<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[30844] 【習作】アンリエッタの途方も無い憂鬱【憑依・TS】
Name: だぼわん◆609b579b ID:db34f440
Date: 2011/12/14 19:33
    【アンリエッタの途方も無い憂鬱】


    一話:俺の名を言ってみろ。

                  作者:だぼわん













俺はアンリエッタ・ド・トリステインである。


何を言ってるか解らないだろうが、一応説明しておく。

俺は前世では29歳の日本人で一サラリーマンだった。

そして親戚に死んでもらって忌引きを取り、趣味のバイクで峠を攻めていたところカーブを曲がりきれずに谷底にアイキャンフライした。

当然即死である。
・・・・名目上とは言え親戚を皆殺しにした罰が当たったのだろうか。


まぁともかく俺は死んだのだ。

しかし、その筈が俺が目を覚ますと突如赤子となって生まれ変わっていたのだった。
それもゼロの使い魔の登場人物である、アンリエッタ・ド・トリステインとして。

TSである。
そして転生である。
さらに憑依ものである。

俺は割りとSS読みの趣味も持つ、所謂趣味人であったが、自分がこうなるとは露ほども思わなかった。

そしてそうであるが故にゼロの使い魔の物語など、うろ覚えの上に途中で一時的に切ってしまったので不鮮明極まりない。

こんなことならホンキでゼロの使い魔暗記しときゃ良かったと後悔するも、そんな事が事前に知れるわけも無く。

ってゆーか、そんな事ホンキで考えられる人間がもしいたらキチガイ以外の何者でもないのだ。
仕方ないね。

「じーじ、今日の政務は終わりましたか?」
「いいえ。しかしもう少しで終わりますゆえ、少々お待ちいただけますか。」
「・・・むう。では、そこで待ちます。なるべく早く終わらせてください。」

そんな俺は今6歳。

うろ覚えの原作知識と当てにならないSS知識を総動員して、生き残りを図っている真っ最中である。
具体的にはまだ子供なので徹底した魔法の訓練とか杖術の訓練とか、マザリーニに媚び売ったりとかである。

・・・・そう、マザリーニ。

国王(父親)がくたばった後はこの男が居ないとトリステインは詰む。

ってゆーか今いなくなっても詰む。

つまり俺も詰む。

それだけは確かなのだ。

原作知識とかSS脳とか関係なく、現状を理性的に分析する脳みそさえあれば誰にだって解る。俺にだって解る。
つまりは、そういうことである。

ロマリアから出向してきて、時期教皇に成れるって言うのにそれを蹴って鳥の骨とか罵るトリステインのために尽くすというマゾ野郎。
王家に忠誠心持つ義理とか一切無いのに、誰にも感謝されず国の為に身を粉にして働くワーカホリック。

その生き様に想う所が無いわけではなく、
実の所ロマリアに帰ったほうがコイツにとっては幸せなのかも知れぬとか考えたりもするものの、
トリステインと俺にとってはこの男が居ないと非常に困るのである。

そして万が一にも原作乖離してトリステインを抜けられると、俺が詰む。

故に、頑固親父を差し置いて俺は何かある事にマザリーニの政務室に押しかけては甘えたり媚売ったり神学や政治を教わったりしているのである。
忙しいかもしれないが、子供に懐かれて悪い気のする者もおるまい。
あんまり時間は取らせないように気は使ってるし。

そして国王はぐぎぎ状態。
スマヌ。
超スマヌ。

でもこれアンタの国の為に必要な事なのよ。

あと、支離滅裂なアンタの話よりもマザリーニの話のほうが面白いのよ。←ココ重要。

無駄に人生経験豊富だし。


「お待たせしましたな。今日はなんのお話にしましょう。」

「うむ。この間の続きで、単位の統一化に関する案で、じーじの話が聞きたいのです。」

「ふむ。・・・・・アレから考えた限りでは、単位そのものの厳密な制定は難しくないかと。
いまでも単位の取り締まりは王家が執り行っていますからな。少々厳しくした所で反発は少ないでしょう。」

「では、工房に徹底させるのは難しそうですか?」

「そうですな。我々には我々の、連中には連中の歴史と言うものがありますからなぁ・・・・。
統一規格という概念は素晴らしいものの、それを全ての工房に徹底させるのは骨が折れますぞ。」


それにしても、この好々爺といった感じのマザリーニ。

実はまだ30台なんだぜ・・・これで・・・・信じられるかい?

国王が崩御してから苦労していたとか思ってたけど、実は全然そんな事なかったぜ。

国王が生きてても、言う事聞かない貴族を取り締まるのはマジ大変なんだな・・・・。余所者だし。

三十台で既に白髪の方が多いとか、どんだけ苦労してんだよ。

禿げてないのが奇跡だな。
涙が出てくるぜ。


「何故でしょう?」

「まず第一に、規格を統一する事によって得られるメリット。これを理解できる程の教養をもつ者が少ないということですな。
そして第二に、コストが掛かるという事。規格を統一するためには、これまで使っていた全ての工具とそれによって作られた工具。
その全てを取り変えねばなりますまい。それは、短期的に見ると工房にとって大きなマイナスですな。」

「むぅ・・・・・・・。」

「そうですな・・・・あとは、この政策によって大きく得をする工房は、現状ほぼ造船関連に限られますからな。
統一化によって大きく生産力が増すほど複雑な工業製品は、今のところ船だけです。
よってこの政策を発布するとなれば、造船関係者のみを対象としたものとなるでしょう。
しかしもっと工業力が上がればまた話は別でしょうが、
造船工場だけが統一規格化の最初の負担を強いられるとなると、少々反発が強いでしょうな。」


あ、そうか。

ネジとか工具とかも大量生産する現代だからこそ統一規格が有効なのであって、
人の手作りでほぼ間に合う時代では規格を統一するといってもピンとこないわけか。


「では、部品の規格統一は造船に絞るとして、規格の統一に積極的に協力する工房には奨励金を出すというのはどうでしょう?」

「それならまぁ、あらかじめ大きなギルドを押さえれば上手くいくでしょう。
しかし、次の問題が発生します。船の生産力が上がり多少安くなったとして・・・・・需要が無いのです。
国防のため、国力増強のため有効な案だとは思いますが、船を買うのが国ばかりでは国庫が傾きますな。」

「うむむ・・・・・。」

その程度の事は考えてるといわんばかりにスラスラと論破するマザリーニ。
そうか。ただ作るだけではゴミを作っているのと大差ないからな・・・・・。
船なんて平民にとっては一生ものの高い買い物だし、空軍に使うにも限度があるか。
対ゲルマニア戦や対レコンキスタ戦に有効だと思ったのだが・・・・。

「・・・!、そうです、ではその船でなにか国家事業を起しては?
国で買い上げ民間に貸し出すのです。それならば、いままで船に手が出なかった者も船乗りになれるチャンスが生まれるとは思いませんか?」


古代中国では馬でそんな事をしていた筈。歴史でやった。
流通は活性化するし、農耕にも使えて騎馬兵の大量生産にもなる一石三鳥の政策だった。

船の場合は農耕には使えないが、流通には驚異的な威力を発揮する筈。

空飛ぶ船とか艦載量マジありえないからな。


「ほほう・・・貸し出しですか・・・それは中々興味深いですな。」

「そうでしょう。これならば船に需要が生まれます。船乗りも増え、様々な用途に使えましょう。」


「ふむ。陸の流通は概ね馬車が主流ですからな。国中を船が飛び回るとなれば、素晴らしい経済効果が期待できますぞ。
しかし、問題は残ります。それ程の流通を満たす物資は何処から仕入れたものか・・・・と言う事です。
風石も多く消費します故、国外へ出てゆく金も大きくなります。
トリステインの生産力は、そこまで大きなものではありませんからな、現状では。」

「それは・・・・やはり前言ったように、試験農場をつくり、アカデミーの無駄飯食い達に農業を研究させるのが手っ取り早いと思います。
少々強引でも、あの連中には故事の粗を探すのではなく新しい物を作れと発破をかけてやらねば。
頭だけは良いのが売りなのですから、もっと建設的な方向へその能力を向けてもらいましょう。」

「まったくですな。・・・・そして有効な案でもあります。以前お聞きした時は聞き流しておりましたが、
改めて聞くと自分の視界の狭さを思い知ります。貴族が畑仕事などと反発するでしょうが、ふむ。やる価値はありそうです。」


「うむ。出来ればすぐにでも父上に奏上して欲しいですね。そして早ければ早いほど良い。
あのアカデミーの頭でっかち共も、国王直々の命令とあれば動かざるを得まい。
そして農業技術が上がり、農家の次男三男が職にあぶれれば尚良いのですが。」

「・・・・・姫様は戦を考えておいでですか。・・・・ふーむしかし、平民の軍ですか。有効な事は有効ですがしかし・・・・。
国営となると、造船所と貴族の癒着も考えねばならなるまいし・・・・うむむ。」


・・・・!!?

何故解ったし!?
前から思ってたけど、コイツ頭良すぎだろ常識的に考えて。

戦争とか口に出した事無いぞオイ!
平民兵の登用とか、普通の貴族ですぐに思いつくとかどんな頭の構造してんだ!?

転生とか現代知識とか目じゃねーぞ!?


「ふーむ。やってみるとしますかな。まずは『貸し出し政策』の前例作りとして、農具などの貸し出し制から始めるとしますか。」

「あ、ああ・・・なるほど。いきなり船等と言う大きなものの貸し出しは通りにくいですか。」

「左様です。それに上等な農具さえあれば農業の効率も良くなり、生産力が上がるのも確か。
そうすればさらに国力もあがり、民の暮らしぶりも良くなりましょうぞ。」


・・・・。

あれ?
なんかおかしいぞ?


「あの、・・・・本当にやるのですか?いつもは話を聞くだけで一つの案に100は駄目出しするというのに、
今日は随分アッサリしてるではないですか。」


「私は姫様が気に入らぬから、容易に賛成せぬと言う訳ではありませぬ。
優れた案に対していたずらに掣肘をかけるなど致しませんぞ。
姫様の出された『貸し出し政策』は中々素晴らしい案です。
このじじ、蒙を開かれた気分です。」


「そのように手放しで誉められると、照れるではないですか。本当に今日はどうしたのですじーじ。」


いつももっと辛口なのに、今日は妙に優しいな。

こんなマザリーニ初めて見たぞ。
・・・嫌な予感がする。


「ふふ、嬉しいのですよ姫様。このように優れた生徒を持った教師として、そして優れた主君を持った家臣として。
相変わらず、姫様の慧眼はとても6歳とは思えません。
これまでも、実はあなたがなさった提案を部分的に採用する事もあったのですぞ?
姫様がこのままご成長なされればこの国は安泰です。・・・・正直な所、一つ肩の荷が下りた気分です。」


・・・・っちょ、まだ30代だってのにもうすっかり爺気分だコイツ。

ふざけてじーじとか呼んでたのが不味かったか・・・・!?

それ以前に、肩の荷下りてないから!全然一つも下りてないから!

変なとこで安心しちゃ駄目でしょ。お前にはこれからも馬車馬の如く働いてもらわなきゃいけないのに。

ブラック企業も真っ青だぞコラ!お前の大好きなお仕事が山のように山積してるんだぞこの野郎!(二重語)

てゆーかマジでやばい。
こんな展開まじありえない。

バタフライ効果にも程があるだろ。

こんな小娘一人差し置いて、ロマリアに帰るとか無いと思いたいが・・・・最悪の展開もありえる。


「ご冗談を。私など王女とは言え、未だただの小娘に過ぎませぬ。まだまだあなたの力が必要なのです。
私が良いと言うまで、貴方は一線から退かせませんよ。・・・・それ以前にじじ、あなたはまだ40にもならぬではありませんか。
引退を考えるのは早すぎです。欲がないというのも考え物ですね。」


いつに無く饒舌でまくし立てる俺。


そうだ。ちょっとまてお前。

俺なんか単に前世の記憶があるだけの凡人に過ぎないんだって。

俺一人じゃ内政TUEEEEEEEEとか現代知識SUGEEEEEEEEEとかできないんだって。

解れよ、神童も二十歳過ぎれば只の人とか言うだろ。

無理。
無理だって。
あの優しいけどアホのお母様と、優しくないしアホの貴族共と心中とか御免こうむるって。

お前だけが頼りなんだ。

・・・・・いざとなったらどっかのヘ○ンみたく土下座してでも引き止めるぞ。

て言うかあのヘイ○がうらやましいぜ。少しでもあの強運を分けて欲しい気分だ。


「おおっ・・・・これ程までに、私を買って頂いているとは・・・・このじじ。感無量ですぞ。
ご安心なさってくだされ。このじじ、滅多な事ではこのトリステインを離れる気なぞありませぬ。」

「誓ってですか?」

「この聖書と始祖ブリミルにかけて誓いますぞ。」

「・・・・ならばよろしい。」


今にも感涙に泣き出しそうな顔で、マザリーニが打ち震えている。
オーバーなヤツだ。自分がどれだけこのトリステインに貢献しているか解っていないのだろうか?

ふう。

だがここまで言うからには、とりあえずそうそう居なくなりはしないだろう。

・・・・まだ不安は残るが、そこはコイツを信じるしかない。
原作では次期教皇の座を蹴ってまで、何故かトリステインに忠を尽くした男だ。

その「何故か」を突き止めない事には本当に安心はできないのだが、ここは一先ずよしとする。

しかし・・・。
なんとかしてコイツをトリステインに繋ぎとめておきたいのは山々なんだが、実の所殆どボランティア状態なんだよな。

給料は滅茶苦茶出てるけど、使う時間が無いんじゃ0と同じだし。

弱みもないし不正もしないし、情で縛ろうにも常識的に考えてあの仕事量に勝る情って一体何なんだって感じだし。

身を粉にして働いてるのに鳥の骨とか言われてまで働く理由とか思いつかないし。

いっそ直接聞いてみれば良いのかも知れないが・・・・・なんか怖いし。


「・・・・もうそろそろ、魔法の訓練の時間ですね。時間を取らせて済みませんでした。」

「なんの、済まぬ等と仰らないで下さい。姫様との討論はこの国にとって、実に千金に値する価値があります。
魔法の訓練、頑張って来て下され。」

「ふふ、ありがとうございます。お世辞でも中々嬉しいものですね。では、“逝って”来ます。」

「?明日もお待ちしておりますぞ。」


・・・・明日も10年後も、待っててくれよ?本当に。

お前に愛想つかされないように、できるだけ姫様業も頑張ってみるからさ。


*



ギィ・・・・パタン。

俺は今の身長だと見合げる程でかいドアをうんしょと開けて、外に出た。

ドアの横には俺付きのメイドがビシッと背を伸ばして控えている。

・・・・俺付きのメイドとか、凄いよね。

なんか偉い人になった気分がする。

いや、実際立場的にはえらい人なんだけれど。


「今日は少々長かったですね。お勉強は捗りましたか?」

「ええ、とても有意義な時間でした。」

「それは良かったです。・・・・では今日はカリーヌ様がお待ちですので・・・・御武運を。」

「ありがとう。気休めでも嬉しいわ。」



かりーぬ。

ルイズの幼馴染設定は原作と変わらないが、多分既に原作とは違う所もある。
俺の魔法・杖術の師匠がかの烈風カリーヌだということだ。

初日で、「王女だからといって手加減や無用な配慮は要りませぬ。」

とか啖呵きってから凄いスパルタなんだよなあの人・・・・・。

今となっては最初の方は遠慮してたんだと解るが、それでもあの厳しさって何なんだ。

そこから段々容赦が無くなってきて、最近はホントに命の危険さえ覚えるほど。

後悔先に立たず。一年前の俺を出来ればぶん殴ってやりたい。


・・・正直、自分には才能あると思って調子乗ってました。
王家だし。

しかし上には上がいるもんですなー、正直大人になっても勝てる気がまったくしません。

流石は虚無のママン。

しかも訓練方式が何処で覚えたのかハートマン式だから、超ぱねぇ。

訓練モードになったら普通に俺のこと罵るし、王族だからって容赦ないし。
口調自体は丁寧だから、よりキツイ。

メイジには肺活量が必要とかいって、普通に庭を走らせたりするし。

立ち止まったら普通に鞭とか飛んでくるし。

フライ何時間耐久とか、レビテーション何時間耐久とかマジでヤバイ。

レビテーションなんか岩を落したら終わりだけど、フライの場合落下するんだからな!

そしてなまじ想像を絶する美人なだけに(年いってるけど。)、
最近罵られたり鞭で叩かれたりするたび背筋にビビッて来る感覚が一番やばい。


疲労困憊で倒れ臥した所に、
あの冷たい釣り目で見下ろされて罵られたりするともう・・・・あふぅ。

・・・・マゾじゃない!俺はマゾじゃないんだからな!?


あーでも、ばったり倒れこんでる所をつま先で蹴り上げられたりしてもあの人のこと嫌いにならないってあたり、もう手遅れかも。

調教されきってますな。王女なのに。


いや、でも普通にマゾじゃないと付いていけない訓練って言うか、

あんな人に訓練付けられたらだれでもマゾになりかねないって言うか、それだけなんだけどね。

訓練以外のときは普通に優しいし。

訓練の成果は目覚ましいものがあるから、やる気にもなるし。


・・・なんか、平賀サイトの気持ちが良くわかった気がする。

厳しい中に、ほんの少しの優しさを混ぜられるとコロッといっちゃうよね。

時々やりすぎたかな?って凄く不安そうな顔になったり、よく出来た時に凄く優しかったり。

そのせいで酷い仕打ちも何か許せちゃったりする。

これがツンデレ理論か。


それにルイズももう母親の血の片鱗を見せ始めているんだよな・・・、ドSの。
それでいて人を惹きつける魅力と言うかカリスマと言うか・・・二人ともそういうのがある。

中身凡人の俺としては、容姿以外にカリスマ要素持ってないから凄く羨ましいです。


「中庭に着きましたわ。姫様。・・・中には腕っこきの医師が三人待機しております。
外側からはサイレントをかけますので幾ら叫んでも外には聞こえません。安心してください。
・・・改めて、御武運を祈っております。」

「あはは・・・ありがとうね。」


医師て。
医師てなんぞ。

そう思わんことも無いが、実の所結構お世話になっちゃっているのだ実際の所。

小さな怪我とか跡残ったりしたら大変だし、魔法行使の疲労で気絶すると心臓止まったりする事があるから。

・・・・医者の立会いが前提の訓練なんだよね。
もう慣れた。


「遅い!・・・姫様、時間は有限です。
姫様ほどの才能を伸ばすには、この時期に徹底的に叩き込むのが一番だと申し上げた筈。
幾ら才能があろうと、磨かねば只の石。価値の無い蛆虫です。いえ、貴方は未だ蛆虫以下のゴミクズに過ぎない。」


髪を後ろで束ねた桃色の髪の女が、中庭に着くなり罵詈雑言で迎えてくれた。
いい加減かなりトウが立ち、皺も目立つ御仁だがそれでも美人だ。

しかし性格は苛烈で強引。中庭もいつの間にかトレーニング用に相当改修されてしまった。

初めから錬兵場でやりゃ良いのにと思わんでもないが、一応おれは姫様なのでと言う事らしい。

・・・・何時の間にか優雅さとかかなり減っちまってるな。

林とか、生え際が後退するかのごとくジリジリと消えて行ってるんだよ、魔法の余波で。
もうちょっと手加減とか考えて欲しいね。

まぁ始めに手加減無用とかかっこよく言っちゃった俺が悪いんだけどさ!?


「貴方はは厳しい私を嫌うでしょう。
だが憎めば、それだけ学びます。
私は厳しいが公平です。
私の教え子になったからには、立場による差別は許しません。
ロマリア豚もゲルマン豚もガリア豚も私は見下しません。

・・・・・すべて平等に、価値がない!

私の使命は役立たずを刈り取ることです。
愛するこのトリステインの害虫を!
分かりましたか、このウジ虫が!・・・・中庭30週!早く行きなさい!」


「イエスマム!」

「声が小さい!!」

「イエスマム!!!」

「よろしい!行け!」

「イエスマム!!!」


畜生!どうしてこうなった!?

こんなキャラだったっけ、この人?

それ以前に、俺ホントに王族か!?


「遅い!5週追加!」

「イエスマム!!!」

「良い返事です。少しはマシになってきましたよ、この蛆虫!」

「ありがとうございます!マム!」


あと最近気付いた。

幼児期にトラック走らせたり腕立てやらせたりしてもそれ程意味無いじゃんとか思ってたけど、精神力はかなり付くようだ。

魔法使わなくても、増えるのね。

それにだんだん頭が真っ白になっていろいろな事がどうでも良くなってくる。

この精神状態だと、なんか魔法の精度が良く上達するようだ。


まぁ腕の良い水メイジが三人も控えている時点で発達障害とか考えるだけ無駄だし、
この人が直々に訓練つけるのは3日に一回だし。

インターバルを大きく置いてるのは、現代スポーツ科学にも通ずる所があるので、合理的なのはわかる。

それにしても、まさかこんな事になるとはなぁ・・・・・。

この人の弟子が逃げ出すやつが多いって良くわかるわ。

あとマゾに目覚めるってのも。


俺は違う。まだ違うと思いたい。

それが無駄な足掻きでも、抵抗する事には意味があるのだ。そう信じる


「足が止まっていますよ!?もっと気合を入れて走りなさい!」

「イエスマム!!」


ビシィッ。
そんな事を考えていると鞭が飛んできた。・・・・この人ほど鞭の似合う御仁はいるまい。


───ゾクゾク。

うはぁ、やばい。

・・・・俺の明日はどっちだ!?










つづかない。















[30844] 二話:「穴掘り」のルイズ。
Name: だぼわん◆609b579b ID:db34f440
Date: 2011/12/13 19:43






 【アンリエッタの途方も無い憂鬱】

二話:「穴掘り」のルイズ。

  作者:だぼわん









唐突だが、この俺アンリエッタには夢がある。
とりあえず一番の目標は、やたら綱渡り人生だった感のある原作みたいな状況にならないこと。
つまりは、物語のキーパーソンにならない事。

綱渡り的状態になってしまったら、もう既にそれを渡りきる自信は無いので、それそのものを回避するという事だ。


・・・・で。
次の目標が「結婚しない」ことである。

まぁ無理だとは分かってるんですけどね。
王族だし。
姫だし。

だが最低でも血は遺さなきゃいけない訳だから、結婚とセクロスと出産というプロセスは避けられない。
しかし元男の身としてみれば、多少の興味はあるものの全力で御免こうむりたい事態だ。
覚悟とか、無理だし。
それは根性とかそういう次元の問題じゃないと思う。

アレか?俺にゲイになれと?

・・・・多分、初夜の晩首斬って死ぬと思う。
今のところそれくらい嫌だ。

実はこれも何とかしたい問題の一つだ。

まったく王族なんて因果な家系に転生したものである。
勿論、素寒貧のド平民よりかは幾らかマシだが。

この問題も妹の一人でもいれば解決するのだが・・・・まぁもう両親ともに年だしね。

カリーヌなんてパコパコ3人も子供生んでるけど、基本貴族って生殖能力低いし。
グラモンとかアレは・・・・例外だし。

(・・・・本当にお盛んな事だ。やること無いから、セックスぐらいしかやること無いんだろうな・・・・気楽な地方領主共が羨ましい。)


つまりは今のところ解決策は男になる秘薬でも探すか、
惚れ薬でも飲んで頭ぶっ壊すくらいしか思いつかないと言う事だった。

流石にこれだけ尽くしてくれるマザリーニは裏切りたくないから逃げるのは論外。

それに飢えで死ぬ平民も多い中、安穏といい物飲み食いしてる身である。

幾ら私が転生者だからといってこの国に既に愛着もあるし、
責任を投げ捨てる気にはなれなかった。


だがそうとなれば、後は政略結婚が必要ないほど国力を豊かにし、

しかる後私以外の最も王家の血の濃い者に王座を託す。
これしか結婚を避ける方法は無い。

そして同時に、圧倒的な国力こそが唯一この俺を表舞台に立たせないための方法でもあるのだ。

戦争を避け、もし起きたら圧倒的に勝つ。

レコンキスタは徹底的に叩く。

物語の主人公であるルイズとサイトの活動は圧倒的な国力で全面的にサポートし、ガリア王は謀殺する。

これしかない。

とりあえずトリステインが弱っちいと俺が煽りを食う羽目になるということだけはハッキリとしている。

それ故に私は出来る事からコツコツと、トリステインの発展に努めているのである。



(・・・・現状のトリステインと言えば、お気楽貴族共が蔓延る最悪の状態だけどな!)


この世界に置けるガリアは、私の見たところモデルであるヨーロッパ諸国と言うよりソ連か中国に近い立ち居地を持っていると言えるだろう。

そしてゲルマニアがアメリカである。

つまりチート物資、チート人材、チート財源の三拍子そろった悪夢の敵対勢力が二つ。このトリステインを挟んでいるのだ。

対してこのトリステインの立場といえば、侵略をしないドイツか日本のようなものである。

つまり燃料も食料も資材も人材も国土もナイナイ尽くし。加えて政治力に欠ける。

歴史と国民の潜在能力だけが頼りの、泥舟であった。




「ルイズ、ルイズ。あなたの爆発魔法で、この辺りを吹き飛ばして見て下さいな。」

「・・・・・ええ、わかったわ、アン。うふふふふふ。」


そんなある意味絶望まっしぐらなアンリエッタ。
そしてその心の友であるルイズは今、隣で絶望的な表情で杖を振りかぶっているのだった。

いやーおそろいでいい感じだね!
魔法の使えないルイズと不能のアンリエッタ。
陰気臭い空気が漂ってくるようだ。


「・・・れびてーしょん。」

振り下ろされる杖。

鬱屈した感情を表すように、死んだ目でやる気なく揺れる。

だがそれとは対照に、迸る膨大な精神力は大気に放散され、世界を歪めた!


・・・・ドカンッッ!!!

吹き飛ばされる地面。
大きくクレータ状にへこんだ大地から土煙がもうもうと立ち込める。

大きな、クレーターが・・・。

クレーター・・・。



───あれ?

失敗魔法で人死にって出なかったんだよな原作では?

土が抉れるほど強い爆発って、ダイナマイト何本分?

これ、威力でかすぎじゃね?


(魔法学院の生徒達ってすげー命知らずだったんだな・・・・、
地雷原の上でタップダンス踊ってて気付かないアホ揃いだったってことか・・・。)


ゾクリ。と、今更ながら背筋にいやな感覚が走る。

今更ながらルイズが虚無である事、そしてカリーヌの娘である事に深く俺は納得した。

母が人間台風なら、娘のルイズはさしずめ歩く火薬庫といった所か。

そして恐らく、7歳のこの時点で破壊対象をある程度任意にコントロールできるオマケ付き。

なんという高性能爆撃機だろうか。

恐ろしい事この上ない。


・・・・が、しかし。
粉塵と爆風から風の防壁で二人の身を守りつつ、予想以上の威力に俺は内心喝采を送っていた。

ルイズの失敗魔法は、それはそれは素晴らしい爆発であったからだ。

場合によっては千金と、俺の安寧のための一角を生み出す程に。

────これなら、いけるかもしれない。

俺は内心ほくそえみながら、構想だけだったある計画に現実味が出てきたことに狂喜した。



*


・・・前話から既に一年。

マザリーニに出来るだけ苦労はかけまいとは思っていたが、そこはそれ。

子供なんだから遊ばなきゃ不自然だし、子供らしく遊んだりもしてみたいし、わがままも言ったりしたい。

流石に、生き残りたい(結婚したくない)という欲求一つの為に全ての娯楽や快楽を捨てて生きる事なんて出来ないししたくもなかった。

そんな詰まらない人生を送るくらいなら、詰んで死んだ方がマシだ。
俺はそう思う。

それに優等生よりは、馬鹿な子の方が愛着が湧くと言う。

マザリーニも、詰まらん優等生よりも多少お転婆な問題児の方が可愛いだろう。
多分、きっと、Meybe。

はい理論武装完了。


・・・と言う事なので色々と二人で政治について考える傍ら、それらしく過ごしてみた。

具体的には、

悪友たるルイズと王宮といわずヴァリエールのお屋敷といわず悪戯三昧を繰り広げたり。

オーク討伐に行く兵士の馬車に紛れ込んで勝手についてったり。

職人を呼んで、低反発スプリング式のベッドを作らせて見たり。(あとでマザリーニにあげた。)

馬車の揺れが酷いので、錬金した板バネを仕込んでみたり。(現在大量生産中)

竜騎兵から竜を強奪して乗り回してみたり。

祭りの日に抜け出して、旅芸人の一座に飛び入りでダンスを踊ったり綱渡りしたり。

造船に口出ししてみたり。(後述)

農業研究にに口出ししてみたり。(後述)

ラグドリアン湖で水の精霊とだべってみたり。


・・・・と、この様に実に子供らしくすごしたと思う。

中には悪戯とかとは言えない物もあるが、大体これらが俺のやった個人的な悪戯や我侭の類である。

段々と俺を殴るマザリーニの拳に遠慮とか容赦とかいうものが抜けていったような気がしたが、それは気のせいだろうと思う。

どうせカリーヌの訓練に比べれば蚊の止まったようなものだし。


で、今回の話の俺はというと。

2週間ほど前から4ヶ月ほどヴァリエールの屋敷で過ごす事になっているので、

ルイズと一緒に敷地内のふっ飛ばしてもいい空き地を探していた。

何故かは後で説明するが、
ようは訓練は相変わらず3日に一度だし、訓練の無い日は何もしないのも面白くないので何かしてみようという事である。

ただ、何時ものように悪戯とか悪ふざけとかわがままとか、そんなのは特にしたくなかったので、
もっと建設的でダイナミックな事がしたいと思った次第であった。

何故かこの二週間、悪戯とかわがままとかはなんか気が乗らなかったのである。


かといって訓練や勉強は何時もどおりだし、マザリーニとはこっちに来てからも文通で議論してる。

何もしていないわけではないし、意欲が無いわけではないのだが・・・しかし気が乗らない。


いや、理由はわかっているのだ。

何というか・・・・どっかのブラウニーさんも言ってたけど、自由って言うのは束縛があって初めて成り立つ概念だよね。

ヴァリエール領に来て、あの口うるさいマザリーニがいない・・・・自由だぞっとテンション上げてみるも、
初日でいきなりテンションダウンだった。

いやぁほら。
カリーヌは厳しいとは言え、やっぱり騎士だし。

俺が本気でわがまま言ったらそれを何とかしようとしちゃうんだよね。

父上と母上は俺のことを猫かわいがりで、何を言っても割りとうんと言ってしまうし。

他の貴族の連中とかも、上手い事諌めようと、私を押さえつけるよりかは飴を与えておとなしくさせようという方針だ。
だから、マザリーニがいない隙に今回のヴァリエール領滞在を駄々こねてみたのだが、何だかすんなり通ってしまったのだった。

───それが、詰まらん。

悪戯やわがままというのは規則を破ってなんぼ。反対意見を振り切ってなんぼなのである。

真っ向から対立する大人がいないという事ほど、子供にとって詰まらん事は無い。

規則を破るからこそ、子供は髪を染めたりピアスをする。

規律を破るからこそ、粋がった言動をする。


しかし始めから押さえつけていなければ、不良も何も無い。

反抗とは抑圧する何者かがいないと出来ない事。

つまりは、一人では反抗期は出来ないのである。


その点、マザリーニは得がたい人材だった。

俺のすること為す事の大体には反対するし、子供だからと舐めたりせずに理詰め且つ本気で反論する。

さらには兵まで動かして本気で俺を捕まえようとするなど、大人気ないが遊び相手としてはこの上ない上玉だった。


それに、ヤツが相手だと最後にはキチンとオチが付くしな。主に俺の不幸オチだけど。

ドタバタコメディやるのはいいが、なあなあで終わっちゃうと気持ち悪いからそこはキッチリしないといけないのだ。

次からも気持ちよくハッチャケられるように。

いやホント。

無くしてから初めて分かる事って・・・あるよね。

マザリーニかむばーっく。

てな感じである。


・・・・そんな訳だから、ちょっとは反省した俺は次なる計画を練った。

今日からおれは残りの3ヶ月半・・・・「穴」を掘ろうと思います。

俺はクレーター見下ろし、ルイズに質問した。


「うん。いい感じね。ルイズ、あとどれくらい撃てそう?」

「こんな失敗魔法でいいなら、100発でも200発でも撃てるわよ!・・・もう、馬鹿にして!これ以上言うなら絶交よ!?」

「まあまあ怒らないの。訳はこれから説明するわ。ふふふ・・・・・実はね、ここの地下には風石の鉱脈が眠っているのよ。
それを、ルイズの爆発魔法と私の風魔法で掘り出そうって言うの。・・・わかるかしら?」

「風石・・・・?あのお船を動かす石の事?それって地下にあるの?高いんじゃないの?」


あらら、いくら聡明とはいえ7歳児には解り難かったか。

でもこの子も大概天才だし、意外となんとかなるか。

金銭的な価値は説明する手間が省けてるわけだし。

うーんと、そうだなぁ・・・・。


「そうよ。ここの下の下のずーっと下に、いっぱい風石があるのよ。」

「嘘、そんなのどうしてわかるの?」

「それは私が風のスクウェアメイジだからよ。風の波動をここの下から感じるのよ。」

「ホント!?凄い!!」


────嘘である。

いや、私が水のスクウェアなのは事実だが、風はまだトライアングルクラス。

あと風のスクウェアでも鉱脈の位置を探すのは難しいいんじゃないかね?
どっちかというと土メイジの領分だそれは。


ただ、風石がここの地下に高確率で眠っていることは確かだ。

何せハルケギニア全土を浮き上がらせるほどの量。深く掘れば必ずどこかにぶち当たると言ってもいい。

問題は何処まで掘ればいいかだが、幸いこちらはメイジ。

足場を気にしなくてもフライで上れるし、崩落の危険も「固定化」の魔法で防げる。

そしてルイズの失敗魔法は話どうりなら日に100発もダイナマイトを用意できるようなもの。

最も問題と思われるのは土砂の運搬だが、カリーヌに鍛えられた私にその程度は些事だ。レビテーションで余裕です。

まぁ大体、1kmくらい掘ってみてそれでも風石が出てこなかったら、その時は諦めて助っ人を呼ぼうと思う。


(ま、十分勝算はあるからこそ、こんな事に三ヶ月半も使うんだけれど。)

「ふふふ。それでね?この地面を掘るのに、ルイズの爆発魔法が凄く便利なの。
多分、どんな大人も真似できないわ。それに風石の鉱脈を見つけるなんて凄い事が出来たら、カリーヌもビックリするわよ。」

「ホント?お母様、誉めてくださるかしら?」

「そりゃあもう誉めてくれると思うわ。それだけ凄い事だもの。」


まぁその前にこってり絞られるだろうがな!

それにしても、崩落の危険だけはマジで回避しねーとな。
1km掘った時点で崩落とかしたら、出てくるのマジで苦労しそうだ。

・・・・不可能ではないと言うのが、既に恐ろしい所だが。


「で、協力してくれる?これにはあなたの爆発魔法の力が必要なのよ。ルイズ。」

「・・・・・・私の失敗魔法が、本当に役に立つの?」

「当然よ。それと、失敗魔法ではなく爆発魔法と呼ぶべきね。誰が何といおうと、ルイズの魔法は爆発魔法よ。自信を持ちなさい。」

「・・・・ありがとう、アン。・・・・私、やるわ!絶対に風石を見つけてエレオノールお姉さまを見返してやるんだから!!」

「こちらこそありがとう、いい友人を持ったわ私は。・・・・それと、皆には内緒よ?絶対言っちゃ駄目だからね?」

「どうして?」

「二人で秘密でやったほうが、後でビックリするでしょ?皆。」

「そっか!」


ちょろい。

本当の所は、言ったら流石に反対されるだろうし、風石の鉱脈があるとか7歳児が言っても聞きゃしないだろうからである。
だからこそ、どれだけ細い穴であろうと私達が最初に風石を持ち帰る必要があるのだった。

こういうのは証拠があって初めて、莫大な資金を動かせるのである。


ま、マザリーニの度肝を抜いてやりたいというのも俺の本音ではあるがね。

この何かと入用な時期に風石の鉱脈など見つかれば・・・保護者と言う観点では多大に物申したい事もあろうが、

為政者としては諸手を上げて喜んでくれる筈。

ひいては、国力増強につながる筈である。

・・・・それに、我が友ルイズの自信回復にも一役かってくれるだろうしね。


「このマジックアイテムでサイレントをかけて・・・と。これで音漏れの心配は無いわね。
それじゃルイズ、風の守りで爆風はあなたには届かせないわ。遠慮なくドカンといって頂戴。
・・・・ただし、出来るだけ遠くからね。

「わかった!」


精神力は節約するに越した事は無い。

俺は以前から悪戯用に重宝してるサイレントの効果のあるマジックアイテムを発動させ、
ルイズと私をを風のバリアで包んだ。

ただし、遠くから飛んでくる小石や埃を弾く程度の弱い守りだ。

持続力重視だが、急に何かあれば精神力を余計に注ぎ込んで強化する事も出来る便利な運用法である。


「ふらい!れびてーしょん!らいと!」


ズガン!ボカン!ドカン!

響き渡る失敗魔法・・・・いや、爆発魔法の音色。

しかしこの音がここいら一体から漏れる事は無い。

振動は伝わるだろうが、それも屋敷に届くほどでは無い。

唯一恐れるのは、師カリーヌの『地獄耳』だが、それもサイレントのマジックアイテムを4個使うことで完全に欺ききる。


鉱山予定地は厳密に選定した。

遠くに行き過ぎては、昼に一度戻れなくなりルイズの家族に疑念を抱かせる事になる。

逆に屋敷に近すぎれば、容易に掘削作業がばれる。

故に、屋敷の敷地内でも小山一つ越えて屋敷からは完全に死角となる位置。
そして近くに人が住んでいない場所を入念に選んだ。

さらに、サイレントの魔法を発動させるマジックアイテムの重ねがけで出来うる限り爆音を隠して掘削を行うのである。

・・・・完璧な作戦。
土遊びなど子供の遊戯の一つではあるが、それを雄大且つ壮大にした完璧な作戦である。


「───ライト!ライト!ライト!・・・・ねぇ、もう既に凄い大穴なんだけど、風石ってどれくらい掘ったら出てくるの?」

「そうねぇ・・・・ま、最低でも800メイルくらいかな?」

「───800!?そんなに掘るの?」

「もしかしたら、1000メイルまで行くかも知れないわ。・・・・覚悟してやって頂戴ね。
重要なのは、諦めない事。もしかしたら、風石なんてここには無いのかもしれないなんて弱気に屈しない事よ。」

「わ、わかったわ。」

「それと、私がいない時に勝手に一人で掘り進めようとしないこと。二人揃ってじゃないと、とても危険よ?」

「うん。わかった。」

「疲れてきたら、すぐに言う事。私が訓練を付けて貰ってる日は、素直に休む事。」

「それもわかった。」

「あと・・・・・『逃げたら承知しないわ。』」


俺はにっこり微笑んで言った。

もしルイズにボイコットでもされたら、一人で岩盤を砕くのには相当の手間が掛かるのだ。

そしてその場合、絶対に4ヶ月では済まなくなる。

それだけは防いでおかねばならないので、本気で脅した。


「わわわ、わかったわよ。別に、私が逃げ出したりなんてするわけ無いでしょ!信じなさい!」

「ええ。疑ってごめんなさい。ルイズはそんな弱虫じゃないものね?」

「と、当然よ!」


ま、これだけ言っておけばプライドの高いルイズのこと。
絶対逃げ出したりはしないだろう。

さーて、風石は出てくるかな?


*


キング・クリムゾン!!
日々穴を掘ったという過程は吹き飛ばされ────風石の鉱脈を掘り当てたという「結果」だけが残るッッッ!!



・・・・ってことで、風石が出てきた。

子供二人集まれば土遊びや積み木遊びは日常茶飯事だが、ここまで巨大な縦穴を掘った7歳児二人はそうそう見かけないだろう。


「──やった、やったわ!・・・・風石が出たわよ!ルイズ!」

「こ、これが風石・・・・私の魔法の力で掘り当てた、風石なのね・・・・・。」


地下遥か深く。
自由落下で最深部に到達するまで、分単位で時間のかかる驚異的な深さの縦穴の底。

来る日も来る日も、穴を掘る貴族と王族二人。

シュールこの上ないが、その努力が実った結果と言える。

俺とルイズはタイムリミット前に風石の鉱脈を掘り当てたのだ。


(いや、マジで出てくるとは・・・・。疑っちゃいなかったけど、こうなんというか・・・・凄い嬉しいなこれは。)

今回の最大の功労者は間違いなく、ルイズだろう。

私の考える以上の威力の爆発、想像外の途方も無い精神力。そして親譲りのド根性。

それらがあって初めて、今回の偉業が達成できたのである。

重ねて言うが、俺はよき友人を持ったものだ。


「早速持ち帰りましょう!バケツに一杯詰めて頂戴。」

「ええ・・・ていうか凄いわね。こんな、これ全てが風石なの・・・・・?」

「そのようね。かのクリスタルケイブよりも凄まじい景色だわ。・・・巨大な風石の内部が空洞になっていようとは。」

(鉱脈なんて次元じゃない。これは・・・・風石そのものだ。)

上下問わず壁一面が、風石の結晶。

巨大な風石の結晶がカンテラの光を反射してキラキラと輝いていた。

そして結晶内の巨大な洞窟内には、ゴウゴウと太い風の音がこだましている。

まさに、ファンタジー。


「世界で一番最初にこの景色を見たのが、私たちなのよ?ルイズ?・・・この意味がわかって?」

「ええ、アン。・・・・凄い・・・・。」


目を白黒させて呆然と結晶を触るルイズの手のひら。

未だ現実感が無いのだろう。

そういう俺も、なんだか浮き足立っているようだ。


「あ、ルイズ。そっちにいっては駄目。私の風の守りの範囲から出ないで。空気圧で肺がつぶれるわよ?」

「あ、うん。」

「それと、そろそろ帰るわよ。綺麗だけど・・・・なんだか怖くなっちゃった。少し日の光が見たいわ。」

「・・・・・うん、わかる。これは綺麗だけど・・・・なんだか恐ろしいものだわ。見ちゃいけないものを見てしまった気分。」


・・・・流石は虚無と言った所か。
これが世界を滅ぼすおぞましいバケモノだと、本能で察しているのかもしれない。

(だけど、それだって見方を帰れば只の資源。使えるものは、使わなきゃ。)

だがその化物すら利用して、トリスティンの資源不足の問題の一つは解決したと言える。

そしてこの鉱脈から発掘される風石は国庫を良く潤すだろう。

何をするにも、金金金。

金の心配がとりあえずなくなった事は、素晴らしく俺を幸せな気分にしてくれた。


・・・・もしかしたら、もしかするかもしれない。

俺の望む未来を手繰り寄せる事が・・・・・できるのかもしれない。

そう思えた。

*


「カリーヌ!見てくださいコレ。」「お母様、コレを見てください!」


レビテーションを用い、文字通り猛烈なスピードで飛んできた二人の子供にカリーヌは少々困惑した。

嫌な予感がしていたと言ってもいい。

自分の教え子であるアンリエッタ姫が時々とんでもない事をやらかす事は身をもって承知していたが、
こんどは何をやらかしたのだろうか?

楽しみな気持ちが半分。不安な気持ちが半分で、ブリキのバケツ一杯に入った風石を眺める。


「・・・・どうしたのです?こんなに風石など、それに貴方達泥だらけじゃありませんか。何をしてたのですか?」

「ふふふー、聞いて驚きなさい!なんと、私たちは今日遂に!風石の鉱脈を掘り当てたのです!」「そうなんです!」

「・・・・は?」


一瞬、理解が追いつかない。

数瞬、やはり理解が追いつかない。

カリーヌはこの日ほど自分の良すぎる耳を疑った事は無い。

轟音で耳のつぶれそうな戦場でさえ疑った事の無いこの耳に対する信頼が、初めて揺らいだ。


「・・・・どういうことです?この三ヶ月ほど、よく外で遊ぶと思っていたら・・・・今度は何をやったんですか姫様!?」

「ですから、風石の鉱脈を掘り当てたと言ってるではないですか。実に三ヶ月ルイズと掘り続けてようやく見つけたんですよ?」


そういう問題じゃない。

カリーヌは長年の経験から、既に事が自分の手のひらをはみ出している事に気付いた。

こうなってはもう自分ではどうしようもないのだ、忌々しい事にあのマザリーニを呼んで対処させるしかない。

気付けば既に手遅れ。最早何度味わったかわからない眩暈に、カリーヌは空を仰いだ。

何時もそうなのである。この幼い姫様はしかし、並の大人の手の内に納まりきるような半端な器ではない。

この娘に訓練をつけ始め、関わるようになってから幾度と無く思い知った事である。

それが、三ヶ月も大人しくしているという事が既にありえないのに、油断していた。

(・・・・大の大人でさえ悲鳴を上げる訓練に平気で付いてくる幼児ですものね。
それに、恨まれたり怖がられたりは覚悟の内だったけれど、訓練が終わればケロッとしてるし。・・・本当、大物ねこの姫様は。)

六歳でラグドリアン湖の水の精霊と対話し、竜を従え政にまで口を出す。

正直な話、既に常識で括れる存在ではなかった。

(恨みますよマザリーニ。姫様係りは本来貴方の仕事でしょうが。)

そんなアンリエッタに唯一掣肘をかけることの出来るマザリーニは、疎まれながらも密かに王城内で支持を集め始めていた。

さらにはいつの間にやら「姫様係り」等と言う役職まで密かに与えられていたのである。

イヤイヤやっているわけではなく、むしろ喜んで関わっている所には救いがある。
が、正直な所良くやるものだと思う。

姫様の遊びはスケールが大きすぎて、それがどんな風に飛び火するかわかった物ではないので非常に恐ろしいのだ。
もう自分如きでは責任や余波を回収しきれないとカリーヌは諦めた。


我侭も悪戯も、概ねトリステインの益になる事か無害に近い事しかしていないのは流石姫と言った所。

だがそれもマザリーニが上手く纏めなければどうなっていたか。

肝が冷えるなんてものではない。


(使い魔をここから王城まで全力で飛ばせて、あの老け顔が此処に到着するまで3日はかかりますか。
・・・・・正直な話、気が重い。)

姫様が風石の鉱脈を掘り当てたというのなら、それはもう子供らしい嘘や悪戯の範疇ではない。

おそらく、本当に掘り当てたのだろう。

それも有難いが厄介な事に、ヴァリエール領のど真ん中に。

王家の御息女の直々に掘った鉱脈など、どう扱えというのか・・・・・。前代未聞の大珍事にも程がある。

一体幾つのありえない前例を立てれば気がすむのか。

カリーヌは、胃が非常に重たくなってきた事を自覚した。・・・しかしよく考えればヴァリエール領の舵取りは主に夫の仕事である。




カリーヌはそれに気付くと、晴れやかな笑顔で夫を死地へ追いやる事を決めた。







つづくのか!?






[30844] 三話:ペガサス級戦艦
Name: だぼわん◆609b579b ID:db34f440
Date: 2011/12/14 22:18
     【アンリエッタの途方も無い憂鬱】

      三話:ペガサス級戦艦

      作者:だぼわん











「♪~~♪~~若さ?若さってなんだ?振り向かない事~さ♪ロリってなんだ?正義ってこ~と~さ~♪」


・・・・・マザリーニに、尻と背中をお仕置き用の乗馬鞭で100叩きにされた翌日がこれだった。

手加減しているとは言え本気で泣きじゃくるまで叩かれ、
脹れあがった背中とお尻がまだ痛むだろうに既にケロッとして素っ頓狂な歌を歌っている。

────ああ、だれもこの姫さんには叶わないな。と誰もが再確認した瞬間である。


あれから。
ルイズとアンリエッタの発掘した鉱山は結局、王領と言う形になり王家が直々に管理する事と相成った。

流石にヴァリエール公も領地惜しさにこんな危険物を抱え込みたくない。純利益の1割であっさり鉱山を手放した。

自分の領地内に王家の飛び地が出来るのは面白くないが、その分王家との繋がり等も出来た事でよしとするしかない。

それに一割でも、予想される収益は殆ど公爵領で徴収される税金と同額である。

否やがあろう筈も無かった。・・・・これ以上だだを捏ねると今度は首が飛びかねないし。

よってマザリーニの手腕も合って、紛糾すると思われた話し合いは、その実1日であっさり片が付いた。

鉱山の名は、そのまま「アンリエッタ鉱山」と命名されて現在国を挙げて開発中である。

あと鉱山予定地があまりにもヴァリエールの屋敷に近かったので、公爵は屋敷ごと引っ越すつもりらしい。

さすがファンタジー、メイジを集めれば出来ない事なんぞ殆ど無い。


「もう!マザリーニったら酷いんだから!いいことしたアンをこんなになるまで打たなくてもいいじゃない!」

「でも、危ないことしたのは本当よ。お仕置きは覚悟してましたし。」

「アンも律儀に傷をそのままにしないで、さっさと治しちゃえばいいのに。得意なんでしょ?」

「それじゃ、お仕置きにならないわ。只の軟膏でしばらくは我慢します。」

「アンは立派ね。あんな鳥の骨の言いつけなんて守らなくていいのに。」


アンリエッタの真っ赤に脹れたお尻と背中に、軟膏を塗りながらルイズは答える。

部分的に無事な真っ白な部分と充血して真っ赤になっているところ、
それに青紫に内出血している所がまだらになっていてとても痛々しい。

背中からお尻と言ってもそれは広範囲に渡り、背は肩甲骨のあたりから、尻は膝上のふとももの裏まで叩かれている。

実は見た目ほど酷い傷では無いのだが、確かに見た目は酷い。

自分も母にこっ酷くお仕置きされたものだが、こんなに酷くは無いとルイズは憤った。

精々お尻を手のひらで何度もぶたれて、納屋に丸二日放り込まれたくらいだ。

(女の子の肌をこんなになるまで打つなんて、なんて酷いヤツなんでしょう。許せないわ。)

メラメラと燃え上がる義憤。

ルイズの中では、「マザリーニはアンを苛める悪いヤツ」という公式が出来上がりつつあった。

それもこれもルイズは母上の鬼教官振りを知らぬが故であるが・・・・知らぬが仏と言うものである。


・・・・ルイズはカリーヌを人一倍自分に厳しい母親だと思っている。

しかしアンリエッタの視点から見れば身内びいきも良い所で、愛娘にダダ甘なのは一目瞭然であった。

王命もあり、教官である権限で(後ろ側はもう打つ所が無いから)今度は胸と腹・太ももを打つと宣告されている身としてはつくづくルイズが羨ましい。

まぁ自分の愛娘を途方も無く危険な事に巻き込んだ怒りも大きいのだろうが。

あと、そんなに打たれる原因はあまりにも懲りない自分にあるのだが、それには気付いているのだろうかコイツは?

実際、最初は皆優しかったと言うのに・・・・。


「それにその倍誉めてもらったし、いいのです。」

「はぁ、凄いわねアンは。」


マザリーニがこれほど怒った事からも解る様に、今回の件は後から調査するとかなり危険な状態であった事がわかった。

アンリエッタの膨大な精神力で、「固定化」をかけられ崩壊を免れていた縦穴。
しかし深部の方に行くにつれて、自重で固定化の限界許容量を越えていた事が解ったのである。

上部は完全に固定されているので、上下の圧力が釣り合って安定していた。
しかしルイズの爆発の威力を考えるといつ崩落していてもおかしくは無かった。

腕の立つ鉱山技師の土メイジは、そのように説明した。
無論、完全な縦穴をここまで掘った事例が既に前代未聞なので正確なところはわからないが、恐らく正しいだろう。


マザリーニとカリーヌは途方も無い深さの坑道を見てようやく現実感が湧いたのか、熱心に技師の言葉に耳を傾けていた。

そして二人の血の気の引いた真っ青な顔は、二人を心底愛しているが故であっただろう。

仮に崩落しても何とかなる目は大きかったのだが、流石にこうも心配をかけたと思うとアンリエッタもばつが悪い。

なにがなんでも懲りないアンリエッタではあるが、今後はもうちょっとだけ大人しくしようと思った。


「「穴掘り」ルイズの二つ名も随分有名になったわね。伯爵位も授けられて、名実ともに三姉妹で一番の出世頭よ。」

「そうね。エレ姉さまも、悔しそうだったけどいっぱい誉めてくれたわ。それに、お小遣いもいっぱいよ。」

「いっぱいなんてものじゃないわよ?」

「どうせ大きくなるまで使わせてくれないんだから、いいの。それに正直な所「穴掘り」なんて二つ名、優雅じゃなくて嫌なのよね。」


そう言いながらも、まんざらでもないようだ。

それはまぁ魔法の使えない落ちこぼれから一転、稀代の爆破魔法の使い手と持て囃されればそれは悪い気はしないだろう。

やはり、多少の危険はあっただろうがルイズを巻き込んだ事はいい方向へ転がったようだ。

自信のついたルイズはこれまで以上に、魅力的な笑顔を見せるようになった。

そして精神的に安定したおかげか、徐々に爆発の威力も精度も上がりつつある。

相変わらずコモンスペル一つまともに発動はしないが、時が来れば始祖の祈祷書と水のルビーで正しく目覚めるだろう。


・・・・個人的にはこの小さな友人が戦火の中心に立つようなことが無い様な展開が望ましいのだが。

コンプレックスもある程度解消されたことだし、できるなら祈祷書は白紙のままにしておきたい。

だがそれで国民を多く死なせるような事があっては本末転倒なので、難しいものがある。

アンリエッタは途中で切ってしまったため、聖地には何があるのかまだ読んでいないのでそれが虚無に関わる何かしらだった場合、
立場上ルイズを使わざるを得ないのだ。


同様に、誰かに王位継承権を譲るという選択肢も現状では無理だ。

宮廷内はだらけきっているし、最近多少はマシになってきたとは言え王の求心力は相変わらず弱い。

未だ姫は姫でしかなく、いくら破天荒とはいえ、宮廷貴族たちにとって自分は外交のカードの一枚に過ぎないのだった。

そして自分が成長して力をつけていっても常にその事実は付きまとうし、国家を掌握した後でも、中々実現は出来ない問題である。

王位継承権を放棄したところで自分に外交的な価値があるのは変わらない。
出家した所で、いつ神輿に担ぎ出されるかわかった物ではない。

そうなると下手をすれば国が割れる結果となりかねないので、何とかしてトリステインを中央集権制にしてから譲らねばならないのである。

国が割れれば、多くの民が死ぬ。たかが自分一人の問題で多くの人間を死に追いやるほどの胆力はアンリエッタには無かった。

加えて、既に彼女にも王女としての誇りというものがある。

もしそれが出来ないのであれば、アンリエッタは秘薬で心を壊して嫁入りするという選択肢も辞さない覚悟であった。


(あちらを立てればこちらが立たず、か・・・・ウチの社長も公と私の問題でいつも苦しい選択を迫られるって言ってたな。)

所詮課長に過ぎなかった前世の彼ではわからなかったが、
自分の決断一つで部下が路頭に迷うかもしれないと言うのは相当なプレッシャーだったことだろう。
それが人死にに関わるようなら、尚更。

(中央集権制を実現するためには、裏切り者か・・・・強大な敵が必要になる。)

皮肉な事に、レコンキスタや原作で起きた多くの動乱はトリステインを一つに纏め上げるために必要なファクターであった。

だがだからと言ってアルビオンの王家・・・・はどうでもいいが罪無き人々を見捨てる事は出来ない。

水の精霊に盗難の警戒を呼びかけたのはそのためだ。無論、どういった手段で盗んだのかわからない以上は安心は出来ないのだが。

(だけど、心のどこかで、原作通り事が起きる事を願っている自分がいる・・・・浅ましいな。)

良識と大義、そして私情の間で揺れる心は酷く不安定である。

国や友人がどうなってもいいと言うのなら、父王が死んだらルイズの虚無を目覚めさせ公表し全てを押し付けて逃げればいい。

だがそれが出来ないからこそ、何もかもをこの手に掴める嘘の様な最善の一手をアンリエッタは探し続けているのだった。


アンリエッタの常に落ち着き無く、動乱を巻き起こすための原動力はここに端を発しているのかもしれない。



*


「あ~やっと終わった。」


・・・・カリーヌのお仕置きと説教が。

これで晴れて、両面赤だるま人間の出来上がりである。

それにしても、すっぽんぽんにされてビシビシと鞭打たれる自分は本当に王女だったかと疑問に思わざるを得ない。

手加減はされてるとは言え、絵的にアレである。

胴体部分は殆ど無事な所は無く、背中尻胸腹太ももと容赦なく痛めつけられた。無事な所といえば、顔と腕と膝から下くらいのものか。

ズキズキと痛む全身が熱を持って、意識が朦朧としている。

出血している所や、致命的に痛むような所が無いのは流石に仕置き慣れしていると言うかなんというか・・・。

良い具合にギリギリの所で止められていたのだった。


が、この懲りないアンリエッタが口調を取り繕う事もしないと言うのは、実際相当な消耗であったのは確かだ。

(でも、やっぱりお仕置きされるならマザリーニよりカリーヌの方がいいなぁ。美人だし。だんだん痛いのが気持ちよくなってきちゃったぞ。)

・・・こんな事を考える辺り、まだまだ余裕があるのも確かだが。


「でも、叩きながら、泣いちゃうんだもんな・・・・・卑怯だよカリーヌ。」

そんな事されたら、逃げるわけにもいかないじゃないか。と。

今更ながら、自分が愛されている事を実感する。

両親は手放しで誉めてやる事もできず、お仕置きももう過分なほど家臣がやってしまっているので複雑な顔をしていたが、
とても心配をかけたようで、帰るなり痛いほど抱きしめられた。

自分に付けられたメイド達は、冷静を装いながらも皆調子がおかしかった。

おべっかばかり言いに来る貴族達だが、中には本気で顔を顰めている者も居た。

マザリーニだけは本当に何時もどおりだったが、一度空のカップに気付かずに紅茶を啜ろうとしていた。

皆、自分の大切な家族だった。

そしていずれその大黒柱とならねばならないのが自分なのである。


「でも、止める訳にはいかないんだよな・・・・・。」

危険な橋を渡るのは本当に必要な時だけだが、どうしてもやらなければいけない事と言うのもある。

強力な航空戦艦の準備のために、造船業の強化と船乗りの増員。

そしてそれらを運用するための資源の確保は急務であった。

世界が浮き上がってしまうのを防ぐには、アンリエッタが考える限りあの大量の風石を消し去るくらいしか方法が無いので、
原作が終わった頃にはもう掘り出すことも出来ないのかもしれない。

それはつまり、原作終了時点で自分の大量生産した船乗り達は風石の価格高騰によって路頭に迷う事も意味していたが、
今確実に必要な事である。

空の彼方から来襲するアルビオンの艦隊に対抗するためには、そう。確実に必要な事だったのだ。

国のため、そして自分の為に。

そのためになら、多少身を削ってでもやらなければならない事はある。

アンリエッタはそう覚悟を決めていた。

凛々しい顔で、ベッドの天幕を仰ぐ。


(あー、カリーヌにちょっと濡れてたの気付かれなかったな?恥ずかしいなぁ・・・・・うは、ちょっとゾクゾクする・・・・。)

アンリエッタはお仕置きが病みつきになりつつあった。

────台無しである。



*


───8歳の頃である。


「ほほう。これが今仕上げている二重双胴艦ですか。アイデア自体は出しましたが、実物は初めてみました・・・・・凄いものですね。」

「はい。姫様がいつもムチャクチャをやらないのであれば、安心して工廠につれてこれたのですがね。
結局、ほぼ現場の安全が確保できてからという事になりました。」

「嫌味を申すな。流石に私もこんな所で暴れたりしません。」

「そうですな。流石に友人を巻き込んで地の底まで行った姫様は言う事が違います。」

「済んだことをグチグチと・・・・・。」

「それが私の仕事であれば。王様からもくれぐれも言われておりますぞ。」

「むぅ。」


俺達は一年前から着工が始まった、航空空母構想のための試験艦。

ペガサス級、通称ホワイトベースの工廠内に視察に来ていた。

マザリーニ主導で行われているこれ等が、まさかこの私がゴリ押ししたものだとは誰も気付くまい。


「しかし、本当に大きいですな。」

「只でさえ大きいロイヤル・ソブリン級を4基連結させているわけですからね。いや、接合部の艦を合わせれば五基ですか。
これほど大きければ、快速小型艇を優に40機は搭載できるでしょう。」

「しかしそうなると、本当に竜騎士が要らんですな。コイツが空に浮いてるだけで補給の心配がなくなるから、
空軍史上最小の戦闘艇が実現するわけですか。・・・2人乗りの小型艇のほうが安上がりで強いのは証明されましたからなぁ。」

「いいえ、まだまだ銃や砲の精度が低い以上、攻撃はメイジ頼りです。操縦者と後部に座るメイジの連携訓練も厳しい以上、
まだまだ竜騎士の需要も無くなりません。」

「竜を食わすより管理は遥かに楽ですがな。」


連結用に再設計した全長200m超のロイヤルゾブリン級を前後に連結させ、全長400m超。

高さ90m超の艦4基の上に載るように、専用に設計した連結部艦が載り、高さ130m超。

巨大なカヌーのように細長くなった艦を二基連結させて、中央のスキマ合わせて幅180m超

ヨットのような艦載機を40機以上搭載。


既存の造船施設で作れる最大の船である。

そして、ドッキング部分の精度向上には部品の規格化が必須のため、そのためのノウハウ作りという側面もある。

現在は巨大になりすぎて何処のドックにも入れないため、常に浮かせた状態で工事は進んでいる。

国内の大手3つの造船ギルドとアルビオンの引退した平民技師官を大量に呼びつけての大工事あった。

対外的には極秘で通しているものの、進水式前には既に各国に知れていることだろう。


だが、費用そのものはそれ程多くは掛かっていない。

むしろ、この艦を作る過程で流れた金は流通を活性化し、税収を引き上げているほどだ。


「姫様の考案された『ウォーター・カッター』の魔法ですか。あれが大きかったですなぁ。」

「水のトライアングル以上しか使えず、それも日に何度も使えるものではありませんが・・・・。」

「それでもあのブラックウッドをこうもスパスパ斬れるとは、恐ろしい。
ブレイドの魔法ですら両断するには骨が折れると言うのに、まこと姫様は天才ですな。
あとは、もう少し落ち着きというものを身に付けてくださればなぁ・・・・。」


『ウォーター・カッター』。

皆さんお分かりだろうが、ようは水流で物体を切断するアレだ。

ただし、フィクション等ではよく穴からプシュっと出ては遠くにある的を両断するが、実際はそこまで便利なものではない。

そもそも水滴よりも細い水なので、空気圧で拡散して霧になってしまうのだ。

よって射程にも、斬れる厚さにも限りがある。

さらにはそれを魔法で再現しようとすると、非常にシビアな現実の壁に直面する。

厳密に極細の水を発射し続けるなど並みのメイジに出来る事ではなく、素でそんな事ができるメイジは王宮守護隊にも殆どいない。

実際考案者のアンリエッタも、器具無しでは日に3発も撃てないのだ。

なので、実用上もコスト上も太い丸太を切ったりするには甚だ不適なのであるが、
しかしこの魔法の世界にはそれを使った方が安上がりになる恐るべき「木」が存在していた。


それが、「ブラックウッド」。

凡そ鉄と同じ硬度を持ち、木と同じ軽さ。しかも木だからしなるという夢のようで悪夢のような木なのである。

その強靭さから、繁殖力は若干弱いようだがある程度の大きさになるともう人の手でも天災でも容易くは折れず、
途方も無い巨木になっていることが多い。

山師等はこれの幼木を見つけると、必ず引っこ抜いて枯らすと言う。・・・・ようは邪魔なのである。

しかも呆れるほど耐火性が高く、山ごと焼いても何本かはしぶとく生き残っている有様。

その上天敵がいないので他の植生を圧迫する非常に厄介な植物であった。

この植物が世界を制することの出来ない理由は単に、病原菌に耐性が低く罹ると枯れやすいという理由からだ。


古来城門や戦艦などに使われた事もあるが、加工性が悪くコストが掛かりすぎるために大々的に用いられる事は無い。

その上、この木は頑丈だが死ぬと腐りやすいという重大な欠点があって、耐用年数は軽く20年を切るのである。

コストパフォーマンス上、割に合わないにも程が合った。

それならば、多少無茶でも鉄で作った方がマシというもの。固定化も掛かり難いので、まさにウドの大木である。


ただし現在は固定化で強化しまくった、口の長い漏斗のような器具を用いて水流を加速させる事で、
ラインクラスのメイジでも最大50cm厚の板を切れるようになっている。

この場合対象の硬さはあまり問題ではなく、如何に水の粘性を上げ射程を伸ばすかと言う問題になるので、皆必死に訓練しているものだ。

・・・・外見は固定化の掛かりやすい金属で出来た、便所のキュポキュポするアレにしか見えないので、
内心アンリエッタは笑いを堪え切れそうにないのだが。

(本当に、大真面目にアレの中に杖突っ込んで呪文となえてるんだからな。くくく・・・・。)

そんな酷すぎる姫様はさておき。

このブラックウッドと言う材料が実用化される事で、ペガサス級戦艦は通常の木材を用いるよりも大幅なコストダウンを実現できた。

素材自体の強度も呆れるほど上がったので、設計上の余裕も出来、多少の無茶も効くのである。

造船技術の遅れているトリステインでは実に有難い事だった。


造船所は沸きに沸いた。

なにせ自らが6000年の歴史の中で、最も大きな艦であるロイヤルゾブリン級を遥かに越える艦を作れるのである。

それも空の覇者、アルビオンを出し抜いて。

これに奮えぬ空の男はいなかった。

また、もともと大艦巨砲主義に傾倒しやすい民族性でもあるので、アンリエッタの狙いはほぼ正鵠を得ていたといえるだろう。

各ドックで一基づつ作って連結させるという構想も連帯感を増すのに非常に良く、
意図したことではないが挙国一致体制の下地がこの時出来上がっていたと言える。

無論、この戦艦製造の立役者たる魔法の存在はトリステインの秘中の秘とされ、厳重に情報管理されている。


「それにしても、何というか、積み木を重ねたような外見ですわね。」

「下手に凝った設計だと、我がトリステインの技術力では造りきれませんからな。極限までシンプルにする方針ですぞ。」

「合理的ですけどねぇ・・・・。」

「五基の戦艦を組み合わせると言う時点で、既に歴史上類を見ない奇抜な設計なのです。これ以上面白味を求めても仕方が無いと思いますが。」

(・・・・本当に、足の丸いホワイトベースだよな、これって。)

「色は希望を聞いてくれたんですのね。」

「はい。一応旗艦には華も必要ですからな。少々派手かと思われますが、言われたとおり白をベースに赤・青で纏めました。」

「よろしい。・・・・って言うか、何故宰相のじーじが戦艦の設計を取り仕切っているんですの?」

「身の程を弁えずに無駄なものを付けたがる馬鹿が多いからでございますよ姫様。」


疲れたように溜息を吐くマザリーニに、俺は「ああ成るほど」と納得した。

良くも悪くも伝統と格式あるトリステインである。ゴテゴテと無駄なものを付けたがるのは貴族の常か。

固定化をかけた貸し出し用農具にまで妙な装飾をつけようとしたのには呆れたものである。

仮にも王家のものなのだから、貧乏たらしいのでは示しがつかんというのだ。

結局その騒ぎは、焼印を豪華にすると言う事で片が付いたが、アホ丸出しの議論であった。


それを思い返すと、自分の国の技術レベルも弁えずに、変に凝った艦を作ろうとする貴族共が目に浮かぶようである。


「それはそれは。・・・・大変でしたねじーじ。」

「そう思うなら姫様も少しは私の仕事を減らしてくれると有難いのですが。」

「うむ。・・・・なら、私のマッサージを週に一度から3日に一度にすることで手を打ちましょう。
この国最高位の水メイジのマッサージなど早々受けられるものでは無いですよ。」

「それは畏れ多くも有難いのですが、せめて善処するとでも言ってくださらんか・・・・。」

「このアンリエッタ、嘘はあまり付きとうありませぬ故な。」


がっくりと肩を落すマザリーニ。

一体なにをすればこのお転婆姫は懲りてくれるいうのか。

彼の苦労はこれで終わりそうは無かった。












・・・・続いちゃう?







感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.047320127487183