第2話
その執事、搭乗
~ジオフロント正面ゲート~
「…碇シンジ君?」
碇家のガードの異常な堅さのせいで、NERVはシンジ君の写真一つ手に入れていない。
つまりDNA鑑定でもしない限り本人かどうかはわからない。
…わからないけど、こんな中学生がいるのかしら?
「そうですよ?」
シンジ君は、困ったような顔で頷く。
本当に中に入れて良いのか考えていると、シンジ君が急に近づいてきて髪の毛を抜いて、手渡してきた。
見透かされてるわね。
「ありがとう。…シンジ君とても中学生に見えないから。」
自分から髪を渡してくる以上
偽物の可能性は低いだろうし。
使徒も近づいてきてるし、サッサと連れて行くべきね。
「シンジ君、IDカード持ってるかしら?」
「はい。セバスチャン。」
ミカエリスさんがポケットからカードを出して、丁寧に渡したてくれた。
この人、シンジ君と離して置いた方が良さそうね。
「ありがとう。…じゃあ、案内するわ。えっと、ミカエリスさん?」
「はい。」
「ミカエリスさん。申し訳ないけど、これから行く所は関係者以外入れないの。ゲストルームに案内させるから、少しここで待っていて下さい。」
シンジ君が僅かに眉を顰める。
ちょっと露骨過ぎたかもしれないわね。
「仕方ないですね。」
シンジ君は、あっさりと二つ返事で了承した。
予想外にすんなりと了承されたせいで拍子抜けしてしまった。
「では、シンジ様。いってらっしゃいませ。赤木様、主をお願いします。」
ミカエリスさんは深々と頭を下げる。
己の主を案じるその姿に、私は少し罪悪感を感じたが、すぐに振り払った。
「わかりました。…じゃあシンジ君、行きましょうか。」
そう言ってリツコはゲートに入った。
頭を下げたセバスチャンがニヤリと笑っていたことに気づけずに。
「わかりました。」
シンジは一瞬、セバスチャンと同種の笑みを浮かべ、先を行くリツコについて行った。
~発令所~
「では、後を頼む。」
ゲンドウはそう冬月に言い残し、発令所から出ていった。
「三年ぶりの対面、か。」
冬月は自分にしか聞こえない小さな声でそう呟いた。
~ジオフロント内通路~
ミサトがいないせいで、いきなりシナリオが狂ったわね。
本来ならシンジ君が興味を持つようにエヴァの話するはずだった。
「ねぇ、シンジ君。」
「あっ、おば…お姉さん、御名前教えてもらえますか?」
「…自己紹介が遅れたわね。
技術局第一課、E計画担当責任者、赤木リツコよ。」
おばっ⁈… 私はまだ30歳よ!まだいけるハズよ!
「よろしくお願いします、赤木さん。ところでE計画って何ですか?」
「リツコでいいわよ?あまり詳しくは言えないけど、貴方のお父さんの碇司令が進めてるNERVの計画の一つよ。」
…何も反応しないわね。
シンジ君、あまり表情変わらないから読めないわ。
「へー。ちなみに、E計画ってボクに関係あります?」
表情を変えず世間話のていでシンジ君が質問してくる。
何かを知っていて鎌をかけているともとれるけど、父親が話題に出た事に反応して質問してきただけかも知れない。
「どうかしらね?それより何で2人だけで来たの?迎えが行かなかった?」
「あぁ、写真の人の事ですか?その人なら2時間待っても来ませんでしたよ?」
シンジ君は、ポケットを漁って写真を取り出して見せてくれた。
その写真に写った親友の顔と浴びるように酒を呑むイメージが重なって少し泣きそうになった。
~ケージ~
明かりの無いケージを進み、淀みない足取りで、ある程度歩いた辺りでリツコさんは足を止めた。
リツコさんに合わせて歩いたボクは2、3度転びかけた。
リツコさん、何であんなスイスイ進めるんだろう?
「碇シンジ君、あなたに見せたいものがあるの。」
その言葉と共にケージに眩い光が灯る。
ボクの目の前には巨大な顔。
普通ビックリするんだろうけど
…見慣れてるからなぁ。
ボクに特に驚いた様子も無いせいでリツコさんは少し焦っているようだった。
「ひ、人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。
その初号機、我々人類の最後の切り札よ。」
「これが父の仕事ですか?」
長いリツコさんの口上を聞き終えた所で、彼等にとって予定通りの質問をした。
「そうだ!…久しぶりだな、シンジ。」
一般人ならば押し黙ってしまうような威圧感を出しながらゲンドウが現れる。
約10年振りに会った息子に対して向ける類のものではないが、ゲンドウにとってはそれが普通なんだろう。
「これはこれは、六分儀司令。お久しぶりですね。」
嫌味を混ぜて挨拶する。
ゲンドウは碇の姓に拘っているし、ちょっとした復讐だ。
「六分儀?あの人は、貴方のお父さんの碇司令よ?」
「アレ?赤木さん知らないんですか?そこの六分儀殿は裁判所からの要請を全て跳ね除けて法廷に一度も出廷しなかったので、ボクの親権と碇の姓の剥奪、それから碇家の資産の返却を命じられているんですよ。そもそもボクはここに一向に返って来ない、資産の返却を求めに来たんです。」
ボクは一息に言い切った。
練習した甲斐があった。
「ふっ。・・・出撃。」
何事もなかったかのようにゲンドウが命令する。
ボクはただ強がっているだけだとか判断したのだろう。
ゲンドウは、シナリオ通りに進めようとする。
「はい?」
「碇シンジ君?あなたがエヴァに乗るのよ。」
リツコさんもシナリオに沿ったセリフを言う。
「六分儀殿。ボクにコレに乗れと?今、初めてコレを見たボクに?」
「そうだ。」
傲岸不遜にゲンドウは笑う。
でもヤッパリ六分儀って呼ばれるのは嫌そうだ。
「何故ボクなんですか?」
「オマエでなければ出来ない。」
「その理由は?」
「オマエが知る必要は無い。
座っているだけで構わん。」
「…キャッチボールになりませんね。」
ボクは大袈裟に肩を竦め呆れを表現し、黙ることにした。
「乗るなら早くしろ。で、なければ帰れ!」
ボクは無視して黙っている。
ゲンドウにはシカトが一番効くということは知っている。
「奴め、ここに気付いたか。」
「シンジ君、時間が無いわ。」
「・・・」
リツコさんの声にも反応しない。
ゲンドウは苛立ち混じりに冬月に命令する。
「チッ、使えん奴め。冬月、レイを起こしてくれ。」
「使えるかね?」
「死んでいるわけではない。」
「分かった。」
ストレッチャーに乗せらた重傷の綾波が医師の格好をした男2人に押され、入ってくる。
「レイ・・・」
「はい。」
「予備が使えなくなった。もう一度だ。」
「はい・・・」
周りのスタッフがボクを責めるように見てくる。舌打ちしてる奴までいた。
…顔覚えたからね。
「初号機のコアユニットを、L-00タイプに切り替えて、再起動!」
リツコさんはゲンドウのシナリオを進めるために声を張り上げる。
「くっ・・・!はぁっ、はぁっ!」
綾波が立ち上がろうとするが、
力を上手く入れれないのか倒れてしまう。
「シンジ‼何時までそこにいる気だ‼臆病者に用は無い‼サッサと帰れ‼」
「シンジ君。このままじゃこの娘が、貴方の代わりに乗ることになるのよ?」
ゲンドウの咆哮からのリツコさんの良心に訴えかけるコンボに、キレイに嵌ったスタッフ達が責める様にボクを睨む。
「それがどうかしたんですか?」
「どうかしたって…あの傷で乗ったら最悪、あの子は死んでしまうのよ?」
「リツコさん間違ってますよ。乗せるのは貴方達でしょ?
そういうのは、死ぬじゃなくて殺すって言うんですよ?」
周りのスタッフをできる限り冷たい眼をして見渡す。
ゲンドウと綾波以外の全員が顔から血の気を失なった。
「保安部‼アイツをプラグに放り込め‼」
命令に従ってボクの両腕を取った、屈強な保安部員2人にプラグの入り口へ引っ張られて行く。
余りにも予定通りでつい笑いがこぼれた。
~発令所~
リツコがモニターのシンジにエヴァの説明をしている。
「シンジ君、何かわからない所あった?」
「わからないことばかりですよ。」
シンジは肩を竦める。
「それもそうよね…」
その時、発令所の扉が開き葛城ミサトが飛び込んで来た。
「状況はっ⁉」
「アラ?重役出勤ね。ミサト。」
「NNの衝撃波に巻き込まれたのよ。」
リツコのイヤミに拗ねた様にミサトが言い訳する。
「それより状況……って、サードチルドレン⁉何で此処に⁇」
「自力で辿り着いてくれたわ。誰かさんが遅刻したお陰でね。」
「そっ、そりは……。そ、それよりシンジ君。あたしは作戦部長の葛城ミサトよん。ミサトでいいわ、よろしくね。」
ミサトはシンジに話しかけることで強引に話題を変える。
「よろしくお願いします。ミサトさん。」
シンジの素直な返事にミサトは満足そうに頷いた。
自分がシンジを見捨てたことはもう記憶にないようだ。
エヴァの起動準備が始められる。
「第三次冷却、終了。」
「頭蓋グリル、完了停止。接続を解除。」
「77まで問題なし。」
「了解、停止信号プラグ、排出終了。」
「了解、エントリープラグ挿入。」
「脊髄連動システムを解放、接続準備。」
「探査針、打ち込み完了。」
「外部装甲、地下外部品点検ハッチは基準範囲内。プラス02から、マイナス05を維持。」
「E形態、固定終了。」
「了解。第一次コンタクト。」
「エントリープラグ、注水。」
プラグ内にLCLが溜まって行く。
「なんですか、コレ?」
「大丈夫、それはLCLよ。肺がLCLで満たされれば、直接血液に酸素を取り込んでくれます。すぐに慣れるわ。」
「へぇ。うわぁ、血の味…」
シンジは血の味と臭いに顔を顰める。
「我慢なさい!男の子でしょ!」
「男女差別は良くないですよ、ミサトさん。」
そう言って、シンジは静かに目を閉じた。
「主電源接続接続完了。」
「了解。」
「第二次コンタクトに入ります。インターフェイスを接続。」
「A10神経接続、異常なし。」
「LCL転化状態は正常。」
「思考形態は、日本語を基礎原則としてフィックス。初期コンタクト、全て問題なし。」
「コミュニケーション回線、開きます。ルート1405まで、オールクリア。シナプス計測、シンクロ率…66,6%⁉」
マヤの声に発令所がざわつく。
「ウソ⁉ありえないわ‼」
「アスカでさえ最初は10%台だったのに…。」
ミサトとリツコは、シンクロ率の異常な高さに唖然としている。
「大丈夫なのか?」
「ヤツがそれだけ強く母親を求めているということだ。問題無い。」
最上段の2人にもこれは予想外だったようだ。それはともかくシンジをヤツと呼ぶゲンドウ、実の息子を敵としてみているようだ。
~初号機内、精神世界~
(初号機の魂は何処だろ?)
どこまであるのか解らない、真っ白な空間を泳ぐようにしてボクは進んでいく。
この中の何処かに初号機の魂があるはずなんだけど…
(シンジ。)
黄色い光のもやがボクの前に集まる。
この感覚は、
(…碇ユイさん。)
もやが女性の形を作っていく。
(私の事が分かるの?)
(もちろん。)
わからない訳が無い。
貴方は目的の一つなのだから。
(ああ、嬉しいわ。シンジ、私を受け入れて。そうすれば私が貴方を守ってあげるわ。)
(守ってあげる?その必要はないよ。)
(シンジ。貴方はこれから使徒と闘うことになるの。だからエヴァの力を引き出す必要があるのよ。)
碇ユイは幼子に言い聞かせるかのような声音でボクに話しかけてくる。
これ以上この声を聞きたくない
し、本題に入ろう。
(碇ユイさん、保管計画を止める気はある?)
(なんで貴方がそれを知ってるの⁈)
(理由なんていいよ。…どうなの?)
(…貴方は保管計画を否定するの?)
碇ユイのボクを見る目が、少しづつ敵に向けるものに変わっていく。
(決まってる。一つになるなんてつまら無いんだよ。
バラバラだからこそ、楽しいんだ。)
赤い海は何も産み出さなかった。人間はそれぞれ違うから未来を楽しめるんだ。
(…私の願いを否定するの?貴方の母親の願いなのよ?)
碇ユイは懇願するように問いかけてくる。…母親ね。
(…母親だから、僕が止めるんだよ。)
(そう…残念だけど保管計画は諦めないわ。)
碇ユイの決意を込めた視線がボクを射抜く。
どんな説得をしたとしてもこの人は考えを変えないだろう。
ボクには、そう感じられた。
(わかった…サヨナラ母さん。)
言葉と共にシンジの右手の甲が光だし、契約書が浮かび上がる。
(な、何なの⁉)
さすがに驚いてるね。
意外と予定外のことに狼狽えるタイプなのかも知れない。
(貴方がいる限り保管計画は止まらない。だからボクは、貴方を消し去る。)
彼はボクの復讐を果たす。
ボクは保管計画の可能性を断つ。
それが、ボク達の契約。
(命令だ、プライド。
…喰い殺せ。)
契約書が一際強い光を放つ。
獅子を模した魔獣が現れた。
『グオォォォォォォォォッ‼』
咆哮をあげ、獅子が碇ユイに喰らいついた。
碇ユイの魂は悲鳴をあげる間も無く、一瞬の内に獅子に喰い殺された。
碇ユイを食い終え、
振り向いた獅子は不満気な眼でボクを見ている。
(物足りなかったか?今度はたくさん食べさせてあげるから、今はそれで我慢してくれ。)
獅子は渋々頷き、己の影に溶けるように消えた。
(さてと、初号機!)
シンジの前に紫のもやが現れ、人を形どっていく。
もやは、長い黒髪に紫の瞳を持つ18歳位の女性になった。紫の瞳には限界まで涙が溜まっている。
(久しぶりだね。)
(シンジッ‼)
抑えきれず、涙を流しながら初号機がシンジに抱きつく。
赤い世界で初号機は宇宙を漂流していたため、シンジと会うのは約200年ぶりということになる。
その間初号機は、ずっと碇ユイに支配されていた。
何も無い世界で体を動かすこともできない。
その苦痛は推し量れない。
シンジはしっかり初号機を受け止め、キツく抱きしめ返した。
(もう大丈夫だよ。)
安心して、シンジの言葉に初号機は花が咲くような笑顔で応えた。
(そういえば、初号機?)
(何ですか?)
(初号機って名前持って無いよね?)
(…はい。)
初号機は寂しそうに俯く。
(それじゃあ、ボクがつけてもいいかな?)
(シンジが?…是非お願いします。)
初号機は一転して満面の笑顔になる。
(うーん。シオンなんてどうかな?)
(シオン…私の名はシオン。)
シオンは確かめるように何度も自分の名を繰り返す。
シンジはそれを優しく見つめていたが余り時間が無いことを思い出し、現実世界に帰ることにした。
(そろそろサキエルが来そうだし、名残惜しいけど向こうに帰るよ。)
(わかりました。)
~プラグ内~
(コッチでは1分位か。)
精神世界では大分経っていたが、精神世界と現実世界とは時間の流れが違うようだ。
(シオン、聞こえる?)
(はい。)
(サキエルとの戦闘、ワザと暴走状態にできる?)
(可能ですが、何故ですか?シンジならサキエル如きに苦戦することなど無いと思いますが。)
シオンは不思議そうな顔をしている。
確かにシオンの言う通り今のボクなら楽にサキエルを倒せるだろう。
(できるだけ流れを変えたくないのと、君とサキエルの魂を回収して新たな器にいれるんだ。暴走中なら上手く誤魔化せるからね。)
ボクの言葉にシオンは、驚いて、喜んで、落ち込んだ。
(…私が居なくなればこの身体は動かなくなります。シンジの御気持ちは嬉しいのですが、私はこの中に残ります。)
(対策は考えてるから大丈夫だよ。…200年も一人だったんだ、自由になって欲しいんだよ。)
これは一切嘘の無い僕の本音。
~発令所~
「ハーモニクス、すべて正常値。暴走、ありません。」
マヤが最後の確認を終える。
コレでシンクロシークエンスは完全に終了したことになる。
「いけるわ。」
「・・・発進準備!!」
復讐心に濁った瞳をギラつかせ、ミサトは指示をだした。
「発進準備!第一ロックボルト外せ!」
「形状確認。」
「アンビリカルブリッジ、移動開始!」
「第二ロックボルト外せ!」
「第一拘束具、除去。同じく、第二拘束具を除去。第一番から十五番までの、安全装置を解除。」
「解除確認。現在、初号機の状況はフリー。」
「外部電源、充電完了。外部電源接続、異常なし。」
「了解、EVA初号機、射出口へ!」
エヴァが射出口に載せられる。
「進路クリヤー、オールグリーン。」
「発進準備完了!」
「了解。・・・構いませんね?」
ミサトはゲンドウの方を向き形だけの許可を求める。
「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り我々に未来は無い。」
ゲンドウはシナリオの始まりに笑みを浮かべる。
「シンジ君、準備はいい?」
「…いいですよ。」
ミサトは大きく息を吸い込む。
「エヴァンゲリオン初号機発進!」
轟音を伴い初号機を載せたリフトが上昇していく。
「シンジ君、死なないで。」
ミサトの呟きは轟音に掻き消され、誰の耳にも入らなかった。
~戦闘域~
第3使徒サキエルの前に、紫の鬼がその姿をあらわした。
~発令所~
「シンジ君、今は歩くことだけを考えて。」
戦場で聞くとは思えない命令。
しかし、発令所の全員が真面目な顔をしている。
果てしなく不安な光景だった。
「…六分儀司令は座っているだけでいいと仰いましたが?」
それを聞いたミサトの対応は最悪のものだった。
「いーから歩きなさい‼命令よ‼」
ミサトは、立場を盾に怒鳴りつけた。その目に冷静さは無い。
「ミサトさん、今はボクと
六分儀司令が話してるんです。
六分儀司令資産を返却して頂けるならコレを動かしますよ?」
シンジは楽しそうにイヤな笑顔でゲンドウに問いかける。
「…良いだろう。」
シンジを舐めているゲンドウは踏み倒す気満々でYESをだした。
「六分儀司令の英断に感謝します。では…」
「おぉっ‼歩いた‼」
沸き立つ発令所の面々。
人類の命運をかけた闘いだというのに緊張感が欠けていた。
「うわっ‼」
真正面からサキエルに向かって
歩いていく初号機。
当然、サキエルは攻撃してくる。
攻撃され、バランスを崩した初号機が倒れる。
「シンジ君、しっかりして!早く、早く起き上がるのよ!」
サキエルは倒れた初号機を光のパイルで追撃する。
パイルは初号機の左腕に直撃した。
「ぐっ!」
(シオン、サキエルが離れたら暴走状態になって。)
(はい、シンジ。フィードバックは大丈夫なのですか?)
(痛覚神経を麻痺させてあるからね。大丈夫だよ。)
(そ、そうですか。)
「シンジ君、落ち着いて!あなたの腕じゃないのよ?」
無責任な事を言うミサト。
体に傷はなくとも心に傷を負えばその痛みは現実のものとなる。
実際にストーブに触れ火傷をした人が、スイッチの入っていないストーブに触れても火傷を負ったという事例もある。
人のイメージは現実に作用する程の力をもつのだ。
「EVAの防御システムは?」
「シグナル、作動しません!」
「フィールド、無展開!」
「だめか!」
「左腕損傷!」
「回路断線!」
モニターが次々とレッドサインをあげていく。
こうなってしまえば、発令所からできることは殆どない。
「シンジ君避けてっ!」
「ぐぁぁぁぁっ!」
続けて振るわれるパイルが頭蓋を砕いた。
格闘戦の中で避けろ、と言われてもタイムラグが大き過ぎて実行できるわけが無い。
「頭蓋前部に亀裂発生!」
「装甲がもう持たない!」
「頭部破損、損害不明。
生命維持に、問題発生。」
その報告を最後にシンジを映していたモニターが消えた。
「状況は?!」
「シンクログラフ反転、パルスが逆流しています!」
「回路遮断、せき止めて!」
「駄目です、信号拒絶、受信しません!」
「シンジ君は?!」
「モニター反応なし。生死不明!」
「初号機、完全に沈黙。」
パイルを防ごうとしていた初号機の腕が、力無く地に落ちる。
「ミサト!?」
リツコがミサトに次の指示を求める。
「ここまでね・・・。作戦中止、パイロット保護を最優先!プラグを強制射出して!」
「駄目です、完全に制御不能です!」
「なんですって!?」
悲痛な空気に包まれる発令所。
残る手段は本部の自爆しか残っていない。
絶望からか誰一人として声を発しなくなった。
サキエルが初号機から離れたその瞬間初号機の目に光が灯り、
『ルォォォォォォォォ‼』
紫の鬼神が咆哮を上げた。
「EVA、再起動!・・・そんな、動けるはずありません!」
「まさか・・・!」
「暴走・・・!」
呆然と呟くミサトとリツコ。
「勝ったな…」
「ああ。」
最上段の2人の視線の先、
モニターには初号機に殴り続けられ原型を失っていくサキエルの姿が映されていた。
次回予告
アッサリと退場する碇ユイ。
呆気無さ過ぎる?
申し訳ありません。
私の主は最初からクライマックスな御方なので。
おやシンジ様お目覚めですか?
今日は緑茶をいれてみました。
如何ですか?
次回
その執事、暗躍
あくまで、執事ですから。
後書き
ギャグに挑戦したいけど、いれるタイミングがわからないですorz