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[29061] (ネタ)嘘吐きの話(H×Hで元エイプリルフール用作品だった物)
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:cc4e1536
Date: 2011/07/28 20:57
えーなんか物凄い久しぶりに投稿する気がします。
もう二度とssは書かないだろうと思っていたのですが捜索掲示板で拙作を探している人がいるとのことでおめおめと戻ってきました。

この話は元々二年前のエイプリルフール時にネタで数分で考え作成した話が元になっていますので突っ込みどころ満載です。
一応少しは手を加えて、とりあえず1話2話を加筆修正してみましたが、突っ込みどころ満載です。

後私は名前をつけるのが下手だとの定評がありますのでオリキャラの名前は本気で出てきません。
また作者は根性が曲がってて伏線やどんでん返しが好きですが、伏線は全部回収できるとは限りません。
それでもよろしければ読んでやってください。



[29061] 1話
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:cc4e1536
Date: 2011/07/28 20:57
突っ込みどころ満載&修正したらかなり鬱な内容になりましたが、2話目後半からはお気楽な話になる予定です。



呪われた人生だった。
ただの一人も本当の友人なんか出来ず。その上家族にすら捨てられた。
勿論その程度で不幸だと嘆くつもりは無い。そんな人は探すまでも無く世界中どこにでもいるだろう。
それにずっとそんな状態だったと言うわけでもない。
少なくとも家族の温かみも知っているし、当時は友人だと思っていた人たちと遊んだ記憶もある。
実際運命のあの日までは不幸な人生では無かったと思う。
普通…平凡…そんな今から思えば金の延べ棒をいくら差し出しても手にはいらないような毎日があった。
ただ、それを知っているからこそ運命のあの日以来の絶望がより深まったのは間違いが無い。
そう、私はあの日全ての物を失った。



15歳になり高校に入り一年ながらも私は陸上部のエースとして充実した毎日を過ごしていた。
一つ年下の幼馴染の成長に日々どきどきし、また幼馴染も私を意識して背伸びしていた感じなところにまた幸せを感じる。
そんな平凡な毎日……
始まりは些細な事だったんだと思う。
ただ、順調に伸びる記録がその記録につぶされる先輩たちを、幼馴染を密かに思う女の子が私を疎ましく思い根も葉もない噂を……ほんのちいさな嘘を流したのだ。
「私は実は男である」と言う普通なら誰も信じないであろう噂を。
しかし、箸が転んでも楽しいような女子高生たちの噂話として広がるにはもってこいの話であったのだろう。
実際私は高校一年にして全国大会確実とうたわれる有名人であったし。
それに、私のハスキーボイスや女にしては高い身長。それにほどんど膨らみの無い胸などもその噂を後押しした。
私もそんな馬鹿な噂と有名税な物と流していたら、いつのまにか次に出るはずだった陸上大会の役員の耳にもその噂が届くほどになり冗談が冗談ではすまなくなる。
それに、私にはその噂をそんなまさかと完全に否定しきれない心当たりもあり一度病院で検査を受けることにした。
そう、私は15歳もうすぐ16歳になろうかと言う時にあってなおまだ生理がきていなかったのだ。



そして、結果が出た日私はすべてを失うことになった。
仮性半陰陽……一般にそう言われる症状。
本来は男なのに女の形をして産まれて来ることと聞いた。勿論そんな説明などそのときの私は聞いていられるほど落ち着いていなく後で母から聞かされたのだが……
それから私の人生は転落が始まった。
親は腫れ物を扱うように私に接するようになり。
それまでは私のことを自分達の「誇りだ」等とまわりに喋ってまわっていたはずの彼らは私の事を「悪魔の子」と呼びそれが元で私を殴らない日は無くなった。
実際田舎で生まれ育ち近所の目というものを強く意識して育ってきた彼らには私は汚物以外の何者でもなかったのだろう。
唯一味方についてくれていたはずの兄もその時の私には疎ましいものとしか思えずにやがて兄も私から離れていく。
友達は……親友と思っていたはずの子でさえ私を絶望させるだけの存在となっていた。
外に出たく無くて、でも病院には行かないと行けなくて外に出た私の目に入ってきたのは仲が良さそうに歩く幼馴染と親友の姿。
一度目があったとき等こちらの事を汚いものを見たとでも言いたげな顔をしてそのまま仲が良さそうに歩き去っていった。
親友と思っていた子ですらそんな感じであるのに他の子等はもっとひどかった。

「有名人と友達ならテレビに出れるかもと思ったのに。あ、もう話しかけないでね」

「今まで私たちの事だまして着替えとか覗いてたんでしょ。道理であんたがいると落ち着いて着替えが出来ないと思った。このヘンタイ」

「おいおい、おまえやろーだったんだって? 俺らに裸見せてみろよ。きゃはははは」

これらはその時に私がクラスメイトに話しかけられた言葉の一部だ。
その後も私はいろんなものに追い詰められていった。
自分を男だと思うことが出来ず、女の格好を続ける私を世間はより奇異の目で見る。
下手に私が有名だったのもいけなかった私は落ち着く場所も心休まるときも無く、やがて私は学校をやめ町から逃げ出していた。



何処をどう逃げたのか私は覚えていない。
でも、私がたどり着いたのは今までよりもさらに最悪な世界だった。
心に傷を抱え、高校中退。
しかし、そんな私を不況の世の中で雇ってくれるような所等無い。
気がついたら私は非合法な売春宿に男娼として流れ着いていた。
そんな世界で2年目変化が起こる。
売春宿の経営者が逮捕されたのだ。
しかし、私はその時はまだ17歳であったため逮捕されることは無く親元に引き渡される。
そして繰り返し味わう絶望と逃亡。
その後、どうやって過ごしたのか定かでない5年とその後の時には女性を装い時には男性として行う結婚詐欺。
そんな人としてどん底な生活が私が29になるまで続き。
私はついに後ろから刺されて死んだ。
最後の瞬間私の網膜に焼きついた忘れられない顔は懐かしい両親のもの。

「これで…やっと……」

そして、死体は雪山に捨てられた。





それからどれくらいのときが流れただろうか?
人はかつて起こした核戦争により滅び、地球は青い光の差さぬ死の星と化していた。
このまま世界は朽ち果てようとしていた時地球に訪れたものがいる。
その者達の気紛れにより一度は滅びた地球人類が再びスポットライトを受ける時が近づいていた。

『おーい、そっちは何かあったか?』

『いや、こっちには何も無いな。どうにもこの星はそれなりの文明を持っていたようだが、既にこの有様ではどのような星だったのか全くわからないな』

『ん、おい皆!! こっちへ来てくれ』

すでに赤い星と化し見る影も無くなった地球上空を、なんと形容すればよいのか既存の言葉で表すことが出来ないような者達がいくつかの影を地表に落としていた。
その中の一人と言っていいのだろうか?
ともかくその中の一つの影が何かを発見したのか地表に降り立つ。
そして、他の2~3の影もそれに続く。

『どうした?』

『比較的損傷の少ない死体がこの山の氷の中にあるんだ。もしかしたらこれでこの星の事が少しはわかるかもしれないぞ』

『そいつはすげえ!! お手柄じゃねえか!!』

『しかし、この体じゃどうにもなんねえな。仕方ないそれじゃあこいつの脳みそを取り出すぞ。おい、誰かこの氷ごと運ぶぞ』

そんな会話の後彼ら? は手馴れた様子で氷を運び終えるとそれを監視していた影の中でも上位にあるらしき影がさらに指示を飛ばす。

『そうだな、この脳みそは機械上で一度データを読み取って見るか。しかし、我々の機械だけではこの生物のことは理解しきれないかもしれないからな。その後この星と同じ猿形の人類が住む星の生物の脳に移植してみるか。それでこの固体の経過を見よう』

『わかりました』

『うむ、私は上位存在にこのことを報告するからそこからそこまではこの個体―そうだな『はjyhすあp』とでも名づけようの処理を行ってくれ。そして、その他は引き続きこの星の探索を続けろ』

『『『了解しました』』』








「あれ、私は一体? 何で生きているんだ?」

「……頭が痛い、何も思い出せない……私は『はjyhすあp』違うそんな名前じゃない……私は、私は……」

ここは何処だ?
暗くて狭い。
何もわからない、何もわからない。
ここが地獄なの?
地獄? 地獄って何?
頭が痛む……

あれから何日たったのだろうか、妙に代わり映えのしない毎日が続く。
壁の向こうからは人の話し声のようなものが聞こえる。
でも、聞いたことの無い言語だ。
あれから生きてた頃の記憶を取り戻していろいろ思い出したはずなのに。
これでも人を騙す為に主要な国の言葉は覚えたんだけど。
だめだ、また眠くなってきた。

っぐ、い、痛い。
何事ですかこの痛みは?
駄目、気を失ってしまう……
明るい、目がかすむ。
光が目に痛い。
物が良く見えない。
それにしても、体中が痛い。
だめ我慢が出来ない。
それに、まるで呼吸の仕方を思い出せない。
苦しい。
涙が――

「おんぎゃあーおんぎゃあー」

「さへfはへあっへjh」

「fgっづhvhrfjjsdrh」

なんだろう。
口から出てくるのは変な泣き声だけ。
それを聞いた周りにいる人達……声を聞いて始めて存在に気がついた。
その人たちは私には理解できない事を言っている。
喜んでるのか感情だけが伝わってくる。
いいや、今は疲れた。
複雑な事を考えるのはまた今度にしよう。
ともかく今は体中が痛い。
それに、なんか疲れた。
今は考えることを放棄しよう。



あれから二年が過ぎた。
どうやら私は生まれ変わってしまったらしい。
これは私にとっては何よりもつらい地獄だ。
人を信じられず、人を騙すことでしか生き方を知らない私を再び人の中に戻すとは。
しかも、人の庇護下に居なければ生きられない年齢にして。
これはどれほどの地獄でしょうか?
地獄の一つには人の世界があると聞きますがこれはまさにその内の一つにして地獄と呼ぶにふさわしい。
しかも、死ぬことも出来ない。
死のうとすると頭の中で「私は『はjyhすあp』上位者に地球人類のデータを送る為に最後の時まで生を全うすることが使命」と言う声が流れる。
私はそんな名前じゃない。
私は死にたい……
でも、私は生きなければならない。
きっと私は最後の最後まで死を拒絶するでしょう。
それこそ何をしてでも命を守るでしょう。
これはきっと呪い。
最悪な世の中を最悪な私が最悪なものたちに囲まれて生き無ければならない。
そういう呪い。
きっと私は遠からず狂うでしょう。
いえ、もうとっくに狂っているのでしょう。
そして、きっといつかこの狂気を持って上位者と呼ばれる者達に復讐するのでしょう。
ですが、今はまだ力が足りない。
何をしてでも生き抜く力を。
何を犠牲にしてでも私をもてあそんだものへの復讐を。
その為には力が必要になる。
想像もつかない力が、武力、権力、金そんなものでは足りない。
私自身の力? そんなものは信用できない。
今は考え付かない何かしらの力。
そういった力が。
早く力を身につけたい。

――そして、呪いを解き放ち私はこの最悪な世界から逃げたい――




さらに一年がたった。
どうも、親は私のことをどう扱っていいのかわからないようだ。
話しかけても興味の無い顔をされるかあからさまに無視をされ、話したかと思えば嘘を付く。
その上に男の子だというのに女の口調で話し女の服を好んで着る。
私が自分で考えてみてもこんな子供が出来たらどう扱って良いか迷う事でしょうと思う。
そして、母親の妊娠と共に私は再び捨てられた。
その時私が思ったことは、何も無かった。
ただ、これで安心な寝床と安心な食生活を失ったなと言うだけ。
捨てられた場所は流星街というところらしい。
世界中のごみが集まる場所。
まさに私にふさわしい場所。
最もどんな所であれ、私は私として生きていくだけでしょうが。



それから半年。
3歳ながらに、かつての経験を持つ私は幼子とは思えぬ怪しげな色気を放ち。
また詐欺を繰り返していた経験とこの場所で生き抜く為にと培った経験から弁が立つようになっていた。
そして、怪しげな色気を持ち大人顔負けの人を騙す才と経験をもつ私は密かに有名になっていたらしい。
そのことに気がつかず、いつもの様に出かけた私が帰ってきたとき、空き巣と出会ってしまう。
このとき私にとって幸運だった事は、その男が念使いだった事と正常な性観念を持っていた事だろう。
その男はナイフで私を刺すと金目の物を奪い逃げ去ってしまったが。
子供のこと等どうでもよかったのか私の生死を確認することなく。



その後奇跡的に生き残った私は念を習得する。
はじめは念というものを理解する事が出来ずに生死をさまよう時に見た幻覚かと思った。
ただ、感覚的にこれは体の外に出してはいけないものだと思い、体から湧き出る湯気のようなものを傷をふさぐように体の回りに纏うように意識する。
後から思うとこれが成功して私が生き残れたのにはあの呪いの影響もあったのだろうと思う。
ともかく生き残ることに成功した私はそれから1年かけて念というものについて学ぶ。
子供の体を生かしときには油断を誘い。ときには弱みを握り。またときにはじっくりと騙して最初は念と言う言葉すら知らなかったものについてのいろんな知識を集めていった。



そうして、今日は自分の系統を調べる日。
ロリコンのハンターを騙して手に入れた知識の通りに水見式という儀式を行う。
結果、葉っぱがかすかにだが揺れ動いている。

「ふむ、私は操作系ですか……私の様な特殊な生い立ちのものならばあるいは特質系かとも思ったんですが」

「まあいいでしょう。今は考え付きませんが操作系ということを最大限生かして生き延びる為に必要な能力と言うものをゆっくり考えるとしましょう」

「まずはどんな力を思いついてもいいように、それを可能にするための基礎の向上と知識を集めることに集中するとしますか」

それから1年半私は修行に費やす。
しかし、あくまでも私には念というものの才能は無いようだ。
私にある才能は唯一つ誰かを騙すと言うものだけということを痛感する。
思えばかつて生まれた時から性別を騙していたようなもの。
故に私は本当の自分と言うもので誰かに接したことが無いのだ。
そんな私に唯一つある才能が人を騙すことだったのは当然の成り行きなのだろう。
今更考えても詮無きことですね。
操作系というものから考えた私の能力候補は二つあったのですが。
その内の一つは才能が無いと言うのもありますがやはり私にはしっくりこない。
本当ならこちらの能力にしたかったのですが。
でも、私には騙す事しかないのでしょうね。
ただこちらの能力はしっくり来るとは言っても、それでも私の能力ではとても使いこなせない。
だからこそ幾重にも制約をかけて私でも使えるようにするしかない。
そして、一月後の4月1日私が最初に嘘をついた日―すなわちかつての生も今の生でも誕生日である日―その上世界に嘘が最も浸透しやすい日を利用して発を作ろう。
その為に準備しなくては。



そして、4月1日私は世界に反逆者としての産声を上げる。

「とうとうここまで来た。私はこの日この時を持って世界の時の流れのくびきから解き放たれ時の流れを騙す存在となる。世界よ!! 上位者よ!! 私は今ここにあなた達に反逆する!!」




やがてエイプリルフールクライシス『4月1日の災厄』と呼ばれるようになる人物が始めて世界に反逆の狼煙を上げた。
その者の能力は4月1日の午前中にしか使えず、本来の寿命を4分の一程に削り、他人に能力のことを知られてはならず、嘘をつき続けなければならない、その上これ以外に能力を作れないと言う幾重にも制約をつけやっと可能となった。
そして、その効果は唯一つのシンプルなもの。
すなわち時の流れを操作して世界を騙し1年歳をとったと言うことを嘘にするものだった。








懐かしかった。
なんというか、大筋以外ほとんど書き直した気がする。何というか、昔のままだとよくあるテンプレ神様に能力もらった系の宇宙人Verだったし。
その上主人公の性格が読んでて酷かったし。ただ、書き直しすぎて微シリアスのギャグ系の話だったのが厨っぽい鬱系の話になったのはなんでなんだろう。
まあ、こんな欝っぽい話なのは多分この話だけになると思いますけど。
それにしても、一人称な部分と三人称な部分が入り乱れて読みにくい。以前の作品を覚えてる方なら複線だと言うことに気がついてるかもしれませんが、どうにかしたほうがいいでしょうか。

ちなみに、主人公が考えていたもう一つの能力
人体の中で唯一細胞限界の無い細胞であるがん細胞を操作し毒性を無くし自分にとって都合のいいものとするものでした。
怪我を負ったら細胞分裂を活性化させ怪我を治し。細胞の老化を止め。筋繊維の破壊と再生を繰り返すことでのドーピング。等々
元々チートですが、さすがにこれはチート過ぎるのと、うちの主人公らしくない能力なので没にしたのと何よりもこの企画は元々2年前のエイプリルフール企画だったと言う理由で没にしたと当時のメモに。



[29061] 2話
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:cc4e1536
Date: 2011/07/28 20:59
後半力尽きて修正がほとんど出来ませんでした。


私が永遠の嘘を作ってから3年の歳月が流れました。
本来なら私は11歳のはずですが、いまだに私は6歳のまま。
その間私は自分の能力について研究し続けた。
その結果わかったことは、あくまでも歳をとったという事実のみをごまかすものであるからその間に負った怪我は治療されることは無い。
あわよくばこの能力を使うことで怪我が治せたらと思ったのだが、さすがにそこまで上手くはいかないようですね。
しかし、この事は考え方によっては私に利益を有無とも考えられる。
なぜならその間に経験したことや鍛えた体についてもリセットされないから。
あくまでもリセットされるのは年齢だけと言うことみたいだ。
ならば成長期のこの体利用しない手は無いと一年真剣に体を鍛えて見たんですが。
確かに成長期の肉体だけあって細胞分裂の速度はすさまじく鍛えれば鍛えただけ体は強くなるし、オーラも強化できました。
その上この時期の無理なトレーニングによる成長の阻害に関しても私は歳をとらないのだからと開き直れるでしょう。
ですが、結局それだけのこと。
あくまで私には戦いの才能は無く、このまま鍛え続けた所で一流はおろか二流三流にも下手すれば届かない可能性すらあります。
戦闘用の発でもあればオーラ量を増やしさえすればどうにかなったかもしれません。
しかしそれが無い私ではパンチやキックのみで戦う他無く。
いくらオーラ量で上回っていたとしても勝負になるわけはありません。
私のように強化系ではなく戦闘用の発をもっていなくても強い人はいくらでもいるでしょう。
ですが、私では肝心の戦闘の経験を積む前に死んでしまうのが関の山です。
誰かに弟子入りするにしても、他人と関わる事を嫌う私が耐え切れるとは思いません。
事実念を教わった師匠には三ヶ月程しか念を教わっていませんし。
よって私は自分の戦闘能力に見切りをつけざるを得ないというのがこの三年での成果でした。



次に私が考えた事は手駒を作ること。
それも私にとって一方的に都合のいい手駒を作る必要があります。
私の能力は他人にばれたらアウトと言う爆弾を背負っているため下手な味方は敵よりも都合が悪くなる可能性が高いですしね。
実はこの時点で私の手駒に最適な人物は目星をつけています。
ですが、それを手に入れるための手段が足りない。
そこで私は2年程使って人間の心と言うものを勉強することに。
無害な子供を装い人間観察を続けたり。
ある時は心療内科やカウンセリングと言うものについての本を読んで勉強したり。
それと、心に関する薬や毒等についても拙いながらも勉強を続ける。
勿論外見6歳の子供にそんなものが入手できるはず等ないのだが、そこは全てのごみが揃う流星街金さえ払えば意外とどうとでもなった。
むしろ現時点では自分で作るのよりもお金を出して買ったほうが確実なものが入手できる。
将来の宿題としていつか自分で作るときの参考とするために必要量よりも多く買う等をした為少し準備に時間がかかりすぎてしまったが。
それになにより私にはかつての私が経験した詐欺のテクニックがある。
それを元にした私は完璧とは言えないながらも目的達成のための準備が整ったと見て行動に移すことにした。



私が向かった先は懐かしの私が生まれた家がある町。
目標は私と血を同じくしたまだ顔も見ぬ弟か妹。
しかし、それを入手するには邪魔なものがある。
それはこの世界での両親。
しかし、二人を排除する前に下準備をしなくてはと絶をして家の付近からうかがう事3時間。
そこにはありふれた幸せそうな一家の姿があった。
7~8歳くらいの女の子(どうやら妹だったらしい)と仲が良さそうにテレビを見るお父さん、そして料理を作るお母さん。
それはかつて私が手放さざるをえなかった物にして結局この世界でも手に入れることが出来なかった平凡な幸せ。
見ていたら思わず涙が流れる。
止めようと思っても止めようと思っても止まらずにあふれ出してくる。
なぜ私はあそこにいないのかと。
上位者の存在が無ければ私は今頃何の疑いようも無くあそこに家族の一員として入り込んでいただろう。
もし、かつての私にあの不幸が襲い掛からなかったら前世(と言っていいのかはわからないが)を思い出しつつもあそこの中に混ざっていたはずだ。
いや、かつての私の記憶が無いだけでも……いや、私が入り込んだのがこの体でなかったら……私にも理解がある親だったら……
そして許せなくなった。
勿論逆恨みに近いのは知っている。
そんなものは承知の上だ。
だが、私からあの幸せを奪った妹も、私には与えずに妹には何不自由なくあの幸せを与える親にもどちらも破滅させてやろうと思った。
それまではあくまでも私という寄生虫を植え付けられたかわいそうな被害者だと思っていた両親だが、その時彼らに対する慈悲が消える。



まず私が接触したのは妹と母親。
これはどちらも簡単だった。
家の近所の公園で私のことを知らない妹に近づき仲良くなった妹と母親には霊を装って接触するだけ。

「お母さん、何で私のことを捨てたの? お母さん、痛いよ……寒いよ……ねえ、こっちに来てよ」

等の様な事を母親が一人のときを狙って話しかけるだけ。
時には窓の外から母親の視界に入って笑いかける。
そして、母が窓を開けた時にはすでに身を隠した後というのを10日ほど繰り返した。
次第に半狂乱になり私に顔の似た妹に暴力を振るい始める。
常に何かにおびえ次第に閉じこもるようになった。

次に妹。
それまでは優しかった筈の狂乱した母親に次第に暴力を振るわれるようになりたった8歳の子供の心は直ぐに壊れていく。
家に帰りたくなくなり近所の公園で過ごす時間が増えていく。
それに従って私と共に過ごす時間も増えていく。
純粋な8歳の子供等甘い言葉をかけてやるだけでも直ぐにころっと行くと思うが、念には念を入れて流星街で手に入れた薬を傷薬と一緒に怪我に塗ってあげる。
こうして壊れていく心と次第に大きくなる私という存在。
そして、帰るのが遅くなりまた母親に殴られその隙間を私が埋めていく。
彼女は一度もあったことの無いはずの私であるがひょっとしたら血のつながりを感じていたのかもしれない。
それで私のことを新たな庇護者だと感じたのかもしれない。
そう思える位いくら薬を使ったにしても私への傾倒の仕方は少し異常なほどであった。

最後に幸せな家庭が崩壊していくのに気がつきながらそれを食い止めようと奔走する父親。
彼はどうやっても直らない家庭に次第に疲れていく。
しかし、妻の為娘の為と頑張った。
そこに私がまた手を加える。
知り合いの念能力者に頼み私の姿を20歳くらいの姿に変えてもらう。
そして父親に会いに行く。
彼は妻に似た私に直ぐに惹かれて言ったようだ。
前世での経験は伊達ではない、疲れきった男の心なんて造作もない。
そうして私に骨抜きになった所で私の正体を明かす。
勿論今までの私との関係は全て母親や父親の会社、住む家の近所にいたるまで公表してある。
半狂乱になって襲い掛かってくる父親を軽くいなすと男性の象徴を切り捨て縄で縛り病院の前に放置してきた。

私に怯えその上旦那の不倫にあい人間不信に陥った母親。
社会的信用と地位を失い男性としても終わりを迎えた父親。
母親に加えて父親の裏切りにあいますます私に傾倒して行った妹。
既にそこにはかつての幸せそうだった家族の姿は無い。
当然のように離婚となり妹も孤児院に入れられる所であったが20歳位の姿のままで遠縁を名乗り私が引き取った。



流星街に妹を連れて帰った私は他の方法を知らず妹の念能力を外法で起こす。
すると私の妹なだけあって最低限には才能があったのか念を習得することが出来た。
それから5年私は人間研究を続けながら妹の修行をつける。
完全に戦闘と護衛向けの能力を持った私の優秀な人形……
永遠の嘘を使い見掛けは8歳と6歳、外では妹に姉と名乗らせている。
既に妹には私以外を人と認識する機能は無い。
あれ以降も薬による洗脳を続けていたら心は完全に壊れ、その全てが私によって埋め尽くされてしまった。
私とそれ以外の物、最も外では一応まともなフリをさせているが。
現に近所での私達の評判は過保護な姉と引っ込み思案な妹というものだ。
おかげで近所の人たちは私達に良くしてくれている。
最も、流星街なだけに特別に何かをしてくれるというわけではないが。
それに、実は私達兄妹が暗殺と詐欺でかなりの金を持っていることは知らないだろう。
知っていたら今頃は私達は襲われている。
以前襲われたことを忘れるほど私もおろかではないつもりだし隠蔽工作はしっかり行っている。
それと、限定的だが私が時を操作できる能力者だということも秘密だ。
これは当たり前だが、永遠に生きることができるというのは人類の夢である。
今だ強いとはお世辞にも言えない私たちにとってそれを知られるのは死活問題だろう。
そして、1年目には一つ目の発を完成させ、3年目になる頃には妹も二つ目の発を自分のものとし、残る二年でその腕を磨いていった。
この内妹の能力で何よりも重要だったのは一つ目の発【同一存在〈どういつそんざい〉】である。
これは兄妹の血のつながりを利用して双子の間にあると言う不思議なつながりを念で再現しようとしたものだ。
勿論念という不思議な力の産物であるから普通の双子のつながりよりもかなり強いつながりとなった。
他人と過ごすことにストレスを感じる私が一緒に過ごすのが自分ならどうだろうかと苦心した能力である。
勿論使い方はそれだけではないのだが。



それからさらに5年私はさらに人間研究を続け、人の心理人体構造どうすれば人を壊せるかを学んだ。
勿論精神的、肉体的両方の意味でだ。
最も今の私では相手が念能力者でないのならともかく念能力者であったのなら夢のまた夢としか言えない程度のお粗末なものであるが。

妹にはこの5年間それまでに貯めた金を使ってちゃんとした師匠に学んでもらった。
流石に独学の限界を悟ったのだ。
そして、後に私が妹から修行をつけてもらえばいい。
私が人から教わるのは精神的にきつくても私の人形からなら……その程度のつもりだったのだ。
しかし、予想を超えてその修行は私達に有利にはたらく。
力だけではなく様々な念能力に触れる事で実戦経験をつむ事が出来たこと。
そして何より大きかったのは私達が気に入られ、師匠の持つ様々な資料が借りられたことだ。
最もわたしは暗殺業を辞めさせられたが……



修行の前に私達は収入を得るために手に職を求め無くてはならない。
意外な窮地に陥ってしまったものだ。
正直始めは師匠との約束等守るつもりは無かった。
しかし、変な念でもかけられたのかわたしは暗殺業を行うという意思をどうしても起こすことが出来ない。
仕方ないので私は身につけた人体構造の知識を使って闇医者になる。
患者に対して治療と言う名の人体実験を繰り返し腕を磨いていく。
それから80年……私達は表? では有名な闇外科医として、裏では一心に世界に反逆する為の力を求める求道者として活動を続けた。

だが、100歳あたりでそれまでの活動の転機が訪れる。
師匠の息子さんに頼まれてハンター試験に参加して試験管を審査して来いと言う依頼がはいったのだ。
理由は年々ハンターの質が落ちてきている事を憂いた上層部が、非ハンターライセンス保持者かつ信用のおける実力者が影からハンター試験を審査する事が目的らしい。
つまり、審査員に顔を知られていない人間が審査員を逆審査して来いというもの。
ハンターの質の低下は試験者の質の低下ではないかというのだ。
だが、めんどくさい。
何で私達がこんなことをしなければならないんだろうか?
そう思いわたしは断りの返事をしようと彼の家に向かう。

「ふむ、理屈はわかりました。ですが私達姉妹はそれに協力するすることのメリットがありません。こう見えても姉もわたしも忙しい身です。どうか他を当たって下さい」

「すまん、今回ばかりは適任がお前達しかいないんだ。ハンター協会に一人も知り合いが居ない上に試験官ともやりあえる腕を持つものはお前達しか居ないんだ。これを受けてくれたらお前達には私の権限でシングルハンターと正規の医師の資格を与えるから」

「ふう、私達がその様なものを欲しがるとでも? 確かに収入が増えるのはありがたいかもしれませんがお金など私達にはそれほど必要ではありませんよ。まあ、あって困るとまでは言いませんが」

すると息子さんの顔色が悪くなる。
これだから地位や権力等は下手に持つものではないのだ。
さて、次は私達に何を出してくるのでしょうかね?
ええ楽しみですね。

「ハア、仕方が無い。以前お前達にかけた暗殺禁止の念を解いてやろう。これでどうだ?」

「そうですか、わたしはもう帰っても良いという事ですね?」

「わかった。仕方が無い、お前たちに神字を教えてやろう。以前お前達に暗殺禁止をかけたのもこの特殊な文字の効果だそうだ。これを知れば今まで以上にいろんな事が出来るようになるだろう。勿論暗殺禁止も解けるようになる。だから教えたくは無かったんだがな」

ほう、そんなものがあったんですか。
それは良いことを聞かせていただきました。
条件としてもこの辺りなら妥当でしょうし、私もここら辺で手を打ちますか?
うんそうしましょう。

「仕方が無いですね、私達二人への神字の習得とシングルハンターそれに医師免許。これで今回は手を打って差し上げましょう」

「全く足元を見やがって。よし、それで良い。その代わりしっかり働いてくれよ」

「ええ、承ったからにはダメな試験官どもを再起不能にしてあげましょう」

ふふ、顔色が青くなりましたね。
全く可愛い事です。
私達が本当にそんなことをするわけが無いでしょうに。
めんどくさい、個別にお金を貰うのならともかく。

「ちょっと待て、流石にそれは困る。穏便に頼むぞ、もし審査員にまずい所があれば軽く灸をすえてやるくらいで良いんだからな」

「わかっていますよ、先ほどのは私の冗談です」

「全く、お前の冗談は心臓に悪すぎる。もう少し嘘と本当と冗談の区別を付けてくれ」

「わかりましたよ。フフ」

「ハア……」

舌戦で私にかなうわけが無いでしょうに。
私に舌戦で勝った人なんて見たことがありませんよ。

「それでは失礼しますね。あ、それとシングルハンターになっても厄介な事は回さないでくださいよ」



息子さんの所から私達の家へ帰ったわたしはハンター試験の準備を始めた。
さて、ハンター試験とは私の最終目標、上位者と世界への反逆にどれだけのプラスになるんでしょうかね?
楽しみです。







はい、前話と今回の序盤を大幅に書き直したら後半死にました。
よって今回の真ん中辺から微改訂となっております。ついでに前回は無かったこの時点での伏線を少し入れておきました。
そんなことしてるから疲れるんだとは思いますが。それにしても……ハンター試験編に突入直前になっても原作キャラが出てこないどころかオリキャラすら名前が出てこない。
まあ、以前やっぱりハンターハンターの短篇ssで人の名前が出てこないssを書いたことがありましたが。次回くらいには原作キャラを、というか人名を出したいですね。
ちなみに、妹の能力の詳細はこの時点ではまだ明かすつもりはありません。二つなのは確定なんですが。



[29061] 3話
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:cc4e1536
Date: 2011/07/29 10:34
暫くの間はストックがあるのでちょくちょく更新が出来そうですね。
最も加筆修正しすぎて各話共に大筋以外書き直してるのと7kb程度増量してるのでストックがあるといっても結構大変なので連日更新できるのはいつまでかはわかりませんが……



依頼された第287期ハンター試験がそろそろ始まろうとしていた。
私達はハンター協会人事部の人達の伝で会場に案内される。
まあ、私達なら普通にでもたどり着けたとは思うけど、楽を出来るのには越した事はない。
最もこれ以降は真面目に試験を受けねばならないのだが……
何せ試験を受けて見ないことには試験管の判断も下せませんし。
ともかく私達二人は試験会場の入り口である『めしどころごはん』という店の中で適当に時間を潰していた。
余り早く入りすぎても外見が8歳と6歳なだけに不信がられると思ったからだ。
実際には私は100歳を超え妹もそれに近い年齢なのだけど。
暫く待っていたら見知った人が現れた。
しかも、その人ならば私達の良いカモフラージュになってくれるであろう人だ。
わたしは早速その人に声をかけることにする。

「お久しぶりですボドロさん。その後奥さんは元気ですか?」

「ん? おお、誰かと思ったら先生方ではないですか。その節は家内がお世話になりました。おかげ様であれもすっかり元気になりました。全くあの時先生方が通りかかってくれなかったらと思う

とひやひやします」

「いえいえ、そんな気にしないでくださいよ。そうだ、ここにいるということはボドロさんもハンター試験を受けに来たんですか? もしそうなら一緒に行きませんか? ここまで来たは良いんで

すが、私達二人だと心細くて」

それにしても丁度良い時に来てくれたものです。
ボドロさんとは面識がまだ浅いですが、彼なら私たちを裏切ることは無いでしょうと安心できます。
彼と知り合ったのは去年の事、私達が旅をしていた時道に怪我をした女性がうずくまっていたのを治療してあげたのがきっかけでした。
その女性は彼の妻で崖の上から落ち足を怪我して歩くことが出来ず死を待つのみであったのが、そこに偶然私達が通りかかったということのようですが。
まさかこんな所で役に立つとは。
それに、私達は余り金を必要としていないのでお金を受け取らなかったのですが。
そのことが余計に彼を感動させたのか、彼は必要以上に私達に恩を感じているみたいです。
季節毎に趣味の良い手織物やら畑で取れたのだといっては箱一杯に野菜や果物を入れて送ってくれたりしている。
義理堅い彼ならばきっと私達の事を守ってくれるだろう。
何せ私達の見た目は6歳と8歳。
普通に参加していたのでは要らぬちょっかいをかけられて辟易してしまうのは目に見えていますからね。
流石に100年以上も生きて人と接することも少しは覚えましたが、あくまでもそれは演技をしている状態でのみですし。
やはり一人でいるのを好むのは変わりません。
今回は目的の為にいくらかはかかわらなければ仕方が無いですが、出来れば最小限に抑えたい所です。
その点彼と一緒に行けば目立つことには変わりませんが、念を覚えていない一般人にしては強い部類に入る彼に事を荒立てようと言う人は減るでしょう。
っと考え事をしている場合ではありませんね。
別に彼がいなくても何とかなるでしょうがいた方が楽が出来るのは間違いの無いことですし。

「なるほど、先生方ならば強さは申し分ないですしな。わしが何処まで力になれるかはわかりませぬが、先生方を見捨てたとあってはわしが家内に殺されてしまう。一緒に参りましょう」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「それでは参りましょうか。それにしてもまさかこんな所で先生方に会えるとは。妻に良い土産話が出来ましたわ」

「それにしても良かったねお姉ちゃん。ここまで来たのはよかったけど心細くていざ入る決心がつかなかったけど。ボドロさんと一緒なら心細くないし」

言って私は妹の影に隠れる。
勿論これは演技だがこんな演技でもいざというときのブラフには成るでしょう。
人は簡単に外見に騙されますから。
それに、人が嫌いな私はこのような人が集まる場所は本当に嫌いだと言うのもある。
克服したとはいえその機会が少ないに越したことは無い。



ボドロさんと一緒に行く事になった私達はここの亭主に連れが来たので例のあれをお願いしますと注文する。
勿論私達が関係者だと言うことは知っているし、ボドロさんに関しても実力者だと見て取ったのだろうことがうかがえる。
問題なしと判断されたのだろう私達は奥に通され、ステーキ定食が用意された部屋に模したエレベーターが下がり始めた。
私達の体には入りきらない量だったので私達は手をつけない。
というよりも本当にステーキ定職が出てくるとは思わなかったので既に軽くつまんでいたのだ。
年寄りのボドロさんも余り肉は好きではないのか手を出さなかった。
だから私達は世間話で暇を潰す事にする。
それに、私達が少しでも目立たないためには準備しておくべき立場があるから。

「あのボドロさん。ボドロさんのことお祖父ちゃんって呼んでも良いですか? 私達肉親は居ないんで……もし、無理じゃなければですけど」

「なんと、勿論構いませんぞ。わしらには子供がおりませんからな、逆にそう呼んで貰えるのならありがたい話じゃ」

「ほんと! 嬉しい。えと、お祖父ちゃん」

気色を顔に載せそう呟いてみる。
強い人の孫って言うことにしておけばちょっかいをかけてくる人は減ると思う。
ボドロさんじゃ相手にならない人、つまり念能力者が相手なら今度は逆に私達には突っかかってこないだろう。
いくら才能が無かったとは言っても100年の経験は伊達じゃない。
昔は諦めていた戦闘経験も妹の修行を通じて手に入れることが出来たし。
戦闘力でこそ一流には敵わなくても搦め手を使った戦闘で私達に勝てるものは中々いないでしょう。
最も、強化系の単純な力押しには中々対策が無いのは確かなのですが。

「ん、なんじゃ? はは、恥ずかしいものですな?」

おっといけない、考え事をしている場合じゃない。
今はボドロさんを取り込まなくては。
彼は義に厚い武人。
一度取り込むのに成功すれば私達を見捨てることはなくなるだろう。
それに、彼ら夫婦は元々私達の事を子供か孫のように思っていた節がある。
その事をはっきりとこちらからも態度で示しただけだ。
むしろ私達に頼られることは彼にとっても嬉しかろう。

「ううん、なんでもない。ただ嬉しかっただけ」

私は考えてることを顔に出さず嬉しそうな顔をしてボドロさんに抱きついた。
横では妹も一緒に抱きつく。
ボドロさんは好々爺然としたものすごく嬉しそうな顔を浮かべる。
元々わたしに恩を感じていたのだ。
その相手に祖父と慕われれば悪い気はすまい。
それこそ私達を守るためであれば命すらかけても不思議ではない。

「はは、これこれ。こんな事でしたらいつでも言ってくれれば。老い先短い身ですが、先生方の家族になりましょうぞ!!」

「嬉しいです……本当ですよね? 嘘じゃあありませんよね?」

「ああ、嘘では無いよ。いくらでも甘えるがいい」

「ありがとう」

「ありがとう。お祖父ちゃん!!」

笑顔を浮かべ私達のことを見守っている彼はまさか私達がこんなことを考えているとは思ってもいないのでしょう。
私は内心で黒い笑みを浮かべる。
これで他の参加者には私達が祖父と孫に見えるだろう。
こういった設定で試験を受けるほうがやりやすい。
ボドロさんには悪いが散々利用させてもらう。
その見返りとしてボドロさんは今回の試験はきっと合格するでしょう。
戦闘者としては二流に過ぎない私ですが妹と一緒にいるときに限り場を支配する力は一流となるのですから。

〈ふふ、良かったですねお祖父ちゃん。あなたは最後まで真実に気がつくことが無く幸せな一生を送ることが約束されましたよ。そう、私の手のひらの上と言う幸せな楽園の上でですけどね〉

「お祖父ちゃん大好き」

ええ、本当に大好きですよ。
大事な大事な私の駒の一つなんですからね。



やがて目的の階に着いたのかエレベーターが止まる。
エレベーターを降りるとそこには200人近い人数が既に集まっていた。
入り口に居た豆みたいな人から試験番号のついたプレートを貰う。
妹が190、私が192、ボドロさんが191だ。
この順番なのは私の護衛役の妹が最初に降りて私はボドロさんの影に隠れながら下りたから。
やはり私と妹のような年齢の子供が珍しいのかかなり注目を集めている。
皆がこちらを振り返りひそひそ話をしていみたい。
そのうち16番という番号をつけた中年のおじさんが寄って来た。
どうもこちらに話しかけに来たみたいだ。
しかし、それよりも早くボドロさんが私達をかばうようにして槍を握り前に立つ。

「トンパどの、わしの孫娘達に何か用かな?」

あからさまに殺気を出してそのトンパと呼ばれた男を牽制する。
そうでしょうね、この男からは私と同じ嘘吐きの臭いがします。
それも、上を見ることをやめた腐って沈殿したヘドロのような臭いが。

「い、いや。ただ俺は子供が迷い込んできたのかと心配になっただけだ。そうか、あんたの孫なのか、それじゃあ頑張れよ」

そう言うと逃げ出すようにして去っていってしまう。
明らかにボドロさんに怯えたようだ。
他にもこちらの様子を窺っていた幾人かが舌打ちをする。
常識で考えて私達のような子供が受かるわけはないんですからまじめな受験生ならここで舌打ちをすることは無いはず。
ですから、今舌打ちをした人達はさっきの人と同じく腐ったヘドロのような人達ですね。
そして、私が気にするだけの価値も無い人達でもあります。
彼らは勝手に足を引っ張り合い自滅するか途中で脱落するでしょう。
先ほどの反応を見る限りではボドロさんの怒気を買ってまで私達に手を出そうとするほどでもないみたいですし。
本当に私達は良いおじいちゃんに恵まれました。

「お祖父ちゃん、今の人は一体誰なんですか?」

「ああ、今の男の事なら気にすることはありません。このわしが要る限り決して二人に近づけるようなことは無いと約束しましょう」

「え、もしかして今の人って悪い人なんですか? わたしには人の良いおじさんに見えたんですけど」

「ふむ、二人ともよく覚えておくと良い。悪人というものは見た目普通の人間なんじゃ。だからこそ笑顔で近づいてくる相手にこそ注意したほうが良い。悲しいことじゃがな」

「うん、わかった気をつける。それよりお祖父ちゃん時々敬語が混ざってるけど、私達にそんな口調で話さなくてもいいよ。もっと砕けた口調でお願い。その方が私も嬉しいし」

「ふむ、そうですな。二人がそう言うならそうするとしようかの」

それにしても、さっきの男も甘いですね。
本当に相手を騙したいのならもっと相手を観察しなくては。
そして、相手によって手を変え雰囲気を変え位のつもりで行かなければ上手くいくはず等ないのに。
恐らくさっきの感じを見る限りでは自分のことを知らない相手に皆同じ手口で近づいていったのだろう。
人の良いベテランを演じ初心者にいろいろと物を教え気を許した隙にぶすっととでも言った所でしょうか?
しかもボドロさんの反応を見るにそれをずっと繰り返してるみたいだし。
むしろ本当に騙す気があるのかと問いかけたいくらいですね。
騙す者として有名になった自分を囮に第三者によって致命的な罠を仕掛けるとかもっとやりようはあると思うのですが。
まあ、どちらにせよ私達にはもう関係のない話ですけど。
既に他者に害をもたらしそうな空気を持った人で私達に関心を向けているものはもう存在しないみたいだし。



安心し試験開始を待ち三人でくつろいでいた中不意に周囲の空気が変わる。
一人の周囲を圧倒する王とでも呼べる存在がその姿を私達の前に現したのだ。
誰も道をさえぎるものは無い圧倒的強者による行進。。
血と破壊のにおいを撒き散らしその男はこちらに近づいていた。
ただ歩いているだけ、それがここまで恐れられる男もそうは居ない。
この場における王に他ならないくせに、その王に諫言するピエロでもあるその男。
今回もボドロさんが前に立ってくれるけど今回ばかりは相手が悪い。
ボドロさんが震えているのがわかる。

「ヒ、ヒソカ。一体何のようだ?」

「うーん、ボク君には用が無いんだ◇僕が用があるのはそっちの子供だけ★」

そう言うとヒソカと言う男はボドロさんのことなど無視して私達の前に立った。
しかし、その顔は直ぐにつまらなそうなものへと変わる。

「フーン、残念君と遊んでもあまり面白くなさそうだ◇そっちの姉のほうは少しは見込みがありそうだけど☆でも、君達からは毒の臭いがするよ◆それに戦闘者のにおいはしないしね、つまらない

戦闘をした挙句に毒でぽっくりなんてボクはごめんだ★」

「毒? 何のことですか?」」

「とぼけるのかい◆でもまあいいや、君たち二人を相手にする気は無くなったしね◇ただ、僕達以外にも使える子がいるみたいだから見に来ただけだし★」

そう言って去っていく。
来たとき同様歩く場所が道になるとでも言いたげに周囲の人が作る道をまっすぐに。
それにしても迷惑な男だ。
私達の容姿から注目されるのは仕方が無いことだったがそれ以上に目立ってしまった。
手品の種というのは目立たない場所で仕込むからこそ準備できるものだと言うのに。
これでは万が一と言うときの仕込を私達がするのは難しくなってしまったと思う。
出来れば切りたくは無い手札だったんですが、あのカードを懐に一枚伏せいつでも使えるようにしておきましょう。
ただ、ヒソカの言った僕達という言葉には気をつけておいたほうがいいかもしれない。
あのレベルの相手がもう一人なら何とか勝てなくても生き延びることは出来るけど。
もし二人三人と居たら私達二人だけでは生き延びることは出来ない。
これでは手札を何枚切らされることになるのか……
軽い気持ちで受けた依頼なのにこれでは全く割に合わない。
ため息も出てこようと言うものだ。
しかし、私が考え込んで沈んでいるとそれを違う意味に取ったのであろう者がいた。

「すまん、わしがついておりながらやつの気に飲まれ動くことも出来なんだとは」

ボドロさんは悔しそうに私達に向かって謝罪の言葉を告げる。
しかし、私達から見ればそれは仕方の無いことなのだが、念を実感として知らない者にはそうはとることが出来ないのだろう。
実際あの時周囲はヒソカのオーラによって覆われていたのだし。
だが、ここで少し罪悪感を持たせておくのも良いかも知れない。
万が一と言うときのこともあるし、保険は何個かけておいても良い。

「大丈夫だよお祖父ちゃん。怖かったけどお祖父ちゃんが前に立ってくれたから何とか頑張れたし」

「そうか、ほんとうにすまん」

ますますつらそうな顔をするボドロさんに対し私は話を変えてやる。
そうすることでこの話を終わらせ私達は気にしていないということを思わせると共にボドロさんの心の奥にしこりとして残させる。

「それより、わたしに向かって毒の臭いなんて一体何のことだろうね?」

急に話を変えられ面食らったのか一瞬間が空く。
しかし、直ぐになんでもないことのように答える。

「ん、そうじゃな。恐らく二人は医者じゃからな。薬には毒が元になっているものもあると言うしそれのことではないのか」

「あ、なるほど。流石お祖父ちゃん」

ことさらに持ち上げて見ることで少し気を取り直したのかそれまでの悔しそうな顔を一転させ何かを決意したかのような顔を見せる。

「もしこの試験中に二人に何か危険なことがあったら命にかけてもこのわしが二人を守って見せます。あれも、わしが二人の為に死ぬのなら文句は言うまい。むしろ誉められるじゃろうな」

「そんな、命にかけてなんていわないでお祖父ちゃん」

「うん。長生きして!! 試験が終わったらお祖母ちゃんの所に一緒に行くんだからね」

「先生方……いや、お前達。そうじゃなこれからはお祖父ちゃんとしてせいぜいおぬしらを可愛がってやるとするわい」

これでいいでしょう。
これでボドロさんは完全な私達の味方になりました。
それに、真剣になるのはいいですが下手に命を捨てられても困りますしね。
少なくともこの試験中は生きていて貰った方が私達に都合がいいですし。



……ん!! これは血の匂い。
向こうの方から?
その先では凄惨な光景が広がっていた。
先程のヒソカという男と、両腕を失った男が居る。

「あーら不思議、手が消えちゃった◇だめだよ人にぶつかったら謝らなくちゃ◆」

ヒソカ、やっぱり危険な男ですね。
この男の前に立つのは不本意ですが、私達の実力の一端を示しておくのも良いかも知れない。
それに、あくまでも医者としての腕ならば他の人も自分が怪我をしたときに治療してくれるものが居るという安心感につながり私達を攻撃しなくなるだろう。
いや、それどころか私達を積極的に守ることもあるかもしれない。
だからこそここは善意にあふれた医者だと言うことを示しておく必要がある。

「私は医者よ、どいて!!」

私の言葉に先ほど私達がヒソカと睨み合っていた事を見ていた見ていた人達が道を開ける。
厄介ごとには巻き込まれたくは無いのだろう。
まあ、邪魔されずに患者の下に向かえたのは良いことなのだけど。
それにしても綺麗な切り口だ。
どうしたらトランプなんかでここまで綺麗に切れるのか。
この人が念に目覚めていないことから周も使っていないんでしょうし。
まあ、良い綺麗に切れているということはつなぐのも簡単だと言うことだ。

「ヒソカ、腕を出して」

「へえ、君たちは医者だったのかい◆それじゃあ腕前を見させてもらおうかな☆でも、腕はもう消えちゃったからねボクもある場所を知らないから君が探すといいよ★」

しらじらしい。
何らかの能力で地面に擬態させた布で包んでそこに落ちてるじゃないですか。
それもその前にオーラの紐? のようなものを張り巡らせて。
ヒソカはよほど自信があるらしいわね。
私に自分の系等を平然と教えておいてさあどうぞと言っているのだから。
確かにブラフの可能性もあるけど彼の性格ならこの場面で自分の系統をごまかすことはしない。
彼は変化形の能力者なのだろう。
ならばあの腕の前に張り巡らせた紐のようなものも単純な紐ということはあるまい。
勿論二人がかりで行けば強引に突破できるでしょうが、その場合私達の情報も相手に一部とはいえ教えてしまうことになる。
恐らくヒソカの狙いはそれ。
そして、この状況で私達がその罠に気がついてることも承知の上で私達がどう動くかと言うことも探っているに違いない。
どちらにせよ情報を渡してしまうのならば、それはより少ないほうが良い。
仕方が無い。この被害者の彼には腕は諦めてもらって命を助けるだけで我慢してもらうか。
しかし、その時状況が動く。

「おい、馬鹿やめろレオリオ」

「いや、目の前で命が失われかかってそれを止めようとあんな小さな子供まで頑張ってるのに黙って見てられるか。止めるなゴン、クラピカ」

その時そう叫んで一人の男が棒を持って突っ込んできた。
奇しくもそれは男の腕がある場所であり私達の代わりにその男が罠にかかることになる。
この結果はヒソカも予想外だったのか面白そうにしていたが、その突っ込んできた男を眺めると何らかのものを感じ取ったのか念をとき立ち去っていった。
その男に向かって一言残して。

「うん、君は実に良い。君はそっちの二人やその男と違って合格だ。良いハンターになりなよ」

と言う一言を。
その残された男はきょとんとした顔をしながらも自分の目の前に被害者の両手があるのに気がつく。
それを拾い上げるとこちらに向かって呟く。

「なんだかよくわからねえが、あんたらが医者だって言うのは本当か? ならこの腕を使ってそいつの腕を治してやってあげてくれ」

「あ、はいありがとうございます。ほら姉さん早く。針と糸は準備したから」

「うん」

私は妹の助手として治療に向かう。その男の事が少し気になったが今はそれよりも治療が優先だ
まず私が患者の止血を行いその間に妹が手術の準備をする。
本当なら殺菌した場所や輸血があればよいのだが今はそんなことは言っていられない。
だから今は一滴たりとも血を無駄にすることなく素早く手術する必要がある。
手術の後ならば増血剤を打つことも出来るが今うったのでは逆効果になるし。
等と考えている間に妹は流れるような針さばきで切れた腕を元通りつなげてしまう。

「はい、治りましたよ、指を動かして下さい。動きますか?」

「あ、ああ。やってみる。う、動く動くぞ。ありがとうお嬢ちゃん達助かったよ」

「それは良かったです。ですがかなり出血していますからね。大事を取ってハンター試験はおやめになったほうがよろしいですよ」

「そうだな、すまん助かった」

「いえ、気にしないで下さい。それではこれが痛み止めと増血剤です。それと、暫くしたらどこかの病院に行って抜糸して貰って下さい。神経等をつなげた糸は体に吸収されますが腕をつなげた糸

は頑丈ですが体に吸収されませんから」

「わかった。本当にありがとう」

私達に再度礼を告げるとその患者はその場に倒れこんでしまった。
恐らくはかなりの血を失ったことによる貧血あたりが原因だろう。

「おい、そいつは大丈夫なのか?」

「ええ、ただ貧血で倒れただけですから。それよりも先ほどはありがとうございまし……」

そう先ほど腕を取り返してくれた男性に向かって礼を言おうと振り向いたとき私は思わず言葉を失ってしまう。
それほどの余りにも信じられない光景が目の前には存在していた。

「ん、おいどうした?」

「ヒウ!!」

驚きのあまり変な声を上げてしまう。
なるほど、その男のことをヒソカが一目で気に入るわけだ。
その男は先程までとは違いそれだけの存在感を周囲に放っていた。
そう、まるで先程のヒソカのように。
最もヒソカとは比べるべくも無い程度の存在感に過ぎないが、それでも彼が周囲に比べて圧倒的だったのは間違いが無い。


その黒いスーツにサングラスをかけた一見チンピラのような男はまだ制御するすべを持たぬのか猛々しいほどのオーラを身に纏い荒削りな才能を周囲に知らしめていた……










後書き
はい、この物語を書いた上で最重要人物の登場。オリシュ物に見せかけたオリシュの視点から送る作者にすら忘れられた男。ただゴンとキルアに携帯電話を買う為に存在している男等の異名をもつ

あの人の強化物語です。
このssはレオリオを応援しております。多分原作にはもう出てくることは無いでしょうけど…出てきたとしても最終回とかのエピローグに登場くらいかな?
ですが私はレオリオが一番好きなんですよね。決して強くも無くただ純粋な夢に向かって突っ走る男。正直実際に居たらぜひ友人になりたい男ですね。
ただ、改定前も強化してたのに改定したらよりレオリオが強化されていたって事はこの2年でよりレオリオの事が好きになっていたんでしょうね。良いキャラですレオリオ。
それにしても、レオリオとボドロ…渋キャラが目立ちすぎてる。



[29061] 4話 レオリオの過去
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:cc4e1536
Date: 2011/07/31 13:30
今回は前回は無かった話で、即興ゆえに短いですが、レオリオの弟子入りのために必要だと思った話なので勘弁を。


――俺は追いかけたあの背中を絶対忘れない――

ダチの命が消えかけて、誰もが諦めていたあの時。
金さえあれば手術だって出来る。
薬だって買える。
だが、ダチの家は裕福ではなかった。
ただそれだけの理由であいつは死ななければならない。
地元の唯一の医者には泣いて謝られた。
小さい村だったから皆家族同然の付き合いだし俺も小さい頃から良く知っている相手だ。
病気になるたびににげえ薬を飲まされて出来れば会いたくない相手。
いたずらをして殴られたこともある。
それがあんなに小さく見えたのはあん時が生まれて初めてだった。

「すまん、俺にもっと力があればこいつを治してやることもできただろうに。金が無くて三流医大をバイトしながらやっと卒業できた程度の俺じゃあこいつを治してやる知識が足りない。腕が足りない、薬が足りない、道具が足りない。何もかもが足りない!! なあ、レオリオ医者って言うのはなんなんだろうな。世のため人の為何て普段から言っておきながら結局金がなければこいつ一人救ってやることも出来ねえなんてな。俺は無力だ……」

「そんな事言うなよ。諦めないでくれよ!! あんたいつも言ってたじゃねえか。この村のやつらの命は俺が守ってみせるって。あれは嘘だったのかよ。どうにかしてくれよ」

「すまない、本当にすまない。レオリオ俺を殴ってくれ。嘘吐きでちっぽけな俺を。お前達と約束した絶対に救ってみせるって言う約束を果たせない。嘘吐きな俺を殴ってくれ」

「っこの野郎!!」

その時思わず殴りかかりそうになった俺を止めたのは他ならぬ病気で死に掛けたあいつだった。
俺だって本当は判ってた先生が寝る間も惜しんで病気を治そうとしてくれていたこと。
これは後で知ったことだが、たけえ医学書を何とか入手して必死に知識を集めてもいたらしい。
それに、片っ端から知り合いに声をかけてどうにか医療費無しで手術してくれる医者は居ないか探していたとも聞いた。
それこそ嫌いなやつにすら頭を何度も下げ頼み込んだらしい。
正直後からそれを聞いた時は逆に俺の事を殴ってくれと先生に謝罪に言ったほどだ。
逆に再度謝罪されたのだが。



皆が諦めムードになっていた。
一人が諦め、そして二人諦め三人諦めと、ついには俺と医者の先生以外がみな諦めた時。
そんな時だ俺達の祈りが通じたのは。
あいつの治療費を工面する為に俺は内心無駄とは思いつつも学校を休んで出稼ぎを繰り返し家を一月くらい空けていた時の事だ。
あのときほど自分のふけ顔が役に立ったことはねえって言うのは皮肉な話でもあるんだが。
ともかく先生の努力が実を結んだのだ。
知り合いの知り合い、そのまた知り合い位のほとんど他人とも言える知り合いのつてであいつを治療してくれる医者が村にやってきたという。
最初その医者が来たときは誰も奇跡を信じなかったとらしい。
当然だ、そいつらは子供も子供。
それこそ一桁くらいの年齢の子供だったと言うのだから。
だが、先生ただ一人だけがそのやってきた医者を信じた。
医者として何か感じるものがあったのかもしれない。
丁重にもてなし俺のダチを治療してくれないかと衆目監視の中で土下座までして頼み込んだと言う。
俺の両親は後で言っていた。
疲れのあまり先生はついにどうにかしてしまったのだと思ったと。
だから、村人達は頭を下げる先生を止めようとした。
疲れているんだ休んだほうがいいと皆で声をかけた。
あんたにここまで思ってもらえたのならあいつも死んでも先生のことはうらまんだろうと。
しかし、それを聞いても先生は土下座をやめなかったと言う。
そして、結局正しかったのは先生だった……



やってきた子供達は先生からカルテを受け取り俺のダチを見るや、これから手術にはいるから全員出て行ってくれといって助手をやるといった先生すら部屋から追い出したらしい。
だからどんな手術が行われたのかは俺は勿論先生にもわからねえ。
だが30分程してその子供達が出てきた時にはもう全て終わっていたのだと言う。
土気色だった顔色はうっすらとだが赤みをおび命の鼓動を感じさせるものとなっていた。
そして先生に二ヶ月分の薬だと言って薬を渡し治療費を払おうとする声を無視して少し会話をするとどこかへと去っていったらしい。

「私達はたいした事はしていない。この人が助かったのはこの人とこの人の友人、そして何よりあなたが頑張ったからですよ」

皆の前で見送る先生に最後にそう言い残して。
だから俺がバイトから帰って来た時にはもう全てが終わっていた。
病院に顔を出した俺が見たものは安心して眠りこける先生と、面会謝絶の札が取れ心持ち元気そうになった顔色で横になっているあいつの姿だった。



それからだ俺が医者になろうと決意したのは。
勿論病気を治してくれたと言う子供達にも憧れたが、他の誰よりも先生のような人になりたいと思った。
稼いだ金の半額は子供達にいつか出会えた時に渡そうと思って大事にとっておいてある。
そして、残った金の半額を持って先生の所に弟子入りに向かった。
だが、先生は頑として受け取ってくれなかった。
もしも本当に医者になりたいのならその金はお前が勉強するのに使ってくれと。
そして一人でも多くの命を救える医者になれと。
それが何より俺は嬉しいと笑って答えられた。
それに、俺のようなやぶ医者なんか目指すんじゃねえ、目指すんならあの子供のような名医を目指せ。
確かに技術では先生はたいした事は無いのかも知れねえ、俺は生涯でこの人以外を先生とは呼ぶまいと心に誓った。
確かに技術は必要だ。それは出来ればその子供達のような人に教われたら最高だとは思う。
だが、医者の心を教えてくれる人はこの人以外には存在しないだろう。
いつか何よりも患者のためになれる先生のような医者になってみせる。
患者にこの人になら平気で命を預けられる。
この人の手術で助からなかったら諦められると言ってもらえるような医者に。

だから俺は気がつかなかった。
その子供達の話しをする時の先生の顔がやけにつらそうなものであった事に。
そして、当然のごとく先生から聞くことも出来なかった。
先生とその子供達……いや、その中でも一番幼く見えた少女との間で交わされた会話のことなど……
その二人の間であったこんな会話など……

「なあ、お前は今なんと名乗っているんだ?」

「こういう時はあなたから名乗るものでしょうに」

「ああ、そうだな。俺は今バルザック……そう、バルザックと名乗っているよ」

「バルザックですか。ずいぶんと懐かしい名前を聞きましたね。ではそうですね。これからは私はミネアと名乗ることにします。そして彼女にはマーニャを名乗らせましょう。それにしても、あなたがまだそんなものを覚えていたとは以外でした」

「覚えているさ。悔やんでも悔やみきれない。お前が死んでからいくら思い出そうとしてもお前と遊んだ記憶なんてそのゲームくらいしかなかったんだからな。特にお前はその姉妹の事が好きだった。その程度のことしか思い出せなかったんだよ。いくらお前が陸上で忙しかったとはいえもう少しお前と遊んでおくべきだった。そうすればもっと違う今が……」

「もう過ぎたことです。今更世捨て人みたいになっているあなたに対してどうこうとも思いませんしね」

「そうか、そうだな……なあ、あつかましい願いだとは判っているんだが。一つだけ俺の願いを聞いてくれないか? もしもレオリオと言う馬鹿がお前に弟子入りしたいと言ってきたらお前の弟子にしてやってくれ。あいつは馬鹿だから俺みたいなくずやろうに恩を感じている。そして、俺もそれを嬉しく思っている部分が心のどこかにあるんだ。だから俺としてはせめてあいつを立派な医者にしてやりたい。そして、俺の知る限り最高の医者と言うのはお前をおいて他にはいない。不死の魔女と呼ばれているお前以外にはな」

「そうですね、本来ならあなたの言葉なんて聞く義理は無いのですが。かつての私の敵をとってくれたと言うあなたに敬意を表してそのレオリオと言う子がもしも私のもとにたどり着けたときは考えてあげますよ。ただ、私の教えは厳しいですよ」

「構わない。それに耐え切れるかどうかはあいつが決めることだ。俺が口出すことじゃないからな。それじゃあ、あえて嬉しかった」

「ええ、もうあなたに会うことは無いでしょうけどね。さようなら兄さん」






後書き
レオリオが弟子入りする前に弟子入りフラグを書きたくなったから書いてみた。
本当はレオリオについて掘り下げて書いてみるだけの予定だった過去話がいつのまにかレオリオ主役からバルザックとか言うオリキャラに食われてる。なんか当初の予定を無視してやたらと男前過ぎるキャラに。なお、彼が今後出番があるかどうかは決めていません。



[29061] 5話
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:cc4e1536
Date: 2011/08/02 23:17
うーん、なんか書くのに時間がかかった上に微妙に内容に納得できないですね。
もしかしたら今回の話は書き直すかもしれません。
後バルザックについてはかなりネタバレが含まれるので現段階では彼については説明できません。ご了承下さい




それにしてもなんというオーラ……さすがに先程まで感じていたヒソカのオーラには遠く及ばないもののそれでも下手をすると私よりも多いかもしれない。
まだオーラを制御する術を持って無い様に見えることから先程のヒソカのオーラに触れて目覚めたばかりなのでしょうけど。
いえ、先程彼の仲間らしき人は彼のことをなんと呼んでいた?
「レオリオ」そう「レオリオ」と呼んでいなかったか?
もしや、あの兄さんの話に出たレオリオだというのでしょうか?
いえ、きっとそうなのでしょうね。
このばかげたオーラがそれを如実に物語っています。
兄さんは相変わらずのようですね。
そう、嫌になるくらい変わらない。
私で一度失敗しているからでしょうか、身内と決めたものには……
兄さん、あなたは一体どこまで自分を犠牲にして生きるのですか?
この人のオーラを見るに兄さん、あなたはもう……
よしましょう、私たちはもう互いに関わらないと決めた身同士の筈。
ですが、ここまでされては私にはもうレオリオという青年を見捨てることは出来ないではありませんか。
いいでしょう兄さん、いえバルザック! 確かにレオリオを暫くの間お預かりします。
次にあなたがレオリオに思うときにあなたが驚くくらいに。
いえ、それすらもあなたの手のひらの上なのでしょうか?
あの日のように……



「ミネアさん、さっきのお姉さんの手術で確信した。あんたはミネアさんで間違いないな? 正直信じられねえとは思うしおれ自身こんな子供に向かって何を馬鹿なと思うが。あんた達はあの世界

最高の医者とうたわれるモンバーバラの姉妹だろ」

「ええ、その通りです。私の名前はミネア内科医の真似事をさせていただいています。そして先程手術していたのが私の姉で外科医のマーニャ。そして、向こうにいるのが私達の保護者で祖父のボ

ドロお祖父ちゃんです。この外見の示すとおり私達は医師免許は持っていませんし、所詮もぐりに過ぎぬ身で誇れるほどのことはしていません。世界最高なんてのはこの外見を珍しがった人達が適

当に言ってるだけですよ。ところで、あなたはバルザックの弟子のレオリオに間違いないですか?」

「いや、俺は先生に弟子にはしてもらってないんだ。先生に弟子にしてくれって言ったらあんたたちを紹介されてな。高名なあんたらの弟子になんてしてもらえるわけが無いって言ったら『大丈夫

だ。ミネアに無事に会えたら間違いなくお前を弟子にしてくれるはずだ』なんて自信満々に言われたんだが」

へえ、弟子ではなかったのですか。
それは少し以外でした。
ですが、この私が断れないことをやはり承知の上でしたか。
あの狸め。
まあいいでしょう。

「ええ、私達はバルザックには一つ借りがありますからね。あの時の手術では返しきれないほどの借りが。その彼に頼まれたのでは断れません。ですが、まだあなたの意思を確認していません。レ

オリオさんあなたは私達の弟子に本当になる気はありますか?」

「ああ、勿論だ。いや、勿論です師匠。ぜひこのレオリオを先生方の弟子に加えてやってください」

「わかりました。ですが無理して敬語を使う必要はないですよ? 正直に言いますと私もこんな堅苦しいしゃべり方は苦手ですし。お互い崩した話し方でしゃべりませんかお兄ちゃん」

「お、おに……いや、まあ師匠がそれでいいって言うんなら別にかまわねえぜ」

「うん、それじゃあ私達からまず最初に教えることは……さっさと練って言ってもわからないか。その体から出てる湯気みたいなのを抑えなさいお馬鹿~~!!」

そう、外法で目覚めたせいなのかそれともバルザックの影響か纏と絶を通り越して何故か練の状態で安定しているのだ。
有り余る才能があるのは認めますが。
そのせいで今会場で立っているのは私たちを除けば、面白そうに笑ってるヒソカとカタカタ言ってる針男と困ったように立っているちょび髭の紳士だけなのだ。
レオリオのオーラのせいで他にも念に目覚める人が出てこないでしょうね?
さすがにそうなったら面倒見切れませんよ。

「いや、抑えろって言われてもどうやったら」

こうなったら仕方が無い。
わたしはおもむろに腕を振り上げると思いっきりレオリオの首めがけて手刀を叩き落した。
これだけの練なら死ぬことは無いでしょう。
オーラを消耗しきってしまうよりは気絶したほうがよっぽどいいです。
それに今から纏か絶を教える時間はなさそうですしね。
横目で紳士をのぞき見るにですが。
それにどちらにせよこれだけオーラを消耗してしまっては一次試験を突破するだけの体力は残ってないでしょうしね。



目でちょび髭の紳士に合図を送ると彼は持っていたベルを鳴らせる。
それは大きな音を会場に響かせ丁度目覚まし時計代わりになった。
少しトラブルはあったが第一次試験を始める様だ。
どうやら彼の後をついて行けば良いらしい。
なるほど、耐久力と精神力のテストね。
何処まで行けばいいのか?
さらに変わらぬ景色で受験生に苦痛を与える、なるほど良い試験でしょう。
ですが、試験官さんのペース配分はかなり受験生さん達にとって優しいものですね。
まだ脱落者が出ていないことからもそれは明らかです。
どうしましょう、もう少しペースを上げさせても良いのですが。
いえ、ここは先程からこちらに色々聞きたそうにしているレオリオの友人達と会話することを優先しますか。

「えっと、あなた達はこのわたしが背負ってるレオリオお兄ちゃんの友達ですよね?」

「お兄ちゃん? レオリオのやつこんな子供達にそんな呼び方をさせて悦にいたるようなやつだったのか。付き合いは短いがそんなことをするやつとは思って……いや、そう言えばあの船の上でも

ずっとエロ本を読んでいたし、いや待てやつが読んでいたのは確か巨乳ものだったはず……」

「えと、彼はどうしたんですか?」

レオリオの友人の大きいほう、まあ彼ということにしておこう。の方が私の言葉に反応していきなり関係ないことをつぶやき始めた。
まあ面白そうですからほおっておきましょう。
それにしてもレオリオは巨乳主義者ですか……
レオリオの修行少しきつくしましょうか……

「俺にもさっぱり。あ、そうだ俺の名前はゴン。そしてこっちがクラピカ。途中で会ってここまで3人で一緒に来たんだ」

「そうだったんですか。私の名前はマーニャ。そっちにいるのがわたしの妹でミネア、そしてボドロお祖父ちゃんです。先程皆さんが気絶してる間にレオリオお兄ちゃんの師匠になることになりま

した」

「何だと! 妹プレイの上に師匠プレイだとどこまでマニアックなんだレオリオは」

「全くじゃ、わしの孫娘達を一体何じゃと思っておるんじゃこの男は!」

あ、クラピカにボドロさんまで加わった。

「全くだな。へんたいの上にハンター試験を女の子に運んでもらって本人はおねんねなんて今年のルーキーは笑わせてくれるぜ」

「ほんとだぜ。へいルーキーこの程度のマラソンも自分の足で歩けないへんたいと、その上ガキと爺の集団とか。ここはピクニック会場じゃねえぜ間違ってハンター試験会場にきちまったんならさ

っさとかえんな」

「きゃはははは。お前らもう体力の限界だろ。親切なお兄ちゃん達がそこのへんたいみたいに運んでやろうか?」

その上へんな兄弟みたいなのまで加わりましたね。
まあ、向こうでニヤニヤしてるトンパとか言うおじさんの差し金なんでしょうが。
さて、この馬鹿三人はどうしてくれましょうかね?

「貴様ら。レオリオは確かに馬鹿でスケベだが貴様らに侮辱されるいわれは無い。その言葉取り消せ」

「ん、なんだい怒ったのかい。俺達は事実を言っただけだぜ。それにあんただってさっきそいつのことをへんたいって言っていたじゃねえか」

「ぐっ、確かにそうだが。だが、他人に言われると何かむかつくのだ」

あ、三人組が壁にめり込みましたね。
ひょっとしてこのクラピカとか言う人も念に目覚め始めてるんじゃないですか?
まったく、面倒なことばかりおこりますね。
やっぱりこんな依頼受けるべきではありませんでしたか。


  ――ハンター試験開始500m脱落者3名――


あらら、可愛そうに。
見た所この中では比較的強そうな方達だったのですが。
こんな所で私たちに絡まなければ良い所までは行けたでしょうにね。
それにしても、クラピカさんはやはり。
まあ、どうでもいいですけど。
それにしても1km進めないとか……あなた達の方がよっぽど恥ずかしい記録なのでは?




「話を元に戻してもいいんでしょうか?」

私は先程有った事を無かった事にした。
幸い先程のことでこちらに手を出してくる人達は暫くいなくなったでしょうし。
トンパも居なくなったみたいですしね。

「う、うん」

ゴン君も先ほどのことはなかったことにしたようですね。

「とにかく私達は医者志望だと言うレオリオさんの先生の紹介でレオリオさんに医術を教えることになったんです」

「医術、レオリオは医者志望だったのか。やはり私の見立てに間違いは無かったか。レオリオは底の浅い男ではないと思っていた。いやまて、医者で幼い外見にマーニャとミネアだと!! もしや

あなた達はあの名高いモンバーバラの姉妹か?」

「あ、うんそうですけど。私達の外見や名前なんてよく知っていましたね。一般にはあまり知られてないはずなんですが」

色々突っ込みたいところはあるが。
特に先程一番へんたい扱いしていたはずなのにとか。
それはともかく私達の容姿について知ってるのは余程医療系について詳しく調べなければ出てこないはず。
それとも私達が治療した人の中に知り合いでも居たんでしょうか?
ふと興味を覚えクラピカと言う人の方を注視する。
そこには普通の人はごまかせても私達のような医療関係者まではごまかしきれないガラスの輝きとその奥に大事に隠されている赤いきらめきの影が見て取れた。
なるほど、あそこの生き残りですか。
でしたら医療関係者について詳しいのも当然です。
そして、クラピカさんへの攻め方も簡単ですね。
恐らく彼の知識があだとなって既に私達について敵対する意思は薄くなっているでしょうが。
そこに決定的な一石を投じておきますか。
レオリオの仲間というだけでも取り込む価値はありますが、その上あそこの生き残りと言うことでは無駄に敵対するなんて選択はありえませんからね。

「いや、昔少し医療関係者について調べたことがあってな」

ふむ、やはりビンゴですか。
患者に関係ないのであれば私達の容姿なんてものが少し調べただけで出てくるはずがありません。
なぜなら私の能力を隠すために私がついた嘘が原因です。
今では誰もが信じるそれを守るために私達の名前はともかく容姿が表に出ては困るからです。
それは彼の素性に非常に近い嘘。
長寿であるがゆえにその血を求めて権力者に駆られ尽くした少数民族の出身だと言う嘘。
成人になった者は自分の血を与えることで一人だけ自分達に近い寿命を他人に与えると言う噂付きで。
そして、実際に長寿になったと思しき人物が私達の周囲に存在する。
ゆえに権力者達に成人するまで飼われているかごの鳥が私達であると言う嘘。
そう、滅んだところまでは彼のクルタ族と非常に近しい設定です。
恐らく私達について知ったとき非常に親近感を抱いたでしょう。
好んで敵対したくないと思える程度には。

そして、彼が医者について調べた理由。
これこそが彼への切り札になる。
どうしても仕事柄医者と人体収集家は非常に近しい立場にある。
人体収集など医者の手助けなしに出来るわけがないのだから。
仮にハンターなどを使って収集したとしても、それを保存する術を持つのは誰だ?
そう、それは医者に他ならない。
人体について知識を持ちどうすればそれを保存できるのかを知るには医者に聞くのが一番早い。
逆に言うと、医者の情報網を使えば大体どんな物を誰が持っているのかが予想できるのだ。
そして、入手することにしたって医者と言う立場を使えば簡単だろう。
頭の良さそうな彼のことだ当然それぐらいのことは考えているだろう。
ただ、医者と言う世界は以外に閉鎖的な世界ゆえに恐らく諦めた筈。
恐らくレオリオの医者になると言う夢にも少し心を動かされたに違いない。
しかし彼がそれらの情報を入手できる裏にも精通した医者になるとは思えなかったのだろう。
少ししか接していない私でもわかる。
というよりあの男の弟子だからこそわかると言うべきか。
良くも悪くも彼らはまっすぐすぎるのだ。
恐らくそのような不正に関わることは生涯ありえないだろう。
ところが権力者にもつながりを持ち名医として既に名をはせる私達が現れた。
そう、本人が望まなくとも裏に関わらざるをえない設定である私達が。

さて、私達という餌にどう出るクラピカ?







後書き
はい、と言うわけでクラピカの回でした。恐らくクラピカって医療系の関係者についても調べたと思うんですよね。どう考えても医者と人体収集家が関係ないわけないですし。
医者の情報網を駆使すれば恐らくですが大体の緋の目のありかってわかると思うんですよね。それに、医者の中って絶対人体収集家いそうですしね。
そして、私は散々噂されていたクラピカって男? 女? と言う討論ですが多分女じゃないかな? と思っています。
所々で性格というか反応と言うかが微妙に女性的な感じを受けるんですよね。まあ、答えは出ないでしょうけど。
P.S.勿論脱落したのはあのかませ三兄弟です



[29061] 6話
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:cc4e1536
Date: 2011/08/10 05:17
前回の話が自分的に気に入ってなかったので直そうかどうか迷ってたら時間がかかってしまいました。感想もなかったのでやっぱり微妙だったのかなとも思いつつ、とりあえずそのまま続けてみようと思います。


その後クラピカの決意を心に秘めた私はレオリオを担いだ妹とボドロさんを連れてクラピカとゴン少年と分かれて進む事にした。
クラピカとのやり取りについては彼の要望もあり誰にも内緒にしておくことにする。
勿論現時点ではというだけだが。
そして、クラピカ達と分かれた私達はすぐにトップグループに追いついていた。
いくらボドロさんという老人がついていたとしてもそれ位は容易い。
実は内緒でクラピカにも施したのだが、妹の能力でボドロさんには軽いドーピングを施してあるし。
最も、あのやり取りの中で幾度か見せた頭の冴えを持つクラピカなら私達が何かした事に気がつくかもしれないが。
誇り高いが自分の本来の目的に関すること以外では仲間というものを大事にする彼ならばそれでこちらを不快に思う事は無いと思う。
むしろ彼は本来なら協力する事の尊さを知っている人間だと思う。
黙って手を出したことについては文句を言われるかもしれないけど。



さて、考え事をしている間にゴン少年が意外な人物と共にトップグループに顔を見せた。
確かゾルディックの時期頭領でしたか。
意外な人物と行動を共にするものです。
クラピカについて聞きたい気はするのですが、正直私はゴン少年とはあまり関わり合いたくありません。
ジン=フリークス……
恐らく世界の最高峰の一角。
ゴン少年は間違いなく彼の親類縁者でしょう。
クラピカやレオリオをもしのぎそうな才能の塊……
正直眩暈がするほどです。
彼は真っ当に育てば世界の行く末を左右するほどの存在になりかねません。
それだけの才気を感じさせるあの少年をあのジンが監視していないなんてことがあるはずがありません。
恐らく自分の後継者としてゴン少年にすら気がつかれないようにいくつもの試練を与えて育てているはずです。
下手をすれば私達ですらその試練の一つに使われかねない……
正直かかわらないに越した事はありません。
幸い私達に気がつき声をかけたそうにしているゴン少年をゾルディックの……キルアとかいう名前でしたか?
彼が止めているようですね。
見た所私たちを恐れているようですが、自分達よりも幼く見える私達を恐れる理由など無いでしょうに。
強さを感じ取っただけにしては私達は人助けしたり善人にしか見えないはずですがね。
恐らくゾルディックの何らかの教育方針がかかわっているのでしょうけど。
まあ、私は彼の教育方針に口出す気はありませんし、ゴン少年を止めてくれているのですから結果オーライでしょうか。



それにしても私達は余裕がありますが、ボドロさんの口数が減ってきたためにどうにも考え事をしてしまいますね。
ここは本来私達がここにやってきた理由でも果たすとしますか。
とは言っても、この試験の試験官さんは今のところ特に問題も無いですし。
いえ、むしろ優秀だといえるでしょう。
代わりばえのしない地下通路をえんえんと走らせる。
口にすればこれだけの事ですが、程よいスピードでこれをやられてはかなり精神的に負担がかかりますからね。
持久力以上に重要なのは精神力。
まあ、これを耐え切れない程度にしか持久力の無い方はそもそも論外ですし。
安全に資格の無い方を落とす事ができる。
よく考えられた試験です。
そして、その次に待つのは今私達の前に姿を現した階段。
ここでさらに追い詰められしかも試験管はさらにスピードを上げる。
恐らくですがハンター試験本選は実はまだ始まってもいないのでしょう。
今まで余りにも受験者達に脅威が無さ過ぎます。
せいぜい受験者同士の足の引っ張り合い位のものですからね。
本当の第一試験はこの階段を上りきった後。
それまでは足きりにしか過ぎないのでしょう。
実力の無いものを安全に落とすため……

そして、階段は終わり光が見えたとき私は自分の予想が正しかった事を確信する。
まず、階段の最後についたシャッター。
これで実力の無いもの達を危険から守るのだろう。
ここはある程度実力が無くては地獄以外の何者でもないでしょうから。
場所がここだという事は、次に見るのは精神力や持久力ではなく知力。
ハンターが詐欺師に騙されたなんてことになってはいけませんからね。
試験管に追いつける能力があれば体力で、知力自慢の方は自らの知力で嘘、だまし、トラップ満載のここを抜けれるかを見る。
本当によく考えられています。
ただ、少し優しすぎる気がするのが難点でしょうか?
わざわざ最初からヌメーレ湿原を使わないことといい、オーラを完全に制御して受験生に負担がかからないようにしながら自分の肉体能力だけで速度を調節したりしてましたし。
私でしたらこんなめんどくさい事はお断りですよ。
っと、やっとクラピカがのぼって来ましたか。
不本意そうな顔でこちらに向かってくる所を見るとやはりわたしのした事に気がつきましたか。

「これは君達の仕業か? 自分の能力のことは自分が一番よく知っている。私にはこんなに簡単にここまでこれるだけの能力は無い」

「うん、わたしが貴方の肉体能力を一時的に高めるつぼを押した」

「つぼ、なるほど。確か東方の島国に伝わる医学の秘儀の一つだったか? まさかそんな歳でそのような知識まで持っているとはな」

勿論嘘ですが。
実際に使ったのは妹の発です。
二つ目の能力……とは言っても最初の能力の派生形とも言えるものですが。
一つ目の能力「同一存在」が血の同一性を強化して私とのつながりを強化し私とのつながりを強化するものに対し。
二つ目の能力「賢者の医師〈けんじゃのいし〉」は自分の血を強化する事で様々な効能を持たせる石とする物です。
例えば今回は血の中のヘモグロビンを強化しクラピカに使いました。
そしてクラピカの体内の酸素と二酸化炭素循環の流れを良くして一時的に体の持久力を上げたというからくりです。
勿論念による効果ですので副作用はありません。
私の能力があのゲームにおける時間操作アイテム「時の砂」から来ているのに対し、妹の能力は名前の通り回復アイテム「賢者の石」から来ています。
ですが、そんな事を馬鹿正直に話す事はありません。
幸い指圧についても知っているようですからそちらの方向で話をあわせておきますか。

「ええ、患者さんの中には手術に耐えられない方もいらっしゃいますから。東洋医学を取り入れる事で肉体の持つ力を強化して本人の治癒能力に期待するしかない場合がありますから。悔しいですけど医者といっても万能ではないですからね」

「そんな事は無いぞ二人とも。少なくとも二人がいなかったら婆さんは今この世にはいなかったからな。二人は十分にやっておる悔しがる事なんて無いぞ」

「その通りだ。二人は少しでも人を助けるために努力していると思うぞ。少なくとも私は先ほど助けられた。ゴンもレオリオもいない単独行動だったからな、二人のおかげで肉体能力が上がっていなかったら途中で心が折れていたかもしれない」

嘘ばっかり。
あれだけの覚悟を持つ人がこんな試験ぐらいで心が折れるわけ無いでしょうに。
私達の手助けが無くても貴方はなんとしてでも突破していたと思いますよ。
貴方は現時点でも十分に強い。
肉体能力は劣っていても目的を果たそうとする為の心が誰よりも強い。
今回か……それが無理でも次回くらいにはハンター試験に合格するでしょうよ。
それに、貴方もうっすらとですが私達と共にいる事によって目覚めかけていますからね。
きっかけはあのレオリオの暴走でしょうけど。
恐らくそう遠くないうちに目覚めるでしょう。
まったく、あの暴走のおかげで今回の試験は下手をすれば裏ハンター試験がほとんど必要なくなるかもしれませんね。



おっと、シャッターが下りましたね。
意外に人が残っていますけど。
せっかくの試験管さんの好意だったんですから素直に落ちておけばよかったのに……といった方もかなり見受けられます。
ここからはハンター試験も本番。
今までと違って命の危険が格段に高まりますからね。
これからやる事も基本的には一緒。
ただし知恵の無い方は死ぬという違いがありますけど。

ん、向こうにいる生物は……そういうことですか。
試験官さんは本当にお優しい。
説明中にでもさっそくお手本を見せてくださる気なのでしょうね。

「ここはヌメーレ湿原。通称”詐欺師の塒”ここに住む動植物の多くが人間を欺き食料にしようとする狡猾で貪欲な生き物です。十分注意してついてきて下さい。だまされると死にますよ。だまされる事の無いよう注意深くしっかりと私の後をついてきて下さい」

ふふ、今頃騙されるのがわかっているのに騙される訳が無い。
とでも思ってる方がいらっしゃるでしょうね。
そう思いたい方にはそう思わせておけばいいのに……

「嘘だ!! そいつは嘘をついている!! そいつは偽者だ!! 俺が本当の試験管だ!! これを見ろ!! ここに住む人面猿!! こいつは新鮮な人肉を好む。しかし非常に力が弱い。だから人に扮して言葉巧みにここに連れ込み他の生物と連携して獲物を生け捕りにするんだ!!」

全く、馬鹿ですか?
力が弱い?
受験生のほとんどがついていくのがやっとの距離を導いてきたこの方のどこが?
もう少しこった話を考えましょうよ。
まあ、この方も恐らくハンター協会の方でしょうから、わざと簡単な嘘にしてるのかもしれませんが。
普通に考えて試験管にそっくりな猿なんて事前に準備できるはず無いですからね。
それが出来るのは試験管の顔を知っている人だけ。
そう、ハンター協会の協力者だけになります。
恐らくは協力することで罪を軽くしてもらう事を約束してもらった犯罪者といった所でしょうね。
そして、ここを突破できそうも無い。
つまりこの程度の嘘も見抜けない人達を安全な場所にでも連れて行くつもりでしょう。
それにしても、暑苦しい方で……
やばい、ヒソカが暴発する!!
私はとっさに妹の影に隠れるが、間に合わない……ヒソカのトランプの方が早い!!

「お前誰に断りを入れて俺の師匠に手を出してやがんだ? へっ、こんなトランプ止まって見えるぜ!!」












 後書き
序盤のクラピカとの会話を伏線のために削ったら、ほとんど会話も無く考察してばかりな話に……試験管の試験という名目で参加したから仕方ないとはいえ。そして、オリキャラたちの目的は世界の危機を救う事ではなく。あくまで自分本位な為ゴンさんはスルー。



[29061] 7話
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:0fcf7c70
Date: 2011/08/10 21:03
「へっ、目が覚めたらトランプが飛んできたから思わずつかんじまったが。この程度の攻撃なら俺にだって余裕で止められるぜ」

「へえ、君やっぱりいいね☆青い果実っていうのは何でこんなに魅力的なんだろうぞくぞくしてきちゃうじゃないか◆でも、今食べてしまうには余りにも勿体無い★早くその二人に念を教えてもらうんだね◇」

まさか、ほとんどのオーラを使い果たしたと思っていたのに。
念に目覚めたばかりのレオリオがもう目を覚ますだなんて。
それどころか避けるのが精一杯だったあの攻撃を難なく止めるなんてね。
なんていう化け物……
それにしてもヒソカめ、まさか40人程度しか脱落してないこの状況でもう念なんて言葉を出すだなんて。
今ここにいるほとんどの人が念を知る資格なんて持ってないのに。
レオリオは何のことかわかってないみたいだけどクラピカがあきらかに興味を持っちゃたじゃない。
面倒ごとばかり押し付けて。

「さて、興奮のあまり思わず脱線しちゃったけど、そっちが本物だね◇」

言うとヒソカは先程同時にトランプを投げられた二者の内片方を無視し片方を見つめる。
そう、レオリオと同じくトランプを難なく受け止めた試験官の方を。
オーラが見えるヒソカがわからないはずはないのに。
本当に性格が悪い。
しかも、妹ではなくほとんど戦闘能力を持っていない私まで一緒に攻撃するなんて。

「試験管というのは依頼されたハンターが無償で任務につくもの★ハンターの端くれがあの程度の攻撃を防げないわけないからね◆」

「ほめ言葉と受け取っておきましょう。しかし、次からはどんな理由があろうと私への攻撃は反逆とみなし即失格とします。よろしいですね」

「はいはい◆」

「さて、ここでは今のような騙し合いが日夜行われています。何人かは私を疑ったのではありませんか? それではまいりましょうか。二次試験会場へ」

これはいけない。
ヒソカが先程のレオリオに触発されたのか明らかに誰かを殺しそうな雰囲気ですね。
ここはボドロさんとクラピカを守るために一緒に行きますか。
それに、ヒソカのせいで念について説明しなければならなそうですし……



とりあえずまずはレオリオに纏を教えないと。
全く、ここまで練と相性がいい人なんて始めてみましたよ。
能力は凄いですが燃費が悪いことこの上ないですね。
まあ、自分のオーラじゃないので体内に留める事が苦手なのはわかりますけど。
そう、彼の莫大なオーラは彼本来のものではない。
いくらなんでも念に目覚めたばかりでヒソカに匹敵するだけのオーラやヒソカの攻撃を受け止められるだけの戦闘経験を持っているわけがない。
最も彼自身才能はかなりあるようなので将来は自分のオーラだけで今ぐらいの力は出せると思いますけど。
でも、少なくとも今の彼の力は彼本来のものではない。
私が自分の寿命を延ばしたのに対して私の兄は自身のオーラと戦闘経験を他人に受け継がせることにした。
そして、その受け継いだのがバルザックであり今のレオリオというわけになる。
私の兄も私と同じく才能は無かったが、自分の命を捨て死者の念としてバルザックに自身の記憶とともに自身の能力を譲り渡す。
二人分のオーラを持つことで凡才の身でありながらつわものの仲間入りを果たしバルザックは観測者のうちの一つを討ち果たした。
ただしダメージも大きく二度と戦闘が出来ない体になったが。
そして、その念は今レオリオに受け継がれている。
バルザックが死んでいないせいか記憶は受け継がなかったみたいですけど。
いくら念に目覚めたばかりで自信のオーラはほとんど無いとはいえ、三人分のオーラと戦闘経験を持つレオリオ。
その能力を受け取った証として「るいは智を呼ぶ」だったかしら? に出てきた呪いの紋章に似たものが額に光っている。
確かにあの作品は制約を受けることで能力を得るという作品だったから念に似ていなくは無いけど。
まさかあの生真面目な兄がそんなゲームをやっていたとは想像もつかなかった。
私自身は客の話にあわせるためとしてやったことがあるだけですが……
まあ、そんなことはどうでもいい。
今はクラピカとボドロさんを守りつつ念について簡単に説明しておこう。
レオリオは別メニューで纏の習得だけど。

「さて、君達一つ聞いてもいいか? 先程ヒソカが言っていた念という物は一体何のことだ? 察するに今レオリオから感じている圧迫感のようなものと関係がありそうだが」

「念……わしは聞いたことがある。なんでも生命エネルギーを使って魔法のような超常現象を引き起こす技術じゃったか? 聞いたときは眉唾じゃと思っておったが。どうやらそういうわけではなさそうじゃな」

やっぱりこの二人は鋭い。
そっちで間抜けずらを晒しているレオリオとは大違いです。
医者を目指す貴方が頭脳労働組みに居ないとか。
本当に医者を目指す気があるんでしょうか。
戦闘面とは違ってそっちは前途が多難そうですね。
まあ、元々この二人については教えても構わないと思っていましたので良いでしょう。

「うん、今お兄ちゃんが体に纏ってる物がオーラって言って生命力を源にするエネルギーなんだけど。そのオーラを制御して自由に操る技術の事を念って言うの。お兄ちゃんがやってるのは練って言う念の技術の一つなの。基礎の4大行って言う念の基礎の3つ目の技術なんだけど……自分の体の中の生命エネルギーを増幅して自分の体の周囲に纏わせる技術かな。それをやってると普通の人だとどれだけ能力差があってもほとんどお兄ちゃんに勝てないと思うくらいに凄いものなんだけど……とにかく燃費が悪いの。慣れないと数分でエネルギーを使い果たしちゃうくらい」

「って、エネルギーを使い果たす!! 俺死んだりしませんよね? ね?」

「うん、えっと……死にはしないけど。さっきまで見たいに疲れて動けなくなるの。さっきのはそうなる前に気絶させたんだけど。今度は出来れば動けなくなる前に4大行の一つ目の纏か二つ目の絶を覚えてもらうのが目的かな。どっちにしろもうだいぶオーラをつかっちゃったからまた動けなくなると思うけど。また私達が運んであげるから安心して修行してね。あ、纏は体の周囲に自然にオーラをまとわせる技術で、鎧みたいな効果になるね。普通の攻撃にはかなり強いし、念での攻撃には最低でもこの状態じゃないとかなりの怪我を覚悟することになるよ。そして、絶はどんな生物でも常に体の周囲に微弱に発しているオーラを全部体の中に収める技術。隠れるときに使ったり自分の体力を回復させるときに使うのが主な使用法になるよ。ただ、この状態の時に念での攻撃を食らったら致命的なダメージを覚悟しないといけないけど」

「また? って、どうも場所が変わってると思ったら。俺師匠達に運んでもらったんですか!!」

「うん、そうだよ」

あ、レオリオがしゃがみこんでへこんでる。
まあ、大の大人が私達みたいな年齢一桁に見える女の子に運ばれたって知ったらへこむとは思うけど。
さっきレオリオが目を覚ましたときは妹が私を助けようとレオリオを地面においていたし。
今まで気がついてなかったのか。
纏か絶を覚えるまではどっちにしろ私達に運んでもらうしかないんだから諦めて貰うしかないわね。

「待て、4大行と言ったな。今聞いたのは纏、絶、練の三つだ。最後の一つは何て言う物なんだ?」

「最後の一つは当分関係ないんだけど。発って言うものです。いわゆる必殺技のことで、さっきボドロさんが言った魔法みたいな力かな。その人それぞれに違う能力を持ってるのが特徴だね。これが相手に知られることは自分の戦略が丸裸にされるのも同じことだから普通はよほど親しい相手にしか教えないか、仮に教えたとしても切り札は隠しておくのが普通だね。これについては念のことがある程度理解できて無いと感覚的に理解しにくいから当分は気にしなくても良いよ」

「なるほどな。基礎と言うからにはまだあるのだろうが……今の我々ではそれ以上を聞く実力はなさそうだ。それで、聞きたいのだが。それは私でも覚えることは可能か?」

「うん、もう少しとはいえ覚えてるお兄ちゃんは勿論。お祖父ちゃんもクラピカさんも勿論覚えられるよ」

「そうか、それでその力はハンター試験の最中に覚えられるものなのか?」

うーん……
クラピカに関しては外法を使えば問題無いと思うけど。
ボドロさんは多分無理でしょうね。
いくらなんでも歳をとりすぎていますし、成長のピークはとっくに通り過ぎてしまっているでしょうから。
自然にゆっくりと力を目覚めさせるしかないと思います。
とりあえず時間の惜しいレオリオは妹に任せ二人にはそう説明する。

「そうか、ではお願いがある。私を目覚めさせてはくれないだろうか? レオリオの時とは違って二人なら安全に目覚めさせる方法も知っていそうだ。勿論ただで教えてくれとは言わない。私に出来ることなら何でも御礼はするつもりだ」

「良いんですか? 確かに私が目覚めさせればレオリオのようにいびつな覚え方をすることなく安全に纏から覚えられるとは思います。ですが、それだって絶対とは言えませんよ。安全に覚える気なら二次試験会場についてから目覚めさせた方が良いと思うんですが」

「いや、可能なら今覚えさせてもらえないか? 二次試験会場が安全とは限らない。それに少しでもその力に慣れておきたいからな。勿論君の都合に合わせるつもりだが……」

別に今教えるのは構いませんけど。
十中八九そうするとクラピカも一次試験を突破するだけの体力は残らないでしょう。
妹はレオリオを運びますし。
勿論重量的に二人を運んでもらうことは出来ますけど、それだと余りにも目立ちすぎてしまう。
かといって私が運んだのでは鋭いクラピカの事だ私の性別がばれてしまうかもしれない。
では逆に私がレオリオを運んだ場合だが。
あんなのでも一応は医者の卵だ。
骨格の違いやその他の違和感を感じ取ってしまうかもしれない。
まだ子供な分見ただけではばれていないようだが。
仮にも医者志望なのだ。
本来ならば見ただけで骨格の違いなどから性別を見分けられていてもおかしくは無い。

「うーん。私は教えるのは構わないんですけど。これを教えるとしばらくは体が満足に動かせなくなると思いますのであなたを運ぶ人が……さすがに私だと体格的にも大変ですし」

「そうか、それなら無理を言うつもりは無い」

「二人ともわしのことを忘れていないか? わしは今すぐ念を目覚めさせる事はできないようじゃがこの若者を運ぶくらいのことはできるぞ」

「いいんですか?」

「ああ、じゃが……クラピカじゃったか。君に一つ頼みがある。この二人にもらった力でこの二人の事を助けてやってくれんか? この二人は確かに強い。じゃが、見た通りまだ幼いからな。それに、戦闘が本職ではないからあのヒソカのようなものとも戦えんじゃろう。どうかこの二人の力になってやってくれんか?」

「ええ、そんな事は言われるまでも無い事です。この二人を守る事はあなたとクルタ族の名誉にかけて誓いましょう」

やった。
これでクルタ族と言う戦闘民族の加護を得た。
全く世の中の人はわかっていません。
クルタ族で重要なのは緋の眼などでは決してありません。
一族に伝わると言う反則じみたその念能力の方がはるかに価値が高い。
それを理解せず滅ぼしてしまうなんて何て勿体無いと思っていましたが。
まさかその生き残りを味方につけることが出来るなんて。
これだけでもボドロさんを味方につけたかいがあったと言うものです。

かくしてクラピカは纏を、レオリオは絶をそれぞれ無事習得した。
それにしても、レオリオはなまじ最初に練を覚えてしまったから微妙な調節が苦手になってしまいましたか。
0か100かとは何てピーキーな。
絶状態で額に紋章が輝かない時はボドロさんにも劣る程度の実力しかないかと思えば。
その額に紋章が輝けば今回の試験最高実力者の一人であるヒソカに匹敵するオーラ量になる。
ただし時間制限付ですが……
全く教えがいのある生徒です。



何とか二次試験会場についた。
2人を抱えたままここまで来るのは普段なら何でもないが、その二人がまずい。
念をほとんど消耗しているし、早急に休息をとらせる必要がある。
休めそうな場所を探している私達に声がかけられたのはそのときだった。

「クラピカ!! レオリオ!!」

おや、ゴン少年。
キルアの制止を振り切ってきましたか。
さすがにこの二人がかつがれている状態では心配みたいですね。

「ねえ、クラピカとレオリオは一体どうしたの?」

「心配しないで良いですよ疲れているだけですから」

「え?」

きょとんとしている。
まあ、その一言だけではわからないでしょうね。

「ゴン本当だ。私達が無理を言ってこの二人に修行をつけてもらったんだ。今はその疲れで動けないが少し休めば問題は無い」

「そうなんだ。良かった」

「ああ、最もレオリオは女の子に運んでもらうのは屈辱だって言って暴れたから気絶させられているが。特に問題は無い」

!! この臭いは……何ていう濃厚な血の臭い。
今来たのは……
やはりヒソカですか。
これは一体どれほどの人を殺したのか。
やはり二人についていて正解だったみたいですね。
ゴン少年とキルアはトップグループに居たみたいですからそもそもヒソカとは関係ないですし。
それにしても、獲物を伺うような楽しそうな顔でこちらを見ていますね。
これではおそらくハンター試験が終わる前に一回レオリオとクラピカに戦いを挑んできそうな予感がします。
勝つのは無理ですが、せめて逃げられる程度の実力は二人にはつけてもらわないとなりませんね。











続く
一次試験?終了…試験と言うより修行してましたが。本編ではレオリオは纏を自力で習得してますし、纏を覚えるのに向いていると思うんですが。この作品では受け継いだ強大なオーラといびつな覚え方のおかげで当分纏は使えない予定です。0と100を駆使して頑張ってもらう予定です。それと、レオリオの受け継いだ能力は当然竜の紋章を元にした能力ですけど。主人公はダイの大冒険を知りません。そして、作中に名前が出てますが2年前この作品を読んでいたころにやっていたゲーム、この作品の元ネタになったゲームの派生の能力だと思っています。正直あれ竜の紋章にしか見えませんしw
それにしても、タイトルにDQクロスとでも入れたほうが良いような気がしてきましたね。



[29061] 以前の物です
Name: 適当◆edf5be3a ID:c290286e
Date: 2012/09/06 20:46
感想欄に書き込んでから暫くの間は確認していたのですが、まさかその後に書き込んだ方がいらっしゃったとは思いませんでした。
最近またssを書き始めたためこちらを確認したら旧作を見たいと言う書き込みがありましたので余りにも遅いとは思いますが投稿しておきます。
なお、この作品はいずれプロットを書き直した上で矛盾を消しつつまた書き直せないか模索するつもりです。
ただ、今は別のssを書き始めてしまったため書き始めるとしてもすぐには書けないと思いますけど。
では、前書きが長くなってしまいましたが以前のものをのせておきます。




呪われた人生だった。
ただの一人も本当の友人等できなかった。
別に、ある一点を除いてはそこまで不幸な人生では無かったと思う。
ただ、その一点こそが何よりも重要だったのだ。

私は、15歳まで自分が女だと思っていた。
実際ある程度になるまでは違和感も無く、何も疑ってはいなかったと思う。
それは、人より胸が無いなあとか、生理が遅いなあとかは思ってましたけどね。
それに、無意識でなのか初恋の人も女性だったし。
でも、その事実を知ったのは私が、15歳の時自転車で転んで運悪く足の骨を折ってしまった時だった。
仮性半陰陽……一般にそう言われる症状だ。
本来は男なのに女の形をして産まれて来ることらしい。
それから私の人生は転落が始まった。
親は腫れ物を扱うように私に接するようになり。
やがて、兄しか見なくなる。
友達は……いや、それまで私が友達だと思っていた者達は皆手のひらを返した。
後から思えば、どう接して良いかわからないでいただけだったのかも知れない。
でも、そのときの私にしてみれば彼女らのそれは裏切りとしか思えなかった。


そうして私はいろんなものに追い詰められていった。
自分を男だと思うことが出来ず、女の格好を続ける私を世間は奇異の目で見る。
実際には私は女にしか見えない外見をしていたので、被害妄想だったのかもしれないが……それでも私の噂は町中に広がっていた為、一概にそうとは言えない。
話しかけようとすると逃げる親、汚いものを見るような目で見る兄。
ついには私は学校をやめ町から逃げ出していた。

何処をどう逃げたのか私は覚えていない。
でも、私がたどり着いたのは今までよりもさらに最悪な世界だった。
心に傷を抱え、高校中退。
そんな私を不況の世の中で雇ってくれるような所等無い。
気がついたら私は非合法な売春宿に男娼として売られていた。
そんな世界で6年目変化が起こる。
売春宿の経営者が逮捕されたのだ。
しかし、すっかり人間不信になっていた私は罪悪感というものを無くしてしまう。

その後、詐欺師としていき。
私が29歳になった年、私は後ろから刺されて死んだ。
そして、死体は雪山に捨てられた。





それから3百年の年が流れる。
人はかつて起こした核戦争により滅び、地球は光の差さぬ死の星と化していた。
そこに、エイリアンがやってくる事から再び地球の時が流れ始めようとしている。

「おーい、そっちは何かあったか?」

「いや、こっちには何も無いな。どうにもこの星はそれなりの文明を持っていたようだが、既にこの有様ではどのような星だったのか全くわからないな」

「ん、おい皆!! こっちへ来てくれ」

「どうした?」

「比較的損傷の少ない死体がこっちの山から出てきたんだ。もしかしたらこれでこの星の事が少しはわかるかもしれないぞ」

「そいつはすげえ!! お手柄じゃねえか!!」

「よし、それじゃあこいつの脳みそを取り出すぞ」

「そうだな、その後は適当にこの間見つけたこの星と同じ猿形の人類が住む星の生物の脳に移植してみるか。それでこの固体の経過を見よう」

「そうと決まったら忙しくなるぞ、皆頑張ろう」

「「「おう!!」」」








「あれ、私は一体? 何で生きているんだ?」

「それにとても暗い。狭い……そうか、ここが地獄というところか」

ハア、それにしてもやる事がない。それに考え事をしているととても疲れる。
いいや、今日はもう寝てしまおう。

あれから何日たったのだろうか、妙に代わり映えのしない毎日が続く。
壁の向こうからは人の話し声のようなものが聞こえる。
でも、聞いたことの無い言語だ。
これでも人を騙す為にいろんな言葉は知ってるはずなんだけど。
ああ、また眠くなってきた。

っぐ、い、痛い。
何事ですかこの痛みは?
駄目だ、気を失ってしまう……
明るい……目がかすむ。
物が良く見えない輪郭すらもおぼろげに見えるか見えないかといった感じだ。
それにしても、体中が痛い。
だめだ、我慢が出来ない。

「おんぎゃあーおんぎゃあー」

「さへfはへあっへjh」

「fgっづhvhrfjjsdrh」

なんだろう。
口から出てくるのは変な泣き声だけ。
それを聞いた周りにいる人達……声を聞いて始めて存在に気がついた。
その人たちは私には理解できない事を言っている。
いいや、今は疲れた。
複雑な事を考えるのはまた今度にしよう。
ともかく今は体中が痛い。
この痛みに身を任せて気を失わせていただきます。


あれから二年が過ぎた。
どうやら私は生まれ変わってしまったらしい。
これは私にとっては何よりもつらい地獄だ。
人を信じられず、人を騙すことでしか生き方を知らない私を再び人の中に戻すとは。
しかも、人の庇護下に居なければ生きられない年齢にして。
これでは本物の地獄に落ちて鬼と共に有ったほうがどれだけ気が楽だったでしょうか?
早く力を身につけたいものです、誰にも頼らず自分の力だけで生きていけるだけの力を。

さらに一年がたった。
どうも、親は私のことをどう扱っていいのかわからないようだ。
話しかけても興味の無い顔をされるかあからさまに無視をされ、話したかと思えば嘘を付く。
その上に男の子だというのにあからさまに女の口調で話す。
私自身で考えてみてもこんな子供が出来たらどう扱って良いか迷う事でしょうと思う。
そして、母親の妊娠と共に私は再び捨てられた。
そのとき私が思ったことは、ああやっぱり親というものですら、信じるには値しないという事実でした。
捨てられた場所は流星街というところらしい。
どんな所であれ、私は私として生きていくだけだ。

それから半年。
3歳ながらに、かつての経験を持つ私は弁が立ち人をだます事にかけては右に出るものがいない。
その為、それなりに有名になっていた。
そのことに気がつかず、いつもの様に出かけた私が帰ってきたとき、私の財産を狙った空き巣と出会ってしまう。
このとき私にとって幸運だった事は、その男が念使いだった事だろう。
念を纏わせたナイフで私を刺すと金目の物を奪い逃げ去ってしまったが。

その後奇跡的に生き残り私は念を習得する。
はじめは念というものを理解する事が出来ずに狂ってしまったのかと思った。
何しろ全ての人から湯気が出ているのが見えるのだ。
これはおかしいと思いそれから1年かけて念というものについて学ぶ。
子供の体を生かし、時には油断を誘い。
時には弱みを握り、時にはじっくりと騙していろんな知識を集めていった。


そうして、今日は自分の系統を調べる日。
ロリコンのハンターを騙して手に入れた知識の通りに水見式という儀式を行う。
結果、葉っぱがかすかにだが揺れ動いている。

「どうやら私は操作系の念能力者だったみたいですね」

つい一人ごちてしまう。
人を見ては騙している為独り言というのはたまに素直になれるときだから私には大事である。
そのため、大事な時にはつい独り言をこぼす癖が出来てしまった。

それから1年半私は修行に費やす。
そして、今日はいよいよ発を作る日だ。

「とうとうここまで来た。今日が私が一人で生きることが出切る力を手に入れる第一日目。奇しくも私の誕生日4月1日私に相応しい日。今日この時から私は世界すらも騙す!! そして、いつの日にかこんな運命を私に与えた神にすら挑めるだけの力を得てみせる。例え何百年、何千年かかろうとも。そのための力、私だけの力『永遠の嘘』。全ての者達よ、待っているが良い。今に私はすべてを倒す力を得るだろう。その時こそ私の復讐はかなう」


やがてエイプリルフールクライシス『4月1日の災厄』と呼ばれるようになる人物はこうして産声を上げた。






私が永遠の嘘を作ってから15年の歳月が流れた。
本来なら21歳のはずであるが、いまだに私は6歳のまま。
15年の間私が気を許す者も無く、秘密に気がつく者もいなかった。
私はその間ただただ人間について研究を続ける。
そして、前世の記憶とその15年の研究を通して私の詐術は完成したと言っても良いだろう。
自分の事ながら呆れてしまう、今日21歳になったばかりの、それも肉体年齢6歳の私が年齢すらも不完全とはいえ操作し神への反逆を企てているのだから。
それにしても、前世の親が敬虔なクリスチャンだったから神とは我ながら呆れてしまう。
そんなに私は親というものに固執しているのだろうか……
考えられなくは無い、10年程前この世界での実の親を破滅させたのは他ならぬ私なのだから。

あれは人間の心理について勉強していた時だ、ふとしたきっかけで私は親を見つけてしまった。
妹だろうか? 今ではすっかり私よりも大きくなってしまった少女を連れ幸せそうに笑っている。
その姿を見たとき私の中にえもいわれぬ複雑な感情が浮かんできたのだ。

「ああ……コワシタイ……」

それからの私は何かに取り付かれたかのように行動する。
まずは母親。
これは簡単だった、妹に近づいて私の存在についてほのめかすだけで良い。
すると、母親に私のことを聞きに言った妹の言葉で狂乱し私の霊が仕返しに来るのでは? と日々不信に陥っていった。

次に妹。
狂乱した母親に次第に暴力を振るわれるようになりたった8歳の子供の心は直ぐに壊れた。
そこに私が登場してやり妹に甘い言葉をかけてやる。
そして、何くれと無く心配してやるフリをすると妹は次第に私に傾倒していく。
そう、家族にすら目もくれないぐらいに。
元々肉親ということで私に対して何か感じ取っていたのだろう、その速度は私が予想していたよりも早かった。

最後に幸せな家庭が崩壊していくのに気がつきながらそれを食い止めようと奔走する父親。
彼はどうやっても直らない家庭に次第に疲れていく。
しかし、妻の為娘の為と頑張った。
そこに私がまた手を加える。
知り合いの念能力者に高い金を払い私の外見を20歳前後のものにしてもらう。
そして父親に会いに行く。
彼は妻に似た私に直ぐに惹かれて言ったようだ。
前世での経験は伊達ではない、疲れきった男の心等造作もない。
そうして私に骨抜きになった所で私の正体を明かす。
勿論今までの私との関係は全て母親や父親の会社、住む家の近所にいたるまで公表してある。
半狂乱になって襲い掛かってくる父親を軽くいなすと男性の象徴を切り捨て縄で縛り病院の前に放置してきた。

私に怯え旦那の不倫にあい人間不信に陥った母親。
社会的信用と地位を失い男性としても終わりを迎えた父親。
母親に加えて父親の裏切りにあいますます私に傾倒して行った妹。
既にそこにはかつての幸せそうだった家族の姿は無い。


流星街に妹を連れて帰った私は死んでもともとのつもりで妹の念能力を外法で起こす。
すると私の妹なだけあって才能があったのか生き残ることができた。
それから5年私は人間研究を続けながら妹の修行をつける。
完全に戦闘と私の護衛向けの能力を持った私の優秀な人形……
永遠の嘘を使い見掛けは8歳と6歳、外では妹に姉と名乗らせている。
既に妹には私以外を人と認識する機能は無い。
私とそれ以外の物、最も外では一応まともなフリをさせているが。
現に近所での私達の評判は過保護な姉と引っ込み思案な妹というものだ。
おかげで近所の人たちは私達に良くしてくれている。
最も、流星街なだけに特別に何かをしてくれるというわけではないが。
それに、実は私達兄妹が暗殺と詐欺でかなりの金を持っていることは知らないだろう。
知っていたら今頃は私達は襲われている。
それと、限定的だが私が時を操作できる能力者だということも秘密だ。
これは当たり前だが、永遠に生きることができるというのは人類の夢である。
今だ強いとはお世辞にも言えない私たちにとってそれを知られるのは死活問題だろう。

そういうわけで、それから今までの5年間私はさらに人間研究を続け、人の心理人体構造どうすれば人を壊せるかを学んだ。
勿論精神的、肉体的両方の意味でだ。
最も今の能力ではまだまだ人を壊すのなど夢のまた夢これからは肉体を鍛える事に移行する予定。

妹にはこの5年間それまでに貯めた金を使ってちゃんとした師匠に学んでもらった。
流石に独学の限界を悟ったのだ。
そして、後に私が妹から修行をつけてもらえばいい。
それくらいの簡単なつもりだった
しかし、私達の予想を超えてその修行は私達に有利に働く。
力だけではなく様々な念能力に触れる事で実戦経験をつむ事が出来たこと。
そして何より大きかったのは私達が気に入られ、師匠の持つ様々な資料が借りられたことだ。
最も暗殺業は辞めさせられたが……


修行の前に私達は収入を得るために手に職を求め無くてはならない。
意外な窮地に陥ってしまったものだ。
正直はじめは師匠との約束等守るつもりは無かった。
しかし、変な念でもかけられたのか私達は暗殺業を行うという意思をどうしても起こすことは出来ない。
仕方ないので私は身につけた人体構造の知識を使って闇医者になる。
それから80年……表? では有名な闇外科医として、裏では一心に世界に反逆する為の力を求める求道者として活動を続けた。

だが、ここでそれまでの活動の転機が訪れる。
師匠の息子さんに頼まれてハンター試験に参加して受験生を容赦なく落として来いと言われたのだ。
理由は年々ハンターの質が落ちてきている事をうれいた上層部が、非ハンターライセンス保持者かつ信用のおける実力者が影からハンター試験を審査する事が目的らしい。
つまり、審査員に顔を知られていない人間が審査員を逆審査して来いというもの。
ハンターの質の低下は試験者の質の低下ではないかというのだ。
だが、めんどくさい。
何で私達がこんなことをしなければならないんだろうか?
そう思い断りの返事をしようとする。

「ふむ、理屈はわかりました。ですが私達姉妹はそれに協力するすることのメリットがありません。こう見えても姉も私も忙しい身です。どうか他を当たって下さい」

「すまん、今回ばかりは適任がお前達しかいないんだ。ハンター協会に一人も知り合いが居ない上に試験官ともやりあえる腕を持つものはお前達しか居ないんだ。これを受けてくれたらお前達には私の権限でシングルハンターと正規の医師の資格を与えるから」

「ふう、私たちがその様なものを欲しがるとでも? 確かに収入が増えるのはありがたいかもしれませんがお金など私達にはそれほど必要ではありませんよ。まあ、あって困るとまでは言いませんがね」

すると息子さんの顔色が悪くなる。
これだから地位や権力等は下手に持つものではないのだ。
さて、次は私達に何を出してくるのでしょうか?
楽しみですね。

「ハア、仕方が無い。以前お前達にかけた暗殺禁止の念を解いてやろう。これでどうだ?」

「そうですか、私達はもう帰っても良いという事ですね?」

「わかった。仕方が無いお前たちに神字を教えてやろう。以前お前達に暗殺禁止をかけたのもこの特殊な文字の効果だ。これを知れば今まで以上にいろんな事が出来るようになるだろう。勿論暗殺禁止も解けるようになる。だから教えたくは無かったんだがな」

ほう、そんなものがあったんですか。
それは良いことを聞かせていただきました。
条件としてもこの辺りなら妥当でしょうしここら辺で手を打ちますか。

「仕方が無いですね、神字の習得とシングルハンターそれに医師免許。これで手を打って差し上げましょう」

「全く足元を見やがって。よし、それで良い。その代わりしっかり働いてくれよ」

「ええ、承ったからには試験官どもを再起不能にしてあげましょう」

ふふ、顔色が青くなりましたね。
全く可愛い事です。
私達が本当にそんなことをするわけが無いでしょうに。
めんどくさい、お金を貰うのならともかく。

「ちょっと待て、流石にそれは困る。穏便に頼むぞ、もし審査員にまずい所があれば軽く灸をすえてやるくらいで良いんだからな」

「わかっていますよ、先ほどのは冗談です」

「全く、お前の冗談は心臓に悪すぎる。もう少し嘘と本当と冗談の区別を付けてくれ」

「わかりましたよ(勿論守るわけ無いじゃないですか)」

「ハア……」

フフフ……
舌戦で私にかなうわけが無いでしょうに。

「それでは失礼しますね。あ、それとシングルハンターになっても厄介な事は回さないでくださいよ」



息子さんの所から妹の所へ帰った私は妹にハンター試験を受けに行く事だけを伝えた。
さて、ハンター試験とは私達の最終目標、神と世界への反逆にどれだけのプラスになるんでしょうかね?
楽しみです。




依頼された第287期ハンター試験がそろそろ始まろうとしていた。
私達はハンター協会の人事部の人たちの伝で会場に案内される。
まあ、私たちならそんなことをしなくてもたどり着けたとは思うけど、楽を出来るのには越した事はない。
最もこれ以降は真面目に試験を受けねばならないのだが……
ともかく私達二人は試験会場の入り口である『めしどころごはん』という店の中で適当に時間を潰していた。
余り早く入りすぎても外見が8歳と6歳なだけに不信がられると思ったからだ。
実際には私は100歳を超え妹もそれに近い年齢なのだけど……
暫く待っていたら見知った人が現れた。
丁度良い、その人と行動をともにしよう。

「お久しぶりですボドロさん。その後奥さんは元気ですか?」

「ん? おお、誰かと思ったら先生方ではないですか。その節は家内がお世話になりました。おかげ様であれもすっかり元気になりました。全くあの時先生方が通りかかってくれなかったらと思うとひやひやします」

「いえいえ、そんな気にしないでくださいよ。そうだ、ボドロさんもハンター試験を受けに来たんですか? もしそうなら一緒に行きませんか? ここまで来たは良いんですが、私達二人だと心細くて」

それにしても丁度良い時に来てくれたものです。
ボドロさんの奥さんは去年ふとした拍子に崖から落ち。
そこに偶然私達が通りかかって治療してあげたんですが……
まさかこんな所で役に立つとは。
それに、私達は余り金を必要としていないので、お金を受け取らなかったのですが。
ボドロさんからは恩人として季節ごとに贈り物をされる程の関係だ。
この人ならば私達の隠れ蓑として最適だろう。
何せ私達の見た目は6歳と8歳。
いくら強さに自信が有るとはいえ、何があるかはわからないのがこの悪意に満ちた世界。
ふふ、それにしても全く世の中何が役に立つかわからない。
ほら、ボドロさんも人の良い笑顔を浮かべてこちらの言う事を断ろうという気配も無い。

「なるほど、先生方ならば強さは申し分ないですしな。ワシが何処まで力になれるかはわかりませぬが、先生方を見捨てたとあってはわしが家内に殺されてしまう。一緒に参りましょう」

「感謝」

「あ、ありがとうございます」

「はっはっは、相変わらず妹先生は引っ込み思案でいらっしゃる。もう少し自信をもたれてはいかがですかな? 後、姉先生も折角可愛いのですから、もう少し愛想を良くされては? いかがかな」

「このままで良い」

妹は全く相手にしない。
ふう、壊してしまった影響か世界中で私以外の事はどうでもいいようだ。
まあ、私だけのものだから構わないのだけど。
おっと、私からも返事を返さないと。

「そ、そう言われましても……」

言って私は妹の影に隠れる。
勿論これは演技だがこんな演技でもいざというときのブラフには成るでしょう。
人は簡単に外見に騙されますから。


ボドロさんと一緒に行く事になった私達はここの亭主に連れが来たので例のあれをお願いしますと注文する。
すると奥に通されステーキ定食が出されるとエレベーターが下がり始める。
私達の体には入りきらない量だったので私達は手をつけない。
それにさっきから軽く食べていたし。
年寄りのボドロさんも余り肉は好きではないのか手を出さなかった。
だから私達は世間話で暇を潰す事にする。
それに、準備しておくべき立場があるから。

「あ、あのボドロさん。ボドロさんのことお祖父ちゃんって呼んでも良いですか? 私達肉親は居ないんで……もし、無理じゃなければですけど」

「なんと、勿論構いませんぞ。わしらには子供がおりませんからな、逆にそう呼んで貰えるのならありがたい話ですよ」

「そ、それじゃあね。い、いくよ……お、おじいちゃん……」

蚊の鳴きそうな声でそう呼びかけてみる。
ボドロさんにはさぞかしか弱く見えているだろう。
懇願するように目には少しの心配をのせて。

「ん、なんだい? はは、恥ずかしいものですな?」

「あ!! お祖父ちゃん。お祖父ちゃん!!」

一転して嬉しそうな顔をしてボドロさんに抱きついた。
横では妹も一緒に抱きつく。
ボドロさんは好々爺然としたものすごく嬉しそうな顔を浮かべる。

「はは、これこれ。こんな事でしたらいつでも言ってくれれば。老い先短い身ですが、先生方の家族になりましょうぞ!!」

「う、嬉しいです……ほ、本当ですよね? 嘘じゃあありませんよね?」

「ああ、嘘では無いよ。いくらでも甘えるがいい」

「感謝」

「あ、ありがとう。お祖父ちゃん!!」

『計画通り!!』

私は内心で黒い笑みを浮かべる。
これで他の参加者には私達が祖父と孫に見えるだろう。
こういった設定で試験を受けるほうがやりやすい。
ボドロさんには悪いが散々利用させてもらう。
その見返りとしてボドロさんは試験に受からせてあげようではないですか。
なんて優しいんでしょう私は。

『ふふ、頑張って下さいねお・じ・い・ちゃ・ん』

その後はそれまでのどこか遠慮した空気が消えどこと無くぎこちないながらも、団欒とした絵があった。




やがて目的の階に着いたのかエレベーターが止まる。
エレベーターを降りるとそこには200人近い人数が既に集まっていた。
入り口に居た豆みたいな人から試験番号のついたプレートを貰う。
妹が189、私が190、ボドロさんが191だ。
やはり私と妹のような年齢の子供が珍しいのかかなり注目を集めている。
皆がこちらを振り返りひそひそ話をしていみたい。
そのうち16番という番号をつけた中年のおじさんが寄って来た。
どうもこちらに話しかけに来たみたいだ。
しかし、それよりも早くボドロさんが私達をかばうようにして槍を握り前に立つ。

「トンパどの、わしの孫娘達に何か用かな?」

あからさまに殺気を出してそのトンパと呼ばれた男を牽制する。

「い、いや。ただ俺は挨拶にきただけだって。そうか、あんたの孫なのか、それじゃあ頑張れよ」

そう言うと逃げ出すようにして去っていってしまう。
明らかにボドロさんに怯えたようだ。
他にもこちらの様子を窺っていた幾人かが舌打ちをする。
ほら、早速ボドロさんが役に立った。

「お祖父ちゃん、今の人は一体誰なんですか?」

「今の男はトンパと言って新人をいたぶるのが大好きな下種のような男だ。二人ともあいつには近づかない方が良いぞ」

「え、そんなことしようとする人がいるの!! ど、どうして皆笑顔でいようって思わないのかな? そっちの方が絶対良いのに」

「うむ、そうじゃな。妹先生の言う事は正しい。皆笑顔でいられれば一番良いに決まっとる。しかしな、大人になれば色々とよからぬ事を考えるやからが増えてくるものなんじゃよ。二人はそうはならんだろうがな……」

残念。
私達は皆に嘘をついてしか生きることは出来ない。
人生全て演技。
世の中は舞台の様な物……
騙すか騙されるか?
いかに世の中を演出するか。
私達の生きる道は既にそこにしかない。
まあ、そんな事は良い。
それよりも、あんな小物が私達をどうこう出来る訳は無いが、さっきのは良いデモンストレーションになった。
ボドロさんはそれなりに名前が売れているのか私達について納得した空気が流れる。
その後のボドロさんと私達のやり取りからボドロさんが私達を大事にしているのが伝わるだろう。
これで静かになるはずだ。


だがしかし、どの世界にも空気を読まないピエロというものは存在するようだ。
その男が動いた瞬間周りの空気が変わった。
周囲に居た者達が道を開ける。
まるでこのハンター試験における王者の行進のような風景。
ただ歩いているだけ、それがここまで恐れられる男もそうは居ない。
それがこのヒソカという男だ。
今回もボドロさんが前に立ってくれるけど今回ばかりは相手が悪い。
ボドロさんが震えているのがわかる。

「ヒ、ヒソカ。一体何のようだ?」

「下がって。ここは私がやる」

妹はそう言うとボドロさんを下がらせヒソカの前に立つ。
相手も明らかに念能力者。
それもどす黒いオーラを放つかなりの強者。
恐らく私以上。
妹よりはかろうじて下か?
でも、発や戦闘方法でいくらでもひっくり返る程度の差だ。

「フーン、君やっぱりイイね◇思わずぞくぞくしてくるよ☆」

「何ですか貴方は? 私達に何か用でも?」

「いや、君達が余りに美味しそうだったからついね◆でも今はやめておくよ、君たち二人を相手にしたら僕でも勝負になりそうもない◇出来るなら一対一で楽しく戦いたいからね★」

そう言って去っていく。
チッ、私達は余り目立ちたくは無かったのにあの男のせいで計画が狂ってしまったようだ。
私達は悪い意味で目立ちすぎてしまったみたいね。
もうこちらを見ようとするものすら居ない……
バトルジャンキーめ……
しかも、この会場の誰もが知っているレベルの。
厄介なやつに目をつけられたわね。

「ご、ごめんねお祖父ちゃん。私達が居たからあんな変態に目をつけられちゃって」

私はうつむいて唇を噛み、切なそうに呟く。

「いや、気にする事は無い。二人が気にする事ではない。それにしても流石ですな、あのヒソカにあそこまで言わせるとは。むしろわしの方が邪魔なのでは?」

「そ、そんなこと無いよお祖父ちゃん……私達だけだとこの雰囲気の中で何したらいいのか。今もお祖父ちゃんがいたから勇気を出せたんだよ? 私達は出来るなら人を攻撃したくは無いもの……」

「なるほど、せん無い事を申しましたな。それで不安にさせるなど……わしとした事が恥ずかしい。まさかこのような子らに励まされるとは。よし、二人はわしが命に代えても守って見せようではないですか」

よしよし、この調子でボドロさんにどんどん取り入ろう。
少なくともこの試験の間動きやすくなるように。

「そ、そんな、命に代えるなんていわないでお祖父ちゃん……」

「その通り。長生きして!!」

「先生方……いや、お前達。そうじゃなこれからはお祖父ちゃんとしてせいぜいおぬしらを可愛がってやるとするわい」

フッたやすい。
ヒソカとか言う男が出てきたときはどうしようかと思いましたが、この分ならボドロさんは問題ないでしょう。
問題は他の受験生ですが、ばれてしまったものは仕方ありません。
むしろ手加減しなくて済む分楽になったと思いましょう。
でも、こちらから積極的に戦う気はありませんがね。
こんな雑魚共相手にするなんてめんどくさい。

……え!! これは血の匂い。
向こうの方から!!
その先では凄惨な光景が広がっていた。
先程のヒソカという男と、両腕を失った男が居る。

「あーら不思議、手が消えちゃった◇だめだよ人にぶつかったら謝らなくちゃ◆」

ヒソカ……あそこまでいかれてるなんて。
そうだ、これを機にさっきのヒソカでのマイナスイメージを払拭しておきますか。

「私は医者よ、どいて!!」

私の言葉ではなく先ほどヒソカと話していた相手ということでだろう道があく。
うん、この傷跡なら素早く縫合してやれば何とかなる。

「ヒソカ、腕を出して」

「へえ、君たちは医者だったのかい◆それじゃあ腕前を見させてもらおうかな☆」

言うとどこからともなく腕を取り出す。
先のために今の念を解析したいけど時間が無い。
今は治療しないと。
それを受け取った私は妹に声をかける。

「姉さん針と糸を」

「はい」

人前で姉と呼ぶのも随分成れたな……
等とらちも無い事を考えながら腕は止まる事も無く、それこそ目にも止まらぬ速さで縫い合わせていく。
前世もあわせると伊達に130年も生きていない。
私は縫合だけではなく外科手術については世界でも最高を誇っていると自負している。
まあ、念能力の理不尽な癒しの力には負けるかもしれないが……
でも、私は内科医としても恐らく世界で2番目。
……と、考え事をしている間に手術は終わった。
この程度考え事をしながらでも余裕だ。

「はい、治りましたよ、指を動かして下さい。動きますか?」

「あ、ああ。やってみる。う、動く動くぞ。ありがとうおじょうちゃん助かったよ」

「それは良かったです。ですがかなり出血していますからね。大事を取ってハンター試験はおやめになったほうがよろしいですよ」

「そうだな、すまん助かった」

「いえ、気にしないで下さい。それでは」

私はその人に頭を下げると妹とボドロさんの元に向かって走り出す。
先ほどとは違って恥ずかしそうに小動物チックにするのがここでのポイントだ。
私はあくまで気弱な妹。
そう演じていた方が何かと都合がいい。

「やれやれ、相変わらず妹先生は手術の時だけは強気でも、それ以外のときは気弱なままか」

「お、お祖父ちゃん恥ずかしいよ……」

ふう、これで少しは周りの雰囲気も好意的なものに変わるでしょう。
やれやれ。
と、気を抜こうとした瞬間だった。

「ちょっと待ってくれ!!」

「ヒウ!!」

咄嗟の事に変な声を出した振りをしてみせる。
そして、ボドロさんの後ろに隠れる。
ボドロさんも頼られて悪い気はしないみたいだ。

「お主わしの孫娘に何のようじゃ?」

「いや、俺は怪しいもんじゃない。医者志望のレオリオってもんだ。さっきの手術の時の手際を見て思ったんだ。あんたは只者じゃない。お願いします。どうかこの俺をあなたの弟子にして下さい」

「エ、エウ……そんなこと急に言われても」

この人の外見なら私は怖がるのが当然だろう。
黒スーツにサングラス。
怖がるのに十分だ。

「いや、何も返事は今すぐで無くても良い。無理にとは言わないがどうか考えておいてくれないか?」

「は、はい。それ位なら」

「おっしゃ!! これは俺のホームコードです。教えておきますのでどうかよろしくお願いします」

そう言って去っていってしまう。
私の名前聞こうとすらしなかったけど、良いのかな?
まあ、本名は教える事が出来ないから都合がいいんだけど。
よっぽど慌てていたのかな?
まあいいや。

「やれやれあわただしいのう。じゃが悪いやつでは無さそうでしたな」

「う、うん。そうみたい」

これが、私とレオリオという人物の長い付き合いの最初の一歩になるとはこの時の私は想像もしていなかった……


大きなベルの音と共に試験官が現れた。
第一次試験が始まる。
どうやら彼の後をついて行けば良いらしい。
なるほど、耐久力と精神力のテストね。
何処まで行けばいいのか?
さらに変わらぬ景色で受験生に苦痛を与える、なるほど良い試験でしょう。
ですが、試験官さんのペース配分はかなり受験生さん達にとって優しいものですね。
まだ脱落者が出ていないことからもそれは明らかです。
どうしましょう、もう少しペースを上げさせても良いのですが……
いえ、これ以上無駄に目立つ事もないですね。
ということで、私達は先頭グループの中程をキープする。
その間もボドロさんや妹と話す。

「ねえ、お姉ちゃんさっきの人大丈夫かな?」

「大丈夫。無理しなければ問題無い。安心する」

こんな会話をしていると横でボドロさんが本当にこの子達は優しい娘達だ……とでも言いたそうな顔をしてニコニコ微笑んでいる。
本当にこの人は疑う事を知らない良い人だ。
まあ、このまま私達を疑わない限りはボドロさんの命は私達が守るでしょう。
この試験中の私達の性格は気丈でしっかりものだけど無口な姉と、気弱で恥ずかしがりやな妹と決めた。
まあ、普段から一番演じる事の多い性格だ、今更失敗はしない。
だからこそ性格に反する行為は慎む。
この性格を演じている限りは大好きなお祖父ちゃんはしっかり守りますよ、フフ。
私たちにとって世界とは演劇やゲームのようなもの。
私達が倒す神の如き者になるために常に練習は欠かさない。

それにしても、つまらないですね。
ただ延々と地下の道を進むだけ、景色の移り変わりも無し。
お祖父ちゃん以外の人は私達をどう扱っていいのか迷ってるみたい。
近づいても来ないし、かと言って興味は有るのかちらちら見られる。
いい加減ウザイですね。
ですが、暫くは仕方が無い。
人数が減るまでの我慢です。

「ねえ、お姉ちゃん、退屈だから何か話してよ。何でもいいから」

「こらこら、今は一応試験中なのよ、もう少し真面目になさい」

「はーい、わかりました」

ボドロさんはニコニコしてみている。
もしつらいようだったらちょっと手助けしようと思ってたけど必要無かったみたい。
だからこそ暇でもあるんだけどね。
そうだ、あのレオリオとか言う人の様子でも見に行きますか。
少し話せば人格やどうして医者を目指すのかの理由がわかるでしょう。
もし弟子にとって寝首をかかれたりしたらたまったものではありませんし。
うん、事前に調査しておきましょう。
そのほうが良いですね。

「ね、ねえ、お姉ちゃん。それじゃあさっきのレオリオさん? を探しに行ってもいいかな? 弟子になりたいって言われても、どんな人か知らないと怖いし……」

「同意。お祖父ちゃんはどうする?」

「そうじゃな、勿論わしもついていくぞ。もし二人に何かあったら婆さんに何と言ってよいかわからんしな。それに、ハンター試験などよりも大事な孫娘達の方がよっぽど大事じゃ、試験は来年もある」

やった、これで良い暇つぶしゲット。
さっきから退屈で退屈でたまらなかったもの。

(それじゃあ、円お願いね)

(わかりましたお兄様、暫しお待ちを)

私は心の中で妹に向かって話しかける。
そうすると、直ぐに妹から頭の中に返事が返ってきた。
これは妹の念能力の一つ『二人の絆』。
強化系の妹が私達の血のつながりを強化した能力だ。
効果は今行ったようなテレパシーもどき。
それと、互いの知識や経験の共有、さらには私が負った傷を妹が肩代わりするというものだ。
元々は私の身代り人形のつもりで造った能力だったのだが、いざ絆を強めてみたら副次的な効果として、互いの脳がリンクしあったのだ。
これは、双子の間にある不思議なつながりをもとに考えたのだが、念という不思議な力を使えばここまでの物になってしまった。
もちろん、その効果がわかった時よりリンクを高める為に制約をつけたしたのは言うまでも無い。
そのおかげで、外科医の私と内科医の妹だが、実際にはどちらの経験もあるため、私達はどちらもこなす事が出切る。
勿論、肉体の能力に左右されない事ならどちらかが出来ることは二人とも出来るし、知識も持つ。
互いの目を通して風景を見ることすら可能だ。
これが、最早私を愛する事しか出来ない妹が日常生活をおくれている理由。
まさしく妹は私の人形、もしくは使い魔と言える。
まあ、それだけの効果ではないけどね。


少し話が脱線してしまった。
ともかく妹に円でレオリオとか言う人物を探させる。
無意識なのだろうが、私達の周囲に居た受験生達は居心地が悪そうになった。
肌で念を感じるくらいの才能は持っているらしい。
まあ、関係無いが。
それにその程度の才能も無いでここまでは来れないでしょうし。

「最後尾」

え、この程度の試験で最後尾……
もしかして見込み違いだったかな?
ボドロさんと同じ位の実力者だと思ったんだけど。
私の観察眼が外れるなんて。

「最後尾って、お姉ちゃんレオリオさん落ちたりしないよね?」

「微妙。行かねばわからない」

「う、うん、そうだね。お祖父ちゃん、レオリオさんは最後尾の方に居るみたい」

そう言った途端ボドロさんの顔が渋面になった。
何があったんだろう?

「この程度の試験で最後尾じゃと。何と惰弱な、その程度のやつに大事な二人を預ける事等出来ようか? いや、出来まい」

……いや、預けるって。
むしろ私達の弟子になるんだから私達が預かる立場じゃあ。
ってボドロさん一人でどんどんヒートアップしている。
他の受験生達も私たちの事を変な目で抜かしていく。
う、恥ずかしい。
おのれレオリオ、この恨みいつかはらす。

ふう、まだ最後尾にならない。
そろそろ来るはずなんだけど。
あっ見えてきた。

「あ、あのーレオリオさん……」

「うおりゃー、俺はフルチンになっても走ってやるぜ!!」

え、えーと。
見なかったことにしていいかな?
あ、気づかれた……

「あ、いや、えーと……師匠いつからそこに?」

「え、えっと……」

口ごもり顔をまるで完熟リンゴのように赤く染め、そしてレオリオの方を見ないようにしてだんだん後ずさる。
フフフ、慌ててる慌ててる。
ああ、楽しいやっぱりわざわざ来たかいがあった。
初めっからこんなに楽しませてくれるなんてね。
ああ、いけないいけない。
思わず笑いがこぼれてしまう所だった。
このレオリオっていう人ハンターや医者を目指すより、芸人を目指せばきっと売れるんじゃないかしら?
あら? レオリオさんの連れらしき人が他人のふりしてさっさと行っちゃったわね。
しかも顔を真っ赤にして。
まあ気持ちはわかるけど。

「貴様、わしの孫娘達の前であのような事を叫ぶとは……死ぬ覚悟は出来ているのであろうな?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。頼むから武器をこっちに向けるな。さっきのは、えーとほらあれだ」

「ほう、それが貴様の遺言で良いんだな?」

「頼むから弁解くらいさせろー!!」

「聞く耳もたん、貴様そこになおれ!!」

ああ、お腹痛い。
ボドロさんもレオリオも二人して私を笑い殺させる気?
でも、そろそろ止めてあげないと私達はともかくレオリオは試験に落ちちゃうわね。

「あ、あのー。お祖父ちゃん。私のことなら良いの。そ、そりゃあ恥ずかしかったけど、その人も悪気があって言ったんじゃないと思うし。わ、私達がちょっと恥ずかしいのを我慢すればそれで……それで、だからそんなことのために殺し合いなんてしないで。ねえ、お願い」

この時に途中から涙ぐんで上目遣いで二人を見るのがポイントだ。
勿論つっかえたりするのも忘れない。

「す、すまんかったお嬢。お主レオリオとかいったな。今回ばかりはお嬢に免じて許してやる。次は無いと思え!!」

「わ、わかった。えーと、さっきはすまなかったな決して悪気が会ったわけじゃねえんだ。まさか師匠があんな場所に居るとは思いもしなくってな」

「スン……スン……うん、別にいいよ。それよりさっきから気になってたんだけどその師匠って何なの?」

「いや、さっきの縫合技術。あれを見たときに直感したんだ。俺の師匠はこの人しかいねえって。例え断られたとしてもいつか頷いてくれるまで頼み続けようってな。そのための心構えとしてまずは師匠って呼ぼうと思ったんだ」

へえ、まあ別に構わないって言えば構わないから好きに呼ばせてもいいんだけど。
でも、なんとなく師匠って呼ばれるの好きじゃないから止めさせようかな。

「え、えっとね。私は年上の人に師匠って呼ばれるのは恥ずかしいし、それに私なんてあんまり偉くないんだからレオリオおじちゃんには名前で呼んで欲しいな」

「おじちゃんって……そりゃあ師匠から見たらおじちゃんでしょうが、おりゃあまだ10代ですよ」

へえ、この顔でまだ10代だったんだ。
まあ、そんなこと言ったら私なんて100歳以上なんだけど。

「ぶう、また師匠って言った。私の名前はミネア、ちょっと無口なのが私のお姉ちゃんでマーニャ、それとお祖父ちゃんのボドロだよ」

勿論偽名、前世でまだお兄ちゃんと仲が良かったときに一緒にやったゲームにでてきた姉妹の名前。
なんとなく愛着があってずっと名乗っている。
私の本当の名前はもう誰も知らない。
世界中で私しか知らない。
妹の名前は私以外に呼ばせない!!
それに、知らせない。

「ちょっと待て、ミネアとマーニャだって……もしかしてあの有名なモンバーバラ医療団のか?」

「え、おじちゃん……じゃなかった。お兄ちゃん知ってるの?」

「知ってるも何も、あんた達は俺の憧れの人だ!!
昔俺のダチが重い病気にかかった時、金が無くて何処の病院も掛け合ってくれなかった。決して治らねえ病気じゃねえのに……金さえあれば……と皆諦めた時だった。
ふらりと立ち寄ったあんた達が俺のダチを治してくれたんだ。しかも、金を払おうと皆で集めた金を持って、俺があんた達が泊まってた宿に行ったら、もうあんたらは出発した後だった。
そんとき思ったんだ、俺もあんた達みたいな医者になりたいって。困ってる人達を助けて、金はいらねえって言ってやろうってな。
だが、医者になるには金が足りなかった。笑い話だ、そんな医者になるためには見たこともねえ程の金が要るんだとよ。
だからハンターを目指した、いつかそんな医者になるために。そして、いつかあんたらを見つけて一言礼を言う為に。それがまさかこんな所で出会えるとはな……」

へえ、そんなことがあったんだ。
でも、それなら好都合、上手く思考を誘導すれば私達のために動く優秀な駒になってくれるかもしれない。
これだから医者は辞められないのよ。
ほっとけば勝手に私達の信奉者が増えていくんだから。
お金なら金持ち相手のときにふんだくってるから困ってないし。

「なるほどのう、若いのに感心な事じゃ」

ボドロさんもレオリオの事を少し見直したみたい。
フフフ、いい傾向ね。
これならレオリオを弟子にするのもいいかもしれない。
馬鹿でまっすぐな性格みたいだし、これからは彼をきたえて医療団の表の顔をやらせるのもいいかもしれない。
どうしても成長しない私達だと限界があるしね。
やっぱり信用力も変わってくるし。

「いや、でもおかしくねえか? 俺がモンバーバラ医療団の噂を知ったのは5年前だぞ……」

あら、やっぱりレオリオもそこが疑問になったみたい。
よかったわ、流石にそれを疑問に思わないほど馬鹿じゃなくて。

「う……うん。私達は7年前に心と体の成長が止まっちゃう病気にかかっちゃったの。どんなお医者様に行っても治らなかった。だから自分で治し方を見つけようと思って医者になったの」

「そうだったのか、すまねえ。そんなことを聞くつもりは無かったんだ」

「ううん、いいの。私達は病気になってからいろんな人に迫害されるのには慣れてるから……ってごめんねお兄ちゃん。こんな話し聞いてもしょうがないよね? ごめんなさい今のは忘れて!!」

ふふふ、レオリオが物凄い後悔したような顔をしている。
何と言ってよいのかわからないみたいだ。
多分レオリオならこの話をすれば私達を守ってくれるようになるだろう。
さっきの話が本当ならば、まあ嘘はつけそうに無いが。
彼は友達の為になら何をするのもいとわないだろう。
そういうタイプは味方につけると役に立つ。

「ししょ……じゃなかった。ミネアさん達にそんな経緯があったとはな。わかったぜ、この男レオリオ絶対そのことは公言しねえ。勿論何かに書いたりして公言する事も絶対にねえ。俺も及ばずながら、お二人の病気治療協力させていただきます」

ほら、やっぱり。
ふふ、単純な男は扱いやすいわ。
きっと彼ならば、ありもしない病気を治す方法を頑張って探してくれるでしょう。
まあ、いつか念のことも説明するかもしれないが。

「ありがとう、ありがとうお兄ちゃん。そんな事言って貰ったの久しぶり、とっても嬉しい……」

大輪の花が咲いたような笑顔を浮かべる。
余りにも嬉し過ぎて少し涙まで滲んだと言う演出もつける。

「何、当たり前のことですよ」

「でも、ごめんねお兄ちゃん。私達困ってる人を見たら助けてまわってたから、お友達を治したときのことは覚えてないや……ごめんなさい」

それまでの笑顔とは一転させて、いぜん涙を滲ませたまま暗い表情をして謝ってやる。
勿論レオリオはこの位の事では怒らないだろう。
むしろ全く気にしないと思う。

「いや、別に謝る事はねえぜ。ただ俺の自己満足だからな。あの時は本当に助かりました。ありがとうございました」

そう言うや否やいきなり頭を下げた。
その姿は真剣そのもの。
それを見るだけでどの位私達に感謝しているのかが伝わってくる。

「え、えっと。そんな……あ、そうだ、そろそろ走らないと試験落ちちゃうよ。お祖父ちゃん、レオリオお兄ちゃんつかまって。とりあえずお兄ちゃんのお友達の所まで送ってあげるから」

「何だって?」

「喋らないで、舌噛むよ」

私がそう言った次の瞬間私達はレオリオの友達の民族衣装? を纏った人のところに居た。
直線距離にして約5キロ私達にしてみれば造作も無い事だ。
そして、サービスでレオリオにオーラを補給してあげた。
勿論念に目覚めないようにして。
折角手ごろそうな駒を見つけたのにこんな所で脱落されては困る。
これで疲れも取れるだろう。

「レ、レオリオ……今のは一体?」

「ヒョ、ヒョッホまへ。ヒタかんだ」

「そ、それじゃあねレオリオお兄ちゃん。それからその友達の人。また会おうね。それと、私の弟子になるからには頑張ってよねお兄ちゃん。とりあえず、元気になるようにはしといてあげたから」

「え、待ってください。弟子って?」

「……頑張ってね!!」

そう言って私達は彼らを置いて先に行ってしまう。
恥ずかしさから逃れる為だ。
私自身が虚構にまみれた生活を送っているせいか、100年以上生きてもいまだにああいったまっすぐな感謝には弱い。
そろそろ治らないかな。

「やったぜ!! ひゃっほう!!」

レオリオの喜んでいる声が聞こえる。
私達は、レオリオたちを背に前に進んでいった。

「レオリオ、随分嬉しそうだな」

「ああ、嬉しいぜクラピカ。なんてったってハンターになろうとした目的が一つ叶って。もう一つも叶おうとしてるんだからよ」

「ほう、そいつはおめでとうレオリオ。それでその目的と言うのは差支えが無ければ教えてもらえないか? 私にはお前が金目当ての人物のようには思えなくてな」

「ああ、いいぜ。それはよ……」

そんな会話が聞こえてきた気がした……

そして、これが後のモンバーバラ医療団の中心メンバーの発顔会わせである。



[29061] 以前のものの続き
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:c290286e
Date: 2012/09/06 20:51
まさかレオリオの念能力が原作で公開されるとは本気で思っていませんでした。



レオリオと分かれた私達はすぐにトップグループに追いついていた。
いくらボドロさんというあしでまと……もとい老人がついていたとしてもそれ位は容易い。
それにしても、いくら疲れを回復させてあげたとはいえ、本当にレオリオは突破できるのかな?
(芸人的な意味で)だいぶ気に入ったから落ちて欲しくないんだけど。
これからも楽しめそうだし。
そんな私の心配は予想もしていなかった方向で裏切られる。


第一次試験の途中地下道を抜け階段を上った先でどうやら一休みするようだ。
私達はトップグループとしてだいぶ早くついていたため暫く暇だった。
全く、この試験官も優秀だけど受験生に甘いよね。
優しすぎるのは時には受験生にとって残酷だよ?
地下道で落としておけば命を落とさなくて済むのに。
確かここはヌメーレ湿原……通称詐欺師の塒だったか。
ここから先は本格的に命を落とす危険があるのに。
まあ、他人の命なんかどうでもいいんだけどね。
でも試験官の審査をしろって言われてるし。
ままならないものです。

あ、考え事をしていたらレオリオが友達と一緒に上がってきたみたい。
だいぶ元気そうだ。
良かった、これでまた暇つぶしができる。
あ、向こうもこっちに気がついていたみたいだね。
こっちによって来るよ。

「ミネアさん、マーニャさんやっぱりいましたね。いやーあの身体能力を見れば余裕で受かってるだろうとは思っていましたが。それにしても、あの疲労を回復させたやつどうやったんです? なんかあれ以来すげーからだの調子がいいんすけど」

「つぼ」

「お、おねーちゃん、それじゃあ伝わらないよう……えっとね、遠い島国に伝わっている指圧って言う技術なの。つぼって言う特殊な場所を押すと人体に様々な効果をもたらすの」

勿論嘘だけどね。
まさか馬鹿正直に念の存在なんてこんな場所で言うわけにもいかないし。
こう言っておけばその技術に興味は持つでしょうが、念からは目がそらせるはず。

「指圧だと!! 聞いたことがある。確か東方の島国ジャポンに伝わる医学の奥義だとか。キミ達はジャポン出身か?」

へえ、レオリオの友人は博識みたいね。
でも、レディに何の挨拶もなしに話しに割り込んでくるのはマイナスポイントかな。

「ヒウッ、だ……誰?」

私は妹の陰に隠れ、体を半分だけ出してレオリオの友人を見る。
その様子にレオリオの友人は苦笑し、ばつが悪そうだ。

「ああすまない。自己紹介がまだだったな。私の名はクラピカ。レオリオの友達といった所だよ。驚かす気は無かったんだが」

「怖くない?」

「ああ、レオリオの師匠になる人たちに変な事はしないよ。レオリオをよろしく頼みます」

へえ、レオリオも良い友人を持っているじゃない。
ちゃんと私達の目線に合わせてくれつつも私たちに対する礼儀は払う。
それに見たところかなり強そうだし、この人は今回か……それが無理でも次回くらいにはハンター試験に合格するわね。

「お、おいおいクラピカ!!」

「何だレオリオ。私だってお前の師匠になる人物へ一言ぐらい言うさ」

「なんつーかその、恥ずかしいじゃねえか」

「気にするな」

「……いや、気にするなって言われてもな」

やっぱりレオリオは面白いわね……
これから退屈しないで済みそうだわ。

「クラピカよろしく。ほらミネアも」

「えっお姉ちゃん。もう少し心の準備をさせてよ。うう……よろしくお願いします」

いかにも姉に促されてこわごわ挨拶した気の弱い妹。
きっとクラピカにはこう見えただろう。
クラピカの優しそうな視線がそれを物語っている。

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

「うむうむ、わしもよろしく頼むぞ、若いの」

そういえばボドロさんも居たんだった……
ずっと黙ってるから忘れてたよ。

「っとそうだった。ミネアさん、マーニャさん挨拶が終わった所で、お二人に聞きたいことがあったんすよ。お二人と分かれた後、だいぶした頃からじょじょに人の体から湯気みたいのが見えるんですよね。心当たりありませんか? あの試験官とヒソカともう一人、それとおふた方だけはその湯気が体から出ないでとどまってる感じなんで、もしかしたら知っているかもと思ったんですが」

「だから何度も言っているだろうレオリオ、そんなものは目の錯覚だって。そんなことを言われてもこの二人だって困るに違いない」

何だって!!
先ほど生命エネルギーを体に送り込んだときは念に目覚めないように細心の注意を払ったはず。
こんな所で外法を使って念に目覚めさせてしまったら死ぬか、死なないにしても纏を習得するまでに生命エネルギーを使いきってしまい疲労困憊になると思ったから。
なのに、まさかあの時の生命エネルギーの移動と言う、わずかな違和感だけで念に目覚め始めたとでも言うのか……
なんと言う才能。
正にバケモノだ。
だが、それが味方になるというのなら話は別。
これ以上に心強い話しは無い。
フッフッフ、待っていなさいレオリオ。
麻薬中毒者のように貴方は私達無しではいられないようにしてあげるわ。
妹の二つの能力の二つ目でね……

『非凡なる薬剤師』

自分で調合した薬の薬効を強化可能。
また、相手を診察してから調合した場合、より強化される。
毒物を作成した場合、その毒に耐性を持つものにでも効果を及ぼす。

元々暗殺者時代に毒を強化して使う能力だったのだが、洗脳やその他の事にも使えるため以外に重宝している。
この能力を使って、レオリオの基本的な人格思想は変えずに、根本的な所に私達への服従心を植えつけるのだ。
未熟な今の状態ならば良く効く事だろう。
この先の試験で上手く洗脳出来そうな時があったらその時がチャンスだ。

「ミネアさんミネアさん!! そんなに考え込んでどうしたんですか? もしかして俺の症状やばいんですか?」

いけないいけない、レオリオに怪しまれては元も子もない。

「い、いえそうじゃないんです。ちょっと吃驚しただけです。それはオーラと言うもので、生物なら皆持っている生命エネルギーです。それを自由に操れるようになる人の事を念能力者と言います」

「へー、だが何でいきなりそんなものが見えるようになったんだ?」

「おいレオリオ、そんな単純に信じ込むな。失礼だが、私は様々な事に詳しいつもりなのだがそんなことは聞いたことが無い。それは本当なのか?」

あら、レオリオと違って随分と疑り深いのね。
まあ、この子には別に信じてもらわなくても良いんだけど……
レオリオの信頼を得るために少し証拠を見せようかしら。

「うん、証拠を見せるね。お姉ちゃんお願い」

「わかった。あの木を見ていろ」

別に自分でやっても良いけど、めんどいからパス。
妹なら適当に証拠を見せてくれるだろう。

妹は手に集めたオーラを無造作に放つ。
するとそれはかなりのスピードで岩へと向かっていく。
そして、木にぶつかったかと思うと次の瞬間一抱えもある大木が弾け飛んだ。
基本的な放出系の技である。
いや、技と言うのもおこがましいか、そんなものだ。
だが、始めてみただろう二人は酷く驚いている。
ボドロさんは念の存在だけなら知っていたみたい。
一体何処で知ったんだろう?

「今のは一体何だ? 体の回りを覆っている物が手に集まったかと思うと、それが飛んでいった先に有る木を吹き飛ばしちまった」

「し、信じられん……まさか本当にその様なものが有るとは」

あら、レオリオはやっぱりオーラが見えているみたいね。
しかもあの速度に目が追いついていたんだ。
いくら手加減していたとは言っても恐ろしいわね。
暫くこの二人についていってレオリオを鍛えるのも面白いかも。
才能で言ったら私達なんかレオリオの足元にも及ばないし。

「どう?」

「すげえ、すげえぜマーニャさん」

「ああ、この目で見るまでは信じていなかったが、本当にオーラと言うものは存在するようだ。ところで質問だが? 誰でもオーラを持っているということは私達も念能力者とやらに成れるのか?」

「おお、そうだぜ。出来れば俺も使ってみたい」

来たわねこの質問が。
それにしても、レオリオって才能はともかく頭は大丈夫かしら?
オーラが見えて念能力者のことも知ったら自分が成れないかと思わないのかしら?
まあ、馬鹿の方が使いやすいけど。

「長い話は苦手、妹に聞いて」

「そ、そんな……聞いてないよ……お姉ちゃん」

「だめ、そろそろ貴女も他の人に慣れるべき。いつまでも私に頼っていないの。ごめん、理解して」

「う、うん。わかった。は、恥ずかしいけど頑張るよ……」

妹の体に半分隠れつつも上目遣いでボドロさんを含む3人を見る。
本当はクラピカに教える義理は無いんだけど、彼は頭が良さそうだからレオリオに教えやすくなるだろう。
まあ、多分ハンター試験に受かるから少し早いか遅いかの違いだしね。

「え、えっとね。まずは念能力者とそうでない人を分けるのはオーラが見えるかどうか。まずはオーラが見えない人、これはクラピカさんとお祖父ちゃんね。そして、初歩の初歩としてオーラが見える人、普通はまだ念能力者とは言わないレベルの人達、これがお兄ちゃんね」

「レ、レオリオ……お前まさかこんな幼い子にお兄ちゃんなんて呼ばせていたのか? まさか貴様変な趣味を持った人間では有るまいな? もしそうだったならば私は貴様との付き合いを考えるが……」

顔をこわばらせてレオリオから若干距離をとるクラピカ。
それとは逆に武器を構えるボドロさん。
必死になって慌てるレオリオ。

「いや誤解だクラピカ!! 始めおじちゃんって呼ばれたから俺はまだ10代だって言ったんだよ。そうしたらお兄ちゃんって言ってくれるようになっただけだ」

「その話し本当だろうな? というか、貴様本当に10代なのか? とても私と大差無い年だとは思えないぞ」

プッ。
やっぱり誰が見てもレオリオが10代には見えないわよね?

「本当だって!! 俺はムッチムチのネエチャンが好きなんだからよ。っていうかクラピカおめー何気に酷い子といわなかったか?」

へえ、レオリオはそういう趣味なんだ。
実は自分の趣味を大声で暴露している事に気が付いているのかしら?
レオリオに限って気がついてるわけ無いわね。

「気のせいだ」

「気のせいってお前な」

あら、レオリオがムチムチのネーチャンとか言った時一気に機嫌が悪くなったわね。
もしかして……
それにさっきから動きや骨格を見ていると。
クラピカって多分。
でもレオリオには教えてあげない。
それにしても、そんな二人でじゃれてる場合じゃないわよ?
そう、レオリオの背後には顔を真っ赤にしたボドロさんの姿が。

「ほう、レオリオ貴様。うちの孫娘達が可愛くないと申すか?」

「いや、誰もそんなこと言ってないだろうが!! 俺はただムッチムチなネエチャンの方が好きって言っただけで」

「じゃあ可愛いんだな?」

「ああ、マーニャさんは表情がちょっと硬いが、ふとした時に妹をすごく大事にしてるんだなってのがわかるし。時折見せる微笑が透き通るようだ。ミネアさんも可憐でちょっと気弱すぎるが、逆にそこが守ってあげたくなると言うか。何と言うか、儚げな美少女って感じだな。ちょっと目を離すと消えてしまいそうな」

「何だと、貴様のようなやつに大事な孫娘達はやらんわ!!」

「んじゃあ、何て言えばいいんだよ!!」

プッ、あーっはっはっはっは。もうだめ、3人で私達を笑い殺すつもり。
これを表に出さないのは流石にきついわ。
もうね、ハンター目指すよりもお笑い芸人目指すといいよ。
私がパトロンになってもいいから。
でも余り笑ってるわけにもいかない。
休憩時間もいつ終わるかわからないしね。

「も、もう。折角説明してるのに……皆脱線しちゃあメーなの」

顔を真っ赤にしてプンプンしてみせる。
私みたいな子供を見て和むがいいよ。
そして、罪悪感を覚えるがいいよ。

「う、すまんかった。ほれ、謝らんかレオリオ」

「全くだぞレオリオ。それと私も大人気なかったすまなかったな」

「お、おまえら。全部俺のせいかよ!! 大体最初に話を脱線させたのはお前だろうクラピカ」

「すまない、あの馬鹿はほって置いて話を続けてくれ」

あ、レオリオが言葉も出ない位怒ってる。
だから笑わせないでってば。
いい加減笑いを堪えるの大変なんだからね。

「う、うん。それじゃあ続けるけど。ごめんねレオリオお兄ちゃん」

「いや、いい。ミネアさんは悪くないしな。良し、落ち着いた。続きを話してください」

あ、集合の合図だ。
残念時間切れみたい。

「全く、レオリオのせいで時間になってしまったではないか。すまないな二人とも、この馬鹿にはよく言って聞かせるからまた後で続きを話してもらえないだろうか? それと、悪いんだが説明してもらう人数を増やしても構わないか?」

「う、うん。それは良いけど。でも、本当は受験生に話しちゃあいけない内容も含んでるから余り人数は増やしちゃあ駄目だよ」

「ああ、それなら問題は無いです。もう一人ゴンと言う少年に教えて貰いたいだけですから」

「うんわかった。後一人だけだね? それ位なら問題無いよ」

ん? 急にクラピカの言葉遣いが変わった。
もしかして私が受験生って言ったから私達の事を隠れ試験官だとでも誤解したかな?
それとも、念を教わるから言葉遣いを変えたのかな?
まあ良いや。
私はクラピカには余り深く教える気は無いしね。
何か誤解してるんなら誤解させたままで良いや。
さーて、それより今は試験官の話を聞きにいかないと。
大体予想はつくけど、これからヌメーレ湿原で何をやらされるのかな?



無常にも階段のシャッターが閉じていく。
これで幾人の人がハンターになるという夢を立たれたのだろうか?
だがしかし、彼らはまだ幸運であった、命の危険が無いうちに安全地帯へと隔離されたのだから。


地下通路とヌメーレ湿原をつなぐ階段のシャッターが閉じられた。
これで休憩兼受験生待ちの時間は終わりと言う事だろう。
試験官のサトツは受験生を集め今いる場所の説明を始める。
ここがヌメーレ湿原と呼ばれる場所である事。
ここから先は騙されると命を落とす事。
基本的には先ほどと同じく後をついて行けばいい事等を説明する。
だが、私達にはそれどころでは無かった。
ヒソカとか言ったか? あの男が私達に殺気を飛ばしてきていて不愉快だったのだ。
そのためこのとき何か事件が有った様だが全く気がつかなかった。

でも、何かレオリオが馬鹿なことをしそうになったことだけは雰囲気で伝わってくる。

さて、1次試験も多分後半。
めんどくさいけど頑張りますか。



「すまないマーニャさん、ミネアさん、それとボドロさんだったか。私達に付き合ってもらって。貴女達ならこの位の試験簡単だろうに」

そう、私達はレオリオ、クラピカと一緒に走っている。
レオリオの信頼を得るのが目的だ。
それに、つまらない試験をただ受けるより話し相手は多いほうが良い。
レオリオは面白いし。

「別にいい」

「ああ、全く構わんぞ」

「そう言ってもらえると助かります」

いちいち律儀な事だ。
こちらにも思惑があることだ。
まあ、クラピカに教える利益はほとんど無いが、恩を売っておいて損は無い。
だって、クラピカの才能はわからないけど。
もし、レオリオ級の才能が有ったら彼の目的によっては味方に出来る。
それよりもさっきから妙にレオリオが静かね。
レオリオも一言位言いそうなものだけど……
そう思いレオリオを振り返ったときだった。

「なっ!!」

レオリオの方を見た瞬間それまでの私の鉄面皮が一瞬崩れてしまう。
私が思わず声をあげてしまう事等ほとんど無い事だ。
でも、それをさせるだけの光景……
私の100年以上の経験を持ってしても異常な光景が其処にあった。
なんとレオリオが何の説明も無しに纏をほぼ完成させているではないか!!
念の存在を知ってから1時間とたっていない。
オーラがおぼろげにでも見えるようになってからも2~3時間というところか。
たったそれだけの時間で……外法を使ったわけでもないのに。

「ね、ねえお兄ちゃん。そ、それ一体どうやったの?」

話しかけられて集中が途切れたのか纏が解けてしまう。

「ん、ああ。何か念使いの人達はオーラを体の周りに留めてるみたいだから、何か意味あるのかと思いまして」

たったそれだけの思いつきで纏が出来てしまうと言うの?
しかも深く考える事も無しに直感だけで。
呆れた才能だ。

「何だ、何かやったのかレオリオ?」

「ん、ちょっとな」

ちょっとどころの話ではない。
全くこの男は。
ため息が出て来る。

「え、えっと。お兄ちゃんがやったのは纏って言う念の技術の一つなの。それをやっていると念の攻撃を防いだり出来る様になるの。一番の基本技だけど、4大行って言われる技の一つだよ。基本だからって決して疎かには出来ないものだね」

「へえ、そんなすげえ物だったのか。なあなあ、他にはどんな技があるんですか?」

「うん、えっと……」

そうだね、4大行位なら話してあげようかな。
時間も有るしね。
って!! この気配は。

「皆構えて!!」

私がそう言うや否や前方から一人の男が顔を出す。
やっぱり来たか、いつかは来るとは思ったけど。
でももう少し後だと思ってたわ。
余りにも早すぎる……

「ヒソカ何のよう?」

妹が呼びかける。
この中でヒソカと1対1で勝てそうなのは妹しかいないから仕方が無いんだけど。

「何の用って◆勿論決まっているだろう☆」

「貴方一人では私達二人には勝てない」

「ああ、そうだろうね★」

何だ、そう言っている割には全く焦っている様子が無い。
もしかして……

「だから、今回はこちらも助っ人を呼んで来たよ◇」

やっぱり、受験生の中の最後の念使い。
名前はわからないけど。
でもまずいわね。
まさかヒソカの仲間だったなんて。
私は戦闘者じゃないし。
かと言って妹じゃこのレベルの念能力者二人を相手には出来ない。
見ただけでわかる。
この勝負私が足を引っ張って負けるだろう。
心理戦でも簡単に引っかかってくれるとは思わない。
まさかこんな所で切り札の一つを切る事になるなんてね。
喰らいなさい私達姉妹の切り札。
ハンター試験では1枚たりとも切る事になるとは思っていなかったんだから光栄に思いなさい。

(行くわよマーニャ)

(はい、お兄様)

私達の切り札とくと味わいなさい。
命まではとらないから安心して。
まずは『二人の絆』発動。
私のオーラを出来る限り陰で隠して二人の間に繋がった絆を通してマーニャに送る。
そしてマーニャが『非凡なる薬剤師』で辺り一帯に睡眠薬をばら撒く。
私達一人一人では敵わなくても、二人のオーラを合わせれば倒れぬものは居ない。
睡眠薬を使ったのは毒ではレオリオ、クラピカ、ボドロさんまで吸い込んでしまうからだ。
これで倒れないのは正直世界でも2~3人位しかいないんじゃないだろうか?

どう、1対1でほぼ同格多少こちらが下?
程度の相手二人分の最大級の念を一度に食らった感覚は。
とはいえ、私達も念を使いすぎた。
ここでとどめを刺しておきたい所だけどその余力が無い……
この二人は睡眠時でも念を解かないし。
2次試験開始まで起きない事を祈るわよ!!
多分起きてくるでしょうけどね。

特製のマスクをした私と妹は3人を抱えてサトツさんの気配を目指してその場を後にした。
どうかあの二人が起きません様に……
まあ、無駄でしょうけど。



何とか二次試験会場についた。
3人を抱えたままここまで来るのは普段なら何でもないが、念をほとんど消費している状態ではきつい。
これは早急に休息をとる必要がある。
休めそうな場所を探している私達に声がかけられたのはそのときだった。

「クラピカ!! レオリオ!!」

二人の知り合いか?
そういえば仲間が居るって言ってたっけ。

「ねえキミ達、クラピカとレオリオは一体どうしたの?」

「寝てるだけ」

「え?」

きょとんとしている。
まあ、その一言だけではわからないでしょうね。
しょうがない、いつものように補足するか。

「お、お姉ちゃん。だからそれじゃあわからないよう……えっと、貴方がゴンさんで良いんですよね?」

「うん、俺がゴンだけど。二人は?」

「マーニャ、ミネア」

妹が自分を指して名乗り。
次に私を指してミネアと名乗る。
いや、間違っては無いんだけどさ……
やっぱりもう少し感情豊かな設定にしとけば良かったかな。
でも、それだと私がめんどくさい。

「もう、お姉ちゃん。短すぎて伝わらないよう。えっとね私達はこの二人と1次試験の途中で知り合ったんだけどね。途中でヒソカに襲われて睡眠薬をまいて逃げてきたの。その時皆睡眠薬を吸い込んじゃって。それで私達が担いできたんだけど。私達ももう眠くて。ごめんなさい……二次試験が始まったら私達を起こしてもらえないでしょうか?」

さて、どう出る。
私たちとしては疲れ切っている以上これに乗ってくれると助かるんだけど。

「おいゴン。やめとけやめとけ!! こんなガキ共があのヒソカから逃げ切ったなんて嘘に決まってる。こんなやつらほっとけよ」

ちっもう一人居たのか。
レオリオ達からは聞いていない。
ということはゴンが一人で知り合った相手か?
しかも、恐らくは念こそ覚えていないが暗殺者。
めんどくさい事になった。

「ううん、俺はこの二人を信じるよ。レオリオ達に俺の名前を聞いてるのは本当みたいだし、それにわざわざ俺の仲間を運んでくれたみたいだからね」

「あっありがとうございます」

私は深く頭を下げる。
横で妹も頭を下げる。
良かった、一時はどうなるかと思ったけど、これで休める……

「もう寝ちゃった。よっぽど疲れてたのかな?」

「さあな、でも良く運んできたな。大の大人3人も」

「だね、意外に強いのかな?」

「ハハ、そんなのねーって」

もうだめだ、意識を保て……無い……



「お疲れ様、姉さん。どうだった? いた?」

「だめだめ。今日も余り良い男はいなかったわ」

「もう! 違うでしょ。バルザックよ。仇のバルザック!」

「あら、そうだったわね。残念だけど、バルザックもいなかったわ」

「そう……」

テレビ上ではそんな会話が行われている。
私は、仲良く兄とゲームをしている。
兄がやっているゲームを後ろから見ているだけだが、とても楽しかった。
私の体があんなふうになる前、まだ何物にも呪われて居なかった時。
私がまだ女だと信じていられた時。
何も知らず、無垢でいられた頃。
前世での何のたわいも無いひとこま。
幸せだった時のひとこま。
今私は幸せなのだろうか?
今私は立派な兄として妹に接していない。
私も前世の周囲の人間と同じ、最悪の人間なのだろう。
でも、もう過ぎてしまった事だ。
後戻りは出来ない。
共に滅びの道を歩むか、神を滅ぼして自由になるしかない。
そんな夢を見た……



「ミネア、ミネア」

ん、何? 私はまだ疲れているの。
起こさないで頂戴。

「ミネア、ミネア!! ねえ、貴女が起きてくれなかったら、私。私……」

ハッ。
これは現実か。
目を覚ますと、目の前には泣きはらした妹の顔がある。
この子のこんな表情を見るのは久しぶりだ。
彼女の眼鏡には涙で水滴が沢山ついている。
妹の慌てた顔は久しぶりに見る。
可愛い。
自分と大差無い顔のはずなのに、こういったときには時折妙に可愛く感じてしまう。
ハア、始めは人形としか思っていなかったんだけどな……

いつから気持ちが変化してきたんだろう。
たまにこうして素の自分が出てしまったときには、普段覆い隠している彼女への気持ちが表に出る。
でも、絶対に彼女にはそれを見せてやら無い。
妹は私の人形だ。
私はいついかなる時でもそう思ってなければいけない。
これは彼女を煉獄へ誘った私への罰。
私が一人で幸せに成るわけには行かない。
目的を果たしたとき、妹と一緒に幸せになる。
恋愛ごとに時間を割いている暇は無い……

「う、ううん……お、起きたようお姉ちゃん。どうしてそんなに泣いているの?」

(いつものお前にもどれ!!)

私は声と心の両方を使って妹に話しかける。
周りにまだ寝ているクラピカを起こそうとしているゴンや、欠伸をかいているレオリオ。
さらには暗殺者の少年と話しているボドロさんが見えたからだ。
内心では『チッもっと空気読めこの餓鬼共』なんて思っていることも内緒だ。
もし二人きりだったら隙を見せた妹をいたぶって、再教育というなの愛情表現が出来たのに。
そうすれば、さらに涙や叱責を待つ表情を堪能出来ただろう。

私は甘美な想像を振り払う。
だめだ、オーラを振り絞りすぎてまだ疲労が抜けきっていない。
いつもの私に戻らなければ。
いくら格下相手の試験でも、侮っていては何かしらのミスに繋がってしまう。
そもそも、あのヒソカだってまだどうせ残っているだろうし……

そうして、私の妹への思いは一時厳重に心の奥に封印をした。

で、今の状況を調べないと。

「ね、ねえ。お姉ちゃん泣き止んだ? お姉ちゃんがいつまでも泣き止まないと私まで泣きたくなってくるよ……だからお願い」

「え、ええそうね。ごめんミネア、もう大丈夫。そろそろ二次試験が始まるらしいのに、何度呼んでも起きないから取り乱したわ。後、やっぱりヒソカは回復している。私達か、試験官の念を追って来たんだと思う。向こうもまだ薬が残っているだろうから仕掛けては来ないだろうと思うけど……」

そう、予想はしていたけど、やっぱりヒソカ達は回復したか。
今は周りの目もある。
暫くは無視しましょう。
折角向こうが弱っている今がチャンスなのに……
ふう、出来ないものは仕方が無い。
二次試験に向けて頑張りますか。




「二次試験は、料理よ!!」

試験官がそう言った……
次の瞬間私たちは固まった。

「レ、レオリオお兄ちゃんごめんなさい。頑張ってねお祖父ちゃん」

そう、何故かは知らないが。
私たちは料理だけは出来ないのだ。
医食同源とか言っても私達にも出来ない治療法はあるということね。
何故料理が出来ないのかはわからない。
もはや、神によるご都合主義なのでは?
と疑ってしまうくらい出来ない。
仕方が無い、試験管を脅すか……

「ねえ、お兄ちゃん。ごめんね、ちょっと向こう向いててもらえるかな?」

「え、何でです? まあ、別に構いませんが」

よし、レオリオが向こう向いた。
私達は全力でオーラを練り上げる。
そして、試験官たちに悪意たっぷりに威圧。
さらには空中に念で文字を書く。
あ、レオリオには向こうを向いてもらったけど。
もしこっちを見られたら困るので陰で隠すのも忘れない。

『死にたくなかったら料理以外の試験にしなさい!!』

試験官二人は青くなって震えている。
ふっ、料理なんてものは自分が作らなくても良いのよ。
買ってくるか食べに行ったほうが美味しいに決まっているんだから。
ええ、これは負け惜しみじゃないわよ!!
さあ、考え直しなさい。
さもないとハンター協会人事部にあること無い事吹き込んでやるから。

「えっと……料理をしようと思ったけど。良く考えたら料理なんて一部のハンターにしか関係無いわね。それじゃあ不公平だから別のことにしましょう」

「ええー、何だそりゃ?」

「わ、私料理得意だったのに……」

「良かったー」

フッ勝った!!
良かったわね名も知らぬ試験官さん達。
もう少しで胴と首が離れる所だったわよ。
それにしても、一般受験者も悲喜こもごもね。
まあ、関係無いけど。

「そ、それじゃあブハラ。あんたの出す試験は何?」

へえ、あの太った方はブハラって言うのか。
私達の言うことを聞いてくれたし、二次試験の試験官達への採点は甘くして人事部に伝えないと。

「そうだなあ、この森の中で豚を一匹とって来る事でどうだ?」

「私に聞いてどうするのよ。わかったわ、二次試験の一つ目は豚の捕獲ね。良いわねあんた達。この鐘を鳴らしたらスタートだから頑張って行ってらっしゃい」

良かった、料理に比べたら遥かに楽になってる。
でも、何かに騙されたような気がするのは私だけなのかしら?


正直豚を取るのは簡単でした。
グレイトスタンプとか言ったかしら?
豚の中では最も凶暴でも、所詮豚は豚。
私達の敵ではないわね。

さて、さっさと豚を提出した私達は念の授業を開く事にした。
受験生達に堂々と念を教えている事で試験官のメンチとか言うらしい、のこめかみがぴくぴくしている。
でも、気にしない。
それにしても、豚を何に使うのかと思ったらまさか試験官が食べるだなんてね。
どういった能力なのかしら?
自分の体より大きいものを食べれるなんて。

結局レオリオ、ボドロ、クラピカそれに参加が決まっていたゴンの他にキルアとか言う少年も加わる事になった。
まあ、一人が二人になったところで大差は無い。
それよりも、私達の強さをあからさまに疑っていたので念を見せてやろうとしたらあからさまに怯えて後ろに逃げ出した。
何か念に対してトラウマでもあるのだろうか? という程だ。
でも、それを見せてからは急におとなしくなる。
何か兄貴兄貴呟いてる。
もしかしてこの子この若さでガチな人なのだろうか?
もしそうだったら近づきたくないな……人として。
まあ、良いや。
この面子の中でもレオリオとの付き合いもさほど濃い子では無いし。
私達にとってもどうでも良い。
たとえどんな性癖を持っていたとしても生暖かく見守ろう。
場合によっては応援しても良い。
遠くからね。
絶対に私の性別を知られるわけにはいかなくなったが……

まあ良い、念の授業に入ろう。
どうせ試験中に習得できるのなんてレオリオ以外だったら、下法を使わなければ難しいだろう。
だから適当でもいいのだろうが、仮にも私達の弟子が大した実力も無いのでは私達の沽券に関わる。
ちゃんと教える事にしよう。

「えっとね、まず。念には4大行というものがあります。
お兄ちゃんが習得した『纏』これが一番の基本だね。オーラを体の周りで固定する技術だよ。基本的にこれがあると無いとでは攻撃力防御力が桁違いに跳ね上がるよ。そして、念による攻撃は最低でもこの纏の状態じゃないと防げないの。
次に『絶』これは纏とは逆に体の周りにオーラを一切出さない技術。これはね、気配を消したり体力の回復に効果があるかな。
次に『練』これはね、纏の状態で体に纏ったオーラを増幅させるの。この状態だとなれないと早く疲れるけど、攻撃防御は纏とは比べ物にならない。この状態をいかに長く維持できるかが念での戦闘では大事だねっ。
最後に『発』練で練ったオーラを使って放つ必殺技!! これは人によって違うから一概にどうとは言えないけど……まずは練迄が大事かな。発は今すぐは覚えるのはちょっと無理だから」

「ほう、念というのは奥深いものじゃな」

「そうだよお祖父ちゃん。ちゃんと説明できたよ!!」

「うむうむ、ミネアは偉いのう」

「えへへー」

はあ、ただでさえ今日は疲れてるのに説明とか……
ここはお祖父ちゃんとたわむれているフリで質問を封じるに限るね。

「質問なんだけど、纏を覚えるにはどうすりゃいいの?」

空気読め!! えっとキルアとか言ったか? お前が一番どうでもいいんだよ。
クラピカやゴンはレオリオと仲がいいみたいだし。
ボドロさんは私達の保護者。
おまけのお前がでしゃばるんじゃない。
全くめんどくさいな。

「う、うん。それなんだけどね。瞑想で時間をかけて覚えるやり方と、外法と呼ばれる直ぐに目覚めるけど命に関わる方法が有るけど……今回はこっちの外法は無しね。こんな事を試験中にやったらもし成功しても試験に落ちちゃうから。下手すると、数日体調崩しちゃうからね。そ、そこでね、皆には燃って言うのをやって貰いたいんだ。燃って言うのはね、心を燃やす事。心を鍛える修行の事だよ。
先ずは『点』一つの事に集中して自分をみつめて目標を定める事だよ。さっき言った瞑想のことでもあるね。
そして『舌』思いを口に出すの。あっ、頭で思うだけでも大丈夫なんだけどね。実は。
そして『錬』点の目標を舌で口に出して錬で増幅させるの。うーん……気合の事かな?
最後が『発』錬の気合で実際に相手を動かすの。気合負けって言うのかな? それを相手にさせるの。
これを毎日数時間やってれば物凄い早くて数週間、早くて数ヶ月。普通でも半年から1年位で目覚めるかな?」

「何だよ、それじゃあ意味ねえじゃねえかよ。俺は良いや、そんなことしてらんねえよ」

「あっキルア!! 待ってよ。うーん、俺は続けてみるよ。教えてくれてありがとね」

「ふう、二人とも直接ヒソカ達と対峙していないからな仕方が無いか。私はこれからも習いたい。ご教授願えるだろうか? 正直あのヒソカの前に立った時生きた心地がしなかった。私はまだ力が足りない」

「は、はい。勿論良いですよ」

まずはクラピカか、どの程度の才能なんでしょう?
教えがいがあるといいんですが。

「俺は言うまでも無くお二人についていくぜ。よろしく頼みます」

「わしもじゃな。正直この年じゃ余り強さに興味は無いが、二人を守りたいからのう」

レオリオとボドロさんか。
この二人はほとんど予想できてたからね。
まあ、以外ではない。
というか、ここでレオリオに逃げられたらたまったものではないし。

その後二次試験の後半が始まるまで私達は燃の練習を行った。
それにしても、レオリオは既に纏が使えるのに何で燃は苦手なんだろう?
やっぱりじっとして落ち着くのは性に合わないのかしら?





「さて、二次試験後半に行くわよ。とりあえず、ここからあそこの山まで走りなさい」

ということで一次試験に続いてまたマラソンだ。
しかも、今回は山登り。
まあ、体調は万全とは言いがたいけど、この程度なら問題は無い。
レオリオも念を不完全とは言え覚えたせいか今度は余裕そうだ。

「ねえお姉ちゃん。もしかして今回の試験官さん達って皆マラソンが好きなのかな?」

「どうだろ?」

妹と雑談をしながら走る。
レオリオ、クラピカ、ボドロさんも一緒だ。
ゴンとキルアはさっさと先に行っちゃった。
全く、無駄に自分の力をさらす事がどれだけ危険を呼び込むのか知らないのかしらね?
これが若さって言うものかしら……

時に皆と喋り、時に黙って山登り。
山登りとは言っても殺伐としたものだけど。
そろそろ私はこの人達にはつっかえないでも話せる様になってきたフリをする。
正直いちいち、おどおど話すのはめんどくさい。
まあ、丁度良いタイミングだろう。

そろそろ山頂が見えてくる頃ね。
一体ここで何をやらせるつもりかしら。
そろそろ人数も減ってきたし、少し難しくなるのかしら?

「良い? これからあんた達にやってもらう事はこの崖から飛び降りてもらう事よ。とは言ってもただ飛び降りるだけじゃないわ。途中にあるクモワシの巣につかまって其処から一つ卵を持ってきて貰うわよ。大丈夫、下は深い河だから。その後あんた達には私特製のゆで卵を食べさせてあげるわ。楽しみにしていなさい」

クモワシの卵? 確か滋養強壮に良い食材だったかしら?
めったに取れない貴重品だったはずだけど。
こんな所に巣があったのね。
でも、まだ受験生70人位残ってるんだけど、そんなに乱獲して良いのかしら?
ハンターのくせに生態系とか考えてるの?
ま、私にはどうでもいいか。
卵料理は余り好きじゃないし。

「わかったわね? まずは私が見本を見せてあげるから」

そう言うとメンチは靴を脱ぎ一気に飛び降りる。
どうでもいいけど、靴を脱いで飛び降りるって……
どう見ても自殺以外の何物でもないわね。
まあ、それはさておき。
そして、巣をつかみ糸を伝って卵に近づく。
卵をつかむとするすると崖を登ってくる。

「ほら、こういう風にすればいいのよ」

なるほど、わかりやすくて良い試験ね。
こういう試験ばかりだと楽でいいのに。
簡単ね。
でも、私は気弱で通してるからどうしよう。

「お、お姉ちゃん。降りる時手をつないでもらって良い?」

「うん」

「よ、良かった。ありがとう、お姉ちゃん!!」

顔一面に笑顔の花を咲かせる。
そして、おずおずと。だが、手が触れ合ったらしっかりと握る。
既に周りではかなりの人数が飛び降りてるみたい。
私達も少しおくれてそれに続く。
全く馬鹿らしい。こんな試験など本来は簡単すぎるくらいなのに。

飛び降りた私達は巣の位置を見極めるとしっかりとつかむ。
そして、何でもないかのように移動し卵を取る。
後は卵を持って上に上るだけ。
そんなものは簡単に終わってしまった。
だが、私達はその間中どちらも手を離すことは無かった。



二次試験終了

合格者、現時点で44名。



さて、これで今日の試験は終わりみたいね。
全く、今日は疲れたからさっさと眠りたいわ。

「さて、あんた達は二次試験合格よ。今から迎えが来る予定になっているからちょっと待っていなさい。その間に約束したゆで卵を作ってあげるわ。料理ハンターの技しっかり味わいなさい」

卵を食べてみる。
あら、流石ね。
物凄く美味しい。
卵が苦手な私でも食べられるわ。
しかも、疲れた体が癒されるよう……
やっぱり料理は料理人に任せるのが一番ね。

それから暫くして飛行船が飛んできた。
ハンターマークがついているところを見るとあれが迎えだろう。
案の定私達の目の前に着陸すると試験合格者達を回収していく。
私達は適当に乗り込もうとしたが、試験官のメンチさんに止められてしまった。
やっぱりあの脅しがまずかったか?

それから私達は別の部屋に連れて行かれる。
そこには二人の女性が居た。
見覚えがある、確か受験生の一人でポンズという名前だったはず。
もう一人はスパーとか言う名前だったかしら?
そろそろ44人位なら全て名前を覚えている。
さて、どういうことだろう?
彼女らが居るのなら脅しの事じゃ無いだろうし。
さらに、いつ来たのか、私達にも気配を悟らせないで一人の見覚えのある老人が座っていた。

「ホッホッホ、よく来てくれたのう。わしはこの試験の責任者をやっているものじゃ。この飛行船で明日3次試験会場につく予定じゃが、お主ら女性を他のやつらと同じ部屋にするわけにもいかんでのう。まずスパーさん、ポンズさんや」

「は、はい」

「おぬしらは一人部屋の方が良いじゃろう」

「そうですね」

なんだ、こんな内容か。
身構えて損をしてしまった。

「それから、おぬしらは二人一緒の方が良いじゃろう?」

「うん」

「で、出来れば……」

正直試験官の前では一度本性をさらけ出してしまっているから演技する必要は無いのだが、まあ癖のようなものだ。
それに、ポンズ達も居るしね。
後、相手の立場もわからないから変な事はしない方が良いというのもある。
でも、このおじいさんどこかで見たことが有るような。

「うむ、話しはそれだけじゃ。それでは戻ってよいぞい。あ、鍵はメンチ君から受け取ってくれ」

「「はい」」

返事をして部屋を出ようとしたところ念でメッセージを出される。

『少し残ってくれんか?』

ん、やっぱり小言があるのか。
かったるい。
それで私達はポンズ達の手前一度出たフリをした後また部屋に戻った。
私達が部屋に戻るとメンチに加えてさっきまで居なかったブハラ、サトツまで居る。
一体何事だ?
少々大げさすぎる気がするが。

「何のよう?」

「いや、ただお主らに会ってみたかっただけじゃよ。わしの弟の弟子であるお主らにのう」

!! そういうことか。
道理で見たことがあるわけだ。
ということはこの爺はハンター協会会長のネテロか。

「全く、貴女達には騙されたわよ。試験官を脅したり受験生に念を教えたり好き勝手してくれると思っていたら……まさか、人事部の回し者だったとはね。しかもその外見で私のお婆ちゃんよりも年が上なんですって!! 私も若さを保てる念能力にすればよかったわ!!」

「ま、まあまあメンチ」

二次試験の試験官、メンチさんが物凄く怒ってる。
後半は的外れな気がしないでもないが。

「え、えっとすいません……私達も試験官さんに教えるなと言われていた物で」

「いや演技せずとも良い、普通に話してくれんか?」

「そう? わかったわ」

急に雰囲気を変える。
それまで纏っていた気弱な雰囲気が消え、厭世的な雰囲気をかもし出す。
その変化に三人の年若い試験官たちは息を飲む。
だが、ネテロは超然としている。
流石に人生経験が違う。

「で、私達に会ってなにを話したかったの? 試験官の採点? いくら会長でも教えないわよ」

「いや、それはいいんじゃ。ただ純粋に会って話したかっただけじゃよ。弟が最高にして最狂の弟子と呼んだ君らにのう」

へえ、師匠は私達の事をそう評していたのか。
もう死んでしまった人の事だからどうでもいいけど、改めて聞くと感慨があるものね。
それにしても、最高とは笑わせる。
私達を超える才能の者などこのハンター試験の受験生の中にもごろごろ居るではないか。
私がそう思っていることが伝わったのだろう。
ネテロ会長はこう補足してきた。

「ああ、最高というのは目標に向かって他のすべてを捨ててどこまでも努力できる姿勢に対して言ったのじゃよ。まあ、これは最狂も同じ理由なんじゃがな。普通おらんぞ? そんな居るかどうか怪しい。むしろおらん可能性が高い物を追って100年近くも修行する等。しかも大事なものをあえて捨ててまでな」

もしやこの爺私の妹への感情を知っていやがるのか?
いや、それはない。
流石にそこまでは知りはしないだろう。
だが、この男要注意だ。

「確かにそうでしょう。他の人から見たら私達のしていることなど愚にもつかぬことだと思います。しかも、それに下手したら人の一生よりも長い時間をかけているのですから。しかも理由は逆恨みに近いもの。ですが、今更後には引けないのです」

「そうか、では年寄りから一言だけ言わせて貰うぞ。幸せは意外と近くにあるものじゃ。そして、往々にして無くしてから気がつくものじゃ」

「そうですか、ご忠告だけ受け取っておきます。では、そろそろ良いですか? これで失礼します」

私達は頭を下げその部屋を後にする。

「うむ、今日は君らと話が出来て楽しかったわい。それと、余りやり過ぎないようにしてくれよ」

ネテロの声を聞くことも無しに部屋を出る。
ネテロに言われたこと等言われるまでも無く承知していること。
このまま修行など止めて妹と二人過ごしていけたらどれだけ幸せだろう。
だがしかし、私は確信している。
私を転生させたものの存在を。
前世で苦しんだ女から男への変化……
その呪いを引き継ぎあえて今生でも男として生み出した悪意ある存在を。
確かに私は感じたのだ、この世界での母の胎内に入る時何物かの意思が介入するのを。
私はその相手に復讐せずには居られない。
そのためには修羅にでもなる。
そして、そのためにも私は全てを……そう、全てをかける。

私たちが退出した後の部屋で次のような会話が行われた。

「諸君らはどう思うあの二人のこと」

「どう思うって、私は恐ろしいですね。正直人間とは思えませんでしたよ。あの二人を相手にするのはごめんこうむりますね。会長もお気をつけ下さい」

「ふむ、心配性じゃな。あの二人は弟の弟子。いわばわしの身内じゃぞ」

「いえ、女の勘とでも言うんですかね? 詳しくは説明できませんが……」

「メンチ君はそう思うか。他の二人はどうじゃ?」

「そうだなー、俺もメンチに同意かな。他にも44番とかも殺気を飛ばしてきていたけど……あの二人の殺気は何ていうか、雰囲気が違ったよ。ほんとに殺されると思った。絶対に敵対はしたくない」

「そうですね、私もあの二人はおかしいと思います。冷酷かと思えば以外に人命は大事にしているようですし。かと思えば平気で人を殺したりも出切る。演技にしてもあの性格の変わりようはおかしすぎますね。どうすればああなるのかわかりません」

ネテロは一通り聞いた後、暫し考え込むようにする。
だが、答えが出なかったのか頭を振る。

「ふむ、あやつの残したものの一つとして、どうか幸せに過ごして欲しいのじゃがな。わしに出来ることは祈る事ぐらいか……」




ネテロ達と別れた後、私達は寝る時は個室を貰った事をボドロさんに伝える。
そして、精神的に誰かと会っていたい状態ではなかったので早々に部屋に行く。

「ねえ、ごめんなさい……私はいい兄ではないわね。貴女を巻き込んでこんな埒も明かないようなことをして。その上、一時の感情で貴女の事を壊してしまった……」

「いえ、私はたまにそうして気にしていただけるだけで満足です。お兄様と共に居られる事が私の幸せ。お兄様と離れる事のみが私の不幸ですから。お兄様以外の物など私にとっては塵ほどの価値もございません。もし私がご不要になったのなら死にましょう。もし私たちの仲を裂こうとする者が現れたのなら殺しましょう。ですから、私の事を捨てないで下さい。それが、私に対する何よりの報酬です」

ふっ、そうね私は何を気弱になっているのか。
妹がこう答える事はわかっていたはず。
でも、今日は酷く疲れた。
たまにはこうして酷く不安になるときもある。
……今日は妹と共に眠ろう。
そして、明日になったらまたいつもの私に戻ろう。
だから、せめて今夜だけは。

「□□□こっちへいらっしゃい。さあ、偉い貴女にご褒美をあげましょう」

ご褒美なんて嘘。
ただ私が彼女に甘えたいだけ。
そして、彼女の真の名前を知っていてもいいのは私だけ。
神にすら知る事は許さない。
彼女の物は名前にいたるまで全て私だけのもの。
私だけが呼ぶ彼女の名。
誰も知ることの無い私の名……


私は彼女に名前を呼んでもらいたいのだろうか? それとも……


そして、部屋には互いを求め合う音だけが流れていった……



[29061] さらに続き この話は批判が出ることが予想されます
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:c290286e
Date: 2012/09/06 20:57
そして、夜が明けた。

私達は個室を引き払いボドロさん達と合流する。
ゴンとキルアは若いだけあって飛行船の中を冒険して別行動をしたらしく一緒には居ない。
そのほかの3人は雑魚寝だが、よく休む事が出来た様だ。
ゴンとキルアとも後で合流したが、特に何事も無かったらしい。

そんなこんなで燃についてのおさらいをしていると3次試験会場に到着する。
奇妙な塔の屋上こんな所で何をするつもりかしら?
そこかしこに隠し通路みたいなものがあるみたいだからそれを使って何かするの?
まあ、試験官の説明を待ちましょう。

「やあ、諸君私が三次試験の試験官だ」

え、この声はたしかリッポーとか言ったっけ?
私あいつ嫌いなのよね。
あいつの試験なのか……
きっと性格の悪い試験なんだろうな。
いやいや、あいつのお遊びに付き合ってやるのなんて。
何か適当に切り抜けましょう。

「この試験でやってもらう事は簡単だ。72時間の内にどんな方法を使っても構わないから下に降りてくる事。やってもらう事はそれだけだ」

へえ、なるほどね。
それぞれ隠し通路をつたって下に降りて来いって言う話しか。
残念だったわねリッポー。
貴方の目論見なんて私が打ち砕いてあげるわ!!
フッフッフ、貴方の残念がる顔が目に浮かぶようだわ。
あー愉快。
あっ、一応確認は取っておくか。

「し、試験官さん……し、質問なんですけど」

「ん? なんだいミネアさん。僕の嫁になってくれる気になったのかい? 勿論大歓迎ですよ」

ぐ、だからこいつは嫌いなのよね。
全く、一体私のどこが気に入ったのか、会う度毎に結婚をせまってくる。
あーいやいや、ストーカー男は最悪ね。
絶対今回の試験だって私達が出て来るのを知って試験官になったに違いないわ。

「そ、そうじゃないんですぅ。何度も断っていますが、私はまだ結婚なんて……」

「ははは、僕はいつまでも待っているよ」

ちっこいつ殺したい。
それはロリコンにしてみれば永遠のロリは夢でしょうけど。
ああーウザイ。

「と、とにかく。私が聞きたいのは本当にどんな手段を使ってもいいんですね? ってことなんです」

「ああ、勿論。何だったら君達二人は色仕掛けで僕を惑わせば1階に送っても良い。何ならハンター試験にも合格させてあげるよ?」

けっ誰がそんなことするか。
だが、これで言質は取れた。

他の受験生達から野次が飛んでるが気にしない。
私は悪くない。

「知り合いか?」

知り合いたくなかった……

「あれは贔屓じゃねえか?」

別に贔屓なんてされなくても余裕だし。

「ミネアたんハアハア。マーニャタソハアハア」

てめえもか!!
はあ、一々野次なんて聞いてられないわ……

「い、色仕掛けなんてそんな……それに、そんな卑怯な事をして資格を取っても嬉しくなんて……」

「ハハハ、無理にとは言いませんよ。無理にとはね。ですが、塔の中のカメラは常に貴女達を見守っていますよ!! そう、常にね!!」

ぞぞ……や、やだ。
こいつ真正?
キモイとか、嫌悪感とかそんなちゃちなもんじゃねえ!
もっと気持ち悪いものの片鱗を味わったぜ!
ボドロさん、レオリオは怒り心頭。
クラピカは哀れんだ目でこっちを見ている。
ゴンや、キルアはまだ幼いせいか余り反応しない。
他の受験生もさすがにリッポーの異常性がわかったらしく野次を飛ばさなくなった。
それどころか可哀想な者を見る目になった。
同情なんていらないからリッポーをどうにかしてよう!!

「さて、ミネアさん。まだまだ話していたいところですが、時間になってしまいました。残念です。さて、他に質問は無いな? あっても幼女以外の質問は聞かないがな!!」

そのとき受験生一同の心は一つになった。

「「「だめだこいつ」」」

白みきった空気の中ただ一人それを読まないリッポーの声だけが響く。

「さて、それではスタートだ。ミネアさん、マーニャさん。頑張って下さい!!」

……殺したい……
受験が終わったら殺しに行こうかしら。
でも何故かあいつ殺そうと思っても殺せないのよね。
もしかしてリッポーの念能力は『ギャグ補正』とかなのかしら?
詳しく聞いた事はないけど……
それに、あいつに触りたくないし。
はあ、あんなやつの事を考えるのは止めよう。

「はあ、もういや……な、何でこんなふうに追い掛け回されなくちゃいけないの? も、もう嫌だよう。この塔の中に居たらいつまでも見られてそうだから一気に下りるもん。ところで、お兄ちゃん達も一緒に行く? 念の修行も見てあげたいし」

「そうか、お願いする」

「わしも二人をあの試験官から守らねばならんからついていく」

「俺もだぜ。あんな試験官の試験は受けたくねえからな」

良かった、この三人からは良い返事が貰えた。
3日あれば無理やり念を起こしてあげることも出来るし。
燃、それと纏、絶の修行には入れるでしょう。
それにしても、ゴンとキルアの返事が無いけど。

「ゴンさんとキルアさんはどうするの?」

「俺はいいよ! 試験も自分の力でやりたいしね。一階で会おうね」

「う、うん、わかったよ。それで、キルアさんはどうするの?」

「ん? 俺もいいよ。この程度の試験に人の手なんか借りたくねーし」

ふっ全くお子様ね。
まあいいわ。この二人が抜けたところで私達にはデメリットは余り無いもの。

「う、うん。それじゃあゴンさん、キルアさん一階で会いましょうね? それと、リッポーさんには気をつけてね? あの人幼女以外の人にはどんな嫌がらせでも平気でしてくるから……本当に気をつけてね?」

「うん、ありがとう」

「全く、そんなの試験官にするなよな」

二人に少し忠告した後、私と妹はレオリオ、クラピカ、ボドロさんを担ぎ上げると無造作に塔から飛び降りる。
途中鳥が五月蝿かったので適当に蹴散らす。
ときどき塔に攻撃を加え適度にスピードを落としながら落下する。
そうすると直ぐに地面が見えてきた。
私達は着地に備えて準備をする。
衝撃に備えて足を堅。
そのまま、衝撃は上手く逃がしてあげる。
そして着地をした。
足を堅でガードしただけあって無傷だ。
さて、ちょっと力技だったけどこれでいいのかしら?

「ふむ、もっと二人を眺めて居たかったのだが仕方が無い。君達5人は第3次試験一位通過だ。ところでミネアさん、マーニャさん。そんな所に居ないで塔の中に戻ってきて僕の部屋にでも来ませんか?」

「す、すいません。私達はこ、この人達の修行をしなければならないので……」

「ふむ、そんなやつらどうでもいいと思うが。まあ、お二人がそう言うのならば仕方が無い。僕はいつでも部屋の鍵を開けて待っていますよ」

誰が行くか馬鹿が!!
貴様の部屋に行くくらいなら3日間野宿は天国に思えてくる。

ん、上から何か落ちてくる。
あれは! 人?
妹も気がついたようだ。

「お姉ちゃん!!」

「うん、わかってる」

妹がジャンプして上から落ちてきた人を受け止める。
かろうじて息はあるみたい。
最も、右腕は無いし、体中が傷だらけだけど。

「お姉ちゃん! 治療するよ。」

「うん」

腕は止血し、増血剤をうつ。
念で強化された薬だから輸血はしなくても何とかなるだろう。
体中いたるところに傷がある、一つ一つは小さいとは言え、その数は馬鹿にならない。
私は妹と手分けをして一つ一つ丁寧に処置していく。
それから1時間後その人は何とか一命をとりとめた。

「ふむ、生きていたか。良しサービスだ。その男も第三次試験第6位通過だ」

全く、見ていたのならせめて輸血パック位くれても良かったのに。
それから私達は『非凡なる薬剤師』で作った薬をその男に注射する。
これで、ロッククライマー風な男は次の試験までには動けるようになるだろう。
さて、これでみんなの修行に移れるな。

「すまない、その男の事なんだが、わざわざ貴重そうな薬まで使って助けても良かったのか? 私はそこまでの効果を持った薬の事は聞いたことも無い。それをそんな見も知らぬ男に……しかも、自分が助けたとも告げずに塔の中の安全そうな場所で休ませるなんて」

「貴重な薬でも人の命には変えられないよっ! それに、私は感謝されたくて助けたわけじゃないから」

「君達は凄いな……」

ふっふっふ、感謝されたくない?
そんなの嘘だ。
目を覚ましたらあのリッポーが私達の事をあのロッククライマー風の男に告げるに違いない。
それも、誇張たっぷりにね。
私達が直接喋るよりもそっちの方が良い。
私達はあくまでも謙虚にしていた方が恩も売れるし。
ちょろいわね。

「感動した!! やっぱりお二人は俺の理想だぜ!! くうっ、いつか俺もそんなことが言える医者になりてえ」

「そ、そんな。私達はそんなに凄くないよう。それに、お、お兄ちゃんなら成れるよ。私達も協力するから頑張って」

「はい、見ていてください。男レオリオ、いつかお二人のような立派な医者になって。お二人の力になって見せます」

あら、思わぬところでレオリオが釣れた?
えーっと瓢箪から駒?
棚から牡丹餅?
ともかくラッキー。
ボドロさんもクラピカも視線が優しい。
ふっ私も男だけど、男なんてちょろいものね。

「は、恥ずかしいよう。そ、そうだ修行するよ。修行。だから、この話はここでおしまい。ね?」

三人の目が物凄く優しい。
ふう、何て容易い。
この3人はほぼ落ちたわね。
今後せいぜい強くなってもらって私の役に立ってもらわないと。

「えっと、クラピカさん。それとお祖父ちゃん。今回は時間が有るみたいだから無理やり念を起こしてあげてもいいけど、どうする?」

「私はお願いしよう。正直早く強くなれるのならそれに越した事は無い」

「わしは良い。時間をかけて強くなる方が性にあってるでな」

クラピカだけか。

「それじゃあクラピカさんこの薬を飲んでもらえる? この薬を飲めば体の中の魔術回路にスイッチが……じゃないや。体の中の精孔をこじ開けてその後落ち着かせてくれるの。これで、かなり安全に纏を身に付ける事が出来る筈だよ。飲んだら心を落ち着けて、自然な姿をイメージしてね」

全く、『非凡なる薬剤師』は本当に便利だ。
こんな事に使える薬も作り出せてしまうのだから。
まあ、その分薬の勉強は大変だったけどね。

「あ、お兄ちゃんはこの薬を飲んでもらえる? この際だから、お兄ちゃんの纏も完全にしときたいの」

これは半分は本当だけど、半分は嘘。
実は今レオリオに渡した薬は2種類の薬だ。
一つは言葉通り纏をしやすくするためのもの。
そして、もう一つは今後私たちに対する信頼度が減少する事の無いようにする薬。
惚れ薬ならぬ信頼薬、とでも言った所か。
さっきの事でレオリオの私達への信頼度は今とても高い状態にある。
これをこの薬で今後一生維持し続ける。
これからレオリオは私達をより信用する事はあっても、その信用が減少することは一切無くなる。
しかも、これは記憶に関する部分へ効くものだから、もし仮に永遠の嘘をレオリオに使ったとしても解除される事は無い。
師匠が、私達にかけた念能力のように。
忌々しい念だけど、こういうところは師匠に感謝ね。
そうでなければ永遠の嘘で解除されてしまうもの。
私達だけだったら、それへの対応方法なんてすんなり考え付かなかったに違いないわ。
本当だったらクラピカ達にも使いたいけど、クラピカは確かに才能はかなりのものを持っているのは感じるけど。
私達の目的に参加してくれなさそうな気がする。
何か、私達の目的とは全く違う方向を向いた信念を感じるから。
その点、私達の目的にも使えそうな理想を抱いたレオリオとは違う。

「ふむ、これを飲めばいいんだな?」

「さすがだぜ、二人ともこんな薬まで持ってるなんて。さっきの治療に使った薬といい。まさか薬剤師の知識まで持ってるとはな……俺も頑張るぜ」

ふふふ……
すっかり信じちゃって。
レオリオ、それを飲んだが最後。
貴方は私達を絶対に裏切れなくなる。
そして、減る事の無い信頼という呪いがいずれ貴方を私達に縛り付けるわ。
今から楽しみね。
貴方の才能で私達と共に永遠の修行を積む。
一体どこまで強くなるのかしら?

「ふむ、随分と苦い薬だな。だが、飲んでもなんとも無いようだが……こ、これは。何だこれはこれがレオリオの言っていた湯気というやつか。ぐっ確かにこれは凄い……体から物凄いエネルギーが抜けていくのを感じる。これでも、薬で抑えてくれてあるのか。ともかく早く纏を身につけねばな。自然体でオーラを体の周囲にとどめるイメージ」

「そうだよ、頑張って」

「ん、こっちは何ともねえな?」

「お、お兄ちゃん……何とも無いって、もう纏出来てるよ?」

「何い!! あ、本当だ」

二人は無事に纏を身につける。
不完全とは言え、ほぼ身につけていたレオリオは一瞬で。
クラピカも薬を飲んでから然程の時を置く事無く纏をみにつけた。
ふふ、いくら覚えやすいように薬でサポートしているとは言っても、この速度羨ましい才能ね。

その日は二人とも疲れているだろうから燃の修行だけで1日を潰す事にした。
やはりレオリオは燃が苦手なようだ。
基本的にじっとしているのが性に合わないみたい。
しょうがない事……
燃はしっかりやった方がオーラが落ち着くのだけど。
でも仕方が無いわね。
レオリオは実践で伸ばしましょう。

次の日。

ボドロさんには相変わらず燃の修行を続けてもらう。
ボドロさんは燃が得意の様だ。
遠からず念にたどり着くだろう。
それはさておき、レオリオとクラピカ。
まずは纏の状態に慣れてもらうことから始める。
理想は常に纏の状態で居る事。
出来れば寝ている時まで。
まあ、試験中にそこまでいけるわけが無いのはわかりきっている。
せめて数時間……それくらい無いと戦闘に耐えられない。
そして、それと平行して絶の訓練も始めた。
やはり二人とも才能が有る。
さほど時間もかけずに絶らしきものを身につけてしまった。
これならこの3次試験中に完全な絶を身に付ける事が出来るだろう。

二日目の夜。
取り合えず二人に纏を身に纏った事でどれだけ違いがでるのか模擬戦をしてもらうことにする。
きっと二人とも念という物の凄さを実感する事だろう。




森の中レオリオとクラピカは睨み合う。
互いに武器を構え相手の隙をうかがう。
才能ではレオリオが上、戦闘経験ではクラピカが上。
現時点での戦闘能力ではクラピカがレオリオの一歩先に居る。
レオリオとてそんなことは百も承知。
だが、彼とて楽に負けてやるつもりは無い。
尊敬する師匠達が見ているのだ、無様な姿などさらせない所。

初めにじれたのはレオリオ。
クラピカに隙が無いと見るや、ナイフに月光を反射させクラピカに踊りかかる。
いつもより体が軽い!!
レオリオがそう思った時、視界からクラピカが消えた。
ナイフを振った先で大木が綺麗に切り裂かれる。
ナイフが振りぬかれた後に風を切り裂く音が遅れてついてくる。
早い……それまでの自分にはありえない速度だ。
小さなナイフ一つで、レオリオの腕でも周囲を囲いきれない大木を切断する。
常識で考えるとそれがどれだけ異常な事か。
どう考えてもありえない。
これが念というものか。
レオリオもクラピカもありえない光景に一瞬時が止ま……るかと思われた時。
一瞬早くその状態から脱したクラピカが先ほどのお返しとばかりに鎖で繋がった二振りの木刀を振るう。
硬直から解けたレオリオは自身にせまり来る暴力にナイフを構え合わせる。
射程と数で劣るナイフで器用に攻撃を受け止めていく。
木刀とナイフの間に数え切れない火花が飛ぶ。
二人の間には今にも火がつきそうだ。
横で見ているボドロには二人の手がだんだんと見えなくなってくる。
まるで夏の夜の花火のよう。
誰が思ったかは知れないそんな感想を余所に火花と、ナイフに照りかえる青白い月光が踊る。
それにあわせて空気を切り裂く音と互いの呼吸音が妙に大きく聞こえる。
一体何合を数えた時だろうか、そんな美しい光景が突然終わりを告げる。

「やるじゃないかレオリオ!」

「おまえもな、クラピカ」

互いに笑いあう。
二人とも戦闘に喜びを見出すタイプではない。
それでも浮かんできてしまう笑み。
いつまでも続けていたい、しかしこの楽しい戦いを自分の勝ちで終わらせたい。
そんな矛盾した思いが二人の友……いや、ライバルの間に流れる。
それからは互いに動けず、相手を倒す為の隙をお互い窺う。
相手の隙は無いか?
まだ、自分が思っているよりも鋭く強く動いてしまう体の感触に早く慣れないか?
そんなことを思いながら……
周囲には息を呑むことすら許さぬ静寂が広がる。
相手の心臓の音さえも聞こえてきそうな。
それほどまでに相手に集中する。
ミネアとマーニャはとても満足そうに。
ボドロは武人としての血が滾るのか血走った目で見守る。

二人のにらみ合いを邪魔するかのように木の葉が数枚落ちた。
しかし、この時の二人はその程度の事では集中が途切れない。
いつまでも続くかと思われた睨み合いだが、戦を眺めていた月が無粋な雲によって阻まれた時、再び動き始める。
周囲をそれまでよりも深い闇が支配する中、二人は密着する。
無粋な雲がどき、月が再び二人の戦いを覗いた時には決着がついていた。
それまでの長い時間の緊張に似合わぬ一瞬の決着。
レオリオのナイフを片方の木刀でおさえ、もう一つの木刀がレオリオの頭の数ミリ前で止まっている。
クラピカの勝ちだ。
だが、余裕の勝利ではない事はレオリオのナイフがクラピカののどに近づいている事からうかがい知れた。
今回は一刀と、二刀の差。
ほんの紙一重で決まった勝負だった。

「チッ負けちまったか」

「いや、危なかった。レオリオがナイフで私の咽を付く時一瞬躊躇しなければ負けていたのは私だった」

「そりゃ、そっちは木刀。こっちは刃物だからな。まあ、負けた言い訳にはならねえよ。こっちの負けだ」

「そうか、ではこの勝負は頂いておこう。楽しい勝負だった、またやりたいものだな」

「ああ、そうだな」

クラピカとレオリオは互いに健闘を称え合う。
その間に醜い感情等無い。
純粋に相手の力量を称え合っている。
美しいライバル達の戦いはこうして終わりを告げた。




ふむ、二人とも予想以上ね。
念を覚えてからわずか1日やそこらでここまで動けるか。
これは楽しみね。

「ふ、二人とも凄かったの。お兄ちゃんは惜しい所で負けちゃったけど、かっこよかったよ。それと、クラピカさんはやっぱり強いね。力はお兄ちゃんの方が強いけど、それを全部いなしちゃった。相手を絡め取って行って選択肢を奪っていく戦い方が凄かったの。お兄ちゃんは力に頼りすぎかな? 能力自体はクラピカさんを上回っているのに戦闘方法が余り上手じゃなかったから負けちゃったんだと思う……もう少し駆け引きとか戦闘術を覚えれば誰にも負けなくなると思うよ!」

「見事」

「うむうむ、若い才能同士の戦いというものはいいものじゃの。わしも若い頃しのぎを削りあった戦友を思い出したわい。はっはっは、良いものを見せてもらったぞ」

ふむ、本当に見事だった。
二人ともまだ荒削りだけど……
それを補って余りある輝くものを感じさせてくれた。
若いって良いわね。



そんな感じで第3次試験……私達にしてみれば念の修行は終わっていった。
最後に死に掛けた人が出てきたが、勿論治療した。
こうして、合格者30名。
無事に塔を脱出して飛行船に乗り込んだ。





「やあ諸君、第4次試験を始める前にこのくじを引いてもらいたい」

くじ? 何のくじだろう?
どうせまた性格の悪いくじなんでしょうけど。

「それじゃあ、第3次試験通過順に引いていってくれ。さあ、どうぞミネアさん、マーニャさん」

うっ、リッポーが何気なく私の手に触って来た……いや、後で消毒しなくちゃ。
一応笑顔で無視する。
ふむ、53番。
一体何の数字かしら。
マーニャは……86番。

「さて、全員引いたな。第4次試験は狩るものと狩られるもの。その番号はお前たちが狩る者の番号だ」

は、はーん、なるほどね。
ここで、半分以下に減らしておきたいという心積もりね。

「まず自分のプレートが3点。その番号の札が3点。そして、その他の札が1点だ。1週間で6点分集めて持って来い。これが4次試験の内用だ」

やっぱりね。
あらあら、皆今更になって必死でプレートを隠しているわ。
全く無駄なのにね。
もう全員分の顔と番号は一致しているわ。
もう、どこへ逃げようと円で追跡可能よ。
ふふふ、私達はあえて番号を隠さないから怪我したかったら取りに来なさい。

「二人は隠さなくてもいいのか?」

あらクラピカ、心配してくれるの。

「う、うん。私はお姉ちゃんが絶対に守ってくれるって信じてるから」

「ミネアには近づけさせない」

「なるほどな。まあ、二人に敵うものは居ないだろう。頑張ってくれ」

「よし、諸君準備は出来たな? それではミネアさん、マーニャさんからどうぞ」

ふう、全く楽な試験ね。
301か44に関係しない限り残りは雑魚だしね。
ボドロさん、レオリオ、クラピカは流石に引きたくなかったけど。
ゴンとキルアは悪いけど余り関わってないからどうでもいいわね。

ところで、さっきからリッポーがずっと後をつけてきているんだけど……
殺していいのかな?
私達は一瞬でリッポーに肉薄する。

「な、なんか用ですか? リッポーさん」

「いや、何。この試験は受験生を見張る為に全員に見張りがついているんですよ。ですが、何分人員不足でして。貴女方お二人にはこの試験中つける者が居なかったのですよ。そこで、仕方が無く。仕方が無くですよ。この試験のそう責任者である私がお二人の監視につく事になったのですよ」

うそつけ、絶対自分から私達の監視につきに来たくせに。
全く、白々しいにも程がある。

「おっと、それから今は私に攻撃しない方が良いですよ。私に攻撃したらその時点で試験失格ですからね。楽しく行きましょうよ☆」

うがー、こいつどうにかして。
嫌だよう。
怖いよう。
人として私達以上に壊れてる……
何なの? ねえ、何なの?

「さあさあ、早く行きましょうよう。ね?」

もう良い。こんなの無視するに限る。

「わ、わかりました。ですけど、は、恥ずかしいので……私達からは離れて見ていて下さいね。それにそうしないと試験にならないでしょう?」

「勿論ですとも。幼女とは世界の宝世界の真理。それを容易く折ろうなどという不遜な考えは男リッポーわずかたりとも思っていません」

何だろう、後半だけ聞くとかっこいい台詞なのかもしれないけど。
この人の口から聞くとこれ以上ないほどに気持ち悪く聞こえる。
ハア、もういいや。

あんなのの事なんて忘れて今はターゲットを探しましょう。
あれ、あの人は見覚えがある。
私たちが助けたロッククライミング風な人。
確かあの人が86番だったはず。
ラッキーね。
私達が顔を出すと86番は一瞬身構えたが、直ぐに相手が私達だとわかると緊張を解く。

「ふう、良かった。あんたたちを探していたんだ。俺はこの腕だ、もう戦えそうも無い。そこでこのプレートだが、誰かに取られるくらいならお嬢さん達にあげ様と思ってな。命の御礼としては安いし、お嬢さん達の目標かもわからないが、今俺に出来る礼はこれ位しかない。頼む、受け取ってくれないか?」

「えっ!! ほ、本当ですか? すいません、実はお姉ちゃんの目標が86番だったんですよ。これで6点たまりました。本当にありがとうございます」

「そうか、それは良かった。命の礼には届かないが少しでも返せてよかったよ。本当はプレートを捨てようかと思ってたくらいだからな。渡せて良かった。お嬢さん達、立派なハンターになりなよ」

「は、はい。ありがとうございました」

86番の男はこっちに残った左手を上げるとそのまま去っていった。
ラッキー、楽してプレートゲット。
この調子で行きましょう。
次は53番……ポックルとか言ったかしら?
変な貝みたいな帽子を被った人。
まあ、雑魚ね……
ちゃっちゃと行きましょう。

見つけた。
さあポックル、私達を少しは楽しませなさい。
私達はわざと音を立ててゆっくりとポックルに近づく。
当然ポックルは私達を警戒している。
でも、目の前に現れたのが子供二人だとわかると明らかに気を抜く。

「お嬢ちゃん達、これは子供の遊びじゃないんだ。さっさと帰りな」

「う、うんわかった。もう貴方のプレートは貰ったから……それじゃあね」

「何だと? ほ、本当に無い! 一体いつの間に……」

あらら、期待はずれにも程があるわね。
あれだけ盗んで下さいとでも言わんばかりに隙だらけだった癖に何を言っているのかしら。

「えっ!! あれはお兄さんが私達にプレートをくれる為に作ってくれた隙じゃ無かったんですか?」

わざと無邪気に、心底そう思っていたという感じで言ってやる。
勿論怒らせて遊ぶ為だ。
たまにはストレス発散も必要よね?
なんせ、今はリッポーというストレス発生器までいる事だし。

「返せ!!」

「ほらほらポックルさん。足元がお留守ですよ?」

そう言って足に足をかけ転ばせてあげる。
私みたいな幼女にこんなに馬鹿にされるのは屈辱だろう。
少しトンパとかいったかしら?
あの男の気持ちがわかったわね。
さあさあ、まだまだ行くわよ。

「そうだ!! ポックルさん。このままじゃあ、弱いものいじめみたいで格好悪いよね? 私いじめって好きじゃないし。だから左手一本で戦ってあげるね? 手と足の攻撃はしないよ。後、お姉ちゃんも手出ししない。私一人で稽古を付けてあげるよ」

フフフ、優しいわね私。
あら、ポックルが物凄い激昂してる。
まあ、当然ね。
もし私がポックルだったら首をつっているところよ。

「ほざけクソ餓鬼が!! その余裕直ぐに後悔させてくれる」

ポックルが弓矢に手をかける。
そして、私に向かって連射してくる。
うーん……遅いし力不足。
手を使うまでも無い。
私は可愛く口をすぼめると息を吐き出した。
たったそれだけで矢はてんでばらばらの方向に飛んでいく。

「ねえポックルさん。早く本気出してよ。左手を使うまでも無いじゃない? 優しいから子供に手を上げたくはないのはわかるけどさ」

それから数時間、私達は散々ポックルで遊んであげた。
結局左手すらも1~2回しか使ってない。
ポックルは既に白い灰になっている。
あらら、可愛そうに。
もう二度とハンター試験を受けに来れないかも知れないわね?
残念、運が無かったと思って諦めなさい。
田舎でチョココロネでも焼いていればいいのよ。
貴方の頭を見ていたら食べたくなってしまったじゃないの全く……

後ろからフラッシュ音がパシャパシャ聞こえてたのは気にしない。
ええ、こうなったら意地でも気にしない。

というわけで、開始から数時間。
私達は6点集まってしまった。
これは、レオリオ達を見つけて修行でも付けてあげようかしら?
1週間もあれば練の修行に入れるでしょう。
と、いう訳で3人を探す事にする。
まずはボドロさんが見つかった。
ボドロさんも無事に34番のリュウとか言う人からプレートを奪って6点集めたみたい。
さて、クラピカとレオリオは何処かな~?

クラピカとレオリオを発見。

「二人とも頑張ってる?」

「ああ、私は6点たまった。だが、レオリオが相手に騙されて毒を盛られてしまった。全くうかつなやつだ。幸い私が通りかかったおかげでプレートは奪われなかったが……ふっ、全く私が居なければ何も出来ないやつだ」

「うっせーな」

「全く、仕方が無いから今後も私が面倒を見てやろう」

「だ、誰が面倒を見てもらうって!! こっちがてめえより強くなってずっと面倒見てやるよ!!」

あらあら、二人とも。
聞き様によっては告白しあってるようにも聞こえるわよ。
若いって良いわね。
まあ、本人たちは気がついてないみたいだけど。
それにしても全く、あれだけの才能を持ってて何やってるのよ。
今強さだけで言ったら、私達、ヒソカ、ギタラクル、クラピカに次いで6番目には強いでしょうに……
医者になろうって言うんだから知識はあるでしょうに、それを生かせない……馬鹿なんだから。

「そ、それでお兄ちゃん。毒は抜けたの?」

「ああ、もう大丈夫です。ところでお二人とも、246番って知りませんかね?」

「知ってる。ポンズ」

それは私達は全員分の顔と名前が一致しているもの。
それに、ポンズってここまで残った数少ない女性だから目立つと思うんだけど……
逆に二人が知らない事が驚きね。

「知ってるんですか!! 一体どんな相手ですか?」

「女性受験者。こっち」

妹はそれだけをレオリオに告げるととことこと歩き始める。
あっけに取られたがそれについていくレオリオ。
ふう、平和ね……
暫く歩くと目の前には洞窟が見えてきた。

「この中」

妹は洞窟を指差す。

「こん中っすかありがとうございます。ここから先は一人で行かせてください。これは俺の問題なんで、俺が決着をつけないと」

あらあら、格好を付けたい年頃なのかしら。
まあ、そういうのは嫌いじゃあないけどね。
私がそう感想を抱いた瞬間だ。

急に世界が変わった。
レオリオに向かって破滅的な殺意が向けられている。
レオリオはがたがた震えだした。
まずった、練を教えておけば良かったかしら。
ヒソカかギタラクルのターゲットがレオリオだったの?
しかし、その心配は杞憂だった。
殺気の発生源はリッポー。
あの人私の心を読んでいないわよね。
全くため息をつきたくなる。
試験官が受験生を脅してどうするのよ。

「リッポーさん、止めて!! 今私が好きなのはお姉ちゃんだけだから。決してレオリオのことは何とも思っていないから」

私は馬鹿らしく思いつつもリッポーを説得に行く。

「ふむ、ロリ姉妹の仲の良いじゃれあい……美しい!! そうです。それこそが真理。失敬、僕の勘違いで迷惑をかけました。すいませんでしたミネアさん。今後はこのような誤解はいたしません」

「う、ううん。私はいいのそれよりお兄ちゃんに謝って。ね?」

「ふっ、何を当たり前の事を言っているんですかミネアさん。この男リッポー! 幼女以外に下げる頭を持っては居ません!!」

ああ、こういう男だった。
これで優秀なハンターなんだから世の中間違ってる……
確か、ハンター協会の賞金首ハンターの中でも有数の実力じゃなかったかしら?
ハア……
ああ、この試験早く終わらないかしら。
畜生、師匠の息子め……
あの報酬じゃ絶対足りないわよこれ。
絶対後で報酬ふんだくってやる!

「そ、そう……」

ハア、レオリオになんて説明しよう。

その後レオリオにはあれは私達を狙った他の受験者の襲撃だったとお茶を濁した。
それに、ちゃんと説得して引いてもらったと伝えたら。

「危ないことしないでくださいよ。そりゃ俺らなんて足手まといかもしれないっすけど、仲間なんですから」

真実なんて馬鹿らしくて言う気にもならない。
それで嘘をついた私に嬉しい事を言ってくれるレオリオ。
やはり仲間思いな男は良い。

「い、いろいろありましたが。今度こそ洞窟の中に行って来ますね」

「うん、頑張ってね……」

「私抜きで本当に大丈夫かレオリオ? また罠にはまったりはしないだろうな? 何ならついていってやるぞ……」

「へっほざけクラピカ」

レオリオはそう言うと洞窟に入っていく。
そして数分後、レオリオは一人の少女を抱えて洞窟から出てきた。

「いやー、纏って凄いですね。蜂や蛇に襲われましたが何とも無かったですよ。この通りプレートも手に入れましたし」

「そうか、それでレオリオ。その少女は誰だ? 勝負に勝ったからって抱えてくる必要は無いだろう?」

クラピカのレオリオを見る目が多少冷たい。
だが、それはレオリオには通じない。

「ん、ああ。この子がポンズだ。この洞窟の中にバーボンってやつの罠があってなそれから抜け出せなくなってたから連れて来てやったんだ」

「本当にそれだけなんだろうな?」

「ん、ああ。流石に女の子を洞窟の中で一人男の死体と一緒に放置ってのはまずいだろ?」

レオリオの言葉をクラピカは疑っているようだ。
その後も少しクラピカが詰問する。
だが、やがてそれが本当だとわかると安堵したように呟く。

「そうか、それなら良い」

「変なやつだな」

頭をかしげるレオリオ。
プッ、クスクス。
全く、レオリオは鈍すぎるわね。

さて、一段落着いたところで修行に移りますか。
まずは纏を維持したままで軽い組み手。
レオリオとクラピカは私に言われた通りに組み手を始める。
すると、それを見ていたポンズが自信を喪失したような感じで去って行った。
……というか、まだ居たんだ。
まるきり意識していなかったわ。
まあ、レオリオの話しによればターゲットの3点のプレートは持っているらしいので、運が良ければ通過できるでしょう。
さて、そんな事気にしていてもしょうがない。
今日は纏、絶の復習にあてましょうかね。
明日からの5日で練を習得できれば最終日には水見式も出来るでしょう。
ふふふ、楽しみね。
二人にアドバイスをしつつボドロさんのために念の師匠を紹介する紹介状を書いてみる。
一体誰が良いかしらね?
そこそこの実力があって信頼できる人は。
レオリオ達に祖父って紹介しちゃったから。
せめて老い先短い命を幸せに過ごさせてあげたいものね。
まあ、何だかんだでボドロさんは地味に役に立ってるから、幸せな余生ぐらいはプレゼントよ。
そして、初日は暮れて行った。

二日目。

「それじゃあ、今日からは練の練習を始めるの。練っていうのは纏の状態で体の周りを覆うオーラを増幅させることだよ。ちょっと難しいけど重要な技だから頑張って習得しようね?」

「わかった」

「おう、頑張ります」

流石にすぐには習得できないようね。
最も5日で不完全でも良いから習得させようって言うのに無理があるんだけどね。
まあ、この二人は扱いやすいから。

「ねえ、クラピカさん。お兄ちゃんがね、俺は強くなって皆を守る。だから私達やクラピカさん、それにゴンさん、キルアさん、お祖父ちゃんの分まで努力してみせるって言ってたよ」

「何だと! レオリオのやつ。もう少し私を信頼しろ。ふん、レオリオになど守られてたまるか。今のまま私に守られていればいいんだ!!」

ちょろいわね。
さて、次はレオリオに。

「ねえお兄ちゃん。クラピカさんがね、レオリオは医者になる夢を追ってくれ。私がレオリオの事は守ってやるから。って言ってたの」

「何だと、クラピカのやつ。確かに俺は医者になるのが夢だ。でもあいつにだってクルタ族の緋の目の奪還という夢があるじゃねえか。ダチの夢を塞いでまで俺は自分の夢を追いたくはねえぞ。ふん、そっちがその気なら俺がクラピカの夢を手伝えるくらい強くなってやろうじゃねえか? その上で医者にもなってやるよ!!」

ふふん。
全くお互いの事を気にしているのに素直になれないんだから。
ライバルとしてか、親友としてか……それともその他の何かかは知らないけどね。
フフ。

それにしても、クラピカはクルタ族か。
なるほどね、クラピカの態度の謎はそこにあったのね。
全く水臭いわね。
きっと私達を子供だと思って心配させないように喋らなかったんでしょうけど。
知ってしまった以上その程度は手助けしてあげようかしらね。
そうすればクラピカも味方に出来そうだから……
それに私達は医者だ、人体収集家の情報は手に入りやすい。
ましてや緋の目ほど有名なものならなおさらだ。
でも、それではっきりしたわ。
クラピカほど高潔な人物がお抱えハンターなんて目指していたわけが。
良し、試験が終わったら私達がクラピカを雇おうかしら?
そうすればクラピカだって情報が入手出来てレオリオとも一緒に居られるし修行も出来る。
良い事尽くしだもん。
まあ、何より私達の手駒に出来るのが大きいけどね。

その後、急にやる気になった二人は目覚しい勢いで念を習得していく。
4日目の夕方には練の完全習得間際というところまでやってきていた。
そして、夜ついに二人は練を完成させる。
まだまだわずかな時間しか発動できないとはいえ、その速度は脅威としか言いようが無い。
まあ、実は二人の食事には成長を促す薬が混ぜられているんだけどね。
それと、クラピカのものには以前レオリオに盛った信頼薬と同じものも最初に盛った。
味方にすると決めた以上はこれくらいしないと。
それに、レオリオと違って頭が良いから疑われかねないし。
それに嫉妬深そうだから……
私達と同じで命をかけて敵を狙っているのが伝わってくるもの。
執着心は強いわね。
私達とレオリオの仲を疑われても敵わないし。

レオリオとクラピカ、ライバルは同時に味方にした方が良い。
こっちが何かしなくても勝手に高めあってくれるから。

5日目私は予定していたのよりも1日早く二人に水見式を行わせる事にした……
私はリッポーに言ってグラスを二つ用意してもらった。
グラスに水を満たし葉っぱを浮かべる。
それをクラピカとレオリオに渡す。
二人に水見式というものを説明してやる。

「こうやってグラスに水を満たして上に葉っぱを置いて、そのグラスに両手を置いて練をすると念の系統がわかるの。念の系統には6種類有るって言うのはこの間言ったと思うけど、二人は何系統なのかな?」

「ふむ、練をすればいいんだな?」

まずはクラピカが練を行う。
暫くするとグラスに物凄く小さい異物がいっぱい出てくる。

「クラピカさんは具現化系だね。何かを作り出して、その作り出したものに特殊能力を持たせて戦う系統だよ」

「ふむ、具現化系か……別の系統の方が良かったが、こればかりは文句も言えないな」

ん、一体何系統を希望していたんだろう?
うーん、クラピカは私達を子供だと思って結構内緒にするからな。
まあ、別に構わないか。
それにどの系統だって、結局は本人のイメージ次第で強くも弱くもなるんだから。

「そうだな、鎖でも作ろうか」

「え、鎖?」

驚いた、クラピカならもっと直接的な武器を作るかと思ったのに。
普段使ってる武器も木刀だし。
まあ、本人がそれでいいなら文句は言わないけど。

「そうだ鎖だ。具現化系と聞いたとき真っ先にそれが浮かんだ」

「わかった、それじゃあ具現化能力の作り方は後で紙にでも書いてまとめておくよ? 今は取り合えず念の基本的な修行で自力上げをしようね?」

「うむ」

一体どんな能力を考えているんだろう?
使える能力だといいな。
まあ、頭の良いクラピカは変な能力は作らないでしょう。

「よっしゃ、次は俺ですね」

続いてレオリオも練を行う。
少し水の色が変わったかな?
へえ、レオリオは放出系か……
てっきり強化系かと思ったのに。

「うん、水の色が変わるのは放出系だね。体から念を切り離すのが得意な系統だよ。遠距離では一番有利だね」

「へえ、放出系か。どんな能力にするかな?」

うーん、レオリオは直感タイプだから、下手に考え込むよりパッと決めたほうがいい気がする。
絶対その方がレオリオにあった能力になると思う。

「うーん、お兄ちゃんは直感で決めればいいと思うよ。変に考え込むと使えない能力になっちゃうことが多いし……」

「そうなんですか? そう言われてもな」

「その内考え付くと思うよ。今はともかく二人とも水見式の変化が顕著になるまでそれを続けてね」

さて、二人ともどんな念能力者に成長するのかな?
今から楽しみ……

そんな時ゴンが私達に合流してきた。
ゴンは二人の成長ぶりを見ると興奮していた。
そして、私達に強引に念を起こしてくれないか?
どうしても強くならなきゃいけない目標が出来たんだ!!
と訴えてくる。

「ゴンさんごめんなさい。もう一日早く合流してくれれば無理やり起こしても良かったんだけど……今から起こしたら最終試験の時までに回復できないかもしれないの。本当にごめんなさい」

「あ、無理言ったのはこっちだからそんなに謝んなくていいよ。ごめんね」

全く、以前は断っておいて急に何かやりたくなったからお願いだなんて……
しかも、この手のタイプは絶対に私達の味方にはならないだろう。
まあ、レオリオ、クラピカの手前邪険には扱わないし、教えてはあげるけど。
正直やる気は出ない。

「えっと、この間教えた燃は続けてる?」

「うん、続けてるよ」

「そうですか、それだったら今はそれ以上に教える事は無いんです。えっと、お兄ちゃん達は発の修行をしててね。私はゴンさんに取り合えず念について一通り教えますから」

「うむ、わかった」

「おう、任しといて下さいよ」

はあ、仕方が無い。
私は二度手間って大嫌いなのに……
ああ、やだやだ。

「えっと、まず……」

私はその後一通りの念の基本知識、4大行と6性図についての説明だけゴンに話した。
レオリオ、クラピカ、ボドロさんにもそれぞれの修行をさせつつ、復習がてら聞いてもらう。



ふう、皆に一通りの指示も出したし、私達も久しぶりにちゃんと修行しましょうか?
ね、マーニャ。

私達は発抜きでの戦いを皆の前で披露してあげたのだった。





「第4次試験がまもなく終了いたします」

「繰り返します、第4次試験がまもなく終了いたします。ポイントの集まった方はスタート地点までお戻り下さい」

ここまでか、それにしても。
ゴンって本当に脳味噌あるのかしら?
難しい説明しようとすると煙を吹くし……
疲れたわ。
やっと終わるのね。
ああ、ゴンの裏ハンター試験の試験官にはなりたくないわね。
確かに才能は有るけど、頭があれじゃあ……
まあ、いいわ。
やっと終わったのだからスタート地点に戻りましょう。



第4次試験終了。
通過者は10名。



その夜飛行船の中にて。

「ナンバー190ナンバー190一人で試験官室に来なさい」

何でしょう?
レオリオ達と一緒に居たら突然私が放送で呼び出された。
しかも一人で……
一体何の用かしら?
まあ、いいわ。
行けばわかる事。

「な、何のようなんだろう? 一人で呼び出されるなんて。やっぱり受験生に念を教えた事で怒られるのかな?」

「何だって? もしそうだったら俺は黙っちゃいねえぜ。ミネアさんは善意で教えてくれたんだ。それを……」

「まあ待てレオリオ。まだそうと決まったわけじゃない。一人で不安なら扉の所までついて行くが、どうする?」

「は? そんなもん自業自得だろ? 一人で行ってくればいいんだよ」

キルア……覚えておくわよ。

「う、うんそうだよね。ちょ、ちょっと怖いけど一人で行って来るよ」

「おい、キルア!」

「何だよ、俺は間違って無いって。大体もしそういう理由だったら姉と一緒に呼ぶだろ?」

「あ、確かに」

弱い……レオリオ、こんな子供に言い負けるなんて。
悲しくないの?
まあ、でもキルアの言う事にも一理ある。
さっさと行って来ますか。

「う、うん、そうだよね行って来ます」

私は皆に声をかけると試験官室に向かった。
全くめんどくさい。
いざという時のために妹との間にラインを繋げておく。
これで、ネテロ以外はどうにか成るはずだけど?
まあ、今このタイミングで私達に何かをしてくるとは思えない。

ノックをすると入りなさいと言われたので入室する。

「ホッホッホ、よう来たのお。まあ座っとくれ」

「はい。で、一体何のようですか? わざわざこんな所に呼んで」

「うむ、それなんじゃがな。まずはリッポーについて謝罪しようと思ってな。それと、彼は今牢に入れてあるから安心すると良い」

ほっ、何だそんな事か。
良かった、リッポーをどうにかしてもらえるんなら安心できる。
正直落ち着いて試験に参加できないし。
他の受験生相手についストレスから力加減を間違ってしまいかねない。
それはまずい。
折角被っていた化けの皮がはがれてしまう。
それに、今ネテロにばれるのだけは避けなければ。
後もう少しなのだから。

「本当に済まなかった。君らには本来の報酬の他にリッポーが迷惑をかけた分の報酬を上乗せしよう。かといって、君らは金に困ってないからの。何か欲しい物はあるか?」

「そうですね、とりあえず私には必要ありませんが。レオリオの武器をいただけませんか? 彼は放出系なんですが。丁度良さそうなものがあればいただけると助かります」

「ふむ、そうじゃな。一考しておこう」

「ありがとうございます」

ネテロがくれるものだ。
ケチる事はありえない。
かなり良い物をくれるだろう。

「とりあえず最終試験をするにあたってアンケートを取っておこうと思ってな。まあ、お主等と他の受験生を一緒にしては他の受験生が可哀想じゃ。じゃから君ら姉妹は評価を悪くしとくぞい」

「まあ、それは構いませんが。一体どんな試験をするんですか?」

「それはな……ヒミツじゃ☆」

ああ、殺してえ。
全く、こんな老人がそんな態度してもむかつくだけだと気がつかないのでしょうか?
これはわからせてあげる必要が……

「冗談じゃ、じゃから表情も変えずに殺気を振りまかんでくれ。いい加減老骨にはこたえる」

全く、まだまだ現役の癖して何を。
私達二人がかりよりも強いバケモノが……

「というわけじゃて、それを伝えたかっただけじゃ。もう帰っていいぞ」

「では、失礼しました」

「うむ……ハア」

私が皆の所に帰る前に妹が放送で呼ばれた。
なるほど、皆からアンケートを取るわけね。
私は取られてないからどんな内容か知らないけど……


そうして、最後の一人が今終わった。
結局、私達兄妹だけ順番は違ったが、他は順番通りに呼ばれた。

「ただいまを持ちましてアンケートが終了いたしました。結果は目的地についてから追って発表となります。本日はゆっくりとお休み下さい」

今日は全員個室を与えられた。
最も私達は別々の部屋で眠る事はありえない。
妹と無理に同じ部屋で眠る。

久しぶりの屋内、まずは風呂を二人で楽しみ一緒にベッドに入る。
二人きりになるのは何だかんだで暫くぶり。
兄妹のコミュニケーションは深夜になるまで続いた。

翌日。

飛行船はまだ数日目的地に着かないようだ。
さて、二人に基本の再確認と発の修行をつけてあげましょう。
あ、まずはレオリオにあれを渡しておかないと。

「お、お兄ちゃん。修行の前にこれをあげる」

「え、銃ですか? 何でこんな物を?」

「う、うん。ネテロのお祖父ちゃんに試験中受験生を助けてくれたお礼がしたいって言われて何が欲しいって聞かれたから。お兄ちゃんの武器を貰ってきたの。私達は欲しいものは無いし、クラピカさんは具現化系だから武器は要らないからね」

勿論真っ赤な嘘。
大体ハンター試験の試験官がそんなに人道的なわけないじゃない。
でも、こうとでも言わなければ納得しないだろうし。

「そ、そうだったんですか。ありがとうございます」

「わざわざ、ハンター協会お抱えの人がお兄ちゃんの為だけに作ってくれた世界で唯一の銃だから大事にしてね」

「お、おう。勿論です」

フフ、レオリオは気に入ってくれたみたいね。
わざわざ急いで作ってもらったかいがあるわ。

「つ、次はクラピカさん……お兄ちゃんもだけど。発を作るにあたっての注意点なんだけどね。残念だけど。例えば絶対に折れない剣とか、何でも切れる刀とかは作れないの。それはもう、人間の能力じゃなくて神様の領域だから。でもね、何にでも抜け道はあるの。
絶対に折れない剣は無理だけど限りなくそれに近づける事は出来るの。この場合、まずは折れにくいという特殊能力を持った剣を作るの。それは勿論本人が強くなればなっただけ折れにくくなるんだけど。それとは別にもう一つ剣を強化する方法があるんだよ。
それが、制約と誓約……この能力を使う代わりに何かの行為は絶対にしないって決める。そして、それを絶対に守るの何かに懸けて。すると、その制約と誓約に応じてどんどん能力が強くなるの。
普通に本人が強くなって能力が強化されていくのが足し算だとするならば、これは掛け算。制約と誓約自体ではどこまででも強化できる……勿論限界は有るけど……」

「その情報は凄く助かる。ありがとう」

「えーっと、つまりどういうことだ?」

レ、レオリオ……もしかして今の理解出来なかったの?
ハア、仕方ない。
簡単に説明してあげよう。

「え、えーっとね。つまり、何かを懸けて自分の行動に制限をかけたり。何かの覚悟を決める事で発は強化できるって言う事だよ。その代わり、これを破ると大変な事になっちゃう。懸けたものは無くしちゃうし。最悪念能力を失っちゃったりもするの。だから一概に良い所ばっかりじゃないんだけど。つまり、危険性が高い分強くなるって事」

「おお、なるほど!!」

「ハア、レオリオお前……」

「ま、まあまあクラピカさん」

それから2日私達は飛行船の中で発の修行を続けた。
レオリオも発が決まったみたいだし。クラピカも鎖と生活を始めて4日たつ。そろそろ夢にも鎖が出てくるらしい。
そして、トリックタワーを出て3日目私達は協会の持つホテルにたどり着いた。
明日の朝から試験が始まるそうだ。
追伸、その日のクラピカの夢はレオリオを鎖に繋いだ夢らしい……

ホテルに到着した日の翌日朝。

私達はホテルの一室に集められた。
そこで会長直筆のトーナメント表が張り出される。
そのトーナメント表は随分といびつなものだった。

<すいません作者はトーナメント表をどう表現していいのかわかりません。よって原作のトーナメント表をもとに説明します。
まず、ゴンとハンゾーは変わらず。10人で原作より一人増えた為ポックルの位置を二つに割ってそこにクラピカとレオリオ。この二人は試験官にハンター試験期間中に念を覚えた事が評価されて原作より高評価です。
キルア、ギタラクルも変わらず。ボドロの位置にミネア。クラピカの位置にボドロ。この二人はミネアの評価が下がった為です。ボドロは棚ぼたで評価が上がりました。
ヒソカも変わらず。そして、最後に原作レオリオの位置にマーニャ。これは行動の決定権を全てミネア任せにしているためミネアより低い評価です。わかりにくくてすいません。
もし原作のトーナメント表がわからない方は『ハンター 最終試験』でググっていただければ一番上に出てきました>

へえ、随分異質な形のトーナメント表ね?
トーナメントという事は合格者は1名?
まさかね……

「あー今からやってもらうのはトーナメント戦じゃ。ただし、ただのトーナメント戦ではない。負けたものが上に上がっていくシステムじゃ。トーナメント表がいびつなのはハンターとしての素質の評価とアンケートからじゃ。評価が高いものほど戦う回数は多くなっておる。最後まで残った1名が失格じゃ。あ、言い忘れておったが、人を殺した視点で失格じゃぞ。その場合自動的に残ったものは合格となる」

へえ、面白いわね。
ということは評価が高いのはハンゾー、ゴン、クラピカ、レオリオ……ゴンは納得できないわね?
ハンゾーは知らないけど。
まあ、この中では才能でレオリオ、強さでクラピカね。

次に高いのがボドロさんとヒソカ……これはボドロさんには悪いけど問題外ね。
初めから勝負になるわけが無いわ。

次がキルアと私?
全くふざけないでほしいわよ。
いくら評価が下げてあるとは言っても……
キルアなんて指一本で瞬殺よ!!

そして、ギタラクルと妹……
どうかしら。
ほぼ同じ位の強さだと思うけど。
相手の発次第ね。

こんな所かしら。
実際にやったら誰が落ちるのかしら。
戦闘能力で言ったら、ボドロさん<ゴン<<キルア<ハンゾー<<<レオリオ<クラピカ<<<私<ヒソカ=ギタラクル≦妹って所かしら。
もしかしたら妹に甘い評価になってるかもしれないけど、大体間違ってはいない。
勝負は水物だからね……一体どうなるかしら。


「それでは最終試験を始める。第一試合はじめ!!」

ゴンとハンゾーだ。
正直言って興味は無い。
ゴンが纏だけでも身につけていればともかく、念を覚えていないゴンでは勝負にならない。

勝負は案の定だった……
現在ゴンはハンゾーに嬲られている。
もうさっきからサンドバッグ状態だ。
ふう、飽きてきたわね。
私にとってゴンというのはただの厄介な餓鬼以外の何物でもない。
それでも私の弟子であったのなら憤りも少しはしただろう。
だが、弟子になるのを断っておいて、強くなりたくなったら教えてくれ。
なんていって来る者を私は弟子と認めない。
よってどうでも良い。
まあ、治療ぐらいは義理でしてあげるけどね。

でも、その前にこのまま行くとレオリオが切れるわね。
元々友達思いの男だし、もし手を出したら失格だろう。
どうしましょうか……
今はクラピカが抑えてくれているけど時間の問題。
何か良い方法は……
だめ、何も思いつかない。
お願い、ゴン棄権して!!
そうすれば万事上手くいくの。

「ゴンさんお願い。棄権して!! そうすれば今なら私が傷を全部治してあげるから。お願い、棄権してよう」

私は私の計画に重要な駒レオリオのためにゴンに向かって泣き叫ぶ。
これ以上子供の意地を張られたらレオリオが失格になってしまう。
そんなのは許せない!!

「ミネア……心配してくれてありがとう。でもごめんね。俺は引けない。例え何があっても引いちゃいけないんだ!!」

ああ、もう。
何勘違いしてるのよ。
私はあんたの心配なんてしてないの。
単純で友達思いな私の手駒を心配してるの。

「ミネアさん、そんなにゴンを心配してくれてありがとうございます。でも、もしつらいようだったら席を外しますか? 女の子が見るものじゃないですよ」

だーかーらー。
何でレオリオまで勘違いしてるのよ。
私じゃなく自分の心配をしなさい。
そもそも、私が部屋を外しちゃったらいざって言う時あんたを止められないじゃない。
全く、何で私がこんな心配しなくちゃいけないのよ。
だいたい、レオリオの心配をするのはクラピカの役目でしょう?
あーもー……
好きになさい。
いざって時になったら止めるからそれまではもう口出ししないわ。
それからの私は試合じゃなくクラピカとレオリオに注目していた。
だから試合が終わったのに気がつかなかった……

「勝者、ゴン!!」

え、何で?
どうすればあそこからゴンが勝てるの?
ねえねえ、教えてWhy?

それから私は?マークを浮かべたままゴンの治療を始めた。
そして、第二試合。
私の弟子同士の戦いが今始まろうとしていた……





「最終試験第2試合はじめ!」

「すまんなクラピカ、俺は今むしゃくしゃしていてな。例えお前が相手でも手加減出来そうに無い」

「フッ、奇遇だなレオリオ。実は私も今物凄いむかついているんだ……だが、そもそも私よりも弱いものに手加減される必要等無いがな」

二人は先程のハンゾー対ゴン戦が糸を引いているのか初めから殺気立っていた。
どちらもそれがはらせる相手であるとわかっているからこそこの試合で晴らしておこうと考えているほどに。
さもないと、次の試合でハンゾーと戦った方が先程のゴンにやられた事をハンゾーに返してしまいそうだから。

レオリオはそんな事をすれば自らの尊敬する心優しい師が悲しむと思い。
またクラピカは目の前にいる男に無意識の内に幻滅されたくないと考えていた。
だからこそ互いにこの試合に全力で挑む。
自分の最高のライバルと認めた相手だからこその戦い。
二人のこれから何度と無く行われる、雌雄を決する戦い。
前回の寸止めの練習試合とは違う。
本気での初めての戦いが今行われようとしていた。



両者武器を構える。
二人とも練が出来る時間は2~3分。
纏での戦いがメインとなる。
ここぞという時を見計らって練をした方の勝ちだ。
互いにそう考えている。
修行中、前回の練習試合の時の様な身体能力に思考がついていかない、なんていう無様な事はおこさない様に鍛えた。
力量が同じものが放つぞくぞくした感じ、心が戦いを待ち望んでいる。

前回の試合とは違い先に仕掛けたのは両者同時。
どちらも待ちきれなかったのだろう。
クラピカが二刀の木刀を振るえばレオリオはナイフと鞄でそれを受ける。
そう、レオリオは前回の戦いの教訓を生かしてナイフの他に鞄も持ち込んでいた。
数回クラピカの攻撃を防げば良い。
その位のつもりで持ち込んだ鞄だったが実に良く攻撃を捌く。
これには内心レオリオが一番驚いていた。
だが、前回の試合のようにほうける事はしない。
前回の試合で学んだ。
敵を前にしたら余分な事等考えている暇は無いと。

この答えは何ていうことは無い。
放出系という操作系に隣り合った系統なだけに道具にオーラを込めるのがクラピカよりも得意だっただけの事。

両者互いに相手の事しか見えなくなっていく。
オーラの煌きが、残光を残す。
レオリオの攻撃を力強い台風とするなら、クラピカはその力をいなし折れることの無い竹。
レオリオがフェイント交じりに攻撃を繰り返す。
前回よりは技を繰り出すようになったとはいえ戦闘経験豊富なクラピカに通用する事は無い。
攻撃を見切り避け、流し、時に二刀を使って受ける。
時折体をかすめるが、肉体にまで届かない。

逆にクラピカの攻撃を鋭いカマイタチとするならばレオリオは動じる事の無い大木。
戦闘経験に裏打ちされた鋭い攻撃もナイフで鞄で力強く叩き落される。
まるで、力の前に技は無力だとでも言いたげな守りだ。
攻撃するクラピカの腕の方が痺れてしまう。

「フッやはり強いなレオリオ!」

「ああ、お前こそなクラピカ」

埒が明かないと思ったのか距離をとる両者。

「楽しいなレオリオ……こんなに楽しいのは久しぶりだ。だが、お前を叩き伏せるのは私だ!」

「へっ抜かせ。前回譲った分今回は譲ってやらねえぜ」

「「ハハハ」」

二人は笑いあう。
そして、二人は切り札を切る。
レオリオは鞄を放り投げると胸から銃を出す。
左手にナイフ。
右手に銃を持つ。

「はっ。本邦初公開。これが俺の必殺技よ!!」

そう言うとレオリオは無造作に銃をおのれのこめかみに当てる。

「見ろっ!! 『ガンズドラッグ』」

ためらいも無く引き金を引く。
次の瞬間見る見るうちにレオリオの体が変わっていく。
筋肉がしまってより硬く、よりしなやかにどんどん変わっていく。
見た目は余り変わらないが、体の中は既に別物だ。
その証拠に一声吼えると野獣となったレオリオがクラピカに踊りかかる。
銃と言うわかりやすい形をえた為か銃からは念弾が煌く。
そして、ナイフの鋭い斬撃がクラピカを襲う……!!

だが、クラピカもただレオリオに良い様にやられはしない。
既に鎖を半物質化させる事に成功している。
とは言っても、作れると確信したのは先程レオリオが発を見せて私も負けてなるものか!!
といきり立ってからだが。

「こちらも見せてやる。『ダウジングチェーン』『ジャッジメントチェーン』」

いまだ修行途中で完全に物質化させるにはいたらないが、右手薬指から伸びた鎖が念弾を弾き返す。
そして、左手中指から伸びた鎖がレオリオを捕らえんと踊りかかる。
まるで、凶暴な獣とそれを飼いならそうとする調教師の戦いであった。
既にクラピカの木刀はレオリオの理不尽なまでの猛攻の前に吹き飛び、2本の鎖で戦う。
まるでマタドール。
美しき狩人と逆にそれを破らんとする獣。
どちらも本気で戦っていた。

戦いは拮抗していた。
共に引かず、媚びず、省みず。
全てをかけた戦いだ。
ペース配分等あったものではない。
負けたほうはこの後も試合が残っているのなど関係無いとでも言いたげだ。
多くのものが見守る中二人の戦い、否踊りは熾烈さを増していった。
最早小さな傷など気にしていない。
勝手に笑いがこみ上げてくる。
楽しい、ああ楽しい。
いつまでも踊っていたい。
12時の鐘よ鳴らないで。
魔法よ解けないで。
永遠に目も前の相手との戦いを……

しかし、どんな時にも終わりが訪れる。
レオリオのナイフがついに空を舞う。
拾いに行く隙など無い。
レオリオは銃を構え左手で握りこぶしを作ると徒手空拳でクラピカに殴りかかる。
クラピカも鎖でもってそれに答える。

「へっ、へへ。まだまだ戦っていたい所だが、そろそろ体が限界だ。決着を付けさせてもらうぜクラピカーーー!!」

「良いだろう。こちらこそ望むところだ!!」

二人は同時に練を行う。
それまで身に纏っていたオーラが膨れ上がる。
周りで見ている非念能力者達も圧倒される。
互いに美しさなど無い血にまみれた戦い。
だが、それまでの戦舞にも似た崇高な美しさがそこにあった。
体格の差か先にバランスを崩したのはクラピカ。
その隙を逃すレオリオではない。
左腕を振り上げるとクラピカに殴りかかる。

「喰らえクラピカ!!」

だが、その攻撃は思わぬものによって阻まれてしまう。

フニョン!!

「へ?」

胸を殴りに行ったレオリオの拳がクラピカの胸の何かやわらかいものに止められてしまう……
驚いたレオリオは戦闘中だということも忘れて念を解いてしまう。

「キ!」

クラピカの顔がどんどん羞恥で赤く染まっていってしまう。
それはそうだろう。
レオリオの手は離れる事無くずっとクラピカの胸の上にあるのだから。

「キャアアアアアアアアア!!」

こちらも驚きによって念を解いてしまったクラピカの平手がレオリオの頬を打つ。
まるでモミジのように真っ赤にはれ上がる。

「ま、待て!! クラピカお前女だったのか?」

「ああ、その通りだ。ミネアさんマーニャさんボドロさん、それにゴンやキルアでさえ気がついていたぞ? 何処かの馬鹿は気がついていなかったようだがな」

「え、いや、何でそんな?」

「フン、そんな事はどうでもいいだろう? 続けるぞレオリオ」

「いや、すまん参った」

「な、何だと!! レオリオ貴様!! 私のことを侮辱するのか? 私が女だから闘えないとでも言うのか? 私はお前のことをライバルだと思っていたのに、お前にとってはその程度の存在だったのか? こんな屈辱は初めてだ!!」

そう言うとクラピカは怒ってこの部屋を後にしようとする。
レオリオは誤解を解こうと必死でクラピカに呼びかける。

「ま、待ってくれ。それは誤解だクラピカ!! 俺もお前の事をライバルだと思っている。お前が女だとわかった今もそれは変わらない!!」

「ならば何故降参等をした? それが私に対する侮辱だとわからん貴様ではあるまい?」

「そ、それは……」

「もういい!!」

「あっ待てクラピカ!!」

そのままクラピカは立ち去ってしまい。
それを追おうとしたレオリオは体から力が抜けたとでも言う感じに倒れこんでしまう。
だが、それでも這ってでもクラピカを追おうとしていた。



誰も言葉が出なかった。
あれだけ素晴らしい戦いを見せてくれた二人が最後の最後でこのような結末を迎えたのだ。
途中から痴話げんかを始めたのはいい。
皆理由はわかる。
誰でもあそこで降参されたら怒り狂うだろう。
だが、レオリオが倒れた理由がわからない。
皆が動き出したのは、クラピカが立ち去ってから丸々1分は経過してからだった……

「え、えーっと。しょ、勝者クラピカ……」

審判も言いづらそうに告げる。

「あー、第3試合ですが……レオリオ選手は連戦となるため1時間の休憩に入りたいと思います。トイレに行ってくるなり、戦いの準備をするなり気合を入れるなり、彼女に謝罪に行くなりしてきてください」




「ハア、お兄ちゃん……治療してあげるわ」

「い、いや、俺よりクラピカの方に」

辛そうにして答える。

「あっちには姉さんが行ったよ」

「そ、そうか……」

気まずい沈黙が場を支配する。

「ね、ねえお兄ちゃん? 何であそこで弁解しなかったの? ドーピングが切れてもう戦える状態じゃ無かったって……」

「はは、やっぱりお見通しですか。俺はあいつのことをライバルだと思ってる。そんなあいつとの戦いをそんな馬鹿な理由で終わらせたなんて知らせたくなかったんですよ。それに、俺があいつの胸にさえ触らなければどちらにせよ決着はついていたはずです。結局弁解する余地なんてなかったんですよ。」

「お、お兄ちゃん。もしかして諦める気? このままじゃあずっと気まずいままだよ。私が弁解するの手伝ってあげるから。ね? 謝りに行こ!!」

仲直りしてもらわなければ困る。
私達の折角の計画が全て崩れてしまう。
何としてでも仲直りしてもらわないと。

「ミ、ミネアさん。そうでね。こんな事でクラピカを失っていいわけありませんね。わかりました。俺謝りに言ってきますよ。ただ、一人で行きたいんです。誠意を見せるためにも。もしそれで許してもらえなくても、何度でも謝ってきます」

「う、うん。その意気だよお兄ちゃん!! ところで……本当に女だって気がついていなかったの?」

「う……面目ないっす」

「ハア、クラピカさんも可哀想」

やっぱりレオリオは鈍感ね。

「え、何かいいました?」

「ううん、言ってないよ」

全く、クラピカ。
あんた苦労するわ。
私ですら同情しちゃうくらいには。

「うん、傷は一通り治療したの。後はこの栄養剤を注射をすれば動けるようになるから。さっさとクラピカさんに謝ってきたほうが良いよ……」

「はい、そうします……」

レオリオは覚悟を決めたように歩いていく。
でも、レオリオの覚悟ほど信用できないものは無い。
……心配ね後をつけていきましょう。


クラピカの部屋についたレオリオはドアの前で立ち止まり、気合を入れている。
そして、「よしっ!行くか」と呟いた後部屋に入る。
あっ馬鹿!!
ノック位しなさい。
その後は案の定というか……
治療中で服を脱いでいたクラピカの裸を思いっきり見てしまったようだ。
あ、こめつきバッタみたいに土下座して謝ってる。

「い・い・か・ら・閉めろ馬鹿!!」

まあ、もっともね……
その際レオリオが試合中に平手で叩かれた右頬だけじゃなくて、左頬にももみじを作った事を明記しておく。
やがて部屋の中に呼ばれたレオリオは何度も何度も謝ってやっと許してもらう。
その時に部屋に入る際はノックをする。
みだりに痴漢行為はしない。
等を初めいくつかの事を誓わされていた……
ああ、レオリオ尻に敷かれる貴方の姿が今から見えるようだわ。

「それで、結局何しに来たんだレオリオ。ただ私の裸を覗きに来たんじゃないんだろう?」

「そ、そんなの当たり前だ!! お前に謝っておきたくてな。あの時俺が降参したのはお前を侮ったからじゃない。俺がペース配分を間違えてドーピングの副作用で戦えなくなっていたんだよ。そんな理由恥ずかしくて、お前には言えなかった。何故だろうな? ついお前の前だと格好つけたくなっちまうんだよ。自分でもわからないけどな」

「フン、お前は格好等つける必要は無い。ただそのままのお前でいれば良い。それにな、実はもうお前が降参した理由なら知っていたんだ。マーニャさんが教えてくれたからな。無口なのに必死で説明してくれようとしていたぞ。後で感謝しておくんだな」

まあ、そりゃあね。
妹もこの二人が喧嘩するのは良くないってわかっているからね。
私達の目的のために仲裁位するでしょうよ。

「マ、マーニャさん……」

「ふ、レオリオ。私達は良い師匠を持ったものだな」

「ああ、そうだな」

ふう、もう大丈夫そうかな?

「あ、そうだ。済まなかったクラピカさっきは胸をもんだりして」

「ま、全くお前はデリカシーの無い男だな……折角忘れようと思っていたのに。前言撤回だ、レオリオお前は格好はつけなくて良いから、もう少し空気の読める男になれ!!」

ああ、楽しい。
きっとこれからもレオリオはこんな事を続けるでしょうね。
フフフ、全くレオリオ達といると飽きが来ないわ。
それにしても、そろそろ1時間たつけどレオリオはのんびりしてて良いのかしら?



「最終試験第3試合を始める……レオリオ選手? レオリオ選手はいないのか?」

「すんません、ちょっと野暮用で遅れました」

審判はレオリオの真っ赤なモミジのついた両頬を見ると、何か思い当たったのか。

「レオリオ選手、今後そういったことは控えるように!!」

「俺が何したよ!!」

「それでは始めるぞ」

「聞けよ!!」

「試験開始」

もう、レオリオのお笑い体質とギャルゲー体質は治らないわね。
よくわからない謎の影で目を隠すと良いよ……

「ちくしょう、こうなったらお前で鬱憤を晴らしてやる。それにお前にはゴンの恨みも有ったしな」

「あー、すまん。折角気合を入れてもらって悪いが。まいった」

「……は?」

「いや、だからまいった。俺はゴンと違って力量が上の相手に突っ込むほど馬鹿じゃない。お前の実力はさっき見せてもらったからな。俺では勝てそうも無い」

「えーっと、俺のこのストレスの持って行き場は?」

「知らん!」

「ちくしょー!!」

あ、レオリオが走って行っちゃった。
レオリオには笑いの神が降りてるわね。
いっそ医者じゃなくて、病気の子供にお笑いを見せてあげて、代金はいらねえぜ!
って言う夢にした方が良いんじゃないかしら?

「勝者レオリオ」

まあ、順当な結果とはいえ。
これでレオリオもクラピカも合格したわね。
後残っている中で一番弱いのはボドロさんだけど。
私が合格させる。
そうなると非念能力者のキルアかハンゾーどちらかが落ちるわね……
実力的に見てハンゾーの方が強いわね。
残念ねキルア。
あの時念を習っておけば良かったのに……


「さて、それでは第4試合を始める。ボドロ、ヒソカ両名前へ」

大丈夫、ボドロさんには直ぐに棄権しろと伝えてある。
大丈夫……

「それでは開始」

「まいった◇」

……へ?
何でヒソカが。

「残念☆僕が戦いたいのは君じゃなくてあの姉妹★まあ、殺し合いが出来ないのは残念だけどね」

冗談じゃない。
私は戦闘向けの念能力者じゃないの。
戦ったら勝てるわけ無いじゃないの!!
念の為妹にいくつか薬を貰っておこう……

「ふう、棄権が多いな……それでは第五試合を直ぐに始める。ハンゾー、キルア前へ」

「まーた餓鬼かよ……全く」

「おっさん強いね。でも勝てないほどじゃない。ゴンの借りも有るしね」

「それでは試合開……」

「ちょっと待った!!」

ん、ギタラクル?
一体何をするつもり?
顔から針を抜いていく。
へえ、変化系だったんだ。
でも痛そうな能力ね。
刺したものの形を変えるなんて。

「あ、兄貴!!」

「そう、まさかキルがこんな所にいるなんてね」

「それにしても、何でこんな所にいるんだい? キルがハンターになるにはまだ早いよ。時期になったら指示するからこれから全部負けを認めるんだ」

「嫌だ!! 始めて友達が出来たんだ。こんな所で、こんな……」

「キル、暗殺者に友達なんて必要ないよ」

へえ、キルアのお兄さんだったんだ。
それにしても良い事言うわね。
確かに暗殺者に友達なんて必要ないわ。
必要なのは使える駒だけ。
もし友達なんてものを作りたかったら、世界レベルで強くならなければいけないもの。
それ位なら友達なんて必要ない!!

「嫌だ、ゴンは……ゴンは……」

「ふう、仕方が無い。さっさと参ったって言うんだ。言わないとゴンを殺す」

あら、凄い舌ね。
燃でここまでの事が出来るなんて……
きっと有名な暗殺者一家ね。
こんな事ならキルアにフルネーム聞いておくんだった。

「……参った……」

「ハハ、冗談だよキル。ゴンを殺したりなんてしないさ。でも、これでわかっただろう。暗殺者に友達なんて必要ない」

「馬鹿やろう。キルアの兄貴だか何だか知らないが、ゴンはキルアのダチだろう。構う事はねえ、キルア。まだ勝負は始まってねえんだ。さっきの参ったは取り消してハンゾーに勝っちまえよ!」

「その通りだキルア。ゴンだけではない。私やこの痴漢野郎、それにミネアさん、マーニャさん、ボドロさんだってお前の仲間だ!」

あら、レオリオにクラピカ帰ってきてたんだ……
ねえ、どうしてレオリオのモミジがまた一つ増えてるの?
一体何やったのレオリオ?
ってそもそも、何で私達もキルアの仲間になってるの?
私はキルアなんかどうでもいいんだけど……

「え、そうなの? ねえ、本当かいキルア?」

「そうだって言ってやれキルア」

「その通りだぞキルア」

「うむ、わしだってそうおもっとるぞ」

「私も」

え、私が空気読めてないの?
何で妹まで答えてるの?
もしかして私は無意識の内にキルアを認めてたの?
そうじゃなきゃ妹が答えるわけがない。
ああ、どうしよう……皆こっちを見ないで!!

「う、うん。わ、私もだよ……」

ああ、弱い私を笑いなさいよ。
何でこんな……

「うーん、そうなのか。仕方が無い。やっぱりゴンを殺そう」

「だめだ、兄貴止めてくれ。俺はここで止める。だからゴンは殺さないでくれ」

「そうそう、それでいいんだよ。今表に飛行船を呼ぶからそれに乗って帰りなさい」

「うん」

「ちょっと待ってくれよイルミ◇僕はこの姉妹と戦いたいんだけど☆」

私は戦いたくないわよ。
キルア、さっさと棄権しなさい。
そうすれば私は物凄く助かるから。

「ヒソカだってこんな殺し合いの無い戦いはいやだろう? すぐにちゃんとした戦いのぶたいを作ってあげるよ」

「うーん◆それならいっか◇」

「キルア選手? 本当に棄権するんだね?」

「う、うん。俺は棄権……」

第287期ハンター試験終了……?




「棄権……するよ」

「了解した。第287期ハンター試験はこれにて終幕とする」

しかし、そう宣言した次の瞬間キルアが動いた。
無造作に試験官の心臓を貫く。
真っ赤に咲く鮮血の華。
例え試験官は念使いだとしても一瞬の隙を付いての攻撃では長年暗殺に携わってきたゾルディック家に軍配が上がる。
試験官がオーラを練ろうとした時には既に事切れていた。
誰もがその場の空気に飲まれてしまう。
他の試験官達も仲間に何があったのかまだ理解できていない。
そうして、その次に目に付いたネテロへと踊りかかる。
単純にして明快、最短ルートを通っての攻撃は常人では気がつかないうちに終わっているだろう。

「な、何じゃと!!」

ネテロは驚いたのかつい力を込めて反撃してしまう。
長年体にしみこんだ戦闘本能とでも言うのだろうか?
つい攻撃してしまったと言う感じだ。
だが、流石は会長、それでも咄嗟に手加減はしている。
最も、非念能力者にはあって無いような手加減だが。
キルアは放物線すら描かず壁に吸い込まれる。
蜘蛛の巣状にひびが入り、ハンター試験を行うにあたって補強されたはずの部屋が大きく振動する。

今念使ってたわよね?
ひょっとしなくても死ぬわよあれ。
仕方が無い。
場を纏めてあげるか……

「試験官さんはもうこと切れてる。でも、キルアはまだ間に合う!! 早く医療室を」

酷い……わね。
早く処置してあげないと死ぬ。
でも、私がけして死なせない。
ええ、こんな事で大事なキルアを失ってなる物ですか。
イルミ……ちょっと不用意すぎよ。

「姉さん。緊急オペの準備を」

「わかった」

急いで準備を始める。
ここまで酷いと簡単には治らない。
でも治してみせる……キルアは私の□□だから。
ここに来てやっと周りもあの一瞬に何があったのかを理解する。
ざわめきだす試験官達。
まさかの2年連続での試験官殺害。
部屋は上を下をの大騒ぎになる。

「す、すまんかったのう。つい攻撃が鋭くて力を込めてしまった」

「謝る相手が違いますよ!! そもそも今は忙しいんです。後にして下さい!!」

すごすごと引っ込む。

「気をしっかり持ってねキルアさん。絶対治して上げるからね」

私が持つ人体構造の知識。
妹の薬の力。
それと外科手術。
更に目覚めてしまった念を抑える。
本来なら仲間を殺したキルア等絶対に治療して欲しくはなかったのだろうが、私達の剣幕に押されキルアは無事医療室に行ける事になった。
勿論殺害された試験官も一緒だ。
余りにも綺麗に心臓を貫かれたためもしかしたらまだ蘇生が間に合うかもしれない……

「誰か!! 私達にオーラを分けてくれる人は居ないかしら? 明らかにこの二人を治療するにはオーラが足りないから!!」

「お、おう。なら俺が」

「俺もだ」

そうして勿論無言でイルミも前に出る。
心底キルアを心配している表情だ。

全てが終わったのはそれから3時間後の事。
結果から言うとキルアは生き残った。
試験官も体に不自由は残るだろうが無事蘇生に成功する。
しかし、これから暫くはリハビリ生活を送らねばならないだろう。
私達でもそれが精一杯だった。
普通の医者なら間違いなく死んでいた怪我だ。
試験官等にいたっては本当に死んでいたのを私が操作系なのを良いことに、無理やり血を流れさせつつ手術を行ったくらいだ。

「ふう……」

私達二人は手術でかなりの精神力とオーラを使ってしまった。
妹の薬もだいぶ使ったし。
赤字どころの騒ぎではない。
これだけの医療を行ってもらうとしたら、ぼったくらなくても家が建つ。


私達はハンター協会に準備してもらった無菌室から出ると皆のいる部屋に向かう。
部屋についた私達を皆が迎えてくれる。

「命だけは助かったけど……でも、最低でも半年はリハビリ生活が必要なの。試験官さんは努力次第……運よく強化系みたいだったからもしかしたら完治の見込みもあるかもしれないけど……」

「ふう、やってしまったか。未来ある若者にこんな事をしてしまうとわな……わしもまだまだじゃ。それにしても……ゼノのやつに何と言って詫びれば良いのか……頭が痛いのう」

力なくネテロが呟く。
ん? もしかしてネテロさんキルアのこと気に入っていた?
それに、もしかしなくてもキルアのことを知っていたわね。
ここでゼノさんの名前が出てくるのがその証拠。

「よくもやってくれたね。キルを殺しかけてくれるなんて……確かにこちらから攻撃を仕掛けたとは言え、キルはゾルディックの次期頭領だ。これはハンター協会からのゾルディック家への宣戦布告と受け取ったよ。これからゾルディック家はそこの姉妹を除いたハンター協会と敵対する!!」

「な、なんじゃとお!!」

ネテロが狼狽している。
それはそうだろう。
ゾルディック家が本気になればいくらハンター協会といえども無傷ではいられない。
しかも、それがおのれのミスから出たというのだ。
会長としてかなりの責任を取らなければいけない事態だろう。
それにしてもイルミ。
キルアが殺されかけた事が本当にショックだった見たいね。
いつもの無表情ではなく珍しく本気で狼狽している。
そうでなければゾルディックがハンター協会に宣戦布告なんて言い出すはずが無い。

「すまんイルミ君それは何とかならんか?」

「もう遅いよ!! 実際キルは死に掛けた。多分そこの姉妹がいなければ死んでいただろう。キルはゾルディックの次期党首だよ? それを殺しかけたのは重い」

「イ、イルミさん……す、少し落ち着いて下さい!!」

「僕は落ち着いているよ。でも、いくら貴女達がキルアの恩人でも家のことには口を出さないで欲しいな」

だめだ、イルミは冷静な判断力を失っている。
それに、キルアが殺されかかったと聞けば妙にキルアに甘いところのあるあの家の連中だ。
暗殺失敗と言う不名誉の証拠を消すためにも本気でゾルディックとハンター協会が戦争になる恐れがある。
手術前にイルミがゾルディックに何か電話していたみたいだし……
早ければ今すぐにでも戦争になるかもしれない。
そうなればこの場でゾルディックに対抗出来そうなのは会長だけ。
少なくとも会長暗殺は成功してしまうだろう。
会長は明らかに年のせいでオーラにかげりが見えているし。
ハンター協会の試験官達も今更誰かを呼ぼうとしているみたいだけどゾルディックの方が反応が早い。
巨大組織の弊害だ……

「わかった、ならば今回の件責任は全てこのわしにある。このわしの首でどうか許しては貰えんじゃろうか? ハンター協会を弱体化させるくらいなら、こんな老いぼれの命など……」

思わぬ流れになった。
でも、この流れは上手く行けばハンター協会を崩壊させる事が出来るかも。
ハンター協会は実質ネテロ一人によるワンマン組織。
確かに対抗馬としての副会長はいるが、ネテロとの折り合いが微妙に悪く、彼が会長の後を継ぐ事はできない。
そんな事をすれば組織が割れてしまうから。
無駄に大きくなりすぎた事が足を引っ張る。
ネテロがいなくなればハンター協会は内部分裂必死。
もしいなくなりはしなくても闘争で権力は落ちる。
協会内で自分の派閥第二位を作らなかったのが原因ね。
身内といえるのも、弟の弟子である私達。
弟の息子の人事部の責任者のみ。
人事部の責任者は妻子が無く。
既に80を越えている。
権力を握る事はないだろう。
余り上昇志向もないし。
実質ネテロの後を継げるのは私達だけ!!
私達の見た目から組し易しと見て、私達を傀儡にしたてあげようというものは必ず出てくる。
そうなったが最後。
ハンター協会は私達の手に落ちる。

「仕方が無いね。今回はそれで許してあげるよ。でも、次は無いからね」

そう言いつつもゾルディックの方に電話をする事は無い。
まだ緊張状態は続いている。
勿論ネテロもそれを実感しているのだろう。

「うむ、わかった」

「ちょ、ちょっと待ってください。それでどうするんですかハンター協会は? このままじゃあ権力闘争で内部分裂しますよ?」

ほら、早速始まった。
私達の居る前で始めるなんてよっぽど焦っている証拠。

「ネ、ネテロ会長!! 何も辞任等なさらなくとも。そこまでするほどの問題ではないですよ!! そもそも、先に手を出してきたのは向こうなんです。何もこちらが折れる必要等……」

ふ、馬鹿が出た。
これでネテロは積みだ。

「馬鹿もん。責任者が人の命を奪いかけたんじゃぞ。それをそんなふうにいうとは何事じゃ。確かに悪いのは向こうかもしれん。だがな、子供のやった事じゃ、それに大人には責任が付きまとう物じゃよ……それにな、ゾルディック家と闘争などということになる方がよほどまずいと何故気が付かんのじゃ? この老いぼれ一人で丸く収まるんじゃよ。
それにな、判らんか? もう外にはゾルディックの主要な者たちが押し寄せてきているのじゃよ。恐らく、キルアの暗殺失敗の不名誉を消す為にわしを殺す気じゃろうな。このまま行けば今の全盛期の半分も力が出せないわしなど殺されてしまうわ。その方がよほどまずいのじゃよ。実際にハンター協会の会長が殺されてみろ。頭を失い内部分裂したままゾルディックと戦争じゃぞ。一体どれほどの規模になるのか。また、ハンター協会が力を減退する事でどれだけの影響を世界に与えるのか……考えたくも無いわい」

ネテロは一同を見渡す。
だが、それでも納得しないものがいる。

「ですが、今のハンター協会に実力、指導力、人望を兼ね備えた者はおりません!! お考え直しを……確かに副会長はおりますが、ネテロ会長とは全く違った思考の持ち主。それでは組織が荒れてしまいます。ここは何とか戦おうとせずにこの場から逃げ延びて下さい。私達が会長の盾になりますから」

「ならん。一度決めた事じゃ。それに、候補ならおる。人望こそまだ無いが、指導力、実力を兼ね備えたものがな。それにな、このわしが若い者達を見捨てていくなど出来様筈もあるまい?」

「た、確かに……それ以外には道は無いようです。ですが本当ですか? 本当に後継者候補はいるんでしょうね?」

「うむ、というか。他に選択の余地が無い。本当ならいずれわしが後見人となって鍛えてあげたかったのじゃが……その役は副会長に任せるしかなかろう。あやつとて自分が会長になる事の危うさを知っていよう? だが、副会長がその人物の後見人となるのなら話しは別じゃ。今の会長派、副会長派が一つになることが出来るじゃろう」


一同は光明が見つかったかのように一様に顔つきが晴れやかになる。
だが、ネテロは悔しそうな顔でこちらを見る。
あれは厄介ごとを押し付けてしまう悔恨の表情だ。




ふっ、予想以上の収穫です。
人事委員長に暗示をかけ私達に依頼を出させる。
そして、嫌でもネテロの目に止まるように動き、試験官たちに薬をかがせ私達の支配下に置く。
ネテロ以外の試験官やハンター協会関係者達の前でひたすら人道的に振舞う。
さて、このような事態になったのなら薬を部屋にまきましょう。
気が付かれない様、一人のもらしも無いように。
後はこの部屋に居る全ての者たちが私達の思うがまま。
いくら治療で疲れているとは言っても旅団級の能力者二人分のオーラによる発だ。
ネテロ以外の者は実は私達の支配下における。
とりあえずこの場を掌握して後日副会長に薬をかがせる。
そして、副会長に私達の後見を任せる。
さも、副会長本人の意思であるかのようにね。
そうしてじわじわ組織を掌握していく……

今まで三文芝居を打ってきたかいがあるわね。
神の目をごまかす為……
その為に今まで限りなく真実に近い嘘で状況を語ってきたんだから。
この『あたし』の能力『嘘の語り手』でね。
後は、会長が次の一言を言えば全てが積みだ。
その言葉を言うしかない状況は完成している!!

「その人物とは。わしの亡き弟の弟子。そこに居るミネアとマーニャじゃ……彼女らはモンバーバラ医療団の団長とは仮の姿。世界全ての病院の頂点に立つ白十字病院の院長じゃよ」

へえ、そこまでわかってたんだ?
なら、ハンター協会への白十字の援助は提案する事は無いわね。
素直に提携するか合併すればいいわ。
もう、世界各国の権力者や国王への洗脳は完成しているし。
白十字をのっとった目的は果たした。
随分役に立ってくれたわ。
権力者への薬にちょっと混ぜるだけで私達の言いなり。
白十字と同じく私達が育てた優秀な副官を配置すればわずらわしい手間がかかる事も無い。

計画通り!!

「何と、あの白十字の……だったら間違いはありませんな」

「うむ、年齢は幼いようだが、その点は誰か後見人をつければ良い」

「うむうむ、良かった良かった」




外見幼女を指名して誰も違和感を抱かない。
そんな違和感だらけの光景にネテロは違和感を抱く。
しかし、自分の身内が受け入れられて一安心といった顔をする。

「ゾルディック家もその二人が会長なら文句はあるまい?」

「うん。流石に恩人に喧嘩を売りはしないさ」



私達はハンター協会の会長に就任する。
幼いと言う理由で表向きには影武者を立ててだが。
その影武者は白十字病院から出向させた。
そして、白十字がハンター協会の傘下に入る事を表明し、世界中の恵まれない子供達や、金の無い人達への慈善事業を始める。
おかげで、世界中の誰もが新しくなったハンター協会を称えた。
しかし知らない、世界中の人達は自分達がじわじわと洗脳されていっている事を。
そして、世界中の一部の実力者たちは社会の闇に潜む真の支配者の存在に気がつき始める。

ネテロは、キルアをつれゾルディックに帰ったイルミにつれられゾルディック家の虜囚となった。





「ハハハ……私達こそが新世界の神となる!! それを止めたくば神よ出てくるが良い。さもなくば貴様の代わりに私達こそが秩序となる。犯罪の無い世界を。迫害の無い世界を。前世での私のような子供の出ない世界を作り上げる。私達は神、もしくは神という概念に反逆する!!」

でも、何で涙が出てくるんだろう。
私は神に一歩近づいたのに。
目標までもう少しなのに。
私は優しい世界を作るんだから!!
もう少しで妹も安心させて上げられるのに……
ねえ、どうしてなのかしら?
心が痛い……
ごめんなさいネテロさん。
ごめんなさいキルア。
そして、世界中の皆さん。
私の夢、優しい世界を作るまで私は止まる訳には行かないの……
例え何を犠牲にしてでも。
でも神よ?
何故私なの?
私は貴方を信じていた。
裏切られた後も、私が裏切った後も、そして罪を犯した後でさえ貴方を信じていた!!
答えて!!
ねえ、答えてよ!!

何で私をルシファーにしたの?
でも、私は絶望はしない。
人は信じられない。
なら、私が不完全な貴方に代わる。
私は例えどんな悪事を働こうとも、どんなに汚れようともそれでも魔王ではなく神になってみせる!!

でも、でも……
『あたし』……本当はこんなのは……




神、いや、世界との長い戦いの序章が終わった……

世界の3分の1程を掌握済み。

魔王の卵はいま孵化の時を向かえ神の夢を見る。
このまま魔王となるのか、それとも神となるのか……

未来は今だ混沌の渦にあり、明日を見ることも出来ない……





第一部完

第二部へ続く



[29061] 以前のものの終わりです
Name: 適当1号◆edf5be3a ID:c290286e
Date: 2012/09/06 21:03
私達はハンター協会を手中におさめた。
だが、表向きには会長は私達ではない。
私達が真の会長だと知っているのは287期ハンターと、協会の幹部のみ。
そして、事実上世界で一番の権力者。
それが私……

「ねえ、お兄様。これで私達が恐れる3人の人物の一人が居なくなりました。お次はどうしますか?」

「そうね、とりあえず。ネテロの状況を見るためにレオリオ達に付き合ってキルアのお見舞いに行ってから考えましょうか? ね、□□□」

「はい、お兄様」






第二部<ゾルディック×修行×旅団>スタート


「なあ、マーニャさん、ミネアさん。私達に付き合ってくれるのは嬉しいのだが……その、忙しいのではないか?」

「おう、お二人は無理せず協会に居た方が……」

「あ、そうだよね。ごめん、無理につれてきちゃって。でも、二人もキルアの仲間だから……」

「だ、大丈夫だよ。ちゃんと協会の仕事はお祖父ちゃんと後見人さんに頼んできたから。何もわからない私達がやるよりも良いの。それにね、いくらネテロさんの身内だからって新参者の私達が大きな顔をするのは……」

協会の仕事? そんなめんどくさいのはパスに決まってるじゃない。
そんなのは適当にやりたがってる人にやらせれば良いのよ。
ちゃんと余り調子に乗り過ぎないように私達の弟子も協会幹部に入れてきたしね。

「そうか、二人とも大変なんだな。何かあったら相談してくれ。私に出来る事なら手伝わせてもらうぞ」

「そうだぜ、俺たちは仲間なんだからよ」

「うん、そうだよ」

「み、皆……ありがとう」

「感謝」

頭を下げるとクラピカは笑ってうなずき、レオリオは照れてそっぽを向く、ゴンは笑っている。

「別にそんな事気にしなくていいよ。そんなことより、キルアの家ってどんな所なんだろうね?」

え、本気で言っているの?
ゾルディックって言ったら観光名所にもなるくらい有名なのに。

「あ、私知ってるの……パドキア共和国にあるククルーマウンテンっていう山の中だよ」

「へえ、有名な家なんですか、ミネアさん?」

はあ、ゴンとレオリオにこういうことを期待したのが間違いだったわね。

「二人とも……ゾルディックって言ったら伝説になる位の暗殺一家だぞ。流石に所在地までは私も知らなかったが」

「う、うん。観光名所になってるから旅している途中寄った事があるの。あそこには特殊な薬の材料になる植物も多いし。それにね、実は私達キルアさんのお母さんとは知り合いなの」

まあ、嘘では無い。
本当はキキョウさんだけでは無く、皆知っているけど。
昔、まだ私達が今ほど強くなかった頃に打った手の一つが今も生きている家だから。
毒使いの天敵となる家とは仲良くしておいた方が良いからね。

「へえ、キルアのお母さんの。ねえ、どんな人なの?」

どんなって言われてもね……
ここ数年あってないからな。
まあ、可愛い物好きな所とかは変わってないんだろうけど。

「う~ん、とってもね綺麗な人なの。それで、ちょっと一般人の思考とは違うところが有るけど、家族思いの人だよ。私達にもいっぱい服をくれたりするし、私は大好きだよ!!」

これは私にしては珍しく嘘では無い。
キルアの母キキョウは私とマーニャの実の子供。
私達の三女なのだから。
むしろ嫌いになる要素が無い。
才能の無い私達から産まれたにしては才能のある子供だけど、ゾルディックと縁戚になるための出資と思えばむしろ安いくらいだ。

「俺も会って見たいな」

でもねゴン、あなたに対しても優しいかはわからないわよ?
なんせ、家族はとても大事にする子だから……
自分から息子を奪おうとするものが現れた時どう出るかしら?
私の孫達は結婚出来るのかしら?
ちょっと不安になるわね。
自分はシルバと駆け落ちしたくせに……

「良し、そうと決まったら出発しようぜ? パドキア共和国まではハンターライセンスを使えば楽に行けるからよ」

「うむ、私も賛成だ。早くキルアを見舞ってやりたいしな」

「でも、俺はまだハンターライセンスを使う訳には行かないんだ。そう決めてるから……」

ん?
何か理由があるのかしら?
でも厄介ね。
ゴンが頑固なのはもうわかってるし、どうしても意見を変えようとしないだろう。
仕方が無い。

「え、えっと。それじゃあ私達がパドキア共和国まで送りましょうか?」

「え、どうやってです?」

「えっへん!! 忘れたのおにいちゃん? 私達は白十字の会長なの……こうみえても、世界でも有数のお金持ちなんだよ?」

むしろ、国家規模でお金を動かせる私達って世界一の資産家なのかな?
ハンター協会のトップにもなっちゃったし……
千年は遊んで暮らせるわね。

「え、でもそんなの悪いよ」

ああ、うざい。
お前がハンターライセンス使いたくないって言ったからだろうが?
んじゃお前だけ歩いていけ。
お前が野たれ死んでもどうでもいいんだよ!!

「ゴン!! 皆をあまり困らせるものではないよ」

おお、クラピカ。
流石はこのチームのまとめ役!!
え、私?
まとめるのなんてめんどくさい……

「でも……」

「ならこうするのはどうだろうか? 私達はハンターライセンスを使ってパドキア共和国まで行く。ゴンはお二人にお金を借りて行くというのはどうだろうか?」

「うう、仕方が無い。ごめん、マーニャ、ミネア絶対に返すからパドキア共和国までの交通費貸してもらえないかな?」

いや、むしろそんなはした金返さなくてもいいから貴方と縁を切らせてください。
正直うんざりです……
全く、これだから基本的に強化系と操作系は相性が悪いのよ。
まあ、妹は別だけどね。

「よっしゃ、決まったな。それじゃあ早速行こうぜ?」

レオリオ、貴方はこういうことになると役に立たなかったわね。


そうして、私達はパドキア共和国のデンドラ地区に着いた。

「ね、ねえ。誰か車の免許を持っている人は居ますか?」

「ん、何でです?」

「う、うん。キルアさんのお家に向かう為に車でも買って来ようかと思いまして……」

あれ?
何かおかしな事言ったかしら私?
皆目を点にしちゃってる。
???

「あ、ああそうか。マーニャさん達は金持ちだったな。私達の感覚とは違うのだな。あのなマーニャさん、ミネアさん。普通の人間はわざわざそんな事の為だけに車を買ったりはしないのだよ」

「ええっ!! そ、そうなんですか!! 知りませんでした……」

私は真っ赤になってうつむいておく。
でも、それじゃあどうやって行くんだろう?
私は基本的にそういうところの知識は疎いんだよね。
神を倒すのにそんな知識は要らないし。
今まで友達もいなかったから。
それに、基本的にこの世界に転生してから修行の為に自分の足で移動が当たり前だった。
例え、この星の裏側へ行くのでも歩いていたくらいだもの。
今回はレオリオ達が居るからいい機会だから車って言う物にも乗ろうと思ったんだけど。
最後に乗ったのは前世だからもう覚えてないよ……
でも、それじゃあどうやって行こう。
まさか皆を連れて歩くわけにも……

「そ、それじゃあどうやって行けばいいんでしょう? 私道は知っていますけど……」

「大丈夫ですよミネアさん。飛行機の中でめくっておきました。あそこからゾルディック向けのバスが出てるそうですよ」

「わあ、流石クラピカさんなの。ありがとう!!」

ふう、一時はどうなる事かと思ったが、クラピカは役に立つわね。
他の2人と違って。

私達がバス停で待っていると直ぐにバスがやってきた。
チケットはもうクラピカがおさえてくれてあったらしい。
どこまで用意周到なのかしら?
まあ、助かるけどね。

「それにしても、一般の観光客に混じって明らかに堅気じゃねえ連中が混じってやがるな」

「ゾルディック家といえば有名な暗殺一家だからな。倒して名を上げたいというものたちだろう?」

その通りでしょうね。
でも、あの程度の能力でゾルディックに挑もうなんて……命知らずも良い所ね。
そういえばミケは元気なのかしら?
私達が最後に見たときは子犬だったけど……
そろそろ、あの程度のやつらはおやつに出来る頃でしょうね。
きっと可愛く育ったでしょう。
あの子の親は可愛かったもの。

あっ着いたわね。
ここに来るのも何年ぶりかしら?
確か、8年位前だったかしらね、キルアが4歳だったから。
あらあら、観光客達がはしゃいじゃって微笑ましいわね。
後その笑顔がどれだけもつかしら?
多分すぐにあの人達がミケに食べられると思うのだけど……
あ、ゼブロさんに突っかかってる。
念能力者に喧嘩を売るなんて……
ゼブロさんも内心で笑ってるでしょうね?
それとも明日の天気でも考えてるかしら。
あら、あの小さな扉は見覚えが無いわね。
わざわざ作ったのかしら。

「おい、じいさん。俺達はゾルディックの首を狩りに来たんだがよ。鍵をよこしな。さっさとよこさねえと痛い目にあうぜ? どうせ、お前の雇い人は今日までの命なんだ。忠義なんてつくさねえで老後でも楽しみな」

「わ、わかりました。鍵は渡します。ですから乱暴はしないで下さい!!」

「へっ素直で結構」

そう言うとゼブロさんを放り投げる。
ゴンが直ぐに介抱に向かう。
だが、私達は勿論。
念が見えているレオリオとクラピカは動じない。
ゼブロさんの念が全く動じていないからだ。

「大丈夫? おじいさん。俺の仲間に医者が居るから何なら診て貰ったら?」

「いや、大丈夫だよ。それより、また間食を与えて私がだんな様に怒られてしまうよ……」

「えっ?」

ゴンは何のことかよくわからないみたい。
それにしてもやっぱりミケは順調に成長したみたいね。
早く会いたいわね。
私は人間は嫌いだけど動物は結構好きだから。

小さな扉から入った男達は壁の向こうから伸びた手によってこちらに投げ返された。
すっかり骨になってしまっている。
それを見た観光客たちは一斉に腰を抜かしてしまい。
這うようにして我先にとバスへ向かう。
ある程度は慣れているだろう運転手とガイドだけが平静を保ってはいるが、ここから早く去りたそうにしている。

「ねえ、君達。出発するから早く乗りなさい」

「あ、俺達はここでいいです」

「は?」

「いや、俺達はプロハンターなんで」

「そうですか? どうなっても知りませんよ?」

そう言うとバスガイドもバスに乗り込み出発していった。
100年以上バスなんて乗ってなかったけど、予想外に面白くなかったわね。
知らない人は一杯居るし……やっぱり私は歩いた方が性にあってるわ。

「ひ、久しぶりです。ゼブロさん」

「マ、マーニャ様。ミネア様!! 一体いつこちらにお戻りに?」

「た、ただいまです。私達が来たのは今さっきですよ」

「そうですか、皆さん喜ばれますよ!! さあ、お入り下さい」

「きょ、今日はキルアさんのお見舞いに皆で来ただけだから……」

そう言うとゼブロさんの顔色が曇る。
まあ、長らく家を空けていたのに少ししか居ないんだもの。
悪いとは思うけど……

「えっと、ミネアさんこの爺さんとお知り合いですか?」

「う、うん。この人はね、この屋敷の使用人さんの一人でゼブロさんって言うの。で、こっちから私達の弟子のレオリオお兄ちゃん、クラピカさん、ゴンさんだよ」

「そうですか、お二人の。でも、それにしてはゴンさんは念を身につけてはいないようですが?」

「うん、ゴンさんはまだ弟子になって日が浅いから」

そう言ったらゼブロさんは考え込んでしまう。
まあ気持ちはわかる。
今のゴンだったら屋敷にたどり着く事は出来ないだろうから……

「そうですか、ではゴンさん。この門を開けてもらえませんか?」

「え? 門ってこの大きなオブジェのこと?」

「ええ、そうです」

「う、うんわかった」

ゴンは必死になって扉を押してみる。
押しても駄目ならと、引いたりスライドさせたりもするが、全く動かない。
あらら、やっぱりか。

「う~ん、折角キルア坊ちゃんのお見舞いに来ていただいたのですが、ゴンさんはお通しするわけには行きませんね」

「ええっ!! 何でさ?」

「ゴンさんの実力では屋敷に着く前に死んでしまうからですよ」

「折角来てくれたキルア坊ちゃんの友人を死なせるわけには行きませんから。最低でもここの1の扉……ああ、この扉は試しの門って言うんですがね。1の扉は片側だけで2トン合わせて4トンあるんですが。これを開けられる位の力が無いと屋敷にはたどり着けないんですよ……」

「そ、そんなあ!!」

ふっ、ゴンには現実というものをわからせてあげようかしら。

「だ、だからねこの試しの門は黄泉への扉とも言われているの……それにね、この扉は2の扉3の扉と段々重さが倍になっていくの。言いにくいんだけど、出来れば2の扉位は開けられないときついかもしれない……多分、レオリオやクラピカなら4位なら開けられると思う」

「ええ、そうですね。キルア坊ちゃんも3の扉位は開けられますし。全く、念使いの私よりも力があるんですから」

「お、俺たちってそんなに力があったんですか? えーっと4ってことは……」

「ハア、32だレオリオ……」

「そう、32トン!! って信じられねえな。まあ、ミネアさんを疑うわけじゃねえんですが」

ふーむ。
レオリオはまだ自分がどれだけ強いかわかってないようね?
まあ、念を覚えてから、常に同じ位の力のクラピカとしか戦ってないから仕方が無いか。
まだ発が未完成だけど、そこらの一般的なハンターよりは余裕で強いわね。

「そういうわけなんです。すいませんがゴンさんは通すわけには……」

「そうですか……じゃあ、ここで修行させて下さい!!」

「ゴン……残念だが、私達と違って一般的なビザで入国したお前は余り長い間この国にはいる事は出来ないぞ?」

「一体どれぐらい居れるのさ? そうだな……数ヶ月といった所か」

うっゴンの目が私達を見ている。
めんどくさい。
大体私達はキルアの体を見てあげなきゃ……

「わかった。ゼブロさん。少しの間だけでいいですからここで修行していいですか? 絶対その期間中にこの扉を2の扉まで開けて見せますから!! というわけで、お願いミネアさん、マーニャさん」

ほら来た。
一体どう言って断ろう?

「だめです!! ミネア様とマーニャ様をここでおとめしたなんてことがばれたら私は殺されてしまいます!!」

よしっ!!
偉いわゼブロさん。

「う、うんそうだよね。ゼブロさんが首切られちゃったら可哀想だから……それに、キルアの怪我も見てあげたいからね。私達はゾルディックに向かうよ。その代わりお兄ちゃん、クラピカさん。復習もかねてゴンさんの修行を見てあげてくれないかな? もしわからないところや、教えにくい所があったら私達に電話してくれて良いから。というわけで、ゼブロさんすいませんお兄ちゃん達を泊めてあげてくれませんか?」

「それは勿論構いません。それでは、ゴンさんが2の扉を開けられるようになったら連絡すればいいんですね?」

「う、うん。よろしくなの」

「よろしく」

「わかりました。それではおあずかりします。お二人ともキルア様をよろしくお願いします」

勿論助けるに決まっている。
キルアは私たちにとっても身内だ。
言われるまでも無い。

さ~て、ゾルディックに向かいますか。
ネテロが一体どうなっているのか楽しみですね。
ゾルディック家では次期党首を殺しかけた男をどうしたのでしょうね?
貴女はどう思います? 『あたし』



「止まりなさい!! ここは私有地よ。勝手に入らないで!!」

私達が屋敷を目指して進んでいくと、途中執事の家のあたりで呼び止められた。
見た事無い顔だ……
新人だろうか?
まあ、良い少しからかってあげよう。

「え、ええ。知っていますけど。だ、だから私は久しぶりにキキョウに会いに来たんだけど……お姉さん、そこ通してもらえませんか?」

「お、奥様の事を呼び捨てにするなんて……第一今はキルア様が大変な時で誰一人として通すなと命令されています。ですからその線を越えれば命の補償はしませんよ?」

「ひっ、そんな……で、でも私達は通らなければならないんです……どうか、屋敷に繋いでもらえませんか? それに、私達はキキョウだけじゃなくてキルアさんの怪我も治さないといけないんです」

「また奥様を呼び捨てに……それにキルア様を治療するですって? おままごとは余所でやりなさい!!」

ん、この気配はゴトーね。
そろそろ飽きてきたしお遊びはここまでかしら。
すんなりばらされても面白くないし……
さて、最後に一芝居打ちましょうか。

「お、お姉ちゃん……このお姉さん怖いよ!!」

「よくも妹を怖がらせた……」

そう言うと、妹は線の中執事の女の方に向かっていく。

「警告はしたわよ?」

その少女は妹に向かって攻撃を加える。
その速度は遅い。
力も大したことは無い。
まあ、私達にしてみればだが。
ゴンレベルだったらかなりのダメージに成りそうだ。
ふむ、妹は余り演技は得意じゃないからね。
ここは私が一芝居打ちますか?
私達の楽しみの為少し罰を受けてもらうわよ? お・ね・え・さ・ん……

「お、お姉ちゃん!! 危ない!!」

私は妹の前に出てその攻撃を代わりに受ける。
あら、予想以上に軽い攻撃。
手加減はしてくれてあるみたいね。
まあいいわ、一応吹っ飛んであげましょう。
あ、後妹にも怒らなくて良いって合図しとかないと。
流石に遊びで使用人を一人殺してしまってはゾルディックに迷惑がかかる。

「き、きゃあああああ!!」

「さあ、これでわかったでしょう? 気が済んだら早く帰りなさい」

近くの木まで吹き飛ばされた私を見て執事の少女は宣言する。
だが、そこにゴトーが登場する。

「お、大奥様!! 貴様カナリア!! なんて事をしているんだ!!」

「えっ、大奥様? 一体何のことです?」

そうか、あの少女はカナリアというのか。
だいぶ混乱している。
それはそうだろう。
自分の上司に急に怒られ、自分が殴った相手を大奥様と呼ぶのだ。

「ま、待ってゴトーさん。その子は自分の職務を全うしただけだから」

「で、ですが……良いか、カナリア。この方達はキキョウ様のお母君様達だ!! そのお方達に……カナリア。1ヶ月間独房にこもって謹慎していろ!!」

あらあら、少しやりすぎたかしら。
まあ、このまま謹慎させてもいいけど。
さすがにね……

「ふふっ。本当にいいのよゴトーさっきまでずっとその子をからかってただけなんだから。それに、さっきのやり取りでわかったわ。カナリア貴女キルアのことが好きでしょう? キルアのことを話すときだけ一瞬表情が動いたもの。自分の孫を好いていてくれる女の子に罰を与える事なんて私達は望まないわよ。カナリアさん、さっきは遊んで悪かったわね」

「まあ、そう言われるのでしたらそうします。ですが、相変わらず性格がお悪いですね……」

ふふっ相変わらずゴトーも言ってくれるわね。
まあ、たまにはそういう相手もいないと。

「あら、いたいけな少女に向かって言ってくれるわね?」

「私は何か言いましたでしょうか?」

ふっやはりゴトーは良い。
演技力も高いしこの通りご主人様の家族に対しても物怖じしない。
その癖忠誠心は高い。
良い執事ね。
それに比べるとカナリアはまだまだ。
これから頑張りなさい。

「それじゃあ、ゾルディックの屋敷へ向かおうかしら。ゴトー先導しなさい」

「ハッ、かしこまりました」

「あっそうそう。カナリア、もしキルアの事が好きなら死ぬ気で修行しなさい。あの程度の腕ではゾルディックの嫁にはなれないわよ。現に私にはダメージが通ってないしね」

そう言い捨て私達はゴトーの案内でゾルディックの屋敷へ向かう。
まあ、私としてはキルアは可愛い孫だけど、ゾルディックとの協定でゾルディックの子孫は私達の目的には使えないから誰と結婚しようが良いんだけどね。
その代わり、ゾルディックは私達と向こう200年は敵対しない。
毒に強い耐性を持つゾルディックと敵対しないで済むのはありがたい。

「それにしても、大奥様のガードを破れだなんて……随分カナリアに厳しい事をおっしゃりますね」

「そうかしら? 私なんて発も戦闘向けじゃないし、そんなに強くないわよ?」

「ゾルディック家の方々レベルでの話をしないでくださいよ。私が10人いてもミネア様には勝てませんよ」

まあ、伊達に100年修行してないからね。
私だって戦闘向けじゃないとは言っても、オーラ量だけでみるならヒソカや、イルミと然程変わらない。
逆に私の方が多少高いのだ。
まあ、もし戦ったら100%負けるけど。

「さ、お屋敷にたどり着きましたよ。
先程連絡はいたしましたから、お二人が来ている事は皆さん知っておられます。

「そ、ありがとう」

さて、ここに来るのも久しぶり。
キキョウは元気かしら?








扉をくぐると、そこにはザク……もといモノアイのゴーグルをつけた包帯女がいた。

「まあまあまあまあ、お母様方。お元気そうですわね。いつまでもお若くて羨ましいですわ!!」

その声はキキョウ?
オーラでわかってはいたけれど、何でそんな姿に?

「あ、貴女キキョウ? どうしたのその格好は?」

「私も疑問」

「ああ、この格好ですか? キルがハンター試験に向かう前に私の顔と、ミルキのおなかを刺して脱走したんですよ。いつの間にかキルったらそんなに成長したのかしら? もう私は嬉しくて嬉しくて」

あらあら、キルアったら。
キキョウが油断していたんでしょうけど。
念をといている状態でもキキョウを傷付けることが出来るレベルなのね?
へえ、流石イルミが次期後継者だって言っていただけのことはあるわ。

「そう、最後に会った時はまだ4歳のよちよち歩きだったキルアがね……時がたつのは早いわね。それでどうするのキキョウ、顔を治すんなら治してあげるけど?」

「いえ、折角の記念ですからこのままにしておきますわ。ありがとうございますお父様」

あら残念。
私としてはキキョウの綺麗な顔がまた見たかったのだけれど……
まあ、家族思いなキキョウならそう答えることはわかってはいたが。

「そう? それじゃあ私達はどうすれば良いかしら? まずは挨拶に行ったほうが良い? それともキルアの治療をした方が良い?」

「そうですわね。皆久しぶりに会いたがってましたわよ。キルアの治療は後でじっくりと時間をかけてやっていただけないでしょうか? 本当なら急いでもらいたいのですが、それで何かあったら本末転倒ですからね」

私達に限って万が一が無いのはキキョウも知っているだろうに。
それほどキルアの事が大事なんだな。
まあ、ネテロに殺されかかった直後に私達が全力で治療したので、命に別状は無いのも大きいのかな?

「さ、キキョウ。そうと決まったら皆の所に案内してもらえないかしら? 私達も久しぶりに会う家族だからね」

「ええ、わかりましたお母様方」

キキョウの先導で歩き始める。
やがて、一つの部屋の前で止まる。

「この部屋で皆待っていますわ」

私達はノックをして中に入る。
中に入った私達を出迎えてくれたのは濃縮な殺気。
そして、私達の後ろに突然現れる気配。
勿論私達とてその位は予測済み。
妹が背後に立つ老人を牽制し、私は何事も無かったかのように部屋の中へと入っていく。

「ほほう、また腕を上げなすったな。全く勿体無い。お主ら自身がゾルディックに入ってくれればわしらとしては嬉しいんじゃがな」

「何度も断っておりますが、妹は私の物ですから。それに、私達は互い以外の前で肌をさらすのは好みません。ですから私はこんな動きにくいフリフリした服を着ていますし、妹も常に白衣を身に纏っているのですから」

「ふむ、残念じゃのう。才能は無い癖に努力だけでわし等に匹敵するまでにいたったお主等の狂気は気に入っているのじゃが」

「もう、嫌ですわ。私達はまだまだゼノさんやシルバさんには敵いませんよ?」

例え身内でも切り札は見せたくない。
それに、ゾルディックの最高実力者二人を相手にするのは相手が悪い。
身内だけあって向こうもこちらのように合体技でも持っていたら負ける。
まあ、まだ使った事の無い切り札の先奥の手を使えばあるいは?
まあ、ゾルディックが約束を破る事はまず無いからこんな仮定に意味は無いか……

「いやいや、俺や親父は老いというものには敵わんが、義母上達にはそれが無いからな。全く、身内になるまで世の中にこんなバケモノがいるとは思ってもみなかったですよ」

「あらあら、シルバさん。まだまだ当分は私達の実力差はひっくり返りませんよ?」

「ふむ、そういうことにしておきますか」

流石にゾルディック家は騙されてはくれない。
私達の真価は戦闘には無い。
私達が世界最強となるには千年近い年月を必要とするだろう。
今までの修行の約10倍だ。
しかし、私達は本人の強さではない組織力を選んだ。
才能の有るものを鍛え上げ。
薬で操り手駒とする。
修行の合間世界中を旅してまわったのは医療行為が目的ではない。
才能の有るものを探す旅だ。
最も世界中に恩を売って回る目的もあったが。

そして見つけた。
原石中の原石レオリオとクラピカを。
二人の時を止め修行を付けさせれば直ぐに頭角を現すだろう。
5年、いや、あの二人が切磋琢磨しあえば1年程で私達ほどの強さになる。
そして、あの二人の時を止め若さを保ち続けてやれば誰も対抗し得ない。
それこそ100年もたてば、世界を相手にたった二人でも戦えるようになるだろう。
その頃には私達の世界制覇も終わっているだろうし。
最早、神など敵ではない。
問題は、神がどのタイミングで私達に攻撃を仕掛けてくるかだ。

(大丈夫、嘘の語り手で世界を騙し、神を騙し総てを騙る……)

そう、私と妹。
そして、『あたし』のやつとレオリオ、クラピカが力を合わせれば100年後には理想郷は完成している。
それまでは理想郷に生きるもの達とて私達の嘘の対象となってもらう。
その為ならば後100年、それだけの年を費やすのに何も後悔は無い。

(ねえ、本当にそこまでしていかなくちゃいけないの? 私達3人。ううん、レオリオクラピカを入れて5人でも良い幸せに生きていけば良いじゃない!!)

(黙れ『あたし』例え何と言われようとも、何を犠牲にしようとも新世界を築く!!)

(……)

全く、あいつは……

「おや、急に考え事とはどうした?」

「ああゼノさん。いえ、大したことではないですよ。ああ、そういえばイルミ」

私はイルミに向かって話しかける。

「ん、何? お爺様」

「いえ、貴方を誉めておこうと思ってね。ハンター試験の第一次試験のとき私達に接触に来たじゃない? あの時確かに私達の狙いはネテロ会長、あ!! 元会長ね。だと伝えたけど、あそこまで完璧な流れにしてくれるとはね」

「別に」

あら、イルミ照れてるわね。
やっぱりこの子は家族思いの優しい子ね。
中でも家族以外はどうでも良さそうなのと、愛情表現が歪んでるのと、表情が乏しい、辺りが特に可愛いわね。
全く孝行者の孫を持ったものね。

「イルミ、何か欲しい物は無い? 今回のお礼に何でもしてあげるわよ」

「うーん、それじゃあキルを鍛えてあげてよ。ゾルディック流の鍛え方も良いけど、別の戦い方も知っておいた方が良いし」

あらあら、本当にブラコンね。
それにしても、弟の為に使うなんて。
よし、決めたわ。
そのうちこの子にも何かをしてあげよう。

「そんな事で良いの? わかったわそれじゃあサービスでキルアの年齢を2~3年サービスしてあげましょう」

「うん、ありがとうお爺様」

ああ、やっぱり孫って言うのは可愛いわね。
4男のアルカが居ないのが残念だけど。
外見は私達に瓜二つなカルトと、多分私達の才能を色濃く継いだミルキにも何かしてあげよう。
特に、ミルキは本来私達と同じ知能戦向けのタイプだろうから、少しそちらを鍛えてあげましょうか。

「そういえば、ゼノさんネテロはどうしました?」

「うむ、あやつもわしの昔なじみじゃからの。一応生かしてはあるよ。最もだいぶ衰弱しておるがな」

ふむ、それは良いことを聞いた。
そのまま行けばゴンが試しの門の2の扉を開く頃にはネテロが、洗脳できる位には弱まるだろう。
それならば、たまに勇気づけに行って信頼を得て。
私達に油断した一瞬を狙って洗脳しましょう……
ネテロ程の実力者、ただ殺しては勿体が無い。
良いゾルディックの暗殺者となるでしょう。
ゾルディックにネテロ捕獲の借りも返せますし。
その上、力が必要になったらいつでも使えますからね。

「そうですか、それなら1ヶ月下さい。それいないにネテロをゾルディックの強力な味方にして見せますよ」

「ほう、それは面白い。ぜひ頼むぞ」

よし、これでネテロは結着だ。
最良の結果と言っても良い。
それじゃあ安心した所で。

「それじゃあ、早速ネテロの所に向かってからキルアの治療をしますね。イルミもキルアの怪我のことだけは予想外で本当にきれていたみたいだから、お祖父ちゃんが全力で治してあげるわよ。待っていてね」






「ネテロさん、ネテロさん……」

私達は地下の牢獄にいるネテロの所へと着いた。

「ん、な、何じゃおぬし達。何故ここにいる」

「何でって、やっぱり私達にはハンター協会の会長なんて無理です。幸いキルアさんの治療としてここに呼ばれましたから。ハンター協会としての誠意で全力で治して見せます。その代わり治療費としてネテロさんの身柄の釈放を頼んでおきました」

「な、何じゃと!! じゃが、いくら治したとしてもそれ位でわしを解放するとは思えん。二人とも何を差し出した?」

ちっ。
やはりこんな理由では納得しないか。
だが、この展開は予想の内だ。

「今後私達がゾルディック家の主治医になる事です」

「何じゃとう!! ならん、ならんぞ二人とも。わしの事等良い。おぬしらが身代わりになることなどないじゃろう」

「いえ、私達はもう決めましたから。それじゃあもう少しの辛抱ですよ?」

「な、何と言う事じゃ……」

ネテロの姿はゾルディックの拷問を受けた後よりも疲れ果てて見える。
良し、良い傾向だ。

「それじゃあ、私達はキルアの治療に向かいます。お元気で」

「ま、待て!! 待つのじゃ二人とも!!」

待てと言われて待つやつはいないってね。
よし、これで良い。
一つの楔を打ち込んでやった。
ネテロの数少ない身内を身代りにしたと知ったらさぞや罪悪感を抱くだろう。
そのまま、心労で疲れさせていき。
限界が来たら私達への後ろめたさを固定させる。
そして、ハンター協会への気持ちとゾルディック家への気持ちを摩り替える。
これで、ネテロは自分が釈放してもらった条件として無理やりハンター協会に所属させられたと思うだろうし。
私達を救う為ゾルディック家へ忠誠を誓うだろう。
後は、ハンター協会は憎いけど私達がいる限り攻撃は出来ないとでも思わせておけば完璧だ。

後ろめたさから私達の依頼を断れなくなるし、ゾルディックの味方になる。
これで、ネテロの積み。
しかも、今逃げ出せば私達の身が危うくなるだろうから逃げる事も封じた。
正に八方ふさがり。
さ~て、気分が良いところでキルアの治療に行きましょう!!




やめて、もうやめて……『私』……



ふう、ひどい傷ね。
私達の計画に利用してしまってごめんなさいねキルア。
まさかこんな事になるとは思っていなくて。
でも、貴方のおかげで私達の計画はだいぶ進んだわ。
お礼に傷の治療と修行は任せておきなさい。
ただでさえイルミにも頼まれているしね。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがゾルディックとは違う修行をつけてあげる……

それにしても、孫っていうのは可愛いものね。
娘や妹達にすら容赦の無かった私がこんな事を思うのだから。
中でも『あたし』と『リッポー』そして妹の三人には酷い事をしてしまったものだわ……
私が全てを奪いただの道具に落としてしまったのだから。
いくら私の目的の為に必要だったからといって全てを奪った『あたし』
存在に気がつかず、致命的なまでに歪むまでいたってしまった『リッポー』
そして、幸せを奪い私の伴侶、私の人形とした妹。
……私に後悔する資格など無いか……
神に玩ばれ絶望という物を味わったあの日に私は人を捨てると誓ったのだから。

本来人の精神は200年が限界だとされる。
だが、安全に私達が神に勝利するには、前にも言ったが後100年。
その時私は前世込みで230歳、限界を超えてしまう。
これを耐え抜くために私は妹を伴侶としたのだ。
一人では耐えられなくとも二人なら耐えられる。
それも、愛する者ならばなおさら。
だからレオリオにもクラピカという存在をくっつける。
問題は『あたし』だ……
彼女の能力は神と戦うのに、いや。
神と戦うという状況を作り出す為に最低条件だ。
リッポーの精神は歪んでしまっているし……
それにリッポーは既に人ではない。
単独で200年の壁を越えるだろう。
まあ、神との戦いの時に170歳何とか200年以内ではあるのだが……
余裕を見ておくに越したことは無い。
キルア……はゾルディックとの約束で使えない。
ゴン……パス!!
ゴンが義理の息子になるのは耐えられない。
修行と世界制覇、それと私達を脅かす後2人の退治と『あたし』の相手探し……

ククッ……自然に娘の相手探しまで野望の一環として考えている私。
本当に救いようが無い外道ね。

(やめようよ……もうやめよう。私達はもう幸せだから、一人で苦労する事無いよ……)

『あたし』に何と言われようと私はもう引かない。
私の代わりに泣いてくれる優しい娘をあえて無視する。

っといけないいけない。
今はこんな事考えている場合じゃなかった。
キルアの治療をしないと。
精孔が開いたとは言っても今のキルアなら妹の薬で治るはずだ。
何せ今の時点では妹とキルアの実力差は比べるべくも無いのだから。
普通の治療では一生動けるか怪しい怪我だが、恐らく一月もしないで治るだろう。
キルアは私達の孫に生まれたことに感謝すべきね。

さて、今日の所はこんな物かしら?
ふむ、少し早いけど今日はもう寝かせてもらおうかしら。
明日の朝もう一度キルアの治療をしたらネテロと会ってレオリオ達の修行に付き合いましょう。


そして、夜が明けた。
まずキルアの治療とネテロの洗脳を進めた私達はゼブロさんの家に向かう。
レオリオ達修行頑張っているかしら?
使用人の家についた私達は早速中にゴンを見つけた。
点の修行中のようで心穏やかに瞑想している。
うーん、レオリオ達は居ないようね。
どこに行ったのかしら?
円をするのもめんどくさいし。
かと言って修行中のゴンの邪魔をするのも……
良し、決めた。
ゴンなんてどうでも良いや。
いくら才能は有りそうでも私達の目的に必要ないものね。

「ゴ、ゴンさん、お兄ちゃんとクラピカさんはどこに行ったかわかりますか?」

「ん? ああ、ミネア、マーニャ!! 二人とも俺に修行メニューを指示したら自分の修行をしに行ったよ。二人とも早く発を完成させたいんだって」

ふむ、二人ともこの間少しは見たけど……
どんな発なのか興味有るわね。
良し、覗きに行きましょう。
そうと決まったらめんどくさいなんて言っていられないわ。
早速円をしないと。
ふむ、レオリオの方が近いわね。
早速行きましょうか。

いたわね。

「お、お兄ちゃん!! が、頑張ってますか?」

「おう、ミネアさんマーニャさんじゃないですか。勿論ですよ、大体発の形も見えてきましたよ。見てて下さい」

レオリオは銃を懐から出すと『ガンズドラッグ』と叫んだ。
ん~……
何で一々技の名前叫んでいるんでしょう?
これから発を使いますよって言っている様な物じゃない……
まあ、名前を叫ぶ事で威力を上げたりモチベーションを上げる人が多いし。
レオリオも典型的なそのタイプなのかな。
まあそれはともかく、レオリオが叫び声と共に銃を撃ち出したら近くにあった木が緑が生い茂った。

「どうですか? この俺の能力『ガンズドラッグ』は。まず俺の系統の放出系で薬を瞬間移動させるのと、それと共に隣の強化系で薬の強化。さらに操作系で銃を強化して全体的な能力向上する技です。まあ、まだ今は放出も強化も操作も修行不足で、射程は短いは殆んど薬や銃の強化は出来ないのが実情なんですがね……
お二人が薬を使ってヒソカを撃退したのを思い出して作ったんですが。敵にも自分にも撃てて意外に便利ですよ」

へえ、ハンター試験の時に少し見たから大体予想はついていたけど。
これは便利な能力ね。
マーニャの『非凡な薬剤師』との相性は最高だし。
後はレオリオが放出、操作、強化を鍛えていけば……
強力なバックスの完成ね。
とりあえずレオリオにはこれからは系統ごとの修行と共に凝、周、堅を鍛えさせましょう。
凝は念使いの常識として。
堅で防御を固めて周で銃や薬を強化しての固定砲台タイプが理想かしら。
オールラウンダーではないけれど、型にはまれば敵は居なくなるわね。
いざとなればハンター試験中のように自分をドーピングで強化すれば良いんだし。
あ、そうそう。
余裕があったら円もかしら。
狙撃するのなら円があったほうが有利だものね。

よし、教育方針が決まった。
レオリオも良い能力を作ってくれた物だ。
まさか私達が渡した銃がこんな能力を生んでくれるなんてね。
さて、取り合えずレオリオに3つの系統と凝、周、堅ついでに円の修行方法を教えましょう。

「え、えっとね。お兄ちゃんのこれからの修行だけどね。3つの系統の修行と、凝、周、堅、円って言う技術を勉強すれば良いと思うよ!! うーん。まずは凝から練習しよっ!! これはね体のどこか一部分に練で集めたオーラを集中させるの。とりあえず目で練習してみて。目で凝をするのは念能力者同士の戦いでは必須だからね」

「へっ!! 目にオーラを集める……」

「ま、また明日見に来るの……頑張ってねお兄ちゃん。とりあえず、これが凝だよ?」

そう言ってレオリオに凝を実演してあげる。
レオリオなら数日もあれば凝は完成するでしょう。

「まあ、やってみるぜ」

その後レオリオと別れた私達はクラピカの元を目指す。
レオリオと違って問題はクラピカなのよね。
レオリオの話が確かならばクラピカはクルタ族。
クルタ族ということはあの能力が使えるはずだから……

あ、いたいた。
クラピカは相変わらず鎖とじゃれている。
まあ、具現化するためには仕方が無いんだけど……
うら若い乙女が鎖で遊んでいるのはなんと言うか……
まあ、黙っておこう。

「あっクラピカさ~ん。やっと見つけたよ!!」

「ん? ああ、二人か……一体何のようだ?」

「う、うん、えっとね……これを渡しておこうと思って……」

そう言って私はクラピカに布に包まれた何かを渡す。

「ん? 一体なんだ? ……こ、これは!! ま、まさか。緋、緋の目!! い、一体どこでこれを? いや、それより何故これを私に?」

「う、うん。私達はクラピカさんも知ってのとおり医者なの。医者って言うのは人体のエキスパートだよ? こういったものの情報はすぐに入って来るんだよ。前にお兄ちゃんに聞いてクラピカさんがクルタ族だって聞いたから。医者のネットワークとハンター協会の力でね」

ふむ、思ったとおりね。
緋の目を見た瞬間クラピカのオーラが変わった。
詳しく調べてみないとわからないけどきっと今は特質系だろう。
そして、クルタ族の固有能力『絶対時間』(エンペラータイム)が使えるはず。

「あ、あの馬鹿が!! こんな幼い二人を巻き込みたくは無かったのに。ふう、ばれてしまっては仕方が無い。確かに私はクルタ族だ。そして、同胞の目を取り戻す為にハンターになった」

やっぱり優しいね。
まだ私達を巻き込みたくないのか敵討ちの事については触れないなんて。
少し考えればわかるよ?
強さに執着する所といい、女を捨ててまで頑張っている理由。
きっとクルタ族を襲ったって言う幻影旅団への敵討ちも目的の一つだろう。
幻影旅団を倒したいのは私達も一緒。
ここは上手く取り込まなくちゃ。

「ク、クラピカさん……ううん。ク、クラピカお姉ちゃん。私達はお兄ちゃんと同じくクラピカさんのこともお姉ちゃんみたいに思ってるよ? だから嘘はやめて!! わ、私達にだってわかるもん。お姉ちゃん敵討ちをするつもりでしょ。ね、危ない事は止めようよ!! か、家族になら私達がなるから。勿論お兄ちゃんだって同じだと思うよ。だから、だからね」

「お姉ちゃんお願い」

「ふ、二人とも。そう思ってくれるのは嬉しい。実際私だって二人の事が妹のように思えることがある。だが、あの故郷の同胞達の物言わぬ眼窩を忘れる事はできないんだ。仇をとってくれ、仇をとってくれ……という声が今でも聞こえてくるようだ。私は絶対にあいつらに復讐して皆の墓に緋の目を弔うまでは止まるわけには行かない!! 済まない、幼い二人に話す内容ではないのだが……それと、これありがとう。とても感謝する」

ふむ、ある意味クラピカは私と似ているのかもね。
復讐に全てをかけているところ。
性別をごまかしている所。
ならば、扱いは簡単だ。

「わ、わかった。ならクラピカお姉ちゃん。絶対に私達がお姉ちゃんを死なせない。クラピカお姉ちゃんが死なないように修行してあげるし、私達も旅団と戦うよ? 知ってるでしょ、私達は旅団と戦えるだけの力を持っていること。きっとお兄ちゃんだって同じこと言うよ?」

「だめだ。これは私の問題だ」

「ううん、絶対に私達も手伝う。もし、私達を止めるんだったらハンター協会の総力を上げてクラピカお姉ちゃんを止めるよ!!」

「フウ、仕方ないな。だが、絶対に危ないことはしないでくれ。私はこれ以上家族を失いたくは無いからな」

「う、うん。わかったよ。きっとお兄ちゃんもそう言ってくれるよ!!」

よし、これで良い。
それにしても……
エンペラータイムか……
噂には聞いた事あったけど全ての系統を操る能力。
修行時間足りるかな?
器用貧乏は最悪だものね。
イルミの話によると今年のヨークシンのオークションに蜘蛛が参加するって話しだし。
それに、レオリオと違ってオールラウンダーに育てなきゃいけないから応用技も全部教えなきゃいけないだろうし。
全ての才能を持つ者と一点特化型の才能を持つ者……
ほんと、対照的ね。

「よ、よしっそうとなったら早速言う事があるんだ。クルタ族にはねある秘密があるの。それは……って言うわけで。緋の目発動時には全ての系統が使えるようになる『絶対時間』(エンペラータイム)って言うのが使えるようになるの。これはね、使いようによっては物凄い強力な能力だよ……でもね、使いこなすのが難しい能力でもあるの。だってそうだよね、同じ時間修行するのなら1つの系統を修行するのと6つの系統を修行するのじゃあ絶対一つの方が強くなるもの。その分オールラウンダーで、状況に関わらず戦える能力でもあるんだけどね」

「ク、クルタ族にそんなヒミツが……ということは私も特質系なのか?」

「う、うん。今の緋の目発動状態のまま水見式やってみてきっと違う結果が出るから。それに、オーラ総量そのものも上がってるしね」

なにやらぶつぶつ呟いてる。
でも流石はクラピカ、飲み込みが早い。
もうエンペラータイムを使った能力開発について考えてるみたいだ。
その後私はレオリオと違って頭の良いクラピカなら覚えられるだろうと思って、6つの系統の修行法と応用技について一通りレクチャーすると屋敷に戻った。




支援タイプの『あたし』
戦術指揮の『私』
弾丸作成の妹。
固定砲台レオリオ。
オールラウンダークラピカ。
前衛リッポー。
そして、まだ見ぬ『あたし』の相方……

やっと最終決戦の形が見えてきた……
あともう一人、あとたった一人で形が整う。
見ていなさい『神』
貴方の作り出したこの世界。
全て私が覆してあげるから!!



ゾルディック家に滞在を始めて20日余りが過ぎた。
キルアもほぼ全快したし、レオリオもクラピカも順調に修行を進めている。
聞くところによると、ゴンもそろそろ2の扉を開けることが出来そうらしい。
念の方も順調に練迄進んだらしいし。
もうゾルディックに留まる理由もほとんど無くなって来たわね。

さて、キルアの教育も頼まれている事だしそろそろ旅立ちをゼノさんとシルバに伝えておこうかしら。

「ゼノさんシルバ、そろそろ私達はここを出て行くわ。キルアももう良くなったしね。ちゃんと修行をつけさせておくから安心してね」

ゾルディックの戦い方は幼い頃からの肉体改造と暗殺技術の積み重ね。
それに、変化系や操作系を基本とした念能力による戦い。
これを長い世代をかけて培ってきた才能のもとに行うのだ、強くならないわけが無い。
しかし、強者であるが故に弱者の戦い方を知らないのだ。
私達が教えるのは正にこの戦い方、2~3年かけてキルアに挫折と絶望そして諦めの悪さを知ってもらう。
そうすれば今彼が持つ油断やプライドによる驕り、甘さを矯正する事が出来るだろう。
その上、イルミとの約束でその間の年齢はとらないのだ。
まさにゾルディックにしてみれば願っても無い話である。

「うむ、キルアのことよろしく頼むぞ。これで次代のゾルディックも安泰じゃ」

「ええ、お任せ下さい。それと、約束通りネテロを置いていきます。好きにお使い下さい。かつての部下だろうが、友人だろうが関係無く殺せるようにしておきましたから」

「おお、それは助かる。ふむ、本当に残念じゃ。お主ら二人がゾルディック家に入ってくれないことがな。確かに強いとは言えぬが、ゾルディックに無い戦い方と智謀はこの家の安泰を約束してくれるんじゃがの」

「またまた冗談ばかり。私達など……」

私達は別にゾルディックの戦力を欲している訳ではない。
それはあるに越した事は無いが、ゾルディックに入ることで失う自由の方が大きい。
今のままの同盟関係が一番だ。
私達の理想はゾルディックに入ることで近づきはしないのだから。

「それでは、私達の弟子達もそろそろこちらへ来れる様になりますのでそうしたら失礼させていただきます」

「ふむ、そうか? わかった。それまではゆっくりすると良い」

私達はゾルディックの二人の前から立ち去る。
あの二人が相手では私達はどう逆立ちしたって殺されるだけだ。
でも、そうはならない。
私達は自分達より強い者、脅威な者を一つ一つ無害な物に変えていく。
もしくは、直接対峙しないようにする。
きっとそれこそが私達がゾルディック家に気に入られている真の理由。
私達は私達の策謀の一部しか見せた事は無いが、きっと脅威に思われている。
しかし私たちを殺す事は出来ない。
だからこそ家族となり同盟を組む事で互いに無力化を狙ったのだろう。 
世界に名前が知られていない私達に注目したあたりが流石はゾルディックなのだろうね……
まあ、良い。
ゾルディックとは暫くは敵対しない。
それで今は十分だ。
勿論裏切られた時の対策は考えているが。
だが、ゾルディックは馬鹿ではない。
私たちにはけして手は出さない。
そう、けして……

私達がゾルディックの屋敷を出て使用人の家に着いた時、丁度3人が揃って話をしていた。
私達が来た事に気がつくとまず挨拶を交わすとゴンが私に質問をしてきた。

「ねえねえ、キルアは大丈夫なの?」

「え、ええ、勿論ですよ。ちゃ、ちゃんとリハビリも進んでそろそろ元通りに動けるようになるよ? それに、ちゃんと念も練迄は使えるようになりましたよ」

「へえ、キルアもちゃんと覚えたんだ。良かった、俺だけ抜け駆けしたみたいだったから……それにしても、キルア元気になっちゃったんだ。折角お見舞いに来たのに」

あらあら、そんな事気にしていたの?
別に勝手に強くなっても良いと思うのだけれどね。
それにしても、孫の友人か。
まさかゾルディックに嫁いだキキョウの子に友人が出来るなんて思わなかったわね。
仕方が無い、ちゃんと伝えておきましょう。

「だ、大丈夫です。ちゃんとキルアさんには皆が来ている事は伝えときました。キルアさんも『ありがとな、すっげー嬉しい』って言ってましたし」

これは本当。
私達、中でもゴンが来ていると知った時本当に嬉しそうにしていた。
でもキルア……ゴンが友達だときっと苦労するわよ。
絶対危険なことに自分から突っ込んでいくタイプだし。
実力が上の相手にでも平気で喧嘩を売るでしょうね。
頑張りなさい、キルア……

それはともかく、今はゴンに発について教えていたらしい。
丁度水見式の準備を行っていた所に私達が来たと言う事だ。
ゴンか……一体何系かしら?
まあ、どうでも良いけど。
え、水が増えた?
そう、強化系ねおめでとう。
はいはいよかったわねー。

で、レオリオ、クラピカ。
二人は一体どの位強くなったのかしら?

「ゴ、ゴンさんはこのまま水見式を暫く続ければ修行になると思いますよ。と、ところで、お兄ちゃんとクラピカお姉ちゃんはどの位強くなったの?」

「ん、そうだな……どの位なのだろう? よし、レオリオまた私と勝負でもしようではないか? 勿論ハンター試験の時のようにセクハラや情けない真似をしたら怒るがな」

「だ、誰がするか!! ちっ見てろよクラピカ。三度目の正直だ。今度は俺が勝って見せるぜ」

あらあら、思わぬ展開ね。
でも確かに丁度良い提案である事は確かね。
早速見せてもらおうかしら、二人の修行の成果を。




場所を移しレオリオとクラピカは対峙する。
私と妹で審判をすることにした。
ゴンは興味津々と言った顔で待つ。
そして、3人とも気がついていないが私達には分かる。
今私達はゾルディックのカメラによって観察されているみたいだ。
ふむ、別に見せても構わないのだが……
手札は隠しておくに限る。
そうね、いっそ一瞬で決着をつけてもらいましょう。
そうすれば手札が余りばれないですむ。

「ね、ねえお兄ちゃん。それからクラピカお姉ちゃん。今回は二人の発を見せて。もう二人の戦闘方法はわかってるから、どの位発が完成してきているかを見たいの」

「ふむ、良いだろう。よし、レオリオ直ぐに勝負をつけてやろう」

「へっこっちの台詞だぜクラピカ!! こっちは一瞬で終わらせてやる」

うんうん、これで良しと。
さーて、どんな勝負が見られるのかな。

「そ、それじゃあ始めて下さい!!」

「チェーンジェイル!!」

えっと、確かクラピカの念能力の一つで、クラピカが家族と思っている人物の仇かレオリオにだけ使える能力だったわね。
確か命を誓約にしているからかなりの効果な筈だけど……
鎖にからめとったものを強制的に絶にするえげつない能力だ。
さて、レオリオはどうするのかな?

「ガンズドラッグ!!」

あれ、おかしいわね……
今レオリオは同時に二つ能力を発動したような。
確かレオリオはこれしか能力を作ってないはずだけど……
二発撃ったわけでも無さそうだし。
まさか隠れて能力を作ってたの?
レオリオに限ってそれは無いと思うんだけど。
まあ、見ていればわかるか。

二人の発が同時に相手にぶつかる。
どうなったの?
鎖にからめとられがんじがらめの上絶状態になったレオリオはクラピカに軽々と引っ張られた。
そして、レオリオを迎撃するかと思われたクラピカだが突然倒れてしまう。
きっとレオリオの薬の効果ね。
って、えーーー!!
あー、えーと……
何と言ったら良いのかしら。
あ、ゾルディックのカメラの気配が消えた。
……私達もゴンを連れてここを去りましょう……

「ゴ、ゴンさん。私達は帰りましょうか?」

「う、うんそうだね……」

「無様……」

そうして私達は二人を置いて使用人の家へと帰っていった。
え? 勝負の結果?
聞かないで……
でも、レオリオの二つ目の発の効果は大体わかったわ。
レオリオらしいし、私達に内緒にする理由も分かるけど……
レオリオ……その能力絶対メモリの無駄使いよ!!
後で聞いたら『ルードネスオブグローリー』とか言ってたけど。
明らかに格好をつけた名前をつける能力じゃあ無いでしょう!!
もう良いわ、忘れましょう……
まあ、二人とも実力はついてきたみたいね。
ハア……
その後二人は仲良く痴話喧嘩していたらしい。

その後暫くしてゴンは2の扉を開き無事キルアのお見舞いを果たした。
そして夜が明けた。
私達の出発の日だ。

「ね、ねえクラピカお姉ちゃん。お姉ちゃんは人体収集家の雇われハンターになるんだよね? それだったら私達に雇われませんか? 私達だったらその手の情報のコネもありますし……それよりなにより折角仲良くなったお姉ちゃんと離れたくないです……」

「お前達……」

「へっそうだぜ!! 俺はまだまだこのお二人には教えてもらう事が沢山有るんだ。だが、俺一人で修行したって張り合いが無ぇ。来いよクラピカ!!」

「レオリオ……」

「ふっそうだな。そうさせてもらうか……これからもよろしく頼むぞマーニャ、ミネア、それからレオリオ。それに……ゴニョゴニョ」

フッ若いわね。
素直にレオリオに一緒に居れて嬉しいって伝えれば良いのに。
レオリオは鈍感だからそんな小声で言っても伝わらないわよ。
ほら、全く!! 気にしてない。

「そ、そういうわけで私達は一緒に行きますけど。ゴンさんとキルアさんはどうしますか?」

「んーそうだね。俺は良いよ。早くこのプレートをヒソカに返さなければいけないんだ!!」

あれ、ハンター試験の時のヒソカのプレート?
何でゴンが持ってるのかしら。
というか、回収されたはずなのに……
きっと無理を言ったのね。
まあ、確かに受験の記念品だしね。
別に構わないか……
それにしてもヒソカね。

「あ、あのーヒソカさんだったら9月の初めにヨークシンシティで行われるオークションに参加予定だそうですよ?」

「え、そうなの? どうしてそんな事を知ってるの?」

「え、イルミさんが教えてくれたの。幻影旅団はその時にヨークシンに集合予定だって。ヒソカさんは幻影旅団の団長と戦いたがっていて幻影旅団に入り込んでいるらしいから……」

この言葉に反応したのは当然ゴンではなくクラピカ。

「な、何だと!! 蜘蛛がヨークシンに!! そのチャンス逃すわけにはいかない」

「うん、それじゃあ皆そのオークションに参加だね。ところで……蜘蛛とか幻影旅団って何? 後、オークションって?」

ザ・ワールド……時よ止まれ!!

ゴンの一言に皆凍りついた。

「ゴ、ゴンさんまさか知らないんですか? よく新聞やテレビに出てくるでしょうに……そもそもオークションを知らないって……」

「そ、そうだぜ。良いかゴン。説明してやるよ……ってわけだ」

「へえ、ありがとうレオリオ」

「い、いや。良いってことよ……」

流石に皆呆れている。
もういいや、無理やり流しちゃえ。

「あっそうだ、ゴンさん。もしかしたらなんですけど。ヒソカさん天空闘技場にいるかもしれません。これもイルミさんの情報なんですけどね」

「へえ、天空闘技場か。懐かしいな。俺も昔のぼったっけな。良し、ゴン俺がついていってやるよ」

ちょ、待てキルア……
お前は私達が修行をつける予定だっただろうに。
体よく逃げたな。
仕方が無い。
あそこら辺にいるやつとなると。
ウイング辺りにでも連絡しておこう。
クククせいぜい上には上がいること。
手痛い敗北を味わうと良いよ!!
あ、でも一応イルミとの約束だから4月1日にはよばないと……

「え、えっとキルアさん例の日だけはわかっていますよね?」

「ああ、流石にわかってるって」

本当だろうな?
来なかったら知らないぞ?

「例の日って何です?」

「う、うん。ちょっとね……」

「ふーん、まあ良いですけど」

「そ、それじゃあゴンさん。天空闘技場についてはキルアさんから説明を聞いてください。後、旅費渡しておきますよ。直ぐに返せるくらい貯まると思いますから」

そう言って私はゴンに旅費を渡してやる。
こうして私達はハンター試験以来初めてばらばらに別れる事になったのだった。
私たちの前にこれから立ちはだかっていく物は何か?
そして、この後待ち受ける新しい出会い等今の私達はまだ何も予想できていなかった……



私達はゾルディック家の一月ほどの滞在を終え、久しぶりに家に帰ってきた。
一月半程だと言うのにこの家に帰ってくるのも久しぶりに感じる。
やはり我が家は落ち着くわ……
それにしても、ここに誰か他人を連れてくるのは初めてね。
まあ良い、レオリオクラピカ共にもう私達には逆らえないし、疑う事も無い。
後は9月の旅団との戦いの前に出来る限り強化するだけ。
修行、投薬、ツボ……何でも使って二人を強化しよう。
そのために二人の寿命が縮んでも良い。
どうせ、私の念でもう二人は年をとる事はなくなるのだから。
待ってなさいクラピカ、仇をとる事ができるように鍛えてあげるわ。
どうせ旅団には私達が最も恐れるあいつがいるのだから倒してもらえると助かる。
私達ではどうしてもそいつを殺す事ができない。
能力の相性が悪すぎるから……

そして、レオリオ。
貴方には人体を効率良く治療する方法と壊す方法を覚えてもらうわ。
治療と殺人は表裏一体。
最終目標は他の組織を一切壊さず、病気を殺す事。
これが出来るようになればゾルディックにも対抗できる暗殺者となる。
これからは、今までの修行に加えて、流と人体知識。
そして、妹から薬学を学んでもらう。
最終的な理想は固定砲台だけど、近接も出来ないとね。
フフ、安心しなさいちゃんと医者にはしてあげるわよ。
それも世界最高レベルのね。
何と言っても医療と戦闘技術は流用出来る物が多いもの。

さ~て、忙しくなるわよ!!





修行編その①神字を覚えよう


「な、なあミネアさん。そのー、医術を教えてもらえるのはありがたいんですが……何なんですかこの文字は? 見たことも無い文字なんですけど」

そう、俺は修行の合間に師匠であるミネアさんマーニャさんに医術を教わる事になった。
それはすごく嬉しいし、そのレベルの高さと丁寧な教え方は流石なんだが……
いかんせん文字が読めない。
何だこれは?
本当にこれ文字か?
師匠がふざけてるんじゃないよな。

「う、うん。ちゃんとした医療の本だよ。その文字は神字って言ってね、念の補助をしてくれる文字なの。とっても役に立つからこの機会に覚えてもらおうと思って!! 本当はね、私達の先生の息子さんから貰った大事な本なんだけどね、私達はもう覚えちゃったからお兄ちゃんにあげるよ。私達の先生の形見だから大事にしてね?」

うっまぶしい笑顔だ。
しかもそんなに大事な物なのか。
やべえ、断りにくい。
俺は語学が苦手だから普通の本にしてくれなんてとてもじゃねえが言えやしねえ!!
ああ、やべえ。
師匠の顔が段々曇ってきた。
お、俺は師匠を悲しませたくなんて無いのに。
でもこれは無理です。
よし、きっぱり断るか。

「あ、あのーミネアさん……」

「も、もしかして迷惑だったかな? ご、ごめんなさいお兄ちゃん……良かれと思ってやったんだけど迷惑かけちゃったね。今すぐ普通の本を持って来るから」

!! 目から一滴輝く物が……
ええい!!
男レオリオやってやろうじゃねえか。

「い、いえ。これで良いです。いや、これで勉強させて下さい!! なあに、こんな文字直ぐに普通に使えるようにして見せますよ。ミネアさんの先生の形見だって言うなら丁寧に丁寧に使います」

って俺何言ってんだよ。
こんな文字使えるのか?
でも、もう言っちまったしな。
しょうがねえやってやるぜ。
そうだ、ハンター試験だってフルチンになる覚悟でやったら無事合格できたんだ。
こんな文字の一つや二つ。

「よし、ミネアさん。辞書貸して貰えませんか? これからは俺は日常生活でもこの文字しかつかわねえ。やって見せますよ」

「う、うん。良かった。その本大事に使ってね? 判らない所があったらいつでも聞いてくれて良いからね」

よし、師匠が微笑んでくれたぜ。
やっぱり俺の選択は間違っちゃいなかった。
見ていてください師匠。
俺は立派な医者になる事で恩を返しますから!!



数日後


チッやっぱり難しいぜ。
だが、この程度の事で……

「この薬草を1、この鉱石を3、最後にこの薬と混ぜ合わせる」

「す、すいません。まだ文字が読めません!!」

「そんなの知らない。読め」

マ、マーニャさんの薬調合講座……
必要な物を口で言ってくれないで神字で黒板に書いて説明してくれるんだが、一向に読めん。
仕方が無いメモっておいて後で確認しよう。
って消すの早いですよ!!
師匠と違ってスパルタだぜ……


更に数日後



「おいレオリオ!! 何だこの文字は。私にも読める文字で書け」

「今この文字の練習中なんだよ。知った事か!!」

「ほう、この私にそんな態度をとるか。表に出ろレオリオ!!」

「ああ、丁度わからなくてストレスがたまっていたところだ。コテンパンにのしてやるぜ!!」

その後3時間くらいやり合ってから気がついたんだが、クラピカは習わなくて良いのか?
まあ、師匠に聞いてみるか。

「あ、ミネアさん。そういえば、神字なんでクラピカは勉強してないんですか?」

「う、うん。お姉ちゃんには必要ないから。お姉ちゃんはお兄ちゃんと違って変な能力作ってないからバランスが良いの。だから神字とかで補う必要が無いんだよ。それ位だったらお姉ちゃんは6系統を少しでも伸ばした方が良いんだよ」

し、師匠……何気にきつい事を。
仕方ないじゃないですか。
師匠みたいな子供、それも女の子にはわからないかもしれないですが、エロスは大事なんすよ!!
うん、俺が作った能力は男ならわかってくれるに違いない!!
ちっくしょう、女ばかりの中に生活する身にもなって下さいよ。
男は欲望無しには強くはなれんのじゃー」

「おいレオリオ!! ミネアさんが困っているぞ」

「な、何だと!! まさか口に出していたのか俺は……」

「まあ、良い。じっくり私と話し合おうではないか。そう、某タカマチとか言う家系に伝わるという『おはなし』でな!!」

「ちょ、ちょっと待てクラピカ。話せばわかる。た、助けて下さいミネアさ~ん!!」


こんな感じで俺は医術と同時に神字を覚えて行く。
何せ神字が出来ないと医術の勉強が出来ないから頭の悪い俺でも必死に覚える事が出来た。
全く疲れたぜ……





修行編その②その頃の『あたし』


う~ん、つまんない。
リッポーは幼女を探す旅に出ちゃったし。
『私』は修行中だからこっちに来るなって言われてるし。
まあ良いや、どうせ今の状態じゃあ『私』意外には見えないしね。
気にせず帰っちゃお。
それにあたしから『私』を引き離すレオリオは大ッ嫌いだし!!
か~えろっと……

って何これ?
家に近づけない。
何この変な文字?
それに何これ塩?
あたしは悪霊じゃないわよ。
まあ、確かに今の状態は似たような物だけど……
それでもこれは酷すぎる。
仕方が無い、これを破って突入したら本気で怒られそうだから潔く引き下がりますよ。
さて、何しようかな?
って、鎖が飛んできた!!
何これ、まさか私が見えてるの?
えっ今度は銃弾……ううん薬かしら。
何でこっちを狙ってくるの。
ごめんなさいレオリオ。
ハンター試験の時のことは謝るから。
あたしは暴力が好きじゃないんだってば。
おたすけーーー。

ハア、ハア、ハア、何発か銃弾が当たっちゃった。
流石に念で強化された弾ね。
今の状態のあたしに影響を与えるなんて。
まあ、この状態のあたしにはダメージは与えられないんだけど。
ハア、どうしよう。

「ねえ!!」

え?
誰?

「ねえってば!!」

うーん、誰だか知らないけど呼ばれてるわよ?

「ねえ、そこの黒髪の女の子!!」

え、この辺りに黒髪の女の子なんて見当たらないけど……
もしかしてあたし?
レオリオかクラピカの攻撃か知らないけど。
もしかして今あたし見えるようになっちゃってるの?

「え、えーと。もしかしてあたし?」

「うん、そうだよ。うわー近くで見るとすっごい綺麗な髪の毛だね。うわー欲しいな。ねえねえ、少しで良いからお姉ちゃんに髪の毛をくれないかな? なんていうか、この世界には無い色合いって言うか……見れば見るほど不思議な色。うん、決めた。私の友達になってくれないかな?」

あたしの髪の毛は『私』譲りだ。
詳しくは教えてくれないけど、この世界には無いはずの物らしい。
『私』のルーツリッポーやあたしお母さんとは違う神に攫われた『私』が原因の物らしい。
『私』の血を継ぐ者の中でもめったに現れない特殊な色。
あたしは知ってる『私』の本当の姿を。
魂を形作る本当の姿を。
美しい、魂の輝き、傷だらけで優しい。
でも無理をして生きている。
本当は平穏に生きたいのに自分みたいな人を出さない為に頑張ってる孤高な魂。
外見はこの世界には無い色合いの黒髪自体は普通の容姿なのに妙に人目を引く。
きっとこの髪はその本来の姿を引き継いだんだろう。
密かに私の自慢だったこの髪をこんな風に認めてくれる人がいるなんて……

「ぶう、急に黙り込んじゃって。そんなに私と友達になりたくない?」

「あ、ごめんなさい。そういうわけじゃないの。でもごめんなさい。この髪を切るわけには……でも、友達なら喜んで!!」

そのお姉さんはとっても嬉しそうになった。
うん、やっぱり皆仲良くが一番だよね。

「本当? それじゃあ名前教えて? 私の名前はねネオン……ネオン=ノストラードって言うの」

「うん、ネオンお姉さん。あたしの名前はねミネア。ミネア=モンバーバラって言うんだよ。よろしくね?」

小首を傾げてそう尋ねる。
ネオンお姉さんか。
良いお友達になれると良いな。
優しそうな人だし……
どこかのお嬢さんなのかな?
良い服着てるし。
それに、さっきから護衛の人らしき気配もするしね。
あたしほど強くは無いけど……

「ミネアちゃんか。可愛い名前だね。私これから買い物に行く途中だったんだけど。一緒に行かない?」

うーん、あたしも暇ですし。
行きたいのは山々なんですが。
周りの人達に一応身分を説明しておきましょうか。
拙い殺気でも気分は良くないしね。

「うん、いくいく!! でも、その前に。ねえ、周りにいるおじちゃん達。私は怪しくないよ? ほら、ハンターライセンス」

「何だと!! こんなガキがハンター……見せてみろ!! ほ、本物だ。しかもこれってハンター協会幹部の特別性じゃねえか!! お、お前は一体何物だ?」

あちゃー、基本的にあたしはこの状態でいる時は『私』と全く同じになっちゃうからな。
それにしても、幹部ってハンターライセンスに違いがあったんだね。
今まで知らなかったよ。
今度『私』になんで教えてくれなかったのかきいとこ。

「え、あたし? うーん、ハンター協会の幹部ではあるけど、こんな子供だから権力は無いよ? でも、これで安心だってわかったでしょ?」

「う、うむ確かに。それに、纏を見る限り俺達より腕も立ちそうだしな。まあ良いだろう。おい、お前はボスにこの事を伝えて来い!!」

「へ、へいっ」

「お話は終わった? ねえミネアちゃん早く行こうよ?」

「はいっそうですね。行きましょうかネオンお姉さん」








修行編その③ハンター協会会長補佐代理ボドロ


「うむ、暇じゃのう婆さんや。今度あの二人のところに行ってみるか?」

「そうですねえお爺さん。あの二人なら優しく私達を出迎えてくれますよ」

「うむうむ。それに、あやつらがちゃんとあの二人と仲良くやってるかも心配じゃしな。よし、行くか」

ふむ、遠出用の服はどこじゃったかな?

「ちょちょっと待ってくださいよ会長補佐代理!! どこが暇ですか? 今日中に判子を押していただく書類がこんなにあるんですよ? 奥様まで……」

「ばかもん、わしにこんな事ができるわけが無かろう? 武術一辺倒で生きてきた人間じゃぞ。書類の整理方法等知らんわ!! だいたい、あの子達の身内だからって新米ハンターをこんな役職につけおって。おかげで念を習得する暇も無いではないか。よし、今からお主会長補佐代理補佐にならんか? そしてわしの代わりに仕事をすればいい」

「そんなわけにはいきませんよ。ぶつぶつ行ってないで仕事して下さい……」

「全く今時の若い者は年寄りを労わらん。なあ婆さん。その点あの二人は優しかったのう」

「はいはい、頑張って下さい」

こうして今日も会長補佐代理の戦いは続く。
頑張れ会長補佐代理。
負けるな会長補佐代理。
書類の片付くその日まで。








修行編その④その頃のポックル


ふう、ハンター試験なんて恐ろしい。
あんな子供でもあそこまでの化け物ぶり。
田舎に帰って家業のパン屋でも継ぐか……
というわけで、早速帰る準備でもするか。
でもその前に。

「なあポンズ。俺と一緒に田舎でパンを焼かないか?」

「嫌」

そ、そんなあ。
ってちょっと待ってくれよ。
ハア、帰るか。


あっさりとふられていた。

その後ポックルはこの世界において初めてチョココロネという物を開発してパン世界の神となった!!


「計画通り!!」



修行編その⑤クラピカの挑戦

ふう、今日これで修行は終わりか。
足りない、時間が圧倒的に足りない。
このままでは蜘蛛に遠く及ばないか……
仕方が無い。
とりあえず変化系を捨てよう。
そして、私の能力の根本となる具現化と、特質を重点的に。
更に蜘蛛との戦いで使うジャッジメントチェーンに使う操作と放出を鍛える。
系統を絞る事で万能性を捨てて戦力アップを図ろう。

だが、だめだ。
まだ何かが足りない気がする。
この上でジャッジメントチェーンを己に指し制約をかしチェーンジェイルの威力を上げたところで蜘蛛の全員を倒す事等不可能だ。
くそっ!!
私はこの程度なのか? まだだ、まだ何かあるはずだ。
せめてミネア、マーニャに勝てる程度の戦闘力が欲しい。
ん? ミネアとマーニャ?
そうだ、彼女らに聞いてみよう。

彼女らの部屋をノックする。
あの幼さであれだけの強さを誇る二人だ。
何かしら方法を知っているだろう。
いや、知っていてくれ。
私はこの手で仇を討ちたい。

「誰?」

マーニャが部屋から顔を覗かせる。
いつもどおりクールと言うか、無表情と言うか……
そんな顔だ。

「私だ。二人に少し聞きたいことがあるのだが?」

「入って」

「うむ、失礼する」

二人の部屋は子供の部屋と言う感じはしない。
どちらかと言うと落ち着いた感じのシックな部屋だ。
ただ、他の部屋よりも更に緑が多いのが特徴と言える。
人形の一つ位あっても良さそうな物だが……
この位の頃の私の部屋等人形で溢れていたぞ?
どのような経緯か知らないが、世界の医療を治める姉妹だ。
遊ぶ暇等無かったのだろうな。
そして、恐らくあの強さは身を守る為に自然と身についたのだろう。
不憫なものだ。

「あっクラピカお姉ちゃんいらっしゃい!! 今日は何をしに来たの?」

「ああ、恥を忍んで頼みたい事があるのだが、私一人ではどう頑張っても蜘蛛を潰せるほどに成長できる気がしない。確かに油断してくれている初めの内に数人は倒せるようになるだろう。だが、相手が本気を出して私の事を敵とみなした時私は生き残れないと思う。それでは意味が無いのだ!! 何としても蜘蛛をこの手で狩りつくしてやらねば死んでも死にきれない!!」

私は何を熱くなっているのだろう。
このような子達を相手に。
だが、私は強くなる事を諦め切れない。
そう、仲間の手を借りる事は妥協したが、出来る限り私が倒したいのも事実。
さて、何か知っているか?

「え、えっと……私達が協力するから。何も一人で戦う事なんて」

「そんなのわかっている。これは私のわがままだ。だが、これだけは譲れないのだ!!」

「う、うん……仕方が無いね。それじゃあ、毎食後にこの薬を飲んでもらえるかな? これはねオーラを徐々に消費させる毒なんだけど……これを飲む事で体に負荷がかかって修行効率が上がるはずだよ? その代わり凄くつらい修行になるけど。出来れば使って欲しくないんだけど……」

ふむ、そんな物考えるまでも無い。

「ありがたい。ぜひ使わせていただく」

「それとね、特質系の修行だけど……今までやってた特質の基礎トレーニングは止めて。いつでも自由に緋の目になれる練習と。エンペラータイムを発動していられる時間の延長にした方が良いかも。緋の目は体に負担をかけるの。それを毎日限界まで使う事で特質の修行にもなるし。地力向上にも繋がるよ……だけど、これも慣れない内は寝込んじゃうと思うの。でも、もしそれを乗り越えて、常時緋の目の状態でいられるようになったらクルタ族の前に敵はいなくなるって聞いたことがあるよ。最も、これは9月までに間に合うか判らないけど。でもやってみる価値はあると思うの」

何だと!!
私は聞いたことが無いが、その様な話が。
この子達が私に嘘をつくとも思えないし……よし、試してみよう。

「やってみよう」

「あ、後はね。やっぱりなんと言っても地道な修行かな? トレーニングはね自分を裏切らないよ? しっかりとした基礎固めと毎日オーラを使い切る事でオーラ総量を上げることかな? 大丈夫だよ、お姉ちゃんなら9月には絶対私達よりも強くなるから!!」

薬による常時体への負荷。
感情を乱す事無く常に緋の目の状態でいられるようにする事。
そして、しっかりとした基礎固めと、オーラ総量のアップか……
この子達が言う事だ間違いは無い。
絶対に9月までにこれらを簡単にこなせるようにしてみせる。
あと6ヶ月もあるのだからな……









修行編その⑥『私』と『あたし』と未来予知

「ねえねえ、ネオンお姉さん。何を買いに行くつもりなの?」

「うーん、お洋服を買うつもりだったけど、ミネアちゃんと折角友達になれたんだから少しお話したいな!!」

「え、お話ですか? うーんお友達なんていなかったからあたし何を話して良いのか……」

あたしは少し暗くなってしまう。
やっぱり友達がいないなんておかしいよね?
うう、初めての友達を前に何したら良いのか今頃緊張してきたよ。

「え、ミネアちゃんもお友達居ないの? 私もね、お友達っていえる人が少なくて……だからね、ミネアちゃんがお友達になってくれるって言ったとき凄く嬉しかったんだよ? よし、それじゃああそこのケーキ屋さんにでも入ろうか? 何でも良いからお話しましょ!!」

「は、はい!!」

初めてのお友達、あたししっかり出来るかな?

ケーキ屋さんの中は女性が一杯で人ごみに慣れてない私はしり込みしてしまう。
するとネオンお姉さんがあたしの手を引いて一歩踏み出してくれた。
それであたしも勇気を持つことが出来た。
あたしとネオンお姉さんで同じテーブルに腰掛ける。
あたし達の周りのテーブルに護衛の人達が他の客を装って座った。
男の人が多いから居心地が悪そう。
空いてる時間帯でよかったですね?

「ねえねえ、ミネアちゃんは何を食べる?」

「えっと……そうですね。それじゃあこの春の香りセットですね。一体どんな物が出て来るか楽しみです」

「あっそれおいしそうだね。うーん、私はどれにしようかな? どれもおいしそうだけど、よし、ミネアちゃんとの出会いを祝ってこの出会いの季節セットにするよ」

うっ微妙に恥ずかしいですね。
そんなに喜んでくれるなんて。
でも、悪い気はしません。

「えへへ、ケーキ楽しみだね」

「はい、楽しみです」

「あ、そうだ。ミネアちゃん。髪の毛を少し触らせてもらっても良いかな? 凄い綺麗だから少し触ってみたいな」

「え、触るくらいなら良いですよ?」

「ほんとっ? ありがとう」

ネオンお姉さんはそれまでのあたしの対面からあたしの横に座りなおした。
そして、そっと髪に手を伸ばす。
やさしい匂いがする。
香水かな? それともネオンお姉さんの体臭だろうか?
どちらにせよ私の好きな匂いだ。
ネオンお姉さんに良く似合っていると思う。

「ネオンお姉さん良い匂い……」

「え、ほんと? この香水ね私のお気に入りなんだ。『オールオブミー クリスタル』って言う香水なんだけどね。昔お父さんが買ってきてくれた物なの」

「へえ、羨ましいです。あたしもこんどお父様に頼んでみようかな?」

「うーん。ミネアちゃんにはまだ香水は早いと思うけど……でも、女の子だもんね。おしゃれに気を使いたい気持ちはわかるわ」

話している間もネオンお姉さんの手は優しくあたしの髪をくすぐる。
髪を手の上で流してみたり、不思議な光沢を楽しんでいるみたい。
それにしても、ネオンお姉さんもまだ少女と言えるくらいの年齢だと思うんだけど妙に手つきが上手い。
あたしの髪に興味を示した事から考えても美容師さん志望なのかな?

「う~ん、やっぱり不思議な髪。ね、少し私にいじらせてもらって良いかな? 絶対可愛くするよ?」

うん、やっぱり美容師さん志望みたいですね。
少し位なら良いよね?
別に髪を切られるわけでもないし。
うん、今のあたしの体のヒミツはばれないと思う……

「えーと、髪の毛を切らないって約束してくれたら良いですよ」

「え、ほんと? 嬉しいな。それじゃあね、まずは私の髪飾りと同じ物からね。うーん……可愛いけど何か違うね? それじゃあ、私の髪に巻いてる布をこうしてこう……!!」

一体どんな髪型になってるんだろう?
ちょっと興味有るな。

「はい出来たよ。ジャポンっていう国の巫女さん風に後ろで束ねてみたんだけど……どうかな?」

そう言ってあたしに鏡を差し出してくれる。
うわー、ちょっと恥ずかしいかな?
余り髪の毛なんていじった事無いから新鮮な感じ。
ど、どうなのかな?
今のあたし可愛いのかな?
うう、『私』に見せたいのに今は近寄れないし……

「うん、凄く良く似合ってるよ。髪の毛が綺麗だから、変に飾り立てるよりワンポイント位でちょっとアクセントをつけるくらいで凄く可愛い。羨ましいな!!」

「え、本当に似合っていますか? 凄く嬉しいです。こんな髪型初めてだからちょっと恥ずかしいですけど、ネオンお姉さんがそう言ってくれるなら」

「うんうん、我ながら会心の出来だと思うよ?」

う、何だろう。
凄く嬉しい。
あたしは今までこんな事誰かとした事無いし。
お友達とこうして過ごす時間がこんなに楽しかったなんて……

「こちら、春の香りセットと出会いの季節セットになります。ごゆっくりお楽しみ下さい」

「あ、ねえねえ。店員さん。この子の髪の毛とっても可愛いと思いますよね?」

「え? あ、はい。確かに不思議な光沢の黒い髪に赤い布がマッチしていてとても可愛いですね。それに不思議な髪型……ただ束ねてるだけなのに……」

うう、恥ずかしい。
あたしって他人に誉められたのって始めてかも。
もう70年位生きているのに……
うう、だめ。
嬉しいのに涙が……
ネオンお姉さんを心配させちゃうよ……

「え、どうしたの? ミネアちゃん!! ミネアちゃん!!」

「お、お客様、ワタクシ何か失礼な事を?」

「う、ううん。違うんです。とっても嬉しくて。それで、つい……」

「何だ、良かった。ミネアちゃんに嫌われたらどうしようかと思った」

「お客様、お客様はとっても可愛いんですからもっと自信を持って下さいね? それでは何かありましたらいつでもお呼び下さい」

そう言うと安心したのか店員さんは去っていった。
ネオンお姉さんもあたしの背中をさすってくれる。
ああ、こんなことしてもらったのはいつ以来だろう。
思い出せないや……

その後あたしはネオンお姉さんとケーキを食べた。
何故か今までに食べた事が無いくらい美味しく感じた……
ネオンお姉さんもそう思ってくれていると良いな。

「あ、そうだミネアちゃん。今日の出会いの記念に占いをしてあげるよ。私の占いはちょっとした物だよ?」

「え、占いですか。嬉しいです。実はあたし占いって大好きで。今日も朝テレビの占いを見てきたんですよ。今日は素敵な出会いがあるでしょうって言ってましたけど本当に当たりました!!」

うん、ネオンお姉さんとお友達になれてとっても嬉しい。
今日はとってもいい日!!

「うん、私もミネアちゃんに会えて嬉しいよ。お友達って良いものだね?」

「はいっ!!」

「うんうん。あ、それじゃあ早速占うからこの紙に名前と生年月日と血液型を書いてくれる?」

う……名前と生年月日……血液型は良いけどこの二つは。
仕方が無い。
ネオンお姉さんに聞いてみよう。

「ねえ、ネオンお姉さん。あたし実は正確な生年月日がわからないんだけど。あたし実はお母様があたしを産んだ日がいつなのか良くわからないらしいの。理由は教えてくれないんだけど。だから、正確じゃないらしいんだけど……それでも大丈夫なのかな?」

「うーん、やってみた事無いからどうなんだろう? 一応書いてみてくれるかな? やってみるから」

「はい、わかりました」

うーん、どうしよう……
あ、そうだ。別に嘘を書かなくても良いんだ。
ネオンお姉さんが読めなければ良いんだから。
よし、そうと決まったら。
あたしはネオンお姉さんに貰った紙に日本語で記入する。

「あれ、これ見たこと無い文字だね。ジャポンの字に似ているけどやっぱり違う。うーん」

「あ、この文字はねお父様の故郷の文字なんだって。あたしが一番初めに覚えた文字だから今もたまに使っちゃうの。ごめんね書き直すから」

「あ、別に大丈夫だよどんな文字でも。それじゃあ始めるね?」

『ラブリーゴーストライター』

え、これってもしかして念!!
念の占いって事?
それってまさか未来予知?
ということは貴重な特質系……
しかもかなりレアな能力じゃあ?

終わった?

「はいこれ、占いの結果だよ? 私の占いはね4行詩からなっていて各週に起こる事をあらわしているの」

え? 4行詩?
でもこれ8行あるんだけど……

「ねえ、ネオンお姉さん。この詩8行有るんだけど?」

「え、そんな筈は無いんだけど……うーん、生年月日が正確じゃないからかな?」

いや違う。
あたしは本当の名前と生年月日を書いた。
ということは……
まあ良いや、とりあえず読んで見ればわかるよね。




貴女は大切な水晶を見つけるだろう
その水晶は大事にしなければならない
貴女と共に長い長い時を刻んでくれるから

貴女でない貴方優しき邪悪は身を潜める
自分では無く銃と鎖を手入れして


貴女は幸せに時を過ごすだろう
今は休息の時ゆっくり休むと良いだろう

優しき邪悪己が翼を連れ旅に出る
遠くて近く近くて遠い 3つの華が入り乱れ
そは懐かしき夢の島


貴女は再び水晶を求めるだろう
深く 強く
貴方の指差すそのままに

貴方は高笑いをあげるでしょう
求めし物の最後のかけら ついに貴方の掌
決して自分で動いてはいけない
でも 動かなければ水の泡


貴女は水晶に魅入られる
そして貴女は入れ物を求め 神と取引をする
きっとそれは終焉の始まり

貴方は貴女を手に入れる
まず行うは絆の再編
何に先んじても行いなさい
でないと翼が地に落ちる




やっぱり、『私』と『あたし』の結果がごちゃ混ぜになっている。
それにしても、妙に意味深な台詞が多いわね。
これはネオンお姉さんには見せられない。
見せなくて済む方法は……

「どうだった? もし悪いことが書いてあったらそれに書いてある行動を回避すれば避けることが出来るからね。折角出来たお友達が不幸になるなんて嫌だもんね」

「う、悪いと言いますか、この内容は……」

「あ!! ごめんね私は占いの結果は見ないようにしているの。だからアドバイスとかは出せないの。でも、4行以上あってよかったよ。もし、4行無かったらその人はそのままだとその週に死んじゃうから……ミネアちゃんが死ぬのは悲しいよ」

「はい、あたしもネオンお姉さんが死んだら悲しいです」

それは本当だ、短い間しか話してないけどネオンお姉さんといると安心できる。
まるで自分の半身に出会えたみたいに……

「よしっ、それじゃあ今度は服でも見に行こうか? ミネアちゃん時間は大丈夫?」

「はいっ大丈夫です!!」

あたしとネオンお姉さんは町の雑踏に繰り出していった。



修行編その⑦妹……

私はお兄様を愛している。
それは生涯変わる事の無い思い。
例えこの身が朽ち果てようと、例え悠久の時が流れようと。
お兄様、お慕い申し上げております……


私は自分が嫌いだ。
お兄様と違うきつめな目も、弱視な為かけている眼鏡。
そして何より、お兄様との最大の違いである何の深みも無い白い髪も。
何もかもが嫌いだ。
全てお兄様ではなく私達の両親を思い出させるから。
私はお兄様を捨てた愚かな二人の娘……
お兄様が苦労していた時にのうのうと親と過ごしていた罪人。
お兄様、どうか私に罰を与えて下さい。
私をもっと使ってください。
お兄様の為なら私の全てを差し出します。
そう、例え私の命でも。

私は8歳になるまで兄がいることなど知らずに育った。
父も母もそんな事等教えてくれなかったから。
それまでは3人仲良く暮らしていく事こそが幸せだと思っていた。
休日には3人で外出し、欲しい物は買ってもらえる。
多少父が忙しく寂しかった事もあったが、それでも幸せだったと思う。
しかし、ある日私は出会ってはいけない人とすれ違う。
自分に似た容姿、吸い込まれるような深い深い黒をまとう人物。
遠目に見ただけだったが、酷く興味を惹かれたのを覚えている。
でも、親にはその人の事を聞けなかった。
私の運命の出会い。

次にその人と会ったのは近所の公園で友達と遊んだ帰り道。
電信柱の影にその人が立っていた。
わたしはまた会えたことが嬉しくてその人と話しこんでしまう。
しかし、遅い時間であった為その日は再開の約束をして直ぐに分かれた。
それから何度も会っている内に私はその子にひどく惹かれている自分に気がつく。
同姓、しかも自分より幼い子に対してだ。
初めはその気持ちがなんだかわからなかった。
それで母に聞いてみることにしたのだ。

「お母さん、私どんな時でも思い出しちゃう子がいるんだけど……その子と会ってると胸が暖かくなって、その子に会えないと胸がとってもざわざわするの。これって病気なの?」

「あらあら、この子ったら。いつの間にそんなに大きくなったのかしら? それはね貴女がその子に恋しているのよ。子供子供と思っていたけど、もう初恋をする年頃なのね? それで、相手はどんな子なのかしら?」

えっ、これが恋って言う物なの。
本では見たこと有ったけど。
そっか……
お母さんは応援してくれるかな?

「えっとね、私より少し年が下で顔は私に似ているかな? それでね、髪の毛は吸い込まれるような深い深い不思議な黒色なの。いつも黒いドレスを着た可愛い女の子だよ?」

母の返事が途絶えた。
途中まで笑顔で聞いていたのが今では顔面蒼白。
小刻みに震えている。

「え、そんな。ま、まさか『リッポー』……でもそんな筈は。あの子は確かに殺して流星街に捨てたはずよ!!」

「え、あの子『リッポー』って言うんだ? お母さんの知っている子?」

「だ、駄目よ□□□□その子と会ってはだめ!! ね、お母さんの言う事が聞けるわね?」

「い、痛いよお母さん……それに怖い」

私は母に肩をつかまれていた。
そして、半ば脅しに近い形でその子と離れるように言われる。
や、やだ。
私は離れたくない。

「で、でも……」

「でもじゃ有りません!! そう、貴女もあの子と同じなのね? 子供なんていうのは親の物なのよ、黙って私の言う事を聞いていれば良いの!!」

私の肩を外そうかと言わんばかりの形相と力で脅しつけられる。

「わ、わかった!! もうあの子とは会わない。だからいつものお母さんに戻ってよ!!」

すると突然笑顔になる。

「そう、貴方は偉い子ね。やっぱりあんなのとは違うわ。それで良いのよ」

私にはそのとき分かってしまった。
ずっと優しいお母さんだと思っていた女は実は私など見ていなかったのだと。
ただ人形を可愛がるようなつもりで私に接していたのだと。
私は何かに比べて出来の良い人形だから可愛がられていたに過ぎない。
ああ、この人は……

それからの私は母に誉められたいと立派な人形を演じるのに必死だった。
次第に私は感情が表に出なくなり、口数も減っていく。
必死に学校の成績を上げ運動も頑張った。
でも、母は気に入らないのか段々私に暴力を振るい始める。
私の日常は終焉を迎えた。

私は人形。
母と思っていた人間は人形遣い……
いらない人形はポイポイ捨てる。

疲れきった私は暫く行っていなかったあの子の元を尋ねる。
一瞬変わり果てた私を見て表情を動かしたが、直ぐに笑顔になった。

「どうしたのその傷。そしてその表情。ねえ、私にもう一度貴女の笑顔を見せてくれないかしら? 私はあなたが笑ってないと心配でしょうがないわ。さ、これでその傷をお拭きなさいな」

私は堪えていた物が全てあふれ出してしまった。

「ごめんなさいリッポーさん。私は出来のわるい人形。貴女に優しくしてもらう資格なんてないのに。でも、今だけは泣かせて? またいつもの人形に直ぐ戻るから」

「あら、リッポーってそう……あの女に聞いたのね? でもごめんなさい。私はリッポーと言う名前ではないの。リッポーはあの女に殺されかかってね。今はまだかろうじて生きているけど、私がいなくなったら直ぐに死んでしまうでしょう……あの女は嫌いな人形は捨ててしまうから。だから、私が貴女をあの女から守ってあげるわ。つらくなったらいつでも私を呼びなさい。私の名前は『ミネア』そうすれば貴女を守ってあげるから。ね、『マーニャ』?」

「え、私はそんな名前じゃあ……」

「良いの。あの女に与えられた名前なんて捨てちゃいなさい。本当の名前は私だけが知っていれば良いの。ね、マーニャとして第二の人生を始めましょう?」

そして、私は完全に人を捨て人形になった。

「はい、ミネアさん私は貴女だけの人形のマーニャです。あの女に与えられた物なんてもういりません。ミネアさんだけいれば……お願いです。あの女に代わって私の持ち主になって下さい」

「あらあら、私は貴女をそんな物にしたくはないのだけど。でもそれが望みならしてあげるわ」

その時のミネアさんの表情は私だけの物。
例えどんな人にも、そう、お兄様にも語ってあげられない。
私だけの宝物。

その後、ミネアさんと一緒になってあの女に仕返しをした。
そうして、私があの女に恐怖していた時何もせずに他の女の人と遊んでいたらしい父にも報復をした。
社会的信用と男性である証を取り除くと言う報復を。
聞いた話だとあの女はその後、父と離婚し精神を病んで精神病院に入ったらしい。
そこである春の日に首をつっているのが見つかったそうだ。
まるでその姿は天井につられた人形のようであったと言う。
そして父は母と離婚して直ぐにトラックに轢かれて死亡したらしい。
死ぬ間際まで生まれ変わってやり直したい。
テンプレ転生がどうとか言っていたそうだ。
何のことかわからない。
錯乱した男のことなんて興味もない……

その後、私の兄だと言うリッポーさんという人に会わせて貰った。
ミネアさんが助けた事で命を繋ぎとめたらしい。
私はミネアさんには感謝してもし足りない。
それで実の兄であるリッポーさんにはわるいが、私はミネアさんをお兄様と呼び深く愛するようになって行った。

そう、ミネアさんとリッポーは○○なのだから……












修行編その⑧懺悔する者

私は前世で二人の子を儲けた男だった。
しかし、私は妻の狂気に気が付くことが出来なかったのだ。
ああ、私の子供達に謝りたい。
駄目な父親で悪かったと。

私達の子リッポーは幼い頃から聡明な子供だった。
生まれて直ぐに私達の言葉を理解していた節がある。
この子は将来は学者か博士かと喜んだ物だ。
だが、頭が良すぎた反動か行動にはかなり奇妙な点が目立つ。
まず妙に女の子の格好をしたがる。
そして、斜に構えた所がありよく嘘をついた。
でも、私はそんな事は気にしない。
可愛いわが子には違いないからだ。
それに、実に頭が良かったから神童ともてはやされたし。
正直語学や国語等は2~3歳の頃に私を越えていた。
確かに少し頭が良すぎたが十分に愛したつもりである。
だが、妻はそんな子供が気に入らなかったらしい。

妻が次の子供を妊娠したのがわかった時急に我が子が行方不明になった。
私は方々を必死になって捜し歩く。
警察にも何度も頼み込み必死で捜索して貰う。
だが、身重の妻を気遣って捜索を断念せざるを得なくなった。
妻に不安を与えてはいけない。
泣きながらあの子の事は諦めると言った妻をこれ以上追い詰めたくなかったからだ。
そうして、長女が生まれる。
私はリッポーの分までこの子を愛そうと誓った。
そうして幸せな日々は続く。
その子が8歳になるまで。
いつの頃からか家庭内に笑いが無くなった。
子供は常に怯えているし、妻は妙にぴりぴりしている。
私は二人を遊びに連れて行ったり、笑い話をしたりしてあかるい家庭を取り戻そうとした。
だが、あるとき聞いてしまう。

「リッポーは私が殺して流星街に捨てたのよ? 何であの子がその存在を知っているの? やっぱりあの子もリッポーと同じで薄汚れたあの男の血を継いでいるの?」

何と言うことだ……
まさかリッポーは妻に殺されていたとは……
まさか娘も、それに薄汚れた男とは私のことか?
このままではあぶない。
早くあの子を助けてあげないと。
そんな時だった、あの女性に出会ったのは。
正直私はチャンスだと思った。
この女性とやり直してあの子にあんな女ではないやさしい母親をあげようと。
それがリッポーへの供養にもなると。
だが、私は3たび裏切られた。
ある日その女は私に向かって行う。

「貴方は優しかった。だからチャンスをあげたのに、貴方はあの子を守れなかった。それどころかこうして他の女と遊び歩いている……所詮貴方もあの女と同じですね」

そう言うとその女は死んだはずのリッポーになった。
でも、生きていれば11歳のはず。
リッポーではない。
そうか、あの子の幽霊か……
そうだな、駄目な父で悪かった。
ごめんな、ごめんなリッポー。
次は間違わないから。
もしまたやり直せるのなら間違わないからな!!
そして、娘もごめんな。
私は駄目な父親だった。
あんな女を信じていたなんて……
そうして私は気を失っていた。

目が覚めると世間に私のわるい評判が広がっていた。
その上私の男性機まで切り取られている。
きっと妻の仕業に違いない。
そこまで私がにくいか?
いいだろう、私も腹をくくった、もう生きていても仕方がない。
娘もいなくなっていたし。
きっとまた妻が殺したのだろう……
全て私のせいにするが良いさ。
私も子供達のところへ向かおう。
本当にすまなかった。
もしやり直す事ができたら……
そう思い私は一縷の希望を託し転生の基本アイテムであるトラックに突っ込んだ。

そして今私はやり直す事が出来た。
しかし、前世の罪は思いのか、私の望まぬほうへ事態は進んで行く。
まず女性として生まれ変わった事。
これは実に厄介な問題であった。
そして、念能力という社会の裏に潜むものの存在を知らされる。
私は特質系であった。
そして、何よりもつらかったのは私が死んでから6~80年たってしまっている事。
これでは私の子供たちを助ける事が出来ない。

でも、もう二度と子供に対しては間違いを犯さない!!



修業編3月第2週目―――

私は機嫌が良かった。
それはそうだろう、再びお父様を見つけることが出来たのだから。
姿形は変わってしまったが、あの仕種……間違いない。
フフフ、どうしてくれようかしら?
それにしても、今回ばかりは運命に感謝ね。
お父様、貴方が私達を覚えていなくとも、私はあなたを覚えています。
貴方にはさして恨みはないけれど、妹を救えなかった罪はらして貰おうかしら。
さーて、どのような罰がふさわしいのかしらね?
前世のように簡単には終わらせない。
『あたし』の慰み者として永遠に生きてもらおうかしら?
そのためには『あたし』に知られないようにお父様を処置する必要がある。
そうだわ、丁度良いから久しぶりにホームに集まろうかしら。
そこで、『あたし』に1週間ほど気持ち良い夢を見てもらいましょう。
お父様が人間に似た別の何かになる間ね……





修行編その⑨過去の財宝

「お、お兄ちゃん、クラピカお姉ちゃんごめんなさい私達急用が出来ちゃったみたいなの。二人の修行を見られなくてごめんね……」

「なーに、気にしないで下さいよ、お二人が急がしいのは分かってた事ですよ。なあ、クラピカ?」

「ああ、その通りだ。それより良いのか二人とも、私は名目だけとは言え二人に雇われている身だ。ついていった方が良いのではないか?」

「う、ううん、大丈夫だよ。私達の知り合いが怪我しただけだから。お兄ちゃん達は修行しててよ」

というか、ついてこられては困る。
いずれはあの二人の事も話なさなくてはならないが、今はまだそのときじゃあない。
それに、二人には修行を続けてもらわなくては困る。
特に神字の習得が遅れているレオリオには。
仕方がない、レオリオにはあれを渡しておくか。
もう10年ほどは昔になるが、とあるゲームの開発を手伝った時のお礼の一つ。

「あ……そ、そうだお兄ちゃん。これを渡しておくね?」

「何ですこの兜? って重!!」

「そ、それはね記憶の兜って言うアイテムなの。それを被っている時に見聞きした事は絶対に忘れないんだよ。神字の勉強の時に使ってね?」

「またまたー、そんなアイテムがあるわけないじゃないですか? もしそんなアイテムがあったら……」

「馬鹿かレオリオ、ミネアこれは念の産物だな?」

へー、流石はクラピカ。
ちゃんと理解したんだ。
それに比べてレオリオは……残念ね。

「う、うんそうだよ。それはねG.I.って言う念能力者専用ゲームのクリア商品の一つなの。勿論念能力で作られたものだよ。昔ねそのゲームのテストプレイヤーに私達のお師匠様がなってね貰ってきたんだって」

って、その頃には師匠はもう死んでたけどね。
本当は私達は開発者側だし。
私達はNo.64~71の薬系のアイテムの開発に協力した。
中でも私の能力を元にして作ったNo.65魔女の若返り薬は魅力的なアイテムだろう。
私達と彼らの半年にも及ぶ試行錯誤の結果完成した薬だ。
そのお礼にゲームクリアと同じ商品をお礼に貰ってきた。
そこで私達が選んだアイテムは。

まずNo.14縁切り鋏
これはBランクのアイテムで効果は2度と会いたくない人の写真をこの鋏で切ればその人と二度と会わないという物。

次に選んだのはNo.44大俳優の卵
これもBランク、効果は毎日手で3時間暖めると1~10年後に大俳優になれると言う物。

そしてさっきのNo.90記憶の兜
これはAランク、効果はさっき言った通りだ。

私達は4人で行きこれら3つのアイテムを貰って帰ってきた。
1つ少いのはむかつくが仕方の無い事でもある。
ちなみに開発者達には価値の低いアイテムばかりを選んだ私達は変な目で見られた。
まあ、大天使の息吹という死んでなければどんな傷でも治るアイテム等の中では確かに冴えないアイテムだろう。
だが、私達にはこれが最善!!
何より薬系のアイテムは材料をそろえるのは至難だが、私たち自身で作れるし。
大天使の息吹も医者の私達にはどうとでもなる。

まずこの中で大俳優の卵はもう使った。
これで私の演技力を強化したのだ。
最早私の演技を見抜けるものは世界にはいないだろう。
そして、縁切り鋏。
これで記憶を探る能力を持つ者をハンターサイトで高い金を出して探し縁を切る。
唯一その能力を持つだろうと言うことだけは分かったが、写真の手に入らなかった幻影旅団のメンバーを除いて。
最後の記憶の兜、これは勉強用だ。
肉体戦ではなく、知識戦メインな私達には最も重要な3点だと思う。
他にはメイドパンダというアイテムも欲しかったのだが諦めた。
これはぶっちゃけただのメイドだが、私も妹も料理が出来ないから……
心の贅肉だからと諦めたが。
まあ、それはさておき。

「それを使えばお兄ちゃんも直ぐに神字を覚えられると思うよ」

「でも、貴重な物なんじゃないんですか?」

「う、うん。だから壊さないでね。それとごめんね、クラピカお姉ちゃんには何もないの……」

「いや、別に気にしなくてもいい。私は気にしていないよ」

「で、でも……」

目に心配の色をのせる。

「本当に大丈夫だ。それより二人とも早く家を出なくて良いのか?」

「あっそうだった!! それじゃあ、お兄ちゃん達留守はお願いね?」

「おう、任しといてください」

ふむ、まあ、クラピカもいるし大丈夫でしょう。
レオリオだけだと安心できないけど。
それじゃあ今週も頑張りましょうかね。








修行編その⑩ある邪教集団

「「ロリーター、ロリーター!!」」

「教祖様、神からのお電話です」

「わかった」

「もしもしミネアさんお電話変わりました。僕に何かようですか?」

「えっホームに集合しろ? 『あたし』もつれてこいですか? わかりました。それでは早速向かいます」

「おい!! 副団長はいるか?」

「ハッここに」

「おお、流石は超能力者。任せたぞコイヴミ=イブキ君。宇宙人のロングゲート=スノーや未来人のキョヌーン。それから平のジョン=スミスにも一応伝えといてくれ。では後は任せたぞ」

「分かりました教祖様。それでは我らにもお土産お忘れなきよう」









修行編その⑪あたし

あたしはとっても幸せだった。
こんな気持ちは初めてかもしれない。
ネオンお姉さん……❤
初めての友達、あたしだけの友達。
そう、私でもリッポーでもお母様でもないあたしだけの友達。
楽しかったな、やさしいかったし。
ああ、嬉しい。
ネオンお姉さん。
ネオン…お、姉さん……

そのままあたしの意識は闇に閉ざされていった。




さて、『あたし』の確保とネオン=ノストラードの確保が終わった。
これでこの二人に関して後戻りは出来なくなったわね。
後は慎重を期すためにホームに戻ってやりましょう。
いくわよ二人とも!!


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