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[30797] 【ネタ】凄腕ハンター千雨【ネギま×MHP3】
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2012/03/15 14:14
千雨チートSSを書きたくなったので本能の赴くまま書いたものです。
無論チート成分を含んでおりますので、嫌いな方はクエストリタイアしてください。

P3限定なのはそれしかプレイしてないため。
超の目的が大幅変更になりそうです。



[30797] 第1クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/08 00:00
 霊峰。ユクモ地方の渓流奥地に存在するその場所に、千雨という一人のハンターが立っていた。
 空は相変わらず青く晴れていて、心地よい風が千雨の髪を揺らしている。今日は珍しく雲一つ見つけられなかった。
「やっぱり、見間違いだったんじゃニャいかニャ?」
 隣で双眼鏡を覗き込んでいた相棒の言葉に同意する。
「だろうな。そもそもアマツマガツチみたいなのが何匹もいたら、ここら一帯に人間なんか住めないだろ」
 ギルドで聞いた、空を飛ぶ古龍らしき影の目撃情報。その確認をする為に千雨達は三日も前からこの場所でそれらしき存在を探していた。
「だったら、ニャんで千雨はここから動かニャいニャ? もともとは一泊くらい調査するだけの予定だったニャ」
 ジト目でこちらを見る相棒。千雨はそちらを見ることなく答える。
「見られてんだよ。アマツマガツチじゃねーな。ヤバそうな奴がずっとこっちを観察してやがる」
「ど、どっちニャ!?」
 慌てて相棒が双眼鏡を構える。千雨はスッと前方を指さす。
「向こうの姿は確認できない。気が付いたのは、まあ勘だ」
「うー……。千雨の勘って当たりすぎるから怖いニャ。逃げ隠れたナルガクルガ一発で見つけるし。小っちゃい頃はかくれんぼで負けっぱなしだったニャ……」
 千雨はぶつぶつ呟く相棒を気にせず、くるりと踵を返してベースキャンプに戻る。
「あれ、何をするニャ?」
「予備の食糧も無くなるしな、ここはひとまず――」
 千雨はささっと荷物をまとめて背負う。
「――帰る。お前も荷物まとめろよ」
「でもあっちにいるヤバそうなのはどうするニャ?」
「一応誘ってみたけど反応しないし、遠すぎて何もできねーよ。まあ、ギルドに報告するけどな」
 とはいっても千雨の勘が正しければ、相手はアマツマガツチ以上。そしてこの近辺で古龍討伐経験のあるハンターは千雨達だけ。何か起きるとするなら必ず千雨達が動くことになる。
 古龍撃退経験のあるモガの村の英雄や、峯山龍狩りで知り合った凄腕のハンター達に連絡を入れるべきか。あるいは別の大陸とやらから人材を集めて貰う必要があるかもしれない。
「あれ、アルバトリオンとやらなのかなあ」
 いるかどうかも分からない古龍の名前を出してみたが、どうにもしっくりこない。未知の古龍だろうか。あるいは……。
「神様、かも」
 直後、世界がいきなり変わった。
 空は昏くなり、風は生ぬるく頬を撫でた。アマツマガツチすら遠く及ばない、絶対的な何かが完全にこちらを捉えている。
「……それでも目視出来ねー」
「千雨、完璧ヤバいニャ」
「わーってる」
 愛用の王牙刀【伏雷】を抜き放ち、構える。相手は斬れるかどうかも分からないが、気持ちで負けるつもりはない。斬ると自分の中で決める。
「ッ! 来る!」
 勘が危険を訴える。相棒を掴み、大きく跳躍し、思い出したように太刀を振るう。切っ先が何かに掠った気がした。
「――――!」
 激震。空中にできるはずがない亀裂が生まれた。中は闇より黒く、亀裂は千雨達の落下先にも伸びて来る。
 落ちる。そう理解した千雨は、相棒だけでも逃がそうと、彼を掴んだ腕を振りかぶり、見た。
 彼は逆に千雨を投げようと、その小さな体を必死に動かしていた。
「――――!!」
 千雨は相棒の名を叫び、投げる。
 しかし、我を忘れた時間が長く、二人は空中の裂け目に落ちた後。
 投げられた彼の体はわずかに裂け目から出て、また入る。
 千雨は最後まで彼女の腕を掴む小さな手を離さそうとしなかった相棒を見て、泣いた。
 幼いころから一緒だった相棒を助けられなかった。悔しさで頭がどうにかなりそうだった。彼の小さな体に手を伸ばし、思う。
(――死にたくねえっ!――)



 長谷川千雨は、駅のホームで電車を待っていた。今日から新学期。中学三年生となる。
 あと一年もあの子供先生が担任だと思うと、憂鬱になる。深くため息をついて、周りの生徒たちから怪訝な目を向けられる。
 電車が駅に進入することを告げるアナウンスが流れる。
「ん?」
 誰かに呼ばれた、様な気がした。後ろを振り向いたが、誰も呼んではいなかった。ストレスで頭がいかれたのだろうかと、また憂鬱になった。
 電車がやってきたのが見えたので、前を向いたら、急に姿勢が崩れた。
「あ?」
 体が落ちる。電車の運転手が慌てているのが見えた。落下地点はおそらくレールの上。減速しているとはいえ、車輪に巻き込まれたら死ぬだろう。
 走馬灯のように思い出が脳裏を駆け巡る。悲鳴が聞こえた。五月蝿い、死にそうなのはこっちだ。
(――死にたくねえっ!――)





 視界が急にクリアになる。手に持っているのは記憶に無い愛刀と見覚えの無い相棒。太刀は捨てても問題ないが、猫の様なおかしな生物は手放せない。
 彼を抱え込むように腕を動かした。体勢が変わったおかげで脚が巨大な塊の方向を向く。好都合だ。そのまま電車を蹴って、跳躍。
 とっさの回避行動は成功し、ようやく止まった電車から離れたレールの上に着地する。
 周囲がどよめく。
「君! 大丈夫かい!?」
 駅員の叫び声が聞こえる。返事をしようとして、自分が何と何を両手に持っているか思い出す。どちらも調べられたら拙い。
「ごめんなさいっ!」
 脱兎のごとく走り出す。幸い、追いつかれることなく逃げ切れた。



「はー、はー、はー。くそ、この距離は、強走薬、無いと、キツイな。はー」
 ようやく人がいないところに来れたので、手に持っていた相棒を下ろして座り込む。
 相棒のお腹が、膨らんで、元に戻ったのを確認できた。
「……よかった。生きてた」
 涙がこみ上げてくる。あのわけのわからない現象から帰還できたことを、泣いて喜んだ。
 ひとしきり泣いた後、ふと気が付く。
 二つの人生を歩んだ記憶がある。
 一つは、この平和な日本で生まれ育った女子中学生の千雨の記憶。
 一つは、ユクモ村に住んでいる超一流のハンターである千雨の記憶。
 服装は、女子中学生の物。体は、ハンターの物。精神は、よく分からない。
「なんだよこれ、異世界トリップに分類していいのか?」
 千雨の疑問に答える者はいなかった。



[30797] 第2クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/08 11:58
 千雨は幼いころに両親を亡くしている。あまりに幼すぎて両親の顔どころか、住む村がティガレックスに襲われて壊滅し、一人だけ生き残った事さえ覚えていない。
 気が付いた時には育ての親のハンターと、彼が雇ったオトモアイルーのマッコリと三人で各地を旅して生活していた。
 育ての親のハンターは酷く酔っ払うと、千雨の村の人々を助けられなかったことを延々謝り続けるので、あまり酒を飲ませないようにするのは苦労した。
 マッコリはよく千雨の遊び相手になってくれた。おかしな名前は雇い主が付けたものだが、マッコリ自身はその名前を気に入っていた。
 転機が訪れたのは千雨が八歳になるころだったか。育ての親がティガレックスに殺された。
 当時滞在していた村の者は、千雨を引き取って育てようとしてくれたが、断ってハンターとして生きることを決めた。
 復讐、という気持ちがなかったかと思えば嘘になる。だが、ギルドから派遣されたハンターがティガレックスを退治するほうがどう考えても早いので、どうでもいいと言えばどうでもよかった。
 ハンターになったのは強くなりたかったから。二度も自分の人生をめちゃくちゃにしたティガレックスに負けっぱなしになるのは我慢できなかった。
 村の者は無謀だと千雨を止めたが、マッコリは千雨の決断に賛成してくれた。
 ギルドの者も無謀だといったが、千雨はハンターとして登録してもらうように申請を出した。
 当然受理されなかったが、マッコリと共に鍛錬をして僅か二ヶ月、二人で一頭のドスジャギィを仕留めてギルドの者を黙らせた。最年少ハンターが誕生した。
 千雨達はそのまま村に滞在。マッコリはそのまま千雨のオトモになることを決め、二人で鍛錬と狩りを繰り返した。
 二年後、ギルドから派遣されたハンターたちを退け続け、主とまで呼ばれるようになった育ての親の仇であるティガレックスを仕留めることに成功した。
 その後、ギルドにユクモ村の常駐ハンターになることを打診され、承諾。さらに二年後、ユクモ地方に再来した古龍アマツマガツチを討ち取り、彼女達は英雄となった。





「……ニャニャッ! 千雨! 無事かニャ!? 何処にいるニャ!?」
 がばっと相棒のマッコリが起き上がり、辺りをパパパッと見回す。
「こっちだ、こっち」
 千雨の言葉に振り向いたマッコリは、いきなり号泣。千雨の顔に飛びついた。
「よかったニャ! 無事かニャ? 心配させないでほしいニャ!」
「こっちのセリフだ。……目、覚まさないから心配したんだぜ」
 そう言ってマッコリを顔から引きはがす。
「うなー、ごめんニャ。……あれ? 千雨、その格好どうしたニャ?」
 さて困った。千雨も現状はよく把握できていない。どう説明したらいいものかと考え、気が付く。
「ちょっと黙っててくれ。誰か来る」
 サッと植え込みに隠れて、気配を殺す。足音から無警戒な手練れと仮の判断。
 息を殺し、じっと身を潜める。やってきたのは元担任の高畑・T・タカミチ。
(は? なんで高畑があんな手練れみたいな足音出すんだ? いや、デスメガネとか言われてるからそうおかしくはないのか?)
 それにしても練度が違う。彼の足音は戦士のそれにしかきこえない。只の教師があんな歩き方をするものか。
「おかしいな、目撃情報からすると、このあたりなんだが……」
 目撃情報とは、なんだろうか。そう考えて、駅で鮮やかに電車を回避したことを思い出した。探しているのは恐らく千雨だ。
 そう考えたところで、高畑がこちらを見る。
(気づかれた!)
 視線は合っていないが、間違いないだろう。雰囲気が変化した。とっさに両手のマッコリと王牙刀【伏雷】を放して立ち上がる。
「は、長谷川君? なんでこんな――」
 急に現れたことに驚いたのか、間抜けな声を出す高畑。
「いやあ、実はこの辺で落とし物をして探してたんです。もう見つけたんで手伝ってくれる必要はないですよ! じゃあそういうことで」
 一気にまくし立てて、マッコリと太刀を掴んで、逃げる。
 後には、ぽかんとした高畑が残された。



 結局走って学校近くまで来てしまった。普通は電車を使う必要があることを考えると驚異的だ。
「あっぶねー。ばれるところだった」
 そう言ってから、ふと思う。王牙刀【伏雷】は完璧に危険物なので所持がばれるとまずいが、この麻帆良でアイルーという訳わからん生物が見つかった所で、何か追及されるだろうか?
 世界樹なんて物が許容されているので、うわー、すごいで終わりそうな気がする。それはそれでなんか頭が痛くなりそうだった。
「千雨。いい加減放してほしいニャ」
「あ、わりぃ」
 地面に降りたマッコリは体をブルブルと振わせて、千雨を見る。
「いい加減どういう状態なのか教えてほしいニャ。見たこともないものばっかりで頭が破裂しそうニャ」
「私も何がどういう状態なのか分からねーんだよ。ちょっと考える時間をくれ。……そうだな、これ隠して夕方までこの辺で待っててくれ。用事も入ってるんだ」
 放課後まで考えていれば何とか状況の把握はできるだろう。太刀をマッコリに渡して。注意事項を説明する。人の言葉で喋らないこと。人間に二足歩行しているところを見られないように注意すること。
「ウニャ。しょうがないニャ。その代わりちゃんと説明してもらうニャ」
 マッコリは王牙刀【伏雷】を持って隠せそうな場所を探す。
 千雨はため息をついて校舎に向かった。



 なぜ気が付かなかったのだろう。いや、気が付くはずがない。何せ今までこいつらを見ていたのはただの女子中学生だったのだから。
 三年A組の教室に入って感じたのは、以前よりずっと強い違和感であった。
 長瀬と桜咲と龍宮と古菲はなんか強い。強いのは分かっていたが、千雨の歩き方に違和感を感じているようだ。中でも桜咲と龍宮はなんか変な感じがする。
 ザジとエヴァンジェリンは、よく分からない。龍宮の変な感じをより強くしたような違和感を感じる。
 絡繰は、前からわかっていたがロボットだ。生物の気配を感じない。朝倉の左側の空いている席から感じる何かの方が生物っぽい。
 あと、ネギ先生と近衛の気配はなんか濃い。
「長谷川さん、ちょっと遅かったけど何かあったんですか?」
「ちょっと事故っぽい何かに巻き込まれていた様な感じです。怪我はないので心配はいりませんのであしからず」
 まくし立てて、子供教師からの追及を逃れようとする。
「事、事故ですか! そう言えば今日電車事故みたいなこと――」
「それとは別です。何にも関係ありません」
 実際は自己にあった当人なのだが、追及されると困る。
 何とか追い払って、席に着いた。
「大丈夫なのですか?」
「綾瀬、むしろいつもよりも無茶苦茶健康だから気にするな」
「はあ……」
 そしてチャイムが鳴る。始まった馬鹿騒ぎに千雨はため息をついた。



 何とか学校にいる間に纏めた話をマッコリに聞かせる。
 ここは、人間の文明が発展し、モンスターや獣人のような存在がいない世界であること。
 目の前にいるのが、こちら側にいた長谷川千雨という少女と、マッコリの知るハンターの千雨が融合したような存在であること。
 どうしてこちらに来たのかはよく分かっていないこと。帰る手段は不明なこと。そもそも千雨同士の融合が解けるのかわからないこと。
 一通り話を聞いたマッコリは、深くうなずいて言った。
「まあ、何も知らないで放り出されたよりましな状態であることは理解したニャ」
「取り乱さないんだな」
 千雨の言葉に不思議そうに首をかしげるマッコリ。
「取り乱したところでどうにもならないニャ。旦那さんが死んだときだって千雨もそう言ったニャ」
「あー、そうだな。……帰りたくはないのか?」
「仮に向こうに戻っても千雨がいないんじゃしょうがないニャ。まあ、ユクモ村がちょっと心配なだけニャ」
 顔を合わせる二人。ニヤリと笑いあって、立ち上がった。
「うし、じゃあこっちの私の住処に帰るとするか」
 そう言った直後、千雨は一瞬で現れた気配に向かって振り向く。
「その前に、僕にもいろいろと話を聞かせてもらえないかな?」
 そこには、高畑・T・タカミチが、手をポケットに入れたまま立っていた。



[30797] 第3クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/08 17:04
 どうしたものか、千雨は考える。
 ハンターの自分の知覚を超えて出現した高畑に驚いて、思いっきりミドルキックを叩き込んでしまった。
 鮮やかな放物線を描いて飛んで行った高畑は頭から地面に激突。気絶していた。
 ジャギィくらいなら一発で仕留められる千雨の渾身の蹴りを食らっても骨折せずにいるから、理不尽なまでに頑丈だ。
 放っておいても起き上がりそうな人種のようだがそのままというわけにもいくまい。第一、目覚めたらまた千雨の話を聞きに来るだろう。死人に口無し作戦は道徳上の理由で却下。
「……人間相手にやりすぎニャ」
 マッコリの言葉が耳に痛かった。
「とりあえず、保健室に運ぼう」
 気絶した成人男性を女子中学生が脇に抱えて運ぶ光景は、なかなかにシュールだった。



「すみませんでした」
「……いや、いいよ。最初逃げられたからって驚かせようとした僕も悪かった」
「そうですか。ではおあいこという事で」
 間違っても危害を加えた人間が言うセリフではない。首を固定され、まだ痛む腹を擦る高畑は顔をひきつらせた。
「ところで、彼は何処だい?」
 恐らく会話は聞いていたのだろう。隠す気もなくマッコリの居場所を尋ねる高畑。
「彼、とは?」
 盗み聞きしていた相手なので容赦なくすっとぼけてみる千雨。
「ほら、マッコリという猫妖精みたいな、……アイルーといったかな?」
 ケット・シー、という言葉を自然に使う高畑。違和感を覚えた千雨は率直に聞く。
「高畑先生は、魔法使いか何かですか?」
「……ああ、うん。そんなようなものだよ」
 千雨は愕然とした。まさかそんな非常識な存在があるとは。異世界とか人体融合とか魔法とか、もうめちゃくちゃだ。
「ああ、もう常識ってなんなんだろう?」
 くずおれる千雨を見てマッコリが窓から飛び込んできた。
「ちょっと、何したニャ! 千雨がこうまで落ち込むなんてそうそうないニャ!」
 怒るマッコリを見て、高畑は遠くに目をやって、ぼそっと言った。
「ただの蹴りで僕を気絶させた長谷川君に、常識とか言われたくないなぁ……」
 どうやら魔法使いから見ても千雨は規格外らしい。憂鬱だ。



 寮に帰る道すがら、千雨は高畑から話を聞いていた。
 魔法の存在は秘匿されるもので、違反するとオコジョにされたり、記憶を消されるらしい。
 わざわざ言いふらす気はないので、千雨には関係ないだろうと思っていたら、高畑は言った。
「僕としては魔法生徒になることを勧めたいんだけどね」
「いやいや、私魔法とか使えないですよ」
 話をよく聞くと、魔法のように秘匿された技術に気の使用、というものがあるらしい。
 千雨達の近くに一瞬で現れたり、蹴りを食らっても死ななかったりしたのはそう言う方面の技術なのだそうだ。
 油断していたとはいえ、身体強化していた高畑を昏倒させるダメージを与えた千雨を野放しにはできない様だ。
 気。そう言われて千雨の脳裏に一つ思い浮かぶものがあった。
「アニメとかでよく見る、こう構えて、覇ッ!――」

 轟ッ!

 強く輝く光の塊が放たれる。尾を引いて飛んで行った気弾を見て呆然とした千雨の肩に手を当てて高畑は言った。
「………さあ、長谷川君。君は魔法生徒にならないと」
 ああ、人生ってままならない。気を放った両手を見つめ、千雨は涙した。





「ふふふ、だがまあ、坊やがまだパートナーを見つをぶろうっ!」
「マスター! 一体どこから攻撃が!?」
 千雨の放った気弾はエヴァンジェリンに当たった。





 ドナドナを脳内で流しながら、千雨は高畑についていく。
「そう悲観するものじゃないよ。魔法生徒だからって、普段は特に何かしろと強制されるわけではないからね。まあ、危ないことをしなければ籍を置くだけでもいい」
 うん、しょうがない。向こうでも無登録ハンターとかは取り締まられていたりしたのだから。組織とつながりを持つのは悪いことじゃない。ギルドと同じ様なものだ。
 そう考えた千雨の脳裏にある可能性が浮かび上がる。
「あの、もしかして武器の所有とか認められますか?」
「うん? そうだね、管理をきちんとしていれば認められるよ」
 購入するルートも教えてくれたりするとか。おお、いいじゃないか。魔法生徒登録。もしかしたら罠とか薬系統とか爆薬とか防具とかも手に入るかもしれない。そこまで考えてふと気が付く。
「こっち、狩猟できるような飛竜とかいないじゃないか。どうやって稼げばいいんだ?」
 膨らんだ期待は瞬く間にしぼんだ。
「せ、生活費はどうにかなるかニャ?」
 相棒をなでつつ、千雨は泣きながら何とか立ち上がった。
「マッコリ、お前は私が守るよ」
「千雨!」
 抱きしめあう二人。
 高畑はいたって普通だった千雨の変わりように、彼女が元の生活に戻れるのか不安になった。



[30797] 第4クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/08 22:37
「おい、長谷川千雨」
 始業前。いきなりエヴァンジェリンに話しかけられた。
「なんだ」
「ちょっと来い」
 昨晩、魔法関係者の基礎知識的なものを教えられて少々疲れていた千雨。まあ三、四日寝ないで活動することもできるが、休めるもんなら休むのが基本だ。雰囲気でここで話してほしいと訴える。
 立ち上がらない千雨に、舌打ちしたエヴァンジェリンが唇だけを動かす。
(魔法関係だ)
 さっそくなんか面倒なことになりそうだ。魔法生徒として登録したのは間違いだったか。そんなことを考えて千雨は席を立つ。
 エヴァンジェリンにつれてこられたのは屋上。罠らしきものは感じ取れない。絡繰もついてきたが、そんなことはどうでもいい。
「あれか、新入りのくせに挨拶に来ないのは生意気だって話?」
「違う! 昨晩の件だ。貴様いったいどういうつもりだ」
 昨晩、といわれて困惑する千雨。ちょっとした座学に気の使い方の軽い特訓をしただけだ。間違ってもこのちみっこい同級生に因縁つけられる記憶はない。
「貴様、私を狙って気弾を放ってきただろう。私が『闇の福音』だという事を知らんのか」
「二つ名を自称するのは、……もうちょっと貫禄出てからにした方が良いと思う」
 流石にイタいとは言えなかった。
「貴様ッ! いいか、この異名は私を狙ってきた馬鹿共を蹴散らした結果、恐怖した人間どもが付けたものだ!」」
 怒り出した。正直そんなことはどうでもいい。
「……とりあえず、すまん。そんなことは知らんし、気弾だってたぶん只の流れ弾だ。怪我とか、ないか?」
「真祖の吸血鬼をなめているのか!」
 そう言われても知らないものは知らないし、心配したのに怒られた。理不尽なものを感じる。
「魔法関係は昨日知ったとこなんだよ。正直お前が有名人だったとしても誰それ状態なんだ」
 ぽかんとするエヴァンジェリン。
「あれほどの威力の気弾を撃っておきながら、昨日裏の世界を知ったばかり? 嘘もたいがいにしろ」
「いろいろ事情があるんだよ」
 何度も説明したくはない。自分だってよく分かっていないのだから。
「ところで、吸血鬼だって? 日光とか大丈夫なのか?」
「お前、本当に知らんのか?」
 最初から知らないと言っているだろうに、なんて疑り深いのだろう。
「私は太陽を克服した吸血鬼だ。……怖くはないのか」
「いんや。お話通りに不死身なら殺り合う時面倒だなー、くらいかなあ。生きた人間をバリボリ食うわけでもねーし」
「人間をバリボリ……」
「魔法の世界があるんだってな。そっちじゃ魔獣とかドラゴンが食ったりするだろ?」
 エヴァンジェリンが頭を抱えてぶつぶつ独り言を言いだした。その様子を見て、こっちの竜種は人を襲ったりしないのだろうかと考える千雨。
「あ、そろそろ始業だ。エヴァンジェリン、絡繰、教室に戻るぞ」
「あ、ハイ。しかしマスターが……」
「あー、そういえばコイツよくサボるよな。サボりたいなら好きにしてくれ」
 おろおろとする絡繰と、ぶつぶつつぶやくエヴァンジェリンを置いて、千雨は階段を下りて行った。
「そういや怪我の具合とか結局聞いてなかったな。後でなんかジュースでも奢るかな」

「は、長谷川さん。エヴァンジェリンさんに呼び出されたって本当ですか?」
「はい。ちょっと怪我させちゃったみたいで……」
「え、エヴァンジェリンさんが怪我!?」
 そう言えばこの先生の持つ木の棒、どう見ても杖である。これに乗って空飛んだりするんだろうか。



「うなー、なあ、ふにゃーぉ」
 幸いにしてこちらでも言葉は通じた。あまり頭がいいとは言えない者達だから返事が片言で返ってくるのはつらいのだが、仕方あるまい。
 マッコリは女子寮近くの猫たちを纏め上げていた。その影響力は絶大。瞬く間に三つのエリアを統括するボス猫として君臨。この分だとまだまだ配下の猫は増えそうだ。
「ほんとはアイルーなんだけどニャア」
 側近の猫が慌てた様子で駆け寄ってくる。元ボスの一匹だ。
「にゃあ、なー、しゃー。うなう」
「なう。……ヤバそうなネズミってどんなやつニャ? まあ、見ればわかるかニャ」
 よっと立ち上がるマッコリ。なおー、なおーと新たなボスを称える猫たち。元ボスの猫が一声鳴いて、マッコリを導く。
「ドスジャギィも頑張って群れを纏めてたのかニャア?」
 まあ、考えても仕方のないことだ。マッコリはネズミをどう料理するか、頭の中で作戦を立て始める。



 学園長室のドアがノックされる。
「何じゃ?」
「失礼するニャ」
 入ってきたのはマッコリ。手には紐でぐるぐる巻きにした何かを持っていた。
「おや、マッコリ君だったかの。なんじゃねそれは」
「いやいや、それを訊くのはこっちだニャ」
 ぽい、と学園長の前に何かを下ろす。
「これは、オコジョ妖精?」
「そーいう生き物なのかニャ。言葉をしゃべる動物は魔法関係らしいって聞いたから持ってきたニャ。ここで飼ってる生物かニャ?」
 はてと首をかしげる学園長。
「オコジョ妖精を連れている先生も生徒もいなかったはずじゃが」
「ニャア。じゃあ、侵入者ニャ。尋問とかはそっちに任せるニャ。一応薬で眠らせたから、目が覚めるまで後五分くらいかかるニャ」
 そう言って後始末を丸投げしたマッコリ。とっとこ四足歩行で外に出て行った。
「……まあ、まずは事情を訊いてみるかのう」



 オコジョ妖精、アルベール・カモミールは猫に対して深いトラウマを抱えることになった。
 逃げ道を一つ一つ塞がれていく恐怖は相当なものだったようだ。



[30797] 第5クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/09 09:44
「ぼ、僕のパートナーになってくれませんか!」
「断る」
 がーん。千雨にはそんな音が聞こえたような気がした。
「ま、待ってください! せめて事情だけでも聞いてくれませんか!?」
 夜にいきなり千雨の部屋までやってきてパートナーになってくれというガキンチョ。閉めようとしたドアに手をかけてなおも騒ぎ出す。
「あー、わかりました。聞くだけは聞いてみるので、とりあえず騒がないでください」
「あ、ありがとうございます!」
 仕方なく部屋に入れるが、恋人探しにどうしてここまで切羽詰まっているのだろうか。後からさっきの声を聞いた乱入者が来ないように鍵をかけて、奥に進む。
「なー」
 マッコリは猫のふりモードに移行した。
「て、てめえはあの時の猫妖精! なんでここに!」
「カモ君!」
 どこかから聞こえてくる声。どうやらまたも魔法関係の厄介ごとのようだ。
「アイルーだニャ。そう言うお前は侵入者のネズミじゃニャいかニャ」
「ひッ、く、来るな! 噛むぞコラ! あ、兄貴助けてくれ!」
「ネズミにかまれたところで痛くも痒くもないニャ。なんで解放されてるニャ?」
 動物たちの会話にネギは困惑。
「ち、千雨さんも魔法関係者なんですか?」
「誠に遺憾ながら」
 ギャーギャー騒ぐ動物と沈黙する子供先生。千雨的には早く追い出したくなった。



「エヴァンジェリンを何とかしてほしい?」
「は、はい。申し訳ないんですけど――」
「断る」
「千雨さんっ!?」
 ちなみに千雨はいつの間にか呼び方が下の名前になってる事に、今気が付いた。
「怖い先輩をこれ以上怒らせたくないし」
「ちょっと千雨の姉さん、あんまりだぜ」
「うっさいニャ」
「ヒイッ!」
 五月蝿いオコジョはマッコリが抑えた。睡眠薬を嗅がせて、静かになったので話を続ける。
「なんでまた、私にそんなことを頼むんですか」
「千雨さんはエヴァンジェリンさんを、真祖の吸血鬼を怪我させることが出来たんですよね?」
「あー、気弾が当たったらしいから怪我はしたでしょうね」
「え?」
 話を詳しく聞くと真祖の吸血鬼は最強クラスの化け物らしい。普通の魔法使いじゃ手も足も出ないとか。古龍みたいなもんかと千雨は認識。
 しかしエヴァンジェリンは魔法生徒なのだから、関東魔法協会に籍を置いているはずだ。
「高畑先生とか、学園長、他の魔法先生でもいいかもしれませんね。相談してみたらどうですか?」
「え、タカミチや学園長はいいとして、他の魔法先生?」
「は?」
 この麻帆良は関東魔法協会の本拠地で魔法使いがたくさんいて、魔法先生とか魔法生徒として活動していることを説明。
「私はこの前魔法生徒として登録されたばっかりだから知らなかったけど、なんで先生が知らないんですか」
「うう、修業中だからかなー?」
「まあ、学園長先生には報告しときますが、ちゃんと説明受けた方が良いと思いますよ。私が言うのもあれですけど」
 はい、と項垂れてしまったネギを見送って玄関のドアを閉める。
「魔法使いに存在知られてないって、ゆるゆるじゃねーか関東魔法協会。……そう言えば、麻帆良は非常識な場所だと思ってたけど、あれも魔法関係だったりするのかな」
 だとしたら無茶苦茶だ。一般人の目から見ておかしいのに放置とは。ちょっと組織の在り方について苦言を呈する必要があるのかもしれない。



 学園長はエヴァンジェリンを注意しておくから、千雨にはヤバそうな状態になったらネギをそれとなく助けてほしいと依頼してきた。
「報酬とか出ますか?」
「わしら魔法使いは『立派な魔法使い』として――」
「前も言ったけどなる気はないです。装備とか道具もお金かかりますし、報酬出るんですか?」
 交渉の末、何とか悪くない条件は引き出せた。
「それにしても最強クラスの化け物が、封印されて弱体化ねえ。どうやったんだ?」
 魔法とは不思議である。
 そう言えばヤバい状態とはどの程度の事だろうかと考える。しばらく考えた結果、救助隊のアイルー達が助けに来るくらいだと勝手に判断して、今日は眠ることにした。





「これも修業じゃ」
「ええ!?」
 魔法先生は無理難題を吹っ掛けられた模様です。



[30797] 第6クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/09 16:42
 魔法生徒になった時に学園長に頼んだ装備が届いたので受け取りに行く千雨とマッコリ。
「よくきたのう。ちょうど今問題が発生したので連絡しようと思っていたのじゃが」
 学園長の話によると、侵入者が来て、山の中に隠れてしまったので捕獲を手伝ってほしいとのこと。
「どんな奴ニャ?」
「関西呪術教会のはぐれ者のようじゃな」
 装備の状態を確かめるのにもいいだろう。報酬も出るようなので参加することにした千雨達。
「で、なんで私の防具は制服なんですか?」
「いいじゃろ? 普段から身に着けられるからのう」
 魔法の品で結構いい防具なのだとか。しかし、気で身体強化した方が防御力が上がるらしい。無駄遣いだったかもしれないと千雨は悔やんだ。
 マッコリは炎の魔法剣を素振りして、具合を確かめた。一回首をかしげたのを見て、まだ慣れるには時間がかかるとみる。
「この位置にすでにほかの魔法生徒たちが向かっておる。彼女たちと合流してくれ」
 さて、誰がいるのやら。



 太刀とかもってウロウロしてるのを見かけられたら拙いので、屋根の上を瞬動で移動していく。
「便利なもんだよなあ。これなら強走薬なんかいらねーし、回避もずっと楽だ」
「アマツマガツチとやりあう時に知ってたなら、もっと楽に戦えたニャ」
 遠い目をして、あの時しんどかったニャ。とつぶやくマッコリ。
 あれは、まあ結構な量の素材を研究機関に安く買っていかれたので、今後遭遇しても戦うかは微妙だ。自分の取り分が多ければ考えるが。
 合流予定地に降りる。しばらくしてやってきたのは龍宮と桜咲だった。
「お前らも魔法生徒なのか」
「ええ。……長谷川さんが魔法生徒になったとは話に聞いていましたが、いざこのような場所で会うとおかしな気がします」
「んー、まあな」
「とはいえ、魔法生徒としてここにいるのは事実だ。よろしく。……足を引っ張らないようにしてくれよ?」
「善処する」
 そこで、桜咲がふと、何かを不思議に思ったようだ。
「長谷川さんたちはどうやってここに? 学園長から合流すると聞いた時には、私たちはすでに移動していたのですが」
「瞬動で屋根の上を跳んできた」「ニャ」
 マッコリと同時に答えると、何故だか二人が妙なものを見るような目をした。瞬動は移動技術じゃないのか?
「武器とかもってうろうろしてたら、完璧不審者扱い受けるぞ。見つからないように移動するだろ」
 何故だか桜咲がショックを受けていた。
「どうした」
「……その辺には触れないでやってくれ」
 いつもの竹刀袋をみて、納得した千雨であった。



「二時、二百」
「……ビンゴだ」
 千雨は学園側の人間を把握していないので、人影を見つけるたびに龍宮に確認してもらう。
 今回見つけた右側にいた人間は侵入者だったようだ。龍宮が銃を撃つ。
 ギィン、と大きな音が立つ。どうやら魔法で防がれた模様。
「飛んだぞ!」
「チッ」
 龍宮が舌打ちする。生半可な攻撃では防がれるみたいだ。
 空中に逃げた侵入者に向かって、桜咲が気の斬撃を飛ばす。それを見て千雨は一つ思い浮かんだことを試してみることにした。王牙刀【伏雷】を構え、気を込める。刀身が輝き、バチバチと電気を発していく。
「即興技、飛竜斬り!」
 振り抜かれた王牙刀から、轟音を立てて雷が天に昇る。雷は侵入者に直撃し、そのまま空の彼方へ消えた。
「斬撃のつもりだったけど雷撃になったのは何でだ?」
 しかも威力が馬鹿みたいに高い。秘匿される技術である為、もう少し加減を覚える必要があるのは今後の課題か。



[30797] 第7クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/09 21:59
「マッコリさん。ありがとうございます」
 手早く怪我をした猫の手当てをする茶々丸。消毒液がしみたのか、猫がびくっと動く。
「にゃーにゃー、こっちが感謝する方ニャ。正直、僕の手に余る状態だったニャ」
 茶々丸とマッコリが出会ったのは昨日の事。
 始まりは、群の猫が怪我をしてしまったのでマッコリを頼ってきた事。
 うろ覚えの知識で四苦八苦して応急処置をしようとして上手くいかず、いよいよとっておきを使おうかという時に現れたのが茶々丸。
 彼女は上手く怪我の処置をして、他に怪我をした猫がいないか尋ねてきた。そうして今日、マッコリは何匹か手当てが必要な猫を集めて連れてきたのだ。
「手持ちの薬を使わなくても済んで助かったニャ。アオキノコと薬草はまだあんまり見つかってないから困ってるニャ」
 なんで蜂蜜の方がお店で簡単に手に入るのか、不思議で仕方ないマッコリ。
「アオキノコと薬草。それはいったい何ですか?」
「知らないかニャ? 回復薬の材料ニャ。回復薬は仕事で使うかもしれないからホイホイ使えないニャ」
「知りませんでした……」
「向こうじゃいっぱい採れたんだけどニャア……」
 生まれた世界を思い出すマッコリ。どちらの世界も一長一短かもしれない。
「こいつらも鍛えてやるかニャア。そうすればぐっすり眠るだけでどんな怪我でも回復するニャ」
「そういうものでしょうか?」
「訓練されたハンターは瀕死状態でも眠ればすっきり回復ニャ」
 話している間にすべての猫の治療が終わった。茶々丸がほっとしている、そうマッコリは感じた。
「さて、待っててくれたのはありがたいけど、盗み見ているのは感心しないニャ」
 そう言うと、そろそろと建物の陰からネギとカモ、明日菜が現れた。
「千雨みたいにそんなに勘はよくないけど、それでも長いことじっと見られてたらわかるニャ」
「……油断しました。マッコリさん、下がってください」
 ずい、とマッコリの前に立つ茶々丸。
「やい、猫妖精! てめえなんでエヴァンジェリンのパートナーと一緒に居やがる!」
「まあ、世話になったからかニャ?」
 いきり立つカモ。しかしマッコリはカモの怯えが見えてとれたのかどこ吹く風だ。
「ええい。兄貴、一緒にやっちまいましょう!」
「で、でもー」
 その様子を見てマッコリは、ふぅと息をはいた。
「自分でやるわけでもないのに偉そうニャ。……ネギだったかニャ?」
「え、はい」
「修業中、だったかニャ? 揉んでやるからかかって来るニャ」
 シャドーをして挑発するマッコリ。するりと茶々丸の前に出る。
「マッコリさん、いけません!」
「兄貴!」
「うう、……行きます! 契約執行十秒間! ネギの従者――」
 ネギの呪文はそれ以上紡がれなかった。マッコリは素早く駆け寄り、ネギの肩にいたカモを捕えた。
「カモ君!」
「動くニャ!」
 カモの首に、どこから取り出したのか分からない、小さな刃物を押し当てたマッコリが大声で制止する。
「こいつがどうなってもいいかニャ?」
「う……カモ君」
 カモはぶくぶくと泡を吹いて気絶していた。
「……とまあ、このように人質を取られることもあるニャ」
 ぽい、とカモを放り出して刃物をしまう。
「……え?」
「自分と同じように、相手が卑怯な手段を使うことも考えた方が良いニャ。……あー、覚悟もニャいのに戦場に出て来るべきではニャいとも言っとくニャ」
 ぽかんとする一同。マッコリは四足歩行でタタッ、と駆けて行く。
「授業料はタダにしとくニャー!!」
 静止した状況からいち早く離脱したのは茶々丸。ついで明日菜が元に戻る。
「ええと、逃げられちゃった。……あ、ネギ、アンタおでこに肉球の跡が!」
「ええ! もしかしてあの一瞬で付けられたの!?」
 何故か人質役になったカモはしばらく忘れられていた。



「ふーん。そんなことがねえ」
「まあ、各個撃破。ちょっと頭使ったのは評価できるかニャア」
 はて、と千雨は考える。
「オコジョの入れ知恵じゃないのか」
「あー、そうかニャ。まあヒトは補い合って生きるものニャ」
「そうだな」



[30797] 第8クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/10 10:04
 長谷川千雨とマッコリは採収ツアーにやってきました。
「アオキノコ発見と。なんだ、山の方に来れば結構あるなあ」
 これなら自分たちで使う分量を十分確保できるだろう。
「いっぱい採るニャ~」
 回復薬、解毒薬は既に十分な量が確保できた。
 元の世界と違いがあると困るので、ためしに猪をぼこぼこにした後飲ませたら普通に効いた。効かずに死んだとしたら、まあ食べることになっただろう。
「それにしても医者が見たらすっ飛ぶような効果だな。これ」
 何せ瀕死でも何度か飲ませればあっという間に回復する。何故使われていないのか不思議だ。魔法関係のものなので一般使用されていないのだろうか。
 そんなことをつらつらと考えながら採取を続けていたら、あっという間に用意した袋はいっぱいになってしまった。
「これ以上は持って帰れないから帰還するかなあ」
 帰り支度を始めたところで、二つの気配に気が付く。覚えのある気配だ。そちらを振り向くと、ちょうどこちらを見ていた長瀬と目があった。
「長谷川ー! こんなところで何してるでござるかー!?」
 ひょいひょいと慣れた様子で近づいてくる長瀬。後ろにはなぜかネギもいた。
「お前こそ何やってんだ。修業でもしてるのか?」
 何故か長瀬が答えない。視線の先を見るとマッコリがいた。立っていたのを見てしまったか。
「まあ、いいか。どうせコイツ忍者だし」
「い、いや違うでござるよ」
 説得力が全くない。
「長谷川は面妖なネコを連れてここで何を。お主はインドア派ではござらんかったか」
「いろいろあってな。狩りに目覚めた」
 ほほう、と頷く長瀬。
「最近、急に達人の身のこなしになったから驚いていたでござるが……」
 やはり歩き方などは変わっていたようだ。戻せと言われても戻す気はないが。
「お主も一緒に修業するでござるか?」
 面倒だが、このままだと体がなまってしまうだろう。千雨は長瀬と行動を共にすることを決めた。
「じゃあそうするか。ところで袋とか持ってないか? 貸してくれるとありがたい」
「一応持ってるでござるが」
 もう少し素材集めはできそうだ。



「本気か」
 長瀬に模擬戦をしてほしいと言われたため、真面目に問いかける。
「本気でござる」
 目を見ると、真剣にこちらを見つめていた。この分だと古菲と戦うのもそう遠くはなさそうだ。
「対人戦闘なんてやったことないぞ。加減できるかわからん」
「拙者が手加減される方でござるか。かまわんでござるよ」
 ここはひとつ胸を貸してほしいでござる。という言葉を聞いて、不安になる千雨。
 長瀬の練度は多分高畑より下。一つ加減を間違えばクラスメイトを殺すことになる。
「まあ、回復薬もあるし。何とかなるか」
 一撃で胴体真っ二つにしなければの話ではあるが。



 千雨が超一流のハンターであった理由の一つにずば抜けた回避力がある。一撃で致命傷となる竜種の攻撃はガードするより回避できるなら回避した方が良い。
 その身のこなしは、長瀬が放った苦無も軽く避けてしまった。千雨は苦無が飛んで行った方を見て、考える。
「ここは全部掴んでやった方がよかったか?」
「そんなことされたら、自信なくすでござる、よッ!!」
 森の中に飛んで行った苦無の回収がめんどくさそうなので聞いてみたのだが、どうやらそんな親切心を出す必要はなかったようだ。千雨はひょいひょいと長瀬の猛攻を避け続ける。
 どうやって終わらせるかを考える千雨。使い慣れた太刀は間違いなく長瀬にヤバいレベルの怪我をさせるため、使っていない。
 あまり力を入れず、寸止めできるような攻撃を考えたが、そもそも攻撃といえば力いっぱい振り抜くようにしていた千雨は寸止めの経験がない。
 そこまで考えて、此方が攻撃を止められないなら、逆転の発想で相手に攻撃を止めてもらうのはどうだろうと考えた。
 とりあえず腕をつかんで、真横に投げてみることにした。振り下ろせば地面にぶつかるが、横なら受け身を取ることもできるだろう。
 伸びた状態の長瀬の腕に手を伸ばし、軽く手を当て、握る。
「なっ」
 振りほどく暇を与えず、ぐるりとハンマーを回すように横に一回転。そのまま勢いよく投げる。気持ち上向きに投げ、体勢を立て直しやすくしてやる。
 千雨の思惑通り、長瀬は受け身を取ってすぐさま立ち上がった。
「おーい、こんなもんでいいか」
 千雨の言葉に構えを解いて、歩み寄ってきた。
「いやあ、まったくかなわぬでござる。強いでござるなあ」
「ほとんど避けてただけだけどな。まあ、うまく手加減できるようになったらまたやってやるよ」
 それまで古菲がこないように上手く止めといてくれ、と頼んでおく千雨であった。



「帰るのでござるか」
「まあ、明日は明日でやりたいこともあるしな」
 HPの更新とか写真撮影とか。マッコリという助手も出来たので、今までになかったタイプの写真も撮れるだろう。
 ネットアイドルの頂点に立つつもりとかはなくなったが、コスプレは趣味として続けたい。戦う女の子の雰囲気とかもうまく出せるようになってるかもしれないし。
「あ、そうだ。先生、修業の方はどうですか?」
 いきなり話を振られたネギが慌てる。
「え、えーと。そのですね」
「まあ、ヤバい状態になったら助けにはいきますから。じゃあそういうことで」
 そう言って千雨とマッコリはさっさと山を下りることにした。



「なにしてんだ、神楽坂」
「あ、千雨ちゃん! えーと、そのね。ネギが――」
「先生なら向こうで長瀬と修行中だ。心配はいらねーだろ。それよりお前が遭難しないか心配なんだが」
 明日菜は初めてその可能性に気付いたのか、顔を青くした。
「……えーと、案内してくれる?」
「下山ルートならな。じゃあ行くか」
「あ、でもエロオコジョがいない」
「その辺にいねーのか?」
「ちょっとー! どこいったのよー!」



[30797] 第9クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/11 11:17
 学園都市停電の日。千雨は妙な胸騒ぎがしていた。
 麻帆良学園都市には巨大な結界が張られており、電力でその結界を維持していると学園長から説明を受けた。
 停電時には予備電源に切り替わり、一時的にパワー不足になるために侵入者がその時を狙って侵入して来たり、学園都市内にある呪物が力を増したりと面倒なことが起こりやすいそうだ。
 学園長はそれらを予知したのが原因ではないかと楽観していたが、千雨にはそうは思えなかった。
「一応、知っている奴らにも注意しておくか」
 まずは龍宮真名。
 ほとんど千雨と同じような立場で魔法協会との関係を築いている彼女は、本来傭兵なのだそうだ。
 胸騒ぎの事を伝えておいたら、「戦士の勘は、馬鹿にできないこともあるからね」と言って去って行った。
 本気にしてくれたかどうかわからないが、とりあえず注意はしてくれるだろう。
 次は桜咲刹那。
 何故かこいつは暇さえあれば近衛木乃香の後をつけている。
 学園長の話だと木乃香の護衛だそうだが、二、三度、要人の護衛任務をこなしたことがある千雨からすれば、緊急時とっさに動けないような状態で護衛が務まるのだろうか心配だ。
 一応そのことも注意しておこう、そう決めて刹那に声をかける。
 先に胸騒ぎの事を伝え、ついで護衛の事を話したら急に顔色が変わった。
「事情を知らないのに、簡単に言わないでください」
「確かに事情は知らねーが、ライフルで狙撃されたらどうする? 突き飛ばしてでも近衛の命守れるのかよ」
 刹那はこれ以上話すことはないといったように、さっさと行ってしまった。
「なんか機嫌悪くなったニャ」
「まあ、まだ甘いな。命のやり取りとかしたことないのかね」
 人間とは時に、思わぬ卑怯な手段を平然とやるものである。軽い犯罪の口封じのための殺人など、そういったことはこちらでもよく行われている。
 生き延びるために無茶苦茶なこともしでかした千雨は、刹那が動けなかったときの為に、木乃香の事も気にかけてやることにした。無論、そういったことが起きた時は学園長相手に報酬の支払いを要求する気であるが。
 そしてネギ先生。
 何やら浮かれていて、ちっとも気を引き締める様子が見られなかった。話の途中にはたき倒してやろうかとも思った。
 最後にエヴァンジェリン。
「今日、何かまずいことが起きそうな気がするから、気をつけておいてくれ」
 今までと同じように注意しておくと、何故か雰囲気が変わった。
「なぜそう思う? 長谷川千雨」
「勘だ。だが、馬鹿にはできねー。何度もこの勘に命を救われたからな」
「……そうか、注意しておいてやろう」
 何故だか、にやりと笑って踵を返す。
「アイツ、何かやらかす気だな」
「それも勘かニャ」
「どっちかというと推測だ。学園長は学園結界が弱まると、中にある悪い感じのものが力を増すとか言ってた。そしてあいつは吸血鬼で、封印されて弱体化している」
 多少、封印の力が弱まり、血を吸うこともできるかもしれない。次の満月まで先生を襲わないと言っていたらしいが、もしかすると今日行動を起こすかもしれない。



 学園結界の予備電源制御システムが何者かにハッキングされて、結界が弱まるのではなく、消えたらしい。
 その事実を学園長は千雨の携帯に伝えてきた。ライフラインは別の予備電源を使っているようだ。
 魔法先生たちは侵入者排除と電源復旧に大忙し。
「長谷川君も、侵入者の排除に手を貸してくれんかのう」
「はい、分かり……。いえ、先に依頼された仕事を片付けようと思います」
「ふぉ? ……そうか。君はこの騒ぎに乗じて、エヴァンジェリンが何かしでかすと考えているんじゃな」
「……そうですね」
「あい分かった。ネギ君のことは任せよう」
 通話の切れた携帯をしまい、手早く装備を整えて、玄関から外に出る。
 それと同時に降ってきた人影に向かって睡眠薬を含む煙幕弾を投げつけた。
 煙幕が晴れると、佐々木まき絵が眠りについていたのが確認できた。
「なんだ、佐々木か」
 千雨達はまき絵を放り出したまま、エヴァンジェリンを止められそうな場所に移動を開始した。



 エヴァンジェリンとネギの対決。どうやらそれはエヴァンジェリンの勝利に終わりそうだ。
「でも、あれだニャ。魔法ってあんな派手に戦うものなのかニャ?」
「あれで隠してるつもりなのかね」
 千雨はエヴァンジェリンに向かって気を込めた弓矢を構える。
「まあ、これで……」
 終わり、そう考えたが、何故だか胸騒ぎが収まっていない。
 瞬間、覚えのある気配がした。とっさにそちらを見ると、世界樹の上空がゆがんでいた。
「なんだ、あれ……」
 空が破れる。穴から出てきたのは何度か戦った相手。大空を舞う、白銀の太陽。
「リオレウス希少種……!」



[30797] 第10クエスト【緊急】
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/11 16:34
 穴はなおも広がる。現れたのはリオレウス希少種一頭だけではなかった。
 白銀の太陽と黄金の月。リオレウス希少種とリオレイア希少種が二頭づつ。計四体の火竜たちを吐きだして穴は閉じた。
 めったに見ることの出来ない火竜たちは、麻帆良の空を悠然と飛行している。
 千雨は即座に携帯を操り、電話を掛けた。
「学園長、緊急事態だ!」
「長谷川君、なんじゃね? ……いや、此方にも報告が来た。ドラゴンが現れたそうじゃな」
「アイツらは私の世界の飛竜、リオレウスとリオレイアの希少種だ。実体のある生物だから、どうにかして落としてもよさそうな場所に誘導してくれ! 火炎弾を吐くから街の防御も忘れるな!」
 一方的に要求し、リオレイアの一体が地上に降りようとしたのを見て、王牙刀【伏雷】を振りぬき雷撃を放つ。
 リオレイアは突然飛来した雷撃に驚き、上に逃げる。
「降ろしたら街が大惨事じゃねーかよ。無茶苦茶ミッション難しすぎるだろ」
 気の使い方もだいぶ慣れた。力を入れれば、一撃で首を切り落とすことも出来るだろう。だが、そうすれば墜落した死体で街がめちゃくちゃになる。
「何とかして四体を、川か広い土地の上に誘導するしかねえ」
 ちらりとエヴァンジェリン達の様子を見る。神楽坂明日菜がネギの助っ人に来て、戦いを続けているようだ。
 エヴァンジェリンの目的からすれば、戦いを続けることになるとは思ったが。
「こっちを何とかしろよ。全く」
 そう言って千雨は虚空瞬動で、既に囮としてリオレウス達の前を跳びまわるマッコリのところまで跳んだ。



 またも地上に降りようとしたリオレイアを下から蹴り上げて、何とか着陸を阻止する。
「ああ、クソ。前は地面に降ろすのに苦労してたのに、なんだって地面に降ろさないように苦労してるんだよ!」
 彼らの下方を移動することはできない。いつブレスを吐くかわからない以上、下の方を向いた状態でブレスを吐かせるわけにはいかない。下に回るのは降りるのを阻止しなければならない時ぐらいだ。
「空飛んで戦うニャんて、って尻尾掠ったニャ!!」
 加えて初の空中戦である。虚空瞬動で飛ぶというより跳びまわる様な戦いはどうにもやりにくくて困る。気弾を放ち、銀色の巨体を川の方に向かってぶっ飛ばした。
「せめて囮役一人くらいよこせ!」
 飛ばしたリオレウスが体勢を崩したまま墜落しそうになったので、慌てて下から蹴り上げる。
 そのリオレウスのつがいだったのだろうか、一頭のリオレイアが大きく旋回し、千雨と距離を離した。突進してくる気だろう。
 だが、その行動は悪手。ようやく川の上にやってきたリオレイアを千雨が捉える。
「いい子だ……。そのまま、墜ちろ!」
 右の翼の付け根から首にかけてを、気で形成した巨大な刃で切り付ける。リオレイアは首と翼を同時に失い、川に落ちる。
「まず一体!」
 つがいを殺された、先ほど体勢を崩していたリオレウスが、怒りからか千雨に向かって突進してくる。
「に、体目ッ!」
 太刀を振るい、リオレウスも墜ちる。
 残った二頭が、ようやく千雨を脅威と判断したのか、逃げる体勢に入った。
「チィッ!!」
 だが、逃げるのが遅かった。誰かがやってきたのか、リオレイアの方が雷で撃ち抜かれる。
「来るの遅いニャ!」
 怯んだリオレイアをマッコリが弾き飛ばし、千雨の方に落とす。
「三体!」
 頭から尻尾にかけて、背骨の当たりを通るようにまっすぐ気の刃で斬り付けて真っ二つにする。
 数さえ減らせば、千雨達なら何とでもなる。
 マッコリがリオレウスの首を掴み、大量の気で身体強化して勢いよく投げる。
「ラストオオォォッ!!」
 千雨の構えた巨大な気の刃にまっすぐ突き刺さり、最後のリオレウスも絶命した。
 鮮血が千雨の体にかかり、赤く染める。絶命したリオレウスをどけて、千雨は一息ついた。
 ようやく麻帆良の街という面倒な守護対象を抱えた戦いが終わった。
「……普通に飛ぶ方法、調べよう」
 虚空瞬動だけの空中戦のやりにくさを体感した千雨は、ざくざくとリオレウスの死体を解体しながら、そうつぶやいた。



 麻帆良の街を守り切った千雨は学園長からかなりの額をもぎ取った。助けが遅れた不手際と、死者が出なかったことがどれだけ奇跡的かを語ることで上手くいった。
「それにしても、このような竜が飛び回る世界とは……」
 銀の鱗を触り、その頑丈さに驚く学園長。
「ここまでの奴はそうはいませんが、探せば結構見つかるでしょうね。相手が一体でも、数限られた精鋭たちが入念に策を練って掛かっていくのが普通になる化物ですよ」
 それが一度に四体。戦争といっても過言ではない戦いになるだろう。
「なんとまあ……。そんな化物相手によう無傷で勝てたものじゃ。長谷川君、君は一体何者じゃね」
 軽く笑って、千雨は答える。
「最初に言ったでしょう。ハンターですよ」



[30797] 第11クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/16 09:14
 千雨は目をこすった。間違いない。自分の目がおかしくなったわけではない。
「お前ら何時の間に仲直りしたんだ?」
 エヴァンジェリン達とネギ達が一緒にコーヒー飲んでいたので率直に聞いてみた。
「おや、長谷川千雨じゃあないか。何か用か」
 エヴァンジェリンの奴がすごく機嫌がいい。なぜだろう。
「行方不明の想い人の消息でも分かったのか?」
 勢いよくコーヒーを吹き出した一同。エヴァンジェリンがネギを掴んでガクガク揺する。とりあえず引きはがして落ち着かせる千雨。
「当たりだったのか?」
「き、聞いていたわけじゃないのか?」
 違うと言っておく。意味なく藪をつつく必要もあるまい。
「……ああ、聞いたぞ。お前は昨日竜種を四頭も倒したとか」
「ええっ!? 千雨さんすごいです!」
 無理やり話題を変えたエヴァンジェリンにのせられるネギ。
 千雨は適当にネギをあしらいつつ、考えるのは昨日の事。
 リオレウス達が来たという事は、向こうの世界でも何か起きているのだろうか。自分の内の一人と相棒をこちら側に落とした現象を思い出す。
(アレ相手じゃ、どうしようもないけどな)
 気の扱い方を覚えた今でもそう思う。天災クラスの古龍が、あの程度といってしまえるほど次元違いだ。
 とりあえず、今すぐは何も起きないとは思うが、これから先何が起きるかわからない。魔法などという超技術が存在するのだから。
「そういや来週から修学旅行だけど、エヴァンジェリンはどうなるんだ?」
「……ああ、麻帆良から出ることはできん。封印は解けていないからな」
 ネギが微妙な顔をする。エヴァンジェリンはそんなネギにくるりと向き直り、ニヤリと笑う。
「坊や。一つ情報をやろう。京都には奴が一時期住んでいた家があるはずだ。そこに何か手がかりがあるかもしれん」
「ほ、本当ですか!」
「ここで嘘を言ってどうする」
 千雨は一応好奇心で聞いてみる。
「奴って誰の事だ?」
「ネギのお父さん。エヴァンジェリンをここに封印した人だって」
 明日菜が答えてくれたが、あまり興味が出る話ではなかった。



 手痛い出費を強いられた関東魔法協会は、その出費の原因である四頭の火竜の事を調べていた。
「おや、もう来るとは。何かわかったことでもあったのかね」
 学園長は明石教授を迎える。千雨は素材になりそうなところは殆ど採りつくしたので、お零れの肉片や骨の破片、斬ってしまった鱗の部分などで何とか調べている状態だ。
 無論そんなところで全体を把握することが出来るはずもないが、もう出現しないとは言い切れない。その時の対処方法くらいは一応の形にしなければならなかった。
「あの、これは本当に生物の鱗なのでしょうか?」
「何をいっとるんじゃ。君が直接死体から採取したじゃろう」
 明石教授は机の上に綺麗に切断された大きな鱗を置く。
「頭部の鱗です。強度の測定をするために金属製の切断機で整形しようとした所……」
 明石教授の指先が、鱗の端、ほんの一寸欠けた部分を指さした。
「……まさか」
「刃が、折れました。バーナーで焼き切る方法も考えたのですが……」
 相手は火竜。同族同士の争いなどでブレスを使用する可能性を考えたら、たいして効果は出ないと思われる。
「これからウォータージェットでの切断を行う予定です」
「この切断跡は……」
「最初からあった物。すなわち長谷川君が切った跡です」
 何とも言えない空気が漂う。
 しばらくして学園長の口から出たのは次の言葉だった。
「……頑張ってくれ」
「……はい」



「関西呪術協会ねえ」
 関東魔法協会と仲の悪い組織で、考えの足りないものが何かちょっかいをかけてくるかもしれないから気を付けておくようにと学園長に言われた。
 気をつけろと言われても、正直何を気を付ければいいのか。愛用の王牙刀【伏雷】は目立つから持っていけないだろうし、マッコリを連れて行くのも難しい。
「まあ、僕はここら辺の猫の世話でもしてるニャ。行ってみたい気もするけど、窮屈な思いをするのはちょっとニャ」
「だよな」
 相棒の不参加を考えると、武器の一つや二つあった方が良いのだろうか。しかし今更ただの鉄刀に命を預けるのも妙な気がする。修学旅行に命の危険など在ってたまるかと思うが。
 どうしたものかと千雨は王牙刀を見ていた。



[30797] 第12クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/16 09:13
 修学旅行初日、関西呪術協会のいたずらのような妨害工作が何度か行われた。
 夜、千雨はいたずらに使用された酒を飲みながら考える。これは鉄でもいいから刀を持ってくるべきだったのだろうか。
 武器は結局持ち運べそうなものしか持ってきていない。ナイフに薬品、ワイヤーなどの小道具、双剣と折り畳み式の弓矢。まあ、身を守るには十分か。
「千雨ちゃん、いる?」
 明日菜が三班の部屋にやってきた。何やら急いできたようだが、言いづらそうに口を開けたり閉めたりしている。
「あー、わかった。那波、ちょっと行ってくる」
「就寝時刻だから、できるだけ早くね」
「はいよ」
 ぱたんとドアを閉めて確認する。
「また魔法関係の話か?」
「そうなの。しかも今回このかが攫われそうになって……」
「手を借りたいってことか。分かった」
 明日菜についてロビーまで降りると、ネギと桜咲刹那が座って待っていた。
「あ、……長谷川さん」
 刹那は千雨を見て、少し俯く。この間の護衛の話を思い出したのだろう。
「えーと、なんだ。まあ頑張れ?」
 千雨は取り合えず励ましておいたが、気の無い言葉なのであまり効果はないだろう。これでやり方を変えるかどうかは刹那の判断次第だ。
「千雨さんは、刹那さんが味方だってことは?」
 ネギが訊いてきたので、とりあえず知ってることを答えておく。
「魔法生徒で、剣士。近衛の護衛役をしてるくらいは」
「姉さん、知ってたなら教えてくれたっていいじゃねえかよ」
 カモが文句を言ってきたが、尋ねてもいないのだから教えようがない。
「とりあえず、対策会議だ。桜咲、お前が一番知ってるんだろ? 話を始めてくれ」
「はい。……敵はおそらく関西呪術協会の一部勢力で陰陽道の『呪符使い』、そしてそれが使う式神でしょう」
 そして、呪符使いと、関西呪術協会と京都神鳴流の関係を説明する刹那。
 木乃香の護衛についても説明したが、千雨は口を挟まなかった。
「よし、じゃあ決まりですね。3-A防衛隊結成ですよ! クラスのみんなを守りましょう!」
 ノリノリで名称を決めたネギ。そこでふと千雨が気が付いた。
「誰かこっちの様子を伺ってるな」
「え、本当ですか。一体どこから?」
 ネギの質問に、少し考えて千雨は答えた。
「たぶん、外だ。ちょっと行ってみてくる。お前らは中で守りを固めといてくれ」
「あ、僕も行きます。他の先生に見つかるとまずいかもしれないですから」
 外に出るとき、ホテルの従業員がちらりとこちらを見た。怪しいが、ここで捕えたところで何とでも言い逃れはできるだろう。何より、此方を警戒しているのはまだ外にいる。
 千雨は中の二人に警戒を強めるように連絡することにした。
「先生、二人の携帯番号分かりますか。話しておきたいことがあります」
「お、ちょうどいい。仮契約カードで念話ができるんだ。兄貴、試してみてくれ」
「うん! あ、千雨さん。何を話すんですか?」
「さっき入口ですれ違ったホテルの従業員が怪しい。警戒してくれ」
「え、た、大変! 戻らなくちゃ!」
 ネギが止める間もなく慌ててホテルに戻る。
「あー……。しょうがない、私はこっちを探すか」
 さて、狩りの始まりだ。獲物に狩られる立場であることを思い知らせてやろう。
 千雨は気配を殺し、瞬動でその場から一気に離れた。
 獲物は驚愕した模様、即座に気配を探りにかかった。遅い、既に居場所は特定した。だが、瞬動に入ろうとした直後、向こうも気配を殺して移動したのが分かった。
「チッ!」
 どうも相手側もかなりできるようだ。相手は既に撤退を決め込んで、瞬動した模様。夜の京都で超速の追いかけっこが始まる。



 敵は完全に逃げに徹し、あちこちジグザグに移動を繰り返す。
「なかなかしぶといじゃねーか」
 だがこちらは狩人。やみくもに逃げ回るだけの獲物など何度も捕まえてきた。相手がビルの屋根の上に移動した瞬間、真っ白い煙が撒き散らされる。
「良しっ!」
 既に投げておいた煙幕弾が爆発する瞬間を狙って、相手をそこに着地させることに成功。相手がうろたえて、またも瞬動で逃げるが、もう勝負はついた。
 煙幕弾には特製の麻痺薬が仕込まれており、ほんの少し吸い込むだけで一気に動けなくなる。たとえ煙幕を直接吸い込まなくても、衣服に付着した分を後で吸い込んでしまう極悪品だ。
 瞬動で加速したまま勢いよく飛び出した敵は、ビルの壁に激突する。
「捕獲完了っと」
 中和剤を回りにまき散らしながら、ビルの壁からずり落ちた敵のところまで移動する。付けていた覆面をはぎ取って、相手の顔を確認してやった。
「ん? こいつは……」
 どこかで見たような記憶がある。とりあえず、ワイヤーで縛り上げて、解毒剤を注射してやる。しばらくして解毒剤が効いてきたのか、口を開いた。
「……う、うう、ひ、ひどいッス……」
 その口調で思い出す。一時期弟子にして、しこたま扱いてやった年上の女狩人。
「紗奈じゃねーか」
 向こうの世界の住人が、又もこちらに来ていたことに驚いた。



[30797] 第13クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/16 09:13
 紗奈。読み方はサナで、年齢は現在十七。ユクモ地方近くに存在する村で生まれたハンター。
 突然ユクモ村にやってきて千雨に狩り勝負を挑んできたので、ちょうど受注したばかりのティガレックス討伐で勝負を決めようと言ったところ、一気に怖気づいた。
 話を聞くと、ユクモ村にすごいハンターが来たとだけ聞いて勝負しにやってきたのだが、飛竜討伐の経験はないらしい。
 殆ど見学に近い形で千雨の後についてきて、ティガレックスを一人で仕留めて見せたところ、弟子入り志願してきた。
 しかたなく千雨の狩りに同行させて、弟子として荷物持ちにしたり囮にしたりした。結果として一年で逃げだして、どこかに行方をくらませる事になった。
 風の噂では一人でリオレウスを倒すことに成功したと聞いたが、峯山龍狩りには毎回不参加だった。
 彼女が話した千雨の狩猟訓練の内容は多くのハンターに知れ渡り、アマツマガツチ討伐を成功させた千雨の元に弟子入り志願者が来ることは一度もなかった。
 見た目は3-Aの生徒に劣らないような長髪の美少女。性格は残念。



「なんだってお前が近衛の誘拐なんぞすることになったんだよ」
「行方不明になった師匠が悪いんスよ!」
 千雨達が嵐龍調査の帰還予定日になっても帰って来ない。その事態を重く見たギルドは腕利きのハンターを招集し、千雨達の捜索を行わせる事を決定した。
 千雨の弟子であった紗奈もギルドからの要請(殆ど強制)で捜索に参加し、霊峰までやってきた。
 紗奈はそこにあった巨大な穴に足を滑らせて墜ちてしまい、気が付いたら見知らぬ土地に二人のハンター。
 今までの常識も通用しないこの場所で、助けてくれたのは天ヶ崎千草という女性。
 あれこれ世話を焼かれてお礼がしたいと言ったら、なんだか関西呪術協会という組織に反乱するような計画に参加することを要求された。
 千草以外に頼るものがいない紗奈達は、悪いことだと思いつつも、泣く泣く計画に協力する事にしたのだった。
「オイ」
「わかってる! わかってるッスよ!! でも仕方ないじゃないッスか! 生きる為ッス!」
 拒否したもう一人ハンターの武器が、月詠と呼ばれる少女の太刀で斬られたので仕方なく手伝うことにしたのだそうだ。
「うう、敵は巨大ッス。なんたって呪術とか呼ばれる訳わからん変な技使うし、気とかいう謎の光を自在に操る奴らッス。組織の一派もアイツら支援してるとか聞いてるッス」
 千雨はとりあえずため息をついて、紗奈に尋ねる。
「で、お前は何で逃げた」
「……もし本当に師匠なら、こんなことしてると知ったら殺しに来ると」
 気は使わず、頭をはたいてやった。しばらく悶絶した紗奈は顔色が悪いまま、嬉しそうに言う。
「でも、師匠がいればあんな奴らには負けないッス。雷堂さんも味方に付けてけちょんけちょんにやっつけてほしいッス!」
 雷堂、たしかハンマーを愛用するハンターだったか。
「じゃあまず、アジト叩くか。お前も知ってるよな」
「もちろんッス!」
 立ち上がり、紗奈を縛るワイヤーをほどく。紗奈も立ち上がって体の調子を確認する。
「そういやお前、気を使ってるじゃないか。戦おうとは思わなかったのか?」
「は? 気は使えないッスよ。こっち来て覚えたのは瞬動とかいうすごい歩法だけッス」
「いや、それ気を使って移動する方法だから」
 寒い風が吹く。
「な、なんだってー!」



 結局アジトはもぬけの殻だった。もしかしたら雷堂が来るかもしれないので、ハンター達が使う暗号で手紙を書いて帰る。
 ホテルに帰ると、明日菜とネギがうろうろしていた。声をかけると明日菜が怒ったように言う。
「千雨ちゃん! どこ行ってたのよ。こっちは大変だったんだから!」
「脅されて仕方なく手伝ってた敵の一人を捕まえて、アジト叩きに行ってた」
 ほらコイツ。親指で紗奈を指さしていう。
「あはは、どうもッス。このたびは多大な御迷惑をおかけしたようで……」
 明日菜とネギがぽかんとする。
「て、敵!?」
「なんで捕まえてないのよ!」
「知り合いでな。こいつにはわたしに逆らうような度胸はねーよ。とりあえず、状況説明のために桜咲呼んでくれ」
 話はそのあと。そう言って千雨はロビーの椅子に座る。
「師匠、なんだかこっちの事かなり詳しいッスね」
「その辺の理由も話すから、大人しくしてろ」
 刹那もやってきて、一同が椅子に座った所で千雨が口を開く。
「まず話しておくことがある。こいつは紗奈っていう名前なんだが、この世界の住人じゃない」
「は? 魔法世界の住人ってことすか」
「話の途中だ馬鹿オコジョ」
 凶暴な猛獣達が闊歩し、ハンターという一部の鍛えた人間が、人々の安全と自分たちの利益のためにモンスターを狩って、生活を送る世界。
「私も、半分だけその世界の住人だ」
「半分?」
「今学期の始業日に駅のホームに人が落ちた事件があったろ。あれ私だ。あの時こっちで電車にひかれそうになった長谷川千雨と、向こうでハンターやってた千雨が融合したんだよ」
「融合、ですか?」
「詳しいところは分かってねーがな。とにかくそういったことが起きた。だから半分。こっちの事をよく知ってるのも、長谷川千雨がこっちに居たからだ」
 後半紗奈に向けて説明したのだが、全然わかってなさそうな顔をしていた。
「まあ、この馬鹿は向こうの人間なんだ」
「馬鹿ってひどいッスよ!」
「背骨折られて、背中とふくらはぎが綺麗にくっつく状態になりたくなかったら黙っとけ」
「はい師匠!」
 馬鹿弟子が抗議をやめたので話を続ける。
「マッコリも向こうの世界の住人だ。停電の日に空から降ってきたあの竜たちもな」
「なんか来たんスか?」
「希少種のリオが雄雌二匹づつ」
「あらまあ。どんだけ死んだッスか」
 軽く、常識のような口調で放たれた紗奈の言葉に凍りつく明日菜とネギ。刹那はそこまでいかなかったものの、やはり体を堅くしていた。
「幸い、誰も死んでねーよ。私が四匹片づけた」
「こっち来て化け物にでもなったッスか?」
「背骨」
「はい!」
 紗奈を再び黙らせる。さて、どこまで話したか。
「とにかく、そんな奴らが空飛んでる世界だ。ここまでで何か質問は?」
 そう問うが、よく考えたら本筋に関係ない話だ。すぐさま質問が出なかったので話を続ける。
「でだ、こいつと後一人の腕利きのハンターが、近衛の誘拐の計画者である天ヶ崎千草って女に拾われた」
「あのおサルの女?」
 明日菜の質問が来たが、顔を知らない事に気が付く。
「紗奈、似顔絵」
「はい!」
 さらさらとメモ用紙に似顔絵を描かせる。何処で身に付けたかよく分からない紗奈の特技だ。
 描きあがった似顔絵を見ると、ホテルに侵入してきた女だった。
「……似てますね」
 刹那の評価である。
「計画者が直接やってきたのか」
「そうッスね。後ろ盾はあったみたいッスが、実際に行動してたのはコイツと月詠って剣士。あとは私と雷堂というオッサンハンターが脅されて働かされてたッス」
 千雨は天ヶ崎千草の似顔絵を握りつぶす。
「敵の情報はそんなところだ。今後増えるかもしれないがな」
 その後は実際に戦ったネギたちの情報を聞いて話は終わった。
「夜の警戒はどうしましょう」
「私と紗奈がやっとく。桜咲は、徹夜したら全力で戦えるか?」
 刹那は首を振ってこたえた。
「私もやるッスか?」
「当たり前だ。ちょうどいいからお前に気の使い方も教えとく」
 うへえ、と変な声を出した馬鹿弟子を連れて、深夜の警戒のために屋根の上に上がることにした。



[30797] 第14クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/15 13:16
 夜間の襲撃はなく、一安心した所で朝食を食べるために戻る。紗奈の分は用意できていないので、適当な店で買わせるか食べさせるつもりだ。
 ちなみに紗奈に気の使い方を教えたが、魔法関係者の証言通り簡単に身に付くものでは無く、身体強化ぐらいしか覚えられなかった。それでも驚異的なのだが。
「千雨さん、結局戻ってこなかったけど何かあったの? なんだか寝不足みたいだし」
 那波千鶴が心配した様子で声をかけてくる。とりあえず大事なところをぼかした話でごまかす。
「ん、こっちに居た知り合いが面倒事に巻き込まれてな。……ああ、まだ面倒事は片付いていないから後でちょっと別行動することになるかもしれない」
「ちょっと千雨さん、今は修学旅行中ですわ。団体行動を――」
「しょうがないだろ、いいんちょ。人助けなんだから。ネギ先生も助けてくれるっつうし」
 ネギの名前が出た途端、やはり態度を変える雪広あやか。
「それならしかたありませんわね。ところで私にもお手伝いできることがあるなら何でも言ってくださいな!」
「今んとこ必要ねえ。……いや、必要になったら先生が言うだろうからそんな落ち込むな」
 ネギに協力して好感度を上げるつもりだったようだ。
 その後勝手に自己完結して、勝手に燃え上がり始めたあやかをみて、千雨は食事に戻る。
 何故か刹那が木乃香に追いかけられている光景が見られた。
 木乃香は刹那と仲良くなりたいのだろうか。まあ、友達として近くにいる方が護衛はしやすいだろうと千雨は考える。



 昼の襲撃もなかった。紗奈に対して相手が接触してくる事もなくホテルに戻ることに。
「昨日負けたから人員を増やすつもりッスかね」
「顔合わせとかした、動きそうな奴らに心当たりはあるか?」
「んー、なんか白い髪の男の子がなんか興味示して会いに来たッスけど」
 とりあえず似顔絵を描かせ、警戒対象として頭に入れておく。
「明日は神楽坂と先生が抜けるから襲いやすいと思うかもしれん」
「そっちは二人だけでいいッスか?」
「構わねえ。奴らにしてみれば近衛の方が本命だからな」
 そうして対策を練っていたのだが、ネギからの連絡で一度集まって欲しいと言われた。
「魔法がばれた?」
「しかも朝倉に?」
 明日菜が呆れていたが、尤もだと千雨は思った。魔法使いは本当に魔法を隠す気があるのだろうか。
 そのあとすぐに朝倉がやってきて、秘密を守るだのといっていたが、千雨はどうにも信じられなかった。
 ネギに注意するように言ったが、結局無駄に終わる。『ラブラブキッス大作戦』と言う下らないイベントは決行された。
 結局十一人の生徒と、巻き込まれたネギが正座をする羽目になった。



 千雨としてはどうでもいい仮契約カード講座が終わり、千雨は三班から離れて紗奈と行動する形となる。
 少し離れたところで分かりやすいように木乃香の周りを警戒しているのをみせて、相手が手を出すのをためらうような状態にしたのだが。
「ずいぶん大胆だな。月詠さんよ」
 白昼堂々と刹那に向かって棒手裏剣を投擲してきた。現在相手は二人。月詠と髪の白い少年だ。
 月詠に話しかけながらも、警戒するのは少年の方。千雨の勘が危険な相手だと訴える。
 刹那達は即座に逃げを打ち、既に遠く離れているが、この程度なら瞬動ですぐに追いかけられる距離だ。
「あまり邪魔しないでもらえまへんか? ウチは刹那センパイと死合いたいんです」
「僕たちの目的は近衛木乃香だったはずだけど」
 おそらく千雨では二人の相手は無理だ。となると自然と組み合わせは決まってくる。
「紗奈、お前が月詠とやれ。私はあの白いのとやる」
「む、無茶言わないでください! アイツ、ストライプストライク斬ったッスよ!」
「今から武器強化間に合わせればどうにでもなんだろうが」
「はあ、紗奈はんがお相手どすか。腕はいいみたいですが、そんなに簡単にいきまへんよ?」
 逃げ腰の紗奈は、それでも気による身体強化を始める。うっすらと飛竜刀【双火】に気の光がまとわりついた。それを見た月読は、薄く笑った。
「つーわけで白いの。てめーの相手は私がやる」
「僕としては近衛木乃香を渡してほしいんだけどね」
「却下だクソガキ」
 出し惜しみをしても少年は倒せないと判断した千雨は莫大な量の気を纏う。髪の毛が舞い上がり、漫画の戦闘民族のように千雨の周りが発光する。
「……君を放置したら、面倒なことになりそうだ。仕方がない」
 少年も気を、いや魔力だろうか? 光を身に纏い、臨戦態勢に入る。
「気も魔法も隠匿するものなんだけどね」
「あいにく私はハンターだ。殺し合いの最中に魔法使いの事情なんぞ考慮する気もねーよ」
 双剣を瞬時に取り出した千雨は一気に切りかかる。少年の手の内に現れた石の双剣とぶつかり合い、戦いが始まる。



 そしてこちらは逃げに回った刹那達。シネマ村に逃げ込んだのだが、目の前に長身で少し細身の男が立ちふさがった。即座に愛刀の夕凪に手をかけた刹那だったが、男は両手を上げる。
「私は雷堂というものだ。警戒しなくていい」
「雷堂、長谷川さんのお知り合いの……」
「長谷川? ああ、あちらにいる千雨嬢とは知り合いだ」
 そうして雷堂が見たのは町中で立ち上る気の光。
「長谷川さん……」
 まったく気を隠す気がない千雨に一瞬あきれるが、その莫大な気をみて、そうまでしないと勝てない相手がいることを知る。
「ええと、雷堂さんやね。千雨ちゃんの知り合いがなんでウチらの所にきたん?」
「木乃香嬢。実は今、君の身柄を狙う奴らがいるんだ」
「ッ! 雷堂さん!」
「いや、ここで隠しても仕方あるまい。木乃香嬢、私は君を助けるつもりだ」
 そうして雷堂は一通の封筒を差し出す。
「すでに君の父君には話しておいた。これが証になるかはわからないが、御実家に避難するべきだ」
 木乃香があけた封筒には、確かに近衛詠春、彼女の父の文字ですぐに家に来るように書かれていた。
「わかりました。雷堂さん、一緒に――」
「そうはいきまへん!」
 轟音を立てて落下してきたのは、天ヶ崎千草と彼女の式神、そして化物。
「チッ、まさかあんたら二人とも裏切るとはな」
「ふん、殺すと言われた程度で屈するほど、私の誇りはやわではないさ」
 刹那と木乃香を隠すように雷堂は体を移動させる。
「まあええ、もうこうなったら力ずくや。このか御嬢様は渡してもらうで!」
 天ヶ崎千草の命令で襲い掛かる式神たち。だが雷堂は拳を引いて殴りにかかった。
「おそるるに足らず!」
 吹き飛ばされたのは、猿の式神。ついで回し蹴りを熊の式神に叩き込み、又も吹き飛ばす。
 驚愕する天ヶ崎千草。
「この程度ならば素手でも十分! 轟竜の頭を叩くより容易いわ!」
 だが、その間を縫って化物が動く。少し離れてしまった雷堂は反応が遅れ、刹那達の方に通してしまった。化物の手が木乃香に迫る。
「木乃香嬢!」
 刹那が動く。木乃香を突き飛ばして、化け物のから遠ざける。そのまま化物の振った手は、刹那の体を引き裂いた。
「せっちゃん!」
 木乃香が崩れ落ちる刹那に飛びつき、まばゆい光を放つ。
「なっ!?」
 天ヶ崎千草の驚愕の声。光が収まった時には、木乃香が傷一つ無い刹那を抱きかかえていた。
「お、嬢様……?」
「せっちゃん! 大丈夫!?」
「……これが、このか御嬢様の力」
 驚愕する天ヶ崎千草。
「天ヶ崎千草ッ! 許せぬ!」
 殴りかかる雷堂、だがその拳は空を切った。
「やれやれ、相手が悪いね」
 白い髪の少年が天ヶ崎千草を抱えて、離れたところに立っていた。
「フェイト・アーウェルンクス!」
 雷堂の怒りの声をきいても、フェイトと呼ばれた少年は顔色を変えずに淡々と言った。
「この場は引かせてもらうよ」
「こら新入り! 何勝手なことを――」
「来るよ」
 フェイトの宣言通り、空から降ってきたのは千雨。双剣をもって大地をへこませる一撃を繰り出した。
「くそ、避けやがって」
「さっきも言ったけど、退却させてもらうよ。じゃあね」
 そう言ってフェイト達は砂嵐を発生させて消え去った。
「くそ。転移とか出来るのかよ」
 千雨の文句は届く相手もいなかった。



[30797] 第15クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/16 21:43
 月詠たちの襲撃よりも前の話。
 関西呪術協会の総本山に向かっていたネギと明日菜。途中天ヶ崎千草の罠によって足止めを食らい、狗族の少年によって大打撃を受けた。
 刹那の放った式神のアドバイスと機転で何とか撤退することが出来たものの、いまだ敵の術中。少年を倒し、罠を解かなければ進むことが出来ない状態にあった。
「勝算はあります。任せてください」
 宮崎のどかは『ラブラブキッス大作戦』で手に入れた仮契約カード、それを変化させて出現した、いどのえにっきを用いて状況を把握していた。
 いどのえにっきに出てきた先のネギの言葉に、のどかは安堵し、同時に興奮した。
「す、すごいです。ネギ先生はあの強い男の子相手に勝算が……」
 その時、周りの竹林をかき分けて何者かがのどかに迫ってきていた。慌てて本を仮契約カードに戻したところで、少年が突っ込んできた。
 ぶつかり、転倒した二人。
「ああ、わざとやないんや! 人違いや!」
 少年はのどかに謝り、魔法関係をぼかした状況を説明する。
「後で罠解いて、お姉ちゃんだけ出したるわ」
 その言葉で、ネギと戦っていた狗族の少年が目の前の人物と同じであることを知る。
 どうしたらいいのか考えて、いどのえにっきの使い方、名前を知ることで読心できる事を思い出す。
「あの、私……宮崎のどかです。あなたのお名前は?」
「小太郎や、犬上小太郎!」



「白き雷!」
 ネギの魔法が小太郎に直撃する。しかし、防御の護符を破壊するまでにとどまり、決定的なダメージは与えられなかった。
 小太郎のラッシュがネギを襲う。明日菜は小太郎の狗神によって動けなくなり、救出は不可能。
「勝ったで! とどめや!!」
 小太郎が力を込めた一撃を放とうとする。しかし、ネギが狙っていたのはその一撃が生み出す隙。
「契約執行0.5秒間、ネギスプリングフィールド」
 無理やり自分の体に魔力を注ぎ込み、強化する。小太郎の一撃をそらし、驚愕した所を殴り飛ばす。
「闇夜切り裂く一条の光、我が手に宿りて敵を喰らえ」
 浮き上がった小太郎の下から手を添え、魔法を放つ。
「白き雷!」
 ゼロ距離から放たれた一撃は、小太郎の体を打ち据える。倒れこんだ小太郎に向かい、ネギは言い放つ。
「これが、西洋魔術師の力だ!」
 倒した。脱出方法を探そうとするネギたちは、後ろからかけられた声に驚く。
「さっきのは取り消す。だが、まだ終わらへんで!」
 小太郎は最後の力を振りしぼり、獣化する。
「こっからが本番や、ネギ!」
 立ちはだかる小太郎に、ネギはさらに自らの体に魔力を注ぎ、相手をしようとする。
 だが、獣化した小太郎のスピードは速く、ネギの目では追い切れなかった。
「左です、先生ー!」
 突如かけられたのどかのアドバイスに助けられ、回避に成功する。
 続く小太郎の攻撃ものどかの読心によって回避するネギ。
「小太郎君、ここから出るには、どうすればいいんですか!」
 小太郎はその言葉を聞いて、瞬時に脱出方法を思い浮かべてしまう。気が付いた時には遅かった。
 のどかの罠の基点を教える言葉に、隠された印を魔法の矢で破壊するネギ。
 刹那の式神が罠を逆に利用して、小太郎を閉じ込めて、戦いは何とか勝利した。



 紗奈と月詠の戦いは、対人戦闘の経験がない紗奈が押され、終始月詠のペースで進められた。
「紗奈はんも随分やりますなー。結構好きになりそうどすー」
「こっちとしては戦闘狂なんか願い下げッスよ!」
 紗奈は初撃でまともに打ち合うのはやめた。力は自分の方が上だが、打ち合ったときに飛竜刀【双火】がわずかに欠けたのを見て武器強化が未熟だと知り、武器を折られることを避けたのだ。
 基本的に攻撃をそらし、避ける状態ではあるが、少しだけ斬りに行くこともある。月詠には軽々と避けられるが、今の自分ならティガレックス相手でも真っ向から向っていける力をつけたと感じる。
 押されっぱなしではあったが、フェイトが撤退を決め、月詠に声をかけたところでわずかに出来た隙を使い、刀を弾き飛ばした。
 弾き飛ばした刀は千雨が斬ってしまったので、月詠の刀は一本。攻撃が減ったことで出来た隙を使い、月詠を気絶させることに成功。
 おととい千雨が使ったワイヤーを使い、縛り上げた月詠を担いで、千雨と合流しに行く。
「まあ、何とかなって良かったッス」
 出来れば人相手の斬り合いなど、二度とやりたくはなかった。
 千雨と合流した時、雷堂も一緒にいた。
「雷堂さん、無事だったッスか。いやはやよかった」
「ああ、これから木乃香嬢達の着替えが済み次第、関西呪術協会に向かう」
「……大丈夫ッスか?」
「すでに長の協力は取り付けてある。向こうもすでに動かせる人員を集めている最中だ」
 その言葉に安心する紗奈。
「これでようやくお天道さんの下を堂々と歩けるッスよ。誘拐犯一味なんて御免ッス」
「お待たせいたしました」
「わあ、こっちが紗奈さん? 美人さんやなー」
 紗奈の容姿をほめる木乃香。しかし千雨は容赦なく紗奈をけなす。
「見た目だけな」
「ひどいッス、し……千雨ちゃん」
 弟子だから敬意をもって呼べと言ったのは千雨だが、事情を知らない人がいるところで師匠と呼ぶのは止めろとも言われている。
「では行くとするか」
 雷堂の言葉にうなずく一同、そこへ早乙女ハルナと綾瀬夕映、そして朝倉和美がやってきた。
「ちょっとちょっと、千雨ちゃん! 一体何がどうなってるのか説明してもらおうじゃないの! どっかの戦闘民族みたいに光ってたりしたのはどーいう事!」
「あー、あれだ。超特製の、手品道具?」
「ああなるほど、超りん特製なら仕方ないか……ってなるわけないっしょ! いない!」
 千雨達は忽然と姿を消していた。
「逃げられたー!」
 ハルナの声に、笑いながら朝倉が告げる。
「ふふふふ、こんなこともあろうかと! 桜咲さんの荷物にGPS携帯しこんどきました!」
「おお! やるじゃん朝倉!」
 バシバシ朝倉の肩をたたいてほめるハルナ。
「ところで、あの女性がゴスロリの女の子を担いでいたのは、何故だったのでしょう?」
 夕映の疑問に答える者はいなかった。



 木乃香を瞬動で運ぶわけにもいかなかった千雨達に追いついたハルナ達。
 今から向うのは木乃香の実家であることを仕方なく告げて、一緒に行くことにした。
 明日菜たちにも合流して、木乃香の実家、関西呪術協会総本山に入る。
 協会の者に捕えた月読を渡し、呪術協会の長の詠春に親書を渡してひとまず仕事が終わった。
 しかし、千雨の勘は本山に入った所で何か危険なものを感じていた。



 ちなみに雷堂は明日菜に気に入られたようだ。



[30797] 第16クエスト【狩猟環境不安定】
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/16 20:20
 関西呪術協会では東からの特使のネギたちを歓迎する宴が開かれた。
 その中で、難しい顔をする千雨。酔っぱらった弟子が絡んでくる。
「ししょー、どうしたッスか~?」
「フェイトだったか、奴が仕掛けてこないのは何故だ?」
「ふぇ? ししょーにおそれをなしたッスよ。きっと」
 それはないだろう。奴はまだ力を隠していた。それはこちらも同じだが、気や魔力といった超常の力においてはあちらの方が上手だ。
「雷堂、アンタはどう思う」
「奴は『この場は引かせてもらう』と言っていた」
 まだ仕掛けてくるつもりなのだろう、と雷堂も判断しているようだ。
「アンタは気は使えなかったな」
「ああ、口惜しい限りだ」
 千雨は立ち上がり、紗奈に小瓶を渡す。
「酔い覚ましだ。それ飲んで雷堂に気の使い方教えておいてくれ。要領としては鬼人化と同じだ。もっと大きな力を汲み上げて扱うつもりで行けば出来るようになると思うが」
 千雨のアドバイスに頷く雷堂。紗奈は仕方なく酔い覚ましを飲んで、咳き込んだ。
「ごふっ、げはっ、師匠、これ苦過ぎるッス!」
「千雨嬢、君は何を」
「ちょっくら腕がなまっている剣士がいるみたいだからな。対人戦のやり方教えてもらうついでに、勘を取り戻してもらう」
 そう言って千雨が視線をやった先にいたのは、関西呪術協会の長、近衛詠春。



 風呂場で一騒動あった後、道場に千雨と詠春がやってきた。
「しかし、そこまでの体捌きでありながら対人戦の経験がほとんどないというのは……」
「まあ、化け物相手にしてただけですから。その点では貴方達神鳴流剣士と同じですかね」
 驚く詠春、千雨にどうしてわかったかを聞くと、推測だと答える。
「体捌きなんかが、桜咲や月詠とかいう奴と似てた点、あとは呪術協会と神鳴流の関係が深いって聞いてましたから。剣士の貴方が呪術協会のトップになる理由はその辺にあるかなと」
 そうして詠春から竹刀を受け取った千雨が、その瞬間に竹刀の先を詠春の首に付きつける。
「……いきなりこう来るとは」
「いやまあ、隙だらけだったもので。実戦は一瞬で斬られますからね」
 少しは危機感を持ったかと尋ねる千雨。詠春は笑いながら、千雨の後ろに常人の目では追えない速さで回り込み、頭をめがけて竹刀を振る。
 ぱしぱしと竹刀が鳴る音が鳴り続ける。距離を取らずに双方がすさまじい速度で竹刀を振り続けること一分。
「じゃあ、準備運動も済んだし、始めましょうか」
「ええ」
 詠春の同意の言葉と共に、千雨は気を使わない状態の最高速度を出す。詠春が千雨の攻撃を防ぐために振った竹刀とぶつかり、乾いた音を立てて二つの竹刀が使い物にならなくなる。
「……竹刀ってこんなもろいのか」
「神鳴流剣士が訓練に使う特別性なのですがね。気を使う条件で続けますか?」
「やめておきます。ここが吹っ飛びそうだ」
 それに目的は果たしたようなので、千雨としては続ける理由がなかった。
「太刀を貸しましょうか?」
 詠春の申し出に、首を振る千雨。
「もう届いたみたいですから」
 そう言った千雨の視線の先には、道場の入口に立つ、愛刀を背負った相棒がいた。
「まったくネコ使いが荒いニャ。後で持って来いというくらいニャら最初から持ってけばよかったニャ」
 麻帆良から人目に付かないように走ってきたマッコリは、愚痴を言いながら千雨に王牙刀【伏雷】を渡す。
「見た目が派手ですが、凄まじい業物ですね。一体どれだけの歴史を積み重ねてきたのですか?」
 きょとんとする千雨。この太刀は千雨がジンオウガを倒して得た素材で出来た、作られてから五年もたっていない新しいものだ。
「それにしては力強い念が内包されていますよ。ああ、悪いものではありません。むしろ神剣と言われた方が納得できるたぐいのモノです」
 詠春の言葉を聞き、千雨は剣をよく見る。確かに詠春に言われた通り、清らかな何かをイメージさせる気が感じ取れた。
「お前も、一緒に戦ってくれてたもんな」
 幾多の竜との戦いについてきてくれた愛刀をかざし、千雨は笑みを浮かべた。
「それじゃあ、フェイトってやつを警戒――」
 千雨の勘に何かが引っ掛かった。
「来たか!?」
 道場から飛び出した千雨は、辺りの気配を探る。いや、敵の狙いは木乃香。ならば木乃香のそばにいるべきだ。
「くそッ! 近衛はどこだ!」
 詠春との訓練のために離れたことがあだとなった。転移で移動し続けるフェイトらしき気配に惑わされながら、詠春、マッコリと一緒に木乃香を探す。
 本山の中にいる人々は石化されているのが見て取れた。クラスメイト達に割り当てられた部屋に行ったが、木乃香はいない。残りはみな石にされていた。
「違う、綾瀬がいない!」
「どこかにいるかもしれません、一緒に探しましょう」
 移動しながら木乃香を探している最中、学園長に電話をかけていた詠春が二つの人影を見つける。
「ネギ君! 刹那君!」
「長! 長谷川さん! 無事でしたか!」
「ええ。それで今、このかは何処に?」
「さっきアスナさんと一緒にいたと念話で確認を取りました! お風呂で合流する予定です」
「わかりました、急ぎましょう!」
「ニャんかもうわけわかんニャいニャ! 説明してる余裕ニャんかニャさそうだから訊かニャいけどニャ!」
「後でゆっくり説明してやる!」
 詠春を先頭に、千雨達は風呂場へと向かった。



 綾瀬夕映は朝倉和美のとっさの機転で逃げ延びていた。
 先ほど長瀬楓たちに助けを求めたが、それまで何処にいればいいのだろうか考えながら走る。その途中で森の中で光を纏う人影を見つけた。
「紗奈さん! 雷堂さん!」
「あれ? 夕映ちゃんッスか?」
「み、皆がどういうわけか石にされて、助けてください!」
 その言葉に二人は顔を引き締める。
「雷堂さん、行きましょう。……夕映ちゃんは、雷堂さんが安全な場所へ」
「この分だと安全な場所などなさそうな気もするがな」
「……そッスね。ではいったん師匠と合流で」
「承知した」
 雷堂が夕映を担いで、三人は森の中の開けた場所から移動を始めた。



 三人が立ち去った後、大きな影が姿を現す。
 それはバチバチと電気を纏いながら、狼のような形の巨躯を動かす、一匹の竜。
 無双の狩人とも呼ばれたそれは、常に纏う雷光虫だけではなく、自らの声に応える、形無き者達を連れて移動を再開した。

 長い夜が、始まる。



[30797] 第17クエスト【乱入】
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/17 10:47
「アスナさん!?」
 浴場にたどり着いた一行が見たのは、洗い場で倒れ伏す明日菜の姿。刹那が抱き起し、尋ねる。
「大丈夫ですか、明日菜さん!! 何があったんです!?」
「……ごめん……皆、このかがさらわれちゃった……」
 明日菜の弱弱しい声。当たりを警戒しつつ、千雨達も明日菜の近くに移動して、刹那と背中を合わせるような陣形を取る。
「……あいつ、まだ近くにいるかも……」
 明日菜の言葉が終わると同時、詠春と千雨が反応する。出現したのは背後。ちょうど陣形の中央。
 刹那が僅かに遅れて反応するが、フェイトの攻撃に吹き飛ばされる。直後、詠春と千雨の攻撃がフェイトを襲うが障壁によって防がれた。
「この障壁は、アーウェルンクス? まさか!?」
「サムライマスター、気が付くのが遅いね」
 フェイトは表情を変えず、詠春に向かって拳を繰り出す。一旦太刀を引いた千雨の突きが障壁を貫通するも、避けられてしまう。その結果詠春はフェイトの攻撃をよけることが出来たが。
「ふむ、やはり君も難敵のようだ。目的は達したし、ここに居てもいいことはなさそうだ」
 フェイトはそう言って、水の中に消える。
「刹那君、大丈夫ですか!」
 相手がいなくなったのを確認して、詠春が刹那に声をかける。ネギが治癒魔法をかけて、刹那は大丈夫だと言って立ち上がる。
「長のオッサン、何かアイツに心当たりがあるみたいだったが……」
 カモの言葉に、詠春は少し迷ってから答える。
「『完全なる世界』、魔法世界の大戦を引き起こした組織の残党でしょう。ナギをリーダーとする私達『紅き翼』の敵でした」
「無茶苦茶大物じゃねえか! どうにかしてあいつを倒すには……あ!」
 カモが考え込んで、あることを思いついたようだ。
「刹那の姉さん! 兄貴と仮契約して魔力を供給すれば……!」
「いえ、魔力と気は相応の訓練を積まなければ相反します。即座に戦力強化するには向かないでしょう」
 詠春の否定にがっくり肩を落とすカモ。
「名案だと思ったのになあ……」
「ですが、アーティファクトや従者召喚は使えるかもしれません。無理強いはしませんが契約しても悪いことはないかと」
「だよな! 刹那の姉さん、ついでに千雨の姉さんも……いない?」
「千雨君達は既に奴を追って外に行きました。私もすぐに出ます!」
 そう言って浴場から飛び出す詠春。残されたネギたちもちょっと照れが入った状態で、詠春の後を追い始める。
「あ、ちょっと! 私も行くって! まず着替えを……」
 明日菜が慌てて着替えを取りに行った。



「紗奈、雷堂! 綾瀬も!」
 浴場から出てしばらくした所で、千雨とマッコリは雷堂たちと合流した。
「千雨さん! 無事でしたか!」
「人々が石に変えられていたが、千雨嬢、何が起きている」
「敵の襲撃だ。綾瀬、不安かもしれないが建物の中にいてくれ。敵は目的を果たして出て行ったからひとまずは安全だ」
「わ、わかりました」
「なんかもう無茶苦茶ッス。これも呪術ッスか?」
「私に聞くな、専門外だ」
「ところで千雨さん、なんで猫が立って歩いてるですか?」
「んなもん後でゆっくり説明してやる!」
 夕映を置いて、千雨達は再び駆け出した。
「なにがどうなってるですか……?」



「ふふふ、あとはあの祭壇に向かえば……」
 天ヶ崎千草はフェイトが連れてきた木乃香を見て、東の魔法使いを蹴散らす情景を想像する。
「それより急いだほうがいいよ。桁が違う相手が来る」
「なんやて?」
 千草の疑問の声にこたえたのは、フェイトの障壁が王牙刀【伏雷】を弾く甲高い音。
「ほら、早く」
「チッ、しつこい奴らやな」
 フェイトに促されて千草が移動しようとしたところで、遅れてきた詠春たちがやってくる。
「天ヶ崎千草! 無駄な抵抗はやめて大人しく投降しろ!」
「これはこれは、長。そういうわけにはいきまへんなあ。そうや、長にもお嬢様の力を把握してもらいましょうか」
 千草はそう言って呪文を唱え始めた。
「させるか!」
 詠春が千草に斬りかかろうとしたとき。
「危ない!」
「避けて!」
 千雨とフェイトが同時に叫ぶ。
 森の中から轟音を立てて雷が横に奔り、詠春達と千草を分断した。
「な、なんや!」
 ちょうど呪文を唱え終わった千草が、驚きの声を上げる。
 雷撃は地面さえも一直線に抉り、抉られた地面がぶすぶすと煙を上げる。
 召喚された鬼達も、千草も、詠春達も、フェイトも、そして千雨も雷撃を放った者を見る。
「……ジンオウガ」
 数多のハンターたちを返り討ちにした雷狼竜がそこにいた。
 だが、この雷撃の威力はなんだ? かつて相対したアマツマガツチにこそ及ばぬものの、凄まじい威圧感をもってたたずむジンオウガを見る。
「……さっきの雷、間違いない」
 ネギの呟きが、静まり返ったこの場に響く。
「……あいつ、雷の精霊を使って魔法の雷撃を放ったんだ!」



[30797] 第18クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/19 16:51
 ジンオウガが咆哮し、天ヶ崎千草が召喚した鬼たちに向かって突っ込んでいく。どうやらすべてをなぎ倒すつもりらしい。
 百に近い鬼たちが、電気を、いや雷を纏うジンオウガに見事にふき飛ばされていく。二、三十体はそのまま消滅してしまった。
「召喚されたおもたら、いきなりこんなんに襲われるんか。ついてないなあ」
 残った鬼の一人が愚痴をこぼす。
 千雨は瞬動で詠春の隣に移動。この間の希少種たちとは違い、ジンオウガは明らかに千雨を目で追っていた。反応速度まで上がっているようだ。
「詠春さん、あんたフェイトってやつと戦えるか?」
「正直なまってしまった体では難しいですが、やれないことはないと思います。君はあの雷獣と?」
「そういうことになりそうだ。先生たちは近衛を! 雷堂、紗奈! ジンオウガを狩るぞ!」
 叫んだ千雨にフェイトが即座に攻撃を仕掛ける。
「させると思う?」
「思わないが、止めさせてもらう!」
 詠春が割り込み、何とか攻撃を阻止する。
「あれ絶対ヤバいジンオウガッスよ。やりたくねーッス」
 そう言いながらも、きっちり飛竜刀【双火】を構える紗奈。雷堂には武器がないので、千雨が持っていた双剣を足元に投げて渡す。
「なんや、ワシ等は無視かいな」
「まあ召喚者は行ってしもたが、呼ばれたからにはきっちり仕事せんとなあ」
 鬼たちが天ヶ崎千草を追おうとしたネギたちの前に立ちはだかる。
 周りで高まる戦意を感じ取ったジンオウガは天を仰ぎ、吠える。雷が雨のように周りに落ちてくる。
「ギャー! マジでシャレになってねーッ!」
 カモの叫びは落雷の轟音でかき消される。
 周囲では各々が防御態勢を取り、千に届くほど降る雷を必死に耐える。力の強い者はそれでもなお、戦い始める。
 フェイトは障壁で防御。詠春は降り注ぐ雷を自らの技に乗せ、フェイトへの攻撃に使う。
 千雨は即座に離脱。敵の状態を探る。
(召喚された奴らは、ほとんど壊滅。詠春さんはフェイトを抑えてもらう必要があって、こっちは自由に動けるのは私と、……マッコリはちょっと無理か)
 少しでも仲間を逃がすため、千雨は即座にネギに向かって突っ込む。
「先生、ちょっと我慢してくれ!」
「え、うわあああぁ!?」
 瞬動の抜きの瞬間、ネギを掴んだ千雨は、さらに瞬動。即座にネギを逃がす。
「先生はすぐ神楽坂を召喚、この場で待機!」
「は、はい、わかりました! 千雨さんは!?」
「あいつを何とかしてくるよ!」
 千雨はネギの質問に答えた後、すぐにジンオウガの鼻先まで移動して斬り付けた。
(浅い!)
 ジンオウガの纏う雷は厄介だ。普段狩っていた者たちとは比べ物にならないほどの威力で、こちらの攻撃そのものをためらわせる。
 纏う雷を避けるために手前で止まったことが災いして、刃は骨にも届かず、若干怯ませるだけに留まった。
 ジンオウガが怯んだことで雷は止んだが、既に被害は甚大。雷堂は片膝をついていて、紗奈は背中の火傷が酷い。刹那はどうやら気絶しているようだ。
「ああ、もうっ!」
 気絶した刹那を、召喚されて何とか無事なまま離脱した明日菜に向かって投げる。
「神楽坂! 受け取れ!」
「ちょっと千雨ちゃ、キャアア!」
 ネギに向かって回復薬Gを二瓶投げる。
「桜咲が気が付いたらそいつ飲ませとけ! そのあとは近衛を追ってくれ!」
 そして紗奈と雷堂にも薬を渡す。マッコリにも薬を渡すために探すが、どこにもいない。
「マッコリ!」
「こ、ここニャ……」
 足元から顔を出すマッコリ。どうやら地面を掘って逃げていたようだ。大したダメージも無い。
「無茶苦茶怒ってるニャ。今ので千雨を標的にしたみたいニャ」
「……援護は頼むぜ」
 ジンオウガが体をこちらに向ける。王牙刀【伏雷】を構えた千雨に向かってタックルする。
 百メートルくらい吹き飛ばされた千雨は、何とか衝撃を殺して着地する。
「千雨嬢!」
 回復した雷堂が叫び、双剣をジンオウガに突き立てる。雷堂の腕がジンオウガの纏う雷で焼かれた。
「大丈夫か?」
「なんとかな。毒を剣に塗っておいたが、効くかどうかは分からぬ」
「……師匠、私を捕まえるときに使った煙幕弾あるッスか?」
「煙幕じゃ粉塵爆発するだろ。だが、着眼点は悪くねえな。マッコリ、三番無事か?」
「無事ニャ。不燃性の毒ガスだったかニャ?」
 問題は効くかどうかだ。少し量に不安がある。
「足りなかったら、ぶっ倒れるまで斬るだけだ」
 千雨は毒薬を仲間たちに預けて、ジンオウガに斬りかかった。



[30797] 第19クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/21 16:51
 ジンオウガに向かって斬りかかること数十回、効果がありそうな薬品類は粗方使いつくした。
 紗奈たちもぶっつけ本番で気弾などで攻撃しているが、纏う雷が魔法の力を帯びているせいなのか、あまりダメージにならない。
 千雨の気刃が与えるダメージで消耗はさせているが、それでもまだ走る体力は残っているようだ。
「本当にやりづらいニャッ!」
 マッコリが金属片を詰めた爆弾をジンオウガの足元に投げ込む。左前足で踏みつけて、僅かに傷を負わせる。
 ふと、ジンオウガが千雨達から目を離す。千雨が勢いよく斬り付けて、刃が右前足の骨に届いた。
「よしッ!」
 だが、何故かジンオウガが千雨を見ない。今までで一番深く斬り付けたにもかかわらず。
 ちらりと、ジンオウガの目線を追ってみると、何やら光の柱がそびえ立っている。
 どこか、覚えのある気配を光の柱から感じる。
 いきなりジンオウガが視線の先に向かって走り出す。さっきまで戦っていた千雨達に目もくれず。
「何が起きた?」
 雷堂の疑問に千雨はわからない、と答えようとして、光の発する気配に思い至る。
「近衛の力だ!」
 木乃香の気配と、天ヶ崎千草が召喚した鬼たちの力の元。
「天ヶ崎千草がなんか召喚しようとしてるのか?」
 ジンオウガはそちらを警戒してそちらに攻撃を加えようとしているのだろうか。
「もしかすると、木乃香ちゃんの力を奪うとか……?」
 紗奈が大型のモンスターたちが他の動物を喰って体力を回復する事を思い出し、それが今回の食糧として木乃香を選んだ可能性を提示する。
 詠春の話では木乃香の魔力は莫大。魔法の力を使うジンオウガが食べることによってその力を回復させるかもしれない。
「紗奈嬢の言葉通りになったら厄介だな。私は追うべきだと思う」
「そうだな。敵も近くにはいないようだし、気づかれないように行こう」
 千雨達も移動を開始する。



 ジンオウガを追って木々がなぎ倒された道を行くと、古菲が少年と戦っていた。そばには長瀬楓がいて、二人を見ている。
「長瀬、なんでお前らがここにいるんだ?」
「いやはや、夕映殿に助けを乞われて来てみたのでござるが、何をどうすればいいのやら。取り合えずネギ坊主たちを足止めしようとしていた少年を引き付けておいたでござるが……」
 龍宮真名もいたらしいが、そっちはネギたちと行動するようにした様だ。
「ここをでっかい動物が通らなかったか?」
「ネギ坊主たちがここを去ってから少ししたら、木々をへし折りながら走って行ったでござる。古は少年と戦っていてもらうとして、拙者は何をすればいいのでござろう?」
 とりあえず、道具を貸してもらおうと頼もうとして、使い慣れている人間が使った方が良いのではと考え直す。
「まあ、ついてきてくれ。戦うことになるかもしれんが、無理そうなら隠れててくれてかまわない」
「それは拙者への挑戦でござるか?」
 とはいっても、入り込めるかは楓の全力を知らない千雨にはわからなかった。



 ネギたちに追いついたら、四つ腕の巨人らしきものとジンオウガがガチバトルしていた。ネギも明日菜もぽかんとしている。
 木乃香の救出は上手くいったようで、今は刹那の隣に立っている。詠春も木乃香の肩に手を置いて怪獣バトルの行く末を見ていた。
「どうなってるんだ?」
 千雨の声にこたえたのはカモ。
「天ヶ崎千草ってやつがこのかの姉さんの力を使って、リョウメンスクナノカミっていうバケモンを呼び出したけど、あの雷獣がそこに突っ込んだのが原因か、天ヶ崎千草の制御を外れたらしくて大暴れ。このかの姉さんはそん時落っことされたんすけど、刹那の姉さんが翼生やして飛んで何とか助けたとこです」
「フェイトってやつはどうした?」
 次の疑問に答えたのは詠春。
「どこかへ行ってしまった。それらしき気配は近くにないが……」
 今回の件はもうどうでもよくなった。そう言って消えたらしい。
「で、あれはどうしようか?」
 自身の何倍もあるスクナに向かって突っ込んでいくジンオウガ。体格的、コンディションから見ればスクナの方が有利だが、ジンオウガもかなり攻めている。
「……もう少し様子を見てみましょう。スクナは力の供給源のお嬢様を失い、ジンオウガという雷獣もかなり消耗しています」
「共倒れになってくれれば楽だな」
 千雨の声をかき消すように、ジンオウガから連射された雷撃の音が響き、スクナの体を傾ける様子が見えた。



[30797] 第20クエスト
Name: 川岸新兎◆d56cdddf ID:77548ced
Date: 2011/12/22 20:08
 ジンオウガとスクナの戦いにも終わりが来そうだ。ジンオウガの体力に限界が近づいてきている。纏う雷はまだ衰えていないものの、血を流しすぎていた。
「終わりそうだな」
 千雨の言葉に合わせるように、ジンオウガが咆哮する。天に向かってひときわ大きな雷撃を放ち、周囲に雷の雨を降らせる。
 スクナの周囲に雷が降り注ぎ、周囲に雷撃が広がっていく。
「これこっちもやばいんじゃねーか?」
 まるで千雨の言葉が引き金となったように、雷撃の広がる速度が上がっていく。
「逃げるぞ!」
 皆が全力で雷から逃げ出す。だが、木乃香が足をもつれさせてしまった。転んでしまったことに隣の刹那が気が付いて、木乃香に覆いかぶさる。
「このかさん、刹那さんっ!」
 さらにネギが刹那の上に覆いかぶさるように動く。
「ネギッ!」
 明日菜が悲鳴を上げると同時、雷が一度ネギたちに降りかかる。そこでジンオウガが力尽きたのか雷の雨が止んだ。
「大丈夫か!」
 千雨の声に、煙の中から、途切れ途切れにネギが答える。
「だい……じょう、ぶです……二人には、怪我は……させてま、せん」
「あんたが大丈夫じゃないでしょ!」
 明日菜が言った通り、ネギは全身に火傷を負っていてすぐにでも死にそうな状態だ。マッコリが慌てて回復薬を取り出そうとするが。
「回復薬がないニャ!」
「なに、アオキノコと薬草は!?」
「薬草が一個だけどあるニャ! そのままじゃ呑み込めないからさっさと調合、……ニャ?」
 もえないゴミになってしまった。調合失敗。
「クソ、こっちは手詰まりだ。詠春さん、何か手は!?」
「今は回復の呪符もありません! このままじゃネギ君が……」
「そうや、さっきみんなに話してもらった、パクテオー? すればもしかしたら!」
 木乃香の叫びにカモが答える。
「そうか! 仮契約には対象の潜在力を引き出す効果がある!」
 カモが地面に降りて素早く魔法陣を描く。
「上手くいってくれ! 頼む!」
 カモの叫びを聞いて、木乃香が横たわるネギにキスをする。そして光が周囲に広がっていく。
「このか、さん……?」
 ネギの火傷が治り、気を取り戻した。皆が喜んだところで、カモが余計なことを言う。
「刹那の姉さんや千雨の姉さんもどうですかい? 一発ぶちゅ」
 千雨が拳を叩き落としてカモをつぶす。ちなみに最後のぶちゅはカモのつぶれる音である。
「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」
「千雨、手に血が付いたニャ」
 マッコリの言うとおり、右手に血が付いている。ハンカチで手をぬぐうが、うまく取れない。
「ちょっと手を貸すニャ」
 そう言ってマッコリが千雨の右手を掴んで、舌でなめる。
 すると、仮契約の魔法陣が再び光り出す。魔法陣の中にはネギと木乃香。キスをしている様子はない。
 そして、光が収まった時、千雨の前に一枚のカードが現れた。描かれているのは、黄金色に輝く剣を構えたマッコリ。
「な、なんだか知らないが、仮契約成立だぜ……」
「カモ君!」
 ネギがカモを持ち上げる。虫の息である。千雨はカモを放っておいてカードを見る。
「エクスネコカリバー?」
 そんな名前のアーティファクトがマッコリに与えられるようである。どっかで聞いたような名前だ。
 取り出してみると、しっかりと実用的な物にはなっているようである。金色に輝いている。
 マッコリが具合を確かめていると、急に辺りを見回しはじめた。
「どうした?」
「ニャんか声が聞こえるニャ。ええと、向こうからニャ」
 そう言ってマッコリが指差したのは、ふらふらとこちらに歩いてくるジンオウガ。思わず王牙刀【伏雷】を抜き放った千雨を、マッコリが止める。
「え? 同胞? 後を頼む? 何言ってるニャ?」
 一瞬マッコリが電波を受信したのかと考える千雨だったが、どうにも様子がおかしい。ジンオウガの唸りに合わせて何かを聞いているようだ。
「動物の言葉が聞こえるアーティファクトってやつなのか」
「ええっと、たぶんそうニャ。千雨に向かって『牙を向け合ったとは言え、同胞には変わりない。我はあの怪物を残したままこの世を去ることになりそうだ。後を頼む』でいいのかニャ?」
 マッコリの言葉に軽く唸るジンオウガ。
「へ? すべての獣の王? 僕の事ニャ?」
 マッコリが尋ねると同時、ジンオウガが横たわった。そのまま目を閉じて、永い眠りについた。
「ニャんだか意味不明ニャ。怪物って、あっちのスクナってやつ……ニャ?」
 スクナを見ると、うっすら消えていく。大怪獣決戦も終わったようだ。
「何が何だかわからないままに終わったな」
 他に何かないかと気配を探ってみたら、龍宮真名がこちらに歩いてくるのを感じた。
「龍宮、何やってたんだ?」
「いや、学園長に連絡をしてみたんだが……」
 何やら言いづらそうにしている。しばらくして決心がついたらしい顔をして言った。
「エヴァンジェリンが救援に来るそうだ」
 沈黙が訪れる。
「……全部終わったっぽいんだが」
「いや、石化した人たちを元に戻さなければ。……まあ、彼女が石化解呪に協力できるかは疑問だが」
 出番のなくなったエヴァンジェリン。彼女の機嫌をなんとかするのが今夜の最後の仕事になりそうだ。


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