まったく住み辛い世の中になったもんだ
お天道様の下では誰しも平等であると昔の偉い人が語っていたはずなのに、今の世の中は女がこの世の天下とばかりに男をこき使うなんてふざけた世の中になっちまった。
歴史の授業にある奴隷解放を推し進めた大統領がこの有様を見たら涙して怒りに震えて「情けないとは思わんのか」というくらいには今の世の中は世知辛いし住みづらい。
まあ、実際にあったことはないが、まったく人間ってのは誰しも自分の下を作りたがる。
「あんたもそうは思わないかい?」
思わず、なけなしの一万円札の肖像画に問いかけちまうほど今の世界は女が世界を動かしている。
公園の男性専用ベンチでタバコをふかしていると、そこら辺の女子学生が通りすがりのサラリーマンとは名ばかりのただ働きにナプキンを買ってこいなんて命令を下すなんてことはもう見慣れた光景だ。
まったく…お天道様もこの有様を見たら思わず涙をこぼすだろうね。尤も涙で道路が水浸しになっちまってはこちとら商売は上がったりだ。
そろそろ休憩時間も終わりだろう。お仕事に戻るとしますかね…
「帰りてぇな。藍色の世界に…」
俺が唐突に有無を言わせずに自衛隊を首にされた後、愛機のドルフィンはどうなってるんだろうか…
装甲も何も覆わないでいながら馬鹿げた破壊力を持っているあの腐れロボットにスクラップにでもされたのかねぇ
「帰りてぇな…もう一度お天道様の間近だったあの場所によ…」
携帯がアラームを鳴らすのを確認し、俺は駐車場にとめてあったトラックに飛び乗り、あの腐れロボットの装甲を指定された工場まで運ぶ仕事を再開した。
「ああ、金なんてもんのために俺はこいつを運ぶのか…俺を空から引きずり落としたこいつの武器を…まったく世の中ってのはやるせねぇな」
かつて、青の塗装を身にまとって誇りとまで言われた一員の俺が今じゃ運送会社の一ドライバーか…
あの塗装にあこがれて、血反吐を吐く訓練をして拝命の辞令を受け取り空の芸術を作り上げた俺が…
『中井正志一等空尉!国家と国民の防衛のためこの一命をささげ、平和の礎となることを誓います!』
思い起こすのはかつての栄光の日々。もうありえない男たちの栄光の部隊。白騎士の武勇によって打ち砕かれたかつての日々。
「ねえ、ちょっと!!あんたそこでアイス買ってきなさい。もちろんあんたの金で!」
「…申し訳ないが、私は仕事があるんで失礼」
女学生が俺に命令してきたのを嫌いな仕事を盾に断りトラックを工場に走らせた。重低音を響かせるエンジンも悪くはないが、やはり空を切り裂くあの音にはかなわない。
思い出は去った後が一番辛いというのは本当のようだ。配達先までの心はまるで今にも振り出しそうな曇天の空と同じだった。
「は?クビ?どういうことですか」
「うん。君、女学生に失礼なことをしたんだってね。だから今日限りで首、退職金は出ないからそのつもりで」
仕事を終えて、事業所に戻ればそんな無慈悲な言葉が社長の山内俊三から飛び出してきた。
「わかっているんだよ。本当はね…でも仕方ないんだよ、零細な上に客商売だからね。何でこうなったかね…輸送課の時はこんなことを気にしなくてもよかったんだがな」
「せめて退職金くらいといっても無駄でしょうね…」
「その退職金は、あの子達への賠償金になるから…退職金は出せないよ。もし出したら人権団体が押し寄せてくるし、お前のために俺は首をくくれないんだ」
「すんません」
「いや、いかれた時代に正論を言っても無駄なんだろうな…俺のほうからも口を利いておく。すまんな」
苦虫を噛み潰した言葉とともに私物を片付けさせられ、俺は仕事場を失った。おそらく、ハローワークでもこれが流れれば絶対に仕事なんてありつけない。
何しろ、不平等な世界で迫害される側に生まれてしまったのだ。プライバシーなんてあってなきものだからどうしようもない。
二ヵ月後
「山内さんでしたか。あなたは女性に対して失礼な態度を取ったとありますので、申し訳ありませんがなかったことにしてください」
案の定情報が回っていたらしく、会って一分もしないうちに出た面接官の冷たい声に、二十社目の面接はあっけなく黒星を飾った。
とぼとぼと戻る帰り道はため息しか出ない。家賃もそろそろ払えなくなるだろう。顔を上げてみれば男たちの苦い顔があちこちに浮かんでいる…うつむいたほうが精神的に楽だった。
「どうすっかな、これから…」
伝を頼ってもみんなその日の銭を稼ぐのに四苦八苦している有様じゃあ、どこも頼れない。
このままホームレスかそれとも非合法な稼ぎに手を染めるか、それとも首をくくるか。女ににらまれたやつの末路なんてその三つくらいしかありえない。
本当に、何でこうなっちまったんだろうか…自分さえも守ることができなくなっちまった今の世の中。それでも反旗を翻さないのはくたびれ果てた防人のプライドがあるからだろうか。
八年前、あの腐れロボットを操る女性団体が無理やり政権を奪い、憲法をはじめとした諸法律すべてを変えてしまったときに俺は何をすればよかったのだろうか。
くたびれ果てた防人のプライドは、この国を認めることを止めた。国家体制は変わり千代田のお方は今はどこかで幽閉されて病気がちの体だというのに無理をさせているらしい。
そしてそれを救うことは男性にはできないのだ。怖気づいているとかという精神的な部分ではない。単純に男性には基本的人権が制限されているのだ。
行動手段からして奪われ、かつては自由にこの国を歩くことができたのに今ではそれすら女性が集う役所で国語辞書程度の許可証をもらわなければ電車に乗ることすらできない。
それが日本だけだったら皆さっさと移住をしているのだが、世界すべてとあってはどうしようもない。
女性たちは今の世界を歓迎し、男性たちに何千年にも渡る迫害の復讐を支持して今俺たちは溝鼠のような生き方を強いられている。
ため息をついたそのとき、携帯の着信が鳴った。確認すれば登録されたアドレス。整備課にいた山田権六曹長、今は小さな町工場を経営していたはずだ。
「よう。中井の坊主、山内のやつから聞いた。手はいくらでも空いている。今すぐにこっちに来い」
「社長からですか?」
「ああ、製造業はまだ女が幅を利かせてないからな。たいした問題じゃねえよ。女性は油にまみれるのがお嫌いのようでな、香水が楽しめないんだとよ」
「ありがとうございます。すぐに行きます」
俺はその言葉とともに足早に山田製作所へと向かった。
下町の路地。その奥まったところに山田製作所は事務所を構えていた。ガラス戸を引くと以前よりしわが増したがそれでも剛毅な相貌をしていた山田曹長がつなぎを纏いそこにいた。
「きたようだな。まあ、手はいくらあっても足りんが、お前さんに任せたいのは…ついて来い。お前にしかできない仕事がある」
山田曹長の後についてゆく。所狭しと工作機械が置かれている工場の中を抜け、簡易なドアを開けるとトタン屋根で覆われた資材置き場があった。
「荷物運びですか?まあ力仕事は何年もこなしてきたんで問題ないですが」
「そこじゃねえよ。こっちだ!」
山田曹長が指差した先に無骨なロボットが置かれていた。
「ISじゃあないですね」
「…あんな女々しい姿のロボットなんかと比べるな。こいつは自衛隊から追い出された連中が作り上げたパワードスーツだ」
そのパワードスーツはひたすらに無骨という印象があった。手足の部分はかつての90式戦車の装甲を髣髴させる。そして胴体部分はかつて空の防人だったジェット戦闘機の胴体の流用。
飛行ユニットらしい機体のあちこちにあるのは幼いときに見た、はやぶさのエンジン。肩の部分の武装は技術研でうわさされていたレーザー砲だろうか…
そしてその大きさはISの三倍程度、だがその機体にはかつて俺が死ぬほど焦がれて手にしたあの塗装が塗られ、一瞬あの懐かしい『空の精鋭』の旋律が聞こえた。
「まあ、ここまで組み上げて、お前と同じくあぶれたパイロットを使って実用と量産までこぎつけた…普通なら五年ですむが、如月重工の例があるから秘密にしねえといけねえ。
だから、予定より時間がかかって、ここまでくるのに八年もかかっちまった。技術も凡庸なものだが、作ったところは腕に覚えがある工場ばかりだ。信頼性は保障する。
戻してやる…お前らと一緒に除隊させたあの腐れ統幕どもに一泡吹かせてやる。このスーツは俺たち職人、いや、男たちの意地と情熱の結晶だ!誰にも邪魔はさせん。
あの時お前らに誓った約束は今ここに果たしたぞ。中山、どうする?ここまで来てもしり込みするほどお前は男を捨てちゃいねぇだろう?」
「俺は…もう一度戻れるんですか?あの空に!だったら今すぐ俺をこれに乗せてください。あの空は、あの空は俺たちのもんだったんだ。取り戻さないといけないんだ!」
「山内のやつも、お前には空が似合うといっていたな…ああ、まさしくお前は空を飛ぶための男だ。もどしてやるよ。あの空に、あの腐れロボットに奪われた俺たちの空に!!
お前たちを引きずり落としたあいつらに、一泡吹かせてやるんだ!俺たちをなめ腐った奴らに目に物を見せてやれ!俺たちはまだ終わっていないと。もう一度俺たちはあそこに戻ると」
こうして俺は曹長の手をとった。そうだ。俺たちの空だ。あの腐れロボットなんかに渡してはいけないものだったんだ。
奪われたものは取り返す。もう一度俺たちが、あの日祖国と国民に誓った俺たちの元に!空にあこがれたあの少年たちの元に!!
「ところで、こいつの名前はなんていうんですか」
「IMPULSE……俺たちの希望だ」
ああ、まさしく俺たちのためにある名前だ。男なら誰もが一度はあこがれたあの青色の塗装とともに空を行き交い、世界最高の技術集団といわれたあの部隊の名前だ!
排気音とともに急上昇で押し付けられた後に重力の鎖を断ち切り太陽へと向かう鉄の翼を纏ったイカロスの証。
藍色の空を自由に行き交うのパイロットの特権だったあのころの証!雲をはるかに見下ろして神に近づいていたあの栄光の証。
空を切り裂く音とともにアクロバティックな機動とともに空に刻んだ雲を書き連ねた俺たちのために作られたこの機体。そうだ、俺はあのロボットから取り戻す!
「ああ…戻れる…戻れるんだ…もう一度、もう一度あの藍色の世界に、静寂の藍色の場所に…」
気がつけば、涙でコンクリートの床がぬれていた。このときをどれほど心の奥底で望んでいただろう…もがれた翼をどれほど望んでいたかわからない。
だが、こうして翼は戻った。ならば次は羽ばたかなければならない。羽ばたいてその爪と嘴であの腐れロボットから空を取り戻さなければならない!
「遅くなったが、お前を戻してやれる。さあ、エンジンを起動させろ!今日から俺たちの復権だ!」
「中山正志予備役一等空尉!本日より山田製作所謹製IMPULSEのテストパイロットを拝命いたします!」
凛とした声が、寂れたガレージの中に鳴り響いた。彼の顔はかつての栄光を見にまとっていたあのりりしい顔がよみがえっていた。
その顔を眺めながら、山田権六はかつての人間社会の破局の瞬間を思い起こさざるを得なかった。
八年前。司令官の召集が下り、基地の退院全員がグラウンドへと整列した。あの腐れロボットの登場から体内の男女間の中は険悪化をたどりつつあった。
それでも、私は整備課の総長としての任務を全うしていたため、まさか基地司令官の一言が男性隊員のこれからを破壊することになるとは思わず、女性隊員への軽い譴責程度であろうと思っていた。
「みな集まったか?」
斉藤隆正司令の確認もそこそこにいきなり彼は本題を述べた。
「昨今の防衛をかんがみ、有望なる女性隊員と国家に無料で奉職を希望する隊員を除き、本日以降予備役とする!」
静寂の後女性隊員は歓喜の声を上げて、男性隊員を有無を言わさず基地から追い出しにかかった。
「何でですか司令官閣下!」
「われわれはもう用済みということなのでありますか?違うでしょう!われわれは全て国旗に忠誠を誓った同胞ではありませんか!」
「…ドルフィンも用済みということなのか?ふざけるな!」
「ただ働きのみのこすだと?奴隷剣士になれというのか!」
男性隊員の怒号は女性隊員の無慈悲な言葉で打ち消されることとなった。
「用済みでしょう?あんたたちは所詮銃を撃つしか能がないんだから放逐されて当然よ。後、さっさと荷物をまとめて故郷で田んぼでも耕せば?」
「まあ、無料で奉仕してくれるなら残してやってもいいけどね」
「でもいやでしょう?節約よ、節約」
「さっさと出て行って。消臭剤かけなきゃならないから」
「女性が今は主役なの。みんな出て行ってもらいたいわ。ね?予備役さん」
そうして、男性隊員は司令官以下取るものもとりあえず基地を去っていった。だが、ただで転ぶわけもなく、ISを除いたあらゆるものを女性隊員が問い詰めたが、
退職金代わりだとごねてさっさと持ち出していったのを覚えている。もちろんそれらの武器は地下にもぐる開放闘士たちの武器となったのはいうまでもない。
この騒動はどこの場所でも起こり、政府は女性首相の平等をうたった差別政策を推し進めた結果、マンデラが廃絶したはずのアパルトヘイトが再び産声を上げた。
何がまずいかは言うまでもなく、公共の場では息をするのにも女性の許可が暗黙の了解となる中で男性たちの恨みは天井を突破していった。
そして、その結果が開放闘士という公職を追われた人々や職場を奪われ明日の飯すらおぼつかない人々がメンバーとなる団体に合流することになるのだ。
もちろん私もその一人に名を連ねた。決して私は恨みを忘れない。国家をのっとり国家の忠誠をたがえさせた存在を許すことはない。
中には息を潜めて、薄給を得ながら日々を過ごそうという面々もいたが遠からず女性の横暴によって開放闘士へと加入していった。
そして開放闘士たちは非合法な資金を活用して、女性たちに復讐をするために男性でも動かせるパワードスーツの開発を始め、如月重工の犠牲にもひるむことなく完成させた。
そう、衝撃と名づけられた機体を駆って中世の時間にまで時計を巻き戻した女性たちにひるむことなく引き金を引ける男を除いては…
そして、それは神の思し召しだろうか?だとすればずいぶんと神も意地が悪い。いまさらどちらも子供のけんかのように仲良くなんかできっこないこの世界においてその最後のパーツは…
人類のどちらかの性別が息絶えるときまで引き金を戻すことなどありえないのだから…
ふと、その疑問を中井に尋ねてみようと思った。その答えがその先を決めるような気がしてならなかったのだ。
もし中井がためらうことがなかったら、間違いなく人類は破滅するのだろう。
破滅するような答えならば、それは人類はもう戻れないところまで進んでいるに他ならないのだと、長年頼ってきた勘が答えを出していた。
「イオンエンジン起動確認」
『了解、起動シークエンスを続行せよ』
「了解、続けてリニアエンジン起動確認。非常時ロケットエンジン起動確認」
『中井…わかっているとは思うが』
「ええ…どこからこんな機体が出てきたのかなんてのは想像がついています。でもいいんですよ、男だからって人の名前も覚えられない奴がのさばっているよりは…」
『それもある……未練はないか?』
中井は一瞬答えを詰まらせたが、何かを打ち消すような声で語りだした。
「空を翔るものは翼を求める…それがこうもりの翼であろうとも…」
『誰の言葉だ?』
「隊長の言葉です」
『岡崎か…あいつは確か…』
中井は確か、日本平等会の会長ではなかったか?二年前に霞ヶ関を自衛隊の馬鹿高いミサイル一ダースで攻撃した
「ええ、今じゃ立派なテロリストですよ」
マイク越しの会話は暗闇の中だった。やはり、もう引き返す道は過去の中なのだろう。
『続けて、武装の確認を行え』
「了解。電磁加速砲、プラズマランス、超高電圧ナイフ、支援火器類異常なし」
『了解…運動能力はテープが張られているところがあるだろう?エレベータになっているから地下で行うことになっている。まだ公表するわけにはいかんからな…』
「了解…それで運動テストの後・・・」
『すでにこれはロットに乗っている。これの単価は十億程度だ…スクラップの寄せ集めだからな。もう五千機が世界中のあちこちで作られている。日本はそのうち五百機程度だ』
「数で押せば?」
『そういうことだ。それを駆るのはお前たちと同じ空にあこがれた奴らだ…正直言ってな、俺は希望と同時に絶望も見えているんだ。考えても見ろ、これは有史以来初めて経験する生物戦争だ。
その兵器を作り出したんだぞ。高々曹長程度の老いぼれていくはずの整備士だった俺の発言でな。歯車を俺は動かしてしまったんだ…こいつは本当に希望なのか?』
「暗闇には提灯がいるし灯台がいるんですよ。空を飛び続けるなら必ず敵がいるんです。鳥はその敵を叩き落してきたから飛び続けられる…」
『ためらいはないのか?』
「曹長にはあったんですか?」
『いや、ないな…俺たちも鳥と同じく叩き落されたなら再び挑んでそれを叩き落すだけだな』
「そうですよ。だからこそ曹長は俺を選んだんだし、俺はそれを承知で翼を求めた。俺たちは国を取り戻すことを考えればいい………陛下を蔑ろにして幽閉した罪を知ってもらわなければならない。
男性たちを奴隷のようにした為政者を等しく地獄に叩き落さなければならない。なぜヒトが進化の過程で女性単性から男性を生み出したのかという理由を思い出させなければならない。
その理由を思い出させるにはこの期待がなければならない。これは文字通り衝撃なんですよ。かつての祖国がなぜこの文字を選んだのかを女性に思い出させなければならない。話はそれからです」
そして小声で試していたんですか。それとも怖いんですかと中井はたずね返してきた。
それでいまさらながらに私は、この破局を作り出したことを、人類という歴史のピリオドを作ってしまったことを恐れていたのだと気づいた。
『怖気づいていたか』
「すでに八年前に賽を振っているんでしょう?もう引き返せないんではないですか?」
『老人の妄言だったな…今エレベータを下ろす』
そうだ…何を迷うことがある。解放を目指しておいて、土壇場になって後世のことを気にするなんてな…後は墓場に入るだけのこの身がそんなに惜しいのか?
中井はすでに覚悟を決めた。誰がそれを望んだ?誰がそれを選ばせた?翼を見せれば返ってくる答えなどわかりきっているはずなのに選ばせたお前は逃げるのか?
逃げた先には何もないというのに今更じゃないのか…そして、その恐れは一国も許されないかのお方のともし火の時間がせかしたからなのだろう。
何しろ設計上あの化け物が持つバリアーを凌駕できなかったが故の不安から出ているのではないのか?それを補うために数で押そうと決めた。貧弱な武装も同じやり方で補おうと決めたはずだというのに…
山田権六は自嘲の笑みを浮かべ、エレベーターのスイッチを入れた。これが終われば後は若干の訓練の後開放闘士のリーダーであるお方の命を待つのみだ。
全てを始めるのはそう遠くない。真耶、悪いが勝たせてもらうぞ。孫娘といえどこの戦いは負けることは許されんのだ・・・千年の未来を決めるグランドデザインがかかっているからな。
そして、運動テストの結果は、暗闇を照らすともし火にふさわしい結果であった。
機体から降りた中井と山田曹長は吹っ切れたような笑みを浮かべ、男性専用の看板を掲げる酒屋から買ってきた錆の浮いた缶ビールを開けて新入荷の期限のぎりぎりのつまみとともに祝杯を挙げた。
機体の性能はテスト時と変わりないことが証明された。そしてそれは坂を転がり落ちてゆく酒樽以外にたとえるものがない。その坂に何があるのかはわからなかったが今はただ酔いつぶれたかった。