死んだと思ったらガリアに生まれ変わっていた。
な、何を言っているかわからないと思うが私も(ry
なのに私はメイジじゃない。正直、許せない。
リア充爆発しろ。メイジは皆死ね。
そんなこんなで、私は城でメイドとして働いていた。
私はある時、庭でジョゼフ様が一所懸命魔法の練習をしている所に出くわした。
私はそれを鼻で笑う。
「虚無って大変ね」
「虚無?」
シャ、シャルル殿下!?
「あ、あら。何かの聞き間違いですわ。ジョゼフ様が虚無だなんてそんなおほほほほほ」
私はその場を走り去る。大丈夫、所詮は子供相手だ。何を言っているかなんてわかるはずがない。私はいやいやと仕事に戻るのだった。
その夜。私はいつも通りうらぶれた酒場で酒を飲んでいた。
「うぃーっ何がメイジよ! リア充よ。ちっとも羨ましくないんだから! どうせ虚無野郎にみーーーーーーーーーんな殺されちゃうんだから! ざまーみろ」
「虚無野郎とは俺の事か」
「ああん!? あーらジョゼフ殿下」
ジョゼフ殿下がこんな所にいるわけはない。これは夢だ。なので私はジョゼフ殿下を指さして笑った。
「あっはははは! そーよぉ。虚無ってのはね、散々無能扱いされて、壊れて狂って、心を真っ暗闇で満たすように出来てるのよぉ。あんたは狂うわ。大切な人を次々殺して、それでも泣けない、泣く事を求めて大切な物を壊し続ける人になるわ。それは虚無! 虚無だから! どろんどろんとした心の虚無が、虚無の魔法を使うエネルギー源になるのよぉ。壊れて壊れて壊れた頃に、全てが手遅れになった頃に、力が目覚めるのよぅ。ああ、始祖のお導きに祝福を! ガリアを火の海に沈めし無能王ジョセフに乾杯!」
「兄上……!」
シャルル殿下がジョセフ殿下の裾を掴む。
ジョセフ殿下がその手を握った。
私はテーブルに倒れ込み、寝息を立てていた。
「うーん……や、やばっ寝ちゃってた!? 早く城に帰らなきゃ!」
私は起き上る。そこは豪奢なベッドで、私は目を点にする。
「こ……ここは……あったまいた……昨夜の事、さっぱり覚えてないわ……」
「俺に呪詛を吐いた事もか」
ジョゼフ殿下が椅子に座り、こちらを見ていた。
「ジョゼフ殿下!」
私は驚きに目を見開いた。
「え、えーと……私、何か失礼を致しましたでしょうか」
「致したとも! フィル。俺は無能王らしいな。そしてガリアを火の海に沈めるとも」
獰猛な笑み。落ち着け、相手は子供だ子供。
「いやですわ、殿下。酔っ払いの戯言ですわ。妄想ですわ」
「では、その妄想を詳しく聞かせてもらおうか。虚無の呪文はいかようにして覚えるのだ?」
げげん。
「……今のジョゼフ様が覚えても意味などありませんわ。あれは莫大な精神力を消費します。すなわち、莫大な憎しみ、嫉妬、怒り、絶望、悲しみ……」
ジョゼフ殿下が剣を私に突き付ける。
「ごたくはいい」
「始祖の香炉、始祖のオルゴール、始祖の祈祷書、後、えーとなんだっけ……を、土のルビーを嵌めた状態でお使いなさいませ」
ジョゼフ殿下はそれを聞き、部屋を出ていく。
私も部屋を出ようとしたら兵士に止められた。
やばいかなぁ、私……。やばいよなぁ。
しばらくして、ジョゼフ殿下がシャルル殿下を連れて戻ってきた。その頬は上気している。
「兄さんはやっぱり凄い人だ! でも、黙ってろってどういう事さ」
「フィルの言っていた事、少なくとも虚無は本当だった。という事は、俺が王になるという話も、このガリアを火の海に沈めるという話も本当かもしれない。虚無は呪われているのか? 俺はそれを知らねばならない。なあ、預言者フィルよ」
私は預言者なんかじゃない。顔を顰める。つーか、今の時点で目覚められるなんて。
「貴方様はもう虚無を覚えました。私の知っている未来は消えたも同然です」
「なんだ、俺が虚無を覚えない未来は知っているのではないか。話せ」
しぶしぶと私は話す。ルイズ……ゼロの女の子の話を。
「まさか、兄上がそんな事をするはずがありません!」
「だから、虚無の持ち主はそれだけ壊れるほどの辛い目に合うんだってば。シャルル殿下だって見てるでしょ? 次期王様として支持されているのはどちら? これからどんどん酷くなるわ。臣下達の確執は貴方にも伝染する。誰にも支持されない王になるわ、ジョゼフ王は。王としては有能だけどね。ハルキゲニアを手に入れる位置に立てるぐらい」
「……」
「兄上……」
「よし、わかった」
「良かった。頑張ってガリアを火の海にして下さいねv」
「とりあえずフィルを縛り首にしよう」
「えええええええ何でですか! 死ぬのは殿下方ですよ! リア充死ね!」
ジョセフ殿下は呆れた口調で言う。
「お前、メイドの癖に勇気のある奴だな……」
私は頭を掻いた。
「おほめにあずかり、光栄です」
「褒めてない」
ジョゼフはため息をつき、シャルルに目配せした。
「とりあえず、ルイズとティファニア、ヴィットーリオを探そう。風石の採掘も」
「えー。運命通りに動いたらいかがですか? ブーブー」
完全に開き直った私は盛大に文句を言う。
「しかし、兄上。ルイズやティファニアはまだ生まれていないのでは?」
「うむ。彼らが生まれるまでは様子を見るほかあるまい。ひとまず、おれの虚無は隠して、即位までは何時も通り過ごそう。いや、預言者めいた事をやってみるのもいいな。手紙を書くぞ。そして、アルビオン、ロマリア、ヴァリエール家にスパイを送る」
さすが小さくても王子だ。そうしてスパイの真似ごとは始まった。
そして陛下にばれた。所詮子供。やーいやーいと言ったら殴られた。
「虚無の再来だと!? おおお、ジョセフ、お前が……」
「父上、人の出した手紙を勝手に見るのは……」
「何を言っておる。こんな重要な事を秘密にしておくとは。早速この事を公表するのだ。ロマリアに連絡を! 速やかにティファニアの亡命の準備をするのだ! ヴィットーリオを浚うのだ! ルイズの良き婚約者となりそうな者を探せ!」
ジョゼフ殿下とシャルル殿下はため息をついた。
風石の事はまだ知られていない。が、誰が虚無となるかは知られてしまった。
「まだティファニアは生まれていません、父上。下手に介入すると生まれなくなってしまうかもしれません。父上は今迄通り執政をなさって下さい」
「う、うむ、そうか……。そうか、ガリアに虚無の王が……ジョゼフが……。早速皆に公開しなくては!」
「いや、今まで通り執政して欲しいって言ったじゃないですか」
「う、うむ、そうか。そうだな。そうしよう。しばらくの我慢だぞ、ジョゼフ」
「は」
うっすらと予想していた通り、それは陛下から徐々に徐々に広まった。
臣下が一人また一人とジョゼフ派になって行く。
「俺が王になると火の海になるんだが……」
苦笑してジョゼフ殿下が言う。
「いいじゃない、GOGO!」
ジョゼフ殿下が私を踏んだ。
「そんな事ないよ、兄さん」
シャルル殿下も、私を踏んだ。
「強がりを言うな。もう、俺はお前が王になりたい事を知っている。俺がお前を殺した事を、俺もお前も知っている。俺達の間に、隠し事は無しにしようじゃないか」
「兄さん……それでも、強がりくらいは言わせてよ」
私をぐりぐりと踏みつけながら兄妹仲を温める二人。その足をどけやがれ!
「リア充死ね! リア充死ね! メイジなんか大嫌いよ!」
「俺もお前みたいになったりしたのだろうか。怖いな、虚無は」
「僕が支えるよ、兄さん」
「ああ、頼む。王はお前でいいさ。二人でガリアをもっと良い国にしようじゃないか。なあシャルル……」
「ホモ野郎!」
あっ蹴られた。
結局、王様にはシャルル殿下がなった。
それと、炎のルビーはスパイを放ちまくり、アニエスから奪い取った。
ヴィットーリオは既に凄い護衛がついていて、どうにも出来なかった。
そうこうするうちに、ティファニアが生まれ、オルゴールと引き換えに亡命を迎える事をガリアが申し出た。
当然、アルビオンは怒り狂った。
「我がアルビオンと戦争をするつもりか!」
「するつもりだが?」
外務大臣にジョゼフ大臣があっさりと言い放つ。
「な……な……」
「ティファニアとオルゴール、風のルビーはなんとしても手に入れねばならんのだ。全てはブリミル様の御意志。ブリミル様の御意志に逆らうつもりか?」
「ブリミル様の御意志だと!?」
「おれは虚無の力を持ち、預言を受けたのだ。ティファニアを救え、とな。どのみち、もう遅い。おれのミューズが向かっている」
「なんだと!?」
ジョゼフ大臣とミューズのコンビは素晴らしかった。
さくっとティファニアとオルゴールとルビーを盗み、ティファニアを虚無に目覚めさせた。しかし、ティファニアはオルゴールの音を聞けたが、香炉の香りを嗅ぎとれず、ジョゼフはオルゴールの音楽を聞き取れなかった。
私は大いに喜んだ。
「あっはっは、バーカバーカ! 幸せな虚無なんてやっぱり虚無じゃないのよ!」
ジョゼフ大臣が私を踏む。
「あ、あの、大丈夫ですか」
「気にしないで下さい、お嬢さん」
シャルル陛下がティファニアに優しく言い、ただちにジョゼフ大臣とティファニアが虚無であり、ティファニアを守る為、始祖の意志を守る為に決起したと発表した。
アルビオンの出鼻を挫く形である。
パニックになりました。
やーはっは。楽しいなぁ。
そのパニックに乗じて、情報が漏れてトリステインがルイズを掲げた。
ロマリアもヴィットーリオが虚無だった事を発表し、炎のルビーの返還を求めた。
まさに一触即発。やれやれー。
……とまさに美味しい状態だったのにっ!
ゲルマニアが調停に立ちやがった!
「馬鹿か、お前は。まさか本当に戦争を起こすとでも思ったか」
ジョゼフ大臣が呆れた声で言う。
混乱が収まってみれば、誰も犠牲にならずにティファニアがアルビオンに戻る事になってやんの。
「ってなんでティファニアがアルビオンに戻る事に!? アルビオン、エルフ嫌いじゃない!」
「虚無が三つの国の執政に関わるのだ。アルビオンも出遅れまいとするだろうよ。ガリアが戦争を起こそうとしてまで手に入れようとしたティファニアを奪い返したのだ。向こうも満足だろう。さあ、風石をどうにかする会議に向かうぞ。ティファがおれについてくれた。エルフとは話し合いで装置を使わせてもらえるよう頼んでみるつもりだ。どうだ、一滴の血も流さずどうにかしてみせたぞ」
ふふんと勝ち誇った顔でジョゼフ大臣が言う。
宣戦布告までやって血の一滴も流れないってどうやったジョゼフ大臣。いや見てたけど。
「そんな! リア充爆発しないの!?」
「しない。と、会議の前にティファニアの使い魔召喚だな。ティファニア」
「はい」
ティファニアが使い魔召喚をする。
鏡が、私の目の前に現れた。落ちる沈黙。
「入らんのか? リア充とやらになれるチャンスだぞ」
「奴隷のどこがリア充ですか。いや、奴隷だって心の自由くらいは持ってますよ」
シャルル陛下が私の尻を蹴りあげて、鏡へと突っ込ませる。
「てめ何しやがるんですか、シャルル陛下!」
「お前は自由過ぎなんだ! 少しは忠誠心とやらを学んで来い!」
こうして、大災厄は免れた。
後に、伝説はこう語る。
神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左手に握った大剣と、異界の武器を操って、導く我らを守り切る。
神の右手、ヴィンダールヴ。御目麗しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導く我らを運ぶは地海空。
神の頭脳、ミョズニトニルン。冷静沈着神の本。あらゆる知識を溜めこみて、導く我らに助言をす。
そして最後にもう一人……(違う意味で)記す事さえ憚られる……。