<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[29762] 【ネタ】ネフェルピトーの逆行(H×H)
Name: ピトピト◆d6158eab ID:8f6c127f
Date: 2011/09/15 13:57
――ここは…どこニャ??

僅かに残っている意識で、ピトーは考えていた。




自分の周囲は、白い靄のようなもので満たされている。
靄には、力強くて暖かいナニカが含まれているような気がした。



こうして意識がある以上、当然、自分の身体もこの摩訶不思議な空間に存在しているはずだが――

なぜか、敏感であるはずの自らの嗅覚が、何の匂いも捉えない。
普段なら、無音など感じることのない優れた聴覚が、何も音を伝えて来ない。




要約してしまえば、五感が全く働かないのであった。


まるで、自分が存在していないかのような、未知の感覚。
それでいて、ある程度は思考できているのだから不思議だ。





ピトーは、最初、首をもがれたのかと思った。

首が胴体から離れても、少しの間は意識があると、仲間から聞いたことがある。

最後に己が闘っていた、あの少年――否、青年なら、自分の首をもぐのは容易いことだろう。


そうでないとすれば、あの青年の念能力なのか?


……その可能性は、絶対にありえない。
なぜなら彼は、自分よりも明らかに圧倒的な強者であったのだから。

元より、あの青年の攻撃を2発くらった時点で、ほぼ死にかけだったのだ。
わざわざこんな面倒くさい真似をするわけがない。





ピトーは、ただ、とにかく分からなかった。
自分がなぜここに居て、こんな思考をしているのか。

だから、ただ自分の本心を心の中で呟いた。


――早く、戻りたい…ニャ…



それがきっかけだったのかは分からない。




だが、ピトーがそう呟いた瞬間。

猛烈な眠気が、ピトーの意識に襲いかかった。
それは、いかに強靭な蟻の精神をもってしても乗り切れぬほどの眠気。



――やがて、ピトーの意識は、なすすべも無く、深淵へと飲み込まれていった。









*************************************************************




濃密な緑の香りが、鼻孔をくすぐる。
頬には、乾いた砂特有のざらついた感触。

――木漏れ日が差し込む森の中で、ピトーは目覚めた。


ゆるやかに、深呼吸しているうちに、だんだんと目が覚める。
やがて、脳が完全に覚醒すると同時に、ピトーは思い出した。


王に届き得た青年との戦い、
それにあっけなく負けた己の惨めさ、
王を守護できなかった無念、

…そして、最後に辿り着いた、不思議な空間。



一体、あれからどうなったのか。
王は?なぜ自分は全快して妙な森にいるのだ?

全く状況が分からない。
致命的な情報の欠落。

――今はとりあえず、情報収集に徹するか。

ピトーは、思考と同時、即座に円を展開した。
周囲の敵の有無を確認しなければ、落ち着いてはいられない。


「んニャー?」


展開すると同時。

ピトーは、首を傾げた。


……おかしい。


ここの森の周囲を、一通り円で探ってみたが、こんな場所は見たことが無い。
NGL内に、ここまで広大な森は無かったはず。

ここはNGL外なのか?
念で飛ばすほどの意味があるとも思えない場所だが…。


怪しむピトーは、ふと、東に2kmほどの地点に、微弱な生命反応を感じ取った。


おそらく狩人かなにかだろう。
どんどん弱くなっていくオーラが、手に取るように分かる。


――それと、同時に閃く、現時点での最善手。

!!

…そうだ、狩人から、付近の情報を聞き出せば良いのではないか?


人間が、数度のまばたきに要する程度の時間。
それは、策を考え付いたピトーが、狩人のもとまで駆けるのにかかった時間である。


とはいえ、ピトーにとっては、準備運動にもならぬごく普通の歩行でしか無い。


軽やかな音をたてて、ピトーが狩人の前に着地した。
まさに、その姿は、猫を思わせるしなやかさであった。




「ハジメマシテ、こんにちは」



ピトーは薄く嗤って、血染めの狩人へと話しかける。
深い闇をたたえた瞳は、人間で無い事を如実にあらわしていた。



「ちょーっと、ボクの質問に答えてくれる?もちろん、傷は治すからさ」



軽い調子で喋りながら、ピトーは狩人の状態を観察する。


熊にでも襲われたのか、深い爪痕が腹に一か所。
無論、本当ならこんなクズに貴重なオーラを使ってやる義理は無い。

しかし今は情報の為に狩人の治療が必須。

面倒くささを感じながらも、ピトーは、狩人に意識を集中する。



「…き、きみ、は…一体…。…にんげん…なの、か…?!」




死の恐怖か、傷の痛みか。それともピトーに対する畏怖か。

狩人は目に絶望を宿しながらも、ピトーに問いかける。

うわごとのような狩人の声を聞きながら、ピトーは何も答えずに『玩具修理者』を発動させた。







――否。

正確には『玩具修理者』を、発動させるつもりだった。







直後。




「…ニャんとっ?!」

ピトーの顔に浮かんだのは、紛れもない驚愕であった。
ある程度のことでは驚かないピトーでも、さすがに驚かざるをえない事象。





ピトーは、そこで初めて、己の『玩具修理者』が使えない事に気付いたのである。





なぜか、いつもの『発動する』という感覚の欠片も感じられない。
今まで『玩具修理師』が使えていたのが嘘のようだった。


そう思考する間にも、数度『玩具修理者』の発動を試しているというのに。
無反応、というほかない。






しばし、時間が凍りつく。


ピトーから洩れる、僅かな苛立ちが、完全に狩人の心を折った。

『玩具修理者』は使えなくとも、ピトーの邪悪なオーラは間違いなく健在である。



「…ごめん、ボク、やっぱり君を治せそうにないや」


ピトーは、ひとまず狩人の延命を諦めることにした。
理由は分からないが、『玩具修理者』が使えない以上、この狩人を延命させることは不可能。


「まぁ…そうだなぁ…。
希望を持たせちゃった責任として、一思いに殺してあげるよ」



そう言い放つと同時に、手を一閃。

狩人の首へ、吸い込まれるようにピトーの手が接近していく。

何が行われるのかも分からずに、ただ茫然としている狩人の顔が、ちらりと視界に入る。




なぜだかその様がひどく面白くて、ピトーは、嗤いながら手の速度を速めた。





ピトーの爪が狩人の首の皮にかかり、血を噴出させ、そして。







狩人は殺される……それが避けられない運命――









――であるはずだった。



[29762] 1-1 「ピトー×街×自覚」
Name: ピトピト◆d6158eab ID:8f6c127f
Date: 2011/09/15 17:38
――しかし、確定されたように見えた運命は、あっけなく覆った。




「!!!」



何だこれは?!



「…ぐぁっ……っ?!ぅっ……!っ……!!……!!」




突如、ピトーが胸を押さえてうずくまる。
狩人を殺そうとした瞬間、声も出せない程の激痛が、ピトーに襲いかかったのだ。

その痛みは、死にかけた時の比ではない。

死そのもののような痛みであった。




ピトーは、だんだん薄れゆく己の意識を必死で繋ぎとめる。

苦しげに洩れる呼吸音と、滴り落ちる冷や汗が、ピトーの余裕の無さを物語っていた。






――しばらく地面に座り込み、荒い呼吸を繰り返し続けていると、ようやく激痛がおさまり始めた。


そして、ゆっくり自我を取り戻したピトーは、ひたすら考える。


…今の激痛は、目の前に居た狩人、もしくは第三者による念の攻撃では無い。
オーラの気配は全く感じられなかった。


ではあの激痛の原因はなんだったのか?



「――他者からの攻撃による痛みではないと仮定すると…、
まさか、ここに飛ばされたことによって、ボク自身の体に何かが起きている?」


信じられない結論に、ピトーは思わず目をまたたかせる。


「そんな念能力があるのかな…?…う~ん…?
あの痛みを念で再現するのは大変そうだけど…」


考えれば考えるほど、疑問は湧き出てくる。
ピトーは、解決しそうに無い思考を切り上げた。





「ま、敵が居ないなら、それで良いニャ!」





俯いていた顔をあげ、いつのまにか喋らなくなった狩人の様子をうかがう。


なぜ騒がないのかと疑問に思えば、殺し損ねた狩人は、とっくに出血多量で死んでいた。


死体にも特に怪しい点は見つからない。




とりあえず今は、狩人から情報が聞き出せない以上、人間の街を探して情報収集するべきだろう。


そう結論付けたピトーは、狩人がかぶっている茶色のハンチング帽を取り、自分でかぶった。

さすがに、人間の街でこの耳は目だってしょうが無い。
尻尾は隠せないが、隠せるところだけでも隠しておくべきだ。



ピトーは、片手で、不安定な帽子を押さえながら、軽く跳躍する。

鬱蒼とした、葉の厚い層を突き破ると、透き通った青い空がピトーの目に映りこんだ。


綺麗な景色には全く何の感慨も抱かず、冷静に周囲を観察する。
それなりに高く跳んだつもりだったが、街らしきものは見えない。


見下ろす限り森しかない――とはいえ、南東の方は森の木々がまばらになっているから、一応人里は近いのだろう。



観察を終えたピトーは、重力に従って木に着地する。

それと同時に、爆発的な力を足に込めた。


駆けだすと同時、ピトーが立っていた木は、木端微塵に粉砕される。





轟音をとどろかせつつ、ピトーは圧倒的な速さで南東に向かった。








*********************************







ピトーの読み通り、森から遥か南東には、街があった。


それなりに大きく、賑やかな町。
看板を見た限りでは、ザバン市という街らしい。




街に入ったピトーは、とりあえず聞きこみ調査をすることにした。

自分の近くを通り過ぎる暇そうな人間に、次々とNGLについて質問していく。



1人、2人、3人…。



…今度は、白いシャツを着た、背の高い青年に声をかけた。

ピトーにとって、人間を怖がらせずに情報を聞き出すのは、かなり骨が折れる作業である。


ゆえに、いつまでも聞きこむつもりは全く無く、この10人目の青年で最後にするつもりだった。




「――ごめんね。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

ゆっくりと振り向いた青年の顔に浮かぶのは、人の良い笑み。

「なに?…少しなら、別に構わないけど」

ピトーは、自らの邪悪なオーラを押さえこみ、無邪気な人間を装いながら、青年に尋ねる。


「NGLって、最近事件で大変そうだよね。キミはどう思う?」


言葉を聞くと同時、首を傾げる青年。



「…NGL?何のことかな??」







――その後、何を話して青年と別れたか、ピトーは覚えていない。

ピトーの頭を埋め尽くしていたのは、疑問であった。




それも無理は無い。


聞き込み調査をした10人のうち10人全員が、NGLを知らなかったのだ。
嘘をついている様子も無かったから、本当に知らなかったのだろう。



人間に疎いピトーでも、さすがに、この状況が異常であることに気付いた。





そして同時に、嫌な予感。
ピトーの優れた第六感は、軽い警鐘をならしていた。



誤魔化しきれない違和感を感じながら、ピトーは聞きこみ調査を諦め、他に情報を得る手掛かりになりそうなものを探し始めた。




「面倒だな…さっさとNGLの状況が分かれば良いんだけど…」


歩きながら、そう愚痴を呟くピトー。
心底面倒くさそうな空気が漂っている。



愚痴を洩らしながら、長期戦を覚悟したピトーであったが――

ピトーが、現在の自分の状況を把握するまで、それほど時間はかからなかった。





きっかけは、何気なく拾った真新しい新聞。
全く折り目もついていない様子から、捨てられたのはおそらく今日だ。



新聞の字を気まぐれに眺めていたピトーは、ようやく気付いたのである。








今日が、1998年12月30日である、という信じられない事実に。


――それは、ピトーが過去に戻ってしまっている事を示す日付であった。



[29762] 1-2「問題×現状×試験」
Name: ピトピト◆d6158eab ID:8f6c127f
Date: 2011/09/15 17:31




――ピトーがザバン市に到着してから、もう一週間が過ぎようとしている。






ピトーにとって、この一週間は、今まで生きてきた中で、一番長く感じた一週間だった。

ここしばらく、ピトーは自らの状態把握に努めていたのである。


なにせ、自分が過去に居ると分かった以上、急いでNGLに戻る必要は無くなってしまった。

女王がNGLに居るかも分からないし、ましてや王が生まれているはずもないのだ。

やることが無いなら、先日の激痛や、念能力が使えない理由の解析を優先すべきだと、ピトーは判断した。





一週間という、けして短くは無い期間を自己把握にあてた結果、

ピトーは、己の中に潜む、大きな二つの問題点を発見していた。





まず、一つ目の問題点。
それは、今まで使ってきた己の念技が、全く使用できないことだ。



念技が使えないのは、初日に念技を試したところで発覚した。

理由は分からないが、『玩具修理者』だけでなく、『黒子舞想』なども使えなかったのだ。


念技が使えなくなるのは、痛い。


ピトーにとって幸いだったのは、使えなくなったのが念技のみで、円や練は問題ないということであったが――、
やはり『黒子舞想』のような奥の手が無くなれば、それは、ピトーの弱体化を意味する。


ピトーにはなぜ念技が使えなくなったのか、全く見当がつかなかった。





さて。

念技が使えなくなった――これは間違いなくゆゆしき問題である。

しかし、二つ目の問題に比べれば、念技のことなんて些細な問題だと思えた。








ピトーを、本当に困った状況に追い込むのは、二つ目の問題点である。







二つ目の問題点とは――『人間を殺せない』ということであった。





人間を、瀕死もしくは死亡に追い込もうとすると、激しい激痛が胸に走るのだ。

――それはまさに、過去に戻ってきた初日、狩人を殺そうとした時に発症していた激痛と、全く同じものである。



その激痛が、ことあるごとに、ピトーの殺人行為を完全に妨害するのだった。


ピトーは、最初、この問題に気付いたとき、ある可能性を考えた。

激痛とはいえ意識を保っていられるのだから、本気で頑張れば、殺人を強行できるかもしれない、と。


――しかし、ピトーはあの激痛に抗ってまで殺人を犯す気は無かった。


別に道徳とか、良心などという概念を持ち合わせているわけではない。

ピトーの勘にしかすぎないが、あの激痛の先には、なぜか己の死があるような気がしてならなかったからだ。










――念技が使用できないこと。
――殺人ができないこと。

この二つの問題は、当然、ピトーにとってかなり悩みの種であった。








「全く…なんでこんな状態になってるのかな?
ボク、強い人と闘うのが趣味なのに…殺せないんじゃ、生き地獄ニャ」



ピトーは拗ねたように言葉をこぼしながら、疲れた表情で目の前の建物を見やる。

目前にあるのは、何てことは無い、普通の飲食店。



看板には「めしどころ ごはん」の文字が見える。








なにも、ピトーは、この一週間、自己把握だけして過ごしていたわけではない。


行くあてがない以上、ピトーは、人間たちに紛れ込むために、ある程度の下準備を始めていた。

容姿は少し人外だが、これでも他のキメラアント達と比べれば、かなり人間に似ている方だ。
ある程度準備すれば、人間に混ざることは十分可能だろう。


人間世界で暮らすために必要な下準備。
それは、金であったり、知識であったり、情報であったり。
――そして、なによりも戸籍である。





金は、適当な人間から強奪した。
殺さず、気絶させる程度の攻撃なら、激痛の発生はない。

その後、知識も情報も、奪った金でパソコンを買って学習した。

――ここまでは至極順調に行ったものの、戸籍だけは、なかなか手に入れづらい。


なぜか、人間は、捨て子ですらきっちり戸籍を持っている。
そのせいだろう、よほど戸籍を重要視しているらしく、戸籍が無いと何かと不便であった。

特に、宿泊面はそれが顕著である。
異形の尻尾を隠せないうえ、戸籍も無いとくれば、宿泊を断られるのは当然の流れだった。

実際ピトーは、この一週間、ずっと森のはずれで野宿生活をおくっている。




――そこで、解決策を探していたピトーが目を付けたのは、『ハンター証』なるものであった。

『ハンター証』があれば、身分は保障され、ホテルに無料宿泊でき、NGLを含む入国禁止国へ入れる。

ピトーからすれば、身分の保障はもちろん、『NGLへ入国ができる』というのが、非常に魅力的に思えた。



『ハンター証』は、まさにピトーの利になるものでしかなかったのだ。



ハンター試験、という試験を受け合格すれば、『ハンター証』が手に入る。
――とくれば、ピトーがハンター試験を受験しようと思い立つのは、ごく自然なことであった。




ピトーがハンター試験受験を決めたのは、12月31日。

ハンタ―試験受験の申し込みを、ぎりぎりで済ませることができたのは、ピトーの日ごろの行いの成果であるのかもしれない。









――そんな長く忙しい一週間を経て、ピトーは今日、ここに立っているのだ。


ピトーの前には、ハンター試験会場「めしどころ ごはん」が待ち構えるように建つ。



今日――1月7日は、ピトーが待ちに待ったハンター試験開催の日。


ピトーは、準備運動がてらにナビゲーターらしき人物を探し出し、会場までの行き方を吐かせ、ここまで来た。






「ハンター試験…強い人間、いるかな?
ふふふ…うん、ちょっとワクワクしてきた」





キメラアントたるピトーに、『死ぬかもしれない試験』など、幼子のままごと遊びのようなもの。
歩き出したその華奢な後姿に、躊躇いなどあるはずもなかった。



――こうして、ピトーは一人、邪な笑みを顔に浮かべながら、ハンター試験への一歩を踏み出したのである。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.033313989639282