもありますが。」

やっぱりそう来たか。最後の言葉が本心なのは言うまでもないだろう。
毎週の報告は欠かしていない。電話で決まる援軍などない。

ということは、つまりはなにかが来ることは決定事項。この電話が鳴った時から解っていたことだ。



―――それが命令か、物か、者かわからないが。

「そうですね。東欧諸国軍との関係は良好ですし、最近の攻勢に対しても うちの連隊は被害はないと言っても良いと思いますから、他の部隊に回して良いと思いますよ、援軍。」

もはや決定事項であろうことは予想がついている。だが抵抗ぐらいはして良いだろう。それぐらいしかできないのだから。

そもそも俺がいるのはここ、コンスタンツァ軍港という場所からして日本人がいて良い所ではない。

日本に閉じこもりがちなことからすれば、驚くべき方向転換であり、妻も「極東のニホンと聞いたらサムライがいてカタナを振り回していると思っていた」と言っているほど欧州の田舎であれば名前ぐらいしか知らない国、日本。

妻が言っていることも間違ってはいないのだが、それは今や戦術機が行っていることでサムライは操縦しているだけだ。こう考えるとなんかおかしい気がするが…今はいい。

そんな日本が海外に乗りだすことに方針を大転換して2年近く、それは対BETA前線において日本人が見られることからもうかがえる。


その一つが黒海に面している欧州東部戦線、その重要な役割をこなすコンスタンツァ軍港だ。

そこは東側陣営が集う場所、10年以上前はソ連を筆頭にあのアメリカと対立し、世界に新しい主義を広げようとした陣営の巣窟。

それらが戦う東欧戦線において、後方の重要な働きをしている基地がここ、コンスタンツァ軍港であることからも、普通に考えれば資本主義である光菱がいて良い所では決してなく、ここにいる人間は書類上はここに存在しないことになっている。


「う~ん、そうですか、いらないですか。援軍。すっごい強力なんだですけどねぇ~」

ジト目でこっちを見てくる上司。勘弁してほしい。

まぁ…本当のところをいうと、援軍はほしいというのが本心だ。

日々激化する防衛線。モルドバ、ウクライナから撤退して2年、最前線の基地を除いてほとんどの軍機能をルーマニア内に移した東欧はルーマニアに流れるバルト川、それを活かした防衛を毎日のように繰り広げている。

近隣諸国の軍は常に物資不足に人材不足。あるとしたら死骸だけ、といったもんだ。

そんなところに光菱に関係する部隊が派遣されて1年。最初に使っていた輸出用F-4の半分はすでになく、一度だけだがMiG21バラライカを使っての実戦まで経験しているほど、混迷とした場所である、ここ欧州東部戦線。


しかし、回される援軍というのが一癖も二癖もある点が頂けない。

なんせ、日本帝国軍の派遣部隊において各戦線に回される正規部隊の量は最初から限られ、それ以上にここに日本人はいてはいけないことになっている。
 
そんなことからも、この援軍、純粋な軍であるはずがないからだ。



「欧州西部方面派遣部隊のほうも、中東方面派遣部隊、インド方面派遣部隊のほうも援軍は派遣しているんだけど、本当のことを言うとアメリカの目があるので、上手く実験できてないんだよね~。

だから君のところぐらいしか派遣できるところないんで、もう増援は決定事項。OK?」

もはや、相手側からぶっちゃけた。

光菱が企業である点からも利益を追求することはしょうがないだろう。だがしかし、前線で踏ん張っている者が聞いたらどう思うだろうか…

―――それを嫌味を覆すほどの兵器がここに運び込まれていることを除いてもだ。


「…わかりました。その増援…なんですが、いつほどの到着になるのでしょうか? というよりその"モノ"とやらは?」

聞きたくない、聞きたくないが、聞かなければなるまい。どうせろくでもないものでもだ。


「そうですね。コンゴ民主共和国を経由した国際義勇軍…とした日本の移民兵集団と物資、それに隠れての試験部隊です。

移民兵集団は今はコンゴ国籍ですけど、あと何年かしたら部隊のほとんどと家族が日本国籍を取得する、不思議な部隊です。今のあなたが指揮する部隊と同じくね。」

そんな軽く言ってくれているが、部隊全体を運用する側になってほしい。

資源を持ちながら内乱が絶えないことで最貧国の一つにまで数えられる、コンゴ民主共和国。

近年になってモブツ大統領が暗殺され、モブツ政権をひっくり返して独裁反共国家ザイール共和国から国名を変更した新興国家だ。

反共であったことから、CIAとの関係が強かったモブツ、そのモブツ大統領が暗殺されてからアメリカからの圧力が強くになり、未だに最貧国からの脱出が叶わないそんな国であり、ルーマニアとの国交と資源があるから光菱が働きかけることにした、そんな国だ。

そんな国に移民しなければならない者達としたらそれは、勝ち組の属するものではないだろう。

そんなところから、日本への再移民とコンゴ自体への関与、どれだけ光菱の社員が働いたかはわからない。


しかし、今でさえ国連軍としているこの部隊と、別々に行動しているはずの友好国軍、ばらばらの外国人国連軍として将来日本人となる部隊、それらを隠れながら一個の連合軍として運用する、その辛さを知らないのだろうか?


今いる俺達日本人のほとんどは、日本にいることになっているのにだ。

国連軍として偽造された隊証、中国人、朝鮮人から華人にまで存在自体が偽装された者たち。

それは日本帝国軍の中で光菱をはじめとする企業に引き抜かれ、国連軍としては元より、南米や地方に長期出張していることになっており、日本帝国軍の者でもどこにいるかが特定できないように偽装されている。

そんな存在しない部隊《Nameless Army》



それを形作るのに国の諜報組織が関与していることは言うまでもないが、現場でさえ偽造する辛さがあるのだ。




それに加えてまた派兵?勘弁してほしい。

「大丈夫ですよ。ルーマニアのセクリタテアのほうには協力してくれるよう内諾は頂いていますので、東欧の前線にアメリカ人がいるはずありません。」

それ自体はわかる。この東欧戦線では東側陣営に味方する国家の人間しかおらず、ここに日本がいることはずいぶん前から外交段階から計画されなければ俺達がここにいるはずもない。

アメリカと対等な関係を作るためのものらしいが、そこまですることが必要なのかと正直思うところだが、なにかあるのかもしれない。

それにココが崩れた時、欧州全域が瓦解することは西側先進国陣営も含め、世界が解っている。だからこそここに国連軍やアフリカ連合も支援している。

だが、なぜか西側諸国は政治的、戦力的な問題から戦力の提供を拒否している。

東欧側から打診していないこともあるが、どちらかが歩み寄りを見せなけらばならないのに、のんきなことだ。

そんなことだから日本の非正規部隊が重要な戦力になっているのだが。



なにせ、西の東西ドイツ国境線上にある西欧戦線がアメリカ、日本の正規部隊が活躍する西側陣営の協力の証とするならば、

ここ東欧戦線はソ連に見捨てられた東欧諸国と、京都協定がなければアメリカにすり潰されていた世界の少数側の陣営が集う、国の命運をかける死に物狂いの戦線だからだ。

それがここ、ルーマニア、バルト川防衛ラインの内情であり、その内情を悟られないよう、ルーマニアの孤児院出身で固められた凶団・秘密警察セクリタリアが日々監視してくれているありがたい土地柄となっている。

「…それは財閥にとっては、ありがたいことですね。こちらとしては最近の監視がゆるくなってきたことからも予想は出来ていましたが。

やっと、東欧州社会主義同盟、結成の助けが生きてきたのでしょうか。」

《東欧州社会主義同盟》

今や東ドイツのほとんどが無くなり、後方のユーゴスラビアに軍機能を、政府機能を海外に移住し始めている東欧諸国。それを盟主がいない状態で束ねようとしていた悲しい国家群のことだ。

今や、盟主たるソ連はウラル山脈の奥の奥に追いやられ、ここ欧州のプレゼンス能力は地に落ちた。そんな中で引っ張る国として名が上がる東ドイツ、ルーマニア、ポーランドは国土を蹂躙され、次のユーゴスラビアは自身が多民族国家と言うことで国内でも不和が目立つ。

そこで、光菱は裏で手をまわし同盟を形成させ、名実ともに《東欧州社会主義同盟》となって協力することが現実化したのが1982年の終わりごろ。

それ以前から欧州東側各国が真の意味で協力できるよう、東ドイツの精鋭部隊少数による東側諸国に対する教導を、未だに後方に属するユーゴスラビアで行われるよう働きかけ、そこにソ連の字は無くなるように指示してきた。

実体はそれに隠れて、使い物にならないほど部隊を減じた前線国家部隊を再編させるためのものであり、後方で使える部隊を続々と製造して前線に送りだしているだけではあるが、国家連合と言う意識が根付いたことは後に非常に大きな結果を残している。

まぁ、後方での訓練が可能になったことは大きいことだが、良くも日本が東側陣営に協力しようと考えたものだ。ばれたらどうなるか考えなかったのだろうか。

「そうなりますね。ここらへんの資源はもちろん、文化資産も価値が高い。いろいろと使い道があるということで自主的に協力してもらったわけですよ。」

良く言う。最近、東同盟軍が使っている機体、外見だけ変えたMIG21が多いと思ったんだ。どう見たってあれ、形式番号変えただけのほとんど日本で製造したF-4だろ。搭載しているOSだって東欧製にしては性能が良すぎるし。

ましてや最近になって続々と配備されるようになった国際計画の…え~とGG21。正式にはグリフォン計画によって改修されたG-MIG21にしたってそんな早く配備されるなど、国力を減じている東欧が出来るわけがない。


輸送面にしたってトルコがボスポラス海峡をはさんでいる状況に陥って、早1か月。

黒海に面しているここ、コンスタンツァへの海上輸送路でそんな危険な海上輸送を行える国は少ないはずだ。どこからその船が来た事やら。それが東欧戦線、バルト川防衛ラインを支える物資としたら尚更おかしい。


いつからここまでの闇販路を拓けたんだ?あの財閥おかしすぎるだろ?やっぱり孝明様は神様になったって話、本当なのか?


ーーーいやいや、ないない。神(笑)なんているはずがない。光菱内では完全な独裁体制、国内でもそのシンパが多い光菱には疑問を持つが、神など非科学的、どうせ政治的なパフォーマンスの一つだろう。


「それはとてもありがたいことですね。で、こちらに回されるモノとは、どのようなもので?

できれば、それより先に今後の東欧との繋がりも考えて、武器弾薬を多めに消費したいのですが。」

つまりは『上公認の横流し』

それの許可が欲しいわけだ。

それがここの役割であり、そのための俺である。


「……まぁ良いでしょう。欧州全体を待たせることを考えての東欧への日本進出、日々弱体化する東欧を救うための進出ですからね。せいぜい計画的にばら撒いてください。」


日本が派遣している各戦線にはそれぞれに役割がある。

西欧戦線では日本帝国正規部隊が派遣され、それらに現実を教えるための教練場兼日本の新しい国家の在り方を見せつける、1番の表舞台としての役割。


北欧戦線ではスカンディナビア諸国で、将来発生するであろう極東アジア、極寒の大地での戦訓を得るための実戦経験、裏では優秀な人員を移民させるための戦場。

中東・インド戦線では、石油は元より民間戦闘車等安い兵器を売り込むための戦場。


そして今回俺が派遣されている東欧戦線は、表ではできないことをするための最も暗い戦場であり、アメリカの目がない状況を作りだし、日本の兵器を世界に売り出すための実験場兼見本市だ。

上記3か所の戦場には、日本帝国の正規部隊が地獄の中で前線国家によって甘やかされながら鍛えられている。

1番の目的は日本が戦争のできる国家になるためらしい。70年代後期からBETAに対する危機感によって増加した下士官、尉官を前線で戦場を経験してもらっているという。

何よりも軍隊を強化するにあたって必要になる経験、それを前線国家にお客さんとされながら、または国連軍の下で将来エリート街道に行く者を含めて鍛えている。

その数は約8万。海軍も陸軍も合わせてのこの人数は数字だけ見ればとんでもない数ではある。

だが配置されている場所から見ても、国内の部隊を短い期間で廻しながら運用されていることからして死傷者の数は異常に少ない。

なにせ前線国家からすれば戦場での平和ボケした味方より、甘やかせつつ、後方からの支援を多くもらったほうが助かるからだ。

そんなことからして実際に「増援」となっているのは国連軍、その中にいる将来日本に移民する者たちだ。

家族の安全と一般的な水準の生活を約束し、前線国家の水準以上の装備を持ち、前線国家よりかは安全な戦場。しかし後方の日本正規軍よりかは厳しい戦場を与えられ死んでいく者が多い部隊。それが前線のほしい戦士達だ。

そしてその戦士達を率いていくのは俺を含んだ日本軍の中脛に傷を持つ者達で、外国での傭兵部隊に属していた者もいる。それら死んでも良い者がもっとも多く集うのがここ、東欧戦線というわけだ。はぁ…



そんな役割からも、ここにいる部隊全てが秘密警察の庇護の元、隠れて試験、いや戦争をしているのである。

光菱の試験部隊は元より、東側に協力的な国家から西側陣営でもあるアフリカ、東南アジア、南米の軍産官複合体からの出向組が偶然と改ざんされて集い、それらの試験が兵器の見本市のように日々使用されているのが、ここルーマニアの状況だ。

バルト川とカルパティア山脈によって戦力を有効に使うことが出来ている東欧戦線。

それでも東欧諸国が形作る最前線は、悲劇的な状況の中にある。

それを持たせるために、妻を差し出す借金まみれの夫、それのように安全な実戦を提供する東欧国家には頭が下がる思いではある。

だが、こちらはこの実戦によって日本製の兵器の良さを『宣伝』するチャンスなのだ。

確かにこの日本派遣部隊がここを持たせるために派遣されたことは嘘ではない。

しかし本質はここで各国との横の繋がりを形作り、依然日本の兵器輸出が好調とは言えない状態を改善させるためのものであり、そのために湯水のように武器弾薬を消費してもらう、それがここであるわけだ。



「しかし、こちらから要求しておきながらなんですが、ここまでの物資、光菱は赤字にはならないのでしょうか?」

それは、ここに派遣されてから日に日に大きくなってきた疑問だ。


これだけの物資の横流し、どれだけの儲けがあれば出来るのだろうか。そんな疑問が浮かぶほどの物が運ばれてくる。

光菱が大企業であるのは違いない。日本が経済大国であることは変わりない。

だが各戦線に帝国軍として旅団以上、西欧など増強師団ほどの規模になる戦力。それに加えて試験部隊が各地で活躍し、それ以上の物資が生産され、今なお使用されている。

それに加えて、ここに来ている者は日本帝国所属ではなく、いろいろと改ざんされて派遣されている東欧戦線。

そこに日本帝国の指揮権は存在せず、光菱財閥と繋がるものはないはずなのだが実際は、西欧の正規部隊と同規模の物資が消費されていることを俺は知っている。



その純粋な支援物資を買えるほどの資産が、各前線国家にあるとは到底思えない。

ということは、どこかが赤字を被っていることになり、それの想像はつく。


「まぁ、赤字であることは変わりないですよ。光菱重工の赤字もこれを含んでいることもですし

ですが、財閥全体では黒字を維持しているんですよ?

―――クックックッ…疑問符が顔に浮かんでいますね。まぁ正直に言いましょう。

言ってしまえば販路、その構築による資金とその販路自体を使っているわけです。」



それが『販路』だ。

欧州西側諸国の企業が製造した兵器や贅沢品、中国ソ連が製造する安価な重兵器を、後方支援国家へ売り出す販路を作り出し、その代わりとして、前線国家同士の貿易、後方支援国家からの物資と退避地等がを割り当てられている現代。

この取引の形をスムーズに作るのには普通にすればどれだけの金と血が流れるのだろうか。

普通に考えればアメリカが許すはずもなく、国際常識から外れた貿易網からして、許されてないはずの裏の貿易網。

それを構築出来ることは、以前までの日本の外交力、進出する意志からして夢物語のようなものである。

それに加えて欧州は依然、最前線であり日本やアメリカの支援があったとして、貸し出されているだけの物資の数には限度と制限が付きまとう。

ならばそれでは足らない物資を買えるだけの輸出を生み出さなければならず、それは"汚いもの"が含まれ、アメリカが監視できる依然のものでは行えない。

それができるとしたら一つしかないだろう。




「まさかネット、なんですか?」


「そのとおり。」

その販路の中心となっているのが『ネット』

その事実を一言で肯定されてしまったが、それが真実であるととんでもないことである。



※これより先の情報は後催眠プログラムを受けたものにしか知らされず、自動的にかかってしまう情報だから注意してほしい。※


国連と光菱が生み出したネット販路。それは日々世界に広まっていることは御存じだろう。

世界をネットによってダイレクトに繋げることで、制限が成されながらも前線国家の苦しさを知った幸せな国は支援に動き、

世界の貿易量を格段に増加、地球全体の経済活動を促進され、

通信網が構築できたところならば、世界のどこかれでも欲しいところに繋げ、欲しいものを輸入することが出来るネット。

それは、上司からすればまだ幼稚なものに写るらしいのだが、国連を通じて国際化されたネット網は、国籍問わず使うことが可能な新たな世界だ。

始めて使った時の便利さ、有料だが閲覧できるテレビや小説の面白さ、それのおどろきは今でも覚えている。それが海外で広がっている事実も日本の躍進の手助けになっていることも知っている。




しかし、国家用に改ざんされた販路が存在する。そう噂が光菱の中でささやかれていることを知ったのはいつだっただろうか。

それが 『実在する』


上司の言うことをそのまま説明するならば、日本は元より、あらゆる国家、企業の名を借り、あらゆる物の名に被せられた"それ"は、今の戦況を形作る重要な源泉となっているらしい。

公然とされる密貿易、それの利用はアメリカの派閥も入っているらしく、各国間の貿易量は以前より格段に上がっているのはそれも入るから、ということだ。

各国が決められた物を大量製造、産出し、量産効果を最大にすることで低価で物を生み出せる今。

それをネットを使って色々な販路で、色々なレッテルを張られて流されている現状を利用することで、それらが公然と行き先を変更され両者の合意で別の所に運ばれている、と言っているのだ。

つまりは各国がネットを使って日々繰り広げている貿易、その一部に対し、

普通であれば関税として金が加増されるところなのだが、その分を物を増やさせることで、増加分を前線諸国への無償支援品として進呈させ。

それ以外にも全世界から日々前線諸国へと送られる支援物資を、国連が管理し平等に回すところを、国連内のシンパを使って光菱一財閥が操作しているということを意味する。



世界から集められる膨大な支援物資と関税物資。その量は中堅国の年間総生産量を上回り、それを財閥はネット環境を作るだけで『操作する権利』を得たということだ。

光菱がどれだけ世界のために動き無私の精神で操作しているとしても、おの手綱を握るだけで莫大な力を持つと言うことになる。

もちろん我がままに動かすことなどできはしないだろうが、その比率を数%変化させていくことなど雑作もないことであり、

それに日本と言う大国、その中で最大組織である光菱と、協力企業が形成するグループによる膨大な支援が組み合わせることで、前線諸国は光菱が強引に推し進めている各種計画に乗っていかなければならざるおえない。

もちろん相手にも好影響を与えるための計画であることは計画の内部を見ればわかるが、誰にしたって自分のためになるとしてもいきなり現れた他人からの助言を聞けるほど“良い人”ではない。

それを“良い人”にさせる力を持つというこのネット。他にも隠された何かに使われているのだろうが、どれだけ凄まじいことなのかお分かり頂けただろうか。


「密貿易の利益もあるますけど、これに《国連のネット使用料》、《京都協定に織り込まれた国連税》、《ネット販売での広告量》、 あらゆるネット販売を効率化することで輸送料金を表の値札より下げられたこと等、 ネットを使った商売には国連を通じて全て関わっていますからね。いろいろ使ってお金を稼いだり、影響を及ぼすことも可能です。」


ネット販売が日々増加しているとはいえ、まだ3年、未だ世界の販路の一部である。

そう見られていたが、国家間の政府公認の密貿易、国連を仲介する支援物資のほとんどがネットを使っていることを含めればそれは膨大な量となるだろう。

それに加えて、国連の収益が年々増加し、以前までの販路と比べてコストが安くなる分に上乗せされた国連税は、《各国前線への支援物資》、今も日々建造されている《国連軍基地の費用》に回されていることを合わせれば、国連はアメリカからの分担金量を遥かに凌ぐ資金を自分で稼ぎだしていることになる。

それらの一部が、光菱の思い通り?どこの悪の組織だ、それは?


「詐欺みたいなものですね。ここまで光菱が儲けてしまって良いのでしょうか?」

それが心配になってくる。なにせ俺の家族を守る一企業だ。そう、一企業でこれはあきらかにオカシイ。


「もちろん、世界の皆さまが買っていただいたお金を使って、国連を通じて貿易をしていますから、純粋な利益にはなっていません。

現に、光菱単体にお金が入っているわけではなく、国連からの依頼で作る無償支援しているだけで、その発注先が光菱を始め、各国に平等に割り振られています。

まぁ、表に出ない領収書がでてくるかも知れませんし、その販路が誤って光菱が活躍する戦場で使われていたりしますが、国連の判子が押されてますし、犯罪は犯していませんよ。」

後半がブラックすぎる。

これを聞いてもあの総裁が初めにネットを広げた理由が分かる。

そのインフラを形作るための費用と合わせて、薄い利益率にしているとしても、日々技術革新していること、その薄い網を広げていることも合わせて光菱に入ってくる利益は膨大なものとなっている。

それに加えて、貿易網と情報網としての役割が生み出されてきた『ネット』の強力な力に対して 

それを国連と合わせているとしても光菱という一企業が握っていることは、アメリカも危惧し始めるほどの自体にまでなっている。

しかし今、現在は国連組織によって正常に運営されており、公平に公正に行われていることはアメリカの調査報告書からもわかっているらしい。

しかし、その正しいとされた何百分の1を切るわずかな情報が変えられていることを世界は知らない。

―――なぜ、アメリカの調査報告書の中身を知っているかがそれを
物語っている。

つまりはそういうことだ。作ったものがルールを作る。


頂上的な技術によって形作られたその網は、既存技術にまぎれることで世界に広がり真の意味で使用できるのは創設者だけだ。


そう目の前の人物が言っていたことを俺は忘れないだろう。人にしゃべることもできないが。


「またまた、話が変な方向にいってしまいましたね。そうそう、増援の中見でしったけ。」

そうそう、その話だ。そのまま話が終わればよかったんだが、今考えると秘密を共有させたかったのかもしれない。やばい、泥沼だ。

「そうですね…今度は前回と同じ戦術機の新兵器実験とかですか、やっぱり。」

ここは以前も言ったように各国が集う実験場だ。ここで試験された兵器は2年間でとんでもない量になっており、近々配備される戦術機がここに運び込まれるという噂もある。

「う~ん、そうですね、―――どうやら到着したようですよ。」


「へっ?」

そう言いながら、振り返ってみるのとドアが開くのが同時だった。

どうやら、部下が勝手に通したらしい。あとでゲンコツだなこりゃ。

「失礼します。京楽 春水 国連軍少佐 本日付をもって国連東欧派遣軍 コンスタンツァ義勇軍統合基地に赴任致しました。」

そこにはこじゃれた雰囲気の中年男性がいた。

ただ見ただけからするとエリートとは感じられず、軽すぎる雰囲気からして本土ではさぼり癖でもついた本道を外れた人間の空気を感じる。

しかし、ここに派遣される日本人がただの人間であるはずない。いろいろと問題を抱えていようが国によって使える人間でなければここにはいない。

「赴任ごくろう。ここの指令業務を兼務している黒野 義古 大佐だ。堅苦しいのは本土だけで十分だ。楽にしてもらってかまわない。

―――そちらのほうが貴君にあっているだろう?」

「やっぱ、わかっちゃいます?いや~久しぶりに敬礼したんで、まちがってないか緊張しちゃって、しちゃって。


―――おや~?吉弘さんじゃないですか。今説明中で?」

と、パソコンに写されていた俺の上司と、目の前のこじゃれた雰囲気の中年男性が話し始める。なんか軽い雰囲気を感じるな。おれもそっちのほうが楽で良いけど。


「ちょうど良かったです、京楽さん。今この黒野さんに増援部隊をご説明しようと思っていたところなんで、君の口から教えてあげてくれませんか?

君の率いる『試験戦術機甲大隊』についてね。」

いくら少佐と言えど、勝手に上官の部屋に入ることは許されない。
ということは確実に目の前の上司が仕組んだことに違いない。

ホント、意味のないいたずらが好きな人だな。

つうか、試験で戦術機甲で大隊?こっちは一応連隊だぞ?また部隊が増えるのか?

しかもなんだ、移民兵もつくからこれ以上になるのか?


「いやいや、正式には《第114独立偵察戦術機甲増強中隊》ですって。もちろん偽造なんですけどね。移民兵は国際義勇軍として登録されてますし。


って大佐はどこまで知っているんですかね?」


「そうですね。まぁ私が説明したほうが速そうなので、概要だけ私が話しちゃいましょう。

黒野大佐、急で申し訳ないのですが指揮下の実験部隊である第2・第3中隊を本土に返す手はずになっています。

その代わりに京楽少佐たちの大隊と後から来る部隊も合わせて、実際は6個戦術機甲中隊、2個大隊規模が増援として到着する予定になっています。


これを加えることで、これから本格的に動いてもらいます。」

見せかけの部隊として中隊規模を派遣し、それに付随して技術士官やさまざまな理由をつけて人を運び、それが指揮下の兵員に組み込まれ、実際の戦闘では中隊が大隊、大隊が連隊規模になっていることはここでは不思議ではない。


現に、本来はどこの戦場でもいる東アジア国籍の国連軍、5個中隊が東欧各国の別々の場所にいることになっているが、今ここにいるのは"そう登録された"部隊がいつの間にか"増えて"集結している。

そんなことからも各国の国籍に偽装された外人部隊も配下に加えることで、以前まで過小だが"連隊"と呼ばれていたのだ。

その"連隊"だった部隊だが、今では戦術機甲、機甲、砲兵、機械化歩兵、後方支援部隊を配下に加えた、所謂、《諸兵科混成部隊》にまで"完成"しており、目の前の京楽少佐達も加えると純粋な師団、最小だが戦略単位の戦力にまでなっている。

ということはだ。

「そういうことですので、今回追加した戦力と友好国の義勇軍などと共同しますと軍団規模の増援で動くことになります。

とても素晴らしいことですね。人類の共存を形為しているようで、この形がやがて人類に広がればと思いますが…

まぁ、実際のところ、共同に関しては後日調整していただきますので後で説明させてもらいますが、その準備が整うまで…各地に割り振られると思いますので御覚悟しておいてくださいね。」

実際にこんな非正規部隊の寄せ集め集団が世界各地に広がったら怖すぎるだろうと思うのは気のせいではないはずだが…

しっかし上司は嫌な笑顔をするものだ。今回の話とその笑顔から推測するとだ。

《もはやここは実験場ではなく、俺らにとっての戦場になる》ということを意味しているのを想像するのは指して難しいことではなくそれから避けられないということもそれ以上に想像できる。

はぁ~ さよなら休日、ようこそ地獄。ということだ。


「今までの試験、実験を前提としたものから、これから純粋な戦力として東欧で暴れまわってもらいます。良かったですね。

―――これで嫌な目で見られることも無くなりますよ?」

嫌だ、嫌だ、嫌だ。さらに追加でなにがある?なにがくる?それはもはやあれしかないだろう。


「いや~ってことはそろそろBETAの攻勢が始まるわけですか。

僕知らなかったな~中東にいた時より辛い状況になりそうだ。

さあ、頑張っていきましょうかね。黒野大佐。」

俺がわかりたくなかった事実を軽く言ってくれる横の少佐。

コイツのことマジできらいになりそうだ。だって今、目が笑っていなかったし。

以前からここに派遣されている戦力が実験部隊としても、戦力が過剰になっていることは指摘されていたことだが…俺が部隊長の時にそのベールが脱ぐことはないだろう…俺の「見たくないよ」と言う声は聞き届けられなかったのだろうか?

「具体的な話をさせてもらいますと、今日まで膠着状態となっていたここ東欧戦線ですが、変化する兆しが見られています。

情報源は3日前の国連統括偵察衛星群。ソ連に向かっていたBETAの個体群の何割かがウラル山脈を越える動きを見せており、ここ欧州に向かって来る見込みと判断されました。

今でさえバルト川陣地の防衛戦力が当初より20%近く低下していますから、BETAの攻勢がこちらより速く強大だった場合、高い確率で戦線が崩壊するでしょう。

ですが、それをどうにかするのがあなた達の役目です。

他にも各国への支援など国連と協力して光菱が行っておりますし、ルーマニアの資源回収やいろいろとやる時間が必要なことはあるのは真実ですが、実際の戦力となるのはあなた達です。


両者とも以前にも言いましたが、光菱はここが今後の分かれ目の地となると予想しており、ここがこちらの予想を超えた場合、『欧州は落ちることになる』
そうならないためにもこれから両者ともこれまで以上に働いてもらうことになります。


そのことからも、これから辛い選択や凄惨な戦場にたってもらいますが、これまで以上に支援はさせてもらいます。 両者ともよろしいですか?」

「「了解しました!!」」

それしか言うことはできないだろうに。というツッコミは置いといてだ。

なんだかんだ言って、ここで部下を見殺しにする理由は光菱にはないはずだ。

戦場の空気を感じさせたいことがこの遠征の本質である以上、俺が死ぬ事態にまではならないだろう…という予想はある…と信じたい。

はぁ、本土に帰れるのは何時になることか。


「よろしい。ではこれから動いてもらいますが、最初は部隊の編成をしっかりとやってもらいますので、そちらにお任せします。

後から指示が出しますが、まずはそこからですね。仲良くやって下さいよ。」

「うなだれていてもしかたないなぁ。まあ~為るように為るってね。
じゃ、よろしくこれからお願いしますよ、大佐殿。」

と言いながら握手を申し出る、少佐。

仲良くか…悪い人間ではなさそうだし、前線の指揮が任してもよさそうな実力を持っていることはうかがえる。

そんでもって一度諦めてしまえば、逃げられない戦場がまってることからしても俺の部下として戦友になることは避けれそうにない。のは今の現状が告げている。


ならば、今聞いた「地獄からの手紙」と向き合うためにしなければならない儀式"あいさつ"があるだろう。










「ようこそ、少佐。我が国連東欧派遣隊 幻影旅団《‐Ghost brigade‐》へ」

"地獄"へ引きずる魔の手と共に。













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筆者です。急遽、外伝を書くことを決意しました。本編のほうではずいぶん先まで戦場が出てこないので、その分の戦場状況、兵士の光菱への感情が伝えるためのものですね。未だに戦闘シーンがないですが…

キャラクターは新しく覚えて戴くのも面倒だろうと思いますので、ハンターハンターの幻影旅団、ブリーチの護廷13隊のキャラを出していこうと思います。
もちろん違う世界の同じ存在ということで、召喚したわけでもなく、特殊能力は一切ありませんwww

では次回にて。

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[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第2話  東欧 
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/01/04 16:11
pixivにてイラストを挙げました。

題名は「似合ってるよっ!えりこさん」…どっかの小説みたいな名前ですが恵理呼さんを描いてみました。

「光菱財閥 イラスト」で検索していただければ自分の作品群が出ると思いますのでそこから探してもらった方が早いと思います。



では外伝・本編のほうをどうぞ



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1984年7月5日 ルーマニア社会主義共和国 トゥルチャ県 ドナウデルタ防衛陣地


《ドナウ軍集団司令部より国連軍貴下の部隊へ通達。

ミンスクハイヴからの「師団規模」の梯団を確認。20分後に第1次防衛ラインに接触する模様。貴下の部隊はただちに増援部隊としての出動を要請する。以上》


「やっと動いたか。」
連絡と同時に周された、敵の侵攻状況と予想位置のデータを見ながら一人愚痴る。

こちら側の偵察衛星情報にのせて警告をしたのが3時間前。

以前よりかはこちらを頼ってくれるようになった東欧州社会主義同盟軍、通称《東欧同盟軍》だが事前に要請することを怠る、いや嫌がる習性があるのはいただけない。


が旅団がやるべきことは変わらない。

――相手がどうであろうと。

「ゴースト01より各中隊長に告ぐ。ポイントB-14からH-17の範囲に敵BETAが進行中。

ブリーフィングで予想した通り、いつもの"火消し"だ。

広範囲に被害が広がる可能性を考慮して、ただちに直行。編隊飛行のまま大隊ごとに編成次第、縦型複参陣《トレイル・スリ―》にて予測地域まで移動する。


――ということで旅団の諸君。いつも通り行って帰ってくるとしようか。」


既に支援要請が出されている陣地に対して、移動中である我が幻影旅団。

この部隊の秀いでいている情報収集能力…光菱から回される情報によって動く出したのは10分前。

BETAの血によって赤く変色しだしたドナウ川と遠くに見える黒海沿いを移動しながら、 その直轄貴下の第一、第二、第三戦術機甲大隊に指令を下したのは、すでに師団規模となっている幻影旅団。その団長 黒野大佐である。

つまりは俺だ。

「「「「「「「「了解。」」」」」」」」

そこで返事を返してくれたのは連隊の各中隊長6名と俺が率いる第1大隊副隊長シャルナーク中尉と第2、第3大隊の各大隊長 京楽少佐と浮竹少佐の3名の計9名だ。

「ではシャルナーク中尉、両少佐、しばらく司令部との通信に洒落込むので部隊の運用を任せるよ。」

この旅団は非正規部隊として、表向き戦場でばらばらに動いている“はず”の部隊で構成されているため、通信一つとってもめんどくさい手順を踏まなければならず、必然的に部隊の運用は大隊長任せになりがちだ。

と、そこで京楽少佐がどこか飲み屋に行くような雰囲気で返事を返してくる。

「了~解。第2と第3は浮竹とでやっときますんで、司令部の彼女と仲良くね~大佐。」

…いくら非正規とはいえ、上官にこの態度。

本土ならば即刻罰せられるのだが、この京楽少佐はなぜか許してしまう気風があるのはなぜだろう。

「こら!京楽。大佐に失礼だろ!」
そこでツッコミを入れてくれたのが浮竹少佐、第3大隊の隊長だ。こんな戦場に似つかわしくないほどの優等生かつ人気者であり、京楽少佐の部隊の3日後に来た補充部隊の隊長だ。

個人的な評価を言わせてもらえば、同じクラスなら真っ先に友達にしておきたいタイプだな。

「いやだって、お相手はあのルーマニア美人でしょ?こんな戦場でずるいんじゃないかなぁって浮竹も思うんじゃない?」

おい…

「非正規とは言え、列記とした上官だぞ。その言葉使いはまずいと言っているんだ!」
「あれ?美人ってところは否定はしないんだねぇ~」

「京楽!!」

「京楽隊長!!浮竹少佐の言うとおり言葉づかいくらい、しっかりして下さい!!」
「七緒ちゃん…くらいって…」

そこでこの回線に入りこんできたのは第2大隊副隊長の 伊勢 七緒中尉だ。

この回線は部隊内指揮官用リンクのため大隊副隊長・中隊長以上でなければ使えないチャンネルであり、通常時では発言は許可制だ。さては盗み聞きしていたな。

「昔から京楽は周りの女性にも迷惑をかけるわ、上官への敬意が足りないわで問題を起こす…」

「そうなんです…。こっちに来てからだって仕事中に美人の女性士官に声かけて、どっかいってしまったことが何度あったか」

「なん…だとっ!?」

「えっと…ごめんね?」

「「反省しているのか!!(ですか!!)」」

…盗み聞きなんてことしなければならないのは、あの京楽少佐の御守をしなければいけないからなんだけどね。

…完全に俺を無視していることにはちょっと言いたいことがあるけど。

「えっと…じゃあ部隊は任せた。」
「えっ?大佐?すすすいませn「大佐、任せて~」「京楽!!」「京楽隊長!!」

ふぅ…
仲が良いな…あれでも機転が利くし、上下とも問題を起こすようなことはないから安心しているのだが女性問題だけは起さないでほしい。あとなぜか俺の影が薄い。


…まぁ、そんなことより両少佐だ。
本来この2名はこの戦場にいるべきではないエリート中のエリートである。

あの山本陸軍退役大将(何歳なのか誰もが知らないという陸軍3大不思議の一つ)の秘蔵っ子らしく、いち早く実戦を経験するためにこの地獄にやってきたらしい…本国にいてもエリート街道まっしぐらなのになんで来たんだ…

「団長、良いですか?」

といきなり声をかけてきたのは俺が直接率いる第1大隊、日本移民兵集団を束ねた多人種部隊の副隊長、シャルナーク中尉だ。

「あぁ、すまない、シャルナーク。なにかな?」
「いやいや、なんか団長沈んでいたから、声かけたほうが良かったかなぁ…って」

「そういう風に聞こえたか?」



「まぁ、嘘なんだけど。実際はウボーとノブナガが先頭をどうするかもめててさ。」

おいっ!!とツッコミいれたいところだが、この第1大隊の中隊長以上のメンバーとは長い付き合いであり、こんな言葉の掛け合いなど日常の一部になっている。

「だろうな。まぁコインでもなんでも決めてくれ。そんなもの隊長が決めるものでもないだろ。」

「…そこは隊長が決めるべきところって突っ込むべきところなんだろうけど…はぁ~ 了解しましたよ大佐殿。大隊はこっちに任せといて。」

といって通信を切る。
未だに移民することを決まってから短いため、部隊での通信は全て翻訳されているため敬語がない。態度からして敬語なんて使わないとは思うが。


そもそも実際に今ここにいる戦力が旅団全てではない。

今現在、部隊を4つに分け、各地に散っている状態である旅団。

砲兵部隊・工兵部隊などは他の激戦区にて活躍しており、今ここにいる一個戦術機甲連隊の他にはもう2個増強大隊がそれぞれ別戦区にて活躍中である。

連隊の運用はこの3人に任せて、あとは司令部への通信いれないとだな。


「こちらは国連軍所属第114連隊 指揮官のゴースト01だ。
ドナウ軍集団司令部、応答願う。」

「こちらドナウ軍集団司令部、ゴースト01どうぞ。」

「定期巡回中だった我が部隊はこれより要請に従い、急行する。
なお、臨時指揮権を持つ第223大隊、第112大隊は即応態勢にて待機、要請については各大隊長に直接願いたい。」

この通信からわかる通り、幻影旅団は普通の軍隊のように運用されているわけではなく、各地区で不足している戦術機甲部隊、つまりは機動防御の一端を任されている形になっている。

そのため師団戦力を持ちながら、連隊規模で各地に分散配置されているわけだ。
まぁ、よそ者の我々に戦線の一部を完全に任せるわけにもいかないというのが相手の本音だろうが。

《了解。貴軍の協力に感謝する。ドナウ軍集団司令部より以上》

相手の声は冷淡な女性の声。

その言葉の中には、提携者として短いながらも感謝の言葉が入っているが、それが軍として表面上であることは言うまでもないだろう。

ここドナウ軍集団は隣のブザウ軍集団と共にバルト川防衛ラインを形成する"同盟"傘下の軍団である。

"同盟"とは東側国家の集団のことであることからも、いかに日本が協力しようとも表向きには仲良くできる組織ではない。

その同盟は今現在、以前のソ連のような機動力を主としての縦深攻撃ドクトリンではなく、東ドイツのような何十もの要塞線による陣地防衛ドクトリンを採用しており、現在だけを見ればそれは成功していると言って良いだろう。


その理由は国連からの支援もあり、同盟が真に協力してあっていることもあるのだが、さらに現実的な理由がある。

BETAの侵攻ルートがばらけたからだ。

本来の歴史通りに進むのであれば、欧州の北部東西ドイツ国境線に集中するはずだったBETAの攻勢。

その一部がこちらのバルト川防衛ライン(ロシアから黒海沿いに東欧へ行くルート)、
アルプス山脈とカルパティア山脈の境にあるモラバ川防衛ライン(ドイツ・チェコからハンガリーへ行くルート)に分散しているのである。

欧州の主攻を務めるミンスクハイヴ(BETAの補給を考えれば一度、ミンスクで補給をしなければならない)から来るBETAに対して、人類は余裕の出てきた東欧陣営とイタリアなどの南欧諸国が強固に防衛した結果、このような戦況となった。


どこかの戦線に敵が集中しだした時に、国連の戦術機甲部隊を中核とした横殴り部隊によって、他の戦線への圧力を低減させ続けた結果でもあり、その成果はこの1年で大きく表されている。

なぜここまで結果が出たのかは色々な組織から、まことしやかな情報にのって議論されているが、こちら側への利点であればハッキリしている。

それはBETAの強さである物量と戦力密集度を半分近くまで下げることに成功しているという点だ。


BETAの犠牲を鑑みない特攻とその速度を維持した大集団には、人類歴史上最高の質を持つ現代の軍隊としても、損耗は必ずしてしまう。

その損耗が限界に達した時に戦線が崩壊するのであり、今現在、欧州は持久戦の形になっている。

その持久戦となった段階で、年間数十万の個体を生産しているBETAに勝てるはずもなく負け続けるしかなかったわけだ。

だが、相手の攻勢が分散し、こちらの許容量内の規模に収まればどうなるだろうか。

戦術の基本理念となる『各個撃破』と『包囲殲滅』は言ってしまえば、相手側の今戦っている戦力を少なくし、こちらの今戦っている戦力を有効に使用できるかの問題であり、これで言えばこちらの戦力は"有効に使えている"。


そして規模が許容量で収まると言うことは、遠距離からの攻撃が可能な人類の軍隊からしたら、損耗度合いが以前より遥かに減少する。

(それを考えれば、以前までは初期に許容量を超え、準備も出来ずに戦力を有効に使えなかったことを意味する。)

もちろん、その戦力を継続的に有効に使用するためには兵站問題も解決していなければ持久戦ではなにもならず、その働きとして大きいのが後方からの支援だろう。


それらの成果があって光菱の悲観的な予想よりも被害も戦力強化も好転しているのである。

「まあ、それも程度問題ではあるけど。…と言ってもこちらに来た当初と見比べたら、ここらへんも大分変わったな」

そうつぶやくほど変化を見せるのはここらへんの防衛陣地群だ。

ルーマニアの至宝と呼ばれたドナウデルタ。そう呼ばれた面影は今は無く、2年前から支援強化により、灰色のコンクリートブロックにBETAの血で汚れた前衛的な芸術陣地と化しているのだ。


こうなったのは先の理由によって時間を得られたことが大きい。

それによって欧州全体として、中欧の3つの防衛ラインにそれぞれ何重もの要塞陣地防衛線を構築して対処できる体制が整いつつあり、攻勢期を凌ぐための強大な防衛線を日々強化しつつ、"定期便"を被害を少なくできるところまで来ているというわけだ。


そしてその3箇所の重要な防衛線の一つ、デルタ川防衛ラインはドナウ川の特徴であるドナウデルタを活かした河川陣地であり、必然的に孤立しがちな各防衛陣地に対して、その特性から戦術機による応援が必要になっている、というわけだ。


そういうことで旅団の主要な戦術機部隊がここにいるのである。



「黒野大佐お時間よろしいでしょうか?」

…あれっ?司令部からいきなり秘匿回線で通信が入ってきた。どうかしたのか?

「こちらは派遣部隊です。ドナウ軍集団司令部の方からの報告を無碍にはできませんよ。」

「この通信の情報はいつも通り残りません。

ですのでいつもどおりで結構ですよ。日本帝国義勇軍 幻影旅団 旅団長 黒野大佐殿」


と先ほどの司令部との通信と比べ、しゃべり方が淡々としたものではなく、帯を崩したような話し方で接してくる。

それがいつも要請をしてくる同盟内の知り合いであっても、20分後に激戦区に急行している今の状態では意外ではある。

が、相手の流儀にのるのも悪くない…か。

「その呼び方はやめてほしいな。ミハエラ・ステレア大尉。君と僕との仲だろう?」

急激にセクハラまがいの会話になっているが気にしないでほしい。

ルーマニア人に対しては、ここに来てから友達になったルーマニア軍人から「極度に仲をよさそうにするのが会話のコツだ」と聞いたのだ。

「…セクハラはやめてください、黒野大佐。国連経由に訴えますよ?」

…どうも対応は間違えたらしい。

ふ~む。あとで尋問が必要なようだ。あの技術中尉っ!!

「と冗談はここまでにして、なにかなステレア大尉。」

「冗談、冗談ですか…いえ、公式ではないのが心苦しいのですが、偵察衛星の情報、軍を代表して感謝致したくご連絡をいれさせていただきました。」

さきほどまでこちらと通信していたあの冷淡な言葉の持ち主とは思えない発言だ。

こんな形の2重連絡も珍しいことではないが、いつもならば先に秘匿回線を開いて、情報を提供してから先のような形だけの通信をする手はずだったのだが…

まぁ、そんなことはどうでも良い。

「いやいや、東欧社会主義同盟を形作るのに力を貸したのが日本、いや光菱なのだから情報を提供するのは当然だよ。

負けてもらって困るのは事実ではあるけど、こちらとしては東欧が早く一致団結してほしいというのが本音かな。」

それが日本の総意でもある。

1983年から《東欧の社会主義国家による対BETA同盟軍》として形作られたのが国家連合軍、「東欧社会主義同盟」

それはソ連からの軍事支援が事実上停止した1980年より議題に上がり始めたもので、各国の利権や勢力争いに揉まれつつも形作られた東欧のEU軍だ。

だがなんと、同盟すること自体を推し進めたのは我らが総帥らしいのだ。

どうやら事前から準備を進めていたらしく、今ある国際協調路線に乗った形で東側の国を巻き込み、同盟を形作る見返りにそれを支援をする体制を構築したらしい。

…それはあり得ない、と思いたいのだが嘘と否定できないところが光菱のすごいところだ。


「…誠に申し訳ありません、としか言いようがありません。

西側諸国との間に立っていただいたこともありますが、憎き西側諸国に先駆けて支援をしていただいたことに引き換え、我が同盟の内情は決して良いとは言えませんので…」

「大丈夫なのかい?そんなこと言ってしまって…。どこに目があるかわからないのではないかな?」

いきなりのカミングアウト。以前であれば粛清されるような会話だが…

「大丈夫ですよ。我がドナウ軍集団を始め、東欧社会主義同盟の軍部、議会は日本よりの姿勢を固めております。

なにより東ドイツでの失敗で学んでいますので、政治的妥当性よりも軍事的合理性を追求することを前線では求められるようになっております。

そんなこともあって、以前よりかはこのような軽口が許されるようになりましてね。」


「…それはこちらとしては喜ばしいことではあるがね。」

それが今の東欧の情勢であると言える。

ソ連以上に軍に権限がないルーマニア、東ドイツを筆頭にする共産主義一党独裁国家は、その政治的合理性を求めたことで国家の防衛に失敗している。

これは1982年、同盟が形成され始めた年に囁かれ始めた噂だ。

その噂は同盟軍と国連軍によって強化されたのにも関わらず、1984年6月の東ドイツ全国土喪失したこと。
ルーマニアは日本をはじめとする義勇軍が無ければ、防衛に失敗していた事実によって今の現状が証明している。

《東欧の協力体制が整わず、ルーマニアと東ドイツ軍の中にある正規と政治の2重指揮系統、必要以上に肥大化した秘密警察によって両国の前線は瓦解する。》

その避けれない予想は鮮明化され、東欧社会主義同盟を形成された当初、1982年11月にて政治的スキャンダルとともに同盟内に信用度の高い情報と共に情報流出した。

これと実際に派遣された同盟内増援部隊(1982年の12月)により露呈した、党による軍指揮権への政治的介入に関するニュースは、東ドイツをはじめとする共産主義一党独裁国家の強硬派(秘密警察・党の一部)の信頼は大きく失墜させた。


これにより義勇軍、支援している国を始め後方のユーゴスラビアなど、ほとんどの東欧国民と軍部の民意を得て、東欧州社会主義同盟、その最高評議議会という国家の上に置かれた組織が誕生。

その議会に権限を集中させることに成功したのが1983年になってからだ。


そうして議会は動きだし、前線が崩壊する見込みが大きくなっていた東ドイツとチェコスロバキアにて議会の権限を使って国民の退避を敢行したのが1983年2月の始めである。


しかし、そこでも利権の放棄を拒否したいドイツ社会主義統一党との間で軍内部の指揮権問題が起き、退避民の一部がBETAに襲われた事件が"偶然"起きてしまったのである。

この事件は東欧各国で衝撃的事件として取り上げられ、ユーゴスラビアのように秘密警察と党の影響が薄い国家組織として同盟を形作るのに大きな役割を果たしてくれた。

とまぁ…これが今の現状を形作った歴史だ。

光菱はこの時代の流れにどれだけ関与したのだろうか。

まぁ東ドイツ国民の8割は生きながらえることができたことを考えると良い方向に進んでいる…のだが、無理やりな介入はいらぬ不和を招きかねない。

普通であれば、だがイギリスも何かやっているという噂があるわけで、どうもきな臭い。




…んっ?ステレア大尉がこっちを怪訝そうな目でこっちを見ている。


「―――それでは黒野大佐に非公式の御連絡です。

現在師団規模のBETA群接近しておりますが、敵の規模、構成、位置を考え、危険性が高いと予想される地域が戦域マップ上のB-11、C-2、F-5、H-6とあります。

そのため大佐の部隊には、同盟軍貴下の1個戦術機甲大隊が救援しているF-5以外の3箇所に救援していただきたく、大隊単位で振り分けて急行していただきたいとこちらは考えております。」

「了解した。光線級の存在については?」


師団規模…日本の偵察衛星と安価なUAVにより、以前よりかは正確な規模の把握が出来ている前線国家では、師団規模と推定された場合、1~2万の個体群とされている規模のことだ。

そうなるとその中に平均200~400ほどの光線級がいると見られ、その危険性は数が増えることで戦力も乗数倍に上がるのが知られている。

※ちなみにこれは欧州にある5個の戦線(ドイツ、北欧、ギリシャ、オーストリア、ルーマニア)に短ければ5日、長く空いて1カ月に1度定期便として来る集団規模であり、これが前線の日常となっている。


「UAVの撃墜報告からして少数です。また光線級吶喊(レーザーヤークト)も“同盟最強の大隊”の一つを含め4個大隊が既に作戦を開始しています。」
 
クーデターを成功させたあの東ドイツの女傑、その大隊か…

1984年になってから東欧での戦術機も様変わりしており、英雄の大隊にはなんとMiG‐27が配備されているという噂だ。まだ戦場であったことはないのだが。

「良い形で偵察網は構築できているようでなによりだ。…もう少し要請は早かったら言うことないんだけどな。」

そこだけは言っておきたいね。ステレア大尉に言っても意味がないんだけど。

ちなみにステレア大尉は女性である。軍集団参謀本部付きのエリートで、言っちゃえば日本派閥に属する将軍の御令嬢。
将来日本人の誰かと政略、いや戦略結婚するだろうことが決まっている女性だ。

「かねてより支援いただいた日本製《ヤタガラス》により偵察網は構築できておるのですが、依然、党第一主義の連中が西側にも日本側にも協力的ではありませんので…同盟内とは言え、申し訳ありません。」

ヤタガラスは日本製のUAVのことだ。飛行船型偵察無人機でとんでもなく安い。どんだけ安いかと言うと、電子装備を交換すればそのまんまで高価なラジコンとして民間で売れるくらいだ。


まぁ、光線級にやられる前提のものだから性能は良くない。しかしGPSと合わせて衛星情報通信を使用することで重金属雲の影響を受けにくい上空に滞在することを含め、高性能の偵察無人機の代わりに最前線より前の上空に留まり続ける任務など、撃墜されることを前提に敵の規模を把握する役割を担っている。


それは飛行船型ならではの運用方法であり、気球と本体の大きさの比率からして、撃墜されたとしても本体が無事に地上に落着しているケースも多いため、ヤラレ偵察機としてこれ以上ないほどのものだろう。


まぁ、そんなことは置いといて、だ。そんな同盟内の内情を、同盟への協力国筆頭となっている日本に対してでも、ここまで露呈してしまって良いものなのだろうか。

「いやいや、君が謝ることではないだろう?」
「ですが…」
「こちら側に近い君だからこそ言えるんだろうけど…まぁ、光菱も私も君を見捨てるつもりはない。そのことは心に留めといてほしいな。」

「大佐///」
あれっ?なんか本土の妻に睨まれているデジャヴが見えるんだけど気のせいか?

なんか話変えないと、なにかがヤバいっ!!

「え、えっと他の戦線からの報告はそちらに届いているのかな。ほら旅団の部下が心配だからね。」

旅団貴下の戦術機甲部隊は実質6個大隊、それはここの軍集団以外にも派遣されている。…実際は旅団内データリンクで即座に知ることは出来るのだが、話を変えたいために仕方なく、だ。

「(…いくじなし)…東西をつなぐモラバ川防衛ラインとカルパティア山脈戦線にはBETAの動きはないため、今回の襲撃は"定期便"だと同盟参謀本部は結論付けているようです。
ですので大佐の部隊には関係ありませんっ。」

「そ、それは良かった。それではもうすぐ重金属雲の影響で回線が使えなくなるから…その、また後で連絡を入れよう。」

なぜか心苦しいのは気のせいか。

「…了解しました。それと各ポイントの前に国連軍用の補給コンテナが置いてありますのでお使いください。

……最後に、私を含め同盟並びに軍は、そちらとの友好が何よりのBETAに対する力になると信じております。そのことをお忘れなきようにお願い致します。

では…あの、お気をつけて。」

東ドイツを主体とする東欧からしたら《核を落とした米帝より"戦前"に同盟だった日本帝国は主義は違えど、協力出来る》と信じやすいのだろう。だからこそ、このステレア大尉の言葉だ。


「ああ。これまでと同じく行動で示していくと思うよ。日本も、俺も。
ではまた、通信以上」

そう言って、信頼を裏切らないように通信を切る。

さてここからが本番だ。その証拠に通信を阻害し始めるほどに対光線級用妨光ガスが濃くなってきている。

隊長機として通信能力を強化されたこの機体でなければ、軍集団司令部、しかもその秘匿回線を繋げることは不可能だろう。

…個人的な考えでは、通信を阻害するデメリットは光線級を抑える以上にデメリットを生じると思うのだが、BETAの発生する毒ガスをも抑えることと50キロ以上ならば高度を高く取れるメリットがあると言われると大きなことは言えなくなってしまう。

そのような無駄な考えを頭を振りながら消失させ、部隊内データリンクを主に切り替えながら再度隊長達に命令を告げる。


「では浮竹少佐。第3大隊を率いて戦域マップのC-2に。京楽少佐は第2大隊を率いてB-11に急行してくれ。

今渡したデータに補給コンテナが3戦分用意されているから、そこで再度補給してから…まぁそこのローテは大隊長に任せよう。

光線級の数は100未満。高度40までなら安全圏内だ。いつも通り存分に狩ってくれ。」


「「了解。」」

そう最小限の言葉を残し、36機ずつの戦術機部隊が編隊機動のまま離れていく。

戦闘開始まで幾分か時間がある。一番最初に戦闘が開始するのは第1大隊だろうからあと20分ほどだろう。


「信じている、か」

その各大隊が本体から離れているのを眺めながらさきステレア大尉の言葉を思い出す。最後の言葉は俺に対してだが、他はここ東欧の状況を知っている者の総意なのだろうな。と



なにせ1980年初頭の東欧はとにかくひどかったのだから。

1978年末のパレオロゴス作戦の失敗によりソ連と西側の戦力が東欧から引き上げられ、それに加えて東西の不仲がその作戦失敗の責任問題を絡めて噴出。

そのせいもあり孤独に陥り、国民の退避も出来ない状況だった東欧は、味方同士でさえ協力する体制も出来ていない末期に陥っていたのだ。

数字で表せばさらにその残酷さが際立つだろう。

1980年~1982年までにBETAによる死者・行方不明者は東欧同盟の全人口の1億4000万のうち約2500万。

これに東ドイツを始めとした独裁政党による裏切り者・亡命者狩りや経済不況による餓死・病死・凍死を含めると3600万を超えている。

総人口の3割近くが3年で消えていることからして、どれほどの地獄だったのだろうか。


だが、そこから1983年に入って急激に環境が変わる。

さきほどの同盟の形成に加え、義勇軍、国連と友好国からの支援、東西の不仲の解消。
公正な貿易網を使用でき、同盟議会による社会構造改革を行ったことで軍が全力を出せる今の状況は、依然地獄のままだが"生きられる地獄"に変わっている。


特に東ドイツ国民は同盟議会により戦略的撤退が可決され、北アフリカや中南米に退避できるようにまでなったことから、
以前、俺よりだいぶ年上の東ドイツ軍の老中将が泣きながら感謝をしてきたほどであり、日本に友好的な国が増えている。…俺も少しだけだが日本が好きになったもんだ。

―――まぁ総裁ならただ恩を売るだけでなく、利益も上げているのだろうが。


「大佐。戦闘準備をお願いします。」

「わかった。シャル。」

そう考えていたら、いつの間にか指定されていた戦場に近づいていたらしい。副隊長となっているシャルナークが話しかけてきた。

では純粋な大隊長に戻りますかね。


「ゴースト01より各小隊長へ、聞いていたな。いつも通りの戦場だ。」

「やっと戦場だぜぇぇええ!!!」「って言っても先頭オレだけどな。」「あっ?」「ウボォ―、コインで決めただろ?」「あ」「でもノブナガ先頭ヘタクソね」「フェイッ!!」「まぁ本当だけど」

はぁ…小隊単位で運用するのは疲れる…師団長兼連隊長兼大隊長…

パクノダとフランクリンに中隊長をやってもらってるけど、中尉だらけのこの大隊だと実質大隊の次が小隊だ。過労死する…


「ではウボォ―を先頭に雁行隊形。ノブナガとフィンクスの小隊で脇を固めて梅雨払いをしてもらう。…まぁいつも通りだな。」


「おっしゃぁああ!!!1番槍ぃいい!!!」「ずりいぞウボォ―っ!!!コインで勝ったの俺なのにっ!!」「団長そりゃねぇよ…」「普段通りね」「団長の後ろはボクだけどね◆」「ヒソカ、殺すよ。」

まぁ、なにか言っているが気にしない。難民部隊として各地で鍛え上げられた者を移民軍として組織されたこの大隊、その中に弱者はいない。


「では行こうか。」

「「「「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」」」」

もはや連日の戦場と化しているデルタ川防衛ライン。そこに新鋭機であるグリフォンとそれ以上に見慣れない戦術機を少数含んだ部隊が人工的な霧を裂いていく。

どうやら今日も地獄のようだ。


~後篇に続く~





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※筆者です

未だに戦闘が始まりません…次回も外伝を上げる予定です。

おわかりの方もいるでしょうが、マブラヴ外伝小説 シュヴァルツェスマーケンを読みました。感化されました。愕然としました。

それにしてもイングヒルト少尉可哀そうです…この作品の中でも生き残っていてほしいものです。



それでは1週間後お会いしましょう。



[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第3話  戦場 
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/01/04 16:13
1984年7月5日 ルーマニア社会主義共和国 トゥルチャ県 ドナウデルタ防衛陣地



ドナウデルタ。

ヨーロッパ最大にして、後に世界遺産に登録されるほどの自然の宝庫であるその三角州は、今やその面影を残しておらず、灰色の陣地と幾重にもつもり重なったBETAの死骸に彩られていた。


「7月になって初めての襲来だな。」

そう呟いたのは、そのドナウデルタを含む一帯を守るドナウ軍集団に所属する一人の中尉。

敵を迎撃するための布陣を完成させるために、今も部下に命令を下していた指揮官、ナルキ・ゲルニ中尉だ。

「まったく上からの予想と言うのはまったく当てにならない。」

そう言いながら癖となった赤毛の髪をかき上げる仕草は、本来男での多いはずの軍の陣地では、タブーと言って良いほど妖艶だ。

その彼女はトルコ系三世からもわかる通り、肌はきれいな小麦色、髪は少し赤にやけていて、その言葉づかいから女性にもてたらしい。


そんな彼女が「東欧の窮地を救うため」というプロパガンダに乗り、警察官になる夢を諦めて大学を早期卒業したのが1978年の終わり。

その後周りに釣られる形で軍に志願し、士官速成教育を受けたのは1979年に入ってからである。

その中の定番であり軍の花形である衛視訓練には、あと少しで落ちるという惨めな結果に終わるも、持ち前のポジティブ精神で盛り返し歩兵部隊の士官として戦場で指揮するようになったのは1981年。

「わずか2年で何ができるのかわかったものではない」と、前線の先輩達から揶揄されたものだが、その優秀性を発揮するにつれて周りは付いてくれた経験は彼女を一回り成長させる糧となった。


だが、毎日が敗戦と言って良い地獄の中では、その成長の糧となった友軍、仲間の戦死が相次ぎ、彼女の心が廃れさせていく。


そのうち「軍に入ること自体が間違いであった」と気付くのも周りの士官と変わりなく、今は仲間を失わないことと一つだけの楽しみを胸に秘めて、日々戦場で自身の部隊に指揮を飛ばす毎日となっている。

そのようにさせた戦場の現状など、眼前にも示されている通りBETAの死体を十分にかたずけられていないことからもわかる。その死体の口に含まれている誰かの肉を見ても。



「中隊長、やはりBETAはこちらに来るそうです…」

そう教えてくれたのはこの中隊の最古参である最選任下士官。
大隊本部から情報を受け取った彼は、彼女を使える士官にまでここで育ててくれた教師でもあり、初めての男性でもある。

「やはりか。…周りの陣地構築度からしてここに集中するのは予想できたことだ。的中して欲しくはなかったが」


彼女が指揮するブルガリア地上軍所属 第12軽歩兵連隊 第2大隊 第2中隊は表面上の彼女と違い、先の下士官を含め緊張感に包まれていた。


師団規模の定期便がここ、ドナウ要塞陣地群を襲撃してくることを彼女が知ったのは3日前。

今回はBETAの「西進」部隊の前線基地、ミンスクハイヴからの飽和個体数による定期巡回ではないらしく、今回は遠いウラリスクハイヴからの迷い子らしい。

その迷い子が、無視して良いほどの小規模の巡回していた群団と合流して、残党を吸引していることが判明したのが4日前。


その行動のおかげなのか上の判断も遅れ、気づいた時には、というやつだ。

そのヤツらは最後の現状報告によると、BETA勢力圏との境界線奥200キロで留まり、今なおその規模を膨れ上がらせているとのことだ。

「まだ陣地修繕も完了してないのにかよ…」
そのような愚痴が部下から聞こえてくる。

その愚痴の通り、敵主攻勢にさらされる可能性が高かったここ一帯の陣地は、1週間前の襲撃で甚大な被害を被ったことから未だにその傷は癒えていない。

幸いとしてこの中隊は人員に対しての被害は軽微だったが、周りの陣地にはその幸運が訪れなかったらしく、その被害状況から部隊を新品の部隊に交換する羽目になっている。

それに加えて突撃級用誘導路の不備、地雷陣地の施設が十分でないことを含め、"危険な地域"に属していることは部隊全員が分かりきっている。

BETAの行動が読めないことは事実だが、敵の『物量と速度』からして弱いところに戦力を密集させ、そこから潰されるのは戦場の常識だ。

そして一度懐に入られた部隊というのは文字通り血で血を洗う接近戦となることもその一部。


その常識に習い今日、貧乏くじを引くのは自分たちのようだ。


「中隊長!第1次防衛陣地からの報告です!」


どうやらその時が近づいてきたらしい。上からの予想より幾分か遅めのご到着であるBETA群が、この陣地の前にある突撃級用陣地に差し掛かったらしい。

「規模は!!」

「そ、それが2000以上と…」
「なっっ!!」


それはいつも通り、上から伝えられてくる数字を超えた数であり、今回は聊かその"いつも通り"の数値を超えすぎていた。

中隊の陣地に2000という数自体、過剰な数であり、今までの計算で考えれば、少なくとも2~3万のBETAがここら一帯に攻めよせていることになる。

それも奇襲と言う形で。



「一度散会したと、第263戦術機甲偵察小隊からの報告を申し上げましたが、どうやら今現在は再度集結しながら進行しているらしく、
全体の規模は1万ほど。

その数を集中させる形で、周辺にいた他の群を吸収しながらこちらの方向に向かっているようです。」

それは全軍にとっては安堵のため息が出る報告だが、その貧乏くじを引く部隊はたまったものではない。…だが嘆いていても仕方が無い。

「敵の構成は?」

「敵の構成ですが要撃級の数が多く…その後方に突撃級を含んでいるとのこと。

やっかいなことに完全な"連合"のケースです。

なお第1次防衛陣地はその戦力差から最終防護射撃を実施後、即破棄され地下の籠るとのことです。」


それは悪夢のような報告だった。敵の攻勢の真正面となったこともそうだが"連合"を組まれていることが拙い。

戦場では間々あるらしいのだがいくつもの要因が重なり、最前衛(中衛との距離40~50キロ)にいるはずの突撃級が後方にいながら侵攻し、こちらの目の前になるころにはちょうどBETAの壁役をこなしながら前進する形になるケースがある。そのケースが"連合"だ。

そのケースがはまってしまうと本来、一番最初にある突撃級用のための誘導路と地雷原は、戦車級の血で効果を無くし、その空白地域になだれ込んでくる突撃級は、要撃級の盾と成りながら歩兵陣地を蹂躙していく。

ある程度数を減らさなければ、歩兵が大型級を狩ることは出来ず、突撃級が前にいる状態では歩兵の火器はまるで役に立たない。

そうなれば籠るしかなく、籠るということはその後方で待っている小・中型BETAを無傷で接近させるということで、その対策をしていない陣地は化け物との屋内戦を申し込み、蹂躙されるということだ。

これからの中隊の未来のように。

「中尉、後方の部隊にまで被害を広げることだけはなんとしても阻止しめなければならないと愚考します。」

「わかっている…このままでは連隊本部、いやその奥の戦域支援砲撃部隊にまで被害が及ぶ。なんとしてもここで止めなければならないのだが、な。」

それ以上に危険なのが、後方の陣地に対しても同様に連合を組まれた状態で襲撃されるケースであり、その結果は修復不可能な被害を出してしまうことが多い。

連隊本部がつぶれるくらいの幸運なら良いほうで、ここら一帯の支援砲撃を任せられている砲撃陣地が急襲されるなど悲劇でしかない。

今の戦場を保てているのは我ら歩兵の血と砲兵の鉄であり、その友軍からの鉄の雨が無くなれば、即座に抵抗力を失ってしまう。


しかし、最低でも2000以上のBETAが、両横の中隊を含めてもたった500を数えるほどのこの陣地に集中して進んできている。

なにも出来ずに死んでいくことは人として許容できる問題ではないが、どうしようもないほどの戦力差だ。


「曹長。救援要請は間に合うか。」

一つの希望にすがるようにな声で彼女は言った。ここの戦力が足りなければ味方を呼ぶしかない。

「大隊司令部がすでに上に要請しておりますが…実際には間に合わないものと考えます。

書類上はここの戦力が回復しているように見えますし、それだけ見ればここよりひどい所は他にもあるでしょうから。即刻予備戦力を回せる体制を構築できているほど軍集団司令部は現場を知りません。

それを考えると緊急に廻せるとして支援砲撃だけでしょう。

その支援砲撃にしたってここら一帯が戦域になっている以上、隣の陣地よりはマシといったものですが…

ここ本来の重要度から考えても、救援を要請して来るまでの時間が足りませんし、唯一望める戦術機部隊は…前回の戦闘で後方送りですから。」


また中隊司令部の空気が沈む。

ここドナウ軍集団では川を超えようと速度を落としているBETAに火力を集中させることが最善とされ、陣地にいる歩兵部隊は小型BETAとBETAの半分を占める戦車級を削る仕事となる。

そのような歩兵陣地を横に繋ぎ、そしてその線を何十にも重ねたのがこの軍集団の防衛方針である。

しかし逆に人類の方も部隊の移動を束縛する形になり、3時間前の偵察情報から敵の攻勢を事前に予測して部隊を配置しなければならない。

つまりは可能性のある場所にまんべんなく戦力を配置するということであり各個撃破される危険性が高い。(もちろん人ではありえない機動力を持つBETAだからこそなのだが。)

そしてその予測が外れ今回のような奇襲に近い攻勢など、想定規模よりも大きい場合には必然的に血を見ることになる。それがここの日常だ。

その唯一助けとなるのが同盟の戦術機甲部隊なのだが…



東欧州社会主義同盟・ドナウ軍集団に所属する戦術機はわずかに16個大隊弱。

そのうちの7個大隊は光線級吶喊任務と偵察、砲撃陣地などの重要陣地防衛部隊など救援任務をつくことはありえず、他の4個大隊は練度が低く、掃討任務など予備戦力のために温存されている。

そうすると救援につく部隊は5個大隊となり、その数ではここに救援が届くわけがない。

橋を守る陣地など重要視される場所が多いからだ。それに加えて前回の襲撃でここ一帯を担当する第155戦術機甲大隊に大きな損害が出たことを含めると、夢のまた夢となる。


これでも2年前の2倍にまで戦術機、衛士ともに増加はしているのだが教育がまともにすんでいない衛士が多く、味方の放火の中、危険な救援任務をつける腕を持つ衛士の数は少ない。

そしてダイヤモンドの原石である衛士の代わりに死んでいくことを望まれるのが歩兵だ。

それでもとなりの陣地を守るルーマニアの古参兵士からすれば、これでも随分とマシになったらしい。

武器弾薬の補充、部隊の交代、これだけでも充実したものに感じるらしく、正規人員が半分以下になっていることなど日常だったと言っていた。

2年ほど前から入ってきた自分からしたら実感できるものでもないが、確かに国連からの支援も、この要塞陣地群にいろいろな人種の部隊が集まっていることから見れば変わったのだろう。

―――これからの未来を考えればなにがマシなのかわからないが。


「中隊長、来ました!!予想通り突撃級が前方に…200以上、合計では数は…少なくとも3000以上っ!!」

「3000…だとっ!!」

最前線である中隊の見張り台に取り付けたカメラからのリアルタイム映像は、ここが見晴らしが良いこともあり十キロ以上も先の異形の怪物達を映し出していた。

その映像から少なく見積もっても200を超える突撃級を先頭に、間から見える赤黒いなにかと、タコ助と揶揄される要撃級の腕を何本も写しており、その土煙からして連隊規模ものBETAがこちらを攻めよせようとしていた。

(毎年の集会、最初の欠席者が私になるとはな…学校を遅刻をしたこともなかったこの私が)

高校を卒業した時から、その一年を生き抜けることを願って開いた毎年の飲み会。

参加しているのは同じツェルニ高校で青春を過ごした2人の親友と所属していた部活の仲間達。そのほとんどが軍に所属していることからも、いつか誰かかけることは知っていた。

その最初が自分とは…


毎日の死線で死ぬことを覚悟していたと思いこんでいたが、どうも体は正直らしい。脚先が怖気で震えている。

だが、ここで呆然としていたら中隊全員の犬死だ。

そうして彼女はすぐさま指揮官の顔に戻り、部下に指示を出す。


「中隊各員に告ぐ。
第1、第2小隊は有効射程に入り次第、分隊ごとに射撃開始。重火器班は突撃級の脚を狙え。無反動班は弾種 瑠弾に換装後、有効射程で最大連射。

第1、第2火力支援小隊(迫撃砲)は光線級の迎撃もある。周辺陣地とで決めた特火点を越えたら突撃級を中心に急速射撃。

通常なら大型級を無視するが、敵の防御力を削ぐためにも前列の突撃級を狙うぞっ!!」

「「「「――了解っ!!!」」」」


ここに敵の攻勢が集中する可能性が高いと予想してから、何をしてでも集めた重火器類は中隊史上最高数となっている。

そもそも同盟になってから軍の砲数に対し、81、120mm迫撃砲の割合が多くなってきた。

世界共通規格となった迫撃砲の砲口に合わせ製造されたものらしく、どうやら極東の島国がこちらに手を貸しているらしい。

自走砲や榴弾砲の数を揃えられないならば、数にモノを言わせてという方針らしく、中隊付きトラックに乗って回されたのが4カ月前になる。


「敵、砲撃特火線まであと500っ!!」

もはや肉眼でも確認できるまでになった相対距離。
大型BETA用の地雷に掛り、その何%かが空中にはじけ飛びながら死んでいくBETA。

だが物量と速度、そして多足型構造と痛みを感じない強靭な身体は文字通り事切れるまで突撃していき、それが他のBETAの生存への道を作っていく。

そうして、この中隊に対して何か恨みでもあるかのように攻めかかるBETAは周辺陣地と即席で構築した特火線である浅い川に今、踏む込もうとしている。




「射撃開始っ!!」

その声と同時に後方からの雷鳴、それは後方からの待ちに待った支援砲撃開始の合図だ。

河川陣地にふさわしく、敵の速度を鈍化させ、その上に降り注ぐ中隊迫撃砲と連隊重迫撃砲。

そして師団砲兵連隊の各種榴弾砲とロケット砲が合わさった戦場音楽は、中隊陣地手前7~8キロの地点で開演し、

もしかすると砲撃だけで敵を殲滅できるのではないかという淡い期待を持たせてくれるほどにゴージャスに花開いた。





―――しかし"それ"は舞台のようにあっけない幕切れを迎える代物だと私は知っている。その役目の相手も。

「…光線級ッッ!!!」

もはや3000では収まりきらない目の前のBETAの群団は、その最悪
の悪魔さえ孕んでいた。


数は10単位でばらばらに散っているのだろう。その射角からして一か所に多くはいない。

だがその超高出力の光線は対光線級妨光ガスがないかのように、空気をプラズマ化させ上空の砲弾を誘爆させながら指揮棒のように薙いでいく。

そうして形作られた異常突風は、高々1個砲兵連隊程度の砲弾やロケット弾の矛先を変化させ、意味のない方向へと誘導されてしまう。

そしてそれを守るのが"要塞級"

確認されているBETAの中で最大の大きさを誇る60m以上の化け物が光線級を守っている。

これが"連合"のケースに当てはまる時、親子のように連れ添い、その巨大さに見合った頑強さで光線級撃破の防波堤になることが通例だ。



「距離3000」

そうした戦場気象が出来てからわずか4分、その強靭な足腰によってNSV重機関銃の射程距離まで接近した敵の集団は、役目の終えた突撃級の死骸の上を飛び超えて、予想されていた本来の数にまで削られながら中隊に飛び込んでくる。

(数が多いッ!!)

最近充足された機関銃の火線に飛び込んでくるBETAは、前列の半死に体の個体に命中し、目に見える結果を残せていない。

最初で最大規模の支援砲撃でなんとか2000近くにまで減らしてはいるが、ここからは貧弱な周辺陣地だけの火力戦となる。

そして頼みの綱である支援砲撃は殲滅目標を後方の光線級に変更したらしく、重金属雲による電波妨害が強くなるにつれ、弾着が奥の方に遠ざかっている。


それらからわかる、刻々と迫り来ている宇宙からの死神


近づくにつれて「戦車級に喰われる自分の最後」のビジョンが鮮明になっていく


(メイシェン、ミイフィ、ゴメンッ!!)


その未来図から逃げるようにトリガ―を引き続ける彼女は、彼女の上空に爆音が鳴り響くまで気づかなかった。
















―――遠く極東から来た援軍に。










―《同地域 同時刻より5分前に遡る》―




「――ゴースト01より各機へ。フォーメーション、鶴翼複伍陣《ウイング・ダブル・ファイブ》。

今回のケースから言って光線級を多く含む可能性が高い。速度を落とさず高度30以下で突っ込んで敵の頭を抑えるぞ。」

「「「「「「「―――了解ッ!!!」」」」」」」

そう大隊の部下からの返信を聞きながら、これから攻勢をかける敵BETA群を移す戦域レーダーを眺め、なぜこうなったのかを思い起こす。


ドナウ軍集団司令部からポイントD-3への緊急救援要請を受け、急行することが決したのが10分前。

他の戦域で救援任務を終わらしてから次の任務に移るため、前線の補給コンテナで補給中だったのが功を成したらしく、NOE〈匍匐飛行〉で急行しているのが現在の第1大隊の状況となっている。


…まぁ、各大隊に振り分けられたポイントの敵の数と光線級の数からして、どこかに光線級やなんやらが集中していることは予想できていた。

だが、それの収拾を任せられるとは思わなかった。あれっ?こっちに頼らないんじゃなかったの?と思わずにはいられない。

まぁ、これでこちら側の勢力が強くなるなら良いとしよう。


そんな戦場の預かりしれないことは置いといて、目の前の戦場だ。


NOE〈匍匐飛行〉時速400キロで近づきつつある大隊と、救援地点で待つBETAとの接近まであと少し。

眼前の状況から隊長としての判断を下す。


「大隊各機、目の前の中隊陣地後方200で逆噴射制動着地《スラスト・リバース・ダウン》

目の前の陣地を助けてポイントを稼ぐ。

着地と同時に弾種120mmHEATを一斉射。前衛の緑甲羅とタコ助を中心に排除する。




―――今だ、降りるぞっ!!!」


「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」

巨大な重機でもある戦術機がその空力特性を活かし、急制動をかけて着地する。

その着地した部隊の機体はここでは見られないはずの国際共同機、その主軸機に決定したITSF83 グリフォン GF-5トラッシェ2型各種。


「射撃開始ッ!!」

の掛け声と同時に大隊合計で30門以上の120mm滑空砲が火を噴く。

支援砲撃に掛りっきりになっている光線級の防護幕はなく、おもしろいように敵の前衛を吹き飛ばすその姿は、戦場に心強い援軍の到来を示している。

それを物語っていた一斉射は数の少なくなった突撃級の数を0にし、敵の防備は完全に溶かしていた。


しかし、その行動自体は機甲戦力であればこその正道。

火力が相対的に低い戦術機甲部隊で、その行動は通常ならば自殺行為とされるものであるのは自明の理。

通常の指揮官ならば貴重な機動戦力である戦術機甲部隊を迂回させ、横撃を喰らわせることが最善と考えるはずなのだ。


現に距離2000を切り、未だ戦力を維持しているBETAの大群は速度を上げながら突っ込んで来ている。



「11(ウボォー)、06(ノブナガ)、05(フェイタン)各小隊は両翼を開けろっ!!」

その命令に躊躇なく行動を開始する目の前の各機。

さきほど挙げた疑問を一切発せずに、こちらの命令に即座に答えてくれるこの大隊は精鋭の名にふさわしいだろう。


――だが、その自殺行為を正当化する兵装をこの大隊は持っている。

「―――こちらゴースト02、これより制圧射撃を開始します。」



そうパクノダの声が耳に入ってくる。それと同時に爆発したかのような着地音。



火力重視の後衛各小隊の到着だ。

「02(パクノダ)08(シズク)10(コルトピ)各小隊はバースト射撃。全弾喰らわしてやれっ!!」

「「「了解っ!!」」」


その返事と共に《打撃支援装備》のパクノダ小隊の《83式支援擲弾砲・乙》と同じく、 《制圧支援装備》のシズク、コルトピの小隊が持つ《83式支援擲弾砲・甲》から打ち出された 120mm多目的戦車瑠弾(HEAT-MP: High Explosive Anti-Tank Multi-Purpose) は要撃級を主目標に、戦場に爆炎の連鎖を作りだす。



「07(フランクリン)09(フィンクス)薙ぎ払えっ!!」

「「了解ィィイ!!」」

そしてそれはBETAの前に立ちはだかる。


1か月以上の戦場試験をこなした漆黒の機体《翔鷹》、その先行試作機達。

その将来タイプ85と正式ナンバーが付けられるであろう、その機体から発せられる36mm高速徹甲弾の砲火はすさまじいという他ない。

「はじけ飛べッ!!化け物!!」

ヴゥゥウウウという重低音を奏でるガトリング砲。

それはこれまでの戦術機の突撃砲と一線を超し、フランクリンの掛け声通り、中小型BETAが何かの壁にぶち当たったように弾け飛んでいく。


元々、アメリカが作りだしたA-10(サンダーボルトⅡ)という重戦術機と同じく、今までの戦術機よりも圧倒的な制圧力、経戦能力を付与しようとした本機。

アメリカのように戦術機でいることを放棄し、大きさを主機出力で埋めるアメリカらしいやり方ではなく、その攻撃力を維持したままコンパクトに"戦術機"であり続けることを目指すことを主目標に作られたのがこの試作機である。

(※その分、重装甲と制圧力を削ってできている機体ではあるが、それは重戦術機と比較してのことである)


その光菱の総力を挙げて完成させようとしている本機は、120mmとガトリング砲とがリンクした複合火力最適制御システムの構築に難航しているらしいが、

単純な正面制圧だけならば、両肩に置かれた120mm低反動滑空砲と下部の12.7mm重機関銃も合わさり、その制圧力は同F-4一個小隊と比べれば一個中隊以上。

この大隊にはその翔鷹で満たされた小隊が2個小隊もいるため、これだけであわよくば一個戦術機甲大隊と同程度の制圧力を今目の前で見せている。

それと83式支援擲弾砲を合わせての火力の集中はいくら2000を超えるBETA群でも勢いを鈍らせ、後方からの迫撃砲と重火器の雨がBETAの梯団を溶かしていく。




そうして勢いを鈍らせたBETAにさらに追い打ちが待っていた。


「大佐。遅れちゃってごめんねえ」
「第2大隊、これより横撃を開始します。黒野大佐。」

そこに現れたのは浮竹少佐が率いる第2大隊と京楽少佐が率いる第3大隊。

指揮官用の強化されていたレーダー網によって、事前に把握していたこの部隊に、指示を出したのは10分前。


こちらの意図を読み、最適のコースを使って来た各大隊により、合計1個戦術機甲連隊に届くほどの豪華な戦力が集結したことは、戦場の趨勢を決めるには十分すぎるものだった。


正面の火力集中を嫌ったBETA群が拡散しようとした途端に、両横からの集中砲火はその攻撃起点を奪い、ただ分散してしまう結果を残す。

そうして両翼からの大隊による包囲殲滅はBETA戦ではほとんど見ることの無い《鶴翼の陣》そのもの。

その陣形が整った今、中隊陣地の砲撃も加わり、もはや一方的な趨勢に変化していた。


「大佐殿、こちら第22支援中隊、制圧射撃に参加致す」

「兄らの攻勢に助力する」

そう言ったのは、第2大隊に席を置く第22中隊の中隊長 狛村 左陣大尉と、

斯衛仕様の翔鷹の方向性について、どのように改良するかを決めるために、極秘に出向している第32中隊の中隊長 朽木 白哉大尉。


両者の中隊とも今使っている翔鷹を装備しての採用最終試験任務を終了し、狛村大尉は陸軍の、朽木大尉は斯衛の意向によりここに留まって御助力戴いている。

両者ともこの翔鷹の性能に対し、各軍の好みは分かれるが高性能であることには納得しており、来年度以降の各軍仕様変更の段階となっている。

なぜ留まり続けているのかって?

そりゃ、光菱に借りを作って初期配備数の割合と、配備数自体の融通をしてもらいたいからだろう。そんなことしなくても十分に廻されるとは思うが、今ここでは貴重な戦力。内緒にしておこう。


そう考える余裕が生まれるほど戦術がはまり、第1大隊がBETAの敵正面攻勢を挫き、突進力を失ったBETAは両横からの第2、第3大隊による横撃によって組織的抵抗力を喪失。

たかだか十数分でみるみるうちに個体数を激減させ、戦場はもはや掃討戦に移行しつつある。ウボォ―とノブナガの西ドイツに人気のグリフォン2-C《近接戦闘仕様型》で占められる突撃前衛小隊が接近戦による残党狩りを行っているほどだ。


「これなら大丈夫そうだな。下の陣地にこんな火力があるとは思わなかった。」

「練度が低くてこちらに被害が出そうになってるけど?」

「シャル…そこはしょうがないということにしとけ。」

「…了解、大佐。」

そう安心しての会話が終わりを告げた時、通信が入ってきた。

「団長、こちらの仕事は片付いたよ」

そう答えてくれたのは光線級吶喊(レーザーヤークト)任務についてもらった別働隊の中隊長であるマチ中尉だ。

一瞬、またBETAの増援報告かと冷や汗かいたのは内緒にしておこう。

「マチか、御苦労さん。ボノレノフはともかくヒソカが独断専行とかしなかったかい?」

「そうしてたら後ろから撃ってたから大丈夫」

「お尻がゾクゾクしたよ★」「ヒソカ…」

…どうやら元気そうだ。

この要請が来てすぐの時、即座に部隊を抽出し、即席補給を済まして出撃したこの部隊は、UAVの撃墜報告から光線級がいる可能性をにらみ、大きく迂回してその激務についてもらった者たちだ。

「被害は?」

それは隊長として危惧しべきものである。

先ほどの予想された数からしてこの中隊だけで、100体を超える光線級の排除が容易なわけが無い。小隊長が元気なことからして被害は少ないことはわかるのだが…

「団長が気にしていることはなかったよ。
第2の更木の中隊と第3の夜一さんとこの中隊がそれぞれ光線級吶喊任務に廻されてて、現場で合流して事にあたったから。

ヒソカと更木んところの禿の小隊がドジって機体を小破させてたけど。」

「さすがは少佐達だね。…小破させた小隊長両名はあとで理由を詳しく書類で報告してもらおうとするかな。じゃないと俺が卯ノ花さんに怒られる。」

歴戦の将兵で埋められたこの旅団、その精鋭さは今現在日本において最高峰のものと断言できる。

それをたかが1年足らずで作りだす光菱には驚いたものだが、それにより作りだされたこの旅団自体にも驚いてしまう。なんで俺が指揮官なんだ?



まぁ…そんなことより、旅団の残弾も心配すべき水準まで下がっているな。BETAどもも数を十分に減らせてはいるし、こちらに近づいてきてる同盟の戦術機部隊にあとの残党狩りは任せるとするか。

おっ?あっちから通信入れてきた。


「こちらは同盟傘下 東ドイツ国家人民軍所属 第33戦術機甲大隊《シュヴァルツェ・ハーゼ》。指揮官のラウラ・ボーデヴィッヒ少佐である。救援部隊の指揮官、応答願う。」

ほう、あの有名な第33大隊がこんな辺鄙なところに援軍として来るとはね。

東ドイツ内部の同盟派、東欧でも指折りの戦術機甲部隊としても、女性衛士だけで構成されることでも有名なあの《シュヴァルツェ・ハーゼ》。日本語に訳すと 黒ウサギ部隊 戦場で会うのは初めてだ。

「こちら国連派遣軍所属第114連隊 指揮官の黒野 義古 大佐だ。
あの勇名轟く《シュヴァルツェ・ハーゼ》と戦場でお会いするとはなんとも運が良い」

「も、申し訳ありません、黒野大佐が率いる部隊とは知らず、無礼な物言いを。」

彼女がそう言うほどにはこの旅団は有名らしい。それだけの成果を出してきたからなんだけどね。


「良いよ。前線では部隊番号と指揮官番号をごまかしているんだからね。あ~このことはオフレコでね。まあ、あって無いようなものだけど。

それでなにかな。ボーデヴィッヒ少佐。」

そんなめんどくさい処置を講じているからいろいろと混乱するんだが。

「そ、そうでした。貴軍の救援を感謝致します。
これからは我が《シュヴァルツェ・ハーゼ》が任務を引き継げとの軍令部からのご命令です。ルートBにて前線補給基地がありますので、そこで損害の大きい機体を輸送トラックに運べとのお達しが。」


「そうか。もうそろそろ部隊の残弾が心配になってきたところだから、助かるよ。

まぁ損害のほうは幸い、小破が5だけだから推進剤を補給するだけで良さそうだからトラックは他の所に回してあげてくれ。」

「さすがは幻影旅団ですね。連隊規模のBETA群相手にそれだけの損害で済むとは…」


最初のほうは、ここの同盟派に気を使われて簡単な任務ばっかだったこともあるし、今でも被害を少なくしてもらっているから部隊を最高の状態で使えることが大きいんだが、今は言わなくて良いだろう。

さっきの支援砲撃の要請が通ったのもこっちが援軍に動いたからってのも大きいだろうし。


「それは、ここの陣地の指揮官が良かったことと、ここの地形が良かったこと、支援砲撃が間に合ったからだよ。

まぁ後は残党だけだから任せるけど思うけど……ラウラ、頑張れよ?」

「大佐!!もう自分は子供ではありません!ですが…御配慮は感謝致します。」

やっぱり可愛いなぁ。娘に欲しいくらいだ。

「うむ。ハルフォーフ大尉、アスカ大尉、ラウラをよろしく頼むぞ。」
「教官っ!!」「了解しました。命に代えても。」「大佐、任せて♪」

「ではな。」
「……りょうかい。 ハーゼ01より大隊各機へ。傾注!〈アハトウング〉大佐からプレゼントだ。全て平らげろッ!!」

「「「「「「了解ッ!!」」」」」」

その掛け声とともに戦闘に移行していく黒兎大隊。

その手際の良さもさることながら、常人では不可能なほどの高機動近接戦闘と精密な後方支援射撃を大隊単位で合わせられるコンビネーションは、育ちを同じくして同じ飯を食ってきたからこその"家族の力"なのだろう。


そんな家族達から遠のきつつある戦術機のコックピットでため息が漏れる。

なんでって?

まぁさっきの会話を聞いていれば解るとは思うが、ラウラ達〈シュヴァルツァ ハーゼ〉とはプライベートでの知り合いであり可愛い教え子たちでもある。もちろん戦場であったことはないのは本当だ。戦場ではね。

そうそう、彼女達の紹介だ。


ラウラ・ボーデヴィッヒ。

東ドイツの禁忌、遺伝子強化試験体部隊「シュヴァルツェス カニ―ンヒェン」別名 "東の黒兎"として生み出された試験管ベビーであり、俺がここに来るまで戦うための道具として生み出された者達の一人である。

盟主であるソ連の違い、純粋なスペシャルソルジャーとして生み出されたこの部隊の者たちは、全ての者が戦術機特性を満たすことができる。

その特徴としてか、部隊員全員が左目が金色のオッドアイであり、それを隠すために眼帯をしていることも有名だ。

だが東ドイツが同盟に所属する際、生み出すまでに必要なコストと育てるまでに必要な教育費用に対する戦果が高くないと判断されたことに加え、同盟という国家連合に帰属する際に人権的見地から他国に指摘されることを恐れ、内部処分するべきと判断されてしまった過去を持つ悲しい子供たちでもある。



だが現に今、戦場で活躍している彼女ら。

どうやらそのカラクリは光菱がまたしても関わっているらしく、光菱の預かりとして俺がここに派遣されてきた当初、同基地に所属し、上から「おまえが育てろ」と言われて知りあうことになったわけだ。


まぁ…そのおかげで部隊の運用は他の大隊長とかに任せることになったから、逆にラッキーではあったけど。

で、主に面倒を見ることになったのがそれ以前から部隊の部隊長としてなることが決定していたラウラだ。

隊長任務が多い俺が、その経験をかわれてラウラの隊長となるための訓練を任されたわけだが、訓練当初、年の差から見て我が子にしか見えない子が冷淡に部下を叱咤するところを見て、「ああ、前線なんだな」と痛感した物だ。

そこから2年近く。教官として、親を知らない子供たちに父親としてなれたならと思い、鍛え上げた彼女たちが身体も心も大分女らしくなっており、光菱派、いや同盟派の部隊として名が上がるのも無理もないことだった。


部隊名も《シュヴァルツェス カニ―ンヒェン》から《シュヴァルツァ ハーゼ》※1に換わり、その部隊名はここら周辺に鳴り響いている。

それはこちらからの支援もあるのだが、最新鋭機で固めているのがその証明だ。

生まれた時点で衛士特性を持つことが分かりきっている彼女たちは家族としての団結力を持つことに加えて、その長い訓練をこなしているのである。

そして2年間ではあるが、現場を知る俺の元で育った彼女たちの努力は計り知れないものがあった。


どうやらなにかのために頑張っているらしいのだが、部隊内で一番の年上でありこちらの心情を理解してくれるクラリッサ・ハルフォーフ大尉や、あった時の高飛車な態度が鳴りを潜め、すっかりラウラのお姉さんのようになったアスカ・ラングレー大尉でさえ教えてくれない。

どうやら「乙女の悩み」であり「ライバル」らしいのだが、なんだろう。お父さん心配だ。

「はぁ…」

「…大佐、戦場で父親の顔になってるよ。ラウラちゃんのこと可愛がってたから仕方ないとは言え拙いでしょ。

で、それよりどうするの?部隊を後退させる?」

あ、シャルナーク。わるいわるい、今は俺指揮官だったな。
はぁ…では早く日本にいる奥さんところに帰るためにも、今日最後の司令を下すとしよう。

「旅団の諸君、残飯処理は友軍がやってくれるとのことだ。
現時刻をもって今回の任務は終了。これより帰投するぞ。」

「「「「「「了解ッ!!」」」」」」


そう言って、出撃時と数を減らさずに帰投する戦術機甲部隊。

大佐の心配(?)を余所にその日、幻影旅団の総BETA撃破スコアが3万を超えた。










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※筆者です

一言、やっちまったぁぁぁあああああああ!!!遅れたことも含め、2重の意味ですいません。

今回は部隊の活躍と紹介をと。



今回登場した他作品のキャラとして

ナルキ・ゲルニ中尉は鋼殻のレギオス。
ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐とクラリッサ・ハルフォーフ大尉は IS 〈インフィニット・ストラトス〉
アスカ・ラングレー大尉は 新世紀エヴァンゲリヲン〈新劇場版〉

となります。外伝には出来るだけオリジナルキャラは出さずに他の作品を出す方針にしておりますので、知らない方は検索して戴いて「こんなヤツかぁ」ぐらいの気持ちで読んでいただけたらと思います。


※1 部隊名の変更の意味
シュヴァルツェス カニ―ンヒェン 黒兎〈家兎〉
→シュヴァルツァ ハーゼ     黒兎〈野兎〉

では次回にて。




[28072] 第Ⅱ章<暗躍編> 5話 愚策 《11/12改訂更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/11/19 16:57
1984年 8月13日 日本某所


「ソ連、スフォーニ設計局との接触が叶いました。どうやら、こちらが意図的に流した情報に引っ掛かってくれたようです。」

と目の前の兄がこともなげに言葉を投げかけてくる。
話のお相手はライバルのミコヤム設計局のMiG23の配備よって面目丸つぶれ状態のスフォーニ設計局。

「そのようだねぇ。今は落ち目のスフォーニだけど、アメリカとの技術提携は政治的にさすがに勘弁願いたいから、その前にお助けしてあげようか。」

そして内容はそのスフォーニとの非公式の技術提供をどうするかというお話。

―――まさに秘密組織チックなお話だ。

「ではやはり、ソ連が招致ししているオルタネイティヴ3に協力する形で介入すると、そういうことですか、ぼっちゃま。」

そんな秘密組織にさもありそうな会話をしているのは、目の前の 兄 吉弘とこの国の外交まで口出しをしている今の俺、秘密組織のボスである天主様だ。キラッ

…コラ、そこうざいとか言うな


まぁ、自分でボスとか言うのもおかしいとは思うけど、実際に実権を握らせてもらってるからね…どうもこうも言えない。

必要だからこそ日本の中枢をこちら側で埋めたわけだけど、実権を握らせてもらった分、この1年、仕事の量が半端じゃなかった。


いつも通りの日本ならば野党と与党、ひどい時には与党内で争い、官僚がその間、政府に出す情報を意図的に限定することで、官僚が政府中枢を牛耳ることが多かった日本。

そんな社会体質だからこそここまで発展出来たのだが、今においては邪魔でしかなく、急激な方向転換に対し拒絶反応とそのプライドの高さからか、1981年には官僚のサボタージュが大発生。

一致団結しなければならない今において自殺行為に等しい行いであり、日本人らしい行動と言えるだろう。


だが、それもこれもこれまでの改革の弊害、なのだろう。
前線への支援と言って日本の貯め込んできた資金を大放出してまで作った、今の世界の流れ。

もちろん、それには将来大きく儲かることが見込めるからだけど、未来を知らない者からしたらそれに反対する者は多く出てくるのは当然でもある。

天霊祭の時もそうだ。オカルト染みた物を信じる者は少なく、その実態が地球外生命体のオーパーツであったとしても、最初の財閥始動の時には問題が続発したものだし、弥太郎さんの前例が無ければ、この団結力の強い光菱財閥であったとしても信じる者はいなかっただろう。

それをどうにか形作れたのはマリヱから授けられた俺の超人的な演算能力と、未来の知識、そして親父のカリスマ性の成せるものだ。

しかし、政府ではそのようなものは大きな役割を果たせるものではなく、実際に使ったのは、金と人脈と、そして犯罪の証拠だ。

他にも短期間で実戦配備できたグリフォン計画の各機体や、試作型による公開試験でその超火力を見せた翔鷹などの技術力なども効果はあったのだが…先月、正式配備されたアメリカのF-15と比べてしまうと霞掛ってしまう。 やはりアメリカとの差はぬぐい難いものがあるらしい。

なにせ全体の技術力では未だに劣っているため、発想でカバーしている面が多々あり、一般人が好きそうなスペック表では翔鷹でさえ負けている面が多く見られるのだ。まあ公式スペックを低く見積もっているからでもあるが。

そういうことで上のほとんどを抑え、実際に大きく舵を切った日本政府ではあるが、下の部分が仕事を投げ出し、行政に大きな傷跡を残してしまった。


そんな動脈硬化を起こしている縦割り行政社会の日本に対し、新政府は血を強いるほどの断固とした態度と利を説いた説得で内部を洗浄中の日本…

そして政府への支援として俺のチートが大活躍したというわけだ。

だいたい、こちら側に属さない官僚の大物がサボタージュを命令しているわけで、天下りしたどこかのお偉いさん(普通ならばここらへんがラスボスになったりするんだが)が日本の電話回線とネット回線網を使って連絡した時にはバカかと思ったものだ。

なにせその監視者は俺直轄の(非合法な)諜報組織の管轄であり、このチートの網にかかった官僚の大物は数知れず。

サボタージュが発生した瞬間に逮捕劇に繋がる喜劇が上演されたりと面白いものが新聞をにぎわった時もある。

そんなこんなでこの一年は文字通りの知恵熱が出るほど働いた。


今回のソ連との技術提携の話だって過去、日本に入国したスフォーニと繋がるソ連側のスパイを使ってのものだし

それ以外でも、新しいパソコンを使った政府内の情報網構築とプロテクトの設置などは良いほうで

サボタージュ中の部署の業務を民間に委託し、その間に

国内の不正資金源の把握
(公安の協力の元だが、いちいち捕まえると問題が大きすぎるので警告の上、多く税金を払ってもらったり、脅す材料に)

流動性を失った資金の把握
(慎重で有名な日本大手銀行や金融組織、はたまた赤字連発をする国営組織、地方行政団体の資金の運用)
等をやらかし、
果てには年金問題、国民保険問題などの国内の金の流れを(出来うる限りだが)把握して、国内の大掃除(書類不備等)を敢行した時には何度緊急停止して突如の睡眠モードに突入したことか…

もちろんチートな演算能力を持つ俺だからこそ出来たことなのだが、それでも邪魔者が大勢はびこっているため、全てを把握することはできていない。がまぁ、十分な引き締めはできただろう。

それもこれも"金"が必要だからなのだが、まずは国が運用出来る金を把握し、それから民間、企業と行くことで、焦げ付かずに積極財政を行える下地作りを行うためである。



いつのまにかこうなったのかわからない、がそう仕向けたのが俺である以上、それを完璧にやり遂げなければなるまい。

―――その責任においてだが。

「ぼっちゃま?ぼーっとして…お疲れでしょうか?」

おっ?完全に自分の世界に入っていたわ。え~っと……そうだ。オルタ3とスフォーニの話だ。


「ごめんごめん、ぼ~っとしてたみたいだ。
オルタ3派閥とスフォーニに関しては、介入する方向で行こうと思っている。接近してこちら側になるべく引き込んでほしい。

なに、現在結果が出てきていないオルタ3の連中も焦り始めているだろうし、スフォーニは虫の息だ、こちらの提示する情報に飛びつくだろうさ。」

そう判断を下す。ソ連自体が叩かれている現在、こちらからの接触は容易なはずだ。国際計画としてMIG21の改修計画で、ソ連や共産中国との関係も強化できたし、その伝手を構築することに成功した。あいかわらずロシア女に引っ掛かるバカどもが足を引っ張るせいで、いくらか分が悪いが…そこらへんはこれからの挽回でどうにかしよう。

「わかりました…提示できるモノについてはどのように?」


「まずはエキパストゥズハイヴの飽和度合いをオルタ3計画の連中に送って、焦りを加速させてみようと思う。

ソ連の偵察衛星では日本の情報解析度に達していないから、数週間以内に発生するだろう攻勢を予想することはできていないだろうからね。それを信じようが信じないであろうが影響力だけは残せるし。

で先にオルタ3派に接近させて、おろそかにされがちなスフォーニに技術を提示、オルタ3が欲しがるような戦術機を開発してもらおうと思ってる。

そういうことでスフォーニにはソ連の次期主力戦術機を開発する前に一つ仕事をしてもらわないと。

ちゃんと、対価をもらってだけどね。」

史実世界よりも速い、実質的なソ連の没落。そこに集まるのはマブラヴ世界でのアメリカの一派閥を初めとしたハイエナ達だ。そこに入りこむことを厭わないのは俺達も同じである。

そもそもオルタ3の目的であるBETAの情報は俺自身が知っているため、情報の価値は《説明する時のデータ》としての価値ぐらいしかない。

唯一未来と変わっていそうなハイヴ内のマッピングデータだが、現時点の戦力と兵器の方向性から言って、BETAを押し返すことが第1目標であり、ハイヴ攻略が目標ではない。

そんなことからも、バカな奴らが逆に攻略が可能と夢見てしまう《麻薬》になってしまうための現時点での価値はない。いやむしろマイナスだろうと言える。

そんなことからしてオルタ3の価値は、ソ連とアメリカの関係をこじらせつつ、ソ連からの必要なものを巻き上げるためのものとなっており、腐肉を餌に獣を弱らせる罠としてしか使うことはないだろう。

ソ連にはせいぜい壁の役割ぐらいはしてもらいたいと思うがね。


「では、そのように。」




そんな一つの国家を揺るがすであろう決定が簡単に決まっていく。

そんな、日本の影響力が国際社会で大きくなるにつれて、財閥の総裁以上の影響力を持ち始めている俺を、時々客観視してしまうことが多くなっている。

これまで通りマリヱ、弥太郎さんの意志と日本の国益に沿うように前進し続けてきた自分。非道だろうが非情だろうが進む方向に後悔はない。

だが、異常なほどの権力と地位を手に入れた今になって、戸惑わなかったと言うのは嘘になるだろう。

そこまでの力をマリヱによって手に入れ、それを活かす勢力を生まれ落ちた時から持っていた俺。

それは俺自身の努力の成果ではないのにも関わらず、ここまでの影響力までになったしまったことに対して一種の恐怖を感じているのだろう。この俺が。正に愚かしいとは思うのだがそう思ってしまうのだから仕方ない。


そんな思いを含ませてしまった言葉を、一つの方針が決まり早々に退出していく兄の後ろ姿を見て、一人ぼやいてしまう。

「…なにか一つ間違えているのではないか。そう考え始めると最近寝れなくてね。マリヱ」

国家、未来、それに与えた影響からか、何時の間にか"これからの人類の未来"にまで口出しができるように錯覚してしまうまでになった俺。

「そこまで人類は弱くない」とは当たり前のように思っている、しかしあと2年、最初のターニングポイントをクリアする期限が差し掛かるにつれて、マイナス思考に走ってしまうことが多くなってしまっている。

それを只一人の共犯者に愚痴ることは間違っているのだろうか











「最近、悩んで寝れない?いつもパソコンのように速攻で寝ているお主がか?」

…ん?あれ?


「……あ、あれ?マリヱさん? ほら、今そこは俺のテンションをどうにかして盛り上げるところじゃないかな?

ほら、頑張れ的な? そんなもの、二人で乗り越えよう的なさ? そしたらフラグ的なものが発生するとかあるじゃん? ね?」


「ね?ではない。前に 『マリヱ俺すごくね?今、首相より偉いんだぜ?ほら、なんかあるだろ?ほら。』やら 『俺SAIKYO----!!!まじやべぇ!!リアル酒池肉林できんじゃね?…でもまだ下の毛が生えてこねぇぇ―――!!!クソォォオオーッ!!』

等々バカな発言の数々、忘れたとは言わせぬぞ?」


「えっと…それは、あの、えっと…すいませんでした。さっきの会話は、あの…会話のネタがなくてつい、出来ごころで…」

いつもここに籠っているから会話のネタがなかった、反省はしているさ。


そもそも今の俺がマイナス思考に陥ることなど、知り合いが死んだ時ぐらいだろう。
未だ地球の対岸で怪獣に喰われている者達について遺憾には思うが、それ以上の感情など持つことは無くなった。

それ以上に俺が喰われる未来から逃げたいためにも、「その事実を同情をかうことに使えるのではないか」という薄汚れた感情のほうが幾分か大きいほどだ。俺はそういう人間で、そういう人間がこの日本を導いているのである。

日本、ご愁傷様。



マリヱが掘り出しやがったバカな発言にしたって記憶の中の新データを発掘してハイテンションだったからだ…そうだ、そうにちがいない。うわぁ…冷静に見てみると黒歴史の誕生だよ… 正にいかれてやがる…




「まぁ良い、前線の状況を知りながら、たそがれている最高指令官など、BETAに喰われたほうがマシだ。その図太い神経はその椅子に座るには無くてはならない資質だと我は好ましく思っておるぞ?



…オッホン、でその話は置いといてだ。聞きたいことがあるのだがよろしいか?」

「…あれ?今俺ほめられた? 今俺ほめられたよね? 好ましいだってさ。プッ。素直じゃないんだから、それならそうと速く言えば良かったのに。 




マリヱーーー!!結婚してくれぇええ!!」

「あーうるさいっ!! 主はほめるとすぐのぼせ上がるところがきらいなのじゃ! 聞きたいことがあると言ったであろう!!」

「なんなりと、この孝明にご説明いたしましょう!!」キリッ

なんという完璧な姿勢、態度へのトランスフォーム。これでマリヱもギャップ萌えを起こしてくれるかな?


「(なにがキリッじゃ。バカ者め。それにこの実の代わりよう。
出来る男ではあるが、最近のストレスがたまっていることを考えても奇行が多すぎる気がするのは気のせいなのであろうか?

まぁ…弥太郎の願いをかなえる唯一の者なのだ。我慢はしよう。


―――絶対に惚れはしないがなッ!!)

租借の件についてだ。あれはなぜ容易に進めたのだ?最初から話してもらおうか。」

「あぁ~その件ね。もう根回しは済んでるし、あとは企業を誘致する段階だよ?」
気づいていなかったの?

「なっ!?いつの間に?」

「あれっ?…あっそうか、ここ最近こっちからロックしてたんだった。いや研究中にお邪魔するのもあれかなぁ~と思ってたら常時ロックにしてたわ。ごめんごめん。」

「…まぁ、その件は後でいびるとして―――先のオーストラリアとの租借の件だ」

うわぁ…いびるって姑かよ…

「怒ってらっしゃる…
まぁ、史実の詳細も含めて説明するかな。

ではまず、今、オープンにした記憶の中でも、マブラヴ史実で日本帝国が1985年初頭にオーストラリア、オセアニア諸国と経済協定を締結しているのはわかるよね?」

俺がいなかった世界の日本は、将来のBETAの本土上陸が不可能と考え、主要産業や軍需産業を中心に海外に移転することを始めているのである。

それに基づいたのがマブラヴ史実の1985年、オセアニア諸国との経済協定なわけだ。


「あぁ…しているな」

「これを早送りし、それをもっと大々的にしようと考えたのが今回の計画なんだ。」

それが今回のオーストラリアの土地を50年間租借することで成り立つ、日豪経済協定の防護協定だ。

それは計画としては1982年より開始されその実、それ以前からのインフラ事業や企業の移動なども開始されており、スムーズな形での
新しい国土化が可能となる。

「実際の租借地はアーネムランド半島(インドネシアの近くで日本の本州と同じくらいの面積)という人口過疎地を50年間租借することだね。」

ここに世界中からの日本国籍の移民を中心に国民が移動する予定であり、その人口は8年以内に3000万人を目指す壮大な計画なのだ。


「オーストラリアも、ここ最近のBETA大戦の影響で食糧の産地として大国に数えられるようにまでなっている。そんなオーストラリアから租借など…できるものなのか?現実的に言って無理だろう。」

そう思うだろうな…普通は

「ところがどっこい、出来る可能性は高いんだわな。

高い理由としては何個かある。が、まずオーストラリアって国がどんな国、どんな状態なのかを絡めて説明するな。当然だけど当たり前の部分もあるけど勘弁な?」

「よい、話せ。そのほうが読者も解りやすいだろう。」


「(メタな発言を…)まずはオーストラリアってのは移民によって国民の増加をしている白豪主義の国という点からだ。

白豪主義ってのは簡単に言えば白人のほうが良いよねって主義で、オーストラリアの成り立ちは宗主国のイギリスからの移民によって作られた人工国家で、実際は犯罪者の流刑地としての暗い歴史を持っているんだ。

しかし、最近のBETAの影響による急増する移民のほとんどが中華、アジア、アラブ系がほとんどになっている。肝心の白人のほうは日本・アメリカへの移民者が多く、オーストラリアの気候が合わないという人も多いため先の人々比べたら微々たるものだ。

そんなもんだから、さっきの主義から白人の割合を維持したいが、白人人口1500万と国土に対して人口が少なすぎるんだよね。」

「まぁ、その白豪主義からすれば、危機的な状態になるからな。」

史実世界でも、オーストラリアが完全な白豪主義になったのは中国移民労働者のせいでもあり、総じてアジア人に対する感情は悪い。

(…2000年に入ってからはカナダと同じく中国移民者が激増しており、政治掌握されているが…まぁこの世界では関係ないだろう)


「そのために正直、非白人の移民は技術者や金持ちぐらいしか欲しくないわけだ。

…だけど、移民が止まらないし、止められない。

大国に数えられたいオーストラリアだから、国際常識の観点から移民を多く受け付けなければならないからね。国土が大きく、人口が少ないなら尚更ね。

で、まず最初の理由、"非白人を租借地に移行させる"利点が発生するわけだ。政府としても白豪主義からくる白人と非白人との内乱なんて抑えたいからね。」

「そういうことか、移民というのは数が多いほど管理が難しく、将来への禍根の原因になりやすい。急増すればそれが治安問題になりやすいからな。」

「そう、それにこの案をのむことでオーストラリアは国内の非白人に対して強く出れるわけだ。そんなに嫌なら租借地に行けば?ってね。人権としての観点から見たら最低だけど。

またアーネムランド半島にはアボリジニの自治区もあることも挙げられるからオーストラリアの白人からしたら…ね。」

「正に白豪主義、だな。」

「そしてこの時期がチャンスとなる。未だに世界の中心である西欧がBETAに蹂躙されそうになるのがこの1984~1986年であり、世界的に危機感に駆られ、各国が本格的に軍事路線を進み始めるのがこの時期だ。

そうなることはアメリカとしても見逃すはずがない。

そのために日本、オーストラリア、インドネシア、マレーシア、オセアニア諸国が前線国家を支援するために経済協定を結ぶことは、アメリカの言う「平和な国際協調」路線に一応は沿っている自然な流れのため、表の世界だけで言えば怪しまれる危険性はない。で、その一環としてオーストラリアの一部を借りてそこに国連を招致しちゃおうってのがもう一点。」

「先の京都協定が大きいな。」


「次に、オーストラリアは西太平洋の覇権を、日本側のインドネシアとアメリカ側のフィリピンの三国で潜在的に水面下で争い始めているって点。」

「海軍の増強か。オーストラリアが大国となろうとしているなら当然ではあるがな」

力を持ち始めた海に面する国家がまずすることは、シーレーンの確保、つまり恒常的制海権の拡張・維持を目的とするものだ。それはオーストラリアも変わらない。

「その中で、インドネシア、オーストラリア、日本とが、まず経済協定を結び、将来、それが発展して軍事同盟とすることが内密に決めたわけだ。

そうすることで、覇権争いを2対1にし、アラフラ海とタスマン海を完全な制海権を得つつ、一大勢力の一角の椅子を得ることはオーストラリアの国益に適っている。」

「まぁそうなれば良いだろうとは思うがな。オーストラリアのほうも。それに近年の日本との相互経済依存度の観点から見れば、戦争をしようとしても出来ないまでの関係にはなっている。」

最近の光菱の影響を除いても、ユーラシア国家からの食料輸入が不定期になりがちなことから、日本の食卓に占めるオーストラリア産の割合が大きくなっている。これに加えてオーストラリアに対する輸出のほうも言うに及ばないだろう。


「で、次に軍事面についてだが、オーストラリアは最近になって強大な農業力を背景に国力を急速に増大している国という点だ。

また先に述べた通り、国力に見合う発言力を手に入れるための独自の軍事力がほしがっている。

が、今は当然、イギリスとアメリカの影響を受けた軍備になっているのは解るよね?」

「オーストラリアは英連邦の一員でもあるし、その盟主のイギリスに貸しがあるアメリカならば、太平洋上にできつつある大国をほっとくわけにはいかないからな。」

その歴史と、資源・農業国である点からも兵器の製造は苦手分野であり、装備のほとんどがイギリス製かアメリカ製である点は避けられない事実としてオーストラリアにのしかかっている。


「そのせいもあり、京都協定がなる前までは、イギリスは欧州戦線に対して忙しく、アメリカはオーストラリアを軍事力によって抑えつつ、おいしい収益を上げるために自国側でい続けさせようとしていたわけなんだ。

そんな状況じゃ、独自の軍備を増大して揃えることは限りなく難しいのは自明の理。大国と成り得るオーストラリアなら尚更ね。」

しかし、ここで一つの疑問が浮かぶはずだ。
「ん?日本は軍備を揃えることが出来ているのにか?」

「オーストラリアは完全な後方国家だよ?日本は下手したら中国の次の場所だ。

ソ連ほどじゃないが将来のための租借や軍備増強は不思議ではないし、どちらかと言えば結局米製の兵器を買うことになるからアメリカは見逃してる感じかな。

あとは戦前の日本状態に戻して、BETAの脅威によって泣きついてくるのを見越しているかだね。

それに加えて最近の日本の軍備は輸出用の対BETA用のものが中心でアメリカの直接的な脅威となる対人類用のものは増加していないから…まぁ比較論ではあるけどね。」

「そうか。未だにアメリカの保護の中というわけだな…」

そう見えるなら成功なんだけどね

「話を続けるぞ?先のオーストラリアの実情からこの同盟を結ぶことで、将来、同盟の側面をもった相互防衛に発展させることは両国内部で決定されたわけなんだけど、これは租借地内の日本軍事企業(主に光菱重工の最先端技術を見せたおかげなんだけど…)に格安で開発を委託することで軍事費を抑え、将来の同盟国との共同開発に発展させていくことを睨んだもので、事実、国力と発言力を増大できる寸法でもあるんだ。

それに日本は形だけではアメリカ、イギリスに次ぐ第3の海軍を持ち、独自の航空宇宙軍をもっている。

新たに形成される国境線に関しては軍を近づけることを禁じており、ほとんどが海軍で他は国連軍になっているためオーストラリア国民への危機感に働きかけることもないだろうしね。

そして両国が常任理事国を目指し、協力することでアメリカ以外の各国は新しい勢力としてアメリカをけん制出来るのではと思わせることが出来るわけだ。と利点は多々あるってわけだ。」

これ以外にも戦術機戦力を補強することを、米英に抑えられていたオーストラリアにとって、

日本が尽力して実現した国際計画グリフォンによって、第2世代機、欧州と遜色ない戦術機を制限なしに購入することが大きく、その製造拠点の一つを租借地内に作るとした日本からの貸しがあったのだ。



「ほう…考えているのだな。最初聞いたときは、どこのほら吹きかと思ったぞ」


「(あれ?俺、今さらっと馬鹿にされてなかった?)

それ以外にデカイのが、マブラヴ世界の史実のオーストラリアの歴史なんだ。

そもそもマブラブの世界の中でオーストラリアが大国になれたのは、先端技術を投入して農業力を向上したおかげなんだよね。

しかし、オーストラリアの国力と総人口、そして移民を受け入れづらい白豪主義を維持し続けられていることから見ても、ここまでの健全な国力増大は単独では絶対に無理ってのはわかる。

で裏を洗ってみると、その技術と資金はアメリカを支配する投資家や財閥が協力していることがわかったんだ。だがアメリカの投資家がそこまで甘いわけがない。オーストラリアに対してのけっこうな借金の金利と制約が発生しているんだよね。

そのおかげなのか安全な地域に属するオーストラリア国債の信用度が7年前からなぜか下がってきている。急な改革と最近の移民による治安悪化から国民が不安に思ったわけだな。

そして一時的な経済危機に陥っているのが今のオーストラリアであり、そこにヘッジファンドが集まり始めているのが現状なわけだ。」



「オーストラリアに禿鷹がくるとはな。砂漠が多いからか?」

「(それはギャグで言ってるのか天然なのか…)
2000年代のオーストラリアからすれば意外と考えるかもしれないけど、1980年代のオーストラリアの経済はひどかったんだ。

まずは先の農業投資が余り成果に繋がっておらず、アメリカのドル高もあって支払う利子が大きくなっていることが大きい。

それ以前に1982年からのホーク政権が今やってる構造改革の前は、非効率な高コスト経済体質で、高関税、労働者優遇がひどかったから高インフレ、高失業率が長く続いちゃって、さっきの対米利子問題が泣きっ面に蜂状態。

日本からの投資を呼び込むために、俺がいない世界でも経済協定を結んだのも、うなずける状態なんだ。」

「意外ではあるな。主の記憶からすればオーストラリアは安全な投資先として有力国であったのだからな。」

「まぁね。俺も調べてからわかったから大きなこと言えないけど。
まぁ、そんな状態のオーストラリアだから付け込めるわけで。

そんなんだから今のホーク政権を応援しつつ、こちらから租借地の代金、欲しかった農業関連の技術と軍事技術、そしてオーストラリアに対して円借款と、

唯一高調である資源輸出に対して、必要になるインフラ整備をこちらが請け負うことを条件にオーストラリアがアメリカ勢力圏に入ることを防ぐことができるってわけだ。

まぁ、その代わりとして関税を下げたりとかしてもらったわけだけど。

それにだいたい、国土の40%が非居住地域になっているほどのヒドい環境なら日本企業が開発したほうが安上がりだ。国土の4%くらいを租借して、日本の最新技術を利用することで、その場所を農業が出来るようにしたほうが両者とも儲けはデカい。

農業の余剰生産分は日本を通じて輸出できるし、世界中が飢え始めている今、天然食糧を待ち望んでいる国は多々あるわけだしね。

新型の第Ⅱ世代戦術機(翔鷹)の優先権やオーストラリア用にカスタマイズ機の開発も考えていることを流せば嫌とは言えないでしょ。

他にもオーストラリアは第二次産業(工業)の割合が低いため、インフラ事業を日本企業に整備させ、日本からの輸入品と日本への輸出品とも輸送コストが下がることができ、日本の租借地の産業開発の余波で多大な利益が出る。

インドネシアにしたって、BETA大戦による移民の急造と最近の人口の急増で食料の確保が難しくなっている。

そんなところに、日本の最先端の農業・医療技術と、オーストラリアからの安定した食料輸入が実現できれば、農業を含む様々な産業の成長に安心して投資が出来る。そんなことから見ても今回の協定はおいしいはずだ。」

「日本、オーストラリア、インドネシアは今後、水面下で対立し始めるよう、アメリカによって形作られる運命だからな。その前に構造から同盟してしまうわけか。」

「そういうこともある。そして、日本は表向き、日本の主要工業の移設を目的としているためオーストラリアやインドネシア、マレーシアに対して、日本企業が流入することは現地雇用が増えることでもあり、その土地に投資されていることに等しく、一大消費都市を国内に作り出せるオーストラリアの国益になる。

と他にも多々な利点がある。そのメリットをオーストラリア国民に理解してもらえるように情報操作するわけだ。

デメリットもあるけどメリットのほうがデカいのよ、っていう風にね。
これによって租借を格安で出来るはずってわけだ。」

「最後に情報操作と言っている点について聞きたいがまぁ良い…

では、逆に日本の利点は具体的にどういったものがあるのだ?まぁ土地を手に入れられるのだ。メリットはあるのだろうが、下手な方法ではデメリットのほうが大きいのではないか?」

正にその通り、そこの駆け引きやら調停が大変だったのは言うまでもないだろう。なんせ戦後から見たら租借なんて悪でしかない。

「まず一つ、当たり前だけど、安全な地域での工業開発だ。租借地は本州と同程度の面積なんだ。これからのBETA大戦に必要な物資と兵器量産に必要な土地と国民を増加出来る。移民者の差別が少ない場所にできるしね。

次に、租借地の一部を、国連直轄地としてオーストラリアと同名で貸し出すことを明言し、この租借地の存在理由が対BETAのためのものと公言すればだ。

租借という、戦後から見れば悪習という面を軽減しつつ、を移民者の受け入れることで諸外国に発言権の向上が期待できる。」

普通ならば、敬遠されがちな国土を租借する行為だが、移民を大々的に受け入れ、公平に扱うこと、国連軍基地の施設を前提とした条件が課せられているため、世界的には好意的に受け取られている。

またオーストラリアとしても、急激な人口増加による治安の悪化を抑えながら、その地域の産業が復興すれば、その余波で利益を上げられるため文句はない。

日本としても、租借地全体の人件費や物価を安くすることで、人口を気にせず増加出きる。

また問題を抱えている発展途上国の人たちが、先進国として勢いのある日本に暮らせることを目的に、移民してくるケースが増加しており、今の日本の好景気でいよいよ足りなくなってきた人手を補充でき、国力は倍増できる。

そして一大消費地域になりつつあるアラフラ海沿いの地域の供給基地ともなり、そう見越した企業と強力してインフラ増設と集団住宅を中心に、計画がなる前から作り始めており、日本からオーストラリアに行く日本人が増加し始めているのだ。



「そして、世界中から買い叩いた資源を安全圏に備蓄することで、価値が増すってわけ。今でも、中国なんかから価値が低いままのレアアースを国が大量輸入しているのはそのためでもあるんだ。

それにオーストラリアの国土開発も環境技術世界一の日本の企業連がやるんだろうし、円借款は直接日本企業の賃金に還ってくることになるわけで、世界の円使用量は増大と良いことづく目だ。

日本の企業にしても金余り、投資する先がないお金が銀行に余っているケースや、年金機構が持つ膨大な投資金が未だに残っている。

その何十兆ものお金が、安全な資産としての租借地の不動産、ひいては国家主導による地域開発事業に金が行き利益を上げつつ、開発はスムーズにいく。

対等でしょ♪」

まぁ、それが結果に実るまで10年先とかなので、今のメリットにはならないけどね。


「…そう考えると良くアメリカが許したものだな」

「それに関しては、京都協定に基づく西太平洋経済同盟による前線国家の支援のためとしているという《正義》であるということ。

アメリカのオーストラリアの投資している企業や投資家を含めて、この租借地への進出を密約しアメリカ国内でロビー活動してもらったこと。

グリフォンの国際規格機の部品製造工場をこのオーストラリアの租借地内にも作ることが決定していること。

国連軍に貸し出されたオーストラリアのフリーブラッドゾーンと合わせて一大訓練場としての役割を担うことが決定し、国連軍自体を増強することが決定していることから、その国連軍の兵器に占める割合は未だ世界最高の兵器技術レベルを持つアメリカが多く占めることが決定していること。

等が挙げられるね。まだアメリカのごますってる状態だ。」

オーストラリアへ投資している者達からしたら、昨今の経済状況を抜け出すためならと進んで協力してくれたものだ。

「アメリカ自体も、欧州に派遣されている米兵の被害から今や、厭戦気分が蔓延し始めているからな。
国連に影響力が大きいアメリカが、その国連軍を手先としつつ利益を上げられる今回の計画に乗り換えようとするのは当然か。」


「まぁね。合理的な方法を取る国だからこそのアメリカなわけだからね。

そうして結ぶことが内部決定した今回の計画だけど、日本に対してもっとも大きな利点がある。

国土を増やしたことだ。

国内の国粋主義者を抑えるためにも、この方針の状態で国土を増やしたことが国民の幼稚な欲望を満たすことができる。

それに加えて今まで声高に反対していたヤツに対して、今回の策で今までの国家方針が正しいことが立証された証拠になるからね。


国内の意志を統一すること、移民を活用できる環境を整えることは、これから一大勢力の盟主となっていくには必要不可欠なものだから実行したんだよ。


まぁ軍としても本土防衛軍、遠征軍に分け、遠征軍に移民者などを入れることで、本土内の遠征反対勢力を押さえ込めることも大きいけど。これで軍人の思考が丸くなってほしいけどね。」

「それは…アメリカと同じではないのか?」
うわぁ…すばらしい目で見つめるなや。マリヱ氏。

「違うでしょ?本土奪還を目指す勢力である日本軍とアメリカではね。

言い訳ではあるけど、遠征軍に、国土を奪還したい移民者を主軸に据えるのは普通なんだよ。

それに租借地ということで安全で健全な所に住み、家族を守り、タイムリミットまでに国土を奪還するって意識は士気の向上に繋がる。国連との共同作戦でも意志が通じやすいしね。

それだけじゃないんだけど、今は良いや。
まぁ、これが日本にとって良いことなのはわかってくれたかな?」

そもそもこの租借にしたって期限がついてるのは移民者への「母国を取り戻す」というポーズでもある。そのためにも世界各国でフリーブラッドゾーンを創設して、難民をはじめとした金食い虫を健全な国民と兵士としようという計画は利にかなっていると思うのだが。

まぁ、すぐできるとも思ってはいないが。

「ん?む~…それだけの意味があるのなら押し進めるべきではあるな。

しかし、金はどうする?安くなるとは言え、費用は莫大なのだろう?」

確かに日本の本土と同じ面積を買うのだ。その費用は莫大になると言えるだろう。

「まぁね。でも資金源はあるんだ。

支払う側である、最近の日本はこの二年の好調も相まって外貨準備高を大幅に持ちすぎているため、外国との軋轢が生じて、持っていても使えない米債とかに変わってしまうんだよね。

それ以外にも政府を牛耳ってからの内部調査で、流動性の失った資金(年金や国民保険などの一部を含む)や焦げ付く可能性の高いものを担保にして、ここに投資させてるわけだ。その費用は数百兆円規模。

その金を投資しても日本としては十分な利益になるわけで日本の米債を含んだ資金をオーストラリアに渡し、その米債をオーストラリア政府がドル建て債権の支払いに使ってもらうわけ。


「主の記憶の中の日本では、この時代にはそこまでの外貨はなかったはずではなかったか?」

するどい。

「まあ、ここまで貿易収支が黒字続きなのは、京都協定による物資・兵器の輸出と、前線国家である中東・中国・ソ連が資源を買い叩かれて資源の価値が下がっているんだよね。

他にも対豪輸出費が過剰になってもいるし、日本国内ではほとんど開発しつくしたと言って良い状況だから十分に利益になるわけで、良い消費にもなる。

それにさっき行ったけど、国内の焦げ付きそうなお金、地方公共団体とかの意味のわからない投資とかね。これと国内の銀行、民間の土地売買が好きそうな連中や長期貯金をしそうな高齢者を狙いにした〈租借土地国債〉なる物を国が作ってもらったんだ。

これが良く出来てて、租借地は移民が大量に来ることが決まっている。で、バカでも運用利益を出さる商売を国家ファンドみたいなもんで始めたわけだ。

でそれを買った者は、その分の土地を安く分譲できたりするもんだから注文が殺到してるんだよ。」

「国家ぐるみの金融商品か…」


「その通り、もう少し経てば犯罪だったんだけどね。で、そんなこんなで集まった資金を投入しようと言うわけだ。国内で余ってる資金でもあるわけだからね。

だからこそ日本がため込みすぎている大黒字を有効的に消費するためにも、この租借地の買収に使うわけだ。

そもそもオーストラリアの土地の値はぶっちゃけ安い。租借地全体で本州と同じくらいの大きさなのに、今の東京都の半分と同じ値段なんだぞ?
日本の土地とオーストラリアの土地の差額と移民流入で、元値は回収できるし、公共投資もすれば、するほど利益が出る土地だ。

支払いも、20年間の分割払いだし、米債の移譲や、これからの翔鷹のバーター取引、余っている金で日本円に価値を見出せる。使うことだけでも利点があるんだよ。」


過剰になり始めてる本土の土地の投資も、止まるだろうってのもある。
1985年に起こる史実でいうプラザ合意でも、対外的に見れば、日本の経常黒字は目減りしている。そうなればドルの価値を、最終的に1ドル200円ほどに推移させることも可能そうではあるし、技術的に見ればまだ円安の状態にできる。

『失われた10年と国土』と言われる90年代は無くなるだろうよ。

「…買うだけでも利益があるのだな…我は知らなんだ。」

「そしてこれに連動する形でアフリカのリビア、インドのスリランカの土地を買収する。」

いまだ計画段階だが、日本の商社などは動きだしており、

先のフリーブラッドゾーン周辺の国連の土地購入。これには購入された土地を持つ国が国連に譲歩し、その戦力と生産能力を国内に持ってきたかったためであるが、その時の土地の購入資金を日本が立て替えており、その伝手で周囲の土地を追加で購入。

国連と日本の共同統治地域と、購入した代金を持つ、日本に有利な国連直轄地が海外に出来たことで、海外展開に有利な地を低価で購入することに成功したのだ。

そう。その土地には国連基地が出来る予定であり、これから開発して売っていく兵器や物資を、ヨーロッパ、中東、インドの後背地として国連と日本で分割統治しようと考えているわけだ。

そうして、売り込む先の国民を優先して、日本企業が雇い、その土地に出来た海外子会社や支社を成長させる。

そうなればその土地を売った国も、十分な利益と国連による保護を受けられるわけで、ウィンウィンの関係を構築。

その土地自体が、日本が「前向きにBETAによって失われた地を、日本が取り戻そうとしている」という意志表示にも繋がっていくわけだ。

それにこの分割租借地に住んでいる人が収める税金の半分は国連にいくことになる。

こうなれば国連に対しての分担金として見られるわけで、日本が収める分担金の代わりにもなって、実質税金のほとんどが日本にいっていることと同じなわけだ。

「それにアフリカのリビアとモロッコは、ヨーロッパ、中東の後背地として。インドのスリランカも南アジア地方をカバーできる地であることから、輸送コストもかからず、各地が国連の印度洋方面総軍、欧州方面総軍の直轄本部として機能することで、戦力、売上ともに上がるってわけだ。」

そうして前線国家群への影響力を確保しつつ、日本製品を広げる大きな役割を果たす租借地自体が湾岸沿いの立地であるため、日本帝国海軍の派遣基地としても有用で、周辺諸国の大型艦の修理のためのドッグも建造することで、日本の造船業を伸ばせることに繋がる。


「それもこれも、中東、ヨーロッパが事実上滅ぶのが1987年頃と、財閥の準備期間が短すぎるためだ。
1982年の時点で、東ドイツが主戦場になっていたヨーロッパ、と帝政イランのほぼ全ての国土がBETAに奪われた中東は挽回できる時間が本当に少なすぎる。

そんなんだから財閥は、前線国家に対し長期的で好意的な契約を結んでくれる珍しい組織として名前が上がっていたほどだ。」

そんな投機に近い運用をしている財閥は、長期的に保全される資金の半分は価値が低下している利権や土地、資源に変えられて一蓮托生になっており、その代わりに物資や兵器を輸出している形となっている。

「各企業への支払いが土地である場合も発生しているからね。それに加えて国連共同地を買い上げているわけで、将来発生する不動産の価値からしたら笑いが止まらないさ。」


その分、輸出している兵器や物資の量は膨大だ。

それまでの日本と違い、"今なり"のやり方で打って出ることに決めた日本の凄まじさと言うべきだろう。

アメリカの協力企業と共に、兆単位の兵器、物資の輸出を行っている最中で、重火器を中心に、輸出仕様の戦車や前回説明した民生品を改良した格安装甲車を円安の影響もあり大量に売ることで、戦線の膠着に役立っているというわけだ。

これは俺がこの世界に来た時から決していたことでもあり、国内でちまちま戦力を強化したとして全体からしたらなんの意味もないと考えたためでもある。

なにせ閉じこもっていたらどうせBETAは来てしまう。

ならば打って出るしかないだろう。経済大国となった新しい日本のやり方で。


そうして実現したのは、さながらWW2のアメリカのように物量作戦であり、今まで以上の結果を出すためにも、今回の外地獲得によってそのコストをさらに下げ、貿易量を増そうとしているわけだ。

「これから一番心配なシベリア方面も、寒冷用の装備を充実させて東欧の移民や昔から精鋭と名高い東北地方の軍を移設させてシベリア派遣軍の編成も始まっているわけだし、今はこれからの"反攻"のための準備期間なんだよ。」

そして、中央アジアや東欧、北欧などからの移民を樺太に住まわせ、それが後に国連軍基地でも施設させれば、将来発生するだろうBETAの東進に対しても寒さに対して強い兵が編成出来る。

「うふふふ、うふっ、うふふふっふふふ アッハハハハハハ!!

来たぜ!俺の時代ッ!全ての国に別荘ぶち建ててやんよっ!!土地ころがしサイコー!ウワハハハハッハハッハ!!!笑いがとまんね―ぜッ!アッハッハハハアアウッゴホゴホッ、あ、ヤベ、笑いすぎて吐きそう…」



恵里呼「…孝明様は先ほどからずっと一人ごとを…疲れているんだわ…」
マリヱ「(最後のが無ければ素直に褒められるのだがなぁ…)」




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筆者です。

予想以上に増えちゃいました。今回が大東亜連合の盟主となるインドネシア、日本、オーストラリア間のお話です。

イラストの方を上げました。
83式支援擲弾砲・乙と甲の二つです。戦術機用の兵装でWS-16突撃砲を流用させた中隊支援火器…というものです。

では次回にて



[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第4話  場景
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/01/06 19:10
1984年 9月13日 ルーマニア社会主義共和国 トゥルチャ県 ドナウデルタ防衛陣地


眼下の戦場は先ほどの火山のような砲撃は身をひそめ、軽自動車を主軸とした掃討部隊の出番となっていた。

それは守勢が成功を収め、戦況は掃討戦に移行し始めていたことの証。

現に強化外骨格を着た機械化歩兵を軸に、現代において人肌を晒していることで頼りなさそうに見えてしまう歩兵部隊までもが残党狩りをおこなっていた。

もちろん相手はBETA。
撃ち漏らした闘士級などの小型BETAや、死に体の要撃級に止めをさしていく。

彼らの活躍は、さきほどまで塹壕に籠っていたことが嘘のようなその情景はこれまでの戦場通り、今でも歩兵が戦争の主役であることを物語っている。


しかし兵士の被害もこの気の抜けてしまった空気に比例して大きくなる。

そうなることを危惧した古参兵士は新人に檄をいれ、最後の仕事に取り掛かり始めている。


BETAの化け物じみた生命力、それを知らない新人ほど道連れにされて死んで行くからだ。

勝ちが決まった戦場で死ぬことほど遺族とその個人が悔しいものはない。


「終わりましたね。」


「ああ、そうなるな。」

そう言葉少なに会話を交わすのは、30代後半にして大佐となった人物と、それに随伴する形でここにいる吉良イズル中尉である。

―――まあ大佐と言うのはオレなわけだが。

その俺と吉良中尉に眼前に示されている友軍の奮闘。

それを地上で観戦武官のように眺めているのだが…やる気の出ない仕事に変わりはない。

「…話終わっちゃいましたよ、大佐。」

「ん~退屈だ。」

「(無視ですか)そう言えば、なぜ自分が大佐と同席することを最後まで教えてくれませんでしたね。他に適任な人がいたのでは?」


「もう教えても良いかな?今回のパーティーは高度に政治的なものだからね。そんなところに連れてくれる優秀な部下として君を連れてきたんだ。確かバイリンガルだったよね?」

そう、今回のこの退屈な仕事というのは前線の奮闘を肴に同盟やそれの友邦が集まって開かれる、立食パーティーに出席するという、とても面倒なものなのだ。

そこに上司から行けと言われたわけだが…急過ぎるわっ!!

何度か本国でパーティーは参加して、やっと空気に慣れたぐらいの俺になんでこんな「金持ちと権力者」しか参加できないものに出席しなければならないのか理解に苦しむ。

戦場で36mmばら撒いているほうが幾分か楽だ。


「それは…ありがとうございます。ですがバイリンガルなのは大佐もでしょうし、自分より檜久木中尉の方が先任ですし優秀ですよ?」

たしかにね

「檜久木君かぁ…彼仕事出来るし部下の面倒も良いんだけどなあ。外見と違って気が弱い所あるでしょ?だから他の仕事回してあるんだよね。」

今回のパーティーというのは、ミスの許されない戦いでもある。

良くある社交界において無駄にゴージャスな仕様というのは古今東西それが必要なものであるからで、無駄というわけではない。

個人的にはそのゴージャスさを低減させて装備を充実させる方向に回せないかと思うのだが…必要なのだ、そう思わないとやってられない。



それは今回の今目の前にしている大ホールも変わらず、とても煌びやかである。…光線級に狙われないか不安になるほどに。

そんな会であるからこそ、連れてこれる部下と言うのも厳選しなければならないのだ。

戦闘屋なおれの部隊からそんな者いるか?と思ったものだが意外にいたものだ。

少佐や大尉でいるのでは?と聞こえてきそうなものだが、今現在その高級士官達は戦場で勤しんでいるか、準備などで時間は取れないらしいのだ。

暇とされる者も日本の中で他の派閥と目されてしまい、いろいろと問題があったり、そもそも参加したら大惨事になることが必定の者(更木とか更木とか涅とか)しか残らず、俺プラス従者としての中尉一人となったのだ。

で選ばれたのが吉良くんだったわけ。彼の使い勝手の良さは異常だ。
檜久木くんは中尉階級でも面倒見が良く、大尉が足りない中で部隊をまとめてくれる人なので基地でお留守番してもらっている。

「(檜久木さん…大佐に内面バレてますよ)はあ…自分もネガティブなところがあると思うのですが」

あらら、吉良君のダメなところが出た…

「君は大丈夫。今じゃなくて後で落ち込むタイプだから」

「(断定されたっー!!しかもなんとなく当たってる気がする!!)」


「そういうことで、今回はBETAの侵攻規模も小さいから、旅団はお休み。俺達は同盟のお偉方と一緒に前線を見て回っているわけだけど、なんて言えば良いのか退屈だし居た堪れないね。」

先ほどまで、小規模の争いを肴に同盟内の高官達と談笑していたわけだが…

その談笑の中身を知っている自分達からしたら、眼前で戦っている同盟の兵士に対して申し訳なく思ってしまうんだよね。


「ポーズとしてもあるんでしょうね。最近の支援をしてくれる日本の士官と同盟の日本派が一緒に前線を回るというのは。」

吉良中尉の言うとおり、東欧内で確固たる地盤を築いた"同盟"「東欧社会主義同盟」という国家連合組織。その高官達がこのような前線の視察に来ているのはただ単なるポーズでしかない。

その高官達とのおしゃべりに参加しているのは、日本派閥に属する各国官僚と財界の大物…の片腕クラスが数人、そして日本の中で急成長を遂げている光菱の者達だ。

所謂同盟内部へのプロパガンダであるが、それをしてこちらに媚を売っているのだろう。

以前の東欧国家の惨場からしたらまだマシではあるが…

「って言ってもこんな大佐一人に周りに群がるのはやめてほしいものがあるよ。そうでなくとも日本人の庶民出の俺にとっては居づらい空間だし。」

「あはは、日本の庶民からしたらパーティーというのはテレビの中の物ですからね。慣れないのも無理はないと思います。

ですが、今回参加されている日本勢の中では大佐が一番大物ですからね、群がるのも仕方ないでしょう。」

吉良中尉、言ってくれるね…自分でこのような評価を下しのはあまり良いものではないが…

おれは大物だっ!!もう一度言う、俺は大物だっ!!


これは冗談でもなんでもなく、光菱に早々に捕まった俺は光菱派閥に属する部隊の長を任されていることが大きい。

実際に光菱と繋がりのある日本帝国軍内の高官は数知れないが、光菱の指揮権下に属する部隊であるこの旅団の長というのは結構なステータス…らしいのだ。

いやあ…ビックリ。無理やり光菱傘下に入れられたわけだが、結局同期内で一番の昇進頭となっており、若手筆頭の権力者となっているのだから人生なにがあるかわからない。


そんなもんで、光菱、ひいては日本国内を牛耳る者達の直属部隊のような認識であり、今回の任務のような非正規任務を任せられる重要人物と見込まれているのだ。

何せ非正規とは言え増強師団(中将クラス)を任されている現状からして周囲の目からしたら異常に写るのだから仕方ないと言えば仕方ない。

本人としてはたまったものではないが。



「まあこのパーティーをやっていること自体、前線の兵士からしたら溜まった物ではないと思うけどね。」

「ですね。戦術機甲の連中がわざわざこちらに寄ってまで、活躍しようとしていましたから。」

わざわざ、高官が見えるほどの場所にBETAを引き込み、戦術機の活躍を見せる。それを実現するのはどれほどの血が必要なのかわからないが、出血を強いられる行為には変わりない。

それほどまでして得たいものはこちらとの繋がりなのだろう。



現在、東欧における同盟の勢力基盤は盤石ではある。
東ドイツを盟主にしたい一派や、ソ連との関係性を第一にしたい派閥など、政治権力を第一にした有力な者達はBETAの脅威によって国その物が瓦解した。

愚者とは失敗から学ぶ者だが、権力者の中の愚者とは愚かしいもので、国民の大半をBETAに喰われながらも権力にしがみ付こうとすることには変わりなかったのだ。

その窮地の中で救ったのは、同盟、ひいてはその同盟を支援した日本政府と光菱の働きというわけで東欧内では、同盟議会に対し盤石と言って良い人気を誇っている。


もちろん同盟内で口外などされておらず、上層部に置いてもタブーとされているのだが、もっとも当てになる国として誰しも上げる名前は日本以外にはないだろう。

それほどまでに支援が充実しているのである。

前線で兵士が死なず、今の戦線を維持することに成功しているのはそれがもっとも大きな要因だろうとも言われるほどに。


「確かに日本が誇る海運と貿易網は、大国にふさわしいものですからね。アメリカがいなければ十分超大国に入るでしょう。」

「最近のGDPの伸びはまた黄金期に入ったと言われるくらいだからな。」


日本から来る物資と、同盟などが持つ貧弱な流通網を越える、世界第1位の海運能力とネットなどで新しい広がりを見せる日本の貿易網。

さすがに軍事としての流通網としてはアメリカに何歩も劣るものだが、今現在しているのはBETAとの戦いであり、海上交易網は通常と変わりない。

ならば、だ。


割高になっている資源を得るために、世界各国への輸出をまい進してきた日本にとっては、今回の東欧への物資支援など通常の輸出を少し難化させたほどであることには変わりない。

それが、それこそが海洋国家日本の真髄であり、アメリカを凌ぐ唯一の部分、日本を世界第2位の経済大国に押し上げている原動力でもあるのだ。

それに加えて昨今の好景気だ。1982年、83年と連続してGDP成長率は10%を超え、日本の産業はフル回転となっている。

その国家規模からして貿易量も巨額に上り、日本にいる人間には分からないかもしれないが、その支援量は戦争全体を逆転させるほどではないが、戦況を変えられるほどには巨大となっている。

それに加えて前線国家への支援についても、国が赤字国債を発行までして援助しつつ、銀行を通じて各国への投資まで行っている日本。

そのため経済の成長以上に貿易への依存度、外需(国連直轄地と租借地も含め)の割合が大きくなっているのだ。


「結局は政治的な駆け引きを前線に持ち込んでいるだけなんだけどね…」

「ソ連を盟主にしていた時点で政治遊びが好きになるのは分かっていましたが。」

そしてその中の最大組織、光菱と繋がる俺や、財閥から派遣されている者との懇談会と言うものは同盟の中で、いかに自分達が奮闘しているかを見せる絶好のチャンスなのである。


彼らがそんなことをする理由もわかるのだが、思わず愚痴が出てしまうのは許してほしい。


わざわざ懇談会をこんな前線でやる精神が良く分からないからだ。


戦況を楽観的に考える者達からしたら、自分達はさぞや勇敢に写るのだろう。こちらから見るのと間逆なように、な。


「…話を変えよう、気がめいってしまうよ。」

「そうですね。他の話ですか…
ああ、そういえば今回の襲撃の対処を見て思ったのですが、東欧のほうも戦力の補充がなってきましたね。」

「そういえばそうだね…2年前と比べるととんでもない差だよ。戦術機も軍用車両のほうも」

そう言って二人が見るのは、先ほどまで活躍していた兵士。その使っていた兵器たちの中でもっとも脚光を浴びている兵器、戦術機に移っていく。

「今考えても、あの東欧がソ連と離れて独自の戦術機路線に行くとは思いませんでしたが、現物の活躍を見てしまうとなんとも言えませんね。」

「こちら側の干渉があったとしてあそこまで舵をきれるところは評価しないとな。」

「まさかグリフォンを採用するとは…」

そう言われている当機、今吉良中尉の目に前にて編隊機動を取るグリフォン トラッシェ2G東欧仕様機に話は移る。


もともと東欧にて採用されていた戦術機は去年まで3機種であった。


1983年中ごろから光菱製のF-4パーツの一部(?)を使っているため大分F-4に近くなったと噂されるMiG21。

ソ連初の純国産戦術機にて第2世代戦術機であるMiG23。(東ドイツ、ルーマニア配備)

そのMiG23で見つかった問題(量産性・整備性)を解決したMiG27。(東ドイツ一部)

そのどれもがソ連が開発・改修した機体であり、そのもっとも優れた部分である、機体寿命を犠牲にした安価性と主機出力・跳躍ユニットの性能の高さによるいうスピードとパワーの高さは世界の中で確固たる地位を得ている。

東欧各国もアメリカ製の戦術機の優等生ぶりには惹かれながらも、盟主であるソ連の前線国家の心情を理解した方向性に対し、盟主だからという理由を抜きにしてもその性能に満足はしていた。



だが、同盟は違った。

頼りにならなくなったソ連にいつまでもすがりついて居られないという自主性の開花。

海外からの支援の充実と新たに頼りになる日本という国の誕生。

この二つの理由と同盟内部での同盟議会の求心力を得るための行動として同盟は1984年に入って大きく舵を切る。


西側諸国製の戦術機を入れた、同盟内主力戦術機の選定だ。

普通ならば、同盟という東側諸国でも大きな国家群であるものが西側を導入する見込みも打ちたてない。


そして比較検証されて実現したのが、西側諸国で短期間でベストセラー機となったグリフォンGF-5型の導入だ。

依然影響力を持つソ連のMiG27を正式に主力選定して同盟で量産するか、それより優れる機体を選ぶかで荒れに荒れた同盟議会であったが結果を見てみれば、同盟の求めているものは明らかだった。


それは年々、欧州にその存在を消失させているソ連よりも、日本などの第3世界を仲介した支援の増加を期待しているという政治的理由に加えて、もうひとつ、グリフォンの見せたコストパフォーマンスの高さだ。

そもそもグリフォンとは厳密にはその機体名ではなくITSF計画を昇華させた新しい計画のコードネームであった。

その名にふさわしく、各国との合成獣のように改良、改修を前提にしたブロック別の構造は、"アーマードコア"と呼ばれる技術を使っているらしく、その機体は段階を上げるごとに性能を上げていく摩訶不思議なまでに進化していく機体になる。


1983年中ごろにて量産が開始されたトラッシェ1型(現行F-5改修機)において出された課題を即座に修正しつつ、純正機として製造されたトラッシェ2型は、1984年の初めに量産が開始されたのだが、それまでの戦術機との違いは明白であった。


何も機体のスペックが高いと言うわけではない。

ソ連製のMiG27やアメリカで先月配備が開始されたF-15に比べ、主要な項目において全て負けているか同程度といって良いほどの低スペック性である。



しかし元々がF-5という安価な第1世代戦術機を改修したトラッシェ1型。

そこから派生した機体には共通部品も多くあったが、日米欧で製造された純正パーツに持ちいれられた新装甲素材などにより脅威的な量産性を生んでいたのだ。


それに付け加える形で取りざたされるのは、空中でダンスをしていると言われるほどの機体制御性の高さと精密性である。

従来の考え方であれば主機出力、跳躍ユニットの出力などによるパワーで物事を解決する方向性が戦術機の中で強かった。

それは戦術機の外見にも見て取ることができ、面倒な空気抵抗値を考えた機体制御よりも、WW2時代に比べて脅威的なほど進んだ跳躍ユニットなど、パワーで外乱を押しつぶす形が採用されており、スペックデータがそのまま性能に直結する今までの兵器となんら変わりはなかった。


それを変えたのが、このグリフォンである。


OSとフラバイワイヤの採用と日本からの各種技術を採用したことに加え、外部装甲にまで空力特性を考え抜かれたそれは、安価性を残したまま、接近戦、遠距離戦の両方で必要になってくる運動制御を容易にした。

これによってコスト比でみた諸戦対応能力と言う部分で、このグリフォンに勝てる戦術機は無く、その仕様変更の容易性も相まって少々の質を維持しつつの量産性を持つ第2世代機が誕生したことになる。


この量産性は元より、開発スピードの速さは世界各国からの技術者を集め、その研究・開発・量産までもが国連直轄地という特殊な地で大規模に進められた成果でもあるのだが、何より日本の出した基礎構造の素晴らしさにあるだろう。

ソ連機のように機体寿命を最低限に、各国が求めた仕様変更に外部を変化させることで最低限ではあるが満たせるその構造。


それにはあのアメリカでさえ声が出ず、日本への疑惑の目線を向けることになるのだが、現にその国際社会への働きが日本の国益に比べて大きな物と成っていることからして、国際社会で発言することは各国共に控えられている。

これもその機体の成果を大きな物と証明づけている証拠と言えよう。


そうした国際計画機であるグリフォンを採用することに決定した同盟は、日米欧で完成されたトラッシェ2型ABCD型の4機種からDー2型、ギリシャ・イタリア採用機を選択。

それをさらに東欧仕様に改修した機体はG型という機体番号をふられて、国連直轄地内部にある東欧施設群を中心に大量生産を開始されることになる。
(東欧の比率は約4割。跳躍ユニットはソ連製ラ国、1984年6月開始)

「確かにグリフォンは良い機体です。各国が最低限必要と見込んでいる最低ライン(第2世代基準)全ての性能を満たしつつ、各国仕様にすることで、もっとも必要と見込まれる部分を重点的に改修することで、その国が求めている機体を実現できてしまう。

さすがは第2世代最弱の機体とアメリカやソ連から揶揄されつつも各国が採用する機体ですね。」


「あの北欧でさえ各国と共同して国産仕様機を開発中だからな。
2割ほどF-5のパーツを残していたA~D型と違ってG型以降は全て純正品だからもはや"F-5"と言う別称も使えなくなる。」

「それに83式支援擲弾砲も東欧を始め中東、西欧でも使用されていますから、規格の合うグリフォンの評価も上がっていくでしょうしね。」

そうして全世界で規格を統一することになったグリフォンは、西側と東側でのソフト技術の違いがあるとは言え同レベル機体であり、欧州諸国の貴重な外貨獲得手段となっていた。


その量産性もあって全てのトラッシェ1型は1年と少しで3000機を軽く超し、トラッシェ2型を合わせると5000機に迫る計算になる。

これは1年と少しという短期間で現時点で世界で第3位の戦術機保有数を誇る日本と同じ機体数を製造した計算になる。

これを実現したのは、日米欧が協力したこともそうだが、世界の先進国のほとんどが投資して実現した国連直轄地という共同地において大規模工場群を建設出来たことが大きい。

そこから誕生した基本部分に、各国仕様に変更する仕様別組み立て工場(ここが東欧や欧州などの前線国家の資本比率が高い部分である)に流れることで生まれた量産性というわけだ。




「日本の上層部もF-4Jの払い下げに反対していた連中も最近はテレビに出てこなくなって笑ったもんだよ。もはや時代は第2世代機だからね。」

日本国内ではびこっていた国産戦術機の貯蔵計画。

国内で製造した戦術機を海外に輸出せずに持ち続けることで、対BETA戦に見られる戦力の減衰をどうにか凌ごうというものなのだが、持っているだけでもコストのかかる機体でどのように凌ぐのか聞いてみたかったのだが…

結局は国の方針としてF-4の輸出仕様と合わせて中東、欧州に払い下げることに決定し、その分が次期採用機への研究費などにまわされることになっている。

「日本の国家方針としての国際支援路線でしたが、発表した当初に劇的な変化を植え付けるには、現有兵器を回さなければなりませんでしたからね…」

「それほどまでに戦術機の役割は大きい。なにせ今の兵器では苦手とする部分を全てあの兵器一つに任せているんだからな。」

そもそも戦術機に求められていたのは撃墜のされにくい低空を、地上戦力では実現できない高速で移動できる速度からであった。


それに加えて実現したヘリでも実現できないその対応能力と、弾薬が切れたからと言って後方に下がる必要も無く、輸送部隊から弾薬、燃料を受け取ればその場で即座に補給し、1日中同じ戦域で活躍し、窮地になったら即かけつけてくれる"戦術機"というのは前線の兵士にとってとても心強い味方であった。


戦車なども強い味方で在り続けていたのだが、BETAに汚された戦場や市街地、大部隊が移動して沼地のような陸地で戦うことが強いられることが多くなった今大戦。


その死骸などから視界が遮られたり、市街地戦において上から急に戦車級が落ちてくるケースなど、緊急的な被害が増加している機甲部隊では、どうしても救援要請に間に合うにはクリアする課題が山積みとなっている。

その救援までの道のりに戦車級などの恐ろしいBETAがいないとも限らず、車両と言うことから避難民の波に遭遇するケースが余りにも多いのだから。

それに加えて自己完結性の高い戦術機というのは、あらゆる緊急事態にも対応できる数少ない希望であり、万が一、自分達が愛する国土にハイヴが建造された場合、そのハイヴを攻略することが可能と見込まれる数少ない兵器であり、戦車や歩兵などはハイヴの環境からして入ることもできない点は戦術機に疑問を持っている軍人までもが認めている。


そうした今回の大戦で出てくる数々の問題に対し、対応の出来る摩訶不思議な兵器を完成させ、実用的な兵器にまで仕立てたアメリカに対し、東側各国も評価しているのだ。

それはソ連までもが、このような夢あふれる"戦術機"という玩具を、実用的な兵器として認めたという証であり、そうでなければ冷戦構造の中対立していたソ連が、F-4の配備後すぐに購入を打診することはありえない。

どのようにしてここまで完成させることができたのか、という疑問を持ちながらだが…


「戦術機もそうだけど、2年前と比べると随分ここら辺も要塞化してきたね…」

そう言いながら眺める景色には多くの車両と、灰色のコンクリート陣地が目立つ。

「そこらへんは社会主義国の強い所と言いますか…」

「無理やり住民を国連直轄地へと移住させつつ、その土地に陣地か車道からレールを引いてまで進めた要塞線だからねえ。日本じゃ出来ないよ」

わずか2年でここまで堅牢な要塞陣地を何個も建造できているのは、いくつも理由があるが国民への退去勧告などが容赦ないことが挙げられるだろう。

経済活動を促進させるためでもあるが、この2年で拡充されたインフラ網というのはそれはもうすごい勢いで建造された。

その中には国連所属の民間ゼネコン企業も混ざっており、人型に近い重機も活躍していたことは今も記憶に新しい。

もちろん、それらが出来上がるまで犠牲になった軍人は数知れない。

どうにかして戦況を変化させたいこちらとしても、一時的な戦力補強と義勇軍の派遣によって支援はしたが、後退に後退を重ねた戦況を変化させたかった1983年。

金か命のどちらかを犠牲にするしか他に道は無く、前線の兵士たちには無理をさせてしまう結果を残している。

それでも1981年からしたら天国だ、と言われたが。



「そんなこんなで今では東欧はソ連よりもイタリア、ギリシャ、スイス、オーストリアに距離を縮めようとしてますし、光菱からしたら予想通りと言うことですかね、大佐」

「そうなるのかな。あくまで光菱の方向としてはだけど。
あとは地政学的にもリビア、エジプトとの距離も近いわけで、東欧も一人ぼっちになることは避けられたようだね。」

欧州の中央、カザウ防衛ラインにて共同してことに当たっているイタリア等の南欧軍と、イタリアを落とされた場合、窮地に陥るチュニジア、リビアなどの北アフリカ諸国。

それらと同盟は距離を近づけており、その国債発行の引き受け手としてブラジルやアルゼンチンなどの南米新興国家がそこに入ってきており、徐々に世界での存在感を露わにしてきている。


「やはり国家群そのものが、対BETA戦に特化し始めたことが周辺各国への心情を良くしているようですね。」

「最近の東欧の輸出でも好調なのが兵器関係、日本が推し進めた民生品を活用した車両に取り付ける兵器たちだからね。

これを進んで買ってくれる軍と、民生車両自体を買ってくれるのは支援してくれる国民達を持つ諸外国。
結果的には両者への心情を良くしてくれているようだしこれには日本も助かっているよ」



グリフォンなどで実現した戦術機などを始めとする機動部隊の充実。
それは東欧にとって望ましい変化であろう。

しかし重要になるのは主力。

戦闘車両や陣地に籠るための兵器たちのほうである。

昨今のBETAとの戦いで陣地防御を採用した東欧は、日本とある取引を持ちかけたらしい。

その内容は民生品を使った機械化部隊創設計画に一部噛ませてほしいというものだった。

日本としては一般兵器の売り上げが伸び悩んでいたこともあり、その部分を東欧に譲る換わりに対米貿易摩擦で焦げ付き、伸び悩みを見せていた自動車産業を支援できるとして合意した。

その結果が今目の前の戦場でも活躍しているテクニカルと呼ばれる車両や大型トラックを改良した民間転用戦闘車両群だ。



制空権などが無くなった今の地上戦に置いて、支援砲撃という役割の大きさは年々肥大化している。

それまでは巨大な列車砲や遠距離誘導ミサイルなどを始めとする東側自慢の重砲撃部隊が主軸としてその支援砲撃任務を行っていた東欧諸国。

しかしその的の大きい兵器たちは光線級の迎撃網を抜けられず、対BETA戦において、ただただ消費を繰り返す現実的でないガラクタになり下がってしまった。


ならばと日本と共同して進められた軍の主力、戦闘車両に民間のを使った計画が始動したのだ。

本来兵器と言うのは時代が進むにつれ、その技術進化と合わせて性能が向上していくと見られている。

そうして全体的に質を高め、非戦時には数を少なくしつつキルレシオなどを上げていくわけだが、その方向性であっているのかという基本的な疑問帰った前線国家。


なにせ相手は人間ではなくBETA。しかもこちらとしてはこれまでの戦争ではなく、恒常的に戦い続けなければならない闘争に近い。


ならば装甲などを排除して数を揃えることが第一ではないか、と立ち返ったのがこの計画の主軸である。


そうして思いで実現した兵器たちは、当初すこぶる評価が低かった。

装甲を軽視した、そのチープな外装、そして一台当たりの性能の低さに前線の兵士からは「俺らは革命軍ではなく正規軍ではないのか、そこまで落ちぶれたのか」と批難が続発した。

しかし世界からの支援で充実し始めた前線での各陣地を結ぶインフラ網が充実し始めてすぐに、結果を残す。

車両のほとんどが日本が開発した軍民用車両と言うこともあり(車体は東ドイツ民によるライセンス生産、国連直轄地、そして重要な区画は日本製)装輪式車両であることを加味しても脅威的な燃費を実現。

それは大型トラックでも変わらず、インフラ整備や後方支援にも使われる装軌式の重機群や車両と共通化したその車体は性能の割に兵站への負担が低く、

またその背中に背負い込んだ、迫撃砲と多連装ロケット砲台などの重火器群は、射程の短さ(ロケット、迫撃砲共に10キロ程度)というハンデを打つ消すほどの連射性能を発揮し、西側の支援砲撃の中核、155㎜自走砲部隊よりも強力な制圧力によって敵の攻勢を撃滅できるようになった。



それは正しく数だった。

民生品を使った車両と昨今向上した砲兵の練成速度、そして最近日本で導入され始めたナビがついた民生車両を活かしたデータリンク。

一部分では最新の技術を使いながら、ほとんどが民生品と共通し、背負う兵器などは安価で簡単な作りである兵器たち。


それらが合わさり、支援部隊の充足速度は脅威的に上がることになった。

そうなったことで陣地と陣地を繋ぐ道を使って、近場の部隊が敵が来る前に待ち伏せ、光線級から隠れた場所からの即支援を開始。

消費する弾薬を共通からされた車両を使う兵站部隊によって、ピストン輸送し継続的な支援砲撃によって撃滅する最近のパターンを実現した。



それはBETAの移動速度に合わせて照準を変えられるように変更が可能になったおかげでもあり、その速度を決めるだけで評定射撃実施後すぐに効力射に移れる仕様と、装甲が無いおかげで容易となった補給作業スピードの向上による結果でもある。

(それに加えて迫撃砲の性能が上がり、自走砲よりも単位時間あたりの炸薬投射量が4倍になるケースも報告されている)


そうして数を実現させつつ、集中的に火力を集中させる支援部隊と
、補給が容易になった歩兵が主軸の塹壕戦で敵を殲滅することが可能になった、やっと実現できたBETAに抗しうる絶対の防御線。


ここまでしてやっと後退を止めることができたのである。


「ここに来た当初は負けがこんでいる軍、そのものだったわけですが、ここまで敗軍が盛り返すとは…どれだけテコ入れすればここまで逆転できるでしょうね。」

「最近の日本国債のほとんどは前線国家や国連直轄地への円借款のためだから…最低でも年、5兆円。そのうちの1兆円は確実にここに貸し出されているわけだから…軽くその2倍はここに回されているんだろうね。」

吉良君が「中規模国家の国家予算レベルじゃないですか」と愚痴をこぼしているが事実そうなのだから仕方ない。


「普通だったら、そんな資金を返せるわけがない前線国家に貸すわけがないんだけどね。」

「その見放されることを回避したのは、前線国家が戦争の中で稼ぐ手段を得たからですが。」


「これも光菱の技術の賜物だから、なにも言えないけど…BETAを資源にしてしまうとはね。」

1984年5月、日本と国連によって正式発表された一つの情報がまたもや世界を激震させた。

それは最近、光菱を始めとする日本と国連などから良く出る、「刺激的なニュース」という枠を超えたものであり、またもや世界を騒がした。


それは光菱企業に連なる企業達と日本帝国大学とが共同して行っていた研究、「BETA素材の活用法」

それをさらに低コストで確立したというものだった。


その報告に世界各国は驚く。それまで実用的と見られるBETA素材の活用法というのは無いに等しかったからだ。


もともとその分野においてソ連、中国が先を行く形で実用化していたのだが、使い方としては加工、研磨が精一杯というレベルであり、そのコストは原始的な方法である点からとても高価な方法でしか有効活用が不可能であった。

その理由としてBETAが生物である点が大きいらしい。

人間もそうであるが、生物の構成している物のほとんどは複合材料であり有機物によって出来ている。

それはBETAも変わりなく、複雑に何種もの材料によって生成されたその身体は、金属のように溶かしての再利用法などは不可能であり、電気への反応も人と同じに近いため、原始的なやり方でなければ商品にはなり得なかった。

唯一の利用法として化学分解などが希望とされてきたのだが、何万回もの実験を試してみても今までうまくいった試しがない。


そうして人類はBETAの外皮や外殻などの一部に限定して実用化を目指し、結局はその一部でもコストが高いことからお手上げ状態となっているのだ。



また生物であるからして、生体部分は腐る。

これは戦場に置いても解体作業においても大きな問題とされており、利用価値の少ないBETAの死骸ではあるが放っておくと腐り、その地球外生命体であるからして、地球上には存在しえない毒素を出すのだ。

そのような死んでまでも迷惑極まりないものとして人類に降りかかる不幸は、戦場にまで影響する。

これが戦場で地味に効くのだ。


ただでさえ腐る時点で悪影響なのに、硫黄のように毒素を立ち上らせるそれは、本来であれば燃やすことが最善とされているのだが、相手の数は膨大でそのような暇はない。

片づける前に死骸にある劣化ウラン弾などの有害な物質に加えて、内部にもつ毒素が拡散。

化学対処班を呼ばなければならない事態にまで戦場で発展してしまい、バイオハザードになって前線が崩れたケースも多く前線で確認されているのである。

それにまた加える形で、燃やしても埋めても内部の毒素と、劣化ウラン弾など環境に悪影響を及ぼす存在によって、死骸を積み重ねるだけで年々、人の不利な地形となっていく。


「良くもまあ、あの死んでからも害になるBETAを資源に出来たと言うか…光菱には天才が何人いるんですかね。」

「それはアメリカのほう…とは最近言えないか。
以前まではノーベル賞なんかもそうだけど、目覚ましい研究成果は全てアメリカ、次いでイギリスだったのに。

今世界でもっとも必要なものとして上げられる
BETAに有効な化学兵器の開発。
BETAの死骸の有効活用術。
BETAの情報を知るための方法。の3つの中で一つをクリアさせてしまったわけだからね。」

それがBETAの死骸の有効活用術。

1982年当初から光菱内最大の研究所『総研』において最重要研究と位置付けられたそれは、2年の時を置いて開花する。

各種類に対しての物理的な解体法としてウォーターカッタ―などに始まり、化学薬品と電気分解、温度変化による方法は、低コストでBETAの死骸から十分な利益を出す魔法の技術を生み出した。


そのようにBETA素材の低コスト解体技術と画期的な利用法を確立したおかげで、昨今の前線国家は次第に健全な財政に戻りつつあり、

東欧では、貴重な外貨獲得手段としてBETAの素材を、国連と光菱の企業に輸出している。

「先ごろは同盟の貴重な収入源ですから、BETAの回収作業も比例して効率的になっているようですし。」

「そのための回収任務にも戦術機などの人型重機が使われているのは未来って感じがするな。」

その量は膨大なものであり、一番ポピュラーな戦車級の歯と骨格は1体当たり300キロを超え、これに貴重素材を含めると人件費が低い国家からすれば金になる。

利益率が高いのが上から光線級の保護皮膜を始めとした体内機関、地雷で殺した突撃級の装甲殻、要塞級の溶解液と脚、要撃級の腕などとなっており、東欧では非公式に部隊に賞金を出しているほどだ。



そもそもこのBETA自体がとんでもない兵器である。

人の筋肉の10倍を超える重量当たりの筋肉組織から始まり、戦車の装甲を容易に引き裂く戦車級の歯。モース高度15を超え 靭性の高さ 耐熱性の高い突撃級の装甲殻と要撃級の腕。

大型のBETAに使われる骨格自体、超軽量、超高硬度、超高靭性を兼ね、人が作りだす各種治金技術よりもコストパフォーマンスが非情に高い。

それが大々的に実用化されなかったのは、前線国家と後方国家の物流が乏しかったこともあるがそれに人手を割けなかった情勢と、未熟な加工技術にある。

その肉は国連によって少量利用されてきたのだが、使用せれる肉の中に銃弾を始めとした毒素を含んだ状態では、工程を多く取り入れなければならず、とても実用化できたものではなかったわけだ。

利用できそうな骨素材でさえ、耐熱性とその堅さも相まって、加工技術を確立することができなかった。

そこに出てきた光菱が関係した新技術。

プラズマ微細加工技術と要塞級の溶解液を利用した高分解溶液、各種化学薬品と新種のバクテリアによって、なんとか商業化できるものに変えた。


そうしてなんとか実用化に踏み切った光菱は国連にある程度のマージンを振り分けつつ、前線国家を含んだ行程段階を作ることに成功した。


前線で回収された各BETA死骸は内蔵機関と骨格などに複数に分けられつつ、バクテリアによる分解や炭素化(4000度以上の高温)処置によって一時処置が施され、日本か国連直轄地に輸送。

実用化された軍用の物では

ケブラーや炭素繊維よりも強靭で軽い筋肉繊維を使ったBETA繊維。

量の多いBETAの骨格を一気に分解、化学薬品によって再結合を促されたBETA骨子は、分解前よりかは強度などは下がるが、十分なほどの重量当たりの強度を持ち、高い耐熱性を持つ。

モース硬度15など、高い硬度と靭性を持つ突撃級の外骨格などは、砲弾や大型ナイフの添付材としても役に立ち、その高い耐熱性から再突入駆逐艦の低部に使われることが内定している。


他にもマグマを直行出来るBETAの外皮は、耐熱性と靭性、伸縮性に富んでいることから民間にも使用されており、体内にある地球上には存在しえない毒素まで、民間での利益になる。


他にも高電流密度耐性、熱伝導特性、高機械強度、固体電解質など、機械分野から半導体にまで使用できる特性が見られる材料の加工法が、研究段階から商業化に進んでいる途中であり日本国内で貯蔵が開始されているのだ。

「実際にはまだ商業化できる素材の数は少ないようですが、将来性を見込んで国連によって貯蔵が開始されていますからね。

後々から出てくる技術の中には、時代を20年早めるとまで噂される素材もあるようですよ。」


世界規模のBETA素材活用までの行程を作るのに半年、事前準備を含めると約1年でここまでできたわけだ。

全てで無いにしろ、事業として進める限りには利益が無ければ誰も進めないわけで、たった2~3年でここまでとは…

最近の開発スピードやその閃きの異常さには驚いてばかりだが、これについては日本にエリア51があるという噂も本当なのかもしれない。もちろん場所光菱財閥の私有地だが。

「そこまでは知らなかったが前線国家が戦争によって稼ぐ手段を得たことは非常に大きいな。とても喜ばしいことだね。」

「普通であれば革新的な新素材などはその業界に反対されるものですが、売れてもらわなければならない理由もありますし、民間で使うとして量が多すぎない点も経済には好影響のようですよ。」


このBETA素材活用産業と良い所は人件費の低さが物を言う点と科学技術が発達した分野にきっちりと分かれている点だ。

日米など、一人当たりのGDPが高くなった国では採算が合わないため、前線国家群はBETAの素材について共同して値段を決めている。OPECのようなものだ。

供給が安定していないことがネックではあるが、国連商業プラントでは難民を起用した工場で、肥料から始めて大型機械の素材加工にまで実用化されることが決まっており、さらに国連の規模が上がることが見込まれている。

「量が少ないのはしょうがないと思うけどね。なにせ狩りをしているわけだし。せかされる軍もたまったものじゃない、」

「そうは言っても人類が久しぶりに狩猟をして得ようとしている工業品ですからね。
…なにか、石器時代の男に戻ったようにも感じますね。」

「今度はマンモスじゃなくて、BETAだけどな。」

「マンモスよりも凶悪で、人類が負けそうですけどね。

まあ数が多いですから主要三品目については量の確保を容易ですが、問題は光線級や、固体内に微小にしか存在しない素材ですね。

その量からしてレアメタル、レアアース、とまではいきませんが部分的にはそれに準じるものとなるのは間違いないです。」


そしてこのBETAの死骸を活用する上で問題になるのが、安定供給が必ずとは言えないと言う点だ。

なにせ狩猟による、素材の確保だ。

食事用ではなく、ほとんどが工業用として使用することが見込まれるそれは、工業用だからこそ安定供給が大切になってくる。

そしてその活用素材自体だが、ゴミとしては大量ではあるが民間の商品として使うとなると量が少ない。

年、数十万体という個体を殺しても回収できる個体、回収しても利益になる部分を取り出せる個体を考えれば、良く考えても半分ほど。

そして一体当たりで必要となる部分は、体重比でも半分いけば良いほどであり、何種類も実現した活用素材の種類で割ると、さらに種類当たりの年間収穫量が減る。


G元素を抽出できないか、という案も出されたようだが、どうやら作られる時に使われるもので個体の体内にはない、または極々微小にしか存在しないため、商業化は不可能と考えが出されたらしい。


まあ軍に稼ぎの手段が生まれたのは人類にとって大きな前進だ。

まだまだ未来がある。5年前ソ連から見放された遠い異国、この東欧にも。



「それにしても君BETAの素材について詳しいね…一般では知られていないんでしょ?」

「これでも東京帝国大学 理学部 化学学科卒ですから、そこらへんは癖のようなもので調べてしまうんですよ。」

「…えっ?なんでそんなエリートがこんなところにいるの?」

「衛士特性にエリートもヤンキーも関係ありませんよ。」

「それはご愁傷様、だね。」

「まあ軍に入ることが決まったことには絶望しましたね…
入ってからの軍の惨場を見てさらに絶望しましたよ。」

「さらにご愁傷様…これはおれもか。
確かに軍の硬直具合はひどかった。70年代後期に入ってからの軍の躍進を勘違いしたバカが多かったからね。
今はどうにか抑え込めているけど、それがどうなるか…俺達リベラル派みたいな連中が頑張らないと将来軍がダメになりそうだけどね。


…ってもうこんな時間か。もうそろそろパーティーも中盤のようだから休憩所に長居するのも不自然がられるだろうし…そろそろ行こうか。」


「…了解しました、大佐殿。」

まったくもってしょうがない。慣れない仕事ではあるが、旅団のためだ。

それに2年間でここ、東欧にも愛着がわいている自分がいる。知り合いも出来たし、可愛い娘のような存在も得た。それらを泣かせないためにもあの豪華絢爛なシャンデリアの元、顔に笑顔を貼り付けて頑張りますか。




―――――――――


筆者です。焼き直しのような形に近いですが、他の者からの目線ではどうなのかを書いてみました。
前線の現状変化を次話と含めて書いていきたいと思います。

三日後におまけ話を上げて、少し更新スピードを下げたいと思います。



[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第?話  日常
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/09/12 23:32
※今回はおまけということでSSとしては本来、不適切とされる表現方法を取っております。そこのところについてはなにとぞ容赦願いたいと思います。※



おまけ『ドナウ陣地のとある日常』

~東欧同盟地上部隊の日常風景にて~




やっと終了だよ…陣地掃除


やっとかよ。おっせぇっての


うっせえよ


…あっそうだ。また良い情報が手に入ったぜ?


なんだ?


さっき、となりの部隊の奴らが噂してたんだが、またコンスタンツァ港に輸送船団がついたらしい


どうせ、また戦術機とかだろ。あの日本部隊のためのさ。俺達歩兵には関係ねぇよ。


それがだ。なんと赤マルがついてやがる。


んっ?それ当り前じゃねえのか?日本の部隊のためなんだし


バ~カ、あの日本の部隊は一応国連軍ってことになってるから、いつも日本の輸送船で来ないんだよ。だからいつも船籍偽造して持って来てんだ


よく知ってんな


俺の弟がそっちから分け前もらってるらしくてな


ずりぃぞっ!!


知るか!俺が言いてえよ!!…でだ。その赤マル、えっと「日の丸」だったか?それがついてるってことはだ。


なんだ?


支援物資ってことだよ


…いつも通りじゃん


はぁ…ホントおまえ頭わるいのな


うっせ


だからこのドナウにくる支援物資や軍需物資ってのは、来る場所がだいたい決まってんだよ。


へぇ~


北アフリカからの装甲車両や自走砲、これは国連で決まった国際計画から回ってくる代物で俺達歩兵には関係ないヤツで少ない。


機甲科とか砲兵科のやつらが最近喜んでたのはそれか


次に南米や南アフリカ、ソ連、中国からの資源、これが一番多い。


そんなところとまで貿易できるようになったのか?以前まではソ連かアフリカとかからだけじゃなかったか?


それはあれだ、日本のおかげってやつだな。仲間で大国のソ連や中国のところにしたってBETAとの争いで今じゃあ海運なんてあって無いようなもんだ。だから最近の国連の動きに乗せてあの国の販路を間借りさせてもらってるらしいんだわ


日本さまさまだな

だな


でもアメリカの犬っころがここまですげえとは思わなかったわ…それにしてもその資源は何に使うんだ?国内だけだと量が多くないか?


これは俺ら同盟のドイツ野郎が手先が器用だからな。加工して輸出したり兵器作るためのもんだ。BETAのせいで、おれらの人件費は異常に低くなってるからな。また日本の仲介で商品を世界に売ってんだとよ


マジで?なんで日本はそこまでしてくれるんだ?


さぁ?友達が少ないからじゃね?


ひでぇwwww


で、その資源の代わりにソ連製の戦術機やら重火器をコピーして輸出してるわけだ。時々日本車のテクニカル改造車が乗ってくるけどな。資源にまぎれて


まあ食い食い扶持ってやつか。


そういうことだ。他の食い扶持はあれだな。BETAの死骸。


あれ臭いから嫌なんだよな~重いしキモイし


って言っても金になるんだから仕方ないだろ…


歩兵の最近の仕事はBETAの死骸の回収って言ったら国民はどう思うのかね


落胆はするだろうな


まあ隊の仲間から被害が出ない任務なのは助かるけど


そう思って働けよ。士官様にはノルマもあるし、出来高で将来、兵站コースに行けるらしいぜ?こんな前線からおさらばしたいからな


だから最近士官様がうっせえのか。腐る前に持ってけって。


それは腐るからだろ…まあ成績が良かったら俺らも飯とか装備とか回してくれるからな


でも宇宙人の死骸で食い扶持を稼ぐってホント時代がファンタジーになったな。

まぁ…宇宙人と戦っている時点で、な。

違いない。


で最後に日本や東南アジアから食料と弾薬だ。


おっメシか


おまえ…これは世界第1位の輸送船団を持つ、日本だからこそできる芸当ってやつなんだぜ?こんな危なっかしい黒海まで定期的に輸送できる国なんてそうはいない


…オマエ何時の間に日本好きになったんだ?粛清されるぞ?


ないない、士官のほうが日本に心酔してるしな。それに飯が上手いし、部隊広報で回ってくる漫画とニンテ○ドーあれがおもしろい。今、テトリス1位のTTT様はおれのことだぜ?


…まぁ確かに飯は上手くなったよな最近。前まで飯はひどかった…


ジャガイモが丸ごと、塩っけしかないスープ。


パンは硬くて「俺たちは戦車級じゃないっ!!」て嘆いていたからな。


マシなのはアメリカ製のMREかイギリス製の携帯食料って時点で泣けてくる。


マジでBETA肉入れてるのかと思ってたぜ。チョコレートが救いだったわ俺。


今じゃ、日の丸がついたクローバーマークの牛缶やらクジラ缶、豚缶、カレー缶とかが大人気だからな。


ビーフシチュー缶が俺のジャスティス!!


ばかwww


もうあれを味わったら米製のステーキがサンダルの底にしか見えない。


言えてるwww俺達喰ったことないけどなwww


日本のは合成食料が結構入ってるらしいじゃん。なんで天然の使ってるイギリスとか負けてんの?


料理がないからさ<キリッ


ばかwww


まぁ冗談は置いといて、日本では東南アジアや前線からの食料と国連とで作っている合成食料や工場産野菜なんかを混ぜて作ってるらしいぞ?


へぇ~


で世界でも食えるように最近になって味を各国仕様にしてるらしくて、俺らの舌にも合うんだと

そうでなくても他と比べるとな…


しかも日本でもオベントウという伝統的な携帯食料術があってだな。


出た、お前のニヒ日本知識


聞けって、でだ。そのオベントウというヤツのお陰で冷凍食品やら簡易食糧が発達したらしく、あんなにレパートリーがあるのは民間にも使ってるヤツもこっちに輸出してるらしいぞ?


本当かよ…軍用に耐えるのが民間に出回ってる国って…


あのカップ麺だってそうだ。あれ半端じゃない。お湯入れて、3分間BETA殺すだけで出来るんだからスゲーよ。神に感謝してるわ。


隊長~ここに戦闘中にカップ麺食ってるヤツがいます


嘘だよ嘘ッ!!!


冗談だよ、言うわけないじゃないか同士…ってことで今度食糧融通してほしいのだが?

クソッ!!今度な。


ありがとさん、話は戻るけど俺はカップ麺、音立てちまうから好きじゃないだよな。


バカ、あれは音立てて食べるもんなんだよ!!


そうなんだ。あっ感謝してると言えば、今じゃドラム缶サイズのビーフシチューを開発してくれたことに感謝してるぜ。部隊全員で食える。


日本のはそれまで小型にしなくて良いほど軍用食糧が小さいかったからな。

俺らは子供かっwwwってぐらいだったからな。あとスプーンの先にフォークついてるヤツ。アレ作った日本人尊敬するわ。


sporkだろ?あれ日本が発明したわけじゃないらしいぞ?

じゃあどこだよ?

どこでも良いじゃね?広めたのが日本ってことで。

だな。起源がどうの言うやつは歴史がないってことを吐露してる証拠だからな。

いきなりなに、かっこいいこと言うなよ。

わりぃ///


日本ってことで思いだしたけど、あの日本人の大佐がモテるのかわからない…

あぁ~あの国連軍の。あれだ、包容力ってやつじゃね?


ちげえよ。あれだ、人生最後のモテ期突入してるだからだ。戦場の運を犠牲にしてだけどな。

死なないでほしいけどな。

あれ?オマエ大佐に惚れてんの?男なのに?


ちげえよっ!!大佐は良くも悪くも戦場以外ではプライベートには詮索しないし、あれでもバイリンガルだからな。差別もしない。それになによりあのクローバーマークのなんだっけ?あの財閥。

ミツヒシだろ?発音しにくいんだよな。あれ。


そう光菱。あれからの支援を廻してくれるのは大佐がそのお偉いさんと仲が良いかららしいぜ。

ほう…


だからじゃねぇのか?

なにが?

さっきのモテるって話。

それだ


それに加えて20代で大佐、しかも巨大財閥のコネもあって、不用心…じゃなかった隙もあって優しい。顔は…まぁ日本人だから若く見えるしな。金、人格、コネ、あとは顔は及第点。モテねぇわけねぇだろ。ただでさえ男がいねぇんだからよ。

大佐あれでも30代後半らしいぞ?

えっ?マジで?

さすがは日本人だな。"KI"ってやつで若さを維持してんだ。

それ中国じゃね?

同じじゃねえの?

さぁ?


でもさっきの男がいないって理論だと俺らがモテない理由がわからん…




……

…顔か、顔なのかよぉぉぉおおおおお!!!

おい叫ぶなっ!!

やべっ!!!中尉来た


「おいっ!!!そこのおまえら、なにくっちゃべってる!!」

もうしわけありません!!×2

「な に を くっちゃべっていたかを聞いているのだ。」


いや、えっと…

クロノ大佐がなぜモテるのか、コイツが言いだして

あっ!!てめぇ!!!てめぇからだろっ!!言いだしたの!!

「黒野大佐? ああ、あのお方か…それは決まってるだろう。まず地位、金、人格がそろっていて顔は及第点。」

ほらな 


「それに加えて、結婚すれば日本への移民権が手に入るのが大きいな。

結婚出来たら自分はいまや夢とかした専業主婦になれるんだぞ?夫はおまえらと違って戦場で死なない可能性が高いのもポイントだな。
不安も無く恋愛感情を抱ける相手だ。

だからこそ、この地獄から抜け出すためにも己の生存をかけて恋してるわけだ。

まぁ、女は生き抜くために恋に恋してるというわけだな。わかったか?」


(……知りたくなかった)×2

でも大佐結婚してますよ?

「たしか東洋では オトコノカイショウ という言葉があってな。その力が男にあるのなら女を何人でも娶っても良いという風習があるらしくてな。ならばあの大佐も良いのだろうと考えているらしいぞ?」

(たぶんだが絶対にちがうっ!!それっ!!)×2

「それにだ。最近の我が国同様、男手が少なくなった国では一夫多妻制を良しとする国が増えてきている。

異国で暮らす?そんなもの、女仲間で共謀して数人で大佐の懐に入ってしまえば良い。もちろん大佐のせいにするのを忘れずにな。」

あれっ?具体的だ。まさか中尉?

「なななにを言っているっ!!!」


大佐ェ…

じゃあ、少佐や大尉などは?クチキ大尉などはイケメンで、日本のコノエ?というロイヤルガーディアン出の貴族らしいじゃないですか

「クチキ大尉もモテてはいるのではないか?
だがそれは恋人としてまでで、結婚はその本国にいる貴族連中が許さんだろう。
そういうことを含め、今回派遣されている日本人の上位幹部のうち、血統的にも性格的にも懐が甘そうなのが大佐、グンと下がって愛染大尉くらいだ。

まぁそこらへんだろうな。この国の上が許すのは。結婚すればこちらとのパイプを作れるのだからな。」

(愛染大尉と言われた瞬間、なぜか女性自身が大尉に刺されている映像が脳裏に…)

あれっ?ザラキ大尉は?

「おまえ、あれがモテると本気で思うか?」

…そうですね。

「他にもめぼしい者はガードが堅かったり、周りの副官がうるさかったりするからな。

あとは移民する予定の者か…これもあちら側からしてない。
家族と共に移民するために戦場で戦っているのだから、下手にスパイ疑惑を増すこの異国での恋愛など、しようとしてもできんだろう。」

本国から来ている中尉以下の者はどうなんです?懐が甘い者が多いのでは?

「中尉階級から下の連中は階級が低すぎて将来がわからんし、下手な者に手を出して、こちら非協力的な組織に属していた場合が怖い。

だからこそ中隊を任せられ、ある程度の派閥に属するかが分かる大尉あたりからが狙い目なわけだ。それになにより下位士官は外に出てこんからな。基地内に籠りっきりが多い。」

保護されているわけですか…

それにしてもやけにくわしいですね…御自分で調べたので?

「女を舐めるなよ?女性士官だけの情報ルートがあるのだよ。
黒猫マークがついた手紙に入っていてな。確か、そういう面でのスパイがいるらしく、確かヨルイチと言ったか…

…値段は少々高かったがな。」

(怖ぇええええ!!!)×2



《こうして東欧軍の日常は過ぎていくのであった…第五話へ続く…》









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※1 世界の海運事情と中東の歴史

1965年 低燃費の船舶が開発される 海運コスト低下

1972年 日本、船舶保有量世界2位に

1974年 中東へのBETA侵攻により石油価格上昇。BETAオイルショックにより一時的に世界海運需要が低下、石油備蓄法の制定

※この時期より中東諸国による北アフリカ湾岸基地への備蓄計画スタート
並びに中東諸国の政府系投資ファンドの設立が相次ぐ

同時期、中東三強(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、帝政イラン)に売られたF-4の戦果により中東が一時安定。三強国以外の中東諸国が石油利権による莫大な金を使い、割り当て枠が決まっていた戦術機を買い漁り始める。


1975年:世界海運、中東石油備蓄により中東に売却されるタンカー船増加。
BETA被害における人員損害を嫌った各国は、輸送船舶における自動機械化部分の増加が始まる。と同時にその方向性で先を行く日米へのタンカー発注増加。

1976年:原油価格 BETAオイルショック以前の値段まで下がる
※海運景気上昇、日本輸出需要増加により日本船舶量さらに増加。造船増加量世界1位に。

主要輸出物:前線国家への合成食料、兵器輸出(軽量軍艦・軽装甲車・軍用電子機器など)、民間物資、自動車など


1977年:アメリカの中東諸国への優遇措置(F-4、F-5)に対し、優遇とメンツを失った中東三強国が次第にアメリカへの不信感をあらわに

日本企業、中東三強に接近。

1978年:中東において第1次聖戦連合軍を形成。(後の中東連合オブザーバーにエジプト、リビアが参加)

1979年 石油公団法、備蓄法の改定

日本国内において近年の造船景気に当て込み、民間のスーパータンカーを流用した戦術機母艦計画は浮上。

純粋な空母型を望む声も大きかったが、水上露出面積の大きい空母型を運用するよりも日本近海においてでは、コスト当たりの輸送量が見込めるスーパータンカー流用型に決定。

※事実、日本近海限定においての渡洋攻撃力はアメリカを抜く量の戦術機輸送力を持ち、2001年の甲21号作戦においてその輸送力を世界に知らしめている。

1980年 造船業頭打ちに。この年からの2年間で国内第4位三満汽船、第7位の中村汽船の負債が溜まり始める。


1982年:光菱、対米不振の続くサウジアラビア、UAE、帝政イランに接近。
光菱商事、日本郵送の持つ世界中の国外海運基地周辺の土地収用後、備蓄プラントの建設を推進。 光菱 造船業拡大を開始。

同時に政府系中東ファンドに対し、技術力の見返りに日本国内赤字企業に対しての共同株式売買を約束。光菱財閥傘下、子会社企業の増加が顕著に。

光菱フィナンシャル・グループを始めとした金融企業を使い、国内、海外投資家に対し、石油を使った短期ファンド、特別債の設立。
投資量の増加により、海外備蓄の促進と中東諸国系ファンドの運用資金増加。船舶を使った金融商品を作り始める。

そのほとんどが日米欧、先進諸国への投資と、光菱が企画しているオーストラリアなどの国連直轄予定地への投資に集中する。

代わりとして日本国内で増産しているF-4の優先供与、ITSF計画グリフォンでの中東仕様増大と優先権を約束。


1983年: 世界第1位である日本郵船 国内第4位三満汽船、国内第6位日本ライナーシステム、国内第9位昭和海運と次々合併 

世界第2位の商船満井 国内第7位ナビックスラインと合併

世界第4位の河崎汽船 国内第8位中村汽船と合併

この国内大合併合戦は光菱の主導で行われたもので、中東ファンドとの協力もあり、世界全体での海運の半分を担うために造船加速と相まって進めていたもの。


1984年:国際協調路線本格化。国際貿易量急増。ネット販売による輸送量増加も見込まれる。

光菱財閥ならびに協力組織、1年前の合併による合理化、2年前からの輸送船買占め、光菱重工などの造船設備への投資増加により造船業活性化により、日本の船体規模は世界屈指に。

国際協調路線による需要急増により、供給力不足に陥る諸外国が増加。
光菱、買占めと増産した輸送船の転売などにより収益過去最大に。

中東政府系ファンド、軒並み大幅黒字を続伸。金融商品によるもの。




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※筆者です。更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
最近換えたばっかのモデムがカチカチ鳴ってネットが繋がらなくなる現象が頻発しております。フレッツ光に替えろという謀略か、はたまたただ単に回線をネズミに齧られているのか…困ったものです。

今回はおまけ話ということで描写方法も理由のほうもコミカルにしてみました。お笑いは難しい…


では次回にて




[28072] 第Ⅱ章<暗躍編> 6話 冷戦 《11/21改訂更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/12/03 14:27
※お読みいただく前に今回の話の注意事項を…

今回のお話では通常であれば非合法で非道な行いを主人公が取っており、
杞憂であれば良いのですが、政治の汚い部分がお嫌いな方、正義感の強い方は読むと嫌悪感の強い内容のため、お読みいただくのならばご注意戴くよう、お願い致します。


それでも大丈夫だと自負できる方のみ本編のほうをどうぞ。



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1984年 12月14日 

この世界においてBETAという『人類の共通の敵』がいる現在でも、人と人、国と国、主義と主義の対立が続いている顕著な例をあげよ、と言われたならばたいていの者は冷戦と言うだろう。

「冷戦」

中学生にもなれば社会の授業のときに一度は聞いたフレーズであり、現代の『宗教対立』とまで言われるほどの思想の対立を見せた事象。

もちろん、対立しているのは東のソ連中国 対 西のアメリカ、西欧であり、それはこの世界でも変わらない。

それは冷戦そのものは1974年にBETAが出現してからというもの、東西の対立は沈静化はしているが、決して無くなったわけではなく、むしろ対BETA戦争においての相手側の失敗の被害から、実害としての怨恨が両者の中で蓄積され、今現在、人類全体での協力を乱す大きな足枷の一つになっている。


そしてオレが進める対BETA戦略にも大きな弊害として立ち塞がっているのが現状なのだ。というのも…






「だぁ~!!!!ま~たソ連にハイヴが出来やがったっ!!!」の言葉に集約できるだろう。

現在、光菱財閥と協力する国家の働きによって、BETAの西進の勢いを弱めることには成功した。もちろんそれは後退することを前提にした遅滞戦略上でということには変わりないのだが、目に見える形で死者、消滅するはずの財産は減っている。



しかし、西の次に攻勢が強い北ではその影響がまったく見られない。


―――ソ連、北進の勢いが止まらないのだ。




そもそもオリジナルハイヴのある中国(ウィグル自治区)からのBETAの侵略方向は、まずヨーロッパを目指すように西進から始まった。

これはチンギスハーンを真似ているのか定かではないが、順調に蹂躙しつつ、1976年にはBETAは「あっ!!ソ連さん、チィ~っスwww」と言いながら(?)北進を開始。10年も経たずにソ連はハイヴ保有量世界最多の6つを保有する、めでたくない記録を残している。

(原作スタート時には26個中12個)マジパネェwwwで済めば良いのだが、こっちとしては現実問題であるため草文字などつけられるわけがないのだ(笑)



そのBETAの動きだが、西進自体はこれからの戦術機開発や国際協調路線等でどうにかなんとかなるかな?というレベルにまで落ち着いたのだが……

もう一度言う、北進がマジでやばい。


1984年後半から本気を出したBETAによって10番目のハイヴを植え付けられたソ連は、以前説明したBETAの攻勢部隊によって西シベリアを蹂躙され、負けっぱなしの食われ放題。


連絡が取れないのが地方政府単位で出てくる始末で、その長大な国境線もあり、亡命したのか死んだのかわからない行方不明者がうなぎ上りに増えているのが今のソ連の現状だ。


「本当にひどい…日本の偵察衛星からの写真だけど、見る?」

「…私にグロ耐性がないことをぼっちゃまは知っているのでは?」

そう言って目の前で紅茶を優雅に飲んでいた人物のパソコンにデータを転送する。

相手はこれからの方針を決定づけるために呼んだ、俺の兄 光宮 吉弘だ。

うわぁ…画像見て兄が顔を青くしてるよ。

「吉兄よ…人の上に立つならば、見たくない情報も目をかっぽじって見ないといけないんだ。我慢してね?」


「うわあ……って画像倍率低すぎてなにがなんだかわかりませんよ、これじゃあ」

だろうね。地区の気象予報レベルの上空写真だ。だが


「じゃあ、これが1年前。」


「うわあ…地上の色が変わってる…っていうかこの茶色部分、全部BETAが掘り返したんですか?」

再度見せたソ連の地上写真の比較が、現状を物語っている。

一年前の写真では緑だった地形が大分茶色に換わり、BETAの領地が大きく広がっているのだ。


「ひどいですね…資本主義なら崩壊しています。」

正にそれ。国際戦術機計画の元、時代遅れとなったMIG21を改良、自国内での戦術機戦力をどうにか回復できてはいるが、戦果としては微々たるもの。

史実よりかはBETAの侵攻に遅れが出てはいるが、それもBETAが温存しているハイヴ内の数割を放出すればまたたく間に崩壊するだろう。


「まぁ…こんな状態になるのが分かっていたから、手を打っていたわけだけど」キリッ

「キリッて…やってることを見たらそんなこと言えませんよ…まともな人間なら」

「なにってモンゴルとの中継でしょ?」

そんな情勢なわけで、どうにかしてこの状況を利用できないかと考えて使おうとしたのがモンゴルとの国交である。


モンゴル人民共和国 

人口は400万人ほどの東側の小国でありながら、その国土の大きさに合わせた資源を持つ国でもある。

その資源を代貨に、現在のソ連中共と頼れる国を失い、風前の灯火となっている現状も合わさって、日本が非公式国交を結ぶのはそこまで難しいものではなかった。

「なにを中継してるかが問題なんでしょう…」


「えっと…亡命の幇助?」

「実質的には人身売買ではないですか…」

確かに中身を知ればそうとしか見えないだろう。

さきほどのモンゴルとの繋がりを活かしてソ連、中国国内で問題となっている地方軍閥、マフィアを仲介して非公式の外交ルートを作ったのが1982年ごろ。

それをつかって、中央アジアから各国との国境を侵犯する『行方不明者』を内部の協力者を使って死亡書類偽造を行いつつ、亡命。

第3国経由で国内に入ってきているのが、最近の(世界にとっては)プラスの風向きであり、それが現代の人身売買なのだ。


「まぁそうなんだけどね。結局死んでしまう命。有効に使わないといけないと思ったからこそやることにしたんだ。そう決まった。それに後悔はないよ」

「冷血漢とも呼ばれるお父様よりも冷酷ですが、そこが私に足らないところなのかも知れませんね…」


まぁ、通常であれば国家ぐるみの大犯罪。国力を減らした国から国民を分捕っているわけだが、オーストラリアなどの租借地が手に入り、世界的な行動が可能となった日本からしてみれば、利益のある"人類のための善行"ならば進んでやらなければならない。それがどのような非道な行動であろうとも。

「4年かけ、力を持った日本に内に引きこもっていることは世界が許さないし、前線諸国に金がないのなら、古くから使われている方法しかない。」

「それが人身売買。行ってしまえば奴隷精度の復活ですか…ですがなぜソ連や中国が許したのかわかりません。本来なら戦争ものだと思うのですが…」


確かに現時点においてBETAにぼこぼこにされている中ソとしても、“これまでのような人身売買”を許すほど落ちぶれてはいない。

しかし

「もちろん、これで発生する利益を両政府が享受しているからこそ許されているわけだよ」

こんなことを通常であれば許さないはずのソ連、インド、中国の反応はどうだろうか?

なにせ、他国が国家ぐるみで自国の国民を奪っているのだから、普通ならば戦争ものだ。


これは先に述べておくが、意外にもにそこまで大きな問題にはならないのである。

「そもそもこんな原因を作りだしたのは東側陣営なんだ。BETAを殲滅出来なかったとか理由のほうじゃなくてね。」

「…どういうことなのでしょうか?」

「質問に質問をするのは悪い気がするけど…まぁ良いや。
じゃあ質問。話は少し変わるけど東側陣営や前線国家諸国が対BETAのためにやりだした共通した内政策はなんだと思う?」

「そうですね…う~ん…外貨獲得のために輸出政策の補助やその手段の確立などですか?」

たしかに戦争ならばどうしても外貨が必要になる。それを考えれば妥当ではあるだろう。

「う~ん、それもあっているんだけど共通してはいないんだ。盟主に頼った国も多いからね。

正解は人口増加政策、多産の推奨だ。」

これは戦前の日本が行った『産めよ、増やせよ』と同じようなものであり、それ以上に各国の政府が推し進めたものだ。

「確かに戦争が長期化するのが目に見え始めてから、どこの国も取り組んでいましたね。この日本もそうですし、世界人口が30億ほどに減ったことからくる反動だと思っていたのですが…それが先ほどの話とどう繋がるのですか?」

「それが問題に繋がってくるんだよ。ソ連も中国も試しも無しにいきなりフルアクセルで舵をきるじゃん?なんとかかんとか改造計画とかいってさ。

それらと同じで今回のも上手く経済が回るわけないんだよ。ただ人口増加するだけ経済規模が順調に大きくなるわけではない。その途中で破産するケースが多発しない環境を作る必要があるんだ。」


1970年代から始まった前線国家による急激な人口増加政策。BETAこそが諸悪の根源ではあるが、さらに前線諸国の経済を疲弊させたのはコイツなのである。

人が増えれば経済規模も大きくなるんだから良いんじゃないの?と思うかもしれないが、急激な人口増加はむしろ国家の経済に悪影響なのだ。

例えば、政府からの支援がない発展途上国では、多すぎる子供は教育費や食費(未来への投資)が家系を直撃してしまい、その家族が没落してしまう原因になってしまう。

その分、労働人口の比率が歪み、貧民層の者が最貧層に落ちる。

これは受け止められる中間層の多い日本であれば、10数年の我慢すれば乗り切り国力の増加に繋がるわけだが、教育インフラや私財のない国家ではその子供も戦争で消えてしまうか、消費を期待できない極貧層が増えてしまう結果だけを残す。

そうして、経済に必要な中間層と労働人口の激減に、BETAによる戦況の悪化が直撃して経済の負のスパイラルが加速してしまうわけだ。

なにせその国は人口増加政策以外にもダメージの大きい、10年間も続く"戦争経済"を行っているのだから。

戦争経済とは言ってしまえば赤字国債を乱発している状態のことであり、これは社会主義も資本主義も変わりない。

そうして軍事力を創出する国家経済が立ち行かなくなり、以前までなら吸収できた人口も吸収できなくなり、どんどん悪化していってしまうのだ。

それに資本が必要な開発費や研究費が無くなっていくことで軍事技術が立ち遅れ、輸入品の値上げに繋がっていくわけだ。
(※ソ連はそれを良しとせず、民のほうを削減している)

それに加えて今回の難民問題のように、BETAの襲撃で取り残された国民などは前線国家という不況の最中ではその政府にとっては、むしろいらないというのが本音になっている。

そんなことからも経済が回らなくなってしまった前線国家、その中でも人口が多いソ連、インド、中国では兵士がほしいにも関わらず、人余りが発生している矛盾した状態に陥っているわけだ。

「戦争が長く続いた影響で、国家財政の中身が火の車。BETAとの戦争が終われば確実にソ連中国は崩壊してしまうことは、相手側の政府も良くわかっている。

だからこそ史実のソ連と中国は政府の統制を厳しくしつつ、昔を知る中間層を戦場に、高齢層を見殺しにしていくんだけどね。

でも、外貨がほしいのは変わりない。だからこそ死んだことにして亡命を見逃しているわけだ。」


そこでこの状態をどうにかしたい前線国家は禁忌を侵す。

大航海時代の植民地のように人身売買を国家ぐるみで容認したのだ。

もちろん奴隷などといった旧式泰然とした制度ではない。現状で世論が耐えられる範囲に抑えつつ、法といった中身が見えにくいベールで包んだ『合法的な制度』ではあるが。

それを容認をする換わりに物資の提供、安全な貿易網の間借り、それに加えて国連軍の増強が決まったのである。


もちろんそこまでの非道な行為が国際社会にバレないわけがない。

しかし、国連とアメリカは「国に捨てられた民をその国に返すことは自殺を推奨しているのと同じである。」とした。

もちろん表向きの言い訳であり、西側に属さない国からの亡命者を亡国の亡命者に偽造するという犯罪を見逃し、その亡命者などの不平等な内容に対し、難しい言葉と法律で隠すことに西側諸国内で決定されたのだ。



なんのことはない。西側諸国もグルである。


国連と日本の好景気誘導に当てられた各国が、続々と派遣軍の死傷兵の多さに嫌気がさし始めた現状に

こちら側から

「亡命者を含めた移民者による純粋な移民軍、《国連軍》を組織することができれば、その分の分担金を支払うことで、派遣する部隊を縮小することを世界も認めるだろう」

と吹き込み、



国際協調の第2段階 《純粋な国連軍。国連統合軍の創設》

その正式決定が国際連合ジュネーブ事務局において行われたのだ。

(※本来ならばその宣言はアメリカ合衆国、ニューヨークにある国際連合本部ビルにおいて行うべきなのだが、国連の世界への『BETAへと立ち向かう』意志表示としてスイスのジュネーブ事務局において行われた。

これはアメリカの影響を嫌った欧州各国と国連自体、そして最近影響力が大きくなってきた後方国家の働きだと噂されている。今現在シンガポールに第3の事務局が建設中)


これ自体は史実でも国家の滅亡が相次ぎ、アメリカの覇権が確立してから起きたものであるのだが、その前に前線国家連合が生きている状態で創設してやろうと思いつき、ならさらに強化しとこうか、と思って生まれたものである。



それの雛型が、派遣軍の損耗による"嫌気"を出させるための第1段階《国際協調による義勇軍》でもあったわけだが、ここ数年の国連単独での儲けの大きさと、国連を中心とした販路での儲けから国連軍の増強されていたことを見た各国が「国連や、今の流れを作りだした日米双方がその負担を強いるべきだ」と発言。

それが結局のところ、日米がのる形で純粋な国連軍の創設に移行することとなったわけだ。



それにより、亡命者を含む多くの移民者が日米の協力の元、国連が持つ直轄地(※大きい順にオーストラリア、リビア、アラスカ、カナダ、スリランカ、モロッコ、ブラジル、南アフリカ、他多数)に移住。


その亡命者が"国連籍"というわけのわからない国籍に移され、亡命者であれ、移民者であれ、新しくできた《国際法》という不平等な法により、元いた国への移民費(亡命費、前線国家が得られる外貨)を負担。

それに加えて移民したときから、健全な生活が営める環境を整えられ(国連、光菱、その国家による集団住宅の建設とその周辺のインフラ)

そのための初期費用(住居ローン、初期費用、奨学金etc)を日本や国連が金を貸し出す形として、移民者一人一人の借金の増額に繋がっていく。

(※払い終わるまでこの土地から移住はできず。その間に追加個人税として国連に支払われていく。)


当然、その移民者にも義務がある。

まず、この国連籍取得にあたって年齢優先権(事実上、お年寄りお断り、ただし金持ちは除外)と軍人登録(病気持ちなどは不可能)が可能でなければ登録することもできず他にも

・身体情報の国連への提出。
・献血、グリーンカード、体内GPS装置、国連ID習得の義務化。
・犯罪防止処置としての後催眠処置の強制。

そして人身売買と揶揄されるもっともひどい"義務"が、

・個人権利の売買義務(個人の采配だが自己破産に陥れば最悪、合法的に奴隷にまで落ち、内臓が自動的にドナー登録される)
・国連所定地での15歳以上の売春の合法化(…ネットを通じて)

・1次家族(親子)登録された範囲での自己破産負担費の共有

・そしてこの《国連籍》を作られる理由である国連軍への徴兵の義務だ。

これはこの国連直轄地の最大の収入費である国連分担加増費…諸外国からの派遣軍に代わり、傭兵部隊への代価として払われるものを外貨習得手段として確立したもので、

この《国連籍》に登録された者には教育プログラムで赤点が溜まれば、自動的に軍人プログラムと後催眠処置が測られ、最短で半年後にはBETAと対面する義務が生じる、徹底ぶりだ。



そんなことからもイメージとしては

日夜重労働をし、将来のために子供の教育費を借りていく移民者。

なわけで、国際的に合法化された植民地。


時代を逆行し、人もここまでしなければBETAと戦うことが出来ない象徴のような行いであり、非道。

もはやここまで聞いた感じではカイジのTEIAIばりのあくどい商売となっている。




だが、意外に移民の生活は悪くないのだ。

それは国際協調路線による貿易量の増加と、インターネット網などによる経済の成長のおかげもあり、職が多くあることと、軍事で使われていた自動翻訳機を光菱が低コストで実現できたことが大きな要因であり。

その国連直轄地での公共事業による日雇いや、先進各国による製造業の下部機構としての職は多く、先進諸国の国民がやりたがらない仕事は結構ある状態なのである。

それに加えて租借地になる前から(※日本が持つ租借地限定)日本からのODAという形でのインフラ整備を進められていたことや、新しい水素発電プラントの生産性によって生活自体は不自由というほどのものでもなく、元々散々な国内事情(犯罪率、餓死者、失業率)と国際企業が軒並み連ねることから法を侵すような過度な重労働の抑制(それでも重労働だが)などからして、前からすればまだマシであることからして、移民の暴動は以外に少ない。 


他にもその移民へのアメとして

企業への《優秀な移民の借金を肩代わり制度》などが作られ、借金返済を終えた優秀な人材などは日本かアメリカの国籍を習得していたり、

初期の負担を納められる者に対しての日本国籍の習得や、

軍人登録された家族への優遇処置(権利の売買、売春の拒否。利子の低減)、国連軍での目覚ましい功績を上げた部隊への報奨金と日本国内への土地の贈与する制度が創設されたりと移民者でも頑張れば、明るい未来がまっている。


(※もちろん全ての難民を、というわけにはいかずコスト等を鑑みても、この直轄地に移民出来る人数は一つの直轄地で年 数百万人が精一杯。
それを考えればこの移民者達自体も選ばれた人民である。)




そんなことからも、国連直轄地にくる移民達は生きる希望を求めて(釣られてとも言えるが…)やってきているわけだ。

国家、企業から貸し与えた金をこちらの影響下で使わせ、軍はこちらの勢力下。司法立法行政でさえ、借りた国籍ということで自治権を持っていない。マシなところと言えば、職業と食料、住居を与えられていることだが…

何度も言うようだが生きてはいけるし、頑張れば未来もある。

「そういうこととは言っても、日本軍と米軍の移民部隊を国連に移したのにはさすがにビックリしましたよ。あそこまでスムーズに行くとは思いませんでしたし、なによりアメリカがその指揮権を手放すとは思いませんでした。」


「正確にはその指揮権はまだ日米とも手放してはいないんだけどね。まぁ、両国とも最近になって増えた軍事費。その負担に嫌気がさしていたわけだし、そもそも『移民』という国際的な問題が近年問題視されてきたんだ。どちらかともなく言いだすは時間の問題だったでしょ。」


さきほど述べた内容が純粋な国連軍やこの国連直轄地の中身なわけだが、これの創設にも大きな理由がある。

一つは移民者総人口、一億という急激な難民に対して、アフリカや南米でさえ多すぎることを苦慮していたためだ。

それの吸収率は経済に悪影響を及ぼすレベルにまでになっており、難民への国民感情悪化を招いている。

これはBETAと戦い始めてから、長年人類に付きまとう大きな問題であり、各国の政府間で長く話合われてきたことでもある。


しかし史実ではお茶を濁す形で難民キャンプなどで対処をすることしかできず、人権を捨てることも出来ずに、ただ荷物を抱えBETAと戦う道を選んだことになる。

だからこそ国連直轄地という永住地を提供することで、ガス抜きをしつつ世界各国の移民吸収率(一時難民キャンプ等)を上げることを考えだされたわけだ。

それは徐々に国連直轄地を増やし、インフラを整備していくことでさらに経済にプラスに転じる大きな要素であると政府間では共同認識。経済の縮小による悲観論が横行しているこの世界をどうにかする一手であると信じ込んだ。

それは人権侵害などについて「必要悪である」と判断する、ある種の罪悪感から逃げたいがための、政府間の仲間意識とも言え、世界最大のタブーとされている。


そして二つ目の理由は、大きくのりだした日米の軍の被害が膨大となった影響である。

一つの指揮系統にまとめられなかったこともそうだが、単純に戦えば疲弊し消耗する。そしてBETAは捕虜をとらない(※と人類は認識している)ことからその消耗率は人類の戦争以上であることから、日米両軍内で厭戦気分が蔓延。


両国政府の合意の元(ここ重要)、海外派兵の主軸となる移民軍を日米軍とも表向き国連軍の影響下に設置し、国連直轄地の施設を進めることになったのだ。


もちろんそうなったからには米国移民軍(仮称だが)は米国籍でも米軍所属でもなく、表向きには国連の一時国籍を持つ国連軍将兵となっている。

他にも派兵を嫌がる諸国は、その分担金増加量を支払うことで国連軍増強につながっていくわけで先進諸国の"国民"は死なずに済むわけだ。




「まぁ、万単位の軍人が死んでいることからして、日本とアメリカの政府ともその被害を自国の国籍を持たず、尚且つ自国の影響下で使える軍を持つことを求めたためなんだけどね。」

「だからこそ、その足りない人を埋めるために東からの移民ですか…その坩堝の中で勝ち抜いてきた者が各国へと移民、ドリームを手に入れるのはアメリカと変わりありませんが、日米の代わりに前線に立たせるのが移民とは…アメリカもですが日本も極悪ですね。確かに日本のためになるとは思うのですが…」

「感情が、その心が許さないと言いたいんだろう?たしかにその内容からいって、先進諸国の民から比べれば酷いものさ。だけどこれが"最善"…それに近い、と思ったからやったんだ。

ただの偽善のために餓死、自殺もしくは経済の貧困によって緩やかに死なせていくよりかは戦って死ぬほうが確実に少ないんだよ。」

それに吉兄には言わないが、前線諸国の貧困民はこれ以下の扱いで、それ以上に生活が苦しいのが現状なのだ。中ソ、前線諸国とも隠しているのだが本当に厳しい。


だからこそそれを国連からの要請を装い、調べつくすことで貧困層の現状を世界に告白。

『直轄地内に住む住人』と言う形で、各地からの移民を呼び込み
初期投資をこちらが支払う代わりに、国連兵や国連事業、各種の仕事を半ば強制的に従事させ、

その初期投資を返済するために世界のために投資分の償いをしてもらうというのだ。

その中には借金を返済するまで、人が活きる上で最低のラインは守られた最低限度の人権による制限がつき。

移民の目的である、国連軍に従事してもらうことが付きまとう。

これは本来の軍人。その国土を守るための兵士ではなく、死傷率が高い戦場をかけづり回ることが強いられる最前線兵であり、数年の訓練が課された後や、後方業務もあるにはあるがほとんどが前線に回されることに変わりない。

それでも餓死するよりかはまだ良いはずだ。その人件費の低さや物価の低い場所での訓練など、経費を引いても家族の者が他より優遇されることが決まっているし、家族全体の借金が減る。

全体としてもその日の食事もありつけない貧民は減り餓死者も減る。自殺者も減りだろうし、年間死者数はぐっと減る。(というか自殺したら他者が借金苦で解剖…もあり得なくはない。可能性は低いが。)

命を金に換える行為そのものだが、それをしなければ他者が死ぬ。成果を残せば生き残れるし、正当な評価の元、上に行くことも不可能ではない体制であり、人権をほとんど無視することで生まれる完璧に近い"管理"の元であれば犯罪も少ない。


正に悪魔の成せる業。目の前の吉兄が目を反らすほど、人を人として扱わずに生まれる利益。それによって世界を救おうと言っているのだ。


それを無視してただ己の善に従うこと、それはどれだけ幸せで甘美なものなのだろうか。俺にも人の心と正義の心がある。それをもとめようとする心がある。

だがそれに従えば確かに人は死ぬのだ。

ただ己の善、「人の尊厳を踏みにじるのはいけないよ」その言葉に従えば人として正しい。だがそれよって成すべき業を果たさなければ、確かにこの世界のどこかで死ぬのだ。


だからこそ、だからこそ不当なもの。それが政治だと私は思う。

そうして俺は決断した。死者の元、死者を救うと。

そうしなければ世界全体の衰退は避けられないと確信して。


「日本がそれの代わりになる政策を"自発的"に行えるんだったら、なにも言うことはないよ。でも史実でやった内容があの"閉じこもり"なんだ。

外交ベタでも良いし、負けても国家が在続し続けるならばここまで、極悪なことには手を出さないさ。日本人の失敗を他国の民の命で償おうとする今回のようなものはね。


でも今回負ければ文字通り日本人がいなくなるんだ、なあなあで済ますわけにはいかないよ。」

昔から上による政治判断の巧さで発展してきたわけではなく、その精神的な努力によってここまで発展してきた一番の要因であることは隠しようがない。

それは日本人、個人は臆病で弱いからだ。だからこそ努め、協力することは厭わないのだが、自分を強い存在だと過信してしまうとそれが悪癖に変わってしまう。

だからこそ、その日本人を導く首相を作りだし、それに政威大将軍からの御下知(具体的な国家方針)を貰うことで権威での箔付けを行ったわけであり、それによって生まれた非道はもちろん国民には知らされていないし、知ったとしても責任者の挿げ替えだけで済む。


「……」

「だからこそ、一度貿易国家…外需の占める割合のことではなく、貿易をしなければ経済が立ち行かなくなる国家のことね。
になって、経済大国にまでなったなら、その生産能力を有功に使う方向に考えなきゃ。なんのための国力なんだかわからないよ。

そしてそれを活かして貿易網と相手国を守る方法を考え、それでも足りないなら軍を余所から引っ張ってきて、貿易(物と物の交換であり、一方が買いすぎても弊害になる)として成り立たないなら、借金漬けになって立ち行かない前線国家から国の宝である"国民"を質にかけ、死地に向かわせるんだ。…ひどいかな?」

もちろんひどいだろうし、将来の禍根となるだろう。しかしそれをしなければ人類内での戦争というお遊びもできない。

どのような素晴らしい判断や行動であれ、デメリットは必ずある。これまでの光菱の色々な成功にも小さな失敗や問題は続発したものだし、禍根と一緒に経済も復活するならば安いものだ。払う気は毛頭ないが。


「…非道ではありますが、私もその非道を望んで行使する者の一人です。さきほどは少しナーバスになっていたようです。申し訳ありません…」

普通の人ならばそれで良い、いやそれでなければならない。人の血と苦渋の涙で築かれる商売など望む者は罰せられるべきなのだ。

「別に良いよ、仕事をしてくれるのならばね。迷っても良いが君は国の上で政治を任される一員なんだから立ち止まることは許されない。」

しかし、国の政治を任される者は別だ。国家以上の組織がないこの地球では、"国"こそが最上位に置かれるべき集団なのであって、極論であれば他国の滅亡を肯として良い。

それが、将来の国民に悪害にならず、国際社会において取り残されるという障害を作りださない上でなら、だが。

「…了解しました…」

この話で兄は意気消沈してしまったようだ。なにより言葉づかいが完全に上司と部下になっている。話を変えたほうが良いかな?

「で?その国連直轄地の進展状況はどうなんだい?光菱商事の部長さん」

「(もう対価を要求ですか…)未だ計画が始動して1年程ですから、そこまで移民出来る人数は限られていますが、順調なようです。

また直轄地を含め、その周辺の土地で建物が急増していることが大きな原因となり、投機筋からの投資が活発になっています。」

国連直轄領や日本が買い上げた租借地では、日本政府並び国連によって管理され、国連の信用を借りて日米からの長期的な投資先としての植民地が作り出された。

それによってそれを受け止めるための建物を「不動産バブルですか?」の勢いで建造中。


無理をして一大消費地を生み出したメリットだ。


「やっぱり不動産が人気になるよなぁ…インフレに気をつけなきゃならないか…

各国の成長率のほうはどう?予想のほうで良いから。」

「そうですね…日本を筆頭にアジア勢の成長が著しいようです。オーストラリアの改革も順調に進んでいる状態でホーク首相から感謝状が日本帝国、首相あてに届けられたようです。

他には、そうですね。さきほどの直轄地を国内に持つ国に…ブラジル、南アフリカなどの積極財政に切り替えた後方国家、次に米国ですね。

欧州は依然景気は不況ではありますが、物資の生産などでこれ以上の不景気にまで突入する見込みはなくなりそうです。あくまでこのままの戦況で、ですが。」

消費地を生み出したことで大きな利益を出すのは、製造国と食料輸出国だ。それに当てはまるのは日本などのものづくり国家とアメリカやオーストラリアなどの農業国家だ。

特にアメリカ政府は昨年まで(日本の製造業の躍進もあり)慢性的な不況続きだったためにこれに飛びついたと言って良く、国内の人権保護団体に今回の国際共同植民地政策の中身がバレないように情報操作にも協力的だ。

これに続いてオーストラリアも年末収支が黒字転換した。


「全体的にも上々かな…アメリカの不況脱却の手助けにはなったようだしね。あとはこの景気を維持することが大切だな」

世界的にも経済成長が久しぶりにプラスになった影響で、そのプラス収支が小さなものであっても、国際世論からすれば大きな進歩である。

それはBETA襲来から続く経済不況の連鎖に終止符を打ったのだから。

その原因としては光菱協力企業の高成長、世界第2位の経済大国がため込んでいた外貨の放出から始まり、

国連協調路線による貿易量増加、前線国家の戦況、経済の好転。
ネットによる新しい情報網による経済効率の改善。

そしてオーストラリアの政策変更と中東諸国の戦況好転に加え、国連総会で取りきめられた資源・食料安誘導政策(※資源関連企業への国連からの融資による設備投資費増加、投機筋による資源・食糧への投機マネーの規制、ネット網による販売量の増加等)による全世界規模での資源安が大きな要因となっている。

そしてその好景気をもっとも授与している、日本、オーストラリア組が世界経済成長を引っ張り。

その日本など好景気に当てられると同時に、下請けや日本企業の進出、アジア勢からの生産プラント移転に伴う特需に湧くインドネシア、ニュージーランド等の東南アジア、オセアニア諸国が追随しているのだ。


他にも世界への発言力を得て、久しぶりのワールドカップでも存在感をあらわにし、インターネット網の拡大へのインフラ投資を加熱させているアフリカ、中南米諸国の経済、財政の健全化が進んでいることも大きいだろう。


そして世界の3分の1にまで肥大化したアメリカでは、軍事費の削減に成功(国連への指揮権を確立したままでの移民軍移設)と前線国家の経済の好転による投資黒字。

国連と日本という今乗りに乗っている国家が管理している国連直轄地への企業進出と投資の過熱により経済が好転し始めている。

そんなことからも国連直轄地においては、光菱の未来知識もあって(光菱に協力的な企業は特にだが)経済は好調。

周りの国家や企業も国連地投資ブームによってこの好景気の煽りを受けており、そのおかげで世界の経済成長は久しぶりにプラスに転じているのだ。

「ですが、このまま経済が好調のまま推移するのでしょうか?中東の油田施設が襲撃されれば文字通り、吹き飛びますよ。なにか秘策があるのですかぼっちゃま?」

こうして人の血と無理やりな策、そしてそれに付随する"利"によって形作られた人類の共闘戦線。それを維持できるのかと危惧しての質問だろう。



「いんや、なんも。」

「…えっ?」

「いやだってこの好景気、バブルだし。」

「はっ?」


うわぁ…吉兄がポカーンってなってる。なんかおもしろいな


なぜ、ここまで簡単(?)に世界的な好景気を作れたかだが、その好景気の正体はなんてことのない バブル。

普通の国であれば還元されることのない仮想の好景気だからだ。

金の流れを見ればわかりやすいが

前線国家は移民を見逃す換わりに物資を貰い。

移民は借金をして、国連に税金として返していき。

国連は後方国家から金を借りつつ、移民に金を貸す。

後方国家は赤字国債を刷ってまで国連に長期投資をして。

先進諸国企業は国連(移民の借金)から金を貰い、物資を前線国家に物資を提供する。



これを見れば分かると思うが、移民者の借金が半端じゃない。


「だからといってこのバブルが全世界規模で破裂するってわけじゃないから安心してね?」

「そうなったら内部崩壊で人類が滅亡ですよっ!!ってどうすんですかっバブルってバブルですよっ!?どう考えてもこの世界が耐えられるものじゃないじゃないですかっ!!!」

「まぁ…このバブルは"普通の国であれば"って話だから。」

「普通の国?植民地だから大丈夫とでも言うのですか?」

「半分正解。確かに普通の国家であれば、国連直轄地への投資は過激すぎる。

平行世界のEUでも、通貨を統合。実力に見合わない東・南欧に投資しすぎて実際の信用よりも値段が上がり、後年になってその信用が暴露。経済が崩壊した、なんて世界もあるわけだし。

でもこの世界では、権利をはく奪して強制的に投資に見合った働きを強いることが出来るんだ。

これは先の移民に対する投資による環境の創設と、命がかかった異常で違法であるべき競争社会(底辺は国連軍の最前線歩兵勤務…つまり赤字の一つの原因が戦場で価値を見出す)

そして、本来であればノウハウや技術力の蓄積、施設やインフラによってその国の価値を見出すはずの世界に、世界が承認する形で人権の侵害による利益率の向上(低犯罪率・一人当たり仕事率増加・低汚職率・社会保障の不備)による経済成長で埋めようとしているわけだ。
(実際は赤字分は担保…内臓と権利の譲渡で埋めようとしてるわけだけどね…)」

さきほど上げた非道というのは、意味があるのだ。人類の成長のために。

「人権を侵害して、バブルを崩壊させないようにしているわけですか?」

「死ぬはずだった移民の半分を"生贄"にしていると言い換えても良いけどね。

まぁ、バブル崩壊の原因でもある債務不履行には、国連自体が無くなってもらっては困ることと、その国連が膨大な経常黒字を出していることから……今の状態が続けばあと30年ぐらいは大丈夫だよ。」

もちろん、その下地として前線国家内における経済特区が世界数十か所。国連直轄地も同じく数十か所に対し、日本が日銀が無利子国債を購入して得た何十兆という金を使って、先駆けて投資。開発してきたために、利益が出る下地まで作ってあるので、無理がある、というほどではない。


「…と言っても、こちらが欲しかった現時点の投資分でさえ行きすぎな量の投資ですし、バブルには変わりないのではないでしょう?」

「そもそもバブルとはその国の経済の価値以上(将来利益を生む)に投資され、本来、利益を生むはずもない"モノ"に対してまで金をつぎ込んでしまうから、バブルになってしまうわけだ。

今現在で見てみれば、教育が不十分である移民に対して投資が過熱(将来払えないはずの金)が集中し、それに加えて、これから増えると見込まれる移民への不動産投資と進出する企業への株への投機が進んでいる。

これが実力以上の投機、バブルなわけだよね?

これを引き締めるのは将来的に世界各国の金利の引き上げとか上手くやるとかがデフォなんだけど、それ以外にも外道な方法がある。

一つはさっき言った人権を代貨にした利益率の向上、国連直轄地の成長だ。」

これは今開発している睡眠学習装置の実用化ができればさらに進む。

「第2に光菱による未来知識をする企業の成長での不良債権の吸収。

これは光菱が諸外国との企業と提携して、技術を全世界に少しずつ流しつつ、企業内の効率を上げることで進化を助長させようというわけだね。」

本来利益を上げないはずだったものを成長によって吸収しようとしているって言い換えても良い。

もちろん一財閥で出来ることなんか決まっているので、日本全体が投資の代わりとしての『貿易網と技術の付与』代わりに株をもらってこちらの役員を送り込んで乗っ取るけど…これは将来のことだから吉兄に言わなくて良いか。苦い顔しそうだし、知らなくても別に困らない。

「そして第3が外貨の獲得の促進だ。

国連の外貨習得手段となると、インターネット事業と合成食品、傭兵業だね。

とくに大きな役割をするのは傭兵のほうだ。なにせ雇っている人口が多い。(国連に住む全人口の約2割強)これらで利益を出し続けることが大切かな」

これは世界から任される形で国連分担金の増額分が国連軍に渡り、
その分、国連軍が増強出来ることが大きい。

一人当たりの人件費を安く抑えられるし、少ない数の組織に人員を集中できることはその組織が優秀であればコストが少なくて済む。

他にも世界各国の犯罪者をこの国連直轄地に招待して、囚人部隊を作ったり、最悪人体実験を行ってまで利益を追及してと…

「(さっきから怖いのはこれか、これだ怖いのは。この人が、ぼっちゃまが怖いのは、人を活かすために人を殺せるところだ。
決して生かすだけじゃない。活かす。そのためになんでも用意して、必要であれば殺す。活かすためにだ。たぶん日本が活きるためなら、他国がどうなろうと構わないはずだ。もちろん何十年後までのメリットデメリットとの折り合いがついた上でだが…それがこの人は出来る。色々と抜けているところはあるけど、この人の最大の強みは多分ここだ。)かなり合理的な体制になっているのですね…」


「なかなか悪どいでしょ?もちろんここまでの行いは日本がバックにいるからこそできるわけだけどね。円を刷ってだけど。」

日本のバック。それはその国連直轄地から始まり、これまでの協調路線の後ろ盾にいつも日本がいたからこそ、計画が順調に進んできたという歴史がある。

それは十分な利益が出ているからでもあるが、日本と言う補償があるから各国とも投資したと言って良いだろう。
…もちろんそれの何割かは光菱のネットによる投資を誘導したことや、情報工作もあるが…結局のところ「日本が行っているんだ。今回も大丈夫だろう」という信用があったればこそだ。

ならばその費用は何処から出ているのか?

国連がその事業を成功させるとして、その元出はどこにあるのか?

いくら担保があるからと言って通貨が無ければ意味が無い。

その通貨こそ円、日本の通貨なのだ。

カラクリとしては
日銀が無利子国債を政府から買い取り金を刷り(本来ならば有利子国債で、買うのは国民などで金を刷る)

その分の金で国連に金を貸しつつ、国連の代わり土地を購入しているのだ。

つまりは数円で発行できる紙切れに価値があるように見せ、国連の保証人になっているのであり、その事実だけを見れば誰も国連に投資するわけがない。

だが国家の通貨とは薄められるもの。

年間十兆円規模の無利子国債で金を増やしたところで、赤字国債は毎年数十兆円。

その分をシャッフルしてみれば、どれが無利子で発行した紙幣かは分からなくなり、国内に還元されれば日本の円使用量、毎年400兆円に上る、円の相対的な価値の低下にしかならないのだ。

そして現在日本は、本来、その高利益率によって長が付くほどの円高となっているはずなのだが、先の無利子国債による信用の下落で、円はちょうどよいほどに下げられており、

その国家の信用分に惑わされて、世界からの投資を呼び込んでいるのだ。

「(円を刷る…つまりは国家経済力による円高を、信用度を低くする無利子国債による通貨発行で濁すということだ。…それをやっていることは知っていたが、ここまで詐欺臭いとは理解していなかった自分はバカなのか?そもそもこれは世界への詐欺ではないのか?)」

本来紙幣とは、その分の信用で成り立つ。

それは昔、お金と言うのが金(きん)と交換できたことからも分かるだろう。

その金と交換できるという"信用を持つ通貨"に、その通貨を刷る国家の安心感が付随されて、国家の通貨総量が『国の持つ金(きん)の量』を上回ってきたのだ。


では今はどうだろうか。今では金本位制は廃止され、その国家の価値。国債の信用によって紙幣の価値が成り立っている、そうあるべきと定義されているのだ。

そのような資本主義の大前提からしたら、本来、円の価値もその信用分の量にすべきであり、

知識チートなどの国内経済の高利益率。

政府、企業を含めた組織の健全化。

そして最近の日本のイメージ。新しい在り方でアメリカと対を成そうとする日本という大国への安心感(※これはバカにならない。あのアメリカもドルを刷りながらドル高を維持してきたのは結局、アメリカの国家の強さ。ブランド力によって作られる、"つぶれないだろう"という信用なのだから)

などの相乗効果によって、その分円の価値が上がる『円高』、それもその信用量からすれば超円高にならなければならないはずだ。

だが、今現在、日本は超円高になってはいない。

それはその分の信用上昇を、無利子国債を日銀が購入するという暴挙―――国民への無利子国債は10年債、5年債ともに相続税が減るメリットはあるが―――という本来であらば何の価値もない紙切れで円の価値を薄めているからであり、その情報を世界が知らないからだ。

極論ではあるが、その発行したお金によって日本政府が各国の土地や企業を買っているのであり(もちろんそんなわかりやすい方法ではなく、あらゆる方法を行って隠匿して入るが、根本的なところはかわりない)、"資本主義からすれば"許されるべきではない行いを今の政府は行っているのだ。

だが現にその様に行われているわけで、他国との利益率が頭一個分先に進んでいるからこそ出来る所業であり、

アメリカはそれに乗らなければ経済を維持できないところまで来ており、見逃さざるを得ず、

オーストラリア、インドネシアとで出来た強力な軍事力同盟とその市場。

そして国際協調路線による支援とそのネット環境による情報網と通販網によって

今や日本、そして基軸通貨ドルの次の地位まで得た円は世界に無くてはならない存在になっており、指摘すれば世界の経済が崩壊するという、勝ち組だからこそ許される行いを日本はしているのである。


(これと同じことをしているのがあのアメリカ。最強の軍事力とその地位から得た利権で基軸通貨の地位を得ているのであり、通貨を発行しつつ、ドル高を維持している。つまりは同じ穴のむじな。日本を指摘できるはずもない。
また史実世界での共産中国や欧州も似たことをやっており、相対的にやっていない日本円の価値は上がる。刷ることをアメリカや諸外国が許さないからだ。)


「知識と技術による信用付加を元手に日本は通貨を刷り、日本企業から世界の協力企業、子会社を巻き込んで前線国家等に投資して、一蓮托生。

世界はネットによる情報支配と通販網、そして日本の実績に騙されて同調してくれて、今の体制を構築、ってね。

別に儲けだけのためにネットを世界に広めたわけじゃない。世界の経済を成長させつつ、金の流れ、情報の流れをこちらのコントロール化に置きたかったからだ。今は幸い、世界は騙され続けている。とても助かるよ、日本にとってはさ。世界にとってもかな。」

もちろん資本主義に反した行いだろうと、そうしなければ人類は負ければ意味は無い。


主義に反し、ずるいとされる行いではあるが、それを実現出来る『円高』国家の価値があるからこそできるのであり、違反ではない。

現に自国の信用を利用した今回の策によって、世界経済は好調になったのであり、

人類全体の戦力を『国連統合軍と言う傭兵』を得ることで増強しており、世界的にもだまされることで幸せになっているのだ。

それが集団のためならば俺は聖人による不幸より、詐欺師による幸せを取る。―――聖人を殺してでもだ。


「(この人は…ぼっちゃまは価値感からなにから全く"違う"。確かに技術や知識がスゴイのはわかる、その決断力も人じゃない。けど一番ヤバイのは、国家を、今の時代の世界の造りを理解していることだ。だからぼんぼん計画が当たるし、世界も乗ってくる。そう作られているからだ。

…知識だけじゃ、頭が良いだけじゃないんだ、この人は。この利と理を追求して利用するその姿勢だ。怖いのは、壊れているのは。

人の皮を被った悪魔(メフェスト)なんだ…だからこそBETAに勝てるのかもしれない、けどそれで良いのか?)」


「そんな感じで国連統合軍が生まれたわけだけど…って吉兄大丈夫?なんか顔青いよ?」

「い、いえ大丈夫です、少し疲れが出たのかと。話を続けてください。」

「…あまり無理はするなよ?

じゃあ話を続けるとして、そうして生まれた国連統合軍に話を移そうと思うけど良いかな?」

「はい」

「…さきほどの説明の通り、新しい国連、国連統合軍が生まれたわけだけど、各国軍内の人員移動やらで、あと5年以内に300万規模の軍を2つ作るまで規模が膨れ上がることになると思う。もちろん前の人員を合わせてだけど急激に組織が拡大していくわけだ。」

「そこまで軍を早急に作ることが可能なのですか?確かに人員の増加は急務ですが…人手が足りないかと、そう思います。」

「確かに、最初から軍隊を作るわけじゃないとは急ぎ過ぎではあるよね。

もともと派遣されていた部隊が従う共通のルール、国連兵でいた時のルールがあり、国連にもその部隊を指揮するための上部組織、国連統合参謀会議があったし、全体を指揮するための組織はあったことが救いだね。それができたのは1979年のバンクーバー協定なわけだけど。」

「そういえば1982年の京都協定も国連軍が全体を指揮するための組織拡充を図っていましたっけ。」

「そうだね。今までは国連は、世界からの義勇軍を組織化する上で中核をなす組織を作り、世界はそれに乗っていったわけだ。

それ以外にもその作戦だけ従う一時的な派遣部隊と、義勇軍を恒常化させるための常設派遣部隊の違いがあるんだ。」

つまりは原作内で甲21号作戦時に国連指揮下についた、日本帝国軍や米軍などが一時的な指揮下に組まれる「非常設部隊」

もうひとつが、所属だけはその国であるが、期限内では完全に国連指揮権下に置かれる、原作内での国連軍。シロガネタケルがいた横浜の部隊のことだ。

こちらはバンクーバー協定によって世界各国が供出しなければならない部隊のことであり。

今は期間限定ではあるが、史実では常設化されて各国訓練基地を卒業後、国連軍か母国軍かに進むか決める方式を世界中の国で取り、
国内に国連軍と、自国軍の二つを持つことが義務となる。

※原作内で言われていた『国連軍』というのはこれのことを指す。

これに原作では亡国の部隊が入るのだが、今は各国地域連合軍が顕在、その内に収まっており、国連傘下ではない。

「で、さっき言った京都協定もあって、新たに誕生した国連直轄地あるでしょ?あれの内に国連が純正の基地を建造して、各国からの義務として出される兵を教育していたわけだ。今まではね」

そしてここからが変化する点であり、今回、今まで各国の義務によって拠出していた新兵枠と、昨今の恒常的に発生する義勇軍(国連の一時的に傘下になる、非常設部隊の前身)と言う義務を削減。


その分の分担金の加増によって兵の救出する義務は免除されることになったのだ。

「そして今までのネットなどの利益と、加増を含めた分担金によって国連に移民たちによる純粋な国連軍が新設。

余裕のある国が義務として送っていた常設派遣部隊、その後方施設や後方部隊はそのままに、前線にでる部隊を移民兵に集中させて教育しようというわけですか…合理的ですが、何と言うか力技すぎるかと思うのですが…」

「確かにね。まあすぐに人が必要で、ただでさえ金の無駄使いでもある軍をどうにかしないといけないから目をつぶってほしいものだけど、普通に考えて急ではあるよね」

もちろん先の日本とアメリカの移民兵はこの移設組に属し、恒常的に国連軍の中にい続けてもらい、組織としても日本やアメリカからの移籍組が根幹を形成している。

そうした移籍組と、前線に出ないという理由で一時的に派遣された後方部隊合計100万人が、新規で増える移民兵を教育。

今はまだ各国からの派遣将兵や完全に移設する士官(日米の移民部隊の者。国連の兵と違うところは、帰る家が日米で、家族が母国で待っていると言うこと…)

その者達が指揮を執るだろうが、将来は国連移民からの士官が出てくるだろう。

その急造する国連移民者の教育について、日本ではオーストラリア租借地内に日本移民兵の大規模教育基地群(ウィンゲート基地)があり、それを国連統合軍と共同使用。

さらに基地施設の拡充を図り、日本帝国は各国からの派遣される国連将兵と協力して、国連移民兵の新兵教育を施している。

(※これができるのは国力と軍事力を維持し続けていた日米くらいだろう。

日本では移籍した移民兵、期間限定で派遣される国連常設部隊全てをオーストラリア租借地内の訓練基地群に回しており、その規模は総数10万ほど。インドネシア、オーストラリアもここに国連常設部隊と、移民兵を廻しており、世界最大の国連軍訓練施設地域となっている。)

他では、世界各国の国連直轄地や前線国家の経済特区近くにある国連軍基地を拡充しつつ、国連に譲渡。

そこで今の主流である各国からの派遣将兵、常設派遣部隊や日米の移民兵による新兵の教育を行っている。

「他にも技術的進歩として、兵器の扱いが簡単になっていることや、ネット教育。睡眠教育プログラムで教育時間を短縮する動きがあり、

ただでさえ、経済に意味を成さない軍事には一つの組織に集約して最新の技術によって、高効率で運用し、前線を維持することで始めて、利益を出す。あくまで現時点では、だけどね。」

軍と言うのはひどく保守的な組織である。それは国の最終手段としての集団なのだから当然と言って良い。

しかし、保守的であるということは非効率であるとも言いかえることができ、100年以上の歴史を持つ軍であればその弊害はどこにでもあるものだ。

それを一から見直すことで、過去最大の組織運用効率を持つ軍を実現しようとしているのである。チートがなければ不可能であるが…

そしてその主力となる移民軍の訓練は総じて熾烈であり、部隊の団結力もある。

なにせ死地にいくことが決まっているのだから、部隊内の不和などあってはならない。そのための訓練教官も各国の精鋭が集結しており、戦争をし続けられることを義務付けられた集団なのだから、戦争が終わるまで、この国際植民地が終わることはない。

「そうして世界中の犯罪者をも囚人部隊とするために移民され、最前線で先進諸国の国民の代わりに死んでいく、わけですか…


ですが、それでもバブルの危険性が消えたわけではないでしょう?」

「さすがは吉兄、その通りだよ。さっきの3つをやったとしても部分的な崩壊の危険性がないわけがない。

こちらとすれば影響下に置いた日本協力組織が資本投下した部分だけは健全な経済を形成してのバブル崩壊は抑えたいものだけど、アメリカの部分は…デフォルトしそうで怖いよね。」

「部分的ならば許容が出来そうですが、アメリカは昨年まで不景気真っ最中でした。最近になって好転しましたが…このバブルでアメリカの崩壊に繋がりでもしたら目も当てられません。

…その負担は日本が負担することになるのでは?」

その負担とはアメリカの市場が大きすぎるからだ。

日本やアメリカほどの経済規模を持つ国家は、その国家がつぶれたら同時に世界大不況に繋がればまだ良い、世界経済が崩壊するほどの影響力を持つ。

これは「その組織が大きすぎてどれだけ悪いだろうとつぶせない」という顕著な例であり、アメリカの金融危機において政府からの資金注入を受けた米金融大手などが良い例だ。


そしてそのアメリカ経済の昨今の経済好転は、レーガン大統領が推し進めたレーガノミックス政策の影響と政府は宣伝してはいるが、識者からしたら妄言でしかなく、ほとんどは世界経済、ネット改革の余波とグリフォンなどの国際規格兵器の高調(※アメリカ資本の比率が比較的高い)、そして国連直轄地のバブルだ。

もし、そのアメリカが管理する国連直轄地のバブルは崩壊すれば、その余波はもろ、アメリカを直撃してしまう。

「ならばその分の負債を日本が買ってやれば良いんだよ。」

「はっ?」

また何言ってんの?って目だ。

「今回はアメリカから買えるものがあるんだ。

―――国連直轄地という場所をね。」

本来ならば、プラザ合意のときもそうだが日銀によるドル買いで得る物は、使えない米国債などのはずだった。

しかし、今回はそんなアメリカの経済が不況に陥れば史実と違い、本来アメリカ国内で移民によって巨大化した国力の部分、『国連直轄地』の権利を買う(負債を負担する)ことが出来る。

それは後方国家にある国連直轄地という『土地』を完全に買い取ることができるのであり、日本が買ったリビア、モロッコ、スリランカ、オーストラリアの4か所以外の他国の土地を買うことができることを意味する。


だからこそ、日本がオーストラリアなどから買った租借地を国連直轄として他国を誘導したわけで、国連直轄地の権利の売買は新しくできた国際法の施行で可能になっている。

「ひどい…あくまで最初の公共インフラなどの投資にアメリカを誘ったのはこのためでしたか。
あとで付属する土地を相手を助けると銘打って買うために。」

「同盟国を助けると言ってほしいな。それにアメリカ国内にも友達はいるんだ。そのぶんは助けるさ。」

「(友達と言っても将来傘下に納めるとか考えてるんじゃないんですか?この人根っからのアメリカ嫌いなのかな?)
そちらが大丈夫なようで安心しました。ホント、なにが「この経済政策は大丈夫」ですか…中身はバブルなんてビックリして心臓止まるかと思いましたよ…

で日本はどうなんです?というかその自信はどこから来てるんですか?」


「(知識の源が多元世界の他人類の歴史なんて、吉兄に教えてないからな…どうしよ。てか扱いが先ほどと比べてぞんざいな気がする…)」

えっ?日本は本当に大丈夫?と聞こえてきそうなものだが、何百と経験した近代経済の歴史を知る俺を舐めないでほしい。

数多ある異世界、平行世界ではそれぞれの経済の歴史があるのだ。その動向のデータと未来情報・技術をもってすればアメリカよりか楽だろう。…日本の暗愚な企業家が心配だが、今現在の教育改正、テレビ教育で去勢していくつもりである。

他にもいろいろと手を打っているから大丈夫…なはず…だろう。


「えっと…マリヱ様が見てる!!だから安心なんだよ、たぶん…」

「(パロディネタで逃げたっ!!)不安だ…」



後半に続く…

――――――――

筆者です。

今回のお話はとてもひどい内容で書こうかどうか、とても迷ったのですが、今の状況を好転させるとしたらこれしかないな…と思い、書くことに決めました。

いやあ内容も継ぎ接ぎでぐちゃぐちゃどうしよう…

では次回にて。コメントお待ちしております。






[28072] 第Ⅱ章<暗躍編> 7話 現実 《12/3改訂更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/12/03 14:18
1985年 3月 24日 日本某所


「あぁ~そんなこんなで移民には了承してくれたけど…ソ連さん自体がこっちを向いてくれないんだよ…マリヱさん。どうしたらいいと思う?」


今現在、前回の吉兄との話し合いをマリヱに説明していたわけだが、もはや泣きついている状況に…

説明してみるとなんかノビ太君みたいだが、実際に国際問題になっているのだから笑えない


「…しかたなかろう。あちらは国情からしょうがなしに移民計画を受け入れたにすぎん。

それに加えて、国連直轄地内において東側各国への工場/研究プラント建設を了承したとしても、移民の数は膨大だ。

あちら側からすれば借金の取り立てにあっているようにしか見えんだろう」

東側に対する工場プラントの国連直轄地への移設。

それは前線国家に属する東側諸国、それと中東などの前線諸国に対して行った融和策の一つであり、国連は直轄地の一部を又貸ししたことを意味する。

これは移民を出す側の国家に配慮したもので、移民を了承することで得られる一等地 (資源輸入、インフラ面、安全面において)というそれ以上ない土地が貸し出されたのだ。


これはその費用が各国移民から徴税され、国連という政府に管理された国土に対し、前線各国の企業が友好国家間同士で集まって工業や研究機関を建設する方向性でまとまっている。

それは前線国家が、その土地の発達したインフラ整備面を活かして自国以上の環境で製造が可能になると見込まれている。


「(それに加えて、光菱からも提供した技術情報に釣られたのもあるんだけどね)」

これに加えて非公式技術提供も光菱側から行われ、その内容は"国連直轄地内"においてのみ受けられるものであり、自然その技術は、各国の移民に蓄積されていくことになる。



これに対して、「他国への技術提供は国家の不利益」だと主張する一派も国内にいた。

通常ならそうであるが、知識面において頭一つ有利である日本。

もちろん有利にさせているのは俺の知識による各企業への情報、技術提供と、節度を持った政府の干渉により、良い方向に誘導された産業が順調に成長してきているからだ。

それ以外にも日本人というのは、頭がしっかりすれば『兵』としてなら世界でもトップクラスの質を誇るからではあるが…

世界から今の日本の躍進の理由を聞かれたときにそのまま答えると、間違った方向に進ませてしまいかねないので、技術が有利なことに対し、適当な理由を探すのに四苦八苦したものだ。


実際に移民計画の国内利益と国際利益とを説明したときの内容は

1、海外への技術提供は常任理事国を目指すためにも、その票を得るのに効果的

2、非公式であることから提供は限定的

3、その国が提供した技術を使用していけば、日本が握っている特許、技術分野にぶつかるように誘導しているため、将来的にはプラスに働くこと

4、移民に対しての技術蓄積がなることで、技術移民の獲得金平価を上げることにつながること

と説明。

最後の4については『移民』として登録されたのであれば、借金を払い終えれば、どこの国に属するか(脅されでもしないかぎり)は自分で選ぶことができる面を強調。

国連に支払われる費用の増加作用と、そのまま居続けるであろう技術移民という『中級階級』を国連直轄地で増やせることに繋がることを、継続的な市場として成長するためにも必要であると説明して、納得してもらった。



「それにこちらは西側、日本通の者でもなければ、未だに日本はアメリカの犬としか見られていないからな。

東側の盟主であるソ連が、今の日本政府が"善意"として発言した

『物資支援だけでなく東西を超えた援軍の可能性』

などという日本の言葉など、あちらからすれば奸計としか聞こえないのも当然ではある。」


「そうなんだよなぁ~。はぁ・・・」

それに加えて阻害している理由として、実は今の日本の現状が邪魔しているのだ。

まず、ソ連と日本の関係だが未だアメリカとの関係が強い現在、あちらからは潜在的敵対関係のままになっている。

もちろん史実のような「冷戦構造」の真っ只中というわけではないが、ソ連からしたら日米の最近の経済躍進を憎たらしげに見ているのは間違いない。

日ソ貿易も順調とは言えず、こちらの世界でもBETAの脅威が楽観的に見られていた1964年、佐藤首相が述べた武器輸出三原則定義が行われたことで下火となっている。

これは共産圏へ武器輸出だけに限定されたものではあるが、それ故にこちらからの関与が出来ない原因となってしまっているのだ。

実際は、グリフォンのMIG21改良シリーズで間接的に関与しているし、簡単な改修で兵器にも転用できる大型車両や重機を輸出しているんだが、それでも密輸に近い以上、量に限度がある。

それに加えて世界の承認も得てとは言え、日米の犬として自国民が戦線に再度立たされることになるのだ。

政府自体は管理できなくなった国民を売却して利益を出している現状を理解しているのだが、感情が許せるものではない。

「ここまで移民計画を強く推し進めるつもりはなかったんだけど。

周りにに対する影響がとんでもなく大きいから、地道に外堀から埋めていく予定だったんだけどねぇ~」

国連軍がどうであれ、この国際直轄地移民計画というのは大きな問題を孕む。

そのデメリットの中で大きいのが、人類が2000年以上かけてやっと無くすことができた"奴隷"制度の復活が織り込まれていることである。

これは"政治家であるべきでない政治家"にとってはとても許容できるものではなく、"政治家らしい悪人"からすれば、日本が準備もろくにせず見せた格好の弱みでもあるのだ。


正に史実日本の外交並に拙い手を打ってしまったわけだ。…国家戦略ってマジでムズイ……


「大方、BETAの攻勢が強かったことが原因なのだろう?
このままでは前線国家においてBETAが来る前の平和だった時を知る大人が全滅してしまうからな。負けっぱなしの連続でしかないので戦いしか知らない世代、つまりは国の犬となった世代だけの国となり、こちらからの工作がしにくくなってしまうからな。」

「うっ…」

1980年代からの各国への策略が順調に進められているのは金や技術の力でもあるが、相手が弱っており、相手国内の国民の不満が溜まっていたからでしかない。だからこそ時間もなく、拙い日本の諜報部をつかってもここまで上手くいったのだ。


だがその不満が洗脳教育によって「日本のせい」などになったらどうなるだろうか?こちらが引いて売った手も通じず、輸出入についても上手くいかないだろう。

史実に置いて日中間の日本側の赤字や企業間の問題が続発している理由の一つに「半日教育の産物」が付きまとっていることからも、このこちら側を嫌う感情と言うものは想像以上にこちらへのダメージになるのだ。

そうさせないためにもさっさと形だけを作り、移民によって世界を知る者達を多く作りつつ、国連の管理下に置かれたネットを使って相手国内に「正確な情報」を送り込める体制を作ることで、国内工作をうてる手を残しておく必要があったのだ。

他にも1980年からやり始めた各種の経済政策。

光菱の海運業(日本郵船)と造船業(光菱重工)への先行投資が生きた形で、国際協調路線による国際貿易量のスムーズな形での増加。

光菱が主導した国外、国内企業への投機による失業率の低下と経済の回復。

ネットという新しい力を持つ、格安パソコンとケータイの普及。

他にも数えられないほどの経済刺激策の数々。

それらの成果により、前線国家の年間武器弾薬使用量は健全な形で増加を見せており、義勇軍と国際共同の武器製造計画により、高効率での暴力の製造が可能となった。

しかしそれでも1982年から実現し始めた戦力の増強しかり、戦果としてそれが実を結んでいるのは全体の一部でしかなく、戦場は合いも変わらず地獄であることには変わらないのだ。

「まあそれでも経済など、BETAの関わりない部分では良くやっている。社会のルールを作ってきた欧米に対し、よくここまでやれたと我も驚いてはいるのだぞ?」

「そうはいっても根本的な問題が解決しない以上、どうにもならない気がするけどね。」

「…確かに人類の今の社会構造では戦争は儲けられなければ続けられないものだからな。それに人的資源にも限りがある、BETAと違ってな。支援についても同じことだ。ただの浪費が何時までも続けられるほど人類はまだ出来あがっていない。」


ここまで人類が不利な理由はなぜか?


世界全体の国力を合わせなければ勝てない相手であるBETA、それに対するには全世界が協力しなければならない



だが、国家が最大の集団である以上、国家間の不公平が起きては協力体制は長続きせず、結局のところ仲良しごっこな計画しか打ち出すことしかできないことが一つ。


二つ目に、何事でも国家が起こす事業と言うものは、規模が大きくなればなるほど『急激』な増加を成し遂げるのは難しいのだ。


施設の拡張、インフラの許容量、管理する組織の大きさといった時間のかかる事柄を整備しなければ、拡大することはコストだけを増加させ、最大効率の運用は規模が大きくなればなるほど難しくなることが大きな問題となってくる。

それに加えて経済効果と言うのはじわじわ効いてくるものであり、世界経済の総量がある程度決まっていることからも1983年からの支援策は好転はしているものの逆転までいくほどの支援が行われているわけではない。

そして最後に人の問題と前線国家の状況が問題になってくる。
人の消費と言えば良いのか、ここ5年での人員の損耗は前線国家の軍事と経済に広く影をさしており、教育が十分に成し得る状況ではなく組織を歪にしてしまう。

そしてそれは経済にも広がり、支援という「有償」がほとんどである物資に対し、その国が輸出するモノが圧倒的に不足している、言わば国際収支の大赤字状態が"支援の量"が決めてしまうのだ。

返されないと予想される相手に金を貸すバカはいないのと同じであり、いくら国際協調路線で前線国家の輸出が容易になったとして、前線国家の通貨が安く見積もられている状況と合わさってその支援の総量は決まってしまう。

その国際収支悪化に伴う支援量の減少。義勇軍の問題(国家軍から見ればその規模は小さく、国連移民軍施設に伴い撤退している状況)とそれ以前に発生した人員不足と経済混乱が大きな枷と成り、

今現在の前線国家の連合形成と世界協調による効率化などによって大幅に改善された状況は次第に息切れを見せている。

そしてなにより兵士を育てる時間とコストが圧倒的にあちら側に負けている点だ。あっちはその気になれば何十万と言う兵士を年間でポンポン生産できるのだが、こちらはそうはいかない。良い兵士を作るにはコストもそうだが、時間と何より経験量が必要になるのだ。相手への恐怖を克服するための。


「まぁ支援なんて未来への借金であるわけだし健全な経済が成り立たなければ時期につぶれることは目に見えていたわけなんだよね。

これと義勇軍は言わば2~3年の応急処置みたいなものだから当てにしてもらっても困るわけだけど。」

長期化する戦争の中では途中での国家経済の破綻は常に前線国家政府にのしかかる。

それは支援が増えた現状でも変わりなく、簡単に支援が見込めてしまう現状は、国際収支の悪化、輸入量の激増によってむしろ悪化させてしまう。

「今現在は光菱を始めとする企業による資源と企業と権益の売買でそこを穴埋めしているわけだが、数が限られている以上、数年先には…な。」

「マリヱの言うとおり、ソ連中国なんかの大きな国であれば、そこらへんはどうにかなるけど、東欧・北欧諸国なんかは…ね。だからこそ移民で金を回してあげているわけだけど。」

国連直轄地の移民処置というのはこれにも生きている。それは昨今の前線国家の輸出量の純粋な増加に加えて、格権益の売買に加わる形で各国からの支援量増加に寄与しており、総額では1979年時点での倍の輸出量となっているのだ。(もちろん輸入量は3倍近くなっているわけだが)


「準備期間もなく、来た当初から戦争中ってのも大きいし、
戦争が儲からなくなっているのが一番大きいんだよな~。

しかも化け物相手じゃ捕虜もない、相手は生物兵器だから腐って後処理が大変だし、こちら側には休みも無い。そして賠償請求もできないじゃ~だれも協力しようとしないのは当たり前なんだよな…

この戦争は本当に酷い…アメリカが匙投げるのもわかる気がするよ…」

そもそもこの戦争の規模からして違う。

今まで起きた世界大戦が"紛争"に見えるほどに消費と浪費の度合いが違う"総力戦"。

文字通り国家、人類の全てを賭けなければ勝つことが出来ないほどの規模であるこの大戦は、人類は未体験の領域の代物であり『国家』が最大の集団である今の未熟な人類では対処はとても難しい。

それほどまでに規模が違う。

兵站問題もそうだが、何十年も総力戦を続けることは経済的にも物理的にも不可能なものであり、国家以上の集団で対処しなければ
息切れを起こした『国家』ごとに各個撃破されてしまう。


それに過去最大の人類同士の大戦争『第二次世界大戦』でも起きた問題であるが、総力戦というのは準備が必要なものである。


あのチート国家アメリカでさえWW2時に、国力が10分の1以下であった日本に対し、戦争準備期間2年を設けなければ戦争に勝つと保証できなかったことからも、それを超える『滅亡をかけた総力戦』というのは準備が大切になってくる。


それに加えて、人権やルールを順守することが大切になったこの時代では、戦争自体が儲けを出す事業ではなくなっており、BETAとの戦争では被害が大きくなるだけで、賠償を要求することができない。

"得ることない消費" 浪費でしかないためだ。



もちろん貿易や経済の活性化は著しく、その果たす役割と言うのはとても大きな物であるのだが、上手く言ったからと言ってそれが戦況を押し返す類いのものではなく、いくらまで耐え凌ぐ時間を延長できるか、といったものでしかない。


それは、一度負け始めた戦争を仕切り直しするのがどれだけ難しいかということにも繋がり、規模が大きくなればなるほど、奇策は通じず、結局は国力と最初の勢いをだれだけ維持するかが大切になってくる。



また今述べた元々の理由に加えて、

こちら側の政策がいろいろと結果を残し、成功を収めている反面、技術関係で重要なものほど遅延していることや、日米以外の後方国家軍の惨状が予想よりひどかったことも付け加えておこう。


こんな現実を知ってしまうとマブラヴ史実のほうも良く持っているなぁ~と感心してしまうのは不思議だ。


「実際、ソ連中国の内情はひどいものだというのは主も知っておろう?

日本が販売している栄養素吸収効率促進剤とやらのおかげで、食糧から得られる栄養素が4倍以上になっているにもかかわらず、兵や民に餓死者を出てているのが顕著な例だろうな。

さすがに貿易が成立していることからも依然と同じとは言えない状態ではあるが、上で不正と政争ごっこが横行している時点でなんとも言えん。

西側だってそうだ。堅牢な防壁を築こうが、BETA側の軍需生産拠点であるハイヴを攻略出来なけらば、時間の問題でしかない。」

正にマリヱの言うとおり。

いくら堅牢な防衛線を張ろうと、奴らが地下から侵攻できる時点で主導権はあちら側にある。確固たる"制地下権"とも言うべきアドバンテージがあちら側にあるのだから。

そしてそれを崩すための兵器群は開発中…

あのG弾でさえ基礎研究の域を脱しておらず、核に対しても相手側の経験法則からか最近では優先して排除されるようになっている。


それらを実用化するまで時間をかせぐ方針であったことは、以前にも言ったが、その時間稼ぎでさえ満足に進んでいないのが実情でもある。


世界からの投資の場となっている欧州にしたって表向き投資を促進させるために威勢の良いことを言っているが内情は

予定されていた防衛線構築費用も計画通りとは言えず、徐々に高騰していたり、支援砲撃部隊による兵站への負担増加など問題は増すばかりといった状況。

切り札とされるグリフォンにしたって1983年から累計4000機以上も生産されているとはいえ、前線での数はその半数に届くかと言うところで、そのグリフォンも火消し役で身動きが取れていない。

そしてそのグリフォンの主力であるF-5、F-4シリーズとも、『第2世代最弱レベル』の機体であることからも、そのスペックから見た戦果も"コストにしてはやる"ほうであり、最前線の衛士を心から喜ばせる代物ではない。



それに加えて地下からの侵攻が待っていることを知る、こちら側からしたら「えぇぇぇっ!?夏休み終了まであと3日しかないのよっ!!宿題まだ手をつけてなかったのッ!?」と叫びたいお母さんの心境になっている。


「だからこそ、対BETA戦を念頭に置いた軍を作りたかったのだろう?完全な人類のための暴力、国連直轄軍を。」

だからこその国連の元、移民を主軸にした純粋な国連軍が必要になってくる。

それがなにかと思うかもしれない。援軍を作るだけで状況が変わるものなのか、今までの義勇軍となにが違うものなのか、と。

だが軍はどこも似たり寄ったりに見えるが、その編成からして得意不得意が発生してしまうものなのだ。

そして海外でBETAと戦うのならばそれに適した軍の形が必要になる。

その命令系統から部隊の編成、求められる人材、追い求める兵器の方向性までに及んだそれは、もっとも大切なその軍が"求めているもの"自体にまで潜り込んで、BETAのために特化させる。


それが国連、ひいては人類が追い求める対化け物用武装集団

"世界が求める軍"なのである


「…たしかにそうだよ。それを早期に揃えられるかが最初の争点"だった"さ。

時間が足りなかったのもそうだし、俺の人類側への見通しが甘かったのもそうだ。まったく…度し難いほどのミスだ」


最初から貿易だけで問題解決などできるとは思っていなかったからこそ、義勇軍による増援と合わせることで時間を稼ぎ、国連軍を完成させ改良兵器で対処しようとしていたのだ。

日本帝国軍が救うのでは?
翔鷹や新兵器が活躍して世界を救うんじゃないの?

という疑問がどこかから聞こえてきそうなものだが、そんなヒーロー染みた行動に利はついてこない。

もちろん発言力やBETAへ勝利するためにも日本帝国を主軸とした軍が活躍しなければならないが、わざわざ最初の激戦である仕切り直しを行う段階に、日本帝国軍の主力投入するつもりはまったくないし、現状では活躍もできない。


なにせ弥太郎さんが愛した日本帝国軍だ。世界に貢献させるというだけで死地に向かわせることなどできず、新兵器が出来上がるまであと2~3年は後方などで頑張ってもらうつもりだ…って話が逸れた。


えっと…なんだっけ…そうだ。失敗の話だ。


本来俺の計画としては、国連協調の第1段階である義勇軍に出血を強いて、国連軍や改良兵器ができるまでの数年の時間稼ぎを見込んでいたのだが…


実際に戦わせてみると確固たる指揮系統がなく、後方でのほほんと過ごしてきた後方国家軍の惨状はひどかった。


この義勇軍によってあと1年ほどは戦況が安定すると見込んでいたのだが…甘かった。


後方の主軸である米軍に対しては何も言うことはないのだが、日本に対しては前に出たがり、豪、インドネシア、ブラジルなどの新興国家群については質は良いのだが経験が足らず、他の諸国では足手まといにしかなっていなかったのだ。

それに加えて兵站問題が顔を出し、国家間の兵站システムの構築が遅れたせいでもある。あとは兵器の規格共通が成されていなかったことが大きい。

そんな問題を治すためにも出血を強いることを念頭に置いていたのだが、出血のしすぎで死んでしまう計画違いを起こしたというわけだ。

人間の外傷での死因で一番多かったのは出血によるショック死だったことを忘れていた…


本当に甘い考えであったわけだ。義勇軍に対してもBETAに対しても。



「中東にハイヴができた…か。」


そして決定的に計算を狂わせる事態が起きた。


それは今年の11月、中東トルコの要衝ガシアンテップ、そこにハイヴが出来始めたのである。



「本来の歴史であればアンバールと呼ばれる地域に出来るはずのもので、中東への侵攻度合いで見れば西に流すことに成功したことにはしたんだが…

その場所がまずいんだよな…」

ガシアンテップはトルコの要衝地であり地中海に近い。

ハイヴとして"未来の変化"が見られることは行幸ではあるのだが、現実問題として他の部分が降りかかってくる。

それがその出来た場所のまずさだ。


この場所が拙いという理由は、大きく分けて3つあり、

1つはガシアンテップからの中東への侵攻ルート問題だ。

地図で見てもらえれば分かるのだが、そこからの中東への侵攻ルートは中東の防衛方針である『ユーフラテス川防衛陣地』が切れた部分をついており、河川防衛陣を使えない場所であるのだ。

それによってハイヴ守護のためのBETA増援も合わさって、砂漠での平地戦という地獄に舞い戻ることになるのが大きい。



第2に、ヨーロッパ南部への圧力の増加だ。

これはトルコがほぼ陥落していることからも直接、ボスポラス海峡から続く南欧防衛線に圧力が増加に繋がる問題であり、アナトリア高原といった高地を光線級に取られた今、人類にとって不利な戦場と化している。

その影響もあり、黒海への海上輸送の危険性が増加し東欧戦線への悪影響にも繋がっているのだ。



そして第3に、地中海に繋がる要地であるという点だ。


欧州の歴史から見ても地中海の制海権は、その欧州・中東経済の重要な要素であることは中学生でも知っている。

それをBETAによって、ガシアンテップという重要な要地を占拠されたことで、スエズ運河を通じた海上ルートへの危険性の増加に繋がっており、周辺経済だけでなく世界経済に重大なダメージを与えているのだ。


「だからこその人権を無視した形での国連軍の創設と、前線国家への資金提供のための移民処置なわけか。」


「その通り。このさい人権問題は捨て置いて、この戦況をどうにか建て直すしかないんだと思ってね。無理やりにでも。

負けって言うのはそれ以前からある程度見えているものなんだから、事前に対策を立てて盛り返さないとならない。

…後手に回っていることは否めないけどね」


だからこその国際移民。

人権を無視した移民計画とバブルによる金の創出で、前線国家への資金の増加と、好景気による移民吸収人数の増加。そして国連軍の糧になる人命を軽視された人員。


これに実現させるために生贄にささげられるのは前線国家の国民達であり、その母国である国家は当然反対するべきだろう。それは否定しない。



―――だがその批判が出来るのは戦争が無くなってからの話だ。



それほどまでに前線国家は疲弊している。国民を活かすために国民を犠牲にするところまで。



もちろん自分としてもこの計画を進んでやりたかったわけではない。

本来ならば2番目移行に回したかった計画案なのだが、緊急性に対応できるもので"マシ"なもので利益を上げられるものがこれしかなかったのだ。


そして計画を実行するならば利益を追求するのが上の努め。


今現在、ソ連中国国内に生き残っている『政府の洗脳が完了していない年齢層』を中心として、直轄地で生き長らえさせる。

そうすることで将来への禍根、内部崩壊を招く種とし、将来、ソ連中国が成した革命を内部から起させるためのコマとする。



復讐の種と生贄の盾。それになっていただくわけだ。




「そうなると早々にアメリカからの独立、いや日米和親条約の改正が必要になってくるな。」

そうなると重要になるのが日本の前線国家への態度だ。


今現在の無理やりな移民計画の押し出しで、前線国家からの不信感が増しているいる状況では、1度欧州を見捨てたアメリカや脱出しようとした西欧と同じように見られるのは非情にまずい。


そうなれば、西側東側といったものではなく第3者という立場で、移民による前線国家のメリットを大きく宣伝することが寛容になってくる。

もちろん外交で重要なバランス問題であり、アメリカに対して故意に敵対関係になろうというものではない。

アメリカ内部の国際協調派と共同歩調の上で、前線国家への同情している日本という姿をちらつかせたいのだ。日本人らしい仕事に情けを持ちこむ姿を装って。


というのも、未だに東の盟主であるソ連とは今現在、政府間では敵対的な関係のままであるためだ。

このままでは日ソ間が友好関係にまで改善されるのは、1998年のBETA日本侵攻によって日米和親条約が破棄されるまで待たなければならなず、

それに付随する国家群への信用度上げるには、以前までの国際協調路線を打ち出した日本と国連という組織を再度信用させるような事象を作りださなければならない。



「そうなんだけど、最近CIAやNSAとかの監視がちょっときつくなり始めたでしょ?東側との結びつきを強めると変な勘違いを起こされそうで怖いんだよね…」


「でもしなければならないのだろう?」

「そうなんだけどさ…たぶん最近アメリカに感づかれ始めたんだと思うんだ…」

「なににだ?まさかお主の力がか?」

それが本当ならばいろいろな意味で詰む。

「いや、それはないでしょ。少しは怪しまれているとは俺も思うよ?
でも未だに技術開発は財閥の厳重管理化におかれているし、協力体制の元にある企業や吸収合併した分社のほうで革新的な技術を表に出しているんだから、本格的な確信にまでいってないことは断言できる。

それに今現在の日本全体の躍進している状況では、光菱が急にでかくなっているのは優秀な親父の経営のためって無理やりだけど押し通せるんだよね。

そうじゃなきゃ、ダミー企業や裏提携した外国企業を作りだした意味がない。

そうなると自然に財閥の指揮を執る総帥たる親父に注目が集中するわけで、人間離れしたオレには気づけないよ。オレが来る前から親父殿はカリスマ、いや王の器だったわけだからね。」

いや、覇王かな。

「木を隠すなら森の中か…

ならばなんだ?アメリカが気付き始めていることとは?」


「日本が独立を本気で考え始めていることにさ」


そう、マブラヴ史実の日本と今の日本は変わってきている。

日本の本来の歴史では

・前線国家が消滅し始めると同時に起こる大不況。

・1979年から始まる軍事一辺倒路線によって、若い人材が民間ではなく、軍部のほうに引き抜かれることでアメリカへの輸出量が年々減るスパイラルに陥り、成長率が低下。

・アメリカ以外の常任理事国が弱体化し、1980代後半から始まるアメリカの中南米属国化政策により、日本が持つ販路・貿易路が限られ始め、経済的なアメリカの管理下に置かれること

・BETAとの大戦による世界の中流階級減少

この上記4点によってこれからの日本は国力の喪失が続くことになる予定であった。


しかし、今現在の日本は国家戦略の方向転換を成している。


・国連を通じて行った外交戦略の成功、京都協定によりアメリカの全米制覇を阻害しての輸出路を確保と貿易量の増加。

・上記による世界経済の堅調による輸出増加と投資の還元

・徴兵数の減少、国の育児社会政策から見える、急激な軍備増強ではない国力の増強を主とした政策による好景気の維持。

・科学力・技術力の成長と経済政策、それに付随した形の軍事技術の促進。

・租借地での移民を主とした移民軍という遠征軍を創設しながら極東国連軍・インドネシア・オーストラリア軍との共同での部隊運用から見える緩やかな独自派閥の結成

などなど、無理のない健全な経済の成長をしている唯一の国家が日本であり、国力の増強に邁進している。

その結果が最近の好景気の持続の一因となり、兵器の開発に頼らずに日本の発言力は大いに上がっているのだ。


国民からしても光菱主導の国産兵器開発が進むにつれ、民間技術開発にもその技術が活きていることから、アメリカの庇護でいることに疑問を感じ始めている。

国粋派のように過剰に反応して国外を軽んじることはやめてほしいのだが…まぁ、そこんところのコントロールはしっかりしなければならない。



では同盟国であるアメリカのほうはどうなのだろうか。

ドル高と双子の赤字に頼ったアメリカ経済は、欧州と中東の壊滅が近づくにつれ、そのイカサマもあって経済の不調をきたすようになっている。

軍事費と難民対策費の増加が続いた昨今では、レーガン政権の再選は不可能と見られ、海外派兵の縮小問題が刻一刻と現実になろうとしていたのだ。

しかし、日本が推し進めた国際協調路線と、日本一国で独占せずに世界中に広めたネット網により、輸出産業の立て直しや国内消費の促進が可能となった。

難民問題や軍の損耗問題に対しても、国連直轄地への移民処置により、アメリカ政府への批判は見る見るうちに減っていった現在、その問題は立ち消えていっており、そんなこんなで日本への高圧的な態度ができなくなっているのである。


その現状を作りだす大きな役割を担ったのが、またもやネットである。

アメリカのすばらしいところは『世論が望む国益』が絶対であり、それに反対する国内組織には徹底した自浄作用が働くことと俺は考えている。

いきなりなんだと思うかもしれないが、アメリカをアメリカたらしめるのはそのようなところでもあり、そこがアメリカの弱点でもあるのだ。

だからこそのネットである。


日本一国で独占できたはずのネット技術、それを公開する見返りに取り組まれた国際法。


それに守られて世界に広まったネット網は貿易の促進など以外にも情報を得る手段としても活躍しており、公正な情報網として国際ネットニュース番組が後方国家では人気を博している。


国連や米軍などが協力しての勇戦が取りざたされる日常の中では、米軍に対しても、ある程度の同情が見られる好影響もある一方で、

"公正な情報網"にのって、アメリカが国益を得る形でしか動いていないように見える日本の動きが、ダイレクトに"アメリカ世論"を刺激しているのだ。


これは日本産のアニメやゲーム、マンガと言った、新しい波にのせて世界に蔓延している『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と呼ばれる現象の一部であり、今現在、世界のために苦心しているその姿から、何時の間にか日本という国が手出ししにくい国家となっていた。

これはネットによる情報の共有が日米間の貿易摩擦問題に対しても有効であるという証左であり、こちらが法を守る限り、技術水準などの純粋な力で勝ち続ける限り黒字や外交的優位を続けることが可能なのだ。


これに加えて常日頃から言っていた日本帝国軍の海外派兵を打診していたアメリカとしては

「昔から思ってたけど日本って極端に変化しすぎ…でも一応こちらの要請にも聞いてるわけだし、経済は回復したし、なんも言えないわ…」状態。

そんなアメリカでも裏では

「日本は、独立心を持ちながら虎視眈眈と力を蓄えている。油断ならない仮想敵国とすべきだ」
といった報告をする優秀な財団系シンクタンクなどが増えている。

だが先ほども述べた通り『世論が望む国益』に則している日本に対しての批判が、アメリカ国内で取りざたされることは少なく、その財団への光菱からの技術提携話が進むと、次の報告では

「といった論調が国内に振りまかれていたがそんなことはなく、最重要同盟国である日本と協調することがアメリカの国益に適う。USA!!USA!!」

に変わることも多く、「どっちなんだ…」と政府や官僚の大きな悩みの種になっている。



そんなアメリカでもやはりと言うべきか、保守派の多い南部を中心に日本に厳しい派閥は存在しており、あと数年内になにかしなければならないだろう。

まぁ簡単に言ってしまえば、アメリカの頭はどこにあるのかわからないんで、その頭達が反対できない『胴体である米国民の意志』に的を絞ったわけだが、ツンデレの頭が何頭かいるせいでそれも上手く言っていないと言う状況だ。

こう考えるとアメリカすげぇな、化け物だ。


そんな感じでアメリカの意志は反らせることには成功しているので、
反対派が行動を起こすまで如何にして力を付けるかだが…



「我からしたら遅すぎるとは思うが…お主もいずれは気づくものと考えていただろう?」


「まぁそうなんだけど、アメリカの一部が予想以上に焦っているのがね。

ソ連との繋がりのことだって過度の危機感を持ちすぎて、あらぬ行動にでないかが心配なんだよ…

…ほら、最近のハリウッド映画で日本の財閥が黒幕だったりするやつあったじゃん?あれ、たぶんこっち意識してるでしょ」

その映画では敵役の日本財閥の総裁がヤクザの首領にしか見えず、

最後のシーンで戦術機にのって戦った時には笑ったものだ。


だって俺の親父もヤクザ顔だし、実際に戦術機乗れるらしいからね。


「まぁ~あの国は国益と世間体が会えば、なんでもするからな。それを正義と信じて…な」


「世界からしたら悪いこととは言えないけど、日本からしたら迷惑極まりないってね。

ただでさえ、アメリカを刺激しないためにも通常戦力を売ってまで対BETA戦力に当ててるのにね。」

「どういうことだ?」

「今の国際路線はやり過ぎだけど、依然から国際世論の中でも人類で戦争してる場合じゃないって勢力は大きかったんだよ。

だから、対人類用の戦力、航空兵器に始まり戦車、空母といった兵器は減少したり、改修されていったのがこの世界の流れなんだ。

その流れにもれず、日本は国力を回復しても空母を持っていないでしょ?それが理由なんだよね。」


これは国際社会への日本の声明でもある。

史実世界のmede in Japan はその高性能・小型といった技術面も上げられるが戦争を放棄していたことへの安心感も大きい。その分のしわ寄せは政治に来ていたのだが…

そんなことからして

「その換わりとしての対BETA戦力というのが戦術機というわけか。


「正解。日本の戦術機の多さは国家規模に比べて多いし、国産を急いだのも対BETA戦を意識した軍拡ですよ、って世界に認知してほしかったからなんだよね。」

だからこその戦術機国産を目指したマブラヴ史実の日本。

国家間戦争への忌避としての戦力向上が戦術機であり、戦艦でもある。

戦艦については、いくらアメリカに強要されての戦艦数維持としても、日本国内で望む声がなければ戦艦がいつまでもあるはずがない。

そんな無用の長物と謡われた戦艦達の運用法確立が将来の命題とされ、甲21号作戦で生きたことになる。


「日本はアメリカとは違って、その流れに純粋になってしまうところが日本らしいというか…

アメリカもアメリカで国益に沿いながら、国際社会の流れを活かすのが妙に上手い。そこがアメリカの強さなのだろうが」

健全な状態のアメリカであれば日本は何も言うことはなく、

経済のしわ寄せを日本のせいにしなければこっちとしてもアメリカを悪いようにはしないし、アメリカの良心である国際協調派を応援したい。

が、ダントツとなったこの世界のアメリカと言うのは、それだけで何をしても強引に進める癖が残っており、そのためにも日本がある程度アメリカに追いつかなければならない。

あそこと友達やってると本当に疲れるな…


「そこは日本も習いたいものだよ。日本人は我慢して地道に頑張ることだけが大国に押し上げた要因であって、それ以外は運のほうが強いからね。」

「確かに日本は賢い誰かが引っ張ってきたわけではなく、国民が頑張って…と言った面がとても大きいものであったな。

愚かしいほどにバカではあったが、愚直でもあり集団への帰属意識が強すぎた。」

「まぁ村社会といった悪癖も多くあるけどね。」

無理をしてまで勝利を重ねて、その無理をした状態が自分自身の実力であると勘違いした日本は、大戦では無理を重ねてその無理を他国にも強要させた面もあったが…もう懲りただろう。


「総じて人が良い。だからこそ弥太郎の好きであった日本が嫌いになれないのであろうな。」

「(…素直に放ってはおけないと言っちゃえば良いのに。ツンデレ精霊め)」

「…なにか言ったか?」

「なんにも言ってませんことよ?」

うおっ!?脳内リンクきってたよね?…バレたかと思ったわ…

「ごほんっ!えぇ~と、確かに今の日本は戦前の良い所も残しつつ、戦後の良い所も残しているから、良い感じの国民性を保っているんだよね。
軍事に対しての不理解とか、教育派閥の独走とかないし。」


この世界の日本人というのは滅私の精神を残しつつ、健全に頑張り続ける国民性を持っている。


これは世界の国民と比較して日本人が最良の国民と言っているわけでは決してなく、日本人が今良い状態にあることが大きい。


戦争に負け現実を知り、経済と軍事のバランスを意識して国力増強にまい進してきた日本。

何事も極端なものというのは悪影響でしかなく、今の日本は非常にバランスが良い。

本来であれば外交ベタと政治の混乱によってその良さも失われていくのだが、今の世界であれば経済成長の上限(史実日本と比べてGDP比7割)がまだあることも含め、政治とテレビと言った広報がしっかりして、軍拡になりすぎなければアメリカに意見の言える大国になれることは可能だと思っている。


願望でもあると自分でも思うのだが、そうなってもらわかなければならない。


「まぁ、そんな国民性であり続けるためにも国内、海外の情報管理をしっかりしないとね。

ってことで情報の収集や防諜対策の必要性から、国の情報機関を統括した会合の設立をしたわけだけど。」

「あの帝国情報総監というやつか?未だ公開する予定はないのだろう?」

《帝国情報総監》

とんでもなく仰々しい名前だが、帝国情報省や内閣情報調査室、公安など、情報機関でもある国内全ての情報組織の予算、人事を統括する権限を持ち、限定的ではあるが指揮権も有する役職を最近作らせた(?)わけだ。

その仕事内容は内閣情報会議、合同情報会議、御膳会議、等の日本の将来に携わる会議に出席し、情報顧問として司会を務めることである。

これは国内の情報機関の連携を促し、情報の動脈硬化を防ぐためのものでもある。

そして重要な点が、この国の帝国議会の上位執政機関である元枢府の長、政威大将軍に任命されるものということが大きい。

実際には裏の副首相というやつで、政威大将軍、そしてその下の首相の考えのもと、日本の情報機関を束ねる役職であり外からの目に見えない部分で暗躍するボスだな。

これによって、国内の将道派の上層部をまとめられるわけで、政府の中で政威大将軍の意志を伝える役職にもなるわけだ。


「そりゃ公開するつもりまないよ。なにせ光菱派閥の重要な椅子であるわけで、ばれてもらっても困る。」


しかし、それは所詮裏の表の話なのである。

本当の仕事は、言ってしまえば日本の真の意志決定機関、その会議進行役という点だ。

先の政威大将軍の任命権でさえ、首相(実質政府中央官僚)が選び抜いた数名からの指名であり、その決定権を持つ判子でさえ、皇帝から借りているものであり実際に政威大将軍の実権はないに等しい。


そんなことからしてこちら側の人材を送り込むことで、全ての情報を持つことが許されるポストを維持できる体制となった。

正に悪の秘密組織のような漫画の世界の大組織が日本に出来上がったのである。

そもそものこの機関の歴史というのが、それ以前、戦前から日本の国難を救うための英雄・高官が集う集会としての機能があった、かの光霊祭である。

光霊祭なんてふざけた名前ではあるが、その歴史は以前説明したとおり、明治維新において皇帝家の下働きであった光宮家がマリヱというありえない力を持ったことが始まりだ。

なぜこの光霊祭という名前になったのかは諸説あるが、皇帝家の"光"のシンボルと、弥太郎さんの知識が日本の英霊の知識と知らされていた周りが勝手に名付けたとされる。

まあそんなことは置いといて、だ。


皇帝の力の象徴となったそれは、今の俺に比べればまったくと言っていいほど能力の行使ができなかったヤタロウひいひいじいちゃんを日本最大の財閥総裁にまで押し上げる力となり、あらゆる国難の一助となった。

しかし、ゆるやかな集合体でしかなかったそれは軍部の暴走を抑えられず、

226事件による光菱派の粛清。

寿命による明治、大正の英雄、そしてヤタロウ総裁が亡くなってしまった光霊祭にはもはや歴史を変える力はなかった。

終わってみれば条件付き降伏。

その降伏もかろうじて残っていた良識派のクーデターに近いもので、軍部の悪害を日本帝国の中に残してしまった弊害にもなっており、両派閥にとっても表の舞台に出ていた者は靖国神社に旅立つ結果を残す。

しかし、その人脈の目は戦後、竹のように地上に出ている芽は狩り取られながら、着々と地下で根を伸ばしあらゆる分野に裾野を広げながら緩やかな元の集会の形になりつつあった。

そして、その集会が大きな国難に対し一致団結することが決定したのが1978年パレオロゴス作戦の失敗の次の日だったわけだ。


なんと皇帝直々の勅令。

あの親バカである親父が子を生贄に差し出すわけだ。マリヱの力が無ければ話が始まらない。

この将来迫りくる危機に対し、従来であればマブラヴ史実のように内部で荒れに荒れ、軍部の発言力と懐古主義により、戦後で有名無実化したはずの武士階級の権力増大につながってくる。

そのはずだった歴史は皇帝の勅令という大きな歴史の転換を見せる。

前回の失敗からその集会は極秘裏に、そして確実に広がり、指揮系統の確立へとつながっていったわけだ。

そして俺の実力が認められたことから集会は第二段階のアクションを開始。あの会議の後のことだ。

戦前は集会の上位者の私利私欲にまで、マリヱの力が使われていたものを、すべて国のため、引いては皇帝陛下のために使われるよう一元化され、俺が動きやすいようバックアップしつつ大きくこの国のあるべき所へと根を伸ばしていったというわけだ。


そして出来上がったのが、

アメリカをも凌ぐと言われた世界最高の情報収集力を持つ、日本の商社グループをはじめとした日本の経済界の実力者であり代表達。

各省の実力者である日本を支える軍・官僚の代表、政府、元枢府をはじめとした文字通りの日本の実力者、光宮の秘密を知る烈士達を集めて開かれる会議。


通称《天霊会議》

厨2丸出しのネーミングセンスだが、この会議こそ真の日本の意志決定機関である組織の会合。皇帝陛下直轄となるこの国の脳であり。




―――今、目の前のドアを開ければ待ち構えている会議の名前だ。

「主よ、大丈夫か?緊張しているのではなかろうな」


緊張で首を振るぐらいしかできない自分が恥ずかしいが、なかなか厳しい言葉を投げかけてくれるマリヱさんもひどい。

まぁ、こちらの緊張を和らげるための先の会話でもあったわけだが、良く付き合っていただいたと思う。

今の言葉にしたって、この中で待ち受ける人たちを考えれば、この年で出るはずではないのだが…気合いを入れてくれたのだろう。たぶん、そう思いたい。


そして初顔合わせということで一人、待機所で待たされる時間も終わり、そろそろ出番になる。

国家の最重要な集会ということで防諜対策防音対策がしっかり行きとどいた建物の中で待たされること1時間。

やっと出番だとSPみたいな人が告げてきた。


そして時間がやってくる。

「光宮 孝明様、御入来ーっ!!」

一応は御前会議に告ぐ重要性を持つ意思決定会議。それに合わせて作りも、形式も古く。

古めかしい掛け声により重厚なドアが開いていく。




そこに待つのは将家、公家、官僚、政治家、財界、にて代表される実力者。


共通しているのは、いづれもこの日本を動かす上で大きな権利を行使でき、自身の意志を国家の行動にまで及ばすことができる権力者たち。

その視線の中、一歩一歩、自分の指定の椅子を目指しながら、早すぎず遅すぎずのスピードで歩いていく。


齢10を過ぎたばかりの小僧の心臓が高鳴り、ここにいるべきでないという場違い間を覚えながら歩く自分。

だからこそなのか、今の環境を楽しみつつ何回も練習した動作を行っていく。


そして指定の椅子の前に着き、一つ深呼吸しながら、周りを見回し、これからこの世界で生きていくという宣言として述べる。

「日の本の重鎮の皆さま方、はじめまして。わたくしが皇帝陛下とマリヱ様にその力の管理と行使を任された2代目天主 光宮 孝明です。以後よろしくお願い致します。」


―――初舞台の始まりだ








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主人公失敗自白の回。

あんな急激な行動で全て上手くいくわけないよねってことで、次回会議の内容を書くか、すっとばすか悩み中…

未だに5年ほどしかたっていないのは…見逃してほしいところです。
原作まであと16年。どれほど変わっているかはわかりませんが、変わってもらわないと困る孝明。

では次回にて。





[28072] 第Ⅱ章<暗躍編> 8話 権威 《12/21更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/12/21 20:06
1985年 4月 18日


『天霊会議』

初回の顔合わせにて集められたこの国の中枢、その実力者たち。

その末席に連ねることだけでも現代の英雄として選ばれることを意味し、その風貌からにじみ出る才気と練気は只者であれば意気消沈してしまうほどのもの。

そうした面々の歴史、肩書き、背景には一切の共通点はなく。


ある者は江戸時代、古くは平安時代から続く、由緒正しい家の出。

ある者は日の本の再度の夜明けに立ちあがった維新志士、列強日本を形作った英雄の孫。

ある者は戦後日本、その国体を維持するために刀を捨て、行政に身をやつし、ある者は家と名を捨ててまで商売に没頭し、現代の下剋上を成した者など、その人生には驚くほど共通点が少ない。




だが、その心に宿る意志は同じく『この国を守ること』には変わりない。


その比重の違いとして、この国の民のためという純粋で尊ぶべきもの、己の家族のため、そうすることが名を後世に残す手段と位置付ける邪なものなど違いはあるが、その覚悟は堅く、己の体に誓約としての微小機械を入れることに迷いも無い者達だ。



まぁ、何が言いたいかというと、あったま かてぇーッ!!ってことだ。


会議の内容もクソめんどくさかったっと言う他ないほどで(これ以上言うと悪口になる)慣れ合いを起こさないための決まりを作るところで、1時間以上もかかる難事だった。


最終的には皇帝家からの手紙(御膳会議との区別化として皇帝家は手紙だけ、それを読むのが政威大将軍)と、一応は皇帝家から頼まれて現世したことになっているマリヱさんの一声でどうにかなったが…そのマリヱさん登場時にまた大騒ぎになったことは言うまでもないだろう。


そこで問題になったのが政威大将軍と俺の位置づけ。

現政威大将軍は九條家の当主が行っているわけだが、どちらが上かで揉めることを危惧したわけだ。

現時点での影響力を考えればぶっちぎりでこちらが上なわけだが、日本人と言うのは権威に弱い。

面と向かって「実権ないのに何言ってんの?」とは言えないもので、そこらへんから問題上ることは目に見えていた。

俺からすれば皇帝への尊敬や敬意などはある。元々日本人だからな。
だから国家の在り方として皇帝には権威を持ち続けることに、合理的にも心情的にも反対はしなかった。そう考えると日本の造りは良く出来ている。

しかし五摂家、テメェはダメだっ!!

ただでさえ複雑な政治体系を取っている日本、その中に幕藩体制の古い名残を戦後まで持っている必要はまったくと言ってない。

しかも権威を持つだけの存在は一人だけで十分なのに、五摂家?武家?何時の時代だ?

てか斯衛ってなんだ?宮内省のような存在だと思っていたから皇帝を守るためにいるんだなあ~と思っていたら戦術機持ってるし、「兵を指揮するため」とか言いながら前線に赴くってなにしてんの?大統領が前線出てきても困るだけだろっ!!

…まあ愚痴ですね…幕府体制側の人間が、こちらの史実よりも頭が良く、上手く自分を生き残らせるために取った方法として今の政治体系になったわけであり、それが史実より上手く行っていることから評価はするべきなんだろう。斯衛とかいらないけど(大事な(ry


その戦後も戦後でおかしい。
第二次世界大戦を戦い抜き、条件付き降伏にまでこぎ着けたのは、評価しよう。

しかし、天霊会派…つまりはオレの弥太郎ひいひいじいちゃん側の人間が戦争に反対していたのに、民衆の煽りと軍部の暴走を抑えられず、結局肯定しちゃった元枢府はなにやってんの?

皇帝に責任を持って行かせないために政威大将軍やら元枢府が存在しているのであって、WW2で負けた場合、責任は取るべきではなかったのか?戦後、連帯責任の形で皇帝の財産やら土地を減らしちゃってるし(皇帝家の土地が政府に移動)


今言ってもしょうがないのだが、今の政策に反対してきている武家を筆頭にする派閥が邪魔で邪魔で、「それを抑えるつけるための五摂家が働かなかったらダメだろっ!!」と言いたい。

しかも斯衛に戦術機を持たせるときには異常に政権などに働きかけてきた元枢府。おい、武家やら、元枢府…効率が悪くなるのは目に見えてるのになんで?そんなに働けるのならなんで武家派閥を統括出来ない?おもちゃが欲しい時だけ働くとか子供かよ…


そんな大っ嫌いな五摂家。もちろん表には出さないが邪魔である存在に謙る(へりくだる)ことはオレとしてはありえない。そんなことからこの問題、武家派閥と光宮派閥(現政権&経済界)とで主導権争いが大きな問題になることは目に見えていた…はずだった。


だが、実際には簡単に問題が片付いたのだ。

なぜかって?

それは俺の母親が九條家の出だからだ。


光宮 日名子。旧姓 九條 日名子と言い、現政威大将軍の 九條 道忠様の孫に当たり、自然、俺はその人のひ孫。

つまりは俺のひいおじいちゃんは、政威大将軍をやっている。

もう一度言う。

お れ の ひ い じ い ち ゃ ん は 今 政 威 大 将 軍 を や っ て い る


なんてご都合主義っ!!と思うかもしれないが、事実だからしょうがない。

現に光菱はその流れを使って瑞鶴問題を納めたわけで、五摂家に光菱が強いのも肯けてしまう。

実情としては、象徴的存在に押し込められた九條家としては現段階で力を再度付け始めた光菱に目を付けたらしく、離婚したばかりの親父はそれを了承したというわけだ。(将来ひ孫が殺されることがほぼ決定していたのに良くやるもんだ。)

しかも両者一目惚れだから恐れ入る。

親の恋愛ほど聞きたくないものはないが、あの毎日のデレデッレっぷりを見てしまうと妙に納得してしまう自分がいた。てか納得するから子供の前で15禁行為をするのはやめてっ!!

…でも今考えると生粋の日本人である九條家から、あのグラマーな体付きになるとは思えないのだが、そこはマブラヴだからということにしておこう。原作でもロケットおっぱいがそこらじゅうにあったわけだし。

自分のことも考えてみると「あれっ?俺ってすっごい勝ち組なんじゃね?誘所正しい血とか妄想の中だけかと思ってたけど、俺の血がそれでした。」って感じだ。

やべえよ、俺漫画とかの主人公絶対行けるぜっ!!そんでハレーム築いちまうんだっ!!幼馴染とかがツンデレとかで朝起しに来てくれてさっ!!来てって…あれっ?

幼馴染ってどんなのだっけ?…確か小さいころから近所に住んでて、朝起しに来てくれて、それで一緒に登下校…

あれっ?俺の周りにいなくね?

…そもそも学校に行かないことが確定申告されてるじゃん俺…

そんな俺に青春なんて…ない…だとっ…?


うわああああああああああああああ!!!
ああああああぁぁ…鬱だ…死のう…


マリヱ「(何やらまた身もだえ始めたぞ…また頭の中で黒歴史作って遊んでいるのだろうな…こういう時は放っておくに限る)」

※しばらくお待ちください※



…まぁ、そんなこともあって俺はひ孫としての立場として政威大将軍を立てる形になったわけで、九條家の立場は他の将家と比べ、盤石と言うほかない。

…問題としては現当主の年齢が80代に差し迫ったと言うことで、老い先短いというところか。


そうした人の格付けが済んでからはこの日本の方向性を話し合いが済んで帰ってきたわけだ。


中身はって?

今までの再確認ってところかな。政府の方針として打ち出しているものをいまさら変えようとするバカもおらず、

1、前線国家への支援の継続

2、国内整備の充実

3、国連への働きかけ

4、安全地域国家への企業進出の促進と法整備。

5、国民負担を考えた上での軍備増強


などが再確認された。

だったらなんでこんな仰々しい組織体系を作ったのか。
以前までと同じであれば前のままのほうが指揮権的もこちらに有利ではないのか?と思うかもしれない。


というのもこの会議を作ったのは短期的なものを見据えたものではなく、むしろ長期的、この日本という組織が高効率で運用されつつ、即断で判断が下せる国家を目指したためだ。


そうなったのも将家や官僚、財閥から始まり野党と与党など、この国の内部闘争は多い。

それは国家であれば生じてしまう問題でもあるのだが、悪い意味で古い考えを持ち凝り固まる性質と、出る杭は打つという島国体質が合わさった『日本の良くある組織の悪癖』が組織を運営する上で悪影響を及ぼしてしまうことを、ここに集まる者たちは危惧していたというわけだ。

結局はその問題をこじらせ組織、政治までもが次善手も打てず、止まってしまうことが通例と成り始めた日本。


それに加えて組織の運営法自体にも問題がある。

組織というのは盤石な態勢ほど内部が腐りやすく、今現在の民主主義や王制にしたって永久に続く完璧な組織運営法というものなど無いせいだ。


今現在の民主主義による国の運営法にしたって内部が腐るのを防ぐには、

正当な評価を下せる国民の目を育てること。
長期的な国策に必要な、上に立つ者の質と忍耐力。

が必要であり、それを民主主義に求めることは夢物語でしかない。

なにせ人は完璧ではない。

なった当初は有能であっても、自身が気付かない間に無能に陥ることなどざらであり、努力と結果の対価が欲しくなるのが人と言うものだ。

心のどこかにその組織にとって自身が必要ではないことを知りつつも、欲によってそれは曇り堕落する。

そして安全になった直後から始まる欲の暴走は、いくつもの国家を崩壊させてきたことは歴史が証明しており、人の器が人の評価につながるまで、それは続いていく。

ましてや未来を見通すことが出来なけらば、正当な評価など下せるものではなく、人権によって守られて作られた戦後教育システムによる、日本の教育の崩壊はそれを物語っている。


本来であればそんな国、滅びれば良い。

国が無くなってもそこで暮らしていた民は無くならないものであり、その原因を作った国民達が悲劇を受けて再度立ち上がれば良い。


だが、国家の"死"という安楽を、今現在の状況が許していないのだ。

まずはBETAという大きな問題が立ちはだかる。これは短期的でもっとも大きな問題だが、国家が無くなればどう考えても国民のほとんどは喰われて死ぬ。国土もろともにだ。


次に日本人の資質。

日本人は個人ではひどく弱い。これは集団になると強い素質を持つ裏付けであり、個人の"質"を重視する資本主義と日本が合わないと言われる最たる理由にもなっている。

ではその日本が無くなればどうなるか?

そもそも日本人は国家が滅亡した経験がない。

語弊がありそうな言い方だが、文明という文化ができた時代から日本人にとって国とは作るべき人工のものではなく、元々在った物という無意識下の印象がひどく強い。

これに島国ということで外部からの移民が極端に少なく、時代を経て混ざった「日本人」の血というのは単民族国家に限りなく近いことが大きな原因と言えるだろう。

だからこそ『島』という国土から『国』とは元々在り、それが続いて来たものであって作るものではなく在り続けるものとして団結力(災害が多いことも加えて)が生まれたのだろう。


その結果が戦前の日本のような行き過ぎた過剰反応になってしまうわけだが、戦後にはアメリカの適策によって「なんだ、大丈夫じゃん」といって無褒美にお腹をさらけ出している。とても恥ずかしい行為と気付かずに。


となりの中国や欧州からしたら『国』と言うのは作るべきもので、いらなくなれば再興できるものだが、日本からしたらそのアイデンティティ自体が無くなって、それ以前よりも良い『新しい国としての再スタート』などできるわけがない。

だからこそ、「国」を形作る政治に国民が興味を持たず、地道に周りと協力していけばそれが御上への強力となると信じて政治を知ろうとしない。


もし『新しい国』が出来たとして他国との合併か表向きだけの独立国でしかないと断言できる。


そもそも日本人=日本に住んでいるという認識の国民が、他国の影響の元で活躍できるわけがない。

だいたいの国民は下部構造に呑みこまれて『あの頃は良かった』と思って死んでいくか『生きていればそれで良い』と自己暗示をかけて死んでいくかのどちらかしかないわけだ。あ…愚痴になっているな。




そして第3に現代社会の作り、だ。


経済的に大国となった日本に国家の崩壊などしてもらっては、世界経済の終焉に繋がり、列強時代の逆戻りでしかない。

などといった表向きの理由もあるが、実際には落ち目に瀕した国(経済ではなく組織力として)と言うのは法律と人権の名に守られて他国、いやどこかしろに住む権力者集団の植民地となり、活かされ続けるしかない。


最初は「みんなやっているから」「法律に反してはいない」「俺が死ぬときまで国が崩壊しなけらば良い」「そもそもそこまで国が弱くないから大丈夫」「それだけのことを俺はやったから対価を求めているだけ」

など、国民一人一人の勝手が蓄積して国家の組織力の崩壊を起きるものであり、

現代の崩壊しづらい社会と言うものは、その崩壊してしまった国家に対し、「知る権利」「人権」「プライバシー」といった使い方によっては強力な兵器を駆使されれば、政府が知らずに海外からの合法的な情報侵略を認可してしまう。

そうして、まずマスコミ社会、そして政界を牛耳られ、国家の指針とそれを形づける上で重要な情報がまず握られ、利権が海外に流れていく構造になっていく。

そのように死ぬことも許されず、『戦争』などといった決闘をしなくとも利益だけ吸う方法が確立されたのが現代なのだ。


これまで他国からすれば異常なほどの『集団行動(マンパワー)』の力だけで勝ってきた日本。

これからの現代は、上が「権利を持った国民」を上手く誘導する新しい方法を必要になる。



だったらどうするか。


国粋主義掲げて、海外の戦力と対立して孤立する?ありえないし、贅沢を知った国民が許さない。



だったら、権威に頼るしかないだろう。


皇帝とマリヱによる権威政治の確立。

人を超えた力と知識、日本人の弱い権威の両方という実力と有無を言わせない『格』

これの前では日本人はたいていの言うことは聞き、『出る杭は打つ』という悪癖は表に出てこない。


だからこそ、政威大将軍と元枢府による、大まかな国家方針を事前に最善なもので固めて打ち出し、権威によって守られながら推し進め、それの方針に沿った法案を政治家と官僚を使って導き出す。

これは一番上が無能であれば大問題である王制に近いものではあるが、人を超え、あと100年は軽く現役である俺(マリヱによる老化防止)がいる限り問題は無く、


日本のアイデンティティであり権威を持つ皇帝に被害が及ばないよう隔離しつつ、その全権をゆだねられた政威大将軍による人の意志と、神とも化け物とも言うべき実力によって、この国を操作する形が最善とされたのだ。


だからこそここ数年、高圧的な方法で日本を牛耳ってきた俺たちの派閥が譲歩することでこの会議を作り、この会議への反論を許さない形に持って行きたかったわけだ。

そうして正当な評価を行えるマリヱを筆頭にした、この会議の参加者によって、決定された重要な各種国家方針と、

マリヱ(本当は俺)によって評価された官僚や政治家を選抜、その参謀たちによって推し進める短期的な各国策などを評価する形を作りたかったのだ。

もちろんマスコミなどを使って正当に評価され推し進めることが決まっており、出来る限り国益に則しているのであれば、誰であれ評価されるシステム作りに心血を注いでいる。…完全とはもちろん言えない代物だが…


またこの会議自体、参加者体内にある微小金属を使ってその動きが監視されており、皇帝家に頼まれたマリヱ(本当は俺)が管理していることになっている。


この形になったことで表向き俺の権限が薄れ、武家派閥など各派閥のパワーバランス通りに権力と権益が行き渡った形になっており自派閥から心配の声が上がっているがその心配はない。

この会議に置いての人事権、裁判権をマリヱを基準としていることに加え、この会議、日本全体の情報、知識は、そのチートなマリヱさんを一度通す形になったため、俺の権力と情報網はむしろ拡大していることになる。

そうして情報戦に置いてこちらに勝てる者もいない状態であることに加え、その諜報組織の長がこちらの配下であることからも、この会議の方向性を操作しているのは俺であり、自派閥に対してもマリヱに大弁してもらう形で平等に粛清が可能となったのだ。


正に裏ボス、いや神を語るペテン師に名にふさわしい。そうして俺の知識をこの国家のあらゆる組織に活かすことが可能となったおかげで、これまでのチートがフリ―ザ第1形態に見えるほど強化が可能になったのは大きいだろう。



「は・な・し・が長いわッッ!!!!」

聞いて…いただとっ…?

「…えっ?なんで、えっうそ、聞いてたの?」

「ぶつぶつと何か言っていることに気づき、報告書の提出とわかった時点で黙って聞いていたのだが、話が長いっ!!!

それに飽きる上に、自分の正当性を上げ連ねすぎて気持ち悪いわっ!!

単に煌武院 悠陽などとフラグ建てたかっただけではないかっ!!」


……いやいやそんな国家権力を使った横暴なんて…ねぇ?

「そんなわけな…いやすいませんっ!!その通りです!!

だってさだってさ!!もう11才だぜ!?知り合いが大人だけって時点で泣きそうな事実じゃんっ!!

若い連中で知り合いになるとしたらお偉い方くらいだし、あとはユウコ先生?あれどう見てもこっちを利用しようとしか考えないでしょっ!!
10歳の時点で陰湿ないじめをかましてきたガキ集団を、リアル奥歯ガタガタ言わせるほどのトラウマ植え付ける時点で将来ドS女で決定だよっ!!!」

「それを従わせるのがロマン、などと言っておったではないか。」

「現実を知ったのさ…今はツンデレより年下お姉キャラだ。」キリッ

「(何がキリッじゃバカ者めっ!!)…言うておくが、格から言って煌武院家(五摂家序列1位)の娘が次期政威大将軍になることは生まれた瞬間から決まっておる。

となると現実的に考えて結婚できるのはある程度格下の家の者、その婿養子だけととなるのだ。

つまりお主との結婚は無理であるのは分かりきったこと。なにせ光菱財閥次期当主であり序列第2位の九條家の血を轡いておるのだからの。」

「うわぁあああああああああああああ!!!聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない!!!!!」

「(またバグったか…ストレスの貯めすぎで最近は妄想が先に立つようになってきておる。どうするべきか…)」

「ねえなんで?なんでなの?俺ハーレム願望もやめるから美少女の一人ぐらい結婚させてくれない?」

「…お主の格が高くなりすぎたのだろうな。光宮家長男にして、現政威大将軍九條家の血を受け継ぎ、我と契約しておる。どう考えても釣りあう人間など一握りしかおるまい。

…そうだな、九條家以外でお主と釣り合いのとれた者は五摂家と言ったところであろう。

三大財閥の者が繋がることは財界や政界が許さんだろうし、それ以下では元枢府内でのいらぬ折衝を招きかねない。

そしてお主も知っておろうが、武家は光菱派閥を嫌っておる。五摂家でも九條、煌武院以外の三摂家は光宮に否定的なのだからお主は…」

「もう良いっ言わないでっ! 
なんで?良いじゃんっ!!よっしゃああああ!玉の輿ィィィイイイイ!!!みたいな感じでよって来てさっ!!」

「(発想が下種になってきておるな…)
…結婚相手もそうだが将来我との契約を受け継がせようとお主の父君は考えておるのは知っていよう?」

「まあねっ!!」

「そうであれば血というものに過敏になるのは不思議ではあるまい。もし妾…いや愛人か?その者が子を産み、我と契約を成して見よ、正妻のほうの家はお主、光宮に反感をもつだろう。そして当事者が巨大な者達である以上、その問題は国内での大きな問題となる。

つまりは格のある家の者がお主に嫁ぐことは決定事項だが、自分はだれもやりたくないのだよ、誰もかれもがだ。嫌われておるのうwwww」

「結婚もお付き合いも出来ない…だとっ?この世界は血縁関係や家の繋がりが強い世界であることは知っていたけど…ここまでとは…」

「なにを言っておる。お主が特別なのだ。他国のスパイにでもお主の遺伝子が盗まれれば事だからの」

「はあ~自由恋愛は何処行った…中東なら一夫多妻制を実現できるくらい、この国に役に立ってない俺?」

「結果だけ見れば役に立っておるのだろうな。それだけの責任も降りかかっておるが。

もし欧州の戦線が瓦解してみろ。日本が投資…光菱が主導した前線国家への投資は崩れ去る。何兆という単位の金がパーになるのだ。
その時の責任を取るのはお主になるのだぞ?
つまりはハイリスクハイリターン、そんなところに高位の家が娘を嫁がせようとするか」


「クソォォォオオオオオオ!!!なんだこの苛立ちはっ!!!
こうなったら最近部下の一人が欧州で異常にモテてるらしいから八つ当たりしてやるっ!!!

そうだ!!今度ソイツに最前線で翔鷹の最高到達高度がどこまでか上昇実験を強行させてやるっ!!もう決めたもんねっ!!」


「(その部下が不憫でならない…がまあどうせやりもしないのだ。放っておくか)

まあ…その話は置いておくとしてだ…
今回の光霊会議だったか?実際に役に立つのか?」


「んっ?もう真面目な話?う~ん、役には立つんじゃない?最近の独裁体制に怒り心頭の連中も多かったし、今回ので多少妥協するでしょ。」

「そんなものなのか?」

「この会議の根回し自体、親父が計画したものだし、政府に働きか掛けることで帝国情報総監なんて役職が生まれたわけなんだからさ。」

「その分こちらの情報も世界に漏れることになる。
財閥が始動して3年だ。いくらかの情報から"日本がおかしい"ことに感づかれていることに気づかないお主ではないだろう?その危険性をさらに侵してやる理由がわからんのだが」


「確かに権威政治移行の影響は小さいし、政威大将軍なんか所詮スケープゴートに近いよ?

でもね、俺の持つ情報と力を、この国全体に使える体制というのが重要なんだ。

そしてその国力増強がまた俺の情報解析に役立てる。その形にしたかったからなんだよね。」

光菱財閥だけが持つ、未来知識。俺のとんでもない演算機能とそれを補助する最先端電子機器による情報収集システム、それはこ俺が元いた情報社会になりつつあるこの世界ではとんでもない戦略兵器である。

それを一財閥につぎ込んで使えば、世界で一人勝ちになってしまう。―――1財閥がだ。

それはあの、公表金持ちランキングの中でダントツ一番を記録すること等しく、世界の目を一つに集め過ぎてしまう。

そのような愚を犯さないためにも、裏の公的な情報交換会を作りあげたわけだ。

これによって、日本は政、官共に世界でも屈指の情報収集能力と防諜能力を持つことでき、トップダウン式の指揮系統で即座に有事にも対応が可能となったことで日本全体で躍進し続けることになる。


そしてその会議でもぶっちぎりの情報収集力を持つ、光菱財閥こそが、その帝国情報総監を政威大将軍に推薦し、真の指揮権を持つわけだ。



…あれ?完全に悪の組織じゃね?

まぁいいや、人から見たら悪でも、俺からみれば正義だ。

「それが悪役の思考なのだぞ…」

また勝手に俺の思考読みやがった!!プロテクト変えたのに!



「まあ、そんなこんなで3年たってやっと日本の政治系統が一元化されたわけだけど、どう?マリヱさん」

「順調…なのだろうな。
ただ概要だけ見れば、時期的にも前線に干渉するのは遅すぎているとは思う。そのために計画が急造でしかなく、いろいろ歪になっているのも事実。

しかし我とお主が世界に干渉でき始めたとは3年前と考えると…仕方ないのだろうな。欧州が持たんのだから。」

確かにマリヱが言うことは正しい。

未来から来たとは言ってもこの俺自身大学生でしかなく、人の上に立った経験がないのに加えて高々3年で世界に打って出るなど本来ならば自殺行為だ。

「そう評価してくれると助かるよ。自分としても急すぎたし、無知な部分も多かった。何度親父と優秀な社員に救われたことか。」

そこを救ってくれたのは優秀な経営者でありカリスマ性を誇る俺の親父と、その親父が育てた光菱の社員達だ。

団結の光菱とは良く言った物で、全てに対し全力で行ってくれるバックを持つのはとても心強い。

そして

「確かにな。お主が焦っていた部分は日本の技術者などが努力して埋めてくれた。

それを実現させた日本と光菱の社員の努力のは誠に感服するものだ。」


マリヱの言うとおり日本の大人たちは半端じゃなかった。
日本の黄金期を知り、そして70年代後半から始まるBETAへの恐怖感が上手く作用したのか、あのバブルのような浮かれた雰囲気など一切ない。

その窮屈さが日本をまた孤独の90年代に叩き込むわけだが、こちらが上手く導けばその心配もないだろう。…たぶん


「確かにね、最近は俺にばっか感謝を述べてくる人が増えたけど、みんなの力なんだ。自分で誇れば良いのに。」

「…お主がそんなことを言うと不気味だな」

ひどいよ、マリヱ氏…俺も心の底から人を褒めたりする時ぐらいあるさ。時々だけど。


「まあ正直、日本の社員には驚かされたのは事実だよ。

上がしっかりしていれば後はこちらの予想以上のことをやってくれているからね。上も楽観視したり根性論に走りたくなるのはわかる気がする。」


本当に優秀なのだ。もっとも優れた政治状態は人気を持つ賢帝の独裁とは良く言ったもので、最初の出だしでチートを使った実績を上げれば盲心的についてくる。

どこかの学者が日本人は奴隷体質と言っていたがそれに当てはまるのかもしれない。それほどだ。

それに加えてネットと、行政改革などの効率化の促進を外科的に行ったことで、仕事の効率化が進んでいる。


「翔鷹のこともそれに当てはまるな。3年で実戦配備とは大法螺吹きも良いところと思っていたものだが、実現してしまったのだから。」


「確かにね。自分自身、こんなに早く開発が進みとは思わなかったよ。どんだけ国産にこだわっていたかが分かる。」

日本の悲願であった国産戦術機。

アメリカの下ではなく、対等な同盟を演出するためにも必要だった国産戦術機。

それへの日本人の執着は異常とも言えた。

過去、アメリカにF-4の供給順番を下げられたトラウマと、カナダへの仕打ち。(※カナダ落着のオリジナルハイヴへのアメリカの核集中投与、それによりカナダ国土の半分が人の住めない土地に…それがアメリカ政府の強硬な態度であったこともあり、後にカナダとのしこりを残す)
80年代「強いアメリカ」政策による諸外国への高圧的態度。


これを考えた時、日本は見捨てられた場合を独自で模索していく方針に換わっていた。

これ以外にも国産への盲心もあったが、結局その方向性に変わったのは上記によるところが大きい。


その思いによって実現したのが翔鷹、日の本の未来を背負って飛ぶ鷹なのである。




「これで最初のフェーズと言うか、既存技術に手を施す段階はこれで終了かな。

翔鷹も今年の2月までに正式配備できる見込みだし、他の兵器についても順次量産に入れそうだし。」


「やっとではあるがな…」

「確かにね。」

そう、やっと第1段階が終わったのだ。あらゆる分野に手を伸ばした光菱。

それは必要であるものに手を伸ばしたせいでもあるのだが人類の苦境をひっくり返すにはとても少ない投資金であり、時間も無かった。

だからこそ3年の月日を既存技術の改良に割いたとして、これだけしか…そう良い切って良いものなのかわからないが結果を残せていない。

それを徐々にひっくり返していくためにも俺達は頑張っていくのだろう。


~後半へ続く~

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次元管理電脳より追加報告です。

『光菱財閥』についての追加報告をお伝えします。NEW!!

経営に関して※財閥という組織は列記とした一つの組織ですが、やりようによっては分社配置することができ、世界企業規模ランキングにおいて「光菱財閥」として名を連ねていません。

実際には

『光菱フィナンシャル・グループ』
『光菱商事』
『光菱電機』
『光菱ケミカルホールディングス』
『光菱マテリアル』
『光菱重工業』
『日本運送』
『光菱建設』

として名を連ねているようです。

そのため、同じような方式を取るアメリカの巨大財閥なども表に置いてはランキングには出てきておりませんので、実際の組織として比べた場合、その実際の規模に差が生じております。


財閥内社名が追加されました。NEW!
※『』下はその企業の子会社です。

『光菱ケミカルホールディングス』
日本最大の総合化学企業であり世界第6位の化学メーカーです。主人公による新技術により国際特許取得数、財閥内1位。
 
 光菱化学
 光菱レイヨン
 光菱樹脂
 光菱ガス化学
 光菱製紙
 光旭硝子
 光菱製薬 
 光菱塗料
 光菱化成

『光菱マテリアル』
非金属メーカー国内 第2位。炭素繊維技術向上と水素電池技術の向上が目覚ましいようです。

 光菱電線工業
 光菱鉱石輸送
 光菱原子燃料
 光菱アルミニウム 
 光菱シリコン

『光菱重工業』
国内軍需・重工業生産(造船・軍需含む) 第1位。1983年時には第1位の冨獄重工を抜きさる。だが純利益で2年連続で大幅な赤字を記録し、財閥内での立場は、それまでの日本の軍需路線に一番の利益を上げると見込まれていたこともあり、日に日に弱くなっている。

 光菱自動車
 光菱冷蔵
 光菱化工機
 光菱製鋼
 光菱事務機械
 光菱レンタカー
 光菱光学工業
 光菱建設機械
 日達工機 1982年 株式公開買い付けにより子会社化 


『光菱電機』
※1983年 松本電子工業を買収。日本総合電機メーカー第2位。パソコンハード製造などで大きくシェアを伸ばしているようです。

第1位は日産製作所。第3位は豊芝

 光菱スペース・ソフトウエア
 光菱プレシジョン
光菱国際電信
 光菱電子

『光菱商事』
日本最大の総合商社。光菱と国連が結託したネット、その通販業が多大な利益を出し、されに規模を拡大しているようです。他には合成食品大手の光菱食品が過去最高売上・純利益を2年連続で大幅更新。

満井物産が第2位。
 
 光菱通販
 光菱液化ガス
 光菱食品
 光菱麦酒
 光菱石油
 コンビニ ロウスン 


『光菱フィナンシャル・グループ』
1982年に光菱内の金融企業を統合して生まれた総合金融グループ。

主人公が来てから皇家、将家の膨大な資産を預かり、短期間の内に資産を倍以上に膨れ上がらせ、一躍財閥内でもっとも大きな企業となった。
世界金融保険会社 第19位
※運用利益のほとんどが公表されておらず、財閥内の赤字帳消しや、国外投資に消えており、運用されている資金には国からの資金流用があるため、公表することができないのが実情。※
 
 光菱ニコス
 光菱リース
 光菱銀行※光菱のメインバンク
 光菱UFJ信託銀行
 光菱証券ホールディングス
 光菱東京火災保険
 明治生命保険

他に財閥内の大きな企業として

・日本運送
旧 日本郵船であり海運企業の「合併合戦」の時において陸運、空運にも事業を広げており、世界第1位の海運企業。


・光菱建設
日本のスーパーゼネコンの一つ。光菱の躍進により事業を拡大。業績を悪化させていた、準大手ゼネコン2社を買収して一躍スーパーゼネコンの仲間入り。元光菱マテリアル傘下の子会社だったが企業規模により独立。 現在国内第6位。

光菱総研
光菱財閥関連企業全ての最新技術習得のための研究機関。主人公はほとんどここで働き詰め。

が上げられ、これ以外の子会社、孫会社などを含めると優に百を越える企業が財閥傘下となっている。




以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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筆者です。またもや長くなりすぎて前半と後半に分けることに…申し訳ありません。

内容に関しては天霊会議について、概要だけにしました。実際話が進まなそうですしww

後半では今回主人公からアンチ的発言をされた将家の擁護、衛士特性や翔鷹の販売について掘り下げようと思います。

では次回にて。コメントお待ちしております。





[28072] 第Ⅱ章<暗躍編> 9話 理由 《12/21更新分》
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/12/21 20:09
1985年 4月 18日同日

「それにしても日本にそこまでの衛士がいるのか?とい疑問もあるのだが、どうなんだ? 数は増やせど衛士がいなくては話にならんだろう?」

簡単に、そう簡単に日本の国防の問題点をズバッと当ててくるマリヱさんにはイラッとすることも多いが、これは感謝すべきことなのだろう。そう思わないと精神的に来るものがある…

正にその問題点が史実日本の問題点となっているのだから。

「もともと日本の戦術機数は異常だからね。空母削ってまで作ってるわけだし。それによって衛士が足らないくなるのは自然の流れなんだろうね。」


日本のドクトリンとも言うべき、戦術機への盲心。それによる戦術機数は国家規模から考えれば明らかに多い。


マブラヴ史実でも90年代からの大陸派兵に始まり、ユーラシア脱出のための光洲作戦。そして悪天候や政治的問題、世に出されなかったさまざま理由絡み合って生じてしまったあのBETA日本侵攻。

この酷い損耗の中、在日米軍の撤退という思わぬ誤算の中でも戦い抜き、そして一年後には横浜ハイヴ攻略作戦『明星作戦』での主力まで務める日本。

ここまででも異常なのにもかかわらず、たった2年後には甲21号作戦と桜花作戦までこなすとは、概要だけ見れば異常を通り越して異様だ。

なにせ甲21号作戦参加の日本帝国戦術機数約1500機。本国の防衛には最低でも2000機は必要であり、その数を最低でも持っていたことになる。死に体の日本が、だ。


その異常な状況を作りだした原因はどこにあるかを疑問に感じ、この世界に来た(?)当初、調べてみたのだが突飛に飛んだ日本の国策が判明した。

それが戦術機貯蔵計画だ。

日本帝国軍は欧州、ユーラシアのBETAとの戦史研究を進めていくにつれて、あることを発見した…らしい。

それは兵器の雄である戦術機の数が減ることが直接戦線の弱体化に繋がっている点だ。

人類でもっとも有効な兵器が戦術機である以上、それは誰しもが知る事実ではあるが、日本帝国軍参謀本部は、ユーラシアの戦史を実際に味わっていないことから貪欲にその事象の原因を調べていった。

そうして出された結論は、戦術機というものが戦場で唯一のBETA以上の機動力を持つ、有力な機甲戦力であるという、誰でも知っていることに加え、突発的な事故にも対処することができる万能性をもっていたため、というものだった。


戦術機はその戦場の活躍ばかり目がいくが、2機いればだいたいの補給作業をこなせるほど器用だ。

戦車がひっくり返った時に戦術機の手を借りたケースなど、戦場以外でも突発的な事象に対応しケースも多々あり、大型BETAの死骸を陣地からどかす作業や、戦術機がいるいないでは大きな違いを見せている。


もちろんその分、精密兵器である戦術機も損耗する。

だが日本帝国は「その分の損耗を埋められるだけの体制を作り上げれば、戦力全体に広がる損耗を戦術機に集中させることができる」

として日本は撃震を大量に製造しモスボール化など、徹底的な処置を施し貯蔵することにしたのだ。


近接戦に特化した仕様により、あらゆる作業でダメージを負うはずだった関節部の強化を可能にしたし、保存状態の物を少しの改修を加えることで使用可能になるよう考え抜かれたそれは、確かにマブラヴ史実において結果を残している。

その数約1万機。あの数々の戦乱を乗り越えても不知火などではなく撃震が主力機で居続けた理由でもあり、フランスやソ連のように改修機を輸出せず、24年間貯めに貯めて生まれた数だ。

90年代から開始された九ー六作戦を含む大陸派兵。1998年の3600万人の犠牲を出したBETA日本侵攻。1年後の横浜ハイヴ攻略作戦『明星作戦』に始まり、クーデター事件である12・5事件や、甲21号作戦を行い、一週間後には桜花作戦にも参加できる日本。

これ以外にも数々の間引き作戦で損耗を続けてきた日本が、それでも戦い続けたのはこの貯蓄計画が根幹にあったためだろう。

そこまでF-4に思い入れを持っていたからこそ、F-4Xと呼ばれる第2.5世代機に匹敵する戦術機を生み出すことが可能になったのだ。

本来ならその大量の数を揃えるならば、純正の国産戦術機を製造することが最善であったため、あそこまでの国産への執着もあったとされている。

それ意外にも疑問点がたくさんあるが…実際にあの数を実現出来ているわけで、何個もののブレイクスル―をしてきたのだろう…たぶん。


「まあその分、衛士が足りないなんてことが起こってたわけだけど。」

「ん?ああ、今現在日本は激震などのF-4を輸出しているが、史実ほどに戦術機数を充実させるとして、衛士数についてはどうするのだ?お主も言ったが衛士の数がまるで足らんのだろう?」

そうだ。1万機…他の機体を含めると1万という大台を軽くこす戦術機数を持っていた日本。その戦術機を十全に運用出来たならば本土をあそこまで蹂躙されることはなかっただろう。

それを不可能にしたのが衛士の希少性だ。

「確かに日本は衛士の数は史実も今もまるで足りていない。
それはそうなんだけど、いきなり衛士を増やすことはできないし、なにより日本の現体制での衛士対策も結構良い出来だし、日本の歴史が良い塩梅で衛士を増やす方向性に働いているんだよ。くやしいことにね。」

「どういうことだ?」


「衛士特性。それは国によっては千に一人、悪ければ万に一人にしか持ち合わせていない後天性と先天性、二つ合わさってなる才能なのは知ってるよね?」

「そうだな…今の人類にもっとも必要な才でもある。」

「その人類のどの国もほしいであろう衛士特性。その日本での割合は、まず先に結果から言っちゃうけど、2%を超えているんだ。」

「それは高い…のだろうな?」

「脅威的なほどにね。
まず前提として、衛士というのは強靭な肉体を持つ必要があることから10~30代に限られる。そして衛士特性の向上に必要なのは、幼少期からの連続的な訓練が有効であるとされているのは知っているよね?」

「聞こう」

「そもそも衛士特性なんてものは本来であれば、ある程度の特訓を幼少期から行い、心身ともに研磨し続ければだいたいの者が成り得る凡才なんだ。

もちろんその充実した訓練ってのが肝なんだけどね。」

この訓練を日本帝国が導入したのはとても速い。

1978年の教育法改正からすぐのことだ。先の戦術機貯蔵計画を有効にするためにも参謀本部などの軍部がロビー活動を行った結果であろう。

「その教育方法というのはなんてことはない、幼少期からの衛士育成なのはマリヱもわかるだろう?」

「まあな」

「もちろんそんな費用のかかる育成費用を誰彼かまわず実施できるほど日本の懐事情も甘くはなかったし、その教育方針にしたってそれが衛士特性に繋がる事実にはその時点では辿りついていなかった。

だからその教育を受けられるのは陸軍幼年学校とか一部だけなんだけどね。」

将来軍部に入るであろう者達と体育学部を持つ一部の国公立に対してのみ及ぼすその影響は、その教育規模は以前よりも割増されたが、全てに行き渡ったわけではない。

「その内容は耐G訓練から始まり、継続振動耐性をつけるための日常的な訓練が必要なのは言うに及ばず、武道に精通する体裁きも重要な項目として上がられている。そして意外にも重要なのがその体裁きなんだ。」

「体裁き?」

「通常、人間というのはその動作で発生する反動というのを無意識で計算して行動しているわけだけど、複雑な動作ほど無意識というのが働かない。」

慣れていないから、脳の中に動作制御プログラムが作られていない、とも言える。そして慣れない動作を継続して行うと人は自然、酔う。

「そんなことからも、なにも現代日本の斯衛がバカみたいに武道の練習をやっているのは、ただの精神を鍛えるためではなく、ほとんどが衛士や強化外骨格などで必要とされる"無意識での外乱の把握"にあるんだ。

そしてそれは衛士にも生きていき、人型の機体動作で発生する振動をあらかじめ知ることができるんだ。」

これが地味にデカイ。衛士特性が無い者は長時間の搭乗は身体に悪影響を及ぼす。いわゆる車酔いのようなものだ。

そしてそれは慣れである程度克服できるものなのだが、最初の搭乗である程度の耐性が無い者はそれ以上の成長を期待できない。

振動に慣れる前にやられてしまい、恐怖感しか芽生えないためだ。それほど戦術機の振動は人体にも精神にも悪影響を及ぼす。

その問題をどうにかするためにもある実験を行い、10代の両者、武道経験者、『体幹』などの概念を長年の修行で身に付けた者と、体操選手で比べた実験を施して見た結果、圧倒的前者のほうが平均耐性値が高かったことが実験によってわかっている。

これは先の無意識の外乱の把握に加え、その戦術機の動作が身体の中心、コックピットへのブレを抑えた動作であることと、スリ足に代表される身体のブレを抑える動作ということに加え、動きの考え方が常人と根本から違うのが原因だ。

そして思考トレースシステムを採用されている戦術機の操作は如実に『動きの考え方』の違いが反映される。

それは人間の体であれば、無視して良いほどの動きの無駄や乱れではあるが、人間の10倍の大きさである戦術機では、そのブレによる振動は衛士のストレスの蓄積に直結するのである。


もちろん日ごろからの絶叫マシントレーニングで、ある程度の克服が出来るが、単純な動作しかしないマシンでは戦術機の動作特性には遠く、訓練での効果はあまり期待できるものではなかった。


(それ以外にも戦術機が人型である利点として、3次元機動が必要なハイヴ内において、同じ人型である点から、無意識による振動耐性がつくことが上がられている。

それ以外にも日本帝国が戦術機を最重要兵装にし続ける理由として、
思考トレースによる3次元機動において、人型であるほうが思考トレースによる三次元把握からの、瞬時の動作判断の精度が高いという点や、

地面に着地する時の衝撃吸収率が、人型でありながら操縦者である武術家の思考トレースによる『力の逃し方』があったほうがコンピュータに任せた4足歩行戦車よりも総得点で高かったことが上がられている…らしい。な、なんだってぇー!!!)


他にもこの「武道の心得」は近接戦は元より身体、機体ともに負担のかからない操縦に繋がってくる。歩き方一つとっても意識の違いは戦場で如実に現れるのだ。

残念ながら史実ではその思考トレースによる影響を、動作全てに施せるほどのOSを開発できなかったため一部に限定することになるのだが、その影響で2000年以降の歴史ではXM3の影響を一番受けたのは日本とされるほど自力の底上げに繋がっている。


「イメージと動作を直結する…ということか?ならば例えばだが、アメリカも日ごろからの銃を使った動作が衛士に活きてくるのではないか?」

確かにそうだ。日本の武士がカタナを使った剣術が得意ならば、生粋のアメリカ兵士は射撃に馴染んでいるはずだ。

「そこは日本とアメリカ(日本以外)との意識の違いにも関わってくる。

アメリカなどはその体格もあって動き全般に対し、筋力でどうにかしようとする意識が強いんだ。つまり力を『活かす、反らす』のではなく、『抑え込む』意識が強い。
野球のスイングなんかで比べてみると日本とアメリカの意識の違いがはっきりするよね。」

格闘に対し、その体格で問題を解決できた西洋人は格闘という技術を必要せず、パワーを第一にすることで問題を解決出来てきた歴史を持つ。それは古くからのDNAでもあるのだろう。

しかし日本人はその小さい身体からして、そのままでは自分は弱く外国人には勝てないことを知っていた。

だからこそ技術に頼ったのだ。己の生み出す少ない力を、最大にして相手にぶつけ、相手の力を利用することまでして愚直に。

そうして外敵に対処してきた日本人。

そしてその方針の正当性は今にも当てはまる。いやこれまで以上に当てはまっているのだ。

なぜか?戦術機という同じ体を使うからだ。

同じ体を使うのならば体裁きが上手いほうが圧倒的に強い。それは当たり前のことであり、人の身体を動かす上での知識と経験はそのまま、戦術機の動きにも反映される。

そしてそれは日ごろの意識が衛士特性の平均値を上げる結果に繋がっていく。

それ以外にも射撃と剣術の違いの最たる例が、『動作の固定』である点が大きい。

射撃に必要なのは視線と射線の一致であり、反動を抑え込む形、動作の固定化が大事となるのだが、剣術などの武道は全身の力を『上手く活かす』方法が大事なのであり、根本的な考え方に違いがある。

(※斯衛などが推奨している流派は一撃の重さを意識しつつも、流れる動作にも重点を置いている。)

もちろん射撃が上手い人間は戦術機でも射撃が上手い。

だがしかし、コンピューターというものはベクトル把握からして抑え込む形の方が圧倒的に楽なのだ。

つまりは身体の在る部分を固定した動作であったり、関節の固持が必要な射撃において、機械で賄える部分が多く、視線と戦術機の射線を一体化する方向性においてならば、だいたいはコンピューターに任せることができるのだ。

しかし接近戦や普段の動作というのは、毎回同じ動作で全身を動かしているわけではない。

同じルーチンではあるがその度々に各支部の動作に誤差が生まれるものであり、その動きは複雑だ。そしてその誤差を修正するのは思考トレースによる無意識が大きいのである。

そうして力のベクトルを操作する上で必要になる『武道の心得』。

日本のOSにはそれが蓄積され、ある程度その動作に追従できるようにされており、日本人に向いた操縦法が確立された社会では、武道を知らない者でさえも周りの操縦を見習うことで引き上げられていき、『日本人の衛士、特に斯衛が強い』という常識に繋がっているのである。

だから原作の斯衛無双と日本帝国無双に繋がるわけで、今現在も斯衛の若手集団など、こちらと対立することが多い派閥の連中が戦場で活躍しているのだ。くやしいことに…

まあ、そうでなければあの第2世代機最強のF-15Cを瑞鶴で倒せるわけが無いんだが。

(※余談ではあるが長時間の揺れに対する耐性は、男性より女性のほうが強い。そのためマブラヴの世界でも女性衛士が多いのだろう。)


「それに加えてその環境と歴史、言うなれば国民性という文化もそうだ。

日本では斯衛など歴代軍人一族がとても多い。江戸時代なんか武家が総人口の1割に届いていたわけだからね。その流れをくむ者も多いのが現代だ。

そしてその歴史ある一族と言うのは、だいたいにして生まれた瞬間からその運命が決まってしまっている。そんなこと普通の社会ならば悪い影響の方が強いんだけど、衛士関連では良い影響のほうが強いんだよね…」

「なぜだ?」

「まず幼少からの訓練が開始できること、そして金持ちしか許されない衛士訓練を子供に施すことに躊躇いが無いことだね。」


ここに民主主義の弊害が出てくる。人権と言う概念から、生まれてきた者の将来を親が決定出来ない点だ。

そして日本は子供の未来を束縛することが可能な窮屈な社会を作っており、衛士なるために有効な幼少期からの訓練を行う人口が多いため、産業として成り立ち、ノウハウもあるし、なにより訓練衛士の人口が多い。

「そんなもんだから斯衛や軍高官の子たちは、ひどい幼少期を過ごすらしいんだわ。」


世界でも屈指の戦術機を有する日本。

その日本に置いて昔から"武"を司る名家、武家の者達は戦後、さらに教育に熱心になり、衛士を育てることになるのは自然の流れであった。

それは太平洋戦争に負けた責任が武家を主体に取らされたためだ。

明治維新を過ぎても権力を維持した、日本の将家や名家たち。

それは中国、ロシアとの戦争に勝ち、列強に入る頃までは国民はそれを了承し、望んで指揮に従った。勝ち続けたからだ。

しかしその歴史の中で大半を占める国民の慢心と、武家内にも蔓延してしまった血統だけの無能者達。

それは歴史の必然でもあったのだろうが、結果としてあの超大国アメリカに喧嘩を売ることになる。


最終的には最小限の損害…とは言い難い早期講和、条件付き降伏となったのだが、国民としては負けたこと自体許さないものだったらしい。

もちろん、総力戦であったことからして国民の負担は重すぎたせいもあるが、武家、特に明治維新の時に下士から上りつめた者達の子孫たちの失態は目に余るものがあった。


そうして武家は斯衛という閉所に追い詰められ、陸軍の中にはびこっていた血統による人事は砕け散ることになったわけだ。


そうして反省した武家達は周りの目を見返すためにも異常とも言える、スパルタ教育を子に施すようになる。

専用の教育施設を作り、ただ厳しいだけでなく、先進的な検証により得られたデータを使っての教育は心身ともに選ばれた者にふさわしいように磨かれていく。

それは戦後すぐは科学、スポーツといったあらゆる分野に及んだのだが、BETA襲来から方向性を変化していった。

もちろん武家としての在るべき姿、侍を目指すことになる。

それからというもの、戦術機の可能性を見込んだ斯衛と軍は、1970年代より幼年学校から衛士のための訓練を実施することがカリキュラムにまで盛り込んだりと、教育に対してだけは革新的な方法を導入し、日本の教育熱の高さを示す良い例とまで言われている。


それに加えて、慢心などした者は『大戦のトラウマ』とも呼ばれる執拗ないじめに合うことから、斯衛と軍の高官達の子は異常なほど人が出来ている。

ホント、庶民出の者が軍に入った時、空気の違いに戸惑ったほどらしい。

現にアメリカでさえ、教育法改正までしての衛士育成を行う日本に対し、疑問を投げかけていた…が最近の日本衛士の人口当たりの多さと質に対して、導入を検討するべき、と述べる学者も最近では存在する。

結局は廃案とされるのだが。

史実ではアメリカも教育法の改正問題が噴出するのだが、州法に含まれることもあり結局は進まない。

なにより生まれてすぐから、戦う者として育てる精神も方向性を決めてしまう家庭というのも理解できず、民主主義の盟主であるアメリカとしては受け入れがたいものらしい。

ましてや金持ちである名家でしかその高価な教育を受け入れられないという事情もあり、上に立つ者は前線に出るべきでないと考えるアメリカとしては「なんで下を統べる者が前線に出るのか」と疑問に思ってしまうのだろう。


「まあ長々と述べてきたけど、ぶっちゃけ金持ちの名家の坊っちゃんが小さいころから訓練を積めば、結構衛士になれるんだわ。」

「だからこその斯衛か…名家の嫡男はだいたい衛士だったのは、そのような理由があるのだな。遺伝子改造でもしているのかと思ったわ」


「(マリヱも言うようになったなぁ…言うと怒るだろうけど。)
そう解釈しないとやってられないさ。マジで斯衛の連中とか軍家(代々軍に使える名家への揶揄)の部隊は強いからね。
海外派兵でわかったことだけど、同じF-4を使っても斯衛の間接部品の損耗が異常に少なかったし。マジで精鋭だわ、あれ。」

その例として『武御雷』という未来の戦術機を実戦で活躍出来ていることが上げられるだろう。

整備性を度外視したそのスペックは第3世代機でも最優と言って良く、ハイヴ内の戦闘であれば"斯衛部隊などが使うのであれば"最良の戦術機だろう。

しかしこの戦術機、どう見ても日本以外では使えない。

その動作特性からしてさきほど上げた"日本人の動作意識"などが無ければ使うことさえできず、

整備性も一度整備するば、日本衛士の機体への負担をかけない操縦も合わさり、長く戦場で活躍することは出来るのだが…当たり前だがその分、長くいればいるほど、整備時の負担は加速度的に増加する。

(桜花作戦後の斯衛部隊の整備を任された部隊は、その勝利と目の前の戦術機の中身を知ったことで全員が号泣したほどだ。あの我慢強い日本の整備部隊が、だ。)

それに加えて兵器であれば悪影響しかでないと言われる個人ごとの機体のチューンなど愚の骨頂と言われている。

が、その機体ごとの仕様変更については、割合として特別仕様機(予備機を含め)が政威大将軍機の紫の機体2から始まり、蒼10 赤30~40 黄色100~150機ほどとなっていることや、

桜花作戦後の輸出を見込んだ生産では白(一般指揮官機)500機と黒(一般機)1500機ほどが基準とされており、以外にもそこまで特別仕様にはまっているわけではない。

それに兵器の特別仕様は悪癖とされているが、大量生産が見込め、そこまで急ぐことがないのならば、車や飛行機などもそうだが機体ごとの個人仕様は珍しいことではないため、否定される材料ではないと城内省が声明を出している。

あれっ?武御雷を否定しようとしていたのに擁護している形になってるぞ?まあ良いや。


「そんなことで日本は戦術機甲部隊TUEEEが出来る国でした。ちゃんちゃん。」

「(めんどくさくなって話を途中で切りおったな…)
まあその理由についてはそれで良い。しかし衛士をこれ以上増やしづらいのは本当なのか?」

「確かに急激に増やすことは無理かもしれないけど、幼少からの訓練は租借地や国連直轄地でも開始してるし、ゲームセンターにはJIVESだっけか?あれを劣化させたヤツを光菱が開発して各地に設置してるからこれからは増えてくるんじゃないかな。

…ゲーム機については国からの補助金が無かったらやってられない代物だったけどね。

だから翔鷹の衛士なら10~30代の20%ほどは衛士になることは可能じゃないかな?そこから厳選されればさらに衛士の優秀さは上がるだろうし。」

将来的な予想だけで言えば日本派閥に属する国家を含めれば、衛士特性を持つ者は1000万に上り、その中から優秀な者を選出すれば良い。


「そうだ、戦術機の話に戻るけど翔鷹の販売がある程度は順調にいきそうなんだよね。」

「翔鷹がか?グリフォンと被っていてあまり良いイメージを植え付けられていないように見受けられるがどうなのだ?」

「まあ~それは確かにあるね。」
確かにそうだ。翔鷹の一つの利点として量産性とその安さがある。そしてその二つは国連正式採用機であるグリフォンと丸被りだ。

そしてグリフォンは国連が進めていることに加え、その安さ(一番安いF-5新規製造機は第1世代機F-4Eの7割の値段)から、まずは数を埋めたい各国としてはグリフォンを採用する国は多い。

なによりその量産した数によるアフターサービスに対しても好評であることが大きいだろう。

戦術機先進国同士に平等に利益が分配されることで日本にも金が入るため、むやみにグリフォンの市場を侵すことはできない。

「でも実際に比較しても、性能差には歴然とした差がある。

所詮第2世代機ギリギリの機体であるグリフォンシリーズは最低限のスペックしかクリアしていないわけで、根本から新規技術と斬新なアイデアで作られた翔鷹にはペイロード、余剰重量からして全く歯が立ってないし。」

3年間の習熟による機体の先鋭化はこちらの見込み通りのスペックを実現出来ている。その火力と制圧力。

そして総合兵装選択システムなどによる、基本部分ではない余剰部分の比重は大きく、弾薬搭載量ではグリフォンの2倍に迫り、電子装備に対しても大型のF-15に抗し得る。


「しかし、それは公表出来ればの話なのだろう?なんか言い訳臭いぞ?」

「うぐっ!!」

「それにアメリカの下…未だ影響下とされている日本の現状から、売り込みも余り過激なことはできないのではないか?」

「そうだね。知らなかったら買おうとも思わないし、今の現状ならばこれからの売り込みを過激に行うことも出来ない…

これにも理由があって…というか1980年からの戦術機闘争に関してのお話があるからね…」

「ああ、アメリカをどうするかか」

1980年から始まる国産戦術機の開発。それはもちろん本機の開発もあるが、資源の輸入路から、翔鷹内部の既存技術のパテント…つまりはアメリカの許可を得る必要な物が多くあった。

当時は光菱の発展途上の状態であり、アメリカに対して意見を言える状態ではなかったのだ。

武器を作る上で必要な資源を把握され、いきなり「国産戦術機」と謡ったとしても、あらゆる方法…例えば当時、日本の輸出相手国でブッチギリ筆頭だったアメリカからすれば日本への関税を強化したり、同盟諸外国を通じて締め出しをしたりと、あらゆる妨害に合うことはわかりきっていたのだ。

だからこそ、どのようにすればアメリカに配慮した形で国産機を配備することが出来るのか…そして海外に輸出することが可能なのかを話合われていたのだ。俺に隠れて光菱の上層部が。

1980年の俺はすごい夢見がちだったのだろう…すごい戦術機を作ればそれが売れると思っていたのだから。

しかし現実は甘くなく、大人達からこのまま素直に戦術機を開発したとしても売れない…悪ければ国産化も不可能ではないかとまで言われたのだった。

そうして必要となったのが、国際路線とその目玉であるネット販路とグリフォンになる。

日本に入る資源を多様化し、金融をネットを介することでアメリカの金融街の独走を防ぎ、日本の輸出網を国際化することなど、『国際共同路線』という名の、円の計画的なばら撒きによってアメリカに首根っこを掴まれない状況に作り替えることができる良策とされたのだ。

しかし、それに反対がなかったわけではない。

その時の時代背景としても1970年代頃、政威大将軍や元枢府がお飾りとされていたが経済自体が好調である影響から政治への当たりが強くはなかった。

それが強くなり始めるのは1980年代、政治の混乱が目に見えるようになった影響とBETAへの恐怖、そして経済の後退により、本格的な政治への不振が始めたのだ。

そうした中、政策がすぐに結果を生むことが無いのは誰しも考えればわかることだが、考えない国民。ただマスコミの情報を鵜呑みして判断した国民の数は結構な数に上っていたのだ。


その社会の流れに邪魔をされたくない光菱はしょうがなく(?)光菱が裏で暗躍できる独裁体制を引き、国際共同路線などに踏み切ったのだ。

もちろん戦術機の国産のためだけにこれらの計画が生まれたわけではない。がそれを含んだ状況を打開するためにも次の段階、国際共同戦術機計画ITSF計画を大きくすることにしたのだ。

それによるITSF計画の申し子、グリフォンシリーズという傑作機達。

結果的にはアメリカの占有率を下げつつ、アメリカ政府でさえ満たせなかった世界への戦術機供給を実現させることになった戦術機を生み出したわけでそれ相応の利益をアメリカも享受している。

しかしこれも最初からアメリカがこちらの言うことを聞くわけが無かった。

なにせ自分の独占していた市場、国際戦術機に選定されなくてもアメリカの力だけでその占有率を維持できるわけで、そのままではITSF計画に乗ってくる確率は低かったのだ。

だからこそ、日本の『国際共同路線』による前線への支援とネットを含む販路の形成…

そして値崩れを起こし始めた欧州・中東市場へ、日本の進出を果たして欲しかったアメリカ政府の思惑に乗り日本は進出したのだ。


そうすることでアメリカの一応の貸しを作った日本は、欧州と共同で極秘で開発中だったグリフォン計画をアメリカ…CIAにわざと見つけさせ、潰せないほどの大きさになっていたその計画にはアメリカから自主的に参加していただいたのだ。アメリカはしてやったりと思わせながらだが。

そうすることでさらに国産共同計画として大きくなり、その技術力によって利益配分が決まる台座に立ったアメリカ。

そのアメリカは戦術機最大の輸出国家であり最先進国であるという自信から…国際共同計画により生じる権益、その多勢を占めることが可能と見込んでいた…のだがそうはいかなかった。

数々の根回しにより、ここまで誘い込まれたアメリカはその思惑と違い、欧州案、日本案、アメリカ案による比較検証の結果、日本案が計画の主流に収まることに決まったのだ。

もちろん、未だ1980年代、戦術機後進国である日本のF-4・F-5両戦術機の基礎案は、穴だらけだった。

しかし基本構造など見るべきところはあの優秀なアメリカの案を二つともに押しのける魅力を秘めており、日本案を計画の主流にしつつ、経験で先を行くアメリカがそれを完成させるところまで推し進める形となったのだ。

ここは国際計画としての適切な評価体制が役に立った。

あのアメリカがその体制を作ったわけだが、結果から行けば皮肉にも逆に自分の足を引っ張ったことになる。己の政治力を使って無理やりにでもアメリカ案を採択させれば良かった(…)のだ。

そうすることでアメリカを利用することで平等な利益配分に決まった国際戦術機計画。その計画によって上手くアメリカに相対する技術を世界に見せ占めた日本。


そして83式支援擲弾砲などのオプションパーツから、西欧、中東、東欧などに利益を分配し、前線国家の味方という印象を持たれた日本はやっと国産戦術機を輸出する体制が整ったのだ。

「まあその売る相手にしたってグリフォンにある程度奪われているわけでデメリットが無いわけではないんだけどね…

でもアメリカに喧嘩を売った状態でいきなり売れるわけが無いし、実力を証明するための下地作りを速攻で行いたかったことや、前線国家を救済するためにも、ただ数を満たすためのグリフォンを必須だったんだ。」

「で、実際に売る相手はどこらへんになりそうなのだ?」

「戦域支援機としてなら東欧を中心に、欧州や中東からもオファーは来てるよ。」

A-10の機動力と近接能力に不満を持っていた前線国家としては、その安さとその火力から翔鷹を限定的に導入することに乗り気だ。

なにせF-14+長距離ミサイルによって形作られるフェニックス一式の半分以下であるからして、高性能よりも安さを基準に配備する国家からすれば、日本への顧客と成り得る。


他にも限定的なものとしてリビアやインド、ブラジル当たりは日本に対して協力的な国家、国連直轄地を作ってくれた国家でもあり、この機体を導入することに前向きだ。

…変わりにエジプトやパキスタン、アルゼンチン、韓国あたりはアメリカの戦術機を選びそうだが。

「ふ~む…意外に数は多そうだが、限定的であればあまり数は期待できなそうだな。」

「もちろん主力戦術機に選定してくれそうな国もある。

まず確定的なのがオーストラリア、インドネシアあたりだね。汎環太平洋同盟としてこれから、日本と同じ道を行く同盟国でもあることもあるし。…後は東南アジア、台湾ぐらいかな。望めそうなところは。」

それらは未だ、自国が戦場になっていない余裕がある国家であり、日本に近い国達だ。

インドネシアやオーストラリアはその位置からしてアジアの後背であり、資源にも恵まれた強国である。

そして極秘での国家間の結託により、一つの勢力を築き上げようとする同士達となった両国は戦術機は元より、陸、海、宇宙の全てにおいて共通した兵器を出来るだけ揃えることに内諾もしている。

もちろん、アメも十分に与えながらだが。

昨今で好調を博している合成食品や軍用食糧には、両国の食材を多く含んでおり、環境面やインフラ事業でも優遇策を施している。

もちろん、軍需生産施設はオーストラリアの租借地内を中心に据えたものであり、日本本土からは高度技術が必要な部品などが主流となっている。

またインドネシアからは次期駆逐艦を共同で購入することも決まっていたりするから、日本のドッグは海運の好景気も合わせてフル回転だ。

「それに海外に派兵する数も少ない国家だから、グリフォンよりも将来性の見込める翔鷹に目がいったわけだ。F-15高いし。」

他にも東欧戦線での極秘実戦証明データに喰らい付いた影響もある。が…

なにより東南アジア諸国からしたら地政学的にも将来を見据えれば、
日本陣営にならずにはいられない状況というのが大きい。


東南アジア諸国はインドや中国への派兵を行ってはいるが、特に中国との関係が上手くいっていないため、将来的に自国領、東南アジアへの侵入される未来が見えている。

そのため国土への侵入を許した場合、もしくは連合軍との国境線での防衛戦において、日本勢と見られるオーストラリアやインドネシア、そして日本よりのマレーシアなどの国の協力が必要になってくる。

それ以外にも最近の日本勢力による東南アジアへの経済進出などの動き(※後述)もあるだろうが一番影響が大きいのは、元々の歴史の流れにあるだろう。

このマブラヴの世界ではドイツの科学力の成熟が史実以上であり、その結果が第二次世界大戦の戦場に如実に現わされていた。

その影響は太平洋側にも影響しており、ドイツからの技術支援と、史実と比べ1割ほど国力が大きくなっている日本の状況(樺太全島の国土に編入したことなど)、そして欧州側の奮戦も重なって、1943年の中ごろまで大きな負けと言うものはなかったのだ。

しかし1944年、ドイツに落とされた2発の核が大戦にいきなりの終止符を打つ。

それ以前から負ける原因や実際に戦術的敗北が積み重なっていた事実もあるが、"その核の破壊力への恐怖"と"放射線の後遺症の悲惨さ"が人々の噂と連合国側の諜報戦もあり、拡大されて流布(※患者に触っだけで死ぬなどの誤解も入れて)されたことが枢基軸側の士気に直撃し致命的な士気低下を招いてしまう。


それは日本も同じであり、将来日本の負けが見えていた穏健派は京都への原爆投下をなんとか防ぎたい思いに駆られ、核の情報(誤情報も含む)を積極的に流し、条件付き降伏に調印することになんとか成功した。

そのためこの世界では負けた政府側が負けた責任を核に押しつけるためにも、核の恐ろしさが史実以上に拡大されて広まっており、日本では『核が無ければ勝っていた』という意見も多く社会を形成している。

余談だが、その意見と、条件付きの降伏であるためアメリカ側の言論統制が史実よりも優しかったため、反米感情が強い日本国民は以外にも多く、敗北の責任を取らされた軍部将家では核、米に対する反感がいっそう強い。

心の底では核という卑劣なものを使った卑怯なアメリカに、正義の日本が負けたと信じているからだ…

史実ではその後が大変になるため、植民地解放など国際的な見地から相対的に見れば一応は合っているのかもしれないが。


話は戻るが、その影響はこの東南アジアにも広がっており、現に降伏する1944年での戦況としては大きな敗北が最後のマリアナ沖海戦(事実上、降伏するための条件を決めた決戦)を含め、即座に降伏するというほど負けが込んでいるわけでもなかった。

そのため東南アジア諸国への日本は『解放者』としか写っていない(こちらの史実ではその後の2年間、植民地時代と同じかそれ以上のレベルで悲惨になるのだが…)ため、現代日本帝国は東南アジアへの影響はとても強いのだ。


そのため東南アジアは日本と連動した動きが活性化しており、その繋がりを深めるためにも日本産の戦術機の導入にとても前向きなのである。

もちろんアメリカに対しても協力的であるが、比重の問題として、その距離から兵站問題と物流とを比較しても近くの国家に頼ることになるのは避けられない事実であり、西欧への支援に集中しているアメリカ組よりか、実際に被害に合う日本組に近づくことになったのだろう。

(特に東南アジアで力を持つ国、インドネシア、ベトナムが日本側、タイが中立の姿勢を見せていることが大きく、アメリカの『強いアメリカ政策』による1970年代後半の南米への政策を見たことと、昨今の日本の勢いも影響しているとされる。)

アメリカが方針を転換すれば話は急転換しそうなものだが…


もうひとつの台湾についてだがは少し状況が異なる。アメリカ勢力として距離が近いのはダントツでフィリピンではあるが、その距離からしてアメリカと台湾の関係も強い。

以前であれば共産中国との戦いのための繋がりでもあったが、それがBETAとの戦いのためのものに変わり、共産中国との歩み寄りが見られるようになった昨今、共産中国とアメリカとの繋がりも強くなってきている。

その繋がりを絶やさないためにも日本の沖縄との道にある台湾に対し、日本も協力体制を作り上げようとしているが、両国との距離感に対し中立を是としている。

そのため、良好ではありながらも主導権争いで揉め初めた日米間を上手く使っていると言える。

また共産中国が最近、成長著しい日本ではなく、アメリカとの関係を強める働きがあるのもおもしろい。

「それにグリフォンシリーズのようにあそこまで輸出をしようとは元々考えていなかったわけだし。」

「世界のための機体だとか、なんとかほざいていたではないか。まったくお主は…」

「じゃあ実際に翔鷹が本腰にのって大量生産が可能になったとするだろ?
そうして売れまくったら今でも輸出過多になりすぎな日本としては貿易の均衡が保てないじゃん。そうしたら貿易なんて成り立たないし、そもそも瑞鶴から計画を継いでいるグリフォンは技術蓄積と、ハードルが低いから3年くらいで導入することができたんだよ?
早期に数を満たさなければならなかったからグリフォンシリーズの方でまずは満たそうと考えて、急遽方向転換したわけだけど…ダメですかね?」

そうだ。瑞鶴がどのような形になったとしても、以前も説明(第一章5話瑞鶴にて)したとおり、消化不良を起こすことが目に見えていたのだ。

どうやってもそうなるのであれば、日本としては国際計画として昇華することが効率的で国益に繋がるし、国内のF-4を国連直轄地で改良、各国へと売ることで翔鷹の早期配備が可能となる。


「それで悪いとは言わないが…光菱の戦術機開発に携わった人間達はどう見るかの?」

「ええっとそれはだね~そこはほら実際に4000機ほどは輸出が可能そうなんだし、ね?許してっ!!」

「だから開発に携わった人間に言えっ!!」

「はいはい…あとはシリーズ化が一定の成功を収めていることが一つのポイントでもあるのかな。」

グリフォンのF-4・F-5の1型と2型、A~Jとまで型番が決まり、寒冷仕様や砂漠仕様、はたまた海軍仕様(※トルコ、ギリシャ、イギリス仕様海岸線付近での遊撃任務に特化した仕様であり、支援爆撃機のようなものであり、空母からの運用は厳しいと言える代物)まである。

それをテストケースにグリフォン以上の発展性を持たせた翔鷹は、中型航空爆撃機並のペイロードを持つタイプさえ開発が可能なご都合…いや傑作機へと進化していた。


「アメリカならCとでも付く、輸送型なんて最大輸送量は40トンを超すとんでもない派生機が生まれそうだしね。たぶんその改良機のほうも結構な売上になりそう。」

「…輸送ヘリでも良いのではないか?」

「そう言えなくもないんだけど、ジェットやロケット関連の技術がこの世界、進んでいるから脚生やした飛行機のほうが採算が合うんだよね。不思議なことに」

もともと、翔鷹自体がその主兵装を外した状態でのペイロードが15トン以上になることを活かし、装甲をできるだけ軽量化した戦術歩行輸送機型。

その形は取ってつけたように脚が4本に翼を生やし、跳躍ユニットを4発に増やしたことで羽の生えたケンタウロスに近い。

もはや見た目も性能も化け物と言ってよい代物だが、戦術機のその利便性から、新規で作るよりも改良した本機体でもその必要な仕事をこなすことが出来ると見込まれた。

その最大輸送量は40トンを超え、前線で尚不足がちな弾薬を運びつつ、その腕を使って弾薬補給を手伝うことも出来る優れモノだ。しかも低地巡航能力が戦術機と同じであるため、最前線での運用が可能である。

さすが戦術機関連の技術はチートにまみれている。



それ以外にも東欧ではこの機体を使ってBETAの死骸を回収することをもくろんでいるらしいが…まあ中型輸送機並のスペックを持つ機体だ、売れないわけがないだろう。


「戦術機以外にも光菱重工が関わっている兵器が配備され始めているから、トータルで考えても良いスタートにはなりそうだよ。」

「やっとか…戦術機が良い形で作用しているようでなによりだ。」

「まさにその通り。翔鷹の役割としてそのようなものがあったわけだし、それがなければ最近の軍需の好調はなかっただろうしね。」

「確かにな、アメリカと比べればその兵器市場、経験共に日本企業がアメリカ企業に勝てるものではない。5年たった今でもな。」

「だからこそ打って出るしかないんだよね」

「客寄せパンダ」正にその役を翔鷹は担ってくれたわけだ。

戦術機の重要性はこれまで口をすっぱくして説明してきたため省くが、グリフォンシリーズ、そして今回の翔鷹という戦術機を開発したおかげで軍需に対しても日本企業へ海外からの目が集中してきているのである。

それは先の戦術機の働きもあるが最近の日本の躍進にもあるだろう。あらゆる分野で画期的なもの(個人的には未だガンダムレベルのチートでもない気がするが…)を開発する日本。

それが今もっとも必要とされている軍需に取り掛かったことは世界手にも「なにかやってくれるのではないか」という期待の目で見てくれる。それだけで大きな影響になるのだ。

それはなぜか?
 
どれだけすばらしい物であれ、新作というのは新しい概念を含むものである。

そうでなければ以前の物を圧倒的に上回ることは出来ないためでもあるが、それ以前の物と比較して全てが上回ることはほとんどない。

そうなった場合、それを世の表に出るにはたまたま戦いで大きな役割を果たすか、その概念を理解できる希有な人物に見つけてもらうしかない。

そう、大抵はを買い取る側の人間はその概念を理解できず、今までの物で満足して、買ってはくれないのだ。

特にその存在からして軍は保守的であり、世に出ずに埋もれていった傑作機は多い。

過去を振り返っても、あの傑作戦車T-34や戦車大国ドイツの戦車たちにもっとも影響を与えたM1940という戦車などは、開発元のアメリカではその新しい概念を理解できず少数の配備に留まるが、ソ連によってその技術は持ちだされ、BTシリーズにその技術は活かされることになる。


時間がおしいこちら側としても、そうなっては困るし、実戦証明まで時間をかけていては結果につながらない。新しい兵器を早く開発して、早く活躍し、早く量産しなければ欧州を守ることなどできないからだ。

だからこそ、新しい物に対して好意的に見てくれる形が大切であり、売り出した当初は薄利多売策にならざるを得ない。

「本当、日本企業全体を海外に打って出させるのは大変だったわ~。日本だけじゃすぐに発展ができなくなるのは目に見えているわけだし。」

「しかしアメリカに喧嘩を売るのはまずいのではないか?軍需に対してだけはアメリカも甘い顔してくれんだろう」

「そうなんだけど、アメリカの兵器も日本が市場解放して買っているし、それまでの根回しでなんとかね…」

話がまた長くなりそうなので説明は省くが、いろいろと折り合いをつけるのはとても大変だったのだ。

「本当はアメリカに技術協力して売りだすのが最善手っぽいんだけど、国内感情やら世界への発言権…アメリカとの同盟を見直すためにもどうしても『武力』が必要なんだよ…嫌なことに」

「お主がそんな玉か…顔がにやけておるぞ?」

「ぶっちゃけ兵器産業おいしいですわ~
拙いこととか軍事機密で押し通れるし、日本の軍需企業は住み分けができてるおかげで市場進出がたやすいたやすい♪」

「国内ならばな…海外など容易くなかろうて」

「確かにね…マジで日本人、島国体質なんだって実感したわ」

今見た場合、日本はオセアニア、東南アジア、南アジア(インドらへん)などの市場に大きく食い込むことに成功したわけだが、当時計画を立てた時は大変だったものだ。

これは経済もそうなのだが日本と言う中途半端に大きい市場が問題なのである。

韓国など小さな自国市場であれば外に打って出ることに迷いはないが、文化、言語の違い、アメリカとの対立、が待っている世界に対し日本企業は国内で満足しがちなのだ。

それは産業だけを見れば致命的なものであり、今回の兵器開発もそうだった。だいたいの者が日本市場だけに的をしぼっていたからだ。

もちろん外需の大きさとは危険と隣り合わせのものであることは言うまでもないだろう。

韓国は史実世界では外需の占める割合は100%を超えるという意味がわからない状況に陥っており、国内大手銀行、国内企業の多くが海外投資家に多くの株を握られている。つまりは利益のほとんど株主に支払わなければならない地獄に陥っているのだ。海外に、だ。

それだけをみれば、ある程度の大きさである日本にとって、海外へ打って出る必要もないのかもしれない。通常であればだが。

だが今の現状、日本の高度な技術と生産力を海外は欲しているのであり、国際協調路線にのって光菱商事とネットを介して海外への輸出、輸入経路を形成しているのだ。


「で?実際に売りだしている兵器はなんなんだ?」

「えっ?もうネタバレ?ほら、こんなこともあろうかと的な感じで出したくない?」

「お主は何を言っておるのだ?まったく…」

「マリヱ様もノリが悪い…大型のものはまだ交渉がさだまってないから歩兵火器だけで勘弁ね?」

「…話せ」

「まあ、まずは83式重機関銃と84式多連装ロケット弾発射器、82式81mm迫撃砲などの歩兵でも扱える重火器類だね。これらは安くて性能も高くてホントに助かる。」

いわゆる84式シリーズである。これらは軽装甲自動車郡にも取り付けられる火器であり、東欧の兵器と被っているが高く、性能が良いものが欲しい国にもう売り出している。

「ほとんどが最近、買収した企業の兵器じゃないか。」

「そうですがなにか?」

この80年から"なにか"があったかのように製造された重火器シリーズは、全て、その販売会社の株を買い付けている。

まずは75式重機関銃を改良した重機関銃、83式重機関銃。

この元々の兵器である75式重機関銃を製造していたのは、有名な大企業、日達製作所の関連企業、日達工機だった。この株式を光菱が、競合の冨獄重工と共に全体の6割を購入。

合弁企業のような形にして改良して出来たのが、83式重機関銃である。これは元々、身体の小さい日本人用の重機関銃と言うことで取りまわしが良かったものを、さらに未来のアメリカ製の重機関銃の技術を使って性能を向上させたものだ。

他にも75式120mm多連装ロケット弾発射機を作っていた、旧大阪砲兵工廠の分社の一つ、大阪製作所を完全子会社化。赤字続きで立ち行かなくなっていたため比較的楽に買収できた。

それにより改良された84式多連装ロケット弾発射機は、BETAに対する物量への答えとして、歩兵が扱える兵器としては最大となる瞬間制圧力を持つ兵器へと進化しており、それをテクニカルに載せるように改良もしている。

他にはフランスの迫撃砲をライセンス生産していた東和工業の株式の一部と、元々の軍需企業の株を買い付け、技術融資をして作られた、82式81mm迫撃砲と83式120㎜迫撃砲。

元々主要株主だった日光製鋼所の84式40mm自動擲弾砲など、いろいろな軍需企業に技術融資の見返りとした株式の取得を行っていたわけだ。

これをすすめれば、装輪車を前提にした簡易陣地を道路で結べるだけで、これの派生形の装輪自走ロケット部隊による砲撃支援のもと、軽機械化部隊が簡易陣地を使って火力を集中できる。

また道路の修復は工兵科の新しい速乾性のコンクリートやアスファルトを用いることで即座に修復することになっている。

他にも欧州、中東、東南アジアの経済の回復はなってきてるし、農業生産高も上がってきている。軍にしたってなんとか国連共同の遠征軍も出来始めてるわけで、やっとひと段落、落ち着いたわけだ。

ふう…そう落ち着いたんだ。

なんかいろいろチートして、普通の異世界ならば「チートTUEEEすぎてつまんね」レベルの革新が日々生まれているわけだが、桜花作戦をせずに自力でBETAを殲滅しようとしたら欧州、中東は捨てられないので、マジでギリギリだった。


だが、青春を犠牲にしてまでハードスケジュールを埋めていた俺がここまでやったんだ。まあ~ここまで日本が軌道に乗ればだいたいのことは大丈夫だろ。もうそろそろ休ませてくれ…

ホント、この体とそのスペックのせいで、バリバリ未成年の俺が休むのが睡眠時間だけとかリアルブラックな生活を続けているんだから恐れ入るよ…マジでさ。

最近、心臓の鼓動が体内を通じて聞こえて来た時はびっくりした。あとションベンの黄色具合が異常だった時も、なんか変なツボ入って笑い転げた記憶がある、はちみつかってぐらいwww

えっそれは病気かって?大丈夫でしょ、たぶん…マリヱさんが体調管理してくれてるから死なないらしいし…たぶん





んっ?

なんか外がバタバタうるさいけどなんかあったか?

おっ最近ここに回された人じゃん。どうしたの?

「天主様大変ですっ!!大変な事態が起きましたっ!!!」

「ん?どうしたの?今俺は気分が良いので、だいたいのことは許しちゃうよ?」


「東欧が、東欧のドナウ川防衛ラインが堕ちましたっ!!」









「…えっ?」






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次元管理電脳より追加報告です。

国家連合組織『ASEAN』について新規報告をお伝えします。


《東南アジア諸国連合、通称ASEAN》NEW!!

東南アジアの歴史の流れとして、史実世界よりかBETAによる混乱と、その対策として軍事に傾倒していることから、史実以上に景気が良くはない。

そのような歴史の中、ASEANは1967年から発足しており、昨今のBETAの脅威と日本勢力の好意的な経済進出とその国際協調路線が実を結び、東側陣営であるベトナムやミャンマー、ラオスなども参加し始めており、対BETAのための軍事同盟としての役割が強くなってきている。

しかし歴史的に考えても、タイとラオスの対立やカンボジア、ラオスに軍を駐留させるベトナムに対して批判的なASEANなど、ASEAN内部問題が多くあり、1980年に入った当初、東南アジア諸国がその国の命運をASEANに任せて良いものかという不振も多く上げられていた。

が、国連の情報戦略等により『BETA』の情報規制が緩和され、BETAへの脅威を認識した東南アジア諸国民の意識の変化により「ASEANの団結」が邁進し、ここ3年経済的な繋がりが強まっている。

実際に起きている事象見てみても、対BETA戦のための防衛ラインの構築がASEAN内で進められており、国連を通じた共同インフラ事業としてインド、バングラデシュ、と協力して軍の防衛線の役割を持つ、連合要塞線の建設している。

その傍ら、民間への国際共同鉄道の建設、高速道路、空港路線の建設を急ピッチで進めており、日本企業やその欧州子会社、光菱と協力関係にある海外企業の進出と、その仕事を廻される東南アジア内の子会社によって、全体的にも公共事業としても役割にもなり、その路線に繋がれた首都や重要拠点を中心に(依然と比較してだが)景気が回復してきている。



《外貨獲得手段》

日本への食糧…加工食品の原料
インフラ設備の発達による観光収入
林業・天然ゴム
繊維業
資源 など





以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。

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筆者です。

原作での日本の活躍や国民感情…それを無理やり理由付けして擁護してみました。

否定したり『補正』の言葉で片付けるのは簡単ですが、やはり好きで書いてるマブラヴSSですし、ただ否定するだけでなく、そうなった原因を無理やり臭いですがつけたほうが楽しめると思ったのですが…どうでしょうか?

いろいろと穴はあるでしょうが、少しは見過ごせる大きさになったら幸いです。正直取り繕うのに必死ですが(笑)

では次回にて~





[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-1話 乱戦
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/07/07 20:08
1985年1月14日 ルーマニア社会主義共和国 トゥルチャ県 ドナウデルタ防衛陣地 第3軍管区


それは濃い霧に濡れてやってきた。

『悪夢だ。』

それがもたらしたのは悲劇でしかなく、今、目の前に示されている戦況と共にその一言に集約されるだろう。

やつらは突然現れた、わけではない。


事前に兆候があったのは確かだ。

だがその兆候が数か月前から何度とあり「今回もはずれか」と誰しもが思うほど繰り返された事象であった。今回にしたっていつもの定期便と違った弱々しい兆候でしかなかったのだ。

それに合わさってルーチンワークと化した警戒体制、そして1年ほど続いた人類側に有利な戦況、後から言えば何とでもいえる様々な負の要素が重なって生まれた目の前の状況。


それがBETA約15万の侵攻。通常の1時間以上も遅い全体像把握だった。

原因としては夜中の悪天候等で早期発見が遅れたこともそうだが、珍しく敵の集団が広域に分割されていたことでその規模を見誤り、楽観が広がったこともある。

それが間違いだと気づき、全ての戦線に最上位警戒態勢を言明されたのが朝の5時ほど。

そこからは比較的速やかに軍上層部に伝達され、すぐさま戦闘態勢に入っている。

それだけを見れば東欧防衛の要、『日々精強となる』と広報から国民に伝えられる『東欧の絶対防壁』の陣容は伊達ではなかったのだ。


それは数にも現わされており、敵のBETAの最終予想数は20万に迫る(欧州全域への同時攻勢を含めれば25万とも)とも言われるのに対し、相対するこちらの戦力はドナウ防衛線だけで約140万を超え、戦闘部隊だけで数えても70万人に迫っていた。

それに伴った精強な部隊、数が充実された軍、これだけみれば人類のボロ勝ちが見えてくるはずだった。

それは敵の機動力、個体戦闘力、耐久力。それを基準に比較するのならば歩兵の数ではなく、機甲部隊の数として比較すべきとも言われているBETA。

人が通れない場所を平然と通ってくる化け物達と相対するための戦線は非常に薄く長いが、それでもこれほどの比率があれば対処できると人類は信じてきたのだ。


だが結果は眼前の通りだ。


"あれだけ"厳重な衛生管理の中で、BETA由来の菌による、バイオハザードの発生。

"あれだけ"「高地を取られるべからず」とされたのにも関わらず、東カルパティア山脈の一部をBETAに占拠されたことによる光線級の打ち降ろし。

確かに日米や、中ソなどの最前線国家が最近提唱し始めた「間引き作戦」を欧州がしていなかったために、一度にここまでの規模で侵攻してくるチャンスを与えてしまったことは確かだろう。

だが10年間続いた戦訓では敵は波状攻撃を是とし、10万を超える大群で一挙に襲ってくるとは考えられなかったのだ。

「相手は人間ではない、BETA。」

誰しもがそう思いながら、動物の生活や習性を把握するため"いつもの方法"で相手の行動を予測しようとしていたことに人類は気づいていなかったのだ。

結局のところそれの思うところ、習性など予測で立ててよいものではない。と光菱は結論付け、"最悪の予測"をいつも見積もることとなっている。まあこれは余談になるか…


話を戻すとその勘違いに加えて、ここ欧州に間引き作戦を行えるほどの余裕がなかったことも事実だった。

間引き作戦を行わなくても自ずと相手から来ることが日常であったし、その日課から外れ、時々ある「休戦月刊」は戦線の回復が急務であったからだ。

だがそれほど数多くの要素があれば戦線の崩壊は何時しか必ず起こりうるものだったのだろう。

その"何時しか"が今日であり、結果として、ドナウ川防衛線の隣に位置するカルパティア防衛線の一部、ドナウ軍集団との接合付近の一部が瓦解。

(東欧戦線はこの二つの戦線によって構築されており、一つの戦線に三個軍集団編成でBETAを押し返している)

普段であればその大規模なBETAの攻勢主力は山脈に流されて、ドナウ川の要塞陣地に引き込まれていくのだが今回だけは違い、山脈側への圧力は減る兆しを見せていなかったのも新たな要素の一つに入った。

さらに運が悪かったことに最近続く雨の影響でドナウ川が氾濫。(昨今の急激な下流の要塞化、BETAの死骸の沈殿の影響も大きい)

その影響から後方総軍から予備部隊ではその場所へ通じる大型路線のうち一つがで使用できず、迂回ルートでは時間がかかることが判明。


だからこそ、ドナウ軍集団司令部は

「これから予想されるBETAの規模であれば軍集団は十分に戦線を維持出来る」

としてその地域の友軍を救うため、何より戦線の崩壊を防ぐために、それの挽回を期するための救援部隊をドナウ軍集団から抽出することになったのだ。

貴重な戦術機甲部隊、その中の即応戦術機甲部隊、2個連隊からなる救援部隊を構築しその戦域に投入し、後方から6時間後に回ってくる戦術機甲部隊を頼りに持ちこたえる算段となった。


が、それでは終わらなかった。

それだけで終わるわけがなかった。


―――それが地下からの侵攻だ。

ドナウ川の氾濫により、各部隊との連携が取りづらくなっている状態。

そこに、軍集団奥深くにまで地中侵攻していたBETAは発見されているだけで14個もの地中道路を築き、後方へと進出したBETAによって東欧戦線全てに混乱が生じたのだ。

その混乱、最初はその規模も不明であり、最初に判明した後方駐屯地が2つ同時に奇襲を受け、壊滅。こちらとしては完全に後手に回った形になる。

原因としてもどこかの戦線が突破されたか、それとも森を浸透突破でもされたのかと原因の究明に明け暮れ、その間に全く違う場所でBETAが"食事"をしているところを複数発見され、その発見者のほとんどが食べられ、行方知らずとなっていった。

まったくと言って良いほど相手の情報、位置、規模、目的がわからない状態。

それは人類同士の戦争に置いてもとてつもないほどの不利な位置に立たされていることになる。

それはBETAであっても変わらず、その一つ一つの規模は被害から多くないと言われているが、駐屯地をまたたく間に崩壊された場所には少なくとも1000匹以上は潜伏していると見られ、3時間後には周囲に広がっていくだろうという最悪の予測が立つ。


「敵発見したところから出てきたのは全て、1000匹並の規模での物なのか?」

「それともばらばら?これから1万規模のBETAが出てくる危険性もあるのか?」

そうして後方への警戒を強めた司令部は直ちに全体像の把握を急いだ。無人偵察機、偵察装甲歩兵などを使ってだ。

だがどこに飛ばす?必ずと言ってよいほど報告されていない被害地区はあり、想定される場所の範囲は広大となる。

そして相手はどこに何匹いる?そして相手の目標は?司令部?それとも民間人?

相手の目標もその数も、その場所もわからない場合ではしらみつぶししかなく、それでは時間の浪費に繋がり、機動性に富んだBETAはさらに広がり、軍が取り逃がす個体数はかなりの数に及ぶだろう。

もし…守るべき国民が暮らす大地へと進軍していた場合どうするのか。

単純に戦線をほったらかししてお食事に洒落込むのなら、戦略的にはこちらが助かる。挟み打ちもなく、その間に全体を把握できるからだ。

だがそのまま素通りして民間密集地や、逆に戦線へ後方から司令部を襲ったらこの戦線は間も無く崩壊し、『戦線の崩壊』だけでは済まなくなる。


そうしてBETAとの第1防衛ラインであり、50キロもの厚さで何重にも重ねられた主攻線『ドナウ川防衛線』。

そこへ来襲した地下からのBETAだが、その被害個所はなんとドナウ川最終防衛線後方にも出現し始めたことにより、想像以上の分の悪い状態にまで陥ることになる。

それだけでも十分だというのに、さらにドナウデルタ軍集団正面へミンスクハイヴからの増援部隊(約5万)が加わり、後ろと前からの挟撃により軍集団はさらなるパニック状態に陥った。

それが今から1時間前の15時頃である。



「あれほど日本がッ!!光菱が気にしていた地下侵攻をなぜッ!!なぜ気付けなかったッ!!」

最近俺が目にかけている中尉、あの冷徹な吉良中尉が目の前で激昂している。

さきほどの現状説明を聞いていれば他人であれば、「しょうがない」と言えるかも知らないが、こちらが予測していたことが悪いことに当たり、その提言のほとんどが聞いてもらえなかったのならば、この怒りも当然のものとなるだろう。

俺としてはその予測…BETAの予測としてはかなり精度の高いものを立ててくれる財閥のほうも不気味だと思うのだが、他の者達、日切りなしに入ってくる情報を処理する前線戦域統制官などの情報士官でさえ、キレ気味なほどとなっている。


それほどまでに今の現状を形作るのは、持たせるのはきつかったのだ。精神的にも部隊の現状としても。

軍全体から見ても敵正面の攻勢は出血を強いりながら、なんとか持たせてはいるが、20万近くに及ぶ集団が時間を空けずに行う波状攻撃。

その中では今の現状も合わさって時間の問題であり、その窮地による圧力は日に日に高まり、軍全体としても、ここにしてもこのままでは1週間のうちに残らず、奴らの胃に飲み込まれることになるだろう。


それは現在の旅団の状態が証明しており、旅団内の8個大隊がそれぞれ、各戦域で救援任務を請け負っている。

戦域まで直行し、救援。そして帰って補給、整備。また直行。


そのペースは今現在の周辺状況に釣られた窮地により、本国で最近定められた基準を大きく上回っており、衛士もそうだが戦術機のほうが持たず、備蓄部品が底をつきそうな部品も多く出てきている。

特に負担の大きいのが整備科だろう。旅団の主軸が戦術機であり、その任務が救援任務である以上、整備に時間をかけることは戦力の低下を意味する。

そうさせないためにも、この11時間の間、休みと言うモノはありはせず、大隊予備機…と交代された中破以下の機体のべ31機の修理業務が急ピッチで進められている。

その整備課長である涅技術大尉からは
「何だネ、この廃棄品の数は?君が要らぬ要請を受けるから、このような数に上ってのではないのかネ?甘いのも大概にしてもらいたいものだヨッ!!」

というフリーザみたいな声の嘆きを頂いた。…あの人も苦手なんだよね。特に顔が。

まあそんなこんなで、一部俺に対して、だいたいが今の原因、さきほどの地下侵攻探知システムの不備に対しては日本帝国から派遣された者達の怒りは大きいものとなっているのだ。

それは日本帝国軍士官再教育プログラムでまず最初に習う、地下侵攻能力などBETAがこちらよりも優れる点について重点的に行われた成果とも言えるのだが、「やっぱり来たよ…」という感じなのだろう。



だが地下侵攻を阻止する、いや探知するシステムを構築できる余裕が東社同盟にはなかったのも事実だ。

監視設備の設置は支援と言う形で進められてきたが、その整備を完全に行う余裕などいくら日本の影響で持ち直している今の東欧にも無かった。

なにせ1000キロ以上にも続く戦線。そこに何重もの警戒線を地下に築くことなど事実上不可能だからだ。

それに加えて、想定されているだけの地下侵攻など前線の軍が重要視するわけがない。

「もしかして」を対処するよりも被害が出ている前線を強化しようとするのは、当事者としては仕方ないことなのかもしれない。なにせ地下を掘り進める速度自体がナンセンスなのだから、信じる者が少ないと言うのが現実である。


しかし実際に今起きてしまっている。

旅団の被害も依然と比べ大きいものだ。あの精鋭部隊である第1大隊(俺、移民部隊)、第2大隊(京楽大隊長)、第3大隊(浮竹大隊長)にも被害が出ているほどであり、あの京楽隊長が真面目な顔で、
「まいっちゃうね…」と言っていたほどだ。

全体で見ても度重なる出撃で300組みほどの衛士から36名の死傷者が出ており、使えなくなった戦術機は50を超え、旅団予備機は1時間前から使いきっているという本国から見れば悲惨な状況だ。

と言っても幸いと言うべきか、東社同盟のいらぬおべっかか人員の損耗は"周りから比べれば"少ない。

損耗率だけで言えば16.7%。

この数値は周りの部隊から見れば、その部隊の運用に支障が出るレベルではあるが、組織的運用には絶対的支障にはならず、撤退も許されないくらいだから、ここの戦線の悲惨さが分かるだろう。

10%超と言えば大敗も良い所なのだから。

しかし、今現在旅団の作戦遂行能力はほとんど下がっていない。



これは旅団の日本と言う後方国家の潤沢な支援のお陰でもありが、それ以前に旅団自体の準備のおかげでもある。

なにせ、それ以前からここが重要地点であることがあの光菱より言い渡され、その分戦火に塗れることになるのは誰だって気づくだろう。

なにせあの光菱の若頭がこの俺に指令を与えるのだ。だからこそ、この旅団を守るために、後述する部隊単位での実験をここに舞いこませ、ここの重要度を上昇させてその分の装備の充実と、支援体制、そしてここの基地の拡充を図ってもらったのだ。

……まあそれの折衝を担当してもらった卯ノ花中佐と伊勢中尉からは「忙しいのでお先に失礼します」とか言って最近話を聞いてくれないけどね…俺も最高指揮官として頑張ったんだけど。仕事押しつけしすぎたかな…


ま、そのおかげもあり、多く置かれていた予備機であるグリフォンへ、翔鷹2名から乗り換えが行われたこと等から、全体の損耗率は5%まで回復しているのだ。

士気低下練度低下を含めれば戦力の低下はあるにはあるが、中小破機の31機のうち15機は後1時間あれば戦場に復帰できるまでになっている。

そうなれば数だけで言えば旅団定数を満たす。これだけみれば異常といえる回復速度だろう。

その立役者である後方支援要員、その全てを取り締まる後方総括部長である卯ノ花中佐を中心に、整備科の者達が慌ただしく基地内をかけづり回っている。

この後方支援体制の充実さと、2年間以上も居続けた中隊長が多いことや、実戦経験豊富な大隊長によるヒューマンパワー。

それ以上に昨今の戦術機の性能向上のおかげもあるだろう。

なにもいきなり戦術機の性能が劇的に高まり、一機当千が可能になった、というわけではない。

旅団の中に置いて、グリフォンと言う第2世代機が主力になったことと、整備性の向上、そして先行量産型の翔鷹が大きな役割を果たしているのだ。


国連主力選定となったグリフォン。

北欧、東欧、南欧、西欧の全てにおいてある程度の数が配備され、欧州の中でもっとも互換性の高い機体として欧州総軍の中でも大きな役割を果たしているその機体。

その性能では昨年配備されたF-15と比べると、F-15Aの問題点(燃料搭載量と燃料電池出力の不足…アメリカから見て)を加味しても自体の同じ第2世代機と比べて良いものなのかと言われるほどの違いを見せているのはもう知っているだろう。

だが、欧州には国家、主義が違う国同士を跨いだ5つの大きな戦線。

その状況に置いてグリフォンと言う全ての国家が採用した戦術機があることは、応援部隊である国連や西欧の部隊の補給態勢を確立しやすい大きなメリットがあるのはあまり知られていない。

特に戦力が少ない北欧、南欧、中欧、そして主義と共に規格が違う東欧ではもっとも補給態勢がとれ、尚且つ性能と共に帰還率が高い機体とされるグリフォン。

それにプラスして欧州各国の国連軍基地に優先配備された日本製の補給・整備用レイバー84式 部隊愛称『ドラ○モン』が、各基地の整備性の向上と、急遽回される応援部隊(グリフォン)への補給整備体制確立に大きな役割を果たしていることでさらに上がっているのだ。

なにせ機動性に富んだ戦術機。応援として回されても、補給態勢はともかく、整備態勢が追いつかないことがざらにある。

特に応援部隊が配備される国連軍基地ではそれが顕著で、戦術機整備工場の面積から、外でシートをかぶさりながら整備待ちしている機体を国連軍基地で多く見てきた。

それは戦術機の全高が人より圧倒的に高いためだ。

地面から高い場所にある物はとりにくく、とるためには脚立が必要でそれでも危ない。

こんな基本のことだが整備においてはそれは費用の高騰として大きな影響与えるものだ。

だからこそ、それ専用の整備ユニットが無ければ整備兵がろくに整備できないことをどうにかしようと、日本帝国軍から光菱に依頼があり、移動型の整備用多椀レイバーを開発することが決定。

戦術機を支えつつ、部品の取り外し、取り付けを行うことをそのレイバーに任せることで整備性が格段に上がったのだ。


そして先の問題が原因で、日本帝国内において
「戦術機自体の問題だけではなく、運用上にも問題点が数多くあるのではないか?」

という考えから調査がスタートし、戦術機甲部隊の部隊運用上の諸問題(日本から見た)が数多くあることが露呈、軍内に広まり、運用の見直しを迫られることになるのはとてもおもしろい事象だ。


そうして部隊運用上にもメスを入れることが決定。解決のために新たに調査機関が設立される。

そのまず最初の事象として、戦術機甲部隊に常に付きまとう、重金属雲発生化における指揮系統の維持と、隊長が部隊を把握できない問題に対してメスが入れられた。

そうした背景を利用してここの部隊をテストベットにする代わりに、(実験場の観点、大部隊を運用しなければ表に出てこない問題から)ここの部隊の拡充を図ってもらうように光菱と軍の両方から測ってもらい、旅団全体が実験に取り込まれるようにしたのだ。

そのそもそもの問題のほうだが

「戦術機甲部隊というのが中隊単位に分割した部隊をどう動かすかを軸としている。」というものだ。

これは多少の違いはあるが各国共に基本、この考えが戦術機甲部隊の運用の基本軸であることには変わりない。

これは大隊が中隊三つを有機的にどう動かすか、という方針にも現れており、戦術機甲部隊に置いて基本単位はどうしても中隊となっている。

これだけ見ても今までであれば大きな問題には成らなかっただろう。

だが、戦術機の増産が世界中で開始され、戦術機甲部隊を大規模に運用し、打撃部隊として活用法を見出そうとしている今現在、それは大きな足枷となる。

一度に運用するべき兵器を『中隊単位』で拡散させてしまうことは、打撃力低下を生み、打撃部隊としての"切り札"足り得ないからだ。


だからこそ見直しが図られ、少なくとも大隊を戦術基本単位とし、単体の戦術機甲部隊に求められる作戦遂行能力を向上させる必要があると調査委員会は決定。

その問題の原因とされた

「いくら情報管制官が後方で待機していようと、通信が不安定になりがちな前線において、隊長が部隊の全体を把握して指揮と判断を執らなければならない現状」

を解決する必要があるとしたのだ。

それは搭乗者が一人であるのが基本である戦術機において、一人で把握できる範囲、情報というのは限界があることが原因だろう。

自分の機体操縦、部隊の把握、敵の把握、戦況の把握。こんなものをしながら指揮出来る者など稀であり、衛士特性を加味すれば天才を探した方が早い。

つまりは部隊が大きくならばなるほど隊長がやらなければならない役割が集中し、そのため機能不全に陥るというのが実験結果で明らかになったのだ。

そのため今までであればどうしても12機、一個中隊が限界であり、各小隊長が4機の面倒を見て、戦域の把握を中隊長に任す体制を軸に、中隊事に部隊を運用していたわけだ。

これは機動性がある部隊である上に、陸上で活動を主としているからで、戦車である機甲部隊でさえ、戦車大隊には本部が置かれ、大隊長が本部で指揮をとることが多い事から見ても異常性がわかるだろう。

しかし、戦術機に追随できる指揮車が無い状況では、大隊長が戦域まで出なければ通信体制が万全でない状況によって、容易に部隊の指揮能力が瓦解する。

そのための妥協として中隊を中心にし、後方管制官に情報を一括しているのであり、その体制のために大隊長・中隊長の才覚によって戦術機甲部隊の実力に大きく関わってくる現状が生まれてくるのだ。

言わば戦術機甲部隊は、その打撃力と機動力によって運用上で大きな制約をかけられており、逆に言えばその制約を解いてやればこれまで以上の活躍を果たせることを発見したと言える。

だからこそ、日本でこの分野に力を入れたのだろう。


その具象化が翔鷹の情報担当官・指揮官用機の開発だ。

翔鷹が2人搭乗が可能であることを活かしたそれは、操縦者がその機体を動かす中で、部隊長が部隊の指揮に集中することが強みであり、翔鷹を運用した試験部隊でも良く見られた運用方法だった。

これは周りの他の戦術機に比べて、武器搭載量が多いことと電子装備が充実していたこと、そして試験機ということで重宝しなければという気持ち的な問題が重なり、生まれたもので、

「部隊長が死んじゃったら困るから」ということで後ろに下がり、

「武器弾薬も多く積めるし、隊長すいませんがカバン持ち決定ね」

ということで、部隊の指揮を務める代わりに隊長が弾薬持ちにもされた部隊が、以外にも成果を残したところを試験調査団が見つけたのだ。

そうしたことで、翔鷹のC型《戦術歩行輸送機型》を改造し、2名搭乗のまま電子装備等を強化。

その結果、戦闘力において他の機体には1歩劣るが、これまででは実現できなかった部隊内での情報把握と適切な指揮が出来る翔鷹I型装備が完成することになる。


大隊長と副隊長(部隊内情報管制官)、そして中隊長機がこの機体となることで、大隊の指揮能力と集団機動力が格段に上がりつつ、指揮官機の元々の機体であるC型の凄みである跳躍ユニット4基からなる30トン以上の搭載量によって、部隊の継続戦闘能力の向上にも大きな役割を果たす効果も付随してきたのだ。


これを有効に使うため、実験と称して旅団では大隊を基軸部隊とし、これまで1個戦術機甲大隊当たり36機編成であるところを、36機+(隊長機・副隊長機・護衛補助2機)からなる大隊本部小隊を編入。

40機編成として中隊長3名からなる他の部隊を有機的使える体制を構築したのだ。

また中隊長がいる小隊には新しいポジションとして一機、部隊内データリンクを強化し、データを統括する隊長を補助する『偵察後衛』を設置。

主な任務は戦術機から発進することができる無人偵察機装備を編成に取り入れ、、中隊、大隊周辺にいる敵戦力を事前に把握しつつ、光線級の存在を最初に把握するためのポジションを作りだすことで大隊単位での作戦能力を向上させることになったのだ。


これはただ単なる情報収集能力の向上と言うだけでなく、今まで有効的には行えなかった大隊以上の複雑な指揮を可能とした。

(例えだが1980年代まで戦域データリンクが未熟であったため、中隊単位での戦闘軸として、もし大規模で部隊を運用しなければならない時には中世…とまではいかないが陣形などを軸とした部隊統率法を持つ国も多かった。)

そして大尉以上の士官生還率が大きく上がることが見込めるようになったのだ。

普通ならば「上の奴が死ぬのが嫌とか言うなよ…」「一緒に前線で戦ってくれる人が良い」「隊長と言えば最前線で隊を率いてレッツパリ―しなきゃダメだろ!!」

と思うかもしれない。

だが、部隊の情報、指揮と言った面で集中している《隊長》というポジションがいなくなれば、それだけで部隊の力は半分以上削がれることになり、実際に戦う者からすれば前に出てくる者、例えるならば突撃前衛が大隊長だった場合など(とても稀だが無いわけではない…)

「おまえは後ろで率いてて!!判断してくれるだけで助かるからさっ!!」
と思う前線部隊員は多い。

これはその隊長が死ねば即指揮系統がマヒすることに繋がりかねないのにも関わらず、戦術機の希少性から隊長機も前線部隊と一緒に戦わなければならない体制となっている現状。

そしてそれによって指揮に集中し、操縦をおろそかにしがちな隊長が最初に死ぬケースが以外にも多いことが原因であり、その後の経験、貴重な大隊長・中隊長経験者がとても少ないことが原因でもある。

もちろん対策はされている。が、死ぬケースが多いことは変わりない。本来ならば部隊が半壊しても指揮官は生き残らなければならないのだ。なにせ経験豊富な佐官、大尉クラスと言うのは戦術機甲部隊にとってなくてはならないものであり、部隊の成熟にもっとも必要な部品なのである。



またこれに乗じて、後に出てくる『制圧支援』というポジションに合わせてC型を改造した戦術歩行爆撃機型も開発され、直ちに旅団に回してもらった。

これは運動性と近接戦闘能力下げつつも、部隊に追随できる機動力とその搭載量を活かした爆撃能力は

体積と重量がかさみがちなミサイル、ロケットポッドではなく、携行弾数が多い低反動大口径砲、片腕、両肩からなる計4門155㎜低反動速射砲によって1機で翔鷹基本型の3倍以上となり《空中戦艦》という異名まで貰っているほどだ。

(通常兵器として運用する上で体積、重量当たりでもっとも破壊範囲が大きいのが爆撃機のクラスター爆弾。その次が重迫撃砲と呼ばれ、一方の艦船の速射砲はロケット弾やミサイルより射程は短いがコスト当たりの破壊効率は高い。

その迫撃砲と速射砲の両者の中間が低反動速射砲。射程は短いが、戦術機の制圧支援機用の92式多目的自律誘導弾システムと同じほどで戦術機に必要な射程は満たしている。)


この3つの新しいタイプの機体によって大隊単位での作戦遂行能力と生存能力は格段に上がったと言える。


そうしてこの1年で準備した戦力と体制により旅団は今、この死地を生き残っているのだ。

話をはしょると旅団と日本が頑張ったから俺達、この戦況だけど生きてますよってことだ。



…と吉良君がまたやってきた。

「大佐失礼します。第4大隊が帰還致しました。大隊長を出頭させますか?」




彼は最近、俺の仕事の役割が戦術機甲大隊隊長などの前線部隊を指揮することが減り、代わりにここの基地司令としての仕事の方が多くなってきたため、第1大隊をシャルナークに隊長代理を任せ、基地司令の副官として配置してもらったのだ。

ほんと仕事熱心で助かるよ。

「う~ん、忙しいだろうから省いてもらって部隊の状況報告と、急速スケジュールの組み立てをやらせといてもらえるかな?データ転送とテレビ電話でね。

あとはそうだね、卯ノ花さんと涅課長に整備の状況報告くらいはしてもらえると良いね。」

「わかりました。と今の会話そのまま送っておきますね。」

「あらあら、データ添付…というか盗聴じゃないかな、それ。」

「…大佐がお許しになったんですよ?忙しいし二度言うのも面倒だから、声を録音して送れるようにしてくれないかって。」

「あれ?そうだったっけ?まあ今みたいな緊急で旅団の中だけにしてよ?上に知られたら大目玉だ。」

「わかってますよ。それがここの、旅団の方向性ですからね。2年もいれば慣れますよ。このぐうたら具合には。」

「ぐうたらとは失礼だね~せめてフレンドリーな軍…それだと逆にまずいか。いろんな意味で」

「移民兵も多いですから下の方では最初から、本土のような下と上との割り切りみたいなのが無かったですけど、士官間でも結構言葉づかいから何からいい加減ですからね。ココ」

「まあそれがここの良い所だよ。前線国家との距離感をいかにつかめる士官を育てる一貫…って言い訳してるけどね。」

「それを上が本気にして、自分が前線に派遣されないように祈るのみですが…と第4大隊長の四楓院少佐が了承とのことです。…将家でも位の高いところの出なのになかなか帰りませんね?」

「大隊を有功に使える隊長は数が多くて助けるけどね。8個大隊にまで増強したわけだし。

…でだ、吉良くん。この戦況を君はどう思っている?」

「そうですね…このままでは確実に戦線の崩壊は、防げないことだけは分かっていますけど、東社同盟軍上がどのような手段で納めるかについては予測がつきませんね。…東ドイツの二の舞になってもらっては困りますが。

戦線の崩壊については東欧の上のほうも分かっているでしょうし、この戦線の犠牲をどう生かすか。それについては意見が割れていると思います。」

確かに吉良くんの言うとおり、ここの崩壊はもはや避けられないものとなっているだろう。

そのために如何にして戦力を減らさずに撤退できるかに趨勢は変わってきており、第1防衛ラインであり、もっとも強大で強固なここが抜けることはとても手痛いものだが、ここを捨てる決断となるのは目に見えている。


「確かに前線である、ここがタダで抜かれるのは東欧全体の終わりに繋がるし、そうなっては南欧戦線も終わってしまう。

そうすれば日本の大目的であった『西欧の維持』など不可能だろうから、日本のほうでも、外交でどうにか穏便な方向性に持って行こうとしているんじゃないかな、見返りがありそうだけど。」

「東欧が陥落し、それに続いて南欧が陥落した場合、欧州へ攻めいているBETAのほとんどに加えて、中東のBETAもトルコとボスポラス海峡を渡って攻めてきますから…

そうですね、西欧に降りかかるBETAの量は今までの約4倍にまで膨れがると研究機関でも言われていますので、持って2年というところでしょうか。」

避けてはならない現実をうなづきによる肯定で吉良中尉に返す。

正にその通りとなるだろう。

忘れてはならないのはここ東欧に日本が力を入れたのは、ただ東欧を救いたいがためではなく、西欧という市場を残したいがためだ。

西欧に降りかかるBETAの量を分散させ、その間に陣地を構築して、戦力を増強。国連軍やEU連合軍のもと国家連合軍としての体制を整えるための東欧戦線であったのだ。

もちろん利益を求めていたことは嘘ではないが、最大の目的がそちらであることから見ても、東欧と西欧どちらかを選ぶとしたら後者に軍配が上がるだろう。いくらここに戦友がいてもだ。

「そうさせないためにも体制を整える時間として東欧には生きてもらわなければならないと、日米双方ともに考えるでしょうから、国連軍からの派兵は通りそうなものですが、問題は時間ですか…」


確かに時間がネックとなるだろう。未だ敵の規模が把握されてから3時間ほどしか立っていないことから見ても、この趨勢を逆転できるほどの戦力がここに回される時間にはとても足りない。

同盟に残されている兵から派遣するとして軍団レベルの派兵で、最速で3日と言ったところだろう。戦術機甲などの編人数が少ない部隊を主軸にしてだ。

それまでにいくらほどの犠牲が出るか。

一週間の籠城。確かにここの戦線は幾重にも折り重なり、その要塞線単独での1ヶ月ほどの籠城は可能だ。

その要塞線を生贄にして時間を稼ぎ、2年前から予備陣地として構築中の第2戦線に人を配置することが最善ではある。

だが、それは全ての戦力を有効に使え、情報や地下侵攻が無い場合にのみ行えるもので、1週間も持たないことは容易に推測でき、それでは後方の部隊編成も敵わないだろう。


「どうやら東社同盟のほうでは撤退も視野に入れ始めているらしいから、そうなればここは安泰なんだけどね」

「ここは幸い、海に近いですからね。幸いなのか意図的なのかは述べるべきではないでしょうが。」

撤退ということならば最速6時間ほどあればここの人員の撤退が済める体制に、今この基地はなっている。それは戦術機甲部隊と言う人員が少なくて済む、部隊編成を主軸としているためでもあるが。

その形、箱としての基地の立地の良さは、国連から、日本からの応援が欲しい東欧の願いが形となって示されたものだろう。


さきほど旅団が持ったのは戦術機のおかげだ。とか新しい概念が云々など威勢の良いことを言ってきたが、肝心かなめの理由としてもう一つある。

それは今旅団が担っている担当地域のBETAの数が少ない場所ということだ。

機動性に富んだ戦力である戦術機甲部隊。それがこの緊急時において次々に引き抜かれるのは言わば当然の事象。

しかし2年間戦場を共にし、信頼関係を幾ら築こうと旅団がお客さんであることには変わず。

貧乏籤をひくことはない居残り組とされた旅団は、当然、東欧の戦術機甲部隊がその引き抜かれた戦域をカバーするため、担当戦域が一時間ごとに増大している、というのが現状だったのだ。

それは引き抜かれた部隊が回される死地に、最大の支援国である日本の部隊を廻すことは、支援量を少なくされる危険性があるという前線国家のお寒い事情と、

死地のその現状をひた隠しにしたい、くだらない思惑があるのだろうが、その立地からして国連軍の増派の受け皿としてもこの基地が機能してもらいたいためでもあり、即時増築すれば軍規模の集団を収容することも可能だ。(ただ置けるだけ、周りの家を強制徴収してやっとではあるが。)


そのような贅沢をしていられない状態になったのが1時間前のなのであり、

だが数が不足している現状、雑事に等しい仕事を大量に回され、予想以上に仕事ができると言うことで旅団の仕事量は異常な量となったのだ。

なにせ目の前の担当戦場は脅威予想度が低いとはいえ、次々と引き抜かれる戦術機甲部隊の代わりに努めるために回される、広大な戦域をカバーするのは至難の業だ。

そのため一つ一つの仕事の厳しさは《死地》と呼ばれるほど凄惨なものではないが、その量が多いため疲弊の比重が大きくなった。

「まあそれだけ見ればここの者達は正しく、お客様だったわけだからね。お仲間を一人でも多くここに来させてほしいがためのさ。」

「確かにそうかもしれませんね。相手側から見ればいくら精鋭や移民兵が主体と言っても、BETAとまともに戦ったことが無い素人集団。

前線の真実を教えることよりかは、相手から金と兵器を吸いだせるよう計らいをするのは自然だったのかもしれません。最近になって腹を割って話せる東欧軍の士官との会話で、自分達の立場が分かりましたよ。自分達の未熟もですが。」


「君も最初から気づけるものではないか…これを知る大半が述べる精鋭による東欧の救済など建前でしかないからね。いくらその実力があるとしても、軍としてBETAと戦ったことがなければ雑兵にしかなり得ない。

だからこそ、持ちあげ、金と兵器を出させるのが東欧の望みだったわけだ。…少し考えれば分かるものだけどね。」



確かにこの旅団の窮地、旅団自身のの実力不足が原因かと思うかもしれない。

所詮は裏の実験場としての場がこことされたからだ。

事実、その蔑称のようにここでは光菱の数々の新型兵器群がここに陸揚げされ、実戦証明を果たし、多くの試験兵器のそのまた多くの問題が噴出する場となっていた。

そのため、それを守るための基地戦力。

そしてそれを十全とした役割を担うための、護衛兼周りへの気配りのための戦術機。

そして東欧の計らいのために増築が容易な広大な土地が付随され、建物の広さで言えば師団としても贅沢な広さとして甘えさせられていた。

しかし旅団もここ1年で、新型兵器のための試験部隊を任される(御守だが…)ことも少なくなり、完全な戦闘団となり戦力の充実化は成ってはいるのだ。

機甲部隊や装甲兵が減り、代わりに正当な国連軍としての戦術機甲部隊が増えたこともそれを裏付けている。

つまりそれがこの戦域の重要性を上、たぶん光菱の若頭当たりが睨み、戦力を整えようとした証明でもあったわけだ。(あれっ?おかしいな…と思ったんだよな。新型回されるし…)

護衛能力ではなく、完全な攻勢部隊としての役割を担うことになった旅団。

それは7個戦術機甲大隊―――1個大隊は特別編成で40機―――に及び、ここ東欧の一個軍に配備されている戦術機数よりも多い。(全て極東国連軍からの派遣部隊として登録されている)

※例:激戦区であるドナウデルタ第6軍集団に配備されているのでさえ、昨今の戦術機増加に伴って20個戦術機甲大隊=約7個連隊。

東社同盟は同盟結成後、戦線を構築していた軍集団に新規の軍を編入させたため、軍集団を構成する軍が4個軍であり、一個軍に配備されている戦術機甲連隊の数は2を切る。

そして2個連隊が抽出され、前面からの攻勢で合計1個連隊分が消滅していた。

その結果、戦域の増加も合わさって6個連隊分の広大な範囲の救援要請任務が旅団に回されてきている。

ここまで旅団が疲弊している姿を見るのは初めてだった。何度も部下を亡くしたし、友軍が赤蜘蛛の中に消えていくのも、片手では足りないほど見てきた。

だが軍が、軍集団という規模の要塞が目の前で崩れていく現状は始めてだ。

幸いと言うべきか、その対応に合わせてか旅団の作戦基本単位は一個大隊を基軸とした編成であり、即座に各大隊長が各々の部隊を率いて戦場を駆けずり回っている。



それは総数で言えば2個連隊強というほどの部隊が合計6個連隊が管轄している戦域をカバーしつつ戦力を維持していることから、実力と共に証明している。いくら戦闘回数と一回当たりの個体数が少ないとは言えだ。

だが、全体を挽回できるほどでは決してない。

今現在、毎分ごとに死者が出ている現状は変わりようのない事実であり、なにも手を打たなければ、最低でも400万人。それ以外の国民などを含めれば1000万を超え、ここがなにも出来ずにただ崩壊するば、東欧と南欧全てがBETAの支配領域に飲み込まれることは変えようのない事実と成って、人類に降りかかる。


「――だが、ここが堕ちるのはこちらから見ればあくまで既定路線。それを含めて時間を稼ぎつつ、"あること"を実現させるた犠牲を少なくしたまま、時間を稼ぐのが日本の、最高指導者達が望むことだ。

だからこそ、ここを我々が持たせているのはただ逃げるためでもなく、その時間を稼ぐため。上もそう動いてくれる…はずだ」

「大佐、まさにそのようです。

国連軍キプロス要塞群に滞在中だった日本派遣艦隊から追加報告が入ってきました。


『日本帝国海軍・第3派遣艦隊より、国連統合軍及び東欧州社会主義同盟共同統轄基地群サルチオラ軍港へ

我、国連統合軍地中海方面総軍より緊急要請令第332を受託。

本艦隊はバンクーバー協定並びに京都協定に基づき、本日1745までに『荷物』を届け次第、直ちにその方を全力支援す。しばし待たれたし』

だそうです。」

「やっとという感じだけど無茶したなあ…この速度から見ても、1時間前にはキプロスを出発してるだろうからね。まあ助かるけど。荷物はやっぱりあれかな。」

もっとも若いハイヴ、中東のガシアンテップハイヴへの前線基地としてキプロス島に建造された国連統合軍 地中海方面総軍所属の「キプロス要塞群」

そこに"たまたま"派遣されていた日本派遣艦隊とそこへ部隊を輸送していた帰りの輸送船団。

それを使っての東欧への救援部隊を派遣することになったのが8時間前らしい。早すぎる。

その計画が即座にまとまったとされるのが5時間前であり、今の緊急性から考えてアメリカ、西欧への根回しをせずに、いや、する必要がないほど切迫している状況から、キプロス島にいる国連軍戦術機甲部隊を中心に選抜。

もともとキプロス基地から南欧からの緊急応援要請に答えるための計画が練り込まれていたこともあり、ここまでスムーズに部隊編成が行えたわけだ。

もちろん表向きには言えないが、東欧への救済処置も考えられており、未だにギクシャクしている西側陣営(日本ではない)と東欧との距離を縮め、逆に東欧とソ連陣営との距離を置かせることで、窮地に立たされている欧州全土の指揮系統を統一させたい思惑があったわけだ。もちろん、それだけしか利が無いのだが。

そうして詰め込めるだけ詰め込んだ部隊を戦闘に、随時定時輸送船団を使って物資、部隊を送り込むことが決定しており、

ルーマニア最大にして東欧最大の国連軍基地コンスタンツァ軍港に物資を、最前線の国連と同盟の共同統治している軍港であるここ、サルチオラ軍港に部隊を派遣することになっている。

(※ルーマニアのラジム湖、シノエ湖はドナウデルタ要塞着工時に、海と繋げられた。)

それが開始されるのが19時ほどになるであろうことから見ても、アメリカから切り離された国連第2緊急即応戦闘団を含んだ艦隊が到着するのが少なくともあと24時間かかることから考えれば、『神速』と言って良い早さだ。


最近の上は10年前と違って、即決即断が出来てよく動いてくれるからとても助かる。

さて、代わりに今度はここが頑張らないといけないね。


「吉良中尉。もはやここは負け戦であることは変わりようのない事実だ。今現在、国連として、同盟として目標は犠牲を少なく、どうやって撤退を行うかに移行しているだろう。

ならばだ。
そのために撤退戦をスムーズに行うために、即応戦術機甲部隊がここに来ることが決定されるのはわかるだろう?」

「防衛戦において戦術機にもっとも求められるのは、敵の主攻を抑え、時間を稼ぐこと、ですからね。」

「そういうことだね」と肯定を返しながら一人、これからのこと、この基地について考えをめぐらす。

もはや予備戦力や、新たな戦力を投入して挽回できる状況を超えてしまっている。陸上の運送ルートの多くがマヒしていることを含め、脚の遅い人類側があのBETA相手に撤退戦を挑もうというのだ。

そうなれば、資材、物資を置いて人員の撤退を優先することが決定している以上、海上からの脱出が優先されるため、ここから脱出する人員は80万人を超え、そのほとんどを無事、送り出さなければならない。

なぜ国連軍がそのような重要な作戦の一部と運用を任せられているかは、ここに荷揚げされるための船舶や、その港の施設を東欧単独では揃えられなかったためであり、その管轄が同盟と国連との共同とされているが、その内実、ここの運営を任されているのは国連から任せられた企業と、国連軍だからだ。

それは東欧同盟では荷揚げされ次第、届けられるまでにどれだけ物が無くなっているかが問題とされたためであり、海軍に費用を割けなかった東欧の悲しい事情がある。

だからこそ、ここの運用法を知るのは、東欧と国連に顔を聞き、物資の受け渡しを知る俺達ということ…らしく、一介の大佐風情が80万の撤退支援を指導していかなければならないことになるわけだ。

その事実を証明するように、戦術機部隊を指揮する間もなく、階級は上がらなかったが色々と要職が追加され、~兼~兼~兼と責任と
実際の指揮系統(本来の役職は別にいるが実際は俺が指揮する)が大きくなっていく。

命が、重いッ!!たぶんおれがここで自殺すればこの撤退戦は失敗に終わるほど集中しており、それを知ったBETAはすぐさま俺を殺しに来るだろう。

…まあ現実逃避はそこまでにして、これからどれだけ犠牲を少なく撤退できるかが、カギであり、俺の首に繋がってくるだろう。

それを成功させるために、戦術機甲部隊などがここに回され、死守することになるわけだ。成功しても、役職が不鮮明に置かれたここでは報償はもらえても、前線勤務をまた言い渡されることは決まっているし、失敗すればスケープゴートにされるのは目に見えている。

また貧乏くじを俺達がひいたことになる。
まあ部下にまで責任を押し付けないように、ありとあらゆる権限を俺に委譲させ、それから部下に渡しているため、どうにか火の粉は俺と…吉良君ぐらいで済みそうだが


…マジで不幸だ。

「では大佐、そのことを課長以上の者に伝えたほうがよろしいでしょうか?」

「そうだ。だからこそ吉良君。卯ノ花さんに最低でも増派として一個師団が2時間以内に来ることになりそうだから、予定通りにお願いと伝えてもらえるかな。

面積等は取らせてあるし、輸送車もどうにか目途が立ちそうだからさ。」

「自分で言って下さいよ…僕だって怖いんですから…卯ノ花隊長の怒った笑顔」

「俺に対してはもう凍てついてるから、まだマシでしょ。頼むよ吉良中尉。」

「…分かりましたよ大佐殿。」


と、最後は階級を示して抑え込まれてしまった吉良君がしぶしぶ退室していく。

ちょっとかわいそうなことをしてしまったかな?と考えつつ、ここの現状を振り返ってみる。

ここは最前線であり、ドナウデルタへの物資を海上から行えるように作られた、同盟と国連共同の基地群が乱立しており、ぶっちゃけちゃえば逃げ道だ。

それを如何にして持ちこたえるかがここの命運を握っていると言って良く、あと2日でこの戦乱の趨勢が決まると言って良いだろう。


今考えれば絶対これ、見越してやがったなと光菱の連中に愚痴を言いたくなってくる。トルコのボスポラス海峡にしたって拡張工事を行っていたわけだし、ここまで増派がスムーズにいくことにしたって、どこまでが既定路線なのかわかったものではない。

まあ今回の襲撃を読んでいれば事前に連絡や、その対策が後手とならないだろうから、あちらにしたって緊急だったんだろうが。

まあどのような撤退戦になるかはまだ確定していないが、海に面している以上、ここに物資と人が集められることは決しているだろう。


「ここからが本番、か」

そう呟かずにはいられないものだが、それだけ期待されているということにしておこう。


では受け入れ態勢整えるためにも、頑張りますか。…問題は日本将官と同盟将官の繋ぎをどれだけこなせるかだな。


~中編へ続く~

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

筆者です。

実戦とか思いつきで書くモノではないですね。混乱します。

さて本編は大撤退戦となりました。

本来ならば、「東欧戦線は崩壊した」「なん…だとっ?」ぐらいで終わらそうと持ったのですが

詳しく書いてみたら面白そうじゃね?ということで書いてみたらカオスに…そして黒野大佐の首が危うくになりました。

次回は2週間ほど先として…

また改訂作業と並行して、上げていこうと思います。第1章1~5話を2日ごとに上げて、最後に外伝ノ中編をと。

改訂についてですが、1982年からスタートであるこの本作を1年前倒しにしようかと考えました。

ゴールである結果は変わらないのですが、82年からスタートしていきなり海外に手を出したり、戦術機開発の開発速度から政治中枢に手を伸ばせる速さが異常に見えてしまい、作り直したくなって…何度もの改訂、ほんとすいません。

81年からだからこそできることについても、手を入れて改訂しますので、「あ~ここ変えたんだな」ぐらいの気持ちで読み直していただけると助かります。

また改訂作業を行いながらも、外伝の進行のほうはなるべく遅れないように心がけたいと思っています。

では失礼します。



[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-2話 調整 
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2011/10/26 19:36
1985年1月17日 1530 ルーマニア社会主義共和国 コンスタンツァ軍港付近 国連派遣軍増設基地群 G棟地下2階フロア 戦域情報管制室


一個軍団が燃えている。全てが、町が文明の象徴が光と赤蜘蛛どもに消されていく。

BETAが襲来してから人々を守るためにあるはずの軍が『戦線』とは呼べもしなくなった群れと成り果てたのは何日、いや何時間前からだったのか。

それすらもわからぬほど化け物から逃げ惑い、見るも無残な醜態をされしている人類の軍。

その姿を俯瞰して見るともはや人類の未来を表すがごとく、片方が圧倒的な個体差によってなぎ倒されていく。

その片方があの憎っくきBETAであればどれほど幸せか、そう思わずにいられないほどの凄惨さを眼前の戦場が示しており、思わず目をそらしそうになってしまう。

「この映像…見るのに精神に来るものがあるな…無人偵察機はあと何機ほど残っている?山田真耶中尉」

その画面には国連の管理下にある偵察無人機が撤退に乗り遅れた中隊が、今まさに襲われている場景を映し出している最中だった。

「た、大佐っ!?何時御戻りに?」

今目の前でうろたえている、どう見ても高校生ほどにしか見えない彼女。

だいたいの予測はつくが大方、高級士官となった俺がいきなり現れたことに驚いているのだろう。決してその映像に気落ちしていたわけではないはずだ。もはやこの3日で見慣れた光景なのだから。

…まあ貴重な天然コーヒーまでこぼしてくれるほど驚いてくれるとは思わなかったこともあるが、もう少し気を使うべきだったかなと思ってしまう。


「ああ、さきほどこちらについたんだ。派遣されてきた国連の将官と指揮系統から補給問題の整理をするのに手間取ってね。」

「そうなんですか…東西で兵器の規格とか違いもありますから、そこの調整を含めてですか。お疲れ様です」

本当にこちらを思いやる彼女だが、こうして見ると戦場を管制する派遣軍司令本部、生々しい戦況が伝えられる戦場の一部にふさわしい年齢に達しているとは思えない。

その山田中尉は実質日本を中心とした2年前から細々と続けられていた東欧国連派遣団に入ってから1年、情報士官(今はCP将校とも言うようだが)としてその類稀なる情報処理能力と戦域把握能力に磨きをかけ、今や俺が一目を置く情報士官として成長を遂げていた。

最初はその戦況を見て顔を青くする毎日で、声が震えて"練習では出来ることでさえもできない"と嘆いていたものだが、やはり女性は強いということなのだろう。今では的確な判断を下せる「立派な軍人」の面(つら)をしている。

…たしかここに来てから憧れの男性を見つけたことがその成長に影響を与えたと、女性士官あたりが言っていたのだが、その人物がこの悲惨な状況で生き抜いていてほしいものだと思う。


「君たちもお疲れさん。で無人機の件なんだけど、どうなっているかな?」

「も、申し訳ありません。現在まで撃墜されたUAVは国連軍669機、同盟軍は概算ですが400機を超えているようです。また3日前の国連からの補充を含み、こちらのUAVは残り327機、同盟は100を切っているとの報告が入っております。」

光線級の迎撃照射によって発生する、空気のプラズマ化によって発生する電波障害。

山田中尉の報告通り、羽虫の如く撃ち落とされている無人機だが部隊間データリンクにまで影響が出ている今の現状、その被害を込みにしても十分な成果を上げてくれる大きな味方だ。

それは空中からの偵察が難しくなった昨今、その重要性は上がっており、1年ほど前から配備された安価でコストパフォーマンスに優れる、日本製UAV《83式無人偵察機》の成果もあってか、この1年での戦果向上に繋がっている。


それは3日前に発生した地中侵攻も同じであり、広範囲に散っていたBETAを早期に発見することに成功し、最悪の予想よりかは遥かに低い被害に抑えられたのも、この無人機の働きのおかげであろう。

ここ東欧でもずいぶんと情報把握と指揮が楽になったものだ。

が、BETA数約20万、やっと3分の2程度まで減らしてはいるがその膨大な数の前では減る速度が早すぎて、最悪後7時間後には空中の偵察網に穴が開く。やはり数、光線級の脅威はまだ人類からぬぐえそうにない。


「未だに光線級の数が多いな…重光線級が少ないことは幸いだが、いつ出てくることかわからない以上油断はできそうにないな。…海上からの支援は?」

「国連軍指揮下に置かれる各国海軍から支援砲撃が2日前より開始されており、14時間前にアメリカの14任務艦隊が到着、13時間前の0230時に北アフリカ連合海軍の交代を完了、国連の元砲撃ローテーションに入りました。

また3時間後1830には南アフリカ海軍、13時間後0630にはブラジル・アルゼンチンの共同派遣艦隊が到着。同時に国連傘下に編入、支援砲撃のローテーションに入るとのことです。」

バンクーバー協定並びに京都協定によって発生する、各国の軍事支援の義務化。

3年以上前から始まる各国の義勇軍だがその損耗に嫌気がさした各国は、国連の提案として形作られるようになった《地域連合による連合艦隊》を編成。陸上に比べ損害が低い海上支援に乗り出す国が多くなっている。

これに同調するのはエジプト・リビアを中心とする北アフリカ連合。
メキシコ・コロンビア・ベネズエラ・キューバを中心とする中米諸国支援協定。

そして南アフリカによって地域統合が進みつつある南部アフリカ連合と中東の後陣地として近年発展を遂げているソマリア、エチオピア、スーダンなどによる東部アフリカ支援同盟であり、地域国家の繋がりが強くになり始めており、後方国家における連合国家化が現実味を帯び始めているのだ。

その結果なのか世界経済が最近になって好転している影響なのか、国連主導による海上支援もバカにならないものになっている。

「(今回の海軍側の総指揮をとっている国連地中海総軍…といってもそこまでの規模ではないけど、その指揮能力に不安がある以上、こちらの情報を的確に回さなければならない。
その支援要請の円滑化についてはここ2日で何とか形にはなっているが、問題はこれから激増する各国の海軍だ)」

だがその量と言うのも、上手く使いこなさなければただの混乱を招く要素にしかなりえない。

その対処のために国連は今回のような随時来る各国の艦隊を指揮下に入れ、管理しなければならない任務を求められることから、戦闘艦ではなく、純粋な戦域管制と指揮能力に絞った巡洋艦改造艦が用いている。


それは地中海に属する欧州各国からアフリカ諸国などの近くに地域に対して国連より出された緊急要請にこたえた各国と、

定期的にキプロス国連軍港などに派遣されている中南米や南アフリカ、オーストラリアや東南アジア諸国などの総数は世界第3位(…)の日本を超えているからで、

これらの艦艇はここ2年で対BETAとして"熱く"なっている地中海に常に張り付けられており、それらをある程度管理できる体制が構築できたからこそ今回のように早期に支援を行うことが出来たのである。


それは今も続けられており、技術の進歩によって陸上兵器と海上兵器との火力の差が縮まったとはいえ、200mmを超える巨砲などによる支援砲撃は圧巻の一言。

東欧としても海上支援を織り込んだ体制に移行しており、自走砲などの支援砲撃部隊の大部分、3分の2を内陸側に移動させているが、それでも海上からの火力がある湾岸側の防衛の方が戦況を優位に進めているのだ。

「(確かにその海上支援はすごいものがある。だがその指揮する艦が軽巡洋艦クラス数隻でしかない以上、把握できる量は限られるだろう。海上の情報管制の一部をこちらにもいれるよう打診するか?それとも日米の艦に割り振るかだな)」

と思っていた矢先、目の前の画面に映る偵察無人機の映像に目が引かれた。

それはB-17地区との番号が割り振られた連隊陣地周辺の映像であり、BETAの攻勢によって孤立しかけている陸の孤島。

その映像には凄惨な状況の部隊が駐屯する基地―――基地と言って良いものなのか、というほどBETAの死体と壊された兵器の残骸、そして人であったものが散乱しており、その能力のほとんどが失われた陣地に、数千のBETAが今正に蹂躙しようと接近しているところのリアルタイム映像だった。

そこから見られるのはあきらめの境地。

今まで頑張った。あと少しで撤退が間に合う。その希望にしがみつき、逃げ遅れた仲間を集め、ここまで戦力を維持してきたその部隊。その数千人の集団の奮迅を踏みにじるかごとく、あらわれた異形の者達。

それによってあと数分でBETAになじられ、喰われるであろう部隊を映したそれは、残念なことにここ数日何度も繰り返された戦場の事象の一つでしかない。

それを知るこちらにしてもその戦力を足止めする陸上戦力がない以上、見捨てるしか他にない状況に追い込まれ、「またなのか、己の無能でまた仲間が死んでいくのか」と言った心境で見るしかない映像だったのだ。


―――そう、だったのだ。


それは轟音と共にやってきて一瞬の元、何もかもを引きちぎる。


先ほどまで敗色濃厚だった部隊の戦況まで吹き飛ばしたそれは、押し寄せようとしていた数千のBETAをも爆炎の連鎖に包み込み、破壊の限りを尽くし、蹂躙していった。


その破壊力たるは陸上戦力では到底ありえない代物であり、


―――この奥地にまでそこまでの制圧力を誇る艦はただ一つしかなく

―――この戦域でそれが出来る艦隊もただ一つであり

―――そしてこの地域にその艦隊を送った国もただ一つである


「日本帝國第2派遣艦隊 旗艦 信濃以下、同第3派遣艦隊と合流。現時点を持って支援砲撃を開始しました。」

それは日本が世界に誇る戦艦大和。

制圧力においてこれに打ち勝てる艦種は他になく、それを上回る戦艦を持つのは日本にしかいない。

その大和級 三番艦 『信濃』 46センチ砲三連装三基という化け物兵器を乗せた戦艦

それに率いられる第2派遣艦隊と、30.5センチ砲三連装三基を持つ、昔で言えば十分に戦艦の領域に届く大型巡洋艦最上。

その艦が旗艦となる第3艦隊の合同支援砲撃による結果であり、またたく間に3000近くのBETAが砕け散る様子だった。


「信濃を旗艦とする第2派と最上級大型巡洋艦を旗艦とする第3派が合同で支援砲撃とは…胸が熱くなるな…」

この言葉の通り、そのようなことが実現したことは過去に一度もない。海外に派遣されている4つの艦隊のうち、中東ペルシャ湾で活躍している第2が、ここ地中海で活動する第3と同じ海にいることなどありえなかったからだ。

そのはずだったのだが、東欧の危機に対し、国連の要請によって急遽援軍として到着することになった第2派は、3日かけてブルガリアのヴァルナ港にて補給後、第3と合流することになったのだ。


「大佐はそういえば軍艦好きだったんですよね。やはり嬉しいものですか?」

「うれしいさ!なにせ自分達がピンチになったところにあの戦艦大和が登場だよ?
日本男児ならだれしもが喜ぶんじゃないかな?ほら後ろをごらんよ!!」

その俺の言葉の通り、山田中尉が振り返ったところ情報指揮所に詰めていた情報士官、男子全員がその画面を見つめニヤけ、喜びをあらわにしていた。その表情は女性士官の「味方を助けることができた」という喜びのほかに、趣味の色、と言えば良いのか、男の子の顔が見え隠れしていたのだ。

さもあらん。

「大和が来るっ!!て言うのがね、もうね。やばいんだよ。本国の方に改大和級やそれより大きい紀伊級があるとしても、戦前活躍した大和級の活躍を間近で見れるとなると、やはりこう、グッとくるものがあるんだよ。漢にはさ!!」

それらの大和級を超す大型艦が、83年から開始された大規模改装で使えない今、今の日本、そして世界に置いてその破壊力を上回る戦艦はおらず、単一の兵器にしてみれば世界最強の艦なのだ。

戦前の失敗として「大和などの戦艦ばかり作るから」「大型にすれば良いって問題じゃない。補助艦をしっかり」といった声を良く聞くが、"これ"を見てそれと同じことを言えるだろうか。


相手が人間であればまた結果は違うが、今の相手はあのBETAなのだ。その活躍を見ればわかるが、心の底からスカッとする。感情が高ぶるのを抑えられそうにないっ!!

「は、はあ…そうなんですか」

山田中尉はこのロマンというものをわかってくれないようだ。やはり女性と男性の感性の違いなのだろうか。かわいそうに。



戦後から「日本の守りにして日本経済の重り」とまで揶揄されてきた彼女達戦艦。

維持費がかかる非常にわがままな彼女達だがそれを強いたのは彼女本人ではなくアメリカであり、肩身の狭い思いをしたのはなによりも彼女達4姉妹なのだ。

そのうっ憤を晴らすようにここ数年縦横無尽の活躍で戦場の女神達の歴史を見てくれば、この活躍に胸が張り裂けそうになるもんなんだが…わからないかなあ…

「現在の艦隊数から見ても、湾岸部の防衛はこちらの優位に進めそうですね。」

あら、凄く冷静だ。この子。まあ戦艦の話はここまでにしてだ。現時点での被害を把握しておかなければコンゴが立ち行かなくなる。仕事仕事。

「…このままなら湾岸部の防衛に関しては順調に行きそうだね。あとは国連の補給態勢がどこまで続くかだけど。なにか海上支援での問題は表面化しているかな?」

緊急でしかも国連の元の各国ごちゃまぜ艦隊。それがローテーションを組んで支援しているとはいえ、問題がないはずがなかった。


「補給問題に関しては順番の不備があったとしても艦隊の総数が多いためか、支援に対し十分な火力を継続出ているのですが…問題は損害のほうです。

光線級の数は激減してはいるのですが、それに応じて軽巡洋艦以下小型艦艇に多少の被害が出ております。」

やはり射程距離と黒海という海の特性からか、小型艦艇から光線級にやられているか…

元々地中海から中東国家に関して小型艦艇輸出していた日本企業。

最近はその攻勢を強めており、経済規模からして大型艦を購入できない国家に対し、周辺諸国との共同大規模購入を推し進めている。これはそれによってそのコストを下げ、周辺諸国からの海上支援を任せようとしているのだ。

「やはり練度も関係しているだろうけど、即応した指揮能力を発揮する艦が必要になるだろうな。…米軍も小型艦が?」


「米軍に関しては安全圏内からの一方的なミサイル攻撃ということと、ダメージコントロールが優れておりますので被害は軽微で済んでいるようです。

もちろん他国も同じではあるのですがその経験の差、ミサイルを多量に使用できる下地がありますので、不用意に近かづかずに一方的な支援攻撃に終始しております。」

「まあ光線級の照射範囲外からの長射程のミサイルをバカスカ使えるのはアメリカくらいだからね。ミサイル関係は日本も遅れていることは否めない。日本の第3に関してはどうかな?」

「損害は今日までの補給4回を含む支援砲撃任務において、駆逐艦中破2小破2軽巡中破1です。

日本の艦艇に関しては全ての艦砲の射程距離が長いため、アウトレンジ攻撃にこちらも徹底しており、その方向性は日米とも違いますが、見せている結果は同じようです。」


戦後、経済の重荷になるようにアメリカから戦艦など、艦砲を用いる艦を多く持たされることを強要されてきた日本帝国海軍。

それによって確かに経済は鈍調になったし、アメリカが恐れていた近代型空母機動艦隊の配備は遅れただろう。

なにせ金食い虫の戦艦が大和級が4、改大和級が2、排水量11万トン(アメリカ最大の原子力空母であるニミッツ級ジョージワシントンを超えており、軍艦では世界最大)を超える紀伊級が2と空母以上に金がかかる戦艦を8隻も維持しなければならず、毎年兆単位の維持費がかかるのだ。

そのため日本帝国がもつ空母は、1975年より製造されている三浦級中型空母戦術機空母。軽空母よりは大きいが通常型空母には今一歩及ばない中途半端な空母が数隻のみであり、空母機動艦隊など夢のまた夢だ。


だがそれだけお金がかかる戦艦という艦艇。日本帝国が戦争に負け、戦後の経済界からの圧力を受けてそのままにするだろうか。得る物はなかったのだろうか。

アメリカのように世界全ての海で活動する原子力空母ならいざ知らず、対ソ連にしてみれば過剰な戦力である日本の八隻の戦艦。

予備役に編入したり、モスボール処理をされながら活動している戦艦の数を少なくしつつ、どうにかしてその維持費、コストパフォーマンスを向上させようと、涙ぐましい努力を30年以上続けてきた日本帝國海軍の技術士達。

その長年の努力は実を結び、その長射程と命中精度など艦砲に限っての技術で言えば日本は世界一の技術を持っており、現にオーストラリアや世界の海軍に昔から、艦載速射砲などを輸出している。

それは昨今のBETAの影響でむしろその輝きを増しており、

長年の技術の進歩により、戦艦の艦砲射撃は対BETAで見ればミサイルよりもコストパフォーマンスが勝っているほどだ。


「(一番長い任務時間でその損害、さすが帝國海軍…と言いたいけどやはり艦載砲を交換したからかな。)」


その結果の頂点が、1984年より日本帝国の既存艦艇(軽巡以下)に積まれることになった艦載砲であり

素材成形技術や新素材による底上げと、それまでの技術とはその技術体系から異なった技術を用いて射程を延ばしながら破砕力を落とさないことに成功した。

また光線級による迎撃を考えれば、長射程でありながら尚且つ、一発のコストが高くないそのバランスを254mm、10インチ砲を選定。

高瀬級軽巡洋艦の主砲となる254mm単装速射砲として大量に製造されて、日本帝国軽巡の標準砲となっており、その長射程、速射能力は光線級がいるときにこそ発揮される対光線級砲艦であり、今回でも如何なく発揮されている。

(※今までの戦艦は射程距離がネックとなっており、光線級の射程限界である有視界範囲、つまり地球が丸い影響で相手が地平線に隠れてしまうまでの範囲が戦艦の上部構造により約30~80キロ(この誤差は相手の場所の高さで推移・山ならもっと広い)までが被害圏内に入ってしまう。

対してこちらは大和でも有効射程範囲が54キロと短かったため、BETAからの被害の可能性があった。)


「わかった、山田中尉ありがとう。では次に東欧の各陣地様子について、ここ数時間は変わりあるか、報告してもらえるかな?」

さきほどの連合海軍が支援できる範囲は、最大で陸地に60キロほどであり結局のところ一部の範囲で優位に立つことしかできない。

それによって内地への部隊の比重を寄せることになり、助かる部分は確かにあるが、海軍戦力の増加=陸軍戦力へと同程度の増加とは成りえない。


「国連より付与された無人偵察機と偵察使用の戦術機小隊によって、BETAおよび各陣地の様子をとらえていますが、主要陣地に籠る各部隊大小合わせて24か所、総勢12個師団ほどは戦力を維持。

周辺BETAは第1防衛ラインを抜けようとする個体と各施設の破壊に努めており、想定以上の規模で攻勢をしかけるまでにはいたっておりません。」

「(結局海軍が頑張ってくれても我慢比べであることには変わりない、か。いや、本来ならここから悪化していた方が可能性としては高かったことを考えると戦力を維持できたことを喜ぶべきか。)

戦術機甲、及び機甲部隊の状況報告はどうなっているかな?確か、東欧の第2軍集団が山脈の方に戦力を取られていたね?」

「はい。30分前から変わらず東欧の戦術機甲に関しては、カルパティア山脈と第1次防衛ラインの後方、急増している第2次防衛ライン前に主力を展開しており、その他は主要陣地に回されております。

ドナウデルタ及び海岸側に関しては海軍の支援に頼る形になり、各軍団より戦術機を抽出中とのことです」

そうなると、立て篭もる部隊への戦術機の部品が底をつきそうだな…確か東欧は未だMIG21が7割を超えていたから、どこからまわすべきか。

「被害の状況は?」


「はい。今作戦における戦術機投入数は東欧約3200。82時間後の現時点では中破機、国連からの供給分を含め約2800機にまで減じております。

一方国連は2時間前の支援部隊を含め現時点で約800機にまで拡大。

東欧に対しての緊急支援物資の中に教練用F-4が100機ほど納入されており、14時間後に再編成中の部隊によって6個中隊分が再戦力化可能とのこと。両軍合わせて完全な大破機は約600を超えております。」

教練用F-4は国際戦術機規格・衛士基本使用のことであり、もっとも基本とされる仕様の教科書というべき戦術機のことである。

新しい規約として全衛士がこの使用の機体に慣れておかなければならない…とされている基準機体であり、教育課程でこれに絶対に乗る国連の衛士と国連から援助されて出来た戦術機甲部隊の4割程度が扱えるポピュラーな基本仕様機だ。

「ということは、まだ十分に活動が可能だな。…国連の増加速度が速すぎてここでも吸収できそうにないから、そこをどうするべきか、か。」

現時点において、サルチオラ国連共同基地とここ、コンスタンツァ軍港を中心とする国連派遣軍は、旅団の7個戦術機甲大隊に国連の4個戦術機甲連隊=12個戦術機甲大隊。
アメリカの2個即応戦闘団(旅団相当)などが主軸となっている。

他にも戦術機甲整備大隊から、工兵、強装兵などがこのコンスタンツァ軍港に乗りこんでおり、総勢で一個軍団ほどの戦力が東欧に乗りこんでいるのだ。

ふと考えてみればここでおかしいことに気づくだろう。いかに戦術機甲など兵員数を抑えられる編成でここに乗り込んだとしてもいきなり一個軍団、最低でも四〇〇〇〇人を超える人員を乗り込ませることができるのかと。

だが実際にそれを完遂させている。ギリギリだが。

そこまで急激に部隊が増やせたのは卯ノ花さんの努力…だけではなく、

元々ここコンスタンツァ港が東欧最大の港であったことに加え、ここ数年、国連からの膨大な支援物資の荷運びの主要場として拡大に告ぐ拡大を重ねており、施設だけはしっかりと増設されていたためだ。

これは東欧と国連、そしてその支援主要国である日本との協力して対処する今の体制の元作りだされたとも言って良く、第1防衛ラインからの撤退作業の一環として海上輸送路を使っての撤退路を作りたかったのだろう。

だからこそ、ここに撤退してきた多くの東欧将兵が支援物資の代わりに送り出されており、防衛部隊以外では機甲科や戦術機甲以外の兵種が順次撤退していっているのだ。

まあその量が問題であり、管理するのに手間取っているということは言うまでもないが、作戦行動に支障が出るほどまでには至っていない。



「あと山田中尉、三交代制で出撃準備にかかっている第5大隊に少し待ってもらえるよう、大隊長と副隊長宛に第1級電文を送っておいてほしい。補給物資から予備の戦術機を今、回しているから…確かあそこは衛士があまっていたよね?」

「は、はい。旅団は救援任務から遊撃任務及び偵察任務に変更されておりますから、人員が余っていますが、グリフォンの補給が可能なのですか?」

「本国からの特急便、というわけではないんだけどリビアの国連直轄地の基地へ輸送するはずだった戦術機を拝借してもらったらしいよ」

「犯罪じゃないですかっ!!」

「その遅延に関しては、色をつけて日本本国からの増産分が2週間で回されるからそこまでおおごとにはならなそうだよ。同じ国連軍だしね。」

「横暴ですよ、大佐~」

「あ、あと申し訳ないとは思うけど基地司令代理とか…まあ大佐よりか地位で読んでもらえるかな?

もうそろそろ国連から派遣されたお偉方とかがここに来たりするから、そこらへんをね。
それ相応に振る舞わないと、両者間内で折り合いがつかないんだとさ。困ったことにね」

「は、はい!!基地司令代理!!」

今の俺の地位は国連サルチオラ基地司令代理兼、国連東欧緊急対策室室長代理兼、マリツィア(総撤退)作戦会議議長補佐兼、国連派遣団・作戦参謀本部長代理など、いろいろな戦時役職を賜っている。

…名前がやや肥しくて覚えられないと思うので、一番重要なのはここを経由して回される物資・武器弾薬を管理、認可する兵站管理全権を任されているということだけを分かってもらえれば良い。


そのためにこれまでお偉方とのテレビ中継に講じて、各国からの支援や同盟との関係調整。

兵站の問題からどこにどの部隊を廻すか、こちらの部隊が合流すれば、東欧としては何処の部隊を抽出、厳しい戦況の場所に兵力を回せるかなど、東欧と国連の情報を多く知る俺が、パイプ役を務めていたわけでだ。(バイリンガルだったこともその理由の一つではあるし、もちろん俺の指令ではなくその判断の補助だ。実質は違うが)

だからこそ戦場の詳しい状況を把握していなかったわけで、決してさぼっていたわけではない。


役職のほうも重なっててまどろっこしいことこの上ないのだが…それに伴い戦時期間限定の地位昇級が発生し、3階級上の中将と同等の権限を委譲(代理なので)されているから驚きだ。

40ちょうどの将官とか漫画の中だけと思っていたのだが…なってしまったのだから笑えない。

そうなった理由と言うのが、政治的空白地帯と化していた東欧において、人脈とその地理を把握している西側の他国人が圧倒的に少なく、その中で最高官だったのが大佐……まあ俺であった、とそう言うわけだ。

…それ以外にも東欧ともっとも密接に繋がっていた組織というのが光菱以下日本企業であったことも今の現状を作る要因なのだろうけど。

そうして選ばれた俺は派遣され、援助する側を統合する国連と助けられる側の東欧とを繋ぐ、パイプ役として振る舞うことを上に求められることになる。

しかも今回与えられた地位も結局は両者のメンツを立てるだけの地位であり、表の役職のじいさん連中が名前だけを貸し、実際の仕事をこなすのは代理のこのオレであり…名を貸しているじいさん連中はおいしいところを取っていく手はずになっているのだ。

別にこれ以上金と地位はいらんし、上手く協力できるのならばそれでいいのだが…なぜかムカツクッ!!

「(ごめんね、真耶ちゃん)ではこれからはそれで頼むよ。他の者にも徹底させてくれるかな?」

「は、はい」

まさにグダグダな状態。

隊の俺に対しての態度はこれまで徹底させなかったせいでもあるが、
その元となっている部分に関しては、今目の前にいる山田中尉でさえ、
「なんでこんなぐちゃぐちゃな状態?」と思いそうなものだ。

そんな俺に実質的指揮権が預けられている状態に関しては複雑でいい加減な理由がある。

それは国連軍と東欧との関係が非常に微妙であることが原因だ。

もともと国連は西側諸国が主導して作った物であり、随分前からはアメリカの犬のようにしか見られてこなかった。それは派遣される部隊のほとんどがアメリカ将兵や親米派の国だったから来る色メガメによるものだが、その思い込みというのはそう簡単に薄れるものではない。

それはここ東欧も同じであり、日本も最初はいやな目線を向けられたものだ。

そんなこんなでサルチオラからここコンスタンツァに陣取る国連派遣部隊の本部連中と、共同で基地を使っている東欧同盟の議会傘下の参謀本部との協力関係を保つために、東欧陣営から
「信頼できる将兵に計画を主導してほしい」と暗にお願いされたことによりやり玉に上げられた俺(親光菱派などの国際派陣営)が挟まるはめになり、

なら「両者のメンツを立てるためにも地位が必要じゃね?」

ってことになったのだ。

まあ代官を立てたことに関して言えば、俺が若いから来る不安も分かるし両者との仲介、折衝案を結果的に出す者がたかが佐官では部下への示しがつかないなど、軋轢を生じかねないということなのだが、だったら最初からやり手の古参将官もってこいっ!!

…と思うのだが一応は国連部隊であることから、仲介者は表向きだけでも日本人やその陣営のものではなく、関係のない南アフリカや南米の将官の名前を張り付けざるえなかった…らしいのだ。

確かに急であったことから根回しが必要な部分も完全には出来なかったのだ。

昨今の急激な国連軍の組織改変と増強、前線国家への基地の建造激化が原因と成って数だけ満たすためにやっきとなる国連軍。

実戦能力を持たない後方国家出の将官(いわゆる左遷、派閥争いの負け組)が運用や実戦の危機に対し、その能力の不安から佐官を代理に立てることが多くなっていたのは事実だ。

平時の権力だけに固執し、実際になにかを起きた時には責任から逃げる…典型的なクソ幹部や、左遷された腹いせに実権を振り回す、大隊と同じように軍を扱うバカ将軍が回されるよりかは困ったことにならないし、

その分挿げ替えが楽な…甘い言葉、例えば「座っているだけで良いんです。実際にはどこかでバカンスなど、美女の副官と一緒にいかがかでしょうか。将軍」と言って、責任を取らせるだけの残弾、変わり身となった将軍のほうが幾分かマシであり、そこらへんの人使いの荒さに光菱は定評がある。

そのおかげもあって実質的な権限の兵站と作戦トップは一応というか俺となっており、押しつけられるだけの権限をオレに預けてとんずらこいてる人達は今どこにいるのかわからない…

それを各組織にかけ合い、数十時間で形作ったのを主導したのはやはりというか、

光菱の若頭様の力が働いたらしいのだが…

「実際の指揮権の一部(実際には両軍への要請と兵站管理)を分捕れたことに満足しとけよ?」とドヤ顔で若頭に言われては「あ、はい」としか返せるものではない。本当にやるとは思っていなかったからだ。

こちらからしてみれば厄介事の責任を取らされたわけで文句の一つも言いたいところだが、けっこう偉い人などに会うようになってきた今でも、あの人だけ恐ろしくて何も言い返せないのが実のところである…

まあその若頭の関しては、実際にこちらが頑張れば、この現状を覆せる環境を作っていただけることからも、不満は心の中の愚痴ぐらいで取っておけるくらいなのだが、問題は東欧の連中と国連の奴らだ。

あいつら両者ともに補給品の規格が違うのは説明せずとも分かりきっているはずなのに…平然と

「この分では十分な活動ができない」と言ってくる。

「もっとよこせっ!!ハリーハリーッツ!!」と言われても国連規格品が少ないんだからしゃあないし、なによりここの地理や要塞の利点も知らずに、前線に行こうとするなっ!!

準警戒区域(レベルイエロー)に属するボスポラス海峡を通ってまでここに来てくれる船団の供給分は、両者を最大効率で運用できるように廻してはいる。が、やはりと言うかそれでも理解してくれない者は多い。

結局のところ、両者ともに上の連中とは光菱関係から来る利権を餌に、俺と協力することには納得しているわけだし、東欧の方へは今までの関係から、国連へは上からの言い渡しで両者が協力することには賛成しているし、全体の作戦に支障が出るほどではない。

だが俺ら(旅団を含む国際派閥)抜きで未だ協力関係を構築する暇と気持ちがないことはわかりつつも、
そのストレスや批難の的に"わざと成らされた"俺にストレスや嫌みを言うことを厭わないバカ…訂正…正直な方が多くいるのも事実だ。


例えば今画面の前に出てきたヤツとかね…

「…ふう、やっと通じたか。こちらは国連統合軍第37師団師団長レイヤ―・ムティグーチ少将である。

黒野大佐、先ほどから何度も要請したとおり、我が第37師団への補給物資が滞り始めている件と例の追加部隊の話だが…どうにか融通がききそうにないですかな?」

その名はレイヤ―・ムティグーチ少将。国連内でのアメリカ派閥に属する将兵であり、親米派諸国軍内におけるエース的存在。

そして今現在、ここ東欧に置いての国連の活動方針に真っ向から対立する男の名だ。


続く~

*****************:
次元管理電脳より追加報告です。

※欧州全軍についての追加情報です。NEW!!

・《東欧社会主義同盟軍》総勢580万

戦術機数約5000機約7割強がMIG21
※編成
一個軍集団=三個軍
一個軍=三個軍団
一個軍団=三個師団
一個師団=約2万

ドナウ川防衛線=三個軍集団約140万。15個戦術機甲連隊

カルパティア山脈要塞線=三個軍集団約170万。18個戦術機甲連隊

=東欧戦線合計310万

※東社同盟においての戦術機甲部隊の戦略基本単位は連隊であり、戦術基本単位は中隊。東欧全ての戦術機数に比べ各戦線にある戦術機甲部隊が多く見えるのは、部隊定数に届かない部隊が多いため。後方や派遣先に1200機ほどある。

後方予備等200万、海軍約40万、派遣軍他 


・《中部欧州総軍》約220万

オーストリア、チェコスロバキア、ハンガリー、東欧派遣軍、EU派遣軍


・《南欧海峡絶対防衛軍》約190万

ギリシャ、トルコ、東欧派遣軍、北アフリカ派遣軍、EU派遣軍、国連軍が多く占める



・《西部欧州総軍》420万(西ドイツ国境要塞線280万、デンマーク縦深要塞60万他)

・《北欧王国連合軍》約130万

国連軍が多く、寒冷装備を持つ国が少ないことから日本とアメリカ、カナダなど限られた国しかいないため、国連軍ではなく日米同盟軍とも揶揄されている。

『海軍』

欧州の海軍はバルト海、北海側と地中海、黒海側の二つに大きく分けられている

・《バルト海・北海側》

世界第2位の規模を誇る英国海軍が基軸であり、フランス海軍、西ドイツ海軍、北欧連合海軍と規模は続く。こちらにも国連海軍は多いが実質、日米海軍である。


・《黒海。地中海側》

東欧海軍お寒い限りであり、東欧に面する黒海に常駐する艦隊は少なく、黒海に関しては東側陣営からの国連派遣の艦隊が多い。

南欧に関しては国連軍が多く、イタリア海軍、フランス・スペイン地中海艦隊、国連地中海軍、北アフリカ連合艦隊、南米派遣艦隊、トルコ海軍と規模が続く。






新しい兵器が登場しましたNEW!!


日本帝国海軍

【高瀬級軽巡洋艦】

同型24隻
排水量1万5000トン

主砲254mm単装速射砲5門

最近の情勢によって、後方諸国は前線諸国への義務としての派遣軍を、陸軍ではなくリスクの少ない海軍による海上支援を重点を置くようになってきた。

この流れを上手く活かそうと考えた日本は1984年よりその施行が成された高瀬級の大量製造を開始。

その光菱の総力を結集したことでその口径から考えれば脅威の長射程―――最大射程距離56キロ・有功射程距離48キロ―――を実現したこの主砲は光線級の射程外から一方的な射撃を可能とした。


また、同じ射程距離を持つ戦艦(356mm)と比較しても、光線級の超出力の前では、砲弾の即時融解。

連装砲として同時に着弾するかずだった同砲弾も、空気と共に砲弾がプラズマ化する影響で、良くて見当違いの場所に外れるか、悪くて誘爆する可能性が高いため砲弾の大きさに関係せず迎撃されることを前提に置くと

結果的に光線級よりもインターバルが短い254mmに分があることになる。(単装砲だが速射が上がっている影響で光線級のインターバル12秒を凌ぐ約8秒の継続射撃が可能)


さらに口径が小さいことから来るコスト差を考えればさらに結果に差が開くため、対光線級艦艇として世界で注目されており注文が相次いでいる。

(※その分、一度の破壊力が少ないため、光線級がいなければ戦艦よりか戦果は低くなるし、光線級が一艦の保有砲数以上ならば迎撃されてしまう)



【最上級大型巡洋艦】 NEW!!

原作にも出てきた戦艦と同程度の指揮能力を持つ大型巡洋艦。

1976年より施行したこの最上級各艦だが、搭載砲を先ほどの254mm
単装速射砲を14基搭載しており、戦艦の露払いとしての能力を持たされている。



・『83式無人偵察機』 NEW!!

光菱の技術者は前線に置いてまずBETAを見つけることの大切さに目がいった。それは航空機にもとめられた最初の任務、上空からの戦場の把握、偵察である。

しかし光線級による百発百中の迎撃能力では、航空機の飛ぶ空は地獄であり、何より求められるのは撃墜されても損害にはならないことであるとして、今回の無人偵察機の開発に乗り出したのだ。

求められる物として

コストパフォーマンスに優れる設計と生存性であり、

軍用機としては禁忌に属する『民生品との互換性』をもとめつつ、光菱総研から来る新技術によって小型化・低コスト化に成功した。

これはこの時代、自動化技術の進歩と最近になって大型ラジコンが流行していることに目をつけたもので、おもちゃ会社と提携。

機体本体と電子装備ブロックと分けることで、撃墜時に地面に落ちても回収可能な仕様にしたことで生存性の向上に成功。

互換性を持つ民生品と、海軍が欲しがっていた海上無人偵察機とで共同に計画を進捗させた結果でもあり、そのコストは国連直轄地で製造することを国が許可したことでさらに下げられ、(※国連直轄地での製造工場は許可性。国内からの技術流出を防ぎ、空洞化を防ぐため)空前絶後の低コスト無人機が誕生した。

これに対し、国連はその有用性から『国連選定無人偵察機』として日本と共同で補助金を与え、前線国家に対しさらなる低価での提供を行っている。


また、無人偵察機にも編隊行動が有用だと判断されたため、4機のダイヤモンド陣形を基本に右左前後の機体に役割を持たせ、

後ろを基点機として、他の左右前の3機が高度を後の機体よりも100mほど上げることで、無人機隊としての生存性を上げることに成功した。


以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。

*****************

筆者の戯言

この作品は本編において経済、軍事を含めた政略編を主としております。
その分、本編で足りない戦闘描写の補てんするための外伝です。
そのためどうしても外伝のほうが書くことが多くなってしまっています。

だって政略だと戦いが無くてつまらないし、盛り上がらないし…

という理由ですが、さっさと本編の改訂を進めて話を繋げて行こうと思います。


さて外伝本編のお話ですがどれだけ主人公が光線級を脅威に思っているか、今回の話でお分かりになったと思います。

人事に関して言えば、緊急事態だったこと・新設・改設されたばかりの国連統合軍という組織の未熟性・そして運とご都合主義が絡まって実現しました。その分量の割合は読者様の気持ちしだいということでお願いします。

そして最後に登場した少将…どこかで聞いたことのある名前ですがその人との関係は一切ありませんのでご注意を。

次の更新はまた外伝、そして2週間ほどかかりそうです…


では次回にて




[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-3話 対立
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/01/06 16:08
※お知らせ※

イラスト『GF-4J 瑞鶴』をPIXIVにて上げました。

「光菱財閥 Pixiv」などで検索していただければ見つかると思います。


***************



1985年1月18日 1540 ルーマニア社会主義共和国 コンスタンツァ軍港付近 国連派遣軍増設基地群 G棟地下2階フロア 戦域情報管制室




目の前の画面の前に佇む男。

歳をとり戦果を重ねるごとに、あったはずの髪がなくなりちょび髭を生やした…見るからに傲慢不遜な中年男性。

そのような外見を持つ男が俺の目の前に佇み、反論を重ねてくる少将、

国連統合軍地中海総軍 第1軍所属 第37師団 師団長 レイヤ―・ムティグーチ少将、その人である。

国連内では最大派閥である親米派に属し、その対極に位置する者から見れば、フィリピン陸軍出の『勇猛果敢すぎる少将』と評されるこの男。

今回の作戦で見てみれば、未だ影響力が低い東欧などの黒海周辺地域でのプレゼンス能力を見せつけるために、さて活躍してやろうかと活き込んでいたいたところ、最近拡大の一歩をたどる親日派の連中に先を越され、主導権を握られたことに腹が立つ一味であり、その代表格である。

そのおっさんが俺に何度もいちゃもんを突き付けてくるのだ。

「何度も言っておりますが、黒野大佐。先ほどから何度も要請したとおり、我が第37師団への補給物資が滞り始めている件と例の追加部隊の話だが、どうにか融通ができませんかな?」


「レイガ―・ムティグーチ少将…確かに少将の師団の出撃比率は他の部隊に比べ、高かったことは記憶しております。
ですが3日前の補給物資をもうお使いになるほどではなかったとも記憶しておりますが、その件にはいかに?」

先ほどから、相手をバカにする態度―――軍ではその個人が納める最高位の位か地位で呼ぶのが通例となっているのにもかかわらず大佐と呼ぶこの少将。

まだ国連軍という組織がここ数年で急激に拡張されたことで、国連に将官、士官がいない現状。

国連では各役職に権限に加えて、その役職に座り続ける間限定の将官としての地位が付随させることでお茶を濁しているのもあるがどうみても「この若造に主導権を渡すとは軍の上の連中はなにをやっとるのだッ!!」とか思っているのが見え見えの少将。

その気持ちもわからないではないが、(だって無理やりやらされてるわけだし)どうにかこの作戦を上手くまとめるためにその息巻いている口を閉じてもらいたいのだが…臭そうだし。

まあ先ほどのことを踏まえれば本来ならば本部長代理(中将相当官)で呼ぶか、その用途から最低位の基地司令代理(准将相当官)で呼ぶものなのだから、それを意図的に無視する目の前の男に関して、旅団内からの評価が絶賛最下位記録更新中の将官でもある。

「あの量では2会戦も持たないと何度いったらわかるのですかっ!!即応部隊であり、機甲部隊である我が部隊は十分な補給が無ければ、その期待に足る戦果を実現できないが…それでよろしいので?いま戦力に余裕があるのは海を使っての輸送ができるここだけなのですぞ!!」

ですぞってムックかおまえは。

だが言っていることはその通りだろう。機甲師団、戦車や装甲兵、戦術機を含む少将の部隊を動かすのであれば、それ相応の補給を満たさなければ結果がとも合わないものだ。


だが

「それは確かにそうでしょうが、なによりも貴下の師団の攻勢作戦の出撃は当分ないのです。

少将の師団に求められていたのは撤退路の維持、後退する部隊の周辺警護の任務だったはず。そうであれば少将の師団への補給は十分持つ量、そのはずだったのですが。」

「―――それは我が師団が任務放棄をしていると?」

「そうとは言いません。ですが現状、その補給量に限りがある以上、少将の師団にも我慢してもらわなければならない。そう言っているのです。それがここ、国連軍と東欧の現状とご理解していただきたい。」


「……」

その言葉も真実であることを知る少将としても黙らざるおえないものなのだが、腹立たしいのだろう。顔面から怒気がにじみ出ている。

…もちろん俺のような若手が上司であること自体許さないというのは分かる。どこから来たかもわからない若手、日本が最近になって力をつけ、今回の人事にねじ込んだ。そうも見える者からしたら敵でしかない。

確かにその通りである一面もあったが…まあこれ以上は言うまい。今わかれば良いのはこの人のような派閥は俺に憎悪し、その部分からくる作戦方針への反対しているという一点だけだ。



そもそもその派閥の代表と目される少将の戦果、その特徴としては十分な後方支援のもとで最大の活躍する、そのようなタイプの将官だ。

が悪く言えば、その後援であるアメリカからの補給物資量に頼った戦い方しかできないということであり、兵站、補給に関してまったくといってこちらの理解を示さない、やっかい極まりない男ということになる。

確か出自でしては大戦中にフィリピンに流れた日系と噂されており、その分功績を上げようと躍起になっているらしいのだが、補給を考えずに行って、部下が帰ってこないという最悪に近い将官でも有名だ。

あのアメリカ派閥の将官は生粋のアメリカ将兵ならば、最優秀とは行かないまでも日本帝国よりか平均では"軍の方針がわかってくれる"将軍が多いのだが…他が優れない。

ここまで勝手にできるのは、その戦果に見合った?結果をなんどか上げているためでもあるのだが……一番大きいのは国連部隊に転属された当初、ほとんど偵察を行わずに連隊全体で勇猛果敢な突撃を敢行。

その勝手な突撃に近隣部隊が助攻を開始したおかげで、見事に戦果を上げたらしいのだが、そのことを国連の上部新規加入組がいたく気に入ったらしいのだ。

実際、アメリカ派閥の他国将官は経験不足や実戦不足からか、パッとしない者が多く、逆に言えば堅実な者が多い。

だがその堅実というのも対人戦闘を考慮していた昔の名残の教育線上の物であり、BETAに対しても堅実とはいかず失敗が多いのも事実だ。

そんな中その過程はどうとしても、結果を残した少将は評価されるべきではある。

が、その助攻をした部隊が3つとも国連派遣された使い捨て米移民兵集団であったために、「米派閥に属する他国将官の評価を上げる必要がある」として政治的な介入が成されたためにその評価にプラスαがついているのも見逃すべきではないだろう。

それ以後、親米諸国将官内での急先鋒として各地で活躍したこの男は、アメリカからの優先的な補給態勢と部隊整備を受けられることからそれに頼った攻勢を峰とし、そのためその幸せなほどの後方支援を"普通"と考える癖がついている。

…あの国の兵站能力を普通と考えてもらっては困るのだが、彼から言わせればこちらの怠慢で、どこかでピンはねしているとこちらを疑ってきているのだろう。

少し後ろのことも学習してほしいものだ。戦前の日本じゃあるまいし。


話は進み、少将の
「未だ米軍傘下になっている我らに対して、そちらに出撃命令権はあっても、自発的な出撃を止める権利はないはずですが?」

という言葉から始まる国連の問題に差し掛かった。

これは今の国連において最大の問題点となっている『指揮権が絶対的でない』という部分の弊害、その象徴だ。

BETAに対して集団で対処する、それしか人類がBETAに勝つことが出来ない。それは誰しもが口をするがその重要性を本当に第一としている者は限りなく少ないのが現状である。

それは戦場から遠ざかるほど比重が小さくなりもので、国家間の妥協が無ければ現状のような《国連軍》としての形でさえ作れはしなかっただろう。

そしてその国連軍にしても日本からの新しい影響があったとしても妥協の産物でしかない。

それは今に置いてもその『妥協による弊害』は作戦を阻害しており、

今回の緊急時のような指揮権の順位付けが成されておらず附属が軍レベルで違う場合、上位者に対し作戦を否定することは出来ずとも、自発的な行動を制限することは国連としてできないのだ。

これは指揮としての問題としてゆゆしき事態であり、たかだか数年で急速に拡大した国連軍としての問題点でもあるのだ。


「…確かにそれはそうですね。自発的な協力を第一とした、前年まで実施されていた義勇軍。それを形にした現状の国連に少将の行動を作戦行動無しに阻害することはできません。ですが、今の全体の動きに対して悪害としか成りえない行動をとるおつもりなのですか?」

それは暗にそちらがそう動くのならば、こちらもその部分を使ってお前らを邪魔してやるぞと言っているに等しい。大人の喧嘩は敬語でルールに則ってやるから伝わりづらいものがあるが言っていることは子供の喧嘩と変わりない。それによって守るのがプライドに付随した利であることも。


「もちろん極論です。ですが我が部隊に対しての補給は今回、作戦司令部からは十分な量を約束されているはず。
確かに現状ではそれを物理的に満たすことは不可能であることは将官も重々理解しておりますが、それを打開するために支援を要請する必要があると考えますが?」

来たよ…一番言って欲しくない問題点なのにさあ


「―――と言いますと?」

「今からでも"こちら側"に任せて戴けるのなら、ここ全ての部隊が5会戦分の補給を行えると試算が出されているのです。
こちらは現在の東欧の現状に憂いております。それを助けるためにも我が部隊が送られ、それに追加して補給物資を臨むことも可能かと考えますが…どうかな?」

"こちら"と言っているように国連も一枚岩ではない。そしてそのこちらとは少将の後ろにいるアメリカの軍部、それもこちらに反対する派閥のことであり、とてもやっかいな相手だ。実力うんぬんではなくアメリカということだけで。


「(まずいな…ここでこの少将との関係をこじらせると後で大きなしこりとなることは必定。どうにかして問題を納めたいものだが…あちらは納めようとする意志が無い。非常に拙い…)」


それは日本とアメリカとが国連内部で主導権争いをしているという証左、しかも日本とアメリカとが直接ではなく、表向き以上に親米派の諸国と親日派の諸国とが対立化が進んでいることに他ならない。

この反日派と呼ばれる国連派はアメリカの抑えが効かず、どちらかといえば放置しているとも見れなくもないが、今回のようなあいまいな部分をついてくるケースが近年多発している。

それはアメリカというボスに頼った「虎の威を借る狐」に見えなくもない。

だが、絶対的なアメリカによる世界の安定、他者から見ればアメリカの覇権が揺らぎ始めている現状を許せない。そういうアメリカの派閥が協力して介入しているらしく、アメリカ最大の長所である後方支援を武器に主導権を確固たるものにしようと動く急進派の仕業でもあった。


これは国連の内部に起こった新たな火種であり、日米両国政府が沈静化を推し進めようとも収まらないほどまでに発展、人類の中で新たな問題となっているのだ。


…見誤った、と言って良いだろう。今回の"根の張り"が甘かったこともそうだが、アメリカへの対応を間違えなければ今回の問題は『国連と同盟』だけ、そう考えていたのだから。

だが実際は違う。アメリカも西欧の状況を知ることで東欧の危機に関し、拙速を選んだことに間違いではないと判断していたし、今回に限れば即断してこちらの主導権を肯定してくれた。

だが、その下がそうとは限らなかったようなのだ。またもや日本が独断で行動を起こしたと、そう思いこもうとしている。

まったく度し難い。その主導権争いによって死者は増加し、責任がこちら側にある以上、その死者の増加はあちら側の利となる皮肉。

だからこそ止まろうともしない輩。それが正義と信じその死者をただ単なる数字として見ている者は非常に多く、相手への問題点として刷りかえる者は悲しいことに少なくない。

アメリカの覇権、それによる人類の主導こそが正義と信じて。


だが一つ忘れてはならないのは我々光菱、ひいては日本は相対的利益として、アメリカの国益を損ねたことは一度もないのだ。

目的としてもアメリカに意見を言える組織を作りたいがためで、アメリカの地位を転落させたり、決して一位、世界の警察としての立場になりたいわけでもない。

経済規模が小さくなっている現状、アメリカの成長はある程度不正を働いたとして注意するぐらいで阻害しようとしているわけではなく、現に日本が行動を急転換した1981年、そこからの米経済は良くなっている。

しかも利益を上げているのは日本と協調した部分であり、あの国際戦術機選定計画によって激変した戦術機のシェアにしたって、シェアとしてのアメリカの割合は確かに激減しているが、パイが大きくなった影響でアメリカの利益としては前年と比較しても激増しているのだ。


結局のところ『感情』 それが問題であり、アメリカの過剰な恐怖心によって超されたものなのだろう。

そう、こちらと強調しているアメリカの派閥は危惧している。

さてさて問題はアメリカからの支援、それをどうにかすることだったな。少し俺も疲れているのだろう。


「…それが行える部隊を国連経由で回していただけるのならば、こちらは何も言うことはありません。

現にアメリカからの物資量は日々増えており、それに関して私達は国連を代表してお礼を言わなければならないでしょう。」

「それはそうでしょう。BETAが押し寄せてから早3日、我々を含む国連大西洋方面総軍からの派遣部隊も順次活動が可能となっておるのです。

この機に新たに陸揚げされた2個師団を戦線に投入し、未だ後方に取り残されている東欧の友邦達を救出するべきではないか、そう新たに来た国連将兵は嘆いておりましたぞ?」

それを言っているのはおまえだろ…


「確かに現時点で撤退が完了していない、第4軍隷下の第25、28歩兵師団が要塞線第3陣地にて孤立しており、早々に撤退を完遂させるべきではありますが、それは私に言うべきではないかと。なにせそちらは東欧の管轄ですので。」

まあこれに関しては、方便でしかないのだが。

「だからこそ、こちらの戦術機甲部隊を中心に決死隊を募り、あちらの部隊を救出しようと言うのです!!

『我々は味方を見捨てない』かの有名な京都協定で日本の首相が述
べられたことではないですか!」

確かに現時点、3日立った今でも全ての部隊が撤退出来る状況には程遠い。

それをどうにかするためにもこの少将は戦術機甲部隊を中心とする部隊で西進。黒海から内陸に150キロ、カルパティア山脈の付け根より東に20キロの部分に籠っている友軍約4万をこちらから救い出そうと言うのだ。

確かにそこは要衝ではある。交通の要として重点的に整備され、山脈側とデルタ側の中間に位置する一番弱い場所を守る軍への補給線でもあるからだ。

だが

「では正直に述べますが、そこの部隊は必要だからこそ、そこにいるのです。逃げられないわけではない、撤退するべき我々を逃がすためにそこに張り付き、部隊全てが撤退することを今か今かと待っているのです。その努力を無駄にしないために我々を動いている、そう我々は考えております。
―――今の現状が撤退戦であることからして。」

ここにいる我々は結局のところ、港を使って撤退する東欧の部隊を守るためにいるのであり、大きく動いてはならない。

部隊を増強しすぎれば補給に限度がある以上、今でも溜まり続けている敗残兵に飯を食わせられなくなり、自然全体としての動きは遅くなる。

だからこそ海と、陸、山三つの撤退が終わるまで、その攻勢の囮となる部隊が点在しているのであり、先ほど述べた2個師団もその一部なのだ。

いわゆる殿部隊というやつで、撤退と言う負け戦において一番被害が多くなる敵の追撃を、撤退する本隊に及ばさせないためにいるのだ。

その彼らを救うために兵を出しては彼らの目的にそぐわない。それはその部隊を侮辱することに等しい。

「だが、助けられるほどの充実した戦力がここにいるのならば助けるべきではないのですか?現時点においてここ、同盟が呼称する第1次防衛ライン周辺には13万ものBETAが犇めいているのです。それよりもそこの部隊をこちらに移し、協力して当たることの方がよろしいと考えますが、いかがかな?」


そう、北から来るBETAは約一三〇〇〇〇に減らしてはいるが、今だルーマニア国境線から南に50キロまでわんさかいるのだ。

通常であらば撤退するまでに張り付けている戦力はすり減り、救い出すべき戦力が摩耗していくのは自明の理であり集団で対処するのは的を得ている。


「戦力を点在させることは敵に各個撃破される…そう言いたいのですね」

「然り」

「ですが、現状がそれを許しません。たかだか5個師団が7個師団になろうと敵が多すぎる。ただ呑まれるだけでしょう。

しかもBETAから撤退した部隊ということは、人員を優先させた後退によって戦力を維持できておりません。

そうなれば戦力が低下した2個師団。他を含めれば6万にも及ぶ人間が撤退するまで防戦となるのは必至。そこに打って出るべき戦力を持ちながらです。それは全体として痛手でしかない、そう考えるのが自然なのではないですか?」

「…ならば見捨てろと?我々は救出を旨としてここに来たのですぞ?」

て め え が そ の 活 動 を 阻 害 し て ん だ よ っ!!気づけ豚っ!!

「確かに2個師団の撤退を行えたらとは私も思います「ならっ!!」…最後まで話を聞いて戴きたい。」「…」

「ですがさきほども言った通り、ここに集まりすぎれば奴らはここに集まっている我々を第一目標にして集まってくるでしょう。

それは2個師団といったひな鳥が頑強な巣穴から飛び出し、こちらに移りこもうと獣の目の前をヨチヨチ歩きでこちらに来ようとしているのと同じなのです。

それに釣られるのは2個師団を攻撃している集団だけではなく、各地で陣地を壊して回っている個体も招き寄せる結果に繋がるでしょう。

我々がなぜ部隊を点在させつつ、伏撃や遊撃に努めているかお分かりか?」


「確かにそうですが…」


「それは急激な部隊活動によってBETAを招き過ぎずに撤退を行っているからであり、敵にここが重要拠点であることを知られては困るからです。

敵は人間ではなく、BETAなのです。

今現在、機動力という点に置いてこちらが勝っている唯一の兵器、戦術機を使って各地に散った個体を狩り、撤退路確保。違う部隊が付近のBETAを狩ることでBETAを各特火点に誘引。特化点が派手に騒ぐことで敵集団の目を特化点と殿部隊が引きつけ、撤退をスムーズに進められているのです。
決して撤退がスムーズにいっているのは運やBETAの気まぐれだけではありません。だからこそBETAが足を取られている現状、こちらが行方をくらませつつ、小部隊ではぐれたBETAを狩ることこそが今求められているのです。」

本来ならばこの窮地に戦略的に行える策はそう多くない。

戦線戦力の順次後退。

いわゆる戦略的撤退というやつだが、これはBETA相手に有効か?と聞かれれば首をひねらなければならない。

なにせ相手はBETA。こちらよりも圧倒的に速く強靭で、人を見つける察知能力もずば抜けており、尚且つ補給いらずに渋滞知らず。

そのような相手に手負いの人間が逃げられるわけがない。

それはBETAとの戦史にも表れており、その特徴というのは撤退するべきところで撤退が行えないと言う点なのだ。一度戦線が崩壊すればそれでそこの兵は喰われる。そうまで言われるほどの被害が撤退時に出てしまうのがBETAとの戦いなのだ。

それを知らずにもし、人を相手にするようなただの順次撤退を行えば、こちらが戦線と言う巣穴から出るひな鳥のように相手は見えるだろう。その中でひな鳥はどれほど生き残るか。

人と人との間に起こる撤退戦でさえ被害を抑えるのは難しく、その被害の多くは追撃戦にこそ出ると言われるほどのものであり、BETA相手であらば速力や体力といった面で圧倒的に負けている分、その殲滅速度は加速度的に上がる。

本来ならば部隊丸ごと見捨てるのが、BETAとの戦いでの一番良いものだが、人はそれを許せずいらぬ被害をこうむるのが常であり、本来ならばここまで体制を崩されては撤退というのは愚策に等しい。

先の少将が述べる味方を救うための攻勢は、撤退まで十分な支援と戦力が整っていれば行えるもので、今、たかが2個師団を救出するために割いて良いものではない。


そしてもう一つが西欧側の強襲。

相手が攻めてくるならば逆側の部隊が攻勢をかけ、こちらに来ているBETA群を後退させる。これがBETAに効くものかわからないが、確かに西欧が攻めれば東欧が戦術機等で攻める、その方針によって敵の戦力は今のように分散している。

だが今回はそれが敵わない。ミンスクからだけではなく複数からなる敵集団はミンスクの個体数にかかわらず攻勢を続けるだろうし、尚且つ今現在、北欧、西欧ともに小規模2万程度の攻勢撥ね退けている最中で身動きが取れない。


そして最後に後方予備軍が後方に進出したBETAを掃討するまで、戦線の大部分がその場所を死守することだ。

本来であればその土地に固執する将というのは愚将と蔑まれるものだが、撤退がただの蹂躙戦となる以上、土地にこだわり贄となってもらったほうが幾分かマシだ。

一番怖いのは未だ12万という数のBETAが戦線を超え、そのままこちらになだれ込んでくることなのだから。

これが一番現実的な策と見られ、戦線の戦力はすり減るだろうが、通常の撤退よりかは戦力が減ることはないだろう。長くて1週間。

戦線に備蓄されている物資ならば十分に耐えられるはずだ。


―――と日本と光菱がここに干渉しなればそう判断していただろう。


だが今回の東欧は違った。


東欧は早々にある決断に踏み切ったのだ。それがドナウデルタを含む、第1防衛ラインの決壊とその破棄である。

この決壊というのはダムの崩壊と同義であり、プルート川、シレト川、そして国際運河に指定されているドナウ川の下流に位置するドナウデルタ全ての栓を外し、最近の雨量増加によって貯められていた水をオランダのウォーターラインのように、意図的に洪水を起こさせる…というものだった。


それによりBETAの一部は足場の不安定な大地に飲み込まれており、その間にカルパティア山脈に戦術機甲などを集中。

それまでプールト川、シレト川、そしてカルパティア山脈の3重線であったカルパティア山脈防衛線を、前二つの川を破棄することで、安定させることに成功した。

そのカルパティア山脈と第2次防衛ラインとして建設されたプロイエシェティとコンスタンツァを繋ぐヤロミツァ川要塞線(ルーマニア国境線より後方70キロ)を繋ぎ、第2次防衛ラインを急造でも完成させようというのだ。

敵もドナウデルタ陣地のほうに集まり始めていた時に決壊した影響で、洪水が勢いのある時間、多くのBETAがそこに停滞していた。

そしてその洪水が強い中、整備された地下道などを通って人員などを中心に撤退。

今まで行っていた要塞線という線ではなく、先ほど少将が述べた点在する部隊というのは、その洪水の中でも進んでくるBETAを中世の城塞都市のように閉じこもってひきつける役目としてそこにいるのであり、自らを餌とし、我々を撤退させるためにそこにいるのだ。

幸い戦術機は下が水で満たされていても、跳躍しながらの移動が可能だ。そうして先の殿部隊が敵を引きつけつつ、そこに派遣された戦術機部隊が騎兵のように打って出ることで被害を稼ぎ、さらに敵を引きつけてくれている。

そうして数を減らしたBETAが、完全ではない第2防衛ラインに来たとしても、殲滅は可能な規模にまで減らすことには成功している。

このパターンで敵の密集度を下げつつ数を減らしているのだ。


「奴らはこちらが何もせずに明け渡した広大な土地を目にして、洪水の勢いが無くなり始めた今、更地にしようと躍起になっているでしょう。

それはこれまでの経験からもはずれは無く、洪水によって足場が不安定となり突撃力を失ったBETAとの間に距離が出来たことから、目的はすでにそちらに移っているBETAが大半となっているのです。

やつらがその餌に群がるのならばそれで良い。その間にこちら整えられるのならば、です。

ですが、たかが洪水だけで敵が止まるはずもなく、その更地に全てのBETAがあつまるわけでもない。

だからこそ、先ほど少将がおっしゃった二個師団、それ以外にも各地に点在している部隊がいる部隊をその場に点在させているのです。

部隊がいる場所は交通の要衝であり要塞の重要区画、それ故に鉄道による撤退と補給、そして地下道が整備されております。

現に今も部隊が逃げに適した戦術機甲部隊などに代えられ、数の多い部隊は順次撤退しているのです。

ならば我々は食事に勤しむ獅子の集団から外れた者どもを殲滅、もしくは遊撃による消耗を促し、逃げ帰ってくる。

そうして、後ろの防衛ラインが整うまで時間を稼ぐ、それが同盟と国連がだした答えではないのですか?」


そう、ここは要塞陣地だったのだ。各重要地点。撤退時に基幹と成る部分には地下鉄網や地下道といったものが地下水道と同じく蜘蛛の巣のように敷設されており、そのほとんどが使用可能である今、それを使って人を撤退させている。

また先の点在している基地関して言えば、撤退するために人がそこに集められ地下や鉄道で撤退する以上、必然的にBETAは集まってくる。

その攻勢を凌ぐのは確かに危険ではあるが、その巨大な基地へ攻勢を仕掛ける以上、BETAが溜まりそうな場所というのは軍も要塞を構築する以前からわかっている。

だからそこに、光線級や大型BETAが佇んでいたり、渋滞になっていそうな隘路や囲地といった奇襲をかけやすい場所付近へと通じる(直接ではない)地下道が作られているのだ。

そこに強化外骨格部隊――日本の光菱と技術提携を結んだ遠田技研製の中型パワードスーツ「ASIMOZ」に始まり、昨今の日本戦術機関連技術の各段の進歩の余波を受け、地下道を通れる小ささと安価でありながら機動性の富んだ強化外骨格が日本から東欧へと流れており、歩兵では運ぶのが難しい大型機関砲から、対光線級用無反動砲、大型迫撃砲などを使って伏撃や逆襲撃をかけている。もちろん費用的に余裕のない東欧では歩兵も付随してはいるが。



「ならばBETAが貴官の言うように足を止めているのならば、逆襲の時ではないか!!そう、そうだ。日に日に増加する国連軍を使ってノルマンディ作戦のように逆上陸をかければ良い。

ここは幸い海に近い。海軍からの支援砲撃、今だ国連海軍の体制が整えられていないのならばアメリカに頼めば、海兵隊と空母による殲滅も可能だろう。どうだ?」


どうだじゃないだろう…口を慎め豚。こちらがアメリカと問題を起こさないために放置していたが…後で法務部あてに苦情を出すのは確実なことを今、目の前でしている。コイツほんとに少将か?

「逆上陸作戦を計画するだけで時間がかかるものです。それに何より同盟とともに計画をならない以上、この場でどうこう言えるものではないと考えますが?」


「貴官が気にする同盟だが、今は国がどうこう言うべきではないはずだ!ここを救うべきとしてこちらに従ってもらうしかないのではないか?

それに貴官にはこの作戦においていろいろな権限を与えられているはずだ。今イギリスにいるはずのアメリカ第4艦隊に応援を要請するべきだと考えるがどうだ?

あのアメリカより先んじて支援部隊を派遣し、3日でここまで部隊が収容出来たのだ。日本側ならば出来ぬはずもあるまい?」

「…我々は撤退しているのです。今だBETAの数は10万、周辺に散らばった個体を含めれば13万に迫るでしょう。その集団を叩くほどの部隊をBETAの食事が終わる前に揃えるのは非現実的です。

そしてなにより、ボスポラス海峡の現状から見ればこれ以上の運航ペースを上げられません。守勢に回るしかないのですよ少将。」

「―――!!」

確かにアメリカ軍の兵站能力の高さは人類屈指だろう。だがボスポラス海峡を通った海運に慣れたいるのだろうか?

ここ2年で日本はボスポラス海峡を通じた民間、軍両方の海運能力によってここ、東欧に物資を運んできた。船舶の国籍は違うが、それを運用している企業は全てこちら側の人間であり、それ相応の訓練が必要でもあったのだ。

なにせあの南欧、ボスポラス海峡にはBETAが幾度か進出しているのだ。警戒等を含めればそれ相応のリスクと費用が必要になってくる。

今回だって結局のところここに物資を運んでいるのは地中海での国連事業を手掛ける日本海運企業連合であるし

実際に支援砲撃を行っているのはクレタ国連軍基地の地中海国連海軍。それから送れること二時間、拡大建造中の対ガシアンテップ前線基地「キプロス要塞群」に停泊中の日本海軍遠征第3派遣艦隊が今だ中心となっているのだ。

これだけ見ればボスポラス海峡を対BETA用に拡大事業が行われた影響で、大型船舶が渡航できるようになった影響もあり、東欧と南欧の協力体制を確立させる上で大きな役割を果たしている。

だが、そのローテーションや独特の海流、そして民間護送船団方式など一朝日中に行えるわけがないし、空母などといった大きな部隊を廻すことは出来ず、第3派遣艦隊のように中規模の艦隊が交代で補給をするしかないのだ。


「そして前にも言いましたがこれは撤退作戦であり、無駄な消費や突撃を国連軍も、ましてや救われる側の同盟は求めてません。ただ友軍が安全に撤退出来る退路を確保できればよいのです。

幸い、カルパティア山脈の一部を奪回できたことから山脈側の山砲台群と黒海からの国連海軍からの火力特化点は多く、脚を取られているBETAを無人機で見つけて狙い放題なのです。

その支援を受けながら戦術機甲部隊が迂回侵攻、こちらにBETAを引き寄せつつ大規模な集団がこちらに攻めよせればさきほどの火力特科点…足場悪い場所におびき寄せ、数を削っていくことが現時点において求められています。」

これは負け戦であるにも関わらず、20万を超えていたBETA群を今や8万近く削っていることからもわかるだろう。

第1防衛ラインが崩れることは、早くはあるが長期的にわかってはいたために、その防衛ラインをこちらの意図的に決壊させることで広大な沼地と化し、相手の利点であった機動力を減ずることに成功した。

それはルーマニアの国土を4分の1ほど(約6万km2…北海道の4分の3ほど)減らした代貨ではあるが、20万もの攻勢を退けるのには安いもの…と上が判断したのだと周りは言っている。


「そしてその山砲台群が軸になっている現状、我々とそちらに回される補給量に優劣はなく、ここに陸揚げされた物資の7割ほどは第2次防衛ラインとカルパティア防衛ラインに回さなければこの作戦は成り立ちません。

ここに入ってくる物資の量がこの短期間のうちでは決まっている以上、これ以上の攻勢は必要とせず、今は眠る獅子の眠りを邪魔する蚊のように戦術機を使い、ここから脱出する東欧の人々を無事届け出すことこそが我々の最善だと、そう考えて戴きたい。」


「……了解した。だが我が部隊の補給について、そちらで一考いただきたい。では失礼する。」

と苦虫をつぶしたような顔をしながら画面から消える少将。感情的にはアイツの部隊どこかに放り込んで、消してやりたいがそれは少将が指揮する師団の者たちがかわいそうだ。なにより貴重な戦術機甲連隊と機甲部隊を持つ師団だ。感情のままに潰していいものではない。

…あの師団の参謀とか大変なんだろうな…あの少将諌めるのに

「やっと納得したか…な?」

とつぶやいたその時、周りの「やっとあの少将の声を聞かずにすむ」「ほんとだよ」などという情報管制官たちの愚痴にまぎれて俺に話しかけてくる声が聞こえてきた。

「そのようであれば良いのですが、基地司令代理。」

「おっ?吉良中尉。サリチオラ基地から帰ってきていたのか。」

最前線に属するサルチオラ基地、そこには今や最前線部隊しか存在しない。

それは今帰ってきたこの吉良中尉を含め、今や2年近くお世話になったその基地に旅団員の者はほとんどいなくなったことを意味している。…さびしくなったものだ


「さきの少将閣下が嫌みを言いたかったのは救援に来た我々が、覚悟していた殿部隊でもなく、応援でもなく…言わば今行っている『盗賊行為』を軍の花である戦術機に行わせているのが機に喰わないからでしょう。黙ることは合っても納得することはないでしょうね。」

「だってこちらの戦術機は沼地でも活動が可能で、足が速いんだ。

モンゴル騎兵よろしく、後ろから横からかけ回して敵の集中を反らすことで、BETAをその場に釘つけにする。

そうすれば未だ見つかっていない味方の撤退を助ける役割に繋がるんだし…まあ要請には従っているだけましか。飛び出しすぎだけど。」

確かに先のムティグーチ少将に言ったように現時点では、ここの国連軍は戦術機による遊撃を大隊から中隊単位で繰り返しており、守るべき物が近くになく攻略するべき目標が無いため、部隊存命を第一に好き勝手に殺しまわっている。

もちろん目標としては撤退している部隊を狙うBETAではあるが、護衛対象を狙うBETAを無人機による偵察で見つけ、戦術機で遊撃をかけ、誘導。各地に点在する地雷陣地や砲撃特化点で慚減作戦を行っているわけだ。

ここまで攻撃的に立ちまわれるのは相手の足場を失っていることと、
各地に点在する餌となった殿部隊。そして第1防衛ラインという広大な土地に捨てられている電子装備を破壊することに躍起になっているからだ。

その間にBETA相手にゲリラ作戦、いやテロを企て戦術機による盗賊行為に徹しているのが花の戦術機甲部隊。感情的にはわからんでもない。19世紀の騎兵科に盗賊行為を行えと言うようなものだからだ。

「しかし先の少将の話は置いといて、東欧もそうそうに堤防を決壊させるとは、思い切りの良いことをやりますね。
少し昔の日本であらばいつであっても遅功よりも拙速を選び、失敗していたでしょうから、それだけ見れば組織の長として同盟議会は役割をこなしているようですから軍として見習うべき部分なのでしょう。」

「それは違うんだ、吉良中尉。そうしなけらば友軍を得られないと暗に国連と日本がけしかけたからなんだよ、今回の決壊に関しては。もちろんそのための根回しはここに来た当時から進めていたし、そのために軍部は元より早期に撤退派に味方し、理解を広めていたのは、他ならぬ日本だからね。」

「なッ!?」

あの吉良君が口をあんぐり開けて驚いている。珍しいものを拝めたものだ。写真に収めておきたかった。

とまあ、吉良君が驚く理由もわからなくはない。立派な内政干渉だからだ。同盟が強固な国家連合と成っている時点で、その国家を守る国防の方針に関して他国が判断して良いものではない。

だが対BETAではその失った国土に比例して凄惨な自体を招くため、どうしても当事者の判断は遅れがちとなるのが常だ。それが崩壊に繋がり、ひいては他国の危険性が増す。

そうさせないためにも以前から東欧の将官などに対し、日本が推し進める広域撤退戦術を理解させようとしていたわけだから、未来が見えているとしか言いようがないほど日本が根回していたことになる。

ましてやその指示に従ったことによる見返りも大きかったらしいし、今頼れる国を失うことを避けたかった東欧としては間違ってはいないだろう。感情以外では。

「なにせここの陣地を作るための金を貸しているのは国連と、その通販網によって貯められた国際救済基金の使用道を決定する日本がほとんどだからね。金借りた者がこちらの言うことを聞くのが普通なんじゃない?」

この国際救済基金というのはなんてことのない、通販や電子書籍など、国際ビジネスに置いて課税のことだ。

世界を救うという名目でネット網が世界に広がる中、先の京都協定によって決められた関税限度を不公平のないよう埋めるために創設されたもので、その課税分はその国家の国連負担費代わりとされている。

そして驚くことにその課税分を動かす部署というのが、国連の外部組織なのである。

日本でいう日本ユニ○フみたいに国連とは協力しつつも、実際にはその命令に従わなくて良い特別行政法人であるそれは、国連の了承、方針の元、具体的なその課税の使用に関してはこの部署が行っている。そしてその部署こそが光菱・日本の方針によって動かされており、献金などの不正はないが、こちらの思惑通りに金を使えることができ、そこから金や援助をもらっている東欧は、その親玉の日本に対して、頭を上げることはできない。(もちろん、日本からも多額の援助や借款があることも付け加えてだが)

「そう簡単なものではないと思いますが…」

「確かにそう簡単ではないけど、大筋そんな感じなんだよ。ここの防衛ラインにしたって、東欧よりも国連から借りた金やODA。それによる汎太平洋諸国企業産の物資があってこそ作られたものなんだし、もはや国家の金の流れをこちらに掴まれた時点で東欧は、対等な国とは事実上言えない。」

「しかし…それは植民地と同じなのでは?」

「まあ表面上というか金流れをこちらに掴まれたからと言って、すぐ植民地や保護国とはいかないよ。

現に法制上も同じ刑罰に処されるし、関税も平等だ。ただここが単独でBETAに勝てない以上、それを金と物資で援助している国にこの同盟が大きな口を吐けないのは仕方がない。今、援助した国とされた国が同列に扱われるほど世界は平和じゃないしね。」

もともと同盟に日本が干渉し、国連を経由した各物資と重機によって4年の月日をかけて完成された第1防衛ライン。

だが、いくら金をかけたとして短期間の急造品でBETAを一歩たりとも入れられない防衛線の構築など不可能であることは同盟自身が分かっていたのだ。

戦力の枯渇もそうだが、将来的に見てもこちらから干渉のできない西欧のドイツ、南欧のギリシャが破たんすればそれはすなわち東欧の陥落に繋がることを含め、四面楚歌と言ってよい状況だった東欧。

だからこそ日本と国連からの支援を受け、両者が定めた方針による第1、第2防衛ラインの構築計画を東欧は受託した。

1982年初めには幸い東欧へのBETAの数はそれほど多くなく、東ドイツ側が主攻であったため、どちらかと言えば難民問題のほうが東欧の財政大きく降りかかっていた。

だからこそ、その当時モルドバとウクライナの一部まで防衛戦の内側まで入っていたことを活かし、公共工事と称して要塞線を構築。

国連直轄地に国民の一部を質に入れ費用を稼ぎ、川の流れを活かした配置にして、万が一守れなくても決壊することで、第2防衛ラインまで引く時間を稼ぐ方針を取ることになっていたのだ。

その中で確約されたのが、先に述べられた国連側に使用時の主導権を与える条件だった。

その分、戦費補償や直轄地の優先受け入れと東欧同盟国民への恩赦(利率引き下げ)であり、第1次防衛ライン周辺には国民がいなかったが、第2次防衛ライン近くには多くの国民がいるため、強制立退きを行うための受け皿とその補償をこちらに要請してきたのだ。(あくまで了承できるラインを匂わせてだが)

「まあそこまで金与えて、時間は足りなかったとしても計画は順調だったはずなんだけどね…さすが宇宙生物。思ったよりも被害が大きいな。特に後方に集数でも回られたのが痛かった。」

「地下侵攻…と予想されているものですね。」

「十中八九そうだけど、日本からの教えがなかったらそのような夢物語をしんじていなかっただろうね。」

日本が来ていなければ地下空洞を使った侵攻として処理されたであろうその穴。

多分に予想を含んではいるが、失地奪還が適わなかったからこそ戦闘後の調査が行われず、「迂回した」「戦線を浸透した」「地下の空洞を使われた」などと憶測で処理されるだろうと見られる、その痕跡は人類にとって認めたくない事実を現わしていた。

まあその『認めたくない』というのは己の過失を表に出さないための杜撰な管理体制による弊害であり、硬直化した組織に流行がちな隠ぺい体質によるもので、負けが込んでいる者ほど良くはやる病だが…まあそのは話は良いだろう。問題のその痕跡だ。

幸いなことに地下からのその穴の数は決して多くない。


ミンスクの主攻は長らく欧州北方、ドイツ側であったためルーマニア国境線付近に溜まったBETAが各自で掘り進めたものと判断されており、

その穴にウラリスク、ヴェリスクの飽和個体群の一部がミンスク組と合流しつつ後方に浸透したと上層部は判断すると予想されている。

そうして主攻である3本の地下侵攻グループにしたって1万ほど、それ以外は小型や戦車級を主軸にした小型少数の規模でしかない。

しかし、これが現に第1防衛ラインの兵站に大きな痛手を与えた。

「1匹いれば30匹はいる」とされる闘士級と戦車級。
それが1匹確認されただけでも道路は封鎖され、輸送部隊への護衛を厳重にするために輸送効率はどうしても悪化する。

そして確認された場所に派遣する部隊を決めるだけでも時間はかかり、その分の時間は何も武器を持たない民間の者や、後方部隊が虐殺され、行った時には移動して雲隠れ…などざらにある。

そのような移動が困難な状態こそ、ヘリや飛行機の出番になるはずなのだが、光線級がいるため安全空域は制限されており、無いよりはマシでしかない。


しかも今現在来ているBETAは5年以上も成熟したBETAの成体とも言える精鋭集団である。

いろいろな戦場に回される我が部隊ならば誰しもが知るが、同じ属種に属する個体でも個体差が生じ硬度やら、耐久力が変化する。

それは生物の成長、個体の成熟度が違うためというのが大きい。

それ以外にも反応炉から補給や、度重なる爆撃等で体力を消耗するのはBETAも同じであるためなのだが…一番大きいのは先ほどいった個体の成熟度の違いにあるだろう。

今現在、この東欧戦線に降りかかるBETA供は、いつもの定期便で来るミンスクが主体ではなく、もっと成熟したウラリスク、ヴェリスクといったハイヴ、その後方から来ていると予想されている。

それらは人類との勢力圏に触れていないハイヴであり、年月を重ねて成長した個体が多く、そこから溢れた個体は必然的にとても硬く、強靭なのだ。

これは生物として当然考慮されるべき問題であり、ハイヴ内にいる個体群よりも外周部、溢れたモノ達の方が精鋭となる。(だからこそ幼い巣穴であるフェイズ1ハイヴには成長しきった強者が多い。)

それらが何十万単位で襲い来る恐怖。

それは数以上の力を持っているのだ。

「さすがに今回のようないきなり後方へと出現したケースには手を焼いたようですが、3日後には無視して良いほどに数を減らせたようですし、戦術機による哨戒で大きく5つある撤退路に関して安全は補償されているようですが…その分要塞線の被害が甚大となっていますね。」

戦術機が各地から収集され後方の憂いを無くした東欧だが、その分前線に回されるはずだった応援部隊が減少したということで、穴埋めをするための部隊は日に日に摩耗していった。

数値で見れば分かりやすいがこの防衛戦において投入された戦術機甲大隊、そのうち前線に張り付けられた部隊の半分は損耗率50%を超えている。

それ以外にも山脈の一部にとりついたBETAを駆除するのに戦術機甲1個連隊と、山岳強装旅団(強化外骨格部隊)が二つ消え、他にも激戦区で精鋭部隊が血を流し、取り残された部隊も決して少なくない。

それでも戦略的成功を収めたと言ってよいのだから戦争は悲惨だ。

なにせ防衛に失敗してはいるが、撤退戦としては成功している今回の事象においても死亡・KIAと認められた兵士の数は13万を超える。

それ以外にも軍属に属する民間人も含めれば16万に迫る今回を見ても、BETAを相手に防衛に失敗すればどれほど被害でるかわかるだろうか。

「22万、この戦いがこのまま終わったとして推定される被害者数だそうだ。まったくやってられないな。これでも甘い見積もりなんだから」

「22万ですか…その中に知人の兵士がいなければと願ってしまうのは、士官として半人前なのでしょうね。」

「その一員に入る可能性が高い東欧の将官が、先ほど少将が述べていた師団の将官だ。死守を言明されている以上、もう一度会えるかわからないが…あの少将の言葉に乗っていれば救えたかも、とそう考えてしまった自分もいる。君だけではないよ。」

「大佐もですか…」


「今は司令代理だ。中尉。
…そうだな。一、人としてならばそう願うのは自然だろう。だいたいにして万人の他人よりか一知人の死のほうが心にくるものがある。

だが将官として、人の上に立ち、このような自体を招かないために上にいくのであれば、それを表に出さない努力をするべきだ。そう私は誓っている。」

人はただ数値に現わされるだけではその凄惨さは理解できない。数字による理解は経験によって仲間と共にその被害に合わなければどのような物かは想像でしかないからだ。が

だからこそ、その凄惨さを知る昔の人間は強かった。力ではなく心が。確かに人の死が老衰など、「しょうがない。良く生きた」と評される死が増えたことは文明として誇るべきものだ。

だが、その『死』という不幸を感じられなくなった人間、もっと言えば今の生に価値を見出せなくなった時代は幸せなのだろうか。

今、戦場に佇みながら考えることではないし、疲れによる逃避なのだろうことはわかっている…がそう考えずにはいられない。今、ここで死んでいく兵たちを知りながら、遠く本国で遊びふけっている人間がどうしても憎らしい。

なにせ1週間にして日本の年間出産数の約4分の1が消えたことになる。

これは東欧全ての人口と、日本の人口が似通っていることからも同じ比較が出来たからであるが

…もっと言えば日本のトヨタの社員が北海道ごと消えるということだ。

その言葉の意味が通じたのかわからないが吉良君がうなずく。やっと上に行く決心がついたようだ。今までその器ではないと固持していたが、そうも言ってられなくなったのかもしれない。なにせ10年後は日本がこうなっていてもおかしくなく、これ以上になるかもしれないのだから。


「…了解しました。

っと、…国連作戦本部より基地司令代理に連絡が。

『作戦通り東欧軍第4軍、第12軍団の残り2師団と、第3軍第14軍の2個師団が攻勢を開始。

近隣のBETAがそちらにむけて移動を開始。規定数以上の飽和を確認後、作戦通りに発動させるとのこと』

……だそうです。」

作戦。いわくありげな電文が届いたわけだが、それが指し示すのは一つしかない。


「未だにウラリスクやヴェリスクからの飽和個体が来ている以上仕方ないが…まさか《あの計画》の一端を日本が担ぐとはね。」


その言葉の意味を知る吉良中尉は、さきほどの少将よりも味の苦そうな虫をすり潰した顔をしている。

彼はこれからどうなるか、中尉という階級であっても俺の雰囲気と、最善となるであろう策を知っているのだろう。







―――戦略兵器投入と言う最後の策。

あの、「ドナウの奇跡」が核の炎に彩られて消えていくであろうという未来と共に。



~後半へ続く


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次元管理電脳より追加報告です

1984年6月より日本に新しい戦術機が配備されました。NEW!!

【GF-4J改 瑞鶴】

84式戦術歩行戦闘機として正式配備されたこの機体は、その開発経緯には紆余曲折した経歴を持つ、極めて特殊な戦術機として配備される前から注目を集めていた。

斯衛専用戦術機開発計画。本来それは79年より開発がスタートし、
82年配備後すぐにF-14がアメリカで配備されることで時代に遅れた代物と成り果てるはずだった。

しかし、早期配備のためのスケジュールの短さとアメリカとの隔絶した技術差からその機体の有用性に疑問視されてきた計画でもあったことから、日本では議論が過熱。

80年から急速に成長を見せていた光菱財閥のよってその計画、城内省と政府、そしてメーカーとの妥協の産物であるこの計画にもメスを入れることを決定。

計画自体の必要性から抜本的な見直しを測り、81年に計画の延長、82年にはITSF計画との共同計画(実質的には吸収合併)にまで見直しが図られることになった。

そうして生まれたこの瑞鶴。84式戦術歩行戦闘機との正式名称が決められたこの機体は、国際計画で生まれたF-4の改修機(GF-4型)をさらに斯衛仕様に改修。

計画の遅延、合併など妥協を強いられ続けた城内省による苛烈きわまる要求仕様を実現しようとメーカー側は日夜努力を重ねたが、その計画を主導した孝明も

「無理強いしたのはこっちだけど、いくらなんでもむりじゃね?F-14以上の運動性とかさ…めっちゃ改造してほとんど形変わってるけど元はF-4なんだぜ?」

と投げ出すほどであった。

結局のところ、半ばやけくそ気味に取り付けることになった補助推進ユニット―――徹夜で頭がハッピーになっていた一人の技術者が「もう4発で良いんじゃないですか?どうせ斯衛に稼働時間を考慮する×××なんてないですし。あとは羽付けて終いでしょ。ねっ?解散しましょ?」との言葉を本気で開発陣が考えだしたため―――

が肩に取り付けられ、翔鷹の開発によって燃費等、跳躍ユニットの性能がアップしていたことも重なり、グリフォンシリーズ随一の運動性を稼働時間の僅かな減少を代償に実現することとなった。

その分、コストは上がることとなるのだが多くて300機ほど、日本帝国陸軍が配備するとしても1000機を超えないため、問題点に上がるほどではなく、前線での実戦試験機の活躍。光線級吶喊任務に駆り出された機体の活躍などにより、その運動性に目をつける各国軍が多かったことから量産して輸出する門徒も開かれることと相成った。

他のGF-4型との変更点は頭部形状、GF-5型との部品共有によって足と腕などが似通っている点である。



計画を主導した孝明だが

「あれ?本気で開発している翔鷹より、いい加減に作った瑞鶴の方順調に進んでるってどういうこと?なにこれ?」とも発言していたりする。





以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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※筆者です

なげえ…そして行き当たりばったりで書くと矛盾が溢れて、泣きそうに。

短期更新で上げる人は本当すごいと思うこのごろです。

あとイラスト見ていただけたら感謝です。どうみてもやっつけですし…瑞鶴よりも武御雷のほうが似ている。黒なのは一般機ってことで。

では次回にて



[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-4話 結末
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c
Date: 2012/01/06 19:29
1985年1月18日 2130 ルーマニア社会主義共和国 コンスタンツァ軍港付近 国連派遣軍増設基地群 G棟地下2階フロア 戦域情報管制室


核兵器

人が作りだした最強、最悪の兵器はなにかと言われれば真っ先の名が出るであろう、20世紀を語る上で無くてはならない兵器であるそれは、この世界に置いてもその"残虐性"は色あせることはない。

その破壊力は以前の兵器と比べれば雲泥の差が生じるほどのものであり、人類が2度の大戦を経た上での後悔と、それ自体の破壊力を持ってして列強同士の戦争自体を無くしてしまったほどだ。

史実(※マブラヴ世界)にはドイツに二発の核、一つはベルリンに落とされ、先進諸国である欧州にその名とその悲惨さを教え込んだそれは、今でもその映像を簡単に見ることが適うほど世に出回っている。

それは先進諸国に落とされたこともそうだが、あのドイツを文字通り完膚無きまでに痛めつけた代物ということで、戦争に入っていた我が祖国日本帝国の首脳陣に「敗北する未来」を刻みつけるほどのものだった。


その核が今、目の前で花開いている。

「合計4個師団がたかが1時間、核使用準備まで敵を吸引するためだけにその5分の1が消耗、あの核を使用してやっと撃破数が8万を超えたあたり、ですか…」

そう呟くのは俺の副官としての仕事をこなすようになった吉良中尉だ。

「やはり来るものがあるのかい?君の世代は」

その吉良中尉は現在の状況と"目の前のあること"に嘆いているらしい。

今現在、東欧は核による敵の残減段階に移行しており、その計画はおおむね予定通りに推移している。

それはBETA総勢24万。当初予想された規模を遥かに超えたその侵攻を人類は初めて防衛に成功したことになる。

初期の混乱による被害は大きかったが、同盟司令部が迅速果断に撤退に移行できたことに加え、国連からの支援砲撃等によって被害は抑えながら遅滞なく撤退を行うことが出来たためだ。

もちろんその24万全てが一度に攻めてきたならば東欧を防衛することは不可能だっただろう。

だが今回は初期の攻勢を退けられるほどの陣地があり、その要塞の放棄による足場の崩壊と敵目標の瓦解。そうしたことで逐次投入されたBETAの一群が迷子になり、BETA側の得意とする『脅威的な戦力の集中』を防ぐことに成功したため防衛が成ったわけだ。


もちろん兵の踏ん張りの成果でもあるが、どうにか軍の努力と政治的な介入による早期の施設放棄によって、求めうる被害としては(BETAとの戦いにおいてだが)最低限に抑えることができたと言って良いだろう。

24万という数字にしたって、後から来た何もしていない後半勢も含めたもので、果敢に攻めてきたのは14万を超えたところ。

光線級も重光線級などほとんどおらず、足場が水浸しになっていたために迎撃の精度も欠けていた等、いくつもの特別な要素が重なったためにここまでの奇跡が生まれたのであり、学べることはそう多くない。

逆に国連内部の問題や勝ちすぎたことで東欧がいらぬ自信をつけないかのほうが心配であり、政治的な強権による圧迫と介入でいらぬ恨みを買ったことの方が今後の課題となるだろう。

まあたかだか大佐ではそこまで関わり合いにはならないが、心配ぐらいはして良いだろう。さて今は目の前のことに集中するか。…といっても特に今やることはなさそうだが。

今現在、結果からしても今の核を用いる段階になっていることからもわかる通り、これから戦術機を使っての掃討戦に移っていくはずだ。

それだけを見てみれば嘆く部分はまったくと言って無い。

現にここ、国連派遣部隊の統轄司令部(仮)には3日前の悲痛さに似た緊張感は薄れており、指揮権としても救援部隊として出撃している各部隊長を中心に委ねられており、ぶっちゃけ2日前ほど忙しいものではなくなっている。

「確かにそうなのかも知れません。自分は他の同世代の者達よりかは正確に"あれ"のことを把握していたと思っていたのですが、結局のところ同じだったようです。」

「核への恐怖、か」

吉良中尉が先ほど「近代軍が核の封印を解いてでさえそれだけしか倒せないのか」と言いたげに現実の厳しさを口にしたのはそういう理由なのだろう。

日本人の若い兵に多い、戦恐症。数字では知っていたのに、現実として見た対BETA戦の凄惨さとのギャップによってやられているわけではなさそうだ。

防衛に成功したのにも関わらず数日で数千、数万の命が散ったのだからそう思うのも無理からぬものだが、彼はそうではない。1年以上もまがりなりにも前線にいたのだから。

だとしたら核への恐怖しかないだろう。

たしかにそれに恐れを抱くのも自然なのかも知れない。


この世界では前回の大戦の折、戦争をしていた欧州人の感情…世界の中心であるはずの自分達が地に落ち、結果としてアメリカ…植民地人の傘下に収まってしまったということから、アメリカへの皮肉と嫌みのために実際よりか悲惨な物として核の恐ろしさが世界へと広まってはいる。

いわゆる『核アレルギー』というやつだ。

さらに欧州のど真ん中、ドイツに落とされその凄惨さを目のあたりにしている欧州人からか、原子力発電などは欧州では小規模でしかなく、BETA中東侵攻でもっとも被害を受けたのは欧州とされたのも近代史の一部として習うだろう。石油を使う火力発電などが多かったからだ。

確かに核、原子力発電と言った核分裂による環境への悪影響などは無視して良いものでもないし、それが及ぼす影響を正しく知り、本来ならば使うべきものではないのはその通りではある。

しかし、吉良中尉達の年代、20代~30代前半の者達の義務教育から、その教えの過激さが増しており、知識として士官教育で習う核の危険性を知っている彼であっても、小さい時からの「教え」というものは抜けきらないものなのだろう。

だからこそ先の吉良中尉の発言のように「核を使用してまで」といった"禁忌の兵器"に位置付けられている現状を生んでしまった。

なにせ、その地で生まれた者達の祖先に放射線による後遺症、それが発病する可能性がいつまでも残る『呪い』のような考えが根づいてしまっているのだから。


『公開される情報というのは真実だけを伝えなくてはならず、そこに一方的な感想や脚色を交えて伝えるべきではない。それが公的で、尚且つ与える影響が大きな物であるほどに』

この基本を守れない情報を扱う組織をというのは、古来より多くあり、その時代の正に“悪害”にしかなり得ないものの代表格だろう。


こう言ってはなんだが、国の根幹である教育に対しても事実が歪曲され、偏向的に流された結果がこの吉良君達の教育なのであり、いかに教育が大事なのかわかるだろう。教育とは集団で生き抜くために必要な"正しい"とされる感性とその集団を反映させる"正しい"知識を得るためにあるのだから。

世に恐ろしいもので、

「被爆者に触れただけで感染する」

「使ってはならず、使って環境を壊すならば滅んだほうがマシ」

このような戯言がまことしやかに囁かれ、果てには

「BETAに相対するには国家の軍を全て解体し、国連軍として全て統合するべきだ。そうすれば全ての兵を前線に張り付けることができる」

など戦略シュミレーションゲームでもやらない『夢の手』をテレビで堂々と語る軍事アナリストやコメンテーターがいるのだから末期であろう。

そのような妄想を語る輩が跋扈し、その意見に賛同する者が大勢いる世の中であるのは何時の世も変わらず、中世の魔女狩りのことを現代人はバカにできないだろう。それだけ民衆と言うのは愚かなのだから。

「確かに改変された"事実"に基づいた恐怖心も加わっているのはわかるけど、やりきれないという気持ちには賛同してしまうものがあるよ。
使用者にさえ恐ろしいと感じさせてしまうほどの兵器だからね、核は。」

「『神の火』。その詐称もわかるほどのものですからね。」

しかし目の前でその『核』の恐ろしさを見たらその歪曲されて広まった"事実"も真実に見えてしまう。

軍人はその実際の影響を知るが、この悲惨な映像を植え付けられた人間からしたらBETAと変わりない。

今この時からここは『死の大地』とされ、住み着く人間がいなくなるのだろう。

「だがその核を有効に使ったとして滅することはできない、か」

そう、その土地を死してまで使った核でさえBETAの数を減らすだけで、全てを殺すことは出来ない。

現に今作戦において核使用を行っている段階にしたって、あと数万匹は生き残っていることは確定している。

それはこれまでのBETAと戦史の中からでも読み取ることができるほどだ。

そもそもBETAを個体としてみると、個体戦闘力や持久力に目が行きがちだが、その真の恐ろしさはゴキブリより恐ろしいそのタフさ、言いかえれば死にづらいというところだ。

「正に死を避け、こちらに死を寄越す化け物、そう呼ばれるだけの個体ポテンシャルを持つということは知識としてわかっていたことですが、実際に見るとでは…違いますね。

地球上の生物であのような悪環境で生き残れる生物などいませんからそれだけで、地球上生物の頂点にいることを理解してしまいますよ。まあ宇宙で生活している時点で大概ですが。」

元来、宇宙で活動するための宇宙外生命体であるBETA。その耐久性は凶悪な宇宙線やγ線の中平気で活動するほどであり、その劣悪な環境で生き抜くためにも放射能に対しても強い耐性を持っている。

またその環境適応能力は0~10Gといった『もう慣れた』環境に対し即座に対応できるほどで、戦略兵器である核によって人が死ぬ原因の一つである無酸素状態、真空に関してもへっちゃらな化け物が相手では、この地球上では厚さ寒さといったものから『死の灰』が積もる場所に至るまでBETAに軍配が上がってしまう。

その耐性を超えても作り直されているようなのだから、そのタフさがわかるだろうか。


また宇宙での活動を行えることから温度差に対しても強く、極寒の大地から活動中のマグマ近くを通ることからもその耐熱性、耐寒性の高さが窺え、核の熱に対しても十分ではないが効く範囲が狭いことには変わりない。

もちろん核爆弾の破壊力に置いてもっとも効果をもたらす爆風に対しては、BETAに対して十分効く。

だがそのタフな身体が影響して見た目が悲惨な状況でも1~2時間は活動は可能なのだからその『BETAの死に辛さ』といった言葉の意味がわかるだろう。


なにせ爆風による影響は人の場合、まず目や耳、肺といった弱い部分に影響し、その多くがショック死によって生物に死を与えるわけだが、宇宙に適応できる生物として進化した(と予想される)BETAにとってそのような生物の弱さを臨むべきではない。


それに加えて、その活動から予想される“資源回収”と言った目的の方向性による進化が半端ではない。

その傷が死に繋がるとしても体内で応急手当を行えるように、と生物として進化(自己設計とも)したことで、身体の重要部分がやられない限り即死というものはなく、生物としては異常なほどに死ぬまで時間がかかる。

それはどうやらハイヴに帰りさえすれば、治されるか作り直されるかわからないが、戦力への回復に繋がるためにタフでとても"鈍い"。

また宇宙環境で生き抜いてきたBETAは呼吸をしなくて良い影響からか、体内から焼かれたり真空によって破裂することもないため、爆風で脚が吹き飛ぶか、体表面を大きく損じるかしない限り動き続けることも大きいだろう。

そんなタフさとBETAの増殖速度、そして核を受けた地区に集中してくる状況では次第に人類側の形勢は悪くなる一方なのかはわかっていただいただろうか。

なにせ放射能汚染と、核の爆発によりBETAの死肉も蔓延し、放っておくと戦場でよくあるバイオハザードにも繋がるからだ。


「その核の業火でさえ生き抜くBETAはなんと呼べばいいかわからないけど…今回だけで言えば作戦は成功、数を大きくは減らせてはいるんだからね。」

「戦術核を6個と準戦略核1個を使って、8万。昨日からさらに援軍としてきた2万も加えて、約15万のうち8万を行動不能及び撃破に落ち入れさせたのですから成功と言って良いのでしょうね。

それだけ見れば一攫千金ではないですが、効率よく使えた計算になります。本来核地雷は効率の良いものではないですから」

確かにそうだ。予想通りの"予想外の援軍"2万。ここが汲みに安し、と考えているだろうBETA側の対応として続々と援軍が来てはいるが、それを含んだとしても核を有効に持ちいれる今の現状では、苦になるものではない。

今現在用いれる最善の策が核と少数の兵、そして広大な国土を犠牲にした上での苦肉の策だということを自覚していてもだ。


「…そういう割に顔が優れないね。」

「…そうでしょうか?」

たしかに言っていることとその顔が現わす感情が違う。

子を戦地に送る親のように顔が歪んでいるのだから、その顔は悲痛さしかない。

現にこの核を使用したこのフェーズに入った今、“万が一”がない限りそのままBETA共を殲滅、悪くても今回の攻勢を凌ぐことはできる。それは環境と引き換えがあってだが、それでも今を凌げるのであれば安い買い物だろう。

それなのに吉良中尉の顔は曇っている。普通に考えておかしいだろう。

その疑問がわかったのか、吉良中尉が自分を説得するためのようにしゃべりだした。

「確かに今までの線ではなく、各地に点在する形にすることで敵を各地に分散集中させることには合理性が持てます。

敵の目標が一貫してこちらの防衛線を貫こうと、もしくは後方へ撤退する我が軍を追ってくるという形であれば、それは下策と呼んでよろしいものでしょう。

地下やあらゆる軍の行動によって攪乱されているBETAとしては今現在、支配領域が増えたことも重なり、右往左往している個体が増えており、

点となった基地に惹かれる個体と、第2次防衛ラインまで直進する個体、そして支配領域の資源…と言って良いのか建築物や自然を壊している多くの個体にばらけておりますから、今現在危惧するべき敵の戦力密集、もっと言えば光線級の数が集中することを防げております。

そのまばらとなった状態を各重要拠点基地で攻勢をしかける段階に引き上げ、敵を吸引。

即席地雷陣地や砲撃特火点を用いて防衛戦を派手に行うことでさらに引き寄せられる個体。

これは以前から決められていたここ東欧戦線の撤退計画の根幹ですし、その基地への負担は大きな物となるでしょうが、被害者の数はこれまでのBETAからの撤退戦に比べても格段に少ないのでしょう。


だからこそ、核を使用する必要はあったのか、そう思わずにいられない自分がいるのです。その感情が表情に出てしまったのかも知れません。…士官失格ですね」


核を、少数ではあるが結果的に巻き込まれる部隊を想定してまでやる必要があったのか。それ以外でもやり方があったのではないか。そう吉良中尉は言っているのだろう。感情の面だけでだが。

これは少しフォローしてあげたほうが良いかな?

「現状、核というものに制限数があることを加味すれば地雷、拠点爆破がもっとも良いのは君も知るところなのだろう?だからこそ表情に出るだけで抑えていた。それをその歳で出来るならば大した者だよ。十分にね」

「…司令代理にお誉めいただけるとは、誠に光栄ですよ。1生徒として誇りと思いますよ。」

こらこらいきなり冗談を言うなよ。でも先生か…俺が。今考えてみる俺が平和な時はどういう職に就いていたか。そう想像することは一度や二度ではない。


…う~んそうか、生徒なのか、君は。

「そうか。生徒か…そうだな。そういうのも良いものなんだろうな。将来の夢は先生だったんだ。僕はね。」

どう言えば良いのかわからない。そんな困ったような顔でこちらを見る吉良中尉。少し感傷に浸ってしまったようだ。

その優しそうな目をしている目の前の中尉。

感情のコントロールがまだ完璧とは言えないが、自分を律することができる青年将校に好感が持てるのは自分が歳をとったからなのか。
とても嬉しく思う自分がいる。

彼はこの戦いに参加して参謀という職を目指すことを決意したと言う。

それはこの戦いで上、高級将校が見せたふがいなさもあるが、前線の状況を知る上官の大切さを知ったらしい。

彼は日本の学閥社会からすれば本来、こんなところでくすぶっている人間ではない。

国連の拡大が進む上で人材の枯渇が至上問題と成っている現状。それがあってこそ、若手の下剋上がなる社会になっている。

本来であれば他国のようにその競争率に比例して戦死が付きまとうものだったのだが、日本において昨今の経済力を使って、負の要素は少なくなっている。あるとしたら怠慢と癒着ぐらいだろう。少なくとも人は死なない。

そんな状況に置いて上にスペースが空いている今、若手のホープとして期待された彼が本来、こんな吐き貯め…とまではいかないが軍の裏を知る場所にいるべきではない。

それは日本の学閥社会においてあの有名大学を首席で卒業、コミュニケーション能力など全てにおいても群を抜いていることからしてもわかるだろう。

しかしどういうわけか彼は上に行く気が無かった。それはその軍に入ってからの経歴からしても、どこか能力を故異に落としている節があったことからして明らかであり、だからこそここにいる。


そういう心のどこかに問題があったり、色々な事情がある人間がここに集められ、教育をしてほしいという上の願いがあったわけだ。

まあそんな願いがなくとも、人の成長を見るのはここの楽しみの一つにもなっているのでいらぬ忠告でもある。相手の借りにして後で回収することを忘れたわけではないが。

まあそんなことはない。彼がここにいる原因だった。

それはたぶん目的がなかったのだろうと思う。たまたま衛士特性を持ち、本来は軍ではなく学業に打ち込みたかったらしいからしたら、この今の社会、世界を恨み、その中で無力感に苛まれたからではないだろうか。

どこまでいっても予想の反中を超えいないものだが、軍が彼に求めれられているのはただ一つ、自身の才能を育てろ。それだけだ。

それだけ人材が枯渇しているからでもあるが、彼の才能は確かに惜しい。たぶん熱血教師だったら可愛さ余って殴り倒している。

では俺は、今目の前にいる青年の成長を促すにはどうしたら良いか。

意志は持った。現状を知って。

ならその夢、参謀に必要な物を教えてやることだろう。

参謀に必要な技能の一つに、その知識を使ってどう他者に説得できるか、がある。

これは人材の枯渇によって熱しやすく未熟な(技能ではなく精神力が特に)上司が多いからでもあるが、BETAとの戦いにおいて非情になることを求められることが多い今、参謀に、特に彼のような才を持ちながら恨まれにくい者にとって必要とされる技能となっている。

まあうだうだ言ってきたが、どう上司を良い判断を下せるようにさせるかきたえてやろうか、ということだ。


「君が生徒と言うのであれば、なぜ核の使用方法が地雷形式なのか、その現状を僕に説明してくれるかな?

まあ気負わず、概要だけで良いから。あっ、もちろん採点はするよ?部隊長側の人間としてだけどね。」

あっ吉良中尉が『げっ』って顔になった。以外に顔にでてしまうようだ。

最近になってようやく上に行く決心がついたらしい吉良中尉だけど、部隊の長として応援してやりたいものだ。日本だと前線に出た尉官を評価する流れが強いからでもあるが。

…そう考えると、吉良中尉はいつもは後ろ向きな感じであまり好かれるタイプではなさそうだし、問題を抱え込みそうなものだけど…一歩引いた目線だからこそできるものがあると俺は考えている。

以外にお茶目だし。そういうところは檜佐木くんに似てはいる。表面上の特性と心象的な特徴が違うところとかだけど。

両者とも上司として、見れる者からすればもろい所が目につくものなのだが…
庶民出身士官ってのは後ろ盾が無いことから、つぶされやすい。これは将家が未だ根強いからでもあるが、だからこそ、光菱から回され「実力はあるが、心身的問題を抱えた若手士官組」の一人としてここに来ているわけだ。

ってこう見るとココって実戦経験で揉んでくる場みたいになってて困ったものだな。もちろんまるっきり素人ってわけではないから戦前見たいな「前線で一躇揉まれてこい、新人」みたいなものではないが、この2年で回されてくる者の重要度はおかしい。

試験部隊から斯衛、はたまた若手から中堅の士官の主席から次席もめずらしくなく、かといって移民の中にも歴戦が紛れ込んでいる。

その中でも一番困るのが「光菱が見つけてきた将来役に立ちそうな者」リストだ。今や東欧の2大戦術機甲大隊の一つとなっている《シュヴァルツェ・ハーゼ》の連中もこの中に入っていたし、生き残らせ、軍から見て使えるモノになるまで苦労したものだ。もちろん部下としての愛情からだが。

…っと吉良君の考えがまとまったようだ。ダメだな、変な方向に思考、だいたいは愚痴に考え込んでしまうことが最近多い。治さなければ。ああ吉良君のご高説の御拝聴よろしく。

「かなり厳しいものになりそうですけど…わかりました。

…そうですね。まず第一に核というものに関して、BETAは異常に鼻が効くことが上げられます。

ミサイルなどに積んで、他のデコイと混ぜても光線級によってピンポイントに迎撃されることが多く、なぜ知っているのか、スパイでも潜り込んでいるのではと疑いたくなるほど"当てて"きますから、これは第一の脅威であり問題として人類に降りかかっておりです。

それは光線級、特に重光線級になると人が扱う陸上機動物など3秒もかからずに無力化されてることを含んでおり、その対策としてまず考える、弾殻をされに装甲で覆うことも有効とは言えません。…破壊力の減衰にも繋がりかねませんからね。

それに核を使用する場合はその特性上、緊急性のある撤退戦が主ですから、使用に制限がかかることも無視できるものではないでしょう。」

なぜあの核がBETAへの必殺足り得ないのか。それには色々な理由がある。

まずは人類の状況として核を使用するケースが敗走になってからが圧倒的に多いためである。

敗走という急がなかればならない場合、どうしても味方を巻き込みがちのため計画が急になり、爆発せず地中を掘り返されて齧られたり、逆に急いで爆発を早めて効果を得られなかったり…という例は数多くあるのだ。

(なんせだいたいが戦車級であり、時速80キロ…爆心地まで10分と、時間がかからない場合が多い)

そのためか緻密な計画の元でしか核というのはBETAに対して、コストに見合った結果を残してくれないのは軍の常識となっているのだ。

それ以外にもBETAの中で『核兵器』の脅威度が高いことが影響している。

一番使用したい形である、飛来物…ミサイル―――このタイプであれば空中で核を爆発させられるため、放射降下物による土壌汚染が少なくなり、極論では何度か同じ場所で核使用が可能。―――といった形では経験則からなのか、BETAによって優先して撃破されることが非常に多い。

「それであれば迎撃された瞬間、爆発すれば良いじゃん」と言った声が聞こえてきそうなものだが、そこまでハイテクなものなど今東西探しても有りはしないし、コストはとんでもないことになるだろう。

核爆弾とはかなりデリケートでもあり、迎撃された場所が予想外の場所であった場合、被害を喰らうのは人類側かもしれないのだから。


他にも光線級によって迎撃できる地上目標に仕込んだ場合にも、芳しい結果を残しておらず、自然、地下に埋めることで「一応は爆発が可能」という理由から、もっとも使いたくない使用法である「核地雷」という使い方が多くなる今の現状に繋がってくるのだ。

「そうなると撤退したあとに置く、今回のような地雷など拠点使用法に変わってくるわけですが、BETAの行動が先読みできる確率というのが低いためこれも良いとは言えない。というのが現状です。」

しかし吉良中尉言ったように核地雷が良いとは言えないというのも事実ではある。

それは核地雷は所詮待ち伏せ方式であり、相手の行動によって成功か失敗かを左右されてしまうからだ。

前提条件として、軍が維持している領域内においてしか使えず(後述する条約により核使用が不自由であり確実性が求めれる)、味方を巻き込みかねない事態を考慮する時間が必要があるという制限もかかり、とても使いづらい地雷方式。だが、その方式に頼らなければならない

「そうだね。核を使った防衛手段に関しては、本来制限のないはずのソ連や中国が欧州より10年も前から行ってはいるけど、中ソとも結局はその問題のせいで、後退しなければならなくなっているんだろう。」

「はい。また中ソの状況から鑑みても、核による放射性汚染物質の影響も甚大です。

中ソ共に破壊力とコストを重視している影響も相まって、放射線による汚染は年々進んでおり、汚染濃度が人体に悪影響を及ぶすまでになっております。

これに先ほど述べた、核と言う兵器に対して必要以上の嫌悪感を持つ者が多いという理由も重なり、そのことから来る士気低下。食糧輸出の低価に拍車をかけており、無視できない問題として世界経済への停滞にも繋がっています。」

放射線汚染物質。それは原子力に関わる技術を使っている時点で避けられないものであり、億の年月をかけなければ無くならない永遠と言って良い怨嗟の呪いだ。

その呪いの影響によって人体の影響は元より、自然環境の破壊による周辺諸国を含めての国力の低価が問題視されており、現にブータンなどの南アジアと中ソとの仲は険悪化しており前線国家間の協力の妨げにもなっている。

また核を使用した同陣地での防衛は、それ以前の数倍の困難を伴うものという数値が出されており、結局は中ソとも破棄して後退することを繰り返しているのだから、その結果も芳しいものではない。

それは遮蔽物を無くしたことで光線級の射程圏を広げることに繋がっていることもあるだろう。

そのようなリスクともともとの核兵器製造コストを加味すれば、核というものは兵器として決して良い代物とはいえず、戦略的に考えても核を使えば使うほど核の脅威度が高くなる影響から、例え成功してもその戦域に近場のハイヴから増援が来る始末で、いたちごっこになっている。

以上、補足説明終わりっ

「で…それだけかい?」

「あとは土地的事情と言いますが、ここは東欧ですからその影響を多分に含んでいます。前線国家において小さいと言うだけで罪ですから。詰みでもありますが。」
またこの東欧という土地柄もいただけない。

「例えば?」

「ここルーマニアを例にとれば、東欧同盟軍としては目の前のウクライナ(ソ連領)の大地に核を埋設する陣地を多く作っておきたいものですが、ソ連と中国という常任理事国たちがごり押しした核兵器の使用に関する条約が邪魔をしている、というところですね。」


「国際法となった核使用制限条約のことだね。」

それは核生産国以外の国の場合、国連(実質核生産国を許される常任理事国)の元で一元管理された核を使用しなければならず、他国の国土での使用はその使用国家の許しと国連での周辺諸国からの賛成多数を得なければならないというもの。

「士官教育で知りましたが、核に関しては敏感である国民はその制限する法に関してはあまり興味を持たず、核使用に制限をかけられていることを知りませんから、核のその破壊力に比べて、BETAの被害を単純比較しがちです。

そう見ると核に魅力を感じず、「自然を破壊するならば」とさらに制限をかけるループに入っていることも大きいと考えています。日本にとっては核拡散防止条約による縛りもありますし。」

加えて1982年には誕生していた核拡散防止条約の元、核開発は事実上常任理事国と一部、許された国家でなければ開発もできないため、中小国家の核兵器使用制限は非常に大きなものとなっているのだ。

これは1970代当初、中ソの大地にて増え続けるBETAに業を煮やした周辺諸国(特に欧州)が自国内に核ミサイル基地をアメリカの協力の元、推し進めようとしたことから始まったもので、中ソはこれに大きく反対。


それからすぐに起きたカナダへの『オリジナルハイヴ核集中投射事件』において大国の強権的な核使用について、南米諸国などから中ソの意見に同調する

『核の使用を国際的に承認する制度にするべきであり、その影響を受ける国の許しを得ずに核を使用するべきではない。』

といった国際世論が生まれたためだ。

最初はアメリカを筆頭に反対していたが、中東の核使用の余波をイスラエルが受けたために突如方針を変更。

ならばとアメリカは常任理事国を丸めこみ、その国益のために

「これ以降の核使用に関し、使用する核は国連が管理し、製造も国連の信用の厚く、国力のある国(実質的にその当時の常任理事国だけであり、その後インドも許された)だけに制限するべきである。

そうすることで核の使用場所の周辺諸国への配慮した場を設け、国連で話合う形にしなければその怨恨から世界的な核戦争に繋がりかねない。それを喜ぶのはBETAだけだ。」

という論調を押し込み、アメリカお得意の多数決によって見事可決。

欧州といった前線国家の反対を丸めこみ、平和ボケした日本もその真意を知らず、消極的賛成をしたおかげで日本も核使用自由が失われたのは笑えない事実として今問題になっている。

言ってしまえばアメリカ、ソ連といった勝ち組の常任理事国が核と言う破壊力を恐れて生まれた条約であり、そのとばっちりを東欧など前線諸国の中小国が受けているというわけだ。

会議と制限制になればどうしても判断が遅くなりがちであり、製造元であるソ連領内での核の使用など行えるはずが無い。


そんな状況を覆すためのS-11なる新兵器も国連の元、米国が主導する形で開発しているが未だ完成してはいないようだし、長期間の管理が難しく、核以上に高くつく代物らしい。


これは余談だが、日本でも核使用の是非が争われており、現政権まで続く自由党が党理としてきた、武器輸出三原則から続く『核に対する否定』的な態度は日本の教育にも影響しており、

軍事の否定が完全に出来なかった日教祖はその矛先を核に変え、核を必要以上に劣悪な物として教えており、必然的に世論は核使用に対してとてもデリケートな社会となっている。

それ以前にその土地の狭さと、自然宗教が強い今の日本からしたら環境に悪影響な核を使用することは感情的に許さないのだろう。理論ではわかってはいても。


「…まあ合格、かな。概要だけを正確に伝えることに関して良いけど…そうだね、+αとしてもう少し相手に知識がないことを含みつつ、相手の疑問を誘導することで、それを看破してやれば説得力を増すと思うよ。」

「…えっと…ありがとうございます。」

「ほら照れるんなら、目をこちらに向けて。下に向いては本当にその評価に納得しているか、こちらに伝わってこないよ?

あとそうだね。前に形式通りに説明しすぎと言ったことを覚えていたことを今回に行かせたようだね。なによりだ。どうにかして気楽な話し方で伝えようとしていることが伝わってきたから先生としてはうれしいものだよ」

「はい、気をつけます。あと…先生ですか///自分で行ったことですが、なんか恥ずかしいですね。」

「コラコラ、君から始めたんじゃないか。
あとはおじさん連中にはその気楽さの中に歴史の流れを用いて補助してやれば喜ぶからそれも試してみな。
あとただ条約の名前だけ言っても相手の理解を促せないって考えで名前を相手に言わせたのはOKだね。」

「そこまで褒めると生徒が図に乗ってしまうのではないかの、先生。」

「おっ?帰ってきていたのかい?四楓院家の当主様。」

「四楓院少佐、出撃お疲れ様です。」

いきなりの登場とはびっくりする。彼女、現在戦術機甲第4大隊を率いている四楓院夜一少佐が何時の間にか帰ってきていたようだ。

斯衛の赤に属する将家の名家出の物でありながら、自分から進んで国連に一時出向をした変わり者、そのように評される彼女はその家碌にとらわれず、人を区別なく扱う優秀な大隊指揮官だ。

自信をネコのようだと評するようにBETAの居場所を感で当ててしまう(もちろん経験を含んだ総合的なものだ…と思うが)その察知能力から、以前は偵察中隊を率いていたのだが、晴れて大隊を率いている。もちろん斯衛からは苦情をもらったが。

その彼女が率いる大隊がこうも余裕があるということは、あらかたの光線級の集団を片づけ終わったということらしい。

これで戦況は安定したと言って良いだろう。

「大佐殿もわしを茶化さないでほしいですな。」

その性格もネコに似て会話に茶々を入れるこの少佐だが、その出自から扱いにも困ったが、今はかなり慣れた。慣れざる得なかったと言って良いが。


「なら君も言葉づかいは治さないのかな?少佐。」

「失礼しましたな。司令代理殿。たしか一大佐が非常事態でなく、周りによそ者がいないのであれば言葉づかいに関しては何も問わないとおっしゃっておりましてな。記憶違いでなけらばですが。」

「…これは一本取られたね。」

「良く言いますの。」

「…そうだ、君のほうからなにか吉良君に助言はないか?」

「全てを聞いていたわけではないから、なんともいえませぬが…そうじゃの。翻訳機のことを気にすることも大事かと」

「翻訳機…ですか?」

そう、首をかしげながら四楓院少佐の方を向く吉良中尉だが、その言葉の真意がわからなかったらしい。

「そうじゃ。日本人独特の言い回しや四字熟語、ことわざなどは自動翻訳機では十分に翻訳できるものではないからの。
実際には会話の間にいちいち解説入るのだから聞いているほうからすれば聞きづらく、理解しづらいものじゃ。お主もここでそれを経験したことがあるじゃろ?」

「そういえば、そういうこともありましたね」

「まあそこらへんを含んで説得することを覚えれば、国家を問わず活躍できるんじゃないかな。なに、高学歴で実力もある君ならば本土勤めでも佐官まで速攻さ。すぐに僕に追いつくほどにね。」

これは普通であればベッタベタのお世辞にしか聞こえないが、幸い日本軍は改変期、いやもはや激変期とまでよべるほど規模を拡大させている。

それは日本が持つ自国軍以外にも汎太平洋同盟や、国連軍に長期派遣される部隊、そして国連軍内の日本派閥移民部隊など含めて拡充させている最中のことを指しており、それに応じて現在日本では士官の数がまったくと言って足りていないということと、前線で日本に属する部隊が活動するためにも軍が優秀な将官を求めているのだ。

これも大国に連ねる『義務』というやつらしく、本来なら昇進には空気が読めることから人脈が必要なものだが、今ならば実力があれば上にいけるのだ。



「はあ…ありがとうございます。」

あらら、謙遜しているみたいだけど日本だと学歴社会だからけっこうステータスになるんだよ?頑張れ青年っ!!



「(とか考えていそうだけどなあ、この人。僕が大佐を追い越せるわけないでしょうに…

確かに大佐より部隊指揮能力において上の者はたくさんいる。はっきり言って大佐が指揮していた第1大隊が精鋭足り得たのは大佐の指揮ではなく、事前準備とフランクリンさんやマチさん達外人部隊の部下に古参が多く、それを補助していたためだ。

それは大佐自身も言っている通り、浮竹・京楽両中佐のほうが戦果を上げていることからも、とっさの判断に優れ大隊を良く把握しているのは両少佐のほうだろう。

衛士の実力にしたって中の上が良い所。それほど重要視されるほど優秀な成績を残したと言うわけでもないようだ。

兵站幕僚もこなしながらの指揮官として地味だったらしく、一度大尉時代に上官に意見をしすぎて窓際に配置されたらしい。

ここまでで言えばどう見ても、目立たない日本の軍拡に乗る形で出世した只のラッキーな佐官。

だが光菱が大佐を見つけたのは彼が軍部に出したレポートが原因と言われているが…行幸と言えるだろう。

なにせ今現在、彼ほど将来を有望しされる佐官はいないのだから。

もちろん平民だからやっかみもあるだろうが、世界がそれを許してくれないだろう。それほどの戦果と人脈を各国の将官の間に作り上げている。

それに日本に数少ない、兵站を熟知し国際化が著しい軍界にもその政治力と交渉力で対処できる軍略家、東欧で唯一と言って良い、上にも下にも頼られる存在として勇名をはせるようにまでなっているのだから彼自身が外交カードになっている。


それにハッキリ言って今回の防衛戦、この人がいないだけで損害は倍にまでなっていただろう。

この人の部隊全体の把握能力、そして部隊を上手く動かせる環境を整える力は飛びぬけている。

防衛戦から今まで、数々の将官や前線指揮官に対し、光菱からの物資や戦力の提供を遅滞なく行い、緊急時にも関わらず国連軍全ての部隊を有効に活用する手管。

東欧同盟議会に対し、国連が働きかける伝手まで完成させているとは仮に未来を知っていたとしてもできることではない。


現にこの人は光菱派に収まってから海外派遣部隊の指揮官としてなんども大部隊を指揮・補助しており、考えられる上で最低限の被害で任務を全うさせており、その力を見せている。

それはもちろんあの光菱がバックにいるためにやりやすい環境を整えてもらっていることも関係しているだろう。

だが中佐から連隊、旅団、師団まで事実上軍団規模まで指揮を任されたその才能は覇格と言って良い。

なにせその部隊を任された上で、全体での作戦の遅滞を許していないのは、あの人の力量が大きく関係しているのだから。

その卓越した部下・部隊を管理・運営する能力。派遣先の将官との協力関係を作るコミュニケーション能力の高さと言うのは、日本人として異例だろう。師団といった軍の規模は他国内においてただ指揮する能力があっても上手く動かせない。周りに対しての気配りができていなければ恨みを買うのだ。

なにせ東欧という異国の土地で、唯一と言って良い日本部隊は僕達旅団だけなのであり、そのバックに光菱がついていることを加味しても、海外派遣でここまで上手く立ち回る将官はいないだろう。

それは日本が海外派兵に乗りだす前から、国連に派遣されて部隊をひきていた、日本人としてもっとも経験を積んだ指揮官でもある実績も影響しているのだろうが「戦場」を経験し、日本人でもっとも信頼がある指揮官になれたのは大佐の才能だろうと思う。ただの将家のお坊ちゃんとは違う。


その実力は現作戦でも発揮しており、齢40にして東欧での国連の活動、全ての兵站を管理、補助しつつ、東欧と国連との仲介をこなすとは人間業ではない。

しかも緊急だった今回の件でも、それまで練られていた計画を緊急事態に合わせて数々の案から独自に修正しつつ、国連軍と同盟軍の仲介を適切に行った。

確かに部下にも優秀なものが多かったし、仲間や人脈によって助けられた部分も多い。

だが、そこまで人脈を作りつつ"人を使える"人間であるのも一種の才能だ。ただの庶民出佐官に出来るものじゃないが…普通に考えてあきらかにおかしい。

いきなり起きたこの防衛戦。ここまで兵站や作戦、人事においてまで上手くいきすぎるのだ。

ならば、だ。

…その権限を当て得られたということもあるだろうし、あの得体が知れない光菱と繋がっていることからある程度情報が回っていたこともあるだろうが…

たぶん、ここがこうなると見越していたんだろう。何カ月も前に。

先見の明。言葉で言えばたやすいことだが、実践することはひどく難しい。確信が無ければ動けないからだ。
しかし大佐は確信をもっていた。光菱からの情報もあるだろうが、ここまで正確な対応ができるのは大佐自身も予想していなければ出来ないことだ。

だから前線にも出たし、東欧将官との顔合わせも積極的に行っていた。

それをこなす人員を廻してもらい、人脈と金脈まで掴んでいた。最初はパッとしないおじさんとは思っていたが、一年をすぎるとかっこよく見えるから困る。

もしかしたら唯一の軟身でもある懐の甘さも、捕まっていた女とその縁者を考えれば、逆に人脈として利用していたと考えられるんじゃないか?

確かにそう考えてみると軍集団司令長官の娘であるミハエラ大尉から、同盟の英雄として影響力を持つ二つの部隊にも顔が効く。
他にも明らかなスパイの東欧将兵に、その時は流すべきではない情報をしゃべっていたが…あとから考えればこちらの優位に運んでいる…

この人何者だ?

というかそもそも光菱自体もおかしいんだ。企業としての成長や政治力の増大に対してはいろいろとおかしくはあるが、あり得なくはない。それほどの実績が過去にあるからだ。

だが大佐以外にも西欧戦線や北欧、南欧、本国でも光菱派と属する将官や士官が実力を見せつけるように活躍し始めていることは別だろう。

そのほとんどが端省き者とされた者達。それをほとんど外れもなく、見つけ出すとはどういうことだ?未来でも知っていると言われなければ納得できないレベルだぞ…)」

…なんか吉良中尉が俺の顔を見ながら顔を青くしたり、しかめたりして考え込んでいる。なにコレ怖い。

また女性に優しくしすぎとか注意されるのかな、中尉なだけに。ククッ中尉に注意。クククッ

…あれっ?今シベリア行きとか言ったヤツいなかった?なんだ?妄想だけの親父ギャグなんだから許してくれよ。

と言っても女性に優しくするのは男のマナー…というわけではないが、息子よりも娘がほしい俺としては顔がにやけてしまうのだから仕方ない。

なんでこんな少女が前線にいるのかとこの世界の現状に嘆いてしまうものだが、その分大人の俺達が優しくするべきではないかと思うのだ。

それに内緒だが1年前、一度日本へ帰った時(もちろんすぐとんぼ返りすることに)に妻とハッスルしたことがクリ―ンヒットしたらしく、身籠ったとのこと。

まあ幸いなことに前線にまで張り付いて働く佐官だから、金には余裕がある。

光菱に頼んでメイドさんとボディガード等を頼んでいたため(浮気が怖かったからでは決してない)に無事、出産出来たとのこと。しかも女の子であることを奥さんから衛星テレビ電話聞いた時は一日中ニヤニヤしていたものだ。

…ああマジで帰りてええええぇぇ

だが帰られない変えられない事情があるのだ。これもかけてますよ、ククッ

光菱はなぜか俺を中心に派遣先の将官やお偉方と繋がろうとするため、いらない人脈と金脈があり、帰るときにその人脈の受け継ぎも行わなければならないため、「ここに派遣部隊であるほどさらに海外滞在期間が長くなる」という負の連鎖に入っている。

だからこそ、この作戦が順調に終われば俺はここから帰れると言われれば本気にならずにはいられないだろう。

この2年間全てを念入りに準備したし、死ぬ危険性のあるものは全てクリアして回ったものだ。

本当、この1年これまでの人生がなんだったのかと思うほど注意を効かせて問題を対処してきたし、くっだらない親父たちとの会談に赴いたもんだ。たぶん生涯で一番輝いていただろうね。

それもこれも全てはまだ見ぬ娘のため。

そうだ俺、この戦いが終わったら娘を抱っこしに本国に帰るんだっ!!

「(ま~た性懲りも無く部下の前でニヤケ面しおって…気持ち悪いのう。どうせ前言っておった生まれたばかりの娘のことでも考えておるのだろうな、この大佐は…まったくなっておらん。

吉良はなぜか畏敬のまなざしで見ておるが、そ奴はただのたらしじゃ。有能ではあるがの)」

なんか四楓院少佐がこちらをバカにしているような目でこちらを見ている。しょうがないじゃないか。こどもは可愛いんだから。

と呆けるのはここまでにして今回の防衛についてだ。

なにしてもいろいろとぎりぎりすぎて今回はやばかった。やけに本国の連中の動きが早くて“偶然”助けることができたけどこんなこと何度も出来るとは思えない。どこかで邪魔が入るかミスがあるだろう。

それになにより今回の作戦で死傷者など、目に見える傷は少なくて済んだけど、もっとも堅牢とされた第一次防衛ラインが予想より早く崩れたことを忘れてはいけない。

長らく使うはずだった防衛線が無くなったのだ。どうしても第2次では抑えられないだろうから戦略の見直し、もしかしたら全体計画の見直しにも発展しそうな問題だろう。

戦略的な関知から見ても第1次に比べて第2次防衛ラインはそこまで持つとは到底思えないし、後退しているのはこちらなのだ。

負けは負け。それを自覚出来ているかだが、難しいだろう。被害が少なすぎるし、政治として国連が深く関与したことが見えない傷を残しているし、日米派閥の争いも次は作戦に支障を残すかもしれない。

将兵が日米の不和に気づいてしまったんだ。これは大きな障害だ。

問題は時間だが…かけすぎてもBETAがさらに戦力を集中させてきたら一気に押し込まれることも考えられる。

今現在、24万のうち殲滅に成功しているのは核を使ってやっと10万を超えたほど。あとの14万の半分は一度退却し、モルドバ付近に散っている。

これからの掃討戦で討ち取れるのはいって後5~6万といったところだろう。

それならばBETAの欧州攻勢においての余剰戦力はあと30万はいるということになる。ハイヴを含めればその倍は下らないだろう。

そう見ればBETA共のとって今回の失敗は痛手にはなり得ても、攻勢を挫くまではいかないのだから時間を置かずに再侵攻もありえる。まあ一番考えられるのは1~2年の休戦期が得られることだが楽観もできないだろう。


内憂外患とはこのことだが…楽観論が広まりそうな今それを自覚しているのはどれぐらいか…

…新たな要素を入れないとここは時期に堕ちるかもしれないな。


それを黙って見ている光菱でもないとは思うけど、周りはどうかわからない。実際にBETAを殲滅出来ている以上、捉え方次第では本国でも楽観論が生まれかねないし…


一応レポートにして送っておこうかな。光菱と軍の両方に。後の事後処理もあるけどこちらも大切だろう。だが光菱もこれまでに少なからず恨みをかっているし、経済的な動向としても不安を隠せない。

どう報告したものか…

「たい、あ司令代理。ここにいたんですか。国連派遣司令部のジョン・カーター准将がお持ちです。」


また仕事か。まあ良いか。国連の派遣部隊のほうでもいろいろと派閥はあるだろうし、楽観していない者もいるはずだ。准将にそれとなく聞いてみよう。よし頑張ってみようかな。



~つづく

*************************************
次元管理電脳より追加報告です。

国家連合組織『ASEAN』について追加報告をお伝えします。

《ASEAN参加国》NEW!!

・インドネシア 

東南アジア1の人口を誇る大国であり、一人当たりの平均所得は低いが、近年の日本企業の進出とネットインフラを推し進めたことにより、好景気を享受しており、軍の近代化を急いでいる。

またその影響と親日国家ということもあり、日本製の兵器購入の大口顧客でもある。

※東ティモールは近年の軍事路線から独立を果たしていない…


・シンガポール

中国のBETA侵攻に伴い、香港からの欧米企業脱出相次ぎ1960年代から経済成長を続けてきたが、未だ陸続き(1989年、タラ海峡開通)であるためBETAの脅威感と最近インドネシアの発展からジャカルタに顧客を奪われていることや、人口が少ないため軍事の力が乏しく、東南アジアでの地位は年々低くなっている。

・タイ

近隣の東南アジア東側陣営がソ連、中国の後退により頼る国を無くした影響で相対的にその影響力が上昇している。日本とアメリカに対して友好的であるが、どちらかによるということはなく、日米の東南アジア地域の主導権争いに対しては中立的立場をとっている。


・フィリピン

シンガポールと同じく香港からの欧米企業脱出組に加え、アメリカの影響が強まったのは1970年代後半。

その影響から来る米軍基地の増強と米企業の進出が進み、それに華僑が進出することで経済は史実よりも発展してはいる…だが、横領にまみれたマルコス強権政治がアメリカの後押しの元、続いているため、近年3年で比較しても経済成長がとても高い…というわけではない。台湾との関係も近年強化を図っている。


・マレーシア

昨今のBETA侵攻から中国の難民が大きな問題となっているが、日本に好意的であるマハティール政権の元、民主化の推進と経済の活性化を目指した影響で東南アジアでも1、2位を争う経済成長を遂げている。


・ブルネイ

1981年イギリス自治領より独立。BETAによる影響で石油、天然ガスの値段が高騰したことを受け、相対的にブルネイの価値が上昇したことで独立運動が活発化し、イギリスとの良好な関係を続ける協定の代わりに、独立を勝ち取っている。


・ベトナム

1975年に南北ベトナムが統一され、ソ連よりの姿勢とカンボジアへの侵攻により起こった中越戦争(1979年)はBETAとの戦争に忙しい中国の内部事情により小規模に終わり、カンボジア内に居座り続けることになる。

そのため世界から孤立し、中国との国交正常化はASEANに1984年に入るまで断絶したままであった。

現在は将来の東南アジア危機の元、団結する機会を得てASEANに入り、所有権や契約など、資本主義に必要な民法が出来たことで日本を中心とする勢力(特に中東)との協力の元、冷え切った経済の立て直しを図っている。

尚アメリカとの関係は1985年に入ってから緊張緩和を成しているが、正式の国交正常化には未だ成っておらず、日本が行った国際協調路線の元の「ASEANの強化」と「加盟国の増加」に伴う、日本とベトナムとの国交正常化は「日本の先走り」として批判する米政治家も多い。


・カンボジア

ポルポト政権の元、毛沢東主義である「原始共産主義社会」を目指し、国民を死の淵に追いやったことで有名なカンボジア。その正確な数は不明だが内戦からアメリカからの空爆、ポルポトの虐殺を含めると、少なくとも100万、多くて200万人ほどの人々が死んでいったとされる。(当時の人口は1000万人以下)

その後のベトナムの侵攻によりポルポト政権は瓦解、サムリン政権によるカンプチア人民共和国が樹立され、諸外国からベトナムの傀儡政権であるとして承認されることはなかった。

しかしサムリン政権にとって肝心となるソ連がBETAとの争いで国際政治から存在感を喪失させ、1970代後半からアメリカとの関係が強めてきた東南アジア諸国からの影響と、対BETA戦の恐怖から国内の反発が強まり始めたのが1980年代の初め。

その影響による現政権の弱体化とベトナム、カンボジアの荒廃を知っていた日本…光菱の働きにより

・ベトナム軍のカンボジア国内からの退避を行うことを了承すること
・カンボジア政権へのベトナムの関与の否定、
・資本主義の一部導入と反対派閥の政党の設置

を行うことで荒廃したベトナムとカンボジアの国内食糧状況を改善させるための日本を通した経済援助とASEANの加盟、カンボジアと共に国際政治への復帰が適っていることなどの政治的な協力を得たことで東南アジア諸国連合軍に兵力を提供できるまでになっている。

これに対し、無理やりすぎるのではないか。アメリカへの配慮を。と言った声が騒がれたがベトナム、カンボジアの立地を考えた場合、東南アジア諸国連合の後に非協力的な国があることは政治的以上に軍事的危険性が高いことと、アメリカに対し意固持になっている両国を段階的な民主化に進ませるには、新たな道を進む日本が動くしか道はないと説明した大臣の説明がいろいろと問題にされたのは記憶に新しい。







・ミャンマー(1985年現在の名称はビルマ)

戦前に日本軍の訓練を詰んだ「三十人の志士」の一人であるネ・ウィン将軍が現政権を保っている。

この世界では対日反乱は起こさず、傍観に勤めていたこともありクーデター後、日本での戦後も日本との関係は良好である。

外交では厳正な中立主義を続けてきたが、ソ連、中国の東側陣営の荒廃と、フランス、イギリスの没落もありアメリカとの関係性を深めようとしていたが、南米での急激なアメリカの影響力強化を見て、態度を硬化。1980年代からは日本政府との関係性を強化する方向に変わっていった。

しかし軍事独裁体制への変更を余儀なくされている状況であり、社会主義の信用が低下し始めている中、資本主義の一部導入を余儀なくされ、印橋や華僑の受け入れを最近になって開始しており、軍事と経済、政治の分化に対して前向きな姿勢を見せている。

友好国はユーゴスラビア、敵対国は中国



・ラオス

ソ連、中国の敗退が続くことで社会主義という主義自体の不安と、頼れる国を失ったことにより、1970代より社会不安が増していったラオス。
将来BETAからの侵攻は避けられない現実となることを知った政府は1980年代に入って、「チンタナカーン・マイ(新思考)」の理念に基づいた経済改革を実施し、国家計画経済から、規制を緩和し開放市場経済への転換を始めている。


総合して

日本の戦前の影響力もあり、日米と比較して日本に対し協力的な国が多いASEAN諸国。近年の日本の行動方針転換についても好意的であり、反日的な者からは「日本の庭と成り果てた」とまで言われている。その言葉もありアメリカでは日本の勢力拡大を懸念する動きが激化の一途を辿っている。


以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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外伝の主人公たる黒野大佐の俺SUGEE話だった今回ですが、あくまでこの作品の主人公は孝明くん只一人です。忘れないであげてね?

話のほうですが、中途半端ですがこれにて第3部に移ろうと考えています。

その第3部ですが…プロットなどがまるまる消えてしまったので読者様に対して大変申し訳ないのですが、上げるのがとても遅くなる…と思います。


では次回にて



[28072] 第Ⅲ章<奮闘編> 1話 新造 《7/8新規更新》
Name: カバディ◆19e19691 ID:0701e029
Date: 2012/09/25 14:27
1985年9月12日 光菱本社ビルの一室

あの東欧へのBETAの攻勢から半年。ドナウ川防衛ラインが落ちたと聞いたときはもう欧州、ひいては世界終わったなと思ったね。そうつぶやく孝明です。

東欧の戦況はBETAの一大攻勢を凌いだことともう一つの理由から、BETAに勢いは下火になっており、現在は第2防衛線を主軸に体制を整えているとのこと。

そこまで落ち着けたのはまぎれもなく国連軍等からの支援があったおかげであり、そのおかげで未完成であった第2防衛線であってもどうにか、凌ぎ切れそうな状況に落ち着くことができた。

いやあ…本当大変だったと思うよ。いきなりのBETAの侵攻。まあ、それは当たり前であっても、天候のせいもあって、気づいたらいつの間にか20万ものBETAが目の前にいますとか卒倒物だろ。

それを凌げたのは先もいったが、後方からの支援と現場の努力、そして地味に新しい戦略コンセプトのおかげでもあるだろうね。

確か要塞線防衛思想だったかな。原案を出したのは、一応は未来知識を持つ俺だけど、ここまで形にできたのはまぎれもなく、軍のエリート、参謀さん達だ。さすが、頭が良い連中だ。それが弊害になることもあるが…今回はいい方向に推移したのだろう。

今回にしても一番強固だった第1次防衛線を崩壊すると見るや、東欧郡の参謀本部は、核兵器の投入や水浸し作戦などで要塞線もろともの自爆攻撃なんて果断な判断を下した。

いくら訓練をしても死傷者の出る作戦、本来であれば下策に等しいものだが、この世界では、少しの躊躇や甘さで、死者が乗数倍に増えていく。


それがわかっているからこそ、この世界が戦争であふれているからこそ、ここまで果断に判断を下せたのだろう。
失敗すれば確実に、下からの突き上げを喰らう、計画的な陣地自爆攻撃。

だが今回は、どうにか成功に収めたわけだ。それは死傷者にも現れており、今回の規模からすれば、奇跡的なほど人的被害を低く、なによりこれまで失敗することはなかった敵の大規模侵攻をくじいたことはかなり大きい。準備を万端にすれば20万もの攻勢を凌げることが判明したのだから。

その喜びは世界情勢にも現れており、現在の世界の各戦線は膠着状態に落ち着いたこともあって、人類側がBETAの攻勢を凌ぎ、いまだ半年前とほとんど同じ生息圏を維持している状況なのだ。

人類の明るい未来が見えてきたっ!














「と言っても表向きだけなんだけどね~」

と愚痴をこぼしたくなるのが俺の立場である。経済のほうも戦況の好転によって上向きに落ち着き始めているが、その現状は国民が把握している現状であって人類の実情ではないと知っているからだ。

「どうした?なにか悩みごとか?」

そう声をかけてきたのは人ではなく、人類をあらゆる意味で超越した生命体に作られた人工生命体、電子精霊マリヱだった。

「ああマリヱ、帰ってきてたんだ。でどうだった?」

「新しい技術に関しては少しではあったが、進歩していたぞ?」

聞いていればわかると思うが、経済、政治、軍事などあらゆる分野の考察が必要な立場となった俺。それに代わって現場の状況を見てきているのがマリヱさんの今の仕事なのだ。

マリヱが見える状態にするのも面倒だし、見れたら見れたでマリヱさんの存在から考えて拙い。さらに人とのコミュ力が意外に低いマリヱさんは足まと…否、適材適所な仕事がその存在の在り方からして電子世界を把握しての情報把握だ。


「で、最近一人言が多いが新しい悩み事でもできたか?そうだな…彼女ができないとか」


「うるせぇ…この家系の事情からして結婚してくれるものなんている訳ねえんだ。決して俺がモテないわけじゃないんだからなッ!!」

うわ、マリヱが優しい目で見てくる。どう見ても哀れんでやがるアイツ…
「でだ。何が拙いんだ?」

「まあ拙いというか当たり前というか、東欧に新しいハイヴが出来たんだよ」

東欧カルパティア山脈のふもと、ガラツィ。そこに新しい11個目のハイヴが建造され始めたと報告があったのが2ヶ月前。
つまり前回の防衛戦にてBETAに奪われたルーマニアの国土に、敵の最前線基地が出来たことを意味する。あれ?防衛には成功したのになんで?あれだけ殺したのになんで……

「まあそれはな…だがそれは史実において東欧にできたブタペストハイヴ、それがその位置まで後退したと考えればそう悪くはあるまい?それでもある意味では成果ではないか」

「・・・まあ俺たちからすればそうなんだけど、世界の人たちはそう見てくれないんだよ」

当たり前だ。今生きている人たちは史実のような“悲惨な未来”を知らない。そうなるはずだった未来なども。だからこそハイヴが新しくできたというのは不味いのだ。

人々の評価というのは必ず結果で判断される。それが軍事の難しい事情もわからない一般市民からすれば、ハイヴができたというのは、即敗北した、というイメージに直結する訳で、防衛戦の死傷者が少ないことや、BETAの攻勢を挫くことができたのは言い訳にしか映らない。

俺としてはこの防衛戦の順調な防衛成功を弾みにして、人類のムードを上げ、日本の評価につなげたかったのだが、それにケチが着いてしまった形になる。


「なによりあの防衛戦の成功が「BETAはもともとガラツィにハイヴを作りたかったから、攻勢を弱めたのでは?」という論調が各国政府高官の中で生まれているのが拙い。今回の成果がまるまる失われてしまうわけだからな」

これを言っているのはもちろん反日派に属する軍事アナリストなどだが未来を知らない以上、全面的に否定はできないし、素人にはどれだけBETAを殺したという数値よりも、地図上で見た視覚情報のほうが真実に映る。

「つまりこれまでの努力が否定されるということか」

そう。東欧戦線は俺がこの世界に来てからの情報提供と、国連軍の派遣、兵器輸出で若干だが史実より保っているため、ブダペストという、日本なら佐渡島のような懐に造ることを避けられたことになる。

ガラツィはその場所を見ればわかるがカルパティア山脈と数多くの川によって、人類の生息圏から遠のいた場所にあり、代わりにブタペストは、東欧の首都圏近くである。その成果は史実を知っている者からすれば大戦果ものだ。

だが、それがこの世界の者がわかるはずがない。現に今の情勢でも戦力が足りていないのでは?という懐疑的な意見も議会では出始めており、こちらとしては結果を出したのに否定されるという、ヤル気が削ぎれる状況に陥っているというわけだ。

「そしてここに新しいハイヴが出来たことはBETA側にとって将来、かなり有利に働くことになる。」

「東欧の前にハイヴができたのだからな」

「守りたい欧州の前にハイヴが3つ、だからね。史実ではミンスクハイヴだけで欧州が押し負けたんだ。これはかな~りやばい。」

これは西欧のミンスクハイヴ、北欧のロヴァニエミハイヴの2つをあわせると前線に約100万ものBETAが欧州攻略に乗り出せるようになる計算だ。
ブタペストに出来たことよりかはマシだが、こちらの思惑としては、先の防衛戦でBETAをあれだけ殺したのだから、史実に出来るはずだったハイヴ一つくらいは消えたのではと予想していたのだ。

「つまるところ、場所が若干変わったことで戦況が楽になるだろうが、戦局は結局のところ変わらないということか…どうにか新しいハイヴを攻略して…いや無理か。」

マリエが言おうとしたのは、新しくできたハイヴならば攻略できるのではないか?ということなのだろう。だがそれをしようとした者たちの将来は決まっている。失敗だ。

なぜか?当たり前だ。相手も出来立てのハイヴがもろいことを知っているからだ。そのために付けられる近衛のBETAは30万を超え、周辺のハイヴから即座に応援が届く体制が整えられている。

なによりハイヴを新造したばかりであることから、地上にいるBETAの数、特に光線級の数が尋常ではない。そんなところに砲撃を打っても全て撃墜、戦術機でさえ容易に近づくことはできないだろう。


そしてなにより人類が敗走したからこそ、新しくハイヴができたのであり、そんな余力が敗走した軍にあるわけがない。今の東欧も同じであり、新たに出来たハイヴからのBETAの侵攻を防ぐために、防衛線の整備に忙しく、攻略部隊など言い訳程度にしか抽出できないだろう。


「…うん。現状は正直かなりきびしいよ。努力した結果で戦況はどうにか持ち直すことには成功したけど、人類全体で見た大勢は変わっていないってことだからね。」

「時間稼ぎが精一杯…ということか?」
痛いところを付いてくる

「史実は時間稼ぎもできなかったんだけどね。だけど戦局を変えられていない以上、オレが今までテコ入れした兵器だけでは、ヨーロッパを保つ手助けには足り得ないってことだ。このままでは何年後かわからないけど欧州は堕ちる。あくまでこのままだけど」

それはマリヱにとってヨーロッパに死亡勧告をされたのと等しく、それの肯定と受け取ってしまう。
「…そうか。ヨーロッパは保たないか…」

それはBETAに抗するために必然的に必要になる後背地が、人類が保てないため、そこで詰みとなる典型的な例だった。
BETAに兵站という概念がない。BETA一体につき、エネルギーの貯蔵量が桁違いのため、補給線が伸びるということがない。

ということからもBETAを史実より内陸部に封じ込めるためには、BETA用の防衛線と防衛線の裏にある十分な戦力を向上できる"国土"が必要になる。

つまりは、今までのBETAとの戦史からいえば、ブダペストがガラツィに変わったという光菱の働きの成果は、死を長引かせる時間稼ぎにしかならないということだ。

「ここまで原作に介入してしまった手前、原作通りにブダペストに建造すると考えていた 訳ではないが…ここまで急いでハイヴが建造するとはなぁ…」

ヨーロッパの生命線を保つためのラインに、BETAの戦力を増強する基地を造られるというチェックメイトをされたのだ。と孝明に悲哀を含んだ相槌を促すように言った。

「中東のほうも変化しているがそれも、大勢には影響しないのか?」
それは少し前にできた中東のガシアンテップハイヴのことを言っているのだろう。

「中東だけで見れば大きいんだよ。世界地図で見れば少ししか動いていないが、国の地図で見れば大きく動いている。本来出来るはずだった中東のアンバールハイヴ。

それが今はガシアンテップハイヴ、つまり中東の中心から遠のいているんだからね。
だけどガシアンテップにできるということは地中海に近づいたことになる。BETAの戦線が事実上繋がったわけだ。」

ガシアンテップ。トルコの要衝地であり、地中海に近く、BETAからすればヨーロッパ方面にも矛先を向けられる要地である。つまり場所としては、アンバールより北西に遠退いたのだから自然、欧州に近づいたということだ。

そこを前線基地にすれば中東戦線方面にはハイヴを含んで約50万ほどのBETAが攻勢をかけられつつ、新しくできたガラツィにも増援を送り込めるようになる。

つまりはヨーロッパ方面のハイヴと連携が取れる絶好の地に変化したのだ。

「これは痛い。ガシアンテップにできたこと自体はその場所が、豊かな大地でもないからあまりBETAにとって良いとはいえない。だけど戦略上はかなり大きい。なによりBETAからすれば新たに増援路が整備されたことになるんだからね。」

「つまりはオリジナルハイヴ、イランにあるマシュハドハイヴといったフェイズ5のハイヴから増援が届く危険性があるということか」

そう、いままでは3番目にできたウラリスクハイヴ(場所でいえばカスピ海の上)に過剰にできたBETAが主に、欧州への増援として回されてきていた。

だがガシアンテップ、ガラツィに新しいハイブができればどうなるだろうか。

ガラツィで見てみれば、今までミンスク、ウラリスクからの増援を西欧、東欧に2分割してBETAの強みである物量に対処していたものが、東欧の目の前にハイヴができれば、ミンスクは西欧、ガラツィは東欧、そして戦略予備としてウラリスクの増派部隊がいるという形になる。

そしてもっともまずいのが、ガシアンテップハイヴである。

先も言ったがトルコの要衝であることからも、侵攻方向を中東、つまりはアフリカに攻める方向ではなく、ボスポラス海峡を渡りギリシャを介して欧州への侵攻も可能となったのだ。
なによりオリジナルハイヴと二番目に古いマシュハドハイヴからの増援を含む新造BETAが中東の目の前に聳え立ったことは史実と同じく中東への圧力を大きく増すことになるだろう。

そうしてハイヴ伝いに簡単に増援が可能となったことで、もし中国、インドへのBETAの攻勢が弱まり、先ほどのハイヴから大増援がヨーロッパ、特に東欧へと、トルコ、ギリシャを介して集中すればどうなるだろうか?

「東欧戦線への挟撃、それは即東欧の瓦解に繋がりかねない。戦力の集中投与を許せる場所にあるガシアンテップとガラツィは、それほど危険な立地に位置している。
つまりは人類の防衛戦が突き破られる可能性が生まれてしまったんだよ。危惧していた通りにね」

ただハイヴが出来たのなら、ここまで落ち込むことはない。その位置が戦略的に重要な位置だからこそ悔いているのだ。

そしてそれは東欧であり、東欧の前にハイヴを建造させてはならなかった。点と点であればそれほど脅威ではないハイヴ。だがその点がつながりあい最前線にて線になってしまえば、どこに戦力を集めるかの主導権がBETA側にわたってしまったのだ、


「まあたかが5年で戦局に影響を与えられるとは思っていなかったけど、さすがBETA。強い」

結果論だが浮かれていたんだろう。数々の施策。国連軍の創設。世界経済の好転。その数々で結果を出したとして、変わったのはハイヴの位置であり、戦術上では価値があっても戦略上ではあまり意味がない。たかだか3年ほどの時間稼ぎ。

戦術での巻き返しでは戦略には影響を与えない、それの典型的な例が今俺の目の前で、指し示されている。正直かなり心に来る状況だ。


「でどうするのだ?お主もここで手を拱いているつもりもないのだろう?他の情勢もさらに変化していると聞く。対策のほうは考えがまとまってきているのか?」

(…へこんでいるところに、対策は?と聞かれるとおまえがやれよってイラッてくるよなあ…まあ全権を俺に預けている債権者だから、それは正当な行いなんだけどさ)

「ん?どうしたソ連、中東―――最近のBETAは南進もしているのだぞ?」
たしかに中ソ連合軍によるノギンスクハイヴ攻略作戦が失敗に終わり、ただでさえ戦力が減少している、中ソがさらに弱体化してしまった。それに中東も動けず、なによりインドへの攻勢が強まり始めた。

わかっている。今はかなりやばいときだと、だがそれを覆せるほどの力と、権力を未だ持っていない俺にどうしろと?

そう叫びたくなる衝動を抑えて、どうにか冷静にマリエの疑問に答えを返す。

「…しかし、1財閥にやれることなどたかが知れているんだよ。たしかに日本国内であれば、権力を握り大きく動くことが出来る。だけど海外への大規模な派兵は難しい。戦力もだが、未だ国内の意思が統一できていないからだ。

…それにこれまでは派手に動いてきたからいろいろなところでしわ寄せが着ているんだ。そろそろ、これまで見逃していた地味な部分こそやっていくしかないんだって」
「だが…」
「わかっている…だからこそ、だからこそ少しずつなんだよ。日本も含めて」
「日本?どういうことだ?」

「日本だけを考えた場合、翔鷹の配備が予想より早く開始し始めた現在、やっとアメリカからの横やりを入れられずに、世界的な政治の表舞台で動けるようになったんだよ。口達者にはなりたくないしね。」

翔鷹の配備状況としては国産第一号機としては、驚くべきスピードで製造、試験、配備が進んでいる。それは1985年1月より生産が開始されてすでに1000機の大台に乗っていることからも異例だろう。
まあ先約が多かったことが一番の理由ではあるが。

「…これまでもいろいろとやってきたではないか?」

確かにマリエの言うとおりだが、意外にも国産戦術機が認められ、問題なく生産、配備が出来ている今の日本の状況は、政治的な世界でも大きな意味を持つものであり、これまでの無理を塗りつぶす大きな働きを持つものなのだ。

「アメリカから言えば裏でこそこそやりつつ、大儀をいつも掲げてきた日本がやっと本性を出した、けど力をつけたから口を出しづらいみたいなもんだよ。それでもあまり横槍を入れられない程度だけど。」

「まだ、"あまり"がつくところが悲しくなってくるところだな」

「当たり前だ。世界の覇王米帝だぞ?5年頑張っても差がありすぎるもんだ。

…で、だ。これを活かすためにこれまで気づいた人脈が役に立つんだ。」
裏なんかなら最初からやっていられるだけどね

「商売相手などか?」

「それも入る。そもそも、俺からしたらこの国の組織構成はひどすぎる。そういう内部も治していかなければならないと思っている。

そのためにいまのうちに将来オルタネィティブ4派になる勢力を国内に築かなくてはいけないんだ。」

農業のほうで、合成食糧分野と近頃の法律の改定による大規模農園の企業運営で大きな影響力がある。
これと軍事、工業、等で大きな影響力を政府に与える事ができている。

…実力プラス、賄賂と、商事などの情報を使っているだけなんだけどね。

「そうすることで、これからの30年ほど続くBETAとの大戦を戦っていくわけだ…が、
今、国内だけで見た場合、大きな問題点がある。
それは軍の頭がかったいことと、政治家が腐ってやがることだ。ようするに金なんかで動いてんじゃねぇーよっ!!ってことだ。」
「主が賄賂を使っているのにか…?」
「うっ!?いや…まぁ…話を続けよう…

政治方面では、マリヱとあった時の大目標を「国策」とするために必要なことはわかるよね?
じゃあ軍事のほうなんだけど…軍事のほうも重要なんだ。」
「わかるような気もするが…なぜなんだ?」

「ぶっちゃけ、軍全体の戦略、思想、体系が古いんだ。この世界全ての国を含めてね。
新兵器開発も戦略や思想が古くてはBETAに有効な兵器開発はできない…つまりは兵器開発路線の開拓だ。」

「それはわかるが…翔鷹のようにこちらから押し込むことはできないのか?」

「…衝鷹みたいに無理やり押し込むことなんて一回きりだ。そんなこと続ければ他の企業に怨まれるわ、拙い慣習が生まれてしまう。
そうさせないためにも、対BETAの最新の戦略、戦術を広めることで、こっちも兵器開発もスムーズにいけるってわけだ。」
これはめちゃくちゃデカい!!

通常、兵器開発は、軍が今の状況に必要なものを、国家固有の大戦略に沿う形で、初期研究をする。
それからどのようなものを造るか開発要求書をメーカーに提出し、研究所と共同して試作するってわけだ。

これによって、兵器が開発される。そこに新しい概念・知識を注入して、海外勢を含め、有効な兵器を開発できる下地を作れるようにすることが、目的なのだ。

「それにこの国は俺が来た世界より、戦前の昭和の雰囲気に近い。そうなると、BETA大戦を前に軍が暴走したり、政府の要人が暗殺されたりと弊害しか生まれないしね。」
そのような未来にならないように世界の一極になるためには、立憲君主制、皇道派よりのまま、統制のとれた政府と軍部で統一し、教育指導と情報統制を引く。それがこの国にとってベストだと考えている。

だが現状はどうだ。頭が良くてもその思想が古くては国政には良い影響を与えない。だが頭が良いために自信がある。そんな危ういヤツラが軍部や官僚にはびこっているのだから。

…まあ時代の移り変わりがこの5年とんでもないペースであるためしょうがないとも言えるのだが。

「それに外国のほうにも人脈作りは大切だ。、特に政治的にこちらの話や協力が出来ない国、東側陣営の中ソとかね。」

ソ連など東側陣営は最終的に、二桁以上もハイヴ抱えることになる。ソ連は2大超大国に数えられる…が12個はねぇよ…それなのに、いまだに冷戦構造はあるため、安易に協力体制にできない。しかも協力体制になって、気づいたらスパイだらけになりかねないお国事情。孝明くんが言うなら…「怖ぇえんだよ、マジで。」
ってことになる。


「ってわけで、ただ単に戦力を築き上げようとしても、周りに邪魔されちゃ困るからね。そこらへんの地ならしも行いつつ、いろいろと手を回さないとならないんだよ。」


「だが肝心なのは軍事支援のほうだろう?」

わかってるよっ!まったく。
「欧州に新しいハイヴが出来たのだ。それの対策として増援部隊も整備しなければならん。戦術機の増産についてもあまり上手くいっていないと聞いたぞ?」

うぐ…

「確かにうまくいっていないさ。先の東欧戦線の防衛成功がなあ…」

「第1世代戦術機の徴収に各国が難色を示しだしたか」


世界でみても、現在の緊急事態に対して、世界が協力し合おうとして築かれた国際協調路線。

国連の調停によって国対国の戦争の危険性がほぼなくなったからこそ、各国に配備されていた第1世代機をグリフォンに改修、最前線に売り込むことが可能だったわけだ。

だが東欧の防衛成功がそれを崩すことになろうと思いもしなかった。

「後方国家の軍部が東欧の成功をみて、そこまで急いで我々の第1世代機を回収する必要もないのではないか、言ってきたからね。あちらとしては一時でも戦術機が減るのは我慢ならないんだろうさ。」


国防の観点からしても兵器の中で唯一BETAに対抗できる戦術機を、世界のためとはいえ削減したくはないはずだ。ただでさえ数が足りていないし、新造されたグリフォンの生産が追いついていないため、最優先にされている最前線国家以外では、一二年は戦術機の数が激減する期間が生じるようになる。

「今までは世界の危機と他の国も戦術機を減らしていたからこそ、国連からの提案に乗っていたが、少し余裕が出来ればいろいろと理由をつけて、戦術機を離そうとはしない者が出てきた。喉元すぎれば、というやつなのだろうが、こうも簡単に協力体制にヒビが入るとはな。」

「あたりまえなんだけどね。まあ正論としてだれと戦争するつもりなのかと聞かれれば黙るんだけど、国防をつかさどる各国の軍としては一時とはいえ、戦術機が減るのはうれしいことではないだろうさ。

なにより東欧の防衛は一応は成功している。ならば戦術機を、後方の国のものまで回収して集める必要はないんじゃないかっていう正当な理由が出来てしまった。そんあ意見が出てくるのは当たり前ではあるよ」

特に中国、朝鮮といった前線国家に分類される国はグリフォンという国際開発機に対して、いろいろと疑問を抱いており、後方各国から裏を介して改修前の戦術機を集めている節がある。

これは改修費用を出して強化するよりも、国連と第二世代戦術機の登場により、国際価格が下落している改修前の第1世代機を数揃えば、対応できるのでは、という考えの元・・・なんだろう。あとは日本が国連に強く関与しているのが気に入らない、ってのもあるかもしれない。

「同じ情報でも、片方では不安がり、片方ではもう大丈夫ではないかという意見が出てくる。それは所属する組織が違っているからだが、度し難いものだ。」

「なんかパーっと解決する裏技でも…あるわけないか。」

「当たり前だ。戦争なんて派手に解決する必要もないんだ。地味なことの繰り返し。」

「ではどうするのだ?」

「それはもう一つしかないでしょ。国連統合軍の再編組みを片っ端から送り込む。新兵器を導入した部隊からなにまで。総力戦の開始だよ」

ここまで自転車操業のようになるとは思わなかったが仕方がない。予定を繰り上げて再編が行われていた国連統合軍。その内部で余裕のある方面軍から部隊を抽出して送り出そうと言うわけだ。

はっきり言って応急処置。そんなもので対処できるか不安ではあるが、物量でどうにかするしかない。これからはかなり綱渡りになるだろうが、問題を解決するためにも手を施すしかないだろう。人類の未来をかけて、な。


~2話に続く~



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次元管理電脳より追加報告です。

新しいハイヴが3つ追加されました。NEW!!

ガシアンテップハイヴ 中東トルコ
1984年11月建造開始
1985年現在フェイズ2に移行中

ガラツィハイヴ   東欧ルーマニア
1985年7月建造開始 
現在フェイズ1の状態のまま、周辺を慣らしている途中の
ようです

ノギンスクハイヴ ユーラシア北部 ソ連
1985年2月建造開始
中ソ連合軍のハイヴ攻略作戦が7月に決行され、失敗に終わりました。現在
周辺ハイヴより増援部隊を結集、周辺の人類を駆逐しています




以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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筆者です。更新を半年も待たせてしまい、申し訳ありません。就職してからというもの、仕事のほうが忙しかったもので更新する暇がありませんでした。

これからも不定期にですが更新していくと思います。休んでいた間の数々の感想、ありがとうございました。励みにさせてもらいます。



[28072] 第Ⅲ章<奮闘編> 2話 増援 《9/25新規更新》
Name: カバディ◆19e19691 ID:0701e029
Date: 2012/09/25 15:32
「これから欧州が忙しくなる以上、国連全体で見ても余裕のある、東アジア・オセアニア、アフリカ、全米の部隊をかき集めて投入するしかない。

それはわかった。だがどのようにしてだ?国連とて日本の思いどおりには動かぬぞ」

マリエの言葉が胸に突き刺さる。それが正論だからだ。
東欧にハイヴが建造され、余力がなくなった、いや余力が将来尽きることが決定しているこの状況。

そこに無理やり戦力を増強しようという案に無理があるのは自分でもわかっているのだ。

それにマリヱが言うように、日本の影響力は国連の中で強くなったとはいえ、国連は国際組織であり、国家の互助機関。未だ力がある以上、日本はもとよりアメリカの要請に素直に従うわけがない、それはあっている。

知識チートと金の力で数々の組織を誘導することができる俺だって限度はあるさ。…ほんとだよ?

だけどだ

「そこは別に日本の思惑に従って国連が動くわけでも、俺の思惑で動くわけでもないよ。国連自体が動かなければならない事態に陥っているんだ。」

「・・・どういうことだ?」

「国連も俺達と同じ問題に直面しているんだよ。83年からの各国の義勇軍の失態により、各国軍は縮小を余儀なくされた。戦争している場合じゃないって国民と、各国の財務省などからね。
そして余った軍人や軍の部隊を国連の元、一括して生まれたのが新しい国連統合軍だ。

つまり今、世界のための軍はアメリカではなく、紛れもなく国連になっているだよ。」

「だから国連が動かなければならないと?」

「そういうこと。そう仕組んだのはこちらの動きではあるけれど、最近の国連の発言力の向上は、その公平な軍事力と経済力によるおかげだ。そんな中、東欧が瓦解すれば西欧が瓦解することをわかっていながら見過ごす国連じゃないでしょう」

東欧の瓦解は欧州の瓦解、つまり、人類の3大経済圏の一角の消失だ。
(※三大経済圏、北米、西欧、日本を含む西太平洋湾岸国家)

そうなれば、世界恐慌に直結し、世界の経済が持たない。
そのことは欧州方面総軍のジュネーヴも、北米のニューヨークのほうも理解している。

「だからこそこちらの指示ではない。むしろ協力しなければやっていられない状況ってわけさ。なら今まで築き上げた人脈で誘導すればどうにか動かせるさ。」

理由がなければ人は動かない。その理由になにかを添えるだけで人はこちらの思惑通りに動いてくれるようになる。それが買収の基本だ。

「…どう見ても表向きの理由を聞いているような気がするのだが…」

「ひどいな…そこまで魔王してないって。

まあたしかに国連全体で見れば日本の思い通りには動かないけど、方面軍単位で見れば話は変わってくるのは、本当かな。新設された方面軍とかね」

「知っているわ。西太平洋方面総軍のことだろう?」

本来であればアメリカはもとより、日本、中国、南米、オセアニアを含む大きな範囲を占めるはずだった、国連最大の方面軍、太平洋方面総軍。

国連統合軍傘下の地域総軍の一つであり、史実では3年後に創設される予定のものだった。

だが日本を含む汎太平洋諸国連合とアメリカとのテーブルの下での主導権争いが生じている現在、それを東西に分けそれぞれの影響下に置くことが83年の終わりから決まったわけだ。

その結果が現在の西太平洋方面総軍と東太平洋方面総軍である。

その規模はそれぞれ、現在もっとも大きい欧州方面総軍、それに匹敵しうる規模にまで急拡大を続けており、『国連の中の軍拡競争』とまで言われいているほどだ。

その中の片方が欧州へ救援を派遣しようというのだ。

「まあそういうことだよ。表向き世界の軍は、最前線国家以外は縮小傾向にあり、国連に吸収されている。日米両軍でさえ例外ではない。

だけど安全圏とはいえ列強である日米が、そう簡単に発言力に直結する軍事力を削減するわけがない。

…裏技というべきか、国連の東西太平洋方面総軍の指揮権はそれぞれ日米両派閥が牛耳っていて、日本軍、米軍というラベルが国連軍に変わっているだけなんだよね。実際は。」

そういうことだ。

しかも最近の国連軍の急拡大の中で、実質的に大規模再編を実施する余裕があり、後方各国や前線国家から逃亡者、いわゆる国連直轄地からの兵などを含んで急拡大しているのは東西太平洋総軍だけだ。

そのおかげもあって日米は国連軍の中で大きな発言力を、ひいては世界における影響力を持つことに繋がっている。

これは国連への、税収の半分を日米で負担しているからこそであり、日本の場合は、国連自体に大きな貸し(著作権の権利問題など、収入路の開拓)があるからこそ、ここに来てアメリカに意見が出来るほど影響力を世界に示すことが可能となったのだ。



「良く各国が反対しないな。」

「別に日米が、『ハハハハハ我が軍の傘下に下るがいい!!』って悪者やっているわけじゃないさ。日米軍からの国連へと派遣されている部隊数が多いこと、金を出していること、なにより周辺諸国からの求心力がある2国だからこそ、指揮権が事実上、握っているだけで、総参謀長は、中小国の人だったり、表向きの体裁はちゃんと“公平”だよ。」

それに、国連へと吸収される軍の方法にも二つあり、
一つは完全解体。中小国の軍の余剰軍を完全に国連傘下に置く方法で、維持費は完全に国連持ちの方法。

そしてもう一つが長期派遣軍。これは日米両軍に多く、国籍や軍籍は移動するが、部隊編成から何まで自国の軍とほぼ変わらず、母国への帰国申請も籍が変わっても、簡単に帰ることができるインチキな方法だ。しかし軍の維持費、または装備は自国が負担しなければならないため、大国でなければできない方法というわけだ。

そしてその長期派遣の方法を取り、日米への移民希望者を使って国連へと侵食している日米が指揮権を持つのは、自明の理だった。


「まあそういうことだとは思ったがな。国連とはいえ、条約にあるように西太平洋の国連の活動費用を出しているのはその地の国家。

他にも日本は国連全ての収入源、ネット関連などに大きく関与しており、金も数十兆単位で貸し出している。

なにより西太平洋方面総軍の骨組み部隊は日本などの国だからな。使用している施設、武器、支援費用はすべてはこちらの物を使っている以上、オナーの意見を無碍にはできない、か。」


確かにマリエの願うとおり、国連は大国の動向に左右されてはならない。だが、
真実は違う。こんな現状である以上、指揮権を一括にしなければならないのはしょうがないことではある。
なにせそのための国連軍なのだし、こちらの要請は正論でもあるのだから

「そしてもう一つの東太平洋方面総軍も、欧州への追加増派が決定した。まあアメリカも本気で動くってことだね。」

もう一つの東太平洋方面総軍のオーナーが動くのは日本が動くから、というのもあるが市場でもあり、同じ白人が牛耳っている欧州をアメリカが助けずにどうする、という見栄もあるのだろう。

本腰を入れて西欧に軍を派遣するようだ。

まあこんな、日米による覇権争いによって、何十万とも言われる戦力を出すか、出さないかが決定することなど、世界の他の国が知れば、「ずるいっ!!いつの間に世界は日米に牛耳られたのかっ!」と憤りを覚えそうなものだが、

技術革新によって世界の距離が縮まった今の国際社会において、勝ち組と負け組の敷居を作られた時点で、なにもかもが勝ち組のために動くようになっている。

現に日米の国連の分担金の割合は以前、高いままだが、それが国連統合軍内部の日米軍の維持費や、販路開拓に使われる資材の製品元がどこの国の物かを調べれば、勝ち組はどこかわかってしまうだろう。

まあその中でも裏を含めたトータルで一番儲けているのが、世界の真の勝ち組。つまり光菱財閥となるのだから、とんでもない。

世界の金融を制している者が言っていた「世界で一番儲けようとするなら、世界の枠組みを作るのが一番手っ取り早い」というのを実践したようなものだろう。


「だが国連軍は各国の軍隊が縮小、それのあぶれ者が集まって出来たものだ。たかが数年で、派遣できる部隊が構築できるとはとても思えないのだが・・・」

「確かにね。全員が軍人のプロでもすぐに集団として使えるわけじゃない。それが総軍規模となればなおさらだ。それに前線各国、国連直轄地から集められた新人達が加わるんだ。動けるわけがない」

確かにそれは当たり前の常識である。いくら俺が知識チートに絶対の忠誠を誓ってくれる光菱の部下達がいるといっても、常識までは変えられない。

大規模な組織を再編しようとすればそれだけの時間と金がかかるという常識までは。

確かに大体単位で各国から派遣された部隊は数多い。だがそれをまとめる師団、旅団等を構築、さらに大きな規模の軍にするには、意外かも知らないが時間がかかるのだ。

信頼関係もそうだが、方針、言語、すべてが違う。

軍規からなにまで新しくなった組織において人はストレスを無意識に感じるものだ。それも100万人単位とならば数年で組織化するなど、アニメなどのフィクションの中の話でしかない。

「それにおぬしは西太平洋方面総軍の拡大に力を入れていた。アメリカの軍拡競争を煽るかのようにな。それを考えると、さらに組織化は遅れ、前線への派遣など不可能ではないのか?」

それも確かである。俺はある理由から西太平洋方面総軍は規模を拡大をなにより目指してきた。それは1~8軍すべてを同時並行で組織化しようとしている今の現状にも生きており、

現にマブラヴ史実の第7~12軍となるはずだったものが、西太平洋方面総軍に吸収される形で、第1~第8軍と急拡大している。1軍が数十万単位の集団だ。

派遣軍を派遣する余裕などない。大組織というのは再編だけで時間を食うものだからだ。

―――本来ならば。

「だけどそれを実現、いや、ぎりぎり戦力を抽出して派遣する方法があったとしたら?」

「なにを。魔法でもあるまいし、禁忌を犯さない限りそんなこと」

「……まあ、そういうことだな。」

「禁忌?核か?いや‥‥‥お主、まさか洗脳プログラムをっ!?」

「ああ、そういうことだよ」


富国強民政策の一環として現役の軍人・官僚に対しても、新しい流れに乗り遅れさせないためのある施策を講じることとなった。

ただでさえ、最近の世界の移り変わりは激しい。俺からもれ出た数々の知識、技術による弊害だが、ただの人はそれについてくるのは至難の業だろう。今はまだ1980年代なのにネットがあるのだから。

そんな立ち遅れそうな人たちに救いの手をそうして考え出したのが、精神干渉技術、いわゆる洗脳と、知識を埋め込む記憶の改ざんだ。

そもそもこのマブラヴの世界自体、史実世界と比べて"洗脳"技術が進んでいる。衛士に対する後催眠プログラムなどは典型的な例だろう。それに拍車をかけたのが今回の施策である。


「だが、お主もその弊害は認めていただろうっ!人が人を信じられなくなると!」

人は誰しも心が、己の行動を決めていると思っている。それは当たり前のことであり、それを尊重することが人の尊厳を尊ぶ行為だと知っているからだ。だがその自分が決めている行為が誰かの思惑に乗せられたものだとしたら?

人は人を、組織を信じられなくなる。だからこそ、可能だがやらない技術が洗脳技術なのである。

「確かに。教育プログラムや睡眠学習プログラム等でお茶を濁してはいるが、なんといおうと洗脳と記憶の改ざんだ。それが許されない行為だとはわかっているよ」

「ならばなぜっ!?」

「わかるだろう。そんな甘いことを言っていられる事態じゃないって事は」

このままほっとけば中東、欧州が落ち、その攻勢は東アジア、インドに向くことになるだろう。そうならば次は日本だ。

日本の国政を事実上、司っている俺としては許されるものではない。

悪の組織に成り下がっている?馬鹿が。人権や人の平等を騒ぐことができるのは平和だからだ。危機とわかっていて賽を振れない人間は人を率いる資格はない。それが悪魔が渡した賽であってもだ。

「っ!わかっている、わかっている!だが」

マリエが苦しんでいる。その気持ちはずいぶん前に俺が味わった物と同じ、人としての尊厳を自分で踏みにじった、とてもとても苦い味だろう。なにより俺よりオ人の尊厳を気にするマリエだ。もっと濃いかもしれない。

もはや人が人のそれを犯せば"人"ではなくなり化け物となるのだから。

だがそうするしかなかった。

確かに俺とマリエはこの5年いろいろとがんばった。
新しい戦術機を開発し、いろいろと新しい技術を生み出す毎日。
だがそのほとんどがこの時代でもがんばれば実現できる技術の範疇に収まっているものだ。

ネットしかり、通販しかりだ。

それを見れば、今、世界のほとんどにまで影響を及ばせている俺の原料力が、その未知の知識ではなく、知識によって生まれた信用と金、人脈であることはうなずけるだろう。

人はその知識についてくるのではない。その結果、信用にこそ付いてくるのだから。


その力で新しい組織をつくり、新しい国の体制を作ったのであって、兵器単位で見れば進んで5年程度の進歩だ。

なに?それでもいろいろとやりすぎだって?

そうでなければBETAに対抗できないからだ。下手な新兵器よりもこれまでの倍の物量のほうがBETAには有効である。

その結果、死ぬはずではなかった人間が万単位で死んでいるかもしれない。
だが俺はその数百倍の人間を活かしている。それが正しいと信じているからこそ、俺はその体制作りに力を注いでいるのだから。

「納得しろとは言わない。理解しろともだ。だかこれが現実の中でもっとも確実な方法であることは知っていてほしい。未来の知識があったって、万能でも神でもないんだからな。」

俺だって知識を使ったスーパーな武器があれば使って俺TUEEEしたい。

一撃で万単位の化物を消し飛ばし、前線で救われるはずのなかったの美女に、感謝のキスなどされたいものだ。

だが、そんなものはありはしない。技術とは、そんな簡単に上がる物ではないから、世界とはそんな甘いものではないからだ。


数年前から頭の中でいろいろと復活していく未来知識。それは重力をコントロールしたり、ビームを放出したり、あのBETAをボッコボッコにできそうなほど魅力的な技術だった。

だがそれをどうやっても量産、実用化する?

その段階となると、どうしてもコスト等で大きな壁にぶち当たるのだ。それはWW2時代の日本にイージス艦の技術を持っていったかのように。戦争というのは悲しいことに、一機の高スペックな兵器ではなく、ある程度の質を満たした兵器の数で勝敗が決まる。

ガンダムではなく、我らに必要なのはザクなのだ。

そしてザクでさえ。未来知識によって生み出される対BETA用の純粋な量産兵器を作るには、どうあってもあと数年、ここまでやっても数年時間が絶対的に足らないのだ。

だからこそ悪魔の誘い、禁忌を犯した。

ただそれだけだ。

幸い、日本の巨大財閥の長であることから、国一つを牛耳るのに時間はかからず、

未来を知る強みによって、世界に多大な影響力を及ぼす力を根付かせた。

それは財閥の力もあるが、世界の新しい形である情報社会のインフラ、ネットを国連を介して独占できたおかげだろう。

そうすることで新しい情報メディアを牛耳ることに成功した訳で、ただでさえ、財閥の長として超然とした影響力を持つ自分が、さらに世界と近くなった。

それも軍事力というバックもなく。


そうして手に入れたチートと言って良い世界への影響力・政治力などを使い、国連軍の教育に、悪魔のメスを差し込むことにも成功したのだ。

「だが、信用はどうする?教育資材とは言え、誰もが頭を弄られるのを許すものか!」

「もちろんわからないようにやっているさ。あくまで予習復習を是とする教育システムであって洗脳システムではないとね。」

そのために賄賂はもとより、絶大な結果、そしてこれまでしてきた光菱の信用がそれを肯定させる。


「そこまで・・・そこまでやらなければ人は勝てないのかッ」

「そうだ・・・まあ俺が無能だからかもしれないけどな。だが人の好意によって作られた義勇軍も、時間稼ぎにしかならず、人同士のいざこざを解決して、作られた地域連合、東欧同盟や中東連合でさえ、防戦一方だった。

なら、どうする?誰だって負け戦には金を払わない。なら勝てるようにするしかない。人の尊厳、人の命でさえ、踏みにじって、そうすることでしか勝てないと踏んだんだ。ほかの誰でもない、俺がな」

もちろんただ踏みにじる訳じゃない。勝つために、勝つために己から罪を犯す。

80年から始まった改革も未だ、5年しかたっておらず、外伝で使われた超電磁砲や、スサノオのような超兵器の完成は程遠い。

ならば今の既存兵器を強化しつつ、兵の練兵を早回すことしか手がないだろう。

そのための洗脳教育である。

そもそも戦術機にあるPTSDのための後催眠からもわかる通り、人の精神の抑制を薬剤や音、光などを駆使して冗談のような洗脳を可能にする現代の技術。

それを未来からの知識で強化すれば、コードギアスもびっくりの絶対遵守の命令が万単位で可能となる。

もちろんそこまではやらないが、人が気づかない程度の強制力ならば、この世界は容認してしまう。

それは"人"に対して反吐を吐くようなものだが、戦争によって裏で人身売買までが平然と行われるこの世界では、精神に国が干渉することに比較的容認されてしまうのだ。誰だって人が簡単に死んでしまう戦況を変えたいがために。


そうした環境もあって軍人教育に革命が起こった。

人は皆学問、親しみのない環境にはストレスがかかり、問題が発生する。

それを緩和し、睡眠時の勉学の復習と記憶の埋め込み、やる気の増進を促す。

それだけといえばそれだけのものでも、結果はかなり違ってくるのだ。

まずやる気というものは人の成長に大きく関与する。睡眠時の勉学の復習や、記憶の整理といったものは効率良く人を屈強な兵士に育て上げ、

ストレスや恐怖に少しづつ耐性を作れば、それはもう軍の欲する兵士に様変わりするからだ。

さらに軍規の絶対遵守とストレスの緩和が加われば、数々の問題をクリアし、驚くほどのスピードで組織化が進んでいくことになる。

新しい兵器を覚えるにあったっての「覚える時間」というデメリットでさえ、黙らせるそれは教育期間を約2分の1にまで短縮させたのだ。


それは光菱が今まで積み上げた、戦果。前線国家に良い影響を与えた功績と、国連のもっとも大切な取引先でもあるという点も考慮されたおかげで機材の採用基準が甘くなったのもあるだろう。

そうして作り出された新しい教育システムは、各国から徴用される元軍人を一つの大きな国連軍の一員に作り替えていく事となる。

「・・・それで、線引きはどうなっているのだ?洗脳が可能ということは、人を道具にもできるということだ。そこの区切りを作らなければ、人はやがて化物となるぞ」

「確かにね。まあそこらへんの線引きは終わっているよ」


…もちろん洗脳プログラムを使った下種な悪用は厳重な管理の下、禁止されている。

俺だって洗脳?好きな子を好きなようにできる!みたいな妄想ぐらいはしたさ。だがそんなことすれば俺がマリエに愛想付かされて消される。なにより人ではなくなるからだ。

「まあ法整備やらなんやらはもう済んでいる。形はできているんだ。そうして形は作った。2年もまえからね。」

言い訳を何度も言っているが洗脳による教育システムを構築しないと、最前線に未熟な兵を送り込む無限ループを止められない。

もともとこの世界において前線国家の戦況は悪化の一途をたどるのが普通だ。

ろくに訓練もしていない未熟な兵士を戦場に送り、兵士の命の散らすことが重なり、軍の練度、士気ともに低下し、国が潰れていく。

日米などの後方国家からしてみればあり得ないものだが、半年の即席訓練しかしていない、身体もろくに出来ていないたかだか15歳程度の少年兵が、前線国家では日常のよう送られていたのはまぎれもない事実なのだから。

もちろんそれをその国家が望んでいたわけでは決してない。

それほどまでに厳しいのだ。10~40代の男子がいない現状というのはハーレム好きの他者からすれば天国のように見えるが、現状は悲惨でしかない。なによりも心がやられてしまうのだから。

そうした心のストレスを緩和するのには時間が足らず、ならば封印、もしくは洗脳するしかないと導き出したのが83年の終わり。

だからこそ各国の国連基地を拡充。睡眠学習装置として搬送されたシステムにより、国連軍人全体にある程度の教育を施し、『使える人間』にしようというのだ。

「確かに人はプロになるのに時間がかかる。現状、世界のこの暗い状態は喜ばしいことではないこともわかる。ストレスの発散を洗脳で行おうとする行為事態には賛成ではある。だが…人を国が洗脳するのには賛成できん」

「俺だってやりたくてやってるわけじゃない。こんなもの禁忌だってことくらいわかるし、平和だったら絶対に行わないさ。だが現状はその甘えを許さないんだよ」

「…」

「練兵ってのはそれだけ金、時間もかかるし、世の中って気持ちを払拭しなければ経済も結果も上向きにならないんだからね」

やはりというべきか。練兵というのは時間をかければかけるほど金がかかるのだ。

そのひずみは今になって忍び寄っており、数年で世界経済が元の状態に戻るという報告まで出ている。やっと景気が上向きになったのにだ。

こちらとしてはこの6年間、戦場で兵士を死なないように日夜画作しているし、新しい合成食料と栄養吸収効率化の錠剤の開発により、兵站における糧秣の負担はかなり軽くなっている。

だが、それ以上に人が死ぬのが今の戦場だ。

東欧にしたって24万の攻勢としては少ない損害ですんでいるが、それでもかなりの兵士が死んだ。そう簡単に回復できる数ではないし、未だに少年兵の占める割合は高い。


「そんな現実をどうにかするためにも洗脳に関しての未来知識を活かしたわけだよ」

「最初に使われる未来知識が洗脳とは…お主だけしかやらないだろうな」

「まあそれだけ力があるんだよ。洗脳と記憶の改ざんっていうのはさ。」

組織というのは人によってできるのであり、その中で確実の理不尽などが発生し、その都度問題が起こる。それらを少しでも減らすことが出来る力というのは組織の長としてもっとも必要な力だろう。それが洗脳だ。



このような問題は国連軍創設しようと考えるのであれば、想定された永遠の問題ではあるのだが、悩んだ。

対策など本来であれば地道なものしかないからだ。

いくら各国からの退役兵が国連軍に組み込まれたとしても、部隊として運用ができるようになるにはそれなりの時間が必要となる。しかも民族、言語、軍制からなにから違った者たちがすぐに信用し合えるかと言えばそうはならない。

新しい軍機、新しい武器、新しい仲間、そんなものに慣れ親しむのに通常であれば上策などない。

あるとすれば苦肉の、そして禁忌の策。催眠装置の有効活用法を利用するしか、期限に間に合うような速度での戦力化は不可能だったのだ。

実際、オーストラリアに作られた国連の巨大な教育施設群にて、精神強化を施された兵がこれまでの実践データと比べるとかなりの好成績を短期間で成し遂げている。

強く、早熟で、問題を起こさない。そしてなにより、ストレスと恐怖に強い。

完璧とまでいかないが、なにも施さない者よりかは圧倒的に「良い兵士」を作りだすことに成功したのだ。


まあ・・・マリヱが先程から「鬼畜だ、マッドだ」などと騒いでいるが、それをしなければもっと人が死ぬのだ。

それに、それの贖罪ではないが、兵士としての生活もネット通販やネット環境、食事環境など、生活環境は向上し、豊かになった。死傷率も減るだろう。ただ一つ、頭をいじくられたという気持ちの問題が残るだけだ。

・・・まあ俺がされるとしたら嫌だけど。


「それに現在、練兵速度が早いのは睡眠学習もあるが、グリフォンなどの安価で初心者に優しい兵器が多くなったこともあるんだ。その成果を含めれば日本が世界へと影響力を伸ばすのは自然でもある。いやあ良いことすればそれだけ、結果が返ってくる世界って良いね」


そんなこんなでこれからの防衛線死守のために派遣されるのは、西太平洋方面総軍からであり、その主力は日本やオーストラリアの国籍を取得したい、者たちによる部隊だ。

これに昨年結ばれた国連とアジア・オセアニア各国との派遣軍協定によって各国から部隊と合わさり、国連軍で新設された、この日本側の派遣軍のような部隊には激戦区で戦ってもらう予定だ。


派遣軍の部隊分けは
中東方面派遣軍
第6軍(東南アジア内フィリピン、インドネシア、マレーシア等)隷下
第43機甲師団 第8機動歩兵師団 第22戦術機甲連隊
 東南アジア諸国より派遣された部隊を統合した第1共同独立混成旅団

インド方面派遣軍団
第5軍(東南アジア内ベトナム、カンボジア、ラオス、ビルマ等)隷下
第33混成増強師団(機動歩兵連隊  第26・27戦術機甲大隊 含む)
 諸外国より派遣された部隊を統合した第2共同独立混成旅団

欧州方面派遣軍
第2軍(極東アジア方面)隷下
欧州派遣第1軍団 (第6戦術機甲師団、第14機甲師団 第23・24戦術機甲連隊 第17砲兵旅団)

欧州派遣第2軍団 (第7・8戦術機甲師団、第16機動歩兵師団、第19・28砲兵旅団)

第1軍(オセアニア方面)隷下
欧州派遣第3軍団(第6・7機動歩兵師団 第14・15砲兵旅団)

となっている。

この部隊は3年前より義勇軍として各国から最前線に派遣されていた部隊が中核となってできた部隊である。いわゆる国連軍の最精鋭だ。

それだけ強く、編成に時間がかからなかったということでもあり、早期に戦力化して緊急事態に対応するための早期編成部隊として最前線国家に派遣されることが始めから決まっていた部隊でもあった。

だからこそ間に合ったわけだが、再編が進む西太平洋方面総軍としては、実際は貴重な実用化がかなった戦力の、実に半数に上るため(日本陸軍等は除外)、かなりの博打ともいえる。

この大規模な派遣による、日本の影響力拡大を嫌ったアメリカも、前もいったが日本と協同した形で大陸に対して追加派兵を決定。

東太平洋方面総軍という仮面をかぶった、国連に移籍したアメリカ軍を主力に欧州に派遣される予定だ。

そうなれば最新鋭の軍が日米合わせて30万人ほど新たに、最前線に派遣されることになる。これはかなり大きいだろう。


「そうして大規模な派遣がなったわけだが、・・・実際のところどうなのだ?以前もいったが最前線に新しいハイヴが中東と東欧に二つも出来たのだ。以前にも増して圧力は強くなる。果たして耐えられるとは・・・」

「・・・どうにかなってもらわなければ困るよ。後方国家として打てる手は全て打ったんだ。あとは核の飽和攻撃しかないが・・・それは現地人が最後まで許さないだろうさ。」

「・・・そうか、まあ・・・そうだろうな」


未だにBETAは西欧ではポーランドと東ドイツとの国境線、オーデル川と北ドイツ平原を使って耐えている。

これは東欧同盟の踏ん張り、国際協調路線による東西の雪解け、東に介入を続ける日本への牽制のため、史実よりもアメリカの増援が多いことが挙げられるだろう。


また新たに東欧の前に建造されたガラツィハイヴと欧州の憎きミンスクハイヴとでは、幸いなことにカルパティア山脈によって半分断されており、ハイヴ同士の連携はまだなり得ていないのも大きい。

つまり、東欧の前のガラツィハイヴからの攻勢に対してはサバ川等、BETAの通り道を制限する自然の要衝と第2次防衛線が、

ミンスクは先ほども言ったとおり、ドイツに築かれた要塞線が、北欧では、スカンジナビア半島特有の自然の要害を活かした防衛戦のよって、各個防衛が叶う体制にはなっているのだ。

今はまだ、時間が経てば…自然ごと根こそぎ喰われそうなものだが・・・

「だからこそ次善の策として今できる最大の増援を送り、そして、それを使って攻勢に出るんだよ。」

「なにっ!?」

マリヱが予想外という顔をしている。確かにそうだろう。ここまで努力して作り出した増援部隊。
そんな貴重な部隊を攻めに回すなど、愚将の行いにしか見えないだろう。

だが、だ


「現に今できる最善の手は攻勢なんだ。確かに防衛側であるこちらとしたら守りに入りたい。入りたいだろうさ。だが、BETA側から見れば東欧のガラツィハイヴは突出しすぎている。そこを突けば必ず周辺の余剰BETA個体はガラツィに集まってくる。」

ガラツィハイヴは元は東欧同盟の第一防衛ラインを崩して得た地であり、第二防衛ラインとは自然近い位置にある。
人類の持つ基地軍からもっとも近いハイヴなのだ。

そのためにBETAの勢力圏の中では随分と人類側に突出した形でできたハイヴでもあり、これも陣地防御戦術による恩恵でもあるだろう。


「そこをまとめて叩くと?新造ハイヴを今、攻略するつもりなのか?まさか増援だけで?」

「まさか。そんなことをするわけがない。今の現時点でハイヴの攻略は不可能だ。」

「ならなぜ?」

「ハイヴを叩くんじゃない。ハイヴの周辺に集まる“BETAの個体”を狙うんだ。」

確かに新造ハイヴは攻略できない。さきほど述べたガラツィハイヴといえど、近いだけであってその防衛力は現段階の人類には攻略不可能だ。


だが、BETAの個体数を減らすだけであれば話が変わってくる。

「今ガラツィに多くのBETA個体がおり、それがハイヴを守護している。子育て中の親の獣のようにな。だが、逆にいえば親のように過剰に防衛しようとするだろう。それを利用するんだ。」

作戦はこうだ。

現段階においてガラツィのハイヴ外周部に滞在しているBETA個体は膨大な数となっている。それが今周囲を耕している状況な訳で東欧にとって、それらが何時、急にこちらを攻めてくるか、その一点を東欧各国軍部が恐れている訳だが、
それを増援部隊によって叩く。

それを減らすために戦術機によって外縁部にいる物を狩るのだ。
それもこれまでの比ではないほどの密度で何度もだ。


攻撃方法も変化する。今までは戦術機は歩兵や機甲部隊の盾であった。その速力で味方の前に立ち、その柔軟性でBETAを退けてきたのだ。

だがその方法では自身の速さを活かせず、味方が後ろにいる状況だからこそ、いつかはBETAの物量の餌食となる。


だが、戦術機だけの純粋な部隊による、一撃離脱作戦となると話は違ってくる。

現段階ではハイヴが作りたてのため内部保有量が少なく、地上に多くのBETA個体が屯している。

また数に比例して周囲に拡散している状況だ。
それを利用し、戦術機の速力と、攻撃範囲の長さを活かして、一方的に攻撃する訳だ。

つかず離れずの距離を維持しながら、はぐれている個体群一方的に攻撃する。もちろん、こちらに大規模に攻めてくるならば逃げ、何度も出撃を繰り返す。

そうすれば今までとは段違いに戦術機の寿命は伸び、キルスコアは以前と比較にならないほどに伸びるだろう。

そしてその戦略に一番適している戦術機というのが、グリフォンと翔鷹だ。
その豊富な弾薬搭載量、長大な航続距離。補給、修理体制の容易さ、それを低コストで実現し、数を揃えることが可能となれば、この戦術機達しかいないだろう。


だがBETAがその戦術機甲部隊を追いかけて、こちらのテリトリーまで進出してきた場合はどうするか?


もちろん待ち伏せして狩るのだ。

戦術機とBETAでいえば戦術機のほうが圧倒的に早い。ならばその速力を利用し、後退しつつ、数を減らし、それでもダメなら
陸の砲撃部隊や地雷、果ては空からの低空爆撃によって作り出されるキルゾーンに誘い込む。

いわゆる間引き作戦、しかも戦術機を餌にして、ある程度の規模を自陣に誘導しての間引き作戦に移行する、2段階で数を減らそうというのだ。


「だが、これでは増援がいつの間にか、東欧への本格侵攻となった場合はどうするのだ?東欧は昨今の防衛成功もあって士気も高く、要塞線の再構築も急ピッチで進んでいる。だがそれでも守れるとは言い切れんぞ」

そう作戦内容が書いてある紙を見ながら言う、マリヱ。確かにそうだろう。

待ち伏せはBETAの量がコントロールできているからこそ、優位に働くのであって、許容量を超えれば、人類はまた蹂躙されてしまう。


ちょっかいを出しすぎて、いつの間にかこちらが負けていたでは話しにならないということだ。

東欧としても、現段階でのBETAの本格侵攻を受けられる余裕などないだろう。


「だからこその大増援なんだよ。増援だけではない。東欧内において、新たに習熟訓練を行われた新兵が、2ヶ月前から配備されるようになった。
その中には西側の最新の戦術機訓練を受けた衛士もいる。武器弾薬も、戦術機に関しても最優先で東欧に回されている。そのすべてをつぎ込んで防衛しようとしているんだ」

「だがそれでも・・・」

「もちろん、もちろん、増援を送り込んだだけで守れるとは思っちゃいない。相手にちょっかいかけるんだからね・・・

・・・ガラツィを攻勢防御に選んだのは、新造ハイヴのためにBETAの個体を適度に減らし続ければ、防衛が念頭に置かれ、こちらに攻めてこないだろうという理由もあるが、なによりも海に近いんだ。」


「そうか、また海軍の増援を!」

そういうことだ。日本はその被害を増やさないために陸軍の派遣を渋ってきた。それは当然だ。今の戦場で陸軍に行くのは死を意味するからだ。


だが海軍は違う。ミサイルの発達、砲射程の延長、レーダーの進化により、より一層安全圏から一方的なアウトレンジ攻撃が可能となっている。船が撃沈されるのは、陸上部隊を守るために、近づいた時だけだ。


そしてガラツィは海から近い位置にある。もちろん全ての艦艇の射程距離という訳ではないが、外縁部であれば比較的容易に届くのだ。

そこに戦術機で誘導し、砲撃で潰せばどうなるか?
外縁部であれば、ハイヴの迎撃任務を主とする光線級は少なく、光線級自体が足が遅いために、砲撃のほとんどが通る。

それであれば日米の海軍、各国の海軍は一方的な攻撃である支援任務に対し、容易に同意する。各国の艦隊によるスケジュール管理をすれば、“誘い込んで砲撃で潰す”スケジュールに隙は生まれないだろう。

そしてさらに空母を付け加えればどうなるか。

戦術機を海から発進させることで、ガラツィの大きな横腹である海岸線と後ろから周り込み、陽動兼ざん減作戦を繰り返す。

そうすることでBETAを一方の方向へと集中させずに、ハイヴに釘付けにし、外側にはみ出ている敵から消耗させようというのだ。

それを実現できるのはアメリカの最強の空母打撃軍。それと日本が最近完成させた、コンテナ船を改修して作られた、改修空母郡、いわゆる海上の前線基地郡だ。

「海上からの砲撃支援と、戦術機による一撃離脱戦法、それで倒せなければ待ち伏せを繰り返す。

・・・そうすれば守りに入っている今の新造ハイヴであれば、侵攻などできずに、数だけは減らして行けると踏んだわけだ。

・・・なにせ地中に閉じこもろうとしても、新造のハイヴである以上、収容能力が低いからね。だがハイヴを守ろうとする以上、数だけはおかなければならない。それをさらに狩る。欧州の余剰増援戦力を東欧に集中し、狩り尽くす。未だ幼いハイヴであるうちにね。」

「だが光線級によって海上の支援部隊が焼かれる危険性はないのか?」

「だからこそ外周部だけを狙うんだよ。光線級の本来の役目は、ハイヴを作るために地下で資材を切り出すこと、ハイヴに対しての害敵を打ち落とすことにある。自然中心部か地下に光線級は集中することになる。

だったら外周部、距離40キロほども離れれば、光線級以外だけを狙うことは可能だ」

いわゆる、弱い部分だけを何度も何度も奇襲する、卑怯な戦法を取ろうというのだ。


「それにハイヴ攻略のように、相手が築き上げている陣地においての攻勢など、地下からの攻撃が恐くて今はできない。だからこそ、外周部で挑発して、こちらの陣地にまで引き込んで数を減らす・・・幸い光線級以外は長距離攻撃手段を持っていない。ならばその弱点を付くしかない。
・・・言ってしまえばそれだけなんだけどね。」


まあ絶えず攻勢することで、ハイヴの建築はそう早くは進まないという考えもある。

数が減ったハイヴへのミンスクなど後方のハイヴからの増援路も今は山脈と海で限定され、待ち伏せも可能となっている。

数を減らす地としてはガラツィは最適なのだ。


「そうして、欧州BETAの余剰個体をガラツィに集めさせ、損耗させることで、BETA全隊の行動を阻害する、か。時間稼ぎにしかならんが・・・まあ今はそれしかないようだな。」

「納得してくれてなによりだ。」


中東では今はまだ、新たにできたハイヴの防衛にBETAは手一杯となっている。そのために南欧での攻勢は一時よりも弱まるだろう。


だからこそ30万の半数に登る増援を東欧に回し、そこで攻勢防御に出ることで、欧州におけるBETAの動きをこちらでコントロールする。

新造のハイヴが二個も同時に建造しようというのだ。飽和個体数は、ガラツィで狩る予定の分を含めれば、そう簡単に大規模進行するほどの数には成長しないはずだ。

「その間にで各個の防衛戦線を再編、再構築し、BETAを今の防衛線の内に封じ込めようという訳か・・・まあ今できるとしたらそれしかなかろうな。その金は・・・もちろん国連が出すのであろう?」

「もちろん。BETAの個体を狩るという行為は、今では金に繋がる行為になった。資源でもあるんだよ。大型BETAの体を作り出している素材は、頑丈で軽く、いろいろな素材分野の中でも突出している。それが多く入るチャンスでもあるんだ。投資には困らないだろう。」

モース硬度がダイヤモンドが高かったり、熱の変化に強かったりと工業用加工素材としては申し分ない素材である。今は、その販路が限定され、月ごとの納入数が上下しすぎではあるが、これからの国連の動きで変わってくるだろう。

もちろん、投機先にならないよう、国連を通じて必ず守り通すという姿勢を世界に広めてからだが。


「まあ軍の派遣や作戦はわかった。金もあるのだろう。だが・・・政治関係は良いのか?以前東欧国家と西欧とのいざこざはあるのだろう?まあお主のことだ。手は打っているのであろうが、増援部隊との仲は誰が取り持つのだ?」

「そのための国連統合軍だ」

キリッみたいにどっかの司令官のように言ったが、国連統合軍を作り上げ、国連が世界のどの軍に対しても影響力を行使できる形を作ったのは今回のようなときのためと言える。


世界のいざこざによるリスクをどうにか少なくし、全軍の指揮権をひとつの形で統一することで、ひとつの意志の元、全員が動ける体制を作り上げようというのだ。

もちろん主導するのは国連の中で大きな発言力を持つ、二つの勢力、日米両勢力となるだろう。

西欧・北欧をアメリカ、南欧・東欧については前回の東欧の防衛成功に尽力した、日本によって主導することが、現段階で決まっている。

皆わかっているのだ。指揮権の最上位がどこにあるのか?皆ひとつの指揮系統で動けば効率がいいことを。

まあ・・・軍事的な重要性や危険度から見れば今のところ、東欧が今回のキーになるため、アメリカがでばってこようとしたが、東欧各国がアメリカの露骨なロビー活動に嫌気がさし、指揮権に関してはほぼ日本が手中に収めるという結果につながった。

そんなことをマリヱに伝えつつ、新たに派遣される部隊のことを話していると

「そういえば派遣される部隊の装備は、日本軍が最近採用したもので良いのか?」

と質問された。


もちろんその答えはイエスだろう。

ここ5年で作り上げた兵器は戦術機が目立ちがちだが、対BETAを念頭に置かれた火器も続々と生み出されており、主力戦車もその例外にもれない。

国連直轄地と安全圏、つまりは日本などの先進国の工場部品から作り出されたその兵器達は日本を事実上の盟主としている、汎太平洋諸国連合軍でも採用されており、派遣される西太平洋方面総軍にも自然採用されている。

(国連の地域総軍は自然、その地域の国家とつながりを持ち、装備に関しても、国連憲章によって地域国家が少数は拠出する義務があるため。)

その多くがもちろんのこと光菱が携わり、試作品が東欧に派遣されて前線で活躍したものだ。

つまり、5年もの試行錯誤によって鍛え上げられた、この世界の、対BETA戦用に作り上げられた鋼鉄の刃がとうとう白日の下にさらされる日がやってきたのだ。

光菱重工の努力の塊が。



~3話へ続く~




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筆者です。長らくお待たせしながら、結局はグダグダ。申し訳わりません。数値変化や未来知識がどれほど復活したかも書き表したいのですが、次に・・・ということに。時間が、時間が欲しい。




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