2001年12月上旬 北海道 旭川 帝国軍第7師団駐屯地
昨日から降り続いた雪も今日の昼にはやみ、今では肌が凍てつくような寒さになっている。
昔では初冬とも言えるこの月に、ここまで冷え込むことは滅多になかったと聞いたことがある。
しかし、ユーラシア大陸の山脈がすべてならされてしまった今では特に珍しいことではない。
ギュ、ギュと、極低温時特有の雪を踏む音を響かせながら夜空に浮かぶ満月を見上げる。
あそこから人類の敵がやってきた。今だに戦闘処女である俺はJIVESでしかお目にかかったことのない宇宙人共、BETAだ。
実際に存在しないシミューレーションとはいえ大地を埋め尽くし全てを蹂躙してくる様を見た時の恐怖は、今でも忘れられない。
甲22号ハイヴを米軍の介入などもあったが攻略したことにより、本州、四国、九州をBETAより奪還することができた。
だが、そのことによりユーラシア大陸からの侵攻に備える長大な戦線と、喉元に突きつけられたナイフである
佐渡ヶ島周辺に戦力を、特に機動力に長ける戦術機を集中させなくてはならなかった。
そのしわ寄せが、この北海道に寄せられた。
戦術機部隊はあるけれどその数も他戦線にくらべ少なく機種も第一世代機の撃震で、
しかもその型も古いときたものである。部品の供給もBETAの圧力が強い戦線が優先される。
このような状態で部隊が動いていられるのも優秀な整備兵のおかげといえるだろう。
こんな戦力でもBETAに侵略されていないのは樺太でソ連が文字通りの死闘を繰り広げているからだ。
BETAが水中に入る際一定数の群が集まるまで停止する習性を利用し、
そこに砲爆撃を浴びせる戦術により渡河してくるBETAの数を減らすことによって持ちこたえている。
しかし、この戦術は過去に使用されてきたが圧倒的なBETAの数の前ではただの時間稼ぎにしかならない。
BETAとの戦いでは俺たち人類は反撃の糸口すら、
見つけられていない。
「マツ、こんなに寒いのに外にいたんだ。」
同期の梅宮榛名が白い息を吐きながら話しかけてきた。
「ミヤこそ、そんなに寒いのにどうしたのさ。」
「今日は冷えるんでPXで合成甘酒が出るっていうから呼びに来てあげたのよ、感謝しなさい。」
ミヤは薄い胸を張りながら偉そうな態度をとる。
「どうせ寒い中外にいたのも小難しいこと考えてたそがれてたんでしょ。そういうのを『ちゅうに病』なんだって竹下中尉が仰ってたわよ。」
また竹下中尉のよくわからない造語だ。
だけど良い意味の言葉では無い事だけは確かだ。
「はいはい、外で話しててもしょうがないから早くPXに行こう。」
少し腹が立ったのでミヤを置いて足早にPXに向かう。
「あっ、ちょっとなんで呼びにきた私を置いて先に行こうとしてる訳!」
待ちなさいよーと、少し声を張り上げながら走ってくるミヤに追いつかれまいと自分も駆け足になる。
きっとこの北の大地が戦場になるのもそう遠くない。
思いつつも、少しでもその日が遠くなることを祈るしか一介の戦車兵でしかない自分にはできなかった。
Muvluv alternative 『北の大地で』
2001年6月上旬 北海道 旭川 帝国軍第7師団駐屯地 駐屯記念日
暑い。
額には汗がにじみ、着込んでいる戦闘服の中は蒸れているように感じる。
そんな中だけれど、駐屯祭の人の入りはとてもいい。
物資が不足している現在では民間での催し物は殆ど無くなってしまった、その影響もあるんだと思う。
自分は装備展示の説明係を部隊の下っ端なので任命された。
周りには74式戦車や自走高射砲、MLRS等の車両も並び威風堂々日本帝国軍ここにありといった感じだ。
しかし、この新型の90式戦車乙型含め装甲車両の装備展示の周りには人だかりは全く無い。
自分も含め他の車両の説明係も手持ち無沙汰となっている。
なぜか。
人だかりのある方へ視線を向ける。
八七式突撃砲を構え民衆受けしそうなカッコイイ格好をしているゴツイ巨人。
そう、戦術機だ。
歩兵は戦争の華であり、戦車は陸戦の女王であり、砲兵は戦場の神である。
そんな時代はとっくの昔に終わってしまった。BETA相手の戦争では戦術機無しでは戦線の維持すらままならない。
空も飛べず地面に這いつくばっているだけの鈍亀には人気は集まらない。
自分も徴兵時の衛士適正の検査までは衛士なるんだと意気込んでいたものだ。
やっぱりカッコイイよなぁ戦術機、そう思いながら自分の乗る戦車を見上げる。
90式戦車乙型。
対人戦への考慮を少なくし、BETA戦へ特化させた戦車だ。
弾薬室の容積増大による携行弾数増加。搭乗員への網膜投影の採用。センサー増設。車載機銃の遠隔操作。足回りを強化し速力を高める等、他にもあるがどれも戦車を長く戦場に留まらせ、BETAを一匹でも葬り去る為の物だ。
ひよっこだけど一戦車兵としての誇りは持てていると思う。
竹下中尉に言ったら鼻で笑われると思うけど。
「ねえ、お兄さんはそこで立ってなにやってるの?」
突然幼い感じの女の子の声に呼びかけられ驚く。考え事をすると周りが見えなくなる、僕の悪い癖だ。
話しかけてきた活発そうな女の子を見る。見た目は十歳くらいだろうか、透き通るような長い銀髪を頭の後ろで纏めている。いわゆるポニーテールって奴だろう。瞳は深い青色だ。日本人にはない綺麗さで、まるでお人形さんみたいだ。
見るからに日本人ではない。北海道も疎開先ではあるが、それは日本人だけの話であって外国系の人間はウロウロしてることは無い。
「えっと、僕は悪い宇宙人共をやっつけるためのこの戦車の説明をやっているんだ。
どうだい、乗っている僕がいうのもなんだけどカッコイイだろ。」
そういうと少女はニ、三回瞳をまばたきさせる。
「スッゴーーーイ!お兄さんBETAと戦ってるんだ!!」
少女は瞳を輝かせスゴイ、カッコイイねーと言いながら90式の周りをグルグルを見て歩きだす。戦ってると言われたが未だに戦闘処女なんだけどなぁ、と思うが水を差す必要も無い。
「お嬢ちゃん名前はなんていうんだい?」
すると90式の見るのをやめ、こちらの正面まで来て
「私はリュボフっていうの。お父様がつけてくれた大切な名前なんだから。」
リュボフという少女は胸を張りながら言う。
「あー、そのリュボフちゃんはあっちの戦術機は見に行かないのかい?僕が言うのもなんだけどこの90式よりカッコイイし。ほら、同じ年くらいの子も沢山いるだろう?」
撃震の方を指さしながら言うとリュボフは目を伏せてしまう。今まで元気そうに動きまわっていたのが嘘みたいに大人しくなってしまう。
「……戦術機は好きじゃない。あれに乗っていったお姉様達は皆帰って来なかったから。」
お姉様達? 帰って来なかった?
「そ、それって君のお姉さん達は衛―――
「リュボフ!そばを離れたら駄目だと言ってあっただろう!」
「お父様!」
表情を暗くしていた少女は声をかけてきた壮年の男性に駆け寄っていく。
その顔はまるで太陽のような笑顔だ。コロコロと表情の変わる子だと思う。
「いいじゃない、お父様の位置を感知できる範囲でしか離れてなかったんだから。」
「リュボフがわかっていても私が心配なんだ、わかるね?」
「……はーい。」
男性に叱られたのかリュボフは眉をハの字にし、つまらなそうに返事をした。
「君、リュボフの相手をしてくれていたのか。すまなかったね。」
「いえ、こちらも手持ち無沙汰でしたから。相手をして頂いていたのはこちらです。」
「いや、改めて礼を言うよ。急ぎの身なんだがリュボフがどうしても見ていきたいというのでね。会って早々なんだが失礼するよ。」
「お兄さん、さようならー!」
そう言って二人は足早に去っていった。仲の良さそうな親子だったな、似てなかったけど。
その後は特に何も無く、戦車の周りは閑古鳥が鳴いたまま駐屯記念日は終了となった。
思いついたネタを文章にするって難しいですよね。
頭に情景は浮かんでいても、それを表す単語が出てこないっていう。
日本語力の低さを感じます。