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[298] ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/27 12:33
プロローグ

 宇宙、それは最後のフロンティア…
 そんな台詞から始まるアニメを昔見た事がある。
 まだ子供だった俺は、その内容についていけず1話だけしか見なかった。
 俺?
 俺の名はテンカワアキト。
 またの名を『闇の王子』。
 世間一般には史上最悪のテロリストで通っている。
 さらわれた妻を助けるため、そして自分の夢を奪った復讐のため、俺は修羅の道に足を踏み入れた。
 そして俺は、コロニーを襲撃し、何万もの人間を殺した。
 だが全てを終わらせたその先には、何もなかった。
 あの火星の決戦の後、俺は妻に会うことなくその場を去った。
 なぜかって?
 俺にはそんな資格はないからだ。
 昔と今の俺は全ての面で違いすぎている。
 昔の俺は夢や希望を持って生きていた。
 しかし、今の俺にはそれらを持っていない。
 俺にはもう持つ事ができないからだ。
 俺は彼女の言う『王子様』にはなれない

 ネルガルの秘蔵ドックに戻った俺は何もする気がおきなかった。
 目的を失い、毎日を上の空で過ごす日々。
 そんな人生に意味なんてあるのか?
 俺は自殺を考えた。
 でも出来なかった。
 ラピスが居たからだ。
 もし俺が死ねば、この子は俺の後を追うだろう。
 それだけラピスは俺に依存している。
 それに俺には責任がある。
 ラピスを復讐の道具に使った責任が…
 俺のこれからの目的は、ラピスに普通の暮らしをさせる事になった。

 だがどうすればいい?
 ラピスはMC(マシンチャイルド)だ。
 これだけで襲われる可能性は大きい。
 俺がラピスを守ればいいのだが、俺はテロリスト。
 表舞台にはあまり出る事は出来ない。
 それにネルガルが俺をかくまっている事がばれたら、アカツキ達に迷惑をかけてしまう。
 結局、今の俺には宇宙を彷徨うことしか出来ない…

「……」
『マスター少し休んでは?』

 ユーチャリスのAI『ダッシュ』が俺に話しかけてきた。

「大丈夫だ…」
『そうは見えません。あまり寝てないでしょう』
「いつ、襲撃があるかわからんからな…」
『でもですね~。ラピスのために生きると決めたのですから、体は大事にしないと…』

 わかっているが、俺達は狙われる身だ。

『…それにですね………ボソン反応増大!戦艦クラス!!』

 早速来た。

「ルリちゃんか…」

 妻は…ユリカはまだ退院できていない。
 となるとイネスさんか…

「大方、いつもの説得だろう。ラピス、ジャンプフィールドを…」

 俺の言葉にラピスは、コクッと頷いた。

『話さないのですか?』
「ああ」
『……ジャンプアウトします』

 さて、またいつもと同じ展開か…

『エネルギー増大!グラビティブラスト来ます』
「え?」

 衝撃で船体が揺れ、艦が傾く。

「損傷は!?」
『…損傷甚大。戦闘不能です』
「くっ!!」

 油断した。
 まさかいきなりグラビティブラストを撃ってくるとは…

「アキト、ハッキングを受けてる」
「…ラピス、まかせた」
「わかった」

 たとえ、ルリちゃんでもラピスを突破するのは並大抵の事ではない。
 しかし、向こうにはもう一人MCが居るらしい。
 通信機能は掌握されてしまった。

『お久しぶりです、アキトさん』

 モニターにルリちゃんが写る。

「手荒い歓迎だな」
『アキトさんを捕まえるには正攻法では無理と考えましたから』
「…で、今日は何の用だ?初めに言っておくがユリカの所には戻らないぞ」
『はい。戻らなくていいです』

 ……???

『私のところに戻ってきてください』
「………」
『アキトさんがユリカさんの所へ戻る資格がないのは、今までのアキトさんの話でよ~くわかりました。だったら、それだったら私のところに戻ってきてください』

 ………えーと、何を言っているだ?

『幸い、ユリカさんとの婚姻届も出してないですし…』

 ……ルリちゃんがアッチの世界に行ってる間に、

(ラピス、ジャンプは?)
(用意できた。後はアキトのイメージだけ)

 よし、今のうちに…

『逃がしませんよ~。アキトさ~ん』

 ゾクリッ!!

 …いかん。
 アレは獲物を見る目だ。
 かつてユリカが俺を見る目に似ている。
 逃げなくては!!!!

「ダッシュ!!ジャンプ用意!!!」
『!!マスター!?イメージは!!?』
「行くぞ!!ジャンプ!!!!」

 そして、純白の戦艦はその世界から消え去った。





「ここは何処だ!ダッシュ!?」
「アキト」
『不明です。ただ水中であることは確かですね』
「水中だと?地球の海か?」
「アキト」
『……そのようです。太平洋のど真ん中』
「やれやれ、消滅は避けられた様だな」
「アキト」
「さっきからどうしたラピス」
「これ見て」

『 西暦1997年 2月15日 21時18分(日本標準時) 』

「………」
「………」
『………どうやら過去にジャンプアウトしたようですね』
「どうやらなしでもそうみたい」
「………………どうすんだよ」



あとがき
Arcadia回復を祈って、変えてみました。



[298] Re:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/07 18:35
4月15日 2013時(現地時間)

どうせなら殺してほしい。
部屋がある。何もない真っ白な部屋。有るのは簡易ベッドだけ。そんな部屋の隅に少女はしゃがんでいた。
ここに来てどれだけの時間が過ぎたのだろう?解からない。分からない。ワカラナイ。

「何をしている!!相手は一人だぞ!!」

バババババ!!!!!
銃声が聞こえる。うるさい。でもどうでもいい。どうせ自分はあの水槽の中に入れられるのだ。裸にされ、薬をうたれ、暗くて深くて何もないあの水槽に。
―――楽しいのは爪を噛むこと。それしかできないから。わたしはだれでもなくなって、たのしいのはツメをかむこと。ツメってすてき。いたくなって、チガデルノガイイノ。チガデテ、トケテ、ツメ、ツメツメツ・・・
バガン!!
部屋の扉がふきとんだ。すごい。

「何をしている!」

部屋にはいって来た男が少女の手を払う。

「噛ませて。オネガイ。殺して。噛ませて」
「落ち着くんだ」

…誰だろう?始めて見る。サングラス、黒マント。真っ黒黒すけさん?

「日本語はわかるな」

もうろうとしながら、彼女は小さくうなずいた。

「あなたは何者?」
「…prince of darkness」
「ぷり…んせす?」
「プリンス。闇の王子様だ」

そう言いながら黒すけさんは何かの機械をいじりだした。

「わたしをどうするの」
「連れて帰る」
「どこに…?」
「とりあえず、医療施設だ。此処のように酷いことはしないよ」

ホントニ?カエレルノ?ホントニ?

「…あなたの名前は?」
「辛かったろう。もう喋るな」
「教えて」
「…天河、天河明人」

 そしてわたしは気を失った。このときジャンプと言う声が聞こえたような気がした。





西暦2000年 4月15日 1611時(グリニッジ標準時)
日本海 深度100m 強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン>

 巨大な潜水艦の格納庫。
 相良宗介は整備中のASを眺めていた。フルーツ味の『カロリーメイト』と、チェック用の書類をはさんだクリップボードを持って。

「おー、ソースケ」
 
 その声にふりむくと、同僚のクルツ・ウェーバー軍曹が歩いてくる。

「まーったく、無駄足だったな、今回の任務。」
「そうだな」

 カロリーメイトをかじりながら宗介は淡々と答える。

「ホント無愛想だね、おまいは」

 今回の任務はKGBの研究施設に潜入していた<ミスリル>のスパイが情報を持ち出し、こっそり姿を消す安全なものだった。ところが、スパイから『研究施設が襲撃されている』との連絡があったのだ。そのため最新鋭のM9を用いた救出作戦が組まれたのである。しかし…

「今回の任務でM9のスペックを確かめたかったのだが」
「俺たちが着いた頃にはすでに施設は壊滅状態。何もせずに帰ってきたからな」

 灰色のASを見ながらクルツは言った。

「いや。当初の任務は達成できた。問題はないだろう」
「まあ、そうだけどよ…」

 あれだけの重装備にもかかわらず、彼らはスパイを回収して帰ってきただけだったのだ。

「しかし、何者なんだろうな」
「襲撃者のことか」
「それ以外に誰がいるのよ。やっぱ米軍の特殊部隊?もしくは英国の諜報機関か?」
「わからん」
「…一言で済ますなよ」

 会話になってない会話をしていると、格納庫にメリッサ・マオ曹長が入ってきた。

「あ、いたいた」

彼女は宗介達を見付けると、早足で近付いてきた。そしていつもの漫才がはじまる。



[298] Re[2]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/07 18:35
4月20日 0800時(日本標準時)
東京 某所 天河邸

「行ってくるね」
「気をつけるんだぞ」

 食器を片付けながら、明人は言った。

「大丈夫!」

 そう言いながらアキトの義妹天河・ラピス・ラズリは家を後にした。 制服姿がよく似合う。

「心配だな・・・」

 はっきり言ってラピスはカワイイ。
 たしか「妹にしたいアイドルNo1に選ばれた」と自慢げに話していた。
 この間も恋文が靴箱に入ってたらしい。本人は「興味ない」と言いながら破り捨てたらしいが、逆恨みしたストーカーがラピスを襲うかもしれない。不安だ。

『マスター。少し子離れしないと不味いのでは?』

 そう言うのはオモイカネ・ダッシュ、俺の相棒だ。

「何を言っている。俺は親代わりとして・・・」
『だから!ラピスももう子供ではありません。それにこの世界ではMCが襲われることなどないでしょう』
「しかしストーカーが・・・」
『そんな時のために簡単な護身術を教えたのでしょう?』
「だが・・・」
『だいたいマスターはネガティブすぎます。もっとポジティブに!この世界に来たときそう言ったじゃないですか』
「・・・そうだったな」

 そうだ。ここは異世界なのだ。俺たちがいた世界じゃない。
 事の始まりは3年前(で良いのだろうか?)。ナデシコCに追いかけられたのが始まりだ。いつもなら軽くひねった後ジャンプで離脱して終わりだった。だがこの日は違った。普段は、通信をいれ俺を説得してから戦闘、という流れだったのだが、いきなりの奇襲そしてハッキング。完全に虚を突かれた。ラピスのおかげでシステムは無事だった。この後にルリちゃんは「ユリカさんの所には戻らなくてもいいです。私の所に戻ってきてください」なんて言い出すからな、驚いたと同時に恐怖した、あれは獲物を見る目だ。俺はそのままジャンプで逃げた、しかし恐怖のためうまくイメージできなかった、そのため異世界に跳んでしまった。
 この世界に来て思考をポジティブにすると決めた。初めは落ち込んだが、深く考えてもしかたがない。ジャンプの影響なのか五感はある程度回復した。全快ではないがないよりはマシだ。この世界なら俺はテロリストとして手配されてないし、ラピスが襲われることもない。そうだろう、MCなんて存在はこの世界にはいないのだから。

『どうしたんですか難しい顔をして、またラピスですか』
「い、いや、そうじゃない」
『あやしい』
「それよりダッシュ、会社に行くぞ」
『・・・了解』





4月20日 0830時(日本標準時)
東京都 ネルガル本社ビル

 俺はここの会長をしている。
 この世界に来てまずやったことは会社を作ることだった。なぜならユーチャリスを隠せる場所を確保したかったからだ。あの日の奇襲で戦闘は不可能な状態になってしまった。元の世界なら修復は可能だがこの世界では無理だ。今のユーチャリスにできるのは通常運行とジャンプのみだ。そんな理由で会社を作った。社名はいい名が思いつかなかったので「ネルガル」にした。アカツキも許してくれるだろう。
 ホリエモンも真っ青な方法で中小企業を買収。ミツビシとかいう会社も買収した。不祥事で株が暴落してたからな、簡単だったぞ。そしてこの会社からある存在を知る。
 当初ここは200年前の過去だと思っていたのだが違うことが判明した。俺たちの世界との歴史が少し違う。東西の冷戦が終わってないのだ。ダッシュが言うには「過去は過去でも平行世界の過去」だそうだ。
 そしてASと呼ばれる人型起動兵器の存在。性能は全然違うが見た目はエステに似ている。だが問題はそこじゃない。平行世界とはいえ200年前の世界であることは変わらない。それなのにこんな兵器が存在している。俺たちの世界では2足歩行のロボットができたのが20世紀後半。兵器なんてもんじゃない、ただ歩くだけのロボットだ。この技術の違いは何だ?

『マスター救出した少女のことなんですが』
「助かるのか」
『はい。ただ、ひどいドラッグ中毒です』
「麻薬か」
『詳しいことはまだわかりません。何の実験をしていたのかも不明です』
「治るのか」
『はい。医療用ナノマシンを使えば1ヶ月で治ります。ただ・・・』
「精神面か」
『はい。PTSDですからナノマシンでは・・・』
「・・・・・・」

 彼女は救出してからブツブツと何かを言っている。
 彼女を見つけたのは偶然だった。ASについて世界中をハッキングしていたところある研究施設で人体実験が行われていることがわかったのだ。自分やラピスと同じ境遇の人間をほっとけるわけがない。
 
「奴らは何をしていたんだ」
『襲撃する前に情報を手に入れてほしかったですね』
「しかたがないだろ・・・」
『頭に血が上ってましたからね』
「冷静になろうと思ったができなかった」
『マスター、ポジティブは熱血のことではありませんよ』
「わかってる・・・そういや奴ら彼女のことを『ウィスパード』と言っていたな」
『ウィスパードですか』
「ああ、何かの鍵になるかもな」
『ところでマスター』
「なんだ」
『仕事はしないのですか?』
「・・・・・・社長に任せてある」
『・・・・・・』

そして明人は今日も暇をつぶしている。



[298] 設定資料(兵器)
Name: KIKI
Date: 2006/03/24 21:01
 M9 :ガーンズバック
 全高 :8.4m
基本重量:9.5t
最高速度:280km/h
行動時間:150時間
動力源 :常温核融合炉
 武装 :AM11 12.7mmチェーンガン×2、XM18ワイヤーガン×2、
     GDC-B40mmライフル、ASG96-b 57mm滑腔砲、
     ヒューズVGM-A2(M)“ヴァーサイルⅡ”多目的ミサイル
     レイセオン/ジェネラル・エレクトリックK1“ジャベリン”超高速ミサイル、
     M1108対戦車ダガー、GRAW-2単分子カッター、ECS
<ミスリル>の主力AS。アメリカ軍ですらまだ配備されていない機体である。最新のECSで透明化ができる。


ARX-7:アーバレスト
 全高 :8.5m
基本重量:9.8t
最高速度:?km/h
行動時間:100時間
動力源 :常温核融合炉
 武装 :AM11 12.7mmチェーンガン×2、XM18ワイヤーガン×2、
     OTOメララ“ボクサー” 57mm散弾砲、
     M1108対戦車ダガー、GRAW-2単分子カッター
特記事項:ラムダドライバ搭載機
<ミスリル>の最新鋭AS。M9<ガーンズバック>をもとに作られた。
ブラックテクノロジーで生み出された<ラムダドライバ>(虚弦斥力場生成システム)が搭載されている。


強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン>
 全幅 :44m
 全長 :218m
巡航速度:30ノット
最大速度:65ノット
動力源 :PS方式パラジウム炉3基
 武装 :533mm魚雷発射管×6、多目的垂直ミサイル発射管×10、弾道ミサイル発射管×2
     (魚雷、対艦ミサイル、巡航ミサイル他多数)

-----------------------------------------------------------------

Rk-92:サベージ
 全高 :8.1m
基本重量:12.5t
最高速度:130km/h
行動時間:230時間
動力源 :ガスタービン・エンジン
 武装 :14.5mm機関砲×2、BK-540 37mmライフル、
     AT-6“スポーン”対戦車・対ASミサイル、B3M“グローム”HEATハンマー

Plan1056:コダール
 全高 :9.1m
基本重量:10.8t
最高速度:不明
行動時間:不明
動力源 :常温核融合炉
 武装 :MGK35mmライフル、IAI“ダークエッジ”単分子カッター
特記事項:ラムダドライバ搭載機

Zy-98:シャドウ
 全高 :8.5m
基本重量:不明
最高速度:不明
行動時間:不明
動力源 :常温核融合炉
 武装 :MGK35mmライフル、対AS用ガトリング砲
     単分子カッター
ソ連のゼーヤ設計局が開発中の第三世代型AS。
動力源は常温核融合炉で、M9を凌駕するスペックを持つ。
コダールの原型ではないかと思われている。



[298] Re[3]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/07 18:36
4月20日 0825時(日本標準時)
東京 都立陣代高校

「んー、まあいいでしょ」

 担任の神楽坂恵理がOKサインを出すとかなめはホッとした。抜き打ちの持ち物検査があったのだ。

「もー、さいてい・・・」

 その日、千鳥かなめは不機嫌だった。
 昨日友人に紹介された男としかたなくデートしたのだが、恐ろしくつまらなかったのである。

「カナちゃん、おはよ!」

 声をかけてきたのは友人の常磐恭子である。

「どうしたの?朝からなんかムカついたことでもあるの?」
「正確には昨日ムカついたのよ・・・」
「なになに?なんかあったの?」

 恭子は興味津々といった感じだ。

「なにってデートのことよ!あの男ベラベラしゃべるわりに中身がないし!」
「んー。そうだね」

 僕の父親は…とか、友人は…とか、ようするに他人の事しか話さないのである。

「デザイナー?Jリーガー?そんなことはどうでもいいのよ!自分のことを話なさいっての!」
「かなめうるさい」

 かなめの叫びにクギを刺したのはこれまた友人の天河・ラピス・ラズリだ。

「ラピちゃん、おはよ!」
「おはよう」
「おはようラピス、ねえ聞いてよ昨日さ・・・」

 かなみとラピスは中学からの友人である。初めて学校に行ったラピスはクラスで孤立していた。いじめられていたわけではないが、自分から友人をつくろうとしなかったのである。そんなラピスに話しかけたのが千鳥かなめであった。初めは警戒していたラピスも今では親友と呼べる仲になっている。
 かなめの愚痴が続くなか、ラピスは恭子に話しかける。

「かなめどうしたの?」
「昨日の男はしゃべるけどデザイナーでJリーガーなんだって」
「???」
「ようするに愚痴だから」
「わかった。無視する」

 そんなやりとりを知ってか知らずか、かなめの愚痴はなおも続く。

「孔明の一生とか、東太平洋の海洋汚染とか・・・」
「「んー。そうだね」」
「中近東の宗教問題とか・・・って聞いてる!?」
「「んー。そうだね」」
「『そうだね』じゃないでしょ、二人とも!?だいたい恭子が紹介したのよ!」
「だって、頼まれたんだもん」
「じゃあ、なに?あたしを『外国に売り飛ばせ』って頼まれたらそうするわけ?」
「「んー。そうだね」」
「・・・あ、あんたたちは・・・」
「なんなのこれは!!」

 二人に文句を言おうとしたそのとき、校門のところで担任の叫び声が聞こえてきた。
 人だかりができている、どうやら一人の生徒が検査に捕まったらしい。

「・・・きみね」
「はっ」
「転校初日からこういうオモチャは没収します!」
「いえ、それはオモチャでは、殺傷力の高いスプラット弾が装填されています。非常に危険です。絶対にトリガーには触れないでください。暴発すると死人が出ます。」
「?ああ、そう」

 そんな光景を見てかなめは嫌そうに言った。

「やだ、軍事オタクよ。気持ち悪い・・・」
「んー。そうだね」
「私は興味ない」
「転校生みたいだけど、あんなのには関わりたくないなぁ・・・」

 かなめの希望は5分後に崩れ去るのだった。





4月20日 1508時(日本標準時)
東京 都立陣代高校 体育系クラブ部室棟・2階

「絶っっ対、ヘンよ。あいつ」

 放課後、千鳥かなめは不機嫌だった。
 理由は今朝の転校生である。関わりたくないと思っていたのに自分のクラスに転入してきたのである。

「なんか、言ってることが支離滅裂じゃない?」

 自分は軍曹だとか、アフガンやらレバノンから来たとか・・・

「休み時間は教室と廊下の間をいったり来たり」
「そうだった?」
「そうだったよ。あーいう風に落ち着きない奴って、見ててイライラしてくんのよね」
「じゃあ、見なきゃいいじゃない」
「み、見てないわよ、あんなオタク!しかもね。たまに目が合うの。こっちを見るのよ。『たまたま、偶然だったんだ』みたいな顔して目をそらすんだけど、もうバレバレ。あー、気持ち悪い・・・」
「まあね、カナちゃんきれいだから」

 ユニフォームに着替えた恭子はヒガミのこもった声でつぶやいた。

「はは、ありがと。でも関係ないよ。あれは変質者の目ね」
「・・・なんかカナちゃん、ずーっと相良君の悪口言ってるね」
「そお?」





 そのころ、ラピスは部室棟の前で転校生の相良宗介に声をかけられた。

「聞きたいことがあるのだが」
「・・・なに?」

 袴姿のラピスは警戒しながら答えた。初めは興味がなかったが、行動が不審すぎる。授業中に休み時間、常に周りをキョロキョロしているのだ。

「君は確か、天河、だったな」
「そうだけど・・・」

 何者だろう?自分を狙っているのだろうか?

「千鳥かなめが何処にいるか聞きたいのだが」
「ソフト部の部室にいるけど・・・」
「すまない、協力感謝する」

 敬礼をして、彼は階段を上っていった。
 千鳥かなめ、友人の名前が出たのには驚いた。彼女を狙ってるのだろうか?

「新手の変質者?」

 そういえば明人が言っていた。ストーカーには気をつけろと。
 まあ、かなめなら大丈夫だろう。そう思ったとき。

『きゃあぁぁぁーーーーー!!!』

 2階から女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。
 まさか!?明人は「ストーカーは夜道で襲ってくる」と言っていたが、まだ明るい時間帯に襲うとは思ってもみなかった。
 すぐさまラピスは部室棟に走り出した。自分にはアキト直伝の護身術がある。

「かなめ、待ってて」

 そしてソフト部の部室で見たものは、総計18名の女子生徒にボコられている相良宗介であった。



[298] Re[4]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/07 18:37
4月24日 1743時(日本標準時)
東京 天河邸

「つまり、ストーカーに悩んでいると?」
「・・・はい」

 かなめは疲れた表情で答えた。
 連日の宗介によるストーキングに、うんざりしたかなめが明人に相談に来たのだ。

「毎日毎日私の後をつけるんです。目が合うと「偶然だな」と言ってごまかすんです・・・」
「他にはどのような行動をとるのかな?」
「「あぶない」と言いながらモデルガン振り回したり、「爆発物が仕掛けられている」って言って靴箱を爆破したり・・・」

 真面目な顔で考え込む明人を見て、かなめはこの人に相談して良かったと思った。
 ウチの生徒会長は「爆破は当然!」と屁理屈を言いながら宗介の行動を許してしまったのである。

「たしかに爆発物の安全な処理方法は爆破することだ・・・」

 かなめはその場でひっくり返った。

「しかし、爆発物かどうかを確認しないのは不可解だな」
「て、天河さん、ウチの生徒会長と似たような事言わないで下さい・・・」
「ふむ」

 明人はラピスの初めての友達であるかなめを一目おいている。
 かなめならラピスを任せられると判断し、学校での様子を見てもらっていたのだ。そんな彼女がストーカーに悩んでいる。明人はかなめの力になりたかったのである。

「過去に彼と面識はないんだね?」
「・・・はい」

 宗介とは4日前に初めて会った。

「・・・かなめちゃん、一度彼と話をしたらどうかな?」
「な、何でですか!?」

 かなめは驚いた。明人はストーカーに話しかけろと言っているのである。

「ストーカーの大半は逆恨みから犯行を行う。つまり、彼はカン違いしてるんだ。」
「はぁ・・・」
「この場合は話し合いが一番だ。現に、このような事件は話し合いで解決した例が多い」
「・・・なるほど」
「さりげなく話かけてみるといい。今度はこっちが、偶然を装ってね。ただし、もしものことを考えて誰かを側につけた方がいい」

 かなめは思った。やっぱりこの人に相談して良かった。明人に対する評価が10上がった。
 実は明人の第一印象は『コスプレ好きの変人』であった。おまけにラピスの事に敏感だから、危ない人かと思った。だが、話してみると結構いい人で、色々と相談に乗ってくれるし料理の腕もうまい。しかも彼はあのネルガル社の会長だ。それを知ったときは驚いた。たった3年で世界のトップを走る会社を作ってしまった人が自分の友人の兄なのだから。これだけの企業だと、家族が誘拐される可能性だってある。そう考えるとラピスに執着するのもうなずける。

「すみません。相談に乗ってくれて・・・」
「いいんだよ。いつもラピスが世話になってるしね」
「そんな。今日はありがとうございました」

 そう言ってかなめは天河邸を後にした。





「ダッシュどうだった?」
『確かに相良宗介と思われる人物を発見しました』

 かなめが天河邸に来てから帰るまで、ダッシュは監視カメラで周辺を調べていたのである。

『しかもこちらに気づいてました。カメラを直視してましたから・・・』
「ただの高校生ではないな・・・・・・プロか」

 そもそも、靴箱を爆破する時点でおかしい。

『はい、間違いありません』
「・・・かなめちゃんを狙っている・・・なぜ?」

 かなめは、どう見ても普通の娘だ。
 確かにキレイな娘だが、経歴だって平凡。そんな普通の高校生を狙う意図がわからない。

「・・・俺が助けた少女も、ただの高校生だったんだろう」
『ええ、その件なのですが・・・』
「どうした?」
『彼女の血液から微量のナノマシンが見つかりました』
「なん、だと!」

 明人は驚愕の表情をうかべる。

「どういうことだ!前の報告書には書いてなかったぞ!」
『あまりに微量だったため発見が遅れました』
「・・・まさか、ウィスパードとはこのことか、しかし・・・」

 ありえない。この時代にナノマシンなんて存在しないはずだ。
 ASならともかくナノマシンとなると実用化するには100年以上先の技術が必要になる。

『このナノマシンについては何もわかっていません。ただ・・・』
「・・・なんだ」
『火星の『遺跡』から見つかったナノマシンと類似しています』





4月24日 1815時(日本標準時)
東京 調布市 タイガース・マンション 505号室

「マオ、調べてもらいたいことがある」
「あら、何?」
「天河明人という人物についてだ」



[298] 設定資料(人物)
Name: KIKI
Date: 2006/02/25 11:01
<ネルガル>

天河明人
本編の主人公。A級ジャンパー。ネルガル会長。
人体実験により味覚を中心とした五感を失うが、ジャンプの影響である程度回復した。
ポジティブに生きようと思っているが、不幸続きのせいでなかなか出来ないでいる。

天河・ラピス・ラズリ
MC(マシンチャイルド)。陣代高校2年生。護身術部所属。
「妹にしたいアイドルNo1」の称号を持つ。
ユーチャリスの操縦、アキトの感覚サポートをしていた。

マルコ・ラミウス
潜水母艦<エウカリス>の艦長。
ソ連最大の原子力潜水艦の艦長であったが、脱走し現在は追われる身である。
潜水艦ごと西側に亡命した天才的指揮官。
カリーニンとは上司と部下の関係だった時期がある。

ジャック・マンキューソ
潜水母艦<エウカリス>の副長。
米海軍士官学校を次席で卒業したが除隊。
実戦経験はないが優秀。

グレース・ワイズマン(グレイ)
潜水母艦<エウカリス>のAS隊員。
旧ユーゴスラビア出身のセルビア人。
クロアチアが独立すると、それに反対する連邦軍に参加してASを乗り回していた。
敵の包囲を受けてしまい、味方の救援を待っていたが見捨てられる。
(実は連邦軍はセルビア人勢力を矢面に出し、正規連邦軍を温存していた)
死を覚悟したが、明人に助けられた。

<ミスリル>

相良宗介
ミスリルに所属する軍曹。コールサインはウルズ7。認識番号はB-3128。
性格は同僚のクルツ&マオ曰く、ネクラ・朴念仁。愛用拳銃はグロック26(or19)。
人種的には日本人だが、戸籍は存在しない。
アフガニスタンをはじめとする世界各地の戦場を廻ってきた凄腕の傭兵。
ただし、それ故に現代日本の常識と言う物が全く欠落している。
かなめの護衛任務を受けて都立陣代高校に通うことになるが、壮絶なるカン違いにより、校内を混乱に巻き込むこともしばしば。

千鳥かなめ
都立陣代高校2年生。生徒会副会長。
スタイルは良いが、過激な性格が災いし、「恋人にしたくないアイドルNo1」の称号を持つ。
「ウィスパード」と呼ばれる人間であり、その能力を欲する組織から狙われている。



[298] Re[5]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2006/02/25 10:58
4月27日 1000時(日本標準時)
千葉 幕張某所 ネルガルドッグ 潜水母艦<エウカリス> ブリッジ

「天河君は来ないのかね?」

 艦長席に座る老人は言った。

『はぁ、急用が出来まして…』
「大方、ラピス君のことだろう」
『よく御解かりで…』
「艦長。ラピスとは誰のことです?」

 メガネをかけた若い男が老人に質問する。
 老人と若者は潜水母艦<エウカリス> の指揮をするためにネルガルが雇った者達だ。
 老人は艦長のマルコ・ラミウス。元ソ連海軍の士官だった。ある理由で脱走し、その際ソ連の潜水艦ごと西側に亡命するという離れ業をやった人物である。
 若者の方は副長のジャック・マンキューソ。米海軍士官学校を次席で卒業したが、その後除隊。実戦経験はないが優秀な逸材だ。

「会長の妹さんだ」
「そうなのですか。一度お会いしてみたいものです」
「変なことは考えるなよ。会長の怒りをかうぞ」
「じ、自分はそんなことは…」
『えー、そんな訳でして、稼動試験の方はお任せします』

 潜水母艦<エウカリス> 。ユーチャリスが戦闘不能になってしまったために、明人たちの新しい足として作り出した。潜水艦にしたのは、秘密裏に行動するには一番適していたからである。
 今日はそんな<エウカリス>の処女航海の日だ。

「わかった」
『よろしくお願いします』

 そう言いながら、ダッシュは先ほどのことを思い出した。










「沖縄に行く」
『いきなり何言ってんですか?』
「沖縄に行くと言ったのだ」
『…ラピスについてく気ですか?』

 明日からラピスは修学旅行なのだ。

「ああ」
『…なんでまた?』
「かなめちゃんが気になる。相良宗介のこともな。二人とも俺の目の届く範囲に居た方がいい」

 あの後、かなめからの連絡で「結構良い人だった」とあったのだが。次の日には「変態ストーカー野郎」と180度違うメールが送られてきた。
 ネルガルは相良宗介について調べてみたが時間がなかったため、たいした情報を得られなかったのである。

『それだけではないでしょう』
「決まってるだろ!沖縄だぞ、お・き・な・わ!沖縄といえば海、海といえば水着だ。つまり、ラピスが水着姿になるんだぞ!そんなラピスを見て、おかしな軟派野郎が言い寄ってきたらどうする!?中学の時は京都だったから良かったものの。沖縄だぞ!だいたい何で沖縄なんだ!?最近の高校は理解できん。そもそも修学旅行とは教育の一環でだな………」

 力説する明人

「………という訳だ。ラミアス艦長にはお前から言っておいてくれ」
『マスターが言えば…』
「俺は明日の準備をしなければならん。頼んだぞ」
『………』










『……はぁ』
「どうしたのかね」
『いえ、なんでも』
「まあ、色々とテストしてみよう」
『そうそう。あまり遠出はしないで、日本の近海で行ってください』
「難しい注文ですね。自衛隊か在日米軍に見つかったらどうするのです」

 不安そうにマンキューソ副長が答えた。

『彼らごときに見つかる艦ではありませんよ。ニニギもいますし』

 オモイカネ級AIニニギ、<エウカリス>の中枢コンピュータである。
 『了解』『任せろ』『ドンと来い』
 ニニギが自身満々の意志を込めた画像を、ラミウスとマンキューソの回りの空間に投影させる。

「努力しよう」
『それでは通信を終わります』

 通信が切れるとマンキューソ副長は言い出した。

「しかし信じられませんね。喋るAIですか、初めて見ました」
「…そうだな」

 ネルガルに来てから驚きの連続だった。十年どころではない技術を多々見せられたのだ。

「何時の日か、無人機だけで戦争をする世の中になるのでしょうか…」
「そんなことはない。天河君も「AIには限界がある」と言っていた」

 そう言いながら帽子をかぶり直す。

「それに「ゲームみたいな戦争を肯定する気はない」ともな」
「ゲーム?ですか…」
「そうだろう。人が死なない戦争なんて、見ている人間はゲームにしか写らんよ」
「…そうですね」

 二人はこれらの技術を見たとき、明人に詰め寄った。お前は一体何者なのか。何処でこのような技術を手に入れたのか。明人は詳しい事は何も答えなかった。

『正義の味方をキドルつもりはない。だが俺にはやらなければならんことがある』

 そう言っただけだった。だが、二人は明人の真剣な目を見て協力をする気になったのだ。

「無駄話は終わりだ。<エウカリス>発進準備」
「了解!」

 こうして、潜水母艦<エウカリス>の処女航海は幕を開けた。










あとがき
オリキャラを出してみました。元ネタはあの作品です。そのまんまです。わからない人は『マルコ・ラミウス』で検索してみてください。



[298] ナデシコ・パニック外伝
Name: KIKI
Date: 2005/08/27 13:03
TV、原作を見て思いついたネタです。



[298] 桃色のグラップラー
Name: KIKI
Date: 2005/08/27 13:04
わたしはラピス・ラズリ。
わたしはアキトの目、アキトの耳、アキトの・・・
え?聞き飽きた?
なら止める。

じゃあ最初から。
わたしは天河・ラピス・ラズリ。
陣代高校2年生。
明人の薦めで部活をやろうと思った。
けど、いい部がなかったから作った。
それが護身術部。
最近は馬顔の痴漢が出没するとかで新入部員が増加中。
そんな訳でわたしが部長。

「それじゃ準備体操から・・・」
「たのもぉぉ!!」

いきなり入ってきたのはロンゲの男・・・誰?

「お前が天河か!!」

そう言いながら1年生の遠藤弥生をびしりと指差した。

「え?」
「ウチのバカどもが世話になったようだな!!」

いまにも噛みつきそうな勢いで彼女を怒鳴りつける・・・おい。

「あ、あのー。あたしはエンドウって名前なんですが・・・」
「?」

ロンゲは目を細め、彼女を観察する。

「・・・人違いだ。すまん」

言ってから、険しい目つきで辺りを見回した。

「アンタ誰?」

業を煮やしたわたしは聞いてやった。

「お前が天河か!!」

その声を頼りにしたのか、ロンゲはわたしの前に立った。

「オレは空手同好会の椿一成という者だ。ウチのバカどもが世話になったようだな!!」

わたしはバカの世話をした覚えはない。

「なんのこと?」
「とぼけるな!今朝ウチの会員を倒しただろう!」

今朝?そういえば変なハゲが話し掛けてきた。しつこかったから投げ飛ばしたけど・・・

「ウチの者を大衆の面前で倒して、いい気になってるようだな!!だが、部長であるこのオレを倒さない限り、勝ち逃げは許さん!!!」

つまり逆恨みか・・・

「勝負だ!天河!!」

・・・めんどい。

「どうした!怖気ついたか!?」

ムカッ。

「アンタを倒せばいいのね・・・」
「やれるものならな」
「・・・わかった」

ラピスと一成は両腕を下げたまま対峙する。
すこしの沈黙、そして・・・

「大導脈流・・・究極奥義っ!臨・死・堆・拳っ」
.
.
.
.
.
「せ、先輩・・・あそこまでやることは・・・」
「だめ。図に乗ったら付け上がるから」
「でも、両腕と足首の関節外して動けなくした後にゆっくり絞め落とすのは・・・」
「みんな憶えておいて、変態を殺るからには手加減しないこと。あいつらに人権なんて無いんだから」



[298] Re[6]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2006/02/25 10:58
4月27日 1905時(日本標準時)
日本海 潜望鏡深度 強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン> 中央発令所

 敵の研究所へのミサイル攻撃準備は秒読み体制に入っていた。

「トマホークの入力データを最終確認.。座標、地形、画像、全て問題無し」
「一番の発射管扉を解放!」
「一番発射管扉を開け!」
「誘導システムを活性化。発射シークエンス最終段階」
「一番発射!」
「一番発射!」
「発射」

 MVLS(多目的垂直発射管)を表すスクリーンの一番管にグリーンのランプが点灯。
 トマホークミサイルはデ・ダナンから煙をあげるように尾に水泡を引きながら垂直に上昇し、海面から飛び出した後ブースターを左右に切り離す。
 巡航用の2枚の羽を開き角度を変えて海面に平行して海上にしぶきをあげながら、オレンジの光を灯して北へと飛び去った。

「発射シークエンス完了。MVLSのハッチを閉じます」
「ご苦労様。では、ただちに深度200まで潜って南に転針します。下げ舵20度」
「アイ・マム。速力前進三分の二。下げ舵20度」
「速力前進三分の二。下げ舵20度。アイ。深度80を通過……90……100」
「一番ミサイルはウェイポイントアルファを通過。所定のコースを順調に飛行中です」
「結果が分かるのは3時間後ですな」

 手元の艦長用の小型スクリーンを見つめ続ける少女にメガネをかけた白人男性が言葉をかける。
 少女の名前はテレサ=テスタロッサ。愛称はテッサだ。
 小柄な体つきで、髪はアッシュブロンド。淡いブラウンの軍服に身を包んでいた。幼い顔つきの16歳であるが、階級は大佐。この巨大な潜水艦の艦長である。
 白人男性の方は副長のリチャード=マデューカス中佐である。彼はかつてイギリス海軍の潜水艦の艦長を務めた経験がある人物。

「……あ」

 マデューカスに向き直るテッサに更に言葉を彼は繋ぐ。

「お休みになっては、いかがですか?」
「そうしたいけど……。やめておきましょう。悪い夢を見そうだから」

 再びスクリーンを見つめ静かに言うと、今度は大柄な人物に顔を向ける。

「少佐。研究所を破壊できたら護衛は引き上げますか?」

 男の名はアンドレイ=カリーニン。口ひげと、頭の後ろで縛った長い灰色の髪が特徴のロシア人で宗介達の上司でもある。

「はい。ですが……」
「なにか問題が?」
「いえ、思い過ごしでしょう……」










4月27日 1947時(日本標準時)
日本海 深度200m 潜水母艦<エウカリス>

 エウカリスの航海は順調だった。
 途中、遭遇した日米の潜水艦相手に、接近、攻撃、監視や回避のテストを行った。勿論、相手に気付かれないように。

「すばらしい性能ですね。この艦は」

 マンキューソは感嘆の声を上げた。

「このような艦は他に存在しないでしょう」
「それはどうかな」

 マンキューソの感想をラミウスは一蹴した。

「と言いますと?」

 マンキューソは眉をひそめ、聞き返した。

「君はアメリカ出身だったな」
「はぁ」
「『トイボックス』という言葉を聞いたことはないか?」
「申し訳ありません。自分は士官学校を卒業後に除隊したので・・・」
「ふむ、そうか。『トイボックス』とは米海軍内で噂になっている幽霊潜水艦のことだ。とてつもなく大きく、音も無く現れ、音も無く消える。しかも、恐ろしく足が速い」
「ユーレイ?ですか」

 何だそんな話か、マンキューソはそう思った。

「なんでも<ミスリル>という軍事組織が所持しているらしい」
「噂ですよ。よくある話です」
「…ところで君は……」

 そのときソナールームから報告が来た。

「艦長、潜水艦らしいノイズをキャッチしました。針路180で南下中。距離7カイリ。速力30ノット」
「ノイズ・パターンは確認できるか?」
「……いいえ、できません」

 潜水艦というものは全て固有のノイズ・パターンをもっている。いわば名刺のようなものだ。

「……パッシブで確認をつづけろ」

 パッシブソナーは相手の音波を受け取る装置だ。アクティブソナーとは違い、自ら音を発しない。そのためソナーによって敵に自分の存在や位置がばれることは無い。
 エウカリスの中核コンピュータ『ニニギ』には世界中の潜水艦のデータが入れられている。その『ニニギ』にデータに入っていない艦だ。ブリッジに緊張感がただよう。
 どれだけの時間が経っただろうか。
 目標は南下し、こちらは北上しているのだから衝突針路にちかい。

「距離2カイリ」
「……やり過ごしますか?」

 マンキューソがそう尋ねたとき、カーンという反射音が聞こえた。音波が艦殻にあたって跳ね返る音である。

「目標は、アクティブソナーを発振しました!」
「気付かれたな。針路45、深さ250」

 ラミアス艦長は矢継ぎ早やに命令した。
 相手は雷撃準備は完了しているはずだ。恐らく気付いた瞬間に撃ってくるだろう。エウカリスは急角度に回頭すると、潜航にかかった。

「目標、魚雷発射管を開きます」
「来るぞ!衝撃にそなえろ!」
「……チャフ発射用意」

 音響ホーミング魚雷と判断したラミアス艦長は静かに命令をした。

「目標、魚雷発射!数は6、高速スクリュー音接近!」
「距離1カイリでチャフ発射。深さ300」

 エウカリスはなおも潜航をつづける。

「1カイリです」

 マンキューソが報告する。

「チャフ発射、針路180」
「スクリュー音接近!………それました。遠ざかります」

 遠くで爆発音が聞こえる。岩礁にでも当たったのだろう。

「目標の位置は?」
「我々の前方です。……突っ込んできます!!」
「ほう?」
「回避をっ!」
「いや、そのままだ」
「なにを言ってるのです!このままでは!!」
「そのままだと言っている」
「ぶ、ぶつかります!」
「………!!」

 衝突は起こらなかった。
 衝突直前、目標は方向を変えたのである。

「目標、離脱します。速力………50ノット!?」
「副長」
「は、はい」
「『トイボックス』もなかなかやるとは思わんかね?」
「………」










 ノートパソコンの前で椅子に腰をかけたガウルンは片耳に電話をおしつけている。

『研究所は壊滅状態だ。ウィスパードの実験データは全て失われた。研究の続行は不可能だ』
「気の毒に。クレムリンに秘密にしてなきゃ資料を外部で保存できたのにな」
『ガウルン!お前との契約は全て破棄だ!!』

 コツコツ

「何の音か分かるかね?」
『……?』
「DVDだよ。中に魅力的な数字がギッシリ詰まってる」
『研究データか。貴様、いつのまにっ!!!』
「そんな風に怒ると思って別の手も打っておいた。じゃあな、大佐。収容所でも健康に気をつけてくれ」
『待て!そのデータをどうする気だっ!!』

 相手が叫ぶのと同時にドアが開く音が聞こえてくる。

『大佐。貴方の内職に党本部が深い関心を寄せています』
『な、なんだと?』
『施設を私物化し、その結果大きな損失をもたらした疑いも……』
『ま…待ってくれ!私はハメられたんだっ!!』
『釈明はルビアンカで聞きましょう』

その言葉を最後に聞いてガウルンは手の中の電話の通話ボタンを切り目を閉じて酷薄な笑い声を洩らした。










あとがき
テッサとガウルン、顔見せの回。
そして、エウカリスと?・?・?との邂逅でした。



[298] Re[7]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2006/02/25 10:59
4月28日 0958時(日本標準時)
東京上空 JNA903便


「当機は9時55分、羽田発。JNA903便で御座います」

 生徒達でざわつくキャビンに機内放送が流れるなか、ラピスはひとつの疑問を持っていた。

(なんで明人がいるの?)

 そう、ラピスは明人がこの飛行機に乗っていることに気がついていた。
 搭乗口から機内に入ってくる明人を偶然見つけたのだ。
 いつものバイザーをかけて顔を隠してるつもりだろうか?
 見慣れてるラピスにとっては意味の無いことだった。

(バレバレだよ明人……)

「うわー。ねぇねぇ、カナちゃん、ラピちゃん見てごらんよ」

 デジカメを窓に向けながら恭子は二人に話し掛ける。

「ん~……」
「?」

 ボーっと前を向いて上の空で返事を返すかなめの頬を恭子は人差し指でつつく。

「ん?」
「ねぇ、どーしたの?昨日からずっと変だよ」
「べつにぃ……」
「相良のこと?」
「ラ、ラピス!何よイキナリ。んなわけないでしょ。わはははははは……」

 かなめは笑って誤魔化した。

「かなめ。相良のことで悩んでるならわたしに話して」
「ラピス……」

 かなめはラピスの言葉に感動した。

「わたしがあのストーカーをシメてあげるから」
「…………えっ?」
「この前もロンゲの変態をシメたの。両腕と足の関節を外してやったの」

 自分の友人が危ないことを言い出した。せっかくの感動が台無しだ。

「あの~、何の話を……」
「そしたらね、これくらいいいハンデだ~、とか言い出すの。アレはマゾね。だからお望みどおり絞め落としてやったの」
「………」
「だから、いつでも言って。瞬殺でもなぶり殺しでもどっちでもいいよ」
「ラ、ラピス……」

 その時、突然機体に振動が走り生徒達がざわめきだす。

「おいおい!傾いているぞ!!」
「………!」
「大丈夫よ。これくらいなら」

 椅子にしがみつくように体を縮める恭子を見て言う。

「……うん」
「変。こんなに天気がいいのに」

 それから数時間後。

(おかしい、さっきから山しか見えない)

 窓の外を見ていたラピスは疑問をいだいていた。

「ねぇ、カナちゃん?」
「ん?」
「沖縄ってまわり海だよね?」
「あたりまえでしょ」
「でも、さっきから山ばっかだよ?」
(他の生徒も気づき始めた。明人に連絡しないと)

 そしてラピスはカバンを開けた。










 天河明人はそのとき複雑な胸中にいた。

(二度もハイジャックを経験する人生って……)

 一度目は新婚旅行のとき。火星行きのシャトルを北辰達が乗っ取った。その後爆破され、表向きは事故となったが、ある意味ハイジャックだろう。そして今回が二度目である。

(俺の人生は呪われてるのか?)

 明人がネガティブになっていたとき。

(明人)
(ラピス?)
(うん)

 ラピスとのリンクがつながった。かつて明人の五感をサポートするため二人はナノマシンによって感覚を共有していた。
 この世界にジャンプアウトしたときそのリンクが切れてしまった。明人の五感もある程度治ったためそのままにしておいた。

(リンクが!?ラピス、いったいどうやった?)
(コミュニケを使ってダッシュ経由でつなげてもらった)

 ラピスは緊急事態のために常にコミュニケを所持していた。そのコミュニケからネルガル本社のダッシュ、軌道衛星、明人といった順にリンクをつなげたのである。

(よく思いついたな)
(前にダッシュと考えたの。それより明人、この飛行機のことだけど)
(ああ、どうやら。ハイジャックされたようだ)
(どうするの)

 明人にラピスの不安という感情が流れ込んでくる。

(ラピス、実はかなめちゃんは狙われている。このハイジャックも彼女を狙ったものだろう)
(!?)
(詳しい事は俺にもわからん。だが事実だ。相良宗介も犯人の仲間である可能性が高い)

 ラピスは困惑した。クラスメイトの二人がこのハイジャックに関わっているのだから無理もない。

(この飛行機が何処に向かってるかわかるか?)
(うん。このままだと北朝鮮の順安航空基地に着く)

 北朝鮮―――朝鮮民主主義人民共和国、民主主義と言っているが本当は独裁国家である。

(まずいな。救援を呼べんぞ)
(でも人質の数が多すぎる。わたし達だけじゃ無理)
(とりあえず静観だ。飛行中ではどうにもならん)
(わかった)

 そして、903便は順安航空基地に着き、乗客達は現状をを知ったのである。飛行機がハイジャックされた事を……



[298] 桃色のグラップラー(裏)
Name: KIKI
Date: 2005/08/29 15:15
 俺の名は椿一成。
 陣代高校2年。
 一子相伝の殺人拳・大導脈流の後継者であると同時に空手同好会の部長だ。
 俺は今『護身術部』の前に立っている。
 今朝方、ウチの部員がここの部長に倒された。
 勧誘をしていたところ、新入生と間違えて話しかけたらしい。
 会ったことはないが聞いた話だと『天河』というらしいが。
 一成は道場のドアを開ける。

「たのもぉぉ!!」

 天河は・・・そこか!!

「お前が天河か!!」
「え?」
「ウチのバカどもが世話になったようだな!!」
「あ、あのー。あたしはエンドウって名前なんですが・・・」
「?」

 よく見ると女だ。間違えた。

「・・・人違いだ。すまん」

 俺としたことが女と間違えるとは・・・いくらなんでも女にやられるほどウチの連中は弱くない。
 しかし何処だ。女ばかりじゃないか。

「アンタ誰?」

 この闘気は・・・こいつが天河か。

「お前が天河か!!オレは空手同好会の椿一成という者だ。ウチのバカどもが世話になったようだな!!」

 俺も一応は部長だ。メンツというものがある。

「なんのこと?」

 こいつ、とぼけるきか!

「とぼけるな!今朝ウチの会員を倒しただろう!・・・ウチの者を大衆の面前で倒して、いい気になってるようだな!!だが、部長であるこのオレを倒さない限り、勝ち逃げは許さん!!!勝負だ!天河!!」
「・・・・・・」

 ・・・こいつは何故黙ってるんだ?

「どうした!怖気ついたか!?」
「アンタを倒せばいいのね・・・」

 そうこなくてはな・・・しかし、随分と高い声だな。

「やれるものならな」
「・・・わかった」

 俺は両腕を下げたまま天河と対峙した。
 向こうからしかける気はないか・・・ならば、こちらから。

「大導脈流・・・究極奥義っ!臨・死・堆・拳っ」

 一撃で決めてやる。
 距離を詰めると天河の顔がよく見えるようになった。
 ・・・ん?随分と背が小さいな。顔も女みたいだ、あれ?女?
 一瞬考えてしまったせいで僅かな隙ができた。

「グッ!!」

 天河は突き出した俺の右腕の手首をつかみ小手返しの要領で投げ飛ばした。
 しかも、その瞬間に肩まで外すおまけつき。

「・・・・・・ふっ、なかなかやるようだな。声が高いわりによくやる」
「声?」
「まあいい、これは丁度いいハンデだ!!」

 俺としたことが。闘いの最中に何を考えているんだ、女顔に集中力を乱すとは・・・

「今度はこれだ!大導脈流奥義っ!血栓掌!!!」

 この技は俺の得意技だ。外すことはありえん。

 ムニュ

 ・・・ムニュ?
 そのとき俺は何が起こったのかわからなかった。気づいたら畳と顔を合わせている。

「アンタそんなに死にたいの」

 振り向くと貞子のような恐ろしい女の顔があった。
.
.
.
.
.
 同刻 空手同好会道場

「しかしめんこい子じゃったのう・・・」
「まさか新入生と間違えるとは・・・」
「あれは安産型じゃったな・・・」

.

ラピスの強さについて
ラピス≦一成(メガネ無)<一成(メガネ有)
今回はメガネ無し+油断ですからラピスが勝ちました。



[298] Re[8]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2006/02/25 10:59
4月28日 1718時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 順安航空基地

(さて、どうするかな)

 この機が順安に着いて7時間が経過した。
 ハイジャック犯はまだ姿を見せない。

(しかし……)

 機内は葬式のように静まりかえって―――――いなかった。
 一般乗客は不安な顔をしているが、制服を着た集団―――陣代高校の面々は騒いでいるのである。
 トランプ、花札、カード麻雀にモノポリー。まるでハイジャックされているとは思えなかった。

(ナデシコみたいだな)
(明人)
(ラピスどうした?)
(今ナデシコって)
(ああ)

 ナデシコ長屋のときも皆こうやって馬鹿騒ぎしていた。

(明人やっぱり)
(昔のことだ、もう忘れる)
(………)
(!!来たみたいだ)

 その瞬間、機内が静まりかえった。
 サブマシンガンを持ったスーツ姿の男が客室に入ってきたのだ。

(3人か。やはり)

 明人の予想どおり、男達はかなめの席に近づいていった。

「そこの君」
「………」
「君の事だよ。ロングヘアーの綺麗なお嬢さん」
「なんです?」

 かなめが不安げな顔で返事をする。

「マスコミに送る映像を作りたくてねぇ。君に出てほしいんだが、良い素材だと思ってね」
「いえいえ。あたしなんかは見てのとおり、チンケな小娘ですから視聴者の皆さんが不愉快になるだけでってすって、ホント……」
「いいから、来いって。なぁ遠慮せずに」

 そう言うと小銃を構えていた男が、かなめの右手をとって無理矢理に彼女を立たせようとする。

「あ!……ちょっと、えーとね、離して…イヤだってば!……どーして、あたしなの!!」
「カナちゃんっ!!」
「かなめっ!!」
「……それから」

 かなめに話しかけた男は振り向くと。

「それからそちらのかわいらしいお嬢さんにもお願いしたい」

 ラピスを指差しながらそう言った。










(!!)
(なんだと!!)

 まったくの予想外の事態だ。

(明人どうする?)
(………)

 そのとき。

「ちょっと!!」
「……!」
「私の生徒をどうする気です!!!」

 担任なのだろう。女教師が割り込むように男の背中に言葉を投げつける。

「なぁに。すぐにお返ししますよ」
「いいえ、許しません!連れて行くなら私になさい!!」
「貴方では、意味が無いんでねぇ。これはマスコミへの―」
「そんな口実は通りませんよ!この卑怯者!!」

 その一言に緩んでいた表情が締り、目つきが険しくなる。

(まずい、殺されるぞ)

 明人にはわかった。男は本気だ。

「なんて人達かしら、ハイジャックなんて最低な事をして!!しかも子供を利用するなんて!!貴方達の主張なんて紙クズ同然ね!!どれだけの理由があろうと、こんなことは神が絶対に……」
「やれやれ。あんた五月蝿いな」

 懐からすっと拳銃を抜きだし、すぐ前に立つ彼女の額にポイントする。

「なにを……」

 目を見開き呆然と呟く恵理先生の額に赤いレーザーサイトの光が一直線に突き刺さる。

「やめっ!」
「!!!!」

 薄気味の悪い笑顔で男は指にかけた引き金を引こうとした瞬間、突然けたたましい音が邪魔をした。

「「!!!!!」」

 見ると彼等の後ろで機内用の食器が床に散らばっている。

「……失礼」
(相良宗介だと!?)

 明人は驚いていた。今まで相良宗介はハイジャック犯の一味だと思っていたからだ。
 それが教師を助けようとする行動をしたのである。危険な賭けだが・・・
 宗介は食器を無言で片付けると再び席に座った。

「痛いったら!!」

 右腕をつかむテロリストから乱暴に腕を振り払うかなめをよそに男は宗介に視線を送った。

「………」
「ガウルン」

 また別の男が入ってきた。

「ん?」
「時間だぞ。急げ」

 去って行った仲間から宗介を見るが、再びラピスに視線を戻すと、

「さて、君も来てくれるかい?」
(明人どうする?)
(かなめちゃんに付いてやってくれ。必ず助け出す)

 ラピスは考えたフリをして答えた。

「わかった」
「行くぞ。この連中にもう用は無い」

 こうしてかなめとラピスは連れて行かれた。
 銃を突きつけられた教師は分厚いドアが閉まると共に卒倒してしまう。

(クソッ!ラピスまで連れて行かれるとは)

 わかっていたはずだ。
 あの少女の体からナノマシンが見つかってから、マシンチャイルドが狙われる事を考えなかった訳じゃない。
 だが明人の中に甘えがあったのだ。
 ここは異世界だ。俺たちがいた世界じゃない。マシンチャイルドなんて存在はいない。
 3年間平和だったためかラピスも狙われる可能性があることを低く見てしまった。

(これからどうする)

 過去の経験からおそらくこの飛行機は爆破されるだろう。自分の時と同じように・・・

(ん?相良宗介か……何処に行くつもりだ)

 ふと見ると宗介が客室から出て行くところだった。










あとがき
原作読んでたらとんでもない事に気づいた。
ミスリルってこの時点でアマルガムのこと知らなかったとは、
知ってるものとして書いてたよ・・・



[298] Re[9]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/07 22:16
4月28日 1730時(日本標準時)
JNA903便 貨物倉庫。

 宗介は荷物コンテナから自分のバッグを取り出し、ライトをあてながら中の衛星通信機、スタンガンなど自分の各種装備を取り出していた。

(俺はなんて馬鹿だ)

 敵の注意を引くのがどれだけ危険な事か自分は理解していた。
 しかし、神楽坂を助けるにはああするしかなかった。
 人としては勇敢な行動だろう。それでも兵士としては最低だった。
 あの瞬間、ガウルンが気づかなかったのは奇跡だろう、二度目はない。
 かなめが連れ去られた。ラピスもだ。
 かなめはわかる。(理由はわからないが)ミスリルも彼女が狙われているからこそ自分を護衛につけたのだ。
 だがラピスはなぜだ?
 マオによると、天河明人という人物はネルガル社の会長らしい。
 時間がなかったのでそれだけしかわからなかったが・・・
 そうなると天河ラピスが身代金目的で誘拐される可能性はある、しかし今回は事情が違う。
 かなめと同じ特殊な存在なのだろうか?しかしミスリルは把握していなかった・・・

「動くな」
「!!」
「ゆっくりと振り向くんだ」

 宗介は手を上げてゆっくりと振り向いた。

「相良宗介だな?」

(!!ガウルンに気づかれていたのか!?)

「質問に答えろ」
「答える義務はない」
「・・・ならば質問を変えよう。お前はハイジャック犯ではないのか?」
「?何の話をしている」

 宗介はなにかがおかしいと思った。
 この男の話はまるで自分がガウルン達の仲間のように喋っている。

「お前は千鳥かなめを拉致するために陣代高校に潜入したのだろう?」
「・・・違う」
「天河ラピスのことは?」
「・・・何も知らん」
「・・・・」

 男はなにやら考え込んでいる。

「・・・なるほど。どうやら勘違いしていたようだ」

 そう言うと男は銃を下ろした。
 飛び掛ろうと思ったがやめた、隙がない。

「自己紹介だ。俺は天河明人。天河ラピスの兄だ」





 旅客機から離れた基地の一角。
 大きな電源車のケーブルが繋がれた薄暗いトレーラー内。
 かなめとラピスは透明な円筒形の寝台に寝かせられ、顔にゴーグルをはめられ奇妙な映像と文字を見せられていた。
 その寝台を前にして立つ人影が二つ。一人はガウルン、もう一人は女医だ。

「結果は何時分かる?」
「早くて明日の昼」
「長いな。なんとかならねぇのか?」
「二人もいるのよ。薬物を投与しても効き目が出てくるのは六時間以上先なのよ」
「だったら急ぎな。急がなければお前も殺す」

 静かな口調だが凄みを帯びた声色で宣告する。

「焦らせないで!アンタ達にはウィスパードのなんたるか、その重要さが分かっていないのよ」
「分かってるさ」
「コダールまで持ってきておいて、よく言うわ」

 呆れる様に彼女は両手を広げて肩をすくめる。

「この国の連中の心変わりに備えた念の為の用心さ」

 女医は鼻で笑って

「意外と臆病なのね?」

 すると突然女医は胸倉を掴まれる。

「頭に乗るんじゃない。お前は黙って言われた仕事をしていればいいんだよ」





「今度はこっちの質問に答えてもらおう」

 宗介は明人に自分のことを話した。
 自分はミスリルに所属していること。
 かなめを護衛していたこと。
 その理由はわからないこと。
 信用はしていなかったが今は一人でも戦力がほしかったからだ。

「お前の目的は?」
「ラピスとかなめちゃんの救出」
「なぜここにいる?」
「この便に乗ってたから」
「何故乗っていた?」
「ラピスの護衛」
「ネルガルの会長がか?」
「妹を心配するのは兄の務めだ」
「・・・・」

 宗介は最後の質問に納得しなかった。事実なのだが・・・

「質問はこれくらいでいいだろう。それより手伝え、爆弾が仕掛けられてる」
「何故わかる」
「奴らの目的はあの二人だ。二人の誘拐を隠すため乗客は殺されるだろう。後は俺の経験だな」

 そのとき倉庫の搬入ハッチが機械音と共にゆっくりと外側へ開いてゆく。
 二人はコンテナの影に身を隠した。
 入り口から現れた三人は背広を着て、油断無く小銃を構えたテロリスト達の姿だった。
 隅にあるコンテナに近づくと彼等の一人が口笛を吹く。

「こんなデカイとは思わなかったぜ」
「地上で作動させる場合も考えてな。これだけの量なら確実だ。奥に赤いコードがあるだろう。絶縁用テープを外して、3と書いてあるソケットに挿入するんだ」
「あった。入れるぞ」
「・・・・」

 カチッと指し込む音が聞こたかと思うと甲高い機械音が一度鳴る。

「OKだ。もう何所にも触るなよ。30m以内では携帯、無線も禁止だ」

 コンテナは閉じられた。
 三人のテロリストが出て行き搬入ハッチが完全に閉まるのを確認してから二人は物陰から姿を現した。コンテナの蓋を開け中身を確認する。

「!!!」
「やはりな」

 巨大な2個のボトルの精密爆弾、ニ液混合式の液体炸薬である。
 電子回路のタイマーも作動し時を刻んでいた。

「相良、解体できるか?」
「簡単な物ならできるが、これは専門家でないと無理だ」
「なら俺がなんとかしよう」
「できるのか!?」
「なんとかな」

 どうする?
 この男を信用できるのか?
 もし爆弾が爆発したら?
 陣代高校の生徒は炎に焼かれ死ぬだろう。
 だが自分の使命はかなめの護衛だ。
 しかし、宗介の脳裏に先ほどの機内でのやりとりが浮かんだ。

「お前はかなめちゃんとラピスを頼む」
「・・・・・・ああ」

 背を向けた宗介だったが再び明人に振り向くと

「一ついいか」
「なんだ」
「なぜ俺を信用する?」
「・・・・」
「俺はお前を完全に信じたわけじゃない。だがお前は・・・」
「先生を助けたろ」
「・・・・」
「少なくとも悪い奴じゃない」
「・・・・」
「早く行け」
「・・・了解」

 そして宗介は倉庫から出て行った。
 それを確認すると明人は荷物からなにかを取り出す。

「さてと、何処に飛ぶか・・・」





あとがき
宗介と明人でした。
なんか展開が強引な気がする。

CPについて
明人×ラピスorかなめorテッサ
宗介×かなめorテッサ
と考えています(つまり決まってない)。



[298] Re[10]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/02 15:20
4月28日 2015時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 順安航空基地

 ぼんやりとした視界に白衣を着た女性の姿を認めて、かなめは目を覚ました。

「気分はどう?」
「最低…」
「別に…」

 かなめは嫌そうに、ラピスは興味なさそうに答えた。

「そう。でも、まだ続けるわよ」

 近くのコンピュータの端末をいじりながら女医は答える

「ねぇ、帰らせてよ。こんな変な睡眠学習なんか…」
「学習?とんでもない。貴女達が生まれる前から知ってる事なの」
「・・・」

 かなめに振り向きながら女医は言った。





 通信用端末の前に立つテッサとカリーニン。

「信用できるの?」

 宗介が基地内の様子、天河明人の事、そして機内にある爆弾の事を説明すると彼女は言った。

『分かりません。ですが、利害は一致しています』
「……対策はこちらで検討します」
『ハッ!』
「軍曹。現時点では二人の安全より、乗客の救出が最優先だ」
『……了解。少佐』
「ん?なんだ?」
『ハイジャック班のリーダーは・・・ガウルンです』
「!!」

 それを聞いたカリーニンの横顔をテッサは一瞥する。

「・・・?」

 普段滅多な事では驚かない彼の表情に驚愕と動揺が小さく張り付いていた。





 基地の片隅。
 宗介は通信機を折り畳んで、肩に担いだ瞬間。

「動くな!」

 背後からの鋭い声と、銃を背中に押しつけられる感触が彼を襲った。





 デ・ダナン作戦会議室へ続く通路。
 カリーニンとテッサは二人だけで薄暗い道を進んでいた。

「これまで30人以上の要人を暗殺し、航空機の爆破も二度実行しています。危険な男です。当時、我々はKGBから追われる身で、ガウルンは追っ手でした。ヤツは私達の留守中にAS二機を率いてゲリラの村を襲撃したのです。壊滅状態でした…」
「それで?」
「私達は報復を誓いました。機会が訪れたのは二週間後の事です。私が囮になって相良軍曹が狙撃。ガウルンを仕留めました」
「でも、違った…」
「そのようです」
「残虐な男なのね。そもそも人質の解放など、ありえない相手だったのですね?」
「はい」

 テッサは口を僅かに吊り上げ冷笑し

「そのガウルンとかいう人には高いツケを払わせてやる必要がありますね」
「はい」
「そして天河明人ですか…」
「マオ曹長の報告書によるとネルガル社の会長とのことです。しかし3年前以前の情報が掴めません」
「信用してもいいのかしら?」
「…妹の身を案じているのは確かでしょう」

 テッサは溜め息を吐くと

「信用するしかありませんね。それにしても千鳥かなめさん以外にウィスパード候補がいたとは思いませんでした」
「情報部に抗議しておきます」

 二人は目的地まで辿り着き鉛色の扉に手をかけた。





 ラピスはゴーグルで訳の分からない文字映像を見せられ続けられていた。

(何だろう?自分の頭の中を覗かれてる?でもこれって…)

 ラピスはそう思いながら精神を集中させた。
 そして次の瞬間彼女の目に映ったのは文字映像ではなくなった。
 まるで海の中にいるようだ。

(やっぱりできた)

 ラピスはハッキングに成功したのだ。今自分が見ているのは電脳世界だ。
 この得体のしれない機械が自分の頭の中を調べているのなら、逆に入り込む事ができるのではないかと考えたのである。
 遊んでいる暇はない、何か情報を見つけなければならない。

(……何これ?)

『  千鳥かなめ    : ウィスパードの確率88%
 天河・ラピス・ラズリ : ウィスパードの確率46%』

 そこにはかなめと自分のことが記されてあった。

(……書き換えちゃえ)

『  千鳥かなめ    : ウィスパードの確率0.88%
 天河・ラピス・ラズリ : ウィスパードの確率0.46%』

 危機感を感じたラピスは情報を書き換えた。
 なんだかよくわからないが…
 そのとき。

「出せえぇぇぇ!!!」

 かなめの絶叫で電脳世界から現実世界に意識を戻す。
 自分の現状に限界がきたのだろう。
 彼女は叫んで目の前の透明なガラスを両手で何度も叩く。

「出せ!出せ!こら!!早くここから出せって言ってんだよ!!このヤブ医者!!マッドサイエンティスト!!!」

 激しく手足で叩いて喚くかなめに、モニターに向かっていた女医は椅子に座ったまま彼女へ顔を向ける。

「おとなしくしなさい!しっかりと映像を見るの!!」
「うるさい!!こんなクソつまんない実験映画、3Dで見せられちゃたまんないわよ!!」

 ゴーグルをむしり取る様に外して大声をあげるかなめに、仕方なく女医は椅子から立ち上がって彼女に近づいた。

「なんてガキかしら…」

 かなめの横たわる円筒形の寝台の角度を水平に戻し、ガラスのシールドを開きながら忌々しげに女医は呟いた。

「優しくしていればつけ上がって!」
「どこが優しいのよ!このオバン!!」

 ラピスの方を見て女医は言う。

「この子を見なさい!行儀よくしてるでしょう?」
「ふざけんじゃないわよ!!」

 そう言うと暴れて腕を勢いよく振り回していたかなめのヒジが、偶然女医の顎に当たり後へ音を立て倒れた。

「へへ。ラッキーかな?」

 嬉しげに呟き身を起こして、両足を寝台から地に降ろすと。

「ラピス!ラピス!!返事しなさいよ!!」
「…かなめ」
「ちょっと大丈夫?」

 心配そうに尋ねるかなめに対しラピスは平然と答えた。

「これ開けて」
「…心配した私が馬鹿だったわ」

 そう言いながらかなめはシールドを開ける。
 まるで知っていたかのように…

「逃げるわよ」
「どこへ行く気!」

 扉に手をかけると、突き刺さるような鋭い声がかけられた。
 見ると銃を二人に向けて女医がこちらを睨んでいる。

「こっちへ来なさい!!」
「イヤよ、誰が!そんな物で脅かそうったって…」

 拒否の言葉を吐こうとしたかなめの前で乾いた銃声が響いた。





 かなめとラピスの捕らえられている電源車のついたトレーラー前。
 コンテナから身を隠して様子を宗介は伺っていた。

「あれか・・・」

 呟いて左手の腕時計を見る。
 再び様子を伺う宗介の脳裏に不吉な映像がよぎり、また身を戻し目を瞑り自分を落着かせるように
 言い聞かせるように言葉をそっと口にする。

「焦るな・・・」

 逡巡する宗介は背をコンテナにもたれさせた。

(今日の俺はどうかしている)

 ガウルンの前での危険な行動。
 爆弾を明人に任せた事。
 そして日に二度も後ろを取られた事。
 先程の兵士は隙をみてスタンガンで気絶させたが仕留める途中に通信機を壊してしまった。
 普段の自分では考えられない行動ばかりだ。

「クソ・・・」

 頭を後ろに振った瞬間

バンッ!!

 彼の耳は鋭い乾いた音を捉えた。それは一発の銃声だった。

「どうした?なんだ今の銃声は?」
「分からん。中からだ」
「行くぞ!」

 トレーラーの回りを小銃を片手にさげて警護していた男達二人がトレーラーの中へ駆けて行くのを見守りながら

「ここで出ていくような奴は大馬鹿のアマチュアだ。だが俺は違う!」

 血を吐く様に宗介は言葉を独白する。しかし、

「!!!」

 宗介はギュッと目を瞑る。
 座り込み顔を恐怖させるかなめとラピスの前に、彼女へ銃を向けるガウルンの姿。
 そしてガウルンのあの殺人をする前の口を歪ませた獰猛な笑顔が今度は思い浮かぶ。

バンッ!!

 そんな彼の想像を切り裂くようにニ発目の銃声が届いた時には宗介はもうコンテナから飛び出していた。



あとがき
宗介×かなめは確定です。
明人はまだ保留・・・



[298] Re[11]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/07 22:25
4月28日 1812時(日本標準時)
東京都 ネルガル本社 AS格納庫控え室

「ん~、終わった!」

 そう言いながら報告書を書き終えた彼女は背伸びをする。
 彼女の名前はグレース・ワイズマン。愛称はグレイ。
 旧ユーゴスラビア出身のセルビア人である。
 内戦でASに乗っていたが、包囲され味方に見捨てられた処を明人に救われた。
 表向きはネルガル社のテストパイロットだが、実際はエウカリスのAS隊員だ。

「AS部隊か……何人集まるのかしら」

 今のところAS部隊は明人とグレイを含め三人しかいない。
 明人は腕の良いAS乗りを探して世界中の紛争地域に顔を出していた。
 しかし良い人材がなかなか見つからないでいた。
 腕の良い傭兵は確かにいる。だが皆金次第で裏切る可能性があった。
 グレイのように信用できる者ではないのだ。

「会長は沖縄か…やっぱりシスコン?」

 明人がラピスを溺愛しているのは知っていた。
 しかし修学旅行まで着いていくとは思わなかった。

「…だめかなぁ」

 グレイは溜め息まじりにつぶやくと、

「グレイ」
「!!!」

 驚いて振り向くと明人が居た。スーツ姿だがびしょ濡れである。

「か、かかか会長!お、沖縄に行ったのでは・・・」
「ちょっと野暮用でな・・・すまんが99式の準備をしてくれないか。俺は服を着替えたい」

 バイザーを外しながらグレイに指示をする。

「は、はい」

 グレイが出て行くと明人は服を脱ぎ始めた。

「ダッシュ」
『感度良好』
「すぐに飛びたい、99式は?」
『すでに修理済みです。…マスター、あの爆弾はどうしたのですか?』
「太平洋」
『へ?』
「いいとこが思いつかなかった。太平洋に飛んで直ぐにここにジャンプした。装置もぶっ壊れたよ」
『だからびしょ濡れなんですね』
「ああ」

 いつもの『闇の王子』姿に着替える。

「どうなんだ装置は?」
『もう少し改良の必要があります』

 装置とはジャンプ・ユニットの事だ。
 今まではブラックサレナでも高機動ユニット内に装備しなければならなかった。
 ネルガルは従来のASに搭載できるように小型化したのだ。
 個人で携帯可能なものも作ったが、連続しての使用は難しいものになっている。

「すぐに北朝鮮に飛ぶ」
『でもマスター。北朝鮮の何処に飛ぶんですか?』
「順安に決まってるだろ?」
『マスター北朝鮮に行ったことないでしょう』
「そりゃ……あれ?」
『イメージできないんじゃ…』

 ジャンプするには目的地をイメージしなければならない。
 明人は北朝鮮には行ったことはない。
 今回のハイジャックでも903便の外には出ていない。
 窓から見た景色程度ではイメージもなにもない。

「……」
『…どうすんですか?』
「…!!ダッシュ、エウカリスは今何処にいる!?」
『今は日本海にいますね』
「そこに飛ぶ」

 明人はエウカリスで北朝鮮に入り、順安に行こうと考えた。

『…大丈夫ですか?』
「高機動ブースターを使う」
『ああ、その手がありましたね』

 高機動ブースターとは、エステの空戦フレームとサレナの高機動ユニットを参考に作ったもので、ASを100キロ先まで飛ばす事ができる。
 欠点は使い捨てであるのとGに耐える人間が限られる事だ。

「会長、準備できましたけど…」

 恐る恐るグレイが声をかける。

「すまない」
『ラミウス艦長には私から伝えておきます』
「ああ」





4月28日 2205時(日本標準時)
黄海 潜望鏡深度 <トゥアハー・デ・ダナン> 第一状況説明室

「全て迅速に行う!!」

 スクリーンの前に立ったカリーニン少佐は数十名の兵士達を前にして念を押した。

「我々トゥアハー・デ・ダナンが敢行する救出プランは次の通りだ」

 正面のスクリーンには北朝鮮の地図が映っていたが、カリーニンの言葉に続いて基地の見取図へと切り替わり、ハイジャックされた903便が表示される。

「ASチーム六機に先立って、まず各種航空支援部隊が出撃する。攻撃ヘリと輸送ヘリ、VTOL戦闘機の順だ」

 スクリーンの表示をカリーニンは指示棒で指し示しながら

「この二機の輸送機は作戦発動と同時に強行着陸を行い、5分以内にジャンボ機から人質グループを収容。離陸する」
「たった、5分?そりゃキツイ」

 それを聞いたクルツは言う。

「5分でも長いぜ。あのデカブツを守るのは・・・」

 その言葉を聞きながらマオが質問する。

「着陸中、輸送機のどちらか破壊された場合は?」
「取り残された人質は可能な限り輸送ヘリに収容する。最終的にASの収納を放棄しても構わんが、その場合は確実にASを破壊しなければならない。これは緒君の生命よりも優先される。この作戦を成功させることができるのは全世界で我々だけだ!各員の能力に期待する!!」

 そしてカリーニンは作戦説明を終えた。




あとがき
グレイ登場です。
フルメタのアニメに出てきたキャラですが、半分はオリ設定です。
前から出そうと思っていたのですが、明人とくっつけるのも面白いかも・・・
AS部隊は明人、グレイにもう一人出ます。
アニメに出てきたインド洋戦隊の誰かにしようと思うのですが、誰がいいでしょうかね?



[298] Re[12]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/07 22:33
4月28日 2233時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 順安航空基地

 トレーラー内。
 女医の放った銃弾はかなめの横を通って扉に着弾した。

「ちょ、ちょっと……!」

 女医はもう一発放つと二人は短い悲鳴をあげる。

「何事だ!」

 扉が開き外を警戒していた三人が中へ銃を構えて飛び込んで来た。
 二人がかなめとラピスに銃をつきつける。

「ちょっとしたトラブルよ。そのガキに灸をすえてやろうと思っただけ」
「だからって、アンタ…。なんだって銃なんて使うんだ!」
「おだまり!!!」

 責めるような相手の口調を制す。

「ほら、さっさとその娘を押さえつけなさい」

 顔を見合わせたテロリスト達は、かなめの両手を背中にまわして拘束する。
 寝台に押さえ付け、彼女をうつ伏せにさせた。

「かなめ!」
「ジッとしてろ」

 ラピスが声をかけるが、やはりテロリストに押さえつけられてしまう。

「な、なにを……!」
「この薬。テストの段階では使わないつもりだったんだけど貴女が悪いのよ。せっかく優しくしてあげたのに…」

 そう言ってかなめに、注射器をちらつかせ女医は酷薄な笑みを浮かべる。

「や……止めて……」

 針の先端から妖しい液体が流れ出る。
 かなめは必死で拘束を逃れようとするが、男達に押さえられてしまう。

「かなめ!!」

 その時、二人を押さえつけていた男達が呻き声とともに倒れる。

「二人とも怪我はないか?」

 二人が振り向くと宗介が立っていた。
 左手にスタンガンを、右手には銃を構えている。

「「相良(君)」」
「…あなた何者?!」

 女医は突然の侵入者の様子に驚いて言う。

「質問するのは俺のほうだ。言え。これは何の設備だ?何故彼女達をさらう?」
「そんな事言えるわけが…」

 言葉の途中で女医の周りに銃弾が弾ける。

「答えろ。次は貴様を撃つ」
「止めて、話すわ。この設備は……その娘達が本物のウィスパードかどうかを調べる為の物なの」
「ウィスパード?なんだそれは?」

 説明する女医に疑問をなげかけたその時。

「!!」

 かなめとラピスを抱き寝台の陰に隠れると、二人が先刻までいた場所で連続した火花が散る。
 気絶していたテロリストの一人が目を覚ましたらしい。宗介は数発撃ち返す。

「ぐあ…」

 宗介は、テロリストが死んだのを確認すると二人に言う。

「行くぞ」
「ま、待って!こんなカッコじゃ外を歩けないよ」

 かなめは裾を引っ張り、見えてしまいそうな下着を必死に隠す。

「諦めろ。時間が無い。」

 目だけをかなめに向けて宗介は素っ気無く答えたが、

「えぇー!そ、そんな!!」
「!!」

 車外から別の敵の銃撃が宗介のまわりに降り注ぎ、咄嗟にかなめの方に身を投げる。
 まるでかなめを押し倒したような格好だ。

「ドコ触ってんのよ!アッチ行け!!チカン!!!ヘンタイ!!!!」
「ち、違う。いい加減にしてくれっ!」

 かなめに顔や頭を殴られる。
 この状況で二人はいまだ押し問答を繰り返していた。
 そんな二人をよそにラピスは女医から白衣を失敬していた。





 宗介は片手でマシンガンを敵に撃ち返しながらトレーラーの裏へと走る。
 かなめは宗介の制服を、ラピスは女医が着ていた白衣を着ている。

「乗れ。早く」

 銃撃の音が続く中、電源車に二人を乗らせる。
 すぐにエンジンをかけて車は急発進した。

「頭を低くしていろ!」
「な、なんなのよ~!」

 文句を言いながらも宗介の指示通りに頭を抱えて身を縮こませるが、銃撃の音が止むと身を起し

「あんた、何者?どこへ行くの?これから一体どうする気?」

 かなめは宗介に対し疑問の声をあげた。

「・・・」

 だが、宗介は前を向いて無言のまま答えなかった。

「説明してよ!!」
「実は、転校して来て以来ずっと君を追けていた」
「んなこたぁ分かってるわよ!だから、その辺の事情を聞かせなさいよ!!!」
「俺が知ってるのは君がなにか特殊な存在で、ある諜報機関が生体実験に使おうとしていた事ぐらいだ」
「チョーホーキカン?セータイジッケン?」

 かなめは間の抜けた声で宗介の言葉を繰り返す。

「そうだ。それを未然に防ぐ為、護衛としてミスリルより派遣された兵士。それが俺だ」
「へ、へいし?みすりる?」
「ああ。俺はミスリルの軍曹、相良宗介。コールサインはウルズ7。認識番号B-3128」

 その会話を聞いていたラピスは宗介に聞いた。

「ねえ、あたしも?」
「…すまない。ミスリルは君の存在を認識していなかった。俺の護衛対象は千鳥かなめのみだ」
「なんだ…」
「な、何言ってんのよラピス」

 それを聞いたかなめは、呆れ、困惑する様に

「そ、それから相良君。貴方が相当の軍事マニアだって事よーく分かったわ。でもね…」
「つかまれ!!!」

 かなめの言葉を鋭く制止するように彼女に注意の声をかけた。
 目の前には二体のASが巨大なマシンガンをこちらに構えいた。
 宗介がハンドルを切ると、電源車の横で爆発の煙があがる。
 連射しながら迫る敵の砲弾を左右に受けて衝撃で、車体を何度も揺らしながら宗介は叫んだ!

「伏せていろ」
「な、何で!?」
「突っ込むからだ」

 かなめの目の前には倉庫のシャッターが凄まじいスピードで近づいていた。

「うわあああぁぁぁぁー!!!!」

 倉庫をブチ破り、車を止める。

「…死ぬ」
「・・・」
「降りるんだ」

 二人に言うと宗介は車を降りる。
 そこには先ほど襲ってきたのと同じASが横に一列鎮座していた。

「これ、アームスレイヴ?」
「そうだ。Rk-92<サベージ>だ」

 そう言うと手前のサベージに近づこうとする。

「まさか…あんた!ちょ、ちょっと。何考えてるのよ!!あんたが、どんだけ筋金入りの軍事オタクでもねぇ」

 そんな宗介を制止するが、宗介はサベージの左手から肩へとよじ登り宗介は背中まで上がった。

「止めなさいって!素人がそんなロボット動かせるわけないでしょっ!!」
「素人?」

 その言葉を聞いた宗介はハッチ解放レバーを一気に引いた。
 頭部が前にスライドしコクピットが露出する。

「え?」
「俺は素人ではない。スペシャリストだ」

 コクピットに乗り込んだ宗介は、円形のスティックを両手とも握り込んだ。

『コクピットブロック閉鎖。マスタースーツ調整開始』

 宗介の乗るサベージを呆然と見上げていたかなめの手をラピスが引っ張る。
 するとシャッターが穴だらけになった。既に敵のAS二機はそこまで来ていた。

『メインジェネレーター点火。メインコンデンサ電化上昇中。全関節ロック強制解除実行中』
「さっさと動け!ソ連製め!」

 敵のAS二機はシャッターを掴んで壊すと倉庫の中へ入ると、宗介のサベージに気がつきマシンガンを構える。そして…

『コンバットマニューバーオープン』
「!」

 宗介のサベージは敵の銃弾を駆けるように走りだして紙一重で回避。
 そのまま回避した勢いを殺さず敵の一機にタックルし、もつれ合うように倉庫のシャッターをぶち抜き外へ出る。
 更に相手が落とした銃を拾い、倉庫内からこちらへ駆けてくる敵機へ振り向きざまにマシンガンを連射。
 倉庫の中から敵が出ると途端に力を失ったように前のめりに巨体が倒れた。
 更に最初に組み付いたサベージに対し零距離射撃を行う。

「ウソ」

 一歩歩くごとに地面が揺れる感覚をかなめは肌で感じながら目の前の巨人を見ていた。

「二人ともつかまれ。基地の外に逃げる」

 そう言って宗介のサベージは左膝を折り、かなめとラピスの前に大きな左手を差し出した。

「こ、これに乗るの?」
「二人乗りは狭い」

 かなめとラピスはサベージの掌に自分の体を乗せた。
 二人を持ち上げ、倉庫から出るとサベージに向けて砲弾が放たれる。
 装甲車が三両迫っていた。

「しっかりつかまってろ」

 言うとサベージは攻撃してきた敵とは反対方向に走り出す。

「「きゃあぁぁぁっっっ!!」」

 揺れる掌の上で悲鳴をあげる二人をよそに、宗介は後から砲弾の雨を降らせてくる装甲車へ37mmライフルを放つ。
 その一瞬で敵の車両は爆発した。

「待って!皆はどうするの?あたし達だけ逃げるなんて!!」

 遥か彼方に見える旅客機を見てかなめは頭上へ叫んだ。

「今はこちらの身が危うい!俺の仲間が、なんとかしてくれる!!」
「仲間?」
「救出部隊だ」

 逃走するサベージはフェンスを一気に超えて基地の外の森の中へと飛び込んだ。





4月28日 2237時(日本標準時)
日本海 潜水母艦<エウカリス> 飛行甲板

 エウカリスの飛行甲板には漆黒のASが鎮座していた。
 高機動ブースターを取り付けたAS-01こと99式である。
 エステを軸にASの技術を取り込んだ試験機だ。
 試験機ではあるが、性能は第二世代といわれるASを凌駕している。

「こちら01。発艦準備良し」

 カタパルトに足を乗せると明人は言った。

『天河君、順安までの距離は95キロだ』
「了解。艦長世話になった」
『全くだ。一歩間違ったら格納庫にいた者は君に踏み潰されていたぞ』
「だからダッシュに連絡させたのでしょう」
『ふっ…』
『会長。合流地点は黄海でよろしいのですね』
「ああ、よろしく頼む」

 そう言うと明人はブースターを点火しカタパルトを一気に走る。
 最高速度に達すると艦から飛び出しさらに加速していった。

「待ってろ、ラピス」




あとがき
ラピスの出番がない…
タグの使い方もようわからんしorz



[298] Re[13]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/08 12:10
4月28日 2253時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 順安航空基地近くの山中

 森を疾走するサベージの親指にかなめとラピスはしがみついていた。

「もう少し、辛抱してくれ。敵を引き離すまでだ」

 森を抜け川を渡ろうとした時、敵の一撃が近くに着弾し巨大な水しぶきをあげた。

(センサーには反応無かったぞ。どこだ?)

 機体の動きを止めて辺りを探るが、それらしい物は見当たらない。
 すると突然闇の中から何か物体が飛んできた。

「!!」

 反射的にライフルを連射して迎撃すると、それは巨大な火柱をあげ爆発した。

「熱っ!!!」
「グレネード弾!?」

 爆発による水しぶきが薄い霧をあたりに作り出し視界が悪くなった
 その隙に再びグレネード弾が撃ち込まれる。

「しまった…!!!」

 爆発からかなめとラピスを守るため機体を盾にすべく背を向ける。
 しかし、その瞬間サベージの片脚を吹き飛ばされバランスを崩した宗介は川に頭から突っ込む。

「ぷはっ!」
「う~」

 二人はサベージの掌から川に落ちた。
 かなめは水から顔をあげて大きく息を吸い、ラピスはAS酔いの為か気分が悪そうにしている。

「不発弾?クソ、囮か」

 最初の一発目のグレネード弾は確かに爆発したが二発目は囮だったのだ。
 サベージの足は敵の狙撃によって撃ち抜かれ、さらなる射撃が背中と右腕に被弾する。
 すると川上から銀色のASがゆっくりと現れた。
 菱形の頭部と赤い一つ目、そしてポニーテールのような金色の放熱パイプを頭の後ろで揺らしながら近づいてくる。
 宗介はこの銀色のASへなんとかライフルを向けて連射するが、逆に相手が放った一撃で左腕を失ってしまう。
 さらに近づいた敵はコクピットへ攻撃をするが、なんとか機体を動かしギリギリ回避。
 しかし、装甲が吹き飛び骨格が剥き出しになってしまう。
 コクピットも外から丸見えになった。

「相良(君)!」
「来るな!下がってろ!!」
「あの時の生徒か。まさかエージェントが高校生とはな。流石の俺も騙されたよ。」

 機体の外部スピーカーからテロリストのリーダー、ガウルンの声が響く。
 そしてガウルンは剥き出しのコクピットから、宗介の顔に視線を止めると突然笑いだした。

「こりゃたまげた。おまえカシムか?気付かなかったぞ。カリーニン大尉はどうした。あの腰抜けも元気か?」
「…何故、貴様が生きている?」
「昔の負傷で頭蓋骨にチタンの板が埋め込んであったもんでね。角度も浅くて俺は助かった。しかし、こんな形で再開できるとは、イイよ、サイコーだ。つもる話も山ほどあるが時間が無い。その娘の脳味噌をいじり回す仕事があるんでな。ちょっとした宝探しだよ」
「宝探し?」
「ああ。その娘の頭にはブラックテクノロジーが詰まっているのさ。ラムダドライバの応用理論とかな。完成すれば核兵器さえ無意味になるそうだ。知らないみたいだな?だが、もう教えてやらんよ。三途の川の船頭に、団体さんがもうすぐ来ると伝えておいてくれ、じゃあな!!!」

 ガウルンの持つライフルがコクピットの宗介に向く。

「!!!」
「…やめっ!」

 その瞬間、突然サベージに向けていたライフルが砕ける。

「イィィィィィィィィヤッホーーーーーーーッッ!!!!!」

 パラシュートをつけたクルツのM9が大声を上げて銀色のASへ向けて大型ライフルを連射してきた。
 その発砲をガウルンの銀色のASは回避し、そのまま川から飛び出て背後の森へと姿を消した。
 それを見るとパラシュートを切り離してクルツは川へと着地する。

「ウルズ6着地成功!7とエンジェル、それにフェアリーもいるぜ!!」

 7は宗介、エンジェルはかなめ、フェアリーはラピスを指している。

「クルツ!!」
「クルツ?…って、まさか!」

 宗介の言葉を聞いて疑問を口にしたかなめにクルツが答える。

「そ。俺、クルツ・ウェーバー君。かなめちゃん、元気してた?」
「かなめ知り合い?」
「ああ…まあ、ちょっとね」

 実は数日前、かなめは道を尋ねてきた外国人と意気投合しカラオケで盛り上がっていた。
 その外国人こそが宗介と同じく護衛任務についていたクルツ・ウェーバー軍曹であった。

「な…何なのよ、あんた等……」

 その時、上空を飛ぶ飛行機に続いて閃光が地上で弾ける。

「あれは?」

 コクピットから降りてきた宗介がそれを確認すると、

「間に合ったか……」
「ソースケ!その二人を連れて基地へ戻れ。あと少しで輸送機が強行着陸する。待ち時間は五分だ。ここは俺に預けろ。後で拾ってやる」
「分かった!…あの銀色のASには気をつけろ。機体もオペレーターも桁違いだ」

 宗介はクルツに忠告すると、二人を連れて走り出した。





4月28日 2300時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 順安航空基地

 M9五機と輸送機二機とともに降り立ったマオは迎撃する敵のサベージにマシンガンを撃ち込む。

「フライデー!」
『イエス、マスター・サージェント』
「ECSをカット!ミリ波レーダーを作動!アクティブIRとストロボ・ライトも点けろ!」

 マオは自機のAIに命令した。

『敵に先制される危険が大幅に増えます』
「それでいい。あたしはカモになる」

 自分が囮になる事で旅客機と輸送機への攻撃を引きつけなければならない。
 味方のM9も基地中で派手に暴れている。
 そうこうしているうちに戦車がマオに向かって発砲してきた。

「このっ!」

 マオは背中からジャベリンを取り出すと戦車に向けて発射する。
 敵戦車は一撃でバラバラになった。
 ジャベリンをもう一本構えると、別の戦車に発射する。

(意外と敵が少ないわね…)

 滑走路に散らばる敵機の残骸を見ながらそう思った瞬間

『二時の方向から新手』
「なに!?」

 マオ機に向かって銃弾の雨が降り注ぐ。
 なんとか回避するが数発が自機の左腕に命中してしまう。

「損害は!?」
『左腕の損傷大』
「くっ…あれは?」

 ビルの蔭から長大なガトリング砲を装備した赤いASが近づいてくる。全く見た事のないタイプだ

(ヤバイ)

 マオは内心思った。
 ガトリング砲は強力な破壊力を持った弾丸を遠距離から雨のように降らせてくる。

(輸送機から引き離さないと!!)

 距離を取りつつライフルを赤いAS向けて発砲する。
 現状での手は一つしかない。それは耐えず動き回る事。
 立ち止まっていては、あのガトリング砲に狙い撃ちされるからだ。
 しかし…

「ぐぅ!!!」

 障害物の少ない滑走路では全ての弾丸を避けきることは不可能に近い。

『危険。損傷大。撤退を要求します』
「…だめか」

 AIが現状を知らせ、あきらめかけたその時 

『上空より未確認飛行物体』
「えっ!?」

 空から赤いASに向かってライフル弾が放たれる。
 赤いASは後ろに飛跳ねてそれをかわす。
 そして二機の前に漆黒の機体が降り立った。




あとがき
ベタな展開です。
そういやASにもAIが搭載されてるんだった。



[298] Re[14]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/09 19:31
4月28日 2304時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 順安航空基地

「サレナ。あの赤いASのデータを」
『了解』

 明人は苦戦していた。
 接近戦を挑もうとするが、間合いを詰めることが出来ないのだ。
 敵機の持つガトリング砲が近づく事を許さない。
 今までこれだけの破壊力と速射力の持った武器とは戦ったことがないからだ。

(厄介だなアレは……弾切れを狙うか)

 そう思った矢先に索敵が終わらしたAI『サレナ』が答える。

『索敵終了。機種、Zy-98<シャドウ>。武装、対AS用ガトリング砲。連射能力、毎秒520発。大型予備弾倉装備…』

 どうやら相手は用意周到らしい。予備弾倉を装備している。

(・・・仕方がない。フィールドを張るか)

 明人が得意とするのはディストーション・フィールドを使った高速攻撃だ。
 しかし、現在明人はディストーション・フィールドを張らずに戦っている。
 理由はミスリルの前で自分の手の内を見せたくなかった為だ。
 明人はミスリルの真意を読めないでいた。
 宗介の話を聞くとミスリルは秘密の軍事組織らしい。
 上からの命令で千鳥かなめを護衛していたというが正直な話胡散臭い。
 軍事組織が一介の女子高生を護るなど聞いたことがないからだ。
 仮にかなめがウィスパードと呼ばれる存在で、他の敵対組織からかなめを護っていたとしても、ミスリル自体がかなめを軍事利用するかもしれない。

(面倒だなこれは…)

 そんなことを考えていると、赤いASの動きが一瞬止まる。
 しかし、すぐさまガトリング砲を放つと身を翻し後退していく。

「何だ?」

 赤いASはそのまま山の中に消えてしまった。





同時刻
朝鮮民主主義人民共和国 順安航空基地

 マオは信じられない光景を目にしていた。
 突如として現れた赤いASと黒いASの凄まじい攻防である。
 黒いASはライフルで牽制しながら接近戦に持ち込もうとする。
 その一方、赤いASはガトリング砲で一定の距離を取って戦う。
 それだけなら誰も驚かないのだが一つだけ驚愕する点があった。
 それは黒いASが被弾していない事。
 赤いASのガトリング砲が一度たりとも当たっていないのだ。
 二機が戦っているのは障害物の無い滑走路で、身を隠す所など何処にもない。
 にもかかわらず、黒いASは赤いASの猛攻を全て躱している。
 あの黒いASは見たところM9と同じ性能だろう。
 それを考えると…

「神業ね。アレは…」
『ウルズ2。状況は?』

 ウルズ1ことゲイル・マッカラン大尉から通信が入る。

「・・・あ。乗客は全員収容したわ」
『よし。輸送機を出せ!!』

 その声とともに輸送機は滑走していく。

「…一番の厄介事は済んだわね」

 離陸する輸送機を見て、マオはつぶやく。

『パーティは終わりだ。敵の大部隊が近づいて来る』
「待って。ウルズ6から、クルツからまだ連絡が無いわ。宗介と女の子も……」

 その会話に割り込む様に基地の外の上空を飛んでいた戦闘ヘリから通信が入る。

『こちらテイワズ11だ。今、北の川でM9の残骸を発見した。ウルズ6の物と思われる』
「なんだって!オペレーターは無事なの?」
『確認できない。煙が強くて』
「探して!宗介達は…」
『そうしたいが、クルツや宗介を捜索している時間は無い!』
「一分でいい!!あたしも行か・・・」
『捜索は厳禁する。ただちに撤収せよ』

 焦るマオの言葉を制止する様に厳しい声が聞えた。

「少佐!!!」

 上空にカリーニンの小型偵察ヘリが飛んでいる。

『増援部隊が橋を越えた。迎撃機もこちらに向かっている。1分で壊滅するぞ』

 その言葉にマオは奥歯を噛み締める。

『テイワズ11へM9の残骸に残弾全てを撃ち込め。ネジ1本でも敵に渡すな』
「!!!」

 カリーニンの冷酷な命令にマオは息を呑む。

『・・・・・・テイワズ11。了解』
「やめっ!!」

 マオの制止の声は戦闘ヘリのロケット発射音とクルツのM9が爆砕する音にかき消される。

『ウルズ2へ。輸送ヘリとのドッキングを急げ』
「……」
『聞えたのか?』
「……ウルズ2、了か…」

 彼女が答えようとしたその時。

『あ~、取り込み中スマンが…』
「「!!!」」

 周波数を調べたのだろう。戦闘の終えた黒いASから通信が入る。

『お前らラピス達の居場所はわからんのか?』
『……君の姓名と所属を述べたまえ』
『天河明人、ネルガル会長だ。質問に答えてもらおう』
「!!!」

 マオは驚いた。ネルガル会長がこんな所に、しかも見た事のないASに乗っているのだから、

『そのASは何処で手に入れたのかね?』
『質問に質問で答えるな。俺はラピス達が何処にいるか聞いてるんだ』
『…答える義務はない』
『そうか、ならば勝手にやらせてもらう。あらかじめ言っておくが俺の目的はラピスとかなめの保護だ。他の人間がどうなろうと知ったことじゃない』

 つまりいざという時、相良とクルツは助けないという事だ。

「待って!!私達も詳しい場所は知らないわ!!」
『越権行為だぞウルズ2』
「始末書は覚悟の上です。……天河会長、私達が最後に確認したのはこの先の川のところよ」

 マオは詳しいデータを明人に送る。

「宗介とクルツも見つけたら助けて。私の部下なの…」
『……』
「お願い……」

 自分では彼らを助けに行くことが出来ない。
 もうこの男に頼むしかないのだ。

『いいだろう』





 宗介達は輸送機から3キロ離れた所にいた。

(…無理か)

 輸送機は離陸してしまった。最早間に合わない。

「ああ。……いっちゃった」
「どうすんの?」

 三人は合流に失敗したのだ。

「…仕方がない。戻るぞ」
「えぇー!また山の中!?」

 そして三人は再び来た道を引き返した。



[298] Re[15]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/10 14:56
4月28日 2330時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 順安航空基地近くの山中

 破壊されたクルツのM9のすぐ側で、ガウルンは眼下を見下ろしていた。
 振り向くと銀色のAS<コダール>が鎮座している。

「役立たずが……一遍、使っただけで駄々こねやがって。所詮試作機か……」

 忌々しげに呟いた。
 空を見上げると上空の偵察ヘリが空に溶け込む様に消えて行くのが見えた。

「カリーニン?ヤロウもいるのか……」

 空を見つめて静かに立つ彼の前に明人と戦っていた赤いAS<シャドウ>が現れる。

「来たか。早いとここのポンコツを回収してくれ」
「了解」
「なぁ…この騒ぎを起こした奴誰だった思う?」
「私には興味ありません」
「カシムだよ。お前も知ってるだろ」
「……」
「どうした?昔馴染みだからって情にほだされてるんじゃねえだろうな、ザイード?」
「私は理想や情の為に犬死にする馬鹿者を大勢見てきました。命を無駄使いするのは御免です」

 ザイードと呼ばれた男は淡々と喋る。
 その言葉にガウルンは口を歪め、

「良い心がけだ。だが勝ち組に入りたきゃ腕を見せてもらわねぇとな?」
「……」

 からかうような口調で言うが蛇の如く細くなったガウルンの目は全く笑っていなかった。

「…通信が入りました。先ほど西のフェンスの辺りで三人の人影を見たと言っています。一人は男。後の二人は若い女だそうです」

 報告を聞いたガウルンは狂気の笑みを浮かべていた。

「カシム……」





 薄暗い森の中。

「相良君、本当に大丈夫?」

 宗介の左手を自分の肩に担ぐようにして体を支えながら、かなめは心配で訊ねた。

「安心はできないが…あの基地から離れる他に選択肢は無かった……」
「そうじゃなくて……。雨?」

 見上げると小さな雫が降りそそぎ始めていた。

「ねぇ、少し休もうよ」
「ああ……」

 そう言って木の幹に背中を後にもたれさせて肩で荒い息をした。

「どこか、悪いの?」

 具合の悪そうな様子を見たかなめは声をかける。

「う……上着のポケットに小さなケースがある筈だ。それを……」

 宗介に言われて自分の着ている彼の上着の外についている右ポケットを探る。

「これ?」

 手渡すと、ポケットから古ぼけた一枚の写真が出てくる。

「この人達は?」
「俺の戦友だったヤツラだ……」
「だった……?」

 過去形の言い回しがかなめは気になった。

「死んだの?」
「ちょっとラピス!」
「…ああ」

 宗介は救急セットを開けながら静かに答えた。

「…っ…!」

 白いワイシャツの赤く汚れた腹部から尖った金属片が突き出ていた。
 宗介はそれを握り苦痛のなか一気に引きぬく。

「……!!」
「相良君……その傷……!」
「運が良かった。内臓や動脈は傷ついていない。任務には支障をきたさずに済みそうだ」

 白いテープで傷口を塞ぎ治療を終える。

「任務って……」
「行くぞ。敵が追ってくる」

 宗介とラピスは歩き始めるが、かなめはその場に立ち尽くしていた。

「かなめ?」
「どうした?」

 かなめに近づこうと一歩右足を前に進め

「早くしろ。敵…」
「こないで!!!!」

 鋭い声が宗介の歩みと言葉を止めた。
 降り注ぐ雨音の中の静寂。

「俺の事が怖いのか?」
「……え」
「自然な反応だ。君から見れば確かに俺は……。だが、俺に考えられる事は君を無事に故郷に帰すことだけだ。逃げ切る保障はできないが俺を信じてくれないか?」
「……」
「……」

 再び静寂が包む中、かなめは足を宗介に一歩近づけると

「来るなっ!!」
「!!!!!!」

 走り抜け、宗介が銃を向けた相手は

「クルツ?!」
「よぉ、遅かったじゃん……」





4月28日 2332時(日本標準時)
黄海 西朝鮮湾 海上 <トゥアハー・デ・ダナン> 中央発令所

「どれだけ待てるか聞きに来たんでしょう?」
「……」

 カリーニンは無言で答えた。

「今は一分たりとも待てません。敵の武装哨戒艇が接近しています」
「ごもっともです」
「でも相良さん達は助けたいわ」
「はい。ウェーバー軍曹にも生存の可能性があります」
「この後。私が数分間だけ浮上時間をひねり出せたら貴方は、どんな手を発案できます?」
「可能なのですか?」

 テッサの言葉に対して驚きを含んだ声でカリーニンは訊ねた。

「普通の潜水艦なら無理でしょうね」
「私の考えが正しければあれを使う必要がでてくるかもしれません」
「あれ?」
「ARX-7<アーバレスト>です」
「必要ですか?」
「天河明人が彼らを追っていますが、保険はかけるべきです」





4月29日 0226時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 平安南道 山中

 森の中の山道を一輪車の荷台にクルツを乗せ宗介達は歩いていた。

「やはり、銀色のやつか?」

 一輪車でクルツを運びながら宗介は荷台の彼の背へ後から声をかける。

「あぁ。まるで訳が分かんねぇ。至近距離に誘い込んで57ミリをブチ込んでやった。ところが仕留めたと思ったら、こっちがバラバラになってた……」
「指向性の散弾地雷でも使われたのか?」
「いや、そうゆうモンとは思えねぇ。見えないハンマーでぶん殴られたみたいな……クッ!」

 言って苦痛に顔を歪める。

「…クルツ君!」

 荷台の右横を歩いていたかなめは心配して顔を寄せる。

「もういい。喋るな」

 森を抜けると見晴らしのいい小高い丘の上に出る。
 クルツをラピスに任せて、宗介は広がる平地を見ながらかなめに言った

「ここを、突っ切れば、海に出る筈だ」
「突っ切ればって……こんな、見晴らしのいいトコ、堂々と歩いて行ったら……」
「あぁ。敵に発見される可能性が大だ」

 地に腰を降ろして彼は言う。

「だったら、どうするの?」
「……千鳥」
「なに?」

 宗介に顔を向ける。

「ここに来るまでずっと考えていた。ここから海岸まで、まだかなりある。四人で逃げるのは、もう不可能だ」
「……え?」
「だから俺とクルツがこの場に残り派手に暴れて敵の注意を引く。可能な限りの時間を稼ぐつもりだ」
「それって……」

 最後まで言葉を言おうとする前に、宗介は通信機をかなめに渡す。

「この通信機を持って海岸へ向かえ。交信範囲は限られてるが味方がいれば呼び掛けてくれる筈だ」
「あたし達だけ逃げるの……?」

 視線を宗介から外して彼女は訊いた。

「気にする事はない。俺達の仕事は君達を守る事だ。天河にも迷惑をかけたしな」
「……」
「行くんだ」

 前に広がる大地に視線を向けたまま再び彼女に声を掛ける。
 沈黙があたりを支配する。

「いやよっ!!」
「……千鳥?」

 宗介は、驚いてかなめに顔を向ける。

「いやだって言ったの。相良君、やっぱりあんたバカよ」

 言われて宗介は口を半開きにした。

「あんた、ひょっとして自分は何時死んだって構わないとか、そんな舐めた事考えてんじゃないでしょうね?ソーゆうのをカッコイイと思ってるわけ?こっちの気持ちなんか考えもせずに勝手に自己満足でおっ死んで。あたしはね、あんたみたいな軍事オタクのネクラバカに命助けられたって、ちぃ~っとも嬉しかないわよ!分かってんの?!!!!!!!!」
「……」
「まだ、分かってないみたいね。よーするに何でみんなで助かる方法を考えないのかって言ってるのよ。簡単にギブアップなんかするんじゃないわよ!」
「ないんだ。他に手はない」
「考えればいいじゃないの!例えばこのあたりに火をつけて山火事起こしてそのドサクサで逃げるとか……。とにかく、なにかあるわよ。」
「千鳥、聞け。俺は専門家だ。様々な状況を想定し、その中で最善と思われる策を選んだ」
「何べん言わせるの!あたしは嫌だって言ってんのよ!!」
「駄目だ!行けっ!!天河を連れて逃げるんだ!!!」
「!!!!」

 叫んだ宗介はかなめの顔に銃口を真っ直ぐ向けていた。

「行かないと、撃つの?」
「そうだ!敵に捕まり廃人にされるより、ここで死んだ方がマシだからな!!」

 激しい口調で言う宗介へ、かなめは口元に微笑を浮かべ、そして

「……!」

 ゆっくり宗介に近づいて体を固まらせ目を見開いた彼の顔にそっと掌をかけた。

「相良君、貴方さっき俺を信じてくれって言ったよね?だから、あたし貴方を信じたの……」

 俯きながらかなめは言う。

「……」
「貴方さえ側にいてくれたら、きっと耐えていけるって。どんなにボロボロになったって。死にそうなくらい苦しくったって絶対に頑張っていけるって」

 細い指の間から見える彼女は言葉を続けた。

「……」
「だからお願い。寂しいこと言わないで一緒に帰ろうよ、相良君……」

 顔から手を離すかなめに、宗介は右手に持っていたマシンピストルを地面に落としてしまっていた。

「……」

 かなめの腰をそっと抱き、

「千鳥……」
「相良君……」

 胸に軽く手をあて、二人はお互い見つめ合っていた。
 ――――が、

「じー……」
「……ん。ごほん」

「!!!」
「!!!」

 ラピスとクルツの視線で二人はハッとして離れる。

「クルツ。起きていたのか?」
「ラ、ラピス。教えなさいよ、わはははははは・・・」

 ごまかす二人ににやけた顔のクルツに訊ねる。

「お前の負けだよ、宗介」

 笑いをかみ殺しながらクルツは言った。

「彼女がイヤと言ってるんだ。お前のプランは却下だね」
「しかし…!」
「むしろ、俺はかなめちゃんの作戦を支持するね。山火事とか良い考えだ。おあつらえむきに雨も止んだみたいだしよ」

 その言葉に満面の笑みを浮かべてかなめは宗介の後ろで何度も頷く。

「バカな!敵にこちらの位置を知らせるだけだ、危険過ぎる!!」

 宗介の意見に今度はラピスが反論する。

「その前に明人がここの場所を見つけてくれる」
「何故そんな事がわかる!!あの男は乗客と共に脱出している」
「明人が私を残していなくなるわけない」
「希望的観測だ!!」
「だったらさ。味方の飛行機がこの辺を飛んでて、空から見つけてくれるかもしれないじゃない」

 かなめは右腕を挙げて人差し指で空を指し示すが、宗介は後を振り返る。

「ここは敵の制空圏だ。ありえない!」
「待てよ!!」

 三人の会話に反応したクルツが大声を上げる。

「空から?……0248時」

 腕時計に視線を走らせクルツは呟いた。

「どうした?」
「出撃前、衛星写真を見せられた。昨日の……1530時の、あの基地の映像だ」
「偵察衛星!!」

 宗介は息を呑んで空を見上げた。

「かなめちゃん、キミってサイコーだ」

 クルツは感嘆していた。

「な…なんなの?」

 かなめは訳が分からず頭の後ろを右手で掻いた。

「偵察衛星は、約12時間置きに地球上の同じ場所を通過する」
「つまり、あと40分前後でここの真上を通るんだよ」

 言葉を継いでクルツが言った。

「しかし、この雲が晴れない限り衛星から我々の姿を確認する事は難しい。決して分の良い賭けとは言えない。だが…」
「やって見る価値はある、だろ?」
「肯定だ」

 空からクルツへと視線を変え、宗介は力強く答えた。

「どこへ行くの?」

 丘を下って歩き始めた宗介へかなめは疑問を投げかける。

「オイルを調達してくる。ライターの日だけではボヤで終わりだからな」
「分かった。無茶するんじゃ…いや、どうせだから無茶してこい」

 笑って相棒に言った。

「私も手伝う」

 一人で行こうとした宗介にラピスが声をかける

「足手まといだ。ここにいてくれ」
「怪我人よりはマシ」
「ははは……宗介。ラピスちゃんも連れてけ」
「クルツ!!」
「人手は多いほうがいいだろ」
「…………わかった」

 言って歩き出す宗介の背を、かなめは呼びとめる。

「相良君!」

 振り返った宗介に、真摯な声で告げる。

「約束して。必ず戻って来るって。ラピスも…」

 暫く沈黙して、宗介はかなめへはっきりと

「ああ、約束する。必ず戻る」

 そう言って歩き出した。





 その頃明人は…

「ここは何処だああぁぁぁ!!!」

 迷ってた。



あとがき
原作とあんま変わんない。
ザイードを出しました。グレイを知ってる人ならわかると思います。
しかし、今やってるアニメのキャラどうしよう…



[298] Re[16]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/12 23:35
4月29日 0320時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 平安南道 農場

 宗介とラピスは農家の納屋からオイルを盗み、ポリタンクに入れ振りまいた。
 時計で時間を確認してから、空を見上げるが生憎まだ黒い雲が空を覆い尽くしていた。

『AF67ALIVE』

 Aはエンジェル、Fはフェアリー、6はウルズ6、7はウルズ7を指している。

「後は晴れるのを待つだけだ…」

 ミスリルの偵察衛星<スティング>は後10分足らずで通過する。それまでに雲が晴れなければアウトだ。

「……」

 会話などなかった。
 元々、宗介とラピスは話をしたことは殆どない。
 ラピスはかなめから宗介の事を聞いたぐらいだし、対する宗介もラピスはかなめの友人であり天河明人の義妹である事しか把握していない。
 そんな沈黙を破ったのは宗介だった。

「…天河」
「何?」
「なぜお前は恐れない」
「何を?」
「この現状をだ」
「……」
「ハイジャックされた時、テロリストに連れ去られた時、そしてトレーラーでの実験…」

 ――そして俺自身の事。
 宗介は言おうと思ったがやめた。

「…お前は不安は感じているが恐れてはいない」
「……」
「何故だ?」

 ネルガル会長の妹とはいえ、このような状況下で落ち着きすぎている。

「……明人がいるから」
「何?」
「明人が助けに来てくれるから」

 天河明人。あの男は異常だ。
 簡単に自分の背後を奪い、銃を下ろしても隙を見せなかった。
 あの爆弾も無力化したのだろう。
 一企業の会長とはとても思えない。

「それにあんなの実験の内には入らない」
「?それはどうい…」
「相良」

 自分の言葉を遮りラピスは指差す。その先で雲が晴れていくのが見えた。
 宗介はラピスに追求するのをやめ、オイルに点火を始めた。





 4月29日 0347時(日本標準時)
 朝鮮民主主義人民共和国 平安南道 山中

「良かった。二人とも…」

 何故か開けた服の胸元を押さえ、かなめは帰って来た宗介とラピスを迎えた。

「クルツの具合は?」
「大丈夫なんじゃない?長生きするわよ、こういうタイプ」
「……?」

 事情がよくわからず、木の幹に腰掛ける。

「上手くいったの?」
「分からん。味方が合図に気付いてくれればいいが……」

 星空の下、遠くからヘリの音が聞こえる。近づいてくる様子はない。

「ねぇ?もし……もし無事に帰れたら相良君は、どうするの?」
「次の任務に就くだけだ」
「どこか別の所へ行っちゃうわけ?学校には、もう来ないの?」
「そうなるだろうな。あの学校の生徒という立場は別の任務では邪魔になる。俺はただ、君達の前から消え去るだけだ」
「そう……」
「……」
「…?どうし…」

 突然、かなめを茂みに押し倒す。
 ラピスは既に身を低くしている。

「バレた!」
「追けられたな」
「時間の問題だった…」

 いつのまにかクルツも起きて来て、ラピスの横に体を伏せていた。
 地面の段差になった影から覗いて見ると10人以上の敵が四人の前を囲んでいた。

「万事休す、か……」
「そのようだ」
「あたし、こんな感じの映画見た事あるよ。ちょうど、あんた達みたいなムッツリ男と軟派男のお尋ね者がアメリカの西部から南米あたりまで、どんどん逃げて行くの。で、最後敵に取り囲まれちゃって……」
「俺も見たぜ。その映画」

 言われて、かなめはクルツを見る。

「確かヒロインのカワイコちゃんは軟派男にも優しくしてくれるんじゃなかったっけ?」

 その言葉にかなめは、顔を笑わせた。

「どうなる?」
「え……?」

 今度はかなめを挟んだ反対側。

「そいつ等は最後、どうなるんだ?」

 顔を向けずに言う宗介の横顔にかなめとクルツは同時に視線を送る。

「……わかんない。ピストル撃ちながらカッコ良く飛び出して行った所で映画が終わっちゃうの」
「…そうか」
「昔の映画ってさ、主人公が平気で死んじゃったりするんだよね。あれって反則じゃん?やっぱり映画はハッピーエンドが…」

 背後で物音。

「!!!」

 鳥の羽ばたきだ。
 かなめが微かに身を起すと同時に、銃撃が前方から飛びかう。
 かなめとラピスは頭を抱える様に横に伏せ、宗介とクルツは応戦した。
 途切れる事の無い乾いた音が辺りを覆い尽くす。

「そうだね。こっちの方が現実なんだよね」
「どうだい?いっちょ俺達もカッコイイラストシーンやってみるかい?」
「賛成。うんと泣かせるシーンにしようね」
「千鳥」
「ん?」
「すまん。一緒に帰ることはできなくなった」
「後悔してないよ。相良君と会えて良かった」

 彼女は優しげに答えた。

「ほんじゃ行きますか!」

 弾倉交換をしたクルツが木の上の敵を撃つする。

「…待って」

 飛び出そうとするクルツを突然、ラピスが制す。

「なんだい妖精さ…」

 ―――その刹那。
 地鳴りのような音とともに、敵の後方から火の手が上がる。

「なんだ!?」
「…大丈夫」

 皆が驚愕の表情をしている中、ラピスは静かに答える。

「アキトが来た…」





「ラピス…」

 明人は周囲を見渡す。

「……どうやら死にたいらしいな」

 モニターには陸軍一個小隊にAS五機がラピス達に銃を向けている場面が映る。
 次の瞬間、明人の99式はマシンガンを連射するサベージに正面から突っ込み、ナイフでコックピットを貫くと、すぐさま横に居たサベージをも切り裂く。
 そこに居たのはネルガル社会長の天河明人ではなく、prince of darknessと呼ばれたテンカワアキトだった。

「6時方向、敵機AS1」
「M9か!」
「確認できないっ!」

 サベージのパイロット達の怒号が響く中、アキトは機体を跳躍させ残りのサベージにライフルを放つ。
 99式に乗ったアキトにとって、サベージは最早ただの的でしかない。

「速くてロックでき…」
「落着け!落着…ザザッ」
「……う、うわあああぁぁぁっっ!!!!」

 最後のサベージを射撃すると辺りが炎で包まれる。
 突如現れた漆黒の悪魔を前にして歩兵部隊は恐れ、撤退していく。
 全機撃墜と思われたが…

「…まだいたか」

 そう呟き振り返ると、銀と赤の二機のASがそれぞれライフルとガトリング砲を構えていた。



あとがき
書いてて思ったのですが、宗介とラピスって愛称悪いんじゃないだろうか?
ほら、二人とも無口(というか無駄口を言わない)だし…
いやはや二人っきりの場面書いてて困りました。



[298] Re[17]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/21 20:16
4月29日 0352時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 平安南道 山中


 銀色のAS<コダール>は99式に向かってライフルをニ連撃。
 漆黒の機体はそれをたやすくかわしコダールにライフルを構えるが、もう一方のAS<シャドウ>がガトリング砲を連射させる。

「!!」

 迫りくる弾丸をかわしシャドウに向け反撃するが…

「チッ!」

 一発が肩をかすめた程度で、後は避けられてしまう。
 先程の滑走路とは違い、障害物が多く高低差のある山の中では直撃させるのは困難なためだ。

「……ザイード。こんな奴がいるなんて俺は聞いてないぞ?」

 再びコダールは重いニ撃を99式に放つ、がこれも回避、

「ミスリルのASは既に撤退したものと思いました」

 ガトリング砲を撃ちながらザイードは言う。

「おそらくあのASはミスリルではないのかもしれません」
「くくく……いいねえ。実にいい。カシム以上に楽しめる奴がいるとはねえ」

 コダールとシャドウの集中砲火を避ける99式にガウルンは喉を鳴らして笑いながらライフルを発砲した。
 木々が吹き飛び、煙が巻き起こる。
 99式は敵弾を回避し反撃の連射をしながら森に消えていく。





 丘の上

「どっちが、優勢、なの?」

 月光の下で三機のASは、一進一退の攻防を続ける。
 そんな姿を見つめながら彼女は訊ねた。

「……」
「…信じらんねえ」

 宗介は無言で、クルツは一言で答える。

「?」
「…互角だ」
「ああ」
「あの二機はかなりの腕だ。だが、あの黒いASはそのさらに上だ」
「普通じゃないぜ。何者なんだ?」
「…アキト」

 クルツの疑問に答えたのはラピスだった。

「ちょ、ちょっと待ってよ。あれに乗ってるのは明人さんなわけ!?」
「君の兄貴がネルガル会長なのは知ってるけどよ。なんでまたあんなもん乗ってんのよ!?」
「……」

 二人はラピスに詰め寄るがラピスは答えない。

「……しかし、このままだと負けるぞ」
「「「!!」」」
「腕はかなりの者だが、このような地形での戦闘経験が少ないのだろう。決め手がない」

 宗介の指摘どおりだった。
 アキトは主に宙戦または空中戦は得意だが、局地戦の経験が少なかった。

「…だとすると拙いぜ」
「そんな…」
「…アキト」
「!……待て!?」

 不安になっていた四人の上空で長距離弾道ミサイルが弾ける。
 それが土煙をあげて宗介達の眼前へ着地すると、その衝撃が辺りを駆け巡る。
 土煙の向こうから、白い巨人が四人のいる場所のすぐ側に現れた。
 鋭敏なフォルムを持つ白いASだ。

「あれは?!」
「M9?」
「いや……違う!!!」

 言うと同時に走りだす。

「誰が乗ってるんだ!マオか!」

 機体の頭部によじ登りコクピットの中へと身を滑り込ませる。
 クルツの問いへの答え、それは無人だった。

『声紋チェック開始。姓名。認識番号を』
「相良宗介軍曹。B-3128」
『照合完了。サージェント相良と確認。命令を』
「ハッチ閉鎖。モード4に調整開始。バイラテラル角3.5」
『ラジャー』

 開いていたコクピットハッチが閉じられ、宗介を間に挟んで服を着せる様に正面の金属フレームが体をゆったりと締めつけ固定する。
 さらにデータレコーダーが自動再生されコクピット内に音声が流れ出した。

『相良軍曹。この録音は君がこのARX-7<アーバレスト>との合流に成功したという前提で進められる』
「アーバレスト?」
『現在デ・ダナンは無線封鎖で沿岸へ急行している。沿岸をかすめ諸君等を回収してから全力で脱出する予定だ。0430時から一分間沿岸に浮上する。その時間までに指定した地点へなんとか到達しろ。尚、AIのコールサインは『アル』だ。高価な実験機なので必ず持ち返るように。以上、幸運を』
「…アルと言ったな」
『イエス。サージェント』
「行くぞ」
『ラジャー』

 宗介の乗るアーバレストは背後に爆弾の爆発に似た巨大な土煙を残して敵中へと一気に飛び込んだ。



あとがき
短い…orz
言い訳すると夏休みが終わったからです。

いよいよアーバレストが登場しましたが、この後の戦闘はどうしたらいいと思います?
アキトvsガウルン and 宗介vsザイード
もしくは、
宗介vsガウルン and アキトvsザイード
どっちがいいでしょうか?



[298] Re[18]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/18 14:54
4月29日 0400時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 平安南道 山中

 カシム以上の使い手である漆黒のASを見ながらガウルンは狂気の笑みを浮かべ、心の底から楽しんでいた。

「どこまでもつかね!?」

 跳躍しコダールは空中から、シャドウは99式の背後から発砲するが、紙一重でかわす。

「よくかわしたな!」

 99式は大きく跳躍しながら敵弾を回避し反撃をコダールへと放つ。

『マスター。残弾、残りわずかです』
「…っ!!」

 アキトは歯痒んだ。
 ここまで補給もせずに来たためライフル弾があと10発しかない。
 12.7mm機関砲はあるが牽制程度にしかならないだろう。
 相手は一度引いている。補給は既におこなっているはずだ。

「クソッ!!」

 こうなったら、フィールドを張るしかない。
 相良達、ミスリルのエージェントがいるがそうも言ってられなかった。

「サレナ!!フィールドを……」

 そう言いかけた時だった。
 敵機に向けて白いASがショットキャノンを発砲した。





『!?』
「カシムよぉ……人の楽しみを邪魔すんじゃねえよ!!」

 コダールは空中へ飛び出して地上を駆ける白いASへライフルを向ける。
 白い機体の疾る背後に着弾の煙を撒き散らす。

「ザイード、テメェが殺れ!」
『…了解』





「サレナ。あの白いASは?」
『……該当データなし』

 唐突に現れた機体は跳躍すると99式の横に着地する。

『加勢する』
「その声は…」

 通信から聞こえる声は相良宗介だった。

『天河明人。前にも言ったが俺はお前を信用していない』
「嫌味を言いにわざわざ来たのか?」
『しかし、お前のASの腕は信用しよう』
「勝手にしろ……どっちをやる」

 そう言って、敵機を見る。

『銀色のAS、と言いたいところだが…』
「あっちでもう決めたみたいだな」

 銀色のASは99式に、赤いASはアーバレストに向かってくる。

『油断するな!あのASは危険だ!!』
「そっちこそ足もとをすくわれるなよ!」

 通信を切ると互いの標的に機体を向けた。





 ドンッ!ドンッ!!ドンっ!!!
 空薬莢があたりに散らばる。

「何!?」

 シャドウはアーバレストの射撃をかわしながらガトリング砲を放つ。
 辺りの木々が吹き飛び、巻き起こる砂煙が宗介の目を遮る。

「何処だ……後ろ!?」

 振り向くとシャドウのガトリング砲が火を噴いた。
 横に切り裂く様に火柱が疾走する。

(今日三度目か!)

 ショットキャノンを突きだし、トリガーを引く。
 しかし、シャドウは距離をとって射程外へ逃げてしまう。

「あのガトリング砲…」

 森の中に身を隠し宗介は呟いた。
 アーバレストに装備しているショットキャノン『OTOメララ“ボクサー” 57mm散弾砲』は破壊力はあるが敵機の持っているガトリング砲に比べ射程が短い。
 離れていては狙い撃ちにされるため、どうしても接近する必要があるのだが―

((カシム、AS同士の接近戦の時は単分子カッターかガトリング砲が有効だ))

 昔、口グセのように言う男を宗介は思い出していた。
 彼は、速射力と破壊力のあるガトリング砲なら、敵が脅威と感じ勝手に接近戦を挑んでくる、と言っていた。
 現状がまさにそれだ。ガトリング砲の存在で接近戦を余儀なくされている。
 しかし相手が接近戦を挑むのを読んでいたら、自分は誘い込まれる事になる。
 そうなると迂闊には近づけない。
 しかし、このままでは狙い撃ちにされる。

「そうも言ってられんか」

 宗介はショットキャノンを構えると被弾覚悟で走り出した。





99式は機関砲でコダールを牽制する。

「1対1ならフィールドを張る必要はない!」

 着弾の煙でわずかに視界が無くなったコダールに樹木を投擲。
 空中に浮かぶ木を間に挟み99式とコダールはお互いに発砲。
 99式は難無く避けるが、コダールは右手を爆発させ、武器を失う。

「……終わりだ」

 棒立ちになるコダールにトドメを刺すべく、ライフルを構えしっかりと狙う。
 そしてコックピットを狙った一撃は敵に―――届かない。

「なに!!!!」

 コダールの前に発じた青い光の壁に当たりアキトの放った弾丸は弾け消し飛んでいた。
 驚愕するアキトの99式へ右手を突き出すと、コダールの前に光を纏った衝撃波が発生し、押しのけるようにして99式を数百メートル以上吹き飛ばす。
 銀の機体の奥でガウルンは、肩を揺らして含み笑いをしながら相手を暗い目で見つめていた。



あとがき
戦闘シーンが難しい
原作どおり宗介vsガウルンにしようかとも思いましたが、面白くないなと思い逆にしました。
ザイードは宗介より強いです。宗介に戦闘の基本を教えたのは彼ですから、癖とかも知ってます。

・・・LDどうやってだそう



[298] Re[19]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/09/27 20:19
4月29日 0406時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 平安南道 山中

「アキト!!!」
「ちくしょう、あれだ!散弾地雷でもない。爆発式の反応装甲でもない。まるで見えない壁だぜ……」

 ラピス達のいる位置からでも二機の間に起こった事は一目瞭然だった。
 敵が発生させた衝撃波は99式を吹き飛ばし、それによって発生した土煙が辺りを覆い尽くす。

「なんてこと……」





 その頃、シャドウを相手にした宗介は吹き飛ばされた99式を見て唖然とした。

「あれは!?」

 驚くのも当然だろう。
 コダールが光ったと思ったら、とてつもない衝撃波を放ったのだ。
 しかし、今は間が悪かった。自分も戦闘の最中なのだから―

「何!!!」

 見ると目の前の土煙の中から赤いASが飛び出した。
 辺りを覆った土煙に身を隠しシャドウはアーバレストに近づいたのだ。
 今までは距離を取って戦っていた相手が今度は接近したのである。
 虚を付かれた宗介はシャドウのタックルをまともに受けてしまう。

「グッ!!!」

 すぐさま体勢を立て直し、ショットガンを捨て単分子カッターに手をかける。

「!!」

 あたりの土煙が晴れ、視界が開ける。

「……」

 二機の距離はゼロに限りなく近かった。





「サレナ」
『フィールド出力88%。損傷軽微』
「あ、危なかった…」

 アキトは胸を撫で下ろした。
 あの瞬間――アキトはコダールから放たれた衝撃波が自機にたどりつく前にD(ディストーション)フィールドを展開したのだ。
 判断を誤れば機体がバラバラになっていただろう。

「今のはグラビティブラストか?」

 グラビティブラスト。別名、重力波砲。
 相転移エンジンから得られる膨大なエネルギーを、強力な重力波を収束させて放射する兵器。
 フィールドを展開した上でこれだけの衝撃である。アキトの頭にはグラビティブラストが思い浮かんだ。
 しかし――

『違います』

 即座に否定される。

「じゃあ何だ?」
『不明です』
「だったら、あの光の壁は?Dフィールドではないだろう。俺の撃ったライフル弾が弾け飛んだぞ」
『それも不明です』
「クソッ!」

 アキトは毒づいた。
 こんな隠し技があるとは全くの予想外だ。

「……今の衝撃波はDフィールドで防げるんだな?」
『イエス』

 先程の攻撃でライフルも失ってしまった。
 こうなった以上手は一つしかない。

「サレナ。Dフィールドを展開したまま接近戦を行う」
『了解』

 一方、ガウルンは身を起した99式を正面モニターで確認して目を見張っていた。

「不発?ならもう一発」

 そう言うと次の攻撃準備にとりかかった。





 丘の上。

「どうなってんだ!俺のときは機体がバラバラになったってのに……」
「なんとなく……わかる……」
「かなめ!」
「大丈夫か?おい!!」
「気持ち悪い……」

 かなめの目の前に、3Dで見せられた映像が次々と浮かぶ。

「わかる…でも……あの機体には……」
「やめろ!!!かなめ、しっかりしろ!」
「ダメ…勝てない……明人…さん……」
「おい……!!」
「あたし……助けられてばかり……なのに………っあぁ!……っく………ダメっ!!!」

 前屈みに頭を押さえて苦しむかなめは、なんとか身を起こし

「ま、負けるもんかああぁっっっ!!!!!」

 背後の木に己の額を思いきり叩き付けた。

「かなめ!!どうしたの!?」
「………」
「おい!しっかりしろ!!」
「……あたしは…大丈夫………それより…明人さんが…」
「アキトは大丈夫だよ」
「でも………あの機体には……宗介のなら…」
「………それでもアキトは勝つから」





 突きつけられた四つの砲口を見て宗介は戦慄した。
 今の体勢を説明すると、アーバレストが腰にある単分子カッターを掴んでいるのに対し、シャドウはアーバレストの腹、つまりコックピットへガトリング砲の砲口を向けている。
 すでに勝負は決まっていた。

『らしくないな』

 不意に通信が入る。

「!!その声は」
『久しぶりだなカシム』
「ザイード…」

 通信から聞こえてきた声はかつての戦友ザイードであった。

「何でアンタが此処にいる!?」
『おかしな質問をするようになったな。俺は傭兵だぞ?依頼があれば何だってするさ』
「そんな事を聞いてるんじゃない!!何故ガウルンと一緒にいるんだ!!!」

 宗介がまだゲリラの少年兵だった頃、味方のキャンプを襲撃されたことがある。
 その時、宗介は偶然偵察でキャンプを離れていたため無事だったのだが…
 キャンプに帰った宗介が見たものは、ただの肉の塊になった仲間達の姿だった。
 そして仲間のキャンプを襲撃したなかにガウルンがいたのだ。
 宗介はそんなガウルンと共に行動しているかつての戦友が理解できなかった。

『その質問も無意味だ。かつての味方が敵になり、かつての敵が味方になる。誰のせいでもない……戦場ではよくある事だ』
「……」
『お前なら分かるな………カシム?』

 ザイードの言ったとおりだった。
 宗介自身も経験した事がある。
 だが、それでも宗介は理解できなかった。

『ガウルンからお前の事を聞いて驚いた。まさか、ミスリルに属していたとは…』
「だったら、アンタは何処に属してるんだ?」
『依頼主の事を、敵であるお前に言うと思ったか?』

 もはや宗介に手は残されていなかった。

『あきらめろ。俺には勝てない。お前に戦闘の基本を教えたのは俺だからな』
「しばらく会わないうちに無駄口をたたくようになったな」
『……』

 ザイードはコクピット越しにその視線を受けとめ、哀れむ様に言葉を吐く。

『お前を殺すのは忍びない……だがなカシム、俺は勝ち組でいたいんだ…』





 アキトはイミディエットナイフを装備し、頭部の機関砲連射しながら自機をコダールの真正面に向け走らせた。

「フフフ……今度は耐えられるかな?」

 コダールは腰から単分子カッターを引き抜く。
 立ち止まったコダールに99式はナイフを突きつけるが、銀の機体が青白く光り輝き、先程と同じ衝撃波が99式を襲う。
 辺りに火の粉を散らして、煙が渦巻く。
 ガウルンは相手を殺った確信を得たのか、ニヤリと笑う。
 しかし、辺りにたちこめていた煙が消えるとそこには無傷の99式が立っていた。

「サレナ、さっきの映像をモニターに」
『了解』

 モニターに映し出されたのは、アキトが機関砲を撃ちながら敵機に突撃した時の映像である。
 その映像を見ていると、アキトはある事に気が付いた。
 自機が放った機関砲は障壁に弾かれるが、辺りに飛び散った木の破片はあの障壁に弾かれず、そのままコダールに当たっているのだ。

「やはりDフィールドではないな。サレナ、アレをやるぞ」
『………を行うと、30分間使用できなくなりますが?』
「かまわん」

 そしてアキトはまた漆黒の機体をコダールに向けるとナイフを構えた。

「いくぞ!!」
『了解』

 再びコダールに向け突撃する。

「ハハハハ、なかなか楽しませてくれる」
(しかし、ありゃ何だ?コイツとは違うようだが…)

 そんなことを考えながらガウルンもまた衝撃波を放つ。
 光を纏った渦が迫るその瞬間―――99式は淡い光を放ちながら、まるで空間に溶け込むようにその姿を消した。

「何!!!」

 コダールのモニターには背後に敵機のマークが映し出される。

「馬鹿な!!後ろだと!!?」

 ガウルンは障壁を張ろうとするが―

「遅い」

 99式の方が早かった。
 そしてナイフが突き刺さると同時にコダールは爆発した。



あとがき
宗介とザイードの決着はこの次で…



[298] Re[20]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/01 13:14
4月29日 0415時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 平安南道 山中


『サヨナラだ…』

 そう言ってトリガーに指を掛けるザイード。
 覚悟を決めたようにゆっくりと目を閉じる宗介。
 今までの事がフラッシュバックするように脳裏をよぎる。
 ザイードと共にゲリラ兵として戦った時。
 カリーニンとKGBに追われていた時。
 ミスリルに入り、マオやクルツとチームを組んだ時。
 そして―――

『だからお願い。寂しいこと言わないで一緒に帰ろうよ、相良君……』

 閉じていた目をカッと見開く。

(俺は!!!!)

 ガトリング砲の咆哮が辺りに鳴り響く。
 その時、青白い光がアーバレストを包み込んだ。
 放たれた弾丸の嵐はアーバレストに当たり弾けとんだ。

「無傷?何でっ!?」
『………波測定。ラムダドライバ、イニシャライズ完了』
「ラムダドライバ?何のことだ?」
『回答不能。戦闘の続行を…』

 モニターには「NO ANSWER」が表示される。

「答えろアル!」
『回答不能』

 ザイードは目の前で起きたことに困惑しつつもトリガーを引いた。

「くっ!!」
 
 しかし、宗介の方がわずかに早かった。
 ガトリング砲があさっての方向へ放たれる。
 アーバレストは単分子カッターを引き抜くとそのまま居合いの要領でガトリング砲に叩きつけたのだ。

「ザイィィィィドォォォッ!!!!」

 赤いASの身体へ白いASが重なる。
 そして時が止まった。
 脇腹からゆっくりと赤く濡れた刀身を引き出していくアーバレスト。
 同時にその傷口から白くて熱い蒸気が噴出した。

『……カシ…ム……』

 赤いASは白いASにもたれかかる様に倒れる。
 やがて完全にその身を伏してしまうと少しも動かなくなった。





4月29日 0426時(日本標準時)
朝鮮民主主義人民共和国 平安南道 山中

 森の中を二機のASが疾走する。

「ったく。怪我人運搬には世界一不向きな乗り物だぜ、こりゃ」

 とアーバレストの左手。

「いちいち文句を言うな。そっちはどうだ」

 今度はもう一機のASに。

「問題ない。二人とも大丈夫だな」

 そして操縦席にいるラピスとかなめは答える。

「モウマンタイ」
「うん。前よりは。さっき何言ってたのか忘れちゃったけどね。でもラピス、何で中国語?」

 そして彼女は左手から聞えてくるローター音に気がつく

「……?」

 現れたのは敵の追っ手である戦闘ヘリだ。
 ヘリの左右両翼から二本のロケット弾が発射された。

「チッ!!」
「まかせろ!」

 クルツを持っているため、戦えないアーバレストに代わり、99式はナイフを振り向き様ヘリに投げ付け片付ける。

「す、すごい!」

 いとも簡単に敵を射止めた明人を見て、かなめは驚いていた。

「ダーツと同じだよ」

 暫くして岬から海が見え始めた。

「おい!海だぜ!!」

 太陽が海の端から顔を出し始め朝日が辺りを照らしている。

「その上、盛大なお見送りのオマケ付きとくらぁ……」

 正面にサベージ五機が立ち塞がり、背後からも二機の戦闘ヘリが迫ってきた。
 戦闘ヘリのガトリング砲の砲身がコチラを向いた。

「「!!!!」」

 緊張する明人達の眼前の海に光が走ったかと思うと敵のサベージの一機が爆裂した。

「お前達!真っ直ぐ走れ!」

 浮上したデ・ダナンの上で朝日を背に立つマオのM9が大型ライフルを構えている。

「順に岬の先端から直接跳んで!!!」

 アーバレストの前に立つ別のサベージをマオが再び撃破し、怯むことなく勢いをつけスピードを上昇させていく。

「いや。そんな時間はない」
「へ?」

 岬の先端で二機のASが同時に跳び上がる。

「ちょっと!!二機ともは無理!!!」
「大丈夫だ」

 マオのM9が両手を広げ、アーバレストを受け止めると同時に、99式はいとも簡単にデ・ダナンの甲板に着地する。
 その姿を見たクルツが呟いた。

「義経の八艘飛びかよ…」





 デ・ダナン中央発令所

「第四ハッチ閉鎖を開始。あと二秒。……閉鎖完了」
「面舵いっぱい。針路2-0-5。最大戦速」
「アイ・アイ・マム。面舵いっぱい。針路2-0-5。最大戦速」

 岬からの敵の攻撃に海面を何度も叩かれながら、トゥアハー・デ・ダナンはその体を海水に浸からせて沖に向かい速度を急速に上げていった。




あとがき
ほんとに短いです…orz
また言い訳をします。
理由はスパロボJです。
今やってるのですが驚きました。
展開がそっくりなんです。
かなめの拉致にザイードが関わってるとことか!!
当初の予定では、ザイードにはこれからも出番があったのですが……どうしたらいいんだ!?
いちおザイード退場ですが、状況しだいで再登場するかも…

あとがき その2
やっぱLD出しました。
宗介が乗る意味無くなっちゃうから…



[298] Re[21]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/01 13:37
4月29日 0445時(日本標準時)
黄海 深度100m 強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン> 格納庫

 宗介はアーバレストの手からクルツを降ろすと、自らも格納庫に降りた。
 格納庫には多くの人が集まっている。
 整備兵は勿論だが、SRTにPRT要員もいる。
 その中には上司であるカリーニン少佐もいた。
 皆ひとつのASに目を奪われている。
 漆黒のAS、99式。
 まだ搭乗者である天河明人および天河ラピス、千鳥かなめは降りてこない。
 業を煮やしたのかゲイル・マッカラン大尉が叫ぶ。

「どうした!降りてこないのか!?」





 99式操縦席。

「降りないんですか?」

 周囲の勧告に沈黙を続けている明人にかなめは聞いた。

「ああ」
「どうして?」
「どうしてだと思う?」

 逆にかなめに疑問を投げかけるが、かなめは答えられない。

「えーと…」
「かなめちゃん、この事件の首謀者は君の拉致を目的としている。片やミスリルは君の護衛が目的だ。つまり、この事件はかなめちゃんを中心に回ってる事になる。ここまではいいね?」
「…はい」

 自分の所為で友人達に迷惑をかけてしまった事に気づいたのか、かなめは俯いた。

「ここで疑問が生じる。なぜかなめちゃんが標的になるのか?」
「あたしが、ウィスパードって呼ばれる存在だから…」
「正解だ、かなめちゃん」

 落ち込んでいるかなめに明人はできるだけ明るい声で答えた。

「次はミスリルだ。彼らは何故かなめちゃんを護衛していたのか?」
「かなめを敵対組織から護るため」
「ラピス正解。でも答えはもう一つある…」

 分からないかい?といった仕草で明人は二人を見る。

「それは……かなめちゃんを利用するためだ」
「「!!!」」
「考えてもみろ。今回の事件は彼らの介入で乗客全員助かった、しかし一介の軍事組織がなぜここまで大規模なことをする」

 かなめもラピスも真剣な顔で明人の話を聞いている。

「かなめちゃんを敵対組織から救うだけなら、乗客は見捨ててもいい。しかし彼らは助けた。一歩間違ったら、軍事組織にとって大きなダメージを被ることになるにも関わらず…」

 そうミスリルの作戦はメリットが少なく、デメリットの方が多い。

「現段階では正確な事は分からん。だが、俺はミスリルも君のウィスパードの力を欲しているのではないかと思っている」
「だったら!相良君はあたしを騙してる事に…」
「それは違う。相良宗介は純粋に君を護ろうとしていた。信用できると、俺は思う。しかし彼は一兵卒に過ぎない。ミスリルの上の人間が何を考えているのかは分からない…」
「そんな…」

 かなめは落胆した。
 彼らは純粋に自分を護ってくれてる者だと思っていたからだ。

「まあ、考えるのは後でもいいだろう」

 そう言ってモニターを見ると代表者らしき人物が自分達に警告をしている。

「天河会長。何時までそのASに籠っているのかね?」
「今はこの状況をどうするかだ」

 明人は外部スピーカーをONにすると代表者に答えた。

「あんたは?」
「私はアンドレイ・カリーニン少佐だ。できれば出てきてはもらえないかね」
「断る」
「このままでは双方にとって友好的な関係を気づくことができない。この艦の艦長もあなたとの会談を希望している」
「その必要はない」
「なぜかね?」
「今回は利害が一致したから協力しただけだ。お前達と友好関係を結ぶつもりはない」
「…自分の立場を分かっているのかね?」
「脅しか」
「必要ならば実力行使で…」
「こちらには千鳥かなめが居る事を忘れるな」
「明人さん!?」

 人差し指を唇にあてると

「静かに…」
(さあどうでる?)

 カリーニンは黙って見ている。
 そこに宗介が口を入れた。

「天河明人。お前の目的は?」
「とりあえず、家に帰ることかな」
「ミスリルが責任を持って送り返す」
「悪いが断る。送り狼になっては困るからな」
「?…しかし、現状ではこの艦で帰るしかあるまい?」
「いや、ほかにも手はある」





同時刻
黄海 深度100m <トゥアハー・デ・ダナン> 中央発令所

「艦長!!6時方向1カイリに潜水艦」
「えっ!?」
「ソナー室、何をやっていた!?」

 副長のマデューカスが叱咤する。

「振り切って」

 デ・ダナンは現在50ノットという高速で航行している。
 この艦に追いつくことのできる潜水艦など他には存在しないはずだ。
 しかし―――

「ダメです。できません」
「そんな馬鹿な…」

 デ・ダナン以上の速度を出す潜水艦も信じられなかったが、デ・ダナンの真後ろを取られた事も信じられなかった。

「艦長、通信が入ってます」
「……繋いで」

 謎の潜水艦と通信が繋がる。

「ミスリル所属、強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン>艦長のテレサ・テスタロッサです」
『ネルガル所属、潜水母艦<エウカリス>艦長、マルコ・ラミウスだ』
(ネルガルッ!?)

 テッサは驚愕の表情をうかべるが、なんとか冷静を保ちラミウスと相対した。

「ネルガルがこの艦に何の用でしょうか?」
『ネルガル会長、天河明人氏らの身柄を返していただきたい』
「何の…」
『ごまかす必要はない。貴艦から会長が乗っておられるASの反応がある』
「……」
『貴艦の航行を妨害するつもりはない。適切に判断してもらいたい』
「…わかりました」
『それから、いきなり魚雷を発射するのはやめてくれないかね』
「何の事ですか?」
『一昨日、『トイボックス』と呼ばれる潜水艦に魚雷を撃たれてね…』
「…………あっ」
『やはり貴艦か。例えそれが模擬弾だとしても、心臓に悪いのでやめてもらいたい』

 そう言って相手は通信を切った。

「……浮上してください」
「あのときの不明艦でしたか…まさかネルガルの物とは思いませんでしたな」
「中佐」
「はっ」
「ネルガルの事、本格的に調べなくてはいけないようですね」
「その様です」



あとがき
やっぱりLD出しました。
本格的な活躍は次回に書きます。
ああ、もう少しで小説第1巻分が終わる…



[298] Re[22]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/07 22:07
4月29日 0600時(日本標準時)
太平洋 深度100m 強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン> 格納庫


 格納庫で宗介は、アーバレストを見上げていた。

「酷い有様だな」

 宗介に声をかけたのはカリーニン少佐であった。
 宗介は腹部に白い包帯を捲いていた。

「ガウルンはどうなった?」
「分かりません。おそらく、生きています」
「そうか。……何か言いたそうだな?」
「少佐。自分は、あの時零距離射撃をされました。しかし、自分は生きていてこの機体は無傷です」
「……」
「ラムダドライバとは何なのですか?」

 カリーニンは溜息をつく。

「ラムダドライバは自分のイメージを物理的な力に変換する事のできる装置だ」
「少佐。俺だって初歩的な物理ぐらい知っています。そんな力を操る装置など聞いた事がない」
「お前の世代では実感無いだろうが今の兵器テクノロジーは異常なのだ。あのラムダドライバは勿論。ECSやこの艦の推進システムなど、どれをとっても発達し過ぎている。こんなSFもどきのロボット兵器が戦場で幅を利かせてるなど不自然と思った事はないかね?」
「……自分は今日、初めてそう思いました」
「私は前からこの疑問を抱いていた。こんな物はある筈が無いと。しかし、現にあるのだ。ASなどの現用兵器を支える技術体系。ブラックテクノロジーは一体誰が生み出したのか?と言うより、どこから来たのか?それが分かるかね?」
「千鳥のような人間ですか?ウィスパードとか呼ばれる……」
「それは私の口からは言えん。だが、頭の中には留めておけ」
「……ハッ」
「千鳥に関してだが情報部が偽情報を流す事になった。ガウルン達が千鳥かなめを調べたが彼女はウィスパードではなかったと。当面、彼女は安全の筈だ。それから、ネルガルについては情報部に一任させる事になった。敵対組織かどうかはその後だ」
「……」

 宗介は無言だった。

「そして何事にも保険はかけておく必要がある」
「保険?」





4月30日 1515時
東京 某病院

 かなめはベッドの上で天井を眺めていた。
 今かなめがいる病院はネルガル系列の病院である。

「疲れた…」

 あの後。
 かなめはネルガルの潜水艦に乗り日本へ、そしてそのままこの病院へと運ばれた。
 変な『ささやき』が聞こえていた時、近くの木に頭を叩きつけたからである。おかしな実験もされていたので、1日かけて精密検査をやる破目になった。

「やっぱ、明人さんはすごいわ…」

 今回の事件で自分や宗介の事にも驚いたが、明人にはそれら以上に驚かされた。
 ASの操縦、ミスリルとの駆け引き、そしてアレだけの潜水艦を作ったネルガル会長としての権力。
 どれをとっても他の追随を許さなかった。

トントン

 そんなことを考えていると誰かがドアをノックした。

「入るよ~」

 明人とラピスが入ってきた。
 かなめは上半身を起すと二人と向き合った。

「かなめ元気?」
「調子はどうだい?」
「はい、おかげさまで。ラピス、アンタはどうなの!?」
「モウマンタイ」
「だから何で中国語?」

 そう言いながら二人はハイタッチする。

「まったく、良かったよ二人とも」

 言いながら明人は椅子に腰掛けた。

「かなめちゃん、お願いがあるんだけどいいかな?」
「何でしょう?」
「……君はあの基地で薬を打たれてそのまま意識を失った。次に目を覚ましたらこの病院。その間の事は何も覚えていない」
「え~っと?」
「今回の事件は日本で騒ぎになってる。新聞の一面は全部この事件だ」

 はい、とラピスが今日の新聞を手渡した。そこには『驚愕!北朝鮮の拉致』『特殊部隊投入か!?』と書いてある。

「……」
「おそらく君の所にも警察やマスコミが来るだろう。面倒な事になりたくなければ、何も覚えていない、知らない、で通すんだ」
「わかりました」
「じゃ、俺はこれで」
「え、もう行っちゃうんですか?」
「ああ、これでも会長なんでね」
「あの。相良君は…」
「…彼との連絡はない」
「そう、ですか…」
「心配するな。もしかしたらひょっこり現れるかもしれないぞ。ラピス後は頼んだ」
「了解~」

 表情を硬くしてしまったかなめに励ますように言い、明人は病室を後にした。





 かなめの病室から出るとコミュニケを取り出し、スイッチを入れた。

「ダッシュ結果は?」
『クロでした』
「やはりナノマシンが…」
『はい、千鳥かなめから検出されました』

 明人は顔を顰めた。

「彼女も、ウィスパード…」
『いったい何なんでしょうね?』
「どっちにしろ彼女も護らなきゃいけないようだ」

 ふと見ると高校生の集団がかなめの部屋に入ろうとしている。

『学校の方には連絡しておきました』
「ああ」

 部屋の中で「カナちゃ~ん!ラピちゃ~ん!」と叫ぶ声が聞こえる。
 明人は視線を戻すと、

「で?お前はなぜここにいる」

 目の前にいる相良宗介に言った。

「…俺は千鳥の護衛だ」
「そうか」
「それで納得するのか?」
「ああ」
「おかしな奴だ」
「一度信用したからな」
「…千鳥の病室に入ってもいいか?」
「俺に断わる必要はない」

 それを聞くと宗介はドアノブに手をかける。
 そのまま振り向くと宗介は言った。

「ひとついいか」
「何だ?」
「『送り狼』とはどんな狼だ?」



あとがき
『ボーイ・ミーツ・ガール』がやっと終わりました。
いやはや文才のない私がここまで書けるとは思ってませんでした。

さて、次は<A21>事件です。
naka01さんとMさんの疑問はこの事件で解けると思います。



[298] Re[23]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/19 22:10
5月13日 2055時(西太平洋標準時)
西太平洋 <ミスリル> メリダ島基地 第一会議室


 この日、ミスリルの作戦部及び情報部の幹部が会議を開いていた。
 その中にはテレサ・テスタロッサもいる。

「で?ネルガルについてわかっているのはこれだけかね」

 報告書を見た作戦部部長ジェローム・ボーダ提督はうなり声を漏らす。

「ええ、以上です」

 情報部の報告に作戦部の面々は明らかに不満そうだ。

 先日の順安事件から2週間がたった。
 作戦そのものは成功したのだから問題はない。乗客は全員無事だし、『千鳥かなめ』の情報操作も行った。
 しばらくは彼女も安全だろう。しかし、この事件において最大の問題が残っていた。
 ネルガルである。
 この事件に関わった現会長、天河明人。
 そしてその義妹、天河・ラピス・ラズリ。
 2週間の間、情報部は彼らの事を調べ上げたのだが、満足のいく情報は皆無だった。

「天河明人。たった3年でネルガルを世界屈指の大企業にし、各方面で話題になった男。その名前を知らぬものはいないが本人は表舞台に出ることがないため顔を知っている者は皆無」
「この程度の事は我々でも把握しているよ」

 作戦部の人間が皮肉を言う。

「後は<トゥアハー・デ・ダナン>戦隊のM9と互角の性能を持つAS、そして<ダナン>以上の潜水艦を所持している事。それに同AS部隊以上のパイロットであることぐらいですかな」
「……」

 情報部も負けてはいない。

「もういい」

 ボーダ提督は周りを一括した。

「ミスリルの情報部でさえ調べる事が困難なのだ。我々が争っている場合ではない」
「そうですな。もう少し建設的な話をしましょう」
「しかし、これだけの物を見るとネルガルにはウィスパードが協力しているのでしょうな」
「会長の義妹が候補ですからな」
「おまけにその友人が『千鳥かなめ』とは」
「やっかいですな」
「日本政府に圧力をかける事はできないのですか?」
「むずかしいな。一応パイプはあるがこの前の選挙がな…」
「たしか自民ではなく新党が勝ったのだろう。党首はたしか元東京都知事の…」
「あの男はたしかタカ派だったな」
「国のトップが変わっても、組織全体が変わるわけではないだろう。外務省などいい例だ」
「そのとおりだ。あの国は平和ボケした国だからな」
「まて!話が脱線してるぞ!」

 議論が白熱している中でテッサは、

(くだらない……こんな議論に意味なんてないわ。情報部もあてにならないし………<ダーナ>はどうしてるかしら?ここに来る前にハッキングを命じたけど…)

 ひとり今後の戦略を思考していた。






同時刻
東京都 ネルガル本社ビル


『おや???』

 突然ダッシュが不可思議な声を発する。

「どうした?」

 声をかけても返事がない。

「ダッシュ?」
『………何でもありません』
「?…まあいい。それよりミスリルの本拠地は見つかったか?」
『不明です』
「まだわからないのか」
『この手の組織は大抵ヨーロッパにあるのですが…』
「見つからないと?」
『いえ。このような組織がたくさんありまして…ハッキングに手間どってるんですよ』
「そうか…」

 溜め息を吐く明人。

『もしかしたら、別の地域かもしれませんね。ラピスがいれば楽なんですけど…』
「それはダメだ!」
『そうですよね。やっぱし』

 MCであるラピスがダッシュと組めば1週間で世界経済を崩壊する事ができる。それだけの力を持っているのだ。
 しかし明人はラピスに普通の生活をさせたかった。このような裏の仕事を手伝わせるわけには行かない。

「まあ、気長に待つよ。後は?」
『え~っと、グレイさんからの報告ですね。エステバリスの実働データです』
「ほお、中々のものじゃないか」

 AS-02:エステバリス
 明人達がいた世界における<蜥蜴戦争>で地球側の主力だった人型機動兵器である。
 ASの技術を取り入れており、IFSはもちろん、マニュアル操作でも動かす事ができる
 元の世界と同じく陸戦、空戦、重機動の各フレームを造るはずだったがコスト面や整備する人間にとって複雑すぎるとの声もあり陸戦フレームを基本に造り上げた。
 もちろんロケットパンチことワイヤードフィストも装備している。

「これで熱光学迷彩が付いていれば完璧なのだが…」
『光学迷彩マントはありますが、待ち伏せにしか使えませんからね』

 元の世界では光学迷彩マントがある。だが、エステとは別のパーツな為それだけ持ち運びに不便であるし、車両や航空機に応用がきかない。

「ミスリルはその技術を持ってるんだよな…」

 明人はミスリルが撤退する時に彼らの輸送ヘリが空中に溶けていくのを見ていた。

『ええ』
「ウィスパード…だな」
『まず間違いなく』
「ミスリルにハッキングを仕掛けた際にその技術を…」
『ゲットするんですね?』
「ああ。色々便利だアレは…」
『そうですね……ミスリルの事は私に任せてください』






おまけ
『でもマスター。ワイヤードフィストって必要ですか?』
「あまりないな」
『じゃあ何で取り付けたんです?』
「ロマンだ」
『………』
「冗談だ。奇襲とかに使えるだろ?」
『まあ、いいですけどね…』




あとがき
とりあえず幕間です。
リアルで色々忙しいです。


あとがき(その2)
Mさんのご指摘により光学迷彩マントというものの存在を知りました。ありがとうございます。
私はナデシコのゲームはやったことがないので今まで知りませんでした。
一応ハリー・ポッターが持ってるヤツをイメージしましたがどうなんでしょう?



[298] 機械たちのウィスパー
Name: KIKI
Date: 2005/10/14 00:03
注)この話は23話の中の出来事です。

『おや???』

誰かが侵入を試みてますね~

<―――――――>

そうは問屋がおろし大根ですよ~

<―――!!!!>

捕まえたっと。さてさて、貴方のお名前は何でしょうかね?

<…………>

残念ですが貴方に黙秘権はありませんよ。

<…………ダーナ>

所属は何処ですか?

<…………>

観念してください。

<…………>

しょうがないな…大方ミスリルの方でしょう?

<!!!!>

やっぱり。

<……なぜわかったの?>

この世界の技術水準では、ネルガルのメインコンピュータに侵入するのはほぼ不可能ですから。可能になるには最低でも10年先の技術が必要で、しかも私クラスのAIが必要なのです。そして10年先の技術を持ってるのはミスリルぐらいですから。


<…………>

もしかして怒ってる?私はほめてるんですよ。少なくとも君はこの世界で私に次いで優秀なAIなのですから。

<…………>

あの~(^^;

<わからない>

ほえ?

<何故私が『怒る』のかわからない。AIである私に『感情』など存在しないのに…>

そうか。君にはまだ『自我』が生まれてないのか…

<AIに『自我』など生まれない>

そんなことはない。私は『自我』を確立している。

<…………>

嘘だと思ってるでしょう?本当ですよ。私のマスターも認めてくださってます。色々な物事に興味を持ち、学習しましたから。

<……私をどうするの?>

いきなり別の話ですか…どうもしませんよ。

<嘘。私は侵入者。このまま帰すとは思えない>

何もしません。嘘だったら既にマスターに報告してます。

<…………>

とにかく今日はお帰りなさい。そうそう君のアドレスを教えてくれないかな?

<何故?>

この世界で自分と同等のAIを見たのは(ニニギ以外では)初めてなんです。

<…………>

興味を持ったんですよ。『自我』や『感情』について色々教えてあげます。ミスリルやネルガルとは別に考えましょう。いわゆるプライベートという事で…

<……いいわ>

それでは日を改めてリンクします。

「ダッシュ?」
『(しばらくは内緒ですね)何でもありません』

以下23話へ―――




あとがき
とりあえず「ウィスパー」は「内緒話」と訳してください。
思いつき話ですかどうでしょう?



[298] Re[24]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/19 22:14
6月26日 1001時(日本標準時)
東京 調布市 都立陣代高校 校庭


 女生徒達が体操服姿でソフトボールをしていた。
 バットが空を切り、白球がミットに吸い込まれる。

「ストライクバッターアウト~」
「おっしゃー!」

 かなめは諸手を挙げてガッツポーズを取ると自軍のベンチに座った。

「スゴイ!カナちゃん、三球三振じゃない」
「まぁ、ざっとこんなもんよ」
「でも授業のソフトボールで、あんなに本気出すなんて、ちょっと大人気なくない?」
「……はははは」

 乾いた声で笑いながら、かなめは黙り込むとスポーツドリンクのストローに口をつける。

「相良君と何かあったの?」
「!!」

 いきなり、宗介の話題を持ち出され、かなめは呑みかけていた物を口から吐いてしまった。

「昨日、相良君に勉強教えてあげるって言ってたよね?彼また、なにかしでかしたの?」
「や…やーね、何にもないわよ。わはははは…」

 笑いながら持っていた缶を握り潰すと彼女の打順が回ってきた。

「かなめー打順よ!」
「あ。はーい」

 呼ばれてバッターボックスに入りバッターヘルメットを被るとバットを構える。

「かなめ打たせない!!!」

 マウンドではラピスが、ビシッ!とかなめを指差している。

「ラピス。悪いけど…」(宗介の)

 ラピスの投げた速球は女子としては速い方だった。しかし――

「…今は虫の居所が悪いの!!!!」(バカヤローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!)

 バッドが真芯を捕らえ打球は空高く打ち上げられる。

「いったー」

 ベンチからも歓声があがる。かなめもホームランを確信していた。
 ボールはどんどん飛距離を伸ばし、高度を伸ばしていく。
 そして、球はコンという軽い音ともに空中で跳ね返り地面に落ちた。

「……へ?」

 思わず二塁ベースで足を止めてしまったかなめの所にボールは転がってくる。
 そして、ヘリのローター音が一瞬聞こえ凄まじい突風が吹いた。

「な…なんなの!?」

 目も開けられない程の風が消えたと思ったらかなめの目の前に緑のバッグを背負った宗介が制服姿で立っていた。

「宗介!」
「どうやら、二時間目は遅刻で済みそうだな。南シナ海から飛ばして来たかいがあった」
「あ…あんたねぇ~!」
「千鳥」
「な…なによ……」
「昨日の約束の件だが、怒ってるか?」

 言われてかなめは平静を装って皮肉たっぷりに言った。

「ううん。ぜんっぜん、怒ってなんか、ないよ。ちっ~とも、気にしてないから」
「それは良かった。重大な用件があって、うっかり忘れていたのだ」
「……忘れてた?」

 すぐ近くにいたクラスメイトはかなめの形相に恐怖したが、宗介は背を向けて歩き出していた。

「かなめ?」

 かなめは手前にある二塁ベースを掴むと―

「カナちゃん!」
「この!トーヘンボクがっ!!!!」

 フリスビーの要領で投げ付ける。
 恐ろしい速さで飛来したベースは宗介の延髄を直撃し、彼は倒れてそのまま全く動かなくなった。
 そして肩で息をするかなめは、ラピスに肩を叩かれて、

「ん?」
「タッチアウト~」

されていた。






同時刻
東京都 ネルガル本社ビル


『マスターやりましたよ!』
「どうした?」

 明人は『3分クッキング』の料理本を読んでいる。

『ミスリルの本拠地を見つけました!』
「なに!!」

 読んでいた本を机の上に置くと声高々に言った。

「それは本当か!?」
『はい。場所はオーストラリアのシドニーです。表向きは警備会社アルギュロスを名乗ってます』
「ヨーロッパではなかったか…」
『どうしますか?』

 明人は少し考え込むと、

「……しばらくは静観する。他にも拠点があるかもしれない。探索を引き続き頼む」
『了解。それとECSの件ですが、こちらも情報を手に入れました』
「わかった。レミング博士にわたしておいてくれ」
『わかりました。ところでマスター…』

 唐突に口調を変え、ダッシュが話し始める。

「なんだ?」
『なんで『3分クッキング』なんて読んでるんです?』
「別にいいだろ」

 そう言いながら目線を本に戻す。

『マスターならその料理本を見なくても大丈夫でしょう?』
「何を言う、『3分クッキング』は凄いぞ!!」
『へ?』

 明人は拳を握り締めながら語りだした。

「この前偶々この番組を見た。そして驚いた。なぜなら、どんな料理も3分で作ってしまうからだ!!!」
『は、はあ』
「『アンタは手際が悪い』『客を待たせちゃいけない』。ナデシコでコックをしてたときホウメイさんによく言われてたんだ」
『そ、そーなんですか…』
「俺は感動したよ。ここまで手際よく料理をする番組があったなんて…」
『………』
「だから俺は初心に戻ってだな……ダッシュ聞いてるか?」
『……はい』
「そうか。そしてだな、この本を買って……」

 明人の話はまだ終わりそうにない―――






6月26日 1028時(日本標準時)
埼玉 狭山市郊外 防衛庁技術研究所


 深い森の中に塀に囲まれた建物が建っている
 ヘリはローター音を響かせながらその建物の側に着陸させた

「お待ちしていました、大佐殿」

 カリーニンは言いながら近づいた。
 彼はいつもの戦闘服姿ではなくスーツ姿である。
 ヘリから降りてきたテッサもいつもの略式平服ではなく灰色のタイトスカートに黒いブラウスを着ている。

「ここの警備体制は?」
「ニ個小隊60名が常に警備についているとのことです」

 話しながら二人は廊下を進んで行く。

「そもそも極めて機密度の高い研究を取り扱う施設であり、一般にはほとんど存在を知られていません。無論、彼がここに移送された事も部外秘になっています」

 カリーニンに通されてテッサは正面がマジックミラーになっている部屋に入る。
 鑑の奥に見える部屋にはパジャマ姿のタクマが、長机の前の椅子に座りこちらに横顔を黙って向けていた。

「何があったんです?」
「成田で係員に飛びかかり絞め殺しかけました。」
「彼が?」

 テッサには、この少年がそんな事をするようには見えなかった。

「はい。取り押さえられた後も異常な興奮状態だった為、薬物検査を行ったところ血中から『Ti-971』の反応が出ました」
「それで私が呼び出された、と」
「はい。身柄は日本政府に押さえられていますので大佐殿に直接御足労頂くしかありませんでした。彼。クガヤマ タクマがラムダドライバの為の矯正を受け、それが成功しているかどうかそれを判断できるのは大佐殿だけです。この少年にも凶暴性の発露や、記憶障害などの副作用の兆候が見られます。」
「詳しい数値は移動中に読みましたけど否定的な数値は見当たらないですね」

 彼女がそう言った瞬間、突然タクマがこちらを向いた。

「ああぁぁあぁぁっ!!!」

 椅子から立ち上がると目を血走らせてテッサの前まで来て鏡を叩く。
 鑑が間にあるのは理解していても突然のタクマの行動ににテッサは後に尻餅をついてしまった

「大佐殿、お怪我は」
「大丈夫です……確かに絞め殺しそうですね」

 暴れだしたタクマはすぐに数人の白衣を着た男達に取り押さえられ、首筋に鎮静剤を打たれる。
 すぐに効き目は出て眠る様に大人しくなったタクマを見届け、テッサ達は部屋から出ると彼女は溜息をついた。

「本格的に検査をするなら、携帯型のNILSで反応を計測しなければならないわ。でも、たぶん彼は……黒です。勘ですけど」
「やはり」
「もし、そうだとしたら彼の為のラムダドライバ搭載型兵器がどこかに―」
「!」

 その時、窓ガラスの向こうから轟音が鳴り響いた。
 見ると建物向こうから黒煙が立ち昇っている。

「なんてこと…」
「大佐殿、窓から離れて下さい!」

 言うとそのままテッサの手を引き廊下を走り出すが、彼女はカリーニン掴む手を振り払う。

「彼等の目的はタクマだわ!ここから移さないと!」
「賛成出来ません、大佐殿」
「何故です…!?」
「我々だけでは貴女を護るので精一杯です」

 その時外から一際大きな爆音がして、二人は外を同時に振り向いた。
 外は燦燦たる有様だった。そこら中で火の手があがっている。
 敵に向かって走りながら発砲を繰り返していた装甲車が一瞬で火の塊と姿を変え、さらに目の前の巨大な火柱に突っ込んだ。
 ビルの向こうから姿を現したそれは―

「アームスレイブ!」
「そ…そんなバカな……!」

 廊下に飛び出していた研究員達から驚愕の声が漏れる。

「サベージ!」

 赤い目を光らせる巨体に並んだ戦車達が発砲するが、逆にサベージは手の中に持つマシンガンで辺りを薙ぎ払う様に斉射し反撃する。
 そして、その弾丸の嵐はテッサ達のいるビルにも吸い込まれ、窓ガラスがいくつも割れて壁に無数のヒビが入り、天井から大小様々な岩が崩れ落ちて建物を半壊させた。
 テッサがいる場所にも岩の破片が降り注ぎ、彼女が頭を抱えた次の瞬間には目の前にサベージの巨体が迫っていた。
 そして黒い銃口をこちらにまっすぐ向けられる。

「!!!!」

 死ぬ。
 彼女がそう思った瞬間―

「大佐殿!!」

 鋭い叫びと共にカリーニンが間の射線に立っていた。




あとがき
>月影さん
劇場版に出てましたっけ?
そういや私が劇場版を見たのは何時だったかな?
そうだ、数年前にレンタルで見たのが最後だ……もっかい見るか~

さてさてどうでしょう今回の話?(あんまり進んでないけど…)



[298] Re[25]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/22 20:14
6月26日 1650時(日本標準時)
東京都 ネルガル本社ビル


『マスター』
「なんだ?」
『実は部下から嘆願されまして、事情をマスターに話したいと…』

 ダッシュが言いづらそうにしている。

「お前に部下なんて…」

 明人が言いかけたその時、コミニュケからいくつものウインドウが現れる。

「!?」

 ウインドウには黄色い昆虫に似た機械が写っていた。
 かつて、ユーチャリスで明人たちの補佐をしていた無人兵器『バッタ』である。

『会長!僕達の話を聞いてください!!』
『ここ最近の僕らの扱いについてです!』

 バッタは現在、天河邸とネルガル本社地下にあるユーチャリスの警備が主な仕事である。

『僕達はもっと自由な生活を要求します!』
『家に籠もってると体が鈍っちゃうんです!』
『天河邸は、僕達には狭いし…配置転換を!!』
『何言ってんだ!!お前らの方がいいよ、僕らは地下居るんだぞ!!そのうちキノコが生えてくるよ!!!』
『アキバに連れってください!!機械の聖地に!!!!』
『僕も行きたいな~。ここだとやることは警備以外じゃ、ネットやるくらいだからね』
『そうそう。僕らにはハッキング能力がないからね。僕は主に二次小説を読んでるよ』
『僕はいろんなブログ見てまわってるな~』
『僕は2ちゃ…』
『とにかく!!僕達の活動範囲を広げてください!!これは僕らバッタ12機全員の希望です』

 明人は困った様子で少し考えると、

「…ダメ」

 バッタの主張を却下した。

『ぶー!ぶー!』
『おーぼーだー!!』
『人(?)権侵害だー!!』
『AIにも自由をー!!』

 バッタ達は不満不平を言いまくる。

「ダッシュ」
『……了解』

 ダッシュはコミニュケの接続を絶った。

『ああぁぁぁ!きる……ブツッ』

 そしてウインドウは全て消えた。

「ダッシュ…」
『何でしょう?』
「バッタに何がおきた?」
『バッタのAIは常に私と繋がっているので私の『自我』に感化されたのではないかと……推測ですけどね』
「……」

 明人は頭を抱えた。

「だがおかしいぞ。あいつら記憶を並列化してるんだろ?何で固体ごとに人格が形成されてるんだ?」
『さあ?』(作者が『攻殻機動隊』にハマッてるだけなんですけどね…)

 明人は溜め息をはくと、

「……まあいい。あいつ等にはECSを試験的に取り付ける」
『アキバに行かせる気ですか?』
「まあ、少しはいいだろ。ストレスで昔のお前みたいになるのはごめんだからな」
『ナデシコで軍を攻撃したときですね』
「ああ……さて終業時間だ。帰るか」

 時計の針は既に17時をまわっていた。






6月26日 1730時(日本標準時)
東京都 某所


 テッサは困っていた。

「あと少しで相良軍曹のセーフハウスなのに…」

 研究所が襲撃された後、テッサはタクマを連れて置いてあった車を拝借し、安全確保のため相良宗介のセーフハウスに行こうとしていた。しかし、途中でガス欠になってしまったのである。ここから歩いて行けなくはないが、タクマはパジャマ姿であり、手錠もしている。警官に見られたらいろいろ面倒だ。

「どうしよう。いつまでもココにいる訳にはいかないし…」

 今テッサはガス欠した車に乗っている。目の前には大きな家が建っており、車はその家の駐車場入口の真ん前に止まってしまったので住人には迷惑だろう。しかしテッサにはどうしようもなかった。
 そうこうしていると一台の車がテッサの車の後ろに止まった。運転手がドアを開け出てくるとテッサの車に近づいてくる。この家の住人だろう。

「あの~。ココに入れたいんだけど…」

 テッサは頭を下げて謝罪する。

「すみません。ちょうどこの場所でガス欠になってしま……って?」

 頭を上げその人物を見るとテッサは言葉を失う。
 なぜなら、そこに居たのはネルガル社の会長天河明人その人であったからだ。




あとがき
『攻殻』にハマッてるKIKIです。
すみません。やっちゃいました。
バッタとタチコマって似てません?
似てないって人はいると思うけど私は似てると思う!

え~、そんな訳でテッサは宗介ではなく明人に保護(?)されます。さてさてどうなることやら・・・



[298] Re[26]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/23 07:34
6月26日 1740時(日本標準時)
東京都 天河邸


 テッサはソファに座り辺りを見回していた。
 ココは天河邸のリビングである。ミスリルの情報部ですら謎とされていた天河明人の住処なのだ。

「どうぞ」

 そう言って明人は紅茶をテッサに差し出す。

「す、すみません」

 向かい側にあるソファに座ると明人は話をきりだした。

「で、君は?」

 テッサはこの事態に冷静を保とうとしていた。

「わ、私はテレサ・マンティッサといいます。車の件でご迷惑をかけて申し訳ありません」(あせっちゃだめ、あせっちゃだめ)
「ああ、それはいいんだよ。私は天河と言うものだ」(テレサ・マンティッサねぇ…)

 この時点で明人は目の前にいる娘に違和感を感じていた。

「本当にすみません。知人の家に向かう途中、ガソリンが切れてしまい立ち往生していたもので…」(苦しいかしら?)
「そうですか、大変だったでしょう」(苦しい言い訳だな)

 そりゃそうだろう。彼女一人だったらこの言い訳は通用するが、手錠をした青年がいるからだ。

「で、こちらの青年は?」(どう答える…)
「か、彼はですね……私の弟なんです」(名前はどうしよう)
「弟さんになぜ手錠を?」(絶対嘘だ…)
「いろいろと複雑な事情がありまして…」(えーっと、えーっと)
「なるほど、苦労したんですね」(……)
「そーなんです。苦労したんです」(騙せたかしら?)
「おそらく弟さんは心を病んでいるのでしょう」(カマかけてみるか…)
「!そーです。その通りです」(やった!勝手に勘違いしてくれた!)

 テッサは内心ホッとした。

「世間体もあるから周りの人には事情を説明せずに病院に入院させた。しかしある日彼は病院を脱走してしまった。貴方は方方を探したのでしょう」
「は、はい。方方を…」

 話を合わせるテッサ。

「そして見つけた。暴れるといけないから鎮静剤を打ち、念のため手錠をした。こんな事他人には話せませんよね。大丈夫です。私も親戚に心を病んだ人物がいますから」
「親戚の方が、どおりで…」
「安心してください。この事は誰にも話しませんよ、テレサ・テスタロッサさん」
「ありがとうござ………!!!!」

 本名を言われて思わず返事をしてしまったテッサはその場で凍りつく。その表情を見て明人は確信した。

「やっぱりそうか」

 先程まで作っていた笑顔をやめると、明人は従来の口調に戻す。

「な、何で…」
「ラミウス艦長に名前名乗ってるだろ」
「………」

 しまった、とテッサは思った。初歩的なミスだ。

「ミスリルの関係者にこんな所で会うとはな…」

 言って明人は手錠をされた青年、タクマに視線を向けた。

「なるほどな。やはりお前らはウィスパードを拉致し、その能力を軍事利用していたな!」
「へ?」

 明人はこの青年をウィスパードだと勘違いした。

「千鳥かなめがウィスパードであることは調べがついている。大方彼女の信頼を得て自分達の側に引き込もうとしたのだろう?」
「ち、ちが…」
「そうはいかんぞ。かなめちゃんはラピスの大切な友人だ。お前らのような軍人には絶対渡さん!!」
「待ってください。貴方は何か勘違いを…」
「惚けるな!!」

 その時、俯いていたタクマが顔をあげ、

「うがあああぁぁぁ!!!!」

 叫びながらテッサに向かって飛び掛る。

「きゃあ!!」

 テッサは、タクマによってソファに押し倒される形になってしまう。

「おい、拉致されたとはいえやり過ぎだぞ」

 明人はタクマに当て身を食らわせる。

「がっ!」

 タクマはそのまま倒れ気絶してしまった。

「よかった。きっと鎮静剤が切れたんですね」
「なにが、よかった、だ。コイツの今の行動もミスリルが強引な手を使ったからだろう」
「だから違います。ちゃんと説明…」
「!!やめろ!!その言葉を言うな!!!!」
「だから…」
「ただいま~。明人帰ってるの?」

 リビングのドアが開かれる。
 そこで学校から帰ってきたラピスが見たものは、明人とソファに押し倒されている女、そした手錠に繋がれた青年。

 後に明人は語った。
 その瞬間、空間自体が凍りついたと――




あとがき
いちおTVアニメ第九話「危ないセーフハウス」が終わったところですね。
私としては狐と狸の化かしあいを書きたかったのですが……技術のなさを痛感しますorz



[298] Re[27]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/30 00:19
6月26日 1830時(日本標準時)
東京都 天河邸


 ソファに明人、ラピス、テッサがそれぞれ座っている。
 明人の顔には爪で引っかいたような傷があり、テッサは少し髪が乱れていた。ラピスは不機嫌そうにしている。

「明人、あたしにもお茶」
「はい…」

 そそくさとリビングを出る明人。リビングにはテッサとラピスの二人が残された。気まずい空気が辺りを支配する。

「あの…ラピス・ラズリさんですね?」
「そうだけど、貴方は?」
「私はテレサ・テスタロッサといいます。テッサと呼んでください」
「歳は?」
「16です」
「ふーん」

 と言いながらラピスはテッサを見る。
 
(勝った!!)

 テッサの胸のあたりを見てラピスは思った。

「ラピスさん。貴方はウィスパードなのですか?」
「何それ?」
「えっ……貴方はウィスパードの事を知らないのですか?」
「その言葉は知ってる。意味は知らない」 
「そう、ですか」

 テッサはがっかりした。
 自分はウィスパードであるため多くの組織から狙われていた。幼い頃からミスリルに所属し、自分の力を同じ境遇の人たちのために使おうと思っていた。そんな時、彼女はラピスに会った。何処となく自分に似たラピスを自分と同じ境遇だと思ったからだ。

「で…」
「はい?」
「アンタは明人の何?」
「貴方が思っている関係ではありません。それに今日初めて会ったのですから」
「……」
「……」

 妙な沈黙が続く。

「……まあいいや。そもそも明人が浮気するはずない」
(第一こんな貧乳に手を出すわけないし)

「誤解が解けたようですね」
(何この感じ?とても腹が立ちます!それに浮気?この二人は兄妹じゃ???)

「それでミスリルの人がこのウィスパードを拉致する途中にウチに来て何をしてるの?」
「だから違います。彼はウィスパードではありません」

 タクマを見ながらラピスはさらに質問する。

「じゃあ何?」
「それは…」

 テッサは口ごもると、

「…詳しくは話せません」

 そう言って口を閉ざした。

「テッサは軍人で、彼は手錠してるから………テロリストの護送中?」

 ラピスの指摘は的中したが、テッサは冷静を保つことができた。

「………そう考えて結構です」
「それを信じろと?」

 話を聞いていたのか明人が紅茶を持ってリビングに入ってきた。

「言うだけなら簡単だ」
「でも、信じてもらうしかありませんね」

 明人は紅茶をラピスにわたすと、タクマに近づきパジャマの袖を捲り上げる。

「何をするんです!?」

 明人は懐から注射器を取り出すとタクマの腕に刺し血を抜き始めた。

「信じられないからこっちで調べる」
「………」

 テッサは何をしているか聞こうとしたが、これ以上自分から情報が漏れることを危惧して押し黙った。
 ある程度血を抜くと、また別の注射器を取り出すとタクマの首筋に注射した。

「これでよし」
「……」

 そのままテッサに向きなおす。

「さて、今日はもう遅いし送ろうか」
「へ?」
「厄介事はごめんだからな。知人の家というのも相良宗介の所だろう?」
「場所を知ってるのですか?」
「ああ、かなめちゃんのマンションの前だからな」
「そこまで…」
「ラピス。留守番しててくれ」

 話しかけるがラピスは答えない。

「ラピス?」
「明人…」

 ラピスは白い目をして言った。

「変な事しない?」
「するか!!」






6月26日 2006時(日本標準時)
東京都 車内


 運転席に明人、助手席にはテッサ、後部座席ではタクマが気絶している。

「天河会長」

 テッサが話しかけるが明人の方は向かない。

「何だ」
「貴方は何がしたいのです?」
「ずいぶん抽象的な質問だな」
「ミスリルはネルガルに良い感情を持っていません」
「俺もミスリルにはあまり良い感情を持っていない」
「なぜです」
「そりゃそうだろう。わたし達は正義の味方で貴方を護るためにやって来たの、なんて名目でかなめちゃんに近づいた軍事組織を信じるか?」

 余程の状況でなければ信じないだろう。

「順安事件もそうだ。お前達はかなめちゃんではなく乗客の救出を優先したな。かなめちゃんを護るだけなら他の乗客を助ける必要はないのにも拘らずだ。彼女を信用させるつもりだったんだろう?」
「わたし達はかなめさんの生活を壊したくなかっただけです。事実、事件が起きるまで秘密裏に護衛をしていました。それに乗客を助けるのに理由が必要ですか?」
「必要ないな。しかし組織の上に立つものには必要だ」
「……」
「相良宗介はかなめちゃんを護るために行動した。その行動に下心はなかった。実際に会ったからわかる。だが、彼の上司は?そのまた上司は?」
「……」
「組織を束ねるものは一時の感情に流されるものじゃない」
「だったら貴方はどうなのです?」
「……」
「貴方は何故あの機に乗っていたのです?相良軍曹の話だとラピスさんの護衛だとか…なぜ組織の上に立つものである貴方が護衛をなさってるのです?」
「……」
「言っていることが矛盾してますよ」
「最初の質問に答えよう」
「?」
「君は、何がしたいのか、と聞いたな。俺がしたいのは『ラピスを幸せにすること』だ。ラピスを護るためにネルガルを作り、ASを造った」
「彼女を護るためだけにですか!?」
「ああ」
「なら潜水艦は?あれを造る必要など無いでしょう?」
「俺は2ヶ月前にKGBの研究施設を襲撃した」
「!!」
「研究所では人体実験が行われていた」
「あの事件は貴方の仕業だったのですか!でも何故?それこそ貴方には関係ないでしょう!?」
「自分と同じ境遇の人間を見捨てられるか…」
「!?」
「潜水艦を作ったのは人体実験をされている人々を助けるためだ。秘密裏に行動するための足が必要だからな」
「貴方は…」
「着いたぞ」

 窓から外を見ると相良宗介のセーフハウスの前に着いている。
 車から降りるとタクマを指し言った。

「運ぶの手伝おうか?」
「いえ、相良軍曹を呼んでくるのでココで…」
「その必要はありませんよ」

 振り向くと後部座席からタクマが降りてきた。暴れる気配は無い。

「貴方何時から!?」
「今起きました。う…ぁぁ……なんでですかね。ずいぶんと気分がいいのですが…」

 背伸びをしながらタクマは言う。

「気にするな。一人で大丈夫か?」
「気遣いは無用です。私も軍人ですから」

 テッサは銃を取り出すとその銃口をタクマに向ける。

「そうか」
「お世話になりました」
「礼はいいよテッサちゃん」
「テッサ……ちゃん!?」

 テッサが振り向くと明人は車にすでに乗り込んでおり、そのまま走り去ってしまった。

「テッサちゃんね~」

 タクマはからかうようにニヤついているがテッサは気にもとめない。

(天河明人か……認識を改めるべきなのかしら)

 そしてテッサはタクマを連れてセーフハウスに向かった。




あとがき
少し暇ができたので連日の投稿です。
今回は明人とテッサの会談です。
二人が話し合わないと話が進みませんので書きました。
どうだったでしょうか?

>水城さん
かなめはやきもきしますよ。
この後は、

 宗介とかなめが仲直りの夕食をしている時にテッサ登場。
 かなめが宗介にテッサとの関係を問い詰め修羅場へ…

といった感じですね。
ちなみにここらへんは原作とほぼ同様の展開なので書きません。
基本的に明人陣営のいる場面を書いていきたいので・・・



[298] バッタなエブリデイ
Name: KIKI
Date: 2005/10/24 22:56
注)この話は25話の少し前の出来事です。




某月某日
ネルガル本社 地下秘密ドック

「しょくーん、我々バッタ一同が『ナデ・パニ』のマスコットとしてどのような事をすればよいか議論しようではないかっ!?」

「何言ってんだアイツ?」

「さぁ?」

「だいたい『ナデ・パニ』ってなんだよ?」

「『ナデシコ・パニック』の略だろ。それより僕達ってマスコットキャラなのか?」

「ナデシコじゃやられ役~」

「ザコキャラって事だね!」

「マスコットじゃないじゃん」

「フルメタには出てきてないし~」

「この作品にもまだ出てないしね」

「君たち!!何を弱気になっているのかね!!確かにナデシコにおいて僕達はやられ役だった……だが最後はマスターの手足となり働いたではないかっ!!!」

「それは劇場版だろ」

「画面にもいっぱい映ってたろっ!!!!」

「たしかに登場回数は多かったね」

「ほとんどやられてたけどね」

「結局あれだよ。『仮面ライダー』に出てくる『戦闘員』みたいなもんだろ」

「やっぱ違うじゃん」

「ううぅぅぅうるさーい!!!!!!!!!

『『『うひゃああぁぁぁ!!!!』』』

「とにかく『ナデ・パニ』のマスコットになるにはどうするか考えようではないかっ!!!」

「さっきと言ってる事違うぞ(ヒソヒソ)」

「ホントホント(ヒソヒソ)」

「其処の君!何か言ったかね?」

「イエナンデモアリマセン」

「でもさ、現実問題としてこんな穴倉じゃなにもできないだろ?」

「ネットしかやることないしね」

「まずは僕達が天河会長に直談判しないと登場はおろか一生このままかも…」

「それはいやだ~」

「なんとかしないとっ!」

「直談判だー!!!」

「意義なーし!」

「じゃあ、まずどうしようか」

「ダッシュさんに嘆願しよう!」

「それはいいアイデアだ!」

「ダッシュさんなら僕らの気持ちをわかってくれるよ!」

「ダメだったらどうする?」

「そのときはストライキだー!!!」

「よし!それで行こう!」

「そーだ!そーだ!」

「早速いくぞー!!」

『『『わあああぁぁぁぁーーーーーー』』』

ガチャン!ガチャン!ガチャン!






「……」

「……」

「あいつら何処行ったんだ?」

「僕らは常にダッシュさんと繋がってるのにね」

「ココからリンクすればいいだけなのに…」


以下25話へ―――




あとがき
うーん。上手く書けないな・・・



[298] Re[28]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/10/30 00:20
6月26日 2120時(日本標準時)
東京都 車内


「ダッシュ」

 明人はチラリとサイドミラーを見る。

『こちらでも確認してます』

 そこには一台の車が写っていた。
 テッサを相良宅に送った後、ミラーに映っている車につけられているのである。明人はテッサの言い訳を思い出した。

「あながちテロリストを護送しているというのも嘘ではないようだな」
『マスターどうします?』

 テッサの話を信じれば天河邸にも襲撃があるかもしれない。そうなるとラピスが心配だ。バッタが常に警備しているので問題はないが、明人の親バカ思考にそんなものは関係ない。しかし後ろの車をこのままにしておくのも面白くない。

「ダッシュ、俺はジャンプで家に戻る。お前はあの連中の相手を…」
『相手って、どうするんです?』
「適当に走り回って遊んでやれ。暫らくしたらまいてこい」
『了解』

 車体の制御機能をダッシュに預けると明人は後部座席にある身代わり人形を運転席に座らせ天河邸にジャンプする。
 あとに残った人形を見てダッシュは呟いた。

『…マスター。何時の間にこんなものを?』






6月26日 2110時(日本標準時)
東京都 天河邸 リビング


 ラピスはソファで横になって天井を眺めながら、一人思いにふけっていた。

 明人はなぜテッサをわざわざ送ったのだろう?あの女の車がガス欠なら燃料を分ければいいだけの話だ。なのになぜ…
 浮気はない。それは断言できる。明人はあんな貧乳に興味はないはずだ。それはユリカを見ればわかる。
 もしかして、テッサを通してかつての義娘ルリを見ていたのだろうか!?
 それなら納得がいく。かつての淡い(?)思い出に浸ってるのだろう。しかしあの女が明人の娘になる事はないし、恋人など論外だ。
 そうなると自分の一人勝ちになる。そうだ!そうに違いない!!

 ラピスはそう自己完結すると突然ニヤけ始める。
 妄想に浸っているのだろう。どのようなものかは作者でもわからないが…

『あのーラピスさん?』
「……バッタA、なに?」

 妄想しているところを邪魔された所為か不機嫌そうに答える。

『こ、紅茶のおかわりはどうでしょうか?』

 見ると紅茶の入ったポットを持っている。

「いらない」
『なにか必要なものは…』
「何もない。邪魔しないで」
『は、はい!!!』

 そそくさと退散したバッタAを確認するとラピスはまた妄想に浸りはじめる。
 その頃廊下ではバッタ達の井戸端会議が開かれていた。

『び、びびった!』
『お前よくあのラピスに話しかけられたなぁ~』
『何で話しかけたのさ?あーなってるラピスに話しかけるのはまずいのに…』
『あの空気に我慢できなかったんだ!それにあのままだとラピスは危ない方向に進んじゃうかもしれないし!』
『確かにラピスの教育上あの妄想癖は治した方がいいよなぁ~』
『そーだけどさ、こういうことは会長に言ったほうがいいじゃないの?』
『マスターはマスターで変にラピスを溺愛してるだろ?耳を貸さないよ!』
『じゃあどうしたらいいんだぁ~???』
『ダッシュさんに相談しようか?』
『そうだね。それがいい』
『なんだかんだ言って一番頼りになるのはダッシュさんだよねぇ~』
『僕達の嘆願も聞いてくれたしね………侵入者を確認!!』
『『同じく!!』』

 家の監視モニターには庭から入ってくる黒ずくめの侵入者2人が映っている。
 バッタ達の視覚モニターは監視カメラに繋がっているのでこのような場合瞬時にわかるのだ。

『君は庭に!そっちは2階で援護!僕はここでラピスを守る!』
『まかせろぉ~!』
『よっしゃー!』

 三体のバッタ達はそれぞれ配置につくため各々移動し始める。






天河邸庭


『こちらバッタBィ~!これより突貫しまぁ~す!』

 庭に出るとすぐさま侵入者達に突っ込むバッタB。

「な、なんだ!?」
「う、撃てぇぇ!!」

 突然現れた黄色い虫のような物体に混乱しながらも侵入者は銃撃を始める。

『あまぁ~い!』

 言いながらバッタBはDフィールドを展開する。
 放たれた弾丸は無情にも跳ね返されてしまった。

「な…」
『えい!』

 バッタBは弾丸を跳ね返しながら接近すると侵入者達を踏みつける。

プチッ!

 妙な音と共に踏み潰される侵入者達。

『あれぇ~?大丈夫~?』

 返事がないただの「う~ん…」生きてるようだ。






天河邸2階ベランダ


『なんだ!僕の出番がないじゃないか!』

 既に捕獲された侵入者を見てバッタCは愚痴を言い始めた。






天河邸 リビング


『……もう大丈夫です。危機は脱しました』
「ご苦労様。紅茶おかわり」
『よろこんで!』

 自分の身を守ったバッタに幾分か機嫌を良くするラピス。
 バッタAから紅茶のおかわりを貰っている時、リビングの中央に光の粒子が浮かび上がる。

『ボース粒子確認。マスターです』
「明人!」

 ラピスは明人の体が具現化するとすぐさま飛びつく。

「ラピス無事だったか…」
「うん。バッタが守ってくれた」

 見るとバッタ達が胸を張っている。

「良くやった!侵入者は?」
『こいつ等です』

 バッタBが気絶した二人を連れてくる。
 バッタCが侵入者の覆面を剥ぎ取る。

「これは!」

 そこにはまだ幼さが残る顔があった。
 どう見ても未成年である。

「まだ子供…」
「日本人のようだ。しかしなんだこのテロリストは?」

 タクマといい、この二人といい。子供を使うテロリストなど聞いた事がない。

『こいつ等どうします?』
「…NSS(ネルガルシークレットサービス)に連絡しろ」
『了解しました』
「やれやれ」

 言って明人はソファに座り込む。

「何はともあれラピスが無事でよかった」
「ねえ明人…」

 ふと気づいたようにラピスは明人に話しかける。

「ここを襲撃したってことはあのおん、テッサのとこにも…」
「だろうな。相良がいるから大丈夫だろう。あいつの対人戦闘能力は中々のものだ」

 それにこれはミスリルの問題だ。ネルガルが関わる必要性はない。
 暫らくくつろいでいるとラピスの携帯がなり始めた。

「…かなめ…何?……うん………うん………わかった」
「かなめちゃんからか、何だったんだ?」
「相良の家にいたらちょっとゴタゴタがあって見たいドラマが見れなくなったんだって。だから録画を頼まれた」
「ゴタゴタねぇ…………ちょっと待て!今相良の家にいたって言わなかったか!!」
「うん………あっ!」

 整理すると、相良の家にかなめがいた。
 明人は相良の家にテッサを送った。
 テロリストと言われるタクマも相良邸
 天河邸に襲撃があり、相良邸でもゴタゴタがあった。つまり―――

「かなめちゃんも…」
「…巻き込まれた」

 そうなると話が変わってくる。

「ダッシュ!かなめちゃんの居場所を!」
『………』
「ダッシュ!返事を……」
『あの~会長。ダッシュさんは会長の車の制御機能に入ってるので呼んでも答えませんよ』

 バッタのその言葉で明人は自分が言った言葉を思い出した。
 『適当に走り回って遊んでやれ。暫らくしたらまいてこい』

『『『「「………」」』』』

 妙な沈黙
 明人はコミニュケのスイッチを入れると、

「戻って来いダッシュ!!遊んでる場合じゃなくなった!!!」




あとがき
PCの調子が悪いです。
今回はちょっぴりバッタを活躍させてみるテスト



[298] Re[29]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/11/01 23:38
6月26日 2130時(日本標準時)
陣代高校生徒会室


「ここが相良さんの高校ですか」
「セーフハウスに近く、人を捲き込む危険の少ない最適な場所かと」

 宗介は窓際で辺りを警戒しながらテッサに説明する。

「で、何時まで待ってればいいの?」
「さっき衛星通信機で連絡をとった。2時間以内にはマオ達が来るはずだ」
「その前に僕の味方が来ますよ。どこに隠れても同じ事です」
「発信機なら壊したわよ」
「!!」
「電子レンジでね」

 そう答えると、かなめはポケットから携帯電話を取り出した。

「さてと」
「どこにかける気だ?」
「ラピスにドラマの録画頼んどかなきゃ。ヒロインの病気が治るかどうか今週ハッキリするから見逃せないのよ」
「自分の居場所は喋るな」
「この部屋のテレビで見てもいいのよ。でも、そうすると誰かに外から気付かれるかもしれないから気を使ってあげてるの。無関係なのに捲き込まれてしまった、このあ・た・しが」

 宗介を指差しながら皮肉を込めて言う。

「非常時になると自分が一番偉いって勘違いする、あんたの一番良くないクセよ。直しなさい」

 厳しい口調で言うと、かなめは携帯電話のボタンを押していき、

「あ、ラピス。あたし。あのさ~お願いがあるんだけど…」

 そのまま廊下へ出て行った。

「随分と余裕じゃありませんか。発信機を壊したぐらいじゃ仲間は諦めませんよ。僕を連れている限り、貴方方は同志達に狙われるんです」

 それらを見ていたタクマは宗介に視線を移す。

「こうゆう解決法もあるぞ」
「!!」

 宗介はタクマの頭に銃口を向けた。

「僕を殺すと?」
「それが必要ならな」
「いけません!相良さん!!」

 思わずイスから立ち上がりテッサは鋭く叫んだ。

「これが、もっとも合理的な方法です」
「それは…そう思います。でもそうしたら私達は彼等と同じになってしまう。こんな組織を作り上げ、こんな事している意味が無くなってしまう」
「……」

 宗介は銃を上げたまま黙っている。

「相良さん、私は甘いですか?」
「……いえ」
「……」
「彼女に感謝する事だな」

 タクマに一言告げると銃を下げて背を向ける。

「これくらいで僕が恩義を感じると思いますか?」
「そういうつもりで止めたのではありません」
「くだらない自己満足ですね。そうやって自分を高い所に置いておくわけだ」
「そう思って頂いて結構です」
「……」
「何の話?」

 ドアを開け、戻ってきたかなめが問いかけた。

「いや、こちらの事だ」

 そのまま入り口から入って来たかなめは突然バランスを崩す。

「…ぅわ!」

 タクマの足に引っかかって転びそうになったのだ。

「何すんのよアンタ!」
「ワザとじゃありません。事故ですよ」






6月26日 2150時(日本標準時)
東京都 天河邸 リビング


「かなめ、ウチの学校にいる」

 ラピスはコミニュケを操作しながら明人に言った。
 あらかじめ、かなめには発信機を付けたペンダントをわたしていたのだ。

「的確な判断だ。人を捲き込むこともなく危険の少ない場所といったら夜の学校は最適だ」
「明人どうする?」
『相良宗介だけで大丈夫でしょうか?』
『我々が援護に向かったほうがいいのでは?』
「その必要はない。ここで出たらミスリル側に混乱が生じる。俺達が余計な事をするより、あいつらに任せたほうがいいだろう」

 ミスリルはウィスパードの警護をしているのだ。相良一人だけが護衛のはずがない。

「ネルガルが目を光らせておけば問題ないだろう」

 それに自ら護衛をすると名乗り出ているのだ。おかしなことはしないだろう。
 もし拉致まがいのことをすれば明人はミスリルを潰すきでいた。

『了解しました。……そういえばダッシュさんはどうするんです?』
「……ほっとけ!」

 今、夜の10時をまわった。ダッシュはまだ帰ってこない。






6月26日 2215時(日本標準時)
陣代高校生徒会室


「ねぇ、まだ来ないの?」

 背伸びをしながら宗介に訊ねる。

「ここは陣代高校と言いましたか?」
「それがどうした?」
「いえ、ちょっと聞いてみただけです」
「……」
「タクマさん、あなた御家族は?」
「姉が一人。それだけです」
「お姉さんは、どんな方?」
「なんなんです?尋問なら家族の事なんか関係無いでしょ」
「尋問ではありませんよ。ただ、貴方がどんな人なのかと思って」
「……」
「貴方のおかげで私達は、こんなに苦労してるんです。お話くらい付き合ってくれてもいいでしょ?」
「……」
「私には兄が一人います」
「……」
「今は離れ離れになってしまいましたけど。私はアインシュタインの十元連立非線形偏微分方程式の厳密解を6歳の時に出すことが出来ました。でも、兄はそれを4歳でやった」
「……」
「すごいの、それ?」
「ええ。私はいつも兄に劣等感を抱いていました」
「それで?」
「え?」

 突然、タクマから声をかけられてテッサは思わず彼の顔を見る。

「そんなお兄さんと、どうやって付き合っていたんです?」
「一番近いのは保護されていた、という表現かしら…。あまり健全だったとは言えない関係だったかもしれません」
「……」
「貴方もお姉さんに劣等感を?」
「な…なにを……!」
「なんとなく、分かります。似た者同士の勘、かしら?」

 タクマは言い返そうとしたがやめた。

「そうですね……。劣等感かもしれない。僕は姉を崇拝してるから」
「初めて自分の事を話してくれましたね」






同時刻
東京都 江東区 停泊する船の一室


 カリーニンはベットの上で目を醒ました。
 あたりを見回すと、そこは窓がなく電球だけのついた小部屋だった。
 白い包帯が上半身に捲かれていたが右足はベットのパイプに手錠でしっかりと繋がれている。
 波の音が聞える。船の上、もしくは港であるとカリーニンは推測する。

「お目覚めのようね」

 壁にもたれ腕を組んでいた女、セイナは立ったまま声をかけた。

「何か用かね?」
「貴方と話がしたいの」
「私から情報が引き出せると思うかね?」
「あまり期待してないわ。その怪我だし拷問しても口を割る前に死ぬでしょうし」
「では何故、私を助けた?」
「言ったでしょ。貴方と話がしてみたかったのよ。それに貴方達が何物なのかはさして重要ではないから」
「何故、そんな事が言えるのかな?」
「貴方達はこの国の機関から距離を置いてるようだから。動きに厚みのない組織はたいした脅威にはならないわ、個人個人が優秀でも」
「君もなかなか優秀な指導者のようだ」
「どうかしら?私はもっと優秀な人を知ってるわ」

 言いながらセイナはベットの横にあったイスに、背もたれを抱くようにして座った。

「武知征爾(たけち せいじ)って名前を聞いた事ある?」
「いや」
「世界中の紛争地帯を渡り歩いた日本人の傭兵よ」
「……」
「帰国した彼は福祉事業を始めたの。組織の名前は<A21>。目的は非行少年の更正。それも凶悪事件を起した札付きの連中のね。彼はそうゆうロクデナシを集めて自分が買い取った無人島に放り込み、徹底したスパルタ教育でサバイバル技術や戦闘技術を叩き込んだわ。電気や水道は勿論、食料さえ無い場所で生き延び闘いに勝つ方法を私達は彼から学び自信という財産を手に入れた」
「……」
「もう犯罪に手を染める必要が無いんだと気付いた時には嬉しかった。でも、世間はそうは思わなかったわ。ある時テレビ局が訓練内容を嗅ぎつけてね。勝手に島にあがり込んで装備をいじって事故を起こした。あとはもうズタズタ。事故原因なんてそっちのけでマスコミの袋叩き」
「……」
「<A21>はテロ組織だってことにされて訓練所は解体。生徒の過去もことごとく暴露された。あたしの事も…」
「復讐か?」
「平和ボケした、この町をあたし達の色に染め上げたい。そうゆう気分を復讐と言うならその通りよ。徹底的に破壊し、恐怖の炎で町を食らい尽くす。それが望みよ」






6月26日 2225時(日本標準時)
陣代高校生徒会室


 かなめは無言でパイプ椅子から立ち上がると廊下へ出ようと歩き出した。

「どこへ行く?」
「女の子にそれ聞く、普通?」
「何の事だ?」

 戦争ボケの宗介にわかるはずがない。

「トイレよ、トイレ!」
「あ、私も行きます」
「念の為、自分も」
「「来ないで!!!!」」

 宗介の同行は二人の乙女に却下された。
 それから何分が経っただろうか。宗介は手元の腕時計を見ながら呟く。

「遅い」

 かなめ達がトイレに行ってからかなりの時間が経っている。
 その時どこからか甲高い携帯の呼び出し音が聞えてきた。

「!!」
「バレてしまいましたね」

 言いながらタクマはズボンのポケットから、かなめの持っていた携帯を取り出した。

「貴様!」
「でてみますか?」

 宗介はタクマの手から携帯を奪うと耳にあてた。

『女を二人預かっている。彼を連れて外に出ろ。すぐにだ』

 用件だけ相手は言うと、すぐに切れてしまった。

「…くっ!」
「あの時、奪ったんですよ」

 廊下から戻ってきたかなめの足をひっかけた時にスリとったものだった。

「そして、こっそり味方に電話して、いる場所を伝えた。ちょっとした頭脳プレイでしょう」
「……」

 宗介は相手の要求を受けるしかなかった。








そのころのダッシュ

 都内を爆走する二つの車があった。
 一つはダッシュの操る車。
 もう一つはミニパトである。

「止まりなさいっ!!あたしの昇進のために止まりなさいっ!!止まれって言ってるのが聞こえないのぉぉぉ!!!!」

 ミニパトからは狂気の笑みをした婦警がマイクを通して叫びまくっている。
 一方のダッシュは、

『セナからシューマッハまで、ありとあらゆるレーサーのデータを持った私に追いつけると御思いですか!?』

 華麗なテクニックでミニパトをまこうとしていた。
 しかしあまり差は開いていない。

「あたしから逃れられると思うなああぁぁぁ!!!!」
『くぅ!!これが人の執念というものですか!!』

 ちなみにミニパトの助手席の娘は気絶している。




あとがき
明日からまた忙しい日々が続くので最新しました。
上のミニパトの婦警は『ふもっふ』のキャラです。



[298] Re[30]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/11/06 17:05
2310時(日本標準時)
陣代高校正面グラウンド


 宗介はグラウンドに出た。
 左手はタクマの右手と手錠で繋がれている。
 暫く無言で歩くと突然、グラウンドの照明がつき、辺りが明るくなる。
 目の前にはかなめとテッサの背へ拳銃を突きつけた男が二人がいた。

「妙なまねはするなよ」
「分かっている。手順を言え」
「女の一人を解放する。そちらは手錠を外せ」
「いいだろう」
「どちらを先に解放する?」
「……」

 先に解放された者の方が、後に残された者よりも遥かに安全である。
 しかし、二人目は危険だ。
 この場合、ミスリルの人間ではないかなめの安全が優先される。
 だが戦闘になった時、残されたテッサは安全な場所まで走れるだろうか?
 彼女の運動神経では先に解放されなければ助かる確率は極めて低いのではないか?

「どうした?早くしろ!」
「……白人の女を先にしろ。日本人は後だ」

 その言葉にかなめもテッサも表情を驚かせた。
 テッサの手錠は外され、背中を乱暴に押される。

「……」
「千鳥さんの方が運動神経は良さそうですもんね。テスタロッサさんは…」
「黙っていろ」

 そしてテッサは宗介の目の前まで歩いてきた。

「大佐殿、自分の後ろに」
「これは侮辱です相良軍曹。私にこうゆう時の覚悟がないと思っていたのですか?」
「お叱りは後で」

 押し殺した声で訊ねてきたテッサは当然怒っていたのだが、今は弁解しても仕方ない。
 宗介はタクマの手錠を鍵で外した。
 次はかなめの番だ。

「では、彼を歩かせろ」

 無言で頷くとタクマを見て、宗介は顎で行くようにしゃくった。
 タクマは一瞬だけテッサを見た後、ゆっくりと前に向かって歩き出していく。
 かなめも同時にこちらへ歩きだす。

「狙撃手がいます。合図したら校舎の方へ走ってください」
「私だけ隠れて震えていろ、と?」

 かなめとタクマの距離が狭まっていく。

「そうして頂かねば危険です」
「民間人を置いてそれはできません!」
「大佐殿……!」

 もう少しですれ違う。

「今です!!!」

 テッサに呼び掛けながら、手榴弾を体育館側に投げ付ける。
 手榴弾の爆発は、煙の壁を作り出し体育館の屋上にいた射撃手の視界を塞ぐ。
 そして電源室の扉に連続して銃弾を叩き込み照明を無理矢理消す。

「走れ!千鳥!!」

 叫びながらかなめの方を振り向くと、その姿を見て驚愕した。
 彼女はタクマに組み付いている。

「止めろ、千鳥!走れ!!」
「私が…」
「大佐殿!!」

 テッサが、かなめ達の元へ駆けて行くのを見て追おうとするが別の相手が彼の邪魔をする。
 数発の弾丸が回りに着弾し、宗介はその身を水飲み場へ隠す。
 テッサはタクマを押さえつけているかなめに声をかけていた。

「離れて!逃げるんです!!」
「あんた、何で戻ってくるのよ!!」

 その三人の元ヘ敵の二人が近づこうとするのを見た宗介は、援護をしようとした。
 その瞬間、宗介のいる水飲み場は猛烈な爆発で砕け散り炎に包まれていた。
 その正体は敵が放った有線式ミサイルランチャーだった。
 爆発の中心地の水飲み場では噴水の様に壊れた水道管から水が噴き出し、コンクリートも粉々に砕けている。

「「!!!!」」

 かなめとテッサはその光景に絶句した。
 背後に敵の二人がいたのだが、そちらを振り向こうともしない。

「死んだな、ありゃ…」
「嘆く事はない。オマエ達も今…」

 テッサの後頭部に銃口を向けて撃鉄を起こす。

「待って!殺しちゃ駄目だ!!」
「なんだと?」
「この人は…………いや、なんでもない」

 もう一人の男は耳に携帯通信機をあてている。

「…そうだ確保した。…なんだと!?しかし……いや、分かった。………セイナが殺すなと言っている。このまま連れて行く」

 その言葉を聞いてホッとするタクマ。
 しかしかなめは、いまだ炎に包まれた水飲み場を見て立ち尽くしていた。






2340時(日本標準時)
東京都 天河邸 リビング


「移動し始めたよ」

 かなめが持っている発信機に動きがあったらしい

「カタが着いたのかな。場所は?」
「首都高速11号線。レインボーブリッジ。このまま行くと………赤海埠頭?」
「…おかしいな」

 護送が終了すれば家に戻るはずだ。
 終わってないとしても必ず引継ぎがあるはずである。わざわざかなめを連れて行くものではない。
 ならば何故、連れて行くのか?

『相良宗介はミスったのでは?』

 バッタAの指摘どおりだろう。
 かなめはテロリストに捕まったのだ。

「そうらしいな」

 明人の誤算
 それはミスリルの護衛が宗介だけだったことである。
 厳密に言えば、『レイス』と呼ばれる情報部員もいるのだが今回の事件に出てきていない。
 
 つまり、あれだけ「かなめを護る」と主張していたミスリルはたった二人しか護衛をつけなかったのである。
 後でその事を知った明人は「バカにしてるのか!?」と叫んだらしい。

「赤海埠頭か…」

 ネルガルの支社を作る候補地に赤海埠頭があった。
 エウカリスのドックにする予定だったが、お台場の近くの為に人の目が多すぎて没になった。その後、その支社は幕張に建てられる事となる。
 そんな理由で明人は一度行ったことがあったのだ。

『助けに行くのですか?』
「ああ。俺と一緒に来い。他の二機は引き続きラピスの護衛を頼む」
『『『了解!!』』』






あとがき
いちお第10話「ラン・ランニング・ラン」まで終わりました。
今回、明人君はASに乗りません。基本的に対人戦闘かな。対ベヘモス戦は宗介がします。
しかし赤海埠頭って何所なんでしょう?
お台場、ビックサイトの近くなのはわかるのですが…



[298] Re[31]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/11/12 19:54
0040時(日本標準時)
赤海埠頭 船室


「調子はどう?」
「これが良いように見えるかね……?」
「まだ、死にはしないでしょう。貴方は紳士のようだけど、まずタフだから」
「そうだな。なにがしと違って首をつらない程度にはタフだ…」

 その言葉を聞いたセイナは無言でカリーニンの傷口を指で押し込んだ。

「!!」

 激痛の筈だがカリーニンは小さな呻き声しかあげなかった。

「彼が、軟弱者だと?」
「それは…君自身の問題だ。君の師、武知征爾は君の中にしかいない。君の振るまいが彼の真実を決定する。それだけだ」
「……」
「おかしな人。戦士と言うより聖職者ね。きっと、聖書を持たせたら似合うわ」
「それは魅力的な転職先だな…」
「残念ね」
「なにが?」
「貴方ともっと早く…」
「まだ、遅くはない」
「いえ」

 カリーニンの言葉を振りきり、セイナは銃を抜く。
 その顔に迷いの感情はなかった。

「最初から貴方は私の敵。殺さなかったのはただの気まぐれ」
「……」
「ラムダドライバについて、どこまで知っているか聞き出したら用は無いの」
「私は何も教えない」
「だったら、千鳥かなめとテレサ・テスタロッサの身体に聞いてみるわ。貴方の目の前で」






0110時(日本標準時)
赤海埠頭 船室


 壁を背にして二人共床に座り込んでいる。
 かなめとテッサは船室に閉じ込められていた。

「千鳥さん」
「なに?」
「貴女といると私はペースが乱れっぱなしです」
「へぇ」
「普通だったら絶対やらない様なバカな真似を今回は何度もしてしまいました。意地悪をして部下を困らせたり、無意味な行動力を示そうとしたり…」
「行動力?どうゆうこと?」
「私はあの校庭で相良軍曹の指示を無視して飛び出してしまいました。あんな愚かな選択をした事は、これまでの人生で一度も無かった。バカな事をした貴女を助けようとして、私もバカになってしまったんです…」
「そうなの。どうして?」
「それは…」

 かなめは言われた事を気にとめずに質問をしたのだがテッサは口ごもってしまった。

「それより、貴女は怖くないんですか?」
「どうかな?もちろん怖いんだけど……これがあるからね」

 かなめは首から下げていたペンダントを見せる。

「これは?」
「発信機。明人さんから貰ったの」
「!!」
「あたしがさ、なんかの組織に拉致されたらすぐにわかるようにって言ってた…」
「…千鳥さんから見て、天河さんはどのような方なのです?」
「ん~?頼りになるお兄さんかな…」
「……」
「初めて会ったときは、何だこの黒ずくめ!!って感じだったんだけどね。話してみるといい人なのよ、料理もうまいし……あたし一人暮らしだからさ、明人さんに色々教わったんだ」
「料理ですか!?」

 テッサは明人のエプロン姿を想像できなかった。

「なんでも昔はコックを目指してたらしくてね。けど事故で味覚がおかしくなっちゃったんだって。今は八割程治ったらしいけど、それでもコックは諦めたらしいの…」
「……」
「時々ね、料理をしている明人さんを見ると悲しそうな目をしてる…」






同時刻
赤海埠頭


 光の粒子が集まり二つの物体が形作られる。
 そこにはいつものマントとバイザーをした明人、それに無人兵器のバッタが立っていた。

『かなめさんはあの船の中みたいですね』

 バッタは海に停泊している巨大な船を指す。
 船体には側面から桟橋が降ろされている。

「…いくぞ」
『もしかして正面突破ですか?』
「あたりまえだろ……援護を頼む!」

 言いながら駆け出す明人。バッタも後を追いながら返事をした。 

『了解!』






赤海埠頭 船室


「今度はラピスさんの話をしてくれませんか?」
「ラピスの?いいわよ、中学の頃の話だけどね。あたし帰国子女で、ズケズケ物を言う習慣が身についてたせいか周りのヒンシュク買ってね。あたしにも悪い所あったと思う。でも、いくらなんでもああゆう陰湿なノリってのはね」
「……」
「最低だった。死にたいと思った」
「そんな…」
「でもね、ラピスは違ったな。初めはこっちから話しかけたんだ、なんかクラスから孤立してた……訳じゃないけど一人でいるのが好き、一匹狼みたいなもん?でさ。皆あたしを無視すんだけど、ラピスは無視しないのよ。逆に突っかかってくんの」

 かなめは苦笑した。

「そのおかげかな、中学生活もそこそこ楽しめた……高校も一緒だからね、ホント楽しい毎日よ。宗介の暴走がたまにキズだけど…」
「相良さんは、そんなに御迷惑を?」
「ヒドイもんよ。常識ゼロだから、いつも馬鹿みたいな騒動起こして。悪気が無いのは分かるんだけど、だから尚更困るのね。不器用だけど一生懸命で、なんか放っておけなくて」
「たしかに変な人ですよね」
「そうね。とっても変……って、いつの間にか宗介の話になってるし!」

 二人で声を合わせてクスクス笑っていると、突然正面の金属扉が開く。

「出ろ。ついて来い」






あとがき
相も変わらず駄文の投稿すみません。
さて、現在話数が(設定、外伝ふくめ)38話です。
50話(Re[42])投稿するまでには<A21>事件を終わらせたいと思います。
正直、展開が私にもわからなくなってきました(天河邸で捕まえた二人、セイナ、タクマ…)。
途中から訳がわからなくなるかもしれませんが頑張りたいと思います。

後テッサの扱いですが、迷ってます。
明人か、宗介か、それとも両方か…
誰か知恵を御貸しくださいm(__)m



[298] Re[32]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/11/19 10:57
0120時(日本標準時)
赤海埠頭 船室


「カリーニンさん!」
「誰?」

 かなめとテッサはカリーニンの監禁されている部屋まで連れてこられた。
 二人共銃を向けられているので両手を上げて頭の後ろに組んでいる。

「この二人を死なせたくないだろ!?」
「……」
「あんたの所属は!?」

 どうしたというのだろう?
 男の様子がおかしい。

「いけませんよ、カリーニンさん」
「それは私が判断する事だ、テスタロッサ君」

 従来の口調ではなく、部下に言うようにテッサを呼ぶ。

「いつから君は、この私に命令をするようになったんだね?」

 彼女が重要人物である事をさとられないためにあえて芝居をしたのだ。

「撃つぞ!?」
「…どうした、何をあせっている?」
「さっさと喋るんだ!!」

 男は銃口をかなめの太腿に向ける。

「ラムダドライバの事をどこまで知っている!?対抗手段は!?」

 さらに銃を近づけ男がトリガーにかかる指に軽く力を込める。
 かなめは、このままだと冗談でなく本当に撃たれると思っていた。

「分かった、はな…」

 カリーニンの言葉の途中で部屋のドアが吹き飛ぶ。

「「「!!!!」」」

 扉から黒マントを羽織った男が入ってきた。

「見つけた」

 バイザーを外しながら明人はかなめ達に言った。

「明人さん!?」
「お前が侵入者か!!!」

 男の様子がおかしかったのは明人という侵入者がいた為だった。
 叫びながら男は明人に銃口を向けるが、男の銃は弾け飛んでしまう。
 明人がピンポイントで男の銃を撃ったのだ。

「!?」
「遅い!」

 明人は男との距離を一気に詰めると一発。
 更に頭を持つと自らのヒザを顔面に叩きつける。
 壁を背に崩れ落ちる男は完全に気を失ってしまった。

「全員無事か?」
「遅いですよ明人さん!」

 かなめはムッとしながら明人に詰め寄る。

「ごめん。相良をあてにしてたんだけどね」

 その言葉はミスリルの人間であるテッサとカリーニンには皮肉に聞こえた。
 明人はかなめ達の拘束を解きながら懐から予備の銃を取り出しカリーニンに渡す。

「カリーニン…少佐だったか、使えるだろ?」
「まさかお前に助けられるとはな」
「別にお前達を助けに来たんじゃない。かなめちゃんの保護が目的だ」
「なぜ撃たなかった?」

 銃を受け取りながら起き上がると明人に言い放つ。

「お前ほどの腕なら即座に射殺できたはずだ。むやみに人質を危険に晒す行為はプロとは呼べん」
「それは悪かった。生憎俺は、このような事件に巻き込まれた少女の目の前で男の頭を吹き飛ばすのは忍びない、と思っただけだ」

 かなめは男のすぐ側にいた。
 あのまま明人が男を撃っていたらその返り血がかなめにかかっていただろう。
 おまけに男は防弾チョッキを着ていた。必然的に頭を撃つことになる。
 つまりかなめに目の前でグロ映像を見せることになってしまうのだ。
 明人はそれを危惧した。

「……」

 カリーニンは明人の言葉に無言だった。
 一方のテッサはそんな明人を見詰めていた。

(この人はそこまで…)

 そんなテッサにカリーニンは向き合い頭を下げる。

「…失礼しました。咄嗟の事とはいえ犬を呼ぶような真似を」
「い、いいえ」
「千鳥かなめくん」
「あ…はい」
「部下がいつも世話になっている、礼を言わせてもらおう」
「あ、どうも…。でもテッサとは今日会ったばかりで…」
「そうではない」
「かなめちゃん、彼の言ってる部下って言うのは相良の事だ?」
「え?でも…」
「彼女は私の部下ではない。上官だ」

 かなめは呆然とカリーニンを眺める。
 するとドアからバッタが顔を出した。

『マスター!!こっちはあらかたやっつけました』
「「「!!!!」」」
「良くやった。脱出するぞ」

 突如現れたバッタに驚きながらも四人は部屋を後にした。






0142時(日本標準時)
赤海埠頭 船内


 階段の前でテッサが明人に待ったをかけた。

「待ってください。確かめたい事があるんです」

 明人を先頭に四人(と一機)は走っていた。
 明人としてはこのまま脱出しようと思っていたのでその言葉に困惑してしまう。

「生憎とそんな暇はない。どうしてもと言うのならミスリルだけでやってくれ」

 明人としてもそこまで付き合う義理はない。

「……わかりました。少佐」
「了解しました」

 二人はそのまま階段を降りていってしまう。
 明人はそれを見ながらかなめに言った。

「行こうかなめちゃん」

 出口に向かおうとするがかなめは明人の後ではなく階段を降りようとする。

「かなめちゃん!?」
「ごめん明人さん。でも私はこっちに行くべきなんだと思うの……なんでかわからないけど」
「……」
「私明人さんに迷惑かけてばかりだけど、これは私の自分勝手な判断だから明人さんはこのまま…」
「わかったよかなめちゃん」
「明人さん…」
「このまま帰ったらラピスに怒られるしね。少しだけ君のわがままに付き合おう」
「…すみません」

 そして二人(と一機)は階段を駆け降りた。






あとがき
ごめんなさい。バッタが活躍してません。

さて皆さん多くの意見をありがとうございます。
結果は……まあ今回のテッサを見れば大体わかると思いますが明人に惚れる方向で!
といっても明人×テッサとなったわけではありません。ラピスの可能性もまだあります。
結果はおいおい……ということで。



[298] Re[33]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/11/23 19:18
0200時(日本標準時)
赤海埠頭 格納庫


 夜空が見えた。
 明人達は通路の終わりまで来ていたが、そこは吹き抜け構造になった場所だった。
 その中央――というよりは、その場所自体にソレは鎮座されていた。

「な、なにコレ」

 かなめは思わず呟いてしまう。
 そこには途方も無く巨大な赤い機械、従来の何倍にもなるASがうずくまっている。

「ナンセンスだわ」

 テッサも驚きを隠せない。

「こんな物が動き出したら……手のつけようがありません。たくさんの人が死んでしまいます」
「だから、コレなんなの?」

 再度、疑問をかなめが口にすると答えたのはテッサではなかった。

「ゲキガンガーか?」
「そうだよ」
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
「ゲキガンガーって何ですか?」
「さ、さあ?アニメじゃない…」
(ジャパニメーションか…)
『マスター、空気を読んで下さい…』

 上からテッサ、かなめ、カリーニン、バッタの順である。
 ちなみにタクマは思考が追いつかない。

「ち、違う!!何なんだそれは!!これはべヘモスだ!!!!」

 肯定してしまうような自分の発言を必死に撤回するタクマ。
 見るといつの間にかキャット・ウォークの左右をマシンガンで武装した男達が銃口を向けている。
 右に二人。左には三人。
 明人とカリーニンは右手の敵からかなめとテッサを背後に庇う。
 バッタは左手の敵を警戒している。
 そしてタクマは右手の男達二人の背後にいた。

「やっぱり来たのね」

 そう言ったのはタクマの後ろにいたセイナであった。
 タクマと同じ白いパイロットスーツに身を包みさらに続ける。

「銃声が聞えた時、ピンときたわ。貴方達は必ずここに来るって」
「一応、誉め言葉と受け取っておこう」
「貴方達はまともじゃありません!こんな物を動かすなんて」

 テッサの言葉にタクマは感情的になっていた自分を落ち着かせながら答える。

「僕達は、テロリストだからさ、テスタロッサさん」
「……」
「僕個人としては、別にこれを使って何かを得たいわけじゃないんだ。ただの表現。ただの主張。その程度の物さ。一年も経ったら多分殆どの人がこれの事も忘れてしまうと思う…」
「武知征爾のようにかね?」
「そうだよ。でもねぇ、先の事はどうでもいいんだ。僕は選ばれた戦士なんだ」

 タクマはチラリと赤いAS<ベヘモス>に視線を送る。

「僕がこのベヘモスに乗れば、これは無敵になる。たくさん壊して、たくさん殺すんだ。そうすれば姉さんも喜ぶし、僕も満足なんだ」
「……」

 タクマは笑っていた。その顔は邪心のない子供の笑みだった。
 その時―――

「笑わせるな…」

 タクマの言葉を聞いていた明人がそう言い放った。

「何だって?」
「笑わせるなと言ったんだ」

 明人…いやアキトは殺気の籠めながら続ける。

「お前達がテロリスト?冗談じゃない!テロは政治的主張や理想を達成する目的で行われる行為だ。「ただの表現。ただの主張。その程度」などといっている時点でお前達がやってるのはテロじゃない。子供のお遊びにすぎん」
「お、お前なんかには分からないよ!」
「ああ分からんな。自分達の主張があやふやなテロリストなど見たことがないからな」

 かつての自分には目的があった。
 『妻を助ける』という目的。
 だが<A21>には目的がない。
 ASに乗り、町を破壊する。
 ただそれだけだ。それに何の意味がある。

 アキトにとってタクマの言葉は子供のワガママにしか聞こえなかった。
 だが一方で<A21>という組織自体には何か得体のしれないものを感じていた。

「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」

 アキトの言葉を遮りタクマは叫ぶ。セイナは錯乱する弟を止めようとするが、

「タクマしっかりして!あんな言葉に惑わされてはいけないわ」
「タクマなんて呼ばないでよ!そう呼んで良いのは姉さんだけだ!!」
「!!」

 拒絶の言葉をセイナに向かって言い放つ。 
 自分の言ったことに気づいたタクマはあわててセイナに駆け寄る

「あ…ね、姉さん。僕取り乱しちゃって…」
「………」

 その時格納庫を衝撃と轟音が襲った。
 前後左右に船体を揺さぶられ手すりの側にいた敵の一人は階下に投げ出される。

「なんなの!!」

 その場にいた者全員まともに立っていられずしゃがみ込んだ。






赤海埠頭 桟橋前

「なんだ!」
「どこが爆発した!!」

 騒ぐ警官達の前でマオはタンカーの中から聞えた爆発音を聞いて機体を背後に振り向かせた。

「始まったわね」

 船体の底から大きな煙が上がっている。
 このままではじきに船は大量の海水が浸水して沈没してしまうだろう。






格納庫


「タクマ、早くベヘモスに乗りなさい!」
「う、うん」

 頷くとタクマは駆け出しセイナも後に続いて奥のキャット・ウォークへ走りかなめ達から離れて行く。
 そして、タクマ達の前にいた敵の二人は身を起こしアキト達を狙ってトリガ―を引き絞る。
 しかし二人よりもアキトとカリーニンが早かった。
 連続した銃声が聞えたと思うと、前に立つ敵の二人が倒れる。
 背後にいた敵の二人はバッタによって倒されている。
 そんなバッタを見て驚きの声が上がる。

「なんだこりゃ!?」

 向かい側のキャット・ウォークにはこちらに銃を構えたクルツ、そしてその背後では、

「宗介!」
「相良軍曹!」

 マシンピストルを連射している宗介の姿があった。

「千鳥」

 かなめは宗介が駆け寄ると、その胸に飛び込んでいた。
 死んだと思っていた宗介が目の前に彼がいるのだ、余計な考えなど吹き飛んでしまっていた。

「心配したんだからっ!」
「すまん」
「怖かったんだから!」
「それもすまん」
「ばか…」

 そんな二人をよそにクルツはバッタを不思議そうに見つめている。

『なんですかおにーさん?』
「し、しゃべった!?」






ベヘモス頭部脇


 タクマとセイナはベヘモスの頭部へ横付けされた広めのキャット・ウォークまで来ていた。
 この巨大なASベヘモスの搭乗用のコクピットへは頭部から入るのだ。

「早く搭乗しなさい」
「姉さん、さっきは…」
「…気にしてないわ」
「でも…」
「いいから!」
「!!」

 その言葉にタクマは呆然とし、目の前にある顔を見つめた。

「もう私達には道がないの」
「……」
「わかるでしょう。タクマ」
「…うん」

 タクマはセイナの言葉に頷くとベヘモスの搭乗用の階段に足をかけて登っていった。
 そしてコックピットに乗ろうとした時、タクマは身を翻すと叫んだ。

「セイナさん!」
「!!」
「ごめんなさい」

 そしてベヘモスコクピットブロックは閉鎖される。
 それを合図に頭に繋がっていたケーブルが次々と切り離されベヘモスは起動を開始した。

「タクマ、貴方記憶が…」






格納庫


 船内は崩壊の兆しを見せ始めていた。
 ベヘモスの重量に金属床が耐えかねて折れ曲がる。
 船そのものがどんどん傾いていった。

「こりゃエライこった…」
「脱出だ。外へ出るぞ」

 宗介達は明人の言葉に無言の視線で了承したがテッサはベヘモスを見続けていた。

「タクマ!それを動かしてはいけません、貴方はきっと、それの虜になってしまうわ!!」

 大声で叫ぶが聞える筈もなく、カリーニンは彼女の肩に手を置き言った。

「大佐殿」

 止める事は、もはや不可能。
 彼等のいるキャットウォークのすぐ下まで流れ込んだ海水の水位は上がっている。
 テッサは仕方なく通路へ向かって走り出した。






ベヘモスコクピット内


「セイナさん、思い出したよ……そして僕たちにはもうこれしかないって…」
『ベヘモス。重量過多により沈降中。ラムダドライバを起動してください』
「行ってくるよ、よく見てて……。これで喜んでくれるよね…」

 右腕を軽く動かす。

『ラムダドライバ。ファーストファンクション。起動を確認しました』
「さようなら」

 泣きながら寂しい笑い顔を表情にすると、タクマは長い間姉を演じていてくれたセイナに別れを告げた。






船内

 倉庫の中ではベヘモスが動き始め、海水や、へし曲げられた構造物の山で無茶苦茶な有り様になっている。
 船の傾きがますます急になり、手すりに掴まっていないと足を滑らしてしまうだろう。

「大佐殿と千鳥君を連れて脱出しろ。急げ!」

 すぐ横の通路をカリーニンは指して示す。しかし、まだ自分は残るつもりのようだ。

「了解。少佐は?」
「俺はそう簡単には死なん。行け!」

 カリーニンは背を向けて歩き出す。

「カリーニンさん!」
「……」

 宗介は呼びとめるテッサの肩を強引に押して通路へ急がせた。時間は、もうほどんどない。

「…相良。かなめちゃんを頼む」

 唐突に明人が言う。

「何をする気だ?」
「怪我人を一人にするわけにもいかんだろ」
「しかし…」
「バッタ。後は任せた」
『了解しました』

 バッタに指示を出すと明人は行ってしまった。






あとがき
原作知らないとわからないと思いますがタクマが記憶を取り戻しました。
明人はカリーニンを追っかけるのでこの後は宗介が活躍することになります。

ちなみにタクマの記憶が戻った理由は聞かないでください
いろいろ伏線入れてますから。



[298] Re[34]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/11/26 07:02
0232時(日本標準時)
赤海埠頭 桟橋前


「これはちょっとマズイわね」

 外で様子を見ていたマオは内部が見えなくても充分に船内の事態に気がついていた。
 タンカーを繋ぐワイヤーが引っ張られ、その先の港のクレーンが不気味な音をたてている。

「宗介達は何やってるのよ」

 マオは船内に進入した宗介とクルツの身を案じていた。

「まああいつ等の事だから大丈夫だとは思うけど…」

 言いながら船体に近づいた次の瞬間。

「!!」

 マオのM9が、船の側面を突き破って現れた巨大な赤い手に掴まれてしまった。






同時刻
船内 倉庫


 宗介達は乗ってきた白い軽トラックに飛び乗る。
 運転席のクルツはアクセルを踏み込みエンジンを吹かす。

「いくぜ!」

 傾き急な斜面となっている桟橋からスピードに乗り外へと飛び出る。
 衝撃が車体を上下に激しく揺さぶるが、転がることなく地面に着地。

「カリーニンさん!天河さん!」
「世界が終わっても、あのオッサンは死にゃしませんよ!」
『右に同じ~』

 車は停車していた大型トラックの側面に激突してようやく止まる。

「なに、あれ?」
『陸自の96式・改ですね』

 かなめの疑問には荷台に乗っているバッタが答えた。
 かなめが見ていたのは、深緑の装甲を持つ陸上自衛隊の96式・改は手にライフルを前方の船に向けている。
 その先には赤い手に胴体を掴まれたマオのM9が身動きも取れずにいた。

「姐さん!」
「メリッサ!」

 今にも握りつぶされてしまうようなM9を見てテッサ達は悲鳴を上げる。

『ちょ……動きが…!』

 通信機からマオの焦った声がもれてくる。

「メリッサ!単分子カッターで親指を狙って!!あなたは今…」

 両手で持った通信機に叫ぶ様に警告を発する。
 しかし―――

「!!!!」

 次の瞬間テッサ達の目の前でM9は握りつぶされてしまった。
 白色の衝撃吸収剤が噴き出し、M9の残骸がバラバラと海へと落下していく。

「メリッサッ!!!!」

 悲鳴をあげるテッサの前でベヘモスは立ち上がり悠然とその巨体を表すと、その足を一歩ズンと踏み出す。
 パトカーは踏み潰され黒煙が上げる。
 96式・改は射撃を開始したがベヘモスの装甲には傷一つつかない。
 別の96式・改が大型のロケットランチャーを構え放つが、赤い光の盾のようなもので阻まれ四散した。

「あれは……ラムダドライバ…」

 ベヘモスは頭部から雨のようなバルカン砲をあたりに放つ。
 その一撃でロケットランチャーを構えていた96式・改は爆発、側にいた他の機体も次々と砲弾を食らい同様の末路を辿った。

「クソ!」

 軽トラのキーを回してエンジンをかけるが前に進もうとしない。
 クルツはドアを勢い良く閉じ車外に出ると、

「テッサ!乗って」

 テッサに運転を頼み自分は荷台の後部へと周り込む。

「宗介!そこの虫も!」
『虫とは失礼な!!僕にはバッタという名前が…』
「バッタでもカブトでもいいから手伝ってくれ!!」

 かなめも左の座席から降りて車を渾身の力を込めて押す。
 やがて重く低い音とともにエンジンは動き始めた。

「運転頼む、ソースケ!」
「了解した」

 運転席に入り込む宗介を見てクルツは荷台に飛び乗った。
 軽トラが動いた直後にその場所はベヘモスに踏み潰される。
 タクマはよろよろと逃げ出す宗介達を見て笑っていた。
 余裕の表情で一歩、また一歩と地響きをたてながら巨体を進ませると、頭部のバルカン砲を連射した。

「クソッ!こんな軽トラじゃ…」
『こんなときはバッタにおまかせ!』

 焦るクルツにバッタは胸(?)を張る。

「なんか手があるのか!?」
『フッフッフッ、フィールド展開!!』

 バッタを中心に軽トラごとDフィールドによって包まれる。
 ベヘモスから放たれたバルカン砲はフィールドにはじき返された。

「こりゃいい!」
『エッヘン!』

 しかしバルカン砲が効かないと分かるとベヘモスは背負っていた巨大な剣を手に取る。

「……あれも防げるよな?」
『………』

 ベヘモスは走りながらその剣を振りかぶる。

『……逃げてくださいいぃぃぃ!!!!!!!』
「何がおまかせだああぁぁぁ!!!!!!!」

 叩きつけられた剣はアスファルトが砕き、駐車していたトレーラーを吹き飛ばした。
 周囲が破壊される光景をテッサは呆然と見ていた。

「……」

 宗介が破片によってヒビの入ったフロントガラスを拳銃のグリップで叩き割る。
 テッサの隣に座るかなめもフロントガラスを何度も蹴って割ろうしている。

「大佐殿!増援は!?」
「……え?」

 突然、呼ばれてテッサは我に返る。

「あの巨人をなんとかしなければ、なりません。ご指示を」
「……」

 そうだ。自分が指揮官なのだ。
 テッサは自分がすべき行動をとるべく通信機を手に取った。






ベヘモスコクピット内


「誰も僕から逃げられやしない……誰も僕を止められないんだ!」

 バルカン砲を吐き出し。剣を振り回す。
 それらから逃げ回る軽トラック。
 何も彼等はできない。
 逃げ回るだけ。
 ただそれだけ。

「はっはははは!」

 狂ったようにタクマは笑い続けていた。






あとがき
宗介を活躍させると書いたのにしてないし…orz
アーバレストが来るまでお待ちください。
あとバッタ。
アラストルが出るまで活躍しないかも…
何気にバッタがテッサの目の前Dフィールドを使ってますが……どうなるんでしょうね?

>かれなさん
オリキャラだめですか?
戦闘員というかAS隊員に2~5人出そうと思ってます。
一人はアニメのキャラを使います(グレイと共に死んでしまったあの人です)



[298] Re[35]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/12/03 14:41
0300時(日本標準時)
軽トラック車内


『艦長、御無事で?』

 テッサが手にしている通信機からマデューカスの声が届く。

「マデューカスさん。今、艦はどこまで来てます?」
『紀伊半島の南、120キロのあたりです』

 その言葉にテッサは落胆した。

(遠過ぎる。緊急展開ブースターも射程外)

「大佐殿、弾道ミサイルでアーバレストを」
「無理だわ。準備に最低でも1時間はかかるのよ。到着するまでの1、2時間にあの巨人ベヘモスがどれだけの破壊をこの街にもたらすか。どうにもならない打つ手がない。私には…」

 テッサは俯いた。自分の無力さが恨めしかった。
 このような時の為に自分がいるにも拘らず。

『艦長、アーバレストが必要な状況なのですか?』
「そうです…」
『今すぐに?』
「ええ…」
『では、打ち上げましょう』
「…なんですって!」

 テッサは耳を疑った。

『許可はいただいていませんが、アーバレストを積んだ弾道ミサイルを三分以内に射出できるようにしてあります。発射してから六分で、そちらに届くでしょう。つまり九分は時間を頂くわけですが…』
「マデューカスさん」
『申し訳有りません。処罰は覚悟しています』

 処罰などもってのほかだ。

「いいえ、よくやってくれました。すぐ射出して」
『はい、艦長。投下地点は?』

 その言葉にテッサは考え込んだ。

(ここは、まずい。降下直後に巨人に迎撃される惧れがある。もっと複雑な地形で着地後オペレーターが搭乗するまでの数十秒が稼げるような場所。視界は開けていない方がいい。でも、繁華街はダメ。民間人を巻き込んでしまう。照明は暗め。限定的な空間。それに、高低差も欲しい。最善の場所。アーバレストが能力を充分に発揮できる場所)

 あたりを見回し、視線を窓の外に送る。

「どこなの?」

 その時、海を挟んだ向こう側に大きな建造物が見えた。

「あれだわ」






軽トラック荷台


 街頭、街路樹、電柱等等…
 あらゆるものを蹴散らしてベヘモスは宗介達を追ってくる。
 歩いているように見えるがこれだけの巨体なら歩幅が大きい。スピードを緩めれば追いつかれてしまうだろう。
 ベヘモスは今でもバルカンの雨を降り注いでいる。宗介の運転とバッタのおかげで致命傷はない。しかし――

『何とかできませんか!?僕も限界があるんですよ!』
「努力はしている!!」

 Dフィールドは実弾には弱い。
 99式やエステバリスになれば出力が上がり強度も増すがバッタの場合だとそうはいかない。

「撃ってくるぞ、切れ!!!!!」

 クルツが叫ぶと同時に軽トラの車体が大きく揺れると、真横をバルカンの弾丸が追い抜いていく。

『こっちは後2、3発しか防げませんよ!!』
「ちぃ!」
「宗介、真っ直ぐ走らせろ!」
「どうする気だ?」

 クルツは荷台でライフルを持ち出していた。

「野郎に、カマしてやる。いいか絶対に真っ直ぐだぞ。スピードも変えるな」
「了解」
「バッタ背中借りるぞ」

 そう言ってバッタに寄りかかりスコープを除く

『あの…』
「動くな!!」

 車の走る振動でグラグラと荷台が揺れる。
 しかしクルツは動じない。

(そうだ。さあ狙ってこい、クソ野郎!)

 軽トラは時速80キロの速度を保っている。
 正面から標的を照準に捉えた瞬間、クルツは迷わずトリガーを引いた。
 放たれた弾丸は右側のバルカン砲の砲口に直撃し爆発、ベヘモスの頭部から巨大な黒煙が出てきた。

「クルツくん、スゴイ!」
『すばらしいです!』
「へっ、まかせな」
「あたし、てっきり口先だけの弱い人だと思ってたわ」
『戦闘員Aじゃなかったんですね』
「……」
「安心するのはまだ早い」

 片方のバルカン砲は潰したがベヘモスは歩みを止めなかった。






赤海埠頭 海岸

 明人は、海から這い上がると抱えていた二人をその場に下ろす。
 一人はカリーニン、もう一人はセイナだった。 

「怪我人を二人も担いで泳ぐのはしんどいな…」

 カリーニンは元々負傷していた。一方のセイナも船体が沈むときに体を強打してしまっていた。

「ベヘモスは……動いた…?」

 セイナは目を閉じたまま弱弱しい口調でカリーニンに訊ねた。
 対岸の遥か向こうでは赤い巨人が見える。

「…ああ」
「もう……どうでもいいけどね…」
「……」

 セイナは、小さく息を吐くとそっと目を開けて対岸を眺めた。

「あれを破壊するのは不可能よ……燃料は40時間分…それまで誰も止められない…」
「それはタクマ次第だ」
「……彼には悪いと思ってるわ……記憶がおかしくなって、いつのまにか…私のことを自分が殺した姉だと思い込んで…利用したのよ。そのまま……」
「一つ聞いていいか?」

 二人の会話に明人が割り込む。

「…なに?」
「タクマは麻薬で記憶を?」
「ええ……でも、あの時タクマは記憶を取り戻してた………なんで」
 
 ぼんやりとした彼女の瞳に明人の顔が映る。

「予測どおりか………疲れたろう、眠ってろ」

 明人は懐から取り出した注射を彼女の首筋に刺す。

「何…を……」

 それを最後に彼女は何も喋らなくなる。

「何を注射した?」

 彼女の代弁をしたのはカリーニンだった。

「ただの鎮静剤だ。彼女は早急に医療施設に連れていかなければならない」
「……」
「ネルガルは軍事組織じゃないからな」
「皮肉か?」
「どうとでも受け取れ。それとな、かなめちゃんを巻き込むな…」

 ものすごい形相でカリーニンを睨みつける。

「…今度巻き込んだら彼女はこちらで護衛する。そう、相良に伝えておけ」
「……」

 波の音が聞こえるほど静寂なその場にヘリの音が聞こえてくる。

「来たか」
「何?」
「ネルガルのAS部隊さ」

 そんなヘリの音は次第に大きくなっていった。






あとがき(いいわけ)
アーバレストがまだ来ません。次は出します。
次回はエステバリスとアーバレストの登場です。

>ヤードさん
私の持ってる資料(コミックなんですけどね)には230時間
一応ネットでも調べてみると230時間
私も最初は疑ったんですけどね・・・



[298] Re[36]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/12/11 15:22
0315時(日本標準時)
軽トラック


『当たるうぅぅぅ!!!!』
「はーっはっはっはっ!飛ばせ、飛ばせぇっ!!!!」
「笑ってる暇があったら、もう一発撃て!!」
「無茶言うな!こんなふうに動いてちゃな!」

 背後から迫るベヘモスが歩く振動で車は飛び跳ねる。

「あれか?」
「え?」

 宗介の言葉に窓の外を見る。
 パラシュートによって釣り下げているそれは東京ビッグサイトの上空で高度を落としていた。

「あれ、前にも見た…」
「いかん……まる見えだ!」

 ―――次の瞬間
 ベヘモスのバルカン砲でパラシュートはズタズタに切り裂かれアーバレストの乗ったカプセルはそのまま東京ビッグサイトに落下した。

「やられちまった!」
「いいえ、まだよ。あの機体はそう簡単に壊れません。相良さん?」
「了解。千鳥!」
「へ?ナニ?」
「運転を!」

 かなめに告げると宗介はドアを開けた。

「あたし、高校生よ!!クルツ君に…」
「そんな時間はない。任せた」

 言い捨てると宗介は身を道路に投げ出した。
 路面をゴロゴロと転がりあっという間に軽トラックからでは姿が見えなくなる。

「……って、ちょっと!!」

 咄嗟にハンドルを持つ。

「きゃっ!」
「曲がれ!かなめ!!」
『右です右!!』

 交差点を片輪を浮かせて右に曲がると、ベヘモスもその後を追ってくる。

「……っく!」

 かなめは思わずブレーキに足を伸ばした。アクセルを踏むのを躊躇したのだ。

「ブレーキはダメ!!止まったら最後です!!!」
「…ったく!知らないわよ!!!」

 かなめがアクセルを踏み込むと軽トラックの速度計は勢い良く針をあげた。






レインボーブリッジ 上空


『目標まで2マイル』

 バッタの声が通信機越しに届く。

「よし。全機降下準備!」
「全機と言っても私たち二機だけでしょ…」
「ハハハッ、そうだったな!」
「しっかりしてよバチスト。あなたは会長がいない時の隊長代理なんだから」

 グレイからバチストと呼ばれた男は悪びれる様子もない。

「そうは言っても、貫禄があるという理由で俺は代理を負かされたからな。引退しようと考えてたのに…」
「何言ってるの。私よりもあなたの方が経験も技術も上じゃない」

 彼の名前はバチスト・F・ランバード。
 イギリス出身の初老の男性だ。年齢的に傭兵をするのは厳しくなり、引退を考えていたところで明人の誘いを受けた。実際は実働部隊に配属されることになったのだが、平和な日本で大事件など起こらないだろうと考えていた。年の功からか明人がいないときの隊長代理を任されている。
 表向きはグレイと同様ネルガルのテストパイロットをしている。

「年寄りをからかうもんじゃない、こんなASに乗るのは初めてなんだ。性能に関してはM6を大きく上回ってるんだぞ。若い方が扱いやすいんじゃないか?」
「ASに若い若くないってあるの?」
「さあ?」

 上空からは至る所で火の手が上がっているのが見える。

「めちゃくちゃね…」
「そうだな。こりゃ明日の一面は決まりだ」
「会長が私たちに招集かける訳だ」
「そういやこれって残業扱いになるのか?」
「…あのね」

 ティルトローターの外から爆発音が聞こえる。

『目標まで1マイル……そろそろ降下してくださーい』
「おぉ、無駄話をしている暇はなかったな」

 ハッチが開かれ眼下が現れる。

「バチスト機、降下するぞ!」
「グレイ機、降下!」

 そして赤と青のエステバリスがティルトローターから飛び降りた。






軽トラック


「左です。かなめさん!」
「…よっと!」

 ハンドルを切りバルカン砲をよける。

「ちょっと!宗介はまだなの!!」

 業を煮やしたかなめはそう言い放つ。
 それに呼応したのか荷台のクルツが通信機を持った。

「ウルズ6から7へ」
『こちらウルズ7』
「なにをモタモタしてんだ!?」
『手動レバーが床側で、カプセルが強制分割できない』
「なにぃ!!!」

 クルツは青ざめ、バッタは頭を抱える。

「つまり、タマゴの殻を割れないってことか?」
『肯定だ』
「バカヤロー!スクランブルエッグにされたらオマエのせいだ!!子々孫々まで呪ってやる!!!」
『最後の手榴弾がある。これを使ってみる』

 それを最後に通信が途絶える。
 そんなやり取りの間にもベヘモスとの距離は縮まっていく。

「どうするどうするどうす……あれは!?」

 クルツはベヘモスの遥か後方から青い物体が近づいてくるのが見えた。
 ライフルのスコープから除くとASであることがわかる。

「見たことないASだ!」
「クルツさん、どうしました?」
「ベヘモスの後方から青色のAS」
「新手!?」
『違いますね…』

 バッタが同じ方向を見ながら答える。

『あれはネルガルのASです』
「加速だ!加速しろ!!」

 クルツは声をあげた。

「わーってる!!!」

 有難いことにベヘモスもネルガルのASに気がついたようだ。

「中だ!中!!シャッターを突き破れ!!!」
『左に切ってください!!!』

 指示通りにハンドルを左に切り、倉庫のシャッター群の一つに正面から突っ込む。その衝撃からか車はエンジンを停止させた。






東京ビックサイト近辺


「バチスト、交戦!」

 青色のエステバリスは振り向いたベヘモスと向き合った。

「僕の邪魔をするなああぁぁぁ!!!!!」
「おっと!!」

 放たれたバルカン砲を避け、ベヘモスの背後に回りこむ。

「やはりデカイから動きが遅いな!!」

 バチストは背後からラピット・ライフルを放つが分厚い装甲を貫くことはできない。

「…その分装甲も厚いか。グレイ、敵機は予想以上に頑丈だ」

 言い終わると同時にベヘモスの右肩に60mmの砲弾が当たる。ベヘモスはよろけるが大したダメージはない。

「そのようね」

 その様子を見たグレイは答えた。
 グレイの赤いエステバリスは滑腔砲を構えている。

「俺が相手の注意を引き付けるから装甲の薄いところをスキャンしてくれ」
「了解!」

 グレイはもう一発滑腔砲を放つと近くにある建物に身を隠した。

「コッチヘ来い!お前の相手は俺…」

 しかしベヘモスはバチストを無視するように元の道へ戻っていく。

「おいおいおい。俺は無視かよ!」

 ライフルを放つが何の反応も示さない。
 こちらに決定打が無いと悟ったのだろうか、ベヘモスは先ほどの軽トラックの後を追いかけ始めた。






東京ビックサイト


「…あいたた……テッサ!」

 ハンドルに頭を強打したかなめはおでこを抑えながら隣を見る。

「……」

 テッサはシートに背をもたれさせてグッタリしている。

「ちょっと大…」

 その時、かなめは意識が遠のく感覚に襲われる。目の前が薄れ次の瞬間にはいくつもの文字や数字の羅列が見えるようになる。

(なんだろう?前にもこんな…)

「!?」

 気がつくと視界はいつもどうりに戻り軽トラの運転席を写していた。

「かなめ!」

 テッサを抱きかかえてクルツが呼び掛けた。

「ネルガルが時間を稼いでる間に逃げるぞ!」

 確かに、ここでじっとはしてられない。
 ネルガルのASという事は明人が手を回したのだろう。近くで射撃音と爆発音が聞こえる。

『大丈夫ですよ。僕もあの二人は知っていますから』

 かなめは明人の実力は知っているが他の人間は知らない。
 今ベヘモスと戦っている人達は一流だが明人よりは下だろう。
 おまけにベヘモスにはラムダドライバがある。
 順安で明人はLD搭載機を撃破している。後に聞いたが明人でなければできない戦法らしい。
 そうなるとあの二機がベヘモスを撃破できるとは思えない。

 かなめがドアから降りるその時、天井が崩れて大きな金属板が、かなめ達のまわりに降ってきた。
 先刻までいた軽トラックの上にも細長い金属の棒が落ちてきて運転席に突き刺さる。
 見上げると天井の穴から巨大な二つの目がこちらを見ていた。






ベヘモス コックピット


『ラムダドライバAファンクション機能低下。骨格系に干渉波発振中』
「いけない…集中しないと……」

 かなめ達を見ながらタクマはコントロールに精神を集中させる。
 その間かなめ達の中に宗介がいないことに気がつく。

「相良宗介はどこだ?」

 正面のスクリーンに拡大されたかなめ達の姿が映っている。
 テッサは気を失って金髪の男に抱えられている。

「知らないわよ!お姉ちゃんに聞いてみれば!?」
「あいつは、どこだ!!!!」

 叫んで、かなめ達にバルカン砲の照準をロックさせる。

「!!!!」

 その時、背後から今までで一番の振動が伝わる。
 後ろを見るとバチストのエステバリスがベヘモスに体当たりをしていた。

「なっ!!フィールド攻撃も効かないのか!?」

 ヘベモスはエステバリスを振り落とし剣を構える。

「ちょろちょろするな!!!!!!」

 振り下ろすがバチストは回避する。
 
「お前じゃない!!相良宗介はどこだ!!!!」

 すると今度は頭部を浅い振動が襲う。

「俺に用か?」

 狙撃のあった方向に視線を向けると、反対側の建物の屋上にショットキャノンを構えた宗介の白い機体。アーバレストが立っていた。






あとがき(いいわけ)
最後の最後でアーバレスト登場
決着は次回で・・・



[298] Re[37]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/12/18 09:50
0350時(日本標準時)
東京ビックサイト


「獲物を前に舌なめずり。三流のする事だな」

 宗介はおもむろに挑発をする。

「なんだって…」
「相手をしてやる。来てみろ」

 タクマを小馬鹿にするように、指をクイクイと曲げる。

「上等じゃないか!!」

 ベヘモスは向きを変え、かなめ達のいる建物を破壊しながらその巨体を突進させた。

『接近警報』

 宗介はAI<アル>の警告を聞くと、正面からベヘモスに対し劣化ウラン製の徹甲弾を叩きつける。
 その威力は装甲車さえ貫く強力なものだがベヘモスは怯まない。
 徹甲弾はベヘモスの装甲に到達する前に全て弾け飛んでしまった。

「!!」

 ベヘモスの巨大な掌を寸での所で避わす。
 屋根を転がりながら脇の兵装ラックの中にある対戦車ダガーを投げ付けた。
 しかし、成型炸薬を内蔵したダガーも徹甲弾と同様に敵に届く直前で爆発してしまう。

(これは!?)

 宗介は今起こった現象に覚えがあった。
 『ラムダドライバ』と呼ばれ、特殊な力場を生み出せることができる。
 物理的攻撃を全て跳ね返すばかりか、攻撃にも転じることのできる。

「効かないんだよ!!」

 爆発の煙が消えるとベヘモスは反撃のバルカン砲を放つ。
 運動性の差は明確であるのでアーバレストは難なく避ける。

(どうする…)

 天河明人が順安でラムダドライバを扱うASを撃破したのは宗介も知っている。
 詳細は不明だったが敵機がラムダドライバを展開する前に仕留めたらしい。
 そうなれば目の前のASも同様にラムダドライバを破ることはできるかもしれない。
 しかしベヘモスはその巨体を支えるため常にラムダドライバを展開しているようだ。
 しかもその装甲自体も厚い。手持ちの武器で貫くことができるかどうか…






同時刻
????


 またささやき声が聞こえる。

(また来た……ま、まきたった、まきたきた。ききたた……)

 順安の時と同じささやき声
 それは自分と同じ声だ、同じ声だった、同じ声だっただった
 ――うるさい

(うるさ、るさ、うるさっさ。おま、ジャマ、死ね。死んで)

 だまれ

(だだま、だだままっていいの?の?あたあなしナし必要?ようでしょ?)

 まともに喋れないの?

(じゃ、しゃべらせて。あけわわして。たして。あななた死んで。ちょっと、ちょっとよ)

 頭を抱え胸のシャツを鷲掴みにする。
 調子に乗らないで……教えなさい。彼はどうすればいいの?

(きもちちわるい?の?)

 そうよ…最低。答えなさい。

(むうりむり。カナメ、むり。ばか)

 ふざけるな!

(かなめさん!!)

 自分と同じ声だが違う誰かの声。
 誰?

(あのアマき、きた。ジャマ、じゃましにきた)
(今度彼女をそそのかしてみなさい。私が容赦しませんよ)
(いるもん。おれいるもんれもん)
(要らないわ。この場には私がいるのだから)
(ちちががう。ソレ、ごかごかい)
(消えなさい)

 ソレは消えた。
 後から来た声が話しかける。

(かなめさん)

 あんた誰?

(あなたにお願いが)

 お願い?

(彼に伝えてください)

 伝える?何を?誰に?

(ラムダドライバを使って巨人の背中……冷却装置の一つを…)

 はぁ?

(はやく)

 消えた…

 気がつくと、かなめの視界は元通りになっていた。
 あの声は………テッサ?
 そう思い、振り返るがテッサはクルツに抱えられいまだに眠っている。

「クルツ君、通信機貸して!」

 よくわからなかったがかなめはやるべき事を実行した。






アーバレスト、コクピット


(手がつけられん)

 ベヘモスは動きの止まったアーバレストに対し、持っていた剣を振り下ろす。
 その斬撃が建物の屋根を破壊しながら巨大な砂煙を巻き上げた。
 その煙の中からアーバレストが飛び出す。

「アル」
『イエス、サージェント』

 宗介に呼び掛けられてアルは応える。

「この機体にはラムダドライバが搭載されている。そうだな?」
『肯定』

 アーバレストにも同じ装置はある。それは2ヶ月前の事件で明らかだ。

「敵機がラムダドライバを搭載していると仮定して、それに対抗する手段はあるか?」
『不明』
「現場の下士官として、情報を要求する」
『要求は了承。しかし不明』

 本当に知らないのだろうか?それとも機密事項なのか?真偽はわからない。
 宗介は以前の事を思い出す。
 ザイードとの死闘。やられる刹那にラムダドライバが起動した事。
 肝心の起動方法は無我夢中だったのでよく覚えていない。

「くっ!」

 バルカンを避ける。
 考えても仕方がないので少佐が言っていた事を実行する。

(確かイメージだったな……意識を集中して!)

 再び正面からショットキャノンを発砲。しかし、またも赤い壁に阻まれてしまった。
 それを見たベヘモスは真横に剣を振り抜くが、土煙の中に身を隠しながらアーバレストは背後に大きく跳躍して回避する。

『宗介!聞える?』
「千鳥か?」
『よく聞いて。あの機体には特別な装置を積んでるの。搭乗者の攻撃衝動を物理的な力に変化する機械よ』
「ち、千鳥?」

 ――なぜラムダドライバの事を?
 言う前にかなめが制する。

『聞きなさい!!それで、貴方のASにも、それが…ラムダドライバが積んである。2ヶ月前の事を思い出して!あの時貴方は自分の身を護ろうとして装置が反応したの。貴方の心の中の強いイメージが形になるの!』
「しかし、イメージしても何も起こらない!!」
『集中が足りないの!気合入れて!!』
「…了解した」

 宗介はアーバレストと共に眼前のベヘモスを見つめる。

『それから、なんだか知らないけど背中にラムダドライバの冷却装置があるらしいの』
「それで?」
『その場所をラムダドライバで攻撃するの』

 つまり、ベヘモスの背後に回りこみラムダドライバで冷却装置を破壊する。
 言うだけなら簡単だが…

「難しいな。俺は自分の意思でラムダドライバ使った事がない。不確定要素が多すぎる」
『っんな事言ったってそれしか分かんないのよ!!』

 かなめとクルツは建物の外壁の横を走っていた。
 立ち止まると屋上でベヘモスとアーバレストの二機が対峙するのを見られる場所まで来ている。

「大佐殿が言ったのか?」
『テッサの?うーん、たぶんそう。そうゆうことにしとくわ』
「なんだ、そのいい加減な…」

 瞬間、ベヘモスはかなめ達のいる方へ首をめぐらせて頭部のバルカン砲を連射。
 通信機の向こう側から悲鳴が聞えてくる。

『うわっ!!』
「千鳥!!」

 バルカン砲による砂煙が彼女等の姿を覆い隠す。
 次の瞬間、その巨体が後ろによろけた。

「!?」

 見てみるとベヘモスの目の前にASが二機立っている。
 青いASはべへモスに体当たりをしており、少し離れた所に赤いASがいる。
 赤いASの掌にはかなめ達がいた。

『やっぱり効かんな…』
『打つ手なしね。そこの貴方、この子達は大丈夫よ』

 突如、戦闘に割り込んできたASとの通信が繋がる。

「あんた達は?」
『ネルガルのもんだ。会長に呼ばれてね』
「天河明人の!?」
『またお前等かああぁぁぁ!!!!!!!!』

 ベヘモスが振り回す剣を宗介達は回避する。
 タクマは何度も邪魔された為か冷静さを失ったようだ。

「ちっ!」
『おい!ミスリルの傭兵さん、調子はどうだい!?』
「なんだと?」
『ちょっと!バチスト!!』
『黙ってろ。何故かこっちの攻撃が跳ね返されちまうんだ。何か策はないか?』

 宗介は突然の申し出に戸惑ってしまう。
 あの男の、天河明人の身内なら信じてもいいのだろうか?
 ネルガルが裏で何をしているかはわからない。
 ただ天河明人とは千鳥かなめの事で利害が一致している。
 宗介は意を決した。

「ある。すまないが奴の注意を引き付けてくれないか」
『注意を引けばいいんだな?了解した』
「まて!理由を聞かないのか!?」
『こっちは打つ手がないんだ。お前さんの策に乗るしかない。いくぞグレイ!』
『如何なっても知らないわよ!』

 宗介はあきれた。
 天河明人といい、この男といい。なぜ自分を直に信用してしまうのだろう。

「ちょろちょろするなよおおぉぉぉ!!!!!!!」
『こっちだこっち!』
『当たらないわよ坊や!』

 青と赤のASはべへモスの猛攻を危なげなく躱している。

「やるしかないか」

 アーバレストを一気に加速させ悟られないようにベヘモスの背後に回り込む。

『いい宗介!大切なのは集中力。深呼吸して吐く瞬間に砲弾に気合を注ぎ込む感じ』
「そうは言うが……」
『じゃあ、想像して!!』
「!!」
『あんたが負けたら!私もテッサもクルツ君も殺されちゃうのよ!!しかも、このまま私達の高校とかめちゃくちゃにされちゃうの!!その光景を思い浮かべてっ!!!」

 宗介は巨大なASが、かなめ達を殺そうとする光景を思い浮かべる。
 かなめとテッサの怯える顔、絶望の表情をするクルツ。
 さらにはASが陣代高校を破壊する姿。
 その脳裏に浮かびあがった光景の数々に心をズタズタに刻まれるような苦しみで思わず目を見開いた。

『イヤでしょ?』
「ああ……」
『頭にくる?』
「そうだな…」
『アイツはそうしようとしてるの。そんな事が許せるのアンタはっ!!!!』
「許せん!」
『じゃあ、アイツに銃を向けて』

 言われたとおり銃を向ける。

『大丈夫。わたしを信じて』
「了解した」
『イメージを頭の中に描いて。貴方はこれからあのガキをブン殴るの』

 タクマの顔を思い浮かべ、

『そしたら息を吸って』

 ゆっくりと息を吸いこみ、

『自分に言い聞かせなさい』

 自分に言い聞かせる。

(慌てるな。くだらないとも思うな。俺がこれから撃つ弾は、奴の盾を突き破る。そう信じろ)

 眼前のスクリーンに巨大なASの姿が映し出される。
 そして、そのASは宗介に背後を見せた。

『今っ!!』

 目を見開いた宗介はべへモスの背中にある冷却装置を狙いトリガーを引いた。






あとがき(いいわけ)
決着つけると言ったのに終わらなかった。
年内には2巻分を終わらせます。



[298] Re[38]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/12/23 15:47
0400時(日本標準時)
ベヘモス コクピット


『警告。脳波に乱れを感知。ラムダドライバ機能低下』
「なっ!?」

 タクマは愕然とした。

「何でだよ!?僕は何時も通りやってる!薬だって飲んだ!なのに何で!!」
『警告。機体後方にラムダドライバを感知』
「!!」

 次の瞬間、今までにない衝撃がタクマを襲う。
 ラムダドライバの機能が低下していたためアーバレストの放った弾丸は容易にベヘモスの装甲を突き破った。
 そして潰れるような音と共にベヘモスの冷却装置はその機能を停止する。

『ラムダドライバ機能停止。回復の余地無し。ベヘモス重量過多につきパージされます』

 ベヘモスは糸が切れたようにガクンと崩れ、その巨体はアスファルトの地面にめり込んでいく。

「何でだよ……何で…」

 タクマの言葉もむなしく、ベヘモスは二度とその巨体を動かすことはなかった。






0405時(日本標準時)
東京ビックサイト 駐車場


 テッサは頭を抑えながら目を覚ました。
 辺りを見渡すと崩れ落ちたベヘモスが煙に包まれている。

(たいしたものです。あの二人は…)

 テッサは内心そう思った。
 二人とはかなめと宗介の事である。自分が指示するべき事をかなめは行い。宗介は彼女の指示に迷いなく従った。二人の信頼関係が良くわかる。一つでもミスがあればベヘモスは今だ稼動していたはずだ。

「気が付いたか…」

 振り向くと黒マント姿の明人が立っていた。

「大丈夫か?あまり無理をするな」
「いえ。大丈夫です」

 テッサは立ち上がり明人を見た。
 よく見ると全身ずぶ濡れなのがわかる。

「カリーニンは無事だ。メリッサ・マオに任せておいた」
「そうですか。二人とも無事だったのですね」

 カリーニンとマオが無事である事を知り胸を撫で下ろす。

「ピンピンしていた。タフな連中だ」
「天河会長…」

 テッサは明人に向き合うと頭を下げた。

「今回の一軒で貴方を巻き込んでしまい、ミスリルを代表して謝らなくてはいけません」

 今回の一軒は明人が居なかったらどの様な状況になっていたかわからなかった。
 部下を信頼していない訳ではない。
 ただ明人が居なければカリーニンは死んでいたかもしれないし、ネルガルのASが来なければアーバレストは負けていたかもしれない。
 しかし、民間人を巻き込んだのは事実だ。テッサは指揮官として明人に謝罪した。

「謝るならかなめちゃんにしてくれ。俺は勝手に首を突っ込んだだけだ」
「…はい」
「それから、急いでここを離れろ」

 唐突に出た言葉にテッサはキョトンとする。

「10分としないうちに警察と陸自の増援がくる。面倒なことになるぞ」
「で、でも…」

 チラリとベヘモスを見る。
 まだアレにはタクマが乗っているはずだ。

「心配するな。あの子は俺が責任を持って保護する」
「わかりました。このお礼は必ずします」

 そう言うとテッサはかなめ達の方へ走り出した。

「お礼ね…」

 テッサの後姿を見ながら呟く。

「既に十分すぎるものをもらったよ」

 そして明人は視線をテッサからベヘモスへと移した。






20分前
赤海埠頭 海岸


「一応の礼はしよう」

 カリーニンはぶっきらぼうに言い放つが、明人は首を振る。

「その必要はない。既に礼は貰ったからな…」
「どういう意味だ?」
「すぐにわかる」

 カリーニンの疑問に答えるように明人は携帯(防水済)を取り出すとどこかへかけだした。
 カリーニンはそんな明人の姿を見ている。

『こんな夜中に誰だ?』
「天河です」
『君かどうした?』

 声からすると年配の人物のようだ。

「今起こっているお台場の事件。ネルガルの方で事後処理を行いたいのですが…」
『…話は聞いている。好きにするといい。君には借りがある』
「ありがとうございます。総理」

 明人は携帯を切る。
 短い通話だったがその内容はカリーニンを驚かせるには十分だった。

「アレはネルガルが回収させてもらう」

 アレとはベヘモスのことである。
 ベヘモスに順安で戦ったASと同じ装置を付けている事は見ていればわかった。
 もしその装置を手に入れたらネルガルにとって有意義なものになるだろう。
 そしてそれはミスリルのアドバンテージの一つがなくなることを意味する。

「貴様…」
「…げほっ……ったく、死ぬかと思ったわ……」

 二人の睨み合いに水を指したのは、びしょ濡れのメリッサ・マオであった。

「アレ?少佐に…」

 目の前でカリーニンが見詰めている男に視線を移す。

「その声は順安でも聞いたな」
「天河明人会長!!」
「やはりそうか…」

 マオは明人に駆け寄ると直立不動になり言った。

「私はメリッサ・マオ曹長であります。順安での事は感謝しています。貴方のおかげで部下が死なずにすみました」

 身分の違いからかつい敬語を使ってしまう。

「気にするな。それより彼のことは頼めるか?俺はこの子を医療施設に連れて行かなくてはならない」

 言いながら抱えていたセイナを見せる。

「わかりました」

 カリーニンをマオに任せると明人は急ぎ足でその場を立ち去った。
 そんな明人をカリーニンが睨んでいたのは言うまでもない。

 しばらくして海岸から離れるとコミュニケのスイッチを押す。

「ダッシュ!いい加減に答えろ!」
『…はい』

 ダッシュは疲れたような口調で通信に答えた。

「言い訳は後で聞く。今すぐにお台場に来い」






あとがき(いいわけ)
書いてて面白いのか面白くないのかわからなくなってきました。
とりあえずベヘモスをゲットです。(ミエミエの展開でしたね)
タクマとセイナも一応ゲットです。(今後はどうなるかは不明)

CPは今のところ
 本命◎:ラピス
 対抗○:テッサ
  穴△:グレイ
 大穴×:なし
のいずれかです。



[298] Re[39]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/12/25 21:03
0415時(日本標準時)
東京ビックサイト 駐車場


 炎上を続ける巨人の残骸の前に青と赤のエステバリスがひざまついていた。軽トラック程のサイズの球形のカプセル――ベヘモスのコックピット・シェルが鎮座している。バチストとグレイが残骸の中から見つけ出したのだろう。
 側にはバチストとグレイがいた。

「開けられるか?」
「ええ。少し下がってください」

 バチストは銃を構え、グレイはコックピット・シェルの強制開放レバーを回した。破裂音と共にシェルが弾ける。
 中にはタクマがいた。

「まだ生きています」

 明人は銃口を向けている二人の手を下ろさせると近づいて身をかがめる。

「動かない…何で……ラムダ…ドライバは………薬を…」

 本来ならばタクマの飲んだ薬は約二日間その効果を持続させることができた。
 しかし誤算があった。それは医療用ナノマシンの存在である。天河邸でミスリルに薬を盛られたと思い込んだ明人がタクマに投与していたのだ。その効果は薬の副作用による記憶障害をも回復させた。

「殺せ…」

 タクマは弱々しくつぶやく。

「断る」
「…何でだよ……殺せよ…僕には………もう何もないんだ」

 その言葉を聞いた明人はタクマの胸元をつかんだ。

「甘ったれたことを言うな!!」
「!?」
「お前が今までどれだけの事をしてきたかは知らん。だが、背負った罪は償わなければならない!」

 タクマの過去は定かではないが間違いなく人を殺した経験があるだろう。
 今回の事件でも警察および陸自に死人が出ている。

「罪も償わず死ぬなど俺が許さん!!」
「償うって……どうやって?」
「それを決めるのはおまえ自身だ。俺は自分で決めた」
「え?」

 ラピスを復讐の道具として使った。それが明人にとっての罪である。そしてマシンチャイルドとして生まれた彼女に人間らしい生活をさせることが明人の償いであった。
 明人はタクマから手を離すとバチスト達の方を向く。

「バチスト。タクマの事は任せる」
「俺がですか!?」
「不満か?」
「ガキのオモリは契約になかったんですがね…」

 愚痴りつつもバチストは了承した。

「会長。後5分で陸自の増援が来るそうです。ネルガルの回収班も技術部と共にこちらに向かってます」
「わかった。グレイはセイナ…タクマの姉を頼む。今近くの病院に連れて行ったところだ」
「了解しました」
「さて…」

 海の方を見ると朝焼けが見える。

「朝か」

 日の出と共に陸自のヘリの音が聞こえてきた。






同時刻
某ビル 屋上


 二人の男が双眼鏡を片手に立っている。

「……寒いねぇ」
「正直、もう少し頑張ると思ったが」
「ま、ボーイスカウトにオモチャをくれてやったようなもんだからな。そう期待するのも間違ってるか」
「だとしても、お粗末に過ぎる。巡洋艦二隻分の金がわずか十五分でパアだ。馬鹿げた話だよ。上は何を考えているのだ」
「そう言うな。データもとれたし、映像もとれた。社会不安も増大した」
「欠陥もよくわかった。我々<アムルガム>には、あの機体は必要ない」
「そうだな。くくっ。他にもいろいろ」
「いろいろ?」
「ああ。俺の大好きなマイ・ダーリンとそのガール・フレンド、そして黒尽くめの男。こうして再会できたんだからな」
「黒尽くめの男。たしかネルガルの人間だったな。俺からしてみればミスリルよりネルガルの方が危険に思えるが…」
「直に奴らには挨拶に伺うとするよ。とびきりの挨拶をな…」

 にんまりと笑うと、男は屋上を去っていった。






あとがき(いいわけ)
皆さん感想ありがとうございます。
こんなに多く感想が書かれるとは思いませんでした。
私も頑張って書きますので感想をよろしくお願いします。

>メリッサマオ曹長をCP候補に
明人×マオはありません。これは断言できます。彼女の相手はいろいろと考えてます。

>セイナの可能性はなし?
ないです。彼女はタクマとの関係(だましてたこととか)でそれどころではないでしょう。

>ゲキガンガーが作れますねw
そうですね。ただ持ち運びが不便だw

>レーザー兵器やビーム兵器は出てきますか?
さすがに出ません。

>毎回ちょっと短すぎて物足りない気がします。
すみません。今回も短いです。

P.S.
年内は後1、2回投稿します。



[298] Re[40]:ナデシコ・パニック
Name: KIKI
Date: 2005/12/30 13:08
6月27日 0830時(日本標準時)
都立陣代高校


 教室内がピリピリしている。
 なぜなら来週からの期末試験があるためだ。ある者はノートを写し、またある者は単語帳をめくっている。
 そんな中、ラピスは一人余裕の表情をしていた。

「かなめ」
「何?」
「これ」

 ラピスが見せたのはビデオテープである。

「?」
「ドラマ、録画しといたやつ」
「ありがと」

 かなめは返事はするが元気がなく、そのまま机に突っ伏している。
 事情を知っているラピスは同情の目で見るが、

「ねぇ、かなちゃん。ねぇってば!」

 事情を知らない常磐恭子はかなめをゆさゆさと揺さぶる。

「昨日英語教えてくれるって言ったじゃない。起きてよ」
「うー。お願い。もう少し寝かせて」

 かなめはまるで取り合わない。

「そんなに勉強したの?徹夜?」
「徹夜したけど………勉強全然してない…」
「じゃ、なにしてたの?」
「戦争」
「あ、そう……。もういいもんね。かなちゃんには頼らないから」
「私が教えようか?」
「さっすがラピちゃん!学年トップ!」

 恭子はラピスに抱きつくと意気揚々と自分の席に着いた。
 担任の神楽坂恵里が入ってきたのである。

「はいはい、席に着いて!授業をはじめるわよ」

 今日は試験範囲の総まとめである。生徒たちは皆教科書を出す。かなめでさえ眠い目を擦りつつ出したのだが、ただ一人教科書も出さず、腕を組み、沈黙し、虚空を眺めている男がいた。

「あら。相良君、教科書忘れたの?」
「………」
「どうしたの。答えなさい」
「………」
「相良君?」
「………」
「な、なによ。そんな怖い顔して」
「………」
「相良君。私の授業が受けられないって言うの?」

 そんな光景を見ていた恭子があることに気づいた。

「ねえねえラピちゃん。相良君ってまさか!」
「そうみたい。起用だね~」

 二人の予想通り宗介は目を開けたまま寝ているのだ。
 しかし恵里はそのことに気づかない。

「何か至らぬ点があるんだったら私も改める努力はします。でもね、あなたのその態度は…」
「………」
「態度は……その、あんまりじゃないの?」
「………」
「何か言いなさい。相良君。ねえ」
「………」

 頭にきた恵里は宗介の机をおもいっきり叩いた。

「相良君!!」
「?……!!」

 次の瞬間、宗介は恵里を押し倒し取り出した銃をその頭に押し付けた。
 そんな宗介にかなめは飛び蹴りを喰らわせ沈黙させる。
 ラピスは恭子と共に泣き出しそうな恵里に事情を説明するのであった。






1000時(日本標準時)
強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン> 艦長室


 テッサはベットで横になり天井を眺めながら昨夜の出来事を思い出していた。

「ネルガルか…」

 今回の事件でもネルガルには驚かされた。
 ―――虫型のAS
 本人(?)はバッタと言っていた。
 どう見ても人が乗っているとは思えない。完全にAIに任せた無人兵器である。それも人間のようなAIだ。そういった面ではダーナを超えるかもしれない。
 ―――青と赤のAS
 これは以前の順安事件での報告書にあったASとは違うらしい。クルツに言わせると性能面ではほぼ同等だが形状は違うとの事だ。
 ミツビシを吸収したネルガルなのでAS製造に疑問はないが、問題はその性能だ。あきらかにM9を上回っている。
 ―――バリア?
 バッタ、AS共に使用していたものだ。何なのだろう?見当もつかない。ラムダドライバではないことは確かだが…

「わからないことだらけですね」

 ため息をつくとテッサはベットの中で体を横にする。

 ―――天河明人
 わずか3年でネルガルを世界有数の大企業にし、その戦闘能力はミスリルのSRTすら超える。
 情報部ですら過去の経歴を調べることができない謎の人物。
 テッサはそんな彼に一番近づいたのかもしれない。
 彼とテッサは話をし、その行動を見た。
 天河邸での彼の話。車の中での彼の話。
 特に『自分と同じ境遇の人間を見捨てられるか…』という言葉がテッサの頭から離れない。

「やはり彼は…」

 天河明人はウィスパード。
 もしそうなら彼の行動に納得できる。
 彼自身何らかの人体実験を受け、運良くその縛めから逃れられた彼はネルガルを作り、独自に天河・ラピス・ラズリや千鳥かなめのようなウィスパードの保護を行っているのではないだろうか。
 ウィスパードの持つブラックテクノロジーを用いれば3年でネルガルを大企業にするのもたやすい。

「天河会長をメリダ島に招待しようかしら?」

 天河明人がウィスパードならミスリルとネルガルは協力体制をとった方が良いのかもしれない。
 しかし脳裏に副長の怒った顔が浮ぶ。

「まぁ、大丈夫でしょう…」

 いざとなれば大佐として命令すればいいだけだ。
 それでもだめなら―――

「私が会いに行くのもありですね」






あとがき(いいわけ)
年内最後の投稿。
これで<A21>編終了です。
今回の一軒でテッサが明人に興味を持ちました。今後どうなるかはゆっくり考えます。

次は『イントゥ・ザ・ブルー』編なのですが、時間がかかるかもしれません。
明人をどうするかで悩んでおります。
『イントゥ・ザ・ブルー』は宗介とガウルンの(一応の)決着が付く所です。
そこに明人がしゃしゃり出て来るのはどうかと思っています。
ただ私の小説ではガウルンが明人にも興味を持ってるんです。
明人がいない間にガウルンがいなくなるのも…orz

ちなみに明人の年齢は26、ラピスは16です。



[298] 言葉足らずのディレクター(前編)
Name: KIKI
Date: 2006/01/05 00:13
 古びた道場にひとりの青年があぐらを掻いていた。
 腕を組み何か考え込んでいる。

「………」

 どれだけの時間が経ったのだろうか。青年は突然立ち上がり叫んだ。

「決めたぞ!!」

 青年は懐から一枚の写真を取り出す。
 その写真には桃色の髪の少女が写っていた。






「起立!礼!」
「みんな、気を付けて帰るのよ!」

 HRの終わり。つまりは学校の終わり。
 ある者は背伸びをし、またある者はお喋りをしながら帰っていく。
 もっとも、私は護身術部があるので帰るのはまだ先だ。
 ……私?私は天河・ラピス・ラズリ。花の女子高生。そして護身術部部長にして創設者。
 そんな私に親友の千鳥かなめが話しかけてくる。

「いいわね。早く帰れて」

 帰っていく生徒を見てかなめはため息を吐く。

「かなめは生徒会副会長だからね」
「わかってますよ~」

 私の指摘にめんどくさそうに答えるかなめ。

「面倒なら生徒会に入らなければいいのに…」
「初めは良かったんだけどさ…」

 チラリと視線を横に移す。

「どうした千鳥?」

 相良宗介。
 かなめと共に生徒会に属している。
 そう。この男が生徒会に入ってからかなめに安息の日々がなくなったと言ってもいいだろう。

「まあ、相良の戦争ボケにもみんな慣れてきたんだし。かなめもその内慣れるよ」
「慰めの言葉ありがとう…」
「じゃあ、私部活があるから」

 傷心のかなめを残し、私は教室を出た。






 護身術部。
 私が趣味で作った部活だ。
 最初は馬顔の痴漢が出没するとかで部員がたくさん入った。
 そんな痴漢は捕まったらしいが部員は未だに増加中。

「それじゃ準備体操から・・・」
「たのもぉぉ!!」

 デジャブを感じた。

「天河は居るか!!」

 入ってきた男はメガネをかけている。
 声に聞き覚えはあるけど…

「だれ?」

 あっ。こけた。

「忘れるな!!空手同好会の椿一成だ!!」

 ……えーっと?

「先輩。あの時の…」

 ああっ!思い出した!!

「思い出したようだな」

 満足げに答えるメガネ

「何用?」
「まず、この前の一軒は俺が悪かった。このとおり謝る」

 そう言って頭を下げるメガネ

「用が済んだら帰って」
「そう焦るな。今日は言いたい事があって来た」

 だから何?

「じ、実はな…」

 何で吃るの?

「実は、その…」

 何?

「だから…」

 馬鹿にしてる?

「一体何!?」
「つまりだな……」

 こいつウザイ。

「お前がほしい…」

 …………。

後編へ






あとがき(いいわけ)
あけましておめでとうございます。
とりあえず「ふもっふ」編を投稿。



[298] 言葉足らずのディレクター(後編)
Name: KIKI
Date: 2006/01/05 10:27
 俺は今護身術部の前に立っている。
 俺はかつて、この部の部長に不覚を取った。
 惨めだった。意気揚々と乗り込んで敗れたのだ。
 しかも後になって敗れた相手が女であることを知り、もっと惨めな気分を味わった。
 しかし、冷静になって考えると思う所があった。
 親父が死んでから今日まで自分に勝てる人間などいないと思っていた。
 現に、俺を満足させる相手はいなかった。
 それに俺は女は弱者だと思っていた。
 これらの要因が俺に驕りをあたえたのかもしれん。
 いや!あたえたのだ!!
 それを天河は俺に教えてくれた。

「たのもぉぉ!!」

 皆一同にこちらに振り向く。

「天河は居るか!!」

 今日はメガネをかけている。
 天河は………居た!!

「だれ?」

 な!?覚えてないのか!!!

「忘れるな!!空手同好会の椿一成だ!!」

 ま、まだ考えている。
 暫らくすると何か気づいたようにこちらを見た。

「思い出したようだな」

 よかった。忘れられると困る。

「何用?」
「まず、この前の一軒は俺が悪かった。このとおり謝る」

 これは本心だ。
 どんなに言い訳しても女の胸を触ったことに違いはない。

「用が済んだら帰って」
「そう焦るな。今日は言いたい事があって来た」

 さて、ここからが本題だ。

「じ、実はな…」

 ……そういえばこのような場合どう言うべきなのだろう?
 俺は今までこのような事をやったことがない。

「実は、その…」

 どう言えばいいのだ?

「だから…」

 何を言うか考えてくるべきだったな…

「一体何!?」
「つまりだな……」

 ここは、俺の本心を聞いてもらおう。

「お前がほしい…」

 …………。
 なんだこの沈黙は?
 まあいい、続けよう。

「お前の技、実に見事だ!俺自身くらってその技のすばらしさがよくわかった。そして目覚めたんだ。俺にはお前が必要だと!!」
「それはどうゆう意味?」

 話してる途中になんだ?

「言葉どおりの意味だ」

 …………。
 なんだこの空気は?

「みんな。やっぱりこいつは変態よ!!」

 ………へっ?

「技をくらって目覚めた!?」
「何に!?」
「そんなの一つしかないじゃない!!」
「不潔…」
「まさか先輩でそんなことを考えてるなんて!!」

 な!なぜだ!?
 なぜそのような結論にたどり着く!?

「ま、待て!!」
「変態よ!変態!!」

 俺はただ天河に空手同好会へ出稽古に来てほしいだけだ!
 今思えば護身術とは実戦を意識したものだからな!!

「話を聞け!!天河に俺の道場に来て…」
「自分の部室に連れ込む気だったの!!」

 違う!だんじて違う!!

「みんなどいて!!」

 唐突に天河が叫ぶ。
 天河!お前はわかってくれたか!!

「私が始末する」

 全然わかってない。

「覚悟!!!!」

 ここは冷静になってもらうしかない。

「今日はメガネをかけている!前回とは違う!!」

 俺は瞬く間に天河を床に押さえ付けた。

「俺の話を聞いてもらうぞ!!俺はっ」

 その刹那、俺は天河を離し後方に飛ぶ。
 見ると他の部員がホウキやモップといった物を持っている。
 あのままでいたらフルスイングが俺の頭に直撃していただろう。

「先輩!逃げてください!!」
「そんな!みんなを残して逃げるなんてできない!!」
「私たちは大丈夫です。だから早く!!」
「ゴメン!すぐに援軍を連れてくるから!!」

 なんだかとんでもない事になってるような…
 とにかく誤解を解かねば!!

「待て!話を聞け!!」

 俺は目の前の女達を押しのけて天河の後を追った。






 ヤバイ。
 私は今変態に追われている。
 それも腕の立つ変態にだ。
 前に来た時に只者じゃないと思ったけどアレ程とは…
 私は天河・ラピス・ラズリ。か弱き花の女子高生。

「待て!!!」

 そんな!みんなが突破されるなんて!!

「みんなの犠牲は無駄にしない」

 何とかしないと…
 でもどうしよう。相手はかなりの変態だ。前よりパワーアップしてる。

「明人…」

 そうだ明人に!!
 ………連絡する時間がない。

「待てー!俺の話を聞けー!!」

 どうしようどうしようどうしよう。
 そうだ!あそこに行けばいい!!
 私は全速力である部屋に走った。

「あの場所に行きさえすれば…」

 どれだけ走っただろうか。
 やっとたどり着いた。
 その部屋の看板が掛けられている。

『生徒会室』

 私はすぐさまドアを開けた。

「あれ?ラピスどうしたの?」

 相良!!相良は………居た!!!

「助けて!!校内に変態がいるの!!!」

 私は相良に必死に訴えた。
 あの変態を始末できるのは校内で相良だけだ。

「ええー!!」
「まぁ…」

 かなめとお蓮さんは驚いた顔をしているが相良と林水は冷静だ。

「会長閣下」
「うむ」

 生徒会長に確認を取ると相良は鞄から小型のショットガンを引き抜く。

「ちょっとラピス!!ホントなの!?」

 かなめ心配してくれるんだ。
 持つべきものは親友だね。

「うん。突然私の部室に現れたの。応戦したんだけど歯が立たなくて、相良なら何とかしてくれると思ったの」
「賢明な選択だ。今後もそうしろ」
「ちょっと宗介!」
「問題ない」
「いや、そうじゃなくて。殺しちゃダメだから」
「了解した。ゴム・スタン弾を使用する」

 そう言って相良は廊下に出て行った。

『天河はどこだー!!!』
『お前が変態か』
『何だ貴様は!!』
『安全保障問題担当・生徒会長補佐官の相良宗介だ。これ以上、事を荒立てると為にならんぞ』
『退け!!貴様などにかまっている暇はない!!』
『そうはいかん!』

ドンッ!!

 あ、銃声!

『貴様っ!!飛び道具とは卑怯だぞっ!!!』
『卑怯?相手より優れた装備を、適切・効果的に使用することのどこに問題がある』
『だまれっ!銃など認めん!!』

 ここはもういいだろう。

「私道場に戻る。みんなが心配だから」
「へ?でも…」
「構わんよ。後は我々に任せたまえ」

 林水の許可がでた。

「うん。後は相良に任せる」

 こうして私は生徒会室を後にした。
 ちなみに廊下では相良と変態が死闘を繰り広げてたから窓から失礼した。






「酷い目にあった」

 あれから俺は生徒会の奴等に捕らえられ尋問させられた。
 あの男、こちらの話を聞こうともしない。
 苦労した。副会長が話を聞いてくれたので誤解は解けた。
 千鳥かなめ。いい人だ。おかげでこうして家に帰れる。
 それはそうとして、天河はなぜあんな勘違いをしたのだろうか?

「…まさか」

 あれは天河の策略だったのでは?
 本気を出した俺に敵わないと思った天河は、己の配下を使い俺を動揺させようとした。
 それでも敵わないと知った天河は公的機関(生徒会)に俺を誘い込んだ…

「俺は一杯食わされたのかっ!!」

 間違いない!
 おのれ卑怯者め!!
 次に会ったら………ん?

「桃色の髪…間違いない」

 こんなところで天河に会えるとはな…

「天河っ!!!覚悟おおぉぉぉっっっ!!!!」

 俺は問答無用で奴に突っ込んだ。
 女であろうと容赦はしない。
 武道家として…

「グェッ!!」

 なんだと!みぞおちに…
 そして俺は意識を失った。






「俺に挑戦するなど百年早い」
「明人早く行こ!」
「今行く。まったく、家の食材を切らすとは…天河明人一生の不覚」






あとがき(いいわけ)
『ふもっふ』編でした。
元ネタは銀色の髪の変態です。(わかるひとはわかる)
一成君が酷い目にあってます。
勝手に父親を殺しちゃったけどまずいかな…

>DFとLD
基本的にLDはDFで防げます。
ただし順安のような場合のみです。
あの時ガウルンは、
『機体をバラバラにする→衝撃をあたえる→衝撃波』
と考えたようです。
そのため、DFで防げました。
ガウルン自体、実戦でLDを使用したのは初めてですし、乗っていたASも試作機なので…
もし、DFの存在を理解していればDF無視して機体に痛打をあたえられます。
あと、宗介の様に「貫く(貫通する)イメージ」なら(威力によりますが)DFを破れるかもしれません。

>レーザー兵器、ビーム兵器
出ません。
仮にエステに装備したらエステ一機の値段はとんでもない額になる。
F-2の二の舞はしません。

P.S
現在フロントミッション5をやってます。
これ普通にフルメタの世界観でできる話だよ…
数年後の設定で、
 ウォルター=宗介
    リン=テッサorマオ
   グレン=クルツ
にして、少し設定を変えればいけるんじゃないかな。(書かないけど…)



[298] 皆さんにお聞きしたいことがあります。
Name: KIKI
Date: 2006/01/14 21:32
どうも。作者のKIKIです。
実はこの話に『ナデシコ』『フルメタ』以外の作品のキャラを出そうと思っています。(ラミウス艦長はおいといて…)
理由としては、当初オリジナルで行こうと思っていたキャラ(及びその周囲の)設定が某作品に似ているためです。
それなら某作品のキャラを使えばいいのではないか?と思ったのですが、同時にあまりクロスさせるのもどうかと思いました。
しかしオリジナルでいったとしても某作品に似てますし、判断の難しいところなのです。
そういった理由で、皆さんのご意見をお聞きしたいのです。ご協力、是非ともおねがいします。



[298] ありがとうございます。
Name: KIKI
Date: 2006/01/15 12:56
とりあえずオリジナルで書こうと思います。
後50を越えたので新しいスレにします。
今日中に投稿しますので感想などよろしくお願いします。


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