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[30266] 真剣で悟空と闘いなさい!(DB×真剣恋クロス)【完結】
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2013/05/04 17:40
※この話はドラゴンボールと真剣で私に恋しなさい!のクロスです。真剣の戦闘シーンが「DBかよ!」とか良く言われるので、じゃあ本当にDBキャラと戦わせてみようと言うかそういうクロスを読んでみたいとおもったけどなかったので、自分で書いてみました。
短く、さっくり終わらせるかもしれませんが、きちんと完結はさせるつもりです。





[30266] 1話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/07 20:27
 これは昔、昔のお話である。
 悟空がピッコロ大魔王を倒し、神様の宮殿で修行を始めてから1年半が過ぎた頃のことである。

「はっ! はっ!」

 神の宮殿で一人突きの稽古を繰り返す悟空。すると瞬間移動したかのように彼の横に黒い肌の男が現れる。神の付き人であるミスター・ポポである。

「悟空、ちょっと来い」

「んっ、何だ、ポポ?」

 突然、現れたポポに対し、平然とした表情で振り向く悟空。それに対し、ポポは無言で反転すると神の宮殿の上に立った建物の方へと向かう。

「そっちに何かあんのか?」

 ついて行く悟空。そのまま建物の中に入り、更に地下へと進んでいく。それは今まで悟空がいままで入ったことの無い場所だった。黙って歩いて行くポポとその後ろを物珍しげに道の周りを見ながらついて行く悟空。
 そして二人が進んだ先、そこには大きなドアがあった。

「この部屋に入る。それが今回の修行」

「えーー!! もしかして、前、入った“精神と時の部屋”みたいなとこなのか!?」

 ポポの言葉に思いっきり嫌そうな顔をする悟空。“精神と時の部屋”の辛さは悟空にして音をあげてしまう程のものであり、修行馬鹿、格闘馬鹿の彼ですら1ヶ月と持たず音をあげてしまう程の過酷なものであった。
 何せ地球の10倍の重力で昼と夜で砂漠以上の温度差があり、何も無い真っ白な空間が広がっているのだ。普通の人間なら1ヶ月どころか1時間と持たないであろう。それを思い出し、露骨に嫌そうな表情をする悟空であったが、ポポは首を振り、彼の懸念を否定し、この扉の意味と修行の目的を説明しだした。

「心配ない。ここは異世界と繋がった扉。扉をくぐったものの実力に合わせて同じか、少し強い位の者が居る場所へと運んでくれる。悟空はこの2年で神様の修行大体はクリアーした。後は実践で経験を積むのが大切」

「んー、つーことは、この扉の先には強い奴が一杯いて、そいつらと戦ってくればいいってことか?」

「そうだ」

 ポポの肯定の言葉を聞いた悟空は目を輝かせ、一気にやる気を見せた。

「そういう事ならオラすっげー楽しみだ。久々にワクワクすんぞ。どんなつぇー奴が居るんだろう!!」

「それはポポにもわからない。それと一つ注意がある。一度中に入ったら3ヶ月は戻って来られない。3ヶ月たったら目の前に扉がでてくる。その扉開ければ戻ってこれる」

「3ヶ月ってーと90日位か。うし、わかった。それじゃあ、行ってくっぞ」

 早速、扉を開けようとする悟空。しかし、そこでポポが彼の襟首を掴み、引き止めた。

「悟空待て」

「な、なんだよ。ポポ、オラ早くつええ奴等と会ってみたいんだけど」

「これ、もってけ。異世界どんなところかわからない。食べ物が手に入るかもわからない。空気だけはあるが他はわからない。それに筋斗雲も異世界にまでは呼べない。けど、これあれば悟空ならばきっと生きていける」

 不満そうな表情をする悟空にポポが袋を差し出す。どうやら選別のようだった。受け取った悟空がそれをあけると中には如意棒と仙豆が10粒程、それにホイポイカプセルが3つとサイズを合わせた亀仙流の胴着入っていた。

「おっ、サンキュー」

 ポポに礼を言うと、早速袋の中から胴着を取りだし、着替える悟空。ブーツとリストバンドを身につけ、準備を整える。

「んじゃ、今度こそ行ってくっから」

「頑張ってこい」

 そして悟空はポポの声援を受けると扉をあけ、異世界へと飛ぶのであった。







「んっ、ここが異世界ちゅう奴か。地球とあんま変わんねえな」

 扉を潜った悟空は気がつくと見知らぬ場所に居た。どうやら、林の中のようで、周囲には木々が生い茂っている。見た目は元居た世界のものと大きな差異はなく、ついでに匂いも嗅いでみるがその辺りも大きな違いは無いようだった。

「さてと、まずは誰かみつけねえとな」

 悟空の目的は強敵との勝負である。まずは強い人間がどこに居るのかを調べなくてはならないと適当に歩きだす。
 周囲の景色を楽しみながらのんびりと歩いていると直ぐに林を抜け、道らしき場所へと出る。道は悟空からみて左右両方へと伸びており、よく見ると左側の方が下がっており、右側の方が上がっている。つまり、ここは山か何かで右に行けば山の頂上へ、左へ行けば麓に近付く可能性が高いと言う事。普通に考えれば、左へ行った方が人が居る可能性が高い。

「とりあえず、こっち行ってみっか」

 にもかかわらず悟空が選んだのは逆方向であった。
 何も考えていないのか、あるいは何かを感じ取ったのか、能天気な表情で歩く彼の表情からその答えは伺えない。
 そしてある程度歩き、山頂に近づいた彼は開けた場所に辿りつく。その場所の真ん中には一人の人間が立っていた。白い胴着を着て、黒く長い髪をした女。彼女に向かって、悟空は気安い調子で話しかける。

「オッス。なあ、オラちょっと聞きたいことあるんだけど、この辺に誰かつええ奴がいるとこ、知らねえか?」

 悟空の声に反応し、振り返った女は彼を見た瞬間に目を見開き、そして獰猛な笑みを浮かべる。
そしてその表情を隠さないまま悟空の問いに対し、答えると共に質問をする。

「強い奴か。ああ、知っている、知っているが、その前に教えろ。会ってお前はどうするつもりだ?」

「おう、ポポに、オラの師匠みたいな奴につええ奴と戦って鍛えてこいって言われてんだ。それにオラ、戦うの大好きんだからな」

「ふふっ、そうか。だが、そういうことなら随分とつれないじゃないか?」

 悟空の言葉を聞いて、女は楽しそうに笑うと。獰猛な笑みに隠しきれない歓喜の感情を加えながら、悟空を睨みつけて言う。

「んっ、どういう意味だ?」

 女の言葉に対し、悟空は意味がわからず、キョトンとした表情問い返する。それに対する答えは言葉ではなかった。

「!!……いきなりひでえな」

 言葉の代わりに突きつけられたのは女の拳。その拳は今、悟空の眼前で止まっている。女が寸止めしたのではない。悟空の顔面に叩きこまれる勢いで放たれたその一撃を悟空が首を動かして、紙一重でかわしたのである。
 その悟空の動きを見て女はますます笑みを強める。

「それはこちらの台詞だな。目の前にこんなに強くて魅力的な美少女が居るっていうのを、それを袖にして他の相手を探そうだなんて、それこそ酷過ぎるってもんじゃないか?」

 いきなり殴りかかったことに対し、全く悪びれず言う女に悟空は怒りもせず、寧ろ納得したとでも言うようにニヤリと笑って見せた。互いに感じとっていた目の前の相手が強者であるという直感、先とりのやり取りによって二人の中でそれは確信へと変わっていた。

「そうだな。おめえの言う通りだ。オラもおめえと戦いてえ。久々にワクワクしてきたぞ」

「ワクワクかな。ああ。そうだな、私もワクワクしているよ。こんなに興奮しているのは久しぶりだ。期待を外してくれるなよ!!」

 ニヤリとした笑いを浮かべ構える悟空。それを見て、女も歓喜の表情を浮かべ、一旦後ろに下がり構えを取ると名乗りをあげた。

「名を名乗っておこう。私は川神流、川神百代だ」

「オラは悟空、孫悟空だ。流派は亀仙流、あと神様に鍛えてもらってかな」

「神か。ははっ、面白い。ならばその言葉が本物かどうか、試させてもらうぞ!!」

 悟空の名乗り返しを笑う。神の弟子など普通に考えれば冗談か何かとしか思えないが、それが真実であるかどうかなど、百代にはどうでもよかった。大切なのはそれを名乗るに相応しい強さを男が持っているかどうか。ずっと感じていた己が餓えを満たしてくれるそんざいであるかどうかであったから。
 彼女の全身から闘気が発せられる。それを感じとり、悟空も全身から闘気を発する。
 こうして後に宇宙最強になる神の弟子と武神と呼ばれる女の戦いの火蓋は切って落とされるのだった。



[30266] 2話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/06 22:07
 両者が飛び出したのは同時であった。
 そして、その動きは何れも常軌を逸するレベル。もし、この場に第3者がいたとして、そのものが一般人であれば、否、相当に鍛えた武術家であっても常識の範囲にとどまるものであったのならば二人の姿を捕らえることはできなかったであろう。それができるのは常識の枠を超えた達人のみ、二人の速さはそれ程のものであった。

「たあ!!!」

「てりゃああ!!!」

 二人は互いに秒間数十発という速さで突きを放ち、それらの突きが交差しあう。その突きを二人は時にかわし、時に防御し、時に互いの拳と拳をぶつけ合い迎撃する。両者の実力は拮抗しており、数秒間の間、両者共にクリーンヒットが一度も無い状態が続いていた。
 そしてその拮抗状態を先に崩したのは百代だった。バックステップで距離を取り、力を溜め、大技をしかけてくる。

「川神流、無双正拳突きぃぃ!!」

 大岩をも砕く威力のある必殺の突き。しかしそれを悟空は両腕を交差しガードし受け止めて見せた。

「てりゃああ!!」

 突きの勢いが僅かに落ちた瞬間に両腕を広げ百代の拳を弾き飛ばす悟空。それにより百代の体勢を崩れ、悟空はそこを狙って反撃の蹴りを放った。
 それは普通ならば回避は愚かガードすら間に合わないタイミングの一撃だった。
 しかし百代は素早く左腕をあげ、その一撃を防いでみせた。だが勢いを殺しきることは出来ず、彼女の身体は大きく弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「ありゃ、やりすぎちまった……なんてことはねえよな?」

「勿論だ」

 一瞬、不安そうな表情を浮かべ、直ぐにそれを無用の心配だったとでも言うように問いかける悟空。起き上り、それに答えると同時に急スピードで飛びこんでくる百代。彼女の右手に気が集中する

「禁じ手、富士砕き!!」

「!!」

 その気の高まりようから先程の無双聖拳突きを超える威力があると予測される一撃。流石にそれをまともに受け止めるのは危険だと判断した悟空は上空に飛びあがって、その一撃を回避しようとする。

「川神流、致死蛍!!」

「んなっ!?」

 そこで上空に逃げた悟空に対し気功波が放たれる。まさか、飛び道具が来るとは予測していなかった悟空はその一撃をまともに受けて弾き飛ばされてしまう。
 しかしダメージは然程でもなかったようで空中で体勢を立て直すと体を回転させると、地面に着地して見せた。

「ふぃー、驚いたぞ。おめえもかめはめ波みたいなの使えるんだな」

「ほぅ、その口調だとおまえも気功波を使えるのか?」

 悟空の言葉を聞いて百代は笑う。致死蛍は彼女の使う技の中ではそれ程、強力な技ではないが、それでも余波だけで地面をえぐる程の威力のある技だ。それを受けてほぼ無傷のタフさ、互角のスピード、自分を弾き飛ばしたパワー。期待を遥かに超える悟空の強さに百代は歓喜していた。

「くくっ、これ程とはな。揚羽さん以来の強敵、いや、それ以上だ」

 彼女が今まで出会った中で間違いなく最強クラスの相手、しかも相手の持ち札がわからないが故に勝敗のまるで読めない。この戦いに彼女はこれまで味わったことの無い程の楽しさを覚え、興奮もこの上無い程に高まっていた。

「オラもだ。おめえ見たいに強い奴と戦うのは久々だ」

「ほう、久々と言うことは、他に強い相手と戦っているということか?」

「おう、神様だろ、それにテンシンハンにジャッキーのじっちゃん、クリリン、ヤムチャ、世の中にはつええ奴が一杯いっからな」

 数を数えるように指を折りながら強者の名前をあげていく悟空。それを聞いて百代は元々楽しそうだ表情を更に楽しそうなものへと変える。

「くくっそうか、そんなにもたくさんの強者がいるのか。ずっと世界の狭さに悩んで来たが、どうやら世界は限りなく広そうだ。何れそいつらとも何れ戦ってみたいが、今は目の前のお前に集中させてもらおうか」

「ああ、オラも思いっきしいくぞ」

 お互い歓喜の表情を浮かべる二人はその表情のまま再度、闘気を高めて行く。

「今度はオラのかめはめ波を見せてやる!!か~め~は~め~」

「川神流……」

 そして両掌を合わせるような構えを取る悟空。その手に気が集中していく。それを感じ取り、百代を気を高め集中させる。

「波!!!!!!!」「星殺し!!!!!」

 両者の放った気弾がぶつかり合うぶつかりあう。生じたエネルギーの余波が地面がえぐれ、周りにの木々が倒れていく。しかし、力の拮抗は僅かの間だった。悟空のかめはめ波が百代の星殺しを貫いて百代に迫った。

「ちっ、私が力負けするとはな」

 しかし自分の気弾が打ち破られるよりも早く力負けを悟っていた百代は舌打ちをしながら空に飛びあがっていた。先ほどまで彼女の居た場所をかめはめ波が素通りする。
 攻撃を回避した百代は右手に気を集中させ、反撃の為、再び気弾を撃とうと構えた。
 だが、そこで悟空が不敵な笑みを浮かべ。
 そして次の瞬間、彼の放ったかめはめ波の軌道が曲がって、上空の彼女に迫ったのである。

「何!?」

 驚愕する百代。このままでは直撃は確実である。
 しかしそこで彼女は驚きの行動を見せた。かめはめ波に対し、回避を試みるでも防御するでも、あるいは溜めた気弾を迎撃として放つ訳でもなく、無防備な姿をさらし、溜めた気を反撃として悟空に向かって放ったのだ。

「川神流、星砕き!!」

「!!」

 当然、百代はかめはめ波をまともに受けることになるが、悟空の方も流石に予想外だったのか、百代の放った星砕きを回避できず、その場に二つの爆発音が鳴り響き、盛大な土煙が舞い上がる。
 そしてその土煙が、晴れて行き、戦っていた二人の姿が見えてくる。

「いちち、まさか、あそこから攻撃してくるとはなー。流石にちっと、堪えたぞ」

 悟空は上に着た胴着が破れ、下に着ていた青い胴着が見えていた。その他、全身にいくつもの傷が見え、かなりのダメージを受けているようだった。
 一方、百代の方は悟空よりも更にダメージが大きい。何とか立ってはいるが、これ以上戦えるようには見えなかった。にもかかわらず、彼女の表情には何故か余裕が見える。

「? あんまり、無理しねえ方がいいぞ。ここまでにしといた方がいいんじゃねえか?」

「ふふっ、それはどうかな?」

 百代の表情に訝しがりながら試合の終了を薦める悟空。しかし、百代は余裕の表情を崩さない。
 そして信じられないことが起こる。

「いーっ!!?」

 目の前で起こった出来事に驚愕の声を上げる悟空。何と彼の前でみるみる彼女の怪我が治っていったのだ。そして数瞬後にはまるで最初から怪我などしなかったかのように完全回復していた。

「瞬間回復と言ってな。どんな怪我でも私は直ぐに治せるんだ」

「ひぇー。ズリ-な、そりゃ」

 呆れたと言った表情をする悟空。何時も周りを呆れさせることの多い彼にとってはある意味珍しいことである。
 そんな彼の様子を見ながら百代は問いかける。

「ならどうする? 降参でもするか?」

「いや、オラ、そう簡単に諦めねえぞ。それにおめえとの戦いは楽しいからんな。こんなとこでやめたらもったいねえ」

「そうこなくてはな」

 構えを取り、戦闘継続の意思を見せる悟空。期待通りの答えを見せてくれた彼に百代は今日、幾度目かになる獰猛な笑みを浮かべると彼女もまた構えを取った。しかし、そこで勝負再開とはならなかった。

「止めんか、この馬鹿孫が!!!」

 その場に戦いを止めるものが現れたからである。


(後書き)
感想の方を見ると、ほとんどの方が悟空楽勝だろうという意見でしたが、とりあえず、この作品のパワーバランスは今回の話しのような感じですすめて行こうと思っています。

PS.一話を微修正しました。
・悟空の神様の神殿での修行歴を2年から1年半に変更
・ポポの選別に亀仙流の胴着を追加



[30266] 3話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2013/05/03 17:40
 百代の祖父にして川神流の師範、鉄心であった。鉄心の額には青筋が浮かんでおり、怒りの形相を浮かべている。
それに対し、百代は彼の怒りを意にも介さず、彼に負けない位の形相で睨み返し叫びをあげた。

「じじい、邪魔をするな。私は今、これ以上無い位に楽しんでいるんだ!!」

「馬鹿もん、精神修行のための山ごもりだというのに、暴れてどうする!?」

 それに対し、怒声を更に強くする鉄心。二人が今、ここに居たのはあまりに強すぎる百代の闘争本能を制御するための精神修行のためであった。百代はそれを嫌ったが、その修行を終えたのなら強力な対戦相手を用意するという条件で承諾させていたのである。
 精神修行のために山ごもりしているのに、行き成り初対面の相手に喧嘩を売ってしまったのだから、それだけでも怒るのは無理ないが、鉄心更に怒りの理由を付け加えた。

「それにここは、川神の敷地ではないのじゃぞ。みてみい、周りを!!」
 
 その言葉に虚をつかれた百代が周囲を見渡すとそこには大穴の開いた地面や倒れた木々などとかなり酷い状態があった。

「あー、まあ、ちょっとまずかったか?」

「まずいわい!! こんなことでは約束は取り消しじゃぞ」

「あー、それはいい。それよりもこいつとの戦いを再開させろ」

 自らのした自然破壊には多少ばつの悪そうなしたものの、約束についてはどうでもいいとばかりに答える百代。まあ強さの分からない、自分を満足させてくれるかどうか定かではない相手よりも確実に強いと分かり切っている相手との勝負に価値を見出すのは当然の話だろう。それに気付き、鉄心も一瞬口ごもる。

「む……だが、まずは説明せい、その若者は一体誰じゃ?」

「オラのことか? オラは孫悟空だ。それにしても、百代も強かったけど、じっちゃんも相当強そうだな。オラ、戦ってみたいぞ」

 一旦、話しを逸らしつつ、最も気になることについて尋ねる鉄心。尋ねた相手は百代に対してだったが、代わりに答えを返す悟空。その答えを聞いて鉄心は考える。

(ワシの実力を見抜くか。まあ、モモヨと互角に戦える程のものならそれは当然として、いきなり戦いたいと言ってくるとはのう。モモヨと同じ戦闘狂か? しかし、モモヨとは違い、邪気が感じられん。戦う相手に餓えていないのか、精神修行ができているのか、あるいはその両方か……。理由次第ではこの男の存在、モモヨに対し精神修行よりもいい影響を与えてくれるかもしれんの。じゃが、その前に確認せねばならんか)

「ふむ、孫悟空か、西遊記の英雄と同じ名前じゃのう。中国の出身か?」

 鉄心がまずしなければならないこと、それは悟空の素姓を確認することだった。
彼はこの世界の武術の頂点に立つ川神院の総代である。にもかかわらず、今まで彼は悟空のことを噂すら聞いたことがなかった。悟空は異世界から来たのでそれは当然なのだが、当然のことながらそんな事情など知るよしもない鉄心の立場からすれば、この世界で最強、強過ぎると言われる百代と同等、あるいはそれ以上の強さを持つ悟空の存在を噂ですら聞いたことが無いというのはかなり不可解なことである。最も、表だって知られた世界トップクラスの武術家達に対し、実力で大きく上回る武道四天王のメンバーの知名度が国外ではあまり高くないということもあるので絶対あり得ないという話しでもないのだが。

「いや、オラはパオズ山出身だ」

「パオズ……? 聞かない地名だな? やはり中国のどこかっぽい名前だが。じじい知ってるか?」

「いや、わしも聞いたことがないのう」

 悟空の答えに首を捻る二人。それに対し、悟空があっさりとした調子で爆弾発言を投下する。

「そりゃそうだ。なんてったって、オラ、異世界の人間だかんな」

「「はっ?」」








「ふむ、つまりお主は異世界の神様の弟子で、修行のためにこの世界に来たと……。正直信じられんが、嘘を言っているようにも見えん。何か、証拠となるようなものはあるか?」

 爆弾発言の後、詳しい事情説明を受けた百代と鉄心。人を指導する立場として多くの人間を見て来た鉄心から見て、悟空が嘘を言っているようには見えなかったが、異世界から来たなどというのは鵜呑みにもできない非常識の話しである。証明を求める彼に対し、悟空は頭を書いて悩む。

「証拠つーてもな。どんなのみせたら信じてもらえっか、オラよくわかんねえんだけど」

「そうじゃのう。例えば、この世界に無い不思議な道具などがあれば証拠と言えるかもしれん」

「ああ、だったら、いいもんがあっぞ」

 鉄心の言葉に悟空は荷物のなかから如意棒を取り出す。武器に見え、事実武器として使用できるその道具を取り出したことに二人は僅かに警戒の態度を見せるが、悟空はそれを気付かず、如意棒を天に向けると言った。

「伸びろ、如意棒!!」

 その言葉に答え、一瞬の間に数百メートルの長さにまで伸びる如意棒。それを見て驚く鉄心と面白そうな表情をする百代。如意棒は悟空の世界にも一つしかない貴重品である。不思議な道具と言えばある意味これ以上無い位不思議なものである。

「どうだ? こいつで証拠になっか?」

「うっ、うむ、だができればもう一つ位何かあるといいのう」

「んじゃ、こんどはホイポイカプセル使ってみっぞ」

 如意棒を戻して尋ねる悟空に対し、確信を得るため更なる証拠を求める鉄心。その言葉に悟空は今度はホイポイカプセルを取り出し、その中の一つをスイッチを押して投げる。カプセルの中身が解放され起こる爆発。
 そしてそこに一体のロボットが現れる。

「ナニカヨウカ」

「あれ、おめえ……レッドリボン軍の時の奴だろ。久しぶりじゃねえか!! てっきり壊れちまったかと思ってたぞ」

 掌に治まる小さなカプセルがロボットに変わったことに当然、百代や鉄心は驚くが、悟空はその姿を見て別の意味で驚きの声を投げた。何故なら、そのロボットはその昔、悟空がレッドリボン軍のシルバー大佐の家から壊された筋斗雲の代わり持ち出したカプセルの中に入っていたロボットだったからだ。
 そのロボットの操縦する飛行機に乗って、北のジングル村を目指したはいいが、ロボットが凍ってしまい、飛行機が墜落してしまったため、そのまま別れてしまった相手である。

「アア、コワレタ。ケドオマエヲサポートスルタメ、ポポガオレナオシタ」

「へえー。よかったじゃねえか。よろしく頼むな」

 再開を懐かしむ悟空を他所に百代と鉄心が小声で会話する。

「モモヨ、どう思う?」

「正直、私はあいつと戦えれば素姓とかは割とどうでもいいが、多分本当のことを言ってるんじゃないか? クッキーも大概非常識な変身をするが、幾ら九鬼財閥でも、物体をあそこまで縮小したり拡大したりできたりはしないだろう?」

「そうじゃな。そうするとやはりあの男の言っていることは真実ということか」

 もし仮にホイポイカプセルのようなものがこの世界で開発されたとしたら、それは一般に流通するまで最上級の機密情報として扱われるのは間違いない。そんなものを平気で見せるあたり、悟空が異世界から来たという言葉はかなり信憑性の高いものだった。
 故にここまで見せられた証拠から悟空が異世界を来たという言葉を二人はとりあえず信じることにする。
 そしてそれを踏まえた上で鉄心は改めて問いかけた。

「わかった信じよう。それで、お主はこれからどうするつもりじゃ?」

「んっ、ああ。オラ強い奴と戦う以外に特に目的ねえかんな。とりあえず、おめえ達と戦ってみたいと思ってんだけど」

「ふむ、そうか。確か3ヶ月で元の世界に戻れるのだったな? ならば、それまでの間、川神院で過ごすつもりはないか?」

 悟空の答えを聞いて鉄心はそう提案する。それを聞いて百代は驚いた顔をした。

「おい、じじい。私は嬉しいが、川神院に流派のもの以外のものを入れることになるぞ。いいのか?」

「かまわん。無論、幾つかの場所には立ち入り禁止にさせてもらうがな。戦う場所や日時を任せてもらえれば互いの希望通りモモヨとの対決も認めるし、食事の面倒も見よう。どうじゃな?」

 門外不出の技を伝える川神院としてはかなり異例の申し出だが、これには様々な思惑がある。
 まずは、単純な善意。異世界から来た行くあての無い人間を放りだすのは人情的にできないという考え。
 次に警戒。百代に匹敵する戦闘力を持つ人間を放置することの危険性に対する考慮である。これまで接した感触から鉄心は悟空を善人であると捕えていたが、善人でも窮すれば罪を犯すこともあるし、異世界人であることにより常識の違いから全く悪気なくこの世界では問題になる行動を犯す可能性もある。そして鉄心が見誤っており、実は悟空が何らかの企みを持っている可能性も0にすることはできない。それら全ての可能性を考慮した上での保護と監視をするという思惑がある。
 最後に期待。同格の実力者が側にいることで、最低でも戦闘に餓えた百代のガス抜きをすることができる。そしてできるならば百代が精神的な成長、変化をしてくれることを鉄心は期待していた。

「メシくれるんか。だったら、オラ全然、文句ねえぞ!!」

 
 そのような思惑など知る由もなく、単純に戦いと食い物、悟空にとって二大欲求とも言えるものを提供してくれると言う提案に飛び付く悟空。
 そんな悟空の単純さを見て、そして鉄心の思惑を半分位悟りながら、自分の望みが敵うという状況に百代は楽しそうに笑う。

「くくっ、じじい、珍しく話しがわかるじゃないか。わかった、私も、少しだけ待ってやる」

 そんな百代を見て、師範代への説明など、今後の厄介な面倒を思い溜息をつく鉄心。こうして悟空は異世界の武術の総本山、川神院でホームスティすることになるのだった。



[30266] 幕間
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/03 03:08
 これは川神百代が孫悟空と出会った頃にあった出来事である。
 百代は『風間ファミリー』と呼ばれる友人グループに属している。
幼馴染7人に新人2人を加えたそのグループであり、彼女にとって最も居心地の良い場所に一つである。
 そしてそのグループには9人を纏める一人のリーダーが居る。
彼の名は風間翔一、彼は今、危機に陥り、そしてこの上なく興奮していた。

「くぅ、まさか、この目で本物の恐竜を目にすることができるとはな」

「ああ、全くだ。だが、今はこの危機を乗り切ることを考えないとな」

 翔一は今、父親と共に大きな岩の陰に隠れていた。その岩の向こうには、彼等の会話に出た存在“恐竜”が存在していた。
 全長20メートル程度、ティラノサウルスに似た外見をした巨大な爬虫類。当然のことであるが、翔一が産まれ住む地球には現在そのような生物は存在していない。にもかかわらず、彼等の直ぐ側にそのような存在が徘徊しており、その存在によって彼とその父親は命を脅かされていた。
この状況は九鬼財閥がクローンで絶滅した生物を復活させたと言う訳でもなく、勿論、模型やロボットだと言う訳でもなく、彼等が今居るのが、“彼等が産まれた地球”ではないからであった。
 南米の奥地で発見された遺跡を冒険家である父親と共に探索した翔一は隠し通路を発見。その先にあった『この扉をくぐりし者、強き魂持ちし者ならば、未知なる世界へと誘わん』と書かれた扉を潜った所、一瞬めまいを感じたこと思えば、気がつけば二人は見知らぬ場所、異世界へと移転していたのである。
 そしてそこで二人は恐竜を発見、同時に二人は恐竜に発見され逃走。現在、隠れてやり過ごそうとしているのであった。

「大きな声を出すなよ」

「おう、俺も食われて、消化されるのはごめんだからな。しかし、この興奮を思いっきり叫べないのは辛いぜ!!」

 小声で注意する父親に対し、小声で答える翔一。自由奔放と言う言葉を形にしたような二人であったが、慎重さもなければ冒険家などやっていられない。興奮や緊張から大声をだしたり、物音を立てるような迂闊な真似はしなかった。

「ぐぅぅぅぅぅ!!!!!!」


「……親父、どうして居場所がばれたと思う?」

「嗅覚が鋭いのかもしれんな」

 最も、ミスをしようがしまいが、結果として見つかってしまっては、それは何の意味もないのだが。








「うおおおおおおお!!!!」

「うおおおおおおお!!!!」

 風の如き速さで逃げる二人と追いかける恐竜。最近の定説では骨格等から予想し、ティラノサウルスは走るのに向いた体のつくりをしておらず、巨体を考慮に入れてもその走る速度は人間の足で逃げ切れる程度と言われている。故によく知られた凶暴で強い恐竜とのイメージとは異なり、実際はハイエナのように他の動物が狩った獲物の残りを餌としていたのではないかと予測されているのだ。
 しかしその説が間違っていたのか、あるいはそもそも目の前の恐竜をティラノサウルスと同一視すること自体が誤りだったのか、人間としては快速である二人を上回る速度で恐竜は走り追いかけてきていた。

「くそっ、はええ!!」

「おまけに凄いパワーだな」

 最初に隠れていた岩や木々などの障害物を利用して何とか逃げる二人だったが、恐竜は足が速いばかりでなく、障害物を破壊しながら進むパワーまでも備えており、間の距離は数百メートルもない。加えて走り続けた消耗から二人の体力は尽きかけており、このままでいけば二人が追いつかれ食われてしまうのは時間の問題であった。

「こうなったら翔一、俺が囮になる。お前だけでも逃げろ!!」

「なっ、何、馬鹿なこと言ってるんだ、親父!!」

 自らが犠牲になると発言する父親に翔一が走りながら叫ぶ。それに対し、父親は同じように走りながらニヒルな笑みを浮かべ答えてみせた。

「心配するな。俺一人なら上手く立ちまわって見せる。お前は自分のことだけ考えてろ」

「んなことできるか!!」

 自分も生きて見せるといいながら、父親のその表情には覚悟が浮かんでいた。それに気付き、納得できないと叫ぶ翔一。とは言え、このままでは二人共食われてしまうだけなのは明らかである。何とか打開策を考える翔一。何かいいものは無いかと周囲を見渡し、そこで彼の目にあるものが入った。

「親父、あそこだ!!」

 足を止めあるものを指差す。それは進行方向右手の岩壁に開いた洞穴だった。全長2メートル位の大きさで、人間は入れるが恐竜は入れないサイズ。恐竜のパワーと言えど木と違い、岩は破壊できないだろうから逃げ込むのには最適な場所だった。

「よし、行くぞ!!」

 当然、父親もこれに賛同し、方向転換しその場所を目指す。当然、追いかけてくる恐竜。洞窟までの距離はどんどん小さくなる。だが、それと同時に、二人と恐竜の間にある距離も詰まって行く。

「くっ、間に合え!!」

 長時間走り、疲労の溜まった体に鞭打って二人は走る。
 洞窟までの距離は後、100メートル。

「あと、一息だ、翔一!!」

残り、70メートル。

「親父踏ん張れ!!」

40メートル。

「「うおおおお!!!」」

 気合いの叫びをあげる二人。だが、そこで二人の強運は尽きた。洞窟まで後、20メートルと迫った所で、恐竜が二人に届く距離にまで追いついたのである。二人を喰らおうと大口をあけ迫る恐竜。

「くっ」

 流石の二人も死を覚悟し、そして、鮮血が舞った。

「!?」

 牙を折られ、口から血をだした恐竜の鮮血が。
 それを為したのは一人の男。二人が目指した岩壁の上、崖になっている所からその男は飛びおり、そしてその勢い恐竜の顔面に蹴りを見舞ったのである。
 そしてその男は一旦、地面に着地すると再び飛びあがり、その両手を獣のかぎ爪のような形にし、恐竜の顔面に連撃を見舞った。

「狼牙風風拳」

 狼の牙を連想させる鋭さを持って、マシンガンの弾丸の如き速さを持って振るわれる連撃。それを受け、恐竜は白目を向くと昏倒しその場に倒れた。

「すげえ、まるでモモ先輩みたいだ」

 感嘆の声を上げる翔一。ちっぽけ人間が巨大な恐竜を虐げる。あまりに非常識な話しである。そのような非常識なことができそうな存在を彼は今まで一人しか知らなかった。
 そして、彼にとって二人目となった非常識な存在が二人のもとへ近づいてくる。

「危なかったな。怪我はないか?」

「おう、助かったぜ!! 俺は風間翔一。あんたは!?」

 興奮し、名前を恩人に対し名前を尋ねる翔一。少しばかり失礼な行動であったが、男は特に気にした様子もなく、苦笑だけを漏らす。

「その様子だと大丈夫そうだな。ああ、俺の名前だったな……」

 そして男は自らの名前を名乗った。

「俺の名はヤムチャ。武闘家さ」


(後書き)
普通の物差しで測れば、すっごく強いヤムチャが普通にかっこいい話って感じで書きました。
後、無印DBの世界はキャップに物凄く似合いそうだなあって思って書きました。



[30266] 4話(補足追加)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/14 09:41
「ねー、ねー、みんな聞いて。今度ねえ、うちに居候が増えるんだって」

 金曜集会で一子が切りだした話題に、風間ファミリーの注目が集まる。

「居候、なんだってまた。どういう奴なんだ?」

 友人の家に人が増えるということに関し、好奇心と心配が7対3位で混じった疑問を発する大和。ちなみに、心配よりも好奇心が多いのは川神百代他、川神院の人達に対する信頼からである。彼女等に対し危害を加えられる相手を想像することがまず難しい。

「んっとねー、お姉様とじーちゃんが山ごもりの最中に会った人で、何か異世界から来た男の人なんだって」

「はっ、異世界? 一子、お前、頭大丈夫か?」

 一子の口から飛び出した非常識な言葉に岳人が呆れた表情をする。他のメンバーも似たりよったりで、中には本気で心配しているような表情を浮かべているものも居た。それに対し、一子が怒る。

「失礼ね!! まあ、アタシも最初、お姉様から話しを聞いた時は流石に信じられなかったし、しょうがないと思うけどね。なんでも九鬼君のとこでも作れないような凄い道具を持っていて、お姉様と互角に渡り合ったんですって。しかも年齢もお姉様と同じ17歳らしいわ」

「姉さんと互角って、まさか格闘でか!?」

 一子の言葉に信じられないと言った感じで叫ぶ大和。姉を目標と、将来はそのライバルとなることを目指す一子は少し複雑そうな表情で頷いた。一子の肯定見て驚く風間ファミリーのメンバー達。百代の超人的な戦闘力を知る彼等にとって、彼女に匹敵する戦闘力の持ち主が居て、しかもそれが自分達と同世代だと言うのは驚嘆に値する話しであった。

「九鬼財閥でも作れないような道具って言うのも凄いね。それが本当なら、確かに異世界から来たって言う話しも信じちゃうかも」

 京の言葉には説得力があった。風間ファミリーの番外メンバー的存在であるクッキー、人間とほぼ同じレベルで思考するロボットを作れるなど、九鬼財閥の技術力は他組織に比べ、数十年先を行っていると言っていい。その技術力を凌駕する道具を持っており、百代に匹敵する戦闘力を持つ人物と言うのは確かに異世界人と言われても信じてしまえるし、実際、百代と鉄心はこれらの証拠を持って、悟空の話しを信じたのである。

「異世界人か……キャップが居れば会いたがっただろうな」

「寧ろ、既に飛び出して行ってそうな気がするね」

 異世界人の存在を皆が信じ始めた中、クリスがふと思いついた言葉を口にし、モロがそれに同意する。
 風間ファミリーのリーダーである風間翔一は好奇心の塊のような男で、今は父親と一緒に冒険中のため、この場にいないが、もし居れば異世界人の話しに一番の興味を示したのは間違いない。モロの言うように飛び出して行ってしまう光景も想像するに容易いものがあった。
 しかしその話題の当人が、今、現在異世界に居り、しかも話題の異世界人の友人と共に居るなどとは流石に彼女達の想像の斜め上であったが。

「しかし、キャップじゃないが俺様もちょっと興味があるな」

「そうですね。私、異世界の人ともお友達になってみたいです」

 異世界人に興味を示す岳人と由紀恵。それを聞いて大和が少し考え込んだ後、一子に質問する。

「ワン子、その異世界人は何時から川神院に住むんだ?」

「んとね、来週の月曜からだって。それまでは向こうでお姉様とじいちゃんと一緒に修行してくるらしいよ」

「3日後か……。よし、みんな、3日後に川神院に遊びに行かないか?」

 大和の提案にクリスが顔を顰め、少し窘めるような口調で行く。

「相手に断りも無く会いに行くのは失礼ではないのか? 引っ越しのその日に初対面の相手に尋ねて来られても相手は迷惑だろう」

「別に異世界から来た人に会いに行こうって訳じゃない。友達の家に遊びに行くだけ、そして修行から帰った姉さんを出迎えるだけだ」

 常識的なクリスの突っ込みに対し、大和は屁理屈じみた言い訳を述べる。転校して当初、本当に世間知らず出会った頃のクリスならば、彼の言葉を信じていたかもしれないが、他ならぬ大和にさんざん揉まれ、成長した彼女はその意図を見抜いて見せた。

「それはどう考えても建前だろう? それ位はわかるぞ」

「ああ、だけど単なる好奇心からじゃない。理事長が認めた話だから大丈夫だと思う。俺達が心配するようなことじゃないかもしれないけど、姉さんと互角で、九鬼財閥にも造れないような凄い道具を持っている奴だ。警戒はして置きたい。川神院に、姉さんやワン子に危害を加えるような奴でないのが自分の目で確かめておきたいんだ」

「そうだね。私も少し心配。特にワン子が」

 クリスの指摘を認める大和。
 そして彼は真剣な表情になると、自分の気持ちを正直に述べた。川上院はこの街では不死川や九鬼、綾小路に匹敵する権力をもっている。当然の如く外敵も多いのだ。何らかの企みを持った存在が近づく可能性は決して低く無い。
 その言葉を聞いて納得するクリスと同意の意を示す京。

「そういうことなら私も吝かではないな。その異世界人を名乗る男が、万一、不埒な輩であれば、私が成敗してくれる」

「モモ先輩と互角の相手にクリス一人じゃ無理」

 クリスの決意に突っ込みを入れる京。無粋な突っ込みに怒ろうとするクリスだったが、それよりも早く京が再度口を開く。

「だから、その時は私達全員で対処する」

 その言葉にクリスは出そうとした言葉を止め、そしてその代わり、その場に居た者達が次々と同意の言葉を発した。

「そうだね。僕に何ができるかはわからないけど」

「まっ、心配し過ぎだと思うが、もしもの時は、勿論、俺様も協力するぜ」

「はい、私も及ばずながら」

 いざと言う時には例え命をかけてでも仲間を守る。全員がその覚悟とその覚悟に繋がる強い絆を持っていた。直接、口に出さない者達も心は一つである。

「まっ、岳人の言う通り心配し過ぎかもしれないし、その人が本当に何の悪意も無いって言うのなら、それが一番なんだけどな」

 そこで大和が釘をさす。
 警戒は必要だが、警戒し過ぎて、敵意の無い相手を攻撃してしまうのは最悪である。まずは、見定めることが大切と指摘し、その後しばらくして金曜集会は解散となるのだった。







 一方、その頃、悟空と百代は風間ファミリーの懸念も知らずぶつかり合っていた。

「てりゃああ!!!!」

「とおおおおおお!!!!」

 上空50メートルにまで跳びあがった二人の拳が激突する。
 そして、その二人の足元で悲鳴を上げる人物が一名。

「お前等少しは加減せい!! 結界を張り続けるこっちの身にもならんか!!」

 周囲に被害が及ばないよう結界を張り続ける鉄心。
 しかし如何に川神院総代の彼とて、この二人の力を抑える結界を張ると言うはあまりにも負担が大き過ぎることであった。

「ははは、悪いなじじい。だが、1敗2分け、初敗北の借りを返すまでには手加減できん! いくぞ悟空」

「えーと、いいんか?」

「おう、かまわん!!」

「よし、なら、行くぞ!!」

 鉄心の負担に対し、全く気にした様子を見せない百代とほんの少し躊躇いを見せるものの、百代の言葉にあっさり意を返す悟空。

「か~め~は~め~」

「か・わ・か・み」

「やめんか、この馬鹿等がああああああ!!!!」

 悲鳴と怒りの混じった叫びをあげる鉄心を無視しに二人は気を集中させていく。

「「―波!!!!」」

 そして悟空のかめはめ波と百代のかわかみ波が激突し、結界は見事に吹っ飛ぶのであった。




(後書き)
真剣世界の時間軸は大和が2年の夏休み中です。
原作のイベントはいくつか起きていますが、大和は誰ともくっついておらず、川神大戦、KOS、一子の師範代試験、竜舌蘭ルートでの出来事のようなでかいイベントはまだ起こっていないという設定です。
後、感想にありましたが、ドラゴンボール世界側の時間設定は悟空が神様の宮殿で修行しているころですので、当然、幕間のヤムチャもその頃のヤムチャになります。盗賊の頃のヤムチャでは恐竜に勝てないでしょうし……チチが勝ってて、そのチチにヤムチャは勝ってるからいけるかも?

PS.強さ議論の感想が多いので、その辺について私の考えを大雑把に説明させていただきます。
 あくまで私の解釈なので異論のある人も多いと思いますが、このSSではそんな感じのパワーバランスだという話しです。

 まず、百代がフリーザ並と言うのは、原作で、まゆっちが「一般人の戦闘力を5とすると百代が最低でも一千万不可思議、下手をすれば無量大数」と言っていることに関し、一千万不可思議を一千万だと勘違いされた方がいるのではないかと思います。
 一千万不可思議は現在では使われていない数字の単位で10の87乗になり、この単位を含めた数え方だと無量大数は10の88乗になります(ちなみに現在の数え方では無量大数は10の68乗)これがDBの戦闘力とイコールだとするとフリーザどころか、スーパーサイヤ人4のゴジータでも足元にも及ばない強さになると思われます。これについては作中の描写と比べてみて、真面目な数値とは考えづらくネタだと判断しました。元々、真剣恋はパロの多い話ですし。っと、言う訳でもこの数値は強さの考察からは完全に無視しました。
 次にDB側ですが、亀仙人の月破壊については後の描写(彼よりも強いピッコロ大魔王やテンシンハンが気のほとんどを費やして放った攻撃が街破壊やそれ以下の威力なこと)と矛盾することなどから考察対象としては半分除外し、百代がやったように大気圏外に突き抜けるような気弾を無印DBのキャラでも撃てる程度の参考としています。
 また、亀仙人の強さ描写として発射されたマシンガンの弾を全て掴むというものがありますが、これに対し、原作で武道四天王の一人である揚羽が発射されたショットガンの弾を全て掴むという比較的近い描写がありますのでこの辺を基準にしてパワーバランスを設定しました。本当はもう少し前の時期の悟空の方が丁度いい気もしましたが、大人悟空にしたかったので、この時期を選びました。両作品のキャラが活躍できるよう多少バランス調整したりする部分はあると思います。
 以上です。矛盾はあると思いますが、あまり細かいところは気にせずに読んでもらえると嬉しいです。



[30266] 5話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/19 08:05
「お姉様、お帰りなさい!!」

「おう、妹、姉を出迎えとはいい心がけだ」
 
 一子が金曜集会で悟空のことを話してから3日後、予定通り川神院に帰ってきた百代に一子が飛び付き、それを受け止めた百代はそのまま彼女を撫でまわす。

「姉さん、お帰り」

「んっ、大和か。あれ、他のみんなも居るのか?」

 そこで一子の後ろから現れる者が居たキャップを除くファミリーのメンバーである。少し驚いた顔をする百代。

「みんなで姉さんを出迎えようと思ってね。それと、噂の居候の人を見てみたいと思って」

 百代から問われる前に理由を正直に告げる大和。最も、嘘は言っていないだけで明らかにわざと説明をしていない部分はあるが。

「……何か、隠し事してないか?」

「いや、してないよ」

 鋭く気付く姉と全く動揺せずに答える大和。それを見て百代は大和に対し、おもむろヘッドロックをかけた。

「いい度胸だな舎弟。姉に隠し事ができると思っているのか?」

「いや、ほんとにしてない、してないから!!」

「往生際が悪いな。それに、一緒に居ると言う事はお前達も知ってるな、一体何を隠しているのかを」

 顔をあげジト目で風間ファミリーのメンバーを見る百代。その視線にたじろぐファミリー達。ちなみにヘッドロックはかけたままであり、その腕の中の大和が悲鳴を上げ続けている。

「居候の人が不審者で無いか確認しにきた」

 そこで京があっさりと薄情する。それを聞いて、百代は一瞬、不意をつかれた顔をした後、その意味を理解したらしく、納得した表情に変わる。

「あー、そういうことか。まあ、確かに怪しいよなあ。何てたって異世界人だもんな。そんな奴が友達の家に住みつくなんて話し聞いたら心配の一つもするか。にしてもさー、それを私に秘密にするとか仲間外れにされてるみたいで嫌だなー」

 うんうんと言った表情で頷きながら嫌味を言う百代。それを聞いて、由紀江が慌てて弁解をする。

「すすす、すいません。あの、決してこれはですね。モモ先輩を仲間外れとかそういうことではなく、確証も無い内からそういうことを話して、モモ先輩や居候になった方を不快にさせてはと言うことでして、単なる心配のしすぎだったらその時は正直に話して大人しく怒られて、その後は笑い話にでもできればと言った訳でして……。あー、すいません、こんな言い訳ばかり!! でも、大和さん達はモモ先輩達のことを心配して……」

「あー、いい、いい。まあ、お前達の気持は嬉しい。だが間違いなく心配のし過ぎだな。あいつが何か悪だくみしてるとかそう言うことはまずありえん」

 必死な様子の由紀江を宥め、悟空を警戒する必要は無いときっぱりと言い切る百代。あまりに信用し過ぎているような言葉に逆に不安を覚えたモロが尋ねる。その言葉には仲間以外に対し、信頼を向ける彼女の言動に対する僅かな嫉妬も混じり、少しトゲのあるものになる。

「どうしてそこまで言えるの? 世の中には表面を取り繕うのが上手い人とかも居ると思うけど」

「あー、それは見てもらった方が早いな。あいつは今、広間で飯を食ってる筈だから行ってみろ。直接、会ってみれば直ぐわかるぞ。あいつを疑う程、馬鹿らしいことは無いってな」

 呆れを顔に浮かばせた表情で言う百代。その意味がわからず、怪訝な表情を浮かべながらも、言われた通り、広間へ向かう大和達。
 そして広間に辿りつき、少し緊張の面持ちになる大和達。そんな彼等の態度を無視して百代が無操作に扉を開ける。
 そして、そこには彼等が見定めようとしていた人物の姿があった。

「んっ、むぉむぉよ、おめえもめしくぅいにきたふぁんか? んっ、ふぉいつらだわれだ?(んっ、百代か。おめえも飯食いに来たんか? んっ、そいつら誰だ?)」
 
 飯を頬張り、頬をリスのように膨らませた状態で物を話す孫悟空の姿が。
 





「私の愛しい友人達だよ」

「へえー、お前等、百代の友達なんか。オラ孫悟空だ、よろしくな」

 百代の簡潔な紹介に、口の中の食べ物を飲み込むと、箸とどんぶりを持ったまま屈託の無い笑顔で言う悟空。そのあまりの無邪気さに大和達は一気に毒気を抜かれる。

「ああ、よろしくな孫。俺は直江大和。えと、確か姉さん、百代姐さんと同い年なんだよな。敬語の方がいいかな?」

「ああ、別にいいぞ。オラ、そういうのあんまよくわかんねえし」

「なら、このまま話させてもらう」

 とりあえず、当たり障りの無い言葉で自己紹介をかわす大和。
そしてそこでは切りこんだ言葉を放とうとする。

「ところで、孫は異世界から来たってことだけど……」

「おう、この世界のつええ奴と戦って鍛えてこいって言われてんだ。百代や鉄心のじっちゃんはすげーつええし、この家には強そうな奴が一杯いるし、オラもうワクワクが止まんねえぞ!!」

 それに対して返って来たのは何の裏も感じさせない単純な答え。二人のやりとりを見ていた百代が笑って、大和の耳元で囁くように言った。

「なっ、心配するだけ馬鹿らしいだろう?」

「……ああ、そうかもな」

「なんか、無邪気過ぎるね、この人」

「何て言うか、キャップとワン子を足したような感じだね。純粋っていうか無邪気っていうか。天然かな、一言で言うと」

 百代の言葉通り、ファミリーの中でも特に排他的な傾向の強い京やモロですら疑うのが馬鹿らしくなりつつあった。
 まだ少ししか言葉をかわして居ないが、何か企んでいると疑うには悟空の言動一つ一つがあまりに子供っぽく邪気を感じさせないのだ。加えて彼等の身近にも天然で無邪気、奔放な性格をしている人物がいるので、こう言うタイプに対し、親近感を覚えてしまうと言うのもあるし、演技で取りつくろった偽物であれば見破れる自信があると言うのもある。
 そんな訳ですっかり気を許した彼等は悟空に対して自己紹介をすることにした。

「私は川神一子、ワン子って呼んでね」

「椎名京」

「クリスティアーネ・フリードリヒ、クリスと呼んでくれ」

「島津岳人だ。ナイスガイでもいいぞ」

「師岡卓也、モロって呼ばれるね」

「えと、その、黛由紀江です」

「んと、大和に、ワン子、京に、クリス、岳人、それにモロにユキエだな。よし、覚えたぞ!」

 一度に自己紹介されたにも関わらず一発で全員の名を覚えたらしく、笑みを浮かべて言う悟空。
 そして彼は一つの疑問を発した。

「そいや、ワン子、おめえ、百代と同じ名字だな」

「うん、私はお姉様の妹なのよ」

「妹?ってことは姉妹ってことだろ?その割に似てねえな」

 その発言に許しかけた気を引き締め、敵意の視線を向ける京とモロ。それに対し、一子本人はそれ程気にせず、苦笑いだけを浮かべて自分の身の上を説明する。

「私は養女だから、お姉様やじーちゃんとは血のつながりは無いの」

「そうなんか、道理で似てねえと思った。けど、なら、オラと一緒だな。オラも赤ん坊の頃、山ん中捨てられて、じっちゃんに拾って育ててもらったんだぞ」

 一子の家庭の事情を聞いても、気まずい雰囲気を一切だすことなく、ただ納得したと言った風な反応をする悟空。
そしてあっけらかんとした調子で自分の身の上が同じような感じであることを語ってみせた。その話に百代を含め、全員が驚いた表情を浮かべた。

「そいや、ワンコ子のじっちゃんって、鉄心のじっちゃんだろ? ワン子は鉄心のじっちゃんから武術を習ったんか?」

「うーん、直接の指導はルー師範代からの方が多いけど、一応じーちゃんからも少しは教えてもらったかな」

 悟空の質問に少し考えて答える一子。その言葉に悟空は予想が当たったとばかりに嬉しそうな表情になって言った。

「やっぱそっか。オラのじっちゃんも武術家で、オラも最初はじっちゃんから拳法、習ったんだぞ」

「へえー、そうなんだ。凄い偶然だね。えと、孫君でいいかな?」

「おう、いいぞ。けど、その呼び方何かブルマみてえだな」

「ブルマ?」

「ああ、ブルマってのはオラの仲間で……」

 思わぬ共通点の多さに目を丸くする一子。
 そして親近感が増したらしい二人の間で会話が弾む。それを見て由紀江が大和に話しかけて言った。

「すっかり、仲良くなっちゃいましたね。一子さんと悟空さん」

 その声を耳に聞き、一子との話しに夢中になっていた悟空が彼女達の方に視線を向けて言った。

「おう、ワン子おもしれえ奴だかんな。それに百代からおめえ達の事はいっぱい聞かされってっけど、みんな頼りになるいい奴等だって聞いてっぞ。確かにおめえらかなり鍛えてるみてえだな。特にユキエ、おめえかなり強えだろ? オラ、戦ってみてえな」

「ああ、やっぱりわかるか。私も前々からそう思っててな。是非とも戦ってみたいと思ってるんだが、どうにも乗り気になってくれないんだよな」

 悟空の言葉に共感して彼の肩を叩く百代。二人して由紀江に視線を向ける。見られてたじろぐ由紀江。それを庇う意味も込め、大和が彼女の前に立ち、百代に対し質問した。

「なあ、ところで姉さん、孫が姉さんと互角ってのは本当のなのか?」

「んー、あー、そうだな。なんなら、お前達で試してみたらどうだ? こう見えてもこの男は割と器用だからな。手加減、結構上手いぞ」

 大和の質問に何故か言葉を濁し、代わりにとんでもない提案をする百代。
 由紀江はまだしも、他のメンバーと百代との間にはあまりにも大きな力の差がある。その百代と互角に戦った相手と勝負など如何に相手が手加減してくれるとは言え、無謀でしか無い。しかし、そこで立候補するものが居た。

「ふむ、ならば自分が行こう。モモ先輩と張り合う程の実力者、勝てると思う程自惚れてはいないが、いい経験となるだろう」

「あー、クリ抜け駆けする気!! そうはさせないわよ!!」

 クリスと一子である。両者は張り合うように悟空との対戦を望む。
 そこで更に京が手をあげた。

「モモ先輩クラスの相手に一人ずつ言っても瞬殺されるだけだから、私を加えて3対1ってことでどう?(……最低限、かっこつけさせないとクリスはともかくワン子は落ち込んじゃうかもしれないしね。もしかしてモモ先輩はそれが狙い?)」

 参戦の意と、3対1の戦いを提案する京。後半の言葉は口に出さず内心でだけ呟く。

「3対1か……。悟空、構わないか?」

「おう、いいぞ!」

 百代の問いかけに対し、やる気を示す悟空。こうして武士娘3人と悟空は試合をすることとなるのであった。



(後書き)
今回は難産でした。展開についてかなり推敲したつもりですが、少し強引な展開が多かったかも。不自然に感じなかったでしょうか?もしかしたら、展開そのものを直すかもしれません。



[30266] 6話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/14 09:42
 一子は長刀、クリスはレイピア、京は弓、それぞれの得意の武器をもち、それに対し、背中に如意棒を背負った悟空。
 そしてその両者の間には審判として百代が立ちあっていた。

「西方、川神一子、クリスティアーネ・フリードリヒ、椎名京」

「はい!!」

「はい!」

「はい」

 答えると共に武器を構え闘気をたぎらせる武士娘3人。
 
「東方、孫悟空」

「おう、オラ何時でもいいぞ!」

 如意棒は抜かず素手のまま自然体を取る悟空。

「いざ尋常に……始め!!」
 
「やあーーー!!!」

 百代の試合開始の言葉が発せられると同時に気合いの掛け声をあげながら飛びだす一子。先手必勝とばかりに初撃を放つ。その一撃はかなりの鋭さがあり、しかしやや大振りで単調さが目立つ上段からの振り下ろしであった。

「よっと」

 その一撃を切っ先を見切り、紙一重でかわす悟空。攻撃をかわされた一子は直ぐ様体勢立て直し2撃目を放つが、しかしそれも回避される。

「はあっ!!」

そこで今度はクリスが飛びだす。放たれるレイピアの一撃。真っ直ぐに伸びた鋭い突きが悟空の身体を貫く。

「クリス!!」

 叫び、同時に矢を放つ京。悟空の身体を貫いた一撃は、クリスの腕に何の手ごたえも与えず、悟空の姿が空に書き消える。彼女が貫いたのは彼の残像であった。
 そして本物の彼はクリスの真後ろに一瞬で移動していた。しかし、それを見逃さなかった京が彼に向けて矢を射たのである

「いい目してるな、おめえ」

 京の放った矢を掴み、自分の動きに反応して見せた京に対し、感心した様子を見せる悟空。
 それに対し、間近で見た悟空の動きに脅威を感じる一子達。しかしながら臆することはなく、一子が再び彼に向かって飛びこんでいく。

「たあ!!」

 一子は真っ直ぐに近づくと、悟空の眼前、後少しで手が届く位の距離に近づいた所で、長刀の柄を地面に押し当てると棒高跳びのようにして、上空高く舞い上がって見せた。

「川神流……天の槌!!」

 落下の速度を利用して放たれる強烈な踵落とし、その一撃を悟空は両手を交差して受け止める。

「おめえ、面白い技使うなー」

 両手で一子の踵を受け止めながら楽しそうな表情で言う悟空。
そして悟空は腕を押しだし、一子の身体を弾き飛ばす。空中に投げ出され、無防備に近い状態になる一子。それをフォローしようとクリスと京が攻撃をしかける。

「零距離刺突!!」

「はっ!!」

 クリス必殺の一撃と京の矢が同時に悟空を襲う。しかしそれらの攻撃は一瞬の間に抜かれていた如意棒によって弾かれるのであった。








「すげえな、あの3人相手に一人で互角かよ」

「いや、どっちかって言うと京達の方が押されてるね」

「ああ、けど、ワン子達には悪いけど、この位なら姉さんと互角てのはちょっと大げさだったのかな」

 悟空と武士娘達の戦いを観戦し、3者3様の感想を漏らす風間ファミリーの男3人。そこに審判を務めていた筈が何時の間にか彼等の傍に寄って来ていた百代が現れ、大和の頭を掴んで解説を始める。

「甘いぞ、弟。今の悟空のスピードは本気の2割以下、パワーにいたっちゃあ1割も出してないだろう。総合的に評価するなら私と戦う時は今の50倍は強いな」

「げっ、まじかよ。つうことは、クリス達が100人以上居ても本気をだしたあいつに勝てねぇってことか」

「とんでも無いね。ってか、モモ先輩のとんでも無さの方も改めて理解させられるよ」

 百代の説明に驚愕を通りこして呆れた表情をする岳人とモロ。一子やクリスとて重火器を持った相手にも立ち向かえ、表の世界最強クラスの一歩手前位の実力を持ち、握力100キロ越えの岳人でも敵わない位に強いのである。そんな彼女達の最低150倍は強いと言うのだから悟空や百代が如何に非常識かということがわかる話しである。

「そうだな。だが、今位に手加減した悟空にすら3人がかりで勝てないようではな……」

 そこで一子を見ながら呟く百代。その表情は真剣で辛そうな想いが浮かんでいた。

「姉さん?」

「いや、何でも無い。さて、私もあいつが棒で戦うのを見るのは初めてだからな。手加減しているとはいえ、どう言った戦い方をするのか楽しみだ」

 百代の様子がおかしいことに気付く大和。それに対し、百代は誤魔化すように悟空達の戦いに視線を戻した。
 少し納得しないものを抱えながら大和も視線をそちらにもどす、そこには悟空の攻撃を必死に防ぐ二人の姿があった。









「てりゃてりゃてりゃ!!」

「くっ」

 マシンガンのように連続して放たれる突き、そうかと思うと、旋回させ変化させてくるしなやかで縦横無尽な動きに二人は翻弄されていた。

「っと、ふぃー、京、おめぇ、あいかわらずうめえな」

「どうも」

 京の放った矢を弾いて言う悟空。
 如意棒が抜かれて以降、形勢は完全に彼の有利に変わっていた。しかし二人が追い詰められそうになると京が的確なフォローを入れてくれるので、何とか粘れている形になっている。

「ありがとね京。さーて、そろそろ反撃行くわよ!!」

「意気込むのはいいが、大丈夫なのか? 無策で行って勝てる相手ではないだろう?」

 そこで気合いを入れ直す一子と突っ込むクリス。正々堂々を信条とし、正面から挑むことを好むクリスであるが、力の差を考えればそれは無謀でしかないと分かる。
そしてそんな不安を感じる彼女に対し、一子は妙に自信ありげな態度で答えて見せた。

「ふふーん。クリと初めて戦った時、お姉様に言われたのよ。『もっと本能で戦えって』」

「……それは、無策で突っ込むというか?」

 一子の表情にクリスが呆れの表情を浮かべる。それに対し、一子が怒って叫ぶと、自分の作戦を説明した。

「違うわよ!! いい、まずアタシが突っ込むから隙をついてクリスが攻撃して」

「ふむ、だか、それではこれまでと同じではないのか?」

 この戦い一番足を引っ張っているのは一子である。彼女がピンチになり、他の二人がカバーする。あるいは、一子とクリスがピンチになり、京がカバーする。大まかな流れはこの繰り返しだ。今、言った一子の作戦ではこれまでの流れを繰り返すだけのように思える。
 そして一子の方も、そのことに自覚があったらしく、少しばつの悪そうな表情をした。しかし、直ぐに前向きな表情になって言った。
 
「まあね。けど、次はちょっと違うわよ。今までは悟空君に隙を作るところまでいかなかったけど、今度はやって見せるわ。戦いながらちょこちょこ試して、やっとコツを掴んできたから」

「コツ? なにやら、自信がありそうだな。わかった、犬、お前を信じよう」

「任せて!! じゃあ、行くわよ!!」

 作戦が決まり、悟空に向かって飛びかかる一子。それを迎撃しようとする悟空。ここまではこれまでと同じである。しかし、そこからが違った。

「てえええええええい!!」

 悟空の如意棒で放った突きを、一子は薙刀を高速で旋回させ防いで見せたのだ。継いで悟空は2撃目も放つが、一子はそれも回転させた薙刀で防ぐと、踏み込んで更に接近した
 その動き方を見て百代はあることに気付く。

「ワン子の奴、悟空の動きを真似にしたのか!?」
 
 一子が薙刀を旋回させた動き、それは悟空が如意棒を使い、戦いの中で何度か見せた動作によく似ていた。付け焼刃である筈なのに、妙に様になった感じで、百代からみても中々に見事な動きであった。
そして、彼女は必殺の一撃を放つ。

「川神流、山崩し!!」

「っと」

 防御のために旋回させた勢いをそのまま使い、スムーズな流れで放たれ場一撃が悟空の脛を狙う。それをバックステップしてかわす悟空。しかし、突然動きのよくなった一子に驚いたのか中途半端な高さに飛んでしまう。

「そこだ!!!」

 それは千載一隅のチャンス、空中に着地するまで、自由に身動きの取れない一瞬の隙を狙ってクリスが全速で走り込み、その加速を全て生かした突きを放とうとする。それに対し、如意棒を構える悟空。

(取った!!)

 しかし、クリスは勝機を確信する。加速した勢いを使えば、悟空の如意棒で防御しても棒ごと弾き飛ばせる。空中では回避はできない。カウンターを狙ってきても悟空の如意棒とクリスのレイピアでは腕の長さを考慮しても彼女のリーチの方が長いため、成功しない。
 悟空が本気をだせば幾らでも対処の手はあるが、そうでない限り、この一撃が決まるのは確定の筈だった。ただ一つ、誤算がなければ。

「伸びろぉぉぉ、如意棒!!」

「なっ!?」

 それはクリスが悟空の持つ棒をただの棒だと思っていたことである。一気に長さを増した如意棒が高速で接近していたクリスに対し、カウンターで決まる。
 完全な直撃が決まり、その場に倒れるクリス。

「クリ!!」

(馬鹿!! まだ、終わってないぞ)

「っと」

 クリスに気を取られる一子。内心で警告の声を発する百代。
 そして一子の首筋に、彼女が気を取られている間に接近していた悟空の手刀が入れられる。

「これは……駄目だね。降参するよ」

 一子が気を失うのを確認し、仲間2名の戦闘不能に勝ち目無しと判断し、最後に残った京がギブアップをするのだった。



(後書き)
戦闘シーン、前半はDBぽく、後半は真剣恋ぽくを意識して書いてみたつもりです。
両方の作品のバランス取りに苦労しつつ、割と楽しんで書いてたり。



[30266] 7話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/14 11:47
 川神院医務室。悟空との戦いで気絶した一子とクリスがそこの部屋のベッドに寝かされていた。他に医務室には大和とモロが居る。一子とクリスが目を覚ますまで交代で誰かが傍につくことにしたのである。何せ、流石に全員で側につくことが出来る程、流石に医務室は広く無かった。

「おっ、起きたか?」

「大和か、何故お前がここに……。そうだったな、確か、私は悟空と試合をしていて……ここが医務室と言う事は私はやられたのか?」

 一子より先にクリスが目を覚ます。
 そして記憶を辿るが、自分がやられたことをはっきりと理解していないようであった。その言葉に心配する大和。

「ああ、そうだ。思い出せないのか? もしかして、記憶が飛んでいるとか?」

「いや、それは大丈夫だ。気絶する直前のことまではっきり覚えている。わからないのは、何故、あのタイミングで相手のカウンターが成功したのかなのだが……」

 クリスは首を振って心配は無いことを伝えると、自分が何に対し疑問を抱いたのかを説明する。その説明を聞いた大和は彼女が何故そのような疑問を持ったのかを理解する。何せ彼等は戦いの後で説明されるまで、如意棒をただの棒であると思っており、長さを変化させる不思議な道具であることなど知らなかったのである。カウンターは一瞬の間に起きた出来事だったので、当事者であるクリスには何が起こったのかわからなかったとしても無理の無いことであった。

「ああ、それはな……」

 大和が如意棒について説明をし、それを聞いて驚いた顔をするクリス。
 そして話しを聞き終えた彼女はしかめっ面を浮かべた。

「なる程、しかし、それは少しずるい気がするな。幾らなんでもそのような武器を使うなど反則ではないのか?」

「いや、そんなことは無いぞ、クリ」

 クリスの不満の言葉に対し答えたのは、ちょうどいいタイミングで交代にやってきた百代だった。その後ろに悟空の姿もある。

「確かに如意棒の存在は幾らなんでも予想できないだろう。だが三節昆のような仕込杖ならば、戦っている最中に長さを伸ばすことは可能だからな。無警戒であったお前の不注意だ」

「むっ……確かにそうだな。すまない、みっともないことを言った」

 百代の指摘を受け、納得するクリス。
そして自分の敗北に対し、言い訳のような言葉を言ったことについて、対戦相手であった悟空に謝罪し、頭を下げる
当然の如く、悟空は全く気にした様子を見せない。代わりに彼女に対し問いかけをする

「んっ、別にいいぞ。それより、おめえ、怪我の方は大丈夫なんか?」

「怪我……いたっ、いたたたたた!!!」

 悟空に言われて体を捻って、自分の身体を点検しようとしたクリス。そこで身体に走る痛みに悲鳴を上げてしまう。実は彼女の身体にはカウンターで入った如意棒の一撃によりアバラ骨にヒビが入っていたのである。動いた表示にそこに力が加わってしまったようだった。

「だ、大丈夫!?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

 体勢を直し、痛みを落ち着かせるクリス。そこで悟空が小さな袋を取り出す。

「わりぃ。おめえの最後の一撃、いい感じだったかんで上手く手加減できなかった。これ、飲んどけ」

 謝罪すると袋の封となっていたひもを時、一粒の豆を取り出すとクリスの方に投げる悟空。それを掴み、訝しげな顔をするクリス。

「これは何だ?」

「仙豆って言ってな。どんな怪我でも直してくれる不思議な豆だ」

 悟空の説明を聞いてあまりの胡散臭さに訝しげな顔をする大和。しかし根が素直すぎるクリスはあっさりと信じたようだった。

「ほう、異世界には凄いものがあるのだな」
 
 大和が制止する間も無く、仙豆を飲み込むクリス。次の瞬間、彼女は目を見開き、驚きの声をあげた。

「むっ、これは!!」

 自分の体を捻り調子を確認するとベットから立ちあがる。
そして勢いよく身体を動かし始め、改めて歓声をあげた。

「凄いなこれは!! 本当に怪我が治ったし、疲れも何もかも吹っ飛んだぞ!!」

「なっ、すげえだな?」

「ほう。私の瞬間回復のようなことが誰にでも起こる訳か」

「「………」」

 素直に感動を現すクリスと少し自慢気な様子の悟空、普通に感心する百代。その横で3者に比べば常識人な大和とモロは何と言っていいか分からず立ち尽くす。
 なんやかんやで騒がしくなった病室。その影響で一子がそこで目を覚ました。

「う、ううん、どうしたの……みんなで騒いで」

「あっ、ああ……実はな……」

 目を覚ました一子に試合の決着についてや先程起こった出来事を説明する大和。話を聞いた一子は少し悔しそうな顔をした。

「そっか、結局、負けちゃったのか」

「ああ、だがワン子、最後のはなかなかよかった。あれはやはり悟空の動きを真似したのか?」

 それに対し妹に甘いが、戦いに関しては割と厳しい指摘が多い百代が珍しく彼女の健闘を称えてみせる。
そして気になっていた一子の動きに対し尋ねた。
 尋ねられた方の一子は、一瞬驚いた顔をした後、褒められたことに笑顔を浮かべ、説明を始める。

「うん、前にお姉様に『下手に考えず、もっと、本能で戦えって言われたでしょ』けど、アタシどうしたらいいか全然わからなかったの。意識するとかえって動きがぎくしゃくちゃうし、本当に何も考えずにやったら直ぐやられちゃうだろうし。他の人の戦い方を参考にしようかとも思ったんだけど、ルー師範代やお姉様の動きを見ても何かしっくりこなくって。そしたらね!! 今日、悟空君を見てピーンと来たの。一目見て、“これだ!!”って思ったのよ!!」

「なるほどな」

 興奮した様子で勢いよく言う一子の説明を聞いて百代は得心を得る。一子の指導者であるルー師範代は理性が強く、本能に頼るよりも寧ろ考えて戦うタイプである。百代はどちらかと言えば本能で戦うタイプであるが、野獣のような闘争心を持ち攻撃的な彼女の戦闘スタイルは一子とは明らかに異なる。
 それに対し、高い闘争心を持ちながら奔放に戦う悟空のスタイルは一子の目指すべきものに近いところがあった。一子がすんなりと動きを真似ることができたのもこの近さ故であった。勿論、それは彼女の下積みとなっている膨大な努力、基礎があってこそであるが。

「しかし悟空、お前の戦い方は素手の時と武器を持っている時で随分と印象が違うな」

 だが、納得したことで彼女にはまた新たな疑問が浮かぶ。悟空と一子で戦闘スタイルが似ていると言ったが、それは武器を持っている時限定の話である。素手の時の悟空は無駄な動きが少なく、どちらかと言うとルー師範代に近いものがあった。

「んっ、そうか? オラ、意識してねえけど。……そういやあ、オラ、神様んとこで修行し始めてから如意棒で戦ったのて、一子ん達と戦うのが初めてだ。もしかしたらその所為じゃねえか?」 

「なる程、新しい師によって戦闘スタイルがより高度なものに変わったと言う事か」

 『心を空にし、雷よりも速く動く』これが神の教えであり、それを実践した結果、悟空の戦闘スタイルは確実に変化していた。従来の野生のパワーを全開にした動的な動きをするスタイルから、本能的な直感を研ぎ澄ませながら平静で無駄のない動きをし、パワーを瞬間的に爆発させる形へと進化しつつあるのである。
しかし神の修行後、如意棒を扱ったことがなかったので、昔の要領で扱おうとし、スタイルも昔のそれに近いものになったと言う訳であった。
 尚、進化した悟空のスタイルはタイプの似ている一子にも当然、適している。だが非常に高度な戦い方で、悟空ですら未だ完成させていないものであるため彼女には10年どころか20年は早いと言わざるを得ない。

(悟空の動きを取りこめば、一子は確実に一段上のレベルに上がれる。だが、それがいいことなのかどうか……)
 
 状況を理解した百代は内心で苦悩する。実の所、百代は一子に川神流師範代になるという夢を諦めさせるつもりであった。
 悟空と戦わせたのもその一環。最終的な引導は無論、彼女自身が渡すつもりであったが、頂点との力の差を自覚させたかったという意図があった。同時に、もしも戦いの中で一子が期待以上の資質を見せてくれたのならば考え直すことも彼女の頭の中にはあった。妹の夢を応援したいという気持ちも、彼女が師範代として自分をサポートしてくれるのならばこれ以上に心強いというのも嘘では無い想いとしてあるからだ。
 そして、戦いの中で見せた彼女の実力は最後の動きを見せるまでは万に一つも川神院師範代になる資質は無いと言うものだったが最後に彼女は可能性を見せた。しかし、それはあくまで可能性、それも微かなものでしか無いのである。

(可能性が答えになるまでには時間がかかる。そしてその時には別の道を選ぶ選択肢は狭まっているだろう。万に一つの希望を目指すか、それとも……)

 家族としてどうするべきか苦悩する百代。しかし、彼女が結論を出す前に、一子が百代が考えていたことを言ってしまう。

「悟空君、お願いがあるんだけど、これからもアタシと稽古の相手をしてくれないかな?」

「おう、いいぞ。鉄心のじっちゃんから、街が壊れちまうといけないからしばらくモモヨとの対戦は禁止するって言われってからな。オラもやることなくてどうしようかって思ってたとこだ」

「って、おい!!」

 思わず叫ぶ百代。彼女に視線が集まる。誤魔化すように咳払いして言う百代。

「いや、一子、あのな……」

「お姉様、もしかして駄目? 川神流以外の人の動きを学ぶのってもしかして禁止だった?」

 何とかごまかしの言葉を言おうとする百代。しかし、怒られると思ったのか目を潤ませ、上目づかいで自分を見る一子の姿を見てたじろいでしまう。

「いや、そんなことはない。他流の技を取りこみ発展させていくのは武術家として正しい姿だ。勿論、盗まれる方からすれば面白いことではないから、川神院のように門外不出と定め、教授を禁じたりもする。だが、見て盗んだことに対し責めるようであればそれは武術家として失格だろう」

「なら、いいのね!!」

「うっ、まあ……な」

 義姉の承諾と取れる言葉に笑顔を浮かべる一子。それに対し、言葉に基本、妹に甘く、行動を制限する正当な理由もないため、結局、頷いてしまう。

「あっ、それと悟空君。もう一つお願いがあるんだけど。クリの怪我を直した仙豆って奴って古傷にも効くのかな? もし、効くなら一つ欲しいんだけど」

 その言葉に目の色を変える大和とモロ。これまで武術の話しをしており、門外漢の立場であるため、黙っていた二人だったが、心配し少し体を乗り出す。

「ワン子、お前、古傷なんて抱えてるのか? どっか、痛むのか?」

「あっ、いや、そうじゃなくて。九鬼君にあげようかと思って」

 九鬼英雄、大和達と同じ学校のエリートクラスに在籍し、九鬼財閥の御曹司である。彼は一子に惚れており、アプローチをかけ続けている。それに対し、自分に対しどうしてそこまで好意をもつのか疑問に思った一子が尋ねたことがあり、その時彼はその過去を語った。
 英雄は昔、野球をやっていて本気でプロを目指していた。しかしある日、富裕層を狙ったテロに合い、腕に大きな怪我をし、野球をすることが出来なくなってしまったのである。
 そして、そんな風に夢を失った過去を持つからこそ、嘗ての自分のように夢を目指し、努力する一子の姿に惹かれ、今ではそれをきっかけにその全てを愛するようになったと言うのだ。

「アタシの知り合いでね、昔に怪我をして今でも腕が上手く動かない時があるんだって」

「そういうことならかまわねえぞ。そいつに渡してやってくれ」

「ありがと」

 一子の簡略化した説明を聞いてあっさり仙豆を渡す悟空。礼をいい笑顔でキャッチする一子。しかしそれを見て大和が難しい表情をし、思いついた懸念を指摘した。

「なあ、ワン子。九鬼の怪我を直してやるのは、おれも一緒にあいつの話しを聞いて、事情を知っているから別に反対しない。けど、そんなことしたらあいつますますお前に好意をいだいちゃうんじゃないか?」

「えっ?」

 大和の指摘を聞いて一子が顔を青くする。好きな女の子からのプレゼント、ましてそれが自分のずっと抱え続けてきたジレンマを解消してくれるものであればそれはどれ程の歓喜かであろうか。しかもそれをくれると言うことは、ある意味相手が自分のことを気にかけていてくれた証明みたいなものである。間違いなく、好意は倍増されるであろう。

「ど、ど、ど、どうしよう!?」

 がくがくと震える一子。一子は別に英雄のことが嫌いではないが、その濃過ぎるキャラを苦手としているのである。その相手からより強烈なアプローチをかけられると言うのは迷惑を通りこして恐怖である。

「あげるのやめればいいんじゃない?」

「そんなことできないよー!!!」

 モロが最も単純な解決方法を指摘する。しかし、お人好しの一子その選択を簡単に選べる筈も無く、結局、しばらくの間彼女は苦悩するのであった。








(おまけ 医務室を出た後の義姉弟の会話)

「ところで、姉さん、さっき孫が神様の所で修行だとか何とか言ってたけど、あれってどういうこと?」

「んっ、ああ、それならば、言葉通りらしいぞ。悟空はなんでも異世界で神と称される存在の弟子をやっているらしい……」

「……本当に非常識にも程があるな」

 立て続けに見せられる非常識さに呆れと共に、大和は百代の言った「悟空を疑う程馬鹿らしくなることは無い」の意味を改めて理解させられるのであった。




(後書き)
前々回で百代が言葉を濁したところは一応伏線です。とりあえず、百代と戦う時、悟空は手を抜いてはいないとだけ答えておきます。

PS.日常編が続いて、単調だという意見がありました。それについては当初の予定ではあと数話日常編(2-Sの生徒との接触とか)書いた後、最終章に突入の予定だったのですが、同じように思っている方が多いのであれば、日常編は短縮しようかと思っているのですが、どうでしょうか?



[30266] 8話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/17 20:59
「さーてと、準備万端っと」

「んっ、ワン子、おめえ、何やってんだ?」

 早朝6時、タイヤを2個先につけたロープを腰に結ぶ一子。それを見て悟空が問いかける。

「あっ、悟空君おはよう。朝の修行よ。タイヤを引っ張って走るの」

「へー、おもしろそうだな。オラも一緒にやっていっか?」

「いいわよー」

 一子の話しを聞いて興味を持った悟空は彼女に案内されて修行用のタイヤ置き場からタイヤを運んでくる。一個あたり10キロ前後の重さがあるタイヤを一度に6個も持ち上げて軽々と持ち上げて運ぶその姿は一般人であれば目を丸くするものであろう。

「こんぐらいでいっかな」

「うわっ、すごいわね」

 2往復し12個のタイヤを用意した悟空はそれを全てロープで結びつけ腰に結びつけようとする。それを感心と驚きの混じった表情で見る一子。
ロープが結び終わり、準備が整ったので、二人はタイヤ引っ張り一緒に走りだす。そのスピードは重量物をつけていると思えない位速く、少し身体を鍛えている位の人が普通にランニングするよりもかなり速いペースで走る。

「ユーオーマイシン、ユーオーマイシン」

「んっ、なんだ、それ?」

 いつもの掛け声をあげながら走る一子に悟空が尋ねる。

「えーと、これはねー。えーん、意味忘れちゃった。……っと、とにかく、気合いを入れる掛け声よ!!」

 答えようとし、泣き顔になる一子。その後でそれを勢いで誤魔化すように指を真っ直ぐ突き出し、宣言する。
 ちなみに勇往邁進とは『困難をものともしないで、ひたすら突き進むこと』という意味である。

「ふーん、なら、オラも言ってみっか。ユーオーマイシン、ユーオーマイシン」

「ユーオーマイシン、ユーオーマイシン!!」

 ワン子の説明を聞いて意味のわからない真似する悟空。そのまま掛け声をあげながら走る二人。するとそこで、二人に対し、近づいてくる人力車があった。そんなものに乗る存在はこの街には一人しかいない。

「はっはっはっはっは、九鬼英雄、ここに参上。一子殿、おはようございます。トレーニングですかな? 朝からあなたに会えるとは素晴らしい幸運だ。んっ、そっちの男は誰ですかな?」

 当然の如くその人物は九鬼英雄であった。人力車は一子と悟空の傍に止まりそれに乗る彼は高らかに笑う。風間ファミリーの他のメンバーが傍に居ないために、隠れることもできず、顔が引きつり、後ずさりながら対応する一子。

「あはは、九鬼君おはよう。えっとね、この人は悟空君って言ってね。旅の武術家で、今、川神院に滞在しているの」

「オッス、オラ、悟空だ」

 大和の考えたカバーストーリーを答える一子と片手をあげて挨拶する悟空。
 余計な揉め事を起こしたり、頭がおかしい人と思われるのを避けるため、悟空が異世界人と言う事はあまり言いふらさない方がいいだろうと言う配慮だった。

「ほぅ、川神院に滞在を許されるとは相当な実力者なのですかな?」

 一子の話しを聞いて悟空に興味を持つ英雄。勿論、そこには一人の男として、好きな相手と一緒に居る正体不明の男の素姓を探ると言う感情も多少は含まれている。最も彼はよくも悪くも器がでかいでため、過剰な嫉妬心を抱き、悟空を敵視したりすることは無いが。
 
「うん、お姉様と同じ位、強いのよ」

「なんと!!」

「それは驚きですねえ」

 一子の答えに従者の忍足あずみと合わせと揃って驚きの表情を浮かべる。百代の鬼神の如き強さは川神学園に通うものであれば誰でも知っていることである。最強と言えば百代と言っても過言ではない程で、その強さは完全に別格扱いとなっている。故に、悟空が彼女と同等の強さを持っていると言うのは正に驚愕の事実であった。

「ううむ。にわかには信じ難いですが、一子殿がおっしゃるのならば本当なのでしょう。それでそのような相手と一緒にトレーニングとは、何か教授を受けているのですか?」

「うん、悟空君の戦い方は凄く参考になるから。今は、ただのランニングだけどね。あっ、そうだ。悟空君、仙豆を」

 悟空の話しをして、仙豆のことを思いだす一子。九鬼の怪我を直す為に仙豆を渡すことについて、一子以外の手から渡すという案も当然考えたのだが、それには一つ問題があった。それは食べるだけで怪我が治る豆と言う胡散臭すぎるアイテムを一子以外が渡したとして果たして受け取ってくれるかどうかという問題である。
 そこで解決策を考え、最終的には一子が傍にいる状態で、彼女の推薦のもと他の誰かから渡してもらうと言う折衷案に結局は落ち着いたのであった。
 
「おう、おめえ、これ食ってみろ」

「むっ、なんだ、これは。豆か?」

 仙豆を取り出し投げる悟空。それを掌で受け止め、訝しげな顔をして眺める英雄。そこで、一子が解説をする。

「それは悟空君が旅の途中で手に入れた不思議な豆で、食べるだけで怪我が治るんだって。それで、もしかしたら九鬼君の腕も治るかもしれないと思って」

「おめえら、英雄様にそんな得体のしれな……一子様、英雄様の腕は九鬼財閥のいかなる名医が見ても完治はさせられなかったものです。薬などでは残念ながら治すことはできませんわ。下手をすれば何か副作用がでてしまうかも」

 主に危害が及ぶのではないかと一瞬、本性が出かけるあずみ。直ぐに猫を被り直し、『変なものを食わせるな』という言葉をマイルドな表現に言い換えて警告してくる。

「うっ、うん、でも本当にそれは効くの。クリスも怪我が直ぐ治っちゃったし、それに川神水や川神キノコみたいな不思議な食べ物もあるでしょう?」

 川神水とはアルコール0%にも関わらず、飲むと酒を飲んだように寄ってしまう不思議な水で、川神キノコは食べると正確が反転しまう不思議なキノコであり、どちらも川神市で採取できるものである。
 それ等を考えると怪我が治る豆と言うのも確かに多少の説得力はある。

「ふむ、一子殿が下さったものならば少なくとも身体に悪いものではないでしょう。その心遣いありがたく頂きますぞ」

話しを聞いて英雄が仙豆を口に入れ噛み砕く。あずみは止めようとするも、主人が決断してことに口を挟むこともできず、彼を見守った。
 そして、砕けた仙豆を飲み込んだ瞬間、英雄の表情が変わる。

「英雄様!! 大丈夫ですか!?」

 それを見て心配するあずみ。それに答えず、英雄はわなわなとふるえている。

「てめえら、英雄様に何を飲ませた!!」

 殺意をほとばしらせた憤怒の表情で悟空と一子に詰め寄ろうとするあずみ。予想外の事態に答えることもできず慌てる一子。
 そして無理やりにでも口を割らせようとあずみが飛びかからんとした時、英雄が驚愕の声をあげた。

「信じられん。腕の痺れが完全に消えたぞ!!」

「えっ!! 英雄様、本当ですか!?」

 英雄は腕を振って調子を確かめるが、そこには何の痛みも無い。自由に動き、また麻酔などで痛みだけを消した時等とは違い、鋭敏な感覚も残っている。それはつまり古傷、より正確に言うならば慢性的な怪我が完全に治った証であった。

「信じられん……」

 もう一度、呟くように声を漏らす。実の所、如何に愛する相手からのプレゼントと言え、英雄は仙豆の効力を本気で信じていなかった。心遣いが嬉しかったのは本当だが、精々がよく効く漢方、少しでも効力があれば儲けもの程度に思っていたのである。それが一瞬にして、完治という劇的な効果に、そして失ったものを取り戻したことに彼は計り知れない衝撃を受けていた。

「よかった、治ったのね!」

 英雄の回復を自分のことのように喜ぶ一子。同じく喜ぶあずみ。
 そして次の瞬間、彼女達は信じられないものを目にする。

「えっ、九鬼君、泣いてる?」

「英雄様……」

 それは傲岸不遜を絵に描いた様な男が人前で流した涙だった。
 言われ涙に気付いた英雄はそれを拭うと顔をあげる。その時には既に彼の目に涙はなく、まるで憑き物が落ちたようなすっきりとした笑顔を浮かべる。

「……みっともない姿を見せました一子殿。そして改めて感謝します。それと、悟空殿と言ったな。先程の物を提供してくれたこと、感謝する」

 威厳の籠った姿で、九鬼は一子に対し礼を述べる、次に悟空の方に顔を向け、彼にも礼を言った。
 普段、他者を見下してはいるが、感謝すべきときや敬意を払うべき時、あるいは謝罪すべき時には誰が相手であっても素直にそれを素直に実行できるのがこの男の美点であった。

「別にいいぞ。オラが何かした訳じゃねえし」

「そうは如何。恩を返さぬようでは九鬼の名が廃る。何か、望むものはないのか?」

「んー、なら、ごちそういっぱい食わせてくれよ。オラ、腹いっぱい飯くいてえ!」

「わかった。最高級の料理を用意し招待をしよう。っと、申し訳ない一子殿、悟空殿。今日は九鬼財閥の方にも顔を出さなくてはならないのでな。これで失礼する。招待の日時はまた、後でこちらから連絡しよう。それでは!!」

 特に謝礼を求めない悟空であったが、強くすすめてくる九鬼に食べ物が欲しいと答える。九鬼はそれに承諾すると、用事の時間に気付き、走り去って言った。
 それを見送る二人。
 そして、その姿が見送ると悟空がポツリと言った。

「変わった奴だったなあ。おめえの友達、面白い奴が多いんだな」

「あはははは、けど、変わってると言えば、悟空君も変わってるじゃない?」

「そっか?」

「うん、何せ異世界人だし」

「そっか、そういやあそうかもしんねえな」

 自分のことを棚に上げて言う悟空。それに対し、渇いた笑いを上げた後で、微妙にと言うかかなりずれた突っ込みをいれる一子であった。


(後書き)
悟空と一子は相性いいけど、両方ともボケタイプなので時々会話が難しいです。キャラが変だと思ったら指摘いただけるとありがたいです。
ところで、ちょっと皆さまに質問があるのですが、原作でワン子がつけている重りの重さは12キログラムと記述がありますが、これって両手で12キロだと思います?それとも片方12キロだと思います?100メートル11秒台とか割と現実的な身体能力から考えると両手で12キロだと思いますし、戦闘時の(気で強化した?)動きとかみると片手で12キロでもそんなに違和感ないですが。個人的には両手合わせて12キロかなと思ってるんですが、よろしければ皆さまの意見お聞かせください。



[30266] 9話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/20 21:29
「あーーーーーーーーー」

 昼休み、一子が自分の鞄を見て突然叫びをあげた。それを見て大和達が彼女を注視する。

「どうした、ワン子?」

 尋ねる岳人に一子が涙目で答える。

「お弁当忘れちゃった……」

「ありゃりゃ、じゃあ、今日は食堂か購買?」

「それが、今月はちょっと金欠でお金無いの……」

 モロの質問に涙を更に多くして答える一子。

「それじゃあ、今日はお昼抜き?」

「えーん、そんなのいやだよ」

 モロの言葉に完全に泣きだしてしまう一子。そこに大和が一言、助言を差し伸べる。

「誰かに金を借りればいいだろう?」

「えっ、貸してくれるの!?」

 大和の言葉を聞いて希望に顔を明るくする一子。しかし、大和はそれを冷たく切り捨てた。

「いや、俺は貸さない」

「えーん」

「持ち上げて落とす。Sだね、大和は」

 京の突っ込み。ちなみに彼女自身はどうするかと言うと、見ていて面白い一子の姿を少しだけ眺めてから、救いの手を差し伸べるつもりだった。
 しかしそこで、予想外の方向から救いの手が現れる。

「おーい、川神はいるか?」

「あれ、お前2-Sの」

「井上か。どうした、また委員長目当てか?」

 教室のドアを開けて2-Sの井上準が入ってくる。その手には見覚えのある包みがあった。

「あれ、それ、私のお弁当箱?」

 その正体に気付く一子。準に近づき、彼から弁当を受け取る。

「ああ、おまえん家で下宿してる悟空って奴が届けに来たぞ。学校まで来たはいいが、川神の居る教室の場所がわからんかったらしくてな。間違えてうちの教室にやってきて騒ぎを起こした後、俺が弁当引き受けるって言ったら帰ってたわ」

「はっ?」

「相変わらず、行動が読めない人だね」

 自分が弁当箱をもってくることになった理由を説明する準。その話しを聞いて呆気に取られた顔をする大和と、早くも彼の破天荒慣れたのか単に興味が薄いのかあっさりとした口調で言う京。

「そっか、悟空君が持って来てくれたのか。後で、お礼言わなくっちゃね。井上君もありがとう」

「ああ。じゃ、まっ、俺はこれで……」

 一方、一子は素直に悟空と準に感謝する。礼を言われた準の方は一子の礼に対し、気だるそうな表情で応対し、自分の教室へと帰ろうとする。しかし、そこで2-Fのロリ委員長甘粕真与が現れ、彼に賞賛とお礼の言葉を投げかけた。

「井上さんはいい人ですね。川神さんにお弁当を届けていただいてありがとうございます」

「いやあ、何、当然のことをしたまでですよ!!」

 真正のロリコンである彼はその言葉で一気にテンションが高くなる。いつもの光景を生温かく見ながら、大和は考える。
 
「それにしても孫の奴、2-Sで一体何をしたんだ?」

 






――――数時間前―――――

「じゃあ、悟空君、何時も通りここで」

「おう、学校がんばれよ」

「うん」

 悟空が川神院に滞在するようになってから10日程が過ぎていた。その間に川神学院は新学期に入っており、朝の早朝トレーニングを一緒にした後、途中で別れ一子は学校に、悟空は川神院に戻るのが二人の日課となっていた。
 そして何時も通りに一子が学校に向かうを確認した悟空はそのまま川神院に向かって走り出し、数分後目的地に帰りつく。
 するとそこには一人の影があった。

「あっ、悟空殿、おかえりなさい。一子殿はやはり学校に行かれましたか?」

「おう、途中で別れたぞ。どうかしたんか?」

川神院の玄関に立っていたのは、門下生の一人であった。
 ちなみに悟空は大和の考えたカバーストーリーを川神院でも採用し、旅の武術家で鉄心の正式な客人という扱いになっている。
そして門下生相手に何度か組手もしており、当然全勝している。そのため常識にかけるところなどがあるが、憎めない性格で実力ある武闘家として門下生達に認知されており、親しみや敬意を持たれていた。

「実は一子殿、お弁当を持って行くのを忘れたようでして」

「えー、って、ことはあいつ、今日飯抜きか!?」

 弁当箱をつりさげて答える門下生に大袈裟なリアクションを取る悟空。最も彼の感覚で言えば、食事を抜くと言うのはそれ位のリアクションを取ってもおかしくない出来事であったが。
 そして一子がかわいそうだと思った悟空はちょっと考え込むような仕草を取るといい事を思いついたとばかりに手を叩いてみせた。

「よし、ならオラがそいつを届けてやる。ワン子の学校ってあっちにあるでけえ建物だろ?」

「えっ、いや」

 悟空の申し出に対し、彼に任せることに不安を感じる門下生。しかし、彼が戸惑っている間に悟空は門下生のてから弁当を持ち去り、そのまま走り去って行ってしまう。その速さは修行中の彼にとても追いつける速度ではなく、途方に暮れたままそれを見送るのであった。






「まじかで見るとやっぱでけえば。ワン子の教室ってのはどこにあんだろ?」

 学校までは無事に辿りついた悟空であったが、一子が2-Fというクラスに在籍しているということすら把握しておらず、当然の如く迷っていた。校舎を歩きまわった末に外にでてしまう。

「確かクリスや京も同じとこで勉強してるって言ってたな。とりあえず、大きそうな気の集まってっとこを探してみっか」

 意識を集中し気を探知する悟空。その結果、特に強い気が感じられる場所が一箇所、そこそこに強い気が集まっている場所が二箇所見つかる。

「んー、この特に強い気がモモヨだろ? けど、残りの二つの内どっちかはわかんねえな」

 今の悟空ではまだ修行が足らず、特定の人物を識別することまではできなかった。今の彼にできるのは気の強さを感じ取ったり、漠然とした質を掴むことまでである。2つの候補の内、どちらが一子のいる教室が、腕を組んで考えた悟空が結論を出す。

「まっ、適当に選んで、間違ってたらもう一つの方へ行ってみりゃいっか」

 実に彼らしいアバウトな結論であった。
 そして即時行動とばかりに悟空は選んだ場所、2-Sの教室へと移動を開始する。校舎の外から移動し、2階の窓目がけて飛びあがるという手段で。









「んー、一子の奴居ねえな」

 窓枠にぶら下がり、2-Sの教室の中をのぞきこむ悟空。当然のことであるが、そのような行動をすれば、教室内はパニックになる。

「うわっ、何だこいつ!?」

「うわー、お猿さんみたいー」

 驚愕する生徒Aと楽しそうな表情で悟空を見る白い髪の少女、榊原小雪。
 そして悟空の顔を知る人物が彼の正体に気付く。

「おう、これは悟空殿ではないか」

「あっ、おめえ、確かヒデオだったな」

「うむ、我は九鬼英雄だ」

 腕を組んで何時も通り自信満々な態度で言う英雄に教師である宇佐美巨人が問いかける。

「おいおい、お前の知り合いか九鬼」

「うむ、我の腕を治してくれた恩人よ。精密検査の結果でも、最早我の腕には何の異常もないとのことだ」

「ほぅ、それは興味がありますねえ。英雄の腕は近代医学を駆使しても完全には治せなかった程の怪我、それを治したという不思議な豆、医者の跡取りとして私も興味があります」

 英雄の言葉に彼の友人、葵冬馬が悟空に関心を持つ。彼は大病院の跡取り息子であり、怪我が治る前の英雄の腕の状態もその腕が治った経緯も彼から聞いて知っていた。

「悟空殿、とりあえず教室の中へ入って来たはどうだ」

「わかった。……よっと」

 片手で振り子のように身体を揺らし、教室の中に入る悟空。すると小雪が彼に近づき、そしていきなり抱きつく。

「お猿さーん」

「おや、小雪はどうやらあなたが気に行ったようですね」

「雪が初対面の相手に懐くなんて珍しいな」

 悟空に抱きつき、楽しそうにする小雪。それを見て彼女の幼馴染である冬馬と準は少し意外そうな表情を浮かべた

「マシュマロ食べる~?」

「くれんのか? おう、食うぞ!!」

 悟空に抱きついたまま、マシュマロを取り出して差し出す小雪。
 それを喜んで受け取ると早速口に入れ、笑顔を浮かべる悟空。一応、年頃の男女が抱き合っているような体勢を取っている筈なのだが、二人の雰囲気は全くと言っていい程、そう言ったものを感じさせないでいた。代わりに動物と子供がじゃれ合っているようにも見える。

「のう榊原、お主は何故、そこの男にそんなに懐いておるのじゃ?」

 その光景を見て、不思議に思った不死川心が問いかける。それについて、小雪が笑顔で答える。

「この人お猿さんだから。おもしろくて、めずらしーと思って」

「猿か。確かに猿のような粗野な雰囲気が漂っておるのう。高貴な此方とは偉い違いじゃ」

 小雪の言葉を自分なりに解釈し、納得したように頷く心。しかし小雪はその解釈を否定する。

「違うよ~。この人は猿みたいなんじゃなくて、本当にお猿さんなんだよ~。だって、こんなに邪気が無い人居る訳ないも~ん」

「小雪の台詞、どういうことですかね?」

「さあな。だかなんとなくわかるような気もするぜ。どういう訳か、この男を見ていると幼女を見ている時のように汚れ無きものを見ているような気分になる」

 冬馬の疑問に準が答える。
 過去の経緯から人の心、特に悪意に敏感な小雪と準は悟空を見て、何かを直感的に感じ取ったようだった。しかし冬馬はそれをわざと曲解する。

「おやおや、準も私と同じで、男も女も好きな感覚に目覚めたようですね」

「ちげえよ!! 俺は幼女一筋」

にこやかに言う冬馬に己の誇りをかけて魂を込めて突っ込む準。無論、突っ込んでる内容も彼以外にとっては全く誇れることではないが。まあ、それはともかくとして己の主張を貫いことで落ち着いたらしく、穏やかな表情になって言葉を付け加える。
 
「まっ、単なる友達なら仲良くなってみたい気もすんがね」

「そうですか。なら、私は性的な意味で仲良くなりたいですね。変わった髪型ですが、中々整った顔立ちをしていますし、細マッチョと言うのもたまにはいいかもしれません」

「おいー!!!! 」

 しかしその直後の親友の言葉で再びテンションをあげられてしまう。

「冗談ですよ。私には彼の様な存在はちょっと純粋過ぎます」

 平静な表情で冗談だという冬馬。しかしその後半の言葉は何でもないことのような口調で言っているのに、何故か僅かな寂しさが感じられた。

「まあ、何でもいいが、授業が中断してるんだがね。んで、九鬼の恩人さん、あんたは何でここに来た訳?」

そんな彼を他所にいい加減に教師としての務めを果たさなければならないとばかりに巨人が小雪と悟空の間に割って入って入り、悟空に対し尋ねる。
その問いかけを聞いて、自分がここに来た目的を思いだす悟空。

「いけねえ、忘れるとこだったぞ。ワン子に弁当届けに来たんだって」

「ワン子というと一子殿のニックネームだったな。そうか、一子殿は今日、食事をお忘れになったのか。ならば、この我が一子殿のために、特別にフルコースを用意しよう!!」

 豪華な食事を手配しようとする英雄。それを2-Sの中の数少ない常識人である準が制止する。

「おいおい、そんなことしたら間違いなく、あの子恐縮してひきまくりだぜ。つか、弁当あるならそれ届けりゃいいだけだろ。えーと、あんた2-Fの場所は……いや、あんたを校舎内に移動させるとまた騒ぎになる気がするな。俺が代わりに届けておいてやるよ。上手くいけばついでに委員長の御尊顔も眺めて来られるしな」

 悟空に2-Fの場所を教えようとして、それよりも自分が届けた方が色々と都合がいいと判断し、自分が届けることを申し出る準。

「サンキュー。おめえ、いい奴だな」

それに対し、悟空は素直に礼を言って弁当を受け渡す。そこで再びでてくる巨人。

「はいはい、用事が終わったら帰ってくんないかね」

「わかった。じゃ、よろしくな」

 巨人に教室から追い出され、悟空は窓を飛び降りて外に出るとそのままり去って行った。それを見て、心が呆れた表情で呟く。

「全く2-Fの奴等がまともに見える位とんでもない山猿じゃ。しかし、まあ見物する分には中々面白い奴だったが」

「結構、イケメンだったもんね。あのお猿さん」

「にょわー!! や、山猿の顔がどうだろうと、高貴な此方には関係無いわ!!」

 上から目線で悟空を評していた所に、小雪の予想外な突っ込みが入り、対人関係のスキルが低さ故に慌ててしまう心。それを生温かく見守るクラスメイト達。これが、2-Sの教室で起きたことのあらましであった。
 

(後書き)
当初考えていたネタが尽きたので日常編はこれで終了です。
次回より最終章に入ります。でも、日常話もあった方がいいという意見をたくさんいただいたので、修行話とか日常話をちょこちょこやりながらクライマックスの展開に近づいて行こうと思っています。

PS.2-Sが何階かという公式な設定はみつからなかったので、適当に2階と設定しました。
もし、間違っていたら指摘お願いします。



[30266] KOS編 1話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/19 08:58
「なあじじい、何時になったら、悟空と再戦させてくれるんだ」

「こっちに戻ってきてからまだ2週間じゃろうが。少しはこらえい」

「んなこと言ったって目の前に極上の餌がぶら下がってるんだぞー。おまけに悟空がこっちの世界に居るのって、後2ヶ月ちょっとだろ。今の機会を逃したら次にチャンスがあるかどうかもわからないっていうのに、我慢しろって方が難しいぞ」

 悟空との対決を禁止され、それに対し鉄心に不満を言う百代。鉄心にしても彼女の言う事が全くわからないと言うでもなかった。確かに期限付きで異世界の強者と戦えるチャンスとなれば、現役時代の彼であってもまず間違いなく心踊らせたであろう。それに加え、元々ガス抜きを含め、百代の心境の変化を期待し、悟空を川神院につれてきたのである。戦わせてやりたい気持ちはある。
 とはいえ、最悪の場合の被害を考えると悟空と百代を戦わせるには、鉄心と師範代全員で結界を張るか、彼が同行の上、街中から離れる位のことはする必要がある。既に夏休みも終了しているので、前者は勿論、後者だって頻繁にできる訳ではない。
そこで彼は彼女が興味をひくであろう出来事について、その気を紛らわすことにした。

「仕方無いのう。いいことを教えてやる。本当はまだ、秘密なんじゃがな。今から2ヶ月後に九鬼財閥が、ある催しを実施することになっておる。KOSと言う名の格闘大会で4人1組と言う事以外はルールが無いことがルールだそうじゃ。賞金は何と500億円、賞金と名誉、そして強者との戦いを求めて世界各地から強豪が集まることになるじゃろう。元々、未知なる強豪の発掘が目的らしいしのぅ。この催しに川神院も協力することが内密に決まっておる」

「おっ、そいつは2倍の意味で魅力的な。賞金に強敵との戦い。私も出ていいのか?」

 鉄心の話しに彼の期待通り、大いに興味をひかれる百代。
 そして彼は百代の問いかけに頷き意図を説明する。

「うむ、当初はお前とわしとルーは出場できない予定じゃったが、九鬼財閥の九鬼揚羽が悟空君のことをどこからか聞きつけたらしくてのう。その実力をその目で見たいと言う事で彼に対しては出場を許可するそうじゃ。しかし、一人、あまりにも特出した選手が居てはバランスが取れないと言うことで、お前だけは出場が認められておる。勿論、悟空とは別のチームになることが条件じゃがな。当初は七浜での開催が予定されておったが、一般人に被害の及ばぬ場所に変更になった。十分に力を出し切るがよい」

「願ったりかなったりだな。だが、そういうことになると、悟空と戦えるのは後、1回だけということか?」

 悟空が元の世界に帰る時期を考えると、2ヶ月後の大会が悟空と戦える次の機会であるならば、実質それが最後の機会になってしまう可能性が高い。そのことに心配と不満と若干の怒りが混じった表情を浮かべる百代。
 それに対し、鉄心は少し考えて答えた。

「……まあ、わしとルーの立会のもとなら稽古なら許可しよう。無論、気功波系の技は禁止じゃぞ」

「よし、それならばOKだ!! 感謝するぞ、じじい。さてと、なら、早速チームを結成してくるとするか」

 返って来た答えに満足すると百代は早速メンバー集めに向かおうとする。しかし、そこで彼女は制止をかけられる。

「待てい。まだ秘密だと言ったじゃろうが。あまり、公にするでない。発表は3日後の夜の予定じゃ。その前に秘密を誰かに明かしたりしたら出場はさせんぞ」

「ぐっ、……わかった」

 出場を許さないという脅しの言葉に百代は仕方ないと言った表情で頷く。
それから3日間、彼女は話したくても話せない話題を抱えていることの辛さにうずうず、いらいらとし、それを周囲がみて不安があるのでった。







 そして3日後、KOSの開催が公開されると鉄心の予想通り、世界中の強者がこれに興味を持ち、次々と参加を表明することとなる。






 並び立つ世界の強豪達。






「兄さーん、僕の計算では、僕達の優勝確率は99.98%だよー」

「グゥゥゥド!!」

 アメリカからは全米格闘チャンピオンカラカル・ゲイルとその弟ゲイツ、そして軍のスーパーソルジャー計画によって産まれたエリート戦士であるワンとツーがチームを組んで。






「俺の力、みせてやろう!!」

 ロシアからは暴れ熊と呼ばれる身長230センチメートルの巨漢、セルゲイが。






「行くぞ、我が弟子達よ、強者達との戦いを求めて!」

 アルゼンチンからは太陽の子と呼ばれる強者、メッシが。






「ヨガの力を世界に知らしめよう」

「余はメム23世。コブラ神拳の伝承者だ」
 
 インド、エジプトの連合からはダルビッシムとメム23世の微妙にキャラかぶってるコンビが。






「くくっ、こりゃあ、おもしれえ。おい、お前等、こいつに出るぞ」

「ひゃっはー、ゲームみてぇでなんかおもしろそうじゃねえか」

「ふーん、ついでに新しいマゾ奴隷でも見つけてみるかね」

「ふあー、ねむい……」

 日本の親不孝通りからは川神院の元師範代とその弟子達が。






 中には強い関心を持ちながら、参戦を諦めた強者達も存在した。

「ふぅーむ、国の最高指導者が最強ってのも、他国に対するアピールになると思ったが、時期が悪いな。仕方ない、諦めるか」

「500億円か。そんだけあればオジサン、夢がかなえられそうだが、流石に川神百代がでるってんじゃ、分の悪い賭けすぎるわな。噂ではあの教室乱入君もでるってことだし……ふぅ、分かっちゃいだが上手くいかないねえ、世の中」

 日程の都合で参加を諦める日本国首相、あまりの勝算の低さに戦略的撤退を選ぶ川神学園教師。

 




 そして……

「くく、九鬼揚羽、お前はこう思っているのだろうな。この大会を武術家達の祭典だと。だが、違う。お前達は自ら世界に示すことになるのだ。武術の時代が終わったことをな。才能、努力、血筋、それら全ては科学の技術の前にひれ伏す。そう世界は気づくことだろう。それらの無意味さをな」

 ある組織の研究所、そこに武術ではなく、異なる力によって世界の頂点に立ち、その力を誇示しようとするものが居た。
 そしてその後ろには男によって産み出されたその力の象徴となる存在が。

「例え、誰であろうと、武神と言われる川神百代だろうと、全盛期の鉄心だろうと、私達の敵では無い。なあ、人造人間5号、6号、7号」

 暗闇に3つの影が浮かびあがる。その存在を見ればこう言うだろう。
 『人の姿、形をしているのに、生命の象徴である“気”をまるで感じない』と。







 集まる強者達、2ヶ月後、KOSの舞台にて彼等は一体どのような戦いを繰り広げるのであろうか?
 その答えを知る者はまだ、誰も居なかった。




(後書き)
最終章、KOS編スタートです。主人公達側のチーム分けは次回で。



[30266] KOS編 2話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/20 22:15
「世界中の強い奴等が集まってくんのか!? 天下一武道会みてぇだな。オラ、すんげぇ楽しみだ!!」

 百代からKOSの話しを聞いて目を輝かせる悟空。
 そして彼女は一番気になっていることを尋ねた。

「ああ、それでだ、聞くまでもないとは思うが、悟空はこの大会にでるつもりはあるか?」

「ああ、勿論でるぞ!! 2ヶ月後までに思いっきり修行して、鍛えてとかねえとな!!」

「そうこなくてはな」

 悟空の回答に満足しニヤリと笑う百代。鉄心とは悟空が参加する前提で話しを進めていたが、一応秘密扱いだったため、肝心の本人の意志の確認が今まで取れていなかった。もし悟空が不参加の意志を示していたら百代は彼と戦えないばかりでなく、下手をすれば出場許可まで取り消されかねなかったため、悟空の回答に満足そうな態度をみせる。

「けど、悟空君、チームのメンバーはどうするの?」

 一緒に話しを聞いていた一子が疑問を発する。KOSは4人1組の参加がルールで定められており、それより多い人数でも少ない人数でも参加することができない。つまり、自分以外に3名のメンバーを集めなければいけないと言う事だ。

「あっ、そうか。まいったなー。オラ、こっちの世界にはあんま知り合い居ねえんだよな」

「なら、悟空君、アタシが一緒にでてあげようか?」

 困り顔の悟空に一子が提案する。

「いいんか? けど、おめえはモモヨと組むんじゃねえのか?」

 一子の提案は悟空にとってはありがたいものであったが、彼女は百代と組むものだと考えていたので、その点について疑問を発する。

「私の方は風間ファミリーの他のメンバーを誘えばいいからな。特に問題はない。だが、そうなるとワン子、私とお前は敵同士ということになるな。この私に挑もうとはいい度胸だ」

「えっ? えっ? えっ?」

 一子の代わりに答え、そして相手を威嚇するような獰猛な笑みを浮かべる百代。言われた一子の方は、百代と敵同士になると言う事実に気付いていなかったのか、単に彼女の強烈な視線にやられたのかパニック状態になる。無論、百代の方は本気で怒ったり、責めたりしている訳ではなかった。あくまで妹をからかって遊んでいるだけである。脅える一子の姿をある程度見せた所で冗談だと告げるつもりでいた。しかし、そこで一子は百代の予想に反した反応をみせる。

「の、望み所よー!!アタシはお姉様のライバルを目指しているんだから!!」

 動揺から立ち直り、百代に対し、立ち向かうと宣言してみせたのだ。これには百代も驚く。悟空と一緒に修行する内に何か影響を受けたのか、妹を見誤っていたのか、あるいは単にその場の勢いだったかもしれないが、いずれにしても彼女にとってそれは予想外な反応だった。それはまるで何時も自分に甘えてくる妹が一人立ちしまったようで百代は少し寂しく、同時に嬉しく感じ、そして不安と期待の両方を覚えた。

「!? ほぅー、言うじゃないか。……なら、期待しているぞ。お前が私を楽しませてくれるのをな」

「うん、2ヶ月後までに絶対に強くなってみせるわ!!」

「ううーん。可愛い奴」

 複雑な感情は表に出さず、期待だけを口にして一子の頭をなでる百代。撫でられた彼女は嬉しそうな表情を浮かべ、改めて気合いを入れ直した。その親に褒められた子供が張りきるような姿は何時も通りの彼女であり、先程感じた寂しさもあって、百代は彼女を抱きしめて頬ずりする。

「うしっ、じゃあオラ達のチームは、オラと一子で後、二人だな」

 話が纏ったのを見て言う悟空。その言葉に対し、百代は一子を離すと彼に対し、提案をした。

「ああ明日は丁度金曜集会だからな。私のチームメンバーを決めるとき、一緒にお前のチームに入る気がある奴がいないかどうか聞いて見よう」

「前にあったおめえの友達だよな。あいつらなら頼りになりそうだ。よろしく頼むな」

 その提案を受け入れ百代達に任せる悟空。
そして百代が悟空にKOSのことを伝えた翌日、秘密基地には風間ファミリーのメンバーが集まっていた。

「……っと、言う訳なんだが、参加する気のある奴はいるか?」

 百代が悟空とのやりとりを説明し、自分や悟空とチームを組む相手を募集する。それに対し、最初に反応を示したのはクリスだった。

「自分は参加しようと思っている。だが、実は昨日の夜、マルさん達ともりあがってしまってな。それを聞いて父様も興味を示し、一緒に参加する約束をしてしまったんだ」

「あー、先約があるって言うなら仕方ないな。他に誰か参加するつもりの奴はいるか?」

 クリスの答えに納得し、再度の問いかけをした彼女に反応したのは2名。京と大和であった。

「私もみんながでるならでようかなと思う」

「俺も参加しようかなって思ってる。試合形式次第ならサポートとして役に立てると思うし、姉さんが心配だしね(心配なのは主に姉さんがやり過ぎないかだけど、孫の奴も居るし、場合によっては姉さんがピンチになることもありそうだしな)」

 京は実力的に大会に参加するのにふさわしい力があり、大和は戦闘力の方は決して高くないが、攻撃の回避は割と得意だし、なにより頭を使った作戦立てなどに役に立てる力がある。百代もチームのメンバーの候補として考えていた相手だった。
ついで、更に二人の者が参加の意志を2名が示した。

「わ、私もみなさんと一緒に戦いたいです」

「おう、オラも勿論参加するぜ!!」

「俺様もでるぞ」

 由紀江と岳人、後ついでに松風であった。しかしこれに対しては一部のメンバーが難色を示す。

「まゆっちは問題ない。寧ろ、敵ならば戦いたいし、味方ならば頼りがいがある。だが、岳人は少しつらいんじゃないか? 弱いとは言わんが相手は世界規模の強者だぞ」

「それに銃もOKってルールだしね」

「まっ、その辺は俺様も理解してるぜ。無茶はしないつもりだ。だがなんせ500億の賞金だからな。パスするには惜しいぜ。それに、優勝すれば、俺様今度こそモテモテになれるかもしれん」

 実力的に岳人では危険が大きいと判断し、百代と京がやんわりとした言葉を出場を取りやめさせようとする。それに対し、百代達の評価を素直に認めた上で、あくまで参戦の意を示す岳人。今は何やら妄想しているのか、だらしらないにやけた表情を浮かべていた。

「流石に僕は辞めておこうかな」

 最後にモロが不参加を表明する。彼は風間ファミリーのメンバーの中では最も戦闘力が低く、この大会には明らかに不向きである。それを自覚しての発言だった。

「なんだよモロ、お前一人不参加か? ノリわりいな」

「流石にね。人数とか足りなくて数合わせってことなら考えなくもないけど、今の人数なら丁度いいでしょ?」

 岳人のぼやきに肩をすくめて答えるモロ。しかし、その話しを聞いて大和が参加希望の人数を数え直し始め。

「んっ? 俺に姉さん、孫にワン子、京にまゆっち、岳人……2チームつくるには一人足りないんじゃないか?」

「いや、そこでクッキーが」

 数の矛盾に気付いた大和の言葉にモロが指を指して答える。その指差された方向を見ると、そこにはこれ見よがしに戦闘形態のクッキー2になりビームサーベルを抜いて、素振りをするお手伝いロボットの姿があった。

「僕よりはクッキーの方がずっと頼りになるしね」

「ふふっ、そうか、いやそれ程でもないが、期待されているのならば答えねばなるまいな」

 モロの言葉に嬉しげな口調で答えるクッキー。それを見て大和は苦笑し、彼を参加人数に数えようとした。

「じゃあ、最後の一人はクッキーっと言う事で……」

「ちょっと待ったー!!!」

 メンバーが確定しようとしたその時だった。勢いよく部屋に飛びこんでくる人物が一人。その姿を見て、皆の声が重なる。

「「「「「「「キャップ(さん)!!!」」」」」」」」

「ずるいぞー。こんな面白そうなイベントから俺を仲間外れにするなんて!!」

「いや、お前、居なかったし、連絡つかなかったし」

 呆れた声で言う百代。部屋に飛びこんできたのは風間ファミリーのリーダー風間翔一だった。休学届を出し、夏休みの間から父親と一緒に海外へと冒険にでかけていた彼は、その1ヶ月半の間音信普通であったのである。尚、そのことについて誰も彼の事を心配していなかった。それは薄情なのではなく、彼ならば何があっても大丈夫だと言う理屈を超えた信頼からである。

「その調子からすると、やっぱキャップもKOSに参加するのか? って、言うかKOSのこと知ってるんだな」

「おう、海外に居ても話は伝わってきたからな。まっ、その前は流石に情報入手できない所に居たけどよ。とにかく、俺は参加するぜ!!」

 大和の疑問に答え参戦を表明する翔一。
彼の言葉中にでてきた『情報入手出来ない所』という言葉にその場に居る者達はTVやラジオの電波も届かないような僻地に潜っていたのだと想像する。まさか彼が異世界に行っていたなどとは想像も出来ないことであった。

「んー、そうすると3チームつくることになるのか、モロを入れても2名足りないね。後、岳人もそうだけど、戦闘の方は大丈夫?」

「ああ。試合形式によっちゃあチャンスもあるかもしれないしな。それに俺には冒険の途中で出会ったヤムチャさんっていう旅の武術家に教わった狼牙風風拳がある。風っていう字が二文字も入っているところが気に行ったぜ!!」
 
「おいおいそんな付け焼刃で……。んっ、ヤムチャ、どこかで聞いたことがあるような?」

 心配する京に対し、自信を持って答える翔一。武術を舐めているようにも取れるその台詞に流石に百代が一言申そうとして、そこでふと彼が口にした名前に引っ掛かりを覚えた。

「お姉様にこの前負けた、ムヤチャとか言う人と間違えてるんじゃない?」

「ああ、そういえばいたなそんな奴。モモ先輩相手に何秒もったっけ?」

「少なくとも10秒はもたなかったね」

「あの相手も、決して弱い訳ではなかったのだがな」

「いや、俺が会ったのは間違いなく、ヤムチャって名前だぞ」

 悩む百代に意見を述べる風間ファミリーのメンバー達。その言葉を聞いて、百代はどこかすっきりとしない気分なものの、自分の気の所為かとも思い、自信を失っていく。

「いや、もっと心躍る相手だったような。いや、ムヤチャの時も戦う前は少しは期待していただろうから勘違いしているのか?」

 戦った手ごたえの無さからムヤチャに対する記憶自体が既に薄くなっているため、混同していると言われてもそれを否定しきれない百代。
 実際は悟空が強敵の名前として聞き覚えがあったのだが、その後の戦いが楽し過ぎたのと、悟空が異世界から来たという話しのインパクトが強過ぎて、その時あげられた名前をしっかりと覚えていなかったのであった。

「まあ、それはそれとしてだ。とりあえず、チーム分けしてその後で足りない2名は考えないか? 順当にいくなら姉さん、孫&ワン子、キャップ、この3チームで分けて、後は各自が希望の所に入る感じでいいと思うんだが」

 悩む百代を他所に、話しを戻し提案をする大和。そこでキャップが疑問を挟む。

「んっ、悟空って誰だ?」

「ああ、そっか、キャップは知らないんだな。えとだな、孫って言うのは……」

 悟空が異世界から来た武術家で、川神院に居候をしていることを話す大和。

「へぇー、どんな奴なんだろう。俺も早く会ってみたいぜ!!」

(何か、キャップにしてはリアクション薄いな)

 好奇心旺盛な翔一にしては悟空に対する興味が薄いことに違和感を覚える大和だったが、今はKOSの方が優先的な話題だったので、話題進行の邪魔にならないとして気にしないことにした。
 
「んで、チーム分けだけど、俺がさっき言った分け方でみんな異論はないかな?」

「おう、俺は構わないぜ!!」

 大和の問いかけにキャップが口に出して同意し、他の皆も頷く。

「それじゃあ、それぞれの希望を教えてくれ」

 大和がそう言うと、皆、次々に希望を口にする。

「私はモモ先輩かキャップのチームがいい。勿論、大和が一緒であることを希望する」

「俺様はキャップと組むことにするぜ。モモ先輩や孫と同じチームじゃあ、俺様の見せ場がねえからな」

「じゃあ、僕もキャップと同じチームで」

「私はどこのチームでも構わないが、しいていうならマスターか大和か京こ同じチームを望むな」

「わ、私もどのチームでも」

「おいおい、まゆっち、主張はハッキリしないと駄目だぜ」

「うーむ、既にチームが決まっている自分はこう言う時、話題に入れなくて少し寂しいな」
 
 口ぐちに好き勝手な希望を言う皆だったが、大和はそれらの意見を整理して、纏めてみせる。

「キャップのとこを希望するのが多いな。じゃあ、岳人とモロは決定で、京は俺と一緒に姉さんのチームな」

「大和!! 同じチームに私を選ぶなんて大和はやっぱり私のことを!!」

「単なる人数の調整だって」

 感激し抱きつこうとする京に対し、冷たく言って彼女の身体を引き離す大和。
彼の意見に不満がでなかったため、チームが決まらず残るのは由紀江とクッキーの二人となり、その二人に対しても大和が指示する。

「んで、まゆっち、本当にどのチームでもいいのならキャップのチームに入って欲しいと思うんだが。それが一番バランスとれそうだしな。折角だからどのチームでも優勝を狙えるようにしたい。どうかな?」

「あっ、はい、私もそう思っていましたから」

「おう、まゆっちはつぇぇからな。銃弾が飛んできてもみんな守ってやるぜ!!」

「ま、松風!!」

 大和の希望に直ぐ様答える由紀江。戦力的に明らかに劣るキャップチームはその分、怪我やそれ以上の事故が起こる可能性が高い。危険を避けるため、戦力の高いメンバーが一人は欲しいところであり、風間ファミリーでNO2の戦闘力を持つ彼女はその点で適任だった。加えて、キャップの意外性と強運、他二人のサポートがあれば、大和の言うように、百代や悟空のチームをおさえての優勝も十分にあり得るチームとなる。

「後は、ワン子のところが2名足りないな」

「うん、それなんだけど、タっちゃんを誘おうと思うんだけど」

「源さんか。それはいいな。声をかけてみよう」

 源忠勝、大和達と同じ島津寮の住人にして、一子と同じ孤児院出身の彼女の幼馴染である。
 悟空、一子チームには明らかに参謀向きなタイプの人材が足りていない。その点から言えば冷静な判断力を持ち、かつそこそこの戦闘力を持つ彼は適任と言えた。

「そうなると最後はクッキーだな。クッキーお前は……」

A:俺と一緒に姉さんのチームに入ってくれ(2-Sメンバー勧誘ルート)
B:ワン子のチームに入ってくれ(クリスが百代チームに編入ルート)


(後書き)
今回で、主人公側のチームメンバーが決まると予告しましたが、書いてる途中でふとKOS編では登場予定の全くなかった2-Sメンバー入れるのも面白いんじゃないかと思い、悩んだ末に決まらず、皆さんのご意見を聞きたいと思い選択肢形式にしてしまいました。
Aルートだと参入した2-Sメンバーがちょっと活躍し、Bルートですとクリスの活躍が増える予定です。よろしければ、ご意見お聞かせください。
ちなみにAルートの場合、編入候補の2-Sメンバーは、「九鬼英雄」「葵冬馬」「井上準」の3名です。男ばっかですが、マルさんはクリスと不死川心は大和かまゆっちと、小雪は冬馬か準とセットでしか入れられないので候補から除外しています。

PS.花粉症の時期が近づいている所為か時々体調が悪い時があるので、更新が不定期になるかもしれません。



[30266] KOS編 3話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/26 07:33
→A:俺と一緒に姉さんのチームに入ってくれ(2-Sメンバー勧誘ルート)
B:ワン子のチームに入ってくれ(クリスが百代チームに編入ルート)

「クッキーは俺と一緒に姉さんのチームに入ってくれ」

 できれば翔一か大和か京と同じチームをというクッキーの意志を尊重し、彼を自分達のチームに入れる大和。こうして、メンバー全ての振り分けが完了する。

「後は、一子のとこだけど、とりあえず1名は源さんで確定がどうか確かめてみてくれるか?」

「うん、わかった」

 大和に言われ、早速、携帯をかける一子。通話は直ぐに通じ、通話口から忠勝の声が聞こえる。

『一子か、どうした?』

「うんっ、タッちゃん、KOSって知ってる?」

『ああ、随分と話題になっているからな。賞金500億とは景気のいいことだ』

「うん、でね。私も出ようと思うんだけど、タッちゃん一緒にでてくれないかな?」

 孤児院に居た頃から付き合いで、幼い頃は兄妹のような感じだった二人。その癖で少し甘えた口調でお願いをする一子。電話口で忠勝がしばし沈黙する。

「……風間ファミリーの奴等はどうした?」

「お姉様とキャップのチームででるんだって」

 ぶっきらぼうな調子で言う忠勝に一子が答えると再度、沈黙した後、肯定の意志が返ってくる。

「……わかった、出てやるよ。お前は色々と危なっかしいからな」

「ほんと!? ありがとー!!一緒に頑張ろうね」

「……ああ」

 承諾が得られて喜ぶ一子。短く答える忠勝の声は何時も通りの口調であったが、どこか嬉しそうに感じられた。こうしてチームの3人目が決定し、一子は皆に結果を報告する。

「タッちゃん、OKだって」

「そっか。じゃあ、後、一人だな。俺としては梅子先生あたりがいいんじゃないかと思うんだが」

「そうね。梅子先生ならバッチリだわ。明日、頼んでみる」

 大和の案に賛同する一子。2-Fの担任である梅子の実力は一子、京、クリスよりも上で、実力的にもそれ以外の部分でも信頼できる相手である。現状で思いつく候補の中では最良の相手と言えた。

「よし、じゃあ、これで全部決まりだな」

「だね」

「さて、それじゃあ、今日は何をするかな」

 KOSのメンバーの話しがまとまり、通常の金曜集会へと移行する。久しぶりにメンバーが全員揃ったと言うことで、思いっきり遊んだり、適当な話題を話したりして彼等は楽しい時間を過ごすのだった。


 





 金曜集会の翌々日、何時も通りの早朝トレーニングで悟空と一子はKOSメンバーの事について話しながら二人並んで河原を走っていた。

「そっか、梅子ってのには断られちまったんか」

「うん、梅子先生ならバッチリだと思ったんだけどね。特定の生徒に肩入れは出来ないって。川神院からもアタシとお姉様以外に出場する気がある人は居ないって言うし」

「そいつはまいったな」

 当てが外れ最後のメンバーが決まらないことに頭を悩ませる悟空と一子。走りながら考え、悟空が発言する。

「メンバーはやっぱ強い奴のほうがいいんだよな?」

「うん、できればその方がいいと思うわ。悟空君、誰か、心当たりあるの?」 

「心当たりってわけじゃねえんだけど、前にオラがワン子に弁当届けた時あったろ? あん時、オラが間違って行っちまった2-Sってとこ。あそこなら結構よさそうな奴いるんじゃねえかって思って」

「うーん、2-Sか。確かに能力は高そうだけど、あそこのクラスの人達、アタシ達のこと見下してるのよね。嫌な奴多いし、組んでくれそうな人なんて居るかしら? 悟空君は誰のことを考えてるの?」

 悟空の考えに難色を示しつつ、他に案もないので、とりあえずもう少しこの方向で話しを進めてみようとする一子。
 悟空は2-Sのメンバーを思いだして答える。

「そうだな。あの眼帯つけてる女とかいいんじゃねえか? あいつかなり強そうだったぞ」

「ああ、マルさんね。確かに強いけど、あの人はクリスと一緒に参加するみたいよ」

 2-Sのメンバーの中で一番強い気を持っていたマルギッテはどうかと提案する悟空に対し、一子が首を振る。それを見て、悟空は次の候補をあげた。

「んー、じゃあ、ヒデオの傍に居た、変な服来てる奴と真っ白な髪してる奴は駄目か?」

「あずみは九鬼君の傍を離れないから難しいと思う。白い髪ってのは榊原さんのことかな? あの子ってそんなに強いの?」

 全く予想していなかった名前があがったことに、驚いたと言うよりも不思議そうな表情を浮かべて尋ねる一子。それに対し、悟空は自信を持った表情で頷いて見せる。

「おう、隠してるけど、結構な力を持ってるんじゃねえかと思うぞ。後、あのハゲ頭の奴もそんな感じだったな。素手だったら、ワン子より上かもしんねえ」

「むっ」

 またもや予想外な相手が選ばれ、しかもその相手が自分より強いと言われ軽い唸り声をあげる一子。しかし悟空がその強さを見破った相手に対し、自分はまったく気付けなかっただけに反論も出来ずに悔しそうな顔をする。
 しかしそこで彼女に救いを与えたのは彼女にそんな顔をさせた当人である悟空であった。

「けど、今のワン子なら勝てるかもしんねえな」

「えっ、そう!?」

先程までの不満を忘れ、目を輝かせる一子。そのお尻にはぶんぶんと振られた尻尾の幻影が見えそうである。

「おう、最近の一子はかなり動きよくなってきたかんな。それに使えてなかったパワーが使えるようになってきてる。この調子なら2ヶ月後までにかなり鍛えられるかもしれねえ。そしたら、ワン子もっかいオラと勝負しよっな」

「うん、わかった。最低でも悟空君といい勝負できる位にならないとお姉様のライバルになんかなれないもんね」

 成長を認められ気合いを入れ直す一子と先の成長を楽しみにする悟空。互いに機嫌がよくなり、しかし気分よくなり過ぎて元の話題を忘れそうになった所で、一子がそのことに気付く。

「って、今は、KOSのメンバーの方を考えないと。他に誰か思いつく人って居る?」

「んー、後は、変わった服と髪型で、おまけに変なしゃべり方してた奴くれえかな」

「不死川の奴ね。あいつは、2-Sの中でも特にアタシ達を見下しているから絶対組んでくれないだろうし、アタシも嫌よ!!」

 目を尖らせて言う一子。それにしても悟空に変な奴扱いされるとは心も哀れである。

「そうすっと、もう強そうな奴は居ねえな」

「うーん。別に強くなくても頭がいい人とかでもいいんだけどね。ルールがわからない戦いだから、そう言う人も大事だって大和が言ってたわ」

「そうなんか? そんならヒデオの奴でいいじゃねえか。あいつ頭いいんだろ?」

 頭のいい奴でもいいと聞いて英雄の名前を出す悟空。確かに彼は頭がいい。エリートクラスである2-Sの中でも上位の方に位置する成績であるし、悟空からすると一般人レベルに区分けされてしまうが、武道四天王の一人である姉の九鬼揚羽より武術を学んでおり、武力の方もそれなりの実力がある。更に産まれついてのカリスマと強運を持ち合わせており、申し分の無い人材と言えた。
 とはいえ、それは能力的な面のみを見た話しである。その高過ぎるテンション等、彼に対して苦手意識を持つ一子は悟空の言葉に引きつった表情を浮かべ拒絶しようとする。

「く、九鬼君。それはちょっと……」

「なんでだ? あいつ、一子の友達なんだろ?」

 一子の態度に不思議そうな表情をする悟空。一子の英雄に対する苦手意識というものが彼には理解できないようだった。

「友達というか何というか、その……嫌いではないんだけど……」

 これで一子が英雄のことを嫌いであれば話しは早いのであるが、そのテンションの高さや濃過ぎるキャラを除けば一子は別に英雄のことを嫌いではない。自分を応援してくれることや、嘗て夢を追いかけたという過去に対する共感、他にも好ましい点は幾つもある。だからこそ、仙豆を渡した訳だ。とは言え、苦手な部分のマイナス要素が強過ぎるため、恋愛的な観点では勿論のこと、友人としても好意を抱きづらい状況になってしまっているのだが。

「んじゃ、いいな。じゃあ、オラ、早速会って話してみるな」

「あっ、待って!!」

 そしてそう言った機微の理解できない悟空は一子の「嫌いではない」と言う言葉だけで判断し、英雄を探しに走り去って言ってしまう。慌てた一子は必死にそれを追いかけようとするが、タイヤの数の差のハンデがあるとはいえ、本気で走る悟空の足には追いつけずその姿は直ぐに見えなくなってしまうのだった。







「つーわけなんだけど、オラ達のチームに入ってもらえねえか?」

学校へ向かって移動した悟空は運よく、そして一子にとっては運悪く、校門のところで英雄を見つけ、彼に対しチームに入るよう誘いをかけていた。

「勿論ですとも。愛する一子殿と大恩ある悟空殿の頼みとあれば断れますまい。この九鬼英雄、喜んでチームに入らせてもらいます」

「素敵ですぅぅぅ。英雄様!!」

 悟空の誘いに対し英雄は即座に決断し、承諾を返す。その横で何時も通りに彼を持ち上げるあずみ。しかし、そこで英雄は困った行為を見せる

「我が参加するかには優勝は当然。ついてくるがいい、あずみ!!」

「はぃぃぃ、勿論です英雄様、どこまでもお供します」

 英雄はあずみ共々チームに加わろうとしたのだ。しかし、悟空のチームは既に3名までメンバーが決まっている。4人で1組のルールであるから、当然、悟空達のチームには後1人しか入れない。悟空は頭を書いてそれを伝える。

「わりい。チームのメンバーはもう3人まで決まってんだ」

「なんと、悟空殿と一子殿、もう一人は誰なのですかな?」

 驚いた顔をする英雄の後ろで、主と一緒に参加することが出来ない状況にあずみが彼には見えない角度から強烈な視線を悟空にぶつける。しかし、そんな視線を全く気にせず、悟空は一子と自分以外のもう一人の名前を告げた。

「ワン子の友達でタダカツって奴だ。オラもまだ、会ったことはねえんだけどな」

「ふむ、あやつか。わかりました。ならば、直接話をつけてくるとしましょう。それでは失礼」

「へっ?」

 突然の英雄の発言。その意味が理解出来ない悟空は呆気に取られた顔をする。
そして彼とは対照的に主の意図を理解したらしいあずみ。彼女は英雄と共に彼は校舎の中へ走って行く。

「なんだ、あいつ。いきなりどうかしたんかな?」

 後に残され、呟く悟空。この時の彼には予想することなどできなかった。この後に起こる騒動のことなど。
 







「源忠勝はいるか!!?」

 校舎の中へ入った英雄はその足で2-Fの教室まで移動する。
そして2-Sと不仲なクラスであることなどお構いなしと言うように平然とした顔で2-Fのい教室の中に入ると、大声で忠勝を呼びよせた。

「なんだよ。うるせえな」

 早めに教室に入っており、机で寝ていた忠勝はその声で起き上がる。眠りを妨げられたその表情は不機嫌そうで、それを隠さずに視線を英雄に対し向けた。

「おお、居たか」

「居たかじゃねえよ。朝っぱらから騒ぎやがって。用があるなら、さっさと言え!」

 忠勝の言葉遣いに眉をひそめ、殺意を向けるあずみ。それに対し、英雄の方はそれ程、気にしない態度で、軽く文句を言うのみであった。だが、その代わりとばかりにとんでもない発言を口にする。

「礼義をわきまえんな、庶民。まあいい、率直に言おう。悪いことは言わん、KOSは辞退しろ」

 英雄の言い分と発言の内容にクラスに居た者達が一気に騒ぎ出す。

「おいおい、なんだよ。こいつ、いきなり来て偉そうに言いやがって」

「てか、源君、KOSに出るんだ」

「あー、アタイもでよーかな。500億は魅力てきだしー」

 そんな騒がしい教室の中、忠勝は沈黙し、そして鋭い視線を英雄に叩きつけると、彼の言葉を切り捨てる。

「てめえにそんなこと言われる筋合いはねえな」

「ふむ、確かに貴様の所属するチームは一子殿と悟空殿が中心となって結成したもの。我とて、ここでは一メンバーに過ぎず、他のメンバーを首にする権限などあるまい」

 忠勝の言葉に対し、英雄は意外にもそれを肯定する発言をする。
 そしてその発言の後、彼は普段よりも更に相手を見下すような態度で問いかけをした。

「それならば、己自身の意志で辞めてもらうまで。問おう、貴様は自分が一子殿と悟空殿のチームに加わるのにふさわしい器を持っていると思っているのか? 悟空殿はあの武神、川神百代に匹敵する豪傑。一子殿は誰よりも努力し、強い精神を持った方。その二人のチームとあらばまちがいなく優勝を狙えるチームであろう。そしてその優勝を確実なものにするのは残りのメンバーの力。貴様にはその力があるのか? 」

「……」

 その問いかけには強い意志と重み、迫力が込められていた。それを感じ取り思わず静かになる教室。問いかけられた当人である忠勝もまた、押し黙っていた。その姿を見て、英雄は満足そうな表情を浮かべ、再度の勧告をする。

「その様子を見るとどうやら自覚はあるようだな。ならば、選ぶ道は一つであろう?」

「……そうだな、確かに一子は凄い奴だ。会ったことはねえが、悟空って奴の話も聞いてる。そして、なんだかんだでてめえもでかい器を持ってる。それに比べりゃ、確かに俺なんかちょいと喧嘩が強い程度の何の取り柄もない凡人だ」

「当然のこととは言え、殊勝な態度だな。その潔さは認めてやろう」

 忠勝の言葉に更に満足気な態度を取ると共に、多少の敬意を示す英雄。周りは、二人のやりとりに悲痛な表情を浮かべていた。力有る物と無い者の姿、目の前にはそれが展開されている。否定したくてもそれができない。誰もがそう思った。

「けどな……」

しかし、その次の瞬間、忠勝が大きく目を見開く。
そして彼は自分の校章を地面に叩きつけた。それは川神学院流の決闘の申し込みである。

「そこまで言われて、黙って引き下がる程、俺は腐っちゃいねえ!」

 叫ぶ忠勝。その勇ましい姿を見て、彼に呼応するようにクラスメート達が歓声をあげる。
 一方、英雄は驚きの表情を浮かべた後で、口の端をつりあげると忠勝の投げた校章に向かって、自分の校章を投げつけた。それは決闘に応じるという意志表示である。

「我に対し、よくぞ言ってのけたな庶民。その気概に免じ、受けて立ってやろう。そして負けた方がチームを去る。それでよいな」

「ああ、文句はねえ」

 源忠勝と九鬼英雄、学園の有名人である二人がKOS参加を賭けて決闘する。この話題は直ぐ様、学園中に広まり、そして二人は激突するのであった。




(後書き)
アンケートご協力ありがとうございました。英雄大人気ですねw
そして誰にも触れてもらえないたっちゃんこと源忠勝に今回と次回は少しスポットを当ててみることにしました。順調に行けばその次からKOS本戦スタートの予定です。

PS1.名前の呼び方とかで間違っているところや違和感があるところがありましたら指摘いただけるとありがたいです。一子→小雪とか。原作で直接呼ぶ場面が無かったと思ったので、とりあえず「榊原さん」にしたのですが違和感とかないでしょうか?
 
PS2.敵に人造人間の存在を匂わせたら、その直後に公式のアニメでサイボーグの敵がでてきちまったよw



[30266] KOS編 4話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:e9c30a7e
Date: 2011/11/27 17:47
※今回辺りから、戦闘などに関し、自己解釈等が入ってきます


 源忠勝と九鬼英雄の対決、まだ始業時前と言う事もあって、校庭にはその対決を見物するために、かなりの人数の見物達が集まっていた。
 その中に一子と悟空、岳人の姿が見える。

「タ、タッちゃんと九鬼君が決闘って、一体何がどうなってるの!?」

「いや、オラもどうしてこうなったんか、よくわかんねえんだけど。なんでもオラ達のチームにどっちが入るかでもめてるらしいんだ」

 悟空を追いかけ学校に辿りついたと思ったら、二人の決闘の話しを聞いて一子がパ二食った様子で悟空に問い詰めるが、悟空の方も理由がわからず腕を組んで悩むだけである。
 そこに二人の姿を見つけた岳人が近づいてきて説明する

「俺様も話しを聞いただけだがな。最初に九鬼の野郎がゲンさんにワン子のチームから抜けろとか喧嘩売ってきたらしい。ゲンさんの実力じゃ相応しく無いとかえらそーなこと言ってな。そしたらゲンさんが、力を証明してやるとばかりに決闘を申し込んだんだとよ」

 クラスメート達から聞いた話を簡略して聞かせる岳人。それを聞いた一子はますます慌てる。

「え、えー!! そんなの、止めないと」

 武術家として争いを否定する達ではない、寧ろ肯定する一子だが、それが知り合い同士の険悪なもの、ましてや自分達が原因で起きた争いとしれば話しは別である。何とか辞めさせようとするが、それを岳人が引き止める。 

「まあ、待て。俺様としてはゲンさんにはムカつく九鬼の野郎をぶっ飛ばして欲しいし、何より男の意地がかかった勝負だ。ここは黙って見守ってやるのが正解だぜ」

「よくわかんねえけど、やらせてやってもいいんじゃねえか。オラの友達にクリリンって奴がいんだけど、昔は結構嫌な奴で、オラも最初はよく喧嘩したかんな。思いっきりぶつかってみんのも悪くねえと思うぞ」

「おっ、悟空。なかなかよくわかってんじゃねえか。まあ、ゲンさんと九鬼が仲良くなるとも思えんが。男同士ってのはそういうのが大切だからな」

 意外なところで意気投合する悟空と岳人。二人の話しを聞いて一子は不安そうな表情をしながらも納得し、頷く。その頃、一子達と離れた別の場所では大和と百代が話をしていた。

「姉さんはこの決闘、どっちが勝つと思う?」

「うーん、忠勝はかなり喧嘩慣れしてるし、九鬼の奴は揚羽さんから武術の鍛錬を受けていると聞いたことがある。いい勝負……っと言いたいところだが、九鬼の奴の方が大分有利だな」

「えっ!?」

 驚く大和。忠勝は80キロを超える握力と言う恵まれた身体能力を持ち、その上で喧嘩慣れしており、ここいらの不良では敵無しの強さである。まあ、あくまで不良ではで、一定以上のレベルに達した武術家達には敵わないのであるが。しかし大和は九鬼がそこまでの戦闘力を持っているとは考えていなかった。

「揚羽さんが言ってたよ。九鬼は気を扱う素養こそ低いが、それ以外の才能は自分に近いってな。だが、九鬼は効き腕に古傷を抱えていた。これは大きなハンデだ。川神院にも腕に大怪我を負い、完治しなかった人が居た。その人は若くして準師範代にまで上り詰めた実力者だったが、怪我の後、大きく戦闘力を低下させ引退してしまったんだ。人間の身体は全てが繋がっているからな。人体の一部に大きな怪我を負う事は単にその部分が使えなくなるだけでなく、全体的なバランスを崩し、それ以上に戦闘力を低下させてしまうことがある」

「けど、九鬼の怪我は孫の仙豆によって完治している。つまり、今の九鬼は……」

 驚く大和に対し、武道四天王、百代と渡りあえる数少ない実力者である九鬼揚羽との比較を交えて解説をする百代。大和は彼女が言わんとしていることを察する。
 そして百代はその予測を肯定する言葉を発した。

「ああ、最低でも少し前の数割増しの強さがあるということだ。最悪の場合気を使わない時の揚羽さんに近い実力を持っているかもしれない」








 観客達の見守る校庭の中心に向かいたつ、九鬼と忠勝。審判役は川神学院の教師でもあるリー師範代である。

「覚悟はいいな?」

「ああ。てめえこそな」

 お互い睨み合う二人。武器は持たず、素手同士。決闘の方法はシンプルに殴り合いである。

「二人とも気合い十分。準備もいいようダネ。それじゃあ、レェーーーッツ、ファーーーイト!!」

 ルーの試合開始の合図と共に両者が飛び出す。先に攻撃を仕掛けたのは忠勝。右拳の一発。中々に速く重い一撃。しかし、その一撃は空を切る。

「ホワッチャー!!!」

 拳をしゃがんでかわした英雄はそのまま忠勝の脇に入りこみ、連打のラッシュを彼の腹部に見舞う。

「うぐっ」

 ダメージに苦悶しガードが下がる忠勝。そこを逃さず、全身で伸びあがるアッパーが放たれる。

「九鬼家必殺、小竜拳!!」

「ぐあああ」

 下からの拳を顎にまともに受けて倒れる忠勝。それを見て、周りから悲鳴と歓声があがる。

「姉さん!!」

「やはりな。揚羽さんには劣るようだったが、いい動きだ。キレもある。これじゃあ、忠勝には勝ち目が無いぞ」

 観客席で両者の実力差を評価し、忠勝の不利を告げる百代。それを肯定するように戦いの場では英雄が余裕の笑みを浮かべていた。

「大層な口をきいた割にこの程度のものか、庶民よ」

「んなわきゃ……ねーだろ」

 見下した視線を向けて言う英雄に対し、忠勝が立ち上がってみせる。しかし、足元が少しふらついており、ダメージが大きいのは誰の目にも明らかだった。

「タッちゃん!!」

 その姿を見て一子が観客席から叫ぶが、その声は周りの騒音にかき消された、戦っている二人には届かない。
 そして忠勝は再び挑みかかる。

「ふはははは、見え見えな上に遅いわ!!」

 だが、その一撃は軌道がわかりやすいテレフォンパンチな上、ダメージのためか動きも最初の一撃より速度が落ちていた。それを見て英雄は回避ではなく、通常であれば難度の高いカウンターを選択する。両者の拳が交差するが、速さからして突きさるのは英雄の拳のみ。カウンターによって両者の速度が合わさり、倍増した一撃を受ければ今度こそ忠勝の意識は断ち切られることになる。

「何!?」

 しかしそこで忠勝は歯を食いしばって動きを制止させた。その行動に驚きながら勢いがつき過ぎた英雄の拳はそのまま忠勝の顔面に突き刺さる。だが予め攻撃を受ける覚悟をしていた忠勝は、殴られながらもその場に踏みとどまって見せたのだ。

「技量ではてめえには敵いそうにねえからな」

 普通に殴りかかっても回避されるだけと判断した忠勝は、己の肉体を囮にした罠をしかけたのである。その狙いはわざと相手に先に殴らせ、動きが止まった瞬間を狙うこと。その思惑通りにことを運んだ彼は英雄に向かって全力で拳を振るう。

「でりゃああああ!!!」

 勢いのついた拳が英雄の顔面に突き刺さる。よろめく英雄。更に忠勝は身体を捻って、追撃の回し蹴りを放つ。

「ぐふっ」

 脇腹に勢いのついた蹴りを受け、その場に膝をつく英雄。それを見て観客達は忠勝の逆転勝利を予想する。
だが、今度は英雄の方が立ち上がってみせる。最初の一撃で口の中が切れたらしく、口元から流れる血を拭うと、相手の弱点を宣告する。

「こざかしい真似を。だが、今のような戦法、何度も使えるものではあるまい。次の攻防で我が勝利する」

 英雄の言葉通り、忠勝の取ったのは捨て身の戦法、先のダメージに技と殴られた一撃の重みが加わり、蓄積したダメージ量はかなりのものだった。
 今の状態で、もう一度先程と同じ行動を今度は踏みとどまれないだろう。

「てめえこそ、足にきてるようじゃねえか」

「ぬっ」

 戦法の弱点を見破られても動揺せず、指摘し返す忠勝。確かに九鬼の足は震えていた。右腕が完治した九鬼だったが、彼にはまだ他に弱点が残されていた。それは彼の基本ポジションが王者あることである。幾ら訓練をしようと王者である彼が直接地に降りて戦う機会と言うのは少ない。そのため、殴られる機会というものが少なく実力の割に撃たれ弱いのである。

「この程度の足の震え、英雄(ヒーロー)たる我には足かせにもならん!!」

 しかし精神の力で足の震えを止めて見せる英雄。とはいえ、それでダメージが消える訳では無論無い。あくまでやせ我慢に過ぎない。

「なら、もう一発だ!!」

 再度攻撃を仕掛ける忠勝。英雄は最初のようには回避しようとするが、上手く動かず、一撃を受ける。
 
「ぐっ、ホワッチャー!!!」

「ちっ、やっぱ、やるなてめえ」

 けれどもダウンはせずに反撃の蹴りを放ってみせた。忠勝もまた、回避はできず一撃を受ける。更に互いに攻撃し合う二人。お互い何発もクリーンヒットを受ける。しかし二人共に決して倒れようとはしなかった。

「けっ、九鬼の野郎にこんなこと言いたかねえが、根性あるじゃねえか」

「おう、いい勝負だぞ。忠勝って奴も頑張ってるじゃねえか」

「タッちゃん……九鬼君……」

 悔しそうな表情をしながら九鬼を認める岳人と、忠勝を賞賛する悟空。二人を心配そうな目で見守る一子。
 彼女に見守られながら殴り合う二人。その戦いは駆け引きも何も無い泥仕合の様相を示していたが、観客は皆、興奮し、声援を送る。
 しかし二人は最早、限界が近く、その決着は近づいていた。

「はあ、はあ……庶民、貴様、何故、そこまでして戦う?」

「てめえに言う筋合いは……いや、男なら惚れた女に対して、かっこつけてえだろうが。役に立たないからチームを抜けますなんて言えるか」

 息を切らしながら問う英雄の言葉に、忠勝は答える気は無いと返そうとし、思い直し本心を漏らす。

「何!? まさか、貴様!?」

その言葉に忠勝の想い人が誰であるかを察し、衝撃を受ける英雄。この二人のやりとりは周りの騒がしさにかき消され、当人達以外には聞こえていない。二人はしばし睨み合うと、英雄は黙って構えを取り直す。

「ならば庶民、いや源忠勝よ。同じ女に惚れた者同士、男の意地をかけたこの勝負、決着をつけようではないか」

「ああ」

 英雄と同じく構えをとる忠勝。
そしてこれ以上の言葉は要らないとばかりに、両者は同時に飛びだした。







「引き分けだな……」

 百代が呟く。決着の最後はお互いの拳が顔面につきささり、両方が崩れたダブルKOであった。

「凄い勝負だったね」

「ああ、あの二人が悟空のチームに加わることになれば、KOSますます面白くなりそうだ」

 笑みを浮かべる百代。無論のこと、英雄と忠勝の実力は百代とは比較にもならない。二人がかりでも彼女に傷を負わせることもできないだろう。しかしその実力差を無視し感じさせるものが二人の戦いにはあった。

「あの時のことを思い出すな」

 百代の脳裏に浮かぶのは自分に初めて敗北感を与えた少年のこと。強い武力を持つ以外で自分が敬意を持つ数少ない自分達のリーダーとの戦い。

「本当に楽しみだ」











 川神学院の医務室。そこには運びこまれた英雄と忠勝が並べられて寝ていた。

「うっ、くっ……」

「英雄様ぁぁぁ!! 目を覚まされましたがか!?」

 痛みからか苦悶の声をあげながら英雄が目を覚ます。それに気付き、傍についていたあずみが彼に近寄った。

「あずみか? 勝敗はどうなった?」

「その、審判は引き分けと裁定しました。しかしこうして先に目を覚まされたのですから、実質的には英雄様の勝ちかと!!」

 主の問いに対し、言い辛そうに答えた後、言い訳を述べるあずみの口が止められる。

「みっとも無いことを言うな、あずみ。審判が引き分けと判定したのならば引き分けであろう。みすぼらしく勝利にすがりつく必要など無い」

「も、申し訳ありません!!」

 主の叱責に謝罪するあずみ。
 そして英雄は彼女に指示をする。

「あずみよ。席をはずせ」

「もしかして先程の事を怒っておられですか!? 申し訳ありません」

 突然の退席の指示に不安そうな表情するあずみ。謝罪の意志を込めて、自分の腕の骨を筈そうとする。
しかし英雄は首を振って否定した。

「そうではない。我の横で寝ている男に二人だけで話しがあるのだ」

「この男に……。わかりました、それではしばらくの間、失礼します」

 軽く礼をして、立ち去るあずみ。彼女の姿が見えなくなるのを確認すると、英雄は隣にねる忠勝に声をかける。

「忠勝よ。そろそろ目を覚ましておるのだろう?」

「ああ、横であんなやかましく騒がれりゃな。てか、何、慣れ慣れしく名前で呼んでやがる」

 不機嫌そうな声で返事をする忠勝。それに対し、英雄は対照的な機嫌のよさそうな声で答えて見せた。

「チームメイトを名前で呼んだ所で不自然はあるまい」

「お前、それは……」

 相手の言わんとすることを察っし、驚く忠勝。

「うむ忠勝よ。我と一緒に一子殿のチームに入れ」

「てめえに命令される筋合いはねえ……。まっ、ここで喧嘩なんかしても一子を困らせるだけだろうからな。入ってやる」

「うむ、それでよい」

 予想通りの言葉に忠勝はいつも友人達に見せるようなツンデレな態度で肯定の意をしめす。それに対し、鷹揚な態度で満足そうに頷く英雄。こうして、悟空、一子のチームのメンバーが揃うのであった。



 そして2ヶ月後のKOSに向け、川神のそして世界の強者達はそれぞれが備えを始めていた。


(後書き)
次回よりタイトルを「真剣で悟空と闘いなさい!(旧:DB×真剣で私に恋しなさい!(仮))」に変更して、その他版に移ろうかと思っています。
ここ数回、悟空の影が薄かったですが、次回は大暴れしてもらう予定です。後、揚羽さんが登場予定です。



[30266] KOS編 5話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:8364bda2
Date: 2011/12/02 14:33
「てりゃああああ!!」

 連続でこぶしを放つ悟空とそれをさばき続ける百代。一瞬の切れ間を狙って百代が反撃に移る。放たれる鋭い上段回し蹴り。

「はっ!!」

 その一撃を悟空が左腕で防ぎ、反撃で斜め左上にあがる軌道の右拳を放って百代の顎を狙う。それに対し、素早く左腕をあげ、ガードする百代。しかし悟空の重い一撃にガードが跳ね飛ばされる。更に百代の足が下がったところに自由になった左腕で彼女の腹部に一撃が見舞われる。

「ぐっ!」

 その一撃の衝撃で数十メートル吹き飛ばされる百代。普通であれば、直ぐには動けない程のダメージをうけるが、瞬間回復を使い、直ぐ様それを帳消しにする。

「川神流、空気玉!!」

「たあ!!」

 高速で腕を振るうことによって発生させる大気の弾丸。コンクリートの壁位なら粉砕できる威力を持ったその攻撃を悟空は腕を使って軌道を変え、上方に流して見せる。しかしそれは囮の一撃にすぎなかった。攻撃をしかけると同時に接近した百代が無防備になった悟空の胸部に本命の一撃を見舞う。

「ぐあっ」

 拳の直撃を受けて苦悶の声を上げる悟空。そこで更に反撃を加えようと反対側の腕を振る百代。悟空は一歩下がってそれをかわすと、牽制の蹴りを放つ。

「っと」

 それに気付いた百代は方向展開し、斜め後ろ方向に飛びあがって蹴りを回避。地面に着地うると再度接近し、攻撃を加えようと腕を振り上げる。それに対し、体勢を立て直した悟空も迎撃の拳を放ち両者の腕が交差する。

「そこまで!!」

 しかし、そこで制止が入り、二人は互いに相手の眼前で拳を止めた。
 そして二人の元にストップウォッチを持ったリー師範代が近づいてくる。

「1分たったヨ。今日はここまでダネ。それにしても二人共熱中し過ぎ、これはあくまでも稽古なんだからね」

 軽く説教をするルー。それに対し、いい所で戦いを止められた百代は不満気にぼやく。

「もうですか? 1分と言うのはやはり短すぎませんか?」

「何、言ってるヨ。二人がこれ以上戦えば街が大変なことになってしまう。今だって、譲歩してる位なんだヨ!!」

「……わかりました。我慢します」

 百代の言葉に怒気を強めるルー。納得はしていないようだったが、仕方ないとばかりに引き下がる百代。正式な試合を禁じられている悟空と百代は、稽古の範囲内として鉄心か、ルー師範代の立会のもとで1分の時間制限の組手を認められていた。しかし実力に大きな差が無い以上、当然そんな短い時間では決着がつかず、中途半端に終わってしまう。10秒も持たず勝敗が決してしまうような相手との戦いに比べれば遥かに楽しいものであったが、決着がつかない勝負の繰り返しに百代は少しストレスが溜まっているようだった。

「うむ。それじゃあ、ワタシはこれでいくヨ」

「はい、ありがとうございました」

「サンキューな。ルーのおっちゃん」

 リーが退席し、礼を言う悟空と百代。
 そしてその場に二人が残される。

「んじゃ、モモヨ。まだ、時間も余ってっし、代わりに合わせ稽古でもすっか?」

「ああ、頼む。……いや、少し後にしよう。今の状態ではいらいらいしてやり過ぎてしまうかもしれん」

 悟空の提案を一時断り、一人で稽古を始めようとした時だった。覚えのある強い気が近づいて来ていることを百代は感じとる。

「んっ?この気は……」

「モモヨ、あれって、ヘリコプターって奴だろ。何か、こっち来るみてえだぞ」

 そう言って悟空が空を指差すと先には四台ものヘリコプターが空を飛んでいた。百代が感じ取った覚えのある気はその中の一台から発せられている。

「あんなかからつええ気を感じんぞ。特に強い気が一つと他にもいくつかあるなあ」

 悟空が言う通りに、その覚えのある気以外にもそこそこな強さの気が複数ヘリコプターからは感じられた。ヘリコプターは二人の真上、川神院の敷地内の空に留まると、そこから10人を超える位の人数が飛び降りてくる。
 そしてその中の一人、長く銀色に近い髪を持った少女はパラシュートも使わずに高笑いを上げながら地面に落下し、着地してみせた。

「ふははははは、九鬼揚羽降臨である」

「やはり、揚羽さんでしたか」

 その人物こそ、百代が覚えのあった気の持ち主の正体であり、彼女の嘗てのライバル九鬼揚羽だった。その名前を聞いて悟空があることに気付き、彼女にむかって尋ねる。

「九鬼ってーと、英雄とおんなじ名前だな。何か関係あんのか?」

「うむ、我は英雄の姉だ。弟が世話になったと聞いておるぞ。礼を言わせてもらうぞ悟空」

「へえー、姉弟なんか。言われてみっと、ちっと似てるかもな」

 答えを聞いて納得したのか頷いて見せる悟空。そこで今度は百代が前にでて、彼女に対し問いかけた。

「ところで揚羽さん。今日は一体どうしたんですか? それに、その後ろの人達は? 後、一応この辺は一般人の立ち入りも自由ですが、川神院には関係者以外立ち入り禁止な場所も多いので、このような真似は本来まずいのですが」

 揚羽は九鬼財閥の経営者の一人であり、用もなく出歩ける立場では無い筈である。更に、パラシュートで降りて来た者達は全員それなり以上の使い手。護衛にしても大袈裟過ぎる戦力で、どこかの大規模テロ組織を壊滅させに行くと言われても納得できる位だ。そんなメンバーを連れて、いきなり他人の敷地内に入ると言うのは敵意を持っていると取られてもおかしくない。

「それは問題無い。鉄心殿に話しは通してあるからな。今日は悟空に対し、見定めと歓待のために来たのだ」

「見定めと歓待? どういう意味ですか?」

 揚羽の言葉に言葉の意味はわかるが、その示すところがいまいち理解できず問い返す百代。揚羽は頷くと答えた。

「うむ、見定めと言うのはKOS主催者として、周囲にどの程度の被害がでるか有る程度、悟空殿の実力を知っておきたいと言うことだ。そして歓待と言うのは、初めて遭遇する異世界人である悟空に対し、この世界を代表してもてなしたいと我は考えている。聞けば悟空、この世界へは強者との戦いを求めて来たらしいな?」

「おう、そうだぞ」

 最後の問いかけは悟空の方に向き合って言う。肯定する悟空を確認すると、揚羽は頷くように首を一回縦に振ると歓待の内容を告げた。

「ならば受け取って欲しい。我の好意、贈り物をな。後ろに居る者達は九鬼財閥序列100位以内の者達。その中から特に武に優れた者を選びだした精鋭達よ。戦いを望むと言う悟空殿に対し、この者達との勝負こそが我の歓待だ」

「すげぇ、そいつらと達と戦っていいんか!?」

「うむ、存分に戦ってくれ!」

 目を輝かせて言う悟空の姿を見て満足気な表情を浮かべると胸を逸らして答える揚羽。
そして百代はそんな二人のやりとりをみて指をくわえんばかりの様子で羨ましげな態度を取る。

「いいなー、私も戦いたいなー。悟空、半分位私にやらせてくれないか?」

「んっ、そうだな。オラも戦いてえけどオラだけじゃあわりいか。じゃあ、半分だけな」

 分け前を強請る百代に少し考え、承諾しようとする悟空。しかしそこで揚羽が口を挟んだ。

「百代よ。悪いが、この人選は連携などの意図を考えて選んでおる。簡単には分けられん。それに悟空、もらったものをどうするも受け取ったものの自由ではあるが、渡した相手の目の前で別の相手に譲ると言うのはあまり印象がよくないぞ」

 百代の願いを拒否し、悟空に対してはやや諌めるような言葉を告げる。

「そうなんか? じゃあ、しゃあねえな。百代、やっぱオラが一人で戦うことにすんぞ」

「う~~~」

 揚羽の言葉素直に受け取り、一人で戦うことを決める悟空と悔しそうに唸る百代。
 そして一応話しがまとまったと言う事で、揚羽が指示をし、悟空の前に男女合わせ8人が並び立たせる。

「まずは、この者達がお前の相手をする」

「残った奴等は戦わねえのか?」

 揚羽が連れて来た従者は全部で十二人。その内、四人は未だ揚羽の後ろに立ったままである。
 そして彼等は何れもが、悟空と戦おうとしている八人よりも強い気を放っていた。

「それはこの者達に勝ってからだな」

「わかった」

 頷くと構える悟空。それを見て揚羽は準備万端と判断する。

「うむ、ではいくぞ。始めぃ!!」

 揚羽の合図と共に八人が一斉に悟空に飛びかかろうとする。しかしそこで悟空の姿が消え、次の瞬間二人の身体が吹っ飛び、宙に舞った。

「!?」

 驚愕された残り六人、その内の二人が一瞬の内に、腹部と胸部に何発もの強い衝撃を受け、前のめりに沈む。

「なっ!?」

 1人の身体が吹っ飛び、別の1人にぶつかり両者昏倒。更に1人が顔面にパンチを喰らって敗れる。

「し、信じられん、一瞬で俺一人残して全滅……」

 最後の一人は台詞を最後まで言う事が出来ず、首筋に衝撃を受けて倒れる。それを見て揚羽は感嘆の声を漏らす。

「10秒とかからんか。あの者達も決して弱くはないのだがな」

「まあ、悟空ならこの位は当然だろう。とはいえ、楽しむタイプのあいつにしては随分とあっさり片付けたな」

 悟空の戦い振りに感心する揚羽。一方、百代は悟空の実力なら当然と思いながら、その行動に少し疑問を持つ。悟空は戦いの時、力をセーブし、相手の力を引き出そうとする癖がある。それは相手を舐めたり、馬鹿にしたりしているのではなく、純粋に戦闘が好きでそれを楽しもうとするとするからである。
 その習性とも言える癖を百代が知っているのは、山ごもり中に鉄心達の存在を嗅ぎつけやってきた挑戦者がおり、その相手を悟空がしたという経緯があり、その時に悟空の戦いを観戦し、話しを聞いていたからだった。

「おーい、早く次の奴とやらせてくれよ」

「ああ、なるほど。そっちが楽しみだったのか。……いいなあー」

 手を振っての悟空言葉に百代は疑問の答えを悟る。
そして悟空が早く戦いたがる程の残りの相手の実力に再度羨ましそうな表情をした。
 全員素手だった先程の者達とは違い、今度はそれぞれが異なる武器を持っていた。槍と戦斧をそれぞれ持つ体格のいい男が二人と、小太刀二刀と長い剣を持つそれぞれ持つ女二人。彼女達は同じ顔をしていた。

「ふむ、今度の奴等は全員クリスより1ランク上位の強さか。いや……」

 彼等の実力を気の強さと立ち振る舞いから強さを推測しようとし、百代は自分の判断に疑念を思える。

「それでは……始めぃ!!」

 感じた疑念に対し、百代がはっきりとした答えを出す前に揚羽が試合開始の合図を宣言する。開始直後、四人は悟空に対して距離を保ったまま彼を中心に四方向に移動して悟空を囲い込む。

「はっ!!」

 陣形をつくると最初に攻撃をしかけたのは槍使いと戦斧使いの二人。リーチの長い武器を持った彼等は対角線上から攻め込み一撃を放つ。
鋭い一撃、しかし悟空を貫いたかと思われた両者の攻撃は悟空の残像を貫くのみ。本体である悟空は上空に跳びあがって攻撃を回避していた。

「よっと」

 跳び上がった悟空は両者の武器にまたがって着地してみせる。その行為に二人は怒り、彼を振り落とそうと勢いよく武器を振るう。しかし悟空は猿のようなバランスで平然と武器の上に立ち続けて見せた。

「やっ!!」

 そして足場を槍一本に移すと、槍の上を走り、その持ち主のもとへ走る。慌てて武器を離してにげようとする槍使いの男。だがその時には、槍から飛びあがった悟空の蹴りが目の前に迫っていた。

「させません!!」

 しかしそこで小太刀使いの女がカバーをする。振るわれる2本の刃。慌てて身体を捻るとその刃を足場にし、方向転換し、地面に着地する悟空。しかしそこに更に援護に入った戦斧使いの男と長剣使いの女の攻撃が迫る。振るわれる2つの重量武器。

「なっ」

 あがる驚愕の声。悟空は高速で振るわれたその二つの武器の刃の部分を、それぞれ片手で掴んで見せたのだ。武器を掴まれた二人は慌ててひこうとするが、固定されたかのようにそれは動かない。

「ふん!!」

 そして悟空は更に力を込め、武器を破壊して見せた。試合と言うことで流石に刃は潰してあったが、彼等の使っていた武器は鉄製の本物である。それを握力だけで握りつぶしてみせると言う非常識な光景に戦斧使いは驚愕のあまり、呆けた表情になる。

「てりゃああああ!!!」

 そしてその隙を悟空は逃さなかった。掴んだ武器を離すと、一瞬で懐に入り込み肘打ち一閃。一瞬の間に七発もの肘打ちを撃ちこまれ、その場に崩れる男。

「たあああ!!」

 そこで槍使いの男攻め込む。今の悟空は倒した男が邪魔で回避できる方向が限られている。それを狙った攻撃であったが、悟空はしゃがみこんで槍を空振りさせ、そのまま相手の懐に入り、彼の顎を狙って下方向からの拳を叩きこみ昏倒させる。これで二人が戦闘不能状態だった。
 そして悟空は残された二人の女を向く。彼女達は武器を構え、並び立って構えていたが、そんな彼女達に悟空は言う。

「そろそろ本気だしたらどうだ? おめえらの力はこんなもんじゃねぇだろ?」

 わくわくした表情で言う悟空に、二人は一瞬無言になり、持っていた武器を地面に捨てるとお互いに近づいて行く。
 
「……そうですね」

「お望み通り、本気でお相手します」

 力を出すと言いながらその言葉通りに二人の気がどんどん高まっていっていく。それを感じ取り、二人の実力に違和感を覚えていた百代は納得の表情を浮かべる。

「なるほど、マルギッテと似たようなタイプか。あいつは眼帯によって、力をセーブする暗示をかけているが、あいつらは武器をリミッターとしてるというところかな?」

「それではまだ50点だな。答えはもう少し見てから教えてやろう」

 しかし百代の解答には一部間違いがあると指摘する揚羽。
 そして二人の気の上昇が止まる。その強さは武道四天王クラスの一歩手前位にまで高まっていた。

「「行きます」」

「!!」

呟くように言って二人は全く同時に飛びかかる。息の合ったなどというレベルではないタイミング。
そして悟空の眼前に移動した二人の四本の腕から連続で突きが繰り出される。反撃の隙も無いその攻撃を両手を使って必死に裁く悟空。

「あの者達は見ての通り双子でな。武器を捨てお互い同条件になることで完璧な連携を可能とする。その時の二人合わせた強さは武道四天王にも匹敵しよう」

「なるほど。確かに凄い。私も戦ってみたいな。揚羽さん、今度でいいから頼めないか?」

「ふふっ、今日は我慢を強いてしまったからな。考えておこう」

 二人の強さの秘密について解説をする揚羽。先程までのただ戦いを欲しがる姿ではなく、真剣な目付きで戦いを観戦する百代。

「!!」

 ラッシュを繰り広げていた双子、その二人が突如、合図も無しに左右に展開したかと思うと、両手の掌を重ねて突き出す。

「「気功閃流!!」」
 
 そして掛け声と共に二人の掌から同時に放たれる光の奔流。悟空が飲まれる。それを目にした百代が驚きの声を上げた。

「エネルギー波まで撃てるのか!!」

「うむ。あの二人は中国の秘境の地、隠された道場で気の扱いを学んだと聞く。しかも、二人揃うことでお互いの気を共鳴させ、増幅させることができるのだ」

 解説を入れる揚羽。そうしている間に光の奔流がやみ、悟空の姿が見えるようになる。そこには両腕を交差させ、ガードした彼の姿があった。

「ふぃ、やるなあ、おめえら」

 そう言いながらダメージは然程でも無いようである。自分達の最高の技を受けてほとんど無傷であることに、顔には出さないものの動揺をする二人。しかし、驚くのはまだ早かった。その直後、内面で抑えていた動揺を表に出してしまう程、衝撃的なことが起こる。

「おめえらが、二人ならオラも二人だ!!」

「「!?」」

 悟空が突然二人に増えたのである。これには双子の姉妹ばかりか揚羽も目を見開く。

「なんと、悟空は分身の術まで使えるのか!?」

「いや、あれは高速で左右に動き、残像をつくりだして二人に見えるようにしてるだけだ」

 それに対し、技の正体を見切る百代。しかしその解説は戦っている双子にまでは聞こえず、動揺を消せない二人に悟空が飛びかかる。

「てりゃあ!!」

「「くっ」」

 二人を交代に相手にする悟空。傍目にはまるで本当に分身した悟空が一人ずつを相手にしているように見えた。一人で二人を相手にしているとは思えない激しく隙の無い攻撃に動揺もあり、少しずつ二人の連携が崩れて行く。

「たあ!!」

 そして連携の崩れた彼女達は脆かった。ひとりが悟空の掌丁を受け吹っ飛び、もう一人が悟空の蹴りを受けて倒れる。
 その光景を見て興奮を隠しきれないように笑う揚羽。

「あの二人までこうも容易く倒されるとは。噂通り、いやそれ以上の実力よ。ふふっ、これは予定には無かったのだがな……」

 彼女は悟空の前にでると宣言する。

「悟空よ、最後は我が相手だ!!」



(後書き)
チラ裏から移動してきました。



[30266] KOS編 6話 
Name: 柿の種◆eec182ce ID:8364bda2
Date: 2011/12/11 09:11
「では、よろしく頼むぞ、百代」

「ええっ、でも、約束は忘れないでくださいよ」

「うむ、我が約束を破る筈もなかろう」

 悟空と揚羽が戦う場を作るために、百代が結界を張る。当然、この行動に対し、彼女は最初不平不満を述べたが、先程悟空と戦った双子の姉妹、もしくはそれと同等の実力者との試合を確約させることで納得していた。

「西方、九鬼揚羽……東方、孫悟空……始め!!」

「いきなり行くぞ!! 九鬼雷神金剛拳!!」

 試合開始の合図と共に最強の奥義を放つ揚羽。彼女の拳を電撃のような闘気が纏い、百代の富士砕きに近い威力の必殺の拳が放たれる。その一撃に対し、腕を十字にしてガードする悟空。両者の腕が激突、激しい圧力に悟空の足が地面をえぐり、身体全体が数メートル後方におされた所でやっと停止する。

「たああああ!!」

 揚羽の攻撃は止まらない。防がれた拳をさげ、代わりに秒間100発を超える連続蹴りを放つ。様子見も手加減無しの全開状態で攻め。その激しさに悟空の体勢が僅かに崩れる。それを見て、彼女は更にラッシュを強めた。

「ぐっ」

「はっ!!」

 息次ぎすらも止めて蹴りを続ける揚羽。悟空の体勢が更に崩れ、そこを狙ってのとどめの回し蹴りを放ち直撃させる。

「!!」

「てりゃああ!!!」

 しかし、彼女の一撃が切り裂いたのは悟空の残像。
 そして本物の悟空は一瞬にして、彼女の側面に移動していた。回し蹴りであげた蹴りが地面に戻っておらず、回避の取れない体勢。そこに悟空の一撃が迫る。

「くっ」

 必死に腕をあげ、なんとかガードする揚羽。しかし片足を上げた状態で踏みとどまれる筈もなく彼女の身体は大きく弾き飛ばされ、結界の境界ギリギリの位置で地面に転がる。
 ダメージが大きいかと思われたが、何とか立ちあがる揚羽。改めて悟空の強さを実感した彼女は彼に向かって問いかけをした。

「ぐっ、流石は百代に勝っただけのことはあるな。異世界と言うのはお前のような強さを持った奴が大勢いるのか? お前よりも強い者も居るのか?」

「おう、つええ奴一杯いんぞ! オラより強い奴って言うと、多分まだ神様には敵わねえんじゃねえかって思う。それに上には上が居るかんな。世の中にはまだまだオラより強い奴がいるかもしんねえ」

「ふむ、神か……。そのような存在が実在するとは、改めて世界の広さを感じさせてくれるな。なあ、百代?」

 試すような口調で言う揚羽に、大人にからかわれた子供のような気分になって、少し不不機嫌そうな口調で答える百代。

「揚羽さんからかわないでください。私だってもう世界の広さ位、気付いていますよ」

「ふっ、そうだったか。成長したものだ」

 百代の答えを聞いて少し優しい表情を浮かべる揚羽。
 そして悟空の方に視線を戻すと表情を引き締める。

「戦いの最中に無駄話をしてしまったな。そろそろ再開するとしようか」

「おう! 何時でもいいぞ!」

 揚羽に対し、言葉と闘気を持って応じる悟空。
 そして二人は再度激突した。








「うはははははっ、こうまで見事に負けたのは初めてだ。いっそすがすがしいな」

 全身を埃まみれにし、身体中に細かい傷を負った姿で高笑いを上げる揚羽。
中断の後、再開された戦いは一方的な展開となり、悟空の勝利となって終わっていた。
 再開直後から一気に攻勢に出た悟空の猛攻を受け、揚羽は防戦一方になり、反撃の糸口もつかめないまま、最後は蹴りによって上空に浮かびあがらせられてから、それよりも高く飛び上がった悟空によって地面に叩きつけられ、気絶という形である。
 嘗ては百代と互角であった彼女であったが、百代との最後の試合では敗北を喫し、その後は武の道を引退。腕を落とさない程度に鍛錬は続けていたものの、その後更に強くなった百代とは大きな差が開いていた。当然、百代と互角以上の実力を持つ悟空との差はそれ以上に大きく、序盤の猛攻が凌がれた時点で彼女の敗北は決まっていたであった。

「しかしこれ程の逸材、異世界へ帰してしまうのは惜しくなった。なあ、悟空よ、元の世界に帰らず、我の従者になる気はないか?望む限りの待遇を与えようぞ」

「なっ、揚羽さん一体何を!?」

 敗北した悔しさや敵意よりも悟空に対する興味を強め、彼を勧誘しだした揚羽。その行為に百代は驚きの声をあげる。

「言った通りだ百代よ。我は悟空の存在が欲しい。それにこれはお前にとってもいい話であろう。悟空がこの世界に残れば強敵には不足しまい。最も、悟空にとっては故郷を捨てる選択。簡単に決断できることではないであろうが、どうだ、考えるつもりはないか?」

 百代の問いに当然のこととばかりに答える揚羽。それを聞いて、百代ははっとした表情をする。
 そして二人の視線が悟空に集まる。美女二人、あるいは強者二人に見つめられると言う普通であれば緊張しまくりなそのシチュエーションにあって、悟空はそれを気にしない態度で、腕を組むと唸って考え込む。
 そして数十秒後、結論をだした悟空は、片手と頭を小さくさげて揚羽に対し答えを出した。

「わりぃ、オラ元の世界に帰るぞ。百代との戦いはおもしれえし、ワン子とか岳人とかいい奴も一杯いてこの世界に住むってのも悪くねえんだけどな。やっぱ元の世界にも会いてえ仲間が居るし、何よりオラ、決着をつけなくちゃいけねえ奴がいるかんな」

 悟空の答えは揚羽の申し出を断るものであった。彼の脳裏に浮かぶのは一度倒した男の生まれ変わり。戦いたいと、そして同時に戦わなくてはいけないとも考える未だ見たことも会った事の無い宿敵。その相手を思う悟空の表情には強い決意が浮かんでおり、揚羽はそれを理解する。

「ふむ、そうか。お前の意志の強さ伝わってきた。今回は引くとしよう」 

 この場でのこれ以上の説得は無意味と判断し、引き下がる揚羽。しかし、彼女の悟空に対する興味と欲求はいささかも薄れて居ないようであった。
そして彼女の後ろでは、百代が少し残念そうな、ほっとしたような表情をしている。

「それでは、今日は失礼しよう。我も多忙故、会う機会はなかなかつくれないであろうが、今度のKOSの際には主催者として、我も顔をだす。その時にまた会おうぞ」

 そこで再会を約束し、退席しようとする揚羽。その言葉を聞いて、悟空は揚羽がKOSの主催者であることを思い出して礼を述べる。

「おう、わかった。面白そうな大会開いてくれてサンキューな。オラ、すっげえ楽しみにしてるぞ」

「うむ、元々我自身の願いで開いた催し故、礼を言われることではないが、喜んでもらえれば何よりだ。では、さらば」

 KOSの話題に興奮した態度を見せる悟空。それを見て満足気な表情で頷くと、迎えのヘリコプターから降りて来た縄梯子に地面から数メートル跳びあがって捕まる。そのまま彼女は縄梯子に乗ったまま飛び去って行った。
 そして、彼女の姿が見えなくなったところで百代が悟空に近づく。

「なあ、悟空、お前はやっぱり元の世界に帰って……」

「んっ、なんだ?」

「いや、何でも無い」

 問いかけようとして辞める百代。それを見て訝しげな顔を浮かべる悟空。

「変な奴だなあ。まっ、いっか。そういや、そろそろワン子がランニング戻ってくる時間だな。わりいけど、オラ、行ってくっぞ」

「ああ、たっぷり鍛えてやってくれ」

 ワン子と稽古をするために走り去って行く悟空。それを一人見送り百代は呟く。世界の広さを知ったが故に、その上でそれが届かない遠くへ行ってしまうことを改めて考えてしまった故に感じる寂しさを交えて。

「お前が居なくなった後、私は誰と戦えばいいんだろうな」


(後書き)
KOS編と銘打ってから、大分たってしまいましたが、次回よりKOS開始です。

PS.何故かクリスチームの最後の一人が名前だけの軍人キャラだったと勘違いしていました。ゲームをやり直してみたら梅子で焦っています。一子の誘いを断らせた手前、今更入れられませんし。代わりにこいつを入れて欲しいというキャラいましたらアイディア募集しますのでよろしくお願いします。DB側のキャラでもOKです。書けそうだと思ったら採用させていただきます。



(おまけ)
※今回は短いのでおまけをつけました。本編にはあまり関係無い裏話的なものです。
 
KOS、500億円という破格の賞金が据えられ、世界各地より強豪が集められた大会。そのような大規模な催しとなれば、当然の如く付随するものがある。トトカルチョ、優秀チームを予想する賭けごとである。合法・非合法合わせ、そこで動く金額は賞金額を遥かに凌駕し、兆の単位に届くのではないかと言われるこの賭けごとで評価の高いチームを幾つか紹介しよう。

<アメリカチーム>
紹介文:全米格闘チャンピオンカラカル・ゲイルとその弟ゲイツ、そして軍のスーパーソルジャー計画によって産まれたエリート戦士であるワンとツーが組んだチーム。アメリカ政府が国の名誉を賭け、公式に支援していることもありアメリカ国民を中心に評価が高いチーム。

前評判:
公式賭博:人気1位
非合法賭博:人気2位


<メッシチーム>
紹介文:太陽の子と呼ばれるアルゼンチンの格闘家メッシとその弟子達のチームである。元々メッシは表の格闘技会においては彼かミスマの何れかが世界最強と言われており、ミスマが揚羽に惨敗、それが大々的に放送されたため、相対的に彼の評価が高まり、優勝候補の一人とされている。

前評判:
公式賭博:人気2位
非合法賭博:人気5位


<百代チーム>
紹介文:武術にある程度以上深く携わるものであれば知らぬもの無い川神院の後継者にして、10代にして既に当代師範に匹敵する実力を秘めた百代を中心としたチーム。その名は川神院師範であり、彼女の祖父である鉄心と共に広く知られており、天変地異と呼べるような事象が起ころうともそれが百代の仕業だと分かれば『なんだMOMOYOか』で納得されてしまう位の実力者。
 しかし、公の場でその武を披露することは無いため、地元民以外の一般人知名度は低く、その名を知る者も、直接その戦いぶりを目にした者以外は、実力を正確に把握しておらず過小評価するものも多いため、公式賭博での人気は然程高くない。反面、大富豪などが多く参加する裏賭博では優勝候補本命とされているが、KOSはチーム戦であり、そのルール詳細も秘密扱い、彼女以外のメンバーは無名に近いため、2番人気以降との差は然程開いていない。

前評判:
公式賭博:人気11位
非合法賭博:人気1位


<フリードリヒチーム>
紹介文:ドイツ軍人の名門、フランク・フリードヒとクリス・フリードヒの親子と欧州最強と言われるマルギッテ・エーベルバッハが組んだチーム。知名度、実力共、そしてドイツ軍と言う肩書が揃ったチームだけに、公式賭博、非合法賭博の両方で人気が高い。

前評判:
公式賭博:人気5位
非合法賭博:人気3位


<悟空・一子チーム>
紹介文:異世界の武術家である孫悟空と、川神一子が中心となって結成されたチーム。一般の知名度は皆無に近いため、公式賭博の人気は極めて低い。しかし非合法賭博では一部の耳ざとい者が悟空の強さを聞きつけたのと、一子が義理とは言え百代の妹であること、超人的格闘家であり大会の主催者でもある揚羽の弟である英雄がいることなどからダークホース的扱いをされ、上位の人気となっている。

前評判:
公式賭博:人気72位
非合法賭博:人気8位


<風間ファミリーチーム>
紹介文:風間翔一を中心に、風間ファミリーと呼ばれる友人軍団のメンバーのみで結成されたチーム。一般には完全に無名の学生チームであるため、人気はほぼ0である。しかし、その潜在能力は侮れず、ある意味真のダークホースと言えるかもしれない。

前評判:
公式賭博:人気100位圏外
非合法賭博:人気100位圏外


<親不孝通りチーム>
紹介文:元川神院師範代にして元内閣調査室の一員である釈迦堂刑部とその弟子達で構成されたチーム。一般での知名度は低いため人気はないが、裏での地名度は高く悟空・一子チームと並ぶダークホース扱いされている。

前評判:
公式賭博:人気80位
非合法賭博:人気7位


<弾金重工チーム>
紹介文:現在は没落傾向にあるが嘗ては九鬼財閥と争う程の技術力を持っていた企業である弾金重工より派遣されたチーム。再起を賭けたアピールの場として本気で優勝を狙っており、そのための秘策があるとの噂がある。

公式賭博:人気32位
非業方賭博:人気40位



[30266] KOS編 7話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:8364bda2
Date: 2011/12/11 12:39
 神奈川県丹沢山地、KOSの開催地であるこの場所には名誉を求めたもの、戦いを求めたもの、500億円の賞金につられたもの、さまざまな目的を秘めた強者達、総数133チーム532名が集まっていた。
 その中には悟空、一子、英雄、忠勝の姿も見える。

「ふええ、すげえ、人数だな。けど、モモヨや鉄心のじいちゃんくれえの奴は見当たんねえみたいだな」

 天下一武道会出場者の数倍の人数に驚きながら、その強さのレベルが予想していた程高くないことに意外そうな顔をする悟空。この世界に来て最初に会った二人が共にこの世界で5指に入る強者であり、その後あった相手もこの世界で上位に入る実力者が多かったため、悟空の中で強さの基準が少々ずれていたようだった。
 その勘違いに忠勝が溜息をついて突っ込みを入れる

「学園長の実力は噂でしか知らないが、少なくともモモ先輩は完全に別格に位置する人間だ。基準にすんな、馬鹿」

「あはは、流石にお姉様やじいちゃんと比べちゃあね。けど、あの人なんかかなり強いんじゃない?」

 悟空の言葉に普段はボケ役に回ることが多い一子も流石に苦笑いし、一人の人物を指し示す。それは太陽の子と呼ばれる大会優勝候補の一人であるアルゼンチンのメッシであった。他の者達とは明らかにレベルの違う闘気を身に纏っており、近くの者達は彼を避けるようにしている。
 その姿を見た悟空は何故か驚いた顔をして、いきなり彼に近づいて行く。
 そして彼に向かって話しかけた。
 
「メッシ、メッシじゃねえか。おめえもこの大会に参加すんのか?」

「むっ、悟空か。やはりお前も来ていたのか」

「えっ、えっ、知り合いなの?」

 南米No.1の格闘家と親しげな態度を見せた悟空に戸惑う一子。それに対し、悟空が彼との関係を説明する。

「おう、山ん中で修行してた時に、メッシの奴が鉄心のじいちゃんに挑戦しに来てな」

「その条件として私は悟空と百代の二人と闘うように言われたのだ。その結果は私の完敗。二人に負けた私は自分の未熟さを知り、己を鍛え直してきた。今回の大会にはその成果を試し、更なる高みを目指すために来ている」

「おう、おめえかなり腕、あげたみてえだな」

 彼から感じる気の強さが以前よりも遥かに強くなっていることを感じ取り、その成長を評価する悟空。話しを聞いて感心した様子を見せる一子。

「へー、そうなんだ。流石お姉様と悟空君ね」

「ところで、悟空、その子は君のチームメイトなのか?」

「おう、オラの仲間でモモヨの妹だ」

 そこでメッシが一子のことを尋ね、悟空が紹介する。その答えを聞いて、彼は一子の方に改めて視線をやると納得したように頷いてみせた。

「百代の妹か。なるほど、確かに相当の実力を感じるな。この大会で戦うことになれば楽しみだ」

「うん、私も負けないわよ!!」

 自分の実力を認められ喜び、競争心を返す一子。それに対し、傍で見ていた忠勝は軽い疑問を覚えていた。

(今の評価……単にあの男がモモ先輩の実力を測りきれていないだけなのか?)

 百代と一子の間にははっきり言って比較対象として成り立たない程の実力差があった筈である。にも関わらずメッシは一子が百代の妹であることに対し、その実力を感じ取った上でそのことに疑問を持たなかった。

(相手は仮にも南米No.1、表の世界最強候補。しかも悟空の奴の言葉が本当なら、そこからかなりレベルアップしてるし、モモ先輩とも直接対峙している。そう考えるとあまり的外れなことを言っているとも考えづらいが……)

「ふははははは、一子殿を認めるとはメッシよ。なかなかに見どころがあるな」

 考えこむ忠勝の横で、一子が褒められたことに対し素直に喜び、評価したメッシを褒め、高笑いをあげる英雄。メッシはそのテンションの高さに流石についていけないようで、少しひいた態度を見せる。

「か、変わった人だな。彼も君のチームメイトか。っと、そろそろ開会式が始まるようだ。私は弟子達の所へ戻る」

「おう、お互いがんばろうな」

「ああ」

 挨拶をかわしメッシと別れる悟空達。
 そして参加者達の前に大会の主催者である揚羽が現れる。

「全世界の戦士諸君!よくぞ、集まった!! これより武の祭典、KOSの開催を宣言する!!」

 その言葉に周囲より歓声があがる。それに対し、揚羽は軽く頷くと説明を再開した。

「それでは戦いの説明をしよう。事前説明したようにこの大会は四人一組。一人でも戦闘可能なものが残っていれば失格にはならん。それと戦いの範囲はこの地図に書いてある通りだ。受け取れ!!」

 揚羽が叫ぶとヘリコプターが上空に現れ、そこから大量の紙がまき散らされる。選手達はそれを拾って書いてあることを見る。どうやらその紙はこの辺りの地図のようで山地と街の一部が赤く塗られていた。

「この赤く塗られているエリア全てがリングとなる。戦う期間は3日間、優勝条件は最後まで生き残った組だ! これから選手達はこのエリア内を移動し、敵の選手と出会ったら、戦闘に入る! 例え食事してようが、寝ていようが常に戦闘、周囲は敵だらけのバトルロワイヤル形式とする!!」

 ルールを聞いてそれぞれの選手たちは対策を考えたりしながら続きの説明に耳を傾ける。

「それと戦わないでいるチキンが発生した場合だが、これには処刑人を用意した。我と……」

「川神鉄心じゃ、よろしくのう……見た顔多!」

「頑張ってるかね? ルーだヨ」

「中村北斗です」

 揚羽の言葉を繋いで川神院の総代である鉄心と同じく師範代二人が現れる。川神院の知名度と漂う雰囲気がその三人の実力を参加者達に知らしめていた。

「以上四名が処刑人になる。もし一定以上戦わないでいるチームがあったら、我等がそのチームを消去に向かう。夜の間もこのルールは適用される!忘れるな」

 処刑人の役割を説明し、更にそれぞれのサポーターが持っている腕輪からデータを通し本部で監視するため、逃れることもできないことを説明する揚羽。処刑人はその全員実力がこの場に居る参加者のほとんどより上であり、彼女達の相手をする位であるならば、逃げ回らずに他の参加者と戦う方が賢い選択であることは明らかだった。
 最も、中にはそう考えないものも居る。

「なあ、大和。一定時間戦わなければ即、失格とは言われていないということは、処刑人を返り撃ちにすればOKってことだよな?」

「えっ、ああ、多分、そう言うことだろうな」

 大和に耳打ちし尋ねる百代。その答えを聞いて考え込むような仕草を見せる。

「そうか。揚羽さんに、じじい、ルー師範代に中村さん……いっそ戦わないで居るのもいいかもしれないな」

「姉さん!?」

 百代の呟きを聞いて、声を上げ過ぎないようにして叫ぶ大和。一対一の戦いよりも乱戦の方が被害は拡大しやすい。悟空と百代、規格外な二人に合わせ、リングを市街地から山中へと変更された今回の戦いであるが、彼女が処刑人四人と全力でぶつかりあえば、街の方まで被害が及ぶ危険もあり得る。勿論、それよりも早くチームのメンバーである大和達は巻き込まれるであろう。
 しかし、その辺は百代も理解しているらしく、心配は要らないと告げる。

「大丈夫だ。半分は冗談だからな。流石に私もその四人を同時に相手どるのはきつい。少なくともお前達にまで気を配る余裕はないだろうからな」

「半分は本気なんだね」

 大丈夫と言いながら不安になる発言をする百代に対し、溜息をついて突っ込む京。最も、彼女は真剣に心配している訳ではなかった。もしチーム戦でなければ百代は言った通りのことを本気で実行したかもしれないが、自分達が居る以上、無茶し過ぎることはないと信頼しているのである。

「ところで皆、説明を聞きつつ端へ移動しよう」

 京と同じく百代を信頼している大和は一つの問題が片付いたとして、他に気付いた懸念点に対する対策をあげる。しかし百代、京、クッキーの三名はその提案に対し、意図が分からず訝しげな顔をした。

「何故だ。まだ説明の途中だぞ?」

 三人が共通し抱える疑問に対し確認を取ろうとするクッキー。しかし、大和は回答しながらもその行動の理由については述べず実行を促す。

「説明が終わってからじゃ遅いかもしれない。理由はあるがあまり周りに聞かれたくない。今は俺を信じてくれ」

「私は大和の言うことなら信じるよ」

「そっち方面に関しては信頼してる。お前に任せるさ」

 長年つるんだ信頼感。仲間達は説明無しでも大和の行動が正しいと信じ、提案を承諾して移動を開始する四名。また彼等と同じように行動するする者達が他に何チームが存在した。
 そして悟空チームでもその状況に気付き、その理由を察する者が一名。

「おい、お前等、俺達も移動するぞ」

「むっ、何故だ?」

 忠勝の言葉に問いかける英雄。忠勝はメンバーを集めると小声で簡潔に説明する。

「バトルロワイヤル形式って言われただろう。下手すりゃ、この密集した状態でいきなりスタートって危険性がある。そうなりゃ、敵に周りをかこまれた状態になっちまう」

「なんだ、そのようなことか。そのような脅えた態度をとる必要は無い。我等は王者らしく、堂々と迎え撃ってやればいいのだ」

「おう、オラもそれでいいぞ」

「うーん、でもそれだとタッちゃんや九鬼君が危ない目に……」

 現状の危険性を示す忠勝。しかしそれを聞いても英雄と悟空は全く気にした様子を見せず、一子は不安そうな表情をするが、それは自信のことを心配してと言うより、忠勝と英雄の身を案じ迷っている状態のようだった。
 結果として反対2、保留1、多数決で負けた状態になる。その状況に忠勝は諦めたと言った態度を取って口を開いた。

「……わかったよ。言った俺が馬鹿だった。一子悩む必要はねえ。このまま、ここに居るぞ」

「えっ、大丈夫なの?」

「ああ」

 心配そうな表情の一子に無愛想な態度で答える。ここで粘れば自分一人がびびっているような状況になってしまう。好きな相手の前でそのような情けない姿を見せることはしたくなかった。

「一応、俺も鍛え直してきたしな」

 最も忠勝は自分の力と言うものをわきまえ、その上で冷静に判断することのできる能力を持った人物である。対処できる自信が薄ければ、例え恥を去らそうが移動を提案し続けていただろう。
 しかし、彼はこの大会に備え、彼は実力を隠している達人である義父の巨人から指導を受けてきていた。無論、2ヶ月程度の修行では付け焼刃に過ぎないが、元々喧嘩慣れしていたところと、素養の高さからそれなりに成果を得ている。だからこそ、この場に残ったとしても自分自身は足を引っ張らない程度には動け、悟空が居れば、敵の数を一気に減らせると考え決断したのであった。

「最後に禁止事項をあげておこう。エリア範囲外にでたチームは即座に失格。一般人を攻撃し、負傷させれば失格。この事、ゆめゆめ忘れるな!!」

 そしてそこで揚羽がルール説明を終え、戦いの始まりを告げる合図を下すのだった。

「それでは、始め!!」





(後書き)
今回登場した中村北斗と言うのはオリキャラです。
原作で川神院の師範代は複数人居ると説明があったので(その説明の時点で、釈迦堂は既に破門されている)作中に出てこないだけで、ルーと釈迦堂以外にも居るのだと判断し、原作で処刑人だった百代の代役と言うか穴埋めとしてだしました。実力的には原作登場の師範代二人よりも1ランク下位です。役割的には完全に脇役ですね。



[30266] KOS編 8話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:8364bda2
Date: 2011/12/14 19:56
 突然の試合開始にしばらくの間は戸惑っていた選手達であったが、次第にあちこちで戦いが始まり、直ぐに乱戦状態へと移行する。

「なるほど、移動したのはこういう訳か。だが大和、私は戦いたいんだぞ?」

「わかってるって。ちゃんと考えてあるから」

 移動した意図を理解し、しかしそれが自分の希望に沿わないことについて大和に不平を述べて睨む百代。しかし凶悪な姉に睨まれても自信あり気な表情で平然と返すと先頭を走り姉達を誘導する。
 一方、移動する彼等とは対照的に悟空達のチームは積極的に戦いに参加していた。

「おい、悟空、一子。まずは銃を持ってる奴を狙え」

「うしっ、わかった」

「わかったわ!! てりゃああ!!!」

忠勝の指示に答え、銃使いを狙う悟空と一子。まずは、一子が気合いの掛け声と共に猟銃を持った男の方へ走り近づくと薙刀を一閃する。

「てりゃあ!!」

「わ、私のマクシミリアンが!!」

 一子の薙刀が男の持っていた猟銃を真っ二つにする。愛用の銃を破壊され、哀愁の涙を流すダンディなサラリーマン風の男性。複数の達人に鍛えられている高校生位の息子いそうな感じである。

「やるなー、一子。んじゃ、オラもいっちょやってみっか。てりゃあああ!!!」

 一子の活躍に負けじと拳を振るう悟空。その一撃によって生まれた衝撃波が悟空に向かって発射された弾丸を跳ね返し、更に撃った男達数人を跳ね飛ばす。

「ははは、流石は一子殿に悟空殿だな」

「一子はともかく、悟空の奴は本気で非常識だな。とはいえ、味方ってことになりゃ頼もしいか」

 二人の活躍を見て感想を述べる忠勝と英雄だったが、彼等も黙って見物し続けて居られる訳ではない。参加者である彼等に目を付け、襲いかかって来る者達が現れ、それを迎え撃つ。

「くっ、流石につええな」

「やるな、庶民よ!! だが、ホアチャ!!」

 空手家の手刀を防ぐ忠勝と拳法家に拳を叩きこむ英雄。悟空達のように圧倒とまでは行かずともこの大会に備え鍛え直した二人は世界の強豪相手に退かず渡りあって見せた。

「よし、銃を持っている奴等は後、少しだな」

 誰かが発した言葉。悟空達以外の武術家達も集中して銃を持った相手を狙ったため、銃使いの数は一気に減り、一部の達人クラスを除き、彼等は全滅しつつあった。それにより戦いは武術家対武術家へと移行して行く。

「一子、勝負!!」

「望むところよ!!」

「兄さん、その男のデータはさっきまでの乱戦の中で収集済み。僕の計算によれば、勝率は99.3%だよ」

「グゥゥゥッド!!」

「んっ、おめえらオラと勝負すんのか?」

 メッシとぶつかる一子。
 カラカル兄弟に挑まれる悟空。
 戦いが激化する一方、最初乱戦に加わっていながらその場から離れ、距離を置く者達が居た。

「なんだよ。師匠、もっと暴れようぞ」

「馬鹿かおめえは。こんな明るい内から目立ち過ぎてどうする? 一応、俺らは裏街道の人間だぞ。それにだ、一人とんでもねー化け物が混じってやがった。まともにやりあうには面倒な相手だ」

 赤い髪をした少女が、一見すればさえない中年、しかし見る者がみれば凄まじい闘気と悪気を身に纏った男に不満を言い、男が反論する。その男の言葉を聞いて、水商売風の格好をした紫色の髪をした女が二人の会話に口を挟んだ。

「それって、あの派手な色の胴着をした男のことかい。確かに、マシンガンの弾を拳圧で跳ね返すなんてとんでもない奴だったね」

「すごいね~」

 信じられないものを見たとでも言うように語る紫の髪の女とそれに眠そうな表情と声で相槌を持つ青い髪の女。男は肯定し、悟空の強さに対する評価を述べて見せた。

「ああ、ありゃ、百代クラスだな。正面から行くにはちっと骨が折れるわ。まっ、とりあえずは様子見だな」

「貧乏くじひいてもしょうがないしね。結構な数の奴等を潰しといたから、しばらくは処刑チームも動かないだろう。潰し合ってもらうのを待った方が利口だね」

「師匠と亜美姉がそう言うなら、仕方ねえか。んじゃ、とりあえず、適当に他の奴でも潰そうぜ」

 消耗を避けるため、無駄な戦いを回避しようとする紫の髪の女と、その姉の言葉を聞いているのかいないのかわからないことを言う赤い髪の少女。

「まっ、折角だから賞金も頂くが、一応目的はおめえらの実戦訓練だかんな。適当な相手をみつけてやるよ」

 そうして新たな獲物を探す四人。
一方その頃、序盤に退避し、開始地点を離れた百代達の方は、後方を岩や林といった障害物に阻まれた場所で、大勢に取り囲まれていた。

「こういうことか」

「ああ、バトルロワイヤルにおいて、優勝候補を集団で狙って潰すってのはセオリーの一つだからね」

 現在の状況に対し、納得と歓喜の混じった声で言う百代とドヤ顔で答える大和。
 彼等を取り囲むのは7チーム28名の猛者。その正体は優勝候補筆頭である百代を倒す為、即席で組まれた連合である。

「これだけの人数が相手となれば、如何に武神とてどうにもなるまい」

「ましてや、今は足手纏いを抱えている状態。そこの青い髪をした小娘とロボットはまだしも、そこの男からは武の片鱗も見えん。そのような屑と組むとは自分一人の力でどうとでもなると奢ったか」

 自分達の勝利を確信した様子の連合チーム。
 しかし調子に乗った彼等が放った迂闊な言葉は二人の武士娘の逆鱗に触れてしまう。
 
「集団にならなければ美少女一人狙えない臆病者達が言うじゃないか。それに、人の舎弟を屑扱いするとはお仕置きが必要だな」

「大和を屑扱い、絶対に許せない!!」

 軽く戦いを楽しむつもりだった百代と、彼女に任せるつもりだった京の二人は彼等の失言によって激しい怒りをおぼえ、武士娘から鬼武者、否、女であるから夜叉武者と言うべきか、とにかくそう呼べる存在へと変貌する。

「俺達の後方は障害物となる木々や岩が多く、更に先は崖だ。予想外の伏兵が現れる危険性は低い。それに身を隠す場所も多いから、身を守るだけならどうとでもなる。だから姉さんは俺を気にせず、思いっきり戦ってくれ!」

 侮辱された本人である大和は冷静にチームの仲間に指示を出す。彼はこの日のためにあらゆる展開を想定、野外戦も考慮の一つとし、この周辺の地の利を掴んでいた。故に、一見すれば追い詰められたように見えるこの場所は、実際は大勢を迎え撃つのに適していると考え選んだ地点であり、百代達を取り囲む参加者達は大和の計算通りに誘いこまれ、罠に嵌まった獲物の立場なのである。

「京は姉さんの援護と周囲の警戒をしてくれ。伏兵の可能性は低いとは言えゼロじゃないからな。クッキーは俺と京の護衛、判断に応じて攻めてくれ。後、これは全員に。やり過ぎない程度にぶっつぶしてやれ!!」

 額に青筋を浮かべ叫ぶ大和。冷静さは失っていなくても、結構、頭に来ていたらしい。
 そして取り囲んだ28人が如何に自分達が浅はかであったかを思い知らされる戦いが始まるのであった。








「くっ。どこだ!?」

 何人もの一子がメッシを取り囲む、勿論、一子が本当に何人も居る訳もなければ、分身の術を使える訳でもない。
 残像拳、技としてはこの2ヶ月の間に一子が悟空より習った唯一のものである技法にて、そう見えるようにしているのである。所詮は錯覚なのだが、やられる方としてはやられる方としては非常に厄介な技であった。

「捕らえきれん!! ならば!!」

 無数の残像に紛れ、一子の本体を見極められないメッシ。そこで彼は目を閉じて気による探知に切り替える。残存は網膜に映る虚像、当然、目を閉じれば発生しなくなる。簡単に実行できるものではないが、確かに有効な対抗策であった。

「そこだ!!」

 一子の居場所を見極め、そこに必殺の蹴りを放つメッシ。
 しかし一子はそれをひらりとかわし、反撃の薙刀を振るう。

「川神流奥義、大輪花火!!」

「ぐはあああ」

 必殺の一撃を受け倒れるメッシ。身に付けた技は残像拳一つでも、それ以外の全体的な能力が2ヶ月前とは別人のように向上していたのだ。直撃を受けたメッシはそのまま気絶、一子の勝利である。
 この勝利により、この場に残る者達は悟空達のチームの4人だけとなる。他の者は全て倒されるか乱戦開始前、もしくは乱戦中に撤退しこの場を去っていた。

「やったな、一子」

「ありがと、悟空く……って、うわあ」

 一子がメッシと戦っている間、他の参加者と戦っていた悟空。彼の後ろを見て、一子は思わず声をあげる。そこには100人を超える参加者が倒れ伏して居た。その中には優勝候補であったアメリカチームのメンバー全員も含まれている。他の場所にも倒れているものは居るが、悟空が戦っていた辺りには明らかに倒れている人が多い。

「もしかしてその人達、全部悟空君が倒しちゃったの?」

「んーと、半分よりちょっと少ないくれえかな。途中でいなくなっちまったけど、つええ奴等が居て、そいつらがかなり倒してたみてえだ」

 アメリカチームの内ゲイルとゲイツを倒したのは悟空だが、ワンとツーを倒したのは別のチームの人間であった。

「へえー、やっぱ凄い人達が参加してるのね。うーん、燃えてきたわ」

 悟空の話を聞いて闘志を燃やす一子。しかし、その悟空の言う強者がまさか、川神院の元師範代とその弟子達であるとは彼女には思いもしないことであった。
 そして選手たちの戦いを見て、主催者側の者達がその結果を評価する。

「まさか、開始2時間で3分の1以上が脱落するとはな」

「うむ、うちの百代と悟空が相当暴れたようじゃからのう。じゃが、だからこそ生き残ったチームは皆、侮れんといえるじゃろう」

「強さは正面きっての武力だけじゃないからネ。勝ち目の薄い戦いを上手く避けるのも強さの内ヨ」

 KOSは未だ始まったばかり。参加者の数は減っても残ったのは皆、油断出来ぬ者ばかり。戦いはこの先、更に激化していくと予想されるのであった。



[30266] KOS編 9話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:8364bda2
Date: 2011/12/22 22:47
「ふむ、大分日も暮れて来たな。一子殿、そろそろ休むと致しましょう。街に宿を取ってあります」

 KOS開始から数時間が立ち、あたりは夕暮れに染まりつつあった。確かに普通であれば休息の準備を始めてもいい時間帯である。しかし、忠勝は英雄の言葉に眉をひそめ、彼を問いつめた。

「おい、ちょっと待て。まさか、ホテルに泊まるつもりか?」

「何を当たり前のことを。一子殿に野宿などさせる訳にはいくまい」

 当然のこととばかりに答える英雄を見て、忠勝は溜息をつくと、彼の提案の問題点を指摘する。

「マップをよく見てみろ。移動可能範囲には宿泊施設は3件しかねえ。ここまで候補が少ないと全部の箇所がマークされてると思っていいだろう。そんなとこに泊まるなんざ夜襲してくださいと言ってるようなもんだぞ」

「ふはははははは、何を恐れることがある!! そのような卑劣な手を使う奴らなど所詮は小者よ。堂々と待ち構え、返り撃ちにしてやればいいではないか」

 忠勝の筋の通った指摘を、英雄は自分達に対する自信から笑い飛ばして見せる。しかし、続く忠勝の言葉に彼はその笑いを止めることとなった。

「俺達はまだそれでいいかもしれねえ。交代で見張りを立てるって手もあるしな。だが、部屋に一人になる一子はやべえだろうが」

「むっ!?……それは確かに問題だな」

 最愛の相手に危険が及ぶ可能性が高いとあれば、流石の彼も無茶はできず、悩まざるを得ない。しかしそんな悩みなどなんのその、男女の機微と言ったものなど、全くと言って程解さない悟空が能天気な口調で発言し解決策を提示する。

「なんだかよく分かんねえけど、みんな同じ部屋で寝ればいいじゃねえか?」

「おい……いや、お前に言っても仕方ねえか。とにかく、それは無理だ」

「あはは、流石にアタシも男の子と同じ部屋で寝るのはちょっと抵抗あるかも」

 顔を少し赤くして言う一子。確かに悟空の言う案なら、敵襲の危険には対抗できるが、如何に性知識に疎く、それらの感情に対し幼い一子であるが、年頃の乙女であることに違いは無い。その無垢さと信頼から襲われる心配とかはしていないが、それでも恋人でも無い同年代の男子と同じ部屋で就寝と言うのは許容しづらいものがある。

「せめて仕切りでもあればな。だからと言って声や物音が届かなけりゃあ意味がねえが。後は、お互いの部屋の出入りが素早くできることか。オートロック付きとかはあんま好ましくねえな。本気で侵入しようとする奴等の前じゃあ、どの道、鍵なんて大した守りにやならねえしな」

 その場に流れた少し気まずい空気を吹き飛ばそうと、忠勝が話を戻し、拠点として適した場所の条件を上げて行く。しかし現代の日本のホテルは防音や防犯がかなり整っているため、古いホテルや旅館などでなければなかなか彼の言った条件には当てはまらず、範囲内の3件の宿泊施設には該当しそうになかった。

「えーと、声が聞こえて、出入りが簡単ならいいんか? だったらいいもんがあるぞ」

 しかしそこで悟空が何かを思いついたようだった。彼に注目が集まる中、ポケットから何やらケースを取り出し、その蓋をあける。その中にはスイッチのついたカプセルのようなものが3つ入っていた。

「なんだ、そりゃ?」

「へへ、みてろー。んーと、確か、こいつだな」

 疑問を浮かべる忠勝に対し、悪戯を思いついた子供のような表情で悟空はカプセルを一つ取り出し、そこに取り付けられたスイッチを押す。そしてそれを近くに放り投げた。すると、そのカプセルが爆発して煙が舞う。

「うわあ」

「馬鹿、一体何……」

 爆発に驚く一子と文句を言おうとする忠勝。しかし、彼は途中で言葉を止めてしまう。煙が晴れた、その後に残っていたものを見たからだ。その場に現れたもの、それは白く丸い形をした“家”であった。
 呆然とした表情でそれを見る3人の前に立ち、悟空はニカリと笑う。

「へへーん。こいつならバッチシだろ」








「大分、日が暮れて来たな」

「視野が悪くなってきたね。夜目も効く方だけど、見える範囲は流石に落ちるかな」

「私はセンサーがあるから問題ないが、全員の視界が効かない状態では危険性は高まる。無理はしない方がいいだろう」

「ああ、暗い山の中を迂闊に動き回るのは危ない。今日はこの辺で休もう。実はこんなこともあろうかとここら一体、あちこちに色々と役立つものを予め隠してあるんだ。確か丁度ここにも……」

 そう言って大和は茂みの中に手を突っ込むと、そこからなんと折り畳み式のテント二つを取り出してみせた。野戦の可能性を想定し、知人から安くレンタルしたものであった。
そして更に彼はキャンプ用品を幾つか取り出して見せる。

「おー、準備がいいな、弟」

「割り当ては、私と大和、モモ先輩とクッキーだね。それから、寝袋は一つでいいよ。大和と同じ寝袋。お互い裸になって温め合うの」

「それは雪山で遭難した場合だ。組み合わせは俺とクッキー、姉さんと京」

「ちぇっ」

 感心する百代と誘惑をする京。それを大和は何時も通りにかわすと早速野営の準備を始め、他の者達もそれを手伝う。彼が用意したテントは組み立てに少し面倒と力が居るタイプなものであったが、百代のパワフルさと、冒険大好きのキャップに何度か付き合った彼等の経験値の高さから直ぐにテントは完成。次に彼らは自炊の準備に取り掛かった。

「火は使わないがいいよね?」

「ああ、こちらの居場所を知らせるようなもんだからな。缶詰や乾パンとかも用意してある。今日はそれで我慢しよう」

 一応飯盒なども備えていたは、戦場で火を使った料理は危険性が高く、特に近くに敵がいる可能性が高い時はなるべく避けなければ行けない行動である。安全策を主張し、控えようとする大和だったが、百代がそれに不満を挟んだ。

「えー、せこいこと言うなよー。私は美味い飯が食いたいぞー。それに、今日は雑魚ばかりで、少しやりたり無い感じだったからな。こっちを狙ってくると言うなら丁度いい位だ」

「一人で30人も蹴散らして置いて……」

「あの人達、かなり強かったけどね。私はちょっと危なかったよ」

 KOS開始直後に百代達を取り囲んだ相手は決して弱くなかった。にも関わらず、彼女達は3分で彼等を全滅させていた。ちなみに彼等の最後の台詞は『馬鹿な、28人の猛者が3分で全滅だと!?』であった。

「悟空並とまでは言わないまでも、せめてもうちょっとマシな奴はいないもんか」

「まあ、明日に期待しておこうよ。少なくともこの大会には孫が参加してるんだ。その内、いやでも強い相手と戦えるだろうさ。寝てる間に夜襲なんて面倒なだけだろ? 今日は我慢しておこうよ」

「まあ、それもそうか……」

 初日、満足できる相手と巡り合えなかったことをぼやく百代をなだめ、説得する大和。百代も我儘を引っ張らず納得しそうな態度を見せる。だが、そこで彼女の耳は何かの物音を捕らえた。それは茂みを揺らす音と何かが近づいてくる気配。

「どうやら、お客さんのようだ。食事の前の運動には丁度いい」

 状況から敵の襲来である可能性が高く、喜悦の笑みを浮かべる百代。相手の強さを探ろうと、気を探知しようとする。しかし彼女がそうする前に、相手はその姿を現した。

「なあんだ」

その姿を見た百代はその表情を拍子抜けしたものに変え、残念そうな声をだす。

「おはこんばんちはー」

 暗い山の中に響き渡る元気な挨拶。
そこに現れたのは恐らくは中学生にも満たない子供、女の子だった。

「こんな時間にどうして子供が?」

 訝しげな顔をする京。それに対し、大和は少し考え込むような仕草を見せると、何かを思いついたようで、百代に対しいやらしい視線を送りながら呟くように言う。

「迷子か? いや、もしかしたら幽霊かもな」

「やめろおおお!!」

 大和の言葉に叫び、謎の子供に対して隠れるように彼の背に移動する百代。実は幽霊は彼女が苦手とする数少ないものの一つなのである。理由は物理攻撃が効かないからである。

「あり得んな。幽霊など非科学的だ」

「いやいや、そうとは限らないぜクッキー。今の科学で確認されていないとはいえ、居ないとは限らないだろう。確認されていないものは存在しないだなんて、それこそ非科学的だぜ」

「悪魔の証明って奴だね。知的な大和も好き!!!」

 正体不明の子供を前に漫才に近いやり取りをする大和達。幽霊を怖がる百代以外に緊張感は薄い。それは相手の見た目もさることながら、相手から殺気をまるで感じないことも理由の一つだった。

「ほよよ、アタシ幽霊じゃないよ。お姉さん、川神百代って人?」

「んっ、私のことを知っているのか?」

 本人の幽霊じゃないと言う言葉に少し余裕を取り戻したのか、百代は大和の身体から前に出ると自分の名を知っていた少女に対し問い返す。

「うん。アタシ弾金アラレ。博士にお姉さんとプロレスごっこして来いって言われて来たの」

「プロレスごっこか。残念ながら私はどこぞのハゲと違って、ロリコンじゃあないからな。将来は有望そうだから、後、5年後にな。その時は可愛がってやるかな」

 アラレと名乗った少女に対しシモネタを返す百代。思わず、大和はそれに突っ込む。

「姉さん、何、子供相手に何言ってんだよ!!」

「冗談だよ。しかし、もしかして、お前もKOSの参加者なのか?」
 
 プロレスごっこと言うのが、お父さんとお母さんが夜中にしていることを子供に見られてしまった時にする言い訳として使う隠喩で無いとするならば、後、残された可能性、それの意味する所は一つ、“戦い”である。まさかと思いながら百代はその意味であるかどうかを確認する。

「うん。そうだよ」

「ははは、そうか。なら、遠慮なく思いっきりかかってこい!! だが、それが終わったら棄権しろ。お前のように大した気ももたない子供では……」

 少女のみかけだけでなく、強い気を感じないことから、普通の子供に接するように対応しようとした百代はそこで初めてある違和感に気付く。その違和感に対し、数瞬考え辿りついた答え。それは目の前の少女から感じる気が小さいのではなく、全くの“ゼロ”であること。その意味に彼女が解するよりも早く答えに辿りついたクッキーが警告を発しようと叫ぶ。

「気をつけろ百代!! その少女は!! 私と同じロ……」

「それじゃあ、行くよー!! キィィィーーーーーーーィィン!!」

 クッキーが叫び切るよりも早く、百代はアラレの音速を超えるタックルをくらい、夜空の星になるのだった。



[30266] KOS編 10話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:8364bda2
Date: 2012/01/02 18:29
 ホイポイカプセルで家を出した悟空達はその中で、机を囲み、夕食を取っていた。
 そして机の上の料理は瞬く間に消えて行く。食卓を囲むメンバーの中では、一子等もかなりの大食であるが、この現象の一番の要因はやはり悟空であった。

「おい、その位にしといたらどうだ? もう、10人前は食ったぞ」

 そう言う忠勝の言葉通り、悟空の目の前には何枚もの皿が積み上げられている。
 それに対し、言われた悟空の方は口の中に大量の食べ物を詰め込んだまま答えた。

「むわっだ、ふぁらふぁんぶんめぶらいばぞ」

「えーと、『まだ、腹三分目位だぞ』かしら?」

 悟空の言葉を翻訳する一子。一緒に暮らした二ヶ月の経験と野性の感から解釈したようである。

「よく、わかるな……。にしても、こんだけ食って三分目とか。どこまで、非常識なんだこいつは。異世界人だって言う嘘臭い話もこいつなら逆に納得できるな」

「うむ、我の腕を直した仙豆も異世界の産物であるとのことだしな」

 実は悟空が異世界から来たことについてはいままで知らなかった忠勝であったが、ホイポイカプセルで家をだしたことに流石に突っ込み、悟空や一子も彼ならば信頼できるとその正体を明かしたのだった。
 ちなみに英雄は姉を通して元から知っていたことである。

「んぐっ……っと。ふぃー、しかし忠勝、おめえの作る飯うめえな」

「別におめえのために作った訳じゃねえ。俺も飯食いたかったら、そのついでに作っただけだ。勘違いすんな」

 口の中の食べ物を飲み込むと料理を作った忠勝に対し、賞賛の言葉を述べる悟空。それに対し、彼は何時も通りのツンデレな調子で返す。

「けど、やっぱこんだけじゃ物足りねえなあ。もっと食うもんねえか?」

「おい、この家ん中にある食材半分使ったんだぞ。これ以上、大会終わるまでもたねえだろう……」

「うーん、アタシもちょっと物足りないかな。料理の大半、悟空君が食べちゃったし」

「……まあ、明日買い出しに行きゃあいいか。この家ん中に入れときゃあ、荷物にもなんねえしな」

 悟空の要望に反論しかけ、一子の言葉にそれをひっこめる忠勝。惚れた弱みであった。そして更にこの場には彼女に惚れた男がもう一名も存在し、彼もまた彼女のために行動を取る。

「うむ、一子殿には満足行くまで食べていただかねばな。あずみ!!」

「はいー、英雄様お呼びですかー!?」

 英雄がその名を呼ぶと、ドアが開き彼の専属メイドであるあずみが入って来る。

「うむ、食料の調達を頼む。明日以降に食すものと、直ぐに食べられるものの両方をなるべく早急にな」

「わかりましたーー。直ぐ、行ってまいります!!」

 主の指示に敬礼で答え、飛び出して行こうとするあずみ。しかし、そこで待ったがかかった。

「ちょっと待て!! なんで、忍足がここに居るんだ!?」

「あ~ん、てめえ、なんの権限があって、英雄様の命令を妨げてんだよ」

 つっこむ忠勝に顔を寄せ、英雄に見られないよう睨みつけるあずみ。普段ならばあずみが英雄の傍についているのは見慣れた光景であるが、今はKOSの真っ最中である。彼等はずっとチームメンバーの四人だけで行動していた筈であり、ここにあずみが居る筈がなかった。しかし悟空はきょとんした表情で、忠勝が突っ込んだことに逆に驚いたようだった。

「んっ、なんだ忠勝、おめえ気付いてなかったんか?そいつ、ずっとオラ達の後、付けてたぞ」

「うん、アタシも気付いてたわ。正確な位置とかまでは把握できてなかったけど。敵意はなかったし、正体も分かってたから放って置いてもいいのかなって」

「ほー、孫の奴はともかく、川神までアタシの尾行に気づいていたとはな。随分と成長したじゃねえか」

 一子が自分のことを気付いたことに驚いて見せるあずみ。一方、忠勝は少しだけ落ち込み、苛立って感じで自分の頭を掻きむしって見せた。

「ちっ、結局、俺一人が気付いてなかったってことか、情けねえ」

「仕方無いですよー!! 素人にまで見つかるようじゃ、こっちが終わりです。忠勝様も仮にも英雄様がチームメンバーなんですから、できないことを落ち込むよりも、できることをしっかりやって見せてくださいね」

 そんな彼をにこやかな笑顔で、しかし本気の殺気を向けながら叱咤するあずみ。これでいじけ続けているようならば彼の身が危なかったであろうが、元々本気で落ち込んでいた訳ではなかった忠勝は言葉を素直に受け止め、立ち直って見せた。
 そしてある懸念について確認する。

「ああ、そうだな。実力不足はわかってたことだ。ところで、忍足がここに居る理由はわかったが、四人一組のこの大会で五人目の手助けなんか受けたら失格になっちまったりしねえのか?」

「問題はあるまい。直接的に戦闘に参加したりしなければルールには触れることはないであろう。そうでなければ、物の売り買いとてできぬではないか」

「広義で言えばそれも支援を受けるってことな訳か。なるほどな」

 英雄の説明に納得した様子の忠勝。それをみてあずみは再度敬礼を取り、英雄の方に向き合う。

「それでは、お仲間の方々にも納得いただけたたようですので、買い出し行ってまいりますねーー」

「うむ、よろしく頼むぞ。その後は先程まで通り、哨戒を頼むぞ。異常があれば決して交戦せず、我か悟空殿に通達しろ」

「かしこまりましたー!!」

 飛び出して行くあずみ。彼女の姿が見えなくなった後、一子が心配そうな表情で呟く。

「私達が家に入ってからどうしてるのかと思ったけど、あの人ずっと外で見張りしてたんだ。そろそろ冬も近いし、大丈夫かしら? なんだか悪い気がするわ」

 心配そうな、同時に申し訳無さそうな表情で呟く一子。その呟きを捕らえた英雄が真剣な口調で答える。

「お優しいですな一子殿は。しかしこれはあずみ自身が望んだことなのです。陰ながらであっても我をサポートしたいとな」

 そう言いながら彼の表情には僅かに苦渋が浮かんでいた。本人の意志を尊重してとは言え、自分達が快適な家の中に居ながら、部下を辛い立場に置くことは、やはり気が咎める部分もあるのであろう。
 とはいえ、その辛さに耐えることも上を使う者の役目と理解している彼は、決して彼女の行いを辞めさせようとはしなかった。
 そんな彼に救いの手が入る。

「だが俺達が家ん中に居て、一人外ってのは流石に気ぃひけるな。戦いに直接加わらなきゃOKだってんなら、せめて見張りは家ん中にしてもらったらいいんじゃねか?」

「たっちゃん、ナイスアイディア!! どうかな、九鬼君!悟空君!」

 忠勝の提案を名案とばかりに手を叩き、悟空と九鬼に視線をやる一子。当然、悟空は直ぐに頷く。

「オラは別にかまわねえぞ」

「……皆がそう言ってくれるなら我としても異論などあろう筈が無い」

 少し沈黙した後、肯定の意を返し、あずみを思いやってくれた仲間達に対し、小さく頭を下げる九鬼。プライドの高い彼が頭を下げるというのはそれだけ感謝している証であった。
 そこで忠勝が席を立つ。

「んじゃ、さてと足りない分の飯つくってくるか」

「あっ、たっちゃん。あの……」

「ああ、わかってる。あのメイドの分も作ってくるよ。……言っとくが、一人だけ食わせねえとか飯がまずくなるから用意するだけだ。勘違いするなよ」

「うん!! あっ、アタシも少し手伝うわ!」

 一子も立ち上がり厨房へ向かう。その姿を見て英雄は椅子に座ったまま、嬉しそうな表情で呟く。
 
「ふふっ、我はいい仲間を持ったものだ」

「おう、ワン子も忠勝もおめえもいい奴だぞ!!」

 こうして結束を強めていく悟空・一子チームの。一方、百代チームの方はと言うと、百代が空を舞い、他の三人がそれを見上げていた。







「姉さん!!」

「モモ先輩が吹っ飛ばされるなんてレアだね。吹っ飛ばすのはしょっちゅうだけど」

「そんなこと言ってる場合か!? 早く姉さんを助けに行かないと」

「大丈夫。モモ先輩の気はちゃんと生きてるから。気を失っていたりもしないみたい」

 百代の身を案じる大和に冷静な口調で答える京。その言葉を証明するように周囲に声が響き渡る。

「か・わ・か・み」

「むっ、凄いエネルギーを感知したぞ。これは……」

「波!!!!!!!!!」

 極太のエネルギー波を大和達が居る場所とは反対方向に放ち、それを推進力として急速度で戻って来る百代。そのまま減速せず、突っ込む。

「美少女キィィィィィック!!!!」

「ほえーーーーー!!」

 勢いをつけた状態でアラレに炸裂する飛び蹴り。今度は彼女が遥か遠くへ吹っ飛んで行く。

「ねっ、大丈夫だったでしょう?」

「確かにな。いきなりで慌てたけど、流石はねえさんか」

「相手が非常識なら、百代もまた非常識だったな。心配するだけ無駄という訳か。それにしても、あの弾金アラレとか言う少女何者だ? あのような人間に近い姿な上、あれほどに戦闘力の高いロボットなど九鬼でも作れない筈だが。名前からして、まさか弾金重工が作りだしたというのか? 確かにあの企業は高い技術力を持っていたが……」

 当然のこととでも言うように言う京と姉の非常識さに慣れているが故に、逆に今の展開に納得して見せる大和。
 一方クッキーはアラレの正体について考えるが、答えをだすには材料が足りず、そうこうしている内にアラレが戻って来る。

「キィィィィィン!!!」

 声を出し、土煙をあげながらマッハ2の速度で山を駆けてくるアラレ。百代達の目の前で止まって手を上げると楽しそうな表情で言う。
 
「お姉さん、つおいね」

「お前もな。さっきは油断したが、今度はそうはいかんぞ。思いっきり戦おうじゃないか」

 構えを取る百代。その表情には未知なる敵に対する緊張と共に、隠しきれない歓喜が浮かんでいた。

「ほーい!」

 能天気な調子で百代の挑戦を受け取るアラレ。その答えに百代は更に頬の端を浮かべると大和達に対し、指示をだす。

「大和、お前達は下がってろ」

「……わかった」

「私達じゃ足手纏いにしかなりそうにないしね」

「百代。お前の非常識さは誰にも負けぬと信じているぞ」

 実力的についていけないと判断し、少し悔しそうな顔をしながら、同時に百代の強さを信頼し大人しく言う事を聞いて離れる三人。
 そしていよいよ本格的にぶつかりあおうとする百代とアラレ。一方、遠くからそんな二人を見る者達が居た。白衣を来た分かりやすい科学者らしき男とその両側に立つ金髪で髪型をサイドテールにした少女、フランケンシュタインを連想させる様相をした巨躯の男。科学者らしい男が双眼鏡を通し百代を見てニヤリと笑って言う。

「武神よ、今日がお前のそして武術の敗北の時だ。人造人間5号よ、その力を見せてやれ」

 そう呟きながらその視線の先にあるのはアラレの姿であった。


(後書き)
タイトルに反して悟空の出番が少ないですね。次回は百代とアラレの勝負がメインなので、活躍はもうしばらくお待ちください。
後、次回の更新は少し遅れるかもしれません。



[30266] KOS編 11話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:aa87496b
Date: 2013/05/03 17:37
「たあああああ!!!」

「ほええええーーーー」

 百代のパンチが炸裂、ガードもせずにまともに受けたアラレが遥か彼方へと吹っ飛んで行き、その姿が見えなくなる位にまで飛ばされる。

「きょほほーーーー!!!」

「ぐうううう」

 しかしマッハ2の足で直ぐに戻ってくると、そのままジャンピングヘッドで百代の胸目がけて突っ込んでくる。それはまさに人間の形をした高速の弾丸、大砲であった。百代は腕を十字にしてそれを受け止めるものの、常識外のパワーを持つ彼女を更に上回る超常識外のアラレの怪力の前に力負けし弾き飛ばされてしまう。

「ぐっ」

「ほほーい!!」

 数十メートル吹っ飛び地面に叩きつけられる百代の身体。そこで追いかけてきたアラレがその足を掴むと、その体を思いっきりぶんまわし、そして手を離した。ジャイアントスイング、当然遠心力によって彼女の身体は遥か遠くに飛ばされて行く。

「ぬわあああああ!!! か、かわかみ波!!」

 先程までいた山頂に近い場所から100メートル以上、ギャグ漫画のような勢いで吹っ飛ばされる百代だったが何とか空中で体勢を立て直すと、先程と同じようにかわかみ波の逆噴射を使って地上に戻ろうとする。しかし、そこには膝を曲げた状態でアラレが待ち構えていたのだった。

「ジャーンプ」

 降下する百代の身体を負い越して回転蹴り、頭部に強烈な一撃を喰らった百代の身体は速度を増し、地面に勢いよく叩きつけられる。その衝撃は凄まじく、まるで隕石が落下したかのように地面が大きく陥没する。

「ほよよ、やりすぎちったかな?」

 百代が地面に叩きつけられた衝撃で産まれたクレーターと立ちこめる土煙を見て、のんきそうな口調で言うアラレ。だが、実際はそんなのんきに言えるようなものでは無い。百代が受けたのは一般人どころか達人クラスの武術家でもよくて気絶、悪くて死亡する程の衝撃であり、実際、彼女は全身に数ヵ所の骨折を負っていた。

「はああああ!!!!」

 しかし百代には瞬間回復という反則的な切り札があった。受けたダメージを即座に回復し立ちあがると、上空から落ちてくるアラレに向かって拳をかざすと必殺の一撃を放つ。

「川神流!! 星砕き!!!」

「ほえっ?」

 百代の手から放たれた光の奔流に飲まれるアラレ。しかし、その光の奔流が消えた時、そこには少し顔が煤けただけで無事な彼女の姿があった。

「あはは、こげちった」

 地面に着地し、平然とした表情で笑うアラレ。遠巻きでそれを見ながら、大和達は目の前の次元違いの戦いに驚愕の表情を浮かべながら、戦況を分析する。

「凄いね、ってかとんでもないね。モモ先輩の方も改めて飛んでもなさを実感させられてるけど、あの子パワーとスピードだけならモモ先輩を完全に上回ってるみたい。その分、戦い方は見た目通りに子供みたいで目茶苦茶だけど」

「だが、身体スペックが単純に強いと言うのはそれだけで厄介だ。何より直撃を受けてあの程度のダメージしか受けない防御力があると言うのがまずいな」

「いや、姉さんなら勝てる筈だ!! それにあの子がクッキーと同じロボットなら……」

 戦いの形勢は百代の方が不利に見え京とクッキー2はやや悲観的な意見を述べるが、大和は百代の勝利を信じていた。それは彼女に対するやや盲信的な信頼もあったが、それ以上に勝機に繋がるある予測があったからである。
 しかしこの直後に起こった光景はその信頼も計算も揺るがすものであった。

「手がピカって光って綺麗だったね」

「くくくっ、星砕きを受けて、その感想か? だが、まあ言われてみれば確かに綺麗かもしれんな」

 自信の切り札の一つが通じなかったにも関わらず楽しそうに答え、何時も大和達と遊んでいる時のような感じでアラレの言葉に納得して見せる百代。しかし、続く言葉には眉をひそめる。

「アタシも見せたげるね」

「何?」

 すぅっと息を吸うアラレ。それによって彼女の口の奥にエネルギーが収束する。彼女はロボットであり、“気”を持たない。故にそのエネルギーは百代には感知出来なかったが、同じようにロボットであるクッキーはそのエネルギーの異常なまでの出力を感知し叫ぶ。

「百代!!」

「んちゃ!!!!!!」

 アラレの口から放たれた超強力なエネルギー波。クッキーの声が届いたと言うより、本能的な直感から回避運動を取った百代は、間一髪のタイミングでそれを回避。通り過ぎたその一撃は彼女達が今居る山の隣の山に直撃し、山を吹き飛ばした。

「大和よ。本当に百代に勝てるのか?」

「……いや、もしかしたらやばいかも」

 呆然とした口調で呟くクッキー2の言葉に、大和は上半分にぽっかりとした直径100メートルを超える大きな穴を空けた山を見ながら呟くのだった。








「素晴らしい。あれで、デッドコピーとはな。オリジナルの則巻アラレとやらはどれほどの性能だったのか。後は、あの性格さえどうにかできれば完璧だったのだが」

 白衣を来た男が、アラレの破壊した山を見て感嘆の声をあげ、サイドテールの少女が男の“デッドコピー”と言う言葉に僅かに眉をひそめるが、口を紡ぐ。
 そして先程まで居た大男はその場から居なくなっていた。

「くくくっ、この調子ならいけそうだな。人造人間6号、“準備”をしておけ」

「……ええ、分かっているわ。けど、博士、私のことはアリスと呼んで頂戴」

 相手を尊重する意思の感じられない命令の言葉に、少女は逆らわず、代わりに別の所に意義を申し出る。

「ふん、大会登録用に適当に作った偽名がそんなに気にいったか。まあいい、アリス、しっかりとやれよ」

 少女の言葉にあまり面白くなさそうな表情を浮かべつつも、むきなって諌める程のことでもないと承諾し、男は少女を呼び直して再度指示する。
 少女は頷き、そして付け加えるように男に聞こえない小さな声で呟く。

「ええ、分かっているわ」

 呟きながら開かれた少女の掌、そこには赤く丸い球体が取り付けられ、闇夜にきらめいていた。






「なあ、ちょっとだけ食っちまっちゃ駄目か?」

「お前はちょっとじゃすまねえだろうが。もう少し待ちやがれ」

「うー、辛いわ。けど、我慢、我慢」

 ホイポイカプセルで出した家の中。そこには残った食材を全て使い切って作られた、料理の数々が並べられていた。しかし誰も手を付けない。折角だからあずみが戻って来るまで待ってみんなで食べようと言う事になったからである。そのため、そこにはお預け状態で耐える悟空と一子の姿があった。
 今か今かと彼女の帰りを待ちわびる二人。するとそこで部屋のドアをノックする音が響き渡る。

「あっ、帰って来たのかしら?」

「おっし、オラがドア開けてくっぞ」

 待ちかねたとばかりにドアを開ける悟空。しかし、そこにはあずみの姿はなかった。代わりにあったのは大男の姿。その予想と違う姿を見て悟空は一瞬、呆気に取られた表情になり、そして直ぐに歓声をあげた。

「ハッチャン!! ハッチャンじゃねえか!! いやー、久しぶりだな。元気にしてたか!?」

「えっ、悟空君の知り合いなの?」

「おう、オラの友達だ」

 見知らぬ男性の登場に驚く一子と答える悟空。
 ドアを開けた先にあったのは彼の懐かしい友人の姿であった。嘗て悟空がレッドリボン軍と戦かった時、彼等の兵器として作られながら、暴力を嫌い悟空の仲間となった人造人間8号、“ハッチャン”と変わらぬ姿であった。
 思わぬ再会に喜ぶ悟空であったが、ふとあることに気付く。彼は今、悟空の来た世界にあるジングル村に住んでいる筈である。しかしここは彼の居た世界から見れば異世界の筈なのだ。

「あれ?でも、ハッチャンなんでこんなところに居るんだ?」

「俺……ハッチャンじゃない……。俺の名前、人造人間7号……弾金七郎だ」

「へっ?」

返って来た答えの意味が理解できず、目を丸くする悟空。
そして、七郎を名乗る男はそんな悟空の身体を掴むと、そのまま一気に持ち上げ、谷のある方向へ向けて思いっきり投げ飛ばしてしまう。
 
「うわああああ」

 宙に身体を投げ出され、悲鳴を上げながら落下して行く悟空。それを見て仲間達は立ちあがるが、時既に遅し。悟空の身体は崖下へと落ちて行き、七郎がそれを追いかけて崖から飛び降りて行く。

「孫!!」

「悟空君!!」

「くっ、高過ぎるな。悟空殿のこと、無事であるとは思うが、これでは追いかけられん!!」

 慌てて崖の方へ行き下を覗くが、夜であることもあって、崖下は見えない程深い。迂闊に降りるのはあまり危険過ぎ、迂回するしかなかった。これにより、悟空はチームから大きく引き離された状態になってしまう。残された仲間達は何とか打開策を考えようとするが、そこで彼等を更なる災厄が彼等を襲う。この場に新たな乱入者が現れたのだ。

「おー、こいつは都合いいな。寝床を探してたら、まさかこんないいタイミングでお前等と出くわすとはな」

「しゃ、釈迦堂さん!?どうしてここに!?」

 声と共に現れたのは川神院元師範代の釈迦堂とその後ろに並ぶ三人の少女。口調は親しげであったが、それを友好的であると取らえるものは誰もいなかった。何せ全員が禍々しい気を身に纏い、獲物を前にした獣のような表情を浮かべていたのだから。

「おいおい、この大会はだれでも参加自由だろ? 腕試しだよ。俺の弟子達のな」

 一子の言葉に対し、心外とばかりにおどけた調子で答える釈迦堂。その言葉に一子が疑問を呟く。

「弟子?」

「おう、こいつらだ。上手い具合にあの厄介な兄さんが居なくなってくれたみたいだし、お前等にはちっとばかし相手してもらうぜ」

 一子の言葉に対し、釈迦堂は肩越しに後ろの三人を指差し、それを合図にしたかのように三人の女達は武器を構え交戦の意志を示してくる。

「きゃはは、ついでに飯と寝床ももらうぜ」

「悪く思うんじゃないよ。まあ、どうしても嫌って言うなら……精々抗ってみな。私等に勝つことが逃れる唯一の道さ」

「うーん。ふかふかベッドで寝れるのかー。うれしーなー」

 そして強くなる禍々しい気。一子達もそれに負けまいと迎撃体勢を取る。KOS、その大会初日となるこの夜は混迷を極めていき、また新たなる戦いの火ぶたが切って落とされるのであった。



[30266] KOS編 12話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:aa87496b
Date: 2012/01/23 03:47
 悟空達が落ちた崖、その下には森林が広がり、そこで悟空と人造人間7号は戦いを繰り広げていた。
 かなりの高さの崖を落ちたにも関わらず、大した怪我を負うことのなかった悟空であるが、それにも関わらず防戦一方となっている。それは目の前の相手が友人とは別人であることを未だに理解しておらず、何とか話し合おうとしていたからである。

「わっ、ほっ、ふっ、何すんだハッチャン、やめてくれ!!」

 攻撃をかわしながら説得する悟空に対し、当然の如く7号は止まらない。大振りの拳を次々と振るってくる。その一撃は凄まじい破壊力で、避けた悟空の後ろにあった、高さ10メートル近い大岩を粉砕してみせる程であった。

「ひぇー、やっぱすげえな、ハッチャン」

 砕け散った勢いで飛び散り、地面に落下する無数の岩の残骸を見て、感心した声を上げる悟空。
それに対し、彼の言葉を聞いた7号は振り返ると再度自分の名を名乗ってみせた。

「違うと言っている。俺は人造人間7号だ」

「へっ、何とか7号って、おめえほんとにハッチャンじゃねえんか?……そういや、ハッチャンは自分のこと何とか8号とか言ってたな。んで、おめえが7号ってことは……もしかしておめえ、ハッチャンの兄貴なんか?」

 ようやく別人であることを受け止めた悟空は7号と8号と言う名前と、見た目が一緒なことを考え、二人が兄弟であるのではないかという結論をだす。その言葉に今まで、悟空が何を言っても攻撃をやめなかった7号は初めて手を止めてみせると悟空に対し、問いかけた。

「……お前の言う、ハッチャン、人造人間8号のことか?」

「おう、確か、そんな名前だったぞ。呼びにくいからオラ、ハッチャンって呼んでんだ」

「そうか。……俺と8号、同じ時期に作られた同型機。けど、俺の方が少しだけ先に作られた。だから俺は8号の兄と呼べないことも無い」

 悟空の問いかけに7号は少し考えてから肯定の意を示す。それを聞いて、悟空は楽しそうな笑顔を浮かべた。

「そっかあ。ハッちゃん、兄貴が居るなんて言ってなかったかんな。オラ、びっくりしたぞ」

「お前、8号と知り合いなのか。今、あいつはどうしてる? 今もレッドリボン軍に居るのか?」

「ハッチャンならオラの友達だ。レッドリボン軍ならオラがぶっつぶしてやったからもうねえし、今はジングル村で元気に暮らしてっぞ」

「友達……元気に……」

 悟空がハッチャンと知り合いであることを知り、興味を示した7号は悟空の答えに更に驚いた表情を浮かべる。
そしてその事実を噛みしめるように呟くと優しい笑顔を浮かべた。

「そうか……よかった」

「やっぱ、おめえ、ハッチャンと同じでいい奴なんだな」

 その温かさを感じる笑顔を見て、悟空は目の前に居る人造人間7号もハッチャンと同じく優しい存在だと確信した。しかし、その言葉を聞いた7号は予想外な反応を見せる。突如優しい笑顔を険しいものに変え、再び悟空に挑みかかったのだ。

「俺、お前を倒す!! それで、この大会に優勝する」

 先程まで、ハッチャンの話しをしていた時とは一転した態度。その表情は何か強い決意を抱えているかのようだった。今まで以上に勢いを付けた拳が振るわれ、その一撃が悟空に直撃する。

「!!」

「いきなりひでえな。けど、おめえもKOSの参加者だったんか。だったら遠慮することはねえな。おめえがやるってんなら、オラも相手してやっぞ!!」

 大岩をも粉砕する威力を秘めた7号の一撃は構えた悟空の腕によってがっちりと受け止められていた。
 そしてその腕の隙間から見える悟空の目。それは先程までの戸惑ったものではなく、相手を憎んだり、怒ったりするものでもなく、純粋に戦いを楽しもうとする者の目へと変わっていたのである。

「ぐっ」

「おめえはつええかんな。オラも本気でいくぞ」

 戦闘モードに入ったことで変わった悟空の気配に威圧されたかのように上半身をのけぞらせる7号。しかし、自らを奮い立たせるように気合いの叫びをあげると彼に向かって飛びかかる。

「うおおおお!!!」

「てりゃあああ!!!」

 それに対し、同じく雄叫びをあげ真っ直ぐに拳を振るう悟空。脇に潜り込む形で、カウンターのようなタイミングで放たれた一撃が7号の胸に直撃。その一撃の威力で、見た目を更に超える重量を持った7号の巨体が吹っ飛んで行こうとする。

「うぐっ!!はあああああ!!!」

 そこで再度気合いの雄叫びをあげる7号。背中に取りつけられたブースターから火花が迸り、後方に飛ぶ勢いを一瞬で殺し、そのまま一気に前方に加速し悟空に再度突撃をする。体当たりにも近い形、勢いをつけた状態で拳を振るい、硬直した状態から回復しきっていなかった悟空の顔面を殴りつけた。

「うわっ」

 凄い勢いで顔面を殴られ、今度は悟空の身体が吹っ飛んで行きそうになるが、足を踏ん張りなんとか堪えて見せ、その場に踏みとどまってみせる。

「へへっ、オラ、ワクワクしてきたぞ」

「……」

 そして口元から流れる血を拭うと言葉通りに興奮した表情を浮かべ、それに対し7号は無言で答えるのだった。







(よかったわ。釈迦堂さんは、どうやら動く気は無いみたい)

「くそっ、てめえ、やるじゃねえか」

 赤い髪の少女、板垣天使の攻撃を捌きながら、釈迦堂が戦いに加わる様子を見せないことに安堵する一子。彼女は今、彼の動向に気を配りながら、目の前の相手からも注意を逸らしていない。相手はゴルフクラブと言う武器を持ち、自身は素手と言うハンデを背負いながらだ。それだけの実力差が今の二人の間には存在した。

「なら、こいつでパワーアップだ!!」

 余裕を感じさせる一子の様子にいらついた天使はポケットからカプセルを取り出すと、そのままそれを飲み込んで見せる。すると彼女の目がかっと見開かれ、全身から湧き出ていた殺気の勢いが強くなる。

「ヒャッハ―、エンドオブワールドだぜ!!」

「動きが速くなった!? まさか、麻薬とか?」

 薬の服用後、パワーとスピードを増してみせる天使。それを見て驚く一子に対し、天使は嘲笑うかのように種明かしをする。

「ただの興奮剤だよ。努力なんてダセえことに必死になんなくても、こんな簡単に強くなれるんだぜ!!」

「むっ、その言葉、聞き捨てならないわね」

 天使の言葉を聞いて、表情をむっとさせる一子。誰よりも努力し、それが報われると信じ続けてきた彼女にとって、努力を軽視するその言葉は決して認められないものだった。しかし、その怒りを何とか堪えて見せ、一旦距離を離す。

「はぁ、はぁ……はっ!!」

 そして呼吸を整え、構え直すと裂帛の掛け声を吐くと同時に、一気にその開けた距離を詰めてみせる。その予想を超えた速さに目を見開く天使。彼女の腹に一子の掌底が突き刺さる。

「あがっ」

 もろに一撃を受け、身体をくの字に曲げ、口から唾液と胃液の混じった液を垂らす天使。そこで一子は拳を一旦引くと、駄目押しの一撃を撃ちこむ。

「川神流、蠍撃ち!!」

 突き刺さる正拳。内臓がある地点に撃ちこむことで、身体を内部から破壊する必殺の一撃を受けた天使は口から吐く液体を血反吐へと変え、その場に崩れ落ちていく。そんな彼女に対し、一子は言葉を放って見せた。

「努力を馬鹿にするんじゃないわよ!!」

 それは薬に頼った天使に打ち勝つことで、自らの努力の意味を証明してみせる強さだった。そんな二人の戦いを傍から見ていた釈迦堂、彼は驚愕の表情を隠しきれないで居た。

(こいつあ、驚いた。2ヶ月位前に見た時の見立てじゃ、いい勝負だと思ったんだが。まさか、あそこまで一方的なるとはな。しかも“あんなもの”をつけたままでな。一体どういうトリックを使ったんだか知らねえが、一子の奴、この短期間で川神の準師範代クラスにまで成長してやがったんじゃねか?)

 彼が知る一子と比べ、現在の彼女は技量的にも上がっているが、なによりも身体能力の向上が異常なレベルであった。その成長を見て釈迦堂は驚きと同時に喜びと興奮が抑えきれないで居た。
 川神院に居た頃、彼は自分を恐れることもへつらうことも無い無邪気さと明るい強さを持った一子のことを割と好ましく思い、百代と並び可愛がっていた。故に彼にしては極めて稀なことに、思いやりの気持ちから一子には武術家の道を諦め、別の道を歩むべきだと考えていた。彼女には才能が無いとし、その夢である川神院の師範代になれる可能性は全く無いと判断していたからだ。
 しかし今、彼女はその予想を覆す強さを彼の前で見せた。未だ師範代のレベルには遠く及ばないが、それでも彼女の年齢を考えれば将来的に辿りつけるかもしれない。可愛がっていた相手が夢を叶えられる望みがでてきたのならば、彼としても嬉しく無い訳でない。故に喜びがある。
 そして興奮の方はと言うと。

(もし、本気の一子が俺の予想よりももう一段階上だとすると。くくっ、ちょっとばかし、確かめてみるとすっか)

 久々に遣り甲斐のある獲物を見つけたかもしれないという獣の疼きであった。


(後書き)
間が開いてしまってすいません。次も更新は少し遅くなるかもしれませんがそろそろ完結が近づいてきたので、なんとか頑張りたいと思います。

PS.誤記が多いというご指摘を受けました。一応、何度か見直してから投降してはいるのですが、気付いたところがあれば、指摘していただけるとありがたいです。



[30266] KOS編 13話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:aa87496b
Date: 2012/02/19 19:58
「とりあえずだ。一子、薙刀持ってきな。待っててやるからよ」

「えっ、いいの?」

 敵に塩を送る言葉に思わず聞き返す一子。それを聞いて、釈迦堂は呆れたような表情をする。

「おいおい、素手で俺とやる気だったのかよ? そいつは無謀にも程があらあな。まっ、どっちにしろ差は圧倒的だろうが、武器ありのハンデがありゃあ俺も少しは楽しめそうだ。ああ後、その“重り”もちゃんと外しとけよ」

「“重り”……?あっ、いけない、忘れてた!!」

 釈迦堂の指摘にあることを思い出し慌てた表情をする一子。そして慌てて手足に付けたリストバンドを外して地面に投げる。地面に落ちた瞬間に鳴り響く重量物の音。予想以上に重そうなその音に釈迦堂は少し驚いた表情を浮か、彼女に尋ねた。

「ほー、今、付けてたのはどの位の重さだ?」

「えーと、手のが一つ10キロで、足のが一つ14キロだから、えーと全部で……」

「48キロ、女一人分位だな。そんだけの重量背負って、天使の奴を瞬殺するたあ、大したもんだ。最も、外すのを忘れてたってのは笑えるがな」

 一子が合計重量を出そうとするよりも速く計算した釈迦堂が答える。その重さを背負いながらも見事な動きを見せた一子に感心しつつ、外すのを忘れていたということをからかい、面白そうな笑みを浮かべて見てせた。
恥ずかしいミスをした一子は顔を真っ赤にし、涙目になって言い訳する。

「ううっ、最近はお風呂に入る時以外、一日中つけてたから……。すっかり身体の一部みたくなっちゃって、付けてること自体を意識してなかったのよお」

「まっ、かわいいミスってことにしといてやる。それより、速く行ってこなくていいのか? のんびりしてると俺の弟子がお前のお仲間をぶっ倒しちまうぜ」

 一子が天使と戦っている間やこうして釈迦堂と話している間、当然のことながら英雄と忠勝の二人は遊んでいた訳ではない。それぞれが亜美と辰子の相手を務め、闘っていたので。この大会に臨むため、揚羽や巨人に師事を受けたりと、鍛え直して居たおかげで何とか持ちこたえられてはいたが、それでも形勢は劣勢で共にかなりの傷を負っていた。

「あっ、うん。たっちゃん、九鬼君、もう少しの間、頑張って!!」

 そんな二人に声援を送り、急いで武器を取りにホイポイカプセルからでた家の方へ走る一子。想い人からの声援を受けた二人は、気力の増した状態になる。

「一子殿に応援されては、ヒーローとしてそれに答えぬ訳にはいかんな」

「勝ちまでは期待されてねえ気がしたがな。まっ、最初からあいつや悟空の救援を頼るなんてのはかっこわるすぎるし、気合い入れるか」

 そんな二人の姿を見て亜美はサドな笑みを、辰子はあまり関心なさそうな表情で眠そうな表情で答える。

「ボロボロの癖に言うじゃないか。あんたみたいなプライドの高そうな男は這いつくばらせて堕としてやりたくなるねえ」

「う~、なかなか倒れてくれない。速く寝たいのに」

 






 激しい轟音が山に鳴り響く。それは百代が勢いよく木に叩きつけられたことによるものだった。その衝撃は凄まじく、平均的な成人男性が両手で抱え込めないほどの太さがあった木がへし折れ倒れて行く。

「ぐっ」

 当然、叩きつけられた百代の方も無傷では無い。しかし彼女の身体が光り、身体からダメージが消えさる。傷も疲労も瞬時に癒す反則的な切り札“瞬間回復”の効果であった。

「まさかここまでとんでも無い奴がいるとはな。戦い方は目茶苦茶だがパワーもスピードも悟空以上だ」

 立ちあがり笑みを浮かべる百代。その表情は心底、楽しくてしょうがないと言った感じである。とはいえ楽しんでばかりも居られなかった。

(さっきの瞬間回復で7回目か……)

 瞬間回復はその驚異的な効果と引き換えに、多量の気を消費する。桁外れな量の気を持つ百代であれば30回以上使えるが、それは瞬間回復のみに気を使用した場合の話である。瞬間回復以外にも技を使えば気は消耗する。圧倒的な身体能力を持つアラレに対抗するため、大技を連発してきた百代の気は残り半分近くまで減っていた。このまま攻防を繰り返し、気を使い果たしてしまえば彼女と言えども敗北するしかない。
 実際、そのパターンで一度悟空に敗北しているため、同じ轍を踏まぬよう彼女はどう動くべきかを考える。

(う~ん、どうしよう。力を温存して戦えばしばらくはもちそうだけど、それじゃあなあ……)

 単純に考えれば大技をひかえ、気の温存をするといった手段がある。しかし、それでは勝てないと判断した百代は大胆な手を考えた。
 そしてその手段が実行可能かどうかを確かめるため、アラレに向かって一つの問いかけをする。

「おい、アラレ、お前に聞きたいことがある」

「ほえ? いいよ、教えたげる」

「お前、頭以外がこなごなに壊れても修理ってできるか?」

「うん。アタシロボットだからだいじょーぶだよ」

 百代の質問はかなり物騒なものあったが、アラレはこれまで通りの気楽な口調で答える。その回答を聞いて百代は問題が無くなったとばかりに嫌らしい笑みを浮かべた。

「そうか。安心したぞ。ならば、思いっきり行かせてもらう!!」

 そして彼女の右腕に黒い球体が産まれる。その正体は気を圧縮して産み出した疑似的なマイクロブラックホールである。この技は消耗が激しいこと、攻撃のモーションが限定されてしまいかわされやすいこと、殺傷力が高過ぎる上手加減が効かないことなど扱い憎い欠点が多い。そのため実戦では使ったことの無いものであったが、単純な威力でいえば百代の扱うもののなかでも最高の切り札の一つある。つまり彼女が選んだ手段とは、気を温存して戦いを長引かせることではなく、余力がある内に決着を付けるというものだった。

「行くぞ!!」

 雄叫びに近い声をあげ、ブラックホールを右手に出したまま突撃する百代。全てを飲み込み、消滅させる黒い球体が彼女を狙う。

「はあああああああ!!!!!」

如何にアラレが頑丈であろうと、この漆黒の球体は理論上、全てを分子レベルにまで分解する。同レベルの密度の気等をぶつければ相殺はできるかもしれないが、アラレはロボット故に気を持たない。逃げる以外に手段は無い筈だったが、アラレは回避行動を見せなかった。百代は勝利を確信し、そのまま球体をアラレのボディに直撃させようとした。
 しかし彼女はそこで唐突にその腕の動きを止める。

「……あれ?」

 理由は違和感。思わず疑問の声をあげる百代。
彼女にとってアラレが回避行動を取らないのは予測の範疇であった。身体能力は圧倒的だったが、戦い方そのものは素人というか子供がじゃれ合っているような感じであり、実際にそれに近い動機で動いていたアラレはこれまでの戦いではあまり回避や防御と言った行動を取らなかった。だからこそ、百代は対抗策として威力は高いが隙の多いブラックホールを有効と判断して選択した訳である。
 だが、それにしてもだ。その可能性を考えた上でもあまりにも彼女は動かな過ぎた。反応が無さ過ぎたのである。百代の攻撃に対し、アラレは表情すらも固まったままピクリともしていない。

「おーい、大丈夫か?」

 余りの動かなさに攻撃の手を止め、大声を出して呼び掛けるが返事が無い。一旦、ブラックホールを消してつついてみるがやはり同じ。目も見開き静止した状態、完全に停止している。
 それを見てそれまで黙って戦いを見守っていた京がぽつりと呟く。

「……もしかして、モモ先輩のブラックホールのせいかな?」

「えっ、ちょっと待て!! まだ、当てて無いぞ!?」

 京の言葉に激しく動揺する百代。それに対し、京は冷静に可能性を指摘する。

「ブラックホールは高重力の塊だから、直接ふれなくても重力の変動で精密機械には悪影響を与えてしまったのかも。今までのモモ先輩の攻撃で、平気そうに見えても内部が壊れちゃってた可能性もあるし」

「ええー。これって、殺人になるのか!? いや、アラレはロボットで、けど、人間と同じような人格を持っているし……」

 不良相手等に対し、過剰な暴力行為を頻繁行っている百代も人殺しまではしたことが無い。そこまでいけば罪の意識というものもあるし、祖父の叱責に対する恐怖や折角出会えた全力で戦える相手を失ってしまったかもしれないと言う要素も加わった不安そうな表情を浮かべる百代。

「クッキー、見てあげてみて」

「わかった。私とは構造が違うだろうし、把握しきれるかどうかわからんが見てみよう」

 そんな百代を見て、彼女のパニックの原因となる京が今度は手を差し伸べる指示をする。それに答え、アラレに近づき彼女の状態を確認し始め、数分程、各部を調べた後、結論が下される。

「……ふむ、断言はできないが恐らくは大丈夫だろう。単なるエネルギー切れのようだ」

「そうか、よかったあ。しかしエネルギー切れとはな。まあ、考えてみれば当然か。クッキーと同じでロボットだもんな。けど、折角いいところだったのにな」

 クッキーの言葉を聞いてほっとした表情を浮かべる百代。しかし安心したことで、今度は不満がでてきたのか愚痴をこぼす。
 この時、百代は周囲に対し、一切の注意を払っていなかった。
 強敵と戦えた充足。
 不安から解放された安堵。
 後一歩、満足しきれなかった不満。
 これらの要素が彼女から警戒を奪ったのである。
 
「あら、そうでもないわよ。姉さんは十分に役割を果たしてくれたわ」

 故にそれは彼女を狙うものにとっては最高のタイミングであり、更に襲撃者にはレベルの高い武術家が感知の目標とする“気”が存在しなかったことがとどめであった。

「「「「!!?」」」」

 驚愕する四人。背後から聞こえてきた声に百代は慌てて振り返ろうとする。しかし、それを実行しようとするよりも速く声の持ち主が彼女の身体を羽交い締めにした。簡単には振りほどけないかなり強い力で身体が締め付けられる。更に、声の持ち主の掌が百代の背中に触れた瞬間に、激しい虚脱感が襲いかかる。
 そして襲撃者の呟くような声が耳に入った。

「私があなたからエネルギーを奪うチャンスをね」



(後書き)
短めですが、生存報告も兼ねての投稿です。
今回、悟空の出番が全然なくてすいません。



[30266] KOS編 14話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:449de8e9
Date: 2013/05/03 10:40
「やああああああ!!!」

 薙刀を手に釈迦堂に向かって全速で突撃する突撃する一子。重りを脱ぎ捨てたことにより、そのスピードはまた一段と上がっていた。速度だけみれば武道四天王と紙一重のレベル、この世界で言う所の壁を超えた領域にまで到達しているといい。

「川神流、水撃ち!!」

「あめえ」

 しかしそのスピードが通用しない。釈迦堂は一子の繰り出す攻撃を余裕な態度でと見切り、両者が交差するタイミングで放たれた横薙ぎを横に移動して空振りさせる。そして無防備になった彼女の脇に拳が撃ちこんできた。

「うああっ!」

 川神元師範代は伊達ではなかった。凄まじい威力が込められた強烈な一撃を受け、悲鳴を上げながら吹き飛ぶ一子。防御が間に合わず、自分から後ろに飛んで威力を減らす等と言った器用な回避もできていない。しかしそれでも一子は不屈の闘志で立ちあがってみせる。根性と合わせその打たれ強さもまた、速度と同様に壁を超えたレベルに到達していた。

「川神流奥義、山崩し!!」

 頭上で薙刀を大きく旋回させ、脛を狙って勢いよく振り下ろす。それを飛んで回避する釈迦堂、諦めずに追撃を仕掛ける一子。

「川神流、鳥落とし!!」

「よっと」

 上空に向かってそのまま一回転した一撃、所謂サマーソルトキックで釈迦堂の顎を狙う。だがこの追撃も当たらない。自由の効かない空中にも関わらず上体を逸らす最小限の動きを持って彼はこれをかわして見せた。結果、互いに相手にダメージを与えることなく地面に着地する。ただし、その着地は釈迦堂の方が一瞬速く、必然、それに続く行動も彼のほうが速くなる。

「ふっとびな」

「やああ!!!」

 一子が着地するのとほぼ同じタイミングで放たれた音速に迫る速度の蹴り。だが、一子もまた、それと同等の速度で槍を引き盾にする。しかも、着地したばかりの態勢が崩れた状態にもかかわらず、鍛えた足腰でその場で踏みとどまって見せた。
 自分の一撃を止められ驚いた顔をする釈迦堂。
 そしてその状況を疑問を思い、彼は問いかけをした。

「身体能力の向上は異常ってレベルだな。技量の進歩の方もまあまあだ。お前さんの才能じゃあ、まともな修行じゃそこまで伸びねえだろ。一体、何したんだ?」

「何って、悟空君の真似をして、毎日必死に修行しただけよ」

 一子の答えを聞き、そこから彼女の成長の秘密を推察しようとした釈迦堂はそこであることを思い出すと、再度の問いかけを発した。

「必死にねえ。そいや、お前さん、昔っから随分とオーバーワークを繰り返してたが、身体の方は大丈夫かい?」

「えっ、あっ、うん。実はちょっと無理し過ぎちゃったこともあるんだけど、そんな時は悟空君が仙豆をくれたから」

「仙豆、なんだそりゃ?」

「怪我や疲労を一瞬に回復してくれる不思議な豆。悟空君が仙人様にもらったんだって」

(仙人がくれた怪我や疲労を一瞬にして直してくれる不思議な豆だと? うさんくせえことこの上ねえが、そんなものが存在するとすりゃあ、一子の奴の急成長に説明がつくな)

 一子の答えに対し、半信半疑ながらも、その成長に対し納得する答えを釈迦堂は見つける。悟空の動きから、その戦闘スタイルが自分や鉄心、リーよりも一子にあった見本であることに彼は気付いていた。技量の成長は本人の才能だけでなく、指導者による影響も大きい。故にこちらについてはまだ納得もいくが、身体能力の向上についてはそうはいかない。
 身体能力の向上と言うのは基本的に肉体の疲労と回復を繰り返すこと、超回復でしか成し得ないからだ。どれだけ効率的なトレーニングをしようとも、その成長速度には限りがあり、限界を超える修行は寧ろ逆効果にしかならない。産まれ持った回復の速度が疲労による消耗に対し追いつかないからだ。
そしてその回復速度は産まれついての才能によって大凡が決まってしまうのである。故に釈迦堂には一子の成長がどうにも不可解であったのだが、一子の話しを聞き、彼はある仮説を得ていた。
 その仮説とは彼女が仙豆による回復によって、限界を超えたトレーニングをそのまま100%成果に変えることができたのではないかというものである。それにより才能以上の速度で成長することを可能とし、しかもその成果により身体自体が強くなることで、肉体の限界の上限も引き上がる。それを繰り返したのならば、今の一子の成長も理解できるものであった。

(とはいえ、その理屈を成立させるためにゃ、どんだけきついことしなけりゃならないんだか。俺にゃあとても真似できんわな)

 得た結論に対し、内心で呆れと感心の混じった感想を漏らす釈迦堂。
 そして抱えていた疑問に対し、一応の答えを得たことで、彼は目の前で薙刀を構え直す一子対し意識を戻すと今度は彼の方から攻撃を繰り出す。

「さてと、そろそろ再開させてもらうかな」

 言葉と共に踏み込み、一瞬にして間合いを詰め、放たれる正拳。一子は薙刀でそれを受け止めるが、その威力を殺しきれず、空中に投げ飛ばされるが身体を一回転させて地面に着地すると反撃とばかりに飛びこむ。

「たああああああ!!!」

袈裟切り、そして左肩から右脇腹にかけて振り下ろす軌道のその一撃はバックステップで回避され空を切るが、そこから半円描くような軌道で追撃の2撃目を放つ。

「取った!!」

「あめえよ!!」」

 しかし釈迦堂はその一撃をも受け止め、まだ余裕があることを示して見せた。歯噛みをして、一旦距離を取る一子。未だ彼女は一度も有効な一撃をいれていない。逆に彼女は少しずつダメージを受けている。このままでは徐々に形勢が傾いていくのは明らかであった。しかしながら、彼女は既に逆転の目を掴む一筋の光明を得ていた。

(最後の攻撃だけは釈迦堂さん回避せずに防御した。反撃もしてこなかった)

 最初の2回の攻撃と最後の攻撃、その違いは川神流の技かそうでないかと言うこと。最初の2撃は川神流の技をそのままだし、組み合わせたに過ぎないが、最後の攻撃は長物の刃物を使った武術の基本である袈裟切りをベースに悟空の動きを参考にして、一子が自分なりにアレンジしたものである。

(釈迦堂さんは川神院の元師範代、当然、アタシが使えるような技は全部知ってる。だから、動きが読まれちゃうんだわ)

 そう考えた一子は薙刀を地面に突き刺すと、両手の掌で何かを包み込むような構えを取った。

「釈迦堂さん、いくわ。これが私の切り札よ!!」

「ほ~、そいつはたのし・・・!?」

 一子の言葉に嘲りを返そうと思った釈迦堂が固まる。一子の掌に青い光が生まれ、大きくなっていくのを目にしたからだ。

「か~め~は~め~」

「んな!? まさか!!」 

 気を使うこと自体はある程度のレベル以上の武術家にとっては極、当たり前のことである。しかし、それを肉体を強化と言った内部に作用する形ではなく、外部に放出する形、ましてや目視できるレベルの技となると川神でも師範代以上のものにしか使えない高等技術なのである。
 急成長したとはいえ、それを一子が使おうとすることに釈迦堂は初めて動揺し、そして一子の手からその溜めた力の本流が放たれた。

「波!!!!」





「くっ、力が……」

 突如現れた金髪の少女に羽交い絞めにされたかと思うと、急激に力が抜けていく感触を味わい、百代はその場に崩れ落ちる。

「クッキーダイナ……」

「あら、ちょうどいい具合にでてきてくれたわね」

 そこで彼女を助けようと飛び出し自身の必殺技を出そうとするクッキー。しかし、その剣が振り下ろされるよりも早く、胸に手が押し当てられたかと思うと、スパークしたかのように全身に電撃がほとばしりその機能を停止する。

「それにしても流石は武神と呼ばれるだけのことはあったわね。アラレ姉さんとの戦いでかなり力を消耗していたでしょうに。一瞬で吸い尽くせないなんて」

 クッキーを打倒し、倒れた百代に視線をやると感心したような表情で呟く少女。その時、彼女に向かって正確に矢が放たれる。

「正確な狙いね」

「モモ先輩とクッキーに何したの?」

 矢を射た人物、京が静かな口調、しかし怒りがにじみ出た口調で放たれた矢を素手でつかんで見せた金髪の少女に向かって問いかける。

「心配しないでも命に別状はないわ。私はエネルギー吸収型人造人間、人造人間6号よ。武神は私にエネルギーを吸われ、気を使い果たしたのと同じ状態になっただけ。休めば回復するわ。まあ、この大会中の復帰は無理でしょうけどね。それとそっちのロボットはアラレ姉さんに関するデータを消去させてもらったわ。九鬼に姉さんのデータを渡す訳にはいかないもの。荒っぽいやり方だったから機能不具合を起こしているけど、ちゃんとメンテして再起動すれば復活する筈よ」

 睨みつける京、そしておなじく睨みつける大和に対し、平然とした様子で素直に答える少女。答えを聞いた後、京は一瞬百代の方に目をやると、金髪の少女に視線を戻し再度矢を射る。しかも今度は連続して。1秒に1発以上と言う速さで、1本外れた以外、他全てが正確に少女に向かって放たれる。しかし、少女は軽々とその全てを裁き、余裕の表情を見せた。

「無駄よ。私はエネルギーを吸えば吸うほど強くなる。そして私は武神だけでなく、この大会に参加した何人もの強豪のエネルギーを吸収している。その程度の攻撃は通用しないわ」

 少女の言葉通り、京は一撃も当てることなく矢を全て使い尽くしてみせる。
 そしてその状態で彼女は相手をまっすぐに見て言った。

「うん、わかってる。不意打ちとはいえ、モモ先輩を倒すような相手に私の矢が通用するとは思ってないよ。でも、これでいいの。これが大和の策通りだから」

「!?」

 最後の一言をニヤリと笑いながら京。同時に後方に感じる巨大な圧力に金髪の少女が振り返る。
 そしてそこに立っていた相手の姿に彼女は驚愕を露わにする。

「やってくれたじゃないか」

「なっ、どうして!?」

 そこに立っていたのは武神と呼ばれる少女、戦闘不能となった筈の川神百代であった。



[30266] KOS編 15話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:775aacbb
Date: 2013/05/03 10:42
「どういうこと?貴女のエネルギーは吸い尽くした筈よ」

 気を吸い尽くされた筈の百代が立ち上がっていることに驚愕した表情を浮かべる人造人間6号。そんな彼女に対し、百代は“袋”が取り付けられた京が射た弓を掲げ種明かしをしてみせる。

「ふふん、実は知り合いから一ついいものをもらっていてな。仙豆と言って食べるだけで、体力も気も前回、怪我も完治するという便利な豆なんだ。おかげで私は今、元気一杯だよ」

「なるほど、さっき、あなたの仲間が取った行動は私を倒すためではなく、それをあなたに渡すためのものだったていう訳ね。食べるだけで全回復なんて非常識な話だけど、まあいいわ。どの道、それで私が困る訳じゃない。いえ、寧ろ好都合ね。もう一度あなたのエネルギーをいただけるのだもの」

「ほほぅ、言うじゃないか」

 謎が解けたことで余裕を取戻し、挑発的な言葉を投げかけてくる人造人間6号。それに対し、百代も獰猛な笑みを返す。
 周囲に緊張感が走り、対峙する両者はしばし睨みあった後、同時に相手に向かって飛び出す。

「うわっ!!?」

 二人が飛び出した瞬間に巻き起こったのは大和の悲鳴、そしてその原因となる暴風だった。百代と人造人間6号が激突し、その衝撃だけで台風のような突風を巻き起こしたのである。

「これはまずい、離れるぞ」

「うん。大和、急いで」

 このまま近くで観戦して居ては危険と判断し、クッキーと京が大和をカバーしながら退避を開始する。
 一方、百代と人造人間6号は激突後、拳の応酬へと移っていた。二人の間で交わされる拳の連撃。その速度はどちらも驚異的、常人は勿論、京クラスの実力者ですら半分も捉えられない程の速度である。この世界では一定レベルを超えた強さの者を『壁を超えた者』と評するが両者とも間違いなくその中でも更にトップクラスの実力を有していた。

「くっ、なんて力だ」

 拳同士のぶつかり合い、それに押し負け百代の身体がはじかれる。そこで空いた距離を一気に詰める人造人間6号。

「無駄よ。あなたのエネルギーを吸収したことで、既に私のエネルギー量はあなたを大幅に超えている。パワーもスピードも私の方が上よ。それに私はアラレ姉さんとは違い、さまざまな格闘技術を身に着けているの。こんな風にね!!」

 言葉と共に放たれるのは伸びあがるような拳の一撃。それはフックとアップの中間の軌道を描くガゼルパンチと呼ばれるボクシングの技であった。人間であればしなやかな筋肉を持つものしか撃てない必殺の拳がと百代の顎に吸い込まれるように撃ちこまれる。

「ぐっ」

苦悶の声をあげふらつく百代。更に人造人間6号は体を回転させ勢いをつけたハイキックを放つ。それを見て百代はガードを諦め、しゃがんで回避しようと試みる。しかし、間に合わずかわし切れなかった蹴りが彼女の頭頂部をかすめた。

「!!」

 直撃すればコンクリートの大柱を一撃で粉砕できるだろう程の威力、かすめただけとはいえ既に頭部に一撃を受けていた彼女に対し、効果は絶大であった。脳を激しく揺らされ、意識を朦朧とさせてしまう。当然、その隙が見逃される筈も無い。胸元に掌底を叩きこまれ、その身体は弾丸のような速度で百代の身体は吹っ飛んでいく。

「姉さん!!」

 地面に叩きつけられてようやく停止した百代の姿を見て、思わず叫ぶ大和達達。しかし、そこで彼等に対し、返ってきたのは予想外のもの。“笑い声”であった。

「あははははは!!」

地面に叩きつけられ、俯いた姿で、突如狂ったように笑いだす百代。 

「えっ、モモ先輩、大丈夫……だよね?」

「だ、大丈夫だと思うけど」

「え、えーと、大丈夫かしら? やりすぎちゃった?」

そのあまりに異常な事態に近寄ることも躊躇われ、思わずその場に立ち尽くし、冷や汗を流しながら心配する京達。人造人間6号でさえも思わず、心配そうな声をだす。

「ああ、大丈夫だ。ただ、嬉しくてな」

 声に答え、顔をあげる百代。その表情には口にだした言葉を証明するかのように満面の笑みが浮かんでいる。

「アラレと言いお前といい、まさか一日の内にこんなに強い奴らに二人も会えるとは思っていなかったな。まったく、世界は広い。これなら、悟空が帰っても退屈しなさそうだ。いや、よく考えたら悟空が帰ってしまったとしても何とか会いに行く方法を見つければいい。全く、戦える奴がいなくなるだとか、孤独になってしまうだとか、私らしくなくうじうじと考えてしまったものだ」

 語るその表情は単に楽しい、嬉しいというのでは迷いが消えた、悩み事が無くなったと言ったような晴れやかなもの。ところがそこで、また唐突に彼女は表情を考える。

「決着が着いたのか。それに……まさか、一子の奴がここまで成長してくれるなんてな」

 気を感じ取ることの出来ないものには脈絡も無く飛び出した一子の名前。実は百代は一子と釈迦堂が交戦になったことを少し前から気付いていた。釈迦堂は昔から一子には甘く、可愛がっていたことを知っており、その気から殺気は感じられなかったことで特に心配していなかったのだが、どうやらその戦いが、たった今、終結したらしかった。
その結果は勝敗で言えば結局予想通り“一子の負け”に終わったようであったが、その過程は彼女の予想を大きく覆したものだった。

(まさか、一瞬とはいえ、釈迦堂さんを本気に近い状態にさせるとはな。……本当に私のライバルになってくれるかもしれないな。未知なる強者に追いかけて来てくれる後輩か。全く、楽しいじゃないか)

 流石に離れた所から気を感じるだけではどういう戦いを繰り広げたのか細かい所まではわからないが、釈迦堂に気を全開にさせたと言うだけでも以前の一子からは考えられない大殊勲である。正直な所、一度も期待していなかった一子の言葉。それを今、初めて百代は現実的な夢として夢想した。

「さてと、一子の頑張りに答えるためにも、姉としてここは意地でも負けてられないじゃないか」

 追いかけて来てくれる妹のためにも、彼女の目標として負けられないとばかりに闘志を再燃する百代。今の彼女は未来への希望に満ち溢れ、気力は十分である。
 しかしそんな彼女を人造人間6号は冷ややかな目で見る。彼女の中で、既に自分の勝利を確信的な出来事なのである。

「まだ、わからないのかしら? 最早、貴女に勝機などないのよ」

「ふふっ、それはどうかな。私は、もうお前の攻略方法を掴んだぞ」

「攻略方法? 負け惜しみにしては随分ね。そんなものがあると言うのなら見せてもらおうじゃないの」

 自信あり気な笑みと言葉を返す百代に対し、それをハッタリと切り捨てる人造人間6号。
 そして百代は今度は言葉ではなく、行動で反応を返す。右腕の掌に気を集中させ始めたのでだ。

「川神流……」

 高められていく気。放出されれば山一つを吹き飛ばす程の威力がそこには秘められていた。しかしその強大な力を前に、人造人間6号はまるで臆することなく、寧ろ失望を感じたかのような態度を取って見せた。

「その一撃で私をどうにかしようと言うのなら無駄どころか、逆効果もいい所よ。放出した気の塊なんて、私にとっては格好の餌でしかないわ。言って置くけど、よくある漫画の展開みたいにエネルギーを吸収しきれず自爆なんて間抜けなことはしないわよ」

 エネルギー吸収装置をつけた掌を見せて宣言する人造6号。しかし、百代はその言葉を気にせず発射態勢を取る。

「星砕き!!」

「愚かね、これで私の勝率は100%になったわ」

 次の瞬間、両者は同時に手を突き出した。しかしその目的は真逆。百代は気を放つため、人造人間6号はその気を吸収するための動作。百代より放たれた極太のエネルギー波は地面を抉り、人造人間6号へと迫るが、人造人間6号が既に迎撃の態勢を取っている以上、彼女の宣言通りそのエネルギーは吸収されるのみ。
 ただし、それは放たれたエネルギー波が直進しかしないのであればの話であった。

「曲がれ!!」

 百代が叫んだ瞬間、放たれたエネルギーは野球のカーブボールのように軌道を変え、地面に着弾したのだ。悟空と模擬選をした時、彼はかめはめ波を曲げて見せた。それを真似て編み出した百代の新技である。

「なっ!?」
 
 この世界でエネルギー波を曲げたものは今までいない。データに無い予想外な行動に狼狽する人造人間6号。
 そして膨大なエネルギーが地面に叩きつけられることで、当然引き起こる大爆発は盛大な土煙をその場に巻き起こす。その土煙が目隠しとなり、6号が気付いた瞬間には百代は彼女の直ぐ目の前にまで迫っていた。

「くっ!!」

 慌てて迎撃しようと足を振り上げ踵落としを放つ人造人間6号。しかしその一撃は回避され、空を切った足はそのまま地面にめり込んでしまう。

「技のキレは確かに凄いな。だが、レベルの近い相手にいきなり大技をだしてもそうそう当たるものじゃないぞ」

 横にかわした百代からの駄目だしの言葉。それこそが人造人間6号の弱点、圧倒的な実践不足。例えば先程の攻防でハイキックを撃つ前に繋ぎの崩しを入れられてその後で撃たれていたら、その一撃で百代は意識を断ち切られそこで勝負は決まっていたであろう。生まれてまだ、短い人造人間6号にはパワーもスピードも技術もあれど、それを生かすための経験や訓練が不十分だったのである。

「川神流、川神百烈拳!!」

 胴体に撃ちこまれる百連撃。如何に基本スペックで勝っているとはいえ、それだけの数の連撃を受けてはたまらない。形勢は一気に逆転、勝敗を決するとどめの一撃が放たれる。

「川神流、無双正拳突き!!」

 その一撃は見事に決まる。しかし、その強烈な一撃で意識を失った彼女の身体は僅か数メートルしか吹っ飛んで行かなかった。なぜならば、猛スピードでこの場に現れた山吹色の胴着を来た人物によってその身体が受け受け止められたからである

「よっと、大丈夫か。おめえ。って、気い失ってるみてえだな」

「お、お前!?」

 その人物の登場に驚く百代に対し、現れた男は軽い調子で返す。その人物の正体、それは言うまでも無い。主催者から百代と並び今大会、最大の優勝候補と目された存在。異世界からの客人。常に更なる強さを求める武闘家。

「オッス、モモヨ」

 孫悟空である。


(後書き)
更新に1年以上も間が空いてしまってすいませんでした。
書きたいエピソードや活躍させたいキャラを入れ過ぎた結果、キャラの性格が変になったり、風呂敷を広げ過ぎて話がたためなくなったりしてしまい、一時は最初から書き直そうかなどとも考えましたが、まずは完結させることが第一と思い、強引ながらも続きを書くこととしました。一応、次回で完結の予定ですので、できればお付き合いよろしくお願いします。



[30266] KOS編 16話(最終話)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:775aacbb
Date: 2013/05/05 12:13
「悟空、どうしてここに?」

「おう、実はさっきアゲハの奴がオラんとこに来て教えてくれたんだけどな。残ってんのって、オラ達と百代達の2チームだけらしいんだ。さっきまではこいつらのチームも居たけどこいつの仲間の一人のナっちゃんはオラが倒しちまったし、他の二人はおめえが倒しちまった。だから、残りはオラ達だけだ」

 悟空の口から飛び出した言葉。本来中立である揚羽が選手である悟空に情報を与えたのは、これ以上被害を拡大させないためであった。なんせ、先程の悟空や百代と人造人間との戦いで流石の九鬼もちょっと冷や汗を流す位の自然破壊がでてしまったのである。

「ちょっと待て悟空。この大会は4人1チームだろ。一人足りないんじゃないのか?」
 
 大和が人造人間6号の方を見て疑問を投げかける。
 人造人間5号、6号、7号、倒されたのが3人である以上数が合わない。その疑問に悟空が頷き答える。

「ああ、そいつもオラが倒したぞ。つーても、そいつオラと会ったら直ぐ降参しちまったんだけどな。ブルマやブルマの父ちゃんみてえに『かがくしゃ』って奴でこいつらが壊れたりした時に直すために参加したって言ってたぞ」

「なるほどな。だが悟空、一子の奴が釈迦堂さんと戦っていた筈だが、そっちはどうしたんだ? お前が倒したのか? それにキャップ達のチームはどうなった?」

 今度は百代が疑問を投げかける。

「ああ、オラも戦いたかったんだけどよう。一子の奴にやられて片腕怪我したみたいで、それじゃあオラとは戦えないって棄権しちまったんだ。キャップのとこは、まゆっちは無事だったみてえだけど、他の3人がやられちまって棄権しちまったらしい」

「あー、まゆまゆの性格ならそうだろうな。しかし、まさか初日で2チームにまで減るとは予想外な展開という奴か。まあ、いい。残っているのが私達だけな以上、ぶつかりあうのみだ。早速やるか?」

 疑問が全て解消され、納得した百代は好戦的な表情を浮かべ、戦闘態勢を取る。それに応じ悟空も構えを取りかけて、しかしそれを直ぐに崩してみせた。
 そして彼は自分の腹を抑えると、へたり込みそうな情けない表情になる。

「へへっ、そうこなくっちゃな。……って、言いてえとこだけど、オラ腹へっちまってよお。それに、オラと百代の戦いはアゲハや鉄心のじっちゃんが居るとこでやって欲しいって言われてんだ。わりぃんだけど、先に飯食ってからにしてくんねえか?」

 そこでタイミングよく悟空の腹から鳴り響く盛大な音。それを聞いて溜息をつくと百代の方も構えを崩し、彼の提案に承諾することとした。

「仕方ないな。なら、勝負は明日にするか。私も戦ったばかりで少し疲れているしな。お互いゆっくり休んで万全な状態で戦うことにしよう」

「サンキュー。じゃ、オラ、戻るからな。明日な。楽しみにしてっぞ」

 百代の提案に頷き、一子達の下へ戻る悟空。こうしてKOS1日目は終了した。












 翌日、山中の広く開けた場所に悟空と百代は向き合って立っていた。その二人を囲むように周りには両チームの仲間達、それに加え、揚羽、鉄心、リーと言ったこの世界最強の強者たちの姿も見られる。

「悟空と川神百代、勝った方が、両チームの代表の一騎撃ちでKOSの優勝チームを決める。この取り決めに異論ないな」

「ああ、どの道、姉さんや悟空相手に正面からぶつかるなんて無理な話だしな」

 英雄の言葉に大和が頷く。それは試合前に両チームが合意して決めたことだった。両チームのエースの実力があまりに飛びぬけていることに加え、前日の戦いで一子とクッキーが負傷しているため、無理をさせないようにと考え、このように取り決めたのであった。

「それでは、試合の前に結界をはっておく。リー、北斗、それに揚羽殿、手伝い頼むぞ」

 周りに被害が及ばぬよう、川神院師範である鉄心と師範代二人、加えて武道四天王である揚羽が四方を取り囲み、協力して結界を張る。その強度を感じ取り、鉄心は満足気に頷く。

「うむ、この結界の強度なら例え水爆を搭載した核ミサイルが直撃しようと問題ないじゃろう。二人とも思う存分戦うがよいぞ。さてと二人とも準備はよいか?」

「ああ、オラ、いつでもいいぞ」

「こっちもだ。ジジイ、合図を頼むぞ」

 力強く答える二人、闘志に満ち溢れているのが傍目からも感じられた。それを確認し、鉄心は再び頷く。

「うむ。それでは……はじめええええ!!」

「やああああああ!!!!」

「うおおおおおお!!!!」

 合図と共に気合いの声を上げながら飛び出す悟空と百代。お互いが立っていたちょうど中間点で両者の腕が激交差し、激突する。

「ぐぐっ、悟空、相変わらずの馬鹿力だな」

「おめえこそ初めて会った時よか、随分力、強くなってんじゃねえか?」

 両者腕を押し合う。両者の力はほぼ互角、しかし僅かな差で徐々に悟空の方が押し込み始める。

「ちっ」

 そこで自分の不利を悟った百代は、わざと力を抜いて腕をひく。急になくなった手ごたえに悟空は態勢を崩してしまい、前のめりにつんのめる。

「はあ!!」

 そのチャンスを逃さず、左フックを悟空の顔面に叩き込む百代。更に脇腹に右ジャブ3連発浴びせ、そこから大技に繋ぐ。

「川神流、炙り肉!」

「うわちちっ」

 気を炎に変換し、拳にまとった一撃を受け、熱がる悟空。しかし、攻撃はまだ終わらない。

「川神流、雪達磨!」

「つ、つめてえ」

 今度は冷気、急激な温度差は物質に対し、与えるダメージを増大させる。
 そしてそこで放たれる止めの一撃。

「川神流……」

「や、やべえ」

 流石にこのコンビネーションを食らうのはまずいと焦る悟空。しかし、冷気により悟空の身体は一部凍りつき、その動きは鈍くなっている。
  
「無双正拳突き!!」

「はあああ!!!」

 俊敏な動きの取れない悟空に放たれる必殺の一撃。しかしその攻撃を予想外の機転を持って対処して見せる。何と履いていた靴を貫き、足から地面に向けてかめはめ波を撃ったのだ。当然、地面は爆発し崩れ、急に足場を失った百代の技は威力と速度を無くす。その衝撃で悟空の身体に付着していた氷も割れ、チャンスとピンチが逆転する。

「しまっ!!」

「たああああああ!!!!:

 百代の胸部目がけて掌底を放つ悟空。その一撃をまともに受けた百代は弾き飛ばされて結界に叩きつけられる。しかしそこで瞬間回復を発動させ、地面に着地して見せた。

「決まったと思ったが、まさかこんな方法で防がれるとはな。アラレや6号との戦いも面白かったが、悟空、やはりお前と戦うのが一番楽しいぞ」

「へへっ、そう言われると照れっな」

 共に興奮した笑みを浮かべ戦いを楽しむ二人。すぐさま戦いを再開する。
 しばらくの間、拳の応酬を繰り返すが、カウンター気味に入った強烈な一撃に今度は悟空の方が吹っ飛び、結界に叩きつけられる。更に飛び込んで追撃の一撃。悟空は何とか、それをかわし逃げる。
 
「凄い、お姉様、前よりももっと強くなってる」

「うむ。何があったのかは知らんが、モモの奴、更に一皮剥けてしまったようじゃの」

 百代の戦いぶりを見て驚く一子と鉄心。悟空相手に優勢に戦う百代は以前よりも明らかに強くなっていた。それどころか、前日と比べてさえ明らかに強くなっていたのである。それは精神的なことが要因となっていた。『強くなればなるほど戦える相手がいなくなる』そういう状況に居た百代は無意識の内に強くなることに対し、心理的なブレーキをかけてしまっており、それが彼女の成長と力を抑制していたのである。しかし、今の彼女に強くなることに対し迷いがない。故に今、彼女はその潜在能力を最大限に解放していた。

「このままいけばモモの勝ちか」

「そうだね。油断はできないけどモモヨの方が有利だ」

 揚羽やルーも百代の方が優勢と判断する。だが、その判断に異論を持つものが一人、それは意外にも当事者である百代本人だった。彼女は若干不満そうな表情を浮かべ、悟空に向かって言葉を発する。

「悟空、いい加減にその破れた靴と服やリストバンド、外したらどうだ? 最後位、思いっきり戦わなければつまらないだろうが」

「うえっ!? お、おめえ気付いてたんか!?」

 突百代の口から飛び出した言葉にその場に居た者達は困惑を浮かべる。
 しかし言われた当人である悟空は心当たりがあるのが、悪戯のばれた子供のように罰の悪そうな表情になって慌てた様子を見せた。

「一子も同じようなものを普段から身に着けているからな。意識して動きを見ていれば僅かな不自然差にも気付くさ。言っておくが、今の私はそんなものを付けたまま勝てる程、甘くはないぞ」

「ははっ、わりい。おめえのこと、舐めてた訳じゃねえんだけど、修行中の間は風呂入る時以外は外すなって神様に言われててよ。けど、確かにこのままじゃオラが勝つのは難しそうだ」

 不機嫌そうな百代の表情に罰の悪そうな表情を続けていた悟空だったが、真剣な表情になると、リストバンドを外し、それを地面に落とした。その時、響いた音、そして普通のリストバンドではありえない高速の落下を見て、観戦していた者たちは百代の言った言葉の意味に気付く。すなわち、悟空の身に着けているのは重いのだということを。
 次々と重量物を外していく悟空。それを眺めながら、百代が尋ねる。

「ちなみに、身に着けた者の重さは合計か何キロなんだ?」

「んっ、合わせたもんの重さか?」

 言われて指折り数えながら計算を始める。その答えにその場に居た全員が自然耳を傾け、少し時間をかけて悟空は答えを出したようだった。

「んと、……130キロかな?」

「「「「「なっ!??」」」」」

 彼の口から飛び出した答えは何と、成人男性二人分程の重さ。それだけの重量物を装着しながら高速で動き回っていたという事実に、重量物の存在自体には気づいていた百代も驚きの表情を浮かべた。

「っと、待たせたな。へへっ、かりぃかりい」

 そうこうしている間に、重量装備を全て外し終わる悟空。子供のように跳ねる悟空を見て百代は脅威と興奮を感じながら構えを取る。

「それじゃあ、再開するか。いつでも来い」

「ああ、そんじゃあ……」

 百代の言葉に悟空が答えたその次の瞬間、何が起こったのかその場に居るほとんどの者達には理解できなかった。気が付いた時には悟空の立ち位置が代わり、百代が結界に叩きつけられていたのである。

「アゲハさん、今のゴクウが何をしたか見えましたか?」

「いや、我にも一切見えなかった。まさか、ここまで底しれん力を持つものがいたとはな」

 ルーの問いかけに揚羽が首を振る。壁を超えた実力者である二人にすら、この状態を引き起こしたと予測される悟空の動きが全く捉えられなかったのだ。

「これほどとはのう。全盛期の儂でも勝てんかもしれん」

 辛うじてそれを捉えられたのは鉄心が驚嘆の声を漏らす。
 そして、この場にいる中でもう一人悟空の動きが見えた人物が笑う。

「はははっ。全く、お前はどこまでも私を驚かせてくれるな」

「へへっ。その様子だと、おめえにもまだ何か手があるんだろ?」

 動きが見えたとて、反応できなかったことには変わりない。しかし、まだ百代の表情からは失われていなかった。故に何か対抗策があるのだと予測する。

「ああ、勿論……だ!!」

「!!」

 自信あり気に百代が宣言した次の瞬間、起こったことは先程の真逆であった。一瞬の間に、百代が位置を移動し、悟空が結界に叩きつけられたのだ。

「超加速。この技があればお前のスピードにも対応できるさ」

「へへっ、オラ、ワクワクしてきたぞ」

 攻撃を受けたにも関わらず、悟空の表情に浮かぶのは興奮と歓喜。そしてそれは百代も同じ。二人の胸の内にある感情は一般人は勿論、武術家達の大半にも理解しがたい、彼等のようなバトルマニア達だけがわかる喜びだった。
「さあ、行くぞ!!」

 そして今度は二人同時に消える。同時にその場に大きな音が響き渡る。

「一体、なにが、起こっていやがるんだ!?」

「た、多分、悟空君とお姉さまがぶつかり合ってる……んだと思う」

 常識を遥か超えた戦闘に思わず疑問を漏らす忠勝と、その疑問に自信なさ気ながらも答える一子。
 時々、瞬間的に姿を見える以外は、戦う者の姿がほぼ消えた状態で激突音が響き渡るという異常な戦闘を二人は繰り広げる。その状態が数十秒程続いた後、消えていた内の一人の姿が現れる。それは上空に蹴り飛ばされた悟空の方だった。

「川神流、流星脚!!」

 そして、その悟空よりも高く飛び上がった百代の蹴りが炸裂。地面に向かって斜め方向に叩きつけられる。

「いちち。すげぇな、オラ速度には結構自信あったのに、まさかオラよりも速く動けるなんてな。けど、もうやられねえぞ。おめえの技の弱点、見抜いちゃったもんね」

 猛スピードで叩きつけらたにも関わらず、割と平気そうに蹴られた頬を抑えながら立ち上がって見せる悟空。
そして彼はにやりとした得意気な笑みを浮かべて見せた。

「ほう、ならばその弱点とやら見せてもらおうじゃないか!!」

 挑発的な態度に対し、超加速で接近する百代。悟空はそれを飛び上がってかわす。それを追いかけ百代も飛び上がる。しかしそこで悟空は身体の向きを反転させた。

「ひっかかったな。か~め~は~め~波!!」

 空に向かってかめはめ波を撃つことで、ロケットのように飛んでくる悟空の身体。空中では自由に動くすべの無い百代はその体当たりをまともに受ける。それはまるで空中での交通事故。凄まじい衝撃が彼女の身体を走る。

「ぐっ、瞬間回復!!」

 そのダメージを直ぐ様、回復する百代。しかし、それこそが悟空の狙いだった。

「技を解除したなぁぁ!!」

「しまっ!!」

 素で高速で動いている悟空と違い、百代は技を使うことによって高速を得ている。大ダメージを受け、更に別の高度な技を使おうとすれば意識の集中が乱れ、技が途切れてしまうのだ。ただでさえ未だ落下中で身動きの取れない状態。今から、再度超加速を使っても対応が間に合わない。

「てりゃあ!!!」

 迫る悟空の攻撃、しかし百代にはまだ見せていない技、奥の手が存在した。

「川神流、人間爆弾!!」

「うわっ!!」

 自身を中心に爆発を起こす自爆技。瞬間回復を持つ百代だからこそ気軽に使えるその技で悟空の身体を弾き飛ばしたのだ。
 予定通り瞬間回復を使い着地する百代。悟空の方も空中で態勢を立て直し着地する。

「ふふーん、技の弱点を見破ったと言ったがどうやら私の方が一枚上手だったようだな」

 先程弱点を見つけたと言って見せた悟空に対し、得意気な表情で言い返す百代。しかし、悟空も負けてはいなかった。

「へへ、そうだな。けど、弱点もう一つ見つけちまったぞ。おめえの技、かなりリキを使うんじゃねえか? 大分、疲れてんのがわかるぞ」

 超加速、瞬間回復、いずれも気を多量に消費する技である。瞬間回復は肉体的なダメージや疲労を回復するが、気の消費だけは避けられない。膨大な量の気を持つ百代であったが、技の連発に限界が迫っているのは事実であった。
 しかし限界が近いのは百代だけではなかった。これまで何度も攻撃を受けたため、肉体的な損傷が蓄積しているのである。つまり、戦いの終わりは直ぐそこまで近づいていた。

「ああ、だから次で決める!!」

「よーし、受けてたってやる!!」

残る力の全てを賭けて百代が選んだ手段は小細工無し、全身に気を纏い、限界速度にまであげた超加速での突撃。

「たあああああ!!!」

「てえやああああ!!!!」
 
 そして悟空はそれを真正面から受け止める。二人の巨大な気を持った者同士ぶつかり合い。その衝撃に水爆にも余裕で耐える筈の結界が軋み、そして破裂するのだった。












悟空が元の世界に返って2年後


 直江大和は嘗ての夢を目指し、大学の政治学部に進学。政治家目指して勉強中。最近になって、椎名京と付き合い始めたようである。

 椎名京は大和と同じ大学。熱烈な交際をしながら彼に依存しすぎないよう、自分一人の道を模索中。

 クリスティアーネ・フリードリッヒはドイツ軍に入団。軍で活躍しながらも、風間ファミリーとの縁は途切れず、現在も交流を続けている。

 黛由紀江は実家に戻り、史上最年少で流派を継承。クリス同様、風間ファミリーとの付き合いは途切れず。

 風間翔一は冒険家なり、父親と共に現在文明の技術を超えた超古代文明の遺産を発掘。一躍、時の人となる。

 弾金重工は当初、人造人間5号~7号に使われた技術を使い、工業部門を業界2位にまで躍進する。また、人造人間6号はロボット初のアイドルとしてデビューしクッキーを悔しがらせる。

 川神一子は念願の川神院師範代試験に合格。夢を一つ適えた彼女は川神百代のライバルというもう一つの夢を目指して今も修行中である。

 九鬼英雄は川神学院卒業後、九鬼財閥の社会人チームに入団。会社経営と野球という二足の草鞋を履き、そのことで内外から批判を受けながら実績を持ってそれを跳ね除け、ノンプロ初のWBC日本代表に選ばれる。

 源忠勝はKOSの賞金を使い、養父である宇佐見巨人と共に大規模な孤児の擁護施設の設立を進めている。







 そして、川神百代は……



「久しぶりだな、悟空。しかし2年ぶりに会ってみればお前が結婚していて、もう直ぐ子供まで産まれるとはな。流石に驚いたぞ」

「はは、なんか、そうなっちまった。それにしてもおめえ、よくこの世界に来れたな」

「キャップが異世界への転移装置を発見してくれて、それを九鬼が解析してくれたんだ。まあ、使われている未知のエネルギーの関係で行き来できる回数には制限があるんだがな」

 2年ぶりの再会にも関わらず、全く気負った所の無いやり取りをかわしながら、二人は同時に構えを取った。

「さて、2年前の続きをしようじゃないか。まさか、訛っていたりはしないだろうな?」

「心配すんな。おめえと別れた後も、色んな世界を回って色んな奴らと戦ったりしてよ。リュウだろ、豪鬼だろ、ドモンにカズマ、幽助に戸愚呂、萃香に勇儀、みんなすげえ強くて、ばっちり修行した。勿論、今も毎日、しっかり稽古してっぞ」

「結婚しておいて、それはそれで問題な気もするがな。まあ、お前の奥さんには悪いが、私にとっては嬉しい限りだ。後、お前が異世界で戦ったと言う強者達にもものすごく興味がわくが今はいい。さあ……」

 色々と言いたいことが浮かぶものの今、大事なことは一つである。
故に百代はその想いを込めて叫ぶ。

「真剣で私と戦いなさい!!」
                    真剣で悟空と戦いなさい!!――完



(後書き)
完結したああああああ。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。


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