久しぶりにextraやってるうちに思いついたFate本編とのクロスSSです。
このネタは既にやられてるかと思ったんですが、これというのが見つからなかったので自分で書いてみました。
hollowとのクロスはそこそこ見かけるんですけどねー。
第五次聖杯戦争とは設定的に難しいんでしょうか。
ともあれ思いつきのプロローグ、楽しんでいただければと思います。
――――――――――――――――――――――――
―― そこは高く遠い月の海。
空に浮かぶ玉座を見上げ、私は空へ落ちているのだと理解した。
遠くに詠唱が聞こえる。
耳を傾けるまでも無く滑りこんでくる呪いの言葉。
転がり落ちるその道程、私は私を思い出す。
手足が動かない / まだそんなものは無い
息が出来ない / まだその機能は無い
私は誰であったのか / まだ知る必要は無い
私の願いはなんだったか / そんなもの、思い出すまでも無い
落ちる、堕ちる、墜ちる
重力に囚われる。もう後戻りは出来ないと知らされる。
同時に、世界に満ちる法則に従って、急速に形作られる私自身。
天に届きそうな空の下、透き通るほど青い月光を浴びて。
――私は、再び生を受けた。
●
「―――かんっぺき……! 間違いなく最強のカードを引き当てた……!」
ああもう、視界が戻るのがもどかしいっ。
あと数秒で目が回復して、そうすればもう目前には召喚されたサーヴァントの姿が――――――あった。
「よっし、狙い通り―――……?」
まず見えたのは赤。身にまとう真紅のドレスは否応なしに目を引きよせる。
これは別にいい。
次に金髪翠眼のその容姿、小柄な体躯。
イメージとは違うが、まあ許容範囲内。
戦う為の存在としてはやや力不足にも見えるが、それでも規格外の存在だという事は言わずもがな。
辺りに散らばる、見覚えの無いもの。
――― そして腕に抱かれた長い髪の、女の、子……?
「穂群原の制服……!?」
頭がこんがらがる。
見慣れた制服は、今この場においてあきらかな異物だった。
地獄に仏――、は違うにしても、存在する世界を間違えているような、そんな感覚。
けどいつまでも呆然としている訳にもいかない。
とにもかくにも、この来るべくして来た相棒に挨拶の一つでもしようかと思い、
「――――ッ!?」
上方からの爆発音。
具体的に言えば天井越しの地上部分。
……すなわち、わが家のリビングからである。
「ああもう、ほんとなんだってのよ―――!」
階段を駆け上がり、リビングへ通じるドアへ手をかける。
―――が、開かない。
ぎしぎしと抵抗する扉は、二秒で見切りをつけた。
現状から考えれば、十分すぎるほどの猶予だと思う。
「とっととどけ――………!!」
魔力のうねりと、華麗な蹴りで吹っ飛ぶ扉。
散らばった木片を抜けて、飛び込んだ先には――、
「まったく、騒がしいな……と。む……?」
白髪男が瓦礫の山でふんぞり返っている。
瓦礫は元うちの家具だったもの。
一体どんな趣味だと疑いたくなる。というか痛くないのか、あれ。
「……………」
「……………」
しばし無言で見つめ合う。
赤い外套に褐色の肌、白い髪。
そして服の上からでも分かる程鍛え上げられた身体。
その男は、さっき開きかけた口を閉じてからむっつりと黙りこんでいる。
「………あんた、サーヴァント――……?」
「その通りだが――。なんだ、君が召喚主では無いのか?」
沈黙を破った問いかけに、男は眉をひそめて返答する。
――まったくもって馬鹿らしい。こいつが人間じゃないなんて、一目見た瞬間から理解できている。
重要なのはそこじゃなくて――、
「召喚主……、ってことはあんた、今召喚されたの?」
「それ以外にいつ召喚されるというのかね。それとも何か、君は冗談半分に儀式をやった類の人間か? まったく、興味本位で参加したマスターとは、ついてない――――」
「違うわよ! いや、マスターなのは違くないけど………」
これ見よがしに溜め息を吐く白髪男に、噛みつかんばかりの勢いを見せる私。
そう、今重要なのは、こいつが私のサーヴァントかどうかじゃない。
――――この男が私の喚んだ存在だというのなら、地下室に現れたあれは、一体なんだ――――?
「ふむ、随分と前衛的な内装だな。これは破壊と再生の象徴か? しかし一時羽を休める場も無いとは、いささか無粋に過ぎると思うが」
―――そうして、何事も無いように現れる元凶。
わからないことだらけの中、魔術師としての自分は瞬時に反応した。
自分のパスが白髪男に通じているのを確認。
振り向きながら跳び、男には近づき、女子二人とは距離を取る。
同時に家の仕掛けへ接続開始。
壊れたのは内装だけ。
私の領地としての機能は十二分にある――――!
「む、その子は怪我でもしているのか? 見た所、外傷は無いようだが」
「召喚時の余波にあてられたのかもしれぬ。なに、心配はあるまい。しばらく休んでおれば目も覚めよう」
「とはいえ横にした方が良いだろう。少し待っていろ、簡単にだが、場所を確保する」
「うむ、よきにはからえ」
………だというのに、一体何をしてるのかコイツらは。
白髪野郎は二人へ歩み寄ってはてきぱきと辺りを片づけ、相手も当然の様にそれを受け入れている。
聖杯戦争はサーヴァントとマスターが命をかけて戦い合うものじゃなかったのか。
それともこいつらが輪をかけて能天気なだけか。
だとしても、世話を焼く方も焼かれる方も、様になっているのがなんというか―――、
「あんた私のサーヴァントでしょうが――――!!」
「静かにしたまえ。大した事は無いとはいえ、怪我人が居る前で騒ぐのは感心しないぞ」
「んなこと言ってる場合か! 目の前にサーヴァントが居るっていうのに何やってんのよ!」
「何ともやる気に満ち溢れた言葉をありがとう。だとすると君は、私が飢えたケダモノの如くこの二人に襲いかかった方が良かったとでも?」
「―――そんな訳ないでしょう。もしそんな事したら、私があんたを叩き落としてたわ」
それはもう、これ見よがしに溜め息を吐いてやってから、
「私が言いたいのは、相手のサーヴァントに不用心に突っ込むあんたの能天気っぷりを直せってことよ」
「…………ふっ」
「あ、あんた今鼻で笑ったでしょ!?」
「いやいや、ありがたい忠告感謝する。確かに不用心だった、以後気を付けるとしよう」
「しかし今回に限ってはその心配は無用だ。このサーヴァントはイレギュラーだからな。あの場で私と戦うよりは、己のマスターを優先すると考えただけだ」
「イレギュラーって……、それ、むしろあんたの方だと思うんだけど?」
そもそも何でそんな事が分かるんだ、と疑念を込めて見返してやると、
やれやれと言わんばかりに肩を竦めて、
「まあ私もある意味イレギュラーであると言えるか。もっとも、私はここの聖杯に導かれた身でもあるから、そうでないとも言えるのだが―――」
「ともかく、君の不出来な召喚のおかげで私達が呼ばれたという訳だ。同じ場所に繋がりを持つが故か、同類かどうかは感覚で分かるのでね」
「馬鹿な事言わないで。今回の召喚術式は完璧だった。詠唱なんか間違える訳も無し、材料も、時間も、最高の条件で………、さいこうの、じょうけん、で……………」
………アレ、ケサナニカアッタヨウナ。
ふと、居間の時計を見る。
幸いにも形を保っていた柱時計の時間は午前2時を少し回った所。
そしていつも正確にしてるはずのそれは、ちょうど今日に限って1時間はやい――――、
「うぁ………、またやっちゃった」
もうつくづく嫌になる。
なんでこう、大事な場面に限って失敗をするような呪いがうちにあるのだろうか。
―――しかしいつまでも頭を抱えている訳にもいかない。
イレギュラーだかなんだか知らないが、ここに聖杯戦争の参加者が二組揃っているのは確かなのだ。
いくら家の中とはいえ、このままでは休む事も出来ない。
……一度大きく深呼吸。
まずは味方のはずの、厭味ったらしいこの白髪頭を何とかしなくては。
「とりあえずあんた、クラスを教えなさい。呼ぶのにも不便だし、戦術もたてなくちゃいけないんだから」
「おや、一人前にマスターのつもりかね?」
「―――――は?」
ギギギと軋んだ音でもたてそうな首を回して相手を見る。
やばい、くらくらしてきた。
「サーヴァントどころかマスターまで召喚する常識外れっぷりは素直に感心する所だが、敵も味方も分からない連中を連れて来るようでは三流もいいところだ。
今回は向こうにやる気が無いようだから良かったものの、普通だったら君は既に殺されていてもおかしくない所だぞ」
「ぬ―――、ぐ―――」
ああもう腹が立つっ!
………が、全くもって正論なのでぐうの音も出ない。
いくら条件が揃っていなかったとはいえ、"余計なものを喚ばない"のは召喚における基本中の基本。
余計なものが来れば良くも悪くも面倒事が確定する。
故に、意図したもの以外を呼び出すなど、三流どころか素人と言われても仕方のないレベルなのである。
「何、じゃあ私はマスター失格ってわけ?」
「そう言いたいのはやまやまだがね、生憎と私の魔力は君から供給されているようだ。それにこの状況で君に死なれても寝覚めが悪い。少なくとも、状況が一段落するまでは協力しようじゃないか」
全くもって遺憾だがね、と続ける男。
―――しかしそれにしたって傍若無人すぎるだろう、これ。
それにこいつ、結局聞いた事に答えてないし。
「余計なお世話よ。それより、あんたは、いったい、なんのサーヴァントなのかって、聞いてんのっ!」
「―――やれやれ、私が何のサーヴァントなのかなど大したことではないと思うがね。別段変わり映えのしない弓兵だよ」
「アーチャー? なに、あんたセイバーじゃないの?」
――アーチャー。聖杯戦争に呼ばれる英霊の中で、俗に三騎士と称されるクラスのサーヴァント。
七つのクラスの中では優秀とされる部類である。
特に私自身の方針的に、キャスターやアサシンを喚ぶよりかは勝算も高い。
高い……、のだが、やっぱり費用対効果としては残念賞と言わざるをえない。
「あれだけ宝石使ったのになー……。ま、召喚自体が片手落ちだった訳だし、高望みも良くないか」
「―――ふん、セイバーでなくて悪かったな。そんなに不満なら、君が喚んだもう一人にも聞いてみたらどうだ?」
「――――――」
いや、なんというか。
こんな事でふてくされるなんて意外と子供っぽいというか、さっきまでの態度には似つかわしくない。
……実は、案外まともな奴なんだろうか。
「む、どうした?」
「………ううん、別になんでも。それと、不満かどうかはともかく、あっちにも話聞かなきゃいけないのは確かね。―――あれ、大丈夫なのよね?」
「君が余計な事をしなければ、まあ大丈夫だろう。―――おかしな話だが、その辺りは妙な確信がある」
「期待しないでおくわ。せいぜいがんばって私を守ってちょうだい」
「無論だ。約束をした以上、君の安全は保障する」
―――いや、本気でなんていうか。
あんな態度でした約束とは思えないほどの真摯っぷり。
しかも本気で果たそうとしてるあたり、まともどころか相当なお人好しである。
……などと、そんな事を考えているうちに女の子二人の下へ。
まあ部屋を横切っただけなのでさっきまでの話は丸聞こえだったろうが、こちらも隠す気は無い。
敵意が無いと伝わればよし、準備不足を好機と仕掛けて来るなら叩きのめしてお還り願うまで――――!
「話はもう良いのか? ふむ、では次は余の番だな。今一度出会えたこの運命、余は心からの言葉をもって祝賀に変えようぞ」
赤いドレスの少女は、鷹揚な仕草で両手を広げ、満面の笑みを浮かべると、
「―――凛よ、再びそなたに出会えた事、余は大変嬉しく思う。この想い、いかな装飾を用いても全てを伝える事は不可能であろう。
しかし、ウロボロスの描く環を超えて、余と余の奏者を導いてくれた事に、―――今はただ、感謝を」
―――そうして。
この夜、私の聖杯戦争は幕を開けた。
私の喚んだ、二人のサーヴァントと、一人の少女と共に。