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[29949] 【短編集】ごちゃまぜぼっくす【一話完結と決意】
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 22:52
ウェブ拍手に使った話の扱いについて、悩んだ末にこちらにおかせて頂く事としました。
一話完結が出来なくなるなど、問題が出来たらまた考えます。



[29949] ゼロ魔を一話で終わらせてみた
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 22:55
 死んだと思ったらガリアに生まれ変わっていた。
 な、何を言っているかわからないと思うが私も(ry
 なのに私はメイジじゃない。正直、許せない。
 リア充爆発しろ。メイジは皆死ね。
 そんなこんなで、私は城でメイドとして働いていた。
 私はある時、庭でジョゼフ様が一所懸命魔法の練習をしている所に出くわした。
 私はそれを鼻で笑う。

「虚無って大変ね」

「虚無?」

 シャ、シャルル殿下!?

「あ、あら。何かの聞き間違いですわ。ジョゼフ様が虚無だなんてそんなおほほほほほ」

私はその場を走り去る。大丈夫、所詮は子供相手だ。何を言っているかなんてわかるはずがない。私はいやいやと仕事に戻るのだった。
 その夜。私はいつも通りうらぶれた酒場で酒を飲んでいた。

「うぃーっ何がメイジよ! リア充よ。ちっとも羨ましくないんだから! どうせ虚無野郎にみーーーーーーーーーんな殺されちゃうんだから! ざまーみろ」

「虚無野郎とは俺の事か」

「ああん!? あーらジョゼフ殿下」

 ジョゼフ殿下がこんな所にいるわけはない。これは夢だ。なので私はジョゼフ殿下を指さして笑った。

「あっはははは! そーよぉ。虚無ってのはね、散々無能扱いされて、壊れて狂って、心を真っ暗闇で満たすように出来てるのよぉ。あんたは狂うわ。大切な人を次々殺して、それでも泣けない、泣く事を求めて大切な物を壊し続ける人になるわ。それは虚無! 虚無だから! どろんどろんとした心の虚無が、虚無の魔法を使うエネルギー源になるのよぉ。壊れて壊れて壊れた頃に、全てが手遅れになった頃に、力が目覚めるのよぅ。ああ、始祖のお導きに祝福を! ガリアを火の海に沈めし無能王ジョセフに乾杯!」

「兄上……!」

 シャルル殿下がジョセフ殿下の裾を掴む。
 ジョセフ殿下がその手を握った。
 私はテーブルに倒れ込み、寝息を立てていた。

「うーん……や、やばっ寝ちゃってた!? 早く城に帰らなきゃ!」

 私は起き上る。そこは豪奢なベッドで、私は目を点にする。

「こ……ここは……あったまいた……昨夜の事、さっぱり覚えてないわ……」

「俺に呪詛を吐いた事もか」

 ジョゼフ殿下が椅子に座り、こちらを見ていた。

「ジョゼフ殿下!」

 私は驚きに目を見開いた。

「え、えーと……私、何か失礼を致しましたでしょうか」

「致したとも! フィル。俺は無能王らしいな。そしてガリアを火の海に沈めるとも」

 獰猛な笑み。落ち着け、相手は子供だ子供。

「いやですわ、殿下。酔っ払いの戯言ですわ。妄想ですわ」

「では、その妄想を詳しく聞かせてもらおうか。虚無の呪文はいかようにして覚えるのだ?」

 げげん。

「……今のジョゼフ様が覚えても意味などありませんわ。あれは莫大な精神力を消費します。すなわち、莫大な憎しみ、嫉妬、怒り、絶望、悲しみ……」

 ジョゼフ殿下が剣を私に突き付ける。

「ごたくはいい」

「始祖の香炉、始祖のオルゴール、始祖の祈祷書、後、えーとなんだっけ……を、土のルビーを嵌めた状態でお使いなさいませ」

 ジョゼフ殿下はそれを聞き、部屋を出ていく。
 私も部屋を出ようとしたら兵士に止められた。
 やばいかなぁ、私……。やばいよなぁ。
 しばらくして、ジョゼフ殿下がシャルル殿下を連れて戻ってきた。その頬は上気している。

「兄さんはやっぱり凄い人だ! でも、黙ってろってどういう事さ」

「フィルの言っていた事、少なくとも虚無は本当だった。という事は、俺が王になるという話も、このガリアを火の海に沈めるという話も本当かもしれない。虚無は呪われているのか? 俺はそれを知らねばならない。なあ、預言者フィルよ」

 私は預言者なんかじゃない。顔を顰める。つーか、今の時点で目覚められるなんて。

「貴方様はもう虚無を覚えました。私の知っている未来は消えたも同然です」

「なんだ、俺が虚無を覚えない未来は知っているのではないか。話せ」

 しぶしぶと私は話す。ルイズ……ゼロの女の子の話を。

「まさか、兄上がそんな事をするはずがありません!」

「だから、虚無の持ち主はそれだけ壊れるほどの辛い目に合うんだってば。シャルル殿下だって見てるでしょ? 次期王様として支持されているのはどちら? これからどんどん酷くなるわ。臣下達の確執は貴方にも伝染する。誰にも支持されない王になるわ、ジョゼフ王は。王としては有能だけどね。ハルキゲニアを手に入れる位置に立てるぐらい」

「……」

「兄上……」

「よし、わかった」

「良かった。頑張ってガリアを火の海にして下さいねv」

「とりあえずフィルを縛り首にしよう」

「えええええええ何でですか! 死ぬのは殿下方ですよ! リア充死ね!」

 ジョセフ殿下は呆れた口調で言う。

「お前、メイドの癖に勇気のある奴だな……」

 私は頭を掻いた。

「おほめにあずかり、光栄です」

「褒めてない」

 ジョゼフはため息をつき、シャルルに目配せした。

「とりあえず、ルイズとティファニア、ヴィットーリオを探そう。風石の採掘も」

「えー。運命通りに動いたらいかがですか? ブーブー」

 完全に開き直った私は盛大に文句を言う。

「しかし、兄上。ルイズやティファニアはまだ生まれていないのでは?」

「うむ。彼らが生まれるまでは様子を見るほかあるまい。ひとまず、おれの虚無は隠して、即位までは何時も通り過ごそう。いや、預言者めいた事をやってみるのもいいな。手紙を書くぞ。そして、アルビオン、ロマリア、ヴァリエール家にスパイを送る」

 さすが小さくても王子だ。そうしてスパイの真似ごとは始まった。
 そして陛下にばれた。所詮子供。やーいやーいと言ったら殴られた。

「虚無の再来だと!? おおお、ジョセフ、お前が……」

「父上、人の出した手紙を勝手に見るのは……」

「何を言っておる。こんな重要な事を秘密にしておくとは。早速この事を公表するのだ。ロマリアに連絡を! 速やかにティファニアの亡命の準備をするのだ! ヴィットーリオを浚うのだ! ルイズの良き婚約者となりそうな者を探せ!」

 ジョゼフ殿下とシャルル殿下はため息をついた。
 風石の事はまだ知られていない。が、誰が虚無となるかは知られてしまった。
 
「まだティファニアは生まれていません、父上。下手に介入すると生まれなくなってしまうかもしれません。父上は今迄通り執政をなさって下さい」

「う、うむ、そうか……。そうか、ガリアに虚無の王が……ジョゼフが……。早速皆に公開しなくては!」

「いや、今まで通り執政して欲しいって言ったじゃないですか」

「う、うむ、そうか。そうだな。そうしよう。しばらくの我慢だぞ、ジョゼフ」

「は」

 うっすらと予想していた通り、それは陛下から徐々に徐々に広まった。
 臣下が一人また一人とジョゼフ派になって行く。

「俺が王になると火の海になるんだが……」

 苦笑してジョゼフ殿下が言う。

「いいじゃない、GOGO!」

 ジョゼフ殿下が私を踏んだ。

「そんな事ないよ、兄さん」

 シャルル殿下も、私を踏んだ。

「強がりを言うな。もう、俺はお前が王になりたい事を知っている。俺がお前を殺した事を、俺もお前も知っている。俺達の間に、隠し事は無しにしようじゃないか」

「兄さん……それでも、強がりくらいは言わせてよ」

 私をぐりぐりと踏みつけながら兄妹仲を温める二人。その足をどけやがれ!

「リア充死ね! リア充死ね! メイジなんか大嫌いよ!」

「俺もお前みたいになったりしたのだろうか。怖いな、虚無は」

「僕が支えるよ、兄さん」

「ああ、頼む。王はお前でいいさ。二人でガリアをもっと良い国にしようじゃないか。なあシャルル……」

「ホモ野郎!」

 あっ蹴られた。
 結局、王様にはシャルル殿下がなった。
 それと、炎のルビーはスパイを放ちまくり、アニエスから奪い取った。
 ヴィットーリオは既に凄い護衛がついていて、どうにも出来なかった。
 そうこうするうちに、ティファニアが生まれ、オルゴールと引き換えに亡命を迎える事をガリアが申し出た。
 当然、アルビオンは怒り狂った。

「我がアルビオンと戦争をするつもりか!」

「するつもりだが?」

 外務大臣にジョゼフ大臣があっさりと言い放つ。

「な……な……」

「ティファニアとオルゴール、風のルビーはなんとしても手に入れねばならんのだ。全てはブリミル様の御意志。ブリミル様の御意志に逆らうつもりか?」

「ブリミル様の御意志だと!?」

「おれは虚無の力を持ち、預言を受けたのだ。ティファニアを救え、とな。どのみち、もう遅い。おれのミューズが向かっている」

「なんだと!?」

 ジョゼフ大臣とミューズのコンビは素晴らしかった。
 さくっとティファニアとオルゴールとルビーを盗み、ティファニアを虚無に目覚めさせた。しかし、ティファニアはオルゴールの音を聞けたが、香炉の香りを嗅ぎとれず、ジョゼフはオルゴールの音楽を聞き取れなかった。
 私は大いに喜んだ。

「あっはっは、バーカバーカ! 幸せな虚無なんてやっぱり虚無じゃないのよ!」

 ジョゼフ大臣が私を踏む。

「あ、あの、大丈夫ですか」

「気にしないで下さい、お嬢さん」

 シャルル陛下がティファニアに優しく言い、ただちにジョゼフ大臣とティファニアが虚無であり、ティファニアを守る為、始祖の意志を守る為に決起したと発表した。
 アルビオンの出鼻を挫く形である。
 パニックになりました。
 やーはっは。楽しいなぁ。
 そのパニックに乗じて、情報が漏れてトリステインがルイズを掲げた。
 ロマリアもヴィットーリオが虚無だった事を発表し、炎のルビーの返還を求めた。
 まさに一触即発。やれやれー。
 ……とまさに美味しい状態だったのにっ! 
 ゲルマニアが調停に立ちやがった!

「馬鹿か、お前は。まさか本当に戦争を起こすとでも思ったか」

 ジョゼフ大臣が呆れた声で言う。
 混乱が収まってみれば、誰も犠牲にならずにティファニアがアルビオンに戻る事になってやんの。
 
「ってなんでティファニアがアルビオンに戻る事に!? アルビオン、エルフ嫌いじゃない!」

「虚無が三つの国の執政に関わるのだ。アルビオンも出遅れまいとするだろうよ。ガリアが戦争を起こそうとしてまで手に入れようとしたティファニアを奪い返したのだ。向こうも満足だろう。さあ、風石をどうにかする会議に向かうぞ。ティファがおれについてくれた。エルフとは話し合いで装置を使わせてもらえるよう頼んでみるつもりだ。どうだ、一滴の血も流さずどうにかしてみせたぞ」

 ふふんと勝ち誇った顔でジョゼフ大臣が言う。
 宣戦布告までやって血の一滴も流れないってどうやったジョゼフ大臣。いや見てたけど。

「そんな! リア充爆発しないの!?」

「しない。と、会議の前にティファニアの使い魔召喚だな。ティファニア」

「はい」

 ティファニアが使い魔召喚をする。
 鏡が、私の目の前に現れた。落ちる沈黙。

「入らんのか? リア充とやらになれるチャンスだぞ」

「奴隷のどこがリア充ですか。いや、奴隷だって心の自由くらいは持ってますよ」

 シャルル陛下が私の尻を蹴りあげて、鏡へと突っ込ませる。

「てめ何しやがるんですか、シャルル陛下!」

「お前は自由過ぎなんだ! 少しは忠誠心とやらを学んで来い!」

 こうして、大災厄は免れた。
 後に、伝説はこう語る。

 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左手に握った大剣と、異界の武器を操って、導く我らを守り切る。

 神の右手、ヴィンダールヴ。御目麗しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導く我らを運ぶは地海空。

 神の頭脳、ミョズニトニルン。冷静沈着神の本。あらゆる知識を溜めこみて、導く我らに助言をす。

 そして最後にもう一人……(違う意味で)記す事さえ憚られる……。



[29949] まさかの古龍(青)に転生(ゲート)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 23:00
メイン版、皆さんの“このネタ”でこんなss書いて欲しい その参
GAP様発案、ゲート 自衛隊、彼の地にて斯く戦えりの二次ss

まさかの古龍(青)に転生
冬眠から目覚めてみると懐かしき故郷の料理を感知
自衛隊駐屯地まで臭いを追い、野外で製作していたカレーを貪る
その後麻酔入りカレーで意識を失い、門の向こう側へGO
その後、動物園で一躍世界の大スターに
アメリカとか解剖しようと話を持ちかけるが日本だけじゃなく全世界から非難で断念
動物園の王様エンド
のネタです。

















 気が付いたら、目の前にドラゴンがいました。まる。
 ってうぎゃーーーーーー死ぬ死ぬ死ぬ!夢でも怖いって!
 叫んだ途端、身の毛もよだつ声が聞こえてびっくりして腰が抜けた。
 え、俺? 今言ったの、俺?
 近くに湖があって、そこに俺の姿が見える。どう見てもドラゴンです、本当に(ry
 そうして、俺は気絶した。


それから、一ヶ月後。
ドラゴン生活、辛いです。知っているか? ドラゴンってさ……。
お乳を飲ませないんだぜ……?
いきなり肉食。いきなり人食。やったねドラゴン!
死ねドラゴン!
待て待て、ドラゴンならさ、炎で丸焼きに出来るじゃんって思うよな。
普通、皆そう思うと思う。俺だって思った。
けどさ、俺のブレス、水もしくはなんだよな……。
使えねぇぇぇぇぇぇぇ!!
酷過ぎるんじゃね?
ありえないよな。
人家を襲うって手もあるけど、とてもじゃないが量が足りないし、いつも人家を襲うわけにはいかない。
生肉食べるしか道が無い。
絶望だ。
俺は、次第に人の心を捨てて行った。そうするしか無かった。
それでも、人よりも睡眠を多く取ったのは、もしかして耐えられなかったからかもしれない。
無理やりやたら強い白いゴスロリの人に脅されて、炎竜と番わせられてから、人としての誇りまで残らず奪われた気がした。
涙目で不貞寝していると、懐かしい匂いを嗅いだ。
がばっと起き上る。この独特の香辛料の匂い。夢か?
夢でもいい。カレー食べたい!
俺は起き上って、空を飛んだ。
匂いのする方向へ、匂いのする方向へと。
そして、ついに、ついに見つけたのだ!
カレー! IN自衛隊駐屯地!

「目だ! 目を狙うんだ!」

「パンツァー―ファウスト持って来い!」
 
 自衛隊KOEEEEEEEE!
 でも俺はカレーを食うんだ。もうカレーが食べられたら死んでもいい!
 俺は思い切って滑空して、カレーの大鍋の所へと向かった。
 人が慌てて逃げて行く。
 炊飯車だから、その場で食べるしか無かった。
 舌を伸ばして、ほかほか湯気をたてるカレーを食べる。
 うーーーーーまーーーーーーーいーーーーーーぞーーーーーーーーー!!
 残念なのは、一口で食べ終わってしまった事だ。
 主食は他で取らねばなるまい。
 なんかあの人ら怖いので、自衛隊駐屯地まで行くのは無理だ。
 だが、自衛隊駐屯地から離れた、難民キャンプらしき場所。そこが守りが薄目で狙い目!
 ぺろりと舌舐めずりして、太陽の位置を確認する。
 これは昼ごはんか。ならば、夜ごはんの前に帰らねば!
 俺は飛び立ち、腹ごしらえに行った。



 夜。
 俺の狙い通り、ご飯が準備されていた。
 しかし、今度は警備が厳重になっている。
 本日のご飯は……炊き込みご飯とみそ汁!
 うおおおおおお負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 俺は氷球を人に当てないように撃ちまくり、油断した隙を狙って炊き込みご飯とみそ汁に口を突っ込んだ。
 急いで食べて、逃げる。
 自衛隊の朝は早そうだ。
 明日の朝早めに、ここに来よう。

 朝。
 なんと、ご飯が駐屯地から少し離れた場所に置いてあった!
 うおおおおおお肉じゃがうまい! 白米が美味い! ここは天国だ!
 綺麗に舐め終わると、俺はその場を離れた。
 

 昼。
 昼もカレーだった。
 香辛料の匂いがいい!
 そして、カレーなべに向かって何故か握り飯が並んでいた。
 一個一個口に入れて、最後にカレー鍋に行きつく。
 美味い。うまいぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!
 少し辛過ぎて舌が痺れてくるが、文句は言うまい。
 食べた後に眠くなった俺は、そのまま幸せな眠りに落ちるのだった。



 



 それは、避難民にテントを立てたばかりの頃だった。
 巨大な黒い竜が、自衛隊駐屯地、正確に言えば避難民達の住む所めがけて降り立った。
 もちろん、自衛隊駐屯地は大騒ぎになった。
 
「これが報告にあった奴か!?」

「いえ、これは別種です!」

「おいおい、物騒だな異世界って奴ぁ!」

 小銃で撃ちながら、避難民を移動させる。
 ご飯を守って反撃しようとする古田を引っ掴み、走って逃げる。
 まっすぐ避難民達の住む所に降り立った奴は、カレー鍋とご飯釜を米粒一つ残さず貪って、逃げて行った。

「撃ち方やめ! 一体……」

 望遠鏡で見ると、ぺろりと口の周りを舐めながら、こちらを見た。
 そのまま、遠ざかっていく竜。

「くそ、あのトカゲ、俺達の飯を……」

「なんなんだ、一体……。情報を集めろ」

 そしてわかったのは、あれも人を襲う凶悪な竜だと言う事だった。
 
「自衛隊駐屯地を襲うなら、駆除しないとならん。色々申請しないとな」

 柳田が忌々しげに言い、ただちに装備の申請がなされた。
 そして、夜。

「またあの竜が現れました!」

「二度も襲ったなら、偶然とは言えねぇ! ここで仕留めろ!」

 激しい戦いの後、またも炊き込みご飯釜とみそ汁の大鍋を器用に浚って、少し離れた場所で貪る竜。

「こりゃ……餌付けしちまったか……?」

 建物の中で料理を作るのは容易い事だ。しかし、そこに突撃されては困るのだ。
 結局、試しに少し離れた場所に食事を作って出してみる事にした。
 
「ドラゴンの好きな料理なんて、知りませんよ。玉ねぎとか大丈夫なんですか?」

 二度も食事を浚われて、若干不機嫌な古田。

「カレー貪ってたから平気だろ」

 とにかく、指示を仰ぎつつも、朝ごはんに肉じゃがを用意したのだった。
 そして、果して。黒竜は来た。
 ご飯と肉じゃがを一心不乱に食べている。

「完全に食堂と勘違いしているな……。よし、捕獲できるなら捕獲してみるぞ。ありったけの麻酔薬持って来い。伊丹を呼べ」

 伊丹率いる伏兵を配し、罠を仕掛けてその上に麻酔入りカレー鍋を置いた。
 念の為、おにぎりで道を作る。

「引っかかりますかね?」

「さてな。その時は伊丹、頼むぞ」

 そして、現れる黒竜。黒竜は、まずカレーに目をやり、おにぎりに気がついた。
 一つ一つ食べては進み、食べては進む。
 ついにカレー鍋まで行った、と思ったら、口を開けて全てのおにぎりをカレーなべに落とした。

「ちっ気付いたか?」

 黒竜はおにぎりと一緒に改めてカレーをむさぼっている。どう見ても気付いた様には見えなかった。

「よし、とりあえず捕獲」

 そして、黒竜捕獲はなった。それは世紀の大ニュースとなった。
 とりあえず、巨大な檻を作ってそこに入れる。
 当然、黒竜の扱いは賛否両論となった。

「廃棄すべきです、危険すぎます!」

「しかし、せっかく捕獲できたのだし……」

「餌はどうします」

「ドックフードでいいんじゃないか?」

 そんなわけで、大量のドックフードを入れたドラム缶が鍋に入れられた。
 起きた黒竜は、ふんふんとドックフードの匂いを嗅ぎ、凄まじい勢いで吠える!
 そして一粒食べてみて、また凄まじい勢いで吠える!

「な、なんだなんだ!?」

「静かにさせろ!」

「何とかしろ、伊丹!」

「あー。ご飯に不満があるんじゃないですか? そもそも、古田さんのご飯に引かれて来たんですし……」

 と言う事で、古田特製のカレーを用意する。すると、黒竜は大人しくカレーを食べ始めた。

「こ……この贅沢もの……!」

「グルメですねー。かなり食費掛かりそうですよ、こいつ」

 黒竜は、大人しかった。特に、ご飯をちらつかせると物凄く大人しかった。
 初めは黒竜に怯えていた者達も、次第に檻に近付くようになった。

「お手!」
 
 黒竜が左手を出すと、よしよしと褒めて、ビーフジャーキーを渡してやる。
 
「美味しいか? これ、犬用だよ」

 可愛らしい犬の絵が描かれた袋を取り出すと、黒竜はガタガタ震えだした。
 おぞましい声で一声鳴く。
 そして、伊丹五月蠅くさせるなと柳田が殴った。
 一通りの芸を覚えた所で、軍事費を圧迫して来たし、大人しいしと言う事もあり、彼は動物園に渡される事となった。

「大丈夫ですかね?」

「一応、毒餌は用意しておくそうだ。こいつなら引っかかるだろ。軍事目的のしつけをする案も出したんだが、国民が早く黒竜が見たいと言う声があまりにも大きくてな」

 そうして、黒竜は動物園に連れていかれる事となったのだった。










気が付いたら動物園にいました。まる。 
うおおおおおお夢にまでみた現代ぃぃぃぃぃぃぃぃ!
でも俺、竜なので元の生活には戻れません。本当に(ry
この体格じゃ観光も無理。まあ、ご飯が保証されるだけマシ……と思った方がいいのかもしれない。
本当にそれしか利点が無いけど。 
それはともかく、俺の前に怖いおっさんがいます……。

「クロ君! お初お目に掛かる! 私はドックフードのシェアナンバーワンのワンワン社の専務兼動物学者、犬神健太だ! 私の目的はただ一つ! 健康で! 美味しい! ドラゴンフードを作る事! 覚悟したまえ!」

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
 
「とりあえず、軽いジャブからだ! バッタやミミズ、コオロギで団子を作ってみた!」

 やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
 
 こうして、犬神と俺の激しくもむなしい戦いは切って落とされたのだった……。
 とはいえ、動物園はさほど嫌いではない。
 子供が目を輝かせて見に来てくれるのは、嬉しい者である。
 動物園で餌として売っているおにぎりや持参したお弁当、お菓子をくれると更に嬉しさ倍増である。

「よーしパパ特大おにぎり(一つ千円)なげちゃうぞー」

「パパすごーい」

パパ男前―。ついては特大おにぎり後三個ほど買って下さい。
上手に受け取り、もふもふと食べる。
マスコミも科学者も大人も子供も、皆俺に夢中である。

「パパー! 鱗欲しい―!」

 いいよー。
 鎖をちょっと切って、口で鱗を剥ぐ。痛いけどおにぎり嬉しかったのでサービスである。

「ギャー!」

 飼育員が悲鳴を上げざわっと観衆が揺れる。
 俺は十数枚の鱗をすっと子供の足元に落とし、敵意は無いと言う風に手すりから引っ込んで、ぺったりと伏せた。
 パパは子供をしっかりと庇って腰を抜かしていた。

「パパ―。 クロちゃんが鱗くれたー」

 この子供、心臓に毛が生えているんじゃないか。

「は……ははは、大事にするんだよ……」

 パパは子供を抱いてそそくさと行ってしまう。
 その後、俺は凄く怒られた。夜ごはん無しだった。悲しい。
 それとは別に、翌日から凄い勢いで鱗リクエストされまくるようになったので、反省した。

「クロ―! こっち向いてー!」

「クロちゃーん! う―ってしてー!」

 俺は可能な限りリクエストに答える。
 動物園王に、俺はなる!
 そんなある日、俺の前に、新たな札が下げられる。
 そして、口々に非難の声をあげた。
 えーと。まだ日本語は読めるぞ? ちょっと鎖を千切って覗いてみる。

『アメリカに引き渡される事になりました』

 なるほど、ハンバーガーも良いな。
 そう楽観的に考えていたが、犬神専務が泣きながら言った。

「こんなに人懐っこいのに……まだドラゴンフードが完成しておらんのに……無念! アメリカなんぞに引き渡されて解剖されるとは……!!」

 えええええええええええええええええ!? 俺嫌だよ!
 そんなこんなで、俺は即逃げる事にした。夜を狙って、街中のど真ん中にある山中に逃げる。
 なんで街中かって?
 切ない声で泣いて見せると、子供が握り飯片手にやって来てくれた。

「クロ、逃げて来たんだ。やっぱりアメリカ行くの嫌なんだね。僕、こっそり飼ってあげる!」

 ありがとう! そして俺は握り飯を貰う。
 これを狙ってたんだ、これを。ただ山の中に逃げたんでは、人間の食事が食べられないから。
 それから、俺はご近所さんにたらふく食事を頂いた。
 その中の一つ(?)が、麻酔入りだった。ですよねー。
 ガッデム……。
 目が覚めると、自衛隊の人達がいた。

「お前さん、実は人間の言葉わかるだろ」

 何を今更。こっくりと俺が頷くと、ぽんぽんと鼻面を叩く。

「心配するな。お前さんの脱走騒ぎの時に、マスコミが解剖の件を嗅ぎつけてな。結局、お前さんの解剖は取りやめになった」

 俺は安堵のため息をつく。

「で、これからどうする?」

 もちろん、動物園の王になるのさ!




 ちなみに、アメリカは犬神専務の作った麻酔入りドラゴンフードで捕獲された炎竜親子を貰って行ったそうです。子供は餌付け、炎竜は解剖決定。さらば我が妻子よ……。人食べたからしょうがないよね?
 



[29949] 漫画喫茶においでませ(HxH)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 22:57
やったぁぁぁぁぁぁぁぁハンターハンターの世界に生まれ変わったぁぁぁぁぁぁぁ!!
 事態を把握した時は嬉しすぎて頭がおかしくなりそうになりました!
 念の修行!? もちろんしましたとも!
 ふはははははは! 俺は神になる! 死亡フラグ!?
 蟻さえなんとかすれば、一般人には関係あるまい。
 蟻も手紙一つでオッケーでしょう! 原作キャラを馬鹿にしちゃいかんよ!
 詳しい予知として手紙を送り、会長行きで手紙を出した。
 内容には、見知らぬ人に金もらって書けと言われたので書きましたとでも。
 万一追跡される事はあるかもしれないが、俺を調べれば一般人だと言う事は一発でばれそうなもの……何も問題はない。
 幻影旅団? 会うような事をするからいかんのだ!
 内に! 内に! 内側に! ニート万歳! な念能力を作るのだ。
 常に幸せでいられるような念能力を! そう! 普通に暮らしている分には戦闘力なんぞいらんわぁぁぁぁぁ!
 でも念の為タブーみたいな能力つけられたらいいな。
 幸い、俺は超チートだったらしい。もう一度言う。超、超、超、超、超チートだったらしい。
 多分、これを戦闘に振り分けてたら王に勝ててたかも。
 でも、俺はそんな事はしない。俺一人が、俺の精神世界で、王になっていればそれでいいのだ!


 と言う事で、俺は能力、「漫画喫茶」を開発した。
 素晴らしい。俺は神か? 神だと思う。神なのだろうな……。
 能力を説明しよう! 俺の漫画喫茶は、俺が読んだ小説、漫画、ゲーム、アニメの全てを貯蔵する!
 ハンターハンターも入っちまってるが、それらの本は隠し書庫と言って俺の許可が無ければ取り出せない! 本当は俺以外誰も入れないという制約をつけようかと思ったが、妻子位は入れたいからな。出来ないと思うけど、未来がどう転ぶかわからんし。
 そして、その中では暴力厳禁! あらゆる暴力が禁じられる!
 シャワー室、トイレ、ロッカー完備! そして! 食料も貯蔵できると言う素晴らしさ!
 更に更に! ここからが真骨頂!
 この漫画喫茶では、「上映」や「プレイ」や「トリッププレイ」が出来るのだ!
 上映とは作品の立体映像化、プレイはゲームキャラになってゲームの中を大冒険、トリッププレイはゲームのプログラムに縛られずにプレイできる、俺の妄想力をフルに活用した逸品となっているのだ。
 上映、プレイ、トリッププレイはそれぞれ「料金」があり、遊ぶ度に料金が目減りして行く。それは一定時間通過しないと回復しない。
 おお……独学でここまで出来るようになるとは、俺は正しく神か。
 なんてすばらしいんだ……。
 ちなみに、自分で書いた本やゲームプログラミングしたゲームもありである。
 いずれは、この世のあらゆる本、あらゆるゲームを貯蔵できるようになりたいが、まあ地道に貯蔵して行こう。
 誰にも見せない能力は、誰にもばれないのだ。正しく完・全・犯・罪だ(罪じゃないけどな)。
 そう言うわけで、俺は金を溜めては本を買うと言う事を繰り返していた。
 もちろん、不自然に高い古書とかは買わない。それは死亡フラグです。
 俺の至高の念能力が完成してから最初の三年間、俺はそれを堪能する事に夢中になった。
 あらゆる本を上映し、ゲームをプレイし、本やゲームを自身の手で創り上げもした。俺天才。
 けれど、寂しくなってしまった。
 誰かと、何らかの形でこの喜びを分かち合いたい。感想を、語り合いたい。
 そう、思うようになってしまったんだ。人間は欲深い物だな……。
 しかし、それは死亡フラグと交換である。
 慎重な俺はそれを吟味する。
 それは世に出しても構わない物か? ――イエス。変な情報は入れないようにしている。
 それは他にいるかもしれない転生者を呼びよせる物か? ――ノー。俺が考えた物語だ。
 ヨークシンドリームオークションで売るか。原作開始時期はまだまだだし、さすがに一般の露店までは蜘蛛も手を出さんだろ。
 そう方針を決めて、ヨークシンドリームオークションに店を出しました。
 あれ、隅っこで似たような事やってるんだよ。ドサクサに紛れて。
 本当はいけないんだけど、誰も何も言わないし登録の必要も無い。
 その代り、騙されても自己責任って事。
 後で手繰れるネットなんかより、よほどアングラな所なのだ。
 俺は遠足用のシートにちょこんと座り、自作の本やゲームを並べた。
 クロロは来たかって? 来るわけありませんよ。

 その後、何人かお客が本を買ってくれた。
 俺も似たような奴の本買った。
 そして、俺は満足して帰った。もちろん、大赤字である。
 ……その後。驚くべき事が起こった。
 半年たつ頃、俺が書いたのとそっくりな物語が題名まで同じで出やがったのである。
 とんとん拍子にアニメ化まで行く。
 俺すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
 おかげで感想が読み放題だ。しかし、後からつけたされた部分について突っ込みを入れるのはやめて頂きたい。俺も知らんよ。
 俺は、ネット上で何気なく議論の話に入る。自分の書いた話について語り合う。何と言う甘美な行いだ。
 まあね。俺ももったいないとは思いましたよ。そんなぁとか、俺がデビュー出来てたはずなのにって。でも、そうすると俺目立つじゃん?
 今の生活に満足しているし。しょうがない、しょうがない。
 ゲームもね、似たようなコンセプトのが出た。
 俺、才能ありすぎ。
 言っておくけど、色んなネタの要素は入っているかもしれないが、一応俺のオリジナルで他人の創作じゃないんだぜ?
 異世界の人間ってのが、感性が違ってて良かったんだと思う。
 嘘です。こっちではない概念とかいっぱいあったので、それ使いました。
 俺、歓喜。
 まあ、今の生活、飢えるほどじゃないしな。
 本の為の物置を借りる事が出来ているほどだ。
でも、お金に困ったら物語売ろう。残った物が売れるかわからんが。
 ……でもね。盗作者さんよ。それ、一巻なの。うひひ。オレ悪党。
 一期一会のヨークシンドリームオークション非正規露店で一巻だけとかオレ悪党。
 さーて、どっちの書く続きがそれらしいか、勝負勝負!

 翌年。俺は念の為に変装して、本の表紙を無地にして本とゲームを売った。
 昨年は人の多さも手伝って三十位売れたが、今回は十くらい。
 まあ無地だからな。
 はい、ネット上で誰かが二巻公開して大騒ぎになりました。
 うん、既に向こうは二巻発売していたんだ。ひょっひょっひょ。
 笑いが止まらん。
 なんか、行き詰った作家が思いあまって買った奴を出版社に送ってしまったらしい。
 ゲームの方は、「インスピレーション」を得たとか何とか。
 やべ、黙ってて良かった。右往左往してるの見るの超楽しい。
 しかも二巻で急展開で切ったwww俺悪魔wwwwww
 作者探しだしてるけど、もちろん俺は名乗り出ない。
 さてさて。今回も気合入れて変装して行きますかねwww
 大騒ぎになってるけど、多分今回が最終回だし、問題ない。
 しかも、今回は全く違う短編を売って、そのおまけにこっそり最終回の本、またはゲームを渡すと言う鬼畜っぷり。絶対騙されるってこれ!
 無法地帯なその一角は、去年や一昨年よりも人が多かった。
 しかも、売り手も俺の騙りが大勢いたのだ! なんかネット上で祭りになって、続きを書いてみようと言う事になったらしい。
 やっべ片っ端から買っちゃおう。自分の話の続きとかテラワクワク過ぎる。
 ……やめた。おまけ作戦、やめた!
 
「俺も続き書いてみたんです。交換しませんか?」

 ニコニコ笑顔で、本と交換。同じ本好き同士、祭りの参加者かな、と言う事で笑って受け取ってもらえた。ちなみに本は三冊ずつ買ってる。閲覧用、布教用、保存用だ。
 本物の証? ありませんよwww
 きっと、この中で一番すぐれた物が「続き」となるのだろう。
 その後、続き検証なる物がネット上で行われ、俺は腹を抱えて笑った。
 あー、笑った。生きてて良かった。これはしばらく飽きないわ。
 あ、さすがに「続き」の座は取れんかった。超有名作家が祭りに参加してて、その人が取りました。
 ……さすがに、作者が可哀想過ぎるって話は出てるけどなー。

 ……弱った。不況で会社首になった。勤務態度悪かったしな俺。
 何しろ、内に籠った趣味が大好き、と言う人間だ。
 仕方ない、背に腹は代えられん……。
 俺はヨークシンドリームオークションを訪れ、いつもの場所の一番近くの少し立派な質屋へと向かった。

「すいません。「俺最強物語」と「俺スーパーヒーロー」を売りたいのですが」

「!! こりゃ、あの伝説のかい!? しかも、三冊セットだって!?」

 伝説まで言ったか。さすが俺よ……。

「買ってくれますか?」

「もちろんだ!」

 ちなみに、本、ゲーム共に一巻二巻が一冊ずつ、多種多様な最終巻というセットです。
持ち運びに苦労しました。一セットだけなら作者とばれないよね!
 
「良かった。あの、所で、内緒で本とゲームを売りさばいてもらえる事って出来ます? 俺、凄くお金に困ってて、売り払いたい物が沢山あるんですけど。……その中に、一巻や二巻を買った所で買った本とかもあって。露店で買った物が随分と高価になっちゃって、困ってるんです。目立たないように売りたいんですけど」

 これで、本の物置+短編や新作を一冊づつ売っぱらうつもりだ。
 作者とばれず、本の出どころもばれにくい。さすが俺、作戦勝ち。
そこで、後ろから二本の手が伸びてくる。
 黒髪の美青年と、黒髪のでぶい人。

「その本、俺に売ってほしい」

「そのゲーム、俺に売ってくれないかな」

「いいですよ?」

 俺は瞬時に了承した。いきなり手を掴まれたのでびっくりした。原作キャラとの遭遇じゃないよな、そんなのありえないとドキドキしながら受け答えする。
 
「いくらで売る?」

「そちらの言い値で構いません」

 そして渡される札束二つ。俺は非常に驚いた。

「で、その大量の本ってどこにあるのかな?」

「ゲーム、送ってほしいんだけど」

「わ、わかりました。送ります。お買い上げ、ありがとうございます」

 お礼を言って、送付先を聞いて、逃げる。
 原作キャラじゃありませんよーに。原作キャラじゃありませんよーに。
 チートは原作キャラを引き寄せるなんて法則、無いよな!?

 俺は、持ってきた大荷物の中から、いくつかのパズルゲームを露店へと出した。こういう事もあろうかと、前世の記憶を使った既存品を持ってきてます。
 本はね。既存品だと、質問された時に困るのだ。
 ところで、どなたか何故先ほどの二人がここにいるのか教えてください……。
 いや、商品は買ってくれたけどね?
 あ。全部売れた。今日はもう帰ろう。真っ直ぐ帰ろう。

「……それでは、品物も全部売れたし、急いで梱包しないといけないので俺は帰りますね」

「そんなに急がなくても良いだろう。お茶ぐらい飲まないか?」

 俺は逃げ……ようとして、手を掴まれた。
 放せ! などと叫べるはずもなく。

「あ、あの、俺、人見知り気味で、人と長時間話すとか、ちょっと」

 などとイタタな事を言ってみる。

「少しの間だけさ」

 結局、喫茶店に連れていかれた。露天に良く来るのかどうか、何を普段売るのか、とか聞かれた。その上、気付いたら荷物が盗まれそうになって、おデブな人が防いでくれた。
 睨みあう盗人とおデブな人。

「あ、あの。俺、本当帰ります。あの、荷物の事、ありがとうございました」

 俺は命からがら逃げ出し、家に戻ると貸し物置にある本やゲームの梱包を始めた。
 ちなみに片方の宅配先、ゾルディックだったぜこの野郎。あのおデブはやはりミルキだったのだ。

「くぅ、重いな……それに宅配料も結構掛かりそうだ」

「手伝おうか?」

 気がつけば背後に黒髪の美青年がいました。死ぬほど驚きました。

「なな、なんで……っ」

「この本の代金、まだ払ってなかっただろう?」

「喫茶店じゃ駄目ですか」

「それでもいいが」

 その後、喫茶店へと移動する。

「アベルは念能力者なのか?」

 名前が知られています……念能力者なのも知られています……。

「たいしたものじゃないです。全然弱いし」

 むしろ喧嘩一つした事ありません。
 針のむしろな時間を乗り越えて一人で帰ると、ミルキが待ってました。
 やっぱりお前作者だろうと尋問タイムの始まりです。
 ミルキには作者なのばれました。作り置きのゲーム群持ってかれました。
後、部屋の中の本が全て盗まれてました。あああ、作者なのが絶対ばれてる……。
 あの御方とは認めたくないが、あの御方じゃなくてもやばすぎる相手です……。





こんなね。小さなあばら家にね。何故訪ねてくるのでしょうか。君達。
 今月の分を取りに来たって編集かよ! 
とりあえず、能力をゆっくりと発動する時間がNEEEEEEEEEE!!
 怖すぎて土産を持たさず返す事も無理だ。
 妄想世界の中では神でも、現実世界ではゴミ! それが俺。こいつらの排除はいかんともしがたい……。
ええい! 原作開始時期はまだか!
 能力盗まれるとか、考えただけでも怒りのあまり死んでしまう。
 そこで俺は考えました。考えましたよ。
 仕方ない。仕方ないよ。

「ミルキさん、相談があるんですけど」

「ん、なんだ?」

「なんかあの黒髪美青年、凄く怖いんですよ。ミルキさん、ゾルディックですよね。お礼はご用意するので、なんとか匿ってくれませんか。守秘義務は守って頂きたいのですが、それなりに楽しめると思うのですよ。お礼に関しては、匿ってもらってから差し出したいのですが」

 墓穴掘っているような気もするが、ミルキの方がまだいい人そうなんだよな。

「新作のゲームとか?」

「いや、俺の念能力です」

 ミルキは少し考え、了承した。そして、俺はゾルディック家へと行った。
 執事さん達の視線が怖いです……。
 そして、念能力発動。
 「トリップ」発動。
 気にいって頂けました。これで俺の人生は安泰……だよな?
 
「これじゃ人数が足りないな……。やっぱりRPGやるなら、四人は欲しい。兄貴、キルアー」

 ……どうしよう。何か急に危機感がこみ上げて来た。守秘義務どこ行った。
俺は胃が痛い思いをしながら、ゾルディック三兄弟と遊んだ。
 どうやらキルアとミルキは気にいったようだ。そしてイルミは、弟達が楽しんでいるのがお気に召したみたい。
 暗殺一家の専属ゲーム機としての人生が、新たなる俺の人生。
 多分、盗賊専属ライターよりはマシだよな。


 ヒソカが来た。こええよ! なんでお前こんなとこにいんだよ!
 
「俺はゾルディック家専用となっておりますので、お引き取り願います」

「つれない事いわないでよ♠ 団長が探していたよ❤」

「もしかして黒髪美青年ですか? 俺、あの人苦手なので。ちなみに貴方も苦手なので」

「一応、匿ってる事になってるから、貸し出しは出来ないな」

「ですよね、ミルキさん! そう言うわけでお引き取り願います」

 やはりミルキを頼って良かった。俺はミルキの影に隠れ、バイバイする。
 その晩。俺盗まれた。
 ミルキ役にたたねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
 くそ、物みたいにずた袋で運搬されちまったぜ!
 つーかね。ずた袋から出された時のな。笑顔のクロロがね。怖い。

「随分面白い能力を持ってたそうじゃないか。つれないなぁ」

「……」

 俺は瞬時に能力を展開。こうなったら、ミルキが助けに来てくれるまで籠城する!
 全員、身構えて……拍子抜けされました。
 クロロが既に本選びを開始してます。
 俺はパクノダの事を思い出して本棚の上で猫のように丸まって警戒中。
 ちなみにこの念能力、出入り自由。
 ……なんか負けた気がする……。
 楽しそうに遊んでる旅団が恨めしい。
 三日後。クロロが本を閉じた。

「じゃあ、能力の詳細を聞こうか」

「一昨日きやがれ、ばーかばーか」

 俺の返答に、目が細められる。一般人相手に、おとなげない雰囲気です……。
 気がつけば間近で暴力禁止結界が作動していた。
 フェイタンに剣をつきつけられたのだ。

「はっちびすけ。俺のバリアが破れると思うなよ? 攻撃は出来ないが、こっちはミルキが来るまで我慢していればいいんだ」

 そう言って能力の誤認を促すと共に、冷静さを失ってもらう。
 
「ふぅん……」

 団長の目が怖いです。
 俺は団長の冷静さを奪うべく、一生懸命罵詈雑言を並べ立てたが、冷静に能力を調べ始めた。
 やばいやばいやばい。ミルキはまだか!

 拷問ってさ……暴力以外にもいっぱいあるんだね……。
 俺はたっぷりと拷問され、能力について洗いざらい話させられた。
 必死に抗ったけど、駄目でした。
 意外な事に、クロロは俺の能力を奪わなかった。
 しかし、俺は囚われた。ですよねー。
 ミルキが助けに来てくれたけど、今更過ぎて泣ける。
 しかも脅されてるので今更旅団以外に行き場所ないよ。
 ということで、クロロの図書館やってます。
 ようやく、この生活にも慣れ始めた頃、クロロが禁書庫の入り口見つけやがった。
 また拷問のお時間ですね? わかります。
 大人しく従って、ハンターハンター関連の書だけ隠そう……。







 無理でした。俺死んだ。

 さよなら、クラピカ。
 さよなら、ヒソカ。
 さよなら、キメラアント。
 無力な俺を許してくれ。
 この犯罪者集団めーと涙目で言ったらお仕置きされた。酷過ぎる……。
 ただ、キメラアントが初期段階で退治されたので、危険は既にない。
 と言う事で、俺は旅団の書庫をやってます。
 ついでに、本は無理やり出版させられた。上映された物をカメラで撮った映画も。
 それは俺個人の口座を着々と太らせている。
 慣れてしまえば、命の危険はないし、養ってもらえるのでいいと言えばいいのかもしれない。
 どうしてこうなった。
 どうしてこうなった。
 自問自答しても答えは訪れない。
 俺は、俺は……。

「どうした?」

 ぽん、と頭に軽い感触がして、見上げると新しい本で頭を叩かれていた。

「新しい本だ。上映してもらうから明日までに目を通しておけ」

 ……渡された本は珍しい古書で、俺は結局物に釣られて自問自答をやめたのだった。
 ま、その内飽きるだろ。飽きたら殺さず開放すると言う約束ぐらいは取り付けてあるし。
 俺の能力と作品の噂が裏社会で凄い勢いで流れ、俺の価値が急上昇しているのに気付かず、俺はその日を待ち続けるのだった。




[29949] パイロットのリベンジ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 22:59




 二体の人型ロボットが向き合う。
 エイリアンサイバードの地球統治軍隊長レギウスと、地球の日本支部自由解放軍のエースパイロット、佐伯の決戦が行われようとしていた。

「諦めろ、佐伯。君は所詮人間だ。そして、ここで失うには惜しい男だ」

「舐めんなよ、レギウス! 俺は決めたんだ。お前に勝つ事に命を掛けるってな! うおおおおおおおおお」

 俺はビームを乱射する。レギウスの野郎は、たやすくそれを避けていく。

「ふぅ……。君がどうしても抗うというのなら。君の命は僕が摘み取ろう」

 剣が、一閃する。あ、俺死んだな。
 ちくしょ……勝ちたかった。レギウスに勝ちたかったのに。どんな手を使ってでも!
 俺の意識はそこで爆発と共に吹き飛んだ。
 そして、俺は転生していた。
 ……輪廻転生ってのは知ってたが、記憶を持ったままで過去に転生するとは思わなかったな……。
 富豪の息子として転生した俺は、懸命に前世の記憶を引っ張り出そうとしていた。
 暇さえありゃあ、設計図を思い出し、思い出ししながら書いた。
 弟どもが目を輝かせて邪魔しにくるんで大変だし、親父は学校行けって煩かったけどよ、全国テストで常に満点を取ることで黙らせた。
 小学生の勉強なんざ、一度教科書を読みこめば十分よ。
けどよ、しょせん、おりゃあパイロットだからな。
 機体もプログラムも、多少の知識はあれども、一から書き起こすのは大変だった。
 茜よぉ……。悪かったな。いつも馬鹿にして。お前は空で設計図書けるだけ、凄い開発者だったよ。
 そして、10歳の誕生日。
 俺は、興奮を抑えきれないでいた。
 親父が俺の書いた設計図やプログラムを科学者に見せて、作らせていた事を知っていたからだ。
 
「鉄也、今日はサプライズがあるぞ」

「ああ、親父!」

 誕生日パーティの会場の中心に、どでかい布で覆われた物がありゃあ、アホでもわかるってもんだ。
 俺は胸を高鳴らせた。

「それでは、オープン! 息子が創りだした、新しい我が社のマスコット! ロボ太くん一号!」

「親父……あ、ありがとう」

 なんだろう、このこれじゃない感。わかりやすい所につけて置いた疾風一号って名前は!? ブチマークなんて穴だらけ見たいで演技悪いだろぉぉぉぉぉぉ!
 肝心の本体も稚拙すぎてなってねぇ! 大体、なんで武器がついてねーんだよ!
 俺より大喜びの弟どもがうぜぇ。
 茜、もう罵倒なんてしねぇから、いますぐ時空を超えて来てくれぇぇぇぇぇぇ!
 翌日、早速俺はロボ太くんとやらを作成した研究所に殴りこみに行った。
 もちろん、改良をする為だ。
 そこでは親父が待っていた。

「改修するのはいいが、それには予算が必要だ。鉄也、学校へ行け! そしたら予算を出してやる。後、兵器は駄目だ」

 やりやがった……。
 こうなりゃ仕方ねぇ。学校に行くしかないか……。
 しかし、予算か……。うし、この際親父の会社に売り込みして金稼ぎでもやるか!
 未来じゃ俺は戦闘以外は中途半端にしか出来ねぇ半端者だったが、ここは過去だ。
 俺程度のプログラム技術と設計技術でも、出来るもんはあるだろ。
 それに、判断する目ぐらいは誰にも負けねぇつもりだ。
 自分の拙いもんを見てると、悶絶しそうになるがな……。
 兵器も、予め設計図を作っておくぐらいはタダだろ。
 おっとその前に、サイバープロテクトをしなきゃあな。
 一年ぐらい改修を続けて、なんとか乗れたもんじゃあねぇお人形を、根気よく言い聞かせりゃあ言う事を聞いてくれる幼稚園児様のレベルまで改修する。
 会社の庭でランニングや体操をして性能を試す。ふぅ、ようやくここまでこぎつけたぜ。
 最近では、弟どもまで一人で乗りたがって困る。お前らは人と一緒じゃないと乗せられないっつーの。
 パイロットスーツや運転席の素材なども、いい物が続々出来あがって来る。
 こうなると戦闘訓練がしたいものだが、今の所シュミレーション装置を使った訓練しかさせてもらってねぇ。ちなみにそれは遊園地にも売られて大人気だそうだ。
 危ないからって言われてもなぁ……。兵器ってのはそういうもんだろ。一応、操縦席は格別丈夫に作ってあって、バリア装置も脱出装置も付けてあるんだが。
 確か、五百メートル以内なら遠隔操作が出来た筈だ。その装置を提案すると、親父は喜んで二台目のプロジェクトを始めてくれたが……。
 けどよ、遠隔操作システムは常に乗っ取りの危機に晒されてる。
 対策はしっかりと取ってもらった。
 後、兵器関連は定期的に親父にプレゼンテーションしていたが、ついに試作機を自衛隊に出す事になった。
 となると、この機体じゃ駄目だな。もっと改修しねーと。
 小学校を卒業する頃。
 自衛隊と海上保安庁に、疾風、海神、マリオネットという機体が納入された。特に海神は、生体サーチとの応用で、海難事故に期待しているらしい。
 JAXAからは、宇宙服の発注が入った。パイロットスーツが評価されたらしい。
 ちなみに、疾風、海神、マリオネットは理論上宇宙でも作業が可能な物だ。
 この時代は宇宙での作業が少ないから、意味無い機能なんだがな。ちょっと宇宙開発も促進してみるかな。
待てよ、自衛隊にはいりゃー俺は戦えるってことか? しかし、開発等をする時間がとれなそうだ。ちょっと機体を受け取りに来た自衛隊のにーちゃん達に相談してみるかね。

「君の場合特殊だから、その辺りの融通は効くと思うよ。小さな科学者君」

「やめてくれよ、俺は一介のパイロットにしかすぎねぇよ。んでも、俺しか開発者がいない以上、俺が開発するしかねーしなぁ」

「ははは、多分、開発者は続々現れると思うよ。君に続けってね」

「そう願うぜ」

 確かに、うちの会社入社希望者続出しているらしいしな。
 弟共も、俺の仕事を手伝ってくれるって言ってる。頼もしい事だぜ。
 そうだ。侵略者共の星を確認しておかねぇとな。情けねぇ事だが、いつあいつらが侵略に来たのか忘れちまった。
 JAXAに座標を告げ、何かあったら教えてくれと頼み、空を見上げる。
 サイバードは長命だ。レギウスよぉ……お前はそこにいるんだろ?
 今度こそぶっ潰してやるぜぇ。地球とか、エイリアンとか関係ねぇ。
 俺はお前をぶっ潰す。その為だけに地獄から舞い戻って来たんだ。



 一ヶ月後、俺はJAXAの訪問を受けていた。

「鉄也君、あの座標には、エイリアンがいるかもしれない。何故あの座標をあげたのか、教えてくれるね」

「あー。信じてもらえるかはわからねぇがな。あの星に住むエイリアンは、サイバード。正義の味方気取りの奴らよ。あいつらに言わせれば、俺はテロリスト、らしいな。ま、確かに善政は敷いてたんじゃねぇか? 文句と言えば、地球人を支配しているのが地球人じゃないってぐらいだ。日本支部自由開放軍はそれに命がけで反抗し、負けた。そして、あいつらに殺された時、未来から過去へ飛ばされた」

「なんと……! それじゃ、あの人型ロボットは未来の技術?」

「未来の主要重機であり、兵器よ。元はエイリアンが持ち込んだもんらしいがな。今から開発して行きゃあ、勝てるかもしれねぇ。あいつらは最初、決闘を申し込んだはずだ。それに勝ちさえすりゃあいい」

 JAXAの科学者は、震える体を誤魔化しきれないようだった。

「震えるってこたぁ、信じてくれたのか?」

「うおおおおおお! 日本の時代がキタぁぁぁぁぁぁ!」

「……何が来たって?」

「未来の事、知ってる事を何でも教えてくれていいんだよ、鉄也君!」

「お、おぅ……信じてくれたなら、ありがてぇけどよ」

 それから、更に三ヶ月後。自衛隊、政府、親父、各種機械系企業、JAXA、俺の間で話し合いがもたれた。
 といっても、俺は質問されて答えるだけの役なんだが。

「つまり、例えロボットを持つのが一国でも決闘に勝ちさえすれば地球の自由は確約されるのだね」

「あ、ああ……」

「日本救世主伝説、キタコレ」

「ちょっと待てよ、俺は元はエースパイロットではあったが、研究者じゃねぇんだ。ちったぁ機体の作りも覚えてるがよ。実戦に通用するかってーと難しいぜ」

「どうなんだね、そこは」

「基礎データさえ頂ければ、やれます! 十年で実戦に足る兵器を開発して見せます!」

「我が鈴吉重工お任せ下さい!」

 親父を含む企業の社長が元気よく答える。

「おお。鈴吉重工っていや、未来で懇意にしてた兵器会社の親会社じゃねーか」

 茜はそこの一人娘だったはずである。

「はっはっは! そうでしょう、そうでしょう。我が社が日本の自由の為、立ちあがらないはずがありません!」

 そうして、日本の戦いが始まった。
 宇宙開発宣言と共に、セキュリティの整った日本の研究機関限定で俺の開発した技術が大々的に流され、怒涛の研究が始まったのだ。
 ロボットオタクの世界各国の科学者が日本へと流入し、日本はメキメキと力をつけていった。
 それと共に、俺は自衛隊に入る事に決めた。
 レギウスよぉ……見てるか? 俺はお前を倒すぜ。必ずな。
 三年して、それ専用の人工衛星を打ち上げ、サイバードの公共通信……ようするにテレビを傍受できるようになり、それが決定的な証拠となり、日本はサイバードの存在の公開を決意する。
 世界はエイリアンの存在に大騒ぎとなった。
 俺は首相に呼ばれ、何故かアメリカ大統領と会わせられる。

「実は、アメリカ大統領。今、打ち明けなければならない事があるのです」

「ああ、何かを隠しているだろう事はわかっていたよ。……その子が、その秘密とやらか?」

 そこに、秘書官が走って来る。

「サイバードの地球発信、確認しました! 侵略軍の予想到着日は十年後です!」

「よおし! ラストスパート、行くぞ! ああ、そうそう。情報が確定するまではと思っていたのですが、この通り証拠も出来ました。今、全てを打ち明けたいと思います」

 うん、なんで首相と俺が並んで説教されるのかわからない。

「先に言いたまえ、先に! 後十年しか無いだと!? 後十年しか無いだと!? 即刻データを寄こせ、我がアメリカも人型ロボを配備する!」

 嵐のように去っていく大統領。

「やれやれ、これで最大の懸案は片付いた。……くくく、いくらアメリカでも一歩先を行く日本には追いつけまい。鉄也君! 決闘に出るのは君だ。勝つぞ! まずは日本主催のガンダム武術闘技祭で優勝をしたまえ」

「わかってる」

 ガンダム武術闘技祭とは、遠隔コントロールで人型ロボット同士を戦い合わせる大会である。各企業がロボットを用意し、社員、もしくは遊園地のシュミレーション装置を通して公募した訓練されたオタクがパイロットとなって戦う。
 一番の強敵は、簡単にロボットの武装を組み合わせて設計できるツールと意見募集、シュミレーション装置による公募の組み合わせで、オタクの妄想力と企業力を注いで作りあげられた、鈴吉重工のケルベロスだろう。
 だが、平和の元に生きて来た素人共に負けるわけにはいかない。
 遠隔操作とペイント弾とはいえ……腕が、なる。




 大会当日。
 
『さあ、皆さんお待たせしました! ガンダム武術闘技祭の始まりです! まずは! ガンダム……いえ、失礼。人型兵器の生みの親の企業、八橋重工のご子息! 鉄三と竜巻三号!』

 社内選考会で弟に負けた。選考会で弟に負けた。選考会で弟に負けた。
 エースパイロットの、この俺が。俺様が。
 俺が立ち直れそうもないショックを受けている間も、紹介は続いて行く。

『次、自衛隊の開発機! 軍人が出てくるとはおとなげないぞ! 戦乙女―! 伊藤一尉が操縦です!』

『次は、期待の星! ユーザーの夢を叶えます! 鈴吉重工からは、ソ連支部、アメリカ支部、中国支部、インド支部、日本支部の五体が出ています! これは企業の中でも最多となります! こちらの機体はユーザーの希望で出来ており、パイロットは全てユーザーから応募しています……』

 その言葉に俺は顔をあげた。
 そうだ、落ち込んでいる場合じゃない。平和な世界でも、学べる事はあるってことだ。
 しっかり目に焼き付けて学ぼう……。
 大会は盛りあがりに盛りあがった。
 やはり、強いのは鈴吉重工だ。
 最後は、鈴吉重工の機体の潰しあいとなった。
 驚いたのが、オタクが軍人と互角にやり合う事だった。恐るべしオタク。
 中には遊園地に通い続け、百万も使ったオタクもいるというから、驚いてしまう。
 こいつらを、そして弟を全て倒さなければ、レギウスとは戦えない。
 地球一番の座は、もしかして、レギウスと戦うよりもきついかもな?
 ククク、燃えて来た……!
 俺はやる気を取り戻し、シュミレーション装置に熱をあげた。
 不安なのが、危険を理由に実戦が許されないという事だ。
 決闘がシュミレーション装置や遠隔装置で済む事など、ありえないのに。
 


 努力の甲斐あり、俺は二年後にガンダム武術闘技祭で優勝した。
 それから俺は、勝ったり負けたりを繰り返した。
 五年もしたら、アメリカが日本の研究に追いついた。
 日本とアメリカの間で、どちらが決闘に出るか火花が散った。
 俺も必死に日本に協力したが、さすがアメリカ、といった所か。
 更に5年後、決闘相手を決めるガンダム武術闘技祭で、宇宙人サイバードの乱入があった。大会は実戦と実弾に塗り替えられ、オタク組の何人かが棄権する。
 願っても無い事である。
 三回戦目で、俺はようやく運命の再会を果たした。

「レギウスぅ……よーやくだ。楽しい戦いをしようぜぇ」
 
「鉄也。時を遡った事が疑われている者。君と出会えて光栄だ。私が勝った暁には君の我が軍への投降を求める」

「実験材料にでもなんでもすりゃあいいさ! 俺に勝てたらな!」

 ミサイルが、ビームが飛んでいく。
 ビームサーベルを駆使して、真っ向からぶつかった。
 今俺が乗っているのは、虹蝶々。可愛らしい名前だが、自信を持って決闘へと出す筈だった機体である。
 激しく戦い合う。そして、ついに被弾しながらも俺のビームサーベルが機体を刺し貫いた。
 
「あああああああっやった! 俺はやったぜレギウスぅぅぅぅぅ!!」

 機体の損傷によるものだろう漏電に焼かれながら、俺は叫ぶ。
 そして、俺の意識は途絶えた。視界の中に、黒い流線型が見えたような気がした。
 目覚めると、俺は医務室にいた。

「鉄也! 大丈夫だったか!?」


「あ……俺は……」

「レギウスさんが、機体を脱出した後お前を助けて下さったんだ。侵略軍の事だがね。あれは、地球との友好を結ぶ親善大使に早変わりしたよ。お前のやった事は尊い事だ。戦争を、友好に変えたのだからな」

「……はっ俺はレギウスに勝ちたかっただけだ」

「ただ、条約を結ぶ際の条件の中に、留学生という物があってな。その中に、お前の名が挙げられている」

「はぁ?」

「当然だろう。向こうはお前が時を遡った事を知っているのだから。どうやら、サイバードはハックの腕も一流らしい。それに、ぜひまた手合わせしたいと言っていた」

「はっようするにリベンジか。良いぜ? 敵地に飛び込んでやろうじゃねぇか」

 勝者の余裕って奴だな。
 俺が、相討ち判定と知って大暴れするのは、これよりもう少し先の事となる。






[29949] 死亡フラグゲットだぜ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 23:00

「実は、貴方方にはデルフィニア戦記の王子王女に転生して欲しいのです」

「あの、神様。それは、死亡フラグ満載な様な……」

「ええ。貴方方にはあとくされなく死んで頂きます」

「どういう事ですか?」

「よろしい。あの世界にばら撒かれたモンスターシードを全て回収し、それが終わったら速やかに自殺以外の方法で死ぬ。これが貴方方の使命です。その代り、私の友人の管理しているある世界に一つ特典をつけて転生させてあげましょう。もちろん特典は何でも許されるというわけではありませんが、出来るだけ考慮します。その方の世界は貴方方のいうファンタジー世界のような物です。そこでは好きに生きる事を許します」

「……このままでも私達は死ぬだけなんでしょ? 王子王女ってのも魅力的だし、断る手はないわ」

「賢い答えね。ミッションは、三つ。自殺と仲間内の殺し、モンスターシードとの戦死以外で期限内に死ぬ。そして、モンスターシードを全て回収する。最後に、世界の運命を変えぬよう努力する。いいですね?」

「わかりました、神様……ハ―ミア様」

 四つの声が唱和する。そして、俺達は生まれ変わった。
 デルフィニアの王族に。
 






……というかさ、うん。
 10歳で戦うって無理過ぎんだろぉぉぉ!
 ちなみに今、エヴァナは3歳、エリアスが産まれるまで後二年はある。8歳のルフィアだけが頼りの相棒である。ついでにバルロは5歳、ウォルは7歳、我が従弟のナジェックは2才だったりする。
 俺は杖を使って雷撃を巨大な蜘蛛にぶつける。
 うう、集中が足りてねぇ。てか練習が足りてねぇ。
 いつ何があっても言い様に、5歳から訓練はしてたけどさぁ!
 怒り狂った蜘蛛が足を振りあげる。
 ごろごろ転がって半ばふっ飛ばされるように避けた。
 更に足が追って来る。
ガキンッ そう鈍い音を立てて足が止まった。ルフィアの結界である。

「ルフィア……助かったっ」

「ぐずぐずしてないで、反撃っ」

「ラジャっ」

俺は蜘蛛の真下から、雷撃の一撃を放った。
その途端、展開されていたモンスターシードの結界が砕け散り、俺達は現実空間へと戻っていた。

「ぷはぁー。ようやく一個、かぁ。きついなぁ」

 レオンと名の書かれた宝石を懐にしまう。モンスターシードを倒した者の名が、刻まれるのだ。モンスターシードは持ち主が武器として使う事も出来るが、それには力の制御が必要だし、報酬には影響しない。
 あくまでも、四人全員の功績が考慮されるのだ。

「次の予定地は……うえ、タンガとパラストがあるんですけど。遠っ」

「それは数年後よ。移動系の術の訓練をして、それが無理だったら理由をつけて遊びに行くしかないわ」

「移動系も何も、攻撃するだけで手いっぱいだよ。あーあ」

「頼りにしているわ、お兄様」

「うえぇ!?」

「ふふ」

 こうして、俺の狩生活は始まったのだった。
 あーあ、馬の練習しないとな。
 エヴァナは、最後に死ぬ役だから、一人でも戦えるよう最大火力を持っている。
 早くエヴァナが育ってほしい。
 そんなこんなで、エリアスが産まれた時に、直々にエリアスの似顔絵を届けに行くのだ!
 などとごねにごねてごねて床に転がって暴れて、タンガ行きを許して貰った。
 エヴァナもついてきたがったが、今回は大物が予想されるのでさすがに早いので断った。
 何か色々大切な物を失った気がするが、仕方ない。
 王族として最低限の連れを率いて、タンガへと向かう。
 馬鹿な王子王女を演じて、似顔絵をプレゼントし、どんなにエリアスがいい子か告げる。
 そして、その夜。

「……来たか」

「行くわよ」

 俺とルフィアは、窓から外に身を踊り出すと同時に、変身した。
 俺は黒い翼を生やし、ルフィアはふよふよと傘で舞う。
 モンスターシードを発見して中に入ると、子供が抗う声や幼児の泣き声がして俺達は走った。

「ナジェック、レフォン、トトル!」

 乳母や騎士が倒れている。

「もう大丈夫、俺に任せろ」

 俺は呼びかけるが、逆効果だった。

「ひっ……」

「い、一体……」

 ま、黒い翼じゃなぁ。
 俺は杖を出して、雷を触手の気持ち悪い怪物に放って、囚われたナジェック王子を救いだす。再度雷撃を放ち、弟を救うべく立ち向かっていた第一王子レフォンと第二王子トトルを救いだす。

「おお、気持ち悪い。今回はお兄様にお任せしますわ」

「俺も気持ち悪いんだが!」

 そう言いながら、俺は抱き上げた王子に告げる。

「ルフィアが守ってくれるから、ルフィアの後ろに」

 ルフィアは、短く詠唱してバリアを張った。
 ナジェック王子達を保護すると、俺は触手の怪物を睨み、本格的に対峙した。
 触手野郎は強くて、俺は何度も弾き飛ばされる。けれど、俺は何度も立ちあがった。

「格好悪いですわ、お兄様。後5分稼いで。加勢しますわ」

「ごめんな、ルフィア。でも、大分掴めてきた。こっから俺のターン!」

 そして、俺が触手に隙を作ると同時、ルフィアがバリアを横にして投げた。
 真っ二つに切れた魔物に、俺の雷撃が直撃する!
 真っ黒焦げになった魔物がモンスターシードへと変わり、俺は変身を解いた。
 ちなみに名前はルフィアとなっていた。

「秘密、ばれちゃったな。内緒にしてくれるか?」

「ついでに、協力してくれると嬉しいなぁ」

 俺の言葉に、レフォンは涙を拭いながら言った。

「飛ばしてくれたら、考えてやる!」

「契約、成立だな」

 そして俺は、蜘蛛と狼、鳥のモンスターシードを渡す。
 もう、モンスターシードを自在に操れるだけの力は得ていた。
 一度支配下に置いたモンスターシードは、別人に倒されない限り、俺の死と共に神の元に帰る。

「あのな、こいつらを使って、魔物退治して欲しいんだ。魔物って言うのは、さっきいたみたいなの。場所も、現れる時間も、こいつらが知っている。けれど、他の人に秘密を喋ったとたん、お前達を食い殺すかもな。……頼めるか?」

 本当は別に王子達の助けなどいらないのだが、乗りかかった船という奴だ。さりげなくフォローして周囲の人を避難させてくれるような人がいれば、今回のような事は起こらなくて済む。いきなり原作キャラが死ぬなど、困るのだ。
 王子達は、ぐびり、と唾を飲み込み、それでも頷いた。

「よしっいい子だ」

 それぞれにモンスターシードを握らせてやる。
 
「レオン……お前は、何者だ?」

「ハ―ミアの雇いし、傭兵……ってところかな。下っ端だけどな!」

 俺とルフィアは笑い、それを王子達は凝視していた。
 それから、パラストにモンスターシードを置いてくるのは恙無く済んだ。
 帰りに、タウの方にもモンスターシードを撒いた。
 幸い、魔物の発生地点の中心はデルフィニアだ。
エリアスも成長してくる頃になると、俺達も移動の術を使えるようになり、あちこちで使い魔からモンスターシードを回収したり、また撒いたりの作業を行うようになった。
目撃された事は一度や二度じゃなかったが、まあ誰も信じるはずはないな!
あ、そうそう。原作変えない為の努力もちゃんとしてるんだぜ。
さすがに特訓とかがあるので花街とかいってる暇が無いが、その代り部屋に閉じこもるだらしのないニートを演出している。うん、駄目皇子ならいいんだよな、駄目皇子なら。
そんなこんなで魔物退治していると、バルロとナシアスが震えながら巨大な魔物と対峙していた。

「馬鹿か、バルロ! ナシアス! 下がれ!」

水晶を人型に寄せ集めたような魔物を前に、バルロを庇う俺。

「従兄上! いけません、逃げて下さい!」

「逃げるのはお前だっての」

 俺は変身する。変身したエヴァナ、エリアス、ルフィアが駆けつけてくる。

「あ……従兄上!?」

俺はにやりと笑い、黒い羽を羽ばたかせて杖で水晶の魔物に踊りかかった!
エリアスが剣を振り、エヴァナが弓を構える。
奴の放った水晶の雨は、全てルフィアが阻んだ。

「秘密、ばれちゃったな」

魔物を倒した後、そういって俺は苦笑する。

「この事は内密にな。……でなくば、殺す」

「従兄上、あれは一体……お、王族が戦うなど」

「あんな奴、雑魚に過ぎぬ」

「やばかったくせに」

ルフィアに揶揄され、エリアスとエヴァナがクスクスと笑って、俺は顔を顰めた。

「俺達は王族と言っても、ハ―ミアの下っ端傭兵に過ぎん。気にするな」

「俺も手伝います。誰にも言えないなら! それなら、俺が……!」

「私も手伝います」
 
 何故名乗りでるかはわからなかったが、引きさがりそうに無かったのでナジェック達と同じ扱いをする。すなわち、適当なモンスターシード、虎と花を預けた。
彼らは、俺達が獲物を横取りされる事がある程度には頑張った。
エヴァナのモンスターシードはもう大分溜まって来てるから、良いんだけどな。
そんなこんなで、頑張っていると父上が死んだ。

「兄様……!」

 エリアスが抱きついてくる。

「泣くな、泣くなよ、エリアス……!」

 俺も泣いていた。真っ先に死ぬのは俺だ。そしてエリアスが次である。
 これは原作の流れなので、変えられない。変わっても困る。すでに10年という時間制限は始まっている。

「俺達は、残された時間を精一杯生きるだけだ。な、エリアス」

そして俺は……戴冠した。
 えええええええ! なんで!?
 意味がわからない!
 くっ後九年! 九年でなんとか死なないと!
 とりあえず、原作はどっちだぁぁぁぁぁぁ!!

「という事で、苦肉の策として身を隠そうと思う」

「わかったわ。順番に身を隠して行くのね」

 俺達は話しあい、準備をして、まず俺が身を隠した。
 
「従姉上、従兄上は、まさか……」

 バルロが、俺が身を潜めているとも知らず、ルフィアに詰め寄る。

「兄様の事は忘れなさい。彼は、いなかったのよ。良いわね?」

「そんな!」

 ルフィアが冷たく言い捨てる。

「この世界から足を抜けたかったら、抜けて良いのよ?」

「いいえ……いいえ! 貴方こそ!」

 ルフィアは、ふと笑った。

「私は貴方と違って、契約を既に結んでいるのよ。もう後戻りできないわ。……十年以内に、私は死ぬでしょう」

「従姉上!?」

「いずれ、神々からこの国を支配するよう定められた者が現れるわ。その時、私達は邪魔でもある。そういう事よ、バルロ」

「その人の名は!?」

「ウォル・グリーク。バルドゥの祝福を受けし者」

 おお、ルフィア格好良い。預言者っぽい。
 そして、俺は逃走し、森の中を歩いて……って、つけられてる?
 俺が振り返ると、以前魔物から助けた男がいた。

「レオン殿下。招待を受けて頂きたく思います」

「……ファロット? 俺を暗殺に来たのか」

 俺が問うと、男は首を振った。

「ハ―ミアの傭兵を傷つけるなどと。ただ、貴方が神の僕なら、聞きたい事があるのです」

「……お前達の月は、回収されて、救われる。太陽が現れるまでは、まだ掛かるな。けれど、他の奴らは死ぬだろう」

「……どうぞ、ご招待をお受け下さい」

 増えるファロット達。え。俺、これでもう用無しだよね。意味わからん。
 まあいいや。人間相手に魔法を使うのはご法度だし、大人しくついて行こう。
 どこかに死亡フラグが落ちてるかも知れん。
 招待された俺は、何をされるでもなく、普通に生活をしていた。
 で、しばらくして、他の三人も招待されてきた。
 さて、作戦会議である。

「どうすれば、自殺にならずに死ねると思う?」

「いっそ傭兵になればいいんじゃないかしら」

「危険な戦闘……いいね。死亡フラグの香りがするね」

「この国は、戦争ばかりになるはずですものね」

 俺達は手に手を取り合い、誓った。偽名も考えたし、ばっちりさ!
 そして、史実通りウォルは追い出される。
 さあ、出陣だ。わたわたと準備をして、人が適度に多くなった時に参戦する。
 マレバ攻防である。

「よし! 行くぞ、ルー!」

「ええ! レオ!」

「行きますわよ、エース!」

「うん、エヴァ!」

 人と命の奪い合いをするのは初めてだが、ファロット一族と戦闘訓練したし大丈夫だろ!
 うりゃああああああ!!
 その戦の後、四人で食事を取っていると、ざわめきが起こった。

「リィ、俺の兄妹という事は王子王女という事だぞ! 何故すぐ言わない!」

「悪かったってば」

 何この湧きあがる嫌な予感。
 
「レオン殿下! レオン殿下ではありませぬか!」

 ドラ将軍が俺に駆け寄って来る。

「引籠り王子と一緒にするな。俺は傭兵のレオ!」

「何を遊んでらっしゃるのです!!」

 あ、雷怖い。さすがドラ将軍。
 俺が絡まれている間に三人が逃げ出そうとするが、あっという間に周囲を囲まれ、連行された。

「いやー! 人攫いー!」

「お黙り下さい! 大体、何をしていたのですか、戦争に傭兵として参加するなど! 死んだらどうするのです!」

 死ぬのが目的ですがな。

「あー。可愛い弟をちょっとでも助けられないかと思ってな」

「貴方が! 表に出る事が! 何よりも助けになるのです!」

「それはズルだろ。自分の王位ぐらい自分の力で取れよ」

「私は正当なる王位継承者である貴方様がいる以上、王位を取るつもりはありません」

「そんなの許されるはずがねーじゃん。ちょっと事情があってな。お前が王位を取る事は、定められた事」

「ではその事情をお聞かせ下さい!」

 食い下がるドラ将軍。あーもう。仕方ねーなー。
 俺が羽を出すと、兵士達が驚き、そして剣まで抜いた。

「ウォルが王になるのは、ハ―ミア様の望んだ事。ハ―ミア様の下っ端の僕足る俺達が、そのご意向に逆らう事はない」

「ハ―ミア様の……っ!?」

 俺は羽を引っ込める。

「けどさ。俺達の力はウォルの為じゃなくて、別件の為の物だから。もう役割も済んでいるし、使うのは好ましくない。これで人心を操るなんざもってのほかだ。俺の与えられた命令は、過度の干渉を控えよ。だから、傭兵として手伝う事はしても、王族として、ハ―ミア様の僕としては駄目だ」

「そんな……っ」

「元から、俺達は死の元にある運命だった。だからハ―ミア様の僕として選ばれたんだ。そういうわけで、デルフィニアを継ぐのは、ウォル、お前だよ。ただし、それを得るまでの過程は、自分で為すべきだ」

「死の元にある運命って、今もなの?」

 リィの言葉に、俺は考える。

「んー。本当は俺達、家臣に暗殺されるはずだったんだよ。なんで生き残ってるのかは、やっぱり俺達が干渉の仕方に失敗したからだろうな……。どこで間違ったんだろ」

「恐らく、神々の僕であるという噂が蔓延していたからだと思います。私とバルロのように、何人か魔物から助けて下さいましたね。あるいは、魔物から助けられた者が暗殺依頼を出す予定の人だったのかもしれません」

 ナシアスの言葉に、俺は硬直した。

「え。内緒にしろって言ったのに……参ったよなぁ」

 しかし、確かに敵役でフェルナンを殺す役のサンバーを助けて神の道に導いたりしているので、ありうる事ではある。ちなみにフェルナンは無事で、元気に息子を奪われた恨み事を吐いてくれました。頭に血が上り過ぎて倒れたので安静にしてもらってます。

「暗殺された方が良かったの?」

 リィの質問に、エリアスが答える。

「元々そういう運命だったからね、僕達は。自殺以外の方法で死なないと、今回の報酬を受け取れないんだよ」

 自然、報酬とはなんだと目線で聞いてくる皆。

「あー……。不思議な力を一つもらって、生まれ変わらせてもらえるはずだったの」

「今も不思議な力を持っているけど、それで人生を謳歌するのは無しなの?」

「無しに決まってるだろ、出来るだけ運命変えないってハ―ミア様と約束したんだから」

『仕方ないですね。デルフィニアを戦乱に導かない範囲ではありですよ。報酬はなくなりますが』

「!!っハ―ミア様!」

 俺達はハ―ミア様のお告げに頭を下げる。すぐに他の者達もそれに従った。
 リィは更に質問する。

「ハ―ミアからの許可は出たようだけど。不思議な力を持って王子王女の身分で人生謳歌するのと、次の生で良い生まれになる事を期待するの、どっちがいいの?」

 ええ!? そんな……だって……ヒャッハー!
 そんなわけで俺達がウォルの後ろ盾になると、神速で争いが収まった。
 それとナジェックからルフィアに熱烈な恋文が届き、タンガと平和な交流が始まった。
 パラストとの仲も割と良好であり、戦乱? 何それな環境で、俺達は暮らしてます。
 たまにモンスター同士を戦い合わせたりする。
 ナジェックの兄王子二人も生きている。
 世の中って割と平和になるもんである。



[29949] 俺は消防士(オリジナル犬シリーズ)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 23:01


「子供が……子供が取り残されて!」

 母親らしき人が消防士さんに泣きつく。消防士さんは、くっと悔しそうに顔を歪ませ、呻いた。

「駄目だ、火の回りが速くて……」

 そんな時に、俺参上!

「犬? なんでこんな所に……」

 訝しげにする消防士さん。颯爽と火事の現場に入り込む俺!
 だだっと燃える階段を駆け上がり、子供の元に俺到着! バーン!

「うわーん」

 泣きじゃくる子供のパジャマの首元を咥え、俺は走る!
 そして、崩れ落ちる階段をひょいっと飛んで、子供を火事の現場から救ってみせる。

「ああ、犬が子供を……」

「凄いわ、凄いわ。ああ、彼こそまさにヒーローよ! お礼にステーキをあげましょう」

「ワフッ(ふっ……俺にかかればこんなもんよ)」

 俺最高! 俺かっこいい! ワーワー! 結婚してー!







 俺は工藤誠。消防士や自衛隊(災害救助時)に憧れる中学二年生だった。
 だった、というのは火事で死んだからだ。なんかさ、焦げ臭い匂いがしたと思ったんだよ。夜に寝てる時に気づいたんだから、俺は消防士の才能あるね! いや、あったというべきか。で、窓を開けてみたら、向かいの家の窓の向こうに炎が見えるんだよ。
 でさ、子供の大きな泣き声が聞こえるわけよ。俺は火事だって叫びながら、家の階段を下りて、道路を渡り、向かいの家の玄関を開けたんだ。そしたら、幸いというか無用心というべきかあっさり開いてさ。俺はすぐに家の中に飛び込んだ。
 子供の泣き声がしている所に走ると、燃えるストーブの向こう側に泣いている幼児がいた。炎をむりやり突っ切って、燃えた服は急いで脱いで、とにかくママって泣いてる幼児を抱き上げたんだ。でも、火の回りって速いのな。俺が転がりながら服を脱いでいる間に、炎の勢いは物凄くなってた。一回目は何とかなったけど、二回目はどうにかできる自信がなかった。窓から顔を出すと野次馬が集まってて、母ちゃんがみるみる顔色変えて、馬鹿馬鹿馬鹿って金切り声で叫びながら泣いて。
 消防士さんをしばらく待ってたんだけど、炎がどんどん凄くなって、近所の人達は待てなくなった。
 毛布を引っ張り出してきて、思い切り広げて、ここに落ちろって。
 俺は幼児を放り投げて、幼児は無事に降りた。
 そして、俺が落ちる段になって、どんっと音がして、記憶が途切れた。
 その後、俺は酸素マスクをつけてもらってたんだ。
 俺がしゃべろうとすると、憧れの消防士さんが、初めて間近で見る消防士さんが、酸素マスクを取ってくれた。

「かっけー……本物の……消防士……」

「君も立派な消防士だよ」

 消防士さんは、こわばった顔に僅かに微笑を浮かべて言った。

「誠! 誠! 馬鹿じゃないのあんた! こんな、こんな火傷して……」

「俺、馬鹿じゃねえもん……将来の……よこうえんしゅー……」

 そして、俺の意識は途切れた。
 その後、俺は子犬として生を受けた。ぶっとい足の子犬だ。母犬もかなりでっかいし、俺はビッグなドッグになるぜ! そして消防犬か災害救助犬になるんだ! 俺様ヒーロー!  
しかし、その為にはまず拾われなきゃな……。
母犬は死んでしまい、俺達は母犬の懐で途方に暮れていた。
とりあえず、腹減った。
人が通りがかる度に、可愛らしく鳴いてみる。
唸れ、俺の尻尾!
親子が通りかかって、ミルクを寄付してくれた。さすが俺。
早速兄弟達に飲ませる。

「わんたー! わんたー! ママ―!」

「ごめんね、うちじゃこんなに飼えないわ」

 優しげなママさんが離れていく。そこに、俺達を襲うカラスが! 俺達ピンチ!
 
「マーマー!」

「こら! やめなさい!」

 俺達の上に圧し掛かって俺達を守ろうとする幼児。
 鞄を振って追い払ってくれるママさん。
 それがきっかけで、飼い主が見つかるまでという事で俺達は家に潜入出来た。
 温かいお湯で洗ってもらい、タオルとドライヤーで乾かして貰う。
 ミルクと、ふやかしたパンを貰った。
 美味い。

「おっ子犬か!? 可愛いな!」

「キューンキューン」

 パパさん帰還! 警察官か―。俺達子犬はパパさんに尻尾を振った。大黒柱に媚を売るのは当然の事である。

「はっはっは、かーわいいなー。拾ってきたのか?」

「ええ、飼い主を探そうと思って」

「家でも一匹ぐらい飼ってもいいんじゃないか」

「わんたー!」

「うん、わんたわんた」

 おお、感動だ。良い家に拾われて良かった……。
 
「じゃあ、写真撮るぞー!」

「きゅーんきゅーん」

 俺達はよたよたと集合し、ポーズを取った。あれ? こいつらもパパさんの言葉、理解してね?
 しかし、俺達は喋れないので意志疎通の方法はない。

「かわいいなー。お前達、写真好きか?」

 一斉に返事する俺達。
 その後、パパさんから躾をされた。トイレの場所を教えてもらったのだ。
 たまに失敗して失意と屈辱に震える羽目になるけど、俺達は極力トイレでするようになった。
 数日して、パパさんやママさんや幼児……健太君のお友達がそれぞれやってきた。
 時に職場に出張する場面もあった。俺達は思い思いに営業する。

「可愛いですねー」

「可愛すぎる……」

「もうおてとか出来るぞ」

「本当ですか? おて!」

 俺達は同時にビシッと手をだし、警察官たちは爆笑した。
 
「本当に賢いなー。私はこういうの大好きでね。映画向けの子犬のオーディションがあるんですが……」

「キャンキャンキャンキャン!」

 妹が一匹進み出て、一所懸命にオーディションの事を言った警官にアピールする。

「そうか、出たいか! 先輩、いいですか?」

「ああ、いいぞいいぞ」

 そうして、妹ははちきれんばかりに尻尾を振り振り、旅立っていった。
 そして受かった。凄いぞ、妹よ。
 ついでに飼い主も映画に出演する芸能人の人に決まった。
 妹は大喜びのようで、生き生きと演技しているらしい。
 たまにテレビに出るようになった。
 それは話題を呼び、俺達は次々と飼い主を決めていった。
 結局、元の家に残ったのは俺、わんたと弟のフェンリルだけ。
 健太とパパさんがこっちを残すと互いに譲らなかったのだ。
 そんなある日、家に泥棒が入った。警察官の家に泥棒に入るなんて、随分勇気のある奴だな……。
 俺は、健太を誘導。フェンリルは敵の撃退に移る。

「ガウガウガウガウガウッ」

 ガシャーンッ

「ふええええええええん」

 健太が泣いている。さて、110番、110番。

「ワンワンワン!」

「ふええええええええ」

『どうしたのかな? 子供の悪戯かな? ぼく、泣きやんで―』

「しらないおじちゃんがフェンリル苛めりゅー」

『お家の場所、言える? 一応、ちょっと見回りの人寄こしてあげる』

 おお、ナイスだ受付の人。健太も頑張った。
 しばらくして、パパさんが急いで走ってきた。フェンリルは逃がさないよう頑張ったようだ。

「何をしている!? 健太! 無事か!?」

「ちっこれでもくら……ぎゃあああ!」

 ! 噛んだのか!? 大丈夫なのか!?
 俺達は部屋の中でじっとしていて、パパさんが探しに来るのを待った。

「健太! いい子だな、ちゃんと困ったら警察に電話出来たな!」

「ぱぱー! フェンリル大丈夫!? めっされない?」

「大丈夫だ、フェンリルの事はパパが守ってあげるから」

 結局、フェンリルはなんとか保健所に許して貰い、警備犬に捻じ込まれた。
 警備犬には、普通長期間の訓練を必要とする。
 しかし、あいつは飛び級した。
 初出動で犬にあるまじき、完璧に人質と犯人を華麗に見分けるという快挙も遂げる。
 華麗に、というのがポイントである。混戦で、人質庇いつつ的確に複数の犯人をぼこったらしい。
 その頃には妹は超天才犬として華々しくワンドルデビューしていた。
 テレビで大々的にやってるDJ犬ってアレ、俺の弟じゃねー?
 そか……俺だけ無名か……。
 お、俺だってチャンスさえあれば、チャンスさえあれば―!
 
「はっはっは、フェンリルは凄いな。さすがお父さんが厳しくしつけた犬だ!」

 やー。パパさん上機嫌のようですが。フェンリルは元から凄かったっぽいよー?
 多分、俺と同じ転生者なんだろうなぁ……。
 フェンリルって、警察関係者だったのかな。俺と同じで、警察に憧れただけの人だと良いな。そしたら、おれにも色々出来るってことだから。
 そんなこんなでしばらくしたら、テレビ局から俺の取材が来た。
 天才ワンちゃん大集合って企画らしい。
 やめろよ、俺の平凡さが際立つだろぉ……。

「それでは、天才ワンちゃんの登場です! まずは我らがワンドル、大女優のフラワーちゃん!」

「お次は、今目覚ましい効果をあげている、フェンリル!」

「作曲大好きDJ犬、ワッフル!」

「気分はすっかり研究助手! アルファ!」

「いつも警察官をお手伝い! 最近は案内もするんです、スター!」

「遠征では大活躍! 災害救助犬のリーバー」

「鑑識課でお手伝い! レンズ」

「そして飼い主さんの所で元気に育つ、わんた! 以上、8匹のワンちゃんです。警察官に拾われただけあって、警察官の元で働くワンちゃんが多いですねー」

 俺だけ無職……思わず俺は落ち込んだ。
 そんな俺を心配げにみる弟と妹達。

「それでは、そんなワンちゃん達のVTRを見てみましょう」

 もちろん、俺だけ呑気に遊んでいるVTRだ。ますます落ち込む俺。

「さて、わんたくん。あいうえおカードがここにありますが。わんたくんの将来の夢は、ありますか?」

 俺は吠える。
 そして、消防士という文字を並べた。ぼとぽを間違えた。
 あちゃあ、と前足で頭を抑える兄弟達。

「なんという天才犬でしょう! 実はこの兄弟は全員言葉を理解してる節があるんですね。わんたくんは、消防士になりたいのかなー? しょうぽうしって、可愛いねー」

「わんた、消防士になりたかったの……。フェンリルみたいに行っちゃうの……?」

 さっとフェンリルが駆けより、健太を舐める。
 俺は、戸惑った表情で健太を見るばかりだった。
 その後、俺は消防士さんからお呼びが掛かった。
 訓練に連れて行ってもらえるようになり、俺は頑張る。
 煙は高い所に行く。つまり最初から四つん這いの俺、無敵無敵ぃ!
 そして、ついに実戦。
 それは、俺が死んだときと同じシュチュエーションだった。取り残された幼児。
 健太が、俺に駆け寄る。

「わんた、消防士さんはね、自分が帰って来て要救助者いちめーなの。わかる? 帰ってこないと、駄目だからね」

 ……わかった。今度は、生きて帰るよ、健太。
 俺は水をぶっかけてもらい、ダッシュで火事の中に入っていった。
 犬は身軽だ。とっとっとと軽快に所々燃える階段を上っていく。
 そして、幼児を見つけた。まだ小さい。これだったら俺でも持てる。
 俺は幼児の服を掴むと、飛んだ。
 途中まで来ていた消防士さんに渡すと、頭を撫でられる。
 俺はやったぜ!
 火事から出ると、健太が泣きながらぎゅっと俺を抱きしめてくる。

「わんたー。無事で良かったー!」

 それが、母さんにダブって見える。ごめん、母さん。
 でも俺は……俺は。
 消防士に、なるんだ!




[29949] 俺はフェンリル、誇り高き警察官だ(オリジナル犬シリーズ)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/10/18 21:40


「くそっ犯人はどこにいるんだ! ……どうした、フェンリル?」

 俺は黙って地図を順に指し示した。

「何? そうか! 犯人の行動にこんな法則が! よし、現場を張るぞ!」

 そして俺達は現場に急行する。そして犯人が……現れた!
 行くぞ、相棒!
 俺は人質を取った犯人に襲いかかり、検挙する!

「ホシを逮捕だ! これで10個目だな!」


 ふ、当然だ。






 俺は黒船勤。元刑事である。
 つい先ほど、殉職した。
 理由は、犯人との戦闘、ではない。
 犯人との追いかけっこの最中に、車に飛び出して引かれてしまったのだ。
 10年、追いかけた犯人だった……。無念である。
 とはいえ、俺は信じている。犯人を、相棒が捕まえてくれた事を。
 思えば、以前は働いてばかりだった。今度の生は、のんびりした物でもいいのではないか? たとえそれが、犬としての生でも。どうやら、私はゴールデンレトリバー成る物に生まれ変わってしまったようだ。それも確かかどうかはわからない。母犬は命を落とし、首輪もしていなかったからだ。
捨て犬はまず間違いなく冬を越せない。まずは、飼い主を探さねば……。
新たな弟、妹達を守るという使命もある。
うむ、腹が減った。
人が通りがかる度に、可愛らしく鳴いてみるということを試みた。
約一匹ぶんぶか尻尾を振っている者がいるが、可愛らしい事だ。
尻尾を動かすのは存外難しい。
親子が通りかかって、ミルクを寄付してくれた。愛らしい弟の成果であろう。
なかなか口をつけようとしなかったので、まず私が手本を見せて口をつける。
安堵したように、他の者も口をつけた。
最後が、あの猛烈に尻尾を振っていた弟だった。
 幼児は、母親に懸命に私達の事を強請る。

「わんたー! わんたー! ママ―!」

「ごめんね、うちじゃこんなに飼えないわ」

 優しげな母親が離れていく。そこへカラスが現れた。まずい、兄弟だけでも守らねば……!
 
「マーマー!」

「こら! やめなさい!」

驚くべき事が起こった。
 俺達の上に圧し掛かって俺達を守ろうとする幼児。
 鞄を振って追い払ってくれる母親。
 そして、結局親子は私達を連れ帰ってくれた。有難いことだ。
 温かいお湯で洗ってもらい、タオルとドライヤーで乾かして貰う。
 ミルクと、ふやかしたパンを貰った。
 美味い。

「おっ子犬か!? 可愛いな!」

「キューンキューン」

 父親の帰還か。警察官のようだ。若かりし日を思い出す。何か、事件の話など聞かせてもらえないだろうか。私は父親の元へと寄った。

「はっはっは、かーわいいなー。拾ってきたのか?」

「ええ、飼い主を探そうと思って」

「家でも一匹ぐらい飼ってもいいんじゃないか」

「わんたー!」

「うん、わんたわんた」

 どうやら、一匹だけは衣食住を確保されるようである。この家ならば、問題も無いだろうと、ほっとする。転勤が少し心配だが、この人の良さそうな男が容易く保健所へやると思えない。
 
「じゃあ、写真撮るぞー!」

「きゅーんきゅーん」

 俺達は集まり、写真を取った。凛々しく写る様務めるが、どうやら一人二人プロがいるようだ。可愛らしい姿を臆面なく披露している。
 他にも、キリっとした姿で移る者がいた。これはもしかして、私と同じ境遇の者がいるのかもしれない。

「きゅーん」

 話しかけてみたが、出るのは可愛らしい泣き声のみ。どうやら、意志の疎通は諦めねばならないようだ。

「かわいいなー。お前達、写真好きか?」

 その声に、芸達者な者達が元気に返事をする。
 その後、父親からトイレの場所を教えて頂いた。一度教えてもらえれば、失敗する事はない。
 と、思っていたが……。トイレが……思った以上に……近い!
 そしてトイレが……遠い!
 間にあわなかった時は屈辱である。他の子犬が視線を寄こしてくるあたり、耐えられない。
 トイレの傍で遊ぶのが賢明な判断だろうが、テレビも新聞も本もトイレとは違う部屋にあるのだ……。トイレを運ぶには、俺の体はちと小さすぎる。
 難しい事である。
数日して、家族それぞれの友人がやってきた。飼い主を探しているのだろう。
 時に職場に出張する場面もあった。懐かしい警察署は、興味深かった。

「可愛いですねー」

「可愛すぎる……」

「もうおてとか出来るぞ」

「本当ですか? おて!」

 ふむ、お手か。俺達は同時にビシッと手をだし、警察官たちは爆笑した。
 
「本当に賢いなー。私はこういうの大好きでね。映画向けの子犬のオーディションがあるんですが……」

「キャンキャンキャンキャン!」

 妹が一匹進み出て、一所懸命にオーディションの事を言った警官にアピールする。

「そうか、出たいか! 先輩、いいですか?」

「ああ、いいぞいいぞ」

 そうして、妹ははちきれんばかりに尻尾を振り振り、旅立っていった。
 そして受かった。あれは元女優だったのだろうか? とにかく、目出度い事である。
 バラエティはあまり見ないが、妹、フラワーの出るときだけは欠かさず見るようにする。
 他に、スター、レンズ、リーバーが警官の元に行く事となった。災害救助犬の研修に行くのがリーバー、スターとレンズはペットだが特別に職場で飼ってもらえる事となった。羨ましい事だ。
 他にも貰い手がつきそうではあったが、弟のわんたと俺を巡って、父と子が争った。
 父親は俺の事をフェンリルと呼んで可愛がってくれ、わんたは一人息子の健太のお気に入りだ。
 結局、両方が飼われる事となったが、こういう時は父親が涙を飲む物ではないのだろうか?
 おとなげの無い警官である。
 そんなある日、耐えがたい異臭が鼻について、私は立ちあがった。
 何かが来る。
 ドアのガチャガチャという音。鍵は掛かっている。
 わんたと視線を交わしあう。わんたは、さっと健太を上に連れていった。
 やれやれ、防衛は私の仕事か。……望む所だ。
 久々の犯人逮捕、腕が鳴る。
 といっても、今はまだ子犬の身。それに、健太の安全が第一。
 追い出す事を第一目的とせねばならないだろう。

「ガウガウガウガウガウッ」

 猛烈に吠える。犯人は怯むが、向かってきた。む、怨恨か。
 物取りでこれは、ありえないのだ。
 犯人が花瓶を投げつけた。避ける。

「ふええええええええん」

 健太がわんたの制止を振り切り降りてこようとして、また怯えて駆けあがっていった。
 それでいい。さて、どうするか。犬が人を噛んだら、正当防衛でも殺処分の可能性が高いのだ。

「ワンワンワン!」

 わんたの泣き声がする。弟と健太を守る為、生きて犯人を撃退する。俺は覚悟を決めた。
 格闘は長く続いた。私は相手をかみ殺す事も無いが、絶対に犯人を二階へあがらせる事も無い。
 しばらくして、父親が急いで走ってきた。どうやら、電話で知らせたか、近所の者が異変を察知してくれたようだ。

「何をしている!? 健太! 無事か!?」

「ちっこれでもくら……ぎゃあああ!」

 警官に向けられたナイフ。俺はとっさに動いていた。
 そうだ。人を助ける為に命を掛ける。それが俺の生き方だったはずだ!
 思い切り腕を噛む。ああ、でも健太は、わんたは泣くだろう。すまない……。
 父親は、その隙に犯人を逮捕して、救急車を呼んだ。血の味が苦かった。

「健太! いい子だな、ちゃんと困ったら警察に電話出来たな!」

「ぱぱー! フェンリル大丈夫!? めっされない?」

「大丈夫だ、フェンリルの事はパパが守ってあげるから」

 そして、俺は連れていかれた。保健所逃れはどうにか済んだが、人を噛んだという前科からは逃れられない。父親は、その対策として俺に職を持たせようとした。

「こいつ、凄く賢いんです。勇猛だし、ぜったい役に立つから、お願いします!」

「でもねぇ……。フェンリルだっけ? お前はやる気あるかい?」

「バウッ」

「軽くテストさせてもらうよ?」

 そして、指示をされる。スワレ、マテ、アトへ。
 アトへについては自信が無かったが、見よう見まねで頑張った。
 
「凄いね! 訓練済みかい?」

 そう男は褒め、歩調を何度も変えたり、臭気テストをやった。臭気テストなど、初めてなのだが……。
 仕方なく慎重に嗅ぎ、どうにか当てる。

「天才だよ、この犬は! ぜひ預からせてもらいたい!」

「ありがとうございます!」

 そうして、俺は警備犬となった。色々な作法には戸惑ったが、現役時代の泊まり込みの日々を思い出してしまい、苦笑する。
 出来れば、新聞位は見せてほしいものだが。
 それも、何度も新聞を見せてもらうべくチャレンジしたら、呆れたように新聞を読み聞かせてくれるのが日課となった。
 そんなある日、たまたま他の者達と一緒に散歩に出かけた時だった。銀行の横を通りがかり、とてつもない異臭を感じた。
 
「お、おい、フェンリル! マテ! マテ!」

 私は紐を振り切り、ついてくるなと言わんばかりに唸った。そして、銀行へと駆けこむ。
 ……そこでは、今まさに銀行強盗が起こらんとしていた。
女性に刃物を突き付け、金を出せと要求する男。
銃まで持っている。あれは本物だな。まずはあれを倒そう。

「い、犬が……?」

「ガウっ」

「ぎゃああああああ!!」

 一声吠えて、思い切り噛む。ちっ血の味がする。銃を受け取り、走った。

「フェンリル……っ」

 相棒は俺と共にまず銀行の外に出る。出てくれてよかった。相棒を人質にされたら大変だ。
 俺は、銃を投げる用に渡した。

「銀行強盗です、銀行強盗です! 至急応援願います! フェンリル! お前、きちんと犯人から銃を奪い取ったな。行けるな!?」

 言われるまでも無い。
 返事をする前に、俺はまた銀行に駆け入る。自動ドアのスイッチを切ろうとしているのが見えたのだ。
 鼻を引くつかせる。ふん、人質の中にも仲間が、か。
 どうやらこの鼻は、悪人を判別する鼻を持っているようだ。
 全員お縄につけてやる!
 飛び交う銃弾の中を、俺は走った。もちろん、人質が射線に入らないようにする事も忘れない。
 そして、俺は犯人を……人質の振りをして隠れていた犯人も、全てだ……捕まえた。
 銀行の中心に引きずり、武器は端へとなげ、その頂点で猛る心を抑えきれずに吠えてしまう。
 いつのまにやら呆然と見ていた警官達と相棒に気付き、顔を赤らめる。
 彼らの前に行って、尻尾を振って座った。

「馬鹿! 人質まで噛んじゃ駄目だろ、フェンリル、ごめん、ごめんな……! 俺が送りだしたばっかりに……!」

 泣きながら俺を抱きしめる相棒。
 それを制止する警官。

「この顔、見覚えがあります。指名手配犯ですよ」

 目を点にする俺と相棒。そ、そうか。仲間じゃなかったのか。犯罪が公の元になって指名手配されてなかったら危なかった。次から気をつけよう。
 
「しかし、恐ろしいな、この犬は。実質一匹で銀行強盗を制圧か」

「俺知ってますよ、そいつ、飼い主を守る為に人噛んだ犬ですよ」

 犯人逮捕と言ってくれ。
 
「フェンリルは普段はいい子で大人しいんですが……初めてです。こんな獰猛な様子、訓練でも見せないのに」

 失礼な、俺が噛むのは犯人逮捕の時だけだ。

「まあいい、犬屋。今度、困ったら呼ばせてもらう」

「はい、お願いします!」

 おお、これは大金星ではないか? さすが俺。
 俺が帰ると、何故か俺ではなく相棒が怒られた。
 弁解したいものだが、喋れないのは辛い。
その後、本当に警官や刑事から仕事の依頼が来た。
 
「フェンリル名指しで依頼か……。出来るか、フェンリル?」

「バウッ」

 当然だ。
 ある時は、制圧! ある時は、尾行! ある時は、容疑者の判別!
 俺は大活躍を……あれ? 難易度がどんどん上がってないか?

「テロの予告があった。フェンリル、お前にはぜひ犯人逮捕に協力して欲しい」

 うむ、任せろ。

「爆弾なんかはすべて無視! 他の警備犬に任せて、お前は犯人を追うんだ! いいな、フェンリル!」

「いや、それはちょっと無茶じゃ……」

「フェンリル、行けるか?」

「バウッ」

 糞難しい依頼だが、やってみよう、相棒!
 俺はすっと鼻を掲げ、異臭を追う。

「バウバウバウバウバウッ」

「ちょっと署まで来てもらえますか」

「バウバウバウバウバウッ」

「すみません、任意同行をお願いします」

 多い、多いぞ!? 人が多けりゃ犯罪者も多いってことか……。困ったな。

「満田さん、指名手配犯が三人、他にも麻薬不法所持者が十名見つかりました!」

「ええい、フェンリル! 俺達が探しているのはテロリストだ! テロリストの匂いを探せ!」

 そんな無茶な。
 火薬を使ったテロリストだから、火薬混じりの匂いを探せばいいのか!?

「満田さん、実行犯二名捕獲です!」

「フェンリル! ホンボシを探せ、ホンボシを! 雑魚はいるけど後だ!」

 泣きたくなってきた。せめて特徴を寄こせ。テロリストって以外ノーヒントだぞ!
 その後、俺は苦労の末犯人を捕まえた。
 その日のご飯はいつもどおりだった。……。納得がいかない。
 ええい、毎日のように現場に呼ぶのはいいが、新聞を読む暇ぐらい寄こせぇ!
 その後、海外からもスカウトや協力要請、取材が来るようになった。
 俺は今、人間だった頃よりも忙しい日を送っている。
 けれど、世界平和に貢献しているという意識はある。
 充実した日々。俺は今、確かに幸せだ。



[29949] 美しき犬の花、フラワー(オリジナル犬シリーズ)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 23:03




「フラワーさん、こっちに視線下さい!」

「フラワーちゃあん、今日も可愛いわぁん」

 カメラマンやスタッフの声に、私は微笑む。
 私は女優。女優フラワー!
 私は世界で一番美しい。そう、例え犬でも!


 私は葛城由美。女優として、これでも名前を馳せていた。
 死因は、ファンの無理心中。
 私とした事が、失敗した物である。
 そんな私の夢は、やっぱり女優になる事。例え、犬でも、そんなの関係ない。
 私は女優。誇り高き女優なの!
 さて、どうやってのし上がってやろうかしら?
 捨て犬からのスタートは厳しいわね……。お腹減ったわ。
人が通りがかる度に、可愛らしく鳴く。ううん、可愛い犬の演技が今一掴めないわ。
それでも努力の甲斐あって、親子が通りかかって、ミルクを献上してくれた。
他の子が飲むのを確認してから飲む。だって私、お姉さんだものね。

「わんたー! わんたー! ママ―!」

「ごめんね、うちじゃこんなに飼えないわ」

 ううん。この家に拾われるのは、こちらとしても考えものね。犬のデビューとか、考えてくれなそうだもの。とはいえ、このままだと死んじゃうのも事実。
……って何!?
いやっカラス!

「マーマー!」

「こら! やめなさい!」

 私達の上に圧し掛かって私達を守ろうとする幼児。も、もっと頑張りなさいよ!
 鞄を振って追い払ってくれる女性。そう、そこよ!
 それがきっかけで、飼い主が見つかるまでという事で私達は家に入れてもらえた。
 温かいお湯で洗ってもらい、タオルとドライヤーで乾かして貰う。
 ミルクと、ふやかしたパンを貰った。
 美味しいわ。

「おっ子犬か!? 可愛いな!」

「キューンキューン」

 旦那さんが帰還したようね。警察官か……。放り出されるのは嫌だし、ご機嫌でも取っておこうかしら。

「はっはっは、かーわいいなー。拾ってきたのか?」

「ええ、飼い主を探そうと思って」

「家でも一匹ぐらい飼ってもいいんじゃないか」

「わんたー!」

「うん、わんたわんた」

 私は遠慮するわ。良い飼い主を見つけないと。
 
「じゃあ、写真撮るぞー!」

「きゅーんきゅーん」

 ま! ぼろいカメラ! 拙い手つき! 私の美しさがそれじゃ表現できないわ。
 しょうがないわね。演技力でカバーするわよ。

「かわいいなー。お前達、写真好きか?」

 当たり前じゃない。基本よ、基本。
 その後、トイレに案内されたわ。ちょっと! トイレの数が少ないわよ!
 それに、鏡から遠いじゃない!
 もう、仕方ないわね。
 私は出来る事をした。ウォーキングや、可愛らしいポージング。凛々しい顔から狂犬まで。演技力は磨かないとね。
 ここの幼児……健太くんは、それを飽きずに見つめている。ふふん、私の美しさにメロメロってわけね? 
 数日して、旦那さんや奥様のお友達がそれぞれやってきた。
 吟味したけど、駄目。いい人がいないわ。
 時に職場に出張する場面もあった。もちろん、いるのは警察官ばかりで芸能人はいない。私は半ばあきらめかけていた。

「可愛いですねー」

「可愛すぎる……」

「もうおてとか出来るぞ」

「本当ですか? おて!」

 仕方ないわね。
 私達は同時にビシッと手をだし、警察官たちは爆笑した。
 
「本当に賢いなー。私はこういうの大好きでね。映画向けの子犬のオーディションがあるんですが……」

 なんですって!?

「キャンキャンキャンキャン!」

 私は一所懸命アピールする。私は! こんなに! こんなに! 可愛いわ!

「そうか、出たいか! 先輩、いいですか?」

「ああ、いいぞいいぞ」

 ああもう、嬉しくて仕方ないわ!
 尻尾が自然に揺れてしまう。嬉しさをアピールすると、警察官も笑ってくれた。
 いい? 貴方はしっかり私のマネージャーよ、頑張るのよ!
 そして、オーディション。
 飼い主意外と触れあっても大丈夫か? どんどん触れちゃって!
 尻尾とか振っちゃうわよ、大人しいわよ!
 他の犬と共演できるか? 当たり前じゃない!
 お座り、待て? 任せてよ!
 そんなこんなで、私は合格した。
 そして、戯れに周りの人がかけてくる命令にはどんな事でも従った。
 車を追いかけて、取って来い、お手、お座り、待て……。
 演技に必要な物はもちろん、戯れのスキンシップまで。
 下積みから始めるのよ、フラワー!
 
「うわぁー、このワンちゃん、可愛いなぁ。いいなぁ」

「飼い主募集中なんですよ、この子」

「え、そーなんですかぁー! じゃあ! この子、私に下さい!」

「女優さんに貰って頂くと喜ぶと思います。いいか、フラワー?」

 私はちぎれんばかりに尻尾を振った。よろしくね、愛美ちゃん!
 愛美ちゃんは、まだ女優としては未熟で、悩み事とかも沢山あるようだった。
 先輩たる私なら、助けになるだろう。
 私は、時に愛美ちゃんに寄り添い、時に演技に力を入れて頑張った。
 映画の評価は、上々!
 犬の演技が可愛い、と評判だった。
 それと、スキンシップの時の縁が元で、バラエティに愛美ちゃんのおまけとして呼んでもらえた。
 次も、また呼んでもらえるようにする為には、努力しないといけない。
 私は、意図してミスして笑いを誘った。

「フラワー! 映画のテストするから真面目にして!」

 キリッ

「フラワー、バラエティだから気楽に行こうか」

 ほにゃにゃーん

「いや、いいねぇ、凄いよフラワー! わざとミスする犬なんて初めて見たよ!」

「ありがとうございます、ディレクター!」

 愛美ちゃんも嬉しそうだ。

「いやいや、お礼言っている場合じゃないよ、愛美ちゃん。愛美ちゃんもこの演技力、学ばなきゃ」

「はい、ディレクター!」

 大丈夫、貴方なら出来るわ、愛美ちゃん。
 頬を舐めると、愛美ちゃんはくすぐったいって笑ってくれた。
 CM起用、ドラマ起用。私は、着々と大女優への道を歩んでいた。
 そして、フェンリルやワッフルの活躍により、私達の血統が注目される事となった。
 でも、段々と実験じみて来た番組の内容に、私は切れてしまった。

『私、モルモットじゃない。女優なのよ!』

 思わず、そう足で引っ掻いて地面に書いてしまったのだ。しまった。
 けど、愛美ちゃんは私を抱きしめてくれた。

「そうですよ、ディレクター。フラワーはどんな難しい役でもこなせるけど、でも、女優であって学者なんかじゃないんです。お願いします。フラワーに、演技力の必要な仕事を下さい!」

 そう頭を下げる。愛美ちゃん。
 私達はじっとディレクターを見つめる。

「……わかった。今度、映画の話をしよう。ただ、それは天才犬という設定だ。これが私の折衷案だ。それと、言葉が理解出来て女優だっていうんなら、もっと要求あげるぞ!」

「ディレクター! ありがとうございます!」

「愛美! お前もペットに追いつく様にしろ!」

「はい!」

 ありがとう、ありがとう愛美。私は、思わず愛美の頬を舐めていた。
 そして、とうとう映画化も決まり、私達の特集が組まれたのだ!

「それでは、天才ワンちゃんの登場です! まずは我らがワンドル、大女優のフラワーちゃん!」

 歓声に私は応え、流し目をする。誇らしかった。

「お次は、今目覚ましい効果をあげている、フェンリル!」

「作曲大好きDJ犬、ワッフル!」

「気分はすっかり研究助手! アルファ!」

「いつも警察官をお手伝い! 最近は案内もするんです、スター!」

「遠征では大活躍! 災害救助犬のリーバー」

「鑑識課でお手伝い! レンズ」

「そして飼い主さんの所で元気に育つ、わんた! 以上、8匹のワンちゃんです。警察官に拾われただけあって、警察官の元で働くワンちゃんが多いですねー」

 その紹介に、私は末弟を心配する。わんたって能天気でいい子なのだけれど……。

「それでは、そんなワンちゃん達のVTRを見てみましょう」

 私達の華麗なる活躍が報道される。けれど、わんたは普通に遊んでいる様子だけだ。
 誇らしいのと同時に、わんたが心配になる。大丈夫かしら、あの子?
 一人だけニートなんて考えなきゃいいけど。私達、犬だから健太君のお友達も立派なお仕事よ?

「さて、わんたくん。あいうえおカードがここにありますが。わんたくんの将来の夢は、ありますか?」

 むむ、そこで間違えるとは、やるわね、わんた。あんた困ったら芸人になりなさいよ。

「なんという天才犬でしょう! 実はこの兄弟は全員言葉を理解してる節があるんですね。わんたくんは、消防士になりたいのかなー? しょうぽうしって、可愛いねー」

「わんた、消防士になりたかったの……。フェンリルみたいに行っちゃうの……?」

 さっとフェンリルが駆けより、健太くんを舐める。
 わんたは、戸惑った表情で健太を見るばかりだった。
 消防士、出来るの? 貴方に? それは茨の道よ……。
 しかし、夢の為に、人は命を掛けられる事を知っている。
 私も、映画にスタントマンなしで挑むつもりだ。
 テロリストに作られし天才犬というのが私の役どころ。危険なシーンもいくつもある。
 けれど、私はやり遂げて見せる。


 一年後。
 どこのニュースでもやっているのは、「犬の衝動」という映画のニュースばかり。
 大絶賛である。
 ハリウッドからもスカウトが来ており、私は主演犬賞という新設された賞を頂いた。
 ここが、私の頂点。
 私は、犬になって夢をかなえたのだった。




[29949] 音楽に生きるDJ犬、ワッフル(オリジナル犬シリーズ)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 23:04




「お願い、ワッフルさんの書いた曲で歌わせて下さい!」

 おいおい、困るぜ、お嬢さん。悪いが予約でいっぱいでね。

「もし歌を書いて頂けるなら……お膝に乗せて撫で撫でしてあげます!」

 いいぜ、やってやるよ、綺麗なお嬢さん。約束、忘れんなよ……むふふ。
 俺って、モテモテだな。







 俺は夏梅誠也。将来の夢は音楽家。
 家のパソコンは音楽系のソフトと音楽でいっぱいだ。
 死因は、落雷死。ひっでーよな。
 でも、犬として生を受けたからには、その夢とはおさらばさ。
 ま、仕方ないやな。
母犬は死んでしまい、俺達は母犬の懐で途方に暮れていた。
腹が減っていた。俺、このまま死ぬのかな……。
人が通りがかる度に、可愛らしく鳴いてみるが、誰も足を止めやしねぇ。
親子が通りかかって、ミルクを寄付してくれた。ありがてぇ。
それでも、最初なんとなく戸惑ってたけど、皆が飲み始めたから俺も飲んだ。

「わんたー! わんたー! ママ―!」

「ごめんね、うちじゃこんなに飼えないわ」

 綺麗な女性が離れていく。そこに、俺達を襲うカラスが! 俺様ピンチ!
 
「マーマー!」

「こら! やめなさい!」

 俺達の上に圧し掛かって俺達を守ろうとする幼児。
 鞄を振って追い払ってくれるママさん。
 それがきっかけで、飼い主が見つかるまでという事で俺達は家に居候出来た。
 温かいお湯で洗ってもらい、タオルとドライヤーで乾かして貰う。
 ミルクと、ふやかしたパンを貰った。
 美味い。

「おっ子犬か!? 可愛いな!」

「キューンキューン」

 うげっ警察官か―。苦手なんだよな。俺、悪い事してないっすよ。

「はっはっは、かーわいいなー。拾ってきたのか?」

「ええ、飼い主を探そうと思って」

「家でも一匹ぐらい飼ってもいいんじゃないか」

「わんたー!」

「うん、わんたわんた」

 うーん、ここで飼われるのか。パソコンが無いのはちょっとな……。
 
「じゃあ、写真撮るぞー!」

「きゅーんきゅーん」

 精々写真写りよくして、オタクにでも飼われるZE!

「かわいいなー。お前達、写真好きか?」

 ま、好きな方じゃね?
 その後、パパさんから躾をされた。トイレの場所を教えてもらったのだ。
 失敗したからって、逮捕されねーよな……?
 数日して、パパさんやママさんや幼児……健太のダチがそれぞれやってきた。
 時に職場に出張する場面もあった。営業を頑張っているようだが、俺は遠慮だなー。
 ん? その携帯、ボーカロイドのミクじゃね? あんたミク持ってんの?

「可愛いですねー」

「可愛すぎる……」

「もうおてとか出来るぞ」

「本当ですか? おて!」

 条件反射で手を突き出しちまったぜ、そんな笑うなよ。
 
「本当に賢いなー。私はこういうの大好きでね。映画向けの子犬のオーディションがあるんですが……」

「キャンキャンキャンキャン!」

 おお、元気だな、フラワー。お前、女優志望かい?

「そうか、出たいか! 先輩、いいですか?」

「ああ、いいぞいいぞ」

 そうして、フラワーは、はちきれんばかりに尻尾を振り振り、旅立っていった。
 しっかりやれYO!
 さて、俺はというと、ミクの携帯を持ったでぶいにーちゃんに興味を示していた。
 近寄ってアピールする。

「お、ワッフルは遠田君が好きみたいだな」

「ええ、俺っすか?」

 おでぶくん、遠田っていうのか。よろしくな!
 ぺたんと座ってワンと吠えれば、遠田君は戸惑いながら俺様を抱き上げた。
 そして、俺様は遠田君の部屋へと直行した。
 うっわ。汚い部屋! しゃーねーなー。ちったぁ掃除手伝ってやるか。
 ちょっと掃除を手伝ったら、さすがに犬に心配されるのは嫌だったらしい。
 一所懸命に掃除をしだした。
 そして、食事を分けてくれる。
 おお、人間の食事か。俺としてはそっちの方がいいや。ただ、犬だ駄目なもんは俺が見分けなきゃな。
 手間のかかる飼い主だぜ。
 そして、遠田君はコンピューターをつけた。
 よっ待ってました!
 俺はもう大喜びで、早速パスワードを盗み見る。
 ソフトは……いよっし!
 最低限のは入ってる!
 そして、俺は音楽を夜な夜な作りあげた。
 CDに大切に音楽を保存して、ベッドの下に隠す。
 そして半年後。
 俺は作った音楽を某動画サイトにアップした。
 反応は、上々だ。カラオケ、行けるかもな。
 よし。カラオケアンケでぎりぎり入った!
 口座番号? 遠田の入れておくか。
 ネタ歌も作るか。
 幸い、警察官の遠田はしょっちゅう家を開けるからな。
 音楽を作る時間はたっぷりある。
 美味い飯、趣味に生きる毎日。いいねー。
 そんなある日、俺は散歩につれられた。そして、他の警察の人と会う。

「よう、遠田。なんだ、相談って」

「小坂さん……。なんか、俺、犯罪に巻き込まれてる匂いがするんすよ……」

「どうした、なんなんだ?」

「やー……。全く覚えが無いのに、何故か口座にお金が振り込まれるんすよ……。しかも、ちゃんと名前とかもあってるんで、間違いって線は薄いです。出世に響くと思うと、俺、上司に相談も出来なくて……。これから、振り込んでくれたところと話しあいに行くんすけど、一緒に来てほしいなって」

「ん、そりゃ……怖いな……。わかった。一緒について行ってやろう」

 そんなわけで、俺はドキドキしながらレコード会社へと行った。

「それは、災難でしたね。ですが、私はこのネットユーザー、マシュマロさんの住所と口座番号とお名前をメールで伺った通りに手続きしただけです」

「誰かが成りすましてるのか? 何のために?」

 考え込む三人。

「ちょっと調べさせてもらっても良いですか」

 結果は、もちろん遠田のパソコンから発信されたとわかった。
 更にパソコンを探して、データも発見。

「俺、二重人格なんでしょうか……」

 震える遠田。じゃっかん引きながらも心配する小坂。

「ま、まあ、家族の悪戯かもしれないじゃないか!」

 見てられなくなった俺は、ベッドの下に隠してたCDをセット。
 ファイルを開いて、音楽を流した。
 目を点にする二人。

「ほ、ほら、家族の悪戯、だった……」

「ばうっ」

「うわぁっ」

「おわぁっ」

 怖がる事ねーじゃん。
 それから、俺はDJ犬としてデビューした。
 それと、これは遠田の出世に響いてしまったらしい。ごめんな遠田。
 その分俺が稼ぐから許して。
 最初は怯えられたが、今は普通に仲良くできている。
 ネタ曲として創った遠田応援歌集が見つかったのが原因だ。
 それを同僚に歌われ、二人恥ずかしさに顔を覆ってしまったのも、その後説教されたのも記憶に新しい。
 それから、俺は結構楽しく人生をやってる。
 やっぱり、人生は人に迷惑かけねー範囲で楽しく生きなきゃNA!





[29949] 神様になりました
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 23:05



 神様になった。な、何を言ってるかわからないと思うが俺もry)
 とりあえず、加護を人間に施せるらしい。
 ときたら、施さないわけがないじゃないですかー!
 ネタキャラ、作らないわけが無いじゃないですかー!
 一応、他の神が加護を与える時もあるらしいが、その場合は普通のチートキャラが出来あがるらしい。
 て事は、なおさら普通のチートキャラ路線は無しだな。
 ああっ夢が広がる。
 つーことであれだ。
 まずは神官ゲットだぜ!
 よし、あそこの綺麗なねーちゃんが良い。

『おい、そこの』

「ひゃ、ひゃあ!?」

『お前、俺の神官になれ。魔物退治しそうなイキのいい若者を祝福しろ』

「あ、あたしがですかぁ!? あ、あの。はい」

 女の子は、こまった顔をして頷く。
 女の子は貴族だったらしい。
 早速使える騎士や兵士に祝福をした。
 まずは、掴みが必要だ。いきなり職業・メイドさんとか言い出したら、向こうも困るだろう。
 と言うわけで、戦士スキルを与える。

「これは……随分と弱い加護ですな」

『魔物を倒せば倒す程、加護が強くなっていくのだ。俺への忠誠を未だ示してもいない者に力を与えるはずもなかろう? それと、物を持ち運べる術を掛けたので、倒した魔物は解体し、私の導く植物は全て採集せよ。取りつくさん程度にな』

「こ……これは! はっかしこまりました!」

 そして、彼らは交代で魔物退治に行く。
 彼らは調子よく十レベルまで上げた。
 いよいよ、鍛冶・調合編である。

『では、材料を使って調合を行う。調合方法は……』

 兵士達は、驚きの眼差しで作りだした物を見ていた。

『これも、調合するほど力が上がる。励めよ』

 そっだて育てー。
 さて、兵士達が育ってきたら神官職とか魔法職とか作って、そっからネタキャラだな♪
 とか思っていたら、他の神が来た。

『貴方は、最近面白い加護を与えていますね』

『ああ、面白いだろ。これ、予定表』

 パサっと出した予定表を興味深く見ていく神々。
 その後……。
 神官職とか魔法使い職が増えてました。
 戦士職はちょっと……だってよ!
 ぐんぐん減ってく俺の信者!
 ちょっと待てぇぇ!
 くそ、待て、これは手間が省けたと見るべき。今こそネタキャラを!
 と言う事で、メイド職を出してみた。

「メイド(笑)」

 きー!
 上手くいかない!
 畜生、最初にこの手の加護を授けたのは俺なんだぞ!
 こうなれば……秘儀! 異世界転生!
 俺は異世界からネタキャラ好きのゲーマーの魂を引っこ抜いて行く。
 魂を引っこ抜かれたら死ぬんじゃないかって?
 当たり前ですが何か!? 負けるわけにはいかんのだぁぁぁぁぁ!!
 そうして俺はメイド軍団を編成し、魔王をメイド軍団だけで倒させた!
 上昇するメイド軍団の地位。
 しかしメイド達は、ご主人様を探すべく散ってしまった。
 それらはあるいは貴族王族の用心棒に、あるいは魔法使いを、戦士を、神官を主と選び、傍仕えして生きた。
 ちょっと職業補正の性格変動が効きすぎていたみたいである。
 しかし、伝説は出来た。信者も出来た。
 そうして、俺は次のネタキャラを作る。
 なんだろう。何にしよう。そうだ。小さい世界を作って、神様なんてキャラはどうだろう……。
 俺が作った神は、早速宗教とネタキャラを創りだし……。



[29949] 医師
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 23:06


「お医者様はいませんか?」

 もちろん、病院だから医者はいる。ただし、空から羽の生えた青年が降りてくるとなると、話は別だ。

「ああああ、あの、なんのご用件でしょうか」

「実は、私の管理する世界の、愛し子達のいる神殿で疫病が発生して困っているのです。どうか、医師の派遣をお願いします」

「それは、返してもらえる物なのでしょうか」

「もちろん、疫病が収まったらお返しします。翻訳の呪文も授けます。受診料として、私の加護を差しあげます。どうか……」

 院長は汗をだらだらと流した後、希望者を募った。

「出張異世界ですか……。異世界があったってのが驚きですが」

「園田君、君が、その、疫病の治療に一番だね、その……」

「いいですよ、行ってきます」

「そうしてくれるかね!」

「この病院で、施設が無い所での治療に慣れているのは俺しかいませんからね。神様のお願いなら、仕方ありません」

 そう答えつつも、心の中は薔薇色である。チートとか異世界ものとか、好きだったのだ。
 鞄に医療道具をこれでもかと言う位詰め、完全装備をして患者の引き継ぎをして青年の元へと向かう。
 青年はほっとした顔で俺の手を取った。気付けば、そこは神殿の病室だった。
 ずらっと並んだベッドに苦しむ人達。

「大丈夫、今助ける!」

 早速、治療を開始した。
 症状は高熱、色々話を聞いて、空気感染だという事を悟る。
 一週間ほどあれこれ試した結果、画期的な治療法を発見し、病気は劇的に治っていった。
 病気は神殿外にも広がっており、収束には二カ月を要した。
 ゆっくりとした時間を取る事が出来たのは、こちらに来てから三ヶ月して、ようやくだった。
 この世界特有のお茶を貰い、神様と愛し子さんと話す。

「フューラさんは、治癒の神殿長として長いんですか?」

「ええ、そうです。治癒の神殿長でありながら、お恥ずかしい……」

「いえいえ、そんな事はないですよ。フューラさんのお力は素晴らしいと思います。どんな怪我も治してしまうなんて。それも、腕や足の欠損まで癒せるなんて!」

「病気を治す薬、というのはこちらではない概念です。園田さんこそ、凄いです。人が病気の時、私達に出来るのは、活力を与える事だけ」

「それはそれで凄い事ですが、治療法も学ぶべきだと私は思いますね」

「そこなんです! 私はちゃんと、薬草も創造しているんです。貴方達の世界のような治療が、出来るはずなのに、この子達と来たら即物的な治癒呪文しか学んで来なくて……。園田さん。どうか、この子達に色々教えてあげてはくれないでしょうか」

「ええ!? しかし、ここの薬草の効力なんてわかりませんよ!」

「薬草の効果を教えるのはズルなので出来ませんが、往復能力はお付けしますから、よろしくお願いします。そうそう、御約束してた私の加護です。身体能力強化と癒しの術です」

「あ、ありがとうございます。んー。じゃあ、やってみますか……」

 正直、異世界の者の力を借りるのはズルじゃないのかと思ったが、俺が口出す事じゃない。
 こうして、俺は異世界から帰還した。

「おお、園田君! どうだった!?」

「病気はしっかり治してきました。謝礼として、癒しの術を貰いましたよ。術後の経過の悪い患者さんがいたら呼んで下さい。それと、新たな仕事を貰いました。薬草を探すので、この草の山を解析しないと」

「そ、そうか。しかし、まずは私達医師の体で試して行かないとな」

 効果は劇的だった。これで、体力のない患者さんも手術を受けられるようになる。
 怪我の治癒も、実験的に少しずつ行う。
 腕の欠損を治すと、噂が噂を呼んで世界中から患者がやってきた。
 こちらからも、医師が向こうの世界に講義に何度も出かけた。
 薬草も次々と判明していて、ちゃっかりこちらでも栽培・薬として厚労省に登録を申請したりしている。
 そんなある日。歩いていた園田は、急に何かを口に押し当てられ、眠くなった。
 気がつけば、縛られて転がされていた。

「お前は、俺達が指示した人間だけを癒すんだ」

 聞こえるのは外国語で、大もうけだぜ、という言葉。
 園田はため息をついた。
 身体能力強化の加護を貰っている園田は、ゆうゆうと紐を引きちぎって犯人を捕まえ、警察に突き出した。
 そして、院長に相談する。

「少し、治癒の力が有名になり過ぎたからね。ほとぼりを冷ました方がいいのかもしれないねぇ。異世界に出張してみる?」

「いいですね」

 と言う事で、再度異世界出張をした園田だった。
 異世界では、薬草の栽培などが進んでおり、順調に講義も行われているらしかった。

「頑張っているな、フューラ」

「園田さん!」

 嬉しげに駆けよって来るフューラに、笑いかける園田。
 一年も出張している内に、フューラと恋仲になり、結婚を決意する。
 その時だった。

「そろそろ、知識を蓄えたので異世界交流を廃止したいと思います。世界をずっと交わらせると、害が生じますからね」

 フューラと園田は、神の言葉に悩んだ。
 そして、フューラは決意する。

「園田さん。私を、お嫁さんにして下さい!」

「いいのか? 一度俺の世界に来てしまえば……」
 
 それでも、フューラは首を振った。
 抱きついてくるフューラ。
 絶対にこのぬくもりを、離さない。
 そうして俺達は結婚し、医学の発展に全力を尽くすのだった。



[29949] ありがとう
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/09/28 23:06


転生しました。犬に。しかも魔獣っぽいです。わおん。
成獣になりました。群れから追い出されました。わおん。
魔獣の世界はテラ厳しいです。にしてもメスを追い出すとかテラないわー。魔力を固めてフリフリドレスを着ていたのが悪かったのかしら。あいつらのテレパシーは原始的でよくわからん。まあ、生きていくすべは大体教わったからいいや。
行くあてもなく、ただ何か惹かれる方向に歩いていたら、赤子を拾いました。わおん。
豪奢な服を着た青年が、赤子を抱いて事切れていたのよ。矢がいっぱい刺さっていた。足跡すらなかったし、多分転移して来たんじゃないかな。そういう術がある事は知っている。
赤子は双子の男女でした。人間世界もなんだな、厳しいやね。
乳出るかな。魔力を胸に込めて、ちょちょいとな。出た。魔力過多だが問題なかろう。
よし、今日からお前達は私の子だ! 良いとこの子供っぽいから、ちゃんと教育もしてやんよ。私を引き寄せる程度には魔力あるようだしね。
私はよさげな洞窟を住処と定め、草を集めて寝床を作り、そこで赤子を育てた。
狩をする時に留守にするのが心配だったけど、それで赤子が何かに食われたらそりゃ運命と言うものだ。幸い、赤子は生き延びた。まあ、近場にドラゴンの巣もあったから、早々外敵は近寄って来ないっしょ―。
乳を飲む子にテレパシーで様々な事を語りかけ、歌ってやった。
段々と、子供もテレパシーで話すようになった。子供は自分の名前を知っていた。システィアとキルディスって言うんだって。ふーん。
三歳になると、私は二人を狩に連れていくようになった。
こんがり焼いた獣の肉を何度も咀嚼して娘に与える。これが初めての離乳食だ。大分遅いけどね。
システィアは大分気にいってくれたようだった。さすがに我が子は逞しいわー。
親子団欒をしていると、ドラゴンが降りてきた。それは女戦士の服をしていた。でも、私は知っている。ありゃ私の術のパクリだ。いつか、人化の術をパクリ返す所存である。

『あら、ご機嫌よう、誇り高きトカゲさん』

「ご機嫌よう、賢き犬ころの娘よ」

『今日はいかが致しまして?』

「娘、そなたに頼みがある。どうしても外せない用事があって、一月後、我はここを離れねばならぬ。……戻って来れぬかもしれん。我が子、大切な卵を頼んでも良いだろうか。このような事、そなたにしか頼めぬ。異種族を平然と育てるそなたにしか、な」

『随分と買い被っておられるのね。いいけど、私は自分の子として育てるわよ』

 女戦士は、苦悩の表情を浮かべた。

「……仕方あるまい。それが筋だ。ついては、一か月ほど竜族のしきたりを教えさせてほしい。そして、我が子に引き継いでほしいのだ」

『竜族の秘義を教えてもらえるなんて、願っても無いわ』

 勉強は大変だったが、良い暇つぶしになった。野生の生活は厳しいうえに退屈なのだ。
 文字と言葉を教えてもらった時の安堵と感動は言いつくせない。これで、テレパシー以外で会話が出来る。犬だから話せないけど、子供達はいずれ人間に接触する事もあるだろう。テレパシーの効きにくい生き物もいる。その時、言葉を話せないようでは困るのだ。
 それに、竜族秘伝の薬の作り方も教えてもらった。テレパシーによる高速伝達には本当に感謝だ。
一か月、食事の面倒を見てもらえたのも大きい。そして一ヶ月後、卵は孵化し、女戦士は切ない様子で生まれた男の子を抱きしめた。

「可愛いわが子。お前の名は、ガースだ。ガース、母はいつだってお前の幸せを祈っているからな」

 そうして女戦士はガースに一つの魔力を籠った宝石を与え、飛び去った。なんでも、卵を産む時に流す一粒の涙が宝石となるらしい。システィアとキルディスも、御大層なペンダントを持っていた。
 まあ、こんな荒野じゃそんなものに意味なんざないけどね!
 にしても、女戦士のいた洞窟は、家として整っていた。本や色々な武器、布や服。金貨。
 好きにしていいとの許可は得てあるし、どうやら世界観は西洋っぽい。
 そこで私は考えた。
 システィアはなんちゃって礼儀作法を教えてなんちゃって淑女に。キルディスはなんちゃって忍びに。ガースはなんちゃって賢者に。
 本物を知らないから、なんちゃってになるのは仕方ないけれど。
 精々好き勝手やらせてもらいますか!
 そして、五年が立った。子供達は8歳と5歳である。
 ようやく、三人はバリアジャケットの術と、ガースは人化の術を覚えてくれたのである。
 私は未だに人化の術を使えない。保有魔力、ドラゴンに比べたら少ないからね。今、なんとか効率のいい術の使い方を研究中である。

「お母様、人間の町に行くって本当? なんだか怖いわ」

「心配いらないよ。お母様も一緒に行くのだから」

「楽しみ―」

『そろそろ貴方達も広い世界を知るべきだわ。それに、色々買い物したい事があるの』

 私は、子供達を引き連れて長い旅に出た。
 その末に、小さな村に辿りつく。
 小さな貴婦人と賢者、黒づくめの護衛の少年、大きな狼に金貨の報酬、それはやはり人目を引いた。
 ちなみに、三人の宝と言うか形見と言うかは、大騒ぎになる可能性も懸念して私のお腹の中に隠してある。金貨に関しては、賢者服にガースしか手を入れられないポケットを作った。

「この報酬で、王都まで連れて行ってほしいのですが、よろしいでしょうか」

 私が指示してガースに出させた金貨に、村人は目を丸くした。一枚が報酬、一枚が旅費である。

「し、失礼ですが、貴方は……」

「それを言う義務が私にありますか?」

「おい、やめろよ。厄介事に巻き込まれるつもりか」

 村人がなおも聞こうとするのを、他の村人が止めた。

「賢明な判断ですね」

 にっこりとガースは笑う。演技の練習の甲斐あって、中々の賢者っぷりだ。
 そして、村人達は旅支度をして、私達を連れて行ってくれた。複数なのは、貰った金貨で買った物を持ち帰る為だ。
 途中、盗賊が出たが全て私が排除した。
 町につくと、その盛況さに目を丸くした。システィアとキルディスなど、互いに手を握り合って不安げにしている。
 村人の大半はここで買い物をして村に帰る事になる。
 村人は許可を取ってここで馬車と宿を取った。システィアがいるので、この町ではかなり良い方の宿である。私は馬屋に収容される事になった。犬だから仕方がない。
 そこでの食事はシスティア達に感銘を与えたようである。料理は習わせようと思っていたから、良い兆候だ。
 その日、盗人が出たがシスティアとキルディスが軽く片づけた。
 翌日、馬車が出発する。
 そうして町から町に渡る内、やたら強い貴婦人が、賢者と魔獣、少年の護衛を引き連れて王都に向かっていると言う噂が広まっていた。
 そんな時だった。向かった先で、魔獣の群れが町を襲っていた。
 私はそれを見て、とっさに雄叫びをあげる。

『どうして!?』

 人と争い、やがて狩られる愚かさを込めて。それに対する返事は、戦いの愉悦。殺戮の衝動。
 魔獣達は、こちらにも向かってきた。

『お母様、お手伝いさせて下さいまし』

『母上、僕も戦います』

『戦う―』

 子供達は良い子である。そして豪胆だ。これだけの魔獣に欠片も恐れがない。
 私は、思い切り力強く大地を蹴った。
 システィアが鉄扇を振るい、キルディスが棒手裏剣を放つ。
 それは、もちろん魔力で強化されている。
 ガースが、杖で持って火球を出した。
 戦っている最中に、戦士達がシスティアの周囲に集まる。

「嬢ちゃん、ここは危険だ! 逃げるんだ」

「危険? この子達程度に負けるだなんて、心外ですわ」

 システィアはあくまでもなんちゃって上品に敵を倒す。それはさながら、舞う様に。

「貴方方、邪魔でしてよ。私に道を開けなさい」

 きっぱりと言い放ち、システィアは魔物に切り込んでいった。
 私の背に飛び乗り、システィアは楽しそうに戦う。魔獣の私よりもよっぽど魔獣っぽい子である。
 狙う先は、この群れを率いるリーダーの魔獣。
 システィアは、それはそれは楽しそうに扇を振りおろした……。
 リーダーを倒された魔獣の群れは、蜘蛛の子を散らすように散っていった。
 ふふん。

「システィア様。お怪我は」

「無いわ」

 私達はそのまま、町の町長に招待された。

「いやはや、助かりました。失礼ですが、貴方方は一体……」

「何の変哲もない旅の者ですわ」

「しかし、さぞかし名のある名家の方とお見受けしますが……」

 その言葉にシスティアは首を振る。

「それより、あの魔獣の群れは一体どうしましたの?」

「実は、魔王復活の噂が流れているのです。魔王は、ようするに魔獣使いですな。アレがおると、魔獣が凶暴化するのです。まだ弱い今の内に討伐をする為、王都に兵を要請している所です」

「まあ……」

 まあ。それは放ってはおけないわ。

「その魔王は、どこにいますの?」

「凶暴化した魔獣の中心にいるので、すぐわかります」

 そうして、町長は地図を指し示す。
 システィアは、ニコリと笑った。
 えー。それで。
 殲滅しちゃいました。魔王。
 だって魔獣を操るとか怖いじゃん。洗脳とか、ごめんでしょ?
 でもさすがに血濡れになってしまった。
 子供達には、巻き込んで申し訳ない事である。
 町に行くと、町長さんは慌てて医師を呼んでくれたが、それを止める。
 自分の治療くらい、自分でできるわよ。
 そうこうしている内に、王都から使者が来た。

「そなたらは何者だ!? ……貴方様は、もしや……!」

「なんですの?」

「生きて、生きておられましたか……! 会ったのは赤子以来ですが、その魔力の波動、忘れた事はありません。システィア王女殿下、キルディス王子殿下!」

『どうすればいいの?』

『どうしたいの?』

 私達はしばらく話しあってから、答えた。

「例え私達が王子王女であったとしても、それは過去の事。今、国に新たな混乱を起こすつもりはございませんわ。上に立つのが誰であれ、善政さえ敷かれればそれが正義なのです」

「システィア王女殿下……! ご立派になって……! いえ、王子王女にはなんとしても帰って頂きます。今の陛下は傍流も良い所。クーデターを起こした将軍は処断いたしました。皆、貴方方が生きていればと申しております。陛下でさえも」

 そうして、あれよあれよという間に王都。
 私とガースはお客様として滞在を許されている。
 システィアとキルディス、大変みたいだなぁ……。
 呑気に過ごしていると、ドラゴンの女戦士が子供を引き取りに来た。
 元々魔王対策で出ていたらしい。まあ。
 そんなこんなで、私は一人となってしまった。
 ……。帰るか。平原に。
 のっそりと、私は歩く。わおん。
 そして私が帰って、しばらくした時だった。
 ある日、根城に帰ると、垂れ幕が掛かっていた。

「お母さん、お誕生日おめでとう!」

「生まれて来てくれて、ありがとう!」

「育ててくれて、ありがとう」

 苦笑するドラゴンの女戦士と王子王女お付きの兵士達。広げられたご馳走。
 私は、間抜け顔でポカーンとする。

「お母さんがいなくて、寂しかったよ。ずっと一緒にいてよ」

 子供達は声を合わせる。

「これからもよろしく!」

 私は、ぽろぽろと涙を流していた。



[29949] フェンリルのお見合い(オリジナル犬シリーズ)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/10/03 07:43
 俺のバディ、フェンリルは、警備犬である。
 とても優秀な警備犬である。
 初めは、飼い主の警官を逆恨みで襲ってきた犯人。
 次は、銀行強盗とそこに居合わせた指名手配犯。これだけでも、大金星だ。
 活躍の機会が少ない警備犬だが、フェンリルの名指しで依頼が来た。
 これは素晴らしい事だ。
 この機会に他の警備犬も売り込みたい。
 だから俺は、ドキドキしながらフェンリルと共に現場へと向かった。
 状況は、コンビニ強盗の立て籠りだった。最近強盗が多いなぁ……。
 任務は、犯人にナイフを押し付けられている人質の救出。
 状況説明の時、耳をそばだてていたフェンリルに、たまにこいつは人の言葉がわかるんじゃないかと思う。
 新聞を読んでもらうのが大好きだし、とても賢いから。
 だから、俺はフェンリルにも丁寧に状況を説明する。

「フェンリル。行けるか?」

「バウッ」

 そして、フェンリルは駆けだした。
 あれ、何か覇気が無い……。フェンリルはどちらかというと可愛らしく移動し、犯人の前で尻尾を振ったり、お菓子に興味を示したりして見せた。
 
「な、なんでぇ。所詮犬か」

 そして、ナイフが人質から離れた瞬間! 豹変したフェンリルは犯人の腕に盛大に噛みついた!
 腕で人質を突き飛ばし、犯人から引き離すのも忘れない!

「確保! 確保ぉ!」

「フェンリルやめっやめぇッ」

 フェンリルはしっかりと犯人を抑えつけ、勝利の雄たけびをあげていた。
 フェンリルを抱っこすると、大人しく従う。

「フェンリル、よくやった」

 フェンリルを褒めてやると、尻尾を振る。
 お前、フェイントしたのか? 頭が良いな。
 それからも、フェンリルはたびたび現場に呼ばれるようになった。
 ある日の事だった。フェンリルと散歩していると、銀行の時のようにフェンリルが豹変した。
 とある家の前で、吠えて吠えて吠えまくったのだ。
 何かおかしいと思い、チャイムを押す。

「すみません、警察ですが、ちょっと扉開けてもらえませんか」

 フェンリルは空いていた奥の方の窓によじ登って飛び込んでいった。

「おいっフェンリル! ああもう、しょうがないなっ」

 俺は扉に体当たりしてこじ開ける。フェンリルが誰かを噛んだら、それが犯人であれすぐに救出して救急車を呼ばないとならないからだ。
 フェンリルは走って二階へと駆け上がる。
 俺はそれを追いかける。
 
「すみません、警察ですが、犬が入りこんでしまいまして。お邪魔します」

 これって絶対始末書だな。そう思いながら、ある扉の前に行く。

「んー! んー!」

 不自然な声。悲鳴。
 フェンリルが体当たりするが、扉があかない。
 俺は迷わず扉をこじ開けた。
 そこには、裸で縛られた女の子とその子を人質にする男がいた。
 女の子には明らかに暴行の跡がある。

「そのナイフを離しなさい」

「うるせぇんだよ!」

 ナイフを振りあげた瞬間、フェンリルが噛みついた。
 急いで女の子を犯人から遠ざけ、フェンリルを止める。
 無線で連絡を取って、救急車二台を呼び、犯人を確保した。
 女の子は、行方不明となっていた女の子だった。
 この事件は公となり、褒められる半面、強引な捜査だと非難を受ける。
 それはともかく、フェンリルの散歩区域が犯罪多発地域に変えられてしまった。
 というか、訓練の時間が散歩に当てられる事となった。
 その上、警官の護衛付きである。
 フェンリルにどこまで期待しているんだ……。
 ……と思ったが、平均日に二、三件ホシを捕まえる快挙を叩きだした。
 マスコミも話を聞きつけ、フェンリルの取材をする。
 一日警察署長をやった時も、マスコミの取材中に指名手配犯を逮捕して大騒ぎになった。
 フェンリルは制圧もだが、言い聞かせれば犯人を尾行する事もしてくれる。
 最近は警察犬としてのスカウトが大変になってきた。
 フェンリルはうちの警備犬だ!
 その頃、刑事からフェンリルに相談も受けるようになった。

「容疑者はいるんだが、絞り込みがな。フェンリル、お前さん、犯人わかるか?」

「それはさすがに無茶ですよ……」

「フェンリル、出来るか?」

「バウッ」

「フェンリルは出来るって言ってるぜ。借りていく」

 フェンリルは迷わず容疑者の一人の前で吠えたて、容疑者は有名なフェンリルの詰問(?)に観念して、自首したらしい。
 フェンリルは、凶悪犯にしか反応しない事もあり、いつしか裁きの犬と言われるようになっていった。
 どんどん要求がエスカレートして大変だが、いつだってフェンリルは期待にこたえてくれるので、しょうがないと思う。
 某教団の幹部がフェンリルに捕まってからは、宗教団体の幹部決めの際に、「フェンリルの認可」を必要とする宗教団体まで出て来るわ、海外から協力要請が来るわ、スカウトが来るわ、大変だ。
 そんなフェンリルを繁殖したいと言うのは当然の思いであり、フェンリルの所に発情期の優れた雌犬が連れてこられるのは当然の事だった。
 さて、どうするかな。
 頭を前足で抑え、伏せてしまったフェンリルをどう説得するか、俺は頭を悩ませるのだった。









 嫁が来た。犬の嫁が来た。いくら犬になった人生を受け入れたからって、いくらなんでも犬の嫁を許容できるかぁぁぁぁぁ!
 頭を抱え込んで伏せ、無理だと訴えるべくキューンキューンと鳴く。これで諦めてはくれまいか。
 犬で童貞喪失なんて嫌過ぎる。

「フェンリル、お嫁さんだよー」

「フェンリルにも弱点ってあったんすねー」

 同僚は皆呑気な物である。

「え、フェンリルってもしかしてホモ!?」

 パーン!

 全力で頬叩くと、また元の位置でへこんで見せた。起こる大爆笑。

「フェンリル。これは大事な事なんだ。海外の警察からも、フェンリルの子が欲しいって話がいっぱい来ているんだ。警備犬としても欲しいし、警察犬として欲しいって人も大勢いる。お前の血を残す事も、重要な任務だ。お前の鼻が子供に受け継がれれば、犯罪の撲滅にも繋がるんだ」

 俺はしばらく悩んでいたが、仕方なくのろのろと嫁の元に向かった。
 嫁は沢山いた。ギャラリーも沢山いた。
 どんな任務よりも疲れた……。
 嫁の内一匹は近場の訓練所の犬だったので、出産に立ち会う事が出来た。
 一応、ねぎらいの為に嫁の顔を舐めてやる。
 子犬は可愛らしかった。
 結論から言って、子犬達も転生者だった。
 ……死後の世界は満杯なんだろうか……?
 とにかく、明らかに高い知能を示した犬達は、警備犬として、警察犬として、世界に散っていった。
 相棒は移動の時間に、よくその活躍を話してくれる。
どこまでも人間らしい犬達は、他の犬と違い、バディと一緒に寝泊まりして、人のご飯に酷似した物を与えられ、テレビ、新聞、ネットも許され、もちろん任務もこなし、楽しく過ごしているらしい。その代り、セキュリティ突破とか突入作戦立案とか無茶な任務も任されるらしいが。
 ちなみに、日本語と、たまに英語しか理解しないので俺の血統の犬には日本語で命令が基本となりつつある。ただ、現地で出来た第三世代の子は現地語のみ理解するそうなので、その辺りのコミュニケーション方法に若干の混乱が見られるようだ。
 しかし、いいなぁ……。アメリカでご褒美のアイスを頬張る幸せそうな警察犬を見ると、思わずそう呟いてしまう。

「ほーら、フェンリルご飯だぞー」

 今日もまたドックフードか……。
 死ぬ前に一度でいいから人間食を食いたい。
 ああ、明日はアメリカに出張だから、飛行機の中で新聞を読んでもらえるな。
 食事も娯楽もいいものだが、休暇欲しい。



[29949] 破壊神の産まれた日
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/11/15 21:10
 美しい聖女が、歓声をあげる観衆の中、笑って手を振っている。
 聖女は遥か昔からこの国を守る者であり、皆に崇められていた。
 にこやかな笑みを浮かべつつ、聖女は決意していた。
 一月後に迫る約束していた儀式の時。今度こそ、約束を違えさせはしない。
 もしも破られたら、その時は……。


 少年法王は聖女が帰ってくると、涙で顔をぐしゃぐしゃにして駆け寄ってきた。聖女はそれを抱き上げる。

「サクラ! 帰るって嘘だよね、嘘だよね!」

「いえ、確かに一ヶ月後の儀式で帰らせて頂く約束です」

「サクラ、この国が嫌い?」

「法王様、いえ、リューク。約束は守らなければなりませんわ。私は、帰してもらう事を条件にこの国に仕えてきたのですから」

 法王の問いに、サクラは笑う。
 
「この国を好きだからじゃないの?」

 その問いに、サクラは少し困った顔で笑った。

「どう答えれば、帰してもらえるでしょうか」

「帰さない! 絶対帰さない!」

 サクラは困った顔で微笑む。

「いけませんわ。約束は守って頂かなくては。リュークは、最も神力の強い、私を元の世界に返せる唯一の人だと聞きました。ここに残る以外の、あらゆる命令を聞きましょう。ですから、私を帰してください」

「絶対帰さないから!」

 泣きながら法王は駆けて行く。困った顔で、サクラは見送るのだった。

「あの、本当に帰ってしまわれるのですか」

 若い神官が、戸惑いつつ問う。

「ええ、そうよ? 早くママに会いたい」

 落ち着き払った聖母のような口調だが、言っていることは幼い。

「御母上様は、女神様なのでしょうか」

「いいえ。普通の人間だったわ。でも、召喚したのと同じ時間に、記憶以外は全て召喚前と同じようにして返すと約束してくれた。……ようやく、帰れるのね。永かった。永かったわ」

 神官は困惑する。時を操る呪文など、聞いたことがない。何より、神の化身たる聖女が出来無い事が、何故人間ごときにできるというのか。
 聖女が帰るという噂は、火のように広がった。
 聖女にどうか帰らないでくださいと、民衆は、神官達は身を投げ出して願った。
 そして、神官達は聖女に告げた。

「帰さない?」

「法王様のご決定ゆえ」

 すまなそうに神官が告げる。聖女は静かに紅茶を飲んだ。

「そうですか……。わかりました。リューク様にお会いしてもよろしいでしょうか」

 呼ばれた法王、リュークは、サクラにしがみつく。

「サクラ、僕、考えを変えないからね!」

 サクラは微笑み、リュークを連れてテレポートした。
 ついたのはできたばかりの港町だった。
 雑踏の中、聖女は微笑む。

「リューク様、側で見ていて下さいまし……ファイアーストーム」

 その瞬間、周囲は炎の渦に変わった。骨すら残らず焼け死ぬ周囲の人々。

「な、何をするの、サクラ!」

「何って、説得に決まっていますでしょう? 私を帰して下さいまし。千年に一度の儀式。私はもう、二回もチャンスを逃してしまった。最初は法王様の死。次は聖剣の紛失。今度は、いかなる失敗も許さない。……絶対に帰る。さ、行きますよ、リューク様。愛しの法王様。貴方の為に、この人達は死ぬのですよ」

 笑って、サクラはリュークの腕を引っ張る。
 聖女が美しい唇から言葉を放つたび、炎が、氷が、雷が迸った。
 リュークは泣き叫ぶが、サクラはきつくリュークの腕を掴み、連れ回して港町を死の街に変えた。

「では、戻りましょうか、リューク様。そして、私を返すよう決定を下すのです。いいですね?」

 リュークが青ざめた顔で泣きながら頷くと、サクラは優しく微笑んだ。
 聖女と共に帰ってきたリュークの話を、初め神官達は信じなかった。
 しかし、一週間もすれば知らせが来る。神官達は困惑した。
 ……なんのことはない。聖女を返す方法など初めからなかったのである。
 ……かつては、あったかもしれない。しかし、そもそも聖女には知らされていないが、神は遥か昔に去っている。
 遥か遠くのアラキス地方では怪しげな宗教がしつこく残っているらしく、最近も世界破滅論なるものが勢いを増しているようだが、せいぜいそれぐらいであり、この世界は基本的にメアリア教一色、メアリア聖王国一国であり、聖女の権威で纏められているものである。
 魔法は存在するが聖女ほど強力な者もない。
 それでも、長くこの世界を守ってきた女神だから、多少は困惑するだろうが、帰れないという事をさほど問題視するとは思えなかった。極端な言い方をすれば、笑ってゆるしてくれると思っていたのである。
 しかし、聖女は躊躇なく港町を焼いたという。真実が明るみに出れば、何が起こるというのか。
 聖女は、死んでも少し弱くなって生き返るという。不老であり、不死なのだ。
 そして、軍に匹敵する力。
 困り果てた神官達は、法王に死んで貰うこととした。重要なのは、法王ではなく聖女である。
 二日後法王は毒殺され、聖女の奇跡で生き返った。
 神官達は、観念して巫女に土下座して許しを乞うた。
 サクラは、微笑んだ。

「ふふふ……そうね、そんな事だろうと思っていたわ。でも、私は諦めきれなかった。諦め切れないの……。いいわ。もう、あなた達には頼まない。他の方法を考えるから」

 聖女は真珠の涙を零し、テレポートで去った。
 神官達はその事に胸を痛め……愚かにも、それで終わりだと思った。
 新しくできた街で魔術都市以外。その条件を満たす街が、一日に一つ消えていったのだ。
 聖女の手によって。
 聖王国は直ちに聖女が魔に魅入られたと発表し、非常事態宣言を告げ、アラキス地方以外の魔術師の権威達が集められ、聖女の排除方法を模索する事となった。
 アラキス地方の者達は、初めから来ることはなかったが、邪教を崇拝する者の事など誰も気にしなかった。
 狂った聖女に人々は恐怖し、混乱した。より古い街、より魔術師達の集う街に人々は殺到した。
 一方、アラキスを纏める領主リアルドは、疲れた顔で古き神とお茶を飲んでいた。
 メアリア神ではない。かつて世界にいた十神の一人である。
 かつて、十神は平等であった。それをメアリアの聖女召喚が覆した。
 信仰は、神々の力となる。ほとんどの信仰をメアリアに奪われた残りの神々は、他世界へと逃げ出していたのだ。最も、逃げ出していたのはメアリアも同じである。

「どうやら、始まったようですね。サクラ様が闇に落ちたと報せが来ました」

『ええ。予想していたよりも遥かに遅かったですが、始まってしまえばもう止まらないでしょう。事が始まるのが遅かった分、彼女の力は強くなっている』

「……やはり、神々の手によってもどうにかできないのでしょうか」

『彼女は、既に神と化しています。信仰のもととなる、この世界の全ての人々を殺し、人を傷つけることをやめて、やっと力が蓄えられなくなる。信仰を受けても、生物を屠っても力は蓄えられますからね。誰もいない世界で遥かな時をおいて、弱まった頃に神としての力を徐々に削っていく。これだけ手順を踏んでも、まだ危険です。とはいえ、私達も彼女をそのままにしておくつもりはありません。あのままでは、あまりにも哀れすぎる。私達が責任持って彼女を人へと戻し、記憶を消し、輪廻の輪に戻します。……少なく見積もっても、一万年。いえ、一億年はかかるでしょうね』

「メアリア様は何かしてくださるのでしょうか」

『何も。あの女は何もしない。そもそも、メアリアがようやく危機に気づいて力を取り上げようとした時には、全てが手遅れだった』

 リアルドはため息をついた。

『それどころか、完全にこの世界を見捨てて、必死になって新たな世界で布教を行なっていますよ。幸い、聖女が集めた信仰の力がありますからね。メアリアは滅びることはないでしょう。この世界が滅んでも』

「貴方も見捨てている」

『否定はしません』

 今度は、二人揃ってため息を付く。
 聖女の住む星はとうに戦争によってなくなっている。時を巻き戻すことは神ですらできない。まして、サクラは神を凌ぐほどの力を手に入れてしまった。力を奪うことは簡単にはいくまい。
 始まりは、メアリアのほんのお遊びだった。
 勇者召喚の際、適当に選んだ女の子に、適当に選んだMMOとかいうゲームの力を与えた。
 それだけだった。
 彼女は以下の能力を持っていた。
 ・スキル・転職システム
 ・不老
 ・死んでも若干弱くなって復活
 レベル1の、子供より更に無力な少女。こんな者は勇者でないとあっという間に慰み者にされた後に捨てられた少女。
 彼女は死ななかった。死ねなかった。
 永き時を生きて、彼女は徐々にレベルを上げていった。元の世界に戻る為に。
 そして、女神は力の上限を設定しなかった。
 少女はいつしか、一軍に匹敵する力をつけた。
 後に、その力に目をつけた聖王国は、いう事を聞けば帰してやるとサクラを騙し、非道を行い、その力を持って永い時間をかけて世界を統一させた。
 他の神々はしきりに彼女を人へと戻すように言い、サクラに接触しようとしたが、メアリアは集まる信仰心に大喜びで、それを聞き届けないどころか、全力で邪魔をした。五百年して、聡い神がそっと他世界へと本拠地を移動した。
 それから次々に神が逃げていくと、メアリアは更に有頂天になった。
 しかし、千年ほど前、ようやくメアリアも気づいたのである。
 サクラが既に自分の手を離れてしまっていることに。
 サクラは、その時既に願い叶わぬその時は、世界の人間を全て滅ぼす事でメアリアを滅すと決めていた。
 その野望に気づいたメアリアは急ぎ力を取り上げようとし、出来ず、逃げ出したのである。
 静かに最期を待つ信者と、それを見守る神。
 聖女がアラキスを訪れるまで、10日もないと知っていた。







聖女の進軍は続く。続く。続く。
 そして、約束の一月後、ついに聖都へとついていた。聖都は、小さな村々を除けば最後の街である。

「さあ、リューク様。私は殺せません。ならば、約束を守って元の世界に返す以外に、貴方の生きる術はない」

 聖女サクラは、あくまでも優しく微笑み、静々と進んでいく。その周囲には死体が転がっていた。

「あ、ああ……。知らない、僕は知らない、許して、許して!」

「その言葉、私は何度言ったでしょう」

 遠い目をして、聖女は笑う。

「犯されることは当たり前。乱暴も当たり前。首輪を付けられたわ。獣と交わらされたわ。不死の秘密を探るのだと実験され、何度も何度も殺された。媚薬、毒、酸、小便、精液、なんでも飲んだ。たくさん、たくさん殺したわね。私自身がされたのと同じほど、拷問も行った。全部、聖王国の命令でね。でないと帰さないって言うから。この地獄のような世界から、汚らわしい人たちから、どうしても離れたかったから。こんな世界で転生するなんて、こんなにも穢らわしく醜い人達の子として生まれるなんて地獄だから、帰りたいとも何度も言ったわ。そのたびににやにや笑って、いう事を聞けば帰す、そればかり。それが、帰す約束の時期の五十年くらい前になるとちょっとだけ優しくなるのよね。それで全ての罪が許されると思っている。思っているんでしょう?」

 リュークはふるふると青ざめた顔を振った。
 聖女は、優しく微笑む。聖女のように。

「いいわ。許してあげる」

 そして、聖女はリュークに手を伸ばす。

「殺すだけで許してあげる。帰れないことを、四千年の孤独を、殺すだけで許してあげる。そのかわり、一人も逃さない。この世界の人々を全て殺し、信者を全て消す事でメアリアを殺す。そうすれば、きっと私は死んだままでいられる。穢らわしい人達の間に産まれることなく、死んだままでいられる。……ようやく、死ねる」

 リュークの首をちぎりとり、怯える神官団に聖女は目を向けた。
 サクラが全ての人間を殺し終えるまで、一年かからなかった。
 そこで、神々の予想もしていなかった事が起こる。
 スキルの一つ、サーチ能力が他世界まで広がったのだ。
 サクラの力は、未だメアリアとつながっている。
 故に、メアリアの信仰のある世界を感知できた。
そして、感知ができたなら、ランダムジャンプという、まだ見ぬ街にランダムで移動するスキルがある。
ゆえに、彼女は、飛んだ。


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