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[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 プロローグ (ゼロの使い魔再構成 主人公最強) ※ 更新凍結のお知らせ
Name: 秋雨◆47235915 ID:7652cdcd
Date: 2009/03/30 00:05
注意:この作品は、タバサメインの再構成です。
   作品構成の設定上ルイズに対してヘイト気味、そして全体的にご都合主義を感じるような設定、表現があります。
   ルイズ好き、もしくはサイト×ルイズ絶対主義、また最強系やタバサが嫌いという方は、読まないことをお勧めします。
   また、完全オリジナル要素もあるため、それらが嫌だという方も同様です。
   以上、これらに当てはまらない方のみで申し訳ありませんが、この作品をお楽しみください


お知らせ:いつも楽しみにしてくれる方、覗いてくれた方。
     この場を借りて、お礼を申し上げます
     
     そういう方々には申し訳ないのですが、
     片方の執筆もあるのですが、今あるネタがマンネリなものばかりで
     展開的に面白くなりそうにないので、原作の読み直しとネタの練り直し
     をしないと、とても人の目に出せる代物にならないので

     すみませんが、以上の理由からこの作品の更新はしばらく凍結します
     一刻も早い復帰をめざしますので、すみません





「いよいよ使い魔召喚の儀式ね、ワクワクすると思わない?」
「別に……」
「無関心ねえ。生涯のパートナーを呼ぶ、言うなれば偉大なるメイジの第一歩だって言うのに」
「なる様になる」
「まあいいわ。それよりも、私は何を呼ぶのかしら?」
「キュルケは火属性。火竜が妥当な所」
「だと良いわね。ああ、楽しみ~♪」

今日は、トリスティン魔法学校での春の使い魔召喚の儀式。
私の親友キュルケを始めとする周りの皆は、見て取れる上機嫌。
私達生徒の輪の中心で、またメイジに仕える使い魔が呼び出される。

「今日からあなたはロビンよ。私の使い魔、ロビン」

微笑ましい光景……でも私には、そんな余裕はない。
私が求めているのは、敵を切り裂く爪、獲物を食い千切る牙、力強く羽ばたく翼。

私は風属性だから、その条件に当てはまると言えば……風竜、マンティコア、グリフォン、ヒポグリフ。
私は遠出をする上に、戦わなければならないから……それらだと嬉しい。
でも、願う事なら……。

「そう言えばタバサ、この前から随分とその本を熱心に読んでるわね?」
「使い魔契約において、興味が向いた」
「ふーん……まあ確かに、こんな使い魔を持ってみたいわね。実際無理だけど」

そう……そんな事はあり得ない。
なのに、私はこの本を手放せない……望む事に意味なんてないのに。

「ミス・ツェルプストー」
「じゃあ私の番だから、じゃあね」

キュルケは、本当に良い友人。
彼女なら、きっと立派な使い魔が来てくれるだろう。

『シャルロット、よく出来たね。流石は私の娘だ』
『シャルロット、私の可愛いシャルロット』

……記憶にしかないお父様も、今は壊れてしまわれたお母様も、さぞや立派な使い魔を呼び出したと思う。
見た事はないけど、あんな立派なお父様とお母様の使い魔だから、そうに違いない

「やったわ! 火竜山脈のサラマンダーなんて」

どうやら、キュルケの召喚が終わったらしい。
今のセリフから言って、彼女のレベルに相応しい使い魔の様で、嬉しい。

そろそろ、私の番……でも、私には一つ問題がある。
私の本来の名、シャルロット・エレーヌ・オルレアン……それをこの場で名乗る事は、許されない。
私の……本来の名を隠し、偽りの名を名乗る私の声がとどくのだろうか?

「次、ミス・タバサ!」

静かに暮らしたいだけだった……でも、あの男はそれを奪った。
お父様は死に、お母様は……。

「……」
「ちょっとタバサ、あなたの番よ?」
「そう」
「それじゃあ頑張ってね」

なぜ静かに暮らしたいだけなのに、それを許さない?
なぜ弱者にこうも、理不尽な運命を突き付ける?
なぜあんな男にばかり、祝福され続ける?
なぜ……私は偽の名を使い、この儀式を行わなければならない?
なぜ……なぜ……

「どうしたのかね、ミス・タバサ?」
「……」
「ミス・タバサ?」
「……何か?」
「緊張してるのかね? 大丈夫、きっと応えてくれる」

そんな訳がない。
私は偽の名を使っているのだから、この儀式を前提から曲げている。
お父様とお母様に祝福を込めてつけて頂いた名ではなく、偽る為の名でこの儀式を行うのだから……

「大丈夫かね? 緊張するのはわかるが……」
「大丈夫です……」

始祖ブリミル……もしあなたが、私を憐れんでくださるのなら……。

「我が名は……」

全てを薙ぎ払う剣を……

「我が名は、タバサ」

安息の地を示す笛を……

「5つの力を司るペンタゴン」

全ての英知を記す本を……

「我に従いし使い魔を」

私を……いえ、私達をこの理不尽な運命から救ってくださる、勇者様を……

「召喚せよ!」

私の前に。



ゼロの使い魔 再構成
虚無に舞う雪風の剣舞



「嘘……? タバサが、平民を召喚した!?」

彼が……私の使い魔?

「……?」

私が召喚してしまった、私より少し上と思われる男性は、こちらを見て戸惑っている。
まあ、有無を言わさず呼びだされたのだから、当然と言えば当然かもしれない。
見慣れぬ服装に、ここでは珍しい黒髪。
杖も持たない事はおろか、戦いからは程遠いいたって普通とも言える風貌。


これが、私の使い魔


「……ミスタ・コルベール」
「何かな? ミス・タバサ」

タバサ……お母様が壊されてから、偽る為に名乗った名前。
名をもって執行するこの契約を、こちらから違反しているのだから……当然の報いかもしれない。

「……これは、彼と契約を?」
「そうだ、ミス・タバサ。確かに彼は人間の様だが、この儀式は神聖なるものだ。やり直しと言った儀式を曲げる行為は、一切許されない」

……結局私は、生まれながらに運命という大きな流れに嫌われているらしい。
彼にしても、それは同じかもしれない。
こんな私の使い魔にならなければならない辺り、彼もまた運命に嫌われた者。

「大丈夫?」
「え? あ、ああ……ここ、どこなんだ? 俺、アキバに居た筈なんだけど」
「ここはトリスティン魔法学院」
「トリスティンって……?」

……もしや、ロバ・アル・カリイエの方から?
まあいい、後で話を聞くことにしよう。
後がつかえて抗議されるのは、不本意。

「……詳しい話は後」
「え?」
「動かないで」

少なくとも今だけは、モグラや蛙、ヘビの類でないだけありがたいかもしれない。
……別にどうでもいい話。

「我が名はタバサ」

結局は、どこまでも堕ちて行くしかない。

「5つの力を司るペンタゴン」

始祖ブリミル……私は、あなたにさえも見限られたのですね?

「この者に祝福を与え」

祝福される契約をしたかった……彼に罪はないけど、そう思わずにはいられない。

「我が使い魔となせ」

いつの日か現れるであろう、私の勇者様に捧げるつもりだったけど……

「んっ……!?」

どうせいつか死ぬ命であるのなら、捧げる事が出来ただけでも良しとしよう。
少なくとも、この瞳には悪人のみが持つ濁りは一切ないのだから……。
儀式の締めであるキスの間、考えた事と言えばそれだけ。

「……ぷはっ! なっななんあなななな!!?」
「落ち着いて」
「おっおちついてられ……っ! ぐぁあっ!!」
「使い魔のルーンが刻まれてるだけ」
「勝手に刻むな!」

……大きな脱力感。

今は亡きお父様……
心を壊され病み続けるお母様……
我が物顔で王の座についている憎き仇敵……

そんな永遠に続く悪夢への、福音の様に襲ってくる。

「……ぐっ……はぁっ……はぁっ……」

彼の方は落ち着いたらしく、肩で息をしている。
周りから文句を言われる前に、戻っておこう

「儀式は終了。こっち」
「儀式って何? 今のがか?」

そう言って起き上がった彼を……

「っ!」
「両手にルーンが……2つもルーンが刻まれるなんて、珍しい事例だね。それにルーン自体も珍しい」
「ルーンって……まさか、この変な文字の事ですか?」
「額にもルーンが出ているのか? これもやはり珍しい……ん? どうしたんだね、ミス・タバサ?」
「……間違いない」

彼に浮き出たルーン。
右手、左手、額の……その全てのルーンがここ何日かで見慣れた……
この本で何度も見た……

「この本……これはっ!?」
「ちょっ、だから何なんですかいったい!?」
「あー……すまないが、今は大切な儀式の途中でね。詳しい事は、そちらのミス・タバサに説明を聞いてくれ」
「え? はっはい……えっと……」

ガバッ!

「え?」
「みっミス・タバサ?」
「……」

「ちょっとタバサ、次は私の……」
「いいじゃないの。タバサのラブシーンなんて見れるものじゃないわ」

私だけのイーヴァルディの物語が、動き始めた



(あとがき)
気分転換で書いてみたのでのせてみました。

ゼロの使い魔に関してはまだ初心者なので、指摘があればよろしくお願いします。


 追記:説明不足でした
    この作品のタバサは確かに虚無系統じゃありませんが、この作品のサイトならオリジナル設定上可能です
    物語が進むにつれ、徐々にその謎は公開する予定なので

 追記2:感想を見てみて、荒れそうな気配がありましたので注意書きを備えることにしました。
     これを読んで不快に思われた方に、心からのお詫びを申し上げます。
     また、それでもなお読みたいという方の為、ちゃんとこれからも進めたいと思ってます。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章『運命の胎動』 第1話
Name: 秋雨◆47235915 ID:fa0ca702
Date: 2008/11/25 23:52
俺の名は平賀才人、17歳の高校2年生。
運動神経は普通で成績は並、好奇心が取り柄のどこにでも居る普通の高校生。
彼女いない歴=実年齢で、賞罰は……特になし。
基本的に、頭より体が先に動くタイプだというのが、俺のキャラ

趣味はインターネットで、この前出会い系に登録したばかり。
念願のパソコンの修理が終わり、早くメールチェックがしたいな~……
等と思っていたのが、ついさっき。
平凡な日常に刺激がほしかったのと、彼女が出来るかもしれないという魅力に、気分も高揚していた。

そして、その帰り道……唐突に表れた、鏡らしき物。
これに俺の好奇心が刺激され、触れてみたのが運命の分かれ目だったらしい。

触れた途端その鏡に吸い込まれてしまい、気が付いたら何やらわからん流れが続いて……

「え?」
「みっミス・タバサ!?」

どういう訳か、美少女に抱きつかれています。


虚無に舞う雪風の剣舞 第一章『運命の胎動』


一体どこで、こういう流れになったんだ?
まず、目を覚ましたと思ったら、周りには黒いマントをはおり、自分を物珍しげに眺める同年代の少年少女たち。
遠くには、ヨーロッパ風の石造りの大きな城も見える。

一番近くには悲しそうに俺を見ていた、今俺に抱きついてるメガネの美少女。
短く切り揃えられた手触りの良さそうな蒼い髪に、色白で奇麗な肌。
まるで一流の造形師が作ったように整った顔立ちに、鮮麗な蒼い宝石を思わせる瞳。
……早い話が、今まで見た事もないような美少女。


なんで少女の俺を見る目が、あんなにも悲しそうだったんだ?
少女は俺が見てる事に気付いてるのかそうでないのか、ただ悲しそうに俺を見るだけ。
俺もどう反応すればいいのか分からず、固まるしかなかった。

「……ミスタ・コルベール」
「なんだね、ミス・タバサ?」

ミスタ・コルベールと呼ばれた中年コスプレのおじさんと、蒼い髪のミス・タバサと呼ばれた少女が、何やらやり取りをしていて……。

「大丈夫?」

それが終わってから、少女は俺に話しかけてきたんだっけ?
んで、ここがトリスティンとか言う、聞いた事のない国という事を聞いてから……

「……詳しい話は後」
「え?」
「動かないで」

というや否や、俺の顔を両手で固定してそれから……


えーと、口と口……唇と唇の接触、マウストゥーマウス。
……ぶっちゃけ、接吻という行為。
って俺、こんな突然に始めてを奪われたというのか!!?


んで、その後……体中が痛み出して、それからコルベール氏が近寄ってきて。
何やら驚きの表情と声色のタバサ嬢と、ルーンとやらを観察するコルベール氏。
んで、そのコルベール氏がタバサ嬢の持っていた本を開いて、驚愕して……。
今に至る……と。

……ぶっちゃけ訳分からないのに、俺より年下そうだけど美少女に抱きつかれてる俺って。
ラッキー? それとも、犯罪一歩手前?

「やっと……やっと会えた」
「あー……ミス・タバサ。すまないが、時間が押している。続きはここではなく向こうでやって貰えると助かるのだが?」
「私の……私だけの……」
「……ミス・ツェルプストー! 君は確か、ミス・タバサと仲が良かったはずだね? そちらに誘導してくれないか?」
「わかりました」

誘導?
と聞こうとする直前で、何か浮かび上がる様な感覚……いや、感覚じゃなくて。

「え? うわあっ! なっなんだ!?」
「おや、レビテーションを知らないのかね? まあいい、あとで話を聞かせてくれないか?」
「え? ええ、それは構いませんが」

それから、大勢に注目される中で俺は先程ミス・ツェルプストーというすごいむ……
もとい、美人の所に到着した途端、浮遊感が無くなり地面にゆっくりと着陸。
……というか、何で浮かび上がるなんて不可思議現象を物ともせず、このタバサ嬢は俺に抱きついているのだろうか?

「あの~……あなた達いったいなんなんですか?」
「何って、貴族だけど……あなたもしかして、魔法を見た事ないの?」
「魔法? ちょっと待て、魔法って今のが!?」
「……そう言えば、見慣れない格好してるわね。それにその黒髪も珍しいし」

それから、ツェルプストーと呼ばれた素敵なむ……女性から色々と教えて貰った
ここはトリスティンという国で、ここはトリスティン魔法学校。
つまり、魔法を使える人である貴族が魔法を学ぶ所。
何回も爆音が響く中で、ここが俺の居た世界ではない確たる証拠が色々と提示された。

「ちょっと待てよ……もしかして、俺って異世界に来ちゃった?」
「異世界? ……まあ、魔法を知らない所を見ると、ロバ・アル・カリイエから来たって言うより信用は出来るけど……」
「それはありがたい……うわっ!」

急に赤色の虎位の大きさのトカゲが、俺の方を見てた。
なんだ? しっぽに火がついてる?

「ああ、この子は私の使い魔よ。名前はまだ決めてないけど」
「使い魔?」


「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 宇宙の果ての何所かに居る私のシモベよ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに答えなさい!

ドカーンッ!!


何度も起る爆発……の前に響き渡る、可愛い声。
……そのセリフは、どう聞いても1つの答えを導きだしていた。

「……あの、もしかして今やってる儀式って」
「そうよ、使い魔を呼ぶ儀式。つまりあなたは、タバサの……今抱き着いてる子なんだけど、その子の使い魔って訳」
「マジかよ……所で、この子どうにかならないかな?」

さっきから絶対に離さないと言わんばかりに抱きついて、肩に顔を埋めているタバサ嬢
嬉しいと言えば嬉しいが……女の子慣れしてない俺には、きついです。

「ああ、タバサ? でも嫌じゃないでしょ?」
「そりゃまあ……でも……」
「あら、結構ウブなのね」
「……彼女居ない歴17年、つまり実年齢と同一ですから」
「じゃ、タバサとは2つ違いじゃない」

この子15歳!?
タバサ嬢も気が済んだらしく、俺から離れてくれた。

「随分と熱心に抱きついてたわね、タバサ?」
「……言わないで」
「えーっと……とりあえず、自己紹介だな。俺は平賀才人、サイトって呼んでくれ」
「タバサ」
「私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケって呼んでね」

ドカーーーンッ!!

「……さっきから、何なんだ?」
「ああ、ゼロのルイズね。まだやってたんだ」
「さわがしい」
「だよな。さっきからドカンドカンって……なんだ?」

爆発音がしなくなった代わりに、周りが騒がしくなった。
先程のゼロのルイズがまたって感じのではなく、その中心を見定めている。
何事かと思いきや、その中心には……。

「人間?」
「……っ!」
「……ちょっと、冗談でしょ!? あれって……」
「?」

キュルケもそうだけど、タバサすら驚愕の表情を浮かべる。
そして、全員が声を揃えて……

「ぜっゼロのルイズが、エルフを召喚した!!?」

という大合唱を披露して、そのエルフから見て一斉に俺達の居る所より後ろへとすごいスピードで逃げ出した。
そのエルフの近くには、ゼロのルイズ嬢と先程のコルベール氏が残ってるだけ。
ルイズ嬢とコルベール氏にしても、ルイズ嬢は足ガクガクでコルベール氏は杖を構えて警戒しているご様子。

「なんか、警戒態勢って感じだな」
「そりゃそうよ。エルフよエルフ!」
「エルフ?」
「……エルフって言うのは、私達の使う魔法とは違う先住魔法って言うのを使って、その力はメイジ数十人分とも言われてるの。ああもう、よりにもよってゼロのルイズは!」
「だっだけどさ、この儀式って呼ぶ相手の特定って出来ないんだろ? じゃあ仕方無いんじゃないかな?」
「仕方ないですむ問題じゃないわよ!」

中心では、コルベール氏とルイズ嬢が何やらタバサの時と同様に、何かやり取りしているご様子。
それからルイズ嬢が、何やらエルフの方に色々と話し始める。

「成程……まあよかろう、お前は我らエルフを敵視していない様だ。ただし、我等エルフは争いは好まぬ。納得できぬ争いは断固拒否する」
「いいわ、それくらいの拒否権はあげる。じゃあ契約の儀式を」
「もう1つ良いか? ……これから何日かをかけて、主たる器であるか否かを見極めさせて貰う。お前が誇り高き者だという事は認めるが、主としての器は接してみねば分からんからな」
「むっ……いいわ! ラ・ヴァリエール家の三女の名にかけて、あんたを服従させて見せる!」

どうやら話がまとまったらしく、キュルケとタバサを始めとして後ろで数十人分の安心の声が上がる。
いじめられっ子らしいが、さっきのキス契約が終了後からは言葉を発する者はいなかった。

「っ!」
「どうしたの?」
「いや、何か左手が急に痛んで……」
「左手が……?」

エルフがさっきの俺の様に苦しみ終わると、コルベール氏が俺の時同様に近寄る。

「ふむっ、どうやらコントラクト・サーヴァントは……っ!」
「? どうされました、ミスタ・コルベール?」
「いえ、何でもありませんぞ。さあ、皆さんは教室に戻りなさい。ミス・タバサとその使い魔君は残っていただけますかな?」

周りは前触れもなく浮かび上がり、城の方へと向かって言った。
ゼロのルイズはというと

「ほら、こっち」
「ところで、主殿の名は何と言う?」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたは?」
「私の名はシャールだ。主たちで言う先住魔法もそうだが、剣にも自信はある」
「本当!? やったわ!」
「先ほどの契約を忘れたか?」
「うっ……見てなさい、あんたを跪かせてあげるんだからね!」

そして残ったタバサと俺、そして面白そうだと言って残ったキュルケはコルベール氏と対面
キュルケは俺の代わりに、俺が話した事からの推測を伝える。

「……にわかに信じ難い話ですな」
「本当ですよ。そもそも嘘を吐く理由がありません」
「ふーむ……ん? 君、それはなにかな?」
「え? えーっと……これですか? パソコンです」

そうだ、これなら信じて貰えるかな?
とりあえず立ち上げて、ちょっとの間……そして

「なっ! これは……」
「……奇麗」
「へぇっ。すごいわね」
「見たこと、ありません?」

起動画面を見せただけだが、周りは驚愕の顔。
俺が魔法を見た時の様な感覚だろうというのは、明白だと思う

「いったいこれは、何系統のマジックアイテムだね!? スクエアクラスのメイジが数十人居ても再現が出来るかどうか……」
「いえ、魔法じゃないんです。これは俺の世界の科学って知識で作られた道具でして」
「……こんな素晴らしい道具が、魔法を使わずに……素晴らしい! こんな技術が魔法無しで作られるほど、高度な文明が存在するのか!?」

年甲斐もなくはしゃぎ、感動を体現するコルベール氏。
数分間それはもう……終わった後は、赤面して咳払い。

「わかりました。君がハルケギニアはおろか、この世界の人間である可能性は低いと判断します。それでは、学園長の元へ」
「学園長?」
「私は責任者である以上、こう言う異常事態について報告をする義務があるのです」
「はあっ……」

コルベール氏はそう言うと、俺の持ってるパソコンに目を向けて……。

「後、出来ればそれを譲ってくれると嬉しいのですが?」
「いえ、これは流石に……俺の世界の絆と言える物になりそうなので」
「そうか……だが、譲ってくれるのなら金に糸目はつけませんぞ?」
「はぁっ……」

コルベール氏は残念そうにして、浮かび上がる。
そしてキュルケとタバサも同様に。
それから、俺も。

「おっとと……」
「大丈夫、大人しくして」
「あっ、ああ。さっきもそうだけど、どうも慣れないな」
「すぐ慣れる」

どうも不安定な感じを抱きながら、俺達はさっきの一団とは別の一番高い塔へと向かった。
……一体どうなるのだろう?


Side コルベール

この炎蛇のコルベール、メイジ史上最大の歴史的瞬間の生き証人になれた事に感激です。
伝説の使い魔のルーンを持つ少年とエルフが現れ、今まさに伝説はおろか歴史史上初の生き証人と慣れた、まさに善き日。
しかも少年の方は複数の伝説のルーンを持ち、さらには魔法なき異世界からの来訪者だという。
素晴らしい……始祖ブリミルよ、今日という日に儀式の担当という大役に巡り会わせて頂いた事を感謝いたしますぞ!

「さあ、ここだ。ちょっと待ってなさい」

使い魔の少年と、その少年の主であるミス・タバサ。
そして友人を心配だというミス・ツェルプストーを引き連れ、学院長室へと赴く。
部屋で彼等を待機させ、いざ報告を……

「だーいだだだだだだだだ!! すっすまん! すまんかった!!」

……どうやら、またオールド・オスマンがミス・ロングビルに不埒な悪行を働いたらしい。
あの人もいい加減にしてほしいのだが、あれでも私も敬愛する賢者。
後は普段の行いさえ良ければ完璧だが……はぁっ。

「あの、中に狂暴な生物でも飼ってるんですか?」
「いや、それはないが……」

折角の興奮に水を差され、少々苛立ちを感じつつもノックをして部屋にはいる。

「……ミス・ロングビル。気持ちはわかりますが、折檻は程々にしてくださいね?」
「えっ、ええ……ところで、どうなされましたか?」
「あの、学園長にお伝えしたい事がありまして」
「ん? どうしたのかね、ミスタ……なんだっけ?」
「コルベールです。お忘れですか?」
「そうそう、コルベール君じゃったな。それで一体どうしたのかね? 使い魔召喚の儀式は?」
「無事に終わる事が出来ました。その事で……」

ミス・タバサが持っていた本『始祖ブリミルの使い魔達』をオールド・オスマンに見せる。
オールド・オスマンはこれを見るや否や目を細め、先程の姿がウソの様な威厳溢れる顔に早変わり。

「ミス・ロングビル。少し席を外して貰えんか?」

普段は普段でも、こういう決める時には決める姿勢。
こうでなければ、とうに学院長は追い出され……もとい、引退していたはず。

「……で、どうしたのじゃ?」
「ミス・タバサとミス・ヴァリエールの召喚した使い魔について」
「使い魔? ……その本『始祖ブリミルの使い魔達』と何か関係があるのかね?」
「はい」

先程のミス・タバサの召喚した少年、そしてミス・ヴァリエールのエルフ。
そしてルーンについてを報告する。

「……確かなのかね?」
「はい。ミス・タバサが持っていたこの本と照らし合わせましたが、間違いありません」
「よもやエルフを使い魔にするものが現れるとは……しかもそれが、ヴァリエールの三女とはの。じゃがそれ以上に信じられん事は、ミス・タバサが召喚したと言う少年じゃな。たしかなのかね? 使い魔のルーンは、通常1つの筈……」
「はい。シャールというエルフに刻まれた神の盾ガンダールヴを始めとして、神の笛ヴィンダールヴ、神の本ミョズニトニルン……その全てのルーンが刻まれておりました」

オールド・オスマンはゆっくりと目を閉じ、何やら考え事に入る。

「……これは失われしペンタゴンの一角に関わる事ぞ? それも、2人も現れるなどとは……」
「では、すぐに王宮に報告を……」
「ならん。ただでさえ、王室直属のボンクラ貴族は戦争好きじゃ。ましてや今、ガリアやアルビオンで不穏な動きがある。今そんな物の存在が知れたら、ろくでもない事になるのは明確じゃ」

流石はオールド・オスマン、深謀には恐れ入ります。

「……わかりました。それで、ミス・タバサとミス・ツェルプストーはすでにルーンについて知っております。実を言うと、もうこの部屋の前に連れてきてますが」
「通しなさい。究極の使い魔君をこの目でみたいしのう」
「はい、只今……それともう一つ、その究極の使い魔君についてですが、彼はどうもこの世界の人間ではないそうです」
「この世界の……?」
「はい。魔法やメイジの存在はおろか、この国の名前すら知らないとの事で。そして決定的な事が、魔法なしで作られたという事がとても信じられない様な道具を持っていました」
「……これは学園史上最大の機密になりそうじゃな」



Side サイト

「入りなさい」

先程、メガネの知的そうな女性が出て行って数分後、ようやくコルベール氏に部屋へといざなわれた。
学院の学院長らしい、ととのえられた部屋。
そして、視線の先には仙人の様な雰囲気を醸し出したお爺さんが1人。

「あの、あちらは?」
「学院長、オールド・オスマン」
「君かね? ミス・タバサが召喚したという少年は?」
「はい、そうですが……」
「ふむっ。では、ルーンを見せて貰えるかの?」

俺は前に出て、オールド・オスマンに両手を差し出す。
爺さんは俺の手を取ると、さっきタバサが持っていた本とを見比べる。
そして次には額のと見比べ、頷く。

「……確かに、同じじゃな。君、名を何と言うのかね?」
「平賀才人です。あなた達流で言うと、サイト・ヒラガ」
「そうか……ではサイト君、君が持っているという道具を見せて貰えんかの?」
「え? はっはい」

さっき同様にパソコンを立ち上げて、起動画面を見せる。
オールド・オスマンは驚嘆したり、思案したり、杖を振ったりを繰り返し……

「成程……確かに儂も見た事がない。それに、確かに魔法が使われてはおらんな」
「では、彼は間違いなく異世界から?」
「……信じて、貰えますか?」
「うむっ。確か、サイト君じゃったの? では改めて、ようこそハルケギニアへ。儂達トリスティン魔法学院はお主を歓迎しよう」

それから、オールド・オスマンはこの世界について色々と教えてくれた。
この世界、ハルケギニアでは魔法を使える者を貴族、使えない物を平民と分けて身分を取り決めている。
それから、先程キュルケに聞いた様な事など、様々な事を教えてくれた。

「とまあ、こんな所じゃよ」
「はぁっ……でも、その使い魔の儀式でどうして俺が?」
「よくはわからぬ。おそらく互いに、心の底から求めている物を持っておる……と言う事じゃろうな」
「はあっ……願いは世界の壁を超えますか?」
「良いではないか。人との出会いは些細な偶然の上に成り立つ、何事にも変えられぬ秘宝なのじゃ」

流石に学院長らしく、威厳ある言葉だと感心。
……そろそろ懸念してる事伝えるかな?

「それで、俺は帰れるんですか? 流石にいきなり連れて来られたから、親にも報告が出来ずで……」
「儂達も初めてのケースでな……まあ、君の世界からこの世界に来る事が出来た以上、何らかの方法があるじゃろう。雲をつかむような話じゃが、調べておいてあげよう」
「そうですとも。私もその世界に興味がありますし、是非とも行ってみたい。この炎蛇のコルベール、是非とも君に協力させてもらいますぞ!」

……どうやら、一朝一夕では不可能らしい。
まあ、異世界自体信じられないのも同じだからな……。
つまり俺は、タバサ嬢の使い魔として生きていかなきゃいけない訳で……。

「大丈夫かな?」
「生活の保障はする、あなたの世界に帰る方法もきっと見つかる」

という言葉を頂き、多少だけど精神回復。

「それと、俺のルーンってのを見て驚いてたけど、どうして?」
「……それは」
「君に伝説の使い魔のルーンが現れたからじゃよ」
「伝説?」

神の左手ガンダールヴ
勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と右に掴んだ長槍で、導きし我を守り切る

神の右手ヴィンダールヴ
心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

神の頭脳ミョズニトニルン
知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を詰め込みて、導きし我に助言を呈す。

そして最後にもう1人……記す事さえはばかれる……

4人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。

「始祖ブリミルの従えた使い魔達に関する唄だよ」
「最後のはわからないけど、この3つの使い魔と同じルーンが俺に?」
「信じられんのは儂達もおなじ。よって、軽いテストをしてみるつもりじゃよ」

学院長は杖を一振りすると、棚から人形が一人でに浮いて俺の前に来た。

「これは?」
「触れてみなさい」

言われたとおりにその人形を手にとり……ん?
何か、頭の奥底から……

「スキルニル、血を垂らす事で仕草や魔力までそっくりなコピーを……何で俺、これの使い方が分かるんだ?」
「成程……ミョズニトニルンとは、そう言うものか」
「額のルーンが発光している……ではやはり本物?」
「あわてるでない、ミスタ・コビカーリ」
「……コルベールです。今の絶対ワザとでしょう?」

……タバサは微塵も変化なし。
ただし、俺とキュルケは吹き出したのをコルベール先生に見咎められた。

「では、次じゃ。モートソグニル」

そう言うと、別に備え付けてある机の下からネズミが出てきた。
多分、この爺さんの使い魔らしい。
……何故あんな所から?

「ネズミ? ……もしかして、オールド・オスマンの使い魔ですか?」
「うむっ、何か命令してみなさい」
「それじゃあ……そこの羽ペンを持ってきてくれ」
「いかんぞ、モートソグニル」

モートソグニルと呼ばれたネズミは、羽根ペンを持って俺に差し出す。

「では次じゃ。そこのサラマンダーに何か命令してみなさい、ミス・ツェルプストーは同様にな」
「じゃあ……後ろ向いてくれ」
「動いちゃダメよ」

サラマンダーと言うらしい、キュルケの使い魔は俺の言うとおりに後ろに向いた。
キュルケはがっかりと、そしてオールド・オスマンは思案顔。
ふと、右手のルーンが発光している事に気付いた。

「ん? ルーンが……」
「ヴィンダールヴも、どうやら本物じゃな。次にガンダールヴじゃ、コ……ルベール君、君の研究室に武器はないかね?」
「今の微妙な間が気になりますが、まあいいでしょう」

そう言って、部屋から出て行って数分後。
息を切らしたコルベール氏が、剣を持って現れた。
汗で頭が少し光ってるのが見えて、吹き出しそうになったのは内緒の話。

「これは?」
「何かの研究の足しにと思って仕入れた、実験材料だよ。持ってみなさい」
「へぇっ、俺剣なんて初めて見るよ」

コルベール氏から剣を受け取り、それを鞘から引き抜く。
そして、さっきのスキルニル同様に……。

「クレイモアって言うのか……あれ? なんだか体がすっげえ軽い」
「ガンダールヴのルーンも恐らくですが、本物の様ですな。その剣はあげましょう」
「え? あっありがとうございます」
「となると、謎が多いの……平民が呼ばれたというだけでも異例じゃというのに、複数のルーンが刻まれる上に、その全てが伝説にのみ存在する始祖の使い魔のルーン……異例ずくめじゃ」

その場全員が、言い様にない空気に包まれた。

「始祖ブリミルの系統は、今は失われしペンタゴンの一角である『虚無属性』。ミス・タバサはその後継者であると……?」
「虚無の情報についてはガセが多すぎて、どれが本物かはもはやだれにも特定できん。じゃが、使い魔のルーンが本物である以上、その可能性は考慮した方がよさそうじゃ」
「タバサが……始祖ブリミルの後継者かもしれない!? すごいわタバサ!」
「ミス・タバサ、ミス・ツェルプストー、そしてサイト君。この事は誰にも一切口外してはならんぞ。サイト君、君はロバ・アル・カリイエから来たという事にしなさい。そこから来たという事以外、召喚の際に記憶を失ったという事にしての」
「え? はっはい、わかりました」

そしてオールド・オスマンは手近にあった杖を一振りし、俺の前に手袋と布を浮かび上がらせる

「これは?」
「ルーンを隠す為に使いなさい」
「はぁっ……ありがとうございます」

グローブとバンダナ代わりの布を即座にとりつけて、剣を背負う。
それから、タバサとキュルケに促されるまま、彼女の部屋へと向かった。


「ミス・ヴァリエールの呼び出したという、ガンダールヴのエルフもそうじゃが……伝説の使い魔のルーンを複数持ち、異世界から来たという少年……何かの前触れでなければよいがの。コルベール君、機密保持はしっかりと頼む」
「はい、承知しております」



(あとがき)
タバサが主役で書いてみたら、すごい人気だなとびっくりしました。
中にはアンチ主人公最強系の罵倒がありましたが……。

一応、納得できる様な設定を用意してるつもりです。
ですから、出来れば長い目で見てください。

最後にもう一つ
タバサっていいよね


 追記:ちょっとオリキャラのシャールが出した条件のところで引っかかりを感じたので訂正しました。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第2話
Name: 秋雨◆47235915 ID:db05b3bd
Date: 2008/08/10 14:17
学院長との会合が終わり、俺はタバサの部屋へと通された。
女の子の部屋に入った事はないが、随分と本が多いな……。
まあタバサって、暇さえあればどこからともなく取り出して読んでるから、あまり驚けないけど。

「タバサは本を読むのが好きなのよ。食事以外の大半は本を読んで過ごしてるわ」
「へぇっ、読書家か。もしかして、学院でも優等生?」
「そうよ。なにせ同年代では、私を含めてもそうそう居ないトライアングル……って言っても分からないわよね」

キュルケが目配せをすると、タバサが……。

「簡単に言えば、メイジには4段階のレベルがある。その第3段階目がトライアングル」
「基本はドット、それからライン、トライアングル、スクエアってね。スクエアともなると、王室直属部隊レベルだから、そうそう居ないんだけどね」
「へぇっ。じゃあキュルケとタバサって、すごいんだな」

ふと窓の外が目に入り……もう薄暗い時分らしく、辺りは暗くなっていた。
ある筈の物を……ある筈?
ある筈ではあるけど、そのある筈の物が……

「月が……2つ!?」
「あら、あなたの世界の月の数は違うの?」
「俺の所は1つだけだった……確信したって言っても、やっぱ疑ってたのかな? ……ここが異世界だっての、信じれてなかったみたいだ。月が2つって……ははっ、魔法以上に確信させられた」
「……ごめんなさい」
「いや、それはいいよ……まあ、うじうじ悩んでもしょうがないか。折角の異世界だから楽しまないと損だし。ところで、使い魔って何すればいいの?」

自分でもわかる位に動揺してたと思う。
俺は女の子を泣かして喜ぶ屑じゃないから、尚更。

「基本的には、主の目になる、主の必要とする秘薬などを探す、主を守る。この3つ」
「目に?」
「感覚共有。使い魔の見てる物と聞いてる物を感じとる事が出来る」

へぇっ、要はテレパシーの類かな?
……でもなんか筒抜けって感じで嫌だな。

「どうタバサ? 私とタバサの姿が見える?」
「……見えない」
「じゃあ1つ目はダメ、2つ目は……一応、ミョズニトニルンだっけ? それでわかる物ならわかるか。まあ、野生の物を探すのは流石に無理だけど」
「3つ目は、伝説の使い魔ならこれ位は簡単よね。タバサをしっかり守ってあげてね」

完全に俺は伝説の使い魔とやらとして扱われてるが、俺は剣なんか握った事ないんだけど。
まあ、さっきの剣を握った時の様な感じなら……。
ふと、キュルケは何かを思い出すような動作をとると……

「それじゃ、私は約束があるから」
「そう」
「行くわよ、フレイム」

キュルケは使い魔(フレイムと名付けられた)を連れて、部屋から出て行ってしまった。
そして、ここに居るのは俺と主人のタバサのみ。
とりあえず、剣を取り出して鞘から抜いてみる。
左手のルーンが発光すると同時に、体が軽くなる感覚と剣の馴染む感覚。

「……実際に剣を持つ事になるなんて思わなかったよ」
「そう」

……なんか、あの時の抱きつきが嘘に思えてくるな。
さっきから本を読む事が多いし、最低限の応対しかしないし……基本的に俺と同様、興味無い事に関しては無関心らしい。
……心なしか初対面時と比べると、雰囲気に嬉しさが入り混じってる様な気がするけど。

「……ごめんなさい」
「え?」
「こんな事になってしまって」
「いや、別に……ワザとじゃないんだから。それよりも使い魔として、主様にちゃんと仕えないとな。さあ、新しい生活が始まる訳だし、頑張らないと」
「……」

気のせいか、今うっすらと笑ったように見えた。
些細な変化を見極められる程の付き合いじゃないけど……間違いないよな?
なんて考えてると、タバサは本を閉じてクローゼットと思われるタンスへと歩を進める。

「着替える」
「あ、はいはい」

そう言って、外へ。
ドアの前に腰掛けて、とりあえず剣を眺める。
……あらゆる武器を使いこなし、あらゆる獣を従え、あらゆる魔道具を駆使する。
信じられない話……でも、実際に出来た(ごく僅かだけど)からには信用せざるを得ない。
……15歳か……って、何考えてんだよ俺は!

「ちょっとあんた!」

横から大音量の怒鳴り声が響く。
見てみると、特徴的なまでにピンク色の髪の、これまた美少女……だが、気の強そうな女の子。
はて、どこかで見た様な……ああ、思い出した!

「えっと……確か、ゼロのルイズ?」
「はあっ!? 今なんて言った!!?」
「えっ? なんかいけなかった? キュルケがそう言ってたから」
「ツェルプストーめ~!! ……それは後で良いとしても、ここは女子寮よ! 何で……ん? ああ、タバサが呼んだ平民の使い魔ね?」
「……そうだよ、俺はタバサの使い魔」

なんだよこの女、いきなり人を見るなり怒鳴るか?

「こんな所で何してるのよ?」
「主人が御着替え中なので、外で待機です」
「待機? タバサってば、何で使い魔なんかに見られて恥ずかしいなんて思うわけ? 変わってるわね」
「あの、俺一応男……」
「は? 男? どこに? たかが平民の使い魔の分際で何いってるのよ? 馬鹿じゃないの?」

うわっ……貴族でなければ人でないってタイプか?

「ちょっと平民!」
「なんでしょうか、貴族様?」
「今度ゼロなんて言ってみなさい? ふっ飛ばしてやるんだからね!!」

そう言うなり、とっとと去ってしまった。
……ゼロってどういう意味だ?
まあそれはさておいても……

「……嫌な女。あいつに召喚されなかったのがせめてもの救いか」

そして、あいつに召喚されたというエルフに同情した。
それからタバサからの許可が出たので部屋に入ると、緑の貫頭衣にナイトキャップ。
俺の常識から考えると、御就寝モードのタバサがそこに居た。

「騒がしかったけど、どうかした?」
「いや、ルイズって子に怒鳴られて」
「そう」
「ところで、ゼロってどういう意味? 言ったら怒られたんだけど」
「私は『雪風』、キュルケが『微熱』、ミスタ・コルベールは『炎蛇』という様に、メイジには属性と縁のある二つ名がある。ルイズの二つ名であるゼロは、魔法成功率ゼロから付けられた不名誉な二つ名」
「……通りで怒る訳か。悪い事しちまったかな?」

聞けばあの少女は、風、水、火、土の四系統(学院長の話では、虚無は現在失われているらしい)の魔法において、常に爆発を起こしている。
それゆえに、成功確率ゼロからとってゼロのルイズと。

……まあ、俺には関係ないよな。

「でも、魔法を使えるのが貴族なんだろ? 何でゼロなんて呼ばれてる奴がこの学院の生徒なんだ?」
「発動はしてるけど、爆発という結果に陥っているだけ」

つまり、力はあっても扱いがヘタだと。
……でも同情する気になれないのは、あの性格の所為だな。
正直、俺を呼んだのがタバサで良かったと、心の底から神に感謝した位だし。

「そろそろ眠る時間」
「そうなのか? えっと……ところで、俺ってどこで寝れば良い?」

タバサはベッドを指さした。
……この部屋で、ただ1つの。

「それは?」
「ベッド」
「いや、それは見ればわかる。俺が言いたいのは、見た所この部屋で唯一のベッドを、何故指さしてるのかを聞きたいのですが?」
「一緒に寝る」

ああなるほど、そう言う事か。
それなら納得……しちゃダメだろ!!

「あの……一応言っておきますけど、俺男ですよ?」
「これでも武術の心得はある」
「……外で寝ます」
「変な事をする気?」
「いや、世話になる人に失礼な事は……」
「なら問題はない。それに、1人で寝るより一緒に寝る方がいい」

……俺の感覚はおかしいのか?
いや、着替えは注意されたから、それも変か。
……まあ、良いって言ってるんだから良いんだよな?



Side タバサ

彼に刻まれた伝説のルーンが、すべて本物だった。
まだ断言はできないだろうけど、それでも……
ここまで興奮するのは、初めて魔法が成功して、お父様に褒めて頂いて以来かもしれない。

もしお父様が生きていらしたら、喜んでくださるだろうか?
もしお母様が壊れていなければ、褒めてくださるだろうか?
キュルケも喜んでくれたから、きっとそうだったに違いない。
……出来ればもっと、違う形で出会いたかった。

「……なあ、タバサ」
「何?」
「……この世界で、やっていけるかな?」
「……生活の保障はする。私も微力ながら協力する」

異世界と言う、信じられない話……でも、疑う理由はない。
それに、魔法以外の技術で作られた道具も持っているという、証拠も提示された。
……どんな世界なのだろう?

「サイト」
「何?」
「サイトの世界はどんな世界?」
「俺の? そうだな……基本的に、平民も貴族もないよ。ある一部を除いてだけど」
「貴族も平民も?」

つまり、身分による差別はない。
……貴族なんて立場がなければこんな事にならなかったという願いが、具現化された世界。
……そんな世界が、ある。

「国は誰がどうやって納めている?」
「ん? 選挙って言って、国や地域の代表者はその土地に住んでる人たちが決めるんだよ。まあ、候補にあがるにはそれ相応の功績がなきゃいけない……だっけ? ごめん、おれもよくわからない」
「……そう」

……つまり、国家は入れ替わる。
生まれた家に自身の全てを決定づけられるなど、全くとはいえないだろうがない。

「それに魔法はないけど、代わりに科学って言う技術で人の生活が成り立ってる。例えばな、あの道具はただ奇麗な画面を見せる訳じゃないんだよ。これには色々な文章や音楽を記憶させておけたり、離れた所の情報を集められたり、そう言う事が出来る道具なんだよ。電気がないと、動かないけど」
「デンキ? この道具は、そういう力か物質を取り込まないと使えない?」
「ああ。実際使い方が分かるだけで、俺にもよくわかってないんだよな」

化学……彼の話からすれば、誰でも手軽に使える力。
国の代表……王は王家のみではなく、誰にでもなれる可能性がある。
……この世界が、すごくバカバカしく思えてきた。

魔法が使える使えないで、貴族平民に分かれているこの世界
王族や貴族として生まれれば、謀略策略の汚らわしい権力闘争。
平民として生まれれば、無意味に力を振りかざす無能貴族に幸せを理不尽に奪われる。
何が幸せで、どうすれば平穏に生きられるか分からない……ここはそんな世界。

「……私も、その世界に行ってみたい」
「そう? でもそれには、この世界を行き来する方法が……」
「いい。私もその世界に住みたい」
「え? でも……」
「……お母様も、きっとわかってくれる。行きたいと言ってくれる」

やらなければならない事はある。
でも、それが終わったら……この世界を去って、お母様達と共に、彼の世界に行こう。
……安息ばかりではないかもしれないけど、それでも私の生まれは左右しない。

「じゃあ、その時は俺の家族とか友達とかも紹介しないとな」

……嬉しそうに話してくれる彼を見て、疑問が湧いた。
彼からすれば、私はいきなり生まれた世界から……故郷から切り離した強奪者でしかない。
私にとっての、あの男と同じ……なのに友好的に接してくれる彼、ヒラガサイト。
……何故、彼はこうも友好的にとらえているのだろうか?

「サイト?」
「何?
「……恨んでいないの? 私は、あなたを2度と戻れないかもしれない異世界に……」
「ワザとじゃないだろ? タバサを責めたって、帰れる訳じゃないんだから。それにさ、可愛い女の子を責めるなんてしたくないんだよ」
「……」

きゅっ!

「え? あっあの……」
「……時々、嫌な夢を見るから」
「あっああ……」

自分でも信じられない位に心が緩んでしまう。
自分がこんなにも脆い人間だったのかと、思い知らされてしまう。
彼の温かさと優しさが、とても心地よくて……いつまでもこうして居たくなる。

……お母様、私はまだ頑張れそうです。
いつか、私達を救ってくださる勇者様に……。

「……やっと会えた」
「え?」
「……朝も早い。そろそろ眠る」
「そうだな。お休み」

人の温かさ……お母様以来だけど、すごく心地良い。
始祖ブリミル……あなたの存在と御慈悲に感謝いたします。

(あとがき)
今回は、ちと前回より文章は少ないですが、結構心理描写には力を入れた方だと思います。
しかし……感想が桁外れなスピードで大量に来るのが嬉しくて、仕方ないですな。
まあ、大半がタバサラブって感じのばかりで……同士のためにも頑張らねばという気になります。

後、シルフィードに関しましては、出す予定はあります。
キャラ的に好きですし、サイトとタバサに『お兄さま~、お姉さま~』ってやらずして、タバサ好きは語れない気がするので。

基本的には、原作とは同じ流れではありますが、ストーリー的には違うものという前提で作ってます。
では、これからもどうぞよろしく。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第3話
Name: 秋雨◆47235915 ID:361b9967
Date: 2008/08/10 14:38
魔法が存在し、それを使う物を貴族とし、2つの月が存在する世界ハルケギニア。
……修理の終わったパソコンを持って帰るだけだったのに、好奇心の所為で何やらとんでもない運命に巻き込まれてしまった。
……というのが、夢であったら良かったのに?
……疑問形なのは、俺を召喚した少女があまりにも良い子だからだ。
もしあのルイズとか言う乱暴者のゼロ女だったら、絶対こうはいかなかった。

「でも……やっぱ夢じゃないか」
「くぅっ……くぅっ……」

結局、俺に抱きついたまま寝付いてるタバサの感触が、今この時を現実だと警告している。
……まあ、昨日ちゃんとやると誓った訳だし、来たからには帰れるという期待もある。
それに……15歳って、許容範囲内ですよね?
……ちょっと横道にそれたか。時間はわからないけど、そろそろ起こすか。

「おーいタバサー、ご主人様ー、朝ですよー!」
「ん……」

寝ぼけ眼をこすり、ゆっくりと起き上がるタバサ。
とりあえず、近くに置いてあったメガネを取り、手渡す。
俺の姿を確認すると、俺の手を取ってルーンを確認。
それから俺の前髪を上げて、安著した様な顔になると、俺に抱きついて肩に顔を埋めた。

「……よかった、夢じゃなかった」
「さっきの俺と同じ反応だな。おはようタバサ」
「……おはよう、サイト」

とりあえず起き上がって、寝る前に脱いでおいたパーカーを羽織る。
着替えの間に水を汲んで来て欲しいと言われたので、桶を持って下の階に駆ける。
一応大まかな場所は教えて貰ったので、辿りつくととりあえず1汲みして、自身の顔を洗ってうがい。

「ふぅっ……さてと」
「あの、誰ですか?」

振り向いてみると、そこには黒髪に何やら日本人っぽい顔立ちの中々に可愛い、同年代と思われるメイド服の女の子。
この世界では、メイドさんが普通に居るのか……ちょっと感動。
じゃなくて、不審者と思われてるみたいだし、弁解しないと。

「えっと……俺は」
「あの、もしかして……ミス・タバサが呼んだという、今噂の平民の使い魔さんですか?」
「え? ああ、確かに俺はタバサの使い魔だけど……ん? 噂?」
「はい。平民の方を呼んだこと自体初めての事なのですが、使い魔召喚の儀式でラブシーンを演じたメイジと使い魔という、最初にして最後の大事件だとお聞きしました。しかもそのメイジが、成績優秀にしてミス・ツェルプストー以外に心を開いていないミス・タバサと言う事もあって、すごく有名になってますよ」

ラブシーン? 
キュルケや学院長から聞いた話では、契約はキスで執行されるんじゃ……あっ!
もしかして、その後に抱きつかれた時か?
……ちょっと待て! 俺って、そんな風に広まってるのか!?

「あの、俺ってそんな風に広まってるの!?」
「え? はい、私は人伝に聞いただけですが、大半はそう言う見方をしてるので間違いはないかと」
「そっそうなのか……っといけない、それじゃ主人が待ってるから。えっと……」
「あっ、私シエスタと申します」
「俺は、平賀才人」
「サイトさん……ですか? 変わった名前ですね」
「だろうね。はは」

その後メイドさんと別れて、タバサの部屋に戻る。
タバサは髪のセットをしていたらしく、櫛を持っていた。
それから洗顔を済ませて、身支度を済ませた。

「これからどうする?」
「食事」



Side タバサ

寮から出て、アルヴィーズの食堂に向かう途中。

「あら、おはようタバサ、サイト。良い天気ね」
「おはよう」
「あっ、おはようキュルケ」
「よく眠れた?」
「まあね。ああ、おはようフレイム」

サイトはしゃがみ、フレイムの頭を撫でる。
ルーンが光っている手で撫でられ、心地良さそうに目を細めるフレイムを見て、やはり本物なんだと確認。
……それと少し、フレイムが羨ましいと思った。

「簡単に懐いてるわね。流石はヴィンダールヴ」
「……そう」
「ふふっ、可愛くなっちゃって……後で好きなだけなでて貰いなさいな」
「っ!」
「私たち、そんなやわな付き合いじゃないでしょ? サイトが来てから、面白い位に表情が分かり易くなったし、私としてはむしろ大歓迎なのよ」

……やはりキュルケにはかなわない。

「っ!」
「どうしたの?」
「いや、左手のルーンの部分が痛んで」

……そう言えば、ルイズがエルフとの契約時にも、サイトは左手のルーンが痛むと言っていた。
何か関係が?

「あら、ルイズじゃない」
「誰かと思ったら、キュルケ。それにタバサに昨日の無礼な平民まで」

……噂をすれば影。
キュルケとルイズが揃うと、大半怒鳴り合いか大喧嘩になるからあまりかかわり合いになりたくはない。
……けどキュルケは大事な友達。
この2人のケンカは、部屋1つ崩壊するレベルまで発展する事もあるから、抑止力が必要。
……以前、私の部屋も吹き飛ばされかけた

「あ、昨日はごめん。まさかバカにするための名だったなんて知らなくて……」
「なによその謝罪!? 平民のくせして貴族をバカにしといて、その程度で……」
「やめろ主殿、謝罪している者に対してその態度はない」

そう言ってルイズを止めたのは、ルイズが呼び出したあのエルフ。
改めてみると、本当に美しい姿だと思う。
透き通るような肌に、見るだけで手触りが分かる程つややかな髪。
これで男だというのだから、女性ではどれほどのものだろう?

「なによシャール! 貴族は平民になめられたら……」
「だからと言って、力で解決する事が主殿の望む貴族の姿か? だとしたら、失望したぞ」
「うっ……まあいいわ。普通なら鞭100叩きに値する罪だけど、特別に許してあげようじゃない」

成程……あしらい方が上手い。
それに、危険な雰囲気が全く感じられない。
……あの事を聞いてみる価値はあるかもしれない。

「助かったよ、ありがとな」
「君は?」
「こっちの蒼い髪の子の使い魔。人間だけどな」
「私を恐れないのか?」
「いや、俺エルフの事あんまり知らないからさ。それに俺、実体験しか信じない性質」
「そうか。君とは良き関係になれそうだ」
「俺は平賀才人、サイトって呼んでくれ」
「シャールだ」

……流石は異世界人。
エルフにすら物おじせず、こうも友好的になるなんて。

「ちょっとシャール、行くわよ!」
「わかった。ではサイト、またあとでな」
「はい」

そう言って去っていくルイズと、シャールというエルフを見送り、サイトに駆け寄る。

「左手のルーン、大丈夫?」
「え? ああ」
「……昨日ルイズに怒鳴られた時は?」
「痛くなかったけど?」

……じゃあ、あの使い魔に?
そう言えば、先程顔合わせた時に彼の方も左手の甲を抑えていた。
……調べてみよう。

「ここがアルヴィーズの食堂」
「へぇっ、玄関から見るだけでもすげえな」
「ああ、ルイズに見つかるとまた怒鳴るから前もって言っておくけど、ここは貴族専用なの。ごめんなさいね」
「え? そうなの?」
「大丈夫、食事は使用人の賄い食を頼んである」
「ありがとな、タバサ」

嬉しそうに言う彼を、早速使用人の食堂へと案内しようと……

「あっ、シエスタ」
「あら、サイトさん」
「?」

サイトは食事の支度を終えたメイドを見るや否や、声をかけた。
……よく見たら、黒髪にサイトに近い顔立ち。
親しそうに話すサイトを見てると、胸がもやもやした。

「誰?」
「今朝、水くみ場で会ったメイドさん」
「そう。ちょうど良い、私の使い魔に食事をお願い」
「かしこまりました。ではサイトさん、こちらです」

サイトを見送って、私達も食堂へと入った。
ルイズの周りで空席が目立ったのは、多分使い魔の影響。
……騒がしくなくて良いから、近くに座ろう。

「本当に表情豊かになったわね。さっきの嫉妬顔といい」
「……?」
「気付いてないなら良いわ。私としては嬉しい、それだけだからね」


Side サイト

今朝会ったシエスタに案内されて、厨房の裏にある使用人用食堂へと通された、
結構良いにおいだな、うんうん。
流石に貴族の食事を作ってるだけあって、美味そうな事この上なし。
とりあえず、俺にはタバサと授業に出なきゃいけないそうなので、早めに貰った。

「ところで、サイトさんはどちらからいらっしゃったんですか? サイトさんの着ている服、見た事がありません」
「ああ、俺はロバ・アル・カリイエから来たかもしれないって事でさ」
「かもしれない?」
「いや、俺記憶がないんだよ。どこで何してたのかって、召喚のショックで忘れちまった見たいでさ」
「そっそうなんですか? すみません、失礼な事を……」
「あ、いいよいいよ。知らずに聞いた事なんだし」

……嘘を吐くのは気が引けるけど、一応学院長に頼まれた事だ。
心の中でだけど、ごめん。
とりあえず、場をごまかす為にシチューを一口。

「あっ、美味い」
「マルトーさんの料理は絶品ですよ」
「こりゃ美味いな。使用人の食事でこれかよ」

結局、朝だというのに二杯も平らげてしまった。
……食事の時間が楽しみになるな、絶対。
そう言えば、マルトーってどんな人かな?

「なあシエスタ、そのマルトーさんってどんな人?」
「それは……あっ、マルトーさん」
「おう、どうだい使い魔のあんちゃん、俺の料理はよ?」

やたらと野太い声を出して、豪快を絵に描いた様なコック姿のおっさん。
成程、この人がマルトーさんか。
見た感じ、豪快だけど気は良いって感じかな?
親方と慕われてるみたいだし、初対面の俺でも親しみが持てそうだ。

「最高です。これから食事の時間が楽しみです」
「おおそうかい、たんまり食ってくれ。はっはっは!」

やっぱり見た目から推し量れるイメージ通りか。
バシバシと俺の背中を叩きながら高らかに笑う姿は、どうにも気の良い豪快な人そのもの。

「しっかしよお。あのミス・タバサの心を動かした奴ってんでどんな奴かと思いきや、良い奴じゃねえか。はっはっは、しっかり仕えてやってくれ。いかすかねえ貴族でも、あの子は別格だからよ」
「あの子なら?」
「マルトーさんは貴族の方がお嫌いでして。でもミス・タバサは別なんです」
「おおよ、あの子はいつも俺が丹精込めて作った料理を、誰も手をつけようとしねえハシバミ草のサラダも含めて残さず食べてくれるうえに、いつもうまいと言ってくれるからよ」
「ハシバミ草?」
「これです」

シチューともう一つ置かれた、見た事のない葉っぱが盛りつけられた皿。
これがハシバミ草か……青いドレッシングの材料は一体何なのかが気になったが。
とりあえず、一口

「にっがあ……でも、ドレッシングと相まって美味いな」
「はっはっは、わかってくれるか? 益々気に入ったぜ」
「それはありがたいですね。こんな食事に気のいい人揃いだったら、ここでの生活も楽しくなりそうです」
「おっ、言ってくれるじゃねえか。俺達魔法学院の使用人一同、お前さんを歓迎するぜ!」



Side タバサ

食事を終えて、サイトを迎えて今日は土の『錬金』の授業。
教室に入り、サイトに席に着くように促す。

「それにしても……結構いろいろいるんだな」
「召喚される使い魔は、基本的に自分の属性に依存する生き物」
「でも俺って……」
「絶対ということはない。だから気にはしない」

そういうとタバサは本を開き、読み始める。

「ちょっと平民、何で席についてるわけ? 椅子が汚れるじゃない、床に座りなさいよ!!」
「またこいつか……主人の指示です」
「なによ、平民のくせに生意気に貴族に意見する気!!?」
「別にいいじゃない。主人はタバサで、あなたの使い魔じゃないのよ? ホントその洗濯板の胸のように頭まで固いんだから」
「誰が洗濯板ですって?」

……本当に、煩い事この上ない。

「これから始まる授業って、魔法の?」
「そう。土系統の『練金』について」
「練金って、俺の世界で言う錬金術とかかな?」
「錬金術?」
「ああ、俺の世界にあった魔術で、色んな薬を調合して石から金を作る……だったかな? 魔法と言うより化学だけど」

彼の話は本当に興味深い。
乗物に関しても、魔法無しで馬よりも早い自動車と言う物、風石を使わず飛ぶ飛行機と言う物が存在する。
一体どのような世界なのだろう?

「あっ、誰か入って来た。へぇっ、昔絵本で見た魔法使いの服その物だな」
「絵本?」
「俺の世界には魔法はないけど、空想でなら存在するんだよ」
「そう」

見た事はない、2年からの担当教師と思われるその人は、教室をゆっくり見まわした。
……当然、私とルイズの所で驚いた。

「皆さん、春の使い魔召喚の儀は大成功の様ですわね。このシュブルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔を見るのが、とても楽しみなのですよ」

サイトがうんうんと頷くのを横目に、それは確かに真新しい光景だとは思う。
流石にエルフは異例だけど、バグベアーにバジリスク、スキュラ。
……私はそれよりも本を読む方が良い。

「今年は学園……いえ、世界的にも異例の使い魔が2人も居るとの事ですが……その、ミス・ヴァリエールも、大変御立派な使い魔を呼び出しましたね」
「……立派だと思うのなら、そう怯えるのはやめて頂きたい。私は別にあなた達に敵対する理由はありません」
「そっそうですわね……非礼をお許しください」

冷汗を垂らしながら言っても、説得力はないと思う。
咳払いをして、ミセス・シュブルーズは私の方……正確にはサイトの方を向く。

「あなたが、ミス・タバサが召喚したという使い魔の少年ですか?」
「え? はい、そうですが」
「ミスタ・コルベールから、お話は伺っていますよ? なんでも、自分の名前とロバ・アル・カリイエから来たという事以外は、召喚のショックで忘れてしまったとの事ですね?」
「ええ、まあ……」

どうやら、平民差別をしない人格者の様。
周りは大抵サイトを見下していたため、気分が良い。

「トリスティン魔法学院へようこそ。いきなりの来訪で慣れない事も多いでしょうが、ミス・タバサの使い魔として頑張ってくださいね」
「そうだぞ平民! 貴族に呼ばれたんだからありがたく……」

口汚くののしる声が、急に途絶えた。
振り向いてみると、その暴言を言っただろう……マルゴロネ? マリコロコロ?
……どうでもいい話。とにかく、その太った少年の口には赤土の粘土が張り付いている。

「ミスタ・グランドプレ、そう言うあさましい行動はおやめなさい。では授業に入りましょう」

そう言って授業を始めたけど、私にとっては興味がない。
元々厄介払いとして送り込まれた学校であり、授業の内容など今さらと言う物。

「なあタバサ、授業聞いてないとまずくないか?」
「大丈夫。実技も学問も、私なら問題はない」
「いや、そう言う問題じゃなくてだな……俺が言えた義理じゃないけど、態度悪いと注意されるぞ?」

彼は彼なりに心配してくれているよう。
……仕方がないから、教科書を手に取る。

「ごごっゴールドですか!? ミセス・シュブルーズ」
「違います、ただの真鍮です。ゴールドは最低でも『スクエア』クラスでなければ錬金はできません。私はトライアングルなのです」

……退屈。
サイトに心配をかけたくはないけど、教科書ならもう全部暗記できる位に読んだ。
でも確かに実戦経験から言うと、基礎は大事。
……早く本の続きが読みたい。



Side サイト

あれが錬金かあ……すげえな、ただの石ころだったのに金属になっちまったよ。
……にもかかわらず、タバサはただ教科書を読んでいるだけ。
元々の性格が性格だから、仕方ないかもしれないけど……

「なあ、昨日言ってたメイジのランクだけど、もう少し詳しく教えてくれない?」
「ランクは系統を足せる数の事を指す」
「系統を足せる数?」
「2つ系統、例えば『風』系統と『水』系統を足すと、通常の『風』系統1つ足すより強力になる。つまりメイジのランクは、系統を足せる数で決める。」

じゃあ『風』『火』とか、『水』『土』の様に2つ足せる奴をラインで、3つがトライアングル、4つがスクエアって事か。
まあ確かに、わかり易いっちゃわかり易いな。

「今の練成は『土』『土』『火』を組み合わせて、合わせ鋼である真鍮を練成した」
「あれ、同じのも足せるの?」
「よりその系統が強力になる」
「じゃあ今のは、土2つで別々の金属を作って、火で溶かして混ぜたって事?」
「そう」

結構興味深いな……勉強は得意じゃないけど、好奇心が刺激される。
……と言っても、使えない俺には意味ないかもしれないけど。

「では、錬金を実際にやって貰いましょう。まずは……ミス・ヴァリエール」

急に静かになった。
……それと同時に、教室の空気が変わった。

「え? 何? どうしたの?」
「危険」
「え?」

そう言えば、ルイズは魔法が上手く使えないゼロって呼ばれて、バカにされてんだっけ?
魔法を行使すると絶対に爆発という失敗を……んっ、魔法で失敗?

「あの、ミセス・シュブルーズ……やめておいた方が良いですよ?」
「どうしてですか、ミス・ツェルプストー?」
「危険だからです。先生は今年からルイズを受け持ったからわからないと思いますが、やめておく事をお勧めします」
「何を言っているのかはわかりませんが、ミス・ヴァリエールは努力家だと聞いております。ゼロ等という不名誉な2つ名が付いているようですが、失敗を恐れていては何もできません。さあミス・ヴァリエール、やってみなさい」
「はい、わかりました」

そう言うや否や、周りは蒼白になり机の下に身を隠した。
フレイムを始めとする使い魔達、それとシャールさんは疑問符を浮かべている。
そこへ服を引っ張られる感触。

「ん?」
「こっち」

タバサに促されるまま、机の下に避難した。
タバサの方を見てみると、さっきの本を……って、おいおいこんな時まで読書かよ?
結構大物みたいだな、ウチのご主人様は……この体勢では、そうは見えないけど。

「何やら騒がしい様ですが……まあいいでしょう。ではミス・ヴァリエール、錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」

机の下からの視点だけど、こくりと可愛らしく頷き、渦の中心は杖を振り上げた。
『黙っていれば』可愛い顔は、真面目という表現が似合う位にこれまでと雰囲気が違う。
しかし……失敗でここまでするんだ?

「なあタバサ、どうして失敗でここまで警戒態勢とる必要あるんだ?」
「すぐわかる」
「え? それって……」

ボシュッ!!!

「うわっ!」

急に教卓の方からまばゆい光があふれ、それから凄まじい爆風が吹き荒れと爆音が響いた。
光はすぐに収まり、教卓……があった場所には、衣服と髪をぼろぼろにしたルイズと、壁に打ち付けられ気絶したシュブルーズ先生。
使い魔達は急な爆音に驚き、火を噴くわ吠えるわ暴れるわ、外にいるだろう使い魔も窓ガラスを割って侵入してくる始末。
その侵入してきたうちの大蛇が、たまたま前を飛んでいたカラスを……ってこら!

「静まれ!!」

教室中の生徒から『平民のくせに何取り仕切ってんだ』的な視線が集中した。
……が、俺の声に反応した使い魔達が静まると、視線は驚愕の物へと変わった。
平静を取り戻した使い魔達は、俺の元に集う。

「ほら、大丈夫。大丈夫だからほら、主人の所へ帰りな。窓から入った奴は、外にな」

そう言ってやると、使い魔達は外へ、または主の元へと帰って言った。
周りはと言うと、喋る事なく使い魔と俺とを交互に見ている。
タバサとキュルケを除いて。

「タバサ、大丈夫か?」
「平気」
「よかった……じゃあ先生とルイズの介抱しないと」

周りはさっきの出来事に呆気に取られてるのか、静まったまま。
このまま、サッサと面倒事になる前に介抱しようと……。

「ちょっと失敗したみたいね」

思ったのに、渦中のルイズさんは能天気にそう言った。
もちろん周りは大激怒した事は、言うまでもない。




「公休とな?」
「はい、オールド・オスマン。サイト君とミス・タバサに同伴してきてもらいたい所がありまして」
「あの2人を? 一体どこへ……よもや、虚無の樹海ではなかろうな?」
「そのまさかです。サイト君の伝説の使い魔の能力なら、きっと虚無の樹海の秘密を……」
「確かに、サイト君ならば可能かもしれぬ。じゃが、まだ彼は覚醒したばかり」
「ですが、あの樹海に彼の複合能力の秘密があったとしたら?」
「……良いじゃろう。ただし、危険だと判断したら退くように」


(あとがき)
ここからですが、ちょっと原作とは違う流れを入れていきます。
基本的に、再構成ではあるけど『オリジナル展開』もなくては面白くないですし。

それにしても、やっぱりタバサって結構人気ありますな。
1話で20も感想が来るとは……タバサの人気はすごいと思う今日この頃。

ここで一言、タバサってやっぱりいいよね。
ガリアからのタバサ救出後は特に



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第4話
Name: 秋雨◆47235915 ID:00cfed89
Date: 2008/08/10 14:47
幸い、シュブルーズ先生は脳震盪だけで済んだ。
ただし、ルイズとシャールさんは爆発の後片付けを(意味ない措置付きで)命じられた。
その他はと言うと、別の教室で授業を続ける事になった。
……最も、その後から『錬金』について触れる事はなかったけど。

「大丈夫かな? 俺、力使っちまったけど」
「記憶喪失を前面に出せば問題ない」
「誰も平民なんかに興味を持たない奴ばかりだからね、トリスティンの貴族は。そもそもヴィンダールヴは伝説の使い魔だし、平民がなったなんて誰も信じやしないわ」

授業も終わり、中庭ではあちこちでティータイムにしゃれこんでいる貴族が見受けられる。
本を読んでたり、魔法の練習をしてたり、恋人同士で語り合ったりなど。
さっき見せて貰ったアルヴィーズの食堂も、結構内装も金使ってるなと思ったし……

「贅沢してんな、ホント」
「貴族は安っぽく見られちゃダメなのよ。トリスティンは古臭い伝統を重んじる国だから、なおさらこだわるわけ」
「……実際に、見た目だけで中身なしの零才貴族も多い」
「……毒舌だな」

とりあえず、タバサと言う少女の恐ろしさを、少しだけだが垣間見た気がした。

コツッ!

「ん? これは……成程、香水か……って、何で香水で?」
「おそらく額」
「香水は、魔法薬に入るからね」
「ああ、そう言う事?」

人目がある時は、ルーンのある場所で合図。
それが俺等+コルベール先生とで決めたルール。

「奇麗だな……香水なんて見た事ないけど、こんな物なのか」
「それって、モンモランシーの香水じゃない?」
「モンモランシー?」
「そうよ。『香水』のモンモランシーっていう、私達のクラスメイト。多分この色は、モンモランシーが自分の為に調合してる物ね。私から渡しておくわ」
「やあキュルケ、良いワインが手に入ったんだけど、一緒にどうかな?」
「あら本当? じゃあサイトとタバサ、そう言う事だからお2人でごゆっくりね。それじゃギムリ、行きましょ」

そう言って俺から香水を受け取ると、声をかけた男性を引き連れ去って行った。
フレイムも器用に、バイバイと言う様に前足を振りながら去って行った。

「あの人、キュルケの彼氏?」
「そう、今の」
「へぇっ……ん? 今の?」
「キュルケは恋人が週替わりの時もあれば、日替わりの時もある」
「ふーん」

まああんな美人だから、言いよる奴なんて居ない方がおかしいか。
……それに反して、男って悲しい生き物だなと思った。

「やあサイト君、ミス・タバサ」
「あ、こんにちはコルベール先生。どうしました?」
「君達に頼みたい事があってね。あとで私の研究室に来てくれないか?」
「俺は構いませんが」

タバサも頷き、肯定の意を示す。
コルベール先生は、見るからに大喜びと言う感じ。

「では、よろしくお願いします。早速準備せねば!」

……嵐の様な人だな。
でもまあ、あの人は俺の事見下すような事しないし、この位は気にする事もないか。
生徒は勿論、教師の大半も俺を見下す奴が居て、特にコトーだかガトーだかって教師が、一番ムカつく。
トリスティンは古い文化を尊重して、『メイジにあらずば貴族にあらず』な風潮が目立つらしいから、ある意味コルベール先生にシュブルーズ先生が特殊の様だ。
聞いたところ、キュルケとタバサは留学生で、キュルケはゲルマニアって言うトリスティンとは正反対の風潮の国から。
タバサはガリアって国の出身らしいが、あまり喋りたくないのか詳しくは教えてくれなかった。

「さて、夕食まで時間あるけど、これからどうする?」
「どこか静かな所で本を読みたい」
「じゃあ、部屋に戻る??」
「……」

タバサが頷くと、俺達は寮へと……。

「おや、ミス・タバサに噂の使い魔君じゃないか」

向かおうとしたら、薔薇を持ってキザったらしくしてる貴族に呼びとめられた。
……多分使い魔だろうモグラを抱きかかえてるのが、すっげえマヌケな印象があるけど。
そう言えば、授業で見たっけなこの顔。

「なあタバサ、この人誰?」
「知らない」
「なっ!? ぼっ僕はギーシュ・ド・グラモンだよ、ミス・タバサ! 同じクラスメイトの上に、以前話しかけたじゃないか!」
「覚えてない」

……風だけに、言葉まで真空の刃か。
なんか、ギーシュ・ド……なんだっけ?
そのギーシュの胸に氷の槍が何本も突き刺さってるように見えたが、まあいいだろう。

「で、そのギーシュ様が俺達に何の用ですか?」
「ああ、簡単に言えば君達に興味があるんだ。なにしろ君達は使い魔召喚の儀でラブシーンを演じると言う、まさに新たな歴史を刻んだ2人だからね」
「まあ、確かにそうですが……」
「それで使い魔君、君は見た所女性に不慣れだろう? だから、僕がいろいろアドバイスをしてあげようと思ってね。なに、礼はいらないよ。これも薔薇たる僕の役目さ」

薔薇たる僕って……そこまで自分を褒め称える奴初めて会ったぞ。
タバサに至っては、完璧に無視して本を読んでいる。
呆れた様子にも気付かず、ギーシュはお勧めのデートスポットを頼んでもないのにペラペラと喋っている。
……自己陶酔に浸ってるらしく、俺達の反応すらてんで無視。

「ラ・ロシェールから見る絶景は良い物だよ。それから……」
「ギーシュ様」
「ああ、ケティじゃないか。どうしたのかね?」
「昨夜話した、手作りのケーキを持ってまいりました。良い紅茶葉も手に入りましたので、御一緒にと思いまして」

多分ギーシュの彼女と思われるその子の乱入で、話は中断された。
ん? ケティって言う子のマント……。

「なあタバサ、あのケティって子のマント」
「マントの色は学年を表している、黒が2年で茶色は1年」
「へぇっ、じゃああの子タバサの1個下?」
「そう」

……でもタバサの1個下とは思えんな。
授業見てて、タバサがすごいメイジだってのはわかったけど……見た目はどう見ても、ケティって子の方が上だ。

「ではケティ、今は大事な話をして居る所だから、ちょっと待っててくれたまえ」
「あの、こちらは……もしかして、使い魔召喚の儀式でラブシーンを演じたという噂の先輩と、平民の使い魔ですか?」
「そうさ。では使い魔君、手を出したまえ」

満足したのか、ギーシュはキザったらしくバラを掲げて、その内の花びらを俺の手に落とした。
手触りの感じからして、多分造花だろう。

「これは?」
「その花びらをあげよう。今度話を聞きたいときは、それを持ってきたまえ」
「はぁっ……」
「では行こう、ケティ。君の作ったお菓子なんて、実に楽しみだ」
「はい」

俺とタバサはウンザリという感じで、食堂を後にした。
タバサは持っていた杖でフライを使い、俺と一緒に部屋へと向かう。
花びらは……捨てるとややこしくなりそうなので、一応取っておく。
……何と言うか、キザなヤローのやる事はよく分からんね。
あのケティって子も、あんな奴と付き合ってて疲れないのか?

「さて……時間まだあるし、俺は何しようかな?」
「頭なでて」
「え?」
「今朝フレイムにやったように」
「あっああ、良いよ」



Side タバサ

そして約束の時間。
まるで隔離されてる様な場所にある、ミスタ・コルベールの研究室。
……時々ルイズの様に爆発を起こすらしいから、周りから評判は良くない。

「やあ、よく来てくれたね。少々汚いが、入ってくれ」

……少々?
時間になったので来てみたら、汚い上に臭い。
……サイトに頭を撫でて貰う方が、比較にならない位に有意義。

「……要件は?」
「ああ、君達に一緒に来てもらいたい所があってね」
「ある場所?」
「ここだ」

ミスタ・コルベールはトリスティンの地図を広げ、とある森を指さした。
ここは……先生、正気なのだろうか?

「……正気?」
「まあ、普通に考えればそう取られるね。だが、サイト君なら突破は可能かもしれない」
「? ここに、何かあるんですか?」
「虚無の樹海という、トリスティン、アルビオン、ガリア、ロマリアの領地内に必ず1つある、獰猛な高位幻獣の住みか。かつて始祖ブリミルが作り上げた魔道具があるという伝説がある」
「だが高位幻獣の、しかも獰猛な種の住みかともあり、迂闊に近付けば幻獣達の餌と言う訳だ。かつて伝説の真偽を確かめる為に、アルビオンにて選りすぐりのスクエア50人の捜索隊が結成されたらしい……だが、帰って来た者は1人としておらず、伝説は闇に葬られ、今や絶対立ち入り禁止区域となったという訳さ」

……確かに、ミスタ・コルベールは研究好きで伝説好きだと聞いたから、時々遺跡や宝物を探しに行って、よく遭難しかけていると聞いた。
普通に考えれば、虚無の樹海に向かう事自体正気を疑うけど、私達を呼ぶ事は一応は納得出来る。
高位幻獣といえど、問題ない人材が居るのだから。

「そこで、サイト君の出番と言う訳だ。君のヴィンダールヴの能力なら、きっと突破できると思ってね。それにミョズニトニルンの力も必要になるかもしれないから……頼む、十分な報酬は用意するつもりだ!」
「俺は構いませんよ? 冒険なんてロマンを感じますし」
「……ちょうど足になる幻獣が欲しかった。虚無の樹海に住む幻獣なら、申し分ない」
「おお、わかってくれるかね!? それでは、決まりですな」
「出発は?」
「明日です。安心しなさい、オールド・オスマンには私から言っておく」

……行動が早い。
確かに良い教師なのは認める……認めるけど、自制心が行動力に追い付いていない。
明らかに自分から渦中に飛び込みたがる、トラブルメーカー。

「いや~、未踏の地に冒険か。ワクワクするなあ」

……似た者同士。
まあいい……虚無の樹海に住む幻獣は、訓練された軍の幻獣よりも強いらしい。
それに加えて虚無の樹海に関する伝説が本当なら、あの男の打倒に良いかもしれない。

「それでは明日の食事が終わったら、すぐに出発しましょう。野宿の準備はこちらで行いますので、身の周りの準備をしておいてください」
「わかりました」
「……失礼します」

……外の空気がこんなにおいしいなんて、久しぶりに感じた。
イザベラの嫌がらせで嫌な匂いにはなれたとは思っていた……でもそれ以上に、あの部屋の異臭は嫌悪する。

「さて……んじゃ、メシ食いに行こうか」
「……」

……虚無の樹海か。
そこに眠る秘宝がもしあるのなら……出来れば、お母様の心を元に戻せる道具であってほしい。
そうでなければ、あの男の首をこの手に出来る強力な武器を……。

「なあタバサ」
「何?」
「明日は頑張ろうな?」
「……」

……まあいい。
明日は、良い日になる事を信じる。


(あとがき)
今回は原作で言うと、ギーシュと決闘するのですが、スルーします。
まあ、この辺はちょっと違う流れということで。

虚無の樹海に関しては、これからも重要なキーポイントとする予定です。
まあ、その辺の謎はサイト君の複合能力の謎と同様に徐々にとですが。

最後に1つ、タバサはやっぱり可愛い。
早くガリア救出後のタバサがアニメで見たい。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第5話
Name: 秋雨◆47235915 ID:6b7e7ff7
Date: 2008/08/10 15:00
今日も今日とて、タバサの温もりを感じながら目覚め、食事を終え、虚無の樹海へと旅立つ。
服……は、ここに来てからずっと着たきりスズメだけど、途中寄るトリスタニアという街(コルベール先生が食料の買い出しする為)でタバサが買ってくれるらしい。
……まあ、洗濯はタバサが魔法でやってくれると言ってたが、俺としてもただ居るってだけなのも何なので、自分の身の回り位はやることにした。
武器も、コルベール先生がくれた剣で準備万端。

「さて、食事はちゃんと取ったね? では出発だ」
「はい。じゃあタバサ、乗ろう」
「わかった」
「あらあら、微笑ましい光景ね」

……俺達の動向に気付いたキュルケが、学院長に公休の申し出をしてついてくる事になった。
朝食中、何故か学院長室がある塔から悲鳴が響き渡ったのは、気の所為にしとく。

「おいおいキュルケ、良いのか?」
「良いのよ。こそこそと面白そうな事やってるなんて、見過ごせるわけないじゃない」
「キュルケはいつもこう」
「まあ……良いけどさ」

キュルケは俺を差別しないし、タバサの親友だから俺も他人とは思ってない。
……でも、場所が聞いた内容だけに一緒にっつーのもためらってしまう。

「所で、どこに向かうの?」
「虚無の樹海」
「へぇっ……え? ちょっと待って! 今、虚無の樹海って言った!?」
「言った」
「しょっ、正気!? ちょっと待ってよ、私遺書なんて……あっ、そっか。でも大丈夫かしら?」

タバサとほぼ同じ反応だな。
そこに向かうって事自体、正気を疑う位危険な場所だと一般的に認識されてると……。
おいおい、大丈夫か?

「では、参りましょう。まずはトリスタニアでサイト君の衣類及び、食料の買い出しです。片道2日の旅路になりますが、必ずや虚無の樹海の秘密を解き明かしましょう」

御者に回ったテンションが高いコルベール先生が手綱を握り、いざ出発。


「虚無の樹海ねえ……もし始祖の作ったって言う魔道具が本当にあるんなら、高く売れそうね。でもここは、帰って来てからのお楽しみにしましょう。虚無の樹海に入る事態、正気の沙汰じゃないしね」


Side タバサ

トリスタニアで食料とサイトの衣類を調達して、本日は野宿。
私も何度かやったことあるが、全て1人での野宿だからすごく新鮮。
でも……今は忘れよう。

「成程……電波という一種のエネルギーという表現ですか? それで離れた相手とも話せる電話か。すごい、それが本当であれば、情報伝達の今までが変わるぞ」
「流石に、原理まではわからないですけどね」
「うーん、行ってみたい! 是非とも行ってみたいですなあ、はっはっはっは!」

……やはり似た者同士。
先程からサイトは、テンションの高いミスタ・コルベールと共に、サイトの世界を色々と話してる。
私に話してくれた事もそうだけど、どういう生活をしてるのかも。
いつか住む世界だから、やはりいろいろと知りたい。

「やっぱりタバサも、サイトの世界の事聞いたの?」
「聞いた。いつかサイトとその世界で暮らしたい」
「そう……タバサ、何か出来る事があったら言って。いつだって微熱のキュルケは、タバサの力になってあげるからね」
「……」

……初めて、野宿を楽しいと思った。

「ところで、君のあのパソコンと言う道具についてだが」
「だっダメですよ。あれだけは」
「そっそうか……」

……あの光景さえ除けば。



Side サイト

学院を出発して、ちょうど2日目。
人の5倍以上に高い木が群生し、奥どころか玄関先すらハッキリ見えない。
……何か樹海の方から、こちらの方を数えきれん位の数のなにかに見られてる様な感じもする。
……その所為かさっきから、タバサが俺に震えながらくっついて離れようとしない。

「ここが虚無の樹海か……如何にもなんか出そうだな。化け物だけじゃなくてこう、おばけとか」
「やめて!」
「え?」
「タバサは幽霊が苦手なのよ」
「あっ、そうなの!? ごめ……」

『来たれ……』

「っ!?」
「今の声……何?」
「どうしたの?」
「今、樹海の方から声がしたような……」

タバサがより強くひっついて、キュルケとコルベール先生は臨戦態勢を取りつつ周りを見回す。

「……おばけ怖い」
「声って、どこから? 私には聞こえなかったけど……」
「私もだ。だが、ここには何かが……それも、ミス・タバサとサイト君に関する秘密があると?」
「かもしれませんね……えっと、タバサはどうする?」
「……こんな所で1人にしないで」
「ああ、わかった」

そうして虚無の樹海に入ること、約3時間。
どうやら、ヴィンダールヴの能力はちゃんと機能し、遭遇した幻獣も獣も俺達に攻撃する事はなかった。
……と言うか、学院で見た使い魔のどれよりも強そうなのばっかで、精神的な負担はでかかったけど。

「ケルベロスにヒュドラ、フェンリルと言った獰猛な種が、こうも勢ぞろいとは……しかもそれが面白い位にサイト君に従うのですから、まさに特異な光景です」
「あのサラマンダーなんて、火竜山脈出身のフレイムより大きいわ」
「……ここまで来れたのが不思議な位」

確かに……ここで50人近くの精鋭が誰一人帰らなかったという事、頷ける。
だってワイバーンとか、近付くだけで喰らいついてきそうで怖いし。
キュルケの話じゃフレイムはサラマンダーとしては大きい方だっつーのに、その倍近くありそうなサラマンダーいるし。
しかもそれがフレイムの様にじゃれ付いて来たり、俺よりでかい分怖いよ。

「サイトが居なかったら、今頃幻獣の餌ね」
「サラッと気楽に怖い事言うなよ。ヴィンダールヴの力があるっつっても、ここにいる幻獣って学院の使い魔とは別格だぜ? 内心ビクビクしてるっての」
「まあ、それが普通の反応だね。正直私も、君が居るとは言えどいつ襲いかかってくるかと不安だからね」
「普通の反応」

奥に進むにつれ、どんどんと凶悪そうになっていく幻獣。
そして、やたらと木がでかくなりもはや光の進入すら拒んでいる。
足元には、幻獣もしくは人骨がバラバラと散らばっている。

「……出そうで怖い」
「大丈夫だよ、幾らなんでも急に人骨が動くなんて……ないよね?」
「疑問形なのが台無しよ、サイト。大丈夫よ、幾らなんでも自然に骨が動くなんて、この世界でもあり得ないわ」
「そろそろ、ランプを灯しましょう。これでは夜と変わりありませんな」
「確かにそうですね。俺達が今どこにいるのかも……」

『来たれ』

「っ!」
「ん? また、聞こえたのかね?」
「はい、あっちからです」
「さらに奥じゃない。大丈夫なの?」
「でも、声は聞こえた」
「ここに何かがあると言う事は確実になりましたな。行きましょう」

言葉に従って歩くこと、さらに2時間。
すでに絶滅したとされてるらしい幻獣とか、獰猛な幻獣の親分らしき強そうなのが来た時には、心臓が止まりかけた。
途中休憩を入れている間も絶え間なくこっち見てるし、フレイムなんか怯えきっててキュルケから離れようとしなかったし、正直来たの後悔した。

「……ねえ、あとどれ位進めばいいの? サイトが居るって言っても、心臓に悪いわここ」
「サイト君、例の声は聞こえないのかね?」
「うーん……いえ、全然」
「あそこ」
「ん?」

タバサが指さした先には、かすかに光があった。
……もしかして、出口か?

『来たれ』

「っ! あっちからだ!」
「あれが、目的地かね?」
「どうやら、その様ですね」
「よーっし、お宝ゲットよ!」

光がした方向へと向かうと、そこには明らかに人工物の、人の手を模った部分がある扉。
多分、地下に通じてるのか他には何もない。

「洞窟……いや、遺跡か?」
「この扉……強力な封印が施されてる」
「成程ね……仮に幻獣達の突破はできても、この扉を開ける事が難しいって事? 全く……ここまできて足止め?」

『共に扉に触れよ』

「っ! ここ……?」
「おい、ここにこの樹海の秘密があるのか!? おい、いったい誰なんだ!?」
「サイト君?」
「……開ける」

言葉通りに俺は右の、タバサは左の扉にある手形に触れると、額のルーンが輝くのが分かった。
そして、扉が俺とタバサの触れた手形部で何かを認識したような輝きを見せると、まるで何もなかったかのように消え去った。

「どうするかね? 君とミス・タバサに関する何かがあるのは明白だが」
「行きます」

扉があった場所の先には、下り階段。
タバサが杖を一振りすると、頷く。

「罠は、ないみたいね」
「んじゃ、行こう……一体、ここに何があるんだ?」
「皆さん、幻獣がこの先にはないと思いますが、何が起こるか分からない以上杖の準備を怠りなく。サイト君、君も剣を抜きなさい」

剣を抜いて、左手のルーンが反応したのを感じとると、遺跡の中へと歩を進めた。



Side タバサ

虚無の樹海の中に、こんな遺跡が……。
階段以外は殆ど手をくわえられていないが、これは明らかに異常。
虚無の樹海に人工物など、これまでの道筋を考えればあり得ない。
神の笛ヴィンダールヴがいなければ、ここまで来る途中で確実に死ぬか逃げるかのどちらしかない。

「一体何故? 誰が? 何の為に?」
「どうした、タバサ」
「ここに来るまでの経緯、そしてこの場所が存在する理由を考えていた」
「確かに、気になる所ですな。ここに入ったのは、恐らく我らが初めてでしょうが……」
「ここまで厳重に守られてるなら、お宝の方も相当なものね。どんなものかしら?」

キュルケはさっきまでの道筋もなんとやら、この先にある何かを想像して呆けた顔。
ミスタ・コルベールは、杖で警戒しつつも色々と探索を行っているよう。
そして……。

『来たれ……』

「やっぱり聞こえる」
「あなたも?」
「ああ。やっぱ、タバサにも?」
「そう」

私達に何か関係している物が……。
ふと、視線の先で階段が途切れ、床になっているのが見えた。

「広い所に出る。戦闘準備」
「ああ、任せろ」
「いつでも良いわ」
「うむっ、ではまいりましょう」

全員が戦闘態勢を取り、ゆっくりと階段の終点へと足を勧めた。



Side サイト

階段の終点の先は、だだっ広いドーム状の空間が広がっていた。
盾、笛、本、玉のレリーフ、そしてメイジと思われる石像が五角形を描くように……中心?
中心はレリーフと像を結んで作られてると思われる障壁で囲まれてて、近付ける状態じゃない。
良く良く見てみると、その中央には剣が台座に刺さっているのが見えた。

「あの剣が、この樹海に眠る秘宝……」
「へぇっ、あれなら美術的な価値も高いわ」
「障壁」
「あっ、そっか。この障壁……見て分かる位に強力だわ」
「だが、これほど高度な障壁など見た事がない。しかも、4系統とは違うな。始祖ブリミルが施したものとすれば……」

『2人同時に、台座に触れよ』

「台座?」
「おそらく、あれの事」

声に従って、俺とタバサは一番奥のメイジの像がある台座に向かった。
調べてみると、台座には入口と同じ手形がある。

「触れるぞ」
「……」

タバサが肯定したように首を振る。
台座の手形にそっと左手をあて、タバサが右手を当てると、急に俺のルーンが光りはじめた。
タバサの方も、持っていた杖が急に魔法を発動したかのように風を纏い始める。
右手、左手、額、胸が急に痛みはじめたが、すぐに収まった
それと同時にメイジの像の目が光り、周りのレリーフへと光の筋が通り始めた。

「なっ何だ!? 何が起こる?」

光がまずは盾に当たり、その表面にガンダールヴのルーンが刻まれる。
そして笛にはヴィンダールヴの、本にはミョズニトニルン。
最後に、玉には見慣れないルーンが刻まれた。
そして障壁が光り輝き、ガラスが割れる様に消滅した。

「これは……やはり、サイト君に関わる場所だったのか」
「どうやら、ルーンに反応して発動する仕掛けの様」
「しかし……だとしたら、やはりこれは始祖ブリミルが作った遺跡だと言うのか? こんな所に、しかもここまでして隠すと言う事は……サイト君は、それほど重要な存在だと? ん? サイト君何を?」

急いでパーカーを脱いで、シャツをたくしあげる。
そして胸の部分に目を向けると、そこにはさっきの玉に刻まれたのと同じルーンが刻まれていた。

「むっ胸にもルーンが!?」
「こんなルーン、『始祖ブリミルと使い魔達』になかった」
「恐らくこれは、語られていない4体目の……? だが今はそれ以上に、どういう事だ? サイト君には、ここまでして守るべき秘密があるとでもいうのか?」

『その通りだ』

「何奴!?」
「誰よ、出てきなさい!」
「え? キュルケ、コルベール先生、さっきの聞こえたんですか!?」
「じゃあ、この声なの!? サイトとタバサが聞いたの」
「そうなのか……? ならば、声の主よ、我らをここに導いた理由があると言うのであれば、姿を現してほしい! 我等に敵意はない、ただあなたの目的を知りたいのだ!!」

『こちらだ』

声に元に振り向くと、その先に居たのは……

『待っていたぞ、『調律者』よ』



(あとがき)
一応、オリ展開の虚無の樹海編ですが、冒険シーンは不慣れなんで難しいです。
結構賛否両論あるみたいで、正直混乱しそうですが……
後、答えが遅くなりましたが、三人称が苦手なんでその辺はご了承ください。

前にヘイトものって言う意見がありましたが、こちらとしては原作イメージからしてそういう風になるなって思って書いたつもりですが……イメージの違いかな?
それともこちらの勉強不足か……まあ、まだまだ修行が足らんということで。
精進しないと



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第6話
Name: 秋雨◆47235915 ID:9cfd9ae0
Date: 2008/08/10 15:05
「剣が……しゃべってるのか?」
「これはおそらく、インテリジェンスソード」
「君が、サイト君をここまで?」
『そうだ。サイトと申すのか?』
「あっ、ああ」

台座に刺さっている剣に近付き、改めて剣を見てみる。
まるで、竜を模した……いや、竜そのものが剣になったという表現の方が合っている様な装飾の、俺の身長に近い位の長さの大剣。
素人目から見ても、俺が持ってる剣とは比較にならないほどすごい剣……そんな印象が持てる。

「お前が、俺達を……なあ、どうして俺とタバサをここまで?」
『まずは名位教えろ』
「あっ、ああ。俺は平賀才人だ、お前は?」
『我が銘はバハムート……竜剣バハムートだ。汝と出会う日を待っていた』
「俺と……?」
『そうだ。さあ、我を引き抜け』

柄を握ると、右手と左手、額のルーンが輝くのが分かった。
脳内に竜の……それも、山の様に大きく大地の様に力強い竜の姿が浮かぶ
そして、そのイメージが俺と同化する様な感じ。
ゆっくりと剣を抜くと、力強い刀身なのにそれと不釣り合いな位に軽い。

「軽い……それにこの感じ、まるで竜になったみたいな」
『ふむっ……この感じ、やはり間違いあるまい』
「なにが……?」

ふと、意識が一瞬遠のく。
頭の中で、何かがわき起こる……いや、蘇る様な感覚。
……がすると思ったら、急に消えた。

「なんだ、今の……?」
『……どういう事だ、何故目覚めぬ?』
「何か言ったか?」
『……いや、今は気にする必要のない事だ。それよりも、もうここには何もないぞ』
「あっ、ああ」

代えの鞘なんて持ってないので、仕方なく抜き身で持つことにした。
それからスケッチを取ろうとするコルベール先生をバハムートが一喝し、しぶしぶと画材をしまうというハプニングを除いて、無事にさっきくだった階段を上る事が出来た。

「なあ、ちょっと良いか?」
『なんだ?』
「お前さっき、俺の事を『調律者』って呼んだよな? あれって何なんだ?」
「確かに……君には色々聞きたい事がある。君は伝説通り、始祖ブリミルの手で作られたのか、君が言う『調律者』とは一体なんなのか、その『調律者』とはここまでしてでも守らねばならない秘密なのかを……伝説で『調律者』と呼ばれる存在など、聞いた事がない」
『時が来たら話そう。今はまだ、『調律者』について知られる訳にはいかないのだ』

……一体何なんだ?
確かに虚無の樹海もそうだけど、あんな仕掛けしてるって事は……
もし、この4つのルーンが刻まれたやつを『調律者』って呼ぶんなら、ここは間違いなく『調律者』である俺以外に立ち入ることが出来ない場所。
でもどうして、俺がその『調律者』になったんだ?

「なあ、せめて教えてくれ。俺は……」
『こことは違う異世界から来た……と言う事ならば、知っている』
「なんだって……? おい、どういう事だ!?」
『ただ言える事は……お前がこの世界に来た事は、偶然ではないと言う事だけだ。その先は……今言う訳にはいかない』

偶然じゃない? じゃあ、必然って……なんで? 何の為に?
俺はタバサに召喚される事が……この世界に来る事が、必然だった?

「なあ、一体どういう事だよ!? 俺は……どうしてこの世界にいきなり連れてこられたんだ!!?」
『……ならば、少しだけ教えてやる。お前が呼ばれた理由……それは、この世界で虚無の胎動が起こり始めているからだ』
「虚無の胎動?」
「待ちなさい。それは一体……」
「それが悪しき方向へ向かってしまった場合の抑止力……それが『調律者』だ」

つまり、この世界で何かが起こり始めてる……それを止める為に俺が?
……っておいおい、なにやらすごい話になってないか?
それに俺……タバサと会うまでは普通の高校生だったんだぜ?
うー……なんか、簡単な流れじゃなさそう

「……それじゃあ早いとこ、樹海抜けようぜ」
「えー、またあの心臓に悪い道を?」
「サイト、この辺りに居る幻獣なら申し分ない。どれか手懐けて」
「あっ、よく考えればその手があったわね。しかも周りは伝説レベルの幻獣ばかりだし……」
「っ! のんきに話してる場合ではなさそうですぞ」

出口に差し掛かった所で、入口付近にかなりの数の竜が待ち受けてる事がわかった。
こちらを見て、何やらやり取りしてる様子。

「なあ、通してくれ。俺達は外に出たいだけなんだ」

前に出て、俺の10倍近くありそうな竜達の説得を試みる事にした。
一応、俺達に敵意を向けてる訳じゃなく、寧ろ友好的な様な……。
なんて考えてると、竜達が数歩後ろに下がり、代わりに上空からリーダーと思わしきさらに一回りでかそうな竜が降りてきた。
その竜は、バハムートを見て……。

「久しいな、バハムート」
「しゃべった!? ……まさか、風韻竜か!?」
「韻竜?」
「今や絶滅したといわれている、知恵の竜の眷族。人語を話し、通常の竜とは比較にならない能力を持っている」

タバサの説明を聞いて、流石はファンタジーワールド……のんきにそう思った。

『うむっ、元気そうで何よりだ』
「この者が……『調律者』よ、名を何と言う?」
「また『調律者』かよ……俺は平賀才人」
「そうか……イルククゥ!」

竜達の一部が道を開けた先には、周りの竜達より一回りも二回りも小さい竜。
きゅいきゅいとイルカの様な声を上げながら、こっちに来た。

「お呼びですか、お父上様?」
「このお方、ヒラガ・サイト様につき、空を駆け巡るのだ」
「わかりました」

イルククゥと呼ばれた竜は、こっちをいぶかしげそうに見る。
そして俺に鼻先を摺り寄せ、心地良さそうに声を出す。
満足したらしく、俺から離れると……

「私の名前はイルククゥなのね。あなたは?」
「俺は平賀才人。よろしくな」
「よろしくなのね、きゅいきゅい。ねえねえ、お兄様って呼んでいい?」
「ああ、構わないよ」

……なんか、すっげえフレンドリーな竜だな。
しかし……よもや、竜にお兄様なんて呼ばれる日が来るなんて。
まあそれは良いとして、イルククゥに乗って樹海を出る事になった。

「すごいわ。まさか風韻竜の背に乗れる日が来るなんて」
「確かに……サイト君が来てからと言う物、感動で埋め尽くされるよ」
「さっ、タバサ」
「うん」
「きゅいきゅい、そのメガネのチビっ子がお兄さまのつがい?」

……爆弾を投下してくれやがりました。

「ちょっ、おまっ!」
「ええ、そうよ。サイトのつがいはこの子、タバサよ。だからお姉さまって呼ばなきゃダメよ?」
「きゅいきゅい、わかったのね」
「おいキュルケ。いくらなんでも……」
「あら、タバサなら良いって言うと思ったから言ったんだけど、サイトは不服?」
「いや、そんな事は……」
「なら良いじゃない」

結局言い負かされ、タバサは自動的にイルククゥのお姉さまとなった。
……タバサの頬を赤らめて頷く姿は、俺の脳天と心臓に雷を与えてくださった。



Side タバサ

足になる幻獣は欲しかった。
でもまさか、風韻竜が手に入るとは思わなかった。
飛ぶ早さも申し分ない上に、二人でも十分余裕がある。

「きゅいきゅい、お兄様とお姉様が一緒に出来た~♪ る~るる~♪」

……でも煩い。
この体格ならまだ子供かもしれないが、騒がしいのは嫌い。

「うっひゃ~っ! フライで飛ぶのも良いけど、竜の乗って飛ぶってのもいいなあ。なあタバサ、こんなに空に近いぜ?」

……これ位のお喋りは我慢しよう。
サイトの喜びに水を差すのは、不本意

「きゅいきゅい、お兄様喜んでくださってる?」
「ああ、勿論。竜に乗って飛ぶなんて気持ちいいよ」
「ホント? じゃあはりきっちゃうのね」

張り切る?
嫌な予感がすると同時に、急にスピードが増して宙返り。
サイトはあっちこっち見まわしてた所為で、危うく落ちかけた。

「大丈夫?」
「あっああ……心臓とまりかけたけど」
「あー、一応この竜は子供だから、あまり刺激する様な事は言わない方が良いね」
「この高さから落ちたら確実に死んでたわね」
「きゅいきゅい、どうだったお兄様? すごかった? すごかった?」

ボグッ! ボグッ! ボグッ!

「痛い! 痛い! お姉様、痛いのね!!」
「調子に乗り過ぎ。危うく落ちるところだった」
「きゅい~っ、ごめんなさいなのね」

……前言撤回。
能力はあれど、おつむに問題があり。
『しっかりと』教育する必要ありと見た。

「おおっ、馬車が見えましたぞ」
「じゃあ私とコルベール先生はここでおろして、タバサとサイトは2人で帰って良いわ」
「え? あの……」
「良いじゃない。竜の騎乗の練習の名目でタバサとデートでもしたら?」
「名目でって……」
「お兄様、おなかすいた、おなかすいた。あっ、良い匂いなのね」
「あっ、こら! それは2日分の……」

……前言撤回、『念入りかつしっかりと』教育する必要あり。



Side サイト

「きゅい~っ……杖痛かったのね。でもそれ以上に、お姉様怖かったのね」

2日分の食料を全部イルククゥに食われ、その罰としてタバサに杖で殴られた。
まあ幸い、コルベール先生が野草や果物の知識を持ってたおかげで、事なきを得た。

「……教育が必要」
「まあ落ち着けよ。悪気があってやった訳じゃないんだから」
「ダメ。どの道韻竜なら、正体は隠さなければならない」
「きゅい?」
「確かにその通りだ。もしアカデミーに知られでもしたら、実験材料に使おうとする筈だ」
「そうね。韻竜って本当は絶滅してるんだけど、もし生き残りが居るなんて知れたら欲しがらない人間は皆無よ」

なら、希少価値があるって事か。
おいおい、この世界にゃ『階級制度』はあれど『動物愛護』はないんかい。
つくづく貴族優勢の嫌なシステムで作られた世界だな、ホント。

「実験ってなあに? おいしいの?」
「いや、食いものじゃないって。そのアカデミーって奴等は多分だけど、イルククゥをずーっと檻に入れて変な薬やら飲ませたり、切り刻んだりって事しようとするかもしれないって事」
「きゅい~っ! いやいや! いやなのね!!」
「じゃあ約束、私達以外の人の前では喋っちゃダメ。もちろん、魔法も厳禁」
「わかったのね。きゅいきゅい……」

仕方なくという感じで、うんうんと頷く。
……あまり可愛く見えないけど。

「それともう1つ、名前を付ける」
「名前?」
「イルククゥなんて、普通人間に思いつく筈のない名。だからあなたにシルフィードという名をあたえる」
「きゅいきゅい、わかったのね。竜としての名はイルククゥ、お姉様に貰った名前はシルフィード。わーい、私は2つも名前がある~る~るる~♪」
「大丈夫なのか?」
「……『念入りかつしっかりと』教育する」

おーい、念入りかつしっかりとを強調するって……
大丈夫か? イルククゥ……いや、シルフィード。

『中々面白くなりそうではないか、くくくっ。我が主も中々に災難を引き込む人間の様だな。これは退屈しそうにない』
「おいおい、他人事だと思ってのんきにしてんじゃないよ」
『ふっ……他人事以外に何だと言うのだ?』
「嫌な奴……いや、嫌な剣だなお前」
『我はこういう性格に作られた……それだけの話だ』


(あとがき)
漸く登場のシルフィードですが、上手く書けてたかな?
それと今回出した『竜剣バハムート』ですが、名前の由来はわからん人いないよな……絶対。

実際は、トリスティンの象徴である水属性から色々と考えたのですが……今回のシナリオに沿って考えた結果、竜剣にしようという結論に。
それからいろいろと調べて、バハムートは千夜一夜物語で大魚型として登場しているという話を知ったので、採用しました。
まあ、竜のバハムートの方が印象強いのもあるのですが。

次回からは、本編に沿ってのストーリーを展開します。
所々でオリジナルの流れと原作の流れを織り交ぜる……というのが嫌いな人もいるかもしれませんが。
とにかく、この話が好きだという人の為にも頑張りたいと思ってます

追記:指摘あったミスを直しました



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第7話
Name: 秋雨◆47235915 ID:092d20d8
Date: 2008/08/10 15:12
この世界で前人未踏の地、虚無の樹海の冒険。
まあ確かに怖かったし、色々と分からない事も出来たけど……でも、ここまで心が高揚したりするのは始めてだ。
途中に立ち寄った武器屋で仕入れた鞘に入れて、背負ってる竜剣バハムート。
そして、今俺とタバサが乗ってる風韻竜シルフィードという、新たな仲間も出来た。
……ちなみにコルベール先生とキュルケは、元々のって来た馬車に乗っている。

「あっ、見えてきたぞ。魔法学院だ」
「きゅいきゅい♪ あそこでお兄様達は生活してるの?」
「そう。それよりも約束」
「きゅい、きゅいきゅい」

タバサが頷くと、俺達及びコルベール先生たちは一路学院へ。
学院の敷地内に入ると、旅行帰りと言う感じで疲労感がズシッとのしかかってくる

「5日ぶりだけど、帰って来たって気がするわね」
「この時間なら、まだ授業の時間」
「では、学院長に報告をしましょう。それでは、私と共に……」

ドカーーーンッ!!!!

「この爆発音、久しぶりだと違って聞こえるわ」
「火の塔の方」
「またミス・ヴァリエールみたいだね……」

本当に帰ってきたんだなー……。



Side ??? In ???

「……成程、あの娘が虚無の樹海の秘宝を手に入れたか。その使い魔となった小僧、確かか?」
「はい。いかがなさいましょう?」
「試してみようではないか。それが余にどれほどの心の震えを与えてくれるかを」
「はっ……ではすぐに招集を」
「そう言う意味ではない。腕利きの傭兵を1人、差し向けるのだ。そして今後、余の許可なくしてあの娘に招集をかけるな。この命は絶対だ、逆らえば誰であろうが例外なく処刑すると言う旨を含め、皆に伝えておけ」
「なっ……! なぜ、そのような?」
「困難も障害もないゲームなど、面白くなかろう? イーヴァルディの勇者しかり、物語と言う物は強大なる敵が居てこそ盛り上がる物だ。そうであろう?」
「違いありません。では、早急に手配いたします」
「さて……どれほど楽しませてくれるかな? シャルロットの使い魔とやらは」



Side タバサ In 魔法学院

オールド・オスマンに帰還報告。
そして、虚無の樹海での出来事の報告及び、バハムートの所有及びシルフィードの飼育の許可。
それらが終わり、ミスタ・コルベールと別れるとキュルケは軽く伸びをする。

「んー、それにしても長旅だったわね。今日はもう寝ちゃおうかしら?」
「確かにもう眠いな……でもシルフィードに寝床教えてやんないと」

旅になれてる私はそうでもないけど、サイトとキュルケには堪えたらしい。
しきりに伸びをしたり、気だるそうにしてる。

「あら、ルイズじゃない」
「誰かと思ったら、ツェルプストー。最近見ないから、学校追い出されたのかと思ってたわ」
「失礼ね、ちゃんと学院長の許可を頂いての公休よ。それに、どこぞの失敗魔法で教室やらあっちこっち壊しまわってる誰かさんじゃあるまいし、たかだかちょっとした若気の至りで退学になるなんてある訳ないじゃないの」
「全く、これだからゲルマニアの淑女って下品ね、慎みってもんが全然ないんだから。特に色ボケ一族ツェルプストーって事も含めて、汚らわしいったらありゃしない」

あっ、今キュルケの方からブチって音がした。
全く、よく毎回毎回飽きずに続けられる物だと思う。

「慎みも何も、恋は常に戦い。それも分からない上に、古臭い時代遅れな伝統ばっかり優先してるから、ヴァリエールはツェルプストーに恋愛に関しては負け続けてたんじゃない」
「ふんっ、あっちへこっちへと長続きがしない色ボケ一族の末裔ごときが、何をほざいてるのかしら? 清い恋愛が出来なくて、何が恋よ」
「あら、『女性は敬う物』の意味を履き違えて、ただ男を平伏させるだけのどこが清い恋愛なのかしら? 嫉妬深くて、気が短くて、ヒステリーで、プライドばっかり高くて、トリスティンの女なんてどうしようもない人ばかりじゃない。あなた、私の人気は知ってるでしょ? 少なくとも、ばれたって取り合ってくれるのがその証拠よ」
「まるで盛りのついた獣じゃない。そんなのに好かれて満足してるんだったら、いっそトロル鬼でも誘惑したら?」

……口汚い。
小さい頃、間違って迷い込んだガリアの会議を思い出す。
カマの掛け合いに腹の探り合い、汚らわしい事この上ない光景。
あれよりは、まだまともかもしれない……でも、見ていて良い気分のするものでもない

「……なあタバサ、何であの2人って顔合わすといつもああなんだ?」
「ルイズとキュルケは、トリスティンとゲルマニアの国境を挟んで隣接する土地の領主の娘。故にお互いに目の上のたんこぶ」
「一族絡みの因縁な訳ですか……爆弾と火種って感じだな」
「良い例え」

サイトはあきれた表情で、2人のケンカに目を向けた。
確かに魔法なき世界の住人からすれば、異常レベルなのは理解できる。
……キュルケもいい加減、ルイズを煽るのを止めて欲しい

「おーいキュルケ、俺達先に戻るよ?」
「ええ、そうして。あっ、フレイムの世話をお願いできる?」
「ああ、わかった。おいでフレイム」

フレイムがサイトにすり寄るのを見て、キュルケはルイズに向き直した。
……心配だけど、ここは去ろう。

「あんな平民にもしっぽを振るなんて、流石はツェルプストーの使い魔ね。主そっくりの尻軽だわ。あーあ、不潔不潔」
「少なくとも、どこぞのゼロよりよっぽど優秀よ? それにサイトだって、雪風のタバサが召喚したのがただの平民な訳ないじゃない。この前のみたでしょ?」
「平民は平民でしかないじゃないの。そんな当たり前な事も分からなくなったのかしら?」
「そんな狭い視野でしか見ない頭でっかちだから、トリスティンはハルケギニア1の弱小国って風評がつくんじゃない。あなたの言う事が正しかったら、ゲルマニアは軍事強国と呼ばれるまで発展しなかったはずよ?」

……部屋に帰って本を読もう。
今日は確か、図書館に新しい本が入って来る筈。
折角だから、新しく入ってきた本を借りよう。

「私は部屋に戻り本を読む。あなたは?」
「俺は、マルトーさん達に帰ってきたって挨拶してくるよ。ついでにシルフィードを紹介してくる」
「そう」
「ほら、行こうぜシルフィード、フレイム」
「きゅい♪」

嬉しそうに鳴き、サイトにすり寄るシルフィード達を見て……ふと、思い出す。
……そう言えば、最近任務についての招集がかからない。
そろそろ来てもおかしくないはず……増して、サイトの存在に気付いたのならすぐに来ると思った……。
なのに、予兆すらない……なにか嫌な予感がする。

ドカーーーンッ!!

……こんなものではなく、もっとそれ以上の。
お母さまは大丈夫だろうか?



Side サイト in 魔法学院厨房

「あっ、サイトさん!」
「ああ、久しぶりだねシエスタ。それにマルトーさんも、元気そうですね」
「そっちこそ元気そうで何よりだゼ、使い魔のあんちゃんよ。薬草探しは上手くいったか?」
「ええ、結構たくさん取れましたよ」

一応、虚無の樹海が目的地という事は秘密とタバサに言われてた。
行ってみてわかったけど、あんな危険な所行くなんて死にに行くような物だし。
だから、薬草探しと言う事にしておいた。

「サイトさん、旅のお話聞かせてもらえますか?」
「まあ待てシエスタ。積もる話もあるだろうが、今は旅の疲れを癒す方が先だ。ちょっと待ってな、今メシの用意してやる」
「あ、ちょっと良いですか? おい、シルフィード!」
「きゅい」

驚かせようと思って、シルフィードには俺達とはちょっと離れた所に隠れて貰った。
まあ案の定驚いたが、シエスタは腰抜かして泣きそうな顔で逃げようとしていた。
シルフィードがこっち来て、俺の方に鼻先を摺り寄せようとするのを見て、シエスタは悲鳴とほぼ変わらない声をあげる。

「さっサイトさん、早く離れて!!」
「きゅい~♪」
「ははっ、こら、くすぐったいって」
「きゅいきゅい♪」

俺の顔を舐めまわすシルフィードに、マルトーさんもシエスタも先程の恐怖はなんとやら。
茫然と、俺とシルフィードのやり取りを見ていた。

「こいつ、シルフィード。見ての通りの風竜な」
「あの……これはいったい?」
「薬草探してる時に、俺とタバサになついちゃったんで連れてきたんだよ。なっ、シルフィード」
「きゅい♪」
「なついちゃったんでって……おいおい、あのお嬢ちゃんならともかく、貴族でも一握りしか扱えねえ竜がか?」
「あっあの……」
「シルフィード、ここで働いてるシエスタとマルトーさんだ。ほら、ごあいさつ」
「きゅい♪ きゅいきゅい」

シルフィードがお辞儀をすると、シエスタもマルトーさんも感心してシルフィードに近寄る。

「結構、可愛いですね」
「ああ、気に入ったぜ」
「それで、この子にも食事をあげたいんですが」
「ああ、それなら……」

マルトーさんは急に厨房に引っ込んで、大量の肉や魚の入った大きな入れ物を持ってきた。
なんか、全部虫食いの様にごく一部が欠けてるけど。

「ほれ、余り物だけどたんまり食いな」
「きゅい~♪」
「貴族のアホウどもは、ちょっとしかとれねえ高級な部分しか食わねえから、こういうのが余ってしょうがねえんだ。まあ生ごみ処理みてえで悪いが、たんまり食え」
「きゅい、きゅいきゅい」
「おお、ありがとうってか? 中々賢いじゃねえか。はっはっは、貴族のアホウどもに呼ばれなくて良かったな」

上機嫌のシルフィードとマルトーさんを見て、俺とシエスタは顔を合わせて微笑んだ。
新しい仲間、シルフィードは受け入れてもらえたようだ。

「おや、風竜か。これは見事だ……ん? ああ、久しぶりだね使い魔君」
「あっ、どうも」
「この竜は、ミス・タバサの物かい?」
「ええ、そうですが、一応俺世話係ということで」
「なら良いが、あまり見せびらかさない方が良いよ? 主人が主人といえど、風竜を平民が連れているなんてよくは思われないからね」
「ちょっとギーシュ、危ないからそろそろ……ん? あら、その人確かタバサの使い魔の……」

声がした方には、ちとおデコが目立つ金髪ロール……って表現か?
まあ、そこそこ美人……っておいおい。

「……ケティの事は黙っていてくれ。今度、僕のとっておきのデートスポットを教えてあげるから」
「……別にかまいませんが」
「そうか、ありがとう。ああ、すまないなモンモランシー。では行こう」

電光石火で俺の肩を掴んだギーシュ氏は、俺の言葉に満足したのかさっさとモンモ……なんだっけ?
そう呼ばれた女の子と、どこかへ去って行った。
……成程ね。

「じゃあ次はサイトのメシだな。ちょっと待ってな、今作ってやっからよ」
「あっ、お願いします」
「きゅいきゅい」
「ああ、食い終わったらフレイムと一緒に遊んでて良いぞ?」
「きゅい」



「……ねえギーシュ、あなたに渡したい物があるの」
「なんだい? モンモランシー」
「これよ」
「ん? これは……」

ドサッ!

「……ターゲットは確認終了。さて、仕事といくか」



(あとがき)
とりあえず、今回はここまで。

まあ次回どうなるか、わかる人にはわかりますよね。
原作筋に戻すとは言いましたが、フーケ戦の前にやっぱサイトに功績があった方がいいなと思ったので

後、前回の名前違いについて。
どうも間違えて覚えてたみたいです。
とりあえず、修正はしますので



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第8話
Name: 秋雨◆47235915 ID:283779c8
Date: 2008/08/10 15:18
食事も終えて、シルフィードに寝床を提供すると俺はタバサの部屋に戻る事にした。
ちなみにフレイムは、シルフィードと親睦を深めるべく一緒にそこに残る事になった。
まあ、種族は違えどカテゴリ的には同じ幻獣何だし、仲良くしてもらいたいね。

『中々に楽しい食事の風景だったな』
「だろ? 気の良い人ばかりだし、そこらで偉そうにしてる貴族よかよっぽどマシだ」
『ふっ……世の中そんな物だ。優れた血筋から優れた者が生まれるとは限らんが、魔法の力だけは受け継がれる。そうして自分の力の大きさも知らぬバカ者が、無意味に力を振りかざす……今のメイジは、そう言う目の腐っている者ばかりだ』
「まあ、そうだな」

この世界に来てからと言う物、貴族でまともなのはまだ5人しか会ってない。
俺の主人のタバサを始めとして、その友人のキュルケにコルベール先生にシュブルーズ先生。
そして、学院長……さっきのギーシュ氏は、どちらかと言うと自己満足の為だろうし。
ルイズもそうだけど、大半は俺が平民だっつー理由で見下す奴やら、何かと嫌みたっぷりの態度の奴、中には鼻を摘まむ奴まで居る始末だし。

「平民相手っつー理由で、ああも嫌な人間になれる物なのかね」
『貴族社会の悪しき汚点だ。人は制約を知り、歯止めを知る事である程度の欲求を抑える……だが、特権意識によりそれが阻害され『自分はこの家に生まれたから、卑しい者は自分に従って当然』という考えが生まれてしまう。時折居るであろう? 『平民は貴族に従っていれば良い』という言葉を言う者が。それがその象徴だ』
「……まあ、確かにな」

シエスタもそうだけど、あのマルトーさんだって良い人だ。
でもここを見る限りじゃ、コルベール先生にシュブルーズ先生、そして学院長の方が特殊見たいで、留学生のキュルケやタバサの国はどうかは知らない。
でも、虚無の樹海への旅路での野盗とかとの戦いでも、キュルケやタバサを見る限りじゃ、メイジがどれだけ強い力を持ってるってのが良くわかったし……。
この世界では、俺達の世界と違って魔法って言う力の所為で、そう言う意識がかなり深い所まで根付いてるらしい。

「この世界で、俺の世界の様なみんな平等って考えが浸透するって、難しいのかな?」
『難しいであろうな』

……下手にケンカしたりしたら、タバサに迷惑かかっちまうし。
まあ、内面が我儘なガキだと考えて、我慢するしかないって事か。
俺に『伝説の使い魔』のルーンがあるって言っても、力でなんとかしたらそれこそそいつ等と同じだし。

「やあ、ちょっと良いかい?」



Side ??? In ???

「お父様、一体どういう事!? なぜあの人形娘の収集に制限など!!?」
「……なんだそれは?」
「……失礼いたしました、陛下。恐れながら申し上げます、私の部下である騎士一名に招集の制限をかけた理由をお教えいただきたいのです」
「余の決定に不服があるというのか?」
「……いえ。ですが、理由を知りたく……」
「あの娘は平民を使い魔にしたらしい。ならば魔力はあれど、実際にはただの役立たずだという事だ」
「平民? ……それは確かに傑作ですわ。十分納得いたしました、では失礼いたします」


「……よろしいのですか?」
「構わん、真実を知る者は余とお前だけで良い。それで、誰を差し向けた?」
「“地下水”でございます」
「そうか……くくっ、さてどうなる事か」



Side サイト in 魔法学院 ヴェストリの広場

ガガガガガッ!!

「うわっ!」

突然声を架けられたと思ったら、急に大量の槍が俺に襲い掛かった。
槍を避けて飛んできた先を見ると、そこには右手にバラを、左手にナイフを持っているギーシュ。

「なっ、何しやがる!!?」
「悪いね使い魔君、ちょっと君に死んでもらいたくて」
「はぁっ!!?」

「なんだなんだ?」
「ギーシュが平民の使い魔と何かやり合ってるぞ」
「ああ、あの使い魔の儀式でラブシーン演じたって噂の?」
「もしかして、決闘か何かか?」
「いけギーシュ! 平民なんかになめられるなよ!」

周りのギャラリーは、今のギーシュの言葉と行動に何の驚愕すら見せず、野次馬と化した。
おいコラ、止めようって奴1人位いねーのかよ。
……って、いる訳ないわな。
こいつら全員『良い暇つぶしの種が見つかった』的な目してやがるし。

『全く……ここまで腐っているとはな。だが、あのギーシュとか言う小僧』
「どうした?」
『目に意識の反応がみられん……おそらく、何者かに操られている』
「え!? そんな魔法もあるのか!?」
『ああ。戦わねば死ぬぞ?』
「じゃあ仕方ねえか。バハムート、いけるか?」
『待て、学生であるならドットかラインの筈だ。そんなレベル相手に我を使えば、あの小僧は確実に死ぬ。そちらのクレイモアにしろ』

それなら仕方ないから、バハムートじゃなくてもう一本持ってた剣を引き抜く。
左手が熱くなるのをかんじ、良い具合にエンジンがかかったようだ。
……そう言えば、旅路で野盗と戦った事はあるけど、メイジと戦うのは初めてだな。
相手方も、右手に持つバラの花びらを飛ばして、その花びらを鉄人形に変えた。

「おいおい、何だよありゃあ?」
『落ち着け、あれはゴーレムだ。土属性の『錬金』で作った人形』
「無駄だよ、君達平民ごときがどんなにあがこうが、貴族にかなうわけがないだろう?」
「ほざけ、おぼっちゃまよ!!」



Side タバサ In 魔法学院廊下

「全く、ゲルマニア生息の変異ミノタウロスの所為で、散々な目にあったわ」
「人を勝手に亜人種にしないでくれる? まああんたの場合は、その胸から見ても吸血鬼の被害者って方がぴったりね」

結局あの後、教師に見咎められ説教されたらしい。
図書館から本を借りて帰る途中、学院長室の方からケンカをしながらこちらに向かってくる2人と運悪く合流してしまい、今に至る。

「なによこの……ん? なんだか、ヴェストリの広場が騒がしくない?」
「言われてみれば……何かしら?」

「おい、聞いたか? ヴェストリの広場で決闘だってよ」
「『青銅』のギーシュと、あの平民の使い魔だそうだ」
「そりゃ見ない手はないな」

サイトが……ギーシュと?

「あの平民、何やってるのよ? タバサ、使い魔の教育位ちゃんと……あれ?」
「たっタバサ!」

……これが、サイトの常識に反する故の私闘ならまだいい。
でも……これがもし、あの男の差し向けた事であるのなら……。

「ちょっとタバサ! 心配なのはわかるけど、相手はギーシュよ?」
「わかってる、サイトなら後れをとる事はない……でも、嫌な予感がする」
「なにそれ?」

聞いた事がある……人の心を操る魔法を得意とする傭兵メイジ『地下水』
素性はおろか、性別に年齢すらも謎。
ただわかっている事は、人の心を操る魔法を得意とし、任務は絶対をもって完遂する……。
これがただの杞憂なら……いや、杞憂であって欲しい。

「どうか、杞憂であって!」



Side サイト in ヴェストリの広場

「なかなかやるじゃないか、平民にしてはね」
「くっ……いててっ」

あいつが作ったゴーレムとか言う人形、それを破壊すると同時にあいつ自身が打ち出す石の塊を打ち込まれた。
こっちが突っ込むと、地割れを起こしてバランスを崩された所を攻撃。

「なあ、ギーシュって確かドットじゃなかったか? 今の“ストーン・ハンマー”だろ? それにさっきの、“グランド・クラッグ”じゃないか?」
「ああ、さっきからドットとは思えないスペルが目立つな。確かにあいつ錬金に関してはすごいけど、他は並だった筈だし」

流石に周りもおかしい事に気付いたみたいだ……てか、おかしいと思ったなら止めろ!
っと、いけない!
顔に痣が出来ちまってる以外は、特に目立つけがはない。
けど、あっちこっちに石ぶつけられてるから痣位は出来てるな、これは。

「まあ、そう簡単に死んでもらっても面白くない。存分に苦しんでもらい、楽しませて貰おうじゃないか!」
「ふざけんな!」
「ふんっ」

ギーシュはナイフを振り、石の楔を撃ってきた。
それをかわすと、目の前にゴーレムが現れて一撃。

「ぐはっ!」
『組み合わせが上手いな……だが、洗脳魔法の媒体が分かった』
「なんだよそれ?」
『あのナイフだ。あれから不可解な魔力を感じる』
「あれだな?」

剣を構えて、襲ってきたゴーレムを一撃で両断。
そしてギーシュの撃ってくる魔法を剣で弾き、壁に作られたゴーレムを蹴散らしギーシュの顔に鉄拳をぶち込む。

「ぐはっ!」

ギーシュが派手にぶっ倒れ、手からナイフが放され地面に突き刺さる。
そのナイフに駆け寄って、その手に取ってみる。

「……そう言う事か」
『っ!』

今ナイフから驚愕の声が聞こえたが、とりあえずは今という状況を治める事が先だな。
確か漫画で見た限りだと、洗脳解けたら意識失うって話だし……
うわっ……殴った箇所腫れてやがる。

「おい、大丈夫か?」
「うっ……ここは、ヴェストリの……どうして僕はここに?」
「どうしてって、お前覚えてないのか?」
「何を……いたた、なっ! ぼっ僕の顔が!!?」

顔が腫れているのに気づき、ギーシュが悲鳴を上げた。
やっぱり、さっきの事は覚えてないし……とにかく、謝っとくか。

「サイト!」
「あっ、タバサ! それに、キュルケも」
「大丈夫?」
「ああ、なんとかな」
「よかった……」

俺の身体の傷を見て、これなら自分でなんとかできるとつぶやくタバサ。
キュルケはと言うと、それに安心したような顔をこちらに向けると、ギーシュの方に向く。
……背景に炎を纏った竜を背負って。

「ギーシュ、あんたどういうつもり? 決闘は禁止されてるはずよ!」
「決闘? おいおいキュルケ、いったい誰と誰が?」
「とぼけないでよ、あんたとサイトがよ!」
「ええ!? ぼっ僕が!!?」

やっぱり、覚えてないみたいだ。
……なんか可愛そうだし、種明かしでもしてやるか。
と、右手に持ってるナイフをにらみつけて、一言。

「いや、ギーシュは悪くないよ」
「でも、こんな大騒ぎを……」
「それはな、このナイフの所為だ」
「ナイフ?」

その場にいる全員が疑問符を浮かべるのを見て、ナイフを一睨み。

「おい、とぼけるな」
『ちっ、気付いてやがったか』
「しゃべった!? まさか、インテリジェンスナイフ?」
「ああ、こいつにギーシュは操られてたんだ。しかもこいつ……」

ミョズニトニルンによる、こいつの解析で得られた使用法にそって一発。
ナイフからさっきギーシュが使った岩の楔が現れて、目標めがけて飛んで行く。

「今の、ストーン・エッジ!?」
「成程ね。ギーシュはドットメイジなのに、やたらとラインスペル以上を使ってたのは、このせいだった訳?」
『なっ! 何でお前体を乗っ取れない上に、俺の能力を勝手に引き出せるんだ!?』
「とにかく、そう言う事だからギーシュを責めないでやってくれ」

キュルケは小さく舌打ち……ってこらこら。
……とにかく、承知して下がってくれた。

「ギーシュ様!」
「あっケティ!」
「大丈夫ですか、ギーシュ様?」
「ああ……心配掛けてすまないな、ケティ」
「ちょっとギーシュ!!」

俺達を取り囲んでた輪が真っ二つに割れて道が出来ると、そこにはさっきギーシュが連れてた女の子の……モンモンだったっけ?
そのモンモンが、鬼のような形相でギーシュを睨みつけていた。
うわっ……これは最悪だ。

「もっモンモランシー!!?」
「その子誰? 随分と親しそうだけど」
「あなたこそなんですか? 私のギーシュ様に馴れ馴れしいです!」
「私のギーシュ様? ……そう、この子があなたの浮気相手ってことね?」
「浮気!? ……どっどういう事ですか、ギーシュ様!?」
「いや、それは……」
「またあんたって人は!! キーーーーッ!!!!」
「まっ待ってくれ、香水のモンモランシー。これは何かの間違い……」

バチーーーンッ!!!!

「酷い……私だけって仰ってましたのに! もう2度と、顔を見せないでください!!」

平手のダメージで気絶したギーシュを汚い物を見る目で一瞥して、ケティは泣きながら去って行った
ギーシュの顔に、俺が付けた顔の痣とは反対の頬に、奇麗なもみじを残して。

「あらあら、自慢のお顔がぼろぼろね、洗ってあげるわ」

モンモンはバッグから瓶を取り出して、ドボドボとギーシュの顔にかけた。
それから瓶を落とし、ギーシュの頭に命中させると不機嫌さ丸出しで去って行った。

「気の毒だな……浮気したって部分を除くと」
「自業自爆」
「情熱仲間としては、まだまだね」
『あーあー、災難な坊主だね』
「「お前が言うな!!」」
「あなたには聞きたいことがある。少なくとも、この程度で済まさない」
『おっ……お手柔らかにお願いします』



「なっ……なんでぼくが、こんな目に?」

(あとがき)
やっぱり完璧にオリジナルという訳ではなく、まあちょっと原作の流れをちょっといじったりとかは、やった方がいいですね。
まあ、ギーシュには個人的な主観でみての、原作よりも悲惨な目にあってもらいましたが。

戦闘シーンって初めて書きますが、やっぱり難しい。
ガンダールヴ発動のサイトの苦戦は、やっぱり地下水ギーシュだからということで。
まあ、ただのフルボッコじゃつまらないですし。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第9話
Name: 秋雨◆47235915 ID:d8d5662d
Date: 2008/08/10 15:22
あんな大騒ぎが公にならない訳もなく、結局俺達及びあの後介抱されたギーシュ。
そして元凶のナイフは、学院長室にて事情説明。
ナイフは最初こそしらばっくれてたが、タバサが魔法薬入りのビン詰めにすると言ったら、あっさりと白状した。

『まず、俺は“地下水”って呼ばれてる。銘は忘れちまった』
「もしかして、あの傭兵メイジ“地下水”?」
『俺の事知ってるって事は、お嬢ちゃんガリア出身かい? しかも、裏社会に詳しいとみたが?』
「一応。まさかインテリジェンス・ナイフが正体とは思わなかった」

ちなみに地下水はと言うと、用意された小さなテーブルの上に乗っている。
まさに、まな板の上の鯉という感じ。

「ディテクトマジックで解析したところ、このナイフは人の意思を乗っ取れるレベルの魔力を付与されている事がわかりました。それに加えて、乗っ取った身体が平民であろうとも、系統魔法を使う事が可能です」
『乗っ取った人間の精神力が俺の能力に加算されるからな。そこのギーシュとか言う小僧は、そこそこ良い素材だった訳だからトライアングルは出せたってわけだ』
「おい貴様、少しは反省したらどうなんだ!? 人の身体で好き放題しておいて!!」

少しも悪びれた雰囲気のないナイフの物良いに、ギーシュは声を荒げる。
平民の俺に自慢の顔を傷つけられただけでなく、ビンタ+ワイン塗れにされるという災難に遭わされたのだから、無理もないだろうけど。
ちなみに傷は、魔法による治療なのか跡形もなく消えていた。

「落ち着きなさい、ミスタ・グラモン。とにかくこの騒ぎは、危険指定魔道具による事故という事で済ませませんか?」
「うむっ、確かにミスタ・グラモンは立場的にこのナイフの被害者じゃからの。お咎めは無しでよろしい」
「ありがとうございます」

ギーシュは礼をすると、俺の方に近づいて……。

「君、名は何という?」
「え? ああ、サイト。平賀才人」
「サイトか……覚えておこう。僕の事はギーシュと呼んでくれ」

それだけ言うと、部屋から出て行った。
それから数分間、学院長室で声を発する者はなく、ひたすら時間が過ぎて……。
その空気は、タバサによって破られた。

「そろそろ本題に入る。あなたは何故サイトを狙ったの?」
『ある女に雇われたんだよ。こいつを殺せば、1万エキュー出すってんでよ」
「いっ1万エキュー!? 下級貴族の年金20年分じゃない!!」
「ある女というのは?」
『どこの誰かは知らねえが、どことなく恐ろしい雰囲気だったぜ。俺も“地下水”として長く傭兵稼業を営んでたが、あいつを敵にするのはごめんだと心から思うような奴だ』
「どこで雇われたの?」
『リュティスの酒場だよ』

おいおい、なんか偉くでかい話じゃないか?
俺の命を狙って、誰かが傭兵に依頼って……。

「あなたはどうして傭兵を?」
『退屈だからさ。俺達インテリジェンス・ウエポンには寿命がない以上、意思を吹き込まれた時点で退屈との戦いって訳だ。それにどうせ戦うなら、金とか名誉とかの目安が欲しいのさ』
『ならば、百戦錬磨という事だな?』
『うおっ! ……なあ、旦那の背にある竜みてえな剣、もしや同胞かい?』
『バハムートという。“地下水”とやら、我等につく気はないか? そんな額を出す者が失敗をタダで許すと思えんだろう?』
『確かにそうだな。それに俺が意思を乗っ取れない上に、能力を勝手に引き出せる奴なんざ面白そうだ。こりゃ傭兵メイジ“地下水”はしばらく廃業だな。まあ、この旦那なら文句はねえが』

話はこいつ等の間では纏まったようだけど、俺としても問題ない。
なんせ俺でも魔法が使える様になる上に、ナイフなら今持ってる剣と違って持ち歩ける。

『という訳でサイトの旦那よ、俺を使ってくれねえか? 役に立てると思うんだが』
「まあ、良いけどな。魔法を使える様になるってのが魅力だし、ナイフならどこでも持ち歩けるし。どうかな、タバサ?」
「賛成。サイト相手に、汚いナイフ1本がどうにか出来る訳がない」
『……汚いをつけないでくれ。まあそう言う訳だからよろしくな、サイトの旦那、タバサの姐さん』
「……裏切ったらビン詰めにする」
『了解しました、タバサお嬢様!!』

学院長の許可も貰い、地下水という仲間が加わった。


「やはりガリア王家は、サイト君の存在に気付いておる可能性が高いのう」
「ですが、召喚してまだ間がないこの時期に、こんな直接的な行動に出るとは……幾らなんでも早すぎます」
「じゃが、早かれ遅かれこうなる運命だった事も事実じゃ。武器に獣、魔道具さえ揃えば国家間の戦局すら変えかねぬ存在じゃ。狙うなら早い時期の方が良い」
「……確かに」
「コルベール君、これは炎蛇としての君の力も必要になるやもしれぬな」
「……覚悟はしておきましょう」



in ガリア王都リュティス ヴェルサルテイル宮殿

「……地下水が奴等の手に落ちたと?」
「一生の不覚でございます、ジョゼフ様……この失態、必ずや」
「ミューズよ、なぜ怯える? 何が失態であり不覚だというのだ? むしろ喜ぶべきではないか! ドットの身体といえど、あの地下水をだぞ? くくくっ……聞いてくれミューズ、今我が心は喜んでいるぞ! これほどの高揚感が感じられるのだ……あの者たちと対峙する日が、待ち遠しくてたまらぬ!!」
「ジョゼフ様……では次ですが、アルデラ地方にてメンヌヴィルの一団を確認しましたので」
「いや、もう良い。これからはシャルロットと“調律者”なる小僧の動向は、逐一確認し余に報告するのだ。これから奴等には、余への敵意を育んでもらうとしよう」
「……ジョゼフ様、なぜそのような事を? 奴等が我等に災いをもたらす者である以上、排除は早めに……」
「焦る必要はない。虚無の胎動は余を始めとして、ロマリア、トリスティンと始まっておる。ならば必ずや、運命は奴等を見過ごすことはあり得ぬ。それゆえに、互いに乗り越える事が出来れば必ずや巡り会う事になるだろう。その時余とミューズとで叩き潰せばよい」
「……承知いたしました。では、そろそろ浮遊大陸に戻ります」
「うむっ。期待させて貰うぞ」


「シャルルよ、余は……余はついに我が宿敵に巡り会えたぞ! シャルルよ、シャルロットはまさにお前の娘だ!! 余は……お前を殺して以来震える事なき余の心が、今確実に歓喜している、高揚しているぞシャルル!! お前の娘を殺した時、我は人として涙を流すだろうか? あの小僧を……最強の敵を殺せば、我は喜ぶだろうか!? 奴等に倒された時、我は怒り嘆くだろうか!!? そして、我はこの愚かしい事この上なしの決断を後悔するだろうか!!!? 楽しみでたまらぬ……たまらぬぞシャルル!! くっくっくっ、はーっはっはっはっはっはっはっは!!!! さあ、いつの日か我に人としての涙を流させてくれ、シャルロット!! そして“調律者”なる小僧、ヒラガサイトよ!!!」



Side キュルケ in アルヴィーズの食堂

「ふぅっ……」

あの“地下水”とか言うナイフの一件で、タバサはサイトと出来る限り一緒に居る事にしたらしい。
まあ確かに、あんな力を恐れない人間どころか、欲しがらない奴なんて居ないのはわかる。
……わかるけど、どうしてガリアなのかしらね?

「全くもう……誰かは知らないけど、野暮はしないで貰いたいものね」

何時もならタバサの隣で食事まで一緒に話してるけど、まあいいとは思う。
動機はどうあれ、恋する事に良いも悪いもない……サイトは良い人だし、短期間の上に多少だけど、彼と接してタバサは変わった。
今は彼の能力に惹かれてるだけかもしれないけど、いずれタバサは本当の意味で惹かれる事になるだろう。
恋を家訓とするツェルプストーの血を持つ者である以上、人を見る目は肥えているつもり。
だから私としても、サイトはタバサの恋の相手としては相応しいと思う。

「……まあ、困難であればある程燃える物だからね」

自身の恋も良いけど、友人の恋というのも良いわね。
ふふっ……あの2人に本当の意味での手解きをする日が楽しみだわ。

「やあキュルケ」
「あら、ギーシュじゃない。なによ?」
「今後は君達と親睦を深めようと思っただけさ」
「あら、一体どういう風の吹きまわし?」
「彼女達に興味があるが故だよ。それにあのナイフに操られていた時の僕は、トライアングルクラスだっただろう? それを剣で倒したサイトが何者かも含めてね」

まあ確かに、遠めで見た限りでもギーシュの戦いぶりもスペルも、一線を画してた。
流石はプロの傭兵メイジと言うべき所だけど……

「雪風のタバサが召喚した平民を、ただの平民と思ってた訳?」
「何かがあるとは思ったさ。まあ僕はそれよりも、あの時の抱擁の方がずっと興味を惹かれたがね。“雪風”から取って、春風の到来とでも呼ぼうと思っているのだが」
「あら、それは名案ね」

雪風、つまり冬の様なタバサに春の到来。
まさにピッタリね、ギーシュも良い所あるじゃない。

「時に、ミス・タバサとサイトは?」
「使用人用の食堂よ」
「そうか。ならば、野暮はするものではないな」

そう言うとギーシュは、いつもならタバサの席に当たる私の隣に座った。

「あら、何時もの席にはいかないの?」
「ああ。さっきも言ったが、今後は君達と交友を深めようと思ってね。君達と居れば何かが変われる……そんな気もするから」
「ふーん、今あなたいい顔してたわ。どう? 今夜空いてるけど」
「気持ちは嬉しいが、遠慮しておくよ。僕にとっての本当はモンモランシーだけだから」

自分にとっての本当……か。
良い言葉ね、痛い目あってギーシュも成長したって所かしら。



Side サイト in 魔法学院使用人用食堂

「あっ、サイトさん!」
「おおっ、我等が剣のお出ましだ!」

学院長室を出てからしばらくは安静にしてて、夕食の時間になったから俺は使用人用の食堂へと顔を見せた。
顔を出すと、皆して俺を見るなりまるでお偉いさんを出迎える様にその場が沸いた。
シエスタに案内されてついたテーブルには、今までのとは違うレベルの料理が所狭しと並んでいた。

「あの、なんか今までより豪華じゃないかな?」
「まあ素材でこそ貴族の食卓に並ぶ物に負けているが、何時も通りの全力勝負に加え、お前さんへの俺達の期待と尊敬の全てを込めて作った料理だ。是非とも食ってくれ、我等が剣!」
「我等が剣?」
「はい。ミスタ・グラモンとの決闘は、私達も聞き及んでいます」
「そう言うこった。俺達同様、魔法を使えない平民でありながら剣を手に貴族に勝った。だからお前さんは俺達の期待の星、我等が剣って訳だ」
「剣って言ってもな……」

剣って言っても、そもそも俺元々この人達と同じ一般人で、この力はガンダールヴのお陰。
……あんまり正直に喜べないな。

「そう言えばお前さん、記憶がねえんだってな? もしかしたら、ロバ・アル・カリイエでもさぞや名のある剣士だったんじゃねえか?」
「よしてくださいよ。俺はそんな大層な人間じゃ……」
「おい、聞いたか? やっぱあのお嬢ちゃんが呼んだだけあるぜ。真の達人は偉ぶらねえ、まさにそれじゃねえか!」

周りからは、『流石だ』とか『やっぱ憧れるな』とか言う声がぽつぽつと出てきて、皆してすっかり俺を持ち上げてしまってる。
……でも悪い気はしないな、やっぱ。

「不相応」

まるで吹雪でも拭いたかのように場が静まり、その声がした方にその場全員の視線が集中。
だが声の主である俺の主人はと言うと、その視線などどこ吹く風と完全に気にしていない。

「あれ、タバサ? どうしてここに?」
「こちらで食べる事にした。内容はあなた達と同じで良い」
「それは、私達に異存はありませんが……あの」
「話に戻る。剣だけというのが気に入らない」
「え?」
「言うなら我等が勇者が妥当。彼は剣士であり、獣使いでもある。それだけでは不相応」

マルトーさんをはじめ、周りの人たちは驚愕の表情。
だけど、マルトーさんは小さく笑いはじめ、それから……。

「まさにその通りですな、ミス・タバサ! いやあ済まねえな、俺とした事がとんだ無礼をしちまったぜ! よし、我等が剣改め、我等が勇者とその姫君の食卓を整えるぞ!」

その場は、一気に燃え上がった。
というか、さらにヒートアップしてるぞ。

「あの、何か余計に大きくなってるんだけど? それに俺、勇者なんて柄じゃ……」
「不相応な扱いには賛同できない」
「あの、俺には強い力があるって言っても、所詮は一般人ですよ?」
「なら相応しくなれば良い。あなたならきっとなれる」
「おいおい……こちとら雪風のタバサの使い魔だぜ? 主人にそこまで言われちゃ、応えなきゃいけなくなっちまうじゃねえか」


「すごいな。やっぱり噂はダテじゃないぞ」
「素敵……私も彼みたいな方とあんな風になりたいな」
「はっはっは、こりゃ期待しねえと申し訳ねえな」

賑やかな雰囲気の食卓で、元の世界でも食べた事ないって位の料理を食べつつ、俺とタバサはすっかり使用人たちに持ち上げられた。


(あとがき)

最近は色々とありましたが、十話目です。
自分としては気をつけたつもりでも、やっぱりヘイトに見える人には見えるのですね……反省。
まあとにかく、タバサがメインだからってだけの駄作扱いされないように、これからもがんばります。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第10話
Name: 秋雨◆47235915 ID:926fe8ab
Date: 2008/08/10 16:02
「ほらシルフィード、食事だ。こっちはフレイムのな」
「きゅいきゅい♪」
「きゅるきゅる♪」
「……喋って良い」

賑やかな食事を終えて、私とサイトはシルフィードとフレイムにご飯をあげに来た。
シルフィードとフレイムはすっかり仲善くなっていて、来た時にはきゅいきゅいきゅるきゅると仲良さそうにやり取りしていた。

「きゅいぃ~っ。喋れないのが、こんなにも辛いとは思わなかったのね」
「御苦労さん。窮屈だろうが、我慢してくれ。ちゃんとおしゃべりの相手位してやるから」
「ねえねえお兄様、今日はフレイムといっぱいお話したのね。シルフィ、フレイムと仲良しになったのね、きゅいきゅい」

嬉しそうに言うシルフィードの隣では、フレイムも嬉しそうにきゅるきゅると鳴いた。
端から見ると、とても微笑ましい光景。

「所で、どんな事話したんだ?」
「きゅい、使い魔としての生活を聞いてたのね。シルフィ、使い魔じゃないからとっても新鮮なのね。フレイムは火竜山脈出身らしいけど、主人の……えっと?」
「キュルケ」
「そうそう、そのきゅるきゅるによくして貰ってるし、住み心地良くて最高だって言ってるのね。それにお兄様の事も、とっても良い人だって言ってるのね」
「へぇっ、そうなのか。ありがとなフレイム」

サイトに頭を撫でて貰って、嬉しそうにしてるフレイム。
そして……

ドゴッ!!

「ぐわっ!!!」
「きゅいきゅい、シルフィも撫でて撫でて♪ 良い子良い子ってして♪」

ボグッ! ボグッ! ボグッ!

「痛い! 痛い!」
「加減して。サイトが潰れる」

サイトに撫でてほしかったのはわかるけど、サイトの胸めがけて突き付けた鼻先でサイトは地面に叩きつけられた。
これはまず、力加減という物を『念入りかつしっかりと』教えた方が良い。

「きゅい~、お兄様大丈夫?」
「いてて……慕ってくれるのは嬉しいけど、出来れば突進とかはやめてくれ。シルフィードにとっては軽くでも、俺には強い力だから」
「……ごめんなさいなのね」
「反省したんならよし。おいで」

シルフィードはゆっくりと鼻先をサイトに近づけ、サイトはそれに手をやりゆっくりと撫で始める。

「きゅいきゅい、る~るる~♪」

シルフィードは心地良さそうに、歌を歌い始める。
……まあ、スキンシップは大切。
一通り満足したのか、シルフィードは鼻先をサイトから離した。

「じゃあ俺、フレイム返してくるよ」
「わかった」
「おいで、フレイム」

フレイムを連れて、サイトは寮の方へと去って行った。
……さて。

「勉強の時間」
「勉強って何? 美味しいの?」
「……」
「あの、お姉様? どうして黙るの? それになんだか、すごく怖いのね」
「……」



Side サイト in 学生寮

「あら、いらっしゃい。フレイムの事、ありがとね」
「シルフィードと話しさせてただけなんだけどね。でも、すっかり仲善くなってたよ」
「そう、良かったわねフレイム」

きゅるきゅると嬉しそうに鳴くフレイムを見て、キュルケは優しげな笑顔を向ける。
……さて、任務終了、主人のところに戻るとしますか。

「じゃあ俺はこれで」
「あっ、待って。実家からフルーツが届いたから、タバサに届けてくれる?」
「ああ、良いよ」
「じゃあちょっと待っててね。ゲルマニア特産のフルーツは美味しいから、タバサもよろこんで……」
「キュルケ!」

窓の外から、どなり声が割り込んできた。
見てみると、野性的な感じのする中々にハンサムな人が、俺を睨みつけていた。
マントが紫……ってことは、この人上級生か?

「あら、ペリッソンじゃない。ちょっと待ってて、すぐ終わるから」
「あっ、もしかして約束があった?」
「いいのよ。すぐ終わるから」
「おいそこの平民、キュルケに何の用だ!?」
「勘違いしないの、彼は私が世話を頼んだフレイムを返しに来てくれたのよ。ちなみに彼はもう売約済みだから、心配しなくて良いの」
「そうなのか……それなら良いが、用が済んだのならサッサと去れ平民! ここはお前の様な者が来て良い所では……」

ゴウッ!

「うわっ!!」

キュルケは胸元から杖を取り出し、一振りすると灯りの火が急に燃え上がって蛇の形をとり、ペリッソン氏に襲いかかりそのまま外へと追い出してしまった。
っておいおい、実力行使ですか?

「ごめんなさいね、あとで厳しく言っておくから」
「いや、それは良いんだけど……幾らなんでも、焼いて追い払わなくてもいいのでは?」
「良いのよ、これ位でへこたれる様な男なんていらないから。えっと……」
「キュルケ、その男は誰だ!!?」

再度窓に目を向けると、今度は爽やかな感じのするこれまたハンサムな男性。
おいおい……物言いからすると、彼も同様らしい。

「あの、この人も?」
「そうよ。ちょっとスティックス、先に言っておくけど彼は私の友達の使い魔なの。フレイムがお世話になったから、そのお礼をしようとしてるだけよ」
「たかが平民だろう? そんな奴さっさと放り出して僕と……」

ボムッ!!

「うわあああっ!!!」

キュルケが胸元から取り出した杖を一振りし、火球を作りだして飛ばした。
……2回目ともなると、もうどうとも驚けないな。

「ごめんなさいね、重ね重ね」
「いや、まあ……誤解されてもおかしくないと思うし」
「それじゃさっさと用件済ませましょ。えっと……これ位で良いかしらね。サイト、それじゃ……」
「「「キュルケ、一体どういう事なんだ!?」」」

おいおい、さらに3人も来ましたよ……この前のギムリって奴も混じってるし。
というか、全員が確実に俺よりモテそうな位の美形だし。

「あっ、貴様確かミス・タバサの使い魔じゃないか!」
「使い魔召喚の儀で、ラブシーンを演じたという噂のか!? それが何でキュルケの部屋にいる!?」
「おい平民、どういう事だ!?」

うわぁっ、やっぱり来たよ。
皆して俺に杖を向けて、いつでも詠唱を始められる様にしてる。

「もう、やめてよマニカン! エイジャックス! ギムリ! 彼がここに居るのは世話を頼んだフレイムを返しに来てくれただけ。私は彼を召喚したタバサとは仲良いし、私はタバサと彼を応援してるのよ。それじゃサイト、これをタバサに」
「ああ、わかった」
「おい平民、二度とこの部屋に近づくな!!」
「キュルケの部屋は、お前ごときが踏み入れて良い場所じゃない!」
「使い魔は使い魔らしく、主人にしっぽ振ってろ!」
「フレイム!」

ガズーッ!!!

「「「ぎゃあああ!!!!」」」

今度は魔法ではなく、フレイムのブレスで吹っ飛ばされた。
流石はサラマンダーという所か、すげえ炎だったな……。

「おいおい……」
「ごめんなさいね、騒がしくしちゃって。それじゃ、タバサによろしく」
「いえいえ、それじゃおやすみ。フレイムもまた明日な」

そう言ってキュルケの部屋を出て、タバサの部屋に戻った。



Side タバサ in トリスティン魔法学校教室

地下水に乗っ取られたギーシュと、サイトの戦いは今や学園中に広まっていた。
変わった事と言えば、サイトの武器に地下水が加わった事。
私も使用人食堂で食べる様になった事と、使用人達がサイトを“我等が勇者(私命名)”、私を“勇者の姫君”と呼ぶ様になったこと。
そして……。

「やあおはよう、ミス・タバサにサイト。今日も良い朝だね」
「よう。昨日の2人には謝ったのか?」
「……ビンタ一発ずつで、何とか許して貰えた」
「そっそうか……」

地下水に乗っ取られ、サイトに戦いを挑んだギーシュが私達と親睦を深めたいと言い出した事。
後付け加えられると言えば、サイトを差別していた者が減った位。

「全く……平民にへらへらするなんて、心まで成り下がったかギーシュ?」

それでも、一部の“プライドだけ”は一級品の者は未だにサイトを差別し、その矛先をギーシュにまで向け始めた。
目の前の……誰かは、その内の一人。

「彼は僕より強い。だからこそ、身分に関係なく尊敬の念を抱くのは当たり前だ」
「尊敬? 当たり前? ふんっ、たかが平民に尊敬だと? 中々に面白い冗談じゃないかギーシュ、貴族としての誇りや心まで堕ちたか?」

……ああ、思い出した。
確か去年、私に決闘を挑んで負けて、その腹いせにキュルケとぶつかる様に差し向けた……確か、ヴィリエだった?
全く……キュルケにあんな目にあわされていて、よくもそんな事が言える。
……まあいい、今は本の続きが気になる。

「なあ、あの嫌みな奴誰?」
「ああ、ヴィリエ・ド・ロレーヌって言って、去年成績が良いタバサをねたんで決闘を申し込んだにもかかわらず、あっという間に泣いて許しを請いた情けない男よ」
「要は見た目だけで中身なしの零才貴族」

こちらの発言に気付いたのか、不機嫌そうな顔を向ける。

「たかがギーシュに勝った位で、少々図に乗りすぎだよ平民」
「なあキュルケ、この嫌みな奴、ギーシュをたかがなんて言えるやつなのか?」
「言えるわよ、こいつ一応ラインだから」
「一応ね。そうは思えないけど」
「じゃあこいつ、一応ギーシュより強いの?」
「一応。ランクだけが取り柄」

ギーシュも含めて、皆して好き放題言う。
当然ながら、ヴィリエは顔を真っ赤にしていまにも爆発しそう。

「相変わらず生意気だね、君は。だが、以前の僕だと思うな! あれから……」

ドゴッ!!!

「ごふっ!!」

どうせ言って聞くわけもないのだから、エア・ハンマーをぶち込んで黙らせた。
復活したところに杖をつきつけると、よろよろと逃げ出した。
……元の意気地無しのまま。

「容赦ないな」
「騒がしいのは嫌い。それにこの手の人間は痛い目見ないとわからない」
「ギーシュと同じってか?」
「……痛いところを突くね」

本に視線を戻し、ページをめくる。
……世の中、本当に平和。



「少しいいか?」
『おう、どうした?』
「……1つ聞きたい。『使い手』とは、そう何人も居る物なのか?」
『いんや、普通はあり得ねえ。まあ、居るとすれば只一人だ……こうなる位ならそいつの手に渡りたかったぜ』
「そうか……」
「……でも、本当なの? あいつがあんたと同じ能力を持ってるかもしれないって。あんたと同じってことは、あいつも……」
「ああ。彼に近づいた時、この刻印が必ず痛んだ。これは共鳴か拒絶か……なんにせよ、私は学ぶ必要がある」
「学ぶって……これで何回目かしらね? あんたからその言葉聞くの」
「全ての知性ある者は、知を求めることで成長してきた。だからこそ、エルフであろうが人間であろうが、学ぶことを止めた時点で成長を止める……それだけの話だ」
「……そうね。それだけは信じたいわ、私も」
『けけけ、貴族の娘っ子もなかなかに難儀だねえ」
「うるさいわね」


(あとがき)
いろいろとありましたが、とりあえず一言。
別にヘイト書きたかったわけじゃないんです、ただ第三者からみたこの時期のルイズ像がこうだっていう位で、別にヘイトってわけじゃないです
変にはやし立てる人がいたので、やめてほしいです。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第11話
Name: 秋雨◆47235915 ID:f94e3400
Date: 2008/08/15 02:03
本日の授業が終わり、現在放課後。

「これはあげたつもりなのだがね」
「ですが、元々コルベール先生のものですし、やっぱ壊したらと気兼ねしてしまうんで」
『おまけに、大剣持たれちゃ俺の出番もねえよ』
「うーむ……そういうことなら、受取ろう」

地下水が手に入ったため、ミスタ・コルベールに貰ったクレイモアを返した。
さて……天気もいい、外でゆっくりと本を……

「決闘だ!!」

読みたかったのに、このヴィリエとかいう人に疎外された。
それも、昨日騒ぎがあったばかりのヴェストリの広場の真ん中で。
当然決闘と聞けば、周りもざわめき始める。

「ありがたく思いたまえ。貴族の僕が、たかだかくだらない平民の君に教育をしてあげることをね」
「教育っつーか、八つ当たりだろ。タバサに勝てねーからって」
「君は世を知らなさすぎる。平民は僕たち貴族に奉仕するためだけの存在だ、だから……」
「お前みたいなアホが調子に乗って、何時までもあーだこーだと気に入らないことにギャーギャー喚き散らすガキのままってわけか。成程、確かに勉強になった」
「それは違う。殴ってもわからないから“バカな”、もしくは“迷惑な”をつける方が好ましい」
『全くだな。あんな者が堂々と貴族を名乗るようなご時世とは、世も末だ』

ヴィリエが宣言したのもあるのか、サイトと主である私、そしてヴィリエを取り囲むように人が集まっている。
……本当に暇な人が多い

「どうやら、主従に道具までそろって礼儀を知らないようだね!!」
「破格の礼儀をしたつもり」
「俺もだ」
『同感だ。貴族生まれしか取り柄のないものなど、礼を使うだけ無駄な事』
「ならば教えてやるよ! この僕、ヴィリエ・ド・ロレーヌの力をな!!」
「あっ、やっと見つけた。ほらどいてどいて」

人垣が分かれ、人気がなくなったその中央には、何やら私の身長の倍近くも長い包みを持ったキュルケ。
キュルケはサイトに近づくと、持っていた荷物を差し出した。

「ねえサイト、これ受け取ってくれる?」
「え? 何?」
「きっと気に入ってもらえると思うわ」

サイトが疑問符を浮かべつつ包みをはがすと、穂先に斧頭と突起が左右対照についている槍が出てきた。
サイトは1回試しにという感じで振る。

「へぇっ、ハルバードっていうのか」
「ちょっと前に、実家がパトロンやってる鍛冶屋と、お抱え錬金魔術師に頼んでおいたの」
「借り」
「いいのよ。私としても実家お抱えの力を示せるんだから、寧ろこっちが借りな位よ。その槍の銘はベヒーモスよ」
『ほう……これはかなりの業物ではないか。それにかけられている魔法も、かなり高レベルと見た』
「わかるのか?」
『ふっ……我とて魔法が付与された武器だ。同族の良し悪しがわからんでどうする?』

神の左手、ガンダールヴ。
勇猛果敢な神の盾。左手に握った大剣と右手に掴んだ長槍で、導きし我を守り抜く。

……成程。
左手にバハムート、右手にベヒーモスを構え、敵と対峙するサイト。
サイトに守られながら、魔法の詠唱を行う私……良いかもしれない。

「ほうっ、君の墓標としては上等じゃないか」
「ああっ、いたのか?」
「……忘れてた」
『今のうちにさっさと逃げ出せばよかった物を』
「つくづく癪だな……まあいい。ミス・ツェルプストー、わざわざ墓標を用意するとは」
「あんたは黙ってなさいよ。どうせ這い蹲るんだから」

本当に、キュルケは人の怒りを煽るのが上手。
……まあ怪我するのはサイトではなく、あのヴィリエだから気にしない。


Side サイト

……からかいすぎたかな?
ヴィリエ氏はもはや、赤を通り越してドス黒くなった顔で俺を睨みつける。
あー……こりゃ堪忍袋の緒どころか、堪忍袋自体が破裂したってところか。

「そんなに死にたいようだな平民!! この僕に、そしてこの世界の真理に逆らった事をロレーヌの風という審判で思い知らせてやろう!!」

いや、俺だけじゃねーだろ。
……と思いつつ、新たな相棒ベヒーモスを頭上で振り回し、構えをとる。
タバサの倍はあろうかという長槍だが、やはりガンダールヴのルーンのおかげかよく手に馴染む。
これでガンダールヴなしだったら、絶対こんなスピードで振り回すと飛ばすか落とすかだろうけど。

『ふむっ……、目標は最低でも30秒以内、最短は2秒というところか』
「偉い高水準だな……まあいい、行くぞお坊ちゃんよ!」
「愚かな平民め、真の貴族の力を見よ!」

ヴィリエが杖を向け、その杖の先の空間がゆがみ始める。
そして、その歪みが俺の方に飛んでくる
それをかわして、一気に突っ込んで。

ドゴッ!

「ごふっ!」

槍を逆に持って、思いっきり腹に突き立てる。
吹っ飛ばされ、腹を抱えてのた打ち回るヴィリエに槍の先を突きつけた。

「ゲホゲホ……ひっ!! ゆっ許して……命だけは助けて!」
「情けない奴だな……真の貴族がどうとかって宣言はどうした?」
「あっあんなもの形式上の物だよ! それを真に受けることないじゃないか!」

キュルケの宣言通りに這いつくばり、泣いて許しを請う情けない姿を晒すヴィリエに、周りは大爆笑。
俺も槍を引いて、キュルケが面白げに俺の勝利を高々と告げ、場が湧いた。
ところどころから、『ヴィリエだせー!』だの『よっ、“恥かき”のヴィリエ!』だの聞こえてくる。
どうやらこいつ、すこぶる評判が悪いようだ。

「貴様……貴族に恥をかかせて、ただで済むと思うなよ!」

……懲りない奴。
つーか、さっき泣いて詫びたくせに、もう開き直ってさっさと逃げて行った。
あれのどこが貴族なのやら?

「……負け犬の遠吠え」
「全くだ……っ!」
「どうしたの?」
「いや、左手が……」
「また? まあすぐ治まる訳だし、気にする事でもないんじゃない? それよりも、厨房に行って使用人の人達とサイトの勝利を祝って皆で乾杯でも」
「するのは後にしてくれる?」

急にどよめいて、声がしたあたりから逃げるように人垣が割れた。
その中心には。

「あっ、シャールさんに……ルイズ様ではございませんか」
「久しぶりだな、サイト。今の勝負、良い踏み込みだった」
「随分と人気者ね、全く……こんな平民に構う暇があれば、魔法の一つでも覚えればいいのに」
「それは言えてるわ。でもあなたには関係のない話よね、ゼロのルイズ」
「相も変わらず、野蛮人育ちの素養を見せてくれるわね。“色ボケ”のキュルケ」

二人して杖をつきつけ合うや否や、周りは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
……否、逃げ出して行った。
……おいおい、俺ん時とはえらい違いじゃないですか?
まあ、わからんでもない……わからんでもないがな。

「なあバハムート、今の戦闘どうかな?」
『まだまだ甘い。隙も無駄もあり過ぎる、あれでは戦い慣れした者には通用はせん』
「ずいぶん辛口な事で」
『だが、今の一撃は良いタイミングで打ち込めたな。初めて使用した武器としては、上出来の部類だ。そうだな……まあ、30点くらいは出してやろう』
「え? あっ、今の……褒め言葉?」
『ふっ……鞭ばかりでは、やる気もそがれるだろう? 良き所は褒め、悪き所は叱る。調律を保つ事こそが、最善を生む為の要素だ』

御尤もで。

「ところで、ルイズ様がわざわざ何の用ですか? キュルケとケンカしに来たんなら」
「あんたとタバサに用があってきたのよ、こんな色ボケに用はないわ」
「誰が色ボケよ! というか、洗濯板の胸よりもさらに固い頭のあんたが、平民のサイトに興味持つなんて珍しいわね」
「誰が洗濯板の胸ですって? でっかいからって調子に乗らないでよね!」
「……帰るか」
「うん」
『そうだな。時間の無駄だ』

『おめっ、バハムートじゃねえか!』

そこへ、低い男の声で俺達は足を止めた。

『デルフリンガーか……よもや、こうも早くお前と対面するとはな』
『ケッ! 相変わらずいけすかねえ野郎だぜ。ちったあ気の利いた言葉を言えねえのか?』
『相変わらず品の無い剣だ。あまり喚くな、我らインテリジェンス・ウェポンの恥を晒されてはかなわん』

シャールさんが腰にしてる錆びた大剣が、バハムートと会話……というかケンカを始めた
おいおい……これで3本目かよ? さすがにもう、驚けないな。
つーかこの剣とバハムートって……。

「なんだよバハムート? この剣と知り合いか?」
『その通りだ。デルフリンガーを同じインテリジェンス・ウェポンだと認めるのは癪だがな』
『なんだとテメ……ん? そういやテメエを持ってるって事は、このアホ面のガキが『調律者』かよ?』
「おい、また『調律者』か?」
「なによそれ?」
『それは……あー、なんだっけ?』
『……お前は喋るな、我らインテリジェンス・ウェポンの名に傷がつく』

どうやら、犬猿の仲らしい。
知性を持てば、剣にも相性があるってことか?

「時にバハムートと言ったな? デルフが私を使い手といった理由をご存じか?」
『何? ……デルフリンガー、お前まさか教えていないのか?』
『そりゃあおめえ……えーと』
『……下手に恥を晒されるよりは良いと考えておこう。シャールと言ったな? その馬鹿について調べてみろ』
『馬鹿とは何だこの野郎!!!」

キュルケとルイズのように、周り破壊せんだけまだマシか。
というか、剣のケンカなんて初めて見たよ。
……洒落としては下級だけど。

「で、そろそろ聞きたいんだけど、いったい何の用で?」
「左手を見せなさい」
「は?」
「いいから見せなさい!! グズグズしないでよ!!」
「主殿、その言い方はないだろう。サイト、左手を見せてほしいんだがよろしいか?」
「ええ、構いませんが?」

手袋をはずして、シャールさんにルーンを見せる。
そしてシャールさんも、俺に左手の甲を……えっ!?

「やはり同じか……」
「ちょっ、同じって……」

シャールさんの左手の甲には……っ!

「じゃあ、やっぱり?」
「そのようだな。どうやら、共鳴だったらしい」
「どうして……?」
「どういうこと? ゼロのルイズの使い魔がエルフだってだけでも奇想天外だって言うのに、しかもガンダールヴだなんて……しかも何で、ガンダールヴが2人も?」
「わからない」




「あの使い魔の坊やが持ってる虚無の樹海の秘宝も、一緒に手に入れられれば良かったんだけど……欲をはるとロクな事ないし、あのジジイのセクハラにもそろそろウンザリしてきたし、やるなら今日の夜ね」


(あとがき)
さて、最近いろいろと忙しかったので、ようやく投稿完了。
残念に思う人もいるでしょうが、デルフは向こうに行ってもらいました。
もともとバハムートは、デルフと犬猿の仲という前提で性格を設定しましたので。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第12話
Name: 秋雨◆47235915 ID:1da8549d
Date: 2008/08/15 02:24
「じゃあ、コルベール先生は知ってたんですか?」
「ああ……無論だよ。何せ、君の後で召喚されたのだからね」

あの後、俺達は即座にコルベール先生の所へ走った。
そしてシャールさんのルーンについて聞いてみると、すでに知っていたらしい。
さすがに内容的にまずいとの事で、現在学院長室で話しています。

「なぜ今まで黙っていたのですか? これを知ったのはつい先日ですが、せめて主人である私に位は……」
「君達もわかっていると思うが、エルフはハルケギニアの民にとって忌まわしき存在だ。いくら使い魔といえど、その存在が許されるわけがない。故に彼の存在は、緘口令を敷いているのだという事はわかっているね?」
「そうよね。その上、それが始祖ブリミルの従えた伝説の使い魔の1つ、ガンダールヴになっただなんて知られでもしたら……」
「この国の王室はおろか、ハルケギニアの全国家が黙ってはいない。召喚者のルイズもまた、最悪異端審問にかけられる可能性もあるという事」
「その通りじゃ。事の真偽はどうあれ、この件は表ざたにするにはあまりにも危険すぎる物じゃ。隠していたことは悪かったが、儂達なりに君を守ろうとしたことはわかってほしい、ミス・ヴァリエール」

成程ね……そういや、シャールさんと顔合わせた奴って、大抵が顔を青ざめさせて逃げたっけ?
あの偉そうにしてるボンボンどもは愚か、教師も全員そうだったし。

「ちょっといいですか?」
「なんじゃね?」
「どうしてみんな、そこまでエルフを恐れてるんです? シャールさんみる限りじゃ、そんな誰もが恐れる凶悪な種族に見えないんですが」
「それは……」
「あんたは黙ってなさいよ! 未開の地の蛮族の分際で!!」

さすがに今の一言には、カチンときた。
そりゃ名目上、未開の地から来たってことになってるが、蛮族はねえだろ!

「蛮族とはなんだよ!!」
「何かと問題起こす粗野で下品で野蛮な人種を、蛮族と言わずなんだというのかしら?」
「やめなさい、ミス・ヴァリエール。人の生まれを貶すとは何事ですか?」
「ですが、ミスタ・コルベール。この蛮族が来てからと言う物、何かと問題ばかりが起きています。ギーシュ・ド・グラモン、ヴィリエ・ド・ロレーヌの2人との決闘騒ぎと言い、厳重な処罰を与えてしかるべきです!」
「ミスタ・グラモンの場合は、危険指定魔道具による事故に対する自己防衛。ミスタ・ロレーヌの件は、彼と主であるミス・タバサとのイザコザによる火の粉を払っただけにすぎません。無論非が無いとは言えませんが、蛮族という呼び方をするには軽率すぎますぞ」

結局、エルフと言う存在が聞けず仕舞いで話は進んだ。
おもに、俺たち共通のルーンであるガンダールヴについて。
無論俺にガンダールヴ以外のルーンがあるって知った時は、さすがにルイズも目を丸くしたけど。

「やはり本物のようですね。彼の証言は、サイト君の証言と一致しています」
「ふむっ……やはりか」
『……成程な。覚醒はまだの様だが、片鱗は見せているか』
「ん? なんか言ったか? バハムート」
『いや、なにも……それよりも、そのエルフのルーンは本物だ。何せ、デルフリンガーが主と認めている』
「デルフリンガーとは、あのガンダールヴの左手の事かね?」
『おうよ』

シャールさんの腰のデルフ(本人からそう呼んでいいと言われた)が、口をはさむ。
それにしても、この場に喋る刀剣が3本もあるなんて……随分とファンタジーを実感させられるな。
そんなすごい剣には見えないけど、実はすごい魔力を秘めた剣だったりってことか?

「おおっ、インテリジェンス・ソードか。これはこれは……よもやこの年で、ここまで伝説と綿密になれるとはの。そしてエルフの使い魔と言う初の事例も含め、長生きはするものじゃのう」
『歴史上では別に初めてではないぞ、オスマン老。かつてエルフを使い魔にした者ならば覚えがある』
『誰だよそりゃ?』
『……お前は喋るな』

機嫌悪そうにバハムートが言うと、またもや剣のケンカが始まった。
……流石にこのレベルを続けて言うと、自分の程度が低く思えるな。

「でもだとしたら、そっちの蛮族のルーンは……」
『全部本物だよ。そいつは特別製だから、全てのルーンが出たんだ』
「特別製? どっから見ても普通の平民じゃない。こんな奴のどこが?」
『そりゃおめえ……………………忘れた』
『しゃべるなと言った筈だ』

それにしても……性格的にも馬が合うように見えないが、それ以前に偉くイラついてるって感じだなバハムートの奴。
さっきのヴィリエとの決闘もそうだけど、昨日のギーシュとの決闘時にも随分とイラついてるようだったな。

「どうしたのかね、偉くご機嫌斜めの様だが?」
『今の腐り切った貴族の姿に呆れ果てて居るだけだ。先程の決闘騒ぎと言い昨日と言い、生まれしか取り柄のない愚か者が大半を占めていることが不快でな』
「まあ、あのヴィリエの様な奴の態度見たらね。わからないでもないわ」
「だよな」

本当に、あいつの態度ムカついたしな。
実際ブチのめしたらすぐ泣いて許しこいて、捨て台詞はいて逃げた典型的なやられキャラだし。
……でもさすがに、ガンダールヴの力なしじゃ勝てそうにもなかったけど。

「なによ、剣の分際で貴族に意見? 生意気だわ」
『ならば、あのヴィリエとかいう青二才が真の貴族とでもいう気か? ただ平民は従って当然、そんなこと言っている時点で無能者決定だ』
「貴族は平民の上に立つべく生まれた存在よ! なら平民は従うのは当たり前よ!!」
『当たり前という言葉の、本当の意味も知らぬガキが偉そうにほざくな!』
「ここは学院長室ですぞ、口論ならあとにしていただきたい」

……当たり前の、本当の意味か。
ふと思い出す、俺の今まで……いや、かつての生活。
朝起きて学校行って、学校から帰って宿題やらなんやらして、それからネットやらゲームやらして、ただ平々凡々に生活して……。
ただ退屈なだけだと思って、当たり前すぎて当たり前とすら思っていなかった日常。
でも、別に捨てたいとも離れたいとも思わなかった……俺の日常

「どうしたの?」
「……ちょっと考え事」
「そう」

神の左手、ガンダールヴ
勇猛果敢な神の盾。左手に握った大剣と右手に掴んだ長槍で、導きし我を守り抜く。

神の右手、ヴィンダールヴ
心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

神の頭脳、ミョズニトニルン
知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を詰め込みて、導きし我に助言を呈す。

そして最後にもう1人……記すことすらはばかれる……。

確かに、すげえ力だと実感してる。
今までじゃ絶対にない、武器や獣に魔道具を自在に扱えるという特別な力。
でも……俺は本当にタバサに対して、こう謳われる様な働きしてんのか?
ギーシュにしろヴィリエにしろ、ルーンの力抜きでは勝てやしなかった……俺は

「まあとにかくじゃ、ミス・ヴァリエール。黙っていた事には謝罪はするが、事情が事情じゃから分かってほしい。ここで今知ったことは、他言無用で頼む」
「わかりました……お心遣い、感謝いたします。それよりも、私の家族への報告ですが……」
「シャール殿の事じゃが、平民を召喚したという報告にしてはもらえぬか? ヴァリエール公爵および、エレオノール嬢がこの様な事を黙っておるとは思えぬのでな」
「わかりました、オールド・オスマン」
「では、戻ってよろしい」

……俺が本当になせることって、何だろう?

『……やっと会えた』

『なら相応しくなれば良い。あなたならきっとなれる』

なしたいのは……俺が本当の意味でなさなきゃいけないのは……



In トリステイン魔法学院宝物庫前

「あのエルフと使い魔のボウヤがこの塔に揃ってる以上、もたついてる訳にはいかないのに……どうすればいいのかね? 固定化以外はかかっていないようだけど、こんなレベルの固定化相手じゃ、さすがに私でもどうも出来やしない。かといって、こんな分厚い壁じゃゴーレムでもやぶれるかどうか……さて、どうしたものかしら?」

コツッ……コツッ……!

「足音が二つ? ちっ……」


「全く……あの蛮族の所為で、6000年以上培われてきた貴族の尊厳が損なわれ始めてるっていうのに、何でタバサもコルベール先生もあんな平然と出来るのかしら!? タバサもタバサよ! そもそもタバサが放し飼いにしたりするから……」
「落ち着け、主殿」
「そりゃ、ギーシュの件は仕方ない事だと思うし、ヴィリエだって主人の争いの火の粉を振り払っただけかもしれないけど……貴族を破る平民なんて、危険分子でしかないのに……もう、どうしてあの蛮族がこうも気になるのよ!?」
『要は、自分より平民が優秀なのが気にくわない反面、努力すれば報われるって言うのが証明されてうれしいってところか。まあ、娘っ子としちゃ難しいだろうがよ』
「デルフ、ここは黙っていてやれ。主殿も主殿なりに答えを出そうとしてるんだ、その答え次第で私も覚悟を決めねばなるまい」
『やれやれ……今度のガンダールヴは、偉く理知的なもんだ』


「やれやれ……あんな世間知らずなお嬢ちゃんが、よもやエルフを従えるとはね……そういえばあの子、そろそろあのボウヤと同じ年頃だったわね。なんて言ってる場合じゃないか……仕方ない。ここは一か八かで」



Side サイト in 学院長室

「まあ、そういうわけじゃから、ミス・ヴァリエールのエルフについては、ここで知った事はこれまで通りの緘口令に従ってほしい」
「わかりましたわ。ルイズには、これからもからかわれて貰わなきゃ困りますし」
「……悪趣味」
「やあねえ、冗談よタバサ。ねえサイト、ベヒーモスの使い心地はどうだった?」
「……サイト?」
「え?」

色々と考え込んでたらしく、ルイズとシャールさんの姿はなくなっていた。
キュルケにタバサ、それにコルベール先生は心配そうな顔をしている。

「どうしたのよ、サイト?」
「いや、ちょっと考え事。バハムートが言った、当たり前の本当の意味って所でちょっとな」
「当たり前の……ああ、そういえば」
「別にこの世界に来た事をどうとかじゃないよ。ただ、今までを振り返っただけだよ……そして、今の俺が成したい事についても」
『それで、何を思った?』
「俺は……」

ドゴォォオオオオオオンッ!!!!

「うわっ! なんだ!?」

急に地震と言うか、何かに殴られたかの様に揺れた。
外を見てみると、そこには……。

「なっなんだありゃ!?」
「っ! ゴーレム!?」
「ゴーレムって、ギーシュが使ってたあれか!?」
「ギーシュごときのクズ鉄人形なんか比較にならないわよ。あれは確実にトライアングルのゴーレムよ!」

……言い方はひどいが、あれと比較すれば確かに人形だよな。
俺達が今いる階程じゃないけど、この塔の半分くらいは届きそうなくらいにデカイ。
さっきの揺れは、どうやらこいつが塔を殴ったかららしい。

「よもや、土塊のフーケか!?」
「あの盗賊が、この魔法学院に……!」
『やれやれ……本当に退屈はしないな』
『全くだな、バハムートの兄貴』
「おいコラ喋る剣ども、のんきにしてんじゃない!」
「何とかせねば! あそこには破壊の杖が、儂の恩人の形見が……」

ボムっ!

「あれ、ルイズじゃない!」
「ミス・ヴァリエール……なんてことを!」
「何か浮く道具はないんですか!?」
「今手元にあるのは、スキルニルと遠見の鏡だけじゃ」

元から小さいルイズだが、ここから見ると豆どころか砂粒程度に見える。
そばにいるのは……たぶんシャールさんだ。

「とにかく、行こうタバサ!」
「わかった」

俺はパーカーの中に装備していた地下水を取り出し、ガンダールヴのルーンを発動。
そしてタバサを抱きかかえて、階段を駆け降りた。

「なあ、トライアングルってことは、タバサやキュルケと同じくらいってことか?」
「大まかなレベルは同じでも、細かく見れば強さは異なる。あのゴーレムを見る限りでは、フーケは恐らくトライアングルでも上位のメイジ」
「そっそうなのか……でも何でメイジが盗賊なんて? そのフーケって奴、魔法を使えるってことは……」
「メイジが全て貴族と言う訳じゃない。様々な事情で家をとり潰されたり、勘当されたりした貴族が傭兵になったり盗賊になったりする事もある」

つまり、フーケとやらはその枠内だと。
おいおい……迷惑な話もあったもんだな。

『さっきの話の続きだが、何を思った?』
「え? ああ、それは……えっと」
『さっさと答えろ!!』
「っ! わっわかったよ……ルーンの力に頼らなきゃ、俺になせる事なんてないのはわかってるけど、なしたい事がわかった! 俺は……雪風のタバサを、本当の意味で守りたいって思ったよ!!」
「っ!」
「そりゃタバサは優秀なメイジで、俺ごときの平民じゃルーンの力使わなきゃどうにもできない!! でもルーンの力だけじゃなくて、俺自身の力で守りたい!! ルーンじゃなくて、俺を……平賀才人を頼りにしてほしい!!! それが俺のなしたい事だ!!!」
『それが、お前の答えか?』
「そうだよ……これは使い魔としてじゃない、俺自身が望んだ事だ。そりゃ俺は弱いよ……でもだからって、このままタバサやこのルーンの力に甘えてて良いなんて、思えなくなった。せめてタバサには、世話になった分位は返したい……それだけだ!!」
『その言葉に、どれだけの覚悟を持てる?』

どれだけって……。

「知るか!! 何せ俺、追い詰められないと覚悟できねえみたいだからよ。じゃあもう言っちまったんだから、覚悟決めるっきゃねえだろ!!」
『ふっ……まあ口先だけの覚悟より、信用は出来るか』
「だったらどうした?」
『合格だ、マスター・サイト』

合格?
いや、待てよ今……!

「お前……そういや、始めて名前呼んだな」
『すまないとは思っていた。だが、こう呼ぶ事で本当の意味で主と認めたという事を分かってほしい』
「そうか……わかった」
「サイト……あの」
「悪いタバサ、その先はこれが終わったら頼む。今はまず、タバサに覚悟を示さなきゃいけねえからよ」
「……うん」


『やれやれ……だが、これはこれで良き事かもしれん』
『バハムートの兄貴、ここは黙っとくべきだぜ?』
『ふっ……そうだな』

(あとがき)

まあ、ちょっと時期尚早だという感じはしますが、サイトの覚悟という事で。
次回は、フーケのゴーレムと対峙ですが……がんばります。

アニメ第三期も始まりましたし、もっと頑張らねば。
では



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 第13話
Name: 秋雨◆47235915 ID:2fad79c4
Date: 2008/08/10 16:21
ゼロ……そう呼ばれるのが、何よりも嫌だった。
お母様もお父様も、私がいつまでも魔法を使えないことを嘆き、叱り続けた。
二人居るお姉さまは、ヴァリエールに相応しいメイジであるというのに……なぜか、私だけが違った。

罵倒なんて、もう嫌と言うほど耳にした。
家に仕える使用人たちも、何かと私に同情の視線を向ける。


爆発……爆発……爆発……爆発


もう何枚窓ガラスを、何戸建物を、何個机を、何枚衣服を……失敗魔法でダメにしたのかすら、もう思い出せない。
そんな私についた二つ名が、ゼロ……魔法成功率ゼロから取って、ゼロのルイズ。
それは比喩ですらなく、事実以外の何物でもない……。

だからこそ、許せないのかもしれない。
東方から来たという、あの雪風のタバサの使い魔。

『えっと……確かゼロのルイズ?』

出会いは最悪なんて物じゃない。
知らないとはいえ、あいつは私に……貴族たる私に、平民の身でゼロと呼んだ。
それ以上に許せない事は、平民の分際で貴族のギーシュと、そして昨日の今日でヴィリエと戦い、勝利した。
1日だけならまだしも、2日続けてってどういうことよ!?
平民が貴族をなめているかもしれない……不快この上ない侮辱。

平民は貴族には絶対に勝てない、これは天地がひっくり返っても破れない……いや、破ってはいけない常識。
それをトリステインどころか、ハルケギニアでも未開の地である東方のよそ者が……よそ者の分際で、ハルケギニアの常識を昨日の今日で2度も踏みにじった

この国は、貴族の尊厳と昔からの伝統としきたりを尊重する国、トリステイン。
トリステイン王家や、それにお仕えする高貴たる血筋を守る誇り高き貴族。
それこそ、私達の崇高なるご先祖様達が培ってきた、6000年の間尊重された尊厳。
それが、あんな未開の地の蛮族に踏み躙られた。

「主殿、無理だ! いくらなんでも……」
「黙ってシャール。私は貴族なの……貴族って言うのは、魔法を使える者を指すんじゃない。敵に背を見せない者を貴族と言うの! ヴァリエールに生まれた者として、その心だけは曲げる訳にはいかない!!」
「だが……」
「私はゼロじゃない!! 私は……私は貴族よ!! 私だって、誇り高きヴァリエール家のメイジなんだから!!」

この敵は、私が倒す。
これほどのゴーレムを倒せば、私をゼロと呼ぶ者がいなくなるだけじゃない……あいつへの牽制にもなる。
私はあいつの存在を許さない……平民の分際で、貴族の尊厳を傷つけてくれた罪を、絶対に許さない!

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ!」

ボンッ!

「っ! 何でよ……!? 何で発動しないのよ!!?」

ズゴゴッ……!

「っ!」
「くっ……土は集いて我が壁と」

ザンッ! ズズーーンッ!!

「っ!」
「サイト、それにタバサ殿!?」
「ぐっ……あいつはまた!!」


「あれは……! ちっ、流石に急ぎ過ぎたね。ここは一旦……」

ボムっ!

「……やれやれ。あのお嬢ちゃんには本当に感謝しないと」



Side サイト

流石に学院長室から下までのダッシュはきつかったけど、流石はガンダールヴ。
多少息は切れてるけど、戦えない程じゃない。
外に出るや否や、タバサをおろしてバハムートを抜いてゴーレムの腕を斬り落とした。

「うっひゃーっ、あんなぶっとい腕がまるでプリンを斬るみたいな感じだったぜ」
『我をそこらのナマクラと一緒にするな』
「それもそうだな。タバサ、俺はあいつを撹乱するからフーケを頼む。こういうのって、術者倒せば壊れんだろ?」
「そう。でも今はルイズを……危ない!」
「え?」

ボムっ!

「うわっ!」
「サイト! ……なんのつもり?」

タバサが見る先には、こちらに杖を向けているルイズ。
ルイズは俺に向けて、明らかに怒りと敵意を込めた視線を向けている。

「何しやがる!?」
「それはこっちのセリフよ! 邪魔しないで!!」
「なっ何言ってんだよ! 潰されそうになってて」
「うるさい!! 平民の分際で貴族に意見なんかしないで!! 未開の地の蛮族のくせに、この国の事を何も知らないくせに!!」
「それと今と何の関係があるんだよ!?」
「うるさいって言ってるのが分からない!? この国では貴族は絶対的な存在、あんたが東方でどんな奴だったかは知らないけど、この国では魔法が使えない以上ただの平民でしかないのよ!! なら黙って従いなさい!! あんたは貴族に意見なんかしていい存在じゃないのよ!!」

ゴゴゴッ!

「空気は蠢きて、我に仇なす輩の自由を奪わん!」

シャールさんがそうつぶやくと同時に、ゴーレムの周りの空気が歪み動きを止めた。

「これが、先住魔法? すげえ、あんなでかいゴーレムが止まっちまった」
「だが、長くはもたない」
「え? でも先住魔法って……」
「この辺りの精霊とは、まだ契約が済んでいない。あれほどの相手ではそう長くは持たん」
「おいおい……」

ボムっ!

「くっ……いい加減にしろよ! そんなことやってる場合か!?」
「なら下がってなさいよ!! これ以上あんたみたいなよそ者の蛮族を、つけあがらせる訳にはいかないんだから!!」
「こんな状況で関係あるかよ!!」
「うるさい!! あんたなんかに……あんたみたいな蛮族に、これ以上貴族の尊厳を傷つけられてたまるもんですか!! デル・ウィル・ゾル……っ!」
「……ラナ・デル・ウィンデ」

パキンッ!

「っ!」

突然ルイズの杖が、横から飛んできた空気の塊にはじかれ、音をたてて2つに割れた。
確かそれは、ヴィリエが使ってたエア・ハンマーだった。
飛んできた方向には、タバサが杖をルイズに向けていた。

「大丈夫?」
「タバサ……ああ、大丈夫」
「何するのよタバサ!?」
「つきあっていられない」
「つきあっていられない……? そもそもあんたがこんな奴呼んだから!!」
「……サイト、あのゴーレムを壊して」
「了解しました、ミス・タバサ。行くぞバハムート、我が主に勝利を」
『ふっ……仰せのままに、マスター・サイト』



Side タバサ

サイトがあの2人に勝った事……それを快く思っていない事は、先ほどのやり取りで分かって居た
でもまさか、尊厳を踏みにじるとまで言うとは……。
考えてみれば、2日連続で起きてる決闘騒ぎの騒ぎの中心になっている以上、サイトを貴族をなめている蛮族と見るのは、人一倍気位の高いルイズならおかしくはない
……考えてみれば、私もヴィリエに対して少々軽率すぎた行動をとった事からつながった以上、私にも一因がある

「あなたがサイトをよく思わないのはわかる、でも今は、口論している場合じゃない」
「なら下がりなさいよ! 私はあのゴーレムを倒し、フーケを捕まえてみせる!!」
「……今優先すべきは、宝物庫の守護。あのゴーレムを倒す事じゃない」
「敵は倒すべきよ! このまま逃がせば、余計な被害が増える一方だわ!!」

……よくキュルケは、いつも面と合わせてケンカが出来る。
頭が固い上に負けず嫌い、敵にすると面倒にしかならない。

「でやああああああっ!!!」

バキンッ!!

「っ! タバサどいて」
「……彼は私の命に従ってるだけ」
「あいつは貴族の尊厳を傷つけた。王に忠誠を誓う事を許される存在たる貴族の……始祖ブリミルの血を受け継ぐ崇高なる王に忠誠を誓う事を許された貴族の尊厳をよ!!? 貴族と平民という身分の壁、これを破ればこの世界の秩序が乱れる。わかるでしょ?」

王に忠誠を誓う事を許される?
……あんな男に忠誠?

崇高なる?
……あんな男が?

この世界の秩序?
……どこにそんな物が?

虫唾が走る。

「バカバカしい」
「っ! ……今何ていった? あんた、貴族の存在意義を!!」

確かに、貴族の存在意義は王家に忠誠を誓い、全力を持って国家の繁栄に従事する事にある。
……しかしそれは、あくまで理想でしかない。
ルイズはあくまで、目に見える表面しか知らない
……父を謀殺され、母を薬で壊され、数多くの汚れ仕事を受け持った私からすれば

「……甘ったれた人間の言葉に価値はない」
「っ! ……甘ったれた!?」
「……私から見れば、あなたはただ知らないという事に甘えてるだけ。メイジを圧倒する平民なんて、あなたが知らないだけで私は何人も目にしてきた」
「あんた夢でも見てんじゃない? 平民が貴族を圧倒するなんて……」
「勝手にそう思えばいい……邪魔だから下がって。ゼロだろうとなんだろうと、杖のないメイジにできる事はない。これ以上喚くのなら、力尽くで黙らせる」
「くっ……」
「……あなたが陰で、ゼロの二つ名を返上しようとしてる事は知っているから、あなたをバカにする気はない。でも、彼にこれ以上あなたの下らない理想論と一方的な言い分を押し付けるのなら、この杖にかけて私はあなたを許さない」

歯軋りの音を背に受け、あのゴーレムと対峙する。
エルフとサイトはすさまじいスピードで撹乱しつつ、敵の再生される腕と足を斬り落としている。
流石にガンダールヴが2人と言うのは、相手にとっても分が悪く再生のスピードが追い付いていない。
フーケは……どこに?



「流石にガンダールヴ2人、しかも片方がエルフ相手なんてゴーレム一体じゃ分が悪すぎる。結局宝物庫の壁を破る事は出来なかったし……でもこの土くれのフーケ、ただで諦めるわけにゃいかないね。あのバハムートって剣の力、せめてこの目にするまでは」


Side サイト

「これじゃキリがねえよ!」
『だろうな。材料ならいくらでもある以上、精神力が尽きるまでと言うところか? まあ、一撃で体の大半を吹き飛ばさねば無理だろうよ』
「のんきそうに言うなよ! ……おっと」

ドゴォォオオオン!!

「まあ、ぼやいてもしゃーないな。なんとか本体を見つけて倒せば……」
『いや、待て! あそこに人が!!』
「え?」

バハムートが支持した方向には、散乱した衣服。
そして……

「なっ! シエスタ!!」
「あっ……ああっ……」

昨日シルフィードを見せた時の様に、腰を抜かして慌てふためいたパニック状態。
ゴーレムはそれを見つけたのか、シエスタに近づいて足を振り上げ始める。

「シエスタ!! くっ、間に合ってくれ!!」
『駄目だ、ここからでは間に合わん! ……やむおえん、我が力を使う』
「わが力って……魔剣っぽく何か特殊な力があんのか?」
『そうだ。まずは竜をイメージしろ、出来る限り強靭で強大な竜の姿を』
「竜を……? ああ、わかった」
『そして、奴を破壊するイメージを持ち、我をふるえ』

イメージ……あの時浮かんだ、山のようにでかい竜の姿。
突進して腕を振りおろし、あのゴーレムを殴るようなイメージで……

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

バハムートをぐっと握ると、全てのルーンが力強く輝くのがわかった。
まるでイメージした竜になったかのように、力が俺の体に満ち溢れてくる。

『あれはっ……! 相棒、下がれ!!』
「何?」
『バハムートの“覇竜”が来る!! ここにいりゃ死ぬぞ!!』
「ああ、わかった」

イメージは、竜の腕による一撃で粉々になるゴーレム。
強靭な腕で、ゴーレムをなぎ払い……破壊する!

カッ!

「え?」

そこまでイメージした処で刀身が光り、太刀筋に沿って強烈な衝撃波が剣から放たれゴーレムはまるで俺のイメージのように太刀筋の軌道上に当たる部分が粉々になった。
残された部分も、大半が壊れては再生不可能なのかあえなく崩れていった。
ゴーレムの後ろの塔も、余波で大半がひび割れを起こした……っておいおい、後で怒られそうだな。

「これが……お前の力だってのかよ?」
『そうだ。我とマスター・サイト、そして全てのルーンを同調する事により発動する“覇竜”だ。だが今のマスターでは、あの技は切り札的な物でしかない』
「え?」

急にルーンから感じた力が途絶えたと思ったら、空気が抜けていく風船の様に体から力が抜けていき、その場にぶっ倒れた。

「さっ……サイトさん!?」
「サイト!」
「なんだ……? 力が、入らない……?」
『つまりは、こういう事だ。大人しくしていろ、2日は体を動かす事は出来んぞ』
「……おいおい。ヘタすりゃ俺も死ぬような技なのかよ」
『ふっ……我がマスターと認めた以上、そう簡単に死なせる気はない』
「全くだな……俺にお前を抜かせなかった理由、わかったぜ。あんなすっげえ力がある剣じゃ、そうホイホイ使えねえわ」
『それは何よりだ』

この後タバサとシエスタが駆け寄り、タバサがレビテーションをかけてくれるまで俺はその場に倒れたまま。
騒ぎを聞きつけ、何人かの生徒及び教師が駆け付け、漸くゴーレム騒ぎは終結した。

「なあタバサ、俺は使い魔としてどうかな?」
「最高……それ以外の何でもない」
「そうか……嬉しいね」



『相変わらずおっかねえ威力だぜ、バハムートの“覇竜”はよ』
「あれが、あの剣の力だと?」
『どうやらあの小僧、バハムートの野郎に認められたらしいな。やれやれ……今回の調律者は面白い奴だが、これから次第じゃ大変そうだぜ』
「どういう事だ?」
『……あの娘っ子を見る限りじゃ、そう思わねえほうがおかしいぜ?』


「……何でああいう風になれるのよ? 何で、貴族なのにあんな平民にあそこまで信頼できるの!? 何で、あんな力を平民が使いこなしてるのよ!!? ……タバサとあいつ、一体何が私と違うのよ!!!?」


「ふぅっ……否定できない現実を見て、自身に疑問をもったらしいな」
『それで、どうするんだい? やめたいってんなら、俺っちはあのサイトって坊主につくがよ』
「言ったはずだぞ? 主殿の覚悟次第で決めるとな。それに人の社会を知るには絶好の機会である以上、もうしばらくついてやるさ」
『難儀だねえ、相棒よ』
「そう思うのなら、主殿を刺激するのはやめてもらうぞ?」
『だな。俺っちも追い詰められた人間相手に、からかう気になれねえよ』
「ヒラガ・サイトか……人の世でガンダールヴと呼ばれる、この聖者アヌビスの印の謎といい、まだまだ私は学ばねばならぬか……兄者、あなたは蛮人を知りたいなど下らないと言っておられたが、私は知りたい……シャイターンの門を人が求める理由、そして……我らと人のいがみ合いの歴史を変える可能性を」



Side フーケ

「私のゴーレムを、たった一撃で……!?」

流石は虚無の樹海の秘宝と言ったところだね。
ゴーレムを破壊したその余波でさえ、私のゴーレムのパワーを上回るんだから……。
流石に人が集まってきた以上……。

「何奴!」
「待ってください、私です!」
「おや、ミス・ロングビル! 大丈夫ですか!?」
「ええ……先ほど、怪しい人影と遭遇したのですが、いきなりすごい衝撃に吹き飛ばされてしまって……」
「そうですか……では、まだこの辺りに居るやも知れませぬな」
「早く捕まえてください」

あのコッパゲは去っていき、一息。
……結局、フーケの名に傷をつけただけの結果……いや、それ以上の収穫がある。

「あの剣の力、そしてそれを使いこなす使い魔のボウヤ……成程ね、確かにただの平民の使い魔って訳じゃなさそうだわ」

さわっ……さわさわっ……

「……あの、オールド・オスマン?」
「なんじゃね?」
「いつからそちらに?」
「成程ねと言うところからかの? サイト君に熱っぽい視線を向けておったようじゃが?」
「別にそういうわけではありません! それよりも、隙を見て私のお尻を撫でるのも、私の足元にネズミを忍ばせるのもやめてください!!」
「はぁっ、極楽極楽。この柔らかさと言い手触りと言い……」
「人の話を無視して触り心地の解説をするのはやめてください!!」
「まあ落ち着きなさい、ミス・ロングビル。サイト君は色々とまずいじゃろ、おもに年齢的に」

ドガンッ!!!!!!


『おおっ、何だ? 今すっげえ怒りの魔力を感じたぞ?』
『ふむっ……あのご婦人、相当の使い手の様だな。スクエアクラスでも上位と見た』
「え? あの、剣が喋ってるんですか?」
『むっ、インテリジェンス・ウェポンを見るのは初めての様だな……バハムートと言う』
「はっはい、シエスタです」
「えっと、確かロングビルさんだっけ? 学院長の秘書やってるくらいだから、相当すごいメイジなんじゃないのか?」
「……あれは感情の高ぶりによる魔力の増大が大半関与していると思われる」
『全く……せめてあなただけは違うと信じたいのだがな、オスマン老』


「まったく……考えてみればあのボウヤ、確かエルフを怖がらなかったね。だとすれば……」

思い出すのは、私にとって妹も同然のあの子。

「ねえティファニア……あなたが欲しがってた友達になってくれる人、見つけたわ」


(あとがき)

14話ということもあり、ちょっと作品を見直してみました。
見直してみたら、ルイズちょっときつすぎたかなとか、多少平民差別強すぎたかなとか、色々と反省が見えますね。
やっぱり見直しって大事かなと思います。
個人的にはルイズは嫌いというわけではないのですが、やっぱり虐待シーンを担ってる所為か、どうも個人的にマイナスイメージになってしまうらしいので。

とりあえずですが、ここまで。
もうすぐアルビオン編に突入するわけですが、個人的にアルビオン編って好きですから実は書くの楽しみだったりします



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第一章 エピローグ
Name: 秋雨◆47235915 ID:9614569a
Date: 2008/08/10 16:40
「大丈夫かね? サイト君」
「ええ……指一本動かせない状態ですが」
「そうかね。ゆっくりと養生するのじゃぞ、君には感謝してもし足りぬのじゃからの」
「そうさせて頂きます……」

フーケ襲撃から一夜が明け、時刻は昼を指す時間。
バハムートの“覇竜”って技をつかった反動で俺は指一本動かせる状態じゃなくなり、現在タバサのベッドにて就寝中。
バハムートの話だと、この技は剣と俺とルーンを同調して打ち出す技なので、同調しきれていないと肉体的にも精神的にも負担がものすごく大きい技らしい。
まあそれはさておき、ゴーレム騒動から一夜明けて、ロングビルさんを伴って学院長直々に俺の容体を見に来てくれた。

「それで、フーケは?」
「うむっ、今現在城の衛士隊が捜索しておるが、今だ影も形も見つからんらしい。念のために宝物庫もコルベール君がチェックしておるが、今のところ盗まれた物はないらしいでの」
「塔の修理も、先ほど終わりましたが、御気になさらないでください。フーケに狙われて無事宝物を奪われずに済んだ事は初ですから、これ位の被害で済んだ事は幸いです」
「そうじゃよ、サイト君。そんな大手柄を立てた君に対し……実に心苦しい知らせがあるのじゃよ」
「?」



Side オスマン in トリステイン魔法学院 学院長室

フーケ騒動から一夜明け、本日は朝早くから職員全員での会議を行った。
当直担当のミセス・シュヴルーズ及び、その他教師の大半の職務放棄が明らかとなり、当直制度の強化を提案しフーケの捜索担当者を決めた所で会議は終了……

「それは一体どういう事かね?」

……となる筈じゃった。

「ミス・タバサの使い魔は昨日今日と、決闘騒ぎの中核を担っています。このままでは何度決闘騒ぎが起こる事か……そうなれば学院の規律が乱れる事はおろか、もし彼が勝ち続ける様な事があり、それが外部に漏れた場合は貴族の尊厳にも関わります。ですから、この平民の使い魔は厳重な監視下のもとで拘束すべきだと提案いたします!」
「そう大声を出さずとも聞こえておるよ、ミスタ・ゲドー」
「ギトーです!」
「そうじゃったか? すまんかったの。報告によれば、決闘を仕掛けたのは両方とも相手側だと言う事じゃが?」
「確かにそれは事実である上に、生徒の使い魔に対し行き過ぎた事を言っていることも承知しておりますが、学院の風紀を守るためです!」

ふむっ……確かに学院長としての立場からしても、これ以上の決闘騒ぎは御免こうむりたいがの。
じゃが、なんとかすべきはサイト君ではなく、生徒達の方ではないかと思うのじゃが……。

「……確かに規律の乱れに関わる以上、何かはせねばならぬな。じゃが、彼から戦いを挑んだ訳ではないので、過剰な措置は許可できん。精々監視をつける位じゃ」
「ならば、最低2人は必要だと私は考えます」
「……幾らなんでもやり過ぎではないかね? ガトー君」
「ギトーです! フーケのゴーレムを撃退したという事を考慮してです。たかが平民といえど、それ位ではなければとても信用するわけにはいきませんな」

ふむっ……功績が裏目に出たか。
このままでは、教師が決闘紛いを起こしかねんし……さて、どうしたものかの?
まず1人はコルベール君で……もう1人はどうしたものかの?
彼の事を考慮すれば、順当なのはミセス・シュヴルーズと言ったところじゃが……フーケの騒動で信用が落ちてしまったから、無理があるのう。
となれば……仕方無い、ある程度の妥協はせねばならんか。

「でしたら、監視の1人を私に任せてはいただけませんか?」
「ミス・ロングビル!」
「実は彼に頼みたい事がありましたので、いい機会です。彼の監視役、この私にお任せくださいますよう、よろしくお願いいたします」
「確かに、ミス・ロングビルともなれば妙な事にはなるまい。それでもう1人じゃが、儂からはミスタ・コルベールを推薦しようと思う。どうかねゴトー君?」
「私はギトーです! ゲドーでもガトーでもゴトーでもありません!! ……失礼いたしました、オールド・オスマン。確かに、この2名ならば文句はありません」
「いやいや、儂も重ね重ねすまんかったの。では決定でよろしいな?」



Side サイト in 学生寮 タバサの部屋

「と言う訳じゃ。すまんが、学園内での君の行動は制限させて貰う事になってのう」
「そうですか……すみません、ご迷惑かけてしまって」
「いや、サイト君が気にすることではない。ミスタ・グラモンは別としても、ミスタ・ロレーヌの件にしろ今回の件にしろ、貴族優位思想が主な原因である以上君に非はない」
「いえ、そんな事ありませんよ。俺も、正直ギーシュに勝った事から少し調子に乗ってたかもしれませんし、タバサに罰則がなかっただけありがたいです」
「では、監視ですが完治してからと言う事でよろしいですか?」
「構いません」

タバサがそういうと、学院長はタバサに封筒を差し出す。
タバサはそれを開いて、一通り読むと杖をひと振り。
ちょっと後に安著した顔になり、学院長と向き合った。

「一昨日申請した休学願いの件じゃが、どうするかね?」
「……サイトがこれでは無理です」
「君もしたかもしれんが、一昨日の内に儂の方でもペルスラン殿に警戒するよう連絡しておいた。遠見の鏡でも見てみたが、手紙は無事届き警戒はしておったよ」
「……ありがとうございます」
「では失礼するよ」
「オールド・オスマン。私は、こちらに用事があるので」
「そうか。では終わり次第にの」

学院長が部屋を出ると、ロングビルさんがほほ笑む。
うーむ……キュルケとは違う大人の魅力と言う奴だろうか?

じーーっ!

……と言うのは置いといて、今まで特に接点がなかったのにどうしたんだ一体?

「……要件は?」
「実は、友達になってもらいたい子がおりまして」
「友達?」
「はい。ティファニアと言う、私にとって妹も同然の子が居るのですが……何分、その子は異端児と呼ばれる子でして、そのせいで同年代の友達が出来ず……ですから、エルフも怖がらないミスタ・サイトなら大丈夫だと思いまして、出来れば会うだけでも……」
「そうなんですか? いいですよ。俺で良かったら友達になる位」
「そうですか……すぐにとは言いませんが、なるべく早いうちに会わせてあげたいので」
「近いうちにガリアへ行く。その後で良いのなら」
「わかりました。では私はこれで」

嬉しそうにロングビルさんが出て行くと、杖を片手に本を開くタバサ。
ベッドの近くに立てかけてある俺の武器、バハムートと地下水、そしてキュルケに貰った長槍ベヒーモス。
バハムートと地下水が色々と話している横で、なにも言わずただどーんとあるベヒーモスに違和感を感じるあたり、インテリジェンス・ウェポンとやらはすっかり印象を根付かせてしまったらしい。

「すまないな、タバサ。迷惑かけて」
「気にしてない……でも、無理はしないで」
「……わかった」

窓際には、以前の虚無の樹海への旅で使ったトランク。
実を言うと、あのフーケ騒動がなければタバサの実家に出発するつもりだったらしい。
何でも、地下水を雇った奴らに心当たりがあって、そいつ等が実家の方にちょっかい出してくる可能性がある……との事らしい。
となれば……悪いことしちまったかな?

それにしても、動けないのがこんなに辛いとは……。
特に熱が出てる訳でもなく、体が痛む訳でもなく、ただ空気の抜けた風船のように俺の体はエネルギー不足。
指一本動かせず、昨日の夕食および朝食は……

コンコンッ!

「どうぞ」
「失礼します。昼食をお持ちしました」
「ああ、ありがとなシエスタ」
「いいえ。命の恩人であるサイトさんですから、これくらいはお安いご用です」
「始める」
「はい。それでは……よいしょ」

とまあ、昨日助けたシエスタが運んでくれた料理を食べました。
ちなみに起き上がる事もスプーンやフォークを使う事も、噛んだりする事も出来ないため、スープ類をシエスタに体を支えて貰って、タバサに食べさせて貰うと言う方法。
というか……シエスタって結構大きいよな。

じーーっ!

……まあそれはそれとして、タバサに食べさせて貰うと言うのもかなりポイント高い。
キュルケの様に感情の色を見極められるほど、俺はまだタバサを知らないが……
でもやはり、上の上と言っても過言じゃないレベルの美少女だから、嬉しくないなんてバカ野郎が居る訳がない。
……いろいろと大変ではあるけど、今だけははっきりと言えるだろう。
召喚されて良かった……と。




『微笑ましい光景だねえ』
『全くだな』
『……なあバハムートの兄貴』
『なんだ?』
『ここに来るまでに聞いたんだけどよ。アルビオンで今、貴族の大半が反乱起こしてるらしいぜ? 何でも、反乱軍の確か……クロムウェルって奴は、人の心を操る力を持ってるとかって話だ。一部はそれを虚無って呼んでるらしい』
『くだらんな……それで?』
『俺はこれでも長生きだからよ……だからちょっとは感づいてるつもりだぜ? あんたや調律者って呼ばれる最強の使い魔が存在する理由。数百年前の大戦時にも、あんたは持ってなかったが旦那みてえな存在に会ったかもしれねえからよ』
『ならば、話が早いな……その時同様、運命は動き始めていると言う事』
『……じゃあやっぱり、あの力がまた蘇ろうとしてんだな?』
『そうだ。地下水、逃げるならば今のうちだぞ?』
『俺もサイトの旦那やタバサの姐さん、バハムートの兄貴を気に入っちまったからな。それに出ていったってまた暇な日々に戻るだけだ、最後までついてくぜ』
『ふっ……期待させてもらうぞ。さて……トリステインはまだ胎動のみだが、覚醒に至った者は必ずやいる筈。それがガリアかアルビオンかロマリアか……』



In ガリア

「ほうっ、かの土塊のフーケを退けたか。そして、虚無の樹海の秘宝の力、“覇竜”か……くくくっ、対峙する時が待ち遠しいぞ」
「ですがあれほどの力、流石に現在の私が所持するマジックアイテムでは……」
「ならば作ればよかろう? その為に白き国の駒どもに、新型マジックアイテムの試作品を与えているのではないか」
「はい。“ベルゲルミル”を始めとするマジックアイテムの稼働記録は、すでに送ってありまして、既に“スレードゲルミル”等の新型の開発は既に始まっていると報告を受けております」
「そうか……ならば、次は余だな。“あれ”はやはりロンディニウム城か?」
「恐らくは……ですが、順調に侵略が進んでおります故、ジョゼフ様の眼前に捧げる日は近いかと」
「うむっ、出来る限り早急にな。今の力だけでは、我が宿敵に失礼だ。力がほしい……欲しくてたまらんのだ!」
「直にお持ちしましょう。シャルロット達の動向ですが、地下水の件でやはり母親が心配らしく、戻ろうという動きがありました」
「ふむっ……ミューズ、ヒラガ・サイトは余を憎んでくれるだろうか?」
「……ガーゴイルを通して見た限りの人物像では、間違い無いかと」
「そうか……御苦労であった。引き続き、駒どもの誘導を頼む」
「はっ!」


「シャルロット……そしてヒラガ・サイトよ。お前達はどこまで登り詰める? お前達はどこまで余を楽しませてくれる!? お前達はどこまでわが心を揺さぶってくれるというのだ!!? 我もまたそれ相応の力を得て、いつの日かお前達と対峙しよう……存分に戦おうではないか! 存分に殺し合おうではないか!! 存分に楽しもうではないか!!! この決闘の行方で我はどれ程の喜びを得るのか……想像するだけでたまらん!!! ああ……シャルル、お前はやはりすごい奴だよ。お前の娘はあれ程の力を従えているのだ!! やはりわが心を揺さぶるはお前とその血を受け継ぐ娘だ!!! 欲しい……奴らと対峙するに相応しき力が欲しい!!! 欲しいぞ!!!! この手に、奴らと戦うに相応しき力がほしい!!!!! ふははははははははははははははは!!!!! はーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」


In アルビオン

「どうしたの?」
「マチルダ姉さんから手紙。近い内に私と友達になってくれる人を連れて帰ってくれるって」
「ホント? よかったねお姉ちゃん。どんな人かな?」
「きっと優しい人だぜ。でなきゃ、あのマチルダ姉ちゃんが認める訳ねーじゃん」
「そうだよね。テファ姉ちゃんって耳の事で怖がられるから、優しい人じゃなかったら連れて来ないよね」
「うん、どんな人かな? いっぱいお話がしたいな……外の事とか、お友達になってくれる人の事とか、たくさんお話がしたい。私、仲良くなれるかな?」
「テファ姉ちゃんなら大丈夫だよ。もし泣かせたら俺達でやっつけてやる!」
「そんな事したらダメ。マチルダ姉さんが信用するなら、きっと良い人だからね」


In ロマリア

「ありがとうございました、せいか」
「えへへ、これならあたしもりっぱなしんかんさまになれるかな?」
「ええ、頑張ればきっとなれますよ。君が神官になる日を楽しみにしておきます、それでは気をつけてお帰りなさい」
「わかりました。ばいばい、せいか」

「またですか?」
「約束は守るものですよ……それで、アルビオンの状況はどうなっていますか?」
「担い手は見つからず、今や大半が貴族派に掌握されております」
「心苦しいですね、やはり……時に、エルフのガンダールヴを召喚したと言うトリステインの担い手はどうですか? そして、調律者と言う存在についても」
「担い手の方は、まだ覚醒には至ってはおりません。“調律者”と呼ばれる存在、ヒラガ・サイトについては、昨夜虚無の樹海の秘宝の力で土塊のフーケを退けたと言う事です」
「虚無の樹海にそんな物が眠って居たとは……ときに、そのヒラガ・サイトについては?」
「はい。やはり“向こう側”の人間かと……いかがなさいます?」
「それほどの力であれば、このロマリアの虚無の樹海にも……これは聖地奪還への始祖ブリミルより与えられし大いなる祝福と見ます」
「それでは、近いうちに担い手同様ですね?」
「その時は頼みますよ」

In トリステイン

「今戻った。この学園の精霊とは契約は終えたぞ」
「そう、ご苦労様……」
『んだよ、まだ落ち込んでんのか娘っ子よ? 元気出せや』
「落ち込んでないわよ!! なんであんな蛮族の事で!!!」
『誰もあの坊主の事なんて言ってねえぜ?』
「うるさい!! 埋められたいの!!?」
『おおっ、怖っ!』
「落ち着け、どなった所で何も変わらん」
「わかってるわよ……ねえ、シャール?」
「なんだ?」
「あんたはどうして、私に従ってるの? エルフのあんたなら」
「人間が我等エルフと友好を結べるかどうか……それを知りたいからだ」
「え?」
「我等エルフと人間との歴史、その形はいがみ合い以外に変えない。その理由、お前たちが聖域と呼ぶシャイターンの門だが、なぜ人間はシャイターンの門を求めるか……これを知りたい。それには人間についている方がわかると思ったからだ、別に主殿に従いたかったわけではない」
「……」
「悔しいと思うのならば、示せばいい。私が主殿の力になりたいと思うようなものをな」
「っ! ……いいわ、絶対に従わせてみせる!! あの蛮族も含めて!!!」


第一章 完

(あとがき)

とりあえずですが、原作一巻分はここで終了。
次からアルビオン編……の間に、ちょっとした予定を入れます。
あと、そろそろ手直しもしなきゃと思いますので。

それと、外伝タバサの冒険イベントに関しましては、時間系列無視でちゃんと予定はくんであります。
まあ、様々な思惑を入れすぎだと言う感は確かにありますが、これも一つの楽しみ方と考えてます。

ご都合主義と言う感は出来る限り取り除くつもりですし、面白いと言う意見を聞くとやはりうれしいです。
それでは、この作品でサイトとタバサの紡ぐ物語を、これからもよろしくお願いします。




[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章『蒼き狂王の宴』 第1話
Name: 秋雨◆47235915 ID:48d88f48
Date: 2008/09/20 14:54
この世界、ハルケギニアに来て早1週間が過ぎた。
異世界だけに、色々と俺の常識にそぐわない事や理不尽な事。
そして俺に課せられているかもしれない、大きな運命……。
そんなたくさんの出来事が押し寄せて、俺のそれまでは思い切り影を潜めていた。

無口なサラリーマンの父さんに、口を開けば勉強しろと言う母さんという、どこから見ても普通な家族。
賞罰なしの彼女なし、成績も運動神経も普通で取り柄と言えば好奇心だけ。
そんな俺が、異世界に飛ばされた上に伝説の4体の使い魔の力をすべて持つ、究極の存在とやらになったと言う。

この世界には魔法が存在し、それを使うメイジと呼ばれる者。
そのメイジと呼ばれる存在を貴族とし、使えない者を平民とする世界ハルケギニア。
世界自体はとても好奇心を刺激されたけど、貴族と言う存在に一部を除いて好感は持てなかった。

正直、俺を呼び出したというメイジの少女、タバサが俺の常識内でのまともな人でなければ、とても耐えられたという自信は持てそうにない。
だって俺の常識も知ってる事も、何一つここでは通用しない。
ただ、親に養ってもらってただけの俺に出来る事なんて、ここにきて与えられたルーンの力以外にありはしない。

俺に出来る事なんて、考えもしなかった。
……ただ、当たり前のように生きてきて、当たり前のようにきめられた事をやって、当たり前のように……それを享受してた。
でも、それを自覚したとき俺は……心の底から成したいと思ったことがあった。
これも使い魔のルーンの影響か、そうじゃないのか……それはわからないけど、今の俺にとっては大事な事。
生半可な覚悟かもしれないし、過剰な願いかもしれない……でも俺は、俺が叶えたい願いのために剣をこの手に取る。


タバサと言う少女を守りたい。
その願いのために


虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 『蒼き狂王の宴』


フリッグの舞踏会。
生徒と教師の枠を取り払った親善会と言う名目の、言うなればレクリエーションの様なものらしい。
まあそれは建前で、実際にはその舞踏会で踊った相手と将来結ばれると言う、ありきたりな伝説があるから大半それがメインだろう。
煌びやかな衣装に身を包んだ貴族のお坊ちゃんにお嬢様が、高そうな料理にワインを肴に談笑するという……。

「いいのか? 何かずいぶんと賑やかだけど?」
「こっちが優先事項」

……光景を想像しつつ、俺はタバサとガリアにあるというタバサの実家へ向かうべく、旅支度を行っていた。
多少体が重く感じるけど、ようやく動けるようになったのが今日の昼。
ガンダールヴのルーンを使えば、“覇竜”は流石に使えないけど問題なく戦いは行えるので、学院長に報告していざ出発が決まった。

「俺達がタバサの実家に戻る理由って、やっぱこの前の……」
「そう、地下水」
『ああ。俺が雇った奴が、タバサの姐さんの家が敵対してる奴かもしれないって事だな?』

持ってきた地下水を取り出して、タバサに見せる。
俺にとって初の対メイジ戦であり、こいつを手に入れるきっかけとなったあの事件。

「でも何で俺なんだろうな? 普通狙うならタバサだろうに」
「恐らく、間諜……もしくは、潜入用ガーゴイルが学院内に居た」
「ガーゴイル?」
『ガリア王国で主流の魔法人形さ。俺があのギーシュって小僧の体乗っ取った時につかったゴーレムと同じだが、ガーゴイルは擬似的な意思を持ってるって点で異なるんだよ。その分消費する魔力も半端じゃねえがな』
「へぇっ」

人工知能付きって考えれば、簡単か。
魔法ってのは結構便利……ん?

「え? じゃあ、俺の事がそのタバサの家の敵に漏れたかもしれない?」
「そうとしか考えられない。ただの平民に地下水を差し向け、しかも1万エキューもの賞金を懸けるなんて普通はありえない」
「その、1万エキューってどれ位の金額なの?」
「簡単にいえば、平民1人が1年に必要な生活費がおよそ120エキュー、下級貴族がもらえる年金は1年で500エキュー」
「つまり、平民1人なら一生働かなくていい程の賞金がかけられたと?」
「そう」

なんか、漫画とかでみる賞金首になった気分だな……。
その内街中に俺の顔が張り出されて、賞金100万エキューとか出たりとかしないよね?
いやいや、それは過大評価か。



Side キュルケ in 舞踏会場

今日はフリッグの舞踏会。
思いっきり着飾って、今日は思いっきり楽しまなきゃ。
……と思ったのが、お昼まで。

「はぁっ……」
「どうしたのキュルケ? 具合悪いなら、僕が薬を調合してあげるけど?」
「いいえ、何でもないわ」
「おい、抜け駆けはずるいぞ!」

何でも、実家の方で呼び出しがあったらしく、今日の夜帰るらしい。
あの子が度々居なくなるのは今に始まった事じゃないけど……

「やあキュルケ。サイトとミス・タバサを知らないかい?」
「あの2人なら、急に実家に事情が出来たから戻るって。今日の夜からもうでるらしいわ」
「おや、そうなのかい? 残念だな、是非共サイトに舞踏会でのマナーを教えたかったのに」
「どの道彼はここに来れないわ。教師陣がこの前のフーケ騒動、それにこれまでの決闘騒ぎで煙たがっててね」
「そうなのか……確か、コルベール先生とミス・ロングビルを監視に立てたんだっ
てね? ひどい話だね、彼に非はないのに」
「“メイジにあらずば貴族にあらず”、そんなカビ臭い伝統ばっかり重んじて、時代の流れってものを無視してる石頭揃いだから、仕方ないんじゃない?」

全く……何でサイトなんだか?
平民軽視してるから、国力弱めてるって言うのがどうして分からないのかしらね?
まあ、この国の貴族の頭が固いのは今に始まった事じゃないけど。

「ギーシュ! よりにもよってキュルケに!!」
「おや、モンモランシー」
「あら、モンモランシーじゃない。よりにもよってって酷いんじゃない? それに彼はタバサとサイトの所在を聞いてただけよ?」
「そうなの? そう言えば、ギーシュってばあの平民の使い魔と親しいって話ね」
「わかってもらえて何よりだよ」

まあ、元の鞘に納まったってところかしらね?
なんだかんだで、モンモランシーも見捨てられないみたいだし。

「それにしても、サイトもやってくれたね。まさかフーケを撃退し、宝物庫を守るだなんて。これで少しは、僕の名誉も回復してくれるといいのだけど」
「確かに、聞いた時には驚いたわ。タバサが召喚したんだから納得は出来るけど、世の中って広いのね。メイジを圧倒出来る平民が居るなんて」
「まあ、彼が特殊なんだとは思うけど……でもまあ、認められるだけまだマシな方ね」


「あれから土塊のフーケの話を聞かないな」
「当然よ。たかが平民に追い払われたんだから、今頃どこかで野垂れ死んでるんじゃない?」
「所詮は貴族崩れの盗賊。平民に追い払われるなんて、お似合いじゃないか」
「そうそう、堕落した恥さらしだ。ああはなりたくない物だな」


「見てもないくせに偉そうに……フーケのゴーレムがこの塔の半分以上の大きさだって知ったら、どんな顔するかしら?」
「そっそんなに!? ……良く倒せたわね」
「流石はサイト、僕を倒しただけの事はある」
「あんたドットでしょうが。それにマジックアイテムに操られた状態だったし」
「ぐっ……僕だって負けて黙って居られるほどボケてなどいない。今は確かに無理だが、いずれ名誉を挽回して見せるさ」
「ま、理想だけで終わらないようにね」

曲が流れ、彼方此方でペアを組み踊り始める。
ギーシュもモンモランシーと組んで、あたしもとりあえず適当な人の手を取る。
……はぁっ、どうせならタバサとサイトのダンスも見たかったわね。


Side サイト In 魔法学院 使用人用食堂

「いいんですかい、我等が姫君? 舞踏会に出席しなくて」
「別に強制参加と言う訳ではない」
「そうかもしれないですが……」
「気にしてくれることに感謝する。でも大丈夫」

旅の準備も一段落していざ旅立ち……の前に、とりあえず腹ごしらえに食堂に。
相も変わらず高水準な御馳走を用意してくれて、感謝感謝。

「あの、旅支度をされてましたが、どちらへ?」
「私の実家へ戻る」
「ミス・タバサのご実家ですか?」
「確か、ガリアって国だったっけ? ところでタバサ、ガリアってどんなところ?」
「これ」

そう言ってタバサが取り出した一枚の紙を広げると、それはハルケギニアの地図らしい。
境界線が引かれて、それで仕切られた地方の中央に国名が書かれている。
……が。

「……そう言えば俺、こっちの文字読めない」
「失念していた……ここがトリステイン、そしてこちらがガリア」

タバサが地図を指さし、いろいろと教えてくれた、
始祖ブリミルの3人の子供が創った国トリステイン、アルビオン、ガリア。
そしてブリミルの弟子フォルサテが創った国、宗教国家ロマリア。
それからキュルケの祖国ゲルマニアに、クルデンホルフ大公国等々、大小様々な国があちこち存在してるらしい。
しかし……

「これ全部、ガリアって国の領地? トリステインの10倍以上あるじゃねえか」
「そう。人口はハルケギニア1を誇り、メイジも多く魔法先進国と呼ばれている。ゲルマニアとは全く逆方向の技術が発達した国」
「ふーん。結構な大国家なんだな」
「……だから色々な意味で汚い」

吐き捨てる様に言うタバサを見て、感情を出す事があまりないタバサには珍しいと思った。
タバサが人形みたいに、喜怒哀楽が欠落してる理由……なんとなく、そう言う汚い部分に関係してるのか?
俗に言う、権力闘争とかそう言うの……よくわかんないけど、そんな感じか?

コンコンッ!

「ん? ああ、ちょっと待ってな。マルトーさん」
「おう。この通り、とびきりの御馳走用意しておいたぜ?」
「きゅい~♪ きゅいきゅい、きゅい♪」
「ははっ、ありがとうとの事です。俺からもありがとうございます」
「いいってことよ、我等が勇者、そして勇者の竜よ」

……まあ良い、無理に聞きだすのは俺の趣味じゃない。
話したくなったらで良いし、別に急ぐ意味なんかない。

「きゅい」
「うまいか?」
「きゅいきゅい」
「ああ、たくさん食べろよ」

まあ、もうタバサを守ると決めた以上、信用するっきゃねえよな。
あとは、信用してもらえるようになれば良い……それだけだ。

「御馳走様」
「それじゃ出発する?」

タバサが頷き、いざ出発。

「じゃあ気をつけてな」
「また、旅の話を聞かせて下さいね」
「わかった。それじゃ、行こうか」
「うん」
「きゅいきゅい」

タバサに手を貸してシルフィードに跨り、一声かけるとシルフィードは翼を羽ばたかせてゆっくりと地面から飛翔する。
シルフィードもお腹一杯だからご機嫌で、俺達を空の旅へといざなってくれた。

「……なあ、タバサ?」
「何?」
「タバサの家って、どんな所?」
「いい所。屋敷の周りは自然に溢れていて、お父様もよく狩りに出掛けてた」
「へぇっ、どんな人なの?」
「……」
「タバサ?」
「私の自慢のお父様。5歳で空を飛んで、7歳で火を自在に操って、10歳で銀を錬成して、12歳で水の根本を理解してスクエアになった」

へぇっ……良くはわからんけど、すごいんだな。
12って……ん? 確か……。

「スクエアって、確か国の近衛レベルだよな? おいおい……天才って奴?」
「そう……その上人望にも優れてて、優しい笑顔で頭を撫でてくれた……今でも思い出す」
「今でもって……えっ!? あっ! ……ごめん」
「気にしなくていい……それよりも、この早さなら明け方にはつくはず」
「きゅいきゅい、じゃあお兄様にお姉様は寝てるのね」
「じゃあ、そうさせて貰うかな?」

シルフィードの背にねっ転がり、タバサも同様に。
2つの月、そしてシルフィードの背で横になる俺達。
……一体、何が俺を待ち受けているのだろう?


In ロマリア 大聖堂

「以上が、ヒラガ・サイトを召喚したシャルロット・エレーヌ・オルレアン……今はタバサと名乗る者の素性です」
「あのオルレアン公の……オルレアン公爵夫人の容体は?」
「芳しくはありません。ですが、状態から見て飲まされた薬はエルフの秘薬と見て間違いないでしょう。残念ながら、解毒薬の調合は私達では不可能です」
「ガリアはエルフの住処と隣接する国……すぐにその薬の出所について調べなさい。そしてトリステインに使者を送り、魔法学院に表敬訪問をしたい旨を伝えなさい」
「なっ何も出向かずとも……」
「その薬の出所について、私の予想が正しければ……事は思った以上に複雑の様です」
「では、早急に」
「無能王ジョゼフ……その名に偽り有りか、いや否か。どちらにせよ、ガリアは警戒すべきやもしれません」


(あとがき)

と言う訳で、第二章『蒼き狂王の宴』を掲載させていただきました。
出しすぎだと言う否定的意見を覚悟してましたが、来なかったのはちょっとビックリ。

まあ、物語的にまだプロローグ的なこの時期。
少々早すぎる動きもあるやも知れませんが、この物語の醍醐味と言う事で。
……納得しろっつーのも図々しいと存じてますが。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第2話
Name: 秋雨◆47235915 ID:cd453b1e
Date: 2008/09/20 15:11
「……ロット……ねぇっ、シャルロット……」

……なんだ?

「なぁに? 母さま」
「もしおまえが、明日を迎えられたら……」

誰だ……?
……髪が長い上に、雰囲気が違いすぎるけど、あの子……タバサ?
でも、シャルロットって……え?

「私達の事は、忘れなさい」

あの人……タバサの母さん?
悲しそうな表情ではあるけど、タバサにそっくりの美人だな……タバサも将来、あんな風な美人になるのかな?

……じゃないだろ!
これは一体……何を見てるんだ?

「母さま……? 待って、どこへ行くの?」

タバサの過去? それとも……夢?
たまらなく不快な感じがする……まるで、悪夢を見てる間の様な……
一体、何が起こってるんだ?

「ダメ……いかないで! 行ったら何か悪い事が……!」

あれ……?
声が……遠ざかって行く。

「母さま……ダメ……」


「行かないで、私を……おいて、行かないで」
「……夢?」

……聞こえる声が鮮明に、そして今の聞きなれたタバサの物に質が変わる。
目の前にはよく晴れた空、隣にはうなされてるタバサ。
そして、俺がねっ転がってる所は……シルフィードの背中。

「そっか……シルフィードの背中で寝たんだっけ?」
「きゅいきゅい、おはようお兄様。お姉さまどうしたの? うなされてるのね。いやな夢見てるの? きゅいきゅい、心配なのね」
「……ダメ……やだ、行かないで……」

あれは……タバサが見てる夢?
俺が、タバサの夢に干渉した?

『使い魔のルーンには感覚共有の効果がある。それを介して夢が流れてきたんだろう』
「わっ! ……いきなり声掛けるなよ、びっくりした……」
『むっ……それはすまなかったな、マスター』
「そういえば、そんなこと言ってたな。じゃあやっぱり……ん? 何でお前、俺の考えてる事がわかったんだよ?」
『マスターは考えている事が顔にハッキリと出る。気をつけた方がいい』

そう言えば、ババ抜きとかあんま勝った事なかったな。
……まあいい、今どの辺だろ?

「なあ、今どの辺だ?」
「とっても大きくて綺麗な湖が見えるのね」
「湖?」
『おそらく、ラグドリアン湖だろう。何百年ぶりかな?』
「……お前一体何年あそこに居たんだ?」
『……すまないが、よくわからん。あんな処にずっと居た所為か、時間間隔がずれてしまっている様だ』

……長生き……いや、長持ちって表現になるのか?
俺みたいな奴が前にもいたって事は聞いたけど、年期ってものが違うか。
まあいい、今は今の事だ

「ん……」
「あっ、おはようタバサ」
「今どの辺り?」
「もうすぐ、綺麗な湖が見えるって」
「……ならもうすぐ」
「あっ、見えたのね……あれ?」
「どうした?」

とりあえず、乗り出してみる。
そこには綺麗な湖が……え?

「家が……沈んでる?」
「これは一体……?」
『これは……何かがあったな。時間に余裕は?』
「……出来るだけ早く、お母さまの無事を確かめたい」
『そうか……ならば、それが終わり次第またここに来てくれ。確かめたい事がある』
「わかった」


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「ほうっ、そうかそうか。このガリアへ向かっておるか……ミューズ、その様子は監視し声は全て残せ」
「承知しました」
「くっくっく……楽しみだな、ヒラガ・サイトが余に向けての暴言は。それに込められた怒り、憎しみ、憎悪……殺意の籠められた殺したいと言う言葉が聞きたい! 怒りの瞳で見つめられたい!! 変わらぬ憎悪の対象でありたい!!! くははっ……駄目だ、想像するだけでもおかしくなりそうだ!! 嬉しさと楽しさで心が弾むわ!!! ふはははははははははははは!!!! ……ミューズ、愛の物語の主人公はこのような気分だろうか?」
「感情こそ違えど、違いはないかと存じます。時に、ロマリアの犬どもが……」
「今我はヒラガ・サイトにしか関心はない。くだらん事を耳に入れてくれるな」
「ですが、オルレアン公邸やサハラとの交易地を嗅ぎまわっているだけではなく、トリステインに使者を送ると言う動きが」
「なんだと!? ……ならばそこはもういい、すぐに戻って来い」
「早急に」


「ちっ……狸どもめ、やはり嗅ぎつけおったか。目障りな……聖地奪還の聖剣として欲しておるのなら良いが、違うのであれば叩き潰してくれる!! 奴等に死を与える権利は俺の物だ! 奴等を屍にする権利は俺の物だ!! 奴等の血も肉も骨も臓物も、俺に最高の喜びと悲しみと痛みを与えてくれる美酒だ!!! 俺以外の手に納めさせてなるものか!!!! くっくっく……ヴィットーリオ・セレヴァレ!! 互いの為にも、精々願う物を間違えぬ事だ!!! 間違いには報償として、お前の国に住む者すべてにおぞましき死を進呈してやろう!!!!」


Side サイト in ガリア 旧オルレアン公邸

「うっわぁっ……これが、タバサの家?」
「そう」

第一印象は、度肝を抜かれた。
まるで映画とかで見たような貴族が、それもその中でも上級レベルが住んでると言っても過言じゃなさそうな屋敷。
もしやタバサって、貴族でも有数のお偉いさんのお嬢様?

「確かに、自然に溢れてる……でもそれ以上に、本とかテレビとかでしか見た事ねえぞ、こんなすっげえお屋敷」
「テレビ?」
「俺の世界の道具。あっ、誰か出てきた」

俺達が降り立つと、まるで計ったようなタイミングで屋敷のドアが開く。
そして……なんと言うか、変った形の髪型の年配の人が出てきた。
もしかして屋敷に約束されている存在と言っても過言じゃない、執事という職に就いている人だろうか?
突然の客人に驚いてるだろう表情は、タバサを見るなり優しい物に早変わりした。

「お帰りなさいませ、シャルロット様」
「シャルロット?」
「御苦労……お母さまは?」
「はい、お変わりなく……お嬢様およびオスマン殿の手紙通り、表だった事はできませぬが警戒しております」
「そう……」

シャルロット?
確か……あの夢でタバサ、そう呼ばれてたような……
……そう言えばキュルケから聞いたけど、タバサって言うのはハルケギニアでも珍しい名前だっつってたっけ?

「あの、そちらは?」
「あっ、俺は……」
「私の護衛のサイト。そして使い魔のシルフィード」

どこに何が潜んでるかわからないと言う事もあり、俺がタバサの使い魔だっつーことは伏せる事になった。
だから俺は名目上護衛で、シルフィードが使い魔。
一応コルベール先生も

「ミス・タバサの力量なら、風竜の召喚は十分あり得る。大丈夫だと思うよ」

と言う評価を頂きました。

「……あの、そちらの方は護衛とおっしゃいましたが、剣に槍を持っていると言う事は……」
「腕は確か。彼ならば安心して命を預けられる」
「っ!」

タバサがそう言うと、執事さんは驚愕の表情で俺を見た。
まあ、メイジのタバサが平民にそこまで言い切るのだから、驚くに値するだろうけど。

「……少々驚きましたが、シャルロット様がそこまで仰るお方であるのならば、私達もそれ相応の礼儀を尽くさねばなりませんな。ではこちらへどうぞ、シャルロット様、サイト様」
「はっはい」

少々戸惑いつつも、タバサの家にお邪魔することになった。
それにしても、サイト様か……性に合わねえ。



Side タバサ

たくさんの思い出がある、このお屋敷。
暖炉の上にある、お父様の肖像画……これが届いた日の事。
その暖炉の前で、お父様とお母様と一緒にお茶を楽しんだ時の事。
そして……お父様が死んだと知らされたあの日の事。
……すべてが狂い、壊れ始めたあの日から、もう3年近くの月日が流れた。

「すごいな……やっぱり」

本当なら、もっと楽しく明るい気持ちで彼をこの屋敷に招きたかった。
お父様にお母様……お2人に彼が私の使い魔であり、勇者だと言いたかった。
そして……彼を笑顔で迎えてほしかった。

「……ちょっとの間、ここに居て」
「ああ、わかった」

サイトと別れて、お母様の部屋に向かう。
……汚れを知らない頃、どれだけ大切かなんて考えすらもしなかった数々の思い出。
ただ今を享受していさえすれば、お父様とお母様が一緒に居てくれたあの頃……
でももうどんなに願っても、どんなに叫んでも、どんなに足掻いても……あの頃は戻ってこない。
目の前にあるこの扉を開く事の意味……それすらも、あの頃とは変わってしまったように。


Side サイト

「このお屋敷の執事を務めさせていただいております、ペルスランと申します」
「えっと、お嬢様の護衛を務めさせていただいております、平賀才人です」

落ち着かない上に、慣れない礼儀の為にガチガチだった。
ペルスランさんは特に気にした様子もなく、タバサにするように接してくれた。

「普段通りにしてくれて構いませぬ。シャルロットお嬢様が命を預けられるほどの方であれば、多少の無礼は目をつむりましょう」
「そっそうですか? あの……シャルロットと言うのは、お嬢様の?」
「お名前でございますが、どうかされましたか?」
「じゃあ、タバサっていうのは……?」
「ふむっ……詳しく聞かせて頂けませんか?」

ガシャーンッ!!

「何だ!?」
「お気になさらないでください、恐らく……あっ!」

ペルスランさんが何か言う前に、俺は駆け出した。
やっぱり、何かが変だここは。
こんな立派な屋敷なのに、中に入れば寂しさに満ちた空気が充満してる事も……。
それにタバサがシャルロットって名前を隠して、魔法学院に通ってる事も……
あの夢のタバサは、あんなにも明るい笑顔が似合う子だって言うのに、あんな正反対の人形みたいに感情を出さない子になった事も……。

「なあ、バハムート」
『なんだ?』
「わざわざ偽名使って学校行ってる理由、そしてこの屋敷に冷めた空気が充満してるのって、どんな理由があると思う?」
『さあな……だが、しきりにタバサ殿が眺めていたあの肖像画の男性。あれに関係してるのではないか?』
「……一体何があるってんだよ!?」

パリーンッ!

「私の前から消えなさい! この悪魔め!!」


「今の……」
『あの扉からだな』

どなり声が響いた扉を乱暴に開けた。

「っ!? 何者!!?」
「っ! サイト!」

扉を開けた先の光景は、人形を抱きながら椅子に座っている痩せ細った女性と、跪いているタバサ。
タバサは琥珀色の液体を髪から滴らせ、足元にはカップの破片と思わしき物が散らばってる。
幸いけがはないようだけど、座ってる女性の前にお茶菓子がある事から、何が起こったのか明白だった。

座ってる女性は、痩せ細ってる上に生気のないし雰囲気も違うが、どこか見覚えがあった。
あの夢に出た、タバサのお母さん……?
……ってちょっと待てよ、タバサもそうだけど変り過ぎだろ!
夢で見た姿と比べて、髪は色彩をほぼ失い体は痩せほせていて……生気なんて感じられない。
突然の乱入者に目を見開き、怯えているようだがどうでもよかった。

「おいあんた! いくらなんでもやり過ぎだろ!!」
「っ! サイトやめて!」
「何があったか知らないけど、それが……」
「はっ離しなさい!! 私の命で済むのなら喜んで差し出します!!! でも、シャルロットだけは……」
「え?」

……言った事が理解できなかった。
シャルロットって、タバサの事だろ?
カップを投げつけておいて、命を差し出す代わりに助けろ?

「この子は……シャルロットは、私の命よりも大事な……大切な娘です。夫だけでなく、シャルロットまで奪われたら……」
「人形がシャルロットって……ちょっ、何言って……」
「やめて……お願いだから」

掴みかかった俺を放そうとしてた、タバサの声色が変わった。
多少なら変える事があったタバサの顔が……。

「私は良い……良いから、やめて……うっ、えくっ……」

……胸を冷たいナイフで抉られた様な痛みが走った。
タバサが泣いた……俺のした事で?
あの時“覇竜”を使った時以上に急激に力が抜け、俺の手は力なくだらんと垂れ下がった。

「大丈夫よ、シャルロット……あなたは絶対に離さない。私の可愛い愛娘……誰にも渡すものですか……大丈夫よ、この私が命を捨ててでも守ってあげるから」

優しさに満ちた顔で人形を抱きしめる、タバサのお母さん。
その横で俺の手を掴み、泣きながらへたれこむタバサ
……苦しい……息がうまく出来ない
なんで? 一体何があった?



『これは……』
『……まさかタバサの姐さんが、あのオルレアン公の娘だったとはな』
『酷いな……症状から見て、これは人間の作れる水の魔法毒ではないようだが』
『恐らくエルフの秘薬だ。ガリアがサハラと隣接する国ってのは、バハムートの兄貴も知ってるだろ?』
『……効果を知って使ったとしたら、そいつの正気を疑うぞ。ラグドリアン湖の異変と言い、この国で何が起きている?』
『尋常じゃない事が起き始めてるのは確実だな』



(あとがき)

今回の話ですが……正直自分でそう言うストーリーにしておきながら、書いてて気分いい物じゃなかったです。
でも必要な話でしたし、何よりもタバサと言うキャラを語るには必要ですから……といっても、必要以上にした感がありますが。

話は変わりますが、実際展開が速いと言う意見もありましたが、いずれ必要だったと納得させるつもりです。
ジョゼフを早めに出したのは必要だったからですし、ロマリアの動きも必要だと思ったから出しました。
不満や不服もあるでしょうし、これらの理由に感付いた人もいるでしょうが……こちらからは楽しんでいただけるように頑張りますとしか言えません。
それでは、これからもよろしくお願いします。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第3話
Name: 秋雨◆47235915 ID:5745db0f
Date: 2008/09/20 15:18
女の子の涙って、かなりの殺傷力があるんだな……というのが、頭が落ち着いた時に浮かんだこと。
……まあぶっちゃけ、混乱の極みのさらにその先だった所為で、頭自体がパンクしてた所為かもしれない。

でもあの夢がタバサの過去だと言うのは、確信出来た。
あの夢の通りならタバサは偽名で、本名はシャルロット……あの夢の、明るい雰囲気の笑顔の似合う女の子が、タバサなんだ。
そして、あの痩せ細ったヒステリックな人が、タバサのお母さん。
あの夢が確かだとしたら、あの後何かがあった……それも、タバサとそのお母さんをここまで変える程の何かが。

「……落ち着かれましたか?」
「はい……やっぱり泣かれたのは精神的に辛かったです」
「御気になさらないでください。シャルロット様も理解しておられます」

あの後俺は居間に戻り、タバサは風呂に行った……らしい。
泣かれてからの記憶は曖昧で、気が付いたらペルスランさんの淹れてくれたお茶を飲んでいたと言う感じ。
……でも、この屋敷の空気の寂しさが理解できた。

「……ペルスランさん、一応聞きますがあの人がタバ……ああいや、シャルロット様の?」
「母君でございます」
「そうですか……」
「あなたには、話しておくべきやも……」
「いえ、それはいいです。知られたくない事もあるかもしれませんし、話してくれるまで待ちますよ。できれば、本人から聞きたいので」
「……そうですか」
「お茶、ごちそうさまです。シルフィードは今どこに?」
「この館の中庭にて、眠っておられます……サイト様」
「はっはい」
「こんな老いぼれた私には、剣の1本すら振るう事は出来ませぬ……シャルロット様の事を、よろしくお願いいたします」

俺の手を取って、涙を流していうペルスランさんを見て、タバサがとても大切にされてることが見て取れた。
……でもそれ以上に、俺にできるのかという不安もある。

俺にとっては重大決心……でも、他から見ればただ流されるままに決めた覚悟かもしれない。
でも、今の……泣きながら俺に願いを託すペルスランさんを見て、本当に覚悟を決める事の意味……覚悟と言う物の重さ……。
決して簡単に考えてたわけじゃない……でも改めて考えれば、とてつもなく重い。


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「ひっく……おおっ、戻ったかミューズ? 思った以上に速かったな?」
「ジョゼフ様、このワインの山は一体?」
「奴等を屠った後に行う晩餐で飲むワインの選別だ。どれもこれも物足りぬが、トリステインのタルブ産ワインは合格点だな。これにヒラガ・サイトの血を注げば、この深い色も味もより格別になるであろう……時にミューズ、その晩餐には奴等の剥製を飾りたいと思っているのだが、どうかな?」
「素晴らしい考えだと存じます。ですが死体を純金で塗り固め、像として保管するのもよろしいかと」
「ふむっ、それも素晴らしい提案だな……あの狸どもの住処は愚か、ハルケギニアやエルフを見まわそうが足元にも及ばぬ、素晴らしき芸術になるであろう。それを眺めつつ飲むワインは、さぞや格別に違いない。だが、剥製にしろ像にしろどちらが良いか迷うな……どれがいいだろうか?」
「ジョゼフ様、少々飲み過ぎです。まだ先といえど、我等が宿敵との決闘を控えておられるお身体ですから、壊しては……」
「おおっ、そうだな。最早余だけの体ではない以上、気をつけねばならんか……ミューズ、例の物は? ヒラガ・サイトの怒りに満ちた声を記録した魔道具、そして“あれ”は?」
「残念ながら、力の方は間に合いませんでした。お楽しみの方も、まだ着いたばかりらしく……現在小型ガーゴイル数体に見張らせております」
「そうか……まあ良い、ヒラガサイトの声は一眠りすれば聞けるのであろう? ならばそんな事どうでも良いわ……ミューズ、寝室へ行くぞ。共に奴等を屠る夢でも見ようではないか」
「……ありがたき幸せ。時に、ロマリアはいかがなさいましょう?」
「考えてみれば、焦る事もなかった。聖堂騎士どもに任せては反感を買うのみである以上、自ら赴くしか手はない……違うか?」
「御尤もです」


Side サイト 旧オルレアン公邸中庭

「きゅいきゅい♪」
「よう、シルフィード。ご苦労だったな」
「きゅい、きゅい~♪」
「ん? 撫でてほしいのか?」
「きゅい」

俺の胸元に鼻先をすりよせ、撫でてくれの合図をするシルフィード。
ゆっくり撫でてやると心地よさそうに眼を細めて、より鼻先を俺の胸元に埋めてくる。

「きゅいきゅい、きゅい♪」
「ははっ、甘えん坊だなシルフィードは……なあ、バハムート」
『なんだ、マスター?』
「タバサの母さんのあの状態、何だと思う?」
『おそらくだが、エルフの秘薬ではないかと見ている……あそこまで酷い精神崩壊は、少なくとも人間の魔法薬では不可能だ』
「エルフ!? ちょっと待てよ、エルフってシャールさんの種族って意味のエルフか!?」
『そうだ。ガリアはエルフの住処と隣接する国、多少だが交易もあった筈だ』

……おいおい、そんなヤバいもんまで仕入れてんのか?
知ってて使ったんなら、正気疑うぞ?

『マスター。我は普通に考えれば、正気ではない者がまともではない筋から得たものだと推測するが?』
「……やっぱ俺って、ポーカーには向いてないのかな? ……まあいい、てかこの世界に来てからまともな貴族なんて数える位しか会ってないけど、そこまでヤバい奴もいるってのかよ?」
『自身の権力を守る為に、裏で謀略暗殺、闇取引や略奪、その他諸々の汚い事を平然とやって居る腐った者など、昔から文字通りの腐るほどいた。大国になればなるほど、そういう裏の面が黒く汚い物だ』

古今東西、異世界の枠を超えてもそう言うのは変わらんのね。
漫画とかでも、大抵そう言うのお決まりだし……。

『まあガリアともなれば、魔法先進国で貴族も多い。それ故に一枚岩じゃなくて、ガリア国首都リュティスにあるヴェルサルテイル宮殿では、ハルケギニア1といっても過言じゃない位に権力闘争が繰り広げられてるって話だ。タバサの姐さんも、随分な敵をお持ちの様で』
「なんだよ地下水、お前タバサの家の敵が誰か知ってるのか?」
『ああ。あの肖像画の男、シャルル・オルレアン公爵とは以前会った事があってね……まあ、俺の口からよりって奴だろ?』
「まあ、そうだな……そう言えば、爵位だっけ? その中でも公爵ってどれ位偉いんだ?」
『貴族の階級でも、最上位に位置する爵位だ。成程……それほどの地位ならば、エルフの秘薬を手に入れられる程の敵が居てもおかしくはない』
「そう……地下水を差し向けたのは恐らくお父様の兄、そして私にとって忌むべき仇敵にして伯父に当たる現ガリア国王……通称“無能王”ジョゼフ」

振り返った先には、魔法学院の制服を纏っているタバサ。
彼女からしてみれば、洗濯から乾燥まで魔法で造作もなく出来るから特に汚れても問題ないんだろうけど……っといけない!

「あっ……あの、さっきは」
「気にしなくていい。私の方こそ、隠しごとをしていた事を謝る」
「いや……ところで、地下水が言った事は?」
「真実……私の本当の名前はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。元ガリア第二王子シャルル・オルレアンの娘にして、現ガリア国王ジョゼフの姪にあたる者」
「じゃあ、タ……シャルロットは……っ!」
「……今の私はタバサ、それ以外の何者でもない」

待ったと言うように手を前につきだしてそう言うと、シルフィードの背に飛び乗った。
俺もすぐに飛び乗り、タバサの飛んでと言う言葉でシルフィードは飛翔する。

「どこへ?」
「ラグドリアン湖」
『っ! ……いいのか?』
「……私のスキルニルを3体置いた。どの道今日はここに泊るつもり」
『そうか』
「……ジョゼフは魔法の才に乏しく、常にお父様と比較されていたと聞いた」

タバサはそのまま語り出した。

『ああ。家臣すらバカにしてたって聞いたぜ? 取り入ろうとする奴からしても、無能すぎて利用する価値もないと判断されたそうだ』
「そう……大半がお父様こそが王に相応しいとされ、伯父のジョゼフはその才の乏しさゆえに煙たがられたらしい」
「……そこまでやるか?」
『ただでさえ、貴族の家は名誉と誇りを重んじる。メイジとしての力量が乏しくては、それを守る事など出来んからな。ましてや王ともなれば、その血筋上優秀である筈』
「だから妥協は一切許しませんってか?」

……生まれがいい事が、必ずしも幸せではないってことか。
俺、現代日本に生まれてよかったよ。

「でも、お父様はそれを良くは思ってなかった」
「え?」
「いつも言ってた。兄さんはまだ目覚めてないだけなのに、それがどうして皆わからないんだろうって。いつかきっと、兄さんはすごい事をやってくれるって言ってた」
「魔法だけじゃなくて、人格的にも優れてたのか……完璧じゃん」
「でも何時まで経っても目覚めの兆しも見えず、私が12歳の時に運命の日がやってきた」
『先代国王の、王位継承の遺言だな?』

先代国王……って事は、タバサのおじいさんか。

「3年前、お爺様……つまり先代の王が病に倒れ、王位継承を遺すべく2人の王子を枕元に呼びつけた」
「そこで、シャルル公爵が指名されると大半が予想してたんだよな?」
「そう……でも、お爺様はお父様ではなく、ジョゼフを王に指名した」
「え?」
「理由はわからない……でも、お父様は選ばれなかったにも関わらず、とても喜ばれてた。これからは兄さんの補佐として、懸命にガリアを良き国にしようと言ってた」
「そうなのか……ん? ちょっと待て、それじゃ今の話と繋がらないんじゃないか? シャルル公爵が指名されたんならまだしも、どうしてジョゼフが指名されて今に至るんだ?」
『喜んでいたから……ではないのか? そのジョゼフ王がどういう人物かは知らん以上恐らくだが、自分が指名されて悔しがる顔を想像したにも関わらず、そう言う態度をとれる弟にコンプレックスが爆発と言う所だろう』

おいおい……なんかすっげえ人と言う存在の複雑さが浮き彫りになってるなあ。
まあ権力関係で血縁同士が争うって言うの……確か、歴史の授業でも何回か聞いたし。

「それからしばらくして、お母様と共に猟に出かけたお父様が毒矢で射られて死んだと、戻ってきたお母さまから聞かされた」
「どっ毒矢!?」
『メイジにとって、武器での死は最大級の恥とされる……それも、毒を用いただと!?』
『俺も聞いたよ。あんま知られちゃいないが、その矢を射たのは他でもないジョゼフだったって話だ。まあ話の出所はわかんねえがよ』
「っ!」

ぎりっ!

歯軋りの音……振り返った先には、うつむき震えるタバサ。
噛み締めていたらしい口から、血が線をひいていた。
握ってる杖からも、軽くみしみしと言う音が聞こえる。

「……その日から私の運命は酷くねじ曲がってしまった」

それから、あの時見たタバサの夢の真実を知った。
あれは現実にあった事で、その後……無能王ジョゼフとの会合。
そしてタバサを守る条件で、その毒入りの料理を食べてああなった……と。

「……何でそこまでやる必要があるんだよ!? 相手は弟の家族だろ!!?」
『オルレアン公を慕う貴族達と組んで、内乱を起こしかねないという今後の憂いを断つためだろう』
「そう……それから私は、シャルロットである事を捨てて人形に……昔シャルロットにとお母さまから送られた人形、タバサになった」
「人形って……もしかして、あの人が抱いてた人形か?」
「そう……でも、それだけではなかった」

それからの話は、俺にとってはあまりにも衝撃的で……初めて、人を汚いと思う程の内容だった。
それからと言う物、タバサは何かとガリアの厄介事……それも、汚れ仕事と呼ばれる物を押し付けられる様になった……。
内容こそ様々で、俺にはさっぱりわからないけど……

『……遠まわしどころの話ではないな。内容で十分死ねと言ってる物ばかりではないか』

と言う言葉で、言いようのない怒りが沸々と湧き上がった。

「……人って、こんなに汚くなれる物なのかよ? 自分の地位を守る為に、こんなにも残酷になれる物なのかよ!?」
「サイト……」
「初めてだ……こんなに人を許せないって思ったのは! その面を思いっきりぶん殴ってやりたいって思ったのは!!」

考えた事もなかった……ここまで人を許せない程の憎しみを持つなんて。
予想もしなかった……こんなつらい時を生きている人が居るなんて。
気付きもしなかった……何故タバサが俺のルーンを見てあんなに喜んだのかなんて。

「なあタバサ……何があっても、俺はタバサの味方だ」
「サイト?」
「……確かに俺、何も知らないしルーンが無けりゃ戦う事も出来ない。でも一緒に居る事くらいは出来る……まあ、それで何が出来るって訳でもないけど……って、何言ってんだろうな、俺?」

タバサは俺の頬にそっと手をやり、かすかに笑った。

「それで十分……」
「え……?」
「我が使い魔ヒラガ・サイト……あなたの言葉、しかと我が心に刻み込まれた。共に進む者として、より強き心と力を育むことを期待する」
「えっと……必ずや期待に答えましょう、我が主タバサ様」


『新たな物語の幕開けだねえ……どしたい、バハムートの兄貴』
『いや……良い主に巡り合えたと思ってな』
『そうかい。所でよ、この国の虚無の樹海はどうすんだい?』
『そうだな……今のマスターならば、力に溺れる事はないと思うが……この国の王家が敵と言うのは厄介だな。お前を差し向けたのならば、マスターの存在にも気付いていると言う事……そして、我がトリステインの虚無の樹海の秘宝と言う事も恐らく……』
『どの道、手に入れるのは容易じゃねえって事だな……?』
『だが今は、ラグドリアン湖だ』



(あとがき)

アニメ版でのジョゼフですが、偉く声のイメージがピッタリだなーと思った。
他にも、早くビダーシャルや教皇が出てほしいと思う今日この頃。

まあそれはそれとして、今回も読んで頂いた方々に感謝いたします。
あとそろそろ、戦闘シーンを用意します。
それでは、次回も楽しんでいただけるよう頑張ります



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第4話
Name: 秋雨◆47235915 ID:81ab724a
Date: 2008/09/20 15:31
「やっぱり綺麗だな……ラグドリアン湖だっけ? まるですげえでっけえ鏡を見てるみたいだ」
「そう……汚れのないこの湖は、お父様も大変気に入ってらした」
『うむっ……久方振りだが、やはりこの景色は言い。心が洗われる様だ』
『だな。血生臭い闇を生きてきたがよ、ここに来るとすっげえ気持ちいいや』

ここを通った時にも思った事だけど、自然の美と言うべきか……。
昔遠足で見たどの景色すら、比較にもならない……そんな景色に目を奪われる。
天然の鏡……って表現になるだろうこの景色に。

「で、どうしてここに来たがったんだよ?」
『確かめたい事があってな。我の刀身を湖につけてくれ』
「ん? ああ」

バハムートを引き抜いて、刀身を湖に浸す。
そこから波紋が伝わり、見える景色にアクセントを与えるように感じた。

『……我はバハムート。調律者の破壊を司りし剣なり……水の精霊よ、汝等でいう単なる者にわかる言葉とやり方で我等の前に』

バハムートが魔法を唱える様にそうつぶやくと、湖が多少だけど光る。
そしてポコポコと水泡が湧きあがり、そこから水が吹き上げ人の形をとった。

「なっなんだ!?」
『この湖に住む、水の精霊だ。大丈夫、敵ではない』
“久しいな、竜剣バハムート……成程、その単なる者が現在の調律者か?”
「またか……つーか、人外に会うと大抵そう呼ぶよな」
『そう言う存在なのだよ、マスターはな……1つ聞きたい事がある。何故ラグドリアン湖の水位を上げた? お前たち精霊は本来、必要以上に人の世に干渉をする事を良くは思わない筈だ』
“聞いてどうする? 先代のごとく助けると?”
『内容によっては……だ。一体何があった?』

水の精霊の形が崩れたと思ったら、なにやらウニョウニョ蠢き始める。
そしれ元の形に戻った。

“アンドバリの指輪が盗まれた”
『っ!? 何だと!!?』
「アンドバリの指輪?」
「聞いた事がある。死者に偽りの魂を与え、生者の心を操る事が出来る水のマジックアイテム……まさか、ラグドリアン湖にあっただなんて」

流石はファンタジー……そんなアイテムまであるとは。
まあ、精霊や竜や魔法が存在するんだから、ありえない話じゃないけど。

「それで、何で水かさを?」
“そうしていけば、いずれは指輪に辿り着く……それだけの話だ”
「……ずいぶん、気の長い話だな」
『我等インテリジェンス・ウェポン同様に、精霊にも寿命など無い。だから出来る芸当だ』
“そう言う事だ、調律者よ”

不滅の存在ってわけか……概念自体違うってわけね。
でもこのままほっといたりしたら、このハルケギニア自体を飲み込まれてたって訳?
……恐ろしいな。

「でも、一体誰が?」
“指輪を奪った個体達のうちの1つが、クロムウェルと呼ばれていた”
『クロムウェル!? アルビオン反乱軍の頭じゃねえか! 成程……あいつの力の正体は、アンドバリの指輪ってことか』
『ああ、それしきが虚無な訳がなかろう』
「虚無? 確か、始祖ブリミルとやらが使ったっつー失われた系統だったよな?」

聞いてみれば、アルビオンって国では貴族主体の共和制を望む貴族派が反乱を起こし、内乱状態にあるらしい。
その反乱軍のリーダーのクロムウェルって奴が、不可思議な力を(アンドバリの指輪の力)“虚無”と称して、反乱軍の指導者として名乗りをあげたらしい。

“全く持って理解できん……なぜ単なる者はくだらん地位や富の為に争いを望む? なぜ平和に仲良くと言う事が出来ないのだ?”
「俺も全く持って理解できん……まあとにかく、そのバカ野郎がそのアンドバリの指輪を持ってるってことか」
『だが、いずれはぶつかる事になるだろう。偽りの“虚無”を名乗っている以上、アルビオンだけで済むとは思えん』
「じゃあ、奪い返す機会があればって事になるかな?」
“それでも構わない。頼む調律者よ、アンドバリの指輪を再びこの地に”
「え? でっでも良いのか? こんな曖昧な約束で?」
“曖昧な内容といえど、調律者ならば信ずるには十分値する。すぐに水かさは元に戻そう……何かあればまたくるがいい、我に出来る事でよければ力になる事を誓おう”
「あっああ……ありがとうございました」

精霊の足元がポコポコと音をたて、水の精霊がいきなり形を崩しザバっと音をたてて湖へと戻っていった。
それで出来た波紋が収まった頃、ふとある事を思い出した。

「アルビオンか……そう言えば、ロングビルさんの妹さんって確かアルビオンにいるんだっけ?」
「そう」
「そっか……で、これからどうする?」
「今日は屋敷に泊って、明日朝一番に帰る。今回はあくまで、お母様の安否の確認」
『確かに、それが賢明だな。敵の正体、目的がわからん以上は、今虚無の樹海に向かうのは危険だ』
「じゃあ、今回はガリアの虚無の樹海はお預けか」
『興味はあったんだがな……まあとにかく、今日は屋敷でのんびりしようや。サイトの旦那にタバサの姐さんよ』


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「殴りたい……か。殺したいとまではいかなかったようだが……っ……」
「ジョゼフ様?」
「ミューズ、喜びとは過ぎれば逆に何も出来ない物なのだな……喜びと心地よさが身体中に満ち溢れて来よるわ……ある意味幸いであったよ。これで殺したい等と聞いては、余は狂い死んでしまいそうだ……ふふふ……」
「いかがなさいましょう? 明日の朝一番にトリステインに戻るとの事ですが」
「そう急くな。少しずつ……少しずつ旨味を噛み締める。そう、焦る事はないのだよ……おおっ、そう言えば狸の親分がトリステインに向かうと言う話があったな? ミューズ、トリステインへ向かえ。そうだな……“スレードゲルミル”の完成状況は?」
「6割……と言ったところでしょうか」
「そうか、本当ならそれを使いたかったが……まあいい、では“ベルゲルミル”30体を連れて行け」
「あれを……ですか?」
「横槍は跡形もなくなる程、徹底的に破壊し尽すに限る……言いたい事はわかるな?」
「……御意」


In ロマリア 大聖堂

「表敬訪問の件ですが、その日はちょうどアンリエッタ姫が向かう事になっておりまして、それに合流する事になるのですが」
「そうですか……では、直ちに旅支度を。彼を狙う者が勘付く可能性もありますので、警戒を怠る事ないようよろしくお願いします。時に、ガリアは?」
「いえ……サハラとの交易地からは何も。リュティスでも、同様です……ただ、ここ最近ガリアでマジックアイテム開発が異様に活気付いているとの報告が。しかもアルビオンで確認された、反乱軍の新型ガーゴイルやマジックアイテムが投入された時期もその頃で」
「……“無能王”、その名は返上されてしかるべきやもしれませんね。今回の表敬訪問、何事もなく終わればよいのですが」
「その事で、少し誤算がありました。実は、土塊のフーケの騒動で彼を危険と見なした教師が何人かおりまして、そんな彼を私達の前に出す事を良く思わないと言う問題があります。それにトリステインの担い手も、彼の事を良くは思っていないようです」
「そうですか……これも世界の矛盾が生み出した、試練なのでしょう。ですが、退くわけにはいきません。聖地奪還を成し遂げる為にも、担い手とその使い魔も同様ですが我等が神の聖なる剣として、彼等が必要なのです」


Side サイト in ガリア 旧オルレアン公邸

食事を終えて、いざ就寝。
1人で1つのベッドで眠ったのは久しぶりで、多少さびしく感じた。
……女の子と同じベッドじゃない事に違和感感じるのはどうかと思うけど、やっぱり習慣付くとそんな物なんだなあ。
……なんてバカな事を考えたのは、ほんの少しの間。
実際には、さっきの事で頭がいっぱいで……少しだろうと気を紛らわせなければ、潰れてしまいそうだったから。


食事が終わり、シルフィードとのスキンシップも終わっていざ屋敷に入ろうとしたら……

「シャルロット!? どこなのシャルロット!!? 離して!!! シャルロットはどこ!!? 私の娘を返して!!!」

と騒ぎたてながら、止めようとするペルスランさんを振り切ろうと躍起になって、タバサのお母さんがこちらに走ってきている
それを見て俺は地下水で“フライ”を使い、タバサのお母さんを浮かせて足止めをする。
そこへタバサが人形を持ってきて……タバサから奪い取る様にしてそれを抱きしめると言う騒ぎがあった。
……あまりにも悲しい光景だったから、そう言うバカな事でも考えないと、少しだろうと紛れない。
本来抱きしめられるべきタバサ……いや、“本当のシャルロット”は。

「……」

その光景を悲しそうな顔で眺め、この部屋に来る間ずっとうつむき……震えていた。
戻るとベッドに入り、さっさと寝てしまった。
……泣き腫らした目で。

せめてその横のベッドで、俺は横になった。
……思い出すのは、俺自身の母さん。
何かと勉強しろ、勉強しろってうるさかった……でも、テストの点が良かった時は褒めてくれたし、母さんの作ってくれた料理が俺は好きだった。
まあ、怒られたりはしたけど……でも、ああなったら俺だって悲しんだだろう。

「……母さん」

失って初めて、その物の価値を気付く。

……うまい言葉を残したもんだな、先人達は。
父さんや母さん、学校でバカ騒ぎやった友達に、ちょっと気になった女の子。
元の世界での記憶が、まるで決壊したダムの様に溢れてきた。
もしかしたら、戻らないかもしれない……俺の今まで。

『……もう寝ろマスター、今日は色々とあり過ぎたから疲れているだろう?』
『そうだぜ、明日になりゃ頭もすっきりするだろうよ』
「あっ、ああ……」

横になり、目を閉じた。
……大丈夫、きっと帰れる。
タバサやコルベール先生に、俺の世界を見てもらえる……きっとそうだ。
楽天家だって言われる俺だけど、結構無理やりにそう思い込み、夢の中にダイブした。


(あとがき)
実は今回の章でガリアの旅を予定してたのですが、延期しました。
考えてみたら流れ的にもまだ早い感じがしたので、ガリアの旅を期待してた方々にはすみませんが、もうちょっと待ってください。
まあそれでも、オリジナル展開だというのは変わらないのですが。




[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第5話
Name: 秋雨◆47235915 ID:73ea605d
Date: 2008/09/20 15:40
タバサの帰郷? も終わり、学院に戻ってからはちょっと違う生活が待っていた。
コルベール先生、もしくはロングビルさんを伴わなければ行動厳禁。
……そんな生活が始まってから一週間がたち、監視生活にも慣れた頃。
今日も一日が始まる。

まずは、タバサの部屋で起床、身支度。
これはいつも通り。

コンコンッ!

「おはようございます」
「おはようございます、ロングビルさん」
「では、今日もすみませんが」
「いえいえ、こちらこそいつもすみません」

その後、いつもこの時間ピッタリにロングビルさんがこちらに顔を見せる。
簡単に言えば、あのフーケの一件と二回に亘る決闘騒ぎの事で風紀を乱すとされ、監視を言い渡されたのがロングビルさんとコルベール先生。
後これは後から聞いた話だけど、2人1度は都合上無理なので、どちらか片方と一緒であれば良いと言う事で学院長がかなり強引に決めたらしい。
……正直、この二人以外だとシュヴルーズ先生を除いた場合、絶対ろくでもなかった。

「でも、ロングビルさんがまともで助かりましたよ。もしあのゲドーとか言う教師だったらどうなってた事か……」
「サイト、ゲドーではなくバトー」
「ギトーです、ミスタ・ギトー。わからなくもないですが」

土くれのフーケはあれからも捕まっておらず、最近はかなり活発になっているとの事。
以前は錬金を使って穴を開け、そこから忍び込むが通常手段だったのだが……。
最近は警備怠った家には最初からゴーレムを使って、家を跡形もなく粉々にして宝を頂くのが通常になっていた。

聞いた話によると、平民に追い払われたと言う事があっという間に広まった事が原因らしく、大半が予告があっても無視したことへの自業自得の様な物。
でも俺が出しゃばった所為だ言う(アホ貴族どもからすれば)正当かつ合理的な理由から、やたらと嫌味を言われることが多い。
……聞いた話によれば、生徒の実家及び教師の家がその被害者に含まれてるとの事だけど、アホ貴族様は平民に八つ当たりするのがお好きなのは知ってるので黙っておく

『つくづく思う事だが、この国も長くはないな』
「俺もそう思う」
「うん」
「あの……堂々とそう言う事を口にするのはどうかと……」

それから、食事はいつも通りに使用人食堂にて。
ロングビルさんも同席してくれて、一緒に食べる。
まあ、貴族達の俺に対する扱いが悪い事に腹を立ててくれてるマルトーさんに、力になれる事があったら何でもと言ってくれるシエスタを始めとする皆。
少なくとも、ここに居る人達の方がよっぽど付き合いやすい。


食事のあとは、タバサとは別行動。
教室に入れるのを嫌がる教師や生徒が居るため、自動的に追い出される形になる。
よってこれからタバサはキュルケと合流して、教室へと向かう。
そして俺は、コルベール先生もしくはロングビルさんと一緒に居る事になる。
なので、生活の中心はコルベール先生の研究室と、学院長室となる。

そこで、コルベール先生との時間はというと……。

「えー、“わたしのなはジャン・コルベール、トリステインまほうがっこうのきょうしです”。これでいいかね?」
「はい、合ってます。片仮名も慣れましたね」
「いやあ、異世界の文字を使う第一人者だなんて感激だよ。いつか君の世界への扉が一般的になった暁には、翻訳本でもだそうかな?」

……ただ居るだけなのも退屈なので、俺はコルベール先生の頼みで俺の世界の文字を教える事になった。
代わりに、俺もこの世界の文字をコルベール先生に教わるって言う約束。
俺と同類なコルベール先生だから、異世界の文字は好奇心の栄養素。
この一週間で、もう文章でも書けそうな勢いで平仮名や片仮名もマスターしてしまった。

「では、次は私が教師だね。じゃあサイト君、これを読んでみなさい」
「えーっと……この分厚い本をですか?」
「そうだよ。この一週間で分かった事だが、君は文字を読むのではなく意味を直接理解すると言う感じだったね?」
「はい。先生に文字の読みを教わったのがカギなのか、文章が俺の国の言葉のように見えます」
「ではいつも通り、翻訳されない文章が出たら言ってくれ」

まあ、コルベール先生との時間はこんなもの。
基本的には、教え合いと言う感じで楽しく時間を過ごしている。


そして、ロングビルさんはと言うと……。

「あっ……! 年寄りの楽しみを取り上げるのは、そんなに楽しいかね? ミス……」
「オールド・オスマン。あなたの健康管理も私の仕事なのですわ」
「それ、何です?」
「これは水キセルと言いまして、この部分に火を灯しこの中で蒸発した魔法薬を吸う物です」
「へぇっ、俺ん所とは違うんだ……キセルって一度嗅いだ事あるけど、それよりもいい香りなんですね」
「中毒性も高いので、私は何度もやめて頂きたいと申しているのですが……」

まあ、学院長の秘書と言う事もあり、俺は学院長室にてイスに座って時を過ごしている。
書類整理やらなんやらやってるロングビルさんと、それを終えた学院長とのやり取りがこの部屋の名物。
……ぶっちゃけ退屈しない。

「まあ良いではないかね。こう平和な日常が続くとな、時間の過ごし方と言う物が思ったよりも難題になってくるのじゃよ」
「……その難題ですが、私のお尻を撫でると答えるのはやめてください」
「おや、サイト君ではないかね。何故君がここに?」
「都合が悪くなるとボケた振りをするのもやめてください」

仙人みたいな人、ボケた爺さん、スケベジジイ。
……符号が全くかみ合わん人と言うのも、珍しい。
つーか学院長、肉を削ぎ落とすかの様にあなたの評価、どんどん地に落ちています。

……まあそれはそれとして。
俺はと言うと、ただそれを見てるだけではなく、真面目な空気の時にはバハムートの“覇竜”に必要なイメージの訓練。
バハムート曰く

『“覇竜”はイメージの内容と濃厚さで幾らでもその形を変える。あの時の様な中身のないイメージで生み出した馬鹿力だけの衝撃波だけではなく……まあ、実際に試してみればわかるだろう。一先ず身近な竜、イルククゥを元にした風竜のイメージの訓練からはじめる』

との事なので、一先ずシルフィードをモデルに“風の覇竜”の訓練。
まあ良く撫でてあげたりしてるので、姿とかはあん時以上に鮮明にイメージできる。

「きゅい~! お兄様、撫でて撫でて♪ お肉食べたいお肉食べたい♪」

……ノイズが入りまくるから、難易度がメチャ高いけど。

「のうサイト君」
「はい?」
「君は、ミスロングビルにはどの色が合うと思うかね?」
「え? う~ん……緑ですかね?」
「そうかそうか、それも良いのう。じゃが儂としては、黒が合うと思うのじゃよ」
「オールド・オスマン!!」
「?」

何かなと思ってると、ロングビルさんの机の下からモートソグニルが出てきた。
そう言えば、始めてここに来た日も居たような……
学院長の手の上で、なにやらかわいらしいアクションをしている様子。

「ふむふむっ、そうか。今日も白か」

……信号らしい。
何の事か気になったけど、ロングビルさんがスカートを抑えて真っ赤になった事から。
このジジイ、使い魔使って覗きかよ。
……ロングビルさんも完璧怒りの頂点で、魔法詠唱されていらっしゃる。

「こっち来い、モートソグニル」
「あっ……のうサイト君」
「俺のことより、逃げた方が」

ドゴンッ!!!!!

「いいですよ……って、もう遅いか」
『すっげえな……傭兵稼業やってる間も、あれ程の土魔法見た事ねえぞ』
『やれやれ……オスマン老も、聡明なのか愚老なのかよくわからん』
「ちゅうちゅう」

……まあ、大抵こんな感じなので、退屈じゃないのは事実だ。
まあ、監視役の2人とはそんな感じ。


んで、昼になると……。

「お疲れ様です、ご主人さま。授業の方はいかがでしたか?」
「問題ない」
「そうよね。今日は軽いテストがあったんだけど、タバサってば今回も1位だったもの」
「へぇっ、すごいな。キュルケは?」
「……聞かないでよ」

タバサやキュルケと合流して、その時同伴してる人と一緒に食堂へと向かう事になってる。

「……」

……たまにルイズが、何か言いたげにこっち見てる事があるけど、こっち気付くとふんっ、と言わんばかりに顔をそむけて去って行く。
そう言えば、フーケ事件以来口きいてなかったな……まあ、どうでも良いけど。
まあいいや、メシメシ。


午後からは、シルフィードとのスキンシップの時間。
“覇竜”のイメージ土台作成兼、ヴィンダールヴとしての相棒との交友の時間。

「きゅいきゅい」
「まあ待てよ、焦らなくたってたくさん遊んでやるからな」
「ははっ、いつ見てもほほえましいね」

この時ばっかは、2人の時もあれば1人の時もある。
シルフィードは人懐っこいし、甘えん坊だからよく俺にスキンシップをせがむ。
……時折、タバサを見てビクッとする事があるけど、一体どんな“教育”を受けたのだろうか?

ちなみにコルベール先生だけど、こういう時間の時は俺もしくはバハムートと話している。

「よしよし」
「きゅい♪」
「そう言えば、サイト君の世界には竜はいないんだってね?」
「ええ。犬とか猫、そう言う人が飼える種類のなら幾つか見かけましたけど、サラマンダーとかこういう幻獣の類はいないですね」
「生態系も異なるのか……」

まあ実際、始めてフレイム見た時には驚いたしな。
……まあ、それにも驚かなくなったし、地下水のおかげで魔法を自分でも使える今、この世界も随分と楽しくなったな。
アホ貴族どもの嫌味さえ我慢すればの話だけど。

「ちょっと蛮族」

……この声と蛮族とか言う呼び方。
まあいい、無視無視。

「……じゃなかった。ねえ平民の使い魔」
「ん? 何で言い直したんだ? それにお前、俺の事嫌ってたんじゃないのか?」
「確かに嫌いだし、これから聞く事の答え次第じゃまた戻すかもね」
「なんだよ? 聞きたいことでもあんのか?」
「そうよ。それ次第ね」


「成程ね……その時のトリステインでそんな事が」
『話を聞く限りでは、やはりいくつか改竄された物があるようだな』
「まあ、何かと貴族に不都合な歴史ではあるからね……おや、ミス・ヴァリエール。そうか、もう授業が終わる時間だな」
『やれやれ……変な事にならねば良いが』
「きゅい」


In 聖マルコー号 船室

「もうすぐトリステイン領内です」
「そうですか。では、ここからラ・ロシェールで降りトリスタニアへ……ですね」
「はい。思ったよりも時間が掛かってしまいましたね」
「しかたありませんよ。身分上、頭越しにと言う訳にはいきません。それにガリアを警戒する以上、大きく迂回する航路を取らざるを得なかったのですから」
「僕に任せてくださればよろしかったのに」
「虚無の使い魔すべての力を持ち、存在すら定かではなかった虚無の樹海の秘宝を持つ事を許された究極の使い魔。それを王家に連ねる血筋とは言え、風系統のメイジが呼び出した……何か落とし穴がありそうなのでね」
「……迂闊な事は出来ない。そう言う事ですか?」
「はい……とにかく、この旅を実りあるものにしましょう」
「承知しました、聖下」


(あとがき)

感想見てみると、結構好評の反面ルイズの性格について結構文句があるようですね。
きつくはしすぎたと思ってますが、この時期のルイズってやっぱりそういうイメージが強いので、自然とそうなっちゃうので。
まあちゃんと原作のようにはしていきますので。

結構思うように上手くいかないです



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第6話
Name: 秋雨◆47235915 ID:711483c1
Date: 2008/09/20 15:57
「で、何だよ話って?」

ゼロのルイズ様たっての希望もあり、俺達はシルフィードや先生から少し離れた所で話をする殊になった。
一応、コルベール先生の視界内なので、ルールには反していない。
……まあ一応、蛮族呼ばわりを一旦やめてるみたいだから、一応話くらいは聞いてやるか。

「……あんたが私の事嫌いってわかってるから良いけど、少しは礼儀ってものを知った方がいいわよ?」
「生憎、お前にはやたらと罵声浴びせられたんでそう言う気にはなれん」
「何よその態度……まあ、そう思うの無理ないかもね。今までの私と、最近のあんたの周りからしても」
「?」
「聞いたわ。平民に追い払われたって事で、フーケの予告があったにも拘わらず無視して警備を怠った貴族の家が、跡形もなく吹き飛ばされた揚句財産全部奪われたって。その中には、うちの生徒の実家や先生の家も含まれてるらしいわね」

……よーく知ってるよ。
そう、よーーくね。

「ああ。だから“お前が出しゃばった所為だ”とか“平民が偉そうに勇者気取りなんてするから余計な騒動が生まれるんだ”とか、結構言われたな。まあその前からこの学院に居るアホ貴族どもは、平民を蔑むのがお好きなのはよーく知ってるけど」
「何で私をじーーっと見て言うのかしら?」
「わからんなら良い。で、聞きたいことってなんだよ?」
「この一週間だけど、何で大人しくしてる訳?」

ああ、そう言う事か。
2日も続けて決闘騒ぎの中核を担った蛮族が、大人しくしてるのが多少気になったって所かよ。
……少なくとも、これだけは言えるよな。

「……相手にするのがアホらしいからだ。あんなちょっと魔法が使えるだけの、力向けられた側の気持ちってものが全く分かってないアホども相手にして、得なんてねえよ」
「あんた貴族に向かって……」
「貴族ってのは、自分より弱いと見なした奴を地位や魔法の力で脅して、従わせる物なのか? それじゃ強盗の方の方がよっぽど人道的じゃねえか」
「……あんたはどうなのよ?」
「ギーシュの時は自己防衛。ヴィリエのアホは主人への狼藉を働いておいて、反省の色が全くない上に、憂さ晴らしに俺に決闘挑んだから。それに俺はここの規律乱すつもりも、ここの貴族全員ブチのめす気もねえよ。元々よそ者なんだし、世話になってる主人に迷惑かけるつもりも全くない」

今回の一件にしろ、フーケの時にしろ、色々と考えさせられたから……。
少なくとも、俺は俺の力をどう使うべきなのかは理解してる。

「俺はタバサを守りたい。それだけだっての」
「あんたバカ? そんな使い魔として当たり前の……」
「そうは言うけどさ、もしお前がキュルケに使い魔として召喚されたら、当たり前だからって守りたいと思うか?」
「っ! とっ鳥肌が立っちゃったじゃない!!」
「そこまで……それと同じだろ」
「くっ……なによ、平民のくせに」

とりあえず、軽い勝利への優越感が湧いた。

「俺からも聞いていいか?」
「何よ?」
「何でお前は、他の連中がやってるように俺をバカにしなかったんだ? 貴族さま方からすれば、正当な理由なんだろ?」
「違うわよ。自分の不手際を人の所為に、しかも平民の所為にするなんて恥知らずも良い所じゃない。そもそもあんたが嫌いなのは、あんたが貴族を軽視してやたらと騒ぎを起こす野蛮人だから」

……おいおい、つーかお前。

「その割には、出会ったときからやたらと怒鳴ってたじゃねえかよ。それにフーケの時は……」
「あれは……会った時は、あんたが記憶喪失の東方人とは知らなかったから、礼儀知らずのゴロツキだと思ったのよ。それに……」
「?」
「……何でもないわ。ゴーレムの時は、貴族の名誉や尊厳があんたみたいな蛮族に踏み躙られるのが嫌だったからよ。あんたはトリステインの貴族は平民差別がお好きだって思ってるだろうけど、ちゃんと平民にも慕われてる人だっているんだから」

みんながみんなそうじゃないってか?
……まあ、別にどうでも良いって訳じゃないけど、学院長やコルベール先生の様な人だっているから、納得は出来る。

「ここにいらっしゃいましたか」
「どうしました? ロングビルさん」
「学院長がお呼びです。ミスタ・コルベールも御同行願います」
「ええ、それは構いませんが、どうされました?」

息せき切らしたロングビルさんの来訪で、話は中断されたがまあ良いだろう。
いつも冷静な人が、こんな風に急ぐなんて一体何だと言う疑問があるし。

「先ほどですが、明日こちらにアンリエッタ姫が来訪すると言う報告がありました」
「姫様が!?」
「おおっ! それはそれは、何ともありがたき話ですな」
「それだけではなく、ロマリア皇国教皇聖エイジス32世、ヴィットーリオ・セレヴァレ聖下も参られるとの事です」
「え!?」
「なっなんと! 姫様とゲルマニア皇帝の婚姻の儀を、聖下直々に買って出た言う話は本当だったのですな!?」

……よくわからんが、この世界って教皇も居るのか。
まあ、この国の姫様とゲルマニア……ん?
ゲルマニアとトリステインって確か、仲悪かったって話じゃ……まいっか。

「よくわからないけど、めでたい話なんですか?」
「ああ、そうだよ」
「……不本意ではあるけどね」
「え?」
「何でもないわよ! 聞きたいことは聞けたしもういいわ。じゃあね平民、蛮族って呼ぶのは“今は”やめてあげるわ」
「一応言っとくけど、俺には平賀才人って名前があるんだよ」
「別に平民の名前なんか興味ないけど、気が向いたら覚えてあげるわ。じゃあね」


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「成程な……まあいい、その方が事を順調に進められる。流石はトリステインだな」
「御尤もで……ロマリアですが、聖マルコー号がラ・ロシェールに本日中に到着するとの事です」
「その辺は問題あるまい? トリステインの貴族が勝手に役立ってくれるだろう」
「はい。事実、大半がヒラガ・サイトを嫌っておりまして、直談判を行っているようです。おそらく、ヒラガ・サイトの幽閉でしょうが」
「ならば、お前はしばらく監視せよ。狸どもが妙な動きを見せた時に“ベルゲルミル”で襲撃すれば良い」
「御意」


「ん? おお、待ちかねたぞ。ここに来たと言う事は、少なくとも話を聞く気はあるのだな?」
「一体何だ? お前の書状は読んだが、新しい時代を創る為の話だなど随分と大仰な言い回しだな」
「ああ、余はこの世界をお前達も含めて新たな時代へと進めたい。それにはお前達の協力が必要なのでな」
「……良からぬことではなかろうな?」
「お前たちにとっても悪い話ではない。ある程度、互いに妥協はせねばなるまいが」
「妥協? ……話の内容次第だが、それでいいか?」
「構わぬ。ある意味無理な話ではあるが」


Side サイト In トリステイン魔法学院 学院長室

ロングビルさんに呼び出され、俺とコルベール先生。
途中で合流したタバサを伴って、学院長室へと赴いた。
それから、先ほど聞いたようにこの国の姫様と、ロマリアっつー国の教皇様がここに来ると言う話。
それから……。

「……と言う訳じゃ。すまんが、君は姫様及び聖下滞在期間の間、牢にて過ごしてもらう事になる。儂とて不本意じゃが、事が事故に却下すれば強硬手段に出かねんのでな」

またかよ……つくづく、俺が嫌いなんだなここのアホどもは。

「拒否する……彼は私の使い魔、主としてそんな事承認できない」
「わかっておるよ。わかっておるのじゃが……」
「やめろよ、タバサ。学院長だって、不本意なのわかるだろ?」
「……サイト」
「ですが、幾らなんでもやりすぎです。サイト君は、この一週間特に騒ぎを起こした訳ではありませんし、元々仕掛けたのは生徒達です!」
「いいですよ。ここの貴族の嫌味は今に始まった事じゃないですし」
「つくづくすまんのう、サイト君」

いい加減腹が立つけど、ブチのめした所で変わる訳ないってのはヴィリエで立証済み。
……つくづく、あきれ果てるごみ揃いだよ。

「あの、オールド・オスマン。私に考えがあります。ミスタ・サイト、私の妹の友達になってもらいたいと言う話を覚えてますか?」
「ロングビルさんの? ……ええ」

アルビオンに居るっつー、異端児って呼ばれてる妹さんだったな。
何でも、俺に友達になってあげて欲しいとかって。

「ちょうどいい機会です。滞在期間の間は、アルビオンにある私の故郷で過ごしてもらいたいのです。牢で監禁するより、よほど良いかと」
「確かに……よし、ミス・タバサとサイト君のアルビオンへの旅、許可しよう。コルベール君の同行も込みでな」
「私も……ですか?」
「うむっ、こちらの都合で休学を強いる訳にもいかんからの。特別措置として、授業を施してくれぬか?」
「承知しました」

異世界、虚無の樹海、ガリアの次はアルビオンか……渡り鳥みたいな日々だな、ホント。
まあ、ここにいた所でアホ貴族どもの嫌味を受けるだけだし、まだいいか。
それにしても、ロングビルさんの妹さんか……期待できたりして?

じーーっ!

……無論、友達として仲良く出来ることへの。

『無理があるぞ、マスター』
「……表情消す訓練とかしようかな?」
『その方がいいかもな』


In 聖マルコー号 船室

「ラ・ロシェールに到着しました」
「では、乗組員の方々に感謝の意を。そして今日明日と、ここに滞在し疲れを癒すよう言って下さい」
「よろしいのですか?」
「焦っては道を踏み外します。それに鼻摘み者扱いされている者を会わせてもらえるかどうかも怪しいですから、その辺も考えねばなりません」
「僕が手引きしましょうか?」
「あなたには、トリステインの担い手に接触して貰わねばなりませんから」
「難しいですね。何せ使い魔は……」
「……わかっているでしょう?」
「……そうでしたね」


(あとがき)
なにはともあれ、第6話です。
ちょっとというか、かなり違う流れのアルビオン編になります。

アニメのほうじゃ、ビダーシャルとイルククゥが出て結構盛り上がってます。
というか、アニメ版ビダーシャルってイメージより結構若々しい感じ。
小説じゃ、ちょっと老けてるって感じだからちょっと新鮮。

余談ですが、次か8話あたりから、戦闘シーン入れる予定です。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第7話
Name: 秋雨◆47235915 ID:ea7a541b
Date: 2008/09/20 16:06
学院長室から退室後、コルベール先生と共に使用人用食堂にて。
ちなみに、いつもならシルフィードとの交流後にタバサと合流して、コルベール先生の監視下のもとで地下水による魔法の訓練を行う。
タバサ曰く“魔法は戦いに関係ある事なら共に訓練する方がいい”との事。
……最も、他の貴族に見られでもしたら問題になりかねないから、この辺りに飛んできた野鳥たちに監視をお願いしてるけど。

「え? また旅に出られるんですか?」
「ああ。ロングビルさんの頼みで、アルビオンって国までね」
「アルビオンって、なんでまた?」
「ロングビルさんの実家って孤児院らしくてね。内乱で危ないから、実家のガードと男手が欲しいって、俺を指名して来てさ」
「そうか。まあ、ここに居るよりゃよっぽどマシだろうけどよ」
「ここの食事ともしばらくお別れなのが残念だから、じっくり味あわせて貰うよ」
「ありがたい事ですな、ミスタ・コルベール」

ちなみに、監視役の人もここで食べてるけど、特に問題はない。
ロングビルさんもそうだけど、コルベール先生も貴族だ平民だに拘らないから、皆からの評判も良い。

「では、土産にはアルビオン東部のワインを買って帰りましょう」
「おおっ、それはありがたいですな」
「だから今度、君のとっておきを飲ませてくれないか?」
「任せてくだせえ」

特にコルベール先生とマルトーさんは、最近では身分を超えた酒飲み友達となっていた。

俺はと言うと、ローストチキンをしつつタバサの用意した地図を眺める。
トリステインとは、海を間に挟んだ少し離れた所にある、トリステインの領土位ありそうな大陸がアルビオン。
そこへ行くには、ラ・ロシェールって街にある港から船に乗るのが通常との事。

「でもこの地図から見て、ラ・ロシェールって山の中じゃないのか? そんなところに本当に港なんてあるの?」
「アルビオンは浮遊大陸。だから山の中が最適」
「へぇっ……えっ、浮遊? あの、浮遊大陸って、大陸が空飛んでるの?」
「そう」

浮遊大陸と来ましたか……流石はファンタジー世界、まだまだ俺を驚かせる要素はたっぷりだぜ。
一体この異世界冒険譚は、どこまで幅を広げるんだろう?

「ただ、そう浮かれても居られない」
「え? あっ、そっか。確かアルビオンって、今内乱中だっけ?」
「ああ。最近アルビオンからも品の入りが悪いし、やりにくいったらありゃしねえ」
「悲しい事だよ」

そう言ったコルベール先生は、今までに見た事ない位に悲しそうな顔だった。

『……やはりな』
「何か言ったか、バハムート?」
『いや、何でもない』


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「成程……確かに、こうなる事に越したことはない。だが、これだけは賛同出来ん」
「やはりそこか。お前達とて納得はできんだろうが、こちらとしても納得は出来んだろう。これは譲歩と言う物だ」
「だがジョゼフ、お前とて知っている筈だ。我等にとって、これは……」
「だが、互いに出来る最大限の譲歩だと余は思う。今の状態を続ければ、手段を選ばぬ輩が暴走する。過去を紐解いて見ても、それは明らかであろう? 不本意であろうが、互いに戦いの歴史を終わらせるためにはこうするしかあるまい? このまま奪い合いを続ければ、その戦いと死と怨念の螺旋は続く一方だ。わからぬ訳ではなかろう? お前達にしても我等にしても、これが大きな意味を持つことには違いない以上、独占ではなく両方が妥協しなければこの話は必ずや失敗する。それにはまず、お前達から歩み寄ることが必要だ」
「……わかった、掛け合ってみよう。1つ聞きたい、何故いきなり?」
「この6000年と言う物の間誰もなした事のない、世界に新時代を齎す。それを成してみたくなっただけだ」
「……その新時代の到来の暁には、是非共友人として話したい物だ。それともう1つだが、我等が同胞の1人の行方がしれん。何か知らないか?」
「同胞? いや、知らんな」
「そうか……何か分かったらぜひとも知らせてくれ。この話を聞けば、必ずや全力で力になってくれる」
「よかろう。では吉報を期待するぞ」


「……さて、後は奴等の答えを待つのみ。こればかりは博打だが、少しでも可能性を上げるためにも暴れて貰うとするか……余のミューズ、聞こえるか?」
「お呼びですか? ジョゼフ様」
「小国の馬鹿者どもの失策は進んでいるかね?」
「いえ、教皇滞在期間はアルビオンに滞在すると言う事で、現在旅支度を行っております」
「アルビオン? ……はっはっは! それは好都合だ、是非とも行ってもらいたい!」
「ですが、教皇もラ・ロシェールに到着したとの……」
「ふむっ……奴等と教皇の接触もまた一興だが、我が宿敵を屠るつもりならば黙ってはおれん。監視は怠るな、奴等に攻撃姿勢をとった場合は直ちにベルゲルミルで攻撃せよ。必要ならば、お前も出るのだ」
「御意」


「……アルビオンか。まあ、どうせ厭きた玩具だ。ならば精々役に立ってもらうとしよう。さて、駒どもの戦力は……ふむっ、どうせならば最初からスクエアも悪くないな」


Side サイト in 魔法学院学生寮 タバサの部屋

流石に主人の部屋の中では自由が許されていたが、基本的に外出は禁止。
監視なしで動く事もそうだけど、そもそもここは女子寮と言うのだから無理もない。

まあどっち道、外に出ても貴族のお嬢様方が嫌な意味でうっとおしいし、お坊ちゃま方も煩いし。
何より、俺自身もそんな奴等相手にするのアホらしいから、大人しくはしておくけど。
タバサの境遇知った今じゃ、あんなアホどもに腹立てるのもアホらしいし。

まあそれはそれとして、本棚から一冊本を取り出す。
こういうときは読書、覇竜のイメージ訓練、魔法の練習と、バハムートか地下水との会話。
これらで最近は相場が決まって居る。
タバサの部屋じゃ本には困らないし、イメージ訓練も魔法もバハムートと地下水さえあれば出来る。
本なんて読まなかったけど(漫画はよく読んだ)、こうして慣れると時間忘れるな。
……ペットって飼い主に似るって言うけど、使い魔も同じか?

『同じではないか? 主従でなくとも親友と言った間柄でも、同じ事はあると思うが』
「……いい加減俺の表情読むやめてくれ。筒抜けになってるようで気味悪い」
『それはすまなかったが、読み易いのは事実だ』
「……マジで表情消す訓練しようかな?」
『その方がいいな』

ガチャッ!

「ん? あっ、お帰りタバサ」
「ただいま」
「こんばんは」
「ああ、いらっしゃいキュルケ」

うーむ、風呂上がりの女性ってどうしてこうも色っぽく見えるのだろうか?
キュルケは当然ながら、タバサもそれなりに……といかんいかん、こんな風に主人を見ちゃいかんだろ。
ごまかすように、読んでた本に顔を向ける。

「へぇっ、こっちの文字勉強してるって聞いたけど、もうそんな本読める様になったの?」
「読めると言うか、何かの影響で反則気味な感じで読めるんだけどね」
「そうなの? それより聞いたわよ、厄介払いでアルビオンに行くんですってね」
「仕方ないよ、ここにいたって牢屋にぶち込まれるだけだし」
「じゃあ私も行くわ。ミス・ロングビルとコルベール先生だけじゃ、心配だもの」
『心配いらん。ロングビル殿もかなりの使い手、何よりコルベール殿ならばやる気になればの話だが、並のスクエアでは相手にならんだろう』

キュルケは一瞬混乱したような様子になり、急に笑い始めた。

「ちょっと、いつも真面目なバハムートにしてはずいぶんと……」
『我は悪ふざけでこのような事は言わん。少なくとも、今のマスターが彼と戦った場合、“覇竜”を使っても勝てんと我は見ている』
「嘘!? あんなとろ臭い中年むっつりのコッパゲが」
『キュルケ殿、教師にそのような暴言は感心せんな。なら聞くが、そんな人間に何故“炎蛇”等と言う禍々しい二つ名がつく?』
「……そう言えば、何でかしら? 考えてみれば、コルベール先生の二つ名って召喚の日の学院長室で初めて聞いたわね」
『メイジの二つ名には、必ずや元となった理由がある。“雪風”しかり“微熱”しかり』
「……でも、やっぱり心配だし、あたしも行くわ。それじゃ準備してくるわね」

……なぜかその時、さっき見たコルベール先生の悲しそうな顔が頭に浮かんだ。


Side コルベール in 研究小屋

拭えない過去……血に塗れ、屍肉を踏みにじり、骨を踏み砕き続けた。
ただ命令のままに王国の杖として、炎蛇として全てを焼き払い、多くの命を喰らい続けた。
今でも思い出す……命を何とも思わず、ただ命令に従っていれば良いと考えて居た、愚かな若造であった私。
スクエアであろうと、エルフであろうと、始祖ブリミルであろうと、過去はぬぐえない。

「あれから20年……か」

罪の証ともいえる、この赤いルビーの指輪を眺める。
……炎の様に、真っ赤なルビー。
あの日の光景を封じ込めたかのような、真っ赤な……

「ミスタ・コルベール、お邪魔します」
「ん? マルトー殿。ああ、そろそろか。すまないね」
「俺のとっておき、アルビオンの貴重な古い奴ですぜ?」
「それは楽しみだね」

何を成せばいいのかはわからない。
ただ……。

「マルトー殿」
「なんですかい?」
「ミス・タバサとサイト君は、いい子だと思わないか?」
「思いますね」

究極の使い魔たる少年、平賀才人。
そしてその主たる少女、ミス・タバサ。
あの子達の行く先には、大きな運命が待ち受けているだろう……。
ならば、彼等の為に出来る事がある。


(あとがき)
もうすぐ15巻の発売日ですが、かなり楽しみ。
そろそろ、語られていない4体目も出てほしいところですが。

次回で旅立ちです。
実のところ、コルベール先生の話を計画してましたので、ラ・ロシェール到着はちょっと先になります。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第8話
Name: 秋雨◆47235915 ID:f6586035
Date: 2008/09/27 01:33
これまでと違って長期滞在になる為、タバサはまだ読んでない本全部と着替え。
俺も武器と着替えをまとめて、トランクに詰め込む。
どの道、5人分の人員と荷物なのでシルフィードだけでは運搬は不可能だから、俺とタバサはシルフィードに。
コルベール先生の馬車には先生とロングビルさん、そしてキュルケとフレイム、それと5人分の荷物が乗る事になった。
……まあ、キュルケの機転と言うべきか、ほぼ強制的に決まったんだけど。

「では、先ずラ・ロシェールへ向かい、フネの手配ですな」
「馬で2日はかかる距離ですから、途中にある村で休憩出来る様に道筋は決めてあります」
「流石はミス・ロングビルですな」

そりゃあ、学院長の秘書やってるくらいだしなあ……。
学院長って来たときはすごい人だって実感はしてたけど、この1週間ですっかりパッパラパーな色ボケジジイってイメージが強まってしまった。
……世話になっておいて失礼だけど、この一週間身近であの人の行動見る限りじゃ。

『ハッキリ言って、当然だな』
「……バハムート、やめてくれって言った筈なんだけど」
『いや、ついな……』


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「ふむっ……」

ガリア、ヴェルサルテイル宮殿の一室。
豪著な衣装に身を包んだ男、ジョゼフは報告書らしき物に目を通している。
全てを読み終えると、自らの前で跪く者に目を向ける。

「……確かに、これは素晴らしい案だ。成功すればガリアの魔法技術、民の生活水準も大きく跳ね上がるだろう。だが、失敗すれば小国2つ経営出来る程の資金が消える」
「そこをなんとか、ジョゼフ様にお願いしたく存じます」
「その前に聞きたいのだが、調査の方はどうだ? お前達の開発したマジックアイテムの幾つかがアルビオン反乱軍に奪われたが故に、ガリアが奴等に支援をしているのではないかと疑われておるのは知っておろう?」
「めっ面目ありません……今、全力を挙げて調査しております故」
「早急にな……“スレードゲルミル”はどうなっている?」
「そっそちらは、後5日もあれば」
「……3日だ。それで余に披露すれば資金は出してやる。わかったらさっさと戻り、その旨を伝えろ」
「承知しました」

跪く者が出て行くと、ジョゼフは立ち上がり備え付けられた大きな盤に近づく。
盤の乗せられている、何かの書類を開き目を通し始める。

「さて……奴等がアルビオンに上陸した暁には、どうすべきかな? やはり“スレードゲルミル”を差し向けるか? それとも、空飛ぶ盤の玩具達の誰かを差し向けるべきだろうか? うーむ……やはり出すならスクエアか? いやいや、トライアングル数人がかりも悪くはないな……」

さも楽しそうに、ジョゼフはその書類に連ねている項目を読み、思案している。
何かに思いつくと、手元に置かれた女性をかたどった小さな像を手に取る。

「余のミューズ、聞こえるか?」
「お呼びですか、ジョゼフ様?」
「そちらはどうだ?」
「シャルロット様一行及び、ロマリアの狸どもが出発しました」
「ならば、ベルゲルミルで遭遇させんような道に誘導しろ」
「その必要はございません。実は……」
「なんだ?」


「成程……ならば、奴等と鉢合わせはあるまい。だが、油断はするなよ」
「御意」

像を置き、ポケットから何かを取り出し、それをゆっくりと慈しむように撫でる。

「……シャルロット、そしてヒラガ・サイトよ。アルビオンに向かうのであれば、さらなる力を得てくれ。お前達は俺を高ぶらせ、強くしてくれる……現に、俺に力を与えてくれた“これ”は、お前たちを宿敵と認めた日、さらなる力を与えてくれた。そしてもう1つも、いずれこの俺の手に届くだろう。力を得るたび、近づくのがわかる……お前たちとの決闘の時がな」


Side タバサ in トリスタニア~ラ・ロシェール間街道

シルフィードの背に揺られること、2時間。
サイトが最近本を読むようになったのは、私にとっては利益。
出来れば私が教えたかったけど、まあ良い。

「気に入った?」
「ああ、このイーヴァルディの勇者って面白いな」
「私もお気に入り」

……誰かと同じ時間の楽しみ方を共有できるだけでも、ここ最近忘れていた事。
それだけで、些細な不満などどうでも良かった。

「それにしても、何で内乱なんて起こってんだろ?」
『名目上は無能な王家に代わって、有能な貴族達による共和制を樹立する為って話だぜ』
「自分達で有能って言うか普通? それに共和制っつっても、メイジしか参加できないんじゃ大して変わんねーじゃん。俺からいわせりゃバカどもの我儘だ」
『確かにな』

くだらない……全くもって、くだらない。
ただ何のしがらみもなく静かに、大切な人達と笑って今を過ごす。
それが何よりも幸せな時間の使い方だと言うのに、何故それに気づかない?

「……俺って、向こうでも一般家庭。つまり平民に生まれたから、貴族の美学なんてよくわかんないけど、そんな物なのか?」
「基本的にそう。私の知る限り、殆どが処刑台への道を歩いている事にも気付かない、欲深い大馬鹿者」
「……すっげえきっついな。まあ、タバサならそう思うのも無理ないけど。やっぱり、平和かつ静かに暮らせれば最高なんだな」
「肯定」


Side コルベール

この一週間、サイト君との時間は実に有意義なものでした。
異世界の文字、文化、国家体制……いずれも、今まで生きてきた中でも最高の刺激
だが、それ以外の時間は授業以外は、実にくだらないと思える代物で……

「それにしても、いきなり牢に入れろだなんて随分じゃありませんか?」
「君も知って居ると思うが、アンリエッタ姫や教皇聖下が来ると言う事で、何かの措置を施さねばならなかったんだよ。実を言うと、この旅はおろか投獄すらも最大以上の譲歩なんだ」
「? 何だか、公開処刑でもしろと言われた様な雰囲気ですわね」

この一週間、実に有意義ではありましたが、実にくだらないともいえる時間もありました。
噂の現況が学院に居ると突き止めた貴族達の、傲慢猛々しい事……。

「その通りなんだよ、ミス・ツェルプストー」
「え? ええ!?」
「以前ミスタ・サイトと決闘騒ぎを起こした、ミスタ・ロレーヌの実家であるロレーヌ家及び、ここ最近でフーケの被害に遭った貴族達が、ミスタ・サイトの公開処刑を申請してきまして……」
「こっ公開処刑!? サイトはガリアの留学生であるタバサの使い魔なのに!」
「自業自得で済む問題ではないんだよ。数が多いと言うのもあるが、その被害者の中にリッシュモン高等法院長が居てね」
「……何となく読めましたわ」

実際、非公式にですが直々に来ましたからねえ。
……まあ、私の事は覚えていない様でしたが、あの男の顔をもう一度見る事になろうとは。

「平民に追い払われる様な盗賊メイジに、ここまでの暴挙を許してしまった。これは国として忌々しき事態ですから、その著しく傷つけた名誉を取り戻す為元凶である平民を公開処刑する事で、貴族の威厳と名誉を取り戻すと言う建前でそう進言してきまして」
「と言うより、自業自得じゃないんですか?」
「まあ確かにそうなんだけどね。流石にリッシュモン高等法院長が相手では、譲歩に譲歩を重ねて投獄が最大限以上の譲歩だったんだよ。実際今回の旅も、名目は主人の管理不行き届きと言う事で、使い魔を伴ってのしばらくの自宅謹慎……と言う事にしてあるんだ」
「一応お聞きしますが、本人には?」
「サイト君には言ってはいないが、ミス・タバサには当然言ってあるよ。流石に本人の頭越しに、そんな名目を使う訳にはいかないからね」

やれやれ……学費や寄付等の納入は遅いのに、こういう事ばかり早い事で。
心の底からそう思いましたね。

「そろそろ、村が見えます。昼食はそこで食べましょう」
「そうですな。サイト君!」


Side サイト in トリステイン とある村

昼食時、街道の途中にある村の酒場。
タバサのイスを引いてから、適当に見繕って注文した料理をみんなで食べつつ、今日の予定をロングビルさんが説明。
風竜と馬車のスピードを考慮して、ちゃんと宿にも泊まれる様に配分はされていた。
学院長のセク……秘書として納得出来るな、この人。

「ちょっといいですか、ロングビルさん」
「はい、何でしょう?」
「ティファニアって子についてなんですけど、どんな子なんですか?」
「明るくていい子ですよ。私が居ない間、子供たちの世話を頑張ってます。孤児院には、ティファニアと同じ年の子が居ませんでしたから、ミスタ・サイトおよびミス・タバサを連れて帰れば、きっと喜んでくれると思います」
「あの、あたしは?」
「もちろん……飛び入りですが、ミス・ツェルプストーもです」

……いま目が泳いでたぞ?
まあそれはそれとして、アルビオンに行くにしても色々と不安な事はあるんだよな。
あれから結局、地下水を差し向けた奴の正体や目的は掴めず仕舞い。
それに、クロムウェルとか言う奴が仕切ってるアルビオン反乱軍。
一体誰が、どこまで俺を掴んでるのか、全く分からない。

「それで、ラ・ロシェールにつくのは?」
「そうですね……明後日の夕方くらいになります? 出発前、ミスタ・コルベールが行きたいと仰ってた場所に行くとなれば、それ位です」
「すみませんな。ですが、出来ればサイト君とミス・タバサに見せたい物と、教えたい事がありましてね」

とりあえず、これからの予定を確認し終えると、席を立ち勘定をすませる。
そして、酒場を出ると……。

「ちょっとよろしいか?」

何やら、身なりの良い仮面の……声色から言って男か?
とにかく、仮面の男が話しかけてきた。
……一言でいえば、怪しい。

「あの、どちら様ですか?」
「君たちを勧誘しにきたのですよ、土塊のフーケ」
「っ!」

今、なんて言ったこいつ?
ロングビルさんに向かって、今フーケって……?

「それから、シャルル・オルレアン公爵が忘れ形見、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。そして……」

その仮面野郎は杖を懐から抜き、俺に向けて構えると……

「その使い魔である、“調律者”ヒラガ・サイト。君達を迎えに来た」



(あとがき)

今回、ガリアの部分で描写がないのが不評のようでしたので、今回試しで書いてみました。
近いうちに、全話加筆修正行う予定です。
三人称苦手ですが、変な感じにならないようには気を付けたつもりですので。
とりあえずですが、ラ・ロシェール到着は少し先になります。

余談ですが、ガリア勢力は原作より強くする予定です。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第9話
Name: 秋雨◆47235915 ID:2b617bfc
Date: 2008/10/02 23:41
「シャルロット? それに今、ミス・ロングビルをフーケって……」
「言ったが、どうかしたかね? まあ正確には、マチルダ・オブ・サウスゴータと呼ぶべきだろうがね」
「そんな事まで……」

ロングビルさんが、杖を抜き仮面の男に向けて構える。
俺もベヒーモスを構え、対峙する。

「おい、何でそんな事知ってんだよ!? それに、ロングビルさんがフーケ? 悪い冗談だぜ!」
「その前に、杖と武器を納めてくれ。今君達と敵対する気は無い」
「……先ほど、迎えに来たと言ったのは?」
「君達を我が組織の一員として迎えたい。その為に来た」


Inガリア ヴェルサルテイル宮殿

「奴等と接触している者が? ……ロマリアか?」
「いえ、レコン・キスタの者です」
「ほうっ、流石に嗅ぎ付けたか。まあ余やロマリアと比べれば遅いが、直接接触とはな」
「いかがなさいましょう?」
「手間が省けた……それだけの事だ。監視は続けろ、スレードゲルミルの完成も近い」
「御意」

像を置くと、ジョゼフは食事の続きにはいる。
一皿を食べ終わると、口元をぬぐう。

「……さて、予想外ではあったがまあ良いだろう。せいぜい楽しませて貰うか」

ハルケギニアの地図を立体化させたような、大きな盤上に置かれた5つの人形。
ジョゼフはその盤に近づき、手元にあるチェスの駒よりポーンの駒を取り出す。
そして5つの人形の近くに、ポーンの駒を置く。

「さて、どう出るかな?」


Side サイト in 村外れの広場

さっきの村から、少し離れた所にある拓けた場所。
相手がどう出るか、そしてどういう手段を使ってくるかわからない以上、あの村で騒ぎを起こす訳にはいかない。
コルベール先生の進言で移動する事になったけど、相手はあっさりと了承した。

「さて、ここで良いか?」
「随分とあっさり了承したな?」
「戦い前提出来た訳ではないのでね」

……前提って、戦うかもしれないと?

「では、そろそろ交渉に入ろう。私の要件は、君達を我等の組織に迎えたい。無能な王による王政を廃止し、有能な貴族達による共和制をもって、ハルケギニアを統べる為にだ」
『王制廃止に、共和制って……まさか、アルビオン反乱軍か!?』
「その呼び方は正しくはない。まあ、知られていないのも無理はないがな……まあ良い」

仮面の男はマントを翻し、マントに刻まれた紋章を見せる。
以前タバサやコルベール先生に見せて貰った、国の紋章のどれとも違う。

「我等はレコン・キスタ。ハルケギニアを統治し、エルフより聖地を取り戻す組織だ」
「聖地?」
「……後で話す。何故私達に?」
「君達は我等が忌むべき王政の被害者、つまりは我等の同士となる資格は十分にある。特にシャルロット姫、君の使い魔が居れば我等が悲願達成も近い。共に愚かなる王を打倒し、我等でこのハルケギニアに真なる平和と統制を……」
「断る」

タバサは杖を構え、仮面の男に突き付ける。

「統制に興味はない。あなた達と一緒にしないで」
「だが、君は変えたいと思わないのかね? 父を殺し、母を壊した王権を!」
「もう一度言う。統制に興味はない、あなた達と一緒にしないで」
「なら、あたしも賛同する気になれないね」

髪を結っていた紐を解き、髪の色が濃い緑から黄緑に変わると同時に、口調の変わったロングビルさん。
……いや、フーケと言った方がいいか?

「確かに王家は父を殺し家名を奪ったけど、この2人が嫌がるなら賛同はしないよ! あたしの大切な家族が欲しがってる、友人に手を出すならね!」
「あっ……あれが、ミス・ロングビルの本性?」
「ミスタ、女性と言うのは幾多もの仮面をかぶれる物ですわ」

……確かに驚いたよ、あの穏やかな? ロングビルさんが。
でも……家族を大事にしてるってのはよく伝わった。

「ふむっ……では仕方無い。考えを改めて貰うか」

仮面の男は腕を掲げ、大きく指を鳴らす。
すると周りの茂みから、武装した一団が出てきた。
中にはメイジも居るらしく、何人かすでに魔法の準備に入っていた。

「では、気が変わったらまた呼んでくれたまえ」

仮面の男はそう号令をかけると、まるで煙の様にふっと消えた。
まず剣士が数名、突っ込んでくる。

「サイト、迎え撃つ」
「了解しました! さーて、ここ最近やたらとバカどもの嫌味で溜まってたんでな! 発散させて貰うぜ!!」

槍を1振りして頭上で回転させた後、剣士たちに突っ込む。
まず1人を薙ぎ払い、その勢いを利用してその次に回し蹴りを叩き込む。
そして地下水を抜いて……。

『おっ! ようやく実戦での出番かい? 旦那』
「ああ、行くぜ! 『ラナ・デル・ウィンデ!』」

タバサに仕込まれた、風系統の魔法をぶち込む。
俺はミョズニトニルンの力により、最大限に高められた地下水の力で詠唱なしでもスクエア・スペルを使える。
……が、一度タバサのウィンディ・アイシクルと勝負してみたが、詠唱無しでは精度で劣った。
一応、この一週間で地下水の詠唱のサポートさえあれば、ラインクラスは普通の精度で使える。
……なかったら、俺の詠唱だけじゃドットもまだ覚束ないけど。

「サイト!」
「っ! 了解!」
「行くわよ、タバサ!」
「わかった」

元々ガンダールヴは、呪文が完成するまでの間に主人を守る盾が役目。
呪文が完成した処で一旦退いて、タバサの風とキュルケの炎が敵の大半をなぎ払った。

「まあ、ざっとこんな物ね」
「よもや、こうも早く戦いに巻き込まれるとは……」
「怖気づいたなら引っこんでてよ」
「そうもいかないさ。生徒を守れずして、教師を名乗る資格など無い!」

コルベール先生の杖が赤い光に包まれ、俺と同様に突っ込む。
剣士が数人襲いかかるが、先生の光に包まれた杖でその剣をへし折られ、光に包まれていない柄の方で当て身を当てる。
そしてメイジの集団に杖を向け、青い炎を放つ。
敵のメイジはその焔に向けて魔法を放つが、多少弱めた程度で結局直撃を喰らった。
後ろから剣士が不意打ちをかけるが、即座に振り返り杖で当て身を叩き込んだ。

「嘘っ! ……コルベール先生、こんなに強かったの!?」
「やれやれ、鈍った私でも簡単にとは。まあ勘を取り戻すには丁度良いな」

おいおい……昼行灯だと思ってた先生が、こんなに強かったのかよ!?

「下がってな! 後はこのあたしが片付ける!」
「え? はっはい!」

……やっぱ違和感あるな、普段のロングビルさんからすると。
コルベール先生はおろか、キュルケも戸惑ってるし。

「平民ごときに追い払われた軟弱メイジが!」
「はっ! この土くれのフーケをなめんじゃないよ!」

ロングビルさん……いや、フーケが地面に手をつく。
するとその触れた面が盛り上がり、やがて……

『ゴォオォオオオオオオオ!!』

あの時見た、山のようにでかいゴーレムに姿を変える。
敵勢は即座にターゲットを変え、矢と魔法の嵐がゴーレムに襲いかかる。
しかし傷が多少つく位で、その傷もあの時の様に簡単に再生される。
敵がひるむと、今度はこちらの番だと言わんばかりに腕を大きく振り上げ、そのまま敵陣の中央に……。

ドゴォォオオオオンッ!!!!

振り下ろし、地面を抉る。
敵はと言うと、大半がその衝撃で気絶した者。
気絶してない物は、散り散りになって逃げていった。

「……俺達、良く勝てたな」


In アルビオン ロンディニウム城

あちこちが壊れて間が無い城の、とある一室
仮面の男が跪き色々と話している先で、玉座に座る司教の服を纏った巻き毛の男が、神妙な顔で頷いていた。

「成程……頭から否定されたか」
「一応攻撃は掛けましたが、所詮は寄せ集め。今頃既に出発している頃です」
「……まあ良い、まだ時間はある。アルビオン王権打倒が成されるまでに駄目であった場合、シャルロット姫をとらえ我が“虚無”の力で服従させればよい。効率的と言えば、オルレアン公夫人をとらえるのも……だな」

クロムウェルと呼ばれた男は、右手の指輪を眺めつつ纏っている服に不相応な手段を言葉にする。
少しした後に、クロムウェルは態度を変え仮面の男と向き合う。

「さて、お前の“本体”は?」
「現在、護衛としてひよっ子どもの飼育場を目指しております。そこで姫はとある少女に、我等が救世主を回収に向かわせるでしょう」
「成程……枢機卿の手腕に任せればいい物だが、まあ納得はできるな。所詮時代を顧みず、過去の栄光や美意識を引き摺る能無し国のお飾りとして育った夢見の小娘だ」
「全くですな。では、引き続き奴等の動向を探ります」
「うむっ」


Side サイト in 村外れの広場

「さて、事情を説明して貰いますぞ。ミス・ロングビル」

フーケはゴーレムを土に戻すと、こちらに向けて杖を放り投げた。
そして、話を聞いてほしいと言う事なので、俺達は一応警戒しながら聞く事にした。

「まず、あなたは本当に?」
「そうさ。ロングビルは、破壊の杖を盗み出す為に取り入るために使ってる仮名。確かにあたしは、巷で土くれのフーケって呼ばれる盗賊だよ」
「そうでしたか……一体私達を、どうするつもりでしたかな?」
「最初に言った言葉通りさ。その使い魔のボウヤに、あたしの家族の友達になってもらう……それ以外に他意はないさ」
「それを信じろと?」
「嘘をつく理由はない。それにこの1週間、あたしがそのボウヤをどうこうする機会なんか、幾らでもあった。違うかい?」

……確かに、俺がロングビルさんと二人きりになった事なんて、何度もあった。
でも、今までアルビオンに居るって言う、家族を話してる時のロングビルさんは……

「ちょっといいですか?」
「なんだい?」
「……この1週間、動きが活発になった理由は?」
「このフーケを舐めた態度が気に入らなかったのさ。ただ、ここまで大事になるとは思ってなかったけどね……ごめんなさい」

さっきとは打って変わって、フーケは頭を深々と下げた。

「それで、話は聞かせて貰えるのですかな?」
「ええ、ミスタ・コルベール。ですが、いつまでもここに居るのは危険です。いつまたくるか……」
「……仕方ない。どの道、学院に戻る事は出来ません。ラ・ロシェールにまでは向かいましょう」


In トリスタニア~ラ・ロシェール間街道

「街道付近の森でゴーレムが?」
「はい」

ペガサスの騎馬隊に守られ進む馬車。
その中で教皇ヴィットーリオ・セレヴァレが、竜に跨った神官ジュリオ・チェザーレの報告を受けて居た。

「……ゴーレムと言えば、最近巷を騒がせている盗賊。貴族の屋敷も別荘もない、そんな所で一体何を?」
「わかりません。ですが、先ほど入った情報では“調律者”が公開処刑を避けるべく、こちらに向かっていると言う事です」
「……ジュリオ、先行しそのゴーレムが現れたという場所へと向かいなさい」
「承知しました」



(あとがき)
アニメも終わり15巻も読みましたが、結構楽しめました。
特にアニメ版最終話のタバサすげえ!
第4期があるなら、是非ともすぐに作ってほしいと思う。
もうすぐゲームも出るし、こちらもまだまだ頑張らないと。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第10話
Name: 秋雨◆47235915 ID:3d976ba5
Date: 2008/10/10 00:08
レコン・キスタの襲撃の日の夜。
あれからすぐあの場所を離れて、今日宿泊予定だった村で食糧を買いだしして、それから日が暮れるまで移動を続けた。
それから少し拓けたところで、たき火を囲んでロングビルさん……いや、フーケを尋問中。
コルベール先生は、たき火でスープの調理をしつつではある。

「まず、あたしの本名はマチルダ・オブ・サウスゴータ……かつてモード大公に仕えてた元アルビオン貴族の娘」
「モード大公? ……プリンス・オブ・モードと言えば、かつて謀反を企てたと言う話」
「謀反なんて企ててないわ……モード大公の妾とその娘を差し出せと言う命令を拒否したから、協力した私の家諸共に一緒に取り潰された。それだけよ」
「妾と娘って……それだけで!?」
「恐らくいわくつき」

フーケは周りを見回す。

「……ここからは、極力知られたくない事だから、サイレントをかけて欲しいんだけど」

タバサはうなづくと、ルーンを唱え周りにサイレントを張り巡らせた。
そして、辺り一面に杖をひと振りして、こっちへ戻ってくる。

「……周りには誰も居ない。何もない」
「じゃあ話すよ……その妾が、エルフだからよ」
「え!?」

エルフって……最近よく聞くなあ。
俺がハルケギニアに来た日、タバサの実家での可能性と……。

「エルフって、シャールさんの種族って意味の?」
「そう。だからさ、ハルケギニアじゃエルフは天敵ともいえる存在。そんなのを妾にしたなんて知られでもしたら、アルビオンは異端国家としての烙印を押される。そうなる前に、証拠隠滅ってことさ」
「妾にしただけで!? 幾らなんでも、敵視し過ぎだろ!!」
「理由がある」

それから、この世界について……と言うよりも、話は始祖ブリミルの時代にさかのぼるらしい。
始祖ブリミルとエルフは敵対しており、6000年も前からずっといがみ合っている。
それと言うのも、エルフは始祖ブリミルの降臨した地とされてる聖地を支配下に置き、守護していると言う。
それから6000年もの間、何度も聖地を取り戻すべく軍が派遣されたらしいが、現在に至るまで奪還した事はない。

「……それで、エルフはハルケギニアにとって忌まわしき存在って事か。と言うより、聖地って何?」
「始祖ブリミルが降臨した地と言う話。詳しい事はわからない」
「わからない物の為に、6000年も戦争してるのか?」
「始祖ブリミルは、ハルケギニアの民であればだれもが敬う存在。それが降臨した地ともあり、ブリミル教にとっては重要な場所」
「このハルケギニアでは、始祖ブリミルを敬う事がハルケギニアの民としての義務だからね。その始祖ブリミルの墓所のあるロマリア皇国は、教会の総本山であり光の国とも呼ばれているんだ。中でもその境界を束ねる最高責任者である教皇は、ハルケギニア1の権力者と言う訳だ」

歴史上でしか聞かなかった名称が、よく耳に入るな……。
宗教戦争だの、教皇だの、本とかでしか知らなかったのに。

「じゃあ何? 逆らったり教会に異を唱えたら死刑とかもある訳?」
「ある」
「だから、始祖ブリミルの敵であるエルフを妾に取ったなんて知れたら、アルビオンは国ごと潰されることになる」
「そうかもしれない。頭では分かってるけど、心が納得なんかしやしない……それからと言う物、あたしはマチルダの名前を捨てて、盗賊しながら生活費を稼いだってわけ。その時に孤児になった子供たちや、その狙われた子供、ティファニアの為にね」
「っ! ティファニアって……そっか」

俺はこの世界で育った訳じゃないから、エルフなんて言われてもピンとこない。
それを見て、フーケは……。

「だから、俺をアルビオンへ?」
「そうさ。あの子は同年代の友達を欲しがってたけど、そうもいかない。だからボウヤに頼ったのさ。あんたはエルフを怖がらないからね」
「……それを信用しろと?」
「して欲しい。信用してもらえるなら……」

タバサは待ったと言うように、手を差し出す。

「……サイトが世話になった」
「え?」
「主として、使い魔が世話になった礼をしなければならない。ただし、敵となる場合は命の保証はしない。嘘があった場合も含めて」
「……始祖ブリミルに誓って」

とりあえず、しばらくはキュルケとタバサが交代で監視と言う事で、話はまとまった。
そしてやらねばならぬのは、これからの事の相談。
レコン・キスタが俺を手に入れようとしているとわかった以上、これからの

「でも、こうなってくると何を信用していいかわからないのも事実」
「そうですな。私達しか知らない筈のサイト君の事、あのレコン・キスタの者は“調律者”と言う名まで突き止めていた」
「……地下水を差し向けた者、レコン・キスタ……同一かはわからない。でもわかっているレコン・キスタだけでも、かなりの勢力を持つ」
「疑おうと思えば、幾らでも疑わしい奴はいるさ。貴族なんて、自分の利害に関しては敏感なんだから」

まあ、俺としてはそれよりも、こっちの方が気になるんだけどな。
何と言うかロングビルさんは、正体がばれてからは雰囲気が全くと言っていい程変わった。
どうやら、コルベール先生も同様らしい

「ん? どうしたんだい?」
「いや、中々違和感が拭えなくて」
「そうですな。何しろ、今までを考えるとあまりにも……」
「一応、こっちが地だからね。バレた以上、元々取り入る為にしてた肩がこる猫かぶりなんて、する必要ないよ」
「取り入るためって……取り入った時の様子が目に浮かぶ」
「……全くですな」
『……ここまで呆れるのは、創造主の手で創って頂いて以来初めてだ』

……あの人の評価、もう地にめり込むどころかクレーター作り始めてるのがわかった。

「まあそれはそれとしても、レコン・キスタが俺達を狙ってるってわかった以上、アルビオンに向かうのが危険になったって事……ですね、コルベール先生」
「正確には君をだが……確かにそうだね。アルビオンが目的地であるのに、それを拠点としている組織に狙われるのはな」
「でも、学院に戻る訳にもいかないね。魔法学院の大半は、アンリエッタ姫と教皇にボウヤを見せるのを嫌がってるから、戻ったりしたらそれこそ危ないわ」
「ガリアに避難も出来ない。地下水を差し向けた者が動く可能性がある」
「ゲルマニアも駄目ね。もしレコン・キスタが嗅ぎつけたらゲルマニアに勝ち目はないわ」

八方ふさがりってこの事か?
国際手配犯って、こんな感じなのかなと思うよマジで。

「……ならば予定通り、アルビオンに向かう。明白な敵が居るだけでも違う、それにアルビオンには」
「っ! 虚無の樹海がある!!」
『確かに、そうなれば迂闊に手出しは出来まい』
「ならちょうど良いね。アルビオンの虚無の樹海は、サウスゴータ地方にある! サウスゴータがあたしの目的地だからね」
「なら決まりだ」
「そうですな……そろそろ煮えてきたな。さあ、食事にしましょう」


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「成程な……」
「所詮は傭兵集団ですので」
「別にかまわん。殺すことが目的ではない以上はな」
「……決闘の相手として相応しき姿にする為、ですか?」
「そうだ。だからこそ余の与える試練を乗り越え、いつの日か名実ともに最強の宿敵として相応しくなってもらわねばならん。我が前に立ちはだかってもらう為にもな」

ジョゼフは盤に歩みより、5つの人形の内の2つを手に取る。

「……フーケもそうだが、コルベールという男も相当の腕を持っているのだな?」
「はい。見る限りではトライアングルの様ですが、戦闘においてはスクエアと同格かと」
「そうかそうか、やはり対局と言うのはこうでなければならん! 手持ちの駒があってこそ対局は成り立つ!」

2つの人形を盤に戻すと、今度はポーンの駒を手に取る。
ほんの僅かな間隔で指を動かし、ポーンの駒を床に落とすと足を振り上げ、思い切り踏み壊した。
そしてカップを置き、楽しげな顔で残りの駒と何かの書類を見比べ始める。

「さて、次はどう出るかな? やはり指し手の居る対局は楽しき物だな、ふははははは!」
「私の方はいつでも……っ!」
「どうしたミューズ?」
「ロマリアが嗅ぎつけました。“右手”がこちらへ」
「ちっ……何としてでもとめろ、現時点での奴等とロマリアの接触は危険だ。ただし、殺すなよ」
「御意!


In トリステイン とある村外れの広場。

「さて、この辺りだったな?」

人気のない、拓けた地へと降り立つ風竜から飛び降り、大きな穴へと近寄る。
その男は、神官服を纏っており、月目と呼ばれる左右色違いの目を持っている。

「うーん……確かに、トライアングルクラスのパワーだね」

そして辺りを見回し、明かりを見つける。
そして、風竜に飛び乗って明かりの方へ向かった。

「アズーロ、夜だけどわかるかい? 見慣れない服と、竜みたいな剣を持った黒髪の男だ。風竜の幼生と、青い髪の女の子も一緒だと思うけど」
「きゅる」
「……夜じゃわからないかい? 」
「これはこれは神官様、この様な所で何を?」

その神官の前に、マントを羽織った老婆が現れた。

「ここでゴーレムが出たと言う話を聞いてきたんだけど」
「ええ、今でもその話で村は持ちきりですじゃ。4人の貴族様と1人の剣士が、仮面をかぶった男とこちらの方へ来たのと何か関係があるのではないかと」
「4人? ……それに剣士か。その剣士の特徴を知って居る者は?」
「村の方に出向かねば、わかりませぬ……では、ついて来て下さい」

神官はアズーロと呼ばれた竜に目配せをすると、竜はきゅると一鳴きした。

「ああ、頼んだよ……と言いたい所だけど、下手な芝居だね」
「一体、何の事ですかな?」
「アズーロ」

竜が襲いかかり、しっぽを叩きつけようとする。
……が、その老婆は高く跳びあがり、大きく指を鳴らす。
そこへ、エイの様な生物……いや、ガーゴイルがあらわれ、女性の足場となる。
その周りには、手の甲に透明な石と真っ赤な石がはめ込まれたガーゴイルが取り囲んでいた。

「やれやれ、随分と優秀な竜だね。まさか“幻惑の香水”による変装を見破るなんて」
「僕のアズーロをなめないでほしいね。さて、はじめまして……と言うべきかな、“頭脳”」
「何のことでしょう? ……とは聞いてくれそうにないわね、“右手”」


In アルビオン ロンディニウム城

王党軍をニューカッスル城に追い詰め、もはや時間の問題とまで追い詰めたと言う報が入り込み、先ほどまで大歓声が満ちて居た会議室。
その感性のかけらもなく静まり返る中、クロムウェルと仮面の男が話していた。

「で、次はどうする気だ?」
「調律者の戦闘は見ましたが、まだまだ素人……あれならば、上位のトライアングル1人で十分でしょう」
「だが、周りにはその上位が3人居る。まあもう1人も、そこそこの使い手だがな」
「よって、出すのはスクエア……“煉獄”のフィルと、“鉱山”のダインを出します」
「うむっ……だが、シャルロット姫と調律者は絶対に殺すな、絶対にだ! 召喚について何もわかって居ない以上、次があるとは限らん」
「承知しました」

仮面の男が去り、クロムウェルは自らの寝室へと歩む

「……神聖皇帝を名乗る日も近い。その近衛に、最強の使い魔とシャルロット姫を迎え、余が新たな始祖となる!」

口元を歪め、自らの野望の姿を思い描き、その会議室から出ていった。



Side サイト in トリステイン~ラ・ロシェール間街道

食事も終わり、女性陣が馬車内で就寝。
俺はシルフィードが一緒に寝たいとごねたから、シルフィードによりかかって眠って居た。
……が、眠れなかった

「おや、眠れないのかい?」
「ええ……なんか、ここに来てからずっと大事ばかりだったんで」
「そうか……もっと楽しい事を知って欲しかったのだが、すまないね」
「いえ、誰が悪いなんてないですよ」
「君は本当にいい子だね……なあ、サイト君」
「なんですか?」

コルベール先生は、たき火に薪を添えて話を進める。

「君の世界では、誰もが平等に技術を使えるそうだね?」
「ええ、勉強したり練習したりすれば」
「素晴らしい事だよ……君の世界では、戦争もないんだってね?」
「俺の国は、平和主義が基本ですから。昔は戦争ばかりだったけど、何億も殺せるって武器を作っちゃって……それからは、ちょっとわからないです」
「恐ろしい話だね……だが、きちんと過去から学んでいるな。それも素晴らしいよ」

……時々、知的好奇心以外の何かがあるんじゃないかって思う事がある。
俺とは少し違う何かが……同類だからこそ、わかるのかもしれない。

「ミス・タバサは、君の世界に行きたがってるそうだね?」
「ええ。やるべき事が終わったら、俺と一緒に行きたいって言ってくれました」
「ならば、その時は私も連れて行ってくれないか? 見てみたいのだ、魔法以外の力が理として存在する世界を」
「……ええ、よろこんで」


(あとがき)

今回は、まあこれからの指針という事で。
タバサとの絡みは、上手く流れが引き寄せられなかったので、もうちょっと待ってください。
ちゃんと予定はありますので。

それと、実を言うとプロローグのタバサの抱きつくシーンは実際自信あったんですが、今頃好評が来るとは思いませんでした。
……まあ自分、表現力が乏しいからうまく想像できない人が多かっただろうけど。
個人的な嬉しさもありますが、こういう意見ってやっぱりやる気を掻き立ててくれます。

では、これからもよろしくお願いします。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 第11話
Name: 秋雨◆47235915 ID:5a4448f0
Date: 2008/10/14 23:39
「きゅいきゅい、よろしくなのね」

とりあえず、狙われてる身としては目立つ事は極力避けるべき。
だからこそ、第一に最も目立つこの風竜。
……否、風韻竜をどうにかする事が第一目的。

「まさか、まだ韻竜が存在してたなんて」
「昨日の契約に追加。秘密を喋ったら……」
「わかってるよ。あんた達の信用を損ねる事は、こっちとしても痛手なんだから」
「で、バラしてどうするんだよ?」

サイトがそう言うのも、最も。
でも以前、シルフィードの“教育”時に知った事がある。

「韻竜は先住魔法を使える」
「その呼び方は正しくはないのね。正確には、精霊の力を借りてるだけなのね」
「精霊? そう言えば、以前シャールさんが先住魔法使った時も、精霊との契約がどうとかって言ってたような」
「精霊の力の行使手は、自然界に存在する力の精霊と契約する事でその精霊の力借りる事が出来るのね。もちろん、行使手の力が強ければ強い程、より多く、より高位の精霊を味方につける事が出来るのね」

契約出来る精霊の数と質が、そのままその行使手の強さと言う事。
そのあたりは、私たちメイジと同じらしい。

「で、それとこれとに一体何の関係が?」
「先住魔法には変化の魔法がある」
「きゅいきゅい、シルフィも使えるのね。火竜になる事も、お兄様達人間になる事もお茶の子さいさいなのね」
「へぇっ。じゃあやって見せてよ」
「きゅいきゅい♪」

シルフィードは目をつむり、何か唱え始める。
系統魔法の様にルーンじゃなくて、コモンマジックの様なちゃんとした口語。

「我を纏う風よ、我の姿を変えよ」

そう唱えると、シルフィードの体が輝き蒼い風の渦に呑まれた。
そして光が治まり、風の渦が晴れると。

「きゅいきゅい、ざっとこんな物なのね♪」

背の高い、蒼い髪の女性が立っていた。
でも……どうやら、あくまで“体の造形”のみを変える魔法らしい。
と言うより、なんでキュルケ位に?

「へぇっ、確かにどっから見ても人間……てぇっ!?」
「きゅい、そう言えば今日はまだ撫でて貰ってなかったのね。お兄様、撫でて撫でて♪」
「ちょっ、待て! せめて服着ろ!!」

シルフィードとしては、いつも通りのスキンシップかもしれない。
でも、今は人間……しかも、女性と言う事。
それすなわち……“教育”が必要。

「キュルケ、服を貸して」
「えっ、ええ。それにしてもすごいわね、スクエア魔法のフェイスチェンジでさえ足元にも及ばないわ」
「中身まで変わってない。“教育”が必要」
「……ねえタバサ、何でフレイムが教育って言葉を聞いた途端、私の後ろに隠れるのかしら?」
「わからない。と言うより、フレイム居たの?」
「居るわよ、私の使い魔なんだから……と言うか、彼女見た目こそ人間の女性だけど、中身シルフィードよ? あれはつまり、じゃれてるだけだから……お願いだから、気を静めて。さっきから寒気が止まらないのよ」

ついでの話、ミスタ・コルベールは動揺している間に、フーケが土の壁で閉じ込めた。
とりあえず窒息する前に、サイトから引き剥がして服を着せなければ。
移動中にでも、しっかりと“教育”を施す。


In トリスティン とある村外れの広場

「うっ……はぁっ、はぁっ」
「あら、おはよう。いえ、気がついたと言うべきでしょうね。ロマリアの“右手”ジュリオ・チェザーレ」
「……何のつもりだ?」
「殺せと言う命令は降りてないのよ。ただ、ちょっと記憶を作り変えるだけ」

所々が切り傷と火傷だらけの神官が、自身の状況を確認する。
その傍らで、紅茶を嗜み本を読むローブの女はそれを見て、微笑を浮かべる。
さらにその傍らには、神官と同様に切り傷と火傷だらけになった風竜。

遡る事、昨日の夜。

「まさか、他の担い手も彼を狙って動いていたとはね。君はどこの担い手が主なんだい? アルビオン? ガリア? どちらにしても、大事になりそうだけど」
「おや、その様子じゃこのバカ共の箱庭の担い手は突き止めてる様ね」
「一応、情報網は必須だろう? とりあえず、今の僕達の自己紹介をしておこうか。僕はジュリオ・チェザーレ、まあ偽名だけど気にしないでくれ」
「あら、偽名名乗る以外は随分と紳士的ねえ。私はそうね……シェフィールドと名乗らせて貰うわ。一応警告はしておくけど、バカげた事はしない方がいいわよ? ベルゲルミルの餌食になりたくなければね」
「……これは、アルビオン反乱軍が使っている新型ガーゴイルだね? アルビオン反乱軍に一枚噛んでるようだが、君の主は一体誰なんだ?」

互いに臨戦態勢を崩さず、シェフィールドとジュリオは互いににらみ合う。
ジュリオの跨る竜が唸りを上げれば、周りを取り囲むベルゲルミルと呼ばれたガーゴイルが、両手の甲の石を輝かせる。

「答える義理はないね……まあ、1つ要求を呑めば答えてあげない事もないけど」
「シャルロット姫とその使い魔から手を引けと言うなら、お断りですよ。調律者と呼ばれる最強の使い魔と、それを従えるメイジ。聖地奪還を実現させ、教会の意向を取り戻す為の中核となり得る力を、みすみす見逃せる訳が無い」
「私達としては担い手に興味はないし、このまま彼等に対して不干渉を約束してくれれば担い手の引き抜きを協力しても良いんだけど」
「駄目だね。僕達全ての力を持つってだけでもそうなのに、虚無にも匹敵するやもしれない4つの秘宝を手にする事を許された者。これが意味する事は何だ? 始祖ブリミルが、聖地奪還への祝福以外に何だと言う? 彼等は担い手同様に、僕達の所へ来るべき何だよ」
「別に引き込んでくれてもかまわないのよ」

ジュリオは目を細め、言葉を待つ。
シェフィールドが、自分達と同じ目的だと思っていただけに面喰っていた。

「ただ、決裂した場合の対処が殺すと言うのなら、黙ってる訳にはいかないのよ。私達の目的としては、来るべき時までに力を得てくれればいい。それだけなのよ」
「? ……一体何が目的だ? 欲しがる訳でも、危険と見なす訳でもない様だが?」
「強大な力と言う物を、恐怖するか欲しがるかの2つしかないというのは大間違いよ」
「おや、なぞなぞかい? その第3の答えが何かはわからないが、彼等が死んで貰っては困ると言うのなら、確かに目的不一致だね。僕達としては、早いうちに手に入れるか消えて貰うかする必要があるんだよ。アズーロ!」

アズーロと呼ばれた風竜が、シェフィールドに襲いかかる。
……が、足場となって居るガーゴイルが高く飛翔し、回避する。

「いきなり攻撃? 心優しき“右手”としては、随分と攻撃的なことね」
「教義の為さ。その障害になるのなら、何であろうと末路は決定してるのさ」
「随分と熱心な……いえ、狂信なことね。でもね、あんた達のくだらない教義の為に、私は私の主人に仕えるのを、こんな所で終わりたくはないのよ」
「まあ、主に関するその部分だけは共感できるよ……ただ、くだらないと言う発言だけは許せないね! 行くよアズーロ」
「唄が泣くわよ? 心優しき……って部分が特にね。仕方ない」

シェフィールドは手をかざし、大きく鳴らす。
そしてベルゲルミルと呼ばれたガーゴイルの両手の石が、より強く輝く。


そして、一夜明けて今に至る。

「……アズーロ!」
「心配しなくていいわ。まだ生きてる」
「げほっ! はぁっ、はぁっ……」
「私達は、さらなる力を自身の力で手に入れた……だから、あなた達の様な寄生虫ごときが、私に勝てる要素など何一つないのよ」
「さらなる……力だと? まさか、お前達が願う第3の答えとは……」

シェフィールドは本をしまい、紫色の液体のつまった2つの小瓶を取り出す。

「それじゃあ、明日にでも教皇の一行がこの辺りを通る。でもあなたとこの風竜には、この薬でここに来てからの記憶を失って貰ったうえで、こっちの薬で2週間ほど眠って頂くわ。恐らくそれ位には、奴等は2つ目の秘宝を手に入れる」
「なっ!」
「どんな物かは知らないけど、そうなればあなた達も迂闊な事は出来ないでしょう? あなた達の手元に“指輪”が無い事は、もう調査済みなのよ」
「っ! ぐっ……はっはなせ!!」
「言っておくけど、これはかけるだけで有効なのよ。それじゃあ、第2の出会いを楽しみにしておくわ。弟君」

1人と一匹に薬をかけ、香水瓶を取り出し体に振りかける。
そして自身の体が老婆になったことを確認すると、その場を後にした。


In トリスタニア ~ ラ・ロシェール間街道

「っ!」
「どうされました、聖下?」
「いえ、何も……それより、もっと早く進められませんか?」
「これ以上は無理ですね。ペガサスが潰れてしまいます」
「そうですか……ジュリオ、一体何があったのですか?」


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「そうか……ご苦労だったな」
「一応、近隣の村に知らせておきましたので。では、引き続き奴等の」
「今日1日は休め、余のミューズ。“右手”相手では疲れたであろう?」
「いえ、この程度」
「唯一の懸念であるロマリアは、お前のおかげで2週間は弱体化している。レコン・キスタは、ただ奴等を手に入れる事にのみ集中。トリステインの馬鹿どもは、未だに気付いてもいない。そして、ゲルマニアもまたしかり……ならば、英気を養うもまたお前の仕事だ」
「ありがたき幸せ……」

ジョゼフは像を置き、目の前に用意された始祖ブリミルの像に向かって歩む。

「無能と蔑まれ、シャルルと比較され続けた余の若き頃……お前を随分恨んだものだ」

杖を突きつけ、なおも続ける。

「だが、今となっては何の感情も湧かぬ……僅か12でスクエアとなったシャルル、そして無能王であるこの俺。何故父上は俺を選んだのだろうな? なぜシャルルは、喜んでくれたのだろうな?」

頬に一筋の線が引かれ、その先が滴となって地面に落ちる。

「なあ、なぜ魔法を作った? なぜお前は始祖なのだ? なぜ俺は……」

そこまで言うと、何かをつぶやき始める。
そしてしばらく何かをつぶやき続け、いきなり杖を振り上げブリミルの像に向けて振る。

「なぜ俺は、シャルルすらもとどかなかった力を得たのだ?」

再度、滴が地面にしみを創ると同時に、その像を中心として爆発が起きる。
ポケットから取り出した物を撫で、静かに微笑む。

「……まあいい、次の力は……俺の3つ目はどんな力なのだろうな? もっと強い力がいいなあ。これよりももっと……そう、奴等と対峙するに相応しい力が。奴等と命と魂と肉体を極限まで喰らい合う様な、そんな歴史上でも類をみない程の決闘を行う為には、まだまだこれではダメだよ」

“それ”と杖をしまい、ゆっくりと大きな盤に向かう。
そしてその盤に思い切り手を突き、体を震わせる。

「ふふっふふふふっ……あははははははっ……ヒラガサイト、シャルロット、お前達の旅の息災を期待するぞ! より強き力で、余を楽しませてくれ!!」

宮殿中がやれ襲撃だ、やれ謀反だと大騒ぎする中、王の居る一室では笑い声が響き渡った。


Side サイト in トリステイン~ラ・ロシェール

変化騒動(俺命名)が何とか終結し、酸欠で死にかけて横になってるコルベール先生。
それから、タバサの教育で顔を真っ青にしてるシルフィードとフレイム。
そのフレイムを宥めてるキュルケと、一応手足を縛ってあるフーケ。
御者を務めるのは俺で、その横には地図を片手に本を読むタバサ。
と言う一行は、シルフィードに服を着せるのに1時間を費やした後、出発。

「偉く時間くったな」
「……教育不足」
「まあ、考えてみたら服を着るのって俺達人間位だけど……そんなに嫌な物なのかな?」
「ごわごわするし、動きにくいから嫌なのね」
「我慢してくれ。素っ裸で動き回られたら、違う意味で目立つから」
「そっそうなのね。お兄様を狙う輩が気づいちゃうのね……」

しかし……明らかに精神年齢と見た目が不一致だろ。
背は高いし、どっからどう見ても竜なんて面影のない、年上のお姉様って感じだ
……しかも、でかかったし。

じーーっ!

……と言うのは置いといても、やっぱすげえな。
あんなでかい竜が、目の前の人間だなんて到底……。

「きゅいきゅい、お兄様♪」
「わっ! ちょっ、こら!」

……シルフィードじゃなかったら、信じられなかっただろうな。
というか、人間時に竜の時やってた顔をなめるのやめろ。

「ちょっ、やめろ! 人間はこんなことしないんだよ!」
「きゅい~……人間って難しいのね。服着なきゃいけないし、お兄様にして貰ったりしてあげたりする事がおかしいなんて」
「わからないなら教育」
「ひっひいいいいいいいいいいっ!!!」

シルフィードは突風の如く、馬車の最後部へと避難した。
フレイムも同様に避難し、シルフィードとがっちり抱き合ってる。

「教育怖いのね、教育怖いのね、教育怖いのね……」

美女と魔獣という感じだが、両方とも酷く怖がってるからある意味すごい光景だ。
……一体、俺の知らない所で何があったんだろう?

「なあタバサ」
「何?」
「教育って、どんな教育?」
「“念入りかつしっかりと”」

……それ以上は聞けなかった。
聞いてしまったら、何かとてつもない領域に足を踏み入れそうで怖いのだ。

「そう言えば、コルベール先生がアルビオンに行く前に行きたい所があるって言ってたな。どこだろ?」
「ここ」

タバサが地図を差し出し、とある丸印がしてある場所を指さす。

「あらやだ、そこってアングル地方じゃない。なんでも、20年前に疫病が流行して焼却されたっていう」
「そんな所に一体何の用だろ? どうする?」
「……世話になっている」
「そうね。それに先生の過去にも関係してるかも知れないし」
「あたしはあんた達に従うまでさ」
「わかりました。じゃあ行くかな、アングル地方へ」



Side レコン・キスタ

「あれが僕達が殺す奴ら? カカカッ、態々あんたに加えて僕達が出向くほどか?」
「出向くほどだ。わかっているだろうが、あの御者をやっている剣士とメイジは駄目だ。ほかは殺しても構わんがな」
「ふむっ……小生は土メイジとして、フーケと手合わせ願いたい物だな。世を騒がす土メイジ……どれほどの物か楽しみだ」
「カカカッ、僕はあのグラマーな姉ちゃんかな? 見るからに……っ! やっぱりあのコッパゲも追加だ。まさか、こんな所で僕をこんな姿にした“炎蛇”ともう一度会えるなんてね」
「頼むぞ」

(あとがき)

個人的な疑問ですが、本編で風のスクエアは結構出て来ますが、火と水と土のが全然出てこないの何ででしょう?
タバサをはじめとして、ギトー、ワルド、カステルモール、多分だけどシャルルと居るのに。
(多分、ヴァリエール公爵は土のスクエアでしょうが)
それに今まで見た限りのオリキャラ主人公物の2次って、全部風系統ですし。
そんな考えから生まれたのが、火の土のスクエアのオリジナル敵役です。

PS 枝豆さんの質問ですが、答えはもうちょっと待ってください。
   物語がもうちょっと進んでからその辺を明らかにする予定でしたので。


ではこの場を借りて、いつも読んで下さいましてありがとうございます。
常連さんも新顔さんも、より満足していただけるように頑張ります。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第二章 エピローグ
Name: 秋雨◆47235915 ID:b85111f8
Date: 2008/10/19 01:17
アングル地方。
聞いた話では、かつてダングルテールと言う村があったそうだ。
元々アルビオンからの入植者が創った村で、独立独歩の気風が目立つ……つまり、新しい事を取り入れる事に力を入れてた。
政府との折り合いは悪かったらしいけど、その辺はうまくやっていたらしい。

「んで、その村も20年前に焼き払われて、今じゃ廃墟と化しているって訳だな?」
「そうね。疫病が流行ったって言う事だから、誰も近寄りたがらないし」
「いや、疫病など嘘だよ」

酸欠からよみがえったコルベール先生の言葉で、馬車はしんとなった。
いつもの様な優しげな顔ではなく、とても悲しそうな顔だったから雰囲気までしんみりしてしまった。

「ダングルテールは新教徒の村だったんだよ」
「新教徒?」
「貴族と結びついて、権勢を欲しい侭にする寺院の改革を目指すべく、実践教義を唱えるブリミル教徒たちの事」
「?」
「簡単に考えれば、教会にとっては反逆者の様な物」

……そういや、異端審問とかってあったな。
歴史上でも、確か教会が権威だったころもあって、免罪符やらなんやら……
あとは……なんだっけ?

「……こんなことなら、ちゃんと勉強するんだったな」
「何の話?」
「いや、俺の所にもそういうのあったから。結構昔にだけどね」
「……そう」
「宗教と権力が結びついてしまったが故の性と物は、どんな垣根を超えても同じような物の様だね」
「そうみたい……それはそれとして、何でミスタ・コルベールがそんなこと知ってるの?」
「それは、もうちょっと待ってくれ。もうすぐつく場所で話したいんだ」


Side オスマン in トリステイン魔法学院

「っ!」
「あの、どうかされましたか?」
「アルビオンに居る知り合いからの手紙で、また最近は動きが活発化してきたそうじゃ」
「そうですか……」

よもや、アルビオン反乱軍……いや、レコン・キスタがサイト君に気付くとは。
しかし、どうして調律者の名まで……?
アルビオンにそれに関する伝承があったか、学院内に内通者が居たか……か?
念のために、儂が独自に調査してみるべきか?

「時に、ジャドー君」
「ギトーです!」
「おお、そうじゃったか? アンリエッタ姫と教皇聖下のお出迎えの準備は?」
「いつでもお出迎え出来ます」
「うむっ。では、ジュドー……いや、えーっと……シャドー君、もう良いぞ」
「間違いに気付き、思い出そうとしてくれた事は大変ありがたいですが、私の名はギトーです。わかりました、では失礼いたします」

そのギトー君が出ていき、ミス・ロングビルが居ない事で気楽に吹かせる水キセルを取り出し、一服。

「……人の業と言う物かのう? さて、モートソグニル。ちと頼まれてくれんかの?」
「ちゅう?」
「学院内の使い魔に呼びかけ、妙な動きをしている者がおらんかの調査を行ってくれ。無論、信用できる者にじゃ」
「ちゅう!」
「さて……ここから眺める空は、この壮美な色からどんな色に変わるのかのう?」


Side サイト in ダングルテール跡地

「ここに、村があったんだ。今でこそ、多少の面影がある位の廃墟でしかないが」

多少獣道ではあったけど、元は街道だったらしい道を進み、俺達は海に面した元は村があったらしい地に来ていた。
20年前の事らしく、石造りの壊れた家屋が連ねる廃墟でしかない場所。
でも、ここでたくさんの人が死んだ……と考えると、怖くなった。

「少し昔話をしよう……私はかつて、魔法研究所実験小隊と言う部隊に属していたんだ」
「実験小隊?」
「ああ。いうなれば、攻撃魔法の効果、範囲、威力などを調べる為の部隊だよ。田舎貴族の反乱鎮圧、逆賊の討伐等殆ど汚れ任務で私達は投入された」
「汚れ任務? ……先生が?」
「ああ。今でこそこんな中年だが、昔は汚れ仕事だろうが国の為に働ける事を誇りに思い、その為に必要ならば杖をふるい、全てを焼き払ってきたのだよ……ここの様にね」

コルベール先生が……ん?
今、ここの様にって。

「20年前、ここを焼き払ったのは私が隊長を務める小隊なんだ」

先生がここを?
焼き払ったって……人を殺した?
殺した……あの優しいコルベール先生が、人殺し?

「信じられない……そんな顔をしているね?」
「確かに、汚れ仕事を請け負う隊の隊長ならその強さが頷けるけど……でも、コルベール先生が人殺しなんてとても想像できません」
「私もかつてはトリステイン貴族らしく、この与えられた力を存分に発揮し、御国の為に全てを捧げる……それがすべてだと信じていたのだよ」
「でも、それならどうして今のように?」
「間違いに気付いた……だからだよ、ミス・ツェルプストー」

コルベール先生は懐から1つの箱を取り出し、蓋をあける。
その中には、大きな赤い石……ルビーかな?
それがついた指輪があった。

『っ! それは!?』
「? 知って居るのかね?」
『それは、炎のルビー……なぜコルベール殿が!?』
「私にとって、罪の証ともいうべき品だよ」

それを地面に置いて、手で何かの形の様に印をきった。
……そう言えば、十字に印を切るってのをテレビで見たっけな。
あれのブリミル教版って所か。

「20年前、当時のロマリアから脱走者がこの村……ダングルテールへ逃げ込んだと言う事で、その討伐および村の殲滅を依頼された」
「それを実行したのが、先生の部隊」
「ああ。疫病の流行は建前で、実際は新教徒狩り……焼き払った後、村から疫病の痕跡が無かったと言う報告で気付いたよ。自分自身が犯した罪をね」
「……よくある事だね。自分達の行動を正当化するための口実って奴かい」
「だが、やったのは私だ……それを否定など出来る訳が無い」

先生は地面に置かれた箱を取って蓋をしめる。
そしてそれを、じっと見つめる。

「それから私は部隊を抜け、その罪を贖う為にひたすら研究に打ち込んできた……20年間、ずっとね」
「それで、今に至ってるって訳?」
「ああ……いかなる理由があろうとも、たとえ戦争中だとしても、人を傷つける事や殺す事は罪だ。その事を、少しでも伝えようと言う事もある」
「随分と無謀なことするねえ」
「……そうだね。結局のところ、腰抜けと言われ続けたよ」

キュルケが気まずそうに顔をそむけた。

『この世界では根本的に異端な考えである以上、無理だろう』
「そうだね、それは理解している。無論、これが偽善だと言う事もね……」

その時のコルベール先生の顔が、偉く印象に残った。

そして、その夜。
俺は竜に戻ったシルフィードによりかかって眠り、コルベール先生は火の番。
そして女性陣は馬車の中でと言う、決まったポジション。

「なあ、バハムート」
『なんだ?』
「……どうしてなんだろうな? なんで貴族ってのは、人の命を軽んじる事が普通なんだろうな? 何かの為に人が死ななきゃいけないなんて、俺にはわかんねえよ」
『踏み潰してでも、進まなければならない事もある……痛みが伴うか伴わないかの差はあるが、国を動かす事にはそう言う決断を強いられる物だ』

踏み潰して……か。

「わかんねえ……わかんねえよ」
『理解するには時間も必要だ。急に理解しろと言うのも、無理な話だ』
「……俺もいつか、人を殺したり殺されたりってあるのかな?」
『あるだろうな。レコン・キスタと言う奴等がマスターに気付いた以上、このまま黙って居るとは思えん』
「何でそっとしてくれないんだよ? 俺何もしてないのに」
『怖いからだ……人は臆病だ。だから大きな力を恐れる』

大きな力……そっか、俺には伝説の使い魔全部の力がある。
それが怖いんだ……。

「……生きるって、すっげえ難しい……バカだ俺、全然知らなかった」
「一生気付かないよりはずっと良い」

見てみると、タバサがこちらに近づいてくる。
そして俺の隣に来て、シルフィードにもたれかかる。

「私も同じ……汚れを知らず、今を享受していた頃があった。汚れ仕事を受ける様になった最初の頃は、そう思った事もある」
「……やっぱり、タバサも?」
「私は騎士であり、王国の杖。だから踏み潰してでも、任務をこなさねばならない……私はずっとそうしてきた」
「……やっぱ甘いのかな、俺って」

軽い衝撃と重み。
見てみると、タバサがよりかかっている。

「甘くても良い。それがあなたなら、無理に変える事はない。あなたなりに最善と思う事をしてくれれば良い」
「……俺なりに、最善を……か」
「私も、これが絶対に正しいなんて言えない。何が正しくて間違いなのかは、結局誰にもわからない」

俺なりに、正しいと思う事を……か。
……そうだよな、俺は難しく考えたり無理して背伸びしたり、カッコつけたりするキャラじゃないよな。
守るなら守る、決めるなら決める、そうしたいならそうする。
それで良いんだ……今は、それで。


Side レコン・キスタ

「どうしたのいきなり中止だなんて?」
「そうだ。納得のいく理由を教えて貰いたいな」
「もうすぐ僕の本体が到着する。それからの方がより確実だと思っただけだ……多少ドット以下が増えるだけの事。気にする事ではない」
「確かに、お前の本体が来るなら確実性が増すな、カカカッ」
「だからこそ、失敗などいい物笑いだ」



(あとがき)

色々と考えなければならないことってあるみたいですが、とりあえず一言。
サイトの言動で不評出たみたいですが、芝居がかった部分に関してはただ単にカッコつけてるだけって意味合いだったんですが……。
それ以外は、勉強不足だったと反省はします。
……もっと頑張らにゃいかんな。
とりあえず、2章はここまでです。
まあちょっとサイトのキャラ付けを反省するべく、ちょっと一話からじっくりと全巻見直ししてから出すことにします。


あと、ここで一言。
ルイズをはじめとする、トリステイン貴族に関してはやりすぎたという感はあります。
でも、ジョゼフとか教皇とかレコン・キスタは、こういう行動に出るかなって断言はできるつもりです。
フーケは……家族を大切にする人だから、危害加えなきゃ受け入れるかなって感じですが。


それとクルシスさんの質問ですが、あくまで個人的な観点での答えです。

エルフの作った障壁は、武器で破られてる描写原作にあります。
多分、障壁を作った者のレベルもあるでしょうが、絶対に破られないってことはないと思いますよ。

先住魔法については、拠点防御では最強だが侵攻には不向きって言われてるから、精霊と契約しないと使えないと思います。
契約できれば人間でも使えるんでしょうが、そもそも先住の一族は祖が同じって表現があったはずなので、多分契約は先住の一族限定ではないかと。

一応注意しておきますが、あくまで個人的な観点からの意見なので。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章『理を統べる賢者』 第1話
Name: 秋雨◆47235915 ID:db9bf297
Date: 2008/10/26 00:50
願いの意味、それは全ての鍵なのだと思う。
サイトとの出会いを経て、私はそう思うようになった。

どんなに願っても、この世界にはとどかない物の方が圧倒的に多い。
でも、願わねばとどかない物だってある。
お母様の回復、再びシャルロットに戻る事、そして……無能王ジョゼフへの復讐。

ただ、願うだけでは得られない。
私が今までそうしてきたように、その願いを叶える為に何かを成す。
叶える為までの過程が宝箱であり、願った事が現実になる事がその中身。
願いはあくまでカギであり、宝箱ではない。

私の願いがこもった宝箱……いつか必ず、開けてみせる。
私の使い魔、ヒラガサイトと共に。


虚無に舞う雪風の剣舞 第三章『理を統べる賢者』


魔法学校を旅立って3日目の朝。
私達は思い思いに身支度をし、朝食をとる。
ハシバミ草を咀嚼しつつ、シルフィード(人形態&裸)にベタベタひっつかれ、食事をせがまれてるサイトに目をやる。
また勝手に服を脱いで……後で教育。

「きゅいきゅい、お兄様。もっと食べたいのね」
「ちょっ、わかったよ。俺の分やるから、ってか勝手に服を脱ぐな!」
「だってごわごわするから嫌なのーのーのー!」
「のーのーのーじゃない! と言うか気持ちいい……じゃなくて、公衆道徳的にまずいから!」

……キュルケに迫られ、あたふたしている男子生徒を思い出す。
男性が女性に興味を持つ事は、至極当然の事。
男性は基本的に女性よりも性欲が強く、この時期は多感なためそう言う誘惑に弱い。
理論的にはそう言う解釈が出来るけど、この目で見ると情けない発情者。

「シルフィード、勝手に服を脱いだから教育のやり直し」
「そっそそそそそおおぉれだけは嫌なのね!!! 服着ます!! 服着ますなのね!!!」
「ダメ。それと逃げたら2倍」

……まあいい。
人の情欲と言う物は、止める事の出来ない物なのだ。
結局のところ、そうでしかない。


Side オスマン in トリステイン魔法学院

「ははっ、ちょろいものだよ。ここの奴等ときたら、ちょっと煽ってやっただけでたかが平民相手に右往左往。フーケの件にしろ、平民に一撃でやられたって流しただけであの有様だ。まるで物語を作ってるみたいだった」
「そうか。しかしいいのか?」
「構わないさ。お姫様と教皇の来訪で舞い上がってるし、さっき教皇付きの神官がボロボロになって発見されたそうだから、今頃大騒ぎさ」
「所詮はアルヴィー同然の、踊ることしか知らん哀れで無能な箱庭の住人達……そんな者たちをのさばらせる王権等、もはや無用の長物だ」
「ああ。そろそろ戻る、怪しまれる時間だからな」

「いや、その心配はいらんよ」

と言うやり取りを終え、裏切り者の教師1名を捕縛。
片方はどうやらユビキタスであったらしく、姿を消しおった。
思ったよりも足取りは簡単に掴む事が出来、今に至っておるが……教師達の給料を下げる事を考えるべきかのう?
本当なら二重間諜として用いたいところじゃが、儂も老いぼれでしかない以上無理じゃし、ここの者どもは頭が固いから無理。

「よもや、アルビオン反乱軍の手の者が紛れて居たとは……何たる事だ」
「誰も気づかなかったのか?」
「お前良くあの者と話していただろう? なにも気付かなかったのか!?」
「よもやお前も敵の手の物ではなかろうな!?」

全く、これだから若い者は……。
まあ今まで気づかんかった儂も儂じゃが、これではバハムート君が気を悪くするも無理はない。

「やめなさい、見苦しい。君は本当に声が大きすぎていかんのう、バトー君」
「ギトーです! というか、いい加減覚えてください! それはいいとしても、教皇聖下がいらっしゃったと言うのにこの体たらくでは、我等の名誉が……」
「名誉と言うのなら、平民の少年相手に貴族の、しかも大の大人が大勢で喚く事は違うのかね? しかも敵の姦計に踊らされて」
「ぐっ……」

結局のところ、ギトー君達があんなにもサイト君を弾圧しようとしておったのは、あの教師の進言からだった。
表に立たず、血の気の多いバトー君を筆頭に教師たちに発破をかける事で、サイト君に対し不満を募らせるように仕向ける。

フーケの大立ち回りにしても、フーケ撃退の件を街で言いふらしてフーケの怒りを扇動。
適度な頃合いで嘘だと言いふらした事で、リッシュモン高等法院長を始めとする貴族達の怒りも引き出す事に成功。
……大馬鹿者どもの心理を利用した、見事な手腕と褒めるべきじゃ。

「とにかくじゃ、アルビオン反乱軍の手がトリステインにまで及んでおるとわかった以上、今まで以上に警戒するように! 姫殿下や教皇聖下がおられる以上、これ以上の失態は許されんのでそのつもりで!」

そこで解散となり、モートソグニルにはナッツをやる。

「儂も老いぼれたのう……もう少し若ければ、サイト君の手助けをしてやれるのに」
「ちゅうちゅう」
「のうモートソグニル、儂達は一体いつまでこのような愚かなことをせねばならんのじゃろうな?」

ポリポリとナッツを齧る音だけが、その部屋に響くだけだった。


In トリステイン魔法学院 来客用個室

「本日の治療は以上です」
「御苦労さまです。あなたに神と始祖の祝福があらん事を」

体中に包帯を巻き、静かに眠っている少年を見下ろす法衣の青年。
出て行く医者に礼を言い、眠っている少年の額に手をやる。

「ジュリオ……一体何があったのですか? あなたやアズーロがあそこまで……」

眠っている男の白い手を取り、右手の甲をなでる。

「……世の中とは、実にままならない物ですね。よもや、担い手が来訪の次の日に居なくなるとは……指輪が無い今、私に戦う力は得られない。せめて、祈りましょう。ジュリオの一刻も早い目覚めを、担い手と調律者の無事を」


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「そうか。“右手”は発見され、手厚く看護されておるか?」
「はい。聖堂騎士は説得には向きませんので、しばらく我等が宿敵に手出しは出来ない事と思われます。事実上ロマリアは、調律者に対し行動不能と言う事になります」
「だが、虚無の樹海に向かうとなると、そうもいかんかもしれんな。敵になる前に……そう考える可能性もある」
「注意はしておきましょう。それよりも、申し訳ありません。右手との戦闘でベルゲルミルは10体破損しました」
「まだまだ我等も未熟だな。なに、責める事はせんさ。今はまだ始まったばかり、高々1つといえど勝利する事は、我等が望む決闘への第1歩だ。俺も急がねばならんな」

まるで談笑するかのように、ジョゼフは気楽に話す。
愛用の大きな盤に歩み寄り、それに乗る5つの人形を動かす。

「さて、明日には恐らくスレードゲルミルが出来るだろう。そろそろベルゲルミルを仕掛けてみるか?」
「ですが、私が力を使えば……」
「構わん、奴等に刺激を与える為だ。それにどうせ、アルビオン等飽きた玩具にすぎん。お前を知る者は……わかっているな?」
「御意」

像を置き、ポケットからある物を取り出す。

「最近、気付いたらお前を見る様になったな。俺の第3の力が目覚める事が、今か今かと待ち遠しい……不安に押しつぶされそうだよ。もう1つがとどく事もまた」

まるで子供の様に無邪気な笑みを浮かべ、掲げてみる。
その手にはまる“それ”と、その手の指に光る茶色い宝石の嵌った指輪。

「お前達は俺の命ある限り、俺に力を与え続けるのだ! この俺、ガリア国が無能王ジョゼフは、この力を極めて見せよう!! 最強となりて、奴等と対峙しよう!! ヒラガサイト、シャルロット、俺の存在価値はやはりお前達にある!!」

自身の弟の肖像画へと歩みより、両手を大きく広げる。
口元を歪め、その肖像画を見据える。

「俺の右手は杖を握り、お前の娘とその使い魔を屠る為にある! 俺の左手は、お前の娘とその使い魔の首を掴むためにある! 俺の口は、お前の娘とその使い魔を屠る魔法の詠唱をする為にある! そうだ、俺が生きる意味はこれだ……これに尽きるよシャルル!!」

その時、ジョゼフの手の中にある“それ”と、指輪が淡い光を放った。
その笑い声と、狂気とも純粋ともいえる様な、そんな願いに呼応するかのように。


Side サイト in アングル地方 ラ・ロシェール方面街道

御者を務める馬車は、昼も過ぎてそろそろ夕方の時分になる街道を進んでいる。
シルフィードが俺の背中にくっついて、タバサが俺の隣で同様。
キュルケは後ろで面白そうにこちらを見て居て、当然フーケは手足縛られてる。
コルベール先生はと言うと、その横でこれからの相談と言った所。

「あの~、2人ともちょっと離れてくれない?」
「いやなのね。お兄様あったかいから、こうするの気持良いのね」
「同感」
「そう言ってもらえんのは嬉しいんだけどさ……堂々とこういう事は」
「使い魔、すなわちパートナーとのスキンシップは大事」
「なのね」

確かに大事ですね。
とーっても気持ちいいですよ、ええ。
特に背中に当たってる、とーっても素晴らしい柔らかさが……

じーーっ!

……それはそれとして、元の世界じゃ絶対想像できなかったな。
発展途上の美少女と、スタイル抜群の美女にひっつかれるなんて。

『マスター、鼻の下をのばした顔程間抜けな顔はないぞ?』
「うぐっ……でっでもだな……」
「……久しぶりに笑った」
「え?」
「サイト、最近笑わなかった」

……そういやそうだったっけな。
まあ最近、あのバカどもの嫌味ばっかだったから、笑った覚えがあんまりない。
そうだ、俺はプラス思考と好奇心が取り柄だった。

「なあタバサ、ラ・ロシェールってどんなところ?」
「あそこの町並みは土メイジが岩を切り出して作った建物で有名。フネが停まる港もあるから、フネを使っての来訪時は必ずここに立ち寄る」
「へぇっ。フネって、あれ? 俺の世界じゃ海の上を渡る為の乗り物なんだけど」
「同じ。ここのフネは風石と言う風の力の結晶を使用して浮く」
「へぇっ、そんなのあるんだ」

やっぱ俺はこうじゃないと。
ふと前を見ると、街明かりが見えてきた。
その奥には、浮かんだ船が停まっているでかい木が見える。

「あれが、ラ・ロシェール?」
「フネが見える。間違いない」
「でかい木だな……あれを、フネの港にしてんのか」

なんか、ワクワクしてきたな。
あそこで俺達は、浮遊大陸アルビオンへと旅立つのか。
空飛ぶ舟に乗って……ってのも、すっげえワクワクする。

「それじゃ、ちょっといそ……いてっ!」
「どうしたの?」
「この痛み……ん?」

俺達の通ってる道の合流路って言うのかな?
そこから、なんかでかい4本足の鷹……みたいな生き物が歩いてくる。
手綱がつけられていて、それに乗ってるのは羽根付き帽子をかぶったカッコ良い人。
へぇっ、ああいうのも居るのか。

「でかい鷹? いや、えーと……何あれ?」
「グリフォン。乗っているのは恐らく、トリステイン魔法衛士隊」
「魔法衛士隊?」
「いうなれば、近衛に当たる衛士隊」
「あっ、サイトにミス・タバサじゃないか!?」

聞き慣れた質の、疲れ切った様子が感じ取れる声。
グリフォンの後ろの方を見てみると、へばった様子で馬にすがりついてる奴。
それと帽子を深めにかぶった人は……。

「ギーシュ! それに、シャールさん! どうしてここに?」
「ちょっと用事があってきたのよ。まさか、あんた達に会うとは思わなかったけど」

今度はグリフォンの方を見てみると、跨ってる長髪のナイスミドルな男性に抱きかかえられてる、見覚えのある小さい女の子。

「何でルイズが!?」
「シャールが居るんだから、私が居て当たり前じゃない。えーっと……ヒリガル・サイトーンだっけ?」
「ヒラガ・サイトだ。何だよその何か切って貼ったような名前は?」
「変わった名前だね。もしかして、君がフーケを倒したと言う平民の少年かい?」

ルイズを抱きかかえてる、ナイスミドルな人が話に割って入ってきた。
よく見てみると、ギーシュが干物に思えるくらいにガッチリした体格で、俺の身長を軽く超している。
見た漫画に出てくる騎士の様な、そんな恰好をしている。

「ルイズのお兄さんか? 全然似てないけど」
「悪かったわね!」
「はっはっは、確かにルイズは小さくて可愛いからそう見えてもおかしくはないけど、残念ながら違うよ。僕はこのルイズの婚約者さ」
「へぇっ、婚約者……」

……って、婚約者?
おいおい、ルイズ嬢が小さいのもあるだろうけど、年離れ過ぎだろ。

「いっ、いやですわワルド様。私達はまだ……」
「僕としては、本気なんだがね。それよりも、君達はルイズの知り合いかい?」
「学院の級友。あなたは?」
「トリステイン魔法衛士隊が1つ、グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ。二つ名は“閃光”、ちょっとは名が通っていると思うんだけど」
「確かに、聞いた事あるわね」

結構有名なんだな、この人。
俺としても、何か今まで見てきた中でも割とまともそうに見えるし。
いや……。

「……なによ?」
「いや、別に」

うーむ……まともなのか?
ま、別にいいけど……あれ?
なんか、あのワルドって人の声、どっか聞いたような……。


Side レコン・キスタ

「あれがトリステインとゲルマニアの連合を阻む救世主の回収者かい?」
「あの使い魔の男か? 今でこそ何かの魔法を使って化けて居る様だが、やつはエルフと言う話ではないか。小生達だけでは……」
「わかっている。だが、別に奴等の方は大して重要ではない」
「ああ、調律者優先だな? 別にトリステインとゲルマニアが何をしようが、最強の使い魔さえ手に入れば関係ない。そう言う訳だな、カカカッ」
「では、今晩実行するか。まずは小生のゴーレムで牽制しよう」



(あとがき)

ちょっと早いかもしれませんが、第三章プロローグでございます。
6巻まで読んでみたんですが……確かに、無理あったかもしれません
でも皆様のありがたい感想を見てみると、受け入れられる人もいるご様子。
……滅多なこと言う物じゃないですが、難しいですね。

今回は色々と指摘くれる人が多かったので、ありがとうございました。
ただ面白いと言ってくれるだけでも嬉しいですし、こういう指摘もありがたいです。

とりあえず自分なりに頑張りますので、面白いと思った方はどうぞよろしくお願いします。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第2話
Name: 秋雨◆47235915 ID:ba4a1f8c
Date: 2008/10/26 00:45
船は明後日にならないと出ないらしい。
それが、ラ・ロシェールに着いてすぐに向かった、フネの桟橋で聞いた事。
ルイズがやたらとごねて居たが、ワルドさんになだめられていた。

「あたし、アルビオンなんて言った事ないけど、どうして明日は出ないの?」
「明日はエオーの日で風が強い、その上アルビオンは今近くまで来ている。まともな船では距離が短すぎて、港ではなく大陸にぶつかってしまうかもしれないからさ。さ、今日は宿をとろう。君達も一緒にどうかね?」
「そうですな。魔法衛士隊隊長が一緒ならば、これ以上心強い事はない」

と、コルベール先生の進言により、宿は一緒にする事になった。
手配はワルドさんとロングビルさんがやって、俺達は荷物の整理。

「それにしても奇遇だね。まさかラ・ロシェールで会うなんて」
「全くだな。それにしても、学院にお姫様と教皇聖下だっけ? 偉い人が来てるって話なのに、何でお前らここに居るんだよ?」
「それは姫様直々の……ぐはっ!」

パカンッ!

「ギーシュ! 姫様直々の密命だって事バラしてどうするのよ!?」
「あら、姫様直々の密命だなんて、随分と面白そうな話ね」
「あっあんた、盗み聞きした訳!? げっげげゲルマニアの貴族ってホントはしたないんだから!!」

いや、あんなでかい声で言っといて、盗み聞きってのは変だろ。
随分と堂々とした密使も居たもので……まあ、深くは追求しない方がいいな。
今俺達にはもう充分な面倒があるから、これ以上は流石に簡便だし

『あー、うるさい。キャンキャン喚くな小娘』
「こっここ小娘!? けっ、けけ剣の分際で、ヴァリエール家の息女に小娘!?」
『おーおー、相も変わらずいけすかねえ態度だねえ』
『お前も相も変わらず、頭が悪そうだな』


「やあ、待たせてしまったね」

ロングビルさんを伴ったワルドさんが、何個かのカギを持って現れた。
部屋割は、至ってシンプル。
俺とコルベール先生、タバサとイルククゥ(人型の時は、そう呼ぶ事にした)
キュルケとロングビルさん、ギーシュとシャールさん。
そして……

「だっ駄目よ! 私達まだ……」
「今まで会えなかった分を取り返したいんだ。それに、大事な話もある」
「……」

……おーおー、ゼロのルイズさんもいっちょまえに乙女ですか。
まあ別に、どうでも良いけどね。
と言う訳で、ルイズとワルドさんが一緒の部屋。

「あっあの……1人部屋は借りられなかったのですか?」
「ああ、残念ながら埋まっていたそうだ。何か不満が?」
「いっいえ、そう言う訳では……」

ちらりとシャールさんの方を向いて、ギーシュは何か言いにくそうにしている。
今でこそワルドさんが居る事もあるのか、シルフィードの様な変化の魔法を使ってるらしく、耳がとがったそれではなく俺達人間の物。
ではあるが、シャールさんはハルケギニアの天敵ともいえるエルフ。
そんな相手と同部屋じゃ、ギーシュも嫌がるか。

「なあギーシュ、部屋変わってくれないか?」
「え?」
「同じ使い魔同士だし、シャールさんと話したい事があってな。頼む」
「あっ、ああ。仕方ないね、平民の懇願を聞くこともまた貴族の責務だ」

……ホッとした顔で言っても、説得力無いぞ?


そして、宿の部屋。
一応、貴族が居るともあり結構いい部屋らしい。
最近野宿ばっかだったから、ベッドの感触が懐かしく思える。

「しかし、君は私を怖がらないのだな。信じる教義の違いの関係上、私は何かとバケモノ扱いだから」
「襲いかかってきたなら話は別ですけど、そんな恐ろしい種族に見えませんから」
「そうか……君みたいな人ばかりなら、我等と人間は手を取り合えるのにな」

シャールさんみてると、つくづくわからん。
エルフはこの世界じゃ忌むべき敵みたいだけど、何でこんな人が?
一部じゃ人を食べるだの、女子供だろうが情け容赦なく殺すって話だってある位にまで恐れられる種族か?
……まあいっか、どう思おうが人の勝手だし。

「あの、シャールさん。ちょっと聞きたい事があるんですが」
「なんだ?」
「エルフに、人の心を壊す薬について……」
「ああ、君の主だろう? いつの日かは覚えて居ないが、朝食時に君の主が訪ねてきた時に聞かれた」

……朝食時?
そう言えばシャールさんって、食堂に並んでる果物を貰って外で食べてるんだっけ?
なんでも、自然に触れて食べる方がいいとか。
そん時を狙って、俺と合流する前にでも聞いたのかな?

「彼女の話から推測するに、確かに我等のみが精製出来る薬だ」
「本当ですか!?」
「だが、あれを調合出来る者は限られている。今の私の技量では、それを生成する事は不可能なのでな」
「そうですか……」

……そう言えば、以前すっごく悲しそうな雰囲気だった事あったっけ?
あれってそう言う事だったのか。

「時に、君が私を怖がらないのは何故だ?」
「え?」
「人間が私を見たとき、大半が逃げ出すか臨戦をとるか、急に命乞いを始めるかだ……聞いてみれば、我らエルフは我等は女子供すら容赦なく狩り取り、酷い物ではオークなどの様に人を喰らうという話まである」
「……話すと長くなりますし、到底信じられない事ですけど」
「?」

俺は全てを告げた。
俺は魔法の存在しない、こことは全く別の世界から来た事。
そして、タバサの召喚によりこの世界へと呼び出されてしまった事。
俺の世界ではエルフなど存在しないし、亜人種など存在しない事。

「……成程な。根本からこの世界の人間と違うなら、私を怖がる理由はない」
「信じてくれるんですか?」
「これでも君の十倍以上長く生きてるからな、嘘の見分け位はつく」
「十倍!? へぇっ、エルフって長生きなんですね」


『ふっ……本当に久しぶりだな、マスターの楽しそうな顔は』
『ああ、最近のあの坊主の待遇ときたら、同情しちまうぜ。そういやバハムートよ、お前とこうして並ぶのも久しぶりじゃねえか?』
『そうだな。お前はガンダールヴの左手、我は調律者の破壊、考えてみれば付き合いは長い。時には両手として、時には敵として、時には肩を並べた頃があった』
『ああ、おめえはいけすかねえ野郎だが、戦うにしろ片腕にしろ肩を並べるにしろ、最高の相手だ』


Side タバサ

「心配はないみたいね」
「きゅいきゅい」
「すっ、すまなかったな。だが、ぼくとしても……」
「わかっている。むやみに攻める事はしない」

エルフを怖がるのは、普通の事。
私も出来れば、対峙する事は避けたい相手。

「ギーシュでは怖がらない方がおかしい」
「そうよね、ギーシュなら尚更ね」
「……名指しはやめてくれないかね? まあそれはそれとして」

ギーシュは私を人形のように抱きしめるシルフィード……いや、イルククゥに目をやる。
大凡……いや、絶対の見当はつく

「美しいお方、是非共名を伺いたい」
「きゅい? イルククゥなのね」
「イルククゥ、随分と珍しい……ですが、良い名だがふっ!」

……エア・ハンマーをぶち込んだ。
あんな目にあっても、まだ懲りないらしい。

「ゲホゲホっ、いっいきなり何をするんだね?」
「節操なしにかける言葉はない」
「うっ……とっところで、彼にやたらと懐いていた風竜はどうしたんだい?」
「それはこのむぐっ!」
「あなた達と合流する前、海に魚を取りに行った」
「そうか」

……どの道、目立つ存在に変わりはないらしい。
“教育”の内容は、少し濃いめにした方がいいと思われる。

それよりも、これからどうするべきか?
シルフィードなら、この時期のアルビオンへは私とサイトを乗せていける。
……場合によっては。


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

“始祖の香炉”
ガリア王家に伝わる、始祖ブリミルの遺産。
香炉であるにもかかわらず、その香りを知る者は居ないと言われるガリアの秘宝。

“土のルビー”
同じくガリア王家に伝わる、王家の指輪。
ルビーであるにもかかわらず、まるで大地を表すかの様な茶色のルビー。

その2つを持つ者……無能王ジョゼフ。
杖を持つ右手の指に輝く土のルビーと、左手の中に納まっている始祖の香炉。

「……さあ、始めるとするか」

右手に持つ杖をまるで楽団の指揮者のように振り、詠唱を始める。
誰も居ない部屋で、ただ1人の男の声が響く。
そして杖を振り下ろす。

その先で轟音が響き、ジョゼフは静かに佇む。
やがて震え始め、深呼吸をする。

「これが、余の第三の力か……余の力は、何かと余の心を表しておるな」

愛用の大きな盤に歩み寄り、盤上のトリステイン領内を表す場所に置かれた5つの人形を、手に取ると、ラ・ロシェールを表す場所に置く。
少し騒がしくなった外を気にもせず、チェスの駒を取りナイト、ルーク、ビショップの駒を置く。
そして、荒々しく盤に手を叩きつける。

「さあ、白き国は奴等に何をもたらす!? 白き国の虚無の樹海は、どんな力を奴等に与えるかな? ……日がたつごとに楽しくなるな」

先ほど杖を振った先に置かれた銅像……があった筈の場所には何もなく、代わりに床に大きな穴があいていた。
ただ、最下層の丁度真下に当たる箇所に、大砲を撃ち込まれたにしては、不自然に真っ平らな大きな跡。
その中心に、延ばされたパイ生地の様に薄い金属の板があった事が、グラン・トロワの衛士たちに疑問を呼んだ。


Side サイト in ラ・ロシェール 女神の杵 食堂

最近保存食とか、そんなんばっかりだったから食事は楽しみだったりする。
目の前に並んだ料理は、随分と食欲をそそる香りを醸し出してくれる。
味の方も結構いけるから、食が進むこと進むこと。

「美味い、シャールさんもどうです? これおいしいですよ」
「私は肉は食べない主義なのだが……
「あっ、すみません」
「だが、好意を無駄にするのもなんだな」

シャールさんとはすっかり仲良くなり、今も隣の席で談笑をしてる。
ルイズもそうだけど、ギーシュもキュルケもコルベール先生も、仰天ともいえる表情をしていた。
代わりに、ロングビルさんことフーケは、上機嫌だったけど。

「しかし、君達は何でまたアルビオンに?」
「ロングビルさんがアルビオン出身で、何かと物騒だから人手が欲しいんだとよ」
「そうなのかい? だが、ミス・ロングビルはオールド・オスマンの秘書なのだろう? ならそれなりの……」
「いえ、お恥ずかしい限りですが、私は貴族の名を失ったものでして、そこをオールド・オスマンに拾って頂いたのです」

……本当は破壊の杖ぶんどる為にだって話だけど。
まあ、ヘタに正体ばらす訳にもいかんわな。

「そうか……確かに、家を取り潰される貴族は少なくはないからね。そうなれば盗賊や傭兵に身を窶すしかない以上、君は幸運かもしれないな」
「それは承知しております」

……さっきからこの人、やたらと俺やロングビルさんを見てるな。
それも、随分と嫌な感じの目で。

「時に、ヒラガ・サイト君だったかな?」
「え? はい」
「夕食後で良いんだが、僕と決闘をしてくれないか?」

俺を含めた、食卓を囲むほぼ全員の動きが止まった。
それを意にも介さず、ワルドさんは言葉を綴る。

「僕達魔法衛士隊を右往左往させた、土くれのフーケを撃退した程だ。僕としては、君がどれくらい強いのか興味がある」
「だっ駄目よ、私達はそんなことしてる場合じゃないでしょう?」
「そっそうですとも! 魔法衛士隊隊長ともあろう方が、いきなりなにを!?」
「ルイズ、ミスタ・コルベール、君達の言い分もわからない訳ではないが、僕の性分は厄介な物でね。強いか弱いか、気になると夜も眠れないほどなんだ。君さえよければだけど、アルビオン出向まで一日余裕がある」

あくまでにこやかにそう言ってるけど、どうもやな予感がしてた。
この人、どうもさっきから刺すような視線を向けてくる。

「おや、奇遇だね」
「カカカッ、食事は大勢で食う方が美味しい物だ。僕達も混ぜてくれないかな?」

それに割り込んできた、顔や手など見える部分は包帯で包まれた男。
そして……。

「っ! あの時の!」
「アルビオンに行きたいのなら、僕達のフネを用意するよ?」
「ただし行き先は、今や僕達の本拠地であるロンディニウム城だがね。カカカッ」


(あとがき)

ちょっと早いですが、第三章2話目です。
個人的な意見ですが、アルビオン編はこれからの展開を決める分岐点といっても過言じゃないので、かなり気を使って書いてます。
今まで読んだ2次小説でも、ある意味ここで後の展開が別れてますし。
色々と懸念することもありますしね。

本編でもアニメでも、ルイズの覚醒、アルビオンとの戦い、アンリエッタ姫の気持ち。
これらはすべて、アルビオン編からの分岐点ですし。
個人的にはアンリエッタ姫はタバサに次いで好きなので、正直色々と考えてたりします。


P.S
ジョゼフの第3の力ですが、オリジナルです。
多分どんなものかはすぐわかると思いますが、
ちょっと早いと思うかもしれませんが、基本的にガリアは本編より強くしますので。

オリジナルのガーゴイル、ベルゲルミルとスレードゲルミル
この二つですが、確かに某ゲームの影響です。
虚無の樹海の秘宝の名前の選別のために、色々調べてると神話の巨人にベルゲルミルとスレードゲルミル(本当はスルードゲルミルっていうそうですが)っていうのがあったので、使いました。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第3話
Name: 秋雨◆47235915 ID:fd5ee869
Date: 2008/10/30 06:28
「……何の用? 勧誘なら断ったはず」
「一度や二度断られた位で、諦めていられないさ。野放しにするには、あまりに危険であり魅力的だからね」
「カカカッ、まあそう言う事だ」

食事中だと言うのに、見たくもない仮面男が再度私達の前に現れた。
たかが傭兵といえど強引な手口を使っておいて、よくも飄々と。

「どうやら、友人と言う訳ではなさそうだな……一体誰なんだい?」
「おおっ、これはこれは。“閃光”のワルド様ではございませんか。カカカッ、こんな所で何をしておいででしょう?」
「休暇で婚約者と旅行に来ただけだ」
「旅行? 先ほどアルビオン行きのフネを手配していたようですが、内乱中の国に旅行とは随分と物好きですなあ? カカカッ」

この人達、ルイズ達の目的を知っている?
それにこの包帯の男、確実にスクエアクラス……最悪な事に、人を殺すことに快感を覚えて居る者の目をしている。
予想は出来ていたけど、相手が悪すぎる……それに、伏兵が居る可能性もある。

「まあまあ、そういきり立たないで。僕達としては、こちらのお2人達を傷つけずにロンディニウム城へお迎えしたいだけなのですよ」
「……やはり、アルビオン反乱軍だね?」
「ええ。もっとも、我らにはレコン・キスタと言うれっきとした名がありますがね。知らないのも無理もありませんが、いずれ世界中が知りますよ。カカカッ」
「あんた達が!? ラグース……」

杖を振り上げ、攻撃しようとするルイズをワルドが制した。
……はた目から見れば良い判断だけど、何かが引っかかる。

「待てルイズ、彼等は間違いなくスクエアだ。今の君では敵わない」
「でっでも、こいつ等の所為で……」
「落ち着くんだ。ここで戦えば、多少なりとも周りの者に被害が出る」
「くっ……」
「気の強いお嬢様だな。魔法衛士隊の妻として選ばれるだけの事はある」
「だが、身の程をわきまえる事だな。さて、話はこじれてしまったが……」
「帰って」

こういう相手には、誠意を見せる必要はない。
必要なのはただ一つ。

「少しは考えてくれてもいいだろう?」
「私は権力闘争が大嫌い、だからあなた達の手駒になる気は一切ない」
「しかしだね……」
「……言い直す。クロムウェルとか言う小物に騙される様なバカ揃いの集団に、興味は微塵もない」

相手の雰囲気が変わった。
なんやかんや言っても、やはり貴族らしくプライドはあるらしい。
……多少軽率だったかも知れないが、こうでも言わないと先に進みそうにもない。

「……少々口が過ぎますぞ?」
「私は権力闘争以上に、あなた達の様な自分勝手な欲の為に、他人を巻き込むことをなんとも思わない下衆が大嫌い。わかったなら帰って」
「カカカッ、言ってくれますなあ。そこまで言うのであれば、クロムウェル様の“虚無”で従わせる他ありませんね」
「……恥知らず」
「結構!」

仮面の男と包帯の男はそれぞれ、杖を構えるのに対し私もかまえる。
それを見て周りの客が逃げ出すと同時に地響き。
やはり、伏兵が居たらしい。

「どうやら、ゴーレムを使う者が居た様ですね。港の方へ逃げて下さい」
「そうですな。流石に数は勝れど分が悪い」
「確かに、僕から見ても同様だ。ルイズ、こちらへ」

年長組の意見には、賛成。
外の岩ゴーレムも、最低でもトライアングル……いや、スクエアはあるかもしれない。
どうやら、本腰を入れてきたらしい。

「なっなんでこんな事になってるんだい!?」
「危険な任務だって事はわかってたでしょう!? でもそれ以上に、どうしてあんた達アルビオンの無礼者に狙われてる訳!!?」
「彼等が欲の皮の突っ張った大馬鹿者だから……キュルケ」
「ええ。フレイム!」
「っ……!」

キュルケの号令でフレイムのはく炎を目くらましに、そのまま壁を破って脱出。
ルイズとギーシュとサイトが出遅れたが、サイトはガンダールヴの力で、ルイズはワルドのおかげで事なきを得て居た。
このまま一気に……

「おっお姉様~っ! 待ってなのね~!!」

「見つけたぞ」
「カカカっ、1人バカが居たおかげだな」

……後でお仕置き。
いや、この場合は反省にもすべきかもしれない。
そう考えていると、包帯の男が追い付いてきた。

「まさか、こうして君を追いかける日が来るとは思わなかったぞ。ジャン」
「っ!」

この人、ミスタ・コルベールの知り合い?
包帯男がブレイドをかけた杖で切りかかるのを、ミスタ・コルベールが迎え撃つ。
その横では、シャールと言うエルフと仮面の男が鍔迫り合いをしていた。
ミスタは未だかつて見せた事のない、北花壇騎士として何度も対峙した者の顔になっている。
戦い……いや、殺し合いを覚悟した者の。

「みんなは早く逃げろ! 彼は私が食い止める!!」
「先生、俺も……」
「今の君では、スクエアと戦う事は無理だ!」

そして懐に手を入れると、あの時の指輪の入った箱をサイトに投げ渡す

「コルベール先生!?」
「それを君に預ける。追いついたとき、必ず返してくれ!」
「先生!!」
「ダメ、サイト。今のあなたはおろか、私でも無理」
『マスター、辛いだろうが逃げるんだ。ここでいけば、コルベール殿の行為も無駄になる』
「っ……!」

サイトは辛そうにミスタ・コルベールの戦いを見て、それに背を向けて走り出す。
……手は思い切り握りしめ、歯をくいしばっている。

「ワルド様、戻って!」
「それは出来ない!」
「でも、使い魔を見捨てるなんて……」
「今我等が成さねばならない事はわかっているだろう?」
「いやよ! 離して、私は……」
「イル・ウォータル・スレイプ・クラウディ」

ワルドがスリープ・クラウドを唱え、ルイズは眠ってしまった。
岩ゴーレムの方は、フーケがゴーレムを使い食い止めている。

「とにかく、フネへ急がねば。君達も一緒に来なさい」
「いや、ここで別れる」
「何?」
「きゅい~っ!」

先程のどさくさで、シルフィードは元の姿に戻って居た。
その横には、彼が乗っていたグリフォンも居る。

「君達は風竜を持っていたのか」
「この通り、空の移動手段は確保してある。私達は私達の目的地へ、あなた達はあなた達の目的地へ向かうべき」
「しかし、僕達は一緒の方が……」
「あなた達には何か任務がある……私達は、すぐにこの場に戻るつもり」
「……そうか。では、また生きて会えることを祈るよ」

グリフォンに跨り、去っていく彼等を見送る。
そしてシルフィードに乗り、サイトとキュルケが乗ったのを確認する。

「飛んで。アルビオンへ向かう」
「きゅい」

遠目にゴーレムのぶつかり合い、そして火柱の立つのを背にラ・ロシェールを飛び立つ。
……もう一度、この場に戻る為に。

「おぉ~い! 待ってくれえぇぇ!!」

……今何か聞こえた?


Side コルベール

「久しぶりだな、フィル。君と最後にあってから、早22年か……」
「おや、覚えて居てくれましたか。隊長」
「忘れる訳がない……幼馴染であり、共にトリステインの明日を担うべく競ってきた者を、無実の罪で焼き払ってしまったのだからな。まさか、生きて居たとは思わなかった」
「ええ。幸か不幸か全身大火傷を負いつつも、こうして生きてました。一部ならまだしも全身大火傷でしたので、あの日からずっとこんな姿ですがね」

確かに、包帯の隙間から焼け爛れた痕が見える
私の刻みつけた罪の刻印が、今もなお残っている……。

「僕がレコン・キスタに参加した理由はわかるでしょう? 共和制であれば、僕はこんなことにはならなかった」
「だが、こんな力尽くのやり方を続ければ、余計な怨念を増やすばかりだ!」
「荒んだ血と風習にとらわれる王制の続く限り、あなたの知らない所で増えているのですよ。これはいうなれば、産みの苦しみと言う奴です」

やはり、私の願いはこの世界では常に吹き飛ばされるか。
……だが!

「そのために無関係な子供まで狩りだそうなど、許されて良い訳が無い!」
「その犠牲を少なくする為にも、彼等が必要なんですよ。最強の使い魔と、それを従えるメイジ……その力を手に入れれば、避けられる戦いもあるかもしれない」
「力で解決するのでは同じだ! すまんが、私の教え子に手を出すと言うのであれば!」
「ならば、あの時の屈辱と嘆きを込めた炎で……貴様を焼き殺してくれる!!」

私の杖を炎の蛇が纏い、フィルの杖が昔見なれた黒い炎に包まれる。
……本当に皮肉な物だ。
だが、ここで終わる訳にはいかない!


Side フーケ

ボウヤ達が逃げるのを確認し終わると、対峙する岩の様な体のメイジに目をやる。
あたしより大きい岩ゴーレム、それにパワー負けしてる事からもスクエアね。

「お前が土くれのフーケか? 成程、小生のゴーレムと渡り合うか?」
「生憎、これでも結構危ない橋渡ってきたんでね! スクエア相手だろうがこれくらいやれなきゃ、とうに死んでるさ!!」
「結構!! 我が名はダイン、二つ名は“鉱山”だ! 土塊のフーケ、いざ尋常に勝負!!」
「戦闘狂かい!? ったく、つきあってられないよ!!」

『ゴォォオオオオオッ!!』
『グオォオォオオオッ!!』

あたしのと、ダインとか言う奴のゴーレムがぶつかり合う。
多少ぐらついたけど、これ位のハンデ普通にあった。
あたしのゴーレムを掴んでいる腕を伝って、ダインに接近して杖にブレードをかける。
相手も杖にブレードをかけ、それをはじく。

「へぇっ、接近戦もお手の物かい?」
「わが二つ名は“鉱山”! 名前負けをするようでは、メイジ失格だ!」
「そうかい!」


Side シャール

「やれやれ、運がいいのか悪いのか、エルフのガンダールヴと当たるとはな」
「……私をエルフと知って居るのか?」
「もちろん、我等の情報網は非常に優秀でね」

変化の力を解除し、デルフリンガーを抜く。
……この男、相当の使い手。

「退いてくれ、我らエルフは戦いを好まない」
『おうおう、エルフらしい意見だなあおい』
「ならば聖地を渡す事だ。そうすれば、お前達の嫌いな戦いは起こらない」
「それは出来ない。あの場所は人の手に触れてはならない」
「ならば無理だな。さあ、聖地奪還の前哨戦と行くか」

……やはり、サイトと同じとはいかないか。
だが、そう簡単には諦められん。


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「そうかそうか、宴は始まったか!」
「現在、“煉獄”にはコルベールと言う男、そして“鉱山”にはフーケが対峙。そして奴等は、アルビオンへ逃走しました。恐らく虚無の樹海へと向かうでしょう」
「っ!」

ジョゼフは像を置き、思い切り盤に両手を叩きつける。
しばらく微動だにしなかったが、それからゆっくりと震え始める。
そして、狂ったように嬉しそうな笑い声をあげ始める

「……ふははっ……ははっ……はーっはっはっはっはっは!! そうか、虚無の樹海か!? ミューズ、アルビオンに向かう間のみ他へ向かおうとしたら攻撃する事を許そう!! 奴等を虚無の樹海に向かわせろ!! 余に奴等のみが手にする新たな力を見せてくれ、何としてでもだ!!!」
「御意」
「ああっ、どんな力だ!? 俺を叩き潰してくれるほどか!!? ああっ、堪らん! たまらん堪らん堪らん堪らん堪らん堪らん!!!」

握りつぶす勢いで5つの人形のうち3つを手に取り、アルビオンへ置く。
盤から離れると、ワインの瓶とグラスの置かれたテーブルへと歩みより、ワインの瓶をつかみ、そのまま飲み干す。

「力を得ろ!! 得て俺を壊してくれ!! 蹂躙し、嬲ってくれ!!! ああっ……早く得てくれ!! 頼む、楽しみで壊れてしまいそうだ!!」


(あとがき)

ふと思った事ですが、本編では風竜と火竜、風石と火石があります。
水竜に土竜、水石に土石? とかってないのかな?

まあ、水の場合は水の精霊に秘薬と、結構目立つものありますが。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第4話
Name: 秋雨◆47235915 ID:bd0ea32f
Date: 2008/11/01 21:53
ラ・ロシェールを脱出した後、俺とタバサとキュルケは、シルフィードに乗り一路アルビオンを目指していた。
空はまだ暗く、2つの月明かりはいつもと変わらない。
……だけど、俺達は違う。

「とんだ旅路になっちゃったわね。コルベール先生とフーケ、大丈夫かしら?」
「……今は信じるしかない」
「……」

先生から預かった指輪を眺める。
……あの時の先生の顔は、今まで見た事もないような険しい表情。
俺の世界に行きたいと言ってくれた時の顔とも、俺にこの世界の文字を教えてくれた時の顔とも違う。
……多分あれは、魔法研究所実験小隊とやらに居た頃の、先生の顔だったのかもしれない。

「それで、これからどうするの?」
「……奇策は通用しそうにない。あの仮面男はかなりの使い手、それもユビキタスだった」
「包帯男の方もよ……あんな禍々しい炎、始めてみたわ」
「……殺戮を楽しむ類の目をしていた。根本的に私達とは違う」

殺戮を……理解できねえよそれ。
なんだよ、人を殺すのが楽しいってか!?

「……サイト?」
「ん? ああ、何?」
「大丈夫? ずっと震えてる」
「ああ、大丈夫……」

……初めて、死ぬ事へのを感じたような気がする。
普通の家の、普通の環境の、普通の子供として育った俺に、今まで命の危険ってあったか?
死ぬかも知れない……そう感じた事ってあったか?

……ないよな。
精々交通事故位で、テロとかに巻き込まれる事なんてよっぽどの確率でしかない。
この世界じゃ、たくさんの人が戦って、傷ついて、死んでるのかよ……。

「……見えた」
「え?」
「あそこ」

タバサの指さした方向の遠くに、ぼんやりと何かが見える。
雲? ……の上に、島?
月のうっすらとした光の中で、雲の上に聳え立つ島
……あれが、アルビオン。

「あれがアルビオンか……すげえ、本当に空飛んでる。というより、何か雲の上に乗っかってるって表現の方が正しい気がする」
「そうね。あたしもアルビオンなんて初めてだけど、すごいわ」
「方角的に、今向かっているのはロサイスに当たる箇所。そこから北へ行くと、サウスゴータ地方に出る」
「サウスゴータ……そこが、俺達の目的地であり、虚無の樹海がある所」
「そう……っ!」

何かを見つけたのか、タバサの顔が変わった。
そのアルビオンのある方向から、何かが……フネ?
見間違いじゃなかったら、フネが2隻こっちへ来てる。

「おい、あのフネ……こっちに向かってきてないか?」
「向かってきてる……しかもあれは、戦艦」
「っ! ちょっと待ってよ……片方って確か、アルビオン艦隊旗艦ロイヤル・ソヴリン号じゃない! なんで……」
『ああ、今じゃレコン・キスタの旗艦になっちまってるって話だな』
「え? ちょっ、じゃあ!」

2隻とも、こっちに向けて大砲を撃ってきた。
おーっ、この世界にも大砲あったのね。
……なんて普段なら思うだろうが、ぶっ放された側じゃのんきにそう言ってられねえ!
外すようにはしたらしいけど、相手側のみえる限りの大砲は全部こちらを向いている。

「シルフィード、大丈夫か!?」
「きゅい、ちょっとビックリしたけど大丈夫なのね。お兄様達は?」
「ああ、平気だ」
「……対応が早すぎる。待ち伏せされていた?」
「最悪だわ……」

フネを見ると、何か幾つか旗が立てられてた。
そういや、旗の信号でやり取りするってのあったな……こっちにもあったのね。

「なんか、旗を出してるわよ?」
「あれは降伏勧告……私は拒否する。ここまで恥知らずな事をされて、屈伏する訳にはいかない」
「でっでも、どうするのね!? あんな数の大砲が撃たれたら、よけきれないのね!!」


Side レコン・キスタ In レキシントン号甲板

「よし、威嚇はもういい、降伏勧告を出せ。竜騎士とベルゲルミルは使用するな、直接出すのはメイジのみだ」
「了解!」

艦長である、サー・ヘンリー・ボーウッドの指令を受けた兵が外に出て行く。
その隣で、その手腕を見ていたクロムウェルは満足そうに笑う。

「いきなり改装の予定を早めるとは何事かと思いましたが、まさかこんなこととは……」
「……なにやら、先ほどから難しい顔をしているな?」
「当然です。ロイヤル・ソヴリン号を……」
「レキシントンだ、ミスタ・ボーウッド」

ボーウッド艦長の言葉を遮り、クロムウェルは指摘する。
苦虫を噛み締めたかのような顔になると、ボーウッド艦長は敬礼し謝罪する。

「……そうでしたな。レキシントン号に加え、新型艦を子供二人の捕獲に使うなど……」
「必要なのだよ。彼等の事は話した筈だが?」
「……それが本当だとしても、こんなやり方が……!」
「些細な事だよ。このハルケギニアを我等レコン・キスタの旗の元に統一し、新たな秩序を齎す為のほんの些細な事だ。彼等が我等を拒む以上、これは仕方のない事なのだよ」

そう言い放つクロムウェルに嫌悪をするが、ボーウッド艦長は前を向く。
クロムウェルは、右手に嵌った指輪を優しく撫で、自らの標的を見据え口元を歪めた。


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「まさかロイヤル・ソヴリン級及び、新型艦を出してくるとは流石に予想外であったよ。あのろくでなしも、意外と楽しませてくれるじゃないか」

ラ・ロシェールを表す地点から、3つの人形をアルビオンの近くを表す地点に置き換える。
その近くに、キングの駒と、クィーンの駒を置く。

「現在アルビオン付近の空域で、戦闘が行われております」
「はっはっは、それはいい! 奴等に勝機があるとすれば、竜剣バハムートをいかに上手く使うか……それがカギやもしれんな」
「……私もそう言う見解でございます」
「だが、これまでシャルロットは我等の予想を、ことごとく裏切ってくれた。それに加え、竜剣バハムートの力は、未だにわからぬ事が多い……ミューズ、次の連絡は秘宝の力のみ報告する事を許す」
「御意」

像を置き、ジョゼフは王座へと歩み座る。
そして“始祖の香炉”をとりだし、ゆっくりと撫でる。

「まあ、わからぬ事が多いのは余も同じ事。次は4つ目だ……さて、どんな力かな?」

コンコンッ!

「ん? ……入れ」

“始祖の香炉”をポケットにしまい、深々と王座に座る。
研究者のローブをまとった男が入ってくると、ジョゼフは表情を崩した。

「おお、お前か? スレードゲルミルは?」
「先ほど、完成しました。お披露目は、明日の朝に……」
「今すぐだ! 今すぐ用意せよ、そんな事を聞いてはいてもたっても居られん!! どこにある!!? すぐに見せろ!!!」


Side タバサ in アルビオン空域

こちらの方が小回りがきくといえど、破壊力は向こうが上。
流石にハルケギニア随一を誇る、アルビオン空中戦力の旗頭を務めるだけの事はあるフネ。
それに加え、乗組員も相応に鍛えられている。
サイトの事を警戒してか、こちらの射線軸に重ならないよう陣形を崩さず、竜騎士も出さずただ砲撃。

「もうっ、どれだけ弾積んでる訳!?」
「恐らく、竜騎士を積む代わりに砲弾を積んでいる様子。砲台も恐らく新型、これだけ離れている距離を狙えるなんて……」
「おい、大丈夫かシルフィード!?」
「大丈夫なのね」

強がっては居ても、シルフィードも限界に近い事はわかっている。
でも虚無の樹海でも待ち伏せてる可能性がある以上、1発しか撃てない覇竜はダメ。
……どうする?

「シルフィード、聞きたい事がある」
「きゅい?」

私の予想が正しければ……

「きゅい、出来ない事もないのね」
「お願い、ここで覇竜は使えない」
「わかったのね」

シルフィードを降下させて、下にある大きな雲に突っ込む。
……シルフィードが韻竜だと知られていなければ、恐らくは。


Side レコンキスタ in レキシントン号

「っ! 雲の中に!?」
「どうした、ミスタ・ボーウッド? 早く撃て」
「あれでは、どこにいるかわかりません。捕獲目的である以上、その命令は実行できません」
「ならば、早く見つけるのだ。このまま虚無の樹海に……」
「その心配はありません。あの雲の質量と配置からして、我等を欺きサウスゴータへと向かうには小さ過ぎ、遠過ぎます」
「ならば仕方無いな」

嫌悪感で内心一杯だが、ボーウッド艦長は顔に出すのをこらえメイジ達に遠見の使用を命ずる。
そこへ……。

「見つけました! サウスゴータ地方へと向かっております!!」
「奴等は本物か!?」
「はい、間違いありません!」
「総員、出立準備! 目標を見失うな!!」


Side タバサ in ロサイス

「上手くいったな」
「それにしても、先住魔法ってあんな事も出来るのね」
「きゅいきゅい、あれ位なら知恵の竜の眷属のシルフィードならお茶の子さいさいなのね」

私はまだトライアングルであり、ユビキタス・スペルは使えない。
そして、スキルニルも持っていない……だが、この二つの方法ではディテクト・マジックか、その力を持ったマジックアイテムで、簡単に見破られてしまう。
……だから、シルフィードの先住魔法で私達のコピーを雲で作り、サウスゴータ地方に向かわせ、振り切ろうとさせるように仕向けた。
先住魔法は、根本から私達の系統魔法とは違うから、ディテクト・マジックでは見抜けない。

「調子に乗るようでは、まだまだ二流」
「でも助かったよ、ありがとな」
「きゅい♪」

とにかく、早く虚無の樹海に向かおう。
幾らなんでも、そういつまでも騙せる物じゃない。

「でも、そういつまでも騙せる訳ではない。急いで馬を調達する」
「ああ、急ごう」


Side レコン・キスタ

「見失っただと!? 何をしていた!!?」
「わかりません、遠見でとらえていましたが急に雲に変わったかのように……」
「そんなバカな……確認はしたはずだろう!?」
「その筈です。あれが偽物である訳がありません!」
「訳が無いならなぜ消える!? なぜ痕跡も残らない!!?」

これまでの落ち着いた態度から一転、クロムウェルは遠見を使用していたメイジ達に怒鳴り散らす。
ボーウッド艦長は呆れつつも、それを抑える。

「まずい……まずいぞ、このままでは……」
「落ち着いてください。指導者が取り乱しては、士気に関わりますぞ」
「直ちに虚無の樹海へ向かうぞ!!」
「待って下さい! このフネ程の大きさの物が虚無の樹海に近づけば、樹海の幻獣達を刺激します!! いくらレキシントンといえど、樹海の幻獣相手では敵いません!!」
「ぐっ……うううっ……ならば、至急連絡しサウスゴータ地方に奴等の人相をバラまき、探させろ!! 報奨金は100万エキュー出す!!」

ボーウッド艦長は、いずれこの男は必ずや瓦解する事を確信しつつ、指示を出した。
……一種の覚悟を決めると同時に。


(あとがき)
前回出した疑問ですが、言いたかったのは確かに地竜のつもりです。
土竜はなかったな……言われて気づいたけど。
アンドバリの指輪に、ティファの指輪……さすがに気付かなかった。
貴重な意見ありがとうございます。

さて、次はどうするかな?
では、面白いと思ってくれた方々は、次回も面白いと言っていただけるよう頑張ります。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第5話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2008/11/08 21:13
「いたぞ!!」
「こっちだ!!」
「逃がすな!! まわりこめ!!!」

見つかる事、早10回目。
ロサイスを抜け、サウスゴータ地方……つまり、俺達の目的地がある地方に入って、はや数時間。
その間に夜は明けるどころか、昼になろうかと言う時間になっていた。
それと言うのも……

「ふぅっ……やっとまいたわね。全く、しつこいアプローチは嫌われるってわかってるのかしら?」
「……人海戦術は基本。でもそれだけに、基盤である味方の数が揃えばこれ以上ないほど恐ろしい武器となる」

「おい、あれ!」
「ああ、間違いない! おーい、お尋ね者だ!!」
「何!? 捕まえろ、一生遊んで暮らせるぞ!!」

「だーっ! またかよ!?」
「きゅいきゅい、逃げるのね!!」

どうやらあのバカ集団は、俺達の人相をばらまいて100万エキューと言う破格の賞金を懸けたらしい。
そのおかげでレコン・キスタどころか、サウスゴータの住民全員が俺達の敵となっていた。
馬で行こうものなら、即座に発見され取り囲まれ……おまけに、あのロイヤル・ソヴリンとか言うバカでかい戦艦も飛び交ってる為、シルフィードでの飛行も出来ない。
幻獣の巣でもあれば、ヴィンダールヴで何とかできるが……いかんせん、そう都合のいい地点などそうそうない。
おかげでこの数時間、追われて隠れて見つかって逃げて、のサイクルの繰り返し。

「ようやく逃げ切れたか……げに恐ろしきは、金の力だな」
「……確かに」
「はあっ……これじゃ、虚無の樹海に近づけてるのかそうじゃないのかも全然わからないわ」

生まれて此の方、俺はメシも食わず走りまわるなんて真似は……結構してきたな
でも、捕まるとレコン・キスタの馬鹿どもの手駒にされかねない以上、必至だ。
……それはいいけど、腹減ったなあ。

「きゅい~っ、これじゃ昼ごはんも食べられないのね~!」
「ばっ、しーっ!」

「居たぞ!!」

……鬼ごっこ再開。
虚無の樹海まで、あとどれ位かな?

「……後で教育」
「ぎゅい!!?」


Side レコン・キスタ in レキシントン号 甲板

「まだ捕まらんのか!?」
「ええ、所々で目撃情報はありますが、未だに……」
「急げ!! 奴等がサウスゴータに入ってしまった以上、何としてでも見つけ出しとらえるのだ!!」
「落ち着いてください。喚いても……」
「君は事の重大さを分かっていないのか!? 我等の息がかかっていない奴等に、新たな力を手にさせてはならん!! 奴等はこのオリバー・クロムウェルの手駒とならねばならんのだ!!」

……彼の小物振りに呆れ果てたボーウッド艦長は、我慢の限界へと近づいていた。
それと同時に、怒りが湧いてくる。

もはや、後世の歴史学者への恥さらしも良い所だ。
どんなに強い力を持とうが、子供相手に戦艦を2隻も使うだけではなく、サウスゴータ全域にまで手をまわす。
戦艦と言ってもそんじょそこらのではなく、無双と名高きアルビオン艦隊旗艦ロイヤル・ソヴリン号をだ。
しかもそれに加えて、新型艦サンティアゴ・マタモロス号まで出す始末。
……幾らなんでも、恥知らずにも程がある。

「ああっ……もう良い! 奴等の目撃情報があった場所を全て焼き払え!!」
「っ!? クロムウェル様、幾らなんでもやり過ぎです! 相手は強大な力を持っていようが、まだ子供ではありませんか!」
「なんだ、軍人でありながら政治に口出しするか?」
「子供相手に軍艦を引っ張り出し、お尋ね者にして追い回す事のどこが政治だと言うのですか!? その上、目撃情報があった場所を全て焼き払う等と言う恥の極みを、命令する訳には行きません!!」
「我等はいずれ、聖地を取り戻すのだ。たかがそれ位の事を……はぐぁっ!!」


Side タバサ in シティー・オブ・サウスゴータ 近郊

時刻は夕暮れになり、私も皆は疲弊しきっていた。
それもそのはず、アルビオンに到着してから食事も休憩もろくにとれず、彼方此方走りまわらされているのだから。
追い回され続け、ようやくシティー・オブ・サウスゴータが見えた。
……その上には、忌々しい事にロイヤル・ソヴリン級と、恐らくレコン・キスタが造った新型艦が鎮座している。

「追手は?」
「ない」
「……いくらなんでも、ここまでやるか普通?」
「相手が恥知らずのゴミ以下である事は、百も承知」
「何気に、タバサも怒ってるわね」

ハルケギニアでも無双と名高き、アルビオン艦隊の旗艦。
対抗できるのは、ガリア自慢の両用艦隊バイラテラル・フロッテしかないと言われる……。

「……あの2隻さえどうにか出来れば、シルフィードが使えるのに」

奴等に砲撃はない……とは、とても思えない。
今までの事を考えれば、それを無視してあの時の様な砲撃をやりかねない……いや、絶対やる。
私はこの程度慣れてはいる……でも、サイトもキュルケも疲弊しきっている。
殆ど不眠不休の飲まず食わずで、1日近く……無理もないかもしれない。
どうする……?

「っ! 戦艦から……」

シティー・オブ・サウスゴータに鎮座していた2隻の戦艦が動き出した。
こっちに気付いた?

「くそっ……こうなったら!」

サイトはバハムートを構え、いつでも撃てるように構える。
ルーンの光は弱々しく、とてもあんな戦艦を落とせるような威力など、とても望めない。
何より、平和な世界で育ったサイトに、人殺しなどさせたくなど無い。

「待って! あれは……」

レコン・キスタの紋章が描かれた旗が落とされ、代わりにアルビオン王家の旗が立てられる。
……これを意味する事は。
だけど、私達を油断させる策かも知れない。

「なんだ? どうしたんだ?」
「普通に考えれば、戦艦の離反。悪く考えれば、私達を誘き寄せるえさ……動向に気をつけて。あの戦艦がみえなくなったら、シルフィードで飛ぶ」
「了解なのね」


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「成程な……ヒラガ・サイトとシャルロットに試練を与えたまではよかったが、功を焦り過ぎたようだな」
「所詮は俗物。ジョゼフ様が御気になさる事ではありません」
「誰があれしきを気にとめた? 俺が気にするは、ヒラガ・サイトとシャルロットのみ」
「……御意。ですが、まだレコン・キスタには利用価値があります。それを使い、奴等に新たな試練を与えましょう」
「そうしてくれ」

像を置き、3つの人形を取り囲むかの様に置かれた駒を、全て掴みとる。
そして杖を持ち、詠唱を始める。

「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……」

そして詠唱が終わると同時に、小規模な爆発が起こり駒全てを粉微塵の粉砕した。
ポケットに入っている“始祖の香炉”を取り出し、語りかける。

「さて、いよいよ虚無の樹海か……さて、どのような物が眠っておるのであろうな? その時お前は、一体余にどんなプレゼントをしてくれるかも実に楽しみだ。奴等の力は、俺の心を震わせ、2つもの力を与えてくれた。ならば、必ずや4つ目も得られる筈」


Side レコン・キスタ in ロイヤル・ソヴリン号 倉庫

「ぐっ……くそっ、奴め。裏切りおって……」

指輪を始めとする全ての装飾品を没収された上で、手足を縛られるクロムウェル。
所々に殴られた個所があり、その場に放り込まれる前に何があったかを鮮明に語ってくれる。

「何とか脱出せねば。そして、ロンディニウム城に……」
「あらあら、手ひどくやられたわね」

声のする方を見てみると、ハルケギニアとしては珍しい服をまとった女性。
クロムウェルはその女性を見て、喜びを見せる。

「おおっ、シェフィールド殿! 助けにきてくれたのか? ありがたい」
「助ける? まあ、そうね」
「早く縄を解いてくれ。そして指輪を……」

ドンッ!

「ごふっ! ……なっ何を?」
「助けには来たわ。でもね、もうある意味用済みなのよ」
「え?」

銃を持つのとは反対の手をつきだす。
その手に光る指輪を見て、クロムウェルは顔色を変えた。

「そっそんな……やめてくれ! こんな所で……」
「ロイヤル・ソヴリンを動かしたのはよかったけど、そこからが良くなかったわ。じゃあ、ある意味さようなら」

倉庫で銃声が響いた。
駆け付けた船員がそこで見た者は、大量に流れたと思われる程広がった血痕だけ。
その部屋に囚われていたはずのオリバー・クロムウェルは、影も形もなかった。


(あとがき)

アルビオン編において、大きな分岐点となるのは一体どこなのか?
というのを考えました。
基本的に、レコン・キスタのアルビオン制圧、ウェールズの死、そしてタルブ襲撃だというのが、個人の見解。
原文とオリジナルの配分を間違えないよう気をつけつつ、次もまた頑張ります。


ついでですが、戦艦出したのに指摘が来なかったのはちょっと驚き



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第6話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2008/11/16 20:02
あれから2日が過ぎた。
結局、あの2隻は本当に反乱をおこしたらしく、王党派に合流したとの事。
昨日分かった事だけど、俺達の手配も白紙になったらしい。

「きゅいきゅい、心地いいのね」
「この2日お風呂に入れなかったから、余計にね。あー、さっぱりするわ」
「……ん」

ちなみに今現在女性陣(人型シルフィード含めて)は、休憩を兼ねて虚無の樹海付近の湖で水浴び中。
そんな素晴らしい光景が広がっているであろう湖が見えないように、俺は木の陰で先生から預かった“炎のルビー”を眺めてる。
考える事は、全部ここに来てからの事ばかり。

タバサの使い魔として召喚され、伝説の使い魔すべての能力を持った最強になった事。
トリステインの虚無の樹海で手に入れた、竜剣バハムートの事。
魔法学院で地下水の乗っ取られたギーシュとの決闘と、土くれのフーケの襲撃の事。
タバサの実家と境遇、無能王ジョゼフとの因縁の事。
やたらと貴族の方々に嫌われ、投獄されかけた事。

『思い出の回想か?』
「なあバハムート、お前俺の嫌がる事が楽しいか?」
『そう言う訳ではないが……確かに、悪趣味だったな』

……続き続きっと。
それから、アルビオンに向けて出発。
その道中で仮面野郎に出くわし、レコン・キスタが俺達を引き込もうとしてるのがわかった。
それから、ダングルテールって村の跡地でコルベール先生の過去を知った。
その時、コルベール先生はこの指輪を罪の証として……。

「……なあバハムート、ちょっといいか?」
『その指輪の事か?』
「ああ、お前見覚えあるみたいだし、コルベール先生がこれ持ってるのすげえ驚いただろ? 何で何だよ?」
『……そろそろ話すべきかもしれんな』
「え?」

「きゅいきゅい、お兄様!」

話の途中だったけど、水浴びから上がったらしいシルフィードが、俺に飛びついてきた。
当然だけど全裸で、素晴らしい一時を……。

じーーっ!

……もとい、公衆道徳的にまずい事をしてくださいました。
当然タバサの鉄槌ならぬ、木の杖がシルフィードに降りかかる。

「痛い! 痛い痛いよう!」
「人間時、裸で抱きつく事は駄目だと何度言えばわかるの?」
「きゅい~、服嫌いなのね! お兄様のあったかさが邪魔されるのね!」
「人間になるなら、人間らしくするべき」
「きゅい~……」

「あらあら、タバサも大変ね」

……キュルケ、そう言うならせめて緩み切った顔を何とかしてくれ。
まあ良いや、俺もさっさと水浴び&洗濯しちまおう。

「それじゃ、俺もさっさと水浴びしてくるよ」
「きゅいきゅい、じゃあシルフィも……」

ボグッ!! ボグッ!! ボグッ!!

「痛いよう! 痛い痛い!! お姉様、痛いのね!!」
「あなたは教育のやり直し。人間社会と言う物、特に公衆道徳と言う物を徹底的に洗脳する」
「ぎゅい!!?」
「ちょっと待て! 今不吉な単語が聞こえたぞ!?」
「サイトは早く水浴びと洗濯を済ませて」
「……はい、ご主人さま」

……すまんシルフィード、無力な俺を許してくれ。

「……というか、俺達逃亡者の筈なのにこんなのんびりでいいのか? さっきまで不眠不休の飲まず食わずで気を張りまくりだっただけに、すっごい不安なんですが」
『もう奴らには近づけん領域にまでいるのだから、いいのではないか? それにいざと言う時マスターが倒れたりしたら、即座に幻獣どもの餌だぞ?』
「確かにそうだけど、でもコルベール先生たちの事も」
『心配なのはわかるが、彼らならば後れは取らんだろう。信じてやるのも、大切な事だ』

In ロンディニウム城

現在レコン・キスタの本拠地となった城。
その城の会議室にて。

「はい、奴等はもう虚無の樹海とは目と鼻の先です」
「そうか。王党軍の動きは?」
「ロイヤル・ソヴリンとサンティアゴ・マタモロスの2隻が向こうに渡った後、西部および北部を奪還されました。こちらの新装備が実装されている事もあり、こちらの空中戦力ではまず敵いませんね」
「離反か……チェスでは味わえん状況だな。さてミューズ、お前はその玩具どもで何をするつもりだ? 最早お前の顔を知る者は居ない訳だが」
「そろそろ、狼煙を上げる時期と存じます」

ミューズと呼ばれた女は、口元を歪める。

「狼煙? 何やら面白そうだな」
「それゆえに、早急にスレードゲルミルを送っていただきたく存じます。私はしばらくアルビオンにとどまります故、これからは奴等と接触する事も必要と存じます」
「期待しているぞ」

通信を終えると椅子に腰かけ、まるで白の主を思わせるかの様に振る舞う。
そして、血が飛び散り死体が幾つか横たわる無残な光景が広がる中、右手を掲げる。

「蘇りなさい。我が主、ジョゼフ様に、私の忠義を刻みつける為の生贄たちよ」

右手の指の指輪が光り、屍が一斉に動き始める。
そしてミューズと呼ばれた女の後方には、数体のガーゴイルが控えて居た。

「ヒラガ・サイト、そしてシャルロット姫。ジョゼフ様が望む戦いの場に立つ資格があるかどうか、見極めさせて貰う」


Side サイト in 虚無の樹海

あれから虚無の樹海に入って、早半日。
2回目といえど、やっぱり落ち着かないのも事実。
だって、普段見る獣とか幻獣とかとは、明らかにレベルが違う高位幻獣ばっかりで。

『来たれ』

バハムートの声とは質が違うけど、やっぱり俺とタバサにしか聞こえない声が響く。
これもやっぱり、樹海の秘宝の声かな?

「なあバハムート、これってやっぱり秘宝の声か?」
『いや、全てが全て我の様なインテリジェンスと言う訳ではない。確かにトリステインの樹海でマスターたちを呼んだのは我だが、我等の創造主が遺した声で導く声である場合もある』
「創造主? 一体誰なんだよ?」
『……秘宝が手に入ってから話す。無論、全てをな』

全て……か。
考えてみれば、こいつって気難しい上に何かと隠してくれちゃってるから、やりにくかったんだよな。
本来ならありえないって話の、最強の使い魔になった俺。
風系統の魔法の使い手であるタバサが、俺を召喚したっていう事実。
何一つ、わからないんだよな。

「それで、ここには一体何が眠ってるの? バハムートは知ってるんでしょ?」
『ああ、だがそう急く事はない。もうすぐわかるさ』
「折角なんだから、教えてくれてもいいじゃない」
『なら、タバサ殿の手に渡るとだけ言っておこう』
「私の?」

タバサがきょとんとした顔(見た目的に特に変化はないけど)で、バハムートを見た。
俺としても、確かに意外だったけど。

『そうだ。まあ入ってみればわかるさ、もうすぐだ』

『来たれ』

……さて、俺達を一体何が待ち受けているのやら?


in ラ・ロシェール

サイト達が虚無の樹海に入る、2日前に遡る。
ラ・ロシェールでは、幾多もの火柱が立ち、ゴーレムが殴り合いをし、閃光がほとばしっていた。

「カカカっ、炎蛇の名はまだまだダテにはなって居ないようですね。それでこそジャンだ」
「いい加減、ダテにしたい物だよ。私はもう、人を傷つけたり殺したりは嫌なのだから」
「無理ですよ。どんなに足掻こうと、あなたは“炎蛇”という二つ名を拒絶する事は出来ない。この世界では、戦わないメイジに価値などないのですから」
「ああ、その通りだ。悲しい事だがな」

火柱がほとばしる地点では、杖を起点として炎の蛇を体に巻きつけて居る、頭の寒い男。
そして対峙しているのは、杖から黒い炎を噴き出させる、全身包帯に包まれた男。

「はっはっは! 正攻法ではないとはいえ、流石に名が知れ渡るだけはあるな! 土塊のフーケ!!」
「それはどうも! それに免じて、さっさと逃げるかしてくれない?」
「そうはいかんな!」

ゴーレムが対峙している場所では、それぞれのゴーレムの肩に乗るメイジが2人。
長い黄緑色の髪をたなびかせる、土くれのフーケ。
そして、鉱山と呼ばれるに相応しい、まるで岩の様な体を持つメイジ。

「くっ……はははっ、流石はエルフ。始祖より聖地を奪い、今もなお我等に牙をむく邪悪なる種族よ!」
「その言葉、撤回していただこう。我等は争いは好まぬ、争いを仕掛けるは常にお前達だ」
『無理だよ相棒、言葉でわかるんならとっくにわかりあってるぜ?』
「だが、やらねば成されん!」
「その通り! だからこそ、我等が聖地を取り戻すのだよ!」

仮面のメイジの軍杖と、エルフと呼ばれた男の剣がぶつかり合う。


(あとがき)

さて、今回も読んで下さいましてありがとうございます。
最近は寒くなり、周りで風邪がはやってきてますので、皆さん御身体には気を付けてください。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第7話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2008/11/26 00:02
虚無の樹海の、秘宝が眠る領域に入って、早3時間。
バハムートの時は、ただ手に入っただけだから今回もと思ったけど……。

「試練?」
『そうだ。秘宝がインテリジェンスではない場合、試練が待ち受けている』
「インテリジェンスじゃない場合って、どうして?」
『わかりやすく言えば、その力を得るに相応しいかを見極める必要があると言う事だ』
「見極めるって……ああっ、そう言えば」
『我もまた、我が認めし者でない限りは使いこなす事は不可能。そう言う事だ

難儀な事で。
さて、その試練とやらはタバサのみで行うものであり、俺とキュルケとシルフィードはお留守番。

「ねえ、タバサ大丈夫なの?」
『死ぬような事はない。失敗した時点で、ここに戻されるだけだ』
「……」
『マスター』
「わかってるよ。信じてる……信じてるけど」

タバサを守りたいって公言しちゃった俺としては、すんごいもどかしい訳ですよ。
コルベール先生たちも心配だし、ここを出たって先生たちと合流しないとどうにもならない。
……つくづくもどかしいよ本当に

In ラ・ロシェール

サイト達が虚無の樹海に入る、2日前にさかのぼる。
朝日が昇り、所々に焼け跡に踏み潰されたような跡が刻まれている。

「はぁっ……はぁっ……」

額から汗が滴り落ち、所々にやけどを負っているコルベール先生。
土埃まみれでありつつ、所々に打撲跡が残るフーケ。

「流石にスクエア相手はつらいね」
「ならば、奴等に下るかね?」
「冗談! ここまであのボウヤ達を連れてきた以上、あたしにも責任があるんだ!」


「ぐうっ!」

そこへ、吹き飛ばされた仮面の男が割り込んでくる。
それを追って、シャールもまた剣を構えたまま仮面の男と対峙する。

「もう勝負はついている。お前では私に勝つ事はない」
「そう言われてはいそうですかと引き下がれ……」

その時、仮面にひびが入り、真っ二つに割れる。
それも断面はまっ平らで、崩れる事もなく。

「っ!? しまっ……」

あわてて顔を隠すが、そうするにはもう遅すぎた。

「なっ!」
「あんた……どうして!?」
「やはりな……一目見たとき、そしてお前を纏う風に覚えがあった」
「纏う風……か。エルフとは、随分と多感な物なのだな」

顔を隠すのをやめ、マントを脱ぎ棄て対峙するその仮面の男。
……いや。

「ワルドどの……何の冗談ですかな?」
「冗談? まあ、バレた以上仕方が無いな。そうさ、私はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドのユビキタスであり、レコンキスタに名を連ねる者さ」
「そんな……魔法衛士隊長が何故?」
「トリステインの魔法衛士で終わるつもりなど無いからさ。この手で聖地を取り戻し、世界をこの手にする為に必要だと思ったが故!」
「くだらない……人間は何故目先の利益しか見えぬ?」

ワルドは軍杖に稲妻を纏わせ、シャールは剣を構える。

「我等はお前達と違い、短い時しか生きる事は出来ない。だからこそ、我等は生きる理由を求めるのだよ。よって貴様らエルフより聖地を取り戻す事で、人間が歩むべき真なる歴史と、我が生涯を飾る栄光を我が手でつかみとる……それが我が生きる目的よ!」
「くだらん。それでは我等もお前達も、前に進むことなど出来ん!」
「そんな事をエルフに言われる筋合いなど無い……まあ良いさ。先程連絡があったが、お前達と戦っている余裕はなくなった以上、この旅の3つの内の2つの目的は諦めねばならんのでな……おっと」

ワルドは軍杖を構え、ダインに向けて一閃。
その肉体は切り裂かれ、派手に血が噴き出す。

「があっ!!? きっ貴様、何の……」
「ここから話す事は、私のみが知るべき事だ。お前達が知っていい事ではない」
「貴様、血迷ったか!? イル……」
「遅い」

一瞬で懐に飛び込み、その胸めがけて軍杖で、フィルの胸を貫く。

「ごっ!?」
「さらばだ、我が同胞よ。我が野望の糧となり、わが心の中で永遠に生き続けるがいい」

その貫いたままダインに杖を向け、杖から電撃がほとばしり直撃する。

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「ふぎぃいいああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

そのまま杖に貫かれたフィル諸共、ダインの屍を炭化するまで稲光は続く。
杖で貫かれた屍が崩れ落ち、身体についたすすを払い対峙する。

「貴様、仲間を!!」
「君達にとっては敵だと言うのに……まあ良い、本題に入ろう」

ワルドは不敵に笑うと、杖をシャールに突き付ける。

「貴様の主は貰う」
「なっなんだと!?」
「ミス・ヴァリエールを!?」
「たかがトリステインでは、あの子の真の力は引き出せない。そして、その価値を知る者もあの子を受け入れられる存在も、この私だけであれば良い。ではさらばだ」

軍杖を掲げ、振り下ろすと同時にかき消すようにワルドは姿を消した。
シャールは何かをつぶやくと、風を纏い浮かんで行く。

「私は一足先にアルビオンへ向かわせて貰う」
「1人では危険だ。私達と一緒に……」
「すまないが、あなた達を抱えて飛べる状態ではない。あなた達はサイトの……我が友の元へ急いでほしい」


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「成程な。そのワルドと言う男、見所がありそうではないか」
「ジョゼフ様のお目にかなうのであれば、もはや決定事項でございます」
「ふむっ……時に、奴等は?」
「虚無の樹海にて、すでに半日を過ごしております」
「楽しみで堪らぬと言うのに、焦らしてくれるものだな」

ワイングラスを片手に、喜々として本を読むジョゼフ。
読書がしたいと言いだし、城の図書館から引っ張り出させた物の1つ。

「さてミューズ、お前は一体これからどうする気だ? もはや壊滅したも同然のレコン・キスタを使い、何をする気だ?」
「私なりに、ヒラガサイトとシャルロット姫を試しとうございます」
「試す? ……よかろう。手加減はいらぬぞ? 俺はやわな紛い物を宿敵に認めた覚えはないのでな」
「御意」


in アルビオン ニューカッスル付近

「ワルド様、どうして……?」
「人は変わる……如何様にもな。ルイズ、僕の可愛いルイズ、頼むから言う事を聞いておくれ」
「いやよ! あなたは恥ずかしくないの!? トリステインを裏切るだなんて!!」
「あんな腐りきった国に未練はない。もはや箱庭にすぎないんだ」
「そんなことない! そんなこと……」
「……残念だよ。イル・ウォータル・スレイプ……」

ドンっ!

「っ!」
「もうあなたは、私の知ってるワルド様じゃない。汚らわしい反逆者よ!!」
「逃がさないよ、ルイズ。君は僕のものだ」


Side タバサ in 虚無の樹海 秘宝の試練

「はぁっ……はぁっ……」

一体どれだけの時が過ぎた?
一体どれだけの魔法を撃った?
一体どれだけの……。

『ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース』

魔法を避わした?
……できる事なら、今私が対峙しているこの光景を否定したい。
でも、それが出来ない……出来ないんだ

「お父様……」
『ラナ・デル・ウィンデ!』

虚無の樹海の試練……それは、目の前にいるお父様を倒す事。


(あとがき)
今回はかなり難産でして、今までと比べると質が低いと思われる方も多いと思います。

ちょっと指摘というか質問があったので、アンサー

サイト君は地下水をパーカーの中に、バハムートは原作のデルフのように背負ってます。
ただし、立ち話とか休憩のときは、手に下げるか立て掛けるかしてます。
基本的に、サイトの顔を見る場面の時はたいてい手に持つか、近くの壁か木に立て掛けてあります。

ハルバードのほうは、基本的には持ち歩きはしません。
長旅時限定でしかもたないので、持って行くときはシルフィードの背中に荷物と一緒に括りつけてます。
現在は馬車のなかですが。


現在パソコンのメンテのためにデータ整理してるんですが、ちょっと昔に書いた作品とか出てきたので、テスト版にでも出そうかなと思ってます

それでは、最近風邪ひきが増加傾向にあるようなので、健康には十分注意していただきたく存じます。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第8話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2008/11/30 02:24
私にとって最高のメイジ、それは始祖ブリミルを除けばお父様以外にはありえない。
小さい頃からお父様にあこがれ、お父様の様になりたいと願い続けていた。

「はぁっ……はぁっ……」

一度だけ、お父様の戦闘を見た事がある。
風系統のメイジとは思えない位に火、水、土系統を使いこなし、今でもあれ以上のメイジなどあり得ないと思うほどだった。

「ラナ・デル・ウィンデ!」
『ラナ・デル・ウィンデ!』

互いにエア・ハンマーを放ち、ぶつかり合う。
しかし、やはりお父様の方が威力が上で、多少威力を弱めた程度に終わる。

どうすれば良い?
……わからない……わからない。
杖を握っている自分の手が、震えるのがわかる。

……頭では分かっている。
お父様が実際に甦った訳ではなく、あれはお父様の影が実体化された物。
声だって、お父様の物ではあっても心のない、感情が込められていないまるで別の紛い物。
でも……出来ない。


Side サイト

「っ! ……今のは」
「何? ねえ、今タバサの視界が入ったの!?」
「ああ。でも、どういう事だよ? なんで……」

今垣間見た物が、理解できなかった
なんで、タバサの父親がタバサと対峙してるんだ?
なんで、死んだはずのタバサの……。

「なあ、バハムート」
『……皆まで言わなくていい。ただこれはタバサ殿が、試練の真の意味に辿り着かねばならん以上、わかるだろう?』
「くっ……」

今すぐこの扉ぶっ壊して、タバサの所に行きたい。
でも、わかってる……タバサを信じてるし、信じたい。
でも……でも、やっぱり!

『マスター、何をする気だ?』
「ちょっと頭冷やすだけだ」

タバサが入っていった扉に歩み寄って。

「きゅいっ!? お兄様!!?」

思い切り、頭を叩き付けた。

「ちょっ、サイト!?」
「きゅいきゅい、お兄様大丈夫なのね!!?」

迷ってどうすんだよ俺は!
俺はタバサを守りたい……でも、タバサだって弱い子じゃないんだ。
ここで主人を信じられないで、なにが使い魔だよ!

「ちょっ、いきなりどうしたの!?」
「早く手当てするのね!」
「いや、大丈夫。大丈夫だから」
「とてもそうには見えないわよ? ちょっとだけど血が出てるし」
「いいよ、頭が冷えたから……そうだよな。タバサだって、そんな弱いって訳じゃないんだから大丈夫だよな」
「……ほら、ちょっと見せて。応急処置位は出来るんだから」


Side タバサ

「っ!」

今の……サイト?
……そうか、精神感応!

『……ここで終わるか?』

お父様の物とはとても思えない、感情のこもらない声が紡がれた。

お父様……私の誇りにして、憧れのお父様
物言わぬ屍であるあなたを見て、私は悲しんだ。

もう、あんな思いをしたくない!
もう、私の大切な人にも、あんな思いをして欲しくない!
私の使い魔を……私の、私と一緒に居てくれたサイトを、あんな奴等に渡したくない!

これは、お父様じゃない!
お父様はもう、居ない……居ないんだ!
私は……私は!

「……あなたは……あなたは、お父様じゃない!」
『……』

頬を何か熱い物が伝った。
それと同時に、私の中で何かが弾けた。

「ラグース・ウォータル……」

不思議と、冷静でいられた。
私は“雪風”のタバサ。
……いや、偉大なるシャルル公爵の娘、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。
私は……最強の使い魔、調律者ヒラガサイトを従える者。

「イス・イーサ……」

今までにない位に鮮明なイメージ。
そして、大気との呼応。
空気に含まれる水分がより鮮明に感じ取れて……。
今までにない位に強大な魔法が構築されていく。

「……ハガラース!」

私の得意魔法ウィンディ・アイシクルが量ならば、このジャベリンは質。
私の記憶の中でのジャベリンの中でも、特に大きい。

「……さようなら、私の大好きなお父様」

杖を振り下ろした


Side サイト

扉が開いて、タバサが出てきた。
俺の姿を見たとたん、抱きついて……泣きだした。

「……サイト……サイト」
「……おかえり、俺の大切な主様」
「うっ……うぅううああああっ!」

そっと背中に手をまわして、抱きしめてやる。
……あの時は動揺しまくっててわからなかったけど、タバサってとても儚く思えた。
ちょっと力入れただけで、折れてしまいそうな位……とっても。

「……雰囲気的に、あたし達お邪魔虫は出て行くべき何だけど、流石にここから出て幻獣の餌なんて嫌だし、かと言ってタバサ達より先に入るのもどうかと思うし……どうしようかしら?」
「きゅいきゅい? つがいが仲睦まじいのは当たり前なのね」
「……なんだか、あたしが浮いてるような感じだわ」

……不思議と、周りというかキュルケやシルフィードが気にならなかった。
今はせめて、使い魔……としての役目じゃねえよな。
じゃあ、えーっと……男としての役目を果たそう。


In トリステイン 魔法学院

報告書と思わしき物に目を通し、ため息をつく男性。
司教服を纏い、ちょうど祈りをささげ終わって部屋に戻ってきたばかり。

「これで、彼等の持つ秘宝は2つ……少々困難になってしまいますが、まあ良いでしょう。出来れば、私たちの誠意が届けば良いのですが……聖地奪還への聖なる剣となる事に」

その眼は、未だ目覚めぬ自身の補佐を行う神官に向けられた。

「いずれにせよ、急がねばなりませんね。ジュリオを倒す程の輩……考えられる事は、神と始祖ブリミルに仇成す担い手が居る可能性があると言う事」


In ガリア ヴェルサルテイル宮殿

「俺にトリステインに向かえと?」
「はい。そこで狼煙を上げて頂き等ございます」
「ふむっ、それで余は何をすれば良い?」
「簡単な事でございます」

幾つかのやり取りの後、ジョゼフは口元を歪める。

「それはいいな! 余としても、異存はない!」
「では、日取りなどはおって……」
「うむっ。待ちかねておるぞ」


In アルビオン ウエストウッド村

「やっぱり、桃りんごの料理を振る舞うのがいいと思うな? テファお姉ちゃんの料理なら、きっと喜んでくれるよ」
「そっそうかな?」
「大丈夫だよ、もっと自信持って。テファ姉ちゃん」
「そうだよ、せっかくマチルダ姉ちゃんが見つけてくれた友達なんだから」
「……うん、じゃあ思い切って振るまおうか?」


In アルビオン ニューカッスル付近

「ルイズ、お願いだから言う事を聞いておくれ。トリステインに戻った所で、あの馬鹿者どもにゼロのルイズとバカにされるだけじゃないか」
「それでも……それでも、私はトリステインの貴族よ!」
「僕は君を貶したりしないし、君の力を引き出す手伝いもしてあげるよ。そして僕と世界をこの手に収めよう」

差しのべられたワルドの手は握られる事もなく、うち払われる。
ルイズは杖を構え、なんとか追い払おうとしている。

「ルイズ……僕は君の味方になりたいだけなんだ。そんな古い価値観にすがって一体何になるんだい?」
「なら、トリステインに帰りましょうよ? 今なら悪い冗談だって、忘れてあげるから」
「……イル・ウォータル・スレイプ・クラウディ」


Side サイト in 虚無の樹海 秘宝の間

「タバサ、行くよ?」
「うん」

泣きやんだタバサと一緒に、秘宝の封印を解くべく祭壇の手形に手をやる。
あの時と同様に俺の全部のルーンが反応し、タバサの杖は風を纏う。
そして封印の要の全てのオブジェに、俺に刻まれたルーンが浮かび上がり……障壁が割れる。
その中央には4つの宝石がはめ込まれた、一対の腕輪が鎮座している

「これが、私の新しい力」
『名は四聖の腕輪。効力は、つけてみればわかる』
「よし、じゃあ俺がつけてあげるよ」
「ん」

2人で駆け寄って、腕環を手にとってタバサの手に付ける。
最初こそブカブカだったけど、4つの宝石が光った途端、タバサの手首にぴったりの大きさになる。

「どう? なにか、変化ある?」
「……良くわからないけど、確かに何かが変わった気がする」
「そっか……まあ、焦る事もないよな?」
「ん」

……これで、俺達は新たな力を手に入れた。
気のせいか、何か大きなものが動き始めている……そんな気がすること。
そして、多少だけど額が痛む事に嫌な予感を感じつつ……。



(あとがき)

最近寒くて、暖房という文明機器に感謝する日々が続きます。
でもあまり頼り過ぎるのも、エコにならず……難しいところですね。

虚無の樹海の秘宝、2つ目は色々と悩みましたが、タバサ用アイテム四聖の腕輪でございます。
効力については、もう少しお待ちを。
ヒントは、第三章のタイトルとだけ言っときます。

とりあえず、これからですがそろそろテファとの会合書きたいし、色々とトライアングル系のネタも多いので、ちょっと駆け足になるやもしれません。

余談ですが、なぜかお色気シーンばっかり浮かぶのは、お約束かな?
と思う今日この頃



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第9話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2008/12/07 21:03
2つ目の秘宝も手に入り、俺達は先生たちを迎えるべく虚無の樹海を旅立つ。
……だけど、流石に3日間の不眠のツケという物は、あながちバカにできないらしい。
樹海の秘宝が手に入ってすぐ、全員眠る事にした。

ここは俺達だけに許された領域であり、外に出た所で何かが無いとは限らない。
俺達がここに入る前に、レコン・キスタが俺達にかけた賞金が無くなったのは多分事実だけど、それでも完全に安全ではない。
だから、休めるうちに休むべきだと言うタバサの進言で、石造りの部屋で横になる。
一応、野宿用の装備もあるから、それに越したことはないけど。

「……むにゃむにゃ」

……人型シルフィードにくっつかれつつ、タバサのサンドイッチ攻撃ってどうなのよ?
シルフィードは俺を抱き枕にしつつ、そしてタバサは眼鏡外して俺の胸に顔を埋めてる状態。
腕にド級のかん……じゃなくてってあれ?

「……」

……?
どうしましたよ、俺の愛しいご主人さま?
いつもならこういう時、絶対零度を遥かに上回る冷たい視線を突き刺してくるのに。

「大丈夫、まだ成長期。これからの生活次第では十分期待出来る」
「えっ、何に?」
「あなた好みの大きさへの成長。まだまだ期待できる」
「大きさ?」
「胸」

ああ、そう言う事か……ってうぉい!!?

「……あの、タバサ様?」
「メイド、そしてシルフィード、キュルケの胸にも何度か見とれていた」
「……すみませんでした」

……はい、その通りでございます。
俺だって、人間でいう男性であり生物学上雄なのでございます!
そして俺は思春期に当たるお年頃の為、そう言う誘惑に抗うのは不可能なのです!
ごめんなさい、発情犬でごめんなさい、変態もぐらでごめんなさい!
くっつかれてなかったら、土下座もしてたかもしれません。

「謝る事はない、なら好みになれば良いだけの話。一先ずの目標はあのメイド」
「メイド?」
「……黒髪。彼女に体を支えて貰っているとき」
「……ごめんなさい」
「だから、謝る事はない」

……フーケ事件の反動による、療養生活のあれですね、はい。
確かに、背中に当たる感触からしてでかかったよ。
まあ、タバサにひっつかれてるのも嬉しいけど、あれ位の感触があれば確かにその威力は……。

「前者はありがとう。後者については努力する」
「……顔に出てた?」
「思い切り」

読まれてましたよ、思い切り。

『何やってんのかねえ』
『黙っていろ地下水。男女の営みに口を挟むのは無粋という物だ』
『けどよ、バハムートの兄貴』
『我等に出来るのは、ただ優しく見守る事のみだ』
『なるほど、一理あるな』

……つーか喋る剣ども、みせもんじゃねーから黙れ!

『それは済まなかったな。では、眠るとしよう』
『そうだな、バハムートの兄貴』

何も言わずとも……って感じで、壁に立てかけた喋る剣二振りはあっさり黙った。
……便利なのか迷惑なのか、よくわからないよ本当に。

『じゃあサイトの旦那、タバサの姐さん、頑張ってくれや』
「何をだよ!?」
「わかった」
「あの、タバサ様?」


『いいのかい、バハムートの兄貴?』
『まあ、束の間の平和位満喫させてやれ。それに我としても、急ぐ話でもない』


In アルビオン シティー・オブ・サウスゴータ

ラ・ロシェールの死闘から4日後。
コルベールとフーケは、シティー・オブ・サウスゴータへとたどりついていた。
一刻も早くサイト達と合流する為に。

「どうでした?」
「ダメね……せめて、連絡手段を確保しておくべきだったわ」
「まさか、ロイヤル・ソヴリン級を2隻も出すとは……」
「それも、ここまでやるなんて……傘下に入らなくて正解だったよ!!」

サイトとタバサの人相が描かれた手配書を、フーケは忌々しげに何度もたたいた。
2人は即座にレコン・キスタの動向を調べ、サウスゴータ地方に行きついた。
無論、サイト達の捕獲の為に最大級戦艦を2隻出した事および、サウスゴータ全域に賞金首として触れ回った事も、すでに調べてある。
その為、一応撤回はされているのは知っているが、2人は自身の足で調査を進めている。

「やっぱり、虚無の樹海に向かった方がいいんじゃない?」
「それは危険です。今の私達の状態で、しかもサイト君なしで我等が踏み込むことは死にに行くも同然です」
「でも……」
「あら、もしかして、賞金首のあの2人を探してるの?」

2人の視線は、彼等の近くで料理を摘む女性に向けられた。
見慣れない服を纏い、その雰囲気は何やら黒い物を感じさせる。

「誰だい? 見たところ、何か企んでるようだけど?」
「あらあら、流石はマチルダ様ね」
「っ! ……生憎、何か企んでる奴の目なんて見なれてるんでね!」
「企んでるだなんてそんな……大丈夫、今は何もしないわ。今はね」

杖を突きつけるフーケを見て、主人も客も皆逃げ出してしまった。
唯一残ったコルベールがフーケを宥めるも、右手に杖だけは離さなかった。

「まあそういきり立つ事もないじゃない。私としては今のところ、多少のあいさつ以外にあの子達に手を出す気はないのよ」
「今のところ?」
「ただ、彼等はこれから始まる大きな流れを耐え抜き、力を得て……その先にある物を私達は欲しているだけ……あら、動きがあったみたいね」

金の入った袋を置き、フーケ達に一枚の紙をはじき飛ばす。
そして、取り出した瓶をひと振りすると、その姿がゆがみ始める。

「私の名はシェフィールド。縁があれば、また会いましょう」


Side サイト in 虚無の樹海

かなり疲れてたらしく、俺達は丸一日寝ていたらしい。
……あんな所で寝てたら、時間感覚狂うのも無理ないけど。
しかし、野宿にも女の子にくっつかれたまま寝るのにも、まさか慣れる日が来るとは思わなかった。

『随分と世の春を満喫された様だな、マスター』
「その言い方はやめろ。まあ……確かに嬉しいのはあったけど」
「あら、それはどういう意味でかしら? ぜひ聞かせて貰いたいんだけど」
「きっ聞くなよ……たぶん、キュルケが想像してる意味であってる筈だ」

……顔が熱い。
なんと言うか、多少の認識の変化で人への感情がここまで変わる物なのか?
いやいや、タバサの使い魔が嫌になったって事じゃないし、今でも守りたいってのは事実。
それが思い切り、良い方向へのレヴォリューションしちゃいましたよ。

「んー、結婚式はうちで取り仕切っちゃおうかしら?」
「きゅいきゅい、結婚式って何なのか分かんないけど、シルフィはお兄様とお姉様の子供が見たいのね」
「……ひっ飛躍しすぎ」
「そっそうだよ! いくらなんでも、結婚とか子供とか……その」
『お楽しみのところをすまないが、なにやら外が騒がしいぞ。獣の類ではなさそうだが?』
「ばっバハムートまで……え?」

うっすらと光が射し、そろそろ普通の森位に明るくなった頃合い。
確かに、バハムートの言う通り何か騒がしい。

「出てみよう」

右手を掲げると、俺達を中心に幻獣達が集い始める。
今まではそうはいかなかったが、ここなら俺の味方はごまんといる。
そして幻獣達を引き連れ、外に出ると……

「やっぱり……相当本腰を入れてきたようね」
「きゅいきゅい、いっぱい人間が居るのね」
「ガーゴイルも、あんなに……」

普通の兵士に、メイジの軍隊。
そして、空には……あれが、ガーゴイルか。
にしても妙だな……何か、変な感じがする。

「たぶん、彼等はアンドバリの指輪で操られているか、蘇らされた死者」
「成程、さっきからの変な感じっ!?」
「サイト?」
「お兄様、どうしたのね!?」
「額が……この感じ、シャールさんとあった時と」

「確かに、これは痛むわね」

ガーゴイルと兵士たちが道を開け、歩み寄ってきたのは額を抑える見慣れない服の女。
掲げている右手には、怪しい輝きを浮かべる指輪があり、その輝きが強まると兵士たちが歓声を上げる。
多分、あれがアンドバリの指輪。
そして何よりも、その額には……

「そっそれって……!?」
「お兄様のおでこにあるルーンと、そっくりなのね!!」
「そっそんな……」
「やはり、目覚めて居るのはガンダールヴだけではなかった」
「私の名はシェフィールド、虚無の使い魔が1人、神の頭脳ミョズニトニルン。始めまして、調律者ヒラガサイト、そしてその主シャルロット姫」


(あとがき)

今現在、ゼロの使い魔のゲーム三作目をやっております。
今のところタバサ、イルククゥ、ティファニアを攻略。
次はアンリエッタを攻略予定。

実を言うと、アンリエッタの扱いをどうしようかと思いっきり迷ってたりしてます。
前にも書きましたが、アンリエッタは結構好きなキャラなので、
個人的には絡めたくもあり、ウェールズを生かして別系譜の幸せを手にしてもらいたくもあり。
迷いまくっております。


今回ちょっと、お色気シーンの練習もちょっとだけ兼ねたので、色々と意見を頂けたらと思ってます。
色々と未熟なので、よろしくお願いします



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第10話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2008/12/14 01:28
(注)今回の話ですが、最後あたりに血の表現があります
   そういうのが苦手な方は。読まないようにしてください。




虚無の使い魔

始祖ブリミルが使役した4体の使い魔の総称。
それらは武器、獣、魔法道具を使いこなし、その実力はメイジをも上回る。
ガンダールヴは1人で一軍に匹敵し、並のメイジでは相手にもならない程の戦士。
ヴィンダールヴは竜を数体使役できれば、スクエアの一団すら潰せるだろう。

そして、ミョズニトニルン
あらゆるマジックアイテムを使いこなす、知恵の塊。
マジックアイテムには汎用性があるから、当然戦闘にも適正はある。

当然だけど、それらはより強力な武器、獣、魔法道具を持つ事により強くなる
バカみたいに魔法を重んじるこの世界において、魔法やマジックアイテムの技術は常に最優先で行われている。
つまり、ミョズニトニルンはこの世界においては、時代によってどんどん進化していくという事。
敵としては最悪の部類。

『っ! お前は!?』
「あら地下水じゃない。依頼を果たせず飼い犬に収まるなんて、無様ね」
「依頼?」
『ああ、俺にサイトの旦那を殺せって依頼したのは、この女だ!』
「っ!?」

この女が……?
最初ジョゼフの手のものかと思ってたけど、最初からレコンキスタが狙っていた?
……それにしては、どちらにせよ不自然な事が多すぎる。

「聞きたい事がある」
「何でしょうか?」
「なぜ地下水を差し向けた?」
「どれだけの力を持っているのかが気になった。ただそれだけよ」

……嘘を言っているようには見えない。
しかし……目的も真意も全然見えない。

「……あなたはレコンキスタの何? クロムウェルの虚無は、アンドバリの指輪によるインチキだと知っている。なのにあなたがアンドバリの指輪を持っているのは何故?」
「レコンキスタは特に何の関係もないわ。ただ、あなた達を探すのに邪魔だった物で、クロムウェル諸共に上層部を皆殺しにしたのよ。ついでだからこれも奪ったわ」
「みなご……ろし!?」
「あら……もしかして、人の死に慣れてないの? それは、困ったわね……」

今の発言に多少のショックを受けたサイトを見て、シェフィールドは本当に困った顔をしている。
……一体何が目的?
目的を絞るには、幾らなんでも不確定な要素がありすぎる。

何故今というタイミングなのか?
ミョズニトニルンなら、マジックアイテム次第で暗殺も誘拐もできる。
それに地下水以降を考えれば、サイトに接触するチャンスはいくらでもあった。
ましてや、サイトが動けない時期もあったというのに……。

「……一体何が目的? あなたがミョズニトニルンであるなら、一体あなたの主は私達をどうする気?」
「あら、興味ある?」
「是非共聞きたい。その主の名によっては、あなた諸共に殺さなければならない」
「それは素晴らしい答えをもらえたわ。でもそうね……」

右手を掲げ、その指に嵌ったアンドバリの指輪が怪しい輝きを放つ。
それと同時に、周りの傀儡になったと思われる兵士達が雄叫びをあげはじめた。

「……今のヒラガサイトでは駄目だわ。血の匂いもしない上に、死に触れてない今の彼ではとても私達の目的には程遠い」
「っ!」
「僭越ながら、このシェフィールドが試練を与えてさしあげましょう。ではちょっと1人、殺してもらいましょうか」

サイトに……人殺しを!?
あれが……あの軍勢が、全部死者という保証など無い。
サイトが……血に塗れる!?

「ラナ・デル・ウィンデ!」
「っ! くっ……」
「サイトは私の使い魔。私は私の使い魔を血に染める事など望まない」
「……それは申し訳ありません。ですが、それではこちらが困るので」

再度シェフィールドは、右手を掲げ大きく指を鳴らした。
空中のガーゴイルの両手に嵌っている石を輝かせ、こちらに向かって戦闘態勢をとった。
片方は風石として、もう片方は……何?
赤い石……考え得る可能性は、以前東方から伝わったという本にあった火石か……
もしくは、新しいマジックアイテム?

「少し、舞台から降りて頂きます。では、とくとご覧ください……あなたの使い魔が新たな第一歩を踏み出す瞬間を」

ベルゲルミルと呼ばれたガーゴイルの両手の石が光り、何体かに分かれ陣形を取り始める。
そして、雷光、火炎、突風が私達を襲い、サイトと私達は切り離された。


Side サイト

「うぅうぅおおおおおお!!」
「ぐっ!」

タバサ達がガーゴイルに囲まれて、俺は兵士やメイジ達に囲まれ一斉攻撃を受けて居た。
メイジには左手の地下水の魔法で、兵士たちには右手のハルバードで迎え撃つ。
幸い、そんな強い奴等じゃないから、なんとか追い払えないレベルじゃない。

「待ってろタバサ! 皆! すぐにそっち行くからな!!」
「あらあら、随分と余裕ねえ」
「うっせえ! タバサならまだしも、お前の命令なんか誰が聞くか!!」
「……まあ、まだ実際の敗北なんて知らないのだから、無理もないかもしれないわね」

何とかタバサ達の所に向かいたかったけど、数が多すぎて駄目だった。
幻獣を使ったとしても、この人達にけしかけるには危険だ。
タバサ達がどうなってるかも、この状態じゃ状況がわからない。

「ほら、1人殺せばいいのよ?
「うるさい! あっ、そうだ! 皆、今どこだ!?」
「こっちなのね、きゅいきゅい!!」
「だったら……止まれ!!」

そうだ、俺だってミョズニトニルンなんだから、あのガーゴイルを奪えばいい。
声の方角からしてこっちの方が近いんだし、こうすればあとはシルフィードで……

「きゅい~っ! 止まらないのね~っ!」
「え!?」
「……どうやら、同じミョズニトニルンだろうと、使いこんでいる私とガーゴイルに触れた事もないあなたでは、私から支配権を奪うなど出来ないみたいね」
「そっそんな……っ! くそっ!!」

数人に切りかかられ、やむなくハルバードで受け止める。
あとから何人もの兵士が加わって、力負けする寸前に後ろに飛んで槍を逆に持ってなぎ払う。

「流石にガンダールヴでもあるとなると、少々時間がかかりそうね。はぁっ、今普通に持っていれば5人は殺せたのに」
「うるせえ!」
「ほらほら、傀儡ならまだまだあるわよ? 早く1人殺さないと殺されてしまうわ。1人で良いのよ?」
「くっ……地下水!」
『おう! 「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ!!」』

タバサの十八番、ウィンディ・アイシクルを弱めに撃つ。
相手方の足元を狙って、陣形が崩す。
そして逆に持ったハルバードでなぎ払い、ようやく……

『マスター、前だ!』
「え?」

振り向いた先には、でかい炎の塊が眼前に迫って……

「うわあっ!!」

そのまま吹っ飛ばされて、俺は何回転かして地面に叩きつけられた。
服が多少焼けて、俺も頭うったのかグラグラする頭を押さえる。

『大丈夫か、マスター!?』
「あらあら、大丈夫かしら?」
「うるせえな……」

火傷と打撲が痛んだけど、たてない程じゃない。
視界が揺らいだけど、態勢を立て直す。

「雪風のタバサの使い魔、なめんなよ!!」
『抜け、マスター。魔法が来る』
「ああっ!」

ハルバードを投げ捨てて、バハムートを右手に持つ。
そしてバハムートで迫る魔法を斬り砕き、メイジ達をけりで黙らせた。

「魔法を砕いた!?」
『魔法だろうが、我が刃のもたらす破壊に例外はない』
「ちっ……」

何人倒したかもわからなくなったころ、人が気の向こうから竜巻が生じた。

『ほうっ、アイスストーム。しかもあれはスクエアクラスだな』
「氷か……って事は、タバサか!? よし、行こうぜバハムート! 地下水!」
『『おう!!』』

魔法と矢の嵐をかいくぐって、迫りくる兵士たちの剣や槍をへし折って、そして殺さないように蹴るか殴るかで何とかタバサ達の所へたどりつけそうだ。


Side タバサ

ガーゴイルの襲撃から随分と時間がたった。
あれはどうやら、風石と火石を介して擬似的に系統魔法を扱えるようだ。
1体ずつではライン程度の出力しかないが、あれは連携させてスクエアクラスを引き出すものらしい。

カッタートルネードを始めとする、風のスクエアスペル。
そして、火のスクエアスペルを連携で打ち出され、こちらは押されていた。
キュルケもシルフィードも、スクエアスペルに対抗などし切れるはずもない。
でも……

「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ!」

あの時のジャベリン、そしてこのウィンディ・アイシクル。
それらは今までと違う……何から何まで。

多分私がスクエアになったのもあるかもしれないけど、それ以上に四聖の腕輪の効力が身に染みるほどに良くわかった。
ウィンディ・アイシクルのルーンを唱えてみて、水系統がまるで風系統をやるように何の違和感もなく行えた。
ためしに火の魔法を使ってみても、これは同様。

「タバサ、あなたスクエアに……」
「それだけじゃない。この樹海の秘宝は、系統魔法の精度の誤差を取り払う物だったらしい」
「ちょっ、それってすごいわね……あっとと」
「一気に吹き飛ばす」

イメージ……そして、ルーンの詠唱。
魔法に込めるは、私の意思……そして、私の願い。

「すっすごいのね……」
「いっぺんに、全部……」
「私の魔法は私の願いを込めている。あんな紛い物ごときに押し負けるほど、やわじゃない」
「……タバサ、羨ましい位に素敵な笑顔だわ」

「タバサ!」
「サイト!」

人海の波をかき分けたらしい、サイトと漸く合流した。
あとは彼の幻獣で追い払えばいいだけ。
何もかもが、うまく……

「うぉおおおおあああああああ!!!!」

……えっ?


Side サイト

人波をかきわけて、武器や魔法や飛んでくる矢をぶっ壊して、襲ってくる奴等を何とかパンチやらキックやらで蹴散らして、なんとかタバサを見つけた。

「タバサ!」
「サイト!」

ここまでくれば、俺達のもんだ!
あとは、樹海の幻獣を使って……っ!

「うぉおおおおあああああああ!!!!」

そこへ、タバサに向けて剣を振り下ろそうとしてる奴が……

その刹那……周りの風景がスローモーションに感じた。
俺はすぐにそいつの元へ走って、バハムートを振った。
そして地下水を……。
一瞬の……ほとんど反射的な動作だった。

「えっ……?」

……頭の中が急に真っ白になった。
左手に感じるのは、今まで出る意を見ないほど、吐き気がする程の嫌な感触
そして、体や服に飛び散った……少し生暖かい液。
目の前には……肘より先がなくなって居て、俺の左手の地下水が……
そいつの胸に突き刺さって居て、そこを中心に赤い染みが広がっていく。

「あっ……ああああっ……」

地下水を引き抜くと、勢いよく血が噴き出して俺にかかった。
それと同時に、そいつは倒れ地面に血たまりを作る。


「……どうなる事かと思ったけれど、なんとか目的は達成できたわ。それに力としても、これから次第でまだまだ伸びる。おめでとう、ヒラガサイト。今日はあなたの新たな誕生日よ」


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!」



(あとがき)
血の表現はじめてやるんですが、難しい。
一応、ガリアの担い手コンビとしてはこうするのは妥当かなと判断したのですが
人が死んだりとかそういう表現、本当は苦手なんですけどね。

アンリエッタについては、今のところ展開的にウェールズを殺すのが難しいので……殺すにしても、どうするかが問題になりますので。
とりあえず、ウェールズとは接触させる予定あるので、その時になるまではですかね?


というか、ビッチ呼ばわりされてるのにはショックでした。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 第11話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2008/12/24 20:37
血の匂い

裏の世界に足を踏み入れれば、それは嫌でも慣れてしまう物。
……死に触れ、血の匂いがする人間なんて、見ない方がおかしかった。

私も死についての否定はしない。
元々命は、他の命を喰らい営みを続ける物。
私は生きるため……目的の為に、たくさんの命を喰らい、消してきた。

……私の使い魔、ヒラガサイト
こことは違う、魔法も貴族もない世界から来た……いや、連れだしてしまった人。
でも、それでも私を笑って受け入れてくれた人。
私の為に怒って、笑って……戦ってくれた、私にとって大切な人。

だからこそ、彼をこの世界の理不尽で歪めたくはなかった。
彼は本来、この世界にとってはある筈のない存在。
元々私達が出会う事のない、この世界とは違う平和な場所で暮らすべき存在。
だからこそ、これ以上私の都合で彼を歪めるのは嫌だった。

なのに……なのに……。

「あっ……あああっ……」

否定したい……この光景を、否定したい。
サイトの顔と服に血が飛び散っていて、その手には血塗れのバハムートと地下水。
その傍らには、胸を貫かれ絶命している男。

「サイト!」
「タバサ……? なあ、俺今何したんだ? ……なんで、俺の服に血がついてんだよ? ……なんで、地下水とバハムートが、血塗れなんだ? なんで……この人、動かないんだよ?」
「簡単よ、あなたのバハムートがそいつの腕を切り落として、地下水がそいつの胸を貫いたから。動かないのは、死んだからよ。あなたが殺したの」
「殺し……た? 俺が? ころ……え? この人を俺が?」

何が目的で、主が誰か。
そんな事はどうでも良かった。
……何が目的だろうと、私の願いを踏み躙ったこの女に。

「許さない……あなただけは、絶対に」
「あら嬉しい。じゃあまた来るけど、その時には死に慣れていて貰いたい物ね」
「二度と来ないで」
「それは無理な相談よ。じゃあね」

纏っていたマントを翻すと同時に、シェフィールドは姿を消した
……シェフィールドという女の目的、そして主。
もし、奴なら……私は……

「キュルケ、シルフィード、無事?」
「ええ、まあ……サイト程じゃないわ」
「きゅい……お兄様、大丈夫なのね?」

サイトは血塗れの自分、殺してしまった人を瞳孔が開いた眼で何度も往復させた。
……かつて、始めて人を殺してしまった自分と重なったけど、すぐに振り払った。
違う……同じでは決してない。
私は、目的の為に……彼は、私の所為でという違いがある。

「なんとか見つけ……っ! なっ何があったんだい!?」
「そんな……なんと言う事だ!」


In ロンディニウム城

「やあ、随分と遅いお帰りだね。シェフィールド殿」
「あら、ワルド卿……いえ、レコンキスタの新盟主様ではございませんか」
「良い響きではあるが、物足りないな。だが、感謝するよ。君のおかげだ」
「それは嬉しいけど、でも援助はもうここまでよ? こちらとしても、あまり落ち目に援助するのはどうもね」
「わかっている。僕の女神を教育していけば、君達の援助などいらなくなる」

ワルドは自身の部屋のある方向を見て、口元を歪める。
シェフィールドも同様に、口元を歪めた。

「まあ、精々頑張ってね? それと今までの援助の礼として、宝物庫の宝を1つもらいたいんだけど、いいかしら? アンドバリの指輪も返してもらいたいのだけど」
「ああ、もう用は済んだし構わないよ。勝利の女神も無事覚醒を果たしたし、新たな宝はトリステインで貰うまでさ」
「そう……じゃあね。幸運を祈るわ」

シェフィールドと別れたワルドは、すぐ様自身の部屋に戻った。
ベッドの上には、魔法学院に制服を纏ったピンク色のブロンドヘアーの少女が横たわっている。
ワルドはそっとその少女の頬を撫で、笑みを浮かべた。

「君の目覚めし力、素晴らしかったなあ……あれさえあれば、僕と君はこの世界に絶対なる帝国を建設できるよ。あとは君に僕の気持ち、僕の願い、その全てを理解して貰えるように頑張るよ。僕の小さなルイズ」


Side サイト in サウスゴータ地方 とある村の宿

あれから、コルベール先生にフーケと合流してから、何があったかなんて覚えてない。
俺とバハムート、地下水についた血を洗い流して、服を着替えて洗濯……はタバサがやってくれたけど。
今は1人になりたくて、皆がご飯食べに行くというのを遠慮して、俺は1人今日の事を考えてる。

……何で、こんな事になったんだろう?
あの時、タバサが斬られそうだった……それを守る為に、無我夢中で
でも今になって考えれば、剣を砕いて蹴り飛ばせば済む事だったのに……。

……何で、こんな事になったんだろう?

「きゅいきゅい、お兄様。大丈夫?」
「ん? ああ、シルフィードか。うん、ちょっとは落ち着いたよ」
「ならごはん食べるのね。ここの料理って、とても美味しそうなのね。ほら」

シルフィードはご飯を持って来てくれたらしくて、嬉しそうに持ってきたお盆を近くにあったテーブルに置いた。

「っ!!?」
「こんなおっきなお肉に、美味しくて評判の赤いソースがかかってて、それはもう絶品なのね。ほらお兄様、一緒に食べよ? きゅいきゅい」

いつもなら美味しそうだなって言う所だけど、赤いソースのかかった肉って……
悪気はないのはわかるけど、見ただけではきそうだ。
ましてや肉なんて……

ガシッ! ガシッ! ガシッ!

「痛い痛い! お姉様、何するの!?」
「あなたに任せたのが間違いだった」

珍しく顔が怒りを表してる感がよくわかるタバサが、シルフィードへ折檻を始めた。
極力肉から視線を外して、2人の様子を眺める。

「行くのはいいとしても、出すのはパンか野菜にしてって言った筈」
「だって、お肉の方が力出るのね」
「うるさい。もういいから戻って」
「いや! お兄様が元気ないの嫌なのね! 何でも良いから、お兄様に元気になってもらいたいのね!」

気持ちは嬉しかった……すごく嬉しかった。
……でも、地下水で貫いた感触が残ってる左手と、バハムートで切り落とした感触の残ってる右手。
それがまだハッキリと残ってる今、とてもそう言う方に考えるのは無理。

「随分と賑やかだね。気分はどうかな、サイト君?」
「あっ、コルベール先生。はい、ちょっとは楽にはなりました」
「そうか……」

合流してから、コルベール先生はずっと俺を心配してくれてる。
俺が人を殺したって事に、親身になって色々としてくれた。
……多分、魔法実験小隊としての罪に関係してるんだろうけど、今ならわかる。
こんな苦しみを、ずっと先生は……

「……ちょっと外出てきます。歩いてれば、少しは楽になるかもしれないですし」
「きゅいきゅい、シルフィも行く」
「私も」
「そうですか……気を付けてくださいね? まだ、レコンキスタが君達を狙っていないという保証がある訳ではありませんので」
「わかりました」

一応、地下水持ってバハムートを背負って、その部屋を後にした

そして、上空。
アルビオンって大地の特性上、遠くに海の代わりに雲が見える。

「やっぱり空飛ぶって心地いいな」
「アルビオンだから、遠くに雲の海が見える」
「きゅいきゅい、お兄様元気になった?」
「少しはね。ごめんな、心配かけて」

血の匂いと、肉を斬る感触……まだ、俺の手に残ってる。
この先、タバサを守っていく以上……
タバサの事は守りたいし、この先もずっと一緒にいたい。
……どうすれば良いんだろう?

「むっ、湖発見。お兄様の韻竜シルフィードは、あの湖には魚が居ると判断するのね」
「え?」
「それじゃ、お兄様の韻竜シルフィードが、お兄様に魚を御馳走しちゃうのね」

聞き直す前に、シルフィードは降下を始めて森の中に入っていった。
そして湖につくと、俺達をおろしてシルフィードは魚を取りに行った。
全く……まあ良いや、こんな綺麗な湖のほとりなんて、リラックスにはもってこいだし。


神の左手ガンダールヴ
勇猛果敢な神の盾、左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる

神の右手がヴィンダールヴ
心優しき神の笛、あらゆる獣を操り手、導きし我を運ぶは地海空

神の頭脳はミョズニトニルン
知恵の塊神の本、あらゆる知識を詰め込みて、導きし我に助言を呈す

最後にもう1人……記す事さえはばかられる

4人の僕を従えて、我はこの地にやってきた


ん?
今の……聞き覚えがある唄だな。
声もとても綺麗で、聞くだけで心が和むような……。

「なあ、今の」
「あの唄……でも、一体誰が?」
「探してみる?」
「それは危険。歌で獲物を誘き寄せる亜人も居る」
「それはないのね」

後ろを向くと、そこには両手に魚を抱え、口にも魚を咥えた人型シルフィード。
……何と言うか、シルフィードのこういう姿見てると、悩み過ぎな印象を持つのは俺だけじゃないよな?

「知恵の竜の眷属のシルフィードには、そう言うのはすぐわかるのね。シルフィードの聞いてみた所、これにはそう言うのはないのね」
「じゃあ、大丈夫か……行ってみる? 折角だから、特等席で聞きたいし」
「わかった」


In ???

人里離れた森の拓けた場所。
そこで1人の少女が、竪琴を手に唄を唄っていた。

「……もうすぐかな? もうすぐ、マチルダ姉さんが帰ってくるのかな? 私の……友達になってくれる人と一緒に」



(あとがき)
今回結構難産でした。
色々とダークネス的な展開考えてたんですが、上手く捻りだせず却下で。
ですが、基本的にこれからも色々と葛藤してもらうことにします。

さて、結構長かったですが、ようやくアルビオンの目的が出せそうです。

(追記)
指定がありました誤字の手直ししました



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第三章 エピローグ
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2008/12/27 15:10
……人殺しなんて、やりたいともやる事も考えた事なかった。
確かに、この世界に比べればずっと平和で、やたらと威張り散らすバカ貴族も居ない世界出身の俺に、そんなのに縁がある訳がない。
この世界で何度も聞いた、死に関して……触れてしまった今、それがより鮮明に感じられる。

ふと、両手を見てみる。
……血の匂いと、あの時の感触。
いつまでも手にまとわりついて、離れない。
貫いた感触と、斬り落とした感触……その時浴びた血で、未だに濡れている感じがする。
今すぐ手を切り落としてしまいたくなるくらい、嫌な感触。

「……っ……」
「お兄様、やっぱり帰って休むのね。とっても苦しそうなのね」
「いや、大丈夫……ごめん、心配かけちゃって」

苦しくて、あの時の感触と光景を思い出すだけで、今にも吐きそうになる。
テレビとかじゃない、本物の死……。
血もケガした時見た様なのじゃなくて、明らかに量も質も違った。

あのシェフィールドって奴、どういうつもりだよ?
俺に人殺しをさせたがったのは、どういう事だ?
……一体あいつ、何がしたいんだよ?
それにレコンキスタの上層部を皆殺しって……。

「……なんだよ、あの女。人の命、何だと思ってやがる? ……そもそも、この世界どうかしてんじゃねえか? トリステインやレコンキスタのアホ貴族どももそうだよ」
「……サイト?
「俺が悩んでる事なんて、たかが平民の1人や2人何だって言うんだ……って笑う姿が思いっきり目に浮かんだぞ。あのヴぃ……忘れたけど、あの腰抜け野郎ならあり得る」
「サイト?」
「ふざけんなよ、たかが魔法を使える位で……」
「サイト!」
「え? ……あっ、ごめん。何か変な方向に行ってた」

タバサは悲しそうな顔で、俺の手をとった。

「……無理はしないで」
「ごめん……でも、気が付いたらつい……」
「あなたはまだまとも。笑って人を殺せる人、自身の欲を満たす為に殺しを指示する人よりは、ずっとまとも」
「そうはなりたくないよ! ……今すぐにでも泣き叫んで、両手を切り落としたい位に苦しいってのに……」
「きゅいきゅい、唄が近くなったのね」


In トリステイン魔法学院 客室

「……では、よろしくお願いします」
「はっ、全ては神と始祖ブリミルの御心のままに」

1人の男が部屋を出て行くと同時に、その部屋の滞在者……教皇はアルビオンの方角へと目を向ける。

「……全てが大きく動き始めている今、後手に回っては聖地奪還の大いなる聖剣となるべき者達を手に入れる事は、不可能となってしまいます。シャルロット姫、ヒラガサイト、あなた方の身に神と始祖ブリミルの祝福があらん事を」

その場に跪き、聖具の形に印を切り、祈り始める。


Side サイト in ウエストウッドの森

幻想的な光景……としか言い様がなかった。
森の拓けた場所の、二つの月の光が優しく照らしているその中心
1人の女の子が竪琴を奏で、まるで月に語りかけるかの様に唄っている。

唄声は人間とは思えない位に綺麗で、とても……優しい声。
……まるで、小さい頃母さんが良く聞かせてくれた子守唄の様に、落ち着かせてくれる。

「あの子が唄ってたのか」
「きゅいきゅい。シルフィもここまで綺麗な歌声、始めて聞くのね」
「……うん。母様の子守唄を思い出す」

女の子は、月の光を表すかの様に流れるかのような金髪。
顔の作りだって、まるで作ったかのように整ってる。
そして、とがった耳……ん、耳?

「エルフ!?」
「っ!」
「あっ、ごめん。邪魔した……あっ、まって!」

女の子はこっちに気付いて、逃げ出してしまった。
あの子、もしかして……。

「ティファニア!」

無我夢中で叫んだのがとどいたのか、女の子は足を止めた。
恐る恐るこっちの歩み寄って、ある程度の距離で足を止める。

「やっぱり……君が、ティファニア?」
「……なんで、私の名前を?」
「マチルダ・オブ・サウスゴータって人の紹介で来た」
「っ! じゃあ、あなた達がマチルダ姉さんが言ってた!?」
「ああ、始めまして。俺達がティファニアの友達だよ」

アルビオンに来た理由。
……辿り着くまで、すごく時間がかかって、とても辛かった。
でも……本当に嬉しそうに俺達に笑顔を向けてくれるこの子を見ると、来た甲斐はあったかもしれない。

「あっあの、えっと……どうしよう? なんて言ったらいいか」
「普通に始めまして……で良いんじゃないかな?」
「えっと……では、始めまして。私、ティファニアって言います」
「俺、平賀才人、サイトって呼んでよ。で、こっちは……あれ?

タバサの方を見てみると、珍しくショックを受けたのがよくわかる顔。
シルフィードも、ちょっとビックリしてた。
……ティファニアの方を見て。

「どっ、どうしたんだタバサ?」
「……信じられない」
「え?」
「あのきゅるきゅるよりおっきいのね。そんなのありえないのね!」
「?」

2人の視線を辿ると、ティファニアの……はい?
……余裕無い状態だから、気付かなかったけど……

「……バスト・レヴォリューション?」
「え?」
「あっ、いや、なんでもない……マジかよ?」


In アルビオン空域

『……なんだよ、あの女。人の命、何だと思ってやがる? ……そもそも、この世界どうかしてんじゃねえか? トリステインやレコンキスタのアホ貴族どももそうだよ』

「ふふっ、程よく壊れ始めている様ね。ロマリアも“右手”がまだ目覚めはしていないみたいだけど動きがあるみたいだし、警戒しないと……」

左手に持つ小さな箱をなでつつ、シェフィールドはエイ型ガーゴイルに乗りアルビオンの空域を飛んでいる。
その右手には、アンドバリの指輪が輝いている。

「今は休息を与えてあげる……でもね、それもつかの間。全ての始まりは、アンリエッタ姫とアルブレヒト皇帝の結婚式……大体2ヶ月先だけど、それまでには変わっててね……血と屍肉を喰らう獣へと」


(あとがき)

はい、皆さん今年もお疲れ様でした
今年も色々とありましたが、まあ今年も頑張ったし生きてきたって気分がします。
来年も無事迎えられるよう、頑張りたいと思います。

それでは読んで下さった皆さん、良いお年を。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第四章『妖精の風舞う森の休日』 第1話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2009/01/02 22:39
アルビオン、ウエストウッドの村にきて……
ティファニアと友達になって、一週間が過ぎた。

改めてマチルダさんに紹介されて、それからその他の孤児達は警戒してた。
たまに迷い込んでくる人がいて、その人が絶対にバケモノって言う所為もあってらしい。
でも俺が怖がる姿勢も、攻撃する姿勢も見せなかった事で、歓迎された。

俺もタバサもキュルケも、ティファニアとは思ったより早く馴染めた。
ティファニアも、俺達にテファって呼んでくれるように頼んできたし、俺達の事も名前で呼ぶ様になった。
……余談だけど、キュルケもコルベール先生も、ティファニアのありえない物にビックリしてた。
マチルダさん曰く、自信があるだけにショックを受けた……との事。

……ただ、眠れない日も続いた。
あれからずっと、手に残ってる……血の匂いと殺す感触。
そして、何度もあの日を夢に見る日々が……。


虚無に舞う雪風の剣舞 第四章『妖精の風舞う森の休日』


ここでの生活で、俺達はすごく重宝された。
年頃の子はティファニアしか居なくて、働けるのはマチルダさんのみ。
子供は最低でも10は居て、それに育ち盛りの食べ盛りも居る為、とても1人の稼ぎじゃ養っていける訳がない。
……あのバカどもの生活とは、酷く大違いだった。

何が世間を騒がす大悪党だ。
……真っ先にそう思った。

「あーっ、今日も疲れましたね」
「そうだね。だが、一仕事の後の食事は楽しみですな」

当然だけど、俺達とて世話になる以上、働く必要がある。
基本的には、俺とコルベール先生で力仕事。
一緒にやっててわかったけど、コルベール先生って結構鍛えてある。

「お疲れ様」

ちなみに、女性陣もそれ相応に働いてる。
タバサは洗濯と掃除の手伝い。
基本的にタバサは綺麗好きで、掃除も洗濯も魔法でだけどそつなくこなす。
それに、四聖の腕輪のおかげでよりスムーズになったらしいし。
……前人未到同然の秘宝を、そんな事に使っていいのかという疑問はあったけど。

キュルケは、食料や日用品の買い出しや、情報収集。
レコンキスタが俺達を嗅ぎまわって、ウエストウッドの村を探しあてたりしないかどうかの調査。
そのついでに、買い出しを担当してくれてる。
……子供の教育に悪い方法で値切ったり、情報を得てるそうなので単独行動だけど。

マチルダさん曰く、ティファニアの嬉しそうな顔を見れて、すごくうれしいとの事。
まあテファは、俺達と話す時とか何かする時、とてもうれしそうだったからなあ。
ついでに言うと、手を出すならそれ相応の覚悟を決めてから……とも言われた。
……俺としても、今は仕事に打ち込む事で無理やりあの時の感触と匂いを忘れてるも同然だから、正直そう言う事考える余裕はない。

最新の情報では、あの時の2隻のおかげでレコンキスタは敗戦一色。
昨日ロンディニウム城を奪還したという話が出て、とても俺達に戦力向ける余裕はないらしい。
クロムウェルとか言うクソ野郎は死んだらしいけど、その跡を継いだ指導者がいるらしい。
……それが誰かはわからないけど。

それともう1つ、最近ロマリアの聖堂騎士とか言う連中が、アルビオンを嗅ぎ回り始めたらしい。
何かと横柄な態度をとるらしく、アホ貴族からも嫌われてるとか。
……これを聞いた時、同族嫌悪って知ってるかと、小一時間ほど問い詰めたくなった。


Side タバサ

あれから一週間、サイトは徐々にではあるけど、立ち直りつつあった。
夜眠れない日々が続いているようだけど、それでも少しずつ……。
ここでの暮らしも、静かで特に不自由なくて、私にとって理想的な生活。

テファとも私と同じような境遇だけに、すぐに馴染めた。
エルフなんて言うけれど、シャールと言う前例がある。
何より、彼やテファを見る限り、ただ耳がとがっているだけの人間でしかない。
少なくとも、権力闘争や暗殺謀略のくだらない事に拘る愚か者たちよりも、ずっと親しみを持てる。

「御馳走様」
「あっ、はい。それにしても、タバサはすごく食べるんですね」
「頭を使うのも、身体を動かすのも、消費する物は同じ」

環境もそうだけど、彼女の作るご飯はとても美味しい。
全部が終わってサイトの世界に行くまでの間、ここに住む事を考えようと思う。

「タバサお姉ちゃん、本読んで」
「イーヴァルディの勇者の続き、聞かせて」
「……うん」
「ははっ、タバサもすっかり人気者だな。さて、俺は水くみに行ってくるかな」
「気をつけて」

多少の不自由、多少の窮屈……これ位あった方がいい。


In ウエストウッド近郊

「きっ貴様、我等を神と始祖ブリミルの僕たる聖堂騎士と知っての事か!?」
「邪教徒風情が、偉そうに」
「邪教だと!? おのれ……がはっ!!」

数体の新型ガーゴイル、スレードゲルミルを従え、シェフィールドはその満身創痍の聖堂騎士に向けて引き金を引いた。
聖堂騎士と呼ばれる教会直属の騎士団員の死体が、いくつも横たわっている。

「……さて」

シェフィールドはスキルニルを取り出し、待機させてあったガーゴイルに持たせる。
ガーゴイルに命を与え、そのままそれぞれの死体の血を与えた。
やがて全員のコピーが終わると、死隊を全て焼き払う。
そして全員に、まるで火のように赤い石を持たせ、いくつか指示を与え戻るように命じる。

「問題はないみたいね。流石は新型、聖堂騎士を相手に引けを取らないとは……でもまだ足りない、ジョゼフ様のお傍に立つにはまだ足りない。すぐに稼働記録をまとめなければ」

その日の夜、聖堂騎士の駐留していた教会のある辺り一面が、なぞの爆発によって消えた。


In トリステイン魔法学院 客室

「うっ……」
「っ! ジュリオ!?」

魔法学院の一室。
その部屋で眠り続けた少年、ジュリオは目覚めた。

「せっ聖下……? ここは? 僕は、一体……?」
「トリステイン魔法学院です。ジュリオ、一体何があったのかを覚えてませんか?」
「……いえ、わかりません。ゴーレムの跡を見つけてからの記憶が……」
「そうですか……ジュリオ、申し訳ありませんが、体調の回復と現状把握の終えた後に、すぐにアルビオンに向かって下さい」
「わかりました」


Side サイト in ウエストウッドの村

神の左手ガンダールヴ
勇猛果敢な神の盾、左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる

神の右手がヴィンダールヴ
心優しき神の笛、あらゆる獣を操り手、導きし我を運ぶは地海空

神の頭脳はミョズニトニルン
知恵の塊神の本、あらゆる知識を詰め込みて、導きし我に助言を呈す

最後にもう1人……記す事さえはばかられる

4人の僕を従えて、我はこの地にやってきた


日課の1つに、テファの唄を聞かせて貰う事もある。
テファも喜んでやってくれてるし、タバサにシルフィードも結構お気に入りの様だ。
ついでに言うと、シルフィードが韻竜だというのはウエストウッド村の知る所となってる。

「ふぅっ……やっぱり、聞いてくれる人がいると緊張するけど、上手って言って貰えてうれしいです」
「そう言う物だよ。な、タバサ」
「うん。上手だって言って貰えてうれしい気持ち、わかる」
「きゅいきゅい。シルフィも太鼓判押してあげるのね」
「ありがとうございます。私、サイトにタバサ、皆にあえてすごくうれしいです」

タバサは時折複雑そうな顔をするけど、結局は笑って握手をする。
シルフィードは、最初対抗しようとしてタバサの杖で殴られてたけど。

『しかし、唄はやはり良いな』
『ああ。陽気な歌とかもいいけどよ、優しい唄も聞くもんだね』

あとついでに、バハムートと地下水も一緒になって聞いている。
最近盗賊が多いそうなので、一応護衛として。

「それでは、戻りましょう。そろそろ私達も眠らないと」
「じゃあ俺、シルフィードの世話してから戻るよ」
「わかった」

タバサとテファが家に戻って、シルフィードをちょっと離れた寝床まで連れて行く。
……それから、始まる俺のもう一つの日課。

「……もしかして、今日も?」
「ああっ、今日も。寝るといやな夢見ちゃうし、悪いけど見張り頼むな」
「……お兄様、やっぱりやめた方がいいのね。無理してるお兄様、見てて辛いのね」
「そうは言っても……出来れば、皆に気付かれる前に戻りたいんだよ」
「シルフィが代わりに頑張るのね! だからお兄様は……」
「タバサを守るって言っといてこれじゃ、お粗末どころの話じゃないだろ。やるぞ、バハムート」
『……わかった、マスター』

バハムートを抜いて、かまえる。

「うっ……」
「お兄様!?」
「大丈夫……大丈夫だから」

重い……それに、身体が言う事を聞かない。
吐きそう……腹の奥底から……

「ぐっっ……げほっ! げええっ!!」
「お兄様!!?」
「はぁっ……はぁっ……くそっ! まだだ!」
「お兄様、もうやめて!」
「ああ、悪い……ちょっと離れた所で」
「それは駄目なのね! お兄様、お願いだからやめて!」


Side タバサ

……油断していた。

「ぐっっ……げほっ! げええっ!!」

……サイトの異変は、あの時の猛りと眠れなくなっているだけじゃなかった。
時折、こうして武器を無理して振ることを日課にしている事。
……間違いなく、サイトは武器を持てなくなっている。

「はぁっ……はぁっ……くそっ! まだだ!」

……全部、私の所為だ。
私があの時、サイトよりも早く反応していれば……。
アルビオンに行くなんて、あの時言わなければ……。
そもそも、私が彼を呼び出したりしなければ……。

「……なんで、いつだって願いはとどかない? ……なんで、いつだって世界は非情なの? ただ平和に暮らしたいだけなのに……何で、それを踏み躙る?」


(あとがき)
皆様、あけましておめでとうございます。
今年も頑張って、皆様の喜んでいただけるような作品をめざし、頑張っていきたいと思います。

これからお色気シーンなり、苦悩シーンなり、色々な要素を盛り込むので、期待を裏切らないようにします。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第四章 第2話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2009/01/10 14:08
「はぁっ……はぁっ……」

素振り100回……途中で何度吐いたか、何度バハムートを落としたか、わからなかった。
……何度も蘇る手に残った血の匂いと、殺しの感覚。
内臓ごと吐き出してしまいそうな位、両腕をいっそ切り落としてしまいたい位に……
この一週間、狂わなかったのが不思議な位だった。

何度、もう内臓ごと吐き出してしまいたいと思ったか
何度、両手を斬り落したい衝動に駆られたか
……この一週間、どれだけそうなったかなんて、もうわからない。

「……ぐっ……うぅぅっ……」

……こんな苦しいのに、どうしてシェフィールドやレコンキスタのバカどもは何とも思わないんだよ?
俺が甘いのか? 間違ってるのか? 平和ボケしきってるのか?
腹の奥底から煮え繰り返りそうだった。

「……なあ、バハムート」
『なんだ、マスター?』
「……時には踏み潰してでもって話、覚えてるか?」
『ああ』

思い出す、ダングルテール跡地での事。
……コルベール先生にとっては、自分の手で消えた沢山の人の眠る場所。
そして……先生が命を奪う事の罪深さを知って、俺が今その事を身を持って実感する事のあった場所。
未だ預かったままの“炎のルビー”を取り出して、月の光に照らし当てる。

「……俺、全然わかってなかった……人を殺す事が、こんなに辛くて苦しくて、痛い物だったって」
『そう言う物だ』
「……情けない。タバサを守りたいのに、相棒のお前を振るどころか、握る事も満足に出来やしないなんて」
『自分をそう卑下するな。マスターはよくやっている』

炎の様に赤いルビー……でも今の俺には、血の色にしか見えなかった。
自分の手で終わらせた生命、この手で貫いた生きた身体、同じ人間をこの手で殺した事。
……俺は、どうすれば良い?

「……なあ、俺はどれだけ吐き出せばいいんだ? 俺はあと何回、腕を切り落としたくなれば良いんだよ?」
『我からは何も言えない……だが、マスターはよくやっているよ。マスターなりにこれからどうするか、マスターなりの答えを出せばいい。我はそれに従おう』
「無責任じゃないか?」
『所詮我は剣であり、人に指図など出来る様な物じゃない』

よくやっている……か。
覚悟……してた筈なんだけどな。
……所詮、口先だけの覚悟じゃこんな物なのかな?

『そう自分を卑下する物ではない。半端な覚悟で、何度も吐き出しながらもここまで出来る筈がないだろう』
「……気休め程度でも、今はありがたいよ。でもな、表情読むのいい加減やめてくれ」
『それはすまなかった……さて、もう戻った方がいい。少しは横にならないと、体に障る』
「ああ、そうだな……」


In アルビオン空域

「……ふふっ。そうよ、その調子で足掻き続けなさい。私の望むとおりに苦しみ、もがき続け、そして今と言う時を享受なさい」

ガーゴイルを駆り、アルビオンの夜空を舞うシェフィールドは、監視用ガーゴイルを介した物を見て、静かに微笑んだ。

「武器を持てなくなったのは流石に問題ではあるけど、それは良いわ。一か月たっても無理であるなら、無理やりにでもと言う状況を作れば良い。とにかく今は、妙な虫が付く事だけに気をつければ良い」


Side サイト in ウエストウッド村

夜が明けて、身支度して朝食後、今日の俺は家の補修。
都会育ちで不便と思う事はあるけど、こういう風な暮らしも悪くないなと思う。
木槌と釘と木材を手に屋根の補修を行いつつ、下で洗濯をしてるタバサや子供達の世話をしてるティファニア。
そして、薪割りをしてるコルベール先生を見回す。

「平和だな」
『ああ。退屈だけど、結構楽しい生活だぜ』

一応携帯できる武器と言う事で、地下水だけは持ってる。
……こういう平穏な生活、ずっと忘れてたような気がする。
この世界に召喚されてからは、何かと貴族だの平民だのに腹立てる事多かったし。
……バハムート手に入れてからは、特にだ。

地下水の襲撃に、フーケ騒動。
それからガリアに出て、タバサの過去と事情。
ラグドリアン湖での水の精霊に、アホ貴族からの迫害、そしてアルビオンへの出発。
レコンキスタの襲撃に、ダングルテール跡地での惨劇。
それから、ラ・ロシェールでのレコンキスタ再度襲撃に、アルビオン空域での戦艦襲撃。
アルビオン到着後は虚無の樹海を目指して、3日は不眠不休の飲まず食わずで逃げ回って。
その後、ミョズニトニルンの襲撃の後で……。

「……今更だけど、すっごい回想」
『随分と退屈な人生歩んでたんだねえ』
「もともと貴族平民なんて考えは一部除いて廃れてる上に、魔法なんて存在しない世界出身だからな。エルフだって、ただ耳がとがってるだけじゃねーかよ」
『……それ教会どころか、ハルケギニアの住人が聞いたら卒倒するぜ?』
「知るか。迫害するのが当たり前な考えに従えるかよ」

おかしいにも程があるだろ。
大体始祖ブリミルとやらがどうだったか知らないけど、何で6000年も前の事をギャーギャー喚く必要あるんだか。
ティファニアだって、どうしてあんな良い子がエルフってだけで、こうも隠れて生活しなきゃならんのだか。

『……おーい旦那、サイトの旦那』
「ん? なんだよ?」
『メシだってよ。シルフィードが大量に魚取ってきたらしいから、今日は魚料理だってよ』
「おっ、良いなそれ」

……所詮はよその世界の異端者でしかない俺だけど、でも許せないと思う事は悪い事じゃないと思う。
なまじ、ティファニアがタバサと同じような境遇だけに……尚更、そう思える。
落ち着け落ち着け……テファにこんな顔見られたらどうする?


そして食卓。
最近はシルフィードがとってくる魚とかのおかげで、この食卓も随分と潤っているらしい。
俺はまだ肉は食えないから、タバサとかに回ってるけど。

「それにしても、これだけの多人数じゃ作るのも大変じゃないか? 育ち盛りの子も多いし、タバサも結構食べるしさ」
「ううん、大丈夫。料理を美味しいって言ってくれるのって、すごくうれしいし」
「そうそう。残さず食べてくれるのも嬉しいしね」

料理担当のテファともう1人、タニアって子はそう言ってくれた。
まあ確かに、ここの生活だったらテファの料理も1つの楽しみだったりする。
……肉が食えんので、最初ちょっと荒れたけど

余談だけど、タバサとシルフィードの2人が食卓に集うと即座に破産してしまうので、シルフィードには自給をお願いしてる。

「ではみなさん、広場に行きますよ」

ある程度片付けと皿洗いが終わった後は、村の広場で全員がお勉強の時間。
子供達及びテファは、文字が読める子読めない子が居たため、先ずは文字の勉強から。
それで俺は読書で、タバサとキュルケは通常通りの魔法の勉強。

「何もこんな所まで来てやらなくても……」
「そう言わないでくれないか? ミス・ツェルプストー。そう言う条件で、アルビオンへ出る事になったのだから」
「そうだけど……」

時々、夜まで帰らない事があっただけに、キュルケに出される課題は多い。
タバサは結構あっさりと終わって、子供達の手伝いをするかもしくは……。

「きゅいきゅい」

俺と一緒にシルフィードに背を預けて、本を読むかになる。
シルフィードも俺に鼻先を擦り寄せて来るから、撫でてあげる。
ま、ずっと働きづめだったから、こういう風に労うべき何だけどね。

「よしよし、良い子だ」
「きゅい」

俺の倍近くでかい上に、俺の十倍以上は生きてるっつーのに。
俺の事お兄様って……まあ、人間で言うとまだまだ子供らしいけど。

「……」
「どうした?」
「平和」
「ああ、そうだな」

タバサが薄らと微笑んだのを見て、顔が熱くなった。
……それと同時に、胸の奥がすごく痛かった。


(あとがき)
書きたいものがあり過ぎると、逆に書けないという事がわかりました。

でもまあ、ちゃんと書く物の予定は付けてありますんで

まだまだ寒いので、体調には十分お気を付け下さい。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第四章 第3話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2009/01/15 15:58
大量に土を集めて、いつも以上に大量に水を汲んで、肉体的に結構きつい仕事だった。
そして、地下水とミョズニトニルンの力の出番!
錬金使って、そしてそして……よし、出来た!

『なあ、サイトの旦那。これなんだ?』
「風呂だよ、ふーろ。一日の疲れをいやすのに、サウナとかじゃ癒えた気しねえからよ」
『へぇっ、態々俺の力使って何するかと思えば』
「お前は身につけてさえいれば、魔法使えるからな。いざと言う時の為の訓練兼、一日の疲れを癒すのに最適な道具を作る。良い考えだろ?」
『まあ、確かにな』

いやあしかし、苦労したなあ。
子供達の男女を分けても、結構な人数になる。
その子達が足をのばして入れる面積ともなると、その分原料の土が大量に必要だから。

「よし、じゃあ次は壁だな。男女共用だから、その辺ちゃんとしないと」
『おーおー、真面目だねえ』
「……今はそう言うの考えた方が、ずっと楽だからな」
『そうかい……なあ旦那、いい加減割り切っちまえよ。あの場合、殺らなきゃタバサの姐さんが死んでたんだ』

……人殺しって、割り切っていい物なのか?
俺の事を思って言ってくれてるのはわかるけど、でもそれって……

『旦那が裏稼業にゃ向かねえのはわかるがよ、でも守れる物も守れないまま終わるのと、今の状況と、一体どっちが不幸なのかね?』
「……」
『これは内緒だけどな。バハムートの兄貴は自分で悩んで答えを出すべきだって考えだけど、俺と同様あんたが苦しむのを見て辛いって思ってるのは、一緒なんだ』
「……悪いな、こんなダメな持ち主で」
『ダメじゃねえよ。俺はあんたの手に渡れたことに、後悔も嫌気も差した覚えはねえぜ? バハムートの兄貴だって同じさ』

……俺、何やってんだろうな?


「……」
『どうした、タバサ殿?』
「……お互い不器用」
『……違いない』


In ???

手足を縛られ、椅子にくくりつけられているルイズ。
その前には、レコンキスタの盟主ワルドが微笑んでいる。

「ルイズ、考えなおす気はないかね? 君さえいれば、アルビオンはおろかトリステインもゲルマニアもあっという間に手中にできる。そして僕達で聖地を取り戻そう」
「いやよ! 誰が裏切り者なんかに!!」
「君に力を与えてあげたのは僕だ。なのに、何が不満なんだい? 僕と一緒にハルケギニアの統一国家を創ろう」
「私はトリステインの貴族よ! 敵に屈服するくらいなら、死ぬ事を選ぶわ!!」
「強情だね……流石は、誇り高きヴァリエール家の息女」

額に手を当て、ゆっくりと首を振るワルド。
そしてルイズの顔を掴み、自身の顔を近づける。

「でもねルイズ、そう言う物は力ある者だけに許されるのだよ。古くからの慎みと伝統を重んじる国……だが、言いかえれば過去の栄光にすがるだけの力なき小国にすぎない。そんな国に、未来など無い」
「そんな事……」
「では聞くが、なぜゲルマニアとトリステインは婚姻同盟を結ぶ事になった? それはゲルマニアが軍事大国であり、トリステインはそれにすがるしかアルビオンに勝てないからだよ」

ルイズは自身のアルビオン出発のきっかけを思い出し、顔を歪めた。
ゲルマニアとトリステインは、隣国ながら気風と考えが相容れないものであるが故に、たびたび衝突を繰り返している。
敬愛するアンリエッタ姫が、想い人がいるというのにそんな国の皇帝の妃となることに、ルイズ自身も良くは思っていなかった。

「君は弱く無知だ。誇り高くあろうとしても、力がなければ何も出来ない。そして知らないから、そういう虚勢を張れる……どれほど足掻こうが、君の誇りなど絵画の英雄にも劣るのだよ」
「……そんな事」
「あるよ……今日はここまでだ。それより、お腹がすいただろう? もう一週間以上何も食べて居ないんだから」
「だれが、敵の施しなんて!」
「やれやれ……それじゃあ僕は、レコンキスタの幹部達とこれからの方針の会議があるので失礼するよ。言っておくが、死んだり逃げようなんて考えないように」


「さて、どれぐらい持ちこたえられるか……あのエルフの事もある。早急にせねばな」


Side サイト

「ふぅーっ……」

やっぱ日本人は、風呂だよなあ……湯につかるこの感じ、最高だよ。
……日本人、か

「どうしたんだね、サイト君?」
「久しぶりに風呂に入ったので、ちょっと思い出してただけです」
「そうかね……そう言えば、君の世界では風呂1つでも違うのだったな?」
「ええ。まあ……」

……コルベール先生、シルフィードとは違う意味で脱いだらすごかった。
普通には見れんほど引き締まってて、魔法学院の貧弱坊ちゃんがモヤシどころか糸クズにしか思えない位に。
まあ、俺のだって比較されたらモヤシって位に。

「あの、コルベール先生?」
「ん? なんだね、サイト君」
「先生は、始めて人を殺した時、どうでした?」
「……震えて眠れなかったよ。ちょうど、今の君の様にね」

……やっぱり、俺だけじゃあないんだ。

「だがね、すぐに慣れたよ。国の為に正しい事だと、バカな納得をしてね……」
「そうですか……」
「サイト君、辛いだろうが慣れては駄目だ。慣れてしまえば、何かが壊れる……それだけは忘れないでくれ」
「……はい」
「すまないね。君にはもっと、楽しい事を学んでほしかったのに」
「いえ、コルベール先生が謝る事じゃないです……」

慣れる気はない……でも、それならどうすれば良い?
……湯を掬い上げて、バシャバシャと音をたてて顔を洗った。

「それでは、私はこれで失礼するけど?」
「俺は、もうちょっと」
「湯あたりしない程度にするんだよ。君が身体を壊せば、ミス・タバサもミス・ティファニアも悲しむのだからね」
「はい」

タバサもテファも……か。
そりゃあね、2人に迷惑なんてかけたくないけど……
慣れるな……か。
……どうすれば良いんだよ?

「サイトさん?」
「サイト?」

そう、この2人に迷惑は……ん?

「……えーっと」

振り向いた先には、タオルを体に巻いたタバサとテファ。
うむっ、タバサってば肉付きはまだないが、ラインとしては合格基準を上回っております。
テファもそうですが、タオル巻いただけの胸があまりにもド迫力過ぎて……って。

「わああっ!!?」

え? 何で?
いつからここに!!?

「先ほどから」
「はい。タバサと一緒に入ろうと言う話になりまして、まさかまだサイトが入ってるだなんて思ってなかったもので……」
「そっそうなんだ。ごめん、すぐに出るよ!」
「いえ、そんな急いで出る事ありませんよ。それに折角ですから、一緒に入りませんか?」

ざぶっ!!

「サイト?」
「ぶはっ! げほげほっ!! ……なっなあななななななななな!!?」
「え? あの、何か変なこと言いましたか?」
「えーっと……そっか。同年代の男って、俺しか面識なかったんだっけ? あっあのなテファ、男性と女性と言うのは……」
「サイト、前」
「え? あっ!!」


閑話休題


えーっと……俺、確かさっきまで殺しについて悩んでたよな?
……結局、テファの天然上目遣いとタバサの進言により、俺は残留決定。
あー……今までとは違う意味での大事ですな

「こんなでいいのか男女の公衆道徳?」
「本人の許可があれば、そんな物関係ない」
「……そう言われると、流石にどうも言えない。はぁっ……さっきまでなや……」
「なや?」
「いや、なんでもない」
「それにしても、お風呂ってとても気持ちいいですね。まだお父さんたちが生きてた頃、よく入ってたのを思い出します」

確かに風呂も気持ちいいけど、タバサとテファが風呂に入ってる光景が目に気持ちいい。
……じゃない、テファのお父さんって確かアルビオン王家に。

「……どうしてかな? 人間と愛しあったエルフが居て、こんな風にテファっていうハーフだっているのに」
「しかたないよ。始祖ブリミルと敵対してる種族だから……」
「それがおかしいよ! 6000年前の事だろ!? 何でもう当事者だって居ないのに、なんでそんな事でいがみ合ってるんだ!? どうして、蔑んで殺す事が当たり前のように振る舞えるんだよ!?」
「あっあの……」
「あっ……ごめん」
「ううん……私がエルフだからって言われるのを怒ってくれるなんて、今までなかったから」

……いつも思うけど、ただ耳がとがってるだけじゃねえか。
どんだけ視野狭いんだよ、この世界は。
聞いた話だと、ゲルマニアは新しい事を取り入れる事に熱心で、他の国からは異質だと言われてる位だから、相当頭固いみたいだし。
キュルケはキュルケで、結構あっさりとテファに順応したけど、もしルイズだったら……。

「絶対うまくいかなかったろうな」
「何がですか?」
「いや、こっちの話……そろそろのぼせてきたから、あがらせて貰うよ」
「そう」
「では、また後で」

……あっさりと順応しないでください。
男として認識されてるかどうか、ものすごく疑問に思えて悲しくなるから。

『随分と楽しい時間を過ごしたようだな、マスター』
『ケケケッ、男冥利に尽きるなあ。女2人と風呂なんてよ』
「くだらないこと言ってんじゃない……今夜もやるぞ」
『おいおい、今夜もか? 頑張るのは結構だけど、そう根詰め過ぎると体壊すぞ? 元々サイトの旦那は、あんま寝てねえってのに』
「わかってるけど、でも少しでも克服したいんだよ」
『マスター、あまり無理はしてくれるなよ?』
「わかってるよ。無理はしない、お前らにこれ以上辛い思いさせるのもなんだしな」
『っ!?』
『おっおい、旦那!』
『地下水貴様!!』

バハムートが驚くのって、始めてみたな。

(あとがき)

唐突ですが、入浴シーンでございます。
ちょっと無理あったかなとは思ったのですが、テファはウエストウッドでは特にそういう意識はなかったはずなので。

無理あるだろ……と思う人のほうが多いと思いますが。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第四章 第4話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2009/01/19 23:57
アルビオン ロンディニウム城

テューダー王家が住まうアルビオン国王城にして、かつてのレコンキスタの拠点。
戦力を盛り返したアルビオン王党派は、王城の奪還に成功。
今ここに、その王家の血を汲む者が久方振りに足を踏み入れていた。

「まさか、再びこの城を……この数々の思い出深き道を歩く事が出来ようとは……」
「ええ。かつては死を覚悟し、玉砕覚悟で反逆者どもに我等が誇りを思い知らせようとしていた頃が、このバリーがまだ幼き頃の様に思えます」
「僕も同じだ……さあ、一刻も早くレコンキスタの残党を掃討し、これを教訓にした政を施さねばならないな」

そして、玉座の間。
父王は久方ぶりの自身の寝室で療養を開始し、彼はなだけではあるが王の座を継承していた。
そして彼は、王座につき1人の将校と対面している。

「礼を言うよ、ミスタ・ボーウッド。君のおかげで、僕達は再びここに戻る事が出来た」
「いえ、私は罪深き男です。今この場で断罪されても、それは至極当然……」
「だが、君は戻ってきてくれた。そして、このロンディニウム城奪還の最大の功労者となったんだ。褒めこそすれど、蔑むなどなぜ出来る?」
「ウェールズ様……ありがたき幸せ。このボーウッド、これからも全身全霊をもって戦いましょう」
「ありがとう……では、ミスタ・ボーウッド。聞きたい事がある」

ウェールズは一枚の紙を取り出した。
そこには、2人の自身と同じ年頃の男女の人相書き。

「君がレコンキスタを離れたのは、クロムウェルがこの2人を手に入れるべく、度が過ぎた恥知らずの所業を行い続けた事に我慢の限界が生じた……間違いはないか?」
「……はい」
「では、一体何故そこまでして? 聞いた話では、アルビオン最大級戦艦を2隻も使い、その挙句彼等が逃げ込んだサウスゴータ地方一帯に懸賞金をかけた……僕とそう年が変わらないメイジと平民にやる事じゃない。一体この2人には何がある?」
「それは……私しか知らない事ではありますが、あの所業の事もありますので出来れば……」
「……話してくれないか? 彼等の所業は僕達の罪でもある。償わなければならない」


In ラ・ロシェール近郊

「……成程ね。まあ動きが確定するまでは、しばらく様子見……というところかしら? しかし、それはそれとしても……」

額のルーンを通して、偵察用ガーゴイルから送られてくる情報を確認するシェフィールド。
その背後には数体のガーゴイルが整列し、その足元には騎士の死骸が何体も転がっている。

「情報が早いわね。全滅から一日しかたってないのに、もう追加の軍を送るだなんて……まあ、スレードゲルミルの稼働記録が効率よく出来る訳だから、良い傾向ではある。それに……」

右手の指輪が輝き、その死骸の山を照らす。
死骸が全員立ち上がり、全員がシェフィールドに跪く。

「ジョゼフ様の望みの横槍であり、障害である邪教国家ロマリアの戦力を削るいい機会でもある。さて……」

再び額に手を当て、ルーンを介して偵察用ガーゴイルの視点を傍受する。
その先には、剣を背負った少年と眼鏡の少女。
そして、ハープを手に唄っているエルフの少女。

「意外な所にあった、テューダー王家の縁者……さて、これらをどうすればジョゼフ様は最高に喜んでいただけるかしらね?」


Side サイト

安らぎって、こういう物なんだな。
テファの唄を聞いてる時に思う事は、大半がそれ。
2つの月に照らされたその姿は、エルフと言う種族もあって月に語り掛ける妖精って表現がふさわしい。

「やっぱり、何度聞いても和むなあ……テファの唄は、もう欠かせないよ」
「そんな……褒めすぎですよ」
「自信持つべき」
「そうなのね。これほどの唄、シルフィが知る中でも優れた方なのね」

子供達はもう寝静まった時分だから、俺とタバサ、シルフィード位しか聞いていない。
コルベール先生は、もう1つ立てた小屋で何かの実験。
キュルケは夜更かしは肌に悪いからと、とっとと眠った。
ちなみにマチルダさんは(レコンキスタ側メインで)しばらく仕事に出てたけど、ついさっき戻ってきた。

聖堂騎士とやらが駐留してた教会がある辺り一面が、なぞの爆発で吹っ飛んだり……
レコンキスタが最近なりをひそめ、潜伏箇所がわからなくなったり……
所々で戦いはあるけど、基本的にレコンキスタの敗戦一色だったり……
色々と、妙な事になりつつもあった。
と言うのが、マチルダさんの意見。

……俺はそうはいかない。
聞いた話じゃ、諸侯軍って言って農民とかからも徴兵されたらしい。
そう言う人だって、たくさん死んで……そうじゃない人は、俺みたいな思いをして今を生きてる。

「それにしても、外は物騒なんですね。姉さんの話じゃ、今日もたくさんの人が死んだそうですし」
「……戦争ではそう言う物。私も戦争に参加した事はないけど、基本的に権力闘争の延長」

……俺は、間違ってるのかな?

タバサ、テファと別れて、シルフィードを世話する振りして、今日も隠れて訓練。
俺は……地下水の言う通りに割り切れるか?
でも、どうやって?


Side タバサ

戦争、殺し合い……命と願いを消し去るだけで、何も残りはしない。
そう言う場に喜んで立つのは、罪を罪とも思わない快楽者か、命の価値を間違えて認識している者のみ。
そう言う者は、総じて遺される側の気持ちを全く理解していない者たちばかり。
……戦争をチェスの様な感覚でやった者も、恐らく歴史上にはいるだろう

「最近とても楽しいです。念願だった友達が出来て、サイトもタバサも良い人で、とても充実してます」
「私も、ここの生活は楽しい。このままここに住みたい位」
「でしたら、歓迎です! 私も、皆さんがずっと一緒に居てくれたらと思うと……」
「でも、それは無理。迷惑をかけてしまう」
「そんな事ないですよ。私達が皆さんを迷惑に思うなんて、ハーフエルフの私が言うのもなんですが、始祖ブリミルに誓ってそんな事ありません」
「そう言う意味じゃない」

レコンキスタ、ミョズニトニルン……奴等は明らかに、私達を狙っている。
ミョズニトニルンは目的がわからないけど、レコンキスタはわかっている。
クロムウェルが死んだとはいえ、奴等のこれまでを考えればここを焼き打ちにしてもおかしくはない。
警戒はしているし、対策も立てている……。

「私達を私欲に利用しようとする者たちがいる。そいつ等がこの村を嗅ぎつければ……」
「そうなんですか……大丈夫。私にも、自衛の為の力はあります」
「? 先住魔法……精霊の力の事?」
「それとはちょっと違うかもしれませんが、とっておきの魔法が1つあるの。それがあったから、今までこの村は無事だったんです」
「?」

1つだけのとっておき……それは一体何?
テファはとても戦いが出来るように見えない。
先住……精霊の力ならば、1つだけと言うのはシルフィードから聞いた内容とは合わなくなる。
系統魔法で、1つしか使えないなら……貴族崩れも少なくはない以上、無理がある。

「テファ、そのとっておきとは何?」
「それはですね……」


Side サイト

『98…………99………………よし、終わりだマスター』
「ぐっ……ああ、そうか……げぅっ、げほっ!!」

今日も吐きつつ、落としつつ、武器の素振りを終了。
……やっぱり、武器を持つとより鮮明になるだけに、未だにまともに持てずにいる。
殴られたり、けられたり……それとは違う、何かが悲鳴上げそうなほど痛い。

「……」
『感触は未だ消えず……か?』
「ああ……お前らで殺したからか、余計にな。でも、やっぱりもう少しやろう」
『必要以上に急ぎ過ぎだマスター。我としては、殺しを自分なりに割り切ってからでも良いと思うのだが?』
「でも、最近はないみたいだけどこの辺盗賊出るみたいだし、もしレコンキスタやあのミョズニトニルンが襲撃してきたら……」

ここに来てから、異様なほど平和なのが逆に不安だった。
額が痛む訳でも、どこか近くで何かあった訳じゃない。

『まあ落ち着けよ、旦那。態々武器の戦いに拘らんでも、あんたにゃ俺とシルフィードがあるだろ? それに旦那が苦しんでまで闘う事を、タバサの姐さんが望む訳ねえだろ』
「……でも」
『マスターは、自身の思ってる以上に大切に思われている。今更だが、我もそれは同じだ。それを汲んではくれないか?』
「……そうしてやりたいけど、でも俺は……」
『……今話す事ではなかったかもな。さあ、もう眠った方がいい。今日こそは良き夢を見られると良いな』
「……そうだな」




「……そんな魔法、見た事も聞いた事も無い。今まで呼んだどの本にも、そんな作用がある魔法なんて断片すらなかった」
「マチルダ姉さんにも言われました。ですが、ルーンだってちゃんと……」
「まさか……その魔法、どうやって手に入れた?」


(あとがき)
個人的にですが、テファとタバサって境遇似てるだけに、仲良くなると思います。
なので、この話ではキュルケクラスの仲良しという設定にします。
まあ、個人的にもテファは気に入りのキャラですし。

オリキャラエルフ、シャールについてはもう少しお待ちを。
差支えない程度でバラすと、まだ準備中です。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第四章 第5話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2009/01/28 01:15
失われた系統……始祖が行使したと言う、今は失われし系統“虚無”
その行使したと言われる魔法は、名はおろか効果さえもどこにも残されていない。
勿論行使した人間等、このハルケギニアの長い歴史でもただ1人しか居ない

ハルケギニアの長い歴史の中でも、行使した者は始祖ブリミルのみ。
私の祖先でもあるその3人の息子達がガリア、トリステイン、アルビオンの3国を創った。
その弟子フォルサテが始祖ブリミルの墓守として、ロマリアを創ったのがハルケギニア最古の4国家の始まりとされている。
無論歴史を紐解いても、この4国家の血が途絶えたと言う事実は一切記されてはいない。

つまり歴史書通りであるのなら、始祖ブリミルの血は未だに途絶えてなどいない
それに基本ではあるが、私達メイジの魔法の資質は血により継承される。
なのに、失われた系統がありえるかどうか……否、ありえない。

そう考えれば、モード大公の娘であるテファにもその可能性は十分ある。

「……つまり、モード大公が管理していた財宝の1つに鳴らないオルゴールがあって、同じ財宝の指輪をつけた時にその音色は聞こえた?」
「はい……一応、他の人にも試してもらったのですが、私以外ダメだったんです」
「それで、その音色を聴いた時にあなたで言うとっておきの魔法のルーンと共に、いつも歌っているあの唄が頭に浮かんだ……そう言う事?」
「はい」

指輪……もしかして、始祖の血から創ったとされる王家の指輪の事?
ガリア王家にも、“土のルビー”と呼ばれる茶色のルビーの指輪が伝わっており、今ではお爺様からあの男、ジョゼフの手に渡っている筈。
テファがつけたのは恐らく、テューダー王家の指輪

オルゴール……これは何?
話を聞く限りでは、このオルゴールがテファに力を与えた……いや、力を引き出したと見て、間違いない。
テファが指輪をはめた時、オルゴールが聞こえた……王家の指輪が鍵で、そのオルゴールが力を引き出す道具?

……もしかして、王家の秘宝の事?
確かガリア王家には、始祖が使用したという香炉が保管されていたはず。
テューダー王家が保管している王家の秘宝は、そのオルゴール?

虚無の魔法が現存する本に遺されていない理由……それは

「……あの、タバサ?」
「興味が湧いた、調べてみる」
「そうですか」

……彼女がその魔法の効果を知ったのは、自身とその母親を狙った王軍の襲撃。
テファの母は争いごとを好まない事を公言し、一切の反撃をしなかったらしい。
でも無情にもその王軍の答えは、魔法……ハルケギニアの住民からすれば、当然の対応。
その後、クローゼットに隠れていたテファを見つけ、殺されそうになった時のその魔法を発動させた。
それから、ミス・マチルダと共にこの村で隠れ住んでいる。

エルフは争いを好まない……か。
そう言えば私達は、噂や本でしかエルフを知らない。
テファにしてもあのシャールにしても、とても噂されている様な化け物とは思えない。
尾鰭が付いているとはいえど、あれは幾らなんでも酷過ぎる。

考えてみれば、エルフからこちらに攻め入って来たという話は一切出て居ない。
何故聖地を独占しているか、何故始祖と敵対したか……知っている事など殆どと言っていいほどない。
ガリアこそ交流がある物の、そう頻繁と言う訳でもなく、揉め事が起こった事もない。
……実際目で見なければわからない事もある、か。

「では、今日はもう遅いので……」
「そうする。テファももう眠った方がいい」
「はい。ではおやすみなさい」

……テファには知らせない方がいい。
彼女はここで何も知らず、静かに安らかに暮らすべき。
元々でさえ、彼女は迫害される様な生まれをしている……私達の様な運命に巻き込まれて良い人じゃない。
それに……同じ平穏を奪われた者としての願いもある

「避けられる運命なら、避けた方がいい。運命に逆らう事がいけない事だなんて、誰にも定義できる物じゃない」


In ラ・ロシェール 宿の一室

「流石はシャルロット姫、名言です。でもそれが容易に出来ないからこそ、人は常に運命に翻弄され続けている。あなたがそうであるように……」

額に手を当て、送られてくるガーゴイルからの情報を整理する女、シェフィールド。
額にはミョズニトニルンのルーンが輝き、薄暗い部屋を照らしている。

「それにしても、驚いたわ。テューダー王家のはぐれハーフエルフがだなんて。出来ればジョゼフ様に今すぐ報告したい所だが……」

自身のルーンを通し、送られた情報の中でサイトが剣を振っている、。
手はふるえ、所々で吐き出し、ヘタな素人にすら劣るだろうその姿。

「……こんな事が知られようものなら、失望されるどころの話ではなくなってしまう。やはり予定を早めるべきか?」


In ロンディニウム城

「……本当なのか?」
「信じられぬのも無理もありません。ですが、ロイヤル・ソヴリンの艤装を早め、新型艦サンティアゴ・マタモロスの完成を急ぎ、更にはこの2隻を使う事がその証明かと」
「……始祖の使い魔すべての力を持つ少年と、それを従えるメイジ。そして、虚無の樹海に眠る秘宝を手にする事を許された存在……それが本当であれば、国家間の戦局も左右できる。レコンキスタが欲したのも無理はないか」

ロンディニウム城の王座の間。
王座に座り、その手に持つ手配書を眺めるウェールズと、その前に跪くボーウッド。

「ミスタ・ボーウッド。君は引き続き、ロイヤル・ソヴリンを旗艦とする艦隊の指揮をとり、レコンキスタとの戦いを頼む。僕は捜索隊を結成し、彼等を探し保護しよう」
「ウェールズ様、そんな……」
「そんな顔をせずとも、わかっているさ。ここで彼等を捕縛し我等の戦力としようものなら、それではレコンキスタの恥知らずと同じになってしまう。テューダー王家の名と始祖ブリミルに誓う事を約束しよう」
「……感謝いたします」


Side サイト

「ふぅっ……」

家に戻ると、マチルダさんから白ワインを押し付け……もとい、貰って自室で一杯。
魔法学院にいた時からワインは飲んでたけど……流石に今の状態で赤は飲めないけど。
仕事上がりの一杯が楽しみって言葉、すっげえ実感できる。

「しっかしなあ。この年で普通にワイン飲めるっつーのも……」
『ん? 旦那の世界は酒は飲めねえのか?』
「ああ。俺の国じゃお酒は二十歳になってからって、法律で決まってる」
『なんだそりゃ? 随分とかってえ世界なんだな』
「……だな。」

一杯飲んで、ベッドに横たわる。
今は遠い、俺の世界……元々の俺の普通。
……いや、やめよう。

『1つ問いたい』
「なんだよ?」
『マスターは何のために戦っている?』
「なんのって……タバサを守る為だ」
『だが、続ければマスターは再度人を殺すやもしれん。それでもか?』

わかってる……俺はタバサを守りたい。
でも、こんなに重くて痛い事に、俺はそう何度も耐えられる?
……出来る訳がない。

だけど、俺自身もずっと考え続けてた……俺自身がずっと戦い続けてる理由。
人を殺してでもなんて、まだ思えない。
でもやっぱり、これだけは譲りたくない。

「……ここで終わりになんて出来ねえよ。そりゃ人を殺すなんて絶対嫌だけど、もう宣言しちまったんだ。退くなんて選択選べねえよ」
『そうか……守りたいというのはどういう意味でだ?』
「意味って……好きになった女の子を守りたい。これでいいか?」
『随分とハッキリと言ったな?』
『ケケケッ、顔真っ赤だぜ? 飲み過ぎじゃねえの?』
「ワイン風呂にでも入るか?」
『いっいや、遠慮しとくぜ』

いや、マジで飲み過ぎかな?
顔が熱い……つーか、タバサの顔が思いっきり頭に浮かんじまった。


(あとがき)
ちょっと今回難産でした
内容もそうですが、大掃除の時に出てきたリリカルなのはの全シリーズDVDを見てしまって、書く時間が削れてしまったというのもあるんですが……。

まあそれはそれとして、もっとテファを絡めたいところですが、現在ではちょっと難しいところ。
立ち直らせるにしても難しいので、色々と考えねばなりませんが。
サイトなりに殺しに対して、どういう答えを出すか……一応考えてはいますが、色々とつきつめて書きたいので、

では、色々と横道にそれたり脱線したりしそうですが、これからもよろしくです。


あと、もう片方の執筆作もそろそろ書こうと思うので、次からの更新少し遅れるかもしれません。



[3173] 虚無に舞う雪風の剣舞 第四章 第6話
Name: 秋雨◆47235915 ID:696e9f50
Date: 2009/03/29 23:56
ここに来て、2週間が経った。
こんな人里離れた秘境同然の村だから、外の情報なんてミス・マチルダやキュルケが持って帰る物位。
私達が来てからアルビオンの状況は著しく変化して、それはもちろんハルケギニアの国家にも影響を及ぼした。

たとえば、トリステインとゲルマニアの婚姻による軍事同盟。
元々相反する間柄の国家だから、アルビオンの戦況一変を機に元々反対を掲げる派閥が騒ぎ始めて居るらしい。
特にトリステインは、評判が何かと悪いマザリーニ枢機卿が率先して推し進めていた婚姻故に、彼を淘汰しようと言う動きがあるとの事。
……だが、教皇聖下がその婚姻の儀を取り仕切っている事もあり、まだまだ旗色は悪い様。

……世界はまた、大きく動き始めている。
それは勿論、私達の周りでも起こっていた。

「王党軍が?」
「ええ、ここ最近サウスゴータ地方を嗅ぎまわってるそうよ。それもウェールズ皇太子……いえ、ウェールズ王直々にね」
「何考えてんだかね……今のテューダー王家はウェールズ以外に王族は居ないってのに、のこのこと出てくる何て」
「しかし、そんな危険を冒してまでなぜ……」
「……私達を探す為かもしれない」

アルビオンの戦況が覆った原因は、ロイヤル・ソヴリン級2隻が寝返った事にあり。
ロイヤル・ソヴリン号は、ハルケギニア最強と名高いアルビオン空軍の旗艦。
当然レコン・キスタでも旗艦として活躍しており、更には新型装備も搭載。

それを元に創られた、あの新型艦も同様
少なくとも、ハルケギニア最大と名高きアルビオンの空戦力の象徴が2つ。
それも新型武装が施された以上、アルビオン空戦力といえどかなうはずがない。

寝返った原因はわからないが、少なくとも私達の情報を持つ者がいてもおかしくはない。

「……あの、サイトさん?」
「……」
「サイトさん!?」
「っ! え? ああ、どうしたのテファ?」
「あの、美味しくなかったですか? 先ほどからずっと、怖い顔をなさってましたので」
「え? そっそう? ……ごめん、そう言う訳じゃないよ」

……アルビオン王党派、レコンキスタ、ミョズニトニルン。
今のところ、私達に気付いている、もしくはその可能性が高いのはそれだけ。
ロマリアだって、教皇が婚姻を取り仕切る事が急な話だった点が怪しい。
……疑ってかかれば、怪しい点があるのはそれ位。

トリステインは、色々な意味で論外であり問題。
基本的にトリステインは、その国の特色もあり自分達を選ばれた存在だと決定づけている者が多い。
それ故に、サイトの様にメイジに真正面から対抗できる平民など、許容できるような者がいる訳がない。

ミョズニトニルンは……大まかだが、見当は付く。
簡単な消去法と、ガンダールヴの主……現存する条件だけで、思い当たる人物。
それは……


In ガリア南西部

ガリアとロマリアの国境。
6000メイル級の山々が連なる、長大な山脈……通称、火竜山脈
これから語るは、その一角にて起こった真実。

通常を超えた大きさと禍々しさを持った火竜。
この火竜山脈の長として、長年君臨し続けた偉大なる竜……だった物。

「ふーっ……ふーっ……」

その屍の近くに立つは、血塗れの男。
上半身には何も纏わず、右手の指に光る茶色い宝石がはまった指輪をつけている。
そして、同様に血塗れの左手には身の丈ほどの杖が握られ、ミシミシと今にも折れそうな音が響く。

「ふーっ……ふーっ……ふっふふふふふふっ、これが俺の第4の力か」

その顔は喜びか狂気か……禍々しくゆがみ、その周りに居た火竜達は怯んだ。
今までに感じた事のない、狂気とも表現できるような禍々しい覇気を纏う人間に、火竜達は動くどころか、咆哮さえする事も出来なかった。
しきりに笑った後、その人間は大きく息を吸い込み……

「うぅぅううううううううおおぉおおぉおおあああああぁぁあぁあぁぁああ!!!!!!」

火竜山脈の隅から隅へと轟かせようと言わんばかりの、雄叫びをあげた。
その瞬間その場に居た火竜達は、その全てがその場にひれ伏し、または気を失った。
その場にいなかった火竜、そしてサラマンダーを始めとする火竜山脈を住処とする魔獣達は、一斉に故郷を後にした。

「俺のほうは順調だ……順調に力を得ている。俺の望みに、少しずつ近づいている!!」

国内外での呼び名は“無能王”……だが、この姿を見れば必ずやその呼び名を疑うだろう。
そして、その傍らの火竜の屍を見れば理解するだろう……その呼び名は、間違いこの上ない事を。

風系統の魔法では不可能なまでに、引き裂かれた肉。
土系統の魔法では不可能なまでに、強大な力で殴られた跡。
山脈の長の屍は、現存する魔法では不可能なほど、“物理的に”壊されているのだから。

「……ヒラガサイト、シャルロット。お前達の屍は、こんな物では済まさん……人間どころか、亜人でさえとどかぬ領域に辿り着くまでに……」

口元が歪み、笑みを浮かべる。

「いや、それでもまだぬるい!! 悪魔の所業ですら表現できんほど、酷く、惨く、無残なまでに惨殺してくれようぞ!!!」

狂気とも言えるその覇気を纏い、竜の長を蹂躙して見せた人間。
その場に居た火竜達は、ただ怯えることしか出来なかった。


Side レコンキスタ

最大級戦艦が寝返り、敗戦一色のレコンキスタ。
士気は下がる一方で、最早大半が降伏の意を見せ始めていた。

「……兵達の士気も兵糧も、もはや限界だ」
「だが、降伏した処で我等はもはや終わりだ。いっそ我等の意地を……」
「しかし、最早反撃の機会すらどうにか出来る程の力もない」

新盟主となったジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは、議会をまとめる事が出来ず唯焦っていた。
未だに靡かぬ自身の切り札、衰退の一途をたどる自身達の運命。
そして……自身達にとって、天敵ともいえる存在の襲撃の可能性。

「くっ……おのれ、あと一歩……あと一歩なのだ」

2週間……交渉に費やしたその日数は、確実に自身達の破滅を進める一方。
王党軍との戦い、自身の切り札の奪還を狙うガンダールヴのエルフ。

「……ガンダールヴのエルフ。あのロンディニウム城奪還戦の折り、それに紛れて襲撃したあの時、手傷を負わせる事に成功した。その事を知らせた時に、幾らか堪えていたが……今はそれでよしとせねば。先住魔法に治療術が無いとも限らんのだ」

深呼吸をし、自身の切り札ともいえる少女の元へと歩んでいく。
怒りで醜くゆがんだ顔をほぐし、身だしなみを整え扉を開く。

「やあルイズ、調子はどうかな?」
「っ!」
「そう怯えないでおくれ。悲しくなるじゃないか」

時は唯、ゆっくりと……ゆっくりと過ぎていく。
その焦燥を表に出さず、ただひたすらにワルドはルイズを懐柔し続ける。

来たるべき、破滅か反撃かの最後の時……その時の為に。


Side アルビオン ロサイス付近。

「……一体いつまでこうしていれば良いのかね?」
「まだ私の傷が癒えていない上に、契約がまだ終わっていない。このまま攻め入った所で、無駄死にするだけだ」
「そんな悠長な! もたもたしていたら、ルイズが殺されてしまうかも……」
『あのワルドっつー奴が欲しがってたんだ。よっぽど刺激しなけりゃ殺す事はねえよ』

アルビオン軍港ロサイス付近の村の、宿の一室。
そこには貴族の少年と、傷ついた1人の青年が療養をしていた。

「しかし、妙な事になってしまったね。まさかアルビオンの戦況がここまで変わってしまうだなんて……その上、まさかあのワルド子爵が裏切り者だったなんて」
『事実は事実さ。煌びやかな外見の裏に、血生臭えドロドロがあんのは俺っちも結構見てきたからよ。まあ、お前みてえなガキには良い社会勉強じゃねえか』
「失敬な剣だね、君は……では、食事を持ってくるよ。君は確か、サラダと果物がいいのだったね?」
「ああ、頼む」

ギーシュが部屋から出て行くと、シャールは壁に立てかけてある剣に話しかける。

「すまないな、デルフ。こんな事に巻き込んでしまって」
『なあに、気にするこたあねえよ相棒』
「ふっ……人間の世界は、慌しい物だ」
『そんなもんさ』


Side サイト

二つの月……もう見慣れてしまった、ハルケギニアの夜空。
今日もどこかで、人が争って死んでいった……。

「迷っている様ね」

この声……!

「シェフィールド!?」
「まあ待ちなさい、危害を加えに来た訳じゃないわ。それに、わかるでしょう?」

わかる?
……そう言えば、ミョズニトニルンのルーンが痛まない。
って事は、スキルニルかなんかって事かよ。

「……なんの様だよ?」
「わかってくれて嬉しいわ、私達は互いの存在に嘘はつけない……まだ迷っている様だから、ミョズニトニルンらしく助言をあげに来たのよ」
「いらねえから帰れ!」
「せっかちは嫌われるわよ? ……アルビオン王党派の目的、それはあなた」
「っ!」

……まだ、俺を狙ってる奴がいるってのかよ。

「もしここを嗅ぎつけられたら、あのティファニア嬢はどうなるかしらね?」
「っ!?」
「ふふっ……エルフはハルケギニアの敵、それは決して変わらない理。あなたが叫んだ所で、何も変わる事はない」
「……ふざけんなよ!!」
「そう思うのなら、覚悟を決めなさい。守る事も奪う事も、根本は同じ……あなたが守りたい物はすべて、敵を殺さねば守れない物なのよ」

敵を殺さないと……敵は殺す。
敵を殺さないと、タバサもテファも……。

「戦いの真理を受け入れなさい。そして全ての敵を薙ぎ払い、最強に相応しき存在となるのです。そうしなければあの娘達は、ただ蹂躙されるのみ……あなたはそれを黙って見るつもりならば、話は別ですが」

それを言い終わると、シェフィールドは消えてその場にはスキルニルだけが残された。

『っ……ふぁあっ……ん? どうした、サイトの旦那?』
「いや……何でもない」


(あとがき)
久しぶりの更新です、お待たせしてしまって申し訳ない。

今回出したジョゼフ第4の力ですが、これもオリジナルです。
ガリア勢力は本編より強くするっつっても、やりすぎって感があるかもしれませんが。


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