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[31131] 【習作】セガサターンが消える日
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/10 22:55
【特価セール!】【中古】ダブりなし!!SSソフト福袋
セガサターンソフト50本セット!


正月、俺は一年ぶりに実家のある石川県の羽咋市に帰ってきて、そして二年ぶりに父方の実家親族会に顔を出した。

「真二郎かい?あんた顔しばらく顔みせんかって、元気にしとったかいや」
「あけまして。……うん、仕事で戻れんかってん」
「そうか、今年は休みが取れてよかったわいね」

祖母の髪はすっかり白くなっていて、黒い毛が見事なほど無くなっていた。

「おばあちゃん髪、ずいぶん白くなったな。染めたら?」
「そうやねえ。すっかり白なってしもて」

おばあちゃんとの久しい会話もそこそこに居間へ入ると、もう親族のいくらかが集まっていた。

「あけましておめでとう。……真ちゃんか?」
「おじさん。あけましておめでとうございます」

一番に話し掛けてきたのは俺の父親の兄の徳男さん。つまり俺にとっての伯父さんだ。

「東京の仕事はどうや。つらないけ?」
「ええ、まあ、そこそこです」

「今年は価子もいるんや、相手してやってくれ」

価子ちゃん。確か、最後に見たのは三年前、同じここでだったか。当時価子ちゃんが小学四年生で、俺が大学四年生の時。

記憶にあるのは、ファミコンのエキサイトバイクを一緒に遊んだくらいか。
もともとゲームが好きな自分と、同じくゲームに熱中しやすい価子ちゃんとで、よく遊んでいた。ゲームをしている時は生き生きとしていたような気がするな。

……今ならわかる。精神レベルが近いだろうという周りの思惑で、俺に価子ちゃんがあてがわれていたのだろうけど。


「わかりました。でも、もうファミコンするような歳でもないですよね」

「それがそうでもないんや。中学に上がったんに、友達とも遊ばんとパソコンばっかやっててな。真ちゃんからも言うてやってくれ」

一瞬俺のことかとびっくりしたが、なるほど価子ちゃんも似たような道を歩んでいるらしい。だとしたら、俺に何が言えるっていうんだか。
確かに年頃の子が友達とも遊ばず家でひとりきりで居ることは健全とは言いがたい状態だ。

……だけど、気持ちはよくわかる。パソコン、楽しいもんな。俺もご多分に漏れず中学高校では嵌まったものだ。チャットとか。
ここは同じ道を歩んできた俺が、できるだけ落とし穴に落ちないようアドバイスをすべきだと、そう思った。
それに、中学に上がった価子ちゃんとも話してみたいしな。


父方の実家はなかなかに広いので、探すのに少し手こずった。
一階では見つからなかったので、あまり上がらない二階を見てみようと階段をのぼってすぐに、妙な音に気付く。
使われていないと思われる部屋から、がさごそと物音がするのだ。俺はそっと部屋を覗き込んでみた。

一瞬、目を疑った。
半開きになった押し入れから、小さなお尻が突き出ながらゆらゆらと揺らいでいるのだ。

今時よくあるタイトなデニムショーツから、明らかに見て取れる小さなお尻のライン。
……何の冗談だ、と思ったが、この尻がいま探している子に他ならないとすぐに思い至る。


「価子」

ぴた、とお尻の揺らぎが止む。
押し入れからバックしながら出てきたそれは、間違い無く、あの時から三年成長した、価子だった。

「価子、だよな?驚かせたか?」

「おにいちゃん!来てたの!?」
まるで見つからないと思っていたものが見つかった時のような、そんな驚きと喜びの混じった表情で価子は答える。

「ああ、来たよ」
「あっ……あけましておめでとうございます」
「ああ、おめでとう」

価子はうやうやしくお辞儀をして、そして黙り込んだ。
もともとこいつは寡黙なやつだという印象だったので、むしろこちらの方がしっくり来るというか、最初のテンションには正直、少し驚いた。


「悪いな、探し物、してたのか?」

何に対して悪い、と俺は思ってしまったのか。
後でわかったことだが、俺の欲情をもんもんとさせる尻を、思わず凝視していたことに対してなのだと気が付いた。

「……うん」
「もしかして、エキサイトバイクか?」
「?ううん、違うの」
「じゃあ何?」

今、エキサイトバイクという単語をまるで初めて聞いたかのような反応をしなかったか?女の一年は早いと言うし、忘れていたとしても全然おかしくはないけど。


それにしても、父方の実家で探すようなものなんて、あったか。
精々俺は庭にぶら下がっている干し柿や、干し餅を土産にくすねようと思ったくらいだが、この部屋にぶら下がっているとも思えないし、中学一年生のこの子がそのようなものをくすねにここを探しに来たとも思えない。
もしそうだったら遺伝子レベルで気が合いそうだが。っていうのは当然か。

「うん。えっとね……灰色で」
「灰色で?」

「ううん、灰色じゃないかもしれない。昔のもので、戦ったりするやつで」
「……戦ったり?」

「ううん、戦ったりするって限らないの。ソフトによるの」


価子の単語を拾っていくうちに、ひとつの答えを導き出した。
「……わかった。セガサターンやろ」

っていうか、なんでセガサターンが断片的な情報なんだか。

「そう言えばあったよな。無かったかばあちゃんに聞いとくわ。ここ寒いから、早く部屋戻り」

「……うん」

我ながらなんて気のきいたせりふだろう。




「ばあちゃん。セガサターンどこやった?」
「せがさたーん?ファミコンのか?」
話が噛み合っていないが、お母さんやおばあちゃんとは得てしてそういうものだからこの際どうでもいい。

「あーうん。ゲーム機のセガサターン」
「ほんなん、ほうてしもたわいね」
「ほうった?なんで」
「なんやゆうくんセーブできんからって、もう壊れてからって言って捨てたよ」

ゆうくんとは有太郎のことで、これまた俺の従兄弟の名前だ。歳は俺より一つ上。
あんなろ、セーブデータ用の電池切れ程度で捨てるとか、情弱にも程があるだろ。


そもそも、ゆうくんは独占欲が強くてセガサターンを持っていると自慢しながらも、ゲームをさせて貰ったのは後にも先にも一度きりだった。
だから当時、俺や価子はこの家ではファミコンという8ビット機で遊ぶしかなかったのだが。

しかしなんでまた価子はセガサターンなんて探していたんだろうか。この家でやることが無くてよほど暇だったのだろうか。
まあ、いいか。無いなら仕方がない。お節料理が出揃うまでマラソン中継でも見ていてくれるんだな。

心の中で、そううそぶく。


……だけどどうしてか俺は諦めきれなかった。
どちらかというと無欲そうな顔をしてる価子が、あんなに躍起になって探している姿を見るのなんて、初めてだった。
三年もすれば誰でも変わるとは言うが、俺にうやうやしく新年挨拶をしてきた価子は三年前の価子そのまんまだったし。

俺はパーカーのポケットからIS01を取り出しておもむろに検索をする。
" セガサターン オークション"

今日プレイすることは出来ないだろう。だけど、俺が地元にいるうち、いや来年の正月にまた価子とプレイできるなら……。
そう思って検索結果を待つが、表示されたのは不思議な結果だった。

「4件……?」

検索に引っ掛かったのは、僅かなターンテーブルなどの商品のみで、ゲーム機らしい品は一つも見当たらなかった。

おかしい、そんなはずは無い。
あの、90年代を風靡したはずのセガサターンが4件?グーグルがまたおかしなフィルタリングをしているのか?

……しかし、ヤフー、バイドゥ、ビング検索を掛けても、結果は同様だった。

背中に寒気を覚えながら、まだだ、と心の中でつぶやく。




いつものスレを開き、こう書き込む。
"セガサターン無いかね、検索に掛からなかった。いよいよ手に入らなくなったんけ?怪しい品でも構わんから頼む、できればソフトも"

ここのヤツらとは、付き合いも長く信頼も厚かった。顔も名前も知らないやつらだし、モニターの向こう側の人はきっと入れ替わり立ち替わりしているだろうけれど、それでも俺にとっては唯一無二の"親友"に違いなかった。
彼らならいかに検索エンジンがだんまりを決め込んでいても、そんなことはささいな問題に違いない。

「すまんな、みんな……後でお礼の特価は探すからな」
そう心の中で呟き、10分ほど待ってから更新ボタンをクリックした。

そこには、意外な反応があった。
いや、意外というにはいささか早計か。

返答があったのは一つだけ。
それ以外は俺の書き込みなどスルーだ。流されるのはいつものことだ、それはいい。
しかし、ただ一つ答えてくれた返事が、異様としか言いようが無かった。





"やめろ"



[31131] セガサターンが消える日2
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/09 03:55
「やめろ?」

やめろ、ってなんだよ。何をやめるんだ、スレチなのは百も承知なのだが、こんな風にとがめられたのはいつもと趣向が違うというか、なにか、えもいわれぬ感覚を覚える。


"やめろ、ってなにがだよ。セガだよセガサターン。ネットの中古ショップとか出てこないんよ"

このように書こうと思ったのだが、思い留まった。
このスレはあくまでもPCパーツなどの特価品を淡々と貼っていくのが原則だ。
その原則を踏み越えて質問をした俺に、追撃の質問をかます権利などない。"キミいい加減スレチやろ"とたしなめられるのがオチである。深追いはやめておこう。


中古ショップ、か。

そう言えばこのじいちゃん家の山を下りてしばらく走ったところに、カメクラがあったような気がする。中学くらいを最後に行っていないが、まだあるだろうか。
一族揃ってお節をご馳走になり、一段落したところで価子に話し掛ける。

「価子、ゲーム屋さがしにいかん?ばあちゃんに聞いたらセガサターン、捨てたんやって。だから買いにいこ」
「! 別に、いい……」
「でもなんか、俺がしたくなったから買いに行くわ。行かん?それともどっか予定ある?」

困ったふうに価子は父親の顔をちらりとうかがった。
徳男さんは、顔を赤くしながら俺の父親や母親と談笑している。

……おそらく、予定は無い。
価子の家は、父親におうかがいをたてなくてはいけない暗黙のルールか何かがあるんだろう。

「徳男さん」
「ん、なんや」
「この後、なんか予定あります?価子ちゃんとちょっとゲーム屋いってきてもいいですか」

「ええよ、おにいちゃんに遊んでもらいな」
「だってさ。行く?」
「……うんっ」

嬉しそうな声に思わず俺もガッツポーズ。心の中でな。

「決まりやね。母さん、車借して。一時間ちょいで戻ってくるから」
「いいけど、あんた気をつけなさいよ。仕事はじめるまではペーパーだったんだからこの子……」

またぐだぐだと周りに話し出して、俺たちの話題からすぐにフォーカスが外れる。


「よし、いこ。暖かいカッコしてね」
「うん!」

走り慣れない地元の道だ。丁寧にハンドルとアクセルを操作しながら雪道を進んでいく。丁寧とは言うが、平たく言えばものすごい低速運転なのだ。
神奈川で働いている時は、雪道なんて年に一回ほどしか経験しないからな。

「……雪道、こぇー」
助手席に座る価子に聞こえないくらいの小ささでつぶやいた。
しかしさすがに元旦からなら車も人も少ないから、後ろの心配もしなくていい、助かった。


ようやく田舎道を抜け、国道に出てからは問題無くなった。道も広く、ここらは雪も地熱で溶かされとても走りやすくなっているのだ。

先ほどまで運転に集中していた俺は、価子と一つも話をしていないことにようやく気が付いた。
こういうとき、年配のほうから何か話を振ってやるべきだよなと思うと同時に、生来より俺は話を振って生きてきた方ではないことを思い出し、今になって無言の圧力と緊張を感じてしまった。



「普段、パソコンでなにしてるん?」
我ながら無粋な投げ掛けだった、と後悔した。
俺は大学のゼミ同期などからこんな質問をされたとき、答えに窮したことがあったのだ。
自己紹介の欄に趣味パソコンと書いたことが原因だが、さてあのとき俺は、何と答えたか……

「んと……掲示板とか、チャット」
そう、こんな答えだった。ああ、価子ちゃんも同じか。

しかし社会人も三年目となった俺には、根拠のない"優越感"があった。
まして"ネットの掲示板"と言うには俺は一日の長がある。なんといっても、遡れば中学生の頃から様々な掲示板に出没していたんだからな。


「へえ、そう。例えばどんなところ?」
バカだった。こんな聞き方じゃ見ようによっては、へらへらしながらいじめてるガキみたいじゃないか。

「え、えっとね……みゅうはぁと、とか」
へへっと笑いながら具体的な名前を挙げてくれる価子。


あたふたしながらも真面目に答えてくれるあたり、じつに価子らしい。
他人の言葉を変に受け取らない、いちずな性格に助けられた気がする。

「ふぅん、みゅうはぁとかあ、今もあるんだ?」
投稿小説のページとかもあったよね、とちらりと付け加えて様子をうかがってみる。案外、大人しい子に限ってすんごい小説投稿とかしてるものだよな。

「な、な、ないしょ」

一瞬、車が斜めに走った。俺がずっこけようとしたが運転中なのを思い出し、留まったのだ。
……そこまで言っておいて内緒とは、恐れ入る。

まるで盛り上がる寸前で映像が止まる、どこかの動画サイトのようじゃないか。
我ながらむなしいたとえしか出てこないことに苦笑しつつも、意地悪めいた攻勢は続く。
それに価子は"そう"と受け取っていなさそうなのが、いっそう嗜虐な心をかき立てた。っていうか可愛い。


「ごめん。でさ、ネットでニュースとかチェックしてる?って言っても、そんなのテレビでいいよね」
「ニュースは……あんまり見てないかな」

この答えようによって2ちゃんねるを見ているかどうかを判別できるのが、俺の特技だったりするのだが。
今の受け答えは"白判定"で間違い無いと、俺は胸をなで下ろした。


「お、カメクラあった!十年ぶりくらいに来たけど、覚えてるもんやね」




「あそこはもうだめだもん」

彼女がそう呟いたことに、俺は気が付かなかったらしい。



[31131] セガサターンが消える日3
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/14 23:57
入って一番に、ゲームハードが並べられたガラスケースをながめてみた。
……ない。ない。どこにもセガサターンが無い。在庫が?きっと違う。
レジまで行き、かじり付くように店員にたずねた。

「すみません、セガサターンってもう置いてないんでしょうか」
「はあ、セガサターンと言いますとどのハードかおわかりでしょうか?」


違和感。


「え、セガサターンのハード?」
「えっと、プレイステーションですとかウィーですとか、そういったどの機種のソフトか、わかりますか?お調べいたしますので」

さすがの俺もこれには参った。
今まではネット上からセガの名前を見つけられなかっただけで、"セガがネットから排除されている"とか、いくらでも強引な理由も付けられた。

しかし、今のこれは見逃せない。言い逃れが出来ない。
仮にもゲーム屋の店員が、こんな発言をすることはあり得ないのだから。
冗談で言っている?まさか。

いや、まだだ、まだ、めげるな。
店員が新人で、セガサターンというハード自体を知らない可能性だってある。

……店員の"それ"はそういった類いではないと、頭のどこかで理解していながらも俺は言葉を返した。

「いや、あのですね。セガサターンっていうハードがありましたよね?十年以上前ですけど」
「はあ。少々お待ち下さい」

そういって店員はバックヤードへ引っ込んだ。
後ろから価子が不安そうな目で、やり取りを見ている。
いまの俺も不安を隠しきれていないだろう。
くそ、どうして、こんなことで……。


「お待たせいたしました。確認いたしましたが、当店ではそのようなハードは取り扱っていないということです」
「そう、ですか……」

予想通りの、聞きたくなかった返答。
礼を言ってレジを離れ、価子のもとまで歩み寄る。

「待たせた。……ここにはセガサターン無いらしいわ。なんか他のゲーム見るか?」
ここには、か。何を取り繕ってるんだろうな、俺は。

事態を察しているのか、価子はかぶりを振った。

「ほかの店も見てみるか……?」
「ううん、もう、いい」
「そうか」

結局、俺たちは何も見ずに帰ることにした。


──────────────────


「おばあちゃん。セガサターン捨てたって言ってたやん」
「うん?ほやけどどした?」
「セガサターンてどんなんか覚えてる?色とか、形とか。それにいつ捨てたとか」
「せやからセガサターンてファミコンのことやろ?」
「ちっがうって!ファミコンはファミリーコンピューター。セガサターンはセガサターンっていうゲーム機なの!」

ありがちなおとぼけもこの場においては見過ごせなかった。つい反抗期だった頃のような苛立ちを覚え、語気を強めてしまう。

「そうかぁ、なんや難しいわいね。昔のことやさけみーんな忘れてしもたわいね。ともかくそのセガサターンやらファミコンやらいうのは、みーんなほうてしもたってば」

まさか、こんなところにボタンの掛け違いがあるとは思わなかった。
おばあちゃんは"セガだかファミコンだか知らないが、みんな捨てた"と言っていたのだ。
セガをファミコンのカセットか何かと思っていたようだ。
これじゃあ、サターンのことを俺と価子ちゃんしか覚えていないことになる。


「なあ、価子。俺へんなこと聞くかもしれんけどさ。なんでサターン探そうと思ったん?」
「わかんない。なんとなく思い出したの」
「そうか」

「しんちゃんはサターンのこと、覚えてる?」
「うん、覚えてる。けど……」

俺はかつてサターンで何のソフトを遊んだか、いまだに思い出せないでいた。
プレステで最初に遊んだソフトだって思い出せるのに。スーファミも、ロクヨンだってそうだ。
それにサターン本体のことだって……。

「実は、言われて思い出した」

そうだ。俺はセガサターンのことなんて、この十年間かそこら、全く考えたことなんてなかった。
そして朝、二階にいた価子から話を聞くたびに、少しずつ、いつの間にかセガサターンのことを思い出していたんだ。

「なんで今まで忘れていたんだろう」
「わかんないの。昨日までは、私も覚えてなかったよ」
「価子はどうして思い出せたの?」

「……わかんない」
「……そうか」


俺は深呼吸に見せかけて、深く溜め息をついた。


親族会は夕食を食べてそこそこに解散となった。またお盆にね、と言っていたが、果たして俺は帰れるかどうか。
……そういえば有太郎には挨拶、しなかったな。


家に着くなりパソコンを立ち上げ、巡回しているサイトをざっと眺める。

「変わりなし、か」

いつも行っているスレだって何も変わらない。
違うところがあるとすれば、正月だから福袋の開封速報や勝ち負けの判定でにぎわっているくらいの、そんな"いつも通り"だった。

ネットの掲示板でセガサターンのことを聞きたい。
どうして検索に引っ掛からないのか、知っていた人はいないか。どうして思い出しているのは自分と、従姉妹の価子ちゃんだけなのか。

だけど"やめろ"の一言が気になって、どうしてもそれ以上が聞けない。

まるで日常の中からセガサターンだけが切り取られたような世界。いいや、それで違いないのか。
そうでなければ、俺たちが狂っていることになる。


そんなこと、到底認められるか。



[31131] セガサターンが消える日4
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/15 00:33
「さてと」

俺はスカイプを立ち上げ、手早くIDとPASSを入力する。
実家のパソコンだから、自動ログインのチェックは外しておくのを忘れないとな。以前もこれで恥ずかしい目にあったのだ。

親族会の帰り際に、俺は価子ちゃんにメッセンジャーをしていないか聞いたのだ。するとスカイプIDを持っているらしく、これは都合が良かった。
なんたってスカイプは俺にとって常用率ナンバーワンだからな。
IDを教えて貰ったので、頃合いを見てコンタクトの追加要求を送信しておこう。

「r、a、p、u、0227、と」


あれ?
IDが検索でヒットしない。
間違えたかと思い入力をし直すが、やはり通らない。

「教えてくれたID、間違えたんかなぁ……」

いま価子ちゃんのところに電話を掛けるか、明日にするか、と思案していた矢先。

「真ちゃーん!徳ちゃんとこの価子ちゃんから電話」

母親から、そんな呼び出しがあった。

「おう価子、どした?」
「あ、おにいちゃん、こんばんは……」
「おう、こんばんは」
「夜おそくに、ごめんなさい」
「いや、いいよ。俺もちょうど電話しようかなと思っていたんだけど」
「えっほんと?」

つくづく礼儀正しい子だ。


「っていうか、普通に真二郎とかでいいよ」
「それは……そんなの、できないよ」

最初から思っていた訳ではないのだが、いくら従姉妹とはいえこの歳でおにいちゃんと呼ばれるのはなかなかにむず痒い。
本当は呼び捨てくらいで丁度いいとは思うのだが、十歳以上離れている子にそれは無理な要求かな。

「そう?まあ、好きに呼んでくれていいんだけど」
「わかった……おにいさま」
わざとか。

「あのね、なんだかインターネットに繋がらないの」

今の流れを無視して話を進めるあたり、大物の予感がしてならない。
いや、流れをせき止めようとした悪い大人は自分のほうだった。反省しよう。

「繋がらない?」
「ううん、繋がらないっていうか、今朝は大丈夫だったんだけど、今はどうしてもダメで」

話が抽象的すぎる。
繋がらない状況を丁寧に聞いてみると、ネットに繋がった朝から今夜までの間で、特におかしな操作を行ったということはなさそうだ。
それなら、ルータか何かケーブルを不意に抜いたか?
いずれにしても電話越しではそれ以上アドバイスのしようが無かった。

「ちょっと、一回電話切るね。そんな症状が無かったかネットで調べてみるから……」

一度切って仕切り直すことにした。
いくら昔からパソコンをしているといっても、トラブル対応はあまり経験が無く、的確なアドバイスのしようがない。

「行ってやりなさいよ、あんたパソコンの大先生でしょ」

電話を切るやいなや、母親が口を挟んできた。
どうして価子ちゃんの家がネットに繋がらないことを知っているんだ?きっと最初に電話を取った時に話を聞いたんだろう。

結局、俺は今の状況に合った原因らしい原因も掴めず、翌日価子ちゃんの家に行くことを約束して話は終わった。


「……っていうか、大先生じゃねーし」


──────────────────


俺は軽く朝食を済ませ、家族の車を借りて価子ちゃんの家まで向かった。
どういうわけか、昼ご飯はあちらでご馳走になる話になっているそうなのだ。

父方の実家からそう遠くない、けれども実家よりもう少し市街地らしいところに一軒家がある。
小さい頃に二、三度来たことがあるくらいだったか。それでも少し懐かしい気分を覚えながら玄関のチャイムを鳴らす。

「やあ、いらっしゃい」
「こんにちは」

出迎えてくれたのは、徳男さんだった。

「価子、真ちゃん来てくれたぞ」
「こんにちは、おにいちゃん」
「よう」

昨晩おにいさまって呼ばれたのは何だったんだか。
価子ちゃんの家族勢揃いのなか突っ込むのも気が引けたので、ここは自分の中だけにしまっておくことにした。
そうしてパソコンのある二階の部屋まで案内してくれた。

ここが……価子ちゃんの部屋か。

広い。
俺が神奈川で一人暮らししている部屋が六畳二間なのだが、それと同じくらいあるのではないかという広さ。
ここらは土地だけはあるから家も大きいし、子供部屋もこれくらいあって当然なのだろう。俺の部屋はこの半分も無いけれど。

「うらやましい」
「え?」
「いや」

部屋に入ることは前日に解っていたからだろう、これでもかというほど床に物が落ちていない。
かといって何もない訳でもなく、ベッドに置いてあるイカだかタコだかよくわからないクッションが中学生らしくて愛らしい。

「部屋、綺麗だね」
「ううん、そんなことないよ」

ちょっと前まで小学生だった従姉妹だ。別段、部屋に入ったところで何も思うことなんてない訳だが、その、なんというか、

「……感慨深い」
「なに?」
「いや」

思わず単刀な感想を漏らす。
いかん、いかん。
俺は一体何をしにきたんだと、さっそくトラブルシューティングに取りかかる。
案外、原因はなんてことはなかったりするものだ。昼飯前にさっさと終えられるかもね。

──────────────────


「どう、かな?」

俺の楽観は裏切られた。
ネットワーク接続やルータの設定、果ては終端装置の説明書なんかを引っ張り出して貰って読んでみるも、おかしな点は見当たらない。
事態が一つも進展していないのだ。

「あー……すまん、だめかも」
「ううん、私こそ、ごめんなさい」
「たしかサポートは三が日のあいだ休みだし……こりゃ、参ったな」
「ううん、別にいいの。それよりご飯、食べよ」

そろそろ昼食の時間だ。
だけど、俺はもう少し調べたらすぐ降りるからと言って、価子ちゃんを先に行かせた。

どうしても引っ掛かることがあったのだ。
インターネットオプションの設定をながめているときに不意に見てしまった、インターネットエクスプローラの履歴ページ。

「すまん、価子」

価子ちゃんには悪いと思いながら、もう一度履歴を見てみる。


"セガ差あt-ん"
"セガサターン 四郎"
"セガサターン シロウ"
"セガサターン 特価"


ぞくりと、背中の産毛が逆立つのを感じた。
もしかして、いや、まさか。
嫌な予感を覚えながら、俺はポケットからIS01を取り出し3G通信でネット接続を試みた。


「……うそだろ」



繋がらない。



[31131] セガサターンが消える日5
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/15 00:33
俺の持っているIS01からは、ネットに繋がらない。
昨日の親族会では普通に見られたし書き込みも出来たはずなのに。
気が付きたくなかった共通点。

「……なにこれこわい」

誰もいない部屋で一人、呟いた。



その後の価子ちゃん一家団欒な昼食は、ひとり上の空だった。
さっきのことを価子ちゃんに話すべきか。
いや、やめておこう。俺の見つけた共通点だって、まだ推測の域を出ない。
しかし、ネットから断絶されるだけならまだしも、もしも現実の身に何か起きるなんてことがあったら気が気でない。

「おにいちゃん、ぼうっとしてる?どうしたの?」
「いや……なんでも」
「真ちゃん、直らんかったからってそんな落ち込まんでいいぞ」
「すいません」

良いほうに解釈をしてくれるみんなには、ほとほと頭が上がらない。


俺の地元滞在は有休込みで一月四日まで。明日には神奈川へ発つ。
俺が羽咋を離れてからどんなことが起きるか、それとも何も起きないのかはわからない。
案外、何日かすればセガサターンなんていうゲーム機はけろっと忘れていて、ネット接続だって単なる思い過ごしで、あっさり直ったりしているんじゃないか。
……そう、俺はそれならそれでよかった、とも思えた。

だけど、問題は価子ちゃんのことだ。
価子ちゃんをおかしな問題に巻き込んでいるいま、──昨日のやめろというレスも相まって──もしも、何かがあったらと思うと恐ろしくなる。


このことを相談できる人は、果たして他にいなかったか。
地元の知人友人、当たれる人はそりゃあいくらか心当たりがあるが……。


「……ゆうくん」
「価子、なんか言ったか?」
「ううん」



「そうだ、有太郎!」
俺は箸で掴んでいた栗を落とすのも気にせず飛び上がった。


──────────────────


身近に相談できる人物。
セガサターンを持っていた有太郎を差しおいて他にいるはずがないじゃないか。


昼食を終えると、すぐに父方の実家に電話を掛けた。

「もしもしおばあちゃん?俺やけど。なあ、有太郎って就職してからどこいったんか知らん?」
「オレオレて、あんた真ちゃんか?なんやゆうくんの住んどる場所か?おばあちゃんは知っとるけれども、変な仕事やさかい場所言うなって聞かんのや。それは知っとるやろ?」
「そこをなんとか。大事なことやからさ」

大学を出てからは就職したというところまでは知っていたが、それ以上の情報は何も耳に入ってこなかった。
少なくとも三年か四年間は見ていなくて、きっと大学や就職してからが忙しいんだろうなと勝手に思っていたのだ。
噂では、研究職だの科学者助手だの言われたが、真相はよく知らない。

元々あいつは変なやつだった。
群よりは個を好むようなタイプで、いつも世の中を斜に構えたように見ていた気がする。

何度も頼み込むと、ようやく折れてくれたのかおばあちゃんは「うちへ来い」という。
電話越しで住所を教えてくれればよいのだが、それすら許されないのだろうか。

ともかく、来いと言う以上行かないわけには行かない。
俺はお礼を言って身支度し、価子ちゃんの家を出ようとした。

「ねえ、どこいくの?」
「ちょっとおばあちゃんの家に行ってくる」
「私もいく」
「なんで。大した用じゃないさ」
「ううん、行きたい」

それは随分と早い返答だった。
行くと最初から決めていたような、そんな気さえしてくる。

「行きたいっていうなら仕方ないか。家族に言ってきた?」
「うん!」


またも価子ちゃんを連れ出して、父方の実家に向かった。



父方の実家に向かっている途中、おばあちゃんとの話の中でなにか引っ掛かりがあったことを思い返していた。

あれは確か、おばあちゃんにセガサターンのことを尋ねたとき。
捨てたと聞いたとき、なんと言っていたか。

"ゆうくんセーブできんからって"

確かそう言っていた。
果たしてファミコンでセーブ機能が付いていたものなんてあったか。あったとしてもとてもわずかなカセットだけではなかったか。
そう。おばあちゃんが捨てたというのは"セガサターンの記憶"で間違いないんじゃないか。



[31131] セガサターンが消える日6
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/15 00:33
「ちっす」
「こんにちは」
「真ちゃん、価子ちゃん、ようきた」
「うん。……それで、有太郎どこに住んでるん?」
「それがなあ。ゆうくん誰にも会わんって聞かんかったから、だーれにも言わなんだけど、あんたみたいに気ぃかけてくれるんがおるとほんと嬉しいわいね」

おかしな言い回しだな。
"誰にも会わない"とはまるで、ここ実家に来ていたような言い方じゃないか。

「ゆうくんはな、うちの二階におるよ。ずーっとな」
「ずっと?」

ずっと、とはどういう意味か。
元日から?去年末から?それとも……

「そや。来る日も来る日も、うちにこもりきりや。なんやパソコン使って仕事はしてるみたいやけどな」
「そう、だったんだ」
「……」

しかしこっちだって事態は逼迫しているような気がしないでもないので、こんなことで気が引けていてはたまらない。
上がらせてもらうね、とだけ言って俺たちは二階に上がらせてもらうことにした。

「一番奥や。よろしく言うてね」

そうして、俺たちはもう一度二階へ上がる……
っとその前に、おばあちゃんに見てほしいものがあったんだった。

「おばあちゃん!」
「なんや?」
「ほら、昔こんなCMあったん覚えとらん?」

そう言って、俺は相当恥ずかしいことを承知で、例のCMを歌ってみることにした。

「せーがたー・さんしろー、せーがたー・さんしろー。せーがさたーん、しろっ!」
「あ、あー、そんなんあったなぁ。言われたら思い出すわ」

価子ちゃんが目をまんまるさせながらこちらを見ている。ごめんな、にいちゃんまるで変人だ。

「新春の初芸か?真ちゃんやるな」
おじいちゃんが奥のふすまから顔をのぞかせる。


「違うって!」


──────────────────


今はもう使われなくなった部屋だと思っていた、二階の奥の間。
今年はじめて価子を見つけたのは、二階に上がってすぐの部屋だった。
そこよりも奥は、それこそ数年は立ち入っていない、興味の外にあった場所。

一見すると本当に使われていなさそうな、暖房も行き届いていない物置か何かだと思えるようなほこりっぽい場所だが、俺は躊躇なくノックをしてみた。



「なに?」

──寝起きか、あるいはしばらく声を出していなかった時のような──低い声がドアの向こうから聞こえる。
だけど間違い無い。有太郎の声だ。

「よう、俺。真二郎やけど」
「……シンジか。なに?」

「いや、久しぶりやからどうしとるかなって。おばあちゃんから聞いたわ。なんかここで仕事してるんだって?」
「……まあな」
「そうか」
「ああ」

気まずい雰囲気のなか次の言葉を探している間に、価子がずいと扉の前まで出てきた。

「あの、こんにちは。価子です」
「!」
「あ、ごめん。言ってなかったけど価子もいる」

「……気付かなかった」
たぶん、扉の向こう側は真二郎という俺一人しかいないと思っていたんだろう。

「まあ、なんだ。今日はちょっとした相談事があるんだ。入れてくれん?」

返事は無かった。
価子も固唾を飲んで見守る。

「だめか?」
「いや……ちょっと待て」

冬場の廊下は本当に冷えるのでさっさと入れてほしかった訳だが、待てと言うからには仕方がない。
価子ちゃんと二人、廊下でじっと待つことにした。


三、四分ほどが経ったとき、突然ドアノブが回って、こちら側に扉が開いた。

「よう、久しぶり。もう入っていいのか?」
「あの、こんにちは」
「ああ、はいれ」


なんだか、色々と強引に押し入れにしまったような痕跡がある。
だから俺たちに待てと言ったのか、半分わかっちゃいたけど。
男の部屋なんてこんなもんだよな。まして価子ちゃんがいるんじゃぁな。わかるわかる。

そう勝手に頷いていると、有太郎はデスクチェアに腰かけ、俺たちにも座るよう促す。
指をさした先には乱暴に二つ、座布団が敷いてあった。

「ん、ああ悪い。っていうか、広い部屋だな」
「まあな。二階の三部屋をぶち抜いたから」

えらいことをしでかすもんだ。もちろんおじいちゃんやおばあちゃんの許可は取ったんだろうな。

「そこまでして、外に出たくない理由があるんか?」
「そうだな、あるといえばある」

そいつは聞かせてもらいたいものだと思ったが、今日しに来たのはそういう話ではなかった。

「そうか、その話また聞かせてくれ。でさ、相談なんだけど」
「セガか?」
「!」
「なんで、それを」

俺が言うより早く、有太郎は重要なキーワードに触れた。

「なんでって、それを価子ちゃんに話したんは僕やからな」
「そう、だったのか」

隣をちらりと見やる。
価子ちゃんは視線を合わせなかったが、"ごめんなさい"と小さく唇が動いたように見えた。

「なら話が早い。ともかく、変だと思う話だけど聞いてくれないか」
そう前置きし、俺は前日から襲われている不可解な出来事を三分ほどかけて説明した。

ネットやゲーム屋、果てはみんなの記憶からセガサターンというゲーム機が消えていること。
そして、セガサターンのことを調べたコンピュータ端末が、いつの間にかネットにアクセス出来なくなっていることを。


「以上のことを、お前なら何か心当たりがあるんじゃないかと思って」
「たはっ」

有太郎は唾が飛びそうな声を出して、笑った。
数年ぶりに、こいつの笑った顔を見た気がする。


「シンジ、そんな話、外ですると変人扱いされるぞ」
「……」
そう、こんな反応は当然、わかっていたことだった。

「おにいちゃん。おにいちゃんは真面目に相談してるんです、だからおにいちゃんも真面目に聞いてあげて!」
価子ちゃん、真面目な話なのになんだか笑いたくなるからやめて。




「シンジは本当に思い出したんだな。セガサターンのこと」
「は?」


ほんとうに、予想の斜め上だった。



[31131] セガサターンが消える日7
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/15 00:33
こいつは、知っている。
何かを──あるいは全てを──知っている、そんな答えだった。
わかっていた上でこいつは俺をバカにした。

なんだか無性に、腹が立ってきたぞ。

「おい、待て、その含んだ言い方はなんだ」
「さて、なんだろうね」
「自分だけ知った風かよ、俺はそれを知りたいからこうして来てんだよ!」
「やめて!」

隣にいた価子ちゃんが口論をとめて、ふいに俺の手を握る。

「価子」
「ごめん、おにいちゃん。後は私が言うから」
「あ、ああ」
俺はなだめられて冷静になり、乗り出した身を引いた。

「おにいちゃん」
「なんだ」
価子ちゃんは有太郎のほうへと向き直した。

「私、おにいちゃんにセガサターンのことを教えてもらったとき、この世界が急に今までと違う、ううん、同じ世界なのにみんなうまくそれを隠しているような、そんな変な気持ちになったの」
「それが思い出したってことだ」
「また、おにいちゃん達とゲームが、したいの。どんなゲームをしたかも、まだ思い出せないけれど」

どうやら価子ちゃんも俺と同じくセガサターンのことは思い出せていても、ソフトのことは一つも覚えていないらしい。


「おにいちゃん。ううん、真二郎のほうのおにいちゃん」
「え……なに?」
「セガサターンのない今って、つまらない?」
「つまらないってことは、ないけど……」

不意にゆらゆらと動くお尻が記憶に蘇り、顔が熱くなる。

「あった方が、いいじゃないか。価子だって、あんなに探していたんだ」

そうだ。無いよりは、あったほうがいい。当たり前のことじゃないか。




「決まりよね。おにいちゃん」

価子ちゃんは再び有太郎のほうへと向き直り、まっすぐな瞳で視線を合わせた。


──────────────────


「有太郎おにいちゃんが、どうして私にこのことを教えてくれたのか、わからないよ。
 だけど、私もこうして思い出した以上、セガサターンの無い世界は、イヤなの。あったらいいなって、思えちゃったの」

有太郎は何も言わない。

「ねえ、あるんでしょ?方法が」

有太郎はやはり返事をしないまま、パソコンに向かった。


「見ろ」
促されてパソコンのモニターを覗き込むと、見方のよくわからないグラフと、リストがあった。

「僕たちのネットはさ、こうやって日々検閲されているんだ。言っとくが、僕がしてるんじゃないぞ」
見たところ、ひとびとが書き込んだ内容がいくつかのソートがかけられた上でリスト化されているようだ。

「これ、シンジの書き込みだろ。で、こっちは価子の検索履歴」
「……!」
価子がぎょっとした表情で固まっている。

「……なるほど、これは酷いな。で、こういうことをやって、セガサターンの一切を排除しているとか、そういう話になるのか?」
「まあ、そう考えて大きな誤解はないだろ」

有太郎は説明を続ける。
この検閲プログラムがネットにはびこっているせいで、セガサターンというゲーム機は世の中から"無かったこと"にされているのだとか。
検閲プログラムに引っ掛かった端末は、一時間としない内にネットを遮断され、それでもセガサターンの行方を追おうとする者には、さらなる追求に遭うのだそうだ。

「さらなる追求って……?」

「身柄の拘束と、高度な記憶改ざんとか。もしかしたら、適当な理由を付けて人一人くらいいなくなるかもな」
「そん、な」
「……ひどい」

話を聞いて、ひとつ思い出したことがあった。
今にして思えばあれは警告というよりは、擁護に近い書き込みだったのだろうか。

「あのときスレで"やめろ"って書いたのは、もしかしてお前なのか?」
「違う」
「……そうか」


あっさりと否定されたが、一瞬、有太郎がにやっと笑ったような気がした。



[31131] セガサターンが消える日8
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/15 00:41
「さてと、悪いな。あまり見せたくはなかったが、今のを見てもらう必要があった」
有太郎が言うには、俺たちはずいぶんとまずいところまで首を突っ込んでしまったから、この検閲プログラムの恐ろしさを見て手を引いて欲しいと言うことなのだそうだ。

「そんなわけで、もう深追いするな。以上」
「……」
「……はい」

三者黙る。


「って有太郎おにいちゃん、話がちがうよ!」
「そうだそうだ!」

何がそうだなのか俺自身わからないが、ここはとりあえず価子ちゃんに追従しておくことにした。
有太郎はちっ、と舌打ちをすると、面倒くさそうに話を続ける。

「やっぱり戻りたいのか、セガサターンのある世界に」
「だからそうだって、言ってるんだよ!」
「そうだそうだ!」

「それが危険を伴っても?」
「う……うん!」
「そうだそうだ!……えっ?」

俺は価子ちゃんを見やって思わず、危険なの?といった視線を送ってしまう。

「今言ったろ、検閲プログラムに引っ掛かってなお活動を続けたらどうなるか。お前たちはそれをしようとしている訳なんだが」
「そ、そうか……そういうことになるよな、うん」

「でもさ仮にこのまま放っておけば、検閲プログラムは俺たちを監視から外して、またいつも通りに戻るんだよな?」
「まあ、そうなるな」
「おにいちゃんっ!それじゃイヤだから、どうしようもなくイヤだから、なんとかしなきゃならないんでしょっ!」

そうだった。
そもそも、俺自身はどうでもよくて、価子ちゃんのことが心配だからこうして頭を突っ込んでいるんじゃなかったか。
価子ちゃんが躍起になって取り戻そうとするのなら、俺も付いていかなきゃ価子ちゃんの身に危険が迫るに決まってるじゃないか。
なに当人に説教されてんだ、しっかりしろ、俺。

「それにもう、いつも通りじゃないよ」
「ああ、そう、だったな」



セガサターンの無い世界。俺たちは、それに気付いてしまったから。


──────────────────


「検閲プログラムについてはわかったけど、それだけじゃ説明がつかないことが多すぎる」

そう、たとえばゲーム屋の一件だ。
家族や親族だって、誰もセガサターンのことを覚えていない。

「さあ。先端の軍用技術が応用された手法らしいが。サブリミナルといえばわかりやすいか」
「それをテレビなんかのメディアを通じて、秘密裏に流された、と?」
「今出回っているゲームの中にもしっかり入ってることは確認している」
「ひどい……どうしてそんなこと」
「そのへんは僕も調べているが、言えるものでもない。そういう悪い組織がいるとでも思ってくれ」

ずいぶんなぼかし様だ。
だが、こいつは今の俺についていけるぎりぎりの情報量で抑えていてくれるんだと、そう好意的に捉えることにしておく。

「世の中にハードやソフトが消えていることについては?」
「セガサターンは発売して十五年は経つ。そもそも大した数が流通しているわけがないだろう」
「それだけじゃ説明が付かないって言ってるんだ」
「二千円札だって流通させようと当初は躍起になっていたが、果たして人々の注目から外れたいま、どうなっているか。……得てしてそういうものだろう?」

なるほどそれなりに説得力があるような気がする説明だ。あくまで気がするだけだが。

「それに加えて、意図的に収集していた奴らだっている。たとえば、悪い組織とか……」
有太郎はおもむろに立ち上がり、部屋の中を歩き出す。

「とか?」
「僕のようなモノ好きとかな」

有太郎が突然押し入れのドアを強引に開ける。
すると雪崩を打ったように出てくる、灰色や、白色の筐体。

……俺はこれを、見たことがある。


「セガサターン!」
俺と価子ちゃんが、驚きの声を上げる。

「じゃあ、捨てたって言ってたのは」
「興味を失ったことにしておいたほうが都合がよかったんだ」

実際はその逆だったってわけか。とんだ皮肉だ。
俺は久しぶりに見るセガサターンの山を見て少し気分が高揚したが、少しおかしなことに気が付いた。

「あれ、ソフトは?」
「ほんとだ……ソフトがないね」
上のほうをかき分けてみるが、円盤状のソフトは一つも見当たらなかった。

「ゲームソフトは、ほとんど残ってないんだ」
「なんだそれ」
あっけに取られる。ゲームハードがあってソフトを収集していないって、なんの冗談だ。

「収集するにも金がいるし、ハードを優先的に集める必要があったんだ、それに」
「それに?」

「……うちのばあちゃんがカラスよけに使っちまってな」
「うっ、それは」
「気が付いて取りに戻ったが、"組織"にすべて奪われた後だった」


ご愁傷様。


──────────────────


「納得はいったか?」
「まあ、そこそこ」
「……はい」

「その上で最後にもう一度だけ聞くぞ」

相変わらずの低い声で有太郎は、俺たちに再度、問いかけをした。

「危険を承知でも、ひとびとの記憶からセガサターンを取り戻したいか」
「俺は……」
「私は、そうしたい!セガサターンが無いなんて考えれば考えるほど、いまの世界はちがうって思うから」

価子ちゃんが確信を持った面持ちでそう答える。
そうだ、俺自身だって、そう。

「俺も、そう思う。だから協力してくれないか?有太郎」

「……はー、わかった」

有太郎は、しょうがないやつらだと言わんばかりにと頭をくしゃくしゃとかいて椅子に座り直す。
だがその表情は、今までにないほど緩みきっているのが見て取れた。

「決まり!」
「よし!」
俺と価子ちゃんが同じタイミングでガッツポーズをする。つくづく血は争えないと思う。

……俺自身に、解決策なんてあるはずもなかった。

神頼みならぬ有太郎頼みではあるが、いまはただ、心の底からわき起こる気持ちのままに、高らかと宣言したいと思う。





「「   俺たちのセガサターンを、取り戻そう!!   」」



[31131] セガサターンがもどる日1
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/10 19:36
「早速だが、具体的な方法にはいるぞ」
俺と価子ちゃんは強く頷いて、有太郎の次の言葉を待った。


「……近い」
「ちかい?」
「ちかい?」

何がちかいんだろう。誓い?誓いならさっき高らかと立てたじゃないか。

「僕から離れてくれないか」
「?」
「?」
あたりをよく見ると妙にせまっ苦しく、三人が密談をしているように固まった体勢になっていた。
あまりのテンションに、ずずいと有太郎のそばまで俺たちが近寄っていたようだ。座布団ごと引きずって。

「ああ、そういうこと。悪い」
「ごめんなさい」
謝り、二人してホームポジションまで戻る。


「じゃ、シンジ、価子ちゃん。ここで問題だ」
「はい」
「セガサターンをひとびとの記憶から取り戻すにあたって、必要なことは?」
「……それを教えてくれるんじゃなかったのかよ」

「まあそう言うな。ハードはこのように俺や世の中の有志が持っている。ソフトも同様に有志がいくらか所有している。では残り、必要なことは」
「それは……ひとびとに思い出させることじゃないのか」
「私もそう思う」

まるで"キミはキミだ。他の誰でもない"なんて調子のトートロジー的なやり取りだ。

「そうだな。ではその方法は」
「サブリミナルをとめるとか、検閲プログラムを阻止するとか?」
「セガサターンを大放出して、もういちど市場に流通させるのはどうかな」

「そう。さまざまな方法が思いつくが……費用の問題だったり、やってしまえば即座に組織に見つかるなど、問題も多い」

さっきから、ひどく回りくどい言い方にいい加減、うんざりしてきた。
俺はしびれを切らして、挑発も込めた言い方をしてみる。

「そこまで言うならいい方法があるんだろうな」
「そうだな。いいかはわからないが、一つある」

俺と価子ちゃんは再び次の言葉を待つ。
急かした自分が言うのもなんだが、もとより案はこいつくらいしか持っていないわけだし、すべてにおいて有太郎に主導権があることに変わりはなかった。
石油ストーブの送風音だけが、辺りに響く。


「動画サイトだ。あらゆる手を使い、生放送やアップロードを問わず一斉に配信を行う」 

突拍子もないことをと思ったが、なるほど、考えてみれば確かに筋の通った方法だ。

「ただし、動画サイトは数分とかからず検閲がはいる。文字媒体の検閲クロールもなかなかの速度だが、動画はもっと強力だ」

有太郎が言うには"セガサターンという音声"がトリガーになっていて、音声を発した数十秒の内に動画が停止させられるらしい。
動画の検閲がこんなにも強力なのは、映像で訴えかけることがとても思い出させやすく有効であるから、だそうだ。

「それを逆手に取ってやろうってことか。って待てよ!すぐに検閲が入るんじゃ、全然ダメじゃないか」
「そこで僕の出番だ。僕は世の中すべての検閲プログラムを数分間から数十分間、完全に止めることができる」

なんだ、やっぱり隠し球の一つくらいちゃんと持っていたんじゃないか。だけど……

「だけど、数分程度じゃあ、とても」
「そう。だから、お前たちの力が必要だ」
「私たちはなにをすればいいの?」
「世の中のひとびとにセガサターンを思い出せ、とメッセージを送るんだ。数分間で、みんなの胸に響くようにな」

なんてことはない。ものすごい隠し球を使った、ものすごい直球勝負だった。

「まあ、確かに……」

それが出来れば苦労はしないんだが、やってのけろと言う。
しかも検閲プログラム停止パッチを当てている最中は有太郎はパソコンに張り付く必要があるので、本番までの準備は出来ても配信中の支援はできないと来たものだ。

「ひとたびみんなの心にセガサターンを刻めば、僕たちの勝利さ。いかにサブリミナルを受け取ろうと、もう平気だ。過去に確かにあった事実は、消せやしない」
こう言っているがつまり、現在のセガサターンを覚えている人とそうでない人のバランスをひっくり返すことが、俺たちの勝利条件というわけか。

俺や、価子ちゃんが経験したような、"またセガサターンをやりたい"という思いを持った配信、か。なかなかに難しい要求をしてくれる。


「言い忘れていたが、とうぜんチャンスは一度きりだからな」
「まじか」

考えてみれば当然のことだった。
配信によって俺たちの企ては周知のものとなるし、検閲プログラムの穴を突いたパッチだって二度とは通用しないだろう。
だから、チャンスは一度きり。

「数分で胸に響くもの……か」
「ああ。すべてはシンジと価子ちゃんの双肩に掛かってるんだ、頑張れよ」
「むずかしいです……」

それまで大した根拠なく"勝った気"でいた俺と価子ちゃんは、明らかに先ほどよりもトーンダウンしていた。

「っていうか、具体的な方法じゃなかったのかよ」
「さあな、"具体的な手法"の間違いだったよ」

ここまで言っといてさあな、はないだろう。
有太郎はあくまで手法を提供しただけで、内容は俺たちに任せる、と言う。
まあたしかに、ここまでお膳立てしてくれると言うんだ、期待に応えない訳にはいかない。


そうだよな、価子ちゃん。



[31131] セガサターンがもどる日2
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/10 22:00
俺と価子ちゃんは居間に戻り、しばらく頭を垂れて考えていた。

頑張って考えようとしているものの、具体的な策なんて思いつき様もない。
こんなことなら、プレゼンテーション論をもっと真面目に受けていればよかった。

「うーんと、セガサターンを思いだせー、って叫び続ける、とか」
「それで胸に響くことになるのか、疑問だな……」

価子ちゃんも一緒になって配信の内容を考えてくれているが、クリティカルな案が特に思い浮かばない。

「うーんと、ゲームを実況する?とか」
「それじゃあ万人が知ってくれてるソフトじゃないと」
それに、自分たちがソフトについて思い出せないことも問題だ。

ヒーター完備ですっかり温くなった居間だと、思考も鈍ってしまうだろうか。
そう思って窓の外を見てみたものの、ぶるっと身体が震え、すぐに考えを改めた。
そうして二人でうんうんと猫背になっているところに、買い物へ行っていたらしいおじいちゃん・おばあちゃんが戻ってきた。

「ったー、っんしろー、……あらあんたら、まだおったんかいね。どうや?有太郎思ったよりあっけらかんとしとったやろ?」
「ああ、ごめんもうすぐ帰るわ。まあ、有太郎はなぁ。いけすかない感じのまま成長したって感じ?」
「ほうかほうか、別に急がんでええよ。夕ご飯食べていったら?お節の残りがイヤじゃなかったらやけど」

「イヤじゃないけど、価子も送ってくから」
「うん、ごめんねおばあちゃん……」
「ほうか、ほんなら陽が落ちる前に帰るまっし。暗なったら狸も出るし轢いてしまうぞ」

「うん、そんじゃ、行くわ」
「またいつでも来るんやぞ」
「ばいばい、おばあちゃん。おじいちゃんも」

「うい。気をつけろ」

価子ちゃんを助手席に乗せ、少し長めに車のキーを回す。

「……」
「どうしたの?」


待て。

いま、なにか


見逃してはいけない"ターニングポイント"がなかったか。



────────────────────────────────────────────────────



二人して車に乗り込んで、しばらくアイドリングをしていたかと思ったら、突然ちょっと待ってて、なんて言ったきり車を飛び出ていったものだから、何があったのかと内心どきどきしていた。

おにいちゃんは車を降りる際に暖房をいちばん強いのにしてくれた。
きっと、少しのあいだとはいえ車内に残すわたしを、気遣ってくれたんだろう。

帰りを待ってる間に考えていたことといえば、さっきまでの二人のおにいちゃんたちとの会話だ。
みんなほんとうに久しぶりに顔を合わせることができて、すごく嬉しかった。
だけど、話の内容はとっても大事なことだったからあんまり嬉しそうにしちゃいけない気もして、私ときたら少し変な感じになっていたかもしれない。

車の窓ガラスにぺたぺたと雪が張り付きだした。おっきい粒だ、また積もっちゃうのかな。


いろいろと、うまくいってよかったな。
真二郎おにいちゃんも有太郎おにいちゃんも、長い間会っていなかったのもあって仲違いするかと心配しちゃったけど、思い過ごしみたいでよかったよ。ちょっと危ないところもあったし、久しぶりだから私も反省するところは、あったけれど。
だけど、まるで私が真二郎おにいちゃんを騙して連れてきたような形になってきたかな?
それにしても、あんなに話したのって、久しぶりだなあ。


外の景色が見えなくなりそうになったころ、おにいちゃんが戻ってきた。
かと思うと、熱を上げて例の"配信の内容"について話し込んでくれるものだから、私はどうしたのと言ったきり、あとはうんうん頷きながら聞くしかなかった。
だけど、その内容はとても魅力溢れるものに違いない、そう思った。

「すごく、いいと思います」

私はおにいちゃんの熱弁をすべて聞いたあと、それだけを返した。



実行はすぐ、明日にでもやるそうだ。
おにいちゃんも本当は明日、神奈川へ発つつもりだったらしいんだけど、それを一日遅らせるだけでもぎりぎりの選択だったみたい。
会社勤めって、大変なことなんだな。


配信の準備は有太郎おにいちゃんに任せるとして、私と真二郎おにいちゃんとで用意しなくちゃならないものがいくつかあった。

まずひとつが、ウェブカメラ。
私のものが一つあったんだけど、念のためもう一つ欲しいらしい。
そして、配信用のユニフォーム。
今から買いに行くそうだ。間に合うか不安だけれど、大通り沿いのお店ならきっと見つかるよ。……自信は無いけれど。


一緒に選んでもらってもいいか?というおにいちゃんからの申し出に、私は「お父さんに電話してみる」と答えてすぐに電話をしたら、ひとことふたことで許してくれた。
だっておにいちゃんと居て帰りが遅れるだけだもん、当たり前だよね。



結局のところ、大通り沿いのお店を回るだけですべて買いそろえることができた。
ユニフォームはあるかどうか不安だったけれど、それもスポーツデポでなんとか調達できて、よかった。

おにいちゃんが運転をして、二人で買い物をして回って……なんだかこういうのって、いいなって思う。

おにいちゃんは明日の本番に向けて有太郎おにいちゃんの家で泊まり込みの練習をするそうだ。
私も付き合う、って言ったんだけど、ダメだって帰されちゃった。

その代わりといってはなんだけど、別れ際に携帯番号の交換をしてくれた。
昨日までは特に交換をする理由も、機会もあまりなかったけれど、いまは違う。
母親に去年持たされた携帯電話は、少し機能が古っぽいけど、メールのやり取りをするには十分だ。
こんなときに不謹慎かもしれないけれど、携帯電話を持ってよかったと初めて思えた気がする。


なにがあっても大丈夫なように携帯電話だけはずっと手もとに置いておこうと思う。



[31131] セガサターンがもどる日3
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/10 22:34
一月三日。
世間一般がほとんど間違いなく休みだと言えるのも、この日が最後かな。
やっぱり、今日を決行日にしてよかったんだと思う。


配信を行うのは有太郎おにいちゃんの部屋だ。
二階の三部屋をぜいたくに使っているだけのことはあって、今日には小規模なレコーディングが出来そうなスペースがぽっかりと空いていた。
気になる点といえば、天井が低くてジャンプをしたら頭をぶつけるかもしれない、という位かな。

真二郎おにいちゃんはさっそくユニフォームに着替えて、その姿を私たちに見せてくれた。

「っく」
あ、有太郎おにいちゃんがこらえてる。

……なんというか、そのユニフォームは長身痩躯なおにいちゃんの身体にはあまり合ってない、と思う。
それでも、その思いは本物なのだから、さすがに笑うのもどうかと思うよ。
だけど、間違っても「似合う?」とか私に聞かないでね。ダメだよ。


それと有太郎おにいちゃんがどうしてDJ OZMAみたいな恰好してるのかがよくわからないけれど、きっとその恰好がもっとも適しているんだろうと、ここまできて恰好ひとつに茶々を入れるのもおかしいかなという思いもあって納得することにした。

そんなことを考えてる私の恰好はというと、たんなる学校の制服だ。
私服というのも何か違う気がしたし、少しでもおごそかさを出すために制服にしてみたんだけど、どうかな?
なんて、二人のおにいちゃんに聞けるわけがないよね。だって、とばっちりを受けるかもしれないから……。

最後に。私の仕事はというと、全体の補佐的な役を任されることになっていて、要するに特段することもないのだった。少しさみしいかも。



時刻は、正午になる数十秒前。
いよいよ私たちの"奪還作戦"が始まる。

「よし、二人とも準備はいいな、はじめるぞ」
有太郎おにいちゃんの一声に、私とおにいちゃんが短くうなずく。


「ワン、とゥッ、スリっ、とゥッ、ワンッ」

よくわからないカウントダウンのあと、間髪入れずに有太郎おにいちゃんが声を上げる。

「パッチ起動、ジャミング開始だ!やれ、真二郎ーー!!」

始まった。


「みんな!突然で悪いがすこしの間だけ付き合ってくれ。
 この歌を、この歌を聞いてくれ。そして、思い起こしてくれ!
 みんなが十代だったころ、二十代だったころの、思い出を!」

入念に準備していたんだろう、おにいちゃんは噛むことなく前振りを叫んでのけた。

「聴いてください。せがた三四郎」

刹那の静寂のあと、絶叫と聞き違えるほどのけたたましい声で、おにいちゃんは歌い出す。



「せーがたー、三四郎!せーがたー、三四郎!セーガサターン、シロ!
 せーがたー、三四郎!せーがたー、三四郎!セーガサターン、シロ!
 せーがたー、三四郎!せーがたー、三四郎!セーガサターン、シロ!」

有太郎お手製の簡易バックミュージックを背に、おにいちゃんは力の限り、心の限りに歌った。

「せーがたーさんしろーせがたーさんしろー!」
私も後ろで声を重ね、力のかぎり応援をする。


これが、おにいちゃんが見出した切り札 "せがた三四郎" 。
あのときセガサターンを買い与えられ、買ってあげ、そしてプレイしていた人たちがひとしく心に刻んでいる歌なのだという。

「せーがたー、三四郎!せーがたー、三四郎!セーガサターン、シロ!
 せーがたー、三四郎!せーがたー、三四郎!セーガサターン、シロ!
 せーがたー、三四郎!せーがたー、三四郎!セーガサターン、シロ!」

おにいちゃんはただ、ただ、同じフレーズを繰り返した。繰り返し続けた。
すべての歌詞を歌い上げることも検討したのだけれど、それは出来なかった。
私も今日ここに来るまでに図書館やショップで調べられる限りのこと調べたけれど──当然ともいえるが──資料がひとつも見つからなかったのだ。

「せーがたー、三四郎!せーがたー、三四郎!セーガサターン、シロ!
 せーがたー、三四郎!せーがたー、三四郎!セーガサターン、シロ!
 せーがたー、三四郎!せーがたー、三四郎!セーガサターン、シロ!」

だけど、いまこの場においてはそんなこと、一つも関係なかった。
すべての歌詞を、配信にのせる必要なんてない。
みんなの魂で共有しているモノは、"すべての歌詞"よりもとても確かな……そう、


「「 せがた三四郎だから! 」」


「全国、全世界のみんな!
 真剣に取り組んでいるものがあるか、
 命がけで打ち込んでいるものがあるか!
 俺は、ある!」


「いいぞシンジ、注目数が34秒間あたり100%ずつ上がっている。僕の読み以上だ……!」

有太郎おにいちゃんが興奮を隠しきれないままに途中結果をおしえてくれる。
この調子でいけば、5分間も経つまえに覆せないほどの"世論"が出来上がるらしい。
そうなれば、こっちのものなんだって。やった、私たち、やったんだよ、おにいちゃん!



「あんらーやっかましいわいね、アンタらどうしたん!?」

みんなでぎょっと、開け放たれたドアに注目をした。
想定外の訪問者だった。まさかおばあちゃんが邪魔に入るなんて。
……ううん、これだけうるさくしてたらある意味当然なのかもしれない。


「価子!」

わかってる。
私に任されていることは補佐。絶対に、この場を止めさせるなんてこと、させやしない!

「おばあちゃん、悪いけど出ていって!」
「やめまっしぃね、ご近所さんになんと言われると思って!そんなんはねぇカラオケでやっとりなさい!」

おばあちゃんは先ほどまで布団を取り込んでいたのだろう、布団叩き(きょうき)を振り回しながら侵攻をやめなかった。

「あと10分、ううん、5分我慢してくれたらいいの!」
「ダメやて!おばあちゃんはあんたらがやめるまでやめんぞ!」

近所づきあいが大事なこの辺りでは、ご近所に迷惑を掛けるような行為は身を挺してでも止めるのが、おばあちゃん流儀なのだった。
それでも、今はダメなんだと、おばあちゃんの背中を力の限り押して、部屋から追いやる。
後からなんて怒られるかわかったものじゃないけれど、いくらでも叱られるから今はごめんね、おばあちゃん。

私はおばあちゃんを部屋の外へ強引に押し出したあと、ドアノブを固く握って離さないことにした。
これでなんとか、続けられる。



「……まずった」

有太郎おにいちゃんが大きなヘッドフォンを外して、パソコンを見つめていた。

「割り込まれた。プログラムが強制終了させられてる」
「……え?」


「全34配信が、すべて止まっているんだ」


そんな……うそ、でしょ。



[31131] セガサターンがもどる日4
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/14 23:45
"奪還作戦"から二時間が経とうとしていた。
私と真二郎おにいちゃんは家に帰ることもなく、まだ有太郎おにいちゃんの部屋にいた。

あれだけやかましくしたのだ。おばあちゃんに小一時間くらい叱られることは覚悟していたけれど、部屋が静かになったとみるやいなやすっかり機嫌をなおし、さっきお昼ご飯を用意してくれたくらいだ。
だけど私も、おにいちゃんたちも手をつけていない。

石油ヒーターも換気ランプを点滅させたまま、とまっている。
不気味なくらい、静かだった。


「失敗、したんだよな」

久しぶりにおにいちゃんが、口を聞いた。
だというのに私を含めて誰も応えようとはしなかった。だって、それが答えなんだって、みんなわかっていたから。

配信が遮断される直前の注目数がとても高かったことはわかっていた、期待が無い訳じゃない。
だけどあの瞬間からインターネットすら繋がらなくなって、状況がいまひとつ掴めないまま、今ここでなにも出来ないでいる。まるでとつぜん、光のない宇宙に放り出されたようだ。


「俺たち、これからどうなるんだ。捕まるのか。捕まって、殺されるのか」
「僕に聞いてわかることかよ」

「お前が言ったんだろう。逆らったヤツが、どうこうなるって話」
「さあな。あれだって伝聞だ」

「お前なあ!」
「おにいちゃん、やめてよ!」
私は二人の間に割って入ろうと立ち上がり手を伸ばそうとしたが、ひざに力が入れられないことに気付いてそのまま床に倒れ込んだ。

「あ、れ」
うまく動かない。私、震えてる?

「価子、おまえ……」

私、怖がってるの?悪い組織に捕まって、家族とも、おにいちゃんとももう二度と会えなくなるの?
"そこまで、心配しなくても"
言おうとした。だけど、言えなかった。昨日、有太郎おにいちゃんから聞いた話が確かならば、私たちは……。


「足、痺れたのか」
「ちがうよ!」

それこそ余計な心配だ。


「……休んでて。熱いお茶でも持ってくる」
真二郎おにいちゃんはヒーターのボタンを押し直してから、部屋を出ていく。

私は直りもせず、いわゆるおんなのこ座りのまま茫然としていた。
さすがにもう立てると思う。だけど立つ理由もないかな、なんて考えると立つ元気すら身体からは沸いてこなかった。

「みっともないぞ」
「……うん」
「それとも本当に立てないのか」
「……ううん」

空返事。
すぐに会話が途絶える。

有太郎おにいちゃんと二人きりになるのは三度目、だろうか。
有太郎おにいちゃんはすすんで話をしてくれるほうではなくて、私もあんまりしないので、真二郎おにいちゃんといるときよりずっと沈黙が増えるんだけど、それだって今はどうでもいいことなのかもしれない。

「……トイレ」

そうかと思うとおにいちゃんは席を立つ。

一人だけ取り残されてしまった。
私は膝を抱えたまま横になってみる。

一人になるとますます考えたくないことが、"さっき"のほうから押し寄せてくる。
真二郎おにいちゃんが取り乱していたように、私だってそんなことばかりが頭の中で堂々巡りしている。
やだ、やだよ。おとうさん、おかあさん。おにいちゃん。

──

どこからか、音がする。
規則正しくて、どこか優しい。地鳴りのような、そうでないような。
目をつむって音の発生源を探っていると、時刻を告げる古時計の音が二階まで届いているのだということに気が付いた。
しばらく耳を傾けていると、今度は時計のそれとは違う音が、だんだんと大きくなるのが感じ取れた。

それがおにいちゃんの階段をのぼる音だと気付くと同時に、私は急に恥ずかしさがこみ上げきたので、慌てて姿勢をなおしスカートのプリーツ部分を整えた。


「……それ、誰だ?」

湯飲みとお茶請けをお盆に乗せてやってきた真二郎おにいちゃんは開口一番、予想外な言葉を口にした。
誰って、なにが?今まで私一人だったよ?こわいこと言わないでよ。

おにいちゃんの見ている視線の先を追うとそれは、机の上のモニターだった。
さっきまでは消灯モードか何かで画面は真っ暗と思うんだけれど、今は点いている。
マウスが動いたりしたから?ううん、違う、そうじゃない。
そこに映っているのは。



[31131] セガサターンがもどる日5(終)
Name: 特価品◆ccb0c5e0 ID:f6593efa
Date: 2012/01/15 01:30
柔道着を着たその人は、おにいちゃんの着ていたそれにそっくりだった。
その共通点。もしかして。あの人は。

「せがた……さん?」
「ふじ、いや、せがた三四郎!?」

モニターの中の人が、確かに、うなずいた。

「な……あんた、せがた三四郎本人だっていうのかよ!?」
おにいちゃんが目を丸くしながら言った言葉のとおり、紛れもなく"せがた三四郎"その人らしい。


「きみと、きみの仲間を信じろ」

その人は、そう言った。


突然、おにいちゃんの携帯電話がうなりを上げた。
直後、私の携帯電話からも同様の着信音が鳴る。
聞き慣れないがこの音は……過去に何度か聞いたことがある。

「エリアメール……?」

災害など緊急性のある何かが起きたときに配信されるメール。
この時、このタイミング。偶然の一致だろうか。私はおにいちゃんと目が合った。

携帯を開く。
メールの内容は……空白、だった。

直後、慌ただしそうに階段を駆け上る音がしたかと思うと、有太郎おにいちゃんが部屋のドアを乱暴に開け放って言った。

「おい、携帯を!……見てるのか」
「うん。……なにか、受信してる」

有太郎おにいちゃんも同じメールを受け取ったらしい。
空白と思われたそれは、ただの空白ではないようだった。そう、再生を開始するまでに待たされる感覚……"バッファ"のような。
そして空白と思われたメールのそれは、突然始まりだした。


『君たちの声、確かに聞いたよ。今こそ取り戻そうじゃないか、セガサターンを』


初めてだった。私たち以外の人が、"セガサターン"の名を出したことが。
……そう。私たちの他にもいたんだ。
セガサターンが取り戻される日を、思い焦がれていたひとびとが。

「はっ。エリアメールをハッキングするなんて……こいつら、ただ者じゃあない」

有太郎おにいちゃんはそう可笑しそうに言いながら、携帯をながめている。

「こいつらに比べたら……僕たちのやってたことなんて、茶番だったんだ」
「そんなこと、」

おにいちゃんだって充分、ただ者じゃなかった。あれだけのことをしてのけて、すご腕ハッカーでない訳がないんだよ。
そしてその思いが届いたんだ。おにいちゃんたちが命を張ってやったことは、無駄じゃ、なかった。

そう言う有太郎おにいちゃんも決してひがんだ風の発言ではなく、どこか愉快そうな面持ちをしていた。


「……よかった」


────────────────────


その後はというと、まさに嵐のような巻き返しぶりだった。
結論から言えばずっと有太郎おにいちゃんの部屋でうなだれているのは、大きな間違いだった。
真二郎おにいちゃんの自宅の回線は遮断も何もされておらず、ここでならインターネットの様子をうかがうことが出来たのだ。
遅ればせながらもみんなで行きインターネットを覗いてみると、その反響は確かなものがあった。

"ああ、なんて懐かしい!"
"ハマったゲームはバーチャロン"
"エロいゲームが多かったような"
"ここまでグランディア(無印)を出す者がいないとは"

エリアメールを利用した"配信"は瞬く間に広がり、インターネット上の話題を圧巻した。
この分ではおそらく、エリアメールの配信先は本来の用途通りに"エリア限定"はされておらず、全国に宛てられているのだろう。

しかしやはりと言うか、"セガサターン"の単語を書き込んだ人物がその後の発言を繰り返すことは少なかった。
このことからも、検閲は続いていると見て間違いないんだけれど、反響と書き込みの勢いはとどまるところを知らない。
配信を受け取っていない人はいないと言ってはばからないほどの圧倒的な力。


均衡の崩れた瞬間だった。


────────────────────


2011年、十二月

関東では珍しく、雪が降っていた。

「これじゃあ、仕事になりませんて」
「だよなあ、各所に延期の電話入れるしかないよ」
「この天気ならみんなわかってくれるでしょ」

俺は朝、事務所で上司や同僚とテンションも低めに業務の話をしていた。
俺が勤めている会社のここ横浜支店では、神奈川県全般の屋外設置された広告を管理することが主だった仕事だった。
そのため、雪が降って足場が悪くなるようではまるで仕事にならない。さらにいえば、車での移動がほとんどを占めるためなおさらだ。
上司の表情がいつもよりこわばっているのを感じた。

反面、俺の内心はわき上がるようだった。
車まで荷物を取りに行くと言って外へ出る。駐車場までは事務所から三分ほど歩いたところにあるのだ。
足元に気をつけて歩きながら、俺はほくそ笑んだ。

「くく、今日はのんびりと事務作業で終わりやな」

根っからの駄目社会人だったのだ。
まあもっとも、今日楽した分、翌日以降に重くのし掛かることも心得ているつもりではあるのだが。それでも目先の享楽があっては、口元も緩むというものだ。
自分の車に潜り込み、助手席に無造作に置かれている資料から、バインダーを一つ抜き取る。

そのとき、携帯が鳴った。

"お久しぶりです。そっちは雪、大丈夫ですか?電車が停まったりしているとニュースで見ました。
 こっちはいつも通りに積もっていて、いつも通りです。私は今日から冬休みに入りました"

価子からのメールだった。
メールでは敬語を使うのに、時折りおかしな表現が混じっているのはその子の魅力か、はてさて。
俺は少し考え、この場で返信を打つことにした。なんたって今日は、それくらいの余裕があるのだから。
すぐに事務所に戻るとはいえ、寒さで手がかじかむ。エンジンを掛けて暖を取ることにした。

"雪は降っているけど、積もっているほどではないよ。
 結局、盆も帰らなかったな。正月は帰れるから、またそのとき。"


──あの騒動からそろそろ、一年になる。

検閲やサブリミナルを以てしても、ひとびとの一旦動きだした思い出をもう一度凍らせることは出来なかった。
こちら側に付く人たちが大勢になったらもう、後はダムの放水のように事は運んだ。

当初テレビメディアなんかは今回の事象を集団催眠だとか変な風に取り上げていたが、ネット上のメディアが核心に触れた記事ばかりを書き出すと、それもすぐに無くなった。

ハードやソフトは当初こそ有太郎や、有志が放出していた分しか手に入らなかったものだが、今では時間もそれなりに経ち、どこのお店に行っても手に入るくらい、世の中に再び、セガサターンが浸透していた。
……結局、最終的にセガサターンを取り戻し、俺たちを窮地から救い出してくれたのは、顔も名前も知らない同志だった、ということになる。

"茶番だったんだ"

有太郎はそう言ったが、俺だってそう思うさ。あんなシロウトの歌謡ショー、誰が好きこのんで聞くものかと思う。
俺のわがままのために有太郎や価子ちゃん、多くの人を巻き込んだとも思う。
それでもきっかけは間違いなく俺たちだったんだって、思えるんだ。おごりだと言われるならそれでもいいさ。


「……はー」
仕事中だというのに妙に情緒的になってしまった。
わざとらしく溜め息をついてから、俺はメール本文を削除した。
価子ちゃんは冬休みだって言うんだ。直接、電話を掛ければいいじゃないか、うん、そうしよう。そうしたい気分だ。


「……もしもし、おにいちゃん?久しぶり」
価子ちゃんはすぐに出てくれた。

「おう、真二郎だけど」
そう切り出して、俺たちは他愛もない話をした。


────────────────────


「……でさ、三日までいるから、なんか、しようぜ。有太郎も引きずり出してさ」

そう言えばアイツいま、なにやってるんだろう。
きっと"その関連"の業務をしていたんだと推測できるが、それも収束したいま……ニートになっていたりしないだろうな?
心配だから、見ておかないとな。

「でも、さ。ゲームソフトってあんまり持ってない、よね……?」

価子ちゃんが心配している通り、ゲームソフトの数は相変わらず少なかった。
それは世間に流通している数のことじゃなくて、単純に俺たちの持っているソフト数についてだ。
ハードは有太郎の持ってるものを拝借すればいいとしても、有太郎は肝腎のソフトを本当に少ししか持っていなかった。
だが、それも大丈夫。価子ちゃんを悲しませないよう俺は周到に用意してあるのだ。

「そう思って、注文しといたものがあるんだ。一日には届くと思う」
「じつは私も、注文してるものがあるんだよ。じゃあ、見せ合いっこしようよ」

なんということだろう。もしかして、考えていることは同じなのだろうか。
つくづく血は争えないな。

「ああ、いいんじゃないか?……正月はやることがたくさんあるな」

そう。正月は、懐かしいゲームで遊び倒そう。
名作からそうじゃないものまで、いくらでもあるんだからな。一緒にする時間は、いくらあっても足りない。
俺や、価子ちゃんや、みんなの好きだったゲームはなんだっただろう。それをゆっくりと、思い出そう。


「……うんっ!」



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