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[28945] 【ネタ】戦闘妖精雪風~More Witches Fairy Eye~【ストライクウィッチーズ×戦闘妖精雪風】
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:fd5c83f5
Date: 2014/08/31 13:34
これはストパン×戦闘妖精雪風SSです。
主に勢いで書いている為、出来は期待しないでください。

注意点
1、擬人化ネタ有り
2、雪風がチート性能でも泣かない

以上の事が守れる方はお読み下さい。
全ての元凶→www.nicovideo.jp/watch/sm4988921

報告書

更新情報
:2014/08/31 13:34 Report 11を投稿しました。
:2014/08/25 01:00 設定資料を改定しました。



[28945] プロローグ
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:5abaa8b2
Date: 2011/07/26 23:13
プロローグ




<Side:帝政カールスラント所属ナイトウィッチ>
<From:帝政カールスラント 首都ベルリン>
<Time:1940年5月23日 22:35>

「定時連絡、カールスラント国境でのネウロイの活動は確認できず、次のポイントへ向かいます」

夜中と言って良い時間、カールスラントと、陥落したオストマルクから進行してきたネウロイとの境界線付近を、一人のナイトウィッチが定時連絡を行う。

『了解、次のポイントへ向かってくれ』

管制からカールスラント軍人らしい、真面目な返事を貰い。
彼女は次の指定座標へと目指した。

(ふぅ……、まだ保てるって言うけど、要はガリアが作ってるマジノ線とか言う、要塞線が出来るまでの、時間稼ぎみたいな物じゃない。
それもどれくらい使い物になるのやら……)

心の中で毒づく。
彼女は既に故郷を奪われており、彼女の家族は疎開して、今はカールスラントとガリア国境線付近で生活している。
たまに届く手紙には元気にしていると書いてあるが、それは彼女を心配させない為に書いているのだと、このナイトウィッチの少女は薄々気付いていた。

(本当なら今すぐにでも、ネウロイの奴らにこの弾丸をお見舞いしたいのに!)

そう意気込みながらナイトウィッチは、その手に持つMG34機関銃を見た。
この機関銃の改良型が開発中との事だが、それが正式配備されるまでにこの戦線を支えられるか、極めて微妙な所だと、彼女は思案した。

「ま、そんな勝手な事なんか出来やしないんだけど……ん?」

諦めの色を含んだ溜め息を吐きながら台詞を吐くと、彼女の視界に何かが光ったのを捕らえた。

「……なんだ?
管制塔、聞こえますか?」

『ザーーーー……』

「あれ、故障したのかな……。
しょうがいないなぁ……」

一応ナイトウィッチの行動規定には、不振な物を発見した場合には、一度連絡を入れてからその正体を確かめると言う決まりがあるが、万が一無線機が故障した場合、一旦所属基地に帰還するか、或いは可能な限りの調査を行うようにも決められている。
今回の場合、目の前では相変わらずチカチカと光っているが、距離が離れすぎている上、夜間なのでその正体までは分からない。
彼女は一旦空中で制止し、聞き耳を立てると、何かが爆ぜる音が聞こえてきた。

「くそ、夜襲か!」

目の前で光っていた閃光が戦闘の光だと認識し、ナイトウィッチは装備されている機関銃と、肩からぶら下げているカメラを確認し、戦闘が行われている空域へと急行した。



「あれ、もう終わったのかな」

彼女が現場に到着すると、地表には撃破された小型の飛行型ネウロイ、ラロスの残骸が散らばっていた。
かなり散らばっているので正確な数は分からないが、少なくとも10体以上の残骸が確認できたので、一旦地面に降りてその状況をカメラに収めた。

(……これって切断されてるよね。
確か扶桑のウィッチは、カタナを使ってネウロイを倒すって聞いたけど、でもこの辺りは扶桑のナイトウィッチは飛んでない筈だし……)

そう思いながら彼女はカメラで切断面を撮っていると、不意に後ろから藪の葉っぱが擦れる音が響いた。

「っ誰だ!」

ナイトウィッチは機関銃を構えながら振り向くと、そこには見た事も無いストライカーユニットを履き、砲身が幾つも並んでいる機関砲サイズの武器と、背中に身の丈ほどある大剣を背負い、長い銀髪と背中からトンボのような羽根を持った、ウィッチらしい女性の姿があった。

「……」

その姿は余りにも幻想的であり、一瞬、ナイトウィッチは彼女に見惚れてしまっていた。

「ここにも……居ない」

そのウィッチはそう呟くと、ナイトウィッチに背を向けた。

「っは、待て!
貴官の国籍と所属、あと名前を答えろ!」

ナイトウィッチの言葉を聴いているのかいないのか、そのウィッチのストライカーユニットから、甲高い機械音が響き渡る。

「っ、おい!」

改めて警告の意味を込めた声を発すると、ウィッチは彼女に顔を向けた。
ストライカーユニットを高速で動く『赤い帯』で包みながら……。

「っひ!」

異様な存在を改めて認識したのか、ナイトウィッチは手に持った機関銃の引き金を絞り、その銃口から毎分800~900発の弾丸を撃ち放つ。

(しまった!)

本来なら人類の敵であるネウロイに対して放つ弾丸を、味方かもしれない存在に放ってしまった事を、ゆっくりと流れる時間の中で再認識した。
だが無常にもその弾丸は目の前にいるウィッチに……。

「……え?」

届く前に相対していたウィッチは、既に空高くへ飛び上がっていた。
水蒸気の輪と糸を引きながら夜空に消え行くそのウィッチを、見つめながらナイトウィッチは、持っていたカメラで映っているかどうかも分からないあのウィッチを撮った。
この不可解な事件の数週間後、カールスラントは陥落し、それを予期したかの様に現れ、小さくぼんやりとだがその姿を納めた写真と、モンタージュでそのウィッチは、フー・ウィッチ(魔女の幽霊)っと称され、各戦線で目撃される事となった。



[28945] Report1
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:fd5c83f5
Date: 2014/01/23 16:02
Report1
妖精の翼、魔女の箒





<Side:ゲルトルート・バルクホルン少尉>
<From:パ・ド・カレー 東部>
<Time:1940年5月30日 1954時>

平時であればその美しい町並みを、海と共に望める港町カレー。
だが町の外周部は今、炎の赤と黒煙が埋め尽くしていた。
その中で各国の魔女のエース達が、各自持ちえる実力を発揮し、必死に戦線を保ち続けていた。

「エーリカ!そっちに何機か向かったぞ!」

『そんな事言ったって、もうどれがどれだか確認出来てないよ!?』

『こちらカールスラント第7臨時戦車中隊!
陸戦型ネウロイの猛攻を受けています!
至急航空支援を!』

『こちら臨時前線司令部、現在近接航空支援部隊の稼働率は6割を切っている。
準備が出来次第そちらに向かわせるので、それまで現状の戦力で対応されたし』

『簡単に言ってくれる……っ』

悪態をついた所で通信に雑音が入り、暫くすると戻ってそのウィッチから再び連絡が入った。

『こちら第7臨時戦車中隊、了解!』

『こちら第2臨時航空小隊!
カレー南東方向より新たな大型ネウロイを確認!
数は9!』

『くそ!
近場のウィッチは至急支援に向かってくれ!』

時折混線する無線で各方面の状況が、だんだん敗色を帯びてきた事を告げるには十分だった。
カールスラント侵攻から始まるネウロイの攻撃は激しく、人類側の戦力は徐々に削られてきており、各国のウィッチは使い慣れない機材や武器で、必死に戦ってきた。
だが、このカレーにおける撤退戦で人類は、ついに欧州から追い出される結果となった。

『こちらブリタニアの第7レーダー班!
高高度で遊んでいるウィッチは何処のどいつだ!?』

『こちらカールスラント所属のヴィルケ大尉です。
私達には少なくともそんなウィッチは居ないわ』

『こちらガリア所属のウィッチ、こちらにも居ないよ。
エコーじゃないの?』

『だが……、いや、確かにこの高度はあり得ないかも知れないな。
高度65000フィート(約2万メートル)で飛ぶウィッチなんて……』

『カールスラント侵攻初期に出た幽霊魔女なら、一時期その高度で飛んでいたなんて話があったけどね~』

『……なんだと?』

『こちら第2臨時航空小隊所属ウィッチ!』

レーダー管制官の声に続いて、先ほどネウロイの増援を伝えたウィッチから、連絡が入った。

『援護は良いけれど、予告も無く高所からロケットを打ち込むのは止めなさい!』

「こちらカールスラント所属のバルクホルン少尉、現在この空域でロケット砲を装備しているウィッチはいない!」

『……え?』

その時バルクホルンの背後に、ラロス改が2機張り付いた。

『トゥルーデ!』

『バルクホルン少尉!』

「え……」

バルクホルンが後ろを向くと、既に機銃の発射態勢に入っているラロス改の姿があった。
今からシールドを張ったところで間に合わないタイミングと距離だ。

(そんな……こんな所で終わるのか?
まだクリスの様子も見れていないのに!?)

カールスラント撤退時に負傷した妹の顔を、幼少時代からの記憶が走馬灯として彼女の頭の中に駆け巡る。

(嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ
 いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
 イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ)

バルクホルンの思考は、自分の死を拒絶する感情で一杯になり、かえってその感情が彼女の行動を余計に束縛する。
が、その時、自分を撃とうとしたラロス改が1機撃ち落され、組んでいたもう1機はその場から離れた。

「……え?」

一瞬何が起きたのか分からず瞼を瞬きすると、上から下へ、黒い影が駆け抜けていったのを捉え、その直後大音量の爆音と衝撃波を受ける。

「うわぁ!?」

その際一瞬バルクホルンはバランスを崩し、天地が逆転する際それを自らの目で捉えた。

(なんだ……あれは……)

流れるような銀髪とトンボの様な羽を持ち、見た事も無い、黒いストライカーユニットを履いたそのウィッチは、姿勢を変えずに向きをラロスの居る方に変え、そのまま『後退』しながら、撃ち漏らしたラロス改を、これも見た事も無い巨大な機銃の照準に捕らえている所だった。

―ヴァアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァアッァ―

狙いが定まったのかそのウィッチは引き金を引き絞ると、火山が噴火したような銃声が響き渡り、狙いを定められたラロス改は、あっという間にズタズタに引き裂かれ、黒煙を引きながら落ちていった。
それをまるで当たり前のように、そして無関心さを感じさせる動きで姿勢を戻し、救援要請があった地上部隊の方へ向かっていった。
よく見るとあのウィッチのストライカーユニットにある大きな翼、その下面に爆弾の様な物が吊り下げられていた。

「バルクホルン大尉!
大丈夫!?」

「大丈夫!?
トゥルーデ!」

「あ、ああ……」

後ろから同僚であり上官のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大尉と、僚機を組んでいるエーリカ・ハルトマン上等曹長が追いつき、バルクホルンに安否を確認する声を掛け、彼女はそれに半ば呆然とした声で応えた。

「それよりも、あいつ爆装していたぞ!」

「ええ、司令部にも問い合わせたけれど、あんなウィッチは出撃していないって答えが来たわ」

「じゃあ、あいつは何処の誰?」

三者三様の感想を言い、三人は一先ず同じ答えに辿り着き、ミーナが司令部へ無線を開いた。

「こちらカールスラント所属ウィッチ、ヴィルケ大尉です。
これより所属不明ウィッチの追撃に入ります」

『司令部了解、何処の馬鹿かは知らないが、この混乱状態の中で新たに火種を増やすわけにはいかん。
急ぎそのウィッチを捕縛せよ』

「了解しました。
聞いての通りよ。
私達はこれより、所属不明ウィッチの追撃に入ります!」

「「了解!」」



<Side:カールスラント陸軍所属 ウィッチ隊隊長>
<From:パ・ド・カレー 南東部>
<Time:同時刻>

塹壕に身を潜めながら戦っていた陸戦ウィッチ、だが陸戦型ネウロイの増援により、その塹壕から迂闊に顔を出せないでいた。

「っち!
こっちが手を出せないからって好き勝手に撃ってくれちゃって!」

「隊長!
もう残弾が!」

「皆、後何発ある!?」

隊長格の陸戦ウィッチである彼女の指示で、彼女の部下のウィッチ達は急いで自分が持っている武器の残弾を確認する。

「残り10発です!」

『こちらは7発です!』

次々に残弾の報告が入り、その結果全員も残弾は一桁、良くてギリギリ二桁と言う状態であるのが分かった。
お世辞にも物量で押してくるネウロイを相手にするには、充分とは言えない数である。

「……ここまでか」

「た、たいちょぉ……」

彼女の相方を務めてくれている陸戦ウィッチが、今にも泣きそうな表情で、いや、既に涙の筋と僅かに鼻水を垂らした顔で、自分が信じて付いてきた隊長にしがみ付いて来た。
少し注意深く見れば、その顔が極めて端麗だった事が伺えるが、今ではかなり崩れてしまっている。

「っぷ、なんて顔してるのよ。
あんたはうちの隊じゃ一番の別嬪さんなのに、そんな顔してたら男にもてないわよ?」

そんな情けの無い部下の顔を見て彼女は僅かに笑い、その顔を利き腕である右手で撫で、そして微笑みながら余裕を持った声色で言う。

「だっで、隊長も残弾は僅かなんでずよね?
それに……」

部下はそこで言い淀み、顔に付いた鼻水と涙を袖口でふき取った。

「それに今にも死にそうな顔してるじゃないですか!?
さっきの攻撃で片腕失ってるし、応急処置だって満足に!」

「……」

部下の言葉に彼女は黙って微笑むしかなかった。
確かに彼女の左腕は上腕部半ばから無く、モルヒネと包帯で何とか応急処置を行い、あとは気力だけで戦っている状態だ。

「今なら後退できます!
ですから後退の許「それは出来ないわね」、何でですか!」

「今ここで退いたらカレーの防衛線に穴が出来ちゃうし、それにこんな重傷者を担いで逃げたってあいつらの的になるだけだわ。
逃げるならあなた達、そして殿は私と同じくらい負傷した人がするわ」

「……」

『こちら臨時編成した第一多国籍陸戦中隊から、カールスラント所属の第7臨時戦車中隊へ』

その時彼女達の通信機から声が聞こえてきた。

『現在そちらに向かっている。
到着まであと3分程だ。
それまで持ち応えられるか?』

「こちら第7臨時戦車中隊、援軍感謝する。
こちらは……」

そこで塹壕の縁から大量の土が崩れた。
直前に砲撃が着弾した訳ではないので、不思議に思いながら顔を向けるとそこには……。

「っひ!?」

「……こちら第7臨時戦車中隊指揮官」

彼女達にゆっくりと砲身を向けようとしている、中型の陸戦型ネウロイが居た。

「私の部下たちをお願……」

そこまで言うと閃光が光った。
ネウロイの砲撃ではない、彼女の部下が咄嗟に張ったシールドに、『破壊』されたネウロイの破片が至近距離で当たって、余りの破片の数に真っ白になっているだけであった。

「な、なにが……」

彼女が状況を確認しようと顔を上に向けると、そこには無表情、且つ無機質な色を放つ瞳で彼女達を捉え、赤く放つ帯でそのストライカーユニットを包んだ、空戦ストライカーを履いたウィッチの姿があった。

「……ネウロイ?」

だがその姿を見たのは一瞬であり、そのウィッチは未だに多くの陸戦型ネウロイが居る方へ向かい、その手前で大きく角度をつけて上昇した。

「馬鹿!
それじゃネウロイの餌食に!」

怪我をしているのを忘れているのではないかと言うほど、怒気を孕んだ声で叫んだ時、地上から空中からネウロイの攻撃が、先程のウィッチに向けて放たれた。

「っ!」

「ああ!」

自分達を助けてくれたウィッチが、次の瞬間には蜂の巣になっているのを覚悟し、その最後の瞬間を看取ろうと食い入るように見つめた。
だが……、その瞬間は来なかった。
何故なら攻撃を受けたウィッチは、まるで全方位に目があるかのように、多数のネウロイから放たれた砲撃、機銃、レーザー、その全ての攻撃のほんの少しの隙間を縫うように、そのウィッチは避けながら上昇して行く。

「わぁ……!」

「なんて出鱈目……」

ただ避けるなら何とかなるかもしれない。
だが避けながら位置エネルギーを稼ぐ事など、余程の命知らずか腕に自信のあるものにしか出来ない芸当だ。
あっという間にウィッチは彼女達から遥か彼方まで上昇、そのまま反転し降下を開始、暫く降下するとストライカーの翼にあった爆弾を投下し、ウィッチは水平飛行に移る。

「だめ!
あの高さじゃネウロイに爆弾を迎撃される!」

戦車隊隊長の言うとおり、あのウィッチから放たれた爆弾に向けて、ネウロイの攻撃が殺到した。
だが、その攻撃があたる直前……、爆弾は飛散した。

「迎撃された!?」

「いえ、まだ攻撃は届いてないわ。
もしかして不良品?」

飛散した爆弾にあちらこちらから絶叫する声が聞こえてくる。
だが、飛散した爆弾の『破片』はまるで意思を持っているかのように、ネウロイへと向かっていきそのまま命中、爆炎の華を地上に咲かせた。
そして爆炎で出来た煙が晴れると、そこには無残に晒されたネウロイの残骸が散らばっていた。

「た、助かった?」

「生き残れた……の?
あの状況下から?」

呆然と目の前の光景を見て、まるで怪我を忘れたかのように呟いた。

「おい!
大丈夫か!?」

後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには応急修理と弾薬の補給を終えた陸戦ウィッチの姿があった。
彼女達が履いている種類はバラバラで、各国の陸戦ストライカーユニットの見本市のようである。

「は、はい!
貴隊は!?」

「君達の救援要請を受けてこちらに来た寄せ集めだ。
間に合ってよかったよ。
あのウィッチには感謝しなくては……」

恐らくこの隊の隊長であるカールスラント製のストライカーを履いた彼女は、海の方へと向かって行くウィッチに目線を向けながら、恐らくあちらからは見えていないだろうが敬礼を行った。

「それよりも酷い怪我だな。
急いで軍医に見て貰った方が良い。
腕は?」

片腕を失った彼女はその言葉に黙って首を横に振る。
失った腕は原形を留めておらず、接合手術はまず不可能と見たので、このカレーの地に埋めたのだ。

「そうか……、では、我々は貴隊に変わってここの防衛に当たる。
貴隊は急いで後方に下がりたまえ」

「了解……、どうか生きてまた会いましょう」

「ふっ、そうだな。
その時は……」

そう言って多国籍部隊の隊長は今一度、あのウィッチが向かった方角へ顔を向けた。

「あのウィッチと共に杯を交わそう」



<Side:ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大尉>
<From:パ・ド・カレー 東南東>

あの所属不明ウィッチの追撃に入ったミーナ達だったが、速度差があり過ぎて直ぐに撒かれてしまっていた。

「ミーナ、さっき救援要請があった戦車部隊、あのウィッチのお陰で助かったみたい」

「ええ、さっきから同じ様な通信が入っているわ。
どうやら前線の部隊を支援しながら、海上に向かっているみたい」

「今度は海上に?
一体何を考えて……」

ハルトマンの言葉にミーナはそう応え、それにバルクホルンが唸りながら考えに更ける。

「分からないわ。
兎に角、接触してみない事には……居た!」

バルクホルンに言葉を返している最中に、先程からカレー中を騒がせているウィッチの姿を遠方から捉えた。
ミーナ達が飛んでいる高度より高く飛び、尚且つミーナ達が飛ぶ速度より早く向かってくる。

「少し手前で彼女のコースに合わせて反転しましょう。
こちらから呼びかければ、何かしらのアクションがある筈、カウントするからタイミングを合わせて!」

「「了解!」」

「3……2……1……今!」

ミーナの合図に合わせて、ハルトマンとバルクホルンもそれに合わせてインメルマンターンを行い、問題のウィッチとコースと高度を合わせ、ミーナはウィッチの左側に着いた。

「こちら、カールスラント所属ウィッチ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大尉です。
貴機の所属と姓名、階級を名乗り、こちらに帰順せよ」

そう言いながらもミーナはこのウィッチをまじまじと見た。
まず推進方式がまるで違う。
ミーナ達のように呪布をプロペラの様に回しエーテルを攪拌し、それによって生み出された推進力で飛ぶのではなく、直接エーテルを吹き出して飛んでいる印象だ。
そして何より、手に持っている大きすぎる武装も目に付いた。
20mmクラスの砲身6本を、恐らく回転軸であろう一本の軸を中心に束ねている巨大な火器だ。
ミーナの記憶にガトリング砲と言う物があるが、コストパフォーマンスが悪く重いと、かなり悲惨な評価だった。
だが目の前のウィッチはそのガトリング砲を持ち、その下部には巨大なドラム缶式の弾装が付いており、その一部分から給弾ベルトが伸び、ガトリング砲本体に接続されていた。
それに加えて彼女が履いているストライカーユニットには、前向きに取り付けられた翼があり、そこから二股、或いは三股に分かれた部品が取り付けられ、その部品と航空機の尾翼の様な部分には、ロケット砲の弾薬に翼のような物が付いた装備が付いていた。

「……こんな事をしている場合では、無いのではありませんか?
ネウロイの餌食になりますよ?」

「……繰り返します。
あなたの所属と姓名、そして階級を応えなさい」

「……」

ミーナからの繰り返しの質問に彼女は黙り通し、そして目の前に多くの船舶が敷き詰められた海が見えて来た。

『こちらカールスラント空軍所属ウィッチ!
現在海上で空戦型ネウロイの進行を受けている!
こちらだけでは対処しきれない!
急ぎ救援を……うわ!』

『ウィッチ被弾!
ストライカーの排出を確認!
近場の艦艇は直ぐに救助活動を!』

『青の3~4は青の7の援護を!
他の娘達は出来た穴を埋めるわよ!』

『奴らホームに向かっているぞ!』

その時、カールスラント空軍のウィッチ隊に被害が出た事が、ミーナ達の通信機に飛び込んできた。

「そんな!」

「あそこにある空母が沈んだら、一般市民を乗せた船が丸裸になる!」

「でも、ここからじゃ援護にも……」

海岸近くとは言え、直ぐに行ける距離ではない。

「……とんだエンジンテストね」

「え?」

直ぐ隣を飛んでいるあのウィッチが呟く声が聞こえ、ミーナがどういう事か聞こうとすると、彼女は急に体を縦方向に回転しながら下降し回転を止めると、さっきまで前方向に伸びていた翼が何時の間にか反対の方向に向き、そのまま加速を始めた。

「な、なにあれ~!?」

「追撃するわよ!」

「りょ、了解!」

奇抜な機動を行ったウィッチに一瞬呆気に取られたが、ハルトマンの声で冷静さを取り戻し、再度追撃する為に出力を上げたその時。

―コハァアアアアッオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ―

「きゃあ!?」

「うわわ!」

「なんだこれは!?」

一気に空気が圧縮されるような音が、先ほどのウィッチから響き渡ると同時に急加速を始め、それによって出来たの衝撃波に煽られ、ミーナ達は機体の制御が一時的に不可能になり、立て直した時には、既にあのウィッチは遥か遠くに居た。



<Side:ブリタニア海軍 航空母艦アーク・ロイヤル艦長>
<From:ドーバー海峡 東側南部>

『ブラスク被弾!大破!』

『なんだあいつら!
ブラスクに突っ込んできたぞ!』

『手近に居る船はブラスク乗員の救助に当たれ!
他の艦は開いた穴を埋めろ!』

「どうやら我々は、奴らの攻撃性を見誤っていたようですな」

「うむ」

アーク・ロイヤルの艦長は、副長からの言葉にそれだけ応えた。
バルト海での戦いから帰港したばかりのこの空母だが、休息を取る暇も無くこの戦いに参戦していた。
乗っているウィッチ達こそ、先の戦いにおいて叩き上げられた精鋭達ばかりで、連合艦隊司令部はその様な実力の有るウィッチを見逃す筈も無く、文字通り雀の涙ほどの休暇期間を与えられた後、再びバルト海における戦いに負けぬとも劣らぬ、この鉄火場に送り込まれていた。

「しかし、だんだんネウロイの攻撃もきつくなってきた。
……通信士、本国空軍からの支援は?」

『何度も要請しているのですが、カレー方面の航空支援、航空阻止行動で手一杯のようです!
また、基地に残っているウィッチは無いとの事!』

艦内電話で通信士に呼びかけたが、入ってきた報告は今日の戦いは、さらに厳しくなると言う予感をさせるには、十分な報告だった。

「……ふぅ、仕方ないな」

アーク・ロイヤルの艦長は自分が被っている海軍帽を直した。

「これよりアーク・ロイヤルも前に出る!
これ以上避難民に被害を出してたまるか!
我が艦の対空砲手達、貴官等の奮闘に期待する!」

『了解、艦長!
沈んで溺れるのは御免ですからね!』

『なにせ俺達は水練なんて受けてないですからね!
でも艦長、もしもの時は勘弁してくださいよ?』

「もしこの船が沈んで生きていたら、お前達にバルト海土産の缶詰をたっぷりとプレゼントしてやる。
その時は楽しみにしている事だな!」

対空砲手達の言葉に艦長はそう応えると、彼等から艦内電話など必要無いほどの悲鳴が聞こえてきた。
どうやら物珍しさに託けて大量に購入したようだ。

『こちら駆逐艦ギャラント!
ネウロイが二機突っ込んできます!
どちらも高速中型タイプ!』

「さあ紳士諸君、君達の腕前を見せる時だ。
バルト海帰りの対空砲火を奴等に見せてやれ!」

『『了解!』』

『!!
こちらブリタニア海軍航空ウィッチ!
ネウロイの速度がまた上がった!
こちらでは追いつけない!』

『こちらギャラント!
駄目だぶつかるっ……え?』

「どうした?
報告しろ!」

『は、はい!
ネウロイが一機、我が艦の直前で爆発しました……。
もう一機、左舷から来、ってわぁ!?』

『艦橋のガラスが……!?』

そこで通信が途切れた。

「どうなっているのだ?」

「分かりかねます。
ですが突っ込んでくるもう一機と、恐らくネウロイらしい物を相手にせねばならないでしょう」

「ふむ、そうだな。
総員、対空戦闘用意!」

「対空戦闘用意!」

『こちら観測主、ネウロイ、高速で接近中!』

『は、はやい!
対空砲、さっさと撃ってくれ!』

『現在照準中だ!』

そこまでのやり取りで、艦長は間に合わないと判断し、艦内電話を取った。

「総員、対ショック用意!」

艦長の合図で艦橋要員が掴めれるものに掴まり、来るべき衝撃に備えた。
直後に爆発音が聞こえたが、その後何かが水面に着水する音と、何かが飛び抜けていく飛行音の後に、ガラスが割れる音が響くだけであった。

『……ネウロイ、直前で……爆発、海面に落ちました』

『誰か撃った奴いるか?』

『こちら2番対空砲座、こちらはまだ撃っていない!』

『こちらもだ!』

「一体何が……」

「か、艦長!
艦首側の外に!」

操舵手の声に艦長含む艦橋要員は艦首側の窓に注目した。
そこには先程まで居なかったはずのウィッチが、見た事も無いストライカーユニットから甲高いエンジン音を出し、浮遊している姿があった。

「「……」」

「……」

しばらくそのウィッチとアーク・ロイヤル乗員が見詰め合った後、アーク・ロイヤル艦長は敬礼を行った。

「……支援に感謝する」

「……」

そのウィッチはアーク・ロイヤル艦長の言葉に応えるように答礼した。
その後、ウィッチは特殊な過給機を作動させたのか、先程よりも高いエンジン音を響かせながら垂直上昇し、空の彼方へと消えていった。



その後も謎のウィッチが度々目撃されるが、全ての武装を使い切ると、決まって空高くまで上昇していくのが確認された。
そしてそれと同じ頃、ブリタニアレーダー群では上空6万フィート付近に、大型の飛行物体が確認されたが、そこまで行って確認できるウィッチも無く、何も攻撃行動が確認されなかった為、今後も警戒する事に留まった。



[28945] Report2-1
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:fd5c83f5
Date: 2012/03/22 17:11
Report2-1
妖精達の示威行動





先のダイナモ作戦の終了が告げられ、ダイナモ作戦では確かに多くの人命と貴重な知的財産が守られ、チャーチル首相はこの作戦による成果を『奇跡』と呼び、必ずやヨーロッパ大陸民達の故郷を取り戻す事を公約とし、軍関係の者達に一層の奮励努力をするよう厳命した。
それに続き、失われた人命に関しても、遺族に対して助けられなかった事に対する謝罪の言葉と、今後の生活支援を行う事を約束した。
そしてダイナモ作戦に従事したウィッチ、航空機搭乗員、歩兵、そして全ての軍関係の者に深く感謝の言葉を送ると共に、手柄を立てた者達に勲章と報奨金を送り、次に起こるであろうネウロイの侵攻を食い止める事と、ヨーロッパ開放の緒戦となるガリア開放の悲願を叶えて欲しいと口にし、作戦終了のラジオ放送は締めくくられた。
しかし、ダイナモ作戦でパ・ド・カレーのあちこちで目撃されたウィッチに対しては、何も言わなかった。
そして1年の歳月が過ぎたブリタニアのドーバー海峡、そこでは日夜、人類とネウロイの激しい航空戦が行われ、それと同時にブリタニア上空を飛ぶ、巨大な機影の正体を確かめる為、観測隊を出撃する事になった。



<Side:坂本美緒>
<From:ブリタニア サウスエンド東側100キロ沖 上空1万メートル付近>
<Time:1941年 7月6日>

『こちらはブリタニア空軍所属特使、そちらとのコンタクトを取りたい。
交信意思が有る場合は、通信波を3回に分けて発信せよ』

リベリオン製のB-17爆撃機を改造し、出来るだけ大出力の通信波を発信できる機材を積んだ航空機が、『アークエンジェル』に通信を試みる。

『これで通算100日目最後の通信、今日も大天使様はだんまり……か』

『今回も駄目なんじゃないか?
いい加減この蒸し風呂から出たいぜ』

酸素マスクをつけ、電熱ジャケットを着込んでの飛行は、パイロットにかなりの疲労が来るものであるらしく、飛行士や通信士は愚痴り始めた。

「すまないな。
我々では貴機のように大型の通信装置を背負う事が出来ないのだ」

『いえ、大尉に文句を言ったわけじゃないのです。
ただ、こんなにラブコールを送っているのに、相手である大天使様がだんまりな上に、むさい上官からは、応えるまで継続しろと言われるのが不満なのですよ』

『ははっ、アデルの言うとおりだな。
坂本大尉達にはこうして護衛してくれているだけでもありがたいですよ。
この高度まで昇る為の改造工事で、防御機銃すら外された状態ですからね。
しかし本当に、何時になったら応えてくれるのやら……』

美緒の言葉にB-17の乗員達が冗談を叩き合う。
美緒はそれに苦笑すると、自分達より遥か上空を飛ぶ『アークエンジェル』と呼称された巨大な航空空母。
空母だと判明したのは、せめて写真撮影にと先行して向かった航空機やウィッチが、『アークエンジェル』に『雪風』らしい陰が、中に入っていく所を見かけたからだ。
だが不可解な面も多く、その一つに自前で使う燃料の補給はどうしているのかが不明なのだ。
ちなみに『雪風』と言うのはあの謎のウィッチの呼称であり、彼女が履いているストライカーに、扶桑語で『雪風』と書いてあったのが確認されたので、そのまま幽霊ウィッチから『雪風』に変更された。

「そう言えば、ミーナが『雪風』と話したと言っていたな」

『こっちでは有名な話ですよ。
だからでしょうかね。
ミーナ少佐は真っ先に聞き込みをされたようです』

『報道関係の記者からも聞かれていましたね。
次の日には『妖精と会話した魔女!』なんて見出しの、新聞が出ていましたけど』

呆れた調子で美緒の言葉に応えた。
ハイエナの様にネタを求めて奔走している記者と、あのウィッチの持っている技術が欲しい上層部に、辟易しているようだ。

『機長、そろそろ……』

『おっと、もう燃料がやばいか。
ビギンヒル基地管制、燃料欠乏、帰投する』

『こちらビギンヒル基地管制、了解した。
帰投せよ』

『はぁ~、これでやっとこのサウナスーツを脱げるよ』

「まだ気を抜くのは早いぞ。
帰還するまでが任務だ」

『っと、失礼しました。
それにしても意外です。
とっくに基地の設営に取り掛かっているものと思っていたのですが』

注意されて気を引き締める通信士に、美緒は「まったく」と言いながらも微笑んだ。
美緒がここブリタニアに来たのには二つの訳がある。
一つは『雪風』に関して、各地を転戦していた扶桑の魔女である彼女に、何か知らないか聞く為である。
当然彼女に写真を見せたが、現代のストライカー開発の立役者である宮藤博士と、ストライカーの開発に従事していた美緒でも、『雪風』の様なストライカーを見たのは初めてであり、何も収穫が無いまま聴取は終わった。
そしてもう一つは、予てより交友があったミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ少佐等、ベテランのウィッチが中心になって、統合戦闘航空団と言う新しい部隊構想を打ち出し、その最初の発足部隊である第501統合戦闘航空団の設営に、協力して欲しいと言う連絡を受け、遥々ここまで来たのだ。

「生憎、ミーナ達ウィッチ派と、反ウィッチ派で議論が続いていてな。
頭を使う事に慣れていない私は、こうして多国籍ウィッチ部隊の有用性を立証している所だ」

『なるほど、それでカールスラントやファラウェイランドのウィッチが、うちの基地に集まっているわけだ』

『それにしても、そんなに別の国のウィッチを集めては、補給や整備に支障が出るのではありませんか?
自分なら一つの国のウィッチを集めて、一つの部隊を構成し続ける順来の運営方法が、理想的だと思うのですが』

『それがそうでもないんだ。
別々の国のウィッチが一つの部隊に居る。
つまり運用方法が違う装備があると言う事は、それだけ戦術の幅が広がると言う事だ。
ついでに、自然と各国のエースで構成されるから、その部隊が配置されている国の国民の士気も上がる。
スオムスで活躍した義勇軍航空ウィッチ隊が、その成功例だな』

『へ~』

機長の長い説明に皆が感心する。

『でも機長、何でそんなに詳しいんですか?』

『あのな、これくらいは新聞読んでいれば簡単に手に入るんだよ。
お前はもう少し新聞を見ろ。
何時も面白おかしく文面を書いている奴らだが、鵜呑みせずに要点さえ抑えれば正しい情報が手に入るんだ。
情報を手に入れられてついでに自分の頭の回転も良くなる、一石二鳥だな』

勿論、理解力がどれだけあるかによるがな―と、機長は付け加えた。

「特にヒューゴ・ダウディング大将も参加している計画だ。
ウィッチ派の急先鋒でもある彼としても、自分の役職と引き換えにしてでも結成させるつもりだろう」

『壮絶ですなぁ……』

「まったくだ……ん?
待て、4時方向、下方に何か光った」

『ちょっと待って下さい。
……この時間にこの空域を飛ぶ航空機もウィッチも居ませんね』

「……」

美緒は右目の眼帯を開け、光った方へ魔眼を向ける。
彼女の魔眼は、その超視力で遥か遠くに有る目標を捕らえる事が出来る。
加えて大型ネウロイのコアと呼ばれる場所も判別でき、実戦においては大変重宝される固有魔法だが、自らの目が届く範囲までしか見えず、夜間や雲などの障害物がある場所では、使い物にならないと言う欠点も有る。
今回は雲がそんなに発生しておらず快晴なので、その能力を存分に発揮できる。

「……っ、ネウロイだ!
小型三、中型二、接近中!」

『くそ、ついてないぜ!
機速を上げろ!』

『これで精一杯ですよ!』

「私が引き付ける!
お前達は直ぐにこの空域から退避しろ!」

『すみません、大尉!
ビギンヒル基地管制へ!
小型3、中型2機編成のネウロイと出くわした!
至急増援を頼む!』

『ビギンヒル管制了解した。
直ちにSC(スクランブル機)を上げる。
それまで持ちこたえてくれ』

『早くしてくれ!
大尉一人じゃそんなに持たないぞ!』

懇願するような声を上げて増援を要請する偵察機を尻目に、美緒はネウロイに向かって急降下を開始した。

(こちらもブリタイア本土に向かうから、緊急発進機が到着するまで、早くても約6分……持ちこたえられるか?)

美緒の武装は九九式二号20ミリ機関砲で、前のものに比べれば斜線が安定していて扱い易いが、それでも弾数は少なく、弾薬が切れたら後は扶桑刀で戦うしかない。
だがやらなければ座して死を待つのみ、覚悟を決めた美緒はネウロイに正対する形で交戦を開始した。
まず先手を取ったのは美緒だった。
彼女は一交差で小型のネウロイを一機落とし、中型のネウロイ一機に傷を負わせた。
だが傷を負わせたところでネウロイが倒せた訳ではない。
すぐに中型のネウロイは損傷箇所を再生し、生き残ったネウロイと共に美緒を追いかけ始める。

(よし、こちらに気を向けられた!)

これであの偵察機の安全が確保できたも同然である。
あとは適当にネウロイをあしらいながら増援を待つだけだ。
だがその時、美緒が履いている零式艦上戦闘脚から異常音と共に、黒煙が噴出した。

「なっ、魔導エンジンが!?」

『大尉、どうしましたか!?』

「魔導エンジンの不調だ!
速度が上がらない!」

『坂本大尉!
我々に構わず退避を!』

偵察機から悲痛な声が響くが、無情にもネウロイは美緒に半包囲しながら接近し、一斉に美緒へ攻撃を仕掛けた。
美緒もシールドで防ぐが、波状攻撃で徐々に押されてくる。

「良いから早く逃げ……うわ!」

ついに耐え切れなくなり、美緒は弾かれた勢いのまま錐揉み状態になり落ちていく。
そこへ追撃するように小型のネウロイ、ここで美緒は相手がラロス改だと確認するが、既に後の祭りだった。
再度シールドを張ろうとするが、姿勢制御に手間取り防御が間に合わない。

(ここまでか!)

次に来るであろう攻撃に覚悟を決めたその時、ラロス改が爆発した。

「!?」

慌てて即席のシールドを発動し、飛び散るラロス改の破片を防ぎ、姿勢を戻して水平飛行に入った。

「一体何が……!」

そこへ現れたのは奇妙な形をした航空機だった。
色は全体的に瑠璃色で白いストライプが走っている。
現行の航空機のようにプロペラが無く、胴体と翼部を切り離し、そのまま支えで繋げたような形状の機体だ。
翼の形状も独特で、主翼らしき部分はW字型になっており、尾翼らしき部分は前後に分かれており、前尾翼は水平方向に、後尾翼は下方向に向けて設置されていた。
良く見てみると、『翼面部』と『胴体部』の間を支えるように翼が付けられており、そこには『Fairy Air Force』と書かれたエンブレムがあった。
そして何よりも気になったのは……。

「搭乗者が居ない!?」

人が乗っていなかったのだ。
その航空機はしばらく美緒と共に飛ぶと、ありえない速度と旋回能力で、残っている中型ネウロイの元へと向かった。

「……」

美緒が呆然としている間に、残ったネウロイはその航空機によって呆気なく落とされて行き、付近の安全を確認するように飛んだ後、上空の『アークエンジェル』の元へと飛んで行った。



<Time:2週間後>
<From:ビギンヒル基地 多国籍部隊隊長室>

「で、そうやって剥れているっと」

コーヒーを淹れて若干剥れ顔の美緒に差し出すと、ミーナはそう言った。
ここに来る前に美緒は、情報部や母国の軍上層部・友人に、先日の事を話したのだが、情報部からは「そんな馬鹿な」と言われ、母国からは「気が緩んでいる!」と叱責され、友人からは「美緒、あなた疲れているのよ」と言われたのだ、剥れるのも仕方ないだろう。

「まあそれだけで済んで良かったじゃない。
偵察機の乗員が咄嗟に撮った写真が無かったら、今頃は精神病院に入院してもおかしくない報告よ?」

「あいつらが嘘偽り無く答えろと言ったから答えただけだ」

「はぁ……、まあ正気を疑われてもしょうがないわね」

自分の頭を小突きつつそう言いながらミーナは、美緒と偵察機の乗員の証言に基づいて描かれた絵を見た。
本当にどんな間違いをすればこの様な形状になるのか、皆目見当がつかない機体形状だ。
加えて無人だったと答えれば、頭を疑われてもおかしくない。

「未来人説の人達が益々幅を利かせるわね」

「何の事だ?」

「私の国の科学者達が、『雪風』の事を研究していたら、意外と今のストライカーユニットと、似通っている部分があるって言うのよ」

ミーナはそこでコーヒーを一口飲む。

「確かに今の技術では、あんな性能のストライカーは作れないけれど、今ノイエ・カールスラントで、メッサーシャフル社が進めている新型ストライカー開発計画、P1065と言うのがあって、それに使う新しい魔導エンジンと外見的構造が似ているって言っているの、だからでしょうね」

「ふむ……」

「まぁ、向こうが答えてくれないと結論は出ないのだけれど……、今の私達には関係の無い事だわ」

「本当にそう思っているのか?」

美緒の言葉を受けてミーナは彼女を見返す。
実直を体現したかのような美緒の視線を受けて、ミーナは溜め息をまた一つ吐き、こう呟いた。

「……分かっているくせに」



<Side:ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ>
<From:ビギンヒル基地 バー>
<Time:同日 1939時>

「では、少し遅れたけれど、新たな同志の到着を祝って」

「「乾杯!」」

音頭と共に杯が交わされた。
杯と言っても彼女達のグラスに入っているのは、ミーナ以外はオレンジやブドウのジュースであり、同じ基地内に居る成人した男女に比べて、かなり慎ましい歓迎会だ。
机の上には燻製されたハムとチーズ、サラダボウルとパンが並べられ、基地内の食事としてはかなり豪勢な部類に入る。
ちなみにバルクホルンとハルトマンは、ダイナモ作戦での功績により、バルクホルンは坂本と同じ大尉に、ハルトマンは中尉に昇格していた。
異例の早さだが、現在の部隊長がミーナなので、それに合わせた結果だ。

「それにしても燻製ハムなんてよく手に入ったね」

「ふふ、このバーの店主さんの弟が牧場を経営していて、そこから安く手に入るそうよ」

「はぁー、こんな時なのに逞しいなぁ」

感心しながらハムを頬張るハルトマン。

「でも、美緒に助力して貰えて助かったわ」

「だが来て初日の出撃であの体たらくだ。
とてもリバウで戦ったベテランとは言いがたい姿だよ」

「エンジントラブルだから仕方あるまい。
それにしても、報告書を見せて貰ったが凄い形の航空機だったな……」

バルクホルンが言う航空機とは、美緒が見たと言うあの奇抜な形をした航空機の事だ。

「ほんとだよねぇ。
私だったらあんなのに乗りたくは無いかな」

「恐らく、高速域での旋回性能を考えた結果があれなのでしょうね。
それでも美緒が見たと言う急旋回なんてしたら、パイロットの命が危険だわ。
元々無人で動くように設計されていたのでしょうね」

「ミーナとしてはどう思う?」

「そうね……。
将来的には可能かもしれないけれど、それでもかなりの時間が掛かるでしょうね。
半世紀後か百年後か、それとももっと先の時代に出来るのか」

「少なくとも私達が生きている間は、あの様な機体が完成する可能性は低い……か」

ほっとした様ながっかりした様な、そんな表情でバルクホルンは言う。

「まぁ彼女達の正体は何であれ、我々がする事は変わらない。
ネウロイをヨーロッパから撃退し、国を奪われた人々に安息を与える事だ。
そうすれば、後世にその灯火を渡す事が出来る」

「そうね。
未来に彼女達の様な存在が居る可能性、それだけは積ませてはならないわ」

そう言いながらミーナは常温のビールを一口飲んだ。
16歳から飲酒を許される西洋圏の文化に、美緒は最初こそ驚いていたが、リバウの戦いからヨーロッパ各地を転戦する毎に、その光景を見慣れはしたものの、酒に弱い美緒はミーナと同じ16歳になった今でも、飲酒は控えていた。

「少し湿っぽくなっちゃったわね。
今日は私のおごりだから、たくさん食べて頂戴」

「よーし!
じゃあ早速……!」

ハルトマンがチーズに手を伸ばそうとしたその時、基地の警報が鳴った。

「スクランブル!」

「回せー!」

その声が聞こえるよりも早く、ミーナ達はバーの外に出た。
ここの所ネウロイは海峡を越えての攻撃を行っており、基地内に待機しているウィッチと戦闘機搭乗員は、何時でも出撃できるように出来ていた。
それと同時に『雪風』の出現回数も減っており、その原因も目的も不明な為に『彼女』を心配するウィッチも出てきている。
そうこうしている内に、ガリアのウィッチや戦闘機が出撃する姿を見た。

「ガリアの連中か!」

「私達も負けないよ~!」

「第1多国籍ウィッチ実験隊、出撃!」

「先日の失態を取り戻す機会だ!」

ミーナ達も各々の目的を持って自分のストライカーを履き、魔導エンジンを指導して空へ飛び立った。



今回のネウロイは小型125、中型67、大型38の大編隊であり、ドーバー海峡側のブリタニア基地から、続々と航空ウィッチと戦闘機が上がってくる。
カールスラント、ガリア、ブリタニア、リベリオン、扶桑、オラーシャ等、世界中の国から集まったウィッチと戦闘機達、ここまで人類が団結した事は無いのではないだろうかと、言いたくなるほどの早々たる航空軍団である。
各飛行隊は一旦ネウロイの予想進路上で集まり、ブリタニアのレーダー群からの情報を待った。

『ネウロイ群は、ブリュッセル方面から接近中!』

『各機、武装自由!
各小隊で対応せよ!』

「皆、行くわよ!」

「「了解!」」

ミーナの号令で、美緒達はネウロイ群へ向かって行く。
先を越されてはなるものかと、他のウィッチ隊や戦闘機隊も彼女達に続く。

『これだけ紳士淑女達が集まると、壮観だな』

『見惚れている暇は無い!
俺たちも続くぞ!』

『『了解!』』

最近のネウロイのしぶとさに、ウィッチ達よりも攻撃能力が劣りがちである戦闘機隊も、ウィッチ隊が小型のネウロイを殲滅するまで、大型と中型のネウロイの気を引こうと、一斉に群がっていく。
戦局は最初こそ数の多いネウロイ側が押していたが、中盤になると小型のネウロイを殲滅したウィッチ隊が加わり、ネウロイの軍団は徐々にその勢いを失っていった。
そして最後のネウロイを撃墜した時、『それ』は現れた。

「なんだ!?」

『それ』は人型をしていた。
それこそスオムスで報告があったウィッチもどき、そのままの姿であった。
だがその形は……。

「雪……風?」

ミーナはそう呟いた。
確かに姿形は『雪風』にそっくりだ。
だが、その姿は全て黒尽くめになっており、何より翼部にはネウロイと同様、赤い六角形の模様があった。
暫く相対していると、横合いから機銃弾が通り過ぎ、『雪風もどき』を牽制した。

「ミーナ、あれはネウロイだ!
コアの反応がある!」

魔眼を発動させた美緒が、ミーナに言い放つ。
『雪風もどき』は翼部からビームを発射した跡、本物の『雪風』に劣らない速さで距離を取った。

「大丈夫か!?」

「え、ええ、私は大丈夫、だけどその前に!」

周りのウィッチもそれを敵だと認識したようで、『雪風もどき』に攻撃を仕掛ける。
だが速度差がありすぎ、さしものベテランウィッチも手を焼いた。
それに加え先の戦闘により弾薬も欠乏状態にあり、魔法力の余裕も無い状態だ。
誰もがこの『雪風』もどきの討伐に諦め掛けたその時、この場に居るウィッチなら誰もがその写真で姿を拝見し、パ・ド・カレーにおける影の功労者である『雪風』が、上方から『雪風』もどきに攻撃を仕掛けた。

「『雪風』!」

『あれが『アークエンジェル』のナイト、『雪風』か!』

『生で見るのは初めてだ!』

久しぶりに出現した英雄の登場に、場の空気が高揚する。
だがその反面『雪風』は、『雪風もどき』を観察するように牽制射撃を繰り返すだけで、致命傷を与えるような攻撃を一向に行わない。

「なんだ?」

「なんか様子がおかしいねぇ、どうしたんだろ?」

「ふむ、初めて見るが、まるで何かに脅えているような……」

「脅える……」

美緒の言うとおり、確かに『雪風』は何かに脅えるような、全体的に硬い戦闘機動をしていた。

『違う……ここに、JAMは居ない……』

不意に通信機越しから、ミーナに聞き覚えのある声が流れてきた。
それは紛れも無く、『雪風』の肉声である。

(JAM?居ない?
脅えているのはそれのせい?)

ネウロイはその出現から今まで、人間側の兵器を真似る様な姿形で侵攻してきた。
-ならば『雪風』の言ったJAMと言う物も、ネウロイと同様に姿を真似たのだろうか?-ミーナは心の中でそう思った。

『JAMじゃない……それでも、あれは……敵だ』

まるで自分に言い聞かせるようにそこまで言うと、『雪風』は翼部下面に取り付けられたロケット兵器を2発、『雪風』もどきに向けて発射した。
だが『雪風』の攻撃を『雪風もどき』は急角度で旋回し、当たる直前で避けた後再度『雪風』に相対する。
『雪風』と『雪風もどき』は互いに至近距離で旋回し、そして『雪風』は何を思ったのか残ったロケット兵器を発射する。

「一体何を!?」

「あれじゃ当たらないよぉ?!」

周りが『雪風』の不可思議な行動に驚く中、ミーナと美緒は彼女の外部武装の特性に気が付いていた。
そう、『雪風もどき』がロケット兵器を避ける瞬間、僅かにそれの矛先が『雪風もどき』に向いていた事に……。
そして彼女達の予想は的中し、『ロケット兵器』は一旦まっすぐに飛んだ後、その先端を『雪風もどき』に向けるように旋回したのだ。

「『え!?』」

その余りにも不可思議な光景に一同が固まった後、『ロケット兵器』は『雪風もどき』をその矛先に捕らえ、当たる直前に爆発した。
『雪風もどき』はその爆発で半身を抉られながら消滅し、『雪風』は破片を浴びたのか赤い飛沫を引き、右のストライカーからも煙を引きながら海面へ落ちて行く。

「美緒!」

「ああ!」

いち早く反応したミーナと美緒が、落ちて行く『雪風』の元へ向かう。
他のウィッチ達もミーナ達に気付いたようで、まだ余裕のある隊長格のウィッチは、部下に指示を出したあと、先に降下して行ったバルクホルンとハルトマンの二人と共に、ミーナ達の後を追った。
戦闘機部隊は、結果を見る事も出来ぬまま周辺空域を哨戒し、燃料に余裕が無い機体は基地へと帰還していく。
一方『雪風』を追った二人は、『雪風』のストライカーが動いてないのが幸いして何とか追い付き、『雪風』の意識の有無を確認し始めた。

「『雪風』、聞こえているの!?
『雪風』!」

「どうやら気を失っているようだ。
ミーナ、このまま拾うぞ!」

「ええ!」

ミーナの呼び掛けも虚しく落ちて行く雪風を、彼女達はその両脇を掴んで拾い上げ、手近な陸地へと降ろす。
幸い緊急のストライカー排出装置はほぼ同じ構造で、『雪風』からストライカーを脱がせた。

「しっかりして!」

「裂傷が頭部に2、胴体に4、左腕に1か。
……胴体の傷が深いな」

咄嗟に手持ちの武器と左手でガードしたようだったが、それでも完全にカバーできたわけではないようだ。
そうして調べているうちに『雪風』が目を開ける。
ミーナと美緒がそれを見てほっとするが、『雪風』はそんな二人に見向きもせず起き上がろうとする。

「ちょ、ちょっと!」

「まだ起き上がるな!」

「まだ……あなた達を、人類と認識した訳じゃない!」

「それでも傷の手当てくらいはしないと!」

『雪風』の衝撃的な言葉を発するが、それに構わず二人は押さえ込む。

「ちょっと、どういう状況!?」

「怪我人が無理をするな!」

暴れだす『雪風』をミーナと美緒が抑えていると、そこへバルクホルンとハルトマンが降りてきた。

「ちょうど良い所に!
この子を抑えるのを手伝って!」

「わ、分かった!」

「任せろ!」

ミーナの指示で二人が『雪風』の両足を押さえた所、ようやく抵抗を止め、彼女をミーナ達が所属している基地へ搬送、治療する事となった。



[28945] Report2-2
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/03/22 17:12
Report2-2
妖精空間





<Side:ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ>
<From:ビギンヒル基地 多国籍部隊隊長室>
<Time:ブリタニア南北海沖大航空戦から数日後1026時>

「……了解しました。
では、……はぁ」

「どうだったんだ?」

電話を切り溜息を吐くミーナに、バルクホルンは声を掛ける。

「彼女の扱いについては上層部でもかなり困っているみたい。
下手に扱うと上に居る彼女の母艦から、何らかの報復行動が起こるかもしれない上、それによる被害が想像もつかないから尋問も出来ない」

美緒の言っていた航空機はともかくとして、あの巨体を空中に浮かべている技術力がある時点で、その戦闘能力は現行の航空機よりも高いと推測されている。
しかしながらその補給経路、搭載されている兵器や燃料の残量、彼女達を統制する指令系統は推測不能、現代に現れたオーパーツと言って良い。

「加えて彼女の母艦と交信を試みても何の反応もないからな。
あえて通信を遮断しているのか、もしくはこちらの反応を探っているのか……」

「とにかく彼女に協力を仰いで、『アーク・エンジェル』との交信をする事を、最優先で行うように言われたわ。
その功績で一気に部隊設立に持ち込む気みたいね」

「抜け目ないなぁ……」

「まぁ、下手に他の部署で取調べされるよりは良いだろう」

ミーナの憶測にエーリカとバルクホルンはそれぞれの感想を言う。
二人とも上に浮かんでいる物の危険性を、十分に把握しているので当然の返答だとも言える。

「実際、美緒が言っていた戦闘機が出てきたら、私達の装備では太刀打ち出来ないでしょうね」

「でもルーデル大佐なら落とせるかもね~」

「ハルトマン、その冗談は笑えないから止めろ」

ハルトマンの相方をしているバルクホルンですら、噂の魔女に関しては苦手なようだ。
と言うよりも彼女の戦果からして、『異常』以外の言葉が見つからないとしか、言いようが無いのが実情なのだが……。

「とにもかくにも、彼女からなんらかの通信手段を手に入れないと……」

「最低でも彼女に仲介役として協力してもらう事だな。
しかし、どうしたら良い物か……」

「お菓子で釣ってみる?」

「お前じゃないんだし通じるわけ無いだろ」

ハルトマンのボケにバルクホルンの突っ込みが入る。
ミーナが彼女達と組んでから、すっかりお約束になった光景だ。
そこへ執務室に据え付けられた緊急連絡用の電話が鳴った。

「……、スクランブル!」

その声と共にミーナ達が室内から駆け出した。



ハンガーから緊急発進を行い、空へ駆け出したウィッチはミーナ達のみ、目的地はドーバー海峡上空、任務は正体不明機同士の航空戦の実態調査である。
連合軍の戦力が先日の戦闘より少ないのは、怪我や機材の整備に十分な時間が取れなかったからだ。

「対空レーダー班からの情報では、両勢力ともかなりの高速で戦闘を行っているみたい。
明らかに異質な戦い、各部隊員は十分に注意して!」

「「了解!」」

「ミーナ、どう思う?」

「恐らく……彼女の母艦戦力と、ネウロイとの戦闘ね。
恐らく現場は異次元の戦闘になっている筈、美緒達も気を付けてちょうだい」

「了解だ。
……だが妙だな。
ネウロイは一定期間をおかないと、侵攻しない筈だが……」

美緒が言う言葉はミーナも同じ思いだった。
ネウロイは一回侵攻した後は、例外が無ければしばらく休息期間を置いている。
先日の空中戦がその侵攻してくるであろう予測日だったのだが、一日も置かずにこうして侵攻してくるのは、明らかに異常行動だと言える。
ブリタニアからガリア上空にかけて飛翔している、『アーク・エンジェル』がネウロイの巣に刺激したのか。
それとも……

(現場を見てみないと……)

魔眼持ちの美緒が居るので、ある程度接近したら彼女に様子を見させ、その後介入可能ならば戦闘に参加する。
そうでなければ、最近になって標準装備になっている扶桑製の、望遠カメラで戦場を撮影しそのまま帰還するだけだ。
大まかな作戦方針を固めて、ミーナは編隊の先頭となって現場へと向かった。



しばらく飛ぶと閃光と黒煙が上がっているのが見えてきた。

「美緒、どう?」

「……コアの反応が無い」

つまり、相手はネウロイではない可能性がある。
異国の戦友からの返答に、ミーナは息を呑む。
一度基地に連絡を入れるべきか、それとも……。
そこまで思案した所で基地から入電があった。

『ミーナ少佐、緊急事態です!!』

「どうしたの?」

『『雪風』が脱走しました!
しかも彼女の装備も機材も奪還されてしまい……待ってください。
今レーダー班から連絡が……っ!
『雪風』はそちらに向かって、片肺にも拘らずこちらの追跡部隊を凌ぐ速度で飛行中との事です!』

「ここへ!?」

これには同じ通信を聞いていたハルトマンも驚きの声を上げる。
もとより彼女は負傷している身、それも飛行をするのは医者から止められている状態だ。
それにも関わらずここまでの反応を示すと言う事は……。

『こ……、FA……属の特……番機雪風、前方……飛行中の部隊に告げる。
そちらの装備での対JAM戦闘は自殺行為に等しい、直ちに当該空域より離脱する事を推奨する』

イヤホンから聞こえてきたのは、聞き間違える筈も無い『雪風』の肉声だった。
しかも自分達が非力だと言うオマケ付きで……。
これにはミーナを含め、何時もは能天気なハルトマンもむっとした顔になる。
ハルトマンにも少なからずウィッチとしての誇りがある。
それを対戦しても居ない相手に足手纏いだと言われれば、彼女としても面白くは無いだろう。
そんな中、ミーナはいち早く熱くなった思考を冷し、『雪風』に問い返す。

「……忠告に感謝します。
だけど、これは我々人類の戦い。
例えあなた達が異星人であったとしても、我々は独自の判断で動くわ」

『警告はした』

その通信の直後、片方のストライカーしか動いていない状態で、ミーナ達の編隊を『雪風』が通り抜けていった。
被弾したストライカーは背負っており、保持した武装を使えるようにしている。
通常ストライカーは安定させる為に両足に装着し、呪符の回転を左右逆にして動かすものだが、彼女が履いているストライカーにはその必要がないようだ。

「片肺でもあれだけの速度が出せるのか!?」

改めて自分達との技術力の違いを、認識させられる瞬間だった。
だが技術力が違っても中身は人間に違いは無く、『雪風』が通り過ぎた後、ミーナの顔に冷たい物が当たる。
顔についたそれを拭い、手の平を見ると、そこには命の灯火を感じさせるような紅い筋が映えていた。

「あの娘!」

「ちょっ、ミーナ!?」

ミーナが速度を上げ、それに追随する形でハルトマン達も機速を上げる。
だがそれでも『雪風』の速度に追い付く事は出来ず、どんどん引き離されて行く。

「は、早すぎる……」

だが彼女を追いかけている内に、調査空域に差し掛かっていた時、ミーナ達の目にそれが飛び込んできた。
そこで繰り広げられているのは異次元の戦闘、先日『雪風』が使用したロケット兵器が縦横無尽に飛び交い、あちこちで爆発の華を咲かせていた。
その場に響くのは独特の排気音と爆発の音、そして激しく動き回る機体と空気の摩擦で生じる大気の音。
戦闘を行っている筈なのに、彼女達の目に映るのは鋼鉄の妖精達の宴、『白黒の縞模様をしたネウロイ』をその力を持って追い込み、その顎に捕らえ粉砕する。
この時点で『雪風』と少しでも会話をし、少しでも関係が向上していれば、それこそ『雪風』が本来戦うべき敵、JAM側の戦術戦闘機TYPEⅠだと聞けていただろう。
だがその情報を知らないミーナ達には、少々変わったネウロイ程度にしか見えなかった。

「これは……」

「ビギンズヒル管制!」

美緒の声と共にミーナがビギンズヒルへと連絡を取ろうとする。
だがイヤホンから聞こえてくるのは雑音のみで、ミーナの様子に各々が通信を出したが、結果はミーナと同じで基地からの返答がない。

「通信が繋がらない!?」

「ど、どうするのさ~?!」

通信が阻害されてはどうしようもないので、一先ず4人で固まる事となった。
戦況は美緒の報告に在った、アーク・エンジェル側の航空戦力が優勢であり、ウィッチに頼らずここまで『ネウロイ』を圧倒するのは、流石の技術力と言ったところである。
だがネウロイ側もただやられているだけではない様だ。
急減速や突然姿を消すなど、様々な方法で無人戦闘機を落とす個体も居たが、無人戦闘機群もそれに対応するように、新型に対して反撃を行う。

―まるで慣れ親しんだ相手と戦っているかのように―

「これは……確かに私たちで相手にするには危険すぎるわ」

頭の片隅で思った事は口に出さず、ミーナはそう判断した。
だが彼女達は戦闘空域に近付き過ぎた。
一体の『ネウロイ』が彼女達の元へと向かう。

「こっちに来る!」

「各機集中射撃!」

それにハルトマンが気付き、その声を聞いたミーナが指示を出す。
航空歩兵という名の通り、ウィッチは空中静止状態での射撃も行えるのが強みだ。
4人は即座に『ネウロイ』へ方向転換、狙いを定め各々の武装から凶弾を放つ。
歩兵が扱う小口径火器とは言え、魔力を込めたその弾丸は絶大な破壊力を生み出し、『ネウロイ』の外郭を次々に抉り取り、ついにはミーナ達の手前で爆発四散した。

「……妙ね」

「ああ、さっきから見ていたが、どのネウロイにもコアが存在しない」

「じゃああそこに居るのは?」

「恐らく囮か何かだろうな」

だが囮とは言え、先ほどの一機は弾幕で対処できたが、彼女が所属している軍隊を相手に出来る戦闘能力を有していると言う事は、同時に美緒やミーナが所属している人類連合にとって、大いなる脅威になるとしか言いようが無い存在だった。
今でこそ対アーク・エンジェル用に使っているようだが、何時自分達に牙を向くか分からない。

「うう、それはちょっとやばいかも……」

美緒がその事を言うと、ハルトマンはそう呟く。
実のところ、先ほどの『ネウロイ』はギリギリの所で迎撃しており、それが何十何百と向かってこられたら、現行の装備では対処しきれないだろう。
そもそも『雪風』含む、アーク・エンジェルの保有戦力に使われている技術は、少なくとも100年近くの差があると言われているのだから、それらと対等に渡り合うあの『ネウロイ』も、相当な戦闘能力を持っている事が伺える。

「……居たぞ!」

バルクホルンが声を上げて指し示した先に、『ネウロイ』と戦う『雪風』の姿があった。
片肺と言う不利な状況の中、彼女は戦闘脚の性能をフルに活用し、『ネウロイ』を駆逐していく。
先日負った怪我など気にもしていないかのような彼女の戦い方、それを見たミーナの胸の奥に憤りの火が灯る。

「彼女を援護します」

「そうだな。
あんな戦い方をされては、助けたこちらとしては見るに耐えん」

どうやら美緒も同じ考えだったようだ。
残りの二人はどうなのかと顔だけをそちらに向ける。

「ミーナの面倒見の良さは慣れてるからな。
付き合うさ」

「あっちと連絡が取れないんじゃしょうがないよね~」

二人の了解の意思表示を出したので、ミーナ達は『雪風』の元へと飛んでいく。
『雪風』の周りにも無数の『ネウロイ』が居たが、上方から3条の青い光の筋が断続的に降り注ぎ、『雪風』の周りに居た『ネウロイ』を粉砕する。

「同士討ち!?」

バルクホルンのその声を否定するように、上空から三機の白い航空機が飛来し、『雪風』の周りを護衛するように飛び回る。
そして自らの獲物を見つけては、それに向かって先ほどの青い光条を放つ。
新たに現れた三機の航空機も、今現在『ネウロイ』と戦っている航空機に負けず劣らず、ミーナ達からしてみれば十分奇抜な機体形状をしており、本当に何故飛べているのか不思議な光景である様に、彼女達の目に映った。
だがこれで『雪風』に近付く絶好の好機が出来たのも事実であり、ミーナ達は彼女との距離を詰める。

「『雪風』!」

「……B-3からTFS各機、JAM強襲群の殲滅完了、帰艦せよ。
B-3はフリップナイトと共に、現地軍の仕官をエスコートしながら帰艦する。
なおB-3は行動能力と上昇能力を欠いている為、ゴーストワーカーに医療キットの準備に加え、バンシーの高度をA30(エンジェル30=高度3万フィートの意)までの降下を要請、……感謝する」

ミーナ達を一瞥してから雪風は片眼鏡のような物を掛けてそう言うと、上空で待機していた無人機群は上昇し、あっという間に雲間へと消えていく。
開いた傷口から流れる血液の量はそう多くないが、それでも痛々しい姿だと言う事には変わりない。

「どうしたの?」

本当ならば『雪風』の無謀な戦闘行為を怒りたい所だが、その彼女の口から出た言葉にミーナは背筋に悪寒を感じ、恐る恐る『雪風』にそう聞いた。

「たった今、あなた方に対する行動行為を、中立からやや友好状態へと移行する事が決定された。
それに伴い、あなた方を地球側の代表だと認識し我々の母艦へ誘導し、そこで我々の存在とそれに至った過程、そして我々の敵に関する情報の一部を公開する事となった。
もし我々の認識と違うのであれば、我々に対してこの周波数で通信を行って欲しい。
即座に送迎機を送る」

それは、未知との遭遇の序章が始まる合図だった。



[28945] Report 3-1
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/04/18 17:52
Report 3-1
Alone Fairy 1








―アーク・エンジェル側のウィッチと意思疎通を確認―

その一報により、発信元であるブリタニアは勿論、遠く扶桑にまで駆け巡った。
有力国は直ちに外交官をブリタニアへと派遣し、現地で活動しているウィッチや兵士から情報収集を行い、出来る限りの事前情報を得ようと奔走した。
だが外交官達の努力も虚しく、『円卓』上に集まった面々の顔には、揃って収穫なしの色が浮かんでいた。
結局のところ、こちらから大規模な使節を送るよりも、ホームベースであるロンドンに、向こうから来て貰えないか?と、代案を提示する方針を伝える事に落ち着き、会議終了後早速その旨を伝える為、指定された周波数で通信を試みた。



<1941年8月25日 『会見』当日>
<ロンドン ビギンヒル基地 通信室>

返事はYES、ただし直衛機を3機付け、ロンドン郊外にある指定の航空基地で行いたいという条件付ではあったが、人類連合にとってその様な条件など、皮算用で試算した益に比べれば大した事ではなく、快く受け入れたのだった。

「正直、こちらの意見が通るなんて思いもしなかったわ」

もう直ぐ、アーク・エンジェルからの特使が到着する基地のエプロン上にて、礼服姿で待機しているミーナがそう呟いた。
彼女……『雪風』の態度から見て、自らの意見を固持し続けると思っていたのだ。
ビギンヒル基地の航空ウィッチと、通常航空機パイロットのエース達が雁首を揃えて整列し、人類連合の高官達が程よく肥えた風体を晒している様は、何も知らない者から見れば酷く滑稽な光景に映る事だろう。
だが彼・彼女等からすれば、人類にとって有益な援軍が入る事になる絶好の機会、その顔には緊張と不安と希望の色が、この場に居る各々に浮き出ている。

「まぁ、実を言うと私もそう思っていた。
それと同時に、私達の部隊が正式に発足される事になったのも、予想外だったと思える」

「ダウンディング大将が、前の戦いで私達が得た戦果を使って働き掛けてくれたみたい。
ローマ帝国時代の古い城砦を使った基地も、もう直ぐ改築が完了するみたいだから、私たちの活動拠点もそこに移る事になるわ」

隣に立つ美緒も新しく入ったウィッチ、ペリーヌ・クロステルマンを見ながら小声で応える。
彼女が入った事によって総勢5名となり、ミーナ達が『新型ネウロイ』の発見と報告、そして撃墜による功績も大きく手伝って、第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』が発足された。
後日5名が新たに配属する予定だが、今はこの5人でやって行くしかない。
がその様な少ない戦力で戦闘行動を起こすのは危険であり、当面の部隊活動は増援が来るまで501の為に新しく建設された基地で、必要な物資と人員関係の書類との格闘、そして機材搬入の手伝いになるだろう。

「それにしても、どうしてここなのだろうな?」

「滑走距離の問題じゃないかなぁ?
『雪風』はともかく、あれだけ大きな機体を十分に加速させるまでかなりの滑走が必要なはずだし、輸送機の受け入れも出来るここなら、滑走距離も十分だと思ってるんじゃない?」

バルクホルンとハルトマンの声が聞こえてきた。
確かにそれも理由の一つだろう。
だが数十分後、その本当の理由が彼女達の目の前に『鎮座』していた。



「「……」」

その場に居る全員が、数瞬前に上空を通り過ぎた機影を阿呆のように見上げていた。
『巨体』……その名に相応しい体躯が、その視線の先にあるのだ。
ベテランのウィッチとパイロットの目測では、比較対照が無いので大まかにだが、その全幅は100m前後、全長は70m前後と分かる。
だがそれ故に目の前に飛んでいる巨体の非常識さが、より一層に理解し難い物であると感じてしまうのは、仕方の無い事であった。
周りに先日見かけた白い戦闘機の姿が無ければ、ネウロイと間違われそうな図体のでかさである。

「あんな大きいの降りられるの!?」

「向こうがこの場所を指定したのだから、降りられるとは思うのだが……」

「み、ミーナ少佐、坂本大尉!
本当に大丈夫なのでしょうか?!」

ハルトマン、バルクホルン、ペリーヌと各々の疑問を述べているが、そのどれにも応える余裕が二人にも無かった。
アーク・エンジェルの巨大さで多少の体制が付いているとは言え、やはり自分達が知っている既存の航空機よりも大きい機体が、着陸する姿を想像するのは難しいのだろう。
だがそうこうしている内に、あの巨大な航空機が着陸態勢に入っていた。
フラップと前縁部分が大きく下がっており、先ほどに比べて速度が著しくが減速されており、失速ギリギリの速度で滑走路に進入している事が分かる。
不測の事態に備えてか消防車が出動し、手近な消火栓にホースを取り付けている者も居る。
だが、そんな地上の者たちの事など気にしていないかのように、その巨体を滑走路の最も端の部分に下ろし、滑走路の長さいっぱいまで使ってやっと静止した。
それと同時に基地のあちらこちらから拍手と指笛の音が響く。

「すごいな……」

美緒がそう呟いたが実際そうとしか言えない。
着陸の際、一際大きな音が響いたが、その意味は降りてくる特使に聞くのが一番だろう。
そう考えを纏めると同時に軍楽隊の演奏が始まり、先ほどの曲芸を見て浮き足立っていた者も所定の位置に居並び、特使の姿が見えるのを待つ。
巨大な航空機は赤絨毯の前で止まり、タラップドアを開けると同時に機体後部が大きく開放された。

「輸送機……なのか?」

「あの後部ドア、大型の車両も入れるように出来ているみたいね」

美緒とミーナの予想に応えるかのように、中から茶色に塗装された装甲車両が4台出てきた。
だがその車両に搭載されていた武装が、それこそ駆逐艦に搭載するよな砲を正面から覗かせ、車体上部には複数の砲身を束ねた銃座のような物が配されており、異常に高火力な物ばかりだと言う事を、その場に居た全員が理解する。

「「!」」

突然の事態にその場に居た全員が身構え、各国の代表たちの前にウィッチ達が躍り出る。
だがその中でも、ミーナ達に聞き覚えのある声が響いた。

「1号車は地上警戒、2号車から4号車は対空警戒。
JAM、若しくはそれに類似した不明機を発見した場合、即座にこちらへ映像を送り、攻撃の判断はこちらに一存する事……大丈夫、心配はない」

その声が聞こえると同時にそちらへ目を向けると、何時の間にか開け放たれたタラップから地上へ降りながら、ベルト付きの濃緑色の礼服を着た『雪風』の姿があった。
左耳から細長い棒のようなものを左手で保持し、先に着いた出っ張りに声を掛けながら、最後は母親が不安がっている子供を諭すように、僅かな微笑を湛えながら言い放つ。
その姿を見たこの場に居る全員には、妖精界の女王の様に美しく、そして神秘的な存在に見えた事だろう。

「突然の無礼を失礼します。
我々は我々で自分の身を守りたいので……」

そんな想像をされている事など知りもしない『雪風』は、敬礼をしながら言う。

「貴官は?」

「フェアリィ空軍、特殊戦第5飛行隊所属3番機、ウィンド・スノー中尉です。
以降お見知りおきを……」

その口から出てきた口調は先ほどと打って変わり、必要最低限の言葉と機械然とした物言いへと変化していた。



そしてその日の夜、酷く疲れた表情を並べた外交官達が、それぞれの国の大使館へ引き上げていくのを、ミーナ達は見送る。
会談の結果は……、FAF側の圧倒的な情報量によるゴリ押し勝利だった。
会見ではJAMの存在説明とその危険性、アフリカのサハラ砂漠の中心部にあるFAF側唯一の地球根拠地(詳しい場所は教えられなかった)の存在、そして対JAM・ネウロイの出現予測実験の結果など、怒涛の勢いで出される情報の洪水に飲まれた。
だが、なんとか技術提供とその見返りを検討する事は出来た。
FAF側からは技術――主に工業技術だが――の段階的なサンプルの提供と、JAMが攻撃してきた際には戦力の提供をすると約束、その見返りとして石油と鉱物資源の提供を要請した。
この要請に外交官達は一旦納得し、詳しい査定などを行い後日、FAF側と詳しい調整を行うという事だ。
スノーは彼らが回答を持ってくる間、この基地で滞在する事になっている。
見も蓋も無い言い方をすれば、つまり暇になるわけだ。

「……」

「「……」」

基地の食堂で、スノーが携帯端末のキーを叩く音が響き、その様子を基地中のウィッチやパイロット達が見ていた。
彼女からしてみればそこで作業する方が、栄養分を早く摂取でき、見られても特に問題ない類の情報を扱っているので、気兼ねなく仕事をしているわけなのだが、日常の場に非日常を目の当たりしている者からすれば、奇異の目を向けたくなるのも仕方がない状況だった。
案内役のウィッチに施設を案内され、基地の人員に一通り見られているとはいえ、こうも堂々とされていると拍子抜けする他ない。
そんな彼女の傍らには、豆料理とピーチが載っていたトレイがあったが、既にその中身は綺麗に彼女の腹の中に納まっている。

「スノー中尉は?」

「え、あ、はい、あちらに」

食堂に入ってきたミーナがスノーの居場所を聞き、場所が分かると彼女の元へと向かった。
スノーも彼女に気が付いたのか一瞬顔を向けたが、直ぐに端末の画面に目線を戻す。
その後数回キーを押した後彼女は席から立ち、ミーナに敬礼をする。

「何か御用でしょうか。
少佐殿」

「いえ、ただ貴女達に撤退戦にトゥルーデを……、バルクホルン中尉を助けてくれたし、先月には戦友である美緒を助けてくれたから、その御礼をしようと思って……。
あと、喋り方は普通にしてくれて良いわ」

「了解……、ですが私は自分に出来る事をしただけ、バルクホルン中尉が助かったのは、その結果でしかないと思っている。
それに、あの時はそちらを味方として認識していなかった」

「今は違うのかしら?」

「SCS……そちらで言う司令部は、現状では共同戦線を張る方が得策だと判断した。
だが資源の受け入れはこちらの輸送機にて行い、FAFの地上基地への人間の出入りは、例外を除いて厳禁と言う事になる」

「輸送機と言うと、やはりあれかしら」

スノーの輸送機と言う単語に、あの巨大な航空機を思い浮かべる。
今では随伴した3機の戦闘機と一緒に、機体各部に赤いリボンが付いた棒を刺され、フラップなどの稼動部がだらしなく下がっている。
確かにあのサイズの航空機を数機ほど組めば、小型の輸送艦程度の積載量になるだろう。

「それで、その例外と言うのは?」

何時の間にかミーナの後ろに居た美緒が、彼女にそう聞いた。

「……北アフリカのハルファヤ峠、そこを抜かれた際には受け入れを許可する事を提案している」

(そこまで分かっているのね……。
情報分析能力では熟練の指揮官くらいかしら?)

「私は情報を持ち帰っただけで、分析は別で行なっている」

ミーナの思考を呼んだかのようにスノーが補足をする。
実際掴み所がない彼女は、この基地において異質の存在だった。
外交官からの話だと、スノーは彼女が所属する軍隊で只一人の人間、その他は全て機械に任せていると言う。
SFのような話で実際に見てみないと確証が持てないが、無人機群の高度な戦闘技術は、その可能性を示唆するには十分だと、ミーナ自身は思っている。
そんな思考をしていると、突然スノーが今まで弄っていた機械に注視していた。
そこには、-Check_grup_Neuroi_assault_case_intercept_B-3-と出ている。
それを一読した途端、スノーは弾かれる様にその場から駆け出す。

「中尉!?」

「一体何なんだ……」

「ちょ、ちょっと外にある飛行機が!」

彼女の突然の行動に困惑を隠しきれずに居たが、食堂に居た誰かの声で全員が窓の外へ目を向ける。
そこには赤い帯を蠢かせ、夜の駐機場を赤く照らしているFAF所属機の姿があった。

「なっ!」

「……まさか!」

狼狽する美緒を尻目に、ミーナはスノーが使っていた機械の画面に目を通す。

(私達よりも早く、ネウロイの出現に気付いたと言うの!?)

画面に表示された文字の意味を悟り、ミーナは驚きを隠せないでいる。
だがそれよりも、彼女にはするべき事がある。

「彼女はネウロイの迎撃に出たわ!
夜間戦闘の経験がある人は、各員は直ぐに出撃して!」

ネウロイという言葉を聞き、食堂内に居た基地職員の反応は早かった。
航空要員は自分の愛機が置いてある場所へ駆け出し、管制や機体周辺の作業を行なう者達もそれに続く。



「私達のユニットは?」

「準備できています!」

警報が鳴り響く中、ミーナ達は自分のストライカーがある場所へと辿り着き、発信準備に入ったが、そんな中今まで聞いた事がないような駆動音が聞こえてくる。
そこへ視線を向けると、3機の航空機の傍に居る人影……スノーの姿が、その手には航空機に取り付けられたリボン付きの棒が握られており、取り外された3機は翼の位置を元へ戻しエンジンを稼動、彼女が離れると3機は滑走路へタキシングを始め、スノーも輸送機の中へ入っていった。

「昼間、中尉が会見をしている間にあの航空機を見たが、人が乗る場所など無かったな」

「完全に無人で動かせるように出来てるんだね~」

「私も半信半疑でしたけれど、実際に見てみるととんでもない技術差を感じますわ」

同じく出撃準備をしていたバルクホルンとエーリカ、そして新しく入ったペリーヌが三者三様に感想を述べたが、まだ通常の航空戦力がエンジンを掛け始めている中、その3機は既に滑走路の中ほどで離陸、あっと言う間に空へと昇って行くと同時に、スノーがストライカーを履いて、輸送機から出撃する姿が見えた。

「出遅れた!
私達も出撃しましょう!」

「「了解!」」

ミーナの号令に彼女達も自らの愛機に足を入れた。



[28945] Report 3-2
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/08/02 17:52
Report 3-2
Alone Fairy 2





雲中で飛行するスノーとフリップナイトの3機、高度な電子機器とデータリンクにより、この雲に囲まれた中でも互いを見失う事は無い。
だが、話す相手が居ないというのは、人間である彼女にとって退屈な時間に他ならない。

「B-3からSCSへ、会敵予想空域に到達、迎撃に入る」

―Roger_B-3_good_luck―

立体映像にSCSからの返答が表示されると同時に、『凍った瞳』が機影を確認、連動して電子機器がアラームを鳴り響かせる。
スノーはマスターアームに火を入れ、搭載されている中距離対空ミサイルのシーカーを開いた。
目標のターゲットボックスが立体映像に表示され、目標に命中するまでの必須射程のメーターと、目標との距離を示す印も表示される。

「B-3……FOX3」

必須射程メーターと目標を表す印が重なり、スノーは手に持っているガトリング砲、その発射スイッチの傍にあるミサイル発射のボタンを押し込んだ。



「もう始まっている!」

遠方で爆発の閃光と爆音、そしてフリップナイトから照射されるレーザーの軌跡を確認し、ミーナは言う。

「中型のネウロイには航空機が相手をしているみたいだな」

「あのレーザーと言うもので攻撃しているのだな。
ネウロイのビームと同等の攻撃力があるようだ」

「だが……中型以上の物はコアを破壊しなければならない。
……スノー中尉、コアの所在は分かっているのか?」

美緒がスノーに通信を行なった。
既に通信の周波数は合わせてあり、彼女とは直ぐに繋がった。

『こちらB-3、コアと呼ばれる物らしき場所はこちらでも観測し、解析も完了している。
解析結果は即時フリップナイト各機に転送、あとは人工知能の判断で攻撃させるだけ』

「なっ……」

返ってきた彼女からの返答に美緒は驚愕する。
幾ら科学者達の予測でも1世紀前後の技術差があるとは言え、美緒の特殊能力である魔眼と同じ観測能力を有するのは、彼女にしてみれば自分の長所を失わせる事実だと感じた。

『しかしこれは電子機器の観測で得た回答であり、欺瞞の可能性もある』

「そ、そうか……では私がコアの位置を特定する。
私には魔眼があるからな、中尉はそれを無人機に教えてやって欲しい」

『了解した』

だがスノーが続けて言った言葉に、美緒も安堵の息を吐いてそれに応える。
これに関しては先天的な才能であり、機械でやるにも限度があるのだろうと、美緒自身は思った。



その後の戦闘の経過は、一言で言えば『一方的』としか言えない結果だった。
既存の航空機以上の格闘戦能力と、高速性を備えたナイトがネウロイを撹乱し、ナイトだけでは対処できないネウロイは、人類連合の航空機隊が相手取ることにより足止めされ、その隙をついてウィッチ隊がネウロイを殲滅していく。

「……人類連合側の航空機36機が撃墜、パイロットは脱出後に救助、負傷兵はあれど死亡人員はゼロ」

「大戦果だな」

「ええ、特に戦闘機隊の人員に死亡した人が居なかったのは、とても大きな戦果だわ。
それにしても貴女、あの状況下で戦況を把握していたの?」

スノーの報告にミーナは直に驚いた。
空間把握能力を持つミーナでも、全てを把握するのに一苦労だったのに、彼女はそれを苦も無くやってのけている。

「私の場合は機体に装備されている偵察機材と電子機器のお陰、私自身では貴女の様に正確に互いの位置を探れない」

「ほう、未来のストライカーは便利な物だな」

「だが、それなりに知識量が必要そうだな。
電子機器という事は、電探や探知機の操作技術も学ばなければならないのだろう?」

「うえ~、それなら今のままで良いよぉ……」

スノーの返答に美緒、バルクホルン、エーリカの順で各々の感想を述べる。

「ですが、貴女方が持っている技術を、こちらに渡していただければ戦況が良くなる筈ですわ。
何故一挙開示ではなく、段階的な技術提供に留めるんですの?」

ペリーヌはそんなスノーを見て疑問をぶつける。
ガリアを一刻も早く取り戻したいと言う一心で聞いたのであろう。

「急激な技術改革は、扱う人間の習熟が追い付けないと言うのが理由、しかし何も技術的な見本がなくては納得しないのも理解している。
なので、まずは開発に苦心していると言うジェットエンジンと、携行火器の見本を数点ほど各国へ提供し、その礼として資源を供給して貰う手順となっている」

ペリーヌの言葉に答えを返すスノー、一見してみれば酷く冷たい言い方だが、事を荒立てる気が無いという意思も垣間見えるので、一概には言えない。

「……ネウロイの巣に空間反応無し、もう増援は来ないと見て良い」

「そうか……ではミーナ、皆を引き上げさせようか」

「そうね。
各機へ、ネウロイに動きは無いわ。
帰還します!」

『『了解!』』



「被撃墜36、重傷者は居るが死者無し……か」

所変わってここはブリタニアの政府施設の一室、この場に居るのはブリタニア首相であるチャーチル首相と、現航空大臣のヒューゴ・ダウンディング大将だけであった。

「はい、しかも生存者の位置特定は、あの『雪風』……スノー中尉が行なったそうです」

「まだ共同戦線が決定されていないのに働き者だな。
いや、恩を売って交渉をやり易くするためかな?」

「さあ、そこまでは……ですが、上手く付き合っていけば、人類にとって有益な存在になるのは間違いないかと」

「ふむん……」

チャーチルは嘆息を吐く。
戦時の名宰相と言われている彼にとっても、対FAFとの外交は難しいものとなるだろうと思っていた。
何より相手の親玉が機械と言う事もあり、その思考が読めないと言うのが最大の要因ではあるが、『雪風』の存在が大きな鍵になると彼は考えている。

「君はどう考える?」

「彼女自身に何らかの謀略の意思は無いでしょう。
只単に利益になるかならないか、それだけで動いているように見えます」

「ではウィッチに対して集中的に援護しているのも?」

「恐らくそうかと」

「では、この件は……」

チャーチルは対面しているダウンディングにも、聞こえるか聞こえないかの声の大きさで自らの意思を伝えた。

「了解しました。宰相閣下」

この戦闘の数日後、ブリタニアを含む各国はFAFに対して、提案を無条件で飲む意思を発表した。
この早急な判断に、スノーもさすがに驚いた表情を現し、外交官達はしてやったりといった雰囲気だったと言う。
だが表情に関しては、彼女の事を一番知っているミーナからすれば、演技だったのでは?と思っていたが、上手く行きそうなのに茶々を入れる事も無いと思い直し、スノーが帰還するまで沈黙を貫いた。
当初はブリタニア防衛の要である第501統合戦闘航空団の基地に、地上設置型の空間受動レーダーの設置と、その操作手順を教えるために1年間は居たが、その後1年半、北アフリカの戦況が厳しくなったのを継起に、『雪風』の愛称で親しまれているスノー中尉は、その姿をブリタニアで見る事は無くなった。
だが、変わらずネウロイとJAMを相手に戦っていると言う、北アフリカからの報道で、速過ぎてピンボケした写真でその姿を見る事は出来た。
また、彼女がブリタニアから居なくなったのを期に、JAMもその姿を現さなくなった。





余談
脳内相性メーカーで雪風とミーナ、雪風と坂本美緒でやってみた。

雪風とミーナ、
maker.usoko.jp/nounai_ai/r/%C0%E3%C9%F7/%A5%DF%A1%BC%A5%CA
雪風と坂本美緒、
maker.usoko.jp/nounai_ai/r/%C0%E3%C9%F7/%BA%E4%CB%DC%C8%FE%BD%EF

……どうしよう。



[28945] Report 4
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/04/05 09:03
Report 4
妖精の帰還





<2年半後 1944年2月>
<第501統合戦闘航空団基地>

「ここをこうして……ルッキーニ、そこのレンチ取ってくれ」

「はい、シャーリー!」

何時もの様に作業着姿で、基地の格納庫でストライカーユニットを弄くっているのは、リベリオン出身のシャーロット・E・イェーガー中尉、そして彼女の傍で手伝いをしているロマーニャ公国出身の、フランチェスカ・ルッキーニ少尉の姿があった。
一時期軌道に乗り始めた第501統合戦闘航空団だったが、人手が足りない基地の増援として人員を割かれ、一時期は規定人数の半分である7人まで減少したが、増援要請を受けて半ば厄介払いのような形でここに来たのである。
だがその技量は一線級であり、今となってはこの二人がツーショットで写らない場面はそう無い。
調度その時、2つのエンジン音が響いてくる。

「お、2人ともお帰り~」

「おっ帰り~!」

「ああ、ただいま」

「ただいま……ふっあぁ……」

夜間の哨戒任務を終えて帰ってきたのは、スオムス出身のエイラ・イルマルタ・ユーティライネン少尉と、オラーシャ出身のサーニャ・V・リトヴャク中尉。
二人も増援要請で来た隊員で、特にサーニャに関しては、貴重なナイトウィッチと言う事もあり、今は失脚しているダウンディング大将に、ミーナ自身は感謝している。

「眠い……Zzzz」

「わわ!
サーニャまだ寝ちゃだめだってぇ!」

今にもストライカーを履いたまま寝そうな勢いのサーニャを支え、エイラは彼女の発進ユニットへと引っ張って行く。

「見ていて飽きないなぁ」

「ニヒヒィ、そうだねぇ」

「そういうお前達もな」

エイラ達を見てニヤニヤしていたシャーリー達を、後ろから声が掛かった。
第501統合戦闘航空団の、戦闘隊長を務めている美緒の姿がそこにあった。
正式に発足されその役職に付くと同時に、少佐に昇進した事は記憶に新しい。

「おっと、少佐!」

「あわわ!」

「いや、そのままで良い」

立ち上がろうとする二人を美緒は止める。

「二人は今日何があるか覚えているか?」

「あー、そう言えば今日は新人が来るんだっけ」

「なら着替えて来い。
もう直ぐ到着するのだからな」

「了~解、片付けるかぁ」

「残念だったねぇ、シャーリー」

美緒の言葉にぶつくさと言いながら片付けを始める二人、だがそれと同時に基地に警報が鳴り響く。

「なんだ!?」

『FAFから貸与された空間受動レーダーにJAMらしき反応あり、数は3!
ウィッチ隊は即時出撃されたし!』

内線電話で観測班から齎された内容は驚くべき物だった。
ここ2年間音沙汰が無かったJAMがこのブリタニアに出現したのだ。

「なんだって!?」

『FAFから渡されたデータではその様に出ています!』

「くそ!
敵襲だ!
敵はネウロイではなくJAM!」

「JAMだって!?
この2年間全く出てこなかったって聞いていたのに?!」

「ジャム?
何のジャム?」

美緒の言葉にまともな返事を返すシャーリーに対し、ルッキーニは頓知な返事を返した事で、その場が少し和む。

「異星人の事だよ」

「何それ面白そう!」

シャーリーの補足にルッキーニは目を輝かせる。
軍属とは言え、好奇心の旺盛さはまだまだ年相応の子供と言える。
ともあれ出撃準備であるが、JAMとの交戦経験をもったメンバーは、ミーナ、美緒、バルクホルン、エーリカ、そしてスノー中尉が居る間にJAMを1機撃墜したペリーヌのみで、後の4人は初体験となる。
だが夜間哨戒を終えて消耗したエイラとサーニャを外し、二人以外の全員でこれの迎撃に当たる事となった。

「JAMはネーデルラントから、真っ直ぐこの基地に侵攻中との事、大きさは中型ネウロイと同等だけれど、ネウロイとは違ってコアはありません。
でも高度な空戦能力を有しているから、シャーリーさんとルッキーニさんは注意して!」

「了解した!」

「りょうか~い!」

二人の返事が聞こえてくると同時に、美緒がミーナの隣に並ぶ。

「久しぶりに出てきたな」

「そうね……まさか、この日に出てくるなんて」

悪態を吐きながらも予測進路上を飛行していくミーナ達、今日はバンシーが補給の為に大西洋上に移動している為、FAF機の援護は無い。
当初はウィッチーズ基地や、近隣の基地に配備すると言う案もあったが、整備環境とエンジン部品と、降着装置の部品の疲労頻度により断られた為だ。

「各機、ロッテを組んで散開!
シャーリーさんとルッキーニさんは、私の直援に付いて!」

ミーナの指示を受けて美緒とペリーヌ、バルクホルンとエーリカがロッテを組み、シャーリーとルッキーニはミーナの後方に付く。

「……見えた!
報告の通り数は3、形状はタイプⅡ!」

「高速形態を取るタイプね。
厄介だわ……」

「そんなに厄介なのか?」

「ああ、一度高速形態を取られたら、追いつけるのはあいつくらいしか居ない」

「あの大きさで音速を超える速度でぶつかったら、空母くらいは轟沈するって言っていたもんね。
実際アフリカじゃ何隻かそれでやられてるし」

「音速!?
それはあたしでも追いつけないわぁ……」

シャーリーの言葉にバルクホルンが答え、続いて出たエーリカの言葉にシャーリーは驚いた。
音速を超える事は彼女の夢であり、スピードを志す人間にとっての目標でもある。

「もしあいつ等の狙いが私達の基地ならば、まずその攻撃手段を行なってくるだろうな」

「各機、絶対に逃がさないで!」

「「了解!」」

ミーナの厳命に全員が応える。
その間にJAMとの距離はどんどん縮まってゆき、会敵した。

「こんのぉ!」

「当ったれぇ!」

「二人とも落ち着いて狙って!
相手の進行方向の少し前に狙いをつけて!」

自分も射撃しながらミーナは二人に闘い方を教える。
だがJAMも急減速や急加速を使い、ミーナ達の攻撃を回避し続ける。

(前に戦った時よりも戦闘能力を上げている!)

ミーナは自分の固有魔法、三次元空間把握を使ってJAMとの戦いを観察してそう判断した。
恐らくアフリカ戦線での戦闘経験で学習しているのだろう。
前回戦った時よりも旋回性と防御力が僅かながらに上昇していた。

「前のより堅いな……」

「そうだねぇ。
でも、倒せないほどじゃないよ!
シュトルム!」

エーリカが最接近した隙を突き、自らの固有魔法でJAMの胴体を貫く。
胴体の主だった部分を失ったJAMはその一瞬後に爆発、その爆風が残骸を空中に撒き散らすが、二人はシールドを張ってこれを防ぐ。

「1機撃墜~!」

「よくやったハルトマン!」

エーリカの撃墜報告にバルクホルンが褒める。

「あたし達も負けてられないな!
ルッキーニ!」

「あいよぉ!」

エーリカの報告を聞いて、シャーリーとルッキーニは手を繋いだ……かと思いきや、高速で回転を始めその勢いのまま、シャーリーはルッキーニをJAMに向かって投げ飛ばす。

「バッビューン!」

投げ飛ばされたルッキーニは、自らの前方にシールドを幾重にも張り、そのままJAMに激突、JAMの前半分に大穴を開けた。
JAMにしてみれば、生身の人間による自爆攻撃に他ならないが、魔法力という不確定要素が入ったウィッチへの対応に、苦しんでいるようだ。
このまま空戦を続ければ全滅すると判断したのか、残る1機は早々に美緒とペリーヌから離れ、翼を折りたたんで高速形態を取る。

「不味い、逃した!」

「各機、あの1機に攻撃を集中させて!」

ミーナの指示で残りの1機に照準を合わせ、射撃を開始する。
だが目標の速度が速く、海面スレスレを飛んでいる為に、巻き上げられた海水などが照準を狂わせる。

「駄目だ!
当たらない!」

『こちらに任せて欲しい』

「え、うわぁ!?」

「あわわ?!」

シャーリーの叫びに応えるように、唐突に通信が入る。
と同時に、何かが通り過ぎた後、衝撃波が辺りに撒き散らされる。
初めての経験にシャーリーとルッキーニは、姿勢を崩すが直ぐに体勢を整え、通り過ぎて行った飛行物体を見る。
見慣れないストライカーを履いているが、それは紛れも無くウィッチの姿だった。

「スノー中尉!」

「あれが!?」

ミーナの声にシャーリーが驚きの声を上げる。
未来からウィッチであり、音速の壁を軽々と越えるストライカーを履き、3機の白亜の無人戦闘機を引き連れ、JAMを瞬く間に殲滅する騎兵隊の頭。
リベリオンでもアフリカからの報道で、彼女の愛称である『雪風』の名とその活躍は聞いていたが、実際にこの目で見るのは初めてだった。



「……」

先行するJAMの右後方から続くように、海面スレスレを飛行するスノー中尉。
相手は加速を始めたばかりでマッハ2に届くか届かないかだが、こちらは戦闘空域に到達した頃には、既にマッハ3に到達している。
空間受動レーダーが、JAMがガトリング砲の有効射程内に入った事を知らせる。

「Ready、Gun」

その呟きと共に20mmガトリング砲の発射ボタンを押す。
発射母機の速度に加えて、初速1000m/s以上の速度で降り注ぐ鉄の雨に、JAMは成す術もなくその暴力に晒される。
胴体に弾痕が刻まれ、火を噴き、爆散、爆煙を切り裂くように破片が通り過ぎ、スノー中尉はそれに巻き込まれないようにする為、上昇して避けた。

「敵機撃墜を確認、そちらに合流する」

『了解。
……お帰りなさい』

ミーナの応答に、彼女はヴェイパーを引きながらの上昇で応えた。



[28945] Report 5-1
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/04/03 17:04
Report 5-1
Alone Fairy 3





ミーナ達が着地した後、スノーはウィッチーズ基地へのアプローチに入った。
ストライカーからランディングギアを出し、十分に減速してから滑走路に進入、着地後にギアでブレーキを掛け、垂直に立てた主翼をエアブレーキとして使用して減速し、格納庫に置かれている彼女の発進ユニット前で停止する。
発進ユニットにストライカーを預け、両足をストライカーから出し、地面に足を着けてから、ストライカーの稼動部分が作動しないように、発進ユニットに付属されているセーフティピンを差込む。
付属端末の端子をストライカーに差込み自己診断プログラムを奔らせる。
プログラムが全ての項目をチェックし終え、異常が無い事を端末の画面に表示した。

「ユニットに問題無し、整備は簡易で良いか……」

「相変わらず、自分で出来る事をするのね」

スノーの呟きを聞いて、ミーナが彼女に話しかける。

「ウィンド・スノー大尉、ウィッチーズ基地に到着しました。
着任の許可を」

「着任を許可します。
スノー大尉……、昇進したのね」

スノーは敬礼をしながら着任の挨拶をし、ミーナもそれに習って答礼しながら応え、彼女が昇進した事に話題を変える。

「はい、北アフリカ戦線でのJAM・ネウロイの撃退と、民間人の救援活動により、SCSの判断で大尉への昇進が決定され、断る理由も無いので受諾しました」

「ふふ、可笑しな話よね。
貴女の所属している軍には、貴女しか人間が居ないのに」

「私もそう思います」

ミーナの言葉にスノーも僅かに笑みながら応える。
感情表現に乏しい彼女にしてみれば、珍しい事であった。

「しかし、ネーデルラント方面はネウロイの巣窟だと言うのに、どうやって来たんだ?」

「一旦ロマーニャ上空までに、高度約2万5千mまで上昇した後、エンジン出力を絞り高度を下げつつ欧州を縦断、ネーデルラント沖付近で高度を下げていた所、こちらのレーダーがJAMを捉えました」

「……待て、トブルクからここまで3000km近くあるぞ!
しかも高度2万5千まで上昇って、実質成層圏の真っ只中じゃないか!?」

さらっととんでもない事を言ってのけるスノーに、美緒が驚きの声を上げる。
ミーナも目を見開いて彼女を見ていた。

「私のストライカーは長時間の偵察行動を行う為の物です。
この程度の距離と高度まで飛べなくては任務に支障が出ます」

「「……」」

表情こそ変えていないが、そこはかとなく自慢げに言う彼女に、2人はただ閉口するだけであった。

「スノー中……!
いや、大尉、久しぶりだな」

「ほんとに久しぶりだねぇ~」

「バルクホルン大尉も、ハルトマン中尉もお元気そうで何よりです。
クロステルマン少尉も」

「貴女も相変わらずなようで何よりですわ」

話が一段落したのを感じたのか、バルクホルンとエーリカ、そしてペリーヌが各々に再会の言葉を交わす。

「そちらの二人は……」

「あたしはシャーロット・E・イェーガー、リベリオン陸軍所属で階級は中尉だ。
気安くシャーリーって呼んでくれ」

「あたしはフランチェスカ・ルッキーニ!
所属はロマーニャ空軍所属で階級は少尉だよ~」

「FAF所属のウィンド・スノー大尉です。
……随分とフランクな方ですね」

「ありゃ、気に触ったかな?」

スノーは二人と自己紹介を交わしながら握手をするが、彼女の様子が少し物憂げに感じられたので、シャーリーは気になりそう聞いた。

「いえ、私が元居た部隊でもその様な人が居ましたので、懐かしく感じただけです」

「そっか……」

スノーがそこまで言うと、シャーリーは納得したように頷いた。

「ミーナ中佐、私はどの部屋に入ればよろしいでしょうか?
流石に2年間も空けていて、そのままと言う事は無いと思っていますが」

「え?ええっと、そうねぇ……。
あなたが使っていた部屋は今エイラさんが使っているし……」

「あたしの部屋の隣が空いてるから、そこにすれば良いんじゃないか?」

ミーナが困っているとシャーリーが助け舟を出す。
実際彼女の部屋はルッキーニの隣であり、その隣は空き部屋だった。

「あそこは新人さんが入るから駄目よ」

「え?だから新人ってスノーの事じゃ……」

「いや、今日はブリタニア空軍から新人が入るんだ。
スノーは今までこの部隊に席を置いていたから、正式には幽霊隊員扱いだったんだ。
覚えていないのか?」

「……そう言えばそんな話を聞いたような」

シャーリーは自信なさ気に頬を掻きながら応える。

「じゃあ、その2つ隣の部屋に入って貰いましょう。
それで良いかしら?」

「問題ありません」

「じゃあ、シャーリーさんにルッキーニさん、案内してあげて」

「りょ~かい」

「了解~」



「それにしてもあんたのストライカーは凄いなぁ。
ヨーロッパを上すっ飛んできたんだろ?」

「はい、ですが、フェアリー星では何時もの事なので、大した疲労はありません」

「ねぇねぇ、2万5千mからって、下はどんな風に見えるの?」

格納庫を出て、直ぐに出たシャーリーの質問に答えたスノーに、ルッキーニがそう聞いてくる。

「人類が建てた建造物は見えなくなり、欧州の大体の地形は一望できます」

「へ~」

ルッキーニは目をキラキラさせながらスノーを見る。

「でも音速に一番乗りの夢は破れたかぁ~」

シャーリーが残念そうな声で言う。

「……恐らくそうはならないかと思います」

「へ?なんで?」

「私は本来この世界には居ない人物です。
それ故に私の記録はこの世界には残らないでしょう。
それに、私には戸籍が無い」

そんな寂しげな言葉を言いながらも、スノーの表情と声色は変わらなかった。



「じゃあ、ここがあんたの部屋だから」

「分かりました。
1330に私の荷物が届きますので、一通り部屋のチェックを終えたらハンガーに出ます」

「あいよ、行こうルッキーニ」

「は~い!」

二人がスノーから離れて歩き出すと、後ろで部屋のドアが開き、閉まる音が鳴った。

「なんか寂しそうな人だったね」

「いや、あいつからは寂しいとかそういうのは感じなかったな。
あいつはあれで何時も通りなんだよ。
多分、個性主義を突き詰めたら、ああなるんじゃないかな」

「依然居た部隊って言うのも、あの人みたいな人が多かったのかな?」

「さぁ、どうだろうな。
古巣の事はミーナ隊長達にも話していないみたいだし……」

「仲良くなれると良いね……」

「ああ、そうだな」

ルッキーニの言葉に、シャーリーはそう答えるしかなかった。
しかし……。

(あいつが生きている間に、絶対に音速の世界に行ってやる!)

密かにライバル意識を燃やすシャーリーであった。



「……」

案内された部屋でスノーは一人で黙々とチェックを行なう。
コンセント周り、屋根裏の配線、部屋の外壁を伝う電線付近に無意味な付属品は無いか。
つまり盗聴器の捜索である。
幸いそれらは見つからなかったが、念を入れるに越した事は無い。



「それでは、今後ネウロイは大型化傾向になると?」

「はい、比較的大型の陸上タイプの他、航空タイプも確認しました。
軍事的にはナンセンスな選択ですが、相手の資源が枯渇しない事を考えると、物量で押してきた時が一番厄介だと予想されます」

「確かに、重装甲・高火力の奴ばかりで来られると、手の施しようが無いな……」

一通り部屋のチェックを終えるとスノーは、ミーナと美緒に北アフリカの状況を報告した。

「現状では一進一退の攻防で収まっている。
ガリア地域の開放が成されれば、戦況は微細ながら好転するかと思われます」

「お前達の航空機や陸上戦力でも難しいのか?」

「巣に接近すると大量のビームで迎撃されては、シールドを持たない通常航空戦力では難しいかと……。
現在兵器開発部門が中間誘導可能な長距離ミサイルを開発計画中。
それを大量に搭載したC-31の改造型を複数機、巣へ投入し飽和攻撃で強襲後、ウィッチの突入による敵中枢部の破壊が、得策だとSCSは回答している」

「ミサイルと言うとあれか……威力はどれ程なのだ?」

「3000ポンド、1450kgに相当する威力は保障します」

「「ぶふっ!」」

スノーの回答にコーヒーを口に含んでいたミーナと美緒が咽る。
まさかそんな威力を持っている兵器を開発していたとは、夢にも思わなかったのだろう。

「それでも、リトヴャク中尉の持つロケット兵器ほどではありませんが……」

「い、いや、十分すぎる威力だと思うぞ?
なぁ、ミーナ!」

「え、ええ!
確かにそれだけの火力を用意してくれるなら、こちらも心強いわ!」

美緒はスノーに賛美の言葉で答え、彼女の振りにミーナも応える。
同時に二人は改めて思った。

((絶対にFAFを敵に回してはならない!))

と……。



あくまで計画段階だと念を押し、やはり巣の攻略に万全を期すためには、ウィッチの協力が必要だと締めくくって報告を終えた彼女は、頭を抱える二人を尻目に隊長室を退出し、ハンガーへと向かった。
目的は勿論、彼女のストライカーの整備である。
偵察情報を内包した彼女のストライカーは、彼女にしか触れてはならないと言う暗黙の了解があったが、偶に本格的な整備が必要な時は、熟練の整備士が整備を手伝っている場合もあるが、それは機械部分だけで、電子機器の部分は全てスノーがやっている。

「魔力供給装置、圧縮機の状態良し……、基盤の交換も必要なし」

黙々と各部のチェックをしながら、磨耗した部品を交換していく。
今回は交換をしなくて済んだが、アルミニウムなどの金属が手に入るようになり、劣化した電子部品の取替えが頻繁にできるのは喜ばしい事だった。

「おーい、何してるんだ?」

「簡易整備です。
自力で出来る時は一人でやっています」

後ろからシャーリーの声が掛かり、スノーはそれに応えながらストライカーの外装を取り付ける。

「終わったのか?」

「はい、後は報告書の作成をするだけです。
作成は昼食を済ませてからでも間に合うので、それまでは何の予定もありません。
何か御用でしょうか?」

「そっか、いや、そろそろ新人が来るみたいだからさ。
皆で迎えようかと思ってるんだけど、どうだ?」

「分かりました。
工具を片付けますので、お待ちください」

そう言いながら工具箱に整備道具を入れ始める。
定位置に綺麗に入れられた道具に一通り目を通し、入れ忘れが無いかを確認した後、工具箱を道具棚の上に置いたと同時に、Ju52のエンジン音が聞こえてきた。



[28945] Report 5-2
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/04/15 21:10
Report 5-2
妖精の敵





スノーとシャーリーが、ハンガーから滑走路に出ると、そこには501JFW所属ウィッチが揃っており、既にJu52のエンジンは停止しており、側面の貨物扉が開いていた。

「おお、来たな」

先に出てきていた7人に囲まれるように、1人の少女が居た。

「遅れてしまい申し訳ありません。少佐」

「いや、私達も今集まった所だ。
それでは全員集まったところだし、ここで紹介しておこう。
軍曹」

美緒に勧められて、件の少女が前に出る。

「は、はい!
リネット・ビショップであります!
所属はブリタニア空軍で、階級は軍曹であります!
訓練所ではリーネと呼ばれていました!」

新米の軍人らしいハキハキとした自己紹介だった。
と言うよりも、自信が無いのが裏返って、こうなっているようにも見える。

「私達は既に……っと、スノーはエイラとサーニャとは初対面か。
二人とも、こいつが前に話していたスノー大尉だ。
少々無愛想だが、頼りになるベテランのウィッチだ。
二人も自己紹介しておけ」

「わたしはエイラ・イルマタル・ユーティライネン、スオムス空軍所属で階級は少尉。
っで、こっちはオラーシャ陸軍所属のサーニャ・リトヴャク、階級は中尉。
よろしくな、大尉」

サーニャが半ば寝こけているので、エイラが彼女の分の自己紹介を行なう。

「FAF所属のウィンド・スノー大尉です。
……リトヴャク中尉はナイト・ウィッチですか?」

「ああ、大尉の後釜に夜間哨戒の担当になったんだ。
こう見えても魔導針持ちで優秀なウィッチなんだ」

「あ、あのぉ……」

3人で話していると、後ろからリネットが話しかけてきた。

「申し訳ない、軍曹。
今回の主役は貴女でしたね」

「い、いえ、主役なんてそんな……」

スノーの言葉にリネットはそう言いながら及び腰になる。

(き、綺麗な人……まるで妖精さんみたい)

「……軍曹?」

アフリカに居たせいで、少し日焼けしているスノーに見惚れていると、スノーが挙動不審なリネットに声を掛ける。

「あ、す、すみません!
ブリタニア空軍所属のリネット・ビショップ軍曹であります!」

「FAF所属のウィンド・スノー大尉です」

「リベリオン陸軍所属のシャーロット・イェーガーだ。
階級は中尉でわたしの方が上官だけど、気安くシャーリーって呼んでくれ」

3人は交互に紹介しながら握手を交わす。

「では、私達はそろそろ行くか」

「ええ」

「中佐と少佐はどちらへ?」

リネットの代わりにJu52に乗り込もうとする美緒とミーナに、スノーは問い掛ける。

「あなたとリーネさんの着任と、貴女の偵察情報を司令部に報告してくるわ。
帰りは遅くなるかもしれないから、その時は先に食べていてね」

「リーネの基地の案内役はバルクホルンとスノーに任せる。
午後の訓練は抜いて構わん」

「了解、ミーナと少佐も気をつけて行ってきてくれ」

ミーナの言にバルクホルンが応え、他の501メンバーも自分達の上官に敬礼する。



「はぁ……」

ミーナ達を見送った後に取った昼食から3時間が経ち、自分に割り当てられた部屋のベッドで座りながら、リネットは溜息を吐いた。
自分の周りに居るウィッチが全員、百戦錬磨のトップエースばかりなのもそうだが、何よりも彼女は、このブリタニアを守る防人と言う役割を任せられ、その重圧に押し潰されそうになっていた。

(少し外に出よう……)

彼女はそう思いベッドから立ち上がり廊下へ出て、しばらく基地の中を当てもなく歩き続ける。
暫く歩き、ふっと気が付くと、何時の間にか射撃訓練場に出ていた。

「あ……」

そこには標的に向かって銃を構えたスノーと、その傍らに控えるバルクホルンの姿があった。

「バースト、撃て!」

バルクホルンの号令と共に、スノーがサバイバルガンの射撃を開始する。
弾丸の発射火薬が炸裂する、乾いた音と、標的に着弾する音が辺りに響き渡る。
マガジンの中身が無くなるまで撃つと、バルクホルンが標的の状態を見る。

「んー……中々の物じゃないか?」

「……はい、腕は悪くなっていないようです」

バルクホルンの感想に、マガジンを交換しながらスノーは応える。
スノーの主武装はあの20mmガトリング砲なのだが、重量が重過ぎて静止状態や任意の方向に向けて撃つには向いておらず、基本は進行方向に居た敵を撃つだけであり、通常の歩兵用火器の訓練などは程々にしか受けていない。
故に、時々こうして随伴者を伴い、射撃訓練を行なっているのだ。

「あのー……」

そんな二人にリネットが恐る恐る声を掛ける。

「ん?」

「何でしょう、ビショップ軍曹」

そんなリネットに気付き、二人の意識が彼女に向く。

「えっと、その……」

声を掛けたが実のところ、リネット自身に聞きたいような事柄は無かったが、直ぐに話題を作り出した。

「えっと……お二人は、怖いと思った事はあるのでしょうか?」

リネットは質問してから思い返したが、こんな間の抜けた質問は無いだろうと後悔した。
きっと呆れられると思ったが、答えは意外なものだった。

「何を……」

「私はあります」

「「え?」」

バルクホルンが何か言おうとしたが、先にスノーがリネットの質問に答えた。

「ネウロイと呼ばれる異性体に関しては、何とも言えないですが、JAMに対してはそのような感情を持った事はあります。
いえ、正確に言えば脅えていた……と言った方が良いのでしょうか」

スノーの意外な答えに二人は驚く。
それと同時に、彼女のような人物でも脅えさせるJAMと言う存在に、一層興味が沸いてきた。

「これ以上はFAFの機密に触りますので、詳しい事はその時が来るまで保留としますが、これだけは言っておきます。
JAMに対しては、容赦しないで下さい。
あれは、ネウロイ以上に危険な存在です」

それだけ言い残すと、スノーはその場を後にした。

「……なんだか、意外な答えだったな」

「そう……ですね」

離れて行くスノーの後ろ姿を眺めながら、二人はそう言うしかなかった。



「そう……あの娘がそんな事を」

「ああ、珍しく感情を顕にしていたな。
なんと言うか、怒りと恐れを綯い交ぜにしたような感じだった」

「ネウロイ以上に危険な存在……か」

夜になってバルクホルンは、戻ってきたミーナと美緒に昼の事を伝えた。

「JAMに何らかの接触を取ったと思うべきなのだろうか?」

「恐らくそうでしょうね。
家族か友人でも失ったのか、或いは……」

美緒の言葉にミーナはそこまで答えると、あのカレー撤退戦の事を思い出す。
大事な人を失った時の喪失感は計り知れない。
今でこそこうしているが、撤退戦直後のミーナは暫くの間、ショックと疲労で何にも手を付けられない状態が続いた。

「とにかく、彼女の事は保留にしましょう。
その時が来たら、あの娘も話すでしょうし」

「そうだな……。
報告ありがとう、バルクホルン大尉」

「いえ、今のここにとって、あいつは必要な存在ですから。
それでは、失礼します」

バルクホルンは礼をしながら執務室から出て行く。

「本当に意外だったな」

「ええ、でもその兆候は以前にもあったわ」

あのドーバー海峡大空戦時、自分の姿を真似したネウロイを見て、スノーは動揺していたのは良く覚えている。

「……スオムスのウィッチ型ネウロイ」

「まさか、JAMも同じ様にあいつの姿を真似たのか!?」

「まだ推測の域を出ていないけれど、その可能性も十分にあるわ」

スオムスのウィッチ型ネウロイに関しては、噂程度の信憑性でしかなかったが、スノーの姿を真似たネウロイの存在を見て、その報告の信憑性が高まったのだ。

「あの娘は……FAFは、JAMに関して何か掴んでいるのかしら?」

「分からんな。
分からないからこそ、どうにもならない事はある。
只これだけは言えるぞ?」

「何かしら?」

美緒のもったいぶった物言いに、ミーナは興味を持った。

「両方とも人類の敵と言う事だ!」

「っ……はぁ~~、貴女は……」

美緒の深く考えずに出した豪快な結論に、ミーナは溜息を吐きながらそんな彼女を頼もしく思い、また頭を痛めながら苦笑いをするしかなかった。



[28945] Report 6
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/05/22 18:46
Report 6
疑惑





<1年前 1943年5月22日>
<ヒスパニア上空>

「ふむ、魔力供給機関の具合と加速性能は、前よりも良くなっているな」

「そのようですね。
ウルスラさん、そちらではどうですか?」

『計測器に異常はありません。
予測計測値を出しています』

新型のストライカーユニット、Me262で試験飛行行なうアドルフィーネ・ガランドの言葉に、その随伴ウィッチであるフリーダ・ヴェンデルと、地上でデータ測定を行なっているエーリカの双子の妹、ウルスラ・ハルトマンが応える。

『これなら、近い内に先行量産型を作る許可が取れそうです。
それに、あの誘導弾の開発も順調だと聞いています』

「ああ、FAFには感謝しないといけないな。
彼女等が居なかったら、こうして新型を飛ばす事は出来なかったからな!」

ウルスラの意気込みにガランドは応えるとさらに魔法力を込め、天高く上昇して行った。



<4月初め>
<501JFW基地>

「そうですか、もう量産が始まっているのですね」

『ああ、私達でも手前味噌だと思うが、あれはこれまでの戦いを変えるぞ。
何せ態々ヒスパニアにまで運んで、実地試験を行なったんだからな』

「ふふっ、あなたがそこまで言うのですから、その通りなのでしょう。
それで、こちらには何時、何機ほど送られるので?」

受話器の向こう側に居るガランドの嬉しそうな言葉に、ミーナは微笑みながら応え、噂の新型の配備状況を知ろうと、そう聞いた。

『余剰部品の数を揃えてから送りたいと言っていたから、5月には3機そちらに送れるそうだ。
ただ気をつけろ、あれは今までのストライカーとは勝手が違う』

「分かりました。
2人にもそう言っておきますし、スノー大尉からも助言を頼みます」

『まあ、君達三人に彼女の補佐が付けばそんなに……っと、もうこんな時間か。
私は仕事に戻る』

「了解、今回はありがとうございます。
お体には気をつけて」

『ははは、そちらもな。
では』

ガランドはそう言って電話を切った。
ミーナも受話器を置いて、この基地に来るまでに取得したスノーの偵察情報を見る。
ここ数年、FAFからの戦術や技術情報の提供で学んだ事も多く、ミーナや他のウィッチ達もその恩恵に感謝している。
一部の人間は、一方的な恩恵は我々にとって害になると言っているが、ネウロイとJAM両方の敵と戦うには、人類連合側からFAFとの技術差を埋めて、共同で戦えるようにしなければならない。

「難儀なものね……」

スノーが撮ったガリア地方の偵察写真を見ながら、ミーナはそう呟いた。



所変わってここは滑走路端、そこには対物ライフルを伏射体勢で構えたリネットと、扶桑に一時帰国した美緒に代わり、訓練を見ているシャーリーの姿があった。

「次、距離1,000、撃て!」

シャーリーの合図でリネットが対物ライフルを発砲する。
撃ち出された銃弾はリネットの狙い通り、1km離れた標的に命中した。

「命中率は500mで5発中4発、1kmで5発中3発か」

「す、すみません」

「いや、この距離で6割は上出来だと思うぞ?
あたしじゃ1発でも当たれば良い方だよ」

リネットの射撃能力に、シャーリーは掛け値の無い賛辞を送る。
実際、狙撃用の照準機がなければ、常人では標的を見る事すら出来ない距離だ。

「それでも、私は……「リーネ!」ひゃわぁ?!」

リネットが何か言おうとしたところで、ルッキーニがその豊満な胸に背後から手を伸ばし、そのままもみしだく。

「やっぱり大きいって良いねぇ~」

「ちょ、ちょっとルッキーニちゃん!?」

「あははは!」

そんな二人を見てシャーリーは笑い声を上げた。
リネットがここに来てから暫くは様子を見ていたが、彼女がこの基地に慣れ始めると同時に、ルッキーニのセクハラ(?)が始まったのだ。

「うんうん、やっぱりこの反応だよ~」

「そう言えばスノーにもやったんだよな?」

「うん、でもやった後すぐに、『楽しいですか?』だもん!」

「抵抗しなかったから不快ではなかったのかもしれないけれど、あそこまで淡白な反応されると逆に困るよなぁ」

「淡白と言うより、そう言った事に興味が無いと思うんですけど……」

「あー……確かに、そんな感じかもしれないな」

リネットの言葉にシャーリーは頭を掻きながら応える。
実際の所、スノーが誰かと一緒に作業をするのは、殆ど仕事か訓練だけで、個人的な趣味などには一切関心を示さない。

『発進機有り、滑走路上から退避して下さい!』

そんな会話をしていると、基地の外部スピーカーから声が流れ、それを聞いた三人はそそくさと滑走路脇に退避する。
格納庫から轟音が轟き、徐々にその音量が大きくなる。

『滑走路クリア、どうぞ!』

アナウンスと共にスノーの姿が格納庫から出てきた。
スノーは滑走路に出ると同時に加速を開始、滑走路の中ほどで体を浮き上がらせ、急角度をつけて一気に上昇を開始する。

「わっはー♪」

「相変わらずの上昇能力だなぁ……」

「高高度から地上を偵察するストライカーだって聞いていますけれど、あそこまで高度を取る必要があるんでしょうか?」

「彼女があの高度まで昇るのは、交戦するリスクを極力避けるためよ」

歓声を上げるルッキーニを尻目に、シャーリーとリネットが話していると、後ろからミーナが声を掛ける。

「あの高度まで到達できる飛翔体は、人類連合だけでなくネウロイやJAMでも難しい。
それに彼女にはそれを振り切るだけの速力がある。
敵が彼女の高度に到達する頃には、既に遥か遠くへ退避しているのよ」

「敵を倒さない代わりに、ネウロイの詳細な情報を確実に取る為か……」

太陽の光を目に入れないように、手で隠しながらスノーが昇っていった空を見上げるシャーリー。
ただ自分の役割に忠実なスノーに、少し物悲しげな感情が芽生える。

「別に倒さないと言うわけではないのよ?
自分に向かってくる敵は倒すけれど、他の方へ行った敵は手を出さないと言うのが、彼女が昔居た部隊の方針みたい。
目標に当たらないブーメランみたいに必ず帰還する部隊、ブーメラン戦隊だって皮肉られたと言う話もしていたわ」

「ブーメランねぇ~」

オセアニアに伝わる武具の名前を出されシャーリーは、偵察飛行から帰還するスノーを思い出す。
必ず主翼に装備されているミサイルが何基か無くなり、専用武装である20mmガトリング砲の残弾も、3割まで減っているのに全くの無傷で帰還する様は、正に標的に当たらなかったブーメランの如くだ。

「でも、必ず帰還するって言うのは、それだけの腕と機材が無きゃ出来ない事だと思うんだ」

「そうね……」

実際、連日JAMと戦っていたスノーの練度は501の中でもトップクラスだ。
ストライカーの性能も有るのだろうが、長い間戦い続けていたと言う実績が今の彼女を形作っている。
そこでミーナはふと疑問に思う。

(じゃあ彼女は何時から戦い続けていたの?)

少なくとも今の彼女の外見的年齢は18歳の少女、最初の目撃例が1940年でこの時14歳だと仮定できる。
そしてその時には、既にラロスを数十体も撃墜していることから、その時には既に戦士として完成されていると見て良い。

(サーニャさんの例から見て、12歳から戦っていた?
いえ、どう考えても二年間戦ったにしては動きが洗練され過ぎている)

スノーの性格が酷くドライな事からでもそれにも説明が付ける。
だが、それでも彼女の戦闘技能は群を抜いている。
少なくともガランド少将等のように、長い間戦場に身を置いていた歴戦のウィッチでなければ、あのような動きは出来ない。

(あの娘は一体……)

「中佐、どうかしたのか?」

「行き成り黙り込んでどうしたの?」

「……いえ、何でもないわ。
ただ、彼女のポジションを今のままで良いのかな……って思っただけだから」

「んー、でもスノーの戦闘力はこの隊の中じゃずば抜けているからなぁ。
あたし達と同じ隊列に入れたら逆に扱い難いから、遊撃戦力として一人で行動させた方が良いと思う」

急に黙り込んだミーナに二人が呼び掛け、彼女は適当に理由をつけて返すと、返ってきた答えは、美緒やバルクホルン達と同じ様な物だった。
最初こそハルトマンが、自分達が弾持ちをするという冗談を交えた意見も出ていたが、当然の如く採用されていない。
その後試行錯誤した結果導き出された現在のポジション、スノーを遊撃戦力として扱う形に収まったのだ。

「それもそうね……」

今の配置を無理に変更する事も無い、それに、この話題は彼女達の気を逸らす為に振ったものなので、別の意見が出た場合は考慮する気持ちだった。

「でもあんな高いところ飛んでいて寒くないのかなぁ?」

「そう言えばあいつ、何時も2万メートルとかそこら辺を飛んでるんだよな?
幾らウィッチでもあそこまで行くとかなり冷えるぞ」

「飛行中は身体の保護と、偵察機材の操作に武器の管理で、シールドを張る余裕は殆ど無いと言っていたわ。
でも、彼女のストライカーなら迎撃が来る前に振り切れるから、彼女自身は問題視していないみたいだけど……」



そんな三人の心配を他所に、スノーは何時もの偵察コースを飛行していた。
現在位置はボルドー地域で、先ほどノルマンディー周辺を偵察したばかりだ。

「……」

赤外線カメラで地上の様子を映し出す。
そこには多数の陸上型ネウロイが、かつてワイン産業で盛んだった筈の土地を闊歩している。
これを見たらペリーヌは憤慨するだろう。

「今日も収穫なし……か。
こちら雪風、偵察飛行終了、RTB」

暫く飛行した後スノーは帰還の報告を入れ、緩降下して速度を稼ぎながらヒスパニア領空を掠めるようにボルドー沖に出た後、ウィッチーズ基地へ向かう航路を取った。





<後書>
急に気温が上がり、書き始め→気が付いたら寝てる、と言うパターンが増えてきて全く筆が進まない今日この頃……。



[28945] Report 7-1
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/07/02 14:36
Report 7-1
新たな力、新たな魔女1





「おい、起きろよ」

「……?」

声を掛けられ瞼を開けると、そこには頬に大きな傷がある壮年の英国人、自分が友人であると唯一思い、自分の良き理解者でもあるジェームズ・ブッカー居た。

「……ジャック?」

「おいおい、寝ぼけているのか?
まあ、何時もそんな感じだが今回は酷いな」

「夢を……見ていたような気がする。
はっきりとは覚えてない」

「夢なんて大抵そんなものだろう。
偶に覚えている事もあるが、それも睡眠時間の内のほんの少しくらいだ」

ブッカーはそう良いながら、カップにコーヒーを淹れる。
紅茶を好む者が多い英国人にしては珍しく、彼はコーヒーを嗜んでいた。
そんな彼を、気分を整える為に頭を振る為に一瞬目を逸らす。

「しかし、それでも夢を見る事は必要だ。
それが逃げであれ、何であれ……な」

「ジャック?」

声を掛けるとそこには誰も居なかった。
あるのは彼の職務机と白い空間のみ。

「……」

机に歩を進める。
そこには『必ず帰還しろ』とだけ書かれた紙があった。



気が付いた瞬間、景色は一変していた。
そこは501統合戦闘航空団基地にある自室、その机の上には、今まで取得してきた偵察情報や、各国からの技術提供の嘆願書、各国の技術者とSCSとのやり取りをまとめた議事録が散乱している。

「夢……か」

夢の中でとは言え、懐かしい顔に会えた事にスノーは溜息を一つ吐く。
今思えば、コーヒーの香りが無かった事に気付くべきだった。

「必ず帰還しろ……か。
本当にあの人らしい」

少しほくそ笑みながら言う。
窓の外で朝日が昇っていた。



「これが新型のストライカー?」

見慣れないストライカーに触りながら、ハルトマンが言う。

「ええ、Me262ジェットストライカーよ。
基本的なスペックは既存のストライカーを上回るわ。
こちらへはもう少し後に搬入される予定だったけれど、ガランド少将が皇帝陛下に無理を言って、こっちに優先して配備するよう頼み込んだみたい」

「無茶するなぁ~」

「それにしても、機体は勿論だがパワーアシストと武装も強力みたいだな。
30mmの機関砲4門に……50mm機関砲だと?」

バルクホルンは書類を見ながら兵装の欄を見て驚愕する。
50mmと言えば戦車に搭載されている類の砲口径だ。
それを人間台の、しかも空を飛ぶ航空ウィッチに持たせようと言うのだ。
野心的にも程があるだろう。

「それを全部持つのはトゥルーデみたいに、怪力の固有能力持ちじゃないときついわね。
でも、FAFからの技術支援で、兼ねてから欠点だった大量の魔力消費の問題が改善されたのは大きいわ。
構造的にも改善されているから、機械的にも心配はしなくて良いみたい」

「それはありがたい事だな。
そう言えばブリタニアや扶桑も、ジェットストライカーの開発が完了しかけていると言う噂があるのだが、本当なのか?」

「ええ、扶桑の橘花、ブリタニアのミーティア、リベリオンのP-80、どれも開発完了まで後一歩と言うところまで来ているそうよ。
オラーシャでも開発が始まっているみたい」

「宮藤理論の確立から数年で、ジェットストライカーの時代が到来か……。
いくらFAFの技術提供があったとはいえ、戦争は科学を促進させるな」

「皮肉だけど……その通りね」

まるで人間が血を流す毎に急速進化してゆく科学の力、だがその科学力があるからこそ、今日まで人類は怪異……ネウロイとの戦いに勝利してきた。
それは外敵から身を守る為の、必要な生贄なのかも知れない。

「おはようございますヴィルケ中佐、それにバルクホルン大尉にハルトマン中尉……ようやく来たようですね」

「おはよう、スノーさん。
ええ、これも貴女達FAFの協力のお陰よ」

「我々は教材を渡しただけに過ぎません。
その教材から推移し、最適の状態にしたのは貴女方の技術力です。
それに、生産能力も向上しています。
SCSでは人類連合の実力を上方修正する決定がなされました」

「まあ、今まで下に見ていた機械達に、鼻を明かしただけでもこちらにとって大戦果だ。
あとは我々が使いこなせるかどうか……」

「血気盛んなバルクホルン大尉にしては弱気ですね。
ですが大丈夫です。
貴女方なら乗りこなせます」

「……貴女からそんな言葉が聞けるとは思わなかったわ」

「今までの中佐達の実力から、私が勝手に推移したに過ぎません。
実際に乗りこなせるかどうかは、中佐達の心意気次第です。
では私は定期点検がありますので、これで失礼します」

そう言いながらスノーは自分の愛機の元へ歩いて行く。

余談だが、スノーのストライカーを点検出来るのは、スノーとその整備経験を買われて、既にジェットストライカーが配備されているヒスパニアと、ノイエ・カールスラントへ行った整備士達と、新たに派遣され、スノーとミーナが信用の置ける整備士達だけである。
そしてこの基地から出向して行った整備士達は、機種は違えども、ジェットストライカーを整備した経験は大きく、そのままジェットストライカー開発部の専属整備士になったり、設計の知識を見につけた後、そのまま開発メンバーになったりした者も居た。

「あいつも少しは変わったが、やっぱり変わらんな」

「スノーって必要以上に接触しないんだよね。
だからかな?機械みたいに感じるのは」

「彼女も彼女なりに気を使っているのかもしれないわね。
いずれは元の時代に返らなきゃいけないだろうし、その時に後ろ髪を惹かれたくないのかもしれないわ」

「そっか……そうだよね。
スノーはこの時代の人間じゃないもんね……」

珍しくハルトマンが寂しげな表情をする。
JAMの超空間通路を破壊するのとほぼ同時に潜れば、元の時代に戻れる可能性があると、以前にスノーが話していた事を思い出したのだ。

(それが例え危険な賭けであっても、彼女は実行するでしょうね……)

元の時代へ戻ると言う勝ち目の薄い戦いに、身を投じようとするスノーの姿を思い浮かべながら、ミーナは新しい機材の説明を再開した。



「あ、おはよう御座いますウィンド大尉!」

「おはよう、ビショップ軍曹」

定期点検が終わり自室に戻ろうとしたスノー、通路の角からリネットが現れて軽く会釈する。
初めはスノーの雰囲気に飲まれていたリネットだったが、今ではどもることなく挨拶する事が出来るようになっていた。

「そう言えば今日、ミーナ中佐達に新しいストライカーが配備されたそうですね?」

「Me262ですね。
少々加速性に問題がありますが、ジェットストライカーの黎明期に相応しい性能だと思います。
あとは中佐達の腕次第でしょう」

「凄いなぁ……私じゃとてもじゃないけど使いこなせるとは思えませんよ」

「ある程度推測する事は大事な事ですが、そればかりではなく、実際にやって見なければ分からない事も多くあります。
貴女のその考え方は、成長を妨げる一因にもなっている」

「す、すみません」

「謝られる必要はありませんし、人間ならば誰もが思う事です」

「あうう……」

だが何事もはっきりと言うスノーとの会話では、流石に二の足を踏んでしまうようだ。

「あ、えっと、もう直ぐ坂本少佐が戻られるとお聞きしましたが……」

「空母赤城と、駆逐艦数隻の遣欧艦隊を伴って帰還するようですね。
スエズが使えればもう少し早く到着できるのですが、無い物を強請っても仕方ないでしょうし、今は奪還するにしても戦力が足りません」

「そう言えば、大尉の所属している軍を動員しても、JAMとネウロイの波状攻撃にはギリギリだったそうですね……。
今は内輪揉めをしているようですけれど」

「……本当に内輪揉めであればいいのですが」

「え、あの、それはどう言う……」

「貴女が知る権利はありませんし、知らせる時期でもありません。
時期が来ればヴィルケ少佐に報告します」

一方的に話題を切り上げてスノーは歩き出す。

「やっぱり、私じゃ駄目なのかな……」

スノーが角の奥に行くまで見送ると、リネットはそう呟いた。
この基地に来てから1ヶ月近く、ネウロイの襲来も何回かあったが、その殆どがミーナ達の手で阻止され、偶にスノーを狙って小型ネウロイが攻撃を仕掛けようとするが、その尽くが長距離・中距離ミサイルにより遥か手前で撃墜されている。
着々と戦果を上げる周りのメンバーに、リネットは劣等感を抱いていた。

(お姉ちゃんは今頃どうしてるんだろう)

ブリタニアのワイト島分遣隊に配属された姉の事を、リネットは窓の外を見ながら思った。



「……」

端末の画面に次々と表示される情報、FAFの航空機やAWACSのデータリンクを使い、JAMのカムフラージュ、ネウロイの巣内部のエネルギー循環、散発的な戦闘から推察されるネウロイの総数など、莫大な情報の中から取捨選択しながら吟味し、必要な情報のみを引き出す。
そして連合は、その新鮮な戦力状況を元に反攻作戦の案を練り、技術支援も合わせた報酬として資源をFAFへと引き渡す。
衛星でも使えればもっと正確な情報を集められるが、予測されるJAMとネウロイの破壊活動で採算が合わない、そこまで資源に余裕がない事を理由に打ち上げは行なわれていない。
そんな事実の再確認をしていると、基地の中に警報が鳴り響くと同時に、Emergencyの文字、扶桑海軍の艦隊にネウロイが接近中の情報と、戦術偵察行動に入れという指示が出ていた。

「休まる暇がない……」

愚痴を言いながらスノーは、愛機が収まっているハンガーへと駆け出した。
何時もは上司の愚痴を聞きながら、戦術空軍団から提出された作戦の概要と、それに伴って設定された通過地点の説明を聞いてから出撃するが、この世界に来てからは受身の姿勢が続いており、こちらからちょっかいを掛ける事が出来なくなっている。

―ネウロイは取り込んだ人類連合の機体を元に、新型を出してくると言う特性を持ち合わせている事から、狙いのつけやすい大型ならまだしも、中型から小型までFAFの機体の模倣をされては、人類連合側が圧倒的に不利になってしまう―

そんな人類連合のお偉方の言葉を思い出しながら、スノーは苛立ちを抑えながらハンガーへと向かう。



『おお、スノー!』

スノーが遅れて出撃すると、先に出撃していたシャーリーが彼女を最初に見つけ、轟音鳴り響く中インカム越しに声を掛ける。

「……」

それに続いてペリーヌが静かに睨む。
祖国奪還を目標としている彼女にとって、スノーやFAFの行動には苛立ちを覚えるのだろう。

『スノーさん、もしもの時は頼りにしているわ』

ミーナもスノーに声を掛ける。

「こちらもそのつもりです……中佐達は、何時もの機材で出撃ですか?」

『ええ、新型で実戦に出るのは訓練で慣れるまでにしようと思っているの』

『トゥルーデは直ぐにでも使いたいって、言っていたけれどね~』

『当たり前だ!
新しい力を使わずしてどうする!?』

「それでもヴィルケ中佐の判断は正しいです。
ろくに機種転換訓練を行なわずに、別の機材を使うのは自殺志願者だけです」

『な、なんだと!』

スノーの言葉に憤るバルクホルンにスノーは更に続ける。

「我々の命は我々だけの物ではありません。
長い間軍に属しているならば、それは理解しているはずですが?」

『ウィンド大尉、言い過ぎよ。
トゥルーデも落ち着きなさい』

「……了解」

『っ、了解……、すまない……ウィンド大尉』

咄嗟にミーナの介入が入り、二人は一旦会話を切ると、バルクホルンから謝罪が入る。

「謝罪は要りません。
……先行して敵の種別と戦域偵察を行ないます」

『分かったわ。
それと、苦戦しているようなら手を貸してあげて頂戴』

「了解……バンシーから報告」

スノーが応えるとバンシーから通信が入った。

「……上空のバンシーより報告、遣欧艦隊にJAM強襲群が接近中、数は……約2個航空群規模、先に確認された大型ネウロイと中型ネウロイ群の後方に展開中」





<後書>
航空機部隊の編成に関する知識がなかったので、急遽検索して調べ上げました。
もし間違っていたら感想にて指摘してくだされば幸いです。
そして前回より1ヵ月半近くも掛かってしまった……。
トータル・イクリプスのアニメ化で、オルタネイティヴをやってた結果がこれだよ!
そしてあのシーンやらなんやら再び見ても、なんとも思わなくなった自分の感覚麻痺具合に乾杯(誰得。



[28945] Report 7-2
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/08/02 17:50
Report 7-2
新たな力、新たな魔女2





『なんですって!?』

『そんな!?』

『多すぎますわ!』

スノーが知らせた敵側の新たな行動に、ミーナ達は驚愕の声を上げる。
JAMの狙いは不明だが、出現規模が前の比ではない。
2個航空群と言えば最大で64機にもなる大部隊だ。
今までは、JAMとネウロイが交戦し、その数を減らした状態で攻めて来ていた為、それ程多くのJAMと戦ってこなかったが、今回はその数を大幅に増大させている。

「B-3からバンシーへ、搭載機によるJAM強襲群への迎撃を要請……了解、これより当機は501JFWと遣欧艦隊の援護に入る、交信終了」

そこでスノーはバンシーとの通信を切る。

「追加情報、JAMの内訳を確認、タイプⅡ24、タイプⅠ32……電子戦機型4?
バンシーよりSCの離艦を確認、JAM強襲群との交戦まで約5分……JAM強襲群に動きあり、総戦力の約8割がバンシー搭載機の迎撃に向かいました。
……ワイト島よりウィッチ出撃、数5」

『ッ!(お姉ちゃん!)』

淡々と戦況報告を行なうスノーの言葉に、リネットが僅かに声を震わす。

『援軍があるのは心強いな~。
でも、ちょっときついね……』

「勝率は7割を切っています。
これでJAM側に新型が混じっていた場合、さらに4割減となります」

『ありえるわね……スノーさん、貴女だけでJAMの迎撃は可能かしら?』

「大丈夫です。問題ありません」

『では私達は引き続き赤城へ向かうわ。
スノーさんは迎撃を!』

「了解、迎撃行動に移ります」

JAMの数は6機、捌けない数ではない。
スノーはそう応えると高高度から反転降下を開始、速度を上げながらJAM強襲群の迎撃に入る。

『他の人たちは私に付いて来て!』

『『『『『『了解!』』』』』』



<同時刻:空母赤城 甲板>

「501飛行隊より緊急入電!
JAMの攻撃部隊がこちらに接近中!」

「なんだと?!」

「雪風が迎撃を開始!
こちらには8名向かっているとの事!」

「坂本さん……」

伝令と美緒の会話を聞いて、扶桑から父親を探しに同乗した少女、宮藤芳佳が不安げな声を上げる。
実戦を経験していないどころか、普通の女子中学生の彼女にとって、次々に舞い込んで来る敵襲の情報に、ただただ翻弄されるばかりだった。

(幸いネウロイは、ここから遠方で報告を受けているから万全の状態で向かい撃てるが、更にその後ろからJAMの大群だと?
501が迎撃に出ているが、スノーやバンシーからの迎撃だけで防ぎ切れるかどうか……)

美緒の中で最適の判断を探す、だがどう考えても501やバンシーの艦載機の数では、数の上で上回るJAMを防ぎようがない。

『FAF機とJAMが交戦を開始!
続いて501からの迎撃ウィッチ1名が別働隊と交戦を開始!』

「FAFって……」

「ああ、我々に味方してくれている機械軍団だ。
しかし、そこから派遣されてきた、さっき雪風と呼ばれたスノーという奴は面白くってな。
少々他人と距離を置き過ぎる事が玉に瑕だが、根は良い奴で戦闘能力も501の中では優秀なんだ」

「じゃ、じゃあ、その人に任せて置けば安心ですね」

美緒の言葉に芳佳は安堵の表情を見せながら言う。

「だが、たった一人優秀なウィッチが居ても、多数の敵相手では防ぎきる事は難しい。
一応腕利きの2人も一緒に居るらしいが、それでも何機か漏れるだろうな」

「そんな……」

しかしその後に続いた美緒の言葉により、芳佳に訪れた束の間の安心感は瓦解し、その場で膝を付く。

「だが、我々も黙って倒される訳には行かない。
艦長、坂本です。
出撃の許可を」

『分かった。
戦闘機隊の出撃準備も急がせる!」

「宮藤、お前は非戦闘員だ。
どこか安全な場所……医務室に非難していろ」

「はい……」

戦闘員としての訓練どころか、戦士としての心構えも出来ていない芳佳に、美緒へ反論する事など出来る筈もなかった。



<戦闘開始から5分、ドーバー海峡上空>

-WARNING MISSILE ALERT-

ミサイルの接近を知らせる警報と共に、立体ディスプレイの片隅でミサイルアラートの表示が点滅。
ストライカーに対応し始めたJAMの学習能力を改めて確認したスノーは、フレアを撒きながら回避機動を取り、JAMのミサイルから振り切ろうとする。
JAMのミサイルがフレアに接近、それが目標だと誤認して爆発を起こし、発生した爆風を受けながらスノーは高度を保ちつつ、JAMに20mmガトリング砲の砲門を向けトリガーを引く。
毎分6000発で発射される20mm砲弾が、偶に弾かれながらもJAMの機体に突き刺さり、機体強度の限界を超えたJAMが空力でバラバラに引き裂かれながら爆発した。

(これで4機目……)

先程のJAMの前に長距離ミサイル2発で1機を、中距離ミサイルで3機落としている。
有視界戦闘に入ってからは短距離ミサイルを温存する為、機関砲で戦おうとしていたのだが、JAMの性能が以前よりも上がっていた為手間取ってしまい、撃墜するまでに掛かる予測時間を越えてしまっている。
スノーはやむを得ず武装セレクターで短距離ミサイルを選択、目線をJAMに合わせてシーカーに目標の情報を送り、FCSが目標を認識した事を知らされると発射ボタンを押し、発射信号を受信した短距離ミサイルがレールランチャーを沿って放たれる。
時間差でもう1基発射した後、次の目標に視線を向けて同じ動作、同じタイミングでミサイルを2基放つ。
放たれた4基のミサイルは回避機動を取るJAMを執拗に追いかけ、遂には残っていた2機を爆風と金属片で引き裂いた。
残弾は20mmが800発弱、短距離ミサイルは4基だ。

「こちらB-3、JAMの別働隊の迎撃に成功、高度を取り戦術偵察行動に入る」

『了解、流石ね』

『出来ればこちらも援護して欲しいですわね』

「現状ではその必要性は無いと判断、ヴィルケ中佐からの要請があれば援護行動に入ります」

『ッ……ふん!』

協定には彼女達では対処不可能なネウロイが現れた場合のみ、FAFからの援護が入るという決まりになっている。
役割分担と言ってしまえばそれまでだが、何時までも現状のままではまずいだろう。

(せめて通路の場所が分かれば……)

苦々しい顔をしながら、スノーはエンジンの出力を上げて上昇を開始した。
バンシーから追加情報が入る。

-JAM Assault Group Annihilation Rate 70%,FAF Attrition Rate 32%-

あちらの戦況は優位に進んでいるようだ。
あとは何事も無ければ良いのだが、JAMがその様な空気を読むような気の利く相手ではなかった。

-Caution Approaching Four JAM Large Missile-

「!」

使い魔でもあり、ストライカーの電子機器を制御している妖精、戦闘知性体である『雪風』が、スノーに新たな驚異が接近しているのを知らせる。
出現した際、惑星フェアリィにおいて多くのFAF空軍の人員を葬ったJAMの大型対空ミサイル、それがガリアの奥から接近してくると言う情報であった。



<扶桑皇国海軍 遣欧艦隊>

赤城の甲板には整然と並べられた17機の零式艦上戦闘機、そしてその先頭には零式艦上戦闘脚を履いた美緒の姿があった。

『ネウロイ尚も接近中、坂本少佐、戦闘機隊発艦せよ!』

「坂本美緒、出るぞ!」

美緒は言い放ちながら魔導エンジンの出力を上げ、魔力で強化された体に空気の壁がぶつかるのを感じながら赤城の飛行甲板上を滑走し、十分に加速したのを確認すると大空へと舞い上がった。
続いて発艦の戦闘機である零式艦上戦闘機が発艦する様を見た後、魔眼を使ってネウロイの索敵を行なう。

「……居た!
1時方向、距離約2万!」

『坂本少佐、大丈夫かしら?』

ネウロイが居る大まかな方位と距離を言った後、インカムから聞き慣れた声が聞こえてくる。

「おお、ミーナか!」

『今そちらに向かっているわ。
状況はどうなって居るの?』

「こちらは今ネウロイを確認したところだ。
スノーはどうしている?」

『さっきJAMの別働隊を全滅させたところだからもうすぐ……あら?』

「どうした?」

『スノーさんから通信が、少し待って』

ミーナはそう言って通信を切り、そして暫く立った後通信が繋がった。

『美緒、最悪の事態よ』

「どうした?」

『スノーさんから緊急通信!
JAMの大型ミサイルが4基、彼女を狙ってい……!」

そこまで聞こえた時、遠方から巨大な爆発音が轟き、そして美緒の居る位置からでも十分に視認可能な大きさの巨大な火の玉が、海上を赤く照らし出した。



(これで、残り1基!)

ほぼ至近距離で発生した爆風に煽られつつも、スノーは体勢を整えながら波打つ立体計器類を見て、JAMの大型ミサイルの状況を確認する。
現在のスノーの状態は、後退翼モードに入ったストライカーで逃げながら、後方に向いた短距離ミサイルを2基、先行して追いかけてきた3基のJAMミサイルのうち1基をロックオンして発射。放たれた短距離ミサイルは見事に命中しJAMミサイルの弾頭が起爆、発生した爆炎と爆風により姿勢が乱れてしまっている状態だ。
それでも至近距離で撃墜しなかっただけでも大分マシな状態であるには変わらない。
もう二度とあのような運任せの迎撃はしたく無いと言うのがスノーの本音である。

『ウィンド中尉、大丈夫!?』

「たった今1基撃墜し、爆発で2基を巻き込ませた!
残り1基も今から迎撃する!」

スノーにしては切羽詰った返答を返す。
尚も接近する1基の大型ミサイルの追撃を振り切る為に、スノーはラム・エアモードを起動し更に増速を図る。
魔力消費が激しくなるが、四の五の言っていられない。
戦術偵察は、上空を飛んでいるレイフに継続して貰う事になるだろう。
今回はフリップ・ナイトが3機ともオーバーホール中の為、スノーの直衛機が居ないので戦力的に痛かったが、スノーはそれを特に問題に思う事は無かった。

(大丈夫……何時もの状態に戻っただけ)

―Caution Approaching JAM Large Missile―

低空でもマッハ5以上で接近してくる大型ミサイル、その最後の1基が刻一刻とスノーに近付いてくる。
その精神的圧迫感だけでも普通の人間ならば心が折れ、脱出したくなる衝動に襲われるだろう。

(フェアリィ星の物より爆発が……弾頭を変更している?)

JAMにそんな紳士的な考えは無いだろうとは思うが、今は残りの1基の迎撃に集中する事に専念する。
空中を移動する物体、それも人間大の大きさの目標を追尾するせいなのかは分からないが、JAMミサイルの速度がやや遅めだという事にスノーは気が付いた。

(これなら……)

スノーは通信機越しに呼び出す。

「スノーよりヴィルケ中佐へ」

『スノーさん!?』

「JAMミサイルとネウロイを同時に迎撃する戦術を考えた」

『……どうするの?』

その声を聞きながら後ろを振り向き、遠くで太陽の光を反射するJAMミサイルを見ながら、スノーは薄く笑った。



[28945] Report 7-3
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2012/08/11 22:16
Report 7-3
新たな力、新たな魔女3





『うわぁ!?』

ネウロイのビームを受け、胴体後部が無くなった零戦が落ちて行く。
落下傘が開くのが見えたので、パイロットは無事に脱出したようだ。
あれから先制して迎撃を行なったのだが、新型ネウロイの火力は凄まじく、段々母艦付近にまで追いやられていた。

「余り距離を離すな!
張り付いて容易に狙いを付けさせない様にしろ!」

『『了解!』』

「くそっ、まるでハリネズミだ……」

悪態を吐きながらも魔眼でネウロイのコアの位置を特定しようとするが、だがそれを拒むかのようにネウロイのビーム攻撃が美緒達を襲う。
その内の一条が空母赤城の航空甲板の真ん中付近に命中、爆発が起こり美緒は血の気が引くのを感じた。

「なっ……宮藤、大丈夫か!?
宮藤、宮藤ぃ!」

『あ、うぁ……さ、坂本さん?』

(良かった……無事だったか)

芳佳の声を聞いてほっとする美緒だが、そんな間を与えてくれるほどネウロイは気が利いていないらしく、赤城の至近距離にビームが着弾する

「どうにかしなければ!」

『美緒、聞こえているかしら?』

「ミーナか!
そちらは何時到着するんだ?!」

『私達はあと10分程掛かるけれど、その前にスノーさんがネウロイ宛の【お土産】と一緒に到着するわ』

「お土産?
ミーナ、それはどう言……っ、あれは!」

美緒に対して発射されたビームを避けた拍子に、赤城の中央エレベーター上に人影が居るのを見た。



『宮藤!?
お前は医務室に居ろと言っただろう!
何故そこに居る!』

「嫌なんです!
力があるのに、それを守る為に使えない自分が嫌なんです!
だから、私にも出来る事をしたいんです!」

美緒の言葉に芳佳は叫ぶ様に答えながら、ストライカーに魔力を込めて魔導エンジンを始動する。
それに応えるかのように栄二一型魔導エンジンが唸りを上げ、発生した呪布が大気中のエーテルを掻きはじめた。

(これが、お父さんの仕事で作られた物……)

そう思いながら更に魔力を込めると呪布の回転が加速する。
まるで機体が応援しているかのように……。

『……そこまで言うのなら止めはしない!
来い、宮藤!』

「はい!」

前傾姿勢を取り加速が始まる。
殆ど美緒のやっていた事を自分なりに真似ているだけだ。
だがそれでも、機体はそんな芳佳のやりたい事が判るかのように応えてくれる。

『飛べぇ!
宮藤!』

「うわあああああぁぁぁ!」

雄叫びを上げながら飛行甲板から空中に飛び出る。
多少加速が不十分だったのか、僅かに高度が下がるが直ぐに美緒の居る位置に顔を向け、何とか姿勢を整えその位置に向かい。
美緒もそんな宮藤を迎えるように、彼女の傍に向かった。

「と、飛べた!
坂本さん、わたし、飛べました!」

「ああ、良く飛んだな……っ!」

「うわわ!」

空での会合を邪魔するかのようにネウロイがビームを発射、防御する為に美緒はシールドを張るが、その前に巨大なシールドが展開される。

「なんて巨大なシールドだ!」

防ぐのは良いが、姿勢を崩しかける宮藤を支えながら、美緒はそんな感想を口にする。
初の実戦で、ここまで巨大なシールドを張るウィッチを美緒は見た事が無い。

『こちらB-3、坂本少佐、聞こえますか?』

「スノーか!
さっきミーナから話を聞いたがお土産とはどう言う事だ!?」

『こちらは今JAMの大型対空ミサイルに追尾されている。
爆発の威力・速度共にフェアリィの物より弱体化しているため、ネウロイにこれをぶつける事を中佐に提案し採択された為、今そちらに向けて接近中。
JAMミサイルがネウロイに命中した際発生する爆発に備え、周りに居る航空機隊の遠方への退避と、少佐と……IFF登録されていないウィッチには、先程のシールドで艦隊の防御をお願いしたい』

「それは構わんが……出来るのか?」

『出来る出来ないじゃない。
やる、それだけ』

その言葉を聞き、美緒はスノーと言う存在を改めた。
戦士として完成されたスノーの姿勢は、正しく戦争に必要な事だろう。
だがそれと同時に、彼女から醸し出す人間性が欠如している独特の雰囲気も改めて感じた。

「……分かった。
私達はそれまで敵を引き付ければいいんだな?」

『出来るだけ直線運動させて下さい。
その方がタイミングを計りやすいです』

「出来る限りやってみる」

『……到達まであと1分』

「それを早く言え!」

急に知らされたタイムリミットに美緒が悪態を吐く。

「航空機隊は直ちに遠方に退避しろ!
あとは私がやる!」

『そんな!
我々もお供させて下さい!』

「許可できない!
もう直ぐさっきの爆発を起こしたJAMの兵器が来る!
零戦ではその爆風には耐えられない!」

格闘戦を主に置く零戦の機体強度は、他国の戦闘機が厚紙ならば零戦は障子紙に等しく、加えて機体重量の関係で突発的な強い風にも弱い。
尤も、先ほど起きた爆発の規模から考えれば、どの様な航空機でも耐えられる物ではないのだが……。

『了解……しました。
ご武運を!』

零戦はネウロイから離れて戦闘空域から離れてゆく。
海上に脱出した乗員の事も心配だが、今は構ってやれる暇が無い。
彼等も扶桑皇国海軍の兵士、危険だと感じれば海中に潜るなりするだろう。

「えっと……坂本さん?」

「宮藤、私はあいつに切り込むから、お前はそれで私の援護をして欲しい。
なに、私に当たらないようにしながら、あいつに銃弾を打ち込むだけだ……出来るな?」

「……はい!わたし、やります!
わわ!」

芳佳が返事をすると同時に、ネウロイのビームが至近を通り過ぎる。
美緒は軽く回避機動を取りながら、同時に携行していた扶桑刀を抜き放つ。

「では行くぞ!」

「はい!」

ネウロイに向かう美緒に、芳佳は離れないように必死になって追いすがる。
今日初めてストライカーを履いたとは思えない動きだが、それでもろくに訓練を積んでいないのには変わらず、眼前に迫ってくるネウロイの巨体に緊張感が増してくる。

「私達は1分間だけあいつを足止めした後、あいつから離れた位置でシールドを張って艦隊を守る。
さっき出したお前のシールドが頼りだ。しっかり頼むぞ?」

「はい!」

そんな中で美緒の台詞を聞くが、当の芳佳は返事をするだけで精一杯だ。

(初の実戦……訓練もしていないあいつにはこれが限界か)
「今だ!撃て!」

「っ!」

美緒の合図で芳佳はネウロイに銃口を向けて引き金を引き、13mmと言う大口径の弾丸が、曳航弾の軌跡を残しながらネウロイの外殻を砕いてゆく。
だがそれだけでは決定打にならず、疎らに穿たれた弾痕はすぐに修復を始め、赤い6角形の装甲が赤く光り始める。

「やああああぁぁぁぁぁぁ!」

その隙を突いてネウロイの前方に回りこんでいた美緒が、その右翼側の前縁部から切りかかる。
切り込んだ速度をそのままに、切っ先がネウロイの装甲を切り裂いてゆき、遂にはネウロイの右翼は胴体と泣き別れた。

「やった!」

「……いや、まだだ!」

僅かな隙を突いて美緒は魔眼でネウロイを見ながらそう言った。
ネウロイのコアは胴体と尾部の接合部分にあったのだ。
それを証明するかのように、ネウロイは美緒がつけた傷を修復し始める。

『到達まで後10秒』

「了解した!
宮藤、離脱しながらシールドを張れ!」

「分かりました!」

スノーからの通信を受けて芳佳が両手を、美緒が片手を突き出しながら退避を開始する。
それと同時に2人の真下、海面ギリギリで水柱を上げながらスノーと、JAMのミサイルが通り過ぎていった。



時は20秒ほど遡る。

(JAMの電子戦機はもう居ない。
今のあれは自力でこちらを追尾しているだけ)

あのJAMの電子戦機は恐らく、このミサイルを誘導する為の物だろうとSCSは予測し、実際にスノーとミサイル双方に対して電波が発信されていたので、手が空いた無人機が既に全部撃墜していた。
あとはミサイル自体に搭載されている誘導装置だけだ。

(……見えた!)

遠くでネウロイの影を確認する。
黒いボディが青い空に良く映えており見えやすい。

「到達まで後10秒」

『了解した!
宮藤、離脱しながらシールドを張れ!』

『分かりました!』

衝突やミサイルの矛先が美緒達に向かないように、スノーは出来る限り高度を落とし彼女達の下を潜り抜ける。
大型ネウロイの巨体が眼前に迫ってくる。
後方約800mにはJAMの大型ミサイル、前方にはネウロイ、このまま行けば衝突は確実だった。

―Ram Air Mode Cut―

その表示が出ると同時に全稼動翼を動員してフルブレーキを掛ける。

「っく、ふ!」

魔力で強化されている体が、急制動で発生した加重に悲鳴を上げスノーが喘ぐ、だが意識を保とうと首と肩の筋肉に力を入れながら急旋回、ネウロイ巨体の脇ギリギリを通り抜けるコースを取り、JAMミサイルとの間にネウロイの巨体を差し込ませる。
一旦JAMミサイルはスノーを追おうと追尾するが、ネウロイの巨体に阻まれ目標を見失いそのまま突撃、ネウロイの胴体を貫きながら弾頭が起爆、発生した大規模な爆炎と爆風が大気をかき乱し、飛び散るネウロイの破片と共にスノーの体を煽り、そして……。

「っ!!」

スノー自身にも無数のネウロイの破片が、飛び掛ってきていた。





後書

次回でReport7は終わりです。
そして見出しの報告通り、感想が貯まり次第(とりあえず5つ以上)感想返しをしようかと思います。



[28945] Report 8-1
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2014/05/19 21:17
Report 8-1
501の日常(1)





朝日が昇る時刻、芳佳の部屋に朝日の光が差し込み室内を淡く照らし出す。

「ん……」

差し込んだ朝日の光に反応し、芳佳の瞼がうっすらと開かれる。
最初に目に入ったのは木の張りが渡された白磁の天井、勿論見慣れる筈もなく、しばし無意識の内に頭の中で情報が整理され、左手にある窓の外の景色が、見慣れた横須賀の風景ではないことに気付き、一瞬焦るが昨日の事を思い出した。

「そっか、わたしブリタニアに……!」

そして同時に思い出す。
あの重傷を負ったウィッチの存在を、医者の卵を目指していたのに、怪我を負った者の事を忘れていたと言う迂闊さに顔が青くなる。

「さ、探さなきゃ……そうだ!坂本さんに聞いてみよう!」



「……やはり、記憶メモリだけを抜いてFAF基地に送るしかない様ですね」

「仕方あるめぇよ大尉。俺達人類連合の人間は電子基盤の修理なんて出来やせんし、ましてや俺達でも理解しきれていない部分も多い」

朝焼けに照らされるハンガー、そこで半壊と言っても差し支えないストライカーを、気心の知れた老練の整備班長と、その部下達と共に囲んでスノーは現状の確認していた。
その結果、基本構造や飛行制御システムに問題も無く、左側のエンジンが不調をきたしているが、これは少し整備すれば元の調子に戻る。
だがそれ以上に問題なのは、電子戦システムと火器管制装置、偵察機器に使われている電子部品にダメージを負ってしまっていることで、飛行は出来ても満足な偵察行動、戦闘行動は出来ない状態になっており、特に火器管制装置の役割にはパワーアシストも含まれている為、重いガトリング砲を携行する事も出来ない。
スノー自身も致命的な怪我こそ無かったが、大部分の怪我をあの場に居たウィッチ、芳佳の治癒魔法で回復したが完治までには至らず、頭と両肩に包帯が巻かれていた。

「便利になり過ぎると言うのも問題ですね。……大尉は、素の状態でどれだけ持てます?」

「3kg程度の銃器とその予備弾装ぐらいです」

「十分な装備ですね。
まあ、ミーナ中佐が戦闘の可能性がある飛行を許すとは思えませんが、万が一の事態も想定して準備しておくのが良いかと」

「そうならない様にしたいのは山々ですが、ありえない事ではありませんね。
ここは、『近過ぎ』ますから……。フリップ・ナイトの出撃要請も申請しておきます」

「あの三銃士が出てくれるなら安心ですね。
知っています?大尉とフリップ・ナイト3機が一緒に写っている写真、アフリカの星と並ぶほどの人気だそうですよ」

「任務遂行以外の評価に興味はありません」

整備員の話をバッサリと切り捨てた彼女を見て一堂が苦笑する。
戦闘や戦略情報などの戦闘に関する情報以外に、体の清潔と健康管理にしか興味がないこの戦乙女に、この手の話や色恋沙汰には釣られたりしない。
その後、班長の指示で一先ず他のストライカーの整備を優先させ、メイヴのオーバーホールは明日メイヴの部品が届き次第行われる事となり、メイヴの周りにはスノーと班長だけが残った。

「そう言えば新しく入った娘が来てるんだって?
ここ最近出撃回数が増えているから、新人でも1人増えるだけで違うものだろうが……使えるんですかい?」

「扶桑皇国からの志願兵だそうですが、年齢が14と基礎学歴が伴っていない状態です。
実戦で飛行、攻撃、防御を行える事は確認されていますが、ウィッチとして使えるかどうかも未知数ですので、とりあえず軍曹待遇で入隊させ、暫くは基礎訓練と座学をビショップ軍曹と一緒に訓練させて様子を見る方針で決定しました」

「まあそれが妥当だわな」

顎を撫ぜながら納得したように整備班長が言う。
彼も前大戦から魔女と言う存在を支えてきた自負と経験があり、それを考慮に入れても彼女達の判断は妥当だと思ったのだろう。

「とにかく予備の部品が来るまで出来るだけの事はしておくさ。
嬢ちゃんは安心して待ってな」

「感謝します」

珍しく出たスノーの感謝の言葉に班長は右手を上げて応えた。



整備を彼らに任せたスノーが格納庫から出ると、今来たのかミーナと美緒の姿があった。

「おはよう、スノーさん」

「早いなスノー」

「おはようございます。ヴィルケ中佐、坂本少佐」

二人の挨拶に返事を返しながらスノーはFAF式の敬礼をし、二人もそれに答礼した後手を下ろすと、スノーも敬礼を解く。

「ストライカーの状態確認か……どうだった?」

「今の状態でも飛行は可能ですが、満足な戦闘と偵察行動は不可能。
加えて左のエンジンの調子も悪いですが、少し整備すれば元の調子に戻り、歩兵用火器を装備すれば援護程度は可能ですが」

「いや、それなら無理に前線に出なくて良い。
なんなら予備の部品かストライカーが来るまで地上待機でも良いが」

「予備部品は明日届く予定ですので、傷が治り次第出撃可能です」

「でも、貴女はここの所ずっと戦いっぱなしよ。少し休息を取りなさい。
FAFは協力勢力と言うことになっているから効力は薄いかもしれないけれど、出向部隊内における命令と取ってもらって構わないわ。
貴女の代えは居ないもの」

「いえ、こちらも偵察情報の整理をしたかったので、お受け致します」

「はぁ……、あのねスノー」

相変わらずのワーカーホリックであるスノーに、一つ溜息を吐いてからミーナは真剣な目を向ける。
そこからはもう何度目か分からないやり取りに、傍らに居る美緒は苦笑いをしながらそれを見ていたその時、ふと視線を感じそちらに目を向けると、そこには宮藤芳佳の姿があった。

「おお、宮藤じゃないか!」

「あの坂本さん、あの人……あの時の人ですよね?」

「ああ、ウィンド・スノー大尉だ。
フェアリー空軍、未来から来たあの空軍唯一の人間であり、魔女だ」

「扶桑の新聞でも見ました……何時もあんな無茶を?」

「本人が言うには生存を優先しつつ、最大の戦果と戦術的優位をと言っているんだが、私を含むうちの部隊員には心配させっ放しだ。
……そう言えば私も、昔からあいつの戦い方を見て自分の戦い方を見直すことが多くなったなぁ……」

「はぁ……」

遠い目線で過去を追憶する美緒の姿を見て、この快活な上司にここまで遠い目線をさせるスノーが、普段からどんな事をしているのか分からない芳佳は短く返事をするしかなかった。
そして一通り口論が終わったのか、スノーとミーナが美緒達の下に歩み寄って来る。

「あ……」

芳佳は探し人……スノーの姿を見て、昨日の事を思い出す。
あの時は周りの変化が激しすぎてよく覚えていないが、あの時体中に刻まれた細かい傷から出た血で体が真っ赤に染まり、意識を失っていた彼女を治癒魔法で治した事は朧気にだが覚えている。
その後はワイト島の分遣隊とデブリーフィングを行い、美緒と芳佳を除くウィッチ達はスノーを連れて一足先に501基地に帰還、赤城に残された芳佳と美緒はそのままブリタニアの港で降り、芳佳の父が最後に居た研究施設の跡地で、自らも戦う意思を固め今に至った。

「あら、宮藤さんおはよう。
そうだ、調度良いから宮藤さんも何か言ってあげて、この娘ったらまた無茶しそうだもの」

「ですから、傷が完治するまで戦闘行為は行いません。
機体を修理しなければ成りませんし、必要な部品もまだ来ていない現状では、偵察情報の整理ぐらいしかやる事は無いのです。
それとも中佐はFAFの機器を完璧に扱えるのですか?」

二人がそれぞれの台詞を吐き、ミーナは「ぐぬぬ」と聞こえそうな顔で、対するスノーは何時も通りの無表情で睨みあう。

「ま、まぁ二人とも、口論はとりあえずそこまでにしようか。
宮藤も困惑しているぞ?」

「あの、えっと……スノーさん、じゃなくてスノー大尉、怪我の具合はどうですか?」

「軍曹の治癒魔法で治療を受けた箇所は問題ありません。
それと、私のことは好きに呼んでくれて構わないです。昨日まで民間人だった貴女に、そこまで高望みはしません」

「あ、あう……」

「まあ追々慣れて来るさ。
あまり無理せず、自分のペースで調子を掴んでいけば良い」

あんまりと言ってはあんまりだが、スノーの言い分も分かる為ミーナは黙っていた。
だが上司である美緒が芳佳を諭して何とか自信を付けさせようと試みる。

「……それでも貴女の治癒魔法はこの部隊では貴重です。
戦闘訓練など慣れない事もあるでしょうが、早期に戦線に上がれる事を願っています。
では、私はこれで」

最後にそれだけ言うとスノーは踵を返し、その場に居た全員が声を掛ける間も無くを離れてゆく。

「え……っと」

「多分、エールを送ってくれたのでしょうね。
彼女にしては珍しい反応……と言うよりも、私達が怪我をしてもその場で治療できる貴女に、それだけの価値があると踏んだのね」

スノーの言葉に戸惑っている芳佳にミーナが一言付け加える。
指揮官であるミーナを含めて最低でも12名、それがこの基地が最大効率で稼動する最低限のウィッチの数、501発足当時にスノーがミーナに伝えた分析だ。
そして今この基地には、ミーナ、美緒、トゥルーデ、ハルトマン、スノー、ペリーヌ、シャーリー、ルッキーニ、サーニャ、エイラ、力不足ながらも新人のウィッチであるリーネと芳佳、計12名の魔女がここに集まった。

「12人か……ちょうど3小隊組める人員だな」

感慨深く美緒が呟きながら腕を組む。
自身はもう暫くすれば『あがり』を迎える年齢だが、まだまだ前線に出たいと言う気持ちもある。

「あぁー!!」

そんな時芳佳が大声を上げる。

「どうかしたの?」

「スノーさんの怪我の治療しようと思って、坂本さんに案内して貰おうと思ってたのに、すっかり忘れていましたぁ……」

見るからにしょぼくれて行く芳佳に、ミーナと美緒は一旦顔をあわせるとお互いに苦笑する。

(一先ず、こいつを一人前のウィッチにしてから考える事にしよう)

自分の引き際を見定める当面の目標を立てて、何とか芳佳をフォローしながら基地の中へと入り、そのまま朝礼と相成った。



「それじゃあ改めて紹介するわね。
坂本少佐が扶桑皇国から連れてきてくれた宮藤芳佳さんです」

「宮藤芳佳です!皆さん、よろしくお願いします!」

ミーナの紹介に続いて、芳佳が続いて自分の名前と挨拶をし、入ったばかりで基地の内部構造を知らない芳佳の面倒は、同じ階級で肩肘張らないようにと言う配慮からかリーネに任された。
その後必要書類と階級章等の受け取りに移るが、護身用の拳銃は芳佳の要望で返却された。
それを見てペリーヌが不快感を出すが、大多数からは『変わった奴』程度にしか認識されなかった。

「スノー、お前から見て宮藤はどう思う?」

美緒からの質問を受け、朝礼の間今まで目を瞑っていたスノーは瞼を開ける。

「……先ほども言いましたが、最初から多くの事は期待していません。
ビショップ軍曹と同じく今は基礎訓練を行い、余裕がありそうなら射撃訓練を行うのが妥当かと」

「うーん……やはりそれしかないか?」

スノーの返答を聞いて腕を組みながら唸る美緒。
だが、この場合は相談する相手が間違っていたとしか言いようが無い。

「あ、あの!」

「?」

美緒と喋っていると何時の間にか芳佳が近くに来ていた。

「えっと、よろしければ怪我の治療をしたいなと思っ……じゃなくて、怪我の治療をさせて頂いても宜しいでしょうか!」

「……っふ、分かりました。貴女の治療を受けます。
あと、慣れない喋り方は無理にしなくて構いません。
一応上官ではありますが、既に一度崩壊した軍組織の人間に畏まる必要も無いでしょう」

慣れない軍隊式の喋り方で必死に聞いてくる芳佳の姿に、スノーは苦笑をしながら応え、自分の階級が飾りでしかない事も強調する。
芳佳の後ろで501の悪ガキ達がニヤニヤしている所を見ると、実演を見てみたいと言って怪我をしているスノーの治療風景を見物するつもりなのだろう。

「え、あの……では、失礼します」

スノーの言葉に芳佳は多少動揺するが、気を取り直して頭の傷を覆っている包帯を取り払い、血は完全に止まっているが、それでも痛々しい傷が現れる。
一瞬息を呑むが直ぐに両手を軽く翳し、魔力を集中させ治療を開始する。

(焦らず、慎重に、血も出てないから慌てるな。わたし!)

赤城の甲板上でスノーの治療をした時は、過剰に魔力を消費して失神してしまった事を思い出しながら、平静さを何とか保ちつつ怪我の治療に精神を集中させる。
するとじわじわと傷が塞がり始める。

「ふぅ……」

「……完全に塞がったようですね」

治療が無事に終わったのを確認して芳佳が安堵の息を吐き、それに察したスノーも傷があった場所に手を当ててみるが、蚯蚓腫れも無く完全に傷口が塞がっていた。

「「おおー!」」

「ふむ、確かに完治しているな。
だが失った血液も戻っているわけではないから、暫く安静にした方がいいだろう。
それと宮藤」

「はい!」

「良くやった……と言いたい所だが、あまり無茶はしないでくれ。
昨日失神したばかりなのだから、さっきは冷や冷やしたぞ」

「あ……はい……」

美緒の呼びかけに芳佳は元気良く返事をする……が、それは美緒の指摘で萎んでいく。

(少し強く言い過ぎたか)
「だが自分の出来ることを探し、実行したのは評価できる。
今回は失神せずに出来た事だし、今後も無理をしない程度に精進しろよ?」

「っ……!はい!ありがとうございます!」

改めて褒められて機嫌が直り、改めて自分の魔法の精進を誓う芳佳であった。
そんな二人を尻目に、スノーの携帯端末から電子音が鳴る。

「……」

スノーは端末を起動して送られてきた情報を見て、キーボードを叩き始める。

「坂本さん、今のは?」

「あいつの通信手段だ。
ああやってFAFにある機械へ情報を渡したり、送られてきた情報を見たりする事が出来るらしい。
ミーナも多少は使えるようになって、たまにスノーと一緒に仕事をしている事もあるな」

「なんだか便利そうですね」

初めて見る機械を目の当たりにして、芳佳はただただ呆けるばかりだ。
そんなスノーの様子を見ていると、彼女は一通りの仕事を終えたのか既に端末を閉じ、一つ溜息を吐いていた。










メリークリスマス!(遅
大変長らくお待たせしてしまいまして申し訳ない限りです。
年内にもう一つ上げれそうなので、今年はそれで年納めにしたいかなと思う所存。
ではまた次回にお会いしましょう!



[28945] Report 8-2
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2014/01/05 14:53
501の日常(2)





「……」

「……」

(どうしてこうなったんだろ……)

だんまりな二人、スノーとリーネに挟まれて芳佳はそう思うしかなかった。
事の始まりはスノーの治療が終わって直ぐの事である。



「すみません。SCSからの情報が入ったので、その精査の為に自室へ戻ります。
宮藤軍曹、治療ありがとうございます」

「い、いえ!でも、まだ腕とか傷の治療がまだ……」

「バイタルパートさえ完治していれば問題ありません。
戦闘を行うわけでもない上に、これ以上の治療は軍曹の活動に影響を及ぼす可能性があります……ヴィルケ中佐」

スノーの瞳が真っ直ぐミーナを捉え、ミーナもスノーの視線に交わした後、溜息を一息吐いた。

「仕方ないわね……。
でも念の為、自室に着くまではリーネさんの案内の補佐をしてあげて、それくらいなら問題ないでしょう?」

「了解しました。では先に退出し、外で待機します」

ミーナと敬礼を交わした後スノーは携帯端末を抱え、脇目も振らずにブリーフィングルームから出て行った。
その姿に芳佳とリーネが呆然とした様子で見送った。

「まったく……任務に実直なのは見習いたいが、あの言い様はとてもじゃないが真似出来ないな」

「そうだよなぁ、普通バイタルパート(重要防御区画)なんて物騒な言葉を自分の体に使うかな。
まあスノーらしいと言えばらしいんだけど……」

普段は犬猿の仲のバルクホルンとシャーリーも、スノーの台詞回しには両者共に思う所があるらしく、珍しく同調の姿勢を見せている。
この501JFW基地の中でも、スノーが異端児だと言うのがよく分かる光景だ。
FAFと言う組織がコンピューターによって、組織運営されていたというのはスノー自身の口から出た情報ではあるが、それ自体が事実かどうかは確かめる術が人類連合側には無いのが現状だ。

「さぁ、皆!今日のブリーフィングはここまでにして、あとは各自何時でも出撃できるように準備を怠らないようにして頂戴。
じゃあリーネさん、宮藤さんとスノーの事、お願いね?」

「はい!」



そしてブリーフィングルームの前で待機していたスノーと合流し、今に至るのだった。

「えっと、スノーさんは今までどんな仕事をしていたんですか?」

兎に角、場の空気を換えようと芳佳はスノーにそのような質問を投げかけるが、返ってきた答えを聞いて後悔と、そして平然と吐露スノーに愕然とする事となった。
まず答えたのは特殊戦と言う部隊の大まかな作戦内容についてだ。
とっくに解散した組織の作戦内容なので機密と言う物は無く、既に人類連合側の要人達は周知している内容である。
そして次に語ったその徹底した『必ず帰還する』事への執着心、ここで芳佳に激しい動揺が襲い掛かる。それは例え味方が苦戦して全滅しそうになっても、自らはその戦術情報を見殺しにしてでも持って帰ってくる事についてだった。
これには話を聞いた芳佳とリーネは言葉にはしなかったものの、激しく憤慨している様子を見せた。

「御二方の気持ちも、口に出したい言葉も分かります。
それは私達特殊戦が日々受け続けてきた言葉でした。
ですが、そうしなければJAMと戦い続けるのは不可能であり、逆に人類側に不利になると踏んでの至上命令なのです」
(尤も、ジャックの個人的な思いもあるのですが、これは言わないでおきましょう)

「それでも……、それでも納得できません」

「無理に納得しなくても良いのです。
全てはフェアリイ星からの脱出まで行ってきた事、脱出戦の際には特殊戦も他の戦隊も関係なく助け合いました」

「あ……」

そこでリーネは思い出す。
スノーは脱出する際にはぐれた『遭難者』であり、まだ帰還任務の途中なのだ。

「大丈夫です。
対ネウロイ戦で要請があれば私は501部隊への援護は惜しみません。
それに、JAMがこの世界に侵入した原因は私にあるのですから、対JAM戦では前線に立つつもりです」

「あの、それってどう言う……」

「申し訳ありませんが、私はここで失礼します」

芳佳はスノーが言った台詞の最後の意味について聞こうとすると、会話はスノーの側から断ち切られる。
そこは扉の前であり、ルームプレートには「ウィンド・スノー」と書かれてあった。

「ここが私の部屋です。
機密文書もある為、部屋に入る際は私の返事か許可があるまで入らないように」

「わ、分かりました!」
「了解です!」

二人揃って返事と敬礼をすると、スノーは答礼してから部屋の中へ入り扉を閉め始める。

「宮藤軍曹、改めて治療の件、感謝します」

だが扉が完全に閉まる前に一度動きを止め、改めて礼を言いながら今度こそ扉を閉め切った。



「スノー大尉って、今まで近寄りづらい印象があったけど、ちゃんと接してくれる良い人だったね」

「うん……」

芳佳はリーネの言葉に返事を返し、自分の手を見ながら先ほどのスノーの言葉を反芻し、今までのスノーの行動を思い返していた。

(なんであんなに自分の事を顧みないんだろう)

自分に置き換えて考えてみてもその行動原理が分からない。
だがそこで思い出す。
父の墓前からこの基地まで来るまでに、上官である美緒に聞いてもみた時の事だ。
質問を受けた美緒にも彼女の目からでも、その苛烈な戦闘行動は理解の範囲外だと言いながらも、ただ-これだけは分かる-と前置きされて返ってきた言葉だ。



「スノーがあそこまで敵対するのはJAM相手だけだ。
そこからの推測になるが、恐らくスノーにとってネウロイかJAMか、その危険度で言えばJAMの方が高いと判断しているからだろう。
勿論それだけであそこまでの戦闘行動を取る理由にはならないが、恐らく奴は挑発しているんだろうな」

「挑発……ですか?」

誰に?っと言いたげに芳佳が首を傾げて、それを見た美緒は苦笑しながら言葉を繋げる。

「勿論、JAMに対してだ」



「……じさん、宮藤さん!」

「わわ!ごめんまさい!えっと、なんでしたっけ?」

何時の間にかリーネが扉の前に止まっており、考え事をしていた芳佳はそれに気付かず追い抜いてしまったようだ。

「ええっと、ここが私の部屋になるんですけど……」

「あ、そうなんだ!私の部屋はここの左隣だよ!」

「え、そうなんですか?」

「そうそう!こっち!」

そう言いながら少し早足で芳佳は自室の扉の前まで行き、リーネもそれに釣られて芳佳の後を追い芳佳の部屋の前まで来た。

「あ、そっか、朝に空き部屋だった隣から音がしたからなんだろうと思ったけど、宮藤さんが起きた音だったんだね」

今朝の事を思い返しながらリーネが呟く。
訓練学校からの癖で少し早めに起きていたが、その時に隣から音が聞こえたのを思い出して呟きだったが、それを聞いた芳佳は少し気遣うような表情をする。

「ごめんなさい!迷惑だった?」

(豪放磊落な坂本少佐もそうだけど、他の国の人に比べて周りに気を使うのは扶桑人の特徴なのかな?)
「ううん、私も起きていたし大丈夫でしたよ。
あ、それと、足りない家具や日用品がありましたらいい店がありますので、もし良かったら案内しましょうか?」

と思いながらリーネは気にしてないという意思表示をして安心させ、次いでに何か足りないか芳佳に聞く。
その後互いに話しながら基地の中を案内して、芳佳が一番気にしていた調理器具が一通り揃っていた事を確認、格納庫や射撃訓練場、新しく出来た筋力トレーニング器具を置いた部屋を案内し終えると、隊員であるエーリカが記者に囲まれてフラッシュを浴びていた。
その傍にはバルクホルンと、自室で仕事をしている筈の少々不機嫌そうなスノーの姿もあった。

「わっ、どうしたんだろ」

「ああ、ハルトマン中尉ですね。
宮藤さんがここに来る前に起きた戦闘で、ネウロイ・JAM合わせて撃墜数が200機になったんですよ」

「200!そんなに沢山の敵と戦ってきたんだ……」

「傍に控えているバルクホルン大尉なんて250機ですし、ミーナ隊長も160機を越えていますし、スノー大尉もJAMを主な相手にして100機超えていますから……。
この基地にいるスーパーエースやFAFの空中空母が居なかったら、きっとこのブリタニアと言う国は無くなっていたと思います」

「空中空母ってあの空に浮かんでいる?」

芳佳が指差した先にある空に映える黒い影、高度1万メートルと言う高高度で飛んでいる為小さく見えるが、その実態は全幅が1400m近くある巨大な飛翔体だ。
その腹の中には40機の無人戦闘機が搭載されており、緊急時には自らの武装である対空ミサイルVLS群と、多数の近接防御火器が自らに近づく無礼者を出迎える。
まさにバンシーと言う名に相応しい空中要塞の体を成している。

「ミーナ中佐や坂本少佐は頼りになるって言っているけれど、私はちょっと苦手かな……」

「見慣れないものは、概ねそのような物だと私は思いますが」

「あ、スノー大尉!」

「わわわ!」

何時の間にか会見が終わっており、芳佳とリーネの前にスノーの姿があった。
慌てて敬礼する二人、スノーはそれに答礼した後空を見る。

「人間の体と言うのは不便な物です。
機械ならパーツの交換だけで済みますが、人間は体組織の再生が済むまで満足に動く事が出来ない。
しかも骨まで達していれば、外見は治っていても将来的な運動能力に下方修正が出る始末です」

「え、えっと……」

突然話し始めたスノーに二人は困惑する。
二人の方は見ずにただ空を仰いだまま、やがて彼女の脇に抱えられていた携帯端末から電子音が鳴り、スノーはその内容を確かめると再び空を仰いだ。
二人も空に眼を向けると、バンシーと見られる影から幾筋もの飛行機雲がたなびき始めた。
バンシー搭載航空機が迎撃に出たのだ。

「JAM偵察部隊への迎撃に出たようです。
今回は我々の出番は無いとは思いますが、一応出撃準備は整えてください」

「宮藤さん、私達も!」

「あ、うん!」

それだけを言い残すとスノーは格納庫へと走って行き、遅れてリーネと芳佳もその後ろにつき、共に格納庫へと向かった。



待機命令が出てから少し経ち、待機命令は解除された。
JAMの偵察部隊はFAFのバンシー航空隊によって全滅し、501のメンバーは出撃する事もなく待機所から解散、バンシーからロンドンの司令所に迎撃が完了した事が伝わっており、
ブリタニア空軍は引き続き通常態勢に戻っていた。
そしてその日の夜、501では夕食と共に大尉以上の隊員はミーティングルームに集まって、食事を取りながら話し合っており、エーリカやエイラなど中尉以下の隊員は何時も通り食堂で食事を取っていた。

「今回もJAMの偵察部隊だってね」

「まあJAMだって何も闇雲に攻めているわけじゃないからな。
スノー大尉はまたJAMの機動性が上がったってぼやいていたし」

「えー!?まだ早くなるの?!
あたしあの音嫌なのにぃ!」

「まだFAFの方が優勢のようですが、JAMも段々地球の大気条件に慣れてきていると、大尉は前に仰っておりましたわね」

「……」
(まだJAMの戦闘力が上がるんだ……。
守れるのかな……この国を)

「……」

エーリカ、エイラ、ルッキーニ、ペリーヌが話している脇で、芳佳とリーネは黙って箸を進めていた。
リーネは改めてもう一つの敵であるJAMの事を、芳佳は待機が終わった時にミーナと美緒を呼び止めて話していた内容を考えていた。



「前回の迎撃で損傷したメイヴの部品が先程届きました。
現在修理中ですが、明日の昼頃には終わるでしょう」

「そうか……だがお前はもう大丈夫なのか?
怪我は完全に治ったが……」

「問題ありません。
それよりも今回は防ぎ切りましたが、バンシーの搭載航空機の損耗が多くなっています。
なので一旦バンシーは大西洋に移動し、追加のファーンⅡと量産型レイフを受け取りに離れますので、明日の日中はブリタニアの防空火力が低下します」

「分かったわ。
ロンドンの防空司令部の方には私から連絡します。
あ、あと連合本部からの通達だけど作戦決行は1ヶ月後の6月6日、FAFに航空支援の要請が来ているわ」

「了解、SCSに伝えます。
リベリオン軍の状況はどうですか?
新兵ばかりだと……」



(戦争してるんだ……。
こんなに普通の時間が流れているのに……)

実戦を経験したばかりの芳佳に、改めて突きつけられた現実。
その日の夜は何事も無いまま終わり、再び朝日が昇った。










〈後書き〉
と言うわけで年内に投稿できました!
次の話はまだ出来ていないので、暫くは改訂や誤字・誤植の修正になるかと思います。
今年も色々ありましたが、過ぎ去る年、来る年を歓迎しましょう。
それでは良いお年を!



[28945] Report 9-1
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2014/02/26 17:54
Dead Copy ①





芳佳とスノーが会合してから1週間が経った。
ミーナ達の機種転換訓練も順調に進み、スノーも何度かに分けて芳佳の治癒魔法で治療して完治し、今は501メンバーと一緒に基礎トレーニングを行い、落ちた筋力を回復させていた。

「は、ひぃ……」

「も、もう限界……」

「こらー、もっと気合入れて走らんかー!」

あの待機だけで終わった日から数日過ぎ、芳佳とリーネは美緒の叱責を受けながら滑走路の上を走っていた。
基礎体力トレーニングの一環であり、航空ウィッチには長時間継続して飛行する為の体力作りとしての目的もある。

「先に失礼します」

「おっさき~」

そんな芳佳達の横を涼しい顔で駆け去って行くスノーとエーリカの二人。
その後にも続々と他の隊員達が芳佳達を追い抜いて行く。
スノーはタンクトップとスパッツ姿ではあるが、他の501メンバーは制服姿のまま走っている。
スノー曰く普段から飛行服と制服、そして運動服と着替えているらしく、一々着替えるのは面倒ではないか?と聞いてみたが……。



「少なくともFAFではこの様な感じでした。
地球ではどうだったかは知りませんが……」



(だもんなぁ……)

「宮藤!しっかり走らんかぁ!」

「は、はぁい!」

美緒の叱責で思考を打ち切り、疎かになっていた足運びを再び速めたのだった。



「も、もう駄目……」

「私もぉ……」

「……」

腕立て伏せの最中、二人が力なく地面に伏したのを余所に、スノーは黙々とトレーニングを消化していくが、流石にここまで来るとスノーの肌にも汗が浮き出ていた。
傷が完全に癒えたとは言え、血液の回復まではこれまで満足に出来ていなかったからもあるが、長時間敵地の上空を飛ぶという任務は、体力的にかなりの負担がある。
ヨーロッパの北から偏西風に乗り、少ない推力でガリアからイスパニア上空まで飛び、そのまま501の基地に戻ってくるという長距離偵察は、並みの体力では出来ないのだ。

「ス、スノー大尉、は、大丈夫、なんですか?」

「……必要だから、やるまで、です。
それよりも、貴女方の体力の方が、心配ですが?」

「えうう……」

スノーの息を切らせ、腕立てをしながら言った返答に、芳佳は何とも言えない表情になる。
つい先月まで、成績的には中程度の平凡な女学生であったのだから、体力的に不安が残るのは仕方無いとも言える。
そうこうしている内にスノーは自分のトレーニングを終わらせ、傍においてあったクーラーボックスから水筒を取り出し、中に入っているスポーツ飲料水で軽く口の中を濯ぎ、追加でまた口の中に入れ、そのまま飲み込むと一息吐いた。

「ふぅ……、では坂本少佐、本日のトレーニングが終わりましたので、体を流してから自室に戻ります」

「ああ、ご苦労だったな」

美緒の短い返事に敬礼で応えた後、スノーは隊舎の方へと歩いていった。

「あ、あんなに訓練したのに、なんで直ぐに動けるんですか~」

「病み上がりなのにあそこまで動ける人なんて聞いた事ありませんよぉ……」

「まああいつはJAMと言う異生体と、毎日のように戦っていたらしいからな。
それなりに体作りをしているという訳だ。
……お前達も半月後にはあそこまでとは言わないが、基礎訓練手順をへばらずに最後までやれるだけの体力をつけて貰うからな?
返事は!?」

「「はい!」」

「よし!では腕立て再開!」



その後、午後は新人二人と一緒の時間に、スノーはカールスラント組の機種転換訓練を行っていた。
自分の復帰訓練も兼ねているので、随伴飛行での参加となる。

「現在高度約6000フィート(約1830m)、速度320ノット(約590km/h)で飛行中。
中佐、機体の調子はどうでしょうか?」

「悪くは無いけど、この速度に慣れるのはまだ掛かりそうね。
一度実戦で使用しないと感が掴めないわ」

「今は速度調節に慣れて頂くしかありません。
では3カウント後右80度ロール、そのまま緩旋回に入ります。速度を落とさないように注意してください。
行きます……3,2,1,今」

「っく……」

ロール後旋回に入り、ミーナは体にかかる不慣れな荷重に抗う。
もちろん実戦ではこんな流れ作業はしない。
今行っているのは、ジェットストライカーと言うじゃじゃ馬の癖を、しっかりと掴む為の基礎飛行訓練であり、慣れた後はスノーとの模擬戦に入る予定だ。
その後十数分ほどかけて訓練を行い、一度降りた頃には軽く息が上がり、汗を拭うミーナの姿があった。
先に飛んだバルクホルン達も格納庫の壁で休んでいる。

「やっぱり、今までのストライカーと同じようには行かないわね。
魔導エンジンの出力もそれに伴う速度や運動性の変化も、全てにおいて違いすぎるわ」

「今は無理をせずに機材に慣れるべきかと、確かに早く扱いたいと言う気持ちはおありかと思いますが、無理をしてやられてもつまらないでしょう。
実戦でも暫くは基本に沿った戦闘機動をお願いします」

「ええ……、それにしても、貴女が訓練の手伝いを申し出てくれるなんて思いもしなかったわ」

「ただの『妖精』の気紛れです」

「ふふ、猫の間違いじゃないかしら?
まあ、それはともかくとして、なんとか6月までには間に合わせないといけないわね。
それまで頼むわよ?」

「了解です。
あとはあの新人達の出来上がり次第ですが……」

「宮藤さんも初日にしては良くやっている方よ。
最初に実戦を経験した事もあって胆力もあるし、飛び入りの新兵と言う見方では合格よ」

「正規の訓練兵としてはやはり不安ですか」

スノーの言にミーナは黙って頷いた。
いくら強大な魔力量があっても、正規コースで訓練を受けた新兵と、臨時の飛び入りとでは隊の歩調が合わせ難い。
中には上手く溶け込む者も居るが、そのような稀有な人材はほんの一握りだ。

「もし5月末までにその兆しが無ければ、宮藤さんをこの基地に置く事になるわ」

「貴重な航空魔女医官ですが……、そうなった場合は致し方ないですね」



先週辺りから言っている6月の作戦、それはノルマンディー方面の上陸・橋頭堡確保作戦、通称オーバーロード作戦の事だ。
動員兵員数は約25万人、これは同時に上陸する戦車やそれを支援する航空機と艦船の乗員も含まれている。
参加国はリベリオン、ブリタニア、扶桑を主軸に、ガリアやカールスラント、オストマルク等のネウロイから追い出された国々が参加し、作戦手順から投入する人員とそれを支える物資まで綿密に打ち合わせを行い、そこにFAFの航空支援も盛り込んだ一大反攻作戦である。

手順はまず各国とFAFの航空機と航空ウィッチにより、ガリア上空のネウロイの巣への攻略作戦が実施、これを撃滅する。
次に各国海軍の艦砲射撃で地上のネウロイを攻撃し、空挺降下した歩兵とFAFのBAX-4で上陸地点を確保、海上から揚陸艇で一気に物資と追加の戦車や歩兵を送り込む。
その後ノルマンディー地方を制圧して防衛線を構築、前線航空基地と物資集積所を建設し、進軍拠点としての場所を確保するのが全容だ。

この作戦は第一段階に全てかかっているといって良いもので、第一段階であるネウロイの巣攻略が失敗すれば、作戦は全て中止する事も決定されており、それ故にこの第一段階でFAFは航空戦力の4割を投入し、先に扶桑から来た赤城を筆頭に、各国から戦艦と航空母艦多数が参加する予定だ。



「それは私たちも同じ条件だけれど……、これは初期生産型でエンジンは本来搭載される物だけれど、これ以降のものはFAFが提供したエンジンが搭載される予定なのよね?」

「はい、中佐達が使っている物はターボジェット方式で、私のメイヴやFAF所属機は、殆どがターボファン方式となっています。
今はカールスラントとリベリオンの共同開発で、ターボファン搭載型のMe262が試験飛行中だそうです。
昨年辺りからルーデル大佐を召喚し、新しい対地攻撃ユニットの開発にも手を出しているようで、もう試作機は出来ているとか」

「あのルーデル大佐が……ちょっと考えたくは無いわね」

「……もしかしたら30年早くあれが出来る可能性がありますか」

スノーの呟きにミーナは首を傾げたが、ルーデル大佐の事を知っている彼女からすれば、どのような物が来ようとも諦めるつもりだった。
FAFが来てからここ数年で、ジェット技術と電子技術は飛躍的に進歩した。
とある科学検証誌では、FAFから給与された技術で、電子・工業技術は20年進歩したと豪語していたのも、記憶に新しい。
その進歩技術でルーデル大佐が開発に協力する対地攻撃ストライカー、考えただけで頭が痛くなる事柄だが、そんなミーナの思考にストップをかけたのは、スノーの一言だった。

「安心しても良いかと、今の彼女が使用しているスツーカG型よりは、まともな機体な筈ですから、それに開発の進歩度は順調で、あとは誘導兵器の開発だけだとか」

「やっぱりリベリオンは大国ね。
技術力ではカールスラントも負けてはいないけれど、潤沢な資金があるのはやっぱり羨ましいわ」

「リチャード・サムおじさんは、良い取引をする相手には気前がいいですからね」

「そのリチャードおじさんも、良い牛が無ければ仕事ができないのよ?」

「我々は屠殺業者に成った覚えはありませんけどね」

冗談を言い合い二人は少し笑う。
その後技術畑の話に花を咲かせた後、二人は分かれた。
既に日は傾き空が朱色に染まっている。
スノーが夕焼けに染まった滑走路に向かうと、ちょうど飛行訓練を終えた芳佳とリーネ、そして訓練の指導をしていた美緒と、その付き添いのペリーヌが居た。

「お疲れ様です坂本少佐、クロステルマン中尉」

「おお、スノーか!
どうだ、体の調子は?」

「好調です。
次の戦術偵察行動には支障は無いかと」

背を正し、腰辺りに両手を組んで自らの状態を報告する。
それらが流れるように行われるのを見て、美緒はスノーの返答が虚偽ではないと理解する。
負傷してから約1週間の快癒宣言、芳佳の治癒魔法で傷が癒えたのもそうだが、足りなくなった血液の造血を早める為にホウレン草やレバーなど、鉄分が多い食材を自ら調理して摂ったのも大きい。

「ミーナとの飛行訓練は私も見ていた。
ブランクもなさそうだし前線に出てもいいかもしれないな。
ミーナもお前と一緒に飛んでその事を確認しただろうし、文句はあるまい」

「私よりもミーナ中佐等カールスラント組の方が心配ですが、暫くはMe262を訓練飛行で使うだけに留め、実戦でコツを掴むまでBf109で出撃するのも手かと」

「それもそうだな……。
見た限りMe262の速度と火力は魅力だが、確かに慣れない機材で作戦に参加するのは悪手だな」

「あ、あの坂本少佐」

そんな二人の様子に申し訳なさそうにペリーヌが声を掛けた。

「ん?ああ、そうだった。
じゃあ追加の飛行訓練を始めるか。
スノー、お前は宮藤達の事を頼む」

「了解しました」

スノーの返答を聞いて美緒とペリーヌが同時に空へと昇って行く。
メイヴやFAFの戦闘機に比べればのんびりした上昇だが、それでもこの世界で最高戦力であるウィッチの証明でもあった。

「ビショップ軍曹、宮藤軍曹、今の気分は?」

「つ、疲れました……」

「た、立てれませ~ん!」

まだ息を切らし、仰向けになりながら答える二人を見て、スノーは今後どうするべきか思案する。
一番は勿論体力の増強に念頭を置くべきだが、飛行訓練にも力を入れたい美緒の気持ちも分かるが、今は戦力の確保が不可欠である。
戦いに対する甘さは抜けないが士気に余裕がある芳佳より、自分を過小評価しすぎるリーネの方が問題だろう。

(ビショップ軍曹は戦果を上げれば自信を付けそうではありますが、その前に私達ベテラン組みが撃墜してしまいますから……いっそ、撃墜するチャンスを与えてみるのも手ですか)

足元でへばっている新人達を余所にスノーは思案するのであった。





と言うわけで9-1となります。
しかしなんと申しましょうか、遅くて申し訳ない限りです。
変に凝って色んなシチュエーション考えた上、本決定が当たり障りのない無難な場面ばかりと言う……。
反省はここまでにして、ちらちらっと感想を見ます。
今更ながら、このような遅作にお付き合い頂いている読者の皆様方には頭が上がらないばかりです。
皆様のご期待に沿えるように、エンディングを二通り考えていますがどちらも「うぅん?」と思う物です。
一方は無難な王道路線、もう一方はやや感情に任せてスノーボードハーフパイプのように捻じ込む路線、どちらも上手い手とはいえない物です。
決まらなかった時は激流に身を任せてナニカされる方針で行きます。
物語りもやっと中盤戦、D-DAYは成功する(過程は考えうる限りの鬼畜路線で)と若干ネタばれしながら本日はここまで、次回にお会いしましょう。
ノシ



[28945] Report 9-2
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2014/05/04 09:03
Report 9-2
Dead Copy ②





「本日はミーナ達ジェットストライカーとの異機種編隊訓練を行う。
装備は万が一ネウロイが現れた場合と、実戦と同じ状態にする為実弾を携行、各員は安全装置が働いている事を確認するように!」

翌日の朝、美緒とミーナの前には夜間飛行で魔力を消耗しているサーニャ以外の、501メンバーが各々の装備を持ちながら美緒の話を聞いていた。

「尚、今日は基地防衛に配備されているBAX-4は、メンテナンス中との事だが、詳しくはスノーから話して貰う」

美緒の言葉が終わるか終わらないかで、スノーが全員から見える位置に移動する。

「BAX-4は現在、先の赤城防衛の際に出現した電子戦機型のJAMに対抗する為、プログラムのアップデート中です。
本日の昼前には作業が終わる予定ですが、それまで基地の対空能力が低下します。
勿論緊急時にはアップデート作業を中断し、防衛体制に付かせますが、再起動に少々時間が掛かる為その点に留意してください」

「スノー、質問良いか?」

一通り説明を終えたスノーにバルクホルンが質問する。

「なんでしょう?バルクホルン大尉」

「その再起動にはどれくらいかかるんだ?
機密じゃなければ話して欲しいのだが」

「別に機密と言うほどではありません。
それと質問の答えですが、再起動から火器に火が入るまで1分程です」

「分かった。ありがとう」

「それと、同時に現れたJAMの対空ミサイルですが、あれは今この基地に配備されているBAX-4では迎撃出来ません。
と言うのも、射程距離に入った後撃墜するまでの時間で、既にこの基地が加害圏内に入るからです」

「現状ではスノー大尉以外はあのJAMの兵器を撃墜した経験がありません。
現在対空車両型のBAX-4がFAFで開発中だけれど、いずれにしろスノー大尉が頼みになるわ。
その時はお願いね」

「了解」

スノーの返答にミーナは頷いた後、編成を組んだ紙を取り出す。

「では編成を言うわね。
私が率いる第一小隊はイェーガー大尉、ユーティライネン中尉、そしてルッキーニ少尉」

「「「はい!」」」

「第二小隊は小隊長に坂本少佐、部隊員としてバルクホルン大尉、そしてビショップ軍曹に宮藤軍曹」

「わかった」
「「了解!」」
「りょ、了解!」

「第三小隊は小隊長にスノー大尉、続いてハルトマン中尉にクロステルマン中尉」

「了解」
「了解しましたわ(なんで私は少佐の所じゃないの!)」
「りょうかい~(ペリーヌを見ていると飽きないなぁ~)」

隊分けを発表した後小隊毎に解散し、各自飛ぶ準備をしてから空へと舞い上がった。

『各自速度を300ノットで維持、きつくなったら各小隊長に言う事』

ミーナの声に各隊員たちが返事を返す。
そしてスノーは海峡の対岸にある街、カレーの街並みをストライカーに装着されている可視光・赤外線カメラが捕らえる。
煉瓦造りで美麗な街であったであろう街並みは、燃えた灰と熱と海風で痛んで風化した煉瓦が道路と、廃棄された車両やまだ健在である建物を覆っている。

「……」

後ろを飛んでいるであろうペリーヌは何も言わないが、微かに憤るような気配を感じた。
偵察飛行の際に、彼女の領地も偵察範囲に含まれておりその撮影も行ったが、破壊された農家の家屋や彼女の持ち城と打ち捨てられた畑があり、ミーナからはペリーヌの心情に配慮して、空撮写真を見せないようにと厳命されている。
そもそも国を失った事もなく、根本的な感覚が違うので下手に気を使うのも避けているのが現状だ。

「それにしてもスノーのストライカーはこっちに比べると静かだねぇ」

「ターボジェット型は排気音が大きいですから、ヴィルケ中佐にも言いましたが、新しいエンジンもカールスラントとリベリオンで開発中ですし、もう暫くすればそちらに換装されるかと」

「燃費も良くなるといいなぁ~。
これ、加速性は悪くないんだけれど、ちょっと気を抜くと魔法力を結構持ってかれるから扱いにくいんだよね」

「機械と言うのは大抵そのような物です。
勿論効率が良いと言う意見には同意しますが、徐々に問題箇所を洗い出すのも使用者の義務です。
ハルトマン中尉がそう思うのでしたら、一使用者の意見として出しておくべきです」

「うーん……そうだよねぇ。
じゃあこの訓練が終わったらミーナにそう言おうかなぁ」

ここで、自分で書いて出すという行動を取らないのが、ハルトマンらしいとスノーは苦笑する。
FAFでも報告書を面倒臭がる隊員は何人か見たが、ここまで露骨に表すのも珍しい。

「そう言うのは自分で書いて出した方がよろしいかと思いましてよ。
身内とは言え、他の人が書いた物が自分の思った事と違うなんて事は、よくある話ですわ」

「うぇ、ここにも説教やきが居た……」

「私は事実を言ったまでですわ」

「クロステルマン中尉の言うとおりです。
自分が感じた事、自分が取った行動の意図を限りなく正しく表せられるのは、自分だけです」

自分の今まで書いたブッカーとミーナへの『感想文』を思い出す。
ブッカーからは命令された形だったが、それが必要な情報だと彼が判断して自分に命令した物で、今でも偵察行動へ出るたびにミーナへの報告書にそれを付け加えている。
ミーナには何の意味があるのかと、当初はネウロイへの憎しみから言われたが、意図を説明し理解しているようで、それからは少々考え直してスノーからの『感想文』を読んでいる節があったではあった。
その甲斐があってか、今では501基地に所属しているウィッチ達にもネウロイ、もしくはJAMと接触した場合において、スノーと同じような物を書かせており、被占領地となった祖国への思いが一際強いバルクホルンとペリーヌも、しぶしぶながら『感想文』を書いている。

「でもこの光像式照準機?とかいうのは良いね。
これ少し重くなるけど、ジャイロで照準補正してくれるから便利だよ~」

エーリカが自分の手に持った機関砲の照準機を、こつこつと指しながら言う。
順来の歩兵用の携行火器(MG42や13mm機銃は怪しいが)ではなく、単発威力が高い航空機に使うような機関砲を装備しているので、Me262の飛行特性から射撃機会が少なくなると判断され、遠くから狙いが付けやすくなるように光像式照準機が搭載されていた。

「その進化型が大尉のHMDでしたわね」

「ええ、これには照準器に加え、方位盤、速度計、高度計、各種危険表示が表示されます。
勿論、使いこなすにはそれなりの教育は必要になりますが」

「それが問題なんだよねぇ~」

「それはハルトマン中尉だけの問題でしてよ」

「ええ~!」

そんな二人の様子を眺めながらスノーは微笑んでいる時、突然スノーのHMDにアラート表示と警告音が鳴り響く。
それネウロイの巣を監視している偵察ポッドが、ネウロイの出現を示唆する情報を送る際に鳴らす類の物だ。

「大尉どうかなさいまして?」

「どうしたのスノー?」

スノーの雰囲気が急変し、それを察した二人がスノーに聞き返す。

「……了解、501部隊は警戒に入り、ネウロイ襲来に備える。
バンシーからの援護が必要かは返答までしばし待て」

「「!」」

「……ミーナ中佐、ネウロイ出現の報が入りました。
……数は2、ガリアとカールスラント方面から飛来、レーダー上での表示なのでどちらかが囮の可能性がありますが、バンシーからの援護は必要でしょうか?
……了解、復唱、バンシーからの援護は無し、私は戦術偵察行動に入ります。
こちらB-3、バンシーからの援護は必要無しと判断、501部隊は戦闘行動に入る。以上」

それから僅かに間をおいてミーナから指示が入った。

『皆、FAFからネウロイ出現の報が入ったわ。
数は2、ガリアとカールスラントから来ているそうよ。
スノー大尉、状況を説明して頂戴』

「了解、こちらスノーです。
先ほども言いましたが、現在ガリアとカールスラントからネウロイが接近中です。
ガリア方面からは大型低速タイプ、カールスラント方面からは大型高速タイプが501基地に接近中、どちらかが本命だと思われますが、本命は坂本少佐の魔眼でしか判別できない為、今回は坂本少佐の目利きの早さが勝負になると思われます」

『ありがとうスノー大尉、では班を3つに再編します。
まず速力のある私を含めたジェットストライカー組のA班は高速タイプへ向かい、レシプロ型のB班は低速タイプをお願い。
そしてイェーガー大尉とルッキーニ少尉、そして新人の二人を含めたC班は基地に戻します。

そしてスノーさんには戦術偵察について貰いますが、必要と判断した場合援護をお願いします。
以上で質問のある人は居る?……居ないようね。
では迎撃開始!』

『『「了解!」』』

「では、私は坂本少佐の元へ向かいますわ」

「了解、健闘を祈る」

「あたしもミーナに合流するよ。
二人とも頑張ってね~!」

3人は各々に言い合うと散開、与えられた役割を果たしに向かった。



高度23,000m。
空気さえも凍り付きそうな極寒の空域であり、生身の人間では1分も持たないであろう空間に、スノーはその身を投げ出していた。
勿論遊覧飛行のためではなく、眼下で繰り広げられているウィッチ達の戦いを観察する為である。

『こちら坂本隊、目標を確認した!
だがコアが確認できない!』

『こちらはまだ接敵していないわ。
でも万が一の場合があるから、そちらのネウロイは排除して!』

『了解した。
皆、聞いたとおりだ!
攻撃開始!』

美緒の隊が攻撃を開始した。
低速のネウロイは動きが緩慢で、とても本気でブリタニアの防空圏に進行する気配は無いが、高速型の方はこの世界のレシプロ型ストライカーと同等の速度で、真っ直ぐ501基地に向かっている。

「B-3から501戦闘部隊へ、高速型は501基地へ飛行中。
速度は約330ノット、A班は会敵時に注意」

『了解、情報感謝するわ。
B班はこのまま会敵地点への飛行を続行!』

「……」

スノーはHMDに写されるレーダーと赤外線画像に注視し、本命であるとされる高速型にそのセンサー群を向ける。
数瞬後、アラームと共に警告文が表示された。

―Cation:Neuroi Large Missle 3 Detection―

その表示は、メイヴに搭載されているコンピューターが、このネウロイを大型ミサイルと断定し、しかも4基あると判断した事を示していた。

「A班へ、そちらのネウロイは大型ミサイルと判断、数は3」

『大型ミサイル、しかも3つも!?』

『さっきは1つって言ってなかったか!?』

「密集して一つの影と誤認させられました。
……待機しているB-1への戦術偵察行動委譲準備、いつでも援護に入れるように待機します」

B-1は今のFAFに配備されている11機の戦術偵察機FRX-99レイフ、その内の1機の事である。
十分過ぎる戦闘能力と戦術偵察能力を備えており、それに目を付けたSCSが採用しブーメラン戦隊を再編成、最高管理者はB-3のスノーとなっている。

『いえ、その気持ちだけで十分よ。
それに今回はこのストライカーの有用性を実証する機会、現戦力のままで迎撃を試みるわ』

「了解、委譲準備を取り消し、引き続き戦術偵察に専念します。
目標補足まであと30秒……最適の健闘を」

『ありがとう……A班目標を捕捉、反転して攻撃を開始するわ!
トゥルーデ、ハルトマンさん!』

『了解した!』

『は~い!』

『こちらB班!
目標を撃墜したがコアが無かった!
本命はA班だ!』

美緒から低速型撃墜の報が入るが、ダミーであったらしくミーナ達A班に注意を促す。

『C班も了解!
A班が漏らしたら迎撃できるように準備しておく!』

『残念だけどこっちが全部貰うよ~!
うりゃー!』

メイヴの光学カメラが攻撃を加えるエーリカを捉える。
僅かに遅れて射撃位置に着いたミーナとバルクホルンも射撃を開始し、各々にミサイル型のネウロイ後部に攻撃を当て、著しく破損させたが、そこからネウロイは驚くべき行動に出た。
破損した後部を切り離し、さらに増速したのだ。

「ネウロイ、ブースターを分離。
A班は衝突に注意」

『っく、当たって!』

『当たれ!』

『あぶな!?』

ミーナとバルクホルンは避けながら攻撃を加え2機を撃墜する。
だが切り離した後部パーツの落下コースに、もろに被っていたエーリカが回避に専念してしまい、機速が落ちて逃してしまう。

『しまった!』

『C班、3機のうち2機は落としたが、残り1機が抜けた!』

『了解!
後はこっちがやるよ!』

『弾幕張って~、避けたところを狙い撃ち~』

既に迎撃ポイントに着いているシャーリーとルッキーニが射撃を開始、だがネウロイのミサイルはその弾幕を持ち前の速度ですり抜ける。

『うげ……やばい!』

『逃げられた~!』

「……AAM-Ⅶ、シーカーオープン、FOX3」

レーダー誘導ミサイルの発射宣言を言いながら、スノーは長距離ミサイルであるAAM-Ⅶを2発発射、マッハ5以上の高速で飛翔するミサイルは正確に目標を捉え、後部の推進機関に命中し被害を与えるが、すぐさま修復に入ってしまう。

「ネウロイの速力低下を確認、ですが直ぐにもとの速度域に戻ります。
ビショップ、宮藤両軍曹、後は頼みます」

『『え、えぇ!?』』

突然のスノーの提案に新人二人が激しく狼狽する。



[28945] Report 9-3
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2014/05/29 13:47
Report 9-3
Dead Copy ③





「大丈夫です。
特にビショップ軍曹、貴女はそれだけの技量を既に有しています。
訓練をよく思い出し、実行するだけです」

『そ、そんな……事……』

『……行こう、リネットさん』

スノーの言葉に自信無さ気な声を出すリーネに、芳佳が意を決したように応える。
スノー本人は何食わぬ顔で、既にアップロードが終わり、対空戦闘の準備が完了したBAX-4と待機しているレイフに、二人が撃ち漏らした際に備えての指示を出していた。
JAMのミサイルと比べると速度がかなり遅い為、まだ対処できる時間的余裕があるが、それでも僅かな時間しかない。

『私は、私はお父さんの作ったこれで、ブリタニアの人達を守りたい。
行方不明になって、死んだって言われているけれど、きっと、お父さんは私にこう言う筈。
「芳佳が守りたいと思ったその気持ちに、自分が持っている力を使いなさい」って』

『……』

芳佳の言葉にリーネが黙り込む。
他の隊員達も静かに芳佳の言葉に耳を傾けていた。

『私……私だって、この国を守りたい』

ほんの少ししてリーネが自分の気持ちを吐露する。

『お姉ちゃんみたいにな立派なウィッチになって、このブリタニアを守りたい!
でも、ネウロイを、JAMを前にすると、怖くなって……』

『じゃあ、一緒に頑張ろう!
私だってネウロイもJAMも怖いし、一人じゃ何も出来ないかもしれない。
でも、私達は一人じゃないから、だから一緒に敵を倒そうよ!』

『宮藤さん……、うん、わたしも、わたしも戦う!
宮藤さんと一緒に!』

「ネウロイミサイル、基地着弾まであと1分」

『撃ちます!』

何発か射撃する音をインカムが拾う。
だが……。

『当たらない!』

『どうしたら……』

『……!宮藤さん、私とタイミングを合わせて!
あと……っ、射撃が安定しないから、下から支えて欲しいの』

新人二人ではこの手の相手は分が悪すぎたか?とスノーが考えていると、リーネは何か考えたのか芳佳にそう言った。

(下……ああ、肩車ですか)

それで安定するかどうかは疑問だが、誰かに物理的に支えてくれるというのは、それだけでも手ぶれ防止になると考えたのだろう……と推察した。

『もう少し引き付けて……今!』

インカムから扶桑皇国の13mm機関銃と、ブリタニアのボーイズ対装甲ライフルの発砲音が響く。
数瞬後、レーダー上からネウロイミサイルの反応が消えた。

「ネウロイミサイルの迎撃に成功」

『や、やったぁ!』

『やったねリネットさん!
って、うわわ!』

光学カメラが芳佳とリーネが居た辺りに、ネウロイの破片が広範囲に散らばるのを捉える。
だがレーダー上には二人の反応があるので、シールドを張って防いだようだ。

『二人とも、よくやってくれたわ。
それからリーネさん』

『は、はい!』

『……初戦果おめでとう。
これで貴女も立派な魔女よ』

『っ……はい!』

感極まった返事が聞こえた所で作戦は終了した。
ミーナ達はMe262の報告書を、スノーが取得した戦闘データを記した書類と共に、ノイエ・カールスラントへ送ると、その日の待機は解いた。
そしてその日の夜……。



「さて、ではリーネさんの初戦果と宮藤さんの初出撃を祝して、乾杯!」

「「かんぱーい!」」

出撃前のサーニャも居る為、グラスに注いだジュースを乾杯の音頭と主に飲み干す。
場所はミーティングルームで、メンバー全員が集まって料理に舌鼓を打っている中、ミーナと坂本は壁際に居た。

「しかし、スノーがあんな提案をするとは思いもしなかったな」

「そうね。
でもお陰でリーネさんに自信を持たせられた。
賭けの部分も大きかったけれど、この収穫は騎士鉄十字勲章物よ」

「宮藤の奴も大分慣れて来たようにも見える。
これで、後顧の憂いはなくなったな」

互いに愛称で呼び合うようになった芳佳とリーネに、二人の戦いを近くで見ていたシャーリーとルッキーニが、その戦いぶりを皆に伝えている。
スノーはと言うと……。

「ヴィルケ中佐、坂本少佐」

「おお、スノーか。
今回は見事だったな」

「いえ、私としてもこの計画に賛同して頂いた中佐等に感謝しています。
……ここではなんですから」

「ええ、皆、私達はこれで抜けるけれど、あまり遅くまで起きないようにね!」

「「はーい!」」
「分かりましたわ」
「了解した」

各々の返事を聞いた後、三人はミーティングルームから出て行き、スノーの部屋へと入って行く。
防諜対策がしっかりされているので、秘密の会話をするには持ってこいなのだ。

「相変わらずここは涼しいというか、寒いくらいだな」

「コンピューターに熱は大敵ですから、それに副産物としてこんな事も出来ますし」

そう言いながらスノーが出したのは、アルコールが入っているシャンパンだ。
ガリアが定義しているシャンパンの条件を満たしているそれは、今では大変貴重な物となっている。
それを同じく十分に冷えたグラスに注ごうとコルクを外そうとした時、外したシャンパンのコルクがLED蛍光灯のカバーを貫いた。

「「「……」」」

「始末書者だわ。スノー大尉」

「始末書が怖くてこの仕事は出来ません」

「ふふ、そうだな」

暫く天井を見上げたミーナの言葉に、スノーは親友が言った台詞で返し、それを聞いた美緒が笑いながら同意する。
そうこうしている内にシャンパンをグラスに注ぎ終えた。

「では、オーバーロード作戦の成功と、この素晴らしい銘酒を作る製法が廃れないうちに、ガリアを開放できる事を祈って」

「「「乾杯」」」

軽くグラスが鳴る音が響く。

「しかしシャンパンなんてよく手に入れたものだな。
今では好事家しか手に入れていないと聞いているが」

「ああ、それですか。
私の写真と物々交換で手に入れました。
こう言う時はあの写真は役に立ちます」

「今更だけど、こんな世の中で良いのかしら……」

シャンパンの入手経路を聞いたミーナが頭を抱える。
エースウィッチの写真と言うのはそれだけで価値がある分、流通量なども相まってかなりのプレミアがついていたりする代物だ。
特にスノーは何時帰るか分からないウィッチな上に、活動する高度が遥か上空なので、その希少性は押して知るべしと言ったところである。

「……それにしてもここ数ヶ月見てきたがスノー、お前は少し変わったな」

「そうでしょうか?」

「ええ、少なくとも自分の部屋でシャンパンを振舞うなんて、前からは想像も出来なかったわ。
アフリカで何かあったの?」

「……」

スノーは黙ったままグラスの中身を一気に飲み干す。
それだけでも何かあったというのは明白だが、二人はスノーが自分から話すのを待つ。

「あの激戦は、撤退戦の事を思い出すには十分でした。
只、それだけです」



「どう言う事なんだろうな」

「分からないわ」

シャンパンを飲み終えた後、ミーナと美緒の二人は隊長執務室に居た。
話題は勿論スノーについてである。

「何か隠している雰囲気ではあるけれど、聞いてもさっきみたいにもっともらしい言葉ではぐらかされるだけね」

「それでも何か……何処か所在無さ気と言うのかしら、居場所が分からなくなっているという感じがするの。
勿論あの言葉も事実スノーが感じた事だと思うわ。
でも、本当の疑問はもっと別の場所にあるんじゃないかしら」

「ふむん……」

ミーナの言葉に美緒も腕を組んで思い返す。
だがそれでも答えが見つからず、結局就寝時間になるまで二人は思案したのだった。





さて、9話も無事終わりでございます。
個人的には2人の戦闘シーンがあっさりし過ぎたのが心残りですが、今後は飽きるぐらい戦闘場面を書くつもりなので、口直しと思っていただければ幸いです。
少し寄り道もしましたが、無事目標達成できて一安心と言った所、仕事の方も忙しくなってきたのでまた不定期になると思いますが、今後ともお付き合いの程お願いいたします。
それではまた次回お会いしましょう!



[28945] Report 10
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b117bfd6
Date: 2014/07/31 23:17
Report 10
道標




「これがウルトラマリン社のスパイトフルと」

「ロッグヒート社のP-80ね。
本当にこの短期間で実用化させるなんて、伊達に大国を名乗っているわけではないわね。
はぁ……、やっと私達カールスラント組がジェットストライカーを使いこなせるようになって、通常通りに出撃できるようになったのに、ここに来てまた熟成訓練を行うなんて……しかも」

美緒とミーナがまた新しくきたストライカーユニットに溜息を吐く。
時は既に5月の中頃、大規模作戦開始まで幾許もない時期に、リーネとシャーリーに新型が受領されたのだ。
その苦労は推して知るべしだろう。
スパイトフルはスピットファイアの後継ストライカーで、レシプロだがその最高速度は700キロを超える高速ストライカーだが、その生産数は極少数にとどまり、ウルトラマリンの斜陽が見え始めたとも言われている。
そしてP-80はリベリオンのロッグヒート社が開発したジェットストライカーで、成長著しいジェットストライカー部門で先駆けて、リベリオンから送り出された最新鋭ストライカーである。
両方とも既に装備する人員はスパイトフルはリーネに、P-80はシャーリーに決まっていた。
リーネに新型が渡されたのはまだ変な癖がついておらず、同じウルトラマリン製ストライカーと言う理由だったが、シャーリーの方は……。

―スピードレース出場者だし、事故とは言え音速超えたんだから問題ないよね?(意訳)―
「ってどういう事よー!」

夜が明けたばかりの格納庫でミーナが絶叫した。
時は5月の上旬、これまでに襲ってきたネウロイは4機、JAMは40機程で、比較的穏やかな襲撃であったが、それでも新人二人は実力を高めて行き、バルクホルンの負傷やシャーリーのP-51の暴走という難事も起きたが、501は『平常通り』に運営されていたのであった。

「おぉ!なんだこれぇ!?」

「貴女の母国の新型ストライカーの様ですね。
機種番号は確かP-80だったかと、あとはバズーカ砲と12.7mmの重機関銃が1基ずつ搬入される予定ですが」

「おお、スノーにシャーリーか!
ちょっとミーナがまた暴走しているからなんとかしてくれ!」

ちょうど入ってきたスノーとシャーリーに、四つん這いで頭を抱えるミーナを宥め様としていた美緒が二人を呼ぶ。

「ああ、また何かありましたか」

「そこであたしを見るな」

スノーが言いながらシャーリーを見ると、彼女はスノーのこめかみを突くがそれだけである。
この間でもシャーリーが起こした事故(正確にはルッキーニが起こしたのだが)で、音速を遥かに超える速度を出せるスノーに手を焼かせたばかりで、その負い目もあるのだろう。

「まだレシプロでやりたいこともあったんだけどなぁ……」

ミーナを落ち着かせた後のシャーリーが放った第一声がそれであった。

「仕方がないでしょう。
貴女のストライカーはストライカーの自動排出機能で全損しましたし、リベリオン陸軍の高官達は事故とはいえ音速を体験した貴女に期待している。
理由はともあれ、貴女の固有魔法で正式に音速の壁が突破できる機会がめぐってきたのですから、それに乗ってみては如何ですか?」

「んー、まあそれもそうなんだけどねぇ」

額にトントンと指を打ちながらシャーリーは考え込む。
どうやらジェットストライカーと今まで使っていたP-51を天秤で測っているようだ。

「武装の方も届いているようですね。
M19ロケット砲と……M2重機関銃の連装型ですか。
ロケット砲は初めて見ますが、M2の性能はアフリカでも見ましたからこれだけでも十分な戦力になるでしょう」

「そんなにすごい物なのか?」

「少し訓練した兵士が800m先の目標へ、正確に射撃するくらいには。
それが連装されているのですから精度こそ単装劣ると思いますが、威力の面では十二分に働くかと」

「ふむ……、重量的にはミーナたちよりはマシな位か。
あとは……」

「う~ん、弱ったなぁ……」

シャーリーがまだ呻っていた。
しかもチラッチラッとスノーの方に目配せしてくるので、彼女に一押しもらいたいの気持ちは分かるのだが、この上なく鬱陶しく感じるスノーであった。

「はぁ……、レシプロでの速度記録かジェットでの新しい世界を見たいのかで迷っているのでしたら、いっそ両方やってしまえば良いのでは?
なんの間違えか知りませんが、来週には新しいP-51が来ますし」

未だに頭を悩ませているシャーリーに全員の視線が向き、スノーがため息を吐きながらそう言うと、シャーリーの目がキランと光る。

「そうだ!その手があった!
いやぁ、やっぱりスノーは頭良いよなぁ!」

スノーにしてみれば面倒臭くなったから言った言葉であったのだが、シャーリーは本気で捉えたらしく鼻息荒く意気込む。
そんな彼女を見て三人は再び溜息を吐いた。

「まあシャーリーの件についてはおいといて、次はリーネだな」

「彼女の問題点は、我々からの期待で潰れないかという事でしたが、自信の無さは宮藤軍曹との交友関係と今までの戦闘で自信は付いている筈ですし、これに関しては杞憂かと思われます」

「私もその心配もないと思うわ。
確かに前の状態だったらその可能性もあったでしょうけれど、今では宮藤さんと言う友人としても僚機としても、一緒に成長できるこの上ないパートナーが居る。
それはとても貴重なことよ」

ミーナは格納庫のシャッターからヨーロッパの方へと目を向ける。
彼女だけではない。
今このブリタニアやイスパニア、各国に避難した人々やウィッチ達は、あの大撤退戦で多くの友人や僚機、或いは恋人を失っている。

(必ず、必ず貴方と私の故郷を取り戻してみせる。
そしてネウロイもJAMも全て倒した暁には、私と貴方の夢を叶えて、貴方の墓石に歌を送るわ。
だから、空の向こうから私たちを見守っていて……クルト)

まもなく来るであろうD-DAYに、そして故人となった恋人へ決意を新たにする。
そんなミーナの様子をスノーと美緒は格納庫から見ていた。

「私がもう少し援護をしていれば助けられたかもしれないのですが」

「仕方ない……というのは簡単だが、自分の事を完璧に予測できるのは不可能だ。
それなのに他人の事をどうにかしようというのは、我侭だと私は思う。
ただ……」

スノーの言葉に美緒はそう返しながらそこで一拍を置き。

「もう少しマシな人生に出来る手段があるのなら、それに全力で向かっていくのもありなんじゃないかとも、つい思ってしまうがな」

それが人の強さなのか弱さなのか分からんが、と付け加えて美緒は苦笑いをする。
今では名を馳せる彼女でも、最初の頃は思い悩んだりああすれば良かったなど、後悔することもあったのだろう、それ故に重みがある言葉だった。

「まあその為にも戦士には休暇が必要なわけだが……」

「?……ああ、そう言えばここに来てから休みを取っていませんでしたね」

「そろそろ上の方から睨まれるからこの辺で取ってもらいたいんだが、何か予定はあるか?」

「いえ、書類整理だけで特には……。
戦域偵察も無人機が代行できるまでになりましたし、正直言って暇です」

自分の愛機を摩りながらスノーは言う。
確かにここ最近は偵察目的での出撃も減ってきており、その要因には無人機の独自行動ルーチンの最適化と、戦闘偵察機の数がスノーを合わせて13機にまで増えたことにある。

「と言っても取り分け何かすることも……いえ」

無い……と言いかけたスノーが、ふっと言葉を変える。

「偶には慣れない事にチャレンジすることも大事でしょうか」

「「?」」

要領を得ないスノーの発言に美緒とミーナは首を傾げた。



その後非常に珍しくスノーが4日間の休暇をとったのだが、何を思ったのか木片と工作用のナイフに、グラインダーを持参し部屋に引きこもっており、501メンバーは滑走路脇で基礎トレーニングを行っていた。

「いったい何やってるんだろうな」

時折鳴り響くグラインダーの音を聞きながら美緒はそう呟いた。
木材を持ち込んだと言う事は何らかの木工製品を作るのだろうが、スノーが何を作るのかは皆目見当が付かなかったし、スノー自身がそう言った事に興味を持ったのは今回が初めてだったのだ。

「私は、何と無く分かってきた気がするわ」

ミーナは旗を掲げられている格納庫ハッチの上へ目を向ける。
そこには501メンバーの旗が掲げられ、その隣にはFAFの旗と特殊戦第5飛行隊の……ブーメラン戦隊の旗もあった。

「お、出てきたぞ」

トレーニングが終わりしばらく雑談し、シャーリーの声で皆が滑走路に目を向けると、そこにはブーメランを持ったスノーの姿があった。

「ブーメラン?」

「願掛けかな?
なんかそんな感じがするんだよな~」

夜間任務が無くトレーニングに参加していたサーニャと、彼女に終始付き添っていたエイラが呟く。
大空で敵を探し出し戦う彼女達にとって、この距離で個人とその所持物を識別するなど造作も無い。
ミーナが手を振るとスノーもそれに答えるように手を振り、ブーメランの状態を確認し携帯端末を見た跡、ブーメランを投げる体勢に入る。
気象状況は最近になって新しく打ち上げたFAF製の人工衛星-この場合は機工衛星か-から、随時データが各国の気象庁とスノーの元に送信されている。

「投げるぞ」

一瞬スノーの体が力むような予備動作を行い、理想的なフォームでブーメランを投げる。
スノーの手から離れたブーメランは勢い良く飛ぶ。

「おお、飛んだな」

「でも帰って来るんでしょうか」

ブーメランは高速で回転しながら大気を突き進み、高度を上げていき自らの自転軸を変化させながらカーブを始める。
そしてそれがピーク達したときブーメランは見事に旋回を完了させ、スノーが居る場所へのコースを取り飛翔を続け、待ち構えていたスノーはブーメランをキャッチした。
滑走路と格納庫から見物していた者達が拍手と指笛を鳴らす。
その中でスノーは初夏を迎えようとしている空を仰ぎ、作戦の日が近づいている事を感じた。





短くはありますが、これにてReport10は終わりです。
他の作品で言えば1章が終わった辺りでしょうか、個人的にはそう感じています。
次はもう少し時間が飛んでいよいよD-DAYの導入、2章目が始まる予定、読者方に番外編も考えています(あのスツーカ大佐の近況とか)。
では次回にまたお会いしましょう。
GoodLuck。



[28945] Report 10.5
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b117bfd6
Date: 2014/08/10 08:37
Report 10.5
魔王の血統





1944年5月
リベリオン合衆国 カンザス州

一面の緑の上に広がる青空に、小さい影と大きい影があった。
それは大きな直線翼と尾翼上部にあるエンジンポッドを持ち、翼下面には大量の爆弾とロケットランチャーを搭載し、鳴り響くエンジン音を大地に轟かせその威容を知らしめていた。
両者の違いはそれが乗り物か履き物かなのと、搭載している武装のサイズだけである。

「こちらスツーカ1、これより爆撃コースに入る」

『管制よりスツーカ1へ、了解した。
爆撃を許可する』

「スツーカ1了解、行くぞアーデルハイド」

『了解、大佐』

両者は共に爆撃コースに入る。
目標はネウロイに見立てた無数のターゲットである。
緩降下で目標を定め大佐と呼ばれた女性、ハンナ・U・ルーデル大佐は60キロ爆弾を、後続の航空機も250キロ爆弾を次々に目標へ投下をはじめる。
両機は目標の遥か上を通過、数瞬後には質量体の落下音が響くと同時に地面が炸裂、目標は次々に破砕され後に残ったのはターゲットを構成していた骨組みと、大きなクレーターだけである。

「こちらスツーカ1、目標の約半数を撃滅、これより機銃とロケットによる制圧射撃を開始する」

『こちら管制、了解した。
制圧射撃を開始せよ』

簡素なやり取りをしたあと両機は旋回、再度目標群へとその矛先を向ける。
ルーデル大佐の手にはGAU-8、30mmガトリング砲を携行しており、その威力は次の瞬間に発揮された。
ロケットを目標に向けて済射した後、その凶悪な武器が文字通り火を噴く。
船舶の警笛をさらに鋭くしたような音が鳴り響き、ロケット弾が着弾した場所以外にタングステンと炸薬を使った徹甲榴弾が降り注ぎ、目標群は次々と枯れた木の葉が巻き上がるように散る。

「ふふふ……」

射撃は土煙が辺りを包み込み視界不良まで行った。
この光景を見るたびにルーデルの口元は狂喜に歪み、ターゲットの影に地上に蔓延る多脚型ネウロイの姿を重ねる。

「地上観測班、どうだ?」

目標群を一通り掃射してその上を通過した後、一呼吸置いてから観測班へ通信を入れる。

『少し待ってください……ああ、やっと晴れました。
目標は全て撃破、繰り返す目標は全て撃破!』

「素晴らしい!やはり何度やってもこの機体は素晴らしいな!」

『これが、後数年早く出来ていれば……』

「何、そう悲観する事も無い。
後少しで祖国奪還の為の作戦が開始される。
その時には我々の後輩達がこれを使ってあのネウロイ共を叩き潰してくれるだろう」
(その時には我々の爆撃航空団も出撃させて貰えるように、ガランド少将に上申してみるか。
出来れば私も出撃したいが……なに、その許可が出なければ独断で出撃するまでだ)

(なんて考えているんだろうなぁ……)

許可されなくても独断で自ら出撃するき満々なのを、相方であるアーデルハイドは見抜いていた。
魔力減衰が始まってからも出撃ジャンキーである彼女に、長年付き合っているのだからその程度は手に取るように分かる。

「さて、帰投しよう。
管制、本日の全兵装テスト終了した。
帰投する」

『マッコーネル管制了解、スツーカ1、2は帰投せよ』

帰投の許可をもらい、一人と一機は旋回し基地へ帰還するコースを取った。



「スツーカのG型も捨てがたいが、やはりこのA-10は素晴らしい!
早くこのストライカーでネウロイ共を駆逐してやりたいな。
爆弾やロケットを大量に搭載できるのもこいつの魅力だが、何より頑丈さと……」

A-10……スノーとFAFからの技術提供で電子機器技術が発達した今、強力な対地攻撃機を必要としているカールスラントと、生産能力と資源を持つリベリオンが共同開発した対地専用の攻撃機である。
タフさは苛烈な環境下で放置した後も稼動を確認し、外装の構成部品やエンジンポッドがストライカー本体の上に乗せているなどから、万が一ネウロイの実弾系兵装による対空攻撃で被弾しても、主翼でガード出来るとされている。
ミサイルなどの武装は無いが、航空機型の物でも250キロ爆弾や対地ロケットを、最大8トンまで積載可能。
ストライカー型でもスノーのストライカーを参考にし、順来の手持ちから延伸した翼への搭載に切り替え、125キロ爆弾を最大で6発搭載可能であり、ロケット弾ならフリーガーハマーの発射機を2基搭載でき、魔導エンジンはこれらの兵装をこさえても、固定武装を外さずに飛行可能なパワーを持っている。
だがこれらの兵装はA-10にとっておまけに過ぎなかった。

「このGAU-8……30mmガトリング砲と言う『主砲』、これの弾薬を最大で1350発も搭載できるのが最高だ!
これさえあればどんなネウロイでも粉微塵に出来るだろう!」

「まあ確かに、これがあれば大抵のネウロイは倒せそうですね。
航空機型の方も火力面は問題ないでしょうし、多脚戦車やジグラットの対空射撃にも十分耐えるかと思いますし、整備性も良好です。
空飛ぶ戦車とはこういうのを言うのかもしれませんね」

GAU-8の攻撃性能に惚れ惚れしているルーデルを余所に、アーデルハイドは感想を漏らす。
対地攻撃屋としては攻撃性はもちろんだが、特に頑丈である事と整備性の良さは命に関わる問題だ。
その点で言えばA-10はその速度も相まって、見事合格と言ったところだろう。

「フェルチルド社の開発陣には礼を言わないとな」

「あとはFAFの技術提供でしょうか。
あの機械軍隊が来なかったら大佐がまだ飛べる状態で、このA-10に見える(まみえる)事は無かったでしょう」

「FAFか……。
そう言えばかの軍団のエースウィッチ、確かウィンド・スノー大尉だったか?彼女とは一度は会ってみたいな」

「確かに彼女の支援のお陰で、予想よりも少ない被害でガリア脱出がなりましたからね。
ですが、未だに組織内の全貌を明らかにしないのは、些か常軌を逸した行動かと」

アーデルハイドはルーデルにそう呟く。
スノーの支援行動によって当初予測されていた兵士の損耗率の内、おおよそ2割が助かっている。
だがそれと同時に、FAFと言うのは恐ろしいまでに秘密主義を貫いている。
一応アフリカの砂漠のど真ん中に本拠地があると言う話だが、その正確な位置、規模、工廠の有無、輸送能力、戦力の総数、どれもが不明であり底が見えないのが現状だ。要求してくる物資の量でどうにか試算する試みも行ったが、それでもかなりの規模と言うだけしかわからなかった。
一度大規模な探索チームが編成され、無断で探索をする動きが各国連携してあったが、参加した隊員の殆どが、ある程度探索すると体調不良や嘔吐、下痢などに悩まされ帰還する破目になったのは、各国の上層部にとって記憶に新しい。
余談ではあるが、探索チームに襲った謎の腹痛や吐き気の原因は、FAFの基地から発信されている強力なレーダー波による物であり、範囲外から出たあとは無事体調が回復したとの事である。

「だが昨今の技術開発の先進もかの軍団のお陰でもある。
余り詮索すると妖精たちの乙女に嫌われるぞ?
乙女の心を除き見れるのは神でも許されないことだ」

「はあ……」

牧師の家庭で生まれたにしては随分な言い草だなと、アーデルハイドは思った。
ちなみにルーデルの両親も、既にノイエ・カールスラントへ疎開済みであり、今はそこの教会で孤児達の世話をしている。

「しかしこのA-10は本当に素晴らしい。
まるでもう一人の自分がここに居るようだ」

今さっきまで履いていたストライカーにルーデルは頬ずりをする。
もう何十回も聴いている言葉だが、本当にそれくらいしか形容できないほど気に入っているのだろう。

「ではスツーカはお払い箱で?」

「馬鹿を言うな。
あれはあれで良い物だし、なにより今まで私と共に頑張って来た愛機だ。
そう簡単に手放さんよ」

(ストライカーは個人の私物ではない筈ですが……、まあこの人なら皇帝陛下なり、ガランド少将なりに頼み込むつもりなのだろう)

そう結論付けてアーデルハイドは自分が乗っていたA-10に向き直る。
確かにルーデルと言う人間の精神と生き様を形にしたような航空機だ。
これならば多少の被弾でも、もしかしたら片側の翼が全て半壊しても、帰還できるだろうと言えるくらい力強さにあふれている。

(大佐には内緒だが、偶に大佐に守られているような錯覚に陥る。
確かに、これは大佐の求めていたものなのだろう)

アーデルハイドは夕焼けに染まるA-10を、A-10からルーデルが整備員の手で引き剥がされるまで見続けた。





「アーデルハイド!休んでいる暇は無いぞ。出撃だ!」

「ええっと……何処にです?」

既に分かりきっている質問をアーデルハイドは言う。
嗚呼、また隊員たちが苦労する――と思いながら。

「決まっている。
D-DAY、ノルマンディーだ!」





はい、と言うわけでもうこれは決定事項です。
「ルーデルがA-10でやってきたINノルマンディー」……どんな地獄だ。
きっと皆さんなら必ずと言っていいほど思いついたネタの筈、機体形状や機体名称が同じについては突っ込んだら負けです。
あとフェルチルド社はかのフェアチャイルド社を、自分なりにストパン世界に落とし込んだ名称ですので、公式の名称ではありません。
とまあ本日はここまで、では次の話までGoodLuck。



[28945] Report 11
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b117bfd6
Date: 2014/08/31 13:34
Report 11
妖精と魔王





1944年5月28日
501JSW基地

「では……、改めて本日よりこの基地へ赴任……と言うより、駐屯する事となったウィッチ達を紹介するわ」

ブリーフィングルームでミーナが憔悴したような顔で言う。
いや憔悴と言うよりも、徹夜で目当てのものを買うために並び終え、それを買いそびれた時か、もしくは道端で水溜りを避けたら、そこに噛み潰したガムがあってお気に入りのヒールを汚した時のそれだ。
それもこれも隣に居るウィッチのせいだが……。
ちなみにハルトマンは満面の笑み、そしてバルクホルンはミーナと同様にげんなりとした顔になっている。

「ハンナ・U・ルーデルだ。
階級は大佐、カールスラント空軍第二急降下爆撃航空団の司令をしている。
ここで全員を紹介すると時間もかかるだろうと言う事で、今は各中隊長と私の副官の紹介とさせて貰おう。
ではアーデルハイド、君からだ」

「はっ!」

その後、アーデルハイドを筆頭に部下の紹介を終えたルーデルだが、ブリーフィングルームにスノーの姿が無いのに気が付いた。

「失礼、ミーナ中佐。
スノー大尉は何処かな?見かけないようだが」

「彼女なら戦術偵察中です。
今はイスパニア国境付近かと」

「あそこか……噂には聞いていたが、本当に航続距離が長いんだな」

「偏西風も利用していますからかなりのものです。
彼女の機体……メイヴは安定性はありませんが、その分空力的に優れた物でして機動性は良好、それなのにエンジンはかなりの大出力なので、ミリタリー出力でも音速を突破する能力を持ち、それに加えて搭載兵装も豊富で対地対空両面で活躍できる能力もあり、電子戦野力も高く多くの『目』も持っています」

「ほう……まさに風の女神と言った所か。
そう言えばこのブリタニアにはメイヴ女王の話があったな。
恐らく命名者はブリタニア人だろう、良いセンスをしている」

ルーデルの言葉にミーナは目を見張る。
スノーの使っている機体、メイヴの命名者は彼女の上司ブッカー少佐である。
彼はブリタニア出身で数々の神話や伝承を知っており、中でも扶桑関係には相当強いと言うのはスノーから聞かされている。
それを話から出た単語だけで大体の把握をしてしまっているルーデルに、改めてミーナは尊敬と畏怖の念を心に刻み込む。

「しかし、ううむ……。
ここに来る目的の半分は彼女に会う事だったのだが、早速空振りになったな」

「ですが大佐、ここには作戦終了まで居るのですし、あせる必要は無いかと思います。
それに彼女も今日明日居なくなるわけではありませんから」

「まあそれもそうだな。
ゆっくり待つとしようか」



その後はバルクホルンによる施設の紹介と配置、ルーデルの団員達へ割り振られた宿舎の部屋割り、私室から格納庫への最短距離へのルートを説明し、その格納庫でルーデルはスノーの帰還を待つことにした。
バルクホルンからは夕方には帰ってくると言われているので、時間的にも考えに耽るにはちょうど良かった。

(スノー・ウィンド大尉、FAF戦術戦闘航空軍団、戦術戦闘航空団の特殊航空戦隊、第五飛行隊所属の三番機。
現在は未知地球FAF先行派遣軍の外交官兼、第501統合戦闘航空団の派遣人員として出向中。
現在彼女に指示できるのはFAFのコンピューター群と、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐のみ、その他の人間からは例え大将でも指示は受け付けず、要請と言う形でのみ支援と言う形で作戦に参加さえることしか出来ない。
ふふふ、羅列してみればありえないほど自己中心的な要望だな。
私も人のことは言えないが)

改めてスノーの来歴を頭の中で諳んじ、自分も同じ程度の要望を出していたのを思い出して苦笑する。
自己保全と戦闘意欲を満たすことだけに特化した要望だ。
並の人間が出すような物ではないとルーデルは思う。

(だがそれを叶えてしまう各国の重鎮も、かなりの博打好きだな。
いや、唯でさえネウロイだけで手一杯なんだ。
だからこそ文句は言えないと予測し、達成できると踏んで行動したスノー大尉と言う人間を、この目で見定めたい)

『B-3、着陸コースに入りました。
滑走路上の人員は退避して下さい』

ルーデルがそう決意を改めると同時に、管制塔からスノーが帰還する事を伝えるアナウンスが入った。

「おお、妖精女王の帰還だ」

「また大層な渾名ですね。
まあ、妖精軍団から代表で来たのですから、強ち間違っては居ないでしょうけれど」

ルーデルの台詞に傍で控えていたアーデルハイドが応える。

「彼女は間違いなく世界最高クラスのウィッチだ。
彼女に対抗できるのは、この基地に居るミーナ、坂本、ハルトマン、バルクホルン、そしてアフリカのマルセイユくらいだろう」

「世界トップ5の魔女のみですか……大佐はその中に入れないので?」

「私は対地攻撃屋だし空戦は分が悪い。
出来る限りの事はするが、恐らく時間稼ぎが精々だろうな」

(航空機型ネウロイをG型で何機も撃墜しているのにどの口が言うんだろう……)

しかもその戦果にしても、部下や同僚に分けているので実際に彼女が上げた戦果と、公式の戦果では大きく食い違ってしまっている。
アーデルハイドは内心、後の戦史家たちが苦労しそうだと思い、その時は自分も何かメモに残して役に立とうと決意する。
そんな事を思っていると、遠くから甲高いエンジン音が響いてくる。
周囲を見回しそれらしい影を見つけて目を凝らすと、夕日の光を受けて煌く銀髪をたなびかせたウィッチが一名、滑走路に進入してくる。

「……滑走路進入にしては速いな」

「一旦滑走路の上を通過してから再進入して降りるのでは?
なにしろ高高度域からの滑走路進入ですし、機速が速いのも仕方が無いかと」

ルーデルの疑問にアーデルハイドはそう答えるが当のウィッチ、スノーにその様子は無かくそのままギアダウン。
脚が下りたことにより速度は落ちてきているが、それでも滑走路進入に適した速度より、速い速度で降下を続けている。

「突っ込む気か!?」

スノーのありえない行動にアーデルハイドは珍しく狼狽する。
だがルーデルは、そんな副官を放って置いて仁王立ちでその行方を見つめ続け、それを目撃する。
延伸された翼が大きく仰け反り、ウィッチ自身とストライカーも使って急減速、失速寸前速度になってから接地した。

「……でたらめだが、良い腕だな」

「いや、大佐、今のを見てそれだけの感想で済ませられるのは貴女だけです!」

スノーが彼女の発進ユニットにストライカーを固定した所で、今の一部始終を見た感想を言うルーデルにアーデルハイドが突っ込む。
先ほどの着陸シークエンスがどれだけ無茶苦茶かは、現役を退いたウィッチでも分かる物だった。
やがて二人はスノーの傍までやってきた。
当のスノー本人はメイヴのセルフチェックを走らせて、各部に以上が無いかの診断待ちをしていた。
診断ソフトが画面上に文字と数字を羅列させており、傍らにはHMDが置かれている。

「……」

「帰還後の報告は良いのか?」

スノーは後ろから掛けられた声に反応し一瞥する。
そこには微笑み顔のルーデルと、少々眉間に皺を寄せたアーデルハイドの姿があった。

「……セルフチェックの結果次第です。
重大な故障があれば専属の整備班と共に修理した後ですが、軽い物であれば彼らに任せて直ぐに報告へ向かい……カールスラント空軍大佐の階級章?」

「ああ、いきなり話しかけたのは失礼だったな。
私はカールスラント空軍、試験攻撃航空団隊長のハンナ・ウルリカ・ルーデル大佐だ」

ルーデルはそう言いながら敬礼をする。

「フェアリー空軍、特殊戦第5飛行隊所属のウィンド・スノー大尉です。
そうですか、貴女があの……」

それに応えるようにスノーも答礼をする。
スノー自身もルーデルの逸話については知っていた。
某カールスラント中尉曰く、撃墜されてもネウロイ制圧圏から徒歩で生還した、右足を負傷してもストライカーを履いて出撃した等、エトセトラ、エトセトラ……。

「ではA-10の開発は」

「ああ、最高の仕上がりだ。
後は実戦での実績を積んで、そこから問題点の洗い出しと改修、そして次にはようやく量産化だな。
もっとも問題点は、私と部下達が散々飛びまわして粗方解決したが」

「……」

そんなルーデルをスノーは無表情で見つめる。
-やはりこの人物は高性能だ-内心そう思いながらルーデルと言う人間を思案する。
常人離れした戦果、『あがり』を迎えても常に隊と共に飛ぶその豪胆さ、加えてその指揮能力の高さなど枚挙に暇が無い。

「やはり貴女は侮れない。
貴女がJAMで無くて良かった。
改めてよろしくお願いします」

スノーは右手を差し伸べる。
ルーデルとアーデルハイドはスノーの行動に一瞬驚いた表情を浮かべ、ルーデルは再び不敵な表情を浮かべるとスノーの手を握る。

「ああ、こちらこそだ」

JAM殺しの妖精とネウロイ殺しの魔王、二人が会合した瞬間だった。



「では、今まで何度も言ってきたけれど、来週の欧州奪還作戦の第一段階として開始されるD-DAY、ノルマンディー方面上陸作戦の概要を説明します」

夜のブリーフィングルームにミーナの声が響く。
501とルーデル隊との挨拶は粗方済まされており、本格的な対地攻撃部隊との会合に芳佳とリーネは恐縮気味だったが、たいした問題ではなかった。

「作戦の第一段階はガリア上空のネウロイの巣の排除、これは作戦の続行か中止かを決める最重要項目です。
攻略にはFAFと連合軍の制空戦闘機部隊と、501を初めとするウィッチ隊、そして対空支援に扶桑の大和、リベリオンからはアイオワとニュージャージ、カールスラントからはシャルンホルストとグナイゼナウが担当、この戦力で持ってネウロイの巣を撃滅します」

作戦説明に使われているのは大型の液晶モニターで、そこに世話しなく各担当の部隊行動や艦砲射撃の図が示される。
ちなみにその操作はスノーが行っていた。

「第二段階ではルーデル隊各機を初めとする航空戦力と、海上からの艦砲射撃で上陸地点への面制圧を行い地上のネウロイに打撃を与え、FAFと連合軍による空挺降下で上陸地点を確保、上陸用短艇でソード、ジュノー、ゴールド、オマハ、ユタビーチへ同時上陸を開始し、後続の部隊が入るための拠点設営場所を確保します」

ネウロイの巣攻略のための概略図が消され、海上に配備された艦隊から矢印が伸び、赤色だった場所が次々と青に変わってゆく。

「第三段階ではノルマンディー地方を完全に掌握し、前線基地と物資集積所、野戦飛行場と野戦病院を開設します。
これにより欧州奪還作戦の第一段階は終了し、後日発令予定の欧州奪還作戦第2段階であるヒスパニア方面からの進撃準備まで防御、ヒスパニアからの進撃に合わせてガリア全土を奪還します。
私からの説明はこれで以上です、ルーデル大佐」

「うん、此度の作戦ではネウロイ・JAM双方からの苛烈な迎撃が待っているだろう。
だがそれはこちらも同じだけの火力集中で対応するまでだ。
人類の意地と誇り、そして何よりも愛する祖国の為に戦う皆の奮戦を期待する」

二人の説明と激励に対してブリーフィングルームの全員が各々の敬礼をする。

「スノー大尉からも何かあるか?」

そこでルーデルがスノーに話を振る。

「では、私からは一点だけルーデル隊の方々に協力要請を行います」

そう言いながらスノーはスーツケースからグリッド線を引いた紙束を取り出す。

「この紙に一番最近戦ったネウロイとの戦闘における、ネウロイに対するの感想文の記入をお願いします。
これは対ネウロイ戦の重要な戦略情報となりえるので、出来る限り自分の感情の機微も付け加えて記入してください」

そう言いながらスノーは一番前の机の上にそれを置く。
突然の感想文を書いて欲しいと言うスノーの要望に、ルーデル隊の各員が困惑の表情を浮かべ、それを見ていた501メンバーのお気楽組がニヤニヤする。

「とりあえずはそれだけの分を用意してあります。
各自好きな分だけ取って構いませんので、ご協力をお願いします。
勿論、ルーデル大佐にも」

「ふむん……、面白いな」

そう言いながらルーデルは、部下達を余所に何枚か紙を取り上げると、スノーに向き直った。

「それで、書き終えたらを君に渡せば良いのだな?
これには何の意味があるんだ?」

「意味が有るか無いかは大佐自身が決める事ではありません。
それに関しては私が決めます」

「貴様……っ!」

「待てアーデルハイド」

アーデルハイドが立ち上がりそうになったがそれをルーデルが左手で制し、スノーの青黒い瞳を凝視する。
その瞳をしばらく見続けたルーデルは左手を下げた。

「分かった。要請を受けよう。
足りなくなったら貴様の私室へ行けば良いのか?」

「はい、それで構いません。
それとご協力感謝します。ルーデル大佐」

「何、感想文など空軍学校以来だ。
皆も大尉に協力してやってくれ」

ルーデルの一声を聞いてルーデル隊のウィッチ達が何枚かずつ取っていく。
最後にアーデルハイドが取ると、スノーに向き直る。

「これに何の意味があるか分からないが、もし無駄なことだったら承知せんぞ」

そう言い残して彼女は去っていった。

「すまんな。
アーデルハイドは何時もは冷静な奴なんだが、ここに来てから……と言うよりも貴様に会ってからどうもな」

「いえ、私は気にしていませんので」

「ふふ、本当に面白い奴だ」

そう言いながらスノーの肩を軽く叩くと、ルーデルもブリーフィングルームから出て行く。

(これでネウロイに関するPAXコードは一定の基準に達することが出来る。
あとはMAcProⅡに入力して行動予測を行うだけ)

内心でスノーはそう考えていた。
それと同時に疑問が沸いて出てくる。

(しかし、私は何時の間にこれの扱い方を覚えていたのだろうか)

だがそんな疑問は専任の大尉であるバルクホルンからの説教でうやむやになってしまった。
しかしスノーならばこう考えただろう。

(私には関係ない。
私は私だ)

っと……。



[28945] 設定資料
Name: コーラルスター◆9aa2cf02 ID:b3480be7
Date: 2014/08/25 01:00
ウィンド・スノー

年齢は1941年には15歳、使い魔は妖精、固有魔法は広域探査
当初は普段は極めて無表情で無感情ではあったが、3年間の各地の共闘で僅かながらに、感情を表に出すようになった。
新しく我々の敵となったJAMに対して、異常なまでの闘争心を現し、基本的には見敵必殺を行い、時には自分の命も顧みない戦闘行為をする事もある。
ネウロイに関してはJAMと似たような部分があるものの、それ程敵意を示していない。
部屋には必要最低限の物しか置かず、唯一私物としているのは、リン・ジャクスンと著名された『ジ・インベーダー』と呼ばれる、JAMの脅威を記した本を持っている。

体型は一言で言えばスレンダーだが、僅かながらに膨らみもある。
衣服は、背中を大きく開けて短い丈の耐Gスーツ風の物を着用し、式典などにはFAFの女性用礼服を同じ様に改造したものを使っている。
戦闘の際には、網膜投影式HMD(ヘッドマウントディスプレイ)とインカムを兼用する装置を顎に付け、音声入力でディスプレイの操作が可能だが、ある程度は簡易AIで勝手に操作してくれる。



FFR-41MR 『メイヴ』

最高到達高度は2万4800m、最高速度は音速のほぼ4倍であるマッハ3.8を叩き出す強力なジェットストライカー。
高度な電子機器や偵察機材を搭載している偵察用ストライカーにも拘らず、強力なパワーアシストとエンジン出力により、似つかわしくない程の兵器搭載量がある。
その分防御力は脆弱で、シールドは飛行を保持と、その風圧と高高度環境からウィッチの身体を保護する為に使われており、物理的光学的な防御能力は皆無に等しい。
実質スノー専用のワンオフ機で予備機は無いが、現在FAFの兵器開発部が順次部品を生産中。
立体ディスプレイにより各種機器の操作や、機体の状態などが一目で分かる。

兵装は20mmガトリング砲1門、胴体下4箇所・主翼上下各2箇所にハードポイント(長射程AAM-Ⅶまたは中射程AAM-Ⅴ、短射程AAM-Ⅲを装備、典型的兵装例として、胴体内側ハードポイントのランチャーにAAM-Ⅴ各1発、胴体外側ハードポイントのランチャーにAAM-Ⅶ各1発、主翼下左右ハードポイントに連装ランチャーを介してAAM-Ⅲ4発が可能)。



フェアリー空軍(FAF)

人類が侵攻してきたJAMを超空間通路の向こう側、フェアリーと呼称された惑星に押し込む事に成功した際に、国際連合が結成した地球防衛機構が独立して出来た超国家組織。
当初こそは真っ当な軍人で構成されていたが、JAMとの戦いによる損耗率が非常に高くなり、軍事関係(主に戦闘要員)では犯罪者や社会不適合者が送り込まれる事が多くなった。
フェアリー星に出向する際には、例えサラリーマンでも階級がつけられる。
最下級の階級は少尉であり、将校のみで結成されていると言う極めて異色の軍隊。

現状では管理する人間がスノー以外に居らず、基地施設から生産施設まで全て機械化されている。
現在魔導エンジンなどの魔導関連の開発が急務となっている。



バンシー級原子力空中空母

人類史上最大の航空機。
全長687m、全幅1400m、自重だけでも9650tにもなる。
機内(艦内?)には40機の航空機を格納可能でき、自衛用に30mm近接防御火器と短距離対空ミサイルのVLS発射も搭載されている。



C-31F

FAFが所有する超大型輸送機。
胴体部と主翼部分は別々にブロック化されており、仕様変更が容易な設計となっている。輸送機タイプのC-31Fの他、胴体と主翼部に銃座を追加した対地攻撃機AC-31、無人戦闘機フリップナイト・システムを輸送するC-31M、人員輸送を目的とした旅客機型のC-31Pなどのバリエーションが存在する。



提供:FAF情報集積コンピュータ


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