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[30341] 【ネタ】天空の花嫁のヒモとアホたち【DQⅤ】
Name: やさぐれ武士◆1ec196c2 ID:b5bb7170
Date: 2011/11/04 02:41
完全に一発ネタ。
続く予定などありはしない。

ほぼ完全にDQVを原作どおりに進みながら、ひどくDQVを原作レイプするSS。

小学生が「うんこうんこ」「ちんちん」と叫ぶだけで笑うあんなノリ。

自重などまったく起こらない。
批判は受け付けないどころかむしろ叩くと快感が走るのでウェルカム。


さて、開幕。



ちなみに作者はDQ5を超愛してます。
SFCもPS2もDSも全ヒロインクリアーする程度には。



[30341] 第一部 序曲のマーチ ~Overture~
Name: やさぐれ武士◆1ec196c2 ID:b5bb7170
Date: 2011/11/01 16:50
夢…夢を見ている。

ここはどこだ?
えらい豪勢なところで、親父がイライラモジモジしている。
ションベン我慢してんのか?

と思ったが、親父の前には、とても利発そうで顔立ちの整った可愛らしい赤ちゃんを抱えた、別嬪さんが横になっている。
まさかと思うが、コレは俺と母親だろうか。
……なるほど、これは夢か。
親父がまともな職についていて、きれいなかーちゃんと豪華な家で暮らしていられたら、という俺のささやかな願望がこんな夢を見させてしまったということだろうか。


「名前……名前……」


どうやら親父は俺の名前を考えているようだ。


「名前……名前……うーん、よし、浮かんだぞ。ムスコスというのはどうだろう」


最悪だった。

何だそのずっと自慰行為をしているような名前は。


「まあステキ。賢そうで勇ましそうで…」


マジか。






「目が覚めたか。何?赤ん坊のころの夢で、どこかの城みたいだった?」


言ってねえ。
何も言ってないのに、親父はそんなことを俺に言った。

…というより、俺はそもそもしゃべることができない。
いや、はい、といいえはしゃべれるが、それだけだ。

だが不思議なことに俺が黙っていると、なぜか周りの奴らは全てを好意的に解釈してくれる。
テレパシーでも使えんのか、知りたいこともある程度教えてくれる。

始めは不思議だったが、四歳になったとき、俺は、宇宙に飛んでいった吸血鬼にならい、このことについて考えることを止めた。


寝起きで頭が働かないので、外に出た。

外といっても、ここは船の上だ。
俺と親父は、ずっと母親と天空の勇者を探す旅をしている……と、親父は色々と説明してくれたが、多分俺が子供だと思って適当なことを言っているのだろう。

おそらく真相は、親父は天空の勇者とか言うものを探し出して有名になろうと仕事をせず、お袋は愛想を付かして逃げたのだ。
そしてそれでもいまだに勇者を探して一攫千金を狙いつつ、お袋を探しているのだ。

女々しい野郎である。


しばらく散歩をしていると、船が陸に着いた。
親父を呼んできてくれと船長に言われ、仕方無しに迎えにいく。


「ついたか。村に戻るのも二年ぶりだ」


行った事があるならキメラの翼使えばいいと思うのだが、親父はアホなのでそういうことが思いつかない。
俺がしゃべれるのなら、それを教えてやれたのだが。

親父が船長にお礼を言った後、「たんすの中は調べたか?」とか言って来た。
俺は「はい」と答える。
ぬかりなく薬草は持ってきている。

しかし、あのたんすはよくできていた。
一見何も入っていないようなたんすだが、実は二重底になっていて、
決められた手順を踏まないと発火して中の物が燃え尽きるように仕掛けてあった。

いつか俺も模倣しよう。


港から、北へ向かう。

途中、何匹か魔物が襲ってきたが、親父が蹴散らしてくれた。
アホな親父だが、戦闘だけは尊敬できる。

もっとも、俺の命令通りに闘えば、1ターンで倒せるにも関わらず、ダメージ計算もろくにしないでバーサクしやがるので無駄な動きも多いのだが、まあ、それは脳筋だし仕方ないと諦めている。


寂れた村に着いた。

ココはサンタローズとかいうらしく、親父にいろんな人が声をかけてくる。


「お前とは喧嘩ばかりだが、いなくなると寂しくてよ」

ツンデレか?

「パパスさんがいない間、皆パパスさんの噂ばかりしてたんですよ」

働けよ。

「ワーイ、パパスさんが帰ってきた!うれしいー!わーい!」

アホばっかりだった。

この村でまともな大人がいることを期待してはいけないと思った。



俺の家というところでは、サンチョとか言うビザデブが出迎えてきた。
ビザデブは暑苦しいが、料理がとてもうまいのは好感が持てる。

そこでは、隣町の宿屋の娘だというビアンカとかいう女の子がいた。

「大人たちの話はつまらないから、二階で遊びましょう」

→「いいえ」

「行きましょうよ」

こいつ人の話を聞きやがらねえ。


「ご本読んであげるね。そらに…えっと…くせし…ありきしか」


『空に臭え死、蟻騎士か』
なかなかシュールな物語のようだ。

続きが非常に気になったが、もう時間だということで帰ってしまった。

あとでピザデブに読んでもらおう。



次の日。


どうも、薬を取りに来たビアンカ親子だが、薬をとる親方が帰ってこないとかで、しばらくいるらしい。

暇なので、街の奥にある洞窟に一人出向いてみる。

よどんだ空気。
じめじめとした地面。



最高だ!



俺は、昔からこういうところのほうが居心地がいい。
ポカポカ陽気とか反吐が出るし、教会に入ると、体が痺れる錯覚がする。

きっと邪教なんだろう。
怪しい儀式とかしてデフォルトで呪われてるに違いない。


洞窟では、たまに小動物のような魔物が現れたが、こんなこともあろうかと、その辺にあった竹を鋭く削っておいたものを持っている。
こんな子供にも作れるようなものを、道具屋では宿屋10泊分ほどの値段で売っていた。

売るほうも買うほうもアホだと思う。

スライム、せみもぐら、ドラキー、いい感じの小動物に、俺の竹の槍が突き刺さる。

倒した死骸からは、なぜかゴールドが手に入った。

せみもぐら二匹ほど倒すだけで、安い宿屋なら一泊できるゴールドが手に入る。

レベルが上がれば、もう少し効率がよく倒せるようになるだろうから、一生分の宿代をためるのも難しいことじゃないだろう。

この世界はぬるい、と俺が悟った瞬間だ。



何故か置いてあった宝箱を開けると、50G、皮の盾、旅人の服が手に入る。

どこのアホがおいたのか知らないが、この世界では宝箱に入ってるものは、空けた者がもらっていいという法律がある。
ありがたく使うことにしよう。


魔物の殺戮に飽きたころ、洞窟の奥で寝ているおっさんがいた。

どんなアホだと近づいてみると、俺を見て勝手に話しかけてきた。


「岩が落ちて動けないんで寝てしまった。どけてくれんかね」


本気でアホだコイツ。

ここで見殺しにするのも面白そうだが、ノーリスクで恩を売れるのなら売っておいたほうがいい。
俺は助けてやった。


次の日、いつものように小魔物を殺しに行こうとすると、呼び止められた。

薬ができたので、ビアンカ親子が帰るらしい。
それの護衛にと親父が同行すると言い出した。

キメラの翼を持ってきていないあたり、はじめからあの親子は親父に頼る気だったようだ。
道具屋が存在しないこの村もこの村だが。


「お前も来るか?」

→いいえ

「そういわず、おまえもいかんか」

→いいえ

「そういわず……」


出た。
人の話をはじめから聞く気がないループ問答。

親父はアホなので、思ったとおりに事が進まないとどうしたらいいかわからず同じ質問を繰り返すらしい。

どうせアホな親父一人で、戦闘以外の事ができるようにも思えないので、はいと答える。

アルカパに行く事になった。


アルカパは、サンタローズに比べてそれなりにシティな感じだった。
酒場もそれなりにインモラルで、俺好みである。

初めて知ったのだが、ビアンカはこの村で一番大きな宿屋の娘らしい。

相当儲かってるのか、なかなかいい宿だ。
ビアンカを落として貢がせるのも悪くない。
俺の人生設計はすでにはじまっているのだ。


ビアンカに誘われて遊びに行く。
町外れで、猫をいじめている少年達に出会った。

彼らとは気が合いそうだ。


「みろよ、こいつ変な声で鳴くんだぜ!」


……なるほど、ベビーパンサーか。
HP19、攻撃力もそこそこの立派な「モンスター」を、生かさず殺さず「いじめ」ながらも、自分は怪我をしていない。

その年にしては、かなりできる。


「やめなさいよ、かわいそうでしょ!」


KYなビアンカがそんな事を言い出し、幽霊が出るという噂のレヌール城でお化け退治を条件に、「猫」を譲ってもらえることになった。

俺は同意なんかしていないが、これもいい所を見せて宿屋をいただくためだと、付き合うことにする。


夜になり、ビアンカに起こされる。

準備は万端と、お鍋の蓋や果物ナイフをもっていたが、そんなビアンカに俺は皮のドレス、いばらのむちといった、この街で手に入る最高装備を渡してやった。
当然、俺もブーメラン、皮の鎧といった装備で身を固めている。

なんのことはない。
サンタローズにいたとき、そこら辺にあった竹を失敬し、親父の剣で削り、大量に竹の槍を作って売っぱらっていただけだ。


驚くビアンカ。だが、俺はしゃべれないので説明する事はできない。



ブーメランにより、戦いの効率ははるかに上がった。

ちょっと遠出してサンタローズまで戻り、お化けねずみあたりでレベル上げをする。
そんな中、ホイミを覚えた俺は、生まれて初めて
「はい」
「いいえ」
以外の言葉をしゃべれる喜びにホイミを連発し、ビアンカに殴られた。

ちくしょう、お前にこの俺の喜びがわかってたまるか。



レヌール城。

確かにお化けがいた。

その名前の通り、「ゴースト」というモンスターが出た。
「お化けキャンドル」がいた。

アンデッドにはこれだろ、とホイミをかけてみようとしたが、大いなる大宇宙の意思によって呪文がかき消された。


狂ってる。
大魔王にベホマがかけれた世界だってあったのに。


だが、物理攻撃で倒せてしまった。

殴ってやられるゴーストとか、マジにアホだ。


ビアンカが城の奥に行こうとしたのを、俺が押しとどめる。

しゃべれない俺は、あらかじめ用意しておいたロープを取り出すと、倒したばかりの「ゴースト」とそれを、ビアンカに見せた。

察したようだ。
ビアンカはにやりと笑ってうなずいた。

そして、俺たちはそのうちの一匹を捕まえて半殺しにして、アルカパにつれて帰ることにする。


途中、ゴーストが不安そうに俺たちに聞いてきた。


「ほんとに、僕が『レヌール城に住んでました、貴方達にやられました』、っていったら許してくれるんスか」


→「はい」


あいつらが出した条件は、「レヌール城にいるお化けを退治する事」だ。
だれもレヌール城のモンスターを一掃しろとか言われてないから、これで十分だろう。

それにしても、ビアンカが頭の回転がよくて助かった。

親父なら、絶対に理解せずに

「縄跳びか?しかし、ゴーストははじめから飛んでるぞ」

とかアホなことを言っていただろう。

そして、「ぬわー」とかいって城に突っ込んでいたに違いない。


約束どおり、猫…ではなくベビーパンサーを受け取った。

名前に「ゲレゲレ」とか付けようとするビアンカ。

よかったな親父。お袋。お前らと同レベルが居たよ。


結局、プックルに決まる。
ゲレゲレと名づけられそうになった【猫】が必死にそれがいいとアクションでアピールしてたのには、同情を感じざるを得ない。

もう一つ、理由はムックルに響きが似ているからだ。
ムックルが何かは、大宇宙の大いなる意思としか今はいえない。

そして俺たちが帰ることになると、

「また冒険しようね」と

ビアンカが涙ながらに別れを言う。

……落ちた、な。と、俺は心の中で確信し、ほくそえんだ。



「プックル…そうだわ、私のリボンを付けてあげる」


まて、いつの間に俺が面倒を見ることになってるんだ?
お前が勝手に譲り受けたんだろうが。

「元気でね」


俺がいいえ、と答える間を与えず、親父が俺の手を取ってさくさくと歩き出した。


まて、コレは孔明の罠だ。

慌てる俺。
そんな俺の様子に気付かないアホ親父。

……にやり、と笑うビアンカ。

まさに策士。

しゃべれない俺は、あきらめることにする。
いざとなれば、非常食くらいにはなるだろう。


ブックルが、なぜかびくり、と震えた。


……そして、舞台は再びサンタローズへと移るのだった。


さて、あのアホだらけの村で、いったいどんなアホな事件が起こるのだろうか。
まあ、そんなことはどうでもよく、俺はいつもどおり、たけのやり大量生産&小動物イジメに励み、将来の貯蓄をするだけなのだ。


第一部 完



[30341] 第二部 街は生きている ~Lively Town~
Name: やさぐれ武士◆1ec196c2 ID:b5bb7170
Date: 2011/11/01 17:00

サンタローズに帰ってきた。

自宅ではピザデブが少しあわてた様子で俺たちを迎えてきた。
留守中に手紙が届いていたらしい。

親父は神妙そうにそれを受け取り、自分の部屋に戻る。

「さあさ、坊ちゃんは長旅でおつかれでしょう。どうぞお休みなさいませ」
 
 さすがピザデブ。気が利いている。
 
 料理がうまく、家事も得意、よく気がつく。
 正直、俺の周りで唯一の常識人だと思っているが、あのアホの親父を「だんなさま」というあたり、やはりどこかアホなのかもしれない。
 
 と思っていたら、実際はアホではなくボケが始まっているらしく、翌日俺に「まな板はどこか知りませんか」と聞いてきた。
 
 少しだけ涙が出た。
 
 
 親父は調べモノがあると家に引きこもっている。
 仕事しろといいたい。
 
 俺ですらすでに「たけのやり工房」ですでに日当500G(単価25G)を確保しているというのに。
 そろそろ武器屋が涙目になっているかもしれないが、とりあえず潰れるまでは頑張ってもらおう。
 第一、売値の半額で買取り、中古をまた新品価格で売る商人ギルドだ。
 少しは痛い目にあうべきだと思う。
 
 おそらく大丈夫だとは思うが、価格崩壊を起こしたときのことを考えて、半永久金策用生物である、小動物いじめもかかせない。
 
 単価的には、たけのやり工房に劣るが、それでもおおねずみやドラキーなど、集団で出てくる小動物たちはブーメラン持ちの俺にとって、すでに金のなる木である。
 
 金の価値を知る俺だが、さすがに連日の勤労は精神にも悪い。
 たまにはのんびりとすごし、リフレッシュすることも、仕事を効率的にするためには必要なことなのだ。
 
 
 歩いていると、様々な人が声をかけてくる。
 俺は一切声を発していないのだが、だからといって声をかけてくる人を邪険にするわけにもいかない。
 
 ただでさえ閉鎖された村で、人間関係を壊すことは、致命的だ。
 俺はニコニコとしてさえいれば、周りが勝手に好感を持っていろいろと教えてくれるのだから、俺にしても願ったりかなったりである。
 

老人「パパスどののむすこさんじゃな。これはウワサじゃがパパスどのにはとんでもない敵がいるそうじゃ」

 アホ親父のことだ。どこかで誰かに迷惑をかけていても不思議ではない。
 ただでさえ金もなく半裸でいるのだ。
 まさか敵とは借金取りでは無いだろうか。
 
老人「坊やがもっと大きければ きっと父の助けをできただろうにのう……」

 ふざけるな。1Gたりとも働かない親父のために工房の金を渡したくは無い。
 戦闘しか脳が無いのに、小動物を倒した跡に現れるGですら自分で拾わないんだぞ。
 
 思慮深い人間なら、まだ「戦いを頑張った褒美」として、子供の自分にお小遣いとして渡しているとも思うが、脳筋の親父にそれはない。
 やつは本気で小動物の狩りにおける労働を拒否しているのだ。
 なぜならば、勇者発見による一攫千金にしか興味が無いのだから。
 
 
商人「へえ 坊やの 父さんは パパスさんと いうのか……。そういえば昔 どこかの国に パパスという国王がいたなあ」
 
 不幸そうな国だ。
 
 
戦士「「近頃 村に変なヤツが来ていろいろとかぎまわってるようなのだ。パパスさんが何者かにねらわれてるってウワサも聞くし……」
 
 やはり借金取りか。
 
 
武器屋「さいきん村におかしなことが おこるんだ」

 おかしいのはたけのやりを50Gで売っているお前の頭だ。
 
 
 
 そんな意味の無い会話にて交流を深めていると、この村においてありえないであろう、知的で気品の溢れた精悍な好青年が、教会の前に立っていた。
 
 青紫のターバン、マントに白地の外套といった、ありふれた姿だが、そこにやどる荘厳なオーラは、まさに王者の資質。
 
 
 そんな青年が、服の袂から何か光る玉を落とした。
 
 
 何かを感じ取った俺はそれを拾うと――ゴールドオーブを手に入れた!――、ちょうどそのタイミングで青年が振り返り俺を見る
 
 
 青年はにこやかに微笑みながら近づき、
 
 
「うん? 坊やはステキな宝石を持っているな。その宝石をちょっと見せてくれないか?」


 貴様の落としたものだろうが。
 
 
 やはりただのアホなのかと、自分の感じ取ったものに恥じようとしたが――
 
 
 
 ――違う!
 
 
 
  はい
 →いいえ
 
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用してほしいな」

  はい
 →いいえ
 
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用してほしいな」

  はい
 →いいえ
 
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用してほしいな」

  はい
 →いいえ
 
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用して……」


 俺は、決して阿呆になったのではない。
 そして、この目の前の青年も、だ。

 彼の目を見て、すぐにわかった。
 
 青年の、心の底からこの瞬間を楽しみ、少しでも長く味わおうとする、その覚悟と喜びを。
 
 
 それは、俺が始めてホイミを覚え、喜びのあまりに無駄にホイミを唱え続けた、あの時。
 あのときの感動と同じくらいの喜びを、この青年は感じているに違いないのだ。
 
 理由はわからない。
 
 だが、俺には、俺だけには――それがわかるのだ。
 ならば、それに応えなければなるまい。

 俺は、何度も何度も「いいえ」を繰り返した。
 
 それが、目の前の青年の望みであることを知っているから。
 それが、きっと自分の大切な何かを満たしてくれると思えるから。
 
 
 だが――それでも、つかの間の幸福には、終焉がやってくる。
 
 
 儚き幻想の如くの幸福は、終わるからこそ素晴らしい思い出になるのだから。
 
 青年も、わかったのだろう。
 これが、最後の問いかけになる、と、
 
「アハハ……。べつに盗むつもりはないよ。信用して……っくっ……ほしいな……」
 
 →はい
  いいえ
  
  終わりが、訪れる。
  
  
――ゴールドオーブを手渡した!――
  
「本当にきれいな宝石だね。はい、ありがとう」

――ゴールドオーブを手に入れた!――
  
  

 青年が、すがすがしい笑顔でそういった。
 このやり取りに、何の意味があったのか、それは俺にはわからない。
 
 だが、きっとこれは、必要なことなのだ。
 俺と、彼にとって。
 
 ゴールドオーブというらしいソレを、俺がしまうと、彼は満足そうに頷いてこういった。
 
 
「坊や。お父さんを大切にしてあげるんだよ」


 絶対にノウ!
 
 っと叫びたいところだが、頷く。
 
 脳筋ニートは脳筋ニートでも親父である。
 戦いだけ、戦いだけ(大事なことなので二回心で思いました)は尊敬ができるし、なんだかんだで俺を愛してくれて入るのだろう。
 多分。
 

 大丈夫、痴呆になったらピザデブが介護してくれるから。
 もともと、今が痴呆な様なものだけど。
 
 その為にも。
 親父を俺が直接面倒見ないでも住むようにするためにも、今のうちにお金を貯めなければならないのだ。
 
 
 
 俺は、青年との出会いと別れを、決して忘れるまいと心に誓い――
 そして、まだ見ぬ未来に向けて、新たなる一歩を踏み出し、新たなる金策を模索するのだった。
 
 

 
 ちなみに、まったくの余談ではあるが、レヌール城のおばけ騒動が、謎の旅人によって解決されたという噂が、後日アルカパとサンタローズにて話題になっていた。
 オバケの親分らしいのが、「開幕バギクロスとかねーよ」とか呟きながら、アルカパの酒場で飲んだくれていたらしい。

 第二部 完



[30341] 第三部 街角のメロディ ~Melody in an Ancient Town~
Name: やさぐれ武士◆1ec196c2 ID:b5bb7170
Date: 2011/11/02 02:14
どうも村中で悪戯が横行しているようだ。

初めは大人たちが次々と物忘れをしていく集団痴呆かとびびっていたが、さすがにアホだらけのこの村でもそれはない。
と信じたい。

とりあえず自分に影響が無いうちは放置しようと判断し、俺はこの村で唯一アダルティーな娯楽施設である酒場へと向う。

さすがに酒の注文をするわけにはいかないが、俺の目当てはそんなことではない。
カウンターごしに壁に張られている、ポスターだ。

ポートセルミという街のベリーダンサーズの姿絵である。

インモラルな酒場にふさわしい……というほどでもないが、豊満な胸をアピールし、ふとももと尻のバランスが素晴らしい、健康的なエロスに溢れた、なかなかのポスターだ。

俺はまだ若輩の身ゆえ、股間の紳士が雄雄しく勇ましく華麗にいきり立つことはないが、その女体の神秘を余さず伝えんとするポスターに、心が沸き立つ。
俺は腕組をして、うんうんと頷き、芸術の奥深さを堪能したのだ。


なぜか、がたん、と目の前のカウンター台から音が鳴り、パタパタと何かがかけていくような音が聞こえた。

……まあ、古い酒場だ。家が軋んだんだろう。

プックルが音の鳴るほうへ首をむけ、にゃーんと鳴いていた。


散歩を終えた俺は、家に戻り、工房である地下室に向う。
今日は休養日と決めているので、たけのやり製作をするわけではない。

単純に、暗くじめじめした地下室は、俺の憩いの場なのだ。

特に中央で寝ッ転がるのが最高だ。
おれはプックルを携え、とてとてと歩き――何かに躓いた。

……なんということだ。
目には見えないが、階段のようなものがある。


ためしに足を伸ばしてみれば、ちゃんと空中に浮くではないか。


――面白い。


これは好事家に売れるかもしれない。
動かせないなら、見世物にできるかもしれない。

なんにせよ、強度やどこまでいけるか試さなければ。

俺はプックルと共に、颯爽とその階段?を登っていく――





気づけば俺は森の中を切り開いたような謎の村に居た。
そして目の前には、耳がとんがった女の子。


「来てくれたのねっ。 さあ、ポワンさまに会って!」


誰だキサマ。
俺はお前など知らん。

この子もアホの子なのだろうか。

よくはわからないが、ぽわ~んという人に会わせたいらしい。
名前からしてアホっぽいのが非常に気になるところだ。

さま、というからにはそれなりの人物なのだろう。
人脈は時として貴金属などとは比べ物にならない価値を生む。

俺は人脈作りを惜しむつもりは無いので、中央に居るというぽわ~んに会いに行くことにした。

「ポワンさま おおせのとおり 人間族の戦士を 連れてまいりました」
「まあ なんて かわいい 戦士さまですこと」


なぜか戦士として紹介された俺。

俺の職業は「パパスのむすこ」なのだが、細かいことは気にしてはダメなのだろう。

俺は何も言っていないが、ベラベラと説明をしてくるぽわ~ん。

なんでも、「春風のフルート」というものが盗まれてしまい、それを探して取り戻してほしいというのだ。
それがないと、世界に春が訪れないらしい。


恐ろしい。


情報を纏めれば、地上の季節はこいつらに牛耳られているということだ。
その気になれば、簡単に氷河の世界を作り出し、世界を死へと導くことができる。

御伽噺に出てくる魔王でもまず無理だろう。
奴らはせいぜい、灼熱の炎や輝く息を吐く程度だ。
そんなものは、高価な装備、アイテム、鍛えられた体など、条件はあるにしろ、いくらでも対処方法がある。
無名の兵士だって、鍛えさえすればなんとかなるはずだ。

世界中を極寒の世界に陥れるほうが、恐ろしい力に決まっている。

そしてもっと恐ろしいのは、コイツラは自分ではできずに「春風のフルート」という制御装置に頼りながら、それをろくに管理していないという頭の緩さだ。

危機管理能力のなさに涙と怒りが俺から出てくる。

一刻も早く制御装置を取り戻し、俺が管理する必要がある。


 とはいえ、情報がないことには、探しようが無い。
 何か無いのかとぽわ~んをじっと見たが、
「あなたが 無事にフルートをとりもどせるよう祈っていますわ」
 と、ぽわ~んと抜けたことしか言ってこない。
 
 これは素で言ってるのか、それとも何も情報を持ってない無能さをごまかしているのか。
 
 俺は泣く泣く村の人と出会い、向こうから何か言ってくるのを待つ作業に入る。
 だが、そもそも村の住人が知っているのなら、それはとっくにこの国のお偉いさんに伝わってるはずだ。
 期待はできないが、今はそれしかしようがない。
 
 
スライム「ポワンさまは 本当に やさしい方だよ」

アホだけどな。


妖精A「ポワンさまも考えが 甘いのよ。妖精も人間も怪物ですらみんなで仲よくくらそうだなんて……。だからフルートを 盗まれたりするんだわ」

いや、ただアホだからだ。お前も含めて。

甘さは関係ない。
アホな妖精より賢い怪物のほうがマシに決まってる。


妖精B「わたし知ってるよ。フルートを盗んだ悪者は北のほうににげていったって」

妖精C「フルートをうばった盗はなんでも氷の館に逃げこんだそうよ」


何 故 そ れ を ぽわ~ん に 報 告 し な い 。


ダメだ。
ここもアホばかりだ。



泣きたくなるのを堪えながら、俺は妖精の村の家捜しを入念に行う。

少しでも報酬を貰わないとやってられない。

聖水と命の木の実を手に入れて、俺はとりあえず店でプックル含め最強の武器防具を買って装備した。



妖精D「「私たち妖精には 剣をふる力はありません」

そうか。



そんな妖精の国で、どうのつるぎ売ってたぞ、そこのアホな万屋は。




氷の館は、鍵のかかった扉で閉ざされている、とのことで、鍵を開けるためには、とあるドワーフの編み出したという『カギの技法』が必要となるらしい。

たいそうな名前だが、おそらくはただのピッキングのことだろう。

そのドワーフとは仲良くなれそうな気がする。

洞窟に向う途中、ベラと、会話という名の視線あわせを行うと、
「あなたって 無口なのね」
とか言ってきて殺意が沸いた。

「フルートを 取りもどすなんて、私たちだけでできるかしら。あなたはとっても小さいし…」

少なくともお前達アホ妖精よりはマシだ。




さて、洞窟でそのドワーフに実際にあってみると、なんでも養い子のザイルという子供が、勘違いと逆恨みで春風のフルートを盗んだとのことだ。

アホだ。

ザイルが、ではない。
子供なのだから、いろいろと思慮が浅く先走ることはあるだろう。


真にアホなのは、子供に盗まれるような管理をしている妖精たちだ。

本気で俺が管理すべきだと想う。


「妖精の村から来たお方よ。おわびといってはなんだがカギの技法をさずけよう」

わびるならぽわ~んにだと想うが、もらえるものは貰う主義だ。
さあ、その技法を教えてくれ

「カギの技法はこの洞くつ深く宝箱のなかに封印した」

いや、「今」教えようよ。宝箱にあるならどうせ勝手に撮るだけなんだから。

というか、『封印』したいなら胸に秘めようよ。
なんなの。アホなの。


がんとして譲らないドワーフを睨みつけつつ、洞窟の奥に進み、俺は無事、カギの技法を習得した。
途中で変なおっさんが居て
「へへへあんたもカギの技法をさがしにきたな? でもオレさまが先にいただくぜっ!」
とか言っていたが、こんな簡単な洞窟で今まで見つけられなかったあたり、かなりレベルの高いアホなのだろう。



その後、氷の館でザイルを懲らしめると、雪の女王とかいう妖怪婆が出てきた。

「ククククク……。やはり子供をたぶらかせてという私の考えは甘いみたいでしたね」


いや、フルートが奪えた時点で大成功だったと思いますが。

正直、アホではなさそうなだけで、今までこの国で出会った誰よりも好感が持てます。

しかし、悲しいかな。
しゃべれない俺は、交渉をこういうときにうまく行うことができず、結局、肉体言語で語り合うことになる。


結論から言えば、金に物を言わせてそろえた、完全フル装備且つ薬草大量所持の俺たちの敵ではなかった。
大量のたけのやりをベラのギラで燃やして投げつける爆竹戦法では

「グググググ……! ああ身体が熱い……ぐはあっ!」

とか雪の女王マジ涙目。
泣きながら逃げていった。

討伐後、ザイルが
「なんだ雪の女王さまって 悪い魔物だったんだっ!オレだまされてたみたいだなあ……」
とかのたまった。

うん、反省は良いことですね。


「うわーっ まずい!じいちゃんにしかられるぞ!帰らなくっちゃっ!」


いや、お前そんな小言レベルじゃなくて、大罪犯してるから。
そんなんですむわけが無いでしょ?
あれ、ベラなんでスルーなの?

「あっそうだ!春風のフルートならそこの宝箱に入ってるはずだぜ!」

さすが雪の女王。
この制御装置の重要性を理解し、ちゃんと自分で監視・管理していたらしい。

俺がダメなら、いっそ貴方に管理を任せたほうがいいんじゃないかと思う。


「持っていくの忘れるなよ!じゃあな!」

ベラ、あいつ帰っちゃうよ?いいの?


ぽわ~ん「「まあ!これはまさしくはるかぜのフルート!」


いいらしいです。



結局、いつか困ったら力になる、とだけ口約束がされ、俺は無報酬のまま強制送還された。

いつか、今回の報酬のカタに、あの村をレジャー地にして売り出してやる、とかたく誓う俺なのだった。

絶対に許さない。
絶対にだ。


第三部 完



[30341] 第四部 王宮のトランペット 前編 ~Castle Trumpete -Ⅰ~
Name: やさぐれ武士◆1ec196c2 ID:b5bb7170
Date: 2011/11/03 02:08
サンタローズに戻ってきた。


「や!坊っちゃん! 今までどこにっ!?」


アホの村です。
唯一の常識人のピザデブに、俺の憤りを言葉で伝えられないのが悔しい。

さて、ピザデブ曰く、親父はラインハットの城から使いが来て、出かけることになったらしい。
城からの呼び出しで出頭とか、何をやらかしたのだろうか。

だとしたら、どうせろくでもないことに違いない。

しかし、ピザデブにしろこの村にしろそうだが、親父には不思議と人脈があり顔が広く、様々な身分の人に好かれているのも事実である。
この大陸まで来たのも、豪族、大商人、ベテランの船長などといった人物を頼ってのことだ。

もしかしたら、また妙な縁をラインハットの城の重鎮と持っているのかもしれない。


「坊っちゃんも連れて行くつもりで ずいぶんさがしたんですが……」


考える。

確かに、厄介ごとの可能性もあるが、親父の人脈は決して侮れない。
連行ではなく呼び出しである以上、とくに害意があってのことではあるまい。

ならここは、俺の人脈形成の為、ついていったほうが良いと思われる。

安寧にたけのやり工房で貯蓄もいいが、チャンスというのは常に一瞬のことだ。
目に見えたリスクが無い限り、自らの行動で掴み取らない限り、成長と栄光はないのである。

俺は頷いて、親父を探すことにする。


「おや?坊っちゃん ちょっとお待ちください。ポケットから何か……」


それは、報酬はベラに貰った一本の桜の枝。

これが妖精の国のものと証明できるなら、きっとすごい価値になるのだろうが、どうみてもただの桜の枝である。
ピザデブが部屋に飾ろうかと聞いてきたので、頷いておいた。



教会で、親父は祈祷をしていた。

この邪教は、信者が旅の途中で行き倒れた死体を見つけると街へと運び、死体をあさって所持していた現金の半分を寄付として奪った上で、蘇生呪文で生き返らせて恩を着せる、というなかなか頭のいい運営を行っている。
死体のまま放置されれば、持ち物含め全て動物に食われたり、他の旅人に持ち物全て奪われることになるのだから、生き返らせてもらった立場からすれば、文句も言えない。

また、たとえ死体の所持金が1Gであろうとも、その営業方針を貫くあたりは、彼等は物事の落としどころ、人の心理を理解しているといえよう。
これが「所持金100G以下なら生き返らせない」ということであれば、いろいろと反感も買ったり、宗教としての認知にも問題がでるだろうが、良くも悪くも、彼等は貧富に問わずそのやり方を貫くのだ。

生き返らせるのを一人にして、仲間の蘇生には寄付を募るあたりの抜け目のなさが素晴らしいと思う。

組織力があってこそ可能なやり方なので、例え俺が蘇生呪文を覚えたとしても模倣は難しいだろうが、こういった様々な知恵は間違いなく俺の糧になることだろう。


「お前も祈っておくといいだろう。父さんは村の入り口で待っているからな」


頷く俺。

信仰心はまったく無いし、ジンクスにあやかるつもりも無いが、畏敬の念は非常に強く、俺は心から尊敬の心を込めて祈った。


シスターが

「パパスさんを呼びつけるなんてラインハット国王もごうまんなひとよねっ。用があるなら自分から来ればいいのに……」

という非常にアホなことを言い出していた。

国王がホイホイ旅をされたら国だって困るだろうに。
そんな国の権威そのものを貶めるようなことをしたら一大事だし、来られたサンタローズにしても余計な面倒ごとを抱え込むことになるだろう。

どうやら、教会の連中も末端までの教育はできていないようだ。

上も苦労しているに違いない。




一通り村の人たちに挨拶をして、村の入り口にいくと、親父が待っていた。

「おお来たか。今度の行き先はラインハットのお城だ。前の船旅とちがってそんなに長い旅にはならないだろう」

知ってる。

前に、レベル上げのためにビアンカと一緒にラインハット領の関まで歩いて行ったから。
城までの道のりは知らないが、「ラインハット領」までであれば旅どころか俺には散歩コースである。


「この旅が終わったら父さんは少し落ち着くつもりだ」


マジか!

俺は目を丸くして親父を見る。
親父は慈愛の瞳で、俺を見ていた。

喜びの余り俺が破願すると、親父も嬉しそうにうんうんと頷いている。


「お前にはいろいろ淋しい思いをさせたが……」


そんなことはたいしたことではない。

親父が落ち着く――つまり、ついに一攫千金の勇者探しと、逃げた母親捜索を諦め、定職につくという決意をしたのだ。

これが、喜ばずに居られるだろうか!





「これからは遊んであげるぞ!」








働けよ。

俺は泣いた。






ラインハットの関所で、兵士に親父がパパスであることをつげると、その兵士は丁重に通してくれた。

どうやら、やはり悪い要件ではないようだ。


途中、景色がいいという見晴台で、川の流れをみることになった。

親父に肩車をしてもらい、その眺めを堪能する。
風流を楽しむ俺にふさわしい、なかなかの眺めである。

親父の肩車も久しく、こういった親子のスキンシップも悪くない。
アホで無職の親父ではあるが、愛されていることは間違いないのだ。

限りなくアホで無職で母親に逃げられた脳筋の親父ではあるが、こんな親父を俺は憎めないし、決して自分を不幸だと思ったことは無い。


「おっといかん!ラインハットに行くんだったな……」


限りなくアホで無職で母親に逃げられた脳筋で方向音痴の親父ではあるが、こんな親父を俺は憎めないし、決して自分を不幸だと思ったことは無い。






前言撤回。



国王への謁見をするというのに、半裸のまま城に乗り込もうとしたアホ親父。

不敬罪で首切りされるかと思ったときはこの男の子に生まれたことを本気で不幸だと思った。



兵士も止めろよ。

半裸だよ半裸。
乳首見えてるんだよ。


国王に見せ付けたいの?



国王もスルーするなよ。


なんなの。
この国は国王レベルでアホなの。


だが今は、そのアホのおかげで切られずにすんだのだ。
もとよりしゃべれないが、余計なツッコミは心の中だけですることにする。



長話となるため、暇つぶしに城の中を見て回ることになった。

本当は親父がこれ以上アホなことをしでかさないか心配だったが、多分本当は、たとえ子供とはいえ余計な事を聞かれたくないのだろう。

俺は空気が読める男である。

なにより、城の重鎮どころか、国王という最高権力者と直接面会、という人脈形成計画において最高の結果を得られたのだ。
ここはこれ以上余計なことをして「素直じゃないガキ」という不名誉な心象を得る前に、素直にお言葉に甘えさせてもらおう。




城を回ると、いろいろなことがわかった。
俺はいつもどおり何もしゃべっていないのだが、誰も彼も、正直これトップシークレットじゃないかと思うようなことまで、ベラベラ教えてくれて、とてもありがたい。








「はるかぜのフルートを取り返してくれてありがとう!」


お前じゃない。黙ってろ。











どうも、王子はデールとヘンリーという母親違いの二人が居て、大人たちが王位継承権についていろいろと噂と願望をもっているようだ。

デールの母親は自分の息子を王にしたいらしい。

正直、特別な理由が無い限り、王などという無駄に権力がある上に無駄に恨みを買うものになりたいなどと思うのは、

①心の底から民のために働きたいと思っている人
②頂点を目指したいというある意味男らしい願望をもっている人
③ただのアホ

のどれかしか居ないと思うのだが。

①②は個人の生き様だと思うので、どうでもいい。

権力が大きいのだから自分の好きにできると思うのは、アホだけだ。
確かに好きなことができるかもしれないが、それは同時に敵を大量に作り出すということである。
いつ寝首をかかれるかわかったものでない毎日。
安眠ができるのは、真性のアホだけである。

もっとも、そのリスクを承知で好き放題するのなら、むしろ好感が持てる俺である。


また、天空の城、ということについても情報があった。

とあるシスターが

「その昔 巨大な城が天空より落ちてきたそうです。そしてそれ以来再び魔物が人間をおそうようになったと言われています」

と教えてくれた。
ふうむ、信じる信じないは別にして、興味深い。

「坊やには信じられますか?」

あったら面白い、という意味で、頷く俺。

「真実は神のみがお知りなのでしょうね」

天空の城があったなら、住んでた人が知ってると思うが。




ヘンリー王子に出会った。

王様の次に偉いのだ。
子分にしてやろうかと言われる。



なんて魅力的な提案なのだ!



俺の人脈形成計画は、今がピークと見て過言では無いだろう。
俺は決してヘンリーの腰ぎんちゃくになるつもりは無い。

そもそも子供のいう「親分」「子分」とは、ようは友達関係なのだ。

ラインハットにおいてなんら責任を持たない立場でありながら、「友達」ということで様々な便宜が通るはずである。

それに、ヘンリーがアホで無いなら、きっと俺の有用さを理解できると思う。
もし、本気でヘンリーが俺を「手下」と見るようなら、こちらから見限るだけだ。

俺は、少し渋った振りをしながら頷くと、弱そうだからやっぱりダメだ、と笑っている。
おそらくは俺はからかわれたのだろう。



……気に入った!



こいつが本当は寂しがり屋で、母親の愛情を得られず拗ねている事は、おおよそわかっている。
本当は友達が欲しいのだ。

しかし、だからといって、どこの誰ともわからない人間を、安易にそばに置いたりしない……王家の者として非常に素晴らしい意識の持ち方だと思える。


こいつは悪ガキだ。

だが、芯の通った悪ガキだ。


悪戯は、どこまでも悪戯であり、決して権威を振りかざしての弱きものへの蹂躙ではない。
それはコイツが意識してのものでは無いかもしれないが、無意識だからこそ、俺はコイツのガキ大将としての素晴らしい資質を感じ取ったのだ。


人脈などを抜きにして、友達になりたい。

そう思った、初めての男だった。




ラインハット王のもとに行くと、どうやら親父はヘンリーのおもりとして雇われることになったらしく、そのことを告げてくる。



素晴らしい!


親父の就職が決まったのだ!
しかも公務員!


やるときはやる男!
それがパパス!半裸の脳筋である。


俺は信じていた。



今日はずっといい事尽くめである。
人生最良の日かもしれない



俺は親父を祝福すべく、さっそくヘンリーのところへ戻ろうとすると、廊下で親父とであった。



「父さんはヘンリー王子のおもりをたのまれたのだ」

うん!知ってる!
さすがパパ、パパス!
明日はホームランだ!


「本当は王子のそばにいたいのだがまいったことにキラわれてしまったらしい」


まあ、脳筋だし仕方ないよね。

でも、きっと慣れればお仕事もうまくいくようになるよ!


「だがお前なら子供どうし友だちになれるかも知れん」


うん! 俺はなる気……だよ…?


「父さんはここで王子が出歩かないよう見張ってるからがんばってみてくれぬか?」






父親から仕事を丸投げされました。







うん……親父に『仕事』を期待した俺がアホだったんだ……



……頑張ろう。

プックルが「がうがう……」と俺の足元をぽんぽん、と叩いてくれた。

俺は今日二度目の涙を流したのだった。



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ストックとかは0.

全てノリと勢いで、
大体1話二、三時間くらいペースで書いてます。
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[30341] 第四部 王宮のトランペット 後編 ~Castle Trumpete -Ⅱ~
Name: やさぐれ武士◆1ec196c2 ID:b5bb7170
Date: 2011/11/04 02:01
子分のしるしをとってくれば、子分=友達にしてやる、といわれて、隣の部屋の宝箱を空けてみる。

何も無い。
部屋に戻ると、ヘンリーが消えていた。


……これは、試されている。

俺が子分としてふさわしい逸材なのか、を!


部屋の外を見てみるが……いない。
親父は暇そうに廊下に立っている。


推理してみよう。

宝ぼこは空っぽだった。
ヘンリーが入れ忘れた可能性もなくは無いが、それでは今の状況とつながらない。

宝箱には何もなかった。
ヘンリーが消えていた。

これを無関係と考えるのはアホだけだろう。

ヘンリーは、先ほどと同じく何かしらの方法で俺をからかおうとしていることは明白である。


それを仮定して、推理を深めよう。

「からかう」のが目的なのだから、このまま消えたままでいるはずがない。
俺が慌てて親父にのところにいった間にひょっこり現れて、俺を馬鹿にするに違いない。

となれば、どこかに隠れた、と考えるのが妥当だ。

宝箱の部屋は俺が居たのだから除外。
廊下は親父が居る以上、発見されるリスクを負うとは考えられない。

ならば、この部屋のどこか、だ。

俺は、しらみつぶしに探してみるが――バカな!
ベッドの下、机の下、隠れられそうな場所を探しても、ヘンリーは居ない。


まさか、俺の推理が外れていたというのか!?
隠れる場所は他には無いはずだ!


こうなっては、やはり親父のところへ行って――




……まて……まだだ……こういうときは――発想を逆転させるんだ!


この部屋には隠れる場所が無い――なら、王子は隠れてはいないとするのだ。

すでにここには居ないとすれば!?



あった――椅子の下に、隠し通路――!







結論から言おう。


親父はやはりアホだった。


階段を下りた先でヘンリーを見つけた後、突然現れた男達にヘンリーは浚われた。
さすがにコレはヘンリーの策略では無いと判断し、親父のところへ行く。

「なにーっ! 王子がさらわれただと!?」


謎の以心伝心で、すぐに状況を理解する親父に、俺は頼もしさを感じずには居られなかった。


「なっ なんとしたことだ!いいか、このことは誰にも言うなよ。さわぎが大きくなるだけだからな……」


謎の思考回路で、すぐに最も最悪な方法論をとる親父に、俺はアホさを感じずには居られなかった。

違うでしょ。
何よりも先に『報告』でしょ!

すでにこれ以上無い大事なのだから、まずは騒ぎを大きくしなくてどうするの。
その上で、必要以上に騒ぎを大きくすべきか、判断するのは国王の役目なのだ。

だいたい、城の中で誘拐があったのなら、城の誰かの手引きがあった可能性が高いでしょ!
多分、城の重鎮で、国王にデールをあてがいたい派の誰かじゃないの?
だとしたら、なおさら早く国王に伝えなきゃでしょ!

「とにかく王子を助け出さないとっ!ついて来い!」

お願い。気づいて!
自分が追いかけるにしろ、通りすがりの兵士に言付けるだけでいいはずなんだから!

しかし親父は、今度は俺のことも忘れて、ぬわー!と城下町の外へと行ってしまった。




……だいたい、どこに浚われたのか、知ってるのかアホ親父。




俺は、とりあえず大きくため息をついて、この街最強の武器防具を買いに行くことにする。


その後は、プックルにヘンリーとさっきの男達の匂いを追ってもらった。
犬系じゃないから無理かと思ったけど、プックルはにゃーんと自信ありげだった。


とある遺跡に着いた。
毒の沼があり、匂いはここで途絶えたらしく、プックルが
「がうがう……」
と悲しそうに泣いた。

だが、ヘンリーがここに居ることは間違いなさそうだ。



遺跡の中の小部屋では、飲んだくれているさっきの男達。

相当酔っているらしく、プックルを連れている俺を魔族と勘違いしている。

アホだとは言うまい。
これは酒のせいなのだから。


「王妃に王子を始末してくれとたのまれたけどよお、殺せと言われたわけじゃないし、王子を奴隷として売ればまた金が入る。
こりゃあ 一石二鳥ってもんだ」


ふむ、なかなか賢い奴らだ。
好感が持てる。


契約はきっちりとすべきであり、言質を取って無い範囲であれば自分に有利に持っていくことは、必然だろう。
もっとも、これは一度きりのビジネス関係だからこそのことではある。
お互いに後ろ暗いことがあるからこそであり、信頼関係が必要なビジネスであれば、誠意が必要になるのだ。


酔っているコイツらを殺すのは、おそらくたいした手間ではないし、最終的には国王に突き出すために捕らえるべきなのだが、万が一、ということも在る。
そもそも奴隷にして売る、ということは、すなわち現時点でヘンリーの無事は保障されたのだ。

ほうっておけばさらに酔いつぶれるだろうし、そのときに安全に息の根を止めるほうがよいと判断する。


先へと進むと、驚いた。


親父が扉の前で動物達と戦っている。



なんということだ。




何故親父はここにたどり着いたのだ。





脳筋恐るべし。
いや……人脈の多い親父である。もしかしたら謎の情報ルートを持っているのかもしれない。
というかそうだとしか思えない。
さすがの親父も、まさか「ぬわー!」という勢いだけでここに到着したわけが無いのだ。

なにしろ、俺にほぼ丸投げしたとはいえ、親父は定職についたのだ。

旅をやめて落ち着こうとしているのだ。

逃げた嫁と伝説の勇者をノン情報で捜し求めていた過去の親父とは違うのだ!!


成長したなあ、親父。



戦闘はあっさりと親父の勝利。
さすがである。
戦闘だけは、本当に戦闘だけは、親父は天才的なのだ。

俺に気づくと、親父は一瞬戸惑いながらも、微笑みながら俺の頭を撫でる。


「お前もずいぶん成長したものだな。父さんはうれしいぞ!」


俺も親父の成長がとても嬉しいです。


「さて、ともかく王子を助けださねば!お前が先にいけ。うしろの守りは父さんが引きうけたぞ!」


親父殿、普通、前衛は前じゃないですか。




ここからは親父無双である。

なにしろ二回攻撃のうえに、戦闘後に毎回俺にホイミ・ベホイミのサービスつきである。
それに気づいたけど、親父MPが減ってない。

なにそれどういうチート。

俺の推測では、あの「パパスのつるぎ」が曲者である。
半裸の上にアイテムを持っていない親父の、唯一の「ユニーク(一品モノ)アイテム」だ。

あれには常時二回攻撃とMP回復の魔法効果がついているに違いない。


どれだけ大枚詰んだんだろうか。
ものすごい借金をしていないことを願う。



奥へと進むと、ヘンリーが牢屋に閉じ込められていた。


当たり前だが、鍵がかかっているらしい。

俺の鍵の技法で開けられるだろうか。
無理なら、一度あの悪党達のところに戻って、鍵の家捜しをするか、拷問でもして奪い取るというのがスマートというものだろう。


「ぬっ! ぬおおおおおおーーーっっ!!」


まさかの脳筋の技法。
親父、今日のアンタは超輝いてる。


ヘンリーは元気そうだ。
まあ、これから奴隷として売るのだから、元気がよくなくては困るだろう。


「ふん!ずいぶん助けに来るのが遅かったじゃないか。まあいいや。どうせオレはお城にもどるつもりはないからな。王位は弟がつぐ。オレはいないほうがいいんだ」


さすがヘンリー、自分の立場をよく理解している。

彼の立場は非常に危うい。
確かに、寂しさから捻くれてそんなことをいってるのもあるだろうが、彼の立場は非常に危うい。

ヘンリーがその優秀さを発揮すれば、確かに彼への後押しも多くなるのだろうが、デール派からの攻撃が熾烈化するのは目に見えている。

ヘンリーには人望があるが、それはあくまで個人個人からの感情であり、デール派は王妃を中心とした列記とした「派閥」……つまりは組織である。

これは恐ろしい。

まとまりのない100よりも、まとまった10が声を上げればそれが多数派になるし、また力も強くなる。

……戦闘だったら別なのだが。
わざわざ1グループとか固まって出てくれる小動物は大好きだ。
最弱小動物のスライムでも100匹がまとまりなく一度に個別で出たら死ぬ。



それはさておき、つまりヘンリーは心情的な見方はたくさんいても、いろいろと協力してくれたとしても、うかつにデール派に対立できるほどの力は無いのだ。

ならば、あらかじめ後継者争いから降りる――ことにしておいて、昼行灯に勤めることは、戦略としては見事であると言えよう。
そもそも、王の座などなくても、牛耳ることは可能なのだから。


対立できるとすれば、それはもう中心的存在である王妃を暗殺するか、現時点の絶対権力者であるラインハット王が自らその権威を発揮し、ヘンリーの王位を絶対的に主張すると共に、現状のヘンリーを諌め、帝王学を学ばせることで、「ヘンリー派」という派閥を作る必要がある。

もちろん、今回のように暗殺といったリスクは高まるが、少なくとも今回のような浚われ方はなかったろう。

だが――ラインハット王も、正直アホの可能性が高い。



そんなことを考えていると、親父がヘンリーを殴っていた。

親父は、ヘンリーに
「王子!あなたは父上のお気持ちを考えたことがあるのか!? 父上は 父上は……」

と怒りと悲しみに溢れた顔で、拳を震わせながら声を詰まらせた。

うつむいて、やるせなさ層に唇を振るわせるヘンリー。


「……」
「……」


二人ともこの空気によっているようだけど、本当はラインハット王がヘンリーの状況を考えなければならんと思う。
ヘンリーが意識的ではないにしろ、自己防衛作をとっていたというのに。


それから俺は、もししゃべれるのならこう言いたい。


「親父!貴方は息子の気持ちを考えたことがあるのか!? 俺は 俺は……」

と。


とまれ、さすがに状況が状況なので、まずは戻ろうと言うことになった。

「さあヘンリー王子!追っ手の来ないうちにここを!」

と、親父は言うけれど、そもそも追っ手なんているのだろうか。
そもそもあの悪党達は酔いつぶれてるし、奴らはこれから奴隷として売ろうとしていたのだし。

追っ手というのはつまり、「現時点で俺たちがヘンリーを助けたことがばれた」から繰るのではないかと思うのだ。


………まさかとは思うが、親父の言う「追っ手」とは、「親父」を追う追っ手ではなかろうか。
……それも借金の。

この世界の商人を舐めてはいけない。親父が定職に点いたことを知り、ついに金の回収ができると追いかけてきた――なんということだ。可能性はあるどころか、ものすごく納得がいく。

「パパスのつるぎ」の借金か、この遺跡への情報料か――。

恐ろしい。


などと俺が悲観していると、本当に追っ手が来たらしい。
親父が先に行け!とか言ってる。
相手にしているのはどうみても小動物たちなのだが、それを遺跡のモンスターではなく「追っ手」と認識している当たり、親父には心当たりが思い切りあるということなのだろう。

なんということだ。


だが考えるのは後だ。
俺は リレミト→キメラのつばさ のコンボで逃げようとした。
しかし、不思議な力でかき消された。







狂ってる。






だが、この世界の無常さは今に始まったことではないので、俺は泣く泣く徒歩で帰ることに。
ヘンリーも黙りきってる当たり、俺のこの世界に対する呪詛と無常さへの悲しみに同調してくれているのだろう。

さすが俺の親分且つ友である。



そして、遺跡の出口の目の前にして――


「ほっほっほっほっ」


借金取りがきました。

親父は向こうです。





――俺とプックルフルボッコとか、いくらうちに借金があるとはいえひどいと思います。




「こっ これはいったい!」

お父様が来てくれました。

「む?お前は!? その姿はどこかで……」


お父様、借金取りです。


「おや?少しは私のことをご存知……ほっほっほっ……ならば……私たち光の教団の……」



金を借りた組織は光の教団とかいうらしいです。、
意識が朦朧として、よくわからないけれど、親父と借金取りが和解のための話し合いをしているようです。


示談は不成立のようでした。


親父が暴れ始めています。
借金取りのペットの馬さんとカバさんに八つ当たりしてるようです。

やめて!治療費とか請求されたらどうするの!これ以上借金を増やさないで!


親父の脳筋っぷりに驚いたのか、俺をつかみあげて何か親父に語っている借金取り。
朦朧とする頭を何とか働かせて、会話を聞くことに集中する。


「……がおしくなければ ぞんぶんに……でもこの子供の…… 永遠に……地獄をさまよう……なるでしょう。ほっほっほっほっ!」


つまり、金を惜しくなければいくらでも暴れろと。でも、そうなると借金はさらにふえ、お前どころか子供(俺)に背負わせて永遠に借金地獄をさまよわせてやる、と。

そういってるようである。

正論過ぎて俺も同意せざるを得ない。



だが――それはないだろう?



借金取りは親父が仕事(ヘンリーのおもり)をすでに失敗していて俺に丸投げ状態で、球菌の見込みが無いと思ったことに憤ったらしく、親父を痛めつけ始めた。

どうやら借金取り――光の教団はただの財閥ではなくマフィアだったらしい。
なんというところから金を借りたのだ!



そして、まさか、あのアホ親父が――脳筋でチートな親父が――



くそ!親父!気づけ!

今ここにいるのは俺たちだけである。
今ここでコイツラを始末してしまえば、証拠なんて残らないということを!


確かに借金をしている俺たちに非はあるが、奴は俺をフルボッコしている。
ならば、俺の治療費を吹っかけてやれば借金はチャラにできなくもない。
ペットの治療費については、プックルの分で相殺だ。

あとはもう心置きなくやられた分をやり返してしまうのだ!

なあに――ここで半殺しにすれば、動物達がぺロリと始末してくれるはずだ。
光の教団とかいうなら、あの邪教に蘇生される必要性は無いよな?

だが――親父は俺の必死のテレパシーに気づかない。
何でこういうときだけダメなのだ!





「これだけは言っておかねば……じつは お前の母さんは まだ生きているはず……」

知ってる。
逃げた母さんを追いかけてることぐらい。


「わしに代わって 必ず母さんを……」

老後の面倒をみろ、ですね。わかります。




そして、マフィアは親父に大きな火球を――


「ぬわーーーーーーー」


一瞬で灰になる親父。
そこには黒い焦げ跡『しか』残っていなかった……



そこから先のことを、俺はよく覚えていない。


ただ、俺は、こんなマフィアに借金をした親父のアホさに僅かなやるせなさを。
たとえウルトラアホでも親父を殺したマフィアに大きな怒りを。
そして、俺の愛するアホ親父と永遠の別れをした悲しみを――。

(親父!……オヤジィィィィィ!!!)

心の中に渦巻く様々な感情に押しつぶされたかのように意識を失っていったのだ――














後日に、

(クソ!ゴールドオーブをうっぱらっておけば、俺の金で借金が返せたかもしれないのに!というかあのチートな親父のつるぎがががががが!!!)

と後悔する俺だったのだ。



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主人公もアホです。

……さすが、王家の血
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[30341] 第五部 大海原へ ~The Ocean~
Name: やさぐれ武士◆606dffd0 ID:03025d48
Date: 2012/01/30 01:50
あれから10年がたった。

俺はアホ親父が作った借金の返済のため、『光の凶弾』という、なかなか痛々しい名前のマフィアンコミュニティに就職している。
住込み、食事つきなのはいいのだが、休みが月一という超絶ブラック企業である。

さすがマフィア。
やることにそつがない。

生かさず殺さずな絶妙の休憩や食事で、俺たちを長く使いつぶす気らしい。
しかしながら、実際借金の返済がどれくらいすんでるのかがわからないのが、精神的に辛い。

国家都市のラインハットの宿屋が一泊6Gだったことを考えると、この仕事の一日の給料は10G~20Gだろうか。
1年で7000G……10年で7万。
これではまだまだあの二回攻撃の妖刀「パパスのつるぎ」は買えないだろう。
最低でも10万ゴールドはするはずである。
しかも7000Gはあくまで予測。あのくそまずい飯代などで雑費が引かれていた場合、あと10年は掛かってしまうのではないだろうか。


正直、ちゃんと返済するから自由にさせて欲しいと思うのだ。

すでに5歳のときから「たけのやり工房」にて1日400Gは稼いでいた俺である。
こんなところでマンパワーとして使うより、よほど効率的に『光の凶弾』への借金返済が行えるし、俺にこの工事現場を管理させてもらえるなら、もっとうまく運営もできると思うのだ。

しかしながら、残念なことに相変わらず俺は言葉が「はい」「いいえ」「呪文」しかしゃべれない。
文字は他の社員の人に教えてもらって読み書きはできるようになったのだが、長年しゃべらないでコミュニケーションをとってきたせいか、筆談はたいてい誤解を生みろくなことにならない。


………いや、ごめん、正直に言う。


俺は字が書けるが…………おそろしく下手だった。

時間をかければなんとか読めるレベルになるんだが、急いで書くとどうしてもミミズ文字になり、読んでもらっても「なにこれ」といわれてしまうのである。
よって、下手に文字でやりとりするより、「にこ」っと笑いかけるだけのほうがよほどうまい具合に物事が進むのだ。
あいても勝手に勘違いしてくれるし。




「こらー! なにをしているっ! さっさと 岩をはこばんかっ!」


あ、今日もお仕事ご苦労様です。


この人は無知男さん。

物事を良く知らないらしく、こんな明らかな左遷場所で働いている。
えらそうだけど、これでも俺の上司である。

よほど光の凶弾には人材がいないらしい。


……しかしながら、俺はこの人がそんなに嫌いではない。


俺は借金のためこんな離島で強制労働中だが、この人たちはちゃんとした光の凶弾のメンバー、社員なのだ。
にもかかわらず、こんな交通の便がほぼゼロといっていい場所で働かされているあたり、涙が思わず流れてしまう。

なにしろここは、高い山々で囲まれた山脈の中心の頂点で、空中からしかやってこれないという、明らかに神殿(本社)としてコンセプトが間違っている現場なのだ。


トップは本当にアホに違いない。

彼は前に夜中に俺たちの宿舎である檻の前で見張りをしていたのだが


「ちくしょう!俺だって帰りてえよ……かぁちゃん、俺なんでこんなとこに入っちゃったかな……」


と絵姿を見ながら泣いていたのを見てしまった。


まあ、名前が「無知男」というからには、故郷ではまっとうに就職ができなかったのかもしれない。

ただ、彼はなんだかんだで面倒見がよく、それに彼の振るう蔦のような指示棒だが、逆らわない限りは決して自分に充ててきたりはしない。
ぴしぱしと音はするが、俺にダメージはないのだ。

俺はしょっちゅう仕事の石運びをサボって、工事現場をうろうろしたりしているのだが、みつかってもいつもどおり
「こらー! なにをしているっ! さっさと 岩をはこばんかっ!」
といわれるだけである。


さらに、実は俺とヘンリーは絶妙の力加減によってほとんど体に負荷をかけず、いかにも力をこめている様な顔でまったく力をこめていないというテクニックを手に入れているため、ほとんど仕事らしい仕事はしてなかったりする。

そのためか、10年もこんな工事現場で働いているというのに、筋力も俊敏さも何も上がっていないという、とても楽な生活を送っている。


その分、他の社員の人が苦労しているようだが、まあそれが世の中というものだろう。



さて、今日も暇つぶしに工事現場を散歩するとしよう。


「よお、おめえか! おめえの親父はこの教団のヤツらに殺されたんだってな」

まあ、半分くらいは借金を返さなかった親父の自業自得ですけどね


「はたらけ! はたらけ! 死ぬまではたらくんだ!」

死ぬ直前までろくに働かなかった親父に言ってあげたいです。


「お水はいかが? 外の世界は魔物がウヨウヨ。でもここは安心よ。それもこれも教祖さまのおちからなのね。」

単にここまでこれる魔物がいないだけだと思う。


「ここの教祖さんは世界を救うというとるそうじゃ。しかしドレイをつかって神殿をつくらせるようではろくなもんじゃねえぞ!」

そりゃマフィアのドンだし、ろくなもんじゃないのは当然だろう。

世界中を自分のシマにするつもりなんだろうし。
そりゃ他のマフィアとの抗争が終わらせれば、多少は世界も救われるかもしれないが、まあこのアホっプリだ。
無理だろう。


「まだ秘密だが 教祖さまは この神殿が完成すれば お前たちドレイを 解放すると おっしゃっているぞ。

この本社が出来上がれば俺たちは解雇されるらしい。


「もちろんわが教団の信者になればという条件つきだが わるい話ではあるまい。」

いえ、ブラックでアホな社長のいる会社はちょっと。



ちょっと足を伸ばして、社員さんたちの休憩所に行って見ます。

「まいった……。 妹のマリアが ドレイに されてしまったのだ……」

あー、社畜ですねわかります。





広場に行ってみると、ヘンリーがサボってた。

「やあ、こんな所で油をうってるとまたムチで打たれるぞ」

無知男さんならプロフェッショナルな寸止めしてくれるので大丈夫です。


「お前の親父には本当に申しわけなかったと思っているよ」

……いやごめんなさい。親父の借金のせいで巻き添え食らったヘンリーには頭が上がりませんから!
さすが親分である。
俺のそんな苦悩をそんな言葉で癒そうとしてくれているのだ。


「お前はきっと親父の最期の言葉を信じて母親をさがしたいんだろうな。」

そうですねー。さすがに老後の面倒は見てあげたいですよ。
あのアホ親父に苦労してただろうし。




「よーし!今日はここまでだ!明日も朝は早いぞ!それぞれ部屋にもどってさっさと休むんだ!」→


そんなことを駄弁ってると、今日のお仕事終了になりました。

今日も何もしてません。

……ああ、ちゃんとしたところで働きたい!







その日、俺は夢を見た。

それは、まだ俺がこのブラック企業で働く前の、旅をしていたころの夢で――



「わっはっは、ぬわー、わっはっは、ぬわー」

相変わらずの半裸で剣を振り回している親父殿
たまに燃えてる。



「ぼっちゃん、ぼっちゃん、ぼっちゃん、ぼっちゃん」

すててこぱんつとおなべのふたをもって迫ってくる、ピザデブ。



「わっはっは、ぬわー、わっはっは、ぬわー」
「ぼっちゃん、ぼっちゃん、ボッチャン?、ぼっ……ちゃん」



ぎゃああああああああああ!!!










「やあ、やっと目がさめたようだな。ずいぶんうなされてたようだけどまたムチでうたれる夢でも見たんだろ」

いえ、ヘンリー。
親父殿とピザデブの相撲です。







さて、宿舎のみんなと挨拶をしようとあたりを見回すと、見慣れない女の子がいました。
近くにいるおばさんと目をあわすと、

「ちょっと聞いておくれよ。そこのマリアちゃんは教団の信者だったのにドレイにされちゃったのよ。なんでも不注意で教祖さまの大事なお皿をわってしまったとかで……」

きっと高い皿だったのだろう。そして借金の返済のためにここにきたのか。

「いいんです私……。最近教祖さまのお考えについていけないところがあったし……」

アホトップだと苦労しますね。




「おらおら!仕事の時間だぞ!さっさといかないとこのムチがとぶぞ!」


今日も石を運んでいるようでまったく力がこめられていない手抜き散歩日和がはっじまっるよー!





今日も今日とてサボり暮らし。

いつもどおり散歩していると、中央の工事現場でなにやら騒動


あれ、朝の女の人が無知男さんに怒られてる。

「オレの足の上に石を落とすとはふてえ女だ!その根性をたたき直してやる!」
「ど… どうか おゆるしください……」

まわりの人は、
「あんなにムチでうたれて……。かわいそうに……」
とか
「むごいのう……。誰かなんとかしてやれんもんじゃろうか……」
とか言ってる。

確かに絵図ら的にみたら、非常に憤慨するようなシーンかもしれない。
だが、ちょっと待って欲しい。

よく思い出して欲しいのだ。
無知男さんの言葉を。


「オレの足の上に石を落とすとはふてえ女だ!」


ここで言う石とはなんだろうか。
決まっている。
俺たちが……うん、ごめん。実際は俺たち以外の人たちが運んでいる「あの石」だ。

というか岩だ。
それを


足 の 上 に 石 を 落 と す 。




そりゃ切れるわ無知男さん。



賠償金を取っていいレベルである。
それを同じ目に合わす、ではなく体罰で許そうというのだから、相変わらずいい人だ。


「おめえはドレイに なったばかりだったなあ。このさいだから自分がドレイだってことを 身にしみてわからせてやる!」

ふと隣を見ると、ヘンリーがあせっている。
いったいどうしたというのか。


彼の視線の先には、あの女の子。
そしてそばに転がる「石」

考えてみよう。


…………あ。

あの子は、アレ持ち「上げて」、「落とした」の?



薀蓄
 伝説のスキル:岩石おとし
  巨大な岩石を放り投げて敵全体に大ダメージを与える。



この世界では使える人は確認されていなかったが(今確認されました)、はるか昔、伝説のバトルマスターが習得したといわれる秘技である。
まさか……彼女こそがその秘技の伝承者だったとは……

なんというパワー。なんというテクニック。
絶対に逆らってはならない。




…………無知男さんがピンチだ!



「オレはもうガマンできないぞ!お前も手を貸せ!」

わかった!
止めないと、あの子に逆襲されて無知男さん死んじゃう!






俺たちの身を挺した説得という肉体言語と呪文のおかげで、ようやく自体は収束した。

そこに、監督官の人がやってきた。

「なんだ、なんだこのさわぎはっ!?」

そこで、俺たちのほうを見る無知男さん。

わかってる。
あの子に逆らったら死ぬ。
岩石落としの乱舞でこの職場がやばいことになる。

俺たちのせいにしたほうがいい。


「はっ!この2人がとつぜんはむかってきて……」


さすがである。

無知男さんは賢い。
彼は、田舎出身のせいで無知なだけなのだ。
俺は、たくさん物事を知っている愚か者より、無知であれど賢い人が好きだ。

「この女は?」

あほおおおおお!
せっかく無知男さんがスルーしてたのに何言い出すの空気読んでよ!

「あっはい。このドレイ女も反抗的だったので……」

さすがに上司にそう聞かれたら答えるしかない、無知男さん。
悲しい中間管理職である。

しかし、監視官さんもその女の子のバトルマスターオーラを感じたのか、治療をするように指示し、俺たちは反省室へと入れられることになったのだ。





反省室。

どう見ても牢屋なのだが、そもそも俺たちの宿舎も牢屋デザインである。
ここに入れられて何を反省しろというのか。

むしろ公認のサボり部屋といえる。

「どうしようもないな。せっかくだからのんびりすることにしようぜ」


さすがヘンリー。事態をよく把握している。
彼はごろんと横になった。

俺はといえば、なんとなく落書き……というか文字の書き取りを壁にすることにした。
少しでも練習して、うまくならないといけないのだ。




しばらく後、さっきの監視員さんがあのバトルマスターっ子を連れてやってきた。

彼女は俺たちにお礼を言ってきたが、警戒せざるを得ない。


「妹のマリアを助けてくれたそうで本当に感謝している。私は兄のヨシュアだ」


妹かよ!ちゃんと手綱は握っててよ!


「お前たちをみこんで たのみがあるのだ。聞いてくれるな?」


→はい


うなずく俺。決して横のバトルっ子が怖かったからではない。
怖かったからじゃないんだぞ?


ヘンリーも、その子が恐ろしいのか、顔を真っ赤にして彼女への警戒を怠っていない。




「じつはこのことはまだウワサなのだが……この神殿が完成すれば秘密を守るためドレイたちを皆殺しにするかも知れないのだ」


やはり、か。
俺がこんなところに来てしまった原因は借金の返済だが、マフィアだし用がなくなればごみのように捨てられる、という可能性も考えてはいた。
ばれたら国の兵士の取締りが入るだろうし。


「そうなれば 当然妹のマリアまでが……!」


殺される対象になるけど、当然そうなれば暴れまくりでマフィア壊滅ですねわかります。


「お願いだ!妹のマリアを連れて逃げてくれ!」











爆弾押し付けやがった。




そこまでして会社守りたいとか、こいつマジ社畜。




だが、冷静に考えれば、これはチャンスだ。

ここを逃げ出したら、この子からも逃げ出せばいいのだ。
それに実際のところ、彼女はバトルマスターではあるが、凶暴というわけでもないみたいだ。
怒らせさえしなければ、すぐに害があるわけじゃないだろう。

……残念なのは、無知男さんとお別れができないことだが、状況が状況だ。

仕方ない。


ヘンリーのほうを見ると、彼も頷いた。



「お前が昔さらわれて来たときの荷物やお金もうしろのタルに入れておいた」


来たときに無知男さんに預けた衣服や物品、お金は、ちゃんと全部管理してくれてたらしい。
さすがである。
もし俺が出世したら、必ずこんなブラック企業ではなく、俺のところで働いてもらいたい。


しかし……タル?


「この水牢はドレイの死体を流す場所で……浮かべてあるタルは 死体を入れるために使うものだ。気味が悪いかもしれんがそのタルに入っていれば たぶん生きたまま出られるだろう。さあ 誰か来ないうちに早くタルの中へ!」



三人入って沈まないってどんなタルだよ。
しかし、まあ、確かにそれくらいしか方法はないのかもしれない。


俺たちの戸惑いをよそに、ヨシュアは俺たちをタルの中に押し込んだ。


タルの外から、鎖をはずす音が聞こえる。






………あわてていて考えが及ばなかったが……ちょっと待って欲しい。





やつはなんと言っていた?








「お前が昔さらわれて来たときの荷物やお金もうしろのタルに入れておいた」

「お前が昔さらわれて来たときの荷物やお金もうしろのタルに入れておいた」

「お前が昔さらわれて来たときの荷物やお金もうしろのタルに入れておいた」









俺が攫われたときのことをよく思い出してみよう。

俺は、「たけのやり工房」によって稼いだお金で、ラインハットで買った最強装備、さらに全体攻撃の予備武器、その他雑貨を大量に持っていた。

つまり、このタルの中には――


やくそう 9
どくけしそう 9
せいすい 9
キメラのつばさ 9
まんげつそう 9


そして何より

てつかぶと 1
てつのたて 1
てつのよろい 1
チェーンクロス 1
ブーメラン 1









………あああああああああああああああ!!!!

ああああああああああああああああああ!!!!

声は出ないけどあああああああああああああ!!





死ぬ!絶対沈む!やめてやめてよして――








『ヨシュアはタルにからめられたクサリのカギをはずし、願いをこめてタルを流れに押しだした!』


そして、ごぼり、というやな音とともに動き出す俺たちのタル。






















助けて!

無知男さあああああああああああああああん!!!!!



[30341] 第六部 聖 ~Saint~
Name: やさぐれ武士◆606dffd0 ID:03025d48
Date: 2012/02/05 00:38
目を覚ますと、シスターのコスプレをした女性が俺の顔を覗き込んでいた。
なんか顔が近い。
頬が高揚しているのは気のせいだろうか。

それになぜか体が動かない。


「…まあよかった!気がつかれましたのね!」


そんなことを言って明らかにあわてているのをごまかそうとしている。

ここは……どこだ?ヨシュア殺す。
俺は助かったのか?ヨシュア殺す。

「もう5日も眠ったままでこのまま起きないのではと心配していましたのよ。しかしタルの中に入っていたのにはびっくりしましたわ。」


5日か。

どうりで腹が減っているわけだ。そして股間の紳士が雄雄しくいきり立っているわけだ。
生理現象なのだから仕方ないだろう。

というかよく沈まなかったなあのタル。
絶対何か不思議な材料でできているに違いない。
あとで回収しよう。

……それはいいのだが目は覚めて体も大丈夫っぽいのだが、先ほどからなぜかまったく動けない。
なにこれ拘束具みたいなの着せられてる。


「そうですわ。その服は あなたが持っていた荷物にはいっていたものです。前の服はあまりにボロボロでしたから 着替えさせてもらいましたのよ」


子供時代に来ていた鉄のよろいと鉄兜ですね。

動けるか。


そもそも疲労困憊で寝入っている人に拘束具を着せるものじゃないでしょ!
なにこのアホシスター。


「ぽっ……」」


そしてなぜ俺の股間の紳士を見る。



とりあえず鉄の鎧の金具を調整して、なんとか着れるようにして、飯を食べることにする。

俺は腹が減っているのだ。



廊下に、ヘンリーがいた


「やあ、やっと気がついたなっ。へえ ちゃんと着替えたのか? そういやお前は荷物を持っていたもんな」


無知男さんがちゃんと取っておいてくれたおかげです。
あの人にはマジ頭が上がらない。


「マリアさんが、この修道院の洗礼式を受けるらしいぞ。お前は目が覚めたばかりでいまいちピンとこないだろうけどまあとにかく出席しようぜ」


親分、俺は腹が減っているだけなんだ。


強引に中央広場に連れて行かれると、ゴリ……マリアが洗礼式を受けている。
どうやら彼女は己のパワーによる犠牲者を出さないためにここでシスターになるのだとか。

いいことだ。

ここは邪教だが、死体回収式お布施徴収により潤っているはず。
その商売センスを学べば、光の凶弾への借金も返せるだろう。
俺たちももし死んでいたら、ここで所持金の半額を取られていたところだ

すでに6万ゴールドほど持っていたから、相当な出費となるところだった。

とりあえず俺は、パンと黒豆のスープと豆の炒め物と豆乳で腹を満たすと、いろんな人に話を聴いてみることにする。
豆と豆と豆で豆がかぶってしまったが、社員寮のあの泥のような飯に比べればまったく問題がない。


おばさん「あたしゃ亭主から逃げてきたんだよ。とんでもない乱暴モノでね」

その亭主が働かない脳筋男なら俺のママンか確認したところだ。


少し贅沢なつくりの部屋に入る

シスター「ここは特別なお客様をお預かりするための部屋です」

なるほど、VIPルームですね。

「ついこの間までお金持ちのおじょうさまが花嫁修業にいらしていたんですが……それはもう心のやさしい美しい娘さんで」

話をまとめると、どうやらここでは花嫁修業として人を預かることでお布施という名の留学料金をもらって、それで運営しているということだ。

一代で成り上がったような金持ちは、名誉や伝統、格式を欲しがる。
それを利用して、「修道院で花嫁修業をした淑女」を作り上げて、嫁として出荷したり、または婿養子を採るわけだ。

なるほど。

これで俺を裸にして着替えさせたあげく股間をみて欲情していたシスターがいた原因もわかってきた。
たとえビッチでもそういう経歴は「作ってしまえばいい」ということか。
なかなかよく考えられているではないか。

好感が持てる。


「その娘さんといいあなたがたがお連れになったマリアさんといいここは人にめぐまれていますね」

金がなければ肉体労働ですねわかります。


さて、その話題のゴリアさんは、さっそく労働にいそしんでいた。


「ああ!やっと気がつかれましたのねっ!本当によかったですわ」


 ありがとう。力はゴリラだが根はいい人なのだ。


「兄の願いを聞き入れ私を連れて逃げてくださってありがとうございました。」


いやいやいや、例はタルに言ってあげて。
そしてそのタルさんに鉄の装備を積み込んだあのアホのことは言うな。


「これは兄からあずかったものですがどうぞお役に立ててください」」


  1000G手に入れた!





アホによろしくお伝えください。







さて、ゴリアさんはここに就職が決まったようだが、俺はいったいどうしよう。

さすがにあのマフィアンコミュニティーが、わざわざコストをかけて死んだ可能性が高いはずの俺たちを捜索に来るとは思えない。

世界がインフレで値上がりでもしていない限り、まず生活は問題ないだろう。
一日10G程度あれば、宿屋に泊まれるわけだし。

とはいえ、根無し草というのは精神的に来るものがある。
なんだかんだで、あのわずかな間でしかなったサンタローズの「家」に、俺はとても安らぎを感じていたのだ。


特にあのじめじめした地下室に。


……よし、決めた。

アホ親父の老後の生活の面倒を「誰か」に見てもらうためにはじめていた金稼ぎだが、今後は俺の老後の生活のために始めることにしよう。
そして最終的な目的は、美人のねーちゃんのヒモとなり、怠惰且つインモラルに、退廃的な生活を送ることだ。


最低限の家事をして、恋人に愛情を注ぐ。

そして働くのは恋人でそのお金で飯を食う。

なんという甘美な状況だろうか。


俺は決して仕事が嫌いではない。
むしろ労働意欲は高いといえる。

もっとはっきり言えば、金儲けは楽しい。


しかし、だからこそ俺は「ヒモ」という立場にあこがれる。

「働く人に養ってもらう」

これが重要なのだ。

借金とコネだけで世界を放浪するような親父の背中を見て育ったからこそ、ここは譲れない。
その借金のせいであんなブラック企業で働くことになった俺だからこそ、譲ってはならないのだ。

俺と恋人の、どっちがお金を持っているとかは関係ない。

だから、いざとなれば、俺が商家を起こしさまざまな地位を得たりとお膳立てを作り上げた上で、実質経営権を恋人に任せてしまってもいいと思ってる。
または、俺がオーナーということを隠して、恋人を自分の商家で雇うという、ということすら考えている。


もはや本末転倒であるかもしれないが、俺はこの道を選ぶと決めたのだ。



そんな決意をしたところで、ヘンリーが声をかけてきた。


「いよいよ旅に出るのか?」


→はい
いいえ
 
「そうだよな。お前には母親をさがすっていう目的があったもんな」












忘れてた。




そういえば、養わなきゃいけない人がもう一人いたんだっけ。
すでにどこかで再婚して悠々自適の生活をしてるかもしれないが、まあ、商売の旅の間に聞いて回ってもいいだろう。


「なあ、どうだろうか?その旅にオレもつき合わせてくれないか?」


おうよ、マブダチ。
信頼できる協力者は、金よりも勝ることを俺は知っている。
というかすでに俺のサクセスストーリーの中にヘンリーは組み込んでる。

彼の立場は厄介ごとを招くかもしれない……が、それは同時にチャンスでもある。
必要があればその立場を使えばいいし、必要がなかったり危険があれば隠していけばいいのだ。

こいつを王にして絶対的なコネを作るのもいいだろう。

頷く俺に、ヘンリーは満足そうに笑う。


そして、教会の人たちやゴリアさんのお見送り。


「やはり行ってしまうのですね。なんでも母をさがす旅とか」

いえ、メインはビジネスです。


「あなたはもう大人です。これからは自分の道を自分で見つけなくてはならないでしょう。」

はい、大人ですね。主に股間が。


そして最後に、ゴリアさんが俺たちに不株価に頭を下げて、

「私はここに残り 多くのドレイの皆さんのために毎日祈ることにしました」









いや、働けよ。


ゴリアさんとはうまくいきそうにない。


俺のパートナー候補から消えた瞬間であった。


ヘンリーが、そんなゴリアさんに最後まで手を振って、そして、俺に向かっていう。

「さあて 行こうぜ!」


俺たちは歩き出す。

まだ見ぬ商談と、未来のパートナーを求めて。







ヘンリーが仲間にくわわった!





……俺は今まで仲間じゃなかったらしい。












後日、タルを持っていくのを忘れてorzする俺である。



[30341] 第七部 カジノ都市 ~Casino~
Name: やさぐれ武士◆606dffd0 ID:03025d48
Date: 2012/02/04 23:57
オラクルベリーという街に着く。

はしゃぐヘンリー。
親分、まずは服を買おうぜ。



この街にはカジノがあるらしく、大きくにぎわっている。

なかなか面白い街で、さまざまな話も聞ける。
町の中央に店を構え、通り抜けを禁止して必ず店の品物を売りつけようとする商人がいたが、あれはよくない。
強制的に売り物を見せるような店では信頼もがた落ちである。
むしろ素直に「通り抜け一回3G」とか言い切ったほうが、割りきりができていいと思う。

商品自体は街の中で最高ランクだっただけに惜しい。



俺たちはこれは金になる場所だと思えるが、俺たちにはまだ基盤となるものがない。

小銭を稼ぐにはいいかもしれないが、まずは俺の知名度や規模を大きくする必要がある。

そのためにも必要なのは、馬車だ。
これをもっているかどうかだけでも、商人としての信頼が変わってくるし、実際に旅には非常に役立つものである。
値段が張ってしまうため、数千、数万ゴールドは覚悟するべきだろう

もん☆すた爺さんという、地下室で暮らしている謎の爺が「魔物を仲間にするために」とかいってたが、俺が目指すのは商人である。サーカスではない。

愛を持って戦えとかすでにわけのわからないことを言っていた。
すでに老人である。痴呆が進んでしまっているのだろう。
俺は空気が読める男である。

さすがに老化が原因であるなら、アホだというべきではない。

俺は生暖かい目で見ながら微笑んで頷いてあげた。


……モンスターより、そこのバニーのような女性を連れ込むテクニックを教えて欲しいのだが。


夜になると掘り出し物があるというオラクル屋。

ヘンリーが
「めずらしい物を 売ってて夜しか 開いてない店……?これは ひょっとするとムフフなものが 手に入るのか?」
と股間の紳士をいきり立たせて騒いでいた。

親分、何を期待している。
艶本か何かだと思ってるのかもしれないが、女が欲しければカジノの裏あたりを探せばいくらでもそういう店があるのだが。
先日こっそりいったから知ってる。


さて、そのオラクル屋にいくと、なんと馬車が売っていた。



「値段は3000G!」

踏む、まだ馬車そのものを見ていないが、値段自体は格安といえる。

「といいたいが負けに負けて300Gでどうだ!」


あきらかな訳アリ物件ですねわかります。


たぶん持ち主が死んだとかもしくはその馬車でひき殺したとか、馬がすでに死にかけとかむしろ元気すぎて危険とかそういうことなのだろう。
他にもいろいろな理由があるかもしれないが、300Gなら「冒険できる」値段だ。
何しろ俺の5歳時点での日収以下である。

例え騙されたとしても、それは俺に新たな「騙し」の知識が得られるということでもある。
その騙し方が見事なら価値があるし、あまりにもひどい、しかも捻りもないような詐欺なら、この店の風潮を広めてつぶすだけだ。
ついでにその馬車が見事なら価値があるし、あまりにもひどい、しかも使い物にならないような駄馬なら、その馬車を解体して、ついでに馬も解体して潰して食料にするだけだ

俺は頷いた。


「よし、商談成立だ!馬車は街の外に出しとくから良い旅をするんだぜ!それはそうとモンスターじいさんにあったか?爺さんに聞けば馬車のうまい使い方をおしえてくれるはずだぜ!」


やつもグルか。









外に出たら立派な馬車が合った。
オラクル屋とすれ違った覚えはないから、やはり、もん☆すた爺さんと組んでいたに違いない。

しかし、馬も恐ろしく立派だ。少し興奮しているようだが……・
なぜこれが300Gなのか謎だ、と思いつつ近づく。

……ふむ、これなら馬刺しにする必要はなさそうだ。
俺に逆らったり攻撃したりしてこなければ。



……でも、旨そうだな……



そう思って馬に微笑んだら、馬は思いっきり「びくり」としておとなしくなったが……気のせいだろうか。


……ていうかよく見たらこいつ、モンスターのラムポーンじゃね?
あれか。
もん☆すた爺さんのところの払い下げなんだろう。

そりゃ値段も安くなるわ。


まあ、食料になるならまったく問題がない。

俺たちはまず、北にある町にに向かうことにする。
愛しいあそこに戻るために。

まずは、なによりも、ただいまって言いたいのだ














愛しの「たけのやり工房」に。


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