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[30818] 【習作】ソードアート・リトライン (SAOオリ主逆行)
Name: ネクラ◆fcdf9ac2 ID:b84af1ed
Date: 2012/08/12 03:07
01

 リンゴ―ン、リンゴーンという、鐘のような――あるいは警報音のような大ボリュームのサウンドが鳴り響く。
 忘れもしない、二年前にこの世界に鳴り響いた悪夢の始まりの音。


 正面はるか遠くに見えるバカでかい宮殿は間違いなく《黒鉄宮》。
 となると俺が今立っているのはゲームのスタート地点である《はじまりの街》の中央広場か。
 ねぐらを50層の《アルゲード》に変えてから一度も下に降りてないのでここに来るのはだいたい半年ぶりぐらいになる。
 ―――というかなんで俺こんな場所にいるんだっけ?

 ぼーっとする頭であらためて周りを見渡してみると、広場に立っているのはなにも俺一人だけじゃないことに気付いた。
 右を向けば銀髪オッドアイで長身痩躯の凛々しい剣士、左を向けば悩殺バディーに燃えるような赤髪を束ねた魅惑の槍使い。
 なんの冗談なのか他にも同じような感じの超絶美男美女達がざっと数えて数千人、この広大な中央広場の中でひしめきあっていたのだ。

 なにごとかと聞き耳を立てててみると「どうなってるの?」「これでログアウトできるのか?」「はやくしてくれよ」などという言葉が切れぎれに聞こえてくる。
 ――これはデジャヴというやつだろうか?


「あっ……上を見ろ!!」

 誰かが上げた叫び声に従って頭上を見上げると上空に――正確には《アインクラッド》第二層の裏釜の手前に――巨大な赤い文字がびっしりと浮かびあがっていた。


【Warning】【System Announcement】


 赤いシステムアナウンス。
 これもどこか記憶にある眺めだった。

 数千人の見守る中、空に浮かんだ文字は血のようにドロリと溶け落ちたあと、ゆっくりと一つにまとまってその形を変えていく。
 そしてできあがったのは20mはあろうかという巨大な魔導師姿の《男》だった。

 全身は真紅のローブにすっぽりと覆われ、深く引き下げられたフードの奥には顔が存在せず空洞となっており、少なくとも外見から性別を判断することはできない。

 それでも俺はこいつが男だということがわかる――――いや知っている。
 そしてこいつはこう言いやがるんだ。

「『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』」

 俺とゲームマスター《芽場晶彦》の声がぴたりと重なり、同時に総勢一万人の命をかけたデスゲームが幕を開ける。

 こうして俺にとって二度目の《ソードアート・オンライン》がスタートしたのだった。










「んで、いつおわんのこの夢?」

 ベンチに腰かけ、俺は阿鼻叫喚となっている広場を眺める。
 さっきまで広場に蠢いていた眉目秀麗な美男美女の集団は消え去り、かわりに残ったのはファンタジー(笑)な鎧兜を身に付けたコスプレイヤーもどきの群れだった。
 あの格好が様になるまで後一年ほどの経験と時間が必要だろう。

「おいしっかりしろ兄ちゃん。夢じゃんない。ほんとに俺達は閉じ込められたんだ」
「いやそっちのほうじゃないんっスけどね」

 いつの間にか俺の隣に座っていたスキンヘッドのごついおっさんが励ましてくれる。
 こんな状況だというのに、見かけの割にずいぶんと気のいい男のようだ。

「というかエギルさんお久しぶりっスね。最近店いってませんでしたけどあいかわらずあこぎな商売やってんスか?」
「―――ん? 何言ってんだお前は。確かに俺は喫茶のマスターやってるがこれでもまっとうな商売を…………というかなんで俺の名前知ってる?」
「あー、やっぱ初対面スか」

 なんとなくそんな気はしていた。
 横目であり得ないことになっているレベルとHPバーを見ながら、俺は右手の人差指と中指を揃えて下に振りメインメニュー・ウインドウを呼び出す。
 今日の日付はっと……

「今って2022年であってるスか?」
「ん? そうだが、それがどうした?」
「……いや、ただの確認っス」

 やっぱりここはゲームが始まった2年前か。
 そもそも俺ってさっきまで75層のボスと戦ってたんだよな。




 これでも俺はとある大手攻略ギルドの所属メンバーだったりする。
 真のトッププレイヤー達とは比べるべくもないが、俺もゲームクリアに向けてそれなりに頑張る日々を送っていた。
 俺の体感だとついさきほどの話になるが75層迷宮区のマッピングが終了し、5ギルド合同によるボス攻略のための威力偵察PTが編成され、俺もそこに参加することになった。
 そこで悪夢のような状況に遭遇する。

 ボス出現と同時に部屋の入口の扉が完全閉鎖。
 結果、俺達は退路をなくし部屋の外で待機していた後衛組とも切り離され孤立無援状態に。
 そのうえ最後の切り札である《結晶》による離脱や瞬間回復も部屋全体が《結晶無効化空間》に設定されていて使用不可能。

 これまで多大な犠牲を払いながら構築されてきたボス戦セオリーをまったく無視した鬼畜コンボに偵察PTはあっさりと崩壊。
 75層のボスであるムカデの化け物が巨大な鎌をふるうたびに、あちこちから悲鳴が上がり、メンバーは次々と光の粒子をまき散らしながら消えていった。
 俺も最後に大鎌の先端で胴体串刺しにされたところまでは覚えている。




 そんで気が付いたらなぜか正式サービス開始の日に戻ってたというわけだ。
 初めは夢でも見てるのかと思ったが、どうもそうではないらしい。

 とりあえず思い浮かんだ可能性としては二つ。
 一つはこれこそがSAOでゲームオーバーとなったプレイヤーの本当の末路という考えだ。
 死ぬのではなく別サーバーに飛ばされ、もう一度はじめからSAOをプレイさせられる。
 いかにも芽場晶彦が考えつきそうな悪趣味な演出じゃないか。

 しかしその可能性はエギルや周りのプレイヤーの存在に否定される。
 あれから二年。
 外で《ナーヴギア》やSAOの名は歴史的な大事件として世間に認知されているはずだ。
 その状況で同じようにこれだけのプレイヤーを捕獲することなどまず不可能だろう。 
 周りにいるのはプレイヤーのふりをしたNPCかとも思ったが、さっき話したエギルには間違いなく中身が入っていた。

 となると二つ目の可能性。
 全くばからしい話だがいわゆるタイムスリップというやつだ。
 時間の逆行などありえない……と思うけどこの状況を説明するならそれが一番しっくりくるような気がする。






「まぁなんでもいいか」

 考え込んだところで答えが出るはずもなく、とりあえず俺が生きていることだけは間違いない。
 どんな状況でも脳みそレンジでチンよりはずっといいはずだ。

「おいおい、どこへ行く?」
「散歩っス」

 さきほど何人かが北西ゲートに走っていくのが見えた。
 おそらく《ビーター》連中のスタートダッシュだろう。

 誰かが言っていたがMMOはプレイヤー同士の限られたリソースの奪い合いだ。
 これから生きていくために他人より少しでも優位に立とうと必死になるのは決して間違いではない。
 もっとも今後登場するであろう《軍》が支給してくれるまずい飯や粗末な寝床で我慢できるなら話は別だが――あいにく俺には無理そうだ。
 快適な生活を送るならいつまでも初期街でじっとはしていられない。



 俺は北西ゲートへ向かって脚を進めながら再度指を振り、現れたウインドウが不可視モードになっていることを確認する。
 次にコマンドボタン一覧から《オプション》をクリック。
 初期設定のままだったアイコンデザインやウインドウカラーなどを変更。二年間使い慣れたしんだ元の状態にカスタマイズしていく。
 これで何が変わるってわけでもないが、ようは気分の問題だ。

 次に《アイテム》をクリックすると、アイテム欄に表示されたのはしょぼい初期装備とわずかばかりの素材アイテムのみ。
 予想はしていたことだが、多大な労力と時間を費やして手に入れたレア装備や結晶、その他もろもろがまるごとロストというのはさすがにやるせないものを感じる。

 また手に入れればいいんだと自分を励ましながら俺は《スキル》を選択。
 レベル1のプレイヤーに与えられる《スキルスロット》はわずか二つのみ。
 膨大な数の中から自分が本当に必要とするスキルを慎重に選ばなくてはいけないわけだが、

「《投剣》と《片手武器作成》とかありえねーから」

 既にスロットに埋められているスキルを見て思わず突っ込んでしまった。
 我ながら意味不明すぎる。かつての俺はいったい何を考えてこんなスキル構成にしたのやら。どれも資金に余裕のない序盤じゃ完全に死にスキルだ。
 俺は二つのスキルをスロットから躊躇なく消去し、代わりに新しいスキルをセットした。


 そうして一応の準備が整った頃、視界の端に北西ゲートが見えてくる。
 その向こう側には広大な草原フィールドが広がっており、一歩でも踏み出せば、そこは死の可能性をはらんだ危険な圏外だ。この町の周りには非アクティブモンスターしかいないとはいえ、このSAOに限って絶対の安全なんてものは存在しない。

「せっかく拾った命だ、今度こそ大切にしないとな」

 視界右上の表示されているレベルとHPバーの数字に若干の頼りなさを感じながらすべてのウインドウを閉じる。

 とりあえずは次の村である《ホルンカ》で第一層最強クラスの片手剣《アニール・ブレード》を手に入れるとしよう。
 剣の性能の高さと入手条件にレアモンスターのドロップが必要なことから、非常の競争率の高かったクエストだ。前回の俺は一週間粘り続けて結局手に入れることができなかったが今なら狩りたい放題だろう。

 そんなことを考えていると、フィールドの向こうから男の声が聞こえてきた。

「いいかお前ら、少しでもHPが減ったら後ろに下がって回復しろ。それから間違っても二匹以上同時に相手しようなんて思うんじゃねーぞ!」

 俺の目に入ったのはレベル1の雑魚モンスター《フレイジー・ボア》を必死の形相で狩っているパーティーだった。
 デスゲームが始まって30分もたっていないのに、もう集団で狩りをしているやつらがいたとは驚きだ。
 特に中心になって他のプレイヤーに指示を飛ばしている悪趣味な柄のパンダナ男。
 こいつがリーダーなのだろうが、この時期のプレイヤーとしてはなかなかいい動きをする。
 今もスキルを出し損ねて反撃を受けそうになった仲間の前に身を躍らせ、代わりにソードスキルを放とうとしている。
 かなり不格好だが立派な《スイッチ》だ。

「うおりゃあああっ!」

 裂ぱくの気合と同時に流れるような体裁きで前へ一歩踏み出した男は、そのまま突進してくるイノシシめがけて一直線に曲刀を振り下ろした。
 カウンター気味に決まったソードスキルは赤いエフェクトを発生させながらモブの首筋に突き刺さり、半減していた《フレイジー・ボア》のHPを全て吹き飛ばしてしまった。
 この時点であれだけ的確にソードスキルを発動させるということは、あいつもベータテスターなのだろう。
 お荷物を抱えてご苦労なことだ。

「思い出せ、アイツは何て言ってた―――そう、ズパーン、だ!」
「ズパーン?」
「だから、こう初めにビシッと構えてだな、なんかピカッてきたら、いっきにズパーン、だ!」
「??」

 仲間達にソードスキル発動のコツを必死に伝えようとしているが、あまりうまくいっていない様子。
 そんな不器用な男から目を反らしつつ、俺は背中に背負った剣に手を伸ばた。
 すぐ目の前の草むらに、青イノシシが一匹POPしたからだ。

(ちょうどいい)

 本格的に街から離れる前に、一度今のスペックでの戦闘感をつかんでおきたかったところだ。
 非アクティブであるこのモンスターはこちらが攻撃するまで襲い掛かってくることはないので試し切りにはもってこいだ。
 初期装備である《スモールソード》を右手に構えると、システムがソードスキルの発動モーションを感知し、刀身が淡い光のエフェクトに包まれる。

「……ズパーン」

 慣れ親しんだシステムアシストの補助に身体を突き動かされながら、俺はもはや数えるのもばかばかしくなったソードスキルを放った。
 




(はえぇっ!)

 クラインがそれを見ることができたのはただの偶然だった。
 街の入口のすぐそばにたたずんでいた片手剣プレイヤーが、今自分達が苦労しながら狩っている《フレイジーボア》を一撃で屠ってみせたのは。
 使用したのはおそらく片手剣カテゴリで最初に習得できる単発ソードスキル《スラント》だろうが、その速度が異常だった。
 仲間にも片手剣使いはいるが、そいつのものとは比べ物にならないぐらい速い。
 装備も初期のまま、レベルも自分達とそう変わらないはずなのでおそらく何らかのテクニックだろう。

(アイツとどっちがつえぇかな)

 クラインの脳裏には申し訳なさそうに去っていく、この世界で初めてできた友人の姿が浮かんでいた。





(ドンガメかよ俺は…)

 キラキラと青いポリゴン片となって爆散する青イノシシを見送りながら、思わずため息がもれた。
 とりあえず一撃でモンスターを撃破できたわけだが、そのことはさして重要ではない。
 アシスト任せではなく、意図的に身体の動きを加速させて威力と速度を底上げするブーストテクを乗せた、今の俺が出せる最高の《スラント》を放ったつもりだったのだが……かつての熟練度と鍛え上げられたステータスから繰り出される雷光のごとき《スラント》と比べると、今の一撃はあまりに愚鈍すぎた。
 初動からしてそうだったが、頭の中のイメージとアバターの動きが全く一致しないのだ。これは慣れるまでかなり苦労しそうだ。

 時刻は六時一五分。
 目の間の草原は、アインクラッド外周から差し込む夕日で金色に染まりており、間もなくこの世界は闇に包まれるだろう。
 できれば完全に日が沈む前には次の村に着きたいころだ
 
 俺は補助スキル《疾走》を発動させながらホルンカに向けてかけ出した。









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
使い古された感じですが逆行物はいいですよね。

まともの小説は初。
SAOは好きなんですが、文庫から入ったにわかなんで知識量は浅いです。
設定資料集持ってる方とかすごくうらやましい。
明らかに設定と食い違っているところがあったら教えてくださいまし。

感想御意見あればぜひともよろしくお願いしまっす。


8/2 後半を大幅に変えました



[30818] 02
Name: ネクラ◆fcdf9ac2 ID:b84af1ed
Date: 2012/08/16 00:36
8/2 01の後半を大幅に変えました



02



 すっかりと日が暮れた頃、俺はようやく《ホルンカの村》に辿り着いた。
 随分と懐かしい。
 《森の秘薬》クエ以来立ち寄ってないから、だいたい二年ぶりぐらいになるか。
 相変わらず――という表現が俺の場合正しいのかは微妙だが――、さびれた村だ。
 


「とりあえずは寝床の確保かな」


 SAOでは宿屋の類も大量に存在し、アラブ宮殿のような高級ホテルから馬小屋もどきのほったて小屋まで資金次第でより取り見取りなわけだが、残念ながら民家と商店合わせて十数棟しかないこの村には、小さな宿屋は一件あるだけだ。


 俺は中央広場近くの小汚い宿屋の扉を蹴り開けて中に入る。
 外はボロだったが中はそれなりに掃除されている様子だ。
 笑顔で迎えるNPC店主を無視し、カウンター上の一覧を操作して一番値段の低い部屋をクリックする。
 ―――最大日数でも初期コルの半分か。
 貧相だが食事も出るみたいだしとりあえずの拠点としては十分だろう。

 最大日数でコルを振り込むと、アイテム欄に部屋のカギが追加される。
 「お部屋はこちらになります」と二階に上がっていくNPCを無視し俺は宿屋を後にした。





 宿屋を出た俺は、村の奥にある一軒の民家の前にやってきた。
 目的は第一層の最強剣《アニール・ブレード》が手に入る《森の秘薬》クエを受けるためだ。
 中に入ろうとドアノブに手を伸ばすと、中からどこか芝居がかった声が聞こえてきた。

「こんばんは、旅の剣士さん。お疲れでしょう、食事をさし上げたいけれど、今は何もないの。出せるのは、いっぱいのお水くらいのもの」

 随分と古い記憶になるが、確かこれは《森の秘薬》を発生させるNPCが、クエ導入時に発する台詞のはずだ。
 まだ家の中に入っていない俺にNPCが反応するはずもなく、どうやら先に来てクエストを受けようとしているプレイヤーが中にいるようだ。
 まずまちがいなくβテスターだろう。

 ドアを開けて中を入ると、部屋の中には鍋をかき回しながら何かを作っている女性型NPCと、椅子に腰かけるプレイヤーらしき男が一人。
 こちらに背を向けていて顔はよく見えないが、後ろ姿から察っするにかなり若そうだ。
 まだこちらには気付いていない様子だ。

「……何かお困りですか?」

 邪魔するのも悪いし、とりあえず後ろで待たせてもらっていると、男がNPCに向かってそう問いかけた。
 これは幾つかある、NPCクエスト受諾フレーズの一つだ。
 いまごろ男の視界にはNPCの頭上に輝く《?》マークが映っていることだろう。

「旅の剣士さん、実は私の娘が……」

 NPCの話す内容は「娘が病気に…」といった余計な設定を除いて要約すると――西の森に生息する《花付きのリトルペネント》がドロップする《胚珠》をとってきてくれれば、とっても強い武器をあげますよ――といった感じだ。

 俺は、クエを受けるためにこの無駄に長い台詞をもう一度聞かなければならないという事実にうんざりしながら、男が立ち去るのを待つ。
 NPCが口を閉じたんだから、もうクエの受注は済み、次は西の森に向かおうとするはずなのだが。
 しかし男はいつまでたっても椅子から立ち上がろうとしない。

 終わったならさっさと出て行ってほしい。
 なにせこのクエは受注プレイヤーが一度家を出ないと、再発生しないのだから。
 

「……たとえ……命……奪うことに…………絶対…生きて……………」

 なんかうつむきながらブツブツと独り言を言ってやがる。
 非常に危ない感じだが、SAO末期にはこういうのが割とごろごろいたのでさほど珍しくはない。

「………覚悟…後悔は………よし、行こう」
「お気をつけてッス」
「うおわあああっ!?」

 ようやく出て行きそうな感じだったんで後ろから声をかけると、男は悲鳴を上げながら面白い感じで椅子から転がり落ちた。

「……大丈夫っスか?」
「あ……、う、うん……」

 尻もちをついて目を白黒させている男を正面から改めて見たが、年のころは俺とだいたい同じぐらいだろうか。まだ少年と言っていいぐらいだ。
 背が高い割に身体の線は細く、どこか生真面目そうな印象を受ける。
 装備はスモールソードと丸盾か。俺と同じオーソドックスな盾剣士タイプだな。

「《森の秘薬》クエ受けたんスよね? 自分も受けたいんで受注終わったなら代わってもらえるとありがたいんスけど」

「……あ、あぁそっか。……ごめんね。今出ていくよ」

 こちらの言いたいことが伝わると、少年は慌ただしく扉の外へと出て行った。

「こんばんは、旅の剣士さん……」

 うぜぇ










「や、やぁ。お疲れさま」

 視界左に表示されたクエストログのタスクが更新され《森の秘薬》を確かに受注したのを確認しつつ民家を出ると、ほどなく誰かに声を掛けられた。
 視線を向けるとそこにいたのはさきほどの少年だ。
 
「どうもッス」

 俺が軽く返すと、少年はぎこちない笑みを浮かべながらぺこりと頭を下げた。

「……さっきはごめん。なんかずいぶんと待たせちゃったみたいで」
「あぁ、別にいいっスよ。あれぐらい気にしてないっス」

 わざわざそれを言うために、いままで待っていたんだろうか。
 だとしたら相当のお人よし、もしくは間抜けだろう。

「……その、随分と速いんだね。誰かがこの村まで来るのは、あと二、三時間後だと思ってたんだけど」
「それを言うならお互い様っス。というか先に来てたのはそっちじゃないッスか」
「あ、あはは。それもそうか」
「そうっスよ。ははは……」

 とりあえず様子見は終わっただろ、そろそろ本題に入ってほしいんだが。

「………あのさ、君も《森の秘薬》を受けたんだろ? どうかな、せっかくだからこのクエ、協力してやらない?」
「やらないッス」

 少年が目がキョトンとなった。

「……えっと、《花つき》はノーマルを狩れば狩るほど出現率が上がるだろ。二人で乱獲したほうが効率いいと思うんだ」

 確かにコイツの言うとおり、俺が今から狩ろうとしている《花つき》は《リトルネペント》の亜種であるレアモンスター。
 POPさせるには、今西の森を徘徊しているであろう《ノーマル》を倒して、MOBの入れ替えをしなければならない。
 発生率1パーセント以下の花付きを出すには、それなりの数を狩らなくてはいけないが、リトルネペントは《アクティブモンスター》なので、複数固まっているとそいつらをまとめて相手しなくてはならなくなる。
 なので、二匹までなら確実に対処できるよう、こいつと共に行動するというのは効率の面では正解だ。

 問題なのはコイツのことを、俺がまったく知らないということだ。

 情報のない初顔プレイヤーといきなりのコンビ狩り――はっきり言ってゾッとする。
 SAOにおいてこれはかなり上位にくる危険な行為だ。
 相手のプレイヤースキル次第で足を引っ張られることもあるし、アイテムの分配トラブルから持ち逃げ行為、極論いきなり後ろからバッサリ……という可能性もある。

 75層までの攻略知識のある俺にとって、今もっとも警戒すべきは凶悪なモンスターでも致死性のトラップでもなく、人の《悪意》であると考えている。
 装備やスキルがそろっている状態ならともかく、今は多少のメリットのために余計なリスクを負うべきではない。

「自分ソロの方が気楽なもんで」
「……別にパーティーは組まなくていいよ。こっちから声をかけたんだし、最初にドロップした《胚珠》は君に譲る」
「自分でドロップさせるんでいらないっス」
「……確立ブーストがかかったまま狩り続ければ、きっとすぐに二匹目も出るだろうから、そこまで付き合ってもらえれば……」
「付き合わないっス」
「だったら……」
「そろそろ行ってもいいッスか?自分急いでるもんで」
「……そ、そっか。残念だよ」

 かなりしつこく食い下がってきたが、ようやくあきらめたようだ。
 あまり無駄な時間を取らせないでほしい。

「それじゃ自分道具屋寄りたいんで、失礼するっス」
「あ、うん。僕はもう準備がすんでるから、先に森に向かうことにするよ。お互いがんばろうね。――――――それから僕の名前は《コペル》。君は?」
「《エギル》っス」

 思いっきり偽名を名乗っておく。
 レアアイテムを何の担保もなしにいきなり譲るといか言い出すやつに本当の名前を教えるわけがない。

 ―――《甘い話にはウラがある》―――これSAOの常識ね。










 30分後
 ホルンカの村西に位置する巨森。

 スキルスロットから《疾走》スキルを破棄し、代わりに《策敵》スキルをセットして森を散策する俺の視界に、小さくカラー・カーソルが表示された。
 カーソルの色は先ほどから狩り続けている植物モンスター《リトルネペント》の赤とは違う、緑が二つ。

(プレイヤーカラー、しかも二人か)

 この森で、いや圏外で初めて遭遇するプレイヤーだ。
 俺はすかさずスキルウインドウを呼び出して《策敵》を《隠蔽》に入れ替え、ハイディングスキルを発動させながら近くの樹木に張り付いた。
 これでむこうから、こちらのカーソルは見えないはずだ。

 所詮熟練度0のハイディングなので、相手の持つ策敵スキルが少しでも高いと簡単に看破されてしまうのだが、まだゲームが始まって間もないので問題ないだろう。
 
 視界下部で上下するハイド・レートに気を使いながら、暗い森の中俺はじっくりと目を凝らす。
 策敵スキルの恩恵がなくなったので、少々視認距離が短くなったが、ぎりぎりプレイヤーの姿ぐらいは判別できそうだ。
 
 暗い森の中、木々の向こうに見えるのは、先ほどの少年コペル。
 様子を見るに、どうやらうまいことペア狩りのパートナーを見つけることができたようだ。
 そしてもう一人、コペルの相方はというと、

(……《二刀流》かよ)

 《黒の剣士》、《元祖ビーター》、《最強バカ》など様々な呼び名はあるが一番有名なのがこれだろう。
 今は黒くも二刀でもないが、わずか二人しかいなかった《ユニークスキル》の保持者だ。直接話したことはなくても、顔ぐらいは記憶している。
 まさかこんなところでお目にかかるとは、コペルも随分すごいのを引き当てたもんだ。

 二人はかなりのペースでモンスターを狩り続けている。
 おそらく二刀流の方も《森の秘薬》クエをうけ、さきほどコペルが俺に提案した「乱獲による花付きネペントの出現率上昇」を実行しているのだろう。

 ならばと、俺は二人の進行方向を確認し、見つからないよう遠回りしながらその先へと回り込む。
 スキルスロットを《策敵》に戻すと同時に、森の中に幾つかレッドカーソルが浮かび上がった。
 その中で一番近くのカーソルを選び、モンスターの反応圏に入らないように慎重に近づき、離れた場所から姿のみを確認する。

「……ハズレ」

 食虫植物ウツボカズラを巨大化させたような外見に、左右に着いた二本の長いツタをもつモンスター。
 残念ながら《ノーマル》のリトルネペントで花つきではない。
 これまでなら花つきをPOPさせるために、ノーマルでも狩ってはいたんだが、それだとどうしても時間がかかってしまう。
 なので、リポップ作業は完全にあいつらに任せてしまい、俺はその進行方向で花つきの策敵のみに専念すれば、《胚珠》をゲットするという意味ではもっとも効率がいいはずだ。
 俺は今後の方針をそう決めると、モンスターからそっと離れ、次のレッド・カーソルへ向かって走り出した。













「うっし、二つ目ゲット」

 毒々しい、チューリップに似た巨大な花を頭上に付けたネペント光の粒子となって爆散し、俺は地面に転がり落ちたほのかに光る拳大の玉《リトルネペントの胚珠》を拾い上げる。

 あれから二時間ほどたっただろうか。
 前回は一週間かけても手に入れることができなかったというのに、もう二つ目の胚珠を手に入れてしまった。

(情報があるなしでここまで効率が違ってくるとは……ビーターの野郎どもはいつもこんな美味しい思いしてやがったのか……)

 俺は一時間前に既に《森の秘薬》クエを終わらせており、装備をアニール・ブレードにグレードアップさせている。
 では、なぜまだ花つきネペントを狩っているのかというと、単純に金のためだ。


 以前のSAOでは、アニール・ブレードの相場は最高時で一万代後半近くまで跳ね上がった。それの交換品である《リトルネペントの胚珠》も当然同等の値段が付いてくる。

 高性能とはいえ、所詮《序盤の装備》であるはずのこの剣がそこまで高騰したのは、稀少性もさることながら、第一層の攻略に非常に時間がかかり、それ以上の武器が手に入らなかったことが大きいだろう。
 第三層ぐらいに行けば、この剣を超える性能の武器はそう珍しくはないので、本来のプレイならプレイヤーは先を想定して買いを控え、相場はもっと下になるはずだったのだが、まさか第一層攻略に一カ月近くもかかるとは……。
 
(……にしても二時間ちょいで実質三万コルの稼ぎとか、この階層では破格すぎるな)

 価値が上がるまで多少間を置かなければならないのが難点だが、転がり込むコルの量を考えるとこれぐらいのことは霞んで消える。
 まさにウハウハだ。

 それもこれもコペルと二刀流の殲滅力のおかげだろう。
 本来なら二人はこの時点で《胚珠》を二つ手に入れることができたわけだが、俺が先回りして狩り続けているため一つも手に入れることができないでいる。
 この調子でまだまだ頑張ってほしいところだ―――主に俺のために。

 二人の進行方向に変更がないか再度確認するため、何度目かの様子見にうかがうと、二人は狩りをする手を止め、なにやら難しい顔で話し合っていた。
 残念ながら、ここからでは何を話しているのかまでは聞き取ることができない。

 俺はさらに距離を取り、二人が策敵可能と思われる範囲から出たことを確認し、スキルスロットを《隠蔽》を《聞き耳》に入れ替え、意識を聴覚に集中させる。
 わずかばかりのスキル補正を受け、可聴距離が増加した俺の耳に、先ほどまでは聞き取れなかった二人の話し声が聞こえてきた。

「……出ない――」
「もし―――らβの――出現率が変わって――かもな……。レアの――レートとかが、正式サービ―で――修正さ―――は他のMM―――聞いた話―――……」

 当然《聞き耳》スキルの熟練度は0なのでかなり聞きとりずらいが、どうやら花付きがなかなかPOPしないことを不審に思っている様子だ。
 まぁ、さすがに気付くか。こりゃもうチョイ距離を取った方がいいかもしれないな。
 
「……あり得―――。どうする? ―――も随分上がった――、-―だいぶ消耗―――、一度村に……」

 コペルがおそらくは、一度村に戻ろうかと提案した……ちょうどその時だった。
 俺から三十メートルほど離れたところ、あの二人から見ればちょうど目の前の空間にほのかな赤い光が生まれたのは。
 これまで何度も見てきた光景、モンスターのPOPエフェクトだ。そしてそこから出現したのは……、

(うげ…花付きかよ)

 なんとついていないことに、二人の前に出現したのは毒々しい赤い巨花を付けた、レアモンスター《花つきのリトルネペント》だった。
 今まで、うまいこと先回りしてかっさらってきたが、さすがに目の前にPOPされるとどうしようもない。
 大変口惜しいが、ここは素直に譲ってやるとしよう。


 俺の見守る中、嬉々として花付きに飛びかかろうとした二人だったが、二刀流が突然コペルに待ったをかける。
 どうしたのか二刀流の指さす方向に目を向けると……なるほど、そこには《花つき》陰に隠れるようにして《実つき》がいた。

 リトルネペントは、何の特徴もない《ノーマル》と、巨大な赤い花を付けてレアアイテムをドロップする《花つき》の二種類に加えて、花の代わりに大きな実を付けた三種類目、通称《実つき》が存在する。
 この《実つき》のぶらさげた実は、一度でも攻撃がヒットしてしまうと、臭いにおいをまき散らしながら破裂し、エリア一帯のネペントを全て引き寄せてしまうという非常に危険な性質を持っていてる。
 当然狩るには細心の注意が必要だ。
 βテスターである二人は当然そのことを知っていて攻撃することに躊躇しているんだろう。

「……どうする……」

 若干距離が縮まったせいか、二刀流の声がさっきにくらべてクリアに聞こえてきた。

「――行こう。僕が《実つき》のタゲを――から、―――が速攻で《実つ――を倒して――」

 打ち合わせらしきものが終わると同時にコペルが駆けだし、それに二刀流が続く。
 コペルが《実つき》で、二刀流が《花つき》の分担らしい。
 二刀流はさすがに手際で《花つき》にダメージを与えていき、三十秒とかからずにモンスターをポリゴン片に変えてしまった。

「悪い。待たせた!」

 ドロップした胚珠をポーチに押し込みながら、コペルに駆け寄る二刀流。
 これでコペルに援護が入って万事めでたしめでたしか。

 なんとなく、ここまで観戦してしまったが、そろそろ俺はお暇することにすしよう。
 そう思ってその場を離れようとした時だった。

「ごめん、―――」
「いや……だめだろ、それ……」

 パアァァン!

 と凄まじいボリュームの破裂音が森を揺らし、同時にツンとする嫌な匂いがこちらにまで漂ってきた。
 何をとち狂ったのか、コペルのアホが突然リトルネペントの《実》にソードスキルを叩きこんだのだ。

 俺は反射的にスキルウインドウを呼び出し、これまでにないスピードでスキルスロットを《聞き耳》スキルから《疾走》スキルに入れ替える。
 今頃、このエリアを徘徊している何十匹というリトルネペントが、この場所に向かって残らず集まろうとしているはずだ。
 完全に囲まれてしまえば、今の俺のスペックでは命はない。

 とにかくこの場から少しでも早く、少しでも遠くに離れるべきだ。
 この場に残って三人で迎撃という案も思い浮かんだが、コペルの存在が即座に却下を出す。

 まだ密度が薄い内に、俺がさっきまでいた方向に向かって最大速度で駆け抜け突破する。
 さきほど何匹か狩っていたので多少は数が減っているはずだ。
 それでも途中で複数にタゲられるだろうが、アニール・ブレードの攻撃力があれば、四、五匹までなら同時に相手しても対処しきる自信はある。
 後ろからのモンスターは全て二人に任せて、俺はこの日最速の一歩を踏み出した。














「たくコペルのクソが、とんでもないことしやがって……」

 予想に反して八匹までひっついてきたネペントをようやく始末し終え、俺は先ほどのコペルの行動を思いっきり吐き捨てる。
 アニール・ブレードの攻撃力のおかげで思ったほど苦しい戦闘にはならなかったが、スモールソードのままだとかなり危なかったかもしれない。
 やはり、警戒すべきは人間だ。俺はそのことを改めて実感する。

(そういや、あの二人はどうなったか)
 
 たぶん死んでるだろうが、一応様子ぐらいは見に行ってやろう。うまくすればさきほど二刀流がドロップしていた胚珠が手に入るかもしれない……そう思った時だ。
 まぎれもない恐怖の声が聞こえてきたのは。

「……いやああああ!!」

 反射的に声の方へと視線を向けると、木々の間からこちらに向かって走る少し幼さの残る女性プレイヤーと、それを追い回す三匹のリトルネペントの姿が見えた。
 どうやらさきほどの騒動にまきこまれたらしく、あの少女は三匹同時にネペントのタゲを取ってしまったらしい。
 リトルネペントに限らずこの辺のモンスターなら一匹ならさほど脅威ではないが、複数同時となると途端に難易度は跳ね上がってくる。
 少女は必死に走ってはいるが、この森のような複雑な地形で、俊敏力の高いリトルネペントから逃げ切ることはまず不可能だろう。
 今も後ろからツタによる切り払いを背中に受けて、吹き飛ばされたところだ。

「やだぁ! 死に、死にたくないよっ!!」

 今この森にいることから、あの子もスタートダッシュを選んだβテスターなんだろうが、今は倒れたまま頭を抱え完全にパニックになっている。
 このままではまず間違いなくやられてしまうので、俺は助けに入るため再度《疾走》スキルを発動させた。

「あ! た、たすけてくださいっ!」

 駆けよってくるこちらの存在に気付き、おびえていた少女の顔に小さな希望の光が宿った。

 はいはい、言われずとも助けますって。
 SAOで同じ狩り場での他プレイヤーはリソースを奪い合うライバルであり、通常であれば目障りな存在だ。だがこういった命にかかわる状況に陥った時は別であり、助け合うのがかつてのSAOでの暗黙の了解である。
 危なくなったら助けてやるから自分がピンチになった時も助けてほしい。
 こういった持ちつ持たれつの精神がプレイヤー全体の生存率を上げているのだ。

 俺は数メートルあった距離を一気に駆け抜けると、倒れたまま起き上がれないでいる少女に襲い掛かかろうとしていた三匹のモンスターを順番に片付けにかかる。
 だいぶ頑張ったのだろう、リトルネペントのHPは三匹ともイエローに突入している。
 弱点に当てずとも、この剣の攻撃力なら一撃で削りきれそうだ。

 俺はまず腐食液噴射のモーションに入ろうと動きを止めていた一匹目に《スラント》を叩きこみ、返す刀でそばにいたもう一匹を単発水平斬撃技《ホリゾンタル》で切り捨てる。
 立て続けに、二匹のモンスターがポリゴン片となって四散した。

 そして最後の一匹を片付けようと、現在習得済みの最後のソードスキルを発動させるため剣を高く振りあげる。
 上部に堅い捕食器をもつリトルネペントに、縦切りはあまり有効ではないのだが、他のソードスキルはクールタイム中なので他に選択肢がない。
 もっともアニール・ブレードの攻撃力なら十分ごり押しできるだろうが。

 残念ながらこの三匹目のネペントは二匹を片付けている間に、既に攻撃モーションに入ってしまっている。
 俺のソードスキルが届く前に少女にあと一撃入ってしまうが、それぐらいは勘弁してもらいたい。
 少女のHPバーはすでレッドに突入していたが、あと一撃ぐらいなら余裕で耐えられるはずだ。
 それを少女も察したのだろう。「助かった」と顔に安堵の色が浮かぶ。

 その瞬間だった、
 リトルネペントのツタによる切り払いが、少女の首筋にヒットしたのは……

「――へ?」

 これまでにない強烈なダメージエフェクトが暗い森の中に響きわたる。

 
 ―――クリティカルだ。


 残り三割を切っていた少女のHPバーが急激に右端へとスライドしていくのを視界の端に収めながら、俺は剣を振り下ろし、単発垂直切り《バーチカル》でネペントを真っ二つに切り裂く。

 そして最後のモンスターが消滅した時、少女の横にHPバーは存在しなかった。

「あ~、なんというか……どんまい」
「え? あ、はい……」

 惚けた顔でうなずいた直後、少女の身体はガラスが砕け散るような効果音と共に無数のポリゴン片となって爆散した。













「―――初期装備か。しけてんな」

 俺はさっきまで少女が座り込んでいた場所に転がっている短剣とポーションを拾いあげ、アイテム欄に放り込んでいく。
 SAOではプレイヤーのHPがゼロになった場合、アバターの消滅と同時に両手の装備とベルトポーチに入れてあるアイテムがその場にドロップされる仕様だ。
 このままほっといても耐久値が減って消滅するだけだし、売って金に換えた方があの子もなんぼか浮かばれるってもんだろう。

 ……それにしても残念だ、女性プレイヤー、しかもけっこうな美少女はある意味、花つきリトルネペントよりレアだというのに。

 ま、すんだことはしかたない。気を取り直して狩りの続きでもするか。
 目標は今日中に胚珠あと二つだ。



 この後、ほどなくして《胚珠》とスモールソード、丸盾を拾ったことを追記しておく。











――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アニメ化いい感じですね。
毎週楽しみにしています。
アニメ見た後だとテンションがあがってなんか進みがいいんですよね。
ただ設定が文庫と微妙に違うとこあるんで書くときどっちを優先するか非常に迷ったり……


感想御意見あればぜひともよろしくお願いしまっす。



[30818] 03
Name: ネクラ◆fcdf9ac2 ID:de173bc2
Date: 2012/08/28 00:43
03


 ―――New!!《リトルネペントの胚珠》×12


 アイテム欄を眺めながら思わず頬がゆるむ。

 あれから三日がたった。
 ホルンカの村を拠点に睡眠時間を極限まで削りながら《花つき》狩りを続けた結果、俺のアイテム欄はちょっとあり得ないことになっていた。

(捨て値で売っても十万コルはかたいな)

 たった三日、しかも第一層での稼ぎとしてはあり得ないぐらいの効率だろう。
 この調子でまだまだ集めておきたいところだが、さすがにそこまで都合よくはいってくれない。

 一日目はほぼ独占状態だったが、二日目の日が昇る頃にはβテスターと思われるプレイヤー達が狩りを始め、昼ごろにはそこに一般のプレイヤー達も混じり始める。
 そして三日目。
 アニブレを求めるβテスターはもちろん、《ホルンカの村》がもともとの攻略ルートということもあって一般プレイヤーが大量に流入し、現在この小さな村には許容量をはるかに超える数のプレイヤーがひしめき合う状態になっている。
 もちろん宿はとっくにパンクしており、酒場や民家で寝ているやつらはいい方で、軒下や馬小屋で一夜を過ごすプレイヤーも少なからず出てきている。

 さすがにここまでくると《花つき》狩りも効率が悪いだけなので、そろそろこの村ともおさらばしようと思っていたところだ。
 とりあえずの目的は果たしたし、一度《はじまりの街》に戻って、手つかずだったクエストを消化して金とアイテムを回収していこう。
 なにせ第一層攻略まで一カ月もあるからな。
 本格的なレベリングは迷宮区が解放されてからで十分だろう。

 そんなことを考えながら宿を後にすると、村の出口付近で知った顔を見つけた。

「ちっス、エギルさん」
「……だからなんで俺の名前を知ってやがる」

 未来の雑貨屋兼斧戦士のエギルは、半眼でこちらを睨みながらムクレ声でそう唸る。
 あいかわらず存在感のあるおっさんだ、遠目からでもすぐに分かった。
 どうも戦闘をこなしてきた後のようでHPが若干減少しており、手には最初会った時にはなかった初期装備の《スモールソード》が握られている。

(……ん? スモールソード?)

 確かエギルのメインは両手用戦斧で、熟練度もマスタークラスだったはずだが――これから変更することになるのか?

「しかしまぁ生きてたんだな兄ちゃん。フラッとどっか行ったきりそのまま見かけないんで死んじまったんじゃないかと思ったが、まさかこんなところで会うとはな」

 どうやら心配してくれてたらしい。
 相変わらず人のいいおっさんだ。

「なんか外からの助けは期待しない方がよさげなんで自分なりに頑張ってみよかと……その様子だとエギルさんも攻略を目指すことにしたみたいスね」
「まぁな。そもそも助けが来るまでじっと待つってのは俺の趣味じゃないし、それに外にはツレがいるんだ。いつまでも待たせるわけにはいかないからな」

 そう言っておっさんはニヒルな笑みを浮かべる。
 ていうかこの人既婚者だったんだな。

「それで、この村でいい剣が手に入るって噂を聞いて来たんだが………なんというか、すごい人だな。これ全部プレイヤーか?」

 エギルは村の中央を見ながら、若干呆れた声を出す。
 無理もない、ここからでもはっきりとわかるぐらい村の中には人があふれているからな。

「時期が悪いっス。狩り場もクエモンスターの奪い合いで収集つかなくなってきてるし、そろそろ順番待ちができそうな雰囲気っス。今からソロだと一週間ぐらい待たされるんじゃないっスかね? ついでに宿もいっぱいっスよ」
「―――そいつは……きびしいな。あきらめてブロンズに買い換えて次を目指すべきか……」

 確かにスモールソードの次はこの村で買えるブロンズソードが順当だが、このおっさんあまり細かい動きは得意そうじゃないのになんで片手剣なんだ?
 斧に変更するなら早い方がいいと思うんだが。

「確かエギルさんって筋力極振りっスよね」
「あぁ、火力こそ男のロマン……ってだからなんで知ってやがる!?」
「見た目っス」

 エギルの抗議を軽く流して俺は続ける。

「なら、両手剣とかの《ツーハンド系》に持ち替えた方がいいっスよ。筋力値を一番活かせるっス」
「俺だってそうしたい。前のMMOでも斧使いだったし。けどなぁ……」
「……けど?」
「―――――ツーハンドは……たかいんだよ」
「世知辛いっスねぇ」

 どこか遠い目をするエギルに俺はそう答えるしかなかった。
 確かに両手武器は片手武器に比べると値段設定は高い。
 ましてやスタートして間もないうえ、デスゲームという異常事態の中狩りがうまくいくはずもなく、NPC売りにもなかなか手が届かない状況なんだろう。
 確かアニールブレードクラスの両手斧はもう三つ先の村のクエだったか。
 そこまで片手剣だとだいぶ効率が悪いな。

 そういうことなら、ここはひとつ投資でもしておくか。
 俺はエギル相手にトレードウインドウを開き、そこにアイテムを移動させる。

「ならこれを使うといいッス」
「……は?」

 わけがわからないというような顔で目の前に現れたトレードウインドウを眺めているエギルに、俺は再度繰り返した。

「だから、それ余ってるんであげるっス」

 俺が提示したのはドロップ品の《両手斧》で、ランクとしては店売りより多少上のプチレアといったところだろうか。装飾もほとんどなく、本当に普通の両手斧って感じだ。

「こ、これ、もらっていいのか?」
「さっきからそう言ってるっス」
「……マジに?」
「マジっス」
「マジってことはホントってことで嘘じゃないってことなんだよな?」
「ホントで嘘じゃないっス」
「……か、金ならないぞ」
「そのなり見ればわかるっスよ」
「………というかどういうつもりだ。なんでこんな親切にする……兄ちゃんになんか特でもあるのか?」

 さすがに警戒心がわいたのか、どことなく不審そうに眉間を寄せはじめた。
 未来のぼったくり商人だけあって、こういったやり取りにはなかなかに慎重だ。
 だがそれ以上にこのおっさんが《いい人》であることを俺は知っている。
 俺は顔を正面に向け、一点の曇りもない澄んだ眼でエギルを見つめる。

「やだなぁエギルさん」

 風がふわぁ、と優しく髪を撫でるのを感じながら俺はさわやかに言い放った。

「こんな状況なんだし、プレイヤー同士助け合うのは当たり前じゃないっスか」

 自分で言ってて思わず砂糖を吐き出したくなる。
 あ、鳥肌立った―――SAOは相変わらず感情表現の芸が細かいな。

 
「お…おお……」

 一方エギルはというと、なんか目をキラキラさせながら口をパクパク開け閉めしている。
 どうやらストライクだったようで、感動のあまり声も出ないようだ。
 筋肉の塊がプルプルと震えている姿はちょっと気持ち悪い。

「な、な、なんていいヤツなんだ!! 俺はいま猛烈に感動しているぞ! そうだよな、人間やっぱり助け合うべきなんだよな! なのにこっちに来てから会うやつみんな薄情なのばっかでよぉ。くぅ~……」

 なんか涙目だぞこいつ。
 これまでよっぽどひどい目にあったんだろうな。

「人の世にまだ情けはあった。ありがとうッ。ありがとうッ!」

 うんうんと嬉しそうに頷きながら、俺の両手をがっしりとにぎりこむと、そのままぶんぶん上下に激しく振りまわしはじめた。
 
 ちかっ、くさっ、キモッ! てか顔が近付けんな!暑苦しいんだよ!!





「……どうだ?」

 やっと落ち着きを取り戻したエギルは、さっそく手に入れた斧を装備し、手に持って構えてみせる。
 オブジェクト化された無骨な両手斧は、まるであつらえたかのようにこの男にぴったりだった。
 いかつい顔に筋肉と脂肪の堅牢な鎧、そのうえ180cmを超えるスキンヘッドの大男。
 これでボロ皮でもまとっていれば、立派な蛮族系モンスターのできあがりだ。
 ダンジョンで遭遇したら俺は迷わずソードスキルを叩きこむ自信があるね。

「……………よくお似合いっス」

 顔が引きつっていないことを祈る。

「そうかそうか。やっぱり男は黙ってツーハンドアックスだよなぁ。この機能美に満ちたフォルムと重量感。ようやくしっくりきた感じだぜ」

 数回素振りをしたあと、斧を背中に吊り下げながらエギルは満足そうにそう言う。
 体格のせいか、巨大な金属製の斧が実に軽そうに見えた。

「サンキュな兄ちゃん。この借りは利子付けて必ず返す。楽しみに待っててくれよ」

 当たり前だ、そのためにくれやったんだから。
 せいぜい稼いでくれよ――――主に俺のために。

「よっしゃー、それじゃさっそく試し切りにいってくるぜ!」
「は? ちょ、スキル変更……」

 雄叫びを上げながら村の外に走っていくエギルに俺の声が届くことはなかった。
 ま、今は人も多いし死にはしないだろう。

 あの斧は要求筋力値が高くて俺じゃ扱えないうえ、クソ重くてアイテム所持容量をひどく圧迫していた。かといって一応のレアを店売りじゃもったいないしで扱いに困っていたものだ。
 そんなもんで未来の一級商人に恩が売れるなら安いもんだろう。
 全ては俺のためにだ。





『よぉ兄ちゃん。ウチの店は初めてか?』

『兄ちゃんのレベルだとこんなもんだろ――――おいおいそっちは最前線ドロップだぞ。兄ちゃんじゃ扱えねぇよ』

『よっしゃもってけ泥棒毎度ありぃ!! ……は?こんなに安くていいのかだと? 若いやつがそんなもん気にすんな。ついでにコレとコレも持ってけ』

『お礼? そんなもんある時払いの出世払いでいいんだよ。さっさと強くなってオレたちのところに来い。茅場のクソヤローにガツンとかましてやろうぜ』



 ………関係ないない。
















 デスゲームが始まってから三日ぶりに訪れる《はじまりの街》。
 記憶通りまだ街で暴動といったようなことは起こっておらず、すれ違うプレイヤー達の顔にもそれほどの悲壮感はただよっていなかった。
 運営の悪口を言ったり補償がどうだとか取りとめない話ばかりしている。

「「「王様だ~れだ!」」」
「あ、わったし~! じゃあね~……」

 驚くべきことに、途中昼食に立ち寄った飲食店では、男女数人のグループが合コンらしきものまで開いていた。
 ここまでのんきだと呆れを通りこしていっそ尊敬すらしたくなってくる。

 もう三日目―――いやまだ三日なのだろうか。
 そろそろ理解し始めてもいい頃だと思うが、こいつらはまだそのうちなんとかなると甘いことを考えているのだろうか
 中には先行組ほどじゃなくても、危機感を抱いているプレイヤーは少なからずいるはずだ。
 しかし何かしなければと思っても実際に行動するとなると、「そのうちなんとかなるんじゃないか」という淡い期待が邪魔をする。
 実際俺も一度目は外からの助けを信じ、十日の間《はじまりの街》じっと待ち続けた。
 

 ――しかし、助けは訪れなかった。


 あの時の絶望感はすさまじかったな。
 ここの住人もあと数日すればイヤでも理解することになるだろう―――助けなどないと。
 その結果――泣き、わめき、暴れまわる。
 
 記憶にある二年前の集団ヒステリーを思い出して少しだけ鬱になった。
 しばらくこの街には近づかない方がいいかもしれない。
 さっさとクエをこなして出て行くとするか。




「……四十六……四十七……四十八……」

 《始まりの街》第11区はNPCの住宅地帯となっておりプレイヤーが好んで踏み入れることは少ない。
 
「百九……百十……百十一と―――コイツだったな」
 
 そこで俺が探していたのは第11区北口から道なりに歩いて百十一番目の街路樹。
 他の木と変わらないように見えるが、よ~く目を凝らすとその木の一番高い枝に小さな赤い実がなっているのが見える。

「よし、まだ残ってる」

 街路樹は《破壊不能オブジェクト》なので通常なら実はもちろん、葉っぱ一枚さえちぎることはできないがコイツだけは別だ。

《ベア・ラズベリー》

 食べるだけで最大筋力値が+2も上昇する激レアアイテムだ。
 この木がひと月ごとにステータス最大値を上昇させる果実を実らせるというのは、前の世界ではかなり有名な話だった。
 リスクゼロのうえ、簡単に入手可能で味の方も高ランク食材に匹敵―――そして手に入れられるのは一月にたった一人だけ。

 プレイヤー同士の醜い争いに発展するのは当然の流れだった。
 ここにも芽場晶彦の悪意が透けて見える。

 前の俺も一度争奪戦に参加したことがあるが、まさに地獄だった。
 圏内で戦闘が行えない分、通常では思いつかないようなえげつない手が横行したものだ。
 もっとも今ならライバルもいないので簡単にゲットすることができるが。

(そう、ライバルはいない)

 実を言えばこの果実、初日にでも手に入れることはできたんだが、あえてこの三日間放置してみることにした。
 というのもこのアイテム、俺以外に二度目のやつがいるかどうかの確認に使えるからだ。

 この木についての情報が聞けるのは俺の知る限り11層のNPCが初なので、もし今日見に来た時、木の実がなくなっているようであれば、俺と同類のプレイヤーが存在するということになる。
 そのへんは早めに確認しておきたかった。

(ま、そんなプレイヤーはいなかったみたいだけどな)

 小石を拾い上げるとセカンドスキルを《投剣》に入れ替え、実を撃ち落とすべく狙いを定める。
 俺は舌なめずりしながらスキルを発動させた。




 先着一名までという激レアなお使いクエストをこなしているといつの間にかアインクラッド最南端の展望テラスまで来てしまっていた。
 そこでこの街の広場以外で初めて他のプレイヤーの集団に遭遇する。
 数は百を超えるか超えないかといったところだろうか。

 何事かと近づいてみると大勢のプレイヤーの中から一人の男がテラスの柵を越えアインクラッドの外周部の外へと身を乗り出すのが見えた。
 「ナーヴギアの構造上、ゲームシステムから切り離されたものは自動的に意識を回復するはずだ」と大真面目の語るその男はどうやらこのまま外周の外へと飛び降りるつもりらしい。

「なんだ自殺か」

 話にはよく聞いたが生で見るのは初めてだ。
 一応止めるべきか迷ったが、その男の持論を否定するだけの材料を俺は持ち合わせていない。
 この世界で死んだ後のことは俺にもわからないからだ。
 ほんとに死ぬかもしれないし、もしかしたら現実世界に戻れるのかもしれない。あるいは俺のように二度目が……。


「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」

 そんなことを考えているといつの間にか紐なしバンジーが決行されてしまったようだ。
 身も凍るような絶叫を上げながら男は仮想の重力に従って、すさまじい早さで暗い雲の海へと落ちていく。
 やがて男の姿は雲間に消えていった。

 テラスに残った他のプレイヤーはみな真っ青な顔で立ちつくしている。
 どうやら彼のあとに続こうという勇気あるプレイヤーはこの場にいないようだ。
 たぶんそれが正解なんだろう。

 さて、なかなか珍しいものを見れたな。
 気を取り直してクエストクエスト。




 この仮想の世界でも夜はやってくる。
 長ったらしいお使いクエストをこなして手に入れた敏捷力に高い補正が付く指輪を手のひらの上で転がしながら俺は宿へと向かっていた。

 このSAOには最上階を目指すというグランド・クエスト以外にも《森の秘薬クエ》やこういったお使いクエストといった遊びの要素が無数に用意されてある。
 長い時間試行錯誤を重ね、時には運に助けられながら探し当てられてきたこれらのクエストの内容を、俺だけが事前に知っているというのは考えるまでもなく途方もないアドバンテージだ。

(といっても俺が把握している数なんて、全体からすればたかが知れてけどな)

 このお使いクエストにしても以前酒場でこの指輪を見せびらかしながら、聞いてもいないクエスト内容を自慢げに語っていた男の話を覚えていたからだ。
 今度見かけたら酒でもおごってやるか。



 俺がこの街での拠点にしたのは、中央の一角にあるボロちい安宿だ。
 基本稼いだコルは、今後相場が上がるであろうアイテムにつぎ込んでいるので、現在それほど手持ちに余裕があるわけではない。
 とりあえず金がたまるまでは贅沢は敵だ。


「…ぅぅ………」

 下の食堂で腹を膨らませ、部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、どこからかすすり泣きのような声が聞こえてきた。
 耳を澄ませてみると、どうやら一番奥の部屋から漏れてきているようだ。

 基本金を払って借りた部屋はプレイヤーの完全なプライベート空間となり、外に物音が漏れることは一切ない。
 《聞き耳》スキルが高いとその限りではないが、この場合はただのドアの閉め忘れだ。
 遠くからだと気付かなかったが、近づいてよく見てみるとドアにわずかに隙間ができているのがわかる。

(物騒だな。睡眠PKされても文句言えんぞ)

 どんな馬鹿だとこっそり覗き込むと、真っ暗な部屋の中ベッドにうずくまる女性らしきプレイヤーが見えた。
 
「うぅ…数学…課題がまだ……怒られちゃう…」

 なんか小さな声でブツブツ言ってるが、この角度だと人相までは確認できない。
 暗闇の中、腰まで伸びる長い髪がベッドの上に広がっており、さながらホラー映画のワンシーンのようだ。

(なんか壊れる一歩手前って感じだな)

 三日でこれならどの道長生きできないだろう。
 俺は気付かれないようにそっとドアを閉めると、自分の部屋へと足を向けた。










―――――――――――――――――――――――――――

またまた時間かかりましたが三話目です。
後半は一話の改定前の話しをほぼそのままくっつけただけなんで、改定前を読んで下さった方には退屈だったかもしれません。その辺はご容赦を。

情報は小説のみなので矛盾点とか多そうです。
そのへんも含めて、読んだ感想をぜひ聞かせてください。


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