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[31421] 【習作】Alternative その答えは
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 01:19
初めまして。別の投稿サイトに投稿していたのですが、諸事情でこちらに移ってきました。よろしくお願いします。

この作品は、マブラヴとACfaのクロス作品になります。作者が初めて書いた作品なので色々と問題がある作品でもありますのでご容赦ください。

オリジナルの設定も出てきますのでその辺が嫌な方は注意してください。



[31421] ネクスト設定
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 01:22
ネクスト名 ストレイド
頭部パーツ HD-HOGIRE
コアパーツ SOLUH-CORE
腕部パーツ 03-AALIYAH/A
脚部パーツ 03-AALIYAH/L
F.C.S  FS-LAHIRE
メインブースター MB11-LATONA
バックブースター BB11-LATONA
サイドブースター SB11-LATONA
オーバードブースター KRB-SOBRERO
ジェネレーター LINSTANT/G
右腕武器 063ANAR
左腕武器 063ANAR+07-MOONLIGHT
右背中武器 HLC02-SIRIUS
左背中武器 GRB-TRAVERS
肩武器 SM01-SCYLLA
スタビライザー 頭部右 HD-HOGIRE-OPT01 頭部左 HD-HOGIRE-OPT01
        脚裏 03-AALIYAH/LBS1 脚表右 04-ALICIA/LUS2 
        脚表左 04-ALICIA/LUS2

作品主人公の乗るネクストの設定です。左腕にブレードのMOONLIGHTを装備してますが、ゲームでは不可能ですが、まあこの作品は小説ですのでご勘弁 してください。使用するときは、脚部についているバックブースターの部分にライフルを取り付けられるモジュールが付いていますのでそこにライフルを装着し てから使用します。

武器の設定ですが、ゲームと違いオリジナルの設定があります。例えば

右のSIRIUSに関しては、
・出力の調整が可能で調整の幅は、小さければパルスキャノンと同じ様な性能になり、最大出力の場合は、ACファンの皆さんはご存知のラストレイヴンに出て きたハンドレーガンのような性能になります。(あのOPでは、一発で敵部隊を壊滅させた性能に多くのレイヴンは、感動したはず。自分もそうでした。実際 は、だまして悪いが、フロムマジックでしたが。)あとは、精密射撃が可能な設定です。

左のTRAVERSは、
・着弾時の爆発規模がMSACの核と同じ規模になっています。ちなみに弾数も18発だときりが悪いので20発になっています。

左右の063ANARは、
・形が初代ACの1000マシなので1000発に設定してます。もちろん連射できます。

肩のSCYLLA
・ASミサイルではなく、普通のミサイルです。敵をロックする必要があります。

ブレードに関しては、
・旧作品にあった光波が出せます。何で出せるのかわ後ほど分かります。

ネクストの設定で避けて通れないのがコジマ粒子の設定ですが、この作品ではご都合主義で

・別世界に飛んだので汚染は一切起きない設定。なおかつコジマ粒子を使っているジェネレ-ターは、半永久機関の設定です。(ようはガンダムOOのGN粒子 と同じようなもの)OBとQBは事実上レギュの1.15見たいな感じにやりたい放題です。PAに関しては、レーザー属種の攻撃も防げますがさすがに完全に は防げません。

後ネクストの全長ですが、公式では約10mちょっとぐらいですが、この小説では不知火とほぼ同じくらいの全長に設定してます。
と一応こんな感じでネクストの設定は行きます。ちなみに、この機体構成で作者はゲームをプレイしてます。レギュは1.40です。もしよかったらゲームで組んで見てください。見た目重視のロマン機体です。



[31421] プロローグ
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 01:23
「アンサラーの撃破を確認。ミッション完了だ。」
セレンから通信が入る。
クローズプランを第一段階に進めるためテルミドールからの依頼で俺は、AFアンサラー撃破の依頼を受け現在そのミッションが完了した所だった。

「アンサラーが落ちた。企業連はどう動くかな?」
俺がそう言うとセレンは、

「まあ、最新型のAFを落とされたんだ落ち着いてはいられないだろうさ。とりあえずミッションは終了したんだ。早く戻って来い。」

「了解」と俺が返事を返したと同時に異変が起きる。

「何だ・・・!アンサラーの残骸から大規模コジマ収縮反応だと!!どうなっている!」
セレンが驚いた声を上げる。

「どうした!セレン!!」

「急いでそこから離れろ!なぜか分からないがアンサラーのAAが来るぞ!!」セレンの声を聞いて急いでその場から離れるためOBを起動するが、その瞬間アンサラーのAAが起動する。

「ダ、ダメだ!間に合わない!!」AAの光が目の前に広がっていく、

「セ、セレン!!」パートナーの名を呼んだところで俺の意識はなくなった。



[31421] 第1話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 01:30
1998年 夏 日本

重慶ハイヴから東進したBETAが日本上陸瞬く間に西日本側が占領され現在、首都京都ではBETAを止めるための防衛線が行われていた。

「う、うわあああああ!!死にたくねえ!!く、来るな!!ぎゃー!」
一機の戦術機が戦車級に群がられ管制ユニットを食い破られ食われる。

「救援はまだか!このままじゃ防衛線を破られる!HQ!救援はどうなっている!!」
いくら倒しても次から次に溢れてくるBETAの数に押されてこの防衛線もすでに3分の2近くの機体がやられいつ防衛線が抜かれてもおかしく状態であった。

「現在、他の防衛線に敵が進行しているため救援に回れる部隊がありません。現在の戦力で対処願います。」
HQから通信が入る。

「ふざけるな!もう弾薬も残り少ない、戦力の3分の2近くがやられた現状でどうしろと言うんだ!!」
部隊の隊長は返信する。しかし、

「他の防衛線も同じ状況です。現状の戦力での対処をお願いします。」
返ってくる返信は先ほどと同じ。

「ぐぅぅぅ!!了解!!!」
無念の声で通信を切る。

「隊長!!救援は!」
部下の一人が通信してくる。

「救援は来ない!!他の防衛線にも敵が進行してきて救援に回れる部隊がない!現状の戦力で対処する!」

「そんな!無理ですよ!!この状況で敵の進行を防ぐのは不可能です!!」

モニターを見ればこちらに接近してくる要撃級、突撃級、戦車級の大群その後ろには、光線級に重光線級の反応がある。部下の言うことはもっともだが、

「ここで防がなければ京都から避難している一般市民に被害が出る!何としても食い止めるんだ!!」
部隊に激を飛ばすが状況は最悪、全滅も時間の問題かと脳裏に浮かんで来た時部下の一人から通信が入る。

「隊長!西から高速で飛翔してくる物体があります!」

「なんだと!一体何だ!」

「わかりません!しかも速度が亜音速に達しています!!」

「ばかな!新種のBETAか!」

「まもなく視界入ります!」
部下の通信を受けてまもなくここに来る謎の物体の来る方向を見る。

「何だあれは!!」
部下のが驚きの声を上げる。モニターに写っているのは見たこともない白い戦術機だった。


時間は少し戻る。

「一体俺はどうなったんだ?」
(アンサラーのAAの食らい目の前が光に包まれた所までは覚えている。直撃だったのだ俺は間違いなく死んだはず)
しかも機体も無傷の状態。

「一体どうなっいるんだ?」
気が付けばあたり一面に気味が悪い生物の死骸や見たことのないノーマルの残骸がある。
さっきまではこんなものは無かったはず一体どうなっているのか訳がわからない。

「現在地は・・・ダメだエラーで特定できない。ここは一体・・・!」
場所が特定できず考えていたところにレーダーに反応を感知する。

「ちっ!一体何だ・・・ものすごい数の何かが接近してくる。」レーダーに反応が出てからその数が一気に増えていく。

「何だかわからんが、ぼさっとしているわけにもいかない。」
俺は、すぐにジェネレーターを起動する。

(メインシステム起動、各部、武装に異常なし。大気中のコジマ粒子・・・何!大気中のコジマ粒子が0だと!どういうことだ!!)
機体に異常は見られないが、それ以上にコジマ粒子が大気中に無いことに俺は驚いた。

(くそ!何が何だか訳がわからん!)俺は、頭を掻き毟っているとモニターに先ほどの反応した何かが写し出された。

「あれは!」
俺の視界に入ってきたのは、周りに散らばっている死骸の生物と同じ物がこちらに接近してきている様子だった。

(何なんだあの生物は?トーラスあたりが作った新種の生物か?)そんなことを考えている最中も謎の生物は一直線にこちらに向かってくる。

(どう考えてもお友達になれるような感じじゃないな・・・ならば排除するのみ)
俺は、すぐに機体を戦闘モード切り替える。

「さてと、ここがどこはまだわからんが、まず目の前の障害を排除する!」
OBを起動しこちらに向かってくる生物の大群に俺は向かって行った。

「くたばれ!」
サソリのような形の生物に向かって両手のアサルトライフルを撃つ。頭と思われる部分に命中するとその部分が弾け飛ぶ。次いで前面が甲羅のようなもので覆われた生物に攻撃を加えるが、
「むっ?効いていないのか?」
甲羅のような部分に銃創は付いているが、死なずにこちらに向かってくる。QBで側面に移動し再び攻撃を加える。今度は聞いたのか内臓の飛び散らせて横転する。

(種類によって能力に違いがあるようだな)
今の攻撃でこの生物達が種類によって能力に違いがあることがわかり俺は、他の生物も確認してみる。

(他には、小さい人間サイズの物やそれより少し大きめの物、奥に見えるのはこの中で一番でかいな)
モニターを見ながら確認していると突然警報が鳴り出す。

「一体何だ!」警報がなった瞬間にQBを行う。目の前を光が通り過ぎる。
「レーザーか!」
一本のレーザーが通り過ぎた後も警報は止まず次々にレーザーが照射されてくる。
それをすべてQBで回避する。すぐにレーザー照射のあった位置にカメラを向けると、

「今の奴はアレが撃ってきたのか・・」
モニターに写るのは、目玉に脚が付いている生物で小さいのとでかいのがいた。

(まさか、レーザーまで撃ってくる奴いるとは、アレを先に始末しないと面倒だな)
いくらPAがあるとはいえレーザーは完全には防げない。ならば、食らわないに越したことはない。

(見たところ次を撃つまで時間がかかるみたいだな。すぐに、撃てれば連射すればいいはずだ)
そう確信した俺は、OBを起動し一気に接近する。

「まとめて消し飛ばす!」
左背部のグレネードキャノンを起動し打ち込む。目玉の小さいのもでかいのもまとめて吹き飛ぶ。面倒な相手を片付け残りを掃討する。一番でかい奴が触手様なもので攻撃してくるがQBで一瞬でよける。

「あの目玉以外はあまりたいしたことは無いみたいだが、数が多いなライフルは弾が持たないな。」
そう考え俺は右背部のハイ・レーザーキャノンを起動しチャージを始める。

「うまいこと固まっているな・・・吹き飛べ!」
チャージ完了と同時に集団の中心にレーザーを打ち込む着弾後、四方100m以上が吹き飛ぶ。煙が晴れそこには、生物の死骸の山が出来上がっていた。残りはわずかですぐに排除する。

「これで終わりのようだな」あたりを見渡すとこちらに向かってくる生物はおらず一息つく。

「しかし、この生物は一体何なんだ?それに、俺はなぜ死んでいない?」訳のわからない事だらけだがここでじっとしていてもしょうがない。

「とりあえず移動しよう。もし人間に会えばここがどこか聞けば良い。」
OBを起動し空に飛び立つ。そして、時系列は戻る。



[31421] 第2話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 01:39
(戦闘している様子が見られて来てみれば、案の定だな。しかし、あのノーマル達は一体・・・)
俺は、例の生物と戦闘中のノーマルをみながらそんなことを考えていたが、

(明らかに劣勢だなどうやら防衛線の守りのようだが、抜かれるのは時間の問題だな)せっかく見つかった情報源を無駄にするわけにはいかない。
(ここは、手を貸してやるか)俺は、そう考えて戦闘領域に突入した。


モニターに写る戦術機は、今まで見たことも無いような機体だった。

「あの機体は何だ!」
部下があの機体をみて言う

「データを確認しましたが、該当する機体なし!」

「一体あの機体は?」
突然戦闘領域に侵入してきた正体不明機に戸惑っていると、

「っ!レーザー照射警報!」
上空の正体不明機に向かってレーザーが照射される。やられる誰もがそう思った瞬間、

「なっ!!」
部隊の全員が驚いた何とあの機体は信じられないような動きと機体速度でレーザーを回避したのだ。

「な、何だあの動きは!」

「一体、どうやッて避けたんだ!まったく見えなかったぞ!」

「信じられません!あの機体が、レーザーを回避したときの速度が時速1200km/hを超えています」

「ばかな!それじゃあ中の衛士が無事ではすまないぞ!」
この場にいる全員が驚愕の声を上げる中、正体不明機は背部についている砲塔を起動してレーザー級に向かって発射した。着弾した瞬間凄まじい爆発が起きる。その衝撃で機体がバランスを崩す。

「な、何が起こったんだ!」
機体のバランスを元に戻して確認を取る。

「た、隊長・・・。」
部下か通信が入る。

「どうした!」

「い、今のあの機体の攻撃で全レーザー級が消滅しました。」

「な、なんだと・・・」
部下からのに私は耳を疑った。

「間違いないのか!」

「間違いありません。重レーザー級20、レーザー級50、すべて撃破されました。」

「し、信じられん。」
あまりの出来事に呆然としてしまう。

「あの機体に通信は!」

「先ほどからしているのですが、繋がりません!周波数が合いません」

「どういうことだ!」
通信が繋がらないと報告を受けているとあの機体がこちらに向かってくる。すると

「無事なようだな」
外部スピーカーから声が聞こえてきた。
こちらもすぐに外部スピーカーに切り替えて答える。

「あ、ああ君のおかげでな」

「いや、それよりも聞きたいことがあるのだが・・・」

「隊長!!他のBETAがこちらに向かって来ます!!」
部下が伝えてくる

「何だと!各機、陣形を組み直せ!機体の損傷の激しいものは、後ろに下がれ!」
私が指示を出していると、

「どうやら、邪魔が入ったようだな。」

「ま、まてどうするつもりだ!」私が呼び止めると、

「あんたらの機体じゃアレだけの数の相手は厳しいだろ。俺が片付けてやる。」

「何を言っているんだ!敵の数は1000を超えているんだぞ。」私が、そう伝えるが

「問題ない。あの程度の相手なら1000ぐらいどうとゆうことはない」さらに彼は、

「それと、部隊を下がらせてくれないか?全力で戦闘すればそちらが巻き添えを食うぞ。」

「いや、しかし・・・」

「問答している余裕はない。俺が指定したポイントまで部隊を下がらせろ。後俺の通信の周波数を教えておく。ポイントに付いたら連絡しろ。いいな」

「わ、わかった。指定したポイントまで部隊を下げよう」
私がそう答えると彼は敵に向かって行った。

「さて、数が入るかもしれんがそれだけでは勝てない。」
元々ネクストは、それに乗れるリンクスの適性のある者が極端に少ないため稼動機体数の絶対数が少なかったそのために企業は代替がほぼ不可能なネクストよりも多数の凡人で構成され代替も効くAFに主力をシフトした経緯がある。
しかし、上位のリンクスになればAFを破壊するジャイアントキリングも可能であり俺自身も企業の主力AFを多く撃破してきた。この程度では脅威にもなりはしない。

(だが、これが1万や10万単位で攻めて来られたら堪らないがな)
そんなことを考えながら敵に銃口を向ける。

「全力で戦うにしてもまずはあのノーマル部隊がポイントまで下がりきるまでこちらに敵を引き付けないとな。」
ハイ・レーザーやAAを使うとなると現在の状況では巻き添えになる可能性もある。そのためにノーマル部隊には引いてもらわないと困る。

「さあ、行こうか!。」敵に攻撃を開始する。
対ネクスト用の特殊弾丸が火を噴く次々に敵に命中しはじけ飛ぶ。

(あの甲羅が付いた奴以外は脆い事はわかっている。そいつにしても大量に打ち込めば倒せるかも知れんが弾の無駄づかいになる。側面や後ろに回れば問題ない、ハイ・レーザーであれば正面から倒すことも問題ないだろう。)
そんなことを考えながらハイ・レーザーキャノンを展開出力調整し発射する。甲羅の奴も含めて敵がレーザーで蒸発する。

「パルスキャノンクラスの出力でも対処可能か。」
最小の出力でも問題なく倒せる。ならばさっさと片付けるとしよう。レーザー連射に切り替えて次々に敵を貫いていく。敵が接近してくればすぐにQBで回避、近距離適正の高いライフルで敵を葬る。戦闘開始から短時間で敵は見る見るうちにその数を減らしていく。半数くらい倒したところで通信が入る。

「聞こえるか!こちらは指定のポイントに到着した。そちらの状況は?」先ほどスピーカーで対応した男兵士から通信が来る。おそらく部隊の隊長なのだろう。

「問題ない。もう半数は片付けた。」
俺がそう返すと

「なっ!」男の驚愕の声が漏れてきた

「残りもすぐに片付けてそちらに向かう少し待っていてくれ。」
俺は、そう伝えると通信を切り戦闘に戻った。


正体不明機体の衛士に指定されたポイントまで後退し通信を彼にすると驚きの返信が来た。戦闘開始から短時間で半数もの敵を倒し残りもすぐに片付けると言い残し通信を切った。モニターを見ると脅威的なスピードで敵が倒されていく。
そして、モニターに写るその機体の戦闘の様子に我々は、ただ驚くことしかできなかった。

「何なんだあの動きは?どうしてあんな軌道で動いて衛士は何とも無いんだ!」

「おい!今の背中の砲身から発射されたのレーザーじゃないか!」

「光学兵器が実用化されたなんて聞いてないわ!」
部下達から驚愕の声が上がる。私自身目の前のことが現実なのか頭が付いて行かない。
ただ、あの戦術機がたった一機で大量のBETAを倒していくのをただ呆然と見ているしかなかった。そして、すべての敵が倒されて彼から通信が来た。

「これで全部片付いたか。」
レーダーを確認し敵がすべて倒されたことを確認すると通信を入れる。

「聞こえるか?敵はすべて片付けたそちらに敵は向かっていないか?」そう尋ねると

「いや、こちらに敵は向かってはいない」相手からそう返事が帰ってくる。

「そうか、すまないが聞きたいことがあるのだがいいか?」

「あ、ああかまわないが?」
俺は、ようやく今の自分の状況がわかると思い尋ねた

「まず、ここは一体どこだ?」俺がそう尋ねると相手は「はっ?」疑問の声を漏らした

「ここが何処って・・・日本だがなぜそんなことを聞くんだ?」

「ちょ!ちょっとまて?日本だと?ここは日本なのか?」

「ああそうだが。」
相手は、何を当たり前のことを言っているんだという感じで返事をする。

「じゃあ、そのノーマルは一体なんだ?そんな機体見たことも無いんだが?」
俺がさらに尋ねると、

「ノーマル?何のことだこれは帝国の第三世代戦術機「不知火」だ。」そう返された。

「戦術機?帝国?一体何だそれは?それに帝国とは何だ?」
再度尋ねると

「帝国とは何だとはおかしなことを聞くな?日本帝国に決まっているではないか。」
その返答に俺は驚き、

「日本帝国だと?日本は帝政の国では無かったはずだろ?それになぜ日本と言う国が存在している?もう無くなったはずだ」
俺が言うと、

「な、何を言っているんだ!日本は健在だ!現在BETAの進行を受けているが滅んでなどいない!」
俺の言ったことに怒りの声をあげる。俺は、今の話を聞いてかなり混乱していた。

(日本が存在している?どういうことだ?数十年前の国家解体戦争でなくなったはずなのに・・・それに聞いたことがない言葉を言っていたな)

「BETAとは何だ?」
俺が尋ねると

「BETAが何だかだと?何を言っているんだBETAは我々人類の敵だ。さっき君も戦っただろう。一体何を言っているんだ?」その言葉に、

「BETA?人類の敵?一体それは?・・・」俺がそう言いかけたところで

「どうした・・・・!わかった一旦補給をしたらすぐに向かうぞ!」
何か通信があったのか向こうが慌しくなる

「すまないが、他の防衛線に救援に行かなくてはならない。それとこちらからも質問させてくれ?君の所属は何処だ、君のような者が救援に来るとも聞いてはいない。」
相手からのその言葉に俺は少し考える。

(今の話からわかったことは、ここが日本だと言うこと、あの生物はBETAと言うことそして、おそらくあの戦術機と言う機体の部隊は日本の軍隊なのだろうということだ。)
もしついていけば現在の状況が詳しくわかるかも知れないが、こちらは身元が怪しい状況だ。最悪拘束される可能性が高い。そうなると面倒だ。しかたない、

「俺に所属はない傭兵だからな。」
相手にそう伝えると

「傭兵?」

「ああそうだ。そんなことより良いのか?今はこんな風に話していられる状況じゃないんじゃないか?」

「了解した。深くは聞かないことにしよう。こんな状況だ。だが、礼だけは言わせてくれ。部隊の危機救ってくれて感謝する。」

「聞き分けがよくて助かる。」

「いや、君はあまり詮索されたくないのだろう?軍人として失格かもしれんが恩人にこれ以上は失礼だろ。」

「そうか、では俺は行くぞ。」そう言い残し通信を切ろうとすると

「待ってくれ。最後に名前を聞いておきたいが?」そう言ってくると

「名か・・・俺は、レイヴンだ。」そう言い通信を切りOBを指導しその場を後にした。

「・・・レイヴン。」そう言い残した機体が一瞬のうちに空に消えていくその様子を私は静かに見つめていた。


 帝都が燃えている眼前に広がるのはかつて千年の都として栄えた京都の光景それが紅蓮の炎で包まれている。BETAの日本進行から約一ヶ月たった一ヶ月で西日本を制圧されこの帝都陥落も時間の問題となっていた。

「民を逃がすためとはいえ自らの手で京の都を焼くことになるとは無念だ。」
そうもらすのは、帝国近衛軍第16大隊指揮官である五摂家が一つ、斑鳩家の若き当主斑鳩 影比佐である。殿軍として皇帝と将軍の帝都離脱を指揮して現在状況は最終局面を迎えていた。

「閣下、頃合に御座います。御下知を!」
側にいる副官である月詠 真耶から通信が入る。最後の民の安全圏への脱出確認がされる。後は、BETAを排除しタイミングをみて退却するのみ。

「うむ。皆の者、これが最後の攻勢ぞ!殿を預かる我が近衛の戦い、この千年の都に刻みつけてゆけい!!」

「「「「御意!」」」」

「全機!我に続け!!!」
近衛軍第16大隊全機が跳躍ユニットから轟音を鳴らして敵に突撃して行った。


「あの燃えている街で反応があるな。」
先ほどの部隊と別れてから移動していると燃え盛る街で先ほどのBETAと戦術機が戦闘しているのが確認できた。俺は、カメラでその様子を確認していた。

(まさに地獄だな)
燃え盛る街の中でBETAと戦術機が戦闘している様子は正にその表現通りだった。

「あの様子だと。あの部隊は殿のようだが、先ほどの部隊よりも動きがいいな。だが、数が違いすぎるのもあるが、機体の性能が低すぎる。」戦術機とやらの性能は明らかにノーマルACのそれより劣っている。今見える部隊は先ほどの部隊よりも動きがいいがそれでも全滅も時間の問題だろう。

(ここは、このまま様子を見るか?だが・・・)
こちらに向かう最中もいくつかの戦場は見てきたが、ほぼ収束傾向だった。大半が人間の敗北した様子だったが、現在この街での戦闘がほぼ最後なのだろうと予想できる。

「そう考えればあの部隊を援護して接触を図るのが最善か。」俺はそう考えると背部のハイ・レーザーを起動し精密射撃モードに切り替える。

「さあて、行くぞ!!」
ターゲットをロックして俺は、攻撃を開始する。


「はあ!」
赤い瑞鶴が長刀で要撃級の首を飛ばす。返り血を浴びながら次の敵に切りかかる。

「月詠!深追いするな!各機!光線級排除後に撤退を開始する!それまで死ぬなよ!」

「「「「御意!」」」」
斑鳩が指示を出したその時、敵集団が左右に別れる次の瞬間、

「レーザー照射警報!」

「全機、乱数回避!」
斑鳩の指示で全員が回避行動に移ろうとした瞬間、光線級の横から青白閃光が光線級を次々に打ち抜いていった。


「目玉の奴は、全部排除できたな。」
モニターで確認取ると俺はすぐにOBを起動して突撃を開始する。

「閣下!先ほどの閃光と同じ方角から接近する物体あり!・・・ばかな!時速1400km/h以上の速度でこちらに来ます!」

「何が来るのだ!」

「わかりません!視界に入ります!」

部下の通信からモニターを見ると見たこのない戦術機がすさまじい速度で目の前に現れた。

「聞こえるかそこの部隊!」
外部スピーカから声が聞こえてくる。

「状況から見るにあんたらは、殿の部隊だろ時間稼ぎも十分のはずだここは俺が引き受けるすぐに撤退しろ。」

俺がそう伝えると赤い戦術機から女の声で、
「貴様!ふざけるな!!いきなり出てきて撤退しろなどど何者かもわからんような奴に言われたくないわ!」

女は怒りに震えた声で返答する。

「よせ月詠。部下が失礼した貴官の援護に感謝する。」
指揮官である斑鳩がそれを諌める。

「あんたがこの部隊の隊長か?ならすぐに指示を出して撤退しな。それにそんな丁寧に礼などいらない俺は傭兵だ。感謝されるような存在じゃない。」
俺は、隊長と思われる男にそう返事をする。

「傭兵?そうかだが傭兵であろうとも助けてもらったのは事実それに対して礼を述べるのはおかしくあるまい。」

「・・・わかった。素直に受けとっておくよ。」俺はそう答える。

「すまない。それと後で我々と同行してもらえないか?貴官の乗っている機体や使っている兵器を私は、見たこともない。まして傭兵が使っているなど疑問が多すぎる。」
男はそう俺に言ってくる。

「いつもの俺ならNoと答えるとこだが、わかった戦闘後にあんたに同行しよう。」

「そうか感謝する。月詠!全機に撤退を通達しろ!」

「・・・閣下。わかりました。全機に告ぐこれより撤退する!」
赤い機体の女が指示を出すとすべての機体が撤退していく

「では、のちほど」
青い隊長機は、そう言い残して撤退して行った。
その後、残った敵を片付けた後俺は、先ほどの青い隊長機の部隊に合流した。

このBETAの日本進行に際し帝国は、犠牲者3600万人口30%が犠牲になり、約一ヶ月に及ぶ防衛線の末、帝都京都は陥落、首都は東京に移されることになる。
しかし、この戦いに置いて驚異的な性能を持った一機の白い戦術機が戦場で確認される。後にこの機体が世界に衝撃をもたらすことになるがそれはまだ少し先のことである。



[31421] 第3話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 01:56
「で、現在その傭兵はどうしておる?」
巨漢の男が尋ねる。

「はっ。我々と合流後に基地の別の部屋に待機しています。」
月詠真耶が男の問いに答える。「そうか。」と男は返事をする。その後何か考えるように目を閉じる。

「紅蓮閣下。閣下の疑問はもっともです。私自身その目で実際に見て驚きを禁じ得ませんでしたから。」
斑鳩が紅蓮に対して言う。
現在彼らは帝国軍白陵基地の会議室である映像を見ていた。それは、先の京都での防衛戦で確認された白い戦術機の映像であった。会議室でこの映像をみた者たちは皆驚愕の表情になっていた。その戦術機は今まで自分達が見てきたどの戦術機でもありえない機動力及び戦闘力を有していた。
・現在の戦術機は、推進剤を使用し跳躍ユニットで空を「跳んでいる」に対して
 跳躍ユニットもなく推進剤も使わずに「飛んでいる」こと・
・亜音速に達する機動力。また、その速度を回避手段としていること。
・そして、どの国でも米国でさえも実用化さえ出来ていない光学兵器を有していること。

等上げればきりがないほどだ。これほどの機体が今まで知られていなかったことが考えにくく、またそれを使用しているのが一介の傭兵だというのだから疑うなというのが無理な話である。

「巌谷よお主はこの映像を見てどう思う?」
紅蓮は帝国陸軍中佐で技術廠・第壱開発局副部長でもある巌谷 榮二尋ねる。

「技術者としてみてもこの機体の性能は驚愕に値します。この機体は明らかに戦術機とは違う設計思想で作られたものだと思われます。また、衛士としての観点から見てもこれを操作している者が、超一流の腕を持っているのがわかります。」
巌谷やそう答える。

「鎧衣、お主の方で何か掴んでいることはないか?」
紅蓮は情報省外務二課長 鎧衣左近に尋ねる。

「いやはやこちらの方でもまったくわかりません。この機体はまさに突然現れたようなものでもしかしたら幽霊かもしれませんね。ハハハ。」
紅蓮の問いにとぼけた様に答える鎧衣。

「香月博士は、何かご存知ありませんか?」
となりに座っているオルタネイティブ4の責任者である香月 夕呼に尋ねる。

「いえ、私も何も知りません。ですが・・・」

「何だ、香月博士?」
何かを言おうとしている夕呼に紅蓮が問いかける。

「この機体の性能は、明らかにこの世界の技術力を超えています。つまりオーバーテクノロジイです。今まで知られていなかったこと自体がおかしいく、また鎧衣課長の情報網にもかからないそんなことはほぼ不可能だと思います。」
そう言うと夕呼は少し考えてあることを考える。
普通であれば荒唐無稽話だが、その可能性が一番高い。そう考え夕呼話す。

「その傭兵をここに呼んで話を聞くことはできませんか?」
と夕呼は言う。

「何だと?なぜだね香月博士?」
夕呼の発言に紅蓮の表情が曇る。

「私の提唱しているある学説があるのですが、その傭兵がそれに当てはまる人物かも知れないのです。話を聞いてもしもそうであればあの機体の謎も解けるかもしれません。」
夕呼はそう返答する。

「しかし・・・」
皆が口ごもるなか上座の席に座っている人物が発言する。

「わかりました。香月博士の言うようにその傭兵をここに呼びましょう。」

「で、殿下!」
真耶が驚く。

「どの道我々がここで議論しても答えは出ません。ならばその者をここに呼んで話を聞くのが早いのではないでしょうか?」
と日本帝国国務全権代行政威大将軍 煌武院 悠陽
は言い周りを見渡す。

「確かにここで我らだけで議論してもしょうがないでしょうな。月詠をその傭兵をここに呼んでまいれ。」
紅蓮は真耶に伝える。

「・・・わかりました。あの者を呼んでまいります。」
真耶は納得していない様子であったが、それは致し方ないことである悠陽の警護を担当する身として悠陽を得体の知れない者と合わせるのには抵抗があった。まして相手は傭兵である。いくら戦場で援護してもらったとはいえそれとこれとでは状況が違う。信用しろというのが無理な話である。だが、悠陽が呼ぶように言っているのだ断ることはできない。
真耶は、会議室を出てあの傭兵の部屋に向かった。


「ふぅ~。暇だ。」
ベッドの上で俺は呟いた。青い戦術機が隊長機の部隊と合流した後、この基地に着いたはいいが、熱烈大歓迎であった。機体を降りてすぐ銃を持った兵士に囲まれたまあしょうがないことではあるが、その気になればその場にいた全員を無力化できたがそんなことをするほど馬鹿ではない。とりあえず、独房でない普通の部屋に案内され案内した兵士から「しばらくここで待っていろ。」と言われた。それから丸1日部屋から出してもらえない。
(とりあえず、今の状況が把握できていない以上うかつには動けない)
自分が日本にいること自体がおかしいのだ。そんなことを考えていると部屋のベルがなる。
「どうぞ」
俺が返事をするとドアから赤い服を着てメガネをかけた髪の長い女が入ってきた。

「誰だ?」俺が尋ねると

「戦場では顔が見れなかったからな。私は日本帝国斯衛軍大尉 月詠 真耶だ。」
そう目の前の女が答えると、

「その声、そうかあの赤い機体に乗っていたのは、あんたか。」

「ああ、そうだ。」
と月詠と言った女は答える。

「で、何かようか?」
俺が尋ねると、

「お前から話を聞きたいと言われている方々がいるので迎えに来た。」

「尋問か?」

「違う、普通に話を聞きたいだけだ。」
月詠は答える。

「いいだろう。連れて行ってくれ。
」俺は、そう返事をするとベッドから立ち上がる。
「こっちだ。」
月詠が歩き出す。俺も後をついて行く。


歩き始めてからそう時間も経たずに目的の場所に着いたのか月詠がドアの脇のボタンを押す。

「月詠です。件の傭兵を連れてきました。」
そう言うと中から「入れ」と返事があり。月詠がドアを開ける中に入る。それに続いて俺も中に入っていった。


「月詠です。件の傭兵を連れてきました。」
月詠大尉が例の傭兵を連れてきたようだ。

「入れ。」紅蓮大将が答える。

「失礼します。」先に月詠大尉が入ってくる。続いて例の傭兵が入ってきた。

(結構若いわね。20台半ばくらいね)
そんなことを夕呼は考えながら傭兵を見ていた。

(でも、あの傭兵普通じゃないわね。)
夕呼がそう感じたのは、紅蓮、巌谷、斑鳩が厳しい表情をしていることだ。月詠大尉にしてもそうだ表情がかなり険しい。鎧衣はいつもどおりの表情でわからないが。月詠が殿下の横に付き、傭兵が下座の席についてから話が始まった。
「うむ。よく来てくれた。わしは紅蓮 醍三郎 日本帝国斯衛軍大将の任についているものだ。」

「私は、巌谷 榮二。日本帝国陸軍中佐で技術廠・第壱開発局副部長の肩書きがある者だ。」

「え~次は私ですかね日本帝国情報省外務二課長 鎧衣左近と言います。どうも初めまして。」

「そなたには戦場で助けられたな、日本帝国斯衛軍第16大隊指揮官 斑鳩 影比佐だ。」

「私は、香月 夕呼この帝国軍白陵基地内にある国連軍の副指令よ」

「私は、日本帝国国務全権代行政威大将軍 煌武院 悠陽と申します。そなたのおかげで多くの命が救われました。そのことに深い感謝を。」

ここにいる者たちの自己紹介が終わり最後に目の前の少女が俺に感謝し頭を下げた。
「いや、頭を下げる必要はない。俺は傭兵だ。戦いで糧を得ている者だ。戦うことが当たり前の者に礼など不要だ。」

「いえ、傭兵であろうと貴方のおかげで救われた命があります。それに対して感謝させてください。」
目の前の少女、煌武院 悠陽はそう答えた。俺は、

「ああ、わかった。」と返事をした。

「さて、お主を呼んだのはおぬしが何者なのかを聞くためだ。」
紅蓮と言った巨漢の男が話す。それに対して俺は、

「そうだな。俺について話そうか。すまないがずっと傭兵をしているので礼儀作法などはまったくわからない。それでもかまわないな?」
俺がそう問いかけると、

「構いませどうぞ話してください。」
と煌武院 悠陽は答える。
「そうか。では話そう。まず、俺の名前だが、あいにく物心ついたときから戦場にいたせいで名前はない。傭兵としての名としてレイヴンと呼ばれていた。」

「ほ~レイヴンですか。たしかワタリガラスでしたか。なるほど傭兵にぴったりの名ですね。」
鎧衣と名乗った男がとぼけたような話し方で感心したように頷く。

「じゃあ、今はレイヴンと呼ばしてもらうわね。早速だけどレイヴン?貴方の乗っている機体について教えて頂戴。」
香月と言った女が俺に質問してくる。

「ネクストを知らないのか?」
俺が驚いてそう答えると、

「いえ聞いたことがないわ。巌谷中佐は?」

「いや、私も初めて聞く名だ。」
話を振られた巌谷と言う男がそう答える。

「ネクストとは、正式名称アーマードコア・ネクストと呼ばれる機動兵器だ。本当に誰も知らないのか?」
俺が周りを見渡すと皆一様に知らない様子だった。

「そのネクストと呼ばれる機体は何処で作られたんだ?」
巌谷が質問する。

「ネクストを作ったのは企業連と呼ばれる。軍需企業だ。」俺が答えると、
「企業連?なんだそれは?」
巌谷が答える。

(どうなっている?ネクストも企業連も誰も知らないなんてことがありえるのか?)
そう考えながら俺は、

「すまない、俺からも質問をさせてくれ。」

「うむ、かまわんが。」紅蓮が答える。
「すまない。では、BETAとは何だ?」
俺が質問すると

「お主、何を言っているのだBETAとは我々人類の敵でお主も昨日戦ったであろう。」
紅蓮がそう答えると、

「そのBETAと戦ったのは、昨日が初めてだ。」
俺がそう言うと

「馬鹿なことを!BETAと戦ったことがないなど!それならお前は今まで何と戦ってきたのだ!」
月詠が怒声を上げる。

「何と戦ったきたかだと?決まっている人間だ。そんなの当たり前だろう。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!君は、あのネクストという兵器で人間と戦っていたのか!」巌谷が驚きの声を上げる。

「当たり前だ。ネクストはカラードに登録されているだけでも30機以上いる。そいつらとも戦うことがあるんだ。」

「そのカラードって何よ」
夕呼が尋ねる。

「俺達傭兵を共同管理する組織だ。企業連が作ったものだ。」
俺が答えると

「聞いたことないわね。鎧衣課長貴方は?」

「いえ、聞いたことがありませんね。」
鎧衣は答える。

おかしい、なぜこんなに話が噛み合わないそう思いながらも俺はさらに質問してみる。

「なぜ、日本が存在している?」
俺が質問すると

「日本が存在している?何を言うんだ、BETAの進行を受けているが滅ぼされてなどいないぞ。」
斑鳩が言う。

「いや、そういう意味ではなく日本と言う名の国は数十年前になくなったはずだ。」
さらに俺が質問すると、

「ちょっとまちなさい。何で日本が数十年前になくなっているのよ?」
夕呼が答えると、

「数十年前の戦争で世界中の国家が解体されたからだ。だから、あんたが副指令をしている国連軍も既にないはずなのになぜ存在している?」

「国家が解体だと!何を言っている世界中の国は解体などされていない!BETAの侵略を受けた国々はあるが他の国に移住したりして国家は存在している!」
真耶が反論する。
その後も話は続いたが、話は噛み合わないまま進んだ。


(まさかね・・・でも、この話の前は確証がなかったけど、こいつの話の内容から可能性が高くなったはね)
私は、それを確認するために

「皆さん少しいいでしょうか?」
私は周りを見渡す。

「香月博士、何か?」
悠陽が尋ねる

「レイヴンが来る前に私が皆さんに言ったことがあるのを覚えていますか?」
私が訪ねる。

「確か、香月博士の学説が彼の謎を解けるかもしれないというものでしたね?」
殿下が答える。

「はい。私が提唱した学説は因果律量子論と言うものですが、この学説では平行世界と言う概念の仮説が立てられています。」

「平行世界?それは、どういうものなのですか?」

「この世界と限りなく似ていながらところどころ違う部分がある世界です。例えば紅蓮大将、大東亜戦争で日本が勝っていたらどうなったと思いますか?」

「うむ。もし勝っていればこの国は今のような内情ではなかったかも知れんな。」
紅蓮が答えると、

「その通りです。他にも、もし今回のBETAの進行で九州に台風が上陸しなければ被害はもっと少なかったかもしれない。そういった結末がある世界が存在するという仮説がこの学説で立てられています。」

「香月博士、それが彼やあの機体の謎と何が関係あるのですか?」
斑鳩が尋ねる。

「単刀直入申しますと、彼はこの世界とは違う世界から来たということです。」
夕呼の発言に皆が呆然となる。

「香月博士!そんな馬鹿な話があるはずがありません!」
月詠が言う。

「う~む。月詠の言う通り。いくらなんでもそれは些か無茶話ではないですかな。」紅蓮も月詠に同意するが、

「ですが、彼の話の内容、我々の話す内容がまったく噛み合わない。事はどう説明します。」
「彼が、作り話をしていると言う線は?」
巌谷が尋ねる。

「それにしては、内容が具体的過ぎます。それに、最初にも言ったように荒唐無稽な話になると言いましたが。」
夕呼がそう返すと、

「レイヴン、そなたはどう考えますか?」
悠陽がレイヴンに尋ねる、

「・・・・・俺が違う世界から来たのかはわからんが、俺の機体に今までの戦闘記録や兵器についてのデータがある。それを見て判断してもらいたい。」
レイヴンはそう答える。

「なるほど、たしかにデータがあればそれをしてから判断してもいいですね。」鎧衣が言う。

「そのデータはすぐに準備できるのか?」
斑鳩が尋ねる。

「機体にデータをこちらにある記録メディアに書き込んでくる。それを写せるプロジェクターがあれば問題ない。」

「なら問題ないわね。プロジェクターはあるし、後は貴方がデータを持ってくればいいだけよ。」

「わかった。すぐに取ってこよう。記録メディアは?」

「真耶さん、準備してあげてください。」

「はっ!わかりました。」月詠が俺のほうに来る

「機体の場所まで案内しよう。付いて来い。」

「わかった。」
俺は、そう返事をすると機体のところに向かった。

 
機体からデータを取ってきてそれを映し出す準備をする。
「準備できました。」
月詠が皆に言う。

「ご苦労。ではレイヴン始めてくれ。」
紅蓮が俺に促す。

「ああ、わかった。」
俺は、機体にあったデータを見せ始める。

「まずは、世界情勢の状況を出そう。俺の世界の国家は政府が統治能力を徐々に失い、それに伴い各地でテロ行為や暴動が頻発していた。それらを鎮圧し、秩序の回復を図るため、軍隊はより強力かつ高度に機械化され、軍に様々な兵器を供給する軍産企業もまた、数社の企業から成る強固な軍産複合体を形成し、その影響力を強めていった。だが加速する世界の破綻は徐々に酷くなり、ついには経済システムが存亡の危機に陥るに至ってしまった。
そこで、出てきたのが実質的最高権力組織となっていた6つの企業組織だ。彼らは統治能力が無くなった国家に変わり新しい統治体制の確立を目指して世界中の国家に対して宣戦布告し全面戦争に突入した。」
「ばかな!ただの企業が世界を相手に全面戦争など正気とは思えん!」
巌谷が言う。

「普通なら無謀だが、企業側は勝算があったからこそ戦争に突入した。」
俺が答える

「その勝算は?」夕呼が尋ねる。

「すべては、戦争の7年前になる。とある新物質が発見されたことから始まった。その物質は、発見者の名前を取ってコジマ粒子と命名された。」

「コジマ粒子とは何だね?」
鎧衣が尋ねる

「コジマ粒子は、軍事転用のみに有効な物質でこれを利用したさまざまな兵器が開発された。そして、コジマ粒子の特性をフルに活用した機動兵器が開発された。」

「それは、もしかして・・・」
夕呼が尋ねる
「そう、ネクストだ。アーマードコアとはコアと呼ばれる胴部を中心に頭部・腕部・脚部など各種のパーツを組み合わせて制作される機動兵器だ。そこにコジマ粒子を使った技術を使って作られたのがネクストだ。そして、ネクストが完成したことで従来のアーマードコアは「ノーマル」といわれるようになった。」
「なるほどね。ネクスト、つまり次世代ね。」
夕呼が頷く。

「ネクストに使われたコジマ粒子はその技術によってネクスト特有の機能にされた。」

「その機能とは?」
巌谷が尋ねる。

「まず一つ目は、コジマジェネレータの搭載だ。ジェネレータ内部でコジマ粒子を生成しそれを機体のエネルギーに回すことで今までの機体よりも遥に上回る出力を得ることになった。ちなみにコジマ粒子はジェネレータ内部に少量でも残っていれば内部でまた生成が可能だ。ジェネレータには粒子を使いきらないためにリミッターも付いている。事実上の半永久機関だ。」

「永久機関そんなものが実在するとは・・・」
巌谷はただただ驚いている。

「二つ目が、クイック・ブースト(QB)の搭載だ。これはネクストの前後左右のブースタに備わる特殊推進機構の呼称で、機体を任意の方向に瞬間加速させる。その出力は極めて高く、僅か0.2~0.8秒で機体を加速させ800km/h~4000km/hの亜音速、音速突破が可能となった。俺のネクストはだいたい1200 km/h以上1500km/h未満ぐらい速度だ。このQBがネクストを最強の兵器としての地位を確立した大きな要因の一つでもある。」
QBの機能の説明には皆唖然としている。

「映像で見たお主の機体が凄まじい速度で動いていたのはこの機能のためか」
紅蓮が納得したような顔をする。

「三つ目が、プライマルアーマー(PA)機能だ。防御機構の一種であり頭文字を取ってPAと略称される。ようはバリアだ。コジマ粒子の球状安定還流を周囲に展開することで、機体へのダメージを軽減・無効化させる。特に実体弾に対して高い効果を示し、既存の戦車砲や機関砲、小型榴弾やミサイルなどでは極々軽微な損傷しか与えられない。事実上実弾兵器には無敵に見えるが弱点もある。既存の兵器による集中砲火等によって、減衰、突破が可能だ。また、エネルギー兵器に関しては減衰率が下がり高出力であれば貫通もする。ただ、QB機構があるためそれらが困難な為に結果的に弾幕を展開する等と手段が限られる。コジマ粒子はジェネレータで常に生成されているため、被弾による減衰も時間経過により回復させることができる。このPAがネクストの最強の機動兵器としての地位を確立した最も大きな要因でもある。」

「このような機能があるとは、戦術機では歯が立たないぞ。」
斑鳩が呟く。

「4つ目が、オーバードブースと機能(OB)だ。これは、コジマ粒子を利用し背部にあるブースターにエネルギーを回して急加速する機能だ。速度は機体によって異なるが、だいたい800km/h~4000km/hぐらいだ。用はQBのスピードが長時間できると言うことだ。俺の機体では約1500 km/hだ。ただし、OBはコジマ粒子利用する為、PAが減衰していくという欠点がある。無論OBをやめればコジマ粒子は再びチャージされる。」

「5つ目が、アサルトアーマー(AA)の搭載だ。これは、PAとして機体周囲に展開するコジマ粒子を収縮後に放射状に加速させ、自機を中心とした大規模のコジマ爆発を引き起こすものだ。ただし、これを使用するとコジマ粒子を一気に使う為、常時展開していたPAを失う。またOBも使えなくなる。コジマ粒子はフルチャージまで早くても20秒はかかる。その間戦闘力は著しく下がる。とはいえ、ネクストの武装では最強クラスの破壊力がある。」

「とんでもない兵器だな。こんな物を人が操作可能なのか?」
月詠がそう口にする。

「以上のような機能を有したネクストを企業側は開発、勝算があると判断して戦争突入した。」

「どのくらいのネクストが投入されたの世界と相手に戦争するのだからかなりの数が必要でしょ?」
香月が尋ねる。

「いや、投入されたネクストは、30機にも満たない数だ。その数で戦争を行い。勃発からわずか一ヶ月程度で、企業側の圧倒的勝利で終結した。」

「「「「なっ!!!」」」」
この結果には、全員が驚愕した。

「た、たった30機で、それも一ヶ月で国家を!」
巌谷が言う。

「それほどのものなのかネクストとは・・・」
斑鳩は呆然と呟く。そこに香月が、

「ちょっとまちなさい。何で30機しか投入できなかったの機体が準備できなかったの?」
そう尋ねてくる。
「いや、機体が用意できなかったのではなく、ネクストに乗れる「適正」を持ったものが30人しかいなかったのだ。」

「適正?どういうこと」
香月が尋ねる。

「先ほど、月詠大尉が言ったことを覚えているか、「こんな物を人が操作可能なのか?」と
ネクストは、従来機とはことなり搭乗者の脳と機体を直結させる脊髄や延髄を経て脳神経系の電気信号を直接統合制御体に送る次世代型の機体制システムAMS(Allegory-Manipulate-System)を採用している。」

「人間の脳と機体を直結ですって!」
夕呼が驚く。他の者もそうだ。

「馬鹿な!それでは乗っている者は、機械の一部と同じではないか!」紅蓮が怒りに震える。
「では、レイヴンお前は自分の体を!」
月詠が尋ねる。

「ああそうだ。俺の首の後ろに見えにくいがプラグを差し込む部分がある。見えるか。」
月詠が近づいて首の後ろをみるよく見ればそこには普通人間であれば決して付いていないものがあった。

「こんな、こんなことが許されるのか・・・」
月詠はもはや言葉でない。

「話を続けるぞ。このAMSによってネクストはノーマルと比較して極めて高い反応速度や制御能力を得ることとなった。ネクストを稼働させる上でAMSとリンクスの意義は非常に大きく、AMSなしでの操縦には「極めて統制のとれた十数人のチームが必要」とまで言われるくらいだ。しかし、脳に電気信号を流すという性質上、人体にかなりの負担を強いるものになりさらに、流し込まれた電気信号を情報として処理できるか否かもほとんど個人の先天的な才覚に依存し、訓練などによる後天的な獲得は不可能であるため、AMSの適性を有する者=リンクスたる資格を持つ者の数自体が少なく、一種の天才して扱われる状態になってしまった。企業連が30機だけで戦争を起こしたのもリンクスの数が限られていた事が原因だ。また、過度のリンクは精神と肉体に多大な負担を強いる。適性の低い者はそのせいで精神汚染を受け、廃人になる事もある。これは、コジマ粒子による汚染が一番の原因だ。」

「ちょっとまってコジマ粒子の汚染てなに?」
香月が尋ねる。

「コジマ粒子もいい目ばかりではない。使用することで広範かつ長期にわたり環境を汚染する性質があり、生態系への重大な悪影響及ぼす。ネクストが戦場に出始めたせいで地上の環境汚染が進み人が住める土地がほとんどなくなり、一部の人間は空での生活を余儀なくされている。また、人体にも悪影響で寿命縮み最悪の場合は、死ぬこともある。」

「じゃあなに!あんたは、汚染物質ばら撒いて戦っていたの!!」
香月が言う。これにはさすがに皆が厳しい目を向ける。それはそうだ放射能よりもたちの悪い汚染物質をばら撒きながら自国で戦闘されては堪らない。

「本来であればそうなるはずだが、こちらに来てから戦闘中に大気中のコジマ粒子を計測していたが、なぜかいくら計測しても大気中のコジマ粒子は0%しか表示されていない。」

「その計測する機械が故障してるんじゃないの?」

「いや、システムチェックでもエラーは出ていない。本当に汚染が無いようだ。しかし、一応確認は必要だ。」

「当たり前でしょ!汚染物質なんて冗談じゃないわよ!」

「しかし、確認は必要ですね。巌谷中佐、技術廠でその作業をお願いできますか?」
悠陽が巌谷に尋ねる。

「わかりました。こちらで作業の方はお任せください。」
巌谷が答える。

「しかし、たった30機で国家をそれも1ヶ月で勝利するとは、リスクもあるがそれだけ強力な兵器ということか」
斑鳩か言う。

「これが後に「国家解体戦争」と呼ばれる戦いの結末だ。次に見せるのは、俺の戦闘記録だ。」
そう言うと俺はログを操作して記録を見せていった。


「これで戦闘記録は終了だ。何か質問は?」
周りを見渡して尋ねる。

皆一様に疲れた表情を浮かべている。

「何だ全員が疲れた表情浮かべて?」
俺がそう言うと

「あれだけの事話されれば誰だってこうなるわよ」
香月が反論する。

「まあ、これだけの証拠があればアンタが別の世界から来た言う私の推測も正しかったようね。」

「うむ、これだけの物を見せられればいやでもそう思わない方がおかしいな。」
紅蓮が同意する。

「とはいえ、これはここにいる者達での中の話にしたほうがいいでしょう。」
と巌谷が言う。

「と言っても、こんな他にしたところで頭がおかしくなったと思われますよ。ははは。」

「たしかに鎧衣課長の言うように頭がおかしくなったと思われるのが落ちです。」
斑鳩が同意する。

「しかし、レイヴンお前はこれからどうするつもりだ?」
月詠が尋ねる。その問いに俺は、

「どうする?俺は傭兵だ。戦場で戦って糧を得ている存在だ。世界が変わろうがそれは変わらない。」と答える。すると

「レイヴンそなたに頼みがあります。」
悠陽が話しかけてくる。

頼み?なんだ。」俺が尋ねると

「この帝国の為にそなたの力を貸していただけないでしょうか?」

「で、殿下!」
月詠が驚きの声を上げる。周りの皆も驚いている。

「今帝国はBETAの進行を受け存亡の危機に瀕しています。今は、一人でも戦えるものが必要なのです。そなたの力をぜひ貸していただけないでしょうか?」
悠陽がそう尋ねるが、

「断る。」

「えっ!」
俺の返事に悠陽驚く。

「将軍様は、何か勘違いされているようだな。俺が戦うのは俺自身の為だ。他人が死のうが国が滅びようが俺には関係ない。人助けの為に戦うつもりは毛頭ない。」
俺はそう返答する。

「では、我々を援護したのはなぜだ?」
斑鳩が尋ねる。

「自分の置かれている状況がわからないことは、危険だ。そのために情報を得る必要があった。だから助けた。もっとも自分が別の世界に来たとは思わなかったがな。」
そう答える。

「君は、目の前で失われていく命があっても何とも思わないのかね?」
鎧衣尋ねると、

「命?それがどうした?人の命はこの世で一番価値の無いものだ。」
俺の答えに皆が愕然とする。
「そういう訳だ。将軍様。人助けなら他に頼むんだな。」
俺がそう言うと

「きっ貴様ぁぁぁ!!殿下に対して!!!」

「ま、真耶さんおやめなさい!」
悠陽が止めるのも聞かずに月詠は刀を抜いて俺に切りかかってきた。

「馬鹿が・・・」
そう呟くと俺は片手で刀を受け止める。

「「「「!!」」」」
これには切りかかった月詠も周りの者も驚く。

「こんな物では俺は殺せない」
そう言うと俺は刀を離す。

「き、貴様は一体何なんだ?」
月詠が俺を見ながら尋ねる。

「そうだな。その問いに答えよう。俺の世界では戦争が当たり前世界だった。当然強くならなければ生き残れない。それが普通だ。そんな世界では手っ取り早く力を手に入れる方法もいろいろ開発された。俺は、その中でももっとも一般的だった方法で力を手に入れた。」
「それは、ネクストのことか?」
斑鳩が聞く。

「違う。俺が行ったのは「強化手術だ」。」
聞いたことが無い言葉に皆首を傾げる。

「この世界でも考えられているんじゃないのか?強化手術とは自分の肉体を改造することだ。」
「自分の肉体を改造だと?」

「そうだ具体的には、機体の激しい機動や衝撃に耐えるため骨格を特殊な金属で覆う、内臓を薬物で強化、機体センサー・制御装置を脳神経と直結させるコネクタ類の埋め込み、神経の光ファイバー化、脳内にレーダーシステムの内蔵等の手術を行った。簡単に言えばサイボークだ。」
俺はそう答える。

「狂ってるわね。やる方もやらせる方も。」
香月が言う。

「何がだ?周りの連中もやっていたことだ。ならば自分もしなければ生き残れない。俺は、生きる為に、戦う為にそれをした、それだけだ。」

「なるほど、お主の目を見て強い意志を感じたが、それは「生への執着」の意志だったのか」
紅蓮が言う。

「そうだ。俺にあるのはそれだけだ。それ以外に無いからだ。」

俺はそう言った。すると

「そうですか、それがそなたの意志なのですね。」
悠陽が話しかけてくる。そして、

「ならばなおの事そなたに頼みたい。この国の為に力をお貸しください。」
先ほどと同じ事を悠陽が言う。

「言ったはずだ。俺には関係ないと。」
そう言った俺に

「いえ、力を貸していただきます。」
と悠陽が返してくる。一旦下を見てから顔を上げ何かを決意したような表情で驚きの発言をする。

「我が日本帝国がそなたを雇います!」
悠陽の発言にその場にいた全員が驚いた。



[31421] 第4話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 02:08
目の前の少女、煌武院 悠陽の発言に俺は面を食らっていた。

「日本帝国が俺を雇うだと?」
俺は聞き返した。それに対して、

「そなたは、先ほど言っていたではありませんか?『自分は傭兵だ。戦って糧を得ている。それは生きる為だ』と。」
悠陽は答える。

「たしかにそうは言ったが、なぜ急に雇うと考えた?」

「先ほど私が、申したように今の帝国には一人でも戦える者が必要だと。そなたの力ならば例え1人でも強力な力になります。」

「手前味噌になるが、たしかにネクストの戦力なら戦術機が束になったところで敵わない戦闘力を持ってはいるが。」

「それに、あの機体の整備等はどうするつもりですか?いくら強力な兵器でも整備環境が無くては、運用は難しいのではないですか?そなたは、生身でも普通の人の力を超えてはいますがいくら何でもBETAと生身では戦えないでしょう?」
 悠陽の言葉に俺は考える。もちろん機体の整備環境必要だ。生身であの化け物と戦うのはいくらなんでも不可能だ。その辺は考えてはいたが情報を聞くだけ聞いたらどこかで雇ってもらおうとは考えていただけにまさか向こうから雇いたい言ってくるとはとは少々予想外だった。しかし、

「俺を雇おうと考えた理由はそれだけではないだろう?俺を雇えば俺の世界の技術が手に入る。この世界にとってみればオーバーテクノロジーもいいところだからな。違うか?」
俺はそう聞き返す。

「正直に申せばそれもあります。」
悠陽は正直に答える。その言葉に少し考えてから、

「将軍様は、交渉には不向きだな。少しは人を疑うことも覚えた方がいい。そんなことでは、国を治めることは出来ないぞ?」
俺がそう言うと悠陽下を向いてしまう。

「・・・が将軍様の言うこと最もだ。衣食住さらに機体の整備環境が無ければ俺だって戦えない。雇うという話受けてもいい。」
その言葉に悠陽は顔を上げて喜びの表情を見せる。

「しかし、さすがに今回ばかりは『金』だけでは動かないぞ。」
俺がそう告げると

「そなたの要求は可能な限り応じます。形ばかりの政威大将軍と言えどそのくらいのことは出来ます。」
悠陽の言葉に周りの表情は少し暗くなる。

「帝国が俺を雇う・・・つまり将軍様が依頼主と言うことで受け取っていいのだな?」
「はい、そうです。」
悠陽がそう答える。
(先ほどの話から見ても、形骸化しているとはいえ日本帝国国務全権代行の肩書きだ。よほどのことが無い限り何かあってもその権限でなかったことに出来る。それにまずくなったら俺を切り捨てれば問題ないな訳だからな。双方にメリットがある。まあ、目の前の少女が人道に反することをするとは思えんがな)

「わかった。後で契約書にサインをもらいたい。それと、全ての情報を開示することを要求させてもらう。隠し事はなしだ。」
俺がそう言うと、

「全ての、情報をかね?」
鎧衣が尋ねる。

「そうだ。全てだ。今まで受けてきた依頼にも信用の置けないものは多々あった。中には情報にない敵がいたり、援護攻撃が無かったり等の嫌がらせから、酷いときには裏切って騙し討ちの場合だってあった。仕事を選ぶくらいの余裕が無かったからしかたがなかったのだが。まあ、後者の場合はきっちり報復をして報いを受けてもらったがな。それに、自分の知らない世界で雇われて戦うんだそれぐらいのことは便宜を図ってもらわないと困る。」

「そなたの希望どおりに致しましょう。鎧衣、お願いできますか?」
悠陽が鎧衣に指示をする。

「わかりました。そのように手配します。」
鎧衣が答える。
「話は、まとまったか?周りの者に異論はないのか?」
俺が尋ねる、

「本来であれば、いろいろ言いたいが殿下が決断さえたことだ我々はそれに従うのみ。」
紅蓮がそう答える。

「殿下の警護役としては、私情では反対だ。だが、殿下の考えであれば私はそれに従う。月詠も続く。2人の意見を聞いてみて周りの者も反対する者ものはいなかった。
 
その後、契約の内容などを話し合って大筋の内容が決まったあたりで、夕呼が、
「でも、あんた国籍はどうするの?この国に戸籍なんて無いだろうし名前も内容じゃまずいわよ?」

「そのあたりは、鎧衣にお任せします。しかし、名前の方はいかがいたしましょう?」
悠陽が俺をみて尋ねて来る。

「さすがに『レイヴン』では、まずいでしょうから・・・?レイヴン、そのドックタグに名前は書いてないのかね?」
鎧衣が指差す。

「これは、俺の育ての親にあたる人物の者だ。死んでしまったので形見代わりにしているだけだ。」

「少し、見せてくれるか?」
「ああ、構わないぞ。」
俺は、ドックタグを鎧衣に渡す。

「ふむ。ここに『レンヤ』と書いてあるが、その親代わりの人は、日本人だったのかね?」

「いや、そこまでは知らないが日系には見えたな」

「うん。それならこの人の名をもらうことに使用。」
鎧衣そう言う。

「まあ、そちらがそれでいいなら構わないが。」

「君は、見た目日系に見えなくもないから大丈夫だろう。苗字の方はそうだな、『鴉酉』でどうだ?

「アトリ?」

「日本語で『鴉』は『あ』とも読める。『とり』は『酉』と言う十二支の酉から取ったものだ。ちなみに『鴉』を入れたのは、『レイヴン』の名残を残す為だ。『レンヤ』は『連也』と言う字に使用と思う。」

「『鴉酉 連也』それが俺の名か?」

「ああそうだ何か不満な部分はあるか?」

「いや、名前などどうでも構わん。では、今日からその名前で生きていけばいいのだな?」
鎧衣に尋ねる。

「ああそうしてくれ。戸籍等に関しては私の方でやっておく。」
鎧衣答える。

「これで、身元に関してはOKって所かしら?後は、所属はどうするの?」
夕呼が尋ねる。

「うむ。傭兵とはいえ軍の設備を使用したりするわけだからな。しかし、さすがに斯衛軍所属は厳しいですな。」
紅蓮が答える。

「斯衛にはたしかに一般の者でも所属している者がいますが、さすがに傭兵となるときびしいでしょう。それに、行動に制限がかなりつきます。彼の仕事を考えると無理があるでしょう。」
斑鳩が続く

「そうなると、帝国軍が妥当でしょうね。」
夕呼が言う

「では、帝国軍に入ったとして所属先はどうされます?」
月詠が疑問に思う。すると巌谷が、

「ならば技術廠所属にしてはどうでしょうか?彼の機体は特殊な機体です。先ほど話題にでた粒子の検査もありますし設備に関しては心配ありません。あと問題なのは、階級はどうされます?」
その意見を聞いた斑鳩は、

「あまり低すぎても、高すぎてもいけないでしょうから。少佐くらいなら問題ないのでは、彼の実力を考えれば問題ないでしょう。」

「うむ、それぐらいが良いだろう。」
紅蓮がうなずく。

「あまり、文句が来ないぐらいの階級であれば俺は構わない。」

「ではこれから、レイヴンは『鴉酉 連也』として帝国軍少佐として技術廠所属になることでよろしいでしょうか?」
悠陽が周りを見渡す、皆肯定の表情で答える。

「では、鴉酉少佐これからよろしくお願いします。」
悠陽が俺に言葉をかける。

「ああ、よろしく頼む」俺は、そう答えた。


一通りの話が終わってから俺は、部屋に戻り1人考えていた。
(とりあえずこれで生きていく為の最低限の物は確保できた。後は、戦うのみだ。と思いたいが実際にはそうは簡単にはいかないだろうな)先ほどの話し合いから帝国は現在、米国が日米安保条約を一方的に破棄して撤退したため兵力が厳しい状態になっている。ネクストは確かに強力だが、休まずに戦うことは出来ない。強化手術を受けているとはいえ不眠不休で戦えるわけではないのだ。

(まずは、BETAが何時進行を再開するかだがおそらくそう遠くない時期に来るだろうな、現状では進行を止めるのはほぼ不可能だな。何処までやれるか)そう考えているとドアのチャイムがなる。こんな時間に誰だ?時計は22時を回ったところだ。俺は、とりあえず声をかける。ドアが開くと月詠大尉が入ってきた。

「こんな時間に失礼する。」

「いや、構わないがどうかしたか?」
俺が尋ねると、

「殿下が大事な話があるからつれてくるように指示を受け少佐を迎えに来た。」

「話?昼間に話したこと以外に?」
俺が聞き返すと、

「詳しいことは私も知りません。申し訳ないですが来ていただきたい。」

「わかった。行こう。」
俺は立ち上がる。

「場所は、昼間と同じ場所です。」
月詠大尉に促される。

「ああわかった。」
そう言うと俺は、月詠大尉に付いて行った。


到着した部屋の中には、悠陽殿下、紅蓮大将、鎧衣課長、香月博士の4人がいた。

「鴉酉少佐こんな時間に及び立てして申し訳ありません。」
悠陽が一言そう言う。

「いや、別に構わない。それより大事な話と言うのはなんだ?」
俺が尋ねると、

「そうですね。早速始めましょう。真耶さん、外に出てもらえますか?」
悠陽が月詠にそう言う。

「わかりました。外にいますので何かあればお声かけください。」
そう言うと月詠は一礼して部屋を出る。それを見届けてから悠陽が口を開く、

「これから話す内容は、国家機密の最重要の情報です。それをご理解ください。」

「最重要か。その内容を知っているのはこの国にどのくらいいる?」

「知っている者では、今、この場にいる者以外であれば内閣総理大臣の榊 是親殿だけです。」
そう悠陽答える。

「なるほど。どのくらい重要かわかった。で一体どんな内容なんだ?」
俺が尋ねると、

「それは、私が説明するは。」
香月が答える。

「香月博士?わかった聞こう。」
「ありがとう。これから話す内容は、『オルタネイティブ計画』に」ついてよ。」
「『オルタネイティブ』?代替のことか」

「まあそうね。この計画は、BETAの存在が確認されてから現在1、2、3の順に計画が進められたんだけど、全て失敗に終わってしまっているの。そして、現在この日本が主導で行っている『オルタネイティブ4』と米国が主導している『オルタネイティブ5』が平行して進められているの。」

「なんで2つの計画が同時に進められているんだ?『オルタネイティブ4』が失敗したわけではないのだろう?」

「失敗はしていないは。『オルタネイティブ5』は、4が失敗した後にすぐに発動できる。予備計画なのよ。」

「なぜそんな計画が?」

「簡単に言うと日本と米国の中が悪いから」その発言から、

「ようは、邪魔する為か?」

「ええ、その通りよ。日本が主導の計画を認めたくない為に対抗して作った計画なのよ。」

具体的にどんな計画なんだ?」
俺が尋ねると、

「オルタネイティブ5の内容は、『全人類で選抜された約10万人を地球から脱出させ、大量のG弾でBETAに最終決戦を挑む。』」というものよ。」
香月が説明する。その内容に俺は、

「つまり、たった10万人を地球から脱出させて。後に残った人はがんばって下さいってことか?なんだその計画は?考えた奴は頭がどうかしている。それに、G弾とは一体何だ?最終決戦を挑むと言っている内容から、大量破壊兵器の一種のような物だと思うが。」

「正式名称は『Fifth-dimensional effect bomb (五次元効果爆弾)』というわ。」

「核兵器の一種か?」

「違うわ。元はBETA由来の元素『G元素』の『グレイ・イレブン』を原料にした物で放射能物質を出さない爆弾。でも、その代わり被爆地は半永久的に重力異常が起きて植生も回復しない代物よ。」
その説明に俺は、

「重力異常?」

「そう。五次元効果爆弾の名前の通り。空間にも影響を及ぼす。」
そう言うと香月は、資料を渡す。

「威力や実験の結果が書いてあるわ、4の計画についても書いてあるから少し読んでみて。」そう言われて俺は資料に目を通す。しばらくしてから顔を上げると、

「読んだ感想は?」
香月が尋ねる、

「とりあえず威力に関しては数値だけ見ても驚愕に値するものだ。これほどの物は俺の世界にも存在していない。」

「なるほどね。あとの内容に関しては?」

「これを大量に使用すれば確実にBETAを駆逐できると書いてあるが、これの信憑性は?」

「まったくの0ね。でっち上げもいいとこよ。」

「つまり、脱出計画は建前で本当の目的はこのG弾の使用が目的か?」

「そう。脱出計画はおまけのようなものよ。」
その内容を聞いて俺は、

「今の話の内容から日本は、この計画に反対しているな?」

「ええ、そうよ。」
「日米安保条約を一方的に破棄したのは、反対していることに対する嫌がらせと言うわけか。」

「簡単に言えばその通りよ。で、貴方はこの計画についてどう思う?」
俺は少し考えてから、

「客観的に言わせてもらえば俺もこの計画には反対だ。」

「理由は?」

「計画に穴がありすぎる。世の中には絶対なんてことは存在しない。この内容は、G弾で確実に成果が上げられているとされているが、実際に使用されていないような兵器は信用できない。さらによしんばこれだけの効果があったとしても重力異常の問題や植生が回復しない等の問題がある。おれの世界の話をしたと思うが、こんな兵器を大量に使用すればたとえBETAを駆逐できても人が住めない世界になってしまう。それにおまけの脱出計画も逃げた先の星が本当に住めるかどうかも怪しい。言ってなかったが俺の世界でも人類はまだ宇宙に進出できていない状態だった。こちらの世界よりも技術的に上であっても。そう考えればこんな計画に賛成できるはずも無い。」
俺がそう意見を述べる。すると香月は、

「あなたの言う通りよ。だからこそ『オルタネイティブ4』を必ず成功させないといけないのこの国の為にも世界の為にもね」

「資料は、読んだが4の計画も中々に突拍子もない計画だ。俺からしてみればかなりあやしい代物だ。が5の計画よりはましだという認識だ。」

「それはどうも。でこれからが本題になんるだけど。内容は殿下から説明があるわ。」
そう香月が言うと悠陽が話し始める。

「香月博士の申したとおり我が帝国が第4計画を招致したのも人類の為を考えたからです。しかし、現実には米国の妨害もありまた悲しいことに国内にも反対派がいるのが現状です。国連が米国の私物化している現状このまま行けば第5計画が勢いを増していく恐れがあります。」
そこまで言うと悠陽は一呼吸置いてから、

「その流れを止める為にも我々が話し合ったのが、そなたの機体『ネクスト』を帝国と第4計画が共同で開発したものだと発表することです。」
その内容にさすがの俺も驚いた。

「ちょっと待ってくれ?『ネクスト』を帝国と第4計画が開発した物だと発表するだと?どうしてそんな話になった?」
俺が尋ねる。すると悠陽は、

「第5計画の勢いを止める為には、既存の兵器つまり『戦術機』でBETAに対抗できることを見せることが必要です。そうすることで第5計画賛成の国の中でも反対に回る国を出てくるはずです。そうすればいかに国連が米国の主導でも用意には計画を進めることは難しくなるはずです。また、米国内にも反対派がいるのでそういったものたちの後押しにもなります。ですが、これはあくまで第4計画の補助のようなものです。その間に第4計画を進めて完遂させることが重要です。」
そこまで話を聞いて俺は、

「つまり、第4計画が完遂できるまでの時間稼ぎの為に俺をプロパガンダに利用すると言うことだな?」
俺がそう尋ねると悠陽は、

「その通りです。それに値するだけの力がそなたにはあります。やっていただけますね?」悠陽がそう聞いてくる。

「雇い主からの命令だ。やらしてもらう。それに、宣伝以外にも目的があるんじゃないのか?」
俺がそう尋ねる、

「目的ですか?」
悠陽が聞きかえす。

「ああ。確かに『ネクスト』強力だ。だが、一機しかない上に乗れる人間は俺しかいない。いくら強力とはいえ数で押して来るBETAにはいつかはやられる。先ほど『既存の戦術機』でBETAに対抗できることを見せる必要があると言っていたが、つまりそれは『俺の世界の技術をこちらの世界の戦術機に転用する』のも目的じゃないのか?」
俺がそう尋ねると、香月が、

「ええその通りよ。それが目的でもあるわ」

「やはりそのつもりだったか。」

「貴方も知っての通り、現行の戦術機ではBETAに対抗できていない。でも、貴方の世界の技術を取り入れることが出来れば確実に戦力が増強できる。」

「なるほどね。博士の言い分は理解した。煌武院殿下もそうお考えかな?」
俺は悠陽に聞き返す。

「はい。香月博士の申すとおりそなたの世界の技術を取り入れる案についても皆で話し合い決めたことです。」
悠陽がそう答える。それに対して、

「了解した。技術の面での内容も受けよう。ただし、追加料金をいただく。契約の内容は、あくまで戦闘に関しての内容だったからな。技術の面では新しく契約をする。問題ないな?」

「ええ、構いません。報酬も追加で用意いたします。」

「了解した。話は以上か?」

「ええ、これで終わりです。」

「そうかでは、俺は休ませてもらう。仕事については明日から早速取り掛かる。」

「ええ、お願いします。」
俺は、席を立ち部屋から出でていった。





[31421] 第5話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 12:37
翌日、俺は機体を帝国技術廠にもって行き、第壱開発局副部長 巌谷 榮二の執務室に向かっていた。部屋の前に着くとドアをノックする。中から声がする。

「入りたまえ。」
巌谷の声が返ってくる。俺はドアを開けて中に入った。

「失礼する。」
俺がそう答える。

「機体の搬入ご苦労だったね。鴉酉少佐。まあ、座ってくれ。」
巌谷が促す。

「わかった。」
椅子に座る。

「さて、殿下の方から朝一番で連絡が来ているので大筋の内容はわかっている。こちらとしても拒む理由も無いのでこれからよろしく頼むよ。一応の上司は私になるがあくまで形のみだ。私は殿下から連絡があればそれを君に伝える。」

「了解した。でこれからの予定だが、頼みがある。」
俺が巌谷にそう告げると、

「頼み?何だね?」
巌谷が聞き返す。

「俺は、戦術機について知識がまったく無い状態だ。話を聞いていると思うがいくらなんでも戦術機のことを知らないのに技術協力をするのは難しい。

「確かに、そうだな。」

「それでだ。シミュレーターでも構わない。戦術機の性能を確認したい。」

「それなら構わないが、これからでも大丈夫なのか?」

「ああ、問題ない。」

「わかった。シミュレーター室に案内しよう。」
巌谷がそう言うと俺達二人はシミュレーター室に向かった。


現在、地下のシミュレーター室では帝国斯衛軍 白き牙中隊(ホワイトファングス)が訓練を行っていた。

「ホワイトファング1より前衛各機!前方より突撃級及び要撃級接近!近接戦闘用意!」

「「「「了解!」」」」
指示により前衛機が長刀を構える。

「後衛は、援護射撃を!味方に当てるなよ!」

「「「「了解!」」」」

「よし!ブースと点火!突撃!!」
その掛け声と共に敵に突撃を開始する。
さすが斯衛軍と言われるような見事な連携で敵を蹴散らしていく。だが、数で迫る敵に徐々に追い詰められていく。

「くっ!ホワイトファング4!弾装交換、援護お願いします。」

「ホワイトファング6!援護に回れ!」

「了解!」

「ッ!レーザー照射警報!!」

「くっ!各機乱数回避!」

「きゃあああ!」

「ホワイトファング4、6管制ユニットに直撃大破、衛士死亡。」

「くそ!各機一時後退!体勢を整える!」
「隊長!避けてください!」

「えっ!きゃあ!」
後ろから突撃級に突っ込まれて機体が転倒する。そのまま追撃で要撃級の前腕が直撃しシミュレーターが終了する


「ふうっ。」
シミュレーターの中から出てきた白き牙中隊(ホワイトファングス)の隊長でもある
帝国斯衛軍中尉 篁 唯依は大きな溜息をついた。

「お疲れ様です。」
副官である雨宮が声をかけてくる。

「ああ。すまない。」
その労いの言葉にも表情には落胆の色が隠せない。

「中尉は、思いつめすぎです。最後の方まで完璧に指揮を取られていました。」
雨宮はそう言うが、

「いあ、光線級で2機がやられたときに焦ってしまったために横から接近していた突撃級に気づかずにやられてしまった。私はまだまだ未熟者だ。」
そのやり取りをしているとシミュレーター室のドアが開く。入って来た人物を唯依は驚く。

「中佐!敬礼!」
唯依は姿勢を正して敬礼する。隊員もそれに続く。

「ああ構わない、皆楽にしていいぞ。それより唯依ちゃん。」

「中佐困ります。公私の区別をつけてくださいとあれほど言っているではありませんか?」

「いや、でもな唯依ちゃん。」

「中佐(怒)」

「わ、わかった。すまない。」

「それで、どうされたのですかこんなところに来られるなんて?」

「うむ。実は彼にシミュレーターの訓練をしてもらおうと思ってきたのだよ。」

「彼?」
唯依が尋ねると巌谷の後ろから1人の人物が現れた。

「紹介しよう。本日付けで技術廠に配属された帝国軍の鴉酉 連也少佐だ。」
巌谷が俺を紹介する。

「鴉酉だ。よろしく頼む。」
俺は、軽く挨拶する。

「はっ!こちらこそよろしくお願いします。鴉酉少佐。」
唯依をはじめ全員が敬礼する。

「ああ、別に敬礼とかはしなくても構わん。少佐の肩書きも便宜上も者だ。俺の本職は傭兵なんでな。」
その言葉に、

「傭兵ですか?」
唯依は、怪訝そうな顔をする。

「ああそうだ。正規の軍属でないのであまり階級は気にするな。ところで中佐、シミュレーターを使わせてもらえないか?」

俺が巌谷に尋ねる。

「ああ、そうだな。それじゃあ準備するよ。少佐はとりあえず着替えてきてもらえるか?」

「わかった。更衣室は何処にある?」

「ああそうだな。さすがに場所がわからないか。雨宮くん案内してもらえるか?」

「はっ!わかりました。」

「少佐、彼女についていってもらえるか?」

「ああ、わかった。」

「こちらになります。」
俺は、雨宮と言われた少女の後をついて行った。

「ああ、少佐準備は出来たようだな。」
俺の姿をみて巌谷が言う。

「ああできたが、少しいいか?」
俺が尋ねる。

「何だね?」

「この『強化装備』だが、性能の良さは認めるがデザインはどうにかならなかったのか。」
デザインは、考えた奴の趣味としか考えられない。

「まあまあ、確かに見た目は『あれ』だがすぐになれる。」
巌谷の言葉に、

「まあ、そうだが。」
ぐずったところでしょうがないとりあえずシミュレーターに入る。

「準備は言いかね?」
巌谷から通信が入る。

「ああ、マニュアルには目を通させてもらった。それにしても『網膜投影システム』
これは便利なシステムだな。まるで自分の目で外の景色を見ているのと差がない。」
俺は、素直な感想を口にした。
「ネクストは、違うのかね?」

「ACのコックピットは、外のセンサーから送られてきた画像を処理してモニターに移すものだ。決まった場所に決まったものがある作りになっている。まあ、今はそっちの方に慣れているからさすがにこのシステムには違和感があるがな。」

「そうか。とりあえず始めるが最初は基本的な動作確認からしてみてくれ。」

「了解した。」
そう答えると俺はシュミュレーターを開始した。

「うん。速度は最大700 km/hは出せるのか。ノーマル並だな。跳躍ユニットはたしかロケットエンジンとジェットエンジンのハイブリットだったな。機体もバッテリーで動いているようだが、これだけの機体を動かすのにはエネルギーが足りなすぎる。連続稼動時間がノーマルACにも及ばないようでは、BETA相手に遅れをとるのも当たり前だな。」
俺は、そんなことを考えながらさらに機体を動かしていく。

「AMSと比べること自体が間違っているが、それにしても動きが悪すぎる。一度入力した動作をそれが終了するまで次の動作が行えないとは、システム面でも問題があるな。」
これは、技術提供しなければ本当にダメだなと改めて感じた。

一方その様子をモニターで見ていた巌谷は、
「たいしたものだな、たった2時間足らずでこれほどまでの動きが出来るとは。」
モニターに写る不知火の動きは、とても初めて戦術機を動かした者の動きではない。巌谷は、心底驚いていた。

(これが、生まれたときから戦場に生き、戦うことが当たり前の世界で生きてきた者の強さか。正直、帝国軍全体を見渡しても彼とまともに戦えるものは皆無だろう。いや、世界中を見渡してもいるかどうか)
巌谷がそんなことを考えていると横から声が掛かる。

「中佐、鴉酉少佐一体どういった方なんですか?傭兵と言っていましたが、操縦技術は、普通じゃありません。」
唯依が尋ねる。

「ああ、彼は傭兵でそれ以上でもそれ以下でもないが、・・・」

「が?」

「彼は、戦術機に乗ったのは今日が初めてだよ。」
巌谷のその言葉に唯依驚愕の表情を浮かべて、

「戦術機に初めて乗った!!そんな!たった2時間でこれをどの動きをするなど!これほどの動きが出来るものなど斯衛軍出さえもいません!本当なんですか!」
唯依が巌谷に詰め寄るその鬼気迫る表情に、

「お、落ち着け唯依ちゃん!近い近い!」

「あっ!し、失礼しました。」

「ふぅ~。まあ、唯依ちゃんがそう感じるのも無理はない。おそらく彼のような動きが出来るのは帝国郡全体で見ても皆無だろう。」
巌谷の言葉に。

「そ、そんな。」
その言葉に唯依は呆然とする。

「まあ、彼にはこれから色々とやってもらわないといけないことがあるからな。唯依ちゃんもこれから忙しくなるぞ。

「え?それは、一体どういうことですか?」

「詳しい話は後で話すよ。どうやら彼のシミュレーター訓練が終わったようだ。」
そう言うと巌谷は彼の元に向かう、唯依も慌ててその後をついて行った。


シミュレーター訓練後俺は巌谷の部屋に戻ってきていた。
「で戦術機に乗った感想はどうかね?」
巌谷が尋ねてくる。巌谷の横には先ほど紹介された篁 唯依中尉もいた。

「機体速度は、まあまあだ。」
俺がそう答える。

「まあまあか。確かに君から言わせればそうだろう。」

「が、褒められるところはそれぐらいだ。俺から言わせれば戦術機は『欠陥兵器』もいい所だ。よくあれで今までBETAと戦ってこれたな感心する。」
俺がそう言うと隣にいた唯依が、

「な、何だと!欠陥兵器とはどういうことだ!」
さすがに我慢できずに唯依が叫ぶ。そこに、

「篁中尉。その発言は何だ?」
巌谷が唯依を睨む。

「も、申し訳ありません。」
唯依は椅子に座り直す。

「少佐、続けてください。」

「ああ、いろいろと問題点はあるが、一番の問題点はシステムの面だな。」

「と言うと?」

「行動を入力した後にその行動が終了するまで次の動きが出来ない点、それを中断することが出来ない点、さらにこれらに上げた2点の問題点のせえで動きが連続して行えないことも問題だ。」

「なぜそれが問題なのかね?」

「考えても見ろ。篁中尉、お前がもし敵に攻撃を読まれたと感じたらどうする。」
俺の問いに唯依には、

「もちろん攻撃を中断して距離を置いたりする等の選択をします。」

「普通はそうだな。読まれているのにそのまま攻撃する馬鹿はいない。ならもう一つ、相手に攻撃の隙を与えない為にはどうする?」

「こちらから攻撃を続けて攻撃する隙を与えません。剣であれば切り上げ横に薙いだりします。」

「なるほど、正しい答えだ。では、それを踏まえて聞くが今のような動きを戦術機ではできるか?」
俺が唯依に問いかけると、

「あっ・・・。いえ、できません。」

「つまりはそう言うことだ。戦術機は人間と同じ様な形をしていながら人間のような動きが出来ていないんだよ。戦術機は、確かに進歩してきたがそれはハード面だけであってソフト面ではまったく進化していない。アレだけの兵器を動かすのならシステム面をしっかりしなくては機能を発揮できるわけがない。」

俺がそう言うと、
「では、少佐はまずシステム面での強化が必要だと言うことですね。」
巌谷が尋ねる。

「まだ、問題点はあるが、一番はそれだ。とりあえず俺が持ってきたデータがある。こいつを使えばシステム面での問題は解決する。ただ、戦術機用に調整をしないといけないからバグ取り等の処理が必要だがな。」
そういうと持ってきた記録メディアを巌谷に渡す。

「なんと!何時の間にこんなものを!」
巌谷が驚く。

「俺の機体に使われているシステムのダウングレード版だ。おそらくコンピューター自体を丸ごと換装しないといけないだろうから俺の機体を参考にしてくれ。専門的なことはそちらに任せるが問題ないな?」

「ああ大丈夫だ。すぐにでも取り掛からせてもらう。」

「そうしてくれ。次の問題点だが、それに関しては資料も見せながら説明しよう。」
俺は資料を二人に渡すと説明を始める。

「まず。現在の戦術機に使われている跳躍ユニットだが、不知火で最高700 km/hは出せるから特に問題はない。が、問題はそのエネルギー効率の悪さだ。今の戦術機はかなりこまめに推進剤を補給したりするなど連続稼動時間が極端に短い。そこで跳躍ユニットではなくブースタ機構取り入れようと思う。」

「ブースタ機構?」
聞きなれない言葉に唯依は聞き返す。

「機体の背面や脚部に設置してダッシュや飛行を行う機能を持っている物だ。機体のエネルギーも回すから推進剤の消費も少量ですむ。」

「まってくれ。機体のエネルギーを使ってしまったら戦術機が動けなくなってしまうぞ。」
巌谷が突っ込む

「それはわかっている。現在の戦術機は、本体は蓄電池とマグネシウム電池、跳躍ユニットは推進剤で動いているが、それをジェネレータ機構に切り替えることでその心配が無くなる。」

「そのジェネレータ機構とは?」
巌谷が尋ねる、

「ジェネレータとは、燃料電池と水素タービンエンジンで出来た物だ。」

「水素タービンエンジンだと!ちょっとまってくれそれなら燃料になる水素はどうやって搭載するんだ。」
巌谷意見は最もだ。それに対して俺は、

「資料の次にページを見てくれ。」

「次のページ?ん?超高密度水素吸着合金?」

「そう。従来の水素貯蔵合金をさらに精錬したものだ。現行の戦術機に使われている装甲材よりも軽量で硬度も高い、その中に水素を蓄え機体を動かすエネルギーに回し余剰分はコンデンサに蓄積されてブースタ等のエネルギーに利用する。そうすることで従来の戦術機を遥に上回る主機出力と連続稼動時間を得ることが出来る。中佐、この合金を精錬することは現状で可能ですか?」
俺が巌谷に尋ねる、

「・・・可能だ。量産となれば簡単にはいかないだろうが、技術廠で試作品を作ることは問題ない。」

「ならばすぐに取り掛かってほしい。それがなければ次に説明する兵器が使用できない。」

「兵器ですか?」
唯依が聞き返す

「ああ、兵器関連のページを見てほしい。」
俺が、二人に言うと二人はそのページを開いてみる。すると二人の顔は驚きの表情に固まる。

「そのページに乗っているのは、戦術機に搭載可能な兵器だ。」
その内容は、レーザーライフル、プラズマライフル、パルスライフル、レーザーブレード等の光学兵器からリニアライフル、レールガンといった物まで現在の世界ではとても信じられないものばかりだった。巌谷自身ネクストの情報から彼の世界で光学兵器が実用化されているのは知っていたが、まさか戦術機に搭載できるくらいの物があるとは思わなかったので信じられない心境になっていた。

「これを、戦術機に装備させるのか?しかし、エネルギーが・・・」
巌谷が呟くと

「先ほど余剰分はコンデンサに蓄積されてブースタ等のエネルギーに利用する。言ったがその中にはそこに書いてある兵器の使用エネルギーも含まれている。問題はない。」
俺がそう伝えると、

「本当にこんな兵器を戦術機に搭載できるのですか?」

「製造方法のデータは、この中に入っている。中佐、先ほどの合金と同様すぐに取り掛かってほしい。」
データを巌谷に手渡す。

「・・・わかった。すぐに手配する。」
巌谷が答える。

「開発には俺も立ち合わせてもらう。試作品が出来れば俺が試しに確認する。ある程度数が揃えばどこかの部隊で使用してもらおうと思うがどこかにあるか?」

「それならば、唯依ちゃんの部隊がいいだろう。」

「わ、私の部隊ですか!!」
唯依は飛び上がらんばかりに驚いた。

「ああそうだ。唯依ちゃんの部隊なら皆腕もいいし試験部隊としては申し分ないだろう。」
と叔父の言葉に唯依固まってしまう。確かに自分はこの叔父を衛士としても技術者としても尊敬しているし、また目標にもしている。自分もいつか国産戦術機開発に携わりたいと思っていたが、いきなりの展開でこのような大任を若輩の自分が受けてもいいものか迷っていた。

「心配するな。鴉酉少佐も参加するんだ。もっと気持ちを楽に持て」
巌谷がそう声をかける。それに対して唯依は立ち上がり、

「・・・・・わかりました。任務受けさせていただきます。」
と敬礼で返す。

「ありがとう。では、私はまだ鴉酉少佐と話があるから。唯依ちゃんは戻りなさい。」

「わかりました。それと唯依ちゃんやめてください。公私の区別をしっかりつけてください。」

「わかった、わかった。気をつけるよ。」

「はあ~。では失礼します。」
そう言い残すと唯依は退室していった。

「まじめな娘だな。身内か?」

「いや、親友の娘だ。両親がなくなった後私が親代わりになり育てた。」

「そうか。」

「いい子なんだが、融通が利かないと言うか頑固と言うか、親代わりとしては将来が心配で。」

「気苦労が絶えないことで。」

「まあ、その話はここまでにしよう。しかし、君の世界の技術はすごいなネクストでも驚いたが、既存の兵器でもこれほどの差があるとは思わなかった。君が『戦術機はノーマルACにも劣る』と言った意味がわかったよ。」

「そこに載っている兵器は、ノーマルも使用していた物だからな。戦術機への転用も出来るだろうと思ってな。」

「たしかにな。だが現状ではこれらを装備した戦術機の量産は中々に厳しいものがある。」

「どういうことだ?」
巌谷に尋ねると巌谷は、金庫の方に行き資料を持ってくる。それを俺に渡すそこには、極秘との印が押してあった。

「中を見ても良いのか?」

「君には全ての情報を知る権利がある。それを読めば先ほどの私の言った意味もわかる。」
巌谷は、俺にそう言うと俺は資料の中身を読み始めた。

資料を読み終え俺はテーブルに置く。
「読んで見ての感想は?」
巌谷が尋ねてくる。

「この国の上層部は馬鹿の集まりか?」
『飛鳥計画』の資料を読み終えた俺の第一声だった。

「超近接戦闘特化の性能で兵器としての汎用性をまったく無視。新素材や技術を惜しみもなく導入した結果、生産・運用コストの増大とメンテナンス性の低下、年間30機しか製造できない。しかも、使えるのが帝国斯衛軍のみの上身分によって性能が違う使用。ネクストなんて兵器を使っている俺が言えないかもしれんが、金の無駄遣いだ。」
俺は吐き捨てるように言い放った。たしかにネクストの運用コストもよくはないし生産コストもノーマルよりも金は掛かるし乗れる人間も限られてはいるが、ここまで酷い兵器ではない。
俺の感想を聞いて巌谷が、

「それが、この国の戦術機開発の現状だよ。武家や五摂家の為に専用機を作る。現在の帝国軍で使用している不知火も初の純国産機として高性能な能力を持って完成したが、不知火には将来的な改修の余地を確保されるために残される設計上の余裕がほとんど存在しないのだ。新型機を開発してばかりではいずれ頭打ちになる。既存の戦術機を強化、改修していかなくてはいけないと私は考えている。そのためには、外国機を導入してその技術を流用しなければいけないと考えている。しかし、実際には外国機の導入などは論外だと言う奴らしかいないのが現状だ。私がイーグルを瑞鶴で倒したのは、機体の性能ではなく相手の裏かく戦術を用いて勝ったのであって瑞鶴の性能がイーグルに勝っていたからでは決してない。だが、この一件がこの国を純国産機こだわる用になる原因にもなってしまった。殿下から話は聞いている。君のネクストを帝国と国連が協力して作った機体だと発表すると。」

「ああ、その予定だ。」

「たしかにあの機体が帝国と国連の協力で出来たと知れば純国産主義派の連中の抵抗も弱くなるだろう。しかし、それではまだ足りない。」

「では、どうする?」
俺は、巌谷に聞き返す。すると巌谷は、

「今日君が持ってきてくれたデータを下に新しい戦術機を開発する。そしてその開発には帝国と国連が共同で開発したと発表する。」

「俺のネクストと同じようにするのか?」

「ああ、そうだ。だがここからが違う。ネクストは君にしか乗れないが、新型機は誰でも操縦できる使用だ。その、新型機で試作型『武御雷』と模擬戦を行い。倒してもらう。資料を見てもわかるように武御雷のスペックは既存の戦術機を上回っている。それを倒したとなれば外国機導入の流れは一気に進むはずだ。」

「なるほど、たしかにその方法なら意識改革も可能かも知れんな。それに、そのデータはACの物だ。俺のネクストも元はノーマルからの発展型だ。ノーマルの技術で新型機を作れば最初は生産・運用コストも掛かるが広まれば量産も問題なくなる。また、発展性もあるから新型機を作るよりも金掛からない。武御雷にしても外見は違っても中身は、一緒のパーツであればコストも削減できる。わざわざ専用の製造ラインなんぞは必要なくなる。」
俺の内容に対して巌谷は、

「その通りだ。鴉酉少佐、この内容を殿下に報告して計画を進めるが何か他にあるか?」
そう尋ねる巌谷に

「いや、問題はないだろう。それと国連の方にも連絡をしといた方がいいだろう。香月博士に話を通しておけば問題ないだろう。」

「香月博士か?ふむそうだな。彼女ならうまく話を合わせてくれるだろうな。わかった合わせて連絡をしておこう。」

「頼む。」
本当は、ネクストは帝国と第4計画が共同開発ということなのだが、巌谷にそれを言うわけには行かない。

(まだ、完成してもいないが新型機もおそらくそのように発表する形になるだろうからおそらく米国に対する強い牽制なるだろう)
話が一通り終わり俺は巌谷の部屋を後にする。俺は今後のことに対して思案しながらその場を後にした。



[31421] 第6話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 02:32
技術廠に来てから一週間後それは突然に起こった。その日技術廠に警報がなり響きアナウンスの内容からBETAが再び進行を再開したとの内容だった。京都陥落後佐渡島にハイヴが建設されBETAの東進は停滞していた。その間に仙台第二帝都への首都機能移設準備が始まり、オルタネイティヴ4本拠地も仙台への移設するなどの対応を行っていた。幸いにもそれが幸をそうした形になった。
 

そして、現在技術廠の通信室では、極秘回線での会話が行われていた。
「で、首都圏にまで達しそうになっているBETAの足止めを頼みたいと。」
俺は画面の向こうにいる少女、煌武院 悠陽に尋ねる。

「はい。現在戦術機部隊での足止めを行っておりますが、防衛戦が何時破られるかわからない状態です。帝都にも避難勧告が発令さえています。それまでBETAの足止めをお願いいたします。」

「了解した。」

「お願いいたします。」
礼を言い残し悠陽との通信が終わる。次いで香月博士に通信が繋がる。

「出撃するの?」

「ああ、元々そう言う契約だからな。」

「そうだったわね。死なないようにがんばりなさい。」

「そっちの方はどうなんだ?計画の施設の移設は大丈夫なのか?」

「主要施設の移設は完了しているは、あとはあんたがBETAを食い止めるだけ。」

「俺1人では限度があるぞ。」

「あら?随分と弱気な発言ね?」

「事実を言ったまでだ。」
画面に映っている香月を睨む。

「冗談よ。でも、死んでもらったら困るのは事実よ。例の新型機もまだ完成していない状態で死ぬんじゃないわよ。」

「もちろんだ。報酬分の働きはきっちりする。それが傭兵だ。」

「そう。それじゃがんばってね。」
そう言い残して通信が切れる。

「さてと、行くとするか」
俺は通信室を出て格納庫に向かって行った。


格納庫では整備員たちが大忙しで動いていた。
「班長、全機装備終了!いつでもいけます!」

「おう、おめえら!下がれ!」
班長の声に待避エリアまで整備員が下がり。ハンガーから次々に戦術機が滑走路に出て出撃していく。

「班長!あの機体は出ないんですか?」
整備員の1人が指したのは、他の戦術機とは違う白い戦術機だった。

「あれは、鴉酉少佐の機体だ!今、こっちに向かっているてよ!」
そんな、やり取りをしているところに本人がやってくる。

「おっ!少佐!出るのか?」

「ああそうだ。松平のとっつぁん、整備は万全か?」
松平と言われた整備班長は、

「おお!ばっちりよ!」

「そうか、じゃあ行ってくる」
そう言うと俺は機体に乗り込んで機体を起動し滑走路まで移動する。
『メインシステム起動。ジェネレーター出力上昇。戦闘モードに以降。PA展開開始』

コックピット内にシステム音声が流れる。次いで通信を繋ぐ。

「HQ聞こえるか?こちら帝国軍の鴉酉少佐だ。」

「こちらHQ聞こえます。少佐。」

「俺は、今回の作戦で任意で戦闘を行うことになっているが、その旨は伝わっているか?」

「はい。そのようにこちらにも連絡が伝わっています。」

「各CPにも伝えているな?」

「はい。問題ありません。各CPにも少佐は誰の指揮下にも入らない旨伝えています。」

「俺のコールサインは『レイヴン1』だ。よろしく頼む」

「了解しました。レイヴン1。」

「通信は以上だ。」

「了解。ご武運を」
通信が終了する。今回の作戦で俺は任意での戦闘が許可されている。まあ、将軍殿下が直接雇っている傭兵とは言えないが、そこは鎧衣課長が根回ししているので可能になっている。

「確認も取れた。ではいくぞ『ストレイド』!」
OBを展開一気に亜音速にまでスピードを上げてストレイドは空に飛び出していった。


埼玉群馬県境

「CPより。アルファ各機へ。新たな敵増援を確認。注意されたし。」
CPから通信が入る。

「くそが!まだ来るのか一体どれだけ倒せばいんだよ!」

「しゃべっている暇があれば手を動かせ!アルファ4!補給コンテナは!」

「現在、アルファ6、7、8、9が回収しに向かっています!まもなくこちらに到着します!」

「急いでくれ!残弾がもう持たない!」

「隊長!敵、確認!10時方向!」

「来たか!」
モニターに目をあると赤いアイコンが次々に増えていく。数はざっと見ても500ある。

「光線級の反応は!」

「ありませ・・っ!!いえ!反応あり!レーザー級20、重レーザー級10!確認!」

「ちっ!なんてことだ!AL弾は!CP!」

「こちらCP。AL弾は現在弾数0。補給が届くまで約1時間です」

「くそ!各機!AL弾の援護はない!何とか持ちこたえるぞ!」

「敵!第1波来ます!」
突撃級、要撃級、戦車級で構成された第1波が目前まで来る。

「各機!36mm一斉射用意!」
全機が87式突撃砲を構える。

「撃て・・・。」
隊長機が支持を出そうとしたそのとき、後ろから青白い閃光が通りすぎ敵に命中する。それは、突撃級を貫き後ろにいた要撃級も吹き飛ばした。

「な、なんだ今のは!」

「わかりません!」

「隊長!後方から接近してくる物があります!」

「一体何だ!」

「データ確認!・・・・レイヴン1?」
隊員が確認して出てきたのはレイヴン1と味方識別情報だった。


「いたな。どうやら敵の増援が来たらしいな。」
モニターに写る敵の数が見る見るうちに増えていく。

「あそこに見える部隊がここの防衛部隊だな。ならば援護に入るか。」
ハイ・レーザーキャノン展開照準をセットする。

「ロック完了。いけ!」
俺はトリガーを引いた。

「こちらレイヴン1。聞こえるか?

「こ、こちらアルファ1.貴官は一体?」

「帝国軍技術廠所属の鴉酉 連也少佐だ。これよりそちらを援護する。」

「しょ、少佐!し、失礼!援護感謝します。」

「もうすぐお前の部隊の仲間が補給を持って到着する。無理をせずに後方に下がれ。それまで俺が食い止めてやる。」

「し、しかしたった一機では。」

「問題ない。補給が来るまでだ。それより下がれ命令だ。」
俺がきつい口調で言うと

「りょ、了解しました!各機!一旦後方に下がるぞ!」
隊長機が支持を出す。それに続いて全機が後方に下がる。

「下がったか。よし、行くぞ!」
俺は敵陣に突撃した。

「くらえ!」
両手のアサルトライフルで戦車級、要撃級を仕留めていく。突撃級も側面、後方に回り込んで打ち抜く。突撃してきた第1波が次々に仕留められていく。

「たまには使うか!」
左のアサルトライフルを腰部にあるモジュールに固定してブレードを展開する。

「切る!」
要撃級の前腕に向かってブレードを横に薙ぐ。モース硬度15以上の前腕が意図も簡単に両断される。流れるような動作でそのまま体を真っ二つにされる。

「お次はこれだ!」
ブレードにエネルギーを集中しそれを前方に飛ばす。飛んだ光波によって受けた相手が真っ二つになる。
(やはり、レーザーブレードならモース硬度15以上だろうと関係ないな。まあ、当たり前だが)
そんなことを考えているとBETAが左右に別れる。次の瞬間レーザー照射警報が鳴り響く。その瞬間、QBで回避行動を取りレーザーを回避する。そのとき通信が入る。

「アルファ1より、レイヴン1へ。こちらは補給を完了。後は任せてください。」
(どうやら補給が終わったようだな。なら、光線級を排除してからここは任せるか)

「こちら、レイヴン1了解した。最後に光線級を片付けて行く。その後は任せた。」
そう言い終えるとグレネードキャノンを展開し砲身を光線級に向ける。

「次の照射までインターバルがあるようではいい的だぞ?吹き飛べ!」
榴弾を発射する。着弾後凄まじい爆発と共に光線級が消滅する。

「排除完了。次の防衛戦に向かうか。」
OBを起動し次の戦線に向かって飛び立っていった。


「一体あの機体は何なんだ?」
アルファ部隊の隊長の感想は最もだ自分達が補給している間に500はいたBETAの60%以上が撃破されおまけに光線級も全て撃破してしまった。

「CP。あの機体について何か情報はあるか?」
部下がCPに通信する。

「こちらCP。HQに確認しましたが。Need to know(知る必要はない)と返されました」
今の内容からあの機体がかなりの重要機密の塊だと言うことが伺えた。試作機のテストか何かなのだろうが、こんな状況でテストをするのは何故か?
(考えたところで何もわからない。今は、目の前の敵の対処に専念しよう)

「アルファ1より各機。皆思うところがあるかもしれんが今は余計な事を考えるな。わざわざ光線級も排除してもらい6割以上の敵を片付けてもらったんだ。落とされたら一生の恥じだぞ?」

「「「「了解!」」」」

「よし!全機突撃!」
アルファ部隊全機が跳躍ユニットを噴射して敵に向かっていった。


 あれから何箇所かの防衛戦に介入し援護してきたが、いかんせ数が違いすぎる焼け石に水である。

(やはり、新型機の開発は急務だな。俺1人ががんばったところでどうにかなるものではない)
いくらネクストが強力でもそれは攻撃に回ればの話である。拠点を落とすということなら無類の強さだが、拠点を防衛するとなるとやはり厳しいものがある。広範囲から攻めてくる敵を倒すには1機で全てを対処するのは不可能である。

(首都に達するのも時間の問題か)
そこに通信が入る。

「こちらHQ。レイヴン1応答願います。」

「こちらレイヴン1。どうした?」

「すぐに白陵基地の防衛に向かってください。基地の防衛戦3つの内既に2つが突破されました。最終防衛線が破られるのも時間の問題です。基地には既に退去命令が出ていますが、その支援をお願いします。」
恐れた事態が現実になった白陵基地が落ちたとなると敵の首都進攻はもはや止められない。
そうなると今出来ることは、基地の非戦闘員の脱出支援しかない。

「了解した。ただちに白陵基地に向かう」
そう返事を返して通信を切る。そして、白陵基地に向かい移動を開始する。


白陵基地司令部

「最終防衛線の状況はどうなっている!」
基地司令が確認する。

「戦車部隊は壊滅!戦術機部隊の損耗率5割に達しています!まもなく6割になります!」

「基地の非戦闘員の退去状況は!」

「3割程度しか出来ていません!」
その内容に司令官の表情が厳しくなる。敵の進行が早すぎる。このままでは、

「司令!通信が来ています!」

「何処からだ!」

「相手は、技術廠所属の鴉酉少佐からです!」
鴉酉?たしか総司令部から任意で戦闘に参加する旨を伝えられた人物だな。

「メインモニターに繋げ!」

「はい!」
メインモニターに通信が繋がる。

「こちら、技術廠所属 鴉酉 連也少佐だ。現在の戦況はどうなっている。」
鴉酉少佐の問いに

「最終防衛線は、戦車部隊が全滅、戦術機部隊の損耗率も5割に達しています。」

「基地の非戦闘員の退去状況は?」

「3割程度しか退去できていません。」

「全ての人員の退去にはまだ時間が掛かるな。だが、それまでに防衛線が持たない。」
そこまで言うとモニターに写っている人物は驚くことを言い出す。

「基地司令。すぐに最終防衛線いる部隊を後退させろ。」
その発言に対して基地司令はすぐに反論した。

「ばかな事をいうな!そんなことをすれば敵がすぐに基地に到達する!それに部隊の後退など現状できる状態ではない!第一戦線は後退する隙もない状態だぞ!」

「そんなことはわかっている。その後退する隙を俺が作る。基地の退去の時間も俺が稼いでやる。早く前線に伝えろ。兵を無駄死にさせたいのか?」

「たったの一機でそんなことが出来るはずないだろう!」
基地司令は反発する。

「長々問答している時間はない。総司令部に確認してみろ。俺の権限がどのくらいのものかわかる。」
そう言われ通信士が総司令部に確認を取る。

「司令!現在の少佐の権限は、総司令部の命令よりも上の権限があるとの連絡が取れました!」
「な、なんだと!」
これにはさすがに司令部にいた全員が驚いた。ただの少佐が総司令部の命令よりも上の権限あるなど絶対にありえないことだ。普通ならそうだが、そこは鎧衣課長の根回しが働いてのことであるのでこんな非常識が通っているのである。

「確認はとれたな?なら急いで部隊を後退させろ。」

「・・・・わかった。通信士!急いで前線のCPに連絡しろ!」

「では、俺はこれから前線に向かう。早く基地内から退去しろ。」
そう言い残して通信を切る。そして、前線に向かう。


白陵基地最終防衛線

「うあぁぁぁぁ!!し、死にたくね!!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!来ないで!!!」

「痛てー!!あ、脚が!!ぎゃー!!」
前線はもはや地獄の様相を呈していた。レーザーに射抜かれ死ぬ者、戦車級に喰われる者、要撃級の前腕で管制ユニットを貫かれた者、2個大隊(72機)いた戦術機も現在30機になり損耗率もほぼ6割になっていた。

「援護砲撃はどうなっている!」

「既に砲弾を使い切り援護は不可能です!」

「くそ!CP!救援に来れる部隊はあるか!」

「こちらCP。現在一機がそちらに援護に向かっています。なお、その機体到着後全機後退してください。」

「な!後退だと!!たった一機増えたところでどうしろと言うんだ!!ここを抜かれたら基地が壊滅するぞ!」

「これは、命令です。援護に向かっいる一機が到着しだい後退してください。」

「くそが!」
通信を切る。

「隊長!救援は!」

「一機がこちらに向かっているそうだ!その機体が到着後、我々は後退する。」

「ばかな!たった一機来ただけでどうなって言うんですか!後退なんか出来るわけがない!」

「これは、命令だ!各機!後退の準備して置け。」

「隊長!後方より接近する機影あり!」

「どうやら到着のようだな。たった一機でどうなると言うんだ!」

「くそ~。俺たち皆死ぬんだ。ちくしょう!!」
部隊の誰もが絶望していた中、見えてきた機体から突如閃光が奔る。部隊の横を通過した閃光は敵の集団に命中、あたりを吹き飛ばした。

「こちら。レイヴン1。これより後退の援護を行う。全機速やかに後退しろ。」
オープンチャンネルで通信が入る。絶望に包まれていた部隊は、この後希望を目にすることになる。


「い、今の一体なんだ?」
援護に来た白い機体が打ち出した閃光が敵を一瞬で吹き飛ばした。突撃級だろうが要撃級だろうが関係なしに。部隊の全員が呆然としている。

「た、隊長、今のは一体なんですか?」

「わからない。だが、今ので後退の隙が出来たすぐに後退するぞ。」

「いいんですか!あの機体一機に任せて!」

「今のを見ただろ?どういうわけか知らないが、あの機体はトンデモない代物みたいだ。詮索をせずにここは後退する。いいな?」

「了解しました。」
部下にそう伝えると通信を繋ぐ。
「レイヴン1聞こえるか?」

「聞こえている?どうした、早く後退しろ。後詰は引き受けてやる。」

「いや、礼を言わせてくれ。貴官の援護に感謝する。それと武運を祈る。」

部隊の隊長がモニター越しに敬礼をする。

「ああ。わかった。それより早く後退しろ。これ以上犠牲を出したくないだろう?」

「ああそうだな。では、失礼する。」
そう言って通信を終了する。通信終了後すぐに防衛線にいた部隊が後退していく。その様子をモニターで確認しながら通信を入れる。

「CP聞こえるか?こちらレイヴン1だ。」

「こちらCP聞こえています。」

「これから、この最終防衛線を俺が死守する。オペレートを頼む。」

「了解しました。レイヴン1。」

「早速だが、敵の状況は?」

「0時方向より。敵接近中。数約1500。」

「光線級は?」

「まだ、確認できていませんがいる可能性だ高いと思われます。」

「だろうな。光線級が確認出来次第すぐに教えろ。」

「わかりました。まもなく敵有視界に入ります。」
そう言うと敵の大群が迫ってきた。

「どうやら今回は、本気でやらなければいけないようだな。行くぞ!」
ブースタを点火。敵に攻撃を開始した。


CP将校はモニターを見ながら驚愕の表情を浮かべていた。レイヴン1が敵に攻撃を始めると信じられない速さで敵が撃破されていく。モニターに写る敵の赤いアイコンが見る見るうちに減っていく。既に1500いた敵の数が、残り200ほどになっている一体あの機体は何なのかそればかりで頭が回らない状態だった。そこに、

「CP。敵は後どのくらいだ?教えてもらわないと困るのだが?」

「あっ!す、すみません!敵残り約200です。」

「増援は?」

「確認します。・・・・10時方向より接近中!数約1000!光線級も確認出来ます!」

「接敵までの時間は?」

「約15分後です!」

「了解した。」
その内容を聞いた俺はライフルとグレネードの残弾を確認する。

「ライフルが残弾4割。グレネードが9発か。実弾系はそろそろまずいな。ブレードとハイ・レーザーを中心に切り替えて。アレをそろそろ使うか。」
そう考えながら増援が来る前に残り200の敵を片付ける。

「接敵まで約5分」
オペレーターから通信が入る。

「見えた。アレだな。」
モニターに敵が写る。

「行くぞ!」
俺は、空に飛び立つ。するとすぐにレーザーが照射される。それをQBを使用した三次元の高速回避運動で回避する。すかさずOBを起動しレーザー照射のポイントまで移動する。近くまで接近し着地する。周りに敵が集まってくる。常識で考えれば自殺行為であるこの行動である。しかし、ネクストにしてみれば違う。

「コジマ粒子を収縮開始」
機体の周りを覆うPAを収縮し始める。限界まで収縮を行う。敵が目前まで迫った瞬間、

「喰らえ!」
AAを発動する。淡い緑色の閃光が一瞬であたりを包み凄まじい爆発が起きる。光が収まりその中心を見るとネクストを中心に回りにクレーターが出来ており周りにいたBETAは、全て吹き飛んでいた。

「て、敵の約7割の消滅を確認・・・しました。」
オペレーターが伝える。

「了解した。残敵を掃討する。」
残りの敵を片付けて通信を繋ぐ。

「CP。状況は?」

「周囲に敵は確認できません。」

「基地の退去状況は?」

「現在6割ほどです。」

「了解した。」
これでしばらくは大丈夫だろうが、敵が再び来るのも時間の問題だろう。せいぜい基地の退去が完了するまで粘ることしかできない。

(基地の退去が完了後、一旦技術廠に戻って補給をしないとまずいな)
さすがに休みなしで5時間近くも戦闘すれば実弾系は残弾が厳しい状態だ。節約しながら戦闘するのは思いの他大変だ。機体も戦術機より丈夫とはいえ間接部にも負担が掛かる。自動のセルフチェック機能はついているが、やはり目で見なくてはわからない部分もある。

(だが、首都に進行されるのはもはや確実だ。西関東は完全に落ちる。戦線が下がるのは仕方ないことだが、最悪仙台第二帝都に敵が到達するのも時間の問題だ)
そうなれば日本はもはや陥落下も同然の状態だ。

「新型は間に合わんなこれは。雇ってもらったはいいがこれはどうやら思いのほか早く雇い主が変わるかもしれんな。」
そんなことを考えながら俺は荒野とかした大地の見つめていた。


しかし、この予想は外れることになる。白陵基地の退去は完了し再び基地を攻めてきたBETAの大軍に対して基地に設置したS-11を起動させ基地もろともBETAを吹き飛ばし足止めを行う。これにより白陵基地は壊滅する。西関東はBETAの制圧下となりBETA群は帝都直前まで迫った。しかし、BETAは謎の転進を行い伊豆半島南下した後に進撃が停滞、以降は多摩川を挟んでの膠着状態となり、24時間体制の間引き作戦が続く状態になる。その後、偵察衛星の情報により横浜ハイヴ(H22:甲22号目標)が確認され



[31421] 第7話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 02:41
横浜にハイヴが建設されてから一週間、香月博士が国連に横浜ハイヴ攻略作戦を提案。国連司令部は即時承認。大東亜連合に参戦を打診。日本、帝国議会が女性の徴兵対象年齢を16歳まで引き下げる修正法案を可決する等目まぐるしく動きがあった。
 そして、現在技術廠の通信室で極秘回線を使用した会議が行われていた。


「横浜ハイヴ攻略作戦は、来年に夏に行うことで間違いないんだな?」
俺はモニターに写る香月博士に尋ねる。

「ええ。さすがに現在の帝国軍の状態では、戦力が回復するまでそのくらいの時間が必要でしょうからね。間引き作戦も継続していかないといけないし。」

「こちらとしても時間があるのは助かる。新型機を作るのに時間が取れるのはありがたい。」
俺の発言にモニターに写る悠陽は、

「その新型機の建造具合はどんな感じなのですか?」

「俺の世界のACのコアシステムを導入し開発を進めている。外見は不知火を参考にさせてもらった。ジェネレーター、ブースタの製造は順調。兵器も実弾を利用するレールガン、リニアライフルの試作品がまもなく完成する。近接武器に関しては、高周波発生装置を開発している。現行の長刀を強化するプランで製作中だ。」

「では順調なのですね。」

「いや、全てが順調と言うわけではない。」
俺の言葉に香月は、

「何か問題が生じているの?」

「二つほど進みが悪い物がある。まず一つが装甲に使用する超高密度水素吸着合金の精錬があまりうまく進んでいない。さすがにこれが完成しないとどうにもならん。時間が掛かるかもしれんが何とか年末までには完成させたいがな。二つ目が、搭載するOS関連だ。俺の世界でもそうだがOSを搭載して動かしたデータが多ければ多いほどいいのだが、それを使用する部隊が足りない。技術廠で斯衛軍の試験部隊にデータ取りをしてもらっているが時間が掛かる。女の徴兵年齢の引き下げでもわかるように新兵でもすぐに機体を動かせて戦力になってもらわないといけない現状でこれは致命的だ。後一年で最低でもOSだけは普及させたい。」
その内容を聞いた香月は、

「ならうちの部隊にも手伝わせなさい。」

「博士の部隊だと?」

「そう第4計画直属の部隊。私の子飼いの部隊だから秘密が漏れる心配もないわ。それに試作兵器にしても帝国と国連で共同開発したとの名目上国連でも使う部隊が必要でしょう?」

「たしかにそうかもしれんな。わかった、近日中にOSをそちらに送る。その時に俺も指導する為にそちらに向かう。それで構わないな?」
香月に尋ねる、

「ええ。問題ないわ。」

「さて後は、俺のネクストを発表するタイミングだが、何時発表する?」
俺の質問に悠陽は、

「それは、横浜ハイヴ攻略戦の直前にしたいと考えています。」

「その理由は?」

「そなたの機体は、現在の帝国にあって切り札です。この作戦はおそらくパレオロゴス作戦と同等かそれに次ぐ規模の作戦になります。我が帝国の存亡をかけ戦いになるはずです。現在、国内に2つのハイヴを抱えている現状でそれだけの規模の作戦を行えば世界中が注目します。その作戦でネクストの戦闘力をみれば米国を筆頭に第5計画派に与える精神的ダメージは計り知れません。」

「絶好の宣伝になるわけだな。」
俺の言葉に香月が、

「そう。規模の小さい戦闘で成果を上げても噂程度にしかならないけど、ハイヴ攻略戦ともなれば、まず誰も疑うことはないわ。それに私は貴方にハイヴ落としてもらいたいと考えているは。」

「ハイヴを落とす?」

「そう。しかも単機でね。」
香月の発言にさすがに悠陽は、

「香月博士いくら何でも単機でハイヴ攻略などは不可能です。」
と悠陽は反論するが、

「いえ、それがおそらくハイヴ攻略の一番可能性が高い方法です。」
香月は言う、

「ネクストの戦闘力は装備している兵器もそうですが、最大の武器はこの世界のどの機体にもない圧倒的な戦闘速度です。亜音速にまで達する速度でハイヴに進入して最短時間で反応炉を破壊してもらう。加えて物理的干渉ならばある程度耐えられるPAを持っていることも狭いハイヴの中では非常に有効です。以上のことからそれが最上の方法だと考えます。」
香月は説明する。

「しかし、それでは鴉酉少佐が・・・」

「いや、俺もその方法が最善だと思う。」

「えっ!」
俺の発言に悠陽が驚く。

「ハイヴの中がいくら深くともネクストの速度なら戦術機に比べて遥に早く反応炉に到達できる。それに過去に似たような依頼を受けたことがあるのでな。」

「ですが・・」
俺の言葉に悠陽は心配そうな声を出す。

「煌武院殿下、俺は傭兵だ。戦闘で死んでも事故死と同じ扱いだ。だから傭兵は戦争で重宝される。煌武院殿下も自分の国の兵士に地獄に行けとは命令できないだろう?その為に俺がいる、このような時の為に俺を雇ったのだろ?違うか?」
「・・・・」

「何を心配しているのかは分からないが、俺は死ぬつもりはない。どんな依頼でも生還してきた。それは今もそしてこれからも変わらない。」

「・・・・・そなたの気持ちは分かりました。ですが、まだ作戦までは時間があります。新型機が完成すればまた別の作戦も思いつくかもしれません。それで、よいですか?」
悠陽は、俺に尋ねてくる、

「雇い主がそう判断しているのであればそれに従う。」
俺がそう答えると、

「ありがとうございます。それでは本日の話し合いはこれまでにしましょう。では。」
そう言いの残して通信が切れる。

モニターには香月博士しか映っていない。
「彼女は優しすぎる。自分の事よりも他人のことを案じる。悪いことではないが、国を背負う者としては、致命的な欠点だ。」
俺がそう言うと

「そうね。でもまだ15歳の少女が一国を背負う重責に耐えろと言うのには無理があるわ。」

「武家社会か。理解できんな俺には、一部の身分が上の者たちの中から国のトップを決めるなどよくそんなことで国が持ってきたものだ。」

「彼女も好き好んで将軍のなったわけではないわ。五摂家や城内省の思惑でそうなっただけよ。あんたの世界じゃ考えられないかも知れないけどね。」

「だが、企業が支配しても結局は何も変わらなかった、いや、むしろネクストが出来た為に地上に人が住めなくなった、そう考えると国家があったほうがよかったのかも知れんな。」

「それは、結果論よ。今更言っても始まらないことよ。それにもう向こうの世界は関係ない世界よ。」

「そうだな。今この世界のことを考えよう。」

「その通りよ。それじゃあOSの件よろしくね。また、連絡を頂戴。」

「ああ、わかった。」
そう言うと通信が切れる。俺も仕事に戻る為その場を後にした。


技術廠シュミュレーター室
「よし。全員一旦休憩だ!」
唯依は部隊のメンバーに伝える。

「はあ~疲れた。2時間続けてはさすがに疲れました。」

「そうね。でも、このOSは本当にすごいわ。最初は、まったく機体がうまく動かなくて大変だったけど慣れてしまえば今までのOSが如何に酷かったか良く分かるわね。」
隊員の話を聞いて唯依は、

「そうだな。これに慣れてきてからヴォールク・データをして見ると改めてその凄さが分かったからな。」
白き牙中隊(ホワイトファングス)は、このOSに切り替えてからヴォールク・データ攻略を行い。最高難易度で最下層にまで到達できたのだ。いかにこのOSが凄いのかを実感できた瞬間だった。もちろん、そこまで上達したのにはそれなりの理由があるのだが。

「調子はどんなだ?」
そこに白き牙中隊(ホワイトファングス)が上達した原因の人物が来た。

「しょ、少佐!敬礼!」
唯依が俺を見て敬礼する。他の隊員も続く。

「敬礼はしなくても構わん。休憩中だろ?」

「は、はい。」
唯依返事をする。

「で、調子はどうだ?」
俺の問いに対して、

「順調です。一日一日皆私も含めて上達してます。」

「そうだな。モニターで確認したがいい動きになったな。」

「いえ、少佐の動きにはまだまだ。及びません。」
唯依はそう言い謙遜する。それには理由がある。
 

巌谷と一緒に話を聞いた後、新型機に関する試験を唯依の部隊ですることになり新OSが完成後鴉酉自身がそのOSの教導をすることになったのだが、いきなり現れて自分達に教導すると言われて皆すぐに納得は出来なかった。唯依自身若くして中尉の地位にあり中隊長を任され譜代武家として山吹色を賜っている誇りがある。隊員も斯衛としての誇りがあり皆一様に不満が隠せなかった。

そこで鴉酉は急遽シュミュレーターでの模擬戦を提案してきた。それで、自分の実力を見れば言いと言って来たのでそれに同意して模擬戦を始めることになったのだが全員が瑞鶴を使用するところまでは問題なかったが、その次の内容に皆が怒りを露にした。
1対12。つまり中隊全員で掛かって来いというのだ。さすがにそれには唯依自身鴉酉の操縦技術を知ってはいたが、つい最近まで戦術機に乗ったこともない者にそこまで言われればさすがに皆と同じ感情が沸くのも無理はなかった。
ともかく、巌谷も観戦する中険悪なムードで模擬戦がスタートしたのだが、結果は驚きのものになる。唯依達の方が負けてしまったのだ。
 
市街戦で設定されたシュミュレーターの模擬戦だが、鴉酉の戦い方は自分たちが今まで経験したことがない戦い方だったのだ。
チャフグレネードやスモークグレネード、フラッシュグレネード等を使用し相手の目や耳を奪いその隙に敵を撃破、倒した相手を盾にして突撃して攻撃する、建物を爆破して下敷きにする、見たことの無い機動で翻弄する等の方法で次々に撃破されていった。
もちろん、鴉酉自身も無傷ではなかったが、最後に残った唯依と一騎打ちになった時には、無茶な機動で機体が限界に来て動きが止まった時に切りかかったのだが、突如鴉酉の機体が爆発を起こしその衝撃で唯依吹き飛ばされる。そこに、鴉酉が跳躍ユニットを最大出力で突っ込んできて唯依はそれをまともに受けてマウントポジションの状態になり最後は、鴉酉が短刀で刺して撃破された。
模擬戦後に気づいたがあの爆発は戦術機の装甲に取り付けられるリアクティブアーマーで日本ではほとんど使用されてない物だったことに気づく。本来は機体に取り付いた戦車級の排除に使用するのだが、攻撃に使用してくるとは思わなかった。
結果終了時には鴉酉も中破はしていたが、12機全機撃破されたのは事実で終了後はしばらく全員がショックで立ち直れなかった。
 その様子を見た鴉酉は、「一から鍛え直してやる」と言い放ちOSの教導も含めた訓練が開始された。
 
その内容は、近接戦闘、射撃訓練から連携での攻撃訓練、回避訓練等の基本的な事から、対人戦のやり方などだった。何故対人戦のやり方を教導するのかと尋ねると、
「相手がBETAだけとは限らない。世の中を見てみろ?人類共通の敵がいながら人間は馬鹿だから同じ人間同士で争うことをやめない。今は、直接戦闘になっていないがいずれ戦いが起こる。たとえ、BETAが排除されていなくてもな。」
 鴉酉はそう説明するが皆はあまりわかっていなかった。たしかに『供えあれば憂いなし』ではあるが、実際にそのようなことはほぼないと皆が考えているのだ。
 しかし、それは致し方ないことでもある。BETAが侵略してきてからずっと人間同士で戦ってこなかった世界の人間と、常に人間同士で戦争をしてきた世界の人間とでは考え方が土台違うのだ。
 とは言え、実戦訓練もさることながら対人戦に関しては座学も行われその内容には部隊の皆が感心するほどであった。もちろん先の模擬戦での戦い方から鴉酉は対人戦の戦い方を熟知しているのは分かっていたが、BETAとの戦いが主の中どうしてこのような考え方が出来るのか唯依は不思議でならなかった。
 そんなこんなで鴉酉の教導の元唯依の部隊は目覚しい成長を遂げていき先のヴォールク・データの結果に繋がっていくのである。

「機体の動きに関しては、これだけ動けるようになれば上出来だ。」

「はい。少佐今後の予定は、どうなっているのですか?」

「ああ。それについてだが、つい先ほど国連で横浜ハイヴ攻略作戦が承認された。決行は来年の夏だ。」

「っ!!。ハイヴ攻略戦!それは、本当ですか!!」
唯依が驚く。

「ああ。1年の時間があるから最低でもOSだけは、帝国軍と在日国連軍に配備したいと考えている。新型機に関して年末までには何とか形にしたい。」
「年末ですか?それはやはり装甲に使う合金の精錬がうまくいっていないせいですか?」

「まあ、そうだな。アレが出来ないとどうしようもない。」

「そうですね。」
そんなことを話しながら俺は伝えなくていけない内容を思い出す。

「篁中尉。急なことだが、俺はしばらく仙台の国連軍基地に行って来る。」

「国連軍にですか?」

「ああ。新型OSの国連軍側での試験運用部隊に教導しに行くことになってな。しばらくここを離れる。新型関連で何か進捗があれば連絡をくれ。」

「はっ。わかりました。」
唯依が敬礼して返すのを見届けてから。俺はその場を後にした。


3日後仙台国連軍基地

基地のゲート前に1台の車が近づいてくる。ゲートの前で門兵に止められる。

「身分証の定時をお願いします。」
そう言われて俺は身分証を見せる。

「帝国軍の鴉酉だ。香月博士に話が言っていると思うが確認してもらえるか。」

「少しお待ちください。」
門兵が確認を取りに行く。すぐに戻ってきた。

「確認が取れました。鴉酉少佐お通りください。」
そう言うと門兵がゲートを開ける。俺は車を中に進めていった。

 車から降りて基地内部に入ると1人の女性仕官が近づいてくる。
「鴉酉 連也少佐ですね?」
女性仕官が尋ねてくる、

「ああ、そうだが。あんたは?」
俺が尋ねる。

「初めまして。香月夕呼博士の秘書をしてます。イリーナ・ピアティフ臨時中尉です。」
ピアティフが挨拶する。

「博士から案内をするように受けていますので博士の執務室にご案内します。

「ああ、頼む。」
俺が答えるとピアティフは「こちらです」と言い歩き始める。俺はそれについて行った。


 案内された部屋の前でピアティフハはドアの横のボタンを押す。
「ピアティフです。鴉酉少佐をお連れしました。」
ピアティフがそう伝えると中から「入ってちょうだい」と返事がある。ピアティフは、「失礼します」と中に入り。俺もそれに続いた。

「失礼しました。」と言い残しピアティフは部屋から出て行く。香月が目の前にいる、

「汚い部屋だな。女なら少しは片付けくらいしろ。」
部屋に入っての俺の第一声だった。

「うっさいわね。あんたにそんなこと言われる筋合いないわよ。」
と返してくる。俺は自分の座る場所を確保して座る。

「届けたOSの換装はもう済んだのか?」

「ええ、昨日の内に換装しといたわ。」

「そいつは、結構だ。」
俺はそう答える。

「それにしてもあんたあの模擬戦の映像見たけどバケモノ?」
香月が言っているのは、白き牙中隊(ホワイトファングス)との模擬戦のことだ。

「バケモノではないが、半分人間ではない。」

「どっちも一緒よ。アレで旧OSの動きなんだから驚きだわ。」

「新OSでの動きも送ったのだから知っているだろ?」

「まあね。あれが普及するだけで衛士の死亡数も激減するでしょうね。」

「だが、それで満足するつもりはないぞ。」

「当然でしょ?新型機には大いに期待しているは。予定スペックを見ただけだけどあの数値だけ見ても既存の戦術機を凌駕しているは、世界が第3世代戦術機の開発が主なのにそれを飛び越えて第4世代を超えるかも知れないものを作っている。米国が知れば大騒ぎでしょうね。」

「まあ。そうだろうな。それよりも試験運用部隊の所に案内して欲しいのだが。」

「ああそうね。それじゃ案内するは付いて来て。」
香月は立ち上がり執務室を出る。俺もそれに付いていく。


「伊隅入るわよ。」
返事を待たずに香月は部屋に入る。

「ふ、副指令!敬礼!」

「だから、そんなの良いから座りなさい。」
香月はそう命令する。

「それじゃ。用件を話すわね。今日からしばらくあんた達の教導を行う。帝国軍の鴉酉少佐よ」

「「「「はあぁぁぁぁー!」」」」
香月の言葉に皆が驚く。

「ふ、副指令!そんな話聞いていません!」

「今、言ったじゃない?」
と香月が返すと伊隅と言われた仕官は返す言葉がなくなる。

「まあ、急な話の訳だけどあんた達の部隊にはこれから帝国と共同で開発した試作兵器と新OSの試験運用をしてもらうことになったのよ。兵器の方はまだ完成してないけど新OSは出来ているからそのデータを取ってもらいたいわけ。それで、新OSは今までのOSとは訳が違うから教導官として鴉酉が出向してくれたわけ。わかった?」
と香月は説明するが、皆話しに付いていけていない様子だった。

「まあそう言う訳だから。とりあえず自己紹介しなさい。」
と香月が振る。

「博士、事前に話をしておけ。部屋もそうだが面度くさがるな」

「うっさわね。とっとと挨拶しなさい。」
香月は手をシッシとしながら言い放つ。

「たくっ。ああ、そう言う訳で、今日からしばらくお前達を教導する帝国軍の鴉酉 連也だ。階級は少佐だ。よろしく頼む。」
俺は、簡単に挨拶する。

「伊隅、何ぼーとしてるの挨拶なさい。」

「あ、はい!失礼、しました!A-01伊隅ヴァルキリーズ隊長の伊隅 みちる大尉であります!」
伊隅に次いで他の隊員も挨拶していく。

「宗像 美冴です。階級は中尉になります。」

「風間 祷子。階級は少尉になります。よろしくお願いします。

「碓氷 楓。階級は中尉です。」
女性陣の挨拶の後に男性陣が挨拶する。

「自分は、鳴海 孝之です。階級は少尉になります。」

「平 慎二です。階級は鳴海少尉と同じです。」
その場にいた全員が挨拶を終える。

「6人だけか?随分と少ないな。」
俺の問いに香月が、

「BETA進行前まではで中隊規模だったんだけど、4人にまで数が減って鳴海と平が補充されて現在この人数なの。この部隊は特殊だから誰でも入れるわけではないのよ。」
香月から第4計画の詳細を聞いているのでその意味を理解した俺は、

「まあ、特に問題はないだろう。それじゃあまずは、新OSの特性についての話とそれを使用している帝国側の部隊の映像、俺の実力が分からないとお前達も納得しないだろうから、その帝国の試験中隊と1対12の模擬戦をしたときの映像を見てもらう。」
俺はそう言うと説明を始めた。


説明と映像を見終えると伊隅達は目が点になっていた。彼女達の心の中は、新型OSはこんな凄い動きが出来るのかと言う思いと、目の前にいる人物は本当に人間かという思いが渦巻いていた。

「以上で終わるが、何か質問はあるか?」
俺が尋ねると、皆一様に黙り込んでいる。

「まあ、実際に試して見るのが一番だな。これからシミュレーターで実際に動かして見るぞ。各自準備して来い。」
俺はそう言い残して香月を一緒に部屋を出た。

「皆、目が点になっていたわよ。」
香月が俺に言ってくる。

「篁中尉達も最初はああだったよ。慣れてくれば新OSがいかに優れているかわかる。」

「まあ、そうでしょうけどね。」

「さて、あいつらを使えるように教導してやるか。」
俺がそう意気込むと、

「ほどほどになさいよ。」
香月が突っ込む。そんなやり取りをしながら2人で歩いていった。



[31421] 第8話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 02:46
国連軍基地に着てから2週間がたった。伊隅達の教導も順調で直接教導せずとも後は自分達任せてもいい状態ぐらいまで錬度が高くなった。ちょうどそのくらいの時期に技術廠から連絡が来た。
その内容は例の合金の精錬に成功したとの内容だった。年末を想定していた鴉酉に取ってはうれしい誤算であった。合金の完成で現在、それを機体の装甲に加工し取り付けが行われている。内部への水素の吸入も漏れもなく試作機の完成もまじかとのことだ。
それにともない鴉酉自身も技術廠に戻り調整に携わらなければならなくなりその旨を香月に話していた。


「そう試作機が完成するのね?あんたの想定より1ヶ月は早いんじゃない?」
香月の言うとおり今が11月下旬だ。それはうれしいことである。

「ああ。だが早く完成した分には文句を言う必要もない。装甲への加工、取り付けも順調だ。現在、試作機2機がもうすぐロールアウトする。その調整に戻らないといけない。伊隅達の教導もほぼ終了した。後はあいつらだけでも問題な状態だ。」

「データを見せてもらったけど確かに順調に新OSに対応しているしね。もうあんたがいなくても大丈夫でしょうね。ですぐにでも戻るの?」

「ああ、時間が惜しい。すぐにでも戻るつもりだ。伊隅達には事情は説明してある。問題あるまい?」

「そこまでしてあるなら。私としては何も言わないは、後で試作機のデータを送って頂戴ね。」

「ああ、わかっている。では、そろそろ失礼する。」
俺はそう言うと席を立ち部屋から出て行った。


技術廠格納庫

「どうだ、班長?機体の組み上げは順調か?」

「ん?ああ!巌谷中佐!ええ、現在、背部の武装を取り付けている最中です。もう少しで組み上がります。」整備班長の松平言葉を聞きながら巌谷は目の前の機体を見上げていた。外見は不知火を模しているが中身はまったくの別物に仕上がった。
・ 胴体パーツの後部にはブースタが内蔵。
・ 背部武装も今までの可動兵装担架システムにできなかった、グレネードキャノンやレールガン更には長刀やミサイル、レーダー等の兵器を取り付け可能。
・ 跳躍ユニットがつけられていた部分にもブースタを内蔵。
・ 肩部に威力は大きくはないがロケットやミサイル、ECM発生器などの兵装も装備可能
・ ジェネレーター機構で格段に伸びた連続稼動時間。
・ 新OSによる三次元機動の実現。

と上げれば切がない。これ以外にも光学兵器が使用できるが、出力調整や小型化で時間が掛かっている。が、レールガンや高周波発生装置による長刀の強化などそれだけでもBETA大戦において革命が起こせる物だ。

「中佐。」
と後ろから声かかけられる。

「ん?おお!唯依ちゃんか!見てみろこの機体をついに完成したぞ!」

「唯依ちゃんはやめて下さい!・・・・ふぅ~、でも本当に完成したんですね。」

「ああ、鴉酉少佐が持ってきたデータを元に作り初めてついに日本を、いや世界を救える希望が見出せる機体ができた。」

「あの時、資料や話を聞いても信じられませんでした。でも、実際に現実になったことに私は感無量の気持ちです。」

「そうだな。この機体には唯依ちゃん達が、データを取ったOSも搭載されている。皆でがんばった結果がここにある。」

「はい。」
そんな話をしている2人の後ろから声が掛かる。

「どうやら、完成したようだな。」
そこにはこの機体の完成に貢献した男がいた。

 
技術廠に戻ってきた俺は、すぐに格納庫に向かった。格納庫に入ると組み上げられた新型機が見え側には巌谷と唯依がいた。

「どうやら、完成したようだな。」
俺は後ろから声をかける。

「あっ!少佐!何時戻られたのですか?」
唯依が尋ねる。

「つい先ほどだ。それより中佐、想定より早く完成したな。」

「ああ、皆ががんばってくれたおかげだよ。それより、国連軍での教導は大丈夫なのか?」
巌谷が尋ねる。

「ああ、あとは自分達で任せてもいいくらいまで錬度が上がった。それで、戻ってきた。」

「そうか、で今後の予定はどうするんだ?」

「予定より早く組みあがったが、早速試運転する。松平のとっつぁん!もう動かしても大丈夫か?」
俺は整備班長の松平に声をかける。

「おお!問題ないぜ!少佐、動かすのか!」

「ああ、早速テストをする。準備してくれ。」

「あいよ!わかった!」
そう答えると松平は指示を出して準備に掛かる。

「では、私と唯依は管制室に行くよ。」

「少佐失礼します。」
2人は管制室に向かう。

「よし。俺も準備するか。」


演習場

「これより新型機のテストを行います。鴉酉少佐準備はよろしいですか?」
通信士から通信が入る。

「問題ない始めてくれ。」

「では、テストを開始します。まずは、機体の速度の確認からお願いします。」

「了解した。」
通信士に答えると俺はシステムを起動する。

『メインシステム、戦闘モード起動します。』
システム起動のアナウンスが入る。

「まずは、ブーストダッシュからだな。」
俺は、ブースト移動を開始する。モニターに速度が表示される。

「時速360 km/h。ブースタ機構に異常なし。エネルギー消費確認。」
コンデンサ内のエネルギー残量を確認しながら移動する。上昇して三次元機動を行う。

「機体の各部の負荷はどんな感じだ?」
通信で管制室に繋げる。

「全て想定内の許容範囲です。」

「了解した。そのまま、オーバーブーストを行う。」
俺は、OBを起動する。その瞬間、機体の速度が飛躍的に上がる。

「時速760km/h。不知火の最高速度を超えたか。いい感じだ。」
管制ユニット内で俺は笑みを浮かべる。通信士にからも負荷は問題ないとの通信が入る。

「次は、兵装のテストをお願いします。」
演習場に再突入殻と同じ装甲の耐熱対弾装甲が出てくる。

俺は、そこに向かって右手に装備したリニアライフルを発射する。発射された弾丸はいとも簡単に装甲を貫いた。

次いで左手で長刀を振り下ろす。普通であれば両手で扱わないといけないが、主機出力の大幅な上昇に伴い可能となった。加えて長刀に使う素材を最新の炭素素材に切り替えたことによる重量の更なる軽減により間接部に掛かる負担が軽減されたことも大きい。
もちろん、それだけでなく高周波発生装置の装備によって刃の部分に高周波振動が流れて切れ味が増している。その結果、刀で切るという表現の通り装甲が一刀両断される。
 
その後もテストは何の問題もなく行われ結果も大変満足いくもので終了した。

「おつかれさまです。少佐。」
唯依が声をかけてくる。

「ああ、ありがとう。で、新型機の感想だどうだ?」
俺が尋ねると、

「素晴らしいの一言に尽きます。自分がこのような機体の開発の一端を担ったことを誇りに思います。」
唯依は目を輝かせて話す。

「そうだな。OSの方も問題なく俺の動きが再現できた。中尉達の部隊の頑張りが報われたな。今後は、更にデータを集めて新兵でもすぐに扱えるように改良していかないとな。」

「はい!」
唯依は笑顔で答える。

「お疲れ様だ。少佐。」
そこに巌谷が来る。

「テストの結果も上々だ。もう1機もすぐにロールアウトするだろう。」
その言葉に俺は、

「ああ、後は兼ねてからの予定通り。模擬戦を行うだけだ。」

「そうだな。出来るだけ早めに行えるように手配しよう。」

「頼む。機体、兵装の量産もそうだがOSの量産が急務だ。」

「ああ、わかっている。全ては模擬戦次第だ。」

「ところで、新型機の名前はどうするんだ?」
俺が尋ねると巌谷は、

「ん?名前か、そうだな・・・・唯依ちゃん?何かないか?」
と巌谷は唯依に尋ねる、

「えっ!わ、私ですか!」

「ああ、何か言い名前はないか?」

「そんな、急に言われても・・・」

「まあ、あまり深く考えずに何かないか?」
そう促す巌谷の問いに唯依は少し思案して、

「では、不知火『弐式』でどうでしょうか?」
唯依がそう答える。

「ふむ。不知火『弐式』か。いいんじゃないか。それにしよう。」

「ああ、俺もそれで言いと思うぞ。」
俺と巌谷が同意する。


この日、技術廠で新たな戦術機「不知火『弐式』」誕生した。この機体が後に世界の戦術機開発史に名を刻み「戦術機を新たな段階に導いた機体」と言われる様になる。
奇しくもそれは、鴉酉の世界でノーマルからネクストへ世代が変わったように、「不知火『弐式』」を転換期とし戦術機が新たな世代に進むという同じ道を進むこととなる。


新型機の説明

戦術機 不知火弐式
鴉酉の世界のACの技術を用いて開発された。新型戦術機。外見は不知火を模しているが、中身はACの技術を流用し既存の戦術機とは比べ物にならないような破格の性能を手にすることになる。
ACのコアシステムを採用することでパーツごとの整備が可能になり整備が格段に楽になった。
また、戦闘で破損したパーツなどはその部分だけを交換すればすぐに戦闘復帰できるようになり運用面でもコストが安くなる。
ジョイントパーツを共通の物にすることで外見が違ってもパーツ同士が装着可能なるなど生産コストも安くなった。用は、武御雷のパーツを不知火が装備するような物とお考えください。
(ACファンの方々なら分かると思うが、コアと頭部、腕部、脚部さらに兵装も他社のパーツだろうと装備できる点について作者が自分なりに考えた解釈。)

ちなみに機体のテスト時に装備していた武装ですが、
・ 右手がリニアライフル。左手に長刀、背部ミサイル、リニアガン。両肩にミサイルです。

このパーツ構成で気が付く方は、気づくと思いますが分からない方は、
『C01-GAEA』で検索してください



[31421] 第9話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 02:47
不知火弐式が完成後シュミュレーターにもそのデータは入れられ、唯依達の部隊もそれに搭乗し訓練を行っていた。弐式に載った隊員たちは現在、ヴォールク・データの最高難易度で訓練を行っていた。OSの換装だけの時では最下層到達までだったが、現在最下層到達時点で全機が生存していた。


「ホワイトファング1より各機!もうすぐゴールだ!気を引き締めろ!」
唯依が隊員達に激を飛ばす。

「正面!BETA接近!距離5000!」
レーダー搭載機体の隊員から通信が入る。

「打撃支援、制圧支援、攻撃用意!」
唯依はすぐに指示を出す。その指示に2機が動き出す。

「ホワイトファング5準備よし!」

「ホワイトファング6準備完了!」
ホワイトファング5は、背部大型ガトリング砲を展開。
ホワイトファング6は、背部ミサイルと肩部連動ミサイルを展開する。

BETAが接近してくる。
「攻撃開始!」
唯依の指示が出た瞬間、一斉に攻撃が開始される。

「ホワイトファング5!ファックス2!」

「ホワイトファング6!フォックス1!」
ガトリング砲から高速で発射される弾丸を食らい突撃級、要撃級が脚をやられて動けなくなる。戦車級は弾丸の直撃で吹き飛んでいく。
 そこに発射された背部ミサイルと肩部小型ミサイルが一斉に着弾し敵を吹き飛ばす。

「各機!オールウェポンズ・フリー!かかれー!」
唯依は長刀を構えて敵に突撃して行く。各機もそれに続く。

「ホワイトファング3!ファックス1!」

「ホワイトファング10!フォックス3!」
皆それぞれの攻撃で敵を殲滅していく。

「たぁ!」
唯依が長刀で敵を薙ぐ。白き牙中隊(ホワイトファングス)はその後も圧倒的戦闘力で敵を倒しながら先を進む。
そして、ついに目的の反応炉に到達しシュミュレーションが終了する。


シュミュレーターの中から出てきた唯依達の目に飛び込んできたのは、歓喜の声を上げる技術廠の面々であった。

「うおぉぉぉー!すげぇー!全機生存でクリアしやがった!」

「しかも中隊規模でだぞ!俺、夢を見てるのか!」

「馬鹿やろう!夢じゃねえ!現実だ!」

「ううぅぅ~。なに、涙が止まらない!」

「泣くな!馬鹿!」

「お前だって泣いてるじゃないかよ!」
皆口々に喜びの声を上げたり、偉業を達成した唯依達を称えたりした。

「やれやれ実物のハイヴを落としたわけでもないのにお祭り騒ぎだな。」
その様子遠くから見つめながら俺は呟いた。

「そう言うな。最高難易度でヴォールク・データをクリアすること自体公式に出ている情報では初の快挙なんだ。しかもそれが中隊規模となればこうなるさ。」
横にいる巌谷が言う。

「だが、シュミュレーションとは言えこれで弐式の有効性が証明できた。後はお偉いさん方の前で度肝を抜いてやるだけだ。」

「そのことだが、年明けにも行うことで調整をしている。」

「そうか、新年早々ビックな話題が提供できそうだな。」

「ああ、それも日本に希望を見せる話題がな。」
2人でそんなことを話しながら、未だに騒いでいる一団の様子を見つめていた。


技術廠通信室

「データは見せてもらったは、まったくトンデモない物を作ったわね。」
画面に映る香月が言う。

「だが、これが発表されれば第5計画の連中も目の色が変わるのは間違いないだろ?」
俺はそう言う。

「まあそうでしょうね。自分達のG弾こそがBETAを倒す最上の手段と考えている連中にしてみれば寝耳に水、瓢箪から駒よ完全に。伊隅達にもシュミュレーションでやってもらったけどあの子達も驚いていたわよ?『いつこれが配備されるのか!』って凄い勢いで私に聞いてきたしね。」

「少数だがメーカーにラインを用意してもらい量産し始めている。今の所、うちとそちらの部隊の人数分を確保する程度だが。」

「それも模擬戦後にはガラっと変わるでしょうね。」

「ああ、全部のラインが弐式の製造ラインに変わるだろうな。そうなってもらわないと作戦までにある程度の数が揃わない。」

「どのくらいを製造予定なの?」

「俺たちが使う分も合わせて最低でも1個連隊(108機)は必要だろうと考えている。とりあえず帝国、国連両軍の腕利きには配備したい。」

「たしかにね。実際にハイヴを落とすとなるとそのくらいは必要どころかもっと必要でしょうから。」

「シュミュレーションはあくまでも仮想空間だ。実戦とは違う。ヴォールクも何処まで信用できるかわからん。」
「やっぱり、あんたが単機でハイヴに突入するプランが最有力かしら?」

「だろうな。余計な損害を避ける為には、俺1人の方が損害が少ない。仮に失敗したとしても弐式が完成したいまその技術が広まれば何処の国でも戦術機でハイヴを落とせるようになる。」

「失敗したらねぇ~。でも、そんなつもりは毛頭ないんでしょ?」
香月が意地悪そうな笑みを浮かべる。

「当然だ。俺を誰だと思っている?」
俺は不敵笑みを返す。

「まあ、模擬戦には私も来賓として行くからしっかりやりなさいよ。まあ、余計な心配かも知れないけど。」
そう言って通信は終了する。俺は、通信室を後にする。


技術廠PX

香月と通信をしていて遅くなってしまい食事を取っていないことに気づきPXに来たが、時間が時間だけに既に誰もいない状態だった。

(さすがにこの時間ではしょうがないか)
時計を見れば23時を周っている。

(仕方ない。自分で作るか)
俺は調理場に入ると冷蔵庫から材料を取り出して調理を始める。

以外かも知れないが鴉酉は炊事、家事と言った物が出来るのだ。ちなみに裁縫もできる。
その理由は、前の世界でのオペレーター兼マネージャーがそう行った事がまったく出来ない干物女でその身の回りの全ての面倒を見ていたのだ。
そのスキルはその辺の主婦顔負けである。とそんなわけであっという間に料理が出来る。本日のメニューは、
・ チンゲン菜の油炒め
・ ホイコーロー
・ カキのオイスター炒め
・ チャーハン
・ 中華スープ

と見事な中華料理が完成する。ちなみに鴉酉は大食いでありこれは少なめである。

出来た料理をテーブルに運び食べる準備をする。
「いただきます。」
誰もいない食堂に声が響く。食べる前にしっかり手を合わせるあたり以外に礼儀正しい。

と食べ始めたところに食堂に人が来る。

「誰いるのか?・・・少佐?何していらっしゃるんですか?」
入ってきたのは唯依だ。

「ん?篁か。何って食事だが?」
俺がそう答える。

「それは分かりますが、もう食堂は終わって誰もいないのにその料理はどなたが作ったんですか?」
唯依が尋ねる。

「誰がって?俺が作ったんだが。」
俺が答える。

「えっ!少佐がお作りになったんですか!」
唯依が驚く。

「何だ?そんなに意外だったか?」

「え?い、いえそんなことありません!」
唯依は慌てて訂正する。

「顔に出ているぞ?意外だと。それよりどうしたこんな時間まで仕事か?」

「あっ。はい。今日のシュミュレーターでの成果をまとめていました。」

「そうか。ご苦労だな。飯は食ったのか?良かったら食うか?」
俺がそう尋ねると、

「いえ!大丈夫・・・ぐぅ~~。」
と言いかけて唯依腹の虫がなる。唯依は顔を真っ赤にしてしまう。

「体は正直なようだな。まあ、座って食え。」
俺が促すと唯依「失礼しますと」恥ずかしそうに座る。

「ほら。食え。」
俺は、目の前にホイコーローを差し出す。

「い、いただきます。」
唯依は箸を使って一口食べる。

「んっ!お、おいしい~!」
唯依は目を見開いて驚く。自分も料理の腕には自信があるが、これほどの物は食べたことがなかった。

「そいつは何よりだ。まあ、食え量は作ってあるからな。」
俺はそう言いながら2人で食事を摂る。

「少佐は、一体何処で料理を覚えたんですか?」
唯依が尋ねる。

「ん?ああ、俺の昔のオペレーター兼マネージャーが、炊事、火事と要った事がまったく出来ない干物女でな。俺がその面倒を見るうちに上達した。」

「その方は、少佐が面倒を見るまでどうやって生活されていたんですか?」

「俺が知り合った時点で生活環境が凄まじかったからな。洗濯さえもしないくらいだ。」

「洗濯もしないくらいって、面倒くさがりもいいところですね?」

「まったくだ。脱いだ下着を投げつけて『洗濯しておけ』なんて事が日常茶飯事だった。」

「ぬ、脱いだ下着をですか!」
これにはさすがに唯依も顔を真っ赤にして驚く。

「ああ。まあ、他にも色々あったがな。」
パンツ一枚で目の前を歩いたり、裸で寝てそのまま起きてきたり等羞恥心のカケラもない女だった。今頃は、俺がいなくなって野垂れ死んでるんじゃないか?

「その点、篁はそう要ったことは全てに置いて完璧だそうだな。」
俺のその言葉に唯依が驚く。

「えっ!少佐?何故そんなことをご存知なんですか?」
確かに自分はそう要った事が出来るのは日本の女子として当然の事と考えて昔から学んできたが、何故少佐が知っているのだ?

「何故って?巌谷中佐から話を聞いたんだが?」
それを聞いて唯依は驚く。

「お、叔父様ですか!」

「ああ、2人で話をしている時によく話しているぞ。『うちの唯依ちゃんは、気立てもいいし器量も良し文句なしの大和撫子だが、融通が利かないのが短所だな。本来なら軍人を辞めていい人を見つけて家庭に入って初孫を早く拝みたいのだが。そうしないと俺も唯依ちゃんの両親に顔向けできない。』とよく言っているぞ。」
叔父がロクデモない事を話している事に怒りを覚える唯依。

「まあ、話はこの辺にしよう。俺は片づけをしていくから。篁は、先に休め。」
俺が声をかける。

「えっ!しかし、食事をご馳走になって置きながら私だけ先に休むのは・・・」

「今日のヴォールクは見事だった。その褒美だと思え。これは命令だ。いいな?」
そう言われては、唯依も引き下がるしかない。

「分かりました。料理ご馳走様でした。では、先に休ませてもらいます。」
と言い唯依は敬礼して食堂から出て行く。

(もう少し肩の力が抜ければ衛士としても部隊長としても一皮剥けそうなんだがな。融通が利かないか。確かに中佐の言うとおりだな)
俺は、そんな事を考えながら片付けをした。


後日、巌谷の執務室に唯依が入っていくのを目撃した職員の話によると、執務室から怒声や何かを殴打するような音が聞こえてきたと話す。が、怖くて中を確認できなかったとの事で何があったのかは不明である。
 しかし、この件の後、巌谷が1週間ほど入院したという。



[31421] 第10話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 02:48
1998年もあと少しで終わる12月下旬。技術廠をとある人物が尋ねてきた。もちろん、お忍びで。


技術廠格納庫

「これが、不知火弐式ですか?確かに外見は不知火とあまり変わりませんね。」
と弐式を観た感想を述べる煌武院 悠陽。

「ですが、白き牙中隊(ホワイトファングス)のヴォールク・データ記録を観てお分かりの通り中身は別物です。しかも既存のどの戦術機よりも高性能なのは疑いようのない事実です。」
護衛として来た月詠 真耶が言う。

「そうだのう。ネクストの基礎となった機動兵器の技術を流用したと言う話だが、なるほど、ネクストが強力な訳だ。基礎となった兵器ですら戦術機を凌駕していては比べるべくもない。」
と紅蓮 醍三郎が感想を漏らす。

この3人が技術廠に来たのは、完成した弐式を観る為と年明け早々に予定されている模擬戦の事で話をする為である。

「お褒めいただいてありがとうございます。ですが、これは我々だけでは絶対に完成させることが不可能な機体でした。鴉酉少佐がいなければ完成はありえませんでした。」
側にいた巌谷が言う。

「たしかにあの者があの時、あの場所に現れたのは何かの大きな意志の力だったのかも知れませんね。」
鴉酉と初めて出会った時の事を思い出す悠陽。

「で、その鴉酉少佐は今何処にいるのだ?」
月詠が尋ねる。

「少佐は、今トレーニングをしているはずです。」
巌谷が答える。

「トレーニング?あの者に必要あるのか?」
月詠が疑問に思う。確かに『強化人間』にそんなものが必要か考えると疑問である。

「日々の鍛錬を怠ると精神に隙が生じると言っていました。いくら体が強くても『精神に隙が出来れば』戦場ではすぐ死ぬと言っていました。」

「なるほど。確かにその通りだのう。」
紅蓮が頷く。

「よろしかったら様子を観に行かれますか?」
巌谷が尋ねる。

「そうですね。時間はありますから参りましょう。」
そう悠陽が答える。巌谷の案内で皆鍛錬場に向かう。


鍛錬場

 鍛錬場の中は異常な光景になっていた。白き牙中隊の面々が道場の床に大の字になって倒れていたり、座り込んで息を切らしている者など様々である。また、中央では木刀を構えた雨宮と無手の鴉酉が対峙していた。
 
その様子は、対照的で鴉酉は汗一つ掻かず涼しい顔をしているのに対して、雨宮はまだ一太刀も打ち込んでいないのに大量の汗を掻いているのだ。雨宮は打ち込もうとしているのだが打ち込めない、いや、打ち込む隙がないのだ。

斯衛は、将軍及び五摂家を守護する為小さい頃から武芸を学んできている。皆その腕には自信があるものばかりだ。だからこそ分かることがある。相手の力量が違いすぎる為に自分がやられるイメージしか見えないのだ。

加えて、鴉酉は目線で人が殺せるのでないかと言うほどの殺気を向けているのだ。いくら斯衛が武芸に秀でていても純粋に人を『殺して来た』数では、鴉酉の方が遥に場数を踏んでいる。

とは言えこのまま何もせずに入るわけにはいかない。雨宮は意を決っして打ち込む。

「はあ!!」
正眼の構えから上段に木刀を振り上げ打ち下ろす。しかし、鴉酉は体の軸を左にズラして交わし、雨宮が間合いを取ろうとする前に、瞬時に間合いを詰め左手で木刀を持っている手に手刀を入れる。その衝撃で木刀を落とした雨宮の腕を掴み、軽く捻る。

その瞬間、雨宮の体が一回転して受身も取れずに床に叩き付けられる。
「がはぁ!」
一瞬呼吸が出来なくなる。そこに顔に向かって下段正拳突きが迫る。雨宮が目を瞑るが、一向に拳が来ない目を開けてみると顔の直前で拳が止まっている。

「今日はここまでだな。」
と鴉酉は言い。雨宮に手を貸す。

「立てるか?」

「あっ。はい。」
雨宮はその手を握って立ち上がる。

「さて、そんな所で見ていないで入ってきたらどうだ?あんた等なら別に遠慮することもないだろう?煌武院殿下?」

「えっ?」
雨宮を含む他の隊員も一斉に入り口の方を向く。

「申し訳ありません。皆真剣に取り組んでいるところを邪魔したくなかったので。」
と言いながら悠陽が姿を見せる。次いで月詠、紅蓮、巌谷が続く。

「で、殿下!!ぜ、全員!敬礼!!」
悠陽が出てきたことに驚いた雨宮は大慌てで指示を出す。大の字になったり、座り込んでいた隊員も慌てて立ち上がり敬礼する。

「良いですよ。今日は忍びの訪問です。楽にしてください。」
そうは言われても突然目の前に将軍が現れればこうもなる。それもこんな場所に来るなど思う訳がない。

「で、お三方御揃いでこんな場所に来るとは何か重大なことでも起きたか?」
と将軍に対して礼儀もあった物ではない態度で接する鴉酉の様子に皆戦々恐々である。不敬罪を問われて言い逃れできないような状態である。しかし、

「いえ。そなたが開発に貢献した不知火弐式を直に観る為と模擬戦の事でお話に参りました。」
と悠陽はまったく気にする様子もなく話を進める。

「ああその話か。分かったすぐに仕度をしてくる。場所は、中佐の部屋になるか?」
俺が巌谷に尋ねると、

「ああそうだ。後、唯依ちゃんがいないようだが?どこに言ったんだ?」

「篁か?弐式の兵装の事で技術部の連中と会議中だ。もうすぐ終わるんじゃないのか?」

「そうか。唯依ちゃんにも話に加わるように話して置いてくれないか?」

「ああ、わかった。」

「では、後ほど。」
そう言って悠陽達は、引き上げる。

「と言うわけだ。今日はここまでだ。各自解散しろ。」
俺が指示を出す。

「あ、あの、少佐。」
雨宮が俺に声を掛ける。

「ん?何だ?雨宮。」

「あの、少佐は殿下とお知り合いなんですか?凄く親しそうに話されていたので。」
その問いに対して俺は、

「まあ、特殊な関係だ。それ以上は、Need to know(知る必要はない)だ。好奇心は猫も殺すぞ?」
と答える。

「はい。わかりました。」
こう言われては、それ以上聞くわけにはいかない。

「俺は、先に上がらせてもらう。各自風邪引かないようにしろ。」
そう言いながら鍛錬場を後にする。その後ろを雨宮は黙って見つめていた。


巌谷執務室

「しかし、鴉酉よ先ほどの動きは見事だっだのう。」
紅蓮が言う。

「最後に使用したのは、合気道か?」
月詠が尋ねる。

「ああ、昔の俺のパートナーから少々手解きを受けた。」
俺が説明する。

「他にも出来る物があるのか?」

「そうだな?コマンドサンボ、システマ、ジークンドー等、体術と言われる物は大体たしなんでいる。」

「聞いたことがない物もあるな。」
月詠が首を捻る。

「こちらはBETAが相手だから、対人用の格闘術はあまり発展してないからだろう?向こう側じゃ相手は人間だ。当然そういった技術は発達する。」

「確かにそうだな。」
月詠が得心をえる。

「それにしても見事な腕前でした。斯衛で指導教官も務まるほどではないでしょうか。」
悠陽は、感心したように話す。

「そうだの。そのくらいの腕前であったわ。」
と紅蓮も同意する。

「その場合は、追加契約で報酬を要求する。」
と俺は答える。

「相変わらず厳しいな。その辺りは。」
月詠が言う。

「当然だ。ロハで仕事をするほどお人よしではない。」
と俺が返答したところに巌谷が

「その割には、この前食堂で唯依ちゃんと食事をしていたじゃないか?しかも少佐の手作りの。」
と巌谷が笑顔で言ってくる。

「まて、何故中佐がそれを知っている?」
俺が尋ねる。

「偶然食堂の前を通った時に見かけてね。いい雰囲気だったから邪魔してはと声はかけなかった。」
と返してくる。その表情はとても嬉しそうである。

「唯依ちゃんのあんな表情は最近見ることがなかったからね。親代わりとしては喜ばしいことだよ。」

「あれは仕事には関係ないことだぞ?食事くらい一緒に摂っても別におかしくはないだろう?」

「いや~いよいよ唯依ちゃんにも春が来たのかもしれないな~と思ってね。」
と話している巌谷の後ろで部屋に入ってきていた件の人物が立ち止まる。皆気づかないフリをして黙り込む。

「どうだね少佐。もしよ『何を話していらっしゃるんですか、中佐?』!!」
と後ろから突然声が掛かる。巌谷が恐る恐る振り向くとそのこにいたのは、唯依だった。

「ゆ、唯依ちゃん。何時からそこに?」
巌谷が汗を滝のように流しながら尋ねる。

「そうですね。『いい雰囲気だから~』辺りからでしょうか?」
つまり殆ど最初からである。

「中佐?殿下の前なのですから私語は謹んでください。」
唯依が笑顔で言う。とても怖い笑顔である。

「中佐。後でお話がありますのでお時間よろしいでしょうか?」
唯依が巌谷に尋ねる。

「え!い、いや、このあ『いいですよね?』はい。」
笑顔で唯依が念を押す。とても怖い。迫力に押されて巌谷は返事をする。

「ありがとうございます。」
と唯依は返事を返す。そしてこちらに向き直り、

「遅くなってしまい。申し訳ありません。」
先ほどとは打って変わって軍人としての顔になり見事な敬礼をする唯依。
さすがにその態度の豹変に皆少々面を喰らって言いる。

「い、いえ。では、話を始めましょうか。」
悠陽が話し始める。

「不知火弐式が完成後に巌谷中佐から模擬戦の話をいただき。帝国、斯衛、両軍並びに政府や各メーカーと調整を行いました。その結果、新年初頭に置いて帝国軍富士教導隊と斯衛軍第19独立警護小隊と模擬戦を行うことが決まりました。」

「ほう~。富士教導隊は帝国側では右に出るものがいない程のエース部隊、斯衛軍第19独立警護小隊は、将軍家血縁者警護部隊でたしか試作型『武御雷』を運用していたな。だが、こちらの希望では試作型『武御雷』とやる話だけだったはずだが?」
俺が尋ねると、

「うむ。その話だったのだが、政府の一部と富嶽重工と遠田技研、城内省と斯衛上層部が弐式の性能に懐疑的での武御雷とやる前にその実力を見せてからと聞かなくて。」
紅蓮が困ったような顔をする。

「たしかに武御雷はテスト運用でもスペック通りの性能を発揮して上の評判も上々なのは、分かりますが、弐式のヴォールク・データ記録とテストの結果は御見せになったのですよね?」
巌谷が尋ねる。

「ええ、見せたのですが、実戦形式で観なくては判断できないとの一点張りで話が進まなかったのです。」
月詠が答える。その話の内容に対して俺は、

「なるほど。その話からすると外国機導入に反対する者達と、帝国と国連が共同開発した弐式が気に入らない城内省と斯衛上層部が難癖を付けているだけの話ではないのか?
いや、正確には、癒着して賄賂を貰っている者もいるのではないか?富嶽重工と遠田技研にしても生産コストは安くなり共通の部品が増えるわけだから利益が下がる。武御雷は生産コストが高い。年間30機でも利益が出る。
城内省と斯衛上層部は、国連=アメリカという図式で特に拒否感があるだけの話だろう?馬鹿馬鹿しい。」
俺は、辛辣な言葉を目の前の3人にぶつける。

「そなたの申すことはわかります。ですが、それが今の帝国の戦術機開発関連の現状なのです。」
悠陽が申し訳なさそうに話す。

「だが、この条件で模擬戦に勝利すれば弐式の技術導入をするとの内容で話が通った。やってくれんか?鴉酉少佐?」
紅蓮が俺に頼む。

「無論だ。下らん小細工を仕組んだ馬鹿どもに目に物見せてやる。」
俺は答える。

「ほどほどにしてください。少佐の実力は分かっていますから。」
月詠が話す。

「大尉の言う通りです。私達との模擬戦の事を忘れてはいないですよね?」
唯依は自分達との1対12の模擬戦の話を持ち出す。

「安心しろ。その辺は考慮してやる。」
と俺は返事した。が、唯依はその時嫌な予感がしてならなかった。

 
その予感は見事に的中することになる。年明けに行われた模擬戦は強者が弱者を一方的に蹂躙する結果になる。特に富士教導隊のメンバーは、トラウマになる程に追い込まれる。
 その内容は、後日お話しよう。



[31421] 第11話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 02:49
模擬戦についての話が終わり悠陽達が帝都に戻る直前に、
「ちょっと、待ってもらえるか?煌武院殿下に渡したい物がある。」
と鴉酉が言い出し待つ事にする。

しばらくして鴉酉が何かを持って戻ってくる。
「これをやるよ。」
鴉酉が悠陽に手渡す。

「これは、一体なんですか?」
悠陽が首を傾げる。

「色々と各所に働きかけてもらったりした礼だ。それとお前さん、16日が誕生日だったそうだな?それを兼ねての物だ。」
そう言うと悠陽目を見開いて驚く。

「そんな私の為にですか?そなたに感謝を。」
悠陽が礼を述べる。

「開けて見てもよろしいですか?」

「ああ、構わないが。」
俺がそう言うと悠陽は中身を空けると感激の声を上げる。

「まあ!何と見事な花の刺繍でしょう!」
周りの皆がそれを見る。確かに見事な花の刺繍が施されていた。

「素晴らしい物ですね。これは、ハンカチですか?」
月詠が尋ねる。

「ああ、そうだ。」

「見事な物ですね。どちらで見つけて来られたんですか、少佐?」
唯依が尋ねる。

「ん?いや、買ったのではなく俺が作ったのだが。」

「なんと!

「ええぇー!」
月詠と唯依が驚く。

「何だその意外な反応は、こう見えても裁縫は得意だぞ。」
そりゃ以外に思うだろ。いや、むしろ似合わない。

「この花は、何の花なのですか?」
悠陽が尋ねる。

「ああ、それは『寒菊』だ。」

「寒菊ですか?」

「ああ、12月の誕生花だ。花言葉は『健気な人』だったかな」

「健気な人ですか?」

「ああ、お前さんは、今できることを精一杯やっている。それは何時か身を結ぶ時が訪れる。それまで諦めるな。諦めたらそこで全てが終わる。それは、戦場だろうと政治だろうと変わらない。」
俺はそう激励の言葉を掛ける。その言葉に悠陽は、

「鴉酉少佐。そなたに深い感謝を。」
目に涙を浮かべながら悠陽は、車の中に入る。

「鴉酉少佐。ワシからも礼を申す。ありがとう。」
紅蓮が頭を下げる。次いで月詠が、

「殿下は、いつも自分の力のなさに悩んでおられました。しかし、私には掛ける言葉がありませんでした。ですが、少佐の言葉で殿下は救われたと思います。自分のしている事は、決して無駄でないと思えたでしょう。殿下の側に仕える者として礼を言いたい。ありがとうございました。」
月詠が礼を述べると紅蓮と一緒に車に乗り込み出発する。それを見送っている俺の横に巌谷が来て、
「いい男だな。君は。」

「いや、俺はただ俺には出来ないことをやっている彼女を労いたかっただけだ。」
俺はそう答える。

「そうか。なら何も言うまい。」
そう巌谷が答える。

「でも、少佐の刺繍は本当に見事でした。」
唯依が言う。

「昔取った杵柄だよ。さて、戻るとするか。」
そう言って俺は踵を返す。

「うむ。そうだな。何時までもここにいると風邪を引いてしまいそうだ。」
巌谷がそう言いながら中に向かおうとする。

「そう言えば中佐?私の話がまだ終わっておりませんが、よろしいでしょうか?」
唯依が笑顔で巌谷に話しかける。

「え!い、いや、それはだな、あっ!これから大事な会議があるんだ。すまんが、私は失礼するよ!」
と言い残し走って逃げる巌谷。

「逃がすと思いますか叔父様!今日こそは勘弁なりません!待ちなさい!」
その後を物凄いスピードで追いかけていく唯依、

「やれやれ。」
俺はその様子を苦笑いしながら見送った。


1999年 1月 技術廠模擬戦会場

ついに模擬戦の日がやって来た。会場には将軍以下五摂家の面々や政府要人、各メーカーの重役達他、国連からの来賓も多数臨席している。帝国、斯衛、国連軍のエース部隊も見学に来ている。
今回の模擬戦は世界中に中継されている。その独特の戦術機思想で知られる日本が、国内にハイヴを2つも抱えながら新しい戦術機を開発したと言うことで世界中が注目しているのだ。

格納庫

模擬戦を前に鴉酉は機体の最終チェックを行っていた。
「いよいよだな。少佐?機体の状態はどんなだ?」
整備班長の松平が尋ねる。

「パーフェクトだとっつぁん!これで遠慮なく敵を倒せると言うものだ!」
機体の状態に俺は満足する。

「しかし、『例の装置』は反則じゃないのかい?」

「使って悪い事などない。戦場で『卑怯』、『闇討ち』は褒め言葉だよ。とっつぁん。」
俺は、クックックと笑う。

「大体天下の富士教導隊が2個中隊(24機)で来るんだ。寧ろ向こうの方が卑怯だろう。」
そう一戦目の富士教導隊は不知火24機で掛かってくるのだ。果たしてどちらが卑怯かな。

「俺から言わせればどっちもどっちだよ。五十歩百歩。」
と松平は言う。

「まあいいさ。用は勝てば良いだよ。」
とまあどう考えても悪者にしか聞こえない台詞を言っている鴉酉が今回搭乗する不知火弐式は、『例の装置』以外にもインチキがしてある。
そう管制ユニットを強化人間使用に改造してあるのだ。もはや普通の人間が勝てる相手ではないのだ。勝負は、始まる前から既についていた。


模擬戦会場

「え~。ただいまより。新型戦術機『不知火弐式』(TSF-TYPE94Mk-II)と富士教導隊、斯衛軍第19独立警護小隊との模擬戦を開始しいたします。解説は私、帝国技術廠・第壱開発局副部長の巌谷 榮二が僭越ながらさせていただきます。」

モニター横の席に着いた巌谷が画面に『不知火弐式』特徴を説明している。
「今回我々が開発した『不知火弐式』(TSF-TYPE94Mk-II)は、在日国連軍との共同開発により誕生しました。また、政威大将軍 煌武院 悠陽殿下のお力添えもいただきました。」

今回の目的の1つは国連軍と共同開発したと発表すること、もう1つが悠陽がそれを主導したとの実績作りだ。現在の政威大将軍は実権がないに等しく帝国が1つに纏まれていない最大要因だ。

そこで、香月博士は悠陽がそれを主導したと発表すれば復権の足がかりになる。無論この後に発表することになるネクストも同じように発表することで同様の効果が期待できる。復権が現実になれば第4計画に対する国内の反発も少なくなり日本も1つに纏まる。一石二鳥のやり方だ。その話に悠陽も同意。直前になってこのような形での発表となった。

「この『不知火弐式』(TSF-TYPE94Mk-II)は、コアシステムと言う新機構を採用し胴体パーツを中心に頭部、腕部、脚部を組み合わせて製作される戦術機となります。その為、機体整備時には、パーツごとに取り外しての整備が可能となり整備が格段に楽になり、機器のトラブルが起き難くなるようになりました。
また、破損した場合をそのパーツだけを交換すればすぐに戦線復帰も可能となり運用面でもコストの削減に成功しました。
このコアシステムでは、ジョイントパーツ等を共通の部品にすることで他の機体のパーツを装着できるようになります。
たとえば極端な話ですと、陽炎(TSF-TYPE89/F-15J)にこの機構を導入すれば不知火(TSF-TYPE94)のパーツが装着できたりします。部品が共通になることでの生産コストの削減にもなります。」
そこまでの話だけでも聞いていた者皆が感慨深い表情になる。そんな中、1人が手を上げて質問する。

「今お話にあったコアシステムが、生産、整備、運用面のコストに非常に優しいことは、分かりましたが、模擬戦を行うと言うことは他にも新しい技術が使われているのですか?」
確かにこれだけであれば優れた技術ではあるが、模擬戦をする所まではいかない。それに対して巌谷が答える。

「ご質問ありがとうございます。これからご説明する内容が今回模擬戦をすることになった理由になります。資料を配りますので各自一部ずつお取りください。」
そう言うと資料が配られ始める。

「皆さん行き渡りましたか?では説明に入ります。まず、資料の1ページ目の『超高密度水素吸着合金』についてです。これは、既存の水素貯蔵合金をさらに精錬して出来た合金で、従来の戦術機の装甲より軽く、丈夫なものになり新型にはこれが装甲として使われています。
しかし、この合金の最大の特徴は水素を内部貯蔵できることです。それを踏まえて次の説明に参ります。」

「次の説明は新型機の動力についてです。従来の戦術機は、内部のバッテリーと跳躍ユニットの2つに別れていましたが、新型機は動力が1つです。
新型機の動力は『ジェネレーター機構』と言う新機構となっています。それは、燃料電池と水素タービンエンジンのハイブリットとなっています。」
これには技術者達が驚いた。まさか水素エネルギーを動力とする物が開発されていたとは思いも寄らなかったのだろう。

「先ほど説明した合金に貯蔵された水素はこのジェネレーターに使用されます。そこで得られたエネルギーは機体を動かすエネルギーに回され余剰分はコンデンサに蓄積されて他のところで利用されます。
このジェネレーター機構により従来の戦術機を遥に上回る主機出力と連続稼動時間を得ることが出来るようになりました。」
もはや聞いている者は開いた口が塞がらない状態になっていた。資料の数字だけ見ても出力、連続稼動時間全てが従来の戦術機のそれの比ではないのだ。これだけで技術革命が起きる状態だ。が、説明がまだ続く。

「次に説明するのは、ブースタ機構についてです。これは、跳躍ユニットの代わりと考えてもらって結構です。機体内部にブースタを内蔵してそれをダッシュなどの移動手段として使用します。
しかも、跳躍ユニットと違い空を『跳ぶ』のではなく『飛ぶ』ことができます。速度に関しては、通常ブースト使用で300~400 km/h程度、オーバーブースト機能を使用すれば最大800 km/hほどが出せます。
これは、不知火(TSF-TYPE94)とあまり差がありませんが、このブースタ機構には先ほどジェネレーターの所で説明したコンデンサに回された余剰分のエネルギーが使用されるので推進剤の消費が少なくて済み、推進剤の節約になります。」
先ほどのジェネレーターほどではないにしろこれも十分に驚くべき技術である。速度は第3世代並みでも推進剤の消費量が従来の戦術機より半端でないほど少ないのだ。

「あとは、新型OSの説明と新型兵装の説明ですが、そろそろ模擬戦の準備が出来たようなので見てもらいながら説明いたします。」
と巌谷がモニターを切り替える。そこには鴉酉の乗る不知火弐式と富士教導隊の不知火24機が配置についていた。


演習場 富士教導隊サイド

富士教導隊のメンバーは、今の会場での説明を聞いて表情が険しくなっていた。

「おいおい、今の話冗談じゃないのか?」

「お前、本当にそう思うか?」

「今の話が本当なら相手は、外見は不知火に似てても中身はまったく違う化け物ってことだ。」

「けっ!中身が違うくらいでそんなに変わるかよ!」

「だが、送られてきたデータの主機出力はこちらとは桁違いだ。それに、これだけの新技術の塊だ。それ以外にも、新OSと新型兵装があるらしいが用心に越したことはない。」

「でも、こちらは24機。相手は、1機だけですよ?普通にやれば勝てるのでは?」

「用心に越したことはない。各機!富士教導隊の誇りに掛けても負けは許されんいいな!」
隊長が激を飛ばして。模擬戦開始のカウントダウンが始まる。


演習場 鴉酉サイド

「いよいよか。」
俺は、システムを起動する。
『メインシステム、戦闘モード起動します。』
機体を機動させる。

「さて、早速『こいつ』使うか。」
鴉酉は、両肩に装備している。三角形のレーダーの様な物を使うスイッチを入れる。
すると音声が流れる。

『エクステンションの機動を確認。『ステルスモード』機動します。』
とトンデモない音声が流れてくる。

「クックック。では、ウサギ狩りに行こうか」
俺は管制ユニット内で黒い笑みを浮かべながら市街地の中に消えていった。



[31421] 第12話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 02:52
演習場 富士教導隊サイド


 教導部隊側は、部隊を二手に分け中隊編成で演習場の市街地の中を進んでいた。

『おかしい?開始して5分ほど経つが反応が見当たらない』

『どこかに隠れているんじゃないですか?相手は、1機ですから真正面から来るとは思えません』

『まずは、見つけないことには始まりませんよ』

『そうだな。ブラボーチームに通信を』

『了解。ブラボーチーム、こちらアルファチーム応答願います。』

『こちら、ブラボーチーム。どうかしたか?』

『そちらで敵影を探知できましたか?』

『いや、まだ発見できていない。そちらもか?』

『こちらも発見できていません』
その通信を聞いたアルファチーム隊長は、

『この人数で固まって探していてもしょうがない、各機、エレメントを組んで6組に分かれて探索しよう。ただし、通信は密に行ない敵発見時は無理をせず応援を呼べ。いいな?』

『『『了解!』』』

『ブラボーチーム、こちらはそのように動く。そちらは、どうする?』

『こちらも同じようにして探索する。何かあれば互いに連絡をくれ』

『了解した』
ブラボーチームへの通信を切る。

『よし!では、行くぞ!』
6組のエレメントに分かれた教導部隊が四方に散っていく。


演習場 鴉酉サイド

「エレメントを組んで探索を開始したか」
鴉酉は現在、離れた位置から相手の通信を傍受し、レーダーでその位置を全て把握していた。まったくもって強化人間とは反則である。

「そうと決まればまず片方のチームを片付けるか。まずは、頭からだ。」
アルファチーム隊長のエレメントの方に向けて移動を開始する。


教導隊サイド

 探索を開始してから20分。エレメントで探し始めて15分が経ったが未だ反応がない。

『隊長、敵は何処にいるんでしょうか?』

『わからん。これだけの時間が経っても見つからないとなると不安になっては来るが』

『ブラボーチームに通信を入れますか?』

『そうだな。そう・・・・』
と通信を指示しようとした瞬間、アルファチーム隊長機の管制ユニットに模擬弾が命中する。

『アルファ1 管制ユニット攻撃命中。撃破確認』
そうオペレーターの声が聞こえてくる。

『っ攻撃!ど・・・』
何処からの攻撃か確認をしようとした所に頭部、管制ユニットに攻撃が当たる。

『アルファ3 頭部、管制ユニットに攻撃命中。撃破確認』
一瞬の隙に1組がやられた。

『隊長がやられた!何処からの攻撃だ!各機、敵反応は!』

『確認できません!ブラボーチームにも連絡しましたが、敵反応は確認できていません。』
そんなはずはない。これだけの人数で分かれて探して反応がないことなどあるのか?

『アルファチーム各機!隊長達から一番近いエレメントで近くを探索しろ!』
副隊長が指示をそうとした時、突然通信が乱れ始める。

『よ・・・・こ・・・・・せん・・・・も・・・・・・す』
相手が何を言っているのかもわからなくなり画像も消えてしまう。

『これは!・・・ECMか!』

『このあたり一帯に高濃度のECMが発生しています!他との連絡が取れません!』
何故こんな高濃度のECMが、と考えている所に目の前の味方機がやられる。

『っ!何処から一体!』
周りを見渡すが何処にも機影は見当たらない。

『くそ!一旦、引くしかない!』
この場に居ては危険だと判断して離れる。市街地の開けた場所に出ると他の味方機が集まっているのを発見する。
 
しかし、数が少ない。アルファチーム12機の内、自分を含めて4機しかいない。しかも各機共機体に模擬弾が命中していて満身創意の状態である。

『無事なのは、これだけか!』

『はっ、はい!急に通信が出来なくなったと思ったら次々に味方がやれて。一刻も早くその場所から移動しないと危険だと思いここに。』
先に居た隊員がそのように話す。とりあえず体制を立て直さないと。しかし、小隊の人数しか居ない状態でどうすればいい?
 そこに通信が来る。

『富士教導隊と言ってもこの程度なのか?少々がっかりだな』


演習場 鴉酉サイド

俺は現在、市街地の広場に集まったアルファチームの残りを確認している。

「4機か。まあ、アレだけのことをすればこうもなるか。」
実は鴉酉、この模擬戦の前日にこの演習場に来て各所にECM発生装置を取り付けておいたのだ。普通そんな事を考える者はまずいない。

が、これが実戦であれば戦場が指定されて入れば何か仕掛けて置くのは当たり前であり万が一に備えるものだ。

しかし、今回の相手富士教導隊はまったく何の準備もせずBETAと戦う同じ感覚で来たのだ。もはや機体の性能云々の問題である。


『富士教導隊と言ってもこの程度なのか?少々がっかりだな』
俺がアルファチームに向かって言い放つ。

『ど、何処に居る!』
4機が背中を合わせて四方を確認する。

『ECMで通信が使えなくなり、そんな中味方がやられていく。お前達はエレメントで動いていたから味方がやられれば1人になる。1人になった者が取る行動は何だと思う?
まずは、その場から離れようと行動する。その場に留まれば撃破される可能性が高い。事実そうなった者がいる。
次の行動は、他の仲間に連絡と取ろうとする事。人間1人になると不安になり、不安が恐怖に変わる。そうなりたくない為に連絡を取ろうとする。
しかし、今回はECMのせいでより強い恐怖になった。
そして、その次に取る行動が直接仲間を探すことだ。その為には広く開けた場所を探そうとする。見渡しもいいから仲間に見つけてもらいやすいしまた見つけやすい。意識は、していなかったかもしれないが、人間は無意識の内にそのように行動する。
だが、その様な場所は相手からも敵を見やすいという危険性がある。ここまで説明すれば、今の自分達の状況が分かるだろう?』
その説明を聞いていた隊員達は、冷や汗を書いて歯をカタカタ震えさせている。

『そうお前達は、追い詰められた哀れなウサギなんだよ』
その言葉が言い終わると同時に4機が撃破された。


模擬戦見学席

モニターには、教導隊のアルファチームが全滅した様子が映されていた。鴉酉が相手を一方的に狙撃して倒していく様子に観客は首を傾げた様子で見ていた。何故教導隊は、鴉酉が見つけられないのか不思議でしょうがなかった。
とそこに何故、そんな状態になったのかを鴉酉が説明する。


「会場の方は、ECMのせいで通信の内容がわからず状況が良く分かっていないだろうから説明しよう。」

「何故、アルファチーム、ブラボーチームが俺を発見できなかったかというと、答えは簡単だ。レーダーに掛からないようにしていたからだ。
それは、ECMでレーダーから発信される位置をズラしたりしていたわけではない。レーダーを完全に『無効化』したからだ。」
その言葉の意味に会場全体、さらに教導隊全員が注目する。

「そう。俺が使用したのは、『ステルス機能』だ」
その言葉を聞いた全員が驚愕の表情になる。

『ステルス機能』それは、昨年から米国で運用が開始されたF-22Aラプター先行量産型に搭載されている機能だ。それと同じ機能が不知火弐式には搭載されているのかと会場にいた全員が驚く。

「俺が使用した『ステルス機能』米国のラプターとは少し違う。」
その言葉に一体どう違うのか皆が注目する。

「この新型 不知火弐式には、そもそも『ステルス機能』は搭載されていない。では、どうやってその機能を使ったかというと答えはこれだ。」
機体の腕を動かして肩付いている三角形のような物を指差す。

「これはそう『ステルス装置』とでも言うかな。これを装備することで『ステルス機能』がない機体にもそれと同じ機能が使用できる装置だ。」
まさか、そんな装備が開発されているとは誰もが思わず驚いている。

「だが、これにも欠点がある。まず、米国のラプターは最初からその機能を使用する前提の設計をされている。
また、その機能は『対戦術機戦』を強く想定している為、通常電子戦専用機でも無ければ装備しようとさえ思わないレベルの統合電子戦システムが標準装備されており、アクティブジャマーを駆使することで戦術機のセンサーを眩ますことができる。また極静穏モードで音も無く歩行することで、戦術機の振動音センサーに捕捉され難くしているといった機能も有している。いくら何でもこの装置一つでそこまでの機能は発揮できない。」
たしかに言われて見ればあんな小さい装備でそこまでの機能を発揮するのは無理だろう。

「それにこいつの最大の欠点は、『消費エネルギーの高さ』だ。まあ、『ステルス機能』を使うような場合、今回の俺のような戦い方が基本だ。
 先に欠点を話したが利点ももちろんある。まず、ラプターを遥に上回る『ステルス機能』だ。ついでに言えばロック機能さえも『無効化』できる。
 そして、こいつの最大の利点は不知火弐式の技術を使用した機体であればどんな機体でも装備できることだ。」

その話を聞いた各国の関係者はたしかにラプターと違い欠点がある。が、それを補ってあまりある利点、『どんな機体でも装備できる』というものは、今後ラプターが輸出されても態々購入する必要がないということでもある。

これには米国関係者が顔を青くしてしまっている状態だった。何せ自国の最新鋭機の性能が知られているのにも驚いたが、何よりも『ステルス装置』には度肝を抜かれた。
これでは今まで自分達が主導してきた戦術機産業が大打撃を受けてしまうと気が気でない状態だった。


「と、この辺りでアルファチーム撃破の説明はいいだろ。残っているブラボーチームは、正面から相手をしてやろう。無論『コイツ』は、使わない。」
鴉酉は、肩のエクステンションをパージ。移動を開始する。


鴉酉の説明を聞いた各国の関係者は騒然とした様子になっていた。
もちろん、帝国側の関係者も『ステルス装置』については聞いていなかったので驚きは大きかった。
波乱の模擬戦は続く。



[31421] 第13話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 02:57
鴉酉の説明をアルファチームの全滅に驚愕しているブラボーチームは、相手に対してどう対処するかで現在、元の中隊編成に戻っていた。


演習場 富士教導隊サイド

『どうするんだ!ステルスを使うような相手に!』

『落ち着きなさい!もう使わないと言っていたじゃない!』

『それが信用できるか?相手は、ECMまで準備しての周到なやり方でアルファチームを全滅させた奴だぞ?何かしてくる可能性は高い。』

『ともかく、陣形を組め。奴を待ち構えるぞ』
隊長が指示を出して陣形を組む。今いる場所は、中隊で陣形を組んでも問題のない広さがある場所だ。何処から来ても対応できる。
ブラボーチームが敵を待ち構える。とそこに突然通信が入る。

『陣形を組んで全周囲対応できるようにはしているようだが、頭の上がお留守だったな』
その言葉の後に隊員が、

『敵反応・・・・・!上空です!』

『なんだと!』
これには全員が驚いた。BETAが航空戦力に対応してから人類は空を飛ぶ事ができなくなった。そんなことをすればレーザーに撃ち落とされるからだ。それが、人類の共通の認識である。
しかし、自分達の相手はそれを根底から覆してきた。


演習場 鴉酉サイド

 鴉酉は現在、敵のレーダー範囲外の上空を飛んでいる。普通なら光線級が何処に潜んでいるか分からないような状況で飛ぶなど自殺行為だが鴉酉は、
「レーザーがくれば避ければいいだけだ」としか考えていなかった。

 そして、相手の真上まで来た所で、通信を送る。
『陣形を組んで全周囲対応できるようにはしているようだが、頭の上がお留守だったな』
言い終わるより早くOBを展開、重力加速も加わり凄まじい速度で落下していく。


教導隊サイド

『敵反応!時速1000 km/h以上で接近中!』

『後衛!迎撃準備!』
隊長からの指示で後衛のインパクト・ガード(砲撃支援)、ラッシュ・ガード(打撃支援)、ブラスト・ガード(制圧支援)がそれぞれ、支援突撃砲と多目的自立誘導弾システムを起動し、上空から来る敵を待ち受ける。が、その時、

『ロック警報!』
後衛1人の管制ユニット内に警報が鳴り響く。こちらの射程外からの攻撃。しかも時速1000 km/hで攻撃してくるなど思えるはずもなかった。が、攻撃が命中する。

『ブラボー3。頭部、腕部、管制ユニットに被弾。撃破確認』
その音声が流れる中後衛が次々に攻撃される。

『くそ!各機!攻撃を開始しろ!』

『無理です!遠すぎます!それに、あの速度の相手に攻撃を当てるのは不可能です!』

『いえ!射程に入りました!』
後衛のブラスト・ガード(制圧支援)の多目的自立誘導弾システムの射程に入り左右合わせて32発のミサイルが一斉に発射され敵に向かっていく。
これは避けられない。誰もがそう思った。その時、

『甘いな』
その言葉の後に相手の機体から丸い物体が投射される。そして、向かっていたミサイルが全てその丸い物体に向かって方向を変える。

『デコイ!』
 まさか、そんな者まで装備しているとは思わなかった。
『これぐらい準備して置くのは当たり前だろ?考えが甘すぎる』
その言葉後、最後に残っていた後衛が撃破される。鴉酉は、地面に落下する前にOBをカット、通常ブーストで機体を元に戻して相手との距離を取って着地する。


鴉酉サイド

(さて、これで残りは8機。前衛、中盤のみか。スナイパーライフルは、今の攻撃で無駄弾を撃って残り10発、マシンガンはまだ使っていないから問題ない)
自機の武装の状態を確認し敵殲滅に問題がないことを確認する。最悪マシンガン一丁でも問題ないことは敵の機体性能で分かっている。

(もう背部武装は必要ないな。重りにしかならない)
そう考え背部のレーダーとデコイをパージ。ライフルを構えて相手を見据える。

『さて、身軽になったところで相手をしてやる。掛かって来い』
俺は機体の腕を手前にクイ、クイと動かして手招きをした。


教導隊サイド

相手が手招きして挑発してきた行為にさすがに隊員達は切れた。

『舐めやがって!教導隊を馬鹿にするのも大概にしろ!』
その言葉と同時にストーム・バンガード(突撃前衛)1人が、突撃砲と多目的追加装甲を構えて突撃している。

『くらえ!』
突撃砲を相手に向けて発射する。相手はその場から後方に移動する。そこにもう1人のストーム・バンガード(突撃前衛)が間髪いれずに長刀を持って飛び上がり切りかかる。

 相手は後方に下がっている最中。止まっても次の行動までにタイムラグが生じ硬直する。

この攻撃は避けられない。誰もがそう思ったその時、相手は目を疑うような動きをする。
なんと停止する事もなく、一連の動作で後方に飛び上がりさらにすぐに攻撃してきたのだ。
当然切りかかった隊員は攻撃を避けられ相手の攻撃をまともに受ける。
『ブラボー8 頭部、管制ユニットに被弾。撃破確認』

隊員達は、その様子に驚いている。「何故、タイムラグがなく機体が動くのか?」不思議でならない中、相手はそのまま攻撃に移ってくる。

『遊びはここまでだ。全員落ちてもらう』
その声が聞こえてすぐ、もう1人のストーム・バンガード(突撃前衛)に向かっていく。

突撃砲を放つが左右にまるで流れるような動きで相手に攻撃を回避される。
そこから攻撃を受け右腕と突撃砲を使用不能にされる。左手の多目的追加装甲を破棄し短刀で切りかかるが、目の前に迫った相手が飛び上がり前転宙返りの状態からの攻撃を受けて撃破される。

その様子を見た残りの6機は一斉に攻撃を開始するが、空中で姿勢を変えながら上下左右に動く敵に攻撃が当たらない。逆に相手の攻撃は的確にこちらを捉えていく。
狙撃銃の弾が切れた後はそれを破棄し脚部に装着していたマシンガンで攻撃してくる。途切れることのないまるで体操の選手のような動きでこちらを翻弄し味方が次々に撃破されていく。

気が付けば残り1機になっていた。

『こ、こんな馬鹿なことが・・・』
最後に残った1機に衛士は目の前の出来事に愕然としている。

『後は、お前だけだ』
冷たい声が聞こえてくる。その声を聞いた相手の衛士は、

『う、うわぁぁぁぁぁぁ!!』
恐怖で叫び声を上げながら持っていた突撃砲を投げ捨て背中の長刀を手に持ち遮二無二切りかかる。

『終わりだ』
短い言葉の後、持っていたマシンガンを破棄。相手の攻撃を回避する。
 そこから掌底を相手の機体の顎に見舞う。かち上がった上体の腕を掴み背負い投げを放つ。叩きつけられた相手の頭部に短刀を突き刺し全機撃破が伝えられる。


模擬戦見学席

『富士教導隊の全機撃破を確認』
会場にその音声が響きわたる。皆、一様に静まりかえってしまっている。それはそうである。

空から相手を奇襲する戦法。機体が硬直することもなく人間と同じように動き回る機動。
最後に背負い投げまで見せられては、今までの戦術機の常識が根底から覆された瞬間でもあった。

 静まりかえった会場に巌谷の声が響く。
『え~。ご覧のように新OSを導入することで、今ご覧になった様な動きが可能となり、既存の戦術機の場合はコンピューターを丸ごと交換することになりますが、搭載可能になります』
OSを変えただけで既存の戦術機でも今のような動きが可能になる。あの機動が出来ればどれだけの衛士が死なずに済むか、この場にいた者全てが感じていた。

『続きまして。帝国斯衛軍第19独立警護小隊と不知火弐式の模擬戦に移りたいと思います』
巌谷が説明する。そこに質問がでる。

「すみません。失礼ですが、これ以上模擬戦をやる必要はないのではないでしょうか?先ほどの結果を見ても不知火弐式(TSF-TYPE94Mk-II)が、優れているのはここにいる皆さんが認識しています」
たしかに、あの性能を見ればどんな戦術機でも勝つ事は不可能だろう。会場の皆がそう思っていた。とそこにある人物が発言をする。

「巌谷中佐。私が発言してもよろしいでしょうか?」
と言ったのは、政威大将軍 煌武院 悠陽である。

「殿下?え、ええ、構いませんが?」
巌谷はそう答えてマイクを渡す。

『ありがとうございます。皆様、先ほどの方の質問の内容の通り。不知火弐式(TSF-TYPE94Mk-II)の性能が如何に優れているかが証明されました。この性能を見ては次に対戦する帝国斯衛軍次期主力戦術機『武御雷』も勝ち目はないでしょう』
これを聞いた帝国側の『武御雷』開発に関わった者達は驚いた。自分達が心血を注いで開発した『武御雷』を将軍自らに否定されたのだ。

たしかに、不知火弐式の性能を目にして勝ち目がないと皆が思っていたが、直接将軍自らに言われてはショックが大きかった。関係者の中には、悔しくて涙を流す者までいた。 
しかし、次の悠陽の言葉は意外なものだった。

『ですが、今日まで日本の戦術機開発に尽力してきた者達を否定するつもりはありません。』
その言葉に皆が注目する。

『この国をBETAから守る為に戦術機を開発し、また発展させてきたのは他ならぬ皆様です』
帝国側の関係者席を見ながら悠陽の言葉は続く。

『自分達が培ってきた技術を誇りに思うことは良いことです。しかし、自分達よりも優れた技術があるのにそれを認めないというのは、いささか狭量ではないでしょうか?』
その言葉に帝国側の関係者は「はっ!」とする。

『壁にぶつかりそれを自分達でどうにかしようとする。その為に努力するのは素晴らしいことだと思います。
しかし、すぐ目の前に答えがあるのに、それは自分達で見つけた物でないというだけで拒否してしまう。たしかに時間があればそれでもいいでしょう。
ですが、周りを見てください。日本の現状を、世界の現状を、BETAにいつ滅ぼされてもおかしくない状態にある中でその様な時間があるでしょうか?
自分達より優れた技術があれば積極的に取り入れて早く壁を乗り越えればよいのではないでしょうか?
そこから、新しい事を学び次に生かしていけばよいのではないでしょうか?
もし他の国の方々にも同じ様な考えの方がいらっしゃればよく考えて見ていただけませんか?何が自国の為、世界の為になるのかを』
会場全体が悠陽の言葉に耳を傾けている。

『最後になりますが、我が帝国軍人は勝ち目がないからと言って敵に背を向けるような者おりません。どんな相手であろうとも立ち向かう者達だと私は思っています。』
最後にそう言い残してマイクを置く。その瞬間、会場全体から拍手がおきる。

『『『『ワァァァァァ!!』』』』

会場にいる日本人は殆どが涙を流している。

『殿下、ありがとうございました。では、次の模擬戦の前に衛士の準備もありますので少し休憩を取りたいと思います。30分後には、開始いたしますのでそれまではお戻りください。』


格納庫 帝国斯衛軍第19独立警護小隊

悠陽の演説を聞いた月詠 真那は、目に涙を浮かべていた。それは、部下である。神代 翼、巴 雪乃、戎 美凪も同様であった。演説を聞いた真那は決心する。

「神代、巴、戎、お前達に頼みがある」

「なんでしょう?真那様?」

「次の模擬戦、私1人で戦わせてもらいたい」

「「「なっ!」」」
その言葉に3人が驚く。

「そんな!どうしてですか!」

「そうです!何故ですか!」
皆が反論する中真那は、

「先ほどの富士教導隊の状況を見たであろう?我々4人で戦った所で結果は変わらない」

「ならば、何故!」

「殿下の言葉を聞いていただろ?我々帝国軍人は、『敵に背を向けるような者はいない』と
だからだ」

「それならば我々とて同じです!」
3人は言う。

「いや、これは私の我が儘だ。私は、武人としてあの者と戦いたいのだ。例え勝ち目がなくとも勝負したいのだ!」
そう言う真那の目には強い決意が宿っていた。

「真那様・・・」
その強い決意の前にさすがに3人は何も言えなくなる。

「何時になく凄まじい覇気だな」
後ろから声が聞こえる。

「真耶か」
真那が声をかけた人物の名を言う。他の3人は避けて敬礼をする。

「お前がそこまでの決意をするとは、そこまでして『アレ』と戦いたいのか?」
真耶が言う。

「ああそうだ」

「前の富士教導隊の結果を見ても戦いたいのか?言っておくが『アレ』は普通ではないぞ?」

「ああ、わかっている。『アレ』乗っている者が、どんな相手なのかも」

「ほう~」

「『アレ』に乗っている者は、人を『殺す』事に慣れている。いや、慣れているどころではないな。普通に生活する中で人を『殺す』事ができる者だ」
先ほどの富士教導隊の模擬戦の様子を見れば分かる。あれは、人を『殺す』ことに何の躊躇もせず、それに対しても何の感慨も受けない者のだと。

「そこまだ分かっていながら勝負するのか?」

「愚問だな?それが、我が斯衛の、帝国軍人の『誇り』だ」
真那はそう言い切った。

「そこまで決心しているのであれば、私から言う事は何もない。ただ、一言だけ言わせてもらう」
真耶は、一呼吸おいて、

「あの者、『鴉酉少佐』は、掛け値なしの『バケモノ』だ。覚悟して挑め」
真耶の言葉に、

「ああ、承知している」
真那はそう答える。

「そうか、では私は戻るとする。武運を祈る」
そう言い残して真耶は、その場を後にした。


格納庫 鴉酉サイド

「とっつぁん?機体はどんな感じだ?」

「ああ、問題ねえ。あれだけ無茶なことをしたのに異常は見あたらねえ」

「そうか」

「で、装備はどうするんだ?今更だが、何を使ってもお前さんが勝つのは目に見えているがな」

「そうだな・・・。長刀を頼む」

「長刀な?それ以外は?」

「いや、必要ない」

「いくらお前さんでも相手を舐めすぎじゃないのか?」

「いや、それだけでいい。おそらく、向こうも同じ考えだろうからな」

「何でそんなことがわかるんだよ?」

「しかも『1人』で来るはずだ」

「おいおい、いくらなんでもそれはねえだろ?根拠は、なんだ?」
そう尋ねてくる松平に、

「俺の『勘』だ」
と俺は答えた。その言葉に対して松平は唖然としていた。


演習場

市街地の広場にたった1機だけで立っている赤い塗装がされた『武御雷』が、長刀を地面に突き立てて相手を待っていた。
そこに、対戦相手の白い塗装がされた『不知火弐式』がやってくる。装備は同じく長刀一本のみ。

『またせたな』
鴉酉は真那に言う。

『いや、そうでもない』
真那が答える。

『それにしても何故長刀だけしか持って来なかった?』

『お前さんも長刀だけだが?』

『質問しているのは私だが?まあいい。殿下の演説を聞いた今、私が戦う理由はただ1つ帝国軍人としての『誇り』それだけだ』
真那は決意を秘めた口調で言い切る。

『なるほど。俺の『勘』は、当たった訳だな』

『勘だと?』

『ああ。あの演説を聞いた後に帝国の軍人、とりわけ斯衛軍ならばその『誇り』の強さから1人で相手と戦いたいと思うはずだ。ならば隊長である者がそれを担う。
そして、装備は長刀しか使用しないはず。日本は近接戦闘に特に重きを置く。とりわけ斯衛はそれが顕著だ。違うか?』
鴉酉の言葉に真那は舌を巻く。この者の洞察力が如何に凄まじいか実感した。

『お前の言う通りだ。私は、お前と1対1で勝負したいと思った。だが、そこまで読んでいながら何故、長刀しか持って来なかった?』

『なに、たまにはこんな戦いも悪くないと思って。』
鴉酉の言葉を真那は静かに聞く。

『どんなことをしてでも相手を倒す様な戦いしかして来なかった俺としては、こんな戦いを1度はしてみたいと思った。それだけだ』

『そうか』
真那が短く答える。

『さて、そろそろ始めるとするか』
その言葉に真那は地面から長刀を抜いて構える。鴉酉も背部の長刀を取り構える。

『日本ではこんな勝負の時は、互いに名乗り合うだろ?』
鴉酉が尋ねる。

『ああ、そうだ』
真那が答える。

『ならそうするか。日本帝国軍少佐 鴉酉 連也』

『日本帝国斯衛軍中尉 月詠 真那』

『いざ』

『尋常に』
『『勝負!!!』』
その掛け声と共に互いに相手に向かって行った。



[31421] 第14話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 03:04
白と赤が激しい攻防戦を繰り広げている。

片や帝国斯衛軍として代々将軍家及び五摂家の守護を担当する有力武家の出身としての『誇り』を持ち戦う者。
 片や物心ついた時から常に戦場にあり多くの者の命を奪い、命はもっとも価値のない物と考えるようになりながらも、ただ『生きる』為に戦う者。

 両者の戦いに対する考え方はまったく違う。誰かの為に戦う、自分の為に戦う。
だが、その違いが真那にいつも以上の力を与えていた。


演習場

『はあ!』
真那が上段から振り下ろした長刀が、鴉酉が長刀で防ぐ。それを鴉酉が受け流し下段から切り上げる。真那がその一撃を防ぎ距離をとる。

『中々どうして、やるものだな』
鴉酉が感心したように言う。

『貴様もな。どうやらその力は機体のせいばかりではないようだ』
真那は実際に刃を交えてみてそれを感じていた。
訓練などで培ったような力ではなく、実戦で培われた力だ。

それゆえ攻撃が常に相手を『殺す』気配を帯びている。このような事は、一朝一夕で出来るようになるものではない。

『貴様の人生は『常在戦場』の人生か!』
真那は、長刀で横に薙ぎ払う。鴉酉が後方に下がり避ける。

『心構えだけではない、『常に』戦場にいる人生だ』
そう言うやブースタで一気に間合いを詰めて切りかかる。真那がそれを受け止め鍔迫り合いになる。

『そんな人生に疑問を持ったことはないのか!』
機体が鍔迫り合いで揺れる。

『ない。物心付いたときからこの身は戦場に在った。そこに、疑問など生まれるはずもない』
鍔迫り合いで真那を押し切る。バランスを崩した所に切りかかる。片膝を付いて真那がそれを防ぐ。

『お前は、どうなんだ?自分の人生に疑問を持ったことはないのか?』
鴉酉が尋ねる。苦悶の表情の真那は、

『私の家は、代々将軍家及び五摂家の守護を担当する有力武家しての務めを果たしてきた。それがこの国を、民を、守ることになると信じてきた。それは今も、そしてこれからも変わらない!』
真那は、続けて言う。

『先ほど殿下は言われた。どんな相手であろうとも敵に背を向けたりはしない、そう信じて下さっている!それこそが、私の誇りだ!!』
そう言い切った瞬間、真那は跳躍ユニットを点火。鴉酉を押し切る。2人の距離が離れる。

『そうか・・・。信じる者の為に戦う。それが、お前の戦い、生き方か』
真那の話を聞いた鴉酉は、

『俺は、誰かを信じたことも、また誰かの為に戦ったこともない。だからお前の考えは俺には分からない』

『だが、戦いに対する考え方が俺とお前まったく違うが、唯一同じ物がある』
鴉酉が一旦間を置いてから話す。

『それは、『生きる為に』戦っていることだ。誰かの為に戦う、自分の為に戦う。どちらにも共通しているのがそれだ』

『そして、今のお前に力を与えているのが、信じる者の為に戦い、その誇りの為に『生きる』という意志が、俺と戦う力を与えている』
鴉酉は長刀を構える。

『ならばそれに答える為に、俺の力を見せてやる。誰かの為でなく、俺自身が生きる為に手に入れた、俺の為の力だ!』


模擬戦見学席

モニターには2人の凄まじい攻防が映し出されている。会場の皆がそれにクギ付けになっていた。


「伊隅」

「はっ。何でしょうか副指令?」
モニターを見ながら香月が尋ねる。

「あんた達は、鴉酉とあんな風に戦える?」

「いえ、ヴァルキリーズ全員で掛かっても少佐には及びません」

「でも、月詠中尉は戦えている?その差は、何かしら?」

「そ、それは・・・」
香月の言葉に伊隅は口ごもる。

「いいわよ答えられなくても。でも、いつか見つけなさい。その答えを」
伊隅にそう言うと香月は再び視線をモニターに戻した。


「信じる者の為に戦う力と己の為に戦う力か・・・」
モニターを見ながら帝国本土防衛軍帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊所属の沙霧 尚哉はそう呟く。
自分が信じた者は既にこの世にはいない。将軍を蔑ろにして統帥権干犯を繰り返す内閣や軍上層部を信じることなど出来るはずもなかった。

しかし、先ほどの殿下の演説でまだ信じる事が出来る者がいたことを再認識することができた。
そして、今繰り広げられている映像に映る不知火弐式を観て沙霧は、

「あの力があれば、BETAを日本から駆逐し、殿下と日本を守ることが出来る」
その為には今以上に己の力を磨かなくてはならない。モニターを観ながら沙霧そう考えた。


モニターに映る映像に唯依は目が離せなくなっていた。
今の自分ではあの2人の足元にも及ばないそれが悔しくもあるが、それと同時に不知火弐式の性能の高さが証明されたことに対する嬉しさもあった。
(もっと自分を磨いてあの機体を自分の手足のように使えるようにしなければ)
そう決心しモニターを見つめる唯依であった。


鴉酉が力を見せると言ってから月詠は防戦一方になっていた。
管制ユニット内で荒い呼吸をしながらモニターに目をやると機体各所が赤い表示を示し異常警告のアラームが鳴っている。
(こんなになるまで戦ったのか私は)
信じられない状態に月詠は感心した。疲労で意識も朦朧としてきている。京都防衛戦でもこんな風にはならなかったのに。
(鴉酉少佐はすごいな)
そんな事を考えて目の前の相手を見やる。
(だが・・・・、最後に今一度!)
途切れそうになる意識を繋ぎ止め、残り少ない推進剤を全て使い跳躍ユニットを点火する。最大速度で相手に向かっていく。凄まじいGが掛かる。

『はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
気合の声と共に真那は長刀を振り下ろす。


『はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
気合の声と共に真那は突撃し長刀を振り下ろしてくる。
俺は、それを受け流し、返す刀で決着をつけるつもりだった。
だが、真那の長刀を受け止めようとした瞬間、

「!!!」
俺は、その攻撃を回避した。そして、

「ん?これは・・・。そうか、まったくやるものだな」
俺は、動かない武御雷を見て通信を繋ぐ。

『管制室聞こえるか?鴉酉だ』

『はい。聞こえます少佐。どうかされましたか?』
通信士が答える。

『模擬戦は終了だ』
鴉酉の言葉に通信士や会場にいる者、皆が目を丸くする。

『どうしてですか?まだ、撃破判定は出てませんが』
通信士が繰り返し尋ねる。

『さすがに気を失っている相手に止めはさせん。すぐに回収に来てくれ』
鴉酉の言葉に通信士は真那のバイタルデータを確認する。確かに気を失っているようだ。

『分かりました。すぐに回収に向かいます』
通信士がそう答えて通信が切れる。俺は武御雷に近づくと管制ユニットから出る。
そのまま、機体の腕を伝って武御雷の管制ユニットを外部から開放する。中から気を失った真那が出てくる。真那を抱きかかえると管制ユニットから地面に飛び降りる。
回収班がこちらに向かってくるのが見える。それを確認して真那の顔を見る。

(さっきまであれだけの戦闘をした者の顔とは思えん可愛い顔じゃないか)
俺はそんなことを思いながら真那の顔を見る。
そして、空を見上げながら


「何処の世界でもそうだ。人は誰しもが『生きる為に戦っている』。」
誰かに言うわけでもなく鴉酉は1人呟くのだった



[31421] 第15話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 03:05
模擬戦は大成功のうちに終了した。各国の関係者はこぞって巌谷に質問してきた。
「『不知火弐式』(TSF-TYPE94Mk-II)のライセンス生産の許可料はどのくらいになる?」
「『ステルス装置』の技術は公開するのか?」
「新型兵装は他にもあるのか?」
「新OSへの換装だけなら時間を掛けずに戦力強化に繋がるんですよね?」
と言った質問が相次ぎその対応に追われていた。
本来であれば開発に関わっている、鴉酉や唯依も一緒に対応するはずなのだが、

「悪いが俺は元来『傭兵』だ。そういった事は、『契約』内容にないから断る」
と都合よく『契約』と言う言葉を持ち出して断った鴉酉。

「いつもふざけた事を言っている余裕があるようですからお1人で対応してください」
といつものお返しとばかりに断る唯依。

「ちょ、ちょっと!皆さん!落ち着いてください!順番にお答えしますから!」
と対応に苦心する巌谷の姿があった。


技術廠 医務室

「んっ。ここは・・・。」
たしか鴉酉少佐に向かって行って・・・・・どうなった?

「目が覚めたようですね」
とそこに聞き知った声がすぐ側から聞こえる。

「で、殿下!」
真那が驚く。それは、そうだ。気が付いて見れば側に悠陽いるのだ。真那は慌てて起き上がろうとするが、それを悠陽が止める。

「よいですそのままで。気を失うまで戦ったのですから少しお休みなさい」
悠陽にそう言われてはしょうがない。真那は大人しくする。

「そなたの戦いぶりは見せていただきました。斯衛の名に恥じぬ素晴らしいものでした」

「勿体無いお言葉」
真那はそう返す。

「そして、そなたの『誇り』高さも同時に見せてもらいました。将軍としてこれほど己の生き方に『誇り』持つ者がいることは、臣下にいることは喜びも一入です。どうか、これからもその気持ちを忘れずに励んでください」
その言葉に真那は目頭が熱くなるのを感じた。

「はっ!この月詠これからも粉骨砕身己の任務を勤めさせていただきます」
真那はそう悠陽に返した。


医務室の外では、2人の男が立っていた。

「いい関係だな。互いが信じあえている。俺はそんな事とは無縁だったから羨ましくも思う。」
鴉酉が素直な感想を口にする。

「月詠家は代々将軍家及び五摂家の守護を担当する有力武家、とりわけ煌武院家の警護が主の為かその気持ちが人一倍強いのやも知れんな」
紅蓮がそう答える。

「武家社会。今でも俺には理解できない社会だ。だが、ああ言う主従関係を見るとそれほど悪くないのかもしれんな」

「どんな社会になろうとも不平、不満は存在する。お主の世界もそうであったろう?殿下が如何に国民から慕われていても快く思わぬ者も存在する」
紅蓮はそう言う。

「だからこそ身近に信頼できる者がいることが大きな支えにもなる。お主にも前の世界ではいたのではないか?」
紅蓮が意味深い視線を鴉酉に送る。

「・・・・・1人だけいた。俺がネクストに乗れるように世話をしてくれた者が。そいつはいつも俺に対して厳しかったが、俺がすることに対しては反対はせずそれに付いて来てくれた。今思えばあいつは俺を信じていたのだと思える。もう会うことはないだろうがな」
鴉酉がそう言うと歩き出す。

「俺はこの辺で失礼させてもらう。機体の整備を見に行かないといけないのでな」
そう言い残し鴉酉はその場から離れる。一人残った紅蓮は、

「1人だけいたか・・・。だが今はどうかな?お主が気づいていないだけで、案外多くの者がお主を信頼しておるやもしれんぞ?」
鴉酉が歩いていった方を見つめながら紅蓮は意味深い事を口にした。


と外でそんなやり取りが行われている中、医務室では、

「ところで、真那さん?」

「はい。なんでしょうか?」

「鴉酉少佐に抱きかかえられている時は、どんな感じだったのですか?」
悠陽が尋ねてくる。

「えっ!抱きかかえるとはどういうことですか!」
突然の事に真那は驚く。

「ええ、そなたが気を失っている時に医務室まで運んできてくださったのですが、やはりわかりませんか?」

「は、はい。気を失っていたのであれば流石にどうと言われましても」

「そうですが。・・・・・・羨ましい事。私もしてもらいたいです」
最後の方は声が小さすぎて聞こえなかったが、

「はっ?殿下、最後の方が聞き取れなかったのですが何か?」
真那が聞き返すが、

「いいえ。何でもありませんわ。おほほほほほ」
と笑う悠陽の笑顔が若干黒かったことに真那は気づいていなかった。


格納庫に行くと今回の模擬戦に参加した富士教導隊やら帝国軍、在日国連軍の軍人が不知火弐式の前でたむろしている。

「とっつぁん、これは何の騒ぎだ?」
側にいた松平に尋ねる。

「ああ、模擬戦終了後に押しかけてきやがったんだよ。まあ、あれだけのもの見せられたら気になるだろうさ。自分達の乗る機体になるだからな」

「ちょっとまてとっつぁん?今の話だとそれは・・・」

「ああさっき篁中尉が喜び勇んで報告に来てくれたよ。政府が正式に不知火弐式の採用を決定したとよ」

「判断が遅い日本政府にしてはビックリなスピード決断だな。外国産機導入に反対する者達の反発はなかったのか?」

「どうやら殿下の演説が効いたようだぜ。あんなこと言われちゃさすがに採用せざるをえないだろ?実際、模擬戦の結果から見ても文句をつける馬鹿はいないだろよ」

「じゃあ、俺は今から機体の整備するから、お前さんはどうする?」

「少し外の空気を吸ってくる」
そう言うと俺は格納庫の外に出て行った。


外に出ると夕日が出ていた。綺麗な夕日だそれを見ながら俺は内ポケットから煙草を取り出して吸い始める。
この煙草はいつもお守り代わりに持っている物だ。前の世界から一緒に飛ばされて来た物でその為こちらの世界にはない種類の物だ。残りも少ない。(ちなみに製造メーカーは、『トーラス』である)

「何を黄昏ているのかしら?」
横から声が掛かる。振り向くと香月がいた。

「何、ちょっと一服しているだけさ」

「そう。今日の模擬戦はお疲れ様。それと、おめでとう」

「どうした?礼なんてして?ガラじゃないだろ?」
俺がそう茶化すと、

「うっさいわね。私が人を褒めるなんて滅多なことじゃないんだから。ありがたく受けなさい」

「わかった、わかった」

「まったく。・・・でも、今日の模擬戦だけどやりすぎじゃないの?」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味よ。特に『ステルス装置』に関しては、各国からの問い合わせが凄いわよ?私の所にも来ているみたいだしね」

「何故だ?帝国と国連の共同開発だろ?」

「あんたね~。それは表向きでしょ?各国の政府関係者から見れば、帝国と『第4計画』の共同開発よ」

「そりゃそうだ」

「で、その対策はしてあるの?」

「エネルギー消費が酷い」

「あんた自分でも言っていたでしょ?あんたがやった様な使い方が基本だって。それは、対策とは言わないでしょ?欠点よ」

「冗談だ。対策ならある」

「で、それは何?」

「レーダーだ」

「はぁ?あんた大丈夫?レーダーに写らないのに何で対策がレーダーなのよ」
香月が尋ねる。

「あの装置は俺の世界では既存技術だ。当たり前の技術なのに対策がないわけがないだろう?」

「・・・たしかにそうね。で、レーダーが対策って言うのは、どういう意味?」

「今日の模擬戦で俺が装備していたレーダーがあるだろ?あれには『ステルスセンサー』機能が付いている」

「ステルスセンサー・・・。あんたそんな物まで作っていたの?」

「ああ。これを使えばいくらアレを装備しても効果はない。無論ラプターも然りだ」

「だが、広範囲を感知するのは不可能だ。そのかわり効果はバツグンだ。俺の世界でもこれを掻い潜れるステルス技術は確立されていなかった。それが出来るくらいとなると『完全不可視』でなければ無理だろう」

「あんたの世界で完成できていない技術がこちらで完成できるわけないでしょ?出来たとしてもトンデモない時間が掛かるわ」

「という訳で、対策はしてある」

「その技術は公開するの?」

「ああ、する。が時期を見て発表する」

「その判断は?」

「この世界のミリタリーバランスがアメリカ依存から離れ始めるぐらいになってからだ。アメリカが絶大な力を持っている状態ではBETAを駆逐できてもデカイ顔をされる」

「弐式の輸出やライセンス生産は夏のハイヴ攻略戦後からでも遅くはないだろう。世界中に戦術機でのハイヴ攻略が可能だと証明してからの方が売れ行きが良いだろうからな」

「レーダーに関しては、『第4計画』に関わる所に配備するのみの形にする。そこが一番狙われる可能性が高い。
特に米国は、弐式の開発は『第4計画』が殆ど行ったと思っているだろうからな」

「『第4計画』を餌にするつもり?」

「ラプターが引っかかれば一番いい。そうなれば、米国に対しての大きなアドバンテージを取る事が出来る。人様の国で諜報活動をしていたと動かぬ証拠になる」
そこまで、言うと香月を見る。

「こういった駆け引きは、お前さんの方が得意なんじゃないか?」
俺は香月を見て言う。

「そうね。技術を知っていればあんたより上手に出来る自信はあるわ。でも、私の本来の仕事は『第4計画』の完遂よ。邪魔者は、あんたが排除しなさいよ?それが、仕事でしょ?」
香月が俺にそう言い返してくる

「違いない」
俺はそう答える。

「それじゃあ、私は戻るわ。たまにはこっちにも来なさい。伊隅達が会いたがっているわよ?」

「そんな風に思われるようなことをやったつもりはないが?」

「口では言わないだけよ。じゃあね」
香月はそう言い残してその場を去っていく。


香月が去ってから時を置かずに誰かがこちらに向ってくる。

「鴉酉少佐でしょうか?」
男は、そう尋ねてくる。

「ああそうだ。お前さんは?」
鴉酉が尋ねると、

「自分は、帝国本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連隊所属の沙霧 尚哉大尉であります」
沙霧と言った男は敬礼して名乗る。

「俺に何か用か?」

「少佐は、己の為に戦うという考え方をしているのを承知して伺いたい。
我々は、軍人です。軍人であれば命令は絶対です。
ですが、少佐の考え方は己の為にならなければ戦わないという風に聞こえます。貴方は、殿下の命も己の為にならなければ従わないのですか?」
 沙霧は厳しい視線を向けてくる。

「逆に聞こう。何故己の為に戦っていけない?」
 その答えに、沙霧は怒りを露にする。

「あ、貴方は!アレだけの力がありながら!それを帝国や殿下の為には使わないと言うのですか!それが、帝国軍人の言う事ですか!」
 この男も結局は、将軍を蔑ろにして統帥権干犯を繰り返す内閣や軍上層部の人間と同じなんだと。沙霧は軽蔑した。

「沙霧大尉、お前さんの上司は誰だ?」
と突然鴉酉が尋ねてくる。

「私の上司は、彩峰 萩閣中将です」
沙霧が答える。その名を聞いた鴉酉は、

(彩峰 萩閣・・・たしか、朝鮮半島撤退支援作戦・光州作戦において、敵前逃亡の罪に問われ、投獄・銃殺刑になった人物だな)
もちろんそれは表向きの情報で本当は、脱出を拒む現地住民の避難救助を優先する大東亜連合軍に、国連軍指揮下の彩峰中将が同調し協力したため、結果的に国連軍司令部が陥落。指揮系統の大混乱を誘発し、国連軍は多くの損害を被った。

それを国連が猛抗議し、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求事態になった。
国連の要求に従えば軍部の反発は必至、逆らえばオルタネイティヴ4が失速すると考えた内閣総理大臣 榊 是親が、最前線を預かる国家の政情安定を人質に、国内法による厳重な処罰という線で国連を納得させた。その結果が、敵前逃亡の銃殺刑だ。
鴉酉はもちろん真実を知っているので、彩峰 萩閣と言う人物は部下からもまた軍内部
でも人望が扱ったのだと想像できる。それは、この男を見れば分かる。

「沙霧大尉、軍人は命令が絶対だと言ったな?では、何故中将は、命令を無視して現地住民の避難救助を優先した?そんな事をすれば現場が混乱するのを分からなかったはずがないだろ?」

「そ、それは・・・」

「それによって日本の立場が国際的に危うくなることも分からなかったはずがない。では何故その様な行動に出た?相手は、帝国の国民ではないのに?」

「・・・」
沙霧は黙り込む

「それは、彩峰 萩閣が軍人である前に1人の人間だったからではないのか?目の前で助けを求めている人を見捨てることが出来なかった。
おそらく中将の中では葛藤があったんじゃないのか?日本と現地の人々どちらを取るか、だが中将は現地の人の為に動いた。自分が人間だからそうした。
結果、その人々は救われた。だが、その行為が結果として日本の立場を危うくした。それがどれだけの大事かお前さんはわからないか?中将の取った行動は、人間としては正しかったが、軍人としては間違っていた。命令に違反しおまけに甚大な被害を出しながら降格や左遷程度で済むと思うか?ましてや中将の職にあるものが軽い刑で済んだら軍の規律が乱れる。銃殺は当たり前だ。
そして、中将もそれは覚悟していたはずだ。だが、後悔はしていなかったはずだ。何故ならそれは自らの『意志』で選択したことだからだ」

「『意志』・・・」
沙霧が呟く。

「そう『意志』だ。沙霧大尉、軍人であるお前が自分を表現できるものはなんだ?」

「自分を表現できるもの・・・」

「それは・・・・戦う事です。自分は軍人です。それしかありません」
沙霧が答える。

「そうだ。軍人はそれしか方法がない。だが沙霧大尉、俺やお前は政府や軍部の命令を聞く道具か?違う!俺達は道具じゃない!感情がある、意識がある人間だ!戦う事でしか自分を表現できないが、いつも自分達の『意志』で戦ってきた!」
鴉酉はそこまで話すと一旦間を置き、

「最初の問いに対する答えがそれだ。命令の有無ではない。俺は戦う事しか出来ない。だが、それは俺の『意志』がそうしている。それが周りには自分の事しか考えていないと思われようが関係ない。そして、後悔もしていない」

「お前さんは、どうだ?今のままではただの道具のだ。だが、自らの『意志』で戦うと決めたら覚悟をしろ」

「覚悟・・・」

「そう覚悟だ。お前が自らの『意志』で戦うと決めた時にそれがどのような結果を生むのか。
その結果、お前自身がそれによってどうなるのか。周りがどうなるのか、どう思われるのか、それが正しいのか、正しくないのか。よく考えることだ。周りが皆自分と同じだとは思うな。人は皆考え方が違う。自分の考えを人に押し付けるな。責任は自分で果たせ。」

そう言い残して鴉酉はその場を離れた。



[31421] 第16話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 03:07
模擬戦が終わり新型開発に一区切りがついたある日技術廠で仕事をしていると香月博士から通信が着たとの連絡を受けて鴉酉は何かあったのか?そう思いながら通信室に向かう。


技術廠通信室

『忙しい所悪いわね』

「いや、構わない。それよりどうかしたのか?」
鴉酉が尋ねると

『ええ、ちょっとね。説明は鎧衣課長がしてくれるは』

「鎧衣課長が?」
そうするとモニターに鎧衣が出る。

『やあ、少佐。すまないね。実は今回用があるのは私の方なんだ』

「何故博士の所から?」

『ああ、今回の用件の内容を博士に確認してもらい。博士が君にも聞いてもらうほうが良いと言われてね』

「で、その内容は」

『うむ。米国で昨年から新型のF-22A ラプター先行量産型が実働部隊での運用を開始されたのは知っているだろ?』

「ああ知っているが、それがどうかしたのか?」
俺が尋ねるとその問いに香月が、

『つい最近なんだけど、米国で小隊編成のラプターが演習中に撃墜されたの。しかも。全機ね』
香月がそう答える。それには俺も少なからず驚いた。

「全機撃墜だと?一体何があった?」

『それがわからないのよ。この世界で今そんなことが出来る機体は、あんたのネクストか弐式しか考えられないけどまずそれはありえないでしょ?』

「ああ、ネクストはしばらく動いていないし大体アメリカに俺は行ってもいない。弐式にしてもまだ、輸出もライセンス生産していない状態だ」

『でしょうね。だから、不思議でしょうがないのよ。米国政府はどうやら日本を疑っているみたいだしね。もちろん第4計画もね』

「例のステルス装置のせいか?」

『まず間違いないでしょうね。でも、それでもおかしいでしょ?』

「ああ。そうだ『撃墜』が引っかかる」

『米国政府も日本に疑いを掛けていますが、そこが引っかかるようで、表立って抗議にはなっていない状態です。』
鎧衣が補足する。ラプターのデータ収集ならそんな事をする必要がないのだ。
なぜ『撃墜』する必要があった?

「さすがにそれだけの情報では判断できないな」

『いえ、実はこれも聞いて貰いたいのです』

『何?そのデータは?』
香月が尋ねる。

『ラプターの音声記録です』

『どうやって入手した?』

『蛇の道は蛇ですよ』

鎧衣そう言ってデータを再生する。


『隊長!0時の方角に反応があります!』

『反応?何の反応だ』

『戦術機と思われる反応です!』

『思われる?詳しく報告しろ』

『見たことがない反応です!味方識別反応出ていません!米軍機ではないようです!』

『何、数は!』

『1機です!』
たった1機だけ?戦術機と思われる機体?

『了解した!各機!ステルス機能に問題ないな!』

『問題ありません』

『よし!では、接近するぞ!』

『見えました!』

『機体照合は!』

『機体照合・・・・該当する機体なし!』

『該当なしだと?どこかの新型か?』

『日本のTYPE94Mk-IIじゃないのか?』

『違います!まったくの正体不明機です!』

『通信を送れ!』

『了解!そこの所属不明機!所属と氏名を名乗り武装を解除せよ!』

『返答は?』

『ありません!』

『何?オープンチャンネルにしているか!』

『していますが繋がりません!』

『隊長!どうします!』

『接近して外部スピーカで接触を!』

『危険ではないですか!』

『我々の機体はステルス機だ!それに性能はF-15と戦って負けなしの性能だ!万が一も起こりえない!』

『了解!』

『そこの所属不明機!応答しろ!応答がなければ敵対行為と見なして!攻撃する!』

『駄目です!応答しません!』

『しかたない、威嚇射撃を行ない最後通告!』

『了解!』
突撃砲の音が聞こえてくる。

『直ちに武装を解除してこちらの指じ・・・なあ!』

『撃ってきやがった!』

『何だ!見たことがない兵器だぞ!』

『隊長!攻撃命令を!』

『よし!全機、攻撃開始!』
その声と共に銃撃戦の音が始まる。

『な、何だ!あの動きは!』

『信じられない速度だ!攻撃が当たらない!』

『一体どうなっている!レーダーから消えるぞ!』

『司令部!こちら・・・なんだ!』

『通信が使えない!』

『この辺一体に高濃度ECMが発生してます!』

『ECMだと!』

『くそ!・・・うあぁぁぁぁ!』

『何だ!どうした!』

『ラ、ランサー3が撃墜されました!』

『なっ、なに!』

『敵はこちらが感知できるのか!』

『ばかなそんわ・・・・』
その言葉を言い終える前に通信が切れる。

『ランサー2撃墜されました!』

『こ、こんなばかな!』

『敵、こちらに接近してきます!』

『見つかったのか!敵にはこちらが分かるのか!』

『理由は分かりませんが、その様です!』

『くそ!迎撃するぞ!』

『了か・・・・』
近くから爆発音が聞こえる。

『なっ!何処から攻撃が!』

『あれか!くそ!バケモノめ!喰らえ!』
突撃砲の音が響く。

『何だ!あの速度は!レーダーからきえ・・・があぁ!』
機体の異常を告げるアラームが鳴り響く。

『こ、こんなことが・・・』
最後に残った衛士が信じられないような声を出す。そして、次に聞こえてきた声に鴉酉は驚愕する。

『恨むなら喧嘩を売る相手を間違えた自分達を恨め』
その言葉の後データは終了する。


データの再生が終わり。香月が口を開く。

『映像はないの?』

『ECMのせいもあったようですが、全機が管制ユニットに直撃を受けて一撃で撃破されていたらしくてね。これもその残骸からようやく再生できた物ですから』

『そう、でも一体何と交戦したのかしら?』

『一応、撃破された機体の写真がありますがそれも妙なんですよね?』

『妙?どういうこと?』
香月が尋ねると鎧衣が写真を見せる。

『何これ?突撃砲で撃たれた痕じゃないわよ』

『そうです。どちらかといえば、強烈な『エネルギー』の何かを喰らった感じです』

『まさか、BETA・・・・なわけないわね。最後に声が聞こえたし』

『少佐は、どう思います?』
鎧衣が鴉酉に声を掛けるが、その表情は今までの彼からは想像できないような驚きの顔をしていた。

『ちょっと、どうしたの?』
香月が尋ねる。

『少佐?何か心当たりがあるんですか?』
その問いに鴉酉は、

『すまない。通信はこれで終わる』
急にそう言いだした。

『ちょっと、一体どうしたのあんたおかしいわよ?』

『ええ、少佐。何か気づいたのではないですか』

『通信はこれで終わりだ!!』
そう言って鴉酉は一方的に通信を切る。


通信を切られた香月達は

「あいつ何か知っているわね」

「ええ、そうでしょう。普段の彼からは考えられないような状態でしたから」

「予想外って感じね。しかも信じられないくらいのね?

「最後の女性の声を聞いた時みたいですが、知り合いですかね?」

「あいつに海外の知り合いはいないわよ?この世界に来てから半年も経ってないし、国外に出てもいないわ」

「ええそうでしょうね。私が言いたいのは、『少佐の世界』のと言う意味です」
それには香月も、

「ちょっとまちなさいよ?そんなことがあるわけ・・・」

「『ない』と言い切れますか?でなければ少佐のあの様子の説明が付きません」

「たしかに言われればそうだけど。でも、そんなことが・・・・・」
香月は次に続く言葉を飲み込んだ。普通なら2度も起こりえる可能性が低いことだったから。


通信を切った鴉酉は表情を青くしていた。そんなことがある訳がない必死に自分に言い聞かせていた。しかし、最後に聞こえて来た声はまちがいなく、

「セレン・・・」
自分の知る人物の声である。だが、問題はそれ以外にもある。ラプターが交戦した機体だ。
データの内容、セレンと思われる人物の声、ラプターを撃墜できる機体、それは、

「ネクスト・・・」
しかし、セレンはオペレーターだ。いや、それ以前にこちらに来れるはずがない。おまけにネクストは乗れるはずがない。いや、セレンと決まったわけじゃ、だが、機体が・・・・


通信室の中で鴉酉は自問自答を繰り返すが答えはでなかった。



[31421] 第17話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 03:09
あの通信室でのやり取りの日から鴉酉の様子がおかしくなった。酷く思いつめた顔をしているのだ。周りの者もそんな表情を見たことがなかったので困惑している状態だった。


技術廠会議室

「一体何があったんだ少佐は?」
目の前に座っている鴉酉の様子に巌谷が隣の唯依に小声で尋ねる。

「数日前に国連の香月博士から連絡が来てからずっとあの調子です」
唯依が答える。

「話かけても上の空という感じだと、私も話しかけみたのですが、やはり・・・」

「同じ反応だった?」
唯依は頷く。

「もうすぐ2月だ。作戦まで半年。少佐がアノ調子では困るのだが・・・」
巌谷はそう言いながら片手で頭を掻き毟る。

「何か元気になる方法でもあればいいのですが」
そう巌谷と唯依が話していると、会議室のドアがノックされる。

「入りたまえ」
巌谷がそう答えると「失礼します」と職員が入ってくる。

「どうかしたのか?」
唯依が尋ねると。

「はい。今、国連の香月博士から連絡がありまして」

「香月博士から?」

「はい。現在。太平洋側から未確認機が接近中との報告がありまして」

「未確認機だと?何故それを香月博士が直接連絡してきたのだ?」
仮にも彼女は副指令の立場だ。余程でない限りそんな事はしないはずだが?
巌谷がそう感じていると職員は続けて、

「帝国軍の方でも確認した所、それは超高速で接近中との事です」

「再突入型駆逐艦ではないのか?」
唯依が尋ねる。

「いえ。その様な連絡は入っていないようです。それに高度が低すぎるのとサイズが小さく戦術機サイズの反応だそうです」

「戦術機サイズ?超高速と言ったが、具体的な速度は?」
巌谷が尋ねる。

「え~と。時速1200 km/hほどとの事です」
その内容を聞いた鴉酉が急に立ち上がり、

「おい!今の情報に間違いないのか!」
いきなり職員の胸倉を掴んで問い詰める。

「ひぃぃぃ!ま、ま、間違いありません!確認もしました!」
職員は鴉酉のあまりの殺気に完全にビビってしまっている。

「ちょ!少佐!落ち着いてください!」
唯依が鴉酉を止めようとする。すると、鴉酉は、

「とっつぁん!」
いきなり松平に声を掛ける

「お、おう。何だ?」
いきなり呼ばれて松平も驚くが返事をする。

「今すぐにストレイドの出撃準備を!」
鴉酉の言葉に会議室にいる全員が驚く。

「少佐、一体どうしたと言うんだ?」
巌谷が尋ねるが、

「説明は後だ!おい!お前!今から日本の帝国軍基地、在日国連軍基地全てに『第一種警戒警報』を発令しろと連絡しろ!だが、絶対にこちらから攻撃は厳禁だ!いいな!」

「少佐!いきなり!何を言われるのです!」
唯依が驚く。周りもそうだ。

「もし出来ないとか抜かして来たら、情報省外務二課長 鎧衣 左近にその内容を連絡しろ!その時は、鴉酉少佐が言い出したと伝えろ。何とかしてくれる。わかったな!」
俺は職員に詰め寄る。

「は、はい!分かりました!」
その職員は逃げるように会議室を飛び出していく。

「鴉酉少佐!説明をしてくれ!どうしたんだ!」
巌谷が詰め寄る。

「中佐。急がないと手遅れになるかも知れないぞ?」

「手遅れ?一体何の事だ!」

「今、俺が状況を確認しに行かないと日本が『BETA以外の手で滅ぼされる』ということだ」
その内容に全員が驚愕する。

「少佐、一体それはどういう事なんですか!」
唯依が尋ねるが、

「説明している時間はない!とっつぁん!急ぐぞ!」

「お、おう!」
そう言い残して鴉酉と松平は会議室を飛び出していく。

「一体何が起こると言うんだ?」
巌谷の言葉は会議室にいる者全員の気持ちだった。


鴉酉が職員に告げた内容は、すぐに各所に連絡される。最初はやはり「そんなことは不可能だ」と返されたが、鎧衣課長に連絡後すぐに警報が発令される。それは正にBETAの日本本土進攻以来の一大事であった。



[31421] 第18話
Name: ゲイヴン◆cc611547 ID:738fc88c
Date: 2012/02/04 03:17
技術廠格納庫ではストレイドが発進準備に入っている。鴉酉はコックピット内で腕を組み目を瞑って考えていた。

(今日本に近づいて来ているのは、間違いなくラプターを落とした奴。予測では『ネクスト』だ)
戦術機サイズで時速1200 km/hも出しているのがその証拠だ。誰が操縦しているのかは確信がない。ならば、直接確認するまでだ。そこに松平から声がかかる。

『少佐!準備完了だ!何時でも行けるぜ!』

『ありがとうとっつぁん!』

『礼はいらねえよ。それより、気をつけろよ!』

『ああ、わかっている』
機体を滑走路まで移動させる。

『通信室、現在の所属不明機の位置は?』

『現在、牡鹿半島まで約1000kmの地点まで接近中、このまま西へ進めば帝都に到達します』
それを聞いた俺は、

(海上で接触した方が万が一にも被害が及ばない)
『了解した。何か動きがあれば連絡を』

『了解しました』
通信が切れる。


帝都城

日本に接近している所属不明機に対して『第一種警戒警報』が発令され場内にも緊張が走っていた。

「では、鴉酉少佐が確認に出たのですね?」
悠陽が鎧衣に尋ねる。

「どうやらその様です。しかも『第一種警戒警報』を各基地には発令させこちらからの攻撃の禁止も付け加えています」
鎧衣が答える。

「どういうことだ?何故攻撃を禁止するなどと?」
紅蓮が尋ねる。

「後から聞いた話ですが、少佐は自分が状況を確認しに行かなければ、日本が『BETA以外の手で滅ぼされる』と言ったそうです」

「日本が滅ぼされるだと!」
月詠が驚く。

「ええ。よほどの危急存亡の状態と見えます」

「なら何故!少佐は攻撃の禁止などと言い出した!この国の一大事に!」
月詠は抗議する。

「鎧衣、そなたは何か思い当たる所がありますか?」
悠陽の言葉に鎧衣は、

「ええ、少々。あくまでも私の考えですが、先日少佐とある話を香月博士と鴉酉少佐としたのですが」

「その話とは?」
紅蓮が尋ねる。

「米国で実働部隊での運用中のラプター4機全てが撃墜された話です」

「ラプターが全機撃墜だと?それは、本当か?」
月詠が尋ねる。噂程度には聞いているが、F-15相手に100回戦い負けなしとの眉唾な話だが、それだけの噂が出るほどだ。余程の高性能な機体だとは感じていた。

「だが、現在世界中でそんなことが可能な機体は、不知火弐式と・・・」

「ええ、鴉酉少佐のストレイド・・・『ネクスト』のみです」
鎧衣が紅蓮の話に補足する。

「鴉酉少佐が自ら出撃し確認。第一種警戒警報の発令。こちらからの攻撃の禁止。現在接近中の未確認機が、戦術機サイズで時速1200 km/hほどの速度で移動していること。これらから導き出されるものは・・・」
鎧衣の言葉に悠陽は、

「鎧衣、そなたまさか・・・」

「はい。相手はおそらく・・・・『ネクスト』です」
鎧衣の言葉に全員が衝撃を受けた。


仙台 国連軍基地

発令所内部は『第一種警戒警報』に伴い慌しくなっていた。司令官であるパウル・ラダビノッドも副司令の香月も皆、緊張した面持ちで状況を見守っていた。

「戦術機部隊の配置は?」
ラタビノットがオペレーターに確認する。

「各部隊全機配置に着きました」

「ピアティフ、A-01部隊は?」
香月の問いにピアティフは、

「A-01部隊不知火弐式全機配置に着いています」

「結構よ」
香月が答える。

「香月博士」
ラタビノットが声を掛ける。

「何でしょう?指令」

「今回の『第一種警戒警報』たった1機の未確認機の為だけに国連軍、帝国軍全基地に発令された。それほどの事なのか?」

「あの鴉酉少佐が厳命したほどの事です。しかも、自らが確認をするとまで言い出した事を考えれば余程のことなのでしょう」

「何故そこまで彼の言葉を信じる」

「鴉酉少佐は事、戦闘に対する感覚が常人のそれとは大きく懸け離れています。戦場では兵士の『勘』というのも重要だと考えます。司令の方がその辺のことはお分かりになるのでは?」

「うむ。確かにそうだが・・・」

「それに私は彼の事をこう考えているのです、生まれながらにして・・・『先天的に戦闘適正に優れた者』であると。そういった者の『勘』は当たるものです」
香月がそう告げるとラタビノットも「そうか」と返した。

香月は今回の相手にある程度予測が立っていた。鴉酉の今回の行動と前回の通信の事、ならばそこから導き出される相手は、

「・・・『ネクスト』」
誰にも聞こえないような小さな声で香月は1人呟いた。


石巻湾から60km洋上

『こちらレイヴン1。国連軍基地聞こえるか?』

『聞こえます。レイヴン1』
通信に出たのはピアティフだった。

『ん?中尉か?久しぶりだな。香月博士はいるか?』

『はい。今代わります』
そう言うと香月が出てくる。

『私よ。どうかしたの?』

『これからの音声、映像に関しての規制を頼む。鎧衣課長にも根回しを頼む』

『終わった後の後始末ね?わかったわ』

『通信回線は博士達の基地のみ常時開いて置く。そこにいる者にはしっかり口止めしろよ』

『ええ、問題ないわ』

『ピアティフ中尉をオペレーターとして借りるぞ』

『いいわ。ピアティフに戻すわね』

『少佐、よろしくお願いします』

『よろしく頼む。未確認機の現在位置は?』

『まもなく、牡鹿半島の上空を通過。しかし、少佐の位置ではズレていますが』

『いや、相手は俺に向かって来る』

『それは・・・あっ!未確認機方向を変更!少佐の方に向かってきます!』

『やはりな・・・』
俺が呟く。

『まもなく、接敵します!』
ピアティフの言葉後、機体のモニターにも相手が確認される。その機体は、

『やはり『ネクスト』か・・・機種は、インテリオル・ユニオン のTELLUS(テルス)の標準パーツ構成か?』
その機体は、鴉酉の目の前に来るとOBと停止する。
おかしい。カラード登録のインテリオル・ユニオンのどのリンクスの機体でもない。登録データにないのだ。
機体は桜の色の様なカラーリング、右手にレールガン、左手にレーザーライフル、レーザーブレード、背部にハイ・レーザーとレーダー、肩にECM発生器。
(知っているネクストではないな)
そう考えている所に香月から声が掛かる。

『鴉酉、あの機体は・・・』

『博士の想像の通りだ。あれは『ネクスト』だ』

『っ!やっぱり、そうなのね』

『ああ、どういう訳か知らないが俺の様になった同業者がいたらしい』

『知り合いなの?』

『いや、見たことがない機体構成の機体だ。もしかしたらカラード登録をしていない非正規ネクストかもしれない』

『で、どうするの?』

『とりあえず、ネクストの回線で通信を・・・ん?』

『どうしたの?』
香月が尋ねる。

『あの機体のエンブレムどこかで・・・』
そう思った俺は、今までに確認されているネクストのデータに該当するエンブレムの機体があるか検索してみる。そして、あった。が、

『何だと?機体名シリエジオ、オリジナルNo.16 霞スミカだと!旧レオーネの最高戦力か!』
だがデータにある機体とはパーツ構成が違う。

『何、そのオリジナルって?』
香月が尋ねる。

『前に『国家解体戦争』の話をしたな?その時の戦争に参加したリンクス、ネクストを操縦できる者の事だが、その内の1人だ』

『ちょっとまちなさい?てことは、国家を直接滅ぼした奴!』

『ああそうだ』

『また、トンデモない者が来たわね。でも、リンクスってなに?今ネクストを操縦できる者って言ったけど』

『操縦者と機体がAMSでリンクする。だからネクストに乗る者は、リンクスと呼ばれる。傭兵もそうだ』

『ああ、なるほどね。でも、あんたはリンクスって名乗ってないじゃない?』

『俺はその呼び方が嫌いだ。俺は自由な鴉でいたかったからだ。リンクスは『山猫』にも意味合いが掛けられる。所属する『カラード』は首輪、『首輪付きの山猫』なんてまっぴらだ』

『そう。で、目の前の相手はどうするの?知り合いじゃないのに、話してみるの?』

『オリジナルのリンクスは俺の時代にもまだ何人かいたが、霞スミカは謎が多い人物だったらしいからな。とりあえず話してみるさ』
そう言うと俺は通信回線を開く。ラプターのデータの声がセレンのように聞こえたのは、やはり俺の気のせいだったんだろう。

『こちらストレイド。そのネクストのリンクス、応答しろ』
俺が声を掛ける。するとモニターに相手が映しだされる。その顔を見た俺驚愕して目を見開いた。

『セ、セレン!』
俺は思わず叫ぶ。かつてのパートナーが目の前にいることが信じられなかった。しかし、目を開けた人物はどこかおかしかった。目のハイライトが消えている。モニターに映る俺の顔さえも見ていないような感じだ。

『おい、セレン!一体どうした!何故、ここの世界にいる!どうやってネクストに乗っているんだ!おい!返事をしろ』
俺がそう叫んでいるとセレンがようやく口を開く。

『・・・なんでお前が生きている?』
セレンはそう俺にそう問いかける、

『あいつは・・・死んだんだ。・・・私のせいで』

『セレン!俺は生きている目の前にいるだろ!』
俺はそう話しかけるが、セレンは聞いていない。

『私がもっと注意していれば・・・あいつは死ななかった。・・・私のせいなんだ』
うわ言のように言葉を言い続けるセレン。

『あいつがいなくなってから私の生きる意味がなくなった・・・。それからの私は部屋に篭りきり酒びたりの日々が続いた。・・・それからどのくらいの時間が経ったか分からないが、ある人物から連絡が来た。そいつはORCAのオールドキングだった』
それを聞いた俺は首を傾げた。何故オールドキングがセレンに?そんな、疑問が浮かんだが、次のセレンの言葉は予想していなかった内容だった

『オールドキングは、私に『クレイドル03破壊』を一緒にしないかと言って来た』
クレイドルの破壊だと!それには流石に俺も驚きを隠せなかった。
たしかにORCAのやろうとしたこともクレイドルを空から降ろすものだから人のことは言えないが。だが、破壊となればそれはただの『虐殺』だ。

『無論私は興味がないと言って断った。が、あいつの次の言葉に私は驚いた。オールドキングは私が『霞スミカ』だと知っていたんだ』
なんだと!俺は驚く。セレンが『霞スミカ』だと?

『そして、奴はこう言って来た『ORCAのやり方はぬる過ぎる。革命など、結局は殺すしかないのさ・・・だろう?なら、もう一度自分の手で革命を起こして見ないか?なぁ、『霞スミカ』?』

『私はそれを聞いて思った。あいつに出会い『生きる』事の素晴らしさを教えてもらった。だが、私のせいであいつは死んだ。あいつのいない世界に私は興味がなかった。・・・あいつがいない世界などいっそのこと・・・』

『まさか・・・セレン・・・』
俺の声は震えていた。

『私はその『依頼』を受けた。昔の自分の機体に現在のパーツを組み込んで私は・・・『霞スミカ』に戻った。
それを聞いた俺はショックで何も言えなくなる。

『クレイドル03を破壊した私達は、その後もいくつかのクレイドルを破壊した。だが、企業も黙ってはいなかった。偽りの依頼で私達を誘き出し抹殺に来た。
その戦いでオールドキングは死んだ。だが、そんな事は私にはどうでもいい事だった。私は抹殺に来た、ステイシス、アンビエント、レイテルパラッシュ、フィードバックを撃破した。ステイシスがいたことには驚いたが、奴はカラードに潜伏する為にオッツダルヴァを演じていたテルミドールが乗っていた。ORCAの名を貶めた私が許せなかったらしい。下らんことだ』
セレンは吐き捨てるように言い放つ。俺はそれだけの上位ランカーを相手に全て撃破したセレンに驚いた。

『そいつらを片付けた後は、残りのクレイドルを全て落とした。その頃には私は周りから『人類種の天敵』なんて呼ばれるようになっていた。』
人類種の天敵・・・まさかセレンがそんな事になっていたなんて思いよらないことだ。

『生きていた人間を始末してもう殺すことも飽きてしまった後、最後に始末しなくてはいけない奴がいることを思い出したんだ。・・・『セレン・ヘイズ』だ』

『!!!!!』
その言葉に俺は驚く、まさか、セレンは!

『あいつを殺した奴を生かしては置けない、そう思った私はセレン・ヘイズに銃を向けて・・・』
そんな・・・セレンは自分を・・・殺した。

『気がつけば私は北米にいた。どうしてそんな所にいるのか分からなかったが、向こうから見たことのないノーマルが私に向かってきた。そうしたらそいつらは、ここは『アメリカ』だとか言い始めた。アメリカなんて国は、私達が滅ぼしたのに、そう考えているといきなり攻撃してきたんだ。どうやら企業の差し向けた部隊のようでな、相手がネクストなのに馬鹿なことだ。たった4機だけだったので少し遊んで始末した』

『それから周りを確認するとコジマ汚染がないことに気がついたんだ。私は驚いたよ。少し移動した所に町もあって機体から降りて見ると本当に汚染がない。町を歩いて拾った新聞を読むと国連が存在して国家が存在しているんだ。
 私、何が起こったのかわからなかったが1つだけ気がついたことがあった。』
その次の言葉を俺が気にしているとセレンは笑顔になった。
しかし、その笑顔はすさまじい狂気に満ちたものだった。その笑顔を見た瞬間、今まで戦場で感じたどの恐怖よりも恐ろしかった。

『また、『国家を滅ぼせば』いいということに気がついたんだ。だってそうだろ?そうすれば、またあいつが『私のリンクス』が現れる!また同じように私が育てればいい!今度は失敗しない!』
もはや言っていることが滅茶苦茶である。精神に異常を来たしてしまっているのは確実だ。

『手始めにアメリカでもよかったんだが、まず始めに『日本』を滅ぼそうと考えた。前の時も最初に滅ぼしたからな?』
それを聞いた俺は思わず叫ぶ。

『馬鹿な事はやめろ!セレン!そんな事をしても何も変わらない!』
俺がそう叫ぶが、

『誰だ?どうして、『私のリンクス』の顔をしている?』
セレンはそう俺に言ってくる。

『俺だ!わからないのか!』
俺は訴え続けるが、

『何を言っているんだ?『私のリンクス』とはこれから国家を滅ぼしてから会うんだ。』

『馬鹿なことを言うな!俺は生きている目の前にいる!目を覚ませ!セレン!』
俺が訴え続けていると、不意にセレン表情が変わる。目つきが鋭くなり、俺でも引いてしまうほどの殺気を帯びている。

『そうか・・・お前は、企業が私を始末するために用意した『偽者』だな』

『セ、セレン!何を言っているんだ!』

『黙れ!・・・・・それ以上しゃべるな!『私のリンクス』の顔を使って『偽者』を作り、私の計画の邪魔をしようとするな!』

『セレン!正気に戻れ!・・・戻ってくれ!!』
説得を続けるが、セレンには届かない。

『『私のリンクス』は私の言うことなら何でも聞いた!お前のような『偽者』とは、違う!・・・貴様は・・・私の計画を邪魔する障害だ!』
もはや何を言っても届かない。そんな、俺に香月から通信が来る。

『何してるのあんたは!早くあいつを倒しなさい!』

『馬鹿なことを言うな!あいつは、セレンだ!』
俺は反論するが、

『馬鹿なこと言ってるのはあんたの方でしょうが!あいつをこのままにしたら世界が滅ぶわよ!そんなことも分からないわけじゃないでしょ!』
香月の言うことはもっともだ。だが!レバーを力の限り握り締めて下を向いて歯を食いしばる俺に対して、

『敵!攻撃態勢に入ります!』
とピアティフが伝えてくる。俺は「はっ!」として目の前を向く。

『消えろ!イレギュラー!!』
セレンが俺に向かって銃口を向けた。


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