二章六話 駆け出し魔王我慢中
耳に響く人の歓声と感覚を麻痺させる熱気。
10日ぶりに開かれた格闘場は、前回と同じく盛況であった。
コロシアムの観客席よりもさらに上から、満員に近い会場内を見下ろしている男。
短く刈り込んだ黒髪に、筋骨隆々というほどではないにしてもそれなりに鍛えられた肉体。つり上がり気味の目はその人相を一層厳しいものへと変え、高めの身長と相まって見る者に威圧感を与える。この男こそ、格闘場のオーナーであるアッシャであった。
会場内の様子を見ながら、アッシャは満足げに笑う。
6年前、魔物の群れを討伐する際に捕らえた者たち。人間の方は女王により解放することになったが、言葉を解し理知的な魔物達で何かできないかと考えたのが始まりだった。
当時においてもアッシャはそれなりの力は持っていたが、貪欲なその心は野心に満ちており、さらなる力を得られそうな魔物達はおいしい商品以外の何物でも無かった。
そうしてできたこの格闘場は、最初こそ色々問題はあったものの、ある外部協力者の手助けもあり非常に順調であった。格闘場が完成してからたった4年半。5年にも満たない時間で、アッシャの力は数倍にふくれあがったのだ。
もはや今では、女王といえどアッシャに強く出ることはできず、金が金を呼ぶ今の好循環が止まらない限り、長くとも後10年もあれば国の全てを牛耳ることもできるだろう。
その輝かしい未来が訪れることを、アッシャは全く疑っていなかった。なればこそ、笑みを浮かべるのも無理からぬ話だ。
「ふむ……やはり連中は強いな……」
コロシアムで、キャットフライが暴れザルを倒すのを見ながらアッシャは呟く。そのキャットフライは、理性ある魔物―――霊樹の魔物だった。
外から捕まえてきた魔物同士では、あまり大番狂わせは生じない。もちろん他の魔物がつぶし合うことで倍率が高い魔物が生き残ることは稀にあるが、実力で生き残る連中は訳が違う。
一瞬で勝負が付いてしまうような蹂躙ではエンターテイメントとしては成り立たず、賭け金が固まりすぎれば儲けが出ない。そのため実力の均衡した者や一矢報いる可能性のある者を組ませなければならないが、強力な魔物はそれなりに金がかかっているので、少々もったいない。
その点、ただ同然で手に入れた魔物達は非常に便利であった。常連の間では登場時に拘束されてない魔物は強いという認識がある。すると、もしかしたら勝つかもしれないと賭ける対象がそちらに動く。連中は必死に生き残ろうと戦い、実際に勝利し、客の信頼を獲得する。そうすれば、高い金を掛けた魔物同士を戦わせなくて済み、経費を抑えて金が稼げるという訳だ。
今では大体の試合が野生の魔物が2匹と連中1匹というパターンである。最初は連中しか居なかったことを思えば、本当にいい物を拾ったものだ。
コロシアムでは今日の八戦目が開始されている。先ほど受けた報告によれば、今日はいつもの二倍近い利益が出ているとのことだ。
他よりも豪勢に、高い位置に作られたVIP席を見てみれば、確かにいつもよりも大物が揃っているようである。
魔王が現れ、魔物が凶暴化してから既に二十年近く。昔ほど国家間の交流がなされていない今では、他国に顔が利く人間はさほど多くない。イシスでは国から豪族に対して他国への命を与えることは無いので、アッシャも例に漏れず個人的な関わりのあったことのある者以外では、有力者であっても少数しか知り得ない。
しかし、着ている服などからも判断するに、他国の者らしき姿がちらほら見受けられる。噂を聞きつけ、わざわざイシスにやってくるほどの者ならば、そこそこの力を持っているとみて間違いないだろう。
せいぜい金を落としていってくれと、アッシャが笑っている横で、八戦目の試合も終了した。今回の試合では野生の魔物が勝ったようだ。理性ある魔物はかなり手酷くやられているが、まだ生きている。適当に牢屋に放り込んでおけば、ホイミスライム辺りが回復させることだろう。
と、そんな中でアッシャの耳にある叫び声が聞こえてきた。
「ちくしょー!! また負けたー!! 何だよ! 自由にしてる魔物の方が強いって言ってたのにだめじゃねぇか!!」
「い………高い……が……必ず…………とは…………」
もめているのは、貴族らしき男とその護衛とみられる戦士風の男。おそらくは、護衛のアドバイスに従って賭けたはいいが負けてしまったのだろう。頻繁とは言わずとも、格闘場ではそれほど珍しくない光景だ。
これといって特別なところはないのだが、アッシャは何となくその姿を目で追ってしまう。
着ている服から考えるに、まず貴族で間違いないだろう。そこまで煌びやかな格好をしている訳ではないが、遠目で見て分かるほどの上質な服は、決して自己主張することなく着用者の存在を引き立てている。身につけた小物類も安い物ではなく、本人のセンスを象徴するがごとく素晴らしいコーディネートだ。冒険者や商人にはそれぞれ相応しい身なりのよい格好があり、そのどちらにも属さない品の良さは、貴族以外に見られるものではない。
つれている護衛は、先ほど絡まれていた男以外に二人。戦士らしき男と、魔法使いらしき女がいる。一目見て実力が分かるような目は持ち合わせていなくとも、十分に強さを感じさせるほどの護衛だ。
もっとも、格好やその護衛に対して中身が伴っているとは言えないようだが。
コロシアムには、既に次の試合の魔物達が姿を見せていた。
「よし、次はあれにしよう。1000G分賭けてきてくれ………………早くしろって! 閉められるだろ!」
先ほどから絡まれている護衛の男は何か言おうとしているようだが、忠言も許さぬ主人のわがままに僅かに顔を顰め、ほとほと困り果てたといった様子である。ため息の一つでも吐きそうであったが、結局言われるままにカウンターに向かい受付に賭ける対象を告げた。
彼らが選んだのは、未だ檻の中で拘束されている暴れザル。対抗は同じく拘束されたキャタピラーと、拘束されていないさまよう鎧であった。
アッシャには魔物の見分けなど殆どつかないが、拘束されていないのは霊樹の魔物であり、さらには連中の中でも頭一つ抜けた実力を持つさまよう鎧である。最も強い者は今日のメインに出場することが決まっており、あれは他のさまよう鎧であろうが、それでも少しの種族差程度は覆す。
果たして、多少危ないところもあったもののやはりさまよう鎧が生き残った。
「だー!! 畜生!! ぜんっぜん勝てねー!!」
負けたあの貴族の男は頭を掻き毟って叫んでる。それを実に哀れだと思いながら、アッシャは魔物の死体などを片付けている闘技場を眺めていた。
ついに今日のメインである。
片付けが終わった闘技場に、新たなる魔物が姿を現す。その魔物の登場に、一瞬で観客席が静まりかえった。
現れたのは、ごうけつ熊。しかし単なるごうけつ熊ではない。
人二人分はあろうかというその体躯。完全に拘束されているというのに、凶暴な眼光は衰えるどころかますます強まり、一眸されただけで身が竦みそうになる。強大な体躯に備わっている威圧感は、特性の檻をどこまでも心許ないものへと変貌させていた。
静けさは、一挙にどよめきへ。その反応でこそ、高い買い物をした甲斐があるというものだ。
そのごうけつ熊は、この格闘場を作る際に協力してくれた者から提供されたものだった。
彼が何者かはアッシャも分からない。会うときは必ず大きいローブ身を包んでフードを目深に被り、発せられる声は男性のものにも女性のものにも聞こえた。調べようにも情報は全くなく、下手に気分を害して拗ねられては、多大な不利益を被ることになる。
建設当時、魔物を捕まえコロシアムで戦わせようにも、霊樹の魔物以外はろくに動くことすらままならず、薬を使って無理に戦わせても供給がなければいずれ尽きてしまうということで非常に困っていた。
そんな時に彼は現れた。
一体何をしたのか。ただ一人でコロシアムへと入り半刻ほどで出てきた彼は、もう外の魔物を戦わせられると曰ったのだ。半信半疑で捕まえた魔物を連れてきたら、コロシアムに入った途端力を取り戻し、暴れ始めた。これによって、ようやく格闘場を開くことができたのである。
以降、彼は数ヶ月に一度、捕獲が非常に難しい強い魔物を無傷で、しかも格安で提供してくれているのだ。何の目的があるのかは知らないが、好奇心程度で機嫌を損ね捨ててしまうにはあまりにも惜しい存在だった。
続いて登場したのは、ダーマ周辺に現れる魔物、キラーエイプ。こちらは腕の立つ冒険者グループからの提供だった。
さすがに先ほどのごうけつ熊ほどのインパクトはないが、対抗馬としては悪いというほどではない。
そして、理性ある魔物の中で最も強いさまよう鎧。さすがに荷が勝ちすぎてはいるが、今まで勝ち続けた信頼は高い。
最後に登場した魔物は何の変哲もないスライムだ。つい先日に街の近くで捕まえられたとのことだが、何故か理性があり、脱走すらしようとしたらしい。これはあくまでおまけだ。部下から進言されたのもあるが、偶にはこういったとんでもない博打要素があってもいいだろう。
「さぁ! 今日のメインだ!! 張った張った!!」
受付の言葉と共に、会場内の客がカウンターへと殺到する。VIP席の方はこちらから賭けるかどうかを聞いて回るので動きはないにしても、これからの試合がどう転ぶかで話し声が絶えない。
「ごうけつ熊で決まりだな」
「いや、あのさまよう鎧は確か今まで何度も勝ってきた奴じゃないか?」
「どう考えてもごうけつ熊一択しかないわね。他のが勝てると思えないわ」
「ごうけつ熊に賭けたところでろくな勝ち分はないだろうな。キラーエイプにするか」
わいのわいのと、声が飛び交い金が積まれる。最初のインパクトが強すぎたか、やはりごうけつ熊の比率は圧倒的だ。積まれた金はこの闘技場始まって以来の量である。メインとはいえ、普段の4倍近くはあるのではなかろうか。
それぞれの倍率はごうけつ熊が1.1倍。さまよう鎧が4.0倍。キラーエイプが2.8倍。スライムが429.8倍。
まあそんなものだろうと、予想を大幅に上回る売り上げに喜ぶアッシャの耳に、またあの声が聞こえてきた。
「よし決めた! あのスライムに一点賭けだ! 5000Gつぎ込むぞ…………………………勝ったら今日の負け分なんか軽く吹っ飛ぶだろ?」
護衛がやんわりと止めに入ったようであるが、男は気にした様子もない。もはや護衛の面々だけでなく周りの人間もすっかり呆れ顔だ。哀れみの視線を隠すことなく向けている者すらいる。
そんな中、護衛の魔法使いが初めて男に耳打ちをした。
「あ? …………はぁ? まじかよ?」
一体どうしたのか。主人に対してそう強く出られる護衛達ではないようなので、言うとおりに賭けに行くかと思えば、動く気配が全くない。
護衛達の声は控えめで、男のようにはっきりと聞こえないが、どうやら金がなくなったらしい。
さっきまでの勢いをなくして顔を顰める男は、もう賭けることはなさそうであり、他の客ももう動く者はいないとなれば、これで締めか。
「そういえば、お前の持ってる剣って家宝の剣だとか何だとか言ってたよな?」
と、あの男が急に護衛の方へ向かって話しかけた。
しかし、アッシャからその貴族の男までそこそこ距離があるというのに、先ほどからその声をアッシャが聞き漏らすことが殆どない。無駄によく通る声である。
「は……ですが…………は…………」
「大丈夫だって! 勝てばいいんだ勝てば」
言って、貴族は護衛の戦士から剣を取り上げる。どうやらあの白鞘の剣一本で5000G分の担保にしようとしているらしい。
どうするべきか迷っている受付にとりあえず待つようにと伝令を飛ばし、アッシャは貴族の方へと向かった。
「なかなか楽しまれているようですな?」
「ん? だれだあんた?」
アッシャに声を掛けられ、怪訝そうに返す貴族。その顔を間近で見て、アッシャは思わずほうっと感嘆の声を小さく漏らした。
顔立ちが整っている人間は何人も見てきたが、この男はその中でもトップクラスに入る。
束ねられた少し長めの金髪は非常に鮮やかで、流れる様は絹のごとし。まるで世界を照らす太陽のような力強き眼を中心に、バランスよく配置された鼻と口。うっすらと化粧が施されているが、それは彼の男ぶりを強調し嫌みがない。これほどの伊達男は、滅多にお目にかかることはない。酒場でカウンターにでも座れば、たちまち女が彼の元へと訪れよう。
姿形はまさしく満点。中身が哀れなのが勿体ないことだと思いながら、アッシャは一礼をする。
「お初にお目にかかります。私はこの格闘場のオーナーであり、イシスの三分の一を取り締まっておりますアッシャと申します。どこかの貴族様かとお見受けしますが?」
「あぁ、ロマリアのオラリアム侯爵家が一子、キカルス=オラリアムだ。なかなか楽しいところだな……全く勝てないが」
最後に嫌みを言われ、されどアッシャは朗らかに笑う。まさか侯爵家の跡取りだとは思わなかったが、どれほど哀れであっても他国の権力者を相手に喧嘩を売るようなことはしないだろう。
「勝負は時の運ですからな。敗北があってこそ勝利の価値も上がるというものでしょう」
「ふん、確かにそれはそうだ。で、急に話しかけてきて何のようだ?」
「どうやらお困りのご様子でしたので。そちらの剣を担保に賭けたいとか?」
「ああ、これが最後って事だからな。一発逆転を狙うつもりなんだが」
言って、キカルスは護衛から取り上げた剣を見せる。
柄拵えは非常にシンプルな剣だ。中心に小さな青い宝石が付いているが、それ以外に装飾はなく、実用することを第一に考えられてるのが分かる。目立つと言えば、あまり見かけることのない白い鞘。こちらにも別段装飾などは存在しないが、そのシンプルさがかえって剣としての美しさを引き立てているように思えた。
剣を取り上げられた護衛は強く拳を握り込んで、その行く末を見守っている。
「さてはて……なかなか良い剣のようですが……はたして5000ほどの価値があるのかどうか」
「あ? ないのかこれ?」
「いえいえ、私も商人ではないのではっきりとは。ああ、今こちらに向かっているのが鑑定士ですので、彼に剣を渡して下さい」
アッシャの言葉通り、通路を駆けている男がいた。まっすぐにこちらに向かってきた男は、アッシャに促され剣を受け取る。
「……こちらの鞘は木で作られているのですか…………これは…………ほう…………なるほど……………………アッシャ様、少しこちらに」
真剣な顔つきで剣を見ていた鑑定士は、少し離れたところへとアッシャを招いた。何か理由があるのだろうと、キカルス達に一声掛けてそちらへと赴く。
「で、それはどうだ?」
「一言で言えば、素晴らしいとしか言いようがありません。これほどの剣を初めて見ました。一般的に出回っている剣とは製法が異なるようですが、強度、切れ味共に並の剣では歯が立ちません。さらには、この青い宝石を軸に魔法が仕込まれています。それ自体は稀少というほどではありませんが、剣自体が魔法の媒体としても使用可能であるのはそうありません。木で作られている鞘は珍しいですが、おそらくは剣の保護を目的としているのでしょう。装飾は無いながら極めて精緻に、丁寧に作られており、洗練された美しさがあります。それら全ての要素から見て、世界有数の名剣と言っても差し支えないかと」
「ほう。それほどの物ならば、十二分に5000の価値はあるということか」
「まさか。5000どころか、私なら最低でも8000以上の値は付けますね」
この鑑定士の腕をアッシャは信頼していた。盗品や偽物などを扱っていたところをアッシャが雇い入れた男で、元の商売の性質上真否眼がなければならず、そこらの商人よりも遙かに目利きが聞く。
中身が哀れなれば物の価値も分からぬかとせせり笑い、アッシャはその心中を気付かれぬようにキカルスへと向き直った。
「確かに、5000Gの価値はあるようですな。これならば十分担保として使える事でしょう」
「おお、そうか。なら、あのスライムに一点賭けで頼む」
「承知しました。それでは、ごゆるりと観戦を」
8000以上はするという事実を告げること無く、アッシャはキカルスへと一礼した。家宝をどぶに捨てるがごとく扱われた男は哀れであるが、仕えた主人が悪すぎたと思って貰うほかあるまい。
全く悪びれることなく踵を返しオーナー席へと戻るアッシャの後ろで、最後の5000Gを追加した倍率が出ていた。
ごうけつ熊1,2倍。キラーエイプ2,9倍。さまよう鎧4,1倍。スライム―――28,7倍。
観客の熱狂と共に、本日最後となる死闘が始まる。
***
―――やれるか?―――
外よりサスケがもたらしたハルの伝言は、その一言だけだった。
「…………私に、戦えって…………?」
死ねと言われている。リンは初めにそう思った。
何も伝言が無ければ、やはり見捨てられたのだと思っただろう。こんな状況下でリンを助けるメリットなど、一つも無い。どうしようもなくなっただろうが、捕まってしまったのがリンのミスならば、それも仕方ない話だ。
しかし、わざわざハルはリンに戦えと言ってきた。それは自分の状況を危うくしたリンに対しての制裁だと思われる。そう結論したのは、リンだけではなかった。
「…………自らの配下に対して、死ねというのか」
「ぼく達を味方に付けたいからって……そんな人に助けられても今と大して扱い変わらないじゃないですか!」
フターミとホイミンが激昂する。リンの為と、冷酷すぎるハルのことで半々と言ったところだろうか。
それを見て、ふとリンは冷静になる。
ハルは何故、わざわざそんな事を告げたのだろうか。イシスの霊樹にいた魔物達の怒りを買うと容易に想像付くであろうに。
一番効果的な方法をとるならば、リンを助けるように動くのが簡単だ。それで助けられるならよし。いや、むしろ救出する振りをして、実際にはそうせずとも、リンの死を悼むような様子さえ見せれば彼らの好感を稼ぐのに役立つ筈だ。そうすれば後々彼らを助けられても優位に働くだろう。
無駄なのだ。あまりにも。
「…………サスケ。ハル様はこれからどうするって?」
「いやぁ、難しいことはよく分からなかったんすけど、とりあえず俺っちはこの中を調べて姐さんの試合のメンバー表らしき物を持って行くことになってるっす。とりあえずフターミの兄さんは確定だろうって言ってたっすけど」
「私が?」
「そうしないと向こうがおもしろくないからって言ってたっす。後、姐さんに剣を賭けるとかどうとか」
「…………嘘……ほんとに……?」
ここに来る前に、リンは格闘場がどういう場所か教えて貰っていた。リンに剣を賭けるということは、リンが負けたらハルの剣が失われるということの筈だ。
ハルがヒミコから賜った剣が。何よりも大切にしている筈の剣が。
ハルは無茶な事はよく言う。しかし、絶対に無理なことは一度も言ったことはない。
「私なら……ごうけつ熊に勝てるって?」
「んー……可能性はあるって言ってたっすよ?」
「…………勝てるって言ってた訳じゃないのね…………」
こんなことでハルは嘘を吐いたりしないだろう。だから、勝てるとは言わなかった。不可能ではないという程度の話だ。
やれるかと、そう聞いたのならば、リンが拒否するならばこの話はなかったことになるのではなかろうか。
逆に言うならば、リンが勝ってみせると言ったなら、その言葉にハルは剣を賭けるのだろう。リンを信じて。
「リン……?」
「………………やるわ。ハル様にそう伝えて」
「了解っす」
「ほ、本気ですかリンさん!?」
「無茶だ!」
リンの伝言に、フターミ達が声を上げる。
あたりまえだ。一体どうして、魔物の中でもひときわ弱いスライムが、ごうけつ熊に勝てると思えようか。
「……ハル様の剣は、ハル様の大切な人から授かった剣。本来なら、私なんかよりよっぽど大切な物。だけど、私がやると言ったなら、ハル様はそれを信じて剣を預けてくれる。ハル様が信じてくれるなら、私もハル様を信じるわ。ハル様は、私がごうけつ熊を相手に勝てる可能性があると言ってるのだもの」
「だがそれは……!」
「ここに入れられたのは私のミスよ。たとえ私の意思で付いてきた訳じゃない旅でも、足手まといどころか害悪な存在になるなんて、私自身が耐えられない」
自分の為だとリンは言い切った。そうならば、フターミ達にどうこう言う権利などない。
「…………勝てるのか?」
「……やるしかないのよ」
それ以上は、誰も何も言わなかった。
サスケはリンの言葉をハルへと伝え、準備は進む。三日目には、リンの試合メンバーが先の三体にキラーエイプを含めたものだと伝えられた。
ハルはできることならごうけつ熊やキラーエイプに毒などを与えておきたかったようだが、さしものサスケも悟られずに成すのは不可能であり、リン達はハルから伝えられた訓練を消化して当日を迎えることとなる。
格闘場の男に連れられて、リンとフターミは通路を歩く。
リンは自分の体が地に着いているのかどうか分からないほど緊張していた。足下がおぼつかない。まるで雲の上を歩いているような不安感。
「…………大丈夫か?」
「あ、あまり……大丈夫……じゃ……ないかも…………」
フターミの声に言葉を返す程度はできるものの、掠れるような声しか出せない。
こんな状態では戦うことなど不可能だ。フターミが何とかできないかと声を掛けようとするが、それは聞こえてきた歓声によって打ち消されてしまう。
「な、何? 何なの?」
「……リン。着いたぞ。気をしっかり保て」
フターミの言葉と共に、通路へ光が差し込み、視界が開ける。
「な……何よこれ……」
呆然と、リンは呟くことしかできなかった。
開けた先の会場は、高い壁に囲まれた円形の闘技場。その先には、熱気の籠もった歓声を上げる大勢の人間。
既に会場には、拘束されたごうけつ熊とキラーエイプがいた。その姿に、さらにリンは恐怖を煽られる。
キラーエイプはまだいい。以前見た固体とほぼ同じで、今のリンならば逃げられないような相手でもない。
問題はごうけつ熊である。一言で言うならば、巨大だ。
リンが知るそれより、二回りは大きいのでは無かろうか。拘束されていてもその体から発せられる威圧感は凄まじく、それだけで気を失ってしまいそうだ。
さらに、さらにだ。闘技場に入った瞬間リンは結界の影響がなくなったことを感じていた。フリード達から聞いてはいたが、むしろ外より呪いから受ける圧迫感が強い。ハルとの訓練で魔力の動き方などを多少理解しているリンには、町中とも外とも違う、異質な魔力の流れがあることに気付いた。が、それを感じられたところで、知識がないリンにどうすることができようか。
ただ、一つだけ分かるのは、この闘技場内では、あのごうけつ熊が十全に力を振るえるということだ。
「あ……ああ…………」
頭が恐怖に染まる。ハルは普通のごうけつ熊ではない可能性もきちんと示唆していた。ちゃんと想像し、覚悟もしていた筈だった。それでも、その存在感はリンの覚悟など簡単に消し去ったのだ。
無理だ。あんなものに勝てるわけがない。
今日、自分はここで死ぬ――――
「リン! 動け!!」
フターミの叱咤に、リンは気を取り戻す。見れば、ごうけつ熊とキラーエイプの拘束が外される瞬間だった。
「ガアアアアアアアアアア!」
「ヒッ!」
自分を束縛する物がなくなった瞬間、ごうけつ熊は咆吼を上げリン達に向かって突進してくる。巨体でありながら、その速度は並のごうけつ熊よりも早い。振り下ろされようとする腕は、恐怖で固まった体では到底躱せるものではなかった。
「リン!」
ガキリと、体をぶつけるように盾でフターミが腕を止めてくれる。しかし、それが止められていたのは数秒にも満たない。
「ぐっ……!」
ごうけつ熊の腕に押され、何とか力を逃がしながら距離を取ろうとするフターミ。リンはその間に逃げることができていたが、フターミに向かうキラーエイプの腕が見えてしまった。
「フターミ! 横!!」
リンの叫びはしかし、反応するには遅すぎた。フターミが、その存在に全く気付いていなければの話だが。
フターミはごうけつ熊の豪腕に盾を滑らせ、潜り込むように動きながら剣を持った右腕をキラーエイプの腕に沿わす。ただ力任せに振るわれたキラーエイプの腕は、横から掛けられた力によりその方向をずらされた。先にあるのは、ごうけつ熊の体である。
「グオッ!?」
予想外の攻撃に、ごうけつ熊の動きが一瞬止まる。フターミは動きの流れのままごうけつ熊の腕をかいくぐり、前転をするようにその場を抜ける。
「グッガアアアアアア!!」
「オオオォォォオオオ!」
ごうけつ熊の怒りの向く先は、自分に危害を加えたキラーエイプへ。強烈な敵意を向けられて、キラーエイプもまたごうけつ熊を自らの相手と見なす。二匹が目の前の敵しか見えなくなったお陰で、リンとフターミに若干の余裕が生まれた。
「フターミ! 大丈夫?」
「問題ない。多少の衝撃は受けたが、ほぼ無傷だ。それより、リン。君こそ大丈夫か? 生きてここから出るのだろう?」
フターミの言葉を聞き、リンは表情を曇らせる。
「で、でも……無理よ…………あんなの……あんなのに勝てる訳がないわよ……」
「では、何も足掻かずに死ぬつもりか? 君の主は、君を信じて大切な剣を預けてくれたのではなかったのか?」
言われて、リンは思い出す。そうだ。ハルは、自分なら生き残ると信じてくれた筈なのだ。自分は、勝たなくてはならないのだ。
「そうよ……私は勝たなくちゃ……」
「……なら、どうするべきか分かってるな?」
静かな問いに、頷いて返す。思い出せ。ハルに伝えられたことを。
見れば、圧倒的な種族差の前にキラーエイプはやられる寸前だった。こちらの用意が整う前にあれが完全に倒れてしまえば、勝機はほぼなくなってしまう。
「行くぞ!」
「え、ええ!!」
一声と共に、リンとフターミは駆け出す。素早さではフターミに勝るリンが先行し、二人でごうけつ熊の両脇へ挟み込むように位置を取った。
ハルがリンに授けたのは、単純明快な急所への一撃離脱法。
ごうけつ熊やキラーエイプは普通の生き物と殆ど同じ体の造りをしている。故に、その体には脳があり、心臓があり、急所の位置もさほど変わらない。
実のところ、最初の流れはハルが提示した作戦にかなり近かった。二人でごうけつ熊とキラーエイプを誘き寄せ、フターミが誘導して双方を戦わせる。ごうけつ熊がキラーエイプに手を取られている間に、横から急所を狙って攻撃する。
間違いなくあると言われた攻撃のチャンスは二回。二匹が戦闘を始めた瞬間と、キラーエイプがやられる瞬間だ。
戦闘直後ならリンとフターミよりもキラーエイプの方が脅威であると映るだろうから、他から攻撃されても本能的にそちらを狙うだろう。
そして、よほどの戦闘技量を持った存在で無ければ、止めの一撃を繰り出した直後には隙ができるはずだ。故に、ただ狂気に任せて暴れているごうけつ熊がキラーエイプを倒す時の攻撃直後こそが、最大のチャンスである。
本来ならば、一度目で少しでもダメージを与え、二度目で致命傷か、それでなくても倒せる程度には弱らせる予定であった。
しかし、リンが恐慌状態に陥っていたために一度目のチャンスは逃してしまっている。
だから、一撃に全てを掛けるしか無い。
ごうけつ熊の隣で、その動きを見ながらキラーエイプの最期の瞬間を待つ。その間に、リンは自身の最高の一撃を作るための準備をしていた。
「認識……意識……操作……」
リンは知っている。この世界に溢れる魔力の存在を。
リンには分かる。自身の体内を流れる魔力の在りようが。
リンは教えられた。如何にして魔力を操るかを。
「魔力を集めて……高める……!」
生物が動くとき、必ずそこには魔力の存在が伴う。ただし、その影響力は器型と魂型の生物では差が存在する。
アリアハンの霊樹の長、アキが言っていたとおり、魂型の生物は器型とは比べものにならないほど魔力の影響を受けやすいのだ。
まるで魂を燃やしているかのような感覚。無意識に使っていた魔力を意識の上へ、体に存在して普段使っていない魔力をあふれ出させ、操り、満たす。
これが、ハルとの訓練によりリンが得た力。その一撃は、スライムでありながらイシス周辺に出現する地獄のハサミの防御すら打ち抜く。
キラーエイプが既に死に体でありながら、最後の一撃を繰り出した。その腕は決して届くことは無く、ごうけつ熊の攻撃の前に弾かれ、爪が肩掛けにキラーエイプの体を走る。
(――――今っ!!)
魔力の高まりと共に感覚を研ぎ澄ませてたリンには、ごうけつ熊の体から力が抜けた瞬間がはっきりと見えた。
フターミもまた、そこを狙って動き出している。
ごうけつ熊の肉体は、四つ足の動物とほぼ同じ物。故に、息をするのには肺を使い、血を巡らすのには心臓を使い、考えるのには頭にある脳を使う。
一撃で倒すならば急所を狙うしかない。フターミの切っ先が狙っているのは心臓。リンが選択したのは、もっとも防御力が薄いと思われる喉。
果たして、必殺の意思を込めた攻撃は、違わずに命中した。
「グッゴッ!?」
リンの体当たりにより叫びすら封じられ、ごうけつ熊の動きが止まる。
「やっ――――!」
「ッ!」
倒したと思った。が、フターミから漏れるのは焦燥した空気。
「グッガアアアアアアアアアアアアアア!!」
ごうけつ熊が咆吼と共に動き出す。何で、とリンが疑問に思うよりもなお、その振るわれた腕は早い。
「――――ッ!!」
「キャアアア!?」
唸りを上げる腕は、剣を叩き折りながらフターミの体を吹き飛ばし、リンはそれに巻き込まれた。
距離にして数メートルも宙に舞った二人は、ゴロゴロと地面を転がってようやく止まる。
「っ……何で……」
「……止め……られた……」
フラフラと立ち上がる二人の前で、ごうけつ熊が胸に突き刺さっていた剣の先端を弾き飛ばした。
タイミングは最良に近かった。しかし、あのごうけつ熊の筋力と反応はそれ以上に優れていたのだ。フターミの剣は、心臓に辿り着く前に力を入れたごうけつ熊によって止められていた。
「グオオォォォ……」
唸り声を上げて二人を睨むごうけつ熊。少し動きが鈍いのは、リン達の攻撃が多少なりともダメージを与えていた証拠であるが、それにいかほどの意味があるのか。
十全とは言わぬまでも、十分に動けるごうけつ熊と、大きなダメージを負い唯一の武器も折られたさまよう鎧に、大したダメージは無くとも脆弱なスライム。もはや、勝利の行く手は火を見るよりも明らかである。
「あ……あああ…………」
「く……そ……」
押し寄せる絶望感。ごうけつ熊は二人を見据え、緩やかに、されどしっかりと地を踏みしめて突進してきた。
「グルオオオォォォ!!」
「うわあああああ!!」
「チィッ……!!」
直線的なその動きを、必死になって二人は躱す。ごうけつ熊は勢いづいた体を押しとどめ、腕を振り回して逃げ回る二人を追い回してくる。
人間達に投与されただろう薬に加えて、怒り狂っているがために非常に単調で大ぶりな攻撃だ。さらにダメージの所為で多少鈍くなっているので、二人は何とか躱すことができている。だが、このままではそれほど時間も経たずに捕まるだろう。
やはり無理だったと、リンの胸に諦めが宿る。
しょせん自分はただのスライムだ。勝てる訳がなかったのだ。
ハルに付いていったとしても、こんな役立たずは結局邪魔になっていただろう。
申し訳ないのは、リンに賭けられたくさなぎの剣のこと。ハルならいずれ取り戻すに違いないが、せっかく預けられた剣を守ることができないとは――――。
――――チラリと、視界の端に何かが引っかかる。
何故見えたのだろう。こんな状況下で、そんな余裕など無い筈なのに。
どこか情けなそうに歪む真剣な目。あんな表情を今まで見たことがあっただろうか。
眉間に皺を寄せて、何かに耐えるようにこちらを見ている。なんだか似合わない。
手すりを持つ手には相当な力が入ってそうだ。ここからでも分かるほどに体が強ばっている。
何でそんな風に見ているのだろう。気にしないで欲しいのに。
気にしている? 何でそう思ったのだろう。
知っているからだ。あの方が大切な物でも取り返しが付くなら問題ないと笑うことを。
なら、何であの方は――――ハルはそんな耐えるような表情をしているのか。
(私の……ため……?)
今にも身を乗り出しそうなハル。だけど、それを必死に押しとどめているのは何故なのか。
リンに賭けた剣が返ってこなくなるから? 今後イシスの魔物達を助け出すのが難しくなるから?
違う。ハルはそんな人間では無いことをリンは知っている。
リンのことを心配しているのだ。リンを助けたいと思っているのだ。そうでなければ、あのようにコロシアムの中へ入ろうとなるわけがない。
リンが言ったのだ。ハルに向けて「やってみせる」と。自分の失敗を取り返してみせると。
ここで全力を尽くさずに諦め助けられては、これからもリンは、望んだ自分に届くことはないだろう。
それが、ハルが助けてくれると言ったときに感じた棘の正体。
いつだって、ハルはリンを肯定してくれていた。弱いからと馬鹿にせず、やれるところまでやってみろと、リンの存在をずっと認めてくれていた。
だから、そう在りたかったのだ。ハルの前で、胸を張っていたかったのだ。
ハルは、「やってみせる」と答えたリンを信じてくれている。しかし、それに対して自分がやっていることは何だ。
「負ける……もんか……!」
リンの負けは、ハルの負けだ。最後まで足掻いて死ぬのでは無く、ただ諦めて死んでしまっては、信じてくれたハルを否定して、裏切ったのと同じ事。そんなこと、絶対に許されない。
状況を見る。相も変わらず、どこからどう見ても絶望的だ。
考えるのだ。どうすれば勝てるのかを。僅かでもいい。勝つ可能性を見つけるのだ。
フターミのダメージでは、ごうけつ熊を倒すのは不可能である。力を溜めたリンの体当たりで倒すには、一体後何発当てればいいというのか。その前にやられてしまうのは明白だ。
体当たりだけでは駄目。それを補う何らかの手段が必要である。
ごうけつ熊の腕が、リンの体を掠めた。そろそろ捉えられてしまう。
と、リンの体に何かが当たる。その正体は、フターミが折られた剣の先。
「…………これなら……!」
体に吸い付けるように、それを拾う。同時に、今の全力を持ってごうけつ熊から遠ざかった。
「フターミ!! お願い!! 時間を稼いで!!」
「……っ!」
答えは無かった。が、確かにその声は届いたらしい。
動かぬ体を必死に動かして、フターミがごうけつ熊の懐へと飛び込む。武器が無いまま、体を押しつけるように動くフターミを、ごうけつ熊は鬱陶しそうに払おうとするが、近すぎて力が入らない上に、うまく避けられて捕まえられない。
一歩間違えればやられる、命がけの時間稼ぎ。リンは任せてくれたフターミに感謝をしながら、再び魔力を練り始めた。
いつの頃からか、そうなりたいと思っていた自分に気付かないフリをしていた。
ずっと不安だった。
クウのように空を飛ぶこともできなければ、戦うこともできない。ボウのように器用でもなければ、タクトのように役に立つ能力もない。
こんな自分が、いつまでも一緒に居られる訳が無い。
だから認められなかった。長の命令だから仕方なく一緒にいるのだと、自分に言い聞かせた。
――――体に魔力が満ちる。先ほどと同じか、それ以上の力。しかし、まだ足りない。
サスケに問われたとき、本当は自覚した筈だった。それでもまだ、怖くて気付かないふりをした。
ずっと認めてくれていたのに。剣を預けるほどに信じてくれていたのに。
だけど、今、認めよう。なりたかった自分を受け入れよう。
胸を張って、高らかに宣言するのだ。自分の前に立つ、この障害を打ち壊して。
――――絞り出す。貪欲に、強欲に、残っている魔力を引きずり出す。
「……!! がっ……!!」
ついに、フターミがごうけつ熊に捉えられ弾かれた。そのまま地面に打ち据えられ、一転二転と転がり起き上がってこない。しかし、最低限はダメージを減らせたか何とか生き残ってくれているようだ。
「グオオオオオオオオォォォ!!」
フターミを打ち倒したごうけつ熊は、まだ動くリンに向けて突進する。距離を鑑みれば、避けることはできた。だが、リンはそれをしようとしない。
――――魔力の高まりは限界を遙かに超えて、まるで蜃気楼が如くリンの体の周りで揺らめいている。
ごうけつ熊が腕を振り上げた。振り下ろされるそれを眼前に、リンは剣先を前に向けて飛び込む。
呻りを上げるのはごうけつ熊の腕か、リンの体か。
弾丸のように弾き出されたリンの体が、ごうけつ熊の腕と交差する。多少掠めただけの腕を弾いて、剣先が向かうはごうけつ熊の心臓。
反応することを許さぬ速度で、筋力の抵抗を許さぬ力で、リンの攻撃はごうけつ熊の心臓を貫いた。
一体何が起こったのか。それを瞬時に理解できた観客はハルだけだった。
ごうけつ熊の体が吹き飛ばされ、仰向けに倒れる。静まったコロシアムには、リンの他に動く魔物は存在しない。
静寂の後、歓声。
それは賭けに負けたことに対する嘆きの声か。馬鹿げた逆転劇を見た興奮の声か。
降り注ぐ観客の声を背に、そんな事はどうでも良いと言わんばかりにリンは声を上げた。
「私はハル様の……魔王様の配下よ!! 舐めるんじゃ無いわよ!!」
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お久しぶりです