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[30192] ワイリー軍団 in 21XX年(イレギュラーハンターX&無印ロックマン)
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2017/08/18 21:43
 22xx年、主ワイリー博士亡き後のワイリーナンバーズはレプリロイド社会でそれぞれの道を歩いていたが・・・
 ロックマンXの世界にワイリーナンバーズ(有賀版準拠)がいたらのIFです。
 「イレギュラーハンターX」が下敷きになっています。
 
10月18日
本作の続行が了承されたので、いくつか注意書き

・ロックマンXはXでもPSP版「イレギュラーハンターX」準拠になります。
・ロボットは自前の特殊武器のほかに銃火器を使います。
・作者は「APPLE SEED」や「攻殻機動隊S.A.C」が好きです。
・あとたまになんかの粒子に汚染されていたりします。(ナパームとか)
・CAPCOMにはJOJO好きしかいません。そこを頭に入れておきましょう(何

11月11日
原作名を改訂

2月22日
更新休止

2013年7月30日
更新再開



[30192] プロローグ
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/10/18 18:19
『滅んでしまえ』と愚か者が叫んだ。
そして、その通りになった。

22世紀。
失われたものを取り戻そうと電脳化と機械化の進む社会
人と機械の境界が曖昧になった時代
それでも人の業と機械の悲しみが相容れない世界…




夜のネオンが輝く高層ビル群。その日も路地裏からコンクリートと鉄筋の粉塵が舞い上がっていた。
暗い路地裏の向こう、四本足の蜘蛛のような建築物解体用メカニロイド『タイラント』がその巨躯にものを言わせて壁と地面を破壊しながら大通りに顔を出した。
そこへ待ち伏せていた警ら組織『イレギュラーハンター』のレプリロイドが構えていたワイヤーアンカーを発射。
前肢に命中し、レプリロイドの後ろの地面に固定される。
続いてタイラントの後ろで隙を伺っていた小隊が残った後ろ脚にアンカーを撃ち込む。

〈A班、アンカー打ち込みに成功〉
〈B班、確認した。まだビームが残ってる。A級ハンターが到着するまで待機〉

四肢を封じられたタイラントは身動きの出来ない状態となった。だが、安心は出来ない。
今回は明日の作業に向けて待機中だったタイラントが深夜に突如起動し暴走。
付近を警ら中だったハンター達が対処に当たったと言う流れである。
最近、特にここ一ヶ月のシティ・アーベルでは日常茶飯事となった光景だ。
この後は攻撃に特化したA級ハンターが応援に駆けつけ対象を破壊するのだが、僅かに遅れてしまう。
余りの事件発生率にイレギュラーハンターのホットラインはパンク寸前なのだ。
その様子を現場から一ブロック離れた高層ビルの屋上で、黒い青年がメカニロイドより感情の無い目で観察していた。
短く切り揃えられた赤毛、端正な顔はバイザーのため表情が見えない。
黒いフードマントに、同色の防弾ジャケットとボディスーツ。首から下は黒という風体である。
屋上の縁に座って通信を傍受していた男はおもむろに立ち上がり、隣のビルの屋上に跳び移った。
何の苦も無くそれを繰り返し、拘束を外れんと暴れるタイラントの真上近くまでたどり着いた。
懐に忍ばせた金色に縁取られた黒い棍を取り出す。そして何の予備動作もなく、タイラントの真上に飛び降りた。
高度50m余り、七層の超合金の背中に勢いを殺さず降りてもナノカーボンの筋繊維とチタンの骨格は耐えきった。
突然の乱入者に驚愕するハンター達を他所に、彼は衝撃で混乱するタイラントの四肢の隙間を縫って接続端末を探し出す。
整備用に取り付けられた梯子に足をかけ、腹にあたる部分の制御盤を見つける。カバーを棍で剥がすとすぐに焼き切るために腰にあるポーチからコードを取りだし、端末に合わせる。
途中タイラントの振り落としにあったが、何とか接続し回路の焼き切りに成功。
タイラントは痙攣を起こしたように震えるとすぐに停止した。
やれやれと青年はタイラントの背に戻ったが、当然休む暇などなかった。

〈そこの黒いの!ただちに武装を解除し投降しろ!〉

黒い警察に似たデザインの指揮官ハンターがスピーカーを片手を怒鳴っている。その後ろにはスタンガンを構えたハンターが二人。
ヤバいと舌打ち一つ。壁を蹴りながら再びビルからビルへと移る。
町の中心が見え始める頃にイレギュラーハンターの輸送機『ビーブレイダー』が頭上を通りすぎた。現場に駆けつける予定だったA級ハンターを乗せているのだろう。
降り注ぐサーチライトと黒い威容を無感動に見送ると、光輝く街を見渡す。
夜風が熱を上がった体を冷やしていく。心地好いとは感じない。彼の身体は随分昔から暑さも寒さも感じなくなっているのだから
サイレンの音が止めば、シティ・アーベルはいつも通りだった。





21××年
ロボット工学の権威、Dr.ケインによって、人間的思考を持つ完全自律型ロボット『レプリロイド』が開発された。
それに伴い、従来通り単純な命令に従うロボットは『メカニロイド』と呼称され区別化された。
この第五次ロボット革命により、第三次世界大戦によって荒廃し、衰退した文明社会は新たに復興を遂げることになる。
だが、その一方で増加するレプリロイド、メカニロイドの暴走及び犯罪行為『イレギュラー化』が社会問題となった。
多くのレプリロイドを有するシティ・アーベルはこれを取り締まる為に『イレギュラーハンター』を設立。
戦闘型レプリロイドが製造、配置され、治安維持にあてられた。


『ロックマン』と『Dr.ワイリー』との戦いから、実に一世紀が過ぎた頃のことである。



[30192] 連続メカニロイド暴走事件
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/10/18 18:20

明くる日の朝、新聞の小さな欄に深夜の騒ぎが報じられた。

「これで六件目…」

風情のあるキセルを吹かしながら、これまた風情のある着流しに陣羽織を羽織った隻眼の男が溜め息混じりに紫煙を吐いた。

「先月を合わせて八件。うち半分は『善意の協力者によって解決』…か」

新聞を下ろし、男は僅かにしかめた顔を上げる。
紺色の頭巾に中心に赤い宝石のようなものを填めた巨大手裏剣で何か間違ったニンジャ感なデザインである。
はっきり言って何か色々間違ってる。
だが草臥れた中年のような目の奥には機械特有の冷たさと収縮レンズがあった。

「早く事件そのものの解決に至って欲しいものですな。長引くと無茶をする者が後を断ちませぬ」

その目に呆れと半ば諦めを込めて、陣羽織のレプリロイド―DWN.24『シャドーマン』は隣で寛いでいる青年を見た。

「そっちのシマじゃやらないよ?」
「どこでされても困ります。エンカー・ザ・ゴールドクロウ殿」

憮然としながらシャドーマンは再びキセルをくわえた。
エンカー――昨夜暴走タイラントを停止させた青年は懲りた様子もなく、のほほんと笑みを浮かべて返した。

「今まであこぎにやって来たからな。その補填だよ。最近賞金首ってそんなにいないし」

ゴールドクロウ(金食い鴉)
三年前突如シティ・アーベルに現れ、死骸を漁る鴉の如く市内はおろか周辺の賞金首をほぼ狩り尽くしたことで名を馳せた賞金稼ぎである。
晴天の下、高層ビルの屋上で黒づくめのマント男と時代劇のような格好のレプリロイドは余りに浮いていた。
しかしそれを見る者は誰もいない。

「そうおっしゃいますが御曹司。何も毎日のように街を巡回して事件を探さずとも良いでしょうに?お陰で組織は楽させて貰っておりますが、仕える身としては毎夜気が気でなりませぬ」

わざわざ彼を賞金稼ぎとしてでなく名でなく、いつもの呼び方に言い直して説教と文句を垂れるシャドーマンだが、相手が笑って流すのは数十年の付き合いで解りきっていた。
再び新聞のゴシップ欄に目を落とす。

「ところで、もういい加減俺のこと畏まって呼ぶ必要無いんじゃないか?」

そのエンカーが、笑いを止めて少し真面目な口調で言った。

―――もう『博士』はいないんだから

暗にそう言っていると知りつつ、シャドーマンは表情はそのまま静かに返した。

「その議論は百年前と三年前に結論が出ております。後にも先にも我々の主になれるのは御曹司だけです」

彼が本名を捨てた理由も、自分達の製作者の跡継ぎを忌避する本当の理由も理解した上で彼は言っている。
エンカーは感情では反論したかったが、シャドーの諦めではなく遠くを見るような顔を見て何も言えなくなった。

「……ところで『ゼロ』は?」

憮然としながら、話題を変えたのは視線の向こうで見慣れた土煙が見えたからだ。
彼らがいるのはシティ・アーベルの中心に近い区域である。
行政機関はもちろん、警察組織―――イレギュラーハンター本部も近い。
昨日の騒ぎの始末が収まらない内に今日この騒ぎである。二人はこれを見に来ていたのだ。

「今見える暴走タイラントの鎮圧に駆り出されているところでござる」
「またタイラントか。こないだ責任者捕まってOS全部書き換えたばっかだよな?」

バイザーを最大望遠にして現場を観察。
解体中のビルの中にいるだろうタイラントを待ち伏せるように道路の車や瓦礫に身を隠す数体のハンターレプリロイドを確認。
亜人型レプリロイドが一体―――第十三部隊所属A級ハンター『アイシー・ペンギーゴ』
赤いアーマーとヘルメットが印象的な長い金髪の第十七部隊所属特A級ハンター『ゼロ』
後はアンカーバズーカを持った一般ハンターが四体。
その後方で現場を封鎖する警備が多数。突入隊と警備の間に隊長格のレプリロイドがいた。
緑色のアーマーを纏った巨漢。イレギュラーハンター第十七部隊隊長にしてイレギュラーハンターの実質的指導者『シグマ』である。

「今回はシグマも来ておりますな」
「ここ最近の暴走事件の頻度は異常だしな。直に確認したいんだろうよ。ゼロもいるし」

レプリロイド開発の太祖Dr.ケインの最高傑作としても名高いシグマは指揮官としても戦闘者としても優秀な一材である。
後方で指揮を取ることが多いが、部下のために自ら前線で戦う姿勢故にハンターのみならず市民からの信頼も厚い。
しかもゼロの直属の上司である。その構図が意図するところと経緯を考えると『兄』であるエンカーやワイリーナンバーズは彼にたいして好印象を持てるものではない。
が、末弟が記憶喪失であり、監視下とは言え組織内では(能力的にかなりの封印措置が取られているとは言え)特A級ハンターとして活躍しており、危険な仕事には変わりないが兄弟の中で一番安定した社会的立場を得ている。
今のところゼロを暗殺する動きも無いので、兄弟たちもそれぞれの形でだが『様子見』で現状に納得することにした。
その代わり、シャドーマンの組織を初め何体かのワイリーナンバーズがイレギュラーハンターの内外を偵察している。組織が暴走した時に備えてだ。

「ところで最近ゼロに相棒が着いたのをご存知で?」
「うん、同じ部隊のB級だってくらいなら」

事件を前に世間話をするように話題を変える二人。
既に『最強』と特A級が二人も動員されている時点で鎮圧は確実だと判断していた。
それに昼まで公務に介入したら流石に手が後ろに回る。

「拙者も直に見たわけではありませぬが、そやつのことをアストロから聞いたときは驚きを隠せませんでした。…ふむ、今着いたところのようです」

基本常に冷静なシャドーマンが、百年近く闇の中に身を置いている『怪人』が驚くことはそう多くない。
ふと高高度を飛行するジェット音が義体と機械の聴覚に届く。
青空に飛行機雲を書いて飛ぶ紫色のビーブレイダー。ハンターを急降下させるためのタイプだ。
そのハッチの一つが開かれる。今まさにハンターが急降下する瞬間だった。

「で、そいつの名前は?」
「正式名称かは不明ですが、皆に呼ばれている名は…」

ハンターがパラシュートもなしに降下していく。狙いは暴走タイラントの真上。
次第に件のハンターの姿がはっきり見えてくる。
ゼロとは正反対にヘルメットからフットパーツまで深い青でまとめた少年型レプリロイドだった。
その様子を先程とは違う遠い目で見つめながらシャドーマンはそのハンターの名を言った。

「『X(エックス)』」

空中から垂直下に放たれた蒼い閃光。
エンカーにとってもシャドーマンにとっても、そして全てのワイリーナンバーズにとって懐かしいその色は、しかし記憶にある輝きの倍の大きさでタイラントを叩きのめした。

目標の沈黙を確認したエックスは再び空中で、ただし横へバスターを撃つとその反動を利用してビルの壁に貼り付き地上へと降りた。
現場では歓声が上がり、ハンター達はすぐに沈黙したタイラントを確保しにかかった。
急いで制御盤を確保して完全に停止させるためである。
だが、そうはいかなかった。

「まだですな」
「ああ、今外部からのマニュアル起動を確認した」

熱源感知でタイラント内部の急激な熱上昇を確認。

〈再起動!?〉

確保に近づいたペンギーゴ隊にタイラントの前肢が降り下ろされた。そして一転騒然となる現場。

「…操作系へのハッキングだな。犯人は腕を上げたか?」
「あるいは防壁のコードが流出されたか…ですな」

〈奴の足を止めるクワッ!〉

明らかな敵意をもって暴れだすタイラントにペンギーゴが氷を吐いて足を、ハンター達はアンカーで拘束にかかる。
だがタイラントは拘束を力づくで振り払うばかりか腹の下に格納されている巨大アームを伸ばしてハンターの一人を捕らえてしまった。

〈ゼロ、そちらからジェネレータを狙撃することは可能か?〉

タイラントには整備用の制御盤のは別に緊急停止用にジェネレータが赤いプラスチックに覆われて露出している。
それがちょうど腹の真下にあるのだ。

〈駄目です!奴の動きが速すぎて……!?〉

別方向から近寄ったものの、忙しなく動くタイラントの脚を避けながらゼロが苦渋を浮かべながら報告を返す。
ついにアイカメラ横についている一対のレーザー砲で周囲を薙ぎ払いにかかった。
本来建築物の壁を切り取るためのビームが通りに配置されたパトカーをナマスにし、警備ハンター達もろとも吹き飛ばしていく。
射線上にいたシグマは既にその身体能力を活かして高く跳躍して近くのビルの屋上に立った。
そのシグマのもとにエックスの通信が届く。レーザーに巻き込まれないため迂回して現場へ向かう最中だった。

〈隊長、奴のパワーは予想以上です!私がもう一度奴を止めます〉
〈よし、行け!〉

エックスが配置に着くまで現場から離れようとするタイラントはゼロがバスターを撃って足止めする。
すぐ前面に着いたエックスはバスターを構え狙いをつけた。
だがタイラントを操っている奴は狡猾だった。
エックスの狙いを察して未だアームに捕らえていたハンターを射線上にかざした。一瞬エックスが動揺したのがわかった。

「ほう、人質とは考えたな…」

機体の損傷を度外視した動きに合わせ、間違いなく今までと同じ犯人だと確信したシャドーの横でエンカーが無言で立ち上がった。
バイザーの下の緑色の瞳から感情が消え失せ、右手には黒い棍、リフレクトスピアーの量産型が握られていた。

「ちょっと行ってくる」

口では散歩にいくようで、全身から闘気をみなぎらせている。ヤル気だ

「まだですぞ、御曹司」

今まさに飛び出さんとする主を静かに制する。
望遠視界の向こうでは何とか味方を傷付けずジェネレータを撃とうと苦心するエックスと、早く撃てと苛立つペンギーゴが見えていた。
このままではハンター達ばかりでなく市街に被害が拡がるのは火を見るより明らかだった。
迷うエックスの横をシグマが駆ける。
一瞬のことだった。
彼が人質の片腕を犠牲にしたとは言え、ビームサーベルで頑丈なアームを切断し、ジェネレーターを文字通り焼き切ったのは
タイラントは、タイラントを操っていた者は反応する間も無かった。
その迅速で鮮やかな手際に誰もが呆然する中、タイラントは完全に沈黙。
現場は喝采に溢れた。

「とりあえず一件落着…ですかな」

呟くシャドーマンの隣でエンカーは我知らず安堵の息を吐いた。
現場は後始末と現場検証、負傷者の救助が始まっていた。

「…で、話を戻すがあの青い坊やは…」
「表向きの製作者はゼロと同じDr.ケインですが詳しい出自は不明。しかし容姿の傾向及び攻撃方法、性格の傾向から判断するに十中八九『Dr.ライト』の製作だと見て間違いありませぬ」

Dr.ライト
前世紀の工学史における『ロボット工学の父』
かつて祖父のライバルだった男
随分懐かしい名前を聞いた。最後に会ったのは『あいつ』が死んだ夜だっけ。
視界の先では多分『あいつ』の弟であろうエックスがペンギーゴから「何故即座に撃たなかったのか」と咎められていた。
多分理由を説明したとて合理がモットーのペンギーゴは納得しないだろう。
横でシャドーマンが説明を続ける。

「一年間の訓練期間を終え、半年前に正規ハンターとして登録され、その後実力と反比例してイレギュラー撃破数は微妙ながらもB級として活躍中。シグマの指示で三ヶ月前にゼロと組んだ至りと…まあ、ハンター内部の評価は『あの』シグナスの数少ない友人の一人として変わり者の甘ちゃん扱いというところですな」

とは言え、将来『あいつ』同様自分達の脅威になる可能性は無いわけでは無い。
その事を察しつつも、シグマから静かに戒められ諭された後、何か思い悩むエックスの肩に手を置いて励ます末弟の姿を見て思わず頬が緩むエンカーであった。

「…聞いておりますか?」
「聞いているよ。うまくやっていけてるみたいだから、つい…な」

新聞をたたみながら咎めるような目線を送るシャドーマンに冗談のように返すエンカー。
だがその笑顔は本人が思っている以上に穏やかだった。
それに再び複雑な思いを抱くシャドーマン。

「あいつの身元引き受け人は?」
「同じくDr.ケインになっております。多分『発見者』ですな」
「…その辺は本人に聞いた方が早いか」

Dr.ケインがレプリロイドを開発させた経緯には謎が多い。
公式にはDr.ライトのラボ跡を発見し、残された論文や資料からヒントを得たとなっているが、それ以上の情報は開示されていない。

「んじゃ、マグとジェミニに連絡入れたらちょっくらラボにお邪魔してくるわ」
「銃火器は使わぬように」
「使わねぇよ」

踵を返してその場を去ろうとするエンカーに釘を差し、「ああ、それと…」と付け加える。

「此度の連続暴走事件…如何見ます?」

クレーン車が到着し、ワイヤーに吊り上げられて回収されていくタイラント。
シャドーマンにはそれが不吉の前兆に見えてならなかった。




[30192] 幕間 私立探偵事務所 M&G
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/10/18 18:21
シティ・アーベル東地区。
大通りから裏へ少し歩いたところに他のマンションやビルに比べてこぢんまりとしたビルがある。
出入り口には金属のプレートに『私立探偵事務所M&G』と銘打たれていた。
その横には紙で「ペット探しから浮気調査まで。24時間対応、料金は応相談」のキャッチフレーズ。

〈そっちでも停止後再起動したか…〉
「ああ、そうだ」

部屋の主の一人DWN.19ジェミニマンはエンカーからの通信に応えながらPCのモニターで暗号コードの発信場所とこれまでの事故現場の地図を見比べていた。

「お陰で複数犯によるハッキングだってわかってな。肝心のメカニロイドはVAVAがスクラップにしちまったけど」

いやー、クラッシュ兄に見せたかったぞ。あの壊しっぷり。と、愛銃のマシンガントンファーにマガジンを詰めているのはDWN.18マグネットマンである。

「ついでとばっちりで吹っ飛ばされたハンターが三人、付近のビルが二練半壊したがな」

呆れたように付け加えるジェミニに通信の向こうのエンカーは眉をしかめる。

〈先週も建築現場潰したばっかだろ?最近顔見せなくなってから荒れてないか?アイツ〉

VAVAはA級イレギュラーハンターであるが、全身銃火器と言わんばかりに肩部バズーカにアタッメントアーム&フットと『見敵即殺』を体現した男である。
エンカーもマグ逹も事件の関係で『偶然』何度も会う内、言葉少なに酒を呑みあったり、事務所に暇を潰しに来たりする仲になった。
たまに奴の担当する事件に介入しちゃったりして追いかけ回されたこともあるがそこはご愛嬌。いつかナパームに会わせてやりたいと思う。
閑話休題。
苛烈な人物には間違いなかったが、三ヶ月前ぷっつり連絡をたってから行き過ぎたイレギュラー『破壊』が目立つようになっている。

「この分だと懲戒処分くらってんな…」

それで済めばいいが…と、憂いつつ二人は自分達の出来ることを優先させる。

「ともかく事件中配線の特定をやっていたんだが、いくつか衛星経由でコードを発信してようだ。市内に発信源らしい場所は既に特定してあとは二つだけになった」
「んで今夜辺りにまた事起こすだろうからアタリつけて張り込みにいくわけ」

マグは愛銃の次に携帯用の電脳錠の具合をチェックして用意を整えた。
ジェミニもアームパーツを開放してジェミニレーザーのバッテリーと実弾のカートリッジを装填する。

「もうハンターの方でも検索は出来ているだろうが…どうもやり口にしてはやることが幼稚というか…」
「ボコにしてとっちめてから聞き出さしゃいいじゃん?」
「お前は黙っとれ」
〈シャドーは何か大規模な事件の前触れだって言ってたな〉
「やっぱりそう思うか?つまり今はお試し期間か…」

かつて取った杵柄とは言わないが、似たようなことを何度もやっていたワイリーナンバーズとしては下手人たちを捕まえて『終わり』とは考えない。
そもシティ・アーベルに存在する自律型メカニロイドの電脳警戒レベルは最高に設定されている。公的機関の人間でもアクセス出来るのはごく僅かだ。
ただの労働者の腹いせだけではリスクが高すぎる。

〈昔は俺たちの『仕事』だったのにな…〉
「言うな。虚しくなる」

ポツリと呟かれた言葉にジェミニは即座に遮った。
そこへ中継通信が入る。コードは024。シャドーからだ。

〈御曹司、つい先程ハンターの方でコードの送信機関の割り出しに成功した模様です。今夜中に西地区にあるアジトに突入するとのことです〉
三人の電脳に直接ハンター側で行われているブリーティングの様子が映し出される。
今朝中央区での暴走事件の発信源はイレギュラーハンター本部からそう遠くなかった。
「アタリだ」とマグが呟く。

〈ああ、ジェミニ、マグネット。取り込み中すまんが、一応組織の者を送っておこう。逃げられた時の保険だ〉
〈俺も行くのに〉
「そっちが来るまでに済ませとくよ」

〈最後に一つ…〉とシャドーマンは付け加える。

〈既にシグマがケインラボに向かいました。理由は一連の事件の見解を聞くためかと…〉
〈ああ、今後ろで奴さんの車が見えるよ。通りすぎるふりしてから潜ってみるさ〉

二人は嫌な予感がした。てっきりエンカーが市内から通信を送っているものと思っていたからだ。

「……お前、今どこいるの?」
〈今バイクでハイウェイ乗って郊外向かってるよ〉
「先に言えバカ!」

皆さん、運転中の通話は事故のもとなので控えましょう。




[30192] 幕間 イレギュラーハンター本部
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/11/21 13:35
エンカーがハイウェイを走っている頃、シティ・アーベル中央区。イレギュラーハンター本部。
(公式には)17の部署を持つ高層ビルは十階から上の練が二つに分けられ、白い音叉のような外観をしている。
任務を終えたゼロとエックスはイレギュラーハンター本部へ帰還し、広々としたエントランスに出た。
そんな二人を出迎える謎の飛行物体(ハ○)…

「ゼロさん、エックスさん、お帰りなさいですぅ〜」
「おう」
「ただいま、アストロ」

アストロと呼ばれた浮遊する○ロもどきは二人の位置まで降りると挨拶する。
ハンター本部ではいつもの光景だ。
アストロはハンターでもなければ別の部署の職員でもない。
いつの頃からか本部の中に出没しだして、七不思議になる前に本部をあげた大捜索の後、いつの間にか副官のシグナスのオプションにされていたのである(本人曰く『拉致されて解析された』)。
最初は「何処で誰が作ったかわからんメカニロイド(?)を本部に彷徨かせるなど…」と喧しく言う者は当然いたが、いつの間にか消え、ケイン博士の鶴の一声で完全に消滅した。
まあ、神出鬼没であることを差し引けば基本人畜無害なので、シグナスの助手兼オペレーター達の人気者として本部に溶け込んでいる。
ホント何をやったんだシグナス。

「戻ったか。ゼロ、エックス」
「シグナス」
「げ」

奥の方から黒い軍服姿の壮年レプリロイドがやって来た。噂の副官シグナスである。
性格そのものを表すかのような南極のごとき冷気がエントランスの温度を二度下げる。
それを見てゼロの顔が思わずひきつる。

「ゼロ、何だ?その疫病神に会ったような面は」
「帰って早々嫌な面見りゃそうなるさ」
「まあまあ、二人とも」
「子供じゃないんだから…」

剣呑になりそうな赤と黒の間に入るアストロとエックスであった。

「まあとにかく、二人とも今回の任務ご苦労だった」
「いや、俺は…」

敬礼で返しながらも言い淀むエックスにシグナスは溜め息混じりに言った。

「話は聞いている。お前の判断は間違っていないぞ。ただ…自分側からの射撃で人質になった同僚に当たりそうだと思うなら、その場で応用を利かせろ。その為にこいつと二人一組(ツーマンセル)だろ?」
「こいつとか言うな」
「まあ、情報畑の俺が口出しする事じゃないがな」
「………」
「ドンマイ!ですよ。エックス」

四人は気付いてないが、エントランスにいる受付や道行くハンター達は普通会話している彼らを不思議そうに眺めていた。
彼らからすればシグナスは総監の次の上官であり、日頃の雰囲気も相乗して必要以外話したいとは思わない。
更に言うなら素行の悪かったフレイム某というハンターを、氷づけにして30階から叩き落としたという噂のせいで、更に近寄りがたいことになっている。
閑話休題。
ともかく、シグナスという「冷徹」の体現者が今「友」と呼べるのはエックス達の三人である。本人たちは全く意識してないが

「ところで、今から出るところだったのか?」
「ああ、メーカー側の社長達に事情聴取と被害者の陳謝にな…」

シグナスの顔が人間でいうところ胃下垂に胆石が重なった様なしかめっ面になった。

「被害者って…」

その言葉にエックスが顔色を変えるが、そうではなかった。

「別に怪我人が出たとかじゃない。ただバカな身内が暴れすぎたせいで付近のビルがな…」
「二練半壊だそうです」
「ああ…」
「成る程」

最悪の予想をしていただけに安心していいのか微妙な気分になりながら、バカの尻拭いする羽目になったシグナスに二人は同情した。

「ちなみに総監はレプリフォースとの会議に出席して今はいない。報告書と始末書は勝手にデスクに置いていいぞ」
「始末書書くようなヘマするか」

ゼロと憎まれ口を叩きながら、シグナスは玄関口で待機していた送迎車に乗り込んでいった。

「ちゃんと納得いく理由を文章に出せよ?」
「さっさと行け!」
「いってらっしゃ〜い」

副官を乗せた車が発進したのを見届けると、三人は改めてエントランスの奥へ進んだ。

「全く…大体なんで今もタイプライターで作成なんだ?」
「それにしても最近シグナスも本当に忙しそうだね」
「ほぼ毎週事件ですからねぇ。あ、エックス。おいらも手伝いますぅ」

エントランスからエレベーターに乗って指令室に向かう間、すれ違うハンター達の間ではここ最近のメカニロイド事件で持ちきりだった。

「今日だけで二ヶ所。今月に入ってメカニロイドの暴走件数6件に入るってよ…」
「その件でシグマ隊長がケイン博士に相談に…」

ふと立ち止まり、エックスは考えてこむように呟いた。

「イレギュラーか…どうしてイレギュラーは発生するんだろう?」

その問いはイレギュラーハンターになる者なら誰もが一度は抱く疑問である。
ゼロは少し考え込んでから言葉を選んだ。

「プログラムのエラー、電子頭脳の故障…俺達レプリロイドの造られるに当たっての―――いわば高性能化のツケだな」
「まあ、イレギュラー化した対象を機械としてみるか人間の考えに当てはめるかで物議が割れてますけどね……ありゃ?」

アストロが説明を続けようとした時、進行方向から警らレプリロイドに両脇を固められ連行されていく紫色のフルフェイスメットとアーマーのレプリロイドが目に入った。エックスも知ってるハンターだ

「VAVAだ…大方また何か揉め事起こしたんだろう」
「揉め事どころじゃないんですけどねー…」

アストロの呟きからしてビル二練を半壊させたのが誰か知ったエックスは納得した。
確かに彼ならやりかねないと思った。
人々を守るためにハンターはイレギュラーを倒すのだが、VAVAの場合はイレギュラーを『破壊』することに悦びを見いだしている節があった。最近は特にその傾向が酷い。
実際巻き込まれて負傷した同僚は多いし、エックスやゼロも巻き込まれかけたことがある。
その彼が手錠されて懲罰房へと連行されていく。
納得はしても知っている同僚がイレギュラーと同じ扱いを受けると言うのは見ていて気分の良いものではなかった。

「ま、エックスみたいな甘ちゃんもいれば、VAVAみたいなイレギュラーすれすれのやつもいるってわけだ」

そう締めくくったゼロに促され、エックスは自分達の第17部隊庁舎に向かったのだった。

この時、エックスは自分の中の言い知れぬ小さな不安の正体に気付けずにいた…




[30192] Dr.ケイン(修正)
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/11/01 13:09
シティ・アーベルからハイウェイに乗って一時間。
大戦の影響で今や希少となってしまった自然の樹木が青々と繁る場所に出る。
そこの一画にドーム状の白亜の施設を中心とした科学設備が建ち並んでいる。
ここがDr.ケインのラボであり、政府公認のレプリロイド研究施設にして機械工学を始めとした教育機関でもある―――謂わば発展途上にある学術都市の中枢である。
既にハイウェイから直接入れる交通設備はもとより、衣食住の設備も潤沢に整った場所だ。

その広大な研究施設の一画、豊かな森とシティ・アーベルの遠景が見える位置にケイン個人の生活スペースがある。
アイボリー色の壁紙、ワイン色のカーペット、長いテーブル、清潔なテーブルクロス、小さな暖炉…質素ながらも趣のある調度品の存在と部屋の広さが博士の生活レベルの高さを物語っている。
ただひとつ違和感があるとしたら、木の棚に飾られたブリキ達だ。既に幾つか色が褪せ、何度も修理された跡も見える。
全て、ケインが子供の頃から集めてきたコレクションだ。

「最近、騒がしいようだな…」

全体的に細く痩せこけた面、北欧系の血を思わせる鷲鼻。豊かな眉毛と髭、そして足元まですっぽり覆う青いローブ。
お伽噺に出てきそうな魔法使い、或いは錬金術師の出で立ち。その表現はあながち間違いではない。この老人が大戦で荒廃した世界を復興に導いた『魔法使い』の一人、ジェームズ・ケインその人である。そしてシグマの生みの親でもある。
テーブルの上の鮭のムニエルにナイフをいれながら、ケインは静かに言った。
窓から柔らかい光が差す中、かつては多くの科学者や政府の高官を招いて議論を交わした部屋には今ケインとシグマしかいない。
レプリロイド工学の第一人者と未だ名高いケインだが、最近は隠遁に近い生活に入っていた。
原因は言うまでもなく寄る年波である。いまだその知性は衰えておらずとも、既にその身は車椅子でもある生命維持装置がなければ話すことすらままならぬほどであった。

「はい、ケイン博士。ここのところレプリロイドの犯罪は増加傾向にあり、大型メカニロイドの暴走も数件起きています」

彼の脇に立つシグマは淡々と報告していく。現状、『最高のレプリロイド』と謳われる彼が相談するのはこの老人だけだった。

「ふむん…」

ケインはナイフとフォークを持つ手を置き、息をついた。そして車椅子の背にもたれかけた。

「……エックスはどうしている?」
「エックスですか…?」

何故エックスの名が出るのか疑問に思いつつ、シグマは真面目に報告した。

「情報分析力、行動力、判断力共に高いレベルを示しています。が、時に思い悩み、判断を遅らせることがあります」
「そう、『悩む』…それこそが『X』の最大の特性だ」

眉間のシワをほぐしながら、ケインは確信のように言った。
「シグマ、お前は悩むことがあるまい。私はかつて封印されていたロボット『X』を見つけ出し、その設計理念を利用してお前たちレプリロイドを生み出した。レプリロイドは人間と同じように考え、行動することができる」

―――だが…とケインは続ける。

「深く思い悩むことのできるのは、『X』だけだ。それは一つの可能性なのだが…」
「特性…悩むことが欠点でなく?」
「欠点か…普通はそうだろうな」

ケインは小さく笑い、『息子』に対して諭すように続けた。

「だが『思い悩む』ことのできるレプリロイドが、人類にこれまでにないレプリロイドとの新しい関係をもたらすかもしれん」

そう、ほとんどのレプリロイドはその域に到達していない。人間社会での役割を果たす為に情緒アルゴリズム等を制限されているのもあるが、それは技術の限界でもあった。

「しかし、その可能性が希望となるのか、そうでないのか…まだ誰にもわからないのだ」

ケインは一息ついて、遠い目で過去に思いを馳せながら呟いた。

「私はそれを見届けたいと、こうして延命してきたが…」

部屋の中に生命維持装置の排気音が響く。

「間に合わんかもしれんな…」

老いた科学者は絶望と共にその言葉を吐いた。
シグマは何も言わなかった。二人とは別の気配を察していたからだ。
足音を殺して窓の近くで銃を構える。

「どうした?」
「静かに」

シグマの言葉に緊迫を読み取ったケインはその通りにして窓から離れた。
復興に伴う高度情報化社会はまだ第三世界に浸透はしていないものの、やはりその反動によるテロ活動や企業による技術スパイは後を立たない。
レプリロイド工学の太祖として最大の標的たるケインと、その最高傑作シグマにとって馴れたやり取りである。
セーフティを外し、勢いよく窓を開け放つ。
だが、そこに人はおらず、ウサギ型のメカニロイド『レイピッド』が音に驚いて逃げ出すところだった。



日が傾いた頃にシグマはシティに戻り、再び部屋にはケインだけになった。
窓からの風景をぼんやり見つめるケインの耳に木製のドアが静かに開く音が届いた。

「このところ、目が衰えた代わりに勘が冴えてな…今日はまた誰かが来ると思っていた」

見えぬ客人に向かってケインは静かに振り向いた。

「で、私に何か御用かね?」

相手は答えない。光学迷彩で姿を隠した客人は老科学者を試す様に沈黙を守ったが、やがて口を開いた。

『Dr.ライトのラボ、ロックマンXの発掘場所を』
電子合成音声で発せられた言葉にケインは僅かに目を見開いた。

「あそこには最早何も…」
『アルバート・W・ワイリー』

感情の窺えない声は世界が忘れようとした名を告げた。
その時点でケインは相手がDr.ワイリーの関係者だと察した。
大きくは驚かなかった。予感はあった。

『資料が目当てじゃない。ただの興味だ』

感情の無い声に懇願が入る。
ケインは目を閉じて考え込み、そして応えた。

「―――場所は…」






[30192] 消された下手人
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/10/18 18:24

「まったく、ゼロさんは鬼です悪魔です」

手動式タイプライターを打ちながらアストロはプンスカとここにいない者に文句を言った。

「ビデオコーダーだけ渡して『ちょっと実証したいことがあるから任せた』なんて、手伝わすイコール丸投げと勘違いしてますぅ!」

隣で同じくタイプを打ちながら報告書を作成していたエックスは苦笑いした。
いつも思うが、このメカニロイドは本当にレプリロイド以上に感情に富んでいる。

「すぐに戻ってくるよ」
「どうでしょ」

プンプンしながらアストロはたどたどしい文章をカーボン紙に打ち込んでいく。慣れた手つきだ。
それに倣ってエックスも文章を打ち込んでいく。
ふとエックスの手が止まり、彼は考え込むように唸った。

「どうしました?」
「撃てなかったところをどう説明しようかな…って思って」
「ああ」

『同僚が人質に取られていたから』と理由にはなるが、エックス自身が動揺せず冷静に対応していれば、シグマ隊長の手を煩わせることなく済んだのでは…と思えてならないのだ。

「やっぱり俺は撃つべきタイミングを間違えたのかな…」
「そうですねぇ…」

エックスは優しい。だからイレギュラー判定されたレプリロイドやメカニロイドに対して撃つのを躊躇うときがある。勿論、市民を守る義務は忘れていないし尊重している。だが、果たして自分達は本当に正しいのか?
それが他の隊員には甘さにしか映らない。
今のところ任務に失敗は無いが、彼の評価はやはり低いままだ。

「ごめん、君にこんな話して」
「いや、でも隊員の安全を優先したんでしょ?例の隊員からもお礼言われたし、皆わかってくれてますよ」

犠牲を覚悟することと犠牲を強いることは大きく違うのだ。
その境界が解らないのではハンターもテロリストも変わらない。
少なくとも、アストロはそう思う。

「シグナスだって言ったでしょ?チームなんだから一人で解決するなって。改善するべき点があるにしても、何かに偏った細胞群はいずれ崩壊するってもんですよ」

実際アストロの『兄弟』もかなり偏っていてギリギリである。
今頃、賞金稼ぎや傭兵や闇組織や泥棒をやっているだろう兄弟たちを思い馳せながらアストロはシミジミと言った。

「くよくよする前に、自分のできることで貢献しましょ。報告書の作成が出来ることもハンターの条件です。人に自分のレポート作成やらせる誰かさんよりはエックスの方が…」

ぶつくさ言いながらタイプを再び打つアストロからちょっと負の念が出ていた。
因みにアストロの言葉通りイレギュラーハンターは報告書の作成で任務中の行動について納得できる理由の記述、及び5Wの文章力も要求される。
もちろん映像記録も提出されるので、虚偽の部分は無いか徹底的に調べられる。
ちなみにシグナスに言わせれば
『イレギュラーハンターは一見破壊活動をしていると思われがちだが、殆どのハンターの場合〈そうしなければイレギュラーに逃げられ被害が更に拡がる〉と判断しての行動だ。別にやりたくてやっている訳ではない。理解したか?理解しろ(←命令形)』
と、わかるように書けとのことだ。

「…でもこれって『というわけでちょっとの被害は毎度多目に見やがれ』って意味に取れるですぅ」
「俺もそう思う…」

ちょっと青ざめながら改めてタイプを打ち始める二人であった。

―――自分の出来ることか…

タイプライターのカタカタという音を聞きながらエックスは任務の後、シグマの言葉を思い出す。

『引き金を引くことを躊躇うな。エックス』

背負うものの為にいつか引き金を引かねばならないときが来る。隊長はそう言った。
その時が来た時、果たして自分は撃てるのだろうか?


シミュレーションルーム。
エックスとアストロが報告書を作成していた頃、ゼロはヴァーチャルスペースで隊員を人質に取ったタイラントと対峙していた。
正確には昼の任務のシチュエーションである。
これみよがしにアームで捕まえた隊員を前に出し、人質であることをアピールするタイラント。
アームと隊員の隙間から赤いジェネレーターが見え隠れを繰り返し、ゼロは苦心してその隙間に照準を合わせる。
アームの動きとバスターショットの弾速を予測し…発射

『グワァォ!』

胸部に直撃を受けた隊員(仮想)の断末魔と共にバーチャルスペースが解除される。

〈ザンネン。終了〉

感情のないインターフェースの電子音声と共に命中率95%と表示される立体モニターが現れ、ゼロは眉をしかめた。

「5%もミスっちまった…」

攻撃手としては充分すぎる数字だが、「スナイパー」の異名を持つゼロとしては大きな失点である。
やはりあそこは撃たないのが正しい判断だったのか…
そう考えるゼロに聞き覚えのある声がかけられた。

「95%だ、大したもんじゃないか?」
「イーグリード!」

出口に立つ青い鳥人の姿を見てゼロの顔が明るくなる。
イーグリード。空中戦専門の第七部隊の隊長その人である。それを示す如く鷲の頭頂の他、背中には立派な翼があった。
ゼロにとってはエックスと組む以前からの戦友である。

「お前、ミサイル基地の警備は?」
「無人警報装置が完成したんで守備隊は縮小されたよ。今日から通常のハンター業務さ」
「そっか…」
「で、早速暴走メカニロイド事件の徴収だ。行こうぜ」

二人は道すがら積る話をしつつブリーティングルームに向かった。
ゼロの足下の影からの視線に気づかぬまま…


オペレーターが解析した犯人たちのハッキング経路は衛星から初め、国外にある何個ものコンピューターを経由して擬装していたが、結局は市内―――西地区16番地にある空きテナントからだった。
このアジト(仮定)への摘発にゼロとエックスのチームが先行。後づめにイーグリード隊、ペンギーゴ隊が突入することになった。
時刻は既に夜を回っていた。

一方同じ頃、「派手なことやらかす奴は大概特等席(現場の近く)にいる」と言う持論のもと、それらしい東地区の空きテナントを張っていたマグとジェミニにも獲物がかかった。
五人ほどの人相の悪いレプリロイドが車で来たかと思うと、案の定中に入った。そして先頭が似合わぬスーツケースを開けると中には携帯アンテナと何十ものコードがあり、それを据え付けてあるコンピューター群に差し込んでいった。
そして今まで観測したのと同じ周波数の電波。
アタリと踏んだ二人はすぐさま突入した。
もちろんすぐに気づかれたが、武器を取り出す暇はやらない。
ジェミニはセブロの8ミリで相手の関節を撃ち抜き、残った敵はマグが接近戦で無力化していく。
あっという間であった。二人の特殊武器を使うまでもない。と言っても、特殊すぎて狭い部屋では使い物にならないのだが

「イレギュラーハンターめ!」
「うちは探偵だよ」

喚く相手を次々袋を被せて縛り上げているとき、微かな足音でジェミニが、磁力の変動でマグが侵入者に気付き銃口を出口に向けた。侵入者も対サイボーグ用ライフルの銃口を向ける。

「なんだ、もう終わってる」

侵入者はエンカーであった。

「遅い!」

三人とも毒気を抜かれて銃を下ろす。

「そいつらが犯人で間違いない?」
「今からそれ聞くとこだ」

一人だけ袋を被らされず足で地べたに這いつくばらされたレプリロイドがいた。
マグは懐から電脳錠を取り出し、もがくそいつの送信機器に差し込んだ。

「よし、いいぞ」

糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた犯人の首根っこを掴んで壁に座らせたマグはエンカーに合図を送った。
エンカーは背中のバックパックに入れてあるファイバーコードを引っ張り出すとその端子を送信機器に接続し、電脳内の視覚と記憶野に侵入。回路を傷付けないように解析していく。

「左視野に侵入…」

犯人の左目がチカチカと明滅する。侵入に成功した証拠だった。

『続いて記憶野に侵入成功』

エンカーの声が電子音声に変わる。表層のハッキングはこれで完成した。あとは自白剤ヨロシク真実を述べていく。
勿論これは違法行為である。だからイレギュラーハンターがこちらに介入する前に終わらせる必要があった。そもそもこいつらの黒幕がイレギュラーハンターの手に負えるという保証は無いし、場合によってはシャドーの組織と共に闇へ葬らなければならない可能性がある。未だシティ・アーベルに介入したがるテロや列強は多いのだ。

「まずは、だ。何処でタイラントの暗号コードを手に入れた?」

尋問はジェミニが担当することになった。

『依頼人からだ。大型メカニロイドで騒ぎを起こして欲しいからと、大金と一緒にメモを渡された』

金目当てか。気持ちはわからんでもないが…三人は内心で嘆息した。

「そのメモは?」
『依頼人からの指示で覚えた後は燃やして捨てた。メーカーが書き換えた後も同じだ』
「ここにある設備は?どこから引っ張って改造した?」
『指示されたパーツを集めて仲間と組み合わせた。闇に行けばいくらでも置いてあるパーツだ』

黒幕は随分慎重と来ている。しかも暗号コードを知ることができるとなると、かなりの地位があるか上級のハッカーだ。

「最後に一つ…お前らの依頼人の名前と特徴を…」

周囲を警戒していたマグの磁力計に変化が見られた。何かが近くで動いている。

〈千里眼より018、019へ。東区ルート43で擬装したハンターと思われるトラックと装甲バンを発見!そっちに向けて進行中、以上〉
〈もう来ている>

シャドーの手の者からの暗号通信を受けてマグはジェミニに暗号通信で伝える。ジェミニも即座に尋問を中断して再び引き金に指をかける。
何かが振り抜かれ犯人の首を飛ばすのと、マグがダイヴ中で動けないエンカーのコードを切って引き倒したのはほぼ同時だった。
ジェミニは眼前に飛来した巨大な刺を紙一重でかわし、光学迷彩をした敵に向け発砲した。だが悉くが虚しく壁に当たっただけだった。
エンカーを守るために体勢を立て直して銃を構えるマグだが、自分とエンカーの頭に赤い光点があることに気づいて動きを止めた。
既に周囲を囲まれていたのだ。

「ににに!いい夜だな探偵ども」

壁に張り付いていた襲撃者は光学迷彩を解除して嫌らしい笑みを露にした。

「カメリーオ…!」

圧倒的不利を悟ったジェミニは銃を床に下ろしながら忌々しげに相手の名を呟いた。
カメレオン型レプリロイド―――第九部隊の副隊長スティング・カメリーオ。となると周りにいるのは隠密性に長けた第九部隊だ。
シャドーの寄越してくれた面子の数は不明だが、ヤバイことにはかわりない。
地面に座らされ、武装を没収されている間、立て続けに空気の抜ける音がした。
「あ!!」マグが声を上げる。先ほど自分達が縛り上げたレプリロイド全員が隊員によって射殺されているところだった。

「てめえ!大事な証人を…」
「黙んなU字磁石。お望みならお前さんの頭に風穴空けてやるよ」

後ろ手を拘束されながらも憤慨して食って掛かるマグを冷たくあしらい「連れていけ」と部下に命じたカメリーオは視線をエンカーに向けた。

「で?何でここに金食い虫がいんの?」
「ただのボランティアですが何か?あと俺は『烏』だぜ副隊長」

おもいっきり口の端をひきつらせて嫌味をきかすカメリーオにエンカーは爽やかな笑顔で答えた。
内心は手がかりを皆殺しにしたカメリーオの電脳を焼ききりたいほど煮えくり返っていたが

「けっ!申し開きは人間の警察にしな」

しっしっと巨大な手を振りながら部下にエンカーも連行するよう指示した。

「アル!そいつらには何も喋るな!!」

会話の最中マグが始終怒鳴っていたが、結局隊員に下に着いた護送車までひきづられていった。



両手にレプリロイド用の手錠をかけられ、護送車にマグとジェミニが、エンカーは人間の警察に連行するためにと隊員二人の同伴で装甲バンの後部座席に乗せられた。
ロボットの二人とは対称的に始終大人しくしていたのには理由がある。
バンに乗せられると同時にゼロの影に潜っていたシャドーから通信が届いたからだ。

〈御曹司、取り込み中失礼します〉
〈シャドーか〉

両脇にいる隊員に気取られぬよう平素を装いながら、ナンバーズだけの暗号通信で報告を聞く。

〈西地区の下手人達が何者かに切り捨てられました。これが現場の映像です〉

電脳に送られたシャドーの視界映像には先程と似たような打ちっぱなしのコンクリートの床に事切れたレプリロイドたちが転がっていた。
死体の有り様は文字どおり『切り捨てられた』に相応しい有り様だった。

〈高出力のビームサーベルってとこかな。ナイフなら腕は飛ばさず首か心臓に一突きすりゃいいし〉
〈ゼロたちが突入したときには既に…かなりの手練れの犯行と見て間違いありますまい〉
〈こっちは吐かせてる最中にカメリーオに消されたよ。タイミング良くないか?>

シャドーの視界が移動する。現場にシグマが到着したところだった。

〈……奴さん、俺より先に帰ったはずなんだが〉
〈これは思いの外、根の深い事件になりそうですな〉

高出力のビームサーベルを所有し、かつ四人のレプリロイドを抵抗する間もなく切り伏せることの出来る人物は限られてくる。
だが、動機がわからない。

〈ともかく、この状況を打破せんことには動きようがないから、マグたちはアストロに任せよう。こっちは…〉
〈既に尾行をつけております〉
〈サンキュ〉

バンは警察署でなく人気のない裏通りに入っていた。消される気配もあったが、チャンスでもあった。
パチンと何かが外れる音がして隊員たちは連行した男を見た。
『にひっ』と笑いながら自由になった手を見せる男。それが隊員たちが見たこの日最後の光景だった。




[30192] Bar「明月」
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/10/18 18:25
シティ・アーベル中央区から近い歓楽街の一画。
人気のないビルに『明月』と達筆な筆で銘打たれた酒場がある。
夜は景観の良さと日本風の内装、和食で知る人ぞ知る穴場である。
だが、営業時間外の明け方は閑散としているはずの最上階では物々しい気配に満たされていた。
従業員の人間やレプリロイドばかりでなく、合流したらしいサイボーグや戦闘型レプリロイドが全員武装し、来るべき時に備えて得物のチェックに余念がない。

「揃ってるか?月光」
「おう」

影から現れたシャドーは屈伸して関節を温めているレプリロイド『月光』にちかづいた。彼も顔をあげて返事をする。
10代後半の幼さの残る顔にシャドーと同じ赤い目。同じ忍者の姿がシャドーマンと同系列のレプリロイドであることを示していた。あえて差異を挙げるなら、頭に被ってるシンプルな鎧兜を模したヘルメットと、派手な赤いマフラー、そして微妙な身長差である。
まあ、そんなことはどうでもいい。(本人は多少気にしているが)
首領の『息子』にして代行を務める月光はぐるりと店内を見回した。

「集められる面子は皆来たぜ」

迷彩服と防弾に身を固めた傭兵あがりを始め、時代劇に出てきそうな笠とマントを羽織ったイタチ型のレプリロイド『青竹』、黒い袈裟に数珠繋ぎにした爆弾玉を肩にかけたタヌキ型レプリロイド『赤松』。
少数ながら組織のそうそうたる戦力が揃っていた。

「で、本当に事は起こるのかよ?」
「うむ、確定ではないが念を押すに越したことは無いからな」

ゼロ達が突入した方の犯人グループが持っていたであろうハッキングのデータはことごとく回収された後だった。犯人はすべてのデータを手に入れたと考えるべきだろう。
エンカーがもう一組から読み取った記憶データだけが頼りだが、シャドーが懸念しているのは工業用メカニロイドの一斉暴走だけではない。
人類とロボットの共存、そのモデルケースとして成立したこの街に潜在している崩壊の要因は数多い。

「ハンターへの警告は済んだか?」
「既に」
「軍に通報した方が早くねぇか?」

義眼をしたサイボーグの一人が言った質問に、別のサイボーグとフクロウ型レプリロイドが答えた。

「軍には匿名の予告として通報しておいた」
「ライフライン及び重要施設は奴等に守らせる」

「あとは無駄骨であることを祈るのみ、か」

そしてシャドーの号令のもと、全員がビルから出撃する。誰にも悟られぬようワイヤーで路地に降り散開。飛行能力の有る者は音を殺して起きかけた街に向かった。



日が登り、街が動き出した時間。シンボルタワーの最頭頂付近に潜伏していた管制特化型レプリロイド―――千里眼と万里耳は自分たちの張ったアンテナに例の電波が観測されたことを確認した。

「信号を確認。照合、一致しました」
「視界映像を送ります」

千里眼が見た映像を万里耳が自己の電脳で共有しながら解析し、同時にハンターや敵の信号を解析して街に散らばっている仲間に送っていく。
彼らの他にも、先に偵察に出た仲間が各方面の映像を送り中継していく。

ハイウェイから望む高層ビル街の一画。
大戦時に廃墟になったビルの解体をしていたタイラントが突然動きを止めた。
それに気づいた現場主任が何か不具合が見つかったのかと近づいた。
最近の暴走事件も脅威だが、たまに大戦の置き土産―――サリンなどの化学兵器や不発弾が見つかることがあるのだ。
マスクをしてビルの中を見るが異常は見当たらなかった。一緒に作業しているメカニロイドに聞いてみても異常は無いと言う。
首を傾げていると、タイラントは再び動き出して―――猛然と逆走してプレハブの事務所に突撃した。


ハイウェイの防音ガードレールの上を下忍の『月桂』を連れて走っていた月光の視界に吹き上がる粉塵が見えた。

〈南地区ポイントR786にて暴走を確認。機種、タイラント。続いてルート30にもプレス・ディスポーザーが暴走〉

目の前の惨事を皮切りに次々と報告されるメカニロイドの暴走。『親父』の懸念が現実になったのを実感した月光はこの騒ぎが街の全てに拡大していくと直感した。

「うわわ!?本当に始まっちゃった!」
「急ぐぞ!」

走りながら戦慄する月桂を叱咤し、月光は速度を上げて現場に向かった。
街にけたたましいサイレンが鳴り出したのはその直後だった。




[30192] 混迷
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/10/18 18:26
怒号と悲鳴、クラクションが街を飛び交い、現場を離れた工業用メカニロイドが闊歩するたび市民の混乱を煽る。
既に機動警察やハンターのヘリ及び装甲車がメインストリートを駆け回り現場で対処に当たっているが、もはや焼け石に水の有り様だった。
昨夜逃げた犯人を捜索していたエックスとゼロも、本部に戻る間もなくライドチェイサー(ホバリング式バイク)でいくつもの現場を駆け巡っていた。
ハイウェイから見てもシティ・アーベルは一昔の戦場と変わらぬ呈をさらしていた。見慣れた街並みは瓦礫と化し、あちこちから火の手が上がっている。

「何でこんなことに…」
「メカニロイドの暴走…俺達を撹乱するためだけのような気がする」
言葉を失いそうなエックスに反してゼロは冷静に言った(ただし走行中なので電子通信である)。

「犯人の狙いは別にあると?」
「むしろこういうどさくさ紛れにやれることは多い…」

誘拐、暗殺、機密奪取、侵入及び潜入、密入国etc…歴史を紐解くまでもなく、混乱に乗じて己の利を貪る者は後を絶たない。

「他の隊と連絡が取れないのも気になる。問題はここまでして狙うものが何かだ…」

険しい顔をして呟くゼロの元に本部のオペレーターから緊急通信が飛び込んできた。


メカニロイドの暴走が始まった頃のハンター本部の地下。
また微かな地響きが伝わってきた。その度に暗い独房の天井から埃がパラパラ落ちてくる。

「揺れてんなぁ」
「揺れてるな。…しかも今度は近いぞ」

両手両足を頑丈な手錠で固められたままマグとジェミニは呟いた。
結局重要参考人という形で拘束された二人は、ハンター本部の地下にある独房楝に無理矢理拘留されたのである。取り調べなどあったものではない。
そしてそのまま朝を迎え、今に至る。

「地震かなぁ?」
「磁石ロボットがアホなこと言うな。電磁波の変動が観測されてないし、大体こうも震源が移動してたまるか」

再び振動、何か倒れる音が遠くから響いた。

「やっぱ一斉蜂起ってとこかな…」
「確かに、重機メカニロイドどもが暴れているなら説明は着く」

再び二人は黙り込む。予想はしていたのに防げなかった。
これでは例の事件の責任を取らされた身内の潔白を証明して欲しいと言った依頼人への弁明どころではない。何より悔しかった。
警察をやっていたロボットの気持ちが今ならよくわかる。

「よし、出よう!」
「どうやって?」
「とりあえず通気孔から…」
「足も固められたままだが?」

探偵二人が不毛な会話をしていた頃、離れた独房で一人項垂れるレプリロイドがいた。
VAVAである。
彼もまた両手両足を拘束され、トレードマークの武装も没収された状態でこの独房にいた。
再び暗い独房が揺れる。だが彼は反応しない。近くの独房にいる知り合いの会話を聞いても全く同じだろう。
―――電子頭脳に欠陥あると見なし、本日を以て解体処分。
それが上層部と委員会が彼に下した決定だった。今のVAVAは刑の執行を待つ死刑囚のまさしくそれだった。
だから近づいてくる足音も監守だと思って気にもしなかった。
唐突に、電子ロックされているドアが開いた。暗かった部屋に光と、人影が映る。見覚えはあった。
顔をあげ、影の主を見る。予想通りだった。だから笑えてしまった。

「フン、直々に俺を処分しょうと?」

影は―――シグマは何も答えず、VAVAにビームサーベルを抜き放った。
思わず拘束されている両手を盾にするが、予想していた『死』は来なかった。カラン、と音を立てて切り裂かれた手錠が足元に転がった。
降ってわいた自由に戸惑うVAVAにシグマは言った。

「力を貸せ。『X』を倒すぞ」

足音が聞こえてきた時点で会話を止め壁に聞き耳をたてていたマグとジェミニは、その後続いた会話で自分たちがとんでもない場面に居合わせていることを知った。


とんでもない状況に立たされていたのは独房にいる彼等だけではなかった。

「えーと…」

アストロの手引きで独房楝に潜入した下忍は目の前の光景に呆然としていた。
監視カメラのモニターも弄ってもらった。警報装置も弄ってもらった。自分は光学迷彩を装備してスタンガンと煙幕も用意した。そして表の騒ぎに乗じて潜入してみれば…斬殺死体の山である。しかも監守たちの
思わずどうしたものかと悩んだが、ここで呆けていては様子を見に来たハンターに見つかってしまう。
とにかく彼は機能停止している監守の懐から手錠の鍵束を抜き取ると、すぐさま独房の方へと侵入していった。
廊下まで続く死体を避けながら目的の独房まで走り、扉の監視穴から中を伺う。

「助けにきました。今解錠します」

目的の二人はいた。何故か扉のそばに

「待ってたぁ!」
「遅い!」

扉を解錠した二人が発した第一声は正反対だったが、目にちょっぴり涙があった。

「表は若大将が車で待ってます。ただ、街はメカニロイドが一斉に暴れだしてどこもかしこも寸断されています」

手錠の解錠をしながら下忍は報告した。ちなみに若大将とはエンカーのことである。

「だろうな。こっちにも振動がきている」
「おやかた様たちが対処に向かってるけど…こっちはこっちで何があったんです?」
「こっちが聞きたい」

廊下に転がっている監守たちの残骸を見て、ジェミニはそう吐き捨てるしかなかった。

「あ〜あ、道理で静かだと思った…」

死体の前で十字を切るマグの横でジェミニが冷静に死体の損傷部を注視した。

「西地区の連中と同じ死に方だな…」

連行中、護送車の中でシャドーから送られた情報の中に西地区の犯人グループの死亡状況も含まれていた。
それと照合すると完全に一致するのである。二人の中で何かが繋がった。

「まあ誰がやったかはわかってる…とにかく、ここを出るぞ。説明はその最中だ」

しかしいざ楝から出ようとした時誰かがやって来た。三人は即座に独房の中で身を潜める。
エックスとゼロである。たぶん連絡を受けて駆けつけたのだろう。二人は惨状を前に一瞬言葉を失った。

「一体、誰が…」
「どれも急所を一撃か…VAVAじゃないな。奴にこれほどの戦闘能力はなかった。恐らく、例の事件の犯人と同じやつだろう」
「じゃあ、そうなると犯人はVAVAを逃がすためにメカニロイドを暴走させたってことなのか?」

静かな独房楝で二人の声が響く。
下忍は暗がりの中でいつでも煙幕を焚けるよう準備した。

〈こちら本部。ゼロ、応答願います〉
「こちらゼロ」

疑問がつきない中、二人の下に通信が入る。しめた、思った三人は盗聴に当たった。

〈コードの発信源を突き止めたわ!北西部のミサイル基地からよ>
「!?向こうに通達は?」
〈既に通達を送るも応答は無いわ。二人は至急確認に向かって〉
「了解!」
〈それと…シグマ隊長と連絡がつかないの〉

二人は奥の三人に気づかぬまま、本部を後にした。


「ミサイル基地から?」
今しがたタイラントを沈黙させたシャドーはエンカーからの通信に首を傾げた。

〈警備システムに化けて軍事衛星経由でバンバン電波流してる!止めようにも逆探知ウィルスじゃ間に合わない〉
〈あとシグマは黒だよ。真っ黒。さっき監守皆殺しにしてVAVA連れていきやがった!〉

逼迫したエンカーの次にマグが怒りのまま通信を入れる。アストロが監視モニターを弄る前後にシグマは凶行に及んだらしい。外から連絡を受けた本人がこっそり確認したところ、モニターの監視員も殺されていた。
アストロに余計な疑いがかからなければいいが…
しかしメカニロイドの一斉暴走、それと同時に暴動の煽動。これを機に政府機関の制圧及び占拠を果たすものかと思ったが、いまだその気配は無い。
シグマを追っていた部下から連絡が取れないのを考えて、既に国外に出たか?だが海岸線を張っているチームからその動きがあったという報告は無い。

〈それと動機も解ったぞ〉

二人にかわって冷静なジェミニが言った。

「それは?」
〈『X』を倒す。ひいてはそれがレプリロイドの進化に繋がるんだとさ。レプリロイドでエックス(ライト型)ほど可能性を秘めた奴はいないらしい〉

努めて冷静な言葉の中に隠しきれない嫌悪が見え隠れした。理由はどうあれ住み慣れた街を破壊された怒りは大きい。

〈今俺達もゼロのあとを追って基地に向かうところだ。第9の連中からパチッたID使って潜入する。そっちは引き続き、シグマの捜索を頼む〉
「御意」
〈千里眼より各員へ。第9部隊の出動を確認。光学迷彩を展開して散開。尚、隊長格は確認されず〉

通信を聞きながらシャドーはミサイル基地がつい先日無人警報装置が完成したため守備隊が縮小されていることを思い出した。それの目さえ欺けば、すんなり中枢まで入れる…いや待て。
ミサイル基地にはまず『何』があった?

「御曹司!!」

シャドーは血相を変えて通信の向こうの主に呼び掛けた。

シャドーの大声で聴覚がイカれそうになりながらもエンカーはアクセルを止めなかった。


「大至急基地に到着次第システム制圧を。だめ押しが来ますぞ!」
〈何!?〉

シャドーの後ろの瓦礫の後ろで光学迷彩で姿を隠した者が隙間から銃で狙いをつける。
空気の流れで背後の気配を読み取っていた。弾が顔の横を掠める。
即座に間合いを詰め、二射目が来る前に脇で銃を持つ腕を挟み空いた手で相手の喉笛を突き刺し頸椎部を破壊した。
機能停止を起こした死体を放り出すと迷彩が解除され姿が露になる。敵は第9部隊のハンターだった。
いよいよシャドーは自分の予想の中で一番最悪なものが現実であると確信した。

「ミサイルでござる!」

怒りのままに吐き出す。この状況を作ったシグマに

「暴動でハンター達を釘付けにして、既に奴は街を出て基地に向かっているはずです。まだ奴がハンターなら警報装置は作動しません。あとは発射ボタンを押すだけ…」
〈成る程、奴さんにとっちゃ勝手知ったる他人の家…〉
〈悠長に応える前にアクセル踏め!つかニトロ吹かせ!!〉
〈ハンターの車にんなモン積んでねぇって!〉
〈事務所のローンまだ残ってんだよ!〉

三人の怒声が通信に響くが、管制の万里耳から再び悪い報せが届く。

〈武装した第9部隊がSWATの殺傷を開始しました…〉

シャドーの周りでも既に何人かの第9部隊が包囲網をしこうとしていた。どうあっても街から自分達の味方以外は出さないつもりらしい。目の前の連中は間違いなく捨て駒だ。
怒りを静め、彼は首領として部下に命令した。

「各員、聞いているな?全員人命及び民間レプリロイドの救助と保護を最優先しつつ、何としても街からの脱出路を確保せよ。なお、第9部隊が足止めにかかる可能性が高い。各々の判断に任す」

月光と月桂は、乳飲み子を抱えて逃げる最中瓦礫に頭を打って血を流している女性を介抱していた。
赤松と青竹は暴走メカニロイドを沈黙させ終わったところだった。
皆が街のために奔走していた。誰も異を唱えるものはいない。

〈待て待て!いくら何でも危険すぎる。俺達も避難の手伝いに…〉
「シグマを止めるのが先です!今のゼロとエックスでは歯が立ちませぬ!」

自分達の身を真剣に案じてくれるのは嬉しい。だが、それより大切なものはある。
それを教えてくれたのは他でもなく人間である主たちだ。

「………末弟(ゼロ)を頼みます」

歯とハンドルが軋む音が聞こえた。卑怯だと知りつつ、耐えてくれと心のうちで呟く。
主たちのGPS反応が遠のくのを確認してシャドーは彼が正しい選択をしたことを知った。

〈シグマのアホ!〉

主の怒りの呟きを聞きながらシャドーは敵陣へ突貫した。




[30192] 討つべき敵
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/10/18 18:27
暗雲たれこめる荒野は恐ろしいまでの静けさをもって不吉の予兆を孕んでいるように見えた。
他国への牽制として作られたミサイル基地には人間はいない。現在は基地内にある管制システムと管理システム。そしてそれらをメンテする少数のレプリロイドだけである。
だが、ゼロたちが入った時にはシステムの駆動音が鳴り響くばかりで、守備隊の姿は一人も見当たらない。
警報装置すら作動した様子もない。
既に内部が制圧されたとみた二人は目配せでバスターのセイフティを外し、警戒しながら中枢へ進行していった。

「よし!まだ発射されていない」

装甲バン(もちろん昨夜奪った第9部隊の備品)で荒野を突っ切ったエンカーはまだ砂が残る発射口を見ながら入り口へ突撃した。
助手席と後部座席ではジェミニ、マグ、下忍たちがミニグレネード、ショットガン、多目的ハンドガン、対装甲歩兵用アサルトマシンなど(一部ボンネットに放り込んだ隊員から拝借した)をありったけ装備して準備に入っていた。
地下には非常灯の灯りだけが存在を主張していた。隅にはそれぞれ赤と青のライドチェイサーが停められていた。先に着いただろうゼロたちのだ。

「ガードロボは?」
「出ていない。セキュリティもハックされてるかもしれん」

ドリフトしながら車を停めると、4人は一斉に基地の中枢へと走り出した。

何も出てこない静けさが肩透かしどころか、逆に不気味さを増幅させる。
司令室に照明がついているのを見たゼロとエックスは待ち伏せを警戒して扉の両端でバスターの出力を最大に設定、合図を送り突入をかけた。

「動くな!」

司令室にいたのは一人だった。二メートル以上の巨体に緑のボディアーマーのレプリロイド…

「「あ」」

バスターをかざした二人から間抜けな声が出た。管制コンピューターの前にいたのが自分達の上司だったからだ。

「ゼロ、エックスか」
「シグマ隊長!」

お互いを確認して両者は手にした銃器を下ろした。

「どうしてここに…」
「本部からここが発信源であることは聞いただろう?だから私もここへ向かったのだ」

シグマは嘘は言わなかった。エックスもそれで納得し安堵する。

「敵はここの警備システムに擬装してメカニロイドにウィルスを送信していたようだ」
「成る程、あとは何百もある衛星にアクセスし放題か…」
「今すぐアクセスを切るぞ。お前たちは送信の停止を、私は警備システムの復旧に当たる」
「了解」

二人はマニュアルコンソールで操作に当たり、シグマは奥にあるシステム本体に足を進めた。

「ところでシグマ隊長…」

ゼロがコンソールを打ちながら背中ごしにシグマに切り出した。彼には昨夜からわだかまる疑問があった。

「先ほどから本部とは通信が取れなかったようですが?」

シグマの足が止まるのがわかった。

「敵に通信を傍受される恐れがあったのでな…あえて切っていたのだ」

平素のしゃべり方をしながらシグマは腰にあるビームサーベルのストッパーを外した。

「なに、通信など」

光刃が展開され、イオン臭が空気に満ちる。

「もはや大した意味も無かろう」

そう言って、シグマはゼロの背中にむけ凶刃を突きつけた。



「ゼロたちからの連絡は?ミサイル基地の状況はどうなっている!?」
「駄目です!エックスとも連絡がつきません。基地の状況は依然不明です!」

本部の司令室にて指揮を取っていた総監は次々寄せられる悪い報告に歯噛みした。
レプリフォースと共にサイバーテロを予感していた矢先に大型重機メカニロイドの一斉暴走。そこへ加えて第9部隊の反乱である。既に交戦したSWATから死者が多数出ている。
この騒ぎが収束しない限り、人間にとって機械全てが敵と思われ完全に混乱が収まらなくなる。
ハンターの間でも他の部隊との連絡が途絶えていくにつれ、不信感と混乱が高まっていく。

「総監、レプリフォース本部の衛星システムへのアクセス許可を」
「何!?」

横にいたシグナスが冷徹な鉄面皮を崩さぬまま進言してきた。
これには総監ばかりでなく通信員も驚いた。そんな中でシグナスは手元のコンソールにコードを打ち込む。すると床から十二基の大型サーバーと送信機器つきの椅子が表れた。

「既に基地のシステムは完全に制圧されていると見て間違いないでしょう」
「シグナス!何をする気だ?」

言いながらさっさと準備を始めるシグナスに総監は詰め寄ったが、シグナスは着々と自分の送信機器(首の後ろ)にファイバーコードを接続していく。

「レプリフォースの衛星を使って私が基地のシステムを制圧します。至急、先方に連絡を」

司令室にいる全員が息を飲んだ。

「無茶を言うな!そんなことをすれば条約違反では済まんぞ!!」

ミサイル基地は政府及びレプリフォースの管轄にあたる。
警備は手伝えど、システムに介入すれば最早越権行為である。
だがシグナスは揺るがない。

「お言葉ですが総監。基地の制圧はミサイルの発射ボタンを奪われるのと同義です。他国にミサイルが撃ち込まれてしまえば、国際戦争に発展します!」

一瞬のにらみ合いであったが、随分長い時間のように感じた。

「……基地のファイアウォールを突破できるのか?下手すれば問答無用で焼かれるぞ」

焼かれる―――一般的にはカウンターウィルスによるサーバーの強制停止を指すが、レプリロイドやサイボーグの電脳でやる場合は脳死を意味する。

「私の全機能をもってすれば」
「うぬぬ…」

総監は後々の追求を予想しながらも号令を出した。

「許可する!通信員はただちにレプリフォースに通達を」
「了解!」

再び司令室が慌ただしく動く。シグナスはすぐにシステムにアクセスし、接続を開始した。

〈よし、始めるぞ〉



エックスは目の前の出来事が信じられなかった。
シグマがゼロを後ろからビームサーベルで突き殺そうとしたのだ。

「シグマ隊長!!ゼロ!」

ゼロは寸手で体を捻ってサーベルをかわし、シグマの太い腕を両手で掴んだ。

「ほう、なぜ気づいた?」

今まで見たことないような凶悪な笑みを浮かべるシグマを―――元上官をゼロは必死に拘束しながら睨み付けた。

「西地区の犯人グループの切り口、そして殺された監守達のそれと同じだった…」

高出力のビームカッター類を所持している者は戦闘型でも少ない。
ゼロの中で確証は無くともシグマは容疑者に入っていた。そして、その通りになった。

「犯人の戦闘能力、あれだけのことができるレプリロイドは多くない…最初に急所を狙って来るとわかれば避けることも出来た!」
「流石はゼロ、と言いたいところだが、私を全く警戒しなかったエックスの甘さがレプリロイドとして貴重と言えるな!」

愉快とばかりに顔を歪めながらシグマは空いた手でゼロの頭にアイアンクローをかけた。

「グアァァァァ!!」
「ゼロ!」

万力のような握力で軽々と持ち上げられた上ヘルメット越しに頭蓋を締め付けられ、ゼロが悲鳴をあげる。それでもシグマの腕を離さないのは矜持である。

「シグマ隊長!止めてください!!早くゼロを離してください」

エックスは未だ混乱から抜け出せなかった。
シグマがゼロを攻撃した時、条件反射で銃口を展開しながらも突きつけることができなかった。
ゼロが確実に危険とわかったときにやっと、それでも反射的にシグマにバスターを突きつけた。
だがそれを嘲笑うかの様にシグマは体ごと捻ってエックスと向き合った。当然、ゼロが射線に入る。シグマの狙いを察したゼロが自分をつかむ手を殴り付けて抵抗するが、全く堪えた様子は無い。それどころかますます締め付けを強くされる。

「そうだエックス!よく狙え!私を止めたければゼロの体ごと私を撃つしかない!」

いつか彼がエックスに諭した時の言葉だった。
信じられなかった。信じたくなかった。その思いがエックスのハンターとしての思考を鈍らせていた。
そうと本人が悟った時には収拾がつかなくなっていた。
だからシグマは完全に油断していた自分でなく、まずゼロを攻撃したのだ。
「さあ、どうした!撃つがいい!エックス!!」

いつかと同じ状況だった。ただし人質になっているのはゼロ(親友)で、敵は尊敬さえしていたシグマ(上官)である。
撃てば間違いなくゼロが盾にされる。ゼロを犠牲にするという選択肢を、エックスは選べなかった。
撃てるはずなどできな―――

「では遠慮なく」

別の声がした瞬間、シグマの後頭部にショットガンの弾が炸裂した。




[30192] 矢は放たれた
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/11/11 14:54
潜入と同時に監視カメラのハッキングをしたエンカー逹は司令室の場所とシグマの居場所を確認し、真っ直ぐそこに向かった。
そしてゼロの悲鳴である。
監視カメラで状況を確認していたエンカー逹は扉付近で一瞬の打ち合わせをして行動を起こした。
捕まったゼロ、それを人質にしたシグマ、バスターを向けながらも動揺するエックス。
明らかに不利な状況なのは火を見るより明らかであり、そもそもエックスが身内を撃てるはずもないと言うのが三人共通の見解だった。
そこからは早いものである。光学迷彩を展開したエンカーと下忍を先に中に入らせ、ジェミニとマグはシグマへの攻撃にあたった。
そういうわけでの―――

「では遠慮なく」

である。

ショットガンの直撃を受けてもシグマの体には大したダメージは無い。だがその衝撃で前のめりになりそうになる。
視界の端に対装甲歩兵用アサルトマシンを構えた赤いレプリロイドが横切った。頭のU字磁石に覚えはある。

「探偵!?」

返答は銃弾。両手が今塞がっているシグマに九ミリの弾丸が撃ち込まれる。
軍の装甲歩兵を仕留めるために開発されたHV弾頭だが、それでも最硬度を誇るシグマのボディを抉りはすれど貫通する至らない。
だからダメージがあるまで撃ち続ける。
床には大量の薬莢がばら蒔かれ、硝煙が立ち込めはじめた。
エックスも堪らず床に伏せて流れ弾から身を守る。

「グォォォォォ!!」

集中砲火を浴びせられ、堪らずシグマは絶叫するが、膝を折ることは彼の矜持が許さなかった。
それでもやはり窮した彼はゼロを力任せにマグに向かって投げつけた。

「へ?うわっぷ!」

視界を遮られてマグはそのままゼロと衝突した。
自由になったシグマは即座に反撃に転じるべく銃器を取りだし、まず姿を消してシステムのコンソールを打ち込んでいる者を撃った。

「がっ!」

連射で実弾二発。一発弾が貫通してコンソールパネルを血に染めた。
衝撃でモニターに激突し、光学迷彩が解除されるとエンカーはそのまま血だまりに沈む。

「!?」
「アル!」

シグマが人を撃ったという状況にエックスは絶句し、身内が撃たれたことにジェミニが叫んだ。
職務上の叩き込まれた条件反射でエックスは血だまりで呻く負傷者に駆け寄った。ジェミニもそうしたかったが、ショットガンが弾切れを起こしたところを銃撃され扉の裏側に追い返されてしまう。
そこで気絶しているゼロをどかしたマグが動いた。再び九ミリを構えて狙うが、それを見逃すシグマではない。
ビームサーベルを振り抜き、袈裟懸けで切りかかる。マグは銃を犠牲にしながらも身を低くして懐に接近した。
電磁力を纏わせ、勢いをつけて拳を振り抜く。独房を出てからこいつは必ずぶん殴ると決めていた。
激突音が広い司令室に響いた。
血を吐きながら起き上がろうとするエンカーと、それを押さえて介抱しようとしていたエックスはその音に振り返る。
マグの拳がシグマの顔に、そしてシグマのサーベルがマグの胸を貫いていた。
最大出力の熱量と電気ショックを体内の磁力発生装置で操作し、頭部への伝播を塞いだが、ショックまでは殺しきれずアタッチメントから煙を噴き出しながら崩れ落ちた。
本来の武装であるジェミニレーザーの銃口を展開したジェミニは自分以外が実質戦闘不能になったことに舌打ちしつつ、照準を定める。

「動くな探偵!」

鋭い声と共にシグマが動けないマグに銃を突きつけた。

「隊長!!」

目に涙を浮かべながらエックスは怒りに叫んだ。目の前で死にかけた人間がいるというのに、全く顧みず凶行を止めない。人命最優先を、何より守るべきものの尊さを自分に伝えてきたシグマが、である。

「ミサイルの目標地点…」

エックスの腕の中で口から血を吐きながらエンカーが言った。

「本当にシティ・アーベルなんだな…」

その言葉が何を意味するのか、エックスでもすぐに解った。だが自分の肩を支えに起き上がろうとする彼を見て必死に押さえつけた。左手が一気に血に染まる。

「喋っちゃ駄目だ!今すぐ組織閉鎖を…」
「ったく、信じたくない気持ちはわかるけどよ…武装を解除しちまうのはどうかと思うぜ?」

撃てないと諦めていたエックスは自らバスターのアタッチメントを外してしまっていた。いまの彼は右肘から下が無い状態だ。
口の隙間から苦しげな息を漏らしつつ、「だから乱入したんだが…」と付け加える。悪態をつきながらも心の底では納得し奇妙な安心を覚えていた。
―――仕方ない。仕方ない。『あいつ』の弟だもんな。
だが、そんな彼の懐想を知らぬエックスは自らの甘さを心底呪いながら必死に彼を説得した。

「早くしろ!動脈出血なんだぞ!!」

瀕死でありながら尚も戦意を失わぬサイボーグ(人間)とそれを涙ながら助けようとするレプリロイド(機械)。
皮肉な組み合わせだとシグマは無感動に思った。これではどちらが人間で、どちらが機械かわからない。人が機械に近づき、逆に機械が人に近づいていく現代の象徴のようでさえあった。だが、今のシグマが目指す光景ではない。

「…そうだエックス。お前はそうなのだ」

無表情にシグマは懐から何かのスイッチを取り出した。全員が嫌な予感に青ざめた。

「その男の言う通り、基地にあるすべてのミサイルがシティ・アーベルに向け発射される。我々の街だ」

コンソールから上のシャッターが解放される。並べられたミサイルがウィンドウ越しに物々しい姿を現した。
それらが全てサイロに上げられ、発射体勢に入る。

「そして、私の手の中にその発射装置がある」

見せつけるようにシグマはキーボタンの蓋を解放した。

「引き金を弾くのを躊躇うなと言ったはずだ、エックス。私を止めるチャンスは二度あった。私がゼロを盾に取ったとき、そしてこの探偵たちが私の動きを止めたときだ。」
「何故こんなことを…!」

シグマを睨みながらエックスは絞り出すように叫んだ。腕の中ではエンカーがひび割れたバイザー越しにシグマを睨み付けていた。

「我々の未来のためだ!レプリロイドの真の可能性を試すために必要だったのだ!」

エックスは愕然とし、エンカーとマグの眼に更なる怒りが宿った。

「墜ちたな十七部隊長。あの街には今この瞬間でさえお前さんを信じて戦っている奴等がいるってのに…」

銃口を微動だにさせず照準し続けるジェミニにも隠しようの無い嫌悪と怒りが浮かんでいた。

「…協力してくれた全ての者たちにも言おう。エックス…犠牲の無い進化など」

シグマの親指が動く。
止めようとエックスは無我夢中で飛び出し
失血で代謝の維持が出来なくなったエンカーはシグマを睨みながら崩れ落ち
このクズにもう何も言わすまいとジェミニは殺意を籠めてレーザーをはなった。

「無い」

だが、間に合わなかった。
そして矢は放たれた。



シティ・アーベルの混乱はケインラボからも見て取れた。いつも見慣れた摩天楼の間に黒煙が立ち上り、ヘリが飛び交っている。
ケインもまたいつもの自室でその光景を目にしていた。

「Dr.ケイン。貴方も早くシェルターへ避難を…」

警備を務めているレプリロイドと教え子の一人が彼に避難するよう促す。

「私はここで見届ける」

だが、ケインは頑と拒んだ。

「なりません!ここもテロの標的にされる可能性があります」
「博士…!」

今更この死に損ないに何を望むのだろうか?ケインはそう思いながら手の中にある古いブリキに目を落とした。

「ファイアウォール第6、第7解除!」
「レベル3、レベル4解放。レベル5の攻略に移ります」
「第4階層クリア」
「サーバーeight、ダウン。nineに引き継ぎ作戦を続行」
「全システムクリアまであと128秒」

ハンター本部、指令室。
全オペレーターの半分以上が次々と基地システムの制圧状況を報告し、高速で渡される情報を処理していく。
既にシグナスの周囲のサーバーは12基のうち8基がオーバーフローを起こし機能を停止させている。シグナス自身も既に高温の状態となっていた。
オペレーターはもちろん、レプリフォースからのバックアップもありまだいけるが危険な状態である。
いざというときは、本部にいる避難者達と非戦闘員を地下シェルターへ避難させねばなるまいと総監は考えていた。
既に政府機関及びライフライン関係にはミサイル発射の可能性を通達してある。あとは止められるかどうかだった。
市内を衛星でモニターしていたオペレーターのディスプレイに警告表示が映し出される。

「これは…!?ミサイルが発射されました!」

オペレーターは悲鳴のような声で報告した。
衛星は十何発ものミサイルが天高く飛翔するのを映していた。

「すぐに軌道を予測を!判明し第目標地点に通達しろ!」
「了解!」

オペレーターたちは即座に対応して予測計算し直ぐに弾き出した。

「目標は…シティ・アーベル…!?」

着弾予測時間45秒。オペレーターが青ざめる中、ディスプレイは無慈悲に表示した。

〈基地よりミサイルの発射を確認!〉

路地裏で第9部隊の隊員を殲滅したシャドーは狭い青空に何本もの白い航跡を見てそうと知り歯噛みした。

「間に合いませんでしたか…」

同じ頃、青空を切り裂く白い航跡を月光も確認した。ちょうど運送トラックのおっちゃんを捕まえて怪我人や避難する人間を荷台に乗せて市外へ脱出する最中だった。

「みんな!頭を伏せてくれ!!」

荷台では重傷人やそれを介抱する同乗者、赤ん坊を抱えた夫婦。足を負傷したレプリロイド、ショック状態で動けなくなった者などでごった返していた。

「おい!降るかもしれんって言ってたミサイルってあれか!?」
「いいから路肩に停めろ!このままじゃひっくり返るぞ!!」


ケインは思い出す。最初はブリキの玩具だった。両親からのプレゼントで、大戦の最中において不安ばかりだった少年の心を支えてくれた。
もうひとつは、今や顔も覚えていない祖父母が語ってくれた「心」を持つロボットと共存していた時代の話。悪の科学者と正義のロボット「ロックマン」の話は何度聞きせがんだ。
人間と機械が仲良く共存する世界
兵器として運用され調整されたロボットしか知らない彼にとって祖父母の時代は理想郷に思えたのだ。
人類のパートナーとしての機械生命体。いつしかそれを理想として彼は工学者となり、失われた過去のロボット技術の復興に奔走した。
そして彼は失われた遺産を発見し、技術を復活させた。
夢は叶った。そのはずだった…


千里眼はその場から逃げ出したいのを堪えながら近づいてくるミサイルを視認し続けた。傍らの万里耳も逃げない。
ここから45秒以内に地上に降りて避難するなど不可能だ。二人は管制として腹をくくった。


「人より創られ、人を越える可能性を持った者…」

最初に作られ、最後は発狂し処分されたレプリロイド。シグマが完成するまで機能を停止させていった我が子たち。

「ヒトの傲慢か…それとも…」

ヒトを魂の道具にするなと自分を非難し去っていった者。
ストレスで発狂し、失敗作として処分されていくレプリロイドたちの姿に耐えきれず道を捨てる者。
多くの者がケインの下を離れた。
そして、―――シグマ


〈着弾…!〉

万里耳の報告を聞きながらシャドーは目を閉じ、一方ミサイルを見て悲鳴をあげる荷台の人たち。そして己の無力に歯噛みしながら月光は迫るミサイルを睨み付けた。


人類のパートナーという理想を求めていたはずが、いつの間にか人間以上のヒトガタを創る狂気にすりかわっていたのか?
メッセージとして遺された映像に映るDr.ライトを思い出す。
憔悴し、やつれきった老科学者―――正に今の自分そのものだった。

「ヒトの業か…」

『無限の可能性』を知的好奇心のまま解き放った報いかもしれない。
閃光が研究所を呑み込んでいく。この日、レプリロイド工学研究所―――通称ケインラボは崩壊した。




[30192] 無限の可能性
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/10/25 14:00
「全てはお前が招いたことなのだ、エックス」

ミサイルが飛び立ち、不気味なほど静かになった司令室にシグマの声が響く。

「無限の可能性を持つ―――お前の存在がな」

エックスの腹をサーベルで貫いたまま、シグマは言った。エックスはサーベルの電気ショックで血に濡れた手を伸ばし立ったまま硬直していた。
ジェミニもまた、撃ち返された銃弾が手首から肘が貫通したためバスターを破壊されてしまった。彼が撃ったレーザーは避けられてしまっていた。
マグは意識があるものの、ダメージで動けず。エンカーは血の海に突っ伏している。
最早シグマを止めれる者はいないかに見えた。
それらを見遣り、シグマは再び動かなくなったエックスに視線を戻した。

「エックス…貴様はそれまでか?」

無表情のまま、動かなくなったエックスに問う。

「いや違う。これから始まるのだろう?我々の世界が!」



―――…ス。……ックス。

電磁ショックで意識を落としてしまったエックスは、遠くで誰かが名前を呼んでいることに気づいた。

『エックス』

目を開けると、白い豊かな髭を持った老科学者が優しげな目で自分を覗きこんでいた。
周りには古い型の設備が並んでいた。ここは何処だろう?

『あな…たは…』

胸までしかない状態でカプセルのようなもの寝かされている自分は老人に問うた。
すると老人は嬉しそうに答えた。

『私の名前はトーマス・ライト。お前の生みの親だよ。エックス』
『X……それが…私の…ナ…マ…エ…』
『〈X〉…それは無限の可能性を意味する名前だ』

ここでエックスは今見ている光景がメモリーパックに封印されていた過去の記憶だと悟った。

『お前は自分で考え、行動する新しいタイプのロボットになるんだよ』

再び意識が落ちる。出力不足だろう。

ノイズ。

〈そうか…あいつとロールちゃんがいなくなった後に、トムじいさんはお前を創ったんだな…〉

知らない声が響く。誰かが自分の記憶野にアクセスしている。
誰だ?知っている気がする。でも思い出せない。
その間にも場面は変わっていく。自分が組み立てられていくにつれ、情報としての知識の他にライト博士は多くのことを教えてくれた。
人間のこと、エックス自身のこと、他者を思いやること、命のこと、正義のこと、そして―――希望のこと。
いつしか自分が完成して世界に出るとき、どんな未来が待っているのだろう?
そんなことを考えながら、カプセルの中のエックスは日々膨大な調整を受け続けていた。

再びノイズ。虚ろな声が響く。

<ロボット三原則に縛られないロボット。人に似て人を超える存在。それでもお前は最後の兄弟として歓迎されるはずだった>

見たことない都会の夕暮れ。心配そうに自分を見上げる黒髪の少年。屈託なく笑うポニーテールをした金髪の少女。誰だろう?
それらがフラッシュバックのように流れていく。これは自分の記憶ではない。アクセスしている者の記憶だ。なのに、自分の奥底が刺激されるのは何故だろう…?

〈だけど、世界は優しくなかった。大戦が始まったんだ〉

場面が変わる。
周りがいつもより暗い。夜だったのだろう。この頃エックスは組み立てが終了し、あとは微調整を残すのみとなっていた。しかし、その日会いに来た博士はやつれはて、憔悴しきっていた。
いつもと様子が違うことを、外の様子を知らないエックスでもすぐに察した。

『博士…今日はお疲れのようですが…』
『エックス。お前は本当に人間のようだな…だがそれだけに…』

ライトは苦しげに息を吐きながら悲しげに俯いた。

『お前のように自分達に近い存在を受け入れるには、ヒトという種族は幼すぎるかもしれん…人々はお前の無限の可能性を危険と判断し、あるいはそれさえ利用するかもしれん』

このときのエックスはラボの中はおろか、カプセルから動いたことはない。
だが、自分の意識のない間博士が自分に関係することで何かあったのは予想できた。

『〈X〉という名は危険性をも表すのだ』

知っている。その為に自分は戦闘用に作られ、バスターを装備されていることを。そしてそれがどれだけ恐ろしい力かも。
暗転。
場面が変わり、夜。最後の日だとわかった。

『すまないエックス…。お前を世に出してやるには、時間が足りなかった…』

更にやつれたライトは、掠れた声で最後の『息子』に詫びた。
そこまで言うと、ライトは咳き込んだ。呼吸の中に砂のような音が混じっている。呼吸系の異常は明らかだった。

『ライト博士!』
『わしはお前に悩み考え、進化を戦いとる力を与えた。だが、それをまだ解放するわけにはいかないのだ』

それは実質の封印宣告であった。だが、エックスの中にあったのは恐怖でも怒りでもなく、一つの決意だった。

『博士。私はこの力を正しいことのために使います!希望のために』

バスターを胸にかざし、エックスは誓った。自分の危険性を諭されてから考え、決めていたことだ。

『ああ、もちろんわしもそう信じている。お前がその正しい心を持ち続けるということを。未来の人々が…世界がそう願うことを…』

ライトは心から嬉しそうに笑った。
カプセルの蓋が閉まる。二人の顔に悲しみはない。未来への希望を胸に別れを告げる。
最後に残った菱形の窓にライトが顔を覗きこむ。

『博士…』
『さらばだ、エックス…ワシの…未来の希望よ』

それが最後の別れだった。光が遠退き、意識が暗闇に落ちていく。
自分が封印された瞬間を見たとき、ノイズが溜め息をついたように聞こえた。

〈…相変わらず重いものを背負わせるな。トムじいさんは〉

そんなことはない。悲しげに、皮肉げに言う声の主にそう言いたかったが、自分の意識は落ちたままだ。

〈全てが変わった。全てが手遅れだった>

その通りだ。
過去の記録は殆ど失われ、大戦は終われどいまだ世界には火種が燻り続けている。
戦災復興と理想社会実現のために生み出されたレプリロイド。だが軋轢は絶えず存在し、イレギュラーハンターという矛盾を生んだ。
そして、シグマの凶行。自分は判断を誤り、出さずにすんだ負傷者を出したばかりか、ミサイルが街に撃ち込まれるのを止められなかった。

〈・・・だけど、全てが失われたわけじゃない〉

声は小さいながらも確信がこめられていた。

〈すまない、トム爺さん〉

ここにいない者に、声は懺悔した。

〈すまない、ロック〉

最後に、〈彼〉は自分に謝った。

〈すまない、エックス。せめてお前が戦わずに済むようにしたかったけど・・・〉

何故謝るのだろう?自分は何も守れなかったのに・・・

〈今の俺がしてやれるのは、これだけだ・・・〉

自分の中に何かが組み替えられ、立ち上げられる。
意識が浮上する。暗闇から解き放たれる瞬間、エックスは夕日のように赤い髪の青年を見た気がした。


エックスのヘルメットについている赤い水晶体に光が灯る。更に機能停止寸前だったエックスの体内から今まで見たことないエネルギーの上昇が観測された。翡翠色の目に意志の光が戻る。

「むっ!?」

予測不能の事態にシグマは、突き刺したままのサーベルを引き抜くのを遅らせてしまった。

「ううおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

エックスの左手にバスターショット並のエネルギーが集中し、その熱で付着していた血液が蒸発した。
エックスは咆哮をあげながら腹部に刺さったままのサーベルに構わずシグマの顔面めがけて光り輝く左手を突き出した。
シグマは怯み、サーベルを強引に引き抜いて横薙ぎに払うが、エックスは腹に穴が開いているとは思えない敏捷さで相手の胸板を踏み台にして間合いを取って着地した。

「オォォォォォォォォーーーーー!!!」

着地とともに床を蹴って加速、シグマに突貫する。今度こそ左手が、シグマの顔面に食い込んだ。
熱量が人工皮膚を一気に焼きはがしていく。

「ヌォォォォォォッ!!!」

絶叫。
その隙にジェミニは無事な左手で予備に控えておいたミニグレネードを携えてエンカーの下へ駆け寄った。

「オォッ!!」

渾身をこめてシグマは袈裟懸けを見舞う。エックスは飛びのいて回避し、両者は身構える形で対峙した。
致命的でないにしろ、シグマも無事ではない。両目の失明は免れたが、額から頬にかけて縦一文字に生々しい火傷がそれぞれ刻まれた。

「エェックスゥゥゥゥゥゥ!!!」

屈辱か、怒りか。怨嗟に似た咆哮が広い司令室に轟いた。そして、その片隅でコードを引き抜く軽い音が聞こえた。

「若大将!御曹司!ミサイルの安全装置作動に成功!街は無事です!!」

ずっと姿を消してシステム操作のバックアップに専念していた下忍が、涙声でエンカーに報告した。青ざめ血に濡れたエンカーの顔に小さくも満足げな笑みが浮かんだ。


遥か彼方で巻き上がるきのこ雲を見ながら、月光は運転手共々呆然としていた。
ミサイルは確かに降って、地上に着弾した。だが爆発は起きなかったのだ。

「外れた・・・?」

万里耳から情報が届くまで、彼らは道路に立ち尽くしていた。


「システム制圧完了。ミサイル、17基中16基の安全装置作動に成功。被害は軽微です」
「メカ二ロイドの暴走停止を確認!」

オペレーターの報告を聞きながら、シグナスは熱で意識が飛びそうなのをこらえて体からコードを引き抜いていった。
横では出火したサーバー郡に気づいたオペレーターが消化剤をまいていた。いっそ自分にかけてほしい。自前のラジエーターは既に限界だ。
目の前では総監が冷静に指揮を取っていた。

「・・・ハンターたちとの連絡は?」
「ただいま障害電波の解除に伴い第1から第3、第5部隊から応答がありました。指示を求めています」
「第15部隊から応答あり!」

次々と復旧する連絡に安堵しながらも、喝采は上がらなかった。

「総監・・・ケインラボとの連絡が・・・」

最初のミサイルはラボに着弾し、施設を破壊してしまっていた。通達はしていたので職員は全員避難しているはずだが

「救助隊を編成に向かわせろ。レプリフォースのジェネラルと外線をつなげ。市内に落ちたミサイルの撤去処理のチームを編成する。残りのハンターたちは引続き市民の誘導と救助に専念しろ。ただし連絡を取り合うことを忘れるな」
「了解」

総監は動けず煙を上げてオーバーフローを起こしているシグナスに近づいた。

「お前の言うとおりになった・・・だが、よくやった。残り65秒を1秒に短縮するとは・・・」
「・・・まだですよ。今回は犯人にとって前哨戦です」
「今は休め。誰か、シグナス副官をメディカルルームへ」
「オイラが連れて行きますぅ」

後ろから声がして振り向けば緑の浮遊物体―――アストロがいた。もはや誰も「いつの間に」とは言わない。

「いや、お前は・・・」
「ああ、オイラならすぐに終わりますんで。じゃ」

そう言ってアストロがシグナスに触ると一瞬で二人の姿は掻き消えた。全員が目をむく中、オペレーターの1人がメディカルルームに彼らがすでに着いたことを確認し、報告した。
瞬間移動ならぬ亜空間ワープ。道理で組織を挙げて捕まえようとして出来なかったわけだ。一つ謎が解けたところでその場にいる全員が謎の脱力感に見舞われた。

「あの・・・総監。外線、繋がりました」
「こちらへ回せ・・・」


〈システムの指揮権が移動しました。火器管制を閉鎖。セキュリティ作動、全ブロックを閉鎖。施設内の職員は速やかにシェルターへ避難してください〉
「なにっ!?」

基地のインターフェースのアナウンスを聞いてシグマは狼狽した。先程の忍び型メカニロイドの言葉から判断するに、基地のシステムは死に掛けのサイボーグに完全に制圧されたということだ。自分たちは閉じ込められてしまったのだ。
目的の半分は挫かれてしまった。

「シグマァ・・・!」

そして、目の前には真の力を発揮したであろうエックス。損傷していてもその能力が未知数である以上、ここを切り抜けられるか予測できなかった。探偵の1人も隙あらばとミニグレネードを照準している。
だが、予想していた猛攻はこなかった。突然エックスの身体がオーバーフローを起こし、緊急停止してしまった。水晶体と目から光が消えていく。エックスは立ったままの状態で一時的な形の機能停止を起こしてしまった・・・
沈黙。シグマの中に去来したのが安堵か、エックスへの畏怖かは定かではない。
だが、恐ろしいまでの「可能性」を見たシグマは長いようで短い沈黙の末、彼の顔に歪んだ笑みが浮かぶ。

「フフフ・・・フハハハハハハハハハハハハハハハ!」

笑みは次第に哄笑に変わり、暗い司令室に反響した。
シグマは発作のように笑い続けた。それは狂気的な科学者を親に持つジェミニとマグから見ても、悪魔の嘲笑のように高らかな狂笑だった。




[30192] Day of ∑
Name: 黒金◆be2b059f ID:129457a7
Date: 2011/11/11 14:53
夕暮れのシティ・アーベル。
ミサイル騒ぎはあったものの、メカニロイドの暴走がピタリと止んだお陰で街の混乱は収まりつつあった。ミサイルの回収撤去も進んでいる。
街にいる人間が紛争を掻い潜った経験のあるタフな人種が揃っているのもあるが、今のそれは気の抜けた沈黙であった。
今でも消火作業が終わらず、消防が街を駆け回っている。
建造物の破壊も著しく、病院の屋上から見える眺めは紛争によって廃墟と化したそれだった。

「大気圏に突入直前に信管の安全装置作動。市街の崩壊は免れたか…シグナスも流石だが」

右腕を吊ったジェミニはポツリと言った。

「…ラボに落ちたのが間に合わなかったのはわざとか?」
「まさか」

屋上の縁に座り、無表情で街を眺めていたエンカーは答えた。胸に包帯とナノマシン活性装置が取り付けられていた。

「単純に間に合わなかっただけさ。それだけ奴は本気だったんだよ」
「まあ、全員シェルターに入っていて無事だったらしいがな」

ケインラボは直撃を受け吹き飛んだが、ケインを始めとするスタッフは全員避難しており、無事救助された。
しかし、首謀者がシグマだと判明したことにより、彼らの責任問題の追求は避けられないだろう。
ハンター組織も未だ半分近くの部隊と連絡がつかず、混乱は続いている。
これを機に暗躍する国家も出てくるはずだ。そこは政府機関が対応することだが、シグマが撒いた種火は確実に拡がりつつある。

「それにしてもあんな取引よく成立したな?」
「利害は一緒だったからな。ボンネットに押し込んでた隊員が役に立ったよ」

撃たれながらもエンカーはシステムの制圧にかかっていた。すぐに組織閉鎖しなかったのもその為だ。
しかし、体力の消耗もあり間に合わない。しかもエックスが負傷してしまった。
誰も助からないのかと思った矢先に、外部から防壁を突破してきたシグナスと接触したのである。
エンカーは司令システムのデータ、そして拘束している第9部隊隊員をひき渡すのと引き換えに、基地システムの制圧を託した。お陰でシグナスは残り65秒の作業を1秒に短縮できたのである。
そしてエンカーはエックスの深層にアクセスし、エックスを無理やりだが再起動させたのである。あのままでは確実に破壊されると判断したからだ。
そして基地の制圧は完了したが、シグマは捕まえることが出来なかった…



「何やってんですか?シグマ隊長」

ひとしきり哄笑したシグマはその声に振り向いた。中空を浮かぶ緑色のロボット、アストロが無感情な目で彼を見下ろしていた。

「なるほど、シグナスの差し金か…」

基地制圧のからくりを察したシグマは不敵に笑った。もはやネタが割れてしまったが何のことはない。自分から名乗り出る前になっただけのことだ。

「あ、その前にサイボーグ用の救命キットです」

背後の亜空間からキットを取り出したアストロはエンカーを介抱する下忍に投げて寄越した。
なるほど、ワープでここまできたのか。

「さーて、レプリフォースの方々がいらっしゃるまでこの愉快な状況について説明願えますか?じっくりと」

本部では見せたことのない無表情な目と底冷えする声でアストロはシグマと対峙した。
亜空間から吐き出される20近いレーザービットが移動し、全てがシグマを照準した。

「ほう、それが貴様の本性か?」
「やだなぁ、人聞きの悪い。シグナス副官から聞いてるでしょ?元プラネタリウムのガイドですよ」
「ふむ…ミサイルのスイッチを押したのが私だとしたらどうする?」
「へぇ、じゃあオイラが蜂の巣にしても問題ないですねぇ」

泰然するシグマとアストロの間に一触即発の空気が流れる。

「アストロ、俺がぶちのめしてからにしろ」

ミニグレネードを構えるジェミニが前に出ようとした。彼もシグマを生かして返す気は無かった。

「残念だが、どちらも受け入れるわけにはいかんな…」

シグマの体が発光する。転送の兆候だった。しまったとアストロとジェミニが引き金をひこうとしたが遅かった。

「エックスと、お前の主に伝えろ。近い内、また会おうとな」

動けないエックスとエンカーを見遣りながら、そう言ってシグマはその場から消えていった。



その後、エンカー逹とエックス逹はアストロによってそれぞれ市民病院前とハンターのメディカルルームに転送された。
下手すれば重要参考人と連行、しかも既に脱走犯と不法侵入者、挙げ句非合法アクセスもやっている。また独房に連れ戻されかねない。
いつの間にか本部に戻っているゼロは今ごろ混乱していることだろう。エンカーは医者に「何故すぐに組織閉鎖しなかったのか」と批難されたが、体内の弾を摘出し、傷口の縫合、輸血の後絶対安静を条件に解放された。
ただし動力炉付近を貫かれたマグは強制的にレプリロイドの集中治療室に担ぎ込まれた。逆に腕だけのジェミニは順番待ち。彼以上の重傷レプリロイドは多数いるのだ。
再び、街を見る。無惨に破壊された見慣れた街。
今ごろ、同じ光景をシグマも見ていることだろう。

「で、これからどうする?」

ジェミニの言葉にエンカーは立ち上がった。答えは決まっている。

「まずは情報収集だな。単体ワープだけ見ても、シグマにバックがいることは確かだ。ハンター内にも間違いなく協力者がいる」

夕陽が沈んでいく。世界が闇に包まれようしていた。

「連絡の取れる全DWNに通達しろ」

二人の後ろに、シャドーを始めとした組織の面々が立ち並んでいた。全員が真の主の号令に聞き入った。

「世紀にあるかないかの大パーティーだ。仲間外れは作っちゃなんねぇ」

―――誰を怒らせたか徹底的に叩き込んでやれ

エンカーは、否―――アルフォンス・L・ワイリーは明確な殺意と怒りを湛えた凶悪な笑みで待っているだろう敵を睨み付けた。



その向こう、廃墟となった高層ビルの上で、指導者としての赤いマントを羽織ったシグマは燃える街に向かって高らかに謳った。

「立ち上がってくるがいい!エックス、そして『ロボット』ども!私はここだ!ここにいるぞ!そして始めようではないか!レプリロイドの、我々の可能性を賭けた真の戦いを!!」

個性とは不均一な世界における戦利品であり、多様性とは破局を回避する手段である。
人と機械を越える世界を夢見て、シグマは闇の中で狂笑し続けた。






後書き

さて・・・駆け足で行ったが、続きを書いていいものかどうか・・・。感想待っています



[30192] 設定(プロローグ~Day of Σまで)
Name: 黒金◆be2b059f ID:30ff9b74
Date: 2011/10/25 14:05
駆け足連載だったためか、色々説明不足な部分があったので補足として書きました。
中休みと思って気軽に読んでください。



・エンカー・ザ・ゴールドクロウ(金食い鴉)
三年前シティ・アーベルに現れた全身義体の青年。賞金稼ぎにしてメイガス級のハッカー。
年齢不詳。推定二十代後半から三十代前半。
本名、アルフォンス・L・ワイリー。
故アルバート・W・ワイリーの孫にして不肖の後継者。一応現ナンバーズの主だが本人は幼少から兄弟同然に育っているので、その自覚は薄い。野心もない。
しかもロボット改造と修理は得意だが、創作の才能は絶望的なので、多分ジジイもその辺は一切期待していない。
人を食った性格をしているが、人情に篤く人間にもレプリロイドにも平等に接する。ただし一家の敵には容赦しない。
現在死んだRKN.001『エンカー』の名を借りてナンバーズの生活費を稼いでいる。


・シャドー 影の君【BGM.月下を駆ける】
正式名称、DWN.024『シャドーマン』
見たまんま隠密に特化したニンジャ型ロボット。一人称は『拙者〜ござる』だが、キレたりすると地が出て『俺』に。ギガミックスでキャラ作りしていたのが判明。
影に潜る能力を利用してワイリー博士の護衛や情報収集の任に就いていた。今も引き続き孫の護衛についている。
一世紀近い空白期間をカプセルに入らず大戦中の世界が津々浦々して、独立し自分の組織を設立。世界の影で暗躍する。
エンカーにとっては親代わりの存在で、よく無茶をする彼を心配しながら誡謔をこめて『御曹司』と呼ぶ。
色々あってキセルの似合う擦れたオッサン然となったが、冷徹ながらも熱い任侠である。


・マグナ 磁界の主【BGM.万物の万有引力】
正式名称、DWN.018『マグネットマン』。愛称はマグ
磁力を操る赤いロボット。トレードマークはマスクつきヘッドパーツに付いているデカイU字磁石。故に大雑把な性格になったのは公式。ただし周りの整理整頓に細かいので、事務所の家事を一手に引き受けている。
見た目は赤と黒のジャケットアーマーに赤のアームパーツとフットパーツが特徴的な兄ちゃん。
何故か健康グッズマニアなので、ワイリー博士の健康管理を担い主夫2号のあだ名を持つ。(1号は長男)
カプセルから目覚めた現在はもの探しの才を活かしてジェミニと共にシティ・アーベル東区に事務所を構え、探偵業を営んでいる。もの探し、家事、格闘戦担当。


・ジェミニ 鏡像の射手【BGM.屈折空間】
正式名称、DWN.019『ジェミニマン』
ホログラムと屈折反射する『ジェミニレーザー』を使うロボット。
逆立てた前髪のような尖った水晶体四本と白いジャケットアーマーが特徴。
自称ニヒルな探偵。その実は女好きのナルシストだったりする。高慢で屈折していてマグとは対称的な性格だが、紅白凸凹コンビで通ってる。
主に接待(美女歓迎)、情報収集と整理、推理担当。
ただ悲しいかな、私立探偵事務所M&Gは探偵というより便利屋として名高い。


・アストロ 未確認飛行物体【BGM.惑星コンクール】
正式名称DWN.058『アストロマン』
元プラネタリウムのガイドロボットで、異次元ホールを作って宇宙空間を見せていた。
その能力を使って亜空間を渡ってあらゆるところへ移動したり、ビットを入れておいたりする。
覚醒後、ゼロの安否を確認するため単身イレギュラーハンター本部に潜入。能力を使って潜伏していたが、やっぱりバレて捕獲作戦が展開された。挙げ句、うっかりシグナスの執務室に逃げ込み捕獲される。その後、気に入られたのかシグナスのサポートメカとして本部にいることを許される。今ではオペレーター達のマスコット。
シャイな性格で、追いかけられると異次元に隠れてしまう。


・月光 ストライダー
シャドーの『息子』。影に潜る能力がない以外はほぼ同レベルのスペックを持つ。
シャドーが後継者として作ったレプリロイド。彼にかわって組織の指揮を代行することもある。
ただし年齢設定が17なので、親子だけの時は思春期の息子と擦れたオヤジ。最近バイクに憧れてる。


・ゼロ 最終存在
故『悪の天才科学者』アルバート・W・ワイリーの最終傑作にして最高傑作なる忘れ形見。40近く存在する悩ましき兄弟の末っ子(哀れすぎる)
しかし不幸か幸か、覚醒直後の事故のため記憶を失い、その自覚はない。
『女みたい』とか『オカマ野郎』は禁句。
現在保護観察の下、特A級イレギュラーハンターとして第17部隊で活動中。


・エックス(ロックマンX) 無限の可能性
原作の主人公。
故トーマス・ライトの最終傑作。『ロックマン』の後継機。ただし本人にその自覚は無い。
実はレプリロイドのオリジナルモデルだが、その事実を知る者は少ない。
保護観察の下、B級イレギュラーハンターとしてゼロと同じ第17部隊で活動中。
能力は高いが、心優しく、敵を撃つことに躊躇い悩むことから好意的に見る者も多いが現場での評価は低い。ゼロの相棒でよき親友。


・シグナス
『冷徹』が代名詞の総監補佐にして副官。実は世界最高のCPUを搭載している。その為高密度の冷却機関を搭載し、有事にはこれを解放する。
ゼロとエックスの潜在能力に一目置き、たまにE缶を奢ってはとんでもない任務に乗せてくる。二人にとっては仕事に乗せるのが上手いファッキン上官。


・総監
公式で肩書きだけ出ていつの間にか辞職した人。
二次創作では操りやすいよう設定された小物だったり、オカマ言葉を使っていたりする。
ここでは良くも悪くも普通の指揮官で、半分モブ扱い。
外見はジェネラルの銀色バージョン。

・VAVA
苛烈で過激な火力信奉者な第17部隊のA級ハンター。改造ライドアーマー乗りでもある。
エンカーや探偵たちと腐れ縁で、たまに事務所に来てはゲームしたり、茶をたかったりしてた。
最近暴走ぎみで揉め事や負傷者が絶えないため、上層部から電子頭脳に異常があると見なされて処分が決定された。
だが、シグマの反乱の際脱走。行方をくらます


・シグマ
Dr.ケインの最高傑作で、初期のレプリロイドでもある。現在においても最高にして最強。
精鋭部隊の第17部隊隊長。エックス、ゼロ、VAVAの上司である。
ナンバーズにとってはゼロがはぐれる原因になった人物。
最高の指揮官として内外から篤く信頼されていたが、エックスに『無限の可能性』を見いだし、進化という概念を盲信して反乱を起こした。


・ストーム・イーグリード
第7部隊(通称、飛空挺部隊)隊長。モチーフは鷹。『鶏ガラ』と言ったら怒る。
ゼロの旧い戦友である。こないだまで自分が警備していたミサイル基地が身内に占拠されるなど夢にも思わなかっただろう。


・スティング・カメリーオ
第9部隊(レンジャー部隊)副隊長。モチーフはカメレオン。
色々暗躍中。第9の隊長は多分密室殺人的にいつの間にか暗殺されてる。しかも脳殻全部持っていかれてる。



[30192] 幕間 集結
Name: 黒金◆be2b059f ID:30ff9b74
Date: 2011/12/06 12:57
シティ・アーベル全域に非常警戒体制が張られ、パトカーが絶え間なく巡回し、武装した警官やハンターが市内を見回っている。
そんな中でマグとジェミニが事務所に帰れたのは深夜だった。
東地区の被害は比較的少なかったが、道路や建物には暴走メカニロイドが通ったせいであちこち陥没したりヒビが入っている。付近の住民は避難所に行ったのか、明かりはなく、閑散としていた。
事務所は…外から見た限り無事だったが、二階の応接室に(一階はガレージ。バイクは張り込み先でハンターに没収された)明かりがついていた。しかも入り口に角材やガラスが散乱しており、血の跡まであった。
こういったときの略奪は珍しくない。シティを出れば廃墟同然の街はザラだし、大戦が終わっていることすら知らない紛争地も多い。シティの二割程度とは言え、市民にもそんな戦場から招待された者は多く、未だ略奪者気分が抜けていない者もいる。
しかも今回の騒ぎの原因が原因だ。市内のレプリロイドが人間によるレプリロイド狩りを恐れていた矢先である。
二人は多目的ハンドガンを携え、足音を消しながら中に入っていった。

「俺は階段でいく。お前はエレベーターで行け」
「おう」

マグは処置がすんだものの、あまり激しい負担をかければ動けなくなる。むしろ半ば病院から脱走して帰ってきたのだが
ジェミニは片腕だけの自分が動き回ることにして、敵の退路を塞ぐことにした。
階段には血の手形や足跡がいくつもあったが、どれも下へ向かっていることから手形の主はどうも血塗れになってから外に出たらしい。
一度仕事の関係で傭兵どもの襲撃をくらって以来、応接室の入り口にはクレイモア地雷を仕掛けてあり、留守中無断で入ろうとすると発動する仕組みになっている。今いるのは後から入ったのか?
階段を上がろうかというところに上の廊下から誰かが歩いてくる気配があった。壁にに身を隠し、銃のセーフティーを外す。

そして、エレベーターが着いた。相手が銃のセーフティーを外す音がわかった。エレベーターのドアが開こうとする。

「動くな」

警告ともに相手のこめかみに銃を突きつける。エレベーターの中でマグも銃を構えた。
エレベーターの中の照明で相手のひきつった顔が浮かびあがった。
白いマスクに頭部に丸い水晶…

「クリスタル…?」

マグが間抜けな声をあげる。そこにいたのは間違いなくDWN.040『クリスタルマン』であった。


「だぁって玄関荒らされてるし、中入ったら血だらけだろ?しかも明かり点いてるし」

応接間でマグは半ば不貞腐れながら弁解した。

「怖かった…」

革のソファーに座ったクリスタルが呟く。

「で?何でお前らここにいるんだよ」

半日ぶりにE缶を補給したジェミニが並んで座る五人の弟に言った。DWN.036『ジャイロマン』がムッとして聞き返す。

「心配して様子見に来た弟にその言い方はねぇだろ?」
「勝手に入って人ん家のE缶飲んどるのが『心配で様子見に来た』か?大体対人地雷設置してあったろ?」

ジェミニはガラステーブルの上の空缶を指差しながら言った。

「しゃあねーだろ。こっちは昼の騒ぎで客逃がすのにシェルター行ったり来たりしてたんだから」
「いや、どうも俺たちが来る前に入ろうとしたやつらがいたらしくてさ。来たときに地雷も発射済みで部屋の前血の海だったんだよ。さっき廊下の掃除終わらせたとこ」
「ちなみに死体は無かったよ。仲間が持っていったかしたんじゃない?表に新しいタイヤ跡もあったし」
「お前ら本当に探偵やれてる?」

グラビティーマンに赤い列車型ロボット、チャージマン。そしてストーンマンが口々に言う。どれもマグとジェミニ達のサードナンバーズの後に製作されたフィフスナンバーズである。

「しかしナパームとウェーブはとにかく、スターはどうした?時給戦隊たんねーぞ。五人プラス番外のもう一人いねーんじゃ人気取れねーだろ?」
「人気とか言うな!」

マグの疑問にクリスタルが反論するが、実際ここにいるフィフスは面子が足りない。
ナパームマンは傭兵になって中東へ、ウェーブマンは水中戦用であることを利用して大西洋を中心とした海底探査専門のフリーダイバーをやっている。
残る六人が以前同様、『時給戦隊アルバイター』として市外で活躍、もとい土建アルバイトなどに精を出していたのだが…

「スターは先に基地に行ったよ。色々用意したいって」
「今回の件、犯人捕まってないじゃん。近いうち物騒になるだろうから俺たちのパーツとかも余分にいると思って」
「まあ、バイトは当分無理っぽいけどな…」
「あー…」

バイトという言葉が出た時点でジェミニは五人に連絡がいってないことを察した。そういえば、ほとんど住み込みで働いてたな…こいつら

「ならちょうどいいや。そのうちシグマとかち合うから、攻撃メカも持ってこいって言っとけ…てか今から通信した方が早いな」

一瞬で部屋の空気が凍る。それに構わずマグはナンバーズのコードで基地に帰還しているスターマンに連絡を取った。

〈はい、こちら037〉
「あー、こちら018。スター、今基地か?これから武器と頭数いるから揃えといて」
〈……ホワッツ?〉

ピザでも注文するかのような気安さで武器弾薬の注文するマグの横でクリスタルを始めとする五人がジェミニに詰め寄った。

「どういうこと?」
「おい!今度は何やらかした?」
「シグマって、ハンターの人〜?僕あの人きら〜い」
「それ以外誰がいる?ちなみに今回のメカニロイド暴走とミサイル騒ぎの犯人だ」
「なにぃぃぃぃぃ!?」

絶叫のような声が事務所に響く。耳を押さえるジェミニにクリスタルがつかみかかる。

「何でアンタんなこと知ってんだ?あれか?またあれか?猫探ししたら首輪に密造武器のデータ入っててマフィアの兵隊に追い回されるパターンか!?俺車壊されるわ、ハンターに絞られるわ、営業車だったから仕事先でもまた絞られるわ…ってか何でオメーらじゃなくて俺が末っ子の同僚に絞られなきゃなんねぇの?ねえ!」
「まー…そうとも言えるかー?突っ込んだ先がたまたま例のミサイル基地だったとか…」
「やっぱりかぁぁぁぁぁぁ!!」

そこへ通信中のマグがさらりとトドメ。

「あとカメリーオとかもグルっぽいから多分他のA級ハンターも敵になるぞ。あ、スター。バイクのパーツも頼むわ。カメリーオに持ってかれた」
〈ちょ。ミーはパシリじゃないね!〉
「ウワアァァァァ!!」

結局五人は二人から記録媒体で事の次第を一秒で把握するまで悲鳴を上げていた。



ミサイル基地からミサイルが発射されたという情報は、国外の衛星が捉えた写真ともに瞬く間に世界中に広がった。
どこに飛んだかということで様々な議論を呼んだが、一番多かったのはレプリロイドの国際普及に反対する反動テロの犯行と言うものだった。
だが、未だ犯人からの犯行声明はなく。議論は行き詰まってしまった。
シティ・アーベルが国外にもレプリロイドを配置する試みを始めた矢先であった。
そんなニュースを兄弟達とともに観ながら、コウモリの翼を持つ怪人ロボット『シェードマン』は通信越しに溜め息をついた。

「事の委細は承知しました。ぶっちゃけレプリロイドの反乱軍と喧嘩するんですね?」
〈まあね。こっちも面割れてるし、向こうも了承済み。で、今は敵の戦力が確定していないから情報収集中〉
「つまり手伝えと?」
〈そ〉

坊っちゃん、早まんなきゃいいけどな〜と思っていた矢先である。
シェードは長い鉤鼻の上の眉間を押さえた。

〈別に強制はしないさ。お前にはフォルテのお守り頼んでるし。折角WRUが無くなって、追及も無くのんびり自分の暮らしを満喫…〉
「坊っちゃんも人が悪い」

主の言おうとしたことを、シェードは即座に遮った。そんなことを聞きたいのではないのだ。

「そりゃ頭数全員揃えるのは無理ですけどね、そんな話聞いて黙ってるわけにはいかんでしょ?何よりシグマの動機にヘドがでる」

少なくとも、人類への反乱だったら協力しないでもないと考えるが、奴は人間もレプリロイドも見ていない。多分、『人類種への反乱』という分かりやすい大義名分をぶちあげて兵隊を集めるだろう。
人間に近いが故に引き寄せられる者も多かろうが、誰も幸せにならない。
そんなことで自分達はとにかく、絶対自分の使命を貫こうとするだろう末っ子が振り回されるかと思うと頭に来た。

「わたくしとしてはこれを機に坊っちゃんが本名を名乗ってくれると大歓迎ですが、よござんしょ。こちらでも出来る限りのサポートはしますよ」
〈…ありがと〉
「今更」

全く祖父に似なかった新しい主に通信ごしで笑いあったとき、モニターの画面が揺れた。そして映し出されたのはまだ煙の上がるシティ・アーベル。
電波ジャックだ。シェードをはじめとしたDWNは慌てずにそのモニターに見いった。


「…というわけだ。理解したか?」

場所は再びシティの探偵事務所。先程とは打って変わって水のような静けさが部屋を覆っていた。

「…アホだ。たった一人の本気見たさにやることか?」
「僕全然わかな〜い」
「それで俺のCDとか、鉢植えとか…全部パー…」
「俺なんかバイト先がパーだよ。ジュニアがキレるわけだ」

クリスタルとジャイロはシグマの動機に愕然とし、ストーンマンに至っては声も出ない。わかってないのはグラビティーだけである。

「ちなみにアルは今シャドーの店で安静中だ。と言っても、既に軍隊時代の顔に戻ってたから今頃ダイヴしてネット中を探し回ってるぞ。強制はしないとは言ってるが、その分足りなければ足りないでもやる勢いだ」

絶望する弟たちに淡々と事実を説明するジェミニの後ろで、スターに指示していたマグが声をあげた。

「え?何、ニュース?」
「どうした?」
「とりあえず、テレビつけろ。電波ジャックらしい」

言われるままに電源を押し、画面がつくことを確認する。そして、荒れ果てたシティ・アーベルの映像が写った。そして場面が変わる。

『各地に散らばるレプリロイドの諸君!我々の進化の時が来た!』

赤いマントを羽織ったシグマが、凶悪な顔で画面に向かいそう宣言した。


その犯行声明及び宣言は世界中でメディアが復旧しているすべての国に放送された。
複合企業国家として復興した日本。最初の核攻撃から奇跡的に残った温泉旅館で、仕事の休憩中だった深紅の髪の青年ロボット―――メタルマンはテレビの内容に絶句した。

戦争の混乱で三つに別れてしまったアメリカ。そこに今も存在する第二ワイリー基地。

「キャハハハハ!ねーねー!エアー、クラッシュ。なんか面白いのやってるよ〜」

テレビを見ていた巨大ジッポライターに手足を生やしたようなロボット『ヒートマン』は無邪気な子供のように笑いながらテレビを見ていた。

「ああ、見ている…」
「嵐が来るなぁコリャ」

部屋の奥で胸に巨大なファンを着けた首の無い藍色のロボットDWN.010『エアーマン』とオレンジ色の装甲を持つDWN.013『クラッシュマン』は既に自分の得物をチェックにかかっていた。

南米、未だ新興政府とゲリラの間で衝突が激しいこの国に拠点を置く傭兵のセイフハウス。軍事ニュースを漁っていたサーチマン、グレネードマン、スラッシュマンは獲物を狙う目でテレビの映像を見ていた。

中東。民族と宗教の対立が種火となってくすぶり続ける中、都市の喧騒をよそにナパームマンは自分の秘密武器庫を開放した。
そして黙々と弾薬などをチェックし始めた。

どこかの廃墟の街。そこでなんとか生きていた発電所を頼りに細々と生活していた人々は壊れかけた大モニターの前で集まっていた。
レプリロイドという言葉を知らないにしても、何か悪いことが起きそうだと言うことを彼らは直感で悟った。
ただその後ろで、頭からマントを羽織った、金色のV字型パーツをついた赤いヘルメットの青年が薄ら笑いを浮かべて去っていったことに誰も気づかなかった。

吹雪の舞う極地。そこに危なげなく建つ小さな一軒屋。明かりの無い部屋で型遅れのラジオが世界の事件を伝えた。
部屋の主フリーズは読書を止め、微動せねままその報せに聞き入っていた。


「ローマの歴史家クルチュウス=ルーフス曰く、『歴史は繰り返す』。正にそのとおりですね…」

暗い通路を歩きながら、シェードは遠い目で呟く。親は子に、ロボットは人間に似る。それを証明したようなものだ。
通路の奥、いくつものケーブルに繋がれたカプセルがある。中には胸に大きな傷を負った黒い少年が昏々と眠り続けていた。その傍らに、黒い狼型ロボットが寝ていた。ロボットはシェードに気づき起き上がる。シェードがひざまづいてその鼻面を撫でると嬉しそうに鼻を鳴らした。

「しばらく家を空けます。その間、留守を頼みますね」

そして、彼はカプセルの中に眠る黒い少年に言った。

「では、いってきます。フォルテ、ゴスペル」

―――さて、まずあの引きこもりをどうやって引っ張り出そうか…そう考えながらシェードは部屋を後にした。


「予想通りだな」
「まったく」

シグマの犯行声明と宣戦布告を聞き終えたエンカーとシャドーは窓の外の街を見た。
いつもより暗いシティ・アーベル中央区。人々は再び夜の暗さに怯えていることだろう。
今のシグマの言葉にどれだけのレプリロイドが動揺し、混乱あるいは共感しているだろう。だが、その中に真実を知る者は殆どいまい。

「進化とは適応と多様化ってな。闘争にそれを求めるのは短慮ってもんだ。結局は好きなように生きた結果さね」

エンカーは、ここにはいないシグマに皮肉を言った。特殊化の果ては緩やかな死しかない。結局のところ、あの男はエックスと本気で喧嘩したいだけだ。

「お前の目指す先には誰も幸せになれない。だからお前は反逆の英雄として死んでくれ」

そして、夜明け。イレギュラーハンターの半分近くが造反、あるいは消息を絶ったという報せが入った。



後書き
沢山の感想ありがとうございます。
すいません、ナンバーズの殆どが世界中に散らばっているのでオールスターは無理かも…感想の返事もそのころになります。
あとマイクロン伝説の方でも書いたけど、妊娠中なので更新遅くなります。ご了承ください。

とりあえず
クイックVSクワガタ
泡&波VS蛸
凍結VSペンギン
蛇VSカメレオン
長男VSVAVA

などを考えています。なろう板でも書いているので、そちらもどうぞ。



[30192] 包囲網に抱かれて
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/11/01 13:08
翌日のシティ・アーベル。
未だ非常警戒体制が張られていたが、各区域にある病院や被災者への救援物質が必要となったため、生き残った交通を市政府は解放した。
運送トラックが進むにあわせて、シェルターから出て自宅や知り合いの様子を見に行こうと民間の車もいくつか走るようになった。
実際イレギュラーハンターの第9部隊がSWATと交戦して死傷者が多数出たり、レプリフォースの施設が一時占拠されたためミサイル発射されたり、犯人のシグマが宣戦布告してイレギュラーハンター本部は勿論、政府機関は調査及び責任問題や原因究明で荒れに荒れていたが、情報規制もあり、市民は不安ながらも自分の手に届く範囲で備えようと安定に入っていた。
だが、夕方。少しだけ平穏を取り戻した街で再び火の手が上がった。

崩れ落ちる柱と共にハイウェイが割れていく。高架下に設置されていた爆弾のためである。
事が起こった瞬間に真上を走っていた車はその断裂に飛び込み、間一髪ブレーキが間に合った車は我先にと反転して逆走した。だが恐怖はこれでは終わらなかった。逃げ出した先に軍用メカニロイドが道を封鎖して待ち構えていたのだ。
ガンボルトやラッシュローダーを始め、突撃用の武器を搭載したそれらが逃げる車に襲い掛かる。人々は絶望に悲鳴をあげながらそれを見ているしかなかった。
そこへ一つの影が間に躍り出た。誰もがその人物がローライダーのドリルに貫かれるものと想像したが、そうはならなかった。突然現れた金色の障壁が、逆にラッシュローダーを吹き飛ばしたのだ。

「フッ・・・ホホホホ!ミーのスターバリアーは無敵!!ユーたちの無粋な攻撃など屁でもないね」

茶色を基調に、星型のパーツがついたアーマーのロボット―――DWN.037『スターマン』は手で白いバラを掲げて仰々しく笑った。しかも飛行メカによるスポットライト付きである。
一瞬微妙な空気が流れたが、その上空で民間のヘリが赤銅色のSL型列車ロボットを投下。スターマンの目と鼻の先でクレーターを作りながら着地した。

「はーい、列車が通りまーす!」

頭の上の煙突から勢いよく黒煙を吹き上げて、DWN.038『チャージマン』は文字通り蒸気機関車のごとくメカニロイドの軍勢に突貫し、破壊していった。

「外すなよ?」
「てめえこそ、ブルって操縦幹離すんじゃねーぞ?」

ヘリの中では対装甲歩兵用ライフルを眼下に向けて構えたクリスタルと、操縦者のジャイロと軽口を叩きあった。
クリスタルにサーチマンほどのFCSは無いが、まったく無いわけではない。少なくとも、自分の能力が使えなくなった時のためにその技能はインプットされているのだ。
パンッと小気味のいい音とともにメカニロイドが次々と撃ち抜かれていく。
だがそれでも何体かがチャージマンと狙撃をかいくぐって車の方へ突っ込んでいく。ガンボルトのミサイルはバリアで何とかなるが、大質量を押し込まれては長く持たない。

「ほいっさ~」
「おらよっと!」

グラビティーマンが反重力で浮かべた瓦礫をストーンマンが投げつけ隊列を組んだラッシュローダーを一掃した。これで粗方の軍用メカニロイドは片付いたかに見えたが…

「おうっと!」

勢いよく飛んできたツルハシをスターマンは白刃取りで受け止めた。
射線を予測して見た先には工業用メカニロイドたちの姿があった。工業用ヘルメットを被ったディグレイバーから、整地用のクラッシャーまでいる。

「こいつらまで…!」
「使えるのは片っ端からってとこだな。こーいう手ぇ使うのはどこも一緒か」

暴走ウィルスを仕込まれていたのは大型重機系だけではなかったようだ。たかが工業用だが、それでも武器の無い人間には脅威になり得る。
自分たちもかつては散々使った手だ。躊躇いは一切なかった。

「こーいうのってキングんとこカチコミに行った時以来だな」
「ん?あんま覚えてねェ。とにかく片っぱしから壊しまくってた」
「俺も」
「まあ、やることは一つ…」

そう、たとえ人数が足りなくとも100年前から決まっていることがある。

「世(職場)のため」
「人(お客様)のため」
「我々は戦う!!人呼んで…」
『時給戦隊アルバイター!この街は俺たちが守る!!!』

六人がポーズを取るバックで演出用の爆発が起こる。あの…後ろに逃げ場なくした人たちがいるんですけど…

「殲滅して突破口を開くぞ!モードBだ」
「ラジャー!」

「お、始まった始まった」

戦闘の始まったハイウェイからそう遠くない市街。道路の坂の上で双眼鏡を覗き込んでいたマグは道路の上で飛び交う岩や星の光を見ながら言った。そして坂の下を見下ろす。
いつもは人で賑わう界隈だが、非常警戒体制のため市民の足はぱったり途絶え、代わりに破壊活動を行う暴走メカニロイドたちが闊歩していた。

「三分後にはクラッシュたちが到着する。それまで数を減らすぞ」
「全部さらってもいんじゃね?」
「街が更地にならなきゃいいけどな」

チタン&フォーミュラから盛大な排気音が噴き出す。運転がジェミニ、後部席で攻撃手がマグである。

「落とされんなよ?」
「誰に言ってんだ?」

ジェミニの右腕も換装を終え、マグの内部修理も殆ど済ませている。レーザーとマシンガンを構え、準備万端の二人は愛機を急発進させて敵の中へと躍りこんだ。

その間に街のあちこちで立ち上る黒煙が数を増やしていく。通報を受けて駆け付けていくイレギュラーハンターやSWATのサイレンを聞きながら、エンカーは時給戦隊たちとは反対側のSA付近で街の様子を見ていた。
街に配置させた偵察用メカたちからの映像がバイザーの裏側に次々と映し出されていく。そして通信、コード024からだ。

〈御曹司、中央高速道にて工事用メカニロイドを使った暴動テロが発生。東地区方面はフィフスナンバーズが対処に当たっています。〉
「ああ、見えるよ。組織の皆は?」
〈中央区付近における暴動の鎮圧にあてております。マグとジェミニも、ゼロの援護に向かいました〉

組織は表立って行動には出ない。そのかわり路地などに配置した狙撃用のジョーなどがシャドーとともに暴走メカを駆逐していってる。対処に当たっているハンターが後で首を捻るだろうが、報告書に困っても知ったことではない。
造反したとされるハンターに接触できれば御の字なのだが…音信の取れていないという第7部隊の消息も気になる。敵に制空権を取られるのは痛い。

〈…それと、そちら側の高速道路へエックスが急行しております〉
「ありがとう。あいつの手伝いを終わらせたら、そっちにも行く。じゃ、通信終わり」
〈ご武運を〉

日が沈んでいく。
子供の頃、義体化手術を受けてから周囲とのずれに愕然とし、世界に爪弾かれてしまった錯覚に絶望していた。夕陽はいつもと変わらないのに、自分だけが変わってしまった事実にただ立ち尽くしていた。

『ねぇ君、そんなところにいたら危ないよ?』

手すりに腰かけて夕陽を見ていたあの時、たまたま通りかかった少年型ロボットが声をかけてくれなかったら眼下の街に身を投げ出していたかもしれない。
こんな体になってまで生き延びた意義が見いだせたわけではないが、少なくとも自分は世界から外されてはいないのだ。それがわかっただけのことだが、あの瞬間彼は間違いなく救われたのだ。
夕陽を見るたび、エンカーはあの頃の情景を思い出す。そして、今でも振り返ればあの少年に―――ロックに会えるのではないかと期待を込めた錯覚をしてしまう。
郷愁を払うようにV-MAXを最大速度で発進させ、逆走してくる車たちの間を一気に抜けていく。
―――今回は目いっぱい暴れたい気分だ。
罅割れた道路の上にいる暴走ディグレイバーを視認。リフレクトスピアを一気に振りぬき頭部を破壊する。その後に迫りくるラッシュローダーは轢き潰し、ガンボルトにはバイクについているロケットランチャーで迎撃した。軍用がいるなら指揮官の役割をしているのもいるはずだ。見つけ次第、送信機器以外を破壊して逆探知ウィルスを仕込む。この体ならそれは可能だ。
何度もメカニロイド達を破壊する作業をこなしている内に、寸断されていた降下車線から青い影が走ってくるのが見えた。
急停止、タイヤが悲鳴を上げながらアスファルトに黒い線を創って止まる。向こうもこちらに気づいた。

「貴方は…!」
「やあ、また会ったな。ハンター君」

そして、夕陽の中―――人間やめた青年はもう一度人間らしい機械に出会った。




[30192] 狂騒は憎悪の調べ
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/11/21 13:38
爆破テロのために下敷きになって機能停止してしまったレプリロイドがいた。
その瓦礫の麓で子供が泣いていた。
自分を助けてくれた彼のために、子供は泣いていた。
俺は泣きじゃくるその子を背負って、彼の両親の下へ送った。
この子を生かした優しさがとても尊く、この子の流した涙がとても悲しいと思えたから―――

俺はまっすぐ、燃える街を睨みつけた。


爆音と黒煙が満ちるシティ・アーベル。エックスは一人走っていた。
腹部の治療と意識回復からさほど時間がかかっていないが、本部内にかかったエマージェンシーに彼は即座に反応してメディカルルームから飛び出した。
そしてハイウェイでの爆破テロである。覚醒直後、同じメディカルルームにいたシグナムからシグマが宣戦布告し、それに合わせて何部隊かが音信を途絶。第17の隊員、しかも特A級の隊員も何名か消息を絶っている。―――その情報を聞いてもエックスは驚かなかった。(自分が意識の無い間ゼロが事情聴取でかなり絞られたようだが)
あの時、自分がシグマを撃つことが出来ていたら…。皆は「むしろ、見せつける意図があったにしてもあのシグマ相手によく破壊されなかった」とゼロと自分に言ったが、二人の中にあった後悔は晴れなかった。
現場に到着し、エックスが見たのは墜落したトラックと瓦礫の前で呆然と座り込んでいる近所の少年だった。
声をかけても正気を取り戻さない少年の視線の先を見る。そこにあったのは、瓦礫の隙間から流れ出るオイルと何かを求めるように突き出された機械の片腕だった。近寄り反応を確かめるが、無し。あったとしてもコーラ缶のように潰れているのは目に見えていた。
ふと、瓦礫の中に見合わぬ白いプラスチックのプレートが目に見えた。それを拾い確認したところ、ギリシャ文字の「Σ」をアレンジした紫色のエンブレムが焼きつけられていた。誰のものかは、すぐに分かった。
ひとまず現場を他の隊員に任せ、エックスは少年を保護しシェルターに送った。
もはや隊長が―――シグマが大型メカニロイドの暴走事件に最初から加担していたか、途中から手段を横取りしたのかわからないが、今となってはそんなことはどうでもいい。
犠牲の無い進化など確かに無いかもしれない。それでも種として生きるには必要悪かもしれない。
だが…だが、エックスは流された血に触れて、流された涙を前にして、確信する。
―――こんなことは間違っている。
ハイウェイ上に暴走したメカニロイド群の通報が入り、車たちが反対車線にも関わらず我先へと高速を降りていくのが見える。その後ろには分断された道路から迫りくるラッシュローダーなどのメカニロイド群。車が全て避難したことを確認すると、エックスはバスターを展開し、それらをフルチャージで撃破した。
そして、エックスは戦場となったハイウェイへ走り出したのである。そこで凄惨な光景と信じられないものを同時に見たのは言うまでもない。
罅割れたアスファルトと破壊され、燃える車両。そして黒いV-MAXに乗った男が暴走メカニロイドを蹂躙している瞬間であった。唖然とすること一瞬、バイクは急制動をかけ目の前で停車する。
黒いライダースーツとバイザーに赤い髪。見間違えるわけが無かった。だが彼はシグマに撃たれて重傷だったはずだ。

「あなたは…!?」
「やあ、また会ったな。ハンター君」

夕陽の中、何も気負う風でもなく男はエックスに笑いかけた。
あの後、ハンター本部で覚醒した直後のエックスはすぐに二人のレプリロイドと人間の安否消息を確認した。だが皆それに関しては首を捻るばかりで、自分たちを回収したというアストロも「ハンター本部に送ったのはゼロさんとエックスだけ」と答えてシグナスの付き添いにいった。監視映像の記録にも乗っていなかったという。
そしてあの時、目の前で血だまりに沈んでいた男が目の前で戦っているのである。
無事だったのか。やっぱりあの時いた人だったのか。と、色々聞きたいことはあったが、自分はイレギュラーハンターである。

「ここは危険です。至急避難してください!」
「今この街で危険じゃない所こそ無いと思うぜ?」

悪びれもなく返す男の言葉の後、自分が通ってきた道が爆発した。

「……」
「…な?」

更に前方からは増軍のメカニロイド群がひしめき押し寄せてくるところだった。呆ける暇もなくエックスは男と目を合わす。男は親指で自分のV-MAXの後部座席を指さす。

「乗ってくか?」
「…イレギュラーハンターです。当車を借用します!」
「任せろ」

ホログラムのバッジを見せるエックスの真面目さに苦笑しながら、男は気前よく前を詰めてエックスを乗せた。敵の方向へ方向転換し、甲高く排気音を上げる。

「俺は、エンカー。エンカー・ザ・ゴールドクロウ。賞金稼ぎだ」
「エックスです」
「OK、エックス。派手に行こう」

再び最大戦速でV-MAXが発進する。ハンドルをエンカーが捌き、エックスがバスターで迫るラッシュローダーらを駆逐して突破口を作る。一気に群れを抜いた二人にメカニロイド達は方向転換して追撃にかかった。

「スピードはそのままで!」
「あいよ!」

後ろからミサイルを飛ばしてくるガンボルトに迎撃してエックスには気づかなかったが、エンカーの顔には笑顔があった。いつものようにスリルを楽しむそれでなく、夢が叶った子供のような―――そんな笑顔だった。その間にも彼は横に追いすがるラッシュローダーをマシンガンで牽制し破壊していく。
横からローター音と強風が迫って来る。被ロック反応確認。ハンドルを切り、バイクを斜めにずらす。すぐ横を迫撃用ミサイルが白い航跡を書いて通り過ぎていった。
そして上空から迫る巨大な蜂型メカニロイドを見てエックスが声を上げる。

「ビーブレイダーまで!」
「こいつかぁ、指揮官機は」

自律型強襲用飛行メカニロイド「ビーブレイダー」は口に当たる部分についている銃座で二人を照準する。エンカーは更にスピードを上げて徹甲弾の雨から免れる。

「姿勢そのまま!」

後部座席でエックスが後ろ向きに姿勢を変えるとバスターで追ってくる敵を照準し、チャージ。その顔面へ青い光弾を放つ。顔の半分を吹き飛ばされ、中空で姿勢を崩すビーブレイダーに駄目出しとばかりにエンカーがミサイルランチャーをお見舞いする。頭部を破壊された大蜂は沈黙し、アスファルトを突き破って鉄骨の上でその身を横たえた。
通信コード、037を確認。即座に開く

〈ジュニア、そっちにも大蜂が二匹行った!〉
〈了解〉
「また来るぞ、今度は二匹だ」
「こっちもナビから確認した。料金所まで一気に突っ切ってくれ。そこなら場所もある」
「同感。飛ばすぞ!」


紅いライドアーマーに乗りながらゼロは中央区のメカニロイド暴走鎮圧にあたっていた。片っ端から破壊してはいるものの、きりがないと思っていた矢先である。
他の隊員の通信をモニターしている時妙なことになっているのに気付いた。敵の数が確認されていたのより少ない。破壊した数と残っているはずの数が合わないというのである。
おかしい。ゼロでなくとも嫌な胸騒ぎがするというものである。別の勢力がメカニロイド達を駆逐しているのか?それともメカニロイド達が全く別の場所へ集結しつつあるのか。前者はともかく、後者はかなり問題だ。敵の戦略にはまった可能性が出てくる。
前方の角から銃声とバイクのギアの音が響く。何故か嫌な予感がさらに膨れ上がった。一際大きな爆発音とともに二人乗りのバイクがラッシュローダーを蹴り飛ばしながら表通りに姿を現し急停止した。

「ったく!きりがねぇなホント。…クラッシュ兄は?」
「迷ってなきゃとっくに着いてる」

チタン&フォーミュラにまたがる白いレプリロイドとU字磁石…を着けた赤いレプリロイドが得物の弾丸とカートリッジを補充しながら何やら悪態をついていた。ゼロは頭痛を覚えながら急停止した。

「おい…」
「「あ」」

「あ、じゃねぇよ!」とドロップキックをかましてやりたい衝動に駆られたがゼロは堪えた。微妙な沈黙が間に流れる。

「ども~、M&Gで~す…」
「よし、次行こうか」
「誤魔化して逃げようとするな!何やってるんだお前ら」

そそくさ逃げようとする二人の首根っこを掴み引きずりおろそうとした時一つ先の公道で盛大な爆発音が轟いた。その後も間断なく三階建てのビルより高い爆炎が上がる。
ゼロは思わず二人の顔を見たが、二人は青い顔で否定した。そして目の前で瓦礫と共にメガタートスが吹っ飛んできた。ちょうど二人の後ろで仰向けになった亀が着弾する。

「お、いたいた」
「ジェミニー、マグー、おっひさ~」

もうもうと粉塵を上げる瓦礫の中から、やたら生き生きした眼のオレンジ色の重装甲型レプリロイドと四角いジッポのようなアーマーを持つ小柄なレプリロイドが出てきた。ゼロは知らないがDWN.013『クラッシュマン』とDWN.015『ヒートマン』である。思いっきりハンターであるゼロの目の前で名前を呼ばれたマグとジェミニは揃って天を仰いだ。
そこへカブトムシの亜人型レプリロイド、第17部隊のハンター「ビートブード」が巨体に似合わぬスピードですっ飛んできた。ちょうど彼もこのあたりで任務に当たっていたのだ。

「まぁたお前らかーーー!!」
「げ、ビートブード」
「関係者かお前ら!」
「いや、顔見知りではあるけど…別に俺らがテロリストじゃないよウン」
「嘘こけ!やることなすことどう考えてもお前らの身内だろ!?」
「お前騒ぎ起こすのはとにかく俺らの関係者って決めつけてね?」

胸ぐらを掴んで問い詰めるゼロとまくしたてるビートブードをマグに任せ、ジェミニは二人に応じた。

「何だそっち終わったのか?」
「エアーは?一緒じゃないのか」
「なんかデスログマーっての探しにクラウドと行っちゃったよ~」
「ナパームたちとアルは?」
「ナパームとウェーブ以外のフィフスはハイウェイの西地区方面、アルは南側のSAから攻めてる」

ついっと視線で戦闘の続くハイウェイを指す。そのとき偶然にもジェミニはハイウェイの端にライドアーマーに乗る紫色の人影を捉えた。双眼鏡を取り出してもう一度確認する。今度は間違えようがなかった。

「…!?VAVA!」
「え!?」
「何!?」
「誰?」


「…あの時」

料金所に着く前に三機目のビーブレイダーを破壊して道が少し静かになった時、後部座席でエックスは唐突に口を開いた。

「うん?」
「何故、ミサイル基地にいたんですか?」
「あー…直感?」

まさか「ハンターからバッジパチって侵入しました」と馬鹿正直には言えない。微妙な沈黙が流れ、直球で聞いてもはぐらかされると察したエックスは溜め息一つ。質問を変えることにした。

「賞金稼ぎでしたね」
「おう、最強と自負できるぜ」
「なら、何故さっき逃げなかったんですか?暴走メカニロイドを排除してもスコアにならないんじゃ…」
「逃げ道が無かったのがまず一つかな」

逃げ道云々以前にむしろ自分から飛び込んだのだが。

「あと、俺はこの街に来てまだ三年ちょいだが、この街はいい街だって思ってる。それを無茶苦茶にされて黙ってられる程、俺は人間出来ていないだけさ」
「…それで死ぬかもしれないのに?」
「安心しろ、この体は特注品でね。ちょっとやそっとどうってことないさ。それに、荒事は得意だ」

笑いながら内心エンカーはエックスに深層にアクセスしたときの記憶が無いことに安堵した。ライト博士が祖父のことを教えなかっただけかもしれないが、エックスに対して一切のしがらみも無く話し合えるのが嬉しかった。
だが、その余韻に浸る間もなくプラズマ球が前方に迫ってきた。即座にハンドルを切り回避。そして今度は見覚えのある紫色のライドアーマーが突っ込んできた。
地面すれすれに横倒しになって強引にバイクの方向を変える。タイヤが悲鳴をあげ、エンカーは流れながらブレーキをかけ止まった。
 
「…ほう?珍しい組み合わせだな」

ライドアーマーの運転手が意外そうに言いながら機体をこちらに姿勢を向けた。機体の色に合わせたような紫色のフルヘルメットのレプリロイドの顔が露わになった。

「VAVA!?」

エックスは思わぬ人物に声を上げるが、経緯を聞き知っていたエンカーは最悪の予想が当たったことを知りながらいつもの調子で応えた。

「よう、VAVA。マグ達から聞いたぜ?拘束されて、シグマの大将に出してもらったって?」
「それがどうしてここに…お前もシグマの反乱に参加しているのか?」
「反乱だと?」

エックスの言葉にVAVAは鼻で笑い飛ばした。その瞬間彼から凄まじい殺気が迸った。

「…そんなもの知ったことか!俺はエックス…お前が気に食わないだけだ!!」

キメラシリーズのライドアーマー「デビルベア」のモンスターエンジンが甲高く唸りをあげ、二人が乗るバイク向けて猛然と突進してきた。
うむ言わさぬ敵意に即座に反応したのはエンカーだった。アイドリング状態の愛機を急発進させ、放たれた機銃を回避すると全速力で道を突っ切った。

「何で…!?」

当然追いかけてくるVAVAを尻目に後ろでエックスが抗議するが聞く耳は持たない。自分を置いて逃げろとか死亡フラグを立ち上げられては適わない。
向かう先にいるアルバイター達に連絡を寄越す。もう粗方終わっているはずだ。

〈ジャイロ!VAVAと接触した。今そっち側に向かうから合流してくれ。あっちの武装はいつものフロントランナー等とキメラシリーズアーマー〉
〈はあ?あいつも反乱軍に入ってんの!?〉
〈まだ確定じゃないが、とにかくエックスに難癖つけてきた。今後ろからものすごい勢いで追ってきている。全速力で逃走中〉
〈わかった。すぐ向かう!〉

昔丸腰の状態でライドアーマーに乗ったVAVAから逃げ切ったことがあるが、今回は何があっても逃がさないつもりらしい。エンジンを惜しげなく吹かしながら肩についているフロストランナーで追撃してくる。
エックスもバスターで車や街灯を撃ち倒したりして足止めを図るが猛然と迫るライドアーマーには焼け石に水である。

「降ろしてください!奴の狙いは俺です!!」
「それが利口な判断だと俺も認めるが…」

エックスが叫び、更に後方でVAVAが「てめぇに用はねぇからさっさとそいつを放り出せ」と無言のプレッシャーをかけてくる。シグマの話を真に受けやがって…

「だが断る!」
「ええ!?」

シグマの盲信のためにエックスを見捨てるという選択肢は無いし、不毛な私闘に付き合ってやる気もない。相手が知り合いなら尚更である。
打ち捨てられていた車を台にして断絶された道路を飛び越える。弧を描いてV-MAXは無事着地したが、追ってくると思っていたVAVAは急制動をかけて断絶の前で止まった。そしてフロストランナーの斜角を調整しこちらを照準した。
悪寒が背筋に走る。エックスも奴の狙いを読んだのだろう。バイクはビーム砲に撃ち抜かれ吹き飛んだ。

「くっ!エンカー!!」

道路に吹き飛ぶように転がりながら、道路の端で止まるとエックスはエンカーの姿を探した。直撃を受ける前にバイクから飛び降りたところまで見たが、未だ横倒しに転がっていくバイク以外見えない。嫌な予想が浮かぶ。
突然地面が揺れ、エックスは後ろを振り返る。VAVAが断絶を乗り越えてこちらに降り立ったところだった。
すでにフロストランナーがこちらを照準済み。エックスは即座に身を翻してバスターを展開、だがVAVAの方が早い!

「死ね!」
「―――!!」

発砲。光が視界を覆う。間に合わない。そう諦めかけたとき、頭の上で何か振りぬかれた。
カキンッと軽快な音と共にフロストランナーの弾が打ち返され、バスターとともにVAVAのヘルメットに直撃した。
ライドアーマーの上で大きく仰け反り、VAVAはそのまま動かなくなった。そしてエックスの横、バットを振りぬいた野球選手の構えのままエンカーが光学迷彩を解除。

「よし、ストラーイク!」
「………」
「ところで、電脳錠持ってる?死んで無いし」

呆然と見上げるエックスを見てエンカーはリフレクトスピアーを収納すると多目的ハンドガンを取り出し、仰け反った状態のVAVAに慎重に近づいていく。
正気に戻ったエックスはそれを制して自分が行くことにした。デビルベアのエンジンはまだ落ちていない。
バスターを展開し、バイタルチェックレーザーで相手が本当に失神していることを確認するとエンカーに後ろに下がるよう指示して慎重に近づく。いずれ処分が決まっているにしても、出来れば生きたまま連れて帰りたい。
ライドアーマーの攻撃範囲ギリギリのところに来たとき、ピクリとも動かなかったVAVAのヘルメットの下の目に火が入る。瞬間エンジンが唸りをあげ、ライドアーマーのアームがエックスに直撃した。

「うわぁぁ!!」
「エックス!?」

咄嗟に後ろに跳んでパンチの威力を軽減させたが殺しきれず、エックスは道路のガードレールを突き破って吹き飛んだ。淵に手をかけて転落は免れたところへエンカーが走りその手を掴みとる。
だが、安堵する間も与えずVAVAのライドアーマーのアームがエンカーの後頭部を叩きつけるように鷲掴みにして締め付けた。

「エンカー!?」
「~~っ…大丈夫だ!手ぇ離すなよ?」
「エックスといいお前といい、その甘さが気に食わない…」

互いに気遣うエンカーとエックスを見てVAVAは怒りとも嫉妬とも取れる言葉を吐いた。

「そこで見ていろエックス、貴様には何も出来ん!お前を倒し、シグマを倒し、世界を変えるのはこの俺だ!!」
「やめろっ!!お前の狙いは俺のはずだ!?」

目の前で再び血が流されることに青ざめたエックスが叫ぶ。自分がこの手を放せばエンカーは助かるかもしれない。だが、エックスの手を握る彼の手は頑なにして緩まなかった。必ず助かるという確信が彼の目にはあった。

「くだらないことを言うようになったな、VAVA。…『世界』だと?いつからそんなお題目に縋るようになったんだ?」
「っ!?黙れ!」

くだらないという、怒りに似た感情がエンカーの中に湧き上がっていた。その挑発とも取れるその言葉に、VAVAの怒りは一気に殺意へと変わった。
アームに力がこもり、エンカーの頭に激痛とミシミシとチタンの脳殻の悲鳴が聞こえた。このままでは数秒もせぬうちに頭部は破壊されるのが実感で分かった。圧力でバイザーが弾ける。

「―――――――――――――っ!」
「やめろぉぉぉぉっ!!!」

二つの絶叫がハイウェイに響く。無駄なことだとVAVAが更にアームに力を入れようとしたその時だった。巨大な影が彼らの頭上から降ってきた。
見上げればそれは市街でよく流れている軽トラック。明らかな直撃コースにVAVAは反射的にアームを操ってそれを受け止めた。
垂直に伸びたそのアームを狙って赤いバスター弾と対装甲ライフルの徹甲弾が貫通。エンカーの頭を絞めていたアームも同様に破壊された。普通ならそこでトラックによって頭を潰されるところだが、VAVAのライドアーマー操縦のセンスは伊達ではない。そもそも元来工業用のそれを戦闘に用いた最初の人物が彼なのだ。
アームを吹き飛ばされた一瞬で足とエンジンスラスターだけで体を捻り、落下するトラックを回避。自分の邪魔をした人物「達」を睨み付けた。

「ちっ、エンジン撃ち抜いてふっとばしゃいいのに…」
「ねー」
「アホ!アルまで殺す気か!?」
「エックス!大丈夫か?」

黄色い四角のロボットを担いだオレンジ装甲の両手ドリルのレプリロイドはいざ知らず、探偵二人はエンカーを助けに来たのだろう。そしてゼロがライドチェイサーでエックスとの間に割って入った時、VAVAの中にくすぶり続けている火が燃え上がった。
何故、誰もかれも自分でなくエックスのような者を認めるのだ。

「く…ゼロ…お前ほどの者が何故エックスに肩入れする!?そいつは只のB級ハンターに「VAVAァ!!」っ!?」

そんなVAVAの言葉をマグの渾身の怒声が粉砕した。その迫力に彼は一瞬萎縮し言葉を失う。マグは肩を震わしながら怒りで青ざめた顔で煙の上がる街を指さした。

「…俺達の街が無茶苦茶にされてんだぞ?こんな時にお前、何やってんだよ!?」
「少なくとも、奴に対して筋くらいは通すと思っていたが…これはさすがにな!!」

ジェミニもライフルを構えてVAVAを狙い、ゼロも油断なくバスターを照準する。

「…今のお前は、もはやただのイレギュラーだ…。」
「…!」

ゼロがVAVAにそう告げたとき、ちょうどジャイロのヘリが合流した。エックスもエンカーに引き上げられいつでも攻撃できるように構えている。
両アームを破壊され、袋のネズミになったVAVAだが旗色が悪いとみるものの降参する気配が無かった。
先に気づいたのはヘリを操縦していたジャイロだった。レーダーに大型飛行物体の接近反応あり。識別は第7部隊の旗艦兼空中要塞デスログマーであった。
青い巨体がこちらに向かってくるのがすぐ見えた。ジャイロは激突を避けるため操縦幹をきって回避。風で飛ばされそうになりながらもなんとか機体を保った。
だがその隙にVAVAは道路の外に飛び降り、デスログマーの翼に着地。そのまま呆然とする一行の前でデスログマーと共に空の向こうへと去って行ってしまった。

「デスログマー!…マジかよ!?」
「第7部隊…イーグリードが堕ちたか…」

デスログマーの去った後を見送りながらマグとジェミニは戦慄した。この事実は敵が確実な制空権を手に入れたことに等しい。

「ゼロ…VAVAは一体何を…」
「ただわかっているのは…奴もまた俺達の敵になったということだ…」

ゼロはデスログマーの去った空の向こうを睨みつけながら言った。親友であるイーグリードが下された事実に対する彼の心中は察するに難い。それでも彼はあくまで冷静なハンターとしての態度を貫いた。

「俺はしばらくシグマの足取りを追う。お前は一旦ベースに戻ってくれ。」
「わかった。ハンターベースで合流しよう。」
「んじゃ、がんばれよ?」
「あの禿には俺を殺しておかなかったことを存分に後悔させておいてやる」
「クラッシュ、バギーのせてくれ。バイクがやられちゃって…」
「おう乗ってけ。エアーの奴探しにいかにゃならんし」

エックスの後ろで爽やかに去ろうとする怪しい一行をゼロは逃がさなかった。

「お 前 ら 帰 れ。あるいは取調室に来い」
「だが断る」
「前者はともかく後者はヤダ」
「こちらゼロ。ビートブード、重火器不法所持と建造物破壊の容疑者5名を確保。場所は南地区料金所前。エックスを回収していくついでに連行してくれ」
<おう任せろ!つかあの二人なら連行と言わずその場で鉄板にしてやる!!>
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇえ!!?」
「せめて事情聴取しろ治安組織!!」

劇画調に断る探偵二人を豪快に無視してゼロはビートブードに連絡を取ると向こうから気炎盛んな返事が返ってきた。さすが先輩、容赦がない(byエックス)
街の方ではすでに消防隊が駆け回り、火災の鎮圧にあたっている。メカニロイドの暴走ウィルスの出所をシャドーたちかハンターが突き止めて停止させたのだろう。
あるいはシグマたちが粗方の目的を果たしたか、だ。

「じゃ、後は頼んだ。」
「ああ、わかった。……ゼロ」

ライドチェイサーでその場を後にしようとするゼロをエックスは呼び止めた。後ろでエンカー達がジャイロのヘリに(逃げるための)視線を送っていることに気づかず

「ありがとう、また君に助けられた」

エックスの心からの礼に言葉を返さずライドチェイサーを走らせて去って行った。決してエックスの後ろでジャイロたちとエンカー達の視線だけによる「地獄の沙汰も金次第」な交渉に気づいてはいない。

「貴方たちも、こんなことになったけどありがとう…確か東地区の…」

振り返ったエックスの視線に気づいてマグとジェミニは名刺を出して営業スマイルで自己紹介を始めた。

「24時間年中無休、ペット探しから浮気調査まで!」
「料金は要相談の良心価格な私立探偵、マグネット&ジェミニとは我々のことだ!言っておくが俺が探偵!こいつが助手!間違えても逆ではない!!あと便利屋でも壊し屋でもない!」

何やら日ごろからどういう目で見られているのか自覚していることを無駄に主張するジェミニであったが、これも営業努力である。ただでさえ何人かのイレギュラーハンターに目の敵にされているのだ。主にカブトムシとか

「相棒がガチャガチャ五月蝿いけどご愛顧夜露死苦!あ、ちなみにこれ銃器取扱いの免許証」
「……」

何やら目の前の二人に随分昔に会ったことのあるような既視感を覚えながら、とりあえずエンカーにも礼を言わねばならない。

「あの…すいません!ずっと助けられっぱなしの上怪我を…」
「あー大丈夫。皮膚がはがれたわけじゃなし骨格も損傷無いから。バイク弁償してくれるだけで十分だし」

何でもない事のように言いながらエンカーはエックスに応えた。何か腑に落ちないものを感じたが気のせいだ。多分(職務上当然である)

「ニーチャン、コイツの場合危なそうなところにお前が<いた>のが理由だから気にすんな。100年たっても変わらんバカだし」
「クラッシュ、そういう言い方はないだろ?」
「本当のことだろ?てめぇの強度考えろ強度を。あれに捕まったらお前のチタンの脳殻なんざトマト並なのわかってるだろ」
「アルだっこして~!」

憮然としながら説教するクラッシュの横でマイペースなヒートがエンカーに無邪気にだっこをせがむ。エンカーは「耳タコ」な渋い表情でヒートを抱えた。
そこへ内心憤然とするクラッシュの下へ通信が飛びこんできた。コード052、クラウドからである。コード010、エアーに通信しようとした矢先に…めんどくさそうにラインを開けた。

「クラウド。一応こっちは終わったが取り込み中…あん?」

一瞬でクラッシュの顔から熱が下がっていった。そして空にいる通信先の相手に怒鳴る。

「エアー!バカは止せ!!対戦車砲でとれる相手じゃねぇだろ!!戦艦だぞ!!!止め…」

黒煙の向こうの白い雲の上で遠雷のような爆音が響いた(と言っても、人間の聴覚では聞こえるどうかという音だが)。デスログマーが去って行った方向だ。
続いて何かが煙を吹きながら街の外の方へと落下していくのが見えた。そして墜落し高い粉塵を上げるのを、クラッシュたちが顔色を失いながら見た。

「あんの…バカ!!ヒート!先に行け!!」
「がってんだー!!」

クラッシュは自分の装甲を解放して雷管式爆弾「クラッシュボム」数個をヒートに投げてよこした。ヒートは地面に降りてそれを受け取ると足を収納させて炎を噴出させ目的地に飛翔した。

「ジャイロ!ヘリに乗せろ。エアーが負傷した!」
「はあ!?今のアレか?」
「エックス、ごめん!身内がやられたらしい。マグ、ジェミニ!先に帰ってて!」

クラッシュとエンカーは血相を変えてジャイロのヘリに乗り込んだ。日は落ち、街は夜になろうとしていた。まだこれが過酷な戦いの前菜にすぎないと、そう囁くような暗い夜が迫ろうとしていた。


廃墟の中に強い夕陽の光が差し込み、影を作る。舞い上がる粉塵ですら、美しいオレンジの粒子に変えていくのをエアーはクレーターの中で無感動に見ていた。

「…ふう」

持っていたライフルは落下中別の場所に落ちたのだろう。多分吹き飛んだ左腕も一緒だ。
煙が薄れ、赤い夕陽がエアーの視界に映る。ちょうどデスログマーの機影が見えた。
小さく煙をあげながら悠々と飛び去っていくその姿を、かつてそれを指揮していた男を思い出しながら、そしてその誇りを辱めたシグマの影を見ながら、彼は大の字になって深く溜め息をついた。



[30192] 模倣者達は踊る
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/11/21 13:22
地平線に赤い夕陽が落ちかける頃、デスログマーの艦内は機体の損傷の確認で少し慌ただしいことになっていた。
突然発生した乱気流からの奇襲。しかも信じられないことにレプリロイド単騎と複数の攻撃メカによる対戦車砲での強襲である。クルーは全員肝を冷やしたが、幸いイーグリードのとっさの判断によってデッキへの直撃は回避できた。

「イーグリード隊長、調査の結果損傷は装甲の破損のみです。艦の飛行に問題はありません。引き続き、目的地への運航を続行します」
「うむ」

部下の報告にイーグリードは頷いた。しかし、報告を終えた部下は思いつめたかのように黙ると俯いたまま零すように言った。

「隊長…本当にこれで良かったんでしょうか?」
「みなまで言うな…」

それはこの場にいる第7部隊全員の本心でもあった。シグマに力によって屈服してしまったイーグリード本人にしてもそう返すしかない。全員の中に無力感と苦渋が満ちていた。
そこへ突然デッキのドアが開いた。ライドアーマーとともに回収されたVAVAである。デッキが一気に剣呑な空気に変わるが、それに構わず無言でイーグリードの前まで歩き、隊員を押しのけて彼を睨み付けた。イーグリードも微動せず睨み返す。

「…恩には着んぞ?」
「結構だ」

一触即発の空気が流れたが、「ふん」とVAVAは吐き捨て空気は霧散した。しかし剣呑な空気が消えたわけではない。
通信を知らせるコールがデッキに響く。隊員が「シグマからです」と短く報告し、モニターにつないだ。

<無事合流できたようだな、VAVA>

モニターにいずこか知らぬところで座るシグマの姿が映し出される。その顔にはミサイル基地でエックスにつけられた傷がそのままついていた。それがまたこの男の不敵な笑みを凶悪なものに見せる。

<各地で我が意に賛同する者たちが蜂起した。お前はどうする?VAVA>
「シグマ…俺には俺のやり方がある!貴様はそこで見ているがいい…」

モニターを睨みつけながら、VAVAは底から響くような声でかつての上官に宣言した。その場にいる全員が燻りつづける暗い炎のようなものを感じたのは言うまでもない。

<…ふむ、よかろう>

シグマはわかりきった答えを聞くように、確認であるかのように薄く笑いながら言った。それだけで通信は終わった。
しばらく沈黙していたがやがてVAVAは格納庫のへと戻って行った。暗い炎を纏わせたまま、去って行くその後ろ姿が見えなくなってデッキの中に安堵の息が次々吐き出される。
だが、イーグリードは新たな胸騒ぎを覚えていた。
このから始まるのはシグマ率いる反乱軍とイレギュラーハンターとの戦いになるはずだった。だが、狙ってきたかのような「A10」の奇襲といい、今しがたのVAVAの宣戦布告じみた言葉といい、「それだけでは済まない」と直感が告げていた。
これから過酷以上に混沌とした戦線が開かれることを、イーグリードは予感していた。
そして暗い通路の中、VAVAは誰に向かって言うのでもなく呟いた。

「今にわかる…貴様の言う可能性とやらが誰なのか、な…!」

第二のテロ騒ぎが一応の収束を見せ、マグとジェミニはイレギュラーハンター本部から解放された。
というのも、二人が暴走メカニロイド以外破壊していないことが証明されたこと。あと、遭遇したクラッシュとヒートは特に素性は上がらなかったが、非合法の傭兵として活動していることが判明したので、行方と共に依頼主を調査中。ただしシグマとの関連性は薄いと判断された。以上をもって二人は銃器の没収された後釈放されたのである。
ただし、固有武装のみならず体のいろんなところ(玄関前の茂みの中とか)に隠した武器はかなりあったので、二人にとっては特に痛くもない損失だった。足りない分はシャドーの組織から補充してもらえばいい。
しかし二人の心は晴れない。尋問が厳しかったとかそんなことではない。
エントランスから外へ出ようとした時、被災者の救助を手伝っていたエックスとすれ違った。その時マグはエックスを呼び止めて一言言った。

「エックス、悪かったな…」

相手は当然何のことかわからず怪訝な顔をしていたが、二人は返事を聞かずそのままイレギュラーハンター本部を後にした。
チタン&フォーミュラで公道に乗ってシャドーの店に向かう間、二人は無言だった。ただ、独房の中で聞いていたシグマとVAVAのやりとりを思い出していた。

/*/

「エックスを倒すだと…!?」

独房の中に戸惑うVAVAの声が木霊する。マグもジェミニもその時には異常な事態に気づいて息を潜めていた。
何故ここでエックスが―――いくらライト博士の忘れ形見の可能性があるとはいえ、「ただそれだけ」のお人よしを倒す話がでるのか理解できなかった。

「そうだ。ひいてはそれが我々の進化につながるだろう…」
「何を言い出すかと思えば…」

シグマの言葉にVAVAは当然失笑し、そして激怒し立ち上がった。当然である。少なくともVAVAにとっては格下の相手だ。

「あの悩んでばかりのアマちゃんハンターが、何をしてくれるというのだ!!」
「悩む…そう、『悩む』ことこそが他のレプリロイドにない特殊能力だ」

だがシグマはそれを否定することなく、静かに言葉を続けた。

「甘さゆえにエックスは悩み、深く考え、通常のレプリロイドが達しえない結論に達しえるのだ…だが、エックスはその本来の力に気づいていない」

確かにレプリロイドは生まれながらにして役割を決められている以上、疑問を持つことや悩むことは少ない。戦闘型であれば尚のことである。
しかし何だか話が壮大におかしな方向に行っている。二人は嫌な予感がしてきた。

「そのエックスの力を引き出すために、自らイレギュラーになるというのか?」
「そうだ」

シグマはにべもなく即答した。

「俺にその手伝いをしろと?」
「だからここへ来た」

外からの震動が再び響く。長いようで短い沈黙が横たわり、VAVAは吐き捨てるように呟いた。

「狂ってやがる…!」
「強制はしない。誰にでもできることではない」

シグマがうすく笑ったのが空気でわかった。そして彼は踵を返し独房から去る際にこう言い残した。

「自ら狂うことのできる者でなければ…」

/*/

VAVAは―――しばらく呆然と立っていた。だが、やがて彼はシグマの後を追うように独房から出ていったのである。
行くな。
そう叫ぶだけで何かが変わったとは言えない。独房から出る手段は無かったし、何より丸腰だった。あとでアストロから聞いた話ではあの時には既にVAVAの「処分」が決まっていた。VAVAに選択肢は無かったのだ。
しかしそれでも、知った顔が道を外すのを目の当たりにして傍観に徹していたことに変わりはない。

「…お前のせいじゃない」

運転中黙っていたジェミニが後ろのマグに呟くように言った。それに対してマグは何も返さなかった。そうしている内に、二人の視界にBar「明月」の看板が見えてきた。

非常事態宣言により閉店中の「明月」の最上階は「影」の面々を始め、今回新たな都市伝説を生み出した「時給戦隊アルバイター」他、今しがた合流したクラッシュ、ヒート、クラウド。マグとジェミニが顔を合わせていた。
全員が店内に設置された大モニターに流れるニュースに注視している。既に何度も第9部隊がSWATと交戦した件についての追及が報じられているが、今は国外へと消息を絶ったデスログマーと第7部隊の行方を始め、国外へ脱出した反乱軍の動向が焦点に充てられていた。
イレギュラーハンターもついに情報公開に踏み切る決心をしたらしい。リストに上がる物々しい顔ぶれは昨日までメカニロイド一斉暴走事件を境に行方が知れなかった特A級ハンターばかりであった。中にはイーグリードの姿もある。

「ふう、終わったよ」

ちょうどエレベーターから狭そうにエンカーもといアルフォンスと修復の終わったエアーが出てきた。

「状況は?」
「E国発電所、太平洋横断橋跡、ブラジルのIH支部、並びコロンビアの国有Eクリスタル鉱山。以上が反乱軍によって制圧されました。現在多数のレプリロイドが国外へ脱出したことが確認されております」
「それと未確認情報ですが、北極の第13部隊とサウジアラビアの第4部隊が3時間前音信を絶ちました。北極は副隊長のアイシー・ペンギーゴが消息を絶っていることから造反されている可能性は極めて高いと思われます」
「少なくとも、シグマの直属の部下何名かを始め、第4、第6、第8、第7、第13の部隊が反乱軍に組まれたと考えるべきか…」

アルフォンスは呻くように言った。「全く、とんだ茶番だ…」とジェミニがニュースに目を通しながら吐き捨てる。

「ところで、どれだけのナンバーズと連絡が取れた?」
「ウェーブとバブルは太平洋。ナパームは中東だ。例の放送聞いてからもう動いているらしい。南米にいる傭兵組もウッド達と合流するって」

クリスタルが説明した後、サードナンバーズのマグとジェミニは指で自分たちのナンバーズの人数を数えながら言った。

「スパークは確か発電所で働いているし、ハードとニードルはコロンビアで土建のバイトしながら基地で留守してるし…あとは」
「スネークとタップは去年から連絡がつかん。一応働き口が見つかったとかいっていたがな」

タップは…チベットに行くと言ってそれきりである。今頃マニ車のごとく回っているのかもしれない。「ま、いっか…」と諦観に似た思いが二人に在った。

「あーと…メタルは欠席だ。クイックはどこいるかわからんし、フラッシュは論外」

バツが悪そうにクラッシュが手を挙げた。

「え?あの兄鬼が」
「嬉しそうだなオイ」
「エ?ソンナコトナイデスヨ?」

驚きつつも心なしか嬉しそうなマグに思わずツッコむクラッシュの代わりに、今まで黙っていたエアーが説明した。

「『守るものがある』と言ってな。そのまま日本に留まるそうだ。実際太平洋横断橋跡が占拠されて以来東京付近がきな臭いらしい…」
「…例の予測演算装置の答えか?」
「そこまではわからん。今は個人的推論と直感に基づいて行動中とのことだ。一応国内にいたテングを向かわせておいた」

日本には企業によって洋上に建てられた環境改善ナノロボットのプラントが存在する。そのおかげもあって民主主義の自治国家として存在する日本にシティの介入は入りづらいし、廃墟同然になった東京には今中国からの戦災難民に混ざって海賊やマフィアがごった返している。

「クイックはNYシティにいるのをターボとスプリングが確認している。だが間違いなくこの戦に参加するはずだ。フラッシュだが…」
「ほっとけっての、あのバカ」

クラッシュは吐き捨てるように遮った。アルフォンスもそれ以上は追及しない。DWN.014「フラッシュマン」が自分を認めていないのは知っているし、軍団を離れるきっかけを作ったのは自分の非だ。

「…シェードたちの方はどうなってる?」
「アラスカにいるフリーズの説得に向かっております。つい先ほどカナダで興業中のクラウンとフロストに合流しました」
「ふむ…こんなところか。反乱軍がこうも広がっているとなると、分隊にしてそれぞれの制圧地に出向くべきだな」

報告を聞き終えて、エンカーは敵の分布と今後の動きについて思考を巡らせた。するとエアーがゆっくりと部屋から出ようした。
「どこいくの~?」とヒートが声をかけるとエアーは振り返らず言った。

「デスログマーを追う。イーグリードには『A10』を名乗っていた頃からの借りがある。クラウド、また付き合ってもらうぞ」
「え~!?また戦艦に単身突貫なんて無茶はもう嫌だぜ?」

そこには有無を言わさぬ確かな決意があった。名指しでつき合わされる身になったクラウドは思わず悲鳴のような抗議をあげる。

「心配するな。ドラゴンも連れて行く」
「アンタはそれでも突っ込んでいきそうなんだよ!」
「まあまあ。エアー、悪いけどクラウドは俺と一緒に南米に来てほしいんだ」

二人のやりとりにアルフォンスが割って入った。「俺様?」と怪訝な顔をするクラウドに反してエアーが即座に得心していた。

「…なるほど、第9の隠れ蓑(光学迷彩)対策か。だが、雨のジャングルの恐ろしさはお前も知っているだろう?」
「嫌になるほどな。だが、向こうにとってもそれは同じだ。それに、早いうちにカメリーオから情報を引き出しておきたい。奴のことだ、多分反乱軍に入れるために人質取るくらいはやってる」
「ふむん…」

そのやり取りを見ながらクラッシュは一つ息を吐くと、ヒートを抱えて席を立った。

「んじゃ、俺は中東でナパームと合流するかな?あのオイルデブなら勢いで蜂起しかねんし」
「ねーねー!その人よく燃える?」
「おう燃えるぞ。しかも天高く」
「燃える!」

小脇に抱えられたヒートが文字通り目を輝かせて嬉しそうに気炎を吐いた。まるで宝物を探しにいく子供のようである。

「そんじゃ、ちょっと第4部隊潰しに行くわ」

そしてクラッシュたちはまるでそこらに買い物でも行くような足取りで出ていくのであった。

「…まあ、中東はクラッシュたちとナパームに任せりゃ問題ないかな?」
「ジュニア…戦力的に問題なくても周辺の被害予想的に問題です」

片や雷管付き爆弾をばらまく壊し屋、片やその気になれば12000度の高温を纏って突進する炎ロボット。そこへナパーム弾等ミサイルをばらまく殲滅型である。(戦場が更地になる意味で)完璧だ。

「まあ市街戦にならないことだけを祈っておこう…」

その場にいる全員が第4部隊全員の冥福を祈った。まだ部隊全員が蜂起したわけじゃないのに

「エアーには飛行メカたちを増員してデスログマーを追ってほしい。でも、俺たちが合流するまで決して深追いはしないでくれ」
「…承知した」
「さて、あとは…」

そしてアルフォンスは全員の有志に基づいて、それぞれの分隊を編成していった。そして翌日の朝、それらは各地の制圧地へと向かった。


おまけ
「なあ、エアー兄ちゃん。A10って何の暗号?」
「俺の傭兵としての名前だ。No.10で『Air man』の頭文字を合わせた」
「なるほど」
「ちなみにクラッシュは『DEATH13』だ。何故かスネークがそう付けた」
「…悪夢の中で殺されそうなネームだな」



[30192] 設定(オープニングステージ編)
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/12/06 12:59
今さらながら用語の説明も

◆レプリロイド
ケイン博士が故トーマス・ライトの論文と資料を元に製作された『ロボット三原則』に制約されない完全自律人間思考型ロボット。多くは人型だが、役割によって亜人型もいる。
大戦の傷痕深い世界を復興させるため創られた人と機械を取り持つ『公平な第三者』である。
ただし、ある程度の制限を施されているにしても、人間に近いゆえに本来の役割を放棄して犯罪行為に走る者も少なくない。

◆メカニロイド
従来の単純な命令に従うロボットの総称。一般的には作業用や軍用ロボットをさす。
厳しく言うと、前世紀の『ロボット三原則』を設定されているロボットもここに分類される。

◆イレギュラー
不確定要素、予想外を意味する言葉だが、ここでは犯罪行為に走ったレプリロイド、暴走したメカニロイドを指す。
強化人間などを指すマン・イレギュラーという言葉もあっていいと思う。

◆イレギュラーハンター
増加するイレギュラーの対処のために設立された治安組織。本部はシティ・アーベル中央区
多くの戦闘型レプリロイドを有しており、公式には17の部隊が設けられ、隊員のランクはD〜特Aと別れている。
基本的にシティの警察組織として機能しているが、現在海外への配置実験などで中東、北極、南米に部隊が駐屯している。

◆レプリフォース
レプリロイドによって編成された軍隊。陸、海、空と存在する。
戦闘ではなく、災害救助などを主な活動とする組織。
ただし、他国への牽制などための施設の管理(例、ミサイル基地)も担っている。

◆シティ・アーベル
大戦終結以前に理想社会実現のモデルケースとして創られた実験都市。
レプリロイド発祥の地であり、人口の八割がレプリロイドである。残り二割は人間で、行政機関から招待された者たちで占められている。
総合監理局があり、実質都市国家。

◆時給戦隊アルバイター
シティ・アーベルが危機に陥った際、颯爽と現れた謎の六人組。
暴走メカニロイドを駆逐する彼らの正体とは…?


グラビティ 自由な重力【BGM.freedom space】
正式名称、DWN.033『グラビティーマン』
重力制御戦闘ロボット。元エインパークの風船売り。
お惚けのピンク。現在土建のアルバイト

ストーン 立ち上がる石人【BGM.stone ocean】
正式名称、DWN.035『ストーンマン』。
岩山攻略戦闘用ロボット。元エインパークの係員。
力持ちの黄色。同じく土建のアルバイト

ジャイロ エアライダー【BGM.スカイロード】
正式名称、DWN.036『ジャイロマン』
空中戦闘用ロボット。同上。
空中戦の緑。現在個人ヘリの運転手

スター 夜空の貴公子【BGM.満天星色】
正式名称、DWN.037『スターマン』
宇宙戦闘用ロボット。元メリーゴーランドの係員
ビジュアルと電子戦の金。ワイリースターの管理を務めることもある。

チャージ 爆走超特急 【BGM.デンジャラストラベル】
正式名称、DWN.038『チャージマン』
輸送列車護衛戦闘用ロボット。元ジェットコースターの係員
土建のアルバイトで砕石、運搬と大活躍。

クリスタル プリズマイトクリスタル【BGM.プリズム】
正式名称、DWN.040『クリスタルマン』
鉱山防衛戦闘用ロボット。元エインパークの焼きそば売り
苦労人の白。アルバイターのまとめ役

・エアー 寡黙なる嵐  【BGM.IGNISHON Strom】
正式名称、DWN.010『エアーマン』
初の空中戦用ロボット、ただし本人に(以下略)。戦闘機のように高速飛行しながら狙撃していくよりも、胴体部に設置されている大型ファンで暴風を発生、環境を悪条件化させて戦闘を有利に持ち込んでいくよう設計されている。配下のメカと協力して小型ながら強力な台風を展開することができる。
武人肌の豪傑。男は黙って大口径砲。一家のサブリーダーであり静かな力持ち。2ndナンバー以降の弟には優しい。だがどこかズレていることがある。その愛に満ちた鉄拳は軽くコンクリの壁にクレーターができるほどの威力を持つ。みんなの兄鬼2号。

・クラッシュ 驀進粉砕機 【BGM.陽気な壊し屋が世界を回す】
正式名称、DWN.013「クラッシュマン」
鹵獲した「ボンバーマン」のデータを基に、重火器に特化した戦闘用として開発されたロボット。後衛での援護射撃、敵陣のかく乱、進路、退路の確保が主な役目である。
ナンバー中ではおとなしい部類に入るが、一度キレると辺りを瓦礫の山に変えるまで暴れまくる危険人物。

・ヒート 幼き獄炎王 【BGM.幼な心の灼熱地獄】
正式名称、DWN.015「ヒートマン」
 鹵獲した「ファイヤーマン」のデータを基に、それ以上の火力、耐熱度、戦闘能力を目指して製造されたロボット。その耐熱装甲は自ら炎をまとえるほど向上している。また、変形機能も備えており、飛行形態となり、文字通り突貫する火の玉と化す。最大出力での火炎温度は摂氏1000度前後と推測され、半端な火力攻撃はもちろん、光学兵器はまったく通用しない。しかも、彼自身熱エネルギーで活動しているので、戦闘時は海面などの大量の水に押し付けない限り手に負えない出鱈目なロボット。
無邪気(?)であまり深く考えない性格。と定義するより非戦闘時のローテンションなマイペースと、戦闘時のハイテンションでギャップの激しい性格。




[30192] 百年凍土
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/11/21 13:26
アラスカ北東部。地元の動物たちでさえ外に出ることを辟易する猛吹雪の中、一台の雪上車が消え入りそうになりながら走っていた。

「あと少し…あと少しだ」

ハンドルを取られそうになりながらも、第13部隊の隊員は自分の中の記憶を頼りに目的地を目指して運転していた。
体内のGPSは途中で捨ててきた。視界の効かない追っ手の目を眩ますためだ。身分証明も兼ねていたが、致し方がない。
彼はつい先程まで仲間だった者達から命からがら逃げてきたのだ。
このまま進めば町に着く。そこまでいけば助かる。そう信じて彼はアクセルを踏み続ける。
助手席で呻く声が聞こえる。彼は声の主を励ます。

「もうすぐ町です。必ず助けます。マルス隊長」

助手席でマルスと呼ばれた大柄の壮年レプリロイドは目を閉じたまま、ゆっくり頷いた。その胸には無惨に穿れた穴と応急措置のための機械が取り付けられている。
白い闇の中、彼らの視界に廃墟の影と人工の光が浮かぶ。
隊員はその光に向かってアクセルを踏み抜いた。


フリーズ―――正式名DWN.049『フリーズマン』にとって世界は終わっていた。
大戦の引き金である核ミサイル発射を軍団のせいにされ、地下に潜り長い眠りについた。
それだけならまだ良かったが、その後も放たれた核ミサイルが日本の首都にも直撃した。あの街には、尊敬する先輩が―――『アイスマン』たちがいた。
熱で捻れ、瓦礫と化し、静寂が支配する廃墟。死の街と化した彼らの故郷。ついこないだまで(少なくとも、彼らの体感時間でだが)何度も訪れた街とは信じられず、他の兄弟同様立ち尽くしてしまった。
ライトナンバーズがこの人災から生き延びることが出来たか、殆どの情報が失われたので定かではない。だが、どちらにしてもこの人類の過ちが彼らに深い絶望を与えたのは想像に難くない。
目覚めた時、彼にとっての『世界』は死んでいた。
その後も、彼は兄弟とともに荒廃し分断された世界を回った。そしていまだ終わらぬ紛争と対立。ありとあらゆる理不尽と暴力が実行される現場を目の当たりにした。
歩くたびに、虚しさが彼の心を蝕んだ。人類の為に尽くしてきた彼らが哀れだった。
失踪した主と末の弟を探す使命が無ければ簡単に膝を折っていただろう。だが、シティ・アーベルに弟がいるとわかった頃には限界が来ていた。
『一人で考えたい』
弟の処置について集まった兄弟達とともに話し合った後、フリーズは主に一人出奔することを願い出た。
新しい主に不満があった訳ではない。ただ、世界に対する絶望で磨耗しかけた彼は一人静かに今までを問い直す時間が欲しかった。
厭世に囚われたと言えばそれまでだが、主のアルフォンスは現在のネットワークに対応出来るようバージョンアップすることを条件にそれを許した。
皆が自分の道を探す時期だと主は言った。
軍団を出奔したフリーズは一人で南極大陸以外の寒冷地を回った。もともと寒冷地対応の氷属性ロボットである彼には相性のいい土地であったし、アイスマンも元は極地探査用ロボットであった。
流れ流れて、彼はアラスカ北部の放棄された町に辿り着いた。
最初は町外れにあった小さな図書館に住み着き、本や資料を読み漁っていた。特に意味はない。元来の趣味である。
町にサリンが撒かれた跡があったが、ロボットである彼には空腹の心配は無かった。
様子を見に来た兄弟に『引きこもり』と言われたがそんなことはどうでもいい。
時折近くで米帝とカナダ軍との抗争が発生する以外なんの変化もない生活だったが、時とともに周囲は変化していった。
まず、ひさびさに街の外を回った時、衰弱したシベリア犬の雌に遭遇した。
タグをつけていたから多分軍用に運営されていたのがはぐれたか捨てられたかのどちらかだろう。しかも妊娠していたとあっては放っておけない。それからフリーズは新しい家族のために町にある食べれるものを探すことなった。
次は町にエスキモーを含めた難民がやって来た。カナダ軍の略奪から逃れてきたらしい。
まだ『ロボット』といえば軍の兵器というイメージの強い時世である。いらぬ誤解でいさかいを起こすわけにはいかぬと、フリーズは即座に町外れの小さな一軒屋に移った。犬達はエスキモー達に大切されるとわかっていたので置いてきた。
しかし…

「しばらくした後、犬達が探しに来て、そしてその跡をつけてた村人にバレました。…と」
「やっぱり警戒されたけどね。でも犬達のおかげで信用してもらえたわけだが…」

この種の犬は帰巣本能が低いはずだと思ったのに…とフリーズは『世界の犬種』を読みながらぶつくさ呟いた。

「いいじゃないですか。感動的で。とにかく本当の引きこもりよりマシになってて安心しましたよ」

暖炉の前で横になる犬の腹を撫でながらシェードは言った。

「で、話なんだが…」

フリーズは読んでいた本を閉じた。

「軍団に戻る気はない」
「例の放送、聞いたでしょうに」
「心配しなくても賛同する気は更々ないよ。胡散臭いし」

本を「借り物」と書かれた箱に入れながらフリーズはふと窓の外を見る。
遠くに見える町の図書館の中で、道化師のような腕の長い小柄なロボットとイグルーのような巨体のロボットが子供達と遊んでいる。
二体とも同じDWNの060『クラウンマン』と062『フロストマン』である。二人は覚醒してからは手下のメカを連れサーカス興行で各地を回っていた。

「あの二人を連れてきてくれて良かったよ。例の放送から町のみんなはピリピリしてたから」
「たまたま近くで興行していましたからね。話を聞かせたら快く引き受けてくれましたよ」

窓の外はかなり吹雪いていたが、町の子供たちには関係ない。サーカスが近所に来たと知るとすぐに家を飛び出した。
町は少しずつ明るさを取り戻していた。

「もう一度聞きますが…坊っちゃん達と合流するつもりは?」
「ジュニアには悪いけど、今女子供と老人ばっかりだから…」

シェードから溜め息が漏れる。まあ、解りきっていたことだが

「ま、坊っちゃんも強くは言ってませんからね。私からもこれ以上は言いませんよ。ただ…」

吹雪が窓を叩き、暖炉の薪がパチリと弾ける。

「今から三時間前、イレギュラーハンター第13部隊のアラスカ駐屯地が逐電しました。ここからそう遠くないでしょ?」
「…たまに隊員が巡回に来るくらいだけどね」

「反乱の翌日、副隊長のアイシー・ペンギーゴも消息を絶っているので、もしやと思いましてね…」

二人の聴覚に吹雪の音とは別の人工の音が届いた。暖炉の前で寛いでいた犬もそれに気づき、飛び起きるように立ち上がった。

「ハンターの雪上車のエンジン音だ」

窓の向こうに目を凝らすと、吹雪の向こうから二つの光が近づいてきた。
家の前で車が止まり、中から13部隊仕様の白いアーマーのレプリロイドが転がるように降りてきた。
ただならぬ様子にフリーズはシェードに奥にいくよう促すと、けたたましくノックされるドアを開けた。
外の吹雪とともに隊員は倒れ込むように家の中に入った。相手はフリーズも顔見知りの隊員だった。

「アランか!?」
「フリーズさん!助けてくれ!!」

アランは出迎えたフリーズの二の腕を掴み、絞り出すように叫んで懇願した。

「マルス隊長が…!」


図書館の二階で子供達に簡単なマジックを披露していたクラウンは窓の外で銃痕だらけの雪上車がフリーズの家に駆け込んだのを見て、厄介事が転がり込んだと確信し、内心で舌打ちした。
相棒のフロストも気づいたようだが、子供達を不安させないため口止めし何もないよう振る舞わせる。
観客に笑顔を与えるのがサーカス興業の使命だ。ただでさえこないだまで戦災難民として苦しんできた子供ばかりである。

「さあさあ、次はエジプトでも使われた最初のマジックだよ!」

クラウンは子供達に悟られぬようマジックを披露しながら、ナンバーズの暗号通信でシェードに呼び掛けた。

〈シェード、何かハンターの車がけつに火ぃつけられた勢いでそっち行ったのが見えたが。厄介事か?〉
〈まあ、そんなとこですね。今13部隊の隊長と付き添いが死にかけで転がり込んで来ました〉
〈え〜!?マジかよ!〉
〈詳しいことはまだですが、この辺りのハンターは制圧されたとみていいですね〉
〈空気読めっての。明日公演やるんだぜ?〉
〈とりあえず、貴方はそのまま子供達に悟られないように振る舞ってください。もうすぐこちらに村長達がやってきます。こっちで説明して説得しましょう。パニックを起こされてはかないませんからね〉
〈簡単に言ってくれるぜ〉


通信を終え、シェードは奥からアラン隊員とともに瀕死のマルス隊長に救命措置を施すフリーズを影から覗く。
ちょうど処置が終わり、アランが安堵とエネルギー不足から気絶。そのまま床に倒れ込んでしまった。
二人で彼を抱えてソファーベッドに寝かせ、フリーズはやっと一息ついた。

「ペンギーゴが反乱軍に加わったのは間違いなさそうだな」
「ほう、その根拠は?」
「傷口の周りが凍ってた。出来立ての氷柱を銃弾の威力で撃たないとああはならない…」
「成る程、しかし逆も考えられますよ?マルスが反乱軍に加わろうとしたのをペンギーゴが…とか」
「無いな。マルスは自分の意志でシティ勤務から実験部隊に入ってこっちに来てたし、村の皆とも仲が良かった。ペンギーゴは…」

フリーズは思い出したように溜め息をついた。

「設計図の段階でここ向けの癖に僻地暮らしに飽きてた節があった。あいつはこの土地に未練はないよ」
「なるほど」

反乱軍に入る理由にはならないが、フリーズの言葉には説得力はあった。

「まあ、とにかく。南米にいる坊っちゃんに連絡しましょう。ここでは延命くらいしかできんでしょう?」
「…この吹雪じゃシティと連絡は取れない。Eクリスタルも西にあるレプリフォースかアンカレッジまで行かないと無理だ」

正直二人をペンギーゴに引き渡せば早い。しかし、向こうに交渉する気があるかどうか怪しいし、引き渡しを要求される前に見せしめとして町が襲撃される可能性もある。

「全く…ちょっと外出るとこんなことばかりだ」

人間がいなくなっていたお陰で、ここ一帯の自然は一気に回復していた。
だが、今も人間同士の抗争は無くならない。それを調停するために現れた「公正な第三者」レプリロイドも新たな火種となった。

「平和なんぞは凪に過ぎませんよ。吹雪がやむまで私もこの町にいましょう」
「…助かる」

夕方が迫り、曇天が一層暗くなる。子供達が家に帰る頃、吹雪は更に激しさを増した。
まるでなにもかも吹き飛ばすようなそんな激しさだった。



[30192] 北端の混迷
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/11/21 13:34
オレンジ色が星の輝く藍色に交代する頃、エックスは輸送用ビーブレイダーの中で一人休眠状態から目をさました。
気温−20℃を記録する高度二千メートルでも反重力装置を搭載しているビーブレイダーの中は静かなものである。

〈あと二時間で目標地点に到達します〉

無機質な艦内放送が現在地を告げる。エックス達はレプリフォース極北基地に向かっている途中である。
現地にいるレプリフォースとともに、音信を絶った第13部隊の状況を確認しにいかなければならない。既に反乱によって制圧されたという見方が強いが、エックス個人としてはそうであって欲しくないのが本音だ。
消息不明のペンギーゴはひねくれたところはあるが、シグマの言葉を真に受けるとは考えにくいし彼自身ハンターであることに誇りを持っている。
それに何より隊長のマルスはアラスカの土地を愛して13部隊の前身である環境観察実験部隊に志願した男である。
進化という名目で破壊活動を行うことを、温厚で実直な彼が許すはずがないのを知っていた。
その第13部隊アラスカ駐屯地から連絡が来ない。つまりそれは基地の通信手段が絶たれたか、マルス自身の身に何かあったということだ。

「無事でいてくれ…マルス」

エックスは誰にも聞こえないように、冷たい夜空に向かって祈った。


マルスとアランを奥へ移し、雪上車をガレージに隠してから一時間後、村長のウッドチャックと元アンカレッジ市警のジェイコブがフリーズの家を尋ねた。
エンジン音を聞いて駆けつけてきたそうだ。
隠しても不穏と不安を煽るだけと判断したフリーズは奥にいる二人の経緯と状況を説明した。

「やはりあの放送が狼煙だったか…」

老いたイヌイットは重々しい口を開いた。

「恐ろしい…あれだけの血が流されたのに、人間どころかレプリロイドまでその様な過ちを行う」
「シティの方はどうなっているか聞いていないか?まさかイレギュラーハンター全員が反乱を起こした訳じゃないだろ」

フリーズは村の者に最初に大戦の終結、そして終戦の後始末を務める総合管理局とシティ・アーベルの存在を伝え、「自分は調査のためそこから来た」と説明している。
だから村の全員はフリーズをシティから来たレプリロイドと思い込んでいるのだ。
ジェイコブの質問にフリーズはしばらく考えてから答えた。

「放送で流された以上は不明ですけど、向こうも混乱しているのは間違いないと思います。海外組はもちろん、かなりの数がシグマに賛同したんじゃないかと…」

それを聞いた二人は考え込むように唸った。

「統合管理局に救いを求めても手が回らないか…」

ジェイコブはため息混じりに呟いた。
村と言っても、ここは非公式の難民キャンプであり、下手すると自分達は戦争のドサクサに住み着いてる不法入居者の集まりである。
また戦争が始まれば粛清という名の略奪に遭いかねないし、逆に法が戻っても立ち退きという形で追い出される可能性もあるのだ。国同士のいさかいで故郷を追われる羽目になった住人達には、国に助けを求めるなどもってのほかだった。
今までは隊長のマルスの人格もあって、地元に近い第13部隊が周辺の治安維持や村の電気設備などの設置に当たってくれていたが、管理局が味方になってくれたとしてもマルスの迎えが来るのも、北極の不穏な動きが鎮圧されるのも先になるだろう。
それ以前に気づいてくれるかだ。村を囲む状況は絶望的に等しかった。
自衛するにも武装は古い型の猟銃とアラン達が難民と合流する前に署から持ち出した押収品の銃火器類。既に弾薬も心許ない。
考えても仕方ないことを悟った二人はそれこそ仕方なく席を立った。

「とにかく、今は住民に呼び掛けて戸締まりすること。それから見張りを交代で立てることを呼び掛けよう。いざって時の避難場所も整えないと…」
「マルスとアランは引き続き診ましょう」
「頼んだ。二人に何かあったら報せてくれ。詳しい話を聞かねばならないし、大事な友を見捨てるわけにはいかん」

それから、とウッドチャックはフリーズを真っ直ぐ見た。

「フリーズ、お前もまた我らの友だ。子供たちもみな、お前に沢山の言葉と知識を教えてもらった。我々もお前に恩を返したい」

フリーズは無言でその言葉を聞いていた。

「くれぐれも、犬達の時のように一人で危険に立ち向かうことはするな。我々もできる限りの助力は惜しまん」

それだけ念を押して、ジェイコブとウッドチャックは家を後にした。

「信頼されていますね」
「何、家電の修理と子供達に本の読み方を教えただけさ」

人間達がいなくなったことを確認して出てきたシェードにフリーズは素っ気なく返した。

「クラウン達のためにも明日には晴れてほしいところですが…それはそれで危険ですね」
「体内のGPSは途中で捨ててきたみたいだし、車内のそれも外してきたみたいだけど…時間の問題だな」

今この吹雪が町を孤立させると同時に外界から守っている。どんな機械化部隊でもこの吹雪の下で行動するにはリスクが大きいからだ。

だが翌朝、二人の危惧通り吹雪が止んでしまった。アランが意識を取り戻したのは丁度その頃である。
逃走とその際の戦闘による疲労で倒れたアランは休眠から目覚めるとすぐに起き上がることができた。
だが、人間で言うところ心臓の無い状態のマルスは予断を許さない状況には変わりない。
機械と管に繋がれ、変わり果てた隊長の前でアランが打ちひしがれていた頃、連絡を受けたウッドチャック達が駆けつけてくれた。
町の代表が揃ったところで、何とか落ち着きを取り戻したアランはことの次第を語り出した。

「シティにある本部と連絡が取れなくなって二日目です。ペンギーゴ副隊長が帰ってきました…」

シグマの反乱が各国に放送された矢先、状況を確認するために基地にいる誰かを派遣するか否かで揉めていたところだった。
一つでも新しい情報を欲しがっていた一同は何の警戒もなくペンギーゴを基地に入れた。そもそも、彼の本部出張は極地にレプリロイドの活動報告を兼ねたものだったのだ。
彼の口から大型メカニロイドの一斉暴走、そしてミサイルの発射に伴うケインラボの崩壊。大半のハンターが反乱、もしくは消息不明など次々とシティでの惨状が明らかになった。

「それでペンギーゴ副隊長はマルス隊長に今後の方針を尋ねたんです。いつ来るかわからない本部の助けを待つか、それともシグマに付くのか…」

「そういえばあの時、いつもなら必ず自分の意見をはっきり言う副隊長が何も言わなかった…」とアランは溢した。

「マルスは…シグマに与することをよしとしなかったのだな?」
「はい…」

ウッドチャックの問いにアランは絞り出すように答えた。

「副隊長が…ペンギーゴが反乱を起こしたのはそれからしばらくしてからでした」

司令室で何かが砕ける音がしてアランが駆けつけた時、彼らが見たのは心臓部に氷の弾丸を撃ち込まれて倒れ伏すマルスと、そのマルスから脳殻を外そうとするペンギーゴの姿だった。

「多分隊長から基地の機密コードを抜き出そうとしたんだと思います。それで、うちの副隊長が裏切っていたことを知りました…」
「なんと言うことだ…!」
「隣にいたブリッツがペンギーゴに発砲しなかったら、多分立ちすくんだままだったでしょう。それで何とか奴を引き離して、隊長をひきずりながら基地を脱出しました」

かつての副隊長を「奴」と呼ぶ頃にアランの中でペンギーゴに対する怒りが沸いてきたのだろう。もはやそこに敬意は無い。

「でもその間にブリッツたちも処置をしてくれたライフセーバーも…後はライドカーでここに辿り着きました」

アランが語り終えた後、しばらく誰も言葉を発さなかった。
やがて、ウッドチャックがアランの肩に手を置いて力付けるように言った。

「ありがとう、よく伝えてくれた。もう大丈夫だ」

その温かい言葉にアランは俯いた。温かいだけに堪えた。

「しかし、このままじゃじり貧だ。ここにはエネルギー源になるのも設備も無い」

ジェイコブの言葉にフリーズは頷いて肯定した。何とかしなければ町にペンギーゴが襲撃をかける前にマルスが死んでしまう。直接助けを呼ぼうにも、ここからレプリフォースのアラスカ駐屯地は遠すぎる。

「…アラン、レプリフォースでもシティのどっちでも構わない。救難信号を打ってくれ」

しばらく考えてから、ジェイコブは意を決して言った。当然ジェイコブ以外の全員が目を丸くした。思わずアランが真っ青になって立ち上がる。

「それではシグナルを傍受されて救援が来る前にここがバレてしまいます!」
「わかっている。でもこのままじゃいずれペンギーゴが押し掛けてくるし、そうなったら俺達だけじゃどうしようもない。それならいっそ遅くても救援を呼ぶべきだ」
「しかし…」
「奴がマルスの中の情報を欲しがっている以上、今頃血眼で探し回っているはずだ。既にこっちに向かってる可能性は高いんですよ?」
「ううむ…」

流石に渋るウッドチャックに中年の刑事は力強く説得した。

「幸い今日のサーカスショーは公民館のホールだ。女子供はみんなそこへ行かせて、その間に男達で奴等を迎え撃つ。フリーズ、お前も手伝ってくれ」
「…反対はしませんけど、賭けになりますよ?」
「わかっている。だがこういった時は最悪を想定して動く方がいい」
「なら、自分も…!」
「駄目だ、アラン」

以外にもアランを諌めたのはウッドチャックであった。

「今のお前は私の目から見ても戦える状態ではない!」

だがアランは退かない。

「しかし、村のみんなをそこまで危険に晒すわけにはいきません!」
「アラン、責任感があるのはいいけど足手まといになる方が迷惑だから」

だが見かねたフリーズの冷徹な言葉でアランの頭は一気に冷えた。実際ここに来るまでの間、左足を負傷しているのだ。
肩を落とす彼にジェイコブが諭すように言った。

「お前はマルスを傍で守ってくれ。頼んだぞ」

迎撃体制を整えることに決定が為された後、フリーズは暖炉の上に置かれた走り書きに目を落とした。
それを改めて読み、暖炉の中に放り込む。
古いパイプ紙の切れ端はあっという間に燃え上がり、消し炭と化した。

『ちょっと駐屯地まで行って調査ついで機材等を貰ってきます。By055』


白い雪上を偽装した装甲バンやトラックが列を成して走っていく。
いずれも乗っているのは武装した兵士で、中にはサイボーグの兵士までいる。それらが向かう先は第13部隊の駐屯地だ。

「しかもパワードスーツまで持ち出してる…」

その様子を小高い場所からシェードは呆れ半分で偵察していた。
シャドー以上の隠密性と情報処理能力を備える彼の目に、車内に隠した程度の偽装は通じない。熱源とサスの沈みでそれを見破った。
多分、米帝のCIAかカナダ政府軍か。今のアラスカ州兵にパワードスーツを出す余裕は無い。
反乱に乗じたシティへの示威行為…いや、アメリカにシティと表立って対立する理由は無い。レプリロイドの反乱に抵抗するための挙兵はもっとありえない。なんせここは政府のある首都から遠く離れすぎているのだ。
さしずめ、レプリロイドのサンプル確保か。レプリロイドの国外派遣及び配置には派遣先になる国から総合管理局の内政干渉を危惧する声もあった。
だがそれでも技術だけは喉から欲しいと見える。実際シティには日本をはじめ、様々な国の技術スパイが潜入している。

「やれやれ、図太いと言うべきか、逞しいと言うべきか…」

私達があれだけ暴れたのに本当に懲りないんですねぇ、と苦笑いしながらシェードは双眼鏡をしまった。

「まあ、これで手間が省けるというものです」

基地にペンギーゴがいようがいまいが、彼らがぶつかりにいってくれるならシェード自身動きやすくなる。

〈そういうわけでそっちは任せましたよ。ジャンク、バースト〉
〈おうよ!〉
〈任せとけ〉

頭上を国軍のヘリが通り過ぎていく。
車列を守るように飛ぶそれを薄ら笑いを浮かべて見ていたシェードは、やがて音もなく羽ばたいてその場から姿を消した。



後書き
自律戦車やサイボーグ兵士がひしめく戦場を生き残ってきた難民の皆さんは逞しいです。



[30192] マネキドリは寒空で唄う(修正)
Name: 黒金◆be2b059f ID:30ff9b74
Date: 2011/12/06 13:00
レプリフォース極北基地に着き、彼らとの情報交換を終わらせた数時間後の翌日。エックスは再び艦内の人となっていた。
現在自分らが乗るビーブレイダーの横にはレプリフォースのビーブレイダーが並列飛行している。
しかし行き先は第13部隊の駐屯地ではない。かつてBC兵器で地図から消された町の一つだ

〈こちら第6小隊。もうすぐ信号のあった地点だ。用意はいいか?〉
〈こちら第17部隊。いつでも〉

モニターに映る地上の情景の中に海岸近くに廃墟になった町が小さく見える。
そこがマルスが避難しているという町だろう。

〈…なあ、罠かもしれんがそれでもか?〉

通信の向こうのフロスト・キバトドス少尉が不安げに言った。まあ、救難信号を知って飛び出すように出動されれば心配もされるか。

〈実際確かめなければ解りませんし、本当の救難信号なら放っておくわけにはいきません。到着次第、我々が先に降下します〉

そう真面目に答え、相手が呆れたような溜め息を聞きながらエックスは降下準備に入った。

エックス達が上空にたどり着く二時間ほど前。
子供達とその母親たちを公民館に集めたことを確認した後、ジェイコブを筆頭に男たちはそれぞれ持ちなれた猟銃やライフル、ボウガンを手に廃墟の物陰で息を潜めて敵の襲撃に備えていた。
町の入り口が見渡せるビルの中に張り込んでいたジェイコブの下にフリーズが無線機で通信を寄越した。

〈犬たちを倉庫に避難させました〉
「よし、信号は?」
〈応答ありました。大至急空路で向かうって〉
「そうか、届いてくれたか」
〈でも、やっぱり早くて二時間くらいはかかるみたいです…〉
「良くてペンギーゴが来るギリギリだな…」

彼らのいる町は第13部隊の駐屯地とレプリフォースの基地を両端に挟む形で立地している。アランがレプリフォースでなくここに駆け込んだのはその為だ。
どちらからもこの町に着くには陸路で三時間前後はかかる。
だがマルスを殺し損ねたペンギーゴは焦っているはずだ。吹雪がやんだ早朝から捜索に動いていて、レプリフォースより早く来てしまう可能性が高い。
男たちは既に敵が近くに来ていることを想定して動いていた。
そして、町で一番高い施設から周囲を監視していた若者から通信が入った。

〈東側よりハンターの雪上車五台とライドアーマー二台!現在まっすぐ町へ向かってる〉
「よし、打ち合わせどおり地雷原に入ったのを確認したら配置につけ」

無線を受けて、ジェイコブは全員に呼び掛けた。

「すぐには撃つな。出来るだけ引き付けて仕留めるんだ」

双眼鏡を覗くと、雪上車が町の入り口付近で地雷にタイヤを破壊され、次々と停車を余儀なくされる。
戦場で拾ったのをとっておいて良かった。しかし、自分が配置した地雷には爆発式があっただろうか?たしか踏まなくても釘を飛び上がって撒き散らすタイプだったはずだが…
ともあれ、長い三時間の始まりだった。

「車を捨ててライドチェイサーで突撃するクワ!各員は俺様に着いてくるクワ!」

アイシー・ペンギーゴが「雪原の皇帝」という別名で呼ばれるのは何も彼が皇帝ペンギンをモチーフにした亜人型レプリロイドだからというわけではない。その由縁は極地環境にこそ最大に発揮される解析能力と機動性である。
彼は即座に地雷が埋まった箇所を見抜くと安全地帯を走って抜けた。隊員もそれにならって地雷原を抜けていく。
入り口に着くとやはり足にかかるようワイヤーが仕掛けてあった。その先をみれば手榴弾が
更によく見ればあちこちの窓の内側にも侵入防止のワイヤーや網が仕掛けてある。

「ジェイコブの野郎、何が『只のアンカレッジ市警だ』クワ!ここはゲリラの村クワ!?」

町の入り口に並ぶ廃墟に身を隠しながら指揮官だろう男に毒づいた。
ここにいる男子の殆どが海豹猟で生計を立てている。皆が狙撃に慣れていることを考えるとゾッとしない。
しかも地の利は向こうが上だ。やはりここはビーブレイダーも持ってくるべきだったか。
しかし、マルスの死が確実にならない限りはペンギーゴの立ち位置は確定できない。

「メカニロイド隊を放て!」


メカニロイドの便利な部分はその用途が善悪の区別なく、命令を与えれば一切の躊躇いもなく即座に実行することである。
基地防衛に設置されたスノーシューターはこの日も変わらず反乱が起こった基地に侵入する者を排除するために機能していた。
だがスナイパーライフルでカメラアイごとAIを破壊されたことでその機能全てを停止させていた。その周辺にも破壊されたメカニロイドが雪上に散乱していた。米帝が障害を排除した跡だ。
丸裸の状態となった第13部隊の基地は籠城戦に突入する間もなく、完全武装した兵士たちによってあっさり侵入されてしまった。
反乱の混乱から覚めやらぬ隊員達は応戦するも、統制の取れないまま次々と奥への後退を余儀なくされた。周辺はECMの嵐に覆われ、外部との通信は不可能。途中から管制室と連絡が取れなくなった。
隊員たちは例外なく誰に知られず、状況も解らぬまま朽ちる我が身を呪った。
そこへ基地内の放送で誰かが言った。

〈第13部隊の皆さん。助かりたいですか?〉

場所は戻って廃墟の町。

「始まった」

外の爆発音と散漫的に聞こえる銃声にフリーズは短く呟いた。

「すいません…自分らが来たばかりに」
「そのセリフは最後まで生き残ってからにしょう」
「……」

煙突を始め、窓という窓にワイヤーを張り終えたフリーズは素っ気なく返した。そしてアランを奥へ手招きする。

「こっちへ来な。隠し場所になる」


一通りの準備を済ませ、フリーズは一人外へ出た。外は快晴だった。久々の青空を見上げる。
そんな中でも銃声が響き渡る。

「まったく…」

目覚めたとき、世界は死んでいた。
どんなに復興しても、どんなにロボットが尽力しても、人間は同じことを繰り返して最後には自分の業によって朽ち果てていくのだ。
誰もいなくなってしまった北極の大地のように
自分もその中に埋もれて静かに朽ちてもいいと思っていた。
夢など見ないまま、夢見るように消えていく。それを望んでここにいた。

また銃声が聞こえる。

もう世界は死んでいくだけだ。
だけど、そんな世界の中で生きていこうする命に逢って―――彼は、生きて夢を見たいと願ってしまった。

「おちおち読書も出来ない」

自嘲気味に呟いたところで、町を迂回してたどり着いたライドアーマーに出くわす。
こちらを視認した相手は即座に攻撃体勢に入ろうとしたが、フリーズが早かった。
突き出そうとした端からライドアーマーの両腕は凍結。何が起こったかわからないまま、彼は氷づけにされて停止した。

「―――俺を叩き起こしたことを後悔させてやる…」

ここにはいないペンギーゴとシグマに、フリーズは呪詛のような言葉を呟いた。

村の連中の相手を改造したレイビットとトンボットらに任せ、ペンギーゴはチームを三つに分けてマルス捜索と抹殺に向かった。
この町は存外広いが廃墟の方が多く、故に住人たちは「村」と呼んでいる。
そんなところで瀕死のマルスを匿えるところは自然限られてくる。廃材置き場になっている元車の修理場と部隊が設置した風力発電の管理施設、そしてフリーズの家である。
ペンギーゴは三人ほど連れて発電所に向かった。
そして廃材置き場の工場。向かった五人はトラップを警戒しながら奥へと入っていった。
廃材に混じって指向性爆弾があるかと思うとゾッとしない。戦場で拾って手に入れられるものではないが、念には念だ。
物陰や狭い階段を警戒しながら慎重に進もうとした矢先、しんがりを務めていた隊員二人の姿が見えなくなった。
探そうとした矢先、二人はすぐ見つかった。昏倒させられタイヤを被せられた状態で床に転がされていた。そして三人は自分達が罠にかかっていることに気付いた。ただし、後ろに迫る左右非対称の人影には気づかなかったが
そしてフリーズの家、付近で放置されたライドアーマーを見つけた隊員達は即座に警戒し、ペンギーゴに連絡を取った。

〈こちらB分隊。現場付近で停止したライドアーマーを確認…付近に隊員の姿は見当たりません〉
〈多分フリーズの仕業だ!突入準備に入れ。そこが本命だ〉

報せを受けていたペンギーゴのチームは発電施設でやはり入り口に仕掛けられた手榴弾の歓迎にあっていた。警戒もなく入り込んだらピンが抜けて爆発する仕組みだ。
もちろんすぐに見抜いて回避しながらそのまま侵入したが、もぬけの殻であった。
苛立ちながらも時間を惜しんだ彼は再び部下を連れてB分隊に合流すべく外へ飛び出した。
そして彼らが見たのは、村の入り口付近に停車させた車が爆発炎上しているところであった。
愕然とした瞬間、同じく呆然としていた部下三人が尽く氷の弾に射抜かれて地に付した。

「耄碌したな。ペンギーゴ」
「フリーズ!?」

施設の屋上から冷然と見下ろす視線と目が合う。

「さっさと一旦退却して持久戦に持ち込みゃ良かったんだ。まあ、その様子だとやっぱり反乱はうまくいかなかったか」
「クワックワッ…お前がここに来たってことはやっぱりそっちの家が本命か!」
「だとしても、お前さんに付き合わされた可哀想な隊員達を突っ込ませたっても無駄だよ」

フリーズは冷笑と共に言った。

一方、無線で突入の指示を受けたB分隊は玄関から入ろうとしたところ、ドアの内側に仕掛けられた散弾地雷に気づき、裏からの突入を余儀なくされていた。
C4で外から壁を破壊し、居間に突入する。もちろんもぬけの殻である。それを確認し、各員が散開して家の中を調べだした。
台所を調べに入った隊員から合図があった。駆けつけてみれば、使われていない台所の隅にライドアーマーに乗っていた隊員が気絶したまま拘束されていた。
口の中に爆薬が仕込まれていないかチェックする。村の人々がそんな非道な真似をするとは考えたくないが、身を守るためなら手段を選ばないのが人間だし、そうさせる状況に追い込んでいるのは自分達だ。
何も無いのを確認し、彼らは気絶している隊員を動かした。
カチンっとピンが外れる音がしたのはその時だった。


「今頃玄関で散弾くらってのたうってるか、でなきゃ台所で足止めくらってるだろうよ。もっとも、家全部解体しても見つからないがな」

その言葉と、分隊との連絡が取れなくなったことにペンギーゴの顔は怒りと焦燥に満ちていく。
それを無表情で見ながら無感情な声で告げていく。

「廃墟に放ったメカニロイドも、もうすぐ全滅。他の分隊も俺の身内が拘束した。しかももうすぐ付近のレプリフォースがここに駆けつける」
「くっ…!」
「一息で殺さなかった時点でお前は詰んでたんだよ」

ペンギーゴは怒りの形相のまま口から氷の矢を立て続けにうち放った。
フリーズは予想していたとばかりに施設から飛び降りてかわすと、素早く手の中で氷の弾を作ってペンギーゴに向けて撃ち放った。ペンギーゴもまた大きく横へ飛び、回避。背中の推進機を噴出させ、まさに水面から陸に上がるペンギンさながらの腹這いで滑走すると、そのまま町中へと消えていった。

「来た!レプリフォースのビーブレイダーだ」
〈よし、発煙筒を焚け!〉

空を飛ぶトンボットの脅威から逃げ回りながらも、青年は指示通り発煙筒の栓を抜いた。
ジェイコブは煙が上がったのを確認すると空に向かって空砲を撃った。

「武器を下ろせ!ペンギーゴは逃げた。こんなことはもう終わりだ!」

〈市街にて発煙信号を確認!〉
〈こちらも確認した。先行して救助にあたる〉
〈市街では多数のメカニロイドが確認されている。充分注意しろ〉

二機のビーブレイダーは加速し、廃墟へと向かった。
反重力式エンジンを搭載している輸送用は地面すれすれの高度でもホバリングできる。二機は戦闘が確認できた区域を挟むように降り、ハッチを開放。イレギュラーハンターもレプリフォースも次々と降下し、メカニロイドを駆逐し第13部隊の隊員を包囲にかかった。

「騎兵隊のおでましってとこか」

騒がしさを聞き付けてジャンクは拘束した隊員らを道に放り出した。合流したバーストと軽くサムズアップし、誰にも見られない内にその場を後にした。
エックスは他の隊員より先じて町に降り立ったがために、ライドアーマーを起こして逃げようとするペンギーゴを視界の端に止めた。

「ペンギーゴ!!」

その叫びが届いたのか、相手は一瞬振り返り、エックスと目があった。そして忌々しそうに顔を歪めるとエンジンを始動させて雪原へと駆け出した。

〈こちら第6小隊。拘束されている反乱軍15名を確保。うち3名は重傷。なんだ全員やられてるぞ?〉
「こちらエックス、逃走中のペンギーゴを確認。追跡に入る!」

ビーブレイダーの中に格納されている雪上用ライドチェイサーを出してもらい、飛び乗るとペンギーゴが向かった方向へと全速力で向かった。
マルスの安否を確認するのが先決かもしれなかったが、今のペンギーゴが危険だということは直感で理解できた。あれは追い詰められた手負いの獣と一緒の目だ。

一方フリーズはエックスより一足先に雪上バイクでペンギーゴを追っていた。部下全員を置いて逃げたことにあきれ果てながらも、落ち延びても困る。あの手合いはおとなしく消えてくれない。何年かかっても復讐を果すに決まっているのだ。
しかし、奴が基地に向かっているなら待っているのは地獄だ。
しばらく走ると、ライドアーマーを停めて呆然とするペンギーゴの後ろ姿があった。その視線の先には遠くに上がる黒煙。イレギュラーハンター第13部隊のアラスカ駐屯地が燃えていた。
しかし燃える量が少ない。シェードなら木っ端微塵に吹き飛ばしているはずだが、ともかく…がら空きの背中に氷弾を撃ち込む。ジェネレーターを撃ち抜かれ、ライドアーマーは呆気なく沈黙。

「おい、手間とらせるなよ。こんなところで死なれちゃつまらん」

即座に飛び降りたペンギーゴに向き合う形でフリーズはバイクを降りた。

「…まさかお前の仕業か!フリーズ」
「さあ?単にお前がこの土地の人間を甘く見すぎていただけじゃないか?」
「ぐぐ…!」

あまりの悔しさに言葉がでないペンギーゴ。そして、ライドチェイサーに乗ったエックスが到着した。

「ペンギーゴ!何故こんな…」

バスターを構えながらエックスは怒りとも「信じられない」ともつかない顔でペンギーゴを見た。
それに対してペンギーゴは冷たい目と敵意で応えた。

「何故、か…きっとお前がそんな風だからさ…」
「……」
「その顔さ…エックス」

敵意が一際高まる。一方フリーズの心は更に冷めていった。
ああ、それがお前の「狂った理由」か

「自分だけが全部わかっているつもりのその顔クワッ!」

氷の散弾がエックスとフリーズの両者に放たれる。エックスは発砲しながら横に飛んでかわし、フリーズは氷の壁を作って防ぐ。
残った弾が地面の雪を舞い上げ、一時的な地吹雪が二人を覆った。

「手間とらすなって言ったよな?」
「やかましい!」

視界を奪われてなお一切余裕を崩さないフリーズに苛立ちながらペンギーゴは地吹雪の中を駆け回る。
雪の間から見える影を頼りにエックスはバスターを撃ち込んだ。だがあっさり砕けた標的を見てブラフを掴まされたことを悟った。撃ったのはペンギーゴの身の丈ほどある氷塊だ。
向けたバスターが横から氷づけされた。続けて肩、足と氷塊を撃ち込まれる。
反応したフリーズが「フリーズクラッカー」を投げつけるが、既にジェットで滑走するペンギーゴの動きは止められない。
ペンギーゴは再び地吹雪の中に消えた。

「大丈夫?」
「はい!」

エックスを氷の壁で守りながら駆け回るペンギーゴの音に注意する。敵はサメのように周囲をぐるぐる回っている。
エックスは必死で体やバスターに張り付いた氷を剥がしにかかっているが、自分がペンギーゴならバスターが回復する暇を与えず一撃で仕留める。
フリーズは、誘うことにした。
そして霧のような地吹雪の中から、鋭いくちばしをつき出したペンギーゴが飛び出してきた。
予想通り、エックスを狙って串刺しにせんと―――わかっていれば渾身の突撃も受け流すのは難しくなかった。
エックスを押しだし、突っ込んできたペンギーゴの首を脇で締め上げ、後は勢いに任せて地面に顔を叩きつける。

「て…てめぇ!」
「黙ってろ」

暴れるペンギーゴの顔を氷づけにしていく。これ以上こいつに喋らせることはない。
ペンギーゴが更に暴れだすが、これは力で押さえつける。だが、ペンギーゴの肩のアーマーパーツの裏側が開いた。そこから超振動ナイフが飛び出した。ペンギーゴはまだ自由な手でそれを握った。
そして、それをフリーズの胸に突き立てようとした。
気づいたエックスが張りついた氷を一気に吹き飛ばして、バスターを放った。
パンっと乾いた音が寒々とした雪原と青空に響き渡る。
ナイフを持った腕を吹き飛ばされ、胸に銃弾を撃ち込まれて―――ペンギーゴは動かなくなった。
力を失ったペンギーゴの体を離し、フリーズは雪原の向こうの狙撃者を見た。エックスも呆然と彼を見た。
まだ煙のふくライフルを持って、残心の構えのまま狙撃者は―――ウッドチャックは苦しみを押し殺して絞り出すように叫んだ。

「私が、撃った」

それは告白であり、懺悔であった。

「私が、ペンギーゴを殺したのだ」

ウッドチャックは、真っ直ぐエックス達とペンギーゴの死体を見つめて言った。
アラスカの空はどこまでも青く、大地は白かった。




[30192] 再生への道
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/12/06 13:03
一発のミサイルが街を焼いた。
少なくともそれが発端だった。
疑心暗鬼が不和を呼び、大国がこぞって覇を唱え、人々は衝動のまま戦場に突入した。
最初はミサイルが、それが無くなれば戦闘機が、戦車が、そして化学兵器が猛威を振るった。
負の連鎖の導くまま兵士が、女子供が、たまたまそこで生きていた動物たちが死んでいった。木々は燃やされ枯れ果てた。
そして地球上の人類が半分死んだ頃、人々は忘れていることに気づいた。

自分達は何のために戦っているのだろう?

人々はその理由すら忘れて尚も殺しあっていた。
そして誰も勝利しないまま『世界大戦』は終わった。
その終わりすら知らぬまま、人々は殺しあっている。

/*/

ウッドチャックが逃げるペンギーゴと、それを追うフリーズを見たのは全くの偶然だった。
メカニロイドの数に押されて廃墟の奥に追い詰められたところを助けられ、他の仲間を探そうと思って廃墟を見渡したときだった。
その姿から子供に人気があって、口からなんだかんだと言いながら満更でも無かったペンギーゴは、まるで手負いのヒグマのような目をしていた。
そしてそれを追うフリーズ。彼はただ殺意という意志だけを宿していた。
―――あれはいけない。
ウッドチャックには覚えがあった。
狙撃兵の頃、報復に燃える敵が、友軍が
そして故郷を焼かれたときの自分がしていた
心というものを一切棄てたケダモノの目だ。
フリーズはペンギーゴを生かさぬ気なのだ。犬達が拐われた時とはわけが違う。あの時は犬達とともに帰ってきてくれた。
ウッドチャックの本能は告げていた。
今ペンギーゴを逃がせばとてもとても悪いことになる。そして、フリーズがペンギーゴを殺してしまえば、もう帰ってこない。
13部隊の隊員が乗り捨てたライドチェイサーが目にはいる。手には狙撃兵兵時代から対歩兵用のスナイパーライフル。
ウッドチャックは老いた体に鞭打ってチェイサーを起こし、エンジンをかけた。初めて触る代物だが、原理はバイクと一緒だ。

そして、ペンギーゴが同胞に殺される前に、フリーズが殺戮機械に戻る前に
ウッドチャックはペンギーゴを殺しにいった。


/*/

動かなくなったペンギーゴの瞼を閉じてやると、ウッドチャックは手を組んで彼の冥福を祈った。
エックスとフリーズもそれに倣う。

「村長が手をかけることなかったんだ…」

冥福を終え、フリーズはウッドチャックを非難した。

「私の自己満足なのは承知している。だが、フリーズ。お前は誰も殺してはならぬ」

静かに、だが厳しくウッドチャックは応えた。

「だから、ペンギーゴを殺したのは私なのだ」

フリーズは何か言いたげだったが、彼の意思の強さを知っているので何も言わなかった。

「彼の遺体は…シティに帰した場合どうなる?」
「…彼は元々イレギュラーハンターですから、ボディから脳殻を取り外されてラボに移送されます」

早い話が次世代のためのサンプルである。
エックスは苦い表情でそれを説明した。

「…出来ればこの地で供養したい。こんなことになってしまったが、彼も我々の家族だ」
「それは…出来ません。レプリロイドは人間のように土に還れませんから」
「……」

エックスの元にレプリフォースからの通信が入る。来た方向を見れば、軍のビーブレイダーがこちらに向かうところだった。

〈こちら第6小隊。現状を報告せよ〉
「こちらエックス。ペンギーゴは……イレギュラー、アイシー・ペンギーゴを破壊した。なお、イレギュラーハンター第13部隊アラスカ駐屯地方面にて火災を確認。至急調査にあたられたし…」

報告を終えたエックスにフリーズは冷たく言った。

「庇うわけじゃないが、いいのか?」
「……今回の反乱を人類とレプリロイドの戦争と考えている連中は多くいる…あの町の人々の為にも、こうした方がいい」

それに、ウッドチャックが罪に問われてしまう。そう言って、エックスは心の中でペンギーゴに謝りながら偽装に取りかかった。

死亡三名、重傷五名、軽傷多数。

以上がアラスカ北東部における反乱による被害の統計である。シティ・アーベルや中東、南米でのそれと比較するに、民間人との交戦があったとは思えないほど奇跡的な数字である。
一つにペンギーゴに従った隊員の士気の低さが挙げられる。
反乱の混乱から覚めやらぬまま、親しい難民キャンプを襲わねばならないことに彼らは罪悪感を感じていた。それが彼らの攻撃の手を躊躇わせた。
ペンギーゴも時間稼ぎによって逃げられる可能性を警戒してマルスの捜索一本に縛ったことも要因の一つに挙げられる。
応戦にあたった村人も殺す気がなかったのが大きい。
捕縛された隊員はむしろ安心したように、疲れきったように投降してきた。
ちなみにフリーズの家に突入したチームは、その台所で『空の』散弾地雷の仕掛けを作動させて硬直しているのをレプリフォースに発見された。
最初の仕掛けをクリアしてしまう相手に有効な時間稼ぎである。セコっ(Byキバトドス少尉)
そして、マルスとアランは―――

「成る程、地下の漬物倉庫ねぇ」
「村のみんなにあげてちょうど空になってたんだ。前の住人に感謝だな」

駐屯地から脱出し投降した第13部隊の隊員に見送られながら、レプリフォースのライフセーバーに付き添われながらマルスはビーブレイダーのカーゴに運ばれていく。
それを遠くで見ながらフリーズはクラウンに説明していた。
反乱軍が投降したことを確認したフリーズはエックスを連れてガレージに案内し、地下に隠したマルスとアランを任せた。あのときエックスが見せた安堵の表情はまさしく『ロックマン』のそれと同じだった。

「で、そっちは?」
「大盛況!」

クラウンとフロストは破顔一笑して力強く親指を立てた。
公民館のホールは防音処置されていたが、やはり避難となると子供たちの不安も大きい。
下手に心配されて戦場に来られたり、親しかったレプリロイドに不信感を持たれるのを心配した大人たちはクラウンに『予定通りショーを披露してやってくれ』と頼まれていた。
果たして外では戦闘の最中、プロの矜持を魅せたクラウンたちの成果は大拍手と大興奮で盛り上がった。
もっとも、様子を見に来たキバトドス達からさすがに『不謹慎だ』と言われて険悪なムードになったが

「トド野郎がギャーコラ言うが、明日は野外演目もやるぜ!ジャンクやバーストも来るし、お前も見に来いよ」
「ああ…」

ビーブレイダーのカーゴが閉まっていく。最後に乗り込んだエックスと目があった。だが気のせいだろう。
離陸し、レプリフォースの極北基地へ向かうそれを村の人間が手をふって送った。
イレギュラーハンター第13部隊は反乱と基地の陥落に伴い、本土への撤収となった。彼らがいなくなった穴はしばらくレプリフォースが埋めることになるが、いずれ再び帰ってきてくれるよう村のみんなが祈っていた。
まあフリーズ個人としても、この辺りの治安維持はいつかの犬泥棒よりマルスの方が信頼できるというものだ。
ちなみに『いつかの犬泥棒』ことフロスト・キバトドスはこの村がフリーズの住まいだと知ってその場で腰を抜かしたそうな

―――全ては変わった。だけど全てが失われたわけじゃない。

いつかジュニアが溢した言葉が記憶野から浮上する。
今ならその言葉の意味がわかるような気がした。

夕方、ブルーシートで壁の穴を塞いだ我が家に帰るとシェードが優雅に読書しながらコーヒーを飲んでいた。
その脇にはジャンクとバーストがテーブルに突っ伏して寝ている。

「おや、おかえりなさい。大活躍だったみたいですね」
「そっちは大舘回りだったみたいだな。吹っ飛んだ足(雪上車)とタイヤにつっこまれてた奴らはやっぱりジャンクとバーストか」
「基地で何があったか聞きたいですか?」
「造反の仕返しだろ?」
「残念。正解は駐屯地が留守中、米帝の強襲を受けたんですよ。お陰でこっちの仕事が楽に済みましたよ」
「なるほど、みんなケツまくって逃げるわけだ」
「ま、どうせサンプル目当てのマトモでない任務でしょうから管制室にカボチャを置いてきました」

シェードは説明しながらコーヒーをすすった。
フリーズも座って、マグカップにポットの中のコーヒーを注ぐ。

「今レプリフォースが調べ回っていますから、その内わかることですけどね。シティと米帝軍は正式な抗議など出しようがないから、両者が事を荒立てるは無いでしょう」
「……」

多分駐屯地の面々が死体を含めて脱出できたのはこいつの手引きだろう。まあ聞いたところで言うまい。

「…『エックス』に会ったよ。名乗らなかったけど、すぐわかった」
「私も遠くから見てましたよ。データ以上にソックリでしょ」
「まあね…」

コトンっとテーブルにマグカップを置く音が室内に響く。

「で、話は変わるけど。お前も明日クラウンたちのショー観に行くのか?」
「いいえ、今夜中にはここを離れます。採取したデータを坊っちゃんたちに送らねばなりませんし」

シェードはそこでハァっと溜め息をついた。

「本人から断られてしまいましたからねぇ。私はこんなに弟たちを愛しているというのに…」
「だからじゃねーの?」

フリーズは冷たくつっこんでコーヒーをすすった。(口は?というツッコミは無しで)

翌朝、町から離れたところでウッドチャックは木で作った三つの十字架の前で祈っていた。
十字架の主はブリッツ、ライフセーバー、そしてアイシー・ペンギーゴである。
もちろん墓の下に彼らのボディも脳殻も無い。あるのは彼らが生前身に付けていたものや使用していたものだ。
それが村でしてやれる精一杯の供養だった。
ペンギーゴはエックスが破壊したものとして、ウッドチャックは罪に問われなかった。
だが直接手をかけてしまった者として、忘れないよう彼はここへ来続けることを誓った。マルスにもいつか真実を話すつもりだ。
後ろに誰か来たのは足音でわかった。相手はわかっていた。

「行くのか?」
「はい」

フリーズの答えに、ウッドチャックは驚かなかった。例の放送以来予感はあった。

「…正直、みんなに逢うまで世界は終わっているもんだと思っていた」

遠くを見るようにフリーズは内心を吐露した。

「今は?」
「…何もかも変わったし、何もかも取り返すことは出来ない」

―――だけど、とフリーズは続ける。

「何もかも失われたわけじゃない。だからまた始まっていけるんだって思います」
「そうか…」
「殺すな、と言ってくれて…ありがとうございます 」

ウッドチャックはフリーズの言葉を噛み締めるように頷いた。

「……必ずここへ帰ってくるか?」
「春までには」

シワだらけの頬が緩む。
公民館前の庭から発破と歓声が轟く。サーカスが始まった合図だ。

「その前に、行きましょう。みんな待っている」
「ああ」

一時の別れを済ます前に、二人はみんなの元へ向かった。





反乱鎮圧から次の夜。レプリフォース極北基地にて
部隊の何人かを村に残して基地に帰還したキバトドスは副官と共に一番面倒な作業、すなわち報告書の作成に入っていた。
隊員から得た証言。村人の証言等々を総合して文章にしなければならないのだ。たまに目の前のタイプライターを木っ端微塵にしたくなるときがある。特に今回は予想していた戦闘も無かった。
しかしあの村に居続けるよりはマシだ。あの北極の魔人のそばにいるより
唐突に横のPCからメール音が鳴る。また本部から連絡事項だろうか?

〈To.Kivatodos from.Freeze〉
「……………」

一瞬で頭の中が白くなる。だが無視するのも怖いので開くと――

〈しばらく村を離れるので、大変遺憾ながらこの辺りの治安はお前に任せる。
春までには帰る予定だけど、それまで村のみんな(もちろん犬含む)に何かあったら―――わかってるよな?〉

「ガフッ!」
「ああ!?隊長が吐血した!!」

この夜、フロスト・キバトドスは起動してから二度目の臨死体験をしたという。

「ヤメロ、オレハマグロジャナ…イ…」
「ラ、ライフセーバーーーっ!」



後書き
…やはり南米編をすぐに書ききるのは無理でした(泣)
しかもこれじゃフリーズが主役だ!?



[30192] 設定(北極編)
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/12/06 13:09
・フリーズ 凍結する世界【BGM.氷結ラプソディー】
正式名称、DWN.049『フリーズマン』。
元無公害エネルギーで動くロボットの試作品。「高温+低温=常温」の理屈のもと、周囲の空気を低温と高温に分解してしまう。低温は結晶化して氷になり、高温は体内のエネルギーになるチート。
「冷徹非道な氷の戦闘マシン」の異名を持つクールな完璧主義者。…だったが、100年の眠りから覚めたら東京は瓦礫になっているわ、戦争で人間の負の部分を見せ付けられるわで精神的にダウン。
一人軍団から離れて北極圏に引きこもる。
趣味は読書で、好きなジャンルは推理小説。
廃墟の町で居を構えて隠れ住んでいたが、難民が押し掛けてきたので、いつの間にかその一員に。子供に文字や言葉を教えるので、重宝されている。(この時代、都市部以外の識字率は低下の一途である)
シグマの反乱に全く興味を示さなかったが、村の危機に際して重い腰をあげる。

・シェード 宵闇に羽ばたく紳士【BGM.科学世紀のミッドナイトカーニバル】
正式名称、DWN.054『シェードマン』
元遊園地アトラクションのロボット。どんだけ金無かったんだ博士。
コウモリ型ウィングを有しており、飛行可能。本来ロボットを操るボイスを搭載される予定が配線ミス(!?)で衝撃で破壊する「クラッシュボイス」に…でも歌手が夢で、趣味は歌劇観賞。
紳士的だが何を考えているかわからず、胡散臭い。アルフォンスを「坊っちゃん」と呼び、従者の分を弁えながらも遠回しにおちょくったり嫌味を効かせたりする。
覚醒後は基地の管理と共に休眠状態のフォルテの面倒を見ていたが、今回の反乱で諜報を務める。

・クラウン 機械仕掛けの道化師 【BGM.真夜中のサーカス】
正式名称、DWN.060『クラウンマン』
ピエロ型ロボット。小柄な体に長い両腕を持つ。
性格はワルガキだが、頭の回転は早く、自分の仕事には真面目。
覚醒後、自らの手勢とともにサーカス団を設立。ただいま全世界興行中。

・フロスト 凍れる要塞 【BGM.永久凍壁】
正式名称、DWN.062『フロストマン』
クラウンのパーツが思った以上に余ったので製作されたロボット。
怪力で頑丈だが、クラウンと正反対に頭の巡りが悪い。だがジャンプは得意。
ただいまクラウンのボディーガード兼相方。

・ジャンク 屑鉄の巨人 【BGM.廃屑ララバイ】
正式名称、DWN.050『ジャンクマン』
元スクラップ回収用ロボット。パーツごとに電磁石でくっついている。
人相は悪いが節約家で、変わったものをコレクションしている。天敵はマグ(来るたんびに片付けちゃうから)

・バースト バーニングハート 【BGM.爆発ロックンロール】
正式名称、DWN.051『バーストマン』
元化学工場の守衛。チャキチャキ江戸っ子のお祭り野郎。
爆弾で攻撃するが、何故か爆発音が嫌いでシャボン玉に包んで放つ。

・アイシー・ペンギーゴ 雪原の皇帝
イレギュラーハンター第13部隊副隊長。モチーフは皇帝ペンギン。
小さい体躯だが、それでもいかに目的を果たすか導き出せるよう柔軟な思考に設定されている。そのためひねくれた性格と誤解されやすい。
定期報告を兼ねてシティに出張していたが、反乱の際シグマに誘われ、加担。アラスカ帰還直後、造反する。
彼が反乱に加わった理由は、VAVAと同じくエックスに対する嫉妬に似た感情であった。

・マルス
第13部隊隊長。第二世代レプリロイドで、13部隊の前身、『環境観察実験部隊』からの隊員(献体とも言う)。エックスの友人。
実直で温厚な性格から部下や付近の住民から慕われている。
今回の反乱で心臓部を撃ち抜かれるが、村人たちの奮闘のお陰で九死に一生を得る。

・アラン
第13部隊のC級ハンター。
命からがらマルスとともに基地から脱出した功労者。

・ウッドチャック
村(難民キャンプ)の代表者であるイヌイットの老人。元アラスカ州兵の狙撃兵
戦争で故郷を失い、孫とともに陥落したアンカレッジ市を脱出。難民を導き、今に至る。
思慮深く、争い事を嫌うが、いざというときの行動力は高い。

・ジェイコブ
元アンカレッジ市警察のSWAT。
都市部の防衛にあたっていたが、アンカレッジ市陥落直前に上層部が逃げたので、キレて市民と脱出。ウッドチャックと合流する。
昔取った杵柄で、戦闘能力は高い。マトモな刑事に向かないタイプ。

・フロスト・キバトドス 北極の暴れん坊
北極圏駐在のレプリフォース極北基地のリーダー。モチーフはトドで、階級は少尉。
元々シティから北極圏に流れたイレギュラーだったが、フリーズさん家の犬を盗んだのが運のつき(この時代、寒冷地だけでなくとも家畜の価値は高い。特に犬は軍用に高く取引される)
戦闘機械に戻ったフリーズにすぐ追い詰められ、五体の自由を奪われた挙げ句氷付けにされてロシア方面に流される。
その後レプリシーフォースに拾われて、紆余曲折の末に恩赦もらって入隊。
けっこう更正された今も『北極の魔人』はトラウマ。




[30192] 密林航路にうってつけの日 A
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/12/17 12:08
シグマの反乱から一週間。ブラジルを始め、アマゾン付近は荒れに荒れていた。
ジャングル周辺での殺戮に始まり、都市部では再び暴動が発生。治安は最悪なものとなった。政府軍もまたその鎮圧にかかりきりの状態となり、結果被害にあった町や村、あるいは危険地域は封鎖と言う形の放置となってしまった。
その間アマゾン周辺の村は青酸ガスなどでみるみる全滅していく。
事態を重く見たシティがブラジルの臨時政府に掛け合い、イレギュラーハンターの他にレプリフォースのコマンド部隊を送ったのは、ちょうどその頃であった。

〈そうか、ペンギーゴが…〉
〈これでアラスカの反乱は一応の終結となりました。基地にあった交信ログを調べたところ占拠後の計画などは判明しましたが、エージェントを通して交信していたようで、シグマの居城は掴めませんでした〉

南米のセイフハウスでエンカーはシェードから北極での反乱のあらましを聞いていた。
一緒にいるナンバーズもすぐ横で聞き耳を立てている。

〈そうか…で、フリーズたちは無事?〉
〈なんなら代わりましょうか?ハイ〉
〈ジュニア、お久し振り〉

三年ぶりの顔に見せる兄弟の一人に、エンカーはアルフォンスの顔に戻って綻ぶ。

〈久しぶりだな、フリーズ。どういう心変わりだい?〉
〈何、春までにこの騒ぎが終わってくれないと、ゆっくり読書できないって悟っただけさ〉
〈は、お前らしいな〉

皮肉を効かせながらも笑いあう二人。

〈今ジャンクたちと一緒にアメリカの基地に向かうところ。そっちはどうだ?〉
〈さっきカメリーオの前線基地を発見した。これから作戦会議に入るところ〉

カメリーオが指揮している第9部隊の基地はジャングルの中に巧妙に隠されている。
先に偵察に向かったウッドの話によれば、木々は勿論、動物にまで監視カメラがつけられていて身を隠しづらい。そして当然罠とメカニロイドのオンパレードである。
森を利用しながらも平気でBC兵器を使用するカメリーオのやり口に憤慨していたウッドの顔を思い出す。

〈熱帯雨林じゃお前たちの能力はかえって命取りだ。周りにも影響しやすいからすぐに見つかる。合流するまで基地で待機してくれ〉
〈わかった〉
〈では、坊っちゃん。御武運を〉

通信を終え、再びエンカーはスラッシュ達とともにワイリースター(先代制作の偵察衛星)からの映像を見る。

「スター、もうちょい画質上がらねーか?軍用とあんま大差無いジャン」
〈無理おっしゃい!これでも最高でお届けしているのネ!〉
「えーと、鉄線と地雷あったのがこことここと…あ、また砲台増えた」
「つーか焼夷弾で焼き払った方が早くねーか?」
「火薬庫かもしれんのに?」
「オメーらヒトの庭燃やそうとするな」

衛星からの映像と、それを元にした周辺地理の情報を照らし合わせてそれぞれの意見を出しあう傭兵三人。プラス森の守護者。
セカンドナンバーズの末子DWN.016『ウッドマン』はアマゾンにあるワイリー基地で一人(と言っても多数のサポーターメカとともにだが)大戦中も激戦区と化した森と動物たちの保護と再生に取り組んでいた。『人間がいなければ森のためになる』と思ったのは十回や百回ではないが、麻薬屋と密猟者がいなくなるのは有り難くても毒ガスやら撒かれては堪ったものではないと憤慨してこのチームに参加していた。
今も偵察メカを放ったりして情報を集めているが、分かるのは悪いことばかりである。
ジャングルの中は敵だらけ、罠だらけ。元から潜伏していたゲリラを駆逐し回ってその勢力を拡大しようとしている。
そして第6部隊によって海路で大型メカニロイドの搬入も確認されており、大規模な作戦が実行される可能性が出ていた。

「もうすぐシティからハンターと一緒に事務官が来る…多分メカニロイドは囮で、本命はそっちだろうな…」

元々第9部隊は強襲の為の攻性部隊である。いかに地の利を活かしていると言っても、籠城戦や防衛に向かない。引き籠ってしまえば部隊を生殺ししてしまうのはカメリーオもわかっているはずだ。
隊長である男から脳殻を奪った甲斐がない。カメリーオが生き残るには、つねに攻めの一手を考えねばならないのだ。
エンカーにとっての問題は、数で押して籠城に持ち込むか、穴を作って出てきたところを潰すかであった。
偵察に行ったマグが帰ってからだ。

/*/

第9部隊の隊長が『発見』されたのは暴動の翌日。場所は廃車置場であった。
拘束した第9部隊の隊員三名をレプリフォースと共同で『熱心』に尋問し得た証言と、金属の色から『圧縮』され正方形になった金属の塊が『彼』だとわかったのである。
解析部に回したところ、脳殻の部品だけが出てこなかった。つまり、カメリーオは彼の脳殻を奪った後で体を廃棄したということだ。
その後、全隊員の電脳コードを手に入れた奴は部隊そのものを手に入れた。と、いうわけだ。
ゼロがそれを知ったのは、本格的な反乱が始まったあと本部に一度帰還した時である。
このとき、アラスカと中東が音信不通となったため、エックスはまずアラスカへ調査に向かうよう言われていた。ビートブードも彼の兄を含めた行方不明のハンターの消息探しに出ており、それでゼロに白羽の矢が立った。
密林戦が想定された時点で本来なら『もう一つ』の隠密行動を得意とする部隊が担当するところだが、彼らはシティで活動している謎の勢力の調査にあたっている。
願ってもいないことだとゼロは思った。奴が早い段階から不穏な動きを見せていたのは後の調査で判っている。
つまりこちらの知り得ない情報を持ち得ている可能性も高い。そして何より―――囚われた第7部隊の隊員たちの行方である。
奴から情報を引き出して、うまくいけばイーグリードたちを解放できるかもしれない。
―――あとはいかにして早く自分達が南米で動けるようになるかだ。
ゼロはビーブレイダーの中から隣を飛ぶ高官用セスナを見やった。

/*/

雨が降っている。
と言っても、亜熱帯気候に連なるアマゾンのスコールは石ころのような勢いで大粒の雨が降り注ぐ。ジャングルの木陰など役に立たない。年中温暖なシティのそれとは比べ物にならない。
高い湿度は更に上昇し、地面はぬかるむ。視界も悪くなる中、人間はおろか動物たちも動こうとは思わない。
そんな中で動く人型が一つ。マグである。
防水コートをつけて、狙撃されぬよう身を屈めながらサーモスコープを覗き込む。
例の大型メカニロイドの整備施設は占拠されたマナオス郊外。第9部隊の駐屯地もその近くにある。
駐屯地は二つの川に挟まれる形で存在しており、開発道路が封鎖されている今、反乱軍の移動も水路中心だ。メカニロイドの部品もここから川を下って都市部へと流れ込んでいる。
今や要塞と化したその周囲は更にパンジステークや対人メカニロイドが配置されている。うかつに潜入出来ない有り様だ。空爆を警戒してか対空砲も設置されている。
もっとも雨のお陰でかなりの数のそれらが露出しており、隊員達が光学迷彩を使えない今、マグも楽に基地に近づけるのである。
さて基地自体は物量で押してしまえば早いが、問題はカメリーオがどこにいるかだ。奴なら自分一人だけでも逃げ出すのは目に見えていた。
着いてからサーチマンと交代で見張っていたが、カメリーオの姿は一向に見えない。…メカニロイドの部品に混ざって都市部に出たか?
後の監視を上空にいるクラウドに任せ、近くの川に停めた舟に向かう。無線の届かない場所へ移動するためでもある。
そのはるか後ろに蛇の頭を持つ影があることにマグは気付かなかった。

マナオスを抜けると雨が止み、スッキリした空気が盆地を覆った。
安全な場所まで出たことを確認したマグは暗号化通信でサンタレンの拠点にいる兄弟たちに連絡を取った。

〈こちら018、たった今そちらへ移動中〉

だが応答はなく、通信に砂嵐が入る。しまったかな?とマグは思った。敵の傍受範囲が拡がっていた可能性を考えていなかったわけではないが、予想外だ。
舟のスピードを上げるべくレバーを動かそうとした。できるだけ早くここから脱出しなければならない。
そして砂嵐の雑音に混じって、同じ暗号通信が届いた。

〈―――こちら022。まあそう慌てるなや兄弟〉

/*/

ブラジルの首都サンパウロ。
大戦の際アメリカの分裂の煽りをくらって北米からの難民流出、メキシコでの小型核使用、紛争による熱帯雨林の破壊と汚染、経済格差の拡大などの憂き目にあったが、それでも国家と機能は辛うじて保たれており、今はシティを始め国外からの援助を受けながらその成長期の最中であった。
そして市内の空港の中。二機のビーブレイダーが停まり、その中でハンターとレプリフォースのブリーティングが行われていた。
ハンター側の代表はゼロ。レプリフォース側の代表は『密林のゲリラコマンダー』ウェブ・スパイダス。ハンターより先に到着していた陸軍の特殊部隊である。
彼らは自分達の軍事工場が反乱の際襲撃され、多くの物資が略奪された件でここに来ていた。

「盗まれたのはガンボルトやラッシュローダーのものを始め、全部で15種類。うち一つは防衛用大型メカニロイド『D-REX』の試作品だ」

情報将校の説明とともに、隊員たちの前に肉食恐竜の東部を模した大型メカニロイドの立体映像が浮かび上がる。
底部はライドホバリングが使用されており、自律戦車と同じ構想で設計されていることがわかった。

「全長は6メートル。主な武装は装甲と電磁パルス精製炉。こいつの組み立てには大量の水と電気が消費される。封鎖区域の中で一気に増えたのは四ヶ所。うち二つはマナオス郊外の駐屯地だ。そこで組み立てられているのが衛星によって判明した」

次に映し出されるのは衛星写真。一見ジャングルの中に立つ小屋だが、サーモフィルターを当てるとそこだけが異様に熱を持っているのがわかる。

「動きがでかすぎるというか、まるで宣伝かデモンストレーションだな。混乱を煽るには持ってこいだが…」
「そう思うか。そこで三日前『四日後、事務官がサンパウロに来る』と情報を流した際に、動きがあった。会談場所で本部が『不審な部品の発注』を捜査中に撮った写真だ」

次に写し出されたのは市内の建物の前で何かを話すレプリロイドと技術者風の男。ブラジルに配置されているレプリロイドは第9部隊を省けば殆どいない。

「このレプリロイドの身元もすぐにわかった。タイプH-3568。イレギュラーハンター第9部隊のC級隊員だ。現在所在は不明だ」
「リークか。誰か外部に漏らしているな」
「事務官の件を知っているのは14名、うち6名はお前たちだから、残り8名は灰色だ」
「ふむ」
「ともかく魚は餌に食いつき、尻尾は検問(アミ)の中だ」
「なるほど」

しかし、要人暗殺にしては些かアシのつく武器調達に疑問を抱かずいられない。全員の中に腑に落ちない感情が蟠る。

「全てを調査し、明確にし、処理しろ。作戦指揮はスパイダスがやる。以上だ。質問は?」

/*/

マグが予想以上の情報を手に入れて帰ってきたとき、エンカーは何かあったと直感した。
巨大なアンテナの搬入。占拠された村や町でメカニロイドが組み立てられている事実から、ジャングル周辺でシティ・アーベルと同じことが始まろうとしているのは想像できた。
森の方から開発道路を使ってメカニロイド達の大規模進行で都市部の守備の目を引き付け、その間事前に市内に潜伏させた部隊で目的を達成…。
宣伝目当てかもしれないが、問題は

「カメリーオが基地にいない?」
「と言っても、その可能性も半々だ。出てった方がリモートボディかもしれねぇ」

リモートボディとは文字通り遠隔操作する義体のことである。諸事情により、自宅から動くことの出来ない官僚などが特例措置によって所有することが可能だが、尾行を撒くなどの使途で警察関係者が数台所有するケースもある。(ただしメンテのコストは普通の義体と変わらない)
これは脳を電脳化して初めて利用できる技術であり、同時にレプリロイドが使えないという道理はない。ただ法的に禁じられているだけだ。

「先に海からサンパウロに軍団忍ばせといて、『もう一体の自分』を業者の船か車に隠して、部下に襲わせて回収か…」

都市部の混乱を煽っているのは、殺戮とそれに伴う避難民の流出ばかりでなく道路と水路上での略奪と破壊工作である。
政府が封鎖を急がせているが、完全になるにはまだ時間と人手が足りない。

「下手すると部下にそれをオリジナルって思い込ませているかも」
「エグいな」

あのカメレオンはやりかねない。
まあ、味方のフリして後ろから崖へ突き飛ばす真似をした男を祖父に持つ身として言えることではない。マグたちサードナンバーズなんかその共犯である。

「で、マグ」
「ん?」

報告から始まり、エンカーとマグの会話を黙って聞いていたウッドがおもむろに口を開いた。

「張り込みのとき、誰かに逢ったとかなかったんだな?」
「……」

凍りついたような沈黙が部屋に満ちた。

「ああ、何回かに分けて船で武器弾薬運んでるのくらいだぜ…?」
「…ならいい。ちょいと確認したかっただけだ」

マグは嘘をいっていない。そもそも言えない。
彼らの代のロボットは偽造(フェイント)はできても虚偽の発言は出来ないのだ。当時人間だけが持つ「嘘」の解明が出来なかったせいもある。
それでもエンカーもマグが何かを隠していることを確信していた。ウッドのは年長者の勘だろう。

「んじゃ、今から基地にカチこむチームとサンパウロに戻って別動隊を凹ますチームに分けます!俺と一緒に基地行く奴手ぇ上げろ」
「はい!」「はーい」「はいジャン!」



[30192] 密林航路にうってつけの日 B
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/12/17 12:09
夜のサンパウロ。そこの軍港から一機のビーブレイダーが飛び立とうとしている。

「それじゃ、任せたぜ。ゼロ」
「そっちもな。同輩」

ポートでゼロとスパイダスは敬礼して別れた。
スパイダスは元々イレギュラーハンターの『存在されていない』とされている部隊の一員だ。
当時から親しかったわけではないし、スパイダスも移籍してしまったから疎遠であったが、今は背を預ける戦友である。
今回ゼロを含めたハンターチームが人型であることを利用して、市内に潜伏する反乱軍の捜査追跡(可能なら排除)。亜人型の多いゲリラコマンド部隊がジャングルに潜入。メカニロイドとアンテナの破壊に向かうことになった。
指揮権が向こうにある時点で信用されていないのか、と不満に思う隊員は少なからずいた。ゼロとてその一人だ。
しかし、ドサマギに要人を暗殺されても困る。イレギュラーを廃してもこの国はまた政治的抗争で再び荒れることになる。
『命をはる任務(ヤマ)じゃない』
そうスパイダスは諭した。
ジャングルの方向に目をやると上空に暗雲が立ち込めようとしていた。本当にここの気候は突然荒れるのだなと思った。
ゼロは気持ちを切り替えて黒いジャケットを着て変装を整えると、車を待機させていた部下とともに夜のサンパウロ市内に入っていった。

/*/

「おーし!行くぞヤロー共!!」
『おぉーー!』

アマゾン上空、今回のクラウドは張り切っていた。
ここ数日ばかり退屈な張り込みと雨降らしでそろそろ焦れてきた頃である。ジュニアから『好きなだけ降らせ』と指示が出た時喝采をあげたものだ。
今日は大雨、雷、突風なんでもござれだ。

打ち付ける雨の感触を身に感じながらエンカーは幸先がよろしいと思った。泥で固められた鉄条網も地雷も雨の流れで殆ど露出している。樹の上はスラッシュが樹から樹へと移りながら確認しているし、地面に配されている地雷類は磁力に敏感なマグがすぐ感知する。
時折、先に突入したらしい兵隊の死体が放置されたように転がっていたり、樹からぶら下がっていたりしていたが、あえて近寄らない。
虫が集った跡や獣が食った跡が無いところからして警報用の罠が仕掛けてある(バラバラにされたりしないよう毒で確保してある)からだ。

「こっちだ」

偵察に放ったメカの情報を頼りにウッドが先頭になって道を拓いていく。
ここはイレギュラーハンターが駐屯する前から彼の庭だ。
ブッシュに潜む敵に注意しながら四人は進行する。雨は確実に動く全てを覆い隠してしまっていた。

〈sir、6時方向よりレプリフォースのビーブレイダーを確認。そちらの進路に進行しています〉

別の場所で待機しているサーチからの報告でスラッシュが雨の中で確認すると、雲を分けて巨大な蜂の威容が飛んでいた。

「まずいジャン、ジュニア。どうする?」
「多分、メカニロイドを仕留めに来たんだな。気付かれない内にこのまま進もう。奴さんたちにはマナオス市内の掃除をしてもらう」
「川幅の狭いところまでもう少し先だ」

行動を起こすまで隠れていなければならないのはしんどいが、焦るわけにはいかない。それにウッドがかなりの数の罠を潰してある。
ウッドの引率に従い、彼らは再び進行を開始した。

/*/

戒厳令が敷かれていてもサンパウロ市民の陽気さは変わらない。流石に露店商は姿を消していたが、賑やかな方には違いなかった。
『緊迫していることには変わりないが、内乱の時より遥かにマシ』というのが市内で警備している部隊の言である。
後ろで括っているとはいえ、長い金髪の青年であるゼロの風体は嫌でもすれ違う市民の目を引いてしまう。多人種国家(サラダボウル)とはいえ、やはり自分(金髪碧眼)が目立ちすぎると悟ったゼロは一旦車を部下に任せ、路地裏に入ると誰も見ていないことを確認して、三角飛びで建物の上へ昇った。
屋上から屋上へ移りながら通りの人混みを注視する。
市内の監視カメラと電脳を繋ぎ、送られた映像から例の隊員の行方を探す。消去法で可能性のある区画を割りだし、そこへ足を運ぶ。共鳴する機能が搭載されているわけではないが、レプリロイドはすぐにレプリロイドを見つけられるのだ。
そして目的の隊員は見つかった。ちょうど日系人の男と建物から出て車に乗ろうとしているところだった。

〈107より本部。隊員と車チェック。同伴者に日系人一名。至急身元確認を。会話は…ポルトガル語か?訳して教えてくれ〉

セオリー通り電車かバスで乗り継ぐかと思ったが…
部下に通信を送り、合流して車を追跡するよう命令する。
車は大通りに乗り、繁華街のある方向へ向かっていった。

〈本部より107〉
〈107、突撃命令か?〉
〈日系人の身元が判明した。カズアキ・キタムラ。大日本工業の技術主任。47歳。一週間前から休職届けを出している〉

大日本工業が絡んでいるのか…。しかし見境なく武器を売る連中であるがイレギュラーに加担する理由が無い。連中が組み立て中大型メカニロイドのデータ収集か?まあ、家族を質に取られたというのが妥当か。

〈もうすぐ企業の人間が来る。生きて保護したい。間違っても射殺するな〉
〈107、了解〉
「検問です」

トンネルに差し掛かり、交通課の警察たちが停車する車の検問に当たっている。

「トンネルを抜けたらバイクを降ろせ。二手に別れるぞ」
「了解」

悠々と検問をパスした目標を目で追いながら二人は一旦車を停車させた。

/*/

嫌な雨だとスパイダスの副官レザートはジャングルの中で思う。
訓練や任務で何度も入っているアマゾンだ。数えきれないほど雨に見舞われてきたが、この雨は違うと確信できる。
まだ雨季ではないというのに…ここ最近降っている雨はまるで誰かが見計らって降らしているようだ。
お陰で鳴子圏の地雷や鉄条網などの罠が露出して助かっているが
ゴーストタウンと化したマナオスに入り郊外にあるメカニロイドの工場へ向かう。元々近くの鉱山で発掘された資源を貯蔵し加工する工場を使い回している。
奥へ進めば進むほど逃げ遅れた市民や突入したブラジル軍の死体が所々あった。心理戦を兼ねた配置だ。散弾地雷でズタズタのものもあったが、殆ど獣に食われた跡がないので『活きて』いると判断して冥福を祈りながら進行する。
途中警備している隊員がいたが、彼らもこの雨には辟易しているようだ。お得意の光学迷彩が使えないから当然だ。
這うように近づいて物陰からサイレンサーで射殺、あるいは背後から口を塞いで拘束。一人二人と仕留めていき、工場の周囲を制圧してゆく。
ぬかるみと水溜まりに気を付けながら、工場の入り口に到達。窓ガラスから確認したところ、組み立てを行うメカニロイドが多数。警備の隊員三名と調整を行う技士型レプリロイドがいた。

〈本部より38。恐竜を確認。整備用メカニロイド多数。レプリロイド、4。うち一人は技士型〉

反乱と暴動の際、多くのレプリロイドが国外へ逃亡したが、その一部は拉致された技術者型である。
多分こういう作戦のために洗脳か脅迫で協力させているのだろう。

〈本部より38。駐屯地での動きは?〉
〈…ありません〉
〈総員、配置につきました〉

ペイント弾を装填した狙撃班が建物の屋上で配置につき、突入班が入り口と壁に爆薬を仕掛ける。
退路も全て絶った。

〈突入準備、完了〉
〈…突入しろ〉


狙撃で撃ち込まれた煙幕とチャフがガラスを割って工場内をあっという間に白く染める。

「敵襲…!」

そう叫ぼうとした隊員は顔面にペイント弾を受け、視覚を失ってしまった。気づいた隊員が身を屈めて二の舞から逃れる。
次の瞬間壁と出入口が破壊され、中からゲリラコマンド部隊が突入してきた。
次々とメカニロイドが破壊されていき、身を隠した隊員も一人ずつ狙撃で撃ち抜かれていく。
奥にあるD-REXはいつでも動けるようになっていた。あとは微調整だけだった。

「ニール、D-REXを!」

守り抜けないと判断した隊員が右往左往していた技士に指示を飛ばし、後ろから撃たれた。
投薬と電脳汚染を受けていたニール技士はその指示に従い、パネルを操作してメカニロイドを緊急起動させた。
すぐに彼も拘束されたがもう遅い。
巨大なエンジンとモーターが唸りをあげ、赤い恐竜は吐息のような蒸気を吹きながらケーブルを引きちぎって動き出した。

「恐竜が起動。外に出ます!」
「狙撃班、準備!」

ライドホバーで浮き上がったD-REXは電磁場を発生させながら工場の壁を突き破っていくと、そのまま開発道路に続く大通りに出た。
雨が当たれば熱で蒸気を帯び、地面の泥や砂がホバーの反発に巻き込まれて周囲に巻き上げられていく。
それを見越して狙撃班が大通りを狙える位置に配置していたが…

「映像障壁だと…!」

スコープ越しの映像が乱れて隊員達が声をあげる。衛星回線に切り替えたが駄目だった。

「衛星が逆探知される…目視に切り換えて狙撃しろ!」
「恐竜が道路に出ます!」

報告を聞きながら、レザードはふと目と鼻の先の駐屯地を見た。
静かだ。目の前で襲撃があったのに未だ警報もならない。
不審を通り越して、それはもはや不気味であった。

/*/

駐屯地の中は静かなものであった。
それもそのはずだ。警備に当たっていた隊員はことごとく鋭い爪で引き裂かれ、あるいは急所を一撃で撃ち抜かれて地に付していた。
警報装置たちも殆どその機能を停止させている。

「ハッハッー!どんどん来やがれジャン!!」

暗い通路の中、次々迫る武装隊員やメカニロイドをスラッシュは獣じみた動きで銃撃を掻い潜りながら切り伏せていく。
紛争で散々戦闘サイボーグや自律兵器と渡り合ってきた彼には、餓えた獣の前で檻をめいいっぱい開けたようなものだ。
だから彼は嬉々として敵を斬刑していく。契約に縛られたしがない傭兵としてでなく、ワイリーナンバーズとしての闘争。それを彼は心から楽しんでいた。

「楽しんでんなぁ、スラッシュは」
「だな」

スラッシュが暴れている上の連絡通路でウッドとマグは言った。
暢気そうにしているが、敵の中でランチャーを持ち出すやつを見つけると即座に狙撃して援護する。

「援護は俺がやる。お前はアルのところへ行け」
「狙撃得意だっけ?兄貴」
「お前のミサイルは味方にもあたるから怖い」
「はぁい」
「そっちでカメリーオ見つけたら一発殴っとけ!」
「OK!」

その頃、司令室に潜入していたエンカーはサーバーにアクセスして基地内にある情報の抽出と制圧にかかっていた。
外では件のメカニロイドが動き出したようで、雨の音に混ざって騒々しい。
だが、そんなことでこの男の作業の障害にならない。エンカーのハッキング技術は確実に幾重のプロテクトを解除し、機密を解凍していく。

―――コロンビアからの金とEクリスタルをペルー経由で第6部隊へ委託し、択捉島へ
―――メキシコ経由で武器弾薬を調達。

次々と第9部隊を取り巻く他部隊の動きが明らかになっていく。
シティで動きやすくなるためにロシアやイスラムがいくらか支援している節もいくつも見つけた。
それも重要だが、今個人的に知っておきたいのが…
―――第7部隊、検索。
―――○月×日、基地より移送。行き先…

バンっと巨大な手がエンカーの頭蓋を挟み込んだ。万力のような力が衝撃となって頭蓋を圧壊しにかかる。
目の前に星が飛びながらもエンカーは襲撃者の手をハンドガンで撃ち抜き、解放された僅かな瞬間に転がって距離を取った。

「ニーニニ、随分硬いオツムだ」

相手が誰かは解っていた。向こうも光学迷彩を解除してこちらを見下ろす。

「よう、カメリーオ」
「よーう、賞金稼ぎ。シグマに半殺しにされたのが悔しかったみてぇだな?」

嫌らしい笑みを形作りながら姿を現したのは、やはりスティング・カメリーオであった。

「そっちは運が無いな。基地の警備とは攻性の第9の名が泣くぜ?」

司令室のデスクを挟んで二人は睨みあい挑発しあう。

「全く、皆していっそシグマの寝首でも狩ろうと思わんのかね?あいつはお前らを地獄に落とす気だぜ」
「さーてな、中には身内を質に取られてやむなく…って奴もいるかも。まあ俺としてはイレギュラーだろうがなんだろうが、のし上がれりゃそれでいいし、何より今アンタを心置き無くバラせる…」

カメリーオが再び光学迷彩で姿を消す。その言葉を鼻で笑い、エンカーも光学迷彩を展開させる。

「かかってこいよ、スティング坊や。光学迷彩の使い方を教育してやる」
「抜かせ、半機械(ハーフ)」

壁に張り付いたカメリーオは尻尾についた棘(スティング)を振り飛ばした。つい先程エンカーがいたあたりに穴があく。
手応えは無い。気配が無い。熱も影もない。
逃げたか?いや、奴の行動規準は「やられたらやり返せ」と実にシンプルだ。ここで逃げる筈はない。と言うか、逃がさない。
個人的にもあの光学迷彩の解析は魅力的だ。脳は要らんが装備は手に入れたい。
壁から飛びうつり、天井のホックにぶら下がって仕掛けたトラップを作動させる。すると天井板がめくれ、数多の穴から鋼鉄の棘が一気に降り注いだ。
床が棘の山と化す頃、カメリーオはエンカーの死体がないか確認するため舌を外して降りた。
死体は…出てこない。まさか本当に逃げたか?
カシュッと床と天井で何か作動する音がした。スプリンクラーである。気付いたときは部屋は水が撒き散らされていた後であった。
光学迷彩の弱点は水や砂ぼこりなどの付着する粒子によってコートが分解されてしまう点である。
装甲全体に塗装しているカメリーオはあっという間に姿が露になってしまった。
スプリンクラーを作動させるキーはここから一つしかない。そこにいたのは通路の向こうで火災警報器を叩き割ったマグ―――既に腕を構えて何かを発射しようとする瞬間だった。
上に逃げると同時にカメレオンスティングを放とうと尾を振りかぶったが、銃弾に付け根を撃たれて阻止された。デスクの下に避難していたエンカーである。

「マグネットミサイル!」

部屋の角に避難したつもりが追い詰められ、カメリーオは自身に追尾して迫る十数発のU字型磁石ミサイルを見ているしか出来なかった。

「ニーニニーー!!」

そんな悲鳴を最後に吹き飛んだ壁ごとカメリーオは外へ墜落した。

「アル、大丈夫か?」
「ああ。カメリーオは?」

外の湿気が吹き込む大穴からマグとエンカーは確認すべく外を覗き込んだ。
下では墜落の衝撃であらぬ形に折れ曲がったカメリーオの躯が火花を散らしながら横たわっていた。奴の脳殻が無事だといいが…
注視している内にカメリーオの体から溶け出すように煙が上がり出した。科学薬品の異臭…

「…!?」
「やばっ!!」

異常を察した二人は慌てて穴から離れた。
窒素ガスの噴出と二万発のクレイモア鉄鋼弾がカメリーオの躯から弾け飛び、かなり上の二人のいた場所を蹂躙した。

「あっぶねー!」
「…人形か」

通路の奥まで逃げ込んだ二人は冷や汗をかいた。

〈…こちらクロウ、カメリーオと交戦し破壊。ただしリモートボディだった。奴の本体は別にいる〉

墜死した死体に疑似体液の流出は無かった。加えて過剰なまでの機能停止時の罠。
奴はここまで潔くない。むしろ生き残るために手段を選ばない。

〈んじゃ、街に行った方がそれか?〉
〈え?俺ら骨折り損?〉
〈わからん。義体は一度に二体が限界だからそれも怪しいが…〉

何で二体かと言うと自分がそうだからだ。もっともレプリロイドは未知数だが、奴は電子戦仕様ではない。
〈sir、恐竜が道路に出たと同時に周辺で待機していたメカニロイド隊が活動を開始。街に向かっています!発砲許可を〉

エンカーはマグと顔を見合わせた。この可能性は最初からあった。
迷う理由など無かった。

〈…許可する。恐竜を完全に破壊しろ〉
〈yes、sir!〉

イレギュラーハンターは、グレネードは、うまくやってくれているだろうか?



[30192] かくて全ては蛇の腹の中
Name: 黒金◆be2b059f ID:67abdcc9
Date: 2011/12/30 15:39
エンカー達が前線基地に突入をかけた頃、ゼロは車から降りた目標二人を追っていた。
官庁街に近い繁華街の裏通り。
ただの建物の裏にしか見えない場所で人が見ていないことを確認したゼロは壁を伝って中へ侵入した。奥へ進むにつれ、伏兵を警戒して入り組んだ鉄骨を登り、あるいは潜り込んで更に奥へ進む。
そして幾つかの木箱や資材が置かれた二階に辿り着いた。
照明は無い。足音を殺し、コマンドゲリラ隊から支給された銃の安全装置を外す。

「!?」

暗がりがいきなり明るくなる。同時に現れた影は死角からゼロを認めると即座に飛び上がった。ゼロもバクテンしながら資材の中に飛び込み伏せながら身を隠した。どうも警報に引っ掛かったらしい。
逃亡者―――グレネードも天井の梁に張り付き、身体中に仕込んだ迎撃装置を展開して相手の姿を探す。
―――何故仲間に報せない?
仕掛けてこない相手に二人の考えたことは一緒だった。
ゼロは見張りの傭兵(そう思ったのは反乱軍にいった亜人型が限られているから)が襲ってきたと判断していたし、グレネードは仕掛けに気づいた目標達が見に来たのかと考えていた。

「お前も奴等を狙っているのか?」

カマをかけて叫んだとき、相手は梁から梁へ移ってこちらを狙い撃ちしようとしたが、下に降りたゼロは資材から半ばぶら下がる体勢でキャプチャー弾を撃ち込んだ。

「しまった!」

キャプチャー弾は装甲に張り付くと動体反応で爆発する。グレネードは腕に仕込んだ銃を構えた状態で静止せざる得なくなった。

「イレギュラーハンターだろ?取引がしたい。これを外せ」

暗がりにいるだろう相手に向かって取引を持ちかける。相手がゼロだとわかっていたので思わずイレギュラーハンターと呼んでしまったが、この際どうでもいいミスだ。

「連中を捕らえて高値をつける奴に売りつけるつもりだったけど、10万ゼニーであんたに…」

沈黙

「おーい、聞いてる?」

グレネードが弾の特性に気づいて静止した時点でゼロはさっさと暗がりに身を潜めて奥へ進んでいった。
妥協が肝要か、依頼主を探すべきか。
ゼロの頭の中に浮かんだ依頼主候補はアメリカかペルーかパレスチナ連邦である。
だが、特殊部隊は傭兵を雇うことはあっても深いところまでは教えない。ならば捕らえても意味はない。
一階へ続く階段を見つけ、降りずに梁の上に移動するべく鉄骨の隙間を見つけ、そこへ潜る。
慎重に進みながら、梁の下を除き込んだ。並べられているのはブラジル軍のパワードスーツ。しかも官庁を警備しているのと同じ規格だ。
その回りで得物の点検をしているのは第9部隊の隊員たち。そして、それを指揮するカメリーオ。

「いいか?肝心なのはタイミングだ。間をはずしたらすぐ引け。もう一度目標(事務官)のいるブロック構造を覚えておけ」
「了解」

やはりメカニロイドは囮だったか。だがまずい。すでに準備が整っているところからして、無線を傍受されない場所まで引き返していたらその間に行動を起こされてしまう。
一旦散開されたらパワードスーツの識別は不可能だ。
花火をあげてもメカニロイドが動きだせばこちらが囮と思われる。突入してもゼロだけでは全員逮捕は不可能だ。
ここが勝負の分かれ目だとゼロは悟った。
その間に下ではカメリーオが作戦行動を指示していく。時間はない。

「マーカス暗殺以外は警らとして行動しろ。足引っ張る奴がいるなら撃ち殺すからそのつもりで行け」
「隊長、もうすぐメンテが終了します」
「よし」

「傭兵!お前の所属と名前は」
「グレン。ただの傭兵だよ」

グレネードのところへ戻ったゼロは警戒を解かぬまま問うた。
本名を名乗るわけにはいかないグレネードはいつも使っている偽名を名乗った。

「ならグレン。連中を捕らえると言ったな?助けてほしければ作戦を聞かせろ」
「最初からそう言えっての」

静止した状態でグレネードは呆れたようにため息をついた。

「木箱は動かしていないな?」
「何故だ?」
「三階と二階を爆破して一階を閉じ込めるよう配置してある」
「パワードスーツは横倒しなり潰れるなり出来るが、隊員は脱出しちまうぞ!」
「そこはお前さんのバスターがものを言うわけだ。はい取引成立、これ外せ」

/*/

ジャングルの開発道路と言ってもコンクリートで鋪装されているわけではない。森を切り開いて作った砂利道だ。
そのトラックひとつ分の道をD-REXが脇の木々を薙ぎ倒しながら進んでいく。
高度1000mから目標を照準していたサーチマンは二つの頭部と視界を共有しながらスコープごしそれを見ていた。

「ここからでも映像障壁が酷いですね」
「スコープが駄目ならアイサイトで切り替えろ。誤差修正は自分がやる」
「ラジャー!」

右腕に丸ごと装填された対戦艦装甲ライフルに目立たないようにつけられたアイサイトで爆走するD-REXのエンジン部を狙う。

「誤差修正…撃て!」

50口径の砲頭から膨大なエネルギーが集束されて目標へと直進。超合金の装甲を溶かし砕いてエンジンを破壊した。
制御を失ったD-REXはそのまま横転し、勢いのまま森の中へ突っ込んでやがて止まった。

「やったな!」
「南米のシモ・ヘイヘは伊達ではありません!」
「とりあえずお前フィンランド国民に謝れ」

まだ熱を持っているが、消化は雨とレプリフォースの消火剤でなんとかなる。

〈目標の完全沈黙を確認。任務終了。これより帰還します〉
〈コピー。いい加減軍も勘づく。撤収するぞ〉

/*/

爆薬の導線とスイッチの終わらせ、グレネードはちらとゼロを見た。

「なー10万ゼニー山分けでどうよ?」
「金がほしけりゃ植物屋か水屋やってろ」
「お前にゃ俺様の高尚な趣味が理解できんかなぁ。毒殺や溺死のどこがいいんだ?華がねーよ。華が」
「ふん」

こんなのが兄弟最初の会話である。まあグレネードも兄弟だからと恩を着せる気はないし、ゼロも知らぬが仏である。何よりややこしくなる。

「爆弾用意出来たぜ。なー爆薬代だけでも…」
「俺に言うな」

いちいち金の話を出してくるグレネードをそっけなく返しながら周囲を警戒する。ゼロの懐にはグレネードからもらった手榴弾があった。

「ところでお前、爆発物取扱許可持ってんのか?」
「無いなら今逮捕するってか?野暮なこと聞くなよ」

全てのセットを終え、グレネードはゼロに指示を出した。

「お前の合図三秒後に最初の発破が火を吹く。奴等が撃ち返してくる前に脱出しろ。いいな?」
「偉そーに言うな」
「頑張れ若人よー♪」
「ちゃんとイレギュラーハンターに連絡しろよ!」

揚々とゼロを送り出したグレネードは彼が奥に行ったのを確認すると、時限装置の設置を始めた。

「騙しやすいタイプだな」

末っ子には悪いが荒稼ぎが信条である。ゼロに教えたより早く設定した起爆装置を置いて、グレネードはその場を後にした。

梁の上に再び戻って下の人数を確認する。
テーブルを囲んで四人。武装のチェックをしているのが五人。
バスターを展開し、手榴弾のピンを口で抜くとそれをテーブルの中央に落ちるように投げた。
気づかれる前に武器を持っている者を狙撃。続けて三人の頭を撃ち抜く。
全員の視線がそちらに向いた頃に放物線を描いていた手榴弾がテーブルに落ちた。ワンバウンドした手榴弾に威力を弱めたバスター弾を撃ち込む。
弾け飛ぶ榴弾はとっさに身を屈めたカメリーオを除いた三人の胸から上を焼いた。
難を逃れた二人の内一人が梁の上にいるゼロを認め、飛び上がって攻撃に入った。即座に梁から下へ移って回避したゼロに次々と動ける者が殺到する。身を低くして回避してすり抜ける。その後ろをバスターで撃つ用意をしたとき、非人間型でも使えるパワードスーツに乗り込もうとするカメリーオが視界に入った。逃げる気だ。
スーツの装甲が締め切る前に仕留めんと速射し連射。だが向こうの方が間に合ってしまった。連射を受けながらパワードスーツを着込んだカメリーオは突進して壁を破り、外へ飛び出した。
後ろから攻撃せんとする者の為に追走を断念。ゼロは柱に登りながら追いすがる敵を撃つ。そして何人かがカメリーオに続いて脱出しようとした時だった。
カチリと奥でタイマーが作動した。二階にあった木箱の全てが爆発。地響きのような振動が建物全体に響き渡り、ゼロのいた梁から崩れだした。続いて柱が倒れ、並ぶパワードスーツが着込もうとした者をも巻き込んで倒れた。

「だから、そいつを生き埋めにせず掘り出せるのは俺だけってこと。今から言う機材と…あ、表彰状はいらんから。いるのは10万ゼニー♪あ、一人逃げた。急いでね」

カメリーオが爆発した基地に茫然としている横、グレネードは電話ボックスからイレギュラーハンターに連絡をいれていた。
ゼロが急いで脱出しようとした時に三階のブロックが吹き飛ぶ。派手に爆炎と瓦礫を巻き上げて基地一階は瓦礫に埋もれた。

「う〜ん、ちびっとずれた」


「クッソォォ!騙しやがったなグレン!!」

瓦礫に埋もれかけながらゼロはここにはいない爆弾魔に罵声を浴びせた。
折れてネジ切れたパイプを取って、棒術で突きにかかる隊員にゼロは肘と腕で先端を反らし、身を捻って棒ごと相手の体を地面に叩きつけた。

「バカ!そいつは囮だ」

装甲服を着込んだ隊員が脱出路を作るべき瓦礫の壁に体当たりして頭を出した。だが衝撃によって落ちてきた鉄骨に頭蓋を潰された。

「抵抗は無駄だ!」

彼らの後ろでゼロが鋭い声をあげる。

「ここは瓦礫の下だ。すぐにイレギュラーハンターとレプリフォースが掘り出す。作戦は失敗だ。逮捕されるか戦って死ぬか、好きな方を選べ!」

ゼロが言い終えるや否や、先ほどゼロが地べたに叩きつけたのも含めて三人がビームナイフを持って取り囲んだ。

「やる気か!」

ゼロもまたナイフを取り出して構える。
三人が同時に動いた。一人が頸を取りにかかったのを、上体を反らして腕を切りつける。
残る二人はしゃがんでかわすと一人の脛を切り裂き足を殺した。
間合いから脱出したとき、瓦礫のコンクリート塊を一人が投げつけた。寸でかわした矢先に最初の一人が無事な腕に切り込みにかかってきた。
顔の横をかすめたそれを手でそらし、柄で鼻面を潰し投げ飛ばす。その途中でナイフは宙へ飛んだ。
最後の一人が横から脇腹へ刺そうとしたのは、スレ違いざまに手を切り、痛みで怯んだその瞬間前蹴りで胴体を、そして回し蹴りで顎を吹き飛ばした。
全員が戦闘不能倒れ付したのをぐるりと見回し、向かってくる様子がないのを確認したゼロは鋭く叫んだ。

「どうした!それで終わりか?」

そしてまだ意識のある隊員の返答はナイフの放棄。すなわち降伏であった。
ゼロが瓦礫から出れたのはこの直後。グレネードを連れた自分の部下によって発見された。

「D-REX、もう落ちたのか?!」

市内は北からメカニロイドの大群が動き出したかいなかで慌ただしいことになっていた。
先ほどの爆発騒ぎもあり、おかげで銃創だらけのパワードスーツを着込んだカメリーオもあまり目立たない。
しかしカメリーオの目論見は既に破綻していた。だがもう退き損なっている。
警備と合流したときも彼らは次々入る情報に混乱しかけていた。

「おい!スラムでメカニロイド等が出たぞ」
「なんだと!?」

この一言で武装を置いてある車両を囲んでいた警察たちはすぐ離れてスラムの方向に向かった。
だからカメリーオが堂々と武器を調達したのを誰も見咎めなかった。
問題のマーカス事務官は今外交官といるはずだ。警備の目を逃れながら、カメリーオは慎重に進んでいく。カメラに移っても怪しまれはしない。警備のいるところは物陰に身を潜めながら進むが…
ジャリっと足の裏から音が出る。しかもすぐ横に警備の軍人がいるときに。見つかった!とカメリーオはさすがに覚悟を決めたが、予想していた警備の動きは無かった。
相変わらず彼らは何事も無いように立っている。
おかしい。
今の音は奴等にも聞こえたはずだ。不自然な音があればすぐに反応するはずだ。
カカシか、それとも罠?
カメリーオは自分が引くに引けない袋小路に入ったとやっと悟った。
ゼロが奇襲をかけた時点で勝負は決まっていたのだ。
行けるとこまで行くしかないと一本道の廊下に出る。
だがドアから銃と火炎放射器を構えた装甲服を完全装備した軍人たちが現れた。
即座に引き金を引いたが、弾がでない。間の抜けた音が銃から漏れた。

「鈍ったな。副隊長!!あいにく弾も偽物だ」

軍人たちの後ろから蜘蛛の亜人型レプリロイドが前に出てきた。

「てめぇ…スパイダスか!」
「王手だ。仲間からお前のパワードスーツの事聞いていたからな。一キロ先からフォローできた。途中着替えてくると思ったんでこちとら装甲服にマークまでして待ったんだぜ」

やはり、全員脱出出来なかったか…カメリーオは今回自分が負けたことを悟った。

「もっと早く退くべきだったな。それと気づいた時に即座に退いたのは誉めてやる。VIPルームに突入するところまで見たかったが、それは我慢するさ」
「移籍したのは聞いたが部隊長とはな。出世したなスパイダス」

カメリーオは何も言わずパワードスーツを除装した。緊迫した空気が流れる。この瞬間が一番気が抜けないのを全員知っているからだ。
一瞬、カメリーオが笑った。スパイダスはそれを見逃さなかった。

「伏せろ!!」

カメリーオの口の奥からカチリと嫌な機械音がした。スパイダスは銃を取りだしその頬を撃ち抜く。
口の半分を吹き飛ばされたカメリーオはパワードスーツごと後ろへ倒れた。

「なぜ撃った!」
「どけ!」

倒れたカメリーオの口に手を突っ込み、奥の方からズルズルと信管を引き抜いた。

「危なかった…安全弁は外れたが作動はすまい」
「ガバッ!」
「爆薬の摘出はP3処置。完全隔離だ。中にガスと散弾仕込んでる可能性もある」

軍人たちがもう安全とみてカメリーオを引き起こしにかかった。だが、カメリーオは動かなくなっている。軍人たちが首を傾げた。

「…?死んだか?」
「しまった…!」

スパイダスは急いでカメリーオの電脳ハッチを解放した。そこにはメカニロイドによく使われる遠隔操作出来る規格の脳殻が入っていた。こいつも人形だ。

/*/

何処ともしれぬ暗がりでリモートコントロールの電源が落ちる。
扉が解放されると同時にカメリーオは飛び出した。

「くそ!俺としたことが…!」

ことごとく作戦は失敗し、替え玉どころか多くの部下も失った。ここも捕まった部下の口からバレるだろう。
脱出用のダクトに飛び込み、地下の鍾乳洞へ向かう。
このまま逃げて傭兵かブローカーでも始めるか…ここまで失敗したとなるとエックスを倒しても粛清されかねん。
そんなことを考えながらダクトから抜けた時だった。
後ろから両手両足を撃ち抜かれ、何が起こったかわからないまま這いつくばる前に尾も吹き飛ばされた。

「いや~、四日間張り込んだ甲斐があったぜ」

何とか無事な首を動かして襲撃者を見る。ヒョロリとした体躯に緑色のアーマーと蛇のヘルメット。知っていた。だが奴は死んだはずだ。

「ス…スネェェェェェェク!!!」
「おう、懐かしいな。そのフレーズ」

「スネーク」は蛇のようにニヤリと笑いながら言った。

「てめぇ!メキシコの核で死んだんじゃ…」
「あー、そういうことになっていたな。まあ積もる話は後にしようや」
「あがっ!」

言い終わるや否やスネークは銃で最後の武器である舌を吹き飛ばす。
完全に芋虫と化したカメリーオの首根っこをつかんで電脳錠を取り出す。

「今の俺がほしいのはお前さんの身柄だ。シティに移送後、お前はラボで死体と同じ扱いになる」
「…俺はこのヘドのでる国で貢献してきたんだぞ…それを」
「御愁傷様」

そしてスネークは怨嗟の声をあげるカメリーオを容赦なく封印した。

「やーぱっりそう言うことか…」

半分になったカメリーオをケースに収納するとき後ろから声がかかった。

「連絡ないと思ったらここにいたのか。スネーク」

そこにはこめかみをひくつかせる主とマグの姿が。

「おう、ジュニア。久しぶり」
「久しぶり、細かいことはいいから何でここにいるか説明してくんない?」

両者笑顔だが、エンカーとマグの顔に青筋が浮かぶ。自分が出汁にされたことに腹が立っているのだろう。

「ああ、俺今シティ・アーベル条約審議部の非正規契約工作員。カメリーオ確保に来たのはその関係」
「……は?」

二人の目が一瞬で点になった。

「そーいうことで以後よろしく」
「ええーーーーっ?!」

すっとんきょうな叫びが鍾乳洞にこだました。



[30192] 街の夜 密林の朝
Name: 黒金◆be2b059f ID:240ee466
Date: 2011/12/25 00:44
ゼロが追っていた技術者とレプリロイドは幹線道路を走行中に確保された。
ゼロの部下が車を変えた彼らを見つけ、司令部に連絡。そしてレプリフォースが検問を張って車ごと確保したわけである。
隊員は車上にて射殺。キタムラ技術主任は保護された。
ゼロが降伏した第9の隊員たちと瓦礫から掘り出され、司令部に帰還する前である。
スパイダスからゼロはそれとジャングルのメカニロイドの鎮圧を知らされた。ちなみにグレネードはさっさと行方を眩ましてしまった。

「カメリーオが?」
「そうだ。基地から脱出しようとしたところを潜入していた工作員に確保されたらしい。本人に違いないそうだ」
「俺が見たのは替え玉か…」
「正確にはリモートボディだ。基地の最新部に隠し部屋があって、そこにコントロールルームがあったんだとよ」
「よくやるよ…」
「明日中にはシティに搬送されて、ラボに手渡されるとさ」

一体分のメンテナンスにバカみたいに電気代がいるのに。
今更ながらカメリーオの生き汚さに呆れを通り越して尊敬すら覚える。

「ところで済まなかったなゼロ。損なポジションにつけて」
「あ?」
「壊し屋のお前に『張り付け』なんてどだい無理な話だったよ。基地潜入の方に交代すべきだったな」
「いいっことさ。官邸に現れた方を押さえてくれて助かった」
〈93、マーカスの身辺警護。第8フラットへ〉
「93、了解」

本部からの連絡を受けてスパイダスは車に向かうことにした。

「報告書まとめたら、一緒に飲まんか?俺らはしばらくいるが、明日の朝にはシティに戻るんだろ?」
「それもいいが、ちょいと野暮用があってな…」
「そうか…よい夜を」
「そっちもな」

そう言って、二人は瓦礫の山を後にした。

/*/

雨があがり、ジャングルはむせかえる湿気は相変わらずながら星の輝きに森の露が煌めいていた。

「つまり?」
「もうすぐ第三国協議会があるからさ。セッティングしたシティとしては今回の件は汚点なんだ。それで国家機密を知っているカメリーオを一刻も早く確保しろってんで、公安が動いたってわけよ」
「なるほど」
「それで条約審議部の課長がお前を使ったと…」
「まあ、あそこの課長とはメキシコにいた頃から多少縁があったしな。三年前もイレギュラーハンター本部の情報を色々流してもらったし」
「だから去年『勤め先が見つかった』って言ってきたわけだ」
「俺カメリーオがリモートボディ使って街でやらかすくらいしか聞いてなかったんだが…」
「基地を見たら三体分のメンテナンスルーム確保してたから、どれが本体か確証が取れなかったんだよ。コントロールルームの場所もわからんかったし。こりゃどうしても穴が開くし、下手すりゃ替え玉だけ掴まされて本体に逃げられるからってんでお前らの司令部突入手伝ったわけよ。で…」

DWN.022『スネークマン』が説明を終えて一言。

「いい加減降ろしてくんねぇ?」

そう、現在スネークマンは船の上で逆さ釣りにされてブランブランされていた。
それに対して兄弟たちの視線は冷たい。

「やなこった」
「ダメだ」
「甘えるなバカ。ネグロ川に沈めるぞ」
「ジュニア、この蛇そろそろ切り刻んでいいジャン?」
「いや、自分としては炙った方が…」

自分を如何にリンチするかに話が進んでスネークは焦った。

「通信ログも取れたし、後でこいつの中の情報も回すって言ったろ!」

船の後ろにはカメリーオが押し込められたアタッシュケースが隠すようにしまってあった。まだ死んではいないが、二度と陽の目は見れまい。

「それとこれとは話が別だ」
「そうだそうだ」
「ちゃんとサンパウロに送っていくだけありがたいと思え」
「そりゃねえぜ~」

ジャングルの川の上で悠々と彼らは南下していく。
ジャングルは久々に平和だった。

/*/

爆発騒ぎから少しずつ醒めていつもの賑やかさを取り戻したサンパウロもそろそろ店じまいするかという時間に差し掛かっていた。
客足も減り、店のマスターも奥の席で自分の楽しみのジントニックをたしなんでいた。
カランっと店のドアの呼び鈴が鳴り響く。見れば常連のサイボーグだった。
黒づくめの彼はオーナーの隣に座るといつもの酒を頼んだ。

「やあハンター。カモ猟はどうだった?」
「それが最悪だよ。俺の懐に入るはずの二羽は北生まれの赤いマゲイがさらっちまうし」

鴨とは街で暴れようとしていた反乱軍のレプリロイド、赤いマゲイはイレギュラーハンターのことを暗喩している。

「それなら僕も見たよ。北はここやフランス料理ほど甘くないからね」
「あっさり退いて良かったかなぁ、お前どう思う?」
「僕の仕事は『骨』の確認さ。誰が二羽を料理してもね」
「そうか…」
「あとパレスチナのコックを」
「ダメダメ、カモの群れを追うので一杯さね」

今回の件は政府の左翼ゲリラ狩りなど政権闘争も絡んでいる。
カメリーオが捕らえられ基地が制圧された後もこの国は封鎖の杜撰さなどの追求で揉めるだろう。
陽気な街が再び人間たちの抗争で荒れるかもしれないことを考えながらグレネードは店を出た。

同じ頃、車の中でゼロは部下と共に店から出てくる黒づくめで正体を隠したグレネードを確認した。

「うまくいきました?」
「問題ない。爆薬は無臭だし、センサーにひっかからないさ」

後部座席で手袋を脱ぎながらゼロは言った。

「しかし発信器つけたのはよくやった」
「まあ奴も十分怪しかったですし。尾行を完全にまいたと思ってるから気づいてませんよ」
「奴が車ごとふっとんだ後、『油断大敵』と書いたスタン端子を見て反省する寸法さな」
「たとえ気づかれても、くれぐれも人の近くで起爆させちゃ駄目ですよ?」
「言うと思った。大丈夫だよ」

目標が車に乗り込む。ゼロはスイッチのアンテナを伸ばした。

「奴に最低10万程度の損害が出ますように…」

そう祈ってスイッチを押すと、グレネードの車は周囲を巻き込まない程度に爆発した。

「うきゃっ!!」

/*/

その後、セイフハウスに帰還したエンカー達は顔とかが大変なことになったグレネードと合流した。

「ジュニア~これ直してデヘヘ」
「…何やってんのお前」

結局休む前に修理作業に取りかかることになり、エンカーが国外に出れたのは翌日であった。



[30192] 設定(南米編)
Name: 黒金◆be2b059f ID:240ee466
Date: 2011/12/25 17:33
・スラッシュ 切り裂く野生【BGM.ハンティングタイム】
正式名称DWN.054『スラッシュマン』
ジャンネコ。チームの切り込み隊長
実は秘密基地建設のため森林伐採ロボットを戦闘用に改造したもの。恐竜ロボットの指揮を執る目的で造られたが、機動力を強化した結果、誰も彼の動きについてこれなくなった。どうしてこうなった
小惑星破壊用カッターを小型化した「スラッシュクロー」と、相手を束縛する粘着弾が武器()けど後者は殆ど使われない。野獣のようなワイルドな風貌と性格をしているが、野菜と果物が好物。
グレネード達とともに傭兵として南米で活躍中。

・グレネード 爆裂歓迎【BGM.happy explosion】
正式名称DWN.063『グレネードマン』
見たまんま手榴弾型のロボット。大胆な行動の持ち主。破壊することに喜びを感じ、暇さえあれば何かを破壊している。相手が自分の爆弾で苦しむ姿を見るのも好きだが、逆に自分がやられても喜ぶ変態。
現在傭兵として南米で活躍しているが、プロ意識は低い。

・サーチ 追い求める照準【BGM.狙撃日和の日】
正式名称DWN.061『サーチマン』
警備用監視ロボットを改造し、頭を二つにして広範囲を索敵対象としたロボット。二人が力を合わせて戦うことを想定していたらしいが、戦闘以外では仲が悪く、お互いを監視しあっている。どうやら上司と部下の関係であるらしい。
チームでは狙撃、迫撃、偵察、と役割の幅は広い。
自称『南米のシモ・ヘイヘ』。とりあえず故エミール司令官に謝りなさい。

・ウッド 森の守護者【BGM.nostalgic dream~木械の夢】
DWN.016『ウッドマン』
森林の戦闘を考えて造られたロボット。天然の檜の中身をくり抜いて特殊コーティングしたボディを持つ。更には内部メカまでもがボディと同じ素材で出来ているという高級感漂う自然派ロボット。おかげで火気厳禁
怪力が自慢のパワーファイターだが、気は優しくて力持ち。自然破壊や環境破壊は絶対許さない。
現在、大戦で汚染や破壊の進んだアマゾンで部下のメカとともに、森林保護だけでなく、負傷した野生動物の保護に勤しんでいる。

・クラウド お天気七変化注意報【BGM.雷雲コンサート】
正式名称DWN.052『クラウドマン』
元々は気象制御用のロボット。体に無重力装置が組み込まれている、シリーズ初の空中戦闘ロボットである。(次男は?)
ホバークラフトの原理で浮いているらしい。降雨装置は外され、残された雷発生機は千個の電池(ロックマンの世界では電池一つの性能が高い)も充電できるパワーを持つ特殊武器「サンダーストライク」に強化された。強風を起こすこともできる。非戦闘用装置が取り外されたため、軽くなった体を気に入っている。足がないためゲタが履けないのが悩み
よくエアーに引っ張り出される。

・スネーク 這い寄る蛇猾【BGM.嫌われ者のクライマックスアクション】
正式名称DWN.022『スネークマン』
地形調査用のロボットをDr.ワイリーが戦闘用に改造したヘビ型ロボット。身が軽く行動範囲を選ばない。22×4センチの隙間に間接を降り立たんで侵入するなど、HBの鉛筆を片手でベキィっと折るように当然である(本人談)。
地形調査用メカをバブルリードの技術を用いて改造した、蛇型特殊弾頭「サーチスネーク」が特殊武器。
潜入工作やゲリラ戦など、慎重に策を練り、しつこくじわじわと相手を追い詰める地道な戦いが得意。だが陽気でひょうきんなところがあるので、どこか憎めないお調子者。
覚醒後、南米を中心に請け負い人として活躍していたが、メキシコにおける小型核を巡る攻防(カメリーオらとの因縁もこの頃)で一時期消息不明に。
その後シテイ・アーベル条約審議部の課長に拾われ、イレギュラーハンターの情報と引き換えに非正規契約工作員として活躍している。
無頼のジョジョマニア

・ウェブ・スパイダス 密林のゲリラコマンダー
クモ型レプリロイド。元イレギュラーハンター第0特殊部隊(別名:忍び部隊)所属だったが、現在では移籍してレプリフォースゲリラ部隊隊長。

・スティング・カメリーオ 密林の妖撃手
カメレオン型レプリロイド。元第9(レンジャー)部隊副隊長。「にににに」と言う口癖がある。
部隊きっての実力者だが、任務遂行のためには手段を選ばず、その行き過ぎた合理主義思想から卑怯者扱いを受けていた。
シグマにその実力を純粋に買われ協力を持ちかけられた事から、反乱軍へ身を投じることに。
部隊長を殺害後、ミサイル計画からの反乱の手引きを秘密裏に進めていく。
しかし国外脱出後、攻性のレンジャー部隊が基地防衛を割り当てられた時点で運のつきであった…



[30192] ウェポンチェンジシステム
Name: 黒金◆be2b059f ID:240ee466
Date: 2011/12/30 16:46
宣戦布告から一週間以上が経過しようとしていた。
その間に届いたアラスカ駐屯地の反乱未遂。ブラジル駐屯地の蜂起、その鎮圧終了の報告。
アラスカは現状無政府状態であり、イレギュラーハンター第13部隊は撤収させ、引き続きレプリフォースが駐屯し治安維持へ。ブラジル臨時政府へは復興への支援物資の増加および人員の増員で合意となった。
しかし全ての問題が解決されたわけではない。
コロンビアのEクリスタル鉱山は、コロンビア政府軍とレプリフォースが包囲中とは言え、今だ多くの人質が解放されず、第8機甲部隊が立て籠っている。
太平洋横断橋付近も各国の海軍が封鎖しているが、いくつもの海上プラントを人質にとられる形で攻めあぐねている状況である。
そして東京封鎖地区。何体かの特A級ハンターが潜入したこと確認されているが、今は不気味な沈黙を保っている。元から自衛隊が流出難民ごと隔離しているが、やがて何か行動を起こすことは間違いない。
そして、最大の問題が首魁であったシグマの居場所である。
シティはもちろん、列強の抱える情報機関が血眼になって捜索しているが、一向に消息が掴めない状況が続いていた。
立法院が頭を抱えるのは無理もない。シティ・アーベルに存在する戦闘型レプリロイドの内トップクラスにあたる者の過半数が今だ反乱軍にいるのだ。
頼みの綱のレプリフォースもまだ発展途上である。残ってくれたイレギュラーハンターも数の上で頼りない。
結局、対策委員会は策を講じるべく、ある人物に知恵を借りることになった。

「それで、ワシのところへか…」

立法院の施設内にある独房―――と行っても窓から日が差し込み、緑豊かなプランターが置かれているその部屋は一般的な独房のイメージとはかけ離れていた。
崩壊したラボから救出された彼であったが、シグマの宣戦布告の後その責任をとらされる形で身柄を拘束されることになった。それでも彼はシティ・アーベルの創造者に等しい存在であり、一級のVIPである。
拘束されながらも生命維持装置はもちろん、最大の待遇が施されていた。

「事態は切迫しています。Dr.ケイン」

面会に訪れたイレギュラーハンターの総監は説明の後、静かに切り出した。

「シグマを見つけ出すのも重要ですが、その為にも奴とともに反乱したレプリロイドたちに対抗する手段が必要です。しかし我々に残されているのは…」
「エックスとゼロか…」

実際各地で反乱軍の指揮を執っている特A級戦闘型レプリロイドに真っ向から戦えるのは残った部隊の隊長を除けばこの二人くらいである。
だがスペックの上で制限をかけている以上限界はある。
そこでその制限を取り外す案件を出したが…

「しかし、ゼロは危険すぎるし、エックスもまたブラックボックスが多すぎてどこからどこまで手をつけていいかわからない状況です」
「下手をすれば、両者が過去の因縁を思い出すからな」
「その通りです」

ロボット工学の父『トーマス・ライト』と、不出世の天才にして稀代のサイバーテロリスト『アルバート・W・ワイリー』。
詳細な記録は殆んど失われてしまったが、ロックマンの伝説の発端には必ず二人の因縁があった。
そして、当時最高峰の二つの頭脳が高みを極めた結果がエックスとゼロと言われている。
だが、この事を知るのはケインを含め、復興委員会でも一握りである。

「実際、覚醒直後のゼロは17部隊の一個小隊を殲滅させています。だから委員会もエックスのスペック解放を求めていますが…何か、手立ては無いでしょうか?」

ケインはしばらく黙っていたが、やがて遠くを見るような目で顔をあげると、静かに呟いた。

「そういえば、南米の基地付近で製作元が不明の機械が出てきたな…」
「…?そんな報告は受けていませんが…」
「昨日、研究員の一人がラボに回されたそれの写真を見せてくれたのだ。今のところ一切の解析を受け付けないようだが…間違いなく、前世紀の技術で作られたものだろうな」
「!?では…」
「エックスが『ロックマン』としての力を解放せねばならない時が来たのだろう」

出来ればこの日が来ないことを望んで、シティ・アーベル(理想郷)を作ったのだが…

「ウェポンチェンジシステムの解放を。回収された特A級ハンターの制御チップならば、システムに対応できる筈だ」

/*/

「ペンギーゴとカメリーオの制御チップを?」

メディカルルームで療養中のシグナスから説明を受けたエックスは面食らった顔で聞き返した。

「ああ、何でもお前のバスターに搭載するという話らしい」
「搭載って…出来たのか?」

俺のバスターにそんな機能が着いてるなんて初めて聞いたぞ?と言わんばかりにエックスは自らの強化案に半信半疑であった。

「出来るようにするとのことだ。スタンバイしているラボの連中の予想が正しければ、今セッティング準備にはいっているペンギーゴのチップを搭載した場合、『ショットガンアイス』の使用が可能になる。お前の戦略の幅が広くなるとのことだ」
「……」
「ちなみにカメリーオのチップはラボに送られた次第すぐだ。ゼロがこっちに帰る頃だな」

調整用コードに繋がれたまま、淡々とモニターに移る案件と記録を纏める作業を並列しながらシグナスは説明していく。
これでも半病人なのである。まだ歩き回るには時間がかかるそうだ。
自分の強化は有り難いがしかし…とエックスは考えあぐねる。その思いが顔に出てしまったのだろう。シグナスがコンソールを操作する指を止めてこちらを見た。

「どうした?難しい顔をして」
「…戦力の増強はわかるが、何で俺なんだ?」
「残ったC級以上の戦闘型で一番平均的な仕様だからだろうな。ドラグーンは白兵戦特化だし、ビートブード以下は言わずともがな。ゼロは容量の問題で除外されている」
「俺は実験台なのか?」
「まあ、ラボの連中はそんなとこだろう。しかしいまだ反乱軍が猛威を振るっている以上、上層部が賭けに出ようとするのは無理もないことだ。それに、これはケイン博士の薦めである」

研究者はデータを、軍人は戦果を、である。
エックスもシグナスも人権はあるが、政府の器材に変わりはない。
しばらく考え込むようにエックスは黙ると、奥にある集中治療室を見やった。

「…マルスに話してみる」
「…なるほど、そっちか」

てっきり異物を自分の中に入れることへの不安かと思っていたが…相変わらず甘いな。
そう口に出さず、シグナスはエックスを止めなかった。

「で、お前はいつまでそうしているつもりだ?」

作業を再開しながら、シグナスはカーテンの向こうにいる者に声をかけた。相手は素直に出てきた。アストロである。

「盗み聞きするつもりはなかったんですが…」
「それなら途中からでも顔を出せ」
「すいません」

アストロは浮遊しながらペコリと謝った。

「でも、いいんですか?」
「何がだ?」
「エックスが元から『そういう仕様』なんだって教えなくて」

シグナスは視線をモニターから離さず静かに答えた。

「あいつはよく悩む奴だが、今は前に進むことを選択している。その事自体に野暮な真似はしたくない」
「左様で」
「あとはゼロが帰ってくるまで決めてくれればな」
「それはそうですけど、アンタ半病人でしょ」

/*/

『ミッションを説明する。依頼主はレプリエアフォース。内容はブラジルのサンパウロ空港を発つイレギュラーハンターの空路の護衛だ。どうも反乱軍に不利になるものを運び込むらしい』

暗い部屋にモニターからの音声メールが響く。声の者はいつもの仲介人だ。
画面に資料としてサンパウロ空港で待機している輸送用ビーブレイダーとアメリカ大陸からシティ・アーベルまでルートマップが表示される。

『ルートは大西洋上を通過する直通コースだ。ただし、反乱軍の襲撃が予想される。危険な任務になるが、見返りも充分大きいぜ?返答を待っている』

→yes
no

音声終了。モニターを一時停止させたエアーはしばらく考えた後、端末を起動させて要塞衛星ワイリースターにいるスターマンに連絡を取った。

〈010より037、そちらからデスログマーの居場所はどうなっている?〉
〈こちら037、相変わらず北半球上で所属不明の補給艦に空中補給してもらいながらウロウロしていますねー。最近少しずつ南下しているけど〉
〈カメリーオは四時間前にシティ側の勢力が確保したと聞いたが…〉
〈何かあるとしたら空爆で基地に残っているものの証拠隠滅とか考えられるけど、大雑把すぎて残る可能性も高いしね〉
〈ふむん〉

ならば空軍の読みは正しいか…。しかし護衛をするには自分と配下のメカだけでは心許ない。
相手はイーグリードだ。単身でも向かいたいが、やはり深入りは出来ないし前回の二の舞では話にならない。早くクラウドが戻ってくれればいいが…

「おーい!エアー。今南米の方終わったぜー」
「うむ、ちょうどいいところだった弟よ。仕事だ」
「ほへ?」

本当にナイスタイミングで基地に戻ったクラウドにエアーは満面の笑みを浮かべた。
大きな手に似合わぬ軽さで「yes」を選択。得物の88mm砲を手に取るとクラウドを抱えて部屋を出た。

「一口10万ゼニーの輸送機護衛だ。対象はイレギュラーハンター。多分でなくともデスログマーが来るぞ。心してかかれ」
「いや…お兄様?俺ついさっき暴れて充電しなきゃいけないんですけど…」

荷物のように抱えられながらクラウドは嫌な予感に青ざめる。

「向こうは待ってくれん。何、充電なら行きながらでも出来る」
「いや…ジュニアとの連絡とかは」
「それも行きがけにする。相手も相手だし。ゼロを守りにいくと思えばいい」
「まあ、そうとは言えるけど…おぉいスター!聞こえてんだろ?この対艦巨砲主義者に何とか言ってくれ!!」

しかし返ってきたのはどこまでも晴れやかな「御愁傷様」であった。

〈デスログマーの居場所は逐次報告するヨー。二人とも、ゴッドスピード!〉
「うむ、征ってくる」
「あんたら少しは弟労れぇぇぇぇぇーーー!!!」

クラウドの、全世界の真ん中の弟の心の叫びも空しく地上に昇るエレベーターのドアは閉まった。



[30192] 断絶の空
Name: 黒金◆be2b059f ID:240ee466
Date: 2012/01/02 02:50
翌朝のサンパウロは快晴であった。
コマンドゲリラの警備の下、空港から発つことになったゼロたちはブラジルに二ヶ月駐留する情報将校と最後の挨拶を済ませていた。

「レプリフォースが完成された時、こちらから招待しよう。ハンターゼロ」
「生憎俺は100年生きるつもりはないさ。今回の協同作戦はお互い実益は無かったが、意義はあったな」
「その通りだ。途中の空路は空軍が護衛する。よい旅を」
「ああ」

ゼロがビーブレイダーに乗り込むのを確認したコマンドゲリラ部隊は人気の少ないロビーでその様子を確認した。

〈乗艦を確認。離陸を開始しました〉
「メキシコ湾で空軍と合流した後、大西洋上で潜水艦に乗り換える手筈だ。六時間後にはシティに着く」

空港から飛び立つビーブレイダーを見送り、スパイダスは敬礼を送った。

〈少佐、例の資料があがりました〉
「そうか、繋いでくれ」

通信ラインをオンにして情報をダウンロードしてもらう。スパイダスの電脳視界の中に先日の気象情報と、D-REXが破壊された時の記録映像が映し出された。

〈目標破壊に使われたのは50口径の対戦艦砲と推測されています。これに該当する兵器は大日本工業グループの唐澤製TM-2902かローエングリン社のTPN-08ですが、いずれも海上艦船搭載兵器です〉
「空軍兵器には無いと?」
〈各国の空軍戦力はミサイルと機銃がメインですし、反重力飛行機に搭載するには現段階では技術上積載オーバーになると技術者が言っています。それに、あの時の天候では滞空することは不可能です…〉
「しかし、あの時上空に『誰か』が、あるいは『何か』がいたのは確かだ…」

メカニロイドが空からの狙撃で破壊された瞬間の映像を何度も見ながら、スパイダスは呟いた。

「一度、例の工作員のルートから洗ってみてくれ。何か知っているかもしれん。引き続き調査をしろ」
〈了解〉

謎の勢力による敵勢力の潰滅。
これでは本部への報告書にどう書けばいいかわかったものではないし、何より地味に頑張ってくれたゼロにかっこがつかないというものである。
国家が絡んでなければいいが…スパイダスは頭を抱えるのであった。

/*/

同乗した潜入工作員―――蛇の亜人型レプリロイド「スネーク」は先日会ったグレンとは別の意味で胡散臭げであった。
成る程、蜘蛛の網も抜けたカメリーオが待ち伏せしていた蛇に絡め取られたわけだ。ゼロはそう納得した。

「短い間だが、よろしく頼むぜ。兄弟」
「こちらこそ、Mr.スネーク」

何やら含みのある視線を感じつつ、彼との会話はそれで終わった。
彼が持ち込んだ『積み荷』は気になるが、ここで自分が開けても意味は無い。ゼロは自分の領分が壊すことなのは自覚している。
一時間近く飛行した頃、メキシコ湾が雲間から見えてきたと同時にレプリエアフォースの無人戦闘機が二機見えてきた。

〈レプリエアフォースのエスコートを確認。誘導に従います〉

あとは本隊に合流して潜水艦まで飛んでいくだけである。
このまま何もなく進んでくれればいいが…
そう思った矢先、機内にミサイル接近警報が鳴り響いた。
エスコート機がただちに戦闘態勢に入って急旋回を開始。ビーブレイダーを先に行かすように後方を固め、ミサイルに備える。

「上だ!」
〈総員、対ショック!〉

無人機が一斉に対ミサイルフレアをばら蒔くと雲間を切り裂いてきた短距離ミサイルが爆発した。
爆風が振動になってビーブレイダーを揺らし、破片が無人機の一機に片翼に穴を空けた。
青い巨体が太陽を横切り、ビーブレイダーを影に落とす。窓から見たその威容は間違いなくデスログマーであった。

「デスログマー!?こんな近くまで…」
「速度上昇!取り付かれるぞ!」

半重力で飛行している輸送用ビーブレイダーとジェットエンジンで飛行しているデスログマーとではまさにクマバチと鷹の競争である。すぐに啄まれてしまう。
事実デスログマーは撹乱にかかる戦闘機に目もくれずビーブレイダーを押し潰すように接近してきた。
ついに残った無人機も撃墜され、完全に引き剥がせない距離になったその時、デスログマーのハッチから青い鳥人型レプリロイド―――イーグリードを筆頭とした飛行型レプリロイドが次々と降下し、ビーブレイダーに取りつかんと向かってきた。

〈敵機より飛行兵の降下を確認!〉
「空軍との合流はまだか!」
〈あと五分です!〉
「総員、白兵戦に備えろ!」

イーグリードが生きていて、そしてやはり自分の敵になったことに動揺しかけながらも、ゼロは機内の隊員に指示を送った。
そして奥にいるスネークに目をやった。

「あんたは隠れてろ」
「占拠されたら意味ねーよ。せめてもの処置はしておくさ」

スネークの右手首には手錠、その先には『積み荷』の入ったアタッシュケースがあった。
最悪自分だけ逃げるか積み荷を破壊する処置をしている彼に呆れながらもゼロは戦闘態勢に入った。
壁に敵が張り付くのが振動でわかった。ハッチをPE(プラスチック爆弾)で破壊されるか否かと言う瞬間、横に走る竜巻がビーブレイダーと飛行部隊の間を分けた。

〈こちらA-10、これより貴部隊の援護を開始する〉
「遅いんだよ。かっこつけが…」

揺れる機内で必死に体勢を整えながらスネークは呟いた。

分厚い雲の切れ目、ドラゴンでデスログマーと煙をふくビーブレイダーを俯瞰出来る位置に辿り着いたエアーとクラウドは安堵した。

「間に合ったか…クラウド、フクロウルに連絡は?」
「とっくにしたよ。”すぐ向かう。それまで持ちこたえろ“だとさ」
「そうか…ならば奴等を引き剥がすぞ」
「あいよ」

エアーはデスログマーとイーグリードに獰猛な視線を向けたまま言った。
その言葉が終わるか否か、彼の構えた88mm砲が火を吹いた。

「無茶をする…!」

間断なく撃ち込まれる実弾を部下と共に避けながらイーグリードは襲撃者に毒づいた。
弾は見事にビーブレイダーに流れないよう狙われている。そうこうしている内に今度は前方の低気圧雲を突き破って大小様々な飛行メカが踊り出してきた。

「各員散開!迎撃に移れ」

イーグリードの指示に従い、部下たちは散開してバスターや得物を装填。攻撃メカの迎撃に当たった。イーグリードも88mm砲の照準を警戒しながら自分に向かうメカの迎撃を行う。

「それにしても風がへばりつく…!」

華麗に砲弾とメカを回避しながらイーグリードは自身らにまとわりつく低気圧に呟いた。ここは高度千メートルの地点だ。
A-10が発生させているのか?いや、奴の常套手段だが、それではこれだけのメカニロイドに指示は送れまい。
―――最低もう一体仲間がいる?

「ナビゲーター、レーダーをスーパーサーチに。全方位の高熱反応を転送しろ」
〈了解!〉

風と雲間を巧みに利用して狙撃し続けるエアーはビーブレイダーの中にいるスネークに暗号通信でコンタクトを取っていた。

〈久しぶりだな、スネーク。今までどこにいた?〉
〈よぉ兄貴。去年からシティにな。アシがつくとヤバイから連絡はしなかったが〉
〈まったく…陸についたら話はたっぷり聞かせてもらうぞ?それまで守ってやるから、お前はゼロはしっかり守れ〉
〈それは構わんが…出来るのか?〉
〈任せろ〉
〈いや、そうじゃなくて…ゼロの前であの鳥野郎殺れるのかって話だ〉
〈……〉

記憶を失って右も左もわからない頃のゼロが今に至るまで、イーグリードは大きなファクターであることは兄弟の間で周知の事実だ。
そんな男を、よりにもよってゼロの目の前で殺せるのか?殺さずに生け捕れる甘い相手ではないが、最悪恨まれる覚悟はあるか?
スネークはエアーにそう問うた。

〈戦場で感傷は命取りだ。今はお前ら全員が生き残ることを考えろ〉
〈ラジャー〉

再び撃鉄が起こされる。
ゼロも戦士ならば今は積み荷と乗組員の無事の確保にあたらねばならない。
イーグリードと手を取り合って再会を喜ぶ機会はもう無いのだ。それは奴とて承知していることだ。

〈エアー!こっち来たぁーーー!!〉

通信越しにクラウドの悲鳴が聴こえてきた。レーザーを見ればイーグリードがクラウドに猛然と迫っているところであった。
メカの司令塔を任せていたのが気づかれたようだ。クラウドも放電して迎撃するが、イーグリードは四連バスターから突風―――ストームトルネードを放って気流の突破口を作る。

「ぎゃーっ!こっち来んなぁーー!!」

反重力で浮いているだけのクラウドに近接戦は無理である。彼の纏う雷雲も雲ゆえ強い衝撃で簡単に散り散りになってしまう。
そうなる前にメカドラゴンでエアーはイーグリードとクラウドの間に割り込んだ。
突撃するドラゴンの牙をスルリとかわしたイーグリードは体を反転させてエアーに強力な蹴りを見舞った。それをエアーは銃身を盾にして受け止める。その僅かな間にクラウドは雲の中に再び身を潜めた。

「上海降下作戦以来だな、イーグリード」
「毎回驚かせてくれるな。A-10」
「今はただのエアーだ。元イレギュラーハンター第7部隊長」

言葉と共に勢いをつけた拳が顔面に迫る。エアーは掌でガッシリ受け止めて防いだ。

「さて、細かい話は聞かん。大方身内を質に取られてこきつかわれてるところだろう?」
「男のお喋りはみっともないぜ?」
「ふん、そうだったな」

銃身を手放したその手を風力バスター『エアシューター』に変えてイーグリードの顔に突きつける。
既に臨界まで高められた風力弾がイーグリードの顎を撃たんと発射されたが、イーグリードも自由な足でエアーの胸を蹴って反動をつけ、直撃を辛うじて避けた。
同時に自分の拳を掴んでいた手を力づくで振り払い、距離を取った。

「悪いがお前に構っている暇は無い」
「そうもいかん。今回は仕事だ」

再び88mm砲を取り、雲の上のイーグリードに向け撃ち続ける。対するイーグリードは雲づたいに高速飛行しながらこれを避け続ける。
その最中、翼の羽がばらまかれ、一枚一枚が凶器となってメカドラゴンに殺到した。エアーにも何枚か装甲に突き刺さり、更にダメ出しとばかりに小型飛行メカを内蔵した玉子型爆弾を放り込まれ目標を見失ってしまう。

〈エアー!イーグリードが輸送機に向かっている!〉
「……!」

クラウドの通信を聞いて見下ろせば、旗艦と部下がメカと交戦している隙を縫ってビーブレイダーへ急降下していくイーグリードの姿が見えた。
警報が鳴り響くビーブレイダーの中で味方に指示を飛ばしていたゼロもPEで吹き飛んだハッチから迫り来るイーグリードの姿を認めていた。

「イーグリード!!」

中で部下とスネークがやめろと叫んでいるが、もう被我距離はそうない。
腕のバスターを展開、迎え撃つ構えを取る。かつての戦友として、自分が送ってやるのが義務だとゼロは自分に言い聞かせた。

「―――弟はやらせん」

目の前で弟と戦友が殺し合おうとしている。
傷だらけのメカドラゴンを急降下させ、エアーは得物を正中に構えて敵に照準した。
イーグリードがゼロの眼前に迫る。チャージはそこそこ、外さなければいい。
相手のバスターがこちらを照準した。
撃たなければならない、撃たなければこちらが全員死ぬ。
バスターのエネルギーを解放―――

光が、二人の視界いっぱいに広がった。
急制止したイーグリード同様呆然となったゼロはスネークに後ろ髪を掴まれて機内に引きずりこまれた。
イーグリードも真上からの砲撃によって後退を余儀なくされた。そして時間が来てしまった。

〈隊長!一時方向よりレプリエアフォースの艦隊を確認。このままではデスログマーが…〉
「……!」

既にレプリロイドの視力で視認できる位置に迫った飛空挺を見てイーグリードは自分の敗けを悟った。
デスログマーや部下たちに張り付いていたメカ達も後退して、ビーブレイダーの周りを護るために固め始めた。
『ここで退け』と言うことだ。

「…各員を艦内に収容した後、ステルスを展開。これより撤退する」
〈了解〉

部下たちが次々とデスログマーに戻るのを見届けると、イーグリードは上空にいるエアーを見上げた。
去り際の置き土産がわりに卵型爆弾を放ってデスログマーに戻る。
エアーは雲に紛れて遠ざかっていくデスログマーをメカドラゴンの上で見送りながら迫ってきた小鳥型メカニロイドを正拳一撃で粉砕した。

〈兄貴、空軍が『デスログマーは撤退した』ってよ〉
〈ふむ、任務完了か…発信器は?〉
〈結構な数をメカたちに仕込んだから、艦にも奴等にもつきまくってる。あとはスターがサボらなきゃどこまでも追えるぜ〉
〈これで二つの目的は達成できたか…〉

クラウドとの通信の後、エアーは飛空挺艦隊の中にいる依頼主に通信を送った。

〈こちらA-10。依頼達成(ミッションコンプリート)。これより帰還する…〉

―――これらの落とし前は確実に受け取ってもらうぞ。シグマ

蒼天の向こう、エアーは暗い決意をもって睨み付けた。

/*/

「そうか、積み荷は無事ついたか…」

サンパウロに近い港にある電話ボックスの中でエンカーはカメリーオの脳殻の行方とゼロ達の帰還を報告で聞いて安堵した。

「ああ、俺も一旦シティに戻ってラボに潜る予定だ。パスも向こうで作ってもらったことだし」

獲物はスネークに譲ったが、カメリーオの中の情報は洗いざらい手に入れときたい。それにはかなりの設備が必要だ。
潜った途端自壊されても困る。

「これから船に乗ってそっちに寄るよ。合流したら詳しい話を聞かせてくれ。それじゃ」

カチャンと受話器を戻し、船着き場で待っていたマグと合流したエンカーは二人でクルーザーに乗るとすぐに発進させた。

「尾行は無かったか?」
「倉庫のほうで撒いてやったし、電話でも枝はついていない。念のため途中で海底基地に寄って船を変えておこうか」
「賛成、長いこと掃除してないし」
「それはいいよ…」

そんな会話をしながら大西洋に乗り出した二人は、自分等を見つめる機械の目があることを最後まで察知出来なかった。

〈こちらアジール、『彼ら』を観察した結果データが全て一致しました〉

人間には誰も聴こえない、しかし一部の機械には確実に届く周波数の電波が淀みなく相手に情報を伝えていった。

〈間違いなく、DWN.018マグネットマンとアルフォンス・L・ワイリー坊っちゃんです―――〉



[30192] 対話
Name: 黒金◆be2b059f ID:240ee466
Date: 2012/01/05 11:33
始業時間前に出勤して、指定された場所を検査して、処置して、異常が無ければ定時に帰宅する。そんな毎日だった。

―――それがどうしてこうなったのだろう?

暗い通路の中で考える。
いつものように配線の修復をしていた時、見たことの無いロボット達が押し掛けてきて、職員達を拘束し奥へ連れていってしまった。
幸い自分は奥にいたので、隠れて難を逃れたが、以来職場の中ではボールの様なロボットがひっきりなしに闊歩している。とてもではないが、外に助けを呼びに出れる状況ではなかった。
そうして数日以上経ってしまった。外の状況はラジオにアクセスすればわかる。シグマというシティ・アーベルで造られたロボット(レプリロイドと呼ぶらしい)が反乱を起こし、その仲間が海外に出てあちこちで破壊工作や施設の占拠している。どうもこの発電所はその一つになってしまったらしい。きっとロボットたちの中にいたマンドリル型ロボットがシグマの仲間だろう。
発電所の外は軍や警察が包囲しているため、直接被害は出ていないが、頻繁に停電が起きているらしい。
職員は無事だろうか?町はちゃんと生活を送れるだろうか?手遅れになる前に助けは来るか?助かっても給料は払われるのか?
密かに送った救難信号は兄弟に届いているだろうか?
心配事は尽きない。

「~~っ。ニードル、ハード、タップ…誰でもいいから早く来てよ~」

DWN.021『スパークマン』。現E国発電所臨時契約修理工ロボット『スパーク』は一人心細さに涙を流した。

/*/

メディカルルームの集中治療室で一時間ほどの面会を許されたエックスは二日ぶりにマルスに会った。
ペンギーゴに心臓部を撃ち抜かれた彼だが、今は新たな心臓部を取り付けられ、それが馴染むまで調整を受けており動かなければ会話が可能なほど回復していた。ただ、マトモな職務復帰には半年近くかかるそうだ。
いつもは事情聴取の合間を縫ってアランが見舞いに来ているが、このときはエックスに気を利かせて退室している。

「ペンギーゴのチップを…?」
「うん、そっちの方ではどう説明されているのか気になって…」
「正直、遺体がラボに送られた以外は何も聞いていなかったな。そうか、そういうことになっていたか」
「やっぱり」

マルスの答えを聞いてエックスは納得した。自分のことに置き換えるなら、身内の遺品を仇に使われるのである。経緯がどうあれ、簡単には納得出来ないだろう。
ペンギーゴはマルスを騙し討ちしたが、彼にとってはかつての部下であり身内だ。

「強化は嬉しいし、ラボの実験には付き合うけど、ペンギーゴのチップをそのまま使えって言われたら辞退するつもりだ」

―――正直このやり方は気が乗らない。
エックスは暗い表情でそう吐露した。少なくとも自分なら説明された瞬間条件反射的に反対するし、黙ってされるなどもっての他だ。
きっとマルスもそうだと思ったから、エックスは話をしに来た。

「優しいな。お前は」

そんな彼にマルスは小さく笑みを浮かべた。

「確かに最後はああなってしまったが、今でこそあいつのことは色々思い出す。…今にしてみれば、育った環境が逆であいつはかつての俺と同じこと考えていたんじゃないかな?ってな」

マルスは遠い目でかつての情景を見るように言った。その言葉にエックスの中で疑問符が浮かぶ。

「?それはどういう…」
「お前には『向こうでのんびり暮らしたいから』と言っておいたが、正直シティのためだけの生き方に疑問を持つようになっていたんだ」

終戦の頃、シティ・アーベルはほぼ完成し、世界中から政府が選んだ特定の人物を招待するようになった。
逼迫した状況である彼らは大抵は喜んで入植したが、中にはそれを拒んで荒廃した世界を回る者もいた。
そんな人間達の存在に触れて、マルスは『シティを機能させるために存在するのがレプリロイド』という考えを変えていったという。

「ただの歯車として生きるより、自分を本当に必要としてくれる人達のところへ行くべきだと―――いや、これは建前だな。自分に対して『これでいいのか?』って気持ちが強くなったんだ。俺はきっとシティの中だけで完結する世界(生き方)から飛び出したかったんだ」
「だから…何度も実験部隊に参加したのか?」
「今にしてみれば、そうだな。実際はPKOだったからかなり無茶なことしたよ」

エックスにばつの悪そうな笑顔を見せて、再び遠い目をしたマルスは語り続けた。

「嫌なものもたくさん見た…だが俺は自分が自分の意思で生きていることを確かに感じている。そこを行くとペンギーゴは逆だ。あいつは極地環境下での治安維持のために産まれて、シティのラボで調整を受けた後すぐにアラスカに送られた。あいつの中で世界は雪と暗い空のアラスカで完結しちまってたんだ」

別にアラスカが嫌いなわけじゃなかった。ただここだけしか知らずに終わることに納得できるほど機械的にいれなかった。

「だから、あいつはとにかく飛び出したかったんじゃないかって今では思う。それは反乱に加わった連中にも当てはまるかもしれない…」
「……」

ペンギーゴがシグマに加担してイレギュラーとなった動機―――シグマが言っていた自分の『無限の可能性』に関係があるのだろう。それを考えみれば、半分の原因は自分にもある。

「ああ、すまん!話が逸れてしまったな。別にお前を責めている訳じゃない…」

「それで強化案のことだが」マルスはエックスをまっすぐ見て言った。

「俺は賛成だ」
「え!?」

予想外の答えにエックスは思わず声をあげた。

「あいつが持っていた凍結能力を見ればわかると思うが同じようなチップを作ろうとすればプロットどおりにしても一年弱はかかる。それまでシグマは待ってはくれない」
「でもいいのか?お前は」
「正直、あまり気が進まないのは変わらん。だが、この街の静けさを見ていたらそうも言っていられん…」

マルスは首を動かして廊下の方を見た。

「ライフセーバーが気を利かせて情報をいれないようにしてくれているが、明らかに動くメカニロイドの数が減っている。寝たきりでもわかるさ」
「……」

マルスの言う通り、今のシティ・アーベル全域ではテロの再発を恐れて、一部を除いたメカニロイドが停止状態にある。その為開発地区の整備は停止している。
エックスがアラスカから帰還した時、街は人の出歩く姿が疎らになり、人々は再び恐怖と不安と隣り合わせになりながら生活している有り様だった。
ロボット社会への不信
政府が、そして何よりレプリロイドたちが最も恐れていた事態である。

「エックス、お前の気遣いは嬉しい。だが、今は感傷を捨てなければならないときだ。半分は残ってくれたみたいだが、それでもこのままじゃ戦況は泥沼になる」

渋い顔を見せるエックスにマルスは先達のハンターとしての厳しい顔で諭した。
それはエックスもわかっている。しかし、やはり何かが納得いかない。

「俺は…そんなつもりでペンギーゴを撃ったわけじゃない…!」

俯きながら、エックスは今まで溜め込んでいた感情を吐いた。
レプリロイドは死ねばラボに回収されてサンプルにされるか、リサイクルされるかが基本だ。
政府の『器材』である以上、それはエックスもマルスも変わらない。だが、人間でいう「死体はモノ」という考えは尊厳を信じるエックスにとって受け入れがたかった。

「それはわかっている、エックス」

その憤りを、マルスは真っ直ぐ受け止めた。

「それでも俺達はイレギュラーハンターで、守らなきゃならないものがあるんだ」
「――!」
「街とみんなを頼む」

マルスの大きな手がエックスに差し出され、しばらく躊躇ってからエックスはその手を握り返した。



数時間後、エックスは本部のシミュレーションルームで調整の後、アイシー・ペンギーゴの制御チップを受領することになった。
そして反乱軍が占拠するE国発電所の奪還任務を受けたのは、更にそれから間もなくである。




後書き
『ショットガンアイス』を取得しました。



[30192] スパークマンの冒険
Name: 黒金◆be2b059f ID:240ee466
Date: 2012/01/12 09:30
E国発電所は前世紀から続く世界屈指の規模を誇る原子力発電所である。
大戦中は周辺の街の興亡に合わせて再開と停止を繰り返しながら奇跡的に存在しつづけ、老朽化した今でも国家の復興のシンボルにして要だ。
その発電所がレプリロイドの反乱軍に占拠されたのはおよそ五日前である。
最初は一時的な停電があったものの、数分以内で復旧されたため、住人たちはいつもの配線事故だろうと気に止めなかった。
だが、翌日から職員が帰ってこない。連絡もつかないことがわかり、住民たちが不審に思い出した頃、発電所の守衛がほうほうの体で街にたどり着きこう言った。

「原発がロボットたちに占拠された」

停電の間隔も長くなる。
大戦時、空爆の噂が広がって以来の戦慄が街に広がった。
事態を重く見た国が調査隊を派遣したのはそれから二日後。
人気のない発電所にカメラを付けた昆虫型メカを侵入させた時、モニター越しで彼らが見たのは戦略メカが闊歩する所内の光景であった。

/*/

そして、現在。
電気供給の無くなった街のように暗い空の下、いくつものパトカーと軍用車輛が発電所を取り囲み、警察、軍人ともにはりつめた緊張の中にあった。
その後ろでは対策本部のテントが設置されており、更に離れたところに職員の家族が安否を心配して待機していた。
占拠から五日目、犯人からの要求もなく、だが突入もままならず状況は硬直していた。
一度目の突入に失敗した警察と軍の間で何度目かにわからぬ作戦会議が繰り広げられる中、その流れを変える人物が対策本部の幕屋に入った。

〈こちら第3部隊、イレギュラーハンターが現場に到着した。これより指揮権を彼らに移譲する〉
〈こちらチームアルファ。こちらでは既に仲間に死傷者が出ている。納得のいく説明をしてもらいたい〉
〈無駄口を叩くな。通信に枝がついていないとも限らない。それに…我々の装備だけで奴等を制圧するのは不可能だ〉

この通信から五分後、上空から輸送用ビーブレイダーでイレギュラーハンターが発電所の敷地内へと投下された。

ここ五日間で10度めの熱量の上昇を観測しながら、スパークは狭い排気孔の中をさ迷っていた。
ここの中は改築が進む前から網羅しているので迷うことはない。
それでいくつかわかったことがある。一つ、外部への連絡手段は唯一のテレビ電話を除いて、完全に封鎖されている。
二つ、例のリーダー格らしいマンドリル型ロボットは奥に行ったきり出てこず、部下らしいヒューマン型が現場の指揮を取り持っていること。
三つ、この発電所の電気が街以外の何処かへ供給されているらしいこと。
四つ、連れていかれた職員たちは奥の三号炉付近に軟禁されているらしい。状態は確認できないが、レトルト食が運ばれていることから餓死の心配は当分無さそうだ。
以上四つが判明したが、余計に相手の意図がわからない。電力が必要なのはわかるが、スパークが計測した電力になると巨大な施設どころか超巨大ロボットが運用できてしまう。
まさかうちの製作者みたく攻撃衛星打ち上げるとかだったら…もう笑っちゃうよねーとスパークは考えながら監視の目を掻い潜って孔の中を進んだ。
そして、軍と警察の間で『イレギュラーハンター』に現場の指揮権を譲るという連絡通信が行われたのを傍受した。
イレギュラーハンターかぁ…きっと軍用ロボットみたいにカッタイやつなんだろうな
ともかく、外に連絡を取る。あるいは脱出する手段を探すべくスパークは進む。
自分一人で制圧し返すのは最後の手段だ。

敷地内に潜入したエックスは外とは対称的に明るい発電所の中でガンボルトやボール・ド・ボールを進行と同時に破壊していった。
マッピングは事前に電脳の中へダウンロードされている。後は確認された最深部への最短ルートを走破し、リーダー格のマンドリラーを排除して、人質の安否を確認することだ。
既に後続で装甲服を纏った特殊部隊が進行し、障害を駆逐している。エックスを先行させると同時に彼らも突入させるのが両者の中で取り交わされた妥協案であった。
本当なら連絡を受けた時点でレプリフォースが出動するはずだったが、国の象徴でもある原発を占拠したのがシティ・アーベルのレプリロイドという事実がE国政府の不信を招いた。官僚の中にはこれを機にシティが覇権を握ろうとしているのでは、と疑う者まで出る始末だ。そのため軍の派遣は拒否され、イレギュラーハンターに御鉢が回った。
更に同じ国の人間が人質になっているのにロボット一体に任せるのは突入する特殊部隊のプライドが許さなかった。
エックスとしては針のむしろであるし、囮と思うとやるせないが、特殊部隊が早まらない限りはそれでいいと考えている。
人間と同じ任務に当たる際の嫌な体験談は周りから聞いているし、そもそも機械(レプリロイド)に依存するのが人間にとって正しい姿とは思わない。(もっとも、依存してしまってる人間の比率は多いが)
自分は彼らの英雄になりに来たのでなく、マンドリラーを撃破し彼に囚われた職員たちを救出する手助けをするために来たのだ。下手に気を回して彼らの足手まといになるわけにはいかない。
それに、個人的にも同じ17部隊のマンドリラーには問い質したいことがある。
通路を進むと突然照明が落ちた。先発隊の報告にあったトラップだ。急ぎマッピングを頼りに来た道の角に隠れる。
そして通路の向こうから光と共に何かが弾丸のような速さで飛んできた。そしてエックスの目の前を通りすぎると壁に当たって壊れた。
緊急時に巡回する非常灯メカ『ホタルンガ』だ。
彼ら自体はさほど脅威ではないが、通常視覚から暗視モードに切り替えた瞬間眼前につっこまれたらフラッシュを起こしてしまう。
フルフェイスの装甲服着用、もしくは義眼を持つサイボーグで構成された先発隊はこれで撤退を余儀無くされたのだ。
更に逃げ場の少ない通路を通せんぼする形でガンボルトがミサイルを放さんと待ち構えている。
角から飛び出すと同時に低い体勢でバスターを発射。ガンボルトの中枢をセンサーごと破壊する。
機能停止を確認し、暗い通路を抜けようと足を前に出した。

「っ!?」

足元から脳天を貫かれるような衝撃が走る。体内の機器が過剰な電力にオーバーヒートを警告、エックスは咄嗟に後退して倒れ込んだ。
痺れていない頭を何とか起こして、床をサーモグラフィで見る。

「床に電流を流しているのか…」

視界の中で床のパネルが時間差で急激な温度上昇をしているのを見てとって、エックスはあのまま突っ走っていたら電流で動けなくなったところを的にされていただろう。よく見れば壁にもある。
多分敵は壁や床パネルを伝導体のものに変えてこの急造の罠を張ったのだろう。

「マンドリラーのやり方じゃないな…」

ものぐさ者の彼が立て籠り犯という時点で驚愕であるが、だからと言ってこんなトラップを仕掛けるほどレプリロイドが一朝一夕で変わるものではない。一緒に離反した部下かその辺りのアイデアだろう。
ともかく、急造であることは助かった。常に電流を流せないせいかトラップ範囲は狭い。
しばし様子を見て、電流のパターンを見極める。壁蹴りとジャンプを繰り返せば突破できると判断し実行。着地と電流が同時の場合は天井の配管に捕まってやり過ごした。
そのエリアを越えてしまえば後は楽だ。
増援のラッシュローダーとボールを駆逐し、次のエリアへと突破した。
そこは明るかった。一号炉に続く道は狭かったが、障害らしい障害はない。
罠を警戒しつつ進行しようとした時、階段の下のドアからノブを回す音がした。
咄嗟にドアの死角に回り込んでバスターを照準。しかし出てきたのは…

「ふ~、やれやれ。変なところに配線引っ張っていくなっての…」

巨大なハンダゴテの両腕を器用に使って出てきたのは、どう見ても反乱軍とは関係なさそうな作業用のロボットであった。
更にお互い目があってしまった。

「あれ?ロックマン?!」

………誰?

キョトンと目を丸くして自分をそう呼んだロボットに、エックスは毒気を抜かれて硬直した。



[30192] 立体映像の老人
Name: 黒金◆be2b059f ID:240ee466
Date: 2012/01/17 22:24
原子力発電とは―――丈夫な釜(原子炉)の中でウランなどを核分裂させ、その時に発生する大量の熱で水を沸騰させて蒸気をつくる。その蒸気を、発電機につながった巨大な羽根車(タービン)に吹き付けて発電機を廻すものである。
言ってみれば、<間接蒸気力発電>である。
決してウランのエネルギーを直接電力に変えるものではない。

「そもそも、ただのお湯を沸かすのに核分裂使いだしたのが事の起こりだよな」

膨大な水音が響く中、DWN.064『アクアマン』は独白するように呟いた。

「確かに石炭やら化石燃料をいちいち調達せずにすむけど、そのかわり制御が難しいし、冷却水も半端なく要る」
「だから海の近くに建てて海水で一度使った蒸気を冷やすんだろ?」
「そういうこと」
「へー…」

ガロンポットのような体躯のアクアの後を歩いていたフリーズが答え、ジャンクが相槌を打った。
今彼らはアクアの案内で原発の排水路から内部へ侵入している最中だ。

「で、このまま進めばスパークの職場か?」
「俺様を見くびらんでちょーだい。たまにここで落ち合って電気もらってんだから」
「自分んとこの発電機ちゃんと直せよ…」

事の起こりは基地に届いていたスパークマンからの救難信号である。

〈バイトしてたら職場がロボット達に占拠された。助けて!〉

暗号を解読したシェードたちは即座にE国のニュースを確認した。
発信された日から2日。しかしニュースに発電所の件は殆ど報じられていなかった。
あったとしても『発電所内で事故が発生し、詳細についてはただいま調査中。放射能漏れの危険は無し』―――ただそれだけであった。
国が情報を隠匿している。すぐにそう読んだ一同は主に連絡を取った。
シティに向かう準備をしていたエンカーは海底基地でそれを聞くなり自分もただちに向かうと息巻いたが、シェードとエアーに止められた。
彼にはラボに送られるカメリーオの電脳を調べてもらわなければならないし、シティの関心が外に向けられている今、イレギュラーハンター本部が狙われない保障はないのだ。シャドーの組織が網を張っているが、完全はあり得ない。
それでシェードが先に調査に向かい、近くにいたアクアマンに大まかな事情を説明してナビゲーターを頼んだ。
そして、案の定発電所は反乱軍に占拠されていた。マスコミのヘリが撮影したメカニロイドの映像が海外に公表されたのはその翌日。
すぐにジャンクとフリーズは出動することにした。ちなみにバーストも行きたがったが…

「ただでさえBWR(沸騰水型)は事故の際に放射能漏れを起こしやすいし、冷却水を循環させる再循環ポンプの故障が多いのに爆弾攻撃主体のお前を連れていけと?」

と、フリーズにバッサリ切り捨てられた。
そして凹む通り越して倒れて涙の川を作るバーストに留守番を任せ、今に至る。

「ここだぜ」

アクアは地上に至る梯子を指差した。
一番身の軽いフリーズが梯子を登り、蓋を開けて小型カメラで周辺を確認する。
巡回しているガンボルトが曲がり角の向こうに消え、防犯カメラが無いのを確認し、蓋を解放して地上へ上がった。
遠くで戦闘音が聞こえる。多分突入したイレギュラーハンターと人間たちだろう。炉心の近くではないからかロケットランチャーの音までする。

「やってんなぁ。ありゃあボール撃ってんな」
「急ごう、改造されてると思われてスパークが風通しよくされたら堪らない」

孔の中からジャンクを引き上げながらフリーズは懐のスタンガンをいつでも使えるようにした。

「んじゃ、俺はここで…」

アクアは顔だけ出してそのまま去ろうとしたが…

「オメーも来い」
「はぁい…」

/*/

「ねー、ロックマン」
「だから、俺の名前はエックスだって」

スパークはエックスと遭遇してから三度目の同じやりとりをしていた。それにスパークは困ったように口を尖らせる。

「わかってるけどさー、そっくりなんだもん」
「……」

スパークも彼が自分の知っているロックマンではないことは理解している。
シティにいる兄弟から、『ライト博士の忘れ形見がいるらしい』という情報はもらっているし、そもそもロックマンは大戦の始まる数週間前に永遠に機能を停止させてしまったのだ。
しかし実際前にすると、どうしても「ロックマン」と自分の視覚が認証してしまうのである。
まあ話がややこしくなるため、ロックマンについては「昔の知り合い」とだけ説明しておいたが

「それで、案内するのはいいけど本当に三号炉のタービン室まで行くの?」
「ああ、人質の安否を確認しなきゃならないし、。蓄えられている電気の行き先も気になる」
「人質は賛成だけど、あとは人間たちに任せりゃいいじゃん。こっちのことはこっちでやるって勝手に息巻いてたんでしょ?」

スパークは不満から投げやりに言った。エックスとの情報交換で、政府が情報の公開を渋ったことを知って腹をたてているのだ。
原発でトラブルが起きただけでも風評被害が凄まじいのはわかるが、それなら惜しげなく偵察メカを送ってくれてもいいのに…人命がかかっているのに、面子にこだわる政治屋にも呆れた。ああ、またムカついてきた
本来なら後方に避難させらるはずのスパークは、その怒りからエックスに協力することを引き受けた。

「…そうもいかないよ」

それにエックスは少し暗い顔で答えた。

「あのマンドリルがイレギュラーハンターだったから?」

その問いに対してエックスは沈黙で肯定した。
新しいロボット達もやっぱり色々複雑なんだなぁとスパークはそれ以上聞かなかった。
敵が徘徊するルートをエックスと中央制御室に向かっている突入部隊に伝えてあるので、マンドリラーを探すエックスたちはまず燃料貯蔵庫を経由して変電器室に向かうことにした。
そこならエスカレーターで降りてすぐなので、行くまでは安全だ。敵に遭遇することもなく、彼らは拍子抜けするほど簡単に燃料貯蔵庫にたどり着いた。
てっきりラッシュローダーあたりの火器を使わない防衛メカの歓迎を警戒していたが、杞憂に終わった。


「とりあえずエレベーター使えるか確認するね」
「わかった」

運送機と燃料の詰まったドラム缶の隙間を抜け、スパークは監視カメラの配線を切断すると奥にあるエレベーターのボタンをチェックする。
電源は入っている。昇降にも問題はなさそうだ。フェンスの向こうからエレベーターが昇っている中に爆弾やメカが無いことを確認したスパークは後ろに来ているはずのエックスに声をかけた。

「エックス、使えるよ!…あれ?」

しかしそこには誰もおらず、スパークの声が響き渡るばかりであった。

その頃、エックスはスパークが向かったのとは別の奥にいた。
何かに誘われる感覚のままついた先には、白と青で縁取られた円盤状の機械が場違いに置かれていた。
一瞬敵が仕掛けた罠かと疑ったが、それにしては周りのドラム缶の配置が疎らだ。
発電所の備品にしては違うと思いながら、エックスは慎重にそれに手を伸ばした。
それを感知したのか、円盤の縁についていたトリガーが解放され、円盤はふわりと浮かび上がった。
やはり罠かと身構えたとき、浮かび上がった円盤の下で白衣を着た老人の立体映像が映し出された。恰幅がよく、白い髭を豊かに蓄えた人物だった。

〈わしはトーマス・ライト。このメッセージをエックス…お前の未来に託す…〉

―――ライト…?オレは…オレはこの人を知っている?

エックスの深い記憶を刺激する電子音声に、彼は知らず知らずバスターを下ろしていた。
その間、立体映像の老人は真摯な目で言葉を続ける。

〈このカプセルにたどり着いたと言うことは…すでに逃れられぬ戦いの中にあるのだろう。エックス…〉

老人の言葉の意味を理解する前にエックスは彼の言葉に聞き入っていた。
彼を前にすると、何か大切な記憶を忘れてしまったもどかしさに襲われる。

〈わしが遺した4つの力を…お前が正しく使ってくれると信じているよ…。ここに遺したのはフットパーツじゃ。カプセルに入りパーツを装着すれば…高速移動が可能になる〉

老人の代わりにしばらくフットパーツのビジョンが映し出された。白地に青の縁取のフットアーマーである。

〈この力で未来を正しい方向に導いておくれ…。わしのエックスよ…!〉

そういい終えるやいなやホログラムは消滅し、代わりに青白い光のカプセルが残った。

「……」

一瞬の動揺のあと、エックスは足を踏み出しカプセルの中に入った。
エネルギーが充填されていくと同時に温かいものに抱かれるような感覚が身体中に満ちてゆく。
人間の言う「懐かしい」とはこういうものなのだろうかとエックスは思った。

〈転送、終了〉

電脳の中にその告知を聴いて、自分の足を見る。いつも見ていた青のフットアーマーではなく、カプセルで見たものと同じになっていた。
まったくの別物と言っていい出力、それでいて以前から自分のもののように違和感が無いのだ。
終わってみると恐ろしいほど疑問がわいてくる。あの老人のこと、自分のこと、そして彼との関係は…
いやまて、その前に何か大事なことを忘れているような

「あ」

そういえばスパークがエレベーターの様子を見てくれていたのだ。
振り向くと、そのスパークが目を丸くして自分を見ていた。今の一部始終を見られていたのだろうか

「あ…いや、スパーク。これは」

どう説明すればいいものかと考えあぐねたとき、先に口を開いたのはスパークだった。

「い…」
「――『い』?」
「イメチェンした…?」

真顔でそう言ったスパークにエックスは思わずこけた

「いや、違うから!」
「え!そうなの?」




後書き
フットパーツをゲットしました!



[30192] ひとつなぎの細胞は夢を見るか?
Name: 黒金◆be2b059f ID:ee60a56e
Date: 2012/01/23 12:26
特A級ハンターといって、指揮官能力も特Aとは限らない。
今の自分の指揮官たるスパーク・マンドリラーがまさにいい例だと第17部隊B級ハンター、カインは所長室のパソコンで外の状況と突入部隊のルートをチェックしながら嘆息するのである。
ここを占拠して一段落した途端、マンドリラーはいつもののんびりした口調で「めんどくさいから後は任せたぞ~」と彼に一言だけ言い残して奥のタービン室にごろ寝を始めてしまった。
残された彼と以下十名近くのC級ハンターはしばらく途方にくれたのは言うまでもない。仕方なく、階級の高い彼を中心に防衛メカの配置と発電設備の操作を電脳に叩き込み、反乱軍の本隊から要求された分の電力を第6部隊経由で供給し続けた。
そんなこんなで中央司令室に立て籠って一週間になるが、何度も「帰りてぇ…」と凄まじい郷愁に襲われた。
そもそも彼らはマンドリラーの指示にしたがって海外に脱出した口である。自身らが反乱軍に荷担したのを知ったのはシグマの犯行声明の後だった。歴史によくある軍事クーデターのお約束にはまってしまったと頭を抱えるも時すでに遅し。
帰ろうと思えば不可能では無いが、自分達だけで他の国や反乱軍の網をかいくぐって足を調達する自信はない。この国に投降する手があるが、それはそれで五体満足でシティに帰れる保証はない。既に突入部隊の中に死者が出ているのだ。そも帰れたとしても、本部で厳しい取り調べの果てに情報漂白の可能性が高い。最悪処分だ。
彼らに選択肢は無かった。

〈カイン〉
〈どうした?〉

扉ひとつ向こうの司令室で施設内の管理をしているハンターの一人が内線で呼び掛けてきた。

〈燃料貯蔵室のカメラが破壊されました。エレベーターの中もです〉
〈突入部隊か?〉
〈いえ、エックスです。映像のログに映っていました。もう一人いるみたいですが、まだ確認できていません。今、エレベーターが稼動しているので変電室に向かっているようです〉

送られた問題の映像を見る。確かに見覚えのあるアーマーの形と背格好はエックスのものだ。もうひとつ、その後ろから細長い機械の足が映っているが、映像はそこで止まっている。
アンノウン、多分占拠のとき最後まで確認できなかった作業用だろう。しかしカインが見るのはそこに至るまでのエックスによるメカニロイドたちの損害だ。
かつて同じB級とは思えないほどのスピードでエックスは障害を排除していってる。自分の知る限り、以前の彼ならもう少してこずっているところだ。
アマちゃんが雑念を捨てるとここまでやるものなのか?

〈う~ん、エックスか…〉

思案している中、一週間ぶりののんびりした声がチャンネルに割り込んだ。マンドリラーだ。

〈カイン、そこならあいつを出しても大丈夫だな?ほれ、プロジェクトが凍結した…〉
〈あれを、ですか?相手はエックス一人なのに〉

そう指摘されてカインは顔色を変える。
確かにあれなら侵入者の迎撃に使えるが、それは突入部隊に対しての切り札にと考えていた。むしろエックス相手には過剰防衛とさえ思えた。

〈試してぇことがある。これでエックスが潰れるなら、そのあと人間たちに当てるのも遅くねぇさ。ああ、逃げ道はちゃんと塞げよ?〉
〈はぁ…〉

何を考えているのかわからない上司の言葉に、カインは生返事を返すしかなかった。

〈了解、サンダースライマーを解放します〉

/*/

エレベーターから出ると、照明は落ちており変電器の駆動音以外何も聴こえなかった。

「あれ?」

集中砲火を警戒していた二人は、残る狙撃の可能性を警戒しながら恐る恐るエレベーターから出た。
スパークは暗視モードにするまでもなくこの部屋の配置を知り尽くしている。
しかし返ってくるのは機械の音だけ。それがかえって不気味だった。
二人がエレベーターから出きった途端、部屋は完全に暗転した。エレベーターの電源が落とされたのだ。さらに変電室にある全ての電子錠が閉まる音が次々と暗闇に響く。
閉じ込められたと二人が悟った時、一転して部屋の照明がついた。
一瞬眩しさに目が眩む。しかしスパークの目に飛び込んできたのはいつもの変電室ではなかった。エックスもスパークにつられて天井を見上げ、その異常に気づく。

「こいつは…!?
「僕こんなの知らないよ?!」

透明なゼリー状に覆われた巨大な顔の機械。顎に当たる部分には巨大な電極がついている。そんな異形が変電室の天井に浮いていた。

〈侵入者……確認…排除、実行〉

ゼリーの中に青い電流が走るのが見えたとき、機械の黄色い目が二人をとらえた。

/*/

「変電室の隔離、完了しました」
「サンダースライマー、充電完了。細胞膜安定しています」
「突入部隊の隔離も完了しました」
「よし、第三部隊をそちらに向かわせろ。それで時間は稼げる」

中央司令室では部下たちが次々と報告を入れていくのをカインは満足げに聞いていた。
モニターの向こうでエックスに攻撃を仕掛けるゼリーの膜を持つメカニロイドは、「一個の細胞をどこまで巨大化できるか」というラボの実験の産物である。
しかし、維持に大量のカロリー、すなわち電気が必要なのと制御不能のため、プロジェクトもろとも凍結処分が下されていた。
反乱軍に奪取された今は「サンダースライマー」と名前をつけられ、ここの防衛の切り札にあてられていた。

「本部からの増援は?」
「親衛隊をそちらに向かわすとのことです」
「………」

間に合うかな…?とカインは不安げに息を吐いた。何となく感じていたが、マンドリラーを始め反乱に与した特A級ハンターはエックスに拘っている感がある。
あいつは確かに実力はあるがゼロには間違いなく及ばない。それがカインの見解だ。
思考している時、ドンッと何か固いものが壁に叩きつけられる音が廊下から響いた。
全員が一斉に出入り口に振り向く。

「監視カメラ…」
「何も写っていません」

また音が響く。今度は大きい。全員が武装を手に取った。
電子錠をかけた扉の向こうから何か吹き付ける音がする。それから突然静かになること数瞬。
巨大な鉄の拳によって錠前ごと扉が派手に吹き飛ばされた。

「さあさあ!誰もが股間濡らす水も滴るいい男の登場だぁ!!」

白い氷の煙の向こうからウォータータンクに手足が生えたようなロボットが名乗りをあげて出てきた。

「はいはい、名乗る前に制圧制圧」
「どうりゃ!」

だがその後ろからつぎはぎだらけの長身のロボットと氷色のアーマーのロボットが相手に照準させる暇も与えず先ほど破壊したらしいボールの頭や氷の榴弾を次々と放った。

「だー!俺様の決め台詞台無しにすなぁぁぁ!!」

しまいには八つ当たりぎみな放水攻撃がハンターたちを隅に押し流していく。
こうして中央司令室は一分足らずで制圧された。

/*/

最初に飛んできたのは粘性の液体であった。しかも一発でなく周囲に撒き散らすようにである。
エックスはフットパーツの恩恵があって物陰に走り込んでやり過ごしたが、スパークはもろに食らって動けなくなってしまった。

「うわー!俺はゴキじゃないぞ~!!」
「スパーク!」

じたばたととりもちにかかった虫のごとくもがくスパークの上に敵からの稲妻のごとき電流が降り注いだ。

「のぎゃあぁーーーーーーーー!!!」

変電室に落雷のような轟音とスパークの悲鳴が響き渡る。
閃光と焼ききれたスパークの姿を想像してエックスは思わず目を覆った。そして恐る恐る目を開けてみると…

「ーーああぁぁぁん…しびでばびでぶ~~」

粘性の液にまみれながら恍惚と悶絶しているスパークの姿であった。実にシュールなので、思わず別の意味で目を背ける。
普通ならとっくに回路が焼ききれているのにどんな構造だ…?
メカニロイドは相手に自分の攻撃が効かないと悟ったのか、それとも単純に行動不能になったと判断したのかこちらに向けて電撃を放ってきた。
エックスは物影から飛び出してそれを回避する。
スパークは…痙攣しながら悶えている。ほっといても大丈夫だ。白衣の老人もきっと許してくれるとエックスは思った。
出来るだけ敵から離れなければならないと機動の上がった足で変電室を駆け回るが、撃ち返す間もなく電撃が襲ってくる。
しばらく走り回った末に相手の攻撃が止んだのを見計らってエックスはバスターを連続で撃ち込んだ。しかしいずれの攻撃もゼリー状の膜を貫通しきることなく消滅してしまった。

「くそ!何で出来てるんだアレは」

悪態をつきながら諦めず撃ち続けるが、相手は堪えた様子がない。それどころかその巨大な威容で突撃してきた。

「うわっ!」

予想外の攻撃に回避する間もなく、エックスは弾力があるものの大質量の体当たりに堪らず壁に叩きつけられた。あのゼリーはある程度弾力も変えられるらしい。
ふらつく意識の中、次の攻撃を覚悟していたが来なかった。不審に思って見上げると、敵は再び浮かび上がって天井に張り付いて動こうとしない。

「充電中…?」

メカニロイドの周りに走る青い電流をエックスは悟った。あれだけのエネルギーの発散にはインターバルが必要ということか。
撃破するなら今がチャンスだ。…そういえばスパークは今どこだ?

「ふひゅひゅひゅ…電気(力)がほひーかぁ~?」

嫌な予感がして見回せば、酩酊状態のスパークが頭頂から火花を盛大に飛ばしながら、電力供給している敵の真横のパイプに上っていた。既に両者の距離は目と鼻の先だ。

「にゃらば…」
「あ、やめ…!」

振り上げられた腕を見てエックスが制止の声を上げたが、遅かった。

「くれてやるーーーーー!!!」

スパークの腕はゼリー状の膜を易々と貫き、巨大な片目を破壊しながら圧倒的なエネルギーを放出した。
そのあまりの熱量に大量の細胞液が蒸発していく。このままでは破壊されることを悟った敵はインターバルを中断してスパークから逃げるように距離を取った。
細胞膜もボロボロで、破損もひどくエネルギーが安定しない。だが、それを逃すほどエックスは甘くなかった。
中腰の姿勢でバスターを掲げ、浮いている敵に照準する。そしてエネルギーをチャージして、エックスはためらいなく敵を撃ち貫いた。



「いや~すっきり♪」

言葉どおり清々しい笑顔でスパークは言った。体内で飽和していた電力を発散させたせいか酩酊状態からすっかり回復している。爆発の余波で所々焦げてるが

「ああ、そう…」

それに対してエックスは生返事しか返せない。スパークが酔った勢いで無難に倒せたのは事実だが

「で…何だったんだろうコイツ」

スパークは粘液と機械の破片が撒き散らされた床を見た。あのあとエックスのフルチャージバスターに貫かれた敵は粘膜ごと木っ端微塵に四散してしまった。

「軍かラボかはわからないけど、一個の細胞を巨大化させる実験あったって聞いたことがある。手に負えなくなって処分されたと思っていたけど…」

多分反乱の前後に回収され再起動させられたのだろう。

「やだなぁ、そういう後先考えない科学者の話。世界一でかい細胞はダチョウの卵だけで十分なのに」
「…そうだね」
「さて、どうやって出よう?」

生まれた瞬間に「死ね」と言われた実験機の残骸に哀れみを覚えながらも、閉鎖された変電室から脱出するか考えあぐねたとき、一つだけ電子ロックの開く音が響いた。燃料プールに出る扉だ。

「……」

―――誘われている。二人はそう悟った。

「…離れないように」
「あいさ」

扉を開き、エックスは先行して部屋に入る前に再びメカニロイドの残骸を見た。あれはただの聞き間違い、爆発の余波による一時的な聴覚障害だろうか?

「どうしたの?」
「――大丈夫、中に入ろう」

気を取り直して、スパークを誘導しながらプール室に入る。この先にはマンドリラーが残っているのだ。
扉が閉まり、変電室は再び暗闇と変電器の音だけになった。

〈………マン…ド……ラー…〉

粉々になった残骸の呟きも暗闇とモーターの音の中に消えていった。



[30192] 豪速拳の雷王
Name: 黒金◆be2b059f ID:ee60a56e
Date: 2012/02/01 01:18
ハンターたちをジャンクの持っていた針金やタイヤで拘束した後、フリーズたちは彼らを所長室に放り込み、監視カメラでスパークの位置を確認すると暗号通信で連絡を取った。

〈049より021、聞こえる?〉
〈021、聞こえてる。みんな遅いよ!〉
〈連絡が来た時留守だったし、E国が情報を秘匿してた。だからアクアから事情聞いてすっ飛んできたんだよ〉
〈知ってる。エックスから聞いた。部隊の方はどうなってんの?〉
〈途中の通路を氷で塞いで時間稼ぎしといた。カメラの記録は今別の地下にいるシェードに任せている。そっちは?〉
〈タービン室までのルート以外全部塞がれちった。今エックスと進んでるよ。多分奥にマンドリルがいる〉

監視カメラでルートの確認をし、フリーズたちは顔を見合わせた。

〈招待状ってとこか…〉
〈それは間違いないと思う。一応炉心の方見ておいて。絶対何か仕掛けてるよ〉
〈でしょうねぇ。散り際に炉心融解を起こせば被害はもちろん結構な宣伝になりますし―――〉

最後の方でシェードが通信に入ってきた。

〈ハンターたちの通信ログに親衛隊の救援が来るとありました。炉心の方へ向かって警戒しておくべきかと…〉

下手すると、マンドリラーの預かり知らぬシナリオとして親衛隊が原子炉の破壊を実行する可能性がある。
人間にとって禁忌でも、機械の体を持つ者にはその限りではないのだ。今反乱軍に人間から支持をもらうための努力をする理由は無い。
スパークもシェードもそれを懸念していた。

〈どうせすぐ引き返せないし、とにかくマンドリルはエックスと一緒に何とかするから、みんなよろしく〉
〈よろしくったって、俺らのやれることってあんまないぞ?〉
〈炉心が暴走しそうになったらとにかく冷やしといて〉

スパークとの通信はそこで止まった。どうもマンドリラーのところに着いてしまったらしい。エックスと一緒にシメる気満々だ、この作業用(笑)は
再び、フリーズたちは顔を見合わせた。

「どうする?」
「…原子炉のところまで行くしかないだろう」

フリーズは肩を落としてため息混じりに言った。

「シェード、炉心までのモニターと管制よろしく」
〈承知しました〉

/*/

何もない通路を抜けると、タービン室の扉にたどり着いた。
エックスがそれを力任せに開けると、中はまた暗闇だった。だが、何かがいるのは暗視に変えるまでもなくわかった。
暗い天井付近で七色に明滅するランプが縦一列に見えた。それが合図であったように、広い部屋の照明が点灯される。
そして、天井の太いパイプに片手でぶら下がる巨大な猿の影が浮かび上がった。

「マンドリラー…」

エックスは苦い顔でかつての同僚の名を呼んだ。
来るとわかっていたスパーク・マンドリラーは、ものぐさそうながらも静かに床に降りてエックスに問いかけた。

「…シグマ隊長が 狂ってると思うかい エックス?」

シグマの名を聞いてエックスの顔がさらに険しくなる。

「ヤツはもう隊長なんかじゃない…イレギュラーだ!」

「なあ エックス…」マンドリラーはドリルではない腕の方でボリボリと頭を掻きながら言った。

「隊長が正しくて お前が間違ってると思ったことはないか…?」
「…」
「俺も 考えるのは苦手だ…答は戦えばわかるかもしれんな…」

表情の無い顔に何か遠くを見るような目をしながらそう語ると、マンドリラーは腕のドリルの出力を上げた。エックスもバスターを展開する。
しかし蚊帳の外に出されて黙っていないのが一人…

「ねえ、そこのマンドリル」
「何だい?お前さん」

一触即発の空気を邪魔されても邪険することなくマンドリラーは前に出たスパークに答えた。

「オイラはスパーク。ここの臨時雇いなんだけど、捕まえた職員はどうしたの?」

「ああ」とマンドリラーは思い出したように手を叩いた。

「そいつらなら、とりあえず奥に閉じ込めただけだから大丈夫だぞ。…多分」

本当にこいつは中央司令室にいた奴らに任せっぱなしだったんだなぁ…とスパークは改めて思った。

「何でこんなことしたの?人間のいうこと聞くの嫌になったんなら、こんなめんどくさいことしなくていいじゃん?」
「それもそうなんだが…隊長も俺も、試してぇことがあるんだ」
「何を?」
「そこにいるエックスがレプリロイドの未来かどうかさ。だが、その未来がどういうものかわからん…だから闘うのさ」

エックスの顔が強張るが、スパークには呆れた動機にしか聞こえなかった。

「なにそれ?つまりエックスとケンカしたいからうちの職場で立て籠りしたの」
「う~ん…立て籠った理由以外はそんなとこだな」

少し申し訳なさそうに話すマンドリラーにスパークは脱力感を覚えた。こんなアホな理由で自分は職場で一週間近くこそこそする羽目になったのか。
原因にされるエックスも憐れになってきた。ある意味兄以上に貧乏クジを引かされている。
痛む頭を抑えつつ、スパークは職場を優先した。

「…わかった。好きなだけエックスとタイマン張っていいからとりあえず外に出ていってよ。あんたのガタイと得物じゃ色々壊れそうだし」

ただでさえ、危険が伴う職場なのである。施設を解放したはいいが放射能まで解放されたら目も当てられない。
原発の職員はどこぞの電力会社のように電気代を値上げしてそれきりとはいかないのだ。

「悪いが…そうはいかん」
「なんで?」
「エックスとサシで勝負しようにも、外の連中は許さねぇだろ?」

その瞬間一気に空気が凍りついた。両者の主張が平行線を辿り、流石に見ていられなくなったエックスが前に出ようとした。

「スパーク…ここは俺に任せ…っ!?」

しかしエックスは顔をひきつらせて絶句する羽目になる。
スパークはニコニコ笑っていた。しかし目は一切笑ってなかった。しかも頭頂から火花が派手な音をたてながら飛び散っている。

「とにかく出ていってくんない?」
「邪魔するなら…お前さんも潰すよ?」
「この世から出ていってほしいの」
「しょうがねえな…」

そう言ってマンドリラーは面倒くさそうに二つ名の由縁たる豪速拳を振り抜き、スパークは両腕から放った電光球で迎え撃った。

/*/

「独り寂しく地の底で~♪地道にナビゲート~♪」

暗く湿気った地下通路の中、自作の歌が響く。シェードは一人配線を通じて三号炉に向かうフリーズ達のルートをモニターしていた。

「…って、この手の作業が一番適任なのは自分でもわかってんですけどね~」

前回潜入して基地の機能を掌握したアラスカの時とは反対に、今回は籠城戦の攻略である。
お陰でシェードの隠密性はいかんなく発揮されているが、やはりコウモリと言えど暗いところは気が滅入る。

〈こちら050、何か変な歌が聞こえたんだけど…〉
〈俺も〉
〈気のせいですよ、気のせい。あ、そこを右に曲がって真っ直ぐ進めば三号炉の設備内です〉
〈突入部隊はどうしてる?〉
〈たった今中央司令室に到着しましたよ。あとでビックリするでしょうね〉

シェードの電脳視界の中で防護服を着た人間たちが荒らされた司令室で戸惑ったように立ち尽くしている。すぐ横の所長室に放り込まれた哀れなハンターたちにすぐ気づくだろう。

〈シェード、そろそろトンズラしとけ。敵の援軍が来るなら多分地下からだ〉

一番敵の増援を気にしていたアクアがシェードに警告した。

〈…そうですね。今からそちらに合流して―――〉

カツン
暗い地下の通路に固いものが床を叩く音が響いた。
バッとシェードは音の方に振り返る。視界には暗闇しかない。
カツン
再び音が響いた。今までレーダーにも聴覚にも反応はなかったのに…足音はどんどんこちらに近づいてくる。

〈こちら055、十分経っても合流できなかったらスパークマンを連れて脱出を…〉

フリーズ達が何か言おうとしているのを無視して、シェードは強引に通信を切った。
そして視線の向こう、紫色のコートのようなアーマーを纏った痩身の影がビームサーベルの光によって浮かび上がった。

/*/

閃光と火花が部屋の中を白く染めた。危うく視覚を焼かれそうになったエックスは視界を手で覆ってしまう。それを彼自身が半ば後悔してしまった。
再び辺りを見回したとき、マンドリラーの姿を見失ってしまったのだ。スパークも同じくキョロキョロと首を動かす。

「あ、くそ!どこいった?」
「スパーク!横だ!!」
「え?ぶわっ!!」

閃光を隠れ蓑にスパークの死角に移動していたマンドリラーは、その巨躯と普段の態度からは想像できないような俊敏な動きで接近すると、その豪拳でスパークを殴り飛ばした。
華奢な構造のスパークはたまらず吹き飛び、壁にクレーターを作ってめり込んだ。
次に自分が狙われると悟ったエックスは拳を振り抜いた状態のマンドリラーにバスターを速射で撃ち込んだ。「豪速拳の雷王」の異名を持つマンドリラーの恐ろしさは接近戦の強さではなく、その俊敏さにあるのだ。
瞬間速度だけなら、かつて精鋭揃いの第17部隊でも「時空の残鉄鬼」ブーメル・クワンガーに次ぐレプリロイドである。照準して撃っていては当たってくれる相手ではない。だが、そのエックスのバスターをドリルの側面で防御すると、マンドリラーは影すら追い抜くような速さで部屋の中を縦横無尽に駆け回った。
天井のパイプにぶら下がり、振り子のように勢いをつけて天井を蹴り、その勢いを利用してエックスの眼前に迫った。

「!?」
「撃たせねぇんだな…」

発射寸前のバスターを手でそらし、マンドリラーはドリルをエックスの顔に叩き込まんと構えた。

「うりゃ!」

しかし軽い掛け声とともに肩に鋭い痛みを感じてマンドリラーは後ろを振り向いた。そこには先ほど気を失ったはずのスパークが鉄杭のような腕でマンドリラーの肩を刺し貫いていた。更にそこに電流を流され、マンドリラーはショックで仰け反った。
マンドリラーが力を抜いた瞬間、間一髪ドリルにヘルメットを少し抉られただけですんだエックスは手を振り払って転がるように横に逃げた。スパークもマンドリラーの振り抜き様の裏拳をもう片方の腕で捌きながらマンドリラーと距離を取る。

「おめぇさん、めんどくせぇからしばらく寝てろって」
「だったら少しは節電しろ電気泥棒!」

肩の穴から火花を飛ばしながら天井を移動するマンドリラーにスパークは叫ぶ。
壊す気で殴ったんだがなぁ…
そのわりには下でピンピンしているスパークを見下ろしながら、マンドリラーは首を捻った。
エックスにしてもそうだ。新しいフットパーツのお陰で移動力が上がっているようだが、不意を突かれたといえどあの一撃に反応してかわしたのには正直驚いた。明らかにエックスのステータスは成長している。
―――やっぱり隊長は間違っていなかったみてぇだ。
無限の可能性を持つレプリロイド。最初何のことかわからなかったが、それは無限の適応能力でもあるとマンドリラーは確信した。
下からエックスとスパークが自分を狙っている
。エックスの潜在能力を測るためにやはりあの作業用は邪魔だ。サンダースライマーとの戦闘をモニターしていたが、相性が悪い。
目眩ましに雷球を床に叩きつける。予想通りスパークがエックスの前に出て電流をもろにくらった。

「スパーク!?」
「元気100倍、スパークマ~ン!」
「…とりあえずありがとう」
「ど~いたしまして~」

咄嗟にスパークの身を案じたエックスだか、むしろ本当に元気になった彼を見てやはり電気を浴びれば浴びるほど活力が増すというデタラメな作業用であることを思い出した。
即座にマンドリラーの姿を探す。ちょうどマンドリラーは二人の真横に降り立ったところだった。
再び二人を薙ぎ払わんと豪速拳が唸りをあげてつき出される。
スパークは逃げずに腕を交差させてアームを挟んでその軌道を反らした。

「へへーん!クイック兄ちゃんに比べれば止まって見えるもんねー!」

あとパワーもエアー兄ちゃん程でもないし!と、スパークはマンドリラーの腕を折ろうと力を入れようとした。しかしその横っ面を動かなくなったドリルアームがひっぱたたいた。

「ぶっ!」

再び吹っ飛んだスパークはそのまま強化ガラスを突き破ってタービンの下に落ちた。

「まだこっちが残ってんだな」

解放されたものの痛む腕をプラプラさせながらマンドリラーは言った。
ガッシャーンというガラス片が床で更に砕ける音とともにスパークが配線に落ちたのだろう。かなり下から盛大に火花が咲いた。
スパークがしばらく上がってこれないことを確認したマンドリラーは再び部屋の中を動き回り出した。エックスもそれを目で追いながら間合いを詰められないように動く。
タイミングを計ってバスターを撃ち込むがやはり全てかわされ、逆に自分がマンドリラーの拳を受ける羽目になった。
先に後方に飛んで勢いを殺すが、それでも胴体部が悲鳴をあげる。縦横無尽な動きに単調な軌道のバスターでは対応しきれない。
やっぱり使うしかないか…
既にラボからマンドリラーの弱点は聞いているし、その為に搭載されたチップだ。
ただしエネルギーの消費が通常より倍になるし、施設内では被害が大きくなることであまり多用は出来なかった。しかしもう時間はかけられない。
―――ごめん、スパーク。
心の中でここを大事にしているスパークに謝り、エックスはバスターの中のシステムを起動させた。
何かを悟ったマンドリラーが迫ってくる。既に後ろは壁だった。
迫る標的にバスターを照準する。

「ショットガンアイス!」

バスターから高密度に圧縮された氷が発射される。
マンドリラーは上に飛び上がって避けた。しかしこの攻撃はそれでは終わらない。氷は壁に当たり、部屋の中で無数の礫をばらまいた。
そのいくつかは部屋の壁に穴をあけ、またいくつかがマンドリラーの体に貼り付いた。

「ペンギーゴの…!?」

戸惑うマンドリラーの体を氷の礫が侵食していく。電気を武器とする彼の体は極端な熱の変化に対応しきれないのだ。更に追い討ちにとエックスは再びショットガンアイスをマンドリラーに撃ち込んだ。
そしてあっという間にマンドリラーは氷の彫像となって地に落ちた。
終わったか?
エックスは氷に閉じ込められたマンドリラーに近づこうとしたが、マンドリラーの熱エネルギーが急上昇したのを見てバスターをチャージさせた。

「ぶるぅあぁぁぁぁぁ!!」

野生の咆哮さながらに吼えながらマンドリラーは自力で氷を破壊して起き上がった。今ので内燃装置がかなりのダメージを負っただろうに…さすが特A級。だが―――

「これで、終わりだ!」

臨界までチャージしたバスターショットが、マンドリラーの右半身を吹き飛ばした。



[30192] SOS原発
Name: 黒金◆be2b059f ID:ee60a56e
Date: 2012/02/05 13:31
胴体の右半分を失ったマンドリラーがどうっと後ろに倒れたのを見てとったエックスは、すぐ様割れた窓枠に乗り出して下を覗いた。

「スパーク!大丈夫か?」

形の変わったパイプや千切れた配線の向こうに、壁に腕を突き立てて必死によじ登ろうとするスパークの姿があった。

「大丈夫だよ~」

エックスはその言葉に安堵し、登ってきたスパークの手をとって部屋に引き入れた。
施設内の電源が落ちたのはその直後であった。

〈緊急事態発生!三号炉の制御システムにエラーが発生しました。担当の職員は直ちに…〉

/*/

シェードの安否を気にしながらもフリーズ達が炉心にたどり着いた頃、既に異変は起きていた。
炉心周辺の機械が破壊されていたのだ。

「ん?お、お前ら…誰?なんだな」

非常電灯が灯り、警報が鳴り響く中、破壊された機器の前で豚のような顔を持つ巨漢のレプリロイドが怪訝な顔でこちらを見た。
三人は即座に銃口を向けた。

「そりゃこっちの台詞だよ」
「動くなよ?でなきゃ放水プレーのち氷付けでカッチンカッチンだぜ?」
「そんでもってコナゴナだ」
「う、う~ん…」

いまいち反応のトロい敵に苛立ちそうになりながら、三人は相手の出方を待った。
しかし相手は全ての仕事を終わらせた後のようだ。

「お、おで…もうやることやったから、か、帰らなきゃならないんだな」
「ああん?」

自分達をものともしない態度にジャンクが気色ばむ。だが目の前の豚の亜人型はそれに構わず通信を始めた。

「アジール、ぶ、ぶっ壊したんだけど…ひ、人来ちゃったんだな」
〈―――え?あ、はいはい。こっちも一応終ったとこですよ。腕一本残して逃げられましたけど〉
「?アジール、だ、大丈夫?なんだな」
〈いや、ちょっと聴覚がやられてしまいましてね…そっちにいるのは確かにフリーズマンにジャンクマン、アクアマンですね〉
「と、とりあえず、この三人、ぶっ潰すんだな」

通信しながらレプリロイドは頭頂に付いているチェーンハンマーを握った。だが、通信の相手は待ったをかけた。

〈今はまだダメですよ。目的のデータも取ったし、引き上げましょ〉
「……が、合点なんだな」

多少不満を露にしながらも、豚の亜人型はその場から消えた。単体ワープである。
三人は声をあげる間もなかった。
そして三人だけになった部屋には制御機械の残骸と温度が上昇しつつある炉心…。

「どうしよう…」

三人は真っ青になって顔を見合わせた。
後ろから多数の足音が近づいてくる。間の悪いことに、中央司令室で状況を確認した人質たちと突入部隊の面々がここになだれ込んできたのだ。

/*/

スパークは機械の基準から見ても素早い手順で、半壊したマンドリラーの回路を口が聞けるように応急処置すると、鋭いハンダゴテの先をマンドリラーの眉間に突きつけた。

「念のため聞くけどさ、これどーゆーこと?」
「教えてくれ、マンドリラー!一体何を仕掛けたんだ?」

スパークは怒りの形相で、エックスは困惑の混じった真剣な表情で半死半生同然のマンドリラーに問い詰めた。
マンドリラーは一瞬何のことかわからない表情だったが、流れるアナウンスで何となく状況を理解した。

「多分…誰かが炉心に細工したかな?」
「これ、あんたの予定?」

問い質すスパークが更に力を入れる。それに対してマンドリラーは首を横に振った。

「うんにゃ、俺はそこまで考えるのは苦手だ…」

嘘をついている気配がないことを察した二人は、これ以上は時間の無駄だと悟った。マンドリラー自体も限界で、彼は意識を落としてしまった。
スパークはマンドリラーから腕を離し、エックスに任せるとすっくと立ち上がる。その顔には決意があった。

「…エックス、行ってくる。オレ、ここの修理工だから」
「…俺にできることは無いか?」
「外のみんなに出来るだけ遠くに逃げるように伝えて」

下手すれば炉心熔解の果て、溶けたジルコニウムが沈澱し、水素爆発の危険がある。そうなれば、放射能汚染で周辺は向こう数世紀死の土地となる。
命の危険は無限大だが、だからと言って職員が逃げるわけにはいかない。再び開いたドアを抜けて、スパークは炉心に向かった。

/*/

「だからっ!カメラのログ調べろっての!!」

ジャンクは自分達を取り囲む特殊部隊に怒鳴った。その手には奪ったアサルトライフルが握り潰されており、脇には丸腰になってしまった部隊員が羽交い締めされている。
彼らがなだれ込んで銃口を向けてきたとき、咄嗟にやってしまったことだ。

「その前に人質を解放しろ!」

部隊のリーダー格らしい男が叫ぶ。だが、すんなり譲るわけにはいかない。離した途端撃たれる可能性があった。
今ジャンクの後ろではフリーズとアクアが一心不乱に氷を作って炉心の冷却に当たっているのだ。
しかし犯人と思われている以上、人質を取っている同然の状況はまずい。部隊員たちの後ろで職員たちが炉心の状況を気にしながら、処置に移っていいのか狼狽えている。

「答えろ!ここの設備を破壊したのはお前たちか?」

また同じ質問をされて、ジャンクのただでさえ短い回路が臨界に達した。

「いい加減にしろ!」

怒りのままジャンクは抱えていた隊員をそいつに投げ飛ばした。たまらず二人重なって倒れ込む。

「今はそれどころじゃねえだろ!?これをどうにかしねぇと皆死んじまうんだぞ!!」

大喝一声、ジャンクはその場で座り込んだ。

「俺はここから動かねえぞ」

唖然とする一同の中で最初に正気に戻ったのは職員たちだった。彼らは目の前で理解できる状況から整理にかかる。まだ壊れていない機器に走りより、直ぐに状態をチェックする。

「燃料の供給を止めろ!」
「注水パイプの状態は?」
「司令室に連絡しろ!燃料棒を降ろすんだ!」

しかし状況は絶望的に近かった。
燃料棒が降りるためのシステム機器が破壊されていたのだ。コンソールがメチャクチャで、火花が飛んでいる。とても触れる状態ではない。

「スパークは…スパークは今どこにいる!?」

対処に当たっていた職員の一人が神にすがるような面持ちで叫んだ。その間にも炉心の温度は上がり、表面の氷を片端から溶かしていく。

「フリーズ、もうダメだ!弾切れならぬ水切れになりそう…」
「黙ってろ!」

フリーズとアクアも内部システムを全開にしているが、既に千日手に入っていた。限界が近い。
その時乱暴にドアが開かれた。

「みんな!遅くなってゴメン」

全速力でタービン室から走ってきたスパークがたった今到着したところだった。
武装隊に構わず機器に近づき無事な配線を見つけて繋ぎあわせていく。

「ジャンク、手伝って!他の人も!!」
「おっしゃ!」

スパークの一声でジャンクは飛び上がるようにして武装隊の輪を抜けると、寸断されたパイプなどの取り出しにかかった。
慌てて後を追うように部隊の面々も作業に加わっていく。
着々と急造のシステムが修理されていく中、肝心の中央司令室に繋がるシステム基盤が大破していた。

「コード繋いで!オイラが中継する!!」

スパークはかつての先達であるエレキマンの例に則ってファイバーコードを次々と自分の端子に繋いでいった。
元来充電型ロボットとして作られたスパークと、管制制御型として作られたエレキマンとではシステムに干渉する容量が違う。しかし、殆ど司令室からの操作ができない今やるしかなかった。

「始めるぞ…!」

全員が緊張した面持ちでスパークを注視する。
大容量の情報がスパークの電脳を通過し続ける。そのたびに頭頂から大きな火花が飛んだ。

時間が過ぎる。一分…二分…三分…そして十分…全員が固唾を飲んで経過を見守る中、警報が止まった。

〈炉心の停止を確認しました。職員は引き続きシステムのチェックを行ってください〉

無機質なアナウンスが流れる中、それを皮切りに建屋は大喝采に沸き返った。その中でスパークは糸が切れたように大の字に倒れこんだ。

「疲れた…」

見慣れた天井を仰ぎながら、スパークたちは呟いた。



[30192] 雨のあと~おうちへ帰ろう~
Name: 黒金◆be2b059f ID:ee60a56e
Date: 2012/02/09 01:43
発電所の外に出ると、パラパラ降っていた雨は止んでいた。
電脳錠をかけて逮捕したマンドリラーとその部下を仲間と共に運送し、ビーブレイダーのカーゴへ厳重に収納する。あとは死体と同じ扱いでシティのラボに移送していくだけだ。
あれからマンドリラーの意識は戻らない。目覚めるとしたらラボの解析室で強制的に、だろう。
まるで生きたまま墓場に連れて行く気分だった。しかし、これでこの街を悩ませていた発電所の立て籠り事件は解決する。人質になっていた職員も全員家に帰れるのだ。
ただ、やはりエックスには気がかりはある。
一つはスパークのこと。エックスはマンドリラーたちを確保したら直ぐに現場から撤収することになっている。そのため、暴走しかけた炉心を何とかするために別れた彼とは、その後会うことが出来なかった。暴走が止められたことから、彼の働きは成功したのだろうが…色々聞けずじまいで終わってしまいそうだ。
そしてもう一つは―――占拠中の電力の供給先と、プールに沈められていたはずの使用済み核燃料の行方である。

/*/

職場を取り戻し、日常が戻った。壊されたり、作り替えられたりしたところは多いが、修理できないものではない。
それが全部すんだら皆家に帰って家族に会って、自分も基地に帰ってE缶飲んで寝て―――明日になったらまたいつものように仕事をするのだ。

「それがなんでこーなるの!?」

IAEAの輸送トラックのコンテナの中で拘束されたスパークは叫ぶのであった。その隣には同じく拘束されたフリーズ、ジャンク、アクアの三人がいる。

「そりゃこっちの台詞だっての!」
「世の中ままならないってことさな」


アクアが怒鳴り、フリーズが溜め息と共に言った。

「うわぁん!シグマのアホっ!ハゲ!!俺の今月分の苦労と給料返せーー!!!」

あの後、四人はもちろん炉心の制御にあたった職員全員が外で待機していた国際原子力機関のスタッフから放射線チェックの名目で身柄を一時拘束されてしまった。
もちろん、一週間ストレスと戦ってきた彼らは怒った。特に家族持ちは再会を心の支えにしていただけに酷いものである。
しかし彼らはまだいい。病院でしばらく隔離生活を送るかもしれないが、その間に家族との面会や連絡が許可されるだろう。
問題はスパーク達である。特にスパークの腕から一定値以上の放射能が検出されてしまったのだ。
ただでさえ素性が定かでない彼らは問答無用で検査機関に連行される羽目になった。気心の知れた職員が止めに入ってくれたが、それも無駄に終わってしまった。

「プールでジェル落としたからかな?」
「このヴァカっ!」

まあ腕だけならまるごと産廃にされることはない。しかしこの国にロボットの人権など無いのだ。何を調べらるかわかったものではない。自分の中身を解析されて入れ換えられるなどゴメンだ。
そうなればやることは一つ。

「…逃げよっか」
「賛成、シェードと連絡が取れないのが気になる」
「つーか、こんな鎖で俺らをおとなしくできると思ってんかね?あいつら」

言うや否や、力任せで拘束を解いたジャンクが懐から装置を取り出して電子錠の解析にかかる。鍵が外れるまで数分もかからなかった。

「あとは…」
「任せとけ」

ジャンクが勢いよく拳を振り抜いて、コンテナの天井に大穴を開けた。穴の向こうに雲と青空が見える。運転手が何か叫んでいるが気にしない。
自由の身になった四人は、次々と穴から這い出して外に出た。
外はまだ人里から離れた森の中、周囲には付き添いの軍用車とパトカーが数台のみだった。

「ほれ」

車走る速度を計算して、ジャンクは(手作りの)スタングレネードを道路に放り投げた。
閃光と爆発音で運転手たちがパニックを起こし、ハンドルを大きく切って道端に次々と突っ込んでいく。
それをみてとり、四人はトラックから飛び降りると森の中へ逃げ込んだ。ダメ出しにフリーズとアクアが路面を凍結させておく。

「ここからどうする?」
「とりあえず引き返そう。海側から潜水艇に戻らんと帰れんし」

走りながらこれからを考える四人の頭上に巨大な影が落ちた。

〈その必要はありません!〉

見上げれば小型飛空挺メカが自分等の頭上に降下しようするところだった。

「シェード、無事だったのか!?」
〈詳しい説明は後!早く乗りなさい!!片腕で操縦ってきついんですよ〉

昇降ロープが投げ落とされ、四人がそれに捕まる(スパークはジャンクに背負ってもらった)と急速浮上し、全員を収納すると全速力で国の領空から脱出した。


目的地を入力し、飛行をオートにすると片腕のシェードは操縦席に背を深く預けた。実際彼は隻腕になっただけでなくひどい有り様だった。翼はボロボロで身体中傷のないところがない状況である。

「とりあえず、レーダー圏内から出れましたね」
「行き先は海底基地か?」
「明日には坊っちゃんが出発しますからね。修理はとにかく直接報告したいことが山ほどありますから」
「例の援軍か?」
「至近距離でクラッシュノイズかましてやりましたけど、多分ピンピンしてますよ。ああ、腹立たしい」
「それで無くしたのが腕だけなら儲けものだよ」

シェードの見せた戦闘記録を見たフリーズが言った。

「クイック並の加速力なんてありえないし…」
「こんなのがシティにいたらもっと平和になってるよ」

長背痩身の男性が予備動作もなく斬りかかってくる映像を観ながら呟く。
この後、散々なぶられるように刻まれたシェードは片腕を犠牲にしてゼロ距離攻撃で敵を撒いたのだ。

「とにかく、そっちが会ったという豚さんも含めて彼の顔を送って照会を頼みましょう」
「出るといいけどなぁ…」

対極的な二体の敵の映像写真を見ながら、フリーズとシェードは何故か彼らに戦力的脅威以上の嫌な予感を感じていた。

「ぐっすん…」

一方、スパークはカーゴの隅で項垂れていた。その両脇でジャンクとアクアが宥めにかかる。

「だから、そう落ち込むなっての」
「そーだって。今の時代働き口ならいくらでもあるし。とりあえず基地に着いてから考えようや」
「うっさいばかぁ…」

しかし覇気の無い罵りが漏れたのを見て、二人はお手上げと首を横にふった。とりあえず、基地に着くまで一人にした方が良さそうだ。
やがて一人にされたスパークは窓の外を見た。このまま行けば、久々にアルフォンスやサードの兄弟に会える。しかし、長らく気心の知れた職場に戻れないかもしれないと思うとやっぱり悲しい。
アルフォンスに会ったら、とにかく愚痴ってやろう。それで嫌な気持ちを吐き出したら、エックスと一緒に活躍したことを自慢して話そう。
―――ロックマンとは違うけど、とってもいい奴だったよって



[30192] 設定(幕間~発電所編)
Name: 黒金◆be2b059f ID:ee60a56e
Date: 2012/02/09 01:49
・スパーク 迸る閃光【BGM.Dancing Spark】
制式名称DWN.023 スパークマン
小惑星αの調査プロジェクトにおいて充電用の作業用ロボットを戦闘用に改造したもの。強力な発電力を持ち、実にエレキマンの2倍だが、放出方法は充電用のシステムを開放しているだけなので、エレキマンほどの攻撃力は無い。
改造後は「スパークショック」等の放電攻撃まで出来るようになっているが、常に電気を垂れ流していないとショートしてしまう構造。でもヒートよりははるかに安定している。
思考回路にムラがあるらしく、戦闘以外はボーっとしている。普段はおとぼけ屋としてみんなを笑わせている。仲間のロボットのエネルギー補給役。
その技術を活かして、発電所のアルバイトなどで生計を立てている。


・アクア 水の原型【BGM.水も滴るいい男】
正式名称DWN.064 アクアマン
元は水道局で水質管理などをしていたロボット。腹のタンクを利用して水を操る。
自称「水も滴るいい男」。けど水太り。下品で冗談好きな性格の持ち主。特殊水風船である特殊武器「ウォーターバルーン」や、高度水圧砲の「ウォーターキャノン」を放つ。
現在昔とった杵柄を活かして下水道関係のアルバイトを転々としている。


・スパーク・マンドリラー 豪速拳の雷王
マンドリル型レプリロイド。元第17部隊所属、つまりエックスの同僚。
隊長であったシグマに従う形で反乱に参加し、その圧倒的な戦闘力で巨大発電所を占拠。拠点制圧は部下に任せ自分はごろ寝を決め込んで好物の電気を貪り食っている。気だるそうにゆっくりと喋るのが特徴。
難しい事を考えるのは苦手で、シグマに賛同した動機も単に「間違っているようには見えなかったから」と短絡的な物であった。早い話直感的なものぐさマンドリルである。

・ストーム・イーグリード 天空の貴公子
鷲型レプリロイド。第7空挺部隊の隊長を務めていた。
人望と正義感に厚く、ゼロの旧い戦友であり、エアーにとっては「宿敵」と書いて「とも」と呼ばす存在。
当初は反乱を起こしたシグマと対立していたが、シティ・アーベルでの直接対決で敗れ、その軍門に下ってしまう。どうも人質を取られた模様。
本作でもやはり悲劇のイケメンである。しかし♂なのに卵形爆弾はいかがなものか?




[30192] 幕間 不確定要素
Name: 黒金◆be2b059f ID:ee60a56e
Date: 2012/02/14 16:44
アルフォンス・L・ワイリーの幼い頃、まだ生身であった頃の記憶はあやふやになっている。
時間の経過もあるが、やはりその前後に負った頭部への損傷が原因だろう。
それまでは政府機関が運営する施設で、大人達が出す宿題(と言うより新技術を確立するための論文作成。今同じようにこなせと言われたら無理)をこなしながら「母さん」と暮らしていたと思う。
宿題はつまらなかったが、「母さん」は基本優しかったし、仕事の合間彼の世話も良くした。アルフォンスも彼女の前ではどこにでもいる子供になれた。
しかし、それは突然終わりを告げた。
きっかけはそれこそわからない。ただアルフォンスが覚えているのは、迫る瓦礫と、吹き上げる炎と黒煙。その下で頭から血を流して動かなくなった「母さん」と、動かない自分の身体を炎が焼いていく激痛だけであった。

―――助けて、死にたくない。

声の出ない喉で叫んだが、聞き届ける者は当然おらず、それを理解した幼い彼は絶望したまま死ぬはずだった。

そんな彼を地獄から救い上げたのが、忍装束のロボットだけだった。
その瞬間、アルフォンスにとってロボットは「家族」になった。

/*/

基地に着いてみると、そこは新築でした。
と、フリーズは川端康成の小説の出だしのパロディが出そうになった。

「よぉお前ら、久しぶりだな」
「それはそうだけどマグ兄さん…なにその格好?」
「なにって…掃除着に決まってんだろ?」

空水両用メカで海底に潜り、出てきた四人を出迎えたのは新築同然に綺麗になったドックと白い割烹着姿のマグであった。

「掃除って…ここを一人で?」
「いんや、流石にジョーたちに手伝ってもらったけど」

隅を見ればくたびれ果てたであろう警備のジョー達が重なるように壁にもたれていた。整理整頓に妥協を許さない。それがマグネットマンである。

「ところで、ジュニアは?」
「連絡受けて準備して待ってる。早く顔見せてやんな」

マグに促され、満身創痍のシェードをストレッチャーに乗せて四人はドックに降り立った。
奥にいくと大型メカの整備室と人間型ロボット用の治療室がある。
過去、前線基地であったここは、人間が生活することを想定した居住区というものが無い。メカが生産されたらすぐに船に搭載運用できるようにだ。
その治療室の椅子で仮眠を取っていたら、昔の悪夢を見たエンカーことアルフォンスははっきり言って最悪の気分だった。
そこへシェード(身内)の負傷である。ジャングルでの疲れなど一気に消し飛んだ。
急ぎ設備を立ち上げて、シェードのデータと、それを基に報告にあった損傷に適した修理プランを弾き出す。
マグの助けで万全の体制を整え、ストレッチャーで運ばてきれたシェードを迎えた。

「待っていたよ。今の状態は?」
「意識ははっきりしている。あとごめん、腕は回収できなかった」
「腕の部品は揃ってる。とにかく中へ。CTでチェックだ」
「坊っちゃん、優しくしてくださいね?」
「そうしてほしかったらおとなしくしてろ」

シェードをストレッチャーからスキャナーへ移し、CTを作動させる。
赤外線が移動する端からシェードの状態がモニターに映し出される。肩口から断絶された腕以外は神経系、動力炉などに問題は無いが、表面の損傷が激しい。シェードが必死で回避し続けた結果でもあるが、相手が意図して決定打を与えなかったのが見え隠れしていた。
身内をいたぶった襲撃者に対して沸々わく殺意を抑えながら、チェックする箇所を調べていく。

「見事にビームサーベルでやられてんな…装甲ひっぺがすついでに首からの神経回路丸々更新せにゃ」

渋い顔で呟くエンカーに「そこまですんの?」とジャンクが尋ねた。

「お前みたいにバラバラになっても大丈夫ならとにかく。新しい腕くっつけて終わりとはいかないの。肩口の間接から新調して、中枢から神経繋げ直して調整しないと」

ジャンク以外のロボットがウンウン、と頷く。
人間でも損失した部位の移植は可能だが、以前のように動かせるかとなると話は別である。一度失った部位に神経を通すのは機械でも至難の技なのだ。

「シェード、そういうことだからしばらく電源落とすよ」
「了解」

とにかく爆発の危険があるほどの重傷でなくてよかった。でなければエンカーと言えど強化ガラス越しに作業しなければならないところだ。
装甲をはがし、配線を選り分けて肩の間接部からわずかに残った上腕の骨格を外す。

「アル~、腕作っとくから後で話聞いて~」
「おう、任せた。マグ、用意してあげて」
「あいよ」

別ブースでの作業をスパークとジャンクたちに任せ、エンカーは目の前の作業に専念した。

「しっかし、こいつが純戦闘型でないにしても文字通り一本とる奴なんてどこのどいつだ?今ロールアウトしてるハンターで数えるほどだぞ?」
「ハンターじゃないかもしれない」
「何?」
「今アストロに照会してもらっているけど、少なくともそっちから貰っていたハンターリストの中に相手のデータは無かった。レプリフォースにもだ」
「…そうとしたら0部隊出身か、あるいはラボ以外の科学者の作品か…」

イレギュラーハンター本部には「存在しない部隊」として第0部隊が存在している。事件を裏から処理する部隊として、構成員はいずれも隠密、隠滅、潜入に特化したレプリロイドで、その経歴が表に出ることはない。
シティで非合法に活動しているシャドーたちの組織も何度か接触している。アストロを忍ばせているとは言え、今だ全貌が把握できているか不明だ。
次にエンカーが思い至ったのが、ラボ以外、またはラボを追放された元シティのレプリロイド工学者だ。
レプリロイド製造の黎明期には都市企画班との意見との相違によって研究を断念された工学者は少なくない。
実際エンカーも何人かそれらしい人物に心当たりはある。そういう人物も技術的バックにいる可能性を考慮してマークしているが、灰色なのは殆どシティの中で生活している。つまりシティの監視下にあり、更に街にはシャドーたちがいる。
国外に亡命したのは、殆どレプリロイド製造の技術は持っていない。あっても遭遇したレプリロイドほどの傑作は不可能だ。それこそ祖父ほどの理論構築がなければ…

「あとでシェードの記録映像見せるけど、本当に不確定要素(イレギュラー)だよ」
「全くだな…」

シティだけでなく現場の偵察部隊を増員させるべきであった。
相手を少し甘く見ていたツケである。
自分の不甲斐なさに頭を痛めながらエンカーはシェードの断線した神経を丁寧に外していった。



後書き
感想掲示板でも書きましたが、近い内リアル生活での都合のため、しばらく執筆活動を停止します。
今まで応援してくださった皆様に、お詫び申し上げます。



[30192] シティ・アーベル24時
Name: 黒金◆be2b059f ID:ee60a56e
Date: 2012/02/22 02:25
シティ・アーベルの中央区にはイレギュラーハンター本部とはべつに壮麗な白亜の建造物が存在している。
総合管理局の庁舎である。
その最上階で、理石と年代物のアンティークが配された豪奢なオフィスの主である参謀長官、金髪碧眼の女性型レプリロイド「リーン」は、広い机の上で山積みになった報告資料に目を通していた。
その作業の最中、机の上の電話機が鳴り出す。リーンはボタンを押して応答した。

〈ライン7よりイレギュラーハンター本部から連絡が〉
「繋いで」

冷ややかながら鈴を転がすような声で答えると、電話の相手はすぐ変わった。
用件は既に承知していた。E国での発電所解放の一件とその波紋についてだろう。

「第三国会議を前に少々強引だったわね。NHKとBBCが放送を開始するわ」
〈ええ、見ています。報告ですが―〉
「首脳部からまた(・・)人間が減り、FBIが書類を乱し、各国の大使館でイス取り合戦が始まる報告ね?」
〈既に有力候補のガードを固めています〉

報告を聞き終え、リーンは次々わき上がる問題に頭を痛める。
ふと、部屋の中をビーブレイダーのライトがよぎったのを彼女は見た。タイムスケジュールから誰が乗っているのかわかった。彼女のオフィスから見えるシティの摩天楼群。
その中を飛ぶ一機のビーブレイダーを認めて、リーンは憂いとも安堵ともつかぬ表情で呟いた。

「帰ってきたのね。エックス…」

その顔には冷徹な参謀長官のときに決して浮かべることの無い、懐かしい身内への慈愛があった。

/*/

ビーブレイダーでシティに着いたのは夜。
イレギュラーハンター本部の屋上ヘリポートに降りたエックスは、処理班の手でマンドリラーがストレッチゃーでラボ行きの輸送機に移されるのを見送った後、すぐに第17部隊の庁舎に入った。
報告しなければならないことが今回多すぎるし、先に帰還したゼロ達が空路でデスログマーの襲撃を受けたと聞いていても立ってもいられなかったからだ。
庁舎に入るとゼロはすぐ見つかった。休憩用のロビーで備え付けのソファーに座って何やら考え込んでいるところだった。
思い詰めた雰囲気だったが、とにかく無事な姿に安堵し声をかける。

「…ゼロ」
「エックス…戻ったのか?」

その場にいることに今気づいたと言わんばかりに振り向いたゼロにエックスは苦笑いしながら応えた。

「ついさっきだ」
「…マンドリラーは倒せたか?」
「なんとか…と言っても、俺一人の力じゃないけど。マンドリラーはさっきラボに移送されたよ。俺も報告書出したらそっちに行かないと…」
「そうか。俺もカメリーオの件でな…」
「帰りに空路でデスログマーに襲われたって聞いたけど…」
「ああ…心配かけたな。だがこの通り大丈夫だ」

受け答えをするゼロにいつもの覇気が無い。やはり、イーグリードに会ったのだろう。
エックスは敢えてそこに触れる気になれなかった。顔見知り、知り合い程度の自分と違い、ゼロにとって旧い戦友なのだ。自分もあのイーグリードがいかなる理由か計り知れないが、離反してしまったことには未だ信じられない気持ちだ。
デスログマーは敵に占拠されてしまったのであって、イーグリード以下第7部隊はどこかで再起を図っているのだと思ってしまう。

「イーグリードに会った…」

しかし、現実は過酷だった。

「…!」
「あいつがシグマに降ったのは間違いなさそうだ。…覚悟はしていたが」

気まずい沈黙が流れる。

「俺も他人のことは言えないな」
「そんな…」
「わかっている」

自嘲するゼロにエックスは思わず咎めそうになるが、それはゼロ自身が遮った。

「―――次に出会った時は撃つ」

その言葉は、決意と共に紡がれた。

「それに、悶々と悩んでお前に置いていかれるわけには行かないからな。シグナスから聞いたぞ?強化案が出来たんだって」

そう笑って、「いつの間にか変わったそのフットパーツもそのせいだろ?」と、ゼロはエックスの白いフットパーツを指差した。

「ああ、これは…」
「おお!ここにいたのか?エックス」

エックスが言いかけた時、通路の向こうから作業着を着た中年の科学者が息を切らしながら走ってきた。ラボの技術員だ。

「カメリーオのチップの用意が出来たから、すぐに来てくれ!…ってどうしたんだそのフットパーツは!?」
「いや、カプセルに入ったらこうなって…」
「カプセル!?まさか白と青のカプセルかね?」

思わず頷いた時、興奮した技術員の目が更に輝いた。
―――まずい。と思ったがもう遅い。エックスの周りには、いつの間にか気配を殺して接近していた他の技術員がスタンバイしていた。
横にいたゼロを見ればやれやれと首を横に降っている。

「ちょうどいい。実はそれに関係することで協力してほしいことがあるんだ。ラボについたら詳しく聞かせてくれないか?」
「いや、その前に報告書の作成と提出が…」
「大丈夫!データをまとめたらそれを代わりに提出しておくから」

何が大丈夫なのかという反論も空しくエックスは技術員達に担がれてひったてられていった。
「あ~~~」という叫びが哀愁を誘う。何故か売られる子牛の歌がゼロの頭の中に浮かんだ。
しかしそこではたと気づく。誰にレポート作成を手伝わすんだ。俺
その時最後尾にいた技術員が思い出したようにゼロに声をかけた。

「あ、ゼロ。もうすぐカメリーオの脳殻にダイヴするから、君も見に来るか?」
「行く」

結局、エックスの後についていく形でゼロもラボに向かうことになった。

/*/

エックスが科学者達にドナドナされた頃、開発地区付近の海岸で一隻の船から離れた小型潜水艇がたどり着いていた。

〈頭領、若大将がお見えになりました。第三倉庫に誘導します〉
〈わかった。すぐ行く〉

部下の報告を聞きながら見晴らしのいいビルの上からそれを認めたシャドーは、煙管の煙を消した。
倉庫の中に潜水艇を誘導して隠すと、乗っていた男は顔を隠す黒いヘルメットを外した。その下から短く切り揃えた赤い髪が露になる。

「お待ちしておりました。御曹司」
「状況は?」

恭しく出迎えたシャドーに対し、エンカーは冷徹に報告を求めた。

「カメリーオの電脳防壁がレベル4まで解除され、二時間後には作業を開始します。参加メンバーはこちらです」

エンカーはメディアを受け取り、それを送信機器(トランス)に接続すると、内部に記録された研究者の顔と経歴をダウンロードする。壮壮たる面子を記憶する作業はナノ秒単位で終わった。

「それと10分前にマンドリラーがラボに移送されました。後でエックスとゼロも到着する予定です」
「そうか…で、例のイレギュラーの件は?」
「過去のイレギュラーハンター、レプリフォース、犯罪組織、脱走者、凍結処分された初期型レプリロイドのロットルから全て照合をかけましたが、いずれも該当するレプリロイドは存在せず。ただ確認された二体はそれぞれ超高機動型と重装甲パワー型であり、共に高出力のレプリロイドと推測されます」
「わかっているのは、シグマの下で掃除役を買っていることか…引き続き、そちらの調査を任せる」
「御意」
「さてと…」

エンカーは黒いジャケットを脱ぎ、素早く研究所へ向かうための服に着替えた。上着の中には既に偽造用のIDタグが入っている。
倉庫の外に停めてあった車へシャドーと共に乗り込み、目的のラボへと向かった。
開発地区を抜け、繁華街へ出る。ここを抜ければすぐ高速道路だが、いつもと違う人通りの寂しさがエンカーには気になった。

「…スパークがライト博士のカプセルを見たとおっしゃっていましたな」

運転しているシャドーが静かに口を開いた。それにエンカーは視線を動かさずに応えた。

「ああ、途中からだから詳しい内容は聞き取れなかったらしいが」
「それと同じものが南米とアラスカの基地で発見されたそうです」

バイザーの下でエンカーは目を見開いた。

「エックスがラボに召集されたのはその関係もあるでしょう。ウェポンチェンジシステムが解放された途端に…どちらが先かはともかく、偶然とは思えませぬ」

まるでトーマス・ライトが生きていて、このタイミングを見計らったかのような事態にシャドーが危機感を覚えるのも無理はなかった。
葬られた過去は、ある日悪夢のように甦る。かつて生きながら焼かれた過去の夢は虫の知らせだったのだろうか?

「俺たちが一世紀越しに復活してるんだ。ライト博士がエックスのために何か遺していても不思議じゃない」

もしかしたら自分の知らない祖父の遺産があって、今世界のどこかで自分たちを見ているかもしれない。
そんな嫌な想像を振り払うようにエンカーは言った。

「とにかく今は、シグマを仕留めることに専念しよう。エックスが俺達の敵になるかどうかは―――それからだ」



後書き
予定日過ぎて頭来たんで、出来上がった文をageます。オリジナル出してなんですが、次は来年です……



[30192] 番外編 gdgdな日々
Name: 黒金◆be2b059f ID:a7e4b7e3
Date: 2012/03/11 11:33
息子が何かしょうとするときは確証が無くても確信できてしまうのが父親である。実際なってみて実感してしまう。
特にこの三ヶ月がそうだ。夜の店の残業を嫌がらなくなった。
この日の閉店後も、息子は今日の分の収入を計算しては「あと〇〇ゼニー♪」とやたらご機嫌だった。

「月光」
「あん?」

最近声をかけただけでやけに邪険にされる(多分昔色々いじったせいだ)が、それでも聞いておきたいのが親心である。

「…最近チョコチョコため込んでいるようだが、何か買うのか?」
「…そうだけど、別に組織の金に手ぇつける気はねえぞ?」
「当たり前だ。ただ気になったから聞いてみたんだろ?」
「別にあんたにはカンケーねぇよ」

そう素っ気なく言って息子は店の掃除を始めた。
ふむん、息子よ。その反応はかえって逆効果だ。余計調べ尽くしたくなるぞ。
だが真相は案外すぐに発覚した。

「お頭~月刊モーターズが届きましたよ~」
「あ」

ぱたぱたと月桂が持ってきた中型バイクのカタログ誌を見て息子は「しまった」とばかりに声をあげた。
そして青ざめた顔でこちらへ振り返り、ひきつる。
とりあえず、親として真っ当な判断を下すことにした。

/*/

シティ・アーベル東地区。今日もHEIWAな午後の昼下がり、M&G探偵事務所は暇だった。
どれほどかと一言言えば―――

「なーVAVA」
「あん?」
「お前さ、こんなことしてて大丈夫なの?」

サボりにきた名物イレギュラーハンターと赤い磁石頭が長時間某傭兵ゲームでカチャカチャと対戦するくらいにである。

「何言ってやがる?実弾が正義でアリサワが神だろ?おらPA剥くぞ」
「ASミサイル舐めるなガチタン信者。ってちげーよ!現役のイレギュラーハンターがこんなところで遊んでたらウチに鉄砲玉カチこんできちまうだろ?こないだの連中まだ捕まりきってないんだろ?報復に来たらどう責任取んの?」
「…めんどくせぇ」
「いや、めんどくせぇじゃなくて」

などとグダグダな会話をしながら画面中の戦闘は白熱し、それを横目にもう一人の探偵は紅茶を片手に新聞を読みながら一言呟くのであった。

「平和だなぁ…」

だがそれもすぐに破られた。天井裏から出てきた半泣きのニンジャによって

「叔父サーン!聞いてくれよぉーーー!!」
「なんだぁぁ!!?」

思わず絶叫するジェミニ。その後ろでVAVAが冷静にフロストランナーを照準し発射。マグが止める間も無かった。


ワイリー軍団の科学で製造された防弾ガラスは見事フロストランナーの衝撃に耐えきった。お陰で周辺への被害は爆音だけで済んだ。

「でもいきなりフロストランナーはねぇだろ?」
「いや、不審者で不法侵入者だったからつい、な」
「ああ…さっき片付けたばっかの書類が…」

爆風で書類等が飛び散らかった部屋を見てマグは途方にくれた。

「あんたら俺の心配もしてくれ」

こんがり焦げた若いニンジャの声はスルーされた。

「ったく死ぬかと思ったぞ」
「で?またあのバカニンジャ愛人作ったのか?」
「いや、それだったらここ来る前に俺が殺しにいくから」

こんな会話になるのも以前シャドーの女性遍歴(本人いわく「色々心に隙間が出来まして」)が原因でシティ・アーベル全域を巻き込んだ親子喧嘩が起きたからだ。それが探偵たち月光との最初の出会いであった。
接客用の皮ソファーに座り、改めてジェミニたちは対応する。ちなみにVAVAは我関せずと隣の部屋で寛いでいる。

「あー…周りには内緒にするつもりだったんだけど」

気恥ずかしげに頭をかきながら月光は「ま、バレたからいいか」言いながらと切り出した。

「自前のアシが欲しくてバイク買おうと思ったんだよ」
「ほう、それで?」
「…そしたらよりによってクソ親父にカタログ買ったのがバレてさ」
「なるほど、こっぴどく叱られたと」
「いんや、何も言わず笑顔で体固め決められた」

その時の事を思い出したのか月光は歯軋りしながら答えた。

「めんどくせぇことになると思って隠していたのは悪かったかもしれねーけど、そこまでされにゃならんのかと!?」
「あー…ところでバイクはバイクでもライドチェイサーか?」
「いや、若大将が乗ってるのと同じタイプ。中型で色々改造できるのがいいと思って」
「…………………」

とりあえずマットでくるんで窓の外に吊るしとこうかコイツ。
と思ったが、二人はぐっと堪えて笑顔で若者に苦言を呈すことにした。

「バイク買うのはいいけど中型はやめとけ」
「パーツつけるのはやめとけ」
「特にサイドカーつけるのはやめとけ」
「新車はやめとけ」
「アドバイスどころかとことん夢壊しにかかった!?」

何かいい機種を紹介してくれるものと期待していた青年はことごとくダメ出しされたことに愕然とした。

「なんだよ!結局叔父さんたちまで反対すんのか!?」
「バカヤロー!俺がお前の頃にバイク欲しいなんて言った日にゃ兄鬼に笑顔でチキンフェイスロックかけられたんだぞ!!体固めくらいなんだー!!!」

「コクッて音したんだぞ!?」当時の事を振り返り涙ながらマグは吠え「まあまあ」とジェミニが宥めにはいる。

「ともかく、ほとぼり冷めるまで待ってそれから隠れて中古買った方がいいんじゃないか?」
「別に高いの買う気は無いけど何で中古に拘るんだ…?」
「バカ野郎、最初に買ったヤツは受かれたあまりに絶対壊すって俺の中では決まってんだよ」

「俺なんか三日でスピンして全損したぞ」と真顔で語るジェミニの顔には鬼気迫るものがあった。

「ったく…さっきから聞いてりゃかったりぃ…」

平行線な会話に業を煮やしたのか、のそりと隣の部屋からVAVAが顔を出して入ってきた。

「バイクにこだわる時点でガキの会話だぞお前ら」
「む、じゃあ四輪がいいとかって話かよ?」
「違うな」

VAVAは表情の見えないフルヘルメット越しでもわかるほど真顔で言い切った。

「漢は黙ってライドアーマーだろ?」

/*/

「親方様。さしでがましいですが――」

「明月」のプライベート座敷で、月桂はかしこまって煙管をふかすシャドーに物申した。

「うん?」
「お頭はただ遊び心で二輪が欲しいわけではないのですから、そう厳しくなさらずよいと思います」
「それはわかっとるさ。ただ欲しいと思ってるうちは許す気は無い」
「欲しくなくなったら許すと?」
「まあな。それなら浮かれてバカやることもなかろうし」

再びシャドーは煙管の紫煙を吐き出した。

「まあ、俺としては四輪に興味持って欲しかったんだがな」
「車ですか?」
「イベント事にシノビマスター貸してやれるからな」

余計欲しがらなくなりそうなんでですが…
月桂は倉庫の奥にしまった蛙型F1カーに思いを馳せる主への心の声を封印した。

/*/

夜。VAVAのライドアーマーのアセンブル及びロマン重機講座を聞かされた月光はほとほと疲れながらエンカーのガレージに来ていた。

「最初からこっちに行けばよかった」
「そりゃ御愁傷様。あいつこと火力とライドアーマー関係は熱くなるからな」

疲れはてた月光にエンカーは相棒のV‐MAXのギアを調整しながら笑い飛ばした。

「まあバイクは車より手軽な感はあるけど、元来走行車としては無茶な設計だからな。事故った時の心中率も車の倍だし」
「俺がそんなに運転音痴に見えるのか?」
「弘法も筆の誤りってな。うまい下手は関係ないよ。事故るときは事故っちまうもんさ。みんなお前のこと心配してんだよ」

そう言いながらエンカーは調整を終えると、パーツを入れた箱を引っ張りだしながら優しく諭した。

「ところで俺は購入に反対しないんだが…」

ガサゴソと何かを漁ったかと思えば、エンカーは小型ミサイルポッドやら何かのコードやらを手に笑顔で振り向いた。

「ミサイルつける?それとも粘着ワイヤーにしとく。壁とかタワー登るのにいけるぜ?練習いるけど。マキビシは必須だよな。あと飛び道具は…」

―――しまった。と月光は思った。
若大将は改造(アセンブル)好きだったんだ。
そして月光は夜が明けるまでエンカーの「戦闘バイクの強化及びアセンブル講座」を延々と聞かされる羽目になった。

チャンチャン



[30192] ラボ襲撃
Name: 黒金◆be2b059f ID:a7e4b7e3
Date: 2012/07/04 22:57
この街で「ラボ」と言えば、「ケインラボ」と市民の殆どが答える。
しかしミサイルが撃ち込まれて以来ケインラボは周辺を含めて復旧工事の最中であり、責任者であるケイン自身も現在獄中の人である。
そのため、急遽もうひとつの研究所(しかも外装が建造中)を借りて、スタッフが研究やサンプルの保管をすることになった。
それがシティ・アーベル公立研究所「デュシス」である。

「よ!」
「よ!じゃねーよ…」

受付にフリーパス(偽)を見せ、奥に通されたエンカーは、通りかかったロビーで珈琲を飲んでくつろいでいるスネークマンを見て脱力した。幸い周囲に人目は無かった。

「依頼主のところに戻ったんじゃなかったのか?」
「手前の仕事の結末くらい見ておこうと思ってさ。さっきエックスとゼロが調整室の方に行ったぜ。おもしろい顔されたよ。見に行くか?」
「会うつもりは無いな。面が割れてる」
「あっそ。それから―――地下駐車場に装甲バンが二台。片方は六課のナカムラとイギリスのクラーク教授だ」
「―――」

神妙な声音の中にある意味を読み解く。

「ナカムラがカメリーオの中身欲しがっていたからその関係かな~?と思っていたが…ま、警戒しとくこった」

それだけ言って、スネークはまた何もなかったように珈琲をチビチビ飲み始めた。エンカーも黙って奥へと向かう。

〈シャドー、そっちは?〉
〈条約審議部のナカムラ課長とジョージ・クラーク教授が作業ブロックへ向かうのが監視カメラで確認されました。これが映像です〉

地下駐車場に停めた車の中で待機させたシャドーから施設内の監視カメラの映像がピックアップされる。
送信された監視カメラの映像には、丸いサングラスをかけた恰幅のよい、だが深いシワの刻まれた壮年のアジア人と典型的ブリテン人の特徴をもった長身の白人がエレベーターから出てくるところだった。それからしばらくしてエレベーターのドアがゆっくり(・・・・)閉まった。
違和感を感じたエンカーはその時刻の施設内の全センサーを調べあげた。

〈…施設のエレベーターの感圧計は正常か。ナカムラは外交の仕事を引き受けてるから義体化は殆どしてないよな?〉
〈外交上の配慮がありますからな。教授が手首から上を義体化しておりますが…〉
〈それだけで男二人で300キロ越えることはありえないか。早速キナ臭くなったな、準備は?〉
〈いつでも〉

腕の中の仕込みボウガンが正常に作動するか確認しながら、エンカーは早足で奥へ向かった。

/*/

一個の器官だけにされてなお生かされているのはやはり見るに耐えないものがある。
ゼロも仕事柄、脳殻を残して義体を奪われる事件に遭遇したことはあるが、やはり白い金属製の脳殻に次々とコードが繋がれていく作業は見慣れることはできない。
カメリーオの制御チップ搭載テストのために調整用コードをあちこち繋がれたエックスもかなりのものではあったが

「出力、上げるぞ」

作業服のスタッフが合図を出して電力のレバーを上げる。電圧が上がると共にカメリーオの脳殻の中のα波、β波(正確には人間のそれに近い信号)が3Dモニターの中で波を作った。カメリーオの脳殻の機能が覚醒したのだ。

「信号を確認」
「モニタリング、開始」

作業台の奥で脊椎の送信機器にファイバーをいくつも差し込んだ赤毛の男が操作盤を素早く操作し、別のモニターに映し出された記憶ロックを解析していく。
自分も殉職するようなことがあったら、こうしてデータをサンプリングされていくのだろうか…
そんな憂鬱なことをボンヤリ考えていた時、作業ブロックの入り口から東洋人と白人の二人組が入ってきた。見学ブースに控えていた現場の監督らしき男たちの顔が険しくなる。

「手短かにすまそう」
「そうしたいところですな」

何やらややこしい事になったのはすぐにわかった。作業員たちも手を止めてそのやり取りを注視した。

「こいつの記憶を回収しに来た」
「何の権限があって?」
「それを今から説明する」

作業台にあるキーボードに教授が座り、両手のギミックを解放。十から二十になった金属の指がすさまじい速度でパネルを打ち込み、解析していく。表示されていく膨大な情報に目を通し、教授は無表情のまま言った。

「確認した。レベル7の意識野にある」

何のことかと一同が首を捻る中、ナカムラが頷き説明を始めた。

「三年前、メキシコの大使館で小型核が使われかけた事件があった。もっとも核は搬入中に誤爆し、開戦の危機は免れたが…」

今や「キューバ危機」にあやかって「メキシコ危機」と呼ばれる事件だが、それはさておき。
ロシアから持ち込まれた小型核を反体制テロリストが使おうとしたのを、アメリカやシティの工作員が阻止したのである(結局起爆させてしまったが)。だが

「その際にアメリカの機密文書が何者かに盗まれた。先日までの捜査により発覚したその下手人が―――」
「カメリーオ、だと?」
「そうだ」

ナカムラは黒い丸眼鏡越しにカメリーオの脳殻を見やった。

「奴は米帝とブラジルの要請で捕らえたし、その情報だけでも持って米帝に引き渡したい」
「彼の記憶はひとかけも残さずバラされて各国の機密保管室に納められるわけか…」

わかった。そんなものいくらでもくれてやるから早く作業させろ。
自分が作業員だったら間違いなくナカムラにそう言うだろうとゼロは思った。第9部隊、特にカメリーオが何かと外交関係で後ろ暗い仕事を引き受けていたらしいのは知っていたが、それがここまで来てめんどくさいことになるとは―――
少なくとも今の状況で重要なのはシグマの所在と人質にされてしまっている第7の隊員の居場所である。
横から条約審議部に昔の事件の話ででしゃばられても困るだけだ。
いい加減イライラしたところで、突然室内の全ての照明が落ちた。
そして駆け込んでくる複数の足音…

「センサーが作動しなかったのか!?」
「伏せろ!」

全員が動揺する中、ゼロは素早く物陰に隠れるかいなかという瞬間銃撃が彼を襲った。
ナカムラの相手をしていた技術主任も見えない誰かに突き飛ばされ、銃撃で飛び散ったコンソールのパネルで技術員の何人が悲鳴をあげる。
何が起こったのかわからないまま投げ込まれた煙幕弾が晴れた頃には、カメリーオの脳殻は影も形も無かった。
続けて爆発音。壁をぶち抜く音とともに外で車が急発進する音をゼロは危機逃さなかった。

「センター!敵襲だ!!これより追跡に入る」

すぐに廊下へ飛び出し、ライドチェイサーのある駐車場に向かう。その間別の棟でも煙が上がっているのが見えた。
警報が鳴り響く中、ゼロは自分と同様に侵入者を追跡にかかった黒づくめの人物に気づくことは無かった。




[30192] 追跡
Name: 黒金◆be2b059f ID:f7384541
Date: 2013/07/30 02:01
再び爆発音。別のブロックが破壊されたのを音で感じたゼロは、ライドチェイサーのエンジンキーを回しながら毒づいた。

「クソ!警備は何してたんだ」

調整室から飛び出したエックスもチェイサーのエンジンをかける。

「いけるな?エックス」
「いけるよ!むしろ助かった」

情報収集のための膨大な調整とテストから逃げ出せたと冗談混じりに返す親友に苦笑しながら、ゼロはエックスと共に襲撃者の車を追って夜の摩天楼に向かって駆け出した。



一方、作業室で室長が警備部に繋いだ無線機に怒鳴っていた。

「大至急道路だ!レプリロイドのボディと脳殻を積んだ車を探せ!!それと誰でもいい。表で目撃者の証言を集めろ!!」

その後ろでナカムラは腹立たしげにスーツの埃を払いながら言った。

「この件は大臣に正式に抗議させてもらうからな!奴を探しだし私に報告したまえ!もちろん生きたままだぞ」

「ボディならいくらでも作れるからな!」と言い捨てて、彼は教授と共に作業室から出ていった。
あまりの態度に室長が怒りのあまり無線機を破壊しかけたのは言うまでもない。

C4によって爆破された外壁から黒煙と粉塵が吐き出されると同時に中から光学迷彩を纏った戦闘員たちがワイヤーで飛び降り、裏から回ってきたバンに回収された。
バンはそのまま狭い路地をフルスピードで抜けようとした。自分達を追って緑色の亜人レプリロイドが後ろで銃を構えたがバックミラーで確認できたが、構わず発進させる。
その進行を別方向から通りかかった清掃車に追突しそうになったため、やむなく急停止せざるえなかった。
車体に響いた小さな衝撃でナンバープレートに銃弾を撃ち込まれたのが分かったが、それどころではない。
「バカヤロー!死にてーのか!!」と月並みな文句を聞きながら、運転手は譲ってもらった僅かな隙間から改めてフルスピードで公道へと抜けていった。

<うまくいったか?>

襲撃者が去っていたのを確認したスネークはどこかで同じ状況を見ている兄弟に自信と余裕をもって応えた。

<ナンバープレートに一発。いい腕だろ?まあ、どうせ途中で乗り換えるだろうから、ついでサーチスネーク一匹仕込んどいたぜ。あとナカムラにも発信器一個、カメリーオの脳殻にも三個>
<フェイクも含め目標は部下たちにも追わせる。何かあったらすぐに連絡しろ>
<ジュニアは?>
<既に拙者の隣で高速の監視カメラに入って目標を追っている>

スネークの視界の隅で地下駐車場から公道へと猛スピードで向かう見覚えのある車が映った。

/*/

ジオフロアへと続くトンネルの中、ナカムラは尾行する車が無いことを確認すると車を運転する部下に指示を出した。

「マーロフのこけかたが不自然だった…。合流地点をBに変更。尾行確認を厳重にしろ。…その前に第八ベッドへ。車を替えて着替えもすませる」

ナカムラは自分の体に発信器がつけられていることを知っているわけではない。だが、行く先々でそうした危険に晒される立場であり、半ば職業病なのだ。
もっともスネークはそれを見越して生身に直接生体発信器もつけていたが。

「了解」運転手は短く返事をしてナビの目的地を第八ベッドに設定し直した。

「襲撃犯を仕立ててばらまきますか?」
「我々は慈善事業をやっているのではない。それにSWATとイレギュラーハンターを甘く見るな」

/*/

〈話を纏めよう〉

S級ハンターが居合わせながら何をしていたのかとゼロに説教したあと、激昂のあまり吹き出した熱を鎮めたシグナスは普段の冷静な声に戻して言った。

〈カメリーオは以前から秘密裏で条約審議部の要請を受け、国外での工作活動に従事していた〉

公道に入ってすぐに白のベンツに乗り換えた目標を、視界の中に捉えながらゼロは情報を整理していった。

〈最初は任務成功を確実にするための『導入』であり、そういった国外での活動を見越しての第9部隊設立だから問題はなかったはずだったが、何度も繰り返している内にカメリーオ自身がシティや条約審議部に不利益な機密を知るようになった。まあ、隊長の方も似たようなものだったがな〉
〈そしてその第9部隊長が死亡しカメリーオがシグマについたため、レプリロイドをただの機材と無意識で侮っていたナカムラはどうにかして奴を回収できないものかと焦った〉
〈だから工作員が南米まででしゃばってきたわけだ〉
〈そしてイレギュラーハンターがカメリーオの情報回収に移ると汚い手で奴の脳殻を持ち去った〉
〈そんなことをしなくても調書を出せば譲渡出来るはずなのに…〉

二人の通信を聞いていたエックスはやりきれない感情を覚えながらもまず思った疑問を口にした。
それに横にいたゼロが答える。

〈証拠繋ぎはまだだが、調書の後だとまずかったんじゃないか?駐車場の出庫データに光学迷彩装備といい、なりふり構わない事態なんだろう〉

信号が変わると同時に一般車に紛れ込むように走り出すベンツを見届け、ゼロとエックスは再びライドチェイサーを進行させた。

〈三分後に第3ルートに入って尾行を0部隊に引き継ぐ。その後目立たないようにアシを変えて置こう〉

ライドチェイサーに乗ってアーマーを装備したレプリロイドでは目立ちすぎる。
ゼロはディスプレイで目標が二手に別れたのを確認すると、上空を飛ぶビーブレイダーが白のセダンを追っている間に何処の駐車場からアシを調達しようかと考えていた。

/*/

『明月』の最上階奥に設置されている『影』の情報室で、狐の亜人レプリロイド(女性型)白梅は自身とサーバーに送られてくる大量の情報を整理しながらカメリーオの脳殻を奪った条約審議部の履歴とナカムラの動向を探っていた。
既に空港に外交官のアクセスを全てチェックし、ナカムラがアメリカ原潜へ向かうために空軍基地への便を要請していることはつかんでいる。
そちらは既にSWATが空港に先回りして彼を待ち構えているので終わっているも同然。条約審議部がシグマと繋がっていないことが無いことが証明された。
現在彼女は反乱軍の介入の可能性を探るためシティ周辺、内部に不審な動きが無いかのチェックに入っていた。
そこへ突然若大将に同行している首領から通信が入った。

〈白梅、そちらはもういい。こっちを調べてくれ〉

送られてきたのは先程襲撃されたデュシス内のエレベーターの監視カメラのログ。ナカムラとクラーク教授がエレベーターから出る瞬間の映像だった。

〈この白人の身元と口座を洗ってくれ。どうもまた米帝が絡んでる〉
〈少々お待ちを〉

白梅はコンソールを操作し、横に設置された3Dディスプレイに目的の情報―――ジョージ・クラークの等身大の立体映像が再生された。

〈確かに生まれと卒業はイギリスですが、現在の籍はアメリカG.A社戦略研究部長です。外務省が絡むんですか?〉
〈ソイツの周辺を徹底的に洗え。イレギュラーハンターもSWATも同じことをやっているだろうが心してかかれ〉
〈承知いたしました〉

通信の終了と同時に白梅の周囲のトランスデバイスが起動し、肩と頭部に装着されていく。
北米一二を争う兵器会社の部長となればトップクラスの防壁があるはず。直接アクセスすれば確実に焼かれるだろう。白梅はまず家族のルートで銀行の操作を誘発することにした。
身代わり防壁を装備しているが、命懸けの捜査の始まりである。

/*/

「あーー!!?」

エックスはビルの立体駐車場の中で親友の所業に悲鳴を上げた。
「アシを変える」と言って駐車場に入ってライドチェイサーを止めた後、目ぼしい車のキーを無理矢理(シかも馴れた手つきで)解除して乗り込んでしまったのである。てっきり場所を借りて置いておいた車を使うと思い込んでいたエックスはただ呆然と見ながら悲鳴を上げるしかなかった。

「何ボウッと突っ立ってるんだ?置いていくぞ」
「いや、ゼロ!お前がやってるのは明らかに盗難だから!!」
「いちいち気前のいいやつ探して徴収してたら夜明けになっちまうだろ」

そう言いながらゼロがエンジンを確認し、燃料をチェックしていく。

「ゼロより本部」
〈本部です。どうぞ〉
「北9区オクトーバービル駐車場で車両盗難発生。それ俺だから警察の方で処理しといてくれ。以上」
〈またですか?〉
「今〈また〉って言った!?イレギュラーハンターが盗難していいの!!」
「だったらここで待ってるか?」

ヘルメットを外して出来るだけ人間に見えるようにと着々用意していく相棒にエックスの中で何かが切れた。

「ああもう!分かったよ行けばいいんだろ!!」
「わかればよし」

エックスが乱暴に助手席シートに座りドアを閉めた後、同じようにヘルメットを外すのを見てゼロはアクセルを踏み急発進させて駐車場を出た。

「三分後に尾行再交代だ。SWATも合流して奴らを抑えるぞ。ナカムラが接触するところを押さえたかったが、野郎高飛びの準備始めやがった!」

ディスプレイに表示されたルートマップを確認するゼロに「これでいいのかイレギュラーハンター…」とエックスは小さく呟いた。

/*/

白のセダンの進行ルートでは先回りしたSWATによる感圧起動式対車両用地雷が設置され、周辺の高層ビルではスナイパーが配置されていた。

「セット完了」
〈目標の後続車に一般車両は無いな?〉
〈ありません。到着まであと二キロ〉

事前にネットで検問の情報を流したため、一般車両の姿はない。目標の後続車両はゼロたちが乗る車だけで、車間距離も二キロ以上離れている。
白のセダンのライトがSWATの隊員の視界に入った時乗っていた二人の工作員の運命は決まっていた。
検問があるとわかっても既に遅い。
急ブレーキをかけてUターンしようとしたが、後ろから全速力で突っ込んできた黒のミニワゴン(言うまでもなく運転手はゼロ)に横当てされ、滑るように地雷に突っ込む羽目になった。

「よし!」
「よし!じゃないぃぃぃぃ!!」

ゼロが小さくガッツポーズを取ってエックスが悲鳴のような突っ込みを叫んでいる間に、煙をあげるセダンに二発の銃弾が撃ち込まれた。
いずれもが防弾仕様の車体をやすやすと貫通し運転手の男を肉塊に変えた。
ゼロとエックスが車を降りて半壊のサイドウィンドウを叩き割ってバスターを突きつけて制圧した時には車内は血の海で、生き残った男に戦意は完全に失われていた。

「スカだ」

空の後部座席を見てゼロは舌打ち混じりに呟いた。

「…ゼロ、一旦本部に戻ってもう1つの方に行こう。今廃棄地区に向かっているらしいとの情報が入った」
「となると海で引き渡す気だな…まだ0部隊が追っているはずだが海に出られると手が出せなくなるな」

「よし、行こう」と、まだ動けるミニワゴンに向かうゼロを追う形でエックスも続いたが、ふと振り返り改めて現場を見た。
先程確保された男は既に地面に組伏せられ、穴の空いたセダンから道路へと血が流れ始めていた。
そんな凄惨な現場もSWATの隊員たちを含めた人間たちがテキパキと処理していく。

「ここまですることないのに…」

エックスが呟くと同時に空から大粒の雨が振りだした。今夜のシティ・アーベルは雨の予報が出ていたんだった。
降雨はレプリロイドにとっても視界を妨げる原因になる。
手遅れになる前に何とかしないと。
エックスはやりきれない思いを振り払って車に乗り込んだ。



[30192] 交錯
Name: 黒金◆be2b059f ID:8bdc35e0
Date: 2013/11/03 13:36
煌めく摩天楼の上に雨が降り注ぐ。
総合監理局のウインドウにもそれは容赦なく当たり、中から見える景色を流すように曇らせていく。リーンはそれを直立不動で見ていた。

〈コール3です〉

FBIからだ。執務机の受信機に振りむかずリーンは短く言った。

「繋いで」
〈エースです。空港でナカムラと教授を確保しました。現在本局に移動中です〉
「脳殻の行方は?」
〈追跡中の0部隊によれば旧市街地に入った模様です。引き渡しは海での可能性が高いので、海上封鎖の認可を申請します〉

旧市街はシティ・アーベル発足以前から存在している廃墟であり、工事関係者いわく再開発地区とも言う。
世界中のそれと同じく戦争の置き土産が所々存在するので、一般人は立ち入ろうとしない。
だが、時たま法の光が当たらないのを利用して犯罪者が塒にするケースが少なくない。海側に面している区画は特に密入国、密輸にもってこいだ。

「許可します」

カメリーオの脳殻にシグマの行方が記録されているのかは不明だが、それ抜きでもイレギュラーハンターを含めたシティ・アーベル警察組織の組織情報が流出するのは何としても避けたい。
通信を切ると同時に別のコールが入る。
コールブルー。今これで通信してくるのは一人しかいない。リーンは眉をしかめながら通信に応えた。

「……私よ」
〈ワイリーJrを確認した〉

リーンは職務中のそれとは違うぶっきらぼうな対応で当たり、映像を出さない相手も低いがよく通る声で短く要点だけ伝えた。
それだけで総合監理局行政府の女王の身を強張らせるに充分だった。
同時に送られた画像が更に緊張を高めた。そこには数週間前にハイウェイで暴走メカニロイド群相手に戦闘していた黒いバイクの青年の姿だった。

「場所は?」
〈西地区ルート118だ。尾行をつけたが恐らく青の車を追って旧市街へ向かっている〉
「彼もカメリーオの情報を狙っていると?」
〈多分デュシスに張り付いていたか潜り込んでいたか…いずれにしろ、タイミングが合いすぎる。海域だけでなく周辺空域にも警戒を出してくれ〉

空戦用ロボットを何体も有するワイリー軍団が介入した場合、第7空挺部隊を失って空の戦力に穴の空いたシティ・アーベルで対処しきれない。下手すればアメリカと武力衝突するより問題だ。

「わかったわ。その代わり何としても脳殻を確保しなさい」
〈了解だ〉

通信が終了し、リーンは再び独りとなり外の景色に目を戻した。雨はいよいよ世界を洗い流すかのような錯覚を与えるほど強く降りだしていた。
それがリーンには厚い壁のように感じられた。

「まるでマザー事件の時のようね …」

『ここの雨はただ冷たい。檻の冷たさまでが伝わるよう』
いつかシティ・アーベル失陥を企てた実行犯の一人が事件前にそう漏らしていたという報告書を思い出した。
人類の理想郷を目指して創られたシティ・アーベルはそこに住む人々が豊かに暮らすことが前提である。だからと言ってレプリロイドやメカニロイドは『パーツ』ではあるが、貴族に使われる奴隷ではない。もしそうであれば人類に貴族意識による増長と閉鎖的な退廃を促してしまう。それでは自律した意思を持つ人間は育たず、現在世界の命題である様々な復興はなし得ない。
だからレプリロイドは隣人であると同時にあくまで機械と社会の仲介者として存在するのだ。
それはソドムと同じ過ちを繰り返さないための抑制剤でもある。
だが、今でもここへ入植する人間の中にはシティ・アーベルを『人工園で囲った檻』と表現する者はいる。
ーーー人間は自分から檻に入りたがる動物だ。
いつかここでそんな感想をリーンは抱いていたが、その逆もまた然りである。
今は機械とレプリロイドが檻からの脱却を図り、それを利用して組織や列強が画策を始めるーーー。
殻か孵化する寸前のヒヨコか。カルネアデスの板だ。
悲観的になっているなとリーンは自分をニュートラルに切り換えるよう勤めた。
きっとエックスが海外から戻って間もないと言うのに、色々重なった挙げ句直接的なことはロクデナシの兄に任せるしかないからだ。
戦闘用で無くとも、自分には自分の戦い方がある。だから自分はここにいるのだとリーンは自分に言い聞かせた。


/*/

移動中、バイト明けの時給戦隊を叩き起こしたエンカー達は交代しながら目標の青い車を追い続けた。
光輝く街中を離れてしばらく、暗く沈黙を湛えた廃墟はジャングルの中で獲物を待ち受けるそれと同じ気配に包まれていた。
シャドーは車上で尾行させていた青竹から連絡を受けていた。

〈目標が停止しました。場所は旧文化ホール〉
〈内部の状況は確認できるか?〉
〈そこまでは…なにぶん周辺のECMがひどくて解析画像が出せませぬ。ただあそこは旧市街の中でも水没が酷くて廃棄された区画故に逃げ込むには適さぬはずですが〉
〈罠だな〉

通信を傍受していたクリスタルが短く言った。

〈ナカムラが海上基地まで行きたがったのなら、そこまで海路で移送するつもりだろう。港に向かわなかったってことは…〉
〈ヘリか、船かな?こりゃ絶対番犬がいるなぁ〉

下手すると水陸用戦車がいるな。自動だったらもっと嫌だ。あいつらには廃墟の中で散々追い回され仲間のサイボーグ兵士が何人もミンチにされた。

〈御曹司、先に拙者が潜ります〉
〈任せる〉

シャドーが影に入り、助手席が空になると同時にエンカーは車をまだ屋根のある廃墟に入れてボンネットを開けた。
中には大小の銃火器とともに電脳潜行の機器が積まれていた。
空を仰げば夜間作戦用のビーブレイダーが音もなく上空を通り過ぎて行くところだった。暗視スコープに映らぬよう屋内へ身を隠す。
ビーブレイダーは件の廃墟ホール上空に停空した。そして降下ワイヤーが降ろされるともに、黒い人影がホールの屋上へ降りていった。多分、0部隊の先行だろう。
エンカーは時給戦隊が車でついたのを確認すると、雨の廃墟の先を見据えた。

/*/

〈なあ、増援を待った方がいいんじゃないか?〉
〈急ぐ理由があるんだ。海上から回ってつけてくれ〉

待ち伏せの可能性が出たことで0部隊副隊長である蜂型亜人レプリロイド、エクスプローズ・ホーネックは隊長のブルーに進言したが、本人は却下してすぐに降下の準備し始めてしまった。
屋上の風化し錆びたアスファルトに降り立ったブルーは脇のHV弾サブマシンガンが正常なのを確認し、小型ジェラルミンケースに入った予備兵装を足元に置いて屋上の作業員用出入り口の状態を見る。

〈監視と中継を開始する〉
〈ヤバくなったらすぐに離脱しろ〉

両開きの鉄製の扉を開けるとむき出しのコンクリートと埃の匂いが溢れだした。ホールの中に錆びた蝶番が回る音が嫌に響くのをブルーは感じた。
戦時中の煽りを受けて訪れる者も修復する者も無くなって海に沈みつつある今でも、ホールは設計者の理想を残して天井のガラスがうっすら光を集めて内部を照らしていた。その中央で停止している青の車は場違いのように見えた。
運転席には誰もいない。どこへ隠れた?
視界を赤外線モードに切り替えた時に車に不自然な陽炎が見えた。車に覆い被さる様に見える四本足の影が動いてーーーブルーのいる中二階へ首をもたげた。
次の瞬間、何十もの鋼鉄が吐き出される音がホールに響き渡った。

/*/

エンカーが廃墟に止まったトラックに気づいたのは偶然だった。索敵しながら進行していた時にそれが視界に入った瞬間、ニューヨーク廃墟で自律無人戦車の奇襲を受けた時と同じ悪寒に襲われたのだ。
荷台の大きさとサスのへこみが殆ど一致していたからだ。しかもまだ新しい車の外装は周囲から明らかに浮いていた。エンカーは自分の直感を信じた。

「ストーン!あのトラックを破壊しろ!!」

ストーンは一瞬『何故?』と動揺したが、その鋭い叫びにただならぬものを察して、手に持っていたチェーンマシンガンで例のトラックを攻撃した。
荷台に弾が当たった時に何かに弾が跳ね返った手応えがあった。
爆発し吹き上がる炎と黒煙の中から巨大な影が浮かび上がった。円柱状の四本足と赤く光る二つのカメラアイ。鈍色のシルエット。のそりと動いたその巨体を目にして全員が一斉に瓦礫の中に隠れた。

〈ドイツの歩行戦車だ!〉
〈散開しろ!〉

通信越しで叫ぶも徹鋼弾の嵐が先ずストーンを襲った。特殊加工はされているとは言え、石で覆われた彼の装甲はたちまち粉砕された。

〈ジュニア!ストーンが…〉
〈生きてるなら死んだふりさせろ。俺が囮になる。奴が離れたら助けるんだ〉

でないと全員が粉々にされるぞ。エンカーは閃光弾のピンを外すと戦車の前に放り投げた。あたりが一瞬昼のように明るくなるとエンカーは瓦礫の影からサブマシンガンを戦車の機関銃部分へ集中砲火して破壊。注意が自分に向いたことを確認して瞬時に奥へ身を隠した。
しかしそれで戦車の戦力に支障が出るわけでもなく、戦車は問題なく進行し、反撃のチェーンガンがエンカーのいる瓦礫に向けられた。

〈024、そっちの状況は?〉

だめ押しの主砲で危うく炙り出されそうなのを瓦礫の下でしのぎながら潜入しているシャドーに通信を送った。

〈現在0部隊が光学迷彩をした敵兵装と交戦中。おそらく小型の歩行戦車だと思われます〉
〈こっちも歩行戦車の待ち伏せをくらった。ストーンが中破。俺が囮になって引き付けてる〉
〈装備は?〉
〈対歩兵装備一式。赤松はここから近いか?〉

赤松は『影』の中で砲撃戦と爆破に特化した部隊『松』の隊長である。ナパームやグレネードが傭兵として世界中を回るようになってからは、シティ内でエンカーがもっとも信頼できる戦力の一つであった。

〈そこまでだと二十分の場所に…チャージかグラビティは!?〉
〈退路確保に残してきた〉
〈脱出してください!せめて拙者が戻るまで…〉
〈駄目だ〉

エンカーは却下した。

〈カメリーオの脳殻に爆薬が仕掛けられている可能性が高い。それに今対応している0部隊が奪取に成功するとは限らない〉

どのみち、シャドーの影から影へ移動するスキルは対象の正確な位置が把握できなければ発動できない。結果シャドーもここへは自力で移動しなければならないのだ。

〈ジャイロ、敵は?〉
〈さっきの主砲でお前を仕留めたか確認している。ストーンは回収したからしばらく隠れてろ。対戦車ライフル転送してもらって狙撃する〉

エンカーはネズミのように這いながら瓦礫の隙間を潜って廃墟の奥に入っていった。そして戦車の目を掻い潜るためにむき出しになった鉄骨や柱を足場に高度を取った。
戦車はそれ自体も脅威だが、歩兵もまた死に繋がる脅威である。戦車砲撃でチームが散り散りなった所を後ろから一人ずつ刈られるなど、大戦では日常茶飯事だった。あの頃は誰もが血で出来た泥の中を歩いていた。
通路の角に差し掛かった際に聞こえた足音を耳にしたとき、エンカーは影に隠れてナイフを取り出した。予想通り敵なら角から出てきた所を刺殺するためだ。
だが、相手は角から出てきたと同時に前のめりに倒れこんだ。電脳錠をされたサイボーグ兵だった。
虚をつかれ思わずナイフを下ろしたのが不味かった。いつの間にか何者かが後ろに回り込んでいたのだ。ナイフを取りあげられ、飛び退いて後ろへ銃を向けた。

「撃つな。戦車に気取らる前に話がある」

有無を言わさぬ警告と共に光学迷彩を解いて現れたのは、赤い装甲のムカデ型亜人レプリロイド、マグネ・ヒャクレッガーであった。エンカーもデータで知っている0部隊のA級工作員である。
お互いに銃を向けて牽制する。いつの間にここに?いや、こいつはかなり前から自分達を尾行していたのだ。でなくば俺がここにいることに気づいた時点でそこに転がっている奴と同じようにしているはずだ。

「話だと?」
「戦車を排除したい。その為に共闘を提案する」

そう言ったヒャクレッガーの後頭部に銃が突きつけられた。
二人が見た先で、いつの間にかそこにいたスネークがニカッと笑った。エンカーはナイフをしまった。

「話、聞こうか」

/*/

背にしたコンクリートの柱がドンドン削れていくのを音と振動で感じながらブルーは上にいるホーネックに叫んだ。

「天窓を落とせ!!」

ホーネックの行動は早かった。直ぐに手持ちの爆弾を天窓の上に放り投げ、起爆。吹き飛んだガラスの破片が雨とともに中のホールに降り注いだ。
その二つの雨からついに輪郭を現したのは鈍色の多脚戦車であった。
肩越しで確認したブルーは絶望的な戦力差に舌打ちした。

〈戦車だと!?〉
〈こりゃ騎兵隊呼ぶしかねぇか?〉
〈俺たちの残骸を回収させるためにか?〉

ブルーは一旦銃身を解体して対機械化兵士用のHV弾頭にセットし直した。

〈脳殻を積んだ車は奴の腹の下だ。取りついてパイロットを抑える。援護しろ〉
〈了解〉

ホーネックはエクスプローズ(爆発)の二つ名通り隠密行動だけでなく、あらゆる爆弾攻撃を得意としている個体である。
もし戦車単体であれば、容赦なく多種類の爆弾攻撃でブルーの手を煩わせることなく戦車を沈黙させただろう。ただし、今回のケースでは確実に車も脳殻も吹き飛ばしてしまう。
ホーネックが天窓から水の中に手榴弾を放り込むと同時に、ブルーは柱から飛び出して戦車の精密な部分を狙って射撃する。
機関銃の銃口とカメラアイの一つを破壊され、続く銃弾を避けるように戦車は身を低くした。
弾が切れたところへ主砲が発射される。ブルーが走り出した数瞬後に彼のいた場所が吹き飛ばされた。上にいたホーネックも煽りを食らって煙にまかれる。
柱から柱へと走る後から機関銃の弾が風化したコンクリートを穿っていく。相手が弾切れをおこすまでブルーは走り続けた。

/*/

「んで、作戦は?正直もういらんかもしれんが」
「その上で聞くかお前は」

エンカーがヒャクレッガーと額を突きつけ合うほどの距離で話し合えるのは一重にスネークの存在が彼への牽制になっているからだ。
三人は戦車の死角に入るように廃墟の中を上っている最中である。戦車と同じ高度にいるなど、歩兵にとって死刑宣告だ。攻撃するにも取り付くにも上にいなければならない。

「瓦礫の中に誘い込んで足止めした後、俺が取りついてハッキングする」
「ダイナマイト一本あれば埋めてやれるけどな。今手榴弾一個が精々だ」

それに今の俺は一応ただの電脳技士ってことになってるし。という一言は呑み込んでおく。ややこしくなる。嘘臭いものを見る目でヒャクレッガーがチラリと見てきたが気にしない。
瓦礫の隙間から戦車の様子をうかがう。戦車は四本の脚を駆使して瓦礫の中を進行しているところだった。
周囲を見渡し、向かいの廃ビルの窓から対戦車砲を構えて機を伺っているのを確認。ヒャクレッガーにはまだ勘づかれてない。
正直戦車の排除にヒャクレッガーは必要ない。寧ろこの場に居られてはアルバイター達が重火器を使用しているところを見られたりして後々面倒なのだ。正直ここが国外の戦地なら後ろから撃って捨てれるのに…とさえ思ってる。
取りつくの手伝ってさっさと脳殻の回収に向かうべきかと考えていた矢先、聴覚に車のエンジン音とタイヤの音が届いた。
暗視モードに切り替え、廃墟の隙間を走り抜けるミニワゴンを確認し、運転席にいるゼロとエックスを拡大望遠で確認した。

「真打ち登場だな」

エンカーは誰にも聞こえないように呟いた。

「どうした?」
「増援だ。ゼロとエックスがきた」
「なに!?」

あの後なら調整が終わっているはずだ。ヒャクレッガーがゼロに連絡している横で、エンカーはジャイロに秘匿回線で連絡した。

〈ジャイロ、撃つな。つーか、ゼロ達が着いたから必要なくなった〉
〈えー!?〉

狙撃するタイミングを今か今かと待っていたジャイロは肩透かしを食らった。

暗闇の中で加速してきたミニワゴンはドリフトしながら急停止すると、エックスが飛び出しショットガンアイスを戦車の脚に見舞って動きを止めた。即座にエックスを脅威と判断した戦車のパイロットはすぐに方座を反転させ、主砲と機関銃をフル稼動してエックスを追うが、白銀のフットアーマーはエックスの被弾を許さない。HV弾は空しく影を追った。三方向に向かうエネルギー弾が直撃し、戦車は抵抗手段を奪われた。
そこへすかさずヒャクレッガーが戦車のハッチに飛び降り、遠心力で振り落とされかけながらもファイバーコードを取り出して接続。盛大な火花が飛ぶ音と共に戦車は沈黙した。
解錠されたハッチを引き上げ開け、後から降りてきたスネークが中のパイロットに銃を突きつけた。
遅れて降りたエンカーは瓦礫から顔を出したエックスと目が合った。

「エンカー?」
「よ!」
「よ!じゃないだろ…」

思わず数時間前のスネークとのやりとりをゼロとエックスでやってしまったエックスであった。

「脳殻は?」
「あのホールに…」

そうエンカーが言いかけて雨の中でも轟くような崩壊音があがった。例のホールの方向だった。

「急ぐぞ」

ガチャリと自分の身の丈ほどありそうなパイルバンカーをひっさげてゼロは短く言った。

/*/

散々ホール中を走り回って戦車の機関銃が空しく回った頃には、ブルーの持つサブマシンガンの銃身は触られないほどの熱を帯びていた。仕方なく逆さにしてマガジンを吐き出す。足元で海水が煮え立った。

「やっと弾切れか…」

これなら昔のようにバスター内蔵型のボディの方が良かった。そんなことを考えた自分に舌打ちしながら、ブルーはここらが決め時だと悟った。

〈ホーネック、生きてるか?〉
〈何とか…〉

ホーネックもまた戦車の標的として狙われ瓦礫の下敷きになりかけていた。
半壊したヘルメットを脱ぎ捨てる。銀髪に染めた前髪と剣呑な色を放つ緑の目が露になる。

〈ナノマシンの準備をしろ。今から取りつく〉
〈了解!〉

手持ちの手榴弾のピンを外し、柱の影から放り投げる。水しぶきが巻き上がり、戦車の残ったカメラアイにかかった。
前後不覚になったところを見計らってブルーは光学迷彩を展開して一気に距離を詰め、戦車のコックピットの上に飛び乗った。
振動と重量を感知して異変に気づいても遅い。ブルーはハッチに手をかけ、腕の筋繊維が千切れていくのも構わずこじ開けにかかった。
ギリギリと嫌な音とともに複合金属の蓋が変形していく。胴体の動きをフルにして振り落としにかかる頃には蓋に一センチの隙間が出来上がっていた。
しかしその代償も安くはなかった。ブルーの腕の筋繊維は殆ど千切れ、破れた防護スーツの隙間から人工骨格が見えていた。だが、ブルーたちには十分だった。
振り落とされ、その際片腕を失う羽目になって地面に叩きつけられても、ブルーは勝利を確信した。
上からスズメバチ型のナノマシンが舞い降りて、先ほどブルーがこじ開けたハッチに侵入した。レーダーが殆ど死んでいる今中のパイロットは気づくまい。気づいた時点で奴はナノマシンによって注入された薬物で眠らされてる。
だからパイロットはブルーに主砲を向けた。雨にさらされて光学迷彩は切れてしまっていたからだ。
ああ、しまったな。
そんな風にブルーは他人事のように自分の死を見つめた。後ろの方でホーネックが叫んでいる。
思った形とはいかないが、ついに兄弟の下へ逝くときが来てしまった。あの妹はきっと泣きながら怒るだろうが
轟音がホールに木霊した。
撃たれたのはブルーではなく、戦車の方である。再びの轟音と共にまたも大きな凹みを作り、よろめいて動かなくなった。
射線を辿ってみれば、中二階でパイルバンカーを構えていたゼロと、そのあとについていたエックスとワイリーJrがいた。

/*/

間に合った。エンカーは安堵した。脳殻自体はスネークの発信器があったので場所はすぐ特定できたが、問題の脳殻にはやはり小型の爆弾が仕掛けられていた。それで詰むシャドーではなかったし、万一にはシャドーに回収させるつもりだった。
エックスと共に後部座席にあるクーラーボックスを見つけ、中の不自然な空白にシャドーの気遣いを認めた。

「ダイブの準備を。戦車をバッテリーがわりにする」

既にパイロットを引きずり出して空になったコックピットにアクセスし、カメリーオの脳殻に光ファイバーを接続する。

「エックス、バックアップ!」
「任せろ!」

こういう時何も追求しないエックスの人の良さが有難い。後ろから0部隊のブルー隊長とやらが刃のごとき視線を向けてくるが、構ってられない。カメリーオの情報を新鮮なうちに回収したい。何かしてくるなら影の中にいるシャドーに任せるしかない。ダイブ中は動けないのだ。

「記録しっかり録れよ」

エンカーの視界が捻れ、カメリーオの電脳空間にシフトした。
安定した記憶野の存在を感知し、移送中に外部からの介入がなかったと確認する。アクセスすると防壁が展開されたが、モニターしていたエックスがパワーを増幅させて防壁破りにバックアップをこなしてくれた。この中でもっとも電脳スキルが高いのは自分だが、こうも自然に任されると却って不安になってしまう。ロックならまだわかるが、エックスとはそこまで信頼関係を築ける経験が積めてない。それでもエックスから感じるのは「お前なら安心して任せられる」と信頼感だった。
いつかそこは過去の真実を含めて話をせねばなるまい。でなくば誰かに騙されやしないかと心配になってくる。
なんなく防壁を突破し、迷路のように入り組んだ回路を抜けて、目的の記憶野にたどり着いた。
幾つもの風景とバラバラの顔写真が、そして言葉の羅列が目まぐるしく回っている。

〈野郎、誰かがアクセスしたらプログラムをジグソーパズルみたいに分解して解読できないようにしてやがったな。いきなり難度Cだ〉

疑似音声に舌打ちが混ざる。ブルーはホーネックに支えられながら作業を覗きこんだ。

「人間のそれと同じようにレプリの電脳もウィルス無しで記憶を自力で抹消出来るになっていない。キーワードを打ち込んでみろ。適当なのでいい。直ぐに検索できなくても大体のピースは上がってくるはずだ」
〈それもやってるが、細かく指定せんとはっきりイメージが出来ないし、しかもこちらの知らないことは本当に分からないままだぞ?〉
「今全てを引き出す必要は無い。現在分かっている反乱軍の幹部の名前と現在進行中の作戦スケジュールで検索かけてみろ」
〈なるほど〉

指定されたキーワードで片っ端から当たってみる。
中東、第4部隊バーニン・ナウマンダー。石油プラントと大量のメカニロイド。そしてベルトコンベアに運ばれていく兵器や部品。
太平洋、第8部隊。ランチャー・オクトパルド。ホイール・アリゲイツ。バブリー・クラブロス。朽ち果てた太平洋ブリッジ。東京の難民祖界。E国原発。
東京の難民祖界。第17部隊。ブーメル・クワンガー、フレイム・スタッガー。次々渡される部品や兵装。
コロンビア、第6部隊。アーマー・アルマージ。大量のレアアースとレアメタル。
第7部隊。ストーム・イーグリード。デスログマーの内部。拘束された隊員の映像。どこかの空港の図面。絶海の孤島に建設中の建物。

―――――――暗い、機械と配線だらけの部屋。背の低い、黒づくめの人影。
顔は、像がバラけていてわからない。だが、この人物に対してカメリーオが畏怖を感じたのは伝わった。
エンカーの――――アルフォンスの根底がざわついた。俺は、コイツヲ知ッテイル。

「エンカー!アウトプットが落ちかけている。戻ってこい!」
「それ以上潜ると信号が補足できなくなるぞ!?あとは研究所で調査してもなんとかなる!」

エックスとゼロが警告する。危うく最後の部分を深くまで潜って検索をかけようとしていた自分に気づく。焼き殺す寸前になって弾かれるように浮上。アクセスを中断した。

「……ログ、録れたか?」

うん、とエックスが頷いた。今の自分はきっと青い顔をしているだろう。

「撤収するぞ」

空中で待機していたビーブレイダーが降下してホバリング態勢に入った。

「そちらも同行してもらおうか?スティーブン・ゴールダー技士」
「は?」
「へ?」

肩越しに自分をそう呼んだ隠密隊長に一瞬何のことかわからずすっとんきょうな声を上げるゼロとエックス。
そういえば、デュシスに入る際にそんな偽名使ってたなぁ。にしても俺よりグラサン似合いそうだね、兄さん。昔アンタそっくりのやつと知り合いだったよ。無口で口笛の上手いやつだったよ。まともに会話したことないけど
そんな現実逃避をしても冷や汗が滴り落ちる心地だった。スネークとシャドーが「あ~あ」と肩をすくめているのが目に浮かぶ。
まともに動けない隊長の代わりにホーネックが動いた。体内に潜ませていたナノマシンをエンカーにけしかける。

「エックス!ゼロ!ゴメン!!」

一目散に背を向け半壊の窓を体当たりでぶち破って闇に紛れる。今日が雨で本当に良かった。
遥か後ろでエックスが困惑ぎみに叫ぶのが聞こえたが振り返っていられない。毒バチはすぐ後ろに迫っているのだ。
瓦礫の影から招く手があった。シャドーの手だ。エンカーは迷わずその中に駆け込んだ。

/*/

最後に何が何やら解らぬまま撤収したゼロとエックスは、エンカーが偽名を使ってデュシスに潜入していたことを本部で知らされた。
未だに姿を見せないシグマも気になるが、エンカーの正体にさらに疑惑を深める二人であった。

条約審議部のナカムラはクラーク教授とともにSWATに身柄を拘束され、デュシス襲撃の指示と外交の横車を押すための非合法工作。それに伴う外交上のスキャンダルが露呈し、外務大臣は辞任。ナカムラは長い査問会に出頭することになった。
カメリーオの脳殻はラボに回収され、データを全て吸いとられ解析に回された。

/*/

シャドーの手に導かれて出たところはトラックのコンテナの中だった。

「助かったよ」
「全く危ういところでしたな」
「時給戦隊は?」
「既に撤収してアジトへ向かっております。チャージとグラビティーが出番がなかったと喚いておりました」
「すぐに合流くれ。情報を解析したい」
「ログも全て記録して白梅に回しております」
「そうか」

必要なことを確認しあって二人は考え込むように黙った。車の揺れる音がコンテナの中で響く。

「あの隊長だけどさ…」
「はい」

わかっておりますとシャドーは言外に返事した。考えは同じだった。

「タッパでかくなってたけど」
「しかも髪メッシュかけておりましたが」
「ブルースお兄ちゃんだよな。あの駆動音といい、立ち振舞いといい」
「ブルースでしたな」
「こんなとこで警察やってたとは」
「赤くない上にバスター内蔵型でないから最初はわからんかったでござる」
「次会ったらブルースお兄ちゃんっ呼んでみようかな?」
「次の瞬間『お前に兄呼ばわりされる筋合いは無い』とか言われて撃たれますぞ」
「アハハハ…」

その頃、ブルースお兄ちゃん改め ブルーはリーンに連絡を入れていた。

「カメリーオの脳殻を回収した。ワイリーJrは逃亡。これより帰投する」




[30192] 設定(シティ・アーベル編)
Name: 黒金◆be2b059f ID:36b3fc73
Date: 2013/11/25 23:28

・リーン
金髪碧眼の女性型レプリロイド。設定年齢は二十代半ば。
総合管理局の副総監。シティ・アーベルの行政を担っている存在である。
(以下ネタバレ)
その正体はDRN.002-β。ロールを基礎とした4番目のライト製女性型(エックスよりひとつ前に製作)。シティ・アーベル建設企画時に関わっている。
唯一の兄を憎からず思いやっている。

・ブルー
0部隊の隊長にして唯一ヒューマノイド型の特A級ハンター。外見年齢は二十代から三十代。
同僚の亜人型に比べて火力などの特化した能力は無いが、それを苦とせず冷徹な意志と冷静沈着な判断力、臨機応変な戦術で他の隊員を率いる。
作戦時は常に制式の黒いバイザー付きヘルメットと防護スーツを着用しており、プライベートでもサングラスをしているのでその素顔を知る者は部下を含めても殆どいない。
その正体は前のボディを棄てて殆ど別物になったお兄さん。

・エクスプローズ・ホーネック 影の飛忍
スズメバチ型亜人レプリロイド。0部隊の副隊長でブルーの右腕。
本来は過激な性格だが、ブルーにダメ出しを結構食らったので常に慎重を心掛けている。
得意分野は爆弾。

・マグネ・ヒャクレッガー 紅のアサッシン
ムカデ型亜人レプリロイド。0部隊の特A級ハンター。こちらは元来から冷徹な性格であり、任務完遂のためならば手段は問わない。同じ磁力使いでも赤い磁石頭とは全く相容れない。
ただし、その忠義はシティやイレギュラーハンターではなく、隊長のブルーそのものに向けられている。
武装は磁力機雷だが、得意分野は生物毒、コンピューターウィルス。



◇影
シャドーとストライダー月光直下の精鋭部隊。以下は本編で登場した各隊長

・赤松
赤い袈裟に手榴弾を数珠繋ぎして首に掛けてるタネキ型亜人レプリロイド。白兵戦と破壊工作を担当する『松』の隊長。通称、和尚。組織の火薬庫でもある。
あらゆる兵器を操るほど戦闘技能は高い。主な武装は重火器全般と爆弾。

・青竹
笠と旅装束に身を包んだイタチ型亜人レプリロイド。潜入、刺客、格闘戦の担当『竹』の隊長。
堅実、寡黙、冷徹の地を行く剣客。

・白梅
白い花魁姿のキツネ型亜人レプリロイド。比較的人間に近い姿である。
電脳戦部隊『梅』の隊長。千里眼と万里耳の上司。
主な情報収集と情報管理は彼女の管轄である。



[30192] 果たし状
Name: 黒金◆be2b059f ID:66a0da01
Date: 2015/03/09 18:56
南米コロンビアと言えば、北アンデスの一大国家であり、スペインからの独立以来コーヒー、エメラルド、薔薇、レアメタル、レアアースの産地。そしてゲリラの国と前世紀から評されていた。
一時期は観光業に収益を得るために景観保存や治安の安定化を図り、危険度は下がっていた。しかし裏事情はさして変わらず、政府の努力も空しく大戦前のインフレの悪化に伴う暴動と度重なるゲリラの台頭が国力の低下を招いた。
そして第三次世界大戦ーーー世界各地の例に漏れずコロンビアは無政府状態となった。
今でもそれは変わらない。コロンビア含む北アンデス諸国は犯罪発生率と頻発する抗争により、警戒地域に指定されている。
そのコロンビアにとってシティ・アーベルから新レアメタル採掘調査と研究ーーーそれによってもたらされる援助と利益はまさに天恵であった。
諸手を挙げてそれを受諾した暫定政府の判断が失敗か、やむを得ない措置と受けとるべきか。今その判断に国民は迷っていた。



この鉱山占拠事件を、現場にいた作業員たちは何年後も複雑な気持ちとともに不思議そうに語る。
最初に何機ものヘリコプターが町の方からやって来た時、いつもの科学者連中を連れた宇宙人(シティ・アーベルに対するスラング)の視察官様が来たのかと思って責任者が出迎えに行ったから特に気にもしなかった。
しかし、ヘリからワラワラ降ってきたのは武装したロボット達だ。これにはゴロツキ上がりもいる屈強な鉱山夫たちも面食らった。
ゲリラや盗賊に襲撃された村のように、全員が拘束されて、一列に並べられて順番に撃ち殺されるのを覚悟した。しかし、実際彼らはすぐ「全員」生きて帰された。怪我人はもちろんいたが、原因は奇襲時の混乱による二次被害である。
警備員も丸腰にされた上で帰され、人質も見せしめの為の殺人も無く、不安はあれど家族たちは胸を撫で下ろした。
人的被害は一切無い。そう、人的被害は。

一方、責任者と経営する国は何一つ安堵できなかった。国内最大のエネルゲン鉱山が丸々占拠されているのである。しかも資源はもちろん、シティ・アーベルから貸与されたメカニロイドなどの機材も全てそのままなのだ。
犯行グループがこれらを使って町に侵攻したら…それこそゾッとしない。暴れまわる大型メカニロイドを止める決定的手段がこの国にはなかった。
当然経営側は完全にアルバイトに来ていたロボットの安否など失念していた。現場の人間たちが『彼』のことを心配して報告しても、政府はいくら下手な人間より知性のある者でも、機械のために手駒を減らす気はさらさら無かったので無視した。


『彼』があらゆる意味でただの機械では無いことを理解していた作業員たちは、国側の正論に対して頭で理解しても何とも言えぬ理不尽を覚えた。
敵は政府軍に山ごと包囲されながらも、未だに降伏の兆しも無ければ要求もない。ただ近くの川で仲間のものらしい舟と物資のやり取りをしているらしい。
あくまでそれが目的だから、左翼派ゲリラのように主義主張をぶちあげる必要がないから一切の殺人を行わなかったのだろうか?しかしロボットである『彼』に対しては?
一番奥の坑道にいたスタッフが証言したことだが、全員が逃げることしか考えていなかった中で『彼』は真っ先に敵に立ち向かい、何十人も相手に立ち回って注意を引き付けていた。結局逃がしてもらった作業員も外側にいた者に拘束されたが、それから解放されるまでの間『彼』を見た者はいなかった。
『彼』はロボットだが、国の所有でもシティから派遣でも無いことは、現場で周知の事実だった。
何故人質を取ることもなく、人間だけが無事返されたのだろう?単純にそこまでの知能が無いのだと考えられたが、そこがまた事件の不気味さを出していた。

鉱山が解放された後も、様々な憶測が国内に飛び交ったが真相は闇のままである。結局その後行方知れずになったハードマンの安否とともに。



ボンヤリと照らされた地下坑道をジェミニは兄弟たちとともに進んでいた。
片手そのものが大剣の巨漢ソードマン、頭頂に巨大な剣山をつけたニードルマン。

今回の面子の選考基準は、言うまでもなく坑道内でも問題なく行動できるロボット達である。
ニードルマンは元々掘削作業用だし、ソードマンは近接戦闘型なので跳弾や爆撃による崩落の心配は要らない。そしてジェミニは実弾装備型ではなく、かつ射線を《完璧に》計測計算できる唯一の個体だ。昔サードナンバーたちが密室に閉じ込められて脱出しょうとした結果、盛大な同士討ちをしてしまってからの教訓である。(原因、主にマグとジェミニ)
この鉱山を占拠しメカニロイドたちを指揮しているはずのアーマー・アルマージは、カメリーオとは真逆に専守防衛に特化したレプリロイドだ。本来ならまず兵糧攻めとして補給ライン(第6部隊)を断ってやるところだが、『影』が下準備している最中にアルマージがとんでもない行動に出たため、急遽すぐに動ける面子が編成され少数精鋭で潜入する羽目になった。

「ジェミニ、ハードマンの反応はまだなのか?」
「まだ半分も進んでいない。本当にあいつを確保したままなら間違いなく最深部だ」
「…まったく、アルマージも何であんな通信寄越したのやら」
「読み上げた文面だけなら半分脅迫、半分中世の決闘申し込みであったな」
「あいつ起動してからン十年も経ってない筈だよな?何であんなに正確な形式作れるんだ?資料館殆ど焼失してるはずだろ」
「製作者が日本被れの可能性あるぞ」
「うむ、正々堂々とした男と聞いたがあの外見では残念ながら『騎士』は似合わぬ」

事の発端は先日未明。
アルマージが自身の個人用ラインでメッセージを寄越したのである。エックスの個人用メッセージボックスに

/※/

レプリロイドには組織ごとに専用のネットワークが電脳に組み込まれている。
それは電脳施術を受けている人間も同じだが、それとは別にパソコンで個人同士で交流できるネットワークも人間レプリロイド問わず用意されている。
エックスも例に漏れず二つのネットワークを使用しており、緊急でない限りは毎朝ボックスを確認していた。

あの日の朝のことを、エックスはシグマが反乱を起こした日とは別の意味で忘れられないと後日語る。
メールボックスに見慣れぬアドレスが届いたので、最初誤信か迷惑メールかと思ったが件名が『果たし状』とかなり不穏だ。
恐る恐る映像つきの内容を開くと、見紛う事なき紫色のアルマジロ型亜人レプリロイドの堂々とした出で立ちを確認して固まり、紙で作られた『果たし状』を前に掲げ真っ直ぐな眼で淀みなく告げられた内容に思考が数秒フリーズした。

「どうしたんだ?エックス」
「迷惑メール開けちゃたんですか?」

そんな状態でいたものだから同室のゼロと起こしにきたアストロに何事かとパソコンを覗かれた。そして三人揃ってパソコンの前で固まった。
それからは当然ゼロとシグナスの元へ駆け込み、本部は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
内容はこうだ。

『イレギュラーハンターエックスとの一騎討ちを所望する。場所は送信した座標の場所。尚、此方には人間は居らぬが現地のレプリロイド一名を拘束している。期日は明日午後6時まで。要求を拒んだ場合、当レプリロイドの身の安全は保障出来ない。』

罠だと言う者も居れば、好機だと言う者もいた。
シティ・アーベルの打ち上げた衛星写真によれば、鉱山から近くの川へ移動する部隊が写されていたが、その中にアルマージの姿はなかった。この部隊が戻っていないならば、鉱山にはメカニロイドを除いてアルマージ一人と言うことになる。
だが周辺に散らばって待ち伏せされている可能性は高い。人質だと言う藍色のレプリロイドもシティ・アーベルで登録されているレプリロイドに該当する者はいない。罠の可能性は尚の事高くなった。
だが一方でその可能性を疑問視する声も上がっている。
アルマージが反乱軍の中で担っている役割はマンドリラー同様資源の確保である。
しかしまだ政府の突入作戦が決定していないのに何故こんな古めかしい挑発を行ったのか?
本隊に提供すべき資源が尽きたかと思うのが自然だが、アルマージは古めかしい形式に拘る傾向はあれど、そのために他者を巻き込むレプリロイドではない。どこぞ部下全員に愛想を尽かされて中東の原油に独り立て籠っている象とは違うのだよ。
鉱山に用がないなら全員で強行突破なり密かに脱出なりすればいいのだ。敵が侵入しなければ戦う必要はないのだから、打って出て無益な犠牲を出す必要も無いのは解っているハズだ。
アルマージの製作スタッフも同僚も例の動画メールに困惑を隠せなかった。再三の説得にもひたすら黙秘を貫いた彼が何故今更こんな真似をするのか?彼自身が窮地に立たされているのではないか?
会議室はいっそ挑発に乗ったふりをして一個師団投入して殲滅するかと言う意見と、もう少し慎重になるべきという意見に分かれ、紛糾した。
そんなことをしている間も指定された期日は迫ってくる。痺れを切らしたシグナスとゼロがアイコンタクトをして口を開こうとした時、始終黙り混んでいたエックスが屹然と顔を上げてこう言った。

「自分が単身アルマージの元へ潜入します」

/※/

そんな話をアストロを中継にして聞いていたジェミニ達は飛ぶような勢いでコロンビアへ飛んだ。
只でさえクイックが(本当に)久しぶりに連絡を入れてきて

「今日本にいる。あとすまん。クイックターボが大破したから太平洋ブリッジに置いてきた。座標を送るから回収するなり好きにしろ」

と言うだけ言って切ったもんだから、エンカーの容量は(色んな意味で)パンクした。そこへアルマージの果たし状騒ぎである。
とりあえずあのバカはぶん殴る。回避率ゼロ切っても殴る。だがその前に質に取られた身内だ。東京に突撃しそうな兄弟は心を一つにした。
かくて鉱山酔いするマグと影の面々を周辺に残し、三人は地下へと潜った。
今のところ待ち伏せも罠も無い。山二つを削った広大な坑道は換気の音以外不気味なほど静かだ。
アルマージは本気でエックスと一騎討ちを望んでいるのかもしれない。シグマだけがそうかと思っていたが、賛同した主要なメンバーも自分からエックスと戦いたがっている節がある。
VAVA同様シグマから唆されたか?それとも―――
馬鹿馬鹿しい。ジェミニは口に出さず心中で吐き捨てる。自分と一緒に血道あけてきた身内を銃雨に晒してまでせねばならないのか?それなら人類種への反乱の方がまだ理に叶う。

「…そろそろ到着時間か」

ニードルが天井を見上げながら呟いた。グリニッジ標準時間を調べるとエックスを乗せたビーブレイダーが上空に到着している頃だ。
上空から投下され、自分達とは別のルートからの侵入する段取りのはずだ。
蟻の巣のような狭い坑道を抜けると一気に視界が広がった。第一採掘場だ。作業員が使っていた道具や機材がそのまま放り出されていた。
途端にエンジンに火の入る音が反響した。続けて近づく震動と粉砕音。
そしてきた道とは別の坑道から土煙をあげて出てきたのは鉱山掘削用大型工業メカニロイド『モルボーラー』。
ソイツが三人に進路を決めて 突進してきた。

「やっぱりかぁぁぁぁぁ!!」

/※/

同じ頃、第八部隊の補給ルートと行方不明の部隊員を探し回っていたマグ達は、ジャングルの中で機械の残骸を大量に発見していた。
嫌な予感を感じながら何の残骸かを手に取り検分した。

〈メカニロイドの材質…ではないですね〉

では何の?とは全員聞かなかったし聞けなかった。繁みで不自然な光の反射を赤松しか気づけないほど全員の目がそっちに集中してしまっていた。

〈全員伏せろ!〉

赤松が近くの丸太を反射のあった方向に投げつけ反対方向に走った。
砲声と同時に投げた丸太が木っ端微塵に吹き飛んだ。
全員も間髪散開したので砲火の直撃を免れたが、まんまと罠に嵌められたことに戦慄した。
密林の緑を蹂躙して降っておりた紫のライドアーマー。こんなゲテモノに乗るのは一人しかいない。さっきの砲火はフロストランナーか。

「よう、探偵」
「よう、ハンター。今はただの壊し屋か?」



[30192] 覚悟の行方
Name: 黒金◆be2b059f ID:66a0da01
Date: 2016/06/10 00:37
対空砲火の届かない高度からの降下はもう慣れたものである。それに今回は市街のような障害物も無い。
エックスは着地して体勢を整えると直ぐにセンサーをスーパーサーチに切り替えた。工業メカニロイドの熱源反応以外無いことを確認。
燦々と照りつける日光の中、広く深く掘削された荒野のような世界に色がある存在は彼一人だった。
アルマージに指定されたルートは間違いなくここだ。それ以外で潜入するなら申し出を拒否としたと受け取り、人質の命はもちろん坑内のメカニロイドを一斉に暴走させて自衛に入るとメールの最後にあった。
エックスとて罠の可能性を考えていないわけではない。だがアルマージの真の思惑がわからない。メールを見た時はマンドリラーと同じケースかと思ったが、製作者達の意見を聞くにやはり反乱軍の中でイーグリード同様窮地に立たされているのではないか?
もしそうなら何としてでも事情を問いただしたいし、アルマージがただの卑劣漢に成り下がったなら心置きなく破壊できると言うものだ。最悪ジャングルに潜むレプリフォースとイレギュラーハンターの連合が鉱山を制圧する段取りだ。
バスターを展開し、地下へと続くエレベーターに乗り込む。到着してすぐ目の前には資材運搬用のトロッコが一台。
爆弾が仕掛けられていないのを確認して、近道になるとエックスは乗り込んだ。
今思えば、これが悲劇(?)の始まりだった。

/※/

聞きなれた足音が坑道に響き渡る。ここに押し込められてどのくらい経つのやら、彼はエネルギー節約のため休眠モードだったのを覚醒させた。
DWN.024ハードマンはここに拘束されて以来の最悪な気分で眼前のレプリロイドを片眼で睨み付けた。

「よう、しばらく見ねえ間に男前になったじゃねぇか」

白銀の装甲を纏う亜人レプリロイド、アーマー・アルマージは無言でその皮肉を受け止めた。
生真面目をそのまま擬人化した面相には、最後に会った時には無かった目の傷があった。

「間もなくイレギュラーハンターがこちらに到着する。その時貴様は解放されるだろう。その後シティ・アーベルに保護を求めればコロンビア政府からの追及もかわせる」
「こんなとこに押し込めといて親切なこって」

不機嫌そのまま吐き捨てハードマンは今度は両目を開いて「で?」と促した。

「それでテメエは何の得がある?昨夜他の連中無理矢理出っぱらわせたのと関係あんのか?」
「…気付いていたのか」
「俺の耳は特別製だ。最初は外にいる連中とついにドンパチするためにと思ったが、あんた見た感じ後方で指示出すより部下と一緒に突貫するタイプだろ?」
「なぜそう判断出来る?私は見ての通り強襲には向かん設計だ」
「俺の横っ面に思いっきりキツイのくるたの誰だ?」

ハードマンは縛られた両手で器用に調子が悪くなった方の左目を指差した。落石に巻き込まれたって岩の方が木っ端微塵になる高度の彼だが、アルマージはロケットパンチならぬハードナックルで両手が無い状態とは言えど確実なダメージを与えた。

「半ば奇跡だ。あまり称賛してくれるな」
「嫌味だバカ野郎。話を戻すぞバカ野郎」

「何で俺だけ拘束なんだ?」ハードは両目を開いて真正面からアルマージを見据えて問い詰めた。

「そういう命令だったからだ。深い意図はない」
「それなら何であんたがそんなキズつけたまま帰ってくる?普通なら身内からパーツ交換するよう言われてそうするだろ。さてはリーダーあたりに不満ぶち上げて顰蹙買ったな?」

アルマージは深い眉間を更に皺寄せた。レプリロイドは情緒はともかく表情豊かである。

「何故そこまで知りたがる?」
「何も知ろうとしないのは唾棄すべき怠慢だ。俺は経験からそう学んだ。あんたらの中じゃ違うのか?このまま何もわからないままあんたが破壊されて終わったら俺はその怠慢を犯したことになる」

要は後味が悪くなる。そうハードは締めくくった。
「ふむ」とアルマージは興味深そうにハードを見た。

「残念ながら自分には貴様の努力の半分しか応えられない。残り半分が仮定の域からでないからだ」

だが、と彼は断言した。

「確実なのは―――私の上官はエネルゲンの確保以上の価値を貴様に見いだしていることだ」
「はあ?」

「未だ詳細を説明されたことはないが…」アルマージは暗い表情で付け加えた。「貴様がコロンビア政府や他勢力に渡ること無きようにと、私にレベル4
のバイオハザードパックを内蔵されている」

/※/

爆音が轟く。銃声が響く。薬莢がはきだされる。
最早戦車との戦いと言って差し支え無いほどの弾薬と火がそこで消費されていた。マグも赤松も何度得物のカートリッジを換えたやら。
視界の向こうではライドアーマーを駆るVAVAの生き生きとした姿があった。銃創や巻き上げた泥と煙塵にまかれた痕はあれど戦闘機動に乱れは無い。
殺気は依然マグに向けられてる。心当たりは多々あれどアイツすぐに報復にくるタイプだし、殺されかけたことは何度もあるが、ここまで本格的に殺しに掛かられたのは初めてである。
ハイウェイでエックスを仕留め損なった恨みにしては違う気がする。寧ろエックスに向けていたものと似ている。
デビルベアの機動音に混ざって空気が抜けるような音がした。全員の電脳に警告音が鳴り響く。
瞬間1000度を越える蒼炎が周囲を舐め尽くし蹂躙した。マグたちは咄嗟に近くの窪みや障害物に転がり込んだ。
余波で森が焼け、酸素の無い陽炎の中、VAVAは咆哮した。

「ここまでこいよぉぉぉ!!!!テメエにその力があるならよぉぉぉぉ!!!!!」

明らかな挑発に、マグの戦闘知性がカチリと撃鉄を上げた。焼き払われた周囲。懐から取り出すは愛用のマグネットミサイルを改良した誘導用磁石。

≪マグネットバーを使用する。総員、弾頭を実弾から光学兵器に変更。目標をライドアーマーごとこちらに引き寄せる≫

全員がVAVAから距離を取ったのを確認したマグは窪みの影からバーを投げつけた。ライドアーマーの胴体に工業用磁石が鉄を吸い上げる時の音が響く。
反射的にVAVAはライドアーマーを操作して引き剥がそうとするが、どれだけ出力を上げようとも癒着したように離れない。

「お前俺の名前忘れてるな?」

超高速回転のモーター音と空気を焼く電磁場に混ざって世間話するような気安い声が聞こえた。
何かに吸い込まれるかのごとく、100トンを越えるデビルベアの機体が一気に傾く。

「まあ、仕方ねえか。いつも縮めて『マグ』か『マギー』って呼ばせてたもんな」

必死に制御にかかるが全く操作を受け付けない。計器の全てが狂いだした。甲高い警告音がディスプレイから響き渡る。

「俺ぁ『磁石男(マグネットマン)』だ。吼える前にテメエがこっちに来な…!」

ズリズリと土塊を作りながら引き寄せられていくデビルベアの先に、全身のコイルをフル稼働させて磁場の発生源となったマグがいた。
完全に制御を無くしたデビルベアを囲むように安全圏に展開した赤松たちがビーム銃やバスターを掃射。完全な十字砲火で装甲と、それに覆われたエンジンを撃ち抜いた。
VAVAがライドアーマーから飛び降りたのと機体が爆発したのはほぼ同時だった。
それを逃がすような面々ではない。即座に複数のマグネットミサイルで追尾にかける。

「チッ!」

カチリと脹ら脛のギミックが開放されアルミ缶の様なものが転がりだした。開放と同時にピンが外れた音。空気が破裂したような衝撃の後マグネシウムの霧が立ち上った。

「チャフ!」
≪こちら千里眼!目標は単身鉱山へ進行中≫
「ここで逃げるかなぉ!あん畜生!!」

/※/

その頃エックスはかつて無い恐怖を味わっていた。
人が乗るにはあまりにも安全基準がなってないトロッコにノンブレーキで乗っていることではない。そんなものよりシグナスが運転する車の方が怖かった。
問題は今、自分の背中にへばりついている三人のレプリロイドである。しかもそろって恐ろしい形相だ。
さらにその遥か後方には暴走したモルボーラーときた。
奴に追いかけ回されていた三人とすれ違い、うっかり目があったのが運のつきだった。凄まじいスピードで追いつかれて飛び乗られた。おかげでトロッコは積載過多で今にも脱線しそうだ。

「おおぉいぃ!もっとスピード上げろォォォォ!!!」
「ソードマン、弟よ。ハードは必ず助ける。だから降りてくれ」
「兄者!我らは死ぬときも共に在ろうと誓ったではないか!!」

トロッコの中は今やカオスと化していた。

「はーなーしーてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

エックスの叫びは坑道に虚しく響く。




[30192] 覚悟の証明
Name: 黒金◆be2b059f ID:9647be7c
Date: 2016/06/10 00:37


「かつて世界を二分するほどの二人の天才科学者がいた」

どことも知れぬ暗がりの中、玉座に深々と腰掛けたシグマは独白のように語り出した。

「一人は平和と正義のために、もう一人は我欲のために数多のロボットを作り出した」

「無論二人は対立した。だが彼らの作品には相反したテーマでありながら共通した特性があった」

それが感情を持ち、人の意図を介さず自律思考し、行動する。もはや機械知性ではなく、独立した知性ーーーアンドロイドと呼べる存在だった。

「奇しくも二人は晩年にそれぞれ自らの最高傑作を完成させた。そして、開戦の混乱に乗じてそれまでのシリーズの資料諸ともどこぞへと封印されたと聞く…」

そこまで語り尽くしたのを聞いて、VAVAはポツリと聞いた。

「今もか?」
「いや、見つかってはいる」とシグマは即答した。「だがその全容は現在進行形で調査中であり、実質封印されている状態だ。それでもかの2体の存在が無ければシティ・アーベルは企画段階からまったく違うものになっていただろう」

もしくはレプリロイドとは違う人工生命体がシティの運営を担っていただろう。
ジェームズ・ケインも違う道を歩いたはずだ。

「その2体のロボットは、俺の知っている奴か?」
「かもしれんな」

含みのある受け答えをしながらも「だが」とシグマはひじ掛けに設置されているコンソールを操作した。

「案外2体だけではないかもしれんぞ」

多くのディスプレイ映像が空中に映し出される。全てがシティ・アーベルの市内の写真であり、注視すれば見たことのあるレプリロイドが映っていた。
主にあのアホ…じゃなくて探偵たちが映っていたことも驚きだが、撮り位置がおかしい。

「市内の監視カメラじゃねえな?SWATの捜査官か?」
「いや、国外からだ。昨夜未明、米帝の外務大臣とFBIがシティ・アーベル司法局にこの写真資料に映っている『ロボット』全ての引き渡しを要求してきた」

「向こうの言い分では、当該ロボットたちの製作者は故人だが、東アメリカ国籍を所有していたことから国家として『かつての犯罪の証拠品』としても『個人資産』としても回収するのは、分裂した今でも国家の義務だと主張している。遺書も墓も判明していないのに、今さらよくも言う」

「大方アラスカの件で失敗したツケを取り戻すため強硬策に乗り出したのだろう」とシグマは嘲笑した。「無論司法局はこの要求を拒否した」

「…レプリロイドではなく、『ロボット』か?」
「そうだ。比喩でも揶揄でもなく奴等はそう発言したそうだ。藪をつついて蛇を出さねばいいがな」
「その割には愉しそうだな」
「愉しいとも。だが、この感情に浸っているばかりもいられん」

再びディスプレイに映し出されたのは、今アルマージが防衛しているEクリスタル鉱山の偵察映像だった。占拠前だろうか、休憩所らしき場所で和気あいあいと談話しているらしい作業員たち。
その中で異彩を放つ巨体。明らかに人間ではなかった。

「こいつは?」
「不明だ。あの鉱山はシティから大量の掘削用メカニロイドを貸し出しているが、あの個体はリストに登録されていないし、シティのデータにもコロンビア政府にも奴の存在はなかった。ただーーー」

更に映し出されるのは昔の日本アニメよろしく腕を飛ばして奮戦する紺色のロボットと何かしらのデータ表だった。

「占拠の際、奴と交戦した第8機甲部隊から拿捕後検査をかけた結果大戦前に製作されているらしいことが判明した」

「これが何を意味するかわかるな?VAVA」
「アルマージはどうしている?」
「すぐにこちらへの引き渡しを要求したが、エックスとの一騎討ちの後にと条件をつけてきた。奴は例の捕虜を我らにもコロンビアにも引き渡す気は無いようだ」

しかも電脳通信ではなく、現実で面と向かって主張してきたのである。上官の命令だからとシグマについたはずのアルマージがだ。
だからシグマはついに激情に駆られてアルマージを切り捨てた。
ほぼ無血で鉱山を制圧した手並みは賞賛に値するが、人質になる作業員を全員解放したばかりか最後のカードを敢えて手放す悪手に何事かと問い詰めた。これではアルマージがエックスと対峙する前に軍に鉱山諸とも制圧されてしまう。が、当のアルマージは頑として自分がエックスとの決闘に勝ってから引き渡すと譲らなかった。この時点で彼は部下まで脱出させる手筈を整えていたらしい。
これにはVAVAも驚きを隠せなかった。

「あの命令に従うばかりの木偶の坊がか?!」
「いや、命令には忠実に従事している。しかし奴にとって絶対的な命令権を持っているのは私ではなく、奴の人格をプログラミングを担当した男の、最初で最後の命令だ」

事実鉱山は問題なく占拠できたし、補給物資の鉱物にも不審な点はない。アルマージの叛意を疑う要素は無い。あったらとうの昔にイレギュラーハンターとして行動している。
ただ言うならば、彼はカメリーオとは真逆に民間人に対して害を加えたことがなかった。それを意図して実行してしまえば、アルマージは『原初の命令』を反故することになる。
人間ならばそれを『信念』か『意地』と呼んだだろう。

「一つ理解できるのは、今のアルマージはイレギュラーハンターとしてでも、組織の一部としてではなく、それを超越して自律した一個体として思考し、行動しているということだ。この状況下でなければ喜ばしいことだが、問題でもある」
「俺はあんたの始末屋じゃねえ」
「だがお前にとってもそれは変わらんだろう?忠告だ、抜かるな。横槍ほど不愉快なものはない」

そこVAVAの電脳視界からシグマは消えた。再び視界を作動させれば、目の前に広がるのはねぐらに使用している廃墟の一室だった。
主観時間と客観時間を合わせる。日はまだ高い。

「言われるまでもねぇ…」

部屋の隅に立て掛けておいた装備一式を手に取り廃墟を出る。向かう先はEクリスタル鉱山。川を遡って行けば政府の封鎖区域を抜けられる。
VAVAは愛機のエンジンをふかした。

エックスが鉱山に突入する一時間前のことであった。
/*/

「こんなところで弾を使いたくなかったが…!」

耳障りな音を立てながら後ろのレールを粉砕して追いすがるモルボーラーに悪態をつきながらニードルは両腕の安全装置を解除した。
センサー類に照準し一斉掃射。ニードルガンと言っても旧ソ連が使用していた物ではない。誰もが忘れているが、彼は惑星開発プロジェクトで掘削用ロボットと企画されていたのである。
ダイヤモンドも木っ端微塵に出来る威力の弾頭がモルボーラーのセンサーを集中放火。強化ガラスが弾け飛び視界を奪われたモルボーラーが断末魔のような唸りを上げて出鱈目な動きを始めた。
前方に線路変更のレバーを視認し、ジェミニはハンドガンで照準を定め発射。衝撃でレバーは反対側に傾き、トロッコの線路変更を確認して手榴弾を後方に放り投げた。
壁に激突すると同時に爆発するモルボーラー。安堵の息を吐いて束の間。
トンネルを抜けるとそこは滝だった。慣性の法則に従って空中を舞うトロッコ。

「うわああぁぁぁぁぁぁ‼」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁあ‼」
「Icanフラァァァァイ‼」

悲鳴なのか自棄なのか判断しづらい叫びを上げるトロッコの面々。
そのまま全員トロッコと運命を共にしなかったのは流石と言うべきか。エックスとジェミニはトロッコのヘリを足場に飛び上がり、ニードルはソードを抱えて頭部パーツを解放。対岸の崖に打ち込んでアンカーがわりにした。その代わり二人共々壁に叩きつけられたが
エックスとジェミニは跳んだ勢いそのまま何とか対岸で作られていた鉱道に転がり込んだ。
トロッコが滝壺に叩きつけられた音を背中で聞きながら、今度こそ危機を脱したことに安堵したジェミニであったが、そのこめかみにエックスのバスターが押し当てられた。

「な・ん・で・こ・こ・に・い・る!?」

エックスの怒りももっともである。そもそもモルボーラーはエックスではなく、イレギュラーである三体を狙っていたのであって彼は完全なとばっちりである。
さっきだって進路方向を変えなければアルマージが指定した安全な連絡通路を通過するはずだったのだ。
もう撃ってもいいかなコイツら?
さすがのエックスも普段ではあり得ないことを考えるくらいにはキレていた。

「うちの兄弟機がこっちに世話になってる。本人にも繋がらんし、政府に問い合わせてもなしのつぶてだ」
「だからここへ来た」

アンカーを巻き上げて這い登ってきたニードルがジェミニの後を繋いだ。

「ちょっと待て兄弟機って何だ?」
「こいつだよこいつ!」

ジェミニは腕の端末を開いてホログラム映像を出した。映っているのは厳つい人相の紺色のレプリロイド。果たし状メールに添付された人質に百パーセント一致した。
たまらずエックスは目を見張った。

「客人を連れてきてしまったようだな。エックス」

鉱道の最奥からいつからそこにいたのかと問いたくなるほど、気配を感じさせずアルマージは出てきた。
即座に全員がアルマージに銃口を向けた。ソードマンは全員の前に出て剣を構える。何せ奴はハンター時に登録されていない装備ーーー日本刀を持っていたからだ。

「アルマージ、これは違う!」
「案ずるな。状況は坑内の監視カメラで確認している。貴官にとってもイレギュラーであると認識する」

エックスの弁解に動じることなくアルマージは「ただし!」と強く言った。

「果たし状に書いた通り、自分との一対一の決闘を果たしてもらう」
「了解した。だが人質の安否が先だ」

アルマージは無言で自分の後ろを指さした。
それに従いソードマン、ニードルマンは奥へと進んだ。ただ一人、ジェミニがアルマージの横を抜けることなく彼のこめかみにハンドガンを突きつけた。

「何のつもりだ?」
「てめえこそ、その腹の中に積んでるのはなんだ?」

空気が凍りついた。
すぐさまエックスはサーチモードに切り替えた。サーモグラフィで熱源を検索。
明らかにアンノウンの反応を関知してまさかと青ざめた。

「アルマージ‼」
「邪魔は、させん!」

アルマージの腕からバネ仕掛けで超振動ナイフが飛び出した。逆手に持ったそれでジェミニの銃を持つ手を切りつけた。
ジェミニの手首が銃ごと落ちる。だがあまりの手応えのなさにアルマージは電脳にノイズを感じた。そしてそれは的中した。
陽炎のようにジェミニの姿が消えたと思うとアルマージの背に銃弾が何度も撃ち込まれた。
白銀の装甲が全て弾き返し、アルマージは身を翻して頭部に隠されているビームガンで反撃しながら鉱道の奥へと距離を取った。相手の姿が見えない。光学迷彩か。

「チッ!HV弾も効かんか」

岩の影に隠れながらジェミニは悪態をついた。さすがシティ・アーベル最硬のレプリロイドである。
ほぼ同じ箇所に全弾撃ち込んだにも関わらず弾頭は空しくはぜ、表面に凹みを作っただけですんでしまった。

<ニードル、ソード。ハードは見つかったか?>
<見つけた!だがロックがかかってハードが動けん>

リアルタイムで送られた映像には通信機器に直接電脳ロックをかけられて微動だにできないハードの姿があった。

「そのロックは最新のイレギュラーハンター仕様のものだ。自分かエックスでない限り解除は不可能だ」

まるで通信を聞いていたかのようにアルマージは言った。いや、盗聴は出来ていないだろう。多分監視カメラか。

「それに、今すぐ自分をインターセプトなりしようとするのは推薦出来ない。自分の内部にはバイオハザードパックが設置されている。発動キーは、自分の電脳にある」
「中身は?ダイオキシンか?サリンか?」
「軍用炭そ菌だ」

アルマージは短くエボラ出血熱に並ぶレベル4の病原菌の名を告げた。しかも先の大戦でも猛威を奮ったB兵器の一つである。
やはり罠だったか。エックスは失望を感じながらアルマージの動きを如何に止めるか思考した。最早決闘どころではない。コロンビアの危機だ。
ペンギーゴやマンドリラーのチップはすぐに起動できるが、射速は バスターのそれより劣る。マンドリラーと同じほどの慎重さが必要だ。
幸いジェミニも援護してくれそうだ。彼も腕のバスターを起動させている。

「坑内はもちろん周辺地域も汚染し封鎖は確実だ。だが機械である我々にはーーー」

アルマージの熱源が高まった。トリガーを解除する。

「栓もなきこと!」

ナイフが坑内のパイプに突き刺さり、内部に循環していた水が吹き出した。その中をアルマージは壁を走りながら、太刀を抜刀しジェミニに斬りかかる。
咄嗟にふせて太刀筋をかわし、続く上段をバスターを盾にしながしながら軌道を反らしアルマージの腹を蹴りつけ間合いを取った。
その背後にエックスのバスター連射された。しかしそのバスターも装甲の表面で弾けとんだ。

「奴は装甲戦車か…!」

さすがのエックスも毒づきたくなる。すかさずクイックチャージして発射。だがそれも

「無駄だ!」

霧散こそはしなかったが、シールドで弾け飛ばされた。
もうやだコイツ、動き回るハードかとジェミニはげんなりした。そも攻めるのは自分たちで防衛するのはコイツのはずであったのに、完全に立場が逆転している。背水の陣とはやられる方がやりづらい。
再びホログラムシステムを起動する。周りにはジェミニが二人になった様に見えるだろう。先ほどの不意討ちのタネもこのスキルのおかげだ。
現れた分身にアルマージが一瞬怯んだ隙にプログラムした通りに分身と二手に別れる。
そしてレーザーで挟み撃ち。普通は同士討ちを嫌ってやらないものだがジェミニマンという個体にとってその限りではない。
彼には撃った瞬間から弾道はもちろん避けた場合の軌道も全部視えている。それが不規則な表面を持つ鉱山の中であってもだ。
一見出鱈目に乱射しているようで既に結界が完成しているのである。

「レーザーで跳弾だと!?」

検討違いのところからの被弾にようやく状況を察したのだろう。だからと言って何も変わらない。その間もジェミニはレーザーを撃ち込む。
たちまち乱反射された電磁レーザーが全方位からアルマージに殺到した。こうなってはアルマージもうずくまるようにしてひたすら防御するしかない。
巻き上がる粉塵が坑内に充満する。視界がECMの中にいるような錯覚を起こす。アルマージはどうしてる?
ユラリと砂煙が揺れた。

「そこだぁ!!」

弾丸のような勢いで突き出された刃先とともに満身創痍のアルマージが飛び出した。刀身がジェミニの、しかも本体の脇腹を貫通し勢いそのまま壁に縫い止められてしまった。
衝撃と損傷による負荷でジェミニの意識が飛びかけ、分身が消滅した。
あれでどうして動けたのかと思案すれば何のことも無い。このアルマジロめ、地面に穴を掘って土でレーザーの威力を半減させたのだ。

「やめろ!」

咄嗟にエックスが後ろから躍りかかり、アルマージを絞め落としにかかった。エックスの出力では心許ないが、パーツの限界を無視すれば首をへし折るくらいは可能だ。
だが、予想に反してアルマージはジェミニにとどめを刺す前にあっさり柄を手放し、組み付いたエックスをそのまま壁に叩きつけた。ハンター一・二位を争う巨体でナウマンダーを吹き飛ばしたことのある威力にエックスの内蔵機器が悲鳴を上げた。意識が明滅し、一瞬ブラックアウト。
気がつけばエックスは一本背負いで鉱道の奥へと投げ飛ばされていた。
起き上がって見回せば、ドームのように開けて区画だった。資材置場にしていた場所だろう。今は全て送り出したのか、Eクリスタルの欠片もない。

「どうなるものかと思ったが、これで仕切り直しだな」

今しがた吹き飛ばされた道からアルマージが刀を携えて歩いてきた。

「何故そこまでしてシグマに従う!?」

鉱山どころか国一つを質に取ってまで戦う理由がエックスには理解できなかった。少なくとも、周囲の証言から見た彼の人物像はシグマに心酔するとは思えなかった。
だから会議で彼が窮地にあるではないかと弁護した技術者のことを思うと怒りが沸いた。

「貴方のクリエイターたちは今も貴方が帰ってくると信じているんだぞ!」
「甘いぞエックス!貴様は何をしにここへ来た!!」

アルマージの大喝が轟いた。

「自分とて、この作戦に思うことが無いわけではない。だが、レプリロイドの可能性を問わねばならぬことに異論は無い。さもなくば近い未来、我々レプリロイドはその製造理念諸とも破綻する」
「そのために守るべき世界を裏切るのか!」
「だがこうしなければ、自分の部下たちに塁が及ぶ。私にとって彼らもレプリロイドの未来も等価値だ。貴官にとっての職務と人々の平和のようにな!」
「だからあの果たし状か」
「そうだ。最早この鉱山に価値はなくなった。我々第8部隊のそれと共にな。残るは貴官と私との戦闘データだ」
「どういう意味だ…?」

エックスの嫌な予感をよそに「喋りすぎたな」とアルマージは静かに刀を構えた。

「見せてもらうぞ!お前の可能性をな」




[30192] 孤城落日
Name: 黒金◆be2b059f ID:9647be7c
Date: 2017/06/07 17:45

春先のことである。この頃のシティ・アーベルは緑が色づき、一段と華やかな季節であった。
この頃からである。アルマージのメンタル育成を担当していた男が過去の話をするようになったのは。

「人類適正化計画ですか?」
「そうだ」

アルマージの鸚鵡返しを男は短く肯定した。

「あれはどうなっている?」

彼は車椅子に座ったまま、視線を窓の外に固定している。
窓の外では静かな昼下がりの町並みが広がっている。だが、彼は間違いなくそれを視ていない。
漠然とした何かを見極めようとしているのを、メンタルテストをクリアしていないアルマージでもわかった。

「それならば公式発表の通り、発案した立法院議員の更迭と共に消滅しています」
「そうか」

理想郷(シティ・アーベル)にとって人々のストレスは基本思想の否定に繋がりかねない。
10年前のレプリロイド犯罪が浮上する前から既にその基本思想と矛盾を否定するためにテロが起きている。
その唯一の解決策として、立法院はシティ・アーベルに住む人間をレプリロイド同様心(理性)と身(情緒)をともに調整することを提案した。
無論、当時議会に出席していたDr.ケインとリーンによって「ヒトへの反乱に準ずる」と見なされ、発言した議員たち、立法院は一時更迭された。
内容が内容だけに市井には公表されなかったが、一部の初期型レプリロイドや都市企画班のスタッフの間では今も長らく議論されている。

「もし今例の計画が実行されるとしたらお前はどうする?」
「…賛成するかはともかく、議会とマザーシステム双方が決定してしまえば、私などに拒否権はありません」

正直アルマージは回答すべきか迷っていた。例の計画の正否について判断する材料を持っていなかったし、この男が賛同するはずもないことを知っていたからだ。
しかしアルマージには彼が納得できる回答も持ち合わせていなかった。

「そうだな。確かにマザーがその気になれば、シグマ以外のレプリロイドをドミネートして完全な指揮下に置ける。実際、あのときもSWATに導入されていたステロテスシリーズがそうなった」
「そうなった、とは?」
「計画は議会で棄却されたが、マザーはシティ・アーベル全てのラインから情報を収拾し、分析し、そして理想郷としてどう在るか判断する。当時のマザーは提案を受け入れ実行しょうとした」
「それは…では、ステロテスシリーズの一斉暴走はマザーのハッキングだったということですか?」
「口外にはしてくれるな?」

アルマージは絶句した。これまでシティ・アーベルの中枢を担うマザーシステムが暴走するなどありえないとされていた。現在進行形で。少なくとも、アルマージの世代のレプリロイドはそう認識している。
アルマージが起動する前にロールアウトしたステロテスシリーズも、致命的な欠陥を抱えていたが故のプロジェクト凍結と公式発表されていた。
マザーにバグはなかったかもしれない。だが、男の言葉が正しければ暴走以外のなんというのだ。

「あの時、逃げ惑いながら再び廃墟の戦場をさ迷っている感覚に陥っていた。
理想郷など夢幻で、この狂騒と絶望こそが人類の現実であり罰(帰結)なのかと」
「博士、それは」
「わかっている。私を持ち場に引きずった同僚にも言われた。『まだ何も失われていない。失ってはいけない』と」

アルマージは何とも言えぬ感情を覚えた。博士にその言葉を投げた男は、同じ光景を前に一切絶望してなかったのだ。

「結果はニュースで報じられたのと変わらん。マザーは一時植物状態にされ、ステロテスシリーズも廃棄となった。適正化と言っても結局は基準が何であるかによって様々だし、いくらサンプルを採っても状況次第で『最適』いくらでも変わる。極論に急いでは、人類もレプリロイドも壊死に至ると言うことだ」
「計画は、尚早であったのですね」
「世界は常に変動する。だから完璧など存在しない。例え神でもだ」

「だが」と不安が滲み出る声で博士は呟いた。

「また、答えを急く者が現れるかもしれん。私はそれを危惧する」
「否定は出来ませんな」

外の世界はもちろんだが、シティも多くの問題(ストレス)を抱えている。レプリロイドの事件もだが、武装勢力による立て籠りやハッキングも少なくないのだ。

「長く愚痴をこぼしてすまない」と博士はこの話題を打ち切った。そのあとは明日に追加される武装のチェックと調整に話は変わった。

「博士。起動してまだ一年しか経験を積んでいない自分がこう言うのも矛盾していますが」

話が終わり、それぞれの部屋に帰る前にアルマージは手動式の車椅子で帰る男に言った。男は肩越しに振り返った。

「たとえ答が出たとしても、正否はともかく絶望することは無いと思います」

絶望という概念をアルマージは知らない。元来機械知性にそれを実装することは不可能だ(かの天才は可能にしてしまったが)。
それでもアルマージの中の自身では知覚できない部分は、彼に言葉を送らねばならぬと判断していた。

「少なくとも、個人の信念や幸福は主観はあれど正否に左右されるものではないのですから」

男はモンゴロイドの中でも表情の読みづらい、常に眉間に皺の寄った顔だったが、その顔が皺が伸びた程度だが、穏やかな笑みを浮かべた。



その数週間後、イレギュラーハンター第8機甲部隊への就任及び実装が決まったアルマージに、男から一振の刀(といっても古来からの玉鋼製ではなく超合金製)が贈られた。

「アルマージ、もし叶うとしたらーーー」

/*/

エックスは戦闘型ヒューマノイドレプリロイドである。(少なくとも、本人はそう認識している)
だからどんな理不尽な状況でも、敵対行動を取られたと判断したら即座に対応するようにAIにプログラムされている。つまり条件反射だ。納得しきれない感情を置き去りに、足は捕捉されぬよう動き、バスターはアルマージに照準を定める。

戦いたくなくても、敵は敵だ。ならば応戦するしかあるまい。

いつか対反抗武装勢力の演習でゼロがそんなことを言っていた。
正義の反対は悪ではなく、別の正義だ。でなくば第三次世界大戦は起きなかった。
縦横無尽に壁を走りながらこちらを遊撃するアルマージを見ながらそう思う。
アルマージの行動に迷いは無い。元々戦闘行為を行使するにあたって躊躇する戦闘型はいない(そも躊躇出来るくらいに思考の余裕のあるエックスが特殊なのだ)が、彼の動きは命令系統に帰属する機械のそれでも、反抗を完封された悔しみでも無い。
それはつまりアルマージはシグマの思想をある理解して受け入れていると言うことだ。片目の傷も彼なりにシグマと妥協するまでの激しい応酬によるものだろう。
そう判断する。そう思わねばまた自分の中に躊躇を生み出す。そして次の瞬間に自分は容易く切り捨てられるとエックスは予想できた。ここで逃げ出せば、どう転んでも自分は後悔すると確信があった。
撹乱も兼ねてカメレオンスティングを乱射。どんなに強固な装甲を持つ個体でも、必ず脆弱な部分が存在する。アルマジロをモデルにしたアルマージも例外では無い。だから彼を後ろから狙う者はいないし、腹部も背中のそれに劣らぬアーマーが装備されているが、間接部やセンサー類はその限りではない。
ゼロに及ばないが、射撃にはアルマージより一日の長がある。だが彼もそのことを承知済み。
距離があればエックスがバスターで狙うように、アルマージはシールドを前に出しながら突撃し斬りつける。あるいは斬りつけたのを防御した瞬間にシールドバッシュど殴り付ける戦法でエックスを追い詰めてきた。
ジェミニの攻撃でハンデを課されていたアルマージに対して、今ではエックスの方が多く傷を負っていた。

/*/

ハードの延髄に接続されたキューブ状の電子錠が破壊すれば電脳に障害を負いかねない代物だと判断したニードルとソードは、すぐさま基地に連絡を取るべくハードを二人で抱えて移動した。
でなくば基地に連絡がとれないからだ。二人は電脳技術に向いていない個体だった。自力で解錠するには衛星からツールをダウンロードしなくてはならない。
だがそれもかなりのタイムロスを生む。そして結局衛星からの電波が届く外に出なければならない。
10トン近いハードを這いずるように外への近道を進む。
最悪な気分だ。
アルマージを制圧するどころか、掌で踊らされている。何のために頭数を揃えて来たのかわからなくなる。
短くない坑道を抜けて、日の光が二人のセンサーに感知された。時刻はまだ正午。
ワイリースターが上空にあるのを確認してニードルは通信を送った。

〈こちらニードル、第5基地応答せよ〉
〈こちら第5基地。状況は?〉
〈ジュニア、ハードを確保した。だがハンターの最新電脳錠がかかっている。ただちに解錠を頼む。それとすまん、アルマージと交戦してジェミニが行動不能。現在エックスが対応している〉
〈了解。回収用のヘリをそちらに回す。マグたちもそちらへ向かっている。ワイリースターを経由してこちらへハードの電脳を繋いでくれ。それ以外は?〉
〈アルマージの体内にレベル4のバイオハザードパックが積んである。中身は軍用炭疽菌だ〉
〈出所は南米じゃねえな。現状レベル4を精製保存出来る技術保有国家と施設は限られる〉
〈ああ、こりゃ確実にパトロンの国家が出てきたみたいだ〉
〈座標捕捉。回路固定。ダウンロードを開始する〉

ニードルの電脳とワイリースター経由でデータとツールがダウンロードされるのを確認した。
あとは電脳錠に光ファイバーで直接アクセスして何層もあるかわからないファイアウォールを解除していく。
ニードルがハードの電脳錠をアクセスしている時、ソードマンのレーダーが高速で接近してくる物体を捕捉した。
反応からマグたちではない。即座にソードは抜刀しソードアームの超振動を起動させた。
飛来してくるバスター二つを切り払う。分散されたエネルギーが三人の後ろで岩を削りながら霧散した。

「VAVA!!」
「吾輩が突貫する!ハード兄者を!!」

バスターの熱と軌道から計算してフロストランナーが該当。発射予測地点から案の定飛び出したのはVAVAだった。走りながらマシンガンを発射。ソードは銃弾の雨を肉厚の刀身を盾にして突撃した。そうしなくては動けないニードルたちに着弾する。更にここを突破されればVAVAがどう動いても状況は向こうの思うままだ。
袈裟懸けをかわされるが、返す刃で大地を巻き込みながら横凪ぎに一閃。射撃の間を与えぬよう一陣の嵐となりながらVAVAを引き離し猛攻する。
それを紙一重でかわしながら、VAVAはギリギリミドルレンジを維持し銃撃と内蔵グレネードでソードを削りにかかる。間断なく襲いくる爆風をまき上げた土砂で威力を減らし、ソードは攻性のシールドとして二人を守り続けた。
その間彼の装甲はみるみる銃創と煤だらけになっていく。

「まだか!」

パーセンテージを示すメーターの残りたった20秒が致命的に長い。VAVAのことだからどんな凶悪な兵装を隠し持っているかわからない。
爆音。ゼロ距離の発破に堪らずソードは防御に入る。相手の動きが守りに入ればVAVAの独壇場。曲芸じみた動きでパニッシャーを叩き込む。
ソードも上半身と下半身を半重力で分離させ、全方位に剣を振り、紙一重でフロストランナーをかわし、あるいは切り払いながら間合いを詰めにかかる。開けば動けない二人が撃たれる。明らかに増えてるVAVAのギミックにソードは背水の陣でかかった。
VAVAに切り傷を多数刻み付けれたな、既に防御に盾にした腕は内部が露になり、片目も潰れかけていた。それでも生身でないことがソードの不退転を確実にした。
カチンと錠前が外れた音がした。ハードの電脳錠が壊れたキューブのようにバラバラになって落ちた。

「ウッオオォォォォォ!!!!」

拘束された鬱憤を晴らすためか、肝心なときに戦えなかった悔しみと怒りか。あるいは両方ない交ぜの咆哮をあげながらハードは再起動し立ちあがった。
その声を聞いてソードはVAVAから離れ、飛来した両腕がVAVAに殺到した。
そんな強力だが単純な攻撃をVAVAは難なく回避した。回避したが視界にノイズが走る。この感覚は久々だ。感知レーダーが無事だったが危うく文字通り針の筵にされかかった。

「衛星経由で俺の"眼"を盗むか!」

あの賞金稼ぎと嘯くカラス野郎め。天に向かって叫ぶ。
更に一気に増えた多方面からのハック攻撃を確認。電脳の危険信号が四肢への侵入を警告。
デコイと身代わり防壁が同時にクラックされ接続機器が火花を上げる。インターセプトの危機は脱したが、電脳はほぼ丸裸。すぐに第二波がくる。
立ち塞がるもの全てをスクラップにする気でいたが、このままでは自分がスクラップだ。磁石頭の時といい、全く思い通りにいかない。
一度断ってもすぐ捕捉される。煙幕を張り、すぐさま別のルートを検索。
足に仕込んだ煙幕を撒いて断崖をワイヤーでかけ上がる。下では自走タンクのモーター音が唸りをあげ、怒号と罵倒が上がっていた。
業腹。無様。と言う言葉を思い出しながら、VAVAは砲声と奥へと走った。

/*/

エレクトリックスパークを撃った頃、エックスはついに数えるほどしか手がないことに歯噛みした。
アルマージは性能も勿論だが、経験値が違う。でなくば、刀を避雷針がわりにして、エレクトリックスパークを封ずるなどできない。
特化型でなければイーグリードと共にシグマに匹敵するのは対決して改めて思い知らされた。
元来の防御力と機動性に加え、それを攻撃力に転換している。加えて経験で得た技量だ。
バスターの連射には問題ないが、決め手となるものを放つにエネルギーは底を尽き始めた。
それほどエックスの受けたダメージと疲労が危険領域に入り始めたのだ。

「万策尽きたか?」

一切の隙を見せずアルマージが挑発する。

「先人が残した無限の可能性はその程度か?」
「……一つ質問がある」

岩影に隠れながらエックスは言った。もちろん時間稼ぎだ。

「我々の理由ならば語り尽くしたが?」
「貴方の説得は現状諦めてる。この戦争の始まりについてだ」

VAVA、ペンギーゴ、マンドリラー、もしかしたらカメリーオも共通していた動機の発端。シグマが示唆したという「可能性」。
薄々だが、自分の出自が他のハンターと異なることを今までの出来事が仄めかしていた。

「シグマの言う俺の可能性が実際のものとして、それを闘争に見いだしたのは俺が戦闘型だからか?」

だからエックスは疑問に尽きない。レプリロイドの進化とは、どこまで強くなれるかが課題ではない。
元来の人類と機械知性の間を取り持つ第三者として生まれたレプリロイドが両者を無視して成立出来ない。共感と知性を持つ者ならば尚更だ。問題はいかに両者と共存共栄し、多様化を図るかだ。
味方が負けるとわかっている手抜きだらけの戦争を起こしてまでやるメリットがない。

「いずれ来る多極化と拡散に備える為に、ラボでも議論は重ねられいたし、強力な、とならばレプリロイドである必要は無い。むしろそれこそ兵器のーーー完全な戦闘知性の領域だ」
「故に納得できぬと?」
「今回の件がシティ上層部の計画だったとしても、多くの人と管理AIを無視して信頼を損ねた時点で俺は無理だ」

少なくとも、戦災から逃れ、あるいは戦い抜き、過ちを繰り返さぬようにと焼き払われた世界を甦らそうとした先人への裏切りだ。

「戦うにしてもっとやるべき事は多くあるはずだ。銃をつきつけ合うだけが全てじゃない。こんなことは、ーーーただの我執だ」

過酷な北極で難民と助け合いながらよりよく生きるために研鑽していたマルスのように。

「そうだな」

アルマージは共感するように短く肯定した。彼もまた日々を必死に生きる命の尊さを知っていた。

「確かに、闘争にそれを求めたのは貴官がそれだからと言うより、ハンターの主観であり『当代最高のレプリロイド』としての我執がそうさせたのだろう。わざわざ主力部隊を分散配置したのはその一環か」

「だがーーー」と冷酷にアルマージは告げる。「その現状に貴官は既に適応しつつある」

「戦闘、戦術、戦略。これらは同じようで全く異なるものだ。貴官の特性の一つーーーWCSはこの三つを覆しかねん」
「違う。それは俺個人ではなく兵装の性能だ」
「いいや、相対して改めて確信した。同じ規格のB級ハンターがそれらを扱うならば例えバックアップがあっても使いこなすには一月かかる。貴官のその驚異的な適応力は前例が無い。そしてそれが経験と共に力となる。となれば…」

予測出来ぬ存在を、さあ周囲はどう受け止めるか?期待と脅威、どちらが比重に動くか。

「俺は」エックスは絞り出すように呟いた。過度の期待も良いところだと言わんばかりに

「俺はただ、ハンターという役目を以てどうすれば皆にとっての最善となるか、それしか考えていない」
「それもまた貴官が特性よ」

「議論はここまで。既に談判破裂して暴力のでる幕だ。エックス、お前との議論は興味深かった。私の予測では、547秒前に仕留めているはずだった」

「単機同士での戦闘ではシグマに次ぐ最長記録だ」とアルマージは刀を構え突撃体勢に移行しながら素直に称賛した。

「それはどうも…!」

エックスもバスターのエネルギーは回復した。戦闘の最中でもGPSで坑道のどの辺にいるかは把握している。
今真上にあるのは可燃性のアゴニウム鉱脈。銃撃戦は致命的だ。だからアルマージも刀を主軸に切り替えている。
だからエックスは勝機を信じて飛び出した。

/*/

坑道の中をジェミニは火花を時々上げながら這いずって進んでいた。
刀傷は回路を閉じて応急処置したが、何分貫通創である。本来なら安全圏へ退避して処置しなければあっという間にエネルギー不足で機能停止してしまう。
それでも無様に這いながら戦場へ向かうのは、サーチレーダーと音響で観測していた戦闘推移に危機感を覚えたからである。
決闘とは銘打っているが、これはよろしくない。
電圧が全く安定しない体をむち打ちながら前進していると、影が動いた。赤い隻眼が自分を覗きこむ。

「ジェミニ」
「シャドー、連れていけ。それか手伝え」

シャドーは無言で肩を貸した。

「もうすぐ決着がつく。だが火力が足りん」
「狙いはアゴニウムか」
「サーモセンサーを潰す気だろうが今のエックスでは発火に至らん」
「VAVAが近づいている。マグネットと赤松の網を抜けてきた」
「食い破った、ではなくか?」
「ライドアーマーがダメになった途端チャフで撒かれた。今さっきだが包囲していた軍の自走タンク2台がハッキングされて、ハードたちに向かっている。今赤松達が食い止めているがまだ奴は捕捉できん」
「シグマは武士の心がわからない」
「出来とったらこんなアホはやらんだろ」
「アルマージは死なすな。ジュニアが悔しがる」
「当たり前だ。走るぞ」

/*/

エックスが文字通り乱射を始めたことにアルマージは意図を掴みかねていた。

「うかつな。破れかぶれになったか?」

実際エックスの放つバスターは坑内を穿つばかりで、アルマージには殆どダメージにならない。
この周囲はアゴニウム鉱脈が露出している。占拠前も火気厳禁だったし、アルマージも銃撃は控えていた。でなくばバックドラフトで火だるまになってしまう。
カメレオンスティングやショットガンアイスが来るものと予測していただけ、エックスが錯乱したと思うような所作に感じた。

(だが錯乱ではない。何かを狙っている)

確信はあった。エックスのはレプリロイドの錯乱ではない。

(だとしてもそれは自殺行為だ)

アゴニウムに引火出来ても都合よくアルマージだけにとはいかない。
何せ四方に走っている鉱脈だ。たちまち他にも引火して、この坑内を炎が舐め尽くす。エックスも無事ではすまない。

(そもそもエネルギーが足りない)

だから予測の中から切り捨てていた。自分の損傷を無視して突撃するなら、それはそう設定されたメカニロイドか、追い詰められた人間だ。レプリロイドにはあり得ないという無意識の思い込みがあった。
それが主観を持ったがゆえ欠点だと気づかず。
いくつかの手榴弾が投げ込まれるまで、勝利を疑わなかった。
地面に跳ねた手榴弾がジェミニのセブロで全て撃ち抜かれ、爆発。同時にシャドーの亜空間影に潜った直後、坑内を爆風が吹き荒れ炎がアルマージとエックスを呑み込んだ。
両目は庇えたが、背中のサーモセンサーが一斉に死んだ。実質のエネミーロスト。
アルマージはひたりと自分の背に銃口が突きつけられるを感じた。

「チェックメイトだ」

光が視覚を焼く。内部に荒れ狂う電圧に耐えきれず手は刀を離し、アーマーがはじけ飛ぶ感触とともに、彼は敗北を受け入れた。





[30192] 城は燃え落ちて
Name: 黒金◆be2b059f ID:9647be7c
Date: 2017/09/01 17:48
『いつか組織や社会における自分のアイデンティティー、あるいはその枠組みの意義を見失う時が来るかもしれない。お前にその時が来ないことを祈るが、その時の為に備えをしても遅くないだろう』
『博士、これは私の基本構想と真逆の存在です』
『確かにこれは斬ることに特化した凶器だ。だが同時に霊器としての信仰もある。進んで無辜の民を殺すか、あるいは彼らを背に戦うかでその価値は変わる』

だからこそお前に遺したいと博士は最後の傑作を自分に手渡した。

『自分のアイデンティティーに疑問を感じた時にこれと向き合いなさい。そして願わくば、お前が善き人々と思った者達の為に使いなさい』

/*/

「第8機甲部隊隊長アーマー・アルマージ」

走馬灯という現象がある。死に瀕した人間が意識を失う直前に遭遇するものだと思っていたが、レプリロイドも例外では無いらしい。
今しがた、一昨年に亡くなった博士との最後の会話とその情景が、急に記憶野にアップされたのだから
実際アルマージは名前を呼ばれるまで自分が仰向けで倒れていることも視覚が戻っていないことにも意識がなかった。
ノイズだらけの視界を凝らせば、全身煤だらけになったエックスがあちこち火花をあげながらこちらを見下ろしていた。

「国家反逆幇助、国営保有地の不法占拠、生物兵器の使用未遂並び生物兵器条約違反により逮捕する」

内圧の変動であちこち不具合が出ているだろうに厳かに罪状を述べた後「何か質問は?」と尋ねた。

「何故あの距離でエレクトリック・スパークを使った?」

とりあえず思い至ったのそれである。アゴニウムの着火もそうだが、零距離の放射は対応は勿論全く予測の内になかった。
エックスはしばらく考えた末、 「賭けさ」と言いきった。

「他の攻撃は装甲でしのいだのに、電磁レーザーや最初のスパークは別のものを使って防いでいた。だからやはり電流対策は出来ていないとわかった」

実際隊長クラスと戦うことになった時点でエックスは本部からハンター在籍時のカタログスペックと戦績を開示されている。(ただし脱退してからも自己改造の可能性があるので過信はするなと釘を刺された)
多くのクリエイターは自分のレプリロイドが破壊されるのを厭うて情報を制限するが、弱点は自ずと知れていた。

「だが貴方ほど経験を積んだレプリロイドとなればまた別のもので対策はするだろうし、実際された。ならば正攻法は愚策だ。零距離で撃ったのは、視覚以外のセンサーで反応されても命中させるためだ」

「何よりこうでもしなければ貴方を無力化することは出来ないと思ったんだ」

氷漬けのなったバイオパックを手に「上手くいってくれて良かった」と一人ごちるエックス。その視線は坑道の影になっているところに向いていた。
そこには日頃同僚から「甘ちゃん」 と揶揄されるB級ハンターはいなかった。

「エックス、お前はーーー」

アルマージは信じられないものを見るような目でエックスを見た。

「既に『直感』という概念を実装しているのか?」

多くのレプリロイドとそのクリエイターが夢見て諦め続けた可能性が目の前に存在していることに静かに驚愕していた。
シグマはいざ知らず、ゼロが近いものを持っていると噂されているが現時点で人間の第六感に等しいそれを理解できた者は皆無である。クリエイター側でもあらゆる解釈で研究中だが、実装させるには不確定要素が多すぎると殆ど進んでいない。
シグマはエックスの特性は『思い悩むこと』と驚異的な適応力であると言っていたが、ここまで度しがたいとなれば

「敗北は必然であったか…」

何かがストンと落ちた心地だった。

「本国へ移送後はラボで拘留、取り調べを受けてもらう。データチップも没収後、 データベースに保存される」
「知る限りは全て開示する所存であるし、私の経験とスキルがお前の糧になるなら異論は無い」

実際アルマージは穏やかな心持ちであった。未練の半分以上が解消されたのだ。

遠くで砲声と銃声が鳴り響き、不吉とともに反響した。
本部のナビゲーターに繋いで状況を確認したかったが、生憎坑内はECMが解除されていない。距離が近づいているところからしてよろしくない。
アゴニウムだってまだ鎮火していない。
エックスはアルマージを担いでその場を後にしようとした。滝のところまで戻れば信号弾を発車して最寄りに展開するレプリフォースに救援を呼べる。
負傷だらけの身体に鞭打ってアルマージを背負う。エネルギーも何とかもつ計算だった。
だが向こうの方が早かった。足音を感知した瞬間、手榴弾が投げ込まれ煙幕が一気に洞窟を満たした。視界が完全に煙いっぱいになる。
砲声がしたのとエックスがアルマージに突き飛ばされたのはほぼ同時だった。
エックスの肩は抉れ、アルマージの首が宙を舞った。ボールのように転がる首に遅れてバランスを無くした胴体がどうっと倒れた。

「アルマージィッ!!」

絶叫しながらエックスはアルマージの首に駆け寄った。生身の人間なら即死だが、脳殻を閉鎖モードにすれば数時間は意味消失を免れる。
咄嗟に首を抱えてからは無我夢中だった。機関銃の様な弾幕を掻い潜り、追撃をかわしながらひたすら逃げた。
襲撃者の姿を確認する間もなかったが、いやでも口封じだとわかった。戦う余力がなかったのもあるが、何よりアルマージを死なせるわけにはいかなかった。彼の生存はシティ・アーベルにいるクリエイター達にとっても逃亡中の第8機甲部隊隊員にとっても希望なのだ。しかも懐には炭疽菌のバイオパックがある。
チャージが撃たれたのを感知し、外へ滑り込むと意識朦朧としながら滝壺へ飛び込む。激流に揉まれながらもエックスはアルマージの首を離さなかった。

/*/

「ちっ、逃げたか」

あちこちが燃え始めた坑内でVAVAは毒づいた。アルマージだけは確実に仕留めたかったが、中々エックスの悪運が強かった。アルマージに庇う余力があったとは。
もうここに用は無い。せめて戦利品としてアルマージの装甲と刀を頂こうともとの場所に戻って違和感を感じた。
無い。
ちらちら燻るアゴニウムの火に照らされた決闘の場には何も無かった。
吹き飛んだ白銀のアーマーも、捨てられた鞘も、手放された無銘の刀も
もうコロンビア軍の介入が始まったか?いや、あいつらはまだ暴走した自走タンクの捜索と対応に右往左往しているはずだ。
では誰か?表の連中が戻ったにしては早すぎるし物資だけ持って帰るか?いや、それは多分無い。絶対待ち伏せするはずだ。
センサーを最大値に上げて身構える。どこから攻撃されても対応出来る構えだ
一本道の坑道の中なら攻めかかってくる場所も限られてくるが、光学迷彩で姿を隠した敵など今さら珍しくない。第3勢力、あのバカ探偵も連なっている旧世代の遺産ならば大歓迎だ。
今か今かと姿の見えぬ獲物を待ち構える。
その姿を、赤い隻眼が足元の影の中で冷たく見つめていた。
今の自身に隙は無いと自負しているVAVAの踝に超電導ナイフが深々刺さるまであと一秒

/*/

シャドーは中破のジェミニを付近まで来ていたマグと青松に任せると、直ぐに影の中に戻ってしまった。
この時になってマグは相棒の惨状を目の当たりにして声を上げた。

「うわ、どてっ腹に風穴」
「うるせい」

まだあちこち火花を散らしているが、意識ははっきりしている。マグは冷静にデバイスを起動してファイバーを繋ぐとジェミニの電圧を調整した。

「アルマージは?」
「終わった」

「立会人を指名すべきだったんだ」ジェミニは素っ気なく答えた。エックスが無力化してバイオパックを回収して冷凍処置したとこまでは見たから勝敗は決していた。
だがVAVAを通してしまったからシャドーは蜻蛉返りせねばならなかった。

〈調整したら指定したポイントに向かってくれ。そこにヘリを待たせている。タンクも赤松達が撃沈したから途中合流できる〉
〈シャドーは?〉
〈VAVAを無力化のち拿捕してもらう。もうギャグは捨ててうちでとことん話し合おう〉

シェードの大破を受けて実感したシグマのバックの底知れなさ。シグマも何の打算も無しに反乱したわけではないと思っていたが、大国が保有している技術者科学者とは違うものを感じる。
奴等も前世紀に失われたものを掘り返すのに躍起になっているところだ。
もう遊び心を混ぜるのは危険すぎる。敵の不確定要素は出来るだけ潰したい。一応友人だから避けたいとかいう甘さはむしろ命取りだ。
それに

〈身内の不確定要素は今のところどうしょうもないしな。クイックとかフラッシュとか〉
〈うん、それな〉

明らかな敵対行動をとらないだけマシと言えるだろうか。特にセカンド組は半数以上が報連相の重要性を理解出来てない。長男曰くクイックは初期よりマシになったらしいが

〈イランも包囲網は完成したし、太平洋は拠点の割り出しが進んでいる。説得交渉が終わり次第、東京攻略に備えよう〉

シャドーの失敗など一切考慮に入れずに話を進めるエンカー。それは信頼であり確信であった。
それを証明するかのように、鉱山からVAVAの絶叫が響いた。
もうのんびり待つしかあるまい。だってあいつ不意討ちしほうだいだし

/*/

身体が鉛になって深いところに沈んでしまっているのだろうか。
視覚はおろか微弱な電流だけが今のエックスの感じる全てだった。
似たような状態をシグマに刺された直後に経験している。
今はこの微弱な電流を通して色々歪んでしまった自分の内側を少しずつ変えていくのを感じる。

「α波、β波を確認」
「エックスの再起動を確認しました 」
「エックス、私たちの声が聞こえるか?」

レプリフォースの技師とライフセイバーの声が聞こえた。急速に意識が浮上する。だが視界が真っ暗なままだ。首から下も感覚が無い。繋がれたコードから通される電流がその存在を証明していた。

「何も、見えない。何も、感じない。状況を、誰か、説明してくれ」

自分が五感を持たない、外界にアプローチする手段を持たない機械になってしまったと錯覚したエックスは混乱した。声が音になっているかわからぬまま水面へと必死でもがく心地で言った。
「落ち着いて」とライフセイバーが嗜める。「今前頭葉域を立ち上げる」

「供給開始します」

電力の供給とともに体内の神経系やチューブが修復されているのがわかった。それに伴い麻痺した視界にノイズが入り、ゆっくりクリアになっていく。
首を動かせばビーブレイダー内の治療室だとわかった。
左腕が全く反応しない。そういえば肩を後ろから撃ち抜かれたんだった。足も限界までブースターを吹かしたせいか動かない。

「君が突入した二時間後、鉱山を包囲していたコロンビア軍の自走タンク二台が暴走。それを受けて付近を哨戒していたレプリフォースが川に打ち上げられていた君とアルマージの脳殻を発見し回収。危険な状態と判断され、すぐこちらに収監し応急処置を施した。現在それから五時間二十三分五秒経過している。アルマージの脳殻は収容済みだ」
「炭疽菌のバイオパックは?」
「それはレプリフォースがキノシンなどで処置したのち密封した。現在完全除菌のために向こうのラボで構成を解析中だ。出所についてもシティとコロンビアで共同捜査チームが編成される予定らしい」

そこまで言ってライフセイバーは厳しい表情でエックスに詰め寄った。

「さて君が処置してくれたおかげで最悪は免れたが、第17部隊専属ライフセイバーとして忠告する。君には本国に戻り次第完全な修復と調整はもちろん、最低3日のインターバルを要請する。ここ最近の君の稼働率はA級ハンターの単独限界稼働率を越えている。このままでは過剰ストレスで不具合が生じるぞ」
「アルマージは、本当に強かった」
「知っている。本来なら君とゼロとA級ハンターもう一人でかかるべき案件だ」
「彼の部下について何か分かっていないか?アルマージは鉱山に価値がなくなったからシグマにパージされたと言っていた。それで決闘で外部の目を引き付けて逃がしたと」

ライフセイバーが目開き、技師が気遣わしげに視線をやる。ライフセイバーも答えるべきか戸惑っていた。
嫌な予感がした。

「エックス、残念だがーーー」

ライフセイバーが痛ましげに、だがはっきりと告げた。

「現地から八キロ離れた地点で、戦闘の跡と大量の機械の残骸が発見された。詳細はまだわかっていないが、近辺に散らばったタグから第8機甲部隊の隊員たちだと推測されている。生存者はコロンビア軍とレプリフォースが共同で捜索中だが、現時点では見つかっていない」

絶望とはこの事か。
エックスは動く右手で顔を覆った。哀しみが度を越えると声すら出ないと初めて知った。

/*/

二機のヘリがビーブレイダーを護衛しながら飛んでいく。あれが今日最後のヘリだ。
ここ最近鉱山を包囲するためにローター音にジェット音、挙げ句は戦闘音で人間だけでなく森の獣たちはすっかり怯えて参っていたから胸を撫で下ろす心地だった。
それを樹木の隙間から消えていくのを見届けた2体のレプリロイド。
その顔に哀しみもなく悔恨もなく、シティに帰還する最後のチャンスかもしれないそれが去り行くのを黙って見ていた。
同胞に会わせる顔もないし、帰っても厳しい追求の後、廃棄か情報漂白は確実だ。それにここには心残りがありすぎた。
ローター音すら聞こえなくなって鳥たちと獣の声がひしめくようになって長い蔓を持っていた一人が「行こう」と促すともう一体も肩かつぎした木材を担ぎ直して村に歩き出した。
道中畑に精を出していた夫婦に挨拶をかわす。

「昨日うちの鶏小屋直してくれてありがとうな。今日はどこ行くんだい?」
「今日は下の川の橋を直しにいきます」
「ああ、あそこか」
「ええ、せめてバイクか台車が余裕で通れるように広くしておこうかと」
「歩きでもやっぱり怖いし」
「助かるよ。こないだ流されてから丸太一本じゃキツイって思ってたんだ」

丸太一本かけて「これが橋だ」と豪語するのは何もこの村に限らない。政府の援助は辺境に殆ど届かない。
この村にいたっては、10年前鉱山になった元の土地から住民を強制退去させる先として家と水源を提供してそれきりである。
殆ど未開の森や畑からの収穫とガイドになった若者が招いた旅人にお土産を売って得る収益、そして都市部に出稼ぎに行った者の仕送りで細々暮らしていた。
貧しくも長年住んでいた土地を奪われた彼らの不満と怒りは深い。
第8機甲部隊が彼らに出会ったのは占拠の3日目。アルマージたちの鉱山占拠を受けて若者たちの怒りがついに爆発したのである。

『宇宙人とそのロボットは出ていけ!』
『尻尾降るだけの政府もだ!』
『ここは元々俺たちの土地だ!』

周囲の反発は予想していたが、二昔の銃と火炎瓶で向かって来たのには面食らった。
その日は威嚇射撃による退去で終わり。翌朝彼らの言葉に疑問を持ったアルマージは、示談も兼ねて直接彼らの村に赴いた。そしてエネルゲン鉱山の成り立ちに伴う村の経緯を知ったわけである。
アルマージの行動は一貫していた。彼は隊員たちにこういい聞かせていたからだ。

『シティのときもそうだが、我々の守るべきは組織でなく人々だ。そしてそれはシティの中だけではない。正攻法でシグマに逆らえない以上、我々が腐心すべきは目の前の人々をどう守りきるかだ』

鉱山夫から仕事を奪っているが、人間を攻撃することはアルマージの本意ではない。隊員たちも彼に倣って村人に主張した。
代わりに彼らにエネルゲン以外の出土品、そして生活環境の改善のために技術提供することを誓った。そして村人には包囲網が解除されるまで鉱山に攻撃をしかけない、近寄らないことを誓わせた。
これが無ければ村の若者たちは本格的にゲリラに転向するところだったと老人たちは語る。
それから定期的な派遣交流があった。学校もない。技術者もいない
村で隊員たちの知識と行動力は歓迎された。隊員たちも想像以上の窮状に全力で力を貸した。
なけなしの笑顔と贈られる「ありがとう」の言葉。
両者の間の溝が埋まりつつあった頃、反乱軍に送るエネルゲンの総量が目的量を達成した。
それから新しい指令が通達されるのかと思われたが、その気配は無かった。代わりに奥に幽閉していたハードマンを巡ってシグマとアルマージの壮絶なやり取りがあったのは記憶している。
そして失明はしなかったものの片目を斬られて帰ってきた アルマージから言われた。

「我々はこの鉱山ごと分離された」

それから状況を整理する間もなく、部隊の解散と隊員だけで脱出することを命令された。自分一人が囮になると
何人か徹底抗戦や全員でのシティ帰還を進言した。だがどちらも現実的ではないと言われた。

「復讐は考えるな。まず確実に生き残れ。これは命令だ」

それからは全員必死だった。予想より早い襲撃に48名は二手に分断された。正確には23名が足止めを買って出て、残る25名は散り散りになって落ち延びた。
そしてこの2名の他、5名が村に逃げ込んだ。村人もボロボロの彼らを何も言わず迎え入れてくれたた。
それから七名は、応急措置で動けるようになると老朽化したり、破損したものの修理や再建など、若者と村の整備に精力的に励んだ。
最近は公用語のスペイン語の教育もしている。
他の逃げた者は報復を準備しているか、帰還を願って都市を目指しているか、あるいは自分たちのように似た事情の村に流れ着いたか、最悪遭難したか
いずれにしろ、彼らここを終の住みかになっても後悔しなかった。アルマージの本願である、 組織や国の命令を越えて誰かを守ること。
それを命題にすることを彼らは選択した。
イレギュラーハンターとしてシティ・アーベル司法に帰属しているレプリロイドとして逸脱行為に当たるが、アルマージのロストはそれを可能とした。
少なくとも自分たちの援助が必要ない程度になるまで村にいるつもりだ。
不便だらけのこの国でも、子供は生まれ育つのだ。
再び空を見上げ、シティの方角を見る。突き抜けたような青さだった。隊長は、アルマージは帰れただろうか?
村から小さな子供達の笑い声が聞こえる。畑を終えた親たちが休憩の談話をしている。自分たちが有り合わせで作った風力発電が回っている。
その全ての音を聞きながら、二人は坂を降りた。



[30192] 設定(鉱山編)
Name: 黒金◆be2b059f ID:9647be7c
Date: 2017/08/18 21:41
久々過ぎて書き方忘れた…


・ハード 豪腕剛拳 【BGM.鉄血ガーディアン】
正式名称DWN.020、ハードマン。
体重3トンのヘビーロボット。元々は整地作業用ロボット。セラミカルチタン性の大変な硬度を誇るボディを備えている。その体重を武器に小型ロボットブースターで上昇して、急降下させてのボディプレスを得意としている。
その他にも両腕を飛ばすロマン溢れる「ハードナックル」を使用してくる。
性格は正々堂々の勝負を好む豪傑である。ドラム缶とか言ったら潰す。
覚醒後に昔とった杵柄で開拓事業を中心にアルバイト。今回のエネルゲン鉱山は、差別はあれど補給も出来て割りのいい職場だった。 
多くの人間に出会いながら、コミュニケーションの重要性を痛感。口調はかなり変わった。
今回は鉱山夫たちを逃がす際孤軍奮闘の果て、アルマージに不意討ちされて拘束。検査のあとは回路を短絡化して半自閉モードへ
この際アルマージと反乱軍本隊で熾烈なやり取りがあったのを察知。アルマージとコミュニケーションを図って相互理解と情報収集を試みるが、時間は味方してくれなかった。

・ニードル 刺し貫く針山 【BGM.その壁をうち貫け】
正式名称DWN.017、ニードルマン。 
鉱山作業用ロボット。厚さ30センチのコンクリートを貫通する程の強力な「ニードルキャノン」 
を武器に使用する。またそれ以外にも頭部には「ニードルハンマー」という武器を持っており、 
これは頭部にある針を鎖に繋がれたハンマーのように攻撃してくる。どうみても戦闘用
また見た目に反して身軽に動けることができ、大ジャンプしてくる。 WRUはどこをどう見て鉱山用と判断したのだろう。
 でも地下でも動けるように特性センサー付いてるよ。安心して(何)
アルフォンスと早い段階から打ち解けているので、最近仕事にかまけてあまり連絡がなくて寂しい。

・ソード 踊る剛剣 【BGM.】
DWN.059 、ソードマン。
その昔、ワイリー博士が博物館から窃盗した大昔の大剣を使いこなすために造り上げたロボットで、剣士の姿をしている。
孫は近接戦ロボットを作りたかったが肝心の武器が無かったのでぱちったのだろうと上記の理由を信じていない。
「じいちゃん、武器一から造るのめんどかった?」「んなわけあるかい!別に設備に時間かかるとか、試作品作りすぎて資材スカンピンになったとかそんなことはないぞい」「俺の目見て話そうか?」 
バスターソードだが、鮮やかな切れ味と居合い切り、兜割りなどの剣技を持っており、炎を自在に纏わせることが可能。しかし、剣が余りにも大きすぎて動きのバランスがとれないので、上半身と下半身を分離させて、上半身は半重力で常に浮いている。 
特殊武器「フレイムソード」は剣に炎を纏わせて敵を切り裂く。上半身を分離させての回転斬り「ファイヤースラッシュ」が得意技。また、自分の周りに強力な火炎バリアを張り巡らせることもできる。 
正々堂々とした勝負や居合切りを好み、嫌いなものは刃こぼれ。 
対アルマージを考えての派遣だったがハードの安全を優先して断念。それでも兄弟を守るためにVAVAの弾幕に立ち向かい、ボロボロになっても守りきった。

・ジェミニ
対アルマージ用に派遣が決まった。理由は全ての弾道を見極めかつ計算して撃てるので、跳弾を利用することはあっても自滅することは無いから(ただし単体に限る)
とっつきで大破したが、止めは手伝った。エ◯ラルドスプ◯ッシュばりの弾幕を浴びせたので(作者は)満足。
ちゃんとシャドーに回収されてマグと合流。重傷2号。

・VAVA
分かっていたがやっぱり人間側がきな臭くなってきた。
人間は人間同士仲良く戦争してろ。いちいち口出しするなネタにするな邪魔だ。と思っている。
自分の侮っていた奴から注目されてイライラは溜まる一方。言っておくが焼け野原ひ◯しではない。
さすがに内偵しているだろう列強にまだ邪魔されたくないので、第8機甲部隊の粛清を引き受ける。
あわよくばエックスも葬ろうかと思ったが、逃げられた挙げ句怖いニンジャに捕まった。

・アーマー・アルマージ 鋼鉄の甲弾闘士
第8機甲部隊隊長。
アルマジロの亜人レプリロイド。
鉄壁の防御力を誇る白銀の装甲を纏う最硬のハンター。真に恐ろしいのは鈍さの欠片も無いその機動性であり、矛(刀)を与えられてさらに隙がなくなった。
武人肌の堅物で、イレギュラーハンター部隊の指揮権を全てシグマに掌握された事から彼を上官と判断。「上官の命令は絶対」として表向き反乱に参加する。蜂起後は兵器の原料の採れるコロンビアのエネルゲン鉱山を占拠し籠城。
もちろんこの行為は死者を出さなくとも、シティ・アーベルの信用性はもちろん現地にもダメージを与えるテロ行為であると理解している。(ただし断れば死人を出すことに何の躊躇も無いカメリーオあたりが派遣されていた)。
その為エックスの考えに理解を示しているが、同時にレプリロイド、メカニロイドの開発もとい進化があくまで製作する人間や政府の都合によることに社会に対する危機感を募らせている。(来るべき国家の暴走でレプリロイドが第3者の立場を剥奪される。思考の制限強化etc…)
結果、シグマの理想と自分の理想ビジョンが違うことを認識し反目しながらもエックスの可能性に賭けたい欲求とシグマ(とそのバック)の好きにさせてはならない使命感からハードマンを人質に決闘を行う。
 彼が最後まで守りたかったのは、ハンターとしての矜持でもシステムの一部であることでもなく、戦友である部下たちと目の前にいる日々を必死に生きる『善き人々』であった。




[30192] 太平洋は今日も晴れ
Name: 黒金◆be2b059f ID:9647be7c
Date: 2017/09/09 16:21
青い空
白い雲
輝く水平線
群青の海

あらゆる地で多くの血が流されても、焼け尽くされても、破壊され尽くしても、ここだけは世界の美しさを残していた。
かつて人類史上最長の橋はかつての威容の欠片も残さず残骸を晒し、諸行無常を体現しても海底に沈む戦艦の残骸は漁礁として多くの命を育み、人の手が届かなくなったそこは正に原初の楽園風景を顕現させていた。

「なにぃぃぃぃぃぃい!?自宅で乗馬運動ができるだとぉぉぉ!!」

その中心で青緑の水脹r…DWN.011バブルマンは叫んだ。

/*/

「なんでそうなる!?だからオクトパルドとアリゲイツの第6部隊のせいでブリッジ周辺封鎖されてるって説明したろ!!」
「ヤローの顔なんざ知らん」
「ナルタコとトゲワニ、あと銭ガニ」
「あ、わかった」
「ならよし」

寸劇のようなやり取りを経てウェーブマンはやっと話が進んだことに安心した。
現在ウェーブはシティから崩壊した太平洋横断橋の残骸ーーー無数にある残骸のうち、バブルマンが私的な基地に利用している地点を訪ねていた。
がめつい兄弟が多い中で特に長兄組のバブルマンはロボットの癖に金と女には目がない。逆にそれ以外には淡白である。
何せこいつは反乱が起きても通常運転で海中に没した船舶や戦艦から物資を引き揚げて闇に流していた。
しかし残念なことに自律している水中戦特化型ロボットは現在自分と目の前のスケベデブしかいない。
ハンモックでグラビア誌(ウェーブ的に許せぬことにビキニオンリー)をアイマスクがわりに優雅に寝ている兄を叩き起こし、現状を説明して冒頭に至る。

「てことでギガフロートの封印を解こうってのがジュニアとサード、フィフス、セブンスの総意だ」
「え?あの変態どもにゃ大袈裟だろ」
「だからタコどもしばき次第その足で東京来いって。あっちに集まってるの知ってっだろ?」
「えー、メンドクセ」
「嫌なら俺に鍵寄越せ。俺が人魚たち助けにいくから」

人魚とはシティが海洋の探査と環境保存のために派遣された半魚型亜人レプリロイド達のことである。
目的に合わせて姿かたちは様々だが、女性型は伝説にあるデザインと同じなので総じて人魚と呼ばれ、現地でも人気は高い。余談だが脚だけ人間タイプの魚レプリはいない。断じていない。
そんな海洋活動しているレプリロイド達の大部分は反乱軍の進撃の際シティへ撤退したが、十体前後(バブルのお気に入り含む)が音信を絶ち行方不明だ。
ちなみに発見できたら一体につきいくらでシティに引き渡そうとかはウェーブの中だけの秘密だ。

「おいバカ何たらたらしてんだ。行くぞ!オンボロの調整手伝え」
「うぉい!」

人魚と聞いてバブルは既に潜水準備に入っていた。あまりの転身にツッコミを入れるウェーブ。慌ててバブルの後を追い潜水する。
朽ちかけながらも揺らがない橋の骨格を降りる形で、二人は魚の群れを潜りながら海底へ向かった。

「三分前の会話もそのノリでイエスって言えよ!」
「バカヤロー!テメーには聞こえんのか?俺の助けを待つ美女六人の声が!!特にマーティーちゃん」
「そりゃアンタの妄想だ」
「俺の戦いは敵を倒すだけじゃねーのよ。誰かを助けるためにするんだ」
「カッコ良く言ってるけど絶対自分とかわいこちゃん限定だよな?」
「さあ行くぞ!ハリー、ハリー、ハァリィィィーーー!!」
「わかったわかった!あと行方不明の人魚は十体だからな?ヤローだからってスルーすんなよ?」
「え?ヤローからのキスはいらね」
「分け前減るだろうがバカ!!」

/*/

「ねえエックス、貴方本当に標準のマルチタイプ?」
「どうしたんだよ急に」

シミュレーションルームでミッションをクリアしたエックスは、難しい顔をしたオペレーターに質問されていた。

「潜水艇のドライブシミュレーションはダウンロードがあったからみんなと同じタイムなのはわかるけど、艦内戦闘のスコアが…」
「というより殆どは一人で片付けちゃったよな」

モニターに表示されるのは六人小隊それぞれの戦果。エックスがダントツトップで残り五人は1か0という有り様だった。
なんのことも無い。エックスがこれまでの勢いで単身突貫したのである。ナビゲーターが警告した頃には、すでに接敵しており、瞬く間に撃破してしまうからまた困った話である。

「反応速度が反乱前の倍になっている…」
「やっぱり実戦配備で経験値がたまった影響かな?俺も早く修理終わってれば…」
「それにしてもチーム組んでるのに単身突貫はまずいよ。始末書も怖いけどサポートする身にもなってくれ」
「ごめん…」
「最近単身任務が多かった弊害ね。なまじ何度も成功してるから最善と考えてしまうのは人間もレプリも一緒かなぁ」
「でも例のパワーアップパーツは一つでも欲しいな」

隊員の一人がぽつりと呟いた。

「特にフットパーツ。発電所のミッションデータ入ったけど、やっぱりフォーマルじゃ単独撃破は無理だ。マンドリラー(A級)の機動についていけない」
「例のパーツまだ解析終わって無いけど、通常の1.5倍は固くないって話だな」
「ああ、わかる。僕はショットガン持ってても逆に間合い詰められてデリートされた。逃げたけどスピードが…」
「やっぱり早く量産化なり、俺たちのバージョンアップして欲しいな。そしたら俺だって…」
「向こうにはまだクワンガーやスタッガーもいるんだろ?撃破した分もデータ取っているはずだし、最後にどんなかくし球があることやら…」
「はいはい。向上心が高いのは結構だけど暗くならない!今回のミッションはレプリフォースの太平洋横断橋跡地の奪還作戦に並行した行方不明者の捜索と救出であって、イレギュラーの撃破ではないから」

サブリーダー格のプレシオが手を叩いて場を切り上げた。

「よって我々に要求されるのはA級戦闘レプリロイドを各個で制圧出来る戦闘能力ではなくて、一人の脱落もなく物理的にも電脳的にも拘束されているだろうレスキュー達を保護し無事脱出すること。そのためにアタッカーが突出しすぎて孤立しても意味ないし、俺たちのブランクも完全に取り戻さないといけない。明日もこの時間にシミュレーションしょう」
「そうね。エックスはまずチーム行動に慣れて。修理が終わったとはいえ、アルマージ戦での負荷が残ってるんでしょ?司令からも直々言われたとか」
「うん、今のところWCSも俺だけだから近いうち向こうに対策を取られるだろうって」

それだけ事の深刻さが伺えた。実際エックス一人の力ではないが、戦果として記録された分はB級にあるまじきものばかりだった。
『お前が強くても、一人では意味がないのだ』
修理が終わった直後にモニター越しに釘を刺された。
何でも議会の方でエックスの力を過信して早期終結のためにもフルに活用しようとする意見が出始めたらしい。
イレギュラーハンター史上最悪の人手不足とはいえ、大変宜しくない雲行きだ。これではA級を中心にB級、C級の多くのレプリロイドを揃えた意味がない。
シグマを倒してもレプリロイド犯罪は起こるのだ。
少なくとも東京に集まっている反乱軍の規模から考えるに、これまで通りには行くまいと司令から言われた。
復帰した隊員が定数に満ちた今、一人で戦うなと

「俺が敵なら絶対そうするよ」とプレシオが言った。「あらゆる状況で仕留め損なってるんだ。ついにはパワーアップしてるし」

「え、いや、たまたま幸運もあったから…」
「いやいや、それがなくても今お前が破壊されたらWCSとパーツのデータがオシャカになるし、俺たちのパワーアップの道が遠ざかるから。スパイ使い潰す覚悟でシティで暗殺する価値はあるかと…」
「怖いこと言わないでくれ!」

味方のふりした敵に後ろから撃たれるなど想像もしたくない。
いくらシグマが手抜きをしてくれているとは言え、スパイは確実にいるだろうし、反乱軍の中にシグマの方針に不満を覚えている派閥は出始めている頃だ。少なくとも鉱山ではその気配があった。

「今回はレプリフォースが戦闘を引き受けてくれるから、準備が整うまで無難に進めよう。ゼロさんやビートブートも、この作戦が終わり次第シティに帰投するって」
「東京突入まで兵装整うといいね」
「うーん、パーツもいいけどSWATのパワードスーツ回してもらうとかないかなぁ?」
「どうだろ?あっちも工場やられてるからまだ定数満たしてないんじゃなかったかな」
「俺は最新型のロングライフルが欲しい」

エックスを含め隊員たちもそれぞれ割り当てられた部屋へ帰る。
第17部隊初の海中任務まであと一週間を切っていた。

/*/

元第6艦隊隊長タコ型亜人レプリロイド、ランチャー・オクトパルドは二番艦への通信第一声にこう言った。

〈今唐突にあの水膨れに風穴空けたくなりました〉
「俺は通信第一声にそれ言われてアンタがイレギュラー化したのも仕方ないと思ったぞ」

受信側の二番艦艦長のワニ型亜人レプリロイドホイール・アリゲイツは呆れながらツッコんだ。ドアップ映像といい、この隊長は何か色々今更だ。

〈失敬な。私は現在比較的ニュートラルな状態です。ただ唐突にあの海の恥さらしが私の悪口を言っている気配を察知したのです〉
「『噂をすれば影』ってか?アンタといい、年取ったレプリは非現実的なレーダーでもつくのかい?」
〈以前話したでしょう?蓄積される経験値が多ければ多いほど、個性の発生はもちろん元来のスペックを上回ることは珍しくありません。実際各国の海軍との戦闘はシミュレーションで数多くこなしましたが、現実に戦闘を繰り返した場合の経験値の蓄積量はそれを上回っている。まあ話は逸れましたが、あやつに何度も遭遇していれば簡単にシミュレーション出来てしまう事柄です〉

〈早い話、我々の哨戒を全く意に介さない奴の行動に振り回されるのはいい加減うんざりしてます〉と、オクトパルドは本題に移った。その声には静かな怒りがあった。

〈せっかく設置した機雷やメカニロイドを破壊されるどころか回収されて闇に流されるわとこれでは以前の職場と変わりません。破廉恥な置物にすげ替えられていた時は本当に回路が暴走しそうでした〉

映像が切り替わって映し出されるのは機雷を設置した筈なのに何も無くなっている海域の映像。
ネットオークションで売られている機雷や音信不通になった小型メカニロイドの映像。これはクラブロスが物資の予算節約で偶然見つけた。
機雷に代わっていかがわしい人形が海中に浮いている映像。
決して広域ではなかったが、オクトパルドたちを憤慨させるには十分すぎるものばかりだった。

「そりゃ隊の総意だ。昨日も気ままに沈没船漁りに来てたし、こないだのブリッジを突破した『未確認』、最後にあいつを日本に護送したのもあの水膨れヤローだ。絶対蜂の巣にしてマリアナに沈めてやろうぜ」
〈もうすぐ東京で難民達がテロを起こします。日本はもちろん近隣国家も太平洋上の治安回復に向けてイレギュラーハンターの投入も辞さない構えに入っています。B級隊員たちにダウンロードする水中戦のデータウェアも出来上がる頃です。三時間前にレプリマリーナの白鯨が出港しました〉
「やっとか」
〈そうです。やっと我々は戦争が出来ます。地道な輸送作業もこれで終わります。だが世界に対して華々しく戦う前に不確定は極力取り払わねばなりません。敵を誘い込む餌は準備できましたが、全く安心できません〉
「奴の塒なら、おおよその特定は済んでいる。あとはアンタのゴーサインだ」

大戦で破壊され、今や巨大な岩礁が集まる太平洋横断橋の海域が映し出された。
ここ数ヶ月、愉快犯に腹を据えかねたアリゲイツが隊員と共にモニターに張り付いて割り出した成果である。
オクトパルドの大きな目が愉悦に歪んだ。

〈よろしい。突入しなさい〉




[30192] 深海より愛をこめて
Name: 黒金◆be2b059f ID:9647be7c
Date: 2018/01/04 12:47
明けましておめでとうございます。今回は短いです。

****

「作戦を説明する。依頼主はいつものインテリオル…じゃなくてワイリー軍団。太平洋横断橋跡地からハワイ周辺~日本近海を占拠封鎖している元イレギュラーハンター第6艦隊を排除してもらいたい」
「先生、俺トーラス派なんでパスしていいですか?」
「変態なのはビキニ好きだけにしろ。せめてBFとかオーメルとか」
「黙れウェットスーツマニア。オーメルだけは許さん」
「いや俺も許さんけどさ。真のエロスが何故わからん」
「そうは思わん。人の可能性は露出にある」
「肌出しゃ良いってもんじゃねーだろ。つーか話が進まん」

立体プロジェクターの前で顔を付き合わせながら2体は海図と敵情報を注視していた。
彼ら二人はかつてワイリー軍団が作っていた海底ドッグの中にいる。

「一番艦のネレウス、二番艦のオケアノス。周辺を警護する軽巡八基。そこから撒かれる自動メカニロイドと機雷およそ4000」
「あれレーダー感知式だけど下に隙間があってな。海底からはザルなんだ。だから取り放題」
「てことは海底からも接近できるか。でもフリートで歩きはキツいなぁ」
「んー、強行突破も悪かないが、上はレプリに任せて海底張るのもありかもよ。確か国連で作ってた海底基地が戦時中どうなったかわかってねーし。見つけたらあのタコ絶対私物化してっぞ」
「なに、あんたなら見つけてんだろ?」
「広すぎる上に浸水と老朽化が酷くて見つけた時は7割が漁礁になってたかな?それなら軍団の基地の方が楽だし。ただ整備すれば復旧できる人間用区画は幾つかあったな」
「飛空部隊の人質もそっちかもな。フローターつけれんし、出れてもすぐわかる」
「人魚も馬鹿正直に艦内に置いてねえだろな。人質の価値が無い」

そうなのだ。人魚と謳われるが、実際は幻想世界の住人ではなく海底調査の『機材』である。同じ人質でも優先順位は海軍の新兵より低い。
情報の吸いだしが終われば、あとは水中活動に最適化したボディと随伴のメカニロイド。無理矢理ハッキングして諜報に使うもよし、突撃兵器にしてよし。
困るのは技術の流出を恐れるシティであり、ボディだけでもと欲しがる輩は数多にいるだろう。
というか、蟹あたりがネットオークションに出品しようと画策してるだろう。
「ところでさー」とバブルは監視カメラの映像をピックアップした。

「レーダーが反応したから何かと思ったら巡洋艦がこっち向かってんだけど」
「オケアノス、ワニだなあ。お前ドジった?」
「いやー?こないだもちゃんと撒いたはずだぜー?あー、でも機雷何個か帰りにもらっていったからなぁ」

人、それを盗難と言う。ついで彼の挑発と言わんばかりの行動に第6艦隊の堪忍袋の緒は切れていた。

「あ、撃ってきた」
「スナイパージョーに通達。第一種戦闘態勢!」

/*/

「どう思う?」
「罠でしょ?」

レプリシーフォース少佐ーーーエイ型亜人レプリロイド、ジェット・スティグレンの問いにプレシオは表情を変えず即答した。
プレシオの他の面子も複雑な表情をする者はあれど意見は一致していた。
彼らの眼下には解析班と補助メカニロイドが、解析トレイに横たわる金髪碧眼の人魚を前に忙しなく動いている。
作戦開始の前日未明に「マーティ」を名乗る太平洋ハワイ沖周辺担当レスキューレプリロイドがホノルル沖を出発した白鯨に単身駆け込んだのである。
随伴のメカニロイドは拿捕された時全て没収された。そんな中決死の覚悟でネレウスから独り脱走してきたという。
マーティは下半身を換装すれば陸上活動も可能だが、そのパーツを捕まっていた間持っていられたとは思わないし、しかも非武装のレスキューレプリが戦闘型がひしめく戦艦から逃げ切れるとは思えない。
他の仲間を救出してほしいと懇願した彼女の意思までを疑うつもりは無いが、警戒するに越したことはなかった。
故の拘束と解析であった。

「多分取引して逃がされたんだと思う。でなきゃここまで来れない。提供されたルートだって絶対待ち伏せされますよ」
「問題は他のレプリが連れ込まれた先だ」
「てっきりティキティワ海上シティの方だと思ったが」
「あそこは無理だ。ただでさえブリッジ防衛戦以来海賊と難民たちの自治区みたいになっている。それを一部武力制圧したようだが地元民が恭順していない。デスログマーが何度か立ち寄っているが、さすがに空港周辺を占拠するのが限界のようだな」

「おおよそ重りを抱えながら動き回る意義は見いだせなかったんだろう」とスティグレンは呟いた。

「だから海底基地に置いたか」
「オクトパルドがいるのもそこだと言っていた。肝心の記録映像はロックがかかっているがな」

身体中の接続機器にコードを繋がれてデータ解析もといウィルス解析を受けているマーティは現在意識を落とされている状態だ。
今のところ、爆弾やウィルスは見つかってないが記憶など何かしら操作されているのは確かだった。

「洋上の艦隊は対処可能だ。だが海底基地に関しては国連に詳しい設計図を問い合わせているが、何分古すぎて資料が残っているかも怪しい。あってもいつ情報が届くやら…」

いつどこでどう作ったか定かではない基地に、威力偵察するのは危険が多い。スティグレンの言葉には戦線の早期終結と部下を軽率に犠牲にしたくないジレンマからくる苛立ちが表れていた。
オクトパルドとほぼ兄弟機で親交もあったボルト・クラーケンがいまだ黙秘を貫いているため協力を取り付けられなかったのも痛い。

「いっそ正面突破も悪くないと思う。情報が少なすぎる」

巨大潜水艦『白鯨』ならば、強襲は可能だ。元々海底調査のために建造された基地とは言え、第6部隊が改造しているだろうが尻込みしていては作戦は始まらない。

「俺もプレシオの意見に賛成です」とエックスも前に出た。

「連中には彼らを人質に置いておく価値は無い。なら、さっさと情報を吸いだしたら再改造して自分の端末にする方が断然いい。そうなったら彼女のようにどんな罠を積んだか自分でもわからないレプリやメカニロイドが増えてしまう」
「オクトパルドは優秀だけど、そのポリシーがかなり理解不能できわもので通っていた。どこまで偽装かわからないが、だけど我々の理解できない理屈で確実に攻撃してくるのは確かだ」
「その理解不能なポリシーとは?」

首を傾げるスティグレンにプレシオは苦笑いしながら言った。

「戦いは芸術的であるべきだと明言していました。予定調和的な制圧とは違うんだそうです」
「プレシオは波状攻撃推しだもんな」
「戦術だけで戦争に勝てた時代はとっくに終わってる。スマートに目的を果たして全員帰還が一番だよ。そのための俺達(B級ハンター)だろ?悪口じゃないけど、今回自分から進んで反乱したA級は思考の偏りがひどいのばっかりじゃないか」

「スタッガーは突っ走って潰していきゃ全部解決と思ってるし、マンドリラはものぐさだし、クワンガーはいちいち変なポーズ決めてるし、第9のカメリーオに至っちゃとにかく汚ない手使えば勝てると思ってるし…」とプレシオが日頃抱えていたストレスを吐き出し始めたのを察知してエックスや地雷を踏んでしまった仲間が「まあまあ」と嗜める。

それを引き気味で見ていたスティグレンに白鯨の艦長から通信が来た。

〈少佐、至急ハンター達と艦橋へ上がってくれ〉
〈何かあったのですか?〉
〈太平洋横断橋跡地のJ地点でが確認された。解析した結果間違いなくオケアノスだ〉
〈了解。すぐ向かいます〉
「何か新情報が?」
「アリゲイツが動いた」

/*/

艦橋の大モニターにはレーダーを通して周辺の海図、白鯨と随伴艦の位置。そして南下している敵性反応ーーーオケアノスの反応があった。

「オケアノスが向かっている先には何があるんですか?」
「公式には横断橋の瓦礫と沈没船しかない。だが所属不明の船舶が行き来しているのが目撃されている」

「だが」と艦長は顎をさすって思案した。

「あそこに反乱軍の脅威になるものは存在しないはずだが…」
「予測ルートはティキティワから大分離れている。海底基地に至っちゃ逆方向。二番艦を引っ提げていくほどの何かがあるとは到底思えん」
「これはチャンスじゃないかな?」

ポツリと呟いたプレシオを全員が見た。

「つまり!『何も無い』と言うことは、レプリフォースや我々が救助に急行する義務が発生しないのですね?」
「今のところはな…」
「ならば、二番艦が艦隊を離れている隙に一番艦を叩き海底基地を制圧するのが良いかと」
「正気か?取って返されたら挟み撃ちに遭うぞ」

さも当然のようにプレシオにスティグレンは問い質した。

「シグマの指示の可能性は低い。だが難民がいないとも限らない」
「それなら救難信号を出している。だとしても十中八九海賊だ」
「だが義務は無いとしても無視するのは得策ではない。最悪でもメカニロイドを派遣して目的を確認すべきだ!」

「時間の無駄だ!」「あんなところと行っても人間が本当にいたらどうする!見せしめに虐殺されるぞ」「日本を目指して海に出る避難民は未だに減らないんだぞ」「それなら一番艦を攻撃した方がいい。二番艦もコースを転身せざる得なくなる」

人命優先派と強襲を推薦する派で艦橋内の意見が別れた時、黙々と観測を続けていたソナーが端末メカニロイドの拾う音を余さずキャッチした。

「オケアノス、発砲。カノン砲です。続いてJ地点深度7000に超大型エンジンの駆動音を確認。全長はミシシッピ級と推定」
「え?」
「え?」

場の空気が一気に凍った。

「アンノウンの熱源さらに上昇。カタパルト展開、魚雷八基です。艦長、これは完全にオケアノスと不明艦が交戦に入ったものかとーーー」
「ただちにプローブを派遣!解析を急げ!!」
「ほら絶対助けなきゃいけない奴らがいるわけ無いって」
「エックス、大丈夫?何か顔真っ青よ」
「頭が、脳殻内の回路が悲鳴をあげてる」

何だろう、最近イレギュラーよりアンノウンと聞く方がストレス になってる気がする。
プレシオの杓子定規さに反感を覚えたのを忘れてエックスは壁に寄りかかりながら懊悩した。


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