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[31817] インフィニット・テイマーズ(IS×デジモンテイマーズ)
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2015/11/14 20:11
前書き及び警告




どうもです。

相も変わらずデジモンクロス小説を書き続けている友です。

今回はインフィニット・ストラトスとデジモンテイマーズのクロス小説を投稿します。

で、この小説を読むにあたる注意事項として、




1、基本的にISよりデジモンの方が強いです。(ISが相手にできるのは成熟期から完全体下級まで)

2、タカト主人公の為、一夏の見せ場を所々タカトが掻っ攫います。(メインヒロイン達5人フラグは奪う予定はありません)

3、いつもの事ですが、この小説を読んで気分を悪くされても責任持てません。

以上の警告を読んで、何でも来いという人はお楽しみください。

では、始まり始まり~。



[31817] プロローグ
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/03/04 22:12


プロローグ



デ・リーパーとの戦いは子供達とデジモン達の活躍により、終わりを迎えた。

しかし、リアルワールドとデジタルワールドの境界が、再び強固なものとなったため、デジモン達はデジタルワールドへ帰らなければならなかった。

デジモン達との別れを惜しむ子供達。

そんな中、

「ギルモン………」

ギギモンに退化した自分のパートナー、ギルモンを涙を流しながら見つめる少年、 松田まつだ 啓人たかと

タカトは、流れ出る涙を止めることはできない。

そんな時、

「また一緒に遊ぼうね、タカト」

ギギモンから言われた言葉に、泣きながらも笑顔になるタカト。

「うん………うん!」

再会の約束を交わす2人。

子供達の手から離れ、デジタルゲートに吸い込まれていくデジモン達。

ギギモンがデジタルゲートに消える直前、

「約束だね、タカト! 楽しみだね、タカト~~!!」

ギギモンがそう言い残してデジタルゲートに消える。

こうして、ただのデジモン好きだった少年が自分のオリジナルデジモンを考えたことから始まった物語は、一旦の幕を閉じた。






それから4年。

その時の約束は、未だ果たされていない。







[31817] 第一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/03/04 22:12



第一話 波乱の高校受験! 再び回り始める運命!




時は2月中旬。

この時期は所謂受験シーズンだ。

中学三年生となったタカトも、もちろん受験生だ。

そして今、受験会場に向かっているのだが、

「だぁあああっ! なんで一番近い高校の、その試験の為に4駅乗らなきゃいけないんだ! しかも今日、超寒いじゃねえか!」

そう叫びつつ走っているのは、タカトと同じ中学のクラスメイトで友達の、織斑 一夏。

「文句言う前に走って! 一夏が寝坊したせいで、時間ギリギリなんだよ!」

一夏と一緒に走るのは、中学三年生となったタカト。

タカトは、家の位置関係上、小学校で友達だったヒロカズやケンタ達とは違う中学に通うことになり、タカトの中学校生活は、全く新しい環境で始まることになった。

タカトも最初は不安だったが、一夏を始めとして、五反田 弾や御手洗 数馬といった者たちと友達となり、タカトの中学校生活も充実したものとなった。

タカトも一夏も同じ高校、『私立藍越学園』を受験するのだが、タカトと待ち合わせていた一夏が寝坊し、集合時間ギリギリとなっているのだ。

藍越学園は、私立なのに学費も安く、卒業後の進路もしっかりとしている。

タカトに関しては、高校卒業後は家のパン屋、『まつだベーカリー』を継ぐつもりなので、特に高校は何処でもよく、両親の負担を軽くするために、学費が安く、家からも程近い藍越学園に決めたのだ。

因みにタカト、パン作りの腕は、店に出しても恥ずかしくないレベルにはなっている。

というか、事実、タカトの作ったパンも売りに出されている。

ともかく、2人して何とか受験会場に辿り着くも、市立の多目的ホールの為、受験会場がどこにあるか分からない。

建物の構造もかなり複雑だったため、どこに何があるがさっぱりわからない。

そうこうしている間に、タイムリミットが迫る。

すると、

「ええい、次に見つけたドアを開けるぞ! 俺は、それで大体正解なんだ!」

一夏がそんな事を言い出す。

「あ、ちょっと一夏!」

人に聞いた方が早いんじゃないかと思ったタカトが、一夏を止めようとするが、一夏はドアを見つけてさっさと入ってしまう。

仕方なくそれに続くタカト。

すると、

「あー、君達、受験生だよね。 はい、向こうで着替えて。 時間押してるから急いでね。 ここ4時までしか借りられないからやりにくいったらないわ。 全く何考えて………」

部屋に入った途端、教師と思われる女性からそう言われる。

忙しそうな彼女は碌に2人の顔も確認せずに指示だけ出して出て行った。

「えっと………何で受験で着替えるのかな?」

疑問に思ったタカトがそう漏らす。

「カンニング対策じゃないか? ほら、昨年も問題になったし」

自分の考えを言う一夏。

そう言いながらカーテンを開けると、そこには信じられないものが鎮座していた。

「………IS」

一夏が呟く。

2人の目の前にあったのは、2体の『IS』。

正式名称『インフィニット・ストラトス』。

宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ。

しかし、『製作者』の意図とは別に、宇宙進出ではなく、『兵器』へと利用され、そこから各国の思惑により、『スポーツ』に落ち着いた、所謂、飛行パワードスーツだ。

しかし、この『IS』には致命的な欠陥がある。

それは、

「男は使えないんだよな、確か」

一夏がそう言いながらISに近付いていく。

一夏の言うとおり、ISは反応せず、女性だけにしかつかえない。

その為、今現在では女尊男卑の考えが広がり、女性が優遇される社会となっている。

タカトもその事は良く知っており、4年前のデ・リーパー事件の時も、戦闘ヘリや戦車といった兵器がデ・リーパーに対して効果を上げなかったのに比べ、ISがそれなりに活躍していたという話を聞いていた。

そんな事をタカトが考えていると、一夏が何気なくISに触れた。

その瞬間、

「えっ!?」

タカトが驚いた声を上げた。

一夏が触れたISが、一夏に装着されたのだ。

「一夏が、ISを動かした?」

タカトが信じられないといった声を漏らす。

「い、一夏?」

タカトが一夏に声をかける。

「タ、タカト……」

一夏自身も信じられないようで、どうしていいか分からずタカトの名を呟く。

その時、振り向いた拍子に、一夏の装着したISの剣がタカトに向かってくる。

「うわっ!」

タカトはビックリして、ギリギリ避けるものの、その拍子に後ろに向かって転んでしまう。

「わ、悪いタカト! 大丈夫か?」

ワザとではないとはいえ、自分の行動でタカトに怪我をさせそうになった一夏は謝る。

「う、うん、何とか………」

タカトは、そう言いながら後ろにあった何かに手をかけながら立ち上がろうとした。

タカトが手をかけたのは、この部屋にあったもう1機のIS。

その瞬間、眩い光がタカトのポケットから発せられた。

「な、何!?」

タカトは驚いて、ポケットから何かを取り出す。

それは、どんな時でも、肌身離さず持ち歩いていた、ギルモンとの絆の証、『Dアーク』。

その光は、Dアークの液晶画面から放たれていた。

「これは………?」

タカトが怪訝な声を漏らすと、次の瞬間、タカトが手をかけていたISが光の粒子となり、Dアークに吸い込まれていく。

そして、ISが完全に吸い込まれると、Dアークから発せられていた光が一旦収まる。

しかし、すぐに先ほど以上の光が放たれた。

「うわっ!?」

タカトは思わず目を庇う。

すると、体の各部に何かが装着される感覚がした。

光が収まり、タカトが目を開けると、Dアークに吸収された時とは形が変わっているISがタカトに装着されていた。

「………一体……何が……?」

タカトは思わず呟く。

タカトに装着されたISは、暗い灰色をベースに青い装飾が所々に入った、まるで西洋騎士の鎧のような形になっていた。

ただ、西洋騎士の鎧と比べるとそれぞれのパーツが分厚く、重そうなイメージだ。

「タカトも、ISを……」

一夏が呟く。

すると、騒ぎを聞きつけたのか、教師と思われる女性が入ってくる。

「何の騒ぎですか!?」

若干怒鳴りながら入ってくるものの、目の前の光景を見て固まった。

目の前には、男性には動かせない筈のISを装着している2人の少年。

「そ、そんな……何で男がISを………」

女性は驚愕した表情で呟いた。

そして、2人の少年がISを動かしたことは、瞬く間に知れ渡った。





タカトは、受験会場で困っていた。

一夏は、単純にISを動かしただけなのだが、タカトはDアークによってISが作り変えられている。

そうなれば、調査と言ってDアークを取り上げられる可能性が高い事は、タカトにも容易に予想がついた。

既に、この試験会場には、男がISを動かしたという話を聞きつけ、IS関係者が何人も押しかけてきている。

タカトは、ISだけ置いておこうと思ったのだが、タカトがISから離れようとすると、何故かDアークに吸い込まれてしまい、置いておくことが出来なかった。

仕方なく、タカトはこっそりと会場を抜け出そうとしたのだが、運悪く見つかってしまい、現在逃げている真っ最中だ。

Dアークを渡せばそれで済むのかもしれないが、Dアークを渡したとしても、戻ってくる保証がどこにもないため、ギルモンとの絆の証を渡すことは、タカトには出来なかった。

IS関係者や、マスコミに追われるタカト。

その時、

「タカト君!!」

聞き覚えのある男性の声が聞こえた。

タカトがそちらを向くと、サングラスをかけた金髪の男性の姿。

「山木さん!?」

それは、4年前のデジモン事件やデ・リーパー事件などでタカト達と知り合った情報省ネット管理局、通称ヒュプノスの山木 満雄。

「こっちだ! タカト君!」

その言葉と、山木の近くに止まっている車を目にして、その言葉を悟るタカト。

タカトは向きを変え、山木の方に走って行く。

そして、飛び込むように車に乗り込むと、すぐに山木も車に乗り、

「出してくれ!」

その言葉と共に、車はかなりのスピードで走りだした。

少しして、

「大丈夫だったか? タカト君」

そう声をかけてくる山木。

「はあ………はあ………助かりました。 ありがとうございます、山木さん」

そうお礼を言うタカト。

「君がISを動かしたことは聞いたが、一体何があったんだ?」

山木はそう尋ねる。

「それは………」

タカトは、受験会場であった事を一通り説明する。

「アークにISが吸収された!?」

「はい、原因はわかりませんが、アークに吸収されたISが形を変えて、僕に装着されたんです」

「そうか、アークが関係しているとなると、彼らを呼んだ方が良いかもしれないな」

「彼ら?」

タカトが尋ねると、山木は笑みを浮かべ、

「君も知っている彼らだよ」

そう言った。




数日後。

ヒュプノスの管理するとある施設に、タカトはいた。

この数日間は、タカトはヒュプノスに保護されていたのだ。

そして今日、調査に協力する人員がそろったという事で、今日から本格的にタカトのISについて調べることとなった。

その調査に協力する人たちとは、

「久しぶりだね、タカト君」

「水野さん!?」

水野 伍郎、通称SHIBUMIを始めとした、『ワイルド・バンチ』の面々。

そして、

「やあ、タカト」

「アンタ、何でISを動かしてるのよ」

かつて共に戦った仲間の、リー 健良ジェンリャ牧野まきの 留姫るき

「ジェン! ルキ!」

仲間と再会したタカトは、思わず笑顔になる。

「彼らも、調査の協力者として呼んでおいた」

山木がそう言う。

「私達も、君達には償いきれない負い目がある。 この程度で償えるとは思っていないが、出来る限りの事は協力させてくれ」

そう言ったのは、ジェンの父であり、ワイルド・バンチのメンバーでもある、リー 鎮宇ジャンユー

こうして、タカトのISの調査が開始された。

タカトのISを他の人間でも扱えるか試してみたり、逆にタカトも他のISが使えるか試してみたり。

ジェンやルキにもISに触ってもらい、タカトの時と同じ現象が起きるかどうかなど。

調査は数日間にわたって行われた。

そして数日後、調査の結果が山木の口から報告された。

「まずタカト君」

「はい」

山木がタカトに声をかける。

「君は、厳密に言えば、ISを使えるようになったわけではない。 君を普通のISに触らせても、何の反応も示さなかったことから、その事は君にも分かっていると思う」

その言葉に軽く頷くタカト。

「逆に君のISを男性、女性問わず触らせてみたが、全く反応しなかった。 そこの2人も同じだった」

そう言いながら、ジェンとルキに視線を向ける。

山木は視線をタカトに戻すと、

「つまり、君がISを使えるようになったわけではなく、ISが君専用に変化したという結論になった」

山木は話を続ける。

「次に君と同じアークを持つ、彼らにISに触ってもらい、君と同じ現象が起こるか調べたが、これも全く何も起きなかった。 まあ、女性であるルキ君は、ISを起動させることはできたが」

「そうですか」

「次にISのコアを調査してみた。 聞いたことがあるかもしれないが、ISのコアは完全なるブラックボックス。 この調査もダメ元で始めたことだったんだが、君のISのコアの中に、我々の知る、とあるデータが発見された」

「とあるデータ?」

その言葉に、タカトは不思議そうな声を漏らす。

山木は一呼吸置き、

「グラニのデータだ」

「えっ!? グラニの!?」

山木の言葉に、タカトは思わず驚愕する。

「君の話では、グラニはデ・リーパーとの最終決戦の際、君と、いや、正確には君とギルモンが一つになったデュークモンと一体化したそうだね?」

「は、はい」

タカトは、何とか返事を返す。

「我々の仮説だが、君達と一体化したグラニのデータは、君とギルモンに残留していたと考えられる。 そして、君がISに触れた際、アークを通じてグラニのデータが足りない部分を補おうとして、ISを吸収したのではないかと考えている。 ISを吸収できた理由としては、現段階では不明だが、もしかしたら、デジコアとISのコアは共通する部分があるのかもしれん」

そう説明したのは、ワイルド・バンチのリーダーの、ロブ・マッコイ。

「だけどね、グラニの生みの親としてはこう思うの」

そう言ってタカトに近づいたのは、アークをグラニへ生まれ変わらせたワイルド・バンチの女性メンバー、デイジー。

そして、デイジーはタカトの手を取ると、

「グラニは、もう一度あなたの力になりたくて、ISを吸収したんじゃないかって」

そう言った。

「私の、勝手な想像だけどね」

最後にそう付け足す。

「いえ………僕も、そう思います!」

デイジーの意見に同意するタカト。

すると、タカトはISの、いや、グラニが待機しているDアークを見た。

「またよろしくね。 グラニ」

その呟きに応えるように、Dアークが輝いた気がした。







[31817] 第二話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/03/04 22:14


第二話 入学試験! 絆の一次移行ファースト・シフト!!





タカトは現在、IS学園の第3アリーナのピットに一夏と共にいた。

理由は、IS学園の入学試験を受けるためである。

ただ、入学試験とは言っても、勝ち負けで合否を決めるわけではなく、ISの適正値がどのぐらいかを調べるための試験だ。

タカトは、一夏と一緒にIS学園に入学することになった。

理由は、IS学園ならば全寮制で、警備もしっかりしていることから、よからぬことを企むところからタカト達を守るという意味である。

タカトにとっても、特に反対は無かったため、素直に頷くことにした。

ただ、ルキの機嫌が悪かったことに、タカトは首をひねっていたが。

暫くすると、一夏が先に呼ばれ、一夏はIS『打鉄』を装着すると、アリーナ内へ向かった。

その様子は、ピット内のモニターにも映し出され、アリーナの様子がわかる様になっている。

タカトは、一夏を心配しながら見ていたが、試験官と思われるISを纏った女性が一夏に突っ込んでいく。

それを一夏は、反射的に避けた。

すると、その試験官は止まりきれずに壁に激突。

そのまま動かなくなった。

「………あれ?」

見ていたタカトも、意外な結果に思わず声を漏らした。

まさか、避けただけで終わるとは、思ってもみなかったのである。

一夏は、気絶した試験官を連れて、ピット内に戻ってくる。

タカトが試験官の様子を確認すると、完全に伸びてしまっていた。

「どうする?」

一夏が聞いてくる。

「どうするって……保健室かどこかに連れて行くぐらいしか………」

タカトはそう言う。

「そうか。 じゃあ、俺が連れて行くことにするよ」

といって、一夏はさっさと行ってしまう。

ISを装着したまま。

「あ、ちょっと一夏」

タカトは呼び止めようとしたが、時すでに遅し。

「………一夏、保健室の場所知ってるの?」

そう呟くタカトだった。

「……それにしても、如何しよう?」

試験官の先生が気絶してしまい、尚且つ一夏が連れて行ってしまったとあっては、タカトは如何すればいいのか見当もつかない。

タカトが困っていると、

「フフフ、お困りのようね」

突然声をかけられた。

タカトがビックリして振り向くと、そこにはIS学園の制服を着た1人の女性。

その女性は、水色の髪のセミロングで癖毛が外側に向いており、瞳はルビー色。

所謂美少女と呼ばれるほどに整った顔立ちをしていた。

「えっと……貴女は?」

見知らぬ人物に、タカトは問いかける。

その女性は、イタズラっぽい笑みを浮かべると、

「私の名前は、更識 楯無。 生徒会長よ」

手に持った扇子を広げながら、そう名乗った。

広げた扇子には、『参上』の文字が。

「………えっと、その生徒会長さんが何か?」

タカトは、何故生徒会長がここに?と疑問に思いながら問いかける。

「さっきの試験を見てたけど、試験官の山田先生が気絶しちゃったから、どうしていいか分からないんでしょ?」

「は、はい」

楯無の言葉に、頷くタカト。

「よしっ! お姉さんに任せなさい!」

そう言って何処かへと消える楯無。

「な、何だったの?」

唐突に表れて唐突に消えた楯無に、呆気にとられるタカト。

すると、少しして、アリーナに入場するように連絡が来る。

タカトは、少し怪訝に思いながらも、ISを展開する。

そして、

「行こう! グラニ!」

そう言ってピットからアリーナ内に飛び立った。



アリーナ内に入ると、中央近くに着地する。

そして、相手を見上げると、

「待ってたわよ、松田 タカト君♪」

先ほどと同じ、イタズラっぽい笑みを浮かべて、ISを纏った楯無がそこにいた。

楯無のISは、アーマーの面積が全体的に狭く、小さい。

しかし、それをカバーするように、透明の液状のフィールドが形成されていて、まるで、水のドレスか、ローブをまとっているような印象を受ける。

更に、左右一対の状態で浮いているクリスタルのようなパーツ。

アクア・クリスタルと呼ばれるそこからも、同じく水のヴェールが展開され、大きなマントのように楯無を包み込んでいる。

そして、その手には大型のランスがあり、ランスの表面にも、水の螺旋が表面を流れて、まるでドリルのように回転している。

「私が君の試験官。そして、これが私のIS、『ミステリアス・レイディ』よ」

そうISの紹介をする楯無。

「僕のISは『ゼロアームズ・グラニ』です」

若干呆気にとられつつ、一応そう返すタカト。

「ゼロアームズ・グラニ、か。 中々いい名前ね」

「どうも……」

ずっとニコニコしている楯無に、如何も調子を狂わされるタカト。

「じゃあ、そろそろ始めましょうか?」

楯無は、ランスを構える。

「………わかりました」

タカトも武装を呼び出す。

グラニの武装は、左手に自身の四分の三ほどをカバーできる大きな円形の盾。

右手には、楯無のランスと同じような円錐状のランス。

ただし、楯無のランスは柄が長く、両手持ちなのに比べて、タカトのランスは柄が短く、片手用のランスだ。

色は、機体の色と同じく暗めの灰色がベースとなり、青いラインが入ったものだ。

すると、アリーナの中央にカウントが表示され、タカトと楯無は構える。

そして、ゼロになった瞬間、両者は動き出した。

「はぁああああっ!」

タカトは正面から飛び込み、ランスを繰り出す。

「おっと!」

楯無は空中に飛び上がり、それと同時にランスに装備されている4門のガトリングを連射した。

タカトは、それに気付いて盾で防ごうとしたが、

(くっ! ISが思うように動かない!)

反応が遅れ、何発か貰ってから盾で防いだ。

「くっ!」

声を漏らすタカト。

盾で防がれていることを確認した楯無はガトリングを撃つのをやめる。

それと同時に、タカトは飛び込んだ。

遠距離攻撃の武装が見当たらないタカトは、どうしても接近戦を仕掛けるしかない。

すると、楯無は今度は避けずにランスでタカトのランスを受け止めた。

「さあ、どんどんかかってきなさい。 心配しなくても、おねーさんは最強なのよ」

そう言いつつ、余裕を見せる楯無。

「はっ! せいっ!」

次々にランスを繰り出すタカト。

だが、その全ては楯無に軽々といなされ、流され、受け止められる。

一撃たりともまともな攻撃が入らない。

「う~ん、それで全力? これだとおねーさん飽きちゃうよ」

そう言うと、楯無はタカトの一撃を受け流し、ランスの柄の方でタカトの腹部を突く。

「がっ!?」

吹き飛ばされながらも、体勢を立て直し、地面に着地するタカト。

だが、間髪入れず、楯無がガトリングガンを乱射する。

タカトは咄嗟に盾で防ぐ。

だが、周りにも着弾することによって、砂煙が舞い、タカトの視界を悪くする。

(このままじゃ防戦一方だ。 何とか隙をついて一撃を加えないと)

タカトはそう考える。

そして、ガトリングの銃撃が止む。

「今だっ!」

タカトは間髪入れず飛び込み、楯無を狙う。

タカトの奇襲に反応が遅れたのか、タカトのランスが楯無の体に吸い込まれ、

――パシャッ

四散した。

「えっ!?」

思わず呆けるタカト。

今の楯無は、水で作った分身だったのだ。

「今のは中々良い踏み込みだったよ」

後ろからそう聞こえた声に、タカトは慌てて振り向こうとしたが、

「残念でした」

そんな楽観的な言葉とは裏腹に、ランスに纏っていた螺旋状の水流が高速回転し、ドリルの如き強烈な一撃がタカトを襲う。

「うわぁあああああああああっ!!」

その一撃をまともに受け、吹き飛ばされるタカト。

そのままアリーナの壁に激突する。

「うっ……くっ………」

苦しそうな声を漏らすタカト。

見れば、シールドエネルギーも半分近くまで減っている。

「ちょっと早いかもしれないけど、そろそろ決めちゃうよ」

その言葉に、タカトが顔を上げると、タカトの周りに霧が漂っている。

その霧に、タカトの本能が警告を鳴らすが、アリーナの壁に脚部がめり込み、その場を咄嗟に離脱できない。

タカトが焦る間にも、霧はどんどん濃くなっていく。

「くぅ………」

タカトの脳裏に諦めが過る。

(やっぱり………僕一人だけじゃ、何もできないのかな………)

そう思うタカト。

(ギルモンが一緒じゃないと……僕は弱い人間なんだ………)

タカトは、思わず項垂れて目を瞑る。

霧の濃さが最大限に達しようとしたとき、

『諦めるのか、タカト?』

どこかで聞いた声が、タカトの頭の中に響いた。

「えっ?」

次の瞬間、タカトの意識は、真っ白な空間の中にいた。

「これは………?」

突然の現象に、タカトは困惑する。

『タカト』

その言葉と共に、白い空間の中に赤い光が集まり、ある姿を形成した。

それは、

「グラニ……!」

タカトの目の前にいたのは、かつてデュークモンと共に空を駆けた相棒、『ゼロアームズ・グラニ』。

『タカト、君はそんなに簡単にあきらめるのか?』

グラニの言葉に、タカトは俯く。

『そんなことで、ギルモンと再会した時に、胸を張って再会できるのか?』

その言葉にハッとなり、タカトは顔を上げる。

『タカト、君は自分が思っているほど弱くない。 君は優しいだけだ。 事実、今の戦いも、君は全力で戦っているけど、本気じゃない』

「全力だけど本気じゃない?」

『戦っている相手に対する思いやりが、君の力に無意識にセーブをかけてるんだ。 思い出すんだタカト。 君は、ギルモンと共にデュークモンとなり、数々の戦いを生き抜いてきた。 例えギルモンが居なくとも、その戦いの経験は、紛れもなく君の中にある』

「グラニ……」

『諦めるなタカト………相手を倒すためじゃない。 胸を張ってギルモンと再会するために……』

グラニがそう言うと、グラニの姿が薄れていく。

「グラニ!?」

『もう時間のようだ。 僕が今の状態で君と話せるのはこれが最後。 後は、ギルモンと再会した時に………』

「グラニ!」

消えようとするグラニにタカトは叫ぶ。

『大丈夫だ、タカト。 話せなくなるけど、消えるわけじゃない。 僕はずっと、君の傍にいる…………』

「グラニッ!」

『それから忘れないで………僕は君の………もう一人のパートナー………』

その言葉を最後に、グラニの姿は消える。

「グラニーーーーーーーッ!!」

その瞬間、タカトの意識は現実に戻ってくる。

「はっ!」

タカトが気が付くと、タカトの周りには、楯無の姿が見えないほど濃い霧が纏わりついていた。

だが、不思議とタカトは落ち着いていた。

(グラニは、僕のもう一人のパートナー………だったら!)

タカトは何かを決心したように行動を起こした。

そして、楯無が指を鳴らした瞬間、タカトに纏わりついていた霧が大爆発を起こした。

今の攻撃は清き熱情クリア・パッション

ナノマシンで構成された水を霧状にして攻撃対象物へ散布し、ナノマシンを発熱させることで水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こす攻撃だ。

その威力は凄まじく、シールドエネルギーが半分近くまで減っていたグラニに耐えきれる威力ではない。

本来なら。

「思ったより、呆気なかったかな?」

楯無はそう呟いてタカトに背中を向けようとした。

しかし、

――ガシャン

聞こえた音に、楯無は思わずタカトのいたところに向き直った。

今の音は、間違いなく、ISが地面を踏みしめる音。

楯無が、注意深く爆煙に包まれた場所を見つめる。

やがて煙が薄れて現れたのは、爆発前となんら変わらぬタカトとグラニの姿。

そう、何も変わっていない。

ただ、両手の槍と盾が無くなっているだけ。

あれだけの爆発の中、全くの無傷だった。

清き熱情クリア・パッションを受けて全くの無傷? いいえ、あり得ないわ。 どんなに装甲の厚いISでも、あの爆発で焦げ目すらつかないのはおかしい。 現にその前の蒼流旋の一撃で、あの子のISは破損してる。 一体どうやって?)

楯無は、内心驚きながらも、冷静に分析しようとする。

そして気付いた。

盾が消えたタカトの左手にDアークが。

そして、槍が消えたタカトの右手に、一枚のデジモンカードが握られていることに。

「カードスラッシュ………防御プラグインC!」

タカトは、楯無を見上げ、そのカードを見せつけるように言い放った。

「デジモンカード………そんなものでどうやって?」

タカトの行動を怪訝に思う楯無。

タカトは、『防御プラグインC』のカードをしまうと、別のカードを取り出した。

そして、

「一緒に行こう。 グラニ!」

タカトは目を見開き、Dアークを構えた。

タカトは右手に持ったカードを左手に持ったDアークのカード挿入口に通す。

「カードスラッシュ!!」

そして、そのカードの情報をDアークが読み取っていく。

「超進化プラグインS!!」

タカトがその名を叫んだ瞬間、Dアークによりそのカードのデータがグラニへと送られた。

――EVOLUTION

Dアークの液晶画面に、そう表示された。

その瞬間、グラニが光り輝く。

光の中で、グラニの形が変化する。

分厚かった装甲は、半分以下のスマートな形となり、より騎士らしい姿へ。

何よりも、暗い灰色だった装甲が、輝く白銀へと変化し、暗いイメージを一層強くしていた青い装飾も赤い色へと変化した。

左手に現れた盾も白銀をベースに金の縁取りと赤い紋章が描かれ、右手のランスも白銀の刃に赤い縁取りの装飾が施される。

その姿は、正にデュークモンを連想させる。

そして、半分まで減っていたシールドエネルギーが全回復した。

「ゼロアームズ・グラニ! 一次移行ファースト・シフト!!」

タカトはそう言い放つ。

一次移行ファースト・シフト!? 今までは初期設定だったの? それに、その姿は……!?」

楯無は現在のタカトの姿に驚いている。

すると、タカトは構えを取った。

そのタカトの行動に、楯無は気を取り直す。

「へぇ~、まだお姉さんを楽しませてくれる?」

楯無は余裕の態度を崩さない。

しかし次の瞬間、タカトは一気に踏み込んだ。

先ほどとは比較にならないスピードの踏み込みとランスの一撃。

(速いっ!)

「くっ!」

楯無はそのランスの一撃を自分のランスで受け止める。

しかし、先ほどとは違って、本当にギリギリ受け止められた感が強い。

「はぁあああああああっ!!」

タカトは、そのまま鍔迫り合いに入る。

「くぅうううううっ!!」

楯無も負けじと力を込める。

すると、楯無はふと刃越しにタカトの顔を見た。

先ほどまでの、どこか頼り無さ気だった雰囲気は全く無く、真剣な表情で、己の力の全てを出し切ろうとするその姿。

(へぇ~。 この子、こんな顔も出来るんだ………)

そんな事を思う楯無。

そんな考えが隙を生んだのか、

「はああっ!!」

タカトがランスを振り抜き、楯無を弾き飛ばす。

「きゃっ!?」

楯無は軽い悲鳴を上げるものの、すぐに空中で体勢を立て直した。

だが、タカトのランスの切っ先にエネルギーが集まり、

「セーバーショット!」

それを楯無に向けて撃ち出した。

体勢の悪かった楯無は回避することを諦め、水のヴェールで防ごうとした。

だが、エネルギー弾がヴェールに着弾した瞬間、爆発を起こし、水のヴェールを四散させると共に、爆発の余波が楯無へと届く。

「くぅ……」

その余波に、声を漏らす楯無。

その隙に、タカトは次の行動を起こしていた。

再び盾と槍を消し、Dアークとカードを手にする。

「カードスラッシュ! 高速プラグインB!!」

高速プラグインBをスラッシュすると、タカトは再び盾と槍を両手に具現させる。

一見、見た目には変化はない。

しかし、楯無は油断せずに身構える。

そして、タカトが動く気配を見せた瞬間、その場から消えた。

いや、ISのハイパーセンサーでも知覚できないほどのスピードで移動したのだ。

その速度は、ISの高等技術である瞬時加速イグニッション・ブーストをも凌駕する。

「ッ!? 後ろ!」

楯無が咄嗟に振り向く。

そこには、5mほど離れたところで、光り輝くランスを楯無に向けているタカトの姿。

そして、

「ロイヤルセーバー!!」

その切っ先から先ほどとは比較にならないエネルギーの奔流が放たれる。

「きゃぁあああああああっ!!」

楯無は、水のヴェールで防御したものの、そのエネルギーの奔流はヴェールを打ち破り、ミステリアス・レイディのシールドエネルギーを大きく減らした。

「ッ………!」

地上に激突するかに思われた楯無だが、体勢を立て直して地面に着地する。

タカトも地上に降りてきた。

再び向き合うタカトと楯無。

「この水のヴェールの上からシールドエネルギーを200以上も削るなんて、すごい威力だね」

そう言って笑う楯無。

「おねーさん、ちょっと本気になっちゃったかも」

楯無はそう言うと、ランスを構える。

すると、今まで纏っていた水のヴェールが、ランスに集中していく。

(まあ、出力は50パーセントってところかな?)

今から楯無が放とうとしているのは、ミステリアス・レイディの奥の手、『ミストルテインの槍』。

普段は防御に回しているアクア・ナノマシンを一点に集中。

攻性形成することで強力な攻撃を可能とする、一撃必殺の大技であるが、自らも大怪我を負いかねない諸刃の剣。

最大出力では気化爆弾4個分にもなるというその名の通りの切り札だ。

ただし、今回はあくまで試験の為、出力は押さえている。

「フフフ。 これに立ち向かう勇気はある?」

最大出力ではないが、その威力は今までの攻撃の比ではないことは明らか。

しかし、タカトは一枚のカードをスラッシュした。

「カードスラッシュ! 攻撃プラグインA!!」

そして、ランスを掲げ、それにエネルギーを集中させる。

「受けて立つ!」

タカトは、真剣な目でそう言い放った。

楯無は笑みを浮かべ、

「いくわよ!」

その技を解き放った。

「ミストルテインの槍!!」

地面を抉りながら、今まで以上の巨大な水流の螺旋がタカトに襲い掛かる。

それに対し、

「ロイヤルセーバー!!」

光り輝く槍を構え、タカトは一直線に突撃した。

激突する攻撃。

「はぁあああああああっ!!」

「だぁあああああああっ!!」

気迫と気迫のぶつかり合い。

そして、

――ドゴォォォォォン

大爆発と共に、互いが吹き飛ばされた。

それぞれ向かい側の壁に激突する両者。

「うく………」

先に立ったのは楯無だった。

楯無がタカトの方を見ると、まだ壁に寄り掛かったままだ。

楯無は、近くに転がっていた自分のランスを拾い、タカトに向かって突撃した。

「悪いけど、貰ったわよ!」

反対側の壁に向かって一気に距離を詰める。

タカトはまだ動けない。

楯無はそのタカトに向かってランスを突きだした。

タカトは成す術なくそのランスに貫かれ、

タカトの姿が消えた。

「えっ!?」

驚愕する楯無。

その瞬間、

「うぉおおおおおっ!!」

砂煙の陰からタカトが飛び出してくる。

タカトが今使ったカードは、『分身≪エイリアス≫』のカード。

自分の分身を出現させるカードで、その能力はISでも同じだった。

その状況は、偶然にも先ほどタカトが楯無に騙されたときに酷似していた。

向かってくるタカトに気付いた楯無は何とか迎え撃とうとするものの、

(ダメッ! 間に合わない!)

手遅れを悟る楯無。

そして次の瞬間、

――ドスッ

突き刺さる音が聞こえる。

その結果は、

『勝者 更識 楯無』

そう表示される。

見れば、タカトのランスは楯無の顔の前で寸止めされており、楯無のランスがタカトの腹部の装甲に突き刺さっていた。

「はぁ……はぁ……」

楯無は、緊迫からか息を吐いていた。

タカトは、ISが解除され、

「負けちゃった」

少し残念そうにそう呟く。

「あ、先輩。 ありがとうございました」

タカトは、楯無にお礼を言って頭を下げる。

するとタカトは、歩いてピットまで戻っていく。

その後ろ姿を、見えなくなるまで見つめる楯無。

それから自分の残りのシールドエネルギーを確認すると、既に一桁。

あの時、完全にタカトに騙された楯無の迎撃は完全に間に合わないタイミングだった。
 
あのまま行けば、確実に楯無の負けであった事に間違いはない。

ところが、タカトはランスの攻撃が楯無に当たる瞬間、何故か寸止めしたのだ。

その為、楯無の繰り出した一撃がタカトの腹部にヒットし、結果的に楯無の勝利となった。

しかし、楯無はこの勝利を素直に喜べるはずがなかった。

「…………松田 タカト君………か」

タカトの名を呟く楯無。

「ちょっと興味あるかも」

面白いおもちゃを見つけた子供のような笑みを浮かべ、そう呟いたのだった








オリジナルIS



名称:ゼロアームズ・グラニ

使用者:松田 啓人

装備:グラム(ランス)、イージス(盾)

陸戦:S

空戦:C

近接戦闘:S

中距離戦闘:B

遠距離戦闘:C

機動力:地上S 空中C

装甲:C(イージスのみS以上)


<武装>

セーバーショット:シールドエネルギー10消費。 グラムからエネルギー弾を放つ攻撃。 普通のIS相手なら平均50ほどシールドエネルギーを削る。

ロイヤルセーバー(放出):シールドエネルギー100消費。 グラムからのエネルギー放射攻撃。 相手のシールドエネルギーを200ほど削る。

ロイヤルセーバー(突撃):シールドエネルギー100消費。 グラムにエネルギーを集中させ、突撃する攻撃。 装甲の薄い相手なら一撃で墜とすほどの威力がある。 なお、突撃時にグラムから放たれるエネルギーが円錐状に放出されるため、正面からの攻撃を弾けるため、攻防一体の攻撃となる。 ただし、後ろからは無防備。

ファイナルエリシオン:イージスから放たれるグラニの最終兵器。 シールドエネルギーを10残して残り全てを攻撃に回す。 シールドエネルギーが半分もあれば、殆どのISは一撃でシールドエネルギーを削りきるほどの威力。 ぶっちゃけ電童のファイナルアタック。


単一仕様能力:カードスラッシュ

デジモンのカードを使用することでISに追加能力を与える。

ただし、一度のスラッシュでシールドエネルギー50消費。

同じカードは、一度の起動で一回のみ。

オプションカードの効果時間は1分、もしくは一度その能力を使用するまで。

能力の重複は出来ない。

デジモンカードをスラッシュすると、そのデジモンの能力をISに持たせる。

効果時間は1分、もしくは必殺技を使用するまで。

必殺技を使用すると、その威力に比例したシールドエネルギーを消費する。

ただし、完全体以下のデジモンカードは、スラッシュしても総合的にISの能力が落ちる。

究極体も、能力が上がっても必殺技のシールドエネルギーの消費がシャレになっていないなどの理由で、使い勝手は悪い。





これだけだと分かりづらいと思うので、自分が判断した白式のパラメーターも書いておきます。

名称:白式

使用者:織斑 一夏

装備:雪片弐型

陸戦:A

空戦:S

近接戦闘:S

中距離戦闘:-

遠距離戦闘:-

機動力:S

装甲:B

自分では、こんな感じだと思います。





あとがき

どうもです。

新作インフィニット・テイマーズの投稿です。

如何でしたでしょうか?

タカトのISの設定が色々と強引かもしれない。

あと、カードスラッシュが使えるというチートっぷり。

ただし燃費の悪さが白式並かそれ以上。

しかも紙装甲。

その上空中戦が苦手というハチャメチャな機体。

まあ、地上からの飛び込みは中々のスピードですが。

それで早速この物語のタカトのヒロインその一、更識 楯無さんの登場。

話し方は合ってますかね?

ちょっとばかりフラグも立ってますね。

それで、次から原作に入るわけですが、いきなりちょっとご相談。

タカトのルームメイトは誰が良いですか?

今考えているのは、

1 楯無(タカトの一人部屋に楯無乱入)

2 簪

3 のほほんさん

以上の三択です。

因みに、一番無理なく物語を進められそうなのは、3番の、のほほんさんです。

まあ、のほほんさんには今の所フラグを立てる予定はありませんが。

ご意見お待ちしてます。

では、次も頑張ります。




[31817] 第三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/03/12 01:50

第三話 IS学園入学。 クラスメイトは1人を除いて全員女。




「全員そろってますねー? それじゃあSHRはじめますよー」

黒板の前でそう言うのは、このクラスの副担任である山田 真耶。

身長はやや低めなのに、大きめの服を着ている為、更に小さく見える。

かけている黒縁眼鏡もやや大きめの為、若干ずれている。

「それでは皆さん、一年間よろしくおねがいしますね」

そう挨拶する真耶。

しかし、

「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」

変な緊張感に包まれている教室の誰一人として、反応を示さない。

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。 えっと、出席番号順で」

その事にうろたえながらも、話を進める真耶。

そんな中、

(これは………想像以上にキツイ………)

そんな事を思っている一夏。

入学したての席順は、当然ながら出席番号順だ。

しかも、一夏にとって不運なことに、出席番号を横に数える並び方で、苗字が『お』から始まる一夏は、最前列ど真ん中の席であった。

その為、唯でさえ注目を集めるのに、それにさらに拍車をかけている。

尚、タカトは『ま』なので、席は後ろの方であり、状況は一夏よりはマシだ。

それでも注目は集めているが。

「織斑君。 織斑 一夏君!」

「は、はい!」

一夏は考え事をしていたのか、呼ばれても気付かず、大声で呼ばれたことにビックリして声が裏返ってしまった。

思わず周りから笑い声が漏れる。

「あっ、あの、お、大声出しちゃってゴメンなさい。 でも、『あ』から始まって、今『お』なんだよね。 自己紹介してくれるかな? ダメかな?」

真耶が一夏に謝りながらそう言ってくる。

「え、あ。 そ、そんなに謝らなくても………」

思わずそう漏らす一夏。

一夏は立ち上がると、くるりと後ろを向く。

その瞬間、背中越しに受けていた視線を目の当たりにして、若干引いてしまう。

それでも、一夏は覚悟を決め、

「えー………えっと、織斑 一夏です。 よろしくお願いします」

一夏は、礼儀的に頭を下げて、当たり障りのない挨拶をする。

しかし、頭を上げた一夏には、更に期待するような視線が突き刺さる。

一夏は助けを求めるようにタカトの方を見た。

すると、

(一夏、頑張れ)

アイコンタクトでそう言ってきた。

そして、一夏は少し困っていたが、覚悟を決め、

「以上です」

そう言った。

その瞬間、ズッコケる女子が数名。

再び一夏がタカトの方を見ると、タカトは唖然としていた。

一夏は如何したのかと怪訝に思うと、タカトが何やら口パクで何かを伝えようとしている。

(え~と、何々、イ・チ・カ・ウ・シ・ロ。 後ろ?)

タカトの口パクを解読した瞬間、

――パァン!

一夏がいきなり頭を叩かれる。

「いでっ!?」

突然の事に、一夏は驚いたが、この叩き方に覚えのあった一夏は、恐る恐る振り向く。

すると、そこには黒のスーツを着た女性。

その女性を見た瞬間、一夏は思わず、

「げえっ、関羽!?」

そう叫んだ。

――パァン!

再び一夏が叩かれる。

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

その女性は一夏にそう言う。

その女性は、一夏の姉である織斑 千冬。

尚、タカトも千冬とは何度か面識があり、如何いう人かも知っている。

「あ、織斑先生。 もう会議は終わられたんですか?」

真耶が千冬にそう聞いた。

「ああ、山田君。 クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

「い、いえっ。 副担任ですから、これぐらいはしないと……」

そうやり取りをする千冬と真耶。

すると、千冬は生徒たちの方へ向き直り、

「諸君、私が織斑 千冬だ。 君達新人を、一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。 私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。 出来ない者には出来るまで指導してやる。 私の仕事は、弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。 逆らってもいいが、私の言うことは聞け。 いいな?」

そんな事を言った。

普通に聞けば暴力発言や、軍の鬼教官みたいな言葉なのだが、

「キャーーーーーーッ! 千冬様! 本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

女子の多くから、黄色い歓声が沸く。

その様子を千冬はうっとうしそうな顔で見ると、

「………毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。 感心させられる。 それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

これまた教師とは思えない発言が飛び出す。

にも拘らず、

「きゃあああああ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾をして!」

更にヒートアップする女子達。

その様子に、タカトも圧倒されている。

すると、千冬は一夏に向き直り、

「で? 挨拶も満足に出来んのか、お前は」

辛辣な一言を放った。

「いや、千冬姉。俺は……」

――パァン!

二度あることは三度ある。

三度叩かれる一夏。

「織斑先生と呼べ」

「……はい、織斑先生」

そして、そんなやり取りをすれば、

「え………? 織斑君って、あの千冬様の弟?」

「それじゃあ、世界で2人だけしかいないIS操縦者っていうのも、それが関係して………」

「ああっ、いいなぁ。 代わってほしいなぁ」

2人が姉弟であることは、すぐに分かるわけである。

尚、一夏とタカトは世界で2人だけしかいない男性IS操縦者となっているが、タカトはISがグラニによって自分専用になっただけで、普通のISは動かせないので、厳密に言えば、男性IS操縦者は一夏ただ1人である。

「まあいい。 時間も押している。 松田、自己紹介をしろ! この馬鹿者に手本を見せてやれ!」

いきなり千冬がタカトを指名する。

「ええっ!? 何でですか千ふ………織斑先生?」

いきなり指名されたタカトは、いつもの癖で『千冬さん』と呼んでしまいそうになったが、一睨みされて言い直す。

「もう全員を紹介している暇がない。 よって、クラスの大半が注目しているお前の自己紹介だけは済ませておこうと思ったまでだ。 別にしなくても構わんぞ。 この後の休み時間に、お前の所に馬鹿共が殺到するだけだろうからな」

タカトはそれを聞いて、そうなっている所を想像し、苦笑した。

「やります」

タカトはそう言って立ち上がる。

その瞬間、一夏の時と同じように、視線がタカトに集中する。

タカトは、それに耐えつつ、

「え~、松田 タカトです。 趣味はカードゲーム。 特技は、パン屋の息子なので、店頭に並べても恥ずかしくない程度のパンが焼けることです。 ISに関しては、殆ど知らないのですが、これから一年間よろしくお願いします」

そう言って頭を下げた。

クラスメイト達も、文句は無いようで、満足しているらしい。

すると、

「分かったか馬鹿者。 自己紹介とはああやるのだ」

千冬が一夏に向かってそう言った。




そして、一時間目のIS基礎理論授業が終わり、休み時間。

「やあ、一夏」

「おう……タカト……」

タカトが一夏に声をかけ、一夏は力なく返事を返す。

「全く参ったぜ。 女だらけがこんなにキツイとは思わなかった」

「はは、それには僕も同意するよ」

一夏が愚痴を漏らし、それにタカトが同意する。

「しっかし、唯一の救いは、お前が同じクラスってことだな。 もし、俺一人だったと思うと、ゾッとするぜ」

「まあ、その位は先生たちも考えてくれてるんじゃないかな?」

タカトと一夏がそんな事を話していると、

「………ちょっといいか?」

突然話しかけられる。

2人がそちらを向くと、黒髪をポニーテールにした、目つきの鋭い女子生徒がいた。

「………箒?」

一夏が呟く。

「一夏、知り合い?」

その呟きを耳にしたタカトが聞くと、

「ああ。 俺の幼馴染で、篠ノ之 箒だ。 箒、こっちは松田 タカト。 俺が中学校に入ってからの友達だ」

一夏は、タカトと箒の双方に互いを紹介する。

「そうか。 篠ノ之 箒だ。 よろしく頼む」

「松田 タカトです。 こちらこそよろしく、篠ノ之さん」

2人はそう挨拶を交わすと、

「それで箒、何か用か?」

一夏が箒にそう尋ねる。

「ああ……一夏を借りていいか?」

箒はタカトの方を向きながら尋ねる。

「うん。 積もる話もあるだろうし、構わないよ」

タカトがそう言うと、一夏と箒の2人は教室を出て行き、タカトは自分の席に戻ることにした。





その日の授業が進んでいくと、

「織斑君、何か分からないところがありますか?」

真耶が一夏にそう尋ねる。

一夏は先ほどからそわそわしていたので、困っているのだろうと真耶は判断し、声をかけたのだ。

「分からないところがあったら聞いてくださいね。 何せ私は先生ですから」

真耶は、一夏が質問しやすいようにとそう言う。

すると、

「先生!」

一夏が覚悟を決めたのか声を上げる。

「はい! 織斑君!」

真耶も、どんと来いといった雰囲気で応える。

しかし、

「ほとんど全部わかりません!」

この一言で、真耶の顔が引きつった。

「え………ぜ、全部ですか…………?」

真耶は、流石に予想していなかった言葉に、困り顔になる。

「え、えっと………織斑君以外で、今の段階で分からないっていう人はどれぐらいいますか?」

そう言って、真耶が挙手を促すが、

「「「「「「「「「…………………」」」」」」」」」」

普通の生徒はもちろんの事、タカトですら手を上げない。

「何っ!? タカトも分かるのか!?」

思わず一夏は声を上げる。

「う、うん。 まだ入学前の参考書に書いてあった範囲を出てないから、何とか理解できるけど………」

タカトはそう返した。

「………織斑、松田の言った参考書は読んだか?」

千冬が一夏に問う。

その問いに対し一夏は、

「古い電話帳と間違えて捨てました」

と、信じられない事をのたまった。

――パァン!

再び炸裂する出席簿。

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。 後で再発行してやるから一週間以内におぼえろ。 いいな」

「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと………」

千冬の無理難題に一夏が抗議するが、

「やれと言っている」

「………はい。 やります」

千冬の一睨みであえなく撃沈。

一夏は参考書を一週間で覚えることとなった。






二時間目の授業が終わり、またタカトと一夏が一緒にいると、

「ちょっとよろしくて?」

またしても声をかけられた。

「へ?」

「はい?」

一夏とタカトは声を漏らしつつそちらを向く。

そこには、鮮やかな金髪で白人特有の青い瞳をした女子生徒だった。

「聞いてます? お返事は?」

「あ、ああ。 聞いてるけど………」

「何の用ですか?」

その女子生徒の言葉に曖昧に返事を返す2人。

すると、

「まあ! 何ですの、そのお返事。 わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「「…………………」」

タカトと一夏は顔を見合わせる。

時折いるのだ。

女尊男卑思考が強すぎる女性が。

「悪いな。 俺達、君が誰だか知らないし」

「自己紹介も結局途中で終わっちゃったしね」

一夏とタカトはそう言う。

すると、その女子生徒は男を見下した口調で続けた。

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

その女子生徒は、セシリア・オルコットというらしい。

「あ、質問いいか?」

一夏がそう発言する。

「ふん、下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。 よろしくてよ」

「代表候補生って、何?」

一夏の質問に、周りの聞き耳を立てていた女子数名がずっこける。

タカトも、一夏のその質問には脱力した。

「あ、あ、あ、貴方っ! 本気でおっしゃっていますの!?」

セシリアが叫ぶ。

凄い剣幕だ。

「おう。 知らん」

一夏は迷いなく答える。

「一夏、国家代表ぐらいは分かるよね?」

タカトが苦笑しつつ一夏に問う。

「ああ。 国のIS操縦者の代表だろ? 千冬姉もそうだったし」

「代表候補生は、つまりその代表の候補。 未来の国家代表になれる可能性のある、優秀なIS操縦者のことだよ」

「なるほど」

タカトの説明に、一夏は納得する。

「そう! つまりエリートなのですわ!」

それに乗じてセシリアが叫ぶ。

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくする事だけでも奇跡……幸運な事なのですよ。 その現実を、もう少し理解していただける?」

「そうか。 それはラッキーだ」

「……馬鹿にしていますの?」

一夏の物言いに、不快感をあらわにするセシリア。

「一夏、今の言い方は誰が聞いても馬鹿にしてるようにしか聞こえないよ」

タカトはそう注意する。

一夏自身に悪気が無い事は分かっているのだが、良くも悪くも、一夏は自分の言葉に自覚を持たないことが度々ある。

中学3年間の付き合いで、タカトはその事をよくわかっていた。

「そちらの方はともかく、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。 世界で2人しかいないISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待外れですわね」

「俺に何かを期待されても困るんだが」

「ふん。 まあ、でも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。 ISの事で分からないことがあれば、まあ、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。 何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

唯一を強調するセシリア。

すると、

「あれ? 俺も倒したぞ。 教官」

「は………?」

「まあ、倒したというか、勝手に突っ込んできて自滅したって言うか」

一夏の一言がショックだったのか、セシリアは固まっている。

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

「ま、まさかあなたも!?」

セシリアはタカトの方を向いて問いかける。

「いや……僕は惜しいところまで行ったんだけど負けちゃったよ。 しかも相手は教官が一夏との試合で気絶しちゃったから、代理の学園の生徒だったし………」

タカトの言葉を聞いて若干ホッとするセシリア。

「生徒にも負けたのであれば、大したことはありませんのね」

セシリアはそう言うが、タカトの相手だった生徒会長の楯無は、ロシアの現国家代表であり、名実ともに学園最強である。

その為、油断と手加減や、カードスラッシュの能力があったとはいえ、惜しいところまで行った(実質勝利した)タカトは、国家代表に迫るだけの実力があることにタカト自身も気付いていない。

「ともかく! あなたも教官を倒したっていうの!?」

一夏に向かって叫ぶセシリア。

「うん、まあ、多分」

「多分!? 多分ってどういう意味かしら!?」

「えーと、落ち着けよ。 な?」

「これが落ち着いていられ……」

セシリアがそこまで言いかけたところで、三時間目の開始のチャイムが鳴る。

「っ………! また後で来ますわ! 逃げない事ね! よくって!?」

そう言い残してセシリアは自分の席に戻っていく。

タカトも自分の席へと戻った。

すると、一、二時間目とは違い、千冬が教壇に立った。

「それではこの時間は、実践で使用する各種装備の特性について説明する」

千冬はそう言ったが、ふと何かを思い出したように、

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

そう言った。

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席………まあ、クラス長だな。 因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。 今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。 一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

最後に自薦他薦は問わないと付け加えつつ、候補者を募る。

すると、

「はいっ。 織斑君を推薦します!」

「私もそれが良いと思います」

一夏が推薦される。

「お、俺っ!?」

思わず一夏が叫ぶ。

すると続けて、

「私は松田君を推薦します!」

「私も松田君に一票ですー」

タカトが推薦された。

「えっ? 僕も?」

タカトも自分が推薦されるとは思わず声を漏らした。

「では、候補者は織斑 一夏と松田 タカト………他にいないか?」

「ちょ、ちょっと、待った! 俺そんなのやらな………」

「自薦他薦は問わないと言った。 他薦されたものに拒否権など無い。 選ばれた以上は覚悟を決めろ」

「い、いやでも……」

一夏が抗議を続けようとしたところで、

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

そう叫んで立ち上がったのは、セシリアだった。

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

セシリアは更にヒートアップして続ける。

「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。 それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスする気は毛頭ございませんわ!」

セシリアの言葉は止まらない。

「いいですか!? クラス代表は実力のトップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

ちょっとここでタカトと一夏の性格について説明しておこう。

タカトは、基本温厚であり、自分が悪口を言われたからといってキレることなどまず無い。

一方、一夏も基本的には温厚だが、沸点はタカトよりも低く、頭に来ると口が滑ってしまうことがある。

つまり、

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」なっ!?」

一夏は耐え切れずに口が滑ってしまった。

その言葉に、セシリアは顔を真っ赤にして怒りを示す。

「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

そして、次にセシリアが言い出した言葉は、

「決闘ですわ!」

決闘であった。

「おう。 良いぜ。 四の五の言うより分かりやすい」

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。 真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

「そう? 何にせよ丁度良いですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

互いににらみ合う一夏とセシリア。

「さて、話はまとまったな。 それでは勝負は一週間後の月曜。 放課後、第三アリーナで行う。 初めに織斑対オルコット。 その勝者対松田の組み合わせで行う。 3人はそれぞれ用意をしておくように」

「えっと………僕もですか?」

千冬の言葉に、思わずタカトが漏らす。

「織斑にも言ったはずだ。 他薦されたものに拒否権は無い。 選ばれた以上覚悟を決めろ」

「………わかりました」

素直に頷くタカト。

「それでは授業を始める!」

千冬がそう締めて、授業が開始された。






放課後。

一夏は机の上でぐったりしていた。

そんな一夏にタカトが近づく。

「大丈夫? 一夏」

「い、意味がわからん………何でこんなにややこしいんだ………?」

一夏は授業に付いていけず、ダウンしていた。

因みに言っておけば、参考書さえ読んでおけば、問題なく付いていけた内容である。

タカトと一夏が話していると、

「ああ、織斑君、松田君。 まだ教室にいたんですね。 よかったです」

「「はい?」」

呼ばれて2人がそちらを向くと、副担任の真耶が書類を片手に立っていた。

「えっとですね。 2人の部屋が決まりました」

そう言って、それぞれに部屋の番号が書かれた紙とキーを渡す。

「俺達の部屋って、まだ決まってなかったんじゃなかったですか? 前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです」

そこでタカトが気付いた。

「あれ? 僕と一夏の部屋は一緒じゃないんですか?」

そう聞くと、

「はい。 今言ったように、部屋割りを無理矢理変更したせいで、2人部屋を開けることが出来なかったんです」

「え、えっと……もしかして……女の子と相部屋な訳は……無いですよね?」

タカトは恐る恐る聞くと、真耶は申し訳なさそうにして、

「ごめんなさい。 女の子と相部屋です」

「ええっ!? それは拙いんじゃないですか!? 普通なら僕と一夏が相部屋ですよね!?」

タカトが叫びながら問いかける。

「そうなんですけど、IS学園は外国からも多くの生徒を受け入れています。 例えば、違う国の人同士が相部屋になり、そこで問題が起きた場合、下手をすれば国家間の問題にも発展しかねないのです。 その為、本来部屋割りは厳正に行い、問題が無いような部屋割りにするため、そう簡単には部屋の変更が出来ないんです。 今回の事も、政府特命のこともあって、とにかく寮に入れることを最優先にしたため、このような部屋割りになってしまったんです」

「そうですか………」

「一ヶ月もすれば、調整が利くと思うので、それまでは、我慢してください」

「わかりました」

タカトは渋々ながらも頷く。

すると一夏が、

「ともかく部屋は分かりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備出来ないので、今日はもう帰っていいですか?」

そう聞く。

すると、

「あ、いえ、荷物なら……」

「私が手配しておいてやった。 ありがたく思え」

真耶の言葉を遮って、千冬がそう言った。

「ど、どうもありがとうございます」

「松田の方も、ご両親に連絡して荷物を用意してもらい、ヒュプノスの方が先ほど届けてくださった。 ちゃんと礼は言っておけ」

タカトにも千冬はそう言う。

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。 夕食は6時から7時、寮の一年生食堂で取ってください。 因みに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。 学年ごとに使える時間が違いますけど………えっと、その、織斑君と松田君は今の所使えません」

「えっ?何でですか?」

一夏が聞き返すと、

「アホかお前は。 まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

「あー」

千冬の言葉に、凄まじく納得する一夏。

そのやり取りで真耶が少々暴走しかけた。

そして、

「えっと、それじゃあ私達は会議があるので、これで」

真耶と千冬が教室を去ることを確認してから、タカトと一夏は寮に向かうために立ち上がった。




「えーと、ここか。 1025室だな」

一夏が先に部屋を見つけ、ドアの前に立つ。

「僕の部屋は1026室だから隣だね」

タカトはその隣のドアの前まで歩いていく。

ふと横を見ると、ノックもせずに部屋に入っていく一夏。

「一夏……ノック位しなよ……」

そう呟きながら、タカトは自分の部屋のドアをノックした。

「はーい!」

中から返事が聞こえる。

「えっと、同じルームメイトになった者ですけど……」

タカトがそう言うと、

「んー。 開けていいよー」

少し間延びした声でそう返事が来た。

タカトは、ドアを開けつつ、

「失礼します………」

遠慮気味に入室する。

タカトが部屋に入ると、そこには袖丈が以上に長い制服を着た、どこかのほほんとした雰囲気をもつ女子生徒がいた。

「わ~。 まっつーがルームメイトなんだ~!」

そう言いながら喜びの表現をする女子生徒。

「ま、まっつー?」

いきなり言われたあだ名に困惑するタカト。

「うん。 松田 タカトだから、まっつーだよ~」

そう説明する女子生徒。

「えっと、知ってるようだけど改めて。 同じルームメイトになった松田 タカトです」

そう自己紹介をするタカト。

「私は布仏 本音だよ~。 よろしくね~」

その女子生徒、本音も自分の名を名乗る。

「うん。 よろしく。 布仏さん!」

挨拶を済ませる2人。

その時隣の部屋から大きな音が聞こえてきたが、タカトはまた一夏が女性関係で問題を起こしたのだろうと確信し、別段気にはしなかった。



タカトは、部屋に届けられていた自分の荷物を解きにかかる。

段ボールの中身を出しながら、部屋の各所に片づけていく。

その中で、

「あっ」

段ボールの中に、両親が気を利かせてくれたのか、デジモンカードのカードケースが入っていた。

ISでもデジモンカードを使うタカトにとって、とてもありがたいものだった。

すると、

「わ~、まっつーもデジモンカードゲームするの?」

本音が声をかけてくる。

タカトが後ろを見ると、本音がタカトの手元を覗いていた。

「え? うん。 小学校の頃からね」

そう頷くタカト。

「あのね~、私も持ってるんだ~、デジモンカード」

そう言いながら、本音はデジモンのカードデックを取り出して見せる。

「そうなんだ」

同じ趣味を持つという事で、タカトは嬉しくなり笑みを浮かべる。

「ねえねえ~、バトルしよ~?」

本音の提案に、

「うん。 いいよ」

タカトは大きく頷いた。

そして、

「「よろしくお願いします」」

バトルが始まった。





「負けた~」

本音がそう言いつつ若干がっかりする。

結果はタカトの勝利。

「何とか勝てた。 布仏さんも強かったよ」

そう言うタカト。

しかし、

「む~、でも悔しいよ~」

口ではそう言うが、雰囲気を見るにあまり悔しがっているようには見えない。

すると、

「まっつー、ちょっと待ってて~」

そう言い残して部屋から出ていく本音。

少しすると、

「ちょ、ちょっと本音……?」

「かんちゃーん。 私の仇とって~」

本音が誰かを連れて部屋に入ってきた。

いや、連れてきたというより、強引に押してきたようだ。

その人物は、水色のセミロングの髪で癖毛が内側に向いており、綺麗なルビー色の瞳に眼鏡をかけた少女だった。

タカトはその少女の顔を見た瞬間、

(あれ? この子……どこかで………?)

タカトはその顔に見覚えがあるような気がした。

そんな事を考えていると、

「まっつー、今度はかんちゃんが相手になるよ~」

その本人の意思を無視しつつ、そう言う本音。

「え、えっと………」

その少女は困惑しつつタカトを見る。

「え~っと、松田 タカトです」

タカトは困惑する少女に一応名乗った。

すると、

「………更識………簪…………」

小さな声で返事が返ってきた。

(更識? どこかで聞いた気が………)

そう考え込むタカト。

「どうか………した……?」

その問いにタカトはハッとなり、

「あ、ううん。 何でもないよ。 それよりよろしく更識さん」

タカトはそう言うが、

「…………名字で………呼ばないで………」

小さく、だがはっきりと拒絶の意志を示した。

「えっ? えっと………じゃあ、簪さん?」

簪は無言で頷く。

「じゃあ、自己紹介も済んだところで、デジモンカードバトル行ってみよ~!」

何故かそう仕切る本音。

本音に促されて流されるままにカードバトルをすることになった2人。

「え、えっと、よろしくお願いします」

「………よろしく」

そして、バトルが再び始まった。







「かんちゃんの勝ち~」

嬉しそうに本音が宣言する。

「負けた……」

がっかりするタカト。

「流石かんちゃん、強いね~!」

簪を褒める本音。

「…………そんなことない」

小さな声で、そう言う簪。

すると、

「謙遜しなくてもいいよ。 簪さんは本当に強いよ。 もしかしたら、ルキやリョウさんクラスかも」

そう言うタカト。

今言った2人は、全国ランキングで確実に1ケタクラスの実力者だ。

ルキも大会で何度も優勝しているし、リョウに至っては全国大会での優勝経験もある。

タカトにその2人と同等と判断された簪のカードバトルの実力も、相当なものだとうかがえる。

「…………お世辞はいい」

「お世辞じゃないよ」

タカトは笑いかける。

すると、簪は立ち上がって部屋の出口に向かっていく。

「あ、ねえ、簪さん」

タカトは簪を呼び止める。

「…………何……?」

簪は立ち止まって顔だけタカトの方に向ける。

「また、カードバトルで勝負してくれる?」

タカトはそう尋ねる。

「……………気が向いたら」

そう言って、簪は部屋を出て行った。

すると、

「ねえまっつー」

「何? 布仏さん」

「これからも、時々かんちゃんと遊んであげてね。 まっつーとカードバトルしてる時のかんちゃん、とても楽しそうだったから」

「え? 僕は全然かまわないけど………」

タカトはカードバトル中の簪の顔を思い出すが、無表情を貫き、とても楽しそうには見えなかった。




こうして、IS学園の初日は終わりを迎える。

この学園生活の先には、一体何が待つのだろうか?









あとがき


第三話完成。

ネタが脳内からあふれ出る。

のですが、今回はそのネタを使うところが無いので……

とりあえず、学園生活初日を書いてみました。

ルームメイトはのほほんさん。

そして、のほほんさん経由で、タカトのヒロインその2、簪と知り合いになりました。

しかも2人ともデジモンカード経験者。

ルームメイトが男女になった理由が強引かな?

のほほんさんと簪の話し方は合っているだろうか?

次回はクラス代表決定戦。

さて、どうなるのでしょう? 

あと、タカトのISですが、燃費が悪すぎるという意見が多かったですね。

でも、カードスラッシュはよくよく考えると凄まじいチートなので、自分ではこの位がちょうどいいと思ってます。



ところで前回書き忘れていたISでカードスラッシュしたときの効果を書いておきます。


・防御プラグインC

一度だけ、相手の攻撃を完全無効化



・高速プラグインB

スラッシュから一度攻撃するまでのスピードが超アップ。



・攻撃プラグインA

一度だけ攻撃力2倍。



・分身≪エイリアス≫

自分の分身を作り出す。 ハイパーセンサーでも見分けるのは不可。







後、デジコレの近況報告。

名前:ユウ

属性:ワクチンテイマー

レベル:58

リーダー:オメガモンX

リーグランク:ランカー1


現在こんな感じです。

先日ランカー1に上げたのですが、何故かバトルを仕掛けてくる回数が激増。

まあ、そのうちの9割は返り討ちですが。

とりあえず、今日ぐらいはランカー1でいようと思います。

仲間になりたい人は是非お願いします。

それでは次も頑張ります。

今日中にもう一話いけるか?





[31817] 第四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/03/25 21:13
第四話 クラス代表決定戦!



入学式の翌日。

タカトが食堂へ来ると、

「なあ…………」

「………………」

「なあって、何時まで怒ってるんだよ」

「……怒ってなどいない」

「顔が不機嫌そうじゃん」

「生まれつきだ」

そんな事を言い合う一夏と箒を見かけた。

「一夏、篠ノ之さん、おはよう」

朝食のトレーを持ちながら、タカトはそんな2人に声をかける。

「お、タカト。 おはよう」

「………おはよう」

一夏は普通に、箒はムスッとした顔であいさつする。

そんな箒の様子を見て、

「一夏、また何かやらかしたんだね」

タカトは迷いなくそう言い放つ。

「ぐっ、何で疑問形でもなくはっきりとそう言うんだ。 確かにその通りだけどよ」

タカトの言葉に、悔しがりながらも認める一夏。

タカトにしてみれば、中学時代からのいつもの事である。

タカトは一夏の隣に座る。

因みに、食堂のテーブルは、6人掛けのテーブルで、一番窓側の席に一夏と箒が向かい合って座っていた。

タカトも朝食を取り始めると、

「お、織斑君、松田君、ご一緒していいかな?」

「へ?」

見ると、朝食のトレーを持った女子が3名立っていた。

尚、その中の1人は本音だ。

「ああ、別にいいけど」

一夏はそう言う。

「僕も構わないよ」

タカトも頷いた。

3人女子は、安堵のため息を吐いたり、ガッツポーズをしたりしていた。

その様子を見ていた周りの女子達が、先を越されたとか、早く声をかけておけばよかったとかなどのざわめきが聞こえる。

タカトの隣には本音が座り、その正面に残り2人の女子が座る。

「うわ、織斑君ってすごい食べるんだ」

「お、男の子だねっ」

「まっつーも、見かけによらず沢山食べるんだ~」

それぞれが一夏とタカトの朝食の量を見て驚く。

尚、一夏の朝食の量は平均よりやや多め。

タカトは平均的な男性の食事の量だ。

「ていうか、女子って朝それだけしか食べないで平気なのか?」

一夏が尋ねる。

3人の女子は、メニューこそ違うが、飲み物とパン1枚。

あとはおかずが少々。

明らかに少ない。

まあ、カロリーとか色々気にする年頃なのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

そうやって話あっていると、

「………織斑、私は先に行くぞ」

「ん? ああ、また後でな」

そう言って席を立つ箒。

一夏の事を織斑と言っているあたり、まだ不機嫌のようだ。

箒が去った後、いろいろと話をしていると、

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ! 遅刻したらグラウンド10週させるぞ!」

千冬の声が響く。

その途端、生徒たちは慌てて朝食を食べ始める。

なお、千冬は1年の寮長も務めている。

因みに、千冬の脅し………もとい注意のお陰か、遅刻する者は誰もいなかった。




授業が進んでいくと、

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」

「へ?」

「予備機が無い。 だから少し待て。 学園で専用機を用意するそうだ」

「?」

一夏が首を傾げる。

しかし、千冬の言葉に教室中がざわつきだす。

「せ、専用機!? 1年の、しかもこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

「ああ~。 いいなぁ……私も早く専用機欲しいなぁ」

一夏は分かっていないが、ISのコアは全部で467機しかなく、開発者である篠ノ之 束博士しか作れない上に、既に製作を中止している為、ISのコアはその467機が全てだ。

その為、各国は現存のコアを割り振って使用している。

つまりは数に限りがるので、専用機を持つという事は、これ以上ない特別待遇という事だ。

その事を分かってない一夏に千冬は教科書を音読させる。

それによって一夏もなんとなく理解した。

その時、

「あれ? じゃあ松田君は?」

女子の1人が声を漏らす。

すると、

「松田は既に専用機を持っている」

千冬がそう言った。

「ええっ!? 松田君も専用機持ってるの!?」

「凄い! どこの開発!?」

「見せて見せて!」

騒ぎ出す生徒たち。

苦笑するタカト。

その為、

「あ~、静かにしろ。 松田はIS関連ではないが、日本政府の情報省ネット管理局、ヒュプノスの関係者だ。 それによって、松田の後ろ盾はヒュプノスであり、そのヒュプノスに協力している、『ワイルド・バンチ』と呼ばれる複数の国の科学者の個人的な集まりが松田のISの開発元だ」

千冬が説明したのは、表向きの説明である。

グラニがISを作り変えたことは機密であり、一般には絶対に知られてはいけない事だ。

まあ、そのグラニを生み出したのは『ワイルド・バンチ』なので、あながち嘘ではない。

ざわめく生徒たち、

そんな中、

「あのっ、気になったんですが、もしかして篠ノ之さんって、篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」

一夏の音読で気になったのか、そう質問する女子生徒。

「そうだ。 篠ノ之はあいつの妹だ」

即答する千冬。

「ええええーっ! す、すごい! このクラスは有名人の身内が2人も!」

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」

「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよ!」

授業中でありながら箒に群がるクラスメイト達。

すると、

「あの人は関係ない!」

突然大声で箒が叫んだ。

唖然とする女子生徒たち。

「……大声を出して済まない。 だが、私はあの人じゃない。 教えられるようなことは何もない」

そう言って、窓の外に顔を向ける箒。

困惑しながら席に戻る生徒達。

「さて、授業を始めるぞ。 山田先生、号令」

「は、はい!」

真耶は困惑しつつも授業を始めた。





次の休み時間。

「安心しましたわ。 まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

早速一夏の席にやってきたセシリアは、一夏と、一緒にいたタカトにそう言う。

「まあ? 一応勝負は見えていますけど? 流石にフェアではありませんものね」

「なんで?」

「あら、ご存じないのね。 いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。 このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

「へー」

「………馬鹿にしていますの?」

「いや、すげーなと思ったけど。 どうすげーのかはわからないが」

一夏の物言いにタカトは思わずため息を漏らす。

「それを一般的に馬鹿にしていると言うのでしょう!?」

机を両手で叩きつつそう叫ぶセシリア。

「……こほん。 さっき授業でも言っていたでしょう。 世界でISは467機。 つまり、その中でも専用機を持つ者は全人類60億超の中でも、エリート中のエリートなのですわ」

「そ、そうなのか………」

「そうですわ」

「人類って今60億超えてたのか………」

「そこは重要ではないでしょう!?」

一夏の言葉に、再び机を叩きつつ叫ぶセシリア。

タカトに至っては、先ほどからため息しか出てこない。

「あなた! 本当に馬鹿にしていますの!?」

「いやそんな事は無い」

「だったらなぜ棒読みなのかしら………?」

「何でだろうな、箒」

何故か箒に振る一夏。

その瞬間箒に睨まれる。

「まあ、どちらにしてもこのクラスの代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるという事をお忘れなく」

髪を手で払いながら綺麗に踵を返すと、そのまま立ち去って行った。

すると、先ほどの一件で箒が妙に浮いていることが気になっていた一夏は、半ば強引に箒を食堂へつれていった。





その日の夜。

「ねえまっつー」

「……………」

「何? 布仏さん」

「今度、セッシーとのクラス代表決定戦だけど、自信ある~?」

「……………」

「どうだろ? オルコットさんの実力がどのぐらいかも分からないし………」

「でも~、代表候補生って言うぐらいだから~、相当な実力を持ってるって考えた方がいいよ~」

「……………」

「そうなんだけど、僕のISでの実戦経験は、入学試験の時の1回だけだし、自分の実力がどのぐらいか分からないから、何ともいえないよ」

「そうなんだ~」

「……………」

「争い事は好きじゃないけど、やるからには最後まで諦めない。 今言えるのはこの位かな?」

「なら、私はまっつーを応援するよ~」

「……………」

「じゃあ、頑張らないとね」

「もちろん~、かんちゃんもね~」

「…………え?」

「あはは、それじゃあもっと頑張らないと」

そう笑うタカト。

因みに今いる部屋はタカトと本音の部屋であり、今いるメンバーは、タカトと本音はもちろんの事、先日のように本音が強引に連れてきた簪もいる。

この3人はデジモンカードバトルをしながら先ほどの話をしていた。

因みに、今はタカトと簪のバトル中である。

「……ほ、本音……私は……」

「約束だからね~。 ねっ、かんちゃん」

簪が何か言おうとしたが、本音が強引に決めてしまう。

「うん! 2人の応援が無駄にならないように頑張るよ!」

タカトは、簪の様子に気付いていたが、本音の気持ちを汲み取って強引に頷いた。

尚、その時のバトル結果は、簪が動揺したせいか、タカトの勝利であった。






そして時が流れ、クラス代表決定戦の当日。

タカトと一夏は、第3アリーナのピットにいるのだが、

「………なあ、箒」

一夏が隣にいる箒に話しかける。

「なんだ、一夏」

応える箒。

「気のせいかもしれないんだが」

「そうか。 気のせいだろう」

「ISの事を教えてくれる話はどうなったんだ?」

「…………」

一夏の言葉に目をそらす箒。

「目・を・そ・ら・す・な!」

一語一句強く言う一夏。

一夏は、今日までの6日間、箒にISの特訓を頼んでいた。

しかし、箒が行ったのは、剣道の稽古ばかり。

ISの特訓など何一つしていなかった。

因みにタカトは、グラニで特訓しようと思っていたのだが、行く先々で女子達の視線が突き刺さり、流石にそんな中で特訓に集中できるわけもなく、タカトもこの1週間ISをまともに起動していない。

その代りと言っては何だが、本音が毎日、強引に簪を連れてきてカードバトルをしていたので、この2人とはある程度仲良くなれている。

そして、約束通り本音と簪の2人はタカトの応援の為にピットに来ている。

まあ、簪は若干乗り気ではなかったが。

そして、一夏の専用機だが、まだ来ていない。

そう、試合の寸前になってもまだ来ていないのだ。

その時、

「お、織斑君織斑君織斑君!」

そう言いながら駆け足でやってきたのは副担任の真耶。

「山田先生、落ち着いてください。 はい、深呼吸」

慌てる真耶に、一夏はそう言う。

「は、はい。 す~~~は~~~~、す~~~は~~~~~」

「はいそこで止めて」

「うっ」

一夏がノリでそう言ったら、真耶は本気で止めた。

みるみる酸欠で顔が赤くなる真耶。

「……………」

冗談が通じなかったことに黙り込む一夏。

「……ぷはぁっ! ま、まだですかぁ?」

限界に来て息を吐き、涙目になりながらそう言う真耶。

その瞬間、

「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者」

――パァン!

そんな言葉と共に、千冬の出席簿が一夏の脳天に炸裂した。

「千冬姉……」

――パァン!

再び炸裂する出席簿。

「織斑先生と呼べ。 学習しろ。 さもなくば死ね」

やはりというか、教師とは思えない辛辣な言葉を放つ千冬。

「そ、それでですねっ! 来ました! 織斑君の専用IS!」

真耶がそう言う。

「織斑、すぐに準備をしろ。 アリーナを使用できる時間は限られているからな。 ぶっつけ本番でものにしろ」

続けて千冬が。

「この程度の障害、男子たる者軽く乗り越えて見せろ。 一夏」

そして箒が。

それぞれが一夏を急かす。

「え? え? なん………」

「「「早く!」」」

3人の声が重なる。

その時、

――ゴゴンッ

そのような音と共に、ピットの搬入口が開く。

防壁扉は重い駆動音を響かせながら、ゆっくりとその向こうにある物をさらしていく。

そこに『白』がいた。

真っ白なISがそこに鎮座していた。

「………………ッ」

しかし、そのISを見た瞬間、簪がわずかに声を漏らし、まるで仇を見るかのようにそのISと一夏を睨み付けていた。

その様子に気付いたタカトが、

「? どうかした、簪さん?」

そう声をかけると、

「…………なんでもない……」

そのISと一夏から目を逸らした。

その時、

「………わかってる……彼の所為じゃない………彼の所為じゃ………」

簪が小さな声で呟いたが、タカトには聞き取れなかった。

一方、

「これが……」

「はい! 織斑君の専用IS『白式』です!」

真耶が一夏にそう言う。

「体を動かせ。 すぐに装着しろ。 時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。 出来なければ負けるだけだ。 わかったな」

千冬に急かされて一夏は純白のISに触れる。

「あれ……?」

一夏が何やら声を漏らす。

初めてISを触った時とは、感覚が違ったのだ。

しかし、

「馴染む……理解できる………これが何なのか…………何のためにあるか…………わかる」

一夏が何やら呟く。

「背中を預けるように、ああそうだ。 座る感じでいい。 後はシステムが最適化をする」

一夏がISに身を任せ、一夏の体にISが装着されていく。

「あ」

一夏が声を漏らす。

ハイパーセンサーによって、あらゆるモノがクリアーに感じている。

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。 一夏、気分は悪くないか?」

「大丈夫、千冬姉。 いける」

「そうか」

この間のやり取りだけは、教師と生徒ではなく、姉と弟のやり取りだった。

「じゃあ、一夏、頑張って」

タカトが一夏に声をかける。

「おう!」

すると、近くにいた箒が何か言いたそうにしていたが、

「箒」

一夏が箒に声をかける。

「な、なんだ?」

「行ってくる」

「あ……ああ。 勝ってこい」

箒の言葉に一夏は頷き、ピット・ゲートに進む。

そして、ゲート解放と共に、一夏と白式は空へと舞いあがった。




「あら、逃げずに来ましたのね」

セシリアが鼻を鳴らしながらそう言う。

セシリアの纏うISは『ブルー・ティアーズ』。

鮮やかな青色の機体で、特徴的なフィン・アーマーを4枚背に従え、どこかの王国騎士のような気高さを感じさせる。

その手には2mを声を長大なレーザーライフル『スターライトmkⅢ』。

アリーナの直径は200m。

既に試合開始の鐘は鳴っている。

「最後のチャンスをあげますわ」

セシリアが人差し指を一夏に突きだしながら言う。

「チャンスって?」

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。 ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげない事もなくってよ」

そう言ってセシリアはISの武装のセーフティロックを解除する。

「そういうのは、チャンスとは言わないな」

一夏はそう返す。

「そう? 残念ですわ。 それなら…………お別れですわね!」

セシリアがそう叫ぶと同時、レーザーライフルから閃光が放たれた。

「うおっ!?」

反応できなかった一夏は、その攻撃をまともに喰らう。

白式のオートガードが働き、直撃は免れたものの、左肩の装甲が一撃で吹き飛ぶ。

「さあ、踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

セシリアは次々とライフルを発射する。

それは出鱈目に放たれているのではなく、全て的確に一夏を狙っている。

「装備、装備は!?」

一夏が白式に問うと、使用可能な武器の一覧が表示される。

しかし、

「1個しかないんだが………」

そこには、『近接ブレード』と書かれた装備しか表示されていなかった。

「ええい、ままよ!」

一夏は、素手でやるよりはマシだと思い、近接ブレードを呼び出す。

一夏の手に片刃のブレードが現れ、その手に収まった。

「中距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうだなんて………笑止ですわ!」

すぐさまセシリアの射撃が放たれる。

「やってやるさ!」

一夏は、腹を括って飛び出した。





「……27分。 持った方ですわね。 褒めて差し上げますわ」

「そりゃどうも」

戦闘開始から27分。

一夏の白式は既にボロボロ。

シールドエネルギーの残量も、残り僅かだ。

「このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわね」

そう言いながら、セシリアは自分の周りに浮いている4つの自立機動兵器を褒めるように撫でる。

そのビットの名も、機体と同じ『ブルー・ティアーズ』といい、フィン状のパーツにレーザーの銃口が付いた兵器だ。

「では、フィナーレと参りましょう」

セシリアが笑みと共に右腕を横にかざすと、ビットが多角的な機動で一夏に接近する。

「くっ……!」

一夏の上下に回ったそれらのビットの先端が発光し、レーザーを放つ。

それを回避すると、その隙をついてセシリアがライフルを放つ。

先ほどからこのパターンでシールドエネルギーを削られている。

「左足、いただきますわ」

セシリアのライフルが狙いを定める。

止めの一撃が放たれようとしたとき、

「一か八か!」

一夏は無理矢理の加速でセシリアのライフルに正面からぶつかる。

その衝撃で銃口が逸れ、止めを免れた。

「なっ!? 無茶苦茶しますわね。 けれど、無駄な足掻きっ!」

セシリアは距離を取って、空いている左手を横に振る。

それと同時にビットが一夏に向かって飛んでいく。

「よし! わかったぞ!」

一夏はレーザーを潜り抜け一閃。

ビットの一つを切り裂いた。

「なんですって!?」

セシリアが驚愕する。

そのセシリアに向かって、一夏は斬り込む。

「くっ………!」

セシリアは後方に回避し、また右手を振るった。

すると、またビットの2機が飛んでいく。

「この兵器は、毎回お前が命令を送らないと動かない! しかも………」

そう言いながら、一夏はビットの1つを切り裂く。

「その時、お前はそれ以外の攻撃を出来ない。 制御に意識を集中させているからだ。 そうだろ?」

「…………ッ」

セシリアの目じりが引きつり、一夏は図星だと見ぬく。

見え始めた勝利に、一夏はわずかに胸を躍らせた。






その様子をピットで見ているタカト達。

「ほえ~、凄いねおりむー」

本音が感心した声を上げる。

「………………」

簪は、やはり睨むような目でモニターを見ている。

しかし、タカトはため息を吐き、

「一夏、調子に乗っちゃってるや………」

そう呟く。

「まっつー? どういうこと~?」

タカトの呟きに本音が尋ねる。

「よく見て、左手を握ったり開いたりしてるでしょ? あれは、浮かれたり調子に乗ったりしたときに出る一夏の癖なんだ。 そういう時に、大体単純なミスをするんだよ」

タカトはそう説明する。

そして、同じようなやり取りが、千冬と真耶の間でも行われていたりする。

その時、試合が動いた。




(獲った!)

一夏は最後のビットを蹴り飛ばし、セシリアの懐に飛び込む。

ライフルの砲口は間に合わず、確実に一撃が入るタイミング。

しかし、

「………かかりましたわ」

ニヤリとセシリアが笑みを浮かべる。

一夏は、まずいと思ったが既に遅かった。

セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー。

その突起が外れて、動いた。

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!」

その2つのビットは先程までの4機とは違い、ミサイルだ。

――ドガァァァァン!

一夏は回避が間に合わず、爆炎に呑まれた。




「一夏っ……!」

箒が思わず声を上げる。

しかし、

「ふん…………機体に救われたな、馬鹿者め」

千冬の言葉と共に、煙が晴れていく。

その中心にはあの純白の機体があった。




『フォーマットとフィッティングが終了しました。 確認ボタンを押してください』

一夏の意識に直接データが流れ込んでくる。

一夏は、表示されたモニターの中心にあった「確認」ボタンを訳も分からず押した。

その瞬間、一夏のISの装甲が光の粒子に弾けて消え、また形を成す。

「これは………」

白式の装甲が新しく形成され、薄い光をぼんやりと放っている。

装甲の実体ダメージが全て消え、より洗練された形へと変化していた。

「ま、まさか……一次移行ファースト・シフト!? あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」

セシリアが驚愕して叫ぶ。

一夏は、機体を確認する。

機体もそうだが、何より変わったのはその武装。

『近接特化ブレード・≪雪片弐型≫』

刀身が2つに分かれ、その中心からエネルギーブレードが発生する。

雪片。

それはかつて一夏の姉、千冬が振るっていたISの武器。

「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

一夏は感慨深く呟く。

「俺も、俺の家族を守る」

「……は? あなた、何を言って………」

一夏の言葉は独り言だが、セシリアは何のことかと声を漏らす。

「とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ!」

一夏は心の中で決意を固める。

「というか、逆に笑われるだろ」

とぎれとぎれの言葉しか出てこない一夏の言葉に、セシリアは困惑するが、

「だからさっきから何の話を……ああもう、面倒ですわ!」

弾頭を再装填したビットが2機、セシリアの命令で一夏に向かって飛んでいく。

多角直線起動で、しかも射撃型よりも速い。

しかし、今の一夏には見えていた。

一閃。

ビットが両断され、一夏の後方で爆発する。

その爆発の衝撃が届くより速く、一夏はセシリアへと突撃した。

「おおおおっ!」

セシリアの懐に飛び込み、下段から上段への逆袈裟払いを放つ。

確実に捉えた一撃。

が、その刀身がセシリアの機体に当たる直前に、試合終了のブザーが鳴り響いた。



『試合終了。 勝者―――セシリア・オルコット』



「………あれ?」

一夏は、呆然とする。

セシリアもぽかんと口を開けて固まっていた。

そしてそれは、千冬を除き、その試合を見ていた誰もが同じだった。

千冬だけは、「やれやれ」と言った顔をしていた。

一夏自身がなぜ負けたのか分からないまま、試合は終了した。




「よくもまあ持ち上げてくれたものだ。 それでこの結果か、大馬鹿者」

千冬が戻ってきた一夏に辛辣な一言を放つ。

「武器の特性も考えずに使うからああなるのだ。 身を持って分かっただろう。 明日からは訓練に励め。 暇さえあればISを起動しろ。いいな」

「………はい」

千冬が一夏になぜ負けたかを説明する。

要は、一夏の白式の能力は、自分のシールドエネルギーと引き換えに攻撃力をアップさせる能力で、残りのシールドエネルギーの量が少なかったために、攻撃が決まる前にシールドエネルギーがゼロになり、一夏が負けてしまったという事だ。

一方、タカトは先程から一夏と白式を睨むように見る簪が気になっていた。

それでも、聞いても答えてくれないだろうと考え、別の話題を振ることにした。

「ねえ、簪さん」

「…………何?」

簪の言葉には、若干の棘がある。

「戯れに聞くけど、もしデジモンの能力や必殺技が使えたら、オルコットさんとはどう戦う?」

タカトの言葉が以外だったのか、簪は若干呆気にとられた表情でタカトを見た。

「………何でそんな事聞くの?」

そういう反応をするのは当然だ。

「言ったでしょ? 戯れだよ。 簪さん、少し機嫌が悪そうだからね。 気分転換にと思って」

タカトはそう言う。

簪はアニメやヒーロー物が好きなため、こういう話題は効果がある。

「…………今の試合を見る限り、ビットと本人を同時に攻撃できるような技………メガドラモンのジェノサイドアタック辺りを使用して、射撃型ビットをすべて破壊。 その後、防御力と突破力のある…………ウォーグレイモン辺りでミサイル攻撃を耐えて一気に接近。 近接格闘でシールドエネルギーを削って一気に決める………かな………」

「なるほど……」

簪の言葉に、タカトはカードデックを取り出して、中を確認する。

「メガドラモンはあるっと…………あ、ウォーグレイモンが手持ちに無いや。 部屋のケースに入れてたはずだけど………」

デックの内容を確認しだしたタカトに、簪は怪訝な視線を向ける。

「………何してるの?」

「え~と、ゲン担ぎっていうか………お守りみたいなものだね」

タカトはそう言う。

簪はそれを聞くと、

「………あるよ……ウォーグレイモン……」

簪は自分のデックを取り出すと、ウォーグレイモンのカードを抜きだす。

そして、それをタカトに差し出した。

「えっ? 良いの?」

簪の行動に驚くタカト。

簪は無言で頷いた。

タカトは笑みを浮かべ、

「ありがとう。 簪さん」

そのカードを受け取った。

「わ~、まっつー。 かんちゃんが自分のカードを使わせるんだから、ちゃんと勝たなきゃダメだぞ~」

その様子を見ていた本音がそう言ってくる。

「もちろんだよ。 ちゃんと勝つよ。 このカードでね」

タカトは、簪のカードを見せながら、自信を持ってそう言った。

すると、

「松田! オルコットの補給が終わった。 すぐに準備をしろ!」

千冬がそう言ってきた。

「分かりました!」

タカトはピット・ゲートの前に立つと、Dアークを取り出し、

「来て、グラニ!」

タカトが叫ぶと、Dアークから光が放たれ、タカトの体にISが装着される。

輝く白銀と燃えるような赤のIS。

「それが、タカトのIS………」

一夏が呟く。

「うん。 名前は『ゼロアームズ・グラニ』だよ」

タカトは一夏にそう言う。

すると、ゲートが開かれていく。

「じゃあ、行ってくるよ」

タカトはその場の全員にそう言った。

「おう! 俺の仇を取ってくれ!」

一夏がそう言い、

「まあ、期待はしていないが、一応は応援してやる」

一夏の時とはえらい差の箒。

「頑張れ~、まっつー」

相変わらず間延びした本音の応援。

「………………頑張って………」

生身では聞き取れないぐらいの簪の小さな応援。

しかし、タカトにはハイパーセンサーのお陰で聞き取れていた。

タカトは前を向き、

「行こう! グラニ!!」

そう叫んで飛び出した。



タカトはゲートから飛び出ると共に、グラムとイージスを展開。

その手に持ってアリーナの地面に着地し、空中に浮かぶセシリアを見上げた。

タカトは、一夏と同じような事を言われるのかと思ったが、セシリアは何やら俯いている。

「………あれ?」

タカトはその様子に声を漏らした。

すると、セシリアは顔を上げる。

「…………松田さん………もうあなたを男だからと言って、侮ったりはしません………一夏さんに教えられました………最初から全力で行きますわ!」

その表情は真剣だ。

しかしタカトは、

「……………一夏さん……ね」

そう呟いてため息を吐く。

(またなんだね、一夏)

タカトは心の中で呆れる。

一夏は昔から異性を引き付ける魅力を持っているのか、モテまくる。

中学時代でも、今は中国に帰国してしまった同級生と友人の妹を筆頭に、数々の好意を寄せられていたが、それに何一つ気付かないという鈍感にも程がある唐変木ぶりを発揮している。

このIS学園でも、早々に犠牲者が出たらしい。

タカトは呆れつつも気を取り直し、セシリアを見上げる。

「そう言えば、あなたには紹介していませんでしたね。 このわたくし、セシリア・オルコットの操る、ブルー・ティアーズですわ」

そう言うセシリア。

だが、先ほどまでのような見下した感じはせず、まるで中世の騎士の決闘のような気高さが伺える。

「僕のISは、グラニ。 ゼロアームズ・グラニだ」

礼儀的に名乗り返すタカト。

「グラニ…………北欧神話の英雄、ジークフリートが駆ったとされる愛馬の名前ですわね………さしずめあなたはグラニを駆る伝説の騎士、と言ったところでしょうか………」

一夏との試合の前のセシリアなら、ほぼ間違いなく見下して扱き下ろしていただろう。

しかし、

「よろしいですわ。 あなたがその名を駆るに相応しい乗り手かどうか、このわたくしが試して差し上げます!」

その言葉と共に、セシリアのレーザーライフルが閃光を放ち、試合が開始された。





「…………タカト君の……ISの………あの姿は………まるで………」

モニターを見ていた簪が、小さな声で何か呟く。

モニターには、セシリアの攻撃を地上を駆けることでかわし、回避できないときにはイージスで防いでいるタカトの姿。

はたから見れば、タカトの防戦一方の不利な姿。

モニターを見ている一夏も、タカトの姿に焦っている。

しかし、対戦相手のセシリアにはそんな余裕は無かった。

何故ならば………




「くっ………まともな攻撃が一発も入りませんわ!」

セシリアが思わず口にした。

そう、タカトの防戦一方に見えるが、先ほどからまともな攻撃が一発も入っていない。

自分の射撃やビットを使った攻撃も、その殆どが回避され、捉えたと思った射撃も、左手に持つイージスによって防がれている。

その為、タカトのシールドエネルギーは殆ど減っていない。

何故タカトがここまでセシリアの攻撃を避け続けられるのか?

それはタカトの経験がものをいった。

かつて、デ・リーパーとの戦いの中で、エージェントの中に射撃型のエージェントがいた。

そのエージェントは、1体につき、4つの銃口を持っていた。

しかも、それが一度に何十と出てくるのだ。

確かにセシリアの攻撃は『雨』のようにレーザーを降らしてくる。

しかしタカトは、デ・リーパーのエージェントの何十発もの『嵐』ともいえる砲撃をデュークモンとなって駆け抜けたこともある。

その時の攻撃に比べれば、セシリアの攻撃は温いとしか言えない。

雨のように撃たれるレーザーを、タカトは避け、或いは防いでいく。

しかし、

「ッ……カードスラッシュをする暇がない!」

タカトはそう漏らす。

そう、確かに攻撃を避け、或いは防ぐことは出来ても、タカトに攻める手段は無い。

セシリアは空中である程度距離を取っており、いまタカトが居る場所からセーバーショットやロイヤルセーバーを放っても、簡単に避けられてしまうだろう。

加えて、グラニは空中戦が苦手なようで、最初に空中で戦おうとしたときにはうまく動けず、危うく攻撃を受けそうになった。

ある程度近づいて来れば、跳躍からの攻撃で何とかなるかも知れないが、今のセシリアにおごりは無い。

油断して近づいてくることは無いのだ。

その為、状況を打破するためにはカードスラッシュを使う必要があるのだが、セシリアの攻撃は途切れることはなく続いている。

カードスラッシュの瞬間は、完全に無防備になってしまうので、最低でも5秒から10秒の隙が必要だ。

しかし、セシリアの攻撃は雨のように続く。

この状態でカードスラッシュをするなど自殺行為だ。

相手の攻撃エネルギーが尽きるまで耐えるという方法もあるのだが、それまで集中力と体力が続くか定かではない。

タカトは如何するかを考える。

そして、

「そうだ!」

何かを思いついたのかセシリアから一旦距離を取る。

追撃してくるビット。

すると、タカトは突然立ち止まり、グラムを構えた。

グラムにエネルギーが集中し、光り輝く。

その隙に、ビットがタカトを囲んだ。

その瞬間、

「ロイヤルセーバー!!」

タカトはロイヤルセーバーを足元の地面に打ち込んだ。

その瞬間、エネルギーが地面を伝い、放射状に広がる。

それと共に、衝撃波が辺りを襲った。

その衝撃波によって、全てのビットがバランスを崩す。

「くっ! 戻りなさい! ブルー・ティアーズ!」

遠隔操作では衝撃の中操りきれないと判断したセシリアは、ビットを呼び戻す。

そして、それこそがタカトの狙いだった。

タカトも足元にロイヤルセーバーを打ち込んだため、その衝撃を受けてはいるが、イージスで防御した為、大きなダメージは負っていない。

タカトは、今こそ行動した。

両手のグラムとイージスを消し、左手にDアークを、右手に1枚のデジモンカードが握られる。

そして、Dアークを構えると、そのカードをDアークのカード挿入口にあてがい、通し始める。

「カードスラッシュ!」

Dアークが、カードの情報を読み取っていく。

そしてタカトは、そのカードの名を叫んだ。

「メガドラモン!!」

タカトがメガドラモンのカードをスラッシュすると、Dアークの液晶画面が輝き、タカトの頭上に全長が3m程の半透明の機械化された竜――メガドラモンが浮かび上がった。

「グォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

半透明のメガドラモンは咆哮を上げる。

「な、何ですのそれは!?」

セシリアは、思わずレーザーライフルをメガドラモンへ向けた。

驚愕しているのはセシリアだけではなく、アリーナの観客席で見ていた生徒全員。

ピットの中で見ていた一夏達も同じであった。



「な、何だあれは!?」

箒が叫ぶ。

箒はデジモンには詳しくない為、その姿に驚愕する。

「ま、マジかよ………あれって確か………」

一夏はタカトと仲が良く、自身もカードゲームをするため、その正体が何なのか分かっていた。

一夏がその名を口にしようとしか瞬間、

「………メガドラモン……!」

簪が、驚愕の表情で呟いた。




浮かび上がった半透明のメガドラモンは、咆哮を上げると、タカトのISに重なる様に姿を消す。

その瞬間、タカトのISが形を変えた。

両腕の装甲が、普通の腕から分厚い銀色の三角錐状の装甲へ。

IS本体にはオレンジ色のラインが所々に入り、何よりも、何もなかった背中に紫色のウイングが生み出された。

「ISが形を変えた!?」

セシリアが驚愕する。

そんなセシリアをタカトは見上げる。

それに気付いたのか、セシリアは気を取り直し、ビットに命令を下す。

「行きなさい! ブルー・ティアーズ!」

再びビットが射出され、タカトに向かって飛んでいく。

タカトは、ビットがある程度近づいてきた時を見計らい、

「今だ!」

空へと飛びあがった。

「逃がしませんわ!」

セシリアは、ビットに追撃の命令を下す。

しかし、一直線にタカトは空へと向かう。

先程よりも飛行能力が増したグラニは、あっという間にセシリアの居た高度を飛越し、セシリアの頭上を取る。

そんなタカトを追撃してくるビット。

タカトは、空から4機のビットと、セシリア本人に狙いを定めると、両腕を眼下へ向けた。

すると、両腕の三角錐の装甲が展開し、その中から砲門が現れた。

そして、

「ジェノサイドアタック!!」

左右の腕から各5発。

合計10発のミサイルが放たれる。

それぞれのビットに、2発ずつミサイルが向かう。

「ッ……やらせませんわ!」

セシリアはビットを操ってミサイルを振り切ろうとする。

しかし、タカトが撃ったミサイルは合計10発。

4機のビットにそれぞれ2発ずつ向かっているが、2発足りない。

その2発は、

「きゃあっ!?」

セシリアの後方から2発着弾した。

爆発により、セシリアの集中力が一瞬途切れた。

その瞬間、

――ドドドドォォォン!

ほぼ同時に4機のビットにミサイルが着弾し、爆散させる。

「なっ!?」

セシリアが気付いた時にはもう遅かった。

セシリアは驚愕するが、慌てて気を取り直し、タカトの姿を探す。

タカトは、ミサイルを撃った所と同じ場所にいた。

ただ、ISの形は元に戻っており、その手には再びDアークと先ほどとは違うカードが握られていた。

「使わせてもらうよ。 簪さん」

タカトは感謝するようにそう呟くと、再びDアークを構える。

右手のカードをDアークに通していく。

「カードスラッシュ!」

タカトは叫ぶ。

簪から受け取った、勝利へのカードの名を。

「ウォーグレイモン!!」

タカトがウォーグレイモンのカードをスラッシュすると、先ほどと同じようにDアークの液晶画面が輝き、タカトの頭上に半透明の黄金の鎧を纏った竜戦士――ウォーグレイモンが浮かび上がった。

「ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

ウォーグレイモンも、咆哮を上げる。

その様子に、再び驚愕のざわめきに包まれるアリーナ。



「おいおい。 今度はウォーグレイモンかよ………」

一夏がそう漏らす。

「い、一夏! 先ほどから現れるあれは何なのだ!? 何か知っているのか!?」

何も分からない箒が一夏に叫びながら問いかける。

「お、おう……箒はデジモンって分かるか?」

「う、うむ……名前ぐらいは聞き覚えがある」

「さっきの竜と今出ているあれも、デジモンなんだ。 多分タカトが使ってるカードが元になっていると思うんだが………」

一夏もよくわかっていないながらも、箒に説明する。

一方、

「かんちゃんかんちゃん! 見て見て~! ウォーグレイモンだよ~! あれってきっと、かんちゃんのカードだよ~!」

本音が興奮しながら簪の腕に抱きつく。

「………タカト……君………」

簪は呆然とした表情でモニターを見ていた。




浮かび上がったウォーグレイモンがタカトのISに重なる様に消える。

そして、再びタカトのISが形を変える。

両腕は、ドラモンキラーに変化し、IS本体には黄金のラインが描かれ、背中には勇気の紋章が刻まれたウイングのような装甲、ブレイブシールドが装備される。

タカトは上空からセシリアを見下ろし、構えを取った。

そして、

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

叫び声を上げながら、一直線に突撃した。

「ッ! 一直線に突撃してくるなんて、良い的ですわよ!」

セシリアは一瞬驚いたが、すぐに気を取り直し、腰部からミサイルビットを発射する。

しかし、タカトは全く怯まずにそのミサイルに一直線に突っ込む。

そして、

――ドゴォォン!

2発のミサイルは直撃し、タカトは爆炎に包まれた。



「タカト!!」

その瞬間をモニターで見ていた一夏は思わず叫ぶ。

しかし、

「………あれが……本当に……ウォーグレイモンの能力を持っているのなら………!」

簪がそう呟いた瞬間、




「うぉおおおおおおっ!!」

爆炎の中を、ブレイブシールドを構えたタカトが突っ切ってきた。

「なっ!?」

驚愕するセシリア。

瞬時にタカトはブレイブシールドを背中に戻し、ドラモンキラーを構える。

セシリアは、慌ててレーザーライフルを構えようとしたが、

「はぁああっ!」

タカトのドラモンキラーの斬撃によって、レーザーライフルが切り裂かれる。

「くっ!」

セシリアは、慌てて切り裂かれたライフルから手を離す。

その数瞬後に、切り裂かれたライフルは爆発した。

「イ、インターセプ……」

セシリアは後方に距離を取って近距離用の武器を呼び出そうとした。

だが、それより速くタカトがセシリアへ接近し、

「はぁあああああっ!!」

ドラモンキラーの一撃を繰り出す。

「きゃぁああああっ!?」

堪らず吹き飛ばされるセシリア。

「だぁああああああっ!」

続けて追撃するタカト。

ドラモンキラーによって、ブルー・ティアーズの装甲が砕かれていく。

続けてタカトは、蹴りを放ってセシリアを地上に向かって吹き飛ばした。

「くぅうううううっ!」

何とか体勢を立て直し、地面への激突を免れるセシリア。

すぐにタカトを見上げる。

しかし、

「なっ!?」

そこで驚愕の表情に変わった。

セシリアの視線の先には、黄金の巨大なエネルギー球を生み出したタカトの姿。

「ガイア……」

それをセシリアに向けて、

「………フォース!!」

放った。

一直線に地上へ向かうエネルギー球。

驚愕したセシリアはその場を動けない。

そのままエネルギー球はセシリアへと向かい、

セシリアから少し離れたところに着弾した。

その瞬間解放されるエネルギー。

その衝撃ですらアリーナのシールドを揺るがせた。

当然ながら、直撃はしなかったとはいえ、その前の格闘でシールドエネルギーを減らされていたセシリアのブルー・ティアーズは、その衝撃には耐えきれず、シールドエネルギーを0にし、

『試合終了。 勝者―――松田 タカト』

タカトの勝利が決定した。




「わ~! 本当にまっつーが勝った~!」

本音が飛び跳ねながら喜びを表現する。

「タカトの奴、スゲーな……」

タカトがこれほどの実力だとは思わずそう漏らす一夏。

「……………」

呆気にとられて何も言えない箒。

「………………」

無言だが、どこか嬉しそうな表情の簪。

驚きは、千冬や真耶も一緒だった。

「凄い能力ですね、松田君のIS。 私はデジモンには詳しくないんですけど、上手く使えば無敵じゃないですか?」

そう漏らす真耶。

しかし、千冬は何かに気付いたように、

「いや、そうとは限らん」

そう言った。

「どういうことですか?」

真耶が尋ねると、

「松田のシールドエネルギーの残量を見てください」

真耶は、千冬の言われた通り、タカトのシールドエネルギー残量を確認する。

「えっ!? タカト君のシールドエネルギーの残量が!?」

真耶は驚愕の声を漏らす。

タカトのシールドエネルギーの残量は、既に100を切っていた。

「そんな……タカト君は、それほどダメージを負った様子は無かったのに………」

真耶が呟くと、

「恐らく、松田のISも白式と同じようにシールドエネルギーを攻撃に使っているのだろう。 この減り方を見るに、白式並の燃費の悪さ……いや、もしかしたらそれ以上かもしれん。 どちらにせよ、無敵というわけではなさそうだ」

そう言う千冬だった。




タカトがピットに戻ってくると、

「やったな! タカト!」

一夏が労いの言葉をかけてくる。

「うん!」

タカトはサムズアップで応える。

「凄かったよ~! まっつー!」

本音も嬉しそうにそう言った。

「まあ、なかなかやるようだな」

そう言う箒。

するとタカトは、少し離れて遠慮がちに立っていた簪に気付いた。

タカトはISを解除し、簪の元に歩いていく。

「簪さん!」

簪に声をかけるタカト。

「な……何………?」

そう返す簪。

すると、タカトは笑みを浮かべ、

「ありがとう。 簪さんのカードのおかげで、勝つことが出来たよ」

簪のカードを差し出しながらそう言った。

「う……うん………ど……どういたしまして………」

簪は、そのカードを受け取りながら、そう言った。

すると、簪は顔を上げ、

「あ……あの……タカト君………」

「うん? 何かな?」

「そ、その…………初勝利………おめでとう………」

簪は僅かに笑みを浮かべつつ、そう言った。

タカトはその笑みを見ると、

「あは、やっと笑ってくれたね」

僅かとはいえ、初めて簪の笑顔を見たタカトは、笑みを浮かべながらそう言った。

「えっ?」

「簪さんって、いつも無表情か不機嫌な顔してるからさ、笑顔を見たのは初めてなんだよ」

「そ……そう……?」

簪は、恥ずかしいのか目を逸らしつつ顔を赤くした。

「それにしても、やっぱり簪さんは笑った方が可愛いよ」

タカトはなんとなくそう言ってしまった。

「えっ?……あっ……?」

簪の顔がますます赤くなる。

「あ~! まっつーがかんちゃん口説いてる~!」

本音がそんな事を言い出した。

「えっ? く、口説く!?」

その言葉に、タカトは思わず声をもらし、先程の自分の言葉を思い返す。

「…………………」

どっから如何聞いても口説き文句にしか聞こえない。

そのことに気付くと、

「あっ! ご、ゴメン簪さん! そんなつもりじゃ無かったんだ! 嫌な気分にさせたのなら謝るよ! 本当にゴメン!」

慌てて頭を下げるタカト。

「……い……いい………気にしてないから………」

顔を赤くしながらそう呟く簪。

「そ、それでも、本当にゴメン」

もう一度謝るタカト。

「……謝らなくていい…………ちょっと嬉しかったし………」

そう言う簪。

尚、最後の言葉は何を言ったか聞き取れなかった。

「あはは~、この先が楽しみかも~」

意味ありげに呟く本音だった。





因みに、誰も触れてはいないが、この戦いに勝利したタカトがクラス代表になることに、タカト自身も気付いていない。






あとがき

第四話完成。

またえらい長くなりました。

昨日には間に合いませんでしたが、とりあえずの投稿です。

さて、一夏とセシリアの戦いは原作通りセシリアの勝利。

この時点で一夏に対してセシリアのフラグが立ってます。

で、次のタカト対セシリア。

カードスラッシュのチートっぷりが本領発揮。

デジモンカードをスラッシュすることで起きた変化は下に書いておきます。

さて、あとは簪フラグが強化されました。

正直最後のやり取りは考えていなかったのですが、書いているうちに調子に乗ってあんな感じに。

思った以上に簪フラグが強化されてしまった。

まあ、いいか。

では、カードスラッシュの効果の発表



・メガドラモン

装備:メガハンド

陸戦:C

空戦:A

近接戦闘:B

中距離戦闘:A

遠距離戦闘:B

機動力:地上C 空中A

装甲:B

必殺技:ジェノサイドアタック

シールドエネルギー100消費。 10発の誘導ミサイルを同時発射する。




・ウォーグレイモン

装備:ドラモンキラー、ブレイブシールド

陸戦:S

空戦:A

近接戦闘:S

中距離戦闘:A

遠距離戦闘:C

機動力:A

装甲:A(ブレイブシールドのみS)

必殺技:ガイアフォース

シールドエネルギー200消費。 巨大なエネルギー球を放つ。 ロイヤルセーバー(突撃)と同等以上の威力。 装甲:B以下のISはまともに喰らえば一撃で終わる。




こんな感じで。

やはりチートだ。

ともかく、次も頑張ります。





[31817] 第五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/03/18 23:49
第五話 登場! 一夏のセカンド幼馴染!




クラス代表決定戦の翌日。

「では、1年1組代表は、松田 タカト君に決定です」

真耶が笑顔でそう言った。

クラスの女子達も、大いに盛り上がった。

「やっぱり世界で2人だけしかいない男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとね!」

そんな言葉が飛び交う。

そんな中、

「それにしても、タカトって強かったんだな。 今度ISの操縦教えてくれよ」

一夏がそんな事を言った。

すると、

「そ、それでしたらわたくしが!」

突然セシリアが立ち上がり、

「松田さんは、実戦はともかくとして、知識の方は自分でも仰っていたように乏しいご様子。それならば、わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間が教えて差し上げた方が、一夏さんもみるみるうちに成長を…………」

そう言おうとした瞬間、机を叩いて箒が立ち上がった。

「あいにくだが、一夏の教官は足りている。 私が、直接頼まれたからな」

『私が』を強調しつつそう言う箒。

更に、相手を射殺さんがごとくセシリアを睨み付ける。

しかし、

「あら、あなたはISランクCの篠ノ之さん。 Aのわたくしに何か御用かしら?」

セシリアは余裕を持って誇らしげにそう言った。

「ラ、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ! い、一夏がどうしてもと懇願するからだ!」

言い負かされまいと見栄を張る箒。

「え、箒ってランクCなのか……?」

こんな時にもズレた事を呟く一夏。

「だ、だからランクは関係ないと言っている!」

叫ぶ箒。

その時、

「座れ、馬鹿共」

千冬が言い争っていた2人の頭を叩いて黙らせる。

ついでに馬鹿な事を考えていた一夏の頭も叩いておく。

「お前たちのランクなどゴミだ。 私からしたらどれも平等にひよっこだ。 まだ殻もやぶれていない段階で優劣をつけようとするな」

元世界一の千冬の言葉は、凄まじい説得力を持っていた。

「ともかく、話がズレたがクラス代表は松田 タカト。 異存はないな」

その言葉にクラス一丸となって返事をする。

その光景に、タカトは思わず苦笑した。







4月下旬。

ISの授業。

「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。 織斑、オルコット、松田。試しに飛んで見せろ」

千冬に言われて3人が前に出る。

「早くしろ。 熟練したIS操縦者は、展開まで1秒とかからないぞ」

千冬に急かされ、3人はISを展開する。

そして、

「よし、飛べ」

言われてすぐにセシリアは急上昇する。

少し遅れてタカトと一夏も後へ続いた。

しかし、タカトは最初の跳躍こそ一夏を遥かに超えていたものの、空中飛行に入るとセシリアに追い付くどころか、すぐに一夏に抜かれる。

その一夏も、セシリアには全く追いつけていない。

「何をやっている。 空戦適正が低いグラニはともかく、スペック上の出力では白式の方が上だぞ」

千冬から一夏へお叱りが飛ぶ。

一夏は、いまいち空を飛ぶ感覚が分からないらしい。

すると、

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。 自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」

セシリアが一夏にそう話しかけた。

「そう言われてもなぁ。 大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。 何で浮いてるんだ? これ」

一夏がそう愚痴る。

一応、ISにもウイングのようなものはあるが、飛行機と同じ原理で飛んでいるわけではないのは明らか。

「説明しても構いませんが、長いですわよ? 反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」

「わかった。 説明はしてくれなくていい」

授業に追い付くだけでも精一杯の一夏に、そのような専門的な知識を理解するだけの余裕は無い。

一夏は、ふと後ろを見る。

そこには、一夏にすら追い付けないタカトの姿。

「タカト、大丈夫か?」

一夏が声をかける。

「まあね。 空を飛ぶこと自体は難しくないよ」

ただ、フラフラと飛んでいる一夏に比べれば、その飛行はセシリアのように安定している。

一応だが、デジタルワールドではデュークモンでも空を飛べたため、タカトにとって翼も無しに空を飛ぶことのイメージは難しくは無い。

ただ、現在のグラニの性能で空戦適正が低すぎるのだ。

「それに、こうすれば苦手な空戦でもなんとかなるし」

そう言いながら1枚のカードを取り出し、

「カードスラッシュ!」

Dアークにカードをスラッシュする。

「エアロウイング!!」

その瞬間、グラニの背中に蒼いウイングが生み出される。

すると、グラニの飛行スピードが桁違いに上がった。

「一夏、お先に!」

あっという間に一夏を抜き去る。

そして、その先のセシリアとの距離も、ぐんぐん詰める。

「そう簡単には、抜かせませんわよ!」

セシリアもスピードを上げた。

だが、タカトのグラニの方が速く、少しずつ距離が短くなっていく。

セシリアが抜かれるのも、時間の問題かと思われたが、

「あっ!」

突然グラニのウイングが消滅した。

それと共に、ガクンとスピードが落ちる。

「あちゃぁ、時間切れか………」

タカトは残念そうに呟く。

カードスラッシュの効果は1分間しか続かない。

タカトはその位置で停止した。

すると、

「織斑、オルコット、松田、急降下と完全停止をやって見せろ。 目標は地表から10cmだ」

千冬から次の指示が飛ぶ。

「了解です。 では一夏さん、松田さん、お先に」

セシリアはそう言うと、すぐさま地上へ向かう。

そして、見事に地表10cmで停止した。

「うまいもんだなぁ」

一夏が感心した声を漏らす。

「じゃ、次は僕が行くよ」

タカトがそう言う。

「おう。 うまくやれよ」

一夏がそう言った。

タカトは、地表へ向かって急降下を始める。

「今!」

タカトはタイミングを見計らって体勢を起こし、制動をかける。

しかし、

「くっ!」

――ダンッ

勢いを完全に殺せず、地表に着地してしまった。

「空戦適正が低いとはいえ、急停止位はやってみせろ。 もっと訓練に励めよ」

千冬は、そう評価を下す。

「すみません」

タカトは謝る。

すると、

――ドゴォォォォォン

タカトの後方に何かが勢いよく激突し、かなり大きなクレーターを作り上げた。

まあ、言わずもがな一夏である。

「馬鹿者。 誰が地上に激突しろと言った。 グラウンドに穴をあけてどうする」

冷静にそう言う千冬。

タカトはビックリして固まっている。

「……すみません」

穴から無傷で現れる一夏。

「情けないぞ一夏。 昨日私が教えてやっただろう」

腕を組んで箒が一夏に言う。

「貴様、何か失礼なことを考えているだろう」

一夏の顔を見た箒がそう言った。

それを聞いて、一夏がギクリとする。

どうやら図星のようだ。

「大体だな一夏、お前という奴は昔から………」

箒の小言が始まろうとしたその時、

「大丈夫ですか、一夏さん? お怪我は無くて?」

2人の間にセシリアが割り込み、一夏に声をかける。

「あ、ああ。 大丈夫だけど………」

「そう。 それは何よりですわ」

そう言いながら微笑むセシリア。

「………ISを装備していて怪我などするわけがないだろう………」

「あら、篠ノ之さん。他人を気遣うのは当然の事。 それがISを装備していても、ですわ。 常識でしてよ?」

「お前が言うか。 この猫かぶりめ」

「鬼の皮を被っているよりはマシですわ」

2人の視線がぶつかって火花が散ったように見える。

「お、おいタカト………何でこの2人こんなに険悪なんだよ………?」

一夏がタカトに小声で尋ねる。

すると、

「はぁ~~~~~…………」

タカトはとても深いため息を吐く。

「お、おいタカト?」

「相変わらずだね、一夏………」

それだけ言うと、タカトは黙り込む。

「お、おい………」

「織斑、次だ。 武装を展開しろ。それ位は自在に出来るようになっただろう」

千冬が次の指示を出す。

「は、はあ……」

「返事は『はい』だ」

「は、はいっ」

「よし。 では始めろ」

千冬に言われて、一夏は横を向き、右手を突きだして、左手で右手首を握る。

そして、集中して少しすると、掌から光が放出され、それが形を成して剣となった。

一夏は、必ず出せるようになった事に、内心喜んでいたが、

「遅い。 0.5秒で出せるようになれ」

千冬から出た言葉はやはり辛辣だった。

「オルコット、武装を展開しろ」

「はい」

次に千冬から言われたセシリアは、左手を真横に突出す。

そして、一瞬光ったかと思うと、その手にはスターライトmkⅢが握られていた。

「流石だな、代表候補生。 ………ただし、そのポーズはやめろ。 横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。 正面に展開できるようにしろ」

「で、ですがこれはわたくしのイメージを纏めるために必要な………」

「直せ。 いいな」

「……はい」

セシリアの反論も、一睨みで黙らせる千冬。

「オルコット、近接用の武装を展開しろ」

「えっ。 あっ、は、はいっ」

何か考えていたようで慌てるセシリア。

展開していたスターライトmkⅢを収納し、近接用武器を再展開しようとした。

だが、今度は先程と違い中々形にならない。

「くっ………」

「まだか?」

「す、すぐです。 ………ああ、もう! 『インターセプター』!」

武器名をヤケクソ気味に叫んで武器を展開させるセシリア。

「……何秒かかっている。 お前は実戦でも相手に待ってもらうのか?」

「じ、実戦では近接の間合いに入らせません! ですから、問題ありませんわ!」

千冬の言葉に、セシリアはそう発言する。

だが、

「ほう。 織斑との対戦で初心者に簡単に懐を許していたように見えたが?」

「あ、あれは、その………」

「それに、松田との対戦では、懐に入られた挙句、射撃武器を破壊され、近接用武器の展開が間に合わずやられていたように見えたが?」

「あ、あう………」

千冬の言葉に、完全に言い返せなくなったセシリア。

すると、タカトと一夏の方を向き、

『あなた方の所為ですわよ!』

と、プライベート・チャンネルで2人に送られてきた。

「何でだよ………?」

「それは横暴だよ、オルコットさん………」

思わず呟く2人だった。

「最後に松田。 武装を展開してみろ」

「はい」

タカトは返事をして、右手を前に突出し、指もそれぞれをくっつけて前に伸ばした。

すると、一夏やセシリアの時に起こった光は発生せず、まるで右腕の装甲が直接変化するように右腕にグラムが具現される。

いつの間にか左手にもイージスが握られている。

そして、血振りをするようにグラムを振ると、構えを取った。

「ふむ、展開スピード、構え共に及第点だな。 だが、まだ上を目指せる。 飛行訓練共々精進しろ」

「はい」

タカトが返事をすると、丁度チャイムがなった。

「時間だな。 今日の授業はここまでだ。 織斑、グラウンドを片づけておけよ」

千冬の指示に、一夏は箒を見る。

箒はフンと顔を逸らし、セシリアもいつの間にか居ない。

故に一夏は、

「タカト………」

最後の頼みの綱のタカトに懇願するような視線を向ける。

「はぁ~、分かったよ。 手伝うからそんな目をしないでよ、一夏」

タカトは、ため息を吐きながら手伝うことを了承する。

「おお! サンキュータカト! やっぱり持つべきものは友達だな!」

「よく言うよ……」

タカトは苦笑しつつ、穴埋めにかかるのだった。





「というわけでっ! 松田君クラス代表決定おめでとう!」

「おめでと~!」

――パパパァン

クラッカーが乱射される。

今は、夕食後の自由時間の食堂。

ここで、タカトのクラス代表就任パーティーが開かれていた。

「あはは………ありがとう」

タカトは苦笑しつつそう言う。

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

「ほんとほんと」

「ラッキーだったよね~。 同じクラスになれて」

「ほんとほんと」

そんな事を言うクラスメイト。

すると、

「はいは~い、新聞部でーす。 話題の新入生、松田 タカト君と織斑 一夏君に特別インタビューをしに来ました~!」

それに盛り上がる一同。

「あ、私は2年の黛 薫子。 よろしくね。 新聞部副部長やってまーす。 はいこれ名刺」

名刺を受け取るタカトと一夏。

「ではではずばり松田君! クラス対抗戦への意気込みを、どうぞ!」

ボイスレコーダーを突きだしながらタカトに迫る薫子。

「え~と、精一杯頑張ります」

タカトは遠慮がちにそう言う。

「えー? もっといいコメントちょうだいよ~。 俺に触ると火傷するぜ、みたいなキメ台詞とか!」

タカトのコメントが不満らしく、更に要求する薫子。

「え? え~っと………」

タカトは咄嗟にその場で考え、出てきた言葉は、

「えっと、優勝への手札をカードスラッシュ! …………なんちゃって…………」

自分で言って、凄まじく恥ずかしくなり、顔を赤くするタカト。

だが、

「おおっ! 中々良いセリフ! それいただきだね」

薫子は気に入ってしまったらしく、後戻りできなくなった。

「続いて織斑君! 学園に入った感想をどうぞ!」

今度は一夏に迫る薫子。

「えっと、なんというか、頑張ります」

「ぶーぶー。 松田君にも言ったけど、もっといいコメントちょうだいよ~!」

「自分、不器用ですから」

「うわ! 前時代的!」

そんな事を言う2人。

「じゃあまあ、適当にねつ造しておくからいいとして」

そんな薫子が次に狙いを定めたのはセシリア。

「セシリアちゃんもコメントちょうだい」

「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですね」

そう言いつつも、満更でもなさそうな雰囲気のセシリア。

「コホン。 ではまず、わたくしがどのように…………」

と、セシリアが言いかけたところで、

「ああ、長そうだからいいや。 写真だけちょうだい」

とんでもない理由で中断する薫子。

「さ、最後まで聞きなさい!」

セシリアは叫ぶが、

「いいよ、適当にねつ造しておくから。 よし、織斑君に惚れちゃったことにしよう」

「なっ、な、ななっ………」

薫子の言葉で真っ赤になるセシリア。

「何を馬鹿な事を」

一夏がそう言う。

一夏は、セシリアの援護のつもりだったのだが、

「え、そうかなー?」

「そ、そうですわ! 何をもって馬鹿としているのかしら!?」

セシリアが一夏に怒る。

一夏は、何で自分が怒られるのかと首を傾げた。

「だ、大体あなたは………」

「はいはい、とりあえず3人並んでね。 写真撮るから」

「えっ?」

意外そうなセシリアの声。

「注目の専用機持ちだからねー。 3人一緒にもらうよ。 あ、手を合わせるとかしてるといいかも」

「そ、そうですか………そうですわね」

セシリアの脳内では、どうやって一夏の隣をキープするか算段を始める。

すると、

「一夏、早く並ばないと」

「お、おいタカト、押すなよ」

タカトが一夏をやや強引に押し、3人の中心に来るように移動させる。

そして、すかさず右手で一夏の左手の甲を掴むと、

「ほら、オルコットさん、左手出して」

「は、はい!」

タカトに言われて咄嗟に手を前に出すセシリア。

すると、タカトはそのセシリアの手に一夏の手を重ねるように置く。

一夏を中心に、左にセシリア、右にタカトになり、3人が中央で手を合わせている構図になっている。

「ッ!」

顔を赤くするセシリア。

タカトはカメラの方を向き、

「良いですよ」

そう言った。

「それじゃあ撮るよー。 35×51÷24は~?」

「え? え~と、………2」

「ぶー、74.375でしたー」

一夏の答えにそう言いながらシャッターを切る薫子。

ふと見れば、

「何で全員入ってるんだ?」

クラスメイトが全員集結していた。

さり気に箒もいる。

恐るべき行動力だ。

「あ、あなた達ねー!」

思わず叫ぶセシリアだった。






翌日。

「織斑君、松田君、おはよー。 ねえ、転校生の噂聞いた?」

朝、一夏とタカトが一夏の席で一緒に話をしていると、クラスメイトの女子が声をかけてきた。

「転校生? 今の時期に?」

「確か、IS学園に転入するには、試験はもちろん、国の推薦が無いと入れないようになってたはずじゃ………」

一夏とタカトがそう言うと、

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

「ふーん」

そんな話をしていると、

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

1組のイギリス代表候補生、セシリアがそう会話に加わってきた。

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどの事でもあるまい」

いつの間にか、箒も近くに来ていた。

「どんな奴なんだろうな?」

一夏が呟く。

「む………気になるのか?」

「ん? ああ、少しは」

「ふん………」

一夏の答えに、機嫌を悪くする箒。

「まあまあ、篠ノ之さん。 転校生って言われたら、殆どの人は少なからず気にするよ。 そう言う僕も、どんな人かってことは気になってるし」

フォローを入れるタカト。

「そうだな。 タカトにとっては、対戦相手になるかもしれない相手だしな」

タカトのさり気ないフォローには全く気付かずに、そう言う一夏。

「そうだね。 頑張ってね松田君!」

「フリーパスの為にもね!」

フリーパスとは、やる気を出させるために、1位のクラスに優勝賞品として与えられる、学食デザートの半年フリーパスの事である。

「今の所、専用機持ちのクラス代表って1組と4組だけだから、余裕だよ」

そう楽しそうに話す女子達。

その時、

「その情報、古いよ」

教室の入り口からふと声が聞こえた。

そちらを向くと、腕を組んで教室のドアにもたれかかり、片膝を立てているツインテールの少女。

「鈴……? お前、鈴か?」

一夏が驚いた顔で呟く。

「そうよ。 中国代表候補生、凰 鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

小さく笑みを漏らす鈴音。

「何格好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」

その場の空気を読まずにそう言う一夏。

「んなっ……!? なんてことを言うのよ、アンタは!」

さっきとは雰囲気ががらりと変わってそう叫ぶ鈴音。

こっちが地である。

「鈴ちゃん、久しぶり」

タカトが声をかけた。

「あっ、タカトも久しぶり。 また今度カードで勝負しようね」

一夏の時とはうって変わって、笑顔でそう言う鈴音。

そのやり取りを見ている一夏は、

(う~ん。 やっぱり鈴ってタカトの事好きなのかねぇ~?)

などと馬鹿な事を考えていた。

一応説明しておくが、鈴音が好きなのは一夏であり、鈴音は俗にいうツンデレなので、一夏に対して素直になれないだけである。

タカトに対して向けている感情は、あくまで友達に対しての『好き』。

即ち、『like』であって『love』ではない。

ただ、タカトに対しては緊張もせずに素直に付き合えるので、その様子を見て一夏は勘違いを起こしていた。

無論、タカトもその事は気付いている。

一応、中学時代に勘違いについて指摘しているが、今回のやり取りで、再び勘違いを起こしたのだ。

すると、

「おい」

鈴音が後ろから声をかけられる。

「何よ!?」

鈴音はそう言いながら振り返るが、

――パァン

その鈴音に出席簿が炸裂した。

「もうSHRの時間だ。 教室に戻れ」

「ち、千冬さん………」

「織斑先生と呼べ。 さっさと戻れ、そして入口を塞ぐな。 邪魔だ」

「す、すみません………」

謝りながらドアの前を退く鈴音。

「また後で来るからね! 逃げないでよ! 一夏!」

そう言い残して鈴音は自分の教室へと戻って行った。

尚、そのやり取りが気になり、授業中上の空となった箒とセシリアが、出席簿アタックの餌食になったことは言うまでもない。






昼になり、食堂に向かいながら箒とセシリアの小言を受ける一夏。

食堂につくと、

「待ってたわよ! 一夏!」

一夏の目の前に立ち塞がる鈴音。

何だかんだで席に着くと、

「鈴、何時日本に帰って来たんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」

「質問ばっかしないでよ。 アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

2人の様子に耐えきれなくなったのか、

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが。 松田とも知り合いのようだが………」

「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方と、つ、付き合ってらっしゃるの!?」

そう問いかける箒とセシリア。

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」

「そうだぞ。 何でそんな話になるんだ? タカトの方ならともかく…………ただの幼馴染だよ」

一夏の答えに、思わず睨み付ける鈴音。

「? 何睨んでるんだ?」

「何でもないわよ!」

怒る鈴音となぜ怒るのか理解してない一夏。

そんな久しぶりの光景を見て、タカトはやれやれと肩をすくめる。

「幼馴染?」

怪訝そうな声で箒が漏らした。

「ああ。 箒が引っ越したのは小4の終わりだったろ? 鈴が転校してきたのは小5の頭だよ。 で、中2の終わりに国に帰ったから、会うのは1年ちょっと振りだな」

「因みに僕は、中学になってからこの2人と友達になったんだよ」

一夏とタカトがそう言う。

「で、こっちが箒。 ほら、、前に話しただろ? 小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘」

「ふうん、そうなんだ」

じろじろと箒を見る鈴。

「初めまして。 これからよろしくね」

「ああ。 こちらこそ」

挨拶を交わす2人の間で火花が散る。

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。 中国代表候補生、凰 鈴音さん?」

「……誰?」

「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの!?」

「うん。 あたし他の国とか興味ないし」

「な、な、なっ………!?」

怒りで顔を赤く染めるセシリア。

「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」

「そ。 でも戦ったらあたしが勝つよ。 悪いけど強いもん」

自信たっぷりにそう言う鈴音。

「い、言ってくれますわね……」

拳を握りしめるセシリア。

「タカト」

鈴音はタカトに声をかける。

「何? 鈴ちゃん」

「アンタ、クラス代表なんだって?」

「うん、まあね」

「ふーん………じゃあ、アタシがタカトと当たった時は、友達のよしみで手加減してあげよっか?」

そう言う鈴音。

「あはは……嬉しい申し出だけどやめとくよ。 それに、勝負はいつでも真剣勝負。 それは、カードでもISでも変わらないよ」

タカトはそう言いながら笑みを浮かべる。

「へぇ~、言うじゃない。 なら、遠慮はしないわ。 カードバトルじゃ負け越してるけど、ISじゃアタシの方が上だってわからせてやるんだから!」

「望むところだよ、鈴ちゃん」

互いに笑みを浮かべる2人だった。






その夜。

タカト、簪、本音で、いつもの如くカードバトルをしていた。

最近では、簪は本音が強引に連れてこなくても、自分から来るようになっていた。

3人がカードバトルをしていると、

「最っっっ低!! 女の子との約束をちゃんと覚えていないなんて、男の風上にも置けない奴! 犬に噛まれて死ねっ!!」

隣の部屋から、こちらの部屋に聞こえるほどの大声が響いた。

「今の声って、鈴ちゃんの声。 また一夏が何かしたのかな?」

タカトは、カードバトルを中断して立ち上がり、部屋の出入口のドアを開けた。

その瞬間、

――ドンッ

と、誰かにぶつかる。

「わっ!?」

「きゃっ!?」

小柄だった相手はタカトにぶつかって倒れそうになるが、タカトが咄嗟に手を掴んで支えた。

「あっ、すいません。 大丈夫ですかって、鈴ちゃん?」

タカトにぶつかったのは鈴音だった。

「あっ、タカト…………」

顔を上げた鈴音の目には涙が浮かんでいる。

「ど、どうしたの!? 鈴ちゃん!」

「だ、大丈夫………なんでもないわよ」

鈴はゴシゴシと涙を袖で拭う。

「ふう。 鈴ちゃん、愚痴なら聞くけど? あと、気晴らしにカードゲームでもする?」

そう言って、鈴音を部屋に招き入れるタカト。

そして、カードゲームをしつつ、話を聞くことに。



「ねえ」

「何? 鈴ちゃん」

「アンタはさ。 『料理が上達したら、毎日わたしの酢豚を食べてくれる?』って言われたら、どう思う?」

「ゴホッ!?」

タカトは、鈴音の思わぬ言葉に咳き込んだ。

「そ、それってもしかして、『毎日私の味噌汁を―――』とか、そう言う………」

明らかにプロポーズの言葉だ。

「わ~、リンリン大た~ん」

「そうよね!? すぐに分かるわよね!? 約束したら、忘れるわけないわよね!?」

鈴音は、身を乗り出して問いかけてくる。

「それを………それをあの馬鹿一夏は………」

鈴音は俯いて拳を握りしめ、プルプルと震えている。

「毎日ご飯を奢ってくれるって覚えていたのよぉぉぉぉっ!」

叫ぶ鈴音。

因みに、隣の部屋に聞こえるぐらいの大声だったのだが、既に一夏は就寝していた。

「…………一夏、それは酷いよ……」

「おりむー、ダメダメだよ~」

「…………女の敵」

タカト、本音、簪がそれぞれ言葉を漏らした。

その後、夜遅くまで鈴音の愚痴を聞き、

「はぁ~、言いたいこと言ったら結構スッキリした。 悪いわねタカト。 昔から私の愚痴に付き合わせて」

そう言って、鈴音は立ち上がる。

「一夏とはどうするの?」

タカトがそう聞くと、

「う~ん。 やっぱり、暫く口利いてやんない。 簡単には許せないわよ」

そう言うが、鈴音の表情は、最初に比べれば大分余裕が出てきている。

「そう、それは鈴ちゃんの好きにすればいいよ」

「うん、そうする。 それから、そこの2人もありがとね。 じゃあ、お休み」

そう言って部屋から出ていく鈴音。

ドアが閉まると、

「………優しいんだね、タカト君って」

簪がそう言ってきた。

「え? そうかな? 友達の相談に乗るのは、当然だと思うけど………」

タカトはそう言うが、

「……当然のことを当然に出来るのは、きっとすごい事だと思う…………」

簪は更にそう言う。

「あ、あはは、ありがとう。 って、言うべきかな?」

タカトは照れたのか、苦笑しながら顔を赤くした。







あとがき


第五話の完成。

本来なら今週も2話更新したかったんですが、金曜日に飲み会があり、土曜日が寝不足で頭がまともに回らず結局1話だけの更新です。

さて、今回は鈴の登場。

もちろんタカトとも友達です。

で、そのやり取りを見て、アホな勘違いをする一夏。

一夏ならやりかねないです。

タカトは昔から鈴の愚痴を聞く役。

鈴にとって、友達としては一番です。

さて次回はクラス対抗戦。

そして無人機戦。

更には………

お楽しみに。

では、今回使ったカード説明を。




・エアロウイング

空中の機動力をS、空戦能力をBにする。 機動力は桁違いに上がるが、空戦能力はさほど上がらない。 スピードを生かしたヒット&アウェイが効果的。





こんな感じかな?

あと、3つほどご相談が…………

1つ目、ラウラのフラグ。

一夏のままにするか、タカトが掻っ攫うか真面目に迷ってます。

感想でも賛成意見と反対意見両方ありましたし。



2つ目、簪の打鉄弐式。

デジモン的魔改造施してもいいですか?

タカトのDアークを利用して云々かんぬん。

OKの場合、メタルガルルモンX的な装備になります。

あと、完成もかなり早くなります。



3つめ、ISキャラへのパートナーデジモン。

これも自分ではかなりやりたいことです。

でも、やりすぎとも思えるし………

とりあえず、次の中から選んでください。

(1)ISキャラにパートナーは必要ない。 この場合は、デジモン戦がタカトとルキ(後々出てきます)の独壇場になる可能性あり。

(2)タカトヒロインズ(楯無、簪、1のリクエストの結果によってラウラも)のみ。 実戦経験によってISの操縦技能もアップ。

(3)タカトヒロインズ+一夏、箒。 一夏ヒーロー伝説開始?

(4)主要キャラ全員。 亡国企業涙目? もしくは暗黒デジモン軍団取り入れ大乱戦?

パートナーになるデジモンは、リリカルフロンティアの外伝のあとがき参照。

因みに、(2)~(4)を選べば、デジタルワールドへレッツ・ゴー。 オリジナル展開。 そしてベルゼブモン(インプモン)の出演が確定。

(1)でも出そうとは思っていますが、どうやって出るかが決まってない。

下手すると出ない可能性も無きにしも非ず。

(3)もしくは(4)を選べば、X抗体獲得。

こんな感じです。

もちろん、パートナー持ちが増えるほどオリジナルストーリーの長さも長くなります。

因みに、自分のお勧めは(3)です。

では、この辺で。

次も頑張ります。




[31817] 第六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/04/02 01:15

第六話 クラス対抗戦!




鈴音の転校から数週間。

5月に入った現在でも、一夏は鈴音にまともに口を利いてもらえない。

鈴音は、完全に無視を決め込んでいる。

一方、タカトとは平気で話したり、時にはカードゲームをしたりして、友好な友達関係を続けている。

一夏はタカトにどうするかを尋ねるが、「一夏が悪い」の一点張りで、まともなフォローもなかったりする。

因みに、クラス対抗戦のタカトの初戦の相手は、鈴音になった。

そして、クラス対抗戦を来週に控えた週末。

鈴音が怒りながらタカト達の部屋に入ってきた。

「ちょっと、タカト聞いてよ!」

そして鈴音の愚痴が始まる。

その内容は、鈴音も、そろそろ一夏を許してやろうかと思い、一夏に会いに行ったのだが、ちょっとしたことで口論となり、

「あいつ、私の事『貧乳』って言いやがったのよ!!」

「あ~~~…………一夏、何やってんの…………」

思わずそう漏らすタカト。

鈴音に、胸の事は禁句なのだ。

その事は知っているはずなのに、それを口にした一夏にタカトは呆れる。

その日も夜遅くまで鈴音の愚痴を聞くこととなった。





そして、クラス対抗戦当日。

第一試合直前。

タカトは、ピットでグラニを装着して待機していた。

タカトと鈴音の試合は第一試合なので、出番はすぐだ。

タカトが自分の出番を待っていると、

「…………タカト君……」

簪がタカトに声をかけた。

「えっ? 簪さん? どうしてここに?」

タカトは驚きつつそう返す。

一夏達も、ピットにはいるが、同じクラスの為、居ても不思議ではない。

「私は………4組のクラス代表だから………次の試合………」

そう言った。

「そうなんだ…………あっ、そう言えば4組のクラス代表って、専用機持ちだって聞いてるけど…………」

と、タカトがそう言いかけたところで、簪の表情が目に見えて暗くなる。

「………専用機は………まだ……完成してない……」

そう呟く簪。

「あ、ご、ごめん。 何だか気にしてる事に触れちゃったみたいだね。 本当にゴメン」

「………いい………タカト君の所為じゃない………」

謝るタカトと、そう言う簪。

「………でも、何か困ってることがあったら言ってね。 出来る限り力になるから」

笑みを浮かべてタカトはそう言う。

「…………………うん………」

間があったが、一応頷く簪。

その時、選手入場を知らせる放送がかかる。

タカトは、発進位置に着く。

その時、

「タ、タカト君……………頑張って…………」

少し顔を赤くしながら、小さな声で簪がそう言った。

「うん! 行ってくるよ!」

タカトははっきりと頷き、前を見据えた。

「行くよ! グラニ!」

タカトはアリーナ内に飛び立った。




アリーナの中央近くの空中で、鈴音が専用IS『甲龍シェンロン』を纏って、静かに待っていた。

「来たわね」

鈴音がそう言うと、

「私ムシャクシャしてるの。 タカトには悪いけど、この試合でうっぷんを晴らさせてもらうわ」

鈴音がいかにも不機嫌そうな表情でそう続けた。

タカトは苦笑すると、

「ガス抜きには付き合うけど、この試合が終わったら、ちゃんと一夏と仲直りしなよ?」

そう返した。

すると、

「そうね………タカトが私に勝てたら考えてあげてもいいわよ?」

そんな事を言ってきた。

「そう………それじゃ、意地でも勝たなきゃね。 一夏の為にも、鈴ちゃんの為にも」

そう言って武装を展開するタカト。

「………そう簡単にはいかないわよ」

鈴音も大型の青龍刀、『双天牙月』を構える。

『それでは両者、試合を開始してください』

試合開始のアナウンスと共に、鈴音が突撃し、その手の青龍刀を振るった。

――ガキィィィィン

タカトはその一撃をグラムで受けるが、勢いに押され、地上に向かって吹き飛ばされる。

タカトは途中で体勢を立て直し、足から滑る様に地面に着地した。



「タカト!」

いきなり吹き飛ばされたタカトに、ピットのモニターで見ていた一夏が叫ぶ。

しかし、

「いえ、今ので正解ですわ」

セシリアが言った。

「松田さんのISは、ご存じのように空中での戦闘が極端に苦手です。 無理にあの場で耐えれば、より大きなダメージを負い兼ねません。 それなら、多少のダメージと引き換えに自分の土俵に移動した方が、リスクは少ないですわ」

そう説明するセシリア。

モニターに向き直る一夏。

そこでは、地上に着地したタカトに、鈴音が突っ込んでいくところだった。



再びタカトを吹き飛ばさんと青龍刀を振るう鈴音。

しかし、

――ガキィィ

今度はイージスによってその一撃は防がれた。

「ッ!」

腕から伝わってくるイージスの強度に、鈴音は声を漏らす。

「はあっ!」

グラムを突きだすタカト。

「っと……!」

鈴音は、その突きを飛び退くことでかわす。

すると、鈴音はもう一本の青龍刀を展開し、二刀流で構えた。

同時に飛び出す2人。

「はぁああああっ!!」

「でやぁあああっ!!」

鈴音の右腕で振られた青龍刀をタカトはイージスで防ぎ、タカトの繰り出したグラムを鈴音は左手の青龍刀で防ぐ。

両者は一瞬拮抗するが、すぐに互いに弾き合い、距離を取る。

タカトが一息吐こうとしたとき、

「甘い!」

鈴音の言葉と共に、甲龍の肩アーマーが開く。

「ッ!?」

その瞬間、タカトの直感が警報を鳴らす。

タカトは咄嗟にイージスを前方に構えた。

その瞬間、イージスに殴られたような衝撃が襲う。

「ぐっ……!」

何とか耐えきるが、突然の攻撃に驚きを隠せない。

「へぇ~、初見で防ぐなんてやるじゃない。 この『龍咆』は、砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに」

余裕たっぷりにそう説明する鈴音。



「何だ!? 今の攻撃は!?」

目に見えない攻撃に、一夏が叫ぶ。

「『衝撃砲』ですわね」

答えたのはセシリアだった。

「衝撃砲?」

箒が尋ねる。

「空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して打ち出す、わたくしのブルー・ティアーズと同じ、第3世代型兵器ですわ」

セシリアの説明に、

「タカト……」

焦りを隠せずにモニターを見つめる一夏だった。




衝撃砲を連射する鈴音。

それをイージスを構えつつ、駆け回り、決定打を与えないタカト。

「ッ! よく躱すわね。 何でこの死角も無くて砲身も見えない龍咆をそこまで避けられるのよ!」

焦りから思わずそう叫ぶ鈴音。

すると、

「いくら砲身と砲弾が見えないって言っても、あくまで攻撃が飛んでくる方向は鈴ちゃんからだからね。 オルコットさんのビット攻撃みたいに、砲身が移動するわけじゃない。 だから、鈴ちゃんの方に盾を向けているだけでも決定打は防げるし、鈴ちゃんの挙動を見ていれば、ある程度の攻撃のタイミングは分かるよ」

そう説明するタカト。


「く、口では簡単に言ってるけど! そんな事達人クラスの見切り方じゃない! アンタ、ISに乗って一ヶ月ぐらいでしょ!? たった一ヶ月でそこまでの境地に辿り着けるわけないじゃない!」

思わず叫ぶ鈴音。

「まあ、確かにISに乗り始めてから一ヶ月ぐらいだし、訓練時間においては、多分鈴ちゃんの足元にも及ばないよ……………けどね」

タカトはグラムとイージスを収納し、Dアークと一枚のカードを握る。

「実戦経験とその密度においては、鈴ちゃんよりも上だと自負できるよ!」

そう言い放つと共に、タカトはカードをスラッシュする。

「カードスラッシュ! サーチモン!」

カードをスラッシュすると、グラニのボディの色が銀色になり、青いラインが入る。

そして、背中には円形のレドームが生み出された。

そして、タカトは鈴音を見据え、

「行くよ、鈴ちゃん!」

鈴音に向かって飛びだした。

「ッ! 食らいなさい!」

形の変わったグラニに最初驚いたようだが、気を取り直して衝撃砲で攻撃した。

しかし、

「そこっ!」

タカトは完全に回避した。

先程のような憶測ではなく、完全なタイミングで回避したのだ。

「なっ!?」

鈴音は驚くが、次々に衝撃砲を放つ。

「はっ、ふっ、よっと」

だが、タカトはその全てを回避する。

「そんなっ!?」

まるで、不可視の衝撃砲が見えているように。

事実、タカトには、いや、グラニのセンサーにははっきりと衝撃砲を捉えていた。

空間圧縮による砲身の生成。

その砲身の向き。

そして、撃ち出されるタイミング。

その全てを、グラニのセンサーは捉えていた。

攻撃能力を格闘以外に持たない代わりに、ハイパーセンサーの感度及び能力が上昇する。

それこそがタカトのスラッシュしたサーチモンの能力。

攻撃が当たらず、焦る鈴音を余所に、タカトは鈴音へ接近する。

そして、いよいよ攻撃の間合いに入ろうとしたとき、

――ズドォォォォォォォン!

衝撃が、アリーナ全体を襲った。

しかも、ステージ中央には、黒い煙が上がっている。

それは、アリーナのシールドを突き破って、何者かが侵入してきたことを意味していた。

千冬たちが警報を発令し、観客席がシェルターに覆われていく。

その時、丁度カードスラッシュから1分が経ち、グラニが元に戻る。

タカトは、グラムとイージスを展開し、事態に備える。

その時、

「タカト! 試合は中止よ! すぐピットに戻って!」

鈴音がそう言ってくる。

その時、グラニが所属不明のISにロックされていることを伝えてくる。

「タカト! 早く!」

鈴音が急かしてくる。

「鈴ちゃんは如何する気?」

タカトがそう聞き返すと、

「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」

そう言う鈴音。

すると、

「見くびらないで。 友達を置いて逃げるなんてこと、出来ないよ」

タカトはそう言いかえす。

「馬鹿! そんなこと言ってる場合じゃ………」

鈴音がそこまで言いかけたところで、タカトは突然所属不明ISと鈴音の直線状に滑り込んだ。

その瞬間、煙を切り裂き、高出力ビームが飛んでくる。

それをイージスで受け止めるタカト。

「くっ………大丈夫? 鈴ちゃん」

「あ、ありがと………って、さっきから思ってたけど、その盾って、一体何でできてるのよ! 今のビームって、アリーナのシールドも貫通する威力なのよ! それをまともに受けて無傷って、ありえないでしょ!」

礼を言う鈴音だが、イージスの硬度に思わずそう問いかけてしまう。

「えっと、イージスはクロンデジゾイド製で………」

「クロンデジゾイドって………それってデジモンに出てくる金属の名前じゃない! ふざけてるの!?」

タカトにとってはふざけているつもりはないのだが、タカトがデジモンと関わっていることを知らない鈴音にとっては、信じられるものではない。

ISとなる前のグラニの装甲は、クロンデジゾイドで出来ていた。

その残っていたデータにより、グラムとイージスのみクロンデジゾイド製なのだ。

鈴音がタカトを問いただそうとしたところで、先程よりも出力が抑えられたビームが連射されてきた。

「っと。 話は後! まずはこの場を切り抜けよう!」

その攻撃を躱しつつ、タカトは言う。

「くっ! ちゃんと後で説明しなさいよ!」

鈴音もそう言いつつ正体不明のISへ向き直った。

煙が晴れて現れたのは、深い灰色をしたISだった。

腕が以上に長く、普通に立っていても足より長い。

その腕には左右合計で4つの砲口が付いている。

そして、何よりもそのISは『全身装甲』だったのだ。

ISはシールドエネルギーによって防御が行われている。

その為、防御特化でもない限り、装甲はあまり意味をなさない。

なので、殆どのISは大なり小なり肌が露出している。

そのため、目の前の『全身装甲』のISは見たことが無かった。

「お前は何者だ? 何が目的なんだ?」

問いかけるタカト。

しかし、相手からの返事は当然ながら無い。

すると、

『松田君! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に行きます!』

真耶が通信で呼びかけてきた。

しかし、

「いえ、あのISはアリーナのシールドを突破してきました。 ここで僕達が逃げてしまったら、観客席の人達に被害が及ぶ可能性があります。 だから、ここは僕達で食い止めます!」

タカトがそう言い切る。

『松田君!? だ、ダメです! 生徒さんにもしものことがあったら………』

真耶の言葉をそれ以上聞いてはいられなかった。

敵ISが前傾姿勢になり、突進してくる。

タカトと鈴音はそれを避けた。

「ふん、向こうはやる気満々みたいね」

「そうだね」

鈴音とタカトはそう言いあうと、それぞれの得物を構える。

「鈴ちゃん! 僕が突っ込む! 援護を頼むよ!」

「えっ? ちょ? タカト!?」

鈴音が何か言う前に、タカトは地を蹴り、敵ISに突進していった。





「もしもし!? 松田君聞いてます!? 凰さんも! 聞いてますー!?」

ピットで真耶が通信で呼びかけるものの、既に返事は返ってこない。

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

「お、お、織斑先生! 何呑気なことを言ってるんですか!?」

「落ち着け! 私とて考え無しに言っているのではない。 凰はともかく、松田には恐らく実戦経験がある」

「えっ?」

千冬の言葉に、真耶は呆ける。

「もちろん、ISではないだろうが、松田も先ほど自分でも言っていた。 それに、私も不思議に思っていた。 ISの操縦技術という点では、松田よりもオルコットの方が上だ。 だが、こと戦いの上において、松田はオルコットを圧倒した」

「で、でも、それは松田君のISの性能で…………」

「ISの基本性能においては、グラニより白式の方が上だ。 それに、織斑との試合のように僅差での決着ならともかく、ISの性能差だけでまともなダメージも受けずに勝利できるほど、代表候補生は弱くは無いぞ」

千冬の言葉を聞いて、黙り込む真耶。

その時、

「千冬姉! 俺にISの使用許可を!」

「わたくしにも! すぐに出撃できますわ!」

一夏とセシリアがそう叫んだ。

「そうしたいところだが…………これを見ろ」

千冬がそう言いながら、コンソールを叩く。

すると、モニターにアリーナのステータスチェックが表示された。

「遮断シールドがレベル4に設定………? しかも、扉が全てロックされて……」

「あのISの仕業ですの!?」

「そのようだ。 これでは避難することも救援に向かうことも出来ないな」

「で、でしたら! 緊急事態として政府に助成を」

「やっている。 現在も3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。 遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる」

「畜生、結局待ってる事しか出来ないって言うのかよ!」

一夏は苛立ちを抑えきれずにそう漏らす。

「何、どちらにしろお前たちは突入隊には入れないから安心しろ」

千冬の言葉に、

「「なんでだよ(ですって)!?」」

思わず詰め寄る2人。

「織斑、初心者のお前が行ったところで、足を引っ張るだけだ。 オルコット、お前のISは1対多向きだ。 多対1ではむしろ邪魔になる」

「くっ……」

一夏は悔しそうに俯く。

「それに、おそらく突入隊が突入するころには、すでに終わっている。 もちろん、正体不明ISの撃破でな」

そう言う千冬。

「けど! タカトと鈴が戦ってるのに、俺達が何もできないなんて………!」

一夏は拳を握りしめる。

その様子を見ると、千冬はため息を吐き、

「やれやれ、お前がギャーギャー喚いたところで、アリーナのシールドが突破できなければ、如何しようもあるまい。 アリーナのシールドはISに使われているものと同じものだ。 普通のISの装備では突破は出来ん」

そう冷たく突き放した…………ように聞こえた。

だが、一夏は、

(アリーナのシールドは、ISのものと同じもの………普通のISの装備では突破は出来ないと言ったけど、逆にそれは普通じゃないなら突破できるってこと…………そうか! 白式なら!)

千冬の言葉に何か思い当たる。

「ありがとう! 千冬姉!」

一夏は礼を言うと踵を返して駆けだした。

「行くぞセシリア!」

「えっ? 一夏さん!?」

慌てて一夏を追いかけるセシリア。

「やれやれ…………馬鹿者共が………」

そう呟く千冬だった。



それを同じピットにいた簪が見ていた。

「……………………」

やがて、簪は何かを決意したような表情で駆けだした。






アリーナのステージでは、

――キィン ガキィン

金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。

「はぁああああっ!!」

タカトがグラムを突きだす。

敵ISは、その機動力で飛び退くが、タカトは地を蹴ってその敵ISの動きに追随する。

その様子を、鈴音は信じられないと言った表情で見ていた。

鈴音にとってタカトは、仲がいい友達だが、どこか頼り無さ気で、争い事は苦手だと思っていた。

事実、今までも無暗に争いはしなかったし、寧ろ一緒にいた一夏が喧嘩を買っていた。

そして、今回も鈴音は、タカトがクラス代表に選ばれた理由は物珍しい男性操縦者だからで、一夏とタカトが推薦されて偶々タカトが選ばれたからだと思っていた。

しかし、目の前の光景は、その憶測を明らかに否定するものだった。

驚異的な機動力で動き回る敵ISに殆ど完全についていくタカト。

高出力ビームもその盾で防ぎ、隙を見て攻撃。

鈴音は考える。

もし、自分があのビームを防げる盾を持っていたとして、あの驚異的な機動力を持つISを相手に、今のタカトのように戦えるか?

答えは否だ。

傍から見ていても、相手のISの動きが速すぎて鈴音では捉えきれない。

そのISを相手に、タカトは互角、いや僅かに優勢に戦っている。

鈴音がやっていることと言えば、時折空中に逃げようとする敵ISに牽制として衝撃砲を放ち、再び地上に下ろしているだけだ。

すると、タカトが一旦敵ISから距離を取った。

「タカト、如何したの?」

タカトの行動に、鈴音が問いかける。

「うん。 ちょっと気になることがあって。 鈴ちゃん、あいつの動きってどこか変じゃない?」

「えっ? どういうこと?」

「うん、地上で戦うのは不利と分かっているはずなのに、ある程度戦ってからじゃないと空に上がろうとしないんだ。 こうやって離れていても、空中に上がろうとしてないでしょ?」

それを聞いて、鈴音もハッとする。

「確かにそうね。 戦いを有利に進めたいのなら、さっさと空中に上がるべきだわ」

「そう。 まるで、ゲームの敵キャラみたいに、行動パターンが決まってるような感じなんだ」

「そういえば、さっきからタカトと戦っていて、不利になったら空へ上がろうとして、私の衝撃砲を避けて地上に降りる。 そして、またタカトと戦う、の繰り返しね。 確かに変だわ」

「………もしかして、あれって人が乗って無いんじゃ……」

タカトがそう漏らす。

「そんなわけないわよ。 人が乗らなきゃISは動かな………」

そこまで言って鈴音の言葉が止まる。

「……そういえばアレ、さっきから私達が話してる時も、あまり攻撃してこないわね。 まるで興味があるみたいに聞いてるような……」

そこまで言って鈴音は首を振る。

「ううん、でも無人機なんてありえない。 ISは人が乗らないと絶対に動かない。 そう言うものだもの」

「でも、目の前には、同じ行動パターンしかしないIS。 これで人が乗っているのなら、相当の馬鹿だよ」

タカトの言葉に、鈴音は黙り込む。

「それで? 仮に無人機だとしたら?」

「いや、別に無人機だからどうしたってわけじゃないよ。 ただ、どちらにしろ相手を止めなきゃいけないし、無人機だったら遠慮なくやっても問題ないしね」

タカトはそう言う。

すると、

「そう言うわけだから、遠慮なくやっちゃっていいよ。 一夏」

「えっ?」

タカトの言葉に、鈴音は声を漏らす。

次の瞬間、

「おっしゃぁああああああっ!!」

突然アリーナのシールドを切り裂き、白式を纏った一夏が突っ込んできた。

白式の能力、『零落白夜』は、バリア無効化攻撃。

その為、アリーナのシールドを破ることも可能だった。

「うぉおおおおおおっ!!」

一夏の渾身の一閃。

敵ISは突然の奇襲に反応が遅れ、右腕を切り裂かれる。

だが、その事に何の反応も見せず、そのISは左腕で一夏を殴り飛ばした。

「ぐっ!」

一夏が敵ISを見ると、左腕の砲口を一夏に向けていた。

「一夏っ!!」

鈴音が悲鳴に近い声を上げる。

しかし、一夏は不敵な笑みを浮かべ、

「狙いは?」

『完璧ですわ!』

一夏の言葉に続き、セシリアの声が聞こえた。

その瞬間、敵ISにビームが雨のように降り注ぐ。

ブルー・ティアーズの一斉射撃だ。

体勢を崩す敵IS。

「決めろ! セシリア!」

『了解ですわ!』

アリーナの観客席上部から、スターライトmkⅢを
構えたセシリアの姿。

そして、狙いを定め、引き金を引いた。

ビームは一直線に敵ISに向かい、その腹部を撃ち抜いた。

地上に倒れる敵IS。

「ふう、ナイスだセシリア」

立ち上がる一夏。

「無茶をしますわね。 間に合わなかったらどうするつもりだったんですの?」

セシリアが一夏の近くに降り立ち、そう言った。

「セシリアを信じていたからな」

一夏の何気ない言葉に、セシリアは顔を赤くする。

「そ、そうですの………と、当然ですわね! 何せわたくしはセシリア・オルコット。 イギリスの代表候補生なのですから!」

照れ隠しに叫ぶセシリア。

「い、一夏っ!」

鈴音が一夏に近付く。

「よう鈴。 無事だったか?」

「あ、アンタなんで来たのよ!?」

「何でって……お前の事が心配だったに決まってるだろ?」

鈴音にそう言う一夏。

「えっ? あっ? ほ、ホント?」

一夏の言葉に真っ赤になる鈴音。

「ああ。 もちろんタカトもな」

タカトに向かって笑いかける一夏だが、

(一夏、最後のは余計だよ)

タカトは内心でそう思ってたりする。

タカトが一夏に呆れてため息を吐いたとき、

「ッ!?」

その瞬間、悪寒を感じて振り替える。

そこには、再起動して左腕を一夏達に向けた敵IS。

「くそっ! 間に合え!」

タカトは一気に地面を蹴る。

一夏達はそこでようやく異変に気付いた。

だが、今からでは遅い。

敵ISの左腕の砲口にエネルギーがチャージされる。

「間に合わないっ!」

タカトが悲痛な声を漏らす。

だが、タカトは諦めない。

しかし、その思いも空しく、チャージが完了し、ビームが放たれようとした。

だが、

――ザンッ

突如敵ISの左腕が宙を舞った。

「えっ?」

タカトが声を漏らした。

「…………油断大敵」

その言葉と共に、打鉄を纏って現れたのは、

「簪さん!?」

そこにいたのは簪だった。

簪は、本来なら次の試合だったため、何時でも打鉄を使える状態だったのだ。

「簪さん! 助かったよ! ありがとう!」

タカトは笑顔でお礼を言う。

「………あ、うん………どういたしまして………」

純粋にお礼を言われて照れたのか、簪は赤くなる。

タカトは、今度こそ完全にISが停止したことを確認する。

そして、教師たちにこの事を報告しようと、踵を返した時だった。




――ヒュプノス本部

巨大ディスプレイ・ドーム内で、チーフオペレーターの鳳 麗花とオペレーターの小野寺 恵がいつも通りネットワークの監視を行っていた。

4年前のデ・リーパー事件以降、これといって目立った問題は発生せず、恵に、異常事態が頻繁に起こった4年前に比べれば暇過ぎと言わせるぐらいに平和だった。

しかし、突然警報が鳴り響く。

突然の事態に2人は驚きながらも、解析を進める。

その時、山木が入室してきた。

「何事だ!?」

山木が麗花に問いかけると、

「これは………そんなっ!?」

麗花が信じられないと言った声を漏らす。

「どうした!?」

山木が再び問いかける。

すると、

「ワ、WILD・ONE…………デジモンです!」

麗花が事実を告げた。

「何だと!?」

山木も驚愕して叫んだ。

「ッ! リアライズする場所は!?」

山木は、気を取り直して問う。

オペレーターの2人は、解析を続け、

「出ました! リアライズする場所は…………IS学園です!」

「なっ!?」

山木の驚愕の声が響いた。





倒れた敵ISを中心に、突然白い霧のようなものが大量発生する。

タカト達はそれに気付くが、あっという間にその霧のようなものに飲み込まれる。

「な、何だこりゃ!? 霧か!?」

突然の事態に、一夏が声を漏らす。

「ち、違う………これは、霧じゃない……」

タカトが驚愕した表情で呟く。

「…………タカト君?」

タカトの様子に心配になった簪が声をかける。

「これは…………デジタルフィールド………」

タカトが絞り出すように呟く。

「デジタルフィールド? 何よそれ?」

鈴音が首を傾げる。

すると、タカトはハッとして、

「皆! 気を付けて!」

タカトは叫んで警戒するように促す。

「ど、如何したって言うんですの? この霧のようなものは一体!?」

タカトの焦った様子に、セシリアが問いかける。

「…………デジモンが………リアライズする!」

そう言って前を見据えたタカトの視線の先に、巨大な影が浮かび上がる。

「………ッ!? ………何………!?」

その陰に気付いた簪が声を漏らす。

そして、

「キシャァアアアアアアアアアアッ!!」

その影が叫び声を上げて、その姿が露わになる。

それは、紅い甲殻を持った巨大なクワガタのような生物。

「拙い! クワガーモンだ! 凶暴なデジモンだよ!」

タカトは叫ぶ。

クワガーモンは、タカト達を見るなり、その巨大な顎を振り下ろしてきた。

咄嗟に逃げるタカト達。

クワガーモンの顎は、地面に深く突き刺さる。

「な、何ですの!? このクワガタの化け物は!?」

セシリアが叫ぶ。

「ちょ、おい! 冗談だろ!?」

「ななな、何でクワガーモンがこんな所にいるのよ!?」

一夏と鈴音が混乱したように叫ぶ。

「一夏、鈴ちゃん! 落ち着いて!」

タカトがそう言うが、

「こここ、これが落ち着いていられるわけないじゃない! クワガーモンが目の前にいるのよ!」

「っていうか、タカトとそっちの子は、何でそんなに落ち着いていられるんだよ!?」

鈴音と一夏がそう言う。

「……………私は……昔デジモンを見たことがあるから…………」

簪は小さく呟く。

「えっ? 簪さんも?」

タカトは驚いたようにそう言った。

「タカト君も……?」

「う、うん………」

実際には、見たことがあるというか、一緒に戦ったパートナーなのだが。

その時、クワガーモンが地面から顎を引き抜き、タカト達に向き直る。

タカトはDアークを取り出して、クワガーモンの情報を再確認しようとした。

しかし、Dアークには何も映らない。

(そうか! Dアークはパートナーの視覚を通じてデジモンの情報を読み取る。 今はギルモンが居ないから、情報を見ることが出来ないんだ)

「くっ」

タカトは声を漏らしつつ、グラムとイージスを構える。

「お、おいタカト………」

一夏が声をかけるが、

「皆、安心して。 クワガーモンは成熟期。 ISでも勝てない事はない筈だよ」

タカトはそう皆に言う。

「キシャァアアアアアアッ!!」

その時、叫び声を上げてクワガーモンが近づいてきた。

タカトは、武器を構えて突っ込む。

「キシャアッ!」

クワガーモンは4本ある腕で攻撃してきた。

「はっ!」

タカトは腕の攻撃を避ける。

そして、クワガーモンの懐へ飛び込み、

「ロイヤルセーバー!!」

真下からクワガーモンの頭部に突撃した。

「ギシャァアアアッ!?」

頭部を真下から打ち上げられ、堪らず転倒するクワガーモン。

その様子を見て、

「とりあえず、松田さんの言うとおり、ISの攻撃は通用するみたいですわね」

セシリアがそう言う。

「俺達もこんなところで呆けてる場合じゃねえ! タカトを援護するぞ!」

そう言う一夏。

因みに、その時には既に簪はクワガーモンに向かっていた。

打鉄のブレードで、起き上がったクワガーモンの頭部に斬りかかる。

その一撃は頭部に直撃し、クワガーモンは一瞬怯む。

それにより、クワガーモンは簪に標的を変えようとしたが、

「はぁっ!」

反対側からタカトの一撃を受ける。

「ギシャァアアアッ!」

クワガーモンは鬱陶しいと言わんばかりに咆哮を上げるが、

「喰らいなさい!」

「喰らえっ!」

レーザーと衝撃砲がクワガーモンを襲う。

「キシャァアアアアアッ!?」

クワガーモンはたたらを踏む。

「うぉおおおおおおおおっ!!」

その隙をついて、一夏が雪片弐型を構え、瞬時加速でクワガーモンに突撃した。

体勢を立て直したクワガーモンがそれに気付き、巨大な顎で一夏を切断せんと広げた。

そして、

――キィン

一閃。

クワガーモンの巨大な顎の片方が、根元から切断され、地面に落ちた。

「ギシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

痛みか怒りか、クワガーモンは一番の咆哮を上げる。

それをチャンスと見たタカトは、

「皆! 離れて!」

クワガーモンに盾を向けつつ、皆に呼びかける。

その言葉を信じ、一斉に散開する全員。

その時、イージスが輝き始める。

タカトは、目の前のクワガーモンに狙いを定め、

「ファイナルエリシオン!!」

その技の名を言い放った。

その瞬間、タカトのシールドエネルギーが激減し、イージスの光が一層強まり、解き放たれた。

イージスから、凄まじい威力を持ったエネルギー波が放たれる。

そのエネルギー波はクワガーモンの腹部に命中。

そのまま貫いた。

「ギシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!」

断末魔の叫びを上げるクワガーモン。

やがて、エネルギーの奔流が収まると、

「ギ、ギギ………」

クワガーモンはデータの粒子に分解されていった。

消えていくクワガーモンを見つめるタカト。

「どうして………またリアルワールドにデジモンが…………」

そう呟くタカト。

しかし、この出来事によってタカトの心に一つの希望が湧いていた。

「……でも、また君に会えるのかな………………ギルモン…………」

タカトのその呟きは、誰にも聞かれることは無かった。








あとがき

第六話の完成。

クラス対抗戦をお伝えしました。

うん、タカト、普通に強いですね。

無人機もカードスラッシュも使わず、普通に圧倒しました。

地上では。

これで終わりかと思いきや、まだ先がありましたデジモン戦。

簪まで投入したのはやりすぎたかな。

哀れクワガーモン、フルボッコ。

まあ、専用機4機と打鉄1機ならこんなもんでしょ?

成熟期相手なら、専用機1機で互角の計算ですから。

止めは今まで出すに出せなかったファイナルエリシオンです。

さて、では今回使ったカード説明をば。




・サーチモン

装備:レドーム

陸戦:B

空戦:B

近接戦闘:B

中距離戦闘:―

遠距離戦闘:―

機動力:B

装甲:B

必殺技:ジャミングヘルツ

シールドエネルギー50消費。 周辺一帯の電子機器類を混乱させる。 ISのハイパーセンサーにも有効。 ただし、ダメージは無し。


副次効果として、自身のセンサーの能力が格段にアップする。



てな感じです。


あと、リクエストの結果ですが、

1 ラウラのフラグ タカト 15票   一夏 15票

2 打鉄デジモン的改造  有 17票   無 9票

3 ISキャラのパートナーデジモン

これだけはちょっとややこしい事になっており、確定票数だけで数えるなら

(1)8票  (2)5票  (3)6票  (4)4票

となり、どちらでもいいと言う意見を含めると

(1)10票  (2)14票  (3)13票  (4)8票

こうなっています。

デジコレのコメントで投票してくれた人もいました。

因みにデジコレは再びランカー1で突っ走ってます。

今回のイベントは割とマジでやっています。

閑話休題。

あと、1人で何回も送ってきた人がいるので(一番最初の投票のみ入れているつもりです)、どこかで数え間違えているかもしれませんが、とりあえずこんな感じに。

って、これで決まったのって簪のISの改造フラグだけじゃ………

まさか、ラウラのフラグがここまで真っ二つになるとは思ってなかった。

というわけで、一度リセットして再リクエストを行います。

ちょいとネタバレになりますが、参考のためにあらすじを書いておきます。



・タカトの場合

タッグマッチで、ラウラのパートナーがタカトとなります。

一夏とシャルのチームと当たるのは準決勝。

そして、一夏とシャルの試合の中で、タカトがラウラに『力』と『強さ』について自分なりに諭します。

結果、一夏とシャルを倒しちゃいます。

VTシステム?

何それ?おいしいの?

決勝で魔改造打鉄弐式装備の簪と本音チームと大バトル。

その途中でデジモン乱入。

ラウラのISが大破するもののタカトに庇われつつ、協力してこれを撃破。

翌週のシャルの性別ばらしと一緒に、ラウラのタカトは私の嫁宣言。

あと、この流れの中で考えているセリフ。

「今は僕が、君の『力』だ!」

「『力』が欲しいだけなら、核兵器でも持てばいいじゃないか」

「君の求めている『強さ』と『力』は、僕からすればそれと変わらないよ」

「『力』だけを求め続けたら、いつか大切なものを失ってしまう!」

「僕がかつて相手を倒すためだけの『力』を求めて、大切な『友達』を失いかけたように!」

「千冬さんの………君の憧れた『強さ』は、そんなものじゃないはずだ!」

「僕強くない。 それでも強くいられるのは、仲間が………グラニがいるから…………でも、君がいれば、僕はもっと強くなれる。 だから、一緒に戦おう! ラウラ・ボーデヴィッヒさん!」






・一夏の場合

ほぼ原作通り。

ただ、一夏とシャル、ラウラと箒の試合の前に、タカトと簪のタッグの試合。

簪の魔改造ISのお披露目。

対戦相手フルボッコ。

「強くねえよ。 俺は全く強くない」

「けれど、もし俺が強いって言うのなら、それは……」

「強くなりたいから、強いのさ」

「それに、強くなったらやってみたいことがあるんだよ」

「誰かを守ってみたい。 自分の全てを使って、ただ誰かの為に戦ってみたい」

「そうだな。 だから、お前も守ってやるよ。 ラウラ・ボーデヴィッヒ」




以上を参考にしてください。

後、デジモンのパートナーですが、これもややこしい事になっているのでこちらも一度リセットします。

それで、まずはISキャラにパートナーデジモンは有りか無しかでお答えください。

それで、パートナー賛成派が多ければ、誰にパートナーを付けるかのリクエストを行います。

それでは、次も頑張ります。





[31817] 第七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/04/02 01:14


第七話 事後処理と生徒会長



正体不明ISを撃破した直後に出現したクワガーモンを倒したタカト達。

すると、アリーナ内を覆っていたデジタルフィールドが四散し、何事も無かったかのように消え去った。

後には、正体不明ISの残骸が残っているだけであった。

その時、

『…………もしもし! 皆さん! 無事ですか!?』

真耶から通信が入った。

「はい、山田先生」

タカトが答える。

『ああ、よかった! やっと繋がりました! いきなりアリーナが霧に包まれたと思ったら、通信が繋がらなくなって心配したんですよ!』

「す、すみません………」

タカトは謝る。

『詳しい話はこちらで聞きますので、まずは皆さんピットまで戻ってきてください』

「わかりました」

真耶の言う事に頷くと、タカト達はピットへと向かった。




ピット内で、ISを解除すると、千冬と真耶が近付いてきた。

「さて、さっそくだが、霧の中で何があったのか教えてもらおうか」

千冬が開口一番にそう言った。

タカトは千冬たちに向き直り、

「はい。 実は………デジモンが現れました」

そう答える。

「デジモンだと?」

「ええっ!?」

僅かに驚いた表情をする千冬と、派手に驚く真耶。

「先ほど発生した霧のようなものは、正確には『デジタルフィールド』と言って、デジモンがこのリアルワールドにリアライズ…………現実世界に現れるときに発生するものなんです」

「デジタルフィールド…………リアライズ………か」

千冬は呟く。

「今回現れたデジモンは、クワガーモンと言って…………あ、そうだ」

タカトは思いついたようにカードデックを取り出すと、一枚のカードを抜きだし、それを差し出す。

「こういうデジモンです」

タカトが差し出したのはクワガーモンのカード。

そのカードを千冬が受け取り、真耶も横から覗く。

「ほう……」

「わわっ!? クワガタのお化け!」

千冬は声を漏らし、真耶はクワガーモンの外見に驚く。

「大きさは10mぐらいですね」

タカトはそう言う。

「そうか…………それで、何故デジモンが現れたかはわかるか?」

千冬がそう尋ねると、

「それは僕にも………」

と、その時、ピットの通信機に通信が入る。

「あ、はいはい」

真耶がその通信に出る。

「はい………はい…………わかりました」

真耶が振り返ると、

「松田君、君に通信がはいってますよ」

タカトに向かってそう言う。

「えっ? 僕に?」

「はい、今モニターに出しますね」

真耶が操作すると、モニターに映ったのは、

「山木さん!?」

ヒュプノスの山木だった。

『元気そうだね、タカト君』

一夏達は、見知らぬ人物に首を傾げる。

「タカト、誰だ?」

一夏がタカトに問いかける。

「うん。 あの人は山木 満雄さん。 僕が所属してるヒュプノスの責任者だよ」

タカトはそう説明する。

『タカト君、先程こちらでデジモンのリアライズ反応を捉えた』

山木はそう切り出す。

「あ、はい。 知ってます。 僕達の目の前にリアライズしたので」

『何だと!? 大丈夫だったのか!?』

驚いた表情で問いかける山木。

「はい、リアライズしたのは成熟期デジモンだったので、ISでも撃退することができました」

『そうか、とりあえずは一安心だな』

「でも………何でデジモンがリアルワールドに………?」

『それはまだ不明だ。 そして、そのことでIS学園に要請したい。 我々、ヒュプノスとワイルド・バンチの調査団を受け入れてもらいたい』

「ふむ………」

千冬は腕を組んで考える。

『ことデジモンの問題に関しては、世界で我々が一番わかっているつもりです。 そして、今回のリアライズが、偶発的に起きたものなのか、それとも必然的に起きたものなのか調べる必要があります』

山木はそう説明する。

すると、

「良いだろう………私が許可を貰っておく」

千冬がそう言った。

『感謝します』

山木が頭を軽く下げた。



それから、あまり時間をかけずにヒュプノスとワイルド・バンチの面々がそろった。

もちろん調査は一部教師以外には非公開だが、タカト達、直接デジモンに関わった者は、ある程度の事は知らされることになっている。

そんな中、タカトは山木に呼び出される。

「なんですか? 山木さん」

タカトが山木に尋ねると、

「ああ。 実は、このIS学園にも、日本政府と繋がりを持つ生徒がいる」

「えっ? そうなんですか?」

「ああ。 だから、もし何かあった場合は、彼女に相談すると良い。 彼女も、ヒュプノスの事はある程度知っている。 ただし、君達テイマーの事も含めた機密情報は、教えていない」

「分かりました」

すると、山木はドアの方を向き、

「入ってきてくれ!」

そう言った。

すると、ドアが開き現れたのは、水色の髪のセミロングで癖毛が外を向いており、ルビー色の瞳をした美少女。

「あっ! あなたは!?」

その少女を見たタカトは、思い出したように叫んだ。

「うふふ………久しぶりね、松田 タカト君♪」

その少女は面白そうな笑みを浮かべる。

「えっと、確か生徒会長さん?」

名前が思い出せずにタカトは役職で答える。

「あらら………」

少しガッカリして脱力する楯無。

「ひどいなぁ。 おねーさん泣いちゃうぞ」

「す、すみません。 名前よりも、生徒会長って事が印象強くて………」

タカトは楯無に謝る。

「もうっ、仕方ないなぁ。 次はちゃんと覚えてね」

笑顔を作ってそう言う楯無。

「改めて、更識 楯無よ。 よろしくね、タカト君」

そう名乗る楯無。

「更識………?」

タカトは友達の簪と同じ名字に声を漏らした。

「何だ? 知り合いだったのか?」

山木がそう聞くと、

「あ、いえ、知り合いというか、僕の入学試験の時の対戦相手が先輩だったんです」

「そうか。 彼女は裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」の17代目当主だ。 少なくとも、彼女自身に対しては信頼していい」

山木はそう言う。

「そうですか。 えっと、これからよろしくお願いします。 更識先輩」

タカトはそう言うが、

「あら、私は君を名前で呼んでるんだから、君も名前で呼んでよ」

楯無はニコニコしながらそう言う。

「そ、そうですか。 じゃ、じゃあ、楯無先輩……ってことで」

「む~、もうちょっとフレンドリーでも良いんだけど、まあいっか」

楯無には多少不満があったようだが、とりあえず納得した。

「では、タカト君。 私は調査に戻る。 時間を取らせたね」

「いえ、山木さん達も頑張ってください」

タカトの言葉に、山木は笑みを向けると、部屋を出て行った。

山木がいなくなると、

「ねえ、タカト君」

楯無が声をかけてきた。

「はい、何ですか?」

タカトが応えると、

「君も、ヒュプノスの一員なら、デジモンの事も知ってるんだよね?」

「え? ええ、まあ」

「じゃあさ、このデジモンについて、何か知らないかな?」

そう言って楯無は、一枚の写真を取り出した。

その写真に写っていたのは、

「デュー……クモン?」

思わず呟くタカト。

その写真に写っていたのは、かつてパートナーと一体化して戦っていた時の己の姿であるデュークモン。

タカトがその名を呟いたとき、楯無の目が一瞬光ったように感じた。

「ふ~ん。 やっぱり知ってるんだ」

そう言う楯無。

「私がこのデジモンについて調べ始めたときには、既にデータの殆どが破棄されていて、結局手に入ったのはこの写真だけ。 今発表されているデジモンの中にはこんなデジモンはいないし、何にも手掛かり無かったんだよね」

楯無のいう事も当然だ。

デュークモンの成長期であるギルモンは、タカトのオリジナルデジモンだ。

その進化系統である、グラウモン、メガログラウモン、デュークモンは、全てタカトのオリジナルと言っていい。

しかも、4年前の事件の事は、ヒュプノスがタカト達の安全の為に、ほぼ全て破棄してしまっている。

特に、タカト達がデジモン達と一体化するという情報は念入りに。

そうしないと、よからぬ事を企む輩たちが、タカト達を拉致して、実験材料に使いかねないからだ。

調べても、何も出てこないのは当然だ。

「ねえ、何でもいいの。 教えてくれない?」

そう言ってくる楯無。

先程までのニコニコしていた雰囲気とは違い、真剣に問いかけてくる。

「えっと………」

タカトは困った。

自分がギルモンと一体化してデュークモンになれることは機密であり、自分たちの安全のためにも黙っておいた方が良いと山木や、ワイルド・バンチの面々に釘を刺されているのだ。

「お願い……!」

だが、真剣にお願いしてくる楯無の姿を見て、タカトの心は揺れる。

そして、タカトが取った選択は、

「………デュークモンの、デジモンとしての情報なら教えられます」

「ッ! ホント!?」

タカトの言葉を聞いて、パッと表情を明るくする楯無。

「はい。 デュークモン。 究極体。 聖騎士型デジモン。 ウィルス種。 必殺技は、ロイヤルセーバーとファイナルエリシオン」

タカトの口から出る言葉を、メモしていく楯無。

「へ~、聖騎士型なのにウィルス種なんだ。 変わってるわね」

そう楽しそうに言う楯無。

「でさ、もしかしてタカト君のISって、このデュークモンがモチーフだったりする?」

そう聞いてきた。

「………はい。 僕のISの開発元のワイルド・バンチの人たちの悪ふざけ………と言ったらおかしいですけど、ワイルド・バンチはデジモンの生みの親とも言える人達ですから」

そう説明するタカト。

これも一応、山木達と相談して決めていた表向きの理由である。

すると、部屋のドアが開いた。

「あっ、松田君。 まだいたんですね。 よかったぁ」

入ってきたのは真耶だった。

「あ、山田先生。 何か用ですか?」

タカトがそう問いかけると、

「はい、用と言いますか、お知らせです」

「お知らせ?」

「はい、寮の部屋なんですが、部屋の調整が付いたので、ルームメイトの布仏さんがお引越しになりました。 なので、今日から同居しなくてすみますよ」

「あっ、そうなんですか?」

「はい、布仏さんは、少し残念がっていたようですが、既に引っ越しを終えているころだと思います。 因みに、お隣の篠ノ之さんもお引越しになります」

「そうですか………じゃあ、僕は一夏と同室になるってことですか?」

タカトがそう聞くと、

「いえ、ちょっと理由がありまして、暫くはそれぞれ1人で過ごしていただきます」

そう答える真耶。

「そうですか」

その事にちょっとさびしいと感じるタカト。

「とりあえず、今知らせるのはそれだけですね」

「分かりました。 ありがとうございます」

タカトがお礼を言うと、真耶は部屋を出ていく。

タカトは楯無に向き直ろうとして、

「………あれ?」

楯無の姿は何処にもなかった。

「楯無先輩?」

暫く待っていたが結局来なかったので、タカトは自分の部屋に戻ることにした。




ヒュプノスの調査に付き合っていたので、外はすっかり暗くなり就寝時間が近付いている。

「もう食堂も閉まってるや。 お腹が空いてるけど、我慢するしかないか………」

そう気落ちしながら、自分の部屋のドアを開けるタカト。

すると、

「おかえりなさい。 ご飯にします? お風呂にします? それともわ・た・し?」

そんな声が聞こえた。

「はい?」

既にルームメイトの本音は居ないはずで、部屋には誰もいないはずである。

タカトは、落としていたいた視線を上にあげると、そこには、

「え………」

裸にエプロンだけを着た、所謂『裸エプロン』と言われる格好で、楯無がそこにいた。

タカトは、一瞬目の前の光景が理解できずに固まり、それから徐々に目の前の光景を理解していく。

そして、それと共にみるみるタカトの顔が真っ赤に染まっていった。

「うわぁあああああああああっ!?」

ようやくタカトは再起動を果たし、両手で顔を覆いつつ後ろを向く。

「た、楯無先輩! な、なんて格好をしてるんですか!?」

タカトは後ろを向きながらそう叫ぶ。

「なんて格好って、裸エプロン」

そう答える楯無。

「いや、そうじゃなくて! 何でそんな格好をしてるんですか!?」

真っ赤になりながらそう叫ぶタカト。

「タカト君の反応は初々しいねぇ」

相変わらずニコニコしながらそう言う楯無。

「心配しなくてもちゃんと水着は着てるわよ」

「そ、そう言う問題じゃなくて! いいから服を着てください!!」

タカトの叫びは切実な願いだった。

「もう、仕方ないなぁ」

楯無はそう言うと、服を着始める。

「はい、もういいわよ」

楯無の言葉に、タカトは手で顔を覆いながら振り向き、指の隙間から楯無の様子を伺う。

そして、ちゃんと服を着ていることを確認してから、顔から手を離した。

「ふうぅぅぅぅぅぅ………」

タカトは大きなため息を吐く。

「ため息を吐くと、幸せが逃げるよ」

その原因が自分にあることを、分かっているのか、いないのか(おそらく100%わかっている)ニコニコしながらそう言う楯無。

「……………それで、何で楯無先輩が僕の部屋にいるんですか?」

若干ジト目で睨みつつ、タカトはそう問う。

「今日から私、ここに住もうと思ってね」

「はい?」

楯無から出た言葉に、タカトは思わず声を漏らす。

「私は君の相談役になるんだから、気軽に話せるようになった方が良いでしょ?」

「い、いや、ここ一年生寮ですよ。 学年が違うなら無理じゃ………」

タカトはそう言うが、

「大丈夫大丈夫。 生徒会長権限で許可したから」

楯無はそう言った。

「そ、そんな事出来るんですか?」

「ここIS学園なら出来るのよ」

事実、IS学園の生徒会長の権限は、教師に匹敵するらしい。

「まあ、冗談はこの位にして。 同じ部屋にしたのは、その方が周りに話を聞かれる可能性が少ないからよ。 同じ部屋なら、一緒に居たって不自然じゃないでしょ?」

「それは、まあ………」

「そういうわけだから、よろしくね。 もう荷解きも終わっちゃってるし」

その言葉にタカトは部屋を見回すと、楯無の私物と思われるものが既にセッティングし終わっていた。

(早っ………)

本音が引っ越してから、さほど時間も経ってない筈だが、既に荷解き完了している楯無の早業に、感心していいのか呆れていいのか、タカトは項垂れる。

「う~ん。 まだ納得しないって顔だねぇ~」

そう言う楯無。

確かにいきなり押しかけてもらっても困る。

「じゃあ、おねーさんと賭けをしようか」

「賭け………ですか?」

「そう。デジモンカードバトルでおねーさんに勝てたら、おねーさんは潔く出てくわ。 その代り、おねーさんが勝ったら、一緒に住むからね」

ニコニコして、カードデックを取り出して見せる楯無。

「………………分かりました」

その賭けに了承するタカト。

「じゃあ、バトルスタート♪」





タカトは項垂れた。

「おねーさんの勝ち」

結果はタカトのボロ負けである。

(この人、確実にルキやリョウさんと互角だ)

そう思うタカト。

「じゃあ、約束通り、今日からこの部屋に住むからね」

「……分かりました」

仕方なく頷くタカト。

「あら? 潔いのね」

「………約束ですし。 それに、楯無先輩の言うことももっともですから」

一応、楯無の言う事は理解できていたらしいタカト。

「それで、さっきから気になってたことが一つあるんですけど………」

「あら? なにかしら」

「もしかして楯無先輩、簪さんのお姉さんですか?」

そう聞くタカト。

「えっ? え、ええ………そうよ………」

楯無は、いきなり問われたことに驚きながらも頷くが、その表情は少しバツが悪そうにして、視線を逸らした。

「? どうかしました?」

楯無の様子が見に見えて沈んだことに、タカトは尋ねる。

「ううっ………な、なんでもないのよ」

楯無はそう言うが、何でもないようには見えない。

「………もしかして、簪さんと仲悪いんですか?」

「ううっ!」

タカトの言葉で見せた反応で、タカトは図星だと判断する。

「楯無先輩、これから相談に乗ってもらう立場なので、僕に出来る事なら相談に乗りますよ。 簪さんの事は友達だと思っているので、ある程度のフォローも出来ますし」

「ホント!?」

タカトの手を両手で握って詰め寄る楯無。

「は、はい………なので、今は如何いう状況なのかを教えてくれませんか?」

若干引きつつ、そう聞くタカト。

「うん…………えっとね。 自分で言うのも何だけど、私ってすごいでしょ?」

「いや………いきなり凄いでしょって言われても、楯無先輩の事はよく知らないので………」

「何て言うか………うちの家は特殊だから、当主になるためには生半可な努力じゃダメだったのよ。 それで、私は簪ちゃんが自慢できる姉になろうって頑張ってて………」

タカトはそこまで聞いて、大体を察した。

「つまり、そこで頑張りすぎて、逆に簪さんになんでも出来てしまう姉というコンプレックスを植え付けてしまった……ってことですか?」

タカトがそう聞くと、楯無は項垂れる。

「そう言う事ですか…………じゃあ、僕の方で出来る限りはフォローしておきます」

「ありがとう!」

またタカトの手を握りながらお礼を言う楯無。

女子に手を握られることなど滅多に無いタカトは、顔を赤くする。

「あ、あと、簪さんは専用機持ちって聞いてるんですが、簪さんは、専用機は完成してないって言ってたんですけど、それってどういうことですか?」

タカトは照れを隠すようにそう聞く。

「えっと、それも私のコンプレックスに関係する事なんだけど、簪ちゃんも努力家で、私に負けないように努力してたの。 それで、その甲斐あって、日本の代表候補生に選ばれて、専用機も貰えることになったんだけど………」

楯無は、言葉を一旦区切る。

「簪ちゃんの専用機の開発を受け持っていたのは、倉持技研ってところなんだけど………聞き覚えない?」

楯無が聞いてくる。

「倉持技研…………? あっ、そう言えば、一夏の白式の開発元が………」

「ピンポーン、正解。 簡単に言えば、簪ちゃんの専用機の開発に回すはずだった人員を、全員白式の方に回しちゃったから、未だに完成していないの」

「そうだったんですか………」

「それで、そこでも私に対するコンプレックスが原因で………」

「まだ何かあるんですか?」

「私、自分の専用機は自分で作ったのよね」

「…………それに対抗して、簪さんも専用機を1人で組み上げようとしている………? と?」

無言で頷く楯無。

もはや呆れて言葉が出ないタカト。

「…………とりあえず、そっちの方も僕の伝手で何とかできないか聞いてみます。 もしかしたらワイルド・バンチの人達の協力も得られるかもしれません。 まあ、簪さんがうんと言えばですが」

「ううっ。 タカト君。 ホントにありがとう」

「でも、あくまでフォローはしますが、楯無先輩から簪さんに一歩踏み出さないと、仲直りは出来ませんからね」

「………うん」

間があったが頷く楯無。

「じゃあ、今日はもう遅いですし、もう寝ましょう」

タカトはそう言う。



それぞれのベッドに入って数分後。

「ねえ、タカト君?」

「はい? 何ですか、楯無先輩」

「………ありがとう」

「いや、お礼を言われても、まだ何もしてないんですが………」

「ううん。 私達の為に、相談に乗ってくれただけでも嬉しかった」

「はぁ………」

「それだけ。 おやすみ」

そうして少しすると、寝息が聞こえてくる。

「……………頑張らなくちゃ」

タカトはそう呟いて、なんとしてでも仲直りさせようと心に誓うのだった。







あとがき

第七話の完成。

あれ?

なんでこうなった?

ここで楯無を同室にするつもりは全く無かったのに?

で、その理由は、予想以上に簪にフラグを立ててしまったからです。

このままいくと、臨海学校時点で、簪のフラグが完全確立しかねないので。

なので、思いつきで楯無同居です。

ルキは………まあ、昔のアドバンテージがあるので………

ネタバレになりますが、ルキは2学期から合流予定です。

なんか楯無の性格と喋り方が掴みづらい。

最後の方は特におかしい気がする。

でもって、何故かヒュプノスがIS学園に。

ただ、その伝手で楯無と正式な知り合いに。

やりすぎましたが。

でも、過去の事はまだ話しません。

理由は本編内に書いてある通り。

まあ、とりあえずリクエストの結果発表です。



1 ラウラのフラグ   タカト16票  一夏25票


2 ISキャラのパートナーデジモン  有26票   無12票



という結果になりました。

これによって、ラウラのフラグは一夏のまま。

ISキャラのパートナーデジモンは有りという事になりました。

それで、パートナーが付くISキャラですが、


1 楯無、簪

2 一夏

3 楯無、簪、一夏

4 楯無、簪、一夏、箒

5 楯無、簪、一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ


この中から、2つ選んでください。

この中から、2つに絞り込み、後に決選投票を行います。

因みに、一夏のパートナーはドルモンですが、箒(+リュウダモン)がいなくてもオリジナル設定で王竜剣まで行きます。

あと、アルファモンは、公式設定のようにチートではなく、総合能力ではデュークモンと互角とお考えください。

王竜剣もクリムゾンモードと同等を考えています。

では、こんかいはこの辺で。

次も頑張ります。





[31817] 第八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/04/08 21:55


第八話 休日の出来事




タカトのルームメイトが楯無となって数日。

ようやくIS学園の生活にも慣れてきたタカトは、日曜日の今日、久々に実家のパン屋の手伝いをすることにした。

「いらっしゃいませ、毎度ありがとうございます」

タカトは店のカウンターで挨拶する。

タカトの家のパン屋『まつだベーカリー』は、割と評判のお店で、常連客も多い。

何せ、ヒュプノスのオペレーターである鳳 麗花も、まつだベーカリーの常連だ。

再び店の入り口のドアが開く鈴の音が鳴り、客の来店を知らせる。

「いらっしゃいませ」

タカトは、営業スマイルを浮かべて挨拶する。

すると、

「やっほ~、まっつー」

「………こ、こんにちは」

店に入ってきたのは、タカトの見知った顔だった。

「あっ! 布仏さんに、簪さん!」

タカトは知り合いの入店に思わず声を漏らした。

「まっつーが、家のパン屋の手伝いに帰ってるって聞いたから~、興味があって、かんちゃんと一緒に来たんだ~」

本音がそう言う。

「そうなんだ。 それじゃあ折角だから、ゆっくり見て行ってよ」

タカトは2人に笑いかける。

その時、

「おっ、珍しいなタカト。 女の子の友達か?」

そう言ってきたのは、タカトの父、松田 剛弘。

「あ、お父さん」

そちらを向くタカト。

「わ~、まっつーのパパさんだ~」

そうはしゃぐ本音。

「は、初めまして………」

緊張しつつ、頭を下げる簪。

「元ルームメイトの布仏 本音さんと布仏さんのつながりで友達になった、更識 簪さんだよ」

そう紹介するタカト。

「ははは。 タカトも女の子の友達が増えたか。 嬉しい事だな」

そう笑う剛弘。

「わ、笑うことないじゃないか」

少しむくれるタカト。

「いや、すまんすまん。 しかし、今までのお前の女の子の友達と言えば、小学生のころにルキちゃんとジュリちゃん、中学の時は鈴ちゃん。 後は、ジェンリャ君の妹のシュウチョンちゃんぐらいしかいなかったからなぁ」

「そ、それは否定しないけど………けど、IS学園は僕と一夏以外は皆女の子だよ。 友達になるのは、皆女の子に決まってるよ」

タカトはそう言う。

「そう言えばそうだったな」

思い出したように呟く剛弘。

「…………タカト君って、女の子の友達少ないんだ………」

簪が、心なしかホッとしたような表情で、ボソッと呟いた。

すると、剛弘は本音と簪に向き直り、

「これからも、タカトと仲良くしてやってくれ」

そう言った。

「もちろんです~」

「は、はい………」

本音はいつもの間延びした声で。

簪は、小さく返事を返した。

すると、

「あの~、ところでパパさん」

本音が剛弘に話しかける。

「何かな?」

剛弘が尋ねると、

「まっつーが焼いたパンってどれですか~?」

本音がそう聞いてきた。

「タカトが焼いたパンなら、ほら、あそこに」

剛弘が、店の一角を指差しながらそう言った。

そこには、籠に入った数種類のパンが並べられていた。

「わ~! これがまっつーの作ったパンなんだ~!」

本音がそのパンを興味深そうに眺める。

その様子を見ていた剛弘が、

「2人とも、1個ずつなら食べていいよ。 タカトの友達へのサービスだ」

本音と簪にそう言った。

「ホント? わ~い!」

「す、すみません………いただきます」

本音は喜んでパンを手に取り、簪は遠慮がちにパンを取った。

2人は、パンを口へ運ぶ。

そして、一口食べた。

タカトは、自分の作ったパンに、どのような評価を受けるか、少し不安があった。

すると、

「わ~、おいしいよ、まっつー」

本音が満面の笑みでそう感想を言い、

「…………おいしい」

簪は、その味に微笑みながら感想を漏らした。

「よかった………そう言ってもらえると嬉しいよ」

タカトはホッとしつつ、そう漏らす。

「これは~、皆にも買ってってあげないとね~」

そう言いながら、買い物カゴにパンを放り込んでいく本音。

何故か、タカトの作った物ばかり。

「あの、布仏さん? 皆へのお土産なら、僕が作った物より、他のお父さんやお母さんが作った物の方が………僕は、店に出せるレベルと言っても、お父さんやお母さんに比べれば、まだまだ未熟だし………」

タカトはそう言ったのだが、

「わかってないなぁ~まっつーは。 皆には、まっつーが作ったパンの方が絶対喜ばれるよ~」

本音はそう言う。

「…………私も……そう思う………」

簪も本音の言葉に同意した。

「え~と……そういうものなの……?」

「そういうものだよ~」

結局、店頭に並んでいたタカトの作ったパンのほとんどを買占めていった。




やがて夕方になり、タカトはそろそろIS学園に戻ろうと考えていた。

寮に帰る支度をしていた時、ふと同室の楯無の事を思い出した。

「う~ん……お土産位持って行った方がいいかな?」

そう思い、売れ残ったパンを持って行こうと思ったのだが、

『まっつーが作ったパンの方が絶対喜ばれるよ~』

そう言われた本音の言葉を思い出し、思いとどまった。

それから、パン工房を見つめ、

「……………よし!」

気合を入れ、パン工房に向かった。




タカトがIS学園の寮に戻ってきた時は、日が落ち切った時だった。

タカトは、自分の部屋に向かって寮の廊下を歩いている。

その腕には、紙袋が抱えられていた。

先程、タカトが新しく焼いたパンである。

タカトは、自分の部屋のドアの前に辿り着き、一応ノックする。

「楯無先輩。 入ってもいいですか?」

そう聞くタカト。

「どうぞ~」

楯無の返事を聞き、ドアを開けるタカト。

すると、

「お帰り。 私にする? 私にする? それともわ・た・し?」

数日前と同じように裸エプロン姿で楯無がそこにいた。

「ッ!?」

一瞬で顔が赤くなるタカト。

そしてすぐに右手を顔に当てて目隠しする。

因みに左腕はパンを入れた紙袋を持っているので動かせない。

「ま、またですか楯無先輩!? しかも、選択肢がありません!」

そう抗議するタカト。

しかし、

「あるよ。 一択なだけで」

悪びれることもなくそう言う楯無。

「と、とにかく服を着てください!」

そう叫ぶタカト。

「あいかわらず、タカト君の反応は可愛いねぇ」

面白そうに笑う楯無。

タカトは、ここ数日の付き合いで、楯無は人をからかうことが大好きだという事を知った。

しかし、それでいて人に嫌われるようなからかいはしないという事も。

今回の事も、タカトは恥ずかしすぎるだけで直視できないだけであり、心の底から嫌だという気は全く無い。

ただ、果てしなく困ってはいるが。

楯無も、自分の姿を全く見ようとしないタカトの性格を熟知し始めているのか、無理に押し通そうとはせず、適度なところで引き下がって服を着る。

「はい、服着たわよ」

楯無の言葉で、目を覆っていた手を除けるタカト。

タカトは軽くため息を吐いて楯無に向き直る。

「そう言えば楯無先輩。 夕食ってもう食べました?」

タカトは気を取り直してそう尋ねる。

「ん~ん、まだよ。 そう言えば、さっきから良い匂いが………」

楯無はそう言う。

それを聞いて、タカトは腕に抱えていた紙袋を差し出す。

「よかったら、これどうですか?」

そう聞くタカト。

楯無はその紙袋を覗き、

「へ~、良い匂いね。 焼き立てかしら? どこのパン?」

袋の中から漂ってくるパンの香りを嗅ぎつつ、そう聞いてきた。

「えっと………家の店のパン…………っていうか、僕が焼いたパンなんですけど………」

タカトは、恥ずかしいのかちょっと歯切れが悪くなりながらそう言う。

「へぇ~、それじゃあ、ちゃんと味わって食べなきゃね」

楯無は、ニコニコしながらそう言った。



「では、いただきます」

あの後、パンをお皿に載せ替えて、テーブルの上に置き、手を合わせる楯無。

「どうぞ……」

タカトは少し不安を感じながらその様子を見つめる。

パンを手に取り、一口食べる楯無。

そして、

「うん! 中々おいしいね。 流石パン屋の息子!」

そう言いながら片手で広げた扇子には『上出来』の文字が。

タカトは、その扇子を見て、何でいつもその場にぴったりの文字が書かれているんだろうかと不思議に思う。

楯無の言葉に嘘は無いようで、何個かあったパンをおいしそうに平らげた。

「ご馳走さま。 美味しかったよ」

笑顔で言う楯無。

「お粗末さまです……」

軽く頭を下げるタカト。

内心は、美味しいと言われた事に安堵している。

それから、皿を片づけていると、いきなり部屋のドアが開いた。

「やっほ~! まっつー、遊びに来たよ~!」

そう言って、遠慮なく部屋に入ってきたのは本音。

まあ、元ルームメイトであり、本音の性格を分かっているタカトなら、ここまでなら特に問題は無かった。

本音1人なら。

本音の後ろには、最早当然と言うべきか、簪がいた。

その簪は、部屋の中にいた楯無と目が合って、お互いに固まっている。

「あ………簪ちゃん………」

「ね……姉さん…………何でタカト君の部屋に………?」

楯無は気まずそうに。

簪は、驚愕と恐れが入り混じった表情でそれぞれ呟いた。

「あ、あの、簪ちゃん………これはね……」

楯無が、説明しようと立ち上がって近づこうとした瞬間、

「……ッ」

簪は逃げるように立ち去ってしまう。

「簪ちゃん!」

楯無は後を追おうとしたが、

「楯無先輩ストップ!」

タカトに止められる。

「今、楯無先輩が追っても、多分逆効果にしかなりません。 僕が追います!」

タカトはそう言って、簪が逃げたであろう方向に走って行く。

「簪ちゃん………タカト君………」

楯無はポツリと呟く。

「お嬢様が居るとは予想外でした~」

相変わらずの間延びした声で、そう言う本音だった。




タカトが簪を探していると、窓の外に、寮の庭でポツンと立っている簪の姿が見えた。

タカトは急いで外に出る。

「簪さん!」

タカトが簪に声をかけると、簪はゆっくりと顔を向けた。

「タカト君………」

そう呟く簪。

その姿はまるで初めてあった時と同じような影を持っていた。

最近の簪は、少しずつだが、口数も多くなってきて、笑顔も見せるようになってくれた。

それが最初に戻ってしまったような感じだ。

「…………タカト君」

「何?」

小さな声だが、簪の方から声をかけてきた。

「………何で……姉さんと一緒に居たの…………?」

そう問う簪。

「あ、うん………簪さんも分かってると思うけど、僕ってヒュプノスの関係者なんだ」

タカトの言葉に、簪は視線だけで肯定する。

「デジモンに関係する事件は、ヒュプノスの管轄。 だから、僕にも関係してくる。 けど、ヒュプノスが調査に来てる今はともかく、僕だけしかいないときにいろいろ問題が起こったら、僕だけじゃ対処しきれないかもしれない。 だから、山木さん………ヒュプノスの責任者の人が、日本政府関係ということで、楯無先輩を紹介してくれたんだ。 何かあった時に、相談できる相手としてね。 それで、楯無先輩が僕の部屋にいたのは…………」

タカトは、ちょっと言いにくそうに言葉を切る。

簪は、黙って次の言葉を待った。

「楯無先輩が、同じ部屋の方が話を聞きやすいだろうって、生徒会長権限で、同室にしたんだよ」

タカトは、少し脱力気味にそう言った。

「…………そう」

簪は、それだけ言って黙り込む。

「…………………」

「…………………」

無言になる2人。

「…………ねえ、簪さん」

今度は、タカトの方から話しかけた。

「……………何?」

間があったが反応する簪。

「簪さんは、楯無先輩………お姉さんの事、嫌いなの?」

そう問いかけるタカト。

その言葉に、簪は俯く。

簪の心の中には、姉に対する色々な思いが渦巻いていた。

優しい姉であり、優秀な人であり、強い人であり、魅力的な人であり――――完全無欠。

憧れであり、けして手の届かない目標である存在。

自分は、あの人には敵わない。

いつからかそう思い始めた。

最初に、その背中を追わなくなった。

次に、その顔を見つめられなくなった。

更には、同じ名前を背負うことに、苦痛を感じ始めた。

しかし、その奥底にある姉への想いは、

「………………嫌いなんかじゃ………無い」

そうポツリと口にした。

そう、嫌いなんかじゃい。

それどころか、真逆だ。

簪は、楯無が大好きだ。

何でも出来る楯無が。

強い楯無が。

そして優しい楯無が。

自慢できる、最高の姉だ。

しかし、そう思う事だけを、簪の周りは許してくれなかった。

楯無に出来ることを、今度は簪にまで求め始めた。

簪も、その声に応えようと必死で頑張った。

だが、楯無に出来て、簪に出来ない事が増えていく度に、周りは「更識 楯無の妹なのに」と誰もがささやいた。

逆に、努力が実り、日本の代表候補生に選ばれたときも、「更識 楯無の妹だから」としか周りは見てはくれなかった。

誰も、自分を『更識 簪』と認めてはくれない。

そう悟ってしまったときだろう。

姉に対して向き合えなくなってしまったのは。

簪の思考が、どんどんネガティブに陥っていく。

その時、

「………よかった!」

タカトの嬉しそうな声がした。

その声に、簪は思わず思考を中断し、顔を上げてタカトを見た。

タカトは笑みを浮かべて簪に近付いていく。

「簪さんは、楯無先輩の事が嫌いなわけじゃないんだね?」

再度確認するように問いかける。

「………う、うん……」

簪は頷く。

それを見て、タカトの表情ははっきりと明るくなる。

「そっか! 今はそれがわかっただけでも十分だよ!」

そう言うタカト。

すると、

「ねえ………タカト君」

簪が口を開く。

「ん、何かな?」

そう問うタカト。

「………タカト君は…………私と……姉さんを見て………どう思う?」

簪は、精一杯の勇気を振り絞って、そう尋ねた。

「えっと………言ってる意味がよくわからないけど、簪さんは簪さんだし、楯無先輩は楯無先輩と思ってるけど………」

簪は簪。

楯無は楯無。

それはつまり、簪を『更識 簪』と見ているという事。

その言葉を聞いて、簪の心は喜びに満ち溢れた。

自分をそう見てくれたのは、家族を除けば、幼馴染の姉妹のみ。

言わば、身内と言っていい者だけだった。

それ以外の者達は、楯無の存在を知らぬうちは、簪を簪として見てくれた。

しかし、楯無の存在を知ると共に、『楯無の妹』としてしか見てはくれなくなった。

その度に、簪の心は傷ついた。

だが、タカトは、簪と楯無。

その両方の存在を知っても尚、簪を簪と見ていると言った。

その事が、簪にとって、とても嬉しかった。

「あ、そうだ」

タカトが思い出したように口を開く。

「簪さん、気を悪くしないでね。 簪さんの専用機だけど、まだ完成してないって言ってたよね?」

「う、うん……」

いきなり問われたことに、困惑しつつも頷く簪。

「詳しい話は楯無先輩から聞いたよ。 簪さんの専用機が完成してない理由も。 簪さんが1人で専用機を完成させようとしていることも………」

タカトは一旦言葉を区切り、

「でも、それを踏まえて言うんだけど、簪さんの専用機の組み立て、僕にも協力させてもらえないかな?」

「えっ?」

タカトの言葉が意外だったのか、簪は声を漏らす。

「ああ、もちろん簪さんが良いならだけど………ヒュプノスが調査に来ている今なら、ワイルド・バンチの人たちに協力してもらえるかもしれないし、今から頑張れば、学年別トーナメントに間に合うかもしれないし」

タカトはそう言う。

「簪さんが本当に嫌なら無理は言わないし、どうしても1人で組み上げたいって言うのなら、僕は簪さんの意見を尊重するよ」

そう言って微笑む。

「タカト……君………」

「まあ、今すぐ決めてって言っても、難しいかもしれないから、2~3日考えてみてよ。 それでやっぱり1人で組み上げたいって言うのなら、それでいいよ」

タカトはそう言うと、

「じゃあ、僕は戻るけど、簪さんもあまり長い時間外に居ないようにね。 あったかくなってきたとは言っても、夜はまだ寒いから」

踵を返して歩き出した。

すると、

「……タッ、タカト君!」

気付けば、簪はタカトを呼び止めていた。

「何かな?」

タカトは振り向く。

「………あ………その……………」

簪は言うかどうか迷っていたようだが、

「………せ、専用機のこと………きょ、協力してくれる………?」

そう言った。

それを聞くと、タカトは笑顔になり、

「もちろん!」

そうはっきりと言った。





その後、簪と別れ、部屋に戻ってきたタカト。

そこでは、

「ううっ…………」

いつもとは違い、暗い雰囲気を纏って、楯無が項垂れていた。

「だ、大丈夫ですか? 楯無先輩……」

タカトは思わず問いかける。

楯無は、覇気のない顔でタカトを見る。

「あうぅ………ど、どうだった? タカト君」

楯無は何とかそう聞いてきた。

「まあ、とりあえず大丈夫です。 専用機の組み立ての協力も約束してきましたし」

「嘘っ!?」

楯無は驚きからガバッと顔を上げる。

「本当です。 それから………」

タカトは楯無をジッと見る。

「な、何かしら………?」

楯無はタカトの様子に若干の不安を感じる。

そこでタカトは微笑み、

「よかったですね、楯無先輩。 簪さんは、楯無先輩の事嫌ってはいないみたいですよ」

そう言った。

その瞬間、

「ホント!!??」

一瞬にしてタカトの両肩を掴み、目の前に現れる楯無。

「は、はい………一応本人から聞いたことなので、間違いはないと思います……」

タカトは、あまりにも楯無の顔が近かったので、少し頬を染めて顔を逸らす。

「タカト君!! ホントにありがとう!!」

全力でお礼を言ってくる楯無。

「いや………まだどう思ってるかを聞いただけで、何をしたというわけでは…………」

「それでも! 簪ちゃんが私をどう思ってるかなんて、本音でも聞きだせなかったんだから!」

その後、興奮する楯無を落ち着かせるのに1時間ほどかかったらしい。





翌日。

教室内では、一つの噂で持ちきりだった。

「ねえ、あの噂聞いた?」

「聞いた聞いた!」

「何々? 何の話?」

「学年別トーナメントで優勝すると、織斑君か松田君と付き合えるんだって」

「そうなの!?」

「マジ!?」

それぞれが言葉を漏らす。

因みに、噂の元は先日、箒が一夏に向かって、「優勝したら付き合ってもらう」という言葉を隣の部屋で聞いていた楯無が、内容をちょっと変えて流した事だったりする。

尚、タカトに関しては、噂の中で尾ひれが引っ付いた結果である。

その時、タカトと一夏が教室にやってくる。

「おはよう! 何盛り上がってるんだ?」

一夏が挨拶と共にそう尋ねる。

すると、

「「「「「「「「「「なんでもないよ」」」」」」」」」」

声を揃えてそう言われた。

すると、千冬と真耶がやってきてHRを始める。

「ええとですね。 今日は転校生を紹介します。 しかも2名です」

真耶の言葉に、教室がざわめく。

そして、教室のドアが開き、

「失礼します」

「……………」

クラスに入ってきた転校生を見たとたん、教室が静まり返る。

何故なら、入ってきた転校生の内1人が、男子の制服を身に纏っていたからだ。








あとがき

第八話の完成。

一応休日での出来事をお送りしました。

タカトなら、休みの日位店の手伝いしてもおかしくは無いだろうと………

そして、本音なら、興味本位でタカトのパン屋を覗いてもおかしくないだろうという考えです。

あと、何故か簪のフラグ強化。

楯無もちょっと。

う~ん、打鉄弐式の魔改造フラグを立てるだけのつもりだったんだが………

やはり自分はラブコメを書かないと気が済まない性質なんだろうか?

あと、話の流れはしっかりと繋がっているだろうか?

簪もこんなに簡単に協力を受け入れるのはおかしいか?

とりあえずシャルとラウラの転校直前まで。

次回から打鉄弐式の魔改造がスタート。

すぐに終わるかも。

では、アンケートの結果発表。



1、19票

2、3票

3、19票

4、7票

5、8票




という事で、決選投票は、


1、簪、楯無

2、簪、楯無、一夏


となりました。

1人1票で投票お願いします。

あと、リクエストと言うかご相談。

学年別トーナメント後(つまり臨海学校編)で、待望のギルモンが出てきます。

それで、ギルモンの扱いなんですが、初っ端から全員にモロバレするか、少しの間一夏達以外には秘密にするかどちらが良いですか?

自分は今まで初っ端からモロバレを考えていたのですが、皆様の感想を読んで、ふと別のストーリーを思いついたわけで………

因みに、少しの間秘密にするを選ぶと、福音戦で、グラニが二次移行します。

モロバレの場合、二次移行はデジタルワールド編後を考えています。

グラニの二次移行は、福音戦ではちょっと早いかなと思ってたんですけど……

あと、それぞれでギルモンとの再会の仕方が違います。

自分では、モロバレの方が感動的な再会になるんじゃないかと思ってます。

とりあえず、ご参考程度良いのでご意見いただけると嬉しいです。

では、今回はこれにて。

次も頑張ります。




[31817] 第九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/04/29 21:08
第九話 新生、打鉄弐式




「シャルル・デュノアです。 フランスから来ました。 この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

転校生の1人、シャルルは笑顔でそう一礼した。

その様子に、クラス全員が静まり返る。

「お、男…………?」

誰かが呟く。

「はい。 こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を……」

そう言いかけた。

すると、

「きゃ………」

誰かが声を漏らす。

「はい?」

その反応に、シャルルが声を漏らす。

そして次の瞬間、

「「「「「「「「「「きゃぁあああああああああああああああああああああっ!!」」」」」」」」」

歓喜の叫びが、クラス中に響き渡った。

「男子! 3人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれて良かった~~~~~!」

等々。

「あー、騒ぐな。 静かにしろ」

鬱陶しそうに千冬がぼやく。

「み、皆さんお静かに! まだ自己紹介が終わってませんから~!」

真耶が必死に宥めようとそう言う。

もう一人の転校生は、一言でいえば変わっていた。

長い銀髪に、左目には黒眼帯。

冷たい雰囲気を纏うその少女の印象は、まさに『軍人』であった。

「…………………」

その本人は、先程から一言も喋っていない。

ただ、騒ぐクラスメイトを、腕を組んで下らなそうに見ているだけだ。

しかし、

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

千冬の一言で、いきなり佇まいを直して素直に返事をするラウラと呼ばれた転校生。

「ここではそう呼ぶな。 もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。 私の事は織斑先生と呼べ」

「了解しました」

そう言うと、ラウラはクラスメイト達に向き直り、

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

それだけ言って黙り込むラウラ。

「あ、あの………以上ですか?」

「以上だ」

真耶の問いかけにラウラは即答する。

冷や汗を流す真耶。

すると、ラウラと一夏の目が合った。

すると、

「ッ! 貴様が……」

ラウラがつかつかと一夏の前まで歩いていき、

――バシンッ

一夏の頬に平手を見舞った。

「う?」

一夏は一瞬、何が起きたのか分からず呆然としていた。

「私は認めない。 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

ラウラはそう言い放つ。

「いきなり何しやがる!」

我に返った一夏はそう叫ぶが、

「フン……」

ラウラは一夏を無視し、つかつかと歩いて行き、空いている席に座ると、腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。

「あー………ゴホンゴホン! ではHRを終わる。 各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。 今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。 解散!」

一夏は腑に落ちなかったが、千冬がそう言ってHRを終了させたため、我慢するほかない。

何故ならば、すぐにこの部屋で女子が着替えを始めるからだ。

「おい、織斑、松田。 デュノアの面倒を見てやれ。 同じ男子だろう」

「分かりました」

タカトが返事をする。

すると、

「君が織斑君? 初めまして。 僕は………」

「ああ、いいから。 とにかく移動が先だ。 女子が着替え始めるから」

シャルルが近くにいた一夏に自己紹介をしようとすると、一夏がそう言って中断させ、シャルルの手を取ると、

「タカト、行くぜ」

「うん」

この後の予想が出来た2人はそそくさと教室を出る。

一夏は、シャルルに説明を始めた。

「とりあえず男子は空いているアリーナの更衣室で着替え。 これから実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ」

「う、うん………」

困惑していたシャルルが頷く。

すると、

「ああっ! 転校生発見!」

「しかも織斑君と松田君も一緒!」

同学年の他クラスだけでなく、2、3年のクラスからも噂を聞きつけた生徒達がやってきたのだ。

「いたっ! こっちよ!」

「者ども出会え出会えい!」

まるで武家屋敷のような掛け声をする生徒達。

「織斑君や松田君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

「しかも瞳はエメラルド!」

「きゃああっ! 見て見て! 織斑君とデュノア君! 手繋いでる!」

「日本に生まれてよかった! ありがとうお母さん! 今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

叫びながら3人を追ってくる生徒達。

「な、何? 何で皆騒いでるの?」

状況が飲み込めないシャルルが一夏に尋ねる。

「そりゃ、男子が俺達だけだからだろ」

「………?」

言われたことが理解できないのか、首を傾げるシャルル。

「デュノア君、IS学園に入ってきたばかりだから、自覚無いのかもしれないけど、僕たちは、今の所世界でISを動かせるたった3人の男なんだよ? 女の子たちからすれば、物珍しさから、興味が出るのは当然だよ」

タカトが走りながら説明する。

「あっ! ……ああ、うん。 そうだね」

「それに、ここの女子達って、男子と極端に接触が少ないから、ウーパールーパー状態なんだよ」

「ウー……何?」

「20世紀の珍獣。 昔日本で流行ったんだと」

「ふうん」

そう言いながらも追いかけてくる女子達から必死で逃げる3人。

捕まったら質問攻めで、授業に遅れてしまう。

そうなれば、千冬から制裁が下るだろう。

そうならない為に、必死で逃げ続けた。




その後、何とか追っ手を振り切り、更衣室に到着した3人。

ただ更衣室に来るだけなのに、もう息絶え絶えだ。

すると、

「しかし、まあ助かったよ」

一夏がシャルルに話しかける。

「何が?」

「いや、やっぱり学園に男2人はつらいからな。 何かと気を遣うし。 1人でも男が増えるっていうのは心強いもんだ」

「そうなの?」

シャルルが首を傾げる。

「一夏の言うとおりだよ。 周りが女子だらけなのは、想像以上の肩身の狭さだよ」

タカトも一夏を肯定した。

「ま、何にしてもこれからよろしくな。 俺は織斑 一夏。 一夏って呼んでくれ」

「僕は松田 タカト。 僕もタカトで構わないよ」

自己紹介する2人。

「うん。 よろしく一夏、タカト。 僕の事もシャルルでいいよ」

「分かった、シャルル」

「よろしくね、シャルル君」

自己紹介を終えると、

「うわ! 時間ヤバいな! すぐに着替えちまおうぜ」

気付けば、大分時間が経っていたらしく、もたもたしていると遅れてしまう。

一気に服を脱ぐ一夏。

「わあっ!?」

シャルルが声を上げた。

「荷物でも忘れたのか? って、何で着替えないんだ? 早く着替えないと遅れるぞ。 シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそりゃあ時間にうるさい人で………」

「う、うんっ? き、着替えるよ? でも、あっち向いてて………ね?」

「? いやまあ、別に着替えをジロジロ見る気はないが………って、シャルルはジロジロ見てるな」

「み、見てない! 見てないよ!?」

シャルルの反応を不思議に思う一夏。

すると、

「一夏、いくら男同士でも、裸を見せたがらない人はいるよ。 シャルル君もそういうタイプじゃないかな?」

「そ、そう! その通りだよ!」

慌ててタカトの言葉に頷くシャルル。

「そうか? まあ、本当に急げよ。 初日から遅刻とかシャレにならない………というか、あの人はシャレにしてくれんぞ」

そう言って再び着替え始める一夏。

タカトも着替え始める。

そこで、ふと視線を感じた一夏が、

「シャルル?」

「な、何かな?」

一夏が気になって視線を向けると、シャルルは少しだけ一夏達の方に向けていた視線を慌てて壁の方にやって、ISスーツのジッパーを上げた。

「うわ、着替えるの早いな。 なんかコツでもあんのか?」

「い、いや、別に………って一夏まだ着てないの?」

因みにタカトは一夏が話しているうちに着替え終えた。

「これ、着るときに裸っていうのが何か着辛いんだよなぁ。 引っかかって」

「ひ、引っかかって?」

「おう」

その言葉で、シャルルの顔が真っ赤になる。

そして、ようやく一夏も着替え終えた。

「よっと………よし、行こうぜ」

「うん」

「う、うん」

一夏の言葉に、タカトとシャルルは頷いた。





「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

「まずは戦闘を実演してもらおう。 凰! オルコット!」

「はい!」

「はい!」

千冬に指名され、鈴音とセシリアは返事をする。

「専用機持ちならすぐに始められるだろう。 前に出ろ!」

千冬にそう言われ、

「めんどいなぁ………何で私が………」

「はぁ~、なんかこういうのは、見世物のようで気が進みませんわね………」

2人はぶつくさ言いつつ前に出る。

そのまま千冬の傍を通りすぎるとき、

「お前たち少しはやる気を出せ。 あいつにいいところを見せられるぞ」

一夏に視線を向けつつそう小声で言った。

「「はっ!」」

それに気付いた2人は態度を一転、

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

「実力の違いを見せる良い機会よね。 専用機持ちの」

やる気満々にそう言った。

その様子に、

「今、先生なんて言ったの?」

シャルルが一夏に尋ねる。

「俺が知るかよ……」

一夏はそう言うが、

「まあ、大体の予想はつくけどね……」

タカトが苦笑しつつ呟いた。

「それでお相手は? 鈴さんの相手でも構いませんが?」

「フフン。 こっちのセリフ。 返り討ちよ」

そう2人で牽制し合うが、

「慌てるな、馬鹿共。 対戦相手は………」

千冬がそう言いかけたところで、

――キィィィィィィィィン

何処からか、空気を切り裂く音が聞こえた。

「ああああああああああああああああああああああああっ!!」

聞こえてきた声に空を見上げると、

「ああああああーーーーっ! 退いてくださいーーーーっ!!」

量産型IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏った真耶が一直線に飛んできた。

しかも、様子を見るに操縦をミスって操作不能らしい。

そして、落下地点にはお約束のように一夏がいた。

「え? ………ああああああーーーっ!!??」

そのまま一夏に激突。

砂煙が舞う。

因みに近くにいたタカトは、シャルルを連れてすぐに退避していた。

砂煙が晴れてくると、これまたお約束のように真耶を押し倒すような格好になっている一夏の姿。

しかも、一夏の右手は真耶の胸の上にある。

「あ、あの………織斑君……?」

「え………? あっ!」

頬を染める真耶に声をかけられ、自分の体勢に気付いた一夏が顔を赤らめる。

「こ、困ります……こんな……あ、でも………このままいけば織斑先生が義理のお姉さんってことで……それは、それでとても魅力的な……」

「うわっ!」

とんでもない方向に暴走する真耶から、慌てて一夏は離れる。

その瞬間、先程まで一夏がいた場所をビームが通り過ぎた。

「ッ!?」

一夏が恐る恐るそちらを向くと、額に青筋を浮かべたセシリアの姿。

「オホホ、残念ですわ。 外してしまいました」

満面の笑みを浮かべてそう言うセシリア。

ただ、目が全く笑っていない。

――ガッシィィィン

と、何かが連結される音が聞こえる。

「いいっ!?」

一夏がそちらを向くと、2本の双天牙月を連結させ、振りかぶる鈴音の姿。

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

鈴音は、躊躇いなく一夏に向けてそれを投擲した。

回転しつつ一夏の首目掛けて投げられたそれは、

――ドゥン ドゥン

2発の銃弾により弾かれ、地面に刺さった。

見れば、真耶がライフルを構えており、真耶が今の射撃を行ったのは一目瞭然だった。

「織斑君。 怪我はありませんか?」

真耶がいつも通りの笑顔で、ニッコリと尋ねてくる。

「は、はい………ありがとうございます」

助けられた一夏も含め、殆どの生徒が唖然としていた。

いつものドジな真耶からは想像できないような、見事な精密射撃であったからだ。

「山田先生は、元代表候補生だ。 今ぐらいの射撃なら造作もない」

「む、昔の事ですよ。 それに候補生止まりでしたし………」

千冬の褒め言葉に、真耶は照れたのかそう言う。

「さて小娘共、さっさと始めるぞ」

セシリアと鈴音に向かって千冬はそう言う。

「えっ? あの、2対1で?」

「いや、流石にそれは……」

セシリアと鈴音は遠慮しがちにそう言うが、

「安心しろ。 今のお前たちならすぐ負ける」

千冬はそう言った。

流石にその言葉にはカチンと来たのか表情を変える。

すると、千冬は手を上げ、

「では…………始めっ!!」

振り下ろすと共に開始の合図を出した。

上昇する3人。

模擬戦を開始すると、

「デュノア、山田先生が使っているISの解説をして見せろ」

千冬がシャルルにそう言う。

「あ、はい。 山田先生が使っているISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。 第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは、初期第3世代にも劣らない物です。 現在配備されている量産ISの中では、最後発でありながら、世界第3位のシェアを持ち、装備によって、格闘、射撃、防御といった、全タイプに切り替えが可能です」

丁度、シャルルの説明が終わった時、

――ドゴォォォォォン

真耶の放ったグレネード弾が、セシリアと鈴音に直撃。

2人は地上に落下してくる。

「ううっ………まさかこのわたくしが………」

「あんたねぇ………何面白いように回避先読まれてるのよ!」

「鈴さんこそ、無駄にバカスカと撃つからいけないのですわ!」

言い合う2人。

その時、真耶がゆっくりと地上に降りてくる。

「これで諸君にも、教員の実力は理解できただろう。 以後は敬意をもって接するように」

千冬はそう言うと、

「次はグループになって実習を行う。 リーダーは専用機持ちがやること。 では、分かれろ!」

千冬の号令でそれぞれのグループに分かれる。

「織斑君! 一緒に頑張ろ!」

「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ~!」

「まっつー! よろしくね~!」

当然と言うべきか、男子3名の班は、女子が元気だ。

セシリアと鈴音の班も、まあ普通だ。

しかし、

「……………」

先程から一言も喋れないのがラウラの班だ。

流石に張りつめた雰囲気の中でお喋りしようとは思わないらしく、全員が黙り込んでいる。

まあ、運が悪かったとしか言いようがない。

それぞれで実習を行っていく。

その中でタカトの班。

「良いよ。 その調子」

何人目かの女子生徒の歩行をタカトは見ている。

ぎこちないながらも歩く女子生徒。

「うん。 そこで止まって」

タカトの言葉に、停止する女子生徒。

「いいよ。 じゃあ、次の人に交代だね」

タカトがそう言うと、ISに乗っていた女子生徒は緊張が解けたのかため息を吐き、コクピットから飛び降りる。

「あっ、しまった」

それを見て、タカトは思わず声を漏らした。

ISが立ったままになり、コクピットが高い位置で固定されてしまったのだ。

「ああ、松田君の班もやってしまったんですね。 仕方ありません。 松田君も、今織斑君がやっているように、自分のISを起動させて、次の人をコクピットまで運んであげてください」

タカトが真耶にそう言われ、視線を一夏の班の方に向けると、一夏が白式で箒をお姫様抱っこして運んでいた。

箒の顔は、タカトの位置から見ても真っ赤であることが良くわかる。

「一夏………よく無自覚であそこまで出来るね………」

タカトはいつもの事だが呆れる。

タカトは自分の班に向き直ると、

「えっと……次の人は………」

「はいは~い。 私だよ~、まっつー」

そう言ったのは本音。

お姫様だっこに若干期待しているようだ。

しかし、タカトは一夏と違い、そういう事を意識するため、お姫様抱っこを回避するために、思考をフル回転させた。

その結果、

「あ、そうだ!」

何かを思いついたらしく、グラニを起動させると、Dアークと1枚のカードを取り出し、

「カードスラッシュ!」

カードをスラッシュする。

「ブレイブシールド!」

タカトがスラッシュしたのは、オプションカードのブレイブシールド。

タカトの手に、ウォーグレイモンのブレイブシールドが具現される。

タカトは、それを横にして地面に置くと、

「布仏さん。 これに乗って」

タカトはそう言う。

「む~、仕方ないなぁ~」

お姫様抱っこを期待していた本音は不満の声を漏らしながらブレイブシールドに乗る。

タカトは、ブレイブシールドの端を持って、ゆっくりと持ち上げた。

そして、そのまま浮かんで本音をコクピットまで運んだ。

尚、この後は特に問題なく進んだらしい。




昼。

「おーい、タカト!」

一夏がタカトに声をかける。

「一夏?」

タカトが一夏に向き直ると、

「今日、屋上で飯食わねえか?」

そう言ってきた。

「あ、ゴメン。 僕、これからちょっと用事があるんだ。 悪いけど今日はパス。 また誘ってよ」

そう言ってタカトは断る。

「そうか? まあ、お前もヒュプノスの関係者らしいからな。 色々あるんだろ。 わかった。 今回はパスだな」

一夏はそう言うと、シャルルを連れて教室を出る。

「さてと……」

タカトは、それを見送ると、とあるところに向かって歩き出した。






放課後。

タカトは簪と共にあるところへ向かっていた。

そして、IS学園にいくつかある整備室の1つに辿り着いた。

2人がその部屋に入ると、

「やあ、よく来たね」

ワイルド・バンチの水野 伍郎が2人を出迎えた。

整備室内には、他のワイルド・バンチの面々の姿もある。

「水野さん、すみません。 無理を聞いてもらって………」

「何、気にすることは無いさ。 前も言ったが、僕達で出来る事なら君に協力するよ。 それが例え、君の友達の事でもね」

水野は、簪に視線を移しながら笑みを浮かべる。

「ありがとうございます」

タカトは頭を下げ、簪もつられるように頭を下げた。

「じゃあ、早速だけど。 君のISを見せてもらっていいかな? あと、構想図も」

水野がそう言い、

「簪さん」

タカトが促す。

「うん………」

簪は頷いて前に出ると、右手を軽く突き出す。

その中指に、クリスタルの指輪がはめられていた。

それが一瞬輝くと、簪の目の前に、ISのパーツがいくつも現れた。

「ふむ、これが使うパーツかい?」

水野は、ISのパーツを手の甲でコンコンと叩きながら眺める。

「僕が思うに、これは打鉄を基にした機体だけど、防御型の打鉄とは違い、高機動高火力を求めた機体だと思うんだが………合っているかい?」

水野は簪に向き直ってそう聞く。

それを聞いた簪は、驚いた表情をしながら頷いた。

まさか、殆ど組みあがっていないパーツを見ただけで、自分が求めている構想を当てられるとは思っていなかったのである。

やがて、ある程度準備が整ったのか、他のワイルド・バンチのメンバーも集まってきて、簪の出した構想図を拝見している。

そこで、

「あの、出来れば、今度の学年別トーナメントまでに何とかしてあげたいんですが………間に合いますか?」

それを聞いた、ワイルド・バンチのリーダーのロブは、顎に手を添えて少し考える。

「ふぅむ………正直言うと、かなり厳しいな………この機体に付きっきりになれるならともかく、調査の合間にとなると、約半月では時間的に間に合いそうにない………我々は、ISの専門では無いからね……」

そう言うロブ。

「そうですか………」

ガッカリするタカトと、目立たないが落ち込んだ表情になる簪。

すると、

「まあ、それは普通にやればの話だ。 裏技を使えば何とかならんでもない」

水野がそう言った。

「SHIBUMI、何か方法があるの?」

デイジーが尋ねる。

「まあね。 先日タカト君のISを調べていて、見つけた副産物だ」

水野はそう言うと、

「ただ、これを使うと、君の考えた構想図とは全くの別物になってしまうし、ある意味君の努力を無駄にしてしまう方法だ。 それでもやるかい?」

水野は簪に問いかける。

「え………?」

思いがけない問いかけに、簪は迷う。

そして、ふとタカトを見ると、

「簪さん。 簪さんがしたいようにすればいいよ」

タカトは笑ってそう言った。

簪は一度俯き、目を閉じた。

少しして目を開けると水野の方を向き、

「………お願いします!」

そうはっきりと言った。

「よし、わかった」

水野は頷くと、

「ああそうだ。 大事なことを聞き忘れていた」

思い出したようにそう言い、

「君、デジモン好きかい?」

そう聞いた。

「えっ? は、はい………」

簪は何故そんな事を聞くのかと、困惑しながらも頷く。

「そうか、それならちょうどよかった。 君のISに求める構想に合うデジモンをカードの中から選んでおいてほしい。 出来れば、マシーン型やサイボーグ型の方が望ましいね」

「え……? ど、どうして?」

思わず尋ねる簪。

「それはその時のお楽しみにしておこう」

水野は笑いながらそう言う。

それから、水野は皆に振り返り、

「さあ、まずは形だけでいいから機体を組み上げよう」

そう言う水野。

それぞれのメンバーは作業に取り掛かる。

「………どういうこと?」

タカトに問いかける簪。

「僕にもサッパリ………でも、ワイルド・バンチの人達の能力は確かだから、信じても大丈夫だと思うけど………」

タカトはそう言う。

その日は、それで解散となった。




数日後。

タカトは、今日は一夏達の訓練に付き合うことにした。

一夏達は、放課後に特訓しているのだが、最近はシャルルも一緒に訓練している。

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

現在、シャルルが一夏に説明している。

そして、一夏はそれを真剣に聞いている。

何故なら、一夏にとってシャルルの説明は分かりやすい。

補足しておくと、シャルルの説明していることは、一応箒、セシリア、鈴音から何度も聞いている。

しかし、擬音ばかりの説明――箒――や自分の感覚で表現しようとしたり――鈴音――、あまりにも具体的過ぎて逆に分からい説明――セシリア――ばかりであった。

尚、タカトも自分の感覚で動かしている為、一夏に詳しい説明は無理なのである。

シャルルが話を進めていき、一夏が実際に射撃武器を使ってみることになった。

一夏がシャルルの補助を受けながら、ターゲットを撃ち抜いていく。

一通り撃ち尽くすと、

「おお~」

一夏は何やら感心した声を漏らす。

「どお?」

シャルルが感想を聞くと、

「ああ。 なんか、あれだな。 とりあえず、速いって感想だ」

一夏がそう言ったとき、

「ねえ、ちょっとあれ」

周りの生徒達がざわつきだす。

一夏達がふと見上げると、そこには黒いISを纏ったラウラの姿。

「嘘っ。 ドイツの第3世代じゃない」

「まだ本国でトライアル段階だって聞いてたけど………」

ラウラは、ピットの入り口から一夏を見下ろし、

「織斑 一夏」

一夏に呼びかけた。

「何だよ?」

一夏は少々不機嫌気味に答える。

「貴様も専用機持ちだそうだな。 なら話が早い。 私と戦え!」

そう言うラウラ。

それに対し、

「嫌だ。 理由が無ぇよ」

一夏はそう断る。

しかし、

「貴様には無くとも、私にはある」

「今じゃなくていいだろ? もうすぐ学年別トーナメントがあるんだから、その時で」

一夏はそう言って断ろうとした。

だが、

「なら………」

ラウラが呟くと同時に右肩のレールガンが発射された。

「なっ!?」

一夏にしても、いきなり撃って来るとは思わなかったため、反応が遅れる。

しかしその瞬間、

――ガァンッ

瞬時にタカトが一夏の前に立ち塞がり、イージスで弾丸を弾いた。

タカトがラウラを見上げる。

「君と一夏の間に、どんな関係があるか知らないけど、友達が傷つけられるところを黙って見てるわけにはいかないよ!」

タカトは、グラムとイージスを構えてそう言う。

ラウラはタカトを見据えると、

「私はお前にも聞きたいことがあった」

いきなりそんな事を言った。

「聞きたいこと?」

タカトは思い当たることが無く聞き返す。

ラウラはタカトを見て、

「なぜ貴様はこんな所にいる?」

そう問いかけた。

「……それはどういう意味?」

再び問い返す。

「惚けるな。 この学園の平和ボケした生徒は気付かないようだが、私は騙されんぞ。 貴様はその温厚な性格の裏で、一体どれだけの修羅場をくぐってきた?」

「ッ?」

「貴様の持つその雰囲気。 明らかに幾多の実戦を潜り抜けたものだけが持てるモノだ。 そこまでの力を持ちながら、何故このような腑抜けた場所にいるのかが理解出来ん」

ラウラの言葉に、

「………………言ってることが良くわからないけど、この性格は僕の地だし、争い事は嫌いなんだ。 でも、友達を見捨てるぐらいなら戦うけどね」

タカトはそう言いかえす。

「フン。 まだ惚けるか………まあいい。 今の私の目的は、織斑 一夏ただ一人だ」

ラウラは再び一夏に視線を向ける。

だがそこで、

『そこの生徒! 何をやっている!?』

担当の教師が放送で呼び掛けてきた。

「………フン。 今日の所は引いてやろう」

ラウラはそう言ってISを解除する。

そして、一夏をもう一度見ると、その場を立ち去って行った。





夜。

タカトは簪の専用機の様子を確認しに行き、今は食堂に向かっている最中だ。

簪の専用機は、もうすぐ組みあがるらしい。

ただ、各部の調整や、ソフト面で何も構ってない為、このまま組みあがっても、まともに動かすことすらできない。

それでも、タカトは水野達ワイルド・バンチの皆を信じていた。

タカトが寮の廊下を歩いていると、曲がり角から箒とセシリアに挟まれた一夏が出てきた。

「あ……」

「よ、ようタカト。 お前も夕食か?」

一夏がそう声をかけてくる。

「う、うん、まあ、ってあれ? シャルル君は?」

タカトは、シャルルがいない事に気付いてそう尋ねる。

「あ、ああ! シャルルの奴、風邪ひいたみたいで、部屋で休んでるんだ! だから、夕食はいらないから、俺一人で食堂に向かう所だったんだけど、途中でこの2人が合流してさ……」

一夏は若干焦った仕草でそうまくし立てる。

「ふうん。 そうなんだ。 シャルル君は大丈夫なの?」

タカトがそう聞くと、

「あ、ああ! 風邪って言ってもそこまでひどい奴じゃないから、一晩寝れば大丈夫じゃないか!?」

また焦った表情でそう言う一夏。

するとタカトは、

「それにしても………」

今の一夏の姿を見直す。

一夏の両側には箒とセシリアがそれぞれ腕を絡めている。

「…………両手に花だね。 一夏」

タカトがあきれた表情で呟く。

「な、何の事だよ?」

「………分からないならいいよ」

タカトは、そう言うと少し早歩きで食堂へ向かい、一夏達から離れる。

タカトなりの気遣いであった。

その後、一夏がどうなったのかはご想像にお任せする。








更に数日後。

タカトは、放課後に簪と一緒にワイルド・バンチに呼ばれ、整備室に向かっていた。

整備室に入ると、組み上がっている打鉄弐式の姿。

しかし、出来たのは形だけで、まともに動かせる状態ではない。

「来たね、2人とも」

水野がそう言うと、タカトに向き直り、

「アークを貸してくれるかい?」

「あ、はい」

水野はタカトからDアークを受け取ると、とある操作をしてDアークのコネクター口を開くと、そこにコネクターを接続する。

「どうするんですか?」

タカトが尋ねると、

「ああ。 君のグラニで使っている、カードスラッシュ機能を利用するのさ」

水野はそう答える。

「カードスラッシュを? でもあれは時間制限が………」

タカトはそう言おうとすると、

「それは、グラニ自身が基本の姿を記憶して、その姿に戻ろうとするからだ。 だったら、ISそのものにカードスラッシュしたものを基本の姿として覚え込ませればいい」

水野はそう説明する。

「でも、どうやって?」

「これを使うのさ」

水野が取り出したのはブルーカード。

「あっ、ブルーカード!」

「まあ、IS用に少し変更してあるけどね」

水野はそう言うと、簪に向き直る。

「使うカードは決まったかい?」

「は、はい……これです………」

簪は、自分が選んだカードを水野に見せる。

「ほほう………確かにこれなら高機動高火力。 そして、サイボーグ型。 いいチョイスじゃないか」

水野は笑ってそう言うと、簪にカードを返す。

「じゃあ、いくよ」

水野はブルーカードとDアークを構え、

「カードスラッシュ!!」

ブルーカードを勢いよくスラッシュした。

すると、組み上がっていた打鉄弐式の装甲が量子化し、形が崩れ始め、唯の量子の塊のようなものになる。

すると、

「さあ、君の選んだカードをスラッシュするんだ」

水野はDアークを簪に渡した。

「えっ? あのっ………」

いきなり渡された簪は困惑する。

「簪さん。 いつも僕がやってるみたいにスラッシュすればいいんだよ。 この機体は簪さんのものだから、簪さんがスラッシュするべきだよ」

タカトは笑ってそう言った。

「う、うん……」

簪は、困惑しながらも頷き、Dアークとカードを持って量子化した打鉄弐式を見つめた。

(私の………専用機………)

簪はその想いを胸に、Dアークとカードを構えた。

「カードスラッシュ!」

簪は、手に持ったカードをDアークにスラッシュする。

そのカードの名は、

「メタルガルルモンX!」

そのカードをスラッシュした瞬間、量子化した打鉄弐式が再び形を取り始める。

しかし、先程の形とは全く違っていた。

薄い水色だった機体色は濃い蒼へ。

右肩にはレーザーキャノン。

左肩には6連装ミサイルランチャー。

右手にはビームガンが装備され、左腕はガトリングガン『メタルストーム』となった。

更に両足にもミサイルポッドが装備されており、背中にはバーニア。

傍らには、強力なミサイルランチャー『ガルルトマホーク』。

そして、必殺の冷凍砲『コキュートスブレス』があった。

「よ~し、成功だ」

水野が思わずガッツポーズをとる。

「よし、簪さん。 早速、ISを装着してみてくれ。 フォーマットとフィッティングを行う」

ロブの言葉に簪は頷き、新しい打鉄弐式を装着した。

それに伴い、周りのメンバーたちが忙しなくキーボードを叩く。

そして5分後。

作業が完了したらしく、ISが簪にピッタリのサイズになり、簪も自分専用になったことを理解した。

簪はISを解除すると、待機状態のクリスタルの指輪になる。

すると、簪はワイルド・バンチの面々に向き直り、

「あ、あのっ………本当にありがとうございました!」

簪はそう言って頭を下げる。

「気にしないでほしい。 我々も、実に有意義な時間を過ごさせてもらった」

そう言うロブ。

それでも何度かお礼を言う簪。

すると、今度はタカトに向き直り、

「タカト君も……本当にありがとう。 タカト君が居なかったら、私、ずっと自分の殻に閉じこもってた……」

微笑みを浮かべながらそう言った。

「そんな……大したことはしてないよ。 僕は少し後押ししただけだよ。 簪さんが自分の殻から出てこれたのは、簪さんの勇気だよ」

そう言うタカト。

「それでも、本当にありがとう」

「そ、そこまで言うなら、どういたしましてと言っておくよ」

タカトは照れたのか、頬を染めながら視線を逸らす。

「そ、それでね……タカト君」

「何? 簪さん」

「も、もう一つお願いがあるんだけど……」

「お願い?」

「こ、これ………」

簪が顔を赤くしながら差し出したのは、1枚のプリント。

タカトはそれを受け取り、内容を読む。

「え~っと、『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加を必須とする。 尚、ペアが出来なかったものは、抽選で選ばれた生徒同士で組むものとする』。 これって………」

タカトは視線を簪に戻すと、

「タッ、タカト君………そのっ………わ、私と組んで………貰えないかな………?」

顔を真っ赤にしてそう言う簪。

そんな簪に、タカトは笑みを浮かべ、

「喜んで」

迷いなく頷いた。

タカトの言葉に、パアッと表情が明るくなる簪。

「フフッ、若いっていいわね」

その様子を、デイジーが微笑ましく見ていた。

「しかしどうするんだ彼。 確かルキって子もいただろう?」

スキンヘッドが特徴のバベルがそう言う。

「それは、あの子が決める事よ」

そう言いながら、再びタカト達を見つめるデイジーだった。




タカトが簪と別れ、整備室から戻っていくと、何やら医務室が騒がしかった。

タカトが医務室を覗くと、ベッドに包帯を巻いたセシリアと鈴音。

その近くで一夏とシャルルが2人と何か話していた。

「一体如何したの? 一夏」

「ああ、タカト。 実は………」

一夏が何があったかを説明する。

簡単に言えば、セシリアと鈴音はラウラに挑発され、挑んだ結果返り討ちにされた。

しかし、ラウラはセシリアと鈴音が動けなくなっても執拗に攻撃をつづけ、大怪我しそうになるところを一夏が乱入。

一悶着あって千冬が両者を止めて、今に至るという事らしい。

一夏の説明が終わった時、何故か地響きが聞こえてきた。

その瞬間、吹き飛ぶドア。

すると、大勢の女子がなだれ込んできた。

そして、あっという間に一夏、シャルル、タカトの周りに集まる。

「な、何なんだ?」

「ど、如何したの皆?」

訳の分からない一夏とシャルルはそう質問する。

しかし、タカトはなんとなく予想がついた。

「「「「「「「「「「これ!!」」」」」」」」」」

女子達が一斉に取り出したのは、先程タカトが読んだ学年別トーナメントのお知らせ。

一夏とシャルルがそれを読むと、

「私と組も? 織斑君!」

「私と組んで! デュノア君!」

「私と組んでください! 松田君!」

次々に迫られる。

すると、一夏はパンッと手を合わせ、

「皆悪い! 俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

そう言った。

「まあ、そういう事なら」

「他の女子と組まれるよりはいいしね」

「男同士っていうのも、絵になるしね」

女子達は、どうやら一夏とシャルルの事は諦めたらしい。

という事は、

「「「「「「「「「「私と組んで! 松田君!」」」」」」」」」」

残ったタカトに全員が集中する。

タカトは、女子達の勢いに若干引きながら、

「ゴ、ゴメン………僕も組む相手は、もう決まってるんだ」

「「「「「「「「「「ええ~~~~~~!」」」」」」」」」」

落胆の声を漏らす女子達。

「何組の誰?」

そんな質問が来た。

「えっと、四組の専用機持ちの、更識 簪さんだよ」

タカトがそう言うと、

「えっ? でも、更識さんの専用機って、まだ完成してない筈じゃ……」

四組の生徒らしい女の子がそう言うが、

「それは大丈夫。 ついさっき完成したから」

タカトはそう説明する。

女子達は落胆しつつ医務室を出て行った。









そして時間が流れ、学年別トーナメントを迎える。










あとがき

第九話の完成。

打鉄弐式魔改造の回。

とりあえずあんな感じにしてみましたが、納得できますかね?

あと、少々時間をすっ飛ばしました。

特にネタも無かったし。

あと、タカトはシャルが女という事を知りません。

簪の手伝いで忙しかったですし、タカトは仲間や友達を疑うという事は、絶対にしそうにないので。

ともかく、次回はトーナメント開始。

タカトと簪のペアに当たる相手はご愁傷様です。

では、今回使ったカード説明を。




・ブレイブシールド

ウォーグレイモンのブレイブシールドを発生させる。強度はイージスに勝るとも劣らないが、普段はイージスがあるため、使う意味が全くない。





そして、リクエストの結果発表です。

パートナーのつくキャラ


1 12票

2 17票

という事で、2番の、楯無、簪、一夏に決定しました。

あと、ギルモンの再会ですが…………

ゴメンナサイ!!

モロバレの方が感動的になると前回言ったのですが、脳内でストーリーを組み立てていく内に、とても微妙になってしまいました。

なので、感想版で意見があった、前のラウラフラグの時のようにあらすじを書いてリクエストを取ろうと思います。



先ずは

1、モロバレの場合

タカト達が臨海学校へ向かう途中、山木から行先にリアライズ反応があると報告がある。

タカトは単独で自由時間にデジモンの捜索を始める。

タカトと入れ違いになる様に生徒達の前にギルモンが現れる。

デジモン=敵という先入観がある専用機持ち達は、ギルモンに向かって攻撃開始。

一斉攻撃をギルモンに放った時、タカトがギルモンを庇い、グラニ大破。

皆の誤解を解いて、1日目はギルモンと一緒に遊ぶ。

2日目の束が現れたとき、シェルモン襲来。

束がタカトの実力見たさにISを一時的に停止させたため、タカトがギルモンを進化させてシェルモン撃退。(簪のフラグ強化)

その後は福音事件。

一夏と箒は原作通りやられます。

リベンジマッチでは一夏ヒロインズ+簪で。

タカトはグラニ大破の為居残り。

しかし、一夏が飛び出して行ったあと、福音との戦闘区域で山木から完全体のリアライズ反応が出たと知らせが来る。

メガログラウモンに進化させ救援に向かい、完全体デジモン撃破。

そのあとは、IS学園でもモロバレ状態で生活します。

こんな所です。

セリフも少々。

「タカトーーーー!」

「ギルモーーーーン!!」

「やっと会えたね、ギルモン」

「タカト、遊ぼ?」

「カードスラッシュ! 超進化プラグインS!」

「ギルモン進化!」

「カードスラッシュ! マトリックスエボリューション!」

「メガログラウモン!」






2、少し秘密にする場合。

福音の一夏撃墜までほぼ原作通り。

リベンジマッチに一夏ヒロインズ+タカト、簪。

その途中で、簪を庇い、タカト撃墜、小島に落ちる。

朦朧とする意識の中、デジタルフィールド発生、その中でギルモンと再会。

ギルモンと接触したことでギルモンの中のグラニのデータがDアークを通じてグラニへ。

グラニの意志復活+二次移行。

一夏が救援に来ても劣勢だった状態をタカトが入ったことで盛り返す。

福音撃破。

そこで成熟期デジモン襲来。

ギルモンを進化させ、それを撃破。

一応ギルモンの事は学園の皆には秘密にするということで一夏達が四苦八苦。

ギルモンの存在を知るのは、一夏+一夏ヒロインズ、簪、楯無(同室の為)。

ギルモンダンボール生活。

グラニ、手乗りサイズで自由行動可。

では、セリフを。

「簪さん! これを!」

「………ううっ………皆が……戦ってる………」

「タカト……」

「ギルモン………?」

『プログラム修復! また会えたね、タカト、ギルモン』

「カードスラッシュ! マトリックスエボリューション!」

「ゼロアームズ・グラニ! 二次移行!!」

「クォ・ヴァディス!!」

「カードスラッシュ! 超進化プラグインS!!」

「ギルモン進化!」






こんなとこですかね?

あと、グラニの意志復活はモロバレルートでもデジタルワールド編でやりますので心配ないです。

そしてもう1つ。

感想の中でいくつか意見がありましたが、簪と楯無の究極体は女性型が良いという意見がいくつかありましたので、これもアンケートを取ります。

ただ、一夏はドルモン=アルファモンで決定ですので。

これは変えるつもりはありません。


では、



1、ブイモン=マグナモン

2、テイルモン=オファニモン



楯無

1、ブイモン=アルフォースブイドラモン

2、ルナモン=ディアナモン



自分が合っていると思ったのはこんな所ですかね?

では、投票お待ちしてます。





[31817] 第十話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/05/06 23:24
第十話 激戦! 学年別トーナメント!




学年別トーナメント当日。

タカト、一夏、シャルルは、男子専用に宛がわれた更衣室でISスーツに着替えていた。

「しかし、すごいなこりゃ」

一夏がモニターに映る大勢の観客を見て、声を漏らす。

「3年にはスカウト。 2年には1年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

シャルルがそう説明する。

「ふーん、ご苦労なことだ」

一夏は、特に興味もないと言った雰囲気でそう言った。

「そういえば、箒は誰と組むんだ?」

一夏はふと呟く。

一夏と親しい間柄の内、セシリアと鈴音は、ISがダメージレベルCを超えている為出場しない。

シャルルは自分と組み、タカトは4組の専用機持ちである簪と組む。

すると、残る箒は誰と組むか気になったのだ。

「ペアが決まってない人は、抽選で決まるらしいけど………」

タカトがそう言う。

「一夏は、ボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね?」

シャルルが一夏を見てそう言った。

「ん? あ、ああ。 まあな」

「感情的にならない方がいいよ。 ボーデヴィッヒさんは多分、1年の中でも最強に近いと思う」

「ああ、分かってる」

シャルルの言葉に一夏は頷く。

その時、モニターが切り替わり、トーナメント表が表示された。

「あ、対戦相手が決まったね」

その言葉に、モニターに向き直る2人。

「えっ!?」

「なっ!?」

シャルルと一夏が驚愕の声を上げる。

モニターに映し出されたトーナメント表には、

第2試合 織斑 一夏、シャルル・デュノア×ラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之 箒

そう表示されていた。

「まさか一戦目で当たるなんて…………しかも、ペアが篠ノ之さん………」

「丁度いいぜ……勝ち進む手間が省けたってもんだ!」

一夏は勇ましくそう言う。

因みに一夏とシャルルは自分たちの試合で頭が一杯で気付かなかったが、第一試合には、タカトと簪のペアの試合が設定されていた。





第一試合直前。

タカトは簪と一緒にピット内にいた。

「まさか、第一試合からなんて驚きだよ」

タカトは笑いながらそう言う。

「う、うん……頑張ろうね……」

簪は、少し緊張しているらしく、声に震えを感じる。

「簪さん。 そんなに緊張しなくても、簪さんなら大丈夫だよ」

タカトがそう言うと、試合開始準備の連絡が入る。

タカトは、Dアークを取り出すと、

「行くよ! グラニ!」

その言葉と共に、タカトの身体にISが装着される。

続けて簪も右手を前にだし、

「来て、蒼狼そうろう

打鉄弐式改め蒼狼を展開した。

「じゃあ簪さん、行こうか」

「うん」

タカトの言葉に簪は頷き、アリーナ内へと飛び立った。





アリーナの中央部分に、タカト、簪ペアと相手のペアの合計4人が相対する。

試合開始の合図を待つ4人。

そんな4人を観客に混じって見つめる楯無の姿があった。

「簪ちゃん………本当に専用機が完成したのね…………よかった………」

簪の蒼狼を見つめながら、そう呟く楯無。

次に、タカトに視線を移すと、

「タカト君………本当にありがとう……」

楯無は、約束を守ってくれたタカトに感謝する。

「タカト君なら……もしかしたら………」

もう一つの約束も守ってくれるかもしれないと、楯無は思った。





会場の緊張が高まる中、遂に試合開始のカウントダウンが表示された。

――3

4人がそれぞれ構えを取る。

――2

ざわついていた観客たちが静まり返る。

――1

緊張感が最大限に高まり、

――0

その表示と共に、タカトは真正面に突撃する。

しかし、相手のペアは開始と同時に空高く飛び上がった。

「くっ」

タカトは思わず声を漏らす。

「松田君のISは空中戦闘が苦手な事は確認済み! このまま空中で戦うわよ!」

相手の1人がそう言いながら、ライフルを乱射する。

「っと」

タカトは慌てず、飛び退いてその射撃を避ける。

しかし、相手は無理な深追いはせず、空中にとどまる。

相手の2人は徹底的に空中で戦うようだ。

相手のISは2人ともラファール・リヴァイヴ。

2人は射撃武器を展開して構えている。

近距離に強いタカトへの対抗策だ。

装備が豊富なラファール・リヴァイヴの強みだろう。

タカトが少し困っていると、

「………私に任せて」

簪はそう言うと、蒼狼のブーストを作動させ、宙に浮かぶ。

「無茶はしないでね」

「うん」

タカトの言葉に簪は頷くと、相手の2人に向かって飛んで行く。

「いくら代表候補生でも、2人がかりなら!」

「ええぇーい!」

2人は、簪に狙いを定め、ターゲットロックをした。

そして、一斉に放とうとした瞬間、

「駆けて、蒼狼」

簪がブーストを最大にし、一気に加速した。

凄まじいスピードで2人に接近する簪。

「嘘っ!?」

「は、速っ!?」

そのスピードで、ロックを振り切る。

2人が放った弾丸は、軌道修正が追い付かず空を切る。

簪はそのまま2人の間を突破。

あっという間に2人の上を取った。

簪はすぐさま振り返り、

「ターゲットロック………」

相手の2体を同時にロックオンする。

背中に収まっていた右肩のレーザーキャノンと左肩の6連装ミサイルランチャー、脚部のミサイルポッドが展開される。

そして、

「行って、ガルルバースト!」

高出力レーザーと無数のミサイルが発射される。

「「へっ? きゃぁあああああああああっ!?」」

高出力レーザーが2人を分断。

そして、それぞれにミサイルが襲い掛かる。

一方は更に空中に逃げ、もう一方は地上へと逃げる。

しかし、

「あっ! 馬鹿! 下に逃げたら!」

上へ逃げた方が叫ぶがもう遅い。

「へっ?」

下に逃げた方が声を漏らした瞬間、

「はっ!」

タカトのグラムによる一閃を受けた。

「きゃあっ!?」

一撃を受けたことで、動きが鈍り、そこにミサイルが襲い掛かる。

「うきゃぁああああっ!?」

シールドエネルギーが激減する。

「あうぅ………」

ミサイルを受けながらもなんとか起き上がるが、目の前にはグラムの切っ先を向けたタカトの姿。

「ゴメンね」

タカトは一言謝ると、

「ロイヤルセーバー!!」

グラムの切っ先からエネルギーが放出され、相手を飲み込んだ。

当然、相手のシールドエネルギーは0になった。



空中では、何とかミサイルを振り切った相手と簪が相対していた。

「あのISは射撃型。 だったら接近すれば!」

相手は、一か八か接近戦を挑む。

ブレードを呼び出し、出せる最高のスピードで簪に突撃した。

しかし、瞬時加速ならばともかく、唯の加速ならば簪にとって見切るのは容易い。

そして、蒼狼の機動力は、ISの中でも最高峰に位置する。

相手の決死の攻撃も、悲しく空を切った。

瞬時に相手の後ろに回り込む簪。

「………射撃武器が、近接戦闘に弱いとは限らない………」

簪は、左腕のガトリングガン、『メタルストーム』を構える。

「……近距離だからこそ、効果を最大限に発揮する射撃武器もある」

メタルストームが回転を始め、

「……メタルストーム!」

そこから無数の弾丸が吐き出される。

「きゃぁあああああああああっ!!」

至近距離で放たれた弾丸は、外れることなく全弾命中する。

ガリガリと削れていくシールドエネルギー。

簪は右手を向けてビームガンを撃つ。

その一撃で、地面に叩き落とされる相手。

そして、相手が体勢を立て直す前に右手に大型のミサイルランチャーを展開する。

そのまま相手をロックし、

「ガルルトマホーク!」

大型のミサイルを発射した。

数は1発だけだが、その威力は今までの比ではない。

――ドゴォォォン

大爆発に呑まれる相手。

爆煙が晴れた後には、

「きゅう…………」

目を回して気絶している相手の姿。

もちろんシールドエネルギーは0だ。

『勝者 松田 タカト、更識 簪ペア』

勝利判定に湧き上がる会場内。

「やったね! 簪さん!」

笑顔で簪に声をかけるタカト。

「う、うん………」

遠慮がちに頷く簪。

そんな簪を見て、

「そんなに恥ずかしがらなくても、素直に喜べばいいのに」

苦笑しつつ呟くタカト。

「あ、そうだ。 簪さん、ちょっと手を挙げて」

思いついたようにそう言うタカト。

「えっ?」

声を漏らしながらも、言われた通り手を軽く上げる簪。

タカトは笑みを浮かべながら近付き、

――パンッ

その簪の手に、ハイタッチした。

「えっ? あ………」

簪は若干困惑するが、

「やったね。 簪さん」

そう言われ、

「………うん!」

簪も笑みを浮かべて頷いた。





タカト達の試合の様子をピットのモニターで見ていた一夏とシャルルは、

「スゲーなタカト達。 ノーダメージの完封勝利かよ」

一夏が驚きながら、

「あ、あはは………思った以上に強敵だね」

シャルルは、タカト達の強さが予想以上だったのか、苦笑しつつそう言う。

何故なら、もしラウラ達との試合に勝ったのなら、次に当たるのはタカト達だからだ。

「とにかく、今は目の前の試合に集中だ」

「そうだね。 ボーデヴィッヒさんに勝たない事には、次の心配をしても仕方ないし」

2人は気持ちを切り替えてそう言った。




反対側のピットでは、ラウラがモニターを見つめていた。

「フン。 相手が弱すぎたか。 奴の実力を見るいい機会だと思ったが………まあいい。 どちらにせよ、私の目的は織斑 一夏ただ一人」

ラウラはそう言うと、瞳の奥に闘志を滾らせた。






そして、準備が整い、一夏、シャルルペアとラウラ、箒ペアがアリーナの中央部分で睨み合う。

「一回戦目で当たるとは………待つ手間が省けたというものだ」

ラウラが一夏に向かってそう言う。

「そりゃあ何よりだ。 こっちも同じ気持ちだぜ」

一夏もそう言い返した。

試合開始のカウントダウンが開始され、0になる瞬間、

「「叩きのめす!!」」

一夏とラウラが同時に叫び、一夏が一直線に突撃した。




その様子を、試合を終えたタカトと簪が見ていた。

「タカト君は………この試合、どっちが勝つと思う?」

簪がそう問いかける。

「そうだね………もし1対1だったら、間違いなくボーデヴィッヒさんが勝つよ。 一夏には悪いけど、ボーデヴィッヒさんは、1年の中でもトップクラスだから」

「じゃあ、この試合も………?」

「………どうだろうね? 確かにボーデヴィッヒさんは強いけど、それは個人的な強さでしかない。 しかも、試合を見てると、篠ノ之さんと力を合わせるつもりが全くないから、チーム戦であるこの試合だと、どっちに転ぶか分からないよ」

タカトの言うとおり、試合内容は互角。

箒は既にシャルルによって沈黙させられており、現在はラウラとの2対1で戦っている。

個人的な実力はラウラがずば抜けているのだが、2人のコンビネーションは戦いを互角に、いや、僅かに優勢に持って行く。

相手の動きを止めるラウラのISの第三世代兵装、『AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)』も、停止させる対象物に意識を集中させなければならない為、2人相手では効果を十分に発揮できない。

一方が動きを止められれば、もう一方がラウラに攻撃を仕掛け、追撃を許さない。

試合は一進一退を続けていたが、ある時、状況が動いた。

一夏の白式が、『零落白夜』の発動しすぎでエネルギーが尽きてしまった。

ここぞとばかりに反撃に出るラウラ。

シャルルが応戦するも、1対1ではラウラが勝っている。

しかし、一発の銃声が鳴り響き、ラウラの動きを止める。

それは、シャルルのアサルトライフルを、一夏が使って撃ったものだった。

一夏が銃を使ったことに驚くが、その隙にシャルルがラウラの懐に飛び込む。

すると、シャルルのシールドの外装がはじけ飛び、中から巨大なパイルバンカーが姿を見せる。

シャルルがそのパイルバンカーをラウラの腹部に押し当て、一気に炸裂させた。

その威力に一気に吹き飛ばされ、シールドエネルギーを激減させるラウラ。

歓声が沸く会場。

シャルルが追撃をかけ、アリーナの塀にラウラを押し付け、パイルバンカーを連射する。

見る見る減っていくラウラのシールドエネルギー。

このままシャルルと一夏の勝利と思われた。

しかし、突然ラウラが叫び声を上げると共にISに電光が走り、装甲が溶け出すように形を変えて行った。

その姿は、全身が真っ黒で、ISを纏った女性の姿だった。

「何だ………あれ?」

モニターを見ていたタカトは思わず呟く。

この時点で、アリーナには警戒態勢が敷かれ、シェルターが降りる。

すると、突然一夏がその相手に向かって斬りかかる。

だが、あっさりと剣を弾かれ、逆に一撃を受けて地面を転がる。

その際に白式もエネルギーが尽きたのか、強制解除された。

「一夏っ!」

タカトが叫ぶ。

それでも一夏は、何を考えたのか、素手で殴りかかろうとして箒に止められている。

「一夏………」

警報が発令されたため、アリーナ内への通路は遮断されており、タカトは、唯見ているしか出来なかった。




アリーナ内では、一夏がシャルルからエネルギーを受け取り、右腕と武器だけを展開した。

「行くぜ! 千冬姉の偽物やろう!!」

一夏が零落白夜を発動させ、雪片が展開する。

一夏が相手に向かって構える。

それに反応したのか、相手も一夏に向かって突っ込んできた。

一夏はその一撃を往なし、返す刀で相手の胴部を袈裟懸けに切り裂いた。

その切り口から、ラウラが力なく倒れてくる。

そのラウラを一夏が抱きとめた。

「ま、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

一夏はラウラの様子を見て、そう呟いた。






夜。

トーナメントの中止が発表され、生徒たちは夕食を取っている時間だった。

和気藹々と食事をとるグループの中、重苦しい空気が漂うテーブルが1つ。

それは、

「………………」

「………………」

「あ、あの~………」

一言も話さず沈黙してお互いに気まずく見つめ合う楯無と簪。

そして、あまりの気まずさに何とかしようと奮闘する、この場を設けたタカトであった。

タカトは楯無に、勝利のお祝いを口実に簪と話をしてはどうかと持ちかけた。

それで、楯無も勇気を出して簪と向き合ったのだが、こうして一言も話さず沈黙している。

すると、

「あ、あの……簪ちゃん」

楯無が勇気を出して一言を発する。

「………………何? 姉さん」

間があったが答える簪。

「えっとね………トーナメントは中止になっちゃったけど、その………一回戦突破、おめでとう………」

「……あ、ありがとう………」

予想外だったのか、簪は僅かに驚いた顔をしてそう返した。

「「…………………………」」

しかし、またも黙りこむ2人。

焦るタカト。

「あ、あの、楯無先輩?」

何とか話題を振ろうとタカトは楯無に声をかける。

「な、何かしら? タカト君」

楯無もどうすればいいか分からないのか、若干焦り気味で答えた。

「え、え~っと…………そうだ! ちょっと気になってたんですけど、楯無先輩って、何でデュークモンの事を知りたかったんですか?」

話題が思いつかず、そんな事を言ってしまうタカト。

タカトは言ってから簪に関係ない事を言ってしまったと後悔した。

「………デュークモン?」

簪は、デジモンの名前と思われる言葉に反応する。

「えっとね、簪ちゃん………4年前に私達を助けてくれたこのデジモンの事よ」

楯無はそう言いながらデュークモンの写真を見せる。

「このデジモン………」

その写真をじっと見つめる簪。

「何で、名前が分かったの?」

楯無に尋ねる簪。

「タカト君が教えてくれたのよ。 タカト君はヒュプノスの関係者だからね。 もしかしたらって思って聞いてみたら、知ってたのよ」

「そうなの?」

タカトの方を向きながらそう言う簪。

「う、うん………簪さんもデュークモンに関係あるみたいだけど、一体何があったの?」

頷きながらタカトはそう聞き返す。

すると、

「タカト君は、4年前にあった事件は覚えてる?」

簪はそう聞く。

「4年前の事件って、デ・リーパー……あの、赤い泡みたいなのが世界中に現れた事?」

「うん」

「私達は、家の都合上、そう簡単に避難するわけにはいかなくてね。 最後の方まで残ってたの」

楯無もそう説明する。

「それで、ようやく避難しようとしてた矢先に、口がいっぱい付いた………たしか、エージェントって呼ばれてた怪物に襲われたの」

「ボディーガードの人達もあっさりとやられちゃって、私達も、もうダメって思った」

2人が説明を続ける。

因みに何故か2人は自然と話せていた。

「その時なのよ。 デュークモンが現れて、私達を助けてくれたのは」

「うん。 本当にカッコよかった………身を挺して私達を守ってくれて……」

「輝く槍の一撃で、相手を倒したの」

「本当に、物語のヒーローみたいに………」

2人はそう話す。

その話を聞いて、タカトは思い出していた。

(そういえば、デ・リーパーとの最終決戦に向かう途中で、2人の水色の髪の女の子を助けたことがあったっけ………じゃあ、その時の女の子が楯無先輩と簪さん……)

タカトは、ようやくその時の事を思い出す。

「因みにそれが切っ掛けね。 私達がデジモンに興味を持つようになったのは」

「えっ? そうなんですか?」

楯無の言葉にタカトは驚く。

「ええ。 1回だけだけど、カードゲームの大会にも出たことあるし」

「へ~」

タカトは声を漏らす。

「私も簪ちゃんも、同じ相手に負けちゃったけどね」

楯無は笑いながらそう言う。

「でも、2人を倒すなんて、相手は誰だったんですか?」

タカトがそう聞くと、

「本名は知らないけど、デジモンクイーンって呼ばれてた」

簪がそう言う。

(あはは……ルキが相手なら、2人が負けるのも納得だね……)

タカトは内心苦笑する。

自然に話している2人を見て、少しは距離が縮まったかなと思うタカトだった。

尚、2人の仲を取り持つのに集中していたため、タカトは本日から解禁になった男子の大浴場に入り損ねたことを記しておく。







翌日。

「………今日は皆さんに……転校生を紹介します………」

真耶が歯切れ悪くそういう。

それと共に、教室に入ってくる1人の少女。

それは、

「シャルロット・デュノアです。 皆さん、改めてよろしくお願いします!」

女子の制服を纏っているが、間違いなくシャルルであった。

「え~っと、デュノア君は、デュノアさんって事でした……」

真耶の言葉に、

「は?」

「え?」

箒とタカトが声を漏らす。

それを切っ掛けにクラスメイトが、ざわつき出す。

「えっ? じゃあデュノア君って女?」

「おかしいと思った。 美少年じゃなくて、美少女だったわけね」

「って織斑君! 同室だから知らないってことは……」

「ちょっと待って! 昨日って男子が大浴場使ったわよね!?」

その瞬間、

――ドガァン

教室の壁を破壊して、ISを纏った鈴音が現れる。

「いぃぃぃぃぃちぃぃぃぃぃぃぃかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

怒りの形相で鈴音が衝撃砲を発射しようとする。

「ちょっと待て! 俺死ぬ! 絶対死ぬぅぅぅぅぅっ!!」

一夏の叫びも空しく、衝撃砲が発射される。

一夏は覚悟して目を瞑る。

しかし、

「あれ? 死んでない………?」

一夏が目を開けると、目の前には、AICで鈴音の衝撃砲を防いだラウラの姿。

「ラウラ! 助かったぜ、サンキュー……」

と、一夏が言いかけたところでラウラが一夏に振り向き、一夏の腕をつかんで引き寄せると、

「うむっ?」

躊躇なく唇を合わせた。

その瞬間固まる教室。

少しして離れると、

「お、お前は私の『嫁』にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」

そう宣言した。

「「「「「「「「「「えええええええええ~~~~~~~~~~~っ!!!」」」」」」」」」」

教室が絶叫に包まれた。








あとがき

第十話完成。

遅れてすみません。

第二次スパロボZ再世編をやってました。

スパロボにデジモンが出てほしいと思う自分は既に手遅れでしょうか?

さて、今回はタカト達の試合。

予想通り一方的なフルボッコでした。

手抜きですが一夏達の試合。

あまりにも原作通り過ぎたので………

おまけに楯無と簪の仲直りの切っ掛け作りです。

さて、次はいよいよ臨海学校編。

ギルモンの登場も近い。

そのギルモンですが、

1、モロバレ 10票

2、少し秘密 18票


で、2の少し秘密で行きます。


それから楯無と簪のパートナーは、圧倒的に女性型の方がいいという事で2番となりました。

因みに、2人のパートナーがテイルモン=オファニモン、ルナモン=ディアナモンになったわけは、楯無は水のイメージがあるので水と氷の力を司るということでディアナモン。

簪は何か儚いイメージがあるので、アドベンチャーでどことなく儚げだったヒカリのパートナーのテイルモンです。

究極体は違いますが。

では、次も頑張ります。






[31817] 第十一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/05/06 23:21


第十一話 オーシャンズ・イレブン





学年別トーナメントの一件から暫くして。

IS学園の行事である臨海学校が近付いてきたため、タカトは水着を買いに街に来ていた。

本当は、一夏を誘おうと思っていたのだが、一夏がシャルロットを誘っていたため、邪魔するのも野暮かと思い、1人で来たのだ。

まあ、タカトはあまり買い物に時間をかけるタイプではないので、すぐに水着を買い終わる。

タカトが店を出ようとすると、

「そこのあなた」

いきなり呼び止められる。

「え?」

「男のあなたに言ってるのよ。 そこの水着、片付けておいて」

と、いきなり知らない女性からそう言われる。

ISが普及した10年で、女尊男卑の社会となり、女性が優遇される現在。

このように男が見ず知らずの女性から命令されることも少なくない。

「あの、自分で出したもの位自分で片付けないと、人としての品性が疑われますよ?」

タカトはやんわりと断ろうとするが、

「ふうん、そういうこと言うの。 自分の立場が分かってないみたいね」

そう言って、その女性はいきなり警備員を呼ぼうとする。

女尊男卑の世の中、例え出鱈目でも『いきなり暴力を振るわれた』などと言われれば、問答無用で有罪になりかねない。

と、その時、

「ちょっといい?」

別の女性の声がした。

「なによ?」

先程の女性は、鬱陶しそうにそちらを見る。

タカトもつられてそちらを見た。

すると、

「そいつ、私の連れなのよ。 悪いんだけど、他を当たってくれる?」

そこには、茶髪をポニーテールにした少女、ルキがいた。

「ルキ!?」

タカトは思わず名を呼ぶ。

「あなたの男なの? 躾ぐらいしっかりしなさいよね」

その女性は馬鹿にしたようにそう言うが、

「人の男に躾っていう前に、自分を躾けたらどうかしら? いくら自分に男がいないからって、嫉妬は見苦しいわよ」

「なっ!?」

ルキの物言いに、図星だったのか、顔を真っ赤にして怒りを露わにする。

「あら図星? まあ当然よね。 自分で出したものも片付けられないんじゃあ、言い寄る男なんているはずないわよね。 女としての品性が欠片も感じられないわ」

ルキは澄ました顔でそう続ける。

「こ、子供が調子に………」

相手の女性は何とか言い返そうとするが、

「子供? 少なくとも、あなたよりは大人のつもりよ。 私、自分で出した物ぐらい、自分で片付けるし」

ルキの正論に、黙らされる女性。

「じゃあタカト。 行くわよ」

ルキはタカトの手を取ると、店の外に引っ張っていった。




店の外に出ると、

「ルキ、助かったよ。 助けてくれてありがとう」

タカトはそう礼を言う。

「べ、別にお礼なんかいいわよ。 偶々見かけただけだし、私もああいう勘違いした女は気に入らなかったし………」

ルキはお礼を言われて照れたのか、そっぽを向く。

ただ、その頬は若干赤い。

「それでも、ありがとう」

タカトは微笑んでそう言う。

「そ、そこまで言うなら、ちょっと買い物に付き合いなさいよ。 丁度荷物持ちが欲しいって思ってたところなのよ」

ルキは、そっぽを向きながらそう言った。

「いいよ。 その位ならお安い御用さ」

タカトは即答する。

「な、なら行くわよ!」

ルキは赤くなった顔を見られないように、早歩きで歩き出した。

尚、買い物を続ける間、ルキの頬が赤かったのは、気のせいという事にしておこう。






時は流れ、臨海学校当日。

「今11時でーす! 夕方まは自由行動! 夕食に遅れないように旅館に戻ること! いいですねー!?」

「「「「「「「「「「は~~~~~~い!!」」」」」」」」」」」

真耶の呼びかけに、生徒達が答える。

我先にと砂浜に駆けだす。

7月の太陽が照りつけ、目の前には青い海が広がる。

臨海学校1日目は終日自由行動だ。

生徒達は持参した水着を着て、はしゃぎ回る。

まあ、その99%近くは女子であり、残り1%とちょっとの男子であるタカトは、

「め、目のやり場に困るなぁ………」

ずっと顔を赤くしながら視線を泳がせている。

すると、

「お~い、まっつー!」

本音の声が聞こえた。

タカトがそちらに視線を向けると、

「あ…………」

タカトは頬を染めて思わず声を漏らした。

そこには本音に押し出されるような形でタカトの前に立つ簪の姿。

もちろん簪も水着に着替えており、その姿は水色のワンピースタイプの水着で、簪のイメージによく合っていた。

「ほ、本音………恥ずかしい………」

簪は顔を真っ赤にして俯いている。

「恥ずかしがることなんてないよ~。 似合ってるよ~。 ね、まっつー?」

本音はそう言ってタカトに話を振る。

「えっ? あ、う、うん。 よく似合ってるよ、簪さん」

タカトは一瞬見惚れていたのか、顔を赤くしながら本音の言葉に頷く。

「ううっ…………」

タカトの言葉に、耳まで真っ赤にする簪。

そこで、タカトはふと気付いた。

「あの、布仏さん?」

「何~? まっつー」

「その………何でゴマモン?」

タカトの言葉通り、何故か本音は水着ではなく、ゴマモンの着ぐるみを着ていた。

「え~? 海って言ったらゴマモンでしょ~?」

いつも通りの口調でそういう本音。

「えっと………確かに間違っていないと言えば間違ってないんだけど………」

どうにもズレた本音にタカトは困惑する。

「……本音の行動は気にしない方がいい」

簪がそう言ってくる。

「そ、そうだね……」

タカトは気持ちを切り替えることにした。

「ねえねえ~。 ビーチバレーしようよ」

本音がどこからともなく取り出したバレーボールを持ってそう言う。

「うん、いいよ。 じゃあ、他のメンバーは………」

そう言いながらタカトは周りを見渡す。

すると、一夏、シャルロット、ラウラの3人が集まっているのを見つけた。

「一夏!」

タカトは一夏達に声をかける。

「タカト、何だ?」

「ビーチバレーやらない?」

「おう、いいぜ。 丁度3対3だしな」

そう言って了承する一夏。

いつの間にか砂浜にはバレーのネットが建てられており、コートまで描かれている。

最初のサーブは簪。

簪はボールを上に放り投げ、いつもの雰囲気とは裏腹に、豪快なジャンピングサーブを放つ。

簪も代表候補生であり、あらゆる訓練を積んでいる。

この位は出来ても不思議でもなんでもない。

勢いのあるサーブが一夏達のコートに向かう。

「任せて!」

そう言ったのはシャルロット。

横っ飛びのレシーブでそのボールを拾う。

「ナイスレシーブ!」

一夏はそう言うと、シャルロットの上げたレシーブをアタックする。

そのボールは本音に向かう。

「あわわわわわわわわわ! えいっ!」

本音はうろたえながらも突き出した手が偶然ボールに当たり、いい具合に上がる。

「ナイスだよ! 布仏さん! てやっ!」

上がったボールに合わせてタカトがアタックする。

そのボールは一直線にラウラに向かい、

「はぶっ!?」

ラウラの顔面に直撃した。

「ええっ!?」

タカトは思わず驚く。

軍人のはずのラウラが無防備に顔面レシーブをするとは思わなかったのだ。

砂浜に倒れるラウラ。

チームであるシャルロットと一夏が様子を伺うと、

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!」

いきなり叫び声を上げて海に向かって走って行ってしまう。

「ど、どうしたの? ボーデヴィッヒさん」

タカトが一夏に尋ねる。

「さあ? 追いかけた方がいいのか?」

一夏がシャルロットに尋ねると、

「ほっといてあげた方がいいと思うよ」

シャルロットが呆れたような口調でそう言った。





夕方。

夕食も終わり、就寝までの自由時間。

タカトは自室に来ていた。

一夏は千冬と同じ部屋なのだが、タカトは個室だ。

最初は一夏とタカトの2人部屋になる予定だったのだが、それでは夜中に(一夏目当ての)女子が押しかけて問題を起こすだろうという事で、一夏は身内ということで千冬と同室に。

タカトも真耶辺りと同室にするという意見があったのだが、タカトは一夏と違い、IS学園でも人間関係や器物破損などの問題は全く起こしていない為、個室でも問題ないだろうということで落ち着いた。

タカトが部屋でカードデックの組み立てを行っていると、

――コンコン

とドアがノックされる。

「どうぞ」

タカトが応えると、扉が開き、

「やっほー、まっつー。 遊びに来たよ」

そう言って入ってきたのは、毎度おなじみ本音と簪。

「あ、簪さんに布仏さん。 いらっしゃい」

2人を迎え入れるタカト。

「おおっ、まっつーはデックの組み立て中か~」

本音は部屋の中を覗いてそう言う。

「まあね」

タカトは頷く。

「じゃあまっつー。 カードバトルしようよ~」

本音はそう言ってくる。

「うん、いいよ。 ちょっと待ってて、すぐに片付けるから」

タカトはそう言いつつ、出していたカードをケースに片づけ始める。

その時、カードの隙間から一枚の紙が舞い、床に落ちる。

「?」

気になった簪は、その紙を拾ってみた。

そこには、ちょっと汚い絵だが、見たことのない赤い爬虫類型のデジモンが描かれていた。

「………デジモン?」

簪は声を漏らす。

「えっ? あっ!」

簪の声で、タカトが簪がその絵を見ていることに気付く。

「タカト君………このデジモンって………何?」

簪はそう尋ねると、タカトはちょっと顔を赤くしつつ、

「あ、うん。 僕が小学生の時に考えたオリジナルのデジモンだよ」

そう説明するタカト。

「タカト君の……オリジナルデジモン………」

簪はその絵のデジモン――ギルモンをじっと見つめる。

「小学生の時に書いたものをまだ持ってるってことは~、何か思い入れでもあるの~?」

本音がそう問いかけてくる。

「…………うん、そうだね…………大切な思い出があるんだ……」

タカトは遠い目で、尚且つどこか寂しそうな表情でそう呟く。

「………タカト君?」

簪はそんなタカトの様子に声をかける。

「あっ! ゴメン。 何でもないんだ。 さあ、遊ぼうよ」

タカトは、表情を笑顔にしてそう言う。

しかし、簪はタカトが無理に明るくふるまっているようにしか見えなかった。





翌日。

タカトが朝起きて、渡り廊下を歩いていると、一夏とセシリアが何か見ていた。

「一夏、オルコットさん。 おはよう。 どうかしたの?」

タカトが2人にそう声をかける。

「おうタカト、おはよう。 いや、どうかしたってわけでもないんだが………」

一夏が歯切れ悪くそう言いながら視線を地面に落とす。

そこには、『引っ張ってください』と書かれた看板と、何故か地面に埋まっている機械的なウサ耳。

「何これ?」

タカトは思わず声を漏らす。

「いや、ちょっとな………」

一夏はそう呟いて渡り廊下から降りると、そのウサ耳を掴み、

「でぇい!」

思い切り引っ張った。

その下から何か出てくるのかと思ったが、実際は何も付いていなく、見事にすっぽ抜け、一夏は尻餅をつく。

「おわっ!?」

一夏は痛みに顔をしかめるが、

――ゴォォォォォォ

何やら空気を切り裂く音が聞こえる。

ふと上を見れば、赤い何かが猛スピードで落下し、地面に突き刺さった。

「「うわぁ!?」」

「きゃあ!?」

巻き起こった衝撃波に悲鳴を漏らす3人。

その目の前に突き刺さっていたものとは、

「に、人参?」

タカトが呟く。

3人の目の前に突き刺さっていたものは、2.5mほどもある人参のデザインをした何かの機械。

すると、

『あははは! うふふふふ! あははははははは!』

その人参から笑い声が聞こえ、その人参が真っ二つに割れる。

その中から、

「引っかかったね、いっくん! ぶいぶい!」

紫の髪をしたやけにハイテンションな女性が現れた。

「お、お久しぶりです……束さん」

一夏は何とかそう言う。

「うんうん! お久だね~! ほんっとうに久しいね~! ところでいっくん。 箒ちゃんは何処かな?」

「え、え~っと……」

一夏は答えようとするがすぐに言葉が出てこない。

すると、

「ま、私が開発した箒ちゃん探知機ですぐに見つかるよ! じゃあね、いっくん! また後でね~!」

勝手に自己完結し、走り去る束。

まるで嵐のように過ぎ去った束に、

「い、一夏さん……今の方は一体………?」

セシリアが一夏に尋ねる。

「篠ノ之 束さん。 箒の姉さんだ」

そう答えた一夏の言葉に、

「ええっ!?」

驚愕するセシリアだった。





時間が経ち、本格的に臨海学校の目的が始まるのだが、千冬の指示で、とある岩場に専用機持ちが集められた。

そうして集まったメンバーは、タカト、一夏、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪、そしてなぜか箒もいた。

「よし、専用機持ちは全員集まったな」

千冬がそう言うと、

「ちょっと待ってください。 箒は専用機を持ってないでしょう?」

鈴音がそう発言する。

「そ、それは………」

箒は歯切れ悪く呟く。

「私から説明しよう。 実はだな……」

千冬がそう言ったところで、

「やっほ~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

何処からともなく声が聞こえた。

その瞬間嫌な顔をする箒と千冬。

見れば誰かが岩の崖とも言える斜面を駆け下りてきていた。

そして、本当に人間かと思えるぐらいの跳躍力で飛び上がる。

それは、先程も現れた束だった。

「ち~~~~~~~~ちゃ~~~~~~~~ん!!」

そのまま一直線に千冬に向かって飛びこんできて、

――ガシィ

千冬が容赦なく右手で顔面を掴んで止めた。

そして、そのまま手に力を込め、アイアンクローへと移行する。

だが、束はまるで効いてないと言わんばかりに、

「やあやあ、会いたかったよちーちゃん! さあハグハグしよう! 愛を確かめよう!」

顔を掴まれたままそうまくし立てる。

「うるさいぞ束」

千冬は手に更に力を込める。

「相変わらず容赦のないアイアンクローだね!」

すると、束はアイアンクローから抜け出し、箒に駆け寄る。

その箒は、頭を抱えていた。

「じゃじゃ~ん! やあ!」

「ど、どうも……」

「ふさしぶりだね~! こうして会うのは何年ぶりかな~? 大きくなったね箒ちゃん! 特におっぱ………」

――バキィ!

そう言いかけた束を箒は木刀で殴り飛ばす。

「殴りますよ!?」

「殴ってから言ったあ! 箒ちゃんひどい~~~! ねえ、いっくん酷いよね~?」

「は、はあ……」

いきなり振られた一夏は曖昧に返事を返す。

「おい束。 自己紹介ぐらいしろ!」

千冬がそう言うと、

「え~。 めんどくさいなぁ~」

束はそう言いつつ佇まいを直すと、

「私が天才の束さんだよ! ハロー! 終わり!」

それだけ言って終了した。

「束って……」

「ISの開発者にして天才科学者の……」

「篠ノ之 束?」

それぞれが声を漏らす。

「さあ! 大空をご覧あれ!」

束が大げさに空を指差す。

すると、空から銀色のクリスタル型のケージが降ってきた。

それは一同の目の前に着陸すると、

「じゃじゃ~ん! これぞ箒ちゃん専用機こと、紅椿! すべてのスペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ!」

ケージが量子分解され、内部のISが露わになる。

その名の通り紅に彩られた機体だった。

「何て言ったって紅椿は天才束さんが作った第四世代型ISなんだよ~!」

その言葉に一同は驚愕する。

「第四世代!?」

「各国で、やっと第三世代の試験機が出来た段階ですわよ……」

「なのにもう……」

それぞれが声を漏らす。

「そこがほれ! 天才束さんだから。 じゃあ箒ちゃん。 これからフィッティングとパーソナライズを始めようか!」

束がリモコンを操作すると、紅椿のコクピットが開く。

「さあ、篠ノ之」

千冬の言葉で、箒が紅椿の前に歩いてくる。

箒はまるで圧倒されるようにその機体を見つめた。






箒が紅椿を装着すると、束が操作を始める。

しかもその操作のスピードに全員が再び驚く。

そして、あっという間にフィッティングが終了した。

「それじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。 箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

束の言葉に、

「ええ、では、試してみます」

箒はそう言って意識を集中させると、紅椿は猛スピードで上昇を始めた。

そのスピードにそれぞれが驚く。

「かなりのスピードだね」

タカトが呟く。

「うん。 スピードは蒼狼に匹敵する」

簪も頷く。

その後も武装などに驚き、あらかたの試運転が終わった所で真耶が走ってきた。

そして、千冬に端末を渡すと、

「テスト稼働は中止だ! お前たちにやってもらいことがある」

千冬のその言葉で、その場に不穏な空気が流れ始めた。








あとがき

十一話の完成。

ちょこっとルキ出演。

原作で出てたアホ女を扱き下ろしていただきました。

日中は特に書くことも無かったので割とあっさり目に。

簪、ギルモンの絵を発見。

翌日も特に変化なし。

ギルモン登場まであと2~3話と言ったところですかね。

では、次も頑張ります。





[31817] 第十二話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/05/21 07:26
第十二話 福音の暴走






タカト達は、千冬の命令でとある部屋に集められた。

そこには様々な機材が運び込まれ、まるでモニタールームのようになっていた。

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働だったアメリカ、イスラエルの共同開発の第三世代のIS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。 監視区域より離脱したとの連絡があった」

千冬の言葉に、タカト達は驚愕する。

「情報によれば、無人のISということだ」

続けて言われた千冬の言葉に、

「無人………」

タカトは、以前襲ってきた深い灰色のISを思い出した。

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2km先の空域を通過することが分かった。 時間にして50分後。 学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処することになった。 教員は学園の訓練機を使って、空域及び海域の封鎖を行う。 よって、この作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」

「いいっ!?」

千冬の言葉に、一夏が驚いた声を漏らす。

「つまり、暴走したISを我々が止めるという事だ」

ラウラが淡々と補足する。

「マジィ!?」

「いちいち驚かないの」

驚く一夏に、鈴音が冷静に突っ込む。

「それでは作戦会議を始める。 意見がある者は挙手するように」

「はい」

千冬の言葉に、早速手を挙げたのはセシリア。

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「うむ。 だが、決して口外するな。 情報が漏えいした場合、諸君には査問員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

千冬は頷き、同時に注意する。

「了解しました」

セシリアが了承すると、モニターに情報が映し出されていく。

「広域殲滅を目的とした、特殊射撃型………わたくしのISと同じ、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。 厄介だわ」

「この特殊武装が曲者って感じはするね。 連続しての防御は難しい気がするよ」

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。 偵察は行えないのですか?」

それぞれが意見を述べる。

「無理だな。 この機体は現在も超音速飛行を続けている。 アプローチは、1回が限界だ」

「一回きりのチャンス………という事はやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

千冬と真耶がそう言う。

その言葉に、全員の視線が一夏に集中する。

「え………?」

一夏は、一瞬その意味が分からなかったのか、声を漏らした。

「一夏、アンタの零落白夜で落とすのよ」

「それしかありませんわね。 ただ、問題は……」

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。 エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」

「目標に追い付ける速度が出せるISでなければいけない。 超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

驚愕する一夏を余所に話し合いを進める全員。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

「「「「「当然」」」」」

箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの声が重なる。

「ユニゾンで言うな!」

思わず突っ込む一夏。

「………一夏、これは実戦だよ。 無理だと思ったならやめた方がいい。 代わりに僕が行く。 白式よりもリスクが高いけど、オメガモンやインペリアルドラモンパラディンモードをカードスラッシュすれば、一撃必殺の威力はだせるから」

タカトがそう発言する。

「織斑、松田の言うとおりこれは訓練ではない。 実戦だ。 もし覚悟が無いなら、無理強いはしない。 正直、松田のISに空戦適正があれば、迷い無く松田を指名していた」

その言葉に驚いた表情を見せる一夏。

「な、何で!?」

思わず問い返す一夏。

「松田には実戦経験と、何より揺るぎ無い覚悟がある。 同じ条件なら、この中で一番成功率が高いのは間違いなく松田だ」

そう断言する千冬。

「やはり教官も分かっていましたか」

そう呟くラウラ。

「な、何言ってるんだよ千冬姉。 ラウラも前に同じような事言ってたけど………タカトがISに乗り始めたのは俺と同じ時期だぜ……そのタカトに実戦経験があるわけが………」

「…………確かにISに乗り始めたのは一夏と同じ時だけど、命を懸けた戦いという意味での実戦経験なら、確かに経験してるよ」

一夏の言葉を遮ってタカトが言った。

「タカト!?」

驚愕する一夏。

「詳しい事は、ヒュプノスとしての機密だから言えないけど、僕は実戦を何度も経験してる」

そう言い切ったタカト。

「やはりか………で、如何する織斑? お前がやらなければ、松田に任せるが?」

千冬が再度問いかける。

すると、一夏は覚悟を決め、

「やります。 俺が、やってみせます!」

そう言い切る。

「よし。 それでは作戦の具体的な内容に入る。 現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

千冬の言葉に、上がった手が2つ。

セシリアと簪だった。

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。 丁度イギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

セシリアが先にそう言い、

「私の蒼狼なら、そのままの運用で超音速飛行が可能です。 もちろん超音速下での戦闘も問題ありません。 武装もフルに使用できます」

簪も淡々とそう言った。

「ふむ………2人の超音速下での戦闘訓練時間は?」

千冬が思案し、再び問いかける。

「20時間です」

セシリアがそう言い、

「私も同じぐらいです」

簪も続いた。

「………ならば適任は……」

千冬が結論を出そうとしたところで、

「待ったま~った。 その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」

いきなり天井から明るい声が聞こえた。

見れば天井裏から束が顔を出している。

「また出たよ……」

一夏が半ば呆れた声を漏らす。

すると、束は天井から飛び降り、床に着地すると、千冬に詰め寄った。

「ちーちゃんちーちゃん! もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」

「出て行け」

詰め寄る束に、千冬は顔に手を当てつつバッサリとそう言う。

だが、束は全く気にしず、

「聞いて聞いて! ここは断・然、紅椿の出番なんだよ!」

「何?」

束の言葉に、千冬は思わず声を漏らした。





一同が外へ移動すると、束が箒の紅椿の調整を始める。

その途中で、

「織斑先生! わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功して見せますわ! 今回の作戦、是非わたくしに!」

セシリアがそう発言する。

が、

「お前の言っていたパッケージは、量子変換してあるのか?」

千冬はそう聞き返す。

「う………そ、それはまだですが………」

そう気まずそうに言うセシリア。

「因みに紅椿の調整は、7分あれば余裕だね」

そう口を出す束。

すると、

「本作戦は、織斑、篠ノ之両名による目標の追跡、及び撃墜を目的とする。 作戦開始は30分後。 各員、ただちに準備にかかれ!」

そう指示を出す千冬。

だが、タカトは少し怪訝に思った。

パッケージの量子変換が出来ていないセシリアのブルー・ティアーズはともかく、簪の蒼狼ならすぐに運用できる。

操縦者も、箒と簪を比べたら、代表候補生である簪の方が、現在では上だ。

性能差を含めても、総合的にみれば箒よりも簪の方が適任に思える。

その事は、千冬も承知しているはずなのに、千冬は箒を選んだ。

タカトは、その事に疑問を覚えた。

タカトがそんな事を考えていると、

「そういえばさぁ~。 君って名前何て言ったっけ?」

突然そんな事を言われ、タカトは我に返る。

見れば、束が紅椿の調整をしつつ、タカトに向かって話しかけていた。

「え? えっと………松田 タカトです」

困惑しながらも名乗るタカト。

「うんうん。 じゃあ、たっくんだね。 実は束さん、ちーちゃん達程じゃないけど、たっくんにも興味があるんだ」

その言葉を聞いて、驚愕の表情を浮かべる千冬、一夏、箒。

「どういう風の吹き回しだ? お前が私たち以外の他人に興味を持つとは……」

思わずそう言う千冬。

「ちっちっち。 甘いよちーちゃん。 たっくんはこう見えて、世界を救ったヒーローなんだよ」

その言葉に、表情を変える一同。

「どういうことだ?」

千冬が尋ねると、

「たっくんは、4年前に起きたあの事件を解決した立役者の1人なんだよ♪」

束は笑いながらそう言う。

「4年前………」

「4年前といえば、世間ではデジモンの仕業と言われている、あの赤い泡のようなものが、世界中に現れたときか」

束の言葉に、4年前の出来事を思い出す。

タカトは、

(な、何で知ってるの? この人)

と、内心冷や汗をかいていた。

「じゃあ、タカトが実戦経験があるっていうのも………」

一夏がタカトの方を向きながらそう言うと、

「う、うん………さっきも言ったけど、ヒュプノスの機密に関わることだから詳しい事は話せないよ」

タカトは焦りつつもそう返す。

「それにしても、ISのコアとデジコアの融合かぁ~。 まあ、元が一緒のものとはいえ、流石の束さんも予想外だったよ~」

「え?」

さらりと重要な事を言った束に、タカトは声を漏らす。

「あの、元が一緒のものって………」

タカトがそう聞くと、

「ISのコアは何と、初期のデジコアのデータを基に開発されたものなのだ~! 束さんがISの開発を始めたときに、研究段階だったデジモンのデータをちょろまかして自己進化やその他もろもろを参考にさせてもらったよん♪」

何気に凄まじい問題発言をかます束。

それを聞いていた一同は唖然としている。

「それにしても悔しいのは、手を加えたISよりも自然に進化したデジモンの方が色々と上回っていることかな? だがしかぁ~~~し! 今の束さんの目標は、何を隠そうデジモンの究極体を上回るISを作り上げる事なのだぁ~~~!!」

堂々と宣言する束。

「まあ、今は完全体と戦えるぐらいで精一杯だけどね」

そう付け加える束。

束の話を聞いて、究極体を超えるISがあったらを想像するタカト。

普通に究極体でも一国を滅ぼせるほどの力を持つのだ。

それを超えるISが何機もあることを想像する。

(…………それって、かなり拙いんじゃ)

タカトがそう思ったとき、

「心配しなくても、もし束さんが究極体を超えるISを作ったとしても、1体だけだし、すぐに破棄するつもりだよ」

そう束が言った。

「「「「「「「え?」」」」」」」

専用機持ち達の声が揃う。

「ど、如何してですか、勿体ない」

そう一夏が聞くと、

「今の世界のおバカな人たちがそんな力を持ってみなよ。 世界は一週間で滅びるよ」

そう発言する束。

タカトは、不本意ながらも内心束のいう事に納得していた。

究極体の力をよく知るタカトにとって、その力は人間には過ぎた力だという事を確信していた。

「はい! そうこうしているうちに紅椿の調整終了! 時間通り! さっすが束さん!」

今まで話している間も、束は休むことなく作業を続けており、たった今終了したのだ。

「よし、話の続きも気になるが、今は福音を止める方が先決だ。 各員、速やかに配置に着け!」

千冬の指示で、一夏と箒は海岸へ。

残りの一同は司令部へと移動を始める。

すると、

「松田、更識」

千冬が2人を呼び止める。

「はい?」

「……何ですか?」

2人が足を止めて振り向くと、

「お前たち2人は少し残れ。 やってもらいことがある」

千冬の言葉に、2人は顔を見合わせた。





一夏と箒は海岸へと移動する。

「来い! 白式!」

「行くぞ……紅椿!」

2人はISを展開する。

「じゃあ箒。 よろしく頼む」

「本来なら女の上に男が乗るなど、私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ?」

一夏の言葉に、箒は何処か嬉しそうな表情でそう言う。

一夏が箒に近付くと、

「いいか箒? これは訓練じゃない、十分に注意して……」

「無論わかっている。 心配するな、お前はちゃんと私が運んでやる。 大船に乗ったつもりでいればいいさ」

言葉の中に微笑を混ぜながら、箒はそう答える。

「なんだか楽しそうだな? やっと専用機を持てたからか?」

「え? 私はいつも通りだ。 一夏こそ作戦には冷静に当たること」

「わかってるよ………」

2人がそんなやり取りをしていると、

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

千冬から通信が入った。

「はい」

「よく聞こえます」

『今回の作戦の要は、一撃必殺だ。 短時間での決着を心掛けろ。 討つべきは『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。 以後『福音』と呼称する』

「「了解」」

2人が返事をすると、

「織斑先生。 私は状況に応じて、一夏のサポートをすればよろしいですか?」

『……そうだな。 だが無理はするな。 お前は、紅椿での実戦経験は皆無だ。 突然何かしらの問題が出るとも限らない』

「分かりました。 ですが、出来る範囲で支援をします」

箒は、心なしか弾んだ声で返事をする。

すると、一夏にプライベート・チャネルで通信が入る。

『織斑』

「は、はい」

『どうも篠ノ之は浮かれているな。 あの様子では、何か仕損じるやもしれん。 もしもの時は、サポートしてやれ』

「分かりました。 意識しておきます」

『頼むぞ』

通信が、再びオープン・チャネルに切り替わる。

『では、始め!』

千冬が作戦開始の号令をかける。

一夏が箒の背に乗り、肩を掴む。

「いくぞ!」

「おう!」

箒の言葉に一夏が応え、紅椿は急上昇を始めた。

そのスピードに驚愕する一夏。

「暫時衛星リンク確立。 情報照合完了。 目標の現在位置を確認。 一夏、一気に行くぞ」

「お、おう!」

箒は紅椿を加速させる。

そして、福音の姿をその目に捉えた。

「見えたぞ一夏」

「あれが『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』か」

「加速するぞ。 目標に接触するのは10秒後だ」

箒はそう言って更に加速する。

一夏は雪片弐型を展開。

零落白夜を発動させる。

「うおおおおおおおっ!!」

一夏は全力で雪片を振り下ろす。

だが、福音は紙一重でその攻撃を躱した。

「躱した!?」

驚愕する一夏。

すると、福音は頭部の巨大な翼を広げ、複数の光弾を放ってきた。

その光弾は、高密度に圧縮されたエネルギーで、触れればその場で爆発するものだった。

これが福音の特殊武装『銀の鐘(シルバー・ベル)』だ。

2人は、その攻撃を掠りながらも避ける。

「箒! 左右から同時に攻めるぞ! 左は頼んだ!」

「了解した!」

2人はコンビネーションを駆使して福音に攻撃を仕掛ける。

だが、当然ながら箒は紅椿で一夏の白式と組むのは初めてであり、普段からも、それほどコンビネーションを訓練しているわけでもない。

即席のコンビネーションでは、どうしても福音に一撃を入れることが出来ない。

「一夏! 私が動きを止める!」

「わかった!」

箒は、自立機動兵装を射出。

その攻撃によって福音をかく乱。

その隙に斬りかかった。

その攻撃は受け止められるが、狙い通り福音の動きは止まる。

「一夏! 今だ!」

「おう!」

一夏はチャンスを逃すまいと福音に斬りかかる。

しかし、

「ッ!?」

何かに気付いたのか、一夏は福音を素通りした。

「一夏っ!?」

一夏の行動を怪訝に思う箒だが、一夏が光弾を弾いたずっと先の海上に一隻の船がいた。

「密漁船!? この非常時に!」

箒はそう悪態をつきながらも福音の攻撃を避ける。

一夏は、雪片で密漁船に向かう光弾を弾いた。

「馬鹿者! 犯罪者などをかばって………そんな奴らは………」

「箒!!」

放っておけばいいと続けようとした箒の言葉が、一夏の叫びで止まる。

「箒、そんな……そんな寂しいこと言うなよ。 力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて………どうしたんだよ、箒。 らしくない。 全然らしくないぜ」

「わ、私、は………」

一夏の言葉に、明らかな動揺を見せる箒。

持っていた刀を取り落とし、顔を両手で覆う。

しかし、今は実戦。

そんな隙を、福音は見逃さない。

再び無数の光弾を発生させ、一斉に放った。

「箒ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

一夏は、咄嗟に箒の前に立ちはだかる。

そして、その光弾をその身で受けた。

「一夏ぁぁぁぁぁっ!!」

箒が悲痛な声で一夏の名を呼ぶ。

「一夏!」

箒は爆炎が収まらぬうちに一夏を受け止めようと飛び込む。

その際に、箒のリボンが爆炎に燃やされ灰と消えた。

箒は一夏を抱きとめる。

「一夏! 一夏!!」

箒が呼びかけるが、一夏は反応しない。

完全に気を失っているようだ。

すると、福音は再び攻撃しようと翼を広げ、

『作戦フェイズ1は失敗! ただちにフェイズ2を開始する! 松田! 更識!』

通信から千冬の声が聞こえた瞬間、高出力レーザーが福音を弾き飛ばした。

「い、今のは……」

箒がレーザーが飛んできた方に顔を向けると、そこには簪の操る蒼狼と、簪に手を引かれたタカトのグラニの姿。

今のレーザーは、簪が放ったものだ。

「簪さん、さっきも言ったけど、カードスラッシュの効果は1分間。 一気に決めるよ!」

「わかった」

簪がタカトの手を離すと、タカトはカードスラッシュする。

「カードスラッシュ! 白い羽!!」

その瞬間、グラニの背部に、3対6枚の白いウイングが生み出された。

「簪さん! 援護をお願い!」

タカトは、一直線に福音へと突撃する。

福音は当然ながら迎撃の為に無数の光弾を生み出した。

そして、それが一斉にタカトに向かって放たれる。

「……させない!」

しかし、その光弾を簪がミサイルで相殺していく。

タカトの方も、簪を信頼しているのか、突撃に迷いはない。

「うぉおおおおおおおっ!!」

簪の援護もあり、タカトは福音の懐へ飛び込む。

タカトは、グラムを突き出す。

福音は、攻撃を中断して回避行動を取った。

タカトの一撃は掠るにとどまるが、

「そこ」

福音が回避した先に無数のミサイルが襲い掛かる。

福音は更に回避行動を取るが、

「セーバーショット!」

回避先が限られていた所に、タカトの放ったエネルギー弾が直撃した。

福音は吹き飛ばされる。

「でやぁあああああああああっ!」

その福音に向かってタカトが再び突撃する。

「ロイヤルセーバー!!」

グラムにエネルギーを纏い、福音に突撃する。

が、その攻撃が当たる寸前、福音は体勢を立て直し、その攻撃を回避する。

「くそっ!」

タカトは思わず声を漏らす。

福音は、攻撃を回避したと同時に、光弾を展開する。

「くっ」

簪が迎撃の為にミサイルを放つが、福音とタカトの距離が近いため、全てを撃ち落すことは出来ない。

仕方なくタカトはイージスでその攻撃を受ける。

「ぐっ!」

イージスに当たると同時に光弾は爆発し、タカトは福音から離れてしまう。

それを好機と見たのか、福音は再び無数の光弾を展開、連続で放って来る。

タカトと簪は回避と防御を駆使しつつ、その攻撃を避ける。

しかし、タカトのカードスラッシュのタイムリミットが迫る。

「時間が無い! 簪さん!」

タカトは簪に声をかけると、再び福音に向かって突撃する。

簪は、再び援護の為にミサイルを放つ。

タカトは光弾を掻い潜り、福音に向かってグラムを振り上げる。

福音はそれに反応して回避行動をとる。

だが、

「そこだっ!」

タカトはグラムを振り下ろすのを中断し、切っ先を福音に向けた。

「ロイヤルセーバー!!」

切っ先から放たれるエネルギーの奔流。

タカトのフェイントに引っかかった福音は、その攻撃を諸に受ける。

吹き飛ばされる福音。

「今だ!」

タカトはイージスを福音に向ける。

福音の体勢は悪く、タカトは確実に捉えたと確信した。

イージスが光り輝き、

「ファイナルエリシオン!!」

それが解放される瞬間、

「えっ?」

グラニのウイングが消失。

それによってバランスが変化した為、標準が僅かにずれる。

福音に向かって放たれる特大のエネルギー波。

しかし、その攻撃は福音を掠めるだけに止まった。

「しまった!」

タカトは自分の失態を悔いる。

福音は、体勢を立て直すと、不利と悟ったのかその空域を離脱した。

グラニはファイナルエリシオンを放ったためエネルギーが尽き、簪も1人だけでは福音を相手にするには力不足だ。

『作戦は失敗だ。 各員、ただちに帰投しろ』

千冬からそう連絡がくる。

「「了解」」

「………了解です」

タカト達は返事をすると、箒の腕の中で気を失っている傷だらけの一夏を見つめた。








あとがき

十二話なんとか完成。

本当ならリベンジマッチ寸前まで行きたかったけど、思ったより長くなった。

今回は、束さんのタカトへの反応と、一夏撃墜でした。

何故前回で束の反応が無かったのかと言えば、束にとって最上級興味対象である一夏、箒、千冬に久しぶりに会った時に、ぽっと出の興味対象であるタカトに話が行くとは思えなかったのです。

さて、ISのコアが、デジコアと起源を基にするというハチャメチャ設定。

一応、グラニがISのコアを吸収できた理由です。

まあ、束が他人の研究を参考にするとは思えないと言われればそれまでですが………

そして福音とのファーストバトル。

一夏は原作通り撃墜。

その後、タカトと簪による追加バトルが入りました。

いや、作戦の成功率を上げるための2段構えの作戦も普通に有りですよね?

では、今回使ったカード説明を。


・白い羽

背中に3対6枚のウイングを発生させる。 空戦、機動力ともにAにする。





こんな感じです。

エアロウイングよりも安定した空中戦が可能という事です。

さて、ギルモンが出るのは次回かその次か………

では次回も頑張ります。

の前に、またご相談。

タカトのデュークモン正体バレですが、ただ今ネタが2つありどちらにするか迷っております。

1つは、簪、楯無がピンチの時に目の前で進化する事。

2つ目は、2人がピンチの時にデュークモンとして現れて、敵を倒した後に進化を解いてバラすこと。

1つ目は、割と早く正体がばれます。(デジタルワールド編に入る前にはばれます)

2つ目は、そこそこ引っ張ります。(デジタルワールド冒険中です)

皆様の意見をお聞かせください。

では、次も頑張ります。





[31817] 第十三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/06/24 13:31
第十三話 再会! 友情の二次移行セカンド・シフト!!



福音の撃破に失敗したタカト達。

撃墜された一夏は意識不明。

現在、各専用機持ちは待機を命ぜられていた。

千冬は、作戦を失敗した箒たちには何も言わず、ただ淡々と指示を飛ばしていた。

箒は、一夏の傍でずっと俯いていたが、真耶に休むように言われ、部屋を出た。

しかし、どうしても部屋で休む気にはなれなかった箒は、がむしゃらに砂浜を走っていた。

「はぁっ………はぁっ………」

箒は足を止めて息を吐く。

その表情には悲しみと後悔が入り混じっていた。

すると、

「篠ノ之さん」

突然呼ばれた箒は顔を上げる。

そこには、タカトがいた。

「…………松田」

呟く箒。

「あまり無理してると、いざという時に動けないよ?」

そう言うタカト。

「…………私の事は、放っておいてくれ………私はもう………ISには乗らない……」

箒の言葉に、タカトは一度ため息を吐く。

「まあ、篠ノ之さんの気持ちも、分かるけどさ………」

「ッ………!」

その言葉に、箒は反応した。

「…………お前に………何が分かる…………」

箒は俯き、一度呟くと、

「お前に、一体私の何が分かるというのだ!!」

箒は叫んだ。

「私はっ、力を手に入れると、その力に流されてしまう! それが分かっていたからこそ私は今まで修業をしてきた! 己を律するために! だが、結果は如何だ!? 私は結局何も成長していなかった!! 紅椿という力を手にしたとたんにその力に溺れ、一夏を傷つけた!! 力を間違えずに振るえるお前に、こんな私の何が分かるというのだ!!」

箒は感情のままに叫び続ける。

「分かるよ」

しかし、タカトから帰ってきた言葉は、落ち着いた言葉だった。

「僕にも……似たような経験があるから…………相手を倒す……いや、殺すためだけに力を求めたことが………」

その言葉に、箒の頭は急速に冷えていった。

「大切な仲間を殺されて、殺した相手を殺すためだけに僕は力を求めた」

タカトが思い出すのは、仲間のレオモンがベルゼブモンに殺されたとき。

タカトは憎しみのままに力を求め、憎しみのままにメガログラウモンを究極体へと進化させた。

「そして、その結果は、相手を殺すどころか、僕の、一番大切な友達を失いそうになった」

その結果メガログラウモンは、邪悪龍メギドラモンとなり暴走。

ベルゼブモンどころか、デジタルワールドを崩壊の危機にまで陥らせた。

だが、その力は、タオモンとラピッドモンのデータをロードし、さらなる力を得たベルゼブモンに敗れた。

「………松田」

「でもね、篠ノ之さん」

タカトは箒に向き直る。

「そこでふさぎ込んでどうなるの?」

「何………?」

「一度や二度の失敗で、篠ノ之さんは諦めるの?」

タカトの言葉は冷静だが、その言葉には重みがある。

「僕だって何度も失敗してる。 力を振るおうとして間違えたことも。 逆に怖くて力を振るおうとせずに失敗したこともある」

「………………ならば……どうしろというのだ?」

箒は俯きながら呟く。

「私とて諦めるという事などしたくは無い! だが、敵の居場所も分からないのに、一体どうしろというのだ!?」

箒は叫ぶ。

「確かに、篠ノ之さん1人だったら、どうにもならなかったかもしれない。 でもね、後ろを見て見なよ」

タカトの言葉に、箒はハッとして後ろを振り向く。

そこには、笑みを浮かべながら立つ、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪の姿。

「お前たち………」

箒は呟く。

「福音の居場所は、既に特定済みだ」

ラウラが、

「さっすがドイツ軍特殊部隊。 やるわね」

鈴音が、

「追加パッケージも、既にインストール済みですわ」

セシリアが、

「僕も準備オッケーだよ。 いつでも行ける」

シャルロットが、

「……負けたままで、終われない」

そして簪が。

それぞれが戦いに赴く意思を感じさせる言葉を口にする。

その姿を見て、呆ける箒。

「篠ノ之さんは1人じゃない。 自分に出来ない事があれば、仲間を頼ればいいんだ」

そんな箒に、タカトは声をかける。

「僕も皆と一緒に行く。 篠ノ之さんは如何する?」

箒の意志を確認するタカト。

「………私……私は…………戦う…………戦って、勝つ! 今度こそ負けはしない!」

箒は自分の覚悟を口にする。

その姿にタカトは笑みを零し、

「決まりだね。 じゃあ、行こう!」

一同は、決戦の地へ赴いた。






日付が替わり、夜空が僅かに白んできたころ、海上200mの位置に福音はいた。

ステルスモードを発動し、まるで胎児のような格好で空中に制止する福音。

その福音に向かって、砲戦パッケージを装備したラウラが、大型レールガンで狙い撃つ。

その一撃は、狙い違わず福音に直撃する。

「初弾命中! 続けて砲撃を行う!」

ラウラは次弾を発射するが、その前に福音は動き出す。

ラウラは次々とレールガンを発射するが、福音は複雑な回避行動でその砲撃を避けながらラウラへと接近する。

「くっ、予想より速い!」

あっという間に福音はラウラの懐へと飛び込み、

「はぁあああああああっ!!」

横から猛スピードで突っ込んできたセシリアに弾かれた。

セシリアはすぐさま反転、大型BTレーザーライフル『スターダスト・シューター』を構える。

そして、その砲口からレーザーを発射する。

そのレーザーを回避し、攻撃の為に翼を広げる福音。

その後ろに、突如ショットガンを構えたシャルロットが姿を現した。

「かかった!」

福音の背後からショットガンを連射するシャルロット。

その攻撃を諸に受け、体勢を崩す福音。

しかし、すぐに立て直し、追撃を躱す。

反撃の光弾を放つ福音。

その光弾をシャルロットは防御パッケージのエネルギーシールドで防いだ。

「この位じゃ墜ちないよ!」

ラウラ、セシリア、シャルロットの射撃が、じわじわと福音を追い詰める。

すると、福音は不利と判断したのか、現空域を離脱するために、全方向に光弾を放ち、続けて強行突破を図る。

しかし、

「「させない(るかぁ)!!」」

海面が膨れ上がり、爆ぜる。

飛び出してきたのは、タカトと箒。

その後方に簪と鈴音の姿がある。

福音に突撃するタカトと箒。

タカトの背には、エアロウイングの翼がある。

「離脱する前に叩き落とす!」

箒が刀で斬りかかり、タカトはグラムを振るう。

その攻撃を同時に受けた福音は、堪らず体勢を崩す。

そこへ、衝撃砲を増設した鈴音と、武装を展開した簪が狙う。

鈴音の放つ衝撃砲は、今までの不可視のものではなく、炎を纏った、熱殻拡散衝撃砲とでも呼ぶべきものだ。

それらの攻撃が、福音を爆炎に包む。

「やりましたの!?」

「………まだよ!」

それだけの攻撃を受けても、福音は機能を停止させてはいなかった。

福音は、銀の鐘シルバー・ベルを最大稼働させ、反撃に移る。

無数の光弾が福音の周りに展開され、それが射出される。

箒はシャルロットが、タカトはイージスで防御する。

だが、クロンデジゾイド製のイージスで防いでいるタカトはともかく、シャルロットは続けて攻撃を受け止めるのは厳しいようだ。

「皆ッ! お願いっ!」

シャルロットは叫ぶ。

「任せろ!」

ラウラが頼もしく返事を返し、ラウラ、セシリア、簪が福音に射撃を始める。

回避行動で動きが鈍る福音。

「足が止まればこっちのもんよ!」

鈴音が福音の真下から突撃する。

防御を無視した捨て身の特攻。

光弾を受けながらも鈴音は止まらない。

衝撃砲を連射しながら、その手の双天牙月を振りかぶる。

「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

鈴音の渾身の斬撃が、福音の片翼を切断した。

「はっ……はっ……どうよ………ぐっ!?」

福音は、片翼になりながらも体勢を立て直し、鈴音に回し蹴りを放つ。

「鈴! おのれっ!!」

箒が両手に刀を持ち、急加速で福音に突っ込む。

流石の福音もそれには反応しきれず、右肩に刃が食い込む。

「獲った!」

箒は、右腕を切断するつもりで力を込める。

本来なら、そんな事は出来ないが、相手が無人機と聞いている為、箒に迷いは無かった。

だが、信じられない事に福音はその2つの刃を両の手で握りしめた。

「くっ!」

福音は、両手の装甲が焼き切れていくのも構わずに、じわじわとその刃を押し返す。

箒も押し切ろうとするが力が足りない。

福音は、残っていた片翼を広げ、光弾を放とうとした。

その時、

「やらせない」

簪が高出力レーザーを放ち、福音の右肩に直撃する。

箒の斬撃のダメージもあってか、右肩の装甲は剥がれ、欠片となって海に落ちる。

簪は、すぐにメタルストームを連射して福音の動きを止める。

「タカト君!」

簪はタカトに呼びかける。

タカトは、新しいカードを取り出し、それをスラッシュする。

「カードスラッシュ!」

タカトがカードスラッシュしたそれは、

「アルフォースブイドラモン!!」

風の聖騎士、アルフォースブイドラモン。

タカトの頭上に、半透明のアルフォースブイドラモンが浮かび上がり、咆哮を上げる。

『オオオオオオオオオオオオオオオッ!』

そして、それはタカトに重なる様に消える。

その瞬間、タカトの両手首にブレスレットが装着され、背中にはエアロウイングよりも大きな青色のウイング。

グラニのボディにも青色のラインが入る。

タカトは、猛スピードで福音に接近する。

そして、右手首のブレスレットから、光の剣を発生させた。

その剣にエネルギーを集中させる。

「アルフォースセイバー!!」

光の剣が一層強く輝き、タカトはそれを振りかぶった。

「はぁあああああああああああっ!!」

タカトは渾身の力を込めて振り下ろす。

操縦者ごとISを真っ二つにしかねない一撃。

相手が無人機でなければ、操縦者の命は無い。

本当に、無人機でなければ。

「ッ!?」

攻撃の瞬間、タカトは何かに気付いた。

そして、

――ドォオオオオオオオオオオオオオン

タカトの一撃によって、海上に水柱が立つ。

「やったか!?」

ラウラが思わず叫ぶ。

だが、水柱の中からタカトが吹き飛ばされるように飛び出してくる。

「くっ!」

タカトは油断なく身構えた。

やがて水柱が収まると、そこには福音が佇んでいた。

「外した!?」

「そんな! 確実に捉えた一撃でしたのに!」

シャルロットとセシリアが叫ぶ。

「違うんだ………」

タカトが口を開く。

「タカト?」

怪訝に思った鈴音が尋ねると、

「あれは、無人機なんかじゃない」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

タカトの言葉に全員が驚愕する。

「福音の右肩を見て」

タカトが指したところは、先程箒と簪の攻撃で装甲が吹き飛んだ右肩。

そこには、

「人の肩だと!?」

箒が叫ぶ。

そう、福音の右肩には、生身の人間の肌が露出していた。

「報告と違う」

簪も呟く。

「無人機と聞いて、ずっとおかしいと思ってたんだ。 前の灰色のISのような出所不明のISならともかく、開発元が明らかになっているISが、本当に無人機なのかって」

「それがどうしたっていうのよ」

タカトの言葉に、鈴音が尋ねる。

「鈴ちゃんが前に言ってたよね。 ISは人が乗らなきゃ動かない物だって」

「え、ええ。 そう言ったわ」

「逆に考えてみて、もし人が乗らなくてもISが動いたら、操縦者はいらないってことになるよね?」

「当然だな」

ラウラが頷く。

「操縦者がいらないってことなら、もし人が乗れても、誰が乗っても関係ないってこと。 それはつまり?」

「操縦者が男性でも、ISは動く?」

シャルロットが確認するように尋ねる。

タカトは頷き、

「もし本当なら、世界的ニュースになっているはずだよ。 世界初の男性操縦者の僕や一夏があれだけニュースになったんだ。 話題にならない方がおかしい」

「ならば何故、無人機などという嘘を?」

セシリアが疑問を口にする。

それに答えたのはラウラだった。

「大方、IS開発の優位性を知らしめたかったのだろう。 そして、福音の操縦者が死亡すれば、学園に責任を擦り付けて、ISの暴走という汚点から世間の目を逸らさせることもできるだろう。 下らん奴らが考えそうなことだ」

その時、福音が動き出す仕草をする。

「その話は後だ! 福音が動き出すぞ!」

箒が叫ぶ。

「皆、福音に人が乗ってることが分かったけど、僕達がやることは変わらない! 福音を止めるんだ!」

「分かっている!」

ラウラが砲撃を始める。

福音は空高く舞い上がり、その砲撃を躱す。

「逃がしませんわ!」

「喰らえーーーっ!」

「そこ」

セシリア、鈴音、簪が後を追いながら福音を狙い撃つ。

福音は回避行動を取りつつ光弾を放つ。

タカトは、その様子を見ながら、グラニのエネルギー残量を確認する。

先程のアルフォースブイドラモンのカードは、究極体の中でも上位に位置する。

その必殺技も強力だが、その分エネルギー消費も馬鹿にならなかった。

グラニのエネルギー残量は、残り少ない。

まともに戦えるだけのエネルギーは残って無かった。

「……………」

タカトは一瞬考え込むと、顔を上げ、福音を見上げた。



簪は、迫りくる光弾をメタルストームで撃ち落す。

だが、福音は片翼になったとはいえ、その動きは速い。

簪が光弾に気を取られていた隙に、福音が簪の後ろへ回り込んだ。

「しまった!」

福音は無数の光弾を展開する。

数は半分になったとはいえ、至近距離で避けられるものではない。

(逃げ切れない!)

簪は撃墜を覚悟する。

だが、

「簪さん! これをっ!」

聞こえたタカトの声に目を開けば、目の前には飛んでくるイージス。

簪は、咄嗟にイージスを右手で掴み、前方に構えた。

簪は、イージスで光弾を受ける。

――ガキィ

その時、金属がぶつかり合う音がした。

簪が確認すると、そこには、残った片翼にグラムが突き刺さった福音の姿。

簪は瞬時にタカトが投擲したものだと分かった。

簪は、グラムが突き刺さって動きが鈍っている福音に追撃を仕掛けようとして、

「タッ、タカト!!」

鈴音の悲痛な叫びに、思わずそちらを見た。

そこには、

「――――ッ!?」

ISの各部を損傷し、真っ逆さまに落ちて行くタカトの姿。

簪は、グラニの性能を思い出してハッとなった。

グラニは、空戦適正が限りなく低い。

そして、グラニ本体の装甲も、量産機以下だ。

それを補うために、イージスという鉄壁の防御を誇るシールドを持っているのだが、今それは簪の手に。

そして、唯一の武器であるグラムも福音の翼に突き刺さっている。

つまり、今のタカトには身を守る物が何もなかったという事。

空戦適正が低いグラニでは、無数の光弾を全て避けるのは不可能だ。

それは、装甲の薄いISで、光弾を諸に受けたことを意味する。

「――ッ! タカト君っ!!」

簪は、咄嗟にタカトを助けに行こうとした。

蒼狼のスピードなら、地上に激突する前に助け出せると判断したのだ。

しかし、

「………ッ! 簪さん!!」

タカトは、力を振り絞って簪を厳しい目で見つめつつ叫んだ。

「ッ!?」

簪は、タカトのその意味を悟るが、一瞬迷う。

だが、厳しい目で簪を見つめ続けるタカトの目を見て、

「―――ッ! うあっ…………あああああああああああああっ!!!」

簪は叫び声を上げながらタカトに背を向け、福音に向かって武装を乱射する。

高出力レーザーが、残っていた片翼を吹き飛ばし、無数のミサイルが福音本体に殺到する。

爆発に呑まれる福音。

タカトは、それを見届けると笑みを浮かべ、力なく地上へ落下していった。

タカトは、海上にあった幾つかの小島の一つに墜落する。

大きな砂煙が上がり、タカトの姿を覆い尽くした。




福音は、爆炎の中から海上に向けて落下していく。

だが、簪の猛攻は終わらない。

落下していく福音に右手を突き出すと、まるで狼の頭を模したような砲口を持つ大型の火炎放射器のような重火器を展開する。

簪は、福音をロックオンすると、

「コキュートスブレス!!」

躊躇なく引き金を引いた。

狼の頭のような砲口から放たれたのは、超低温冷気砲。

放たれたそれは、福音が海に落ちた瞬間に着弾。

福音の落下によって上がった水柱ごと海面を凍らせる。

「はぁっ…………はぁっ…………」

簪は息を吐いてその様子を見つめる。

「やったのか?」

箒が簪に近付きつつ呟く。

凍った海面に変化は見られない。

誰もが勝利を確信した。

「………ッ! タカト君!」

簪はハッとなってタカトが墜落した小島に向かおうとした。

その時、

――ピキッ

まるで、卵が孵化するように凍った海面に一筋の罅が走る。

その罅は、見る見るうちに全体へと広がり、その瞬間、強烈な光の珠によって、氷は全て砕け散った。

「「「「「「ッ!?」」」」」」

全員が驚愕する。

青白い光の珠は、海面をへこませ、その中心に福音が自らを抱くように蹲っている。

「これは………拙い! 二次移行セカンド・シフトだ!!」

ラウラが叫ぶ。

その瞬間、蹲っていた福音が体を起こし、次の瞬間、翼を失ったはずの頭部からエネルギー翼が発生、更に枝分かれし、4対8枚の翼を広げた。

そして、光の珠が弾け飛び、福音は箒の方を向いた。

すると、エネルギー翼から発生した光の粒子が福音の頭上に集中。

見る見るうちに巨大な光の球となり、次の瞬間、特大の砲撃となって箒に襲い掛かった。

「なっ!? うわぁああああああっ!!」

箒はその砲撃を受け、吹き飛ばされ、落下する。

「箒さん!」

セシリアが叫ぶが、次に福音はセシリアに標的を定める。

「くっ!」

セシリアは、一旦距離を置こうとしたが、福音のスピードは、二次移行セカンド・シフト以前よりも遥かに増しており、あっという間に追い付かれる。

そして、福音が翼を大きく広げたかと思うと、その翼が更に巨大化。

その翼でセシリアを包み込んだ。

逃げ場のない状態での光弾の一斉射撃。

セシリアは成すすべなく墜とされた。

続いて福音は、シャルロットに狙いを定め、箒に放った砲撃を行う。

シャルロットは、咄嗟にエネルギーシールドを張るが、その威力は先程の比ではなく、エネルギーシールドは破られ、シャルロットも吹き飛ばされた。




箒は、ある小島に墜落していた。

そして、朦朧とする意識の中、一つの事を思っていた。

それは、

(一夏に、会いたい………会いたい……………会いたい!)

箒はそれだけを望む。

「一……夏……」

一夏の名を呟き、箒の意識は闇に呑まれようとした。

その時、

「箒」

聞こえるはずのない、声がした。

箒はゆっくりと目を開ける。

ぼやける視界の中、今までとは形の違う白式を纏った一夏の姿。

「……一夏?」

箒は思わず呟く。

「ああ………待たせたな」

一夏ははっきりとそう返す。

「一夏!?」

箒は思わず起き上がり、叫んだ。

「体は!? 傷は!?」

「大丈夫だ。 戦える」

箒の言葉に優しくそう言う一夏。

その言葉通り、何故か一夏の身体には、傷らしい傷は見当たらない。

「皆には、止められたけどな」

そう笑いながら言う一夏。

「………ひっく………よかっ……よかった………本当に………」

箒は涙を浮かべながらそう呟く。

「何だよ、泣いてるのか?」

「なっ、泣いてなどいない!」

箒は涙を拭いながらそう言う。

すると、一夏は白いリボンを箒に差し出す。

「箒。 これ」

「えっ?」

突然の事に、箒は声を漏らす。

「いつもの髪型のほうが似合ってるぞ。 誕生日、おめでとう。 今日は7月7日だろ?」

「ッ!」

箒は、一夏が自分の誕生日を覚えていてくれたことに、喜びを感じる。

「じゃあ、行ってくる」

一夏はそう言うと、福音を見上げ、飛び立った。




戦場では、既にラウラ、鈴音が墜とされ、簪が一人で戦っている状態だった。

いや、福音の攻撃を、簪が必死に避けているだけだ。

福音のスピードと、蒼狼のスピードはほぼ互角であり、成す術無く落とされるという事は無いが、じわじわと追い詰められていく。

簪も反撃するが、福音の変則的な機動の前に、掠りもしない。

簪がやられるのも、時間の問題であった。

だがその時、荷電粒子砲が福音に向かって放たれた。

福音は咄嗟に回避行動を取り、掠るに止める。

荷電粒子砲が放たれた方向から、一夏が飛んできた。

福音は一夏に向き直る。

一夏は福音を見据え、

「さあ、再戦と行くか!」

そう言い放った。

一夏の白式は第二形態『雪羅』となっており、ウイングが大型化し、4機に増えたこともそうだが、一番の特筆すべきはその左腕であった。

先程の荷電粒子砲を撃ったのもこの左腕であり、多機能武装腕とも言える装備だ。

福音が、8枚の翼を広げ、以前とは比較にならない数の光弾を放つ。

一夏は、それを避けようとはせず、

「雪羅! シールドモードへ切り替え!」

一夏が叫ぶと、雪羅が変形。

その腕から光の膜が広がる。

エネルギーシールドのようだが、福音の光弾がその膜に触れると、光弾が四散していく。

「………あれは、『零落白夜』のシールド?」

福音の光弾を避けつつ、簪はそう推測する。

零落白夜のシールド。

つまり、エネルギーを無効化するシールドだ。

それは、エネルギー系の攻撃に関しては、ほぼ無敵というに他ならない。

ただし、エネルギーの消耗は激しいようだ。

「雪羅! クローモード!」

一夏がそう言うと、雪羅の爪から雪片と同じ零落白夜の刃が発生する。

右手に雪片。

左手に雪羅。

2つの刃で、一夏は福音に斬りかかる。

福音は、その攻撃を避け、反撃しようとしたが、咄嗟に回避行動を取った。

その瞬間、福音の真下から砲撃が襲った。

次々と飛来する砲撃に、福音は回避行動を取り続ける。

すると、

「すまん。 回復に手間取った」

ラウラとセシリアが一夏の近くに現れる。

「さあ、反撃のお時間ですわよ」

セシリアが自信を持って言う。

「ラウラ、セシリア」

一夏がそう言うと、

「一夏、さっさと片付けちゃおうよ」

「エネルギーは充分。 僕達の心配はいらないよ」

鈴音とシャルルもいつの間にか一夏の近くに来ていた。

「鈴、シャル…………ようし!」

一夏は、皆の言葉に応える様に福音に向かって飛び立つ。

その後を追って4人も飛び立つ。

その様子を見ていた箒は、

「一夏………私も共に戦いたい…………あの背中を守りたい!」

そう強く思った。

その時、紅椿から、金色の粒子が溢れだし、紅椿が金色に輝く。

「これは?」

箒は、その変化に気付き、声を漏らす。

モニターが表示され、紅椿の単一仕様能力が発動したことを示した。

『絢爛舞踏』

それが発動した瞬間、紅椿のエネルギーが最大まで回復した。

「これは、エネルギーが、回復!?」

箒はその事に驚愕する。

「これが、紅椿の単一仕様能力ワンオフ・アビリティ!」

箒は目を見開き、一夏から貰ったリボンで髪を纏める。

「よし! 行くぞ、紅椿!」

箒は飛び立つ。

明るくなり始めた空で、一夏達は福音とぶつかり合う。

しかし、第二形態になったことでエネルギーの消耗が激しくなった白式は、シールドエネルギーの残量が1割を切る。

「拙い! エネルギーが!」

一夏もそう漏らすが、その時、紅椿の自立機動兵装が福音に攻撃を仕掛け、一夏への攻撃を中断させる。

その隙にラウラやシャルロットが射撃を行い、福音はその場を離れる。

その隙に、箒は一夏へと接近した。

「一夏、これを受け取れ!」

箒が一夏に手を差し出し、一夏がその手を掴むと、再び紅椿から金色の粒子が発生し、白式を包む。

すると、白式のエネルギーが全回復した。

「何だ!? エネルギーが……回復!?」

その事実に驚く一夏。

「一夏、奴を倒すぞ」

「あ、ああ」

一夏は驚きながらも頷く。

「行くぞ!」

一夏を筆頭に再び飛び立つ一同。

7人は福音と激しい戦いを繰り広げる。

近距離では一夏と箒。

中距離では、鈴音とシャルロット。

遠距離では、ラウラ、セシリア、簪。

7人に隙はない。

福音と互角以上に戦っている。

しかし、あと一歩が届かない。

「くそっ! もう少し、もう少しなのに!」

一夏が焦り始める。

折角箒に回復してもらったエネルギーも、既に50%を切っている。

その時、白式のエネルギーが尽きれば再び不利になると判断した簪が、福音に突撃した。

現在、福音に追い付ける速度が出せるISは、箒の紅椿と、近距離戦に限るが一夏の白式。

そして、簪の蒼狼だ。

簪は、近距離戦が3機になることで、福音の隙を作り出せると判断したのだ。

だが、これは簪にとっても危険な賭けであった。

蒼狼の残弾数も残り僅か。

下手をすれば怪我では済まない。

だが、それでも簪は前に出た。

一夏、箒、簪の3人が福音を狙う。

簪の判断通り、近距離戦が3機になることで、福音の攻撃が減っている。

箒が斬りかかり、一夏の荷電粒子砲が狙い、簪のミサイルが福音を襲う。

その時、一夏の荷電粒子砲が福音にクリーンヒットし、福音の体勢を崩す。

簪は、最後のチャンスとばかりにブーストを全開にして福音に接近。

至近距離からのレーザー砲で仕留めようとした。

福音の背後からレーザー砲を放つ。

更にバランスを崩す福音。

「逃がさない」

簪は続けてレーザー砲を放とうとして、

――カキン

空しく音が響いた。

レーザー砲のエネルギーが尽きたのだ。

「ッ!」

簪はすぐに装備を切り替え、ミサイルを放った。

だが、それよりも早く福音は体勢を立て直し、ミサイルを回避する。

「しまった!」

思わず簪は声を漏らす。

今のミサイルで、残弾はゼロ。

メタルストームも、ガルルトマホークも今までの戦いで撃ち尽くしている。

つまり、もう簪に武器は無い。

そんな隙を、福音は見逃さなかった。

簪に狙いを定め、頭上にエネルギーを集中させる。

エネルギーを集中させた砲撃だ。

回避は間に合わない。

簪は覚悟して目を瞑る。

簪の脳裏に様々な思いが渦巻くが、最後に思い出したのは、タカトの事だった。

松田 タカト。

最初に会った時は、世界で2人だけのIS男性操縦者ということで少しだけ興味があった。

でも、普段のタカトは、どこか頼り無さ気で、簪の求めるようなヒーローには程遠いと感じていた。

ただ、自分と同じデジモンカードゲームをするという事で、そこそこ仲の良い友達ぐらいにはなれると思った。

その印象が変わったのは、1組のクラス代表決定戦の時。

相手はイギリスの代表候補生のセシリア。

簪は普段のタカトから見ても、成す術無くタカトが負けると思っていた。

だが、戦いに赴くときのタカトの表情は、普段の頼りなさは全く無く、寧ろ頼もしいと感じた。

タカトのISが、かつて簪と楯無を救ったデュークモンに似ていたことや、デジモンのカードを使う能力を持っていたことも、簪がタカトに興味を持つきっかけとなった。

その後もタカトと一緒に居るうちに、簪はタカトにどんどん惹かれていった。

普段は頼りなくとも、いざという時には頼もしく、自分を気にかけてくれる。

簪と楯無の仲を取り持とうともしてくれた。

そのおかげで、楯無との関係も、かなりの軟化を見せている。

タカトは、完全無欠のヒーローではない。

だが、簪にとっては自分を救ってくれるヒーローだった。

だから、言わずにはいられなかった。

「助けて………タカト君!」

その瞬間、福音から放たれた巨大な砲撃が簪を襲った。





一夏が合流したころ、小島に墜落したタカトは、戦闘音で意識を取り戻した。

そうは言っても、視界がはっきりせず、朦朧としている。

「うぐっ………」

タカトは体の痛みに声を漏らす。

そんな時、仰向けに倒れるタカトの視界に、白いISが目についた。

「一夏………?」

銀色のISとぶつかり合う白のIS。

「………よかった………目が覚めたんだね、一夏」

タカトは安堵の息を吐く。

そして、痛む体を起こそうとした。

「………ううっ………皆が戦ってる………僕も、行かないと」

しかし、グラニは福音の攻撃でボロボロであり、とても戦える状態では無かった。

「うぐっ!」

タカトは起き上がろうとしたが、力が入らず再び仰向けに倒れる。

「はあっ………はあっ………」

タカトは息を吐く。

視界はまだぼやけている。

「皆が戦ってるのに、僕だけ寝てるわけにはいかない………ギルモンに………僕の一番の友達に………胸を張って会うためにも………!」

その時、タカトは気付かなかったが、グラニを中心に、小さなデジタルフィールドが発生した。

タカトは、再度起き上がろうと試みるが、体の痛みにより再び倒れる。

「くぅ………」

空を見上げるが、もう一夏達の姿は見えない。

タカトは、空に向かって右手を伸ばす。

「もし……君と一緒だったら………僕は立ち上がれたかな?………ギルモン………」

立ち上がれない自分の情けなさに、そう漏らすタカト。

すると、タカトの視界に赤い何かが入ってきた。

それは、小型の恐竜のような姿で全体的に赤く、ところどころに黒い模様が入った爬虫類型デジモン。

その姿は、タカトが会いたくて堪らなかった相手、ギルモンだった。

(はは………ギルモンの幻を見るなんて、僕は何処まで甘えているんだろう………)

タカトは内心自傷気味に苦笑する。

「ギルモン………」

例え幻と分かっていても、タカトはギルモンを見つめて、その名を呟く。

その幻のギルモンは、タカトに顔を近付けると、クンクンと匂いを嗅ぐ仕草をする。

(ははっ、幻でもギルモンはギルモンだね。 そうやって匂いを嗅ぐ仕草も変わって無いや)

タカトは、幻のギルモンに向かって笑みを浮かべる。

「………タカトの匂い…………タカト?」

その幻のギルモンは、タカトに向かってそう問いかける。

(凄い……声まで聞こえるや………まるで本物のギルモンがそこにいるみたいだ)

タカトは、笑みを浮かべつつ頷き、

「うん………そうだよ、ギルモン」

そう言いながら、タカトはそのギルモンに手を伸ばす。

触れれば消えてしまうだろう幻。

それでも、タカトは手を伸ばす。

(いつまでも、幻に甘えてちゃ、ダメだからね)

タカトはそう思いながら、

「ギルモン…………例え幻でも、会えて嬉しかったよ………」

そう呟き、手が幻のギルモンに触れて空を切―――

「………ムギュ!?」

らなかった。

それどころか、そのギルモンはタカトの顔に飛びついてきた。

「タカトーーーーッ!!」

ギルモンは叫ぶ。

「ムググ………!?」

タカトは突然視界が真っ暗になり混乱する。

タカトは、その事ではっきりと意識が覚醒し、痛みも忘れて起き上がった。

何とかギルモンを顔から離してギルモンを再度見つめる。

「ギ、ギルモン!? 本当にギルモンなの!?」

思わず問いかけるタカト。

「うん! ギルモンだよ! タカト!」

ギルモンはそう答える。

タカトは改めてギルモンがそこにいることを実感したのか、目に涙を浮かべる。

「ギルモン………ギルモン!!」

思わずギルモンを抱きしめる。

「ギルモン! 会いたかったよ! ギルモン!!」

「ギルモンもタカトに会いたかった! タカト!!」

ギルモンも笑みを浮かべてそう言う。

すると、突然ギルモンの身体から赤い光の粒子が分離、ISのグラニに吸収される。

それは、まるで倒したデジモンをロードするかのような現象だった。

「な、何!?」

突然の事に困惑するタカト。

ギルモンを見るが、どうやらギルモンにも変化は見られない。

光の粒子がグラニに完全に吸収されると、

『プログラム修復! また会えたね、タカト、ギルモン』

突然そんな声が聞こえた。

だが、その声は忘れるはずがない声。

「グラニ!?」

タカトは思わず叫ぶ。

『ああ。 そうだよ、タカト』

その声は、タカトが装備しているISから聞こえた。

「グラニ?」

ギルモンが呟く。

『そうだよ。 久しぶりだね、ギルモン』

グラニがギルモンに向かってそう言う。

「グ、グラニ、どうして?」

タカトは思わず問いかける。

『ギルモンに残留していた僕のデータを吸収して、自己意識を修復するプログラムを組んでおいたんだ。 また君達が会えることを信じて』

「グラニ………」

グラニの言葉に、タカトは笑みを零す。

その時、空で爆発音が響いた。

その音でタカトはハッとなる。

この空では、まだ一夏達が戦っているのだ。

タカトは立ち上がってギルモンを見下ろす。

「ギルモン………せっかく会えたばかりだけど、僕皆の所に行かなきゃ………」

そう言うタカト。

「うん。 行ってきてタカト。 ギルモンここで待ってる!」

ギルモンの言葉に、タカトは思わず笑みを浮かべ、

「うん! すぐに終わらせて戻ってくるから!」

そうはっきりと言うタカト。

その時、タカトのカードケースから光が漏れていた。

タカトはそれに気づき、カードケースから光っている1枚のカードを取り出す。

「これは………」

タカトが光っているカードを手に持つと、そのカードが変化し、ブルーカードへと姿を変える。

「ブルーカード!」

思わず叫ぶタカト。

そして、何故かそれと同時に理解した。

このブルーカードはギルモンを進化させるものではなく、グラニを進化させるものだと。

タカトは、福音と戦う一夏達を見上げる。

「やるよ! グラニ!」

『いつでもOKだ。 タカト!』

タカトの言葉に頼もしく応えるグラニ。

タカトはDアークを取り出し、ブルーカードを構える。

そして、ブルーカードをDアークのカード挿入口に通し始める。

「カードスラッシュ!」

Dアークがブルーカードのデータを読み込んでいく。

「マトリックスエボリューション!!」

その言葉と共に、タカトはブルーカードをスラッシュした。

その瞬間、

―――MATRIX

EVOLUTION―――

Dアークの画面にそう表示された。

その瞬間、グラニが眩い光を放つ。

光の中で、グラニの姿が変化する。

白銀に輝いていた装甲は、炎のような真紅の装甲へ。

グラムとイージスが無くなり、代わりに左手に白く輝く剣『ブルトガング』。

右手には何も持っていないが、同じく白く輝く槍『グングニル』を展開可能となっている。

そして、背中には5対10枚の白く輝く翼があった。

「ゼロアームズ・グラニ! 二次移行セカンド・シフト!!」

グラニの第二形態『クリムゾンモード』が誕生した。

「じゃあ、行ってくるね、ギルモン」

「うん。 頑張ってね、タカト」

タカトはギルモンに笑みを向けると、空を見上げ、

「皆、今いくよ!」

夜明け前の空へと飛びたった。





福音の特大砲撃が簪に迫る。

「助けて………タカト君!」

簪が叫ぶ。

一夏達の誰もが間に合わない。

最悪の光景が思い浮かぶ。

だが、砲撃が簪を飲み込む寸前、雲を突き抜け、何かが簪の前に立ちはだかった。

その何かが砲撃を受けると、驚くことにその何かに砲撃は四散させられていた。

まるで、一夏の零落白夜のシールドで、防いだかのような現象だ。

やがて、砲撃が止む。

すると、そこにいたのは真紅の装甲と純白の翼をもったISを纏った、タカトだった。

左手には白く輝く剣。

右手にはツインソードのような白く輝く槍を持っていた。

タカトはその右手の槍を前に突き出すように静止している。

その時、簪が恐る恐る目を開けた。

「大丈夫だった? 簪さん」

タカトが簪に向き直り、優しく声をかけた。

「……タ……カト……君?」

「うん。 お待たせ、簪さん」

簪は、タカトの姿を確認すると、ポロポロと涙を零し始めた。

「……タカト君……タカト君……!」

涙を流しながらタカトの名を呼ぶ簪。

「ええっ!? か、簪さん!?」

いきなり泣かれたタカトは困惑する。

すると、

「タカト!」

一夏が叫んだ。

見れば、福音が再び砲撃を放とうとしている。

タカトは、瞬時に福音に向き直ると、両手の剣と槍を収納し、両手を広げた。

その手と手の間に、エネルギーが集中していく。

そして、福音から特大砲撃が放たれた瞬間、

「ユゴスブラスターーーーッ!!」

タカトも特大のエネルギー波を放った。

2つの砲撃はぶつかり合い、一瞬拮抗するが、

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

タカトの気合の入った声と共に、一気に福音の砲撃を押し切った。

タカトの砲撃が掠り、吹き飛ばされる福音。

「すげっ………」

「あ、あの砲撃を押し返した」

その威力に呆ける一夏達。

「一夏っ!!」

タカトが一夏に向かって叫ぶ。

一夏はハッとなって、吹き飛ばされた福音を追って飛び出す。

タカトは簪の様子を確認する。

「簪さん、さっきも聞いたけど、大丈夫? 怪我は無い?」

「あっ、うん………私は大丈夫………でも、もう残弾が残ってない………」

そう言う簪。

タカトは一瞬考え、ふと閃く。

「そうだ」

タカトはグラニから接続用のコードを引っ張り出し、簪の蒼狼に接続する。

「グラニ、蒼狼とのデータリンクを構築して」

『わかった』

「えっ?」

簪は突然聞こえたグラニの声に困惑する。

『リンク構築完了。 いいよ、タカト』

タカトは1枚のカードを取り出し、Dアークにそのカードをスラッシュする。

「カードスラッシュ! 充填プラグインQ!」

タカトのカードスラッシュの効果が、リンクによって簪の蒼狼に送られる。

その瞬間、簪の蒼狼が、エネルギーどころか、残弾数まで全回復した。

「これで良し。 残弾や、レーザーのエネルギーは回復したけど、シールドエネルギーは無理だから、シールド残量には気を付けて」

タカトはそう言うと、福音の方に向き直る。

「タ、タカト君。 今の声って………」

簪は、どこからか聞こえる第三者の声に困惑する。

「心配いらないよ。 グラニは、僕の大切なパートナーさ」

タカトはそう微笑む。

そして、

「行くよ! グラニ!」

『ああ! タカト!』

タカトは戦場へと飛び立った。



相変わらずの福音の変則起動と武装に苦戦する一夏達。

その時、

「はぁああああああっ!」

タカトが左手の剣で福音に斬りかかる。

福音は回避行動をとり、その一撃を避ける。

いくらタカトと言えど、福音の変則起動はそう簡単に見切れるものではない。

しかし、

『タカト! 左後方45度!』

グラニがそう言い、タカトは迷わずにグラニの言葉通りの所に剣を振るう。

――ガキィ

タカトを後ろから羽で包み込もうとしていた福音に、ブルトガングが直撃、福音は仰け反る。

福音はすぐにその場を離れ、再びタカトをかく乱するように変則起動を繰り返す。

『タカト! 右前方30度! 上空60度より広範囲攻撃!』

見れば、福音は指示された場所で、羽を広げて光弾を展開しようとしていた。

「グングニル!」

タカトは右手にグングニルを呼び出す。

嵐のように降ってくる光弾。

タカトはグングニルを薙ぎ払うように一振りする。

すると、グングニルから放たれた波動のようなものが光弾を四散させていく。

これは、グングニルの『エネルギー分解』の能力。

一夏の『エネルギー無効』の能力と似ているが少し違う。

一夏の白式の能力は、エネルギー関係を受け付けない能力であり、攻撃であれ防御であれ、零落白夜に対しての、エネルギー系統の干渉を無効化する、いわば守りの能力。

大してタカトの『エネルギー分解』は、こちらからエネルギーに対して干渉し、効果範囲全てのエネルギーを分解する能力であり、例えば起動中のISに刺さったとしたら、あっという間にエネルギーが分解され、強制解除まで持って行かれるだろう。

いわば攻めの能力だ。

その能力を使って、先程も簪を守ったのだ。

その代わり、エネルギー消費も零落白夜以上だ。

しかし、タカトは常時発動しているわけではない為、全体的に見れば第一形態の時とさほどエネルギー消費は変わらないとも言える。

タカトに向かってきた光弾は、全て分解され、四散する。

その時、福音に向かって大量のミサイルと高出力レーザーが飛来。

攻撃後の僅かな硬直時間で福音の回避が遅れ、レーザーが掠り、ミサイルが直撃する。

見れば、簪が全武装を展開していた。

「この隙、逃さん!!」

ラウラが大型レールガンで、吹き飛ばされる福音を狙い撃つ。

砲弾が福音に直撃。

更に吹き飛ばす。

「逃がしませんわ!」

「今度こそ落とす!」

「ここで終わらせる!」

セシリアのレーザーライフル。

鈴音の衝撃砲。

シャルロットの弾丸が福音を襲う。

それぞれの攻撃にシールドを削られていく福音。

「紅椿! 切り裂け!!」

箒が猛スピードで突っ込んでいき、すれ違いざまに剣を振るう。

弾かれる福音。

「一夏! 止めを!」

箒が一夏に呼びかける。

「おおっ!!」

一夏はスラスターを全開にして、エネルギー残量も気にせず全力で突撃する。

だが、吹き飛ばされていた福音が突然動きだし、体勢を立て直す。

「なっ!? まだ動くというのか!?」

驚愕するラウラ。

福音は翼を広げ、頭上にエネルギーを集中させる。

一夏は、それでもこのチャンスを逃すまいと加速を緩めない。

「あそこからじゃ間に合わない!」

「一夏さん! 逃げてください!」

「ダメよ一夏!」

「一夏っ!」

シャルロット、セシリア、鈴音、箒が一夏を止めようと声を上げる。

しかし、

「一夏っ!」

タカトの声が響いた。

「そのまま行って!」

驚くことにタカトは突撃を指示した。

一夏は、その声を聞いて笑みを浮かべ、

「へっ………うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

全力で福音に向かって突っ込んだ。

しかし、一夏が福音に届くよりも早く、福音がエネルギーの充填を完了する。

そして、特大の砲撃が一夏へ放たれようとした瞬間、

「クォ・ヴァディス!!」

タカトが全力を持ってグングニルを投擲した。

エネルギー分解能力を持つそれは、一夏を追い越し、放たれた砲撃に突き進む。

砲撃とグングニルがぶつかり合い、砲撃のエネルギーが分解され、四散してゆく。

グングニルは、砲撃を分解しながら勢いを緩めず突き進む。

遂に砲撃を貫き、同時に同じエネルギーで出来ていた福音の翼も分解して消し去った。

いきなり翼を消し去られた福音は動けない。

「今度は逃がさねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

一夏は零落白夜の刃を福音の胴体に突き立てる。

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

押されながらも、福音は一夏の首に手を伸ばす。

「ぐうっ………!」

一夏は首を絞められ声を漏らすが、その刃を突き立てる手は離さない。

「うぉおおおおおおっ!!」

一夏の最後の一突きに、福音はようやく動きを停止させた。

「はぁ………はぁ………」

一夏は息を吐く。

その時、福音のISが解除され、スーツだけとなった操縦者が露わになる。

当然、ここは空中なので、その操縦者は、重力に引かれて落下を始める。

「おっと!」

一夏は、咄嗟にその女性を受け止めた。

箒が一夏に近付き、

「終わったな」

そう言葉をかける。

「ああ………やっとな」

一夏は呟く。

そして、一夏の元に皆が集まってきた。

「やったわね。 一夏」

「流石ですわ。 一夏さん」

「一夏、お疲れ様」

「私の嫁なのだ。 当然だな」

それぞれが一夏を労う。

「ああ。 皆もな」

そう返す一夏。

すると、一夏はタカトの方を向き、

「それにしても、ド派手に変わったな、タカトのIS」

そう言った。

「あはは……そうかな?」

タカトが苦笑すると、

「そうね。 真っ赤な装甲に真っ白な羽だから、余計に目立つわ」

鈴音も一夏に同意する。

「ですが、先程の戦闘を見るに、今まで極端に低かった空戦能力が、大幅に上昇していますわ」

セシリアがそう説明する。

「まあ、元々グラニは空中専用だったし………上がったというより、戻ったと言った方が適切かな?」

そう呟くタカト。

「それにしても、さっきタカトのISから、声が聞こえた気がしたんだけど、それって気のせいなのかな?」

シャルロットがそう発言した。

「あはは、気のせいじゃないよ」

タカトは笑いつつそう答える。

「グラニ」

タカトがグラニに呼びかけると、

『やあ、皆。 こうやって話すのは初めてだね。 ゼロアームズ・グラニだ』

グラニがそう挨拶する。

「へっ?」

思わず一夏が素っ頓狂な声を漏らす。

「ISが………喋った?」

鈴音も呆然と呟く。

「信じられん………」

ラウラですら、驚愕の表情を浮かべている。

「束さんがばらしちゃったから言うけど、僕のISは、ISのコアとデジコアが融合した特殊なものなんだ。 その融合したデジコアはもともとグラニのものなんだよ。 それでついさっき、意識が復活したんだ。 二次移行セカンド・シフトしたのもそれが切っ掛けだよ」

「………じゃあ、グラニって、元々はデジモン?」

簪がそう尋ねる。

「う~ん………グラニは純粋なデジモンってわけじゃないけど、そうとってもらってかまわないよ」

一応頷くタカト。

その時、水平線に朝日が昇り始めた。

「日の出だ……」

一夏が呟く。

朝日は、7人を優しく照らす。

それは、まるで7人の苦労を労うかのようであった。

しかし、

「………………?」

タカトが何かに気付いた。

タカト達から見た朝日の中に、何か霞のようなものがかかった。



同時刻。

旅館では、千冬達が衛星からの情報で、福音との戦いの一部始終を確認していた。

「ふう………どうやら福音は機能を停止した模様です」

真耶が安堵のため息を吐きつつそう言った。

「やれやれ、手間をかけさせてくれる。 戻ってきたら、全員説教だ」

千冬は、心配はしていないと言わんばかりにそう豪語する。

「あはは……お手柔らかにしてあげてください」

真耶が苦笑しつつそう呟いた。

その時だった。

画面にブレが生じ、音声にもノイズが混じり始める。

「な、何!?」

真耶が慌ててパネルを操作するが、あっという間にモニター画面が映らなくなり、音声通信も何も聞き取れなくなってしまった。

「こ、この現象は、まさか!?」

真耶は、以前にも一度あった現象に、状況の予想を付ける。

「…………デジモンか!」

千冬がそう口にした。




朝日にかかった霞のようなものは、デジタルフィールドだった。

そして、そのデジタルフィールドの中から、真っ黒な燃え盛る翼をもった巨鳥が姿を現す。

「な、何? あれ!」

デジモンを初めて目にするシャルロットは声を上げる。

「デジモン!?」

鈴音が声を上げる、

「なんだ………? 黒い……バードラモン?」

一夏が自分の知識の中から似通ったデジモンを引っ張り出す。

「違う! あれは、バードラモンの亜種! セーバードラモンだ! バードラモンと違って気性が荒い!」

タカトが叫びながら説明する。

すると、セーバードラモンはタカト達を敵とみなしたのか、大きく翼を羽ばたかせ、タカト達に襲いかかってきた。

「キェエエエエエエエエエエッ!!」

タカト達は咄嗟に散開するが、セーバードラモンの羽ばたきは力強く、その風圧に晒される。

「くっ!」

タカトは何とかバランスを取る。

「皆! エネルギーや弾薬はどのくらい残ってる!?」

タカトは叫んで、皆に問いかけた。

「俺は、ほとんど残ってない! 福音との戦いで使い切っちまった!」

一夏が福音の操縦者を庇いつつ叫ぶ。

「私もだ! 絢爛舞踏を発動できればまだ行けるが、先程から上手くいかん!」

箒もそう言う。

「私も限界よ。 シールドエネルギーが残り少ないわ!」

「わたくしのブルー・ティアーズもですわ!」

鈴音とセシリアもそう言い、

「僕も、あいつに効きそうな武器の弾薬は残ってないよ」

シャルロットも、

「私も弾薬は僅かしか残ってない!」

ラウラも、

「私は、弾はまだあるけど………シールドエネルギーがもう無い」

簪もだ。

簡単に言えば、全員が満身創痍の状態で、誰一人としてまともに戦える状態では無いという事だ。

「……………………」

タカトは一瞬考え込む。

そして、すぐに顔を上げると、

「皆! 僕についてきて!」

タカトはそう言いつつ地上へ向かって急降下を始める。

「タカト!?」

全員は一瞬怪訝に思ったが、まともに戦える状態では無いのも踏まえて、タカトの後を追った。

当然、少し遅れてセーバードラモンも後を追ってくる。

「ちょっと! どうするのよ! まともに戦える状態じゃないのよ!」

鈴音が叫びながら問いかける。

「大丈夫!」

タカトが向かっているのは、先程タカトが墜落した小島。

タカトは、勢いよくその小島に着地する。

一夏達も、その小島に到着した。

そして、

「キィェエエエエエエエエエッ!!」

セーバードラモンもタカト達に向かって襲い掛かってきた。

「来ますわ!」

セシリアが声を上げる。

すると、

「ギルモン!」

タカトが叫んだ。

その瞬間、

「ファイヤーボール!!」

タカトの後方から一発の火球が放たれ、セーバードラモンに直撃、セーバードラモンはよろけ、バランスを崩したために再上昇する。

「い、今のは?」

シャルロットが、突然の攻撃に声を漏らす。

その時、

「タカトー!」

ギルモンがタカトに向かって駆け寄ってきた。

「ギルモン!」

タカトも、ISを解除してギルモンに駆け寄る。

「ありがとう、ギルモン」

お礼を言うタカト。

そんな様子を、一同は呆然と見つめていた。

「た、タカト?」

一夏が何とか声を出す。

「何、一夏?」

タカトが聞き返すと、

「そいつって………デジモンだよな?」

一夏は確認するように問いかける。

「うん、そうだよ! こっちはギルモン! 僕のパートナーだよ!」

タカトは、笑みを浮かべつつそう紹介した。

「初めまして、ギルモンだよ!」

ギルモンは右腕を挙げつつそう挨拶した。

一同は再び呆然としている。

「ギルモン………」

簪は、ギルモンの姿を見て、先日見た、タカトのオリジナルデジモンを重ね合わせた。

「キエエエエエエエッ!」

その時、上空でセーバードラモンが大きく旋回し、再び急降下で襲い掛かろうとしていた。

タカトは気を引き締めると、

「ギルモン」

「タカト」

見つめ合ってお互いの名を呼び合う。

2人に多くの言葉は必要ない。

2人は、心で硬く結ばれた、本当のパートナーなのだ。

「皆は下がってて、ここは、僕とギルモンが戦うから!」

タカトはそう言う。

「ちょっと待ちなさいよ! そのギルモンって言うの、どう見ても成長期じゃない! それでどうやって成熟期を倒すのよ!」

鈴音が叫ぶ。

言葉には出さないが、簪も心配そうな表情を浮かべている。

「大丈夫。 言ったでしょ? ギルモンは、僕のパートナーだって」

タカトは笑みを浮かべて、心配ないと言わんばかりにそう言う。

タカトは、Dアークを取り出し、相手デジモンのデータを表示する。

「セーバードラモン。 成熟期。 ワクチン種。 巨鳥型デジモン。 必殺技は、ブラックセーバー」

セーバードラモンのデータを確認し、タカトとギルモンが前に出ようとしたとき、

『タカト』

Dアークに収納されたグラニから声がかかった。

「グラニ?」

タカトが尋ねると、

『タカト、これを』

グラニがそう言うと、Dアークの液晶画面が輝き、タカトの前に一つのゴーグルが現れた。

「グラニ、これは……?」

タカトがそう言うと、

英雄ヒーローには、ゴーグルが必要……そうだったよね?』

グラニはそう言った。

タカトは、思わず笑みを浮かべる。

「グラニ……………よーし!」

タカトは、しっかりとそのゴーグルを掴むと、額にゴーグルを装着した。

そして、目を見開き、

「行くぞ! ギルモン!!」

「おっけー! タカト!!」

タカトが呼びかけ、その呼びかけに力強く応えるギルモン。

タカトは、Dアークと1枚のカードを構えた。

そして、そのカードを、Dアークのカード挿入口に通し始める。

「カードスラッシュ!」

Dアークがカードのデータを読み込んでいく。

タカトは、そのカードの名を高らかに叫ぶ。

「超進化プラグインS!」

そして、カードのデータがDアークによってギルモンへと送られた。

――EVOLUTION

Dアークの画面にそう表示されると、Dアークが眩い光を放つ。

その光がギルモンを包み、ギルモン自身が光を放った。

「ギルモン進化!」

その光の中で、ギルモンの身体が一度分解され、再構成される。

更に大きく、更に強く。

これこそ、ギルモンが成熟期へと進化した姿。

その名も、

「グラウモン!!」

光の中から現れたのは、赤き魔竜。

ギルモンの時にあった幼さは消え、体の筋肉が逞しく発達している。

「進化した!」

思わず簪が叫んだ。

「行け! グラウモン!」

「グワァッ!」

タカトの言葉にグラウモンは応える様に一声鳴き、急降下してくるセーバードラモンに立ち向かった。

セーバードラモンは、両足の鋭い爪を突き出してくる。

対してグラウモンは、その両足を、その逞しい腕で受け止めた。

踏みしめたグラウモンの足で、砂浜が抉れる。

「グアアッ!」

グラウモンは、セーバードラモンを掴んだまま体を捻り、近くの岩場にセーバードラモンを叩き付けた。

「ギィェエエエエエッ!」

セーバードラモンは、苦しみの声を上げる。

「チャンスだ! グラウモン!」

タカトが叫ぶと、グラウモンは腕のブレードに電撃を纏わせる。

そして、そのブレードで斬りかかった。

「プラズマブレイド!!」

しかし、セーバードラモンは間一髪急上昇し、その一撃を避ける。

プラズマブレイドは、岩場に大きな傷を残すに止まった。

すると、

「ブラックセーバー!」

セーバードラモンの翼から、黒い火炎弾が次々と発射され、グラウモンの周りに着弾した。

グラウモンは、僅かに怯む。

「ダメだ! 空が飛べる分、向こうが有利だ!」

ラウラが叫ぶ。

しかし、タカトは慌てない。

「それなら!」

タカトはそう言って、1枚のカードを取り出す。

そして、それをDアークにスラッシュした。

「カードスラッシュ! 白い羽!」

スラッシュしたのは、『白い羽』のカード。

すると、グラウモンの背中に、3対6枚の白い翼が生えた。

その翼を使い、グラウモンは空を飛ぶ。

「と、飛んだ!」

一夏が驚いた声を上げる。

まあ、翼のなかったデジモンに、いきなり羽が生えて空を飛べば、驚くのも無理は無い。

グラウモンは空中でセーバードラモンに向かっていく。

セーバードラモンも、負けじとグラウモンに襲い掛かる。

セーバードラモンは足の爪で、グラウモンはプラズマブレイドで斬りかかる。

そして、空中で交差した。

一瞬後、セーバードラモンの翼が切り裂かれており、セーバードラモンは、大きくバランスを崩す。

「止めだ! グラウモン!」

タカトの言葉に、グラウモンは口から大きく息を吸い込む仕草をすると、

「エギゾーストフレイム!!」

口から強力な熱線を吐き出した。

それは一直線にセーバードラモンに向かい、直撃。

大爆発と共に、セーバードラモンはデータの粒子になって消えていった。

グラウモンは、それを確認すると地上へ降りてくる。

そのグラウモンをタカトが出迎えた。

「タカト」

「グラウモン………」

グラウモンはゆっくりと身を屈め、鼻先をタカトの前に持って行く。

タカトは、グラウモンの鼻先を優しく撫でる。

「これからは、ずっと一緒だよ」

タカトはそう呟いた。


その様子を見ていた簪は、

(タカト君………本当に嬉しそう)

タカトの笑顔を見て、そう感じていた。

そして、

(さっきのタカト君、本当にカッコよかった………本当に、物語のヒーローみたいに……)

頬を赤らめつつ、そう思うのだった。









あとがき

第十三話完成。

遅くなりましたが投稿です。

ぶっちゃけ日曜日にはいつもの1話分は書けていたのですが、中途半端は嫌だったので、全部書き上げてからの投稿です。

この話の中では最長の回ですね。

さて、遂に出てきたギルモン。

そしてグラニの第二形態。

空も飛べるようになってチートに磨きがかかりました。

エネルギーの消費が激しいのは相変わらずですが。

さて、ギルモンの再会も含めて、こんな感じでどうですかね?

では、グラニ第二形態のパラメーターをどうぞ。





オリジナルIS



名称:ゼロアームズ・グラニ クリムゾンモード

使用者:松田 啓人

装備:ブルトガング(剣)、グングニル(槍)

陸戦:S

空戦:S

近接戦闘:S

中距離戦闘:A

遠距離戦闘:C

機動力:S

装甲:A




<武装>



無敵剣インビンシブルソード:シールドエネルギー50消費。 ブルトガングにエネルギーを纏わせ斬撃、もしくはエネルギー刃を飛ばす。 


ユゴスブラスター:一発しか打てないが、エネルギー消費なく使える武装。 攻撃力は、100%のファイナルエリシオンに匹敵する。


クォ・ヴァディス:シールドエネルギー200消費。 エネルギー分解の能力を持つグングニルを全力で投擲する。 物理攻撃力は、それほどでもないが、相手のシールドエネルギーも分解するため、まともに喰らえば一撃で強制解除まで持って行く。




全体的に空中での戦闘力がアップしている。

イージスは無くなったが、その分のクロンデジゾイドを全身に移している為、高い防御力を誇る。

しかし、イージスには及ばない。






カード説明。



・アルフォースブイドラモン

装備:アルフォースセイバー

陸戦:A

空戦:S

近接戦闘:S

中距離戦闘:S

遠距離戦闘:C

機動力:S

装甲:B

必殺技1:アルフォースセイバー

シールドエネルギー500消費。 剣にエネルギーを集中させ、一刀両断にする。 威力がありすぎて操縦者ごとISを真っ二つにしかねない。


必殺技2:シャイニングブイフォース

シールドエネルギー500消費。 特大砲撃、威力はファイナルエリシオン並。




こんな感じです。

あと、アンケート結果ですが



1、19票


2、2票


となり、1番の簪、楯無がピンチの時に目の前で進化する、に決定しました。

因みにさっさとばれます。

では、次も頑張ります。





[31817] 第十四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/06/24 13:25
第十四話 ギルモン、IS学園へ




ギルモンと再会し、福音とセーバードラモンを退けたタカト達。

暫くすると、グラウモンはギルモンに退化した。

「タカト!」

ギルモンはタカトに飛びついてくる。

「あはは!」

タカトも笑ってギルモンを受け止めた。

すると、

「な、なあタカト………」

一夏がタカトに声をかける。

「何?」

タカトが一夏に向き直った。

「さっきも聞いたけどよ、そのデジモンって、タカトのパートナーなのか?」

そう尋ねる一夏。

「うん! ギルモンは僕のパートナーで、僕はギルモンのテイマーだよ!」

タカトは迷いなく頷く。

「そ、そうなのか………」

呆気にとられている一夏。

「…………タカト君、そのギルモンって、一昨日見た紙に書いてあった………」

簪が、確認するように問いかける。

「あ、うん。 ギルモンは、僕が考えたデジモンだよ」

タカトは肯定する。

「ええっ!? タカトが考えたデジモンって……何でそんなのが実際にいるのよ!?」

鈴音が思わず叫ぶ。

「そうだね……今更だからもう話しちゃうけど、始まりは4年前。 僕が小学5年生になった時だよ」

「4年前………例の赤い泡が世界中に発生した時か」

ラウラが呟く。

「正確には、その数か月前の話だよ。 その時の僕は、どこにでもいるデジモン好きの小学5年生だった。 でも、ある日自分のカードの中に、見慣れない青いカードがあったんだ」

「青いカード?」

「簪さんは見たことあるよね。 水野さんが使ってたブルーカード。 あれが僕のカードの中に混ざり込んでたんだ」

「あのカードが………」

簪が思い出したように呟いた。

「それで、僕はなんとなくブルーカードをカードリーダーに通したんだ。 そしたら、そのカードリーダーがこのアークに変化したんだ」

タカトがDアークを見せながらそう言う。

正確には、このDアークは2代目で、初代はメギドラモンへ暗黒進化させたときに砕け散っている。

「それで僕は、もしかしたらって思って、その時に描いていたギルモンのメモをアークに通したんだ。 そして、ギルモンは生まれた」

タカトは懐かしむように呟く。

「最初は大変だったよ。 成長期と言っても、中身は何も知らない赤ん坊状態。 隠し通すのにも必死だった」

「えへへ」

ギルモンは少し恥ずかしそうに笑う。

「それから、リアルワールドにリアライズしたデジモンと戦ったり、クルモンっていうデジモンの友達を助けにデジタルワールドに行ったりしたんだ」

「デジタルワールド? 本当にデジタルワールドってあるの?」

鈴音が尋ねる。

「うん。 アニメみたいな話だけど、コンピューターネットワークが広がるにつれて、デジタルワールドも広大化、デジモン達もどんどん進化していったんだ」

そこで、タカトは一旦区切り、

「でも、その所為で目覚めてしまったんだ。 デ・リーパーが」

「デ・リーパー? 何ですのそれは?」

セシリアが聞くと、

「4年前に世界中に現れた赤い泡のようなものだよ。 あれがデ・リーパーさ」

「あれが………」

ラウラがその時を思い出して呟く。

「そのデ・リーパーっていうのは、デジモンとは別物なの?」

シャルロットがそう尋ねる。

「うん。 デ・リーパーは元々増えすぎた余剰データを消去するだけのプログラム。 けど、デジタルワールドが広大化し、デジモン達の進化が進むことによって、デジタルワールドの最深部で眠っていたデ・リーパーが活性化して、デジモンやデジタルワールドそのものを消去し始めたんだ。 その中で、デ・リーパーは人間界にも浸食を始め、出てきたのがあの赤い泡のようなものだよ」

タカトはそう答えた。

「じゃあ、束さんが言っていた、タカトが世界を救ったヒーローっていうのは、そのデ・リーパーから世界を守ったって事なんだな」

一夏が納得したように頷いた。

「もちろん、僕だけじゃなくて、他のテイマーの仲間たちも一緒に、だけどね。 それに、デ・リーパーを元の単純なプログラムに戻せたのも、ヒュプノスやワイルド・バンチの人達のおかげだし。 まあ、その所為でギルモン達とは一度お別れをしなきゃいけなくなったけど…………」

タカトはギルモンに視線を向ける。

「こうやって、また会えるって、信じてたから」

タカトは、ギルモンの頭を撫でながらそう言う。

「ギルモンも、またタカトに会えるって、信じてたよ」

ギルモンもタカトを見ながらそう言った。

タカトはギルモンに微笑む。

その2人の姿は、他の者達から見ても、非常に仲睦まじいものだった。

「まあ、大体は分かったわ。 で? これからどうするの?」

鈴音がタカトに向かっていきなりそう言う。

「え?」

いきなり言われたタカトは、何の事かと首を傾げる。

「アンタねぇ………IS学園にギルモン連れてったら大騒ぎよ」

鈴音が呆れたようにそう言う。

「あ」

タカトも今気付いたようだ。

ギルモンとの再会が嬉しすぎて、そこまで頭が回っていなかったらしい。

「ど、如何しよう………ギルモンと離ればなれはもう嫌だし………」

タカトは目に見えて焦っている。

そんなタカトを見て、

「しかたねえな。 タカトの為に、俺達が一肌脱いでやろうぜ!」

一夏が全員に向かってそう言う。

「俺達でギルモンの存在を隠し通すんだ。 ギルモンを知ってるのも、運よくここに居る8人だけだ」

「一夏………」

一夏の言葉に、タカトは感動する。

「ありがとう……一夏」

そうお礼を言うタカト。

「でも、山田先生はともかく、織斑先生から隠し通せるかな?」

そう呟くシャルロット。

「確かに。 教官を欺き続けることは至難だぞ」

ラウラもそれに頷く。

「ま、まあ最悪千冬姉には訳を話して、ギルモンを置いておけるように頼むさ」

一夏は若干焦りながら言った。

「ともかく、戻ろうぜ。 まあ、確実に説教喰らうだろうけど」

そう言いつつも、一夏の顔は笑顔だった。






「作戦完了!!」

朝の旅館に千冬の声が響く。

旅館の入り口に、タカト達が並んで立たされている。

「と、言いたいところだが、お前たちは重大な違反を犯した」

「「「「「「「「はい」」」」」」」」

千冬の言葉に、全員は否定もせずに返事をする。

「帰ったらすぐ、反省文の提出だ。 懲罰用のトレーニングも用意しておいてやるから、そのつもりでいろ」

千冬の言葉に真耶が焦った顔をして、

「あのっ、織斑先生。 もうそろそろこの辺で………皆、疲れてる筈ですし………」

そう発言した。

すると、千冬は視線をタカト達に戻し、

「しかしまあ………よくやった」

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

次に千冬から出てきた言葉に、タカト達は声を漏らした。

「あ~………全員、よく帰ってきた。 今日はゆっくり休め」

タカト達を労うその言葉に、タカト達は呆然となった。





夕食時。

「ねえねえ、結局福音の暴走って何だったの?」

「戦ってる時、怖くなかった~?」

「もっと話聞かせて? 先生たち、何も教えてくれないんだもの」

生徒達が専用機持ち達に集まる。

今日一日は、ずっとこの調子だ。

まあ、理由は分からないでもないが。

「だ~め! 機密って言われてるんだから」

「大体、私達だって詳しい事聞いてないんだし」

「それに、詳細な情報を知れば、お前たちにも行動の制限が付くぞ。 いいのか?」

そう返す専用機持ち達。

「うわぁ…………それは困るかな」

「見張りとかついたらやだもんね~」

すると、その時、セシリアが気付いた。

「あら? 一夏さんと箒さんは?」

キョロキョロと周りを見渡す。

「あれ~? かんちゃんとまっつーもいないよ~?」

本音が気付いてそう言った。





そのころ、タカトと簪は海岸の岩場に居た。

2人の手には、食べ物の入った袋がある。

「ギルモン! ギルモン!」

タカトは小声でギルモンを呼ぶ。

「タカト!」

岩場の陰からギルモンが姿を現した。

臨海学校の最中は、ギルモンは岩場に隠れてもらうことにしたのだ。

そして、食べ物もこうやって運んでいる。

「ゴメンねギルモン。 ちょっと遅くなって」

そう言って、タカトは袋から食べ物を取り出す。

近くのコンビニで買ってきたパンだ。

ギルモンはお腹が空いていたのか、それにかぶりついた。

「簪さんもゴメン。 付き合わせちゃって」

タカトは簪にも謝る。

「ううん。 いいよ。 私もギルモンには興味があるし。 それに、こうやってみると、ギルモンってかわいいね」

簪はそう言って微笑んでパンにかぶりつくギルモンを見つめる。

「あ、あはは………かわいい、ね」

タカトとしては、カッコいいと言ってくれた方が嬉しいのだが、ギルモンは子供っぽいところがあるので、かわいいと言えばかわいい。

ふと見れば、いつの間にかギルモンは買ってきたパンを全部平らげていた。

すると、ギルモンは海岸の方を向いた。

「どうしたの? ギルモン」

タカトが聞くと、

「イチカの匂いがする」

「えっ? 一夏の?」

「うん。 あとホウキの匂いもする」

気になったタカトは、海岸の方に歩いて行き、その後ろにギルモンと簪が続く。

岩場の陰から海岸を見ると、そこには海岸に座る一夏と箒の姿。

すると、2人が顔を近付けていく。

(えっ? ちょ、まさか一夏!?)

その先を予想したタカトは、内心荒れ狂う。

あの唐変木・オブ・唐変木ズの一夏がキスしようとしているのだ。

「ぎ、ギルモン、見ちゃダメ!」

タカトはギルモンを目隠しする。

因みに簪の方は、顔を赤くしつつもしっかりと凝視していた。

だが、

「おわっ!?」

――バシュッ

一夏の悲鳴と射撃音。

タカトが何だと思ってもう一度覗くと、そこには箒と簪以外の専用機持ち達が一夏達を見下ろしていた。

「姿が見えないと思えば………!」

いつもにも増して威圧感を発しながらそう言い放つラウラ。

「一夏、何をしているのかな?」

いつもと違い、凄まじく重い声でそう言うシャルロット。

「よし、殺そう!」

既にイっている目で一夏を見下ろし、物騒な事をいう鈴音。

「ウフ………ウフフフフフフフフ…………!」

怪しい笑い声を漏らすセシリア。

「ひぃっ! 箒!」

「えっ?」

「逃げるぞ!」

一夏はそう言うと、箒を抱えて走り出す。

その瞬間、容赦なくビームを放つセシリア。

「「待てぇーー!」」

「お待ちなさーい!」

「殺―す!」

一夏の後を追っていく専用機持ち達。

「「………………」」

「?」

それを呆然と見送るタカトと簪。

よくわかってなく、首を傾げるギルモン。

「まあ、一夏は一夏ってことだね」

思わず笑いを零して、タカトはそう呟いた。





臨海学校最終日。

生徒達が、帰りのバスに乗車していく中、タカトは果てしなく困っていた。

それは、ギルモンをどうやってIS学園に連れて帰るかという事である。

当然のことだが、バスの中やその周りには、沢山の生徒達がいる。

周りの生徒達は、時間が経てばバスの中に入るだろうが、バスの窓側に座る生徒達には見られる可能性が高い。

一応、ギルモンにダンボールを被せてカモフラージュしているが、動くダンボール箱は、流石に怪しまれる。

その時、

『タカト、僕に任せてくれ』

Dアークの中のグラニがそう言った。

「グラニ?」

タカトがDアークを取り出すと、液晶画面が輝き、

「えっ?」

タカトは思わず声を漏らした。

そこには、元の騎竜の姿のグラニが滞空していた。

大きさは10cmぐらいの手乗りサイズだが。

『この姿で僕が気を引く。 タカト達は何とか隙を見てギルモンを荷物入れの中に』

グラニはそう言うと、バスの方に飛んで行く。

「あっ! グラニ!」

すると、グラニは態々目立つようにバスの周りを旋回する。

当然、見た目が珍しいグラニは、生徒や教師たちの視線を釘付けにした。

それを見て、グラニの狙いを悟ったタカトは、

「皆、グラニが気を引いているうちにギルモンを!」

タカト達は、ダンボールを被ったギルモンをバスの荷物入れに誘導する。

なるべく目立たないように、8人が壁を作りつつ、ギルモンは荷物入れに忍び込んだ。

その瞬間、気配を感じたのか千冬が振り返った。

思わず硬直するタカト達。

「何をやっている? 間もなく出発時間だ。 早くバスに乗り込め!」

「「「「「「「は、はい!」」」」」」」」

8人は少し焦りながら返事をした。

タカトは荷物を積み込むときに、

「ギルモン、少し辛いかもしれないけど、我慢してね」

そうギルモンに言い聞かせた。

「うん。 ギルモン、大人しくしてる」

ギルモンが素直に頷いたのを見て、タカトは微笑む。

それからバスの入り口の前で、

「グラニ! おいで!」

空を飛んでいたグラニに呼びかけた。

グラニは傍に寄ってきて、タカトの横に滞空する。

「……………松田、それは何だ?」

千冬がグラニを見てそう尋ねる。

「えっと………グラニです」

タカトはそう答える。

「グラニだと? お前のISのか?」

「はい。 二次移行セカンド・シフトしたらこうなりました」

『初めまして。 よろしく』

「ふむ………」

千冬はグラニを興味深そうに見つめる。

「まあ危険は無いようだな。 早くバスに乗れ。 間もなく出発だ」

「はい」

千冬の言葉に頷き、バスに乗り込むタカト達。

とはいえ、やはりグラニは目立つため、クラスメイト達の視線が集中する。

その視線に一瞬たじろぎながらも、タカトは一夏と一緒に最前列の席に座る。

一夏は喉が渇いたのか専用機持ち達に飲み物を分けてもらえないかと頼むが、先日の一件の所為で、分けてもらえない。

そして、少しすると、車内に見知らぬ金髪の女性が入ってきた。

「ねえ、織斑 一夏くんと松田 タカト君っているかしら?」

「「はい?」」

その女性の言葉に、思わず声を漏らす2人。

「君達がそうなんだ。 へぇ」

その女性はそう呟くと、興味深そうに2人を眺める。

「あ、あの、あなたは………?」

一夏がそう尋ねた。

「私はナターシャ・ファイルス。 銀の福音シルバリオ・ゴスペルの操縦者よ」

「「えっ…………」」

タカトと一夏が呆けた瞬間。

それぞれの頬に唇が触れた。

「これはお礼。 ありがとう、白いナイトさんに真紅のナイトさん」

「「え、あ、う………」」

突然の事に2人が困惑すると、

「じゃあ、またね。 バーイ」

ナターシャはそう言うとバスを降りて行った。

「「………………」」

2人は暫く呆けていたが、

「……………はっ!?」

タカトが何かに気付いたように身を屈めた。

その瞬間、

「「「「はい、どうぞ!」」」」

ペットボトル×4が一夏に殺到した。












やがて、バスはIS学園に到着する。

すると、

「織斑、松田! お前たちは男だ。 クラスメイトの荷物位降ろしてやれ!」

と、いきなり千冬から指示が飛んだ。

「「えっ? は、はい!」」

2人は突然の指示に戸惑いながらも返事をする。

タカトにとって、ギルモンを隠すためにも丁度良かったのだが。

タカトは荷物入れにいるギルモンに、もう少し大人しくしているように言うと、クラスメイトの荷物を降ろし始める。

やがて、全員の荷物を降ろし終わり、生徒達が寮へ戻っていく。

そして、タカトはタイミングを見計らってギルモンを荷物入れから誘導し、なるべく目立たないように連れ出した。

寮の廊下で生徒達に見つかりそうになるものの、一夏達の協力もあり、何とかバレずに自分の部屋へと辿り着く。

タカトは、部屋の中にギルモンを連れ込み、急いでドアを閉めた。

「…………………はぁ~~~~~」

ドアを閉めた状態で暫く固まり、安堵のため息を漏らすタカト。

しかし、タカトは忘れていた。

「おかえり~~」

自分の部屋にはルームメイトが居たことを。

タカトは、まるでブリキの人形のようにギギギと後ろを振り向く。

そこには、下着姿にワイシャツというラフにも程がある格好をした楯無であった。

「………って、うわぁ!? なんて格好をしてるんですか楯無先輩!」

盛大に驚くタカト。

「そんな事よりそれは何かな?」

タカトの反応をスルーして逆に問いかける楯無。

楯無が指したのは、ギルモンが被ったダンボールだ。

「え、えっと………なんでもありません!」

タカトは慌ててダンボールの前に立ち塞がり、楯無からギルモンを庇う体勢になる。

「むふふ………そう言われると、余計気になっちゃう性分なのよね~」

楯無は笑みを浮かべ、じりじりとタカトに迫る。

「ほ、本当に何でもないんですってば!」

対するタカトは、何とか誤魔化そうとする。

「ふ~ん……どうしても退かないのなら………」

楯無はそう言うと、手をわきわきと動かすと、

「それ!」

タカトに跳びかかり、脇の下をくすぐり始めた。

「あ、あははははははっ! やっ、やめてください楯無先輩! あはははははははっ!」

タカトは堪らず叫び声を上げる。

しかし、楯無は攻撃の手を緩めない。

「それそれ! 正直に這いちゃえば楽になるわよ!」

楯無はそう言うが、

「あはははっ! ほっ、本当に何でも無いんですってばっ!」

タカトは頑として折れなかった。

「むう、しぶといなぁ。 それ~~!」

楯無は、更にくすぐりを続ける。

「あははははっ! はっ! あはははははははっ!」

タカトは叫び声を上げ続けるが、遂に耐えきれなくなり、バランスを崩す。

そのまま楯無を巻き込み、ベッドに倒れた。

そして、

「やん♪」

見たままの構図としては、タカトが楯無をベッドに押し倒している状態だった。

しかも、倒れるときにタカトの手が引っかかったのか、ワイシャツの胸元がはだけており、ブラジャーに包まれた楯無の豊満なバストが覗いた。

「………………」

タカトは、顔を真っ赤にして固まる。

すると、

「? どうしたの? タカト」

横からそんな声が聞こえた。

その言葉でタカトは我に返り、慌てて楯無の上から飛び退くと、声がした方に顔を向ける。

そこには、

「ギ、ギルモン!?」

被っていたダンボールを脱ぎ捨て、完全に姿を現したギルモンの姿。

楯無は起き上がってギルモンの姿を捉えると、

「タカト君」

今までのおちゃらけた雰囲気が突然消え、真面目モードで話し出した。

「説明をお願いできる?」

「……はい」

有無を言わさぬ楯無の言葉に、タカトは頷くことしか出来なかった。




タカトは、一夏達に説明したレベルまで楯無に話した。

「ふ~ん。 タカト君は、そこのギルモン君と一緒に、4年前の事件を解決した立役者の1人って事なのね。 それで、タカト君はギルモン君のテイマーと……」

楯無の言葉に、タカトは頷く。

「それで臨海学校で再会して、ギルモンの存在を隠しながらIS学園まで連れてきたと………」

「はい…………お願いです! ギルモンの事、秘密にしてもらえませんか!? もう、ギルモンと離れ離れになるのは嫌なんです!」

タカトはそう言って頭を下げる。

「いいわよ」

楯無は即答した。

あまりにもあっけなく了承されたことで、タカトは呆気にとられる。

「えっと………自分で頼んどいてアレなんですけど、そんなに簡単に了承しちゃっていいんですか?」

思わずそう漏らすタカト。

「タカト君には、簪ちゃんの事でいろいろお世話になってるからね。 それに、タカト君のパートナーなら危険は無いだろうし」

楯無はそう答える。

「まあ、確かにギルモンは危険はありませんけど………」

「それによく見れば、ギルモン君って、結構かわいいしね」

「またですか………」

楯無にもかわいいと言われ、タカトは項垂れる。

ギルモンをかわいいという女子は、楯無で3人目である。

ともかく、タカトは楯無にも了承を得たことで、安堵するのだった。



その夜、タカトはヒュプノスに連絡を入れていた。(ヒュプノスの調査隊は、臨海学校前に既に退去している)

理由は、ギルモンの事を報告するためだ。

その事を聞くと、山木は、

『そうか…………やはり君の所にも………』

そう意味深げにつぶやく。

「やはり? どういうことですか?」

タカトが聞くと、

『うむ。 先日、ジェンリャ君、ルキ君、リョウ君から、それぞれのパートナーと再会したという連絡が入った』

「えっ!? 皆も!?」

タカトは驚き声を漏らす。

『ああ。 やはり、再びリアルワールドとデジタルワールドの境界が薄れてきていると考えた方がいいだろう』

「そうすると、また4年前のようにデジモン達が………」

『リアルワールドにリアライズすることが多くなる可能性があるだろうな』

山木の言葉に、タカトは一瞬考え込むと、

「わかりました。 リアライズしてきたデジモン達には、僕とギルモンが対応します」

『…………わかった。 その時にはよろしく頼む』

間があったが、山木はタカトの言葉にそう答える。

「はい! 任せてください!」

タカトが頷くと、

『報告は以上かい?』

「はい」

『では、夜も遅い。 ゆっくり休みたまえ』

「はい。 お休みなさい、山木さん」

『ああ、お休み。 タカト君』

そう言って、通信を終了した。





ヒュプノスの一室でタカトとの通信を終えた山木は、

「………我々が危惧しているのは、デジモン達の事だけでは無いのだ………」

意味深げにそう呟いた。







あとがき

第十四話の完成。

やっと書けました。

ネタに詰まったやら、仕事が詰まったやら、消防の大会があったやら、鮎掛け行ってたやらで、ここまで遅れてしまいました。

鮎掛けは上司からのお誘いなので断るわけにはいかんのです。

申し訳ない。

とりあえず、説明からIS学園へ戻るまでを書きました。

ちょっと物足りないかな?

グラニ、手乗りサイズで自由行動開始。

ギルモン、早速ダンボール生活の片鱗が。

最近出番のなかった楯無さんの逆襲?

こんなとこですかね。

で、再び皆様にご相談。

ジュリの扱いなんですけど、1回ぐらいしか出てこないという事に、嘆く方が前からちらほらといました。

ぶっちゃけ、自分がジュリをヒロイン候補から外したのは、“ジュリがISの格闘戦主体(ISがレオモン憑依のため)でバトってるのが想像できない”からです。(+あまりヒロインを多くし過ぎるのも何だと思ったので)

ですが、感想を見て、少し考えてみました。

そして、ズバリ聞きます。

ジュリをヒロインに昇格させるか否か?

ヒロインに昇格させた場合、主に次の事が発生します。

1 レオモンが、半IS化して復活。

2 ジュリがIS戦闘で格闘戦したり、剣振り回したり、獣王拳や百獣拳放ったりします。

3 ルキよりも早く出てきます。(というか、即行で出てきます)

4 ジュリも一緒にデジタルワールドへレッツゴーします。

主に以上の4つを許容できるという方が大多数いた場合、ジュリがヒロインに昇格します。

では、ご意見お待ちしています。

それでは、次も頑張ります。





[31817] 第十五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/08/13 12:56


第十五話 模擬戦! タカトVS一夏!



ギルモンがIS学園に来て数日。

少々苦労しながらも、ギルモンの存在を隠しつつ生活する事に成功しているタカト。

グラニが目立つのもギルモンを隠すのに役立っており、とりあえずはバレていない。

今日も無事に授業が終わり、放課後。

タカト達いつものメンバーは、訓練の為にアリーナに来ていた。

尚、当然のことながら、ギルモンはダンボールを被ってタカト達の傍にいる。

すると、一夏が突然言い出した。

「なあ、一度タカトと模擬戦してみたいんだけど、いいか?」

その言葉を聞くと、

「何を無謀な事を!」

「正気ですか!?」

「アンタ態々無様な姿晒したいの!?」

「ちょっと無理じゃないかな~?」

「それは賢いとは言えんぞ!」

箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラがそう言う。

「お前らヒデェ!」

思わず一夏は叫んだ。

「でも、実力差は明らか」

簪が冷静にそう言う。

「そんな事は俺が一番よくわかってる。 でも、実力が上の奴と戦うことで得るものがあるかもしれないだろ?」

一夏がそう言うと、

「いいよ。 やろうか?」

タカトが頷いた。

「ホントか? サンキュー!」

一夏が嬉しそうな顔をして礼を言う。

「ただし、グラニのサポートは無しでやるから。 あまりに差がありすぎても、為にならないからね」

「おう! まずはタカト自身に勝つさ!」

タカトの言葉に、一夏はそう答えた。






タカトと一夏は、アリーナの中央で向かい合った。

他のメンバーは観客席で2人の様子を見守っていた。

「来い! 白式!」

一夏が叫ぶと、一夏が光に包まれ、白式の第二形態『雪羅』を装着する。

「グラニ!」

タカトが叫ぶと、Dアークが輝き、Dアークの中からグラニが飛び出す。

グラニは一旦上昇すると、タカト目掛けて急降下を開始した。

グラニがタカトに接触すると同時にタカトは光に包まれ、IS形態となったグラニを装着した。

ISを装着した2人は互いに向き合う。

その様子を見て、同じアリーナに居た生徒達が騒ぎ出した。

「見て見て、織斑君と松田君よ」

「わぁ~、模擬戦するみたいだよ」

「それよりも2人のISを見て。 2人とも二次移行してるよ」

訓練していた生徒達も訓練を中断し、観戦に回る。

その時、

「タカト~! 頑張れ~!」

そんな声が響いた。

当然ながらその声の元はギルモンだ。

「ギルモン、静かに!」

慌てて簪がギルモンの入ったダンボールを押さえつけて言い聞かせる。

だが、周りの生徒達は期待と興奮からか、ギルモンには気付いていなかった。

ホッと息を吐く専用機持ち達。

一夏は右手に雪片弐型を、タカトは左手にブルトガングを持ち、構える。

「それじゃあ、レディー……」

「ゴー!」

お互いの合図で、模擬戦を開始した。

「うぉおおおおおおっ!!」

開始直後、一夏が剣を大きく振りかぶって突っ込んでくる。

「開始直後の先制攻撃。 悪いとは言わないけど………」

タカトは、その剣を横に回り込んで躱す。

「そんな大きく振りかぶってたら、避けてくださいって言ってるようなものだよ」

タカトは、一夏の攻撃後の隙に、剣を振るう。

タカトは、小さくコンパクトな振りで、一夏に攻撃した。

「がっ!?」

避ける間もなくその一撃を受ける一夏。

「くっ!」

一夏はすぐに体勢を立て直し、左手の特殊武装『雪羅』をタカトに向ける。

「このっ!」

雪羅から荷電粒子砲を放つ一夏。

「おっと」

タカトは飛び退いてその攻撃を避ける。

「逃がすか!」

下がったタカトを見てチャンスと思ったのか、一夏は前に飛び出しながら荷電粒子砲を連射する。

しかし、タカトはヒラリヒラリと避けていく。

「このっ」

「一夏………白式はそんなに燃費良くないんだから、そんなに連射してると………」

――ピー

荷電粒子砲のエネルギーが尽きたアラームが鳴る。

「げっ、しまった!」

思わず漏らす一夏。

その一瞬の隙に、タカトは剣を振りかぶり、

無敵剣インビンシブルソード!」

エネルギーの斬撃を飛ばす。

「ちぃ! 雪羅! シールドモード!」

一夏は零落白夜のシールドを発生させ、斬撃を打ち消す。

しかし、一夏が再びタカトへ視線を戻した時には、その場にタカトは既にいなかった。

「いないっ!?」

驚愕する一夏。

「こっちだよ」

その声に振り向く一夏。

タカトは、一夏の後ろで剣を振りかぶっていた。

「や、やべっ!」

咄嗟に雪片を構え、その剣を受け止める。

そのまま鍔迫り合いになる2人。

「ぐぐぐ…………こうなったら」

すると一夏は、突然左手の雪羅をクローモードにすると、タカトの剣を掴んだ。

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

そして、そのまま雪片を振りかぶる。

つまり一夏は、タカトの動きを封じたまま攻撃を行おうとしたのだ。

確かに効果的ではあるが、一夏の攻撃は空しく空を切った。

「あれ?」

思わず声を漏らす一夏。

見れば、タカトはブルトガングから手を離し、宙返りで一夏の斬撃を躱していた。

そして、そのまま右手にグングニルを展開。

「はぁああああああっ!!」

グングニルを構えて一気に突進した。

「いいっ!?」

一夏は咄嗟に零落白夜の刃で防ごうとした。

しかし、グングニルの能力はエネルギー分解。

零落白夜の刃も、エネルギー無効の能力を持っているとは言え、刃そのものはエネルギーによって構築されている。

即ち、その結果は、

「ぐあっ!?」

零落白夜の刃が分解され、グングニルの切っ先が一夏の白式の装甲に突き刺さった。

そのままグングニルのエネルギー分解の能力によって、白式のシールドエネルギーが分解されていき、見る見るうちに減っていく。

このままシールドエネルギーが0になると思われたが、

「こ…………のっ!」

シールドエネルギーを減らされながらも、一夏は雪羅のクローモードで反撃する。

「……っと!?」

反撃が来るとは思っていなかったタカトは咄嗟に飛び退くが、刃がグラニの装甲を掠める。

だが、タカトはそれでも落ち着いており、一夏に向かってグングニルを投擲した。

流石にそれは防ぐことが出来ず、直撃を受け、白式のシールドエネルギーは0になった。




「あ~! 畜生! あっさりと負けちまった!」

ピット内に戻ってきた一夏が開口一番にそう言う。

「まあ、予想通りね」

「当然の結果」

鈴音と簪がそう答える。

「ですが、僅かとはいえ、松田さんに傷を負わせたのは驚きですわ」

セシリアがそう言うが、

「そうは言っても切っ先が掠った程度だぜ」

一夏は不満なのかそう漏らす。

「それだけでも上出来という事だ。 本来なら、一撃も与えられずに負けるところだったのだからな」

ラウラが容赦なくそう言う。

「そこまで言うかよ」

一夏はそうぼやくが、

「現在の嫁と松田の差は、それほどの差があるという事だ」

ラウラの更なる言葉に項垂れる一夏。

「で、でも、一夏も最初の頃に比べれば、かなり上達してるよ」

咄嗟にフォローに回るシャルロット。

「ううっ………ありがとな、シャル」

哀愁漂う表情でお礼を言う一夏。

「まあ、確かにデュノアさんの言うとおり、一夏の操縦技術は上達してるよ」

「ホントか!?」

タカトにも認められた一夏は、嬉しそうに叫ぶ。

「うん。 今の一夏なら、代表候補生を除いた一年生の中でもトップクラスだと思うよ」

「へへっ、そうなのか~」

気分を良くする一夏だが、

「でも、同じ条件だと勝率は4割が精々ってところかなぁ?」

続けて言われたタカトの言葉に、ガクリと項垂れる一夏。

「な、なんでだよ~………」

一夏が抗議すると、

「まずその一。 一夏の動きは直線的過ぎる」

タカトがそう言うと、

「確かにな」

箒が頷き、

「ぶっちゃけ動きが読みやすいのよ」

鈴音も、

「僕ももう少し工夫した方がいいんじゃないかな~って…………」

シャルロットも、

「まだまだだ!」

ラウラにも駄目だしされる。

ただ、セシリアだけは何か思う所があるのか、何も言わなかった。

「その二。 大振りが多すぎる」

「いや、でもよ。 白式のコンセプトは一撃必殺だし………」

タカトの言葉に一夏はそう言うが、

「いくら一撃必殺でも、当たらなければ意味が無いよ」

「うぐっ」

「相手の体勢も崩さずに、隙の大きい大振りが当たるわけないでしょ?」

「うぐぐっ」

「ボクシングに例えれば、一夏はジャブを撃たずに、ストレートだけを狙ってるんだよ」

「うぐぅっ!」

次から次へと来るタカトの言葉に言い返すことが出来ない。

「それに、二次移行して白式に射撃武器が付いたからって、乱用しすぎ。 戦って分かったけど、一夏にはオルコットさんやデュノアさんのような射撃のセンスは無いよ。 だから無駄弾を撃って、エネルギー切れになるから、瞬時加速も使えなくなる」

「………………」

もはやグゥの音も出ない一夏。

「でも、白式の攻撃力は、確かに凄いよ」

タカトはそう言うと、グラニのパラメーターを表示する。

「ほんの少し掠っただけでも、シールドエネルギーを50は持ってかれたから」

そう言うタカト。

「だから、無茶して大振りを狙わなくても、隙のないコンパクトな振りでも、十分なダメージが見込めると思うよ。 だから、今度はとにかく相手に攻撃を当てることに重点を置いてみたら?」

「攻撃を当てることに………か」

白式を見ながら呟く一夏。

そんな時、

「これは皆さん。 相変わらず頑張ってますね」

その声に振り向けば、真耶がいた。

「あ、山田先生」

「何でここに?」

一夏がそう聞くと、

「今日は私がこのアリーナの監視役なんです」

そう答える真耶。

「あ、そうなんですか…………って」

いきなり言葉を詰まらせるタカト。

何故ならば、真耶のすぐ後ろに動くダンボールギルモンが。

「おや? 松田君、どうしました?」

タカトの様子が気になったのか、そう尋ねてくる真耶。

「い、いえ! 何でもありません!」

「そうです! 先生の後ろには何もうげっ!?」

タカトが誤魔化し、一夏も一緒になって誤魔化そうとするが、逆に口を滑らせ、箒に脇腹へ肘鉄を食らった。

「後ろ?」

くるりと真耶が後ろを振り向く。

その瞬間、ダンボールギルモンは動くことをやめ、その場に止まる。

「?」

真耶は、何もない事に首を傾げ、またタカト達に向き直る。

その瞬間、再び動き出すダンボールギルモン

それを見て、再び慌てだすタカト達。

その様子を見て、再び後ろを振り向く真耶。

その途端に再び動かなくなるダンボールギルモン

しかし、先程とは位置が若干変わっている。

「???」

その変化に違和感を覚え首を傾げる真耶。

しかし、若干腑に落ちないようだが、そのまま前を向く。

その途端再びダンボールギルモンは動き出す。

そのまま真耶から見えない位置に入った時、やはり気になったのか、真耶は三度後ろを振り向いた。

しかし、そこには既にダンボールギルモンの姿は無い。

「??????」

消えたダンボールギルモンに頭に?マークをいくつも浮かべる真耶。

タカト達に向き直ると、タカト達は苦笑いを浮かべているだけだった。

真耶が不思議そうに顔をしかめていると、

――ドォン

「「「「きゃぁああああああああっ」」」」

アリーナの方から、爆発音と悲鳴が聞こえる。

「な、何ですか!?」

真耶は一目散にピットの出口に向かって駆け出し、タカト達もその後に続く。

ピットの出口からアリーナを見渡すと、アリーナの中央辺りに黒い恐竜のようなデジモン。

そして、突然の事に混乱し、逃げ惑う生徒達の姿があった。

「なっ!? あれはダークティラノモン! またリアライズしたの!?」

タカトが叫ぶ。

「ッ! 皆さんは早く避難してください! ここは先生が何とかします!」

真耶はそう言うと、有事の際にはいつでも起動できるようにしていたのか、ラファール・リヴァイヴを装着してアリーナ内に飛び出す。

「ちょ、先生!」

タカトは止めようとするが既に遅く、真耶はダークティラノモンに向かっていく。

そのダークティラノモンは、アリーナの隅に居た生徒達に襲い掛かろうとしていた。

「「「きゃぁあああああああああっ!!」」」

悲鳴を上げる生徒達。

「待ちなさーい!!」

そう叫んでアサルトライフルを連射する真耶。

その弾丸はダークティラノモンの目尻辺りに着弾し、ダークティラノモンは怯む。

「あなた達! 早く逃げなさい!」

いつもとは違う強い口調で生徒達に言う真耶。

「「「は、はい!」」」

生徒達は、その言葉に従い、アリーナの出口に向かって駆け出す。

その生徒達の中には、本音の姿もあった。

その本音を、簪が見つける。

「本音………! いけない!」

簪は、蒼狼を展開すると、本音の方に向かって飛んで行く。

「あっ! 簪さん!」

タカトはそのままアリーナ内を見渡す。

アリーナ内には本音たちのグループの他にもいくつかのグループが取り残されていた。

その中にはISを装着していない生徒たちも多い。

(とにかく、皆の安全を最優先にしないと……………そうだ!)

タカトは、何かを思いついたのか、ギルモンに近づくと、

「ギルモン、ちょっと耳貸して」

そう言ってダンボールを被っているギルモンの耳に口を寄せ、小声で何やら話している。

「うん………うん………わかった!」

ギルモンはタカトの言葉に頷く。

「じゃあ、頼んだよ、ギルモン」

「おっけー、タカト」

タカトは、残った専用機持ち達に向き直ると、

「皆! まずはアリーナの中に残った生徒達を安全な場所に!」

タカトは専用機持ち達に呼びかける。

「うむ、了解した!」

ラウラが頷くと、それに続いて専用機持ち達が自分たちのISを装着してアリーナ内に飛び出していく。

ただ、一夏だけは、先程の模擬戦でシールドエネルギーを使い果たしたために、見ていることしか出来なかった。

ダークティラノモンが暴れた拍子に砕けた瓦礫が、生徒達に降り注ぐ。

「「「「きゃぁああああああっ!」」」」

悲鳴を上げる生徒。

その時、

「させない!」

簪の蒼狼が目の前に立ちはだかり、全武装を展開。

ミサイルとレーザー、ガトリングガンで生徒達に降り注ぐ瓦礫を砕いていく。

と、別の場所の生徒達にも、瓦礫が降り注いだ。

その場の生徒達は目を瞑る。

しかし、何時まで経っても瓦礫は落ちてこない。

生徒達が恐る恐る目を開けると、そこにはAICを展開し、瓦礫を空中に止めたラウラの姿があった。

「ボ、ボーデヴィッヒさん………」

呆然とラウラを見上げる生徒。

「何をしている!? 早く逃げろ!」

「は、はい!」

ラウラの言葉に、慌てて逃げ出す生徒。

見れば、他の専用機持ち達も、ISを装着していない生徒を優先的に救助していた。

その時、

「きゃあっ!」

ダークティラノモンの相手をしていた真耶が、放たれたファイアーブラストに掠り、地面に墜落する。

「先生!」

生徒達が叫ぶ。

ダークティラノモンが真耶に向かって近づいていく。

「ううっ………」

真耶は起き上がるが、ダークティラノモンはすぐ目の前だ。

「ッ!」

ダークティラノモンが息を大きく吸い込み、必殺のファイアーブラストを放とうとした瞬間、

――ドガァ

ダークティラノモンが後ろから何かに吹き飛ばされ、転倒する。

そこには、

「グワァアアアッ!」

赤き魔竜グラウモンが咆哮を上げていた。

「ッ!? もう一匹!?」

真耶は叫ぶ。

グラウモンは、一度真耶を見下ろす。

「ッ!」

真耶は身構えるが、グラウモンはすぐにダークティラノモンに向き直った。

「えっ?」

真耶は怪訝な声を漏らす。

ダークティラノモンは、いきなり吹き飛ばされた事に腹を立てたのか、グラウモンを敵と認識する。

「グガァッ!」

ダークティラノモンは、グラウモンに向かって駆け出す。

「グワァッ!」

グラウモンも迎え撃った。

互いに両腕を突出し、組み合う2体。

2体は押し合い、押され合う。

それを見ていた真耶は、

「な、何ですか、この怪獣大決戦は!?」

その迫力に圧倒されていた。

暫く組み合っていると、互いに押し合い、間合いを取った。

そして、2体は息を大きく吸い込む動作をすると、

「ファイアーブラスト!!」

「エギゾーストフレイム!!」

同時に火炎と熱線を吐き出した。

2体の中央でぶつかる火炎と熱線。

拮抗する互いの攻撃だが、

――ドゴォ!

突然ダークティラノモンの頭部に攻撃が加えられ、ダークティラノモンは怯む。

見れば、タカトが空中でブルトガングを振り抜いていた。

ダークティラノモンが怯んだことで、一瞬ファイアーブラストの威力が弱まる。

「グワァアアアッ!!」

その隙を見逃さず、グラウモンは渾身のエギゾーストフレイムをお見舞いする。

熱線が一気に火炎を押し切り、ダークティラノモンの顔面に直撃。

爆発に呑まれたダークティラノモンは、データの粒子に分解して消えた。

残ったグラウモンを、真耶は警戒して身構える。

しかし、グラウモンは腕を地面に叩き付けると砂煙を起こし、自分の姿を覆い隠した。

そして、砂煙が晴れたときには、グラウモンの姿はそこには無かった。




暫くして、生徒達が誰もいなくなったことを見計らって、タカトはアリーナの地面を向いて、

「ギルモン」

そう呼びかけた。

すると、地面が盛り上がり、地中からギルモンが現れた。

先程グラウモンが砂煙を起こすと同時にグラウモンはギルモンへと退化し、そのまま得意の穴掘りでギルモンは地中に隠れたのだ。

「ギルモン、お疲れ様」

タカトはそう言ってギルモンを労い、誰にも見られないようにその場を後にするのだった。








あとがき

第十五話の完成。

え~っと………2ヶ月近くもほっといて申し訳ありません。

お待たせしました。

えっ?

別に待ってないって?

それならいいのですが………(オイ

まあ、言い訳を述べさせてもらいますと、最初の1ヶ月は純粋に仕事が忙しかったです。

慣れない夜勤から始まって、次は早朝出。

勤務時間も残業1日3.5時間は当たり前。

5時間残業も2、3日ありましたし、1番長い時では8時間残業(朝6時~夜11時30分)なんてふざけた時も有りました。(しかも翌日朝6時出勤)

まあ、この位が当たり前何て人もいるかもしれませんが、普段が夜勤無くて精々1.5時間の残業しかない自分にとってはそうとうキツイ1ヶ月でした。(因みに休日出勤も2回ありました)

まあ、そんなわけで折角の休みも頭回らなくて、家でグータラと過ごしていまして………

最初の1ヶ月はこんな感じです。

それで、後半の1ヶ月ですが…………

言わなくても分かってる人も多いでしょうけど、自分のようなデジモン好きには待ちかねた新作ゲーム『デジモンワールド Re:Digitize』の発売です。

自分は発売日当日、仕事の所為で夜9時ごろに買いに行ったのですが、売り切れ店続出!(自分は予約しない性格なので)

しかし、その位で諦めない自分は、住んでる市内と隣の市まで繰り出し、合計5店舗ほど回って意地でゲット。

翌日も6時出勤だったのに2時間ほど彷徨いましたね。

自分でもよくやると思います。

それで後半の1ヶ月の休日は、ゲームやりまくってました。

まあ、ストーリー無視してデジモン育てまくってるだけですが………

因みに今現在でも全クリしてないです。

因みに今までの最高傑作は、メタルエテモンのステータスオールカンスト(つまりHP、MP9999、攻撃、防御、素早さ、賢さ999)です。

しかし、技が如何せん弱い(初級~中級)ので、コロシアムの40Fにいる改造ヘラクルカブテリモンを倒すのにも相当苦労しました。

それにしても、なぜウォーグレイモンを育てようとしているのにメタルエテモンになるんだろうか?

グレイモンまでは進化するのだが、その後が何故かメタルグレイモンではなくアンドロモンにしかならない。(まあ、グレイモンの時のパラメーターですら、軽く平均400超えてますから、アンドロモンの方の進化条件クリアしてるんでしょうけど……防御を一番低くしてるとは言っても300超えてますし。 その他400越えや500越え)

まあ、報告はこの位にして、今回のお話です。

とりあえずタカト対一夏。

一夏のボロ負け。

正直言って、アニメでも一夏って大振りしか狙ってないように見える。

なので、あっさりと敗北。

そして、(スネーク?)ギルモンと山田先生の勝負?

ギルモンの勝利?

そんでおまけにダークティラノモンのリアライズ。

一夏、良いとこ無しですな。

それで、ジュリをヒロイン候補に入れるかというアンケート結果ですが、


賛成 6票

反対 14票


という事で、ジュリのヒロイン化は無しです。

まあ、自分も元々考えてなかったので問題は無いのですが。

それにしても、ギルモンを秘密にしたことで、もうちょっとネタをやろうかと思ったのですが、今回書いててかなり微妙になってきたので、ちゃっちゃと話を進めることにします。

次回は完全体に進化!?

では、次も頑張ります。





[31817] 第十六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/08/21 02:31
第十六話 皆を守れ! メガログラウモンの咆哮!



今日は、一年生にとって、夏休み前最後の大きな行事があった。

それは、

「ではこれより、1、2年生合同模擬戦闘訓練を行う!」

千冬がそう宣言する。

グラウンドには、1年生と2年生の全生徒が集合していた。

今回の模擬戦は1年生と2年生の生徒で、1対1を行うものであった。

これは、1年生がISをある程度扱えるようになって増長し始めるときに行うもので、2年生との実力差を見せつけ、より訓練に励むように意識させるためのものである。

まあ、代表候補生は別であるが。

「各自、事前に知らされたグループに分かれろ!」

千冬の指示で動き出す生徒達。

尚、タカトはAグループ。

同じグループには、一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪。

どうやら代表候補生と専用機持ちを、一つに纏めたらしい。

タカト達は、グループに指定されたアリーナに移動する。

そこには、2年生のグループが既に集まっていた。

その中には、楯無の姿も見える。

「ッ」

僅かに声を漏らす簪。

楯無と簪の関係は、大分軟化したとはいえ、未だ簪の楯無に対する苦手意識は完全には無くなっていなかった。

このグループの担当教師は千冬と真耶だ。

「それでは、名前を呼ばれた者は前に出ろ! 1年、更識 簪! 2年―――」

いきなり名前を呼ばれた簪は、少し動揺しながらも前に出る。

目の前には、対戦相手である2年生の姿。

相手の後ろに視線を移すと、ジッと簪を見つめる楯無の姿。

(…………姉さんの前で、無様な姿はさらせない!)

簪はそう思い、闘志を滾らせる。

他の生徒達が観客席に移動すると、

『では、模擬戦………始め!』

放送の千冬の号令で模擬戦が開始される。

相手の2年生はラファール・リヴァイヴを装備している。

簪は、先手必勝&牽制として、右肩の高出力レーザーを発射する。

1年生が相手だと、いきなりの事に直撃する者も少なくないが、そこは経験のある2年生。

予想通りと言わんばかりに危なげなく避ける。

簪もブーストを起動させ、宙に浮かんだ。

相手はアサルトライフルを展開させ、簪に向かって放つ。

すると、簪は蒼狼の機動性を生かし、急上昇することでそれを躱す。

そのまま空中で相手をロックオンすると、左肩のミサイルランチャーと脚部のミサイルポッドが展開。

無数のミサイルを発射する。

「このっ!」

相手は武器をマシンガンに変更。

後退しつつ、迫りくるミサイルを撃ち落とす。

「あの子は!?」

全てのミサイルを撃墜すると、簪の姿を探すが、

――ジャキ

後ろから聞こえた金属音に、冷たい汗を流しながら振り向く。

そこには、左腕のガトリングガンを構えた簪の姿。

「メタルストーム!」

次々と発射される弾丸に、堪らずよろける2年生。

「くううっ!」

簪はメタルストームを撃ちながら右腕にガルルトマホークを展開した。

「ッ!」

相手は、それを見るとメタルストームを受けながら地上に向かう。

そして、

「ガルルトマホーク!」

簪が巨大なミサイルを発射する。

「くっ!」

2年生は地面を蹴り、その場を離脱。

その直後、ガルルトマホークがその場に着弾。

大爆発を起こした。

「くわばらくわばら」

2年生は、なんとか躱せたことにホッと一息つくが、それが一瞬の油断だった。

――ジャキジャキッ

目の前で、複数の金属音。

ハッとなって前を向くが、もう遅かった。

そこには、簪が蒼狼の全固定武装を展開していた。

「ガルルバースト!」

右肩の高出力レーザー、左肩のミサイルランチャー、左腕のメタルストーム、右手のビームガン、脚部のミサイルポッド。

それら全ての武装が火を吹いた。

一瞬とは言え油断していた2年生に避ける術は無い。

爆発に呑まれ、シールドエネルギーは0になった。

『勝者、更識 簪』

放送で、そう宣言される。

簪は、相手の2年生に近付いていくと、

「あの、大丈夫ですか?」

そう声をかける。

すると、その2年生は、

「え? ああ、大丈夫大丈夫。 心配しないで」

そう言って、立ち上がった。

「よかった」

簪がそう呟くと、

「それにしても、強いわね。 流石は“楯無さんの妹”さん」

「ッ!?」

その2年生に、特に悪気は無かったのだろう。

しかし、その一言は、深く簪の心を抉った。

明らかに表情を変えた簪を見て、

「ちょ、どうしたの? 何か気に障るようなこと言った?」

その2年生は慌ててそう尋ねる。

しかし、

「…………いえ………なんでもありません」

簪はそう言うと、黙って踵を返し、そのまま去っていった。



観客席に来た簪の雰囲気が、いつもと違っていたことから、タカトは如何したのか聞くが、簪は「何でもない」の一点張りで、何も答えようとはしなかった。

それでも、模擬戦は続く。

『次、1年、篠ノ之 箒』

「私か」

箒は立ち上がり、ピットへ向かう。

結果は、紅椿のスペックと近接格闘の高さで圧倒し、箒の勝利。

「私は負けん!」

セシリアは、得意のライフルとBT兵器による射撃で、相手を近寄らせずに勝利。

「如何でしたか? この私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲は?」

鈴音は、衝撃砲と双天牙月による距離を選ばない攻撃で最後まで攻め続け勝利。

「代表候補生が、先輩とは言えただの生徒に負けるわけにはいかないのよ!」

シャルロットは、高速切替による手数の多さで相手を圧倒、勝利。

「えっと、すみません。 勝っちゃいました」

ラウラは、AICで相手の動きを止め、レールガンによる射撃で瞬殺、勝利。

「現役軍人を舐めてもらっては困る!」

1年の専用機持ち達は着々と勝利を重ねる。

『次、1年、織斑 一夏。 2年、フォルテ・サファイア』

「俺の番か」

一夏は立ち上がって、ピットへ向かった。



一夏がアリーナに出ると、そこには専用機『コールド・ブラッド』を纏った2年生、フォルテ・サファイアがいた。

フォルテは、2年生に2人しかいない専用機持ちの1人なのだ。

尚、もう1人は、言わずもがな楯無である。

一夏は、真剣に相手を見つめるが、相手のフォルテは、どことなくやる気がなさそうな表情だ。

『では、始め!』

千冬の合図がかかると、一夏は先手必勝、雪片を展開させ一気に突っ込む。

「はぁああああああっ!!」

一夏は気合を入れてフォルテに斬りかかる。

すると、

「ひょいっス」

そんな気の抜けるような声を出して、一夏の斬撃を避ける。

「はっ!」

一夏はすぐに切り返し、フォルテを狙う。

「ほいっス」

その一撃も、フォルテはジャンプすることで躱す。

「逃がすか!」

空中に浮いたフォルテに、一夏はまたも切り返し、切り上げを狙う。

「およ?」

フォルテは空中で飛び退き、距離を取った。

「ちぃ!」

一夏は舌打ちする。

「思ったよりもいい振りするッスねぇ。 試合前のデータじゃ、大振りばっかの隙だらけって聞いたんスけど……」

フォルテは、少し意外な表情をしてそう言う。

「まあ、否定はしませんよ。 ただ、俺だって毎日進歩してるんだ!」

一夏は、以前言われた「攻撃を当てる事」に重点を置き、剣を振っていた。

その為、剣の振りがコンパクトになり、それによって自然に今までの隙が少なくなり、立て続けに攻撃が可能になっていた。

「でえぇぇぇぇい!」

一夏は自分から仕掛ける。

「ほいっス」

しかし、フォルテはまたヒラリと避ける。

「くっ! ちょこまかと!」

一夏は、攻撃が当たらない事に焦り出す。

「いやいや、結構ギリギリなんスけど」

フォルテはそう言うが、

「そんな余裕の顔で言われて、実際に掠りもしてないんじゃ説得力ありません!」

一夏はそう叫ぶ。

「でえい!」

一夏は再び攻撃する。

しかし、焦りからか、徐々に一夏の振りは大振りになってきていた。

そして、その隙を見逃すほど2年の専用機持ちは甘くない。

一夏の大振りを避けた瞬間、

「おりゃッス!」

鋭いハイキックが一夏に炸裂。

堪らず吹っ飛ぶ一夏。

「がっ!」

一夏はすぐに体勢を立て直し、雪羅をカノンモードに変形。

荷電粒子砲でフォルテを狙う。

しかし、元々射撃は得意ではない一夏。

放たれる荷電粒子砲は、フォルテに掠りもせずに避けられる。

「くそっ!」

最早完全に焦っている一夏に、特訓の成果を出すことは出来なかった。

攻撃は完全な大振りになり、相手に隙を晒し、反撃を受ける。

その繰り返しの末、遂に白式のシールドエネルギーは0になった。

『勝者、フォルテ・サファイア』

一夏の敗北であった。




「くそ~! 負けちまった!」

観客席に戻ってきた一夏はそう叫ぶ。

「一夏、最初は良かったけど、焦り出したらまた大振りに戻ってたよ」

タカトはそう言う。

「え? そ、そうだったか?」

やはり一夏に自覚は無かったようで、冷や汗を流す。

「全く、まだまだ特訓が足らないみたいだね」

「う………面目ない」

一夏は項垂れる。

その時、

『次、1年、松田 タカト。 2年、更識 楯無』

タカトの名が呼ばれた。

しかも、相手は楯無だ。

「楯無先輩とか………」

タカトはそう呟くと、ふと簪の方を見る。

その表情は暗い。

「簪さん………」

タカトは呟くが、おそらく今の簪に言葉をかけても逆効果だろうと思い、そのままピットへ向かった。




タカトはグラニを呼び出し、装着するとアリーナ内に飛び出す。

そこには、入学試験の時と同じように、専用IS『ミステリアス・レイディ』を纏った楯無がいた。

「お待たせしました」

楯無と向かい合ったタカトがそう言う。

「いいえ。 それにしても、それが二次移行したタカト君のISか」

楯無は、そう言いながら興味深そうにタカトのISを見ると、

「う~ん………デュークモンに似てた以前の姿は結構気に入ってたんだけど………残念だなぁ……」

楯無はそんな事を言う。

それを聞くとタカトは苦笑し、

「あはは…………ご心配なく。 この姿も、デュークモンのもう一つの姿を基にしたものですから」

そう言った。

「へ~。 デュークモンには、まだまだ教えてもらってない秘密がありそうね」

楯無は、ニコニコとそう言っているが、いずれ聞き出す気満々であった。

「ま、それは後にして……」

楯無は、手に持ったランスを構える。

「今回は、入学試験の時みたいに、手加減しないからね?」

そうタカトに向かって言った。

「望むところです」

タカトもブルトガングを構える。

『それでは………始め!』

開始の合図がかかる。

それと同時に、2人は突撃した。

「はぁああああああっ!」

「でやぁあああああっ!」

――ガキィン

金属音が鳴り響く。

楯無のランスと、タカトのブルトガングがぶつかり合った。

すぐにお互いに弾き合うと、楯無は左手に蛇腹剣『ラスティー・ネイル』を展開。

薙ぎ払うようにタカトを狙う。

「ッ!」

タカトはそれに気付くとブルトガングにエネルギーを集中。

無敵剣インビンシブルソード!」

エネルギーの斬撃で、ラスティー・ネイルの刃を弾き飛ばした。

タカトはそのまま楯無に接近、ブルトガングで斬りかかる。

楯無は、ラスティー・ネイルをソードモードにすると、タカトの一撃を受け止めた。

そのまま右手のランスを突き出す。

しかしタカトも右手にグングニルを展開、受け止める。

暫く拮抗する2人。

すると、突然楯無が笑みを浮かべる。

次の瞬間、ランスに内蔵されたガトリングが火を吹いた。

その弾丸は、タカトの右腕に当たる。

グラニの防御力は、二次移行によって高くなっているので、ガトリングでは大したダメージは無いものの、衝撃は防ぐことが出来ず、腕が弾かれる。

「うわっ!?」

その隙をついて、楯無がランスを突き出す。

しかも、水がドリルの如く螺旋を描く『蒼流旋』だ。

タカトは、反射的に飛び退く。

だが、ランスのリーチは長く、タカトの胸部に直撃した。

「ぐぅっ!」

しかし、グラニの防御力と飛び退いたおかげでダメージが半減していたため、タカトはすぐに体勢を立て直して地面に着地。

すぐに楯無に向き直る。

だが、

「ッ!?」

タカトが着地した地点には、濃い霧が発生していた。

「これはっ!?」

その現象に見覚えのあるタカトは、危機感を覚える。

次の瞬間、楯無が指を弾く。

それと同時に、

――ドゴォオオン

霧が大爆発を起こし、タカトは爆発に呑まれる。

楯無の武器、清き熱情クリア・パッションだ。

「くっ!」

爆煙の中から、タカトが空中に飛び出す。

しかし、その各部にはダメージが見て取れ、シールドエネルギーも半分ほどまで減っていた。

それでも、タカトは諦める素振りを見せず、楯無の方を向く。

「なっ!?」

思わずタカトは声を漏らした。

そこには、合計5人に増えた楯無の姿。

以前も騙された、水で作った分身だ。

「さあ、どれが本物か分かるかしら?」

楯無はそう挑発する。

「グラニ?」

タカトは、グラニに判断がつかないかを尋ねるが、

『外見からの判別は不可能だ。 詳しく判別するにしても、時間がかかる』

グラニのその言葉を聞くと、

(サーチモンのカードをスラッシュすれば、多分判断がつくだろうけど、楯無先輩相手にサーチモンのレベルまでISのスペックを下げるなんて自殺行為だ)

そう考え、

「だったら!」

タカトは叫ぶと、Dアークと1枚のカードを取り出し、

「カードスラッシュ!」

そのカードをスラッシュする。

「ギガドラモン!!」

タカトの頭上に半透明のギガドラモンが浮かび上がる。

『グォオオオオオオオオオオッ!』

半透明のギガドラモンが咆哮を上げ、タカトのISに重なる様に消える。

そして、グラニが以前カードスラッシュしたメガドラモンに酷似した形に変化した。

タカトは、そのまま空中で5人の楯無に標準を合わせ、両腕を向けた。

「本物がどれか分からないなら、全部攻撃するだけだ!」

両腕が展開し、砲口が姿を見せる。

「ジェノサイドギア!!」

合計10発のミサイルが5人の楯無に向かって放たれる。

ミサイルは降り注ぎ、全ての楯無を爆発に飲み込んだ。

爆煙に包まれるアリーナ。

タカトは空中からジッと見下ろす。

すると、爆煙を切り裂いて楯無が飛び出してくる。

「も~! ひどいなぁ~! 女の子にミサイルなんて向けちゃ駄目だゾ!」

本気なのか冗談なのか判断し辛い怒った表情で楯無がそう言ってくる。

多少のダメージはあるものの、殆ど問題が無いと言っていいぐらいだ。

「流石ですね。 楯無先輩」

タカトは純粋に感心しながらそう言う。

「ふふっ。 タカト君も入学試験の時よりも動きが良くなってるわよ」

楯無は笑いながらそう言った。

「まあ、あの時はISに慣れていませんでしたし、実戦のブランクもありましたし…………」

タカトは呟く。

「さあ、遠慮せずにかかってきなさい。 生徒会長のおねーさんの実力を見せてあげるわ」

楯無はニコニコとしながらも隙のない構えでタカトを見る。

「行きます……」

タカトも、ブルトガングとグングニルを構えた。

一瞬睨み合った後、同時に相手に向かって突撃する。

そして、激突する瞬間、

「「ッ!?」」

2人の中央からデジタルフィールドが広がった。

デジタルフィールドに呑まれる2人。

「何、この霧は?」

初めてデジタルフィールドを目にする楯無はそう漏らす。

タカトはすぐに楯無に近寄り、

「気を付けてください楯無先輩。 この霧はデジタルフィールド。 デジモンがリアライズします!」

そう警告した。

「これが話に聞いたデジタルフィールド…………」

2人が周辺を警戒していると、デジタルフィールドにデジモンのシルエットが浮かび上がる。

しかも、その姿は今までの成熟期とは違い、かなりの巨体だ。

「こ、これは………」

タカトがその姿を目にする。

「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

咆哮を上げ、その姿を現したのは、骨だけで出来た恐竜のようなデジモン。

タカトと楯無の背中に、冷たいものが走った。

「「スカルグレイモン!!」」

タカトと楯無が同時に叫ぶ。

「拙い! 完全体だ!」

タカトはスカルグレイモンに更なる危機感を覚える。

スカルグレイモンは、成熟期よりさらに上の完全体。

それだけではなく、スカルグレイモンに理性というものは存在せず、闘争本能だけで生き続けるアンデット型デジモン。

つまりは、力尽きるまで戦い続ける戦闘マシーンという事だ。

スカルグレイモンは、空中に浮くタカトと楯無に目を向ける。

そして、全く躊躇無しに腕を繰り出した。

2人は急上昇で何とか避ける。

そして、

無敵剣インビンシブルソード!」

清き熱情クリア・パッション!」

同時に攻撃を仕掛けた。

スカルグレイモンは、エネルギーの斬撃と爆発を同時に受ける。

しかし、

「ギャォオオオオオオオッ!!」

ダメージが通った様子は殆ど無い。

「く………」

楯無は、一旦距離を取ろうとしたが、タカトは逆にスカルグレイモンの前に降り立つ。

「タカト君!?」

楯無は驚きながら問いかけるが、

「楯無先輩! スカルグレイモンの必殺技を思い出してください!」

「スカルグレイモンの必殺技………ッ!?」

タカトの言葉に、楯無はその理由に思い当たる。

スカルグレイモンの必殺技はグラウンド・ゼロ。

背中から有機体系ミサイルを発射する技だが、問題はその威力だ。

完全体の攻撃力は、核弾頭を上回る破壊力を持っている。

もし、こんなところで、そんなものを放たれたら、このあたり一帯は焦土と化す。

それ故に、タカトは危険と分かっていながら、必殺技を放たれない為に、スカルグレイモンに近接戦闘を挑むしかないのだ。

それに気付き、楯無もタカトの隣に着地する。

「それでどうするの? 攻撃が効かなきゃ倒しようがないわよ?」

楯無がそう尋ねてくる。

「グラニ、何とか通信つなげられない?」

デジタルフィールド内では、通信などは障害が発生するため、まともに使えない。

しかし、ISと融合した人工デジモンのグラニなら何とかならないかと思ったのだ。

『一番近い1人相手なら何とかなる』

グラニの答えに、

「じゃあ、急いで一夏に通信を繋げて!」

『了解した』

すると、タカトは通信で呼びかけた。

「一夏、一夏聞こえる?」






『一夏、一夏聞こえる?』

ISの通信で聞こえてきた声に、一夏はすぐさま答えた。

「タカトか!?」

「タッ、タカト君! 大丈夫?」

簪も心配そうに問いかける。

『簪さん? こっちは大丈夫。 今の所僕も楯無先輩も怪我はないよ』

タカトの言葉に、幾分かホッとする簪。

『それよりも一夏! すぐにギルモンを連れてきて! 僕の部屋にいると思うから!』

「ギ、ギルモンを!? えっ? いいのか!?」

タカトの言葉にそう返す一夏。

『そんな事を言ってる場合じゃないんだ! 簡単に言うとスカルグレイモンがリアライズした! こいつを倒すには、ギルモンの力が必要なんだ!』

「何っ!?」

スカルグレイモンは完全体の中でも割と有名なので、一夏にも理解できた。

『いいから急いで! …………あっ!』

――ドゴォオオン

アリーナの中から破砕音が聞こえると同時に通信が途切れる。

「タカト? タカト!? くっ………」

一夏は声を漏らすと、一度アリーナに視線を向ける。

「タカト………無事でいろよ」

そう呟くと、タカトの言葉を守るために駆けだした。




アリーナ内では、次々と振り回されるスカルグレイモンの腕を、タカトと楯無が必死に避けていた。

「くっ! こっちの攻撃は効かない。 向こうの攻撃は一発喰らったらほぼアウト。 キッツイなぁ~」

楯無は、余裕があるような声を漏らすが、実際は冷や汗を流していることが見て取れる。

「楯無先輩、何とか一夏がギルモンを連れてくるまで耐えるんです!」

「簡単に言ってくれちゃって、もう」

タカトの言葉に、楯無はスカルグレイモンに集中する。

その時、

――ドゴォオオン

無数のミサイルや弾丸、レーザーがスカルグレイモンに直撃する。

「はっ!」

タカトが振り向くと、そこには一夏を除いた1年の専用機持ち達がいた。

「皆!」

タカトが叫ぶ。

「援護に来たぞ!」

「僕達も手伝うよ!」

ラウラとシャルロットがそう言う。

「皆! 気を付けて! こいつは………」

「あまり距離を取って戦いすぎるなって事でしょ? 予め私が説明しといたわよ!」

タカトが注意しようとしたところで、鈴音がそう言った。

鈴音も、デジモンにはある程度詳しいので、スカルグレイモンの強さも大体は分かっているのだ。

「よし、皆。 気を付けてね!」

タカトの言葉で、その場が一斉に動き出す。

スカルグレイモンが腕を振るうが、タカト達は散開して避け、攻撃できる者が攻撃する、という方法を繰り返した。

しかし、その専用機持ちの中で、一際無暗に攻撃を繰り返す者がいた。

それは、簪であった。

スカルグレイモンと戦う専用機持ちの中でも、攻撃頻度が一番高い。

いや、少々危なくても、無理矢理攻撃していたのだ。

だが、それには理由があった。

(私は………“更識 楯無の妹”というだけの人形じゃない!)

簪の心中は、その思いでいっぱいであった。

簪は先程模擬戦で言われた言葉に、再びコンプレックスを掘り返されてしまったのだ。

故に、楯無以上に成果を出して、自分自身を認めさせたいがために、無茶をしているのだ。

しかし、その行動は、楯無の集中力を途切れさせてしまう。

「簪ちゃん! そんな無理して攻撃しないで! ISの攻撃じゃ、あまり効果無いのよ!」

見かねた楯無は、簪に向かってそう叫ぶ。

だが、その言葉は、今の簪には逆効果だ。

簪は、更に意地になってスカルグレイモンに攻撃を加える。

「簪ちゃん!」

楯無が再びそう叫んだ。

その瞬間、スカルグレイモンの腕が楯無に振るわれる。

「はっ!? きゃあっ!?」

直撃は避けるものの、指先が掠り、楯無は地面に叩き付けられる。

「ギャオオオオオオツ!!」

地上に倒れた楯無に向かって、腕が叩き付けられる。

「ッ!?」

楯無は、避けきれないと覚悟し、目を瞑った。

――ドゴォ

スカルグレイモンの腕が地面に叩き付けられ、砂煙が舞う。

「姉さん!?」

思わず簪が叫んだ。

「あ………あ…………わ、私の………所為………? 私が………意地になったから………?」

簪は目の前が真っ白になりそうだった。

しかし、

「ふう。 ギリギリセーフ」

聞こえたタカトの声に、簪は視線を向ける。

そこには、

「大丈夫ですか? 楯無先輩」

「え、ええ………」

楯無を抱きかかえ、スカルグレイモンの腕をギリギリ避けたタカトの姿。

ただ、その抱きかかえ方が、所謂お姫様抱っこだったため、楯無の顔はほんのりと赤い。

だが、そのタカトに向かって再びスカルグレイモンが腕を振るってくる。

今度は一撃ではなく、連続だ。

「うわっ! くっ! はっ!」

タカトは、楯無を庇うように強く抱きしめ、スカルグレイモンの腕を避けていく。

因みに、タカトに抱きしめられている楯無は、真剣なタカトの顔を間近で見ることになっており、

(あうっ。 今のタカト君、結構カッコいいかも………って、私何考えてるの!?)

内心気が気でなかったりする。

何とか腕の攻撃範囲から逃れ、体勢を立て直したところでタカトは楯無を降ろす。

「あ、ありがと、タカト君」

楯無は少し顔を赤くしながらそうお礼を言う。

「いえ、気にしないでください」

タカトはそう言ってスカルグレイモンに向き直る。

その時、

――ドォオン

スカルグレイモンの頭部で爆発が起こる。

しかし、専用機持ち達が攻撃した様子は無い。

「これ以上はやらせません!」

その声に空を見上げれば、ラファール・リヴァイヴを装着した真耶の姿。

「生徒の皆さんは避難してください!」

真耶はそう言って、空中からグレネードを連射する。

「遠くから攻撃すれば、反撃は受けません!」

真耶は、スカルグレイモンの腕が届かない位置から攻撃を続ける。

しかし、それはタカト達にとって一番の悪手。

「ダメです先生! 遠くから攻撃したら………!」

タカトがそう言いかけたところで、スカルグレイモンが空中の真耶に向かって、やや前傾姿勢をとる。

そして、

「グラウンド・ゼロ………!」

その背中から有機体系ミサイルが発射された。

「しまった!」

タカトは叫ぶ。

真耶は、スカルグレイモンがミサイルを撃って来たことに驚くも、

「そんな遅いミサイルに当たりはしません!」

グラウンド・ゼロの初速はそれほど速くは無いため、ISなら避けるのは難しくないだろう。

宣言通り、真耶はグラウンド・ゼロを余裕を持って避ける。

しかし、避けたミサイルは、徐々に速度をあげつつ突き進む。

「まっずい! アリーナのシールドにぶつかる!」

そう声を上げたのは鈴音。

グラウンド・ゼロが、もしシールドに当たって爆発したら、タカト達がいるアリーナとその周辺は、焦土になることは確実。

タカトは、即座に行動した。

右手のグングニルを思い切り振りかぶる。

「クォ・ヴァディス!!」

タカトは、ミサイルが着弾するであろうシールド部分に向かって、思い切りグングニルを投擲した。

エネルギー分解の能力で、グングニルはアリーナのシールドに穴をあける。

グラウンド・ゼロは、その穴を通って、シールド外に出た。

「ちょ!? 松田君! 一体何を!?」

タカトの行動に驚愕するのは真耶。

しかし、タカトに答えている暇はない。

「ボーデヴィッヒさん! 協力して!」

タカトはラウラに呼びかける。

「了解した!」

ラウラは頷くと、タカトの後に続いてグラウンド・ゼロを追いかける。

上昇を続けていたミサイルは、ある程度の高さまで来ると向きを変え、下降を始める。

このままではIS学園の敷地内に着弾する。

「ボーデヴィッヒさん! AICでミサイルの動きを止めて!」

「分かった!」

タカトの指示にラウラは頷き、ミサイルに向かってAICを発動する。

ラウラの目の前で止まるミサイル。

その時、

「URYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

ミサイルが叫び声を上げる。

「なっ!? ミサイルが叫び声を上げるなど…………このミサイルは、生きているとでも言うのか!?」

驚愕するラウラ。

しかし、AICを発動させるだけの集中力が切れなかったのは、流石軍人と言うべきだろう。

「ボーデヴィッヒさん! 合図をしたら、AICを解除してその場を離脱して!」

「わ、分かった!」

少し動揺しながらも、タカトの言葉に頷く。

すると、タカトはDアークとカードを取り出し、

「カードスラッシュ! トールハンマー!」

オプションカードである、トールハンマーをスラッシュした。

タカトの手に、巨大なハンマーが現れる。

タカトはそれを思い切り振りかぶった。

「ボーデヴィッヒさん!」

タカトはラウラに呼びかける。

「ッ! 行くぞ!」

ラウラは一度タカトへ目線を送ると、AICを解除してその場を飛び退いた。

AICを解除されたことで、再びミサイルが動き出す。

が、

「はぁああああああああああああああっ!!」

タカトが、トールハンマーで横から思い切り殴りつけた。

それによって、進行方向が海の方に変わり、ミサイルは海に向かって飛んで行く。

そして、ミサイルは海の沖合の方に着弾。

その一瞬後、

――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオン

核爆発とも思えるような熱量の塊が発生し、直径数百メートルの半円形の白いドームが生み出される。

「ッ!? な、なんという威力! 鈴の言った事は、出鱈目では無かったという事か!」

ラウラはその威力に驚愕している。

一方、アリーナに居た真耶もその光景を目撃していた。

「な、何て威力! もしあれがこの場所で爆発してたら………」

その光景を想像してゾッとすると共に、何故タカト達がスカルグレイモン相手に危険な近接戦闘を挑んでいたかを悟る。

「松田君たちはアレを撃たせないために近接戦闘を…………」

タカトとラウラが、再びアリーナに降りてくる。

「今回は何とかなったけど、そう何発も撃たれたら対処できない。 一夏、早く…………」

タカトはそう呟き、スカルグレイモンを見据える。

攻撃を避けられたものの、スカルグレイモンに感情は無いため、闘争本能のまま暴れ続ける。

「はっ……はっ………」

そんな中、簪の動きが鈍くなってきていた。

理由は、先程自分の所為で楯無を死なせそうにしてしまった事。

そして、その時のタカトと楯無のやり取り。

前から疑ってはいたが、今回のやり取りで確信してしまった。

楯無は、少なからずタカトに対して好意を持っているという事を。

本人が自覚しているかは分からないが、少なくとも簪にはそう思えた。

そして、同じ相手に好意を寄せたとすれば、その行きつく先の結果は、簪には一つしか思い浮かばない。

今までずっと楯無には敵わなかった。

勉強も、ISも、家事ですら楯無には敵わない。

その上、容姿やスタイル、性格も自分よりも楯無の方が上だと感じている。

(………やっと見つけた私のヒーロー…………それすらも姉さんに奪われるの? …………嫌だ…………そんなの………嫌だ………!)

思考の悪循環に陥る簪。

その考えは、簪の動きを鈍らせる。

「簪さん!」

いきなり叫んだタカトの声に、我に返った時、スカルグレイモンの腕が振り上げられていた。

「はっ!?」

このタイミングでは避けられない。

簪は思わず目を瞑る。

「簪さん!! 危ない!!」

その言葉と共に、簪は突き飛ばされた。

簪は突然の事に目を見開く。

「タカト君!?」

タカトによって突き飛ばされ、簪は攻撃範囲から逃れるものの、代わりにタカトが直撃コースに入っている。

タカトは咄嗟に振り下ろされるスカルグレイモンの腕に振り向き、

「ユゴスブラスター!!」

強力な砲撃を放った。

だが、それだけで完全体の攻撃を止められるとは思っていない。

タカトはユゴスブラスターを放った瞬間、PICを切る。

それによって、ユゴスブラスターの反動で後方に急加速した。

しかし、それでも間に合わない。

エネルギーの奔流を押しのけ、スカルグレイモンの腕はタカトに迫る。

タカトは咄嗟に防御態勢を取った。

次の瞬間、スカルグレイモンの腕がタカトに直撃する。

タカトはそのまま地面に叩き付けられ、それでも止まることは無く、アリーナの壁に激突した。

「「「「「「「タカト(松田)(君)(さん)!!」」」」」」」

全員が叫ぶ。

「ぐっ………くっ………」

タカトは何とか立ち上がった。

しかし、ISは強制解除されており、タカト自身にもダメージが通っている。

立ち上がったからと言って、動くのは困難なようだ。

そのタカトに向かって、スカルグレイモンが近付いていく。

「「タカト君!」」

一目散にタカトに向かったのは楯無と簪。

だが、既にスカルグレイモンは腕を振り上げている。

このままでは、助けられるかどうか微妙なところだ。

しかし、その前にタカトに向かって走り込む赤い影があった。

「タカトー!!」

叫びながらタカトの前に立ち塞がったのは、大切なパートナーであるギルモン。

だが、その間にも振り下ろされるスカルグレイモンの腕。

しかし、

――EVOLUTION

自分のパートナーの危機に、ギルモンは己の意志で進化する。

「ギルモン進化!」

光に包まれ、進化するギルモン。

「グラウモン!!」

グラウモンは、振り下ろされるスカルグレイモンの腕を受け止める。

「あの赤い怪獣は、この前の………!」

その光景を見た真耶は驚愕する。

「うっ……くっ……!」

しかし、いくらグラウモンと言えど、完全体の一撃を受け止めるには力不足。

徐々に押されていく。

「くっ……タカト……!」

グラウモンはタカトに呼びかける。

「うっ……グラウモン……!」

タカトはふらつきつつも、前に歩み出す。

しかし、やはりダメージが大きいのか、倒れそうになる。

その時、

「タカト!」

一夏が走ってきてタカトを支える。

「すまん。 待たせた!」

「一夏……」

一夏がタカトに肩を貸す。

「タカト君!」

「タカト君……!」

楯無と簪が飛んでくる。

「楯無先輩………簪さん………」

タカトは2人の名を呟く。

「ごめんタカト君………私が油断した所為で………」

簪は、暗い表情で謝る。

「簪さん、怪我はなかった?」

突然タカトはそう尋ねる。

「え? う、うん………」

簪が困惑しつつ頷くと、

「そう………よかった」

タカトは笑みを浮かべてそう言った。

「ともかく、ここはギルモン………いえ、今はグラウモンだったわね。 この場はグラウモンに任せて、タカト君と一夏君は避難を!」

楯無がそう言うと、

「は、はい!」

一夏が返事をしつつ、タカトをアリーナの外に連れ出そうとしたが、

「………そうはいきません」

タカトは一夏の肩を振りほどくと、グラウモンの方に向かって歩みを進める。

「グラウモンが戦っているのに………テイマーの僕が逃げるわけにはいかないんです!」

強き意志を持ってそう言い放った。

「タカト君! そんな事を言ってる場合じゃ………」

楯無が避難させようと説得するが、

「パートナーを最後まで信じ、パートナーを最後まで支える! それがテイマーです!!」

更なる決意を持ったタカトの言葉に黙るほかなかった。

その時、遂に耐えきれなくなり、グラウモンが弾き飛ばされる。

「ぐああっ!」

グラウモンはタカト達のすぐ横に倒れる。

「グラウモン!」

「………ッ! タカト……!」

グラウモンにはダメージが伺えるが、グラウモンは身を起こす。

そして、タカトを見つめた。

「タカト!」

「グラウモン!」

お互いの視線が交差する。

戦う意思を持って。

そして、まるでその意志に応えるかのように、タカトが持つカードの1枚が青い光を放った。

タカトがそのカードを取り出すと、そのカードはブルーカードへと姿を変える。

「ブルーカード………」

それを見た簪が呟く。

タカトは、前を向き、

「皆! 僕達の後ろに!!」

その場の全員に呼びかけた。

その強い意志の籠った言葉に、スカルグレイモンと戦っていたメンバーは、その言葉に従う。

全員がタカト達の後ろに集まり、スカルグレイモンが一塊になった標的に、近づいてくる。

タカトは、Dアークからゴーグルを取り出し、額に装着すると、目を見開き、

「行くぞ! グラウモン!!」

Dアークとブルーカードを構えた。

「カードスラッシュ!」

タカトはブルーカードをスラッシュしていく。

Dアークがブルーカードの情報を読み取り、それがグラウモンへと送られる。

「マトリックスエボリューション!!」

その瞬間、

―――MATRIX

    EVOLUTION―――

グラウモンが、さらなる光に包まれる。

「グラウモン進化!」

グラウモンの各部にあるデジタルハザードが反応し、グラウモンの巨体は更に巨大化。

更にグラウモンの身体を機械化していく。

上半身はほぼ機械化。

背中にはブースターが付き、両腕にはペンデュラムブレイド。

胸部には必殺のアトミックブラスターの砲門。

頭部には、莫大なパワーを制御するための轡。

莫大なパワーを秘めたサイボーグ型完全体デジモン。

「メガログラウモン!!」

メガログラウモンがスカルグレイモンの前に立ちはだかる。

スカルグレイモンは、闘争本能に従い、メガログラウモンに向かって腕を振り上げた。

メガログラウモンの後ろには、タカト達がいるため、避けることは出来ない。

メガログラウモンは、振るわれる腕をその身で受ける。

例え完全体に進化したとしても、同じ完全体の攻撃ならダメージは通る。

「くっ………!」

メガログラウモンは、右頬に攻撃を受ける。

その瞬間、

「うぐっ!」

タカトが、まるで右頬を殴られたように仰け反る。

「えっ!?」

「タ、タカト君!?」

その瞬間を見た楯無や簪が声を上げる。

メガログラウモンに次々と振るわれるスカルグレイモンの攻撃。

「うぐっ………あぐっ……くぅっ………」

メガログラウモンが攻撃を受けるたび、タカトの身体が殴られたように仰け反り、ふらつく。

「ま、まさか、メガログラウモンの受けたダメージが、松田の身体にも通っているというのか!?」

見当がついたラウラが叫ぶ。

「……その通りだよ……くっ………パートナーを完全体まで進化させると……ッ…………テイマーとデジモンは……うぐっ………一心同体に近くなる………くうっ………」

タカトは、ダメージを受けながら説明を続ける。

「そんなっ!?」

簪が悲痛な声を上げる。

「でも…………だからこそ勝てる!!」

タカトが強き意志を持ってそう言った瞬間、まるでメガログラウモンが応える様にスカルグレイモンの腕を掴んだ。

「デジモンとテイマーは、共に進化する! 一緒に笑って、一緒に泣いて、時には喧嘩もした! だからこそ、何よりも強い絆が出来るんだ!」

タカトの想いを力に変える様に、メガログラウモンは、スカルグレイモンを空中に投げ飛ばした。

胸部の砲門をスカルグレイモンに向ける。

そして、その砲門にエネルギーが集中し、

「アトミック!」

「ブラスターーーーッ!!」

メガログラウモンとタカトの叫びと共に、アトミックブラスターが放たれる。

その攻撃の前に、スカルグレイモンは、成す術無く分解され、消え去った。

ついでに言っておくと、アリーナのシールドも紙の如く撃ち抜いている。

メガログラウモンは、タカト達を見下ろす。

タカトはメガログラウモンに笑みを向けた。

消えていくデジタルフィールド。

すると、千冬がアリーナ内に現れた。

そして、メガログラウモンを見上げる。

「ふむ。 これがお前たちが臨海学校から隠していたことか?」

千冬はタカトや一夏達に向かってそう聞く。

「えっ? 千冬姉、気付いてたの?」

――パァン

一夏がそう言った瞬間、お馴染みの出席簿アタックが炸裂した。

「織斑先生だ。 何度言えばわかる。 それから、お前たちが何か隠していたことなど最初から知っている」

「ええっ!?」

千冬の言葉に真耶が驚く。

「明らかにお前たちの行動がおかし過ぎる。 私から何かを隠すなら、まずは挙動不審を何とかしろ」

千冬から言われた言葉に専用機持ちは冷や汗を流した。

「まあいい。 そいつにも危険は無いだろう」

千冬はそう言うと、メガログラウモンから視線を外す。

タカトは再びメガログラウモンを見上げ、笑みを浮かべた。

そんなタカトを楯無は見つめていた。

(この気持ちって……やっぱりそうなのかな?)

その想いに困惑しながら。








あとがき

第十六話の完成。

メガログラウモン進化の回。

どうでしたか?

とりあえず、楯無を何とか絡ませたかったので、オリジナルの行事を作ってそれに対応。

ご都合主義ですな。

それにしても、一夏はホントいいとこ無し。

すまん一夏、我慢してくれ。

お前の見せ場はデジタルワールド編からだ。

次の日曜までにもう一話投稿できるかな?

では、次も頑張ります。





[31817] 第十七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/09/01 19:51
第十七話 簪を救え! 楯無の想い!



スカルグレイモンを退けたその日の夜。

「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」

食堂で、大量の視線がある1つのテーブルに集中していた。

それは、

「はい、ギルモン」

「あ~~~む!」

鳥の唐揚げをギルモンの口の中に放り込むタカト。

ギルモンは、その唐揚げを一口で食べる。

そう、千冬達にギルモンの存在がばれてしまったが、ギルモンの滞在を認められたため、タカトは公けにギルモンを連れて食事をしている。

それは、当然周りの興味を引く。

その視線には、同じテーブルに座る一夏達にも感じられた。

「わたくし達に向けられているものではないとはいえ、こうも視線を向けられると落ち着きませんわね」

「ああ、初めてこの食堂で飯を食った時を思い出すぜ」

セシリアと一夏がそう言う。

興味と不安が入り混じる視線の中、

「はい、ギルギル。 あ~ん」

「あ~ん」

誰よりも早くギルモンがいることに順応したのは本音である。

「ねえ~、ギルギル~」

「何? ホンネ~」

「ギルギルの好きな食べ物って何~?」

「ギルモン、ギルモンパンが好き~」

「ギルモンパン~?」

「うん。 タカトのお父さんが作る、ギルモンの顔したパン」

「へ~。 まっつー、今でも作ってくれるの~?」

本音はタカトに話を振る。

「うん。 お父さんに直接頼めば作ってくれるよ」

タカトはそう答える。

「そうなんだ~。 今度頼んでみよ~」

本音はそう言いつつ、ギルモンに食べ物を与えていた。





食事を終え、ギルモンと一緒に自分の部屋に戻る。

この部屋に歩いてくるだけでも、生徒達の視線が突き刺さったことは言うまでもない。

やれやれと思いつつ、いつも通りタカトは自分の部屋のドアを開けた。

そこには、

「え?」

「え?」

シャワーを浴びた後なのだろう。

バスタオルを1枚体に巻きつけただけの、楯無の姿。

「……………」

「……………」

一瞬、2人は無言になる。

「………………き」

楯無がふと漏らした言葉で我に返るタカト。

そして、

「きゃぁあああああああっ!!」

「うわぁあああああああっ!! すみません!!」

楯無の悲鳴と同時にタカトは謝り、部屋の扉を閉める。

「はあっ…………はあっ………」

タカトは顔を真っ赤にして息を吐く。

「? どうしたの、タカト」

ギルモンが首を傾げて聞いてくる。

「な、何でもないよ。 ちょっとタイミングが悪かっただけ」

タカトはそう答える。

その時、ふと思った。

(でも、何で楯無先輩あんなに叫んだんだろ? いつも僕をからかう時も結構過激な格好をしてたけど………不意打ちだったからかな?)

タカトがそう考えていると、

「も、もういいわよ…………」

ドアの向こうから、楯無がそう言ってきた。

「は、はい。 失礼します」

タカトは再びドアを開けて、部屋の中に入る。

楯無は、頬を赤くしながら後ろを向いて、やや俯いていた。

「え、えっと、楯無先輩。 すみませんでした。 いくら自分の部屋だからと言って、ノックもせずに入るのは、不用心でした」

タカトはそう言って謝る。

「ううん。 私の方こそ、不用心だったわ。 ごめんなさい」

楯無はそう言う。

その時顔を上げたため、タカトと楯無の目が合う。

その瞬間、

「ッ………!」

楯無の顔が赤くなり、慌てて目を逸らす。

(ど、如何しちゃったの私? タカト君の顔がまともに見れないよ………)

楯無がそう考え込んでいると、

「楯無先輩?」

いつもと様子が違う楯無を心配したのか、タカトが楯無の顔を覗き込んでいた。

「ッ!?」

楯無の顔が更に真っ赤になる。

それを見たタカトが、

「楯無先輩、顔赤いですけど、熱でもあるんじゃないですか?」

そう言いながら楯無の額に手を当てる。

すると、楯無は耳まで真っ赤になった。

「う~ん………ちょっと熱っぽいかなぁ………?」

「……あぅ……あぅ……あぅ……」

楯無は緊張のあまり意味不明な言葉を漏らす。

「楯無先輩、調子が悪いなら早く寝た方がいいですよ?」

「タッ、タカト君………大丈夫……これは違うから………」

「ダメですよ楯無先輩。 熱もあるんですし、ちゃんと寝てください」

タカトは強引に楯無に寝る様に進める。

「わ、私を誰だと思ってるの? IS学園最強の生徒会長よ。 だから………」

「駄目です。 学園最強だろうと生徒会長だろうと、その前に楯無先輩だって1人の女の子なんですから、無茶はダメです」

その言葉に楯無は茹蛸の様に真っ赤になる。

「はうぅ………」

「ほら、言った傍から元気ありませんし、顔もさっきよりも赤くなってますよ。 いい加減寝てください!」

タカトは少し強い口調で言った。

仕方なく楯無はベッドに横になると、タカトが掛布団を掛ける。

楯無はその掛布団を掴むと、赤くなった頬を隠すように顔の下半分まで掛けた。

そして、そのまま恨めしそうにタカトを見つめる。

しかし、タカトはその視線を華麗にスルーし、

「はい、楯無先輩。 ちゃんと寝てくださいね。 丁度明日は休日ですし、長く寝ても問題ありませんから、調子が悪いと思ったら、明日もゆっくり休んでください」

タカトはそう言い聞かせるように楯無に言う。

「………………タカト君の所為だからね」

楯無はポツリと呟く。

「え? 何か言いました?」

良く聞こえなかったタカトは尋ねる。

「何も」

楯無はそう言うと、布団を被りなおしてタカトに背を向ける。

タカトは微笑むと、

「おやすみなさい、楯無先輩」

そう言って部屋の電気を消すと、自分も早々にベッドに横になった。

布団に潜り込んでいる楯無の心臓は、バクバクと高鳴っていた。

(な、何でこんなに意識しちゃうの? 毎日一緒の部屋で寝てるのに?)

楯無には、一向に眠気は襲わない。

楯無はふと、今日のタカトを思い出す。

スカルグレイモンと戦っていた時、間一髪のところを助けてもらった事。

おまけに助けるためとはいえ、お姫様抱っこで尚且つ抱きしめられた。

(そ、そうよ。 きっとあれよ! 吊り橋効果ってやつ? 命の危機から救われたときに、必要以上にカッコよく見えただけで………)

次に思い浮かんだのは、タカトがスカルグレイモンの攻撃の直撃を受けても立ち上がり、スカルグレイモンに立ち向かった所。

(あれだけの敵を前に、生身でも立ち上がった……そのまま倒れていた方が安全だったかもしれないのに………)

次にメガログラウモンのダメージがタカトにも通っている所が思い浮かぶ。

(あれだけのダメージを受けても、タカト君は全然怯まなかった。 前だけを見ていた………)

そこまで考えて、ハッとした。

(私、今タカト君の事ばかり考えてる…………)

そして、遂に自分の気持ちを結論付けた。

(あ~あ。 これは確定かな?)

その気持ちを自覚すると、バクバクと高鳴っていた心臓は収まり、楯無にも冷静さが戻ってきた。

そして、その代わりに、

「………フフッ」

楯無の口から笑みが零れた。

そして、

「明日から覚悟しといてね、タカト君♪」

布団の中でそう呟いた。






翌日。

楯無がふと目を覚ます。

「うん………?」

時計に目をやると、時間は9時を過ぎていた。

「あれ? 寝すぎちゃった?」

楯無はそう言うが、今日は休日なので特に問題は無い。

隣のベッドに目をやると、

「あれ?」

そこにはタカトとギルモンの姿は無かった。

キョロキョロと周りを見渡すと、机の上に1枚の紙があった。

楯無がその紙を見ると、そこには伝言が書かれていた。

簡単に言えば、大破したグラニの修理の為に、ヒュプノスに行ってくるという事だ。

あと、無茶はしないようにとも。

「クスッ。 残念。 早速迫ろうと思ってたのに」

楯無は楽しそうに呟きつつ、どうやってタカトに迫るかを考えだした。





一方、簪は街に出てきていた。

楯無のタカトへの想いに気が付き、このままではタカトが楯無にとられると思い込んだ簪は、タカトの想いを自分に向けさせるために努力を開始していた。

先ずは手始めに自分の作ったケーキを食べてもらおうと、材料を買いに来たのだ。

(……タカト君………食べてくれるかな?)

期待と不安が入り混じる中、簪は街を歩く。

ふと路地裏へ続く道がある交差点の前を通り過ぎようとしたとき、

「んむっ!?」

突然その道から人の腕が伸びてきて簪の口を塞ぐ。

その手には布があり、何かの薬品を嗅がされた簪は、悲鳴を上げる間もなく気を失った。






その頃、楯無は部屋の掃除をしていた。

「よしっと。 こんな所かな?」

その出来は、埃一つ無く、まるでプロが清掃したような出来栄えだ。

それは、所謂鬼姑も文句が出ないほど。

まあ、タカトの所まで無断で掃除するのはどうかと思うが。

「それにしてもつまらないなぁ。 エロ本の一冊も出てこないや」

楯無はそう言うが、純情なタカトがそんなものを持っているわけはない。

その時、

――♪♪~~♪~~

楯無の携帯電話が鳴った。

楯無は、その携帯電話を取った。

「はい」

その相手が何やら話す。

「ッ!?」

楯無の表情が明らかに変わった。

「…………ええ………………わかったわ……言う通りにする」

そう呟いて、楯無は電話を切った。

「………簪ちゃん……!」

そう呟いて、楯無は駆け出した。





一方、タカトはグラニをワイルドバンチに預けたところであった。

「水野さん、グラニの事、よろしくお願いします」

タカトはそう言って頭を下げる。

「任せてくれ。 ちゃんと元通りにしてあげるよ」

水野は笑みを浮かべてそう言う。

「お願いします」

タカトはもう一度頭を下げた。

タカトは、ギルモンを連れてヒュプノスの施設から出る。

「さてと、ギルモン。 これからどうしようか?」

タカトがギルモンに尋ねるが、ギルモンはタカトとは反対の方向を向いていた。

「ギルモン?」

タカトが呼びかけると、

「タカト。 タテナシ」

ギルモンはそう指差す。

「えっ? 楯無先輩?」

ギルモンが指した方向には、必死な表情で走る楯無の姿。

楯無は、そのままタカトがいる対向車線の歩道を横切る。

しかし、タカトに気付いた様子は無い。

「楯無先輩………」

タカトは、走って行く楯無の後姿を見つめ、

「行くよ! ギルモン!」

ただ事ではないと感じ、楯無の後を追いかけた。






簪は、見知らぬ場所で目を覚ます。

「…………う……ん………あれ………私……」

簪は、身を起こそうとして、

「ッ!?」

手足が縛られていることに気付いた。

「おう、気が付いたか?」

聞こえた方に顔を向けると、そこにはIS『打鉄』を纏った1人の女性がいた。

簪は身を捩って体を起こすと、周りを見渡した。

どうやら、ここは何処かの廃ビルのようだ。

(そうだ。 私誰かに薬品を嗅がされて………)

簪は、今の自分の状況を悟る。

確実に誘拐。

簪は、蒼狼を展開させようとして、

「ッ!? 蒼狼が!」

手が後ろに縛られている為、目で確認できないが、その指に蒼狼の待機形態の指輪の感触は無い。

「お探し物はこれかい?」

その女性の手には待機形態の蒼狼があった。

「調べは付いてるぜ。 日本代表候補生、更識 簪」

その女性はそう言う。

「ッ……私を………如何するつもり………?」

簪がそう聞くと、

「お前はただのエサさ」

「エサ………?」

「ああ。 大物をおびき寄せるためのな」

「大物………姉さんの事?」

「大正解」

その女性は薄ら笑いを浮かべてそう言った。

簪は俯き、

「……………姉さんは………来ない」

「あん?」

「姉さんが……私なんかを助けに来るはずない……」

簪は自虐的にそう呟く。

(そうだ…………姉さんにとって私なんて、取るに足らない存在……)

簪がそう思っていた時、

「来た!」

(えっ?)

女性は、ビルの入り口の方を見ると、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。

その視線を追うと、ビルの入り口から『ミステリアス・レイディ』を纏って歩いてくる楯無の姿。

(な、何で………?)

簪は、内心驚愕している。

「そこで止まれ」

女性が楯無に命令する。

楯無は言われた通りに立ち止った。

そして口を開く。

「意外ね。 てっきりISを持たずに来いと言うと思ってたのに、態々ISを装着して来いだなんて」

楯無はそう言う。

「はっ! 生身のお前を殺して何になる!? そんなんじゃ私の気は晴れねえんだよ! てめえはそのISを纏ったまま私になぶり殺されるんだ! 7代目更識 楯無! アタシはあの時の屈辱はぜってぇ忘れねえ!」

この女性は、過去に楯無にコテンパンにやられたことがあり、今回の目的は、その復讐だ。

すると、その女性は、手に持ったスイッチを楯無に見せる。

「こいつを見な。 これは爆弾の起爆装置だ。 そして………」

そう言いながら簪に視線を移す。

簪の周りには、沢山のドラム缶が山積みにされていた。

「このドラム缶の中にはガソリンが詰まってる。 つまり、こいつを押せば、お前の妹は、ドカン、だ」

手で爆発の仕草をしながらそう言う。

「………………ッ」

楯無は歯を食いしばる。

「おっと、変な考えを起こさないように、武器は全部捨ててもらおうか」

その女性は、スイッチを見せながらそう言う。

「……………分かったわ」

楯無は大人しくランスとラスティー・ネイルを展開、床に放り投げる。

「へへっ、聞き分けが良いじゃねえか。 もし逆らったら、判ってるよなぁ?」

その女性は歪んだ笑みを浮かべると、

「オラァ!」

楯無を思い切り殴りつけた。

吹き飛び、壁に叩き付けられる楯無。

「姉さん!」

簪は思わず叫ぶ。

すると、楯無は瓦礫の中から起き上がる。

「大丈夫よ、簪ちゃん。 ちょっと待っててね。 すぐに助けてあげるから」

楯無は簪にそう笑みを向けた。

「まだまだ余裕じゃねえか。 まあ、そうじゃなきゃ面白くねえ!」

再び楯無が殴りつけられる。

そこからは、一方的なリンチだった。

楯無は、殴られ、蹴られ、斬りつけられる。

床に倒れる楯無。

その楯無の頭をその女性は踏みつけた。

「ははっ! 良い様だなぁ、更識家当主様? 本来なら相手にもならねえテメエが、妹1人人質に取られただけで、手も足もでねえんだからなぁ?」

力を込めて踏みつける女性。

「姉さん! 何で!? 何でそんな奴に良いようにやられてるの!?」

簪が叫ぶ。

「何で………姉さんは………強くて………カッコ良くて………憧れの姉さんなのに……!」

簪は、涙を流しながらそう呟く。

「ははっ! 情けないなぁお姉ちゃん? 妹の前で無様な姿を晒してな? はははははははっ!」

大笑いする女性。

「その妹の前で、死んじまいなぁっ!!」

女性は、楯無の頭を踏み砕くつもりで、大きく足を振り上げた。

その瞬間、楯無は目を見開いた。

それは、楯無が待っていた最後のチャンス。

楯無は、倒れたまま瞬時加速を発動。

簪に向かって一気に加速する。

「なっ!?」

女性の振り下ろした足は、床を踏み砕くだけで、掠りもしない。

そして、その間のタイムロスで、起爆スイッチを押すまでに時間がかかる。

(いける! このタイミングなら、今起爆ボタンを押されても、簪ちゃんを守れる!)

楯無は、簪を救うために全神経を集中させていた。

だからだろう、普段なら反応できる不意打ちをまともに喰らったのは。

もう少しで、簪を助けられると思ったその瞬間。

楯無が横から殴りつけられた。

予想外の一撃に、楯無は瞬時加速の勢いで壁に激突する。

「あぐっ!?」

楯無が瓦礫の中から起き上がると、そこにはもう1機の打鉄を纏った女性。

「残念だったわね」

「ははは! 私がたった1人でお前を相手すると思ってたのか? そんな無謀な事しやしねえよ!」

すると、最初の女性が近付いてきて、楯無の身体を踏みつける。

「さて………忠告を破ったのはお前だからな………」

そう言いながら、手に持った爆弾の起爆スイッチを見せつける女性。

「ッ!? や、やめて! 私はどうなってもいいから! 簪ちゃんだけは!」

楯無は必死に叫ぶ。

(姉さん!?)

女性は、歪んだ笑みを浮かべ、

「きひひっ! 良い顔だぁ」

そう言いながら、スイッチに指を当てる。

「お、お願い! やめて!!」

楯無の懇願も空しく、

「あばよ。 恨むなら私達の忠告を無視したお姉ちゃんを恨みな」

そのスイッチが押された。

「姉さ………!」

――ドゴォオオン

一瞬簪の声が聞こえ、爆発音と熱風が巻き起こる。

「あ………あ………」

楯無は、絶望的な表情で視線を簪が居たところに移した。

そこには、モクモクと黒い煙が立ち上り、小爆発を繰り返す光景があった。

「…………あ……あああっ!」

楯無が泣き喚く。

そのルビー色の瞳からも、大粒の涙がボロボロと零れ出ていた。

「ひひっ! わかっているか? 妹が死んだのはお前の所為だぜ」

その言葉に楯無は項垂れる。

(簪ちゃんが………私の所為で………)

簪を失ったショックで、今の楯無に動く気力は無い。

その楯無の首に、ブレードが突きつけられた。

「まあ、私は優しいからな。 妹が寂しくないように、お前も同じところに送ってやるよ」

その言葉と共に、ブレードが振り上げられる。

(簪ちゃん………ごめんね………)

楯無の心の中は、簪への謝罪で一杯だった。

「死ねっ!!」

振り下ろされるブレード。

ゆっくりと目を閉じる楯無。

そして、

――バキィィィィン

金属が、割れるような音が響いた。

「なっ!?」

ブレードを振り下ろした女性が、驚愕の声を上げる。

ブレードは振り下ろされている。

しかし、楯無は無事だ。

「えっ?」

楯無は、不思議に思って目を開ける。

そこには、根元からポッキリと折れたブレードがあった。

視線を移すと、見覚えのあるランスが壁に突き刺さっている。

「あれはタカト君のグラム? えっ? でも、タカト君のISは二次移行してグラムは無くなったはず………」

楯無は、自然と簪が居た場所に視線を移す。

そこからは、未だに黒い煙がもくもくと立ち上っている。

だが、楯無が目を凝らすと、その煙の中に、人型の影が見えた。

大きさも、人がISを纏った程度だ。

しかも、そのシルエットは、二次移行前のタカトのISにそっくりだった。

「タカト君?」

楯無は、自然と呟く。

しかし、その煙の中のシルエットが前に歩き出し、煙の中から姿を現すと、

「あ…………」

楯無はその姿に声を漏らした。

輝く白銀と紅の鎧。

背中にはためく赤きマント。

西洋騎士のような威風堂々としたその姿。

それは、

「デュークモン………!」

聖騎士デュークモンが、そこにいた。

その時、左腕に被さっていたマントが外れる。

そこには、

「簪ちゃん!!」

煤で汚れているものの、怪我らしい怪我はない簪の姿があった。

その簪も、呆然とデュークモンを見上げている。

デュークモンは、その簪を優しく床におろし、優しい視線を向けた。

「あ………」

簪は声を漏らす。

そして、その視線を厳しくして前を向く。

すると、デュークモンは言葉を放った。

「妹を人質に取り、あまつさえ殺そうとした人の道を外れし者達よ…………このデュークモンは絶対に許さない!!」

そう宣言すると、デュークモンは右手を前に伸ばす。

すると、壁に突き刺さっていたグラムが独りでに飛んで行き、デュークモンの手に収まる。

そして、左手にイージスを具現した。

「ふん! どんなISか知らないけど、舐めんじゃないわよ!」

後から出てきた女性がそう叫んで、飛び出そうと前傾姿勢になった時、

「なっ!?」

目の前には既にデュークモンがいた。

「遅い!」

デュークモンの軽い一振り。

「がぁあああああああっ!?」

それだけでISの装甲は粉砕。

絶対防御突破ギリギリのダメージを受け、一撃で強制解除、且つ搭乗者に動けないほどのダメージを与えた。

デュークモンは、もう1人の女性に視線を向ける。

「な、何だテメェは!?」

その女性は、アサルトライフルを展開。

デュークモンに向かって引き金を引いた。

しかし、デュークモンは、簪を庇うようにイージスを前に構える。

弾丸はイージスの前に全て弾かれ、傷一つつけることは無かった。

「そのような想い無き弾丸では、このデュークモンに傷一つ付けることは出来ない!」

デュークモンは、そう言い放つ。

「何だよ………? 一体何なんだよテメェは!?」

デュークモンに恐怖を覚えた女性は、スイッチを取り出し、躊躇なく押した。

その瞬間、ビルの支柱に仕掛けられていた爆弾が爆発。

ビルが倒壊を始める。

「むっ!」

デュークモンが声を漏し、辺りを見渡す。

その隙に、

「へへっ! あばよ! 全員仲良く潰れちまいな!」

そう言うと、女性は背を向けて出口に向かって飛び立ってしまう。

しかしデュークモンはそちらには興味を見せず、素早く楯無と気絶した女性を抱えると、簪の元に駆ける。

そして、2人を床に下ろすと、

「このデュークモンから離れるな!」

そう言い、グラムの切っ先を真上に掲げる。

そして、

「ロイヤルセーバー!!」

光の槍が崩れかけるビルを貫いた。




逃げた女性は、ある程度離れると振り向き、崩れ始めるビルを眺めた。

「へっ! ざまあみろ! 皆ペッチャンコだ!」

そう言って大笑いする女性。

しかし、次の瞬間、

――ドゴォォォォォォン

崩れ出したビルが、光の柱によって粉砕。

逆に吹き飛ばされる。

「な、何だあ!?」

突然の出来事に驚愕する女性。

少しして、光の柱が収まると、その中心にデュークモンと、楯無、簪、気絶した女性が無傷でそこにいた。

「じょ、冗談じゃねえ………本物の化けモンだ………」

女性は、ようやく戦いを挑んではいけない相手という事に気付き、その場を離脱しようと、背を向け、飛び立とうとした瞬間だった。

「逃がしはしない!」

デュークモンは一瞬で女性の元まで辿り着き、グラムを振りかぶっていた。

「ひっ………!」

女性が恐怖に染まった声を漏らした瞬間、グラムが振るわれた。

極限まで手加減された一振りでも、ISの装甲は砕かれ、絶対防御も貫きそうな威力。

一気にシールドエネルギーは0になり、ISは強制解除。

女性は気絶し、地面に転がった。

デュークモンは、一度楯無と簪に視線を向けると、そのまま背を向けた。

「あっ! ま、待って……!」

楯無はそう言うが、デュークモンは立ち止まらない。

すると、一陣の風が吹き、砂煙がデュークモンを覆い隠す。

砂煙が晴れたとき、デュークモンの姿は何処にも無かった。




その後、楯無が家の伝手で事後処理をして、夕方、楯無と簪はIS学園への電車に乗っていた。

「………………」

「………………」

2人は、隣同士で座っているが、一度も目を合わせておらず、一言も喋っていない。

暫くそのままでいると、

「ねえ、簪ちゃん………」

楯無が勇気を出して言葉を発した。

ただ、目は合わせていないが。

「…………何? 姉さん………」

間があったが応える簪。

「怪我は………無かった?」

「う、うん………」

楯無の言葉に、少し動揺しながらも簪は頷く。

「そう………よかった………」

小さく微笑んでそう言う楯無。

「……………………」

「……………………」

また黙り込む2人。

しかし、

「ありがとう…………姉さん………」

簪は、小さく、本当に小さく呟いた。

楯無に聞こえたかどうかはわからないが、楯無はずっと、口元に小さく笑みを浮かべていた。

2人の溝は、また少し、縮まった。

その2人を、夕日は優しく照らしていた。






あとがき


第十七話の完成。

これまたオリジナルストーリーで、且つテンプレな誘拐ネタ。

その前にギルモンのバレネタと、楯無のフラグが。

何て言うか、楯無っぽくないかな?

早くもデュークモン登場。

しかし、正体はバレず。

まあ、早くバレるとは言っても、少しぐらい引っ張らないとね。

本当に少しですが。

本当に少しです。

大事な事なので2回言いました。

さて、次回は…………どうなるのでしょう?

では、次も頑張ります。






[31817] 第十八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/09/01 19:50


第十八話 暴走! デジモン特急!



前回の事件から一週間。

タカトがギルモンと、デュークモンに進化し、更識姉妹を助けたことで、楯無や簪から、デュークモンについてもっと教えてほしいとせがまれていたが、何とか追求を躱している。

山木達から口止めされていることもあるが、元々タカトの性格から考えて、デュークモンに進化して助けた何て言うわけもなく今に至る。

そして休日の今日、タカトはグラニの様子を見に、ヒュプノスの施設へ来ていた。

現在のグラニの様子は、機体の修理はほぼ終わっており、残すところは最終調整だけなので、今日の夕方にでもタカトの所へ返せるとのことだ。

タカトは、夕方まで時間を潰すためにギルモンと一緒に街に出ることにした。




一方、更識姉妹だが、なんと本日、2人は一緒に街に買い物に来ていたのだ。

楯無が勇気を持って簪を誘い、簪もその誘いを受けた。

2人の溝は、そこまで無くなりかけていたのだが…………

「「………………………」」

やはり緊張しているのか、お互いに会話が無い。

まあ、お互い何を話していいか分からないだけで、気まずい雰囲気ではない。

そして現在、山手線の駅で列車を待っている。

「「…………………………」」

無言が続く2人だが、

――キィィィィィィィィィ

何処からか甲高い音が聞こえてきた。

2人が気になって、音のする方を見ると、信じられない事にSL機関車が猛スピードで駅を通過していった。

その時に巻き起こる突風で吹き飛ばされそうになる楯無や簪。

「な、何っ!?」

SL機関車が通り過ぎて突風が収まり、2人は既に遠くに走り去っていくSL機関車を見つめる。

形こそSL機関車だが、そのスピードは新幹線をも軽く上回るスピードだ。

ただ事ではないと感じた2人は駆け出した。




山手線を爆走するSL機関車は、すぐにニュースにも報道された。

そしてそれは、街を歩くタカトの目にも止まる。

タカトもただ事ではないと感じ、駆け出す。

タカトが目指す先は、新宿駅。

タカトは、駅の構内を駆け、ホームに辿り着く。

その時、丁度SL機関車が駅を通過しようとしている所だった。

「ギルモン!」

タカトは、すぐ後ろについて来ていたギルモンに呼びかける。

「うん!」

ギルモンは迷いなく頷いた。

――EVOLUTION

「ギルモン進化!」

ギルモンは、グラウモンへと進化する。

「グラウモン!!」

グラウモンは線路を跨ぎ、力強く踏みしめる。

「グゥゥワァァァァァッ!!」

そして、向かってくるSL機関車を受け止めた。

本来、グラウモンのパワーは単なるSL機関車にパワー負けするほど柔ではないのだが、

「グググ…………」

グラウモンが押され出している。

タカトは、Dアークを取り出して確認してみた。

すると、Dアークにデジモンの情報が表示された。

「ロコモン、完全体、マシーン型デジモン………これはSLじゃない………デジモンだ!」

タカトは、SL機関車がロコモンというデジモンであることを悟る。

ロコモンの暴走を必死で食い止めようとするグラウモン。

「お前っ! 何が目的だ!?」

そう問いかけるグラウモン。

その問いに返ってきたのは、

「俺は走る………走り続けるんだ!」

ロコモンの、感情を感じさせない返答だった。

その直後、ロコモンが煙突から噴き出していた煙の勢いが増し、車輪の回転数が増加。

グラウモンを押す力が増していく。

「くっ………すごいパワーだ!」

タカトが、グラウモンの不利に声を漏らす。

「くっ、うわぁっ!!」

やがて、耐えきれなくなったグラウモンが弾き飛ばされ、鉄橋から下の道路へと落下する。

「グラウモン!」

タカトは叫ぶとハッとなり、駅のホームから飛び降りると、徐々にスピードを上げていくロコモンの最後部の車両に飛び乗った。

「タカトー!」

下の道路に落ちたグラウモンがタカトを見上げる。

「グラウモン! 一夏達に知らせて! 皆と合流するんだ!」

タカトはそう叫ぶとそのままロコモンに乗って走り去ってしまった。




その頃、一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ達も街に来ていた。

理由は、一夏が街に遊びに行くと言い出し、他の女性たちも、半ば強引に付いていくと言い張って、今に至るのである。

その一夏達も、街のテレビを見てロコモンの騒ぎを知り、移動を開始している最中だ。

「一体、何が起きてるんですの?」

「分からないけど………アタシの感じゃ、多分デジモン関係よ!」

セシリアと鈴音がそう言う。

そう言いながら走る6人。

その時、

「おい! あれは何だ!?」

ラウラが空を指差して叫んだ。

それに釣られて一夏達も空を見る。

そこには、

「な、何だあれは!?」

「黒い渦? いや、空が歪んでいるのか!?」

「な、何か分からないけど、やな予感しかしないよ!」

一夏、箒、シャルロットが叫ぶ。

空間が歪み、黒い渦のようなものが出来ていた。

この6人は知らないが、その空間の歪みはデジタルゾーンと呼ばれるもので、デジタルワールドがリアルワールドに影響を及ぼす非常に危険なものだ。

「あそこは………市ヶ谷付近か!?」

一夏が大体の位置を検討付ける。

「よくわからねえけど……急いだ方が良さそうだ」

6人は互いに頷き合うと、走り出した。




タカトは、ロコモンの車両の中を歩いていた。

「ずいぶん古そうだなぁ……」

タカトは物珍しそうに見渡す。

ロコモンの車両は、一昔前の列車の内装に似ていた。

木製の内壁と向かい合わせの椅子。

タカトは奥の扉を潜って、次の車両へ移動しようとする。

車両の連結部分も旧式の為、車両から車両への橋は、心細い落下防止用のロープが張られているだけだ。

タカトがその橋を渡ろうとしたとき、

――ガタン

「うわっ!?」

車両が揺れ、タカトはバランスを崩し、ロープにしがみついて事無きを得たが、丁度タカトの目線が猛スピードで流れる線路に向き、タカトは冷や汗を流す。

「…………グラニを纏ってない状態で落ちたら、絶対に助からないや………」

そう呟いて、次の車両のドアを開けた。

すると、タカトは窓を開け、先頭車両の方を見る。

「何とか機関部まで行って、ロコモンを止めないと………」

タカトはそう呟くと、先を急いだ。





デジタルゾーンが発生した影響は、既に出始めていた。

ここは、鉄道指令センター。

山手線を監視していた職員の1人が声を上げる。

「市ヶ谷付近の送電が止まりました!」

「何だと!?」

主任が驚いて確認を取る。

「このままでは危険です!」

その職員の進言に、

「やむをえん。 都内の全線をストップさせろ!」

そう指示を出す主任。

「一体……何が起こっているんだ?」

主任がそう漏らした時、この部屋の扉が開き、1人の男性が入室してきた。

それに気付いた主任は、

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ!」

そう注意する。

しかし、

「ネット管理局の者だ。 今から私の指示に従ってもらう」

そう言って入ってきたのは、山木だった。

山木は、今起こっている現象の説明を始める。

山手線は環状線で、都内を円形に回っている。

ロコモンの所為でネットワークに歪みが出て、市ヶ谷辺りに集まっているという事。

それが、空間にまで悪影響を及ぼし、歪みの局所集中現象を起こしているらしいという事を。

「これから、どうすれば?」

山木は、通信でヒュプノスにつなぐと、オペレーターたちに解析を指示した。




その頃、一夏達はまだ街の中を走っていた。

ISが使えれば早いのだが、いくら専用機持ちで代表候補生とはいえ、許可された場所以外で命令無しにISを使用すれば、それは犯罪となってしまう。

その為、走るしかなかった。

その時、

「ちょっと、あれギルモンじゃない!?」

鈴音が突然叫んだ。

見れば、ギルモンが前からフラフラと走ってくる。

「ふきゅう…………」

ギルモンは疲れたのか、その場で倒れ込んだ。

「どうしたギルモン!? 大丈夫か!?」

一夏がギルモンに駆け寄る。

「グラウモン頑張ったけど、ロコモン強い」

ギルモンがそう言う。

「ロコモン? やっぱりあのSLはデジモンなのか!?」

そう問いかける一夏。

「うん」

頷くギルモン。

「タカトは何処だ?」

「ロコモンに乗って行っちゃった」

その答えに、

「「「「「「何だってぇ!?」」」」」」

一斉に驚愕の声を上げた。

その時、

ISの通信機に通信が入る。

『聞こえるか? 専用機持ち達』

聞こえてきたのは千冬の声だ。

「千冬姉!」

思わずそう答える一夏だが、

『織斑先生だ。 何度言えば分かる』

早速怒られて凹まされる。

『まあいい。 お前たち、現在山手線で機関車が暴走しているのを知っているか?』

「知ってるも何も、今俺達、そのSLデジモンを何とかしようと追ってるんですよ」

そう答える一夏。

その答えに千冬は呆れ、

『全く勝手な事を…………ちょっと待て、今デジモンと言ったか?』

一夏の言葉にもう一度確認を取る。

「はい。 ギルモンの話では、あのSLは、ロコモンと言うデジモンらしいです」

そう答える一夏。

『ギルモン? 松田は如何した?』

千冬の質問に、

「え~っと………タカトは………その………今ロコモンに乗ってるらしいです」

一夏は歯切れ悪く答える。

『…………』

流石の千冬もそれは予想外だったのか、少し言葉が止まる。

すると、

『まあ、松田の事は一度置いておく。 それよりも、そのSLデジモンについての対策だが、我々IS学園にも対処の命令が下った』

「「「「「「ッ!」」」」」」

その言葉に、全員の顔が厳しくなる。

『よって、ただ今よりISの使用を許可する。 専用機持ちは、先行してSLデジモンに威力偵察………そして可能なら停止、もしくは破壊を行え』

「「「「「「了解!」」」」」」

その命令は、専用機持ち達にとって、渡りに船であり、気にすることなくISの使用が可能になった。

「よーし、行くぜ皆!」

一夏の掛け声で、全員がISを装着し、ロコモンを追って飛び立った。

もちろん、ギルモンを連れて。





同じころ、タカトはようやく機関部に辿り着いた。

「どこかに、ブレーキがあるはずだ」

タカトはそう呟いて、ブレーキを探す。

しかし、ロコモンはSL機関車に似ていることもあり、そのコントロール装置も一昔前の物で、訳の分からない弁やらバルブやらでさっぱりわからない。

これが現在の電車の物であったなら、見ればある程度は分かったであろうが、ロコモンのそれは全く分からない為、下手に構うと止めるどころか加速させる可能性すらあるため、手を出しあぐねていた。



丁度その時、楯無と簪が、間もなくロコモンが通過するであろう陸橋の上に到着した。

2人が陸橋から線路を覗くと、遠くにロコモンの影が見えた。

「来た!」

そのスピードは凄まじく、あと数秒で陸橋の下を通過する。

2人はタイミングを見計らってISを装着と同時に飛び降りた。

2人は、石炭を積んでいる車両の上に着地するとISを解除。

機関部車両に降りる。

「タカト君!?」

そこにいたタカトに、簪が思わず声を漏らす。

「あっ、簪さん、楯無先輩!」

タカトも驚きの声を漏らした。

すると、楯無が周りを見渡し、

「ギルモンは一緒じゃないの?」

そう尋ねてきた。

「新宿駅で、僕だけ乗っちゃったんだ」

タカトは少し気落ちしつつ答える。

「そう………心配かもしれないけど、今はこのSLを止めることが先決ね」

楯無はそう言うと、コントロール装置を観察し始める。

しかし、いくら楯無でも、現在ではほとんど使われていない蒸気機関車のコントロール装置にはお手上げのようだ。

簪も、プログラムされたものなら何とかなったかもしれないが、残念ながらSLはすべてが手動。

簪にも出来ることは無かった。

すると、タカトは燃焼機関に目が行った。

「あっ、楯無先輩。 この火を消すことってできますか?」

タカトは、燃焼機関を指しながら言った。

「悪くない案ね。 下がってて」

楯無は2人に下がるよう指示すると、ISを部分展開。

高水圧の水を噴射する。

しかし、その水は燃焼機関に入った途端に蒸発し、全く効果をあげなかった。

「………駄目ね。 すごい熱だわ。 多分、簪ちゃんのコキュートスブレスでも結果は同じだと思う」

楯無はそう判断する。

その時、ISの飛行音が聞こえてくる。

タカトが機関部から後ろを見ると、一夏達がロコモンを追いかけてきていた。

一夏は最後部車両にギルモンを降ろすと、一気に加速し、機関部まで辿り着く。

「一夏!」

タカトが叫ぶ。

「タカト! 俺達に任しとけ!」

一夏はそう言うと、左手の雪羅をカノンモードにしてロコモンの車輪付近に向ける。

他の専用機持ち達も、射撃武器を構えていた。

そして一斉に発射。

それらは全て着弾し、爆発を起こすが、ロコモンのボディーには目に見える効果は及ぼせない。

「一夏! 気を付けて! ロコモンは完全体! ちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしないよ!」

タカトはそう忠告する。

しかし、それは遅かった。

「ホイールグラインダー!!」

ロコモンのサイドにあった円形のパーツが迫り出し、刃物が展開。

更に高速回転し、ドリルの様に一夏に襲い掛かった。

突然の攻撃に一夏は完全に反応しきれず、その攻撃がシールドバリアを紙の如く貫いて、白式のウイングをもぎ取る様に粉砕。

一夏はバランスを崩して地面に激突。

そのまま地面を転がる。

「「「「「一夏!」」」」」

箒たちは一夏を心配して、一旦下がった。

タカト達も、策を考え直すために、客車へ戻ることにした。



市ヶ谷の上空に発生したデジタルゾーンは、かなりのスピードで広がっていた。

『市ヶ谷から飯田橋にかけて、空間の量子分化、急速に進行中』

『このままでは、デジタルゾーンがリアルワールドを侵食してしまいます』

オペレーター2人の報告を受けた山木は、

「市ヶ谷に奴を誘導することが出来れば、逆に強制送還できるのだが………」

そう案を出す。

「無理です。 ポイントどころか、緊急停止装置まで効かなくなっています!」

主任がそう言う。

それに対して山木は、

「………手動だ」

「ええっ?」

「新たに線路を敷いて、手動でポイントを切り替える。 もうそれしかない」

「しかし、一体どこに?」

山木の案に主任はそう尋ねる。

山木は、地図の一点を指差し、

「それが出来るのは………代々木駅です!」

そう宣言した。




山木の指示を受け、代々木で急ピッチで工事が進められる。

山木達が指令室で状況を見守っていた時、

「何だって!?」

職員の1人が声を上げた。

「大変です! SLデジモンに、人が乗っています!」

「そんな馬鹿な!」

職員の言葉に主任が声を上げるが、

「駅員が目撃したそうです! 間違いありません! 年齢は見えたのは一瞬なので定かではありませんが、おそらく高校生ぐらいの少年たちではないかと!」

職員の言葉に、

「高校生………?」

その言葉に引っかかりを覚えた山木は、とある番号にダイヤルした。






客車で作戦を練っている3人。

しかし、タカトや楯無が積極的に発言しているのに対して、簪は元々の大人しさから、あまり発言してはいない。

楯無の前であるという事も理由の一つである。

それによって、タカトは主に楯無と言葉を交わすことになっており、それが再び簪の劣等感を引き出す事になっていた。

タカトの携帯電話が着信を知らせるコールが鳴る。

「もしもし?」

タカトがその電話に出ると、

「山木さん!?」

その相手に驚く。

『やはり君達か。 よく聞くんだ。 そのデジモンを、総武線に誘導する。 その為のポイント工事が、代々木で進行中だ。 君達は、すぐに降りてくれ!』

「はい、了解しました」

山木の言葉にタカトは頷く。

「後は、山木さん達に任せましょう」

タカトは楯無にそう言う。

「そうね、解決する方法があるのなら、私達が無理する必要も無いし………簪ちゃんもそれでいいわね……って、簪ちゃん?」

楯無が振り向いたときには簪の姿は無く、簪が通ったと思われる車両のドアが小さく空いていた。



その時、簪は再び機関部に来ていた。

(…………姉さんに出来なかったことをやれば、きっとタカト君も私の事を見てくれる……)

簪の頭の中は、その想いで一杯であった。

タカトは別に簪を蔑にしていたわけではないが、簪のネガティブな考え方が、そう思い込ませていた。

簪は機関部を一通り見渡すと、

「火を消せないなら、逆に壊してでも……!」

簪はそう言ってISの両腕を部分展開。

左腕のメタルストームと、右手のビームガンを向ける。

そして、撃とうとしたその瞬間、燃焼機関の扉が開き、何かが飛び出した。

「…………ッ!?」

簪は、その何かに襲われた。





指令室では、代々木の工事の進行状況が伝えられていた。

「代々木の工事には、もう少し時間が……」

そう報告する職員。

「タカト君、今のうちに降りるんだ!」

山木はそう言うが、

『まだ大丈夫です』

タカトから帰ってきた言葉はそれだった。

「やめろ! 無茶をするな!」

山木はそう注意するが、

『いざとなったら、客車ごと切り離すか、ISで下してもらう也しますから。 じゃあ……』

タカトはそう言って電話を切った。



電話が終わった時、客車の扉が開き、簪が戻ってきた。

しかし、両腕にはISを部分展開したままだ。

「あっ、簪さん。 やっぱり僕らでもう少し頑張ってみようと思うんだけど?」

タカトはそう言うが、簪は何の反応も示さない。

よく見れば、その目は何処か虚ろだ。

「………簪ちゃん?」

楯無も問いかけるが、簪はそのまま歩き続け、2人の間を通り過ぎようとする。





簪の意識は、ここにはなく、昔の記憶が掘り起こされていた。

昔、小学生の頃は、まだ楯無とは仲が良かった。

その頃の楯無は、『楯無』では無かったが。

何でも出来る楯無は、簪の自慢の姉だった。

しかし、楯無が『楯無』を継いだころから、周りから比べられるようになった。

楯無に出来ることを簪にも求められ、楯無に出来て簪に出来ない事が増えていく度に、『楯無の妹』なのにと非難され、努力が実った時も『楯無の妹』だからとしか見られない。

それが苦痛になりだした。

そんな時、簪の心の支えになっていたのは、勧善懲悪の特撮やアニメといった『ヒーロー』物だ。

小学生のころに、デュークモンに救われたのも、その理由の一つかもしれない。

そして簪は求めだす。

自分を救ってくれる、完全無欠の『ヒーロー』を。






「簪さん、どうしたの?」

タカトが呼び止めようと手を伸ばした時、突然簪が振り向き、右手を振るった。

「うわぁ!?」

タカトは驚きながらもギリギリ避ける。

「簪ちゃん!?」

楯無が突然の事に叫ぶが、簪は躊躇なく左腕のメタルストームを楯無に向けた。

「ッ!?」

楯無は咄嗟にISを緊急展開。

メタルストームが連射され、ダメージを受けるが事無きを得る。

楯無は素早くタカトを守る様に移動。

ISを持っていないタカトを守るための措置だ。

「どうしたんだ!? 簪さん!?」

タカトは叫ぶが、

「違う……」

楯無が呟く。

すると、

「どこ………?」

簪が呟いた。

「えっ?」

タカトが声を漏らすと、

「私の『ヒーロー』は何処にいるの………?」

簪は虚ろな目のまま呟く。

「私を救ってくれる、完全無欠の『ヒーロー』……」

その言葉は、どこか悲しげだ。

「簪さん………?」

しかし、そんな悲しげな言葉とは裏腹に、簪はとんでもない行動に出る。

この至近距離でガルルトマホークを展開。

それを2人に向けた。

「ッ!?」

次の瞬間、ミサイルは放たれ、タカトと楯無は爆発に飲み込まれる。

当然、客車の壁も粉々に吹き飛んでいる。

しかし、

「………あ……れ……?」

思わず目を瞑ったタカトだが、無傷であった。

目を開けると、水のヴェールがタカトを守っていた。

それは、楯無の張った水のヴェールだ。

その代り、

「う……く………」

水の全てをタカトの守りに回した楯無は、ひどいダメージを受けていた。

元々ミステリアス・レイディのIS本体の防御力は、装甲の少なさに比例して低い。

それを補うために水のヴェールを利用していたのだが、それが無ければ量産機以下の装甲しか持たない。

そのため、楯無はガルルトマホーク一発で相当なダメージを受けた。

「か……簪ちゃん………やめて………」

それでも楯無は、簪を止めようと説得するが、簪は躊躇なく楯無を殴り飛ばした。

客車の中を転がり、ISが強制解除される楯無。

「楯無先輩!」

タカトが声を上げる。

その声で簪がタカトに向き直り、タカトに近づいてくる。

「くっ……」

後ずさるタカト。

グラニが無い今、タカトは簪を止める術を持たない。

仕方なく逃げるという選択肢しか出来ないタカトは、歯噛みしながら車両のドアを開けて次の車両に逃げようとした。

しかし、

「なっ!?」

次の車両の取っ手が無くなっていた。

理由は、先程のガルルトマホークの爆発が起きたときに大きな破片が当たって取っ手が壊れたのだ。

後ろからは追いかけてくる簪。

「………ッ」

タカトは扉の横にあった梯子を上って客車の屋根に上る。

すると、簪はまるで浮かび上がるかのようにタカトを追って屋根の上に上ってきた。

ISのPICを使っているようには思えない。

簪は、メタルストームをタカトに向け、放ってきた。

「うわっ!?」

タカトは何とか避けるが、屋根には穴が開いた。

すると、その穴から、

「タカト見つけた~!」

ギルモンが顔をのぞかせた。

「ギルモン!」

タカトは叫ぶ。

ギルモンは、匂いを嗅ぐ仕草をすると、

「クンクン……匂う……」

何か別の存在の匂いを感じ取る。

そしてギルモンは大きく口を開け、

「ファイヤーボール!!」

丁度簪がいる後方目掛けて火炎弾を発射した。

吹き飛ぶ屋根。

すると、何か触手のようなものが簪の背中に繋がっていることが見て取れた。

そして、簪の背中から、蜘蛛の足のようなものが広がり、簪を包んでいる。

タカトは咄嗟にDアークを見た。

すると、データが表示される。

「パラサイモン。 究極体、寄生型………これは!」

タカトが簪から繋がっている触手をたどると、ロコモン本体に巨大な一つ目の付いた蜘蛛のような姿のパラサイモンが寄生していることに気付いた。

「ロコモンにパラサイモンが寄生していたのか!」

それを知ると、タカトは立ち上がり、

「簪さんから離れろ!」

そう叫んだ。

しかし、

「私の『ヒーロー』は何処? 完全無欠の『ヒーロー』は何処にいるの?」

簪はそう呟くばかりで反応を示さない。

「目を覚ますんだ! 簪さん!」

タカトは叫ぶが、簪に変化はない。

すると、背中から触手が伸びてきて、タカトに向かってビームを放つ。

「うわっ! くっ!」

ビームを必死に避けるが、その拍子に屋根から転げ落ちそうになり、屋根の端にギリギリ捕まるタカト。

それでも簪は近付いてきて、絶体絶命かと思われた。

しかしその時、ギルモンが屋根によじ登ってきて、簪の背中に憑りついているパラサイモンの触手に狙いを定めた。

そして、右腕を振り上げ、

「ロックブレイカー!!」

鋭い爪で触手を断ち切った。

パラサイモンの洗脳が解けたのか、ISは解除され、簪はその場で倒れる。

その拍子に、簪の指から、ISの待機形態の指輪が外れて転がった。

ギルモンは、急いでタカトに駆け寄り、引っ張り上げる。

引っ張り上げられたタカトは、ギルモンにお礼を言うと、転がってきた簪のISの指輪を見つけ、それを拾った。

その時だった。

突然ロコモンが大きくカーブした。

それは、山木が行っていたポイントの切り替えの所為であった。

思いがけない急カーブだったものの、タカトとギルモンは何とかバランスを取って無事だった。

しかし、気を失っていた簪は、遠心力で屋根を転がり、このままでは落下してしまう。

「簪さん!」

タカトは急いで簪に駆け寄る。

簪も転がっている途中で気が付いたらしいが、もう遅い。

「ッ…………!?」

遂に簪は屋根から転がり落ちる。

「簪さん!!」

タカトは必死に手を伸ばす。

しかし、あとわずかという所で、タカトの手は空を切った。

「ああっ!」

タカトは絶望的な声を漏らす。

落下していく簪。

このスピードで地面に叩き付けられれば、命は無い。

だがその時、一つの影が2人の間に飛び出し、それぞれの手を取って簪を救った。

それは、

「楯無先輩!?」

そう、楯無であった。

ISも使えない今、簪を救うために生身で躊躇なく飛び込んだのだ。

「姉さん!」

簪も驚いている。

「だ、大丈夫? 簪ちゃん………?」

楯無はそう笑いかける。

しかし、ダメージが残っているのか、若干苦しそうだ。

その上、

「くっ!」

タカトが声を漏らす。

今の状態は、タカトが楯無と簪の2人を片手で、しかも宙吊り状態で支えている状態だ。

その上、ロコモンのスピードによって風に煽られ、タカトの腕にかかる負担は半端ではない。

一応、IS学園に入ってタカトも身体能力は鍛えられているが、半年足らずの訓練でそこまで筋力が付く訳もなく、女性とは言え2人分の重量を引っ張り上げられるだけの力はタカトには無かった。

一応、ギルモンもタカトの身体を支えてはいるが、タカトの腕の力は徐々に限界に近づく。

「は、早く何とかしないと……長くはっ………持たないっ………!」

タカトは必死になりながらそう漏らす。

すると、

「ね、姉さん! 離して! このままじゃ3人ともッ………!」

簪が信じられない事を言った。

だが、

「離さない! 絶対に!」

楯無は更に強く簪の手を握る。

「な……んで? 何でなの!? 私なんて……姉さんにとって……」

「大切な妹よ!」

簪の言葉に被せる様に楯無は叫んだ。

「簪ちゃんは、私にとって、大切な………一番大事な妹よ!」

「ッ!?」

その言葉に簪は動揺する。

「私は………簪ちゃんが辛い時に傍にいてあげられなかった………助けてあげられなかった………手を差し出してあげられなかった! だから……この手は! この手だけは絶対に離さない!!」

自分の想いを打ち明ける楯無。

その言葉を聞き、目に涙を滲ませる簪。

「姉さ………お姉ちゃん………!」

涙を流す簪。

「お姉ちゃん………! お姉ちゃん………!」

「あは………そう呼ばれるの、何年ぶりかしら?」

楯無は笑った。

そんな2人を見ていて、絶対に助けるという思いが強くなっていくタカト。

そして、

「うぁあああああああああああああああああっ!!」

普段は上げないような大声を上げて、2人を引っ張り上げようとする。

「くぅああああああああああああああっ!!」

その甲斐あってか、少しずつ持ち上がっていく。

「頑張って! タカト~!」

ギルモンもタカトを応援する。

もう少しで楯無を引っ張り上げられそうだ。

だがその時、ロコモンが形状を変化させる。

「ロコモン進化!」

その姿は今までのSLのような形から、まるでモンスターマシンのような形状へと姿を変えた。

「グランドロコモン!!」

グランドロコモンへと進化したロコモンが、今まで以上にスピードを上げた。

その時の衝撃で、もう少しで引っ張り上げられそうだった状態が、元に戻ってしまった。

いや、状況は更に悪い。

タカトは、限界以上に力を使ったため、タカトの腕からは、徐々に力が抜けつつあった。

その上、グランドロコモンのスピードは今まで以上。

それは、今まで以上に楯無と簪の身体が煽られ、抵抗が増えることを意味している。

タカトは必死に楯無の手を掴んでいるが、その手は徐々に滑りつつあった。

「くっ……ううっ!」

タカトは最後の力を振り絞って楯無の手を握るが、それも最後の足掻き。

遂にタカトの手から楯無の手が滑り落ち、楯無と簪は落下していく。

タカトは、その光景が非常にゆっくりに見えた。

2人が地面に叩き付けられようとした瞬間―――

紅い影が飛び込んできて、2人を拾った。

タカトは思わず見上げる。

それは、

「すまん松田! 遅くなった!」

「篠ノ之さん!」

箒の紅椿であった。

箒は2人を抱えている。

見れば、周りには一夏を含めた専用機持ち達が再び追いついて来ていた。

箒は2人を車両の上に下ろす。

「お姉ちゃん……!」

「簪ちゃん……!」

簪が楯無に抱きつき、楯無も簪を抱きしめる。

タカトは、2人の様子を見て、やっと完全に仲直りできたと感じた。

しかし、その幸せな2人に襲い掛かる影があった。

パラサイモンの触手だ。

「ッ……! 危ない簪ちゃん!」

それに気付いた楯無が、咄嗟に簪を突き飛ばす。

その瞬間、楯無の身体に巻きつくパラサイモンの触手。

「ッ!? お姉ちゃん!」

突き飛ばされた簪だが、パラサイモンに連れていかれようとする楯無の手を掴んだ。

「簪ちゃん!? 駄目っ! 離して!」

楯無はそう言うが、

「やだっ! お姉ちゃん! もう離さない! 離したくない!」

簪は涙を流しながらそう叫ぶ。

すると、楯無の後ろからさらに触手が迫ってきて、簪の身体にも絡みついた。

「きゃあっ!?」

パラサイモンに引き寄せられていく2人。

その時、

――ガコンッ

軽い揺れと共に、客車が切り離された。

「拙い! 切り離される!」

タカトが叫んだ。

「任せろ!」

そう言って飛び出したのは一夏。

続いて、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラが続く。

「2人を放せぇぇぇっ!!」

一夏は雪片を振りかぶってパラサイモンに突撃する。

他の専用機持ちも、楯無や簪に当たる可能性のある飛び道具は使わず、接近戦を行うつもりだ。

しかし、パラサイモンに対して、それは無謀だった。

パラサイモンは無数の触手を一気に伸ばすと、近づいてきた専用機持ち達を一気にからめ捕る。

「な、何だこりゃ!?」

「くっ!」

「な、何て力ですの………?」

「こんのぉ………!」

「くぅぅぅぅぅっ!」

「う、動けん……!」

一瞬で捕まった一夏達。

いくら脆弱とは言え、腐っても究極体。

ISでは歯が立たないようだ。

「お姉ちゃん………」

パラサイモンに捉えられた簪は、楯無の方を向いて、不安そうに呟く。

「大丈夫よ、簪ちゃん………」

しかし、楯無は簪の不安を拭い去る様に、優しく微笑んだ。

「えっ?」

声を漏らす簪。

「信じましょう? 私達の『ヒーロー』を」

そう言う楯無。

「『ヒーロー』………? デュークモンのこと?」

簪の言葉に楯無はクスリと笑い、

「それもあるけど、もっと身近にいるじゃない………ちょっと頼り無さ気だけど、いざという時には頼りになる、優しい『ヒーロー』が………」

楯無の言葉に、簪は自然と前を向いた。

その視線の先には、ギルモンと共にいるタカトの姿。

「…………タカト……君………」

簪の口から、タカトの名が零れ出る。

「だからね、こう言えばいいのよ」

楯無の言葉に続く言葉を、簪も同時に紡いだ。

「「助けて、タカト君」」

2人の口から紡がれた言葉。

その言葉を聞いて、タカトは吹っ切れた。

デュークモンの正体や、その後に起こる問題など如何でもいい。

ただ、親しい人たちが助けを求めている。

それだけで、タカトの決心には十分だった。

「行くよ! ギルモン!」

「うん!」

タカトの呼びかけにギルモンは応え、共に駆け出す。

途中でタカトは屋根から下に飛び降り、車両内を駆け、ギルモンは屋根の上を駆ける。

その途中でタカトは叫んだ。

「楯無先輩! 簪さん!」

タカトは2人に呼びかける。

「「ッ………?」」

「僕は、物語のような『完全無欠のヒーロー』にはなれない………でも!」

タカトは一呼吸置き、そして叫んだ。

「今、皆を助ける『ヒーロー』ぐらいには、なってみせる!!」

その言葉と共に、タカトは切り離された車両の最前部から跳ぶ。

それと同時に、屋根からもギルモンが跳び、丁度2人が重なる様に跳んだ。

「なっ!?」

「馬鹿なっ!?」

「ISが無いのに跳ぶなんて!?」

「死ぬ気か!?」

その瞬間を目撃した一夏達が思わず叫ぶ。

だが、

―――MATRIX

    EVOLUTION―――

「マトリックスエボリューション!」

タカトが叫ぶとDアークが輝き、タカトとギルモンが光に包まれた。

「な、なんだ!?」

その光景を目撃した全員が驚愕の表情を浮かべる。

その光の中で、タカトの身体がデータに変換され、ギルモンの身体と一つになる。

「ギルモン進化!」

ギルモンの身体が分解され、再構成される。

タカトの身体と共に。

それは白銀の聖騎士。

白銀と赤い鎧を身に纏い、赤きマントをはためかせる。

右手には聖槍グラム。

左手には聖盾イージス。

これこそギルモンとタカトが一体化した究極体。

正に聖騎士たるその姿。

その名は、

「デュークモン!!」

仲間の危機を救うべく、聖騎士が降臨した。

光の中から現れるデュークモン。

デュークモンは石炭を乗せる車両の上に着地する。

その姿に、誰もが驚愕の表情を浮かべている。

「デュー………クモン………?」

呆然と呟く簪。

「嘘………タカト君と……ギルモンが………デュークモンに………」

楯無ですら、驚愕の表情を浮かべていた。

『皆を放せ!!』

デュークモンと一体化しているタカトが叫ぶ。

すると、パラサイモンは、

「甘イ奴ダナ……!」

その言葉と共に、触手を放った。

しかし、至近距離から放たれたにも関わらず、デュークモンは右手のグラムであっさりと触手を断ち切ると、イージスを構えて一気に突っ込んだ。

パラサイモンも触手を放って迎撃しようとするが、触手はイージスに阻まれデュークモンまで届かない。

「はぁっ!」

デュークモンはグラムを振ると、専用機持ち達を捉えていた触手を断ち切る。

いきなり解放された一夏達はバランスを崩すが、すぐに持ち直す。

そして、デュークモンはさらに踏み込み、パラサイモン本体を攻撃しようとするが、パラサイモンは楯無と簪を盾にするように前に持って来る。

が、デュークモンはすぐにそれに気付き、逆に触手を断ち切って2人を解放した。

ISを装着していない2人は、当然のようにグランドロコモンのスピードの所為で投げ出されるが、デュークモンが2人を怪我の無いように受け止める。

『楯無先輩、簪さん、大丈夫?』

デュークモンの中のタカトが、2人に声をかける。

「タカト……君……?」

簪がデュークモンを見上げ、呆然と呟く。

「ど、如何なってるの?」

楯無も、未だに驚愕の表情のままだ。

『………デュークモンは、僕とギルモンが一つになって、究極体に進化した姿なんです』

そう白状するタカト。

『黙っててすみませんでした。 この事は、あまり人には知られたくなかったので………』

「タカト君……」

その名を呟く楯無。

タカトは2人に謝ると、気を取り直してパラサイモンに意識を向けた。

「全てこのパラサイモンの所為だ………ロコモンや簪に寄生して操っていたんだ」

デュークモンがそう言うと、楯無はふと笑みを浮かべ、

「でも、そのお陰で簪ちゃんと本当に仲直りできた」

そう言う。

「そうだな…………はぁっ!」

デュークモンは楯無の言葉に頷くと、後ろ回し蹴りをパラサイモンに叩き込む。

「ウギャァ!?」

悲鳴を上げるパラサイモン。

デュークモンはいったん間を置くと、グラムを掲げる。

「これが楯無と簪の仲を取り持ってくれた………『お礼だ!!』」

デュークモンとタカトが同時に叫ぶ。

掲げたグラムにエネルギーが集中し、

「ロイヤルセーバー!!」

それをパラサイモンの目玉に突き刺した。

刺突と同時に莫大なエネルギーが送り込まれ、破裂寸前のパラサイモン。

「ギィヤァアアアアアッ!! ………ヒッ………ヒヒっ……!」

だが、パラサイモンは不適な笑い声をあげた。

「目的ハ達シタ………ぐらんどろこもんヨ、オ前ハ永遠ニ……走リ続ケロッ!」

パラサイモンは消滅寸前に、最後の力を振り絞り、後部の口からデジタルゾーンに向けて糸のようなものを吐き出した。

それを最後にロコモンに寄生していたパラサイモンは消滅する。

しかし、その直後、デジタルゾーンから無数のパラサイモンがリアライズしてきた。

「なっ!? あんなに沢山!?」

叫ぶ一夏。

「………そうか、これが目的だったのか………」

デュークモンが呟く。

「どういう事?」

楯無が尋ねると、

「ロコモンを暴走させ、デジタルゾーンを作り、そこからパラサイモン達をリアライズさせる………」

『つまり………リアルワールドへの…………侵略!』

デュークモンとタカトがそう答えた。

「そんな………!」

簪がショックを受ける。

「……………簪」

デュークモンは簪に蒼狼の待機形態である指輪を差し出す。

簪は、思わずそれを受け取り、デュークモンを見上げる。

「皆はデジタルゾーンに巻き込まれないように、早くロコモンから降りるんだ」

デュークモンはそう言う。

「……タカト君たちは如何するの?」

簪が聞き返すと、

『デジタルゾーンの入り口で食い止める。 パラサイモンの思い通りにはさせない!』

タカトはそう言うと、

『行くぞ! デュークモン!』

「応っ!!」

デュークモンがグランドロコモンから跳躍し、デジタルゾーンへと向かった。




デジタルゾーン付近では、パラサイモンが人々を襲っていた。

逃げ惑う人々。

そこへ、

「やめなさーい!」

IS学園の教師陣がISを纏って現れた。

その中には、真耶の姿もある。

グレネードで広範囲に攻撃を仕掛けるIS部隊。

しかし、

「ケケケケーーーッ!」

爆炎の中から、ダメージはあるものの、1匹も斃れていないパラサイモン達が迫ってくる。

「そ、そんなっ!?」

教師たちは驚愕するものの、今度は1体のパラサイモンに集中して攻撃を仕掛ける。

グレネードを10発ほど受けて、漸く1匹のパラサイモンが斃れる。

パラサイモンは究極体だが、何かに取りつかなければその本体は脆弱。

最弱の究極体と言っていいほどなのでISでも倒すことは出来る。

しかし、1匹倒す間に10匹以上のパラサイモンがデジタルゲートから現れる。

「い、1匹1匹が、何てタフなの!?」

パラサイモンのタフさに驚愕する教師。

明らかにパラサイモンが現れる量に対し、倒す数が追い付かない。

どんどん増え続けるパラサイモン。

IS部隊も後退しながら攻撃を続けているが、焼け石に水状態だ。

迫りくるパラサイモンに迎撃が追い付かず、真耶は焦っていた。

その真耶に向けて、パラサイモンが無数の触手を放ってきた。

焦っていた真耶は、反応が遅れ、回避が間に合わない。

「間に合わないっ!」

真耶が声を漏らした瞬間、

「やらせん!」

デュークモンが目の前に着地して触手を断ち切り、そのまま突っ込んでパラサイモンを串刺しにする。

「下がれっ!」

デュークモンは真耶に向かって叫ぶ。

「は、はいっ!」

反射的に返事をする真耶。

デュークモンは前に向き直ると、グラムを構えて突撃する。

「はあぁっ!」

グラムを突出し、次々とパラサイモンを串刺しにしていく。

ISで1匹倒すのに苦労していたパラサイモン達を、デュークモンはまるで何でもないかのように貫き、屠っている。

「ロイヤルセーバー!!」

グラムの切っ先から放たれたエネルギーの奔流がグラムの切っ先の延長線上にいたパラサイモン達を飲み込んでいく。

「す、すごい………」

その光景を見ていた真耶が呟く。

そこへ、

「先生!」

後ろから声がかけられた。

真耶が振り向くと、一夏達専用機持ちが飛んできた。

「織斑君! 皆さん! 無事だったんですね!?」

真耶は安堵の表情でそう言った。

しかし、タカトの姿が見えない事に気付く。

「織斑君? 松田君は如何したんですか?」

不思議に思った真耶がそう尋ねると、

「………タカトは………あそこにいます………」

一夏は、パラサイモンと戦うデュークモンを見つめて呟いた。

「えっ!? あ、あれが松田君!?」

真耶が驚愕の表情でデュークモンを見る。

「正確には、タカトとギルモンが一つになって進化した姿ですが………」

その言葉に、真耶は驚き続けている。

彼らの視線の先では、デュークモンがパラサイモンを次から次へと倒していく。

しかしいくらデュークモンが強くても、所詮は1人しかいない。

何匹パラサイモンを倒しても、倒した数だけデジタルゾーンからパラサイモンが現れる。

一向に数は減らなかった。

「くっ! 凄い数だ!」

思わずそう漏らすデュークモン。

その時、デュークモンの一瞬の隙を突き、パラサイモンの触手がデュークモンの右腕を絡め取った。

「くっ!」

デュークモンは急いで触手を引きちぎろうとしたが、その前に次から次へと他のパラサイモンから触手が放たれ、デュークモンの身体を拘束していく。

「し、しまった!」

脆弱なパラサイモンだが、寄生するためなのか、その触手の拘束力は強い。

1匹だけならまだしも、何匹ものパラサイモンから受ける拘束は、流石のデュークモンでも動きを封じられる。

「ぐ………このままでは………」

下手をすれば、パラサイモンに寄生され操り人形にされてしまう。

触手を何とか振りほどこうとデュークモンは必死になるが、触手は外れそうにない。

その時、1匹のパラサイモンが、デュークモンに寄生するために、背中に向けて触手を放った。





パラサイモン達に拘束されるデュークモンを見て、一夏達は焦る。

「くそっ! 見てられねえ! 俺は行く!」

一夏がそう言って飛び出そうとするが、

「待て! お前が行って何になる!? ISでは、1匹倒すのも至難だ! 逆に松田の足を引っ張ることになるんだぞ!」

箒がそう言って一夏を止める。

「けど! ここで黙って見てるだけなんて………」

一夏がそう言ったとき、

「ケケケーーーーッ!」

数匹のパラサイモンが一夏達の前に着地する。

「くっ!」

一夏達は反射的に身構えるが、1匹ならともかく何匹もいると、分が悪いのは明らか。

パラサイモン達が、今まさに一夏達に襲い掛かろうと足に力を込めたとき、

突然、巨大な影が一夏達を覆った。

思わず空を見上げる一夏達。

そこには、太陽を背にする巨大な人型の影。

そして、

「ジャスティスキィィィィック!!」

目の前のパラサイモンが上空から奇襲してきた何者かに粉砕された。





パラサイモンが放った触手がデュークモンの背中に憑りつく。

そして、完全に寄生されようとした瞬間、

「飯綱!」

まるで管狐のような4つのエネルギーの塊が、触手とデュークモンを拘束していたパラサイモン達を貫く。

貫かれたパラサイモン達はその場で消滅。

デュークモンは自由になる。

「ッ! 今の技は!?」

デュークモンは振り向いた。

そこには、

「サクヤモン!」

ルキとレナモンの究極体である、神人型デジモンのサクヤモン。

「セントガルゴモン!」

ジェンとテリアモンが進化する巨大なマシーン型デジモンのセントガルゴモン。

「ジャスティモン!」

伝説のテイマー、秋山 遼とそのパートナーのサイバードラモンが進化するジャスティモン。

かつて、デ・リーパーからこの世界を守った仲間の主戦力が、一同に集まった。

「大丈夫? デュークモン」

「助けに来たよ!」

『やあ! 大丈夫だったかい?』

それぞれが声をかける。

ジャスティモンだけは、融合しているリョウが声をかけたが。

「皆!」

思わず叫ぶデュークモン。

『苦戦してるみたいね?』

サクヤモンと融合しているルキがそう言う。

『これだけの数なんだ。 仕方ないさ』

セントガルゴモンと融合しているジェンがタカトをフォローするようにそう言う。

そこへ、パラサイモン達が殺到する。

『話は後だ……来るぞ!』

リョウがそう呼びかけ、4体の究極体デジモンは身構える。

『皆が来てくれた………もう怖いものなんかない!』

タカトがそう口にし、

「ゆくぞ!!」

デュークモンが叫ぶと同時に、動き出した。

「ロイヤルセーバー!!」

デュークモンが正面のパラサイモン達に向けて、ロイヤルセーバーを放つ。

「飯綱!!」

サクヤモンが再び4匹の管狐のようなエネルギーの塊を放つ。

「アクセル………アァァァァム!!」

ジャスティモンが右腕に巨大なガントレットを装着し、地面に叩き付けると凄まじい衝撃波が発生し、パラサイモン達を飲み込んでいく。

セントガルゴモンが体の隅々まで仕込まれている全武装を展開する。

すると、見るからに馬鹿らしい数の砲門や銃口が姿を見せた。

「バーストショット!!」

それらの全武装が一斉に火を吹く。

それらの攻撃は、大量のパラサイモン達を次々と飲み込んでいく。

「す、すごい………」

思わず簪がそう漏らす。

「これが………究極体の力………」

楯無も、改めて見るデュークモン達の力に、驚きを隠せない。

「………タカトの強さの秘密が、分かった気がするぜ」

一夏がそう漏らし、

「ね、姉さんはあれほどの力を持つ存在を超えるISを作り出そうとしているのか?」

箒は束がどれだけ無茶な事を考えているのか僅かに理解する。

「とんでもないわね……」

鈴音は初めて見る究極体の力に声を漏らし、

「ISで敵わないわけですわ……」

セシリアは今一度デジモンの強さと恐ろしさを理解し、

「み、味方で良かったよ……」

シャルロットは半ば放心している。

「あの弾丸の威力はどうやって出しているのだ?」

意外にも冷静に状況を分析しているラウラ。

街にいるパラサイモン達は、次々と倒されていくが、未だにデジタルゾーンからのパラサイモンの出現は止まらない。

「このままではキリが無い!」

デュークモンがそう漏らす。

すると、

『デジタルゾーンを何とかしないと………』

ジェンがそう呟く。

「如何するの? ジェン」

セントガルゴモンがそう聞くと、

『皆! 究極体の必殺技を一点に集中してデジタルゾーンにぶつけるんだ! うまくいけば、空間を歪ませてデジタルゾーンを閉じることが出来るかもしれない!』

ジェンがそう叫んだ。

「心得た!」

デュークモンは周辺のパラサイモンを薙ぎ払うと、イージスをデジタルゾーンに向ける。

「分かったわ!」

サクヤモンは、錫杖を鳴らし、精神を集中する。

「行くよ!」

セントガルゴモンは、デジタルゾーンに向けて、まっすぐ立つ。

「うおおっ!」

ジャスティモンは腕に新たなアームを呼び出し、電撃を纏わせる。

そして、

「ファイナルエリシオン!!」

イージスから放たれる特大のエネルギー波。

「金剛界曼荼羅!!」

サクヤモンは、破邪の力を持つ結界を生み出し、それをぶつける。

「ジャイアントバズーカ!!」

セントガルゴモンは両肩に装備されている2発の巨大ミサイルをデジタルゾーンに向けて放つ。

「ブリッツ………アァァァァム!!」

ジャスティモンは腕に溜めた電撃を球状にして放った。

4つの必殺技はデジタルゾーンに向かい、中央で衝突。

大爆発を起こした。

その時の爆発で、リアライズしかけていたパラサイモンは全て吹き飛んだ。

空間を歪ませるほどのエネルギーで、デジタルゾーンが崩壊を始める。

『成功だ!』

ジェンがそう叫ぶ。

上空から消滅していくデジタルフィールド。

残っていたパラサイモン達も、大した時間もかけずに全滅させた。

すると、パラサイモンの呪縛が解けたロコモンが、

「俺は走る。 走り続けるんだ!」

パラサイモンが憑りついていた時と同じことを言って、消えかけたデジタルゾーンに消えていく。

「何だアイツ? 取りつかれていようがいまいが、同じじゃねえか」

一夏がそう漏らす。

デジタルゾーンが完全に消滅し、全てが終わった事を確認して、一夏達がデュークモン達に駆け寄る。

その時、一夏達と同じようにデュークモンに駆け寄ろうとした楯無を、

「ねえ、お姉ちゃん……」

簪が呼び止めた。

楯無が振り向き、

「どうしたの? 簪ちゃん?」

そう尋ねる。

すると、

「…………お姉ちゃんは…………タカト君の事………どう思ってる?」

簪は真っ直ぐ楯無を見つめてそう聞いた。

「えっ………?」

思いがけない質問に、楯無は少し頬を赤くして声を漏らす。

「か、簪ちゃん? な、何でそんな事?」

楯無は少し慌てつつ、そう聞き返す。

しかし、

「答えて……!」

真剣な目で問いかけてくる簪を見て、楯無はふと口元に笑みを浮かべ、

「…………好きよ………もちろん、1人の男性としてね」

そう宣言した。

「やっぱり………」

簪もその答えは予想していたのか、驚いた様子は見られない。

簪は、少し俯いた後、顔を上げ、

「お、お姉ちゃん……!」

楯無に向かって、

「ま、負けないから……!」

そう宣戦布告した。

それを聞いて、楯無は笑みを浮かべ、

「受けて立つわ!」

真っ向から受け止めた。

そして、少し見つめ合った後、

「「………………クスッ!」」

2人同時に笑みを零す。

「いこっ! お姉ちゃん!」

「ええ!」

2人は笑顔でデュークモンの元に駆けだす。

その時、デュークモンは光に包まれタカトとギルモンに分離した。

タカトは皆に笑みを向け、

「皆、怪我は無かった?」

そう尋ねる。

最初に皆の心配をする所はタカトらしい。

「タカト君!」

簪がタカトの名を呼びながら駆け寄る。

「簪さん」

続いて、楯無も駆け寄ってきた。

「タカト君」

楯無は笑みを浮かべている。

「楯無先輩……」

「タカト君、私が何を言いたいか分かる?」

そう言ってくる楯無。

「え、えっと………すみません、黙ってて……」

タカトは、デュークモンの事を黙っていたことを怒られると思ったのか謝る。

それから楯無の顔を伺うが、楯無はタカトをジッと見つめてくる。

「ううっ…………」

タカトは気圧され、声を漏らす。

それでも楯無は、タカトをじーっと見つめてくる。

「た、楯無先輩………?」

タカトがこれ以上は耐えられないと思ったとき、突然楯無が笑顔になり、

「……ありがとう!」

「………えっ?」

突然お礼を言われたことに困惑するタカト。

「今のは、3回分の『ありがとう』だよ」

「3回?」

意味が分からなかったタカトがそう聞き返すと、

「うん! 今日と、一週間前と、それから4年前の分!」

楯無は笑みを浮かべたままそう言った。

「それは私も! 助けてくれて、ありがとう! タカト君!」

簪もそう言ってきた。

「え……あ……その………どういたしまして?」

疑問形になってしまうタカト。

その時、

「ははっ! ずいぶん楽しそうじゃないか、タカト」

いつの間にかテリアモンと分離したジェンがそう言う。

「ジェン!」

「久しぶりだな、タカト」

サイバードラモンと分離したリョウがそう言って声をかける。

「リョウさん!」

「何よ、デレデレしちゃって」

最後にレナモンと分離したルキがそっぽを向きながらそう言った。

「ルキ!」

そう最後のルキの名を呼んだ瞬間、

――ピシィ

楯無と簪が固まった。

「珍しい………っていうか、初めて聞くわね。 タカトが女の子を呼び捨てにするなんて」

鈴音が少し驚きながらそう呟く。

「そういやそうだな………大体は“さん”か“ちゃん”付けだし」

一夏も納得するように頷く。

「……………これは……意外なところに強敵がいたものね………」

小さく呟く楯無。

簪は何やら考え込んでいる。

「それはともかく松田さん。 そちらの方々を紹介してくれませんか?」

セシリアがそう言う。

「ああ、ゴメン。 先ずは、同じデジモンテイマーの仲間で、李 健良。 パートナーはテリアモン」

「よろしく」

「よろしくね~」

タカトの紹介で挨拶するジェンとテリアモン。

「へ~、アンタも中国出身なの?」

ジェンの名前に興味を持った鈴音が問いかける。

「僕はハーフだよ。 父さんが香港出身で、母さんが日本人なんだ」

「そうなの」

鈴音は、自己紹介の邪魔になると思い、質問を打ち切る。

「次は、秋山 遼さん。 パートナーはサイバードラモン」

「よろしくな!」

リョウは、持ち前の爽やかさで挨拶する。

「グルルルル………」

サイバードラモンは唸るだけだ。

「リョウさんは、伝説のテイマーって呼ばれるぐらいのカードゲームの実力者だよ」

一夏達は、へ~っと物珍しそうにリョウを見る。

「それから、最後に牧野 留姫。 パートナーはレナモン」

「………よろしく」

「レナモンだ。 よろしく頼む」

ルキはぶっきら棒に挨拶する。

「それで、今度はこっちの番だけど、知ってると思うけど、もう一人の男性IS操縦者の織斑 一夏」

「よろしくな」

「一夏の幼馴染で、クラスメイトの篠ノ之 箒さん」

「篠ノ之 箒だ。 よろしく頼む」

「イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットさん」

「セシリア・オルコットですわ」

「中国代表候補生の凰 鈴音ちゃん」

「よろしくね!」

「フランス代表候補生のシャルロット・デュノアさん」

「よろしく」

「ドイツの代表候補生で、現役軍人のラウラ・ボーデヴィッヒさん」

「よろしく頼む」

「IS学園の生徒会長で、現ロシア国家代表の更識 楯無先輩」

「よろしくね」

「最後に楯無先輩の妹で、日本代表候補生の更識 簪さん」

「…………よろしく」

タカトが紹介し終えたとき、ふとルキが気付いたように口を開いた。

「そう言えば、そこのあなたとあなた」

ルキが指したのは、楯無と簪。

「あなた達、何年か前に、デジモンカードゲームの大会に出てなかった?」

ルキの質問に、楯無と簪は顔を見合わせ、

「ええ、一度だけ出場したことがあるわ」

「………何で知ってるの?」

楯無が頷き、簪がそう聞く。

「やっぱり」

ルキは納得したように頷くと、

「私、強い相手は割と覚えてるのよ。 あなた達2人にはかなり苦戦させられたことを覚えてるわ」

ルキは2人を見ながらそう言う。

2人は、いまいち理解できていないようだったが、

「楯無先輩、簪さん。 ルキはデジモンクィーンって呼ばれてるんだよ」

タカトの言葉で2人はあっと口を開く。

つまり、ルキは昔の大会で、楯無と簪が敗れた相手という事だ。

「ところでルキ」

「………何よ?」

「何でそんなに機嫌悪いの?」

タカトはそう尋ねる。

先程からルキは、タカトに対してのみそっぽを向いて目を合わせようとしない。

「………別に。 “タカト”には関係ないわよ」

ルキはそう言って、更にそっぽを向く。

「どうしたのさ、ルキ?」

「……知らない」

その2人のやり取りは、まるで拗ねた彼女の機嫌を彼氏が何とかしようとする光景にそっくりだった。

しかも、タカトが呼び捨てで呼び、更に呼び捨てで呼ばせる女子など、ルキ以外にはいない。

故に、思い込みやすい1人の少女が行動に出た。

「タッ、タカト君!」

簪がタカトに声をかける。

「何? 簪さん」

タカトはそう返事をするが、

「そ、それ! いらない………!」

「えっ?」

簪の言葉の意味が分からなかったタカトは声を漏らす。

すると、

「さ、さん………はいらない……! わ、私の事も呼び捨てで………か、簪で………い、いい………!」

簪は、顔を真っ赤にしながらそう言った。

「なっ!?」

「ちょ、か、簪ちゃん!?」

簪の言葉に反応したのはルキと楯無。

ルキは純粋に驚愕の声を漏らし、楯無は、若干焦り気味に驚く。

楯無が焦ったのは、更識家の女にとって、下の名前を呼び捨てで呼ばせることは、重要な意味があるのだ。

そんな事、タカトは知る由もないが。

簪は、顔を赤くしながらも、真剣な表情でタカトを見つめる。

「え、えっと……それって呼び捨てで呼んでいいってこと?」

タカトは若干困惑しながらそう聞くと、簪はコクリと頷く。

「かっ、代わりに……タカト君の事も、タッ、タタ、タカト…………って………よ、呼び捨てにするから………!」

簪は顔を更に真っ赤にしながらそう言うと、驚いてこっちを向いていたルキに視線を向ける。

その視線の意味を理解したルキも、真っ向から睨み返す。

2人の中央で、火花が散った気がした。

更に、

「ふ~ん、じゃあ、タカト君。 私の事も呼び捨てにしなさい」

楯無までもが便乗してきた。

「ええっ!? さ、流石に先輩を呼び捨てには…………」

タカトはそう言って遠慮しようとするが、

「先輩&会長命令です。 私の事も呼び捨てで呼びなさい。 あと、敬語も禁止ね」

楯無はそう言って強引に呼ばせようとする。

「えっ? いや、楯無先ぱ……」

「楯無」

「ちょ、先……」

「楯無」

「せ……」

「楯無」

「………」

「楯無」

もはや、タカトは諦めた。

「はぁ……わかりま……いや、分かったよ、楯無。 これでいい?」

タカトがそう言うと、

「よろしい! あ、それから私もタカトって呼ぶから」

楯無は満足そうに笑みを浮かべて頷き、更に呼び捨てで呼ぶことを付け足す。

「タッ、タカトく………タカト……! わ、私もっ………!」

楯無に先を越された簪が、自分もとタカトに詰め寄る。

タカトを呼び捨てで呼ぶことも忘れない。

「………分かってるよ、簪」

「あはっ………!」

呼び捨てで呼ばれたことで、笑顔になる簪。

もちろん、そんな光景を見せつけられれば、黙ってないのが約1名。

突然タカトが耳を引っ張られる。

「痛たっ!?」

「タカト! 何デレデレしてるのよっ!?」

引っ張ったのは当然ルキだ。

「いたた………そんな、デレデレ何てしてるつもりは………」

タカトはそう言うが、既にルキは聞いてはいない。

ルキの視線は、楯無と簪に注がれている。

「…………………」

「…………………」

「…………………」

無言で睨み合う3人。

バチバチと、3人の中央で火花が散った気がした。

因みに、先程からこの4人以外は一言も喋ってはいない。

それも仕方ないだろう。

はた目から見て、既にこの場は修羅場と化している。

そんな修羅場を前に、踏み込むどころか、声を発する気にすらならない。

まあ、そんな強者がいるわけが無い………

「なあ。 何であの3人あんなに険悪なんだ? ただ単に友達の呼び方が変わっただけだろう?」

いや、いた。

声を発するだけに留まらず、修羅場に土足でズカズカ上がり込むような真似をした強者バカモノが。

その人物は、自分の修羅場どころか他人の修羅場にも気づかない、TOUHENBOKU OF TOUHENBOKU`S。

その名は、織斑 一夏。

その行動には、箒達も飽きれる。

「こ、こいつという奴は………どこまで鈍感なんだ?」

「あんなにもあからさまになっているのに、どうして気付かないんですの?」

「タカトだってあの様子じゃ、薄々感づいてるのに………!」

「自分だけじゃなく、他人の好意にも気付かないなんて……」

「あれは私でも分かったぞ」

5人はひそひそと話し合う。

「どうした?」

一夏が5人の想いなど露知らずに問いかける。

「「「「「はぁ~~~~」」」」」

そんな様子を見て、想いっきりため息を吐く5人。

そんな時、

「………決めたわ!」

突然ルキが声を上げた。

「ルキ、どうしたの?」

タカトが問いかける。

「あの話、受けるわ!」

ルキはそう言う。

「あの話?」

身に覚えのないタカトは首を傾げる。

「タカト!」

ルキが突然タカトに向かって呼びかける。

「な、何? ルキ」

驚いたタカトがそう返すと、

「2学期を楽しみにしてなさい!」

ルキはそう言うと、レナモンを引き連れてその場を離れる。

「えっ? ル、ルキ!?」

いきなり立ち去ったルキにタカトは困惑する。

しかし、これが2学期から始まるタカトの壮絶な日々の序章であることは、タカトは思っても見なかったのである。






あとがき


第十八話の完成。

一週間遅れましたが、文章量は2話分以上あるのでご勘弁を。

リリフロに続き、劇場版改編第二弾。

テイマーズの第二作目の劇場版、『暴走! デジモン特急!』をIT(インフィニット・テイマーズ)キャラでやってしまいました。

ルキの見せ場のほとんどを簪がかっぱらった事を深くお詫びいたします。

多分、ここが一番反感を買う所だと思います。

色々と端折りますが、更識姉妹の完全仲直りとデュークモンの正体バレです。

あんな感じでどうですか?

劇場版ではクリムゾンモードになっていましたが、パラサイモンがいくら多かろうと究極体が4体もいれば、パラサイモンが何匹来ても問題ないと思います。

何せ、究極体でありながら他の生物に寄生しないと生きられないほど脆弱なのですから。

おまけにルキと簪、楯無の遭遇。

早速宣戦布告した上に、ルキが何やら企んでいる様子。

ついでに一夏、『強者』と書いて『バカモノ』と読む。

これでも違和感ないと思います。

では、次も頑張ります。



[31817] 第十九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/10/14 21:35

第十九話 新たなる冒険の始まり。 デジタルワールドからのSOS。






――デジタルワールド 四聖獣の領域

今、ここでは異変が起きていた。

「ぐはっ!」

そう言って山のようなその巨体を大地に横たえたのは、四聖獣の一体で東のエリアを守護するチンロンモン。

「諦めろチンロンモン。 他の四聖獣も既に封印した。 残るはお前だけだ」

そう言いつつチンロンモンを見下ろすのは、岩山の上に立つ4つの影。

「これからは、我ら『四魔獣』がこのデジタルワールドを支配する!」

すると、4つの影の一つが黒い光を放ち、チンロンモンを包む。

「ぐああっ!」

叫び声を上げるチンロンモン。

その黒い光に飲み込まれようとしたとき、チンロンモンの目に、空高くに輝くリアルワールドが目に入る。

「ッ……………!」

その僅かな時間の間に、チンロンモンは決心した。

「す、すまない。 そして頼む! この世界を…………デジタルワールドを救ってくれ! テイマーの少年よ!!」

チンロンモンは、最後の力を振り絞り、デジコアの光をリアルワールドに向けて放った。

「頼む………」

そう言い残し、闇に包まれ消えるチンロンモン。

「フッ……これで四聖獣はすべて封印した」

「だが、チンロンモンがリアルワールドに向けて、何かしたようだが?」

「放っておけ。 あの一瞬で何ができる?」

「ああ。 ならば次は、我らがさらなる力を得るために……………」

「デジエンテレケイヤを手に入れる………!」













今日は、終業式を明日に控えた1学期最後の授業日。

「…………う……ん………」

タカトは自室のベッドで目を覚ます。

「ふわ………朝か…………って、んっ?」

タカトは、何か違和感を感じてふと下を見る。

そこには、タカト一人だけではできないであろう大きさの布団の膨らみ。

「……………まさか」

タカトは嫌な予感がして、その布団を引っペがす。

そこには、

「うう~ん…………」

下着にワイシャツ姿という刺激的な格好をした楯無が、タカトにしがみついて眠っていた。

「…………はぁ~~~。 またなの楯無……」

タカトは深くため息を吐く。

楯無がタカトの布団に潜り込んでくるのはこれが初めてではなく、この前のロコモンの騒動から3日に1回は潜り込んで来るようになった。

「ほら、楯無。 起きて」

タカトは楯無の体を揺すって起こす。

「う~~ん、もう朝?」

楯無は、目をこすりながら起き上がる。

その時、胸元が見えそうになるので、タカトはとっさに目を逸した。

「フフッ。 おはよ、タカト」

「う、うん。 おはよう楯無」

少し慌てるタカトを見て、笑いながら挨拶をする楯無。

「ギ、ギルモンも早く起きなよ!」

楯無のベッドの傍らで丸くなって眠っているギルモンに慌てて声をかけるタカト。

その様子を見て、もう一度笑う楯無だった。





昼休み。

休み時間に入って少しすると、教室のドアが勢いよく開く。

そこには、

「タッ、タカト! お弁当作ってきたから、一緒にご飯食べよ!」

少し頬を赤くした簪がいた。

簪も、あのロコモンの一件以来、タカトに迫っている。

ほぼ毎日タカトにお弁当を作ってきているのだ。

それを見ていた一夏が、

「なんか最近更識さん、よくタカトに弁当作ってくるなぁ………」

ぽつりとそう呟く。

「ちなみに一夏よ、その理由は何故かわかるか?」

傍にいた箒がそう問いかけるが、

「さあ? なんでだ? 呼び捨て同士で呼び合えるくらいに仲良くなったからだとは思うが………」

一夏はそう言う。

「「「「はぁ~~~~~」」」」

箒、セシリア、シャルロット、ラウラが深く、深くため息をついた。

因みに鈴は二組なのでこの場にはいない。

「一夏…………今だけ……ホント今だけだけど、一夏の性格が羨ましいよ……」

タカトはそう呟く。

タカトは、一夏ほど鈍感では無いため、楯無や簪、ルキからの好意には気づいている。

しかし、タカトは今まで大切な仲間という意識でしか見ていなかったので、真っ直ぐな好意をぶつけられて、戸惑っているのだ。

タカトは、一夏から視線を外すと、簪の方に歩き出した。






その日の授業は特に何事もなく終わり、放課後。

タカト達の毎日恒例の訓練が行われていた。

最近、この訓練に参加するのは、タカト、一夏を始めとして、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪、楯無の9人だ。

楯無は、生徒会の仕事があるので時間が出来た時だけだが、今日は参加している。

訓練とは言え、やっていることはもっぱら模擬戦。

ちなみに勝率は、楯無が一番で、勝率は10割。

つまり負け無し。

続いてタカトで、こちらは勝率は8割ほどだ。

その下にラウラ、簪と続いて、シャルロット、鈴音、箒の順となり、最後にセシリアと一夏となる。

最近、セシリアも伸び悩んでいるのか、負けることが多くなってきている。

セシリアは、それを気にしているのか、心なしか元気がない。

一同がピットで今日の反省会を行っていると、

「………あれ?」

タカトのDアークの画面が点滅していることに気付く。

タカトが気になってDアークを手に持つと、突然まばゆい光がDアークから発せられた。

「「「「うわっ!?」」」」

「「「「きゃあっ!?」」」」

その光に驚いて悲鳴を上げる一同。

すると、

『す、すまない。 そして頼む! この世界を…………デジタルワールドを救ってくれ! テイマーの少年よ!!』

どこからともなく声が聞こえた。

「ッ! 今の声はっ!」

その声に聞き覚えのあったタカトは声を漏らす。

やがて、Dアークから発せられていた光が収まり、タカト達が目を開けると、

「これは………デジタルゲート………」

タカトがポツリと呟く。

タカト達の目の前には、四角い光が集まったような塊、デジタルゲートが存在していた。

『頼む………』

最後にもう一度声が聞こえる。

「チンロンモン…………」

タカトはその声の主だろう名を呟く。

タカトは少し目を瞑って俯いていたが、決心したように目を開く。

「ギルモン………!」

タカトは、傍らにいるギルモンに呼びかける。

「うん。 わかってる」

ギルモンも迷わずに頷いた。

するとそこへ、異変に気づいた千冬が姿を現す。

「一体何事だ?」

そう問いかける千冬。

「あっ、織斑先生。 ちょうど良かった。 僕はこれからデジタルワールドに行きます。 と、ヒュプノスの山木さんに伝えてください」

「何? どういう事だ?」

千冬は聞き返すが、

「お願いします」

タカトはそう言うとデジタルゲートに向き直り、

「行くよ、ギルモン!」

「うん!」

迷わずに光の中に飛び込んだ。

「「タカト!」」

楯無と簪が叫ぶ。

タカトが飛び込んだデジタルゲートは、役目を終えたのか、徐々に小さくなっていく。

「………ッ! お姉ちゃん」

簪は、意を決して楯無を見る。

「………ええ! わかってるわ、簪ちゃん」

楯無も、同じことを考えていたのか頷いた。

「すみません織斑先生! 私達も行きます!」

楯無がそう言うと、簪と2人でデジタルゲートに飛び込んだ。

「あ、おい! ………まったく……」

千冬は2人の行動に、若干驚くと同時に呆れる。

デジタルゲートは、もう人が1人ギリギリ通れるぐらいまで小さくなっている。

すると、

「ごめん千冬姉! 俺も行く!」

最後まで迷っていた一夏も、意を決してデジタルゲートに飛び込む。

「「「「「一夏(さん)!!」」」」」

デジタルゲートに飛び込んだ一夏を見て、思わず後を追おうとした箒達だったが、彼女達の目の前でデジタルゲートは消滅する。

「まったく………馬鹿ばっかりだ」

ため息を吐き、思わずそうぼやく千冬。

こうして、彼らは旅立った。

タカトにとっては久しぶりの、一夏達にとっては初めての冒険が、今、始まろうとしていた。








あとがき


第十九話の完成。

皆様、お久しぶりです。

また2ヶ月近く、間が空いて申し訳ありません。

でもって、内容も無茶苦茶短いです。

すいません。

この話は、デジタルワールド編でのプロローグとでも思ってください。

話を伸ばすネタがなかった上に、最近リアルで仕事が増えてきまして……疲れからか休日にも執筆する気力が沸かなかったのです。

で、今回の話の中に出てきた四魔獣(“よんまじゅう”と読んでください)ですが、こいつらがデジタルワールド編での敵役になるのですが、どの究極体デジモンにするかが決まってないのです(爆)。

で、皆さんにご相談。

この四魔獣、どういうメンバーが良いですか?

とりあえず、一つはダークマスターズ(ピエモン、ムゲンドラモン、ピノッキモン、メタルシードラモン)を考えてますが、そのまんまにするのもアレかな~と思いますんで、ダークマスターズで良いか、他のデジモンがいいか、意見があったらお願いします。

ただ、ダークマスターズ以外にするときは、1体はカオスデュークモンにしたいので残り3体の意見をお願いします。

では、次も頑張ります。


PS.そろそろ他の小説も更新しようと思います。



[31817] 第二十話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/06/02 23:40

第二十話 ここはデジモン小学校。 友達との再会。




デジタルゲートをくぐり抜け、デジタルワールドへと召喚されたタカト。

以前と同じく、そこは上空であった。

だが、前回の経験もあり、予想していたタカトは、すぐにISを装着し、ギルモンを掴んで空中に留まる。

「デジタルワールド………懐かしいな」

感慨深く呟くタカト。

ふと真下を見ると、ゴツゴツとした岩場が見えた。

「………前は地面が柔らかい砂地だったから助かったけど、今回は危なかったよ………」

ISを持っていなかったら命は無かったとゾッとするタカトは、冷や汗を流した。

「さてと、どうしようかギルモン」

タカトがこれからどうするかをギルモンに相談しようとした時、

「きゃぁああああああっ!」

突然悲鳴が響き渡る。

「えっ?」

タカトが思わず上を見上げると、楯無と簪が真っ逆さまに落ちてきた。

「楯無!? 簪も!?」

更には、

「うわぁああああああっ!?」

聞き覚えのある男の悲鳴。

一夏だ。

「一夏まで!」

タカトは、何故3人がここに居るのかと一瞬思うが、それよりも早く声をかけた。

「皆! 落ち着いて! ISを展開するんだ!」

タカトは叫ぶ。

その言葉を聞いて、3人はそれぞれ、ミステリアス・レイディ、蒼狼、白式を展開する。

「ふう~、ビックリした」

一夏が空中に留まりながら息を吐く。

タカトは3人の前に飛んでくると、

「3人とも、なんでここに!?」

思わずそう問いかけた。

「なんでって、タカトのことが心配だったからに決まってるでしょ? なんで1人で行こうとしたのよ?」

楯無がタカトに言う。

「で、でも、デジタルワールドは危ないんだよ。 命の危険だって……」

「だったら尚更よ」

ピシャリと黙らせる楯無。

「う……」

何も言えないタカト。

「それに、もうついて来ちゃったんだから。 そうそう簡単に帰れるところじゃないんでしょ? ここは」

楯無が確認するように問いかける。

「………はあ。 そこまで分かってて、ついてくる楯無も楯無だよ……」

ため息を吐きつつ、簪と一夏に視線を向けると、

「2人も同じなの?」

そう問いかけた。

「もちろん」

「当たり前だ!」

簪は頷き、一夏は力強く答える。

「はあ……仕方ないや。 とりあえず、下に降りよう」

タカトがそう言うと下降を始め、3人もそれに続いた。




タカト達は、地上に降り立ち、周りの岩場を見渡す。

「さてと……ここはどの辺りなんだろう? ギルモン、分かる?」

タカトはギルモンに問いかける。

すると、ギルモンは周りをキョロキョロと見渡して、

「ギルモン、ここ知ってる」

そう言った。

「ホント、ギルモン?」

「うん。 ついて来て」

ギルモンはそう言うと、先導して歩き出す。

タカト達もそれに続いた。

「ギルモン、この先に何があるの?」

タカトが歩きながら尋ねる。

「ギルモン達の学校がある」

「学校?」

「うん、デジモン小学校。 テリアモンやレナモン、ロップモンもそこにいたんだ」

「へ~、ギルモン達の学校か~」

「インプモンとクルモンも一緒にいたんだよ」

「えっ? インプモンとクルモンも?」

ギルモンの言葉に、軽く驚くタカト。

「タカト、インプモンとクルモンって?」

気になった簪が尋ねる。

「あ、うん。 クルモンは前にもいった気がするけど、デジモンの友達だよ。 インプモンっていうのは、4年前にリアルワールドに出てきたデジモンの1匹で、僕達とは敵同士だったこともあるけど、最後には一緒にデ・リーパーと戦った仲間だよ。 パートナーも出来たし」

「そうなんだ」

簪はそれを聞いて微笑む。

「…………でも、インプモンにとっては、罪滅しって意味合いが強いと思うけどね」

タカトは小さくそう呟いた。

そのまま、ギルモンの先導でタカト達は岩場を進んでいった。

すると、一陣の風が吹き、一同は立ち止まって砂埃から目を庇う。

風が収まってきたので目を開けると、目の前に風に吹かれて光る球体が転がって来た。

「なんだこれ?」

一夏が好奇心から左手をその球体に伸ばす。

すると、

「あっ! 一夏、それに触ったら……!」

タカトが注意を促そうとするが、それよりも先に一夏の手がその球体に触れる。

――バチッ

「あだっ!?」

その瞬間、一夏の手に感電したかのような痛みが走った。

反射的に手を引っ込める一夏。

「あたた……」

一夏は手を振りながら、

「タカト、今のは何だ?」

そうタカトに尋ねる。

「今のはダストパケット。 データのクズが集まったもので、人間が触ると今みたいに感電しちゃうけど、デジモンにとっては、お酒に使ったり、薬に使えたりと、色々使い道があるんだ」

「出来ればもっと早く言って欲しかったぜ」

一夏はタカトの説明を聞いてそう漏らすが、

「言う前に手を出したのは一夏だよね」

その言葉に、グウの音も出ない一夏だった。

「そういえば気になってたけど、あの空に浮かんでる惑星みたいな星は? それと、そこから伸びてる光の柱は何?」

楯無が尋ねる。

「あっ、それについても説明しとかなきゃね。 あの空に輝いてるのはリアルワールド。 デジタルワールドから見た僕たちの世界だよ。 でも、普通に飛んでいっても帰れないからね。 それから、注意しなきゃいけないのがあの光の柱。 あれに巻き込まれるとデジタルワールドの各地にランダムで転送されちゃうから、巻き込まれないように気をつけて」

「ふ~ん。 みんなで飛ばされるならともかく、バラバラに飛ばされると厄介ね」

タカトの説明を自分なりに分析する楯無。

実際、前のデジタルワールドの冒険では、この世界に来て早々にヒロカズとケンタ、そして、2人を助けようとしたルキとレナモンが光の柱に巻き込まれ、タカト達とはぐれてしまい、合流するのにも一苦労だった。

タカトは、そんな出来事を思い出しながら、ギルモンの後について行った。






その頃、一同が目指しているデジモン小学校。

――ドゴォ!

その学校の校庭で爆発が起こる。

その爆発から生徒である成長期デジモン達を庇うのは、先生であるトゲモン。

そのトゲモンは、トゲモン先生の呼び名で親しまれている。

「皆、大丈夫?」

トゲモンは、生徒たちを気にかける。

「せ、先生……」

庇われた生徒の1匹である獣型デジモンのドルモンは、心配そうにトゲモンを見上げる。

「大丈夫よ、ドルモンちゃん」

トゲモンは、優しくドルモンにそう言うと立ち上がり、後ろを振り返った。

トゲモンの視線の先には、落ち武者のような姿をしたデジモンであるムシャモンと、そのムシャモンに従う、3つの頭と2つの尻尾をもったデジモンのデルタモンがいた。

「さあ、早くデジエンテレケイヤを渡せ。 そうすれば他のガキ共は見逃してやる」

ムシャモンがトゲモンに向かってそう言う。

しかし、

「なんと言われようと、あなた達にクルモンちゃんは渡しません!」

トゲモンは気丈にもそう言う。

「先生…………クル……」

普段は大きく広げている耳を小さく萎ませたクルモンが心配そうに呟く。

「クルモン、先生を信じる也」

クルモンを守るように立っているのは、ジェンの妹のシウチョンのパートナーであるロップモン。

「安心して、クルモンちゃん。 あなたは必ず私が守るわ」

そう言うと、トゲモンはムシャモンとデルタモンに向かって構えを取る。

「先生……」

「先生……!」

心配そうな声を漏らすのは、ウサギに似た姿をもったルナモンと子犬に似た姿をもったプロットモン。

「ふん! 馬鹿な奴め! 大人しくデジエンテレケイヤを渡せばいいものを! デルタモンよ、やれぃ!」

ムシャモンの指示に、デルタモンは3つの口を大きく開け、それぞれにエネルギーを集中させていく。

「いけない!」

トゲモンは、とっさに生徒たちの前に出て防御姿勢をとった。

「トリプレックスフォース!!」

デルタモンの3つの口からエネルギー波が放たれ、1つとなってトゲモンに襲いかかる。

「くぅうううううっ! ああっ!」

トゲモンはなんとか堪えようとしたものの、耐え切れずに吹き飛ばされてしまい、地面に倒れる。

「先生!!」

声を上げてトゲモンに駆け寄る生徒達。

「ううっ……!」

苦しそうに声を漏らすトゲモン。

「先生…………くそっ!」

トゲモンの様子を見て、思わずムシャモン達を睨みつけるドルモン。

「ほう……小僧、我らに楯突くか?」

そんなドルモンの目に、ムシャモンは余裕をもって問いかける。

静かに威圧感を放って。

「ううっ……」

その威圧感を感じたのか、ドルモンは怯えた様子を見せる。

「小僧、再度言うぞ。 デジエンテレケイヤを渡せ」

威圧感を放ち続けたまま、ムシャモンはドルモンに言い放つ。

「…………い、嫌だ!」

ドルモンは、恐怖を隠しきれないながらも、そう叫んだ。

「ほう……」

ムシャモンは、僅かに感心した声を漏らしながら、ゆっくりとドルモンに向かって歩いていく。

ドルモンは、恐怖に震えながらも、その場を離れようとはしない。

ムシャモンは、刀を抜くと、ドルモンに突き付ける。

「小僧、最後だ。 デジエンテレケイヤを渡せ」

ムシャモンは、明確な殺気を放ちながらドルモンに警告……いや、宣告をした。

ドルモンは、目を瞑り、僅かに躊躇する素振りを見せたが、

「嫌だ!!」

はっきりと拒絶の意思を示した。

「クルモンは友達だ! 友達を見捨てるくらいなら、死んだほうがマシだ!!」

ドルモンはそう叫ぶ。

「そうか…………」

ムシャモンはそれを聞くと、刀をゆっくりと振り上げ、

「ならば死ねいっ!!」

ドルモンに向かって振り下ろした。

「「「ドルモン!!」」」

「ドルモンちゃん!」

トゲモンや生徒たちが叫ぶ。

ドルモンは覚悟して目を瞑った。

その時、

――ガキィィィィィィィン

金属音が響き渡った。

「……………………え?」

一向に自分を襲わない痛みに、ドルモンは恐る恐る目を開ける。

するとそこには、自分を襲おうとした凶刃を光の剣が受け止めていた。

「何奴!?」

ムシャモンが叫ぶ。

ムシャモンの刀を止めたのは、白式を纏った一夏だった。

「うおおおおおおおおおっ!!」

一夏は力を込め、ムシャモンの刀を押し返す。

「ぬうっ」

ムシャモンは、得体の知れぬ相手に、一旦飛び退く。

「大丈夫か!?」

一夏は振り向いてドルモンに問いかける。

「う、うん……」

ドルモンは、困惑しながらも頷く。

「そうか、良かった」

一夏は優しそうな笑みを浮かべてそう言った。

「…………お兄さん……人間?」

ドルモンが気づいたように問いかける。

「ん? ああ、そうだけど」

一夏は頷く。

しかし、戦闘中ということを思い出し、気を引き締めてムシャモン達に向き直る一夏。

「人間だと? なぜ人間がこんなところにいる?」

ムシャモンがそう聞くと、

「子供を斬ろうとする悪党に教える義理はねえよ!」

一夏は雪片を構えながらそう言った。

「そうか、まあよい。 見たところ貴様も剣を使うようだが、俺から見てもまだまだ未熟よ。 その程度の腕では我らを止めることは出来んぞ」

ムシャモンも刀を構えながらそう言う。

「それはどうかな?」

一夏はニヤリと笑う。

「何? むっ!」

一夏の言葉に一瞬怪訝に思うが、ムシャモンは何かに気付く。

次の瞬間、

「ファイヤーボール!」

一発の火球がムシャモンに向かって放たれた。

「チィッ!」

ムシャモンは飛び退く。

「今の技は!」

ロップモンが覚えのある技にハッとなる。

そして、すぐに火球が放たれた方向を見た。

そこには、

「皆~!」

グラニを纏って飛んでくるタカトに抱えられたギルモンと、同じくISを纏った楯無と簪が続く。

「ギルモン!」

「クルックル~! ギルモンでっクル!」

ロップモンが叫び、クルモンも耳を大きく広げて喜びを表現する。

タカト達は一夏の傍に着地する。

すぐにドルモンがギルモンに駆け寄る。

「ギルモン! 無事だったんだ!」

「うん。 ドルモンも大丈夫だった?」

微笑ましいやり取りを交わす2匹。

「ギルモンちゃん!」

「「ギルモン!」」

トゲモンとルナモン、プロットモンもギルモンに駆け寄ってくる。

「皆も久しぶり~」

ギルモンは気楽に挨拶する。

「クルックル~!」

「ギルモン、無事で何より也」

最後に近寄ってきたクルモンとロップモンに、

「久しぶりだね。 クルモン、ロップモン」

笑みを見せながらタカトが声をかける。

「クル~?」

「…………もしや、タカトであるか?」

2人は一瞬わからなかったようだが、面影から気付く2匹。

「うん。 久しぶりだね!」

頷くタカト。

「クルル~! 久しぶりっクル!」

クルクルとタカトの周りを回るクルモン。

そんなクルモンをタカトが微笑ましく思うが、

――ズンッ

デルタモンが一歩踏み出した足音で、一気に緊張が走る。

「ふん。 何故人間がこんなところにいるかは知らんが、成長期が1匹増えたところでなんになる?」

ムシャモンがそう言い放つ。

すると、トゲモンがみんなを庇うように前に出て、

「皆さん、ここは私が抑えます。 その間に皆さんは避難を……」

トゲモンはそう言うが、

「先生。 その必要は最早無い」

ロップモンが自信をもってそう言った。

「ロップモンちゃん?」

トゲモンは不思議に思って聞き返す。

「タカトとギルモンが共にいる…………それだけで逃げる必要は皆無也」

ロップモンは皆に振り返ると、

「皆の者、よく見ておくといい。 人とデジモンの絆が生む強さを」

ロップモンの言葉がきっかけになったように、タカトがISを解除し、ギルモンと共に皆の前に出る。

「ギルモン!?」

ドルモンが驚いたようにギルモンに声をかける。

「皆、ここはギルモン達に任せて」

ギルモンがそう言う。

タカトは、Dアークとカードを取り出し、

「行くよ、ギルモン!」

「うん! タカト!」

タカトがカードをスラッシュする。

「カードスラッシュ! 超進化プラグインS!!」

――EVOLUTION

「ギルモン進化!」

ギルモンが進化の光に包まれる。

「グラウモン!!」

光の中からグラウモンが現れる。

「ああ…………」

「ギルモンが……進化した……」

呆けた声を漏らすドルモン達。

「なっ!? 進化だと!? まさかこやつら……!」

ムシャモンが何かに気付いたように驚愕の声を上げるが、

「ぬぅ………デルタモンよ! やれぃ!!」

ムシャモンはデルタモンに指示を出す。

「ガァアアアアアアアアアアアアッ!!」

デルタモンは叫んで、再び3つの口にエネルギーを溜め始める。

「貴様が避ければ、後ろのガキ共が吹き飛ぶぞ!」

ムシャモンは、そう脅しをかける。

それを聞いたタカトは、1枚のカードを取り出し、

「カードスラッシュ!」

そのカードをスラッシュする。

その瞬間、デルタモンが必殺技をはなった。

「トリプレックスフォース!!」

エネルギー波がグラウモンに向かってくる。

しかし、

「ブレイブシールド!!」

タカトがカードをスラッシュした瞬間、グラウモンの手にブレイブシールドが具現される。

グラウモンはブレイブシールドを構え、トリプレックスフォースを受け止める。

――ドゴォォォン

グラウモンは爆発に包まれるが、煙が晴れていくと、無傷の姿を見せる。

「くっ! デルタモン、もう一度だ!」

ムシャモンは、デルタモンにもう一度攻撃の指示を出す。

デルタモンは、指示通りにもう一度トリプレックスフォースを撃つための準備に入る。

だが、

「今だ! カードスラッシュ!」

タカトは再びカードをスラッシュする。

そのカードは、

「高速プラグインB!!」

カードのデータがグラウモンに送られる。

「グワァッ!」

グラウモンが吠えると共に、猛スピードでデルタモンに向かって駆け出した。

グラウモンのスピードは、2足歩行の竜型デジモンが出せるようなスピードではなかったが、カードの効果によって高速移動を可能にしていた。

グラウモンの腕のブレードに電撃が宿る。

そして、エネルギーを溜めていたデルタモンの下に辿り着き、

「プラズマブレイド!!」

デルタモンを切り裂いた。

「ギャオォォォォォッ!!」

断末魔の叫びを上げてデータに分解されていくデルタモン。

「くっ、おのれ!」

ムシャモンは不利と悟ったのか撤退を始める。

「野郎! 逃がすか!」

一夏はムシャモンを追いかけようとしたが、

「はいストップ」

足に何かが引っかかり、一夏は勢いよく転倒する。

「うごっ!?」

見れば、足に楯無の蛇腹剣、ラスティー・ネイルが絡みついていた。

「深追いは禁物よ」

楯無がそう注意する。

タカトがグラウモンと共に皆の所へ戻ってくると、

「皆、大丈夫だった?」

タカトが微笑んで問いかける。

「生徒たちを守ってくれてありがとうございます。 なんとお礼を言っていいか」

トゲモンが頭を下げる。

「それにしても、貴方達は一体……それに、ギルモンちゃん……なのよね?」

トゲモンがタカト達を見渡したあと、グラウモンを見上げながらそう問いかける。

「うん。 そうだよ、先生」

グラウモンは頷く。

「すごいやギルモン。 どうやって進化したの?」

ドルモンが、憧れたようなものを見るような目でグラウモンを見上げる。

「そういえば、自己紹介がまだだったね。 僕はギルモンのテイマー、松田 啓人」

タカトが自己紹介する。

「俺は織斑 一夏だ」

「更識 楯無よ」

「更識 簪です」

それぞれが、ISを解除しながら名乗った。

「すごい。 本当に人間なんだね」

ルナモンが驚いた口調でそう言う。

「人間に会ったの初めて!」

プロットモンも嬉しそうにそう言った。

「そうです! 助けていただいたお礼に、お食事でもいかがですか? 対したおもてなしは出来ませんが…………」

トゲモンの言葉に、

「ああ、いえ、お構いなく……」

一夏がそう言って遠慮しようとしたが、

――グゥゥゥゥゥ

示し合わせたように一夏の腹が鳴った。

思わず赤くなる一夏。

もうすぐ日が暮れる時間だ。

一夏達も訓練を終えてすぐにデジタルワールドに来たので、そろそろ夕食時である。

腹が鳴るのも仕方なかった。

「あはは、お言葉に甘えさせて頂きます」

タカトがトゲモンにそう言った。

そして、その場は笑いに包まれるのだった。






とある場所。

そこでムシャモンは、椅子に座るとあるデジモンの前に跪いていた。

「デジエンテレケイヤの奪取に失敗しただと?」

そのデジモンは、ムシャモンに向かってそう言う。

「はっ! 申し訳ありません。 しかし、お耳に入れたいことが……」

ムシャモンは畏まりながらそう言う。

「…………言ってみろ」

「はっ! 実は、人間の邪魔が入ったのでございます」

「人間だと……?」

ムシャモンの言葉に、そのデジモンは軽く驚いた反応を見せる。

「はい。 そして、その人間の内の1人は、成長期のデジモンを進化させました」

「ほう……デジモンを進化させる人間か……もしや、かつてデジタルワールドを救った救世主やもしれんな」

「その可能性もあるかと」

そのデジモンの言葉を肯定するムシャモン。

「フフフ……よかろう。 次は俺も出よう」

そのデジモンはそう言う。

「なんと!? 隊長殿が自ら!?」

驚愕の声を上げるムシャモン。

「本当に救世主ならば、貴様らでは荷が重いだろう」

そう言ってそのデジモンは立ち上がる。

「ククク……本当に救世主ならば、これほど面白そうなことはない! 救世主よ、この俺が倒してやろう! 四魔獣が配下! このボルトモン様がなぁ!!」

そう叫ぶと、ボルトモンは手に持っていたバトルアックスを地面に叩きつけ、足元にクレーターを作り出した。

再び、デジモン小学校に危機が迫っていた。









あとがき


第二十話完成……

……理想郷よ! 私は帰ってきたぁ!!!

…………………………

って、ごめんなさい!!! orz

4ヶ月以上も音沙汰無しで本当にすみませんでしたァ!!!

そんで、他の小説を更新するとか言っておきながら結局ITを更新してるしぃ!!!

では、弁明という名の言い訳をば。

とりあえず、ここまで遅れた理由の7割はリアルの仕事がドツボにはまりました。

今は大分落ち着いてきたのですが、一番ひどい時は、土日休日出勤の休みなし。

残業が最大朝7時出勤の翌朝4時まで。

でもって、翌日(と言うかその日の朝)8時出勤。

というシャレにならん状態でした。

現在の会社に就職して10年。

一番忙しい4ヶ月でした。

土曜日の休日出勤は毎週のようにあるし、日曜日は一応休みの時が多かったのですが、最近魔法使い一歩手前に入ったせいか、疲れがモロに溜まっており、休みの日にもモチベーションが上がらず、執筆する気になれなかった。

正月休みは、休日出勤で2日潰れただけで済んだのですが、ちょうどスランプに陥ったせいか全く書けませんでした。

ついでに、あとの3割の理由は、テイルズオブエクシリア2と、第2次スパロボOGやってました。

日曜日の時間が潰れたのも、この2つをやっていたのが大きいです。

ちなみにPSP版デジモンアドベンチャー。

買ったんですけど、やる暇が無くて、未だにパッケージから出してないです(爆)

土曜日の休日出勤は未だに続いてますし、残業も毎日9時までやっているので、まだ更新の方は安定しないかもしれません。

今まで更新できなかった理由はこんなところです。



で、四魔獣のアンケート結果なんですけど、

これまた見事にバラバラになりましたね。

まあ、バラバラになった中でも一番多かったのが(といっても4票ですが)グランドラクモン。

次いで3票あったのがクズハモン、ミレニアモン、アルティメットカオスモン。

2票がアーマゲ、ガルフ、カオスドラ、ダークドラ、ベリアルヴァンデ、カオスピエ、カオスグレイ、カオスシードラ、Bセントガルゴ、ケルビ(悪)、Bウォーグレイ、デクス、アルゴ究極となりました。

その他にも色々とリクエストしていただき、本当にありがとうございます。

で、色々考えてみた結果、

1、 カオスデュークモンを頂点として、カオスピエモン、カオスグレイモン、カオスシードラモン(難易度小)

2、 ミレニアモンを頂点として、カオスデュークモン、Bセントガルゴモン、クズハモン(難易度中)

3、 グランドラクモンを頂点として、カオスデュークモン、アルティメットカオスモン、ミレニアモン(難易度高)

この3つの中から選んでください。

ちなみに難易度は、敵の強さであると同時に、作者の物語を組む難易度でもあります。

グランドラクモンとか強さがシャレにならんと思うのですが……

3番を倒そうと思ったら、アルファモンを公式設定並みに強くして、デュークモンをXモードかつクリムゾンモードぐらいにしないと無理なんじゃ……

因みにデクスモンは、ちょっと変えて使う予定があるのでお楽しみに。

ともかく、ご意見お待ちしてます。



さて、今回のお話ですが、一夏達がパートナー候補と出会いました。

ちなみに、デジモン小学校の元ネタは言わずもがなフロンティアからです。

インプモンはどこいった?という方もいると思いますが、それは次回に。

ようやく一夏が少し活躍し始めました。

次回もお楽しみに。

では次も頑張ります。





[31817] 第二十一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/06/02 23:39

第二十一話 デジモン小学校を守れ! 一夏とドルモンの絆!




ムシャモン達を退けたタカト達は、デジモン小学校で食事をしつつ話を聞いていた。

「そういえば、インプモンもこの学校にいるって聞いたんだけど、どこにいるの?」

タカトが、ふと気になったことを口にする。

インプモンは、パートナーが傍にいなくてもベルゼブモンに進化できるので、先ほどのデルタモンとムシャモンに遅れを取るとは到底思えなかった。

「インプモンは、ギルモンたちが行方不明になった時に、探しに行くと言って飛び出していった也」

ロップモンが答える。

「そうなんだ。 無事だといいけど」

タカトは相槌を打つと、

「それで、一番の疑問なんだけど、さっきのデジモンは一体何? 今、このデジタルワールドで何が起こっているの?」

そう問いかける。

すると、デジモンたちの雰囲気が、目に見えて暗くなる。

「先ほどのデジモンたちは、四魔獣の配下です」

「「「「四魔獣?」」」」

トゲモンの言葉に、思わず声を揃えるタカト達。

「はい………強力な力を持つ4体の究極体デジモンです……………風の噂では、四聖獣が封印されてしまったという話も…………」

トゲモンは暗い雰囲気を纏いながら呟いた。

「そんな!? 四聖獣が封印された!?」

タカトが驚愕の声を漏らす。

「四聖獣って、確かアレだよな? 四神をモチーフにしたやつ」

一夏が四聖獣に関する事を思い出そうとしていると、

「北の玄武に相当するシェンウーモン。 西の白虎に相当するバイフーモン。 南の朱雀に相当するスーツェーモン。 そして、東の青龍に相当するチンロンモン」

簪がつらつらと答えた。

「因みに、四神をモチーフにしているだけあって、設定上では並の究極体を超える力の持ち主のはずだけど………」

楯無が補足する。

「うん。 楯無の言う通り、四聖獣はデジタルワールドを守護する存在なだけあって、かなりの力を持つデジモンだよ。 前の冒険でスーツェーモンと戦ったから、その力はよく分かってるよ」

「その四聖獣が本当に封印されたとなると、その四魔獣は最低でも4体で四聖獣1体以上の力を持つと考えていいわね。 最悪なのは、1体1体が四聖獣以上の力を持っていることね」

タカトの言葉に楯無が四魔獣の力を予想する。

「うん………もしそうなら1体づつ戦うならともかく、4体同時となるといくら僕とギルモンでも流石に勝ち目がないよ」

その言葉に、楯無、簪、一夏の雰囲気が暗くなる。

確かに4対1では分が悪すぎる。

そして、現在ではルキ達テイマーズの仲間もいない。

勝機はあまりにも低すぎた。

と、そこへ、

「どうしたの?」

「皆、元気ないよ?」

暗い雰囲気が気になったのか、ルナモンとプロットモンが心配そうに見上げていた。

「あっ、大丈夫よ。 何でもないわ」

楯無は心配させないように笑顔を作ってルナモンに語りかける。

「お姉ちゃんの言うとおりだよ。 心配しないで。 ねっ」

簪も、プロットモンの頭を撫でながら呟いた。

そのおかげか、ルナモンとプロットモンも笑顔になる。

と、そこへ、

「ねえねえイチカ。 リアルワールドの話聞かせてよ!」

ドルモンが目を輝かせてイチカに話しかける。

ドルモンは一夏に助けられたせいか、一夏になつき始めている。

「ああ、いいぜ」

一夏も快く頷いた。

その様子を微笑ましく見ていたトゲモンが、

「皆さん、もう日が暮れることですし、今日は泊まっていってください。 その方が子供たちも喜びます」

そう提案した。

「ホントに!?」

ドルモンが喜びの声を上げる。

「えっ? い、いいんですか?」

タカトがそう聞き返すと、

「ええ。 子供たちを見てください。 皆嬉しそうですよ」

タカトがドルモン、ルナモン、プロットモンに視線を移すと少し考え、

「分かりました。 お世話になります」

タカトは頷いた。





その日の夜。

皆が寝静まった頃、タカトはギルモンと一緒にトゲモンの所を訪れていた。

「それでタカトさん。 話とは?」

トゲモンが問いかける。

「はい。 楯無、簪、一夏の3人を、しばらくこの学校で預かってくれないでしょうか?」

そういうタカト。

「それはどうして?」

「僕は、チンロンモンに助けを求められてこの世界にきました。 多分、僕に四魔獣をどうにかして欲しいということなんでしょう。 もちろん、僕もそのつもりです。 でも、この先の戦いを無事にくぐり抜けられる保証はありません。 パートナーの居ない楯無達なら尚更です。 ですので、3人をこの学校で預かってもらい、クルモンを僕と一緒に行動させます」

「クルモンちゃんを?」

「はい。 四魔獣の狙いはクルモンみたいなので、クルモンが居なければこの学校が襲われることもないでしょう」

「……正直クルモンちゃんを囮に使うみたいで気が進みませんが、この学校にいるよりあなたの傍にいた方が安全であることも確かです。 分かりました。 言う通りにしましょう」

「ありがとうございます」

そして、夜は更けていった。







翌朝。

まだ空が白んできた頃。

「じゃあ、トゲモン先生。 3人の事はお願いします」

校門の前で、そう言うタカト。

「ええ。 あなたもクルモンと………」

トゲモンは、一度ギルモンの頭の上で浮いているクルモンに目をやると、そのまま視線を下げていき、

「ロップモンちゃんの事をよろしくね」

ギルモンの隣にいるロップモンを見つめた。

「はい」

何故ロップモンが居るのかといえば、昨日の話を聞かれていたらしく、一緒について行くと言いだしたのだ。

理由として、元デーヴァとしてスーツェーモンの安否が気になるらしく、また、四魔獣も放っておけば、やがてロップモンのパートナーであるシウチョンの居るリアルワールドにも侵略に乗り出す可能性もあるから、という理由である。

タカトも、パートナーを理由に出されては断るわけにもいかず、渋々と了承した。

「では、僕たちは行ってきます」

「先生、行ってくるなり」

「クルックル! 行ってきますックル!」

「先生、またね~」

タカト達はあまり時間をかけると楯無達に気づかれる可能性があるので、早々に出発することにした。






タカトは、ロップモンにシウチョンの近況報告をしながら、岩場に囲まれた道を歩いていく。

と、その時、

「遅かったわね」

この場に居ないはずの人物の声がした。

「えっ?」

タカトは思わず立ち止まる。

すると、岩場の影から楯無が現れた。

「た、楯無!?」

タカトは驚いて叫ぶ。

「私だけじゃないわよ」

その言葉とともに、簪と一夏も姿を見せる。

「み、皆………なんでここに!?」

そう問いかけると、

「対暗部用暗部、更識家の当主を出し抜けるなんて簡単に思わないことね」

楯無は、ニヤリと笑ってみせる。

「タカトの事だから、こうすると思った」

簪が淡々と答え、

「俺もだ。 何年お前のダチをやってると思ってるんだ?」

一夏も笑みを浮かべる。

「は………はは………」

タカトは思わず苦笑を漏らす。

「さてタカト」

楯無が扇子をパチンと閉じてタカトに向き直る。

「タカトが私達を危険に巻き込みたくないのは分かってる。 だけど、私達は自分の意思でタカトについて来たの。 危険なのも承知の上で。 だからお願い、私達を置いていかないで」

楯無の懇願するような眼と言葉。

簪と一夏も真剣な眼差しでタカトを見つめる。

「…………わかったよ。 一緒に行こう」

タカトは、一度息を吐くとそう言った。

「ありがとう」

笑みを浮かべる楯無。

「でも、無茶は絶対に駄目だからね」

タカトは念を押した。

「分かってるって」

一夏は軽くそう言う。

「じゃあ、デジタルワールドを救う旅に出発!」

何故か取り仕切る楯無。

と、その瞬間、

――ドゴォォォォォン

今まで歩いてきた道の向こうで、爆発音が響いた。

見れば、黒い煙も上がっている。

「な、何!?」

簪が驚愕しながら叫んだ。

「あの方向…………まさか、デジモン小学校に!?」

タカトが察するように叫ぶ。

「戻りましょう!」

楯無の言葉に皆が頷いた。





デジモン小学校では、トゲモンがボロボロになって倒れる。

「トゲモン先生!」

「「先生!」」

ドルモン、ルナモン、プロットモンがトゲモンに駆け寄る。

彼らの前には、

「どうした? その程度か? そんなことでは準備運動にもならんぞ!」

そういったのは、緑色の巨躯にサイボーグ手術を施されたサイボーグ型デジモンのボルトモン。

「くっ………」

トゲモンは何とか起き上がると、

「チクチクバンバン!!」

体中の刺を一気に放つ必殺技を放った。

「ふん、くだらん」

ボルトモンは手に持ったバトルアックスを無造作に振り抜くと風圧だけで刺を全て弾き飛ばした。

「救世主はどうした? 怖気づいたのか? ならば、早くデジエンテレケイヤを渡すのだ!」

ボルトモンはそう叫ぶ。

「何度も言うように、今朝早く出発しました! クルモンちゃんも彼らについて行ったんです! もうここにはいません!」

トゲモンはそう叫ぶ。

「ほう………まだとぼけるか……ならば仕方ない。 ムシャモン!」

ボルトモンは、ムシャモンに呼びかける。

「はっ!」

返事をするムシャモン。

「ガキ共を殺せ」

そう命令するボルトモン。

「はっ!」

ムシャモンは返事をすると、刀を抜いた。

「なっ!? 子供達に手を出すというのですか!?」

トゲモンは驚愕して叫ぶ。

「それが嫌なら早くデジエンテレケイヤを差し出すのだな」

「だから、もういないと言っているではありませんか!」

「ならば仕方ない」

ボルトモンはそう言うと、手で合図を送る。

ドルモンたちに近付いて行くムシャモン。

トゲモンはダメージが酷く、動けそうにない。

「くぅぅ………メタルキャノン!!」

ドルモンが口から鉄球を発射した。

「ふん!」

しかし、その鉄球がムシャモンの刀によって両断される。

「ああっ………!」

ドルモンはたじろいだ。

「ティアーシュート!」

「パピーハウリング!」

ルナモンは水球を、プロットモンは音波攻撃を放つ。

しかし、

「緩い!」

あっさりとムシャモンは躱す。

「あ、ああ………」

子供たちは怯えて動けない。

「逃げなさい! 早く!」

トゲモンは叫ぶが、子供たちは足が竦んでいる。

ムシャモンが子供たちの前にたどり着き、刀を振り上げる。

「……………許せよ」

ムシャモンが呟いた。

「あ………う…………」

ドルモンは恐怖に怯えて目を瞑った。

その時、ドルモンの脳裏に浮かんだのは、自分を助けてくれた人間の青年。

「イ……チカ…………」

たった一晩だけだが、ドルモンは一夏と一緒にいた時間を楽しいと感じていた。

もっと一緒に居たいとも思った。

だから、今朝早くに何も言わずに行ってしまった事がとても寂しかった。

そして、その刀が振り下ろされる瞬間、

「ッ………イチカーーーーーーッ!!!」

ドルモンが一夏の名を思い切り叫んだ。

その時、ドルモンとムシャモンの間に閃光が走った。

「ぬおっ!?」

ムシャモンは咄嗟に飛び退く。

「やめろぉぉぉぉぉっ!!」

一夏が白式を纏い、左腕から荷電粒子砲を連射して飛んでくる。

ムシャモンは更にドルモンから離れた。

一夏はドルモンの前に着地する。

「大丈夫か!? ドルモン!」

一夏はすぐにドルモンの心配をする。

「えっ? イ、イチカ……?」

ドルモンは、何故一夏がここにいるのかと不思議に思う。

一夏に遅れて、タカト達も一夏の傍に着地した。

タカトは着地すると、ISを解除する。

そして、ボルトモンを見据えた。

「あれは……ボルトモン!」

楯無がそう口にする。

「ボルトモンって……確か!」

簪が、ボルトモンの世代を思い出し、戦慄を覚える。

すると、タカトはDアークを見た。

Dアークにボルトモンのデータが表示される。

「ボルトモン 究極体 サイボーグ型 データ種 必殺技はトマホークシュタイナー」

タカトの言葉に、一夏が驚愕した。

「なっ!? 究極体だって!?」

すると、タカトはギルモンと前に出る。

「一夏達は、皆を安全な場所へ。 ボルトモンの相手は、僕達がする!」

「ああ、わかった。 究極体が相手じゃ、俺達は足手まといだからな」

一夏は素直に頷き、皆の避難を開始させる。

「皆、今のうちに避難だ!」

一夏がみんなに呼びかける。

「で、でも、いくらギルモンでも、究極体相手じゃ………」

ドルモンがそう心配そうな声を漏らすが、

「心配するな。 タカトとギルモンなら絶対に負けねえよ」

そう言って笑いかける一夏。

すると、タカトはDアークを構えた。

―――MATRIX

EVOLUTION―――

「マトリックスエボリューション!」

タカトとギルモンが光に包まれ一つとなる。

「ギルモン進化!!」

タカトとギルモンは、聖騎士へと姿を変えた。

「デュークモン!!」

デュークモンが腕を組み、ボルトモンの前に現れる。

「罪なき者たちを苦しめる非道なる者よ…………このデュークモンは絶対に許さない!」

そう宣言するデュークモン。

見ると、ボルトモンは少したじろいでいた。

「デュ、デュークモンだと!? 馬鹿な! その姿はまるで…………!」

しかし、ボルトモンはすぐに気を取り直した。

「ふん、お前が『あの御方』と関係あるのかは分からんが………このボルトモン、四魔獣の配下の一軍を担うものとして、やすやすとやられはせんぞ!!」

ボルトモンは、バトルアックスを構える。

「大人しく退く気は無いようだな」

デュークモンもグラムとイージスを具現する。

「ゆくぞ!」

「我が斧の威力! その身で味わえ!」

グラムとバトルアックスが衝突し、衝撃が辺りを襲った。




一夏達は、子供達と傷ついたトゲモンを避難させていた。

トゲモンは楯無と簪が支え、何とか歩けている。

だが、

「待て! デジエンテレケイヤを逃がすわけにはいかん!」

一夏達の前にムシャモンが立ちはだかった。

当然だが、クルモンも一夏達と共に行動している。

すると、

「皆、ここは私が………」

楯無がそう言って前に出ようとしたが、一夏が手でそれを制止する。

「一夏君?」

「先輩、ここは俺が引き受けます。 他に伏兵がいるとも限らない。 その時には、先輩の強さは必要です」

そう言って一夏が前に出る。

「…………わかったわ。 だけど気をつけて。 ムシャモンは成熟期だけど、今の一夏君には格上の相手よ。 危なくなったら、一目散に逃げなさい。 わかっていると思うけど、デジタルワールドにはISのエネルギー補給場所なんて無いのよ」

その一夏に忠告する楯無。

「………………」

その言葉には頷かず、一夏は無言でムシャモンを見据える。

その一夏の態度に、楯無は一度ため息をつき、

「行くわよ、簪ちゃん」

簪に避難を促す。

「………いいの?」

一夏の行動を確認する簪。

「言って聞くような性格じゃ無いでしょ。 それに、私達が優先するべきは、この子達を早く安全な場所へ避難させること。 そうすれば、一夏君の応援にも早く駆けつけられるわ」

楯無の言葉に簪は頷いた。

トゲモンを支えながら、その場を後にする楯無と簪。

それに続く子供達。

しかし、

「イチカ…………」

ドルモンは心配そうに一夏の背中を見つめていた。

そのドルモンに、

「ドルモン! 早くする也!」

ロップモンがドルモンを急かす。

「……う、うん」

ドルモンは、後ろ髪引かれる思いを感じつつ、皆の所へ駆けていった。



一夏は雪片を構えながらムシャモンを睨む。

「ここから先へは行かせねえ!」

そう啖呵を切る一夏。

「ふん、貴様か………」

ムシャモンも刀を構える。

そして、一拍置いた後、

「うぉおおおおおおおっ!!」

「てやぁああああああっ!!」

互いが同時に突っ込み、剣同士がぶつかり火花を散らす。

「はぁあああああああっ!!」

「むっ!?」

一夏が剣を振り切り、ムシャモンを吹き飛ばす。

だが、ムシャモンはうまくバランスを取り、地面に着地する。

「まだだっ!!」

そこへ白式の機動性を遺憾無く発揮して、一夏はムシャモンに追撃をかける。

「はぁあああああああああっ!!」

一夏は、ムシャモンに向かって袈裟懸けに斬りかかる。

だが、

「ふん、やはり未熟よ」

ムシャモンはその一撃を刀で受け止めたかと思うと、手首を返し、あっさりと一夏の斬撃を受け流した。

「何っ!?」

渾身のひと振りを受け流された一夏は、前につんのめる様に体制を崩す。

その隙にムシャモンは刀を返し、切り上げにより一夏を攻撃する。

「ぐあっ!?」

ムシャモンの一撃を受けた一夏は吹き飛ばされる。

だが、シールドのおかげで怪我はなく、何とか体制を立て直し地面に上手く着地した。

「このっ、負けるか!!」

一夏はそれでも怯まずにムシャモンへ向かって行く。

今度は、突きの体制に入った。

「くらえぇぇぇぇぇぇっ!!」

一夏はムシャモンの喉を狙って剣を突き出す。

だが、

「狙いが見え見えだ!」

ムシャモンは体を僅かに逸らし、一夏の突きを紙一重で躱した。

「なっ!?」

その事に驚愕する一夏。

「はあっ!」

再びムシャモンの一撃を受け、吹き飛ばされる。

今度は体制を立て直せず、地面を転がる。

「くそっ………」

一夏は何とか起き上がる。

「人間にしてはやるな。 その鎧の力か?」

ムシャモンは問いかける。

「うるせぇ!」

一夏は叫んで再び斬りかかる。

しかし、先ほどと同じくあっさりと受け流され、反撃をくらって地面を転がる。

そんな一夏にムシャモンは言った。

「その鎧の力は確かに素晴らしい。 力、速さ共に、この俺より上だ」

驚くことに、ムシャモンはあっさりとその事実を認めた。

「だが、それだけでは俺には勝てん。 なぜだかわかるか?」

その問いに、一夏は歯を食いしばる。

「それは貴様が未熟だからだ。 いくら力と速さを持っていようと、その使い手である貴様が未熟であれば、いくらでも付け入る隙はある」

そう言い放つムシャモン。

「……………そんなことはわかってる」

だが、それでも一夏は立ち上がる。

「俺が未熟なんてことは、俺自身が一番分かってる!」

一夏は雪片を構え直した。

「だけどここで逃げたら、俺は前に進めない! だから逃げない!!」

一夏はそう言い放つ。

それを見て、少し感心した態度をみせるムシャモン。

「ほう、威勢だけは大したものだ。 だが、威勢だけで勝てるほど、戦いは甘くないぞ」

ムシャモンも刀を構え直した。





デジモン小学校の裏手にある小高い丘の中程でドルモンが後ろを振り返る。

「……………イチカ」

ドルモンの視線の先には、圧倒的に不利なイチカの姿。

ドルモンは思わず足を止める。

「イチカ…………!」

ドルモンは一夏の名を呟く。

足を止めたドルモンに気付き、ロップモンが振り返る。

「ドルモン、どうしたであるか?」

ドルモンに声をかけるロップモン。

しかし、ドルモンは一夏から目を離せない。

「イチカ………!」

ドルモンは目を瞑る。

瞼の裏に一夏の笑顔や、助けてくれた時の姿が浮かぶ。

「イチカ!」

ドルモンは目を見開き、

「イチカーーーーーーーーッ!!!」

一夏の名を叫びながら駆け出した。

「ッ!? ドルモン、何処へ行くであるか!?」

ロップモンが呼びかけるが、ドルモンは止まらなかった。





十数度の激突の末、一夏は膝を付いていた。

一夏の攻撃は、全てムシャモンに躱されるか受け流される。

「はあああああっ!」

ムシャモンが上段から斬りかかってくる。

「くっ!」

一夏はそれを防ごうと剣を横にして構えるが、

「腹ががら空きだ!」

一夏が考えていた唐竹は来ず、腹部に蹴りが入った。

「がはっ!?」

再び一夏は地面を転がる。

「攻撃だけではなく防御も未熟だな。 攻撃も防御も正直すぎる」

余裕を見せつつそう言うムシャモン。

「くそ…………」

一夏は悔しそうに言葉を吐きつつ、剣を杖がわりに立ち上がろうとする。

「よく頑張ったと褒めてやろう。 だが、この俺にも任務がある。 デジエンテレケイヤを逃がすわけにはいかんからな。 残念だが、これで終わりだ!」

ムシャモンは刀を上段に構え、渾身の一撃を放つ体勢になる。

「切り捨て………」

だが、その瞬間、

「メタルキャノン!!」

別方向から鉄球が飛んできた。

「むっ!?」

ムシャモンは咄嗟に構えを解き、刀で鉄球を弾く。

ムシャモンが視線をそちらへ向けると、

「イチカーーーーーーッ!!」

ドルモンが叫びながら走ってきた。

「なっ!? ドルモン!? なんで来たんだ!?」

一夏は思わず叫ぶ。

ドルモンは、一夏の横にたどり着くと、

「イチカ! 俺も戦う!」

驚愕の一言を放つ。

「何言ってるんだ!? 早く逃げろ!!」

一夏はそう叫ぶ。

だが、

「嫌だ! 俺は、イチカを守る!」

ドルモンはそう叫びながらムシャモンに飛びかかった。

「小賢しい!」

ムシャモンは刀を振るい、ドルモンを弾き飛ばす。

「あうっ!」

弾き飛ばされたドルモンは、地面を転がる。

「ドルモン!」

一夏が叫ぶ。

しかし、ドルモンはすぐに起き上がった。

「大丈夫! 全然平気!」

そう言って再びムシャモンに飛びかかるドルモン。

「無駄だ!」

だが、再びムシャモンに弾き飛ばされる。

「くぅっ!」

再び地面を転がるが、ドルモンは頭を振りつつ再び起き上がる。

「ドルモン! 大丈夫か!?」

一夏はそう叫ぶが、

「どうしちゃったのイチカ? もうへばっちゃった?」

ドルモンはそう言い返す。

「なっ…………?」

ドルモンは、三度ムシャモンに飛びかかる。

「しつこい!」

ムシャモンは、声を若干荒げつつドルモンを吹き飛ばす。

が、それでもドルモンは立ち上がる。

「ドルモン…………うぉおおおおおっ!」

そのドルモンの姿に、何か感じるものがあったのか、一夏は気合を入れて立ち上がる。

「はぁああああああああっ!!」

一夏も再びムシャモンに向かって斬りかかる。

「貴様もか!?」

ムシャモンは、声を荒らげながらも的確に一夏の斬撃を受け流し、反撃する。

「ぐっ………!」

一夏は声を漏らすが倒れない。

「たあっ!」

一夏と入れ替わるようにドルモンが飛びかかり、ムシャモンの腕に噛み付く。

「ええい! 離せ!」

ムシャモンは腕を振り回し、ドルモンを腕から離させる。

ドルモンは、また地面を転がるも、気合で起き上がる。

「………イチカ」

「………ドルモン」

一夏とドルモンは自然と視線を交わし、お互いに笑みを浮かべる。

そして、

「「はぁああああああっ!!」」

同時にムシャモンに飛びかかった。

同時攻撃には、ムシャモンも攻めあぐね、防戦一方となるが、

「貴様ら! いい加減に諦めろ!!」

一瞬の隙を突き、刀を大きく振り回して一夏とドルモンを吹き飛ばす。

「うわぁあああっ!」

「くぅうううっ!」

地面を転がる一夏とドルモン。

それぞれは、再び起き上がろうとしたが、一夏の纏っていた白式が光となって消える。

シールドエネルギーが尽きたのだ。

「しまった! シールドエネルギーが!」

思わず声を漏らす一夏。

それを見たムシャモンがニヤリと笑った。

「フフフ………どうやら人間の方の鎧が無くなったようだな。 これで貴様らに勝ち目はないぞ!」

そう言い放つムシャモン。

すると、

「イチカは下がってて! ここからは俺だけで戦う!」

ドルモンはそう勇ましく言うと、単身ムシャモンに飛びかかった。

「ふん!」

だが、ムシャモンにあっさりと弾き返される。

しかし、それでもドルモンは起き上がる。

「まだまだ!」

再び飛びかかるドルモン。

「無駄だというのが分からんのか!?」

またも弾き返されるドルモン。

それでも再び起き上がる。

そして飛びかかり、吹き飛ばされ、それでもまた立ち上がる。

そんなドルモンの姿を見て、

「白式! 頼む! 俺に力を貸してくれ!」

一夏は願うようにブレスレットになった白式の待機状態に呼びかける。

「白式! 俺は、ドルモンだけを戦わせたくないんだ!」

しかし、白式は沈黙を続ける。

いくら一夏が願っても、エネルギーが無ければISは動かない。

「白式………俺を、ドルモンと一緒に戦わせてくれ! 頼む!!」

一夏はそれでも強く願う。

「頼む………白式ィィィィィィィィッ!!」

一夏は渾身の思いを込めて叫んだ。

しかし、それでも何も起こらず、虚しく風が吹き抜ける。

その時、その風に煽られてダストパケットが一夏の傍に転がってきた。

そして、そのダストパケットがゆっくりと転がり、止まる寸前に白式の待機状態に触れた。

その瞬間、白式が淡く輝き、ダストパケットを吸い込んだかと思うと、ラウラのVTシステムと戦った時と同じように、右腕と雪片だけが部分展開され、一夏に装着された。

「……………ありがとう、白式」

一夏はそう呟くと、真剣な眼差しでムシャモンを見た。

そして、ゆっくりと歩いていく。

ドルモンが再びムシャモンに吹き飛ばされ、地面を転がる。

ダメージが蓄積されてきたようで、起き上がる時間もかなり長くなっていた。

そんなドルモンの横を、一夏が通り過ぎる。

「イチカ………」

「零落白夜、発動!」

一夏が叫ぶと、金色の光に包まれ、雪片弐型が展開。

エネルギーの刃が発生する。

一夏はその雪片を正眼に構える。

「ぬぅ…………」

その一夏の姿に、ムシャモンは声を漏らす。

先程と違い、今の一夏に隙らしい隙は見当たらない。

ISを右腕以外纏っていないにも関わらず、一夏から感じる威圧感は、先程よりも上だった。

「……………………」

「……………………」

2人の間を静寂が包む。

だが、埒があかないと感じたのか、ムシャモンが動いた。

「はぁああああああああああっ!!」

ムシャモンは袈裟懸けに斬りかかる。

「ふっ!」

それを一夏は横薙に剣を振るい、ムシャモンの刀を弾き返す。

「何っ!?」

驚愕するムシャモン。

更に一夏はそのまま剣を構え直し、渾身の力を込めて上段から剣を振り下ろした。

「ぬぉっ!?」

ムシャモンは、反射的に後ろへ引こうとした。

だが、体勢が悪く1歩下がるのが精一杯だった。

振り下ろされる一夏の斬撃。

その一撃はムシャモンの胸の鎧に縦一文字の傷を作った。

だが浅い。

ムシャモンの鎧を切り裂いたものの、ムシャモンの体までは届いていない。

ムシャモンはそれに気付くと、弾かれた刀を再び両手で掴むと、

「これで終わりだ!」

刀を大きく振り上げた。

それを見た一夏は、

「……………フッ」

ニヤリと不適な笑みを漏らした。

ムシャモンは一瞬怪訝に思うが、

「……………ッ!?」

すぐにその意味に気付いた。

一夏の背後からドルモンが飛び出す。

そして、

「メタルキャノン!!」

一夏が傷つけた鎧に向かって、鉄球を吐き出した。

一夏に止めを刺さんと大きく振りかぶっていたため、ムシャモンは隙だらけ。

ドルモンの放った鉄球は、見事その傷跡に直撃し、ムシャモンの鎧を砕いた。

「ぐはぁっ!?」

ムシャモンが苦しそうな声を漏らす。

そのまま後方に倒れるムシャモン。

これが戦い始めて、初めてムシャモンに与えたまともなダメージだった。

一夏とドルモンは視線を交わし、自然と笑みを浮かべた。

その時、一夏の頭上に光の玉が発生した。

「ん?………何だ?」

その光の玉は、ゆっくりと一夏の前に降りてくる。

一夏はその光の玉に思わず手を伸ばす。

その光が一夏の手に収まるとその光が消え、一夏の手には黒い縁取りのDアークが存在していた。

「これは………タカトと同じアーク………ってことは……」

一夏は思わずドルモンを見る。

「イチカ………?」

ドルモンは意味が分かってないのか首を傾げる。

「俺が………ドルモンのテイマー?」

一夏が驚愕の表情で言葉を漏らした。

その時、

「なんだと!?」

ムシャモンが胸を押さえつつ立ち上がる。

そして、一夏の手にあるDアークを見た。

「いかん! このままではあの御方達の脅威に成りかねん! 今ここで息の根を止める!」

ムシャモンは余裕のない声でそう言うと、一気に一夏に向かって突進してきた。

「なっ!?」

一夏は咄嗟に剣で防御するも、踏ん張りがきかずに吹き飛ばされる。

「うわっ!?」

「イチカ!」

吹き飛ばされた一夏にドルモンが叫ぶが、

「小僧! 死ねい!!」

ムシャモンがドルモンに向かって刀を振り上げる。

「ああっ………!」

ドルモンは怯えた声を漏らす。

完全にムシャモンの剣の間合いに入ってしまっている。

「ドルモン!」

一夏は叫ぶがどうすることも出来ない。

そして、

「切り捨て御免!!」

ムシャモンの必殺の一太刀が放たれた。

振り下ろされていく凶刃。

ドルモンは思わず目を瞑る。

そして、

――ズバッ!

切り裂く音が聞こえた。

「ああっ…………!」

声を漏らす一夏。

だが、

「えっ?」

ドルモンが声を漏らす。

ドルモンには、その凶刃は届いていなかった。

その凶刃を受けたのは、

「………大丈夫だった? ドルモンちゃん?」

「トゲモン………先生………?」

間一髪でドルモンを抱え、守ったトゲモンであった。

トゲモンは振り返り、

「おおおおおおっ!!」

最後の力でムシャモンを殴り飛ばした。

「ぬおおおおっ!?」

吹き飛ばされるムシャモン。

「トゲモン先生!」

トゲモンに駆け寄る一夏。

そこで気付いた。

「あ………ああ…………!」

切り裂かれた傷口からデータ分解が始まっていたことに。

「せん………せい………?」

涙を流すドルモン。

そのドルモンの目の前で、トゲモンは崩れ落ちた。

その瞬間を目撃した、一夏とドルモン。

「あ、あああ…………!」

「「うわぁああああああああああああああああああああっ!!!」」

2人の慟哭が響いた。



その瞬間、離れたところにいたクルモンの額の紋章が輝き出す。

「クルーーーーーッ!?」

そのクルモンの紋章から光が飛び出し、ドルモンへと降り注いだ。



その瞬間、

――EVOLUTION

一夏のDアークにその文字が表示され、光を放つ。

その光が輝くとともに、ドルモンに変化が起こった。

「ドルモン進化!」

光の中でドルモンのデータが分解され、新たに再構築される。

毛の色は、紫から藍色へ。

背中にあった小さな羽は飛行可能なほど発達し、巨大化。

獣の凶暴性と龍の知性を併せ持った成熟期デジモン。

「ドルガモン!!」

光の中からドルガモンが姿を現す。

だが、進化しても涙は止まらない。

ドルガモンは涙を流す眼でムシャモンを睨みつける。

そして、

「パワーメタル!!」

その口から成長期の時とは比較にならない大きさの鉄球を吐き出した。

「ぬあっ!?」

ムシャモンは、咄嗟に刀を横に構えて防ごうとする。

「ぬぉおおおおおおおおおっ!!」

鉄球の勢いに押されてムシャモンは後ろに滑っていく。

そして、

――バキィン

ムシャモンの刀が折れると同時に鉄球も勢いを失い、その場に落ちる。

その鉄球は、データの粒子となって消えるが、

「なにっ!?」

ムシャモンは驚愕の声を漏らした。

何故なら、

「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

その鉄球の影から、一夏が突っ込んできていた。

一夏は、鎧が砕けている胸部に向かって渾身の突きを放った。

――ドシュ

雪片の刃がムシャモンを貫く。

「がはぁっ!」

その胸を貫いた一夏の瞳からも涙が溢れていた。

「……………見事……!」

ムシャモンは、一言そう言い残し、データに分解されて消えた。

だが、一夏はムシャモンを貫いた体勢のまま動かなかった。

よく見ると、雪片を握る手が震えている。

「………何が誰かを守ってみたいだ………何が誰かの為に戦ってみたいだ…………」

自傷気味に呟く一夏。

今の言葉はラウラとの戦いの時に、一夏自身が言った言葉。

「俺は………守れなかった」

そう呟く一夏。

その時、

「………ドルモンちゃん………」

小さな声が聞こえた。

その声が聞こえた瞬間、一夏は弾かれたように駆け出し、ドルガモンもそれに続く。

「トゲモン先生!」

一夏とドルガモンは、倒れたトゲモンに駆け寄る。

トゲモンは、虚ろな目でドルガモンを見上げた。

「ドルモンちゃん………こんなに立派になって………」

消え入りそうな声で呟くトゲモン。

「先生………」

ドルガモンはトゲモンを見下ろしながら涙を流す。

「泣かないで、ドルモンちゃん。 あなたには、大切なパートナーが出来たんでしょ?」

トゲモンの言葉に、ドルガモンは一夏を見下ろし、一夏もまたドルガモンを見上げた。

ドルガモンはもう一度トゲモンに視線を戻し、

「………うん」

ドルガモンは頷いた。

その時、異変を感じたのか楯無や簪、他の成長期デジモンたちも戻ってくる。

「先生!」

「トゲモン先生!」

ルナモンとプロットモンもトゲモンに駆け寄る。

「あなた達………」

トゲモンは、優しい笑みを浮かべる。

そして、

「一夏さん………それに皆さん………」

「はい……」

「「はい……」」

トゲモンの言葉に、一夏と、楯無、簪は返事を返す。

「子供達を………お願いします………」

「「「はい………!」」」

3人は静かに、それでいて迷いなく頷いた。

その言葉を皮切りに、トゲモンのデータ分解が加速する。

「「「「「「トゲモン先生!」」」」」」

全員がトゲモンの名を呼ぶ。

すると、

「ドルモンちゃん、最後のお願いよ………」

トゲモンが、消えていく最中にドルガモンに向かって言う。

「先生……」

「私を……ロードして頂戴……」

「先生!?」

トゲモンの言葉に驚愕するドルガモン。

「そうすれば、私はドルモンちゃんの中で生き続ける………ずっと傍に居られるわ」

トゲモンは笑みを浮かべる。

「先生………」

「………またね…………」

その言葉を最後に、トゲモンが完全にデータに分解される。

そして、

「トゲモン先生ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

ドルガモンは泣き叫ぶとともに、トゲモンのデータを吸収――ロード――した。

「ドルガモン……」

一夏がドルガモンに語りかける。

「イチカ………」

ドルガモンは一夏を見下ろす。

「強くなるぞ、ドルガモン。 もう、こんな悲しみを味あわない為にも………誰にも、味あわせない為にも………強くなるぞ、ドルガモン!」

一夏は、力強くそう言う。

「…………うん!」

ドルガモンも頷く。

2人は誓う。

その誓いが、危うい可能性を秘めていることに気付かないままに…………





あとがき


また大変遅れてすいませんでした。

第二十一話の完成です。

最近月一更新になってるなぁ………

まあ、遅れた理由ですが、毎年恒例鮎掛けの時期がやってきました。

上司のお誘いなので断るわけにはいかんのです。

なので、土曜日はほぼ丸々潰れます。

釣りは嫌いではないのですが、早朝というか夜明け前に起きて出発なので、寝不足が半端ないです。

解禁日にゃ前日から場所取りですから更にキツいです。

まあ、それは別にしても、前半部分でちょっとばかり苦労しました。

やりたいことは決まっているのにそれを文章にできない。

それで時間食いました。

すみません。

気になっていたインプモンはデジモン小学校には現在しませんでした。

登場を期待していた人はごめんなさい。

後々見せ場があるのでご勘弁を。

さて、やっとこさ原作主人公らしい所を見せることが出来た一夏君。

でも、トゲモン死亡しました。

一夏とドルモンの近いの危うい可能性に気づく人はいるのか?

それで、アンケート結果ですが、

1、1票

2、15票

3、12票

となっております。

まあ自分でも2が丁度いいぐらいと思っています。

でも、正式登場はもう少し先なので、アンケートはまだ取り続けます。

投票してない人はしてくれると嬉しいです。

では、次も頑張ります。










PS:IS8巻を読んで楯無の本名が明らかになってトチ狂ったのか、ISのオリ主の小説を新規投稿してしまいました。

題名はインフィニット・ストラトス ~弱きものの足掻き~【転生オリ主】です。

作者初のデジモンが絡まない小説です。

しかも作者初の強くない主人公です。

更には生きる意味のユウと同等かそれ以上に後ろ向き主人公です。

ハーレムではありません。

ヒロインは言わずともわかります。

というか大体の人は、主人公の名前を見ただけでピンとくる筈です。

序盤はそれほどでもありませんが、いずれはリリフロと同等かそれ以上に甘甘にするつもりです。

興味があれば読んでください。

反省も後悔もしている。

でも消す気は無い。

とは言っても、更新の優先度は低レベルですから、2ヶ月に1回更新するかどうかぐらいだと思います。

では失礼。




[31817] 第二十二話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2013/10/06 17:12


第二十二話 俊足瞬兎! レキスモン!!





一夏達がムシャモンと戦っていた頃、

――ギィン!

甲高い音を立てて、バトルアックスが宙を舞った。

そのバトルアックスは回転しつつ、ボルトモンの後方の大地に突き刺さった。

「うぐっ………つ、強い………」

そう漏らすボルトモンに、デュークモンはグラムの切っ先を突きつける。

「さあ、話してもらうぞ。 四魔獣と呼ばれる者たちの目的は何だ? 何故クルモンを狙う?」

「フ、フン! これでも四魔獣の方々に忠誠を誓った身。 やすやすと話すものか!」

ボルトモンは気丈にもそう言う。

「…………ならば、もう一つの質問をしよう。 何故お前はこのデュークモンをそれほどまでに恐れている? 戦っている最中からおかしいと思っていた………お前の攻撃には怯えが感じられた」

「な、何!? この俺がお前に怯えているだと!? デタラメを言うな!」

ボルトモンが激昂した様に叫んだ。

しかし、動揺が隠しきれていない。

「図星か………その理由はなんだ?」

「ぐぅ…………」

ボルトモンが唸る。

しかし、それは唐突に起こった。

――ドシュ!

「がぁっ!?」

突如ボルトモンの胸が後ろから貫かれる。

「なっ!?」

驚愕の声を漏らすデュークモン。

ボルトモンを貫いたのは、デュークモンのグラムにとてもよく似た槍だった。

「ぐふっ………! あ、ありがとうございます。 カオスデュークモン様…………」

ボルトモンは最後にそう告げると、データに分解されて消え去る。

「カオス………デュークモンだと!?」

ボルトモンが言い残した言葉に、思わず声を荒げるデュークモン。

すると、ボルトモンを貫いた槍が独りでに戻っていく。

デュークモンがその槍を視線で追うと、

――ガシッ

その槍を掴んだ者がいた。

空には暗雲が蠢き、雷鳴が轟く。

岩山の上に立つそのシルエットは、マントをはためかせ、まるで西洋騎士のような鎧をまとった姿。

そう、そのシルエットはデュークモンと瓜二つであった。

『デューク………モン………?』

融合しているタカトは思わず呟く。

「馬鹿な! このデュークモン以外に、デュークモンが存在するはずが!?」

デュークモンは動揺しながら叫ぶ。

ギルモンはタカトが考えたオリジナルのデジモン。

その進化形態であるデュークモンもタカトと共にたどり着いた姿であり、唯一無二の存在のはずなのだ。

そのデュークモンと全く同じシルエットを持つ相手に、デュークモンは動揺を隠せない。

「貴様は何者だ! 何故このデュークモンと同じ姿をしている!?」

デュークモンはそう叫んで問いかけた。

すると、長い沈黙の後、その影が答えた。

「…………我が名はカオスデュークモン」

「カオスデュークモン?」

「…………私は貴様の影」

「このデュークモンの影だと!?」

すると、その影はデュークモンにグラムに似た槍を向けると、

「デモンズディザスター」

ロイヤルセーバーそっくりの閃光が放たれた。

「くっ!?」

デュークモンは、咄嗟にイージスで防御する。

だが、本気ではなかったのか、それほどの威力はなく、難なく防御できた。

防ぎ切ったデュークモンが再び岩山の上に視線を向けるが、そこにはもうカオスデュークモンの姿は無かった。

「カオスデュークモン…………一体何者なんだ………?」

その呟きに答えるものは、何もいなかった。





その後、一夏達と合流したタカトは、トゲモンの死と、ドルモンが一夏のパートナーになった事を知る。

そして、タカトの案で、トゲモンの墓を作ることにした。

盛り上げられた土と、墓標替わりに立てられた板の前で手を合わせるタカト達。

「行こう皆。 辛いかもしれないけど、また襲撃が無いとは限らないから……」

辛そうにしながらも、そういうタカト。

立ち上がるタカト、楯無、簪と、それに続くデジモン達。

そして、最後まで手を合わせていた一夏とドルモンも、しばらく遅れて立ち上がった。

移動を開始する一行。

その移動の最中、

「そういえば一夏、ドルモンのパートナーになったって事は、アークも持ってるんだよね?」

タカトが一夏に話しかける。

「ああ、こいつだ」

一夏がポケットから黒い縁どりのアークを取り出して見せる。

「うん。 じゃあ、僕が持ってるカードを少し分けておくよ。 普段は進化カードを使わないと自由に進化出来ないし、戦術の幅も広がるからね」

タカトは自分のデックからカードを何枚か抜き出し、一夏に渡す。

「サンキュー。 強くなるためには、俺もしっかりサポートしなきゃな」

一夏はそう言ってカードを受け取る。

「あ、そういえばムシャモンと戦ってる時に気づいたことなんだが………」

一夏が思い出したように話し出す。

それは、シールドエネルギーが0になった白式が、ダストパケットを吸収して、部分展開だが、展開可能になったことだった。

「ダストパケットで、シールドエネルギーが回復? グラニ、ちょっと試してもらっていい?」

タカトはそれを聞くとグラニを呼び出し、近くのダストパケットを吸収させてみる。

『これは………?』

グラニがダストパケットを吸収すると、再び戻ってくる。

『イチカの言うとおり、ダストパケットでISのシールドエネルギーの回復は可能なようだ。 とは言え、回復量は微量だから、戦いの最中に回復するというわけには行かないようだ』

「そうなんだ」

タカトは相槌を打つが、そこでふと気付いた。

「あれ? グラニ、ちょっと大きくなってない?」

グラニの大きさは10cmほどだったのだが、現在は15cmほどに思える。

『ああ。 僕はダストパケットで体の再生が可能なようだ。 このままダストパケットを吸収し続ければ、またデュークモンと一緒に空を飛べるよ』

「そうなんだ」

その言葉を聞いて、タカトは思わず笑みを零した。






やがて日が傾いてきた頃、

「さてと、そろそろ野営の準備をしないとね」

タカトがそう切り出す。

当然ながら前の冒険でも野宿することもザラにあった。

「とりあえず、何をすればいいんだ?」

一夏がそう聞くと、

「やることは寝床の準備と食料集め。 2手に分かれて準備をしよう。 とりあえず、パートナーがいる僕と一夏は別れた方がいいね」

「よしわかった。 じゃあ、俺が食料を探す役になるぜ」

2人が役割を決めると、

「じゃあ、私は一夏君と一緒に食料探しの方に回るわ。 一夏君だけじゃ心配だし」

「うぐっ」

楯無の言葉に、思わず唸る一夏。

「私も、タテナシと一緒にいく!」

そう言いだしたのはルナモン。

「うん。 成長期でも、危険察知能力は高そうだし、戦えないこともない。 ルナモンも連れて行ったほうがいいかもしれないね」

タカトはそう言ってルナモンの同行に賛成する。

「わかったわ。 一緒に行きましょ、ルナモン」

「うん!」

楯無の言葉に、ルナモンは喜びの声を上げて楯無に飛びつく。

ルナモンは楯無の腕の中にすっぽりと収まり、抱きかかえられた。

「じゃあ、行ってくるわね」

「沢山見つけてくるからよ」

そう言って楯無と一夏、ドルモン、ルナモンは食料を探しに出かけた。

楯無達を見送ると、タカトは簪に向き直り、

「僕たちは寝床の準備をしよう。 まずは火を起こしたいから、薪になるような枝を集めよう」

「わかった」

タカトの言葉に簪は頷き、それぞれの行動を開始した。






一方、食べ物探しをする一夏達は、ドルモンとルナモンに食べれる木の実やキノコ等を教えてもらい、順調に集めていた。

「ドルモン、このキノコは食えるのか?」

一夏がドルモンに尋ねる。

「うん。 それはデジタケ。 食べれるキノコだよ」

ドルモンが答える。

「ルナモ~ン。 こんなカラフルなキノコを見つけたんだけど」

楯無が見つけたのは、縞模様のカラフルなキノコ。

「わっ!? すごい! デラックスキノコだよ、それ。 とっても珍しいんだから」

楯無が見つけたキノコに驚くルナモン。

そんなこんなで、今晩どころか2~3日ぐらいは持つであろう食料を集めることができた。

そろそろタカト達の所へ戻ろうかと考えていた時、

「………………ハッ!?」

最初に気づいたのはルナモンだった。

「どうしたの? ルナモン」

楯無がルナモンに尋ねる。

すると、

――ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

何処からともなく音が聞こえてきた。

「何だ? この音………」

一夏が耳を澄ます。

「この音………まるで昆虫が羽を羽ばたくような………」

楯無がそう言った瞬間、

――ブウゥゥゥゥゥゥンッ

2人と2匹の上空を大きな蜂のようなデジモンが横切った。

「ッ!? 今のは!?」

一夏が叫ぶ。

「フライモンだ! 凶暴なデジモンだよ!」

ドルモンが叫びながら説明する。

一夏達の視線の先では、フライモンがUターンしていた。

どうやら、一夏達を獲物と認識したようだ。

「そうだ! アークで!」

一夏はアークを取り出すと、フライモンのデータを表示させる。

「フライモン 成熟期 昆虫型 ウィルス種。 必殺技は、猛毒の針を飛ばすデットリースティング…………よし、成熟期なら!」

一夏はフライモンのデータを確認すると、一枚のカードを取り出す。

「行くぞ! ドルモン!」

「おう!」

一夏はカードをスラッシュする。

「カードスラッシュ! 超進化プラグインS!!」

タカトから受け取っていた進化カード。

――EVOLUTION

一夏のDアークにその文字が表示され、光を放つ。

「ドルモン進化!」

ドルモンが成熟期へと進化する。

「ドルガモン!!」

ドルガモンに進化したドルモンは、翼を羽ばたかせフライモンへと向かっていく。

「はぁああああああっ!!」

ドルガモンはフライモンに体当たりを仕掛けようとしたが、フライモンは一瞬で向きを変え、体当たりを避ける。

「くっ!」

ドルガモンは慌てて旋回すると、

「パワーメタル!!」

ドルガモン目掛けて巨大な鉄球を放った。

しかし、空を猛スピードで飛び回るフライモンにはかすりもしない。

「速い……!」

ドルガモンが漏らす。

その様子を見ていた一夏。

「くそ、相手の動きが速すぎる………!」

一夏がどうするかを考えていた時、

「ここは私の出番ね」

楯無がISを纏いながらそう言った。

「楯無さん!? 危険ですよ!」

一夏はそう言うが、

「舐めないでくれる? これでも学園最強なのよ」

そう言って飛び立つ楯無。

「タテナシ!」

ルナモンも叫ぶが、楯無は飛んでいく。

空中でフライモンを見据える楯無。

その楯無の周りをフライモンは高速で飛び回る。

だが、楯無は落ち着いており、ランスをその手に握る。

「確かに速い事は速いんだけど…………」

そう呟いた一瞬後、瞬時加速でフライモンに肉薄した。

「捉えられないスピードじゃないんだよね!」

その言葉とともにランスを突き出す。

しかし、

――ガキィ

フライモンの体を覆う硬い殻にランスは弾かれた。

「ッ!? フライモンは硬い殻を持ってることは知ってたけど、思った以上の硬さだわ………」

楯無は、フライモンが思った以上の防御力を持っていたことに、気を緩めず、一旦距離を取った。

「だけど、蒼流旋なら!」

楯無のランスに水が螺旋状にまとわりつき、ドリルのように回転する。

フライモンは、再び楯無の周りを高速で飛び始めた。

楯無は、今度は逃がさないと言わんばかりに、フライモンの動きを観察する。

そして、タイミングを見極め、瞬時加速を発動しようとした瞬間、

――ヒュン

何かが空気を切り裂く音が聞こえた。

楯無は、ギリギリそれに気付き、紙一重で避ける。

「何?」

その何かが飛んできた方に視線を向けると、

「なっ!? フライモンがもう2匹!?」

更に2匹のフライモンが飛んできた。

合計3匹のフライモンに楯無は囲まれる。

ドルガモンも、高速で飛び回るフライモンに手を出しあぐねていた。

楯無は、流石に3対1では分が悪いと思ったのか、無闇に仕掛けたりはせず、様子を伺う。

だが、フライモンは何も仕掛けてこず、ただ楯無の周りを高速で飛び回っているだけだ。

楯無は怪訝に思う。

しかし、フライモンのもう一つの能力を忘れていた。

様子を伺っていた楯無だが、

「…………うぐっ!?」

突然視界が歪み、激しい吐き気に襲われた。

そこで気付いた。

耳が殆ど聞こえていなかったことに。

(しまった! フライモンの羽音はハウリングノイズを発生させるんだった! 普通なら聴覚が麻痺する程度だけど、ISで感覚が上がっている私は、三半規管まで影響を受けたんだわ!)

バランスが取れなくなり、落下を始める。

その時を見計らって、フライモンが楯無に襲いかかった。

「くっ……!」

楯無は歯噛みする。

だがその時、

「パワーメタル!」

ドルガモンが鉄球を放ち、フライモンを牽制する。

それに気付いたフライモンは、楯無から離れた。

楯無は、フラフラと地面に不時着する。

「はぁ………はぁ………」

余りの吐き気に、楯無は両手を地面につけたまま起き上がれない。

「タテナシ!」

ルナモンが楯無に駆け寄る。

だが、聴覚が麻痺していることによって、楯無にはルナモンの声は聞こえていない。

ルナモンが楯無のそばに寄った事で、初めてルナモンに気付く。

「ルナモン………」

吐き気に襲われながらも、楯無は空を見上げる。

ドルガモンが、フライモンのスピードに翻弄されながらも、何とか渡り合っている。

その時、1匹のフライモンが楯無とルナモンに向かってくる。

「ルナモン………逃げて………」

楯無はランスを杖がわりにして、何とか立ち上がる。

そして、フラフラになりながらも、何とかランスを構える。

しかし、猛スピードで突っ込んできたフライモンの衝撃波で吹き飛ばされてしまう。

「きゃあっ!?」

元々フラフラだったので、耐え切れずに倒れる楯無。

そんな楯無にUターンして攻撃を行おうとするフライモン。

その時、

「ティアーシュート!」

水球がフライモンの顔に当たり、思わぬ不意打ちにフライモンは上空に逃れる。

「タテナシ!」

ルナモンが楯無の前に立つ。

「ルナモン! なんで!?」

驚きの声を漏らす楯無。

「私も………私だって、タテナシを守る!」

ルナモンはそう叫ぶと、再び急降下してくるフライモンに飛びかかった。

「ルナクロー!」

腕に闇の力を纏わせ、フライモンに突き出す。

だが、そこは成長期と成熟期の差。

フライモンの硬い殻の前にあえなく弾かれた。

「あうっ………」

空高く吹き飛ばされるルナモン。

「ルナモン!」

楯無は何とか体を動かし、ルナモンの落下地点に先回りする。

そして、落ちてくるルナモンを受け止めた。

「ルナモン! 大丈夫? ルナモン!」

楯無はルナモンに呼びかける。

「ううっ……」

ルナモンは身動ぎした後、

「………ごめん」

突然謝罪の言葉を口にした。

「ルナモン?」

思わず問いかける楯無。

「ごめんタテナシ………私が……もっと強かったら………タテナシを守れるのに………」

そう呟きながら、ルナモンは涙を流す。

「ルナモン…………謝らないで」

楯無はルナモンに笑みを向ける。

「ルナモンは弱くないよ。 今だって、こうやって私を守ろうとしてくれた………だから今度は、一緒に戦おう?」

「タテ………ナシ………」

2人は笑顔を向け合う。

その時、楯無は気付いていなかった。

楯無の聴覚は、未だに麻痺している。

それなのに楯無とルナモンの会話は成立していた。

それはつまり心が通いあったということ。

それが意味することは…………

突如として、楯無の目の前に光が発生した。

「これはっ………!?」

その現象に楯無は驚くが、その光に手を伸ばす。

そして、その光の中にあった物を掴んだ。

光が収まると、楯無の手には水色の縁どりのDアークが存在していた。

「アーク………」

楯無が呟いた。






タカト達と一緒にいたクルモンの額が突如として輝き出す。

「クル~~~~ッ!?」

「これはっ!?」

その現象にタカトは声を漏らす。

そしてクルモンの額から、空へ光が放たれた。





その光がルナモンへと降り注ぐ。

そして、

――EVOLUTION

楯無のDアークにその文字が表示され、光を放つ。

その光が輝くとともに、ルナモンに変化が起こった。

「ルナモン進化!」

光の中でルナモンのデータが分解され、新たに再構築される。

驚異的な脚力と、どこか神秘的な姿。

ウサギのような獣人型デジモン。

「レキスモン!!」

レキスモンとなったルナモンは、驚いたように自分の体を眺める。

「私にも……私にも進化出来た!」

嬉しそうな声を上げるレキスモン。

「レキスモン……」

楯無がレキスモンを見上げる。

その時、フライモンが再び向かってきた。

レキスモンはフライモンを見据える。

レキスモンは膝を深く曲げ、次の瞬間には一気に蹴り放った。

レキスモンの驚異的な脚力は、自身の体を凄まじい速度で押し出す。

一瞬にしてフライモンに肉薄するレキスモン。

そして、その腕でフライモンを叩き落とした。

地面に激突するフライモン。

すると、レキスモンは空中で体制を整えると、

「ムーンナイトキック!!」

そのままフライモンに向かって急降下し、キックを食らわせた。

その威力にはフライモンも耐え切れず、データに分解される。

続いて、レキスモンは2匹のフライモンと戦っているドルガモンの方に目を向けた。

やはりスピードタイプのフライモンにパワータイプのドルガモンはついていけない。

しかもそれが2匹だ。

完全に翻弄されている。

本来なら、テイマーである一夏が後方から指示やカードスラッシュで援護するべきなのだが、基本頭よりも体が動くタイプである一夏では、現在では無理だ。

「レキスモン! 相手の動きを鈍らせる技はない?」

楯無がレキスモンに問いかける。

「あるよ。 任せて!」

レキスモンは、自信を持って頷いた。

レキスモンは跳躍を繰り返し、ドルガモンの近くへ行き、木の天辺に着地する。

そして、

「ムーンナイトボム!!」

両手のムーングローブから無数の水の泡を発生させ、それをフライモンに向けて飛ばした。

その水の泡は、フライモンの近くで弾ける。

すると、フライモンたちはフラフラと体制を崩した。

レキスモンの必殺技、ムーンナイトボムは催眠効果があり、それによってフライモンを眠りに誘ったのだ。

「今だよ! ドルガモン!」

「わかった! パワーメタル!!」

レキスモンの声にドルガモンは頷き、鉄球を放つ。

眠りに誘われ、動きが鈍っていたフライモンにその鉄球を避けることはできず、直撃してデータに分解される。

そして、のこったフライモンには、レキスモンが背中の突起から美しい氷の矢を引き抜き、

「ティアアロー!!」

それをフライモンに向け放った。

その氷の矢は狙い違わずフライモンに命中。

フライモンはデータ分解された。

それを確認すると、レキスモンは楯無の所へ戻る。

未だに動けない楯無を抱き上げると、一夏達と合流した。

そのままタカト達の所へ戻る途中、

「レキスモン………」

楯無が呼びかけた。

「うん……?」

レキスモンが自分の方を見たことを確認すると、

「これからよろしくね」

笑みを浮かべてそう言った。

「うん!」

レキスモンも嬉しそうに頷く。

また一人、デジモンとの絆を結びしテイマーがここに誕生した。








あとがき


やっと書けた………

第二十二話の完成です。

ボルトモンの戦いを楽しみにしていた人もいるかもしれませんが、このボルトモンは唯のかませ犬なのですハイ。

ああ、モノ投げないで!

なんせ唯の究極体がデュークモンと張り合うのはダメでしょうと自分は判断します。

これも一夏達の成長の為。

成仏してくれボルトモン。

さて、今回主演を演じたのは楯無のつもり。

成熟期1体では楯無が軽く倒してしまう気がしたので思い切って3体です。

タカトが一緒にいたら一瞬で勝負がついてしまうので悩みどころ。

まあ、それももう少ししたら問題なくなるんですけどね。

さて、お次は簪が主役張る番です。

頑張れ簪。

では、次も頑張ります。





[31817] 第二十三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/02/15 20:23

第二十三話 進化するんだプロットモン! 霧の森の戦い!




フライモンとの戦いから数日。

タカト達は旅を続けていた。

目指す場所は、四聖獣の領域。

何故四聖獣の領域を目指すことになったのかといえば、トゲモンから聞いた四聖獣が封印されたという噂の真偽を確かめに行くためだ。

この数日で、何度か野良デジモンや四魔獣の配下を名乗るデジモンから襲撃があったが、タカト達テイマーの活躍によって問題なく撃退している。

ただ、このメンバーの中で、ISを持っている簪はともかく、パートナーの居ないプロットモンだけは何もする事ができず、どこか思いつめる雰囲気を出していた。




そして今、一行は森の中にいた。

森はかなり深く、道と言える道も、獣道よりも多少広い程度だった。

「かなり深い森だな………」

一夏が呟く。

「うん、出来れば日が暮れる前に森を出たいところだけど…………」

タカトも相槌を打つ。

更に歩いていくと、霧が出てくる。

「霧が出てきた………」

簪が呟く。

「ホントね………逸れないように注意しないと…………」

楯無がそう言うが、一行が進むにつれ、霧がどんどん濃くなっていく。

既に、5m先は真っ白で何も見えない。

その時、

『止まれ』

突然声が響いた。

「誰だ!?」

一夏が声を上げて周りを警戒する。

『それ以上、この森に踏み込むことは許さん』

その声は、警告を掛けてきた。

「えっと、勝手に森に入ってすみません! でも、僕達はこの森を通り抜けたいだけなんです!」

タカトがそう説得しようとするが、

『ならん! この先は神聖なる領域。 許可なしに立ち入ることは許さん!』

謎の声はそう言う。

タカトがどうしようかと思っていると、

「う~む、この声………どこかで聞いたことが………」

ロップモンが腕を組みながら首を捻っていた。

「クルックル~? ロップモン、どうしたっでっクル?」

それに気づいたクルモンが尋ねる。

「ロップモン?」

皆の視線も、ロップモンに集まる。

「うむ、この声なのだが、何処かで聞いたことがあるような気がするのだ」

「えっ? どこで?」

「それが…………」

「「「「「「それが?」」」」」」

ロップモンの言葉を皆で聞き返す。

だが、

「………思い出せん」

ロップモンの言葉に、皆が脱力した。

『この森を立ち去らぬというのなら、多少痛い目を見てもらうぞ!』

謎の声が荒くなると、霧が一層濃くなってくる。

もはや、1m先も霞んで見えるぐらいだ。

「皆! 逸れないように近くに!」

タカトがそう叫ぶが、もう隣に誰がいるかも分からない。

その中で、簪はISのハイパーセンサーを起動させるものの、霧はセンサーすら狂わせるのか、ノイズが酷い。

足元にプロットモンがいることだけは確認しているが、周りは誰一人として見えない。

「ッ……………!?」

簪は辺りを警戒する。

その時、簪の後ろから簪に近づく影が。

その影から手が伸び、簪の肩に…………

「ッ!?」

簪が咄嗟に振り向くが、

「私よ、簪ちゃん」

そこにいたのは楯無だった。

簪はホッと息をつく。

よく見れば、楯無の腕にはルナモンが抱かれており、両肩にはクルモンとロップモンが引っ付いていた。

「お姉ちゃん、タカト達は?」

簪は気になったことを尋ねる。

「わからないわ。 声も聞こえないし…………いつの間にかはぐれたようね」

2人がそう話していると、霧が若干薄くなっていた。

すると、木々の向こうで何かが横切った。

「誰っ!?」

楯無は咄嗟にランスを展開し、内蔵されたガトリングを向ける。

タカトや一夏ではないことは明白だ。

あの2人なら、必ず声をかけてくる。

再び木々の隙間を何かが横切る。

「ッ………!」

だが、迂闊に引き金を引くことは出来ない。

「簪ちゃん、ISを展開しておいて」

「う、うん………」

楯無の言葉に簪は頷き、ISを展開。

楯無もISを装着する。

2人は周りを警戒し、デジモンたちも背中合わせになるように周りを見渡す。

静寂が辺りを包む。

そして次の瞬間、木々の間からバスケットボールほどの球体の影が飛び出した。

「ッ!?」

それはかなりのスピードで飛来し、楯無の頭に向かって来る。

楯無は瞬時に反応し、腕で咄嗟にガードするが、

「きゃあっ!?」

思った以上の衝撃に体勢を崩される。

「お姉ちゃん!? このっ!」

簪が左腕のガトリングで飛んできた影を攻撃するが、その影はちょこまかと動き、再び木々の隙間に消える。

それを確認すると、簪は楯無に駆け寄る。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「………ええ、大丈夫よ」

そう言って立ち上がる楯無。

「今のは?」

簪が聞くと、

「分からないわ、一瞬だったから………でも」

楯無はそう言うと攻撃を受けた腕の装甲を見せる。

その装甲は、パリパリと電気を帯びていた。

「電気の属性を持ってるデジモンには間違いなさそうね」

再び周りの警戒を強める楯無。

再び木々の隙間から影が飛び出した。

「待ってたわ!」

楯無が叫ぶと、水のヴェールの膜が張られ、その膜に影が突っ込む。

すると、水の膜がその影を包み込み、その影の姿がハッキリとわかった。

それは、青い球体の体に直接顔がついており、その球体の体に小さな手足がつき、額の部分には雷の形をした装飾。

楯無はDアークを取り出し、そのデジモンのデータを見る。

「サンダーボールモン。 突然変異型、成熟期デジモン。 必殺技は、1000万ボルトにもなる放電球を発射する『サンダーボール』。………マメモンの成熟期かしら?」

その情報を確認して、再びサンダーボールモンに目をやると、サンダーボールモンは水の中でもがいている。

楯無は大丈夫だと判断し、簪たちの方に目を向け、

「とりあえず、何とかタカト達と合流しないと………」

そう切り出した瞬間、バリバリと音を立て、サンダーボールモンを包んでいた水の球体が弾けとんだ。

「「「「ッ!?」」」」

見ると、サンダーボールモンの周辺に、目で見てハッキリと分かる程の放電がされている。

「ナノマシンをショートさせるなんて、なんて威力……」

サンダーボールモンは、水に閉じ込められて怒ったのか、バリバリと放電しながら表情を険しくしている。

次の瞬間。今まで以上のスピードで飛び回り始めた。

楯無と簪はガトリングを撃つが、その弾丸の雨を掻い潜り、サンダーボールモンは楯無に体当りした。

「きゃぁあああああっ!」

体当たりの衝撃と、同時に襲いかかる電撃の威力に、楯無は悲鳴を上げる。

「お姉ちゃん!?」

簪が楯無に気を取られた瞬間、直後にターンしてきたサンダーボールモンの体当たりを受ける。

「きゃあああっ!?」

簪も悲鳴を上げ、その場に倒れた。

「カンザシ!」

プロットモンが簪に駆け寄る。

「か、簪ちゃん………よくも!」

楯無は腕のアーマーを収納すると、Dアークと一枚のカードを持つ。

「行くわよ、ルナモン!」

「うん!」

楯無はカードをスラッシュする。

「カードスラッシュ! 超進化プラグインS!!」

楯無のDアークの画面に文字が刻まれる。

――EVOLUTION

「ルナモン進化!」

ルナモンが光を放ち、成熟期へ進化する。

「レキスモン!!」

レキスモンとなったルナモンは、その強靭な脚力を活かして地を蹴り、森の中へ逃げようとするサンダーボールモンに接近する。

「はあっ!」

レキスモンは腕を振るって殴りかかる。

しかし、サンダーボールモンはヒラリと身を躱して森の中へ逃げ込む。

「待てっ!」

レキスモンは、直ぐに追いかけ木々をかき分けるが、そこにはもうサンダーボールモンの姿はない。

「どこに!?」

レキスモンは、キョロキョロと周りを見渡すが、

「サンダーボール!」

茂みの影からサンダーボールモンが必殺技を放ってきた。

不意打ちを受けたレキスモンは、その電撃をモロに受ける。

「うぁあああああっ!?」

「レキスモン!」

楯無は叫びながらガトリングを撃つが、サンダーボールモンはひょいひょいと避けて再び森の中に消える。

楯無はサンダーボールモンに警戒しつつ、レキスモンに声を掛けた。

「大丈夫? レキスモン」

「な、何とか…………」

レキスモンは、倒れた体をゆっくりと起こす。

「それにしても、的が小さくて当たらない」

「ええ、スピードではレキスモンが優ってるけど、あっちは小回りが利くわ。 それに、小さいから森の中だと、隠れるところがいくらでもあるし………」

楯無は現状を分析する。

「ムーンナイトボムを放っても、多分木に邪魔されて相手まで効果が及ばない可能性が高い………」

正直、かなり不利な状態だ。

楯無が何とかしようと思考を張り巡らしていると、

「パピーハウリング!!」

プロットモンが必殺技の音波攻撃を放った。

それは辺り一帯に響いていき………

「ピィ~!」

堪らず茂みからサンダーボールモンが飛び出した。

「そこ!」

いつの間にか復活していた簪が、高出力レーザーでサンダーボールモンを狙い撃つ。

サンダーボールモンは咄嗟に避けるが、レーザーを掠める。

すると、慌てて再び茂みの中に身を隠した。

「惜しい」

簪は呟く。

「簪ちゃん!?」

楯無が驚く。

「思ったとおり、プロットモンのパピーハウリングなら、障害物に邪魔されずに攻撃が届く」

簪の言葉に楯無がハッとなる。

「そっか! パピーハウリングは音波攻撃だから、音が届く範囲に効果がある!」

楯無は、初めから成長期であるプロットモンやロップモンを戦力外として計算していたため、その事を失念していた。

いくら成長期の攻撃とは言え、成熟期にとっては怯むぐらいの威力はあるのだ。

「プロットモン、もう一度お願い」

「わかった、カンザシ。 パピーハウリング!!」

プロットモンは、サンダーボールモンが逃げ込んだ茂み周辺に向けて、再び音波攻撃を放つ。

今度は中々出てこなかったが、少しして、

「ピィ~~~ッ!」

遂に耐え切れなくなったのかサンダーボールモンが飛び出した。

「今!」

「今度は逃がさない!」

「ティアアロー!!」

「ブレイジングアイス!」

楯無はランスに内蔵されたガトリングを。

簪はミサイルを。

更にはレキスモンとロップモンも必殺技を放つ。

普通の成熟期なら、避ける間もないほどの攻撃の嵐。

しかし、運がいいのかサンダーボールモンの実力なのか、

「ピィ~~~~ッ!!」

ちょこまかと動き回るサンダーボールモンには、一発も直撃が無かった。

「ウソォ~…………」

「…………予想外」

楯無と簪はそう漏らす。

だが、2人が一瞬惚けた時に隙ができる。

その瞬間、サンダーボールモンは一直線に突進した。

その狙いは、プロットモン。

「あうっ!?」

プロットモンはサンダーボールモンの体当たりを受け、弾き飛ばされる。

「プロットモン!」

簪が叫ぶ。

サンダーボールモンはUターンして、今度は全身に電撃を纏う。

そして、プロットモンに止めを刺さんと、今まで以上のスピードで突進した。

「ああっ!」

プロットモンの目が恐怖に染まる。

もうダメと思ったプロットモンは目を瞑った。

そして、

――ドゴォォン

「あううっ!!」

大きな打撃音と上がる悲鳴。

しかし、プロットモンは無傷だった。

何故なら、

「だ、大丈夫? プロットモン」

その言葉で目を開けるプロットモン。

そこには、

「カ、カンザシ!」

プロットモンの盾となって、その背にサンダーボールモンの一撃を受けた簪の姿があった。

簪は、プロットモンの無事な姿を確認すると、

「よかった…………」

小さく微笑んでそう呟くと、力尽きたように地面に倒れ、それと同時にISが強制解除される。

「「簪(ちゃん)!!」」

楯無とプロットモンが叫ぶ。

「レキスモン!!」

楯無はレキスモンに呼びかける。

「ティアアロー!!」

レキスモンは氷の矢をサンダーボールモンに放つ。

しかし、サンダーボールモンは木々の間に隠れ、氷の矢は木をへし折っただけに終わる。

「くそっ!」

レキスモンは思わず悔しそうに声を漏らす。

「何とか、サンダーボールモンの動きについて行く方法を考えないと………」

楯無は、簪を抱き起こしながら呟く。

だが、考えが纏まるのをサンダーボールモンが大人しく待ってくれる訳はない。

茂みから飛び出し、向かっていった先には、楯無と簪。

「タテナシ!」

気付いたレキスモンが叫びながらカバーに行こうとするが間に合わない。

「くっ!」

楯無は咄嗟に簪の盾になろうとして…………





「う………」

簪が目を覚まし、最初に見たのは………

――ドカァ

「あうっ!」

サンダーボールモンに接触し、吹き飛ばされるプロットモンの姿。

「ッ………!? プロットモン!?」

簪は、思わず身を起こしながら叫んだ。

サンダーボールモンは、プロットモンが接触したことで軌道が逸れ、楯無と簪の脇を通り過ぎ、木々をへし折りながら茂みの中へ突っ込む。

プロットモンは、傷だらけになりながら簪の傍へ転がってくる。

「プ、プロットモン…………どうして………?」

簪は、楯無に支えられながらもプロットモンに手を伸ばそうとする。

プロットモンは、傷だらけに成りながら身を起こし、

「カンザシは………さっき私を助けてくれた…………だから、今度は私がカンザシを助ける番」

そう笑みを浮かべながら言った。

「プロットモン…………」

簪の胸に、熱い何かが込み上げてくる。

「お、お姉ちゃん。 放して……」

簪は、そう言って支えられていた楯無の手を振りほどく。

しかし、直ぐにフラつく。

「か、簪ちゃん!?」

楯無は慌てて支えようとしたが、

「来ちゃダメ!」

何とか踏みとどまった簪の強い言葉に、思わず動きが止まる。

「これは……私がやらなきゃダメなの………私だけしか出来ないこと………」

簪はそう言ってプロットモンに向かって一歩一歩近づいていく。

一方、プロットモンも危なげな足取りながらも、簪に向かって一歩一歩踏み出す。

やがて、簪とプロットモンは、お互いの目の前にたどり着いた。

「……………………」

「……………………」

無言で見つめ合う簪とプロットモン。

そして、

「………カンザシ…………私に………力を!」

「……………うん!」

プロットモンの言葉に、簪は迷いなく頷いた。

その時、簪の目の前に光の玉が発生した。

その事に簪は驚きもせず、その光に手を伸ばす。

そして、その光の中にあったDアークをしっかりと掴んだ。

その瞬間、

――EVOLUTION

簪のDアークの液晶画面に文字が刻まれた。

光を放つDアーク。

プロットモンがその光を受け、進化する。

「プロットモン進化!」

プロットモンのデータが分解され、再構築される。

大きさは今までと然程変わらないが、子犬の様な姿だったのが、まるで白い猫の様な姿へ。

前足にはサーベルレオモンのデータをコピーして作られたグローブ。

そして尻尾には聖なる力を宿すホーリーリング。

小さな体に大きな力を秘めた聖獣型デジモン。

「テイルモン!!」

光の中からテイルモンが姿を現す。

余談だが、技がネコパンチにネコキック、キャッツアイと猫尽くしだが、テイルモンは本来ハツカネズミ型のデジモンである。

テイルモンは簪を見上げ、

「ありがとうカンザシ。 これで私も戦える!」

テイルモンが簪にそう言った瞬間、テイルモンの後方からサンダーボールモンが飛び出してきた。

しかし、その寸前に聴覚で察知していたテイルモンが、

「………ッ、ネコパンチ!!」

振り向きざまに右ストレートを叩き込んだ。

まるで壁にぶつかったボールが跳ね返るように吹き飛んでいくサンダーボールモン。

「今度こそ逃がさない!」

テイルモンはそう叫ぶと、サンダーボールモンを追って森の中に飛び込む。

サンダーボールモンは、森の中を動き回り錯乱しようとしているが、

「逃がさないと言ったはずよ!」

テイルモンは木々を足場に的確にサンダーボールモンを追い詰めていく。

獲物と狩人が逆転した瞬間だった。

ただ、サンダーボールモンは飛べるためテイルモンが攻撃しようとしてもヒラヒラと避けてしまう。

普通なら、テイルモンの方が不利であろう。

しかし、テイルモンには簪が、パートナーがいる。

「カンザシ!」

テイルモンは簪に呼びかける。

「うんっ!」

テイルモンの呼びかけに、即座に頷く簪。

2人には短い時間ではあるが、しっかりとした絆が生まれていた。

簪は、自分のデックから一枚のカードを抜き出す。

そして、それをDアークと共に構えた。

「カードスラッシュ!」

簪はそのカードをDアークにスラッシュしていく。

「高速プラグインB!!」

カードのデータがDアークによってテイルモンに送られる。

その瞬間、テイルモンのスピードが桁違いに上がった。

元々身軽なテイルモンに高速プラグインBの能力が付与されたスピードは凄まじいの一言。

テイルモンは木々を跳ね回り、白い軌跡を描く。

サンダーボールモンの周りを白い軌跡が完全に囲んでおり、サンダーボールモンは翻弄され空中で立ち往生してしまう。

テイルモンはその隙を逃さなかった。

いつの間にかテイルモンはサンダーボールモンの上を取り、

「ネコキック!!」

強烈なキックでサンダーボールモンを地面に叩きつけた。

顔面から地面にめり込むサンダーボールモン。

それが決め手となり、サンダーボールモンは完全に動かなくなった。

ただ、データに分解されてないところを見ると、死んではおらず、気絶しているだけのようだ。

すると、

『うぬぅ………おのれ、この森の平穏を乱す輩め』

先ほどの声が聞こえてきた。

どうやらサンダーボールモンとは別人らしい。

「さっきから言ってるでしょ! 私達はこの森を通って四聖獣の領域に行きたいだけなの! この森をどうこうしようだなんてこれっぽっちも思ってないわ!」

楯無がそう叫ぶ。

『それがならんと言っているのだ! 我は四聖獣の一角、スーツェーモン様よりこの森の守護を言い渡された者。 許可なき者は何人たりともこの森を通すわけにはいかん!』

その声はそう言い切る。

その時、

「スーツェーモンの…………配下………? ………もしや!」

ロップモンが何かに思い当たったのか、顔を上げる。

「待て! 汝はもしや、森の番人ジュレイモンではないのか!?」

ロップモンが謎の声に向かってそう呼びかける。

「ロップモン?」

楯無達が、不思議そうにロップモンを見る。

『な、何故私の事を………?』

謎の声には、動揺が伺える。

「僕………いや、我は元スーツェーモンが配下、十二神将デーヴァの一人、アンティラモン也!」

ロップモンは、あえて昔の喋り方で呼びかけた。

すると、

『ア、アンティラモン様!?』

先程よりも動揺が混じった声で言葉が返ってくる。

「アンティラモン?」

楯無が怪訝な声を漏らす。

ふと見れば、徐々に霧が薄くなっていく。

すると、

「楯無! 簪!」

霧が薄まったお陰か、今まで全く連絡がつかなかったタカト達が姿を見せる。

「よかった。 いきなりはぐれちゃったから、心配してたんだ」

タカトは安堵の声を漏らす。

「ええ、私達は大丈夫よ。 簪ちゃんとテイルモンもね」

楯無は意味深げに呟くと、簪達の方へ視線を向ける。

「「テイルモン?」」

タカトと一夏が同時に声を漏らす。

楯無の視線を追って簪に目を向けると、簪の傍らにはテイルモンがいる。

「もしかして………プロットモンが進化したの?」

「その通りよ。 これで全員がテイマーになった訳ね」

楯無が頷きながらそう言う。

やがて、霧が完全に晴れると、一行の目の前に大きな大樹のような姿をしたデジモン、ジュレイモンが現れた。

「ほ、本当にアンティラモン様?」

ジュレイモンはロップモンに確認するように尋ねる。

「うむ、任を解かれたことと、シウチョンのパートナーとなった事で成長期の姿ではあるが、我は紛れもなくアンティラモンだった者也」

ジュレイモンはじっとロップモンを見つめる。

ジュレイモンには、かつて見たアンティラモンの姿が、ロップモンとダブって見えた。

「確かに、どこかアンティラモン様の面影がある………」

ジュレイモンはそう呟くと、突然涙を流す。

「ど、どうしたのだジュレイモン!?」

突然泣き出したジュレイモンにロップモンは慌てる。

「おお………スーツェーモン様が封印されたと聞き、次々と四魔獣がデジタルワールドを侵略しているなか、アンティラモン様がお戻りになられるとは………」

「我も噂には聞いたが………やはり四聖獣は封印されてしまったのか?」

「おそらくは……現に、スーツェーモン様との連絡も途絶えております」

「そうか…………」

ジュレイモンの言葉に、ロップモンは俯く。

だが、直ぐに顔を上げ、

「ジュレイモンよ。 ここを通して欲しい。 この者たちは、チンロンモンから助けの知らせを受け、駆けつけてくれた者たちだ。 このデジタルワールドを救うためにも、我らは四聖獣の領域へ行き、何が起こっているのか確かめねばならん」

「何と!? チンロンモン様から!?」

ジュレイモンはその事実に驚愕する。

「そ、そうでありましたか! 申し訳ない皆様方! チンロンモン様からの使いとは知らず、とんだご無礼を!」

いきなり丁寧語になり、頭を下げるジュレイモン。

「いや、いきなり頭を下げられても………森に勝手に立ち入ったのは事実なんだし、ジュレイモンは自分の使命を全うしようとしただけなんだから、そんなに気にしなくてもいいよ」

タカトはそう言って許す。

「ありがとうございます」

ジュレイモンはもう一度頭を下げた。

「してジュレイモンよ。 四聖獣の領域へはどのように行けばいい?」

「はっ! それならば………」

ロップモンの言葉にジュレイモンが手をかざすと再び霧が発生し始める。

ただ、今度は全く霧が発生しない一筋の道ができ、森の奥へと続いている。

「この道を辿っていけば、四聖獣の領域へたどり着けます」

「うむ、助かる」

ロップモンを先頭に、その道を行こうとしたとき、

「皆様方………」

ジュレイモンが一行に声をかける。

その言葉に立ち止まり、ジュレイモンに振り向く一行。

「どうか、スーツェーモン様達を助けてくだされ」

ジュレイモンは思いを込めて深く頭を下げた。

「はい! 必ず!」

「俺達に任せてください!」

タカトと一夏はそう返し、再び道を歩き出した。

その先に待つ絶望の大きさも知らずに…………







あとがき


あけましておめでとうございま~す。

って、年明けてから1ヶ月半も経ってから何言ってるんですかね自分。

またもや2ヶ月以上放ったらかしで申し訳ありませんでした。

言い訳ですが、去年は単純にモチベーションが上がらずに執筆する気が出なかったこと。

今年に入ってからは、何故か土日のどちらか、もしくは両方が潰れる日が続き、これまた執筆する気になれなかったことです。

申し訳ない。

さて、今回は簪が頑張りました。

プロットモンがテイルモンに進化しましたが話の流れが強引というか何というか………

それと、高速プラグインBの使用率が高すぎる。

IS戦も含めればもう3回目。

でも、高速移動って結構便利なんですよね。

さて、これでIS組が全員成熟期に進化させることが出来るようになりました。

これで安心してタカトを一時的に〇〇〇〇させる事が出来ます。

自分の今までのノリから何をするか予想付きますかね?

ともかく次も頑張ります。





[31817] 第二十四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/04/06 19:42


第二十四話 絶体絶命! 四魔獣の驚異!





デジタルワールドの、とある場所。

そこに、4つの影があった。

その影の1つはカオスデュークモン。

「奴らと接触したようだな、カオスデュークモン」

影の1つがカオスデュークモンにそう言う。

「…………………」

カオスデュークモンは、腕を組んだまま無言である。

「どうだった? 自分のオリジナルと対面した気持ちは?」

「…………………」

その問に何も答えず、沈黙を続けるカオスデュークモン。

「フッ、まあいい。 奴らだが、いよいよ四聖獣の………いや、我らの領域に近付いている。 恐らく、チンロンモンが最後の力で奴らを呼び出したのだろうな」

影の1つがそう言うと、

「4年前の救世主か…………」

「だが、厄介そうなのは、ただ1人のみ。 他の奴はどうでもいい」

「ならば行くぞ。 たとえ1人とはいえ、万が一があっては遅い」

漆黒の闇の中で、4つの影が動き出そうとしていた。






ジュレイモンと別れて一日が経った頃、タカト達はいよいよ四聖獣の領域へ近づいていた。

周りには石柱がいくつも乱立している。

「この辺りには、見覚えがあるなぁ………」

タカトが周りを見ながら呟く。

「うむ。 僕がシウチョンのパートナーになったのもこの近く也」

ロップモンが相槌を打つ。

「えっ? ロップモンって、パートナーいるのか?」

その言葉を聞いて、軽く驚いた一夏が尋ねる。

「うん。 前にテリアモンのパートナーのジェンに会ったでしょ? そのジェンの妹がロップモンのパートナーなんだよ」

「へ~」

「ねえねえ。 ロップモンのパートナーとの出会いって、どういう風だったの?」

興味があったのか、楯無が尋ねる。

「うむ。 僕は元々、スーツェーモンに仕えし12体の十二神将デーヴァの1体、アンティラモンだった也。 その時の僕の役目は、四聖獣の領域へ続く門の一つ、南の門を守護することであった。 長い間、その門を守護していたのだが、ある日、小さな人間の子供が僕の前に現れた。 それがシウチョンだった也」

ロップモンが思い出すのは、シウチョンとの最初の出会い。

偶然開いたデジタルゲートにより、デジタルワールドに迷い込んだシウチョンが、偶然にもアンティラモンの前に現れたのだ。

「当時の僕は、速やかにこの場から立ち去るように言ったのだが、シウチョンは僕に興味を示したらしく、何度も僕に語りかけてきた。 やがて根負けした僕は、しばらくシウチョンの我が儘に付き合うことにしたのだ」

その後は、頭の上に乗られ、そこら中を歩き回らされたり、時には走り、時には跳びまわったりしていた。

「ある程度シウチョンに付き合った僕は、門の守護へ戻ろうとしたのだが、そこにかつての同胞であったマクラモンがシウチョンを襲い、シウチョンの悲鳴が僕に届いた。 それ以前の僕なら、無視して自分の役目を優先させていたのだが、何故か放っておけなかった僕は、シウチョンを助けに戻った。 シウチョンを助けるために、同胞であったマクラモンと戦い、傷つく僕を、シウチョンは本気で心配してくれた。 その後、何とかマクラモンを退けることに成功した僕は、自然とシウチョンのパートナーとなっており、それと同時に任を解かれ、成長期の姿へと戻ったのだ」

話し終えたロップモンを一夏、楯無、簪の3人は、驚いた表情をしていた。

「ははは、凄いなその子」

完全体のデジモン相手に、全く臆さないシウチョンに、一夏は苦笑する。

まあ、当時のシウチョンは、完全体の危険性など全く知らなかっただけなのだが。

「その子を助けるために、かつての同胞も裏切った……か。 やるじゃない」

「そんな短時間でロップモンの心を開かせたその子も凄い」

楯無と簪もそう漏らす。

「クルル~♪」

クルモンも、嬉しそうに耳を広げる。

雑談が一区切りすると、タカトは顔を引き締める。

四聖獣の領域に近付くにつれ、空に暗雲が漂ってきているのだ。

確実に、以前とは雰囲気が違う。

以前は、ここまで暗雲が漂ってきてはいなかった。

せいぜい、ベルゼブモンと戦った周辺からだ。

「皆、ここから先は油断しないで」

タカトは皆に注意を促す。

「おう」

「わかったわ」

「うん」

3人が返事を返す。

一行が周りに注意しながら先を目指していくと、空の暗雲がどんどん濃くなっていく。

やがて、ゴロゴロと雷の音が聞こえてくる。

そして、タカト達の正面の石柱に、稲妻が落ちた。

「「「「「「!?」」」」」」

雷光と雷鳴に思わず身を竦める一行。

すると、

「グルルルル…………」

突然ギルモンが威嚇行動を取る。

「ギルモン?」

タカトが声をかけると、

「タカト………デジモンだ!」

ギルモンが睨みつける先は、先程落雷のあった石柱。

その上に立つのは、暗き西洋騎士の鎧を纏いし暗黒騎士、

「カオス………デュークモン………!」

タカトが危機感を最大に上げる。

だが、続けて3つの稲妻が同時に別の石柱へと落ちる。

「ッ!?」

それに驚愕するタカト。

そして、稲妻の中から現れたのは、1つは全長20mほどの巨体に黒い機械のボディ、

「セントガルゴモン!?」

紫の狐の仮面に白き錫杖をもった女性型デジモン、

「サクヤモン!?」

そして、鬼と髑髏を足したような顔に、刃の右腕と砲身の付いた左腕をもつサイボーグがたデジモン。

「それに………あいつは一体……?」

見た事のないデジモンにタカトは警戒を強める。

一夏達は自分達のDアークを取り出し、データを表示させた。

「カオスデュークモン、究極体、暗黒騎士型デジモン、ウィルス種。 必殺技は、デモンズディザスターとジュデッカプリズン」

一夏がカオスデュークモンを。

「ブラックセントガルゴモン、究極体、マシーン型デジモン、ワクチン種。 必殺技は、ジャイアントミサイルとバーストショット」

楯無がブラックセントガルゴモンを。

「クズハモン、究極体、神人型デジモン、データ種。 必殺技は、裏飯綱と胎蔵界曼陀羅たいぞうかいまんだら

簪がクズハモンを。

「ゴクモン、究極体、サイボーグ型デジモン、ウィルス種。 必殺技は、髑髏乱舞、邪炎煉獄、髑髏旋風」

タカトがゴクモンを。

それぞれのデータを読み上げる。

「4体の究極体…………まさか、お前達が!?」

彼らの正体に気付いたタカトが叫ぶ。

「そう………我らこそ四魔獣! デジタルワールドを……いや、全ての世界を支配する者なり!!」

ゴクモンが高らかに叫ぶ。

「ッ!!」

(予想以上の戦力だ! このまま戦っても勝ち目が無い!)

タカトは心の中で戦慄するも、それを必死に押し隠し、険しい表情で四魔獣を睨みつける。

「おっと、部下の紹介を忘れていたな」

ゴクモンが思い出したように言った。

「何!?」

一夏が叫んだ瞬間、ゴクモンの前の地面が吹き飛び、その下から2体のデジモンが現れた。

1体は全身が機械化された恐竜のような姿をし、背中に2門の巨大な大砲を背負ったマシーン型デジモン。

もう1体は、あらゆるデジモンのデータを合成し、多くの能力を身につけた合成型デジモン。

タカトは、その2体のデータを表示させる。

「ムゲンドラモン、究極体、マシーン型デジモン、ウィルス種。 必殺技は、ムゲンキャノン。 キメラモン、究極体、合成型デジモン、データ種。 必殺技は、ヒートバイパー……………究極体が、更に2体!?」

驚愕するタカト。

「クハハハハハ!! どうだね救世主殿。 我々の歓迎の感想は!?」

高笑いするゴクモン。

「ッ…………………!」

タカトは険しい表情で睨みつけることしか出来ない。

(いったい、どうすれば…………)

タカトはこの場を乗り切るための方法を頭をフル回転させて考える。

だが、相手は究極体が6体。

対して、こちらの戦力は究極体が1体と成熟期が3体に成長期が1体とISが3機。

その戦力差は絶望的だ。

「我々は決して貴様を侮ったりはしない。 出る杭は確実に打つ!」

その言葉と共に戦闘態勢に入る6体。

タカトが特攻覚悟で戦うしかないと考えていたとき、視界の端にあるものを捉えた。

「ッ………!」

それは、リアルワールドから伸びる光の柱。

そして、運良くそれはこの近くを通ろうとする動きだった。

「………………………」

タカトは、1つの可能性を思いつく。

だが、その為にはある覚悟をしなければいけない。

(………………よし!)

それでも、タカトに迷いは無かった。

『楯無、聞こえる?』

タカトはプライベートチャネルで、楯無のみに話しかけた。

『タカト?』

楯無もプライベートチャネルで返事を返す。

『楯無、よく聞いて。 このまま戦っても僕達に勝ち目は無い。 だから、この場は逃げるんだ!』

楯無もそのことはよくわかっていたのか、反対の声は無い。

『だけど、どうやって?』

楯無がそう聞き返すと、

『3時の方向を見て、もうすぐこの近くを光の柱が通る。 楯無はみんなを連れて、隙を見て光の柱に飛び込むんだ。 どこに飛ばされるかは分からないけど、逆にそれは奴らにもどこへ行ったかは悟られない』

タカトの説明に、楯無は頷くが、

『でも、向こうがその隙を与えてくれるとは思えないんだけどね………』

楯無が、冷や汗を流しながらそう返す。

楯無も余裕の表情を崩してはいないが、明らかにやせ我慢であった。

『大丈夫…………その隙は、僕達が作る!』

タカトの覚悟の籠った言葉。

『隙を作るって…………まさか!?』

タカトの言葉の意味を理解した楯無は驚愕する。

『ダメよそんな事! 絶対にダメだから!!』

楯無は強く反対する。

『でも、このままだったら、確実に全滅する。 これは楯無にしか頼めないんだ! 一夏や簪は優しすぎる。 絶対に最後まで残って戦うって言うだろう。 でも、それじゃダメなんだ! 楯無も含めて、みんなは最後の希望なんだ! だから、楯無には、無理矢理にでも2人を連れて逃げて欲しい』

『………………』

『楯無なら…………わかるはずだよ』

楯無は、掌を握って小さく震えている。

それを見たタカトは、

『大丈夫だよ楯無……確かに足止めに残るけど、僕は死ぬ気は全くないから』

なるべく明るく振舞いながらそう言った。

『タカト…………なら、約束して』

『約束?』

『リアルワールドに戻ったら、私と簪ちゃんにそれぞれ1日デートしてもらうから! 勿論、全額タカト持ちで!』

それはタカトに応えようとする、楯無の必死の強がりだった。

『わかったよ。 約束する』

『いい! 絶対だからね!』

その声は震えており、不安で一杯であることがバレバレであった。

それでも、楯無はそう言ってくれた。

タカトの覚悟は決まる。

タカトは再び前を見据え、

「行くよ! ギルモン!!」

「おっけー!!」

―――MATRIX

EVOLUTION―――

「マトリックスエボリューション!」

タカトとギルモンが光に包まれ一つとなる。

「ギルモン進化!!」

タカトとギルモンは、デュークモンへと進化する。

「デュークモン!!」

四魔獣と2体の究極体の前に立ちはだかるデュークモン。

「ほう。 これだけの戦力差でも、諦めんか………流石と言っておこうか」

ゴクモンがそう言う。

すると、楯無がルナモンを抱え、何か小声で伝えると、

「カードスラッシュ! 超進化プラグインS!」

「ルナモン進化! レキスモン!!」

ルナモンをレキスモンへと進化させる。

「よし! 俺たちも!」

それを見た一夏が簪へと呼びかけ、

「うん!」

簪も頷く。

しかし、

「楯無!!」

デュークモンが叫ぶと、楯無が瞬時にISを展開。

一夏と簪を強引に抱え、光の柱に向かって飛び立つ。

デジモン達も、レキスモンが抱えて駆け出した。

「楯無さん!? 何を!?」

「お姉ちゃん!?」

突然抱えられた2人が叫ぶ。

「何っ!? 奴ら逃げるつもりか!?」

「逃がすものか!」

ブラックセントガルゴモンが追うために飛び立とうとしたとき、

「行かせはしない!!」

デュークモンがロイヤルセーバーで牽制し動きを阻害する。

デュークモンは、楯無達を背に6体の究極体の前に立ちはだかる。

「ここは、我が命をかけて通さない!!」

デュークモンは、一度後ろに目をやると、

「頼んだぞ………楯無………簪………一夏………ルナモン………プロットモン………ドルモン………」

そう呟くと、前を見据え、グラムとイージスを構え、

「往くぞ!!」

絶望へと対峙した。






光の柱に向かって飛び続ける楯無。

「楯無さん!! 何してるんだ!! このままじゃタカトが!!」

「お姉ちゃん!!」

「……………………」

2人の呼びかけにも、楯無は答えない。

そして、そのまま光の柱へと飛び込んだ。

「タカトーーーー!!」

「タカトッ!!」

2人は叫ぶが、その声は光の柱へと飲み込まれた。





そして、突然別の場所に飛ばされた楯無はバランスを崩し、墜落してしまう。

一夏と簪は投げ出されてしまうが、偶然にも下が砂漠であり、一夏と簪には大きな怪我は無かった。

一夏は砂を吐き出しながら周りを見渡す。

「ここは………?」

すると、一夏と簪から少し離れたところにISを解除した楯無が起き上がろうとしていた。

それを見た一夏の頭が沸騰する。

「楯無さん!!」

一夏は怒りを隠そうともせずに楯無に駆け寄る。

「楯無さん!! 何でタカトを置いていったんだ!!」

一夏は怒鳴るように叫ぶ。

「……………………」

楯無はうつむいたまま答えない。

「何でタカトを置いて逃げたんだよ!!」

一夏はもう一度叫ぶ。

「…………一夏君は………あの場で全滅してたほうが良かったって言うの………?」

楯無は俯いたままそう呟く。

「何っ!?」

「あの状況ではああするしか無かった…………デュークモンが敵を足止めして、私達は逃げに徹するしか道は無かった………」

「何でだよ!? 俺達が力を合わせれば、一緒に逃げることぐらい「無理よ」ッ!?」

一夏の叫びにも、楯無は淡々と返す。

「相手は究極体が6体…………対してこちらはデュークモンを除けば成熟期が3体と成長期が1体のみ…………それでは究極体を1体を足止めすることすら出来ない………」

「ぐっ!…………そうかも………そうかもしれないけどよ! 楯無さんは、タカトを見捨てて何とも思わないのかよ!!」

一夏は思わず楯無の胸ぐらを掴み、強引に顔を自分の方に向かせた。

その瞬間絶句する。

楯無の瞳からは、涙がとめどなく流れ出ていた。

「楯無………さん……?」

「私だって………私だって最後まで一緒に戦いたかった!! でも、これはタカトの願いなの! 私達が最後の希望だって………それで………」

楯無の声は、徐々に弱々しくなってくる。

「お姉ちゃん!」

簪が楯無に抱きつく。

「もういいよお姉ちゃん! お姉ちゃんも辛いのはわかったから!」

簪が叫ぶ。

「かん……ざしちゃん…………ゴメンね……………本当にゴメンね…………!」

涙を流しながら謝る楯無。

「大丈夫………タカトならきっと大丈夫だから………」

簪の言葉は、楯無を励ますと同時に、自分に言い聞かせるための言葉でもあった。

簪は空を見上げ、

(大丈夫だよね? タカト…………)

そう願うのだった。










「ぐはっ!?」

デュークモンが片膝をつく。

その鎧はヒビだらけで今にも砕けそうであり、グラムやイージスも損傷が酷い。

まさに、満身創痍の状態であった。

「馬鹿な奴だ………仲間を逃がすために自らが犠牲になるとは」

ブラックセントガルゴモンがそう言う。

「そう言うな。 むしろ、たった1人で我々を相手にここまで持ちこたえた事を褒めてやるべきだ」

ゴクモンが余裕の表情で言った。

「…………………」

カオスデュークモンは、無言でデュークモンを見据える。

「よく頑張った方だけど……ここまでのようね」

クズハモンは、そう言いながら笑う。

「ぐっ! まだだっ!!」

デュークモンは、グラムを杖がわりにして立ち上がる。

「ほう………まだ諦めんか………しかし、そろそろ見苦しくなってきたぞ」

ゴクモンはそう言うと、一気に駆け出しデュークモンの懐へ入る。

「ッ!?」

デュークモンが防御姿勢を取ろうとするが、

「髑髏乱舞!!」

「ぐわぁああああああああっ!!」

ゴクモンの、刃の右腕の乱撃がデュークモンを襲う。

最後の一撃でデュークモンは吹き飛ばされ、後方の大きな岩場に激突する。

その岩場が激突の衝撃で崩れると、その岩場の内側から、大量のダストパケットが溢れ出した。

「ふむ、ダストパケットの溜まり場か…………」

ゴクモンが呟く。

ダストパケットの溜まり場とは、地形や気候の影響でダストパケットが一箇所に留まり、大量に溜まる場所の事だ。

「フフッ! 最後にごみ溜めに行き着くなんて、因果なものね」

クズハモンが、馬鹿にしたように笑う。

「では、そろそろ楽にさせてやろうではないか」

ゴクモンがそう言うと、それぞれが必殺技を撃つ体勢になり、ダストパケットに埋もれたデュークモンに狙いを定める。

「終わりだ! 邪炎煉獄!!」

ゴクモンは左腕の大砲から灼熱の炎を放つ。

「ムゲンキャノン!!」

ムゲンドラモンは背中の大砲からエネルギー弾を撃ち続ける。

「ヒートバイパー!!」

キメラモンは口から強力な熱線を吐き出す。

「裏飯綱!!」

クズハモンはエネルギー状の管狐を放ち、

「ジャイアントミサイル!!」

ブラックセントガルゴモンは、両肩の超巨大ミサイルを発射する。

「ジュデッカプリズン!!」

カオスデュークモンは、魔盾ゴーゴンから強力なエネルギー波を放った。

合計6つの究極体の必殺技が、デュークモンを消し去らんと突き進む。

そして―――――――

大気を震わす爆音とともに、デュークモンが埋もれた岩場が消滅し、その後方を数キロに渡って消し去った。

「フッ……消えたか……」

ゴクモンが更地となった岩場を見据え、そう漏らす。

「あっけないものね」

クズハモンが、詰まらないと言わんばかりにそう言う。

「これで我らの邪魔をするものはいなくなった」

「そう言えば、逃げた人間達はどうするの?」

クズハモンがゴクモンに聞くと、

「捨て置け。 デュークモンを片付けた今、我々の障害にはなり得まい」

ゴクモンはそう言うと踵を返し、闇に溶け込むように消える。

それに続き、ブラックセントガルゴモン、クズハモンも続くように消え、ムゲンドラモンとキメラモンは地中に消える。

残ったカオスデュークモンは、デュークモンが消えた更地をもう一度見据えると、ふと空を見上げ、

「フン………」

興味を失ったように踵を返し、同じように闇に消えていった。









あとがき

第二十四話の完成。

はい、タカト死にました?

コレを予想した人はいるでしょうか?

四魔獣全員集合。

アンケートでとったのとはちょっと違いますが、ネタが思い浮かんだので、ゴクモンが出てきました。

オマケ(?)でムゲンドラモンとキメラモンです。

このキメラモンは、ワンダースワン版と同じく究極体設定のキメラモンです。

因みにゴクモンは、PSソフト「デジモンバトルエボリューション」のラスボスです。

髑髏乱舞と邪炎煉獄のコンボが普通に強烈でした。

まあ、レナモンには敵いませんでしたが。

あと、ダストパケットの溜まり場は自分のオリジナル設定なので気にしないように。

では、次も頑張ります。








[31817] 第二十五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2014/07/05 16:08

第二十五話 希望を求めて





四魔獣の襲撃から1週間。

タカトとはぐれた一夏達は旅を続けていた。

とは言っても、今の一行にはデジタルワールドの地理に詳しいものは誰一人としていない。

一夏、楯無、簪は元より、ドルモン、ルナモン、プロットモンは学校から出たことは殆どなく、クルモンもデジモンとして活動している期間が短いために知識はそれほどない。

一番の年長者(?)であるロップモンは、南の門から離れたことはないため、四聖獣の領域周辺以外はさっぱりだったりする。

仮にタカトが居たとて、タカトの知るデジタルワールドもほんの一部に過ぎないのだが。

よって、完全に一行の行き先は手探り状態であり、今進んでいる道が正解かどうかもわからない。

まあ、元々冒険とはそういうものであるので仕方ない。

道中、襲いかかるデジモンたちも、全員で力を合わせ、何とか撃退に成功していた。

そして現在、目の前には、ミノタウロスのような姿をした成熟期デジモンのミノタルモン。

「行け! ドルガモン!!」

一夏の指示でドルガモンが突進する。

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

「ブモォォォォォォォォォォッ!!」

ドルガモンとミノタルモンが組み付き合う。

「テイルモン!」

簪の合図でドルガモンの足元からテイルモンが小柄な体を活かし、ミノタルモンの懐に飛び込み、真下から飛び上がる。

「ネコパンチ!!」

「ブモッ!?」

顎の下からアッパーの様に打ち上げられ、ミノタルモンは仰け反る。

「今よ! レキスモン!!」

続いて楯無の合図でドルガモンの後ろからレキスモンが空中に跳び上がり、

「ムーンサルトキック!!」

空中から急降下し、ミノタルモンの頭部に強烈なキックをお見舞いする。

「ブモォォォォッ!?」

堪らずミノタルモンは倒れ、絶好の隙となった。

「止めだ! ドルガモン!!」

「パワーメタル!!」

ドルガモンが放った巨大な鉄球がミノタルモンを粉砕する。

「ブモォォォォォォ………!」

ミノタルモンは断末魔の叫びを上げ、データに分解されていった。

3組のテイマー達は、この一週間で経験を積み、成熟期程度なら問題なく勝てるレベルになっていた。

ただ、一度だけ完全体のデジモンに遭遇したときは全力で撤退したが。

やがて一行は、広い砂漠にたどり着いた。

「うおっ! 砂漠なんて初めて見たぜ」

目の前の砂漠を眺めながら一夏が言う。

まあ、砂漠を見たことのある高校生は少数だろう。

「所々に岩場もあるから、日陰で休憩しながらいけば、何とかなるかな?」

楯無は砂漠を良く観察しながら呟く。

「うん、それにダストパケットも割と転がってるみたいだから、ISのシールドエネルギーが回復すれば、一気に渡れるよ」

簪がそう言う。

「うん。 だけど、デジタルワールドじゃ簡単なメンテぐらいしかできないから、なるべくは温存しておきたいのよね。 最近は全くのノーメンテだし」

楯無は問題点を上げる。

「あ、そっか…………どこかに設備でもあれば、それなりのメンテはできるんだけど………」

ISの事を気にかける2人。

因みに一夏は、そのことに気付きもしていない。

「2人とも何してるんだ!? 早く行こうぜ!」

一夏とドルモンが既に砂漠に足を踏み入れ2人と2匹を呼ぶ。

「はあ………全く一夏君は能天気なんだから」

「悪く言えば考えなし。 良く言えば前向き」

楯無はため息を吐き、簪は一夏をそう評する。

「アハハ。 でも、それがイチカのいい所なんじゃない?」

ルナモンがそう言う。

「うん。 ドルモンもイチカのそういう所が好きみたいだし」

プロットモンも続く。

「フォローする身にもなって欲しいわ……」

楯無はやれやれと肩を竦めると、みんなと共に一夏の後に続いた。





暑い日差しが照りつける中、一行は砂漠を歩く。

「あぢぃ………!」

思わずそう漏らす一夏。

最初の元気は何処へやら、一行の中で一番へばっていた。

「ほら一夏君、シャンとなさい」

軽く叱るようにそう言う楯無。

「でも、そろそろ疲れてきたのは間違いないね」

そう言ったのは簪。

見れば、デジモン達も汗を流し、若干疲れが見えている。

すると、楯無は周りを見渡す。

そして、少し先に岩場が密集している場所を見つけた。

「丁度いいわ。 あの岩場の影で休憩にしましょう。 当然だけど、水は大切にね」

一行は、その岩場へ向かうことにした。




一夏達の一行を遠くから見ていた者がいた。

「人間…………? だが、アイツ等じゃない……………それにしても、何でドルモン達がいやがるんだ?」

その者は、そう呟くと黒い翼を羽ばたかせた。






「ふう~、やっと一息つけるぜ」

一夏達が、やっと岩場に到着して休憩しようとしたとき、

「ぎゃはははははは!」

どこからともなく声が響いた。

「「「「「「ッ!?」」」」」」

即座に背中合わせとなり、辺りを警戒する一夏達。

「誰だ!? 出てこい!!」

一夏が叫ぶ。

その瞬間、一夏達の周りの砂が爆発したように舞い上がる。

そしてその中から、

「うわははははは! 四魔獣が配下! 砂漠のスコピオモン軍団だ!」

骨でサソリを形作ったようなデジモンが現れた。

簪が、即座にDアークを取り出す。

「スコピオモン、完全体、昆虫型デジモン。 必殺技は、ポイズンピアス」

簪が読み上げたデータに一同は戦慄する。

「こ、こいつらが皆完全体だっていうのか!?」

一夏達を囲んでいるスコピオモンの数は、20匹近い。

つまりそれと同じ数の完全体に囲まれているということであり、成熟期までしか進化できない一夏達では、どう足掻いても勝ち目は無かった。

「俺達にもようやく運が回ってきたぜ。 ここに来てデジエンテレケイヤが目の前に転がってくるとはな!」

スコピオモン達の視線がクルモンに集中する。

「クル~…………」

スコピオモンの剣幕に怯えるクルモン。

そんなクルモンを庇うように一夏が前に出るが、冷や汗が流れているのが見て取れる。

歯を食いしばる一夏。

「デジエンテレケイヤ! 頂くぜ!」

スコピオモンが一斉に襲いかかってきた。

「くっ、畜生!」

一夏がそう吐き捨て、

「ッ!」

楯無は最後の足掻きと言わんばかりに相手を睨みつけ、

「ッ、タカトッ!」

そして簪は思わずタカトの名を叫んだ。

その瞬間、

――ズドォォン

先頭にいたスコピオモンの1体が閃光に貫かれた。

「えっ?」

「何だ!?」

突然の事に楯無と一夏は声を漏らす。

すると、閃光が次々とスコピオモンを撃ち抜いていく。

一夏達は、閃光の発射元と思われる方向を向いた。

そこには、太陽を背に岩場の上に立つ長い獲物を前に突き出した人型のシルエット。

「デュークモン?」

簪は、思わず期待を込めてそう呟いていまう。

しかし、

――バサッ

その影は大きく翼を広げた。

「違う、デュークモンじゃない」

楯無がそう言う。

その影は、一夏達の方へ飛んでくると、一夏達の前に着地する。

黒い翼と黒い仮面、巨大な銃をもったそれは、

「汝は………ベルゼブモン!」

ロップモンが叫ぶ。

「クルル~! ベルゼブモンでっクル!」

クルモンも耳を広げて嬉しさを表現する。

「ベルゼブモン?」

楯無がDアークを取り出しそのデジモンのデータを表示させる。

「ベルゼブモンブラストモード 究極体 魔王型デジモン。 必殺技はデススリンガー…………究極体……」

楯無はもう一度ベルゼブモンを見る。

ロップモンとクルモンの様子から敵では無さそうだということはわかる。

「なんでテメーらがこんな所にいやがるんだ?」

ベルゼブモンがロップモンやクルモンだけでなく、ドルモン、ルナモン、プロットモンを見渡しながら疑問を口にする。

すると、

「な、なんだテメーは!?」

スコピオモンの1体がそう叫ぶ。

が、ベルゼブモンは無視する。

「む、無視するんじゃねぇ~!!」

スコピオモンが叫んでベルゼブモンに飛びかかる。

だが、

「ギガデストロイヤー!!」

更に後方から飛んできた2発のミサイルが直撃。

爆発により吹き飛ばされるスコピオモン。

「こ、今度はなんだ!?」

一夏が再び叫ぶ。

「やっと来やがったか」

ベルゼブモンがそう言うと、砂煙を巻き上げながら、大勢のデジモンたちがこちらに向かってきていた。

先頭を行くのはデジモンの中でも有名なメタルグレイモン(ワクチン種)。

その肩にはワーガルルモン(ワクチン種)の姿もある。

更に、ティラノモン、トリケラモンといった多くのデジモンが続く。

「あのデジモンたちは………?」

簪が呟くと、

「チィ! レジスタンスの連中か! 毎度毎度面倒な奴らだ!」

スコピオモンの1体が叫んだ。

「レジスタンス?」

楯無は怪訝な声を漏らす。

「四魔獣の配下を、今日こそ追い払うんだ!!」

ワーガルルモンが叫ぶ。

「「「「「「「「「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」」」」

デジモン達が鬨の声を上げるとスコピオモン達に突撃する。

しばらく戦い続けたスコピオモン軍団だったが、やがて形勢が不利となると、一斉に撤退していった。





しばらくして、一夏達は後から来たデジモン達に囲まれていた。

「えっと………とりあえず、助けてくれてありがとう。 お陰で助かったよ」

一夏は先ずはお礼を言う。

「何、気にすることは無い。 困ったときはお互い様だ」

メタルグレイモンがそう言う。

「それで、あなた達は一体………?」

楯無が尋ねると、

「俺達は、四魔獣に対抗するためのレジスタンス。 デジタルワールドの平和を願うデジモン達が集まり、結成した組織だ」

「レジスタンス………」

ワーガルルモンの説明に、楯無は頷く。

「で? 今度は俺からの質問なんだが、何でドルモンたちがこんな所にいるんだ? 奴らの標的のクルモンまで連れ出して」

ベルゼブモンがそう言う。

「あの……その前に何でプロットモン達の事を知っているんですか? ロップモンやクルモンはあなたの事を知っているみたいですが………」

「ん? 何言ってるんだ?」

ベルゼブモンは、訳がわからないといった感じでそういうが、

「ベルゼブモン。 そのままの姿ではドルモン達にはわからない也」

ロップモンがそう言うと、ベルゼブモンは何かに気付いたように、

「ああ、そう言えば、みんなの前じゃ進化したことはなかったな」

ベルゼブモンがそう言うと光に包まれ、小さくなっていき、その光が収まると、

「俺様だよ」

小悪魔のような姿をした成長期デジモンに退化した。

「インプモン!」

ドルモンが驚いた声を上げる。

「インプモンって…………確かタカトが言ってた」

一夏が呟くと、

「ん? お前らタカトの事知ってるのか?」

インプモンがそう聞いてくる。

「あ、ああ。 タカトは友達だ」

「そうなのか? そういやタカトはこっちには来てないのか? アイツ等がいれば、四魔獣との戦いも随分楽になるんだけどよ」

インプモンがそう言うと、一同は俯く。

「ど、どうしたんだよ?」

流石にその光景を見て、インプモンは動揺する。

「タカトは…………」

一夏は、握りこぶしを震わせながらデジタルワールドに来てからのことをインプモンに説明した。



「…………そうか………タカトの奴が足止めに…………それに、トゲモン先生も………」

トゲモンの死を聞き、インプモンもショックを受けていた。

「畜生! 四魔獣の野郎、絶対に許さねえ!!」

インプモンが叫ぶ。

「その為にも、先ずはタカトとの合流だな」

インプモンが気を取り直してそう言う。

「だけど……タカトは………」

一夏が悲痛な表情でそう呟くが、

「へっ! アイツ等がそう簡単に死ぬわけねえだろ!」

インプモンが笑みを浮かべつつそう言う。

「そうか………そうだな!」

一夏もインプモンの言葉で少しだが元気を取り戻す。

「それじゃ、俺達のアジトに案内するぜ」

「「「アジト?」」」

インプモンの言葉に3人は首を傾げるのだった。




























――デジタルワールド 風の強い谷




谷の各所に建てられた家。

その一つ。

その中で…………

「う……………ッ…………はっ!」

タカトが…………目を覚ました。

そして最初に思ったことは、

「生き…………てる…………?」

なぜ自分は助かったのかという疑問だった。







あとがき


第二十五話の完成。

お待たせして申し訳ありません。

別に待ってなければそれでいいんですけど………

とりあえず言い訳は、仕事で不良出したために仕事が凄まじく忙しくなり執筆の時間が取れなかったからです。

後は休日出勤+消防の操法大会+上司の鮎掛けのお付き合いで休日も潰れまくりでした。

さて、二十五話ですが、短いです。

ベルゼブモン出しましたし、タカトも生きてることが判明しました。

なぜ生きているのかは次回です。

デジモンのレジスタンスはゼヴォリューションネタですな。

ゼヴォリューションネタはちょくちょく出てきます。

では次も頑張ります。





[31817] 第二十六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/02/17 21:35


時は遡り、デュークモンと四魔獣が戦っていた時、

「終わりだ! 邪炎煉獄!!」

「ムゲンキャノン!!」

「ヒートバイパー!!」

「裏飯綱!!」

「ジャイアントミサイル!!」

「ジュデッカプリズン!!」

合計6つの究極体の必殺技が、ダストパケットに埋もれたデュークモンを消し去らんと突き進む。

そして―――――――

大気を震わす爆音とともに、デュークモンが埋もれた岩場が消滅し、その後方を数キロに渡って消し去った。

しかし、岩場が完全に爆発に飲まれる寸前、赤い光が四魔獣も気付かない一瞬で空へと駆け上った。

その赤い光とは、元の完全な大きさに修復されたグラニ。

グラニは、大量のダストパケットを吸収し、ギリギリの時間で修復を完了させたのだ。

そのグラニの背には、傷つき、気を失っているタカトとギルモン。

グラニはそのままタカトとギルモンを背に乗せ、どこかへと飛んでいった。



第二十六話 命の価値。 ドルガモン、涙の進化!




「生き…………てる…………?」

どこかのベッドに寝かされていたタカトが目を覚ます。

「ここは………?」

タカトは現状を確認しようと身を起こそうとした。

しかし、

「ッ!? あぐっ!?」

全身を強烈な痛みが襲い、タカトは身を縮こませる。

その時、

「おお!? いかんいかん! まだ動かんほうが良い!」

部屋のドアから白く長い毛と髭をもったデジモン、ジジモンが姿を見せ、痛みで身を縮こませるタカトに駆け寄った。

ジジモンは、手に持っていた桶とタオルをベッドの傍らにあった机に置くと、タカトの身体を優しくベッドに寝かせる。

「ジジモン………?」

ジジモンとは、前の冒険でルキやヒロカズ、ケンタが世話になったデジモンだ。

「僕は………一体………?」

タカトがベッドに寝かされながら尋ねる。

「君は、一週間前に赤い鳥のようなデジモンに運ばれてきたのじゃ。 君とパートナーデジモンも酷いケガをしておったのでな、手当させてもらった」

「パートナー………ッ! そうだ! ギルモン!!………ッ~~~~!?」

ジジモンの言葉にギルモンの事を思い出し反射的に起き上がろうとして、再び襲ってきた痛みに苦しむタカト。

「大丈夫かね? 心配しなくとも、君のパートナーは、反対側のベッドの上じゃ」

ジジモンの言葉に、タカトは首を回して反対側のベッドを確認すると、タカトと同じように全身を包帯で巻かれたギルモンがベッドに寝かされていた。

「あちらも酷いケガじゃったが、命に別状はない。 安心すると良い」

ジジモンの言葉に、タカトはホッと息を吐く。

そして次に思ったことは、仲間たちの事。

「皆、無事だといいけど…………」

タカトは動かない身体を歯痒く思いながら天井を見つめた。








一方、一夏達はレジスタンスのアジトに案内されていた。

レジスタンスのアジトは砂漠の一角にある岩場の洞窟にあり、オアシスもすぐ近くにあるため、生活に困ることはなさそうだった。

「ここが俺達のアジトだ」

インプモンがそう言いながら洞窟に入る。

洞窟の中には、傷ついたデジモン達が治療を受けていたり、治療する側のデジモン達が忙しなく行き来していた。

「あの怪我してるデジモンたちは?」

気になった一夏が尋ねる。

「ああ。 四魔獣の配下との戦いや、その被害にあったデジモン達さ。 アイツ等、抵抗しないデジモン達にも容赦しねえからよ。 ひでえ奴らだ!」

そう答えるインプモン。

それを聞いて、思わず拳を握り締める一夏。

「まあ、とりあえずは今後の方針を決めようぜ」

インプモンはそう言って、一夏達を作戦会議室に案内した。






その頃、スコピオモン達のアジトでは、

「くぅ~~!! またしてもレジスタンスの奴ら! 忌々しい!!」

リーダー格であるスコピオモンが悔しがっている。

「お頭………やっぱり上に報告して応援を頼んだほうが………」

側近のスコピオモンがそう進言するが、

「バカ野郎! ただでさえ計画に遅れが出てんだぞ! それにレジスタンス如きに手を焼いているなんて知られてみろ! もし、そんなことになったら…………」

「そんなことになったら…………どうなるのかな?」

その場に、スコピオモンではない第三者の声が響いた。

その声を聞いた途端、リーダー格のスコピオモンは冷や汗をダラダラと流し始める。

「そ、その声は…………ゴゴゴ………ゴクモン様………」

スコピオモンは、傍目から見てよくわかるぐらいに取り乱し、声がした一点の闇を見つめる。

すると、そこからゆっくりとゴクモンが歩いてきた。

「随分と手を焼いているようだな、スコピオモン…………」

「い、いえ! 決してそのようなことは! 次こそ必ずやレジスタンスどもを根絶やしにしてみせます!」

「おっと、言葉を間違えていた」

「は?」

スコピオモンがゴクモンの言葉に声を漏らした瞬間、ゴクモンの右腕の刃が一閃された。

「なっ!?」

「貴様はもう、用済みだ。 この役立たずが」

「そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

叫びながらデータ分解されるリーダー格のスコピオモン。

ゴクモンは側近のスコピオモンに目を向けると、

「おい、貴様」

「は、はひっ!?」

完全にビビってしまっている側近のスコピオモン。

「これより全軍出撃する。 準備をしろ」

「は、はひっ! 了解しました!!」

スコピオモンは、最早頷く事しか出来なかった。







翌日、レジスタンスアジト。

「敵襲――――――ッ!!!」

朝早くから怒号が響いた。

「な、なんだぁー!?」

あてがわれた部屋で思わず飛び起きる一夏。

部屋と言っても、自然洞窟を利用したメイン通路の壁にドリモゲモンやディグモンといった穴を掘ることに特化したデジモンが横穴を掘って、入口に扉をつけただけの簡単なものだが。

一夏がドルモンと共に部屋を飛び出ると、同じように異変に気付いた楯無、ルナモン、簪、プロットモンも部屋から飛び出してきた所だった。

メイン通路には、レジスタンスのデジモン達が慌てた表情で行き来している。

一夏は近くを通り過ぎようとしたマッシュモンの1体を呼び止めた。

「すまない! 一体何が起きてるんだ? 教えて欲しい!」

「スコピオモン達が攻めてきたんだ! 昨日あれだけ損害を与えたから、しばらくは大人しくしてると思ったのに…………こんな事初めてだ!」

マッシュモンは焦った表情をしながらそう言った。

「なんだって!?」

「戦えるデジモン達は洞窟の入口を死守してる! 少しでも戦力を集めてスコピオモンたちに対抗するんだ!」

マッシュモンはそう言うと、再び慌ただしく駆け出していった。

一夏はそれを聞くと、楯無と簪に向き直る。

「俺達も行こう!」

一夏は握り拳を作ってそう言う。

「そうね。 完全体相手にどこまでやれるかわからないけど、後方からの援護ぐらいはできるはずよ」

「うん!」

楯無と簪も頷く。

「行こう!」

3人と3体は洞窟の入口に向かって駆け出した。






洞窟の入口では、

「デススリンガー!!」

「ギガデストロイヤー!!」

「カイザーネイル!!」

ベルゼブモンを始めとして、メタルグレイモン、ワーガルルモン、その他の完全体、成熟期デジモンが、必死にスコピオモン軍団の侵攻を食い止めていた。

一夏は、ベルゼブモンに駆け寄る。

「ベルゼブモン! 状況は!?」

「お前達か! 見ての通り、あんまり宜しくねえな!」

ベルゼブモンは陽電子砲を撃ちながら一夏に答える。

「それにしても…………はあっ!! スコピオモン達の様子がおかしい」

ワーガルルモンが近付いてきたスコピオモンを蹴り飛ばしながら言った。

「それは俺も思った。 奴らの様子が、何時にも増して必死なんだ。 いつもなら既に退却するほどの損害を出しているにも関わらず、引く様子が全くない」

メタルグレイモンも思ったことを口にする。

「このままだと、いずれ押し切られる!」

ワーガルルモンが事実を言うと、

「………………おいお前ら」

ベルゼブモンが一夏達に言う。

「何だ?」

「ここは俺1人で食い止める。 お前達は、他のデジモン達を連れて、避難通路から脱出しろ!」

「何を!?」

「勘違いすんなよ。 ギリギリまで奴らを引きつけておいて、最後に洞窟の入口を壊して俺も脱出する。 このままやってもジリ貧だ」

ベルゼブモンの言葉に、一夏は言葉に詰まる。

すると、

「わかった。 この場は任せていいか? ベルゼブモン」

「フン。 お前らがさっさと脱出すりゃあ、俺もさっさと逃げられるんだよ」

ワーガルルモンの言葉に、憎まれ口を叩くベルゼブモン。

「よし!」

メタルグレイモンはギガデストロイヤーを放ち、砂煙を巻き上げてスコピオモンの眼を眩ませる。

「動ける者は負傷者に手を貸せ! アジトを放棄して脱出する!」

メタルグレイモンが指示を飛ばす。

生き残ったデジモン達が、お互いに支え合い、ヨロヨロと洞窟の奥へと避難を開始する。

一夏達も、負傷したデジモンをISで支えながら避難を手助けする。

一夏は一度だけ振り返り、ベルゼブモンの背を見つめる。

「くっ!」

無力な自分を悔やむように、声を漏らすものの、歯を食いしばって背を向けた。

そして最後に、

「頼んだぞ、ベルゼブモン!」

「必ず追いついてこい!」

メタルグレイモンとワーガルルモンが洞窟の奥へと消える。

「さて、本気で行くか!」

ベルゼブモンは、陽電子砲で五芒星を描き、魔法陣を展開する。

そして、

「カオスフレア!!」

魔法陣によって増幅された陽電子砲が、スコピオモン達をなぎ払った。





一夏達はメイン通路を奥へと進んでいく。

時折倒れそうになる者もいたが、それぞれが支えあって何とか歩いている。

「みんな! もう少しだ! 頑張れ!」

声を掛け合い、励ます者もいる。

「クルックル! 皆、頑張るでっクル!」

クルモンも皆を応援する。

やがて、通路の先に光が見え始めた。

出口だ。

「頑張れ皆! もう少しで出口だ!」

一夏が声を上げる。

それぞれが重い足を動かし、出口へ向かう。

その時、怪我が軽かったマッシュモンの1体が嬉しさのあまり先行した。

そのマッシュモンが出口まで駆けていく。

「外だ!」

マッシュモンは、出口で一度振り返り、

「皆! 早く早く!」

マッシュモンは嬉しそうに何度も飛び跳ねながら皆を呼ぶ。

一夏達はその様子に、微笑ましさを覚える。

だが、

――ザシュッ!

一筋の閃光が走り、マッシュモンの背中を斬り付けた。

マッシュモンは、自分に何が起こったのか全く分からず、データに分解されて消えた。

「「「なっ!?」」」

驚愕の声を漏らす一夏達。

その出口の先にいた者は、

「グハハハハハハ! 思った通り、まんまと罠に引っかかりおったわ!!」

四魔獣の一角、ゴクモンであった。

「「「ゴクモン!?」」」

一夏達が思わず叫ぶ。

「くっ! 待ち伏せされたか!」

ワーガルルモンが悔しそうに言った。

その時、レジスタンスメンバーであるトリケラモンが、傷ついた身体に鞭打って皆の前に出た。

「俺が道を開ける! 皆はその隙に脱出しろ!!」

トリケラモンがそう言ってゴクモンに突進していく。

「や、やめろぉ!!」

一夏は何故叫んだのか分からなかった。

だが、嫌な予感だけしかしない。

「トライホーンアタック!!」

トリケラモンは3本の角を突きつけ、ゴクモンに全力でぶつかった。

しかし、

「バ、バカな…………」

トリケラモンが驚愕の声を漏らす。

トリケラモンの渾身の一撃は、ゴクモンを数メートル後退させただけであった。

「はっ! 何を驚いている? 完全体如きの攻撃が、この俺に通用すると思っていたのか?」

ゴクモンは嘲笑いながら右腕の刃を振りかぶる。

「髑髏乱舞!!」

一瞬で振るわれた刃の乱舞に、頑丈なはずのトリケラモンの甲殻が瞬く間に切り裂かれていく。

「ぐわぁあああああああああああっ!!??」

トリケラモンは断末魔の叫びをあげ、データに分解されてしまった。

「トリケラモン!!」

メタルグレイモンが叫ぶ。

完全体のトリケラモンがあっさりとやられた事で、戦慄が奔る。

このまま全員で突撃しても、生き残れるのは極僅か。

最悪全滅も有り得る。

その時、

「そうだわ! ドリモゲモン! ディグモン! 横穴を掘って!」

楯無が叫ぶ。

「「え?」」

呼ばれた2体は声を漏らす。

「新しく横穴を掘って、避難通路を作るのよ!」

その言葉でハッとする2体。

「そ、そうか!」

「ようし!」

2体は横穴を掘り始める。

だが、例え穴掘りが得意な2体でも、脱出までにはしばらく時間がかかるだろう。

「メタルグレイモン」

ワーガルルモンがメタルグレイモンに呼びかける。

「ああ」

メタルグレイモンは、その意味をすぐに理解して頷くと、ワーガルルモンと共にゴクモンの前に立ちふさがった。

「俺達が時間を稼ぐ。 ドリモゲモン達は早く通路を!」

ワーガルルモンはそう言うと、ゴクモンに向かって構える。

「カイザーネイル!!」

「ギガデストロイヤー!!」

ワーガルルモンは爪の斬撃を飛ばし、メタルグレイモンは胸部ハッチから有機体系ミサイルを発射する。

ゴクモンは洞窟の外へ飛び退く。

ワーガルルモンとメタルグレイモンもそれを追って外へ出た。

洞窟の外は岩場の渓谷であり、洞窟の出口の50mぐらい先には、切り立った崖と、その下を流れる急流の川があった。

「おおおおおっ!!」

ワーガルルモンは、ゴクモンに殴りかかる。

「遅い!」

ゴクモンは、余裕をもって刃の腹でその拳を受け止める。

「チィ!」

ワーガルルモンは直ぐに飛び退き、間合いを取る。

そこへ、

「トライデントアーム!!」

メタルグレイモンの機械化された左腕の爪が射出された。

「フン!」

ゴクモンは、何でもないように刃を軽く振ると、トライデントアームを弾き、軌道を変える。

メタルグレイモンは直ぐにワイヤーで巻き戻した。

「くっ」

声を漏らすメタルグレイモン。

その時だった。

「パワーメタルッ!!」

ワーガルルモンとメタルグレイモンの後方から、鉄球が飛んできてゴクモンに向かう。

「むっ?」

ゴクモンは突然の攻撃に声を漏らすものの、あっさりと右の刃で鉄球を弾いた。

ワーガルルモンとメタルグレイモンは思わず後ろを振り向く。

そこには、ドルモンをドルガモンに進化させた一夏がいた。

白式も纏っている。

「「イチカ!?」」

2体は思わず一夏の名を呼ぶ。

「一夏君!? 駄目よ! 戻りなさい!」

洞窟の中から楯無が叫ぶが、一夏は聞いちゃいない。

「おいテメェ! 聞きたいことがある!」

一夏が叫んだ。

ゴクモンは一瞬、誰だと思ったようだが、直ぐに思い出したように笑った。

「フハハハハハハ! 誰かと思えば、あの時逃げ出した人間ではないか! 何だ、貴様もここにいたのか? 運の無い奴め」

一夏を馬鹿にするように言うが、一夏は別の事で頭が一杯だった。

「タカトはどうした!? 答えろ!!」

一夏は怒りの表情でそう叫ぶ。

「タカト? ああ、あの救世主か? ククク………どうなったと思う?」

勿体ぶるように挑発するゴクモン。

その態度に、一夏は耐え切れずに飛び出した。

「答えろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

叫びながら雪片弐型を振りかぶり、ゴクモンに一直線に突っ込む一夏。

渾身の力で斬りかかるが、

――カァァァァン

軽い音を立てて、一夏の渾身の一撃はあっさりと受け止められた。

「何だ、今のは? それで攻撃のつもりか?」

ゴクモンは、受け止めた一夏の刃をジリジリと押し返していく。

「く、くぅぅぅぅぅっ!」

一夏も負けじと必死に抗おうとするが、いくらISを纏っているとはいえ、究極体との力の差は絶望的だ。

「フン!」

ゴクモンは軽く力を込めて一夏を押した。

ただそれだけの事で、一夏は勢いよく吹き飛ぶ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

一夏は十数メートル吹き飛び、地面を転がった。

ISも解除される。

「イチカッ!」

ドルガモンが咄嗟に飛び出し、ゴクモンに飛びかかる。

だが、

「ヌルい!」

「うわあっ!?」

ゴクモンの廻し蹴りが炸裂し、側頭部を蹴られ、ドルガモンは一夏の直ぐ傍に吹き飛ばされ、転がった。

「ハッ! 成熟期如きがいきがりおって!」

ゴクモンの蹴りで、ドルガモンは戦闘不能になるほどのダメージを受けていた。

「所詮は虫ケラ。 殺す価値もない。 が、目の前で何度も飛ばれると、目障りなことこの上ない」

ゴクモンはそう言うと、左腕の砲身を一夏とドルガモンに向けた。

「目障りな虫ケラは、早めに始末するとしよう」

一夏もドルガモンも、ダメージが大きく動けない。

「死ねぃ! 邪炎煉獄!!」

左腕の砲身から獄炎が一夏達に向けて放たれた。

「く………」

「くそう………」

動けない一夏とドルガモンは、観念して目を瞑った。

次の瞬間、炎が一夏達に襲いかかった。

一夏は死を覚悟する。

身を焦がすほどの熱さが感じられ、そのまま意識がなくなるのかと思っていた。

だが、一夏はおかしい事に気付く。

確かに熱いことは熱い。

だが、死ぬような熱量ではない。

「ッ!?」

一夏目を開ける。

そこには、信じられない光景があった。

「な…………!」

何故なら、ワーガルルモンが一夏を。

メタルグレイモンがドルガモンを、その身を盾にしてゴクモンの邪炎煉獄から一夏達を守っていた。

「ワ、ワーガルルモン………」

一夏が震える声でワーガルルモンの名を呼ぶ。

「くうっ!」

ワーガルルモンは膝を付き、メタルグレイモンは横に倒れる。

2体の体は既に、データ分解が始まっていた。

「ど、どうして………?」

暴走で勝手にピンチに陥った自分達を、2体は命をかけて守ってくれたのだ。

「はぁ………はぁ………賭けてみたくなったのさ………」

「えっ?」

「一夏達人間の………テイマーの力を………」

「ワーガルルモン!」

一夏の目から涙が溢れる。

「お前達は、俺達の分まで生きてくれ…………」

「メタルグレイモン……!」

メタルグレイモンの言葉に、ドルガモンも感極まる。

「この世界の未来を………この世界に住む命を…………君達に託す…………」

「お前達の手で………守ってやってくれ…………」

ワーガルルモンとメタルグレイモンのデータ分解が加速する。

だが、消える寸前、

「「命は………ただそこに在るだけで美しい………」」

その言葉が、一夏達の心に響いた。

それを最後に、ワーガルルモンとメタルグレイモンは消滅する。

「グハハハハハ!! バカな奴らめ! そのような虫ケラを庇って消えるとは!」

大笑いするゴクモン。

「……………何をやっているんだ……俺は………?」

一夏とドルガモンの脳裏には、トゲモン先生が死んだ時のことが思い返されていた。

「これじゃあ………あの時と一緒じゃないか………」

地面に両手を付く一夏。

その際に、持っていたカードの束が落ち、一夏の前に広がる。

「苦しいか? 安心しろ。 直ぐにお前も後を追わせてやる」

ゴクモンはそう言うと、一夏にゆっくりと近付いて行く。

「……………たまるか……」

「ん?」

一夏の漏らした声に、怪訝に思ったゴクモンが足を止める。

「こんな所で……死んでたまるか……!」

一夏は地面に落ちたカードの一枚を掴み、

「うあああああああああああああああああああああああああっ!!!」

咆哮と共に立ち上がった。

「くっ、うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

ドルガモンも、まるで一夏に答えるように咆哮を上げ、立ち上がった。

「「うわぁあああああああああああああああああああっ!!!」」

一夏とドルガモンの咆哮が重なる。

その時だった。

一夏の握っていたカードが光を放ち、その姿を変えていく。

それは、完全体への進化の鍵、ブルーカード。

一夏はゴクモンを睨みつけ、

「行くぞ! ドルガモン!!」

「おお!!」

一夏の呼びかけに力強く応えるドルガモン。

一夏はDアークを取り出し、ブルーカードをスラッシュする。

「カードスラッシュ!」

Dアークがブルーカードのデータを読み込み、ドルガモンへと送られる。

「マトリックスエボリューション!!」

その瞬間、

「クルーーーーーッ!?」

クルモンの額の紋章が輝き、赤き光がドルガモンへと降り注ぐ。

そして、

―――MATRIX

EVOLUTION―――

Dアークに文字が表示され、光を放つ。

「ドルガモン進化!」

ドルガモンの身体が更に大きくなり、藍色の体毛は、赤と白に変わる。

鼻先からは稲妻のような形をした刃のような角が生え、背中の翼も2対4枚に増える。

2足歩行だったものが4足歩行へ。

よりドラゴンへと近くなった獣竜型デジモン。

その名は、

「ドルグレモン!!」

完全体へと進化したドルグレモンがゴクモンの前へと降り立つ。

「ドルガモンが………進化した………」

驚愕の表情で、簪が呟く。

楯無がDアークで、ドルグレモンのデータを表示した。

「ドルグレモン 完全体 獣竜型 データ種。 必殺技は、『メタルメテオ』と『ブラッディータワー』」

ゴクモンは、ドルグレモンを見ると、

「フン! 例え進化したとて完全体。 この俺様の敵では無いわ!」

ゴクモンは余裕の態度を崩さない。

ドルグレモンは黙ってゴクモンを睨みつける。

そして次の瞬間、前足で地面を蹴り上げ、背中を逸らし、口を開けて真上に向ける。

すると、口の先に小さな鉄球が具現された。

その小さかった鉄球は、瞬く間に巨大化し、ドルグレモンの10倍以上の大きさと超質量を持った巨大な鉄球となる。

「メタルメテオ!!」

ドルグレモンは反り返っていた体全てを使って、投げつけるように体を振り下ろした。

それと同時に放たれる巨大な鉄球。

「ぬおっ!?」

ゴクモンはそれを刃で受け止めようとしたが、思った以上の威力に声を漏らす。

ゴクモンの足元がメタルメテオの重さで砕け、足が沈み込む。

その時、ドルグレモンとゴクモンの中間辺りの地面に一筋の罅が走った。

メタルメテオの重さで、崖の岩場が崩れようとしているのだ。

「ッ! 簪ちゃん! 罅を狙って!」

それに気付いた楯無が叫ぶ。

「分かった!」

簪がISを展開し、空中に飛び上がると全武装を発射する。

それらは罅全体に着弾し、更に罅を広げる。

だが、まだ足りない。

「レキスモン! テイルモン! 押し込んで!」

楯無は、予め進化させていた2匹に指示を出す。

レキスモンとテイルモンは駆け出し、高く飛び上がると、

「ムーンサルト………」

「ネコ………」

「「キック!!」」

メタルメテオを上の方から蹴り下げる。

「ぬぐぅ!?」

更に押し込まれ、声を漏らすゴクモン。

だが、まだ崖は崩れない。

その時、

「ドルグレモン!!」

一夏が叫ぶ。

「おう!!」

ドルグレモンは一夏に応えて翼を使い、空高く舞い上がる。

そして、

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

上空から勢いを付けて急降下した。

その勢いのまま、ドルグレモンはメタルメテオを踏みつける。

「ぬがぁ!?」

ゴクモンもついには耐え切れなくなり、膝を付いた。

その瞬間、ついに崖が崩壊し、崩れていく。

「なんだとぉ!?」

予想外の事態に、大声を上げるゴクモン。

いくら強くて究極体とは言え、ゴクモンは空は飛べないし、水中型でもない。

よって、急流に飲まれたゴクモンは、成す術なく流されていった。

「ぬわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………!」

やがてゴクモンの声が聞こえなくなると、

「…………何でだ? なんで俺はいつも…………遅すぎるんだ…………?」

一夏は完全体に進化させることが出来たことを喜びもせず、己の無力感に打ち拉がれるだけであった。




やがて、入口で足止めをしていたベルゼブモンが合流する。

「そうか………ワーガルルモンとメタルグレイモンまで…………」

そう気落ちした声で呟く。

主力メンバーの殆どを失ったレジスタンスは、これ以上活動を続けることは難しくなってしまった。

唯一の救いは、このエリアで暴れまわっていたスコピオモン軍団に大打撃を与えることができたので、今しばらくは大人しくしているだろうことだけ。

生き残った者達の話し合いの末、ベルゼブモンが一夏達と行動を共にし、四魔獣を直接倒すことに賭ける事にした。

一先ずの目的は、タカトとの合流を目指し、一行は再び旅に出るのであった。

しかし、一夏の心に燻る闇に気付くものは、誰もいない。

そう、一夏自身ですらも……………








あとがき

第二十六話の完成。

で、遅れてすみません。

気付けば半年以上もほったらかしだった。

自分の中ではあまり間を空けてるつもりはなかったのですが、前回の投稿日を見てびっくりです。

でも、スランプ中に書いた前半はともかく、後半は割と書けてると思います。

とは言え、ゼヴォリューションネタがわんさかと。

で、ドルグレモンに進化しました。

進化シーンはあんなもんでどうですか?

タカトも生き残れた理由もあんな感じです。

無理あるか?

ともかく、お次は楯無と簪の完全体進化。

相手はあのデジモンしかいないでしょう!

では、次も頑張ります。





[31817] 第二十七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/03/22 21:20

第二十七話 乙女の怒り! 更識姉妹の超進化!




――リアルワールド




タカト達がデジタルワールドに行き、およそ2週間が過ぎた。

その頃、リアルワールドでは、ヒュプノスとワイルドバンチの面々により、タカト達の応援及び救出を行うための準備が進められていた。

デジタルワールドに行くために必要なもの。

それは、以前の冒険の帰還の時にも使用された方舟『アーク』。

その2号機である。

1号機はグラニとなっている為、新しく作り直しているのだ。

しかし、以前のデータがあるとは言え、前よりも強固となっているリアルワールドとデジタルワールドの境界を突破する為に、以前に発生した問題点を改善し、更に強化しなければならなかった為、時間がかかっていたのだ。

そして、漸くデジタルワールドへ行く目処が立った頃、新たな問題が起こった。

本来、デジタルワールドへ行くメンバーは、ルキとレナモン、ジェンとテリアモン、リョウとサイバードラモンの究極体に進化できる3組のコンビを予定していた。

しかし、箒を始めとした一夏に想いを寄せる者達が、「自分も行く」と駄々をこね始めたのだ。

「何と言われようと、私は行くぞ!!」

箒が怒鳴るように叫ぶ。

「い、いや………気持ちは分かるけど、デジタルワールドは危険も多いんだ。 君達を行かせるわけにはいかないんだ」

それに対し、ジェンがやんわりと断ろうとするが、

「危険なんて百も承知よ! いいから連れて行きなさい!」

鈴が有無を言わさぬ迫力でそう言う。

「一夏さん達が危ないんですのよ! ジッとなんかしていられませんわ!」

「僕達も一夏達を助けに行きたいんだ。 だからお願い!」

「その程度の脅しで私が屈すると思ったら大間違いだ!」

セシリア、シャルロット、ラウラも引こうとしない。

「う~ん………」

5人の剣幕にジェンは困った表情で頭をかく。

すると、

「甘い! 全っ然甘い!」

ルキがピシャリと言い放った。

その言葉に、5人はムッとした表情をルキに向ける。

「今のは聞き捨てならんぞ!」

「危険なら百も承知だって言ってるじゃない!」

箒と鈴がそう反論する。

すると、

「だからわかってないって言ってるのよ。 わかってたら、一緒に行くなんて言い出さないわ」

ルキは全く怯みもせずに、淡々とそう告げる。

更に、

「この際だからハッキリと言っておくわ。 あなた達が一緒に来られると、足手纏いなの。 もっと言えば、邪魔ね」

オブラートをビリビリに破り捨てたような言葉で、バッサリと言い放った。

「「「「「なっ!?」」」」」

「おい、ルキ………」

5人が驚愕の声を漏らし、リョウがルキを宥めようとする。

「こいつらに遠まわしに言っても無駄よ。 前にデジタルワールドに行った時にも、パートナーデジモンを持たない奴が2人ついて来たけど、そのせいでどれだけ私が苦労したか分かってるの?」

その2人とは、言わずもがなヒロカズとケンタである。

デジタルワールドに着いた早々に、その2人は光の柱に飲み込まれそうになり、ルキは自らその光の柱に飛び込んで、2人のフォローに回った。

その後も合流するのに一苦労であり、そういう意味では、ルキは以前のデジタルワールドの冒険で、一番苦労した人物とも言える。

「まあ、その2人は最終的にテイマーになったけど、あなた達もそうだとは限らない。 それに今の貴方達じゃ、デジモン達と深い信頼関係を結べるとは到底思えない。 だから、貴方達を連れて行くわけにはいかない。 納得した?」

「「「「「できるか(ませんわ)(ないよ)!!!」」」」」

あんまりなルキの言葉に、揃って反論する5人。

「ルキ…………それじゃあ、喧嘩売ってるだけだよ………」

ジェンが肩を落としながら呟く。

「じゃあ仕方ないわ。 勝負しましょう」

「「「「「っ!?」」」」」

ルキが突然言い出す。

「その勝負に勝ったら、貴方達を連れてってあげる。 けど、負けたら潔く諦めなさい」

「乗った!」

鈴が間髪入れず叫んだ。

他の4人も、鈴ほどテンションは上がっていないが、皆頷いてやる気を顕にしている。

「決まりね。 勝負の方法は、私とレナモンが進化したサクヤモンで貴方達5人全員を同時に相手するわ。 私の勝利条件は貴方達全員のISの解除。 貴方達の勝利条件は、サクヤモンをその場から一歩でも動かすこと。 これで如何?」

「ッ!? 舐めてるの!?」

鈴がプライドに障ったのか、噛み付くように叫ぶ。

「あら? 貴方達にしてみれば、チャンスだと思うけど? それに究極体を一歩でも動かせるなら、それなりに戦力としても数えられるわ。 如何?」

「むぐぐ…………」

鈴は、納得いかない表情をしているが、油断している相手に吠え面を書かせてやろうという意味を込めて、渋々頷いた。






そして後日。

千冬の計らいで、IS学園のアリーナの一つを完全に貸し切り、そこで賭け試合が行われることになった。

もちろん非公開である。

ルキは、既にレナモンと共にサクヤモンに進化し、アリーナ中央で静かに佇んでいた。

「………………来た」

サクヤモンが呟くと、ピットの出口から5機のISを纏った少女達が飛び出してくる。

そのまま、5人はサクヤモンを取り囲むように円を作って着地する。

「覚悟はいいな?」

箒が睨みつけながら問いかける。

「いつでも」

サクヤモンは、全く動じない声で呟く。

「はん! 油断してると、足元掬われるわよ!」

鈴は挑発的な言動を取る。

あわよくば、相手を逆上させて自分から動くように仕向けるためだ。

『その言葉、そっくりそのまま貴方に返すわ』

ルキが言い返す。

「なんですって!?」

まあ、逆に挑発されて逆上してしまっては、元も子もないが………

『話はそこまでだ。 各自、準備はいいな?』

千冬からの放送に、それぞれは気を引き締める。

『それでは……………始め!』

千冬の合図と同時に、

「むん!」

箒はいつでも飛び出せるように身構え、

「行きなさい! ブルー・ティアーズ!」

セシリアはビットを射出し、

「くらえぇぇぇぇぇっ!!」

鈴は龍砲をチャージし、

「そこっ!」

シャルロットは、両手にグレネードを構え、

「全力で行く!」

ラウラは肩のレールガンをサクヤモンへ向ける。

そして、一斉放火が放たれる瞬間、それよりも早くサクヤモンが錫杖で地面を軽く突いた。

すると、錫杖で突いた地面を中心に陣が広がり、

「金剛界曼荼羅!」

その陣から発生した結界が、全ての攻撃をかき消し、

「「「「「きゃぁあああああああああっ!!」」」」」

そのまま5人を飲み込んだ。

5人はそれぞれがアリーナの壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。

それと同時にISも強制解除された。

『そこまで!』

千冬の試合終了の合図が下される。

あっという間の決着であった。

当然ながら、必殺技の威力は最低限にまで手加減している。

それでいて、全ての攻撃を弾き飛ばし、更に5機のIS全てを強制解除に陥らせた。

圧倒的な力の差だった。

『これで分かったでしょう? 貴方達では、足手纏いもいい所よ』

冷たく突き放すルキの言葉。

すると、

「……………………嫌われ役も楽じゃないわね、ルキ」

サクヤモンが周りに聞かれないようにボソリと呟く。

『…………フン!』

ルキはサクヤモンの中で、誤魔化すようにそっぽを向いた。













デジタルワールドのとある河岸。

突然水中から手が現れ、近くの岩に手をかける。

そして、その手に力が篭もり、水中から本体を引きずり出した。

「ぶはぁっ!!」

水中から勢い良く現れ、息を大きく吸い込んだのは、ドルグレモンによって川に落とされたゴクモンであった。

「おのれ………! あのガキ共…………! 絶対に許さんぞ!」

油断していたとは言え、思わぬ醜態を晒してしまったゴクモンは、非常に不機嫌だった。

すると、

「「ゴクモン様」」

よく似た2つの女性の声が重なって聞こえた。

「むっ?」

ゴクモンが声の聞こえた方を向くと、

「「ああ………お労しやゴクモン様………」」

地面に映る岩の影から、2体の漆黒の衣を纏った女性型デジモンが現れた。

「何の用だ?」

ゴクモンは、現れた2体のデジモンを見ると、大した興味も抱かずにそう聞く。

「「ゴクモン様。 ゴクモン様の顔に泥を塗った者の始末、是非とも我ら姉妹にお任せを」」

そのデジモン達は、お辞儀をしながらそう言った。

「ふむ…………」

ゴクモンはそれを聞くと、考える仕草をした。

「ベルゼブモンは貴様らでも荷が重いだろう。 奴には手を出すな。 人間の女2人は好きにしろ。 ただし! 人間の男とそのデジモンは殺すな! 奴らは俺が直々に殺してやる」

「「御意」」

2体の女性型デジモンは頷くと再び影に消える。

「フン。 奴らでも時間稼ぎにはなるだろう。 首を洗って待っておれ! 人間の男よ!! フハハハハハハハ!!」

ゴクモンは高笑いすると、再び足を進めた。






その頃、一夏達は砂漠を越えた先にある石柱が並ぶ岩山に到着していた。

その時には既に日が沈みかけており、辺りが暗くなり始めていた。

「今からこれ以上先へ進むのは危険ね。 今日はここで野宿しましょう」

楯無がそう提案する。

皆も、その言葉に頷いた。

すると、

「はっ?」

ルナモンが耳をピクピクさせて、周りを注意し始める。

「どうしたの? ルナモン」

楯無が尋ねると、

「何か来る!」

ルナモンが叫んだ瞬間、石柱の影から2体の漆黒の衣を纏った女性型デジモンが飛び上がった。

「「オ~~~ホッホッホッホ!!」」

岩山に女性の高笑いが響く。

「ようこそいらっしゃいました! カワイイ坊や達!」

「疲れたでしょう? ゆっくり休んでいいのよ?」

「「永遠にね!」」

「「「「「ッ!?」」」」」

突然の敵の出現に戦慄する一夏とデジモン達。

だが、

「なーんかやな感じのデジモン!」

「あれ何てデジモン?」

相手デジモンの性格がカンに障ったのか、凄まじく黒いオーラを放っている楯無と簪。

簪に調べろと言われた一夏は背中に冷たいものを感じながら、慌ててDアークを取り出し、データを表示させる。

「レディーデビモン 完全体 堕天使型 ウイルス種 必殺技は、無数のコウモリを放って相手を焼き尽くす、『ダークネスウェーブ』」

一夏がデータを確認すると、

「オ~~~ホッホッホ! さあたっぷりと可愛がってあげるわ!」

「この私達、デビモンシスターズがね!」

デビモンシスターズと名乗る2体のレディーデビモンは、高らかに叫びながら左手の爪を見せつける。

「それではお姉さま。 お姉さまからお先にどうぞ?」

「いいえ、かわいい妹。 あなたが先にやっていいわよ」

「「ウフフフフフ」」

お互いに譲り合い、何故か笑う2体。

「……………お前達、仲いいんだな」

思わずそう言ってしまう一夏。

「「美しき姉妹、デビモンシスターズよ。 そちらの醜い姉妹と一緒にしないで欲しいわ」」

自分達を持ち上げつつ、何故か楯無、簪を貶すデビモンシスターズ。

「「ッ…………!?」」

その瞬間、楯無と簪は頭にカチンと来た。

だが、その2人の様子には誰も気付かない。

「ではお姉さま。 2人一緒にやりましょう」

「それは良い考えね、かわいい妹」

2体の話が纏まりつつある。

「完全体か………それなら、俺様とドルモンで………!」

「うん!」

インプモンがそう言い、ドルモンが頷く。

2体が前に駆け出そうとして、

「「待って…………!」」

静かに…………それでいて凄まじく重い空気がその場を支配した。

その空気に、インプモンとドルモンは思わず足を止めた。

「「ウフ…………ウフフフフフフフフフフ……………」」

楯無と簪の妖しい笑い声がその場に響く。

「…………あ、あの………? 楯無さん? 簪さん?」

思わず腰が引ける一夏。

「みんなは手を出さないで………!」

「アイツ等は私達が殺るから………!」

2人の冷たい言葉に、一夏達はコクコクと首を縦に振った。

すると、黒いオーラを纏ったまま、楯無と簪は前に出る。

「…………行くわよ、ルナモン」

「…………殺るよ、プロットモン」

「「う、うん………」」

2人の言葉に、黒いオーラに当てられながら冷や汗を流すパートナーは頷いた。

「「カードスラッシュ! 超進化プラグインS!」」

2人は進化カードをスラッシュした。

――EVOLUTION

「ルナモン進化!」

「プロットモン進化!」

2体は成熟期へと進化する。

「レキスモン!」

「テイルモン!」

進化した2体は、デビモンシスターズに向かって構える。

「行って! レキスモン!」

「殺っちゃって! テイルモン!」

2人はそれぞれ声をかける。

「タテナシ………なんか怖い」

「うう………カンザシが黒い………」

いつもと調子の違うパートナーに少々戸惑いながらも、気を取り直し再びデビモンシスターズを見上げる。

「では、一緒に攻撃しましょう、かわいい妹」

「はい。 お姉様」

丁度その時にデビモンシスターズも話が纏まったらしく、レキスモン、テイルモンに向かって構える。

「「ダークネスウェーブ!!」」

デビモンシスターズが舞うように一回転して左腕を振ると、無数のコウモリの形をしたエネルギー波が放たれ、広範囲に渡って襲いかかる。

「くっ!」

「ううっ!」

レキスモンとテイルモンは、何とか直撃は避ける。

すると、レキスモンは背中から氷の矢を引き抜き、

「ティアアロー!!」

それをレディデビモン姉に向かって放った。

だが、

「ハン!」

それはレディデビモン姉の右手で軽く払われた。

一方、

「ネコパンチ!!」

テイルモンが石柱を駆け上がって飛びかかり、レディデビモン妹に向かってパンチを繰り出した。

「ハッ!」

しかし、レディデビモン妹の左手の爪によって迎撃され、逆に吹き飛ばされる。

「うああっ!」

「テイルモン!」

テイルモンは地面を転がる。

「「アハハ! その程度の技で、この私達をやろうってのかい?」」

余裕の表情で笑うデビモンシスターズ。

「くそ! 成熟期で完全体の相手は無理だ! やっぱり俺が………」

不利な状況を見かねて、一夏が思わず飛び出そうとした時、

「「一夏君(織斑君)は邪魔よ! 引っ込んでて!!」」

「はい!!」

2人の一喝に身が竦み、直立不動で返事を返した。

「…………女って怖ぇな」

インプモンがボソリと呟く。

「イチカ………情けないよ………」

自分のパートナーの情けなさに少し思う所があるドルモン。

「シウチョンもあんな風になったりするのだろうか?」

自分のパートナーを思い、首を傾げるロップモン。

「クル~………?」

よくわかっていないクルモン。

そんな中でも、戦いは続いている。

「ムーンナイト………」

レキスモンがムーンナイトキックを放とうと空中に飛び上がり、宙返りする。

だが、

「遅い!」

レディーデビモン姉が技を放つ寸前にレキスモンに肉薄。

左の爪で攻撃する。

「うわぁっ!?」

吹き飛ばされるレキスモン。

「ネコキック!!」

テイルモンがレディデビモン妹に蹴りを放つが、

「ハハッ!!」

レディデビモン妹は嘲笑いながらそのケリを避け、即座に反撃する。

「うああっ!」

再び吹き飛ばされるテイルモン。

やはり、完全体との差は大きい。

「アハハハハ! 弱い、弱すぎるわ!」

「そう笑わないであげなさい、かわいい妹。 私達を相手にしているのよ。 当然の結果じゃない」

「ウフフ………今からでもそこの男に助けを求めれば? 貴方達のような醜い女は、地べたに這い蹲って男に媚を売ってる姿がお似合いよ」

「あらあら? かわいい妹。 醜い女には、媚を売ることすらできませんわよ?」

「「オ~~~ホッホッホッホ!!」」

完全に楯無と簪を見下しているデビモンシスターズ。

だがその時、

――プチン

2人の脳裏で何かが切れた。

「「フフ…………ウフフフフフフフフ…………!」」

再び妖しい笑い声が2人の口から漏れる。

顔を上げた2人の顔は………

とても晴れやかな笑顔だった。

「不思議ね簪ちゃん。 お姉ちゃん、今とっても頭がスッキリしてるの」

「うん。 わかるよお姉ちゃん。 私も今ならどんな残酷な事でも表情一つ変えずに出来そうな気がする」

次の瞬間、2人の体から(幻覚だが)真っ黒なオーラが吹き出した。

「「こんなに頭にきたの、生まれて初めてよ!」」

一語一句違わずシンクロする楯無と簪。

2人は自然と1枚ずつカードを取り出す。

そして、それを顔の前にかざした時、そのカードが光を放ち、ブルーカードへと姿を変える。

「えっ? ブルーカード?」

一夏は驚いているが、楯無と簪は表情一つ変えない。

まるで、それが当然であったかのように振舞っている。

「「行くよ(わよ)! テイルモン(レキスモン)!!」」

2人はブルーカードをDアークにスラッシュする。

「「カードスラッシュ! マトリックスエボリューション!」」

「クル~~~~~~!!」

その瞬間、クルモンの額から光が迸る。

そして、

―――MATRIX

EVOLUTION―――

Dアークに文字が表示され、光を放つ。

「レキスモン進化!」

「テイルモン進化!」

2体は光の中で進化する。

レキスモンは、獣人型から人に近い魔人型へと姿を変え、両手にはそれぞれノワ・ルーナと呼ばれる武器を持ち、更に神秘的で美しい姿へと進化した月の加護を持つ魔人型デジモン。

「クレシェモン!!」

テイルモンは光に包まれ、人型へと姿を大きく変える。

更にその背中には8枚の純白の翼。

美しい金色の髪に純白の衣を纏いし、女性型天使デジモン。

「エンジェウーモン!!」

光とともに、2体の完全体デジモンが姿を現した。

「すげー………っと、そうだ」

一夏は一瞬見惚れていたが、直ぐにDアークを取り出し、データを表示させた。

「クレシェモン 完全体 魔人型デジモン データ種 必殺技は、『ルナティックダンス』、『アイスアーチェリー』、『ダークアーチェリー』。 エンジェウーモン 完全体 大天使型デジモン ワクチン種 必殺技は、『ホーリーアロー』」

一夏がデータを読み上げると、

「今度は負けちゃダメよ! 行きなさい! クレシェモン!!」

「わかった!」

楯無の言葉でクレシェモンはレディーデビモン姉に向かって跳躍し、

「エンジェウーモン! 頑張って、負けちゃダメ!」

「ええ!」

簪の言葉で、エンジェウーモンはその8枚の翼を広げ、レディーデビモン妹に向かって飛び立った。

「さっきはよくもやってくれたわね。 お返しよ!」

エンジェウーモンは右手を振りかぶり、レディーデビモン妹の頬に思い切り平手をかました。

「ッ!? 何よ!」

レディーデビモン妹は一瞬怯むが、直ぐに立て直し、お返しとばかりにこちらも平手を放つ。

「ッ!? くぅ!!」

「ッ!? ちぃ!!」

平手の応酬を繰り返すエンジェウーモンとレディーデビモン妹。

「あ、あら~…………」

その様子を呆けた顔で見ている一夏。

「女って、やっぱ怖ぇえ」

再認識するインプモン。

「大人しかったプロットモンが、あんな風になるなんて………」

成長期の時との違いに、呆気にとられるドルモン。

一方、クレシェモンは石柱を足場にレディデビモン姉の周りを舞うように跳躍して、レディデビモン姉を翻弄していた。

「この! ちょこまかと!」

次第にイラついてくるレディーデビモン姉。

すると、

「遊びは終わりよ! ダークネスウェーブ!!」

レディーデビモン姉はコウモリを放ち、クレシェモンの足場を狙った。

「何っ!?」

思わず体勢を崩すクレシェモン。

その隙をレディーデビモンは逃さない。

「終わりよ! ダークネススピアー!!」

左腕を槍と化し、一直線にクレシェモンに向かって突撃した。

「ッ!?」

体勢の悪かったクレシェモンはその攻撃を避けることが出来ず、その槍に貫かれた。





エンジェウーモンとレディーデビモン妹は未だに平手の応酬を続けていた。

だが、

「生意気なんだよ!」

レディーデビモン妹が体を捻り、エンジェウーモンを蹴り落とした。

「うあっ!?」

地面に激突するエンジェウーモン。

「貰った! ダークネススピアー!!」

地面に倒れているエンジェウーモンに向かって左腕を槍にしつつ急降下する。

レディーデビモン妹は、確実に勝利を確信していた。

しかし、

「フフッ」

エンジェウーモンが不適な笑みを零す。

そして次の瞬間、エンジェウーモンの姿がレディーデビモンの視界から突然消えた。

「何っ!?」

そのまま左腕の槍は地面に突き刺さる。

「勝利を確信した時こそ、最大の隙となる」

簪がつぶやく。

その手には一枚のカードが握られていた。

それは高速プラグインB。

エンジェウーモンは既にレディデビモンの後ろへ回り込んでいた。

既に必殺技を撃つ体勢にある。

「なぁ!?」

レディーデビモンはエンジェウーモンに気付くが、左腕が深く地面に刺さっており、咄嗟の行動が出来ない。

「ホーリーアロー!!」

エンジェウーモンが、聖なる矢を放った。

「いやぁぁぁぁぁっ!! お姉さまぁぁぁぁぁぁっ!!」

聖なる力を持った矢は、暗黒系デジモンであるレディーデビモンにとって弱点とも言える攻撃である。

レディーデビモン妹は成す術なくその矢に貫かれ、消滅した。

「そ、そんなっ!?」

妹がやられた事に、姉は驚愕する。

「よくも………よくも私のかわいい妹をぉぉぉぉぉぉっ!!」

レディーデビモン姉は、逆上して襲いかかろうと…………

「あら? どこを見てるのかしら?」

楯無の声が響いた。

次の瞬間、貫いたはずのクレシェモンの姿が消える。

「何っ!?」

レディーデビモン姉は声を漏らし、楯無を見る。

「オプションカード、『エイリアス』。 分身のカードよ。 今あなたが貫いたのは唯の分身。 それじゃあ本物は?」

楯無がそう言った瞬間、レディーデビモンは空を見上げる。

既に日が沈み、登り始めた月をバックに両手のノワ・ルーナを合体させ、弓にしたクレシェモンが氷の矢を構えていた。

「し、しまった!?」

レディーデビモンは驚愕の表情をする。

「そう………その顔が見たかったの」

楯無がそう言った瞬間、

「アイスアーチェリー!!」

氷の矢が放たれ、驚愕して無防備だったレディーデビモンの体を貫いた。

「ぎゃぁあああああ!! ゴクモン様ぁぁぁぁぁぁっ!!」

ゴクモンの名を叫び、レディーデビモンは消滅した。

2体の完全体が下りてくると、光に包まれ退化する。

成長期に戻った2体を楯無と簪はダイレクトでキャッチした。

「フフッ、お疲れ様」

そう言った2人の笑顔は、今までにない晴れ晴れとした顔だった。




因みに今回の2人を見て、2人を怒らすのは絶対にやめようと心に誓った一夏だった。




あとがき

第二十七話の完成。

リアルワールドがちょこっと出ました。

おまけにサクヤモン無双です。

でも、あのくらいしないと、一夏ラヴァーズは本気で付いて来かねませんので。

ルキは自ら嫌われ役になる事を選びました。

それと同時に本音でもあるわけですが。

さて、今回は楯無と簪の完全体進化です。

デビモンシスターズは、言わなくても分かってるかもしれませんが、無印で出てきたレディーデビモンと02のゴキモンブラザーズを足して2で割ったようなもんです。

でもってブチ切れた2人が進化させましたが、何故暗黒進化では無いのかといえば、乙女の怒りは純粋だからです(爆)。

さて、次はどうなることやら。

では、次も頑張ります。





話は変わりますがサイバースルゥース買いました。

自分は予約しない性格なので、発売日当日に仕事が終わった後買いに行きましたが、何処もかしこも売り切れ続出。

デジモンってポケモンとかと比べるとマイナー系と思うんですが、人気あるんですかね?

それともただ単に入荷量が少ないだけでしょうか?

結局リ・デジタイズの時と同様店を5つほど回って、隣の街で漸くゲット。

暇があればやっております。

今回のゲームは、寿命で死ぬことが無いのはいいですね。

進化ルートも自分で選べますし。

逆にレベル上げは苦労しますが………

とりあえず最強目指して進化と退化を繰り返してます。

でもやっぱりストーリーを進めないとお気に入りの主役級デジモンに進化できないのは納得いかない。

では、このへんで失礼。




[31817] 第二十八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/05/06 22:07


第二十八話 ゴクモンとの決戦! 怒りのドルゴラモン!




レディーデビモンを退けて数日。

再び襲撃があるかと思い気を張り詰めていた一夏達だったが、ここ数日は襲撃どころか野良デジモンにも会わず、拍子抜けしていた。

「何か拍子抜けだな。 もっと襲撃があると思ってたのに………」

「おそらく何か企んでいるわね。 気を緩めないで」

「油断は禁物」

ポツリと漏らした一夏の言葉に、楯無と簪が注意する。

「わ、わかってますよ………」

先日の一件から、2人を怒らせると怖いと知った一夏は素直に頷く。

そのまま進んでいくと、

「な、なんだこりゃ?」

一夏は思わずそう漏らす。

一行の目の前には、そびえ立つ切り立った崖に大きく開けられた洞窟の入口。

そして、デカデカと洞窟の入口の上に彫り込まれた、『四魔獣隠れ家』の文字。

「………馬鹿にしてんのか?」

「さあ………?」

一夏の呟きに呆然とドルモンが答える。

「言うまでもないけど、明らかに罠ね」

「「「「「「「うん。 明らかに…………」」」」」」」

楯無の言葉に、全員が頷く。

「……………どうする?」

一夏が皆に尋ねる。

「どうするって言っても、選択肢は2つね。 無視して先を急ぐ。 もしくは、情報を得るためにあえて罠に飛び込んでみる」

楯無が2つの意見を出す。

「1つ目のメリットは危険が無いこと。 デメリットは何も分からないこと。 2つ目のメリットはタカトに関しての何らかの手がかりが掴めるかも知れないという事。 デメリットは危険が大きいこと」

簪がそれぞれのメリットとデメリットを口にする。

それぞれがどうするかを考えていると、

「………………行こう!」

一夏が言った。

全員が一夏を向く。

「確かに危険かも知れない。 だけど、タカトに関して何か掴めるかも知れないなら、行くべきだと俺は思う」

一夏は真剣な表情で言う。

「……………そうね。 このまま当てもなく彷徨い続けるぐらいなら、少しぐらい危険を冒してでも、情報を手に入れるべきかもしれない」

楯無も賛成に回った。

「私も賛成」

簪も頷く。

「よし、行こう!」

「「うん」」

一夏の言葉に皆が頷いた。




洞窟の中を進む一行。

暗い洞窟を気を付けながら進んでいると、目の前に光が見えた。

「出口か?」

一夏が呟く。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

楯無は軽口を漏らしながらも、油断はしない。

「……………ッ!」

簪は無言で気を引き締める。

そして、その出口をくぐり抜けた。

その瞬間目の前に広がったのは、大きな岩盤をくり抜いて作られたと思われる巨大なコロッセオ。

その闘技場内に洞窟の出口は繋がっていた。

「こ、これは………?」

その時、洞窟の出口が突如として塞がれ、

「ハーーーーーハッハッハッハ! よく来たな小僧ども!」

聞き覚えのある声が響いた。

一夏達が前を見ると、一夏達の向かい側にあった洞窟の出口から、ゴクモンが堂々と歩いて現れる。

「ゴクモン!!」

一夏が叫ぶ。

「罠と分かっていてもそこへ踏み込んだ度胸だけは認めてやろう。 だが、すぐにその選択を後悔させてやろう」

そう言ってニヤリと笑うゴクモン。

「黙れ! それよりも答えろ! タカトはどうした!?」

「ほう? まだ気になるか? よかろう。 ならば俺に勝てたなら教えてやる」

一夏の問い掛けにゴクモンはそう答える。

「望むところだ! 行くぜドルモン!」

「おう!」

「ルナモン!」

「プロットモン!」

「「わかった!」」

一夏に引き続き、楯無と簪もブルーカードを取り出す。

そして、

「「「カードスラッシュ! マトリックスエボリューション!」」

3人がブルーカードをスラッシュする。

「ドルモン進化!」

「ルナモン進化!」

「プロットモン進化!」

3体のデジモンが完全体へと進化する。

「ドルグレモン!!」

「クレシェモン!!」

「エンジェウーモン!!」

3体の完全体が並び、

「俺も行くぜ!」

インプモンが光に包まれ、ベルゼブモンへと進化した。

陽電子砲を構えるベルゼブモン。

しかし、

「フン、貴様の相手はこいつらだ!」

ゴクモンが右腕を上げると、上空に何十というメガドラモンとギガドラモンの群れが現れる。

「何っ!?」

ベルゼブモンが叫ぶ。

「こいつらには貴様を狙うように指示している。 つまり、貴様が俺と戦おうとする限り、その小僧共も危険に晒すことになるのだ!」

ゴクモンの言葉に、ベルゼブモンは一度一夏達を見ると、

「チィ!」

舌打ちして上空に飛び上がる。

「ベルゼブモン!」

一夏が呼びかけると、一度振り返り、

「お前らは俺があいつらを片付けるまでなんとか耐えろ! わかったな!」

ベルゼブモンはそれだけ言うとメガドラモン、ギガドラモンと戦闘を始める。

ゴクモンは計画通りとばかりにニヤリと笑い、

「さあ小僧ども、どこからでもかかってこい!」

余裕の態度で一夏達を挑発した。

「舐めるな! 行けっ! ドルグレモン!!」

「おお!」

ドルグレモンは鼻先のブレードを突きつけるように突進する。

だが、

「ふん!」

ゴクモンは左手でブレードを掴むと振り回すように、投げ飛ばす。

「うわぁっ!?」

ドルグレモンは叫び声を上げるが、空中で翼を広げ、地面への激突を免れる。

「くっ!」

「落ち着いて一夏君。 3対1でも相手は究極体。 無闇に突っ込んでも勝てないわ」

「は、はい!」

楯無の言葉で、幾分か冷静さを取り戻す一夏。

「相手は私達を舐めている。 付け入る隙はそこしかない」

簪がゴクモンを冷静に分析する。

「3体の中で一番攻撃力があるのは一夏君のドルグレモンよ。 スピードなら私のクレシェモン。 簪ちゃんのエンジェウーモンはバランス」

「クレシェモンがスピードでかく乱。 エンジェウーモンがバックアップ。 隙を突いてドルグレモンが全力攻撃。 それが今できる最大の手」

楯無が自軍の戦力を分析し、簪が作戦を立てる。

「…………………」

一夏は自分を恥じていた。

2人は自分以上にタカトの事が心配なはず。

それなのに、自分は感情のまま突っ走るだけなのに比べ、この2人は冷静に作戦を立て、とても低い僅かな勝率を全力で掴もうとしている。

ISの戦いもそうだ。

自分はいつも勢いに任せて突っ込むだけで、行き当たりばったりの戦法しか使っていない。

全力で突っ込んで渾身の一撃を決める。

千冬の戦い方がそうだったせいか、一夏も無意識の内にそういう戦い方に執着するようになっていたことに気付いた。

(そうだ………俺はまだまだ弱い………そんな俺が、千冬姉の真似事だけで勝てるわけないじゃないか)

そう思い立ったとき、

「一夏君! いいわね!」

楯無が一夏に問いかける。

「ッ………はい!」

一夏はハッキリと頷いた。

「「?」」

いつもと若干変化の見られた一夏の返事に、僅かに疑問を覚える2人。

「まあ、いいわ。 なら行くわよ! クレシェモン!」

「ルナティックダンス!!」

クレシェモンがゴクモンの周りを舞い踊るように回転する。

「ぬ?」

ゴクモンが一瞬怪訝な声を漏らす。

すると、突如背中に斬撃を受ける。

「ぬう!」

ダメージは低いが、少し揺らいだ。

「小賢しいわ」

右腕のブレードを振り回す。

しかし、クレシェモンは舞うようなステップでその斬撃を躱す。

その動きは幻惑の効果があり、ゴクモンにはクレシェモンの姿が何体にも見えていた。

「ぬっ? くっ! おのれ!?」

ゴクモンはブレードを振り回すが掠りもしない。

その間にも、斬撃がゴクモンを襲う。

いくらダメージが低かろうと、何発も喰らえば鬱陶しいことこの上ない。

元々沸点の低いゴクモンはすぐにキレた。

「おのれ! 調子に乗りおってからに!!」

ゴクモンは左腕の砲口を向ける。

邪炎煉獄の炎で広範囲を薙ぎ払うつもりだった。

「消えろ! 邪炎………!」

だが、その瞬間を狙っていた者がいた。

「エンジェウーモン!!」

「ホーリーアロー!!」

簪の合図でエンジェウーモンが上空からホーリーアローを放つ。

光の矢はそのまま砲口に突き刺さり、邪炎煉獄のエネルギーを暴発させた。

「ぬわぁっ!?」

左腕が爆発し、明らかなダメージを受けるゴクモン。

「攻撃力が足りないなら、足せばいい。 それが例え、敵の攻撃力でも」

簪は静かにそう言う。

「やるわね、簪ちゃん」

楯無は感心した声を漏らす。

「一夏君! 今よ!」

「ドルグレモン!!」

楯無の言葉に一夏が上空のドルグレモンに呼びかける。

ドルグレモンは、既に超重量の鉄球を具現していた。

「メタルメテオ!!」

上空から巨大な鉄球がゴクモンに向け放たれる。

クレシェモンは今のうちに離脱した。

左腕のダメージに気を取られていたゴクモンは、メタルメテオに気付くの遅れた。

「ぬっ?」

気付いた時には、メタルメテオはもう目の前に迫っていた。

「なっ!?」

そのままメタルメテオはゴクモンを押しつぶした。

「ぬわぁああああああああっ!!」

ゴクモンの叫び声が響き、超重量の鉄球が地面を陥没させ、半分ほど埋まったところで止まった。

鉄球は、やがてデータに分解され消える。

「…………どうだ?」

「まともに入ったことは間違いない………でも」

「究極体相手に、どれだけダメージを与えられたか疑問」

3人は陥没した地面を注意深く見つめる。

そして………

ズゴォ!という音と共に、陥没した地面の中心から腕が飛び出る。

「「「「「「ッ!?」」」」」」

全員は気を引き締める。

陥没した地面の中心から這い出てきたのは、言わずもがなゴクモンであった。

その体は、確かにダメージは負っているものの、足取りはしっかりとしている。

「くっ! 思った以上にダメージが小さい」

楯無がそう漏らす。

すると、

「…………クックック」

ゴクモンは突然笑いを零す。

「な、何が可笑しい!?」

一夏が叫ぶ。

「ククク………いや、見事だ。 全くもって見事であった。 完全体の分際でこの俺にこれほどのダメージを負わせるとは、想定外だった…………」

ゴクモンは感心した声を漏らす。

「褒美に、貴様達が知りたかったことを教えてやろう」

笑いを零しながら、ゴクモンはそう言う。

「何?」

一夏が怪訝な声で聞き返す。

「あの救世主がどうなったのか……だ」

「「「ッ!」」」

3人は息を呑む。

そして、次の言葉を待つ。

「あの救世主はな……………………」

ゴクモンはもったいぶるように間を開け、

「………………死んだよ!」

驚愕の一言を放った。

「な………に…………?」

一夏はその一言が信じられず、聞き返した。

「あの救世主は死んだと言ったのだ。 6体だ。 6体もの究極体の必殺技を同時に受けて、塵も残さず消滅したわ!!」

ゴクモンは事実を突きつけるように叫ぶ。

「そんな…………タカト………」

「嘘……………」

楯無はその場で膝を付き、簪は糸が切れたように座り込んでしまう。

「…………嘘つき…………タカトの嘘つき…………死ぬつもりは無いって………言ったじゃない…………」

楯無は両手も地面に付き、項垂れながら涙をボロボロと零す。

簪に至っては、目が虚ろになり、反応を示さない。

だが、その目からは涙が止めど無く流れていた。

「……………………」

一夏は無言で俯いている。

「グハハハハハハ!! ショックだったか!? キサマらは生きているという幻想に縋りたかったらしいが、残念だったな。 だが、死ぬ前に教えてやったのだ! 感謝してほしものだな!! グハハハハハハハハハハハハハ!!!」

大笑いするゴクモン。

「………………ぇ……」

一夏がポツリを漏らす。

「んん? 何か言ったか?」

ゴクモンが一夏を見る。

「……に……さ…ぇ……」

一夏は俯いたまま呟き続ける。

「絶対に許さねぇ………!」

一夏の心には、今までにない気持ちが………

怒りと憎しみが広がりつつあった。

怒りと憎悪は、あっという間に一夏の心を染め上げる。

「…………殺してやる!!」

一夏はDアークを握り締める。

一夏のDアークには、一夏の心に反応するかのように、黒い靄のようなものが立ち上っていた。

「…………力が欲しい………」

一夏は求める。

「…………力が欲しい………!」

力を。

「………力が欲しい!」

より大きな力を。

「力が欲しい!!」

“守る為”の力ではない。

「力が………奴を殺せる力が欲しい!!!」

“敵を殺す”ための力を。

一夏のDアークに、より黒い闇がまとわり付く。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

一夏が叫ぶ。

それはまさに憎しみの咆哮。

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

一夏の咆哮に呼応するようにドルグレモンが黒い輝きに包まれる。

「これは!?」

「まさか進化すると言うの? ドルグレモンが」

クレシェモンとエンジェウーモンが驚愕する。

「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

天地を揺さぶるような咆哮が響き渡る。

そして、その黒い光の中から現れたモノは、

「ドルグレモン進化! ドルゴラモン!!」

暗い銀色の装甲に身を包んだ獣竜型デジモン。

その姿は強大な“破壊”の権化であり“究極の敵”の化身でもある。

まさに一夏の心に反応し、ゴクモンを“破壊”するために、ゴクモンの“究極の敵”となった姿。

普通なら、その進化は”異常”たと思えただろう。

だが、現在の一夏は、ゴクモンを殺すことだけしか考えられない。

「………奴を殺せ! ドルゴラモン!!」

ドルゴラモンは一夏の、そして己の殺意に突き動かされるままゴクモンに襲いかかる。

「な、何だこいつは!?」

驚愕するゴクモン。

ドルゴラモンは腕を振り上げ、ゴクモンに叩きつける。

その際に空気との摩擦で腕に炎が発生する。

ゴクモンは飛び退くが、その腕はそのまま地面に叩きつけられ、地面を粉砕する。

「チィ! いくら進化したからとは言え、この俺に勝てるものか!!」

ゴクモンは右腕のブレードを振り上げ、ドルゴラモンに斬りかかった。

「髑髏乱舞!!」

だが、その瞬間ゴクモンの死角からドルゴラモンの尾が鞭のように襲い掛かり、ゴクモンを弾き飛ばした。

「ぐわぁあああああああっ!!」

ゴクモンは地面を転がるが、すぐに起き上がろうとした。

だが、そのゴクモンに影が掛かる。

「なっ!?」

見上げたゴクモンの視線の先には翼を広げ、猛スピードで突っ込んでくるドルゴラモンの姿。

その勢いのまま、ゴクモンに殴りかかるドルゴラモン。

「ぐああああっ!!」

ドルゴラモンに殴りつけられ、地面に這いつくばるゴクモン。

だが、そんなゴクモンに向かって、ドルゴラモンは容赦なく腕を次々と叩きつける。

「ごはぁ! ぐあっ! ぎあぁっ!」

ゴクモンの苦しそうな声が響くが、ドルゴラモンに一切の容赦は無い。

殴りつける事に地面の罅は大きくなり、やがてコロッセオ全体が崩れ始める。

その時、

「ちょ、調子に乗るなぁ!!」

ゴクモンが一瞬の隙を突いて、ドルゴラモンの乱打から逃れた。

しかし、その体には先程以上のダメージが見て取れる。

「はぁ………はぁ………」

肩で息をするゴクモン。

そして、

「もう許さん!! 遊びは終わりだ!! この俺の最強の技で葬ってやる!!」

ゴクモンは突然座り込むと、その場で回転を始めた。

やがて、その回転が徐々に激しくなり、風をまとい始め、

「髑髏旋風!!」

その風が集まり巨大な竜巻が発生した。

その竜巻は天まで届き、上空で戦っていたベルゼブモンとメガドラモン軍団を巻き込む。

「な、何だ!?」

ベルゼブモンは咄嗟に離脱し、事なきを得たが、メガドラモンやギガドラモンはその竜巻に飲み込まれ、次々にデータに分解される。

「あんにゃろう。 味方も巻き添えかよ!」

そう吐き捨てるベルゼブモン。

地上では、

「グハハハハハハ!! 見たか! これぞ我が最大の必殺技、髑髏旋風よ! 巻き込まれたが最後、切り刻まれる運命だ!」

竜巻の中でゴクモンは大笑いしている。

「……………」

だが、その程度で一夏の、そしてドルゴラモンの殺意は止まらなかった。

ドルゴラモンは、竜巻の中心を見据えると、翼を大きく広げた。

そして、全身にエネルギーを纏い、力を溜める。

「ブレイブメタル」

次の瞬間、溜めたエネルギーを一気に炸裂させ、爆発的な推進力を得る。

文字通り全身全霊をもって敵に突撃し、粉砕するドルゴラモンの必殺技、『ブレイブメタル』。

その一撃は、攻防一体であるゴクモンの髑髏旋風の暴風の壁を容易く貫いた。

「なっ!?」

ゴクモンは驚愕する間もなくブレイブメタルの直撃を受けた。

しかし、それだけではドルゴラモンは止まらない。

ゴクモンを巻き込み、そのまま前進を続ける。

そのままコロッセオの端にぶつかるが、それでも止まらずぶち抜いていく。

やがて、岩場を全て抉ったところでドルゴラモンは急停止し、ゴクモンは吹き飛ばされ瓦礫に埋もれた。

誰が見ても致命的な一撃だった。

それを見た一夏はようやく落ち着いてきたのかハッとなる。

「……………仇はとったぜ。 タカト………」

そう呟く一夏。

そして、戻ってくるドルゴラモンを見上げる。

一夏は、必ず四魔獣全てを倒すと心に誓う。

この新たに手に入れた力で……………

だが、

「イ………イチカ………」

「ドルゴラモン?」

一夏はすぐに気付くことになる。

「………に、逃げて…………」

「どうした? ドルゴラモン!」

殺すためだけに手に入れた力は………

「これ以上…………抑えられない………」

「ドルゴラモン!?」

守る力にはならないということに。

「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!」









あとがき

第二十八話の完成。

なんとかGWが終わる寸前に完成しました。

さて、今回はドルグレモンがドルゴラモンに進化しました。

ま、暗黒進化ですけど。

進化のペースが速いと思う人が殆どだと思いますが、作中の夏休みが終わるまでにデジタルワールド編を終わらせなければいけないので………

既に夏休みの半分以上使ってますし……

さて、なんとかゴクモンを倒した一夏。

でも、ドルゴラモンが暴走を始めました。

さて、一体どうなるのか?

では、次も頑張ります。




[31817] 第二十九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/06/28 18:00


第二十九話 復活の聖騎士。 ドルゴラモンを止めろ!



ジジモンの家で養生を続けていたタカトは、ふと窓から外を見た。

風の強い谷の名の通り、今でも風が吹いている。

「……………皆、無事だといいけど………」

そう呟くタカト。

タカトが思うのは仲間たちの事。

成熟期に進化できるようにはなっていたものの、やはり不安は拭えない。

タカトは、隣のベッドで眠るギルモンを見つめる。

流石はデジモンなだけあり、タカトが未だに包帯だらけで動くにも一苦労な状態に比べ、ギルモンは本調子ではないものの包帯も殆ど取れ、日常生活を送るには支障がない程度には回復していた。

(早く怪我を治して皆と合流しないと)

タカトがそう思っていると、

――グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!

何処からともなく、気味の悪い咆哮が聞こえた気がした。

「っ!? 今のは…………!」

タカトは反射的に窓の外を見上げる。

空には暗雲が漂っており、嫌な雰囲気だ。

「なんだろう、この感じ………? まるであの時みたいに嫌な感じだ………」

タカトが思い出すのは、自分がギルモンを暗黒進化させてしまった時。

その時に似た感覚が、タカトの中を駆け巡っていた。

「まさか………一夏達の身に何かが………」

そう思うと、タカトは居ても立ってもいられなくなった。

ベッドで眠るギルモンを見つめ、

「ごめんギルモン。 無茶させちゃうけど…………」



少しして、部屋の扉が開いた。

「タカト、包帯の替えを………」

入ってきたのは、ヒロカズのパートナーであるガードロモンだった。

ガードロモンはケンタのパートナーであるマリンエンジェモンと共にこの谷に住んでいた。

しかし、ガードロモンの言葉は途中で止まる。

何故なら、その部屋には、開け放たれた窓と、“空の”ベッドが2つあるだけであったからだ。











「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!」

ドルゴラモンが獣のような咆哮を上げる。

それは空気をビリビリと震わせ、聴く者全てを恐怖のどん底へ落とし込まんとする。

巨大な尾が叩きつけられ、地面が砕ける。

ドルゴラモンの目が妖しい紅に染まり、理性の色が消えていた。

「ドルゴラモン!?」

一夏が叫ぶ。

だが、ドルゴラモンは一夏に気付きもしないように手当たり次第にコロッセオを破壊し始めた。

「なっ!? 何をやってるんだ、ドルゴラモン! やめろ!!」

一夏はドルゴラモンにやめるように叫ぶが、ドルゴラモンは止まる気配を見せない。

一夏は思わずドルゴラモンに向かって駆け出そうとしたが、

「イチカ! 待つ也!」

ロップモンに止められる。

「ロップモン!? でも、ドルモンを止めないと!」

「今のドルモンにドルモンの意思は無い也! 今近付くのは危険也!」

すると、ドルゴラモンの目が一夏達を捉える。

一夏はそれに気付くと、

「ドルモン………俺だ。 一夏だ、わかるか?」

希望を持ってそう問いかける。

「イチカ危ない也!」

ロップモンは静止させようとするものの、一夏は止まらない。

一夏を見据えたドルゴラモンが一瞬止まり、一夏は安堵しようとして………

「グァアアアアアアッ!!」

咆哮を上げてドルゴラモンが一夏に殴りかかった。

「ドルゴラモンッ………!?」

その現実に一夏は絶望に染まった表情になり、

「デススリンガー!!」

ドルゴラモンが側面からの奇襲を受け、転倒した。

見れば、ベルゼブモンが黒い翼をはためかせて一夏達の前に着地する。

「こいつは一体………? まるであの時のギルモンじゃねえか」

ベルゼブモンの脳裏に浮かんだのは、己がレオモンを殺してしまった時、メギドラモンへと進化したギルモンの姿。

「おいイチカ! 一体何があった!?」

ベルゼブモンが一夏に背を向けたまま問いかける。

「あ……お……俺………ゴクモンから、タカトが殺されたってことを聞いて………それで逆上して………」

一夏はドルゴラモンに攻撃されそうになったショックから半分茫然自失となっていた。

だが、片言ながらも大筋が見えたベルゼブモンは舌打ちする。

「チッ! バカ野郎! 敵の戯言なんか間に受けてんじゃねえ! アイツ等がそう簡単にくたばるか!」

乱暴な口調ながらもタカトとギルモンが生きていることを信じるベルゼブモン。

「ともかく、今は力尽くでもドルモンを止めるぞ! このままじゃ、力尽きるまで暴れまわっちまう!」

ベルゼブモンはそう言うと、起き上がったドルゴラモンに陽電子砲を向ける。

「てめえらは援護しろ!」

「わ、わかった!」

「え、ええ!」

クレシェモンとエンジェウーモンにそう呼びかけると、ベルゼブモンはデススリンガーを連射する。

「オラオラ!」

クレシェモンとエンジェウーモンも、少し躊躇するものの離れた場所から遠距離攻撃で攻撃を始める。

ドルゴラモンは、執拗な攻撃にたじろぐものの、膝をつく様子を見せない。

すると、突然ドルゴラモンの口にエネルギーが集中し始める。

「ッ!? やべぇ!!」

「楯無!」

「簪!」

ベルゼブモンは咄嗟に一夏の前で防御姿勢を取り、クレシェモンとエンジェウーモンも先程から動かない自分のパートナーを守るために動く。

次の瞬間、ドルゴラモンの口から莫大なエネルギーが放射された。

ドルゴラモンのもう一つの技、破壊の衝撃『ドルディーン』。

辺りが閃光に包まれ、コロッセオは崩壊する。

光が収まると、コロッセオは完全に消し飛び、唯の更地となった光景が広がっていた。

ベルゼブモン達には、運良く直撃はしなかったものの、その余波だけでも凄まじい破壊力を持っていた。

究極体であるベルゼブモンは何とか耐えたものの、完全体だったクレシェモン、エンジェウーモンは、楯無と簪は守りきったものの、成長期へ退化して転がり、楯無と簪も地面に倒れてピクリともしない。

身体的ダメージもそうだが、この2人には精神的ダメージの方が大きかった。

「くそが…………何つー威力だ」

大きなダメージを負いながらも、ベルゼブモンは健在だった。

その後ろには、一夏、ロップモン、クルモンが無傷で居る。

「こいつの力………あの時のギルモンと同等以上か………」

ベルゼブモンは、自分ひとりならどうにかなっただろうが、一夏達を守りながらは厳しいと考えていた。

技を放った体勢から、身体を立て直したドルゴラモンの視界に、倒れている楯無、簪、ルナモン、プロットモンの姿が映る。

ドルゴラモンの体が2人と2体に向けて前傾姿勢を取り、

「ま、まさか…………やめろ! ドルモン!!」

その仕草の意味を瞬時に理解した一夏が叫んだ。

だが、

「グギャァァァァァァァッ!!」

ドルゴラモンは凶暴な鳴き声を上げ、翼を広げて楯無達に向かって突進する。

「しまった!!」

ダメージの影響でベルゼブモンはすぐには動けず、止めることが出来ない。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

一夏の叫びも虚しく、ドルゴラモンは止まらない。

ドルゴラモンの腕が振り上げられ、楯無達に止めを刺さんと振り下ろされ……………





















「「…………助けて……………タカト……………」」















朦朧とする意識の中、2人の少女が呟いた救いを求める言葉。

















その願いは……………














「ロイヤルセーバー!!」

















……………届いた。











閃光がドルゴラモンに直撃し、ドルゴラモンは後退する。

「えっ………?」

一夏は信じられないという表情をし、

「…………へっ! 遅えんだよ! バーカ!」

その存在を確認したベルゼブモンは口元を釣り上げる。

その視線の先には、赤き騎竜に跨り、紅のマントをはためかせた白銀の聖騎士の姿。

そう、グラニに騎乗したデュークモンであった。

デュークモンはグラニから飛び降り、楯無達の前に着地する。

デュークモンの後ろ姿を見た楯無と簪は、一瞬その光景が信じられなかった。

死の寸前に見る幻覚だとも思った。

しかし、

「大丈夫か? 楯無、簪」

そう声をかけられ、朦朧だった意識が次第とハッキリしてくる。

その瞬間、2人は目を見開いた。

「デュ、デュークモン!?」

「タカト!? 生きてたの!?」

反射的に身を起こした2人が起き上りざまに叫んだ。

「心配かけてすまなかった…………間一髪のところをグラニに助けられたんだ」

そう言いながら、デュークモンは上空を旋回するグラニを見上げる。


その時、体勢を立て直したドルゴラモンが唸った。

「グルルルルル…………!」

デュークモンは気を引き締め、ドルゴラモンを見据える。

「それにしても、このデジモンは一体………?」

怪訝な声を漏らすデュークモン。

すると、

「ドルモンだ!」

その声に視線を向けると、ベルゼブモンに抱えられて一夏が飛んできた。

ベルゼブモンが地面に着地すると、一夏はデュークモンに駆け寄る。

「一夏……」

「あいつは………あいつはドルモンなんだ!」

「あれが………ドルモン?」

「俺が………殺意と憎しみで進化させちまった姿だ………」

一夏は俯き、拳を握り締める。

その時、調子の戻ってきた楯無がDアークを取り出し、ドルゴラモンのデータを表示する。

「ドルゴラモン 究極体 獣竜型デジモン データ種。 必殺技は、『ブレイブメタル』と『ドルディーン』。 確かに究極体だわ」

楯無はドルゴラモンを見上げる。

「グギャァァァァァァァ!!」

叫び声を上げるドルゴラモン。

その時、

「むっ?」

デュークモンは声を漏らした。

「どうしたの?」

簪が尋ねる。

「…………ドルモンの理性は、まだ完全には消えていない」

「「「えっ?」」」

デュークモンの言葉に、怪訝な声を漏らす3人。

「一夏、よく聞くんだ。 ドルモンの声を! 一夏になら聞こえるはずだ!」

デュークモンに言われ、一夏はドルゴラモンを見上げ、集中する。

「グギャァァァァッ!!(………イ…カ……!)」

「ッ!?」

凶暴な咆哮の中に僅かに混じる消え入りそうな声。

「グアアアアアアッ!! グギャァアアアアアアアッ!!(イチカ………! イチカァァァァァッ!!)」

「ッ!! ドルモン!!」

今度は確かに聞こえた。

ドルモンの一夏を呼ぶ声が。

デュークモンは、一夏の手にDアークがある事に気付くと、

「一夏っ! エイリアスだ!!」

「ッ!?」

「エイリアスのカードをスラッシュしてドルモンをドルゴラモンのデータから分離させるんだ!!」

そう叫んだ。

「で、出来るのか? そんなこと?」

「信じろ! 自分とパートナーの絆を!」

デュークモンの言葉に、一夏は目を伏せる。

一夏は今までの冒険を振り返っていた。

たった三週間足らずだが、とても濃密な冒険の時間を。

そして目を開ける。

その目には先程までの悲壮感は無かった。

「わかった! やってみる!」

一夏は楯無に歩み寄り、

「楯無さん。 エイリアスのカードを貸してください」

「わかったわ」

楯無は自分のデックからエイリアスのカードを抜き出して一夏に渡す。

そして、一夏はドルゴラモンの前に歩み出て、

「ドルモン…………」

ドルゴラモンを見上げ、Dアークを構えた。

「戻ってきてくれ、ドルモン!」

その思いを胸に、一夏は叫ぶ。

「カードスラッシュ!!」

エイリアスのカードをDアークのカード挿入口に通し始める。

Dアークがカードのデータを読み取り、その情報がドルゴラモンへと転送される。

「エイリアス!!」

一夏がそのカードの名を叫んだとき、Dアークが輝いた。

「ドルモォォォォォォン!!!」

一夏の心からの叫び。

「グ………ガ………?」

突然ドルゴラモンの動きが止まり、光の粒子が胸部に渦巻き始める。

そして、その渦巻いた光の粒子の中からゆっくりとドルモンが外へ吐き出されてくるのが見えた。

「ベルゼブモン!」

「おうよ!」

デュークモンの言葉に、ベルゼブモンは当然とばかりに応え、翼を羽ばたかせてドルモンへ向かい、完全に吐き出されたところを受け止めた。

ベルゼブモンは即座にその場を離脱し、皆の所へ戻ってくる。

「ドルモン!!」

一夏が即座にドルモンに駆け寄り、ベルゼブモンからドルモンを受け取る。

「ドルモン! ドルモン!!」

一夏がドルモンに呼びかけるが、ドルモンは気を失っているのか答えない。

「くっ………すまない、ドルモン……!」

一夏は目に涙を滲ませ、ドルモンを抱きしめる。

だが、まだ終わってはいない。

「グ………ガァァァァ………!!」

ドルモンのデータを分離させたとて、ドルゴラモンのデータはそこに残っている。

残ったデータが再び暴走を始めようとして、

「グラニ!!」

デュークモンがグラ二を呼び、飛び上がる。

再びグラニに騎乗すると、一直線にドルゴラモンへと向かう。

「グラニ! ユゴスだっ!!」

「わかった、デュークモン!」

グラニは大きく口を開け、そこに凄まじいエネルギーが集中されていく。

それはかつて、デュークモンとベルゼブモンの同時攻撃をもってしても貫けなかったデ・リーパーの防御システムをも破壊した、グラニに装備された必殺兵器。

「ユゴスブラスター!!」

エネルギーの奔流が放たれ、ドルゴラモンの胸部を貫く。

「ガ………ア…………」

ドルゴラモンは断末魔の叫びを上げることもなく、その場で力なく膝を着いた。

デュークモンはやがてデータに分解されるだろうと思い、背を向け、皆の前に舞い降りた。

「タカト!!」

「タカトッ!!」

自分のパートナーを抱き上げた楯無と簪がデュークモンに駆け寄る。

改めてタカトが生きていることを実感したのか、その目には涙が浮かんでいる。

「生きてて……生きてて良かった!」

「タカト………もうあんな無茶はしないで!!」

泣きながら詰め寄ってくる2人に、デュークモンの中のタカトは申し訳ない気持ちで一杯だった。

覚悟を決めて直接謝ろうと進化を解こうとした時、

「…………ガ…………ア………!」

突然ドルゴラモンが唸り声を発した。

デュークモンは驚愕して振り返る。

「バカなっ! 確実に致命傷だったはず!!」

デュークモンがそう言うが、膝を着いていたドルゴラモンが立ち上がる。

「ガアアアアアアアアア……………!」

唸り声が徐々に大きくなっていくと共に、ドルゴラモンの周りに濃い紫色をしたエネルギーが渦巻き始める。

「な、何だ………?」

その紫色のエネルギーは、完全にドルゴラモンを覆い尽くした。

「一体………何が………?」

そして次の瞬間、

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

この世のものとは思えぬ咆哮を上げ、ドルゴラモンを覆っていたエネルギーが吹き飛ばされた。








あとがき


第二十九話の完成。

遅くなって申し訳ありません!!

その割にはあまり長くないし!

さて、今回はデュークモン復活でした。

その割にはロイヤルセーバー一発とグラニがユゴスぶっぱなしただけですが(汗

ようやく間違いに気付いた一夏君。

次回はいよいよあのデジモンが登場。

お楽しみに(できますか?)

それでは、次回も頑張ります。




[31817] 第三十話
Name: 友◆ed8417f2 ID:5337aa3d
Date: 2015/11/14 20:10



第三十話 黒き聖騎士! アルファモン!!






「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

この世のものとは思えぬ咆哮が響き、ドルゴラモンを覆っていた濃い紫色のエネルギーが吹き飛ぶ。

そこから現れたのは、身体的には大きな変化はないが、暗い銀色だった装甲の大部分が紫色へと変色し、背中の青かった翼も、血のような赤色と黒い翼へと変化したドルゴラモンだった。

「バカなっ!? 一体何が!?」

デュークモンは今まで見た事のない変化に驚愕する。

通常の進化やモードチェンジとも何かが違う。

そう感じていた。

すぐに楯無がDアークで情報を確認した。

「デクスドルゴラモン 究極体 アンデット型デジモン ウィルス種 必殺技は『メタルインパルス』と『ドルディーン』。 種族がアンデット型に変化してるわ。 後、属性もウィルスになってる」

「亜種に進化…………というわけでも無さそうだ」

「うん…………究極体から究極体への進化は、モードチェンジ以外だとジョグレス進化ぐらいしかないはずだし…………」

その時、咆哮を終えたデクスドルゴラモンがゆっくりと視線をデュークモン達に向け、

「「拙い!!」」

デュークモンとベルゼブモンが咄嗟に全員を抱え、後ろに飛び退く。

その直後、破壊衝動の赴くままにデクスドルゴラモンの腕が振り下ろされた。

地面が砕け、岩が飛び散る。

「チィッ! やっぱりさっきよりもパワーアップしてやがる」

ベルゼブモンが愚痴りながらも気を取り直し、一夏達を下ろすと右腕の陽電子砲をデクスドルゴラモンに向け、

「デュークモン、行くぜ!」

デュークモンに呼びかける。

「…………………」

が、デュークモンからの返事はない。

「おい! 返事くらいしろ!」

そう言いながらベルゼブモンが顔をデュークモンに向けると、

「……………ぐぅ………!」

デュークモンが突然膝を付き、光に包まれる。

「おい! どうした!?」

その光はどんどん縮んでいき、ついにはタカトとギルモンに退化してしまった。

しかも、タカトの体は包帯だらけで見ただけで重傷とわかるほどの状態だ。

「はあっ…………はあっ………!」

タカトは両手を地面に着きながら荒い息を吐く。

「タカト、大丈夫?」

ギルモンが心配そうに駆け寄る。

「タカトッ! そんな体でっ…………!」

「ひ、ひどい怪我っ………!」

タカトに駆け寄る楯無と簪。

「チッ、四魔獣とやり合った時の怪我かよ畜生…………俺一人で止められるか?」

舌打ちしながらデクスドルゴラモンを見上げるベルゼブモン。

「お前らはタカトを連れて下がってろ! ここは俺がやる!」

「わかったわ!」

「うん」

ベルゼブモンの言葉に楯無と簪は頷き、タカトの手をとって両側から支える。

「タカト、大丈夫?」

「しっかりして………!」

2人はタカトに声をかけながら歩き出す。

「ごめん………2人とも」

「気にしないで」

「生きてて良かった…………」

3人が下がったことを確認して、ベルゼブモンは気を取り直す。

「さあ、行くぜ!!」

そう叫ぶと、ベルゼブモンは陽電子砲をデクスドルゴラモンへと向けた。






「ドルモン! ドルモン!」

一夏は、ドルゴラモンから分離したまま気を失っているドルモンに何度も呼びかけていた。

しかし、ドルモンは反応せず、グッタリとしている。

「ドルモン…………」

ドルモンを抱きしめ、震える一夏。

目には涙も滲んでいる。

一夏の心の中にあるのは深い後悔。

なぜ怒りのまま進化させてしまったのか?

なぜ力だけを求めてしまったのか?

「ははは…………馬鹿だ俺…………ラウラの事何にも言えねーじゃねえか…………」

自傷気味に呟く一夏。

出会ったばかりのラウラは、力と強さを同一視しており、一夏にもそれは間違いだと感じており、何度もぶつかった末、分かり合えた。

だが、今の一夏はその時のラウラと全く同じことをしていた。

「あんだけ偉そうなこと言っておいて………自分はこれかよ…………ははっ、俺って情けねえなぁ…………」

流れる涙を拭いもせずに、一夏は呟き続ける。

デジタルワールドの冒険を思い返す一夏。

ドルモンとパートナーとなり、敵と戦い、強くなった。

強くなったつもりでいた。

しかし、今思えば自分は何も成長していなかった。

ドルモンとパートナーとなった時、ドルモンと共に戦い、心を通わせた。

それは間違いない。

だが、それ以降の進化を思い返した時、一夏は気付いた。

トゲモンの死。

メタルグレイモン、ワーガルルモンの死。

そして、生きてはいたが、聞かされたタカトの死。

そう、一夏が今までドルモンを進化させてきた切っ掛けは、全て誰かの死が関わっており、それに対する感情の昂ぶりで進化させてきたに過ぎなかった。

「何が強くなるだ…………俺は、誰かに守ってもらってばかりじゃねえか…………」

一夏の心は後悔の念で押しつぶされそうになっていた。

「俺は…………何も守れないんだ……………」

一夏心が完全に折れる。

その寸前、

「……………イチカ」

気を失っているドルモンの口から、小さく一夏の名が溢れた。

「ッ………! ドルモン!」

それに気付いた一夏が思わず叫ぶ。

ドルモンがうっすらと目を開け、弱々しく首を動かすと、

「イチカ…………ゴメン………」

小さく謝った。

「何でドルモンが謝るんだ!? 悪いのは俺だ! 俺が、怒りのままにドルモンを進化させたからっ………!」

一夏が叫ぶが、

「違うよ…………イチカが怒ったのは………イチカが優しいから…………自分以外の誰かの為に怒れる…………イチカの優しさだ……………ただ………イチカの心を………俺が受け止めきれなかっただけ……………」

「違う!! 俺は………俺はあの時敵を殺すことしか考えてなかった!! ドルモンの苦しみも何も考えずに………っ!」

「我を忘れるほど怒れるのも………イチカが優しい証拠だよ…………優しくない人間に………他の誰かの為にそこまで怒ることは…………出来ない………っ!」

「…………ドルモンッ………!」

「そんなイチカだから…………皆はイチカに思いを託したんだ………! トゲモン先生も…………メタルグレイモンやワーガルルモンも…………デジタルワールドの未来を………この世界に生きる命を!」

「ッ………!!」

そう言われ、一夏は思い出す。

託された思いを。

『子供達を………お願いします………』

『お前達は、俺達の分まで生きてくれ…………』

『この世界の未来を………この世界に住む命を…………君達に託す…………』

『お前達の手で………守ってやってくれ………』

トゲモン、メタルグレイモン、ワーガルルモンの言葉を。

そして、

『『命は………ただそこに在るだけで美しい………』』

教えてくれた、命の価値を。

「…………ドルモン………俺………」

「わかってるよイチカ。 俺は大丈夫…………イチカが一緒に戦ってくれるなら、俺は何度だって戦える………!」

ドルモンはヨロヨロと身体を起こすと、ゆっくりと立ち上がる。

「ありがとう………ドルモン」

一夏も立ち上がると、お互いに頷き、ベルゼブモンと激しい戦いを繰り広げるデクスドルゴラモンへと視線を向ける。

一夏の右手には、Dアークが握られている。

「俺はもう間違えない………託された思いを………『力』の意味を………戦う理由を!」

「イチカ!」

「戦うぞ! ドルモン! 今度は、俺も一緒に!!」

「うん! 一緒に戦おう! イチカ!!」

その時、一夏とドルモンを囲むように光の円が描かれ、光が溢れ出す。

「見せてやろうドルモン! 俺達の………本当の究極進化を!!」

「行こう! イチカ!!」

光が溢れ、天を貫いた。






「デススリンガー!!」

ベルゼブモンの陽電子砲が直撃し、デクスドルゴラモンの装甲にダメージを与える。

しかし、そのダメージは徐々に修復され、1分ほどで完全に回復してしまった。

「チッ! 厄介な能力だぜ!」

ベルゼブモンは振るわれる腕を回避しつつ、舌打ちする。

ベルゼブモンにとって、デクスドルゴラモンは非常に厄介な相手だった。

ベルゼブモンブラストモードは高い攻撃力で、一撃で大ダメージを与えることを得意とする。

しかし、デクスドルゴラモンは高い攻撃力と防御力。

更には自己修復能力を持っており、ダメージを与えたとしてもすぐに回復してしまう。

このような敵を倒す場合は、高威力の攻撃を連続して当てる必要があるが、今のベルゼブモンでは手数が足りず、決め手に欠ける状態だ。

と、その時、デクスドルゴラモンの口にエネルギーが集中する。

「くっ!」

ベルゼブモンは咄嗟に翼を羽ばたかせ、真横に回避する。

次の瞬間、

「グガァアアアアアアアアアアッ!!」

口から放たれるエネルギーの奔流。

ベルゼブモンは回避に成功するが、その攻撃は突き進み、地平の彼方に着弾する。

そして、

――ドゴォオオオオオオオオオオン

地平の彼方が吹き飛ぶほどの爆発を起こした。

「シャレにならねえ威力だぜ…………」

その威力にベルゼブモンは戦慄する。

だが、そのよそ見をしていた一瞬の隙に、デクスドルゴラモンが襲いかかってきた。

「グガァアアアアアアアアッ!!」

「ッ!? しまった!?」

爆発に気を取られていたことにより、回避が一瞬遅れる。

大きく口を開けて噛み付いてきたデクスドルゴラモンに食われまいと、ベルゼブモンは上顎を手で、下顎を足で支えて踏ん張る。

「ぐぅぅぅぅぅぅっ…………!」

凄まじい顎の力にベルゼブモンは声を漏らす。

「ベルゼブモン!」

遠くで見ていた簪が悲鳴に近い声を上げた。

「こ、このままじゃ………」

楯無も何とか打開策を考えようとするが、状況は良くない。

頼みのタカトは体力の限界。

これ以上無理をすれば、本当に命に関わってしまう。

自分達のパートナーも、ドルディーンのダメージが深刻で、とても戦える状態ではない。

最早打つ手が無いと諦めかけたその時、

「…………ぐっ………ま、まだ……」

タカトが身動ぎしつつ、何かを呟こうとする。

「「タカト!?」」

楯無と簪は慌てて抑えようとするが、

「まだ………一夏がいる………!」

疑い無き口調で、声を絞り出した。

「でもっ………今の一夏君は…………」

一夏の精神状況を察して言い淀む楯無。

「大丈夫…………一夏は………楯無が思ってるほど弱くはないよ………この冒険で学んだことを思い出せば………きっと………」

タカトがそう呟いた瞬間、光の柱が天を貫いた。

「な、何っ!?」

「あの光は………?」

驚いた楯無と簪が光の柱を見上げる。

「………たどり着いたんだね、一夏……」

その光を見たタカトは、小さく微笑んだ。




―――MATRIX

EVOLUTION―――

光の中で一夏のDアークのディスプレイに文字が刻まれる。

「マトリックスエボリューション!!」

一夏が叫び、右手に持ったDアークを胸に押し当てると一夏の身体がデータ化され、ドルモンのデータと一つになる。

「ドルモン進化!」

ドルモンの手のデータが分解され、鎧を纏った騎士の腕として再構築される。

ドルモンの足のデータが分解され、鎧を纏った騎士の足として再構築される。

ドルモンの体のデータが分解され、鎧を纏った騎士の体として再構築される。

ドルモンの頭のデータが分解され、一夏の決意の篭った瞳を持った騎士の頭部として再構築される。

丸みを帯び、金の装飾が施された黒く輝く鎧を身に纏い、背中には外側が白、内側が青のマントをはためかせた、『最初』の名を冠せし黒き聖騎士。

「アルファモン!!」

光の柱の中より、黒き聖騎士が舞い降りる。

『ッ!? こ、これは…………!』

アルファモン中で、自身に起こった出来事に驚愕する一夏。

『俺達、一つになれたんだ!』

一夏にドルモンの声が届く。

『これが………俺達の進化………』

アルファモンの目を通じて、自分の手を見る一夏。

その手を握りこむと、

『よおし! ドルモン! 俺達の力を見せてやるぞ!』

『わかった。 一夏!』

アルファモンはデクスドルゴラモンを見据える。

軽く前傾姿勢となり、膝を曲げると、一気に大地を蹴った。

その瞬間、猛スピードでアルファモンが飛び出し、デクスドルゴラモンへと肉薄する。

「はぁああああああああっ!!」

右腕を振りかぶり、デクスドルゴラモンの即頭部目掛け、思い切り殴りつけた。

「グガァアアアッ!?」

デクスドルゴラモンは思い切り仰け反り、その口に挟み込んでいたベルゼブモンが解放される。

「くおっ!?」

空中に投げ出されたベルゼブモンは多少驚きながらも翼を羽ばたかせ、空中で制動をかけて持ち直した。

「大丈夫か? ベルゼブモン」

アルファモンが声をかける。

「テ、テメェは………?」

「俺の名は、アルファモン」

名を名乗るアルファモン。

「お前………まさかドルモンか!?」

「正確には、イチカと共に進化した姿……だな」

説明しつつも、デクスドルゴラモンからは意識をそらさない。

地上では、簪がDアークを取り出し、アルファモンのデータを調べていた。

「アルファモン 究極体 聖騎士型デジモン ワクチン種 必殺技は『デジタライズ・オブ・ソウル』と『聖剣グレイダルファー』 …………本当に究極体に進化してる」

驚きの表情のまま、アルファモンを見る簪。

「一夏君とドルモンが、究極体に………」

楯無も呆然とアルファモンを見ている。

その時、体勢を立て直したデクスドルゴラモンがアルファモンを睨みつける。

「グガァアアアアアアアアッ!!」

殴られたことで頭にきたのか、唸り声を上げる。

だが、アルファモンは静かにデクスドルゴラモンを見据え、

「デクスドルゴラモン……………俺の影………」

少し悲しそうな表情を浮かべながら、右手を前に伸ばし、掌を広げ、デクスドルゴラモンに向ける。

『すまない…………せめて安らかに眠ってくれ…………』

一夏が懺悔をするように呟くと、アルファモンの掌の先に円形の魔法陣が発生し、

「デジタライズ・オブ・ソウル!!」

技の名を叫んだ瞬間、魔法陣から無数の光弾が放たれる。

その光弾は次々とデクスドルゴラモンに着弾。

「グッ………!? グアッ………!? グガァッ………!?」

光弾が直撃する事に一歩一歩後退していくデクスドルゴラモン。

途切れることなく放たれる光弾は、デクスドルゴラモンの再生能力を超えたスピードでダメージを蓄積させていく。

「グガァァァァァァ……………グガアッ!!」

後退を続けていたデクスドルゴラモンだったが、突如足を踏ん張ってその場に留まり、受け続ける光弾を無視して前傾姿勢を取る。

ドルゴラモンの『ブレイブメタル』と同じく、全身がエネルギーに包まれ、自身を巨大な砲弾と化して的に突撃するデクスドルゴラモンの必殺技、『メタルインパルス』。

『メタルインパルス』を発動したデクスドルゴラモンは、『デジタライズ・オブ・ソウル』の光弾を次々と弾き飛ばしながらアルファモンへと向かっていく。

その勢いは、留まる事を知らず、アルファモンへ到達するのも時間の問題と思われた。

その時、突如として魔法陣から放たれていた無数の光弾が途切れる。

攻撃が途絶えたことで、デクスドルゴラモンの勢いは増し、今まで以上のスピードを持ってアルファモンへと突撃した。

しかし、アルファモンは慌てた様子を見せず、魔法陣に意識を集中する。

すると、今まで無数の光弾として放たれていたエネルギーを一つに集中させ始める。

『デジタライズ・オブ・ソウル』が手数を優先させた連続攻撃だとするのなら、これは威力を優先させた一撃必殺。

「聖剣グレイダルファー!!」

魔法陣から一つの光の剣が発生し、向かってきたデクスドルゴラモンを貫く。

「グガッ…………!?」

デクスドルゴラモンは一瞬訳の分からない様子であったが、

「……………すまない」

アルファモンが一言謝ると、デクスドルゴラモンを貫いていた光の剣のエネルギーが解放され、

「グッ………グガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

断末魔の叫びと共に、デクスドルゴラモンは爆発した。

爆煙と共に、デクスドルゴラモンの装甲の欠片が辺りに散らばる。

流石に粉々にされては再生能力が発動しないのか、普通のデジモンよりは遅いものの、データ分解が始まる。

アルファモンはそれを見ると、マントを翻しながら背を向ける。

しかし、その背中はどこか寂しそうであった。




タカト達の元へ歩いてくるアルファモン。

ベルゼブモンは既にインプモンに退化していた。

「やったね、一夏」

楯無と簪に支えられながらも、アルファモンに笑みを向けるタカト。

『タカト………』

アルファモンの中の一夏が呟く。

『………このバカ野郎!! もうあんな無茶するんじゃねえぞ!! 本当に死んだかと思ったんだからな!!』

次に一夏の口から出はのは、タカトに対する怒り。

だが、それは全てタカトを思ってのこと。

それを分かっているのか、その言葉を受け入れるタカト。

「うん。 ごめんね一夏。 それに、楯無と簪もごめんね」

一夏に、そして楯無と簪に謝るタカト。

「いい………生きててくれたから………」

「でも、もうあんな無茶はしないでね」

2人の言葉に、

「うん、約束する」

素直にタカトは頷いた。

その言葉に、2人は笑みを浮かべるが、

「ッ………ぐっ!?」

タカトが体を押さえ、痛みに耐える仕草をする。

「「タカトッ!!」」

慌ててタカトを支える2人。

「と、とりあえずタカトを休ませましょう!」

「ど、どこか休めるところは………!」

2人がそう言った時、

「タカト~~~~~~~~ッ!!」

「ピッピップ~~~~~~ッ!!」

何処からかタカトを呼ぶ声がする。

全員が声のする方を向くと、マシーン型デジモンのガードロモンと、妖精型デジモンのマリンエンジェモンが飛んできていた。

「むっ!」

アルファモンが身構える。

だが、

「大丈夫。 あの2人は味方だよ…………僕の仲間のパートナーデジモンだ」

タカトがそう言う。

「ガードロモン! マリンエンジェモン!」

傍らにいたロップモンが声を上げる。

「クルックル~!」

クルモンも耳を広げて喜びを表現する。

「タカト、大丈夫か?」

ガードロモンが着地してそう言うと、マリンエンジェモンがタカトの傍へと飛んでくる。

「パプ~~!」

相変わらずのぱ行の声しか出せない声を上げると、口からハート型の泡を吐き出し、それがタカトに当たって弾ける。

すると、タカトの体の痛みが和らぐ。

「ありがとう、マリンエンジェモン。 大分楽になったよ」

マリンエンジェモンに笑みを向ける。

「皆はタカトの仲間か?」

「うん。 皆、仲間さ」

ガードロモンの質問にタカトが答えると、

「わかった。 まずはタカトを休ませるから、皆は付いてきてほしい」

ガードロモンはタカトを軽々と抱き上げると、付いてくる様に促す。

皆は一瞬顔を見合わせると、すぐに頷いた。

「わかったわ」

「うん」

「よろしく頼む」

楯無、簪、アルファモンの順で答え、ガードロモンが先行して飛び、その後をアルファモン、更にその後ろを皆が乗ったグラニが飛行していった。









戦いの後のコロシアムだった場所。

既にコロシアムの面影すらなくなった場所の一角のガレキの山。

そこで、小石が一つカラカラと転がり落ちる。

次の瞬間、ガレキの山の一部から腕が飛び出し、近くの岩に手をかける。

「うぐぐ…………!」

瓦礫の山から這い出てきたのは、瀕死の重傷を負いながらもしぶとく生きていたゴクモンであった。

「おのれ………あのガキ共………絶対に殺してやるぞ………!」

恨みの篭った声でそう呟きながら地面を這いずる。

すると、ゴクモンに突然影が掛かった。

ゴクモンがそれに気づいて見上げると、そこにはムゲンドラモンとキメラモンの2体がいた。

「おお! お前たちか、丁度いい。 早く俺を助けるのだ!」

ゴクモンが安堵の表情を浮かべながら言う。

「「……………………」」

しかし、2体は反応しない。

「何をしている! 早く俺を助けろ!!」

反応しない2体にゴクモンは声を荒げる。

「フン…………1人も始末できないとは、役立たずな奴め」

「所詮チンピラデジモン…………元より期待はしていなかったがな」

部下から突如言われた言葉に驚愕し、怒りに震えた。

「キサマら! いったい誰に口を聞いているのか分かっているのか!!」

怒鳴るゴクモン。

しかし、2体はそんな事を全く意に介さず、

「貴様こそ、唯のチンピラデジモンだった貴様に力を与えたのは誰だったかな?」

「なっ!? 何だと!?」

ムゲンドラモンの言葉に驚愕するゴクモン。

すると、突然ムゲンドラモンとキメラモンの姿が揺らぎ、2体の中央で混ざり合うと一つの巨大な影となった。

「なぁっ!?」

「貴様はもう、用済みだ」

驚愕するゴクモンを他所に、その影は冷たく言い放つと、

「タイムアンリミテッド…………!」

「や、やめろぉぉぉぉっ!!」

ゴクモンは叫ぶが、無情にも周辺の空間が歪み、時空を圧縮させ、ゴクモンを亜空間へと幽閉する。

更に、

「ディメンジョンデストロイヤー………!」

ゴクモンを幽閉した亜空間ごと破壊した。

ゴクモンは、誰に知られることもなくその存在を消滅させられた。

その影は、もはやこの場にいる意味は無いと言わんばかりにどこかに歩き出し、そして消える。

その場に残ったのは、妙な静けさだった。









だが、その場を去った影すら気が付かなかった。

あたり一面に散らばるデクスドルゴラモンの欠片。

未だにデータ分解の途中で完全には消えていないそれら。

その地面の下から、赤い液体のようなものが滲み出し、あたり一面を覆い尽くすと、デクスドルゴラモンの欠片が、沈むように消えていった。

そして、再びその赤い液体は地面の中に吸い込まれるように消えていった。








あとがき


第三十話の完成。

遅れてすみません!

出張があったり、風邪ひいたり、出張があったり、祭りに出なきゃいけなかったりで遅れました(単なる言い訳)。

まあともかく、今回は久々に割と手応えのある出来になったと思います。

デクスドルゴラモン登場。

でもってアルファモンも登場。

デクスドルゴラモン粉砕!

でもその後妙な展開に!?

どうなるかは続きをお楽しみに(できるわきゃねーだろ!)。

ともかく次も頑張ります。



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