ヴヴヴヴヴ ヴヴヴヴヴ ヴヴヴヴヴ・・・
・・・んん・・・電話・・・か?
ふあぁ・・ん、よく眠ってるな・・・よし
んしょ、と
「はい、こちら株式会社冬馬曜子オフィス欧州支部の北原です」
「開桜社・・・?日本の?」
「あぁ、日本語で大丈夫・・・」
「ところであんた新人か?今何時だと思ってる?」
「そっちではな。でもこっちは夜中の2時半だ」
「さっき眠ったばっかなのに、そりゃ不機嫌にもなるだろ」
「いいよ、もう。起きたし。で、用件は?」
「・・・来月出るブルーレイの特集?・・・あぁ、そういえばそんなもんも出るんだったな。そういうのは日本にいる・・・」
「え、インタビュー?・・・はぁ、冬馬曜子がこっちに直接聞けと・・・まったくあの女は・・・」
「・・・いいよ、受けるよ」
「あぁ、いいって言ったんだ。ただし条件がある」
「そう、条件。一つ目、取材は必ずこっち、欧州支部で受ける。日時はこっちの時間で1週間後の正午」
「そういう問題じゃない。動くのが面倒なだけだ」
「二つ目、手土産にラスカルのなめらかプリン10・・・12個」
「三つ目、取材に来るのは、なんてたっけなぁ・・・なんとか麻理って人で」
「そうそう、風岡麻理。新人でも知ってるんだなぁ」
「そんなのは知らん。そっちの都合だろ」
「ダメだ。あそこのプリンが久々に食べたいんだ・・・と、冬馬かずさが言ってた」
「そうか。じゃあこの話はなかったということで」
「あぁ、あと最後の条件。今後この件についてはこっちへの電話やメールは禁止。
確認したい事なんかは冬馬曜子へ聞いてくれ。冬馬曜子へは内容を伝えておくから」
「そうそう、やっぱりキャンセルとか、当日風岡麻理以外の記者が来たら、今後開桜社からの取材は全部断るから」
「じゃ、そういうことで」
ピッ
あー・・・勝手に取材受けちゃったけど、来週なんかあったっけ?
自分のスケジュールなのに全然覚えてないや
まぁいいや、春希に頼んで一日オフにしてもらおう
「もしもし、母さん?頼みたいことがあるんだ」
春希は怒るかな?
何で起こさなかったって、何で勝手に電話に出たって、何で勝手に取材を受けたって
だってしょうがないだろ?
さっき寝たばっかなのに
気持ちよさそうに寝てるのに
その寝顔をずっと見ていたいのに
起こせるわけないだろ?
「そう風岡麻理、だったっけ?春希に仕事を教え込んだ人」
真面目で堅物で説教くさい春希に仕事中毒を追加した人
合ったらまず文句を言ってやろう
あんたのせいで春希が家にまで仕事を持ち込むようになったんだぞ、って
「あのときみたいにさ、今度は逆に春希を驚かしてやりたくて」
あたしはさ、やっぱり春希の役に立ちたいんだ
この安らかな寝顔を守るくらいは、許してくれるよな?
なぁ、春希
「うん、ありがとう。じゃあまた連絡するから。無茶しないでくれよ」
・・・
「お前本当に北原、なのか?」
「お久しぶりです・・・麻理さん・・・」
「冬馬かずさの担当マネジメントで北原って言うからまさかとは思っていたけど・・・」
「その『まさか』です。俺もビックリしてます・・・まさか麻理さんが来るとは・・・」
「え、だって今日は北原の方からの逆指名だって聞いてるわよ。しかも手土産まで指定して」
「え、俺のほうも先週冬馬かずさがいきなり今日を一日オフにしろって、さらに昨日になって今日取材受けてるからって・・・」
作戦成功
生で見られない母さんには悪いけど、さっさと元気になってこっちに来ない母さんも悪い
でもこのビデオはしっかり取れてるのか?
春希の顔は映ってるけど、うーんわからん
まぁいいか
「あ、おいかずさ!どういうことなんだよ、これ!お前が仕組んだ事か?」
「北原ちょっと待って。初めまして冬馬かずささん、開桜社の風岡・・・」
「違う」
「えっ」
そうだ、あたしはこの人に言ってやることがあるんだ
「『冬馬かずさ』じゃない、『北原かずさ』だ」
北原春希の妻として、この人にまず文句を言うんだ