【前書き】
この作品は、作者の都合のため不定期更新になっております。
18禁ものの練習として中編に仕上げることを目標に暇をみつけて執筆していきたいと思います。
厳しいご意見をいただければたいへん助かりますのでよろしくお願い致します。
鏡の中から出てきたのは、セリア・フォー・ライドセンス――クロードのクラスメイトだった。
とはいうものの、その瞳には怒りをはらんだ軽蔑を宿している。クロードには友好的感情を抱いてはいなかった。最高級のドールを思わせる美しくも小さい容姿からの睨みには切れ味のいいナイフのような凄みがある。
「無事、繋がったみたいだね」
「いっそどこか遠くの国に繋がればよかったのに」
「そういう事故があったら、マジックアイテムを用意した僕の失態になるので『契約』を守れなくなっても仕方ない――そういうことになるから?」
セリアは言うまでもないでしょと視線のみで答えたようだった。
もしもそんなことになっていたらクロードは一方的に大損しているところだが、あいにくと、〔ゲート〕の魔法具作成にとちるほどの未熟者ではなかった。材料が貴重かつ高価なもののために失敗できないとかではなく、人が、それも彼女と自分が使うものなのに事故の余地を残すなんていうことはありえなかった。
これで、クロードとセリアの部屋は繋がったことになる。
「『契約』は守るわ――どうすればいいの?」
「初日から、無茶なことを言うつもりはないよ」
あのセリアが……≪ラザティートの人形姫≫と呼ばれる美少女が自分の指示を待っている。
クロードの肩にも届かない、脇の下と頭のてっぺんがようやく並ぶくらいの小さなクールビューティが。
クロードにとってはいまさらだが夢みたいな話だった。
学園に入ったその日から一目惚れしていた相手を手に入れたのだ。これまでは直視することすらできなかった、彼女の背丈には似つかわしくない豊かなふくらみをこれから揉みまくることができる。油断するとすぐに妄想の世界に飛び立ってしまいそうだが、今、彼女が目の前にいるというのがクロードの現実であることに間違いは無かった。
クロードは、軽くお茶でもしながら話をするつもりだった。
だが、〔ギアス〕に縛られているセリアが誰にも邪魔されない自分のテリトリーにいる――そう考えたらそれどころではなかった。
動悸がバクバクとうるさく、視界もなんだがいつもとは違っているようだった。
ふらふらとセリアに引き寄せられる。
そうすると、まるで名工によってカットされた宝石のように美しいブルーの双眸に一瞬、怯み、怯えが浮かんだようだった。
けれど、すぐにきっとした負けん気の強い視線を取り戻した。
この意思の強さもまたセリアの魅力の一つだった。
「髪、触ってもいい?」
「好きにしたら」
「触るから。僕は、君の髪を触ってみたい」
睨まれているのは悲しかったけどどうでもいいことではあった。
ずっと憧れつづけてきたセリアがいま手の届くところにいるのだ。その、現実味が薄くなるほどの容姿を目にしているだけで息が荒くなる。
せめてもの抵抗なのか、ぷいっと顔をそむけたセリアを真正面から優しく抱きしめる。
腰に届くまで伸ばしている麗しの金髪に指を通していく。
さらさらとしたシルクの手触り。同時に立ち上ってくる花のような香りがどこまでもリアルを感じさせてくれた。
クロードは手だけを動かしながらじっとセリアを味わった。
待ち焦がれていた瞬間だった。
(小さい。そして、大きい……)
クロードは自分のお腹にあたっている柔らかさを堪能していた。セリアの着用している学園の制服はあまり胸を目立たないようにしたデザインになっているが、こう密着していると、そのボリュームは直に伝わってくる。彼女のそこだけがぼよんと飛び出ているバストは男子生徒の噂の的になっていた。いったいどれほどの欲望をこれまで向けられてきたのだろうか。ガン見することはセリアの雰囲気的に難しいが、夢の世界では、幾度となく白い液体に汚されてきただろうオッパイの感触を味わっている。セリア・フォー・ライドセンスのすべてをクロード・アス・ログフィートは握っているという証明だった。
このうえない優越感が呼び水になったのかこれまでのことが思い出してしまった。
セリアの前だと自制しようとしているのに頬を伝っていくものがある。
「どうして、あなたが泣くのよ……」
「――高かった。高かったんだ。ほんとうに高くて、何度、諦めようかと思ったかわからないよ。マジックアイテムを作っても作っても目標金額には届かない。これまでにあるものはダメで。これまでにない、それでいて売れる、そういうものをいつも探していた。素材を探すのにありとあらゆるコネを使って、どうにもならないときは自分で獲りにいった。死にかけたこともあったよ」
セリアは何かを言おうとして、止めた。
「こんなに徹夜なんかしなくたって、普通のペースで卒業まで制作していったらたいていの家と婚姻できるだけの資金は揃う。美人が欲しいのなら一流の娼婦を身請けすることだってできる。女が欲しいだけならそうすることだってできた。そうしようかと思った。けど、諦められなかった。君との約束を――君との契約を諦めことなんてできなかった。君が、どうしても欲しかった……」
「顔に、涙かかっているわ」
「ごめんね。ごめん……契約通りにセリアを僕のものにする」
セリアを抱きしめる腕に力がこもっていった。
背と尻に食い込んでいく指を彼女はどういう気持ちで受け入れたのだろうか。
これまでに男性と付き合ったという噂を聞いたことのないセリアのことだ。クロードに抱きしめられるなど苦痛なのだろう。さらに、契約にはさらに進んだことも受け入れるという内容になっているのだ。嫌悪感が湧きおこってしかたないだろう。クロードはセリアに愛されていないことを知りつつも、これまでの苦労を思えば、ここで堪えることなどできるはずなかった。
せめて、その苦痛を感じなくてすむ麻酔薬となることを祈って、クロードはセリアの耳元にささやく。
「好きだよ、セリア――――愛してる」
「……なんなのよ、あなたは」
ぎゅっと抱きしめている腕の中、セリアが身じろぎしたのを触覚と嗅覚でクロードは知った。
ほんのちょっと彼女が動くたびに甘い女の子の香りが漂うのだ。
せめてもの抵抗なのだろうか? ぐりぐりと、彼女の拳がクロードの脇腹を刺激する。
けど、構わなかった。クロードにとってはセリアのなすことすべてが愛しかった。苦痛でさえ彼女が幻じゃない証明となって望ましい。
「もう……なんだというのよ」
ややしてセリアはあきらめたのか、クロードの抱擁にその身を預けたまま満足するのを待つことにした。
もっと無茶な命令をされることを覚悟してきたセリアにとって、まだマシな状況だったからだ。
あえて彼女のほうからステップアップの方向に誘導することはない。
けっして久しぶりの他人の体温をそのまま感じていたかったわけではないのだ。
部屋の中、時計の針だけが動いていた。