公園でおまわりさんに補導されてしまった俺は、家に帰り着くとすぐに母さんから呼び出しを受けた。
どうやら、あのおまわりさんは俺の家にまで連絡を入れてしまったらしい。
「ひろし! ちょっとそこに座りなさい!」
「え、なんで?」
「なんでじゃないでしょう!? あんた、学校サボって補導されるだなんて、何してんのよ!?」
普通に怒られている。
だがしかし、ちょっと待ってくれ。はっきり言うが、今の俺って、転生オリ主としてのあるべき姿なのだろうか。お母さんに怒られるオリ主なんて聞いたことがないぞ。
「母さん、あんたをそんな子に育てた覚えなんてないわよ!?」
「そりゃそうさ、俺は転生オリ主なんだから! 俺だって育てられた覚えなんかないよ!」
本当にもう、ちょっと待ってくれ。はっきり言うが、俺のように怒られているキャラってリリカルなのはの世界観に合ってないだろ。ってか浮いていないだろうか。
「今夜は父さんにも怒ってもらうからね!」
「おかしいだろう! 何で転生オリ主なのにこんなに怒られなくちゃいけないんだよ!」
「さっきから言ってるテンセイナントカって何なのよ!? だいたい、あんたが怒られるようなことするからいけないんでしょうが!」
「ずっりー! 他所の転生オリ主はそんなに怒られてないのに!」
「あっそう! じゃあ他所の子になっちゃえば!?」
「他所の子? …………そうか、それは俺が高町家に居候するフラグか」
なるほど、そういうことか。これは何とも、意外なところから原作介入のチャンスを得たものだ。
“棚から牡丹餅”とはまさにこのこと。これで俺は、“今日から高町”だ。
原作介入のチャンスを手にした俺は、思わず神様に向かって微笑んでいた。
しかし、神様は何も言わないままため息をついて俯いている。何故だ、俺の原作介入が嬉しくないみたいじゃないか。
まあ、何はともあれ、これで俺もオリ主らしくなれるというわけだ。
「怒られてるのに、何をニヤニヤしてるのよ!?」
「母さん、ありがとう! 今日から他所の子になる!」
「なっ…………」
俺は部屋に戻ると、クローゼットの奥にしまってあったボストンバッグを見つけ出して、荷造りを始めた。
さあて、せっかくのチャンスを無駄には出来ないな。
肝心なのはどうやって高町家の一員になるきっかけを得るか,、だ。まあ、これに関しては神様にも一緒に考えてもらうとしよう。
俺の心はまるで遠足に行く子供のようだった。荷造りがこんなにも楽しいとは驚きだ。
「待てよ…………高町家に行くんだったら、木刀とか必要かもな。士郎や恭也と戦うことになりかねんからな」
高町家の男共は戦闘民族だ。なのはの父である士郎と、兄の恭也は剣術御神流を操る強敵。転生オリ主である俺でさえ、少しばかり気合いを入れないといけない程度には手強いはず。
木刀って何処で買えるんだろう?
俺はバッグを肩に下げてから、玄関に向かっていった。
「ひろし、あんた」
「じゃあ母さん、元気でね」
顔を見たら別れが辛くなるかも知れない。特に母さんが。
俺は精一杯の優しさを捧ぐつもりで、あえて後ろを振り返ることなく玄関を出た。
さようなら、俺の家。
「ひろしさーん」
公園の草むらの中、ユーノの様子が窺える位置に身を潜めていた俺は、横で話しかけてくる神様の方を向いた。
「だから、俺のことはセイバと呼べって」
「お母さんに謝ったほうがいいですよー」
「何言ってるんだ。これはチャンスなんだぞ? それを手放す理由なんてないだろう」
もうすぐなのは達の通う小学校は下校時刻になるのではないか。アニメの描写通り、公園にはだんだんと傾いた陽の、オレンジ色の光が掛かり始めていた。
事が起こる前に予習をしておこう。俺は、頭の中にある原作知識を掘り起こした。
なのはと、同級生のすずか、アリサの三人は、塾に向かうため近道としてこの公園を抜けようとする。そして、ユーノが発する念話をキャッチしたなのはは、傷ついたユーノを保護し、槙原動物病院に連れて行くのだ。
ここまでの流れの中で、俺が介入出来る隙を見つけられるかは分からない。しかし、たとえこの場ではそれほど大きな介入を果たせなかったとしても、チャンスはまだあるから大丈夫。
原作通りに行くならば、なのはは今夜、ユーノから魔法の力を授かることとなっているのだから。むしろ、俺が介入する上で最も重要な場面は今夜だと言っても過言ではない。
そうだ、俺が今までユーノに対して何もしなかったのは、なのはがユーノと出会って魔法少女になるきっかけを無くさないため。いくら原作介入がしたいからと言って、なのはが魔法少女にならなければ、俺の求める展開にはならないからだ。
「ねえ、ひろしさんってばぁ」
「くどいぞ、神様。もう少しでなのは達がやって来るはずだから、おとなしく待てって」
その時だった。
「たぶん、こっちの方から!」
夕暮れ時の公園を走ってくる足音と共に、聞き覚えのある子供の声が聞こえてきた。
会ったことがあるわけではない。しかし、俺はこの声が誰なのかを知っている。
聞き間違うはずなどない。俺は、この声の主が紡ぐ物語に介入するため、転生してきたのだから。
ついに来た。
ついに時がやって来たのだ。
「神様!」
「き、来ましたね!」
傷だらけのユーノに近づいていく、学生鞄を背負った女の子。
白いワンピースタイプの制服を揺らし、頭の上のツインテールを跳ねさせ、不安げな視線でユーノを見ながら走ってくる。
満身創痍のユーノが必死に送った救難信号を受け取ったから、彼女はここへやってきた。
そう、彼女の名は。
「あれが……“高町なのは”」
なのはは、ユーノを優しく抱きかかえた。
どうする。
どうする、俺。
何かするべきじゃないのか。
原作主人公が今、俺の目の前にいる。物語の始まりとも言える重要な場面に遭遇している。
ここで俺が何かして、原作に介入するべきじゃないのか。
何をするべきなのだろうか。
「神様、俺は何をしたらいい?」
「ええ! そういうの考えてなかったんですか!?」
「何て言って飛び出したらいいのかな!? 台詞が分からないぞ!」
「台詞なんて決められてるわけないじゃないですか!? あなたは原作キャラじゃないんだし!」
くそ、くそう!
このままでは俺の存在など無いかのように、物語が進んでしまう。
一体どうしたらいい。
その頃、肝心のなのは達はと言うと、ユーノの容態を心配していろいろと意見を出し合っているようだ。
「あっ、見て……動物…………怪我してるみたい」
「う、うん、どうしよう?」
「ど、どうしようって…………とりあえず病院!?」
「獣医さんだよぉ!」
いよいよまずい。
このままでは、このままでは物語が進んでしまう。
三人が焦っている時、俺は別の理由で焦っていた。
刻々とタイムリミットが近づいてくる。
「この近くに獣医さんってあったっけ?」
「ああえっとぉ…………この辺りだと確かぁ…………」
「待って! 家に電話してみる!」
ええい、ここでもたもたしていたら出遅れる!
俺は、意を決して草むらから飛び出した。
「ちょ、ちょっと待たんかぁ!」
「えっ!」
「ひ、ひろしさん! どうするんですか!? どうするんですかぁ!?」
ここで、何が何でも俺の存在をアピールしておかなくてはいけない。
俺が何故ここにいるのかを示さなくてはいけない。
気付け、高町なのは。今、この瞬間の俺とお前の出会いは、今後のなのはシリーズにおいて紡がれる新たな物語の原点となるのだ。
俺は、転生オリ主。
「ま、まき! まきひゃ!」
「まき?」
「槙原動物病院ってのが…………あ、あるんじゃないのかなぁ?」
それだけ言うと、俺の頭は真っ白になっていた。
次に言うべき言葉が出てこない。何を言ったらいいのかも分からずに立ち尽くしている俺の膝は、面白いぐらいに震えていた。
しばらく沈黙が続いた後、すずかが携帯電話を取り出しながら、なのはとアリサに言った。
「とにかく! 槙原動物病院ってのがあるのかどうか、家に電話してみる!」
その言葉を合図にして、なのは達は電話を掛けながら走り去っていった。
三人がいなくなった後も、俺はしばらく動けなかった。
顔がやたらと熱い。緊張のせいもあるだろうが、今の自分を振り返ってみると凄く恥ずかしくなってしまったのだ。
何か出来たのか、俺。
名前は名乗れなかった。印象付けられるような強烈な台詞も吐けなかった。それどころか、緊張し過ぎてなのは達と全然目を合わせなかった。
何やってるんだ、俺。
「…………すずか、結局電話してましたね。原作どおりに」
「うん、そうだね」
「どうしますか?」
「…………そういや、この後確か、アイキャッチが入るんだっけ?」
「ひろしさんの出る幕じゃないですよ」
「あっそ…………」
今出来ることなんて、夜を待つこと以外に無い。
そうして俺と神様は、夜が訪れるのをひたすら待った。
一応周辺地域の地図を確認して、槙原動物病院が何処にあるのかは確認済みだ。この病院の場所が分からなければ意味がないのだから。
しかし、俺達が進められる段取りと言ったら、その程度しかない。
町が夜闇に包まれるまで、それほど時間は掛からなかったはず。だが、何もすることの無い、ただ時が流れるのを待つだけの俺達にとっては、あまりにも退屈な時間だった。
「今更家に帰るわけにもいかねえしなー」
「完璧に家出のノリで出てきちゃいましたからねー」
「腹減ったー。そういや今日は朝飯しか食べてないや」
「お小遣いも充分持ってるわけではないですからねー」
まあ、これも俺が物語の主要人物として原作介入するためだと思えば、まだ耐えられる。
リリカルなのはへの介入をするにあたって、最も物語に密接に関わることが出来るポジションは何処か。それを考えた時、俺は高町家への居候がベストだろうという結論に達した。
そうすれば、原作主人公であるなのはに四六時中張り付いていられるし、必然的に俺も魔法絡みの事件に関われるからだ。
だからというわけではないが、神様が俺をなのはの家族に、せめて同級生にでも転生させなかったことが悔やまれる。本当にこいつ、解ってないんだから。
「あ、ひろしさん。そろそろなのはが槙原動物病院に向かう頃ですよ」
「何!? それじゃあ俺達も移動するか」
ようやく時が来たようだ。
今はおそらく、異世界の住人であるユーノが、魔法の石ジュエルシードの暴走体に襲われようとしているところ。そしてユーノの救難信号を受けたなのはが、槙原動物病院でユーノに魔法の力を授かり、暴走体と対決するという展開が待っているはず。
ここで介入しない手はない。しかも、転生オリ主である俺の反則(チート)能力をお披露目する絶好の機会でもあるわけだ。
何としてでも間に合わなくては。
空腹であることも忘れ、俺は精一杯走り続けた。
全ては原作介入のため。全ては物語を新たなる道へと誘うため。
そうだ、全ては“俺”という主人公のため。
繁華街を抜け、人通りもめっきりと減った住宅地にやって来た俺は、事前に確認しておいた地図を思い出しながら幾つもの曲がり角を抜けた。
相変わらず体力の無い体だ。既に息があがっている。
だが、目標はすぐ目の前。止まれるわけがない。
「ひろしさん! もうすぐです! あの角を曲がれば病院が見えますよ!」
返事をする余裕も無く、俺は前だけを見ていた。
その時、周囲の空気がいつの間にか変わっていることに気付いた。
先程から見ていたはずの光景。誰の姿も見えない、静かで暗い、住宅地。
そのはずなのに。
「何か……違う世界みたいだ」
「ジュエルシードの暴走体がいるんです。分かりますか? なのはが戦う時にも、こんな風になったはずです」
そうだ。ジュエルシードの暴走体と戦う時、まるで町の中から人が消えてしまったみたいに、景色だけを残して他の気配が消え去っていた。“見慣れた未知の世界”が、そこに広がっていた。
「ってことは……」
次に起こる展開を予想していた時、すぐ近くの場所で爆発音にも似た轟音が鳴り響いた。
「ひろしさん! 来ましたよ!」
神様の指差す方を見ると、砂煙が高々と舞い上がる建物の敷地から、小さな小動物を抱えた少女が飛び出してこちらに向かってきた。
高町なのはと、フェレット状態のユーノだ。
どうやら、魔法の力はまだ手にしていないらしい。
「か、神様! どうしたらいい!?」
「だからそういうのは考えといてくださいよ!」
駆けてくるなのは。どうやら彼女は暴走体から逃げることに必死のようで、前方にいる俺を見ているのかどうかも怪しいくらいに緊迫した表情を浮かべていた。
ええい、今はもたもた考えていられるか。
「き、君ぃ!」
「あ、あなたは!?」
「何、何、何をそんなにあわわわてているのかね!?」
後ろで神様が「白々しい……」と呟いた。
「早く逃げてください! 今、あっちから変なオバケみたいなのが!」
「オバケだって!? そいつは大変だ! ああ大変だ! ところで、俺に出来ることはないですか!?」
今、俺ってすごく一生懸命に介入しようとしている。
あれだな、カッコイイ台詞って咄嗟には出てこないんだな。
「無いです! 早く逃げて!」
「本当に無いですか!? なんか、なんか無いですか!?」
今、俺ってすごく鬱陶しいんじゃないのかな。
思わずそんなことを考えてしまうほど、俺はテンパっていた。
「ああ、もうそんなこと言ってる場合じゃあ」
その時、ふと、頭上に嫌な気配を感じ取った。
空が夜闇よりも黒い。アレは、雲なんかじゃない。
揺らめく輪郭を寄せ集めて、そいつは一つの巨躯を形成していった。
出た。ジュエルシードの暴走体。真っ黒な巨大マリモにも見える体の中ほどで、目を二つ真っ赤に光らせているそいつは、俺達を見つけたと思った瞬間、上空から急降下してきた。
「あぶね!」
すぐさま横に飛んで回避すると、暴走体が地面を揺らしながらコンクリートに身を沈めていた。爆風が俺の髪の毛を全て逆立たせるほどにぶつかってきて、思わず尻餅をつく。
怖い。こいつって確か、なのはが最初に倒す敵のはず。それがこんなにおっかない奴だったなんて。
なのは?
「そ、そうだ、なのはは!?」
見渡すと、電柱の影でユーノを抱えたままの彼女が、ユーノから小さくて赤い宝玉を差し出されているところだった。
それはまさしく、俺が望んだ展開。
高町なのはが、レイジングハートを受け取って魔法少女に変身する瞬間だ。
「神様!」
「何ですか!?」
「録画とか出来るか!?」
「無理!」
実に惜しい。魔法少女の変身シーンなんてそうそう見れるものでもないのに。
しかし、そんなやましいことを考えている場合ではない。
なのはがとうとう魔法少女に変身するのだから、俺ももういいだろう。
原作キャラの誰もが持ち得ない、唯一無二の絶対能力。全てを蹂躙する無敵の魔法。
転生オリ主、砕城院聖刃のチート能力。
それを解き放つ時が来た。
「ついに」
そう、ついに。
「ついにこの時が来たか」
それっぽいポーズをとってみた。たぶん要らないんだろうけれど、カッコイイだろうし。
ユーノに教えられるまま、変身の呪文を唱えるなのは。そんな彼女の隣で、俺は同じ呪文を口にした。
――我、使命を受けし者也――
瞼を閉じ、心を澄まし、全身の血流を感じ取るように集中する。
――契約のもと、その力を解き放て――
祈れ。抱いた願いを叶えるために。
覚ませ。眠った力を呼び起こせ。
唱え。魂より囁く、魔法の言葉。
――風は空に、星は天に――
「ひろしさん!」
――そして、不屈の心は…………この胸に!――
見ていろ。
これが転生オリ主、砕城院聖刃の、魔法の力!
――この手に魔法を! セットアァーップ!――
唱え終えたのと同時に、とてつもない力の波が俺の全身を打った。
「うおおおおおおおおおおっ!」
風ではない。熱とも違う。しかし、爽やかで温かい。
そんな力が、桜色の閃光となって俺の。
「お、俺の…………隣から!」
俺にはなんの変化も訪れていなかった。
桜色の魔力は柱となって、なのはの全身からほとばしっていた。
しかし、俺には何も起きていない。
もう一度言う。何も起きていない。
「か、神様!」
「説明しなくちゃと思っていたんですが! ひろしさんには…………魔力がありません!」
「なん……だと…………」
なんか知らんが、ものすごく裏切られた気分だった。
俺は一歩も動けなくなっていて、その場で立ち尽くしてしまった。
「あぶない! 逃げて!」
「…………へ?」
声に反応して振り向くと、そこには魔法陣のシールドを開いた魔導師姿のなのはが、暴走体の攻撃から俺を助けてくれている姿があった。
これが、魔法の力。
すごく羨ましかった。
「ひろしさん! ここはもう退きましょう!」
その言葉を聞いて、少しだけ我に帰ることが出来た。
と言うより、湧き起こる怒りを思い出したみたいな。
「ば……ばかやろう! ここまできて退けるか! 大体なんで俺に魔力がないんだよ!?」
「最初に説明しようとしたんですけど、すみません! あの…………すみません!」
「なに謝ってるんだよぉ! くそぉっ!」
「でも! 一応原作とは違う展開になってるでしょ!?」
「だからってこれじゃあ、エンドロールで『襲われる少年』くらいにしか名前付かねえよ!」
これじゃあ俺があまりにも哀れだ。
ふざけるな。こんなんで原作介入とか、情けなくて仕方が無い。
ジュエルシードの封印呪文だってちゃんと考えていたのに。
ちくしょう。
そんなことを考えていると、俺の苦悩なんかに気付くことも無く、なのはとユーノが物語を進めていた。
「心を澄ませて。心の中に、あなたの呪文が浮かぶはずです」
ユーノがそう言っているのを聞いた。
その台詞が出てきたってことは、まさにこれからなのはが、暴走するジュエルシードを封印しようとしているところじゃないか。
俺の、俺の役目だと思っていたのにぃ!
「くそう!」
「ひろしさん! まだチャンスはありますから! 退きましょう!」
「駄目だ! せめて……せめて呪文を唱えるだけでも一緒に!」
俺となのはの方向に、暴走体が突っ込んできた。
そして、なのはが魔法の杖、レイジングハートを構える。
封印魔法、発動の合図。
よし、行くぞ。俺の考えたワードを付け足して、一緒に封印しよう!
「リリカル……マジカル…………」
「ポテンシャルゥ!」
次の瞬間、レイジングハートから放たれた光が暴走体を捕らえると、暴走体は苦しそうな呻き声を上げながら徐々にその体を消滅させていった。
この後、高町なのはは転がるジュエルシードを回収し、ユーノと共に家に戻っていくはず。
しかし、俺は何故だか、これ以上彼女の側にいるのが辛くなった。だから、なのはが初めての封印をこなしている最中に走り出した。
疲れも忘れたまま随分と走ってきた時、後ろから神様が言った。
「あの…………リリカル、マジカル、ポテンシャルって」
「うるせえ! 俺だって……俺だって魔法が使いたかったんだから! 別に呪文くらい一緒にいいだろうがよ!」
酷く凹んだ夜だ。魔法は使えないし。高町家に居候という計画どころか、原作介入すらまともに出来なかったし。それに、お腹が空いた。
「俺だって、俺だって魔法が使いたかったんだもん」
「…………おうち、帰りましょうか?」
「…………うん」
その後、俺は父さんと母さんの待つ家に戻り、こっぴどく叱られた。
でもその後で出された晩御飯の温かさに、「転生先の家族もいいもんだ」としみじみ思ったりした。
See you next time.