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[31077] 【習作】ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて-
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2013/06/18 02:39
はじめまして。

読み専だったんですが、ふと思い立って書いてみました。
Arcadiaどころか色々初。

この作品はドラクエ5主人公逆行物です。
スタートからして既にオリジナル設定があります。
原作に沿っていないと、という方には受け入れがたいかもしれません。

稚拙な文章ですが、ご指摘とか頂けたら幸いです。



12/31初投稿


1/3 ミスって消したしまったですよ・・。

色々感想を頂いた方々、感想が消えてしまいました。
申し訳ありません・・・。

2/19 13話まで更新

そろそろ更新してきます。

6/18 お久しぶりです。とりあえずぼちぼち進めていこうと思います。
久しぶりの投稿がものっそい短くてすみません。



[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第一話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/04 00:52
世界を救った勇者の住む国、グランバニア。



その国の一室でひとつの命が終わりを迎えようとしていた。








「お父さん!!死んじゃ嫌だ!!お父さん!!」

「パパ!!嫌だよパパぁ!!」

「あなた・・・。」



 そこには魔王との戦いで傷付き、決して解けない呪いを掛けられてしまったグランバニア王、リュカとその家族の姿があった。




「そんな顔をしないでくれお前達・・・。僕は幸せだった。父さんと母さんの仇も取れたし、ミルドラースを倒して世界を救うことも出来た・・・。もうこの世界に闇は無い。ゴホッゴホッ・・・お前達二人はもう僕が居なくても立派に生きていける。二人とも、母さんの事を・・・頼んだよ・・・?」

「お父さん?!」


「ボロンゴ、ピエール、いるかい?」


「グルルルル・・・。」
「此処に。」

「二人とはもう10何年も共に旅をしてきたけど、僕の旅はそろそろ終着点みたいだ。先に逝かせてもらうよ?もし生まれ変わってもまた友達になれるといいね・・・。」


「ガオゥ!!」
「我が主はリュカ様のみ!また相見えることを心待ちにしております!」



「それじゃ皆、先に父さんと母さんの処に行く・・・よ・・・。」



「お父さーーーん!!」



 僕の人生、何不自由の無い・・・とは言えないけれど、充実してとても楽しい、すばらしい人生だったと胸を張って言える。
 けれども、もし・・・もしひとつだけ願いが叶うとしたら・・・、もう一度父さんに逢いたかったな・・・。




薄れ行く意識の中で最後にそう思った。




そして意識は途切れた。





そして物語は動き出す。

彼の思いを乗せて。







『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて-』







 ガタン!!

「痛っ!?」

あれ?何だ?何故僕は床に転がっている?

僕は床、隣にはベット。痛いってことはベットから落ちたっていうことかな?

おかしい、僕は確か死んだはずだ。ミルドラースの呪いによって。

何故?なぜ??ナゼ???

辺りを見回してみると見慣れない部屋模様。あと少し揺れてるみたいだ。

何故僕は此処にいる?此処は何処だ??

それよりも何故


僕の背が縮んでいる???



そう一人で自問自答を繰り返していると、そばにあったドアの向こうから


「リュカ!どうした!寝ぼけてベットから落ちたのか?」


と、懐かしい声が聞こえてきた。

間違いではないか?しかし間違えることの無い懐かしい声。




「父・・・さん」



僕の思考はまだ追いつかない。




[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第二話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/04 00:52
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第二話』




頭が働かない。


3秒ほど経ってようやく頭が働きだし、現状を認識する。



「リュカ、大丈夫か?」

ドアを開けて大柄でひげを生やした男性が入ってきた。

忘れるはずもない。どこから見ても生前の父パパスの姿だった。





聞き違えることのない父の声、見違えることの無い父の姿。

リュカは声を振り絞るように問いかけた。

「父・・・さん・・・?間違いない・・・。父さんなんだね・・・?」

「どうしたリュカ?まだ寝ぼけているのか?っと、どうした、泣いてるのか?。
もしかして怖い夢でもみたのか?」

「え・・・?」

リュカはパパスに指摘され自分が涙を流していることに気づく。

「な、なんでもないよ?」

ちょっと恥ずかしそうに、リュカは誤魔化した。

「ふむ?まだ寝ぼけてるみたいだな。外に行って風にでも当たってきたらどうだ?」

パパスに促され、リュカは落ち着くためその指示に従うことにする。

「うん・・・父さん。ちょっと風に当ってくるよ。」

そしてドアを開き、外を見る。












ドアを開けるとそこは海だった。






「そうか・・・。僕のこの体、そして船・・・。そうか、思い出した。ビスタの港へ行く船・・・。父さんとサンタローズへ帰っている時か・・・。」

おぼろげながら記憶の片隅にあった昔の風景を思い浮かべリュカは現状を理解した。

ということはこれからサンタローズの村に向かうことになるだろう。

そしてレヌール城でのお化け退治、妖精の国への協力を経てラインハットへ。



リュカはここで思い至る。

そうか、父さんはこのままだとラインハットで殺される。

誰に?

そう、ゲマにだ。

「殺させない、今度は殺させやしない・・・!」

この刻に戻ったのは偶然なのか?はたまたここは夢の中なのか?
リュカはふとそう考えるが直ぐに考えを改める。

偶然でも夢でも何でもいい。今度こそ僕は父さんを殺させない。僕が殺させない。
その為に僕はここにいる。そう考えることにする。




リュカがそう決意をした時、船乗りが声を荒げた。

「港が見えたぞー。イカリをおろせー!帆をたためー!」

「どやら港に着いたようだな。坊や、下へいってお父さんを呼んできてあげなさい。」

いつの間にか隣に立っていた船長さんらしき人に言われ父さんを呼びに行く。




船室にいくとやはり幻では無いらしく父さんがちゃんとそこにいた。

「父さん、船長さんが港についたって言ったから呼びに来たよ。」

「そうか、港に着いたか!村に戻るのはほぼ2年ぶりだ……。」

パパスのその言葉にサンタローズの村を思い浮かべる。

もう何十年も前になるであろう故郷と呼べる村。

ラインハットの兵に滅ぼされてしまい最早帰ることが出来なかった村。

あののどかな風景、そして優しい村人達の顔を思い出しまた涙が出てくる。



「リュカ、また泣いているのか?お前はいつからそんな泣き虫になったんだ?わっはっは!」

「ほ、ほっといてよ父さん!」

リュカは少し顔を赤くしながらそっぽを向いた。

「まぁ久しぶり、といってもリュカはまだ小さかったから村のことを覚えてはいまい。よし、ではいくかっ!忘れ物をするなよ?」

と言って父さんは先に行ってしまった。

早く追いかけないと、と思ってリュカは急いで支度をした。




そしてふと今の自分の現状を思い出す。

自分には記憶がある。それもミルドラースを倒した先までの。
王になるべくオジロン叔父やサンチョに叩き込まれた知識もある。
そして以前契約した魔法は頭の中に入っている。


体は子供だけど・・・。

頭は問題ない。では体は?

そういえば父さんが港のおじさんと話している時外に出たら魔物に襲われちゃったんだよな・・・。

よし、とりあえず外に出れば魔物が居るってことがから、試しに戦ってみよう。
まずは試してみなければ始まらない。それからどうやって行動していくか決めていこう。





そう方向性を決め、タンスの中にあったやくそうを腰のふくろに入れようとした時、
ふくろの奥でキラッと光るものを見つけた。

「あれ・・・?これって・・・。なんでこれだけあるんだ・・・?」


他のものは何もない。

けれどもその一つが僕の中ではとても、とても重い意味を持つ物。

以前貰った後に加工してネックレスにして肌身離さず持っていた。










母さんからのたった一つの贈り物。そして形見の品。


「賢者の石・・・。」

確証は無い。でもそう思ってしまう。

きっと母さんが僕の想いに手を貸してくれたんじゃないか、と。





[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第三話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/04 00:52
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第三話』




「母・・・さん・・・。」

賢者の石を握りしめ、呟くと、母さんが頑張ってと応援してくれているような気がした。

「必ず、必ず父さんを守るよ・・・母さん!」





僕は賢者の石を首から下げると父が待っている船の甲板へと向かう。

父は船長と会話を続けながら僕を待ってくれていたようだ。

「リュカ!遅いぞまったく。」

「ハッハ、そうは言ってもパパスさん、子供はすぐ周りのものなんかに気を取られるからしょうがないことですよ。」

「むぅ、そうはいってもだなぁ・・・。」

「坊や、ここでお別れだがたまにはこのオジサンのことも思い出してくれよっ?」

「はいっ!」

「ふむ。忘れ物は無いな?タンスの中も調べたか?」

「大丈夫だよ、父さん!」

「よし!じゃあ船長!ずいぶん世話になった・・・。体には気をつけてな!」

そう言ってタラップを歩き港へと足を降ろし振り返る。

「さようならパパスさん、坊や。また会えるのを楽しみにしているよ。」

「あぁ!ではまたな!」


父と船長は付き合いが長かったのだろうか。出航を見送る父の横顔は再会を心から待っている、そんな風に感じられた。



「パパスさん!パパスさんじゃないか!?無事に帰ってきたんだね!」

港の待合室の様な場所から中年の男性が僕らに向かって掛けてきた。

「わっはっはっ。痩せても枯れてもこのパパス、おいそれとは死ぬものか!リュカ。父さんはこの人と話があるのでその辺で遊んでいなさい。あまり遠くへいかないようにな。」



わかったと返事をし、父さんの横をすり抜けるように歩いていく。

目指す場所は港の外。幸い、この近辺の魔物はスライム程度のはず。

今の自分の力量を計るには丁度いいかもしれない。流石にこの時点でスライムに遅れを取るようではゲマを倒すには力不足なことこの上ない。

以前の記憶では5分程度戦闘をしていたら、父さんが助けに来てくれたはずだ。

5分もあればある程度の力量は掴めるはず。そう思い港の外へ足を踏み出した。





予想通り港を出てすぐスライムの群れに遭遇した。

とりあえずまずはちからを見ようと思い素手でスライムに殴りかかる。

が、スライムに当たるもあまりダメージを与えられていない。

「ちからは年相応、ということか・・・。なら。」

次にわざと攻撃に当ってみる。痛い。しかもかなり。

「体力とみのまもりも年相応、ということか・・・。それでも記憶の中にある最初の戦闘よりも痛くはない・・・のかな?しかし、正直不味いな・・・。」

ちからは無い、打たれ強さは少しだけあるというなんという微妙な状態なのだろう。

「これでゲマを倒せるのだろうか・・・。いや、倒せる倒せないじゃない。倒すんだ!」

と、少しというかかなり不安になった思考を振り切り呪文の詠唱を行う。




以前の自分の得意魔法にして最大魔法。

この魔法は覚えている、唱えられると自分の中にある魔力の源たるナニカが言っている。

急がないと父さんが来てしまう。そろそろこの戦いを終わらせよう。

「この魔物達を倒したら、父さんはすごいなって誉めてくれるかな?」

そういえば前は父さんに助けられて表の一人歩きは危険だって怒られたな、と思い出し苦笑が漏れた。

「そろそろ終わらせよう。いくよ、君たちには恨みも無いけど・・・。」

丁度スライム達が集まって呪文の効果範囲に入ってくれた。

そしてすかさず呪文を唱える。



「バギ・・・」

スライムに向かって


「クロス!!!!!」

リュカは叫んだ。













『しかしMPが足りない!!!』








リュカの目の前が真っ暗になった。






[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第四話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/04 00:53
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第四話』



※前回はわかりやすくする関係上、あえてアナウンスでMP切れを知らせました。
 以降はMP切れにアナウンスは入りませんのでご注意ください。





パキィーン




乾いた音が鳴り、その後リュカの周りには静寂が訪れた。



一瞬思考が停止し、視界が真っ暗になったような気がしたがリュカはなんとか止まった頭を動かし目の前のスライムを見つめなおした。

(なんで?!なんで出ない?!以前した契約も残ってるし、詠唱も完璧だったはず!なら・・・なんで??)



リュカはスライムと対峙しつつ混乱した頭の中を整理した。

(そういえば発動の瞬間、パキンって音が聞こえた・・・。あの現象は・・・・・・そうか、MPが切れたことなんてあまりないから忘れてたけど、あれはMPが足りなくて呪文が発動出来なかった時に起きる現象。ということは契約していない状態でなく、単に僕の今の体ではMPが少なすぎて使えない、ってことか・・・?)



この分だと他の呪文もこの状態では使えなさそうだ、と一度現状の考察を止め目の前のスライムを倒すことに考えを向ける。

「そろそろ父さんが来そうだ。流石にスライムの1匹でも倒しておかないと格好がつかないよね。」

そしてリュカは腰に付けた装備をとろうとして、何もないことに気がついた。

「武器が無い?確か部屋に立てかけてあったひのきのぼうを持って・・・あっ!」

そこで思い至った。確かに部屋に武器はあった。タンスのやくそうを取った後に持っていこうと思っていたのだが、賢者の石の事もありすっかり頭から抜け落ちてしまっていたようだ。

「やっちゃった・・・。まぁ、でもの程度の敵なら。」


しかたがないのでそのままスライムに殴りかかる。

いくらちからが弱いと言ってもリュカとて10年以上戦い続けている。以前では、1対1なら素手でもキラーマシンを圧倒できるほどの技量は持ち合わせていた。スライムごときに遅れをとるわけにはいかない。


確かに力はない。体力も無い。でも経験は無くならない。

うまく体重を乗せて放ったただのパンチ。

しかし自分でもいい感触を持った会心の一撃を出せたと思い、殴ったスライムは遠くに弾かれ、動かなくなった。







大丈夫、やれる。と感触を確かめた瞬間

「大丈夫か?!」

とパパスが助けに来た。

(やっぱり父さんが助けに来てくれた・・・。)

パパスはリュカをかばう様にリュカとスライムの間に立ち、スライムを憤怒の表情で見つめる。
「うちの息子を傷付けたのは・・・お前らかぁー!!!!」

近くにあった木が震えるほどの声を出し、スライムが「ピ、ピキーッ!」と怯える

すっかり怯えすくみあがっているスライムにパパスが剣を構える。



一閃



パパスがスライムに剣を向け、一撃を片方のスライムに入れた瞬間返す斬撃でもう片方のスライムに一撃を入れる。一呼吸の間に2撃。一瞬でスライム達は倒されてしまったようだ。





流石父さんだなぁ、とリュカが見惚れていると

「大丈夫か?リュカ。少しけがをしているみたいだな。ホイミ!」

と、父さんが心配そうな声を僕にかけながら、ホイミをしてくれた。

「大丈夫だよ、父さん。父さんが助けてくれたから。」

と、リュカ戦闘でのショックは隠しながらパパスに返事をする。

「まだまだ表での独り歩きはキケンだ。これからは気をつけるんだぞ?」

「わかった、父さん。」

「うん、いい返事だ。では行くとしよう!」

父さんが歩を進めた為、少し後ろをついていくことにした。



父さんに気が向いていたため、スライムの残骸が残る辺りで何かが動いたことに僕は気が付かなかった。







港からサンタローズの村までは確か2日程度の距離だったはず。

その間に幾度か魔物との戦闘を経験したが、やはりどの呪文も発動しない。

スカラも、バギマも、バギも、そしてホイミすらも・・・。

ホイミすら使えなかった事に少しリュカは不安を覚えた。

そうすると、自分のMPは限りなく0に近い。ゲマを倒す為には少し修業をしないといけないなと思ったところで父さんが最後の魔物を倒した。

「大丈夫か?リュカ。少し顔色が悪そうだが?」

「うん、大丈夫だよ父さん。ちょっと疲れただけだから。」

リュカはパパスに気づかれないよう努めて明るく返す。

「そうか、ならいいが・・・。あともう少しだ。頑張れるか?それとも父さんの背中にでもおぶさっていくか?わっはっはっ!」

「と、父さん!僕もうそんな歳じゃないよ!!」

「わっはっはっ!子供は黙って親に甘えていればいいんだ。ほら、乗りなさい。」

少し恥ずかしい気持ちになりながらもパパスの強引さの負けたように背中におぶさる。いや、恥ずかしいから強引さに負けたと思いたいのだろう。

心の中でそうは思っていても父の背中におぶさったリュカは心が温かい何かに包まれたような気がしていた。

「乗ったか?さぁ、それじゃあ行こうか。」

(父さん・・・。父さんの背中だ・・・。やっぱり、こんなに大きい・・・。それに、こんなに安心できる・・・。)

「リュカ、どうした?」

「な、何でもないよ父さん!」

「おかしなリュカだ、わっはっはっ!」

と、父さんの背中に揺られながら山道を進んでいった。






「リュカ、起きろ。リュカ。」

いつの間にか眠っていたらしい。パパスをみると少し傷があった。

「父さん、その傷は?」

「いや、大したことはないぞ。お前があまりに気持ちよさそうに寝ていた様だから起こさないように戦っていたんだ。そうしたら少し攻撃をくらってしまっていた様だ。何、かすり傷だ。気にすることはない。わっはっはっ!」

と、いくらこの辺りの魔物があまり強力ではないと言っても子供を背中に乗せたまま戦う人間が居るのだろうか?

相変わらず父さんはすごいな、と思いリュカはパパスに笑いかける。

「そういえばリュカ、さっきお前の体が少し光っていたからレベルが上がったんじゃないか?」

「本当?村に帰ったら教会の神父さんに聞いてみるね。」

「うむ、そうするといい。さて、先荷を急ごうか。」

「あ、待って父さん。少し試したいことがあるんだ。」

「ん?どうしたリュカ。」




パパスを呼びと止め、手招きすると、心を落ち着け先ほど失敗した呪文を唱える。

「ホイミ」





パパスを淡い光が包み、傷が癒えていった。


(出来た・・・。やっぱり、呪文を忘れたわけじゃない。MPが足りないだけなんだ・・・。)

リュカは自分の考えが正しいことに安堵した。

流石に子供のころと同じままではゲマに挑んでも前回の焼き増しになってしまうだろう。

(あとは修行あるのみ、かな?)

パパスが驚いた様子でリュカに聞いてきた。

「リュカ、お前呪文が使えるのか?」

「うん、前に旅先で遊んでた子のおじいさんが元僧侶の人でね。少し呪文のお話とか簡単な呪文の契約とかしてもらったんだ。ほら、父さんもホイミとか使えるでしょ?多分僕にも使えるかな?って思って。」

「お前という奴は・・・。まったく。」

呆れるように、でも少し嬉しそうにパパスはリュカを見ていた。


「さぁ、あと少しで村に着く。あとはもう歩けるか?」

「うん、父さん。」

いい返事だ、とパパスは言い歩き始める。

そのあとを遅れないようにリュカは追いかける。







そしてサンタローズの村に着いた。



「やや!パパスさんでは!?2年も村を出たままいったいどこに・・・・・・!?」

「うん、久しぶりだな。何、少し探し物の旅に出てきたんだ。」

「ともかく、おかえりなさい!おっと、こうしちゃいられない。みんなに知らせなくっちゃ!」


「おーい!パパスさんが帰ってきたぞーっ!!」


「えっ?!」

「パパスさんが!?」

「本当か!!」



村中から驚きの声が聞こえてくる。

父さんと村を歩いて家まで向かっていると色々な場所で声を掛けられた。


「パパスさん!あんた生きていたんだね!」

「よう!パパス!やっと帰ってきたな!」

「やぁ!本当にパパスさんだ!」

「わーい、パパスさんが帰ってきた!


道行く先で声を掛けられるパパスを見て、やっぱり父さんはみんなに好かれていたんだなと再確認したリュカ。




「旦那様!お帰りなさいませ。このサンチョ、旦那様のお帰りをどれ程待ちわびたでありましょうか・・・。さぁ、どうぞ中へお入りください。」

とサンチョが出迎えてくれた。

(サンチョ・・・若いな・・・。)

と、まったく関係の無いことを考えているリュカ。




中に入ると、何もかもあの頃のまま。年季の入ったテーブルに3人分の椅子。

そしてサンチョ愛用のおなべのふた。

何もかもが変わらない我が家。

そうリュカが懐かしんでいると2階から誰かが下りてくる音が聞こえる。

「サンチョさーん?」

若い、女性の声。若い女性というか、少女の声。この日、この場所で自分が知りうる少女は一人しか、いない。


少女は階段からこちらを見つけると小さく「あっ!」と呟いた。








リュカはこの少女が誰かをもちろん知っている。





レヌール城を一緒に探検し、ボロンゴの名前を付けた名付け親であり







自分の初恋の相手であり







そして






『また会おう』という約束を果たせぬまま病で倒れそのまま二度と会えなくなってしまった少女

ビアンカだ。




※このあたりからかなりオリジナル設定が入ってくる予定です。
 





[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第五話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/04 00:56
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第五話』



「ビアンカ・・・。」

他の人には聞こえないほど小さな声でリュカは呟やき、流れ出てきた涙を気付かれない様に拭いった。


涙を拭ったリュカは、過去の出来事を思い出していた。








ルドマンさんの試験を受け、水のリングを探索している時の事。

ルドマンさんの話では、山奥の村に水門がありその奥の湖に水のリングを祭る洞窟があるという。

話を聞き村に水門を開けてもらおうと向った時、偶然ダンカンさんに再会した。



『ダンカンさん・・・?もしかして、アルカパの町にいた、ダンカンさんですか?』

『確かに私はダンカンだが・・・、失礼ですがどちら様かな?』

昔の恰幅の良かった姿が信じられない程ダンカンさんは痩せ細り、生気の無い顔をしていた。

『リュカです。パパスの息子のリュカです。』

『パパス・・・?もしやサンタローズのパパスさんかね?』

『そうです。お久しぶりです。』

『そうか・・・大きくなって。よく生きていてくれた・・・。よく見るとパパスさんの面影が・・・。』


すると家の外から少し白髪が多い女性がこちらへ向かってきた。

『あんた、どうしたんだい?』

よくみると、ダンカンさんの奥さんだった。奥さんも昔にくらべ覇気の無い声をしていた。

『おぉ、おまえか。いいところに来た。パパスさんとこのリュカが生きていたんだよ。・・・』

『リュカ・・?リュカかい?あんた、大きくなって・・・。』

『おばさんもお久しぶりです。小さい頃はビアンカによくチビとかヘタレとか馬鹿にされてましたけど、背だって大きくなったし呪文もいっぱい使えるようになったんですよ!』

『本当に、立派になって・・・。ビアンカがいたらきっと・・うっ・・・。』

『おばさん・・・?ビアンカがいたら・・・って・・・、どういうことですか?』

『あの子は死んだよ・・・。半年前に病で・・・。』




ビアンカが死んだ。

その言葉を聞いた瞬間、僕の足元は何かが崩れた気がした。

何も考えられなかった。認めたくなかった。

おばさんがビアンカのお墓へ案内するといっても拒否した。

ピエールが今僕がしている事を告げ、水門を開けてもらい

僕は馬車の奥にうずくまったまま洞窟を進み、ピエールたちが水のリングを取ってきてくれるのを眺めていた。

ルドマンさんの屋敷では水のリングを渡した後、結婚はしないとだけ伝えると逃げるようにサラボナの町を飛び出した。



その後ルドマン家とは色々あり、フローラと結婚はしたのだけれどダンカンさんには会いに行かなかった。

会ったら、彼女の死を認めないといけない。でも僕にはそれが出来なかった。

彼女の事は自分の心の奥底に深くしまいこみ、考えないように生きた。

だけどある時、フローラが袋の奥底に捨てられずに仕舞いこみんでいた彼女のリボンを見つけボロンゴに付けてしまった。



『ボロンゴちゃんに付けて上げるね。』

ボロンゴとリボン。その組み合わせを見たとき僕の心は限界を迎えた。

フローラの前でみっともなく泣きだし語りだした僕の話を、フローラは優しく微笑みながら聞いてくれた。

全てを語り終えた時、フローラは立ち上がり今から山奥の村へ向かおうと言った。

僕はどうしても行きたくいと告げると

『一人では辛いのでしょう?でも貴方は私の旦那様。一人で辛ければ二人で行きましょう?』

と僕に手を差し伸べた。

その手を震えるてで掴むと、フローラはそのまま優しく抱きとめ

『貴方が一人で抱え込む必要はないのです。貴方だけで駄目なら、私にもその抱えている辛さを分け与えてください。それが夫婦というものでしょう?』

と、微笑んでいた。



僕らはその後、山奥の村でダンカンさんと再会し、フローラを紹介した後ビアンカのお墓へ向かった。

ビアンカのお墓を見た瞬間、僕は立ちくらみがしたけれど隣のフローラが優しく支えてくれていた。

そして静かに目を閉じフローラとともにお墓へ向きあう。そしてその目を開けた時、僕はようやくビアンカの死を受け入れた。

隣のフローラは僕が目を開けてもまだ目を閉じ、何かを祈るようにしている様だった。

その時、風が吹き抜け

『リュカ!また逢おうね!』

と、僕の耳に聞こえた気がした。










「父さんだけじゃなく、ビアンカにもまた逢えるなんて・・・。」

また生きている彼女に会えるとは思っていなかった。

パパスを救いたかった。

彼の後悔はそれだけだったはず。

しかし、再会した幼馴染の顔を見た瞬間

彼女の死を思い出してしまった。

パパスだけでなく、彼女の事も助けたい。そうリュカが思ったのは必然だろう。




部屋の喧騒をよそにリュカは考える

それはどれだけ過酷な道なのだろうか

時間が足りない そして手も

でも 救いたい 救ってみせる

幼馴染の両親の為にも彼女を

この時代に送ってくれた母の為にも父を






「それでも僕は・・・、救うって決めたんだ!」







物語は進む


リュカを軸に


時代が変わろうとも彼の才能は変わることがない


彼は変える事が出来るのだろうか





既に物語は変わっている


彼がこの地に降り立ったときに






[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第六話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/05 11:21
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第六話』



ビアンカ達との再会を終え皆でサンチョの手料理で食事をした後、彼女達は宿屋に帰って行った。

騒がしかった家が落ち着きを取り戻し、自室に戻ったリュカはベッドに寝そべりながら
これからの事を考えていた。

(まず、今の僕の状態を確認しておこう・・・。身体能力は年相応で呪文の契約は有効なままだけどMPが少なくてまともに使えそうな呪文は無し、か・・・。)

このままで果たしてゲマに届くのだろうか。以前の子供時代の戦いではダメージどころか当てることすらできなかったはずだ。

ただ悲観するほどではない。覚えていないのでなく使えないだけ。

(なら鍛えよう。幸いあと1週間くらい父さんは天空の剣の為に洞窟に籠っているはず。せめてバギクロスを唱えられないようじゃゲマを倒すなんて無理だよね・・・。それより、ビアンカの事はどうしよう・・・。)

一応、心当たりはある。以前グランバニア城の書物庫で偶然読んだ古代の書。
そこに載っていたものさえあればビアンカを助けることが出来るはず。
しかしその書物は数百年前の書物でありそこに記されていたものが本当にあるかどうかはわからない。
しかも場所は現在の地図であればグランバニア山山頂。山の町チゾットから山を下らず逆に頂上へ向かわなければならず、もちろん道が整備されているわけがない険しい道。

それを乗り越えなければならないのだ。

今の自分では恐らく登りきれない道であろう。

以前のビアンカが死んだのが村を訪れる半年前。不測の事態さえなければあと10年以上は大丈夫なはずだ。

それでもビアンカの事を考えるとすぐ探しに行きたい気持ちに駆られたが気分を落ち着かせる。



まずは父さんの事。父さんを助ける為に僕はここにいる。

一度ビアンカの件は心に仕舞いこみ、今後の方針を定める。

まず力をつける事。ゲマにも負けない力を。

その為にも鍛錬を積まなければならない。つまり戦わなければいけないということ。

時間は余りない。そうと思い洞窟へと出かけることを決める。

「とりあえず、今日は疲れたからもう眠ってしまおう・・・。子供の体だからかな?この時間でももう眠いや・・・。」

これからの事を思いながらリュカは静かに眠りに落ちた。







翌朝起きると隣で寝ていたパパスは既に起きている様でベッドの上には折りたたまれた服だけが置いてあった。


「今日はどうしようかな・・・?」

今日の行動を考える。とはいえ、鍛錬を行うことにしたのだから必然的に村奥の洞窟に向かうことになるだろう。

「幸い村の洞窟には強い敵はいないから、この体に慣れるのにも丁度いいかな?」

そう言い、準備をしながらリュカは自分のベッドの横に立てかけてある古びた剣に目を向ける。

昨日父さんにもらった銅の剣。船にひのきの棒を忘れてきたしまった事を伝えたら、家に着いた時に「昔使っていた剣だ」と僕にくれた物だ。

手に取ってみると、ずしりと重い感触が伝わり古くから使っていた物にも関わらず刃こぼれひとつないきれいな剣。
ただ、よく見てみると通常の銅の剣より短くそして薄くなっている。

きっと毎日大事に手入れをしてきたであろうその剣を構え振ってみた。

短くなったことにより扱いやすくはなっているが、まだ自分の力では剣に振り回されてしまうであろうと感じるくらい重い。



まだ素手で殴ったほうがいいのではないかと考えながら素振りをしていると急に部屋のドアが開き

「坊ちゃんぼっちゃあああああああぶない!?」

サンチョが入ってきた。剣を振っている時に急に入ってきたものだから危うくサンチョを斬ってしまうところだったが、寸前でサンチョが飛びのき被害は出なかった。

「坊ちゃん!部屋の中で素振りをしないで下さい!当たったらどうするんですか!!」

危うく斬られかけたサンチョは少し顔を青くしながら僕を責めてきた。

「ごめんサンチョ。今度から気をつけるよ。・・・惜しかったなぁ。」

「坊ちゃん!?」

「はは、サンチョ。冗談だってば。それで、どうかしたの?」

と、サンチョをからかいつつ用事を聞いてみる。

「旦那様が先程お出かけになられたので、坊ちゃんはどうするかと思いまして。」

はやいな、父さんはもう出かけたのか・・・。そういえば以前も村に帰って早々と出かけていた気がする・・。

「僕も久しぶりに村に帰ってきたから色々見て回ってくる。夕飯までには帰るよ。」

村、というか洞窟の中を色々見て回るつもりだけどね。

「わかりました。では気をつけていってらっしゃい。あと、危ないので洞窟には近づいては駄目ですよ?」

そう言われても行くしかないのだけれど、心配を掛けないように返事だけは元気にしておく。

「わかった!それじゃいってくるね、サンチョ!」

背中に剣を背負いサンチョに悪いと思いつつ家を出て洞窟へ向かった。




洞窟へ向かう途中、教会の前を通りかかった時にリュカは思い出した。

「そうだ、一度教会へ行かないと・・・。今のレベルの確認をしておかなくちゃ。」

そのまま教会へと歩を向け、中へと入った。




教会の中へ入ったリュカは神父と話そうとさらに奥へと進んだ。

しかし、外出中なのか神父はおらず代わりに礼拝堂には白い子猫が一匹鎮座していた。

「神父様は留守かな?・・・猫しかいないし、猫に聞いてもわからないよね。仕方ない、出直そう。」

そのまま来た方向へ向きなおし帰ろうと思った時、後ろで「にゃぁ」と鳴き声がした。



振り返ると先程の子猫がこちらを見ている。

「どうしたの?もしかして君、僕のレベルがわかるの?」

と、軽い気持ちで聞いてみた。猫は人間の言葉はわからない。だから冗談のつもりだったが、子猫は「にゃぁ」と返事とも取れる鳴き声をし、こちらに向かってテクテクと歩いてきた。

「そうかい、じゃあ僕のレベルを教えてくれるかい?」

リュカは苦笑しつつ子猫へとしゃべりかけた。

「にゃぁ、にゃぁ。」

子猫は2回鳴いた。つまり、今の自分のレベルは2ということだろうか?

「僕のレベルは2ってことかな?」

と、リュカが聞くと子猫は「にゃぁ」と肯定とも取れる鳴き声で返してきた。

リュカはその子猫のレベル判定をあまり信用していない。本来であれば洗礼を受けた神父が神に祈り問いかけ、初めてわかることなのだ。

少し不思議なこの子猫の事が気になり観察していたが、リュカの足にすり寄ってくるくらいで別に何かおかしいところがあるわけではなさそうだった。



リュカは神父が戻ってくる気配がない事を感じ、教会から出ようとする。

すると子猫はリュカのマントに爪を立てて肩まで登ってきた。

リュカは子猫を降ろそうかと考えたが、持ち上げようとしてみると爪を立ててリュカの肩から離れようとしなかった。

「仕方がない、君も一緒に来るかい?」

リュカが聞くと子猫は「にゃぁ」と返事をした。

案外人間の言葉がわかっているのかな?とリュカは考えた。

冷静に考えてみれば魔物ですら人間の言葉がわかり、理解するのだから子猫が人の言葉を理解できても不思議じゃないな、と思うことにした。

そのまま一人と一匹は教会を出て洞窟へと向かっていった。




洞窟の入り口に着くと近くで素振りをしていたおじさんが

「坊主、この先は洞窟だ。迷子になるかもしれないし、危険な目に遭うかもしれない。だから入っちゃだめだよ。わかったかい?」

と言ってきたので、「わかりました。」と返事をし、注意がこちらから離れ視線を外した瞬間に洞窟へと入った。





洞窟に入ると、僕は肩に乗っていた子猫を地面へと降ろした。

もう置いて行かれることがないと分かったのか、子猫はあっさりと肩から地面へと降ろされる。

「本当に、君は賢いな。」

およそ猫らしからぬ賢さをもった子猫を見てリュカは微笑む。

ただリュカの微笑みはすぐに中断された。

敵が現れたのだ。






スライム2匹ととげぼうず1匹。

(とりあえず、数をこなさないとな・・・)

まずは慣らし。パパスから貰った剣を構え魔物と対峙すると、スライムに標的を定めリュカは斬りかかった。

銅の剣を持ったため、先日の戦闘に比べ若干すばやさが落ちてしまっている気がするがまずは構わず以前の感覚で上段に剣を構え振り降ろしてみる。

以前の感覚だと大振になってしまうのかあっさりとスライムに避けられた。

その後スライムの反撃に会うが、正面から来た敵を軽くいなす。

「やっぱり当らない、か。」

こちらの攻撃が当らない。もちろん、あちらの攻撃も当たってないが。

「うーん、やっぱり戦い方を変えるしかないか・・・。」

そう言いリュカは切っ先を少し下に向け突進する。所謂突き。こちらであればそこまで腕力が無くても大丈夫であろう。

元々断ち切ることを前提にしている剣だが、厚みが薄くなっている為突きでも十分に刺す事が出来そうだ。

そのままスライムに剣を突きたて、攻撃を受けたスライムが弾けた。

続いて2体目のスライムにも剣を突き刺した。2体目のそれも簡単に弾け辺りに残骸が散らばった。

残ったとげぼうずに向きなおし、リュカはある事を試す。

詠唱を始め周りで砂埃が巻き上がる。

(うん、今度は大丈夫・・・。)

リュカは目標を見定め最後の言葉を紡いだ。


「バギ!」


詠唱を終えたリュカの掌から無数の風の刃がとげぼうずに向かって飛び出した。

とげぼうずは回避する間もなく風の刃に蹂躙され絶命した。


(うん・・・やっぱりバギくらいまでなら使える。だけど、今のバギ1回でもうMPが無くなったみたいだ・・・。当分バギクロスとかの高Lv呪文は使えそうにないな・・・。)


とげぼうずの周りから風が止むとリュカは少し体が温かくなるのを感じた。

みると自分の体が薄く光っている。どうやらレベルアップしたようだ。

「これでようやくLv3かな?」

剣を背中に背負いなおし離れていた子猫を迎えに行く。

子猫を拾い上げ顔の前まで持ち上げるとリュカは試しに子猫に問いかけた。

「ねえ、今の僕のレベルはいくつなのかな?」

子猫は「にゃあ、にゃあ、にゃあ」と3回鳴いた。

先程より回数が増えている。本当にレベルがわかっているみたいだ。

「ありがとう、それじゃもう少しだけ手伝ってくれるかな?」

子猫に問いかけると「にゃあ!」と元気よく鳴いた。

「よし、じゃあもう少し奥まで行こうか。」

リュカは子猫と共に洞窟の奥へと進んだ。




洞窟に入ってからどれくらい時間が経っただろう。お昼前に洞窟に入ったはずだからそろそろ夕飯の時間くらいだろうか?
地下2階の通路を歩いていたリュカはサンチョとの約束もあり少し時間が気になった。

そろそろおなかもすいてきたので家に帰ろうと相手にしていたおおきづちに剣を突きたてた。

おおきづちから剣を引き抜くとおおきづちは倒れこみ立ち上がらなくなった。

「さて、これで・・・あ、レベル上がったみたいだ。」

今日5度目のレベルアップ。子猫に確認してもらったら7回鳴いてくれた。

「切りもいいところだしそろそろ戻ろうか。」

リュカが話すと子猫も同意の鳴き声をあげてくれた。

念の為、以前ダンカンさんの薬の為に洞窟に来ていた親方が居ないか確かめ、いないようなのでそのまま戻ろうと階段の方へ歩を進めようとした時、通路の奥から話し声が聞こえた。






通路の先に行ってみると2匹のスライムがおり、こちらに気がついたのかリュカの方へ寄ってきた。

「こんなところにニンゲンがいる!いじめないで!ボク悪いスライムじゃないよ!」

と片方のスライムが叫んだ。

普通の人間であればスライムが喋れば驚いて逃げ出すか、人語を喋るスライムとして見世物小屋にでも売りつけるか。もしくは今このスライムが言っていた様にいじめる、ないしは殺す、という選択肢かもしれないが今スライムと話しているのはリュカである。

「ごめんね、驚かせたかな?驚かせるつもりはなかったんだ。」

「ねえねえ、君は僕が怖くないの?ニンゲンは僕が喋るとみんな逃げ出したりするんだけど・・・。」

「別に、特には。それに僕の仲間には人間の言葉を喋れる魔物が一杯いた・・・からね。今更スライムが喋ったくらいじゃ驚かないよ。」

以前の仲間たちを思い出し少し寂しくなったが努めて明るく振る舞った。

「そうなんだ。よかった・・・。またいじめられるのかと思ったよ。」

「あはは、そんなことはしないから安心してね。」

リュカがそのスライムと話をしていると「あの・・・。」と遠慮がちな声が聞こえ、もう一匹のスライムがこちらを見ていた。

「どうしたんだい?大丈夫、君もいじめないから。」

「ううん、そうじゃないの。聞きたいことがあるんだ。」

スライムから質問されると思ってもいなかったのでリュカは興味が湧き続きを聞いてみることにした。



「あの、君って2日くらい前に港の近くにいなかった?」

「うん、いたよ。港に船で戻ってきたばかりだったんだ。」

「その時にスライムと闘ったりしなかった?」

「うん、スライム3匹と戦った。僕が倒せたのは一匹だけだったけどね。」

スライムはリュカの返答に「そうか、やっぱり・・・。」と呟いた。

「それがどうかしたのかい?」

スライムは少し地面に俯いていたが顔?を上げまっすぐに僕の目を見てきた。

「あの時君に倒されたスライムは僕なんだ。剣とかじゃなかったから、無事だったみたい。それでね、僕を倒した君にお願いがあるんだ。」

スライムからのお願い。意外な申し出にリュカはお願いを聞いてみることにした。






「僕の名前はスラリン。君と戦ったあとから君の事が僕の中から離れないんだ。僕は見ての通りスライム・・・魔物だけど、僕と友達になってくれないかな?」




[> はい
   いいえ






※戦闘の描写が・・・できな・・・い・・・



[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第七話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/06 23:14
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第七話』





リュカはスライムの言葉に少し驚いた。

驚いた理由は二つある。

一つ目はスライムの名前がスラリンだったこと。スラリンは以前の旅でも彼の仲間になってくれた魔物だ。

オラクルベリーでモンスターじいさんと話をして
「お主は不思議な目をしている。きっとお主なら魔物と心を通わせることができるはず。」
と言われた後、サンタローズの村の近くで出会った魔物として最初の仲間。

よくスライムを見るとうっすらと傷がある。
そういえば以前のスラリンも目元に傷があったはずだ。
恐らく、僕と旅したスラリンと同一スライムに違いはないだろう。


二つ目は今、このタイミングで友達になってほしいと言われたことだ。

以前は幼少時代にモンスターと心を通わせる事は出来なかった。
ボロンゴは例外だがそれでも彼以外は僕に近付いてくる魔物はいなかった。

「どうして・・・どうして僕と友達になりたいんだい?」

リュカは尋ねる。そしてスラリンは返す。

「何かね、ボクにもよく解らないけど・・・。君を見て、君と戦って、ボクの中が懐かしい気持ちでいっぱいになったんだ。なんでだろう?君とはあの時が初めてのはずなのに・・・君はなんでか知ってる?」




「うーん・・・・そうだねぇ・・・。」

リュカはスラリンの言葉に考え込む。

彼が言っていた友達になりたいという言葉。
出来るのならば僕も彼と友達になりたいと思う。
以前の彼との冒険は楽しいものだったし、能天気そうに見えて実はすごく負けず嫌いだということも知っている。

「ごめん、僕にもわからない。君とは初めて有ったはずだから。」

とりあえず以前の事は黙っておく事にした。

「でも、僕も君とは初めて会った気がしないよ。君は僕と友達になりたいって言うけど、僕はもうすぐこの村から出て行ってしまうかもしれない。もし村から出たらしばらく、もしかしたら長い間君と会うことは出来なくなると思う。それでもいい?」

「そうしたら、ボクも君に着いて一緒に行くよ!こう見えてもボク、しっかり者なんだ♪戦闘中は役立たずかもしれないけど・・・。」

それも知っている。

色々と無駄遣いをする僕やヘンリーを嗜めたり、お肉をねだるボロンゴを叱ったりいつも馬車の奥で居眠りをしていたガンドフに毛布を掛けてあげたり。

確かに戦闘にはあまり目立った活躍はしていなかったが、一番の古株ということで兄貴分としてみんなの世話をしてくれたし、僕の手助けもしてくれたかけがえのない仲間だ。

だからこそ僕は








「そうか・・・。なら、君とは友達になれない。ごめんね。」





そのお願いを断った。







「え?!な、なんでさ?」

スラリンが慌てて僕に問いただす。

「ごめん、スラリン・・・。僕の旅に君は連れて行けない。旅には危険が付いて回し、最悪死ぬことだってあるんだ。そんな旅に連れていくことは出来ないよ。」

「そ、そんな・・・。」

本当は付いてきて欲しい。スラリンが居たことで僕らがどれだけ楽しい旅を続けられたか。

でも僕はその考えは追い出した。





スラリン・・・。

『リュカ、下がって!ボクが行く!!』

『スラリン、君じゃ危ない!僕とピエールで切り込むから、下がって補助を!』

『わかったよリュカ、もう、本当に僕の事信用してないんだから!』

『適材適所だよ、ほら、君は下がって補助を!』

『はいはい、わかったよ~だ。』



彼との旅を思い出す。



そして彼の最期を思い出す。

『このままじゃ逃げ切れない!リュカ、先に行って!ボクはここで奴らを引き付ける!』

『くっ、引くんだスラリン!僕が代わりに!』

『大丈夫、リュカ。スクルト!ボクでもやれるってところ、見せてあげるから!だから先にぃっ?!』

『スラリン?!』

『っつー・・もうみんなまともに動けない!だからボクがやるんだ!!くっ、それにっ!ボクにだって囮になる事くらいできる!だから、早く皆を連れて!』

『スラリン・・・!!ごめん、必ず戻るから!』

『うん、リュカ。また会おうね!!』


僕らを逃がす為に殿を務めたスラリン。体制を立て直して僕らが戻ってきたときにはもう彼と魔物達の姿はなく、残っていたのは青い、青い水溜りだけだった。



(ここで彼を連れていくと、また同じことが起こるかもしれない。二度も彼を身代わりにしたくない・・・。)

リュカはそう考えスラリンの申し出を断った。

「なら、一緒に行くのは無理でも友達になるっていうのだけでもダメ?もしここが君の故郷なら戻って来るよね?それならボクは君が戻ってくるまでこの洞窟で待ってる。君が帰ってきたらここに来てくれればボク達はまた会える。それでも、ダメかな?」

スラリンは少し寂しそうに言った。

「そうだね・・・。それでも君はやっぱり元の・・・うわっ?!」

スラリンへ言葉を掛けていると肩に乗っていた子猫が急に僕から飛び降り、スラリンの背中?に飛び乗った。

「にゃー」

スラリンが「う、うわわぁっ?!」と驚いたが子猫はスラリンの頭のツノ?の周りに器用に手を回しスライムネコになった。

スラリンの上が気にいったのか、猫は少し嬉しそうな顔をしながら「にゃーにゃー」と鳴いている。下にいるスラリンはどうしようかと少しうろたえ気味になっていた。

「ふふ・・・あっはっは!!」

リュカは可笑しくなって笑いだした。うん、やっぱりスラリンはスラリンだ。ちょっと抜けてるところもそのままだし。それに、やっぱり僕はスラリンが好きなんだ。友達の誘い、断れないよね?

「はは、そうだね。君はここにいる。僕はここに来る。そして会ったら、一緒に遊ぼう。子猫も君を気にいった様だしね?」

「いいの?」

「うん、でも僕の旅には連れて行けない。それでも、いいかい?」

「うん、しょうがないけど我慢する。よろしくね!そういえばキミの名前はなんていうの?まだボク君の名前を聞いて無かったよ。」

あぁ、そういえば。とリュカは自分の名前を告げていないことに気付いた。

「僕の名前はリュカ。こっちの子猫は・・・そういえば知らないや。」

ついでに子猫の名前も知らないことに気付いた。

「あはは、何それ?さっきも言ったけど、ボクの名前はスラリン。よろしくね、リュカ!」

「こちらこそよろしく、スラリン。」

と、手がないので頭を撫でてあげるとスラリンは少しくすぐったそうな顔をした。

「君は明日もここに来るの?」

「うん、僕は多分明日もここに来るよ。それじゃまた明日、だね。」

「うん、また明日!」

「にゃー!」

子猫も交えて再会を誓う。



「あのー・・・。」

すっかり話に置いてかれてしまったスライム君はぼっちで少しさみしかった。





「坊ちゃん!もう夕飯の時間は過ぎてますよ!何処に行ってたんですか!」

日が暮れ、周りが真っ暗になった頃リュカは家に帰り着いた。帰り着くなりサンチョの怒った顔で迎えられ、僕は夕飯抜きにされたらどうしようか、とそんな事を考えていた。

「あれほど夕飯前にはと言ったのに・・・。あれ坊ちゃん、その子猫はどうしたんですか?」

サンチョ僕の肩に乗っている子猫にようやく気がついたようだ。

「実はね、教会に行ったとき礼拝堂で懐かれたみたいなんだけど神父様に聞いたら教会の飼い猫じゃないらしくて、丁度3日前くらいに礼拝堂に居着いたんだって。それで神父様も困ってた所に僕が懐かれたらしく、飼ってあげられないかってお願いされたんだ。」

ちなみに神父様に今のレベルを確認してもらったら、レベル7だって言われた。もしかしたら本当にこの子猫はレベルがわかるのかもしれない。

「うーん、飼うですか・・・。それは旦那様に聞いてみないといけませんね・・・。」

サンチョは父さんに相談しないと、と言った。




早速2階に上がり父さんにお願いをしてみる。

「父さん、この子猫飼ってもいい?」

「何?リュカ、お前に世話が出来るのか?もし自信が無いなら飼ってはダメだ。父さんやサンチョは世話はしないぞ?」

「大丈夫、父さん。絶対に僕が世話をするから。いいでしょ?」

父さんは悩んだようだったが、飼う許可をくれた。

「必ず自分で世話をするんだぞ。わかったな?」

「はい!」「にゃー」

子猫も元気よく返事をしたようだ。




「それで、名前はなんていうんだ?」

父さんから言われ、まだ名前が無いことを思い出した。

「名前はこれから付けようと思って。父さん、いい名前ない?」

と、父さんに聞いてみる。

「そうだなぁ・・・。」

父さんは少し考え、候補を挙げた。

「トンヌラなんて・・・。」

「ダメ。」「にゃっ」

と、僕ら二人に即ダメ出しされ

「そうか・・・父さんの付ける名前じゃダメか・・・。」

と、少しいじけてしまったようだ。

気を取り直して名前を考える。



確かこの子はメスだったはず。それならば

「プックル・・・。モモ・・・。チロル・・・。」

以前ビアンカがボロンゴの名前を付けるときに挙げた候補を呟いてみると「にゃん」と子猫が反応した。

「プックル?」反応無し

「モモ?」反応無し

「チロル?」「にゃん」

「チロルがいいのい?」「にゃー」

と、チロルに反応を示した。

「そうか、それじゃ君の名前はチロル。よろしくね、チロル!」

「にゃー」

「やっぱりトンヌラのほうが・・・。」

「父さんは黙ってて!(にゃー!)」

「むぅ・・・。すまん・・・。」




こうして我が家に子猫が一匹、やってきた。




※段々と厳しくなってきました・・・。



[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第八話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/07 23:40
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第八話』



皆が寝静まった真夜中、リュカはベッドから静かに起き上がった。

隣のベッドでパパスが熟睡しているのを確認し、着替える。

そろりそろりと階段を下り、サンチョが居ないことを確認して家を出た。




村の夜は早い。闇に覆われたこの時間に、外を歩いている人はまったく居ない。

その暗闇の中をリュカは歩く。

洞窟の辺りまで来て誰も居ないことを確認しリュカは一息ついた。

「流石にこの時間には誰も居ないか。居てもらっても困るんだけど・・・。さてっと。」

確認しようと思っていた呪文がある。流石に目立つ呪文なので人が居ないところで試さなければいけなかったのでこんな夜中になってしまった。

この呪文が使えればこれからの幅がかなり広げられる。

そしてリュカは呪文を唱え始めた。

「・・・目的地はアルカパにするか。」

詠唱を終え、アルカパの町を頭に思い浮かべる。


「ルーラ!!」




リュカの周りを光が包みはじめる。光は強くなりリュカが目を開けていられなくなるほど強い光を放った。

足元に浮遊感を覚え、そのまま空高く浮き上がり何かに引かれリュカは動き出す。

夜の空をリュカが飛ぶ。山を越え、草原を超えリュカが飛ぶ。

そして、リュカの体は下へと引っ張られ始め、無事にアルカパの町の前に着地した。


「成功した・・・。」

リュカはルーラが成功したことに安堵した。

ルーラが使えることによって、自分に行けない場所は無い。

これでグランバニアであろうが、サラボナであろうが、エルヘブンであろうが、きっと魔界のジャハンナまでもいけるであろう。



その時リュカはふと母の故郷に行ってみようと思い立った。

「久しぶりに母さんの故郷に行ってみようかな。」

呪文の詠唱をしつつエルヘブンの町を思い浮かべ詠唱を終える。

「ルーラ!!」



またリュカの周りを光が包んだ。

そして浮遊感が訪れる。

浮き上がり、リュカの体を上空へと押し上げた後












リュカの体はまた元の場所へと落ちた。



「な、なんで?」

リュカは困惑した。ルーラは正常に唱えれたはず。それなのにまたアルカパの町の前に自分はいる。

なぜ?

リュカは考え、一つの可能性に行きついた。

断定は出来ない。しかしこれならば、説明がつく。

「とりあえず、今日はもう家に戻ろう。」

感覚的には恐らくもうMPが足りなくルーラは使えないはず。なら試すのはまた明日にしなければ。

リュカは思い懐からキメラのつばさを取り出す。

「サンタローズの村へ。」


そしてキメラのつばさを放り投げた。






村の前まで着き、門番が居ることを確認して武器屋の裏から回り込んで家まで帰りパパスが寝ているのを確認してリュカはベッドに横になった。

今日のアレは一体なんだったのか。恐らくそうであろう理由に当りをつけリュカの意識は睡魔の海に潜っていった。





次の日も昼間はチロル・スラリンと一緒にレベル上げをし、夜まで時間を待っていた。

そして今夜もまた一人洞窟の前までやってきた。

「昨日はアルカパには行けたから・・・。今日はラインハットにいってみよう。」

そう考え詠唱を始める。

そしてラインハットの城下町を思い浮かべ呪文を唱える。



「ルーラ!!」






目を開けるとそこはラインハットの城下町だった。

成功した。大丈夫だとは思っていたが、リュカは安堵した。

問題は次の場所。

次はグランバニアにしよう。

そう決め、詠唱を始める。

町を思い浮かべ、呪文を唱えた。





そして目を開けると予想通りそこは








ラインハットだった。



ここでリュカは一つの結論に達した。

「やっぱり・・・。僕が知っている町は全部、10年以上も先の未来の町なんだ。今の街並みを知らないから・・・。だから飛べないのか・・・?」

恐らく、当っているだろう。

ルーラは以前行ったことのある場所へ飛ぶ呪文。

この時代のリュカはラインハット、アルカパ、サンタローズ以外に行ったことが無く、今の時代のグランバニアやエルヘブンにはもちろん行ったことが無い。

以前の旅では行ったことはあるが、それは今から10年や20年もあとの話だ。

きっと今の街並みとは違うのであろう。

リュカはルーラで飛べない理由をそうリ結論付けた。


困った、どうしようか。リュカは考える。

ルーラを当てに考えていたことがかなりある。

最悪、父さんを連れて一度ルーラでグランバニアに戻る事も考えていたし、ビアンカの為に考えていた古文書に記載されている物の探索も出来ない。

「どうしよう・・・。」

リュカは悩んだが、すぐ思考を切り替えた。
出来ないものは出来ない。無い物ねだりをしても変わらない。

だから出来ることをしよう。




次の日もリュカは洞窟へ行った。

朝から晩まで魔物と戦い、ようやくレベルは10に達した様だった。

そして家に帰り、その日の夜は外出をしなかった。もう検証は済んだし、あとは己の力を磨くのみ。




そして次の日の朝、薬草を取りに行った親方がまだ戻ってきていない事を耳にした。



昨日の昼、僕があそこにいるときには親方はいなかった。ということは夕方から夜にかけて洞窟に向かったのだろう。

リュカは親方を探しに独津へ向かった。

そして3階まで行くとやはり親方はそこにいた。石の下敷きになって。


そして、やっぱり寝ていた。



親方の石をどかしてお礼をされ、親方はすぐに洞窟の外へ向かった。

「そろそろアルカパの町へ行く事になるのか・・・。」

リュカは洞窟の奥へ足を向けた。



「リュカ、おはよう!」

スラリンが元気よく挨拶をしてきた。

「おはよう、スラリン。」

リュカもスラリンへ挨拶をし返す。

「スラリン。あのね、これから僕はちょっと村の外へ出かけて来るんだ。多分、1週間くらいで帰ってこれるとは思うけど・・・。」

「そうなんだ・・・。さみしくなるなぁ・・・。でも1週間で戻ってくるんでしょう?」

「うん、それくらいで戻ると思うよ。だから、それまで待っててくれるかな?」

「うん、ボクたち友達でしょ?友達の帰りはいつまでも待てるよ!」

スラリンがニコっとリュカへ笑った。

リュカもスラリンへ笑い返した。

「それじゃ、行ってくるね!」

「うん、行ってらっしゃい!またね!」

二人はまた会おう、と再会を約束した。





そしてリュカは家に帰り、少し早目の睡眠を取った。


次の日の朝、リュカが1階へ降りるとパパスやおかみさん、サンチョ、ビアンカと皆が勢揃いしていた。




「おきてきたか、リュカ。親方が無事戻って薬が手に入ったのでおかみさんとビアンカ今日帰ってしまうらしい。しかし女二人では何かと危ない。二人をアルカパまで送ろうと思うんだが、お前も付いてくるか?」

「ビアンカ、もう帰るの?」

わかってはいたが、僕は聞いてみた。

「うん、お父さんの病気をすぐにでも直してあげたいからね。」

ビアンカはお父さんが心配なのか、早く町に帰りたそうにしてた。

父さんは付いてくるか、と聞いたが多分僕を連れていくつもりなのであろう。もうすでに僕の旅の支度がしてある。

断るつもりもないので、「もちろん行くよ。」と返事をしておいた。

「よし、そうと決まったら早速出かけることにしよう!」

父さんは、旅支度を済ませた僕の荷物を渡し家を出ようとする。

その時、2階からチロルがおりてきた。そのままサンチョの前を通り過ぎ僕の肩へと飛び乗る。

「お前もいくかい?」と聞くと「にゃあ」と返してくる。

それを見たビアンカが隣で「可愛い!!可愛い!!」と言っていた。

チロルは僕の肩からビアンカの方へ飛び移ると、ビアンカの顔に頬ずりをし始めた。

「きゃあ、くすぐったい!やめてよー。」

そういいつつビアンカの顔には笑顔が溢れている。

「この子の名前なんて言うの?この前まではいなかったわよね?」

「チロルっていうんだ。この前教会で懐かれて、そのまま飼い始めたんだ。」

「ふーん、君チロルっていうんだ。いい名前だね♪」

ビアンカはチロルが気にいったのか、肩に乗ったままのチロルを優しく撫でている。

そこへ「なぁ、リュカ。」と、父さんが声を掛けてきた?

「父さん、どうしたの?」

「やっぱりそいつの名前はトンヌラが・・・「父さん(おじさま)は黙ってて!!(にゃあ!)」そうか、すまん・・・。」

父さんはどうあってもトンヌラと呼びたいようだ。






村を出て少し経つとグリーンワームとおおねずみの群れに出くわした。ビアンカとおかみさんを後方へ下がらせ僕と父さんが前へ出る。

「リュカ、大丈夫か?」

恐らく僕が初めて会ったであろう魔物を相手に大丈夫かと父さんが聞いてくる。

「大丈夫だよ、父さん。これでも僕、少しは強くなったんだよ?」

と強気で返してみる。

「みててよ。・・・・バギ!!」

僕の手から無数の風の刃が飛び出す。風の刃はおおねずみに向かって飛び、おおねずみにダメージを与えていく。

「ほう・・・。リュカ、やるようになったな。どれ、私も負けてられないなっ!」

と、父さんは言葉を言い終わった瞬間グリーンワームを一撃で倒した。

流石父さんだ、と考えているとこちらのおおねずみも風の刃に耐え切れなくなったのか、倒れ動かなくなった。

「父さん、こっちは終わったよ。」

「そうか。ふむ・・・、リュカ。お前いつの間にそんな腕を上げたんだ?」

父さんが感心してくれたので

「えへへ、父さんにヒミツでチロルと特訓したんだよ!」

と、僕は少し子供っぽい言葉で返した。

心の中では「まだ本気じゃないけどね。」と思ってはいたが。

「さて、まだまだ先は長い。道を急ごう。」

「うん!」


(やっぱり父さんと並んで旅をするのは楽しいな・・・。)

僕らの後ろでおかみさんとビアンカも僕と父さんのやり取りを見て優しい笑みを浮かべていた。






もうすぐアルカパの町に着く。



リュカは思う、親友の事を。

永き刻を共に過ごした親友の事を。





※まだアルカパにすら着いていないんだ・・・。やっぱり書くのは難しいと思います。

スクエニ板に行こうか迷ってます。行ってもすぐ帰ってきそうではありますが・・。



[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第九話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/11 18:41
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第九話』



日が傾きかけた頃、僕達はアルカパの町に到着した。

入り口の衛兵におかみさんが帰還した事を告げると、衛兵は快く通してくれた。

そのまま町の通りを進むと正面に一際目立つ建物が見えてきた。

アルカパの町では他に比べかなり大きい建物。
一見するとどこかの富豪の家に間違えてしまうのではないか、と思ってしまうが実際はただの宿屋。

それがビアンカ一家の営むアルカパの宿屋だ。



僕達が宿屋に帰ると、店番をしていた従業員の男性が「あ、おかみさん!」と声をあげた。

おかみさんは自分が居ない間のダンカンさんの状態を男性から聞き、薬が手に入ったことを告げた。

「さて、わたしは主人の様子を見て来るよ。」

「ふむ、私もダンカンを見舞うことにしよう。」

父さんとおかみさんは隣の部屋のドアを開け、中へと入る。自分も中に入るべきか迷っていると父さんから声をかけられた。

「リュカ、退屈ならその辺りを見てきたらどうだ?」

「うーん、そうしようかな?それじゃチロル、行こうか。」

父さんからの提案を受け僕は町を見て回ろうと考えチロルを呼ぶ。

いつもの如くチロルは「にゃー」と鳴き僕の肩に飛び乗った。

その時、横にいたビアンカから声をかけられた。

「リュカ、お散歩に行くの?私も付き合ってあげる!」

ビアンカの申し出にリュカは「それじゃ一緒に行こう。」と快諾する。

彼女も付いてくることになり、チロルは僕から飛び降り彼女の肩に移動する。
少し寂しいけど、ここまでの道のりでチロルは彼女に懐いた様だった。

「それじゃ、行きましょう♪」

そう彼女は言い僕に手を差し伸べた。

その時___ドクン、と僕の心臓がひときわ大きな鼓動をした。




『ほら、リュカ!レヌール城にお化け退治にいくわよ!ほら寝ぼけてないで!早く行くわよ!』


差し出される手___ドクン


『リュカ?!リュカ!?何処なのここ?!助けて、助けてよぉ・・・リュカぁ・・・』

『リュカ?リュカぁ!!もう一人で置いて行かないでよ・・・』


差し出された震える手___ドクン


『リュカ!・・・またいつか、一緒に冒険しましょうね!絶対よ!』


差し出された僕の好きな、大好きな手___ドクン



「もう、どうしたのリュカ?ほら、早く行くわよ!」

ためらいがちに手を伸ばそうとしていた僕の手をぎゅっと掴み、ビアンカはそのまま僕をひっぱっていった。

「お母さん、おじさま、リュカとちょっと出かけて来るね!」

「と、父さん、行ってきます。」

「にゃー」

僕はそのままビアンカに引きずられる様に町へと向かった。



「リュカ、どう?アルカパの町は?」

ビアンカは僕の答えを待っている。自分の育った街だ、感想を聞きたいのだろう。

しかし僕はアルカパの町は何度も訪れたこともあり目新しさが無い。
それに、ビアンカが手をずっと話してくれなかったので、ずっとドキドキしたままだった。

「そうだね・・・サンタローズの村より立派な建物があって、普段見慣れないものも多いから楽しいよ!」

と当り障りの無い言葉で返事をしておいた。

それでも、ビアンカは嬉しそうに微笑みこちらを見ている。

「どうしたのビアンカ、僕の顔になにかついてる?」

「ううん、違うの。リュカがやっとしゃべってくれたな~、って思って少し嬉しくなったの。」

そういえば宿屋を出てから僕は何も言葉を発していない。
ずっとビアンカが一人でしゃべったままだった。

「ごめんね、ビアンカ。」

「いいのよ。さぁ、今度は向こうにいってみましょ!」

嬉しそうに僕の手を引っ張るビアンカ。連れて行かれるまま僕らは町を巡った。

途中で酒場を見つけ、「ここは何かしら?」とビアンカが言った。

流石に僕は知ってはいたが、素知らぬ風でビアンカに聞く。

「ビアンカ、ここがなんのお店か知らないの?」

「うん、お父さんたちからこの辺りは近付いちゃダメって言われてるから。」

確か普通の酒場だったはずだ。もちろん僕らの年齢では近付いてはいけない場所ではあるが。
幸いまだ日も出ている。入ったところでお客さんもあまりいないだろう。

「それじゃ、入ってみようか?」

僕の提案にビアンカは考える。そして

「そうね、入ってみましょ。」

と少し言葉に期待が乗った声で答えた。



酒場に入るとカウンターの向こうに女性の店員さんが居た。しかしここでリュカは違和感を覚えた。

(おかしい・・・何かが違う・・・?)

数える程しかここに来たことはないが、明らかに何かが違う気がする。

僕がそう考えているとカウンターのお姉さんが声を掛けてきた。

「あら坊や、彼女を連れてお酒を飲みに来たのかしら?」

そうか、そういうことか。

目の前のお姉さんは以前会った時はバニーガールだったはず。
別段それで問題があるわけでもないけど・・・少しガッカリした・・・。

僕の様子に、お酒が飲めなくてガッカリしていると思ったのかお姉さんが告げた

「お酒はまだまだ君達には早いわ。でも可愛い彼女さんね。大きくなったらきっと美人になるわよ。」

その言葉に隣のビアンカが頬を赤らめた。

「べ、別に私は彼女なんかじゃ・・・。それに・・・よくおてんばって言われて、可愛いなんて言われたことないし・・・。」

俯きがちにビアンカはお姉さんと話す。

そんなビアンカにお姉さんは優しく語りかける。

「そんなこと無いわよ?貴女は可愛いわ。私が言うんだもの、自紙の持っていいわよ♪それに、そっちのキミもそう思うでしょ?」

急に話を振られて僕はしどろもどろになりながらも同意した。

「う、うん。ビアンカは可愛いよ!僕もそう思う!」

その時、そういえばと僕は思いだした。





サンタローズの村を出る前にスラリンから一つのアイテムを手渡された。

『スラリン、これはなに?』

『それはボクの一族に伝わるものでね、はるか昔にレックって人と旅をしていた先祖のルーキーってスライムがレックに貰った物なんだって。僕らがつけても可笑しいから使われずに保管されてたんだけど、ボクが持ってきちゃった。よかったらそれリュカにあげるよ。』 

『いいの?大事な物なんじゃないの?』

『うん、いいよ♪あとそのピアスには一緒に言い伝えがあってね・・・』




僕はスラリンとの会話を思い出しふくろの中を探した。

そしてスライムピアスを取り出すとビアンカを呼んだ。

「ビアンカ、ちょっと!」

「な、何?リュカ。」

「ビアンカ、ごめんちょっと右を向いてくれるかな?」

ビアンカは不思議そうな顔をしながらも右を向いてくれた。

そのままビアンカに近付きビアンカの左耳にスライムピアスをつけてあげた。

「ビアンカにプレゼントだよ。」

お姉さんがどこから出したのか手鏡をビアンカに渡し、ビアンカは鏡を覗き込んだ。

「リュ、リュカ!私、こんなのもらえないよ!それにほら、見て。私にはこんな可愛いの似合ってないもの・・・。」

僕がプレゼントすると言ってもビアンカは似合わないから、と断ろうとする。

お姉さんの方を見ると楽しそうに笑みを浮かべていた。なので僕はお姉さんに話を振った。

「そんなことないよ。ね、お姉さんもそう思うでしょ?」

「うん、いいじゃない。可愛い貴女に可愛いピアス。とっても似合ってるわよ?」

お姉さんはビアンカをほめた。

「にゃー!にゃー!」

チロルも同意してくれているみたいだ。

ビアンカは顔を赤らめ、小さく「あ・・・、ありがとう・・・。」と呟いた。



そのあとお姉さんに「大人になったらまたいらっしゃい。」と言われ、必ずと伝え僕らは酒場を後にした。





町の入り口近くまで来た時「ガウー!」という叫び声が聞こえた。

「あの鳴き声は・・・猫さん?」

どう考え眼御猫はガウーとか言わないと思うけれども、そのことは置いておき僕らは現場へ走った。



「ガルルルル・・・・」

そこでは二人組の子供が小さな動物を叩いていた。

僕たちはその子供たちに声を掛けた。

「君たちは、一体何をしてるんだい?」

努めて冷静に。

「なんだよ!今こいつをいじめて遊んでるんだ!邪魔するなよ!」

片方の子供が言う。

「変わった猫だろ?こいつ、変な声で鳴くから面白いぜー。ほらっ、もっと鳴け鳴け!」

もう片方の子供が言う。

「ガゥッ・・・。ガルル・・・。」

猫は鳴く。弱弱しく。

「その猫は、君達に何かしたのかい・・・?」

僕は右手を握りしめて彼らに聞く。

「いや、別に?この前門の近くで拾って、こいつで遊んでるだけだよ?」

僕は感情を抑える。まだ大丈夫。まだ。

「やめなさいよ!かわいそうでしょ!その子を渡しなさい!」

ビアンカは語気を強めて二人組に言う。

「おい、猫渡せってよ。どうする?」

「そうだなぁ、いじめるのも飽きてきたしなぁぶっ?!」

僕は限界だった。



ボロンゴがいじめられているのはわかっていた。以前もそうだったから。

なので、我慢しようと思ってはいたけど無理だった。

気がついた時には子供二人を殴り飛ばしていた。

そしてビアンカの肩からチロルが飛び降り、ボロンゴに近付いていた。

「君達さ・・・。そこの猫の事、叩いて遊んでいたよね?うん、じゃあ次は僕が遊んであげる。遠慮しなくていいよ?そこの猫みたいに、叩いて、叩いて、変な声で鳴くくらいまで遊んであげるからさ?」

子供たちから「ひっ・・・!?」という声が聞こえた。

「リュカ、リュカ落ち着いて!弱い者いじめはよくないわ。こいつらと一緒になっちゃうわよ?」

ビアンカに言われ僕は冷静さを取り戻した。

落ち着き、子供たちの方へからだを向けるとまた「ひっ・・・」という声が聞こえた。

「まったく、僕を化け物みたいに・・・。」

リュカは「はぁ。」とため息をついた。

「化け物・・・。そ、そうだ!レヌール城のお化けを対峙してきたらこの猫をあげるよ!!」

「そ、そうだ!退治できたらな!!」

「その言葉、本当だね?約束を破ったら・・・、わかる?」

「ひっ・・・?!わ、わかったよ!」

ぐったりしているボロンゴをチロルが心配そうに舐めていたが二人組はチロルを無視しボロンゴを抱えて「退治しないとあげないからな!」と言い向こうへ行ってしまった。




「ビアンカ、ごめん・・・。」

いくらボロンゴがボロボロにされていたからといって、殴ったのはやりすぎだった。

僕はいい、この町の人間じゃないから。でもビアンカは違う。このアルカパの町の住人で、先程の二人組とも面識があるみたいだった。これでビアンカの立場が悪くなったら、と思うと申し訳ない気持ちで一杯になった。


「何言ってるよ、リュカ。きっとあなたが殴らなくても私が殴ってたわ!!本当にあの二人組は・・・。」

ビアンカもボロンゴが苛められていたことついて怒っていたようだ。まだ面識も何もないのに。

「にゃーう」

チロルが足に顔をこすりつけてきた。

「どうした?お前もあの猫が心配かい?」

足元から抱きあげ、チロルに聞くと「にゃう!」という返事が返ってきた。

「レヌール城のお化け退治、か。早く終わらせて助けなきゃね。」

(確か父さんは移された風邪で3日くらい寝込んでいたはず、それならば今夜はレベル上げをして、明日レヌール城へ向かおう)

僕が考え込んでいるとビアンカが言った。

「昼間は門番の意図が居て外には出れないわ。」

「そうだね、それなら僕は父さんに頼んでここで1泊してもらうから夜に抜け出して退治に行こう。」

「それなら私もおじさまに泊って行ってもらえるようにお願いするわ。お母さんにもお願いしようかしら?」




二人で相談しつつビアンカの家へ帰ると父さんがそろそろ帰ろうと告げた。

「父さん、僕1日だけ泊まりたいんだけどダメかな?」

「うん、どうした?ビアンカちゃんと離れ離れになるのがさびしいか?わっはっはっは」

「そ、そうだよ!だkら1日だけ泊っていい?」

「うーん、だが村の皆が帰りを待っているし・・・。」

「おじさま、私からもお願いします。」

「ビアンカちゃんまで、うーむ。」

そこへおかみさんがやってきた。

父さんが帰る事を告げると

「パパスさん!このまま帰るなんてとんでもない!」

といわれ、父さんは押しに負け1日だけ泊っていくことになった。

僕とビアンカは二人して小さくガッツポーズをした。

おかみさんに連れられ、父さんと部屋へ案内される時ビアンカが手招きをし近寄った僕に小声で話しかけた。








「今夜あなたの部屋へ行くわ。」







そして僕とビアンカ、二人だけの小さな冒険が始まる。



[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/18 23:16
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十話』



夜の闇にのまれ、ひっそりと静まり返ったアルカパの町。
その中で子供の声がこだまする。

「・・・・・・て、リュカ。起きて。」

金髪でおさげの女の子、ビアンカがベッドで寝ている男の子を起こそうとしている。

「ん・・・。フローラ、あと少しだけ・・・。」

男の子、リュカはまだ眠りから覚めていないようで寝言を言っている。

「ほら、リュカ。起きて。行くわよ。」

ビアンカは覚醒しないリュカを起こそうとベッドに登り、リュカに跨って体をゆすった。

「ん・・・?フローラ・・・?」

ようやく起きたのか、リュカは眼を擦りながら起き上りビアンカと向き合った。

「違うわ!私よ、ビアンカよ!」

「ビアンカ・・・?・・・あぁ。」

リュカはビアンカが夕方に言っていた言葉を思い出した。



『今夜あなたの部屋に行くわ。』




「そういえば、レヌール城に行くんだっけ・・・。」

リュカは自分の部屋にビアンカが起こしに来た訳を思い出した。

「そうよ、リュカ大丈夫?・・・それと、フローラって誰?」

(まずい、寝言を聞かれた?!)




リュカは心地よいベッドだった為、普段よりもリラックスが出来ていた為気付かぬうちに寝言を言ってしまった様だった。
しかもまずい事にビアンカにフローラの名前を聞かれてしまった。特にやましい事は無いけれど、ビアンカの視線が少しとげとげしく説明しろとも取れる目でリュカを見ていた。

「えっと、あの、フローラはね・・・。そ、そう!旅の途中で知り合った友達なんだ!今回みたいに、父さんが風邪で寝込んでしまったときに長く泊めてくれた家の子だよ!」

リュカがそう言うと、ビアンカは少し頬を膨らませてリュカに詰め寄った。

「フローラ、って事は女の子よね?何、そのフローラって子はおじさまが寝込んでいる間はあなたを起こしに来ていたの?」

ビアンカが目を吊り上げリュカを睨む。リュカはどうしようと考えつつも打開策が見当たらず困り果てた。




(なんでビアンカはそんなにつっかってくるんだろ・・・。)

「うん、僕と同い年の女の子・・・です。毎日じゃなかったけど、たまに。」

「そう、わかったわ。・・・それならこの町にいる間はわたしが毎日起こしに来る!そうよ、それがいいわ!」

「え、えぇ?!えっと・・・ありがとう・・・?」

ビアンカは一人何かを納得したらしく、毎日リュカを起こしに来る事に決めた。リュカは少し戸惑ったが、ビアンカが起こしてくれる事は自分としては嬉しいことであった為お礼の言葉が出てきた。
その言葉を聞いたビアンカの頬が赤くなり少し遠慮がちにリュカに問いかけた。

「あ、あのさ!・・・リュカはわたしが起こしに来ると・・・嬉しい?」

下にいるリュカと視線を合わせる様に屈みこみ、その眼を覗き込むような形でビアンカは言った。リュカは覗き込まれたその眼を見返しながら言った。

「僕は・・・、ビアンカが起こしに来てくれるのは嬉しいよ。さっきも言ったと思うけど、ビアンカはとっても可愛い女の子だよ。その可愛い女の子が起こしに来てくれる、それで嬉しくない奴なんているわけがないじゃない?」

そう言い、リュカはビアンカに優しく微笑みかけた。
ビアンカはその言葉を聞き、後ろを振り返って「そ、そう・・・?」と左耳に付けたピアスを触りながらリュカに聞き返した。リュカからは暗くて見えていないが、その顔は耳まで真っ赤だ。そのままビアンカは黙り込んでしまった。リュカもビアンカにかける言葉が見つからず黙り込んでしまう。




少しの間二人とも何も言葉を発せず部屋を沈黙が支配していたが、リュカは今日の目的を思い出した。

「ビアンカ、僕そろそろ準備したいんだ。悪いけれど少し部屋の外で待っててもらってもいいかな?」

ビアンカも目的を思い出したのか、「そ、そうね。」と言い外で待ってると告げ部屋から出て行った。ビアンカが出ていき、部屋には静寂が訪れた。リュカは部屋着を着替え始め、城へ行く準備を始めた。

「それにしても、フローラの名前を聞かれたのはまずかったなぁ・・・。」

今はまだ知り合いの家の人で押し通せる。押し通せるけど、実際に二人が会った時どうなるのか。リュカはその事を考えないようにした。その時になってから考えよう、と。

準備が終わり、銅の剣に手を掛ける。そしてドアの所でベッドを振り返り寝ている父へ小さく「行ってきます」と告げ、外で待つビアンカの元へと急いだ。





ようやく町の入り口辺りまでたどり着き、リュカ達は入り口の門番を伺う。今回も前回と同様に寝てしまっている様だ。しかもパジャマ姿で。起こさないように気を付け、二人は門番の横をすり抜け町の外へと向かっていった。

「門番の人寝ていたわ。モンスターの襲撃とか、大丈夫なのかしら・・・。」

「だ、大丈夫だよ。きっとモンスターが来たら、寝たままでも戦うよ。きっと・・・。」

ビアンカの心配をよそにリュカはそこまで心配はしていなかった。先程の門番、すれ違いざまにみた所、パジャマはパジャマでも戦士のパジャマを着てたようだし大丈夫だろうと考えていた。

「とりあえず、行きましょうか。レヌール城は町の北よ。」

そうビアンカは力強く言い、歩き出した。そしてその後をリュカが急いで追い、声を掛けた。




「あの、ビアンカ。そっちは南だけど・・・。」


ビアンカの顔は月明かりでも解るくらい真っ赤だった。




町の外へ出てしばらく立つとリュカ達は魔物に遭遇した。バブルスライム一匹といっかくうさぎ一匹の組み合わせだった為、リュカは毒の怖いバブルスライムを自分で片付けた。 いっかくうさぎを残し、ビアンカの戦闘を見る。
いっかくうさぎの角は怖いが、それ以外はそれほど危ない魔物では無い為、ビアンカも恐る恐るながらいっかくうさぎをいばらのムチで叩いていた。傍から見ると動物虐待に見えなくもない光景だが、相手は魔物なので大丈夫。
なんとかビアンカ一人でも魔物を倒すことが出来たが、ビアンカの動きを見ているとやはりまだ不慣れなのか、ぎこちない動きが多く今のままレヌール城へ行っても怪我をしてしまう可能性がある。
そうリュカは考え、ビアンカに少しレベルを上げてから向かおうと提案した。はじめは早くレヌール城へお化け退治に行きたいのか、ビアンカもレベル上げを渋ったがリュカに危険性を説かれ泣く泣くレベル上げをすることに同意してくれた。

「それでも危ない時は、僕がビアンカを守るよ。」

それは前から決めていた事。前回のレヌール城では最後にビアンカの腕に痕の残る傷を付けられてしまった。今回は同じ轍は踏まないと、行くのであれば準備をして行きたいのだ。

「絶対に、私を守りなさいね!」




今日はまずレベル上げ、ということで明け方近くまで二人で魔物と戦い経験を積むことにした。サンタローズの洞窟と比べて魔物の強さもアルカパ周辺の方が強く経験を積みやすかった為、なんとか二人ともレベル10近くまで上がった様だ。リュカは自分のレベルを知っていたがビアンカは知らなかった為あとで確認しようと二人で約束した。

リュカが、ある程度纏まったお金が出来たので昼間に装備と消耗品を買って置こうと考えているうちに町の入り口まで到着したようだ。
もう空が白み始めていたので急いで宿屋まで戻り大人が起きてない事を確認して、リュカとビアンカは別れてそれぞれの部屋へ向かおうとした。

「ビアンカ、疲れたでしょ?最初は怖いけど、今日一日で少しは慣れたと思う。明日もあるから、ゆっくり休んでね。」

別れ際リュカはビアンカに声を掛けた。ビアンカもリュカへ声を返す。

「うん、慣れたらどうってことなかったわ!でも、今日は初めてリュカと二人で朝帰りしちゃったし、疲れちゃったわ。・・・今日も私、起こしに行くからね。それじゃ、おやすみなさい。」


二人は別れ、夜が明ける

また明日も二人は小さな冒険へと向かう



まだレヌール城の闇は晴れない



[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十一話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:774f8010
Date: 2012/01/22 19:47
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十一話』







ビアンカとリュカが帰ってきた翌朝、予想通りパパスは風邪で寝込んでしまった。
おかみさんが風邪が治るまではゆっくりしてくれ、と言ってくれたのでパパスはそれに甘えることにした。
パパスはベッドから起き上がれないらしく、寝たままリュカへと言葉を向けた。

「ゴホ・・・、というわけで父さんが治るまでダンカンさんの所で世話になる事になった。迷惑はかけるんじゃないぞ?ゴホッゴホッ・・・。」

リュカからすると元々パパスが風邪で寝込むのはわかってはいたが、
以前とは違う部分が出てきていたので少し安心した。

(風邪で寝込んでいるのに、それを喜ぶっていうのも父さんには申し訳ないけれど・・・、
ここでやらなければいけないこともあるし・・・。父さん、ごめん。)

その日もリュカとビアンカは昼の間町の散策をし、夜は町の外へと向かった。
昼間のうちに二人は店へ行き装備を整えたので今日の戦闘は少し楽になるだろう。


町を出てすぐ、二人はおおきづちの群れに遭遇しリュカはブーメラン、ビアンカは茨のムチを構える。
ブーメランは攻撃力も銅の剣より高く、魔物全体を攻撃出来る為戦闘がしやすくリュカは以前からブーメラン系の武器を愛用していた。
リュカはおおきづちよりも早くブーメランを投げ、群れ全体を牽制する。
ビアンカもムチを片手に振り回し、群れを一か所へと固めた。
リュカは武器を剣に持ち替え、おおきづちに切りかりビアンカへ攻撃が行かない様盾となる。

「リュカ、いいわよ!どいて!」

ビアンカの声にリュカは反応し、後ろへ飛ぶ。
リュカが魔物から離れたのを確認してビアンカは言葉をつづけた。

「・・・ギラ!!」

昨日の段階でビアンカも以前契約だけしていた呪文を使えるようになったらしく、最初の魔物が危なくない敵であれば、唱えさせてほしいと言っていた。
そしてギラの詠唱を唱え終えたビアンカの手からおおきづちへ向かって熱閃が放たれ、群れを蹂躙していく。
おおきづち達の体は燃え、火を消そうともがいていたがやがて動かなくなった。
町近辺の魔物ならもう遅れを取る事は無いだろう、とリュカは考え少し遠出をしてみることにした。

「ビアンカ、この辺りの魔物はもう僕らの敵じゃない。
でもこのままレヌール城へ行ってもし強い魔物がいたら危険だから、今日もレベル上げをしたい。
すぐ助けたい気持ちはわかるけど、それでもいい?」

魔物を呪文で倒せて嬉しがっているビアンカへリュカは確認の言葉を掛けた。

「うーん・・・本当はすぐにあの子を助けたいけど・・・。
リュカは今行くのは危ないって思うのよね?それならわたしはそれでいいわ。」

思っていたよりもあっさりと提案を受け入れてくれたのでリュカは少し驚いた。
以前のレヌール城では今くらいのレベルで向かって危険な目にあったし、
その時のビアンカは提案を聞き入れてはくれなかった。

微妙な変化を実感していると、ビアンカが早く行こうとリュカの腕を引いた。
引かれるながらリュカはビアンカに伝えなければいけない事があった。

「・・・ビアンカ。」

「ん、何?リュカ。」

「行先はあっち・・・。」

リュカは反対方向を指さした。




グリーンワームやドラキー等を倒しつつ、ビスタ港にほど近い砂漠の近くへと到着した。すぐ魔物と遭遇したが、現れたのはメラリザード。
今まで戦ってきた相手とは少し違う。ビアンカを少し後ろへ下がらせリュカはブーメランを投げつけた。
メラリザードはひらりと避け「グルル」と鳴くと、メラリザードの前に火球が出現した。
ビアンカは敵が使う呪文は初めて見るのか、体が硬直し動けないでいる。
呪文を唱えたメラリザードがビアンカに狙いを定めたのを見てリュカは危ないと思うよりも先に体が動き、メラリザードとビアンカの射線上に割って入った。

「ぐっ・・・。ビアンカ、ギラを!!」

炎を受けつつビアンカを見るリュカ。
ビアンカを見ると顔面蒼白でガタガタと震えている。
リュカはもう一度ビアンカに呼び掛ける。

「ビアンカ!僕は大丈夫だから、あいつらにギラを!!」

ビアンカはハッと気づき、リュカを見る。
メラによって体が所々火傷をしている様だがまたメラリザードに向かって切り掛っているのを見ると無事なようだ。
ビアンカはメラリザード達を睨みつけると詠唱を始める。

「・・・あんた達、わたしのリュカになにしてんのよ!!・・・ギラ!!」

リュカは頭の部分はよく聞き取れなかったが、ビアンカの唱えたギラの詠唱が聞こえたので、メラリザードから離れ構える。
その直後メラリザードにビアンカの唱えたギラが直撃し、少し暴れたがやがて動きを止め息絶えた。
リュカは、魔物が全滅したのを見て自分へとホイミを唱え始め、隣にいるビアンカを見て火傷が無い事を確認し安堵の息を吐いた。

「ビアンカ、無事でよかった。」

ビアンカもリュカの傷が治ったのを確認し、目に涙を溜めてリュカに抱きついた。

「リュカのバカ!危ないじゃない!死んじゃったらどうするのよ!!」

そう言い、ビアンカは泣き出してしまった。
リュカは泣き出してしまったビアンカの頭を優しく撫で、笑いながら言った。

「言ったでしょ?僕は、ビアンカを守る。
死んだらビアンカを守れなくなっちゃう。だから僕は死なないよ、絶対に。」



リュカは自分でも何を言っているんだろう、と苦笑した。
死なない人間などいるはずが無い。現に自分は一度死んでいる。
パパスにしたってビアンカにしたって自分の以前の人生ではそれぞれ死んでしまっている。
ただ単にこの辺りの魔物程度では死なないと分かっているだけ。メラリザードのメラでは死なない程度にはレベルがあがっているはずだ。
ビアンカにしてもそう。
それでもリュカはビアンカがなるだけ傷つくのが嫌なだけ。
出来うる限りビアンカには怪我をさせない。そう決めていた。

「僕は大丈夫。ビアンカも怪我は無いね?よし、じゃあ続けよう。」

その日は二人ともLv15程度まで上がったのを確認し、町へと戻った。




馴染みとなったビアンカに起こされる儀式も終わり、今夜もレベル上げに向かう。
一応昼間のうちに神父様にレベルの確認をして貰ったところ、リュカが15、ビアンカが16になっていた。

気が付いたらリュカのレベルを超していたこともあり、ビアンカは上機嫌で夜の草原を歩く。
そしてリュカは今日はもう一段階上の魔物と戦う事を告げた。

二人で持てるだけの薬草を持ち、町を出る。
そして町を出て少し歩いた所でリュカはビアンカに目を瞑って自分に掴まる様に言う。
ビアンカは訳がわからず何故目を瞑るのか問い質したが、リュカは秘密と言うだけで教えてくれない。
仕方が無いので目を瞑るとリュカが何かぼそぼそと言い始めた。

「・・・ルーラ」

一瞬の浮遊感を覚えたビアンカは少し怖くなりギュッとリュカに抱きつく。
その浮遊感が終わり、足が地面に着く感覚を覚えるとリュカから目を開けていいよ、と声を掛けられた。
恐る恐る目を開けると視界に飛び込んできたのはサンタローズの村。

「え・・・え?あれ?なんで・・・?」

リュカは悪戯が成功した子供みたいに笑っている。

「あはは、ごめんね驚かせて。今のはルーラっていう呪文なんだ。
一度行った事のある場所へ飛ぶ事が出来るんだ。」

そんな呪文は聞いたことが無い。ビアンカはリュカの言葉を信じられなかったが
事実自分とリュカがサンタローズの村が見える所まで来てしまっている事を考えると信じるしかないと思ったようだ。

「でも、この呪文はまだ秘密の呪文なんだ。だからまだ僕とビアンカしか知らない。誰にも喋っちゃだめだから。
二人だけの秘密だよ。」

「二人だけの秘密・・・ね。わかったわ。それで、今日はどこまで行くの?」

ビアンカが無理に自分の中で何かを納得させ聞き返すとリュカは遠くに見える森を指さした。

「今日は、あそこの森までいこう。」




そうして二人は歩く。思ったよりも遠く、途中で休憩を入れたがやがて大きな森が間近に見えてきた。
そしてリュカはビアンカへと伝える。

「この先は危険だから、気を付けて。僕は必ずビアンカを守る。だから僕の背中は預けたよ?」

そう告げた直後、森から何かが飛び出しリュカに襲いかかった。
リュカは落ち着いて攻撃を避け、避け際に胴薙ぎの一撃を放つ。
そのリュカの一撃で何かは沈黙した。ビアンカが飛び出してきた何かを見て驚く。

図鑑でしか見たことの無い魔物。
似た様な魔物は知っているがそれとはまったくの別物だった。

「アルミ・・・ラージ・・・?」



暗い森の中、リュカとビアンカはそのまま奥まで進んでいく。
途中で何度か魔物と戦闘をしたが、それほど苦も無く切り抜けられた。
森の中を進んだ先でビアンカは小さな切り株を見つける。
リュカは切り株に興味が無いのか、そのまま進んでいきそれを追いかけつつビアンカは横目に見て歩いた。
そして切り株を通り過ぎると急に当りの雰囲気が変わった気がした。

ガサッ

草むらから音が鳴り、リュカとビアンカは身構える。
そして飛び出してきたのはサボテン。しかし目と足が付いている。
ダンスニードルだ。そして傍らにはスライムに乗った騎士、スライムナイトもいる。
リュカはスライムナイトへ一度視線を向けると、ダンスニードルに切りかかった。
ビアンカもリュカに当たらぬよう、気を付けてギラを唱える。

ビアンカのギラはダンスニードルを飲み込み、ダンスニードルは動かなくなった。
それを確認してリュカはスライムナイトに刃を向ける。

ホイミを使ってきた為、少し時間は掛ったがリュカ達は何とか魔物の群れを倒した。
そしてリュカもビアンカもアルカパの町周辺では得られない程の経験を実感していた。

(やっぱりここの森の魔物は経験値が多い。少しくらい無理しないとね・・・。それに、いざとなればキメラの翼もある。)

この辺りの魔物は強敵だ。ビアンカを守りながらだと正直きついが、それでもタイムリミットは近い。
もちろん、レヌール城の事ではない。

その日もリュカとビアンカは明け方まで魔物と戦い、二人ともLv20まで上がった所で町へと帰還した。


家へ帰ると、ビアンカは眠くなったらしい。

「あーあ、ねむいわ。今日はもう寝ましょ。」

リュカも同意を返したが、それと伝える事がある。

「ビアンカ。」

「ん、何?リュカ。」

「明日、レヌール城へ向かおう。」





レヌール城の夜明けまで、あとわずか



[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十二話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:151b187b
Date: 2012/02/14 01:19
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十二話』




次の日の夜、リュカとビアンカはアルカパの町を出発し北へ北へとレヌール城へ向かった。
途中魔物の群れに何度か遭遇したが、二人は危なげなくそれを撃破し進んでいく。
二人は山を迂回し、平原を超え森の間を進みレヌール城を目指して進む。


「ねぇリュカ、ちょっと休憩しない?」

森に入ってからしばらく経った頃、ビアンカが少し疲れた声でリュカへと声を掛けた。
アルカパの町からレヌール城へと続く道は子供の足には少々厳しい。
リュカもそれをわかっているので、ビアンカの提案にのり少し休憩することにした。

「まだかかるの?」

不満そうな声でビアンカは言う。彼女はもう歩きたくないと言葉には出さないが態度に出てしまっている様だ。

そんなにいうならおぶっていこうか?とリュカは問いかけると
ビアンカは顔を真っ赤にして「そこまでしなくても大丈夫だから!」と拒否した。

話をしつつ休憩をし、ビアンカの体から少し疲れが抜けたようだったのでリュカは先を急ごう、とビアンカを促した。


休憩を終え、森の中を進んでいく二人。
しばらくすると森の切れ目が見え、そこを抜けると大きな平原に雄大な城が建っていた。

「あれがレヌール城・・・。」

ビアンカから少し震えた声が聞こえる。以前のお化け退治の時もそういえば怖がっていたっけ、とリュカは昔を思い出した。
怖いけれど猫・・・ボロンゴを助けたい為に頑張る少女。
見ると声だけでなく目も怯え、体も震えている様だった。

「ビアンカ、ちょっと座って。」

リュカは震えるビアンカに声を掛け、ビアンカが座ったの見計らい後ろからビアンカの首に手を回し軽く抱擁をする。

「ビアンカ、大丈夫。君は一人じゃない。僕もここにいる。二人なら怖くは無いよ、そうでしょ?」




ビアンカは無言で回されたリュカの手を握り返した。
暖かい手。それに包まれている体も段々と暖かくなってきている気がする。ビアンカは自分の体の震えが収まっている事に気付いた。

震えが収まった、というよりも心が落ち着いて行くという感覚。
そしてそれ以外の何か言い表しようの無い感覚。ビアンカはその感覚が何で有るのかは分からない。
でも何故かひどく安心でき、心が温かくなってくる。

「もう、大丈夫よ。さぁ行きましょう!」

再び見たビアンカの目はもう怯えていなかった。



二人でレヌール城へと近付いて行くと城の上にだけ不自然に暗雲が立ち込め、雷の鳴る音が聞こえてきた。
ビアンカはまた少し怖くなって来たが、ビアンカの手をリュカがそっと握る。

「大丈夫だよ、ビアンカ。」

優しくビアンカに微笑みかけるリュカ。二人は手を握りレヌール城の門をくぐった。



門をくぐると周りの雰囲気が一変した。今までの空気と違い、酷く冷たい空気が漂っている。
二人はそのまま進み、眼の前にある城の扉に手を掛けた。

「あれ・・・、開かないわね・・・。」

押しても引いてもビクともしない。どうしようかとビアンカは考え込んだ。

「困ったわね。どこかほかの所から入れないかしら?」

二人は辺りを見回すとそこだけ草が倒れている場所を見つけた。

「あそこ、通れそうだよ。行ってみよう。」

リュカはビアンカの手を引き道を進んだ。道なりに進むと城壁に梯子が掛っている。

「ここからなら登れそうだよ。」

リュカはビアンカに先に登る様に促したが顔を真っ赤にして「先に登って!」と怒られた。

梯子を登り始めると途中途中で雷が鳴り始めた。
梯子を登り切り、屋上近くの入り口を見つけ中に入ろうとすると魔物の群れが現れた。

スカルサーペントの群れだ。

始めてみる魔物に少しビアンカは怯んだが、リュカが一撃で敵を沈めるとそれほど手強くないと分かったのか、普段の動きが戻ってきたようだ。

危なげなく魔物の群れを倒し、入り口をくぐると上から格子が落ちてきた。
そのまま閉じ込められてしまったようだ。目の前には階段、先に進むしか無い様だ。


リュカは階段を降りつつ思い出した。この先に骸骨の群れがいたはずだ、と。
前はビアンカを連れ去られえてしまった。
けど今回は連れて行かせない。これ以上、ビアンカに怖い思いをさせるわけにはいかない、と。

階段を降り切り、兵士の詰め所であったであろう場所を通りかかると、ベッドの上には白骨が並んでいた。
全部で6体、なんとかなるだろう。
そしてリュカは詠唱を始める。

全てのベッドを通り抜けた瞬間、骸骨が動き出した。

「キャー!」

ビアンカの叫び声が上がる瞬間、ビアンカを背中に回し庇い詠唱を終える。


「・・・バギマ!!」


白骨が宙を舞い、全て動かなくなった。

リュカはビアンカに向き直った。


「言ったでしょ?僕は君を守る、君を一人にはしないって。」


レヌール城の夜はまだ明けない。



[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十三話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:151b187b
Date: 2012/02/19 16:36
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十三話』





骸骨を倒した二人は部屋の奥にあった階段を先へと進んだ。
さらにその先を進んで行くと、ビアンカが壁に何かが張ってあることに気付いた。

「何かしら?あれ。」

二人は近付き張り紙を見る。

「ええっと・・・、・・・たちのお・・・をかえして・・・。だめだわ、難しすぎて私には読めないわ・・・。」

リュカは読めたが、ビアンカの機嫌が悪くなるといけないので黙っている事にした。
ビアンカがうんうん唸っていると、部屋の中でゴトリと大きな音が聞こえてきた。
よく見ると本棚が宙に浮いて動いている。
部屋の中を本棚が動き回り、本棚の有った場所からかいだんが出現した。
ビアンカに降りようと声を掛けようとすると、ビアンカは目を見開いて階段とは別な方向を指さした。

「ちょっと、リュカ・・・。あ、あれ・・・あのひと・・・」

ビアンカが指さした方向を見ると、綺麗な女性が立っていた。だが、体は透けている。
女性は二人の方を見ていたが、やがて視線を外し階段へと向かった。
そして階段前で振り返り再び二人を見つめ始める。

「もしかして、僕らについてこい、っていうことなのかな?」




二人は女性の後に続き階段を降り、先へと進んだ。
しばらく進むと大きな部屋に出た。
リュカは辺りを見回してみたが、魔物の気配はしない。
そして女性は部屋の中央付近まで進むと、二人の方へと振り向いた。
二人はそこで初めて彼女の瞳を初めてみた。
その瞳は彼女が透けて見える体だというのに
酷く淀んで見える。

リュカはこの瞳を知っている。
遠い昔、彼が奴隷で在った頃の仲間達。彼らの瞳に似ていた。
どうしようもない、どうかしたい。でもどうにもできない。

自分の力で何とかしたい、でも結局何も出来ず諦めてしまった彼らの瞳。
女性の瞳は彼らと非常によく似ていた。

思えばリュカは彼女の瞳を以前は気に留めていなかった。
よくわからなかった、といえばそれまでだが。
改めて対峙した今、どれ程の絶望が彼女を包んでいたのか。
それがよくわかった。


《初めまして、可愛らしい冒険者たち・・・。》

(!?)

頭に直接響いてくる美しい声。
それに少しリュカは驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻し彼女の話に耳を向ける。

《私の名はソフィア。かつてこの地を治めていた・・・レヌール王家の末裔であるエリックの妻です。・・・そなた達の名前、聞いてもよいでしょうか?》

女性・・・ソフィアはリュカとビアンカへと問いかけた。

「僕はリュケイロム・・・リュカと言います。」

「私はビアンカよ。」

《リュカにビアンカですか・・・。そなた達の様な幼き子達にお願いするのは心苦しくありますが・・・どうか、お願いです。私の・・・私達のお城を、取り返してくれないでしょうか・・・。》

「私達の・・・お城・・・?」

ビアンカはひとり呟く。

《はい。王家とは言ってももう何代も以前に滅びてしまった王家でしたので私とエリックの二人だけで住んでいました。子供はおりませんでしたし、二人きりの生活ではありましたが平和に暮らしていたのです。・・・その後私とエリック、二人とも病に倒れてしまいました。訪れる者もおりませんでしたので、誰にも知られぬまま私たちは長き眠りにつき、この城も無人になってしまいました。それでも私達二人は共に魂だけの存在になり、この城に留まり続けたのですが・・・、長きに渡り無人で在ったこのお城にも魔物が住み着いてしまいました。》

「あの、お二人はどこへ葬られたのですか・・・?」

リュカは違和感を覚え、ソフィアへと問いかけた。
その問いかけに対し、彼女は部屋の奥にあった2つの大きいベッドを指さした。
リュカはそちらへ視線を向けると、眼を見開いた。

その様子を見ていたビアンカも同じようにベッドへと視線を向け息をのんだ。

ソフィアが指さした先にあった2つのベッドには、それぞれ一つずつの白骨が横たわっていた。

《私たちは・・・あそこで眠っています。・・・どうか、お願いです。私とエリックを・・・、静かに眠らせてください・・・。》

そうソフィアが告げると、その場から彼女の姿が消えてしまった。



リュカは隣のビアンカを見た。
俯き、何かを考えている様に見える。

「ビアンカ、・・・怖い?町へ、戻ろうか?」

先程の話を聞いて、ビアンカが心配になった。
彼女は幽霊の類が非常に苦手だ。
実際に彼女は幽霊であったわけだし、彼女が恐怖を板居ていても不思議ではない。
そう思いリュカはビアンカへと声を掛けた。

「あのね、リュカ・・・。」

ビアンカの声は震えていた。きっと怖いのであろう。

「怖いか怖くないか、で言えばとっても怖いわ・・・。でもね。」

ビアンカは一度そこで言葉を切る。

「でも、私はあの人を助けてあげたい。幽霊なんだからちょっと怖いけど・・・、だけどね、リュカ。私は放っておけない、そう思ったわ。だから怖いのも我慢する。もしかしたら怖くて、動けなくなっちゃうかもしれないけど・・・。でもその時は、守って食えるんでしょ?」

恐怖と闘っているのか、ビアンカは笑おうとしている顔が少し引きつっている。

だからリュカは出来るだけ優しく、今自分にできる最高の笑顔で

「もちろんだよ。ビアンカ。」

ビアンカが安心出来る様、笑いかけた。






部屋を後にし先へと進むと、階段が見えてきた。
リュカを戦闘に階段を降りて行くと、階下は手の先が見えないくらい真っ暗であった。

「ま、真っ暗だわ、リュカ。足元に気をつけてね・・・。」

そういい、ビアンカはリュカの服の裾を掴んだ。
真っ暗で見えないが、きっと震えているのだろうか。
リュカは裾をつかんでいたビアンカの左手を自分の左手で掴み、裾から手を放させると、今度は右手でしっかりと彼女の左手を握りった。

「ビアンカも、危ないから気を付けてね。」

少し恥ずかしいな、と思いつつリュカは先を急ぐことにした。

しばらく進むと、明かりが見えてきた。
明かりのともった部屋に入ると、階段があったので、先へと進んでいく。
さらに階段を進んでいくと、炊事場の様な場所へとたどり着いた。

炊事場の前を通りかかった時ふと横を見ると、そこには一人の男性が立っていた。
パパスと同じか、少し上くらい。ただ、その男性もまた、透けていた。

男性はこちらに気付くと奥にあった階段へと向かった。

リュカとビアンカは男性の後追い、階段へと向かう。
階段を上がると、そこはバルコニーの様な、見張り台の様な場所であった。

そのバルコニーの橋、そこに立ち遠くを見つめる男性がいた。

《そなたたち・・・、この城へ何をしに参った?大方化け物が出るという噂でも聞いたのであろう。見るにそなたたちはまだ幼い。悪い事は言わない、早々に立ち去られよ。》

男性は二人を見る。リュカとビアンカはその男性の瞳を見て思う。
ソフィアと同じ瞳をしている、と。絶望に包まれてしまっているあの瞳と同じ。

「それはできないわ!私たちは約束したんだから!ソフィアさんに、静かに眠らせてあげるって!!」

ビアンカは男性に向かって声を上げた。
恐らくあの人も透けているので幽霊であろう。
それはビアンカも理解しているのか、ビアンカの後ろから少しだけ顔を出し、リュカの手は握ったままである。
ただ、それでも男性の提案には拒絶した。


《そうか、ソフィアとも会ったのか・・・。》

「はい、僕はリュカと言います。こちらの女の子はビアンカです。」

後ろに隠していたビアンカの手を引っ張り、横に連れ出す。

「ビアンカよ。」

ビアンカは一言だけ名前を告げた。リュカの手をしっかりと握りながら。


《幼くも、勇気ある者たちよ。私の名前はエリック、ソフィアの夫だ。ソフィアが願ったとはいえ、そなた達の様な子には荷が重いであろう。・・・立ち去ってはくれぬか?》

エリックの問いかけにもビアンカは従うつもりは無い様で、彼の眼を見ながら言った。

「エリックさん、私たちはやるって決めたの。これ以上、エリックさんやソフィアさんの平穏を乱させないためにも・・・!」

そのビアンカを見て、彼は二人に問いかける。

《私達とそなた達に関わり合いは無い、それでも何故そなた達は事を成そうとする?》

彼の問いかけにビアンカは答える。

「約束したから、ソフィアさんと。・・・それに、困ってる人を見過ごせないじゃない?」

そういって、ビアンカは不敵に笑って見せた。
足が震えてなければすごくかっこよかった。


《そうか・・・。困っている人か・・・。一つだけ、私とも約束をしてくれ。危険を感じたら、すぐに城から出るように。それだけは、必ず守ってほしい。》

「はい。」

「わかったわ。」

エリックの言葉に二人は同意の言葉を返す。

(いい返事だ。・・・私達に子供がいたとするならば、このもの達の様な子が欲しかったものだな・・。)


《それでは、改めて私達夫婦よりお願いだ。・・・私達を安らかに眠らせてくれ・・・。》

「わかりました。」
「まかせといて!」


その時、レヌール城を覆っていた雲から一筋の月の光がさしていた。



[31077] ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十四話
Name: 恭◆e803ccf5 ID:fd7d6793
Date: 2013/06/18 02:38
『ドラゴンクエストⅤ -刻を越えて- 第十四話』










≪そういえば、こちらへ来る途中暗闇に包まれた部屋があったであろう?≫

「はい、僕等は松明を持って着ていないので壁伝いに進んで来たのですが・・・。」

≪そうか、それなら私の後についてこちらへ来なさい。≫

エリックはリュカとビアンカの前に進み、二人を促した。
来た道を戻り、炊事場が見えるとエリックは二人にここで待つ様言い、奥へと消えていった。


しばらくして戻ってきたエリックの手には一つの木が握られていた。

≪これは、その昔我が王家の先祖が、レヌール城建築の際に、この地の精霊から贈られた魔法の松明と呼ばれる物だ。これを二人に貸そう。どちらかメラの呪文は使えるかな?≫

「あ、私が使える!」

≪そうか、ならこの木を持って先にメラをイメージして唱えるといい。そうすれば、この木の先に明るい火が灯る。消したいときは、火が消えるイメージすれば火が消える。≫

「えっ…えっ?よくわかんない…。リュ、リュカ!どういうこと?!」

「えっと…、木の先に向かってメラを唱えればいいってことかな?多分ビアンカならあれこれ考えるより、まずやった方がいいと思うよ。エリックさん、その松明お借りしてもよろしいですか?」

≪我が王家にはもう子孫もいない、その松明はそなた達に贈ろう。この様な物しか贈れずに申し訳ない。≫

「そんな…、王家に伝わる物をこの様ななんて。大切に使わせていただきます。ビアンカ、こっちに来て。」

リュカはエリックから松明を受け取り、ビアンカに渡した。

「それじゃビアンカ、その木の先を前に向けて?」

「こう?」

「そうそう。そうしたら、その木の先に魔物をイメージして、メラを唱えてみて。」

「魔物をイメージして・・・メラ!」

ビアンカがメラを唱えると、松明の先に暖かい光が灯った。

「きれい…。」

≪無事灯った様だな。この松明には魔物を遠ざける働きも持っている。強い魔物には効かないが、弱い魔物であればこの火を見るだけで逃げていく。≫

「エリックさん、ありがとうございます。必ず、僕達はこの城を…お二人を解放してみせます…!」

≪あぁ、期待して待っているよ。リュカ、ビアンカ、気を付けて。≫
「うん!私たちにまかせなさい!」



二人はエリックと別れ、元来た道を引き返す。しばらく進むと、階段が見えて来た。

「この階段を上ると、さっきの暗い通路に出るね。ビアンカ、松明の準備は大丈夫?」

「まかせなさい!もう点けたり消したりはすぐできるわ!」

「わかった、それじゃ行こう。」

ビアンカに向かいリュカは手を差し出した。

「わ、私は怖くないけど、リュカが、どうしても怖いっていうなら、手を繋いであげてもいいわよ?」

そう言い、ビアンカはリュカの手を握りしめた。
リュカは繋いだビアンカの小さな手が震えているのを感じ、強く強く握りしめた。
ビアンカは僕が守る。リュカはそう自分に言い聞かせ、心を落ち着ける。
二人は階段を上り、暗い暗い闇へ進んでいった。






そしてしばらくして







「リュカー!!」







ビアンカの悲鳴がレヌール城に響き渡った。



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