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[30957] 【習作】変物語【化物語・偽物語】 かれんバタフライ(完結)・つきひフェアリー(完結)
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2012/02/15 01:00
今回偽物語がアニメ化ということで書いてみました。

私の腕では西尾さんの文章を再現できない為、キャラに違和感を感じることが多いと思います。
ご了承ください。


今作は、一応二部構成で考えています。

・かれんバタフライ
・つきひフェアリー

の予定です。

仕事が忙しくなる前に仕上げたいとは思いますが、
恐らく不定期更新になると思いますので、それでもかまわない方は読んで頂けると嬉しいです。



*タイトル変えました。
 読み方は『かわりものがたり』でお願いします。

*かれんバタフライ 完結しました。



[30957] かれんバタフライ 1話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2011/12/24 08:27


 僕はほんの短い期間の間に短い地獄の底のように不吉な男に出会い、嵐のように暴力的な女性と出会った。
 普通に生きていれば、まずは会わないだろう2人に会って、しかし僕は何も変わらなかった。
 僕は相変わらず不出来な兄だし、妹たちは正義の味方ごっこに勤しむ誇り高き偽物だ。
 しかし、僕が変わらなかった代わりに僕以外が良い変化を見せたという事実に関しては認めるべきだろう。
 およそ平穏とは対照的な男は、戦場のような僕の彼女を随分と平穏な性格に変える要因となった(本質は変わってないという説もあるが、この際それは無視する)。
 暴力的で破滅的な女性は安定的な家庭を築く手助けとなった。
 おかげで僕は以前よりは妹たちと話すことに対して感じていた気まずさを解消する一役を担ったと言えなくもない。
 しかし、僕が今回言いたいのは、そんな「色々あったけど結果的にはうまくいったね」みたいなことではない。
 相変わらず変わらない僕は、人よりほんの少しだけシスコン気味かもしれないという疑念を抱いた僕は、再び怪異とまみえることになるのだ。
 一区切りついたところで、伏線を回収したところで、綺麗に締めれたところで、物語が終わったところで、
 結局のところ人生は終わらないのだ。
 彼女が出来たところで、友達が出来たところで、妹と関係修復したところで、忍と仲直りしたところで、
 その後の人生は同じように続いていく。
 終わりがあるのは物語だけで、人生に終わりはなく、それは死という言葉で表現される全く別のものだ。
 だからこそ、たとえ死にかけたとしても僕は大学受験に向けての勉強を止めないし、学校での友達は増えない。
 そして、怪異に出会う。
 まるで蜘蛛の巣にかかる蝶のように、僕は怪異に出会うのだ。
 そう、でっかい妹こと火憐ちゃんが取り込んでしまった蝶に、僕は出会った。














*********************************************















「えっと、つまりエンドとかタイトル発表しといて終わらないシリーズみたいに人生は終わらないという話なのかな?」

 
 日曜日の朝も早く。
 7時頃に家の電話が鳴り、この時間に僕が起きているという奇跡の結果、その電話を僕が取った。
 すると可愛らしい声が聞こえてきてすぐに千石だと気付いた僕はとりあえず『おはよう』と挨拶しようと思い、口をストローを挟むとき程度に開けた段階で上記の台詞が聞こえてきた。

「全然違う。
そもそも時系列的に今は偽物語終了後ということになってるからな。
千石とも普通に喋ってるし」


 思わず突っ込みを入れる僕。
 というか場面切り替え後さっそく冒頭に触れるな。
 朝の電話開口一番が『もしもし』(申し上げますが砕けた言葉だという説はあまりにも有名。というか事実)じゃないところにも驚きだが、こんな意味の分からない行為を千石がしてきたということにも吃驚だ。
 なんかキャラ違くね?
 ひょっとして徹夜明けなのだろうか?
 声のトーンがなんとなくそんな空気を醸し出している。


「元気だね暦お兄ちゃん、何か良いことでもあったの?
撫子難しい話は分からないけど、それでも最近の少年漫画は引き伸ばし過ぎだと思うの」

「まあ確かにな」


 議論させ尽くされた話題だとは思うが、確かに引き伸ばしが過ぎる漫画は多い。 
 しかも、たいていの場合作家先生の都合ではなく、出版社の都合なのだ。
 まあ、確かに売れる確証のない新新シリーズより、ある程度の売り上げが見込める既存のシリーズの方が、今の不景気を生きる企業としては優先するべきかもしれない。
 八九寺なら痛烈な批判の後に面白い話をして自虐で締めるのだろうが、今の僕にはそのレベルの面白トークは不可能だ。
 伝説の八九寺Pにトーク力が及ばない、ということもあるが話相手の都合もある。
 ある程度シリーズを読んでいる方ならわかると思うが、現在僕が会話しているのは千石撫子、妹の友達である。
 別に千石が相手だと楽しい会話が出来ないというわけではない。
 こいつはこいつで漫画とか詳しいし。
 しかし、対面してない相手に突っ込みを入れられるほどの技量はない。
 そんなことが出来るのは、それこそ羽川と八九寺くらいだ。


「撫子と暦おにいちゃんが電話中だっていうことの説明に10行も使ってくれたのに申し訳ないんだけれど、話を戻すね。
つまり撫子はワンピースについていけないっていう話をしたかったんだよ」

「あー」


 まあ良く聞く話ではある。
 僕も刃牙シリーズについていけなくなった過去を持つ男だ。
 引き伸ばしの恐ろしさは身を持って知っている。


「同じ理由でベルセルクにもついていけなくなっちゃったよ」

「いや、それは違うんじゃないか?」


 あれは内容の引き伸ばしじゃなくて締切の引き伸ばしだろう。
 面白いことは確かだけど。
 ……つーか渋い漫画読むな、おい。


「同じ理由でハンターハンターにもついていけなくなっちゃったよ」

「いやいや、それは全然違うんじゃないか!?」


 彼は狩人としての人生を歩んでたんだよ、きっと。
 今は休載も終わって絶賛連載中。
 無論面白い漫画である。
 しかし、こいつ本当に漫画とかに詳しいな……。
 なんとなくこれが未来の伏線に思えなくもない程である。


「そうそう、暦お兄ちゃん。
撫子はららちゃんに電話したつもりが暦おにいちゃんが出ちゃって、代わって欲しいけど代わって欲しくなくて、舞い上がったあげく『元気だね暦おにいちゃん、何か良いことがあったの?』なんて言っちゃったわけだけど、実は忍野さんにあの台詞を言われたことってないんだよね」

「あー、そういえばそうだな」


 あえてスルーした台詞だったが、混乱していたからなのか。
 てっきりハイテンションに任せただけなのかと思ってた。
 アニメDVDの副音声ではタッグを組んだ2人だが、実は接点がかなり少ない。
 あのタッグのせいで忍野ロリコン疑惑が加速したのだが、本編ではあまり絡みがなかった。 
 忍野は千石を気にかけていたふしがあるが、あくまで気にかけていただけで、特に接触を試みたりなどはなかったのだ。

 
「正直に言うと、忍野さんの顔もよく覚えてないんだよ」

「まあ、千石はあまり会ってないしな」


 僕も数回しか話してないクラスメイトの顔とか覚えてないしな。
 相手に意識が向かないと、どれだけ特徴的でも覚えられないものだ。
 勉強と一緒である。


「声も覚えてないし」

「結構いい声なんだけどな、あいつ」


 戦場ヶ原風に言うと、忍野に割り当てられている声優さんは優秀だ、といった感じである。
 

「どうして会ったのかもよく覚えてないんだ」

「それはまずいだろ!」


 あんな目にあったのに!
 もう忘れただと!?
 大人しいだけで真面目なわけでも頭良いわけでもない、とは言ってたが、流石に忘れっぽすぎである。
 鳥かお前は。


「な~でこだYO!」

「脈絡がない!」


 ラッパーかよ!?


「な~でこだ鳥!」

「鳥だこいつ!」


 ストレートすぎるだろ!
 地の文に突っ込むにしても下手すぎる。
 どうしてラッパーを1回はさんだんだ?
 確かにあの音声は可愛かったが。


「あっ、もうこんな時間だ。
もう満足したし、取りあえず電話料金が気になるからもう切るね暦おにいちゃん」

「おう、そういえば随分と長く話してるな」


 漫画の話しかしてないような気もするが、結構な時間喋ったものである。
 月火と話すつもりだったらしいが、電話料金が気になるんじゃ仕方ない。
 まるで僕と話せて満足したみたいな言い方だが、千石に限ってそれはないだろう。
 まったく、千石相手じゃなきゃ勘違いしていたところだ。


「……あと、最後に伝えなきゃいけないことがあるんだけど」

「……?
なんだよ、改まって」

「撫子は鳥じゃないよ?」

「知ってるわ!」


 僕の言葉に合わせるように、千石が電話を切った。
 ……おいおい、今のがオチかよ。
 なんの伏線でもない会話だった。
 つーか雑談だ。
 僕も大概だが、千石もかなりの暇人なのだろう。
 まさか朝っぱらから僕と話したかったわけじゃないだろうし。


「あっ、お兄ちゃん電話終わったの?」


 そんな感じで千石との電話を切った直後、月火ちゃんこと小さい妹が声をかけてきた。
 日曜日なのに早起きである。
 いつもこんな時間に起きてるのか?
 わが妹ながら感心せざるをえない。


「おう、悪かったな独占しちまって」

「それは別にいいけどさ。
朝から女子中学生と長々と何を話してるのか気になっただけだよ。私はキメ顔でそう言った」

「それはお前の台詞じゃねーよ」


 むしろお前の天敵の台詞じゃねーか。


「うるさい。私は渋顔でそう言った」

「一回の突っ込みでそんなに顔を顰めるな」


 本当に沸点の低い奴である。
 まあ自覚があるので、演技という可能性もあるが。


「今の電話、せんちゃんでしょ?
お兄ちゃんってあんな感じの可愛い子が好きだっけ?」


 好きか嫌いかといわれれば、もちろん可愛いこは好きだが、月火ちゃんが求めている答えはそういった類のものではないだろう。


「いや、千石はただの友達だぞ」


 よってこんな無難な回答になった。
 僕にとって『ただの』友達なぞ居ないのだから正確には大切な友達とか、特別な友達とかなのだが、そういった言い方をすると気性の荒い妹が何をしでかすか分からないので無難な答えをする。
 妹たちの嫌いな大人の対応とやらである。
 単に保守的な誤魔化しとも言うが。


「ふーん……、まあせんちゃんについての会話は囮物語でするからいいとして」

「おい、しょっぱなからメタりすぎだぞ」


 この物語の主人公として、メタネタは禁じなければならない。
 無論僕を除いてだ。


「いいとして!」


 今日の月火ちゃんはいつもより怒りっぽい感じだ。
 何か嫌なこと、いや良いことでもあったのだろう。


「性癖について話そう」

「おっと、実の兄の性癖が聞きたいと申すか」

「申すね。
むしろ今の私は性癖にしか興味がないと言っても過言じゃないね」

「過言であって欲しいなぁ……」


 なんか月火ちゃんとはこんな話ばっかりしている気がするが……、まあいい僕だってこういう話は大好きだ。
 朝っぱらから妹と性癖トークに勤しもうじゃないか!


「まあ、でも妹の会話に乗ってやるもの兄の役目だな。
しょうがない、その会話に付き合ってやろう」


 まあでも露骨に喜ぶと調子に乗るから、あくまでクールにいこう。
 当初クールなキャラって感じの設定だった僕にとって、クールキャラなんぞ朝飯前だ。
 まあ本当に朝飯前なんで若干空腹なのが不安だが。
 お腹の鳴るクールキャラは厳しいなぁ……。


「付き合ってもらってやろう」

「今のは日本語としてどうなんだ?」


 まずはジャブ。
 日本語に詳しいというか誤用に厳しい人みたいな突っ込み。
 クールレベル1だ。


「まあ、取りあえず妹萌えで着物萌えだな」


 あとジャージ萌えだ。
 もちろん嘘だが。


「ストライクゾーンいえー。
でも私が聞きたいのは好きな萌え要素じゃないのだぜ」

「だぜってお前」


 クールレベル2。
 若干鼻で笑う感じだが、表情に親しみを込めることによって相手を怒らせない突っ込みである。


「聞きたいのは性癖なのだぜ?」

「いや、だぜ? ってお前……」


 ドキドキしないだけでキュンキュンはしているのだがあえて言う必要はないだろう。
 ……あ、ちなみに呆れた感じで俯きながら額に手を当てた状態での突っ込み。
 クールレベルは3。
 

「具体例をよこせよ小さい妹。
月火ちゃん相手だからドキドキしないが、着物は普通に好きだぜ?」


 あ、使っちゃった。
 突っ込みを入れた矢先からぼけてしまうとは、どうやらクールキャラは僕には向かないようだ。
 ここらあたりでいつもの阿良々木暦に戻ろう。
 ……決して飽きたわけじゃないのであしからず。


「そういったバーゲンセールのような萌え要素じゃなくて、私が知りたいのはアレなアレだよ」

「抽象的すぎてわかんねーよ」


 それでわかるのは羽川くらいだ。
 八九寺なら『分かりました』とか言うだろうけど、絶対に知ったかぶりだ。
 しかもバレるとこまで計算ずく。
 芸人の鑑である。


「例えば私は匂いが好きだね。
汗の匂いとか嗅いだだけでキュンとくるね」

「あー、そういう感じか」


 性癖っつーかフェチ的な感じな。
 OK把握した。


「そうそう、ちなみに火燐ちゃんは瘡蓋が好きだね。
肘とかにある瘡蓋が好きらしいよ」

「どこぞの馬乗りみたいだな」


 あいつなら爪とか飛ばせそうだしな。無論気合いで。
 ……つーかバラすなよ。
 可哀想に。


「……最近は歯ブラシも追加されたみたいだけどね」

「へー、そーなのかー」

「……まあいいけど。
それでお兄ちゃんの性癖は何なの?
眼球を舐めたいとか?」

「おいおい、僕がそんな一般の高校生男子みたいな性癖を持ってるわけないだろ?」


 なんとなく強がっちゃった。
 皆とは違うんだぞアピールをしちゃった。
 もう高校3年生なのに。


「そうだよねー。
蝋燭沢君と一緒だったらどうしようかと思ったよ」

「……一回お前の彼氏家に連れて来いよ?
ちょっと話すことあるから」

 妹の眼球を舐めたいとは思わないが、舐められるのは気に入らない。
 人より若干しかシスコン気味でしかない僕にも許容できることと出来ないことがある。

「それで?
お兄ちゃんの性癖をまだ聞いてないよ?
もしかしてはぐらかす気じゃないよね?」

「おいおい、お前らの兄貴はそんな卑怯者か?」


 しかしどうしよう。
 あばらとかメリハリ(のない)ボディだとか色々あるが、一般的な男子高校生と同じのを言うのもなんだかなといった感じだ。
 う~ん、……なんか考えるのが面倒くさくなった。


「まあ、あれだ。
胸だよ胸。
前も気になるクラスメートの話しただろ?
大きい胸が好きだ。
それさえあればいいとさえ思ってるね」


 羽川とかな。
 羽川のおっぱいの前ではいつものクールな阿良々木君でいられる自信がない。
 だからこれもきっとフェチと呼べるはずだ。
 フェチという単語が具体的にどういう意味かは知らないが。
 ……しかし、


「あ゛?」

「……月火さん?」


 ……般若みたいな顔してる。
 いつもたれぱんだみたいにたれた目をしてる月火ちゃんが般若のような顔をしてる!


「おいおいお兄ちゃん。
もしかしてお兄ちゃんは私の敵なの?」

「なんでそんなに怒ってんだよ。
前は『触ってみ?』とか言ってたくせに」

「似てない物まねは止めろ!
プラチナむかつく!」

「『お兄ちゃん妹のおっぱい触りすぎ! もっと触って!』」

「ねつ造するな!」


 しっかし、よく分からん。
 何をそんなに怒ってるんだ?
 前は小さい妹とか呼んでたが、別に(胸が)小さい妹ってわけでもないのに。


「というか何で大きい胸が好きだと月火ちゃんの敵なんだよ?
別にお前貧乳ってわけじゃないだろ?」

「私の胸が大きかろうと小さかろうと関係ないねっ!
大きい胸が好きというだけで女子の敵だよ!」

「そうなのか?」


 初めて知った。
 それだと男子高校生の10人に7人が敵だ。
 残りの3人はロリコンなので社会の敵である。
 渡る世間は敵だらけだ。


「取りあえずお兄ちゃんは市内の女子中学生全員を敵に回したね!
明日からはすれ違うたびに舌打ちされる毎日だよ!」

「嫌過ぎる!」


 それはともかく、と女子中学生の僕に対する好感度というドラクエでは捨てられないくらい大切なモノを捨てたにもかかわらず月火ちゃんは話題を代える。


「胸のことになると性格変わる人とか気持ち悪いね」

「……そんな奴いるか?」


 僕の疑問に月火ちゃんが具体例を挙げる。


「『ぐへへ、胸触らせろよ』」

「そんな奴いねえよ」

「『ぐへへ、胸触らせろよ八九寺』」

「そ、そんな奴いねえよ」


 びっくりした。
 どうして僕の一番の親友である八九寺の名前を知ってるんだ?
 怖くて突っ込めない。
 また敵が一人増えてしまいそうだ。


「まあ、取りあえず私が言いたいのは、急に人格が変わったかのように熱くなる人っているよね? てことなんだよ」

「いや、そんな会話じゃなかったと思う」


 何故そんな話になった?
 というか大抵の人がそうだろう。
 趣味で熱くならない人とは仲良くなれそうにない。


「迷子の女子小学生を見るたび人格が変わる男子高校生とか」

「そんな会話じゃ、絶対なかったと思う」


 さっきから僕を見る月火ちゃんの眼差しが怖い。
 まるで僕が後ろめたい何かをしていてそれを探られているようだ。
 ばれない程度に目線を逸らす。
 汗とか出てないよね?


「そういえば火燐ちゃんも最近キャラが不安定だよね」

「そうか?」


 話題が代わって少し安心。
 今度から八九寺に挨拶する時は人目のない場所を選ぶようにしよう。
 なんだかより犯罪チックになった気がするが、気のせいである。きっと。


「頭良い設定だったのに完全にお馬鹿キャラだし」

「設定とか言うな」


 馬鹿だけど成績は良いんだぞ。
 勉強とかしないのにな。
 意味わからん。


「その点私は安定してるけどね!」

「いや、お前は安定してない」


 月火ちゃんほど安定という言葉が似合わない女子中学生はいないだろう。
 いくらなんでもピーキー過ぎる。
 火憐ちゃんがダイナマイトなら、月火ちゃんはニトログリセリンだ。
 触るな危険、である。


「でも、『あなたらしくない』って言葉を聞くたび思うんだよね。
私の何が分かるの? って」

「お前は中学2年生か」


 思春期らしい言葉である。
 僕にもそんな時期が……あった気がする。
 良く覚えてないけど。


「確かに私は、一見大人しいけど実は激情家、ってキャラだけど」

「まあな」


 以前の戦場ヶ原並みの外見詐欺だろう。
 一目でこいつが二度寝した兄にバールを打ち下ろす奴だと見抜ける奴がいるとは思えない。
 それだけこいつは柔和な顔をしているのだ。


「でも私だっていつもと違う行動をする時もあるし、その日の気分で怒ったり怒らなかったりするじゃん」

「そりゃあ誰だってそうだろ」


 珍しくともなんともない。


「でもそれを分かってない人って多いよね。
いつも元気な人がちょっと落ち込んだだけで鬱状態とか言われたり、逆に大人しい人がテンションを上げると躁状態だとか酔ってるだとか言われたり。
まるでいつもと性格が違うこと自体が病気であるかのように」


 少し極端な物言いだが、まあ理解できる。
 うつ病を軽く見るつもりはないが、心の痛みを軽く見るつもりは決してないが、それでも現代の日本では精神病に過剰反応し過ぎだと思う。
 そういった病院にいくと、少し疲れているだけの人でも状況によってはうつ病だと認定されてしまい、結果その診断を信じてしまい本当に心を病んでしまうこともある、と聞く。


「コナン君は体が小さくなっても性格は変わらなかったけど、体調だったり肉体の変化によって性格って簡単に変わるんだよね」

「髪を切ったりとかか?」


 失恋などで髪を切る、というのは余りに有名な話だ。
 気持ちの切り替え。
 それも自分の心を救うための手段の1つなのだろう。


「そうそう。
そういうちょっとした変化でも性格って変わったりするんだよね。
今まで綺麗系な感じの女の子が前髪を凶器のように尖らせることによって、あら不思議。
『あれれ~、おかしいぞ~?』って台詞を!」

「それは蘭姉ちゃんの方だろうが」


 空手も対外だけど、あの髪は凶器すぎる。
 まるでミサイルみたいだ。


「まあつまり、今日の私が大人しくてキレがないのは生理の性だから気にしないでねってことなんだよ」

「いやお前の生理は2週間前だろ」

「妹の生理を把握するな」

「おいおい月火ちゃん、偉大なる兄を舐めてもらっちゃ困るぜ。
僕は妹のファーストキスの相手だって知っている!」

「犯人はお前だ!」


 真実は1つだった。
 というか最低の兄だ。
 ……と、まあこんな感じで月火ちゃんと喋り続けて日曜日の朝は終わった。
 激動の日曜日。
 この日平和だったのは、月火ちゃんとゆっくりしゃべっていられた朝のうちだけである。
 あの事件が起こったのは昼。
 両親と妹達と僕。
 家族一同が顔を合わせる席で、事件は起こったのだった。 
 














[30957] かれんバタフライ 2話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2011/12/25 15:35






 日曜日。
 普通の一般家庭なら家族一同が家に集まる日になるのだろうが、僕の家は残念ながらそうではない。
 最新刊でも明言されていたがファイヤーシスターズの両親、つまるところ僕の両親は警察官なのである。(嘘かもしれないぜ、疑うことを忘れちゃいけない)

 警察官の息子が幼女にセクハラかましてるのかよっ!

 という突っ込みが聞こえてきそうだが、正義の使者であるがゆえに将来有望な八九寺の肉体の成長を促すとともに、ロリ―な人による危険から八九寺を守るという役目を背負っているのだ。
 決して個人的な欲望ではない。 
 と、まあ八九寺の話はともかく、今は家族の話だ。
 最近まで家族との折り合いが上手くいってなかった僕だが、母の日をきっかけに家族間通話も増えるようになってきた。
 戦場ヶ原と一緒の大学に行く為に始めた受験勉強も功をそうしたようで、現在阿良々木家は随分と平和かつ良好な家庭といえるだろう。

 よって今までのように家族が家に集まるから公園までサイクリングをする、といった予定を組む必要はなくなった。
 無論、その習慣のお蔭で僕は八九寺に会えたわけだから、そういった日々を後悔することはないけれど、それでも現状の家族関係には非常に満足している。
 今まで迷惑をかけていた僕が、春休みから人間ですらなくなってしまった僕が、まるで普通の人間のように暮らしている事実に。
 非常に、満足している。 

 もちろん昼の時間の会話はいたって普通。
 学校はどうだとか、彼女とはうまくいってるのかだとか、受験は大丈夫そうかだとか、そういった内容だ。
 まったくもって普通な、家族の会話。
 普通に焦がれていたとは言わないけれど。
 普通を愛していたとは言わないけれど。
 それでも、普通というのは有触れていて、それはつまり有触れた幸せということで、僕はそんな毎日が楽しくてしかたなかった。

 だからだろうか、僕は油断していた。
 油断し、安心し、安定しきっていた。
 月火ちゃんが火燐ちゃんい向ける心配そうな眼差しに気づかなかったし、火燐ちゃんの異変にも気づかなかった。
 いや、異変というほどのものではない。
 ただ鍵で毟った髪を美容院で綺麗にカットしてきて、それに合わせた髪留めを付けていただけだ。
 人はそれをイメチェンとは呼ぶだろうが、異変とは呼ばない。
 しかし、僕なら気づけたはずだ。
 吸血鬼の怪異を宿す僕なら、気づけたはずだ。
 その髪留めの正体に。
 火燐ちゃんの髪に止まっていた、その鮮やかな蝶に。
 僕は今日の昼まで気づかなかった。 

















*****************************************************

















「順調だよ」


 学校の話、戦場ヶ原の話、勉強の話。
 すべての会話に対して上の言葉で締める。
 歩み寄る、という表現も他人行儀で嫌いだが、やはりまだ親との会話はぎごちない。
 それでも昔みたいに気まずいというわけでもないし、ゆっくり関係をつくっていこう。

 と、まあそんな感じで、両親からしたら改心した長男。
 半吸血鬼の阿良々木君は両親との会話を素直に楽しんでいた。
 友達と喋る時とは違うが、妹と喋る時とは違うが、それでも僕は楽しんでいたのだ。
 だからだろうか、いつもと違い静か……というか俯きながら僕にチラチラと視線を向ける火燐ちゃんに気づいても『今日は静かだな』としか思わなかったし、それを心配そうに見る月火ちゃんを見ても『相変わらず仲が良いな』としか思わなかった。
 ……思えば、この時僕が動いておけば事態はあそこまでこじれなかっただろう。
 しかし僕は気づかなかった。
 どれだけ怪異に対面しても、その身に宿しても、僕は怪異に気づけない。
 怪異が起こす現象には気づけない。
 僕が気づくのは、怪異によって人間が変わったときだけである。
 だからこそ僕は火憐ちゃんがしゃべりだすまで怪異に気づかなかった。
 

「順調だよ」


 4回目のこの台詞。
 たしか羽川との関係を聞かれた時だ。
 文化祭の時に友人として両親に紹介したので、それを覚えていたのだろう。
 ここまでは平和な家族間通話だった。
 ここまでが平和な家族間通話だった。


「……ねえ、兄ちゃん」


 ここからは少し、平和でない普通でない歪んだ家族団欒だ。
 火憐ちゃんが顔をあげて僕を見る。
 今まで長年火憐ちゃんの兄をやってきたが、こんなに火照った表情は初めて見た。
 ……いや、初めてではない。
 この表情は歯ブラシの時の……。


「私は、兄ちゃんのことが好き」

「…………は?」


 空気が凍った。
 

「兄ちゃんが戦場ヶ原さんが好きってことは知ってるし、私も瑞鳥君が好きだけど、私は兄ちゃんの子供を産みたいと思う。
今後兄ちゃんが戦場ヶ原さんとどういう付き合いをするのか分からないけど、今後私が瑞鳥くんとどんな付き合いをするか分からないけど……」

「か、火憐ちゃん?」


 何かおかしい。
 火憐ちゃんはこんなことを言うキャラじゃ……、いやこんなことは言うかもしれないけれど、こんな態度で言うようなキャラじゃ……ない。
 まるで何かが変わってしまったかのような。
 とって変わってしまったかのような。
 違和感が、拭えない。


「私は兄ちゃんを愛している。兄ちゃんの為なら笑って死ねるし、泣きながらでも生きられる。
だから兄ちゃん私に子供を産ませて。私は兄ちゃんの子供が産みたい。
「だからお願いお兄ちゃん、火憐を嫌いにならないで?
お兄ちゃんに嫌われたら火憐生きていけないよ……。
「というかどうだい兄貴、私のおっぱいは? 随分と立派に育ってるだろ?
兄貴なら私のおっぱいを好きにしていいぜ? もみくちゃにしていいぜ?
女子中学生のおっぱいを好きにできるなんて、その時点でもう人生勝ち組だろ?
「うにー、にーちゃんは昔からかっこよくて優しくて頭が良くて僕様ちゃんの友達にもモテモテだったけど、今じゃあ僕様ちゃんがにーちゃんにぞっこんラヴってわけだ!
こりゃ一本取られたねっ! にーちゃん好き!
「そもそも兄さんは鈍すぎです。
私がこんなに好意を示しているのに気付かないなんて……。
ちょっと兄さん! 聞いてます!?」


「……」


 なんだこれ?
 なんだこれ!?
 ひょっとして僕は夢を見てるんじゃないだろうか?
 実は余弦さんに凹されて気絶中とかじゃないよな?
 ……ヤバい、びっくりしすぎて腰が抜けてる。
 こんなの初めてだ。
 と、とりあえず火憐ちゃんを止めないと!
 僕と二人だけの状態ならまだしも、この場にはパパとママも居る!
 今は茫然とした表情のまま固まっているが、正気を取り戻してしまったら収拾がつかなくなるかもしれない。
 立ち上がり、力ずくでも火憐ちゃんを止めようと勇む僕だが、しかし悲しいことに体が動かない。
 なんと腰が抜けているからだ。
 まあ、吃驚し過ぎたからね。仕方ないね。


「兄様、火憐は兄様をお慕い申しております。
ですからどうかお情けをください」


 ……ヤバい。めっちゃ可愛い。
 え? え? 何これ?
 前もチラっと思ったけど、勘違いだと思ったけど、ひょっとしたらこいつ羽川より少しだけ可愛かったりするんじゃないか?
 火照った顔と蕩けるような表情で僕い迫る火憐ちゃん。
 腰が抜けて動けない僕。
 迫りくる家庭崩壊。
 だ、大ピンチ!


「兄ちゃん……」

「火憐ちゃん……」


 と、まあ妹の魅力にすっかりやられてしまった僕だが、予想外というか予想通りの人物が助けてくれるに至った。
 月火ちゃんである。


「ふんっ!!」

「ぶべっ!?」

「……うわ」


 殴りやがった。
 僕に迫っていた火憐ちゃんを、椅子で。
 予想外の攻撃を受けた火憐ちゃんは鼻血を流しながらびくびくと痙攣している。
 なんて奴だ。凶暴すぎる


「……お兄ちゃん」

「はいっ!」


 幽鬼のような月火さんに対して思わず気を付けの体制をとる僕。
 こえー、月火さんマジこえー。
 思わずブルッちまたよ。


「火憐ちゃんに何かした?」


 全力で首を横にふる。
 首が吹っ飛んでも構わない。
 だって今の月火ちゃん怖すぎる。


「……そう」


 とだけ答えると、月火ちゃんは火憐ちゃんの髪を掴み、引きづり出す。
 方向的に火憐ちゃんの部屋だろう。
 ……うわー、階段もそのまま上がってくよ。
 しかもうつ伏せで。
 軽いホラーだ。


「しかし……結局なんだったんだ?」


 両親が混乱と、ほんの少しの疑いを込めて僕を見るが、僕は首を横に振ることしかできない。
 訳が分からない。
 分からないが……、僕はちらりと後ろを見る。
 正確には、自分の影だ。
 そこに向けて、『どうなんだ?』という意思を投げかけてみる。
 すると、肯定の意思が流れ込んできた。
 この時ようやく、僕は理解した。
 どうやら怪異は、またも僕の身近に現れたらしいということを。











[30957] かれんバタフライ 3話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2011/12/28 07:39


「百様蝶じゃな」

「ちょう?
ちょうってのは鳥の方か? 蝶々の方か?」

「子供に異様に人気のある花の蜜を吸う昆虫のほうじゃ」


 よかった、千石との会話が伏線じゃなくて。
 つか棘がある言い方だな。
 何か恨みでもあるのか?


「確かほかにも呼び名がいくつかあった気がするが……忘れた」

「忘れたか」

「うむ、儂は専門家ではないからの」


 重要じゃない部分は忘れもする。
 と、釈明をし、なぜか胸を張る。
 どう考えても威張るところじゃない。


「そもそもこの怪異は大衆でも知っているような知名度の高い別称がある」

「知名度の高い?
吸血鬼ぐらいか?」

「似たようなもんじゃ」


 その名はの、ともったいぶって忍は口を開く。


「多重人格」

「……多重人格」


 ……なるほど。
 と、そう思った。
 確かに先ほどの火憐ちゃんを説明する言葉があるとしたら、それは多重人格しかないだろう。
 良く知られている言葉であるが、よく知られている病気ではあるが……。
 しかし、その原因は未だに不明だと言う。
 原因不明、対処不明の病気。
 それはもう、怪異以上にタチが悪い。


「そうじゃ。
ジーキル博士とハイド氏が有名じゃの。
普段穏やかな人がふとした時に見せる一面。
天気のようにころころと性格が変わるあの人。
その人が多重人格か否か、それは貴方達が決めることです」

「お前僕の影の中でテレビ見てるだろ?」


 無表情気取るなよ幼女。顔がにやけてるぞ。
 どうやら脅威の視聴率40%ドラマネタのつもりらしい。
 視聴率という言葉の信頼度は落ちているが、それでも凄い数字だと思う。
 ……ていうか、僕の影の中ですら電波が届くのか。
 地デジパネェ。


「流石にそれは気のせいじゃお前様。
儂はお前様の影の中でPS3版ワンダと巨像なんてやっておらんぞ?」

「僕の影の中にはPS3があるのか!?」


 僕ですら持ってないのに!
 テレビ云々なんかどうでもよくなるニュースである。
 というか、昼なのに寝起きっぽい感じではないし、やけに反応が早いと思ったら……、そういうことか。
 僕の影の中でゲームで完徹かよ!
 何してんだ元伝説の吸血鬼!


「まあそれはおいといて」

「まて! 僕はPS3をおいとけないぞ!」


 ICOがやりたいんだよ僕は!
 あの神ゲーがハイビジョンなんて興奮するだろ!


「おいといて、じゃ」


 悪いけどこのゲーム一人用なのじゃ、などと嘯いて話を強引に戻す忍。
 ……この野郎。
 明日からスネちゃまって呼んでやるからな。


「百様蝶は取りついた相手に複数の人格を追加する。
それは本音を代弁する人格だったり、自分と正反対の正確だったり、暴力的だったり弱虫だったり繊細だったり大雑把だったり知的だったりするわけじゃが……」

「じゃあ今回の火憐ちゃんは……」


 正反対でも暴力的でも知的でもなく、なんというか変な感じだった。
 どういった分類の症状なのだろう?


「分からん」

「そうかわからんか、それは一大事だなって分からんのかい!」

「乗り突っ込みにキレがないのぅ……、体調でも悪いのか?」

「ほっとけ」


 マジ使えないこいつ。
 忍の知識が役に立ったことって、実は一回もないんじゃないか?
 とんだ脳筋野郎である。


「しかし分からんものは仕方あるまい。
あの巨大な妹御ならあれくらいのこと言っても可笑しくはなさそうといえばなさそうじゃし、可笑しいと言えば可笑しい」

「まあ、そうだな」


 読み切れんところがあるからな、火憐ちゃん。
 無論ギャグキャラ的な意味で。


「じゃあもうそこらへんはどうでもいいや。
怪異の特徴はよく分かったし、そろそろ教えてくれよ忍。
その百様蝶とやらはどうやったら退治できるんだ?」

「随分と乱暴じゃの、お前様。
というかキャラが最初期のころに戻ってるぞ?」

「それぐらい動揺してるんだよ。
察せ」


 冷静そうに見えて、実はかなり焦っているのである。
 家庭崩壊の危機だしね。
 この状態が続けば、流石に僕も疑われるだろう。
 妹に手を出した鬼畜兄にされるのは御免である。


「まあ仕方あるまい。
それで、百様蝶の対処法なのじゃが……」


 腕を組み、目を閉じて僕の膝の間に座りながら威厳たっぷりに……言った。


「忘れた」

「……はぁ?」


 今なんて言ったこいつ?


「すまない忍さん。
僕の耳が悪いんだと思うけど、なんか今『わ』から始まり『た』で終わるさっきも聞いた言葉が聞こえたんだが気のせいだよな?
僕のパートナーにして一心同体の可愛い知恵袋こと忍野忍さんがそんな言葉を言うわけないよな。
怪異の対処法がまさかの4文字で終わるわけないもんな。いくらなんでも短すぎる。
さあもう一度聞かせてくれ。
百様蝶を退治するにはどうすればいいんだ?」

「さあ?」

「さらに短く!?」


 びっくりだよ!
 どれだけ忘れっぽすぎるんだよこいつ!


「おいおいおいおい忍ちゃん、そりゃないぜ。
忍野から聞いた専門知識を活かすのはこういうときだけだろ?
というかむしろお前の存在価値って解説役だろ?」

「違うねっ、儂はマスコットじゃ。
ヤムチャと一緒にするなぞ許さんぞ!」

「他の解説役に謝れよ」


 というかマスコットに甘んじるなよ元伝説の吸血鬼。
 プライドはないのか。


「まあ落ち着けよお前様。
忘れたと言い方をしたが、実は少しだけ違うのじゃ」

「違うってどういうことだよ」


 忘れたに忘れた以外の意味があったか?
 国語の成績は良いとは言えないが、それでもそこまで無知ではないはずだ。
 

「実は百様蝶というのは、この間の蜂に近い怪異なんじゃ」

「蜂に? どういうことだ」


 大統領よりも有名なボクサーの戦法つながりか?
 

「いや、違うぞお前様。
共通点は、実在しない怪異ということなんじゃよ」


 昔話に例えて話してやろう。
 忍はそう言って、僕の胸に背中を預けたまま、語りだす。


「昔々とあるところに青年がおった。
あいつは結構良い奴じゃったんだが、一つだけ難儀なことがあった」

「随分と親しげだな」


 知り合いかよ。


「それは時々態度が変わったかのように乱暴になるということじゃ。
しかもあいつはそのことを覚えてない。
そのことに困った儂と村人は僧を呼んだのじゃ」

「おい、お前が登場してるぞ」


 何してんだよ怪異殺し。
 お前が解決しろや。


「そしたらその僧は言ったんじゃ。
『は、はわわ、怪異のしわざですぅ!』とな」

「その僧、孔明じゃね?」


 何でそんな微妙に古いネタかませてくるんだよ。
 つーかなんで知ってんだ。
 僕の影にはPCもあるのか?


「実は僧はよく分かんなかっただけなんじゃがの、面倒だったから怪異のせいにしたわけじゃ。
最後には怪異を倒すという名目で青年は殺されてしもうた」

「はた迷惑な話だ」


 分からないとは言えない年齢になってしまっていたのだろう。
 今も昔も、人間のそういったところは変わらない。


「まあそんなわけでな、百様蝶という怪異は存在しないのじゃ。
つまり弱点とかはないんじゃよ」


 と、まあわかりやすいが、あっさりとし過ぎた説明を終える忍。
 なるほどな。
 存在していないから、具体的な対処法もない。
 厄介な怪異だ。
 ……いやまて、
 

「まあ、百様蝶のことはよく分かったけどよ忍ちゃん。
今の話のどこに『忘れた』がかかるんだ?
対処法がないって最初から言えばいいだろ」


 青年の名前とかか? 忘れたの。
 別にそんなの覚えてなくていいよ。


「いや、そういうのを問答無用で狩れるスキルが儂にはあったはずなんじゃが、なんだったかなーって。
何かこう、犬歯を立てて何かする感じの対処法があった気がするんじゃがのう……」

「そっちを忘れたのかよ!?」


 どれだけボケが進行してるんだ!
 そりゃ斧乃木ちゃんに後期高齢者呼ばわりもされるわ!
 エナジードレインだろうがっ!
 自分が吸血鬼だってことすら忘れてんのかよ!


「あーそうじゃったそうじゃった。
エナジードレインね、うん。
それさえ思い出せば問題も解決じゃ。
もうなにも心配することないぞ。
いやー、儂が吸血鬼で良かったのう、お前様」

「僕はお前の頭が心配だよ……」


 本気で心配になってきた。
 心底ギャグであって欲しい。


「さて問題も解決したところで、ゆくぞお前様」

「解決してない気もするが……」


 どうやったら忍の記憶力はマシになるのだろう。
 進研ゼミでもやらせるか?
 まあ、それはおいおい考えるとして、今は火憐ちゃんを戻すのが優先である。
 僕は忍に影へ戻ってもらって、火憐ちゃんの元に向かった。
 今回は簡単に解決しそうである。
 ……フラグじゃないといいな。











[30957] かれんバタフライ 4話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2011/12/30 07:18




 世の中には、こんなはずじゃなかったことだらけだ。
 そんなような台詞を妹と一緒に見たアニメのキャラが言ってた気がする。
 それは確かにその通りだと思う台詞だったし、今更あえて言う必要もないくらい当然だと思った。
 今もほら僕の目の前に気まずそうな顔を逸らしてる。


「……逃げられたのか?」

「……うん」

「また逃げられたのか?」

「……う~ん」


 首をかしげながら唸る月火ちゃん。
 家のドア破壊事件の後、月火に無言で死地(笑)に向かわないと約束したらしいのだ。
 しかし、火憐ちゃんは逃亡した。
 うーん、例え何があっても火憐ちゃんが約束を破るとは思えないが……。
 ああ、人格が変わったから逃げたのか。


「よしっ」


 月火ちゃんがよしっ、と言った。


「よしわかったっ!」


 月火ちゃんがよしわかったっ!、と言った。


「お兄ちゃん、私のこと好きにしていいよ?」


 月火ちゃんが『しょうがないなぁ』といった顔をして着物を肌蹴る。


「気色悪いわ!」


 足を蹴とばした。
 芸術的ローキックだ。


「ぶっ!」


 月火ちゃんが思いっきり転んだ。
 顔面から地面に衝突する。
 少しだけ悶絶した後、ゆっくり立ち上がった。
 涙目になりながら鼻を押さえている。


「何するのお兄ちゃん!?
自分の失態を体で挽回しようと思ったのに!」

「心で挽回しろ馬鹿野郎」


 なんでこいつは、こう過激なんだ。
 ヒステリーより恐ろしいわ。 


「しかたない、火憐を探さないといけないな。
しかもあの状態、危険だ」


 主に僕の評判が。
 取りあえず羽川にでも聞いてみるか。
 ……決して僕が羽川に電話をかけたいからじゃなく、僕と火憐ちゃんの世間体が大ピンチだからかけるのだ。


「……うーん、出ないな」


 羽川と電話出来ると思ってわくわくしちゃった。
 恥ずかしい。
 いや、誇らしい。


「羽川さんに電話してるの?」

「おう、あいつは何でも知ってるからな。
知ってることだけらしいけど」


 まあ、この程度のことなら知ってそうだし、問題ないだろう。


「私の知り合いにも何でも知ってる子いるから、その人に聞いてみる?」


 火憐ちゃんが巻き込みたくないって言ってたから今まで頼りにしなかっけど、と言って僕に電話番号のメモを渡す。


「なんでも知ってるって、羽川以外にか?」


 僕はメモを受け取る。
 見たこともない番号だった。
 ……まあ、番号見ただけで特定できるのなんて、それこそ羽川の番号だけだが。


「うん、大抵のことは知ってるよ」


 私はそんなに親しくないんだけどね。
 と言って僕に背を向ける月火ちゃん。
  

「まあ取りあえず電話してみれば?」


 多分火憐ちゃんを見つけられるはずだから、と言って月火ちゃんが居間に戻る。
 背中で『両親のことは任せろ』と語っているようだ(無論勝手な推測である)。
 僕は月火ちゃんに家庭のことは任せて、携帯電話を手に取る。
 さて、何でも知ってるキャラ2人目はどんなキャラなんだろう。
 10代の女の子だったら良いな、と思いながら僕は電話をかけた。



















********************************************























「初めまして暦さん。
瑞鳥 火茂芽《みずどり かもめ》と申します。
ぼくのことは気軽に『瑞鳥君』とお呼びください」


 そんな感じで電話に出たのは瑞鳥君という少年だった。
 中学生、いや小学生とも取れる幼い声だ。
 ……というか、うん?


「瑞鳥?」

「ああ、火憐さんから聞いたころがあるんですね。
一応ぼくは火憐さんの彼氏ということになってます」


 以後お見知りおきを。
 と、言う瑞鳥君。
 ああ、この子が例の瑞鳥君か。
 妹の彼氏と話すのって……、なんか気まずいな。


「……」

「まあまあそれはそれとして、月火さんから紹介して頂いたということは、火憐さんが現在お守りを身につけたまま行方不明になってしまった件ですね」


 すらすらと現状を説明する瑞鳥君。
 今電話をかけたばかりなのに、物事を把握し過ぎだ。
 月火ちゃんの言った通り、なんでも知ってるキャラなのだろう。
 と、いうことはあの質問をしなくてはいけない。
 女子中学生じゃないので、若干テンションが下がり気味だが、取りあえずいってみよう。


「すごいな、何でも知ってるのか?」

「何でもは知りませんよ、調べたことだけです」


 今調べてます。
 と言う瑞鳥君。
 なるほど、そういうキャラか。


「まあぼくと火憐さんは前世からのつながりがありますからね。
火憐さんのことは調べるまでもなく大抵知っています」

「ぜ、前世?」


 あ、あれ?
 なんか電波チックな感じになってきたぞ?


「はい。
僕はとある王国の姫で火憐さんは魔王だったのですが……」

「あいつ魔王だったのか!?」


 騎士とかじゃなくて!?
 なんて規格外な奴なんだ……。
 逆立ちしながら『世界の半分をやろう』とか言うのだろうか……。
 シュールだ。


「はい、ぼくは誘拐されました。
そんなぼくをクッパ……じゃなくて火憐さんは……」

「え!?
魔王って、大魔王クッパのこと!?
あいつの前世ってクッパだったのか!?」


 しかも瑞鳥君はピーチ姫かよ!
 来世でクッパとくっついてんじゃねーよ。
 マリオは誰だマリオは。


「あ、マリオは暦さんです」

「僕の前世は配管工だったのか!?」


 国民的スターだった。
 びっくりだ。
 しかもクッパの兄やってるし。
 ルイージはどうしたルイージは。
 もしかして月火ちゃんか?
 妄想が膨らむな。


「まあ楽しい会話も終えたところで火憐さんの居場所を教えるとしますかね。
300人委員会のこともありますし、『奴ら』の工作員に盗聴されている可能性も否めません」

「ああ、そうだな」


 ……思春期なんだなぁ。
 まあ中学1年生だからしかたないな、うん。
 厨二病は麻疹みたいなものだし。



「さて、火憐さんですが、実は5分前に襲撃されました」

「しゅ、襲撃!?」


 火憐ちゃんが瑞鳥君を!?
 なにやってんだあいつ!


「はい。
彼女のシャイニングウィザードEXをぼくの不死川流零式防衛術で撃退したのですが……」

「とんでもない文字面だな」


 ジャンプでも中々出ない単語が並んでる。
 邪王炎殺黒龍波とかネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲とかそんな感じ。


「火憐さんは終始『私と一緒に死んで! いや、瑞鳥君だけ死んで!』と言ってましたね」

「酷い文字面だな」


 ブリッジしながら言ったのだったら許してやるが……。
 

「いえ、懸垂しながら言ってました」

「いちご100%!?」


 マジで謎だ。
 ……つーか瑞鳥君の部屋には鉄棒があるのか?
 この子もかなり謎な子である。


「まあそんなこんなで火憐さんの異常を知ったのですが……」


 まあ確かに彼女のそんな姿を見れば異常だと思うのは当然だ。


「……ん?
そういえばさっきお守りが云々とか言ってたけど、あれは何のことなんだ?」

「ああ、そういえば知らなくて当然ですね。
暦さん、高校生ですし」


 中学生の間で有名な話なのですが、と言って説明が入る。


「蝶の形を模したお守りをつけると恋愛運が上がるだとか仲直りができるとか」


 なるほど、よくある開運アイテムだな。
 特に不自然な点は……、


「友達が増えるだとか」

「どこで手に入るんだそれ?」


 ……喰いついちゃた。
 しょ、しょうがないじゃん!
 僕だって男の友達が欲しいんだ!


「ちょっと前にこの街にいた貝木とかいう男が窓口でしたよ。
まああの男が詐欺師だと露見して高校生のカップルが追い出したらしいですが……」

「そ、そうなんだ」


 残念だなぁ、と言って会話を区切る。
 ……また貝木か。
 あいつの残した爪痕は何時まで僕を苦しめるんだ?
 いくらなんでも不吉すぎる。
 地獄みたいなやつである。


「なんで火憐さんがそんなものを付けていたか謎ですが、まあ今はそのことは置いておきましょう」


 それで火憐さんの居場所ですが、と言う瑞鳥君。
 はっきりとした口調で、驚愕の事実を、口にする。


「あなたの部屋の収納の中ですよ暦さん。
どうやら窓から侵入したようですね」












[30957] かれんバタフライ 5話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2012/01/02 12:06









「火憐さんをお願いします。
ぼくには火憐さんを助けられませんので……。
暦さんに限ってないとは思いますが、もし火憐さんを傷つけたらぼくは暦さん愛します、性的に」


 と、脅しにしても恐ろしすぎる言葉を吐いて瑞鳥君は電話を切った。 


「とうとうお前様のハーレムに男が追加されるのか。
よかったのぅお前様。
以前から男友達がいないのをネタにされておったが、これでそういったことを言われることもあるまい」

「失敗を前提で話すな」


 つーか友達じゃねえよ。
 あれじゃあホモ達じゃねえか。


「月火ちゃんが上がってくる前に片づけるぞ忍。
見つかったら僕は死ぬかもしれないしな」


 前に風呂に一緒に入ってるのを見つかってるからな。
 ギリギリに影から出すとはいえ、用心に越したことはない。


「そうじゃの、お前様がバラバラになる前に済ますとしよう」

「失敗したら僕バラバラになるのか!?」


 まあ、こんな感じで打ち合わせをして、僕は僕の部屋のドアを開けた。


「……さて」

 
 誰か……、例えそれが家族だとしても他人が居るだろう自分の部屋というのは違和感を感じる。
 ……つーか窓割れてるし。
 予想外だ。


「……冬じゃなくてよかった」

「多少寒くてもお前様なら大丈夫じゃがの」


 なんせ吸血鬼じゃし。
 という忍の言葉(from影)に頷き、僕は自分の部屋の収納を探す。
 まあ僕の部屋の収納というと、入り口から見て右手にある襖しかないのだが。


「こんな所に隠れておるのか、ドラえもんみたいじゃの」

「別に押し入れに寝泊まりしているわけじゃないがな」
 

 僕はゆっくりと襖に手をかけて、引いた。


「……大丈夫か?
火憐ちゃん……だよな?」

「ん? 兄ちゃんか?
見つかっちゃった、いや見つけてくれたのか」


 そこには後ろで手を組んだ火憐ちゃんがいた。
 ところどころ服が破れているし、髪もぼさぼさだ。


「何時の間にかこんな所にいたんだ。
しかも拘束されてるし」


 と言って、壁に括り付けられた手を僕に見せる。
 ……もしかして別の人格が自分を拘束したのか?
 しかし、何故? 


「まあでも、事情はなんとなく分かるよ。
兄ちゃんと月火ちゃん、あとパパとママにも迷惑をかけたみたいだな」

「……少しは覚えてるのか?」


 いや、と火憐ちゃんが言った。


「ここ兄ちゃんの部屋だろ?
だから迷惑かけたのかな、とか思ったんだ」 

「まあ、そうだな」


 しっかし、この拘束解けないなー。
 とか言いながらガチャガチャと音を鳴らしながら体を動かす火憐ちゃん。
 ……おい、やめろ。
 なんか僕の部屋が地震が起きたみたいに揺れてるぞ。
 そんな細い体からどうしてそんなパワーが出るんだ?
 あれか? 前世がクッパだからか?


「取りあえず火憐ちゃん、今からお前を普通に戻すからじっとしてろ」

「よくわかんねーけど、取りあえず拘束を解除してくれるとありがたいんだが……」


 まあ、言いたいことは分かる。
 しかしそういうわけにはいかない。
 いつ火憐ちゃんの人格が変わって暴れだすのか分からない。
 今のうちに忍に解決して貰うべきだ。


「それは駄目だ。
取りあえず目を瞑れ」

「なっ!?」


 動揺する火憐ちゃんを無視して襖に入る。
 影から忍い出てきてもらわないといけないので、火憐ちゃんに覆いかぶさるように移動した。


「も、もしかしてまた私にちゅーするつもりか兄ちゃん!?
私は別に良いんだが、月火ちゃんにバレたら今度こそ殺されるぞ!」

「違うわ!」


 そんな恐ろしいことできるか!
 というかあんまり大声だすなよ。
 月火ちゃんに気付かれたかコトだぞ。


「取りあえず目を瞑れ。
兄ちゃんを信じろ」


 説明したところで意味が分からないだろうし、忍を見られても困る。
 なので目を瞑ってもらう必要があるのだ。
 問題は素直に従ってくれるかだが……。 


「分かった、信じる」


 黙って目を瞑る火憐ちゃん。
 なんて素直で男らしい奴なんだ……。
 ……でも、顎を持ち上げるな。
 キスしねぇつっただろうが。


『忍、速やかに百様蝶を吸収してくれ』


 念話……というか思考をする。
 影に入った状態なら聞こえているはずだ。
 ……しかし。 


『……忍?』


 何故か忍が影から出てこない。
 何かあったのかと思い問いかける。
 すると、
 

『……お前様』


 良かった。
 寝ているかと思った。


『……びっくりした。
寝たのかと思ったぞ。
起きてるなら早く火憐ちゃんを……』

『まあ聞け、お前様。
お前様の妹御じゃが……』


 不思議そうな声を出す忍。
 冗談ではなさそうなので、取りあえず耳、というか意思を傾ける僕。
 すると忍は、


『怪異は既に憑いておらんぞ』


 一重人格じゃ、と言った。
 僕は改めて火憐ちゃんを見た。
 蝶の髪飾りは、ぼさぼさになった髪にはついていなかった。





















************************************************






















『それで、お前様。
妹御の鎖は『心渡』で切ってやれるが、目を瞑ってる妹御はどうするんじゃ?
別に何もしなくても解決はしておるが……』


 ……そうか、解決してるのか。
 それはよかった。
 取りあえず、顎を上げて目を瞑っている火憐ちゃんだが……、


「ちゅう」


 キスしてみた。
 まあ、なんつーか如何にもキスしてくれって感じだし。
 妹とのキスなんて数のうちに入らないし。
 つまり何度キスしても問題ないのだ。
 しかし、


「んっ!?」


 こ、こいつ!?
 舌を絡めてきやがった!
 兄とのキスで舌を絡めるとか正気か!?


『妹とキスする時点で正気じゃないと思うがのう……』 


 そんな忍の言葉、というか意思にも反応できない。
 何故なら火憐ちゃんから体が離せないからだ。
 腕が動かせない代わりに足で僕をカニ挟みで拘束している。
 力強すぎ。
 大魔王クッパマジパない。


「……んっ」


 舌が絡まり、火憐ちゃんの唾液が僕の口へ、僕の唾液が火憐ちゃんの口へ流れる。
 外で暴れてきたのだろう、火憐ちゃんから汗のにおいがする。
 それがまた僕の脳から酸素を奪っていく。
 や、ヤバい!
 今の状態を月火ちゃんに見られたら明日の朝刊の一面を飾ってしまう!


「んっ!」


 影に手を突っ込み、心渡で火憐ちゃんを拘束している鎖を切断する。
 そして体を後方にずらし、火憐ちゃんの体制を崩す。


「んんっ!?」


 よし、今だ! 
  

「…………ぷはっ」


 やっと解放をされる僕。 
 ヤバかった……。
 もうちょっとで超えたらマズイ境界を超えるとこだった……。


「なにしやがる火憐ちゃん!
吃驚するだろうが!」

「いや、次兄ちゃんにキスされたら舌を絡め取ってやれって月火ちゃんが……」

「あの野郎!」


 なんて奴だ!
 自分でやるならともかく純粋(馬鹿)な火憐ちゃんを嗾けるとは!
 後で倫理協会も吃驚な罰を与えてやる!

 
「それにしても兄ちゃんはすげーな。
まさかちゅーすることで鎖を切るとは思わなかったぜ」


 流石私の兄ちゃんだ。
 と、誇らしげに言う火憐ちゃん。
 まあ勘違いなわけだが。


「もし何の意味もなくちゅーをしたんだとしたら舌を絡め奪ってやるところだったぜ」


 と、恐ろしいことを笑顔で言う火憐ちゃん
 舌奪われたら死ぬから。
 いや、死なないけど死ぬほど痛いから。


「取りあえず火憐ちゃん、真面目な話だ」

「ん?
真面目な話か……、分かった。
ちょっと待ってくれ、今からドレスコードに合わせた服装に着替えてくるから」

「そんなに真面目な席じゃねえよ!」


 本当にもう……馬鹿だな! こいつ!
 かわいいじゃねえかっ!

 でも今はそんな火憐ちゃんを弄ってる暇はない。
 百様蝶の怪異が消えたわけではない。
 誰かが百様蝶を引き継いだ可能性もある。
 それを放っておくことは、できない。


「なんか覚えてることはないか火憐ちゃん。
例えば、どうして此処に居るかは思い出せるか?」

「うーん……」
 

 頭をひねり考える火憐ちゃん。
 別の人格の時のことは覚えてない、そういう怪異だ。
 だから藁にもすがる気持ちで聞いたのだが……、


「多分私が自分で来たわけじゃないと思うぜ」

「……そうなのか?」


 良く覚えてないが……いや、まったく覚えてないが、と前置きをして火憐ちゃんが語りだす。


「私は、兄ちゃんが部屋の窓の鍵をかけてないのを知ってるからな。
窓が割れている時点で私は誰かに運ばれたんだと思うぜ」

「誰かに……」


 確かに、自分でかけれるタイプの錠ではなかった。
 自分で来たと考えるのは不自然だ。
 しかし、だとすれば誰が……、


「つっても……、この感じだとあれだな。
まあ間違いないだろうなー、うん。
でも、どーすっかなー……いや兄ちゃんなら大丈夫、……かな?
……私には犯人が分かったぞ兄ちゃん!」

「……本当か?」


 まるで名探偵のようにしたり顔で僕を見る火憐ちゃん。
 おいこら、兄を指差すな。
 コナン君の真似をするんじゃない。
 お前の頭脳が子供なのは分かってるから。
 ……あれ逆?


「体が若干痛いし、少しくらくらする。
多分気絶させられたと思うぞ」

「結構重症だったんだな」


 そこから考えられる犯人は……、と事件解決に駒を進める名探偵火憐。 
 その口から発せられた衝撃の事実とは!?


「この体の痛みは、瑞鳥君の柔術だ」


 頭以外の全身が痛いしな。
 と言って腕の関節を撫でる火憐ちゃん。
 そのまま、真犯人の名前を上げる。


「私をここに運んだのは瑞鳥君だ」


 間違いない、と言った。
 真実はいつも一つだ、とも言った。
 ……どうやら事件は結末へと移るようだ。

















[30957] かれんバタフライ 最終話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2012/01/04 00:15




「ああ、見つかっちゃいました。
30分ぶりです暦さん、いえ初めましてと言うべきでしょうか?」


 家を出て瑞鳥君を捜索していたら、例の読み方が分からない公園に学生服を着た少年がいた。
 学生服はボロボロで血が出ている所もある。
 その少年は小学生と言われても、ああそうなんだと思うような童顔を歪めて、ベンチに座っていた。
 どうやら彼が、瑞鳥君らしい。


「火憐さんを助けてくれてありがとうございます。
彼女を拘束したのはぼくですが、あの時はああするしかなかったんです」

「……そうか」


 まあ、分かっていた。
 いくら、何でも知っている(調べたことだけらしいが)と言っても、あの状態の火憐ちゃんの行動を見抜くことは難しいだろう。
 それを見事に言い当てた時点で、彼自身の行動の結果だということは、何となく気づいていた。


「はい、そこらへんに放置するわけにもいかないですし。
ちょうど暦さんの部屋の近くで疲れたものですから『窓、わっちゃえ!』と……」

「そんな理由で僕の部屋の窓をわったのか!?」


 疲れたからかよ!
 よしんば僕の部屋に届けるにしても、窓をわらずにチャイムを鳴らせ!
 カップル揃って原始人かよお前らは!
 

「ああ、すいません暦さん。
そこで立ち止まってもらえませんか、危ないですので」


 取りあえず苦しそうにしていたというのもあるが、そもそも会話をするために相手と近づくのは当然の行為だ。
 そういうわけで、僕は瑞鳥君に近づいていた。
 それを、瑞鳥君は制止する。


「……危ない?
なにを言って……かはっ!?」


 気づいたら、地面とキスしていた。
 痛みよりも、衝撃よりも、まず混乱した。
 なにが起こったんだ!?


「だから言ったじゃないですか。
今の僕は体のコントロールが出来ないんです」

「体の……コントロール?」


 ひょっとして、火憐ちゃんの着けていた百様蝶を取ったのは……!


「ええ、実は蝶のアクセサリーを火憐さんにプレゼントしたのは僕なのですが……」


 黒幕だった。
 びっくりだ。


「最近気まずい感じだったので、恋人と上手くいくと噂のアクセサリーをプレゼントしたんです」

「そ、そうか」


 動機は僕だった。
 マジびっくりだ。


「まさかいわくつきの物だとは思いませんでした……」


 その時は調べてませんでしたので、と言う。
 何でもは知らない、調べたことだけ。
 そういうことらしかった。 


「まあ後から調べたら事実に気づき、すぐに回収しようとした矢先に火憐さんに襲撃され、その時にアクセサリーは回収したのですが、今度はぼくが取り憑かれてしまったというわけです」


 対策はしたんですがね、と言う。
 良く見ると蜘蛛の柄がプリントされた手袋をしている。
 蜘蛛で蝶を掴むという暗示のようだが、しかし蝶の髪留めはしっかりと服に留められている。
 どうやら万全の対策とはいかなかったようだ。
 当然である。
 彼は専門家ではない。
 どれだけ調べるのが得意だろうと、実在しない怪異の弱点は、ない。


「ちゃんと効果はあったんですよ?
実際意識は乗っ取られていませんし」


 でも、体のコントロールは殆ど奪われてしまいました、と言う瑞鳥君。
 彼の体は、僕を威嚇するように構えている。 


「暦さんお願いがあります」


 ぼくの自業自得なのに申し訳ありませんが、と前置きをして瑞鳥君は言った。


「助けてください」


 苦渋の選択をするように、不甲斐ない自分を貶めるように、言った。


「色々試そうとしましたが、無理でした。
おそらく3日もあればこの状態は治るでしょうが、それまでの間にぼくが何人のひとを傷つけるか分かりません。
もしそんなことになったら、ぼくは耐えられません」


 自殺してしまいそうです、と言う。
 ……丁寧語を使う瑞鳥君は、ひょっとしてクールな感じのキャラなんじゃないかと思っていたが、とんでもない。
 火のように熱い男の子だった。
 火のように過激な男の子だった。


「だから、助けてください」

「ああ」


 まあ、どんな男の子でも女の子でも助けを求められたら助ける。
 弱っている人間を放っておけるほど、僕は強くない。
 そんな強さは、欲しくない。


「流石火憐さんのお兄さん」


 正義の味方ですね。
 いや、正義そのものですね。
 そう言いながら、嬉しそうな顔で、尊敬でもしているかのように、僕を見た。


「そんなんじゃねえよ」


 僕も偽物だ。
 僕はそう言って、瑞鳥君の胸に光る百様蝶に狙いを定める。


「それじゃあすいません。
抵抗するのを止めるので……」


 後はよろしくお願いします。
 そう言って、瑞鳥君は歪めていた顔から、ふっと力を抜いた。
 ……途端、


「う、おっ!?」


 気づいたら地球がひっくり返り、全身に衝撃が走った。


「がはっ!」


 空気が抜ける。
 背中が熱い。
 視界が歪む。
 ……投げ飛ばされた!


「この……!」


 相手は柔道の使い手。
 打撃技には対処しずらいはず、そう思い僕は瑞鳥君の腹にむけ、渾身の一撃を放つ。


「なっ!?」


 簡単に払いのけられた。
 まるで蚊でも払いのけるように、パシッと。
 それなりに力を込めていた僕は、思いっきり体勢を崩す。
 

「駄目ですよ暦さん。
ぼくが使うのは柔道じゃなくて柔術です。
柔術には打撃技があります。
……というか」


 拳が目に向けて飛んでくる。
 ガードするが……、その隙にさらに投げ飛ばされる。


「打撃に対処できない程度だとぼくは火憐さんに勝ったりできませんよ」


 また地面に叩きつけられる。
 昼と言うこともあって、今の僕は吸血鬼性がほぼない状態だ。
 つまり、普通に再生しない。
 体が動かない。
 火憐ちゃんに勝てるのかよ……!
 それはちょっとやっかいだな。


「……意識があるなら大人しくやられて欲しいな」

「体は勝手に動くんです」


 ごめんなさい、と悲しそうな顔をする瑞鳥君。


「実は、火憐さんと気まずい理由、知ってたんです」


 悲しそうな顔のまま、言った。


「暦さんが火憐さんとキスしたからですよね?」


 調べました、と言う瑞鳥君。
 どうやって調べたか気になるが、知っているらしかった。


「恨んだりはしてません」

「憎んだりはしてません」

「でも、一矢報いたいとは思っているかもしれません」


 だから体が暴力行為しか行わないのかもしれませんね、と言う。
 
 
「そうかよ……!」


 百様蝶。
 自分の正反対だったり本心を語る性格を作る……。
 さっきから攻撃に遠慮がないと思ったが……、そういうことか!


「……!」


 取りあえず距離をとる。
 そして、服を脱ぎ棄てる。
 今の僕は真昼間の公園で上半身裸だ。
 もちろん脱ぎたかったからではない。
 さっきまでの2回、僕は服を掴まれて投げられたからだ。


「……ああ、流石暦さん。
確かにぼくも、服がないと掴みづらいですね」


 そのまま転がるように瑞鳥君から距離をとる。
 なんとか木の元まで逃げることができた。
 木に背を預ける。


「……厳しいですけど、体おさえておきましょうか?」


 作戦タイムくらいなら作れますよ、と言う瑞鳥君。
 ありがたい申し出ではあるが、断る。


「大丈夫だ。
高校生なめるな中学生。
大人しく胸を借りに来い」

「……ああ、分かりました」


 後は任せます、と言って低姿勢で突っ込んでくる。
 僕は木に体に預けたままそれ見る。
 そして、 僕の影、瑞鳥君の背後に位置する僕の影から忍が出てきて瑞鳥君を抑え込んだ。


「うわっ!?」


 忍に抑え込まれ、地に伏す瑞鳥君。
 そのまま瑞鳥君の首に犬歯をたてる。
 すると、カチリと音が鳴った。
 僕の足元に蝶のアクセサリーが転がってくる。
 僕はそれを踏み砕いた。
 これで、解決だろう。


「……普通に卑怯じゃな、お前様」


 瑞鳥君を嵌めた形になる僕をジト目でにらむ忍。
 ……ちょっと興奮した。


「違うぞ忍。
これは少年漫画でいうところの友情パワーだ」

「儂とお前様の関係は友情なのかのう……」


 男子高校生とロリ奴隷だと思うのじゃが、と言いながら再び僕の影に戻る忍。
 人聞きが悪いからやめなさい。


「こういう時に助けてくれる仲間がいて、助けを求められるからこそ」


 ヒーローなんですね、と言う瑞鳥君。
 僕は決してヒーローではない、本物でもない……が、あえて今は言う必要はないかな。
 何より、忍を表現する言葉が『仲間』というのに気に入った。
 僕は少年漫画が好きなのだ。


「ああ、暦さん。
1つだけいいですか?」


 倒れ伏しながら、しかし体のコントロールを取り戻した瑞鳥君が問いかける。
 

「ぼくは火憐さんが好きです」


 一目見て気になって、話してみたら気が合って、闘ったら好きになりました、と言う瑞鳥君。
 河川敷で夕陽をバック仰向けに倒れながら告白したらしい。
 ロマンチックだ。


「そして、暦さんも好きです」


 今日、好きになりました、という瑞鳥君。
 彼を攻略するには殴り合いが必須らしい。


「僕も瑞鳥君みたいな子は嫌いじゃないよ」


 僕はそう言った。
 もちろん本心である。


「ありがとうございます」


 そう言って満足そうな顔をする瑞鳥君。
 そのまま続けて口を開く。


「じゃあひとつ、お願いを聞いてください」


 そう言って身を起こす瑞鳥君。
 僕は手を差出し、立ち上がるのを手伝う。 


「……なんだ?」


 僕の手を取りながら、傾きかけてきた日をバックに、太陽のような笑顔を顔に浮かべ、言った。


「妹さんを、ぼくにください」


 その言葉を噛み締めて、意味を理解して、娘の彼氏が家に来た時に言いたかった台詞を今言ってしまおうと思い、言った。


「おととい来やがれ」




















*************************************************
























 後日談というか今回のオチ。
 朝起きたら僕の目の前に火憐ちゃんの顔があった。
 最近はまれによくある光景なので、吃驚しつつも動揺はしない。
 しかし、反対側を向いた時には吃驚というか怖気がはしった。


「すぅー……」


 そこには小学生にも見える男子中学生……いや、学生服を着ていないと女の子にも見える。
 漫画キャラに例えると、憂鬱じゃないほうのハルヒみたいな感じ。
 ホスト部のあれ。


「み、瑞鳥君!?」

「……ああ、おはようございます暦さん。
朝から元気ですね」



 混乱した僕とは対照的に、実に冷静な瑞鳥君。
 眠そうにこすりながら挨拶をする。
 いや、つーか何でここにいるんだよ!


「……こんな所で何をしてるんだ!?
あの後普通に家に帰っただろ!」

「はい、その後普通に侵入しました。
窓がわれていたので簡単に侵入できました」

「お前がわったんだよ!」


 なんて奴だ!
 さも偶然窓が割れてたみたいに言いやがったぞ!?
 ……ふぅ、まあいい。
 別に男と一緒に寝たからと言って問題があるわけじゃない。
 精々月火ちゃんと神原が喜ぶくらいだろう。


「しかし、僕は良いけど火憐ちゃんと一緒ってのは問題じゃないか?
いくら付き合ってるとはいえ中学生で同衾はどうかと……」

「……へ?」


 僕の言葉を聞いて呆ける瑞鳥君。
 もしかして……気づいてないのか?
 そんな馬鹿な。


「兄ちゃんうるさ……い?」


 素晴らしいタイミングで火憐ちゃんも起きた。
 若干眠そうだが、目覚めが良いのかすぐにいつも通りに戻っていく。
 戻っていく過程で……瑞鳥君の方を見て目を見開く。


「火憐ちゃんも取りあえず起きろ。
勝手に布団に忍び込むのもアレだが、彼氏と一緒に兄貴の布団で寝るとか特殊すぎ……」


 そう言って火憐ちゃんを瑞鳥君から離す。
 呆けたような表情を浮かべ、素直に従う火憐ちゃん。
 そしてそのまま、ゆっくりと目に意思が戻っていき……バッと飛びのいた。


「うわっ! びっくりした!」
「うわっ! びっくりした!」

「何で私は瑞鳥君と同じ布団で寝ているんだ!?」
「何でぼくは火憐さんと同じ布団で寝ている!?」

「た……、助かったぜ兄ちゃん! ありがとう!」
「た……、助かりました暦さん! ありがとう!」


 ……仲良いな、おい。
 まあこんな感じで僕にも男友達が出来たというのが後日談になるだろう。
 妹の彼氏と言う、なんとも言えない立場がアレだが……、まあ問題ない。 
 だって、瑞鳥君と話すのは楽しいから。
 友人である理由なんて、それで十分だろう。
 瑞鳥君もそう思ってくれているはずだ。


「さて、今日から暦さんに認めてもらうために頑張りますよ!
目標は火憐さんと暦さんとぼくで3Pですね」


 多分、きっと。
 ……そうだと良いな。















[30957] つきひフェアリー 1話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2012/01/04 21:57

 例えば君は成績優秀な人間と言われるとどんな人間を思い浮かべる?
 クールな人間だろうか?
 真面目な人間だろうか?
 それとも眼鏡をかけている人間だろうか?
 じゃあ、スポーツ万能な人間と言われたらどんな人間を思い浮かべる?
 筋肉質な人間だろうか?
 手足の長い人間だろうか?
 姿勢の良い人間だろうか?
 どれも違う。
 いや違わない。
 成績優秀な人間が、スポーツ万能な人間が、クールで真面目で眼鏡をかけていて筋肉質で手足が長くて姿勢が良いことがあっても、クールで真面目で眼鏡をかけていて筋肉質で手足が長くて姿勢が良い人間が成績優秀でスポーツ万能とは限らないのだ。
 それは、今更声を大にして言うことではないし、誰もが当たり前に分かっていることだ。
 しかし、分かってはいても対応はできない。
 一般的かつ良心的な市井は、クールで真面目で眼鏡をかけていて筋肉質で手足が長くて姿勢が良いことがあっても、クールで真面目で眼鏡をかけていて筋肉質で手足が長くて姿勢が良い人間が居たら、その人は成績優秀でスポーツ万能だと思うだろう。
 それは仕方ない。
 仕方ないのだ。
 だって、その人にとっては他人がどんな人間でも構わないのだ。
 善良であれば、構わないのだ。
 成績優秀だろうが、そうでなかろうが。
 スポーツ万能だろうが、そうでなかろうが。
 構わないのである。
 しかし、俺は声を大にして言いたい。
 声を大にして言うべきでないことを叫びたい。
 俺は馬鹿だ。
 成績は悪いし頭も悪い。
 俺は運動音痴だ。
 足は遅いし、喧嘩だって某奇策士と互角程度の強さしかない。
 いくら俺がクールで真面目で眼鏡をかけていて筋肉質で手足が長くて姿勢が良かろうが、そんなのは関係ないのだ。
 何の関係も、ない。
 見た目で人は判断できない。
 見た目で人を理解したいだけなのだ。
 理解した気になりたい、だけなのだ。
 それを踏まえたうえで、この物語を読んで頂きたい。
 『僕』ではなく、俺の物語を。
 阿良々木暦ではなく、阿良々木月火でもなく、蝋燭沢夕火の物語を。
 それでは、お付き合いお願いしよう。
 これは、見た目通りではない俺が、見た目がない妖精と会った時の話……





















**************************************************



















 『俺』こと蝋燭沢夕火は現在モーニング中だ。
 まあもちろん、某愛を知る県のモーニングみたいにおしゃれな感じではない。
 マックだ。
 マックでブレックファーストだ。
 俺が学生の友達こと、マクドナルドで朝食をとることは、実は結構多い。
 その際は大抵独りなのだが、現在は2人である。
 ここで俺の彼女こと阿良々木月火が登場したら読者も俺も大喜びなのだが、残念ながら違う。
 登場するのは、瑞鳥火茂芽。
 月火の姉である火憐さん(年下だが、特別親しくないのでさん付け。マナーだ)の彼氏であり、俺の小学校時代からの後輩だ。
 今日こうやって同席しているのは偶然ではなく、必然だ。
 何故なら俺が呼んだからだ。
 呼びつけたからだ。
 今抱えている案件に、瑞鳥がどうしても必要だと思ったから呼んだのだ。
 俺たちは別々なら1と1だが、2人合わさることによって1+1が3にも4にも…………、あれ?


「どうして1+1は2になるのだろう?」

「急にどうしたんですか先輩?
もしかしてエジソン気取りですか?」


 ふと気になったことを口にしてみた。
 すると瑞鳥がよく分からないことを口にする。
 エジソン?
 ちびまる子ちゃんの歌に出てくるあれか?


「エジソン?
よく分からんが、何となく足し算に疑問を覚えただけだ。
リンゴが2つ集まればそりゃ2個だが、泥団子は1つになるだろう?」


 ふとした疑問を口にしてみた。
 ……おお、なんか俺今めっちゃ頭良い気がする。
 今までアメーバにも劣る知能を評価されてきたが、もしかしたら俺の知能は類稀なある進化をしたのでは!?


「重さが2になってるじゃないですか」

「…………ああ、なるほど。
瑞鳥は頭が良いな」


 ……勘違いだった。
 瑞鳥は成績優秀でスポーツ万能な凄い奴だ。
 見かけ倒しの俺とはえらい違いである。
 感心しながら俺はジュースを啜る。
 ジンジャエールうまい。


「頭は良くないですよ。
成績は良いですけど。
というか蝋燭沢先輩、本当に高1ですか?」

「あたりまえだろ」


 何を当たり前のことを。
 俺が高1ではなく中1だったらお前と同級生じゃないか。と笑ってみる。
 憐れんだ目を向けられた。
 何故だ。
 よく分からんのでマックナゲットをつまむ。
 うまい。


「それで?
今日ぼくを呼んだ理由がもしかしてそれだけってことはないでしょうね?」


 と、聞いてきた。
 わざわざ呼び出したのだ。もちろん用事がある。
 それは冒頭でも思考していた通りだ。


「もちろんだ。
今日呼んだのは他でもない、月火のことだ」

「まあ、そうでしょうね。
むしろそれ以外で朝っぱらから呼ばれたら怒ります」


 と、厳しいことを言う瑞鳥。
 どうやら今回は怒られないようだ。
 良かった。 


「最近月火の回りがおかしい。
月火の敵が酷い目にあったり、友人が怪我したり、お兄さんが事故にあったりと大変なようだ」

「ああ、そういえばこよ……お兄さんは自転車に轢かれたとか言ってましたね。
火憐さんが」


 そうなのだ。
 今回俺が瑞鳥に頭を下げて(ないが)頼んだのは他でもない月火のことだ。
 どうやら最近、月火の身の回りの人物が不幸……というほどでもないが、やっかいな目にあっているらしい。
 彼女が困ってるとあれば駆けつけるのがヒーローってものだろう。
 いや、別にヒーローは彼女じゃなくても駆けつけるか。
 まあ、そこの議論はおいておこう。
 まずは目の前の探偵小僧に調査をお願いしなくてはならない。 


「そこでお前に聞こうと思ってな。
一体何が起きてるか調べてはもらないか?」


 こいつの調べる能力は凄い。
 多分某フランスの詩人みたいな名前の人位、調べるのが得意だ。


「別にいいですけど……。
月火さんは何て言ってるんです?」


 …………ええと。


「知らん」

「……は?」

「……なんか気まずくて聞けない」

「おい、カッコイイ系の彼氏」


 言うな。
 あくまで『カッコイイ系』であってカッコイイ彼氏ではないのだ。


「瑞鳥、お前は知ってるだろ?
俺がただの見かけ倒しだということを」


 呆れたような口調で、やれやれと両手を肩の斜め上に持っていき掌を空に向ける。
 外国人風の呆れアクションだ。


「俺は某テニヌの王子様に出てくる手塚部長みたいなルックスだが、中身はのびた君にも劣る生き物だ。
無駄な期待をするな」


 そう、無駄な期待はしないほうがいい。
 進学、クラス替えの度によってくる女子どもは俺の中身(無能)に気づいた途端離れていく。
 もちろん俺はなんとも感じない。
 相手の女子が時間を無駄にしているのではないかと心配してしまうくらいである。
 ……嘘、実は少しだけ傷ついてます。
 メンタルも弱いのだ。


「彼女の相談を聞く程度の期待はさせてくださいよ……」

「無茶言うな。
俺はコミュ障なんだ。
家族と月火とお前意外まともに喋れない。
ましてやその月火も、今はなんだか気まずいのに、そんなこと聞けるわけないだろ」


 人と話すのは苦手だ。
 こういうとこでも俺はクールだと勘違いされる。
 違うから。
 きょどってるだけだから。


「今まで無口キャラだと思ってましたけど……、そういうことだったんですね」


 びっくりです、とがっかりしたような顔で言う瑞鳥。
 どうやら俺の好感度にマイナス1されたようだ。


「……はぁ。
仕方ないなぁ、もう。
それじゃあ今から調べますから、今日の夜まで待ってください」

「分かった。
恩に着る」


 さすが瑞鳥、頼りになる。
 不肖の俺には勿体無いくらい出来た後輩だ。


「今後ココイチのカレー奢ってくださいよー。
トッピングはチーズで」

「了解だ。
高校生にはココイチのカレー程度、楽勝だ」


 こいつに勝ってるのは容姿と年齢くらいなので、その部分で報いれるというならば是非もない。
 実際、そんなに痛くないし。


「何で小遣い制なのに偉そうなんです……?」


 バイトしてないのに、という瑞鳥。
 かなり厳しい意見を貰ってしまった。
 俺の好感度は右肩下がりの日本経済だ。
 ところで経済ってなんだ?
 ……まあいいや。


「じゃあ、取りあえず調査の方は頼んだ。
俺は俺で調べてみる」

「まあ、頑張ってください」


 そんな感じで調査の依頼も完了した。
 後は自分で動くとしよう。
 ……あ、そうだ。
 協力してくれる後輩に、今流行りのサービスとやらをしてやろう。


「……瑞鳥」

「なんですか?」

「べ、べつに便利な後輩だなんて思ってないんだからね!
信頼の証なんだからっ!」


 今流行っているというツンデレサービス。
 正直何がいいのか分からんが、流行には乗ってみる。
 自分で考えてみても、正直ないなー、と思うサービスを受けた瑞鳥は、満面の笑みを俺に向けて浮かべ、言った。


「きもいです」


 ……まあ、そんな感じで第2章開始、である。















[30957] つきひフェアリー 2話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2012/01/09 17:44









 取り合えず外を歩いて月火の回りに起きている現象を調べる。
 すると、見覚えのある姿が見えてきた。
 小学生くらいの身長にツインテール、そして大きすぎるリュック。
 あの少女は確か……、一度公園で声をかけたことがある気がする。
 確か……蛞蝓麻呂井……だったか?


「久しぶりだ小学生」


 リュックに『八九寺真宵』とある。
 ……ああ、そうだ思い出した。
 迷子の小学生、八九寺真宵だ。
 『話しかけないでください、あなたのことが嫌いです』とか言われて凹んでる間に見失ったんだった。
 俺のことは覚えているのだろうか?
 今日は迷子じゃないみたいだし、前みたいに機嫌が悪いわけじゃないとは思うが。


「あなたは確か……」


 お、覚えているみたいだ。
 若いうちは記憶力が良くていいな。


「阿次来字さんでしたっけ?」

「誰だそれは!
俺の名前は蝋燭沢夕火だ!」


 普通に覚えてなかった。
 当然と言えば当然なので、別に気分を害したわけではない。
 ……でも、阿次来字って誰だ?


「失礼、間違えました」


 誤魔化す気満々だった。
 というか覚えてるのか覚えてないのかどっちだ?
 ……まあ別にいいか。
 多分顔だけは何となく覚えてるとかそんな感じだろう。


「今日は迷子ではないのか小学生」

「私は迷子になったことなんてありませんが……」

「む……」


 とぼけた顔をする八九寺。
 どうやらプライドを傷つけてしまったようだ。
 多感な小学生は大変である。


「はっ!
もしかして今噂のロリコンさんでしょうか!?
だとしたら大変です!
世の小学生たちが襲われる前に私が成敗せねば!」


 急に臨戦態勢を取る八九寺。
 無駄に重心がしっかりとしている。
 ……どうしよう、女子小学生に勝てる気がしない。
 取りあえず張ったりでもかまそう。


「ほう? どうやって高校生を倒すんだ小学生?」


 指の骨を鳴らしながら八九寺を見下す。
 ……指が痛い。
 しかし小学生を脅すには十分だろう。
 これで危機は乗り越えたはず……、


「おまわりさーんっ!!」

「すいませんでした!」


 勘弁してください!
 と言いながら女子小学生に土下座する顔だけはイケメンの男子高校生の姿がそこにはあった。
 なんと俺である。
 ……月火に知られたらどうしよう。
 怖い、怖すぎる。


「まあ、楽しい会話はおいておいて、聞きたいことがあるのだ八九寺真宵」

 
 俺は自然な動作で立ち上がり、膝についた砂を払う。
 丁寧に払う。
 月火がコーディネートした服を駄目にしたとなったら俺は殺されるだろう。


「はあ、なんでしょう?」

「阿良々木月火についてだ。
なにか知らないか?」


 小学生に尋ねるのもどうかと思うが、まあ誰がどんな情報を持ってるか分からない。
 取りあえず聞いてみるべきだろう。


「マララギさんについて……ですか」

「いや、そんな卑猥な名前ではない」


 人の彼女の名前になんてことするんだ。


「失礼、噛みました」

「……わざとじゃないだろうな?」

「かみまみた」

「本当にわざとじゃない!?」

「神田みか」

「その声優さんは若干マイナーじゃないか!?」


 異国迷路のクロワーゼの主役張ってた人だ。
 失礼な物言いだが、若干どころかかなりマイナーである。


「声優さんにマイナーもクソもありません!
声優さんはみんなアイルーなんですから!」

「まあ、猫は可愛いな」


 アイルーじゃなくてアイドルな。
 しかも声優はアイドルじゃないし。
 ……というか雑談してる場合じゃなくて、


「話がそれたが、阿良々木木月火について知らないか答えてくれ」

「蝋燭沢さん、噛んでますよ」


 ……噛んじゃった。
 しかも、木が一個多いです、と突っ込まれた。
 恥ずかしい。
 しかも、予想通りの答えが返ってきた。


「すいませんが力になれません」

「そうか」


 完全に恥のかき損である。
 しかし、まあしょうがない。
 そこら辺を歩いてた小学生が知ってるわけもないだろう(中学生ならともかく)
 分かり切っていたことだ。


「時間を取らせてすまなかったな」


 と言って、そうそうに退散する。
 ……そろそろ会話ももたなくなるだろうし。


「いえ、構いませんよ。
……ところで」

「ん?」

「どこかで会ったことありましたっけ?」


 覚えてないのかよ! と心の中で突っ込みを入れてその場をさる。
 いやもう、愛想笑いしかできない俺を笑ってくれ。
 知ってると思って話続けていた俺恥ずかしすぎる。
 そんな感じで、若干心にダメージを受けながらも俺は調査に戻った。





























[30957] つきひフェアリー 3話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:e6106477
Date: 2012/01/17 18:21









「おや?
君は確か……蝋燭沢君だったか?」


 小学生と別れた後、フラフラと外を歩いていると急に声をかけられた。
 制服を着た女子だ。
 姿勢がとても良い。
 スポーツや格闘技でもやっているのだろうか?
 ……いや、よく見れば知っている顔だ。
 というか物凄い有名人だ。
 髪型が違ったので気づかなかったが、名前は確か……


「そういう君は神原君だな」


 そう、神原駿河。
 バスケの神様である。
 この小さな町では知らない人が居ないほどの有名人である。


「む、意外だな。
私を知っているのか?」 


 それなのに本人はこんなことを言う。
 まあ自覚しない方が疲れないし、そういうことなのかもしれない。


「お前ほどの有名人はこの街に余り居ないな」

「名前が独り歩きしているという自覚はあるが……」

「独り歩きしてるのは伝説だがな」


 弱小バスケ部を全国レベルにしただとかレズだとかBダッシュが出来るだとかコンクリートを砕けるだとかレズだとか、
 そういう感じの伝説。
 なんというか、話だけ聞いたら都市伝説と勘違いしそうである。


「そうは言うが、君も結構有名だと思うぞ。
何故なら同い年なだけの私が知っているくらいだからな」

「俺が?」


 見かけ倒し的な意味だろうか?


「中学生と付き合っているだろう?」


 有名な話だぞ、という神原。
 ……ああ、なるほど。 
 まあ、俺はともかく月火は有名だからな。
 納得である。


「彼氏の名前は確か……」


 まあ他人の口から月火の名前が出るのは軽い嫉妬を覚えるが、同時に誇らしくもある。
 こうみえてかなり月火にぞっこん……、ってうん?
 彼氏?
 聞き間違えかな?


「瑞鳥君だ!」

「違うっ!」


 全然違う!
 寒気がしたわっ!


「同性愛をどうこう言うつもりはないが、
人を勝手にホモにするな!」

「BLを馬鹿にするな!
BLは文学だ!」


 マジ切れされた!?
 どれだけホモネタが好きなんだ!
 つーか文学がどうとかそういう話じゃなかったじゃん!


「そういうのは二次元だけにしといてくれ!」

「二次元とか……いやらしい」

「何故だ!?」


 意味が分からん!


「二次元という言葉だけで興奮するな。
腐男子という言葉並みに興奮する」

「そんな目で俺を見るな!」


 今、俺は神春の頭の中で瑞鳥と絡んでる。
 ……やばい泣きそう。
 考えるのを止めたい気分だ。
 つーかこの話題を止めよう。
 不毛すぎる。
 俺は強引に話題を変えた。


「そういえば、どうして空って青いんだろうな?」

「さあ?
蝋燭沢君のパンツが青い理由なら知ってるが……」

「俺のパンツを妄想で形成するな!」

 
 神原の妄想のなかでの俺なにやってんの!?
 なんか怖くなってきたわ!
 

「瑞鳥君が青色好きなのだろう?」

「そんなこと知らねえし!
そもそも俺のパンツは青じゃねえし!
つーかドヤ顔で言うんじゃねえ!
すっごく腹立つ!」


 ざんねん ほもねたからは にげられない。
 ああ、本当に勘弁してほしい。
 でも不思議だ。
 何故かすごく楽しい。
 俺はひょっとしてMなのだろうか。 


「しかし、旧知の仲のように話しているが、君と私は初対面だな」

「……そうだな」


 そうなのである。
 それなのにこの息の合いよう。
 これが運命というものなのだろうか?


 『私は先輩のことが……』


 ふと、昔の記憶がよみがえった。
 青臭くもあり、うれしくもあり、悲しくもある記憶だ。
 しかし、それで気づけたこともある。
 神原が、なんとなく月火に似ていたから普通に会話していたということなのだろう。


「まあ蝋燭沢君が中学生と付き合っていなくても、私は君を知っていたと思うけどな」

「それはどういう意味だ?」


 俺も中学生時代はやんちゃだったから……などと心の中で嘯いてみる。


「親が居ないからだ」

「……」


 ああ、なるほど。


「君は幼いころに両親を亡くしているだろう?
私もそうだったからな」

「確かに自分と同じ境遇というのは目立つな」


 言われてみれば、有名人の神原駿河は祖父母と一緒に暮らしていると聞いたことがある。
 俺の生い立ちも……まあ有名だ。
 あくまでこの街では、だが。


「そういうことだ。
……と、急いでるようだったのに話しかけてしまって悪かったな。
何か探し物をしていたように見えたが……」

「ああ、その通りだ」


 神原が申し訳なさそうな顔をする。
 まあ別に気にしてない。
 どうせ俺が調べるより瑞鳥の調査結果を聞いた方が正確なうえ早いのだ。
 だからこれは無力感を誤魔化すための行為に等しい。


「阿良々木月火……俺の彼女について何か知らないか?」

「何か……と言われてもな。
あまりに漠然としていないか?
月火さんの姉の生理周期なら知っているのだが……」

「いやそういうのいいから」


 びっくりした。
 月火は俺の後輩だったが、火憐も同様に後輩である。
 故にそんな恐ろしい情報は聞きたくない。
 俺の頭がスイカのように吹っ飛びかねないからだ。


「まあでも最近厄介ごとを抱えているのは知ってるがな」

「本当か!?」


 おお予想外。
 さっきの小学生からは有用な情報を聞き出せなかったが、バスケの神様からは聞き出せそうだ。


「ああ、詳細は知らないがな。
しかし、それについて知ってるかもしれない人物は知ってるぞ」
 
「誰だ!?
教えてくれ!」


 もしかすると、名探偵蝋燭沢の誕生かもしれないな。
 俺は若干嬉しい気分を感じながら神原の話に耳を傾けた。


「忍野扇という子さ。
この道をまっすぐ行けば会えるだろう」
























*********************************************




















「良い人ね、うん『良い人』
良い響きだ」

「確かに蝋燭沢君の言うとおり、映画とかで主人公側と敵側、それらを『良い人』『悪い人』と呼称する人は多い、……が」

「そもそも善人悪人という区別がおかしいとは思わないかい?」

「一般論でいう善人って言うと法律を守っている人。
逆に悪人は法律を守っていない人」

「それに則れば私こそ忍野扇と蝋燭沢君は善人ということになるだろう」

「でも、そんな評価がされる機会なんてほとんどない」

「多くの場合は、自分の価値観の中で第三者がその人間のことを評価するときに『善人』『悪人』という単語を使う」

「人によって大きく変わることはないが、
ある程度倫理感は統一されているが

「それでもその評価は、本人の価値観を無視している

「人によって大切なものは違う

「私は無難に自分だったり家族だったり友達が大切だったりするんだけど

「人によってお金だったり先輩だったりするけれど

「それらを大切にする行動が他人には『善』だったり『悪』だったりに見えるけど

「本人は自分の価値観の中で動いてるだけなんだよ

「だから厳密には『良い人』『悪い人』など存在しない

「存在するのは『良い行い』『悪い行い』『良い価値観』『悪い価値観』、そういったものだ

「ゆえに今まで『悪』だと思っていた人が、自分の価値観の中で『良い行い』をしたからと言って、その人が『善』であると判断するのは、その人にとっての侮辱に等しい

「悪であると自覚して泥を啜って生きてきた者を、善というぬるま湯に浸し薄めてしまう愚行

「私はそれこそ悪だと思うね

「人の人生を侮辱している

「人の決意を侮辱している

「と、いうわけで私は映画とかで主人公側と敵側、それらを『良い人』『悪い人』と呼称する人が好きじゃないね」


 1つ弁解すると、俺は『映画とかで主人公側と敵側、それらを『良い人』『悪い人』と呼称する人が多い』なんて台詞は吐いてない。
 こいつ……忍野扇という少年(少女?)が勝手に喋り始めたのだ。
 ちなみにこの子が神原が言ってた、月火について知ってる人である。
 かなり不思議な雰囲気の子だ。
 不思議なのは雰囲気だけじゃないけど。


「ああ、すまない。
阿良々木月火のまわりで起こっていることについて、だったね」

「……あ、ああ」


 ……やばい、かなり気おされてる。
 というか何だこいつ?
 俺らは初対面だし、そもそも道路ですれ違う瞬間に急に一方的に喋り始めたのだ。
 わっけわかんない。


「残念ながら知らないよ。
私は信号が両方赤になるタイミングがあるという雑学以外何も知らないからね」

「……極端な知識だな」


 生きていくのも大変……というか生きていくのに必要ない知識しかないらしい。
 びっくりだ。
 何より初対面の俺相手に意味不明な雑談をした後に冗談をいうその胆力にびっくりだ。


「まあでも、わざわざここで私がなにかを言わなくても……、
ほら」


 忍野扇が俺を指差す。
 正確には、俺のズボンのポケットあたりを指差す。
 と、同時に


「……え?」


 ピリリリリ、といった単調な電子音が流れる。
 俺の携帯の着信音だ。
 相手は……


「つ、月火!?」


 若干気まずいが、電話が掛かってきたのは素直にうれしい。


「……っ!」


 何となく不安な気がして正面を、忍野扇の方を向く。
 しかし、


「……いない?」


 消えていた。
 物音もなく。
 目の前から。
 完全に。
 ……不思議だ。
 ああ、不思議だ。
 不安になる。
 気になる。
 調べたい。
 ……しかし


「うおっ!?」


 体が勝手に反応する。
 だって仕方ないじゃないか!
 もう3コールを過ぎている!
 これ以上待たせたら、短気な月火は怒る。
 きっと、いや必ず怒る!
 俺は反射的に電話にでた。


「……はい、もしもし」


 緊張して心臓がロックのように早鐘を打つ。
 絶対怒られる。
 間違いなく怒られる。
 地の底から引きずり込むような声で俺の名前を呼ぶに違いない。
 と、そんな感じに覚悟していた俺の耳に飛び込んできた声は、正直予想外のものだった。


「もしもし、阿良々木暦です」

「……え?」


 まあ、そんな感じで、俺は彼女の兄と初めて会話をしたのだった。













[30957] つきひフェアリー 4話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:50ed5fed
Date: 2012/01/31 23:50










 そろそろ俺と月火が出会った時のことを回想するべきじゃないだろうか?
 今でこそお互い好意を抱いていると確信しているが、目と目が合った瞬間からそうだったわけではもちろんない。
 当時中学三年生の俺と中学一年生の月火には、特に接点がなかった。
 武力的におっかない二年生女子と性格がおっかない一年生女子の存在は知っていたが、関わりがあったわけではなかった。
 では何故俺と月火が出会ったかと言うと、実はかなり特殊なシチュエーションだ。
 それを語るには俺の過去をひけらかす必要がある。
 なので、少し申し訳ないのだが俺の昔話に付き合ってもらいたい。
 大丈夫、そんなに長くはならないだろう。
 精々十行程度だ。
 まあ聞き流す程度に、読み流す程度に斜め読みしてくれればいい。
 それじゃあ、始めよう。

 最古の記憶は小学校に入学する直前。
 俺の戸籍の記録が5歳から6歳に変更して表示されたころだ。
 それ以前の記憶はない。
 一切ない。
 それだけ聞いたら、別に普通だと思うかもしれないが、そうではないのだ。
 記憶喪失。
 記憶喪失なのだ。
 俺は5歳までの記憶がいっさいない。
 5歳の誕生日に行方不明になり、それから丸一年姿を消していた……らしい。
 まあ覚えてないわけだが。
 なんせ記憶喪失だし。
 
 そんなわけで俺は6歳からの記憶しかない。
 両親のことはおろか、箸の使い方すら忘れてしまっていたらしいのだ。
 つまり比喩でもなんでもなく、俺は6歳から生まれた。
 そう言っても過言ではない。
 両親も最初は苦労した……らしい。
 苦労して、俺を元に戻そうとしていたらしい。
 しかし、俺はすでに一度死んだも同然だった。
 なかなか思い通りに動かない俺にいらだった若夫婦の2人は、よく喧嘩をしていたようだ。
 色々とあったらしいが、最終的には俺が7歳になったころに2人は離婚した。
 俺を引き取ったのは母親。
 しかし、その母親も俺の世話を祖父母に任せて、家を出て行ってしまったそうだ。
 
 結果として、俺は母方の祖父母に育てられるかたちになった。
 祖父母は常識のある人たちで、しっかりと俺を教育してくれた。
 お蔭で今はまともな人間になっていると思う。
 そのことにはどれだけ感謝してもしたりないだろう。

 しかし、そんな祖父母に囲まれていても俺はまともでいられない時期があった。
 というかつい最近までそうだった。
 小学校4年生から中学3年生の2学期までの間。
 実に5年間近く。
 俺は自暴自棄というかなんというか……、有体に言えば人助けをしていた。
 誰かを助けるために奔放していた。
 なにか理由があったはずだが、忘れてしまった。
 まあ、それは今問題じゃないので思い出さなくても良いだろう。
 それよりなにより、今は月火だ
 俺がまともになった理由は、祖父母のお蔭ということもあるが、大いに世話になったのだが、
 それでもきっかけと言えば、月火なのだろう。
 月火が俺を、変えたのだろう。
 
 とまあこんな感じで俺は月火に出会うまでの人生を送っていたわけだが、
 そんな人生に変化をもたらしてくれたであろう月火と出会ったのは、かなり特殊な場所だった。
 場所は地下にあるバー。
 暇人……というかアンダーグラウンドな方々が集まる場所だ。
 どうして中学生である俺と月火がそんなところに居たかと言うと、
 とある事件で鉢合わせたのだ。
 薬物が学生を中心に出回るという、事件に。
 俺はその事件を調査し、黒幕が居るだろう場所に乗り込んだ。
 そこが地下にあるバー。
 外国の言葉だったので、今でも読み方が分からないのだが、
 怪しい雰囲気の場所だった。
 如何にもな場所だった。
 そこで俺は、月火に出会ったのだ。
 言い換えれば、運命に出会った。夜に。
 Fate/stay nightである。
 

 さて、お待ちかね、最近アニメで大人気の月火の登場である。
 中学生の癖に肌蹴た着物が色っぽいと評判だが、当時の俺はそんな要素に気づく余裕がなかった。
 なぜなら、黒服を着たマフィアっぽい人たちにリンチされていたからだ。
 当時の俺の状況を端的に語るなら、達悪いヤンキーどもを説得しようと思ったらガチマフィアが居たでござる、と言った感じだ。
 流石に俺も死んじゃうかなー、とか思っていたら思わぬところから助けがきたのだ。
 それが、ファイヤーシスターズこと阿良々木火憐と阿良々木月火だった。
 彼女達は様々な手段を使い、火憐とマフィアのリーダー格の男の一騎打ちとなった(今でもどうやったか知らないから濁してる。まあ気にしないでいいだろう)。
 勝負方式は何故かロシアンルーレット。
 そして、その勝負の末勝ったのは火憐のほうだった。
 結果俺は助かった。
 俺は完全に殴られ損。
 無駄だとは言わないが、無駄に痛いのは確かだ。
 そんな俺に、ぼこぼこにされて立ち上がることの出来ない俺に対して、月火はこう言った。


「私は先輩のことが大嫌いです」


 え? なにこのおっかない女の子たち俺の後輩なの?
 ロシアンルーレットとかやっちゃう女の子が中学校に通ってるの?
 こえー。
 最近の女子中学生こえー。
 とか思った。
 初対面故に大嫌いという言葉に対してショックは受けなかった。 


「お人よしの蝋燭沢先輩。
困っていたら、それが友人でも恋人でも家族でも他人でも犬猫でも身を挺して助ける……。
別にそれに対して文句はないわ。
話を聞いたとき『やるじゃん』って思ったし」


 なんで上から?
 しかも敬語じゃないからね。
 別に礼儀に厳しいわけじゃないけど、最初に敬語だったのにすぐにため口になったことに対する違和感が強かった。
 

「でも、死にたくないけど身を挺して誰かを守るのと、
死んでもいいから身を挺して誰かを守るのとじゃ、全然違う」


 火憐ちゃんとあなたのように。
 月火は確かそう言ったはずだ。
 俺は黙って聞いていた。
 口を動かすのも億劫なほどボロボロだったからだ。
 それだけじゃないかもしれないが、それだけじゃないのだが、
 そういうことに、しておいた。


「別に死にたがってるわけじゃない……って顔をしてるね。
でも、生きたいわけでもないでしょ?」


 ……。
 実際のところ、結構痛いところをつかれた感じだった。
 

「自分には生きる権利がないとでも思っている顔ね」


 そう。
 この時俺は祖父母のおかげでまっとうに生きていた。
 でも、両親の離婚は自分のせいだと思っていた。
 だから、自分は幸せになってはいけない。
 他人の幸せの為に、自分を犠牲にするのは当然だと思っていた。
 それが、義務なのだと。


「別にあなたがどういう人間でも構わないけど、
同じ人を見て、同じように憧れたはずなのに、そんなものに成り下がったあなたが許せない」


 何のことだか分からなかったが、誰の事だか分らなかったが、
 その言葉が、その時の俺の胸に響いた。
 忘れてしまった綺麗なものを思い出したかのような、そんな感じだ。
 月火がとても眩しいものに見えた。


「だから、私は先輩が大嫌いです」


 だから、そんな言葉を聞いて、俺は月火に惹かれてしまった。
 正義の味方ぶって投げやりな人生を送っていた俺が、もっと目の前の少女を知りたいと心から思った。
 

 これが俺と月火の出会い。
 俺が生まれ変わるきっかけになった事件だ。
 淡々と語ったゆえ面白くもなんともない文章になったが、まあこんなものだ。
 月火にとってどうかは知らないが、俺にとって月火は運命の人だった。
 それから俺は多少コミュニケーション障害になりつつも、まっとうな人間になっていったのだ。
 自分と月火の幸せを願えるような、まっとうな人間に。
 

 さて、それでは回想終了。
 場面は、俺が月火のお兄さんと電話会話するところまで戻る。
 いや、進む。
 
 






















*******************************************



















「蝋燭沢夕火君だな?」

「あ、はい」


 やっべ、緊張する。
 彼女の兄と顔を合わせる前に電話で会話とか罰ゲームに等しい。
 いや、顔を合わせるのも罰ゲームだけれども。


「月火ちゃんと付き合っていると噂の物好きの……」

「噂じゃないです」


 事実です。
 と、言う。
 物好きは否定しない。


「あれか?
他の女の子と話すとカッターを持って追いかけられたりするのか?」

「……?
そんな女子中学生はいないと思いますが」

「女子高校生には居るんだよ」


 気をつけろよ男子高校生。
 そういう暦さんの声は若干の疲れと親しみが漂っていた。
 

「精々茶筅を口に突っ込まれてかき回されるくらいです」

「怖いな!」


 着物を着る為に入った茶道部の道具はそんなところで有効活用されているのだ。
 しかも、俺の口に抹茶の素を入れてかき混ぜながら『私、この間茶碗を壊しちゃったんだよね。力入れ過ぎて』とか言うのだ。
 普通にホラーである。


「月火ちゃんの半分はヒステリーで出来てるからな……。
正しいと判断したら躊躇しないし」

「俺を弄るのに大義名分は必要ないとか言ってます」


 こえー、という暦さん。
 月火曰く愛ゆえに、らしい。
 普通にうれしいけど、怖くもある。


「まあ、僕は頭を何発も殴られたのち監禁されたこともあるが蝋燭沢君には及ばないな」

「いえ、ぶっちぎりすぎです」


 女子高生が怖くなった。
 月火もあと2年したら女子高生だ。
 そしたら俺も監禁とかされるのだろうか?
 ……ちょっと興奮する。


「人生何事も経験だぞ後輩。
彼女に監禁されることもあれば初対面の後輩に殺されかけることもある」

「人間関係の構築って、聞こえは良いけどリスクが高いんですね」


 引きこもりが増えるわけだ。


「まあ俺はコミュ障なので一部の人以外話せないですけど」

「コミュ障?
ふーん」


 どこか不思議そうな雰囲気を言葉に乗せる暦さん。
 何かおかしなこと言ったか?


「まあいいや。
それより蝋燭沢君、君にお願いがあるんだ」

「お願い……ですか?」


 そうだ、と俺の問いに答えて暦さんは言葉を続ける。
 それはあまりに予想外な言葉だった。
 青天の霹靂といったところか。
 聞いた当初、俺はどう反応すればいいか分からず、『は?』と間抜けな声を出してしまった。
 それは、こんな言葉だった。
 

「脈絡もなくて申し訳ないんだけど、
ちょっと金髪幼女に噛まれてくれないか?」


























[30957] つきひフェアリー 5話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:a5ad8c57
Date: 2012/02/06 21:17









 
 ……この蝋燭沢夕火は、
 いわゆるロリコンのレッテルをはられている。
 クラスの男には俺をロリコン呼ばわりして笑う奴もいる、
 クラスの女は俺を白い眼で見るし、小柄な女子は俺と2度と目を合わそうとしない。
 『黙れこのロリコン野郎!』なんて罵られるなんてのはしょっちゅうだ(月火に)。
 だが誤解しないでほしい。
 俺は別にロリコンじゃない!
 年下好きというわけでもない!
 偶々好きになったのが月火だっただけだ。
 偶々好きになったのが2歳年下だっただけだ。
 偶々好きになったのが中学生2年生だっただけだ。
 

「というわけで俺は別にロリコンじゃないです」

「……?
当然だろ。
男子高校生が女子中学生を好きになるのなんて、運動した後水分を補給するくらい当たり前のことだ」


 ……そうか?
 俺以外に中学生と付き合っている高校生は少ないぞ。
 年下との恋愛に妙に肯定的な意見を出す暦さんは、ひょっとして年下好きなのだろうか?


「さっきのは別にそういう意味で言ったんじゃない。
蝋燭沢君は月火ちゃんのまわりに起きている事件と言うか事故について調べているんだろう?」

「はい」


 月火のまわりが異常だということは、月火が危ない目にあう可能性があるということだ。
 俺はそれを見過ごせない。
 可能ならその危険を取り除きたい。


「それを解決するには、ちょっと特殊な手順が必要なんだ。
専門的な知識がないと危険な目にあう可能性がある。
だから蝋燭沢君は金髪幼女に噛まれてくれ。
そしたら後は僕がなんとか……」

「すいません、だからの後が意味わかんないです」


 なんで俺が金髪幼女に噛まれると月火が助かるんだ?
 あれか? 俺が居ない方が月火は幸せだってことか?
 つまり豚箱にはいれってことか?


「気にするな後輩」


 無茶言うな。


「よく分かんないですけど、それで月火のまわりで起こってる問題が解決するなら文句はないです。
……それでも、月火が絡んでることで素直に引くことは出来ません。
せめて理由を教えてください。
可能なら、力になりたい」


 可能じゃなくても、力になりたい。
 そう思うのは、当然のことだ。


「彼女だからか?」

「そうです。
愛していますので」

「愛があれば何でも救えるとでも?」

「いえ、愛は人を救えません。
愛で飢餓はなくなりませんし、戦争も犯罪もなくなりません」



 でも、それでも……、


「愛は人生を救ってくれます。
伽藍堂だった俺の人生を、月火は救ってくれました。
理由なく人を助けることに固執していた俺は、死んでも仕方ないと思っていた俺は、
月火の為に生きたいと思ってます」


 無気力な俺を、忘れてしまった理想を追いかけていただけの俺を、
 身投げをするように人助けをしていた俺を救ってくれたのは、月火だから。
 月火に会うことで、俺は、救われたんだ。 


「お願いです、暦さん。
俺はどうしようもない馬鹿で運動音痴で、そのくせ正義の味方もどきだったような奴ですが、
月火の為に頑張らせてください」


 月火と生きたい。
 月火の為に動きたい。
 今はそれが、俺の存在理由だ。 
 正直な気持ちだった。
 それを聞いて、暦さんは小さく息を吐いた後、少し迷ったように時間を空けて、言った。


「……妖精」

「え?」


 急に日常ではあまり使わない単語が聞こえ、思わず気の抜けた声が出た。
 よう、せい?
 陽性じゃなくて養成でもなくて無論幼生でもないだろう。
 おそらく妖精のことだ。


「今回月火ちゃんのまわりに居る怪異だ。
聞いたことくらいあるだろ? 妖精」

「そりゃまあ」


 電子の妖精とか大好きだし。


「それで、その妖精とやらを倒せば月火は助かるんですか?」

「助かるのは月火ちゃんじゃない。
蝋燭沢君のほうさ」


 確かに月火が助かれば俺は嬉しいが、それで俺が助かるというのは若干飛躍してないか?


「別にあいつの身に危険が迫ってるとかじゃないしな」


 言いながら、暦さんは言葉を続ける。
 言い聞かせるように、説得でもするかのように。
 俺に対して、言葉を吐く。


「だから助かるのは蝋燭沢君、
やっぱり君なんだよ」

「いや、別に俺の身に危険が迫ってるとかじゃないですし……」


 最近の俺の人生は平和そのものである。
 助けられるような状態じゃない、はずだ。
 それなのに、


「そもそも、おかしいと思わないか?」


 暦さんは言葉を続ける。
 言い聞かせるように、説得でもするかのように。
 俺に対して、言葉を吐く。


「背が高く筋肉質なのに、運動音痴でケンカじゃ小学生にも負ける。
端正な容姿なのに異性からは『感じ悪い』としか言われない。
理解力も記憶力も応用力もあるのに、勉強が全くできない。エジソンすら知らない始末だ。
しかも、初対面……というか顔も合わせてない僕と会話が弾むのに自称コミュニケーション障害ときた」

「……それは」


 それは俺が見かけ倒しなだけで……、


「見かけ倒しなだけ……なんて言うなよ。
明らかにおかしいんだ。
君は矛盾を抱え過ぎている」


 暦さんが息を吐く。
 俺がおかしい。
 否定は出来ないが、俺の思っている『おかしい』と暦さんの言う『おかしい』はきっと違っている。


「神原を覚えているか?」

「は?」


 急になんだ?
 かんばる……か。
 それは知っている名前だ。


「今日は話したはずだろ?」

「まあ、そりゃあ覚えてますけど……」


 流石の俺でも今日話した人間のことは忘れない。
 そこまで鳥頭じゃないはずだ。


「じゃあ八九寺は?」

「はちくじ?」


 聞いたことがない。
 八時半のことだろうか?


「ツインテールの可愛い女子小学生さ。
君は今日その子に会ったはずだ。
覚えているか?」

「いや、覚えてないです。
というか……、今日女子小学生に会った覚えなんてないです」


 そう、今日会ったのは神原と瑞鳥だけだ。
 それ以外の人間とは会っていない。
 だって俺は、一部の人としか喋れないコミュ障だから。


「それさ」


 暦さんは、教師が教え子に算数でも教えるかのように穏やかな口調で、言った。


「君は、記憶喪失だ」

「確かに俺は6歳の時に記憶喪失になりましたが……」

「違う」


 違う、らしい。
 その次に続く暦さんの言葉は荒唐無稽なものだった。


「違うよ蝋燭沢君。
君は、現在進行形で記憶喪失だ。

「忘れているんだよ、君にとって重要なこと以外。
妖精に、記憶を盗まれているんだ」


























****************************************






















「蝋燭沢君は運動音痴で頭が悪い。
誰もがそう思っていたはずだ。

「でも違う。
君は忘れていただけだ。

「体の使い方を、手にした知識を。
日常生活に支障のない程度に。

「昔、行方不明になったことがあるみたいだな。
その時は全部盗まれた。
そして、それから蝋燭沢君には妖精が、憑いた。

「妖精には色んな種類があるけれど、君についた妖精は人の記憶が好きらしい。
大切な思い出を残し、それ以外を盗んでいく。

「自分が異常に忘れっぽいって思ったことは?
知らない人に声をかけられて戸惑ったことは?

「それが君が頭の悪いと言われる理由で、
君が自分をコミュニケーション障害と思ってる理由だ」


 暦さんは、一息で俺を説明した。
 そしてそれらは、納得できる理由でもあった。
 俺が駄目な理由だ。


「……大体分かりましたが、納得できる理由ではありましたが、
でもそれが今回の月火と何が関係あるんですか?」

「君は、最近月火と会っていないらしいな」

「……まあ」


 気まずくて話せないという、何とも情けない理由だが。


「それが原因だ。
会っていないということは、思いだけ馳せると言うことだ」


 思いを馳せる……か。
 まあ、会えない分だけ月火のことを考える時間は増えたことは確かだ。


「残したい記憶が更新されない。
すると優先順位の高い記憶が蓄積されない。
結果優先順位の低い記憶のみ備蓄され、取捨選択が難しくなる」


 記憶の取捨選択……。
 確かに俺の記憶の中で最も重要なものは月火関連の記憶だ。   


「妖精には優先順位が低い記憶の中から更に優先順位の低い記憶を割り出すような細かい動作はできないんだろうな。
結果妖精は優先順位の高い記憶を採取しに行く。
月火ちゃんの元へ」


 優先順位という単語が多すぎる。
 ワードだったら赤い波線が付きそうだ。


「妖精は悪戯好きという説が多い。
記憶を採取に行った妖精が周りの人間に悪戯をした。
それが今回の事件と言うか事故の真相だ」


 理解は出来た。
 納得は出来ないけど。
 オカルトはちょっと信じられないが……、月火のお兄さんは信じたい。
 つまり話半分に聞いておこう。


「つまり蝋燭沢君に憑りついている妖精を退治すれば、今回の件はまるく収まる。
まあ月火と会えば良いわけだが、それじゃあ根本的な解決にならないし」


 喧嘩の度に同じようなことがあっても困るしな。
 と暦さんが言った。
 妖精を退治って聞いたことがない。
 塩でもかけるのだろうか?
 ……いや、そういえば冒頭で金髪の幼女だか少女だか童女に噛まれるとか言ってた気がする。
 もしかして、それが妖精の退治方法なのか?


「それを解決するには、俺が金髪少女に噛まれる必要がある、ということなんですね?」 

「おい」


 今まで丁寧な口調だった暦さんが、やけにドスのきいた声をだす。
 びっくりした。


「金髪幼女だ。
少女じゃない。
二度と間違えるな」

「す、すいません……」


 二度びっくりした。
 そんなに重要か? 


「まあ取りあえず分かりました」


 怒れる暦さんをスル―するために話題を変換する。
 分かってないのに分かったと言う現代っ子だ。


「それじゃあ待ち合わせをしましょう。
えっと、30分後に月火の通ってる中学校で……」


 取り合えず会ってみればわかるだろうという安易な考えで待ち合わせを予定する。
 しかし、どうやら彼女の兄と待ち合わせるという簡単なことですら、人生は思い通りにいかないらしい。
 俺の告げた言葉に対する返事の前に、ピッと軽い電子音が俺の右耳の方から聞こえた。
 不思議におもった俺は液晶を顔の前まで持ってくる。
 通話終了という文字が目に飛び込んできた。
 間違えて押してしまったのだろうか?
 いや、それはない。
 ボタンを押した感触がなかった。
 つまりこいつはいったいどういうこと……、


「その必要はないよ」


 と、頭を抱えていた俺に対して言葉を発する存在があった。
 先ほどまで携帯電話を持っていた方角、右のほうから声が聞こえたのだ。
 声の元は中性的な子供だった。
 年齢は小学生1年生程度。
 一般的に美形と言われるだろう整った顔立ちに、美しいソプラノの声。
 それだけだったら不思議に思わなかった。
 不用心な親が放し飼いにしてるやんちゃな子供だとしか思わなかっただろう。
 例えそれが、毎日鏡で見る顔に似た面影を宿しているとしても。
 勘違いだとしか、気のせいだとしか思わなかったはずだ。
 しかし、それ以上に見過ごせない箇所があった。
 どうしても常識的とは言えない箇所があった。


「久しぶりだね夕火君。
いや、初めましてと言うべきかな。
ボクが妖精だよ」


 そんな感じで自己紹介をした目の前の存在は、背中に鮮やかな蝉の羽根のようなものを生やし、
 1mとちょっとしか身長がないはずなのに、俺の顔の正面に自らの顔を持ってきたのだ。
 その子供は、80cm程宙に浮いていた。



























[30957] つきひフェアリー 6話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:35746457
Date: 2012/02/10 21:53












「う、浮いて!?」


 小学生低学年くらいの子が羽根を生やして浮いてる!
 衝撃的な映像だ。
 正気を失いそうだ。
 分かりやすく言うと1D3くらい。


「おいおい、ボクの可愛らしい羽根を凝視するなよ。
大体ボクの姿なんてアルバムとか鏡で見慣れてるだろ?」

「じゃ、じゃあやっぱり……」


 衝撃的な事実追加。
 今まで描写を避けてきたが、目の前の存在が言うとおり、
 昔の俺にそっくりな外見なのだ。


「そう、ボクは君で、君はボクだ。
君はボクの将来の姿なわけだね。
まあ、ボクに未来なんてないのだけれど」


 外見の幼さに似合わないシニカルな表情を浮かべて、語る。
 まるでもう一人の俺であるかのような口調だ。


「いやー、しかし期待しただろ?
ロリっ娘のパートナーが出来た! とか思っただろ?
この年齢のボクの外見は中性的だからね。
でもまあ、パートナーとかにロリっ娘が選定されるのは主人公だけだよ。
君のような脇役にはショタで十分さ。
残念だったね」

「俺はロリコンじゃない」

 
 大体パートナーがロリっ娘とか漫画やアニメじゃないんだから……。
 ありえないっつーの。


「知ってるさ。
なんせボクだからね」


 君のことは君よりもよく知っているさ。
 そういって、自称妖精は浮いたまま俺のまわりをクルリとまわる。


「お前が……妖精なのか?」

「そうだよ。
最初に言ったじゃん。
人の話はちゃんときこーぜ高校生のボク」


 ニコニコ言うよりはニヤリといった笑いを浮かべて俺を見る自称妖精。
 まるでラスボス気取りだ。
 デウスエクスマキナでも遂行するつもりか。


「急に新キャラが登場してラスボス気取りとか、これが小説だったらひどい物語だな」


 と、思ったことを口にしてみた。
 なんとなく気にくわなかったからだ。


「別になんの伏線もなかったわけじゃないさ。
それに、君が気づかなかったのはボクが悪いんじゃない。
君が悪いのさ。
何時まで経っても子供だからそうなるんだよ」


 俺の悪態のようなものに返答する妖精。
 どうやら俺が悪いらしい。


「そもそも君は脇役だからね。
主人公はとっくにボクの存在に気づいていただろうさ。
つまりこれが小説だとしたら、君が語り部であることが間違いだね」


 さらに言葉を続ける妖精。
 どうやら俺は脇役らしい。
 酷い言われようだ。


「まあいいさ。
お前が妖精だと分かっただけで良かった」


 だって明らかに人外の者だ。
 つまり、こいつが暦さんの言うすべての元凶……俺の6歳以前の記憶を盗んだ張本人なのだろう。
 と、俺は確信したわけだが、しかし……


「うん?
信じられるというのはアレかい?
電話口でお兄さんが言ってた『記憶が云々』って話かい?
だとしたら一笑に付さざるをえないね」


 一笑に付された。
 どうやら違うらしい。


「気づくのが遅いんだよ。
いくらなんでも現実逃避が過ぎるぜボク。
ボクみたいにキュートなショタっ子ならともかく、夕火は高校生だろ?
もう少し現実を見なきゃ」


 と思ったら本当だったらしい。
 なんて紛らわしいやつだ。


「それじゃあ、やっぱり……」

「そう!
ボクが夕火の記憶を奪っていたのだ!
犯人はボクだ!
いえーっ!」


 テンションたけーなおい。
 つーか飛び回るな。
 さっきから羽根が顔に当たってうざい。
 誘拐犯であることを自首したくせに悪びれない奴だ。


「じゃあ、お前が10年前に俺を誘拐した妖精……」

「は?
違うよ。
濡れ衣とか勘弁だよボクは」


 ……あれ?


「……え?
だって暦さんは……」


 暦さんが言うには昔俺を誘拐して記憶を奪った妖精が今でも俺に憑いてて、
 そいつが原因で今回の事件が起きてるって……。


「ああ、お兄さんが言ってたことは根本が間違っているという点に目を瞑れば概ね正解だけどね。
その違う点というのが、ボクが妖精という自然の怪異だということさ」

「いやおかしいだろ。
だってお前自分のこと妖精って……」

「ボクは妖精さ。
この綺麗な羽根を見ればわかるだろ?
問題はそこじゃない。
ボクは人工の妖精なのさ。
人々の恐怖や噂が生み出した怪異じゃない。
ボクは、君が生み出した怪異なのさ」


 よく、分からない。


「どこかの天才とは違って新種の怪異というわけじゃないけどね。
だって君はそんなに優秀じゃない。ただの脇役だからね。
君の都合のいい存在を妖精と言う既存の怪異のくくりで作り出したのさ」

「俺にそんな記憶は……」

「そんな記憶はないって?
当然でしょ」


 だってボクがそれを盗んだんだから。
 そう言って、妖精は言葉を続ける。


「夕火がそれを望んだのさ。
事故で記憶を失って、両親と上手くいかない夕火は昔の自分を再現した。
無論記憶がないから、想像の産物だけどね。
そうして君は明るい、昔そうだっただろう蝋燭沢夕火をつくりだした。
そして自分は何もできない無能に成り下がった。
心が疲弊してたんだろうね。
理解は出来るよ。
なんてったって自分のことだ。
でも、両親がそんなまがい物を喜ぶはずがない。
すぐに破たんする。
というか破たんした」


 初めて聞く内容のはずなのに、なぜだろう心が痛い。
 まるで嫌なことを聞いてしまったかのような、忘れたかったことを思い出したかのような。


「もう、このくだりを詳しく説明する気はないね。
詳細を知りたければ悲劇系のドラマでも見ればいい。
大体そんな感じだよ」


 つまらなそうに、投げやりな感じで、妖精は言った。


「そのまま君とボクが二重人格として存在すれば有触れたファンタジーだったんだけどね。
残念ながら、君はボクを中身から追い出した。
おかげでボクはすっごく退屈だったよ。
まあ悪戯したり君の記憶を盗んだりして暇つぶしはしてたけどね」


 話のつじつまは合う。合ってしまう。
 取りあえず納得しておく。
 理解しておく。
 気になる点があるからだ。
 

「大体分かった。
でもなんで急に姿を現したんだ?」

「そりゃあ熱血にして鉄血の吸血鬼に消されそうだったからだよ。
誰だって死にたくはないさ。意思のある存在にとっては当然の思考だよ」


 歌うように軽やかに、当たり前を口にする妖精。
 吸血鬼? 何の話だ?
 まったくつかめない。
 つかみどころが、ない。


「だから認めてほしいのさ、君にね」


 妖精はそう言って自らの右手を俺の左頬に当てる。
 小さな男の子のはずなのに、情婦のような表情で俺に語る。


「ねえ夕火、
ボクは君だ。
君のもう一つの姿だ」


 俺の瞳を覗き込みながら、舞台上の役者のように芝居がかった声で語る。


「君が見たくなかったもう一つの姿だよ。
ボクを認めて記憶を取り戻すかい?
ボクから目をそらして全てを忘れたままにするかい?」


 しかし、言っている内容は芝居でもなんでもない。
 切実だ。
 命を賭けた、交渉だ。
 これだけ近くに目があれば分かる。
 目は口ほどに語る、だ。


「君が決めるんだ。
君しか決められない」

「急な……展開だな」


 急すぎる。
 まるで物語を無理やり終わらせようとしているみたいだ。
 デウスエクスマキナ。
 その例えも間違いではなかったのかもしれない。


「君が脇役だからさ。
君の物語に時間をかけてなんていられないんだよ」

「酷い話だ」


 吃驚するほど辛辣である。
 もう一人の俺を語る癖に、異常な程俺に厳しい。


「断ったら?」

「オレサマ オマエ マルカジリ」

「マルカジリされるのはお前だろうに」


 吸血鬼とやらにな。
 恐らく暦さんの言っていた金髪幼女というのが吸血鬼のことなんだろう。
 比喩表現なのか事実なのかはわからないが、妖精にとっては絶望的存在であることは確かだった。


「その前にボクが夕火を噛むさ」


 耳とかをね、と言う妖精。
 勘弁してほしい。
 万が一目覚めたらどうしてくれるつもりだ。
 ショタ趣味でナルシストとか終わってる。


「お前を認めたら、俺は今までの人生で失った記憶を思い出すのか?」

「そうだよ。
今までの人生で、君が必要ないと思った記憶を取り戻すのさ」


 取り戻せるのは取り留めもない記憶と、忘れたい記憶。
 現状の俺で満足している身としては、殆ど利益のない取引に思えた。
 ああ、いやでも。
 俺には忘れている大切なことがあったはずだ。
 両親のことはいい。
 あれは仕方のないことだ。
 それに、俺の人生は平均あと60年以上続くはずだ。
 それだけあれば、顔を覚えてなくても、なんとかなる。
 時間が解決してくれる。
 でも、あの記憶は取り戻したい。
 俺を変えたあの記憶を、俺は取り戻したい。
 今まで気になっていたんだ。
 どうして俺は正義の味方になりたいと思ったのか。
 月火の言う、俺が憧れたものとはなんなのか。
 俺はその記憶を取り戻したいと、思った。
 だから……、


「嫌な物言いだな。
まあでも、分かったよ。
お前の言い分は分かった。
自分の言うことほど信用できないものはないが、今回は信じてみるとしよう」


 目の前の俺の分身を自称する妖精を、信じてみることにした。
 取り戻してみたい記憶があるから。
 過去の自分のルーツを知りたいから。
 そんな中学二年生みたいな心境を胸に、俺は妖精の手を掴んだ。


「さて、暦さん……主人公が来る前に終わらせようか」


 今の状態が主人公に見つかったらやっかいだ。
 脇役はともかく、主人公の主観というのはどこで商業化されているか分からない。
 全国ネットでショタと手を繋いで見詰め合ってる描写が流れたら、俺は1カ月ほど引きこもるだろう。
 と、そんな感じに俺は危惧を抱いていたわけだが、


「うん?
いや、お兄さんは主人公じゃないよ。
確かにお兄さんは主役格ではあるけども、今回の物語じゃあ脇役さ」


 どうやら勘違いだったらしい。


「え?
それじゃあ誰が主人公なんだ?」


 暦さんが主人公じゃないならいったい誰が……、


「タイトルを見ろよ。
一目瞭然じゃないか」

「……予想外だ」


 わーお、って感じだ。
 どうやら俺と月火の日常は世間に流布している可能性があるらしい。
 死にたい。
 ……まあいいや。
 気にしないことにしよう。
 嫌なことは忘れ……ちゃ駄目だな。
 今からそういうことは出来なくなるのだろう。
 俺はすぐ近くに見えている未知に対して期待と怯えを抱きながら、
 握っている妖精の手を離し、掌を合わせた。


「俺はお前を受け入れた」


 俺は棒読みを意識して、言い放った。


「おーけー。
ボクは夕火に受け入れられた」


 妖精は感情をこめて、言い放った。
 そして、妖精はまるで存在そのものが夢だったかのようにすっと消えた。
 そんな感じで、俺は忘れていた記憶を取り戻した。

















[30957] つきひフェアリー 最終話
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:35746457
Date: 2012/02/15 00:55








 俺の思い出したかった大切な記憶は、小学校4年生の時のことだった。
 俺は世界に絶望していたのだろう。
 学校では居場所がなかった。
 当然だ。
 記憶喪失から復帰して間もなくの言葉もうまく操れない俺がまともに学校に行けるはずがない。
 最初は特別学級だったのだ。
 家でも居場所はなかった。
 両親が俺に求めていた役割は6歳以前の蝋燭沢夕火であり、箸も握れない6歳児ではなかったのだ。
 結果俺に居場所などなく、もう一つの人格を作り出してしまった。
 俺が安泰して暮らせる人格を。
 そして、あのクソ生意気な人格を作ってまもなく、
 両親の離婚が秒読みを迎えたころに、俺はであった。
 正義の味方に。
 小さなヒーローに。


 俺は転んでいた。
 道路の真ん中で、だ。
 歩行者用信号は青。
 別に命の危機でも非日常的な何かがあったわけでもない。
 ただ単に躓いて転んだだけだ。
 別に特に何も感じなかった。
 ……いや、足が痛いとかそういったことは感じただろうが。
 特別な何かがあったわけじゃない。
 誰も助けてくれなくて、世界に一人ぼっちだと思ったとか、そういうのもない。
 だって元々俺は一人だったから。
 俺を助ける誰かがいるなんて思ってもいなかったから。
 でも、そんな俺に手を差し伸べてくれた人がいた。


『大丈夫?
こんなところにいると危ないよ』


 おそらく俺の1つ上くらいの男の子。
 利発そうであり、優しそうな男の子は、俺の手を取りそう言ったのだ。
 これで回想は終わり。
 その後なにがあったでもない。
 悩みを相談したりしなかったし、二度と会うこともなかった。
 でも、その男の子の噂は耳にした。

 曰く、正義の味方だと。
 曰く、お人よしのヒーローだと。

 その男の子のおかげで、俺は人の温かさを知れた。
 世界には代償なく与えられる善意があると、教えてくれた。
 だから俺は、その男の子のようになりたかった。
 綺麗だと思ったから憧れた。
 誰かを助けたいという想いがとても尊いものに感じた。
 だから俺は、正義の味方を目指した。
 そして、迷走していた俺は、ある日少女に出会う。
 憧れた男の子に良く似た、着物姿の綺麗な少女に……。























***************************************

















 俺は記憶を取り戻した。 
 めでたしめでたし。
 ……とは言ったものの、思い出したかった唯一の記憶以外に対しては一切の感動もなかった。
 当然だ。
 忘れてたことだし。
 だから特に反応が出来な……、


「……ああそうだ。
最後に言い忘れたことがあったよ」


 と、過去をおざなりにする男を演出してたら脳内に声が聞こえた。
 姿は消えたくせに声は残りやがる。
 しぶとい妖精だ。


「なんだ?
さっさと言えよ。
もう俺たちの間に隠し事は必要ないだろ」


 俺はめんどくさそうに台詞を吐く。
 台詞もどっかで聞いたことがあるおざなりなものだ。
 いろんなことを思い出してテンションがメトロノームのようにアップとロウを行き来する。
 だから、次に妖精が吐いてくれやがった台詞のせいで、俺のメトロノームは折れ曲がるんじゃないかというくらいの振れ幅を記録した。


「実は、君には月火の前に付き合ってた人がいます」

「…………なんだとっ!?」


 思わず大きい声が出る。
 一瞬で耳が熱くなり、そのまま顔が熱くなってくる。
 お、思い出した。
 今の言葉がきっかけで思い出してしまった……。
 手や脇や額から汗が出てくるのを感じ、今度は若干の寒気を感じた。
 今の俺は傍からみたら完全に危ない人だ。
 それくらい危ない情報だ。


「今回ボクがやった悪戯行為のせいで、月火にそれがバレてたりして」

「俺を殺す気かっ!?」

「それじゃー頑張ってねー」


 そんな言葉を最後に声が途切れる。
 完全に居なくなったらしい。
 やべぇって、おい。


「ま、待てっ!
お前のせいってことにしてくれ!
じゃないと言い訳の言葉も見つからな……」

「蝋燭沢君!」


 わーお。
 さっきまで電話で聞いてた声が聞こえてきたぞ。
 今一番会いたくない存在のお兄さんだ。
 ……後ろに良く知ってる後輩の姿もある。


「大丈夫ですか先輩?
暦さんに、先輩が危ないって聞いて急いで来たんですけど……。
早歩きで」


 なんかほざいている瑞鳥は無視。
 暦さんに俺のことチクったの知ってるからな。
 あのタイミングで電話があったら、あの時の俺だって流石に気づくっつーの。


「僕は普通に自転車で来たけどな。
それより妖精が……あれ?
居ないって……マジか忍」


 俺を見て驚いた後、自分の影に向かって独り言を言う暦さん。
 ……怪しすぎる。
 憧れの存在とはいえ、思わず黄色い救急車を呼びたくなる光景だ。
 しかしまあ、そういった行為にあえて触れないのが大人の対応。
 俺はスルーしてお礼を言った。


「心配をお掛けして申し訳ないです。
問題は解決しました。
ありがとうございます、暦さん。……ついでに瑞鳥も」


 しゃあなしで瑞鳥の名前もあげる。
 結果的には解決したから含むところは少ししかないが、邪見に扱いたい気分なのだ。


「いえいえ、ぼくは実際何もしてないですからね。
気にしないでください」


 ほんとにな。


「……まあ、解決したならいいさ。
しっかし何もなくて良かったが、あいつがヒスを起こさないか不安だな」

「……あいつ?」


 やっべー、嫌な予感しかしないよマジで。
 だって、暦さんが来てくれて、俺の友人の瑞鳥を連れてきて、
 それでいてあいつを連れてこないわけが……、


「ああ。
蝋燭沢君が危ないかもしれないから、念のため彼女である月火にも……」


 ぎゃー。
 という心の叫びと、
 やっぱりね。
 という諦めの境地を同時に味わった。
 そして、すべてを思い出した俺は、俺のすべてとも言える人と再会した。
 一週間ぶりくらいに。


「……久しぶりだね、蝋燭沢君」


 中学生の癖に妙に色っぽい着物姿。
 性格に合わないのに合っている可愛らしい声。
 過激な行動からは想像できないほどの白くて綺麗な肌。
 ころころと変わる髪型は現在ポニーテールになってる。
 自慢の彼女にして、今一番会いたくない人物。
 阿良々木月火の登場だ。


「つ、月火……。
ああ、久しぶりだな」


 ……気まずいなー。
 ギクシャクしていた一週間前よりさらに気まずい。


「なんだかよく分からないけど、無事なんだよね?」


 無事って言葉がどういう意味で率いられているか知らないが、
 少なくとも肉体的に無事なわけだから俺はYESと答える。
 決して深読みして恐ろしくなったわけじゃない。


「お、おうっ」

「もうっお兄ちゃんが脅かすから吃驚したでしょ!」

「悪かったよ」


 あ、家でもそんな感じなんだ。
 てっきり俺に対してのサービス(ツン要素的な)かと思ってた。
 もちろん冗談だが。


「蝋燭沢君も、何かピンチになったら私に相談してって言ってるでしょ!」

「はい、以後気をつけます」


 謝罪の意を込めて頭を下げる。
 我ながらお辞儀の姿勢が美しい。
 新米政治家程度では足元にも及ばないだろう謝罪だ。
 こんなところでも俺が取り戻した人生経験が役に立つ。
 今まで月火と前の彼女に頭を下げてきた経験が……な。
 ……悲しい事実だけど。


「まったくもうっ……」


 まったくもうっ、と言って取りあえず矛先を収める月火。
 取りあえずは一難去ったと言ったところか。
 しかし、油断は出来ない。
 俺にはまだファッキン妖精が残していった爆弾が残って……、


「まあそれはおいといて、蝋燭沢君。
なんか私の前に付き合ってた女の子が居るって噂を耳にしたけど……」


 一難去ってまた一難。


「違うんだ」


 ぶっちゃけありえない。


「私も初代派だけど、今はプリキュアについて語るべきじゃないでしょ?」


 俺の心が読まれてる。
 なんて恐ろしいんだ。
 しかし、待ってほしい。
 付き合っていたとはいうが、あれは彼氏彼女と言うよりは博士と実験体といった感じだったんだ!


「……言い訳をさせてください」

「どうぞ?」


 うっわー、年下の彼女に尻にひかれてる先輩なさけないですね、
 みたいな表情で俺を見る瑞鳥を一睨みした後、俺は言い訳を開始した。
 話を要約すると、以下の感じだ。

 俺は中学生時代正義の味方(もどき)活動をしていた。
 それに目をつけた同い年の女子生徒が、『面白そうだ』と言う理由で俺に告白。
 他人の好意を無下に出来ないとか思った俺は了承。
 その女の子は無駄に優秀だったので、相方のような感じで正義(もどき)を執行。
 どこかの妖精のせいで馬鹿だった俺にブレインがついて、正義の味方としてはかなりいい感じだった。
 しかし、まわりの話を聞き、恋人との付き合い方とかを考えることになった俺は、その女の子に対しての態度を少し変えた。
 危ないから前に出るなとか、女の子が過激なことを言うなとか、そんな感じ。
 今思えば、それが彼女にとっては束縛でしかなかったのだろう。
 結果、俺たちは別れた。
 その別れ際に放たれた衝撃の台詞が……これだ。


『たとえば犬がいるとしよう。
僕はその犬を蹴ったりはしない。
煉瓦を使って頭を潰したりもしない。
その犬が飢えていて、僕の手にパンがあれば、それを犬に与えることだろう。
尻尾を振って足元に寄ってくれば頭を撫でてやるし、仰向けになればその腹をくすぐってやってもいい。
なんならば部屋の中で放し飼いにしてやっても構わない。
腕を噛まれても、僕はたぶん許すだろう。
だけれどだからと言ってその犬に首輪でつながれたいとは思わない』


 やっぱり秩序より混沌だな、世界を壊すほどの……、
 とか言って彼女はアメリカのテキサス州ヒューストンに旅立った。
 台詞だけ見れば中二病の僕っ子だか、同級生の女の子にしては大人びた子……、
 というか世界的に見ても天才と言える頭脳を所持していた記憶がある。
 思い出してしまった今となっては、かなり苦い記憶だ。

 まあつまり何が言いたいかと言うと、彼氏彼女的なナニソレは全くしてないから見逃してということだ。
 チキン万歳。
 中学生に過度な期待はしないでください。


「いや、まあ別に気にしてないよ。
過去に蝋燭沢君が誰を好きだったとしても、今私を好きでいてくれることには変わりないんだから。
だからファーストキスが済んでたとしても私は気にしないよ?」


 月火らしからぬ穏やかなセリフだ。
 穏やかなセリフだけど……、なぜだろう?
 保身が入ってる気がする。
 なぜだかわからないけど色々誤魔化そうとしてる気がする。
 ……まあいいや。


「でも、悩んでることがあったなら相談してほしかったな……。
というか相談しなさいよ!」

「わ、悪かったって」


 急に怒鳴るなよ。
 まあこれが月火のアイデンティティだし、文句は言わないが。


「ちょっと良い表情になったからって調子に乗らないでよねっ!
蝋燭沢君はなんちゃって正義の味方なんだから!
だから私たちファイヤーシスターズが原点を思い出させて……」

「いや、それは大丈夫」

「……え?」


 大丈夫なんだ。
 俺は思い出せた。
 俺が憧れた存在も、月火に惹かれた理由も。
 思い出せたんだ。


「もう大丈夫だよ月火。
全部思い出したから」


 そう、答えは得た。
 俺は理想を取り戻したんだ。
 だからもう、大丈夫。
 月火に甘える必要はない。
 手を引いてもらうばかりじゃない。
 これからは、手を取り合って頑張れる。 


「『正義の味方卒業』は卒業だ。
今日から正義のヒーローこと『サンレッド』の復活だ!」


 自分の名前とかけた魂の名前だ。
 我ながらクールだと思う。


「……物騒な名前だな。
昼からパチンコとかしてそうだ」

「ああ、駄目な先輩が痛い先輩に戻っちゃった……。
月火さんのアレにはならないでくださいよ?」


 外野がうるさい。
 しかし気にしない。
 なぜならヒーローは細かいことは気にしないのだ!
 ……まあそれはそれとして、暦さんにはお礼を言わないと。
 そういったことをしっかりするのもヒーローの務めだ。


「暦さん、本当にありがとうございました」

「うん?
ああ、別に僕は大して役に立ってないし……」

「それもありますが、
それだけじゃないんです」


 今回の件でもお世話になったが、お礼を言いたいのはそれだけじゃない。
 俺があの時、暦さんに会えたのは奇跡に近い。
 その奇跡と、小さな正義の味方に、お礼を言いたい。


「ありがとうございました。
俺がまともな人間になれたのは、暦さんのおかげです」

「……僕、そんな大それたことしたっけ?」

「いいえ。
大したことではなかったと思います。
でも、俺にとっては特別なことだったんです」


 この世に善意があるということを教えてくれた。
 この世に優しさがあるということを教えてくれた。
 おかげで俺は、今も生きているんだ。


「だから、ありがとうございました」

「そういうことなら、素直に感受しよう。
どういたしまして」


 笑顔を俺に返してくれる暦さん。
 俺はその笑顔で、少しだけ救われた気がした。
 これで俺の物語は終わり。
 脇役たる俺は救われました。以上。
 ……さて、湿っぽいのは終わりにして、
 そろそろ話を終わらせよう。
 俺の物語ではなく、妖精の物語を、終わらせよう。
 あとはエンドロールまっしぐらだ。


「それと、ありがとうついでに伝えたいことがあるんですが……」

「なんだ?」

「……あ、デジャブ」

 
 瑞鳥がぼそっと呟く。
 どうやら二番煎じだったようだ。
 だが気にしない。
 なぜなら俺の心からの言葉だからだ。


「妹さんを俺にください」


 ……やべぇ、言ってやった感がパない。
 意味の分からない自己満足に溺れそうだ。
 さて、返答は如何に……!?


「おとと「人を物扱いしないでっ!」いき……、月火ちゃん?」


 残念ながら、暦さんの返答は聞けなかった。
 月火が割り込んできたからだ。
 ……しかも怒ってるし。


「まったくもう!
自分の彼女を物扱いしないでよね!
大体それを言うならお父さんとお母さんに対してでしょ!」

「す、すまん」


 月火の言うとおりだった。
 流石主人公。


「本当に蝋燭沢君は駄目なんだから……。
ちょっとマシになったからって、気を抜いちゃだめだね」


 ほら、と言って月火は俺に手を差し伸べる。


「いくよ。
もうちょっとマシになるまで、私が手を引いてあげるから」


 これからは手を取り合っていきたい、と伝えたかったが、
 あまりに月火が綺麗で、とても嬉しかったから、俺は素直に手を取り、
 こう言った。


「ああ。
これからもよろしく」


 そんな捻りのない俺の一言に対し、月火も捻りのない一言を返す。


「うん。
こちらこそよろしく」



 そんな感じで、妖精騒動は幕を閉じたのだった。




















*******************************************



















 後日談も今回のオチも脇役たる俺が語るべきじゃないだろうが、
 脇役である以上に語り部であるので仕方なく職務を全うしようと思う。
 俺は正義を執行するために早起きをして、部活もないのに学校へむかった。
 もちろん祖父母に対しての挨拶も忘れない。
 育ててくれている人に対して感謝の念を抱くのはヒーローでなくても当然だ。
 そして、俺はいち早く教室に入り掃除を始める。
 最近教室で咳き込む人が多いのは教室が汚れているからだ。
 掃除が面倒なのは分かるが、これでは健康に支障がでる。
 よって俺が解決してやろうというわけだ。
 ……もちろんさぼっていた掃除当番にはお仕置きをするが。
 あいつらが良く集まる場所に埃を捨てておこう。
 そうすれば埃の鬱陶しさに気づき、掃除もある程度してくれるはずだ。
 何て事を考えながら俺は掃除をしていた。
 すると、上空から声が聞こえてきた。


「へーい、チェケラッチョ!
妖精さんの時間だぜ!
英語で言うとフェアリータイムッ!
なんか海賊王の人に良く似た絵の漫画みたいだねっ」


 アルバムでよく見る顔がそこにはあった。
 ……消えたんじゃなかったのかよ。


「いやー、ボクも消えたとばかり思ってたんだけど、元の鞘に戻っちゃったみたいでね。
今や君は立派な二重人格さ!
精神鑑定を受ければ犯罪をしても豚箱に入らないですむよ!
やったね!」

「塀の高い病院が俺を待ってるわけだな」


 最低だ。
 なんで戻ってきたんだよ空気読め。


「まあ今見えてるボクは完全に幻覚だから、まわりの目は気にしないでいいよー。
ボクは君の頭の中の存在なのさ。
言ってみたら脳みその中に飼ってるペットだね。
しかも噛みつくどころか吠えることも出来ない臆病ものさ」

「おいふざけんな。
俺に今吠えてるだろ。
とりあえずうるさいんだよ、黙れ。
だーまーれ!」

「つれないこと言うなよ。
これからもボクは君のパートナーとして傍にいるからさ?
もう記憶を奪ったり悪戯したりしないよ」


 そういって、妖精は空中でくるりと回転し、俺の目の前に顔をもってくる。


「二人で頑張って生きようぜ?
君は優しいから、俺のことも認めてくれるだろ?」


 うっとしい顔をしながら、妖精はそう言った。
 ……まったく、めんどくさい。
 しかし、その通りだ。
 こいつは俺が作り出した弱さ。
 だったらこいつを認めるだけじゃなくて、飼いならさないとな。
 それに月火が高校生になるまで暇だし、独りで正義を行うときに頭の中で騒ぐ馬鹿がいても良いかもしれない。


「……しょーがないな。
あんまり騒ぐようだと虐待するからな。
大人しくしてろよ?」

「もちろんさぁ!」


 相変わらずの鬱陶しいテンションで騒ぐ妖精。
 俺は淡々と掃除を続ける。
 すると、妖精は俺から距離をとり、そっぽを向いたまま、今までのテンションからは考えられないくらい小さな声で、
 ぼそぼそと呟くように、言った。


「あ、そうそう」


 言いづらそうに、頬を染めて、妖精は言葉を続ける。


「ありがとう、受け入れてくれて。
自分の弱さを受け入れることが出来た君を、ボクは誇りに思うよ」


 ……なんてやつだ。
 最後の最後にツンデレ属性追加かよ。
 俺のヒロインは月火だぞ。
 まあでも、これから少し、ほんの少しだけ楽しくなりそうだと、
 背を向けた妖精の綺麗すぎる羽根を見ながら、俺はそう思ったのだった。



























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