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[32231] 使い魔は婚約者?【ゼロ魔・ネタ・三人称習作・オリ主転生・完】
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/22 22:49
*****
まえがき
*****
ルイズとサイトの様子が気にかかって、トリステイン魔法学院へきていた転生オリ主が、サイトポジションに入ったSSになりますが、いきなり婚約という手段から入ります。

内容的には『原作ブレイク』が良いという感想もいただいております。
それだけ、原作で読み取れる部分のオリ解釈・拡大解釈というか、かなり無茶な解釈をしております。
また、フォローが難しい部分、特に終話にむけてオリ設定で、烈風の騎士姫の設定も混在します。

個人的な部分はオリ展開です。
大きな動きは比較的原作に近くなりますが、根源的理由はかわります。


*****

2012.03.18:初出



[32231] 第1話 使い魔召喚の日
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/19 08:50
トリステイン魔法学院外の広場では、最後の召喚の儀式を行っている少女。
皆も予測されているとおりルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが使い魔召喚の魔法で失敗を繰り返している。
その失敗と呼ばれる魔法は爆発。
使い魔召喚に、一人であまりに時間がかかりすぎている。
この儀式の監督者であるジャン・コルベールも、時間がかかりすぎると感じはじめたが、そのルイズの目の前に使い魔召喚用ゲートが浮かんでいた。
あとは、その召喚用ゲートから、使い魔が出てくるのを待てばよい。
そうして待っていたが、中々、使い魔がでてこない。
しびれをきらせている生徒たちからヤジがとびだしてきた。

「『サモン・サーヴァント』でゲートが開いたのに、使い魔がこないじゃないか!!」

「きっと、使い魔になるのを嫌がってこないんだぜ」

「さすが、ゼロのルイズだ」

この儀式の監督者であるコルベール氏も、このような事態は始めてである。
何回も失敗したあとの、ようやく『サモン・サーヴァント』で開いた使い魔召喚用ゲートからは、何もでてこない。この教室の前に行ったタバサの場合は、出てくるまで多少は時間はかかったが、ここまで時間はかかっていない。
相手となる使い魔に拒絶されているのだろう。
ゲートが開いてもでてこないということは何回かあったが、そうすると、また『サモン・サーヴァント』を行わないといけないが、このルイズという少女は何回失敗するかがわからない。
思案のしどころであったが、結局はルイズと生徒たちが言い争いをはじめたので、それをたしなめて、再度、ルイズに『サモン・サーヴァント』を行いなおすように言った。
ルイズも反論しかけたが、使い魔がいつまでもでてこないのでは、進級できないので仕方がない。
再度『サモン・サーヴァント』を開始するが、また失敗の爆発だ。
やっぱり、さっきの使い魔召喚用ゲートから使い魔がでてくるのを待てばよかったのにと悔やんでいたが、すんでしまったものはしかたがない。
後悔先に立たずである。
だが、今度は10数回ほどの失敗のあとに、また、使い魔召喚用ゲートが浮かんでいた。
あとは、そのゲートから、使い魔がでてくるのを待つのだけである。
今度こそ使い魔がでてくるようにと、ルイズとコルベール氏も願っていたが、別な方向から声がかかってくる。

「ミスタ・コルベール。俺の前に、使い魔召喚用のゲートが開いているんですけど」

その声の主は、別な教室の者であり、すでに使い魔召喚はすんでいた生徒で、サンドリオンと呼ばれている。
灰色に近い銀髪が特徴で、灰かぶりを意味するサンドリオンは偽名であろうが、本名はコルベールにも知らされていない。
また190サントと背が高く、目は右目が黒で、左目が青色であり、青色と赤色の月のように色が違うので通称は『月目』と呼ばれている。
なかなかの美形ではあるが、サンドリオンという偽名らしきものを名乗っていることと、迷信深い地方では月目を不吉なものと、忌み嫌うものがいるところから、魔法学院の生徒たちからの受けはあまりよくはない。
そして、彼が呼び出した東方のドラゴンと呼ばれている、前足は五本指で、後ろに足はなく、黄色の背の毛が目立つが、翼が無いのに空中に浮かべる使い魔だ。
そのサンドリオンの横に見られるのは、使い魔召喚用のゲートと似ている鏡に似たものである。

「そのゲートは、どうやってあらわれたのかね?」

「最初は使い魔と過ごしていたところに現れたのです。この使い魔に尋ねてみると、同じようなゲートから来たと解ったので、時間的にここの使い魔召喚じゃないかと、あたりをつけて来ました。」

一瞬の間があいたあと、

「それで、今のルイズの『サモン・サーヴァント』で使い魔召喚用ゲートができたのと同時ぐらいに、俺の目の前にできたのですが」

「……君は、そのゲートをくぐる気は?」

「召喚相手と、召喚後の条件次第ですが……」

ようは、単純にはくぐらないぞと言っているのである。
くぐってしまえば『コントラクト・サーヴァント』の儀式までは「春の使い魔召喚のルールはあらゆるルールに優先する」ということで儀式はすすんでしまう。
だからこの場合は、召喚される相手が納得しなければくぐらないであろう。
少なくとも、使い魔召喚が成功しなければ、ルイズは退学である。

「召喚相手と、召喚後の条件次第っていうのは?」

「まず、本当に召喚主はルイズであることが一点目。もうひとつの条件は……今、ここでは言いたくない」

「それって、本当?」

「ああ。このゲートからもルイズの声が聞こえてきているから、召喚者はルイズで間違いないと思う。ただ、召喚後の条件は、できれば二人きりか、難しいのならミスタ・コルベールを含めた少人数で話をさせてもらいたい」

コルベール氏に、そしてルイズも困惑している中、サンドリオンが、

「ミスタ・コルベール。オールド・オスマンに確認をとってみては?」

渡りに船とばかりにコルベール氏は、

「そうだな。皆は教室に。君たち二人は、学院長室にて話をしよう」

皆は学園へ飛んでいくがルイズが飛べないため、サンドリオンの黄竜に乗って学院長室の塔に向かおうとしたが、さすがに乗馬とは勝手が違うようでルイズが乗るのに苦戦している。
初めて黄竜に乗るルイズに見かねたのかサンドリオンは、

「ああ、ルイズ。背中の毛でもつかんでいればふりおとされるようなことは無いから、つかんでいてくれ」

「わかっていたわよ」

わかってはいなかったが、素直ではないルイズである。
もしかしたら、サンドリオンにつかまるか、どうかしないと、っとちょっとばかり思っていただけである。

「さっき言っていたゲートをくぐってくれる条件って何?」

「ある程度は……たとえば、俺がどこの領主の息子であるとか話さないといけないだろうから、それを知っている、オールド・オスマンの元で話すのが良いと思う……」

先ほどの態度に比べ、若干ながら声のトーンは低いが、自分の退学か進学かの進退に気をとられているルイズは気がついていない。



学院長室に入ると、オールド・オスマンことオスマン氏は机のところで座っていて、ルイズとサンドリオンはその前で立って、コルベール氏がくるのをまっている。
そしてその横では、学院長秘書のロングビルが居て書類整理で忙しそうにしている。
そこで、無言のまま待っている間に、ようやくコルベール氏が入ってきた。
いきさつの詳細をコルベール氏が詳細にオスマン氏へ話していたが、その話も終わったころ、

「それで、サンドリオン君。本名を明かすのかね?」

オスマン氏からの確認で、サンドリオンは、

「ええ。ミス・ロングビルが、このままここの話をだまっていただけるか、もしくは退室していただければですが」

「うむ。ミス・ロングビル。席を外しなさい」

メイジであっても、平民であるロングビルに席をはずさせ、オスマン氏は、

「これでいいかね?」

「ええ、感謝します。それで、俺はド・フランドル伯爵家長男でケヴィン。身分そのものを隠したのは、今となってはたいしたことではない」

「それって、どういうこと?」

「この月目のせいで忌み嫌われると考えて、不必要にド・フランドル伯爵家への影響をさけたつもりなんだ。実際にはそれよりも、偽名を使っていることの方が、影響がおおきかったからね。貴女も俺の月目は気にしていないだろう?」

「……そうね」

「俺が本来ここにきたのは、学院長にも話していなかったが、興味本位で来ていただけだったんだ。俺の家での予言書には、今年ヴァリエール家の三女にメイジでも無い平民が召喚されるというのが残っている。それが俺にかわったので、対処方法を考えなくてはいけなくてね……」

その中でルイズが嫌そうに言う。

「わわわ私が平民を召喚。そそそんな馬鹿なことがあるわけないでしょう!」

「平民でなくても、人型の使い魔を召喚するところに意味あるんだけど、それはあとにしよう」

「あとに?」

「これから話すことは、未来を決める重要なことだ。もし、俺がルイズの使い魔になったら、使い魔という運命をどちらかが死ぬまで召喚者から外れることはできない」

「たしかに、そうねぇ」

「まずは、ド・フランドル家について、どれくらい知っているかな?」

「なぜ聞くの?」

「知らなければ、まずは俺の家のことを知らせる必要があると思ってっているからさ」

「馬鹿にしないでね。同じゲルマニアからの侵略をしている伯爵家なら、そらで言えるわよ。特に、海に面していることから、空海軍を常駐させているのは、異色だわ。家の格も公爵家におよばなくても侯爵家に匹敵するでしょう。ざっとしたところ、これくらいかしら」

「だいたい、そうだね」

ド・フランドル家は、宮廷の席次も、名門であるグラモン伯爵家ともほぼ変わらないが、ケヴィンはそのあたりをあまり気にしていなかった。まだ、表にでていない情報もあるがわざわざ言うまでもないであろう。

「それで、ケヴィンって言ったわよね。今のと何が関係するのよ?」

「だから、使い魔になるには、それ相応の代償を要求したいので、ド・フランドル家のことをまずは知っておいてもらいたかったんだ」

「代償?」

「ああ。俺と結婚するとかね」

「けけけ結婚。ななななんで、あああ貴方と結婚しなきゃいけないのよ」

「結婚は早すぎたな。今は婚約でもかまわない。これらの代償が必要な理由がある。聞いてくれるかい?」

「……」

まだ、ルイズは話をのみこめていないようだ。
オスマン氏の様子からは、何を考えているのかは不明だ。
コルベール氏は、ただ、事の成り行きに流されているように見える。

サンドリオンことケヴィンは答える者がいない中、語り始める。

「使い魔となった幻獣などは、主人への忠誠心などが高くなっていく。俺もそのような影響から完全には抜け出せないだろう。なら、一層のこと、結婚ということを考えた。それで、ルイズに婚約者がいるのならば、そちらへの破棄の手続きを願いたい」

まわりの様子を確認して、言葉がしみわたっているのを確認してから、

「そう。どちらかというと政略結婚のたぐいになる」

「で、でも……」

「返答は、これから事態が動くので、1週間以内ぐらいで婚約するのかきめてほしい。色々と、これから俺自身で動かなければいけないからね」

ルイズにとっては、少なくとも、家族にメイジとして認められたいという気持ちがある。
けれど、使い魔召喚にいたって、いきなり婚約だのという話をだされても、困惑が深まるだけであった。
現実味を帯びてはいなかったが、ワルド子爵という婚約者もいる。しかし、婚約は反故になったと思っていた。

沈黙が続く中、オスマン氏が、

「その予言書だが、信用のおけるものかね?」

「その予言書も、オスマン氏に縁の深い言葉として『元の世界』というのが、のっていましたが、それでどうでしょうか?」

「……うむ。ミス・ヴァリエール。すぐには、答えも出ぬ問題じゃろう。まずは一晩考えてみてはどうかの。」

「……はい。そうさせていただきます」

そうしてルイズとケヴィンを学院長室から退出させたあとに、オスマン氏は、

「ミスタ・コルベール」

「はい」

「これから、時代が動くかもしれぬかのう」

それには、返答できないコルベール氏がいた。

他方、ルイズは部屋に戻って、心の整理をつけ始めている。
貴族として、使い魔召喚を成功させるために婚約をするのか、それとも親がきめた憧れでもあるワルド子爵との婚約を再確認するのかと。

当事者の一方であるサンドリオンことケヴィンは、今日召喚したばかりの黄竜に話かけている。

「名前が無いのも不便だな。俺の記憶に残っている前世の記憶では、黄竜は四方の竜を統べる上に、人間の皇帝を導きし物とある。その皇帝だが、こちらの世界ではカイザルと言うが、それよりも新しい言葉であるカイザーというのはどうだ?」

うれしそうに、首を縦にふる黄竜をみて、

「じゃあ、カイザーとこれから呼ぶな。しかし、サイトじゃなくて、俺が選ばれるとはなぁ。単純にここには見にきただけのつもりだったんだがなぁ」

ケヴィンとしては、自分が生存していくのに、ルイズとサイトの行く末を見守るつもりで、影響を最小限にするつもりだったのだが、なぜか、召喚のゲートはケヴィンの目の前に開いてしまった。ゲートからの声からしてルイズだと思ったので、緊急的に、結婚という条件を思いついたのだが。

しかし、ケヴィンが嘆いた意味をはかりかねた、カイザーは首を横にかしげていた。


*****
原作2巻のルイズとワルドの結婚式で、ルイズが結婚式を望まなく、ウェールズ皇太子がフラれたことを指摘したことの箇所より、独自・拡大解釈(1754年『ハードウィック婚姻法』以前などもあります)として、ルイズからワルド子爵へ何らかの方法により婚約破棄できるとして、構成されております。

2012.03.18:初出



[32231] 第2話 虚無とガンダールヴ
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:04
使い魔召喚の翌日、最初の授業が始まる前の時間にあたるころ、ルイズとサンドリオンがいるはずの教室では噂話が流れていた。

「ルイズが今日きていないってことは、やはり使い魔召喚に失敗したのか?」

「いや、その前に、ルイズの使い魔にサンドリオンがなりたいと思うか?」

「そうだよなぁ」

「けれど、サンドリオンは私生児だから、案外なるかもよ」

サンドリオンという明らかに偽名であることから、貴族の私生児という噂も流れているが、当人による否定も肯定もなかったので、流れている噂話である。


一方、同じ時間の頃、魔法学院の外の広場では、3人組がいた。
一人は、髪の毛の薄さが目立つコルベール氏に、もう一人は桃色がかった金髪のルイズ、そしてもう一人は黒いダークブラウンの髪であるが、月目と呼ばれる黒い右目と青い左目の組み合わせが強烈な印象を与えるだろう、サンドリオンである。
昨日までは、灰色に近い銀髪だったが、こちらが本来の髪の色である。

コルベール氏が再度形式的に質問する。

「ミスタ・サンドリオンではなくて、これからはミスタ・フランドルと本名をなのるのだね?」

「ええ、サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントまで成功すれば、ですがね。それは、このルイズとの誓約書に記載してある事項です」

その誓約書には、サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントが成功したあかつきには、ケヴィン・ド・フランドルはルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔となることと、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは、ケヴィン・ド・フランドルと婚約し、ラグドリアン湖でそれぞれの誓いをたてる、と記載されている。
いつそれぞれを行うとは、時期の明確化はされていないが。


これは今朝の食堂でルイズから、

「貴方を使い魔にする条件は、了承するわよ!」

ムッとした感じではあるが、小声で話したルイズである。
ワルドからは連絡もないし、婚約も、戯れに、二人の父が交わしたあてのない約束……ワルドからはとうに反故にされたのだろうと思ったのだ。いや、そう思い込みたかったのかもしれない。

「わかった。準備をするから、あとで、ミスタ・コルベールの研究室で、会おう」

そう言って、ケヴィンは自分の部屋に戻り、魔法薬で染めていた髪の毛を元にもどした。
さらに、昨晩のうちに用意をしておいた誓約書を持って、ミスタ・コルベールの研究室でルイズと再会後、研究室でお互いにサインをしあって、この魔法学院の外にいる。
髪の毛の色が変わっていたことに驚いていたルイズだが、

「本名をあかした以上、魔法薬で染めていた色をおとしたんだ。召喚に失敗したら元にもどすけどね」

そう言うだけだった。



「それでは、春の使い魔召喚の儀式を再開する。ミス・ヴァリエール、儀式を始めなさい」

ルイズが使い魔召喚の魔法であるサモン・サーヴァントの呪文を唱える。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」

今度は、爆発もせずに、ルイズの前に使い魔召喚用のゲートが開き、サンドリオンと名乗っていたケヴィンの前に、昨日見た鏡のようなゲートが浮かんでいた。

「今度は、一回で成功になりそうだな」

「ルイズ。約束は守ってくれよ」

爆発しないのは、距離とかに関係するのだろうか? とも疑問に思ったが、虚無に関しては考えるだけ無駄だとあきらめて、ケヴィンが誓約書をひらひらさせながら言うと、

「そんな紙がなくても、約束は守るわよ。私は貴族よ!」

「わかったよ。それじゃぁ、入るか」

ケヴィンがちょっと両肩をあげさげしたあとに、鏡のようなゲートへ入るとほぼ同時に、ルイズの前にある使い魔召喚用ゲートから、ケヴィンがでてくる。

「やぁ、俺を知っているよな?」

「何を言っているのよ! ケヴィン」

「いや、ちょっとした、お茶目だ」

そう言いつつ、自分自身のいた世界であろうということを確認していたケヴィンだった。
それで次は、ルイズに近づいて行き、

「コントラクト・サーヴァントを続けておこなうんだろう?」

「そそそそうよ!」

ケヴィンの独特な月目が、神秘的な感じをルイズに受けさせる。
これから、使い魔としての儀式とはいえ、ファーストキスの相手であり、なおかつ昨日までの灰色に近い銀髪ではなく、黒いダークブラウンの髪が月目とあいかさなって、その美貌をひきたてている。
何気にルイズは美形に弱い。
この年頃の少女であればそうであろうが、使い魔とのコントラクト・サーヴァントにすぎないのだが、相手は同じ貴族でもある。
ちょっとばかり、頬も染めて視線をケヴィンから外している。

空気を読んでいないコルベール氏が、

「ミス・ヴァリエール。気分でもわるいのかね?」

「いえ。そんなことは、ありません」

「それでは、儀式の続きを行いたまえ」

「はい」

ルイズは、意を決してケヴィンに向いたあと、自分の気持ちをごまかすかのように目をつむる。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

そして、ルイズの唇が、ケヴィンの唇に重ねられる。
顔を真っ赤にしたルイズが唇を離す。

「終わりました。」

「コントラクト・サーヴァントも無事にできたね」

「って、俺の全身が熱いんですけど。わかっていたけど、きついですね」

ケヴィンが言葉を発してから、少したったのちに自身の左手を見つめている。
そんなケヴィンのそばにコルベール氏が、

「珍しいルーンだな」

「ちょっと、ためさせてください」

そう言って、いきなりブレイドの呪文を唱えだす。
そして、左手のルーンを見て、

「やはり、ダメか」

「何がダメなのかね?」

「もう一つためしてから話しますので、まっていてくれませんか?」

そして、ケヴィンはそのまま、錬金をとなえて、青銅の剣をつくる。
今度は、作った剣を右手で持ちながら、左手を見て、

「よさそうだな」

そう言った後に、剣を手放す。
左手のルーンが淡く輝いていたのを確認していたのだ。
コルベール氏が興味深げに、

「何をためしていたのかね?」

「この左手のルーンについてです。読みづらいですけど、古ルーンで『ガンダールヴ』って読めますよね?」

「そそそうね」

ケヴィンのすぐそばにそのままいた、顔を真っ赤にしていたルイズだが、ごまかすように言っている。
顔が赤いのを指摘するのは無粋であろう。

「『ガンダールヴ』? どこかで聞いたような……」

「……始祖ブリミルに従えた使い魔と、我が家の予言書にはのっていました」

少々、考えた感じで、間を空けてからケヴィンが言った。

「それが真実ならば、世紀の大発見。さっそく、学院長に報告して、指示を仰がないことには……」

「そうですね」

話の展開についていけないルイズは、ぽかんと口を開いている。
ケヴィンがその状態を見て、フォローをする。

「ああ、ルイズ。貴女の失敗と呼ばれた魔法の結果……あくまで結果を、すべて四系統の魔法の法則に例えて考えてみるとよいと思うよ。そうすれば、ルイズの魔法の特異性がわかると思う。あくまで、予言書を読んでいるから考え付くことだけどね」

「その予言書とは?」

コルベール氏から質問がすると、

「東方の書物なので、普通の人には読めませんよ。それでも良ければ、お見せいたしますが」

「研究材料はほしい。あとからでもよいので、見せてほしいのだが」

「ええ。結果の外れた予言書ですが、参考になることはあるでしょう。30年前のアカデミーの活動のこともね」

「……きみは、いったい何を知っているのだね?」

それまで、単純な温厚で気弱な部分もみえていたコルベール氏の雰囲気が、歴戦の戦士にみえたようなのは気のせいだろうか?

「ミスタ・コルベール。貴方のその発言を聞く限り、我が家の予言書は、ある程度まで信用できるようですね」

冷静にケヴィンに指摘された、コルベール氏はまた元の気弱な面を見せだし始めた。

「君がどこまで知っているのかしれないが、アカデミーか……」

「とりあえず、オールド・オスマンに相談しませんか?」

ケヴィンとしても、すべてが計算通りに行っているわけでは無い。
ルイズは、若いだけあって、現在のところは、比較的コントロールはできやすそうだが、ルイズに嫉妬をおこさせなければいけないのは、頭がいたい。
オスマン氏やコルベール氏はそういうわけにはいかないだろうと考えている。



学院長室にそろって向かった3人は、ミス・ロングビルが席を外したあとの、オスマン氏が座っている学院長席の前に立っている。

「それで、たかが、使い魔召喚の儀式が成功したことを報告するのに、ミス・ロングビルを退出させてまで話さなければならない内容とは何だね?」

「オールド・オスマン」

コルベール氏が興奮をおさえられないように、声が震えている。
外での会話を考えから切り離すかのように。

「このミスタ・フランドルの左手には、あの始祖ブリミルの用いた使い魔である『ガンダールヴ』のルーンがきざまれたのですぞ」

「ミスタ・コルベール。始祖ブリミルは、呪文を唱える時間が長かった……、その強力な呪文ゆえに。そんな呪文をとんさえている間、己の体を守るために始祖ブリミルが用いた使い魔が『ガンダールヴ』じゃ。その強さは……」

「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並みのメイジではまったく歯が立たなかったとか!」

そこで、ケヴィンが口をはさんだ。

「俺じゃ、このルーンの力をかりても、そこまでの力はでませんよ」

「……なぜ、そう言いきれるのかね?」

「我が家の予言書では、始祖ブリミルにつかえていた『ガンダールヴ』はエルフだったそうです」

「なんじゃと!! そんなこと、あるわけが……」

「ロマリア教皇は知っているでしょう。ただ、聖地を奪還するにあたって、始祖ブリミルの使い魔がエルフだったということは、隠しておきたかったのではないのでしょうかね?」

「うむ……君はそうだとして、ミス・ヴァリエールは?」

ルイズの評判がゼロとの評判なだけに、始祖ブリミルの魔法の強力さとの印象がかけ離れている。
それをあっさりと、

「虚無の系統です。ただし、この魔法の呪文を唱えるのに必要なのは、始祖の指輪と、始祖の祈祷書が必要でしょう」

「始祖の指輪はともかく、始祖の祈祷書。あれは、あちらこちらに、これこそは本物だと言っていて、それらを集めるだけで図書館ができるほどで、どれが本物かまったくわからないぞ?」

「本物は、予言書のとおりなら、トリステイン王家にある、文字が一つも見当たらない始祖の祈祷書ですよ」

「わたし、魔法を使えるの?」

ルイズが発した言葉。
短いが切実そうな言葉だ。

「問題は、始祖の祈祷書が国宝なので、どうやって近づくかだ」

「ほう! 始祖の指輪は、なんとかなりそうなのか?」

「ええ。ミスタ・コルベールが赤色のルビーの指輪を持っていれば、それが始祖の指輪の一つのはずです」

「ミスタ・コルベール。きみは赤いルビーの指輪をもっているのかね?」

「ええ、本来の持ち主を探して、渡さなければと思ってはいましたが、今までロマリアに行く機会を逃しておりました。まさか、始祖の指輪だったとは思っていませんでした……」

「わかった。ところで、ミスタ・フランドル」

「はい。なんでしょうか?」

「その予言書の中身をもう少し教えてもらえないだろうか?」

「……時が来たら、お伝えできますが、今は話せる内容を、まとめてからとさせてください」

「なぜかね?」

「予言を知ってしまうと、それを変えたくなることが発生します。例えば、予言書で召喚される平民は、7万人の軍隊と対立することになっています。俺は、そのような目にはあいたくありません」

「なんじゃと! 7万人を相手に1人で?」

「ええ。だから、そのような予言にはならないようにしたいのです。けれども、そこがかわると、その後の予言にずれがでてしまうでしょう。だから、帳尻合わせをする必要があり、知らせない方が良い内容があったりいたします」

「わしらが知っても、内容を変えないように動くと、始祖ブリミルに誓ってもかの?」

「そうですね。例えば、この魔法学園が襲われるって言ったら、信じますか?」

「このメイジの塊のところに襲ってくるようなことは無いであろう」

「そういう油断がうまれます。そして、それはそのうち訪れると予言書には、時期も含めて書かれています。例えば、今から言っておいていいのは、トリステインが戦争に参加した直後に、ここが襲われます。そこで、ミスタ・コルベールには大きな変化が訪れるのが予言書に書かれています。これはその後に、おこってほしいことがあるので、事件そのものがなくても、同様な結果をおこしてほしいのですよ」

「戦争? ここが襲われる? そして、ミスタ・コルベールに大きな変化が訪れるとな?」

「ええ、予言書ではそう書かれております。そして、ミスタ・コルベールを取り巻く環境は変わってほしいのです。本人が望むと望まざるとにかかわらず。だから、あかせる内容はあかしますが、そうでないのはその時期が過ぎてから、お知らせいたします」

「ふむ。その内容とやらは、まずは待つとしよう」

オスマン氏は納得し、コルベール氏は突然ふってわいてきた自分への話に困惑している。
ルイズはルイズで、どうやって、始祖の祈祷書に近づくか考えている。

ケヴィンは、ちょっとあかし過ぎたかな?っと、少々後悔を始めたが、後悔先に立たずである。


*****

2012.03.20:初出



[32231] 第3話 ゼロと小石
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:05
ルイズとケヴィンが、学院長室からでたのは、もう昼食の前だった。

「思ったよりも時間が、かかったなぁ」

「貴方が、あんなに話すタイプだとは知らなかったわ」

ケヴィンは前世から普段は無口だったが、なんかの拍子で話し出すと中々とまらないという特徴があった。
こっちの世界でも、その性格は引き継がれたようだ。

「そういうこともあるさ。これから、ゆっくりとお互いのことを知ろうじゃないか」

「貴方の持っている予言書って、わたしのことが、どれくらいのっているの?」

意外に鋭い質問である。
だが、ケヴィンは、

「表面上のことしかわからないよ。そもそも使い魔そのものが違っているしね」

「その言葉に嘘は無い?」

「ああ、ルイズの使い魔兼、婚約者になることに誓ってね」

真っ赤なウソを、さらりと言ってのけるケヴィンである。
まあ、ケヴィンの顔をまともにみていたら、微妙に表情が固まったのに気がついたかもしれないが、ケヴィンの月目とそれにあった髪色に、整った顔立ちをみていたら、コントラクト・サーヴァントのファーストキスを思いだして、まともに見ることができないルイズであった。



昼時なので、昼食をとる『アルヴィーズの食堂』に向かうと、中では同じ2年生から

「おい。あれ、ルイズだろ。隣にいるのは誰だ?」

「ルイズの隣なら使い魔契約をするのしないのと言ってた、サンドリオンじゃないのか?」

「いや、髪の毛の色が違う」

がやがやと、噂がサザナミのようにひろがって行く。
中にはケヴィンの変化した髪の毛を見て

「あら、いい男じゃない」

とかいう赤毛の女性がいたとかいないとか。


そんな話を聞きながら、ルイズはいつもの席に向かうが、ケヴィンがいつまでもついてくる。
席が違うはずなのにとルイズは思い、

「ケヴィン。どこまでついてくるの?」

「うん? 隣の席で食べようと思っているけど」

「それだと、いつもの席と違うじゃないの!」

「別に席は2年生のところであれば自由だろう? それに俺はルイズの婚約者になる予定だ。使い魔でもあるけどさ」

そっと、聞き耳をたてていた2年生の中には、

「ケヴィンってだれだよ?」

「使い魔って言っていたから、やっぱりサンドリオンじゃないのか?」

「だけど、髪の毛の色が違うぞ」

「もしかして、染めていたのかー」

「私生児じゃなくて、お忍びで来ていたのね。つばをつけておけばよかったわ。」

最後、トリステイン貴族っぽくない声もきこえたが気にすまい。
こうして、噂の中心になる二人である、ルイズが席につき、ケヴィンがその隣の席に着く。
ちょっとしてから、ケヴィンの席にいつもすわっていた、ぽっちゃり気味のマリコルヌがきて、その見覚えのない髪の毛の人物に向かって言い放つ。

「そこは俺の席だ。どけろ」

「そんな規則はどこにあった?」

ケヴィンが振り向いて、マリコルヌを確認しながら言う。
たいしてマリコルヌは、話しかけた相手が特徴的な月目であることから、

「もしかして、サンドリオンか?」

「ああ。今朝まではそう名乗っていたが、ルイズの使い魔となったからには、改めて挨拶をしよう。ケヴィン・ド・フランドルという。同じ教室になるようだから、よろしくな」

「そこは、俺の席だが」

「席なら空いているところが、まだそこらにあるだろう。俺はルイズの使い魔だから、そばにいるのさ」

「ケヴィンというのか。ゼロのルイズの使い魔にされて不憫だな。それに免じて席を譲ってやろう」

そう言うマリコルヌの手はケヴィンにたいして不安感で震えていたが、

「そういうことで、よろしくな」

マリコルヌが、その場を離れるとわずかにあった緊張感が霧散していく。
そして、昼食はゆっくりはじまるが、行儀よく静かに食事は進んでいく。
ゆったりと食事の時間が進むなかで、徐々にだが、席を立ち中では話会う者たちがでてくる。

そんな中、自分をバラに例えて話しているきざな生徒である、ギーシュのポケットから小瓶が落ちたのを見ていたケヴィンだが、

「特に関係しなくてもよさそうだから、いいか」

ここで、小瓶をとりに行って、最終的に剣でいどむのが、もともとのところだが、放置プレイを決め込んだ。

しかし、その落ちた小瓶をわざわざ拾いにくるものがいた。
茶色のマントを着ていることから1年生であるのがわかる。
それは少女であって、

「ギーシュさま……」

さすがのギーシュもその小瓶、香水入りの小瓶をみて、うかつにも自分のポケットから落としてしまったのを、見られたことに気が付いたのだろう。
言い訳を始めたが、ギーシュから「ケティ」と呼ばれた少女からは、思いっきり頬をひっぱたかれた。
さらには、その様子を本来の彼女であったモンモンランシーにも気が付かれて、言い訳も火に油をそそそぐようなものであり、彼女がテーブルに置かれたワインの瓶をつかむと、中身をどぼどぼとギーシュの頭の上からかけられた。
哀れ、ギーシュ。誰もが君の不幸を期待していたようだ。


そんな様子を観察していたケヴィンに、小声で問いかけられる。
ルイズである。

「今、ギーシュの方を、ずーっと、みていたでしょう! 香水の瓶が落ちるより前から。あれが何かあるの?」

「……ああ。あそこで、平民が小瓶を拾って、ひと悶着おこしていたんだけど、今の俺が、それをする必要性があるか、無いかっていうところで、必要なさそうなんでね。はぁ」

「平民が、貴族と? なんて馬鹿な平民なのよ」

ケヴィンは肩をすくめて、ルイズには直接の返答をしていなかったが、時折、とある女性からの視線を感じ取っていた。


午後の講義にでるため、教室に行ったルイズとケヴィンの二人には、興味の視線がそそがれているが、誰も質問を発しようとはしない。
その中に現れた教師は、コルベール氏。
開口一番告げられたのは、

「皆もわかりづらい人物がいるだろう。あらためて、自己紹介をしてもらおう。ミスタ・
フランドル」

ケヴィンがそれにしたがって立ち上がる。

「俺はケヴィン・ド・フランドル。今までは髪の毛を染めて『サンドリオン』と名乗っていたのは、特に気にしないでほしい。以上」

「たしか、君の二つ名は『小石』だったよね? それでかまわないというのかね?」

「今後、自然に別な二つ名がつくでしょうから、わざわざ、こだわる必要はないと思っているので」

それで、自己紹介はおわりとばかりに、そのまま席に座る。
通常、貴族が話すのは、長めの自己紹介となるのだが、ケヴィンの自己紹介に、コルベール氏はやれやれとばかりに、首を横にふって、講義を開始しだした。

コルベール氏の講義は、現在1年生の時に習った基本的なことの復習だ。
その合間に、先ほどのケヴィンの自己紹介から、部屋の中でこそこそと話がはじまる。

「フランドルって、たしか、ゲルマニアとの国境付近にあるところだよな?」

「ルイズのところもゲルマニアとの国境のところだったよなぁ」

「キュルケとの仲の悪さをみればわかるだろうよ」

「もしかして、サンドリオンじゃなくてケヴィンとルイズって、知り合いだったんじゃないのか?」

「たしか、フランドル伯爵家って、ゲルマニアとも面しているが、海に面したところだと思ったぞ。下手をすれば侯爵格じゃないか」

「知り合いかどうかはわからないな。しかし『小石』と『ゼロ』かよ。お似合いじゃないか」

「そうそう、食堂では、婚約者とか言ってたな。しかも使い魔だってよ」

「それは、お笑いだな」

クスクスと一部で笑い声が広まっているが、コルベール氏の頭の中では、戦争と魔法学院が襲われたときに、自身の環境に変化がおこるという予言書の話に気をとられたままで、普段ならとめる私語も注意をせずに、講義をすすめていた。


その日の夕食後、ルイズの部屋にケヴィンが居る。
ちゃっかりと、使い魔であることを理由に、堂々と女子寮に入る許可証も持っている。
もうひとつ理由としてあるのは、ルイズが予言書に興味を示していることにより、オスマン氏とコルベール氏へ提出する予言書の翻訳のうち、現在だせる部分の訳を行うところをリアルタイムで見ていることだ。
ケヴィンとしては、まずはルイズとの距離を縮めておく必要があると考えていたので、渡りに船だ。
同じ部屋にいて、翻訳をしているのを同じテーブルの上で見せながら行えば、肉体的な距離が近づくと、精神的な距離感が近づくという心理を利用できると考えている。


ルイズからみた、ケヴィンが持ってきた予言書は、思っていたよりも非常に小さい。
教科書に使っている本の半分ほどの大きさだろうか。
使っている紙も薄いのに、やぶれにくそうなほどである。
最初に度肝をぬかれたのが、最初の色つきの紙である。
黒髪の見知らぬ服装の少年はともかく、自分自身に、オスマン氏、ミス・ロングビル、ギーシュにタバサ。そしてあまり顔をあわせたくないがキュルケが、特徴をつかんでのっていたことだった。
見知らぬ黒髪の少年が、この本にのっていた平民ということだが、その平民の前で脱ぎ掛けている色つきの絵をみて、これをケヴィンが見てたと思うと恥ずかしい。
あくまでも、本というところで、実際にケヴィンにそのような様子をみせたことはないけれども、昨日きていた下着が、まさしくこの本の絵と同じだったのだ。

一方ケヴィンの方は、翻訳するのにうなっていた。
数字については、さすがに関連性はすぐに気が付かれるだろう。
それ以外については、実質上表音文字しか知らないルイズに見せても、表意文字の概念をもてない限り、ひらがなも、カタカナはともかく、漢字は理解できないだろうと考えている。
ルーン文字や、古ルーンにも、文字一つにつき、前世の世界では意味があったはずだ。
しかし、この世界では無いことを確認している。

問題となってくるのは、翻訳しているときに、下手に言葉として出したり、ハルケギニア語で書く時に、余計なことを書きすぎると、困ることになる。
他にも、挿絵そのもので、先行きが読めてしまうようなところがある。
例えば、キュルケが平賀才人にせまられているところだ。
そう、ケヴィンが持ってきている予言書とは、前世で『ゼロの使い魔』という題名で呼ばれていた本である。
フランドル伯爵家に全部はそろっていないが、ケヴィンが前世で少しは読んだ覚えのある本だった。

これに興味を示して、実際に自分が、同じ時期に魔法学院に入学することができるということもわかり、興味本位で魔法学院にはいってきたのだが、まさか自分が、使い魔になるとは思わなかった。

召喚用ゲートらしきものが自分の前に来た時に頭へ浮かんだのは、ルイズの退学はまずいという一点だ。
あとは、ルイズが自分と恋愛に向くかという点では自信がなかったので、即席で考えた結果が、使い魔になる条件としての結婚だ。
性格はともかく、顔は可愛らしい。
問題は、ルイズの両親だが、昨晩である程度作戦はねっている。
今朝おきて再度考えたが、多分、これでなんとかなるかな? と思いつつ今の現状にいたる。
ルイズに、

「今日はこれぐらいにしておくか」

「えっ? 翻訳がそんなにすすんでいないようだけど」

「東方の文字は難しくてね。読むのに時間がかかるんだよ」

実際、ケヴィンに聞いてわかった、数字と絵以外に、わからないルイズにはそれで納得するしかない。

「それと、寝る前に、風呂ぐらいには入りたいからな」

フランドル伯爵家は、ゲルマニアと面しているために、小競り合いが発生する。
ケヴィンも前線には出ないが、戦場にはすでにたっている。
ここの領地をまかされるには、体を動かすのが必要と判断し、魔法学院にはいってからも、夕食までの時間に身体を動かす訓練はしている。
さすがに、乾燥している地方で、香水で体臭をごまかすということを知っていても、前世の記憶のせいか、ここの地下の風呂は気に入っているので、平日は毎日入っている。
他の貴族は、毎日というわけではないので、風呂好きなのは自分ぐらいだろうと思っていた。
たまに、キュルケみたいに、自分の部屋に風呂も用意している生徒もいるが、少数派だろう。
ルイズの部屋から出る間際、

「じゃあ、明日、ラグドリアン湖へ行くのに、迎えにくるから」

「そうね」

気乗りはしていなさそうだが、貴族として約束をしたからには、それをはたすのが、貴族であると思っているルイズである。

『さて、明日は水の精霊にあえるかな?』

水の精霊と早めにあえれば楽だな、と考えているケヴィンが居た。


*****

2012.03.23:初出



[32231] 第4話 2つの虚無の曜日
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/12 20:08
翌日、虚無の曜日も昼食の時間になろうかというところで、ケヴィンとルイズが黄竜であるカイザーにのっている。
そのカイザーから2本の綱が2頭の馬にまでつながっていた。
カイザーの遠出が、どれくらいできるかの試しもかねている。
そこで、ケヴィンが

「そろそろ、ラグドリアン湖だ。ルイズは、太后マリアンヌの誕生日を祝う園遊会で来ていたんだろう?」

「よく知っていたわね」

「それも予言書に書かれている内容からの推測だったけど、アンリエッタ姫殿下の影武者をしていたとか」

「やだー。そんなことまでのっているの?」

「まあ、髪の毛の色が特徴的だったので、ルイズのことじゃないかと思っただけだよ。それで、ここの湖畔を見てかわったことに気が付かないかい?」

「えっ? そういえば……」

いつの間に丘の上まできていたのか、空から見下ろすラグドリアン湖の青くまぶしかった。
陽光を受けて、湖面がキラキラとガラスの粉をまいたように瞬いている。
そこの中の一点をルイズは凝視して、

「湖から屋根がでている。そんな湖じゃなかったはずなのに」

「村が飲み込まれたみたいだね。多分、水の精霊が怒っているんだろう。今、水の精霊の御許で誓約しても、禍となすだけだろうな」

この状態でも、ここで、祈っておけばよかったと後で後悔するのだが、

「今日はここを見ての食事だけにして、帰ろうか?」

「貴方、知っていて来たわね?」

「まあ、本にのっていたからね。ただ、誓約書を書いた時には、そこまでは思いつかなかったよ」

ケヴィンは、カイザーに指示をだして、適度に湖を見渡せる位置に舞い降ろさせ、この小春日和の中、シートを広げてルイズへ座るように即した。
まるでピクニックのようである。
持ってきた魔法学院のランチを開いてみるとパン、ソーセージ、チーズ、豆を煮て味付けされたものが入っている。
ランチを開始する中、ケヴィンがパンを縦長に半分ほどに切り、ソーセージや豆にパンをはさんで、マスタードをつけてサンドウィッチのように食べようとしていたところでルイズが、

「何! その食べ方!」

まるで行儀が悪いとでも言うようだ。
普通の貴族ならば、それぞれ別々にして、行儀よくわけて食べていくものである。

「そういえば、馬の上で食べているんじゃなかったな」

「なんで馬の上で食べるの?」

「自領で平民出の兵士と一緒に行動しているから、馬の上で食事をする癖がでたんだろう」

「平民出の兵士? なんで、そんなのと一緒に食事をしているのよ」

「空海軍の兵士の編成は知っているかな?」

「それと、今の話に何の関係があるの?」

「あるから聞いているんだよ。それで知っているかな?」

ルイズは一般の軍務や、魔法衛士隊のことは親がそのような任務についていたので、知っているが、さすがに空海軍の細かいことは知らない。

「いいえ」

「空海軍は、メイジとしてよりも、船を動かす技量が重要だ。そこではメイジも平民も関係ない。そして、俺のところの領は海に面しているのと、ゲルマニアにも接しているから、空海軍の一部が常駐している。それは、知っていたよね?」

「ええ」

「そして、その空海軍の方式を陸上でも取り入れた方が、戦力の運用に適しているから、フランドル家ではそうしている。ただ、他のところでは、やっていないけどね」

「貴方のところのやり方は、ゲルマニアとそっくりね」

「地方の前線では、中央の方式をそのままっていうわけにはいかないからね。公爵家なら、そうしなくても大丈夫なのかもね」

ルイズとしては、気勢をそがれたようなものだ。
話題を変えてみるにあたり、昨日の講義で気になった件を聞いてみる。

「そういえば二つ名の『小石』だけど、どうやってついたの?」

「簡単にいえば、相手の杖を落とすのに小石をつかったからさ」

「どういうこと?」

「言うよりは、実際に見る方が早いだろう」

そう言って立ち上がり、ブレイドの呪文で杖が茶色に輝く剣状にかわる。
さらにききなれない呪文だが、詠唱時間は短いことからドットのスペルだろうとはわかるが、その効果はケヴィンのいたところとは違う場所にあった小石が、近くにある木々に衝突して、穴を開けている。

「見た通りで、これが二つ名である小石の由来だよ。試合の時には、これよりも威力を落としていたけどね」

「貴方、本当にドットなの?」

「ああ。ラインスペルを唱えても、その魔法は使えない」

「けれど、その威力を見せたら、もっとすごい二つ名がつくじゃないの!」

「興味は無いが、あえてルイズのために知らせておくなら、今のはコモンである念力で、それを古ルーンに翻訳しなおしている」

「なぜ、そんなことを?」

「魔法は詠唱速度が短い方がいいからね。同じなら普通の話し言葉よりも古ルーンの方が詠唱が少なくてすむ。実戦ではいかにはやく詠唱するかが重要なのは知っているだろう?」

「そーね」

そのあとは無言のまま、二人の間に会話は無かった。
ケヴィンも、コモンを古ルーンに翻訳したというのを話したのはまずかったかなとは思うが、現状のルイズの性格を考えると極端なトリステイン貴族の色にそまっているだけあって、下手なことを言えば、信頼関係を築けないまま、使い魔を続けなければいけなくなる。
だからといって、ルイズのトリステイン貴族色をうまく消す最短な方法は、思い浮かんでいない。

その日はそのまま二人とも無口なまま、魔法学院まで帰った。
そして、そしらぬ顔をして、ちゃっかりと夕食後にはルイズの部屋で、予言書の翻訳をしているケヴィンはいたが、ルイズがそばに拠ってはこなかった。

実力に対して低い小石という二つ名に対して、トリステイン貴族なら、汚名返上と動くだろう。
しかし、このケヴィンは、そのことに対して気にしていない様子である。
自分のゼロという二つ名にコンプレックスをいだいているルイズにとっては、どう取り扱ってよいのかわからないのであった。
虚無の担い手であるというのも、現在のところ、本当なのか自信が無いのもあるのだろう。

一方のケヴィンは、ルイズの様子は気にしていないように見える。
次の日も各食事や、講義に、夜間にいたってはルイズの部屋にいるケヴィンである。
そして、ケヴィンの主観によって、出してもよさそうなところの翻訳が終わると、オスマン氏のところに提出している。
とはいってもまだ本の1巻までだが。

ルイズが、短時間でケヴィンに気を許すとは思っていない。
しかし、肉体的距離が近くなれば、精神的距離も近くなるという前世の記憶に頼っているケヴィンにとっては、時間の問題だと思っている。
それよりも、気にかかる要素がもうひとつある。

それはケヴィンに視線を感じさせた赤毛の女性である、キュルケであった。
他の貴族へのあからさまなアプローチとは違い、サラマンダーで監視しているようだ。
サイトが貴族ではなかったから、サラマンダーで監視していたのはわかるが、なぜケヴィンに対しても同じ方法をつかってくるのかが不明だ。

キュルケとしては、今まで眼中になかったサンドリオンが、ケヴィン・ド・フランドルと、ゲルマニアに隣接するトリステインの貴族だけに、少々作戦を練る必要があるかと多少は考えていただけだった。
そして、それは虚無の曜日の前日に行われた。

ケヴィンがいつもの通りに、夕食後の時間は自分の部屋へ一旦よって、本や書き物を持ってルイズの部屋にやってくる。
そのルイズの部屋の前に、サラマンダーが眠たげに横になっていた。

「サラマンダー。そこをどいてくれないかな?」

そう言うと、今、気がついたとでもいうふうにケヴィンを見上げると、彼のもとによってきて、きゅるきゅる、と人懐こい感じで鳴いた。
ケヴィンはそのままにしていると、サラマンダーが上着の袖をくわえたまま、ついてこいというように首を振った。

「ついてこいというのか?」

上着から口をはなして、きゅるきゅる、と鳴きながら、首を縦に振る。

「わかった。キュルケのところか?」

これも、首を縦に振られたので、

「それじゃあ、先導してくれるかな?」

首を縦に振ってから、隣のキュルケの部屋へ向かっていく。
そのサラマンダーの後をケヴィンが付いていくと、サラマンダーは器用にドアを開けて入るが、ドアは開けっぱなしだ。
そのドアをケヴィンがノックする。

「中へ入って、扉を閉めて?」

部屋の中からは、当然のごとくキュルケの声がする。

「いや、女子寮への入寮許可証は、廊下とルイズの部屋までになっている。だから、このままでいたい」

「あらん。そんなお堅いことを言わないで」

「用事が無いなら、帰るぞ!」

「うーん、寒いから、扉を閉めて、入ってもらいたいのだけど」

「そんなに寒いか?」

「私が、どんな格好をしていると思う?」

「恰好はわからないけれど、窓の外に、貴女の恋人がきたようだよ」

「ベリッソン! ええと、二時間後に」

「話が違う!」

窓枠ごと、ベリッソンを吹っ飛ばした。
キュルケが扉へ振り返ると、すでに閉まっていて、そこにケヴィンの姿はなかった。
その後に、キュルケの部屋へ男たちがきたのかは不明である。



ケヴィンが、いつものようにルイズの部屋へ入ったが、ここ1週間の中では少しばかり時間が遅い。
いつものように丸テーブルに予言書をおいて、そのまま翻訳を実施するかと思ったら、声をかけてきた。

「ルイズ。先ほどキュルケから部屋へ入らないかと……」

「なんですって!!」

「話は最後まで、聞いてくれ。当然、断ったさ。ただし、しばらくは、つきまとわれるようになるだろうから、明日は、予定通りに剣を買いに行こう」

「それも載っていたこと?」

「若干、異なるけどね」

「なんで、わたしに先に言わないのよ」

「言っていたら、今日のことをどうしていたと思う?」

ルイズがビクッとする。

「多分、止めにはいっただろう? そうすると、明日、剣を買いに行く意味がうすれるんだよ」

「明日、剣を買いに行くことと、今日、キュルケに誘われるのに、何が関係するのよ!」

「それは、まだ言えない。言えるとしたら、明後日の『フリッグの舞踏会』が終わったあとだね」

「そんなに待つの?」

「それでないと、ちょっと困ったことになるかもしれない」

「わかったわよ。終わったら、きっちり、教えてちょうだいね」

「はい。ご主人様」

「こんな時ばかり、使い魔のふりをして」

「それじゃ、婚約者らしく、貴女のとなりで愛の語らいでもしてる方が、好みかな?」

ケヴィンが笑いながら声をかけてくるが、それもいいなとは思いつつ、ついつい反対の言葉をかけるルイズの癖で、

「そんなこと、いいから、書ける部分までの翻訳を、早くすませなさいよ」

「そうだね」

その日は、それまでと同じようにすすんでいった。



翌日の虚無の曜日は昼食後、使い魔であるカイザーにのって王都トリスタニアへ向かい、武器屋に行く。
時間をさかのぼること昼食時には、ケヴィンがルイズに、

「じゃぁ、あとで、カイザーでトリスタニアへ行こう」

ルイズが一瞬ムッとした顔をするが、

「ええ、そうね」

ケヴィンがルイズにここで、行き先を告げることを、ルイズに言ってなかったのである。
この話を聞いていたキュルケが、さりげなく昼食を中断して、席を立つのは確認していた。
そして、黄竜にのっている最中に後方で、風竜にのったタバサにキュルケが居ることを遠見の魔法で確認はしている。
武器屋で買ったのは、見た目は錆だらけの大剣と、手元には見えないが、腰につるされた小剣を1本ずつ購入した。
実際には大剣はケヴィンで、小剣はルイズがお金をだしているが、そこは先に大剣の分だけお金をケヴィンからルイズにわたして、店でお金をだしたのはルイズのように見えてたはずである。
サビサビの大剣で100エキューと、店の中では大剣の中では最安値だが、ケヴィンにとっては2ケ月分の小遣い分だ。
一方、ルイズには店一番のものよりは、実用的なものが良いと念押しをしてある。
そうでなければ、どれだけのものをふっかけられるやらと思ったが、意外と素直にルイズはケヴィンの意見にのった。
ルイズには剣の見立てがわからなかったので、ケヴィンの見立てを信じたまでである。
ケヴィンとしては、少々、このあたりの違いが、今後どう変化していくのかが気がかりなところである。


その夜、いつもの通りに、ルイズの部屋で、ケヴィンが翻訳をしていたら、この部屋へ、キュルケとタバサはきたが、ルイズはタバサのことが、眼に入らない。
ケヴィンは、キュルケから渡された剣を、さもよさそうに見ている。
実際に名剣と言って差し支えない出来ではあるが、残念ながら硬化の魔法が切れているのを、武器屋ではディテクト・マジックで確認している。
この時、武器屋の室内全体へもディテクト・マジックをひろげたところ、反応の空白地帯にあったのが、ボロボロの大剣であるデルフリンガーだった。
話をさせるとうるさかったので、今はさやの中にいれてあるので静かである。

「どういう意味? ツェルプストー」

「だから、ケヴィンが欲しがっている剣を手に入れたから、そっちを使いなさいって言っているのよ」

「おあいにくさま。大剣なら、ケヴィンが自分で目利きをして買ったわ」

どうしてルイズは、こっちのシナリオを簡単に崩してくれるんだと、頭をかかえたい気分のレヴィンだった。


*****
ラグドリアン湖に向かったのは、サイトが寝込んでいた時期のイベントの変わりも含んでいます。
ブレイドの魔法を使いながら念力も使えるのは、烈風の騎士姫のカリンの空中戦(多分フライ)を使いながらブレイドを使っている概念を使っています。

2012.03.30:初出



[32231] 第5話 フーケ
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/12 20:07
「おあいにくさま。大剣なら、ケヴィンが自分で目利きをして買ったわ」
「おあいにくさま。大剣なら、ケヴィンが自分で目利きをして買ったわ」

どうしてルイズは、こっちのシナリオを簡単に崩してくれるんだと、頭をかかえたい気分のケヴィンだが、ここは頭をフル回転させる。

「いや、俺の家は、軍人の家系だ。トリステイン王国で軍人の家系といえば、貧乏だと相場が、きまっているだろう!?」

「それで、何が言いたいのよ!」

ルイズが問い詰めてくる。

「そっちの剣も欲しかったんだけど、金がなかったんだ」

「何よ! それー!」

「じゃぁ、話はきまりね」

キュルケの返答へ、素直に答えるわけにもいかないケヴィンの言葉は、

「ルイズの使い魔でもあるし、婚約者でもあるから、そう簡単にミス・ツェルプストーからの贈り物を受け取るわけにもいかないんだ」

「あらん、どうすれば受け取ってもらえるのかしらん」

ケヴィンは「大剣の購入は、ルイズがしたことにしておいてくれ」ということを購入前に頼んでおいたことを、ルイズが思い出した風に感じたので、

「えーと、この大剣を俺が受け取るかどうかだけど、ルイズとミス・ツェルプストーの間で、魔法をつかってきめたらいいのかなって」

「それって、試合?」

「いや、それだと物騒だろう。大剣をぶら下げて、ミス・ツェルプストーが早く落とせば俺がその剣を受け取って、ルイズが早くに落とせばミス・ツェルプストーは引き下がるというのはどうかな?」

「あたしならいいわよ」

そうキュルケに言われて引き下がれるルイズではない。
たとえ魔法に自信がなくてもである。

「もちろんよ! 誰が負けるもんですか!」

ケヴィンにとっては結果オーライといえよう。



場所は移動して、中庭である。
本塔の上から、二本の大剣がつるされている。
ルイズが、

「誰が、ツェルプストーの剣を落とすといったのよ」

といった具合で、サビサビな大剣であるインテリジェンスソードであるデルフリンガーが初活躍である。
万が一、ルイズの爆発魔法で折れたら、近くにあるキュルケの剣に魂が移るであろう。
本当は、デルフリンガーをさやから抜いておこないたいのだが、虚無の系統が推測通りなら、さや単体がいかれることは無い。
だから、ケヴィンは心配をしていない。
まあ、多分、大丈夫だよな? デル公。

ルイズとキュルケの間で、試合内容の詳細をきめあっている中、ケヴィンは、フーケが近くにひそんでいるのかが気にかかる。
まさか、脈絡もなくディテクト・マジックをおこなって、隠れているかもしれないフーケを探すわけにもいかない。
土の系統でもトライアングルクラスにでもなれば、足からの感覚で周囲に誰かいれば把握できるだろうけど、そこまでにはいたっていない。

ルイズとキュルケの間で、試合内容の詳細は決まったようだ。
先行がルイズで、ルイズはデルフリンガーをつないだロープを先に切れば勝ち。
逆にキュルケは後攻で、邪魔にならない程度の宝石で飾られている大剣をつないだロープを先にきれば勝ち。
いたってシンプルである。

ルイズが何の魔法をとなえたかというと、唱えている詠唱からいってファイヤー・ボールだろう。

ケヴィンは、ルイズが確実に狙えるのは、今のところ錬金だけなんだけどな、と思いつつそれを成功されると、フーケがいた場合こまるんだよな。

ルイズが詠唱を唱え終わり、杖を振るが出るはずの火の玉は出ない。
一瞬遅れて、デルフリンガーをつるしているロープの後ろの壁が爆発した。
まさしく、その壁は宝物庫の壁のはずだ。
ここで予想外のことが起きた。
爆発の余波で、デルフリンガーをつるしているロープが切れて、デルフリンガーが落ちてきた。
あぜんとしていたのは、キュルケとケヴィンだった。

「わたしの勝ちよ! ツェルプストー! これで、ケヴィンもいいわよね?」

「ああ」

魔法は失敗しているが、結果としては、ロープを切っている。
目的は達しているんだよな。
確かに、たまにはルイズの魔法も成功するんだよな。本来の意図とは違う方向で。

そんな、唖然としている感じの彼を見てルイズは、この事ものっていて、結果が違っていたのかと疑心暗鬼にとらわれたところで、巨大な攻城戦用土ゴーレムがあらわれた。

キュルケが近づいてくるゴーレムを見て

「な、なにこれ! きゃああああああ!」

悲鳴をあげて逃げ出したが、タバサは今回、風竜をつれていないので、フライで空中にあがって、まわりを眺めている。
ケヴィンは、ルイズがまだ茫然自失な状態のそばによって、

「空中に逃げるからつかまっていれ」

しっかりとルイズをケヴィンは抱きかかえて、フライの呪文を唱えるが、ルイズも恥ずかしがっている場合じゃないと、しがみついている。

土ゴーレムの肩の上には、黒いロープをかぶった者がいる。
多分、土くれのフーケだろう。
残念ながら、見ただけでは、男性か女性かさえもわからない。
こちらは、フライ中なので他の魔法は使えない。
これはタバサも同じであろう。
暗視の魔法が使えれば、フードをかぶった相手の髪の毛の色ぐらいは、わかるかもしれないが、ここは無理をする必要はない。

しかし、フーケはそうでもないかもしれない。
予言書と呼んでいるゼロの使い魔には、二本の杖を使うところの描写は無いが、注意が必要だ。

「タバサ、もしかしたら、土ゴーレムからブレッドがとんでくるかもしれないから、気をつけろ」

ブレッドとは、こぶし大の大きさの土の塊だが、硬化の魔法がかけられたように非常に硬く、まるで砲弾のようである物をぶつける魔法だ。
ケヴィンより実戦経験が豊富であろうタバサには、不必要な忠告であろうが、それは知らないことになっているので声をかけている。

土ゴーレムはまるでまわりは気にする必要もないという風に、本塔まで行き、本塔を殴りつけた。
殴りつける瞬間には、拳を鉄に変えている芸の細かさだ。
壁に拳がめり込む。
バカッと鈍い音がして、壁が崩れる。黒いロープ姿の人物は、空いた壁の穴から中へ入っていったが、先ほどのブレッドの忠告をした手前、下手に近づくわけにはいかない、ケヴィンがいた。
ルイズも、そろそろ正気にもどり始めて、

「いつまで、抱えているのよ。一旦、降ろして!」

「わかった」

メイジとしての力量に差があるのが一目瞭然なので、ルイズと一緒に少し離れた城壁の上に降りた。
これだけ離れていると、暗視も遠見のどちらの魔法でもはっきりとは、髪の毛の色はわからないだろう。
どちらにしても、この世界の人間に、破壊の杖の使い方がわかるとは思えないが。

ケヴィンの目からみると、ゴーレムの動きからすると戦場で動かした経験はあるようには思えないが、逆に普通の素人とも思えない。
少したって、土ゴーレムの肩の上に本党の中からロープ姿の人間はもどったが、土ゴーレムは魔法学院の城壁を一跨ぎして、去っていく音がするので、安全だろうと判断して、土ゴーレムがまたいだ城壁までルイズをかかえて、フライで空中移動をする。
ルイズもここでは、文句は言わない。
羞恥心よりも、目の前でお宝を盗まれたことに気がついたのである。
草原の方に歩いていった土ゴーレムは、肩に載っていたはずのメイジは、ゴーレムが土の山のように崩れていった中に消えていく。

ケヴィンは念のために、ディテクト・マジックを使用してまわりを確認するが、先ほどのメイジは魔法学院に残っているわけでは無いようだ。
これだと、あのゴーレムが崩れた土の中をもぐっていったのか、途中でフライを使って逃げて、変わり身にしたのかわからないな。


ゴーレムが崩れた土の山となっていたところへ、ルイズとタバサとケヴィンが集まると、衛兵たちがようやく見つけたのか声をかけてくる。

「宝物庫を襲った泥棒がいるようだわ。調べておいて。私たちは、ヴァリエールと、タバサとフランドル、それにさきほど逃げていったけれど、ツェルプストーが居たわ」

『逃げていった』というところに力が入っていたようだが、逃げるのも正解だろう。

「わかりました。こちらの方で処理をいたしますので、責任者から音沙汰があるまで、お部屋にいらしていただければと」

そのままルイズ達は各自の部屋へもどっていく中、ケヴィンに小声で尋ねる。

「もしかして、予言書になかったことなの?」

「……明日の夜か、明後日の朝にでも答える」

ケヴィンとしても、ルイズが現時点で必要以上の情報を持つと、どっちの方向に行くのかわかっていないので、こう言わざるを得なかった。



土ゴーレムに宝物庫を襲われてからの翌朝……
教師たちが好き勝手に言ってわめいている中で、当直の予定だった土メイジであるシュヴルーズが責任追及をされて泣き始めたところにオスマン学院長が現れた。

「これこれ。女性をいじめるものではない」

長い黒髪に、漆黒のマントが冷たい雰囲気をかもしだす若い教師が、オスマン氏と問答を始めていた。

「さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるかな?」

この一言で、まわりにそろった教師全員がだまってしまった。
オスマン氏が「責任は全員にある」と締めて「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」とたずねる。

「この4人です。すでに昨晩のうちに報告書が作られていますので、目を通してください」

コルベール氏がさっと進み出て、自分の後ろにひかえさせていた4人を指差した。
ルイズとケヴィン、キュルケにタバサである。

「ふむ……、君たちか。詳しく説明したまえ」

ルイズが前に進みでて、見たままを述べた。

「後には、土しかありませんでした。肩に乗ってた黒いロープを着たメイジは、影も形もなくなってました」

「ふむ……」

オスマン氏はヒゲをなでている。

「後を追おうにも、手がかりはナシというわけか……」

それからオスマン氏は、気がついたようにコルベール氏に尋ねてた。

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたのね?」

それにあわせたかのように、ロングビルが現れた。

「ミス・ロングビル! どこに行っていたんですか! 大変ですぞ! 事件ですぞ!」

コルベール氏が興奮したように言うが、ロングビルは落ち着いた様子で、秘書であることを強調するように、オスマン氏に告げた。

「申し訳ありません。朝から急いで調査をしておりましたの」

「調査?」

「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこのとおり。すぐに壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」

「仕事が早いの。ミス・ロングビル」

コルベール氏が慌てた感じで話の続きをするように促している。

「で、結果は?」

「はい。フーケの居所がわかりました」

「な、なんですと!」

コルベール氏が、素っ頓狂な声を上げる。
ケヴィンから見ると、先に知っている内容の復唱のようにしか聞こえない。
しかし、知っている内容と違いが無いか聞いている。

「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」

「はい。近在の農民に聞き及んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのロープの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

ルイズが叫ぶ。

「黒ずくめのロープ? それはフーケです! 間違いありません!」

「そこは近いのかね?」

「はい。徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか?」

「すぐに王室に報告しましょう! 王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」

オスマン氏が首を横に振って、年寄りとは思えない迫力で言う。

「ばかもの! 王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ! その上……、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ! 魔法学院の宝が盗まれた! これは魔法学院の問題じゃ! 当然我らで解決する!」

そこで一呼吸おくように、オスマン氏が咳払いをして、有志を募った。

「では、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」

その中でケヴィンが杖を掲げる。
そして、それを見たルイズがつられるように杖を掲げた。
続いて、キュルケ、タバサと杖を掲げていく。
教師たちからは

「君たちは生徒じゃないか」

との声を上げる者はいても、自ら杖を掲げる者はいなかった。
その状況を見ていたオスマン氏から告げられた。

「彼、彼女たちは、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」

タバサは返事もしないで、一見ぼけっと突っ立っている。
シュヴァリエは純粋に業績に対して与えられる爵位なだけに、皆驚いている。
キュルケにしてもそうであった。
オスマン氏はそれからも次々と紹介をしていく。
キュルケはゲルマニアの軍人の家系で、炎の魔法も強力と紹介された。
ケヴィンは軍人の家系で、ブレイドの腕は確かであると紹介された。
ルイズは、ケヴィンを呼び出したとの逸話をしているが、本来なら貴族であってもドットなので、物珍しいだけだ。

「この4人に勝てるという者がいるのなら、前に一歩出たまえ」

オスマン氏はそういうが誰もでてこない。
そして、4人に向きなおって、

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」

4人は直立して「杖にかけて」と同時に唱和する。

「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」

「はい。オールド・オスマン」

「彼女たちを手伝ってやってくれ」

ミス・ロングビルは頭を下げた。

「もとよりそのつもりですわ」

オスマン氏と、コルベール氏からは事情を聞きたそうにケヴィンに目を向けていたが、まわりに教師がいる手前、それもできなかった。


用意された馬車は屋根ナシでいつ襲われても、すぐに飛び出せるようにということで、このような馬車になった。
馬車の御者は、道を知っていることもありロングビルが行うことになる。
馬車で進み始めて、少しばかりたったところで、ケヴィンが語りかける。

「ミス・ロングビル」

「なんですか?」

「魔法学院で話した時の、農民の特徴を覚えていますか?」

「急いでいたもので、細かいところまでは覚えていませんが、普通の農民のようでしたけれど」

「ずっと、考えていたんだけど、もしかしたら、その農民がフーケじゃないかなって思ってね」

「なんですって?」

ロングビルよりもキュルケが驚いている。
ルイズは、ケヴィンにたいして知っているのでしょうとでも睨んでいるが、口にださないだけ、まだ自制がはたらいている方だ。
タバサは相変わらず本を読んでいる。

「いや、あんなもう寝静まっている時間から、馬で4時間もかかるようなところだ。普通の農民が、幻獣や獣がいそうな、そんなあたりを歩いていると思うかい?」

「そ、そうですね。そうすると、その農民がフーケであると」

「少なくとも単なる農民ではなさそうだね。やっぱりフーケと考えるのが自然だと思うのだけど、皆はどう思う?」

キュルケと、ロングビルは同調するように、

「そうね。ケヴィンの言う通りだと思うわ」

「そうですね。顔をしっかり覚えておけばよかったですわ。確か髪は金色ですが短めで、面長だったのは覚えているのですが、眼の色は……青色でした。もし変装していたのなら、服はあてにならないでしょう?」

ルイズは、正体を知っているのでしょうとでも視線をなげかけながら、

「そうだね」

と短く答え、タバサはあいかわらず本を読んでいる。

「問題は、なんでわざわざ、事件のことで聞きまわっているミス・ロングビルの前にあらわれたかだけど……『破壊の杖』の使い方がわからなかったんだろうなぁ」

「あら、なぜ知っているのかしら?」

「オスマン氏に興味本位できいたことがあったんだけど、あっさり教えてくれた。使い方がわからないって。魔法学院の歴代の教師陣でもわからなかったものが、フーケがいくら優秀なメイジでもわからなかったんじゃないのかなってね」

ケヴィンにとって、魔法学院と今までのやりとりから、フーケの正体と確信したロングビルに、ゴーレムをさすがに一回はだしてくるだろうと思っている。

「それで、ロングビルにも土メイジとしてきいてもらいたいんだけど、こんな作戦はどうだろうか?」

まわりに土ゴーレムへの対策の話をしていく。
特に反論は無いというか、問題は、

「ケヴィンの精神力が続くか?」

というところにあったが、

「その時は撤退をすればいいさ。俺たちの目的はあくまで『破壊の杖』の奪還であって、フーケを捕まえるのは、顔もわかったことだし、あとは魔法衛士隊にでもまかせればよいだろうさ」

と気軽に答えるケヴィンにルイズは不服そうである。
そんなルイズをみながら彼は、

「精神力をためておくのに、少し寝ておくさ」



ケヴィンがおこされたのは、馬車では通れない、細いわき道の前であった。
小道では、一応、襲われたときのために一番前を歩くのはシュヴァリエであるタバサで、その後ろに案内役であるロングビル、次にキュルケ、ルイズと続いて、最後方はケヴィンが歩いている。
最初、キュルケは文句を言っていたが、

「昨日の試合、わたしの勝ちよ!」

と高らかに張ろうとする胸がかわいそうなルイズを見て、不憫に思ったのかキュルケもしぶしぶながらしたがっている。
この道中だけだろうが、またそのうちキュルケはケヴィンにちょっかいをかけてくるだろう。



一向が薄暗い森の小道を行くと開けた場所が見える。
魔法学院の中庭ぐらいの大きさの中に、廃屋があった。

フーケが使い方を知りたいのなら、誰かを捕まえて人質にするのが一番楽だろうとの話になっている。
だから全員で行動するというのが趣旨だ。

一応、念のため、土では一番レベルの高いロングビルが、広範囲に『ディテクト・マジック』をかけながら、廃屋まですすんでいく。
廃屋の中もロングビルがディテクト・マジックでワナなどを探していくが、当然のことながらロングビルがフーケなのでワナが無いことは知っている。
廃屋の外にいるのは、初動が必要なケヴィンに、まだ『破壊の杖』をみたことは無いロングビル。
廃屋の中に入って探すのは、1年生の時に宝物庫の見学で知っている他の3人が探している。
途中、ロングビルが

「辺りを偵察してきます」

と言って、森の中に消えた。

少しばかり時間がたち、廃屋の中から

「あっけないわね」

とキュルケの叫び声がすると、それに呼応したように土ゴーレムができつつあるので、

「ゴーレムがでた!」

とケヴィンが叫ぶ。
完成した土ゴーレムは、昨晩よりひとまわりほど小さく25メイルほどだろうか。
フーケは使い方がわからないと知って、やる気を失っているのだろう。

ケヴィンがべたつきやすい花びらをベースに、大量に同じものを空中に浮かばせる。
そこへ廃屋の中からでてきたタバサの風の魔法を操って、ゴーレムに絡みつかせる。
ケヴィンがそのまとわりついたゴーレムの花びらに、錬金の魔法で揮発性の高い油に変化させる。
そしてキュルケのファイヤー・ボールで、一機にゴーレムの全身に火が付く。
ここまでは、第一幕。

第二幕は、これだけであれば、土ゴーレムの特性上、地面から土を補給することにより、再生に使うメイジの精神力の消費が少ない。
そこで、土ゴーレムが地面と接触する場所に、小石を敷き詰める。
つまりは砂利を錬金で生成するのが、ケヴィンの役割だ。
その他のメンバーはどんどんと、手足を中心に攻撃をしかける。
タバサは氷の矢を、キュルケは炎の矢を、それぞれつかっている。
ルイズは、錬金の魔法を使っている。
心の中でイメージしているのは、キュルケだが、その知恵をつけたのはケヴィンである。
ルイズの錬金での失敗は、確かに爆発であるが、必ず対象物が爆発している。
このことを伝えられたルイズは、一瞬いやそうな顔をしていたのだが、

「キュルケでも思いうかべればいいさ」

と小声で伝えられた時には、

「そうね」

と本心を隠したつもりの返事のようだが、普段のうっ憤晴らしにはよかったのだろう。

そして、燃え盛る炎や、各攻撃に耐えられなくなったゴーレムが、膝をついて、土を補給しようとしても、そこも砂利の層。
しばらくためらうようにゴーレムは暴れていたが、そのうちに地面へ崩れ落ちた。

そこで、それぞれの場所で待機させていた黄竜と風竜がそれぞれやってきたので、各自があつまってくる。
茂みを偵察していたロングビルへタバサが、

「フーケはどこ?」

「ミス・ロングビル! フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら」

キュルケが訪ねると

「わかりませんでした」

その間にケヴィンが『破壊の杖』を持ってみて、『破壊の杖』こと『M72ロケットランチャー』の使い方が頭にうかんでくるのを確認しただけで納得していた。



魔法学院に帰って、魔法学院長室でオスマン氏とコルベール氏へ5人から報告をした。
ケヴィンにたいしてのオスマン氏とコルベール氏にルイズの視線がちょっとばかり冷たさそうなのは気にしていないどころか、このあとの別なことで頭を悩ませ続けている。


*****
『暗視』の魔法は『タバサの冒険3』で使用されている魔法です。
『ブレッド』の魔法は『烈風の騎士姫』で使用されている魔法です。

2012.04.04:初出



[32231] 第6話 『フリッグの舞踏会』の前後事情
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:07
『破壊の杖』を取り戻してきた5人は、学院長室にいる。

「さてと、君たちはよくぞ『破壊の杖』を取り返してきた」

貴族であるルイズとキュルケとタバサにケヴィンは礼をする。

「『破壊の杖』は、無事に収まった。一見落着じゃ」

オスマン氏は貴族である4人の頭をなでる。

「君たち4人には精霊勲章の授与を申請しておいた」

「ほんとうですか?」

キュルケが驚いた声でいう。

「ほんとじゃ。あのフーケから無事に『破壊の杖』を取り戻したのと、フーケらしき人物の顔もわかったのじゃ。それくらいの価値はある」

「ミス・ロングビルには、何もでないんですか?」

「残念ながら、彼女は貴族ではない」

「私は、オールド・オスマンの秘書ですから」

オスマン氏はここで、ぽんぽんと手を打って雰囲気を変えたいようだ。

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り『破壊の杖』も戻ってきたし、予定通りとり行う」

キュルケが「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」と言う。

「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしたまえ。せいぜい着飾るのじゃぞ」

そこで退室していく中で、ケヴィンだけが引き止められて、ロングビルは踊りの用意をするようにさがらせた。
オスマン氏とコルベール氏にケヴィンの3人だけの学院長室で、

「君は、『破壊の杖』が奪われることを知っておったのじゃな?」

「ええ。そして、それは必要なことだったんです」

「必要なことじゃと?」

「2,3週間後にアンリエッタ姫殿下が、この学院に立ち寄られるでしょう。その時に、ルイズへの精霊勲章の授与のことを、アンリエッタ姫殿下に覚えておいてもらわないといけないんですよ」

本来はシュヴァリエの爵位授与であったはずなのだが、ケヴィンはしれっと答える。

「そっちは、明後日ぐらいまでに部分的翻訳の中に書き込めますので、そちらでも読んでください。そんなところで納得していただけませんか?」

「明後日ぐらいということは、まだ、この後も何かあるのかのぉ」

「今の魔法学院には、直接は関係ないところですけどね」

「ふむ。明後日にはその翻訳部分をだすのじゃぞ」

「はい。了承いたします」

「それとじゃ」

退室しようとしたところで、声をかけられケヴィンが不思議そうな顔をして、振り返る。

「なんでしょうか?」

「君に『破壊の杖』が使えない、なんて教えたかのぉ?」

「ああ、それでしたら、予言書に理由がかいてありましたよ。オールド・オスマンの恩人が持っていた、異世界の武器でしょう? ワイバーンを1発で倒したとか。今あるのも、1回しか使えないのは、ガンダールヴのルーンで確認しましたよ。それでは失礼いたします」

今度こそ呼び止められなかった。



学院長室から退室したあとのケヴィンは、その足でロングビルの部屋の窓の下に行き、小石を念力で何回か軽く小突いた。
すでにドレスに着替えているロングビルが窓から顔をだし、

「ミスタ・フランドル。何かようですか?」

「本当はお話をさせていただきたいのですが、このあとは『フリッグの舞踏会』だから疲れるでしょう。できたら、明日の朝食の前でも、お話を少しばかりさせていただきたいのですが、よろしいですか?」

「今日のことですか? それなら早めに話をした方が、よろしいかと思いますが?」

ロングビルは戸惑ったように、返答をする。

「アルビオンへの仕送りの話とかですね。また、明朝きますので、考えておいてください」

ケヴィンは、ロングビルに言ったあとは、身をひるがえして男子寮にむかっていた。
ただ、遠方には、カイザーがいて、そこからロングビルの様子を見て、第3幕の最初はうまくいったと確信を得る。
それまでは、結構冷や汗を背中にながしていた。
この手は、廃屋でロングビルが離れたあとにも使って、杖を振った直後に、ゴーレムが生成されているのも目撃していたのだ。



ロングビルからみると、ケヴィンは一見、フーケの正体を誤誘導してくれた、おめでたい少年だったが、ここでいきなり評価を変えなければいけないことになる。
仕送りの送り先は、ウエストウッドの村。
正体を隠す必要があるので、ティファニアの名前はだせていないが、場所が判明しているだけでも問題がある。

先ほどまでは『破壊の杖』の調査にかけた時間に対しての結果に嘆いていたが、今度は自分の身だけでなく、保護をしていたモード大公の娘の心配を直接しなければいけない。
ゆうゆうとしたように見えるケヴィンの足取りを見ながら、今朝からの行動を考えてみて、彼の抹殺だけではすまなさそうな気がしてきたロングビルだった。
まあ、考え過ぎなのだが、決して単独ではわからないことがらなのだから、ロングビルこと『土くれ』のフーケが勘違いするのもしかたがなかろう。



場所は魔法学院食堂の上の階にあるホール。
『フリッグの舞踏会』に限らず、各種パーティなどで集まる時に使われる。
ここの壁際で、ケヴィンは先ほどまでのキュルケとの会話を、それなりに楽しんでいた。
キュルケにしては、ルイズがいない間に興味をもたせようとのことなのだが、ケヴィンがそれにのっているようにみえている。
踊りの約束を勝手に言いつつ、他の男性の輪の中へ入って行った。
彼女にはふさわしい行動だろう。

ケヴィンもトリステイン貴族ではなくて、ゲルマニア貴族の方が好ましいとの思いもあるが、ここで生まれ育った上に、まさかガンダールブになるとは思いもしていなかったので、そういうわけにもいかない。

ケヴィンは、今日の主役の中で、壁際にぼけっと突っ立っている黒いパーティドレスに身をつつんだ少女を見つけたので、声をかけてみる。

「ミス・タバサ。よければ、今日戦った友として、あとで一緒に踊っていただけませんか?」

ケヴィンとしては、断られるだろうと思っていたが、

「……食事の後なら」

思いもよらない返答だった。

「それでは、その時によろしくお願いいたします」

軽く、会釈をして元の位置にもどってきた。
ホールでパーティを行うときの定位置になっている。
ただし、以前までは、サンドリオンという偽名とともに、髪の毛を灰色がかった銀髪に染めていたので、まるっきり無視されていたのが、対して少しばかり違うのは、一部ながらであっても女性からの注目を集めていることだ。
トリステイン貴族の女性は、男性から声をかけられないと、通常は踊らない。
まあ、今回は、ルイズにタバサと踊るくらいだろうと思っている。

いまだに全員が集まっていない中で、舞踏会は華やかな感じとなっていき、歓談や、タバサみたいに、テーブルの上の食事と奮闘しだしているものもいる。

ケヴィンも先に皿へ料理をのせて、定位置の壁で食事をしながら、ぼんやりしている。


ホールへルイズが入ってきたところで、

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~!」

との声が響きわたり、今日の主役がそろったことを確認した楽師たちが、音楽を奏で始めた。

ルイズのまわりに男達が群がりはじめている。
まだ、ゼロという二つ名がひろまっていなかった、昨年の『新入生歓迎の舞踏会』の時以来だろう。
ケヴィンも婚約者として、ルイズのもとに行くことにした。

「やぁ、ルイズ。今日の主役は貴女だけど、最初に踊るのは婚約者である俺だよね?」

やれやれとした感じで

「そうね。ケヴィン」

「ミ・レィディ。俺と1曲おどっていただけませんか」

「よろこんで。ジャントルマン」

まわりへの印象も、しっかりうえつけたし、あとはルイズと踊るものがいても、それほど気にすることはない。
逆にルイズも、ケヴィンがキュルケとさえ踊らないならば、他の女性と踊っても気にしないだろう。
ケヴィンは、サンドリオンとして過ごした1年が長かったので、あまり踊りたいとは思っていなかったが。



ルイズと数曲おどったあとに、いったんわかれたところで、いつもの定位置にもどった。
そこで、ふと、タバサがいないことに気が付いた。
北花壇騎士団の仕事がきたのか?
考えてもしかたがないがレコン・キスタの裏にガリアがある以上、手は早めに打っておくべきだろうなと思いつつ、軽くワインを一人で飲んでいた。



『フリッグの舞踏会』も終わったころ、ロングビルが、ケヴィンの部屋の明かりが灯ったのを見ると、窓辺へフライで飛んでいく。
窓から部屋をのぞくと、ケヴィンは『フリッグの舞踏会』で少し酔っているように見えた。
そこで、軽くノックする。
振り向いたケヴィンが、ちょっと驚いたような表情をしたが、すぐにもどったのを見て、彼女は、主導権を握ることができるとふんだ。
窓を開けたケヴィンが、

「ミス・ロングビル。夜にきていただいたのにすまないが、部屋の中に入れることはできないよ。ルイズが誤解するとこまるのでね」

「部屋の外ならかまわないわけね?」

「ああ」

「それなら、ヴェストリの広場はいかがかしら」

「……わかった。そこならパーティ用の衣装ではなくて、いつもの制服に着替えていくから、貴女もそうしたらいかがかな?」

ケヴィンからすれば、女性の方が着替えに時間がかかるので、その間に作戦の練り直しを図るつもりだった

「私の方は、このままでかまいませんわ」

「そうですか。それでは、なるべく早く着替えてから、ヴェストリの広場に向かうので、向こうでお待ちいただけますか」

「そこで、お待ちしておりますわね」

ロングビルが笑顔で答える。

ケヴィンは、ロングビルが窓辺からさると、窓を閉めて、すぐ制服へと着替えたが、背中にデルフリンガーを背負っていく。
正直なところ、精神力切れがそろそろ近いから、今晩ではなくて、明日と話を持って行ったのだが、先ほどのロングビルを見ていると、今晩話さなければ、このまま逃げられる可能性をみたのだ。


魔法学院の西に位置するヴェストリの広場は、昼間でも暗いが、夜は気分的になお暗く見える。
2つの月明かりをもとに、ヴェストリの広場へ向かうと、ロングビルが待っていた。
15メイルほどまで近寄ったところで、

「あら、なぜ剣なんかもってきているのかしら?」

「新しい杖にしようと思っていてね。それだけだよ」

「物騒なのね」

「家は、軍人の家系だからね。それよりも、本題に入りたいのですが、できたらサイレントの呪文で、まわりに聞こえないようにしていただけませんか?」

「あら、女性におこなわせる気?」

「俺はしがないドットですからね。さすがに今日は、もうほとんど魔法も使えないんですよ。そして、今は夜。また、『土くれ』のフーケがくるかもしれないですから、多少は余力をもっておきたいんですよ」

「それなら、しかたがないですわ。私はラインですが、今日はそれほど魔法を使っていませんから」

「それではお願いしたい」

それにこたえて、ロングビルが、サイレントをとなえる。
風のラインでも、この距離を囲うのは、難しいのだが、ロングビルにとっては、どうってことはなさそうだった。
風でもラインの上位の力を有するのだろう。

「アルビオンへの仕送りの件で、いいんだよね?」

「そうですわ」

メイジとしての力量差と、まだ精神力の残りの差があると信じているロングビルは、自信をもって答える。

「まずはあわてないで聞いてほしい。『土くれ』のフーケ、いや、マチルダ・オブ・サウスゴータ」

捨てたはずの名前を言い当てられたのは、ロングビルもといマチルダには、多少のショックはあったが、アルビオンへの仕送りの件ということで、そこまでは予測していた範囲内だった。
しかし、フーケと言われた方がショックである。

「なぜ、その名を」

「フーケの方と、マチルダの方とどちらかな? それとも両方かな?」

「……両方よ」

「フーケの名は、廃屋での戦闘で、使い魔をつかって貴女の行動を見させてもらっていた。それに、農村へいけば早朝から調査しに行った者がいたかどうか、調べればすぐにわかるだろう? マチルダの名の件は、偶然だ。ウエストウッド村を襲いに行ったはずの盗賊団が、記憶を失ってなっていたから、そこで調査をしているうちにウエストウッド村の娘の特徴から、たどり着いた推測さ。緑色の髪の毛の土のトライアングルのメイジが、わざわざ、モード大公の娘を保護していればね」

ケヴィンは、ウソをついている。
マチルダがウエストウッド村に送金の際に、偽名をつかっているところまでしか、実情報はつかんでいない。
モード大公が亡くなったことや、サウスゴータの領主が入れ替わった時期が、ほぼ一致しているのは、普通に情報としてでまわっているので、調査のうちにも入らないだろう。

「なぜ、フーケとわかって、黙っていたのさ」

マチルダの地が剥がれ落ちた。

「お互いの利益になると思ったからさ。俺としては、モード大公の娘を他に利用させたくない。貴女は彼女を守りたいのであれば、話し合う余地があると思っているのだが」

「……話し合う余地? わたしは貴族が嫌いだし、あんたをこの場で殺すこともできるのよ」

ケヴィンは、相手が“白炎”のメンヌヴィルでなくてよかったと思っている。
背中に流れている冷や汗どころか、心拍数があがって、体温の変化なども感じ取っていただろう。

「殺されるなら、そこまでの命だったというところだな。折角、フーケの正体をかくしていたのに、全部ばれるぞ。しかもモード大公の娘の種族も書いていて、そういう手配ができるようにすんでいる」

これはケヴィンの賭けではあるが、実家に自分が死んだ時ようの手紙は、死ぬまであけないように依頼をかけて、封をして送ってある。
これは、今日のフーケ討伐に関してもだ。
両親がどう思っているかというのは、非常識なところがある息子というところは一致しているが、見捨てているわけでは無い。

困ったのは、フーケでもあるマチルダだ。
ケヴィンがモード大公の娘の種族と言っているところは、人間ではないと言っているようなものだ。
自分自身だけなら助かるかもしれないが、それなら、今までモード大公の娘をかくまっていたのか、自分の人生を悔やむことになるだろう。

「話し合う余地というのは?」

ケヴィンは、賭けに勝ったと感じた。

「モード大公の娘は、俺の自領の孤児院であずかろう。ここは、フランドル家が昔から、軍人やメイドとして雇えるように教育を兼ねているところで、ブリミル教は関係していない。たとえハーフエルフであっても、大丈夫なように手配をしておこう」

ハーフエルフの言葉にマチルダは、一瞬ビクリとしたが、やはり知っていたのか、という思いしかない。

「アルビオンから、自領の孤児院まではフェイスチェンジができるメイジも、護衛としてつける。貴女自身を、孤児院の世話役として雇うことも可能にできる。どうかな?」

相手が青年以上なら「命令できない男は嫌いさ」とでもいうであろうが、マチルダからみてまだ少年に見えるケヴィンにその言葉は出せなかった。
代わりにでたのは、

「そこまで知られているならば、しかたがないわ。あいにくと全てを信用することはできないけれど、事情をある程度つかんでいるのね?」

「ああ」

そうして、ケヴィンとマチルダのもとで話は進んでいく。



「ふむ。まさか、ミス・ロングビルがフーケじゃとは」

それを学院長室の、遠見の鏡で見ていたオスマン氏の言葉だったが、彼は読唇術にたけていた

ケヴィンはひと時の安堵感をたもったが、オスマン氏の動向を知ったらどう思うのやら。


*****
オスマン氏が読唇術をできるというのはオリ設定です。
原作で、タイミングよくでてくるので、こういう設定にしてみました。
しかし、我ながらデル公の出番を作れないな。
もしかしていらない子?

2012.04.07:初出



[32231] 第7話 オスマン氏の判断
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:08
ケヴィンとマチルダの会話を、ひそかにみていたものがいた。

「ふむ。まさか、ミス・ロングビルがフーケじゃとは」

それは、オスマン氏。
学院長室で遠見の鏡でみていたのだが、彼は読唇術にたけていた。

「さて、どうするかのー」

100歳とも300歳ともいわれるオスマン氏だが、王室に勤める者の悪行をつかんでいるからこそ、王室からの無理難題をはねのけられる。
とはいっても、女王となったアンリエッタから、銃士隊を派遣されるのをとめられなかったが、今回はどうなることやら。

「ふむ、明後日あたりにくる、翻訳でも待ってからでも遅くはなかろう」

老人の時間的感覚は若者と違って、のんびりしたものであった。



ケヴィンがルイズの部屋で、予言書の一部とはいえ、時々、ルイズへ本の中身を見せないようにしているのに、気が付いた。

「ケヴィン。どこまで、私のことが載っているの?」

至極当たり前な質問だろう。

「うーん。以前言ったように、この本をそのまま信ずるならば、俺は1人で7万人を相手にしなければ、ならない。けれど、そんなのは、ごめんだ。そして、ルイズには先を知らないからこそ、先に出してもよさそうな予言は、一部ながら書こうとしているんだけど、それで納得してもらえないかな?」

「けれど、やっぱり気にかかるの。貴方がどれくらい私のことを知っているのかを」

ケヴィンがしばらく目をつむって、考えたあとに、

「内容を思い出せる範囲で、今、伝えても、困らない部分だけになるけど、それでもいいかい?」

「わたし、貴方のことをほとんど知らないのよ。貴方のことも知りたいけれど、わたしのことを、どれくらい知っているのかを知りたいのよ」

「そうだね。俺のことはおいおいわかっていくだろうけど、俺がルイズについて知っていることを話そう。例えば、長女のエレオノールがきつい性格であるために何回も婚約破棄の憂き目にあっているし、次女のカトレアは身体の水の流れに何か問題があるようで病弱だとか、父親は一見厳しいが娘には甘そうだとか、母親が烈風カリンその人であるとかかな」

「そそそそれって、わたしの家族のことであってわたしのことじゃないでしょう。それにしても、私の母が烈風カリンってのっている、てことは、その予言書を信じてよいのかしら」

多少、思うところがあるのか、ルイズの身体が震えている。
彼は、その震えを気が付かないように言い始める。

「この本から言えるルイズの過去は少ないんだよ。例えば幼少の時は、何かあったらボートに逃げ込んだとか、幼少から3年前まではアンリエッタ姫殿下のお相手をしていて、物をよくとられてしまったとか、昨日ならば、敵に後ろを見せないことを言うとかだね」

「……そこまで、わかっているじゃないの。けど、昨日は、そんな風に言った覚えがないのだけど?」

「本来なら、昨日はもう少し危ない橋を渡っていたんだ。何せルイズの使い魔は平民だったからね。そこで、ルイズの貴族としての気持ちがでたんだろう。けれど……」

「けれど、何?」

話すかどうか、考え込んでいるケヴィンだが、

「今は、話さない方が良いだろう。話してしまうと、それにそってしまうか、逆に反発してしまうだろう。俺が7万人と対戦するのを避けてしまうかのように」

「だけど、本当にわたしは虚無の系統で、始祖の祈祷書さえ、手に入れば魔法を使えるの?」

「虚無なのは、魔法が必ず爆発していることから、その通りだと思う。始祖の祈祷書は、入手の仕方は、わかっているが困難な道かもしれない」

「わたしには、始祖の祈祷書の入手方法をどうやっても考え付かなかったわ」

「以前にも言ったけれど、時期がきたら話すよ」

「貴方って、そればかりね」

「悪いが、先ほどの理由によって内容は言えないんだ」

そうケヴィンは肩をすくめて、翻訳の作業を進めていく。
ルイズとしては、自分の未来を知る相手がいるのは、気持ち悪いところもあるが、今のところ悪用されているようには感じていない。
これは、ケヴィンにとって結婚詐欺師に手口が似ているのではないか? と質問されれば、閉口するであろう。



オスマン氏との約束の日、2巻の一部翻訳と、以前出した1巻も内容の付け足したものに予言書の1巻そのものを持っていく。
ルイズに見られているので、ワルドのことは書けなかったが、そのあたりのエピソードはすっぱりと抜いて書いてある。
翻訳されている中身を見ていたオスマン氏は、ロングビルがいる中で、

「フーケは、このあとどうなるのかの?」

「さあ? のっている記憶はありませんが」

まるでどこかの政治家の答弁である。

オスマン氏からみると、それではなぜフーケの正体であるロングビルを、助ける風にケヴィンが動いているのか、謎なのである。
なんらかのメリットがなければ、そうは動かないだろうと。

「仕方がないの」

そう言って、杖をふる。
そうすると人間大だが2体の真鍮製ゴーレムが、ケヴィンとゴーレムのそばにできて、のど元に、剣をつきつけている。
ケヴィンがくる前から準備をして、あとは杖を振ればよいようにしていたのだが、杖をもっていながらも、杖を振らないように気をくばりながら会話していたのも、年の功であろう。

当然、のど元に剣を突き付けられているケヴィンとロングビルは、いきなりなので、確証を持てないが、どちらかがフーケと疑われていると考えたのであろう。
ケヴィンからでてきた言葉は、

「俺をフーケと思っているのですか? だとしたら違いますが」

責任逃れではあるが、ロングビルとも言ってはいない。
しかし、この場合には、ロングビルに押し付けたともいえよう。

「私でもありませんわ。下着をのぞかれている度に、報復されているからですか?」

ロングビルにしても、疑われていたとは今まで思っていなかったので、多少青ざめてはいるが、剣をのど元に突き付けられているのだから、声をだせるだけでもたいしたものだ。

「昨晩のことじゃ。おぬしたち会っておっただろう」

そこで、2人ともはっとする。
オスマン氏の使い魔であるネズミのモートソグニルが、昨日の会話を報告したのだろうと。
こうなってくると、いつ、気が付かれたのかは問題ではない。
フーケであるロングビルは当然つかまるであろうが、フーケの正体を知っていながら、それを違う人物にすりかえたケヴィンも何らかの形で、法の下で裁かれるだろう。
あわてるのはケヴィンである。

「これには、理由があってですね」

「その理由というのをじっくりと聞きたいものじゃ」

こうなるとケヴィンは、蛇に睨まれた蛙である。
昨日はハーフエルフの話までしているので、オスマン氏の使い魔がどこまで正確にはなしているかわからなくても、ハーフエルフのことはさすがに強烈に覚えるだろうと考えた。
自分の身の可愛さで、フーケにかかわることをしゃべりたてまくる。
ロングビルもあきれるぐらいだ。
それでも、ロングビルがいるということで、ワルド子爵のことはだまって話せるぐらいの機転はきいたが。
それでもだまってオスマン氏は最後まで話をさせていたところで、

「その『大隆起』というのは、なんじゃ?」

ケヴィンとしては先刻までは隠しておく話のつもりだったが、

「地下に大量の風石の鉱脈が育っていて、それが空中に浮かび上がるんです。アルビオンのように。それが、ハルケギニアの大地の約半分の土地でおこるとか」

「その話は本当なのか?」

「少なくとも、そう書いてあって、ロマリアでは密かに研究されていることになっています」

「その大隆起は、なんとかなるのかね?」

「いいえ、わかりません」

オスマン氏は、フーケについて、軽くけん制するつもりだったのだが、藪蛇をつついてしまったようだ。
大隆起など、人間の手にあまる。
ここで、オスマン氏はゴーレムを消すと、口を半開きにして、よちよちと歩き始めた。
今きいたことを忘れて、ぼけたふりをしているのである。

ロングビルは、この様子になれているだけあって、

「ミスタ・フランドル。ちょうど良いですわ。聞かなかったことにしてくれるようです。今のうちに、もう一度入りなおすところから始めてください」

そうロングビルに即されて、ケヴィンは、一度渡した、翻訳の2種類の内容をもって、学院長室から出て、外から学院長室扉をノックした。
入ったところで、オスマン氏から、

「今日は遅かったのう」

「ええ、ちょっと、個人的な事情がありましたから」

オスマン氏が先ほどのやりとりがなかったかのように質問をしてきたので、内心はあせりながらもケヴィンは答えた。
事務的にやりとりを行いながら、次の翻訳をもってこれそうな話などをしている。
ちなみに、すでに翻訳が終わった1巻は、コルベール氏には渡さないで、ケヴィンが持っていることになった。

その学院長室の目の前で、ロングビルとケヴィンが短く会話したが、

「聖地なんか行く気もないだろう?」

「何が好き好んで」

「それなら、先ほどの話は忘れた方がいいよ」

この日のあとは定期的にオスマン氏へ、一部を翻訳した内容を1週間に2度のペースでもってきているが、内容について深く聞かれることはなかった。
ただし、4巻がとんで、6巻になった時には、

「5巻はどうしたのかの?」

「前に説明しませんでしたか? 全部そろっているわけじゃないんですよ。抜けているうちのひとつです。次回はこれから翻訳する巻のリストでももってきましょうか?」

「うむ。よかろう」



そして、風系統の教師である黒っぽい服装をしている、若手だが人気が無いギトー氏の授業で、ついにその日が来たことがつげられる。
魔法の授業の最中に、教室の扉がガラッと開き、緊張した顔のコルベール氏が現れた。
彼は珍妙ななりで、頭に馬鹿でかい、ロールした金髪のカツラをのっけている。
ロープの胸にはレースの飾りやら、刺繍(ししゅう)やらが踊っている

「ミスタ?」

暗っぽい感じのギトー氏が眉をひそめていると、

「あややや、ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」

「今は授業中です」

ギトー氏が短いが強い口調で言う。

「おっほん。今日の授業はすべて中止であります!」

コルベール氏は重々しい調子で告げた。
教室中からは歓声があがっているが、その歓声を抑えるように両手を振りながら、コルベール氏は言葉を続けている。

「えー、皆さんにお知らせですぞ」

もったいぶった調子で、コルベール氏はのけぞった。
のけぞった拍子に、頭にのっけた馬鹿でかいカツラがとれて床に落っこちる。
教室中がクスクス笑いに包まれる。
一番前に座っていたタバサが、コルベール氏のつるつるに禿げ上がった頭を指差して、ぽつんと呟やいた。

「滑りやすい」

教室が爆笑に包まれると、キュルケが笑いながらタバサの肩をぽんぽんと叩いて言った。

「あなた、たまに口を開くと、言うわね」

コルベール氏は顔を真っ赤にさせると、大きな声で怒鳴った。

「黙りなさい! ええい! 黙りなさいこわっぱどもが! 大口を開けて下品に笑うとはまったく貴族にあるまじき行い! 貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ! これでは王室に教育の成果が疑われる!」

とりあえず、その剣幕に、教室はおとなしくなった。

「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」

コルベール氏は横に向くと、後ろ手に手を組みなおした。

「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアからのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」

教室がざわめいているが、

「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を揚げて、歓迎式典の準備を行います。そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること」

生徒たちは、緊張した面持ちになると一斉に頷く。
コルベール氏はうんうんと重々しげに頷くと、目を見張って怒鳴った。

「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」



魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れると、整列した生徒たちは一斉に杖を掲げ、しゃん! と子気味よく杖の音が重なった。
正門をくぐった先に、本塔の玄関がある。
そこに立って、王女の一行を迎えるのは、学院長のオスマン氏。
馬車が止まると、召使たちが駆け寄り、馬車の扉まで緋毛氈(ひもうせん)のじゅうたんを敷き詰められる。
呼び出しの衛士、緊張した声で、王女の登場を告げられた。

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーりーーーーッ!」

しかし、がちゃりと扉が開いて現れたのは枢機卿のマザリーニで、周りの生徒たちは一斉に鼻を鳴らした。
しかしマザリーニ枢機卿は意に介した風もなく、馬車の横に立つと、続いて降りてくる王女の手を取ると、生徒の間から歓声があがっている。
王女はにっこりと薔薇のような微笑を浮かべると、優雅に手を振っている。

「あれが、トリステインの王女? ふん、あたしの方が美人じゃないの」

あきらめがつかないのか、ケヴィンに時々からんでくるキュルケがつまならそうに呟く。

「ねえ、ダーリンはどっちが綺麗だと思う?」

ケヴィンにキュルケは尋ねるが、答える前にルイズの方を見ると、ルイズはまじめな顔をして王女かワルド子爵を見つめていた。
毎晩、一緒にいるのに、いまだワルド子爵の方が上か? という疑問は、ケヴィンの中でわくが、それ以上は詮索しない。
キュルケにとっては単なる暇つぶしだったのか、グリフォン隊隊長であるワルド子爵を見て、ぽーっと顔を赤らめて見つめている。
ケヴィンはタバサからある言葉がでてくるのを待っていたが、でてこなかった。
また、どこかで細かいところが変化しているようだ。
踊りに誘ったのが原因かな? と考えるケヴィンだった。



そして、その日の夜……。


*****
オスマン氏が、真鍮製ゴーレムを作れるというのはオリ設定です。

2012.04.08:初出



[32231] 第8話 姫殿下からの依頼
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:09
アンリエッタ姫殿下が魔法学院にきた、その日の夜……。

ボーっとしているルイズの部屋には頭巾をかぶった女性らしき姿が、ノックをしたあとに入ってきて、魔法の詠唱を行っている。

「ディティクト・マジック?」

ルイズが探知をしていることを訪ねた。
頭巾をかぶった女性がうなずく。

「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」

女性が頭巾を取ると現れたのは、今日の昼間に見かけたアンリエッタ姫殿下その人であった。

「姫殿下!」

ルイズがあわてて膝をついたので、それにならって、ケヴィンも膝をつき頭を下げる。
アンリエッタ姫殿下は涼しげな、心地よく聞こえる声で言った。

「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」

この部屋に現れたアンリエッタは、ルイズに対して昔のように接しようとしている。
対してルイズは、臣下のように接しようとしていたが、アンリエッタの言葉巧みな誘導にどんどんとはまっていく。
そこで、さも気が付いたようにアンリエッタが、

「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら」

「お邪魔? どうして?」

素で言っているルイズである。

「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう? いやだわ。わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね。そのように、かしこまらないで、お顔をおあげなさい」

ケヴィンは、策略だろうと思いつつも、下げていた頭を素直に上げて、アンリエッタを見る。
ルイズは、どうこたえるべきか悩んでいるようだ。
どうやら、昼間に見かけたワルド子爵のことを気にかけているようである。
それを察したケヴィンは、

「俺は、ルイズの使い魔です」

「使い魔?」

アンリエッタは、きょとんとした顔をした面持ちでケヴィンを見つめた。

「人にしか見えませんが……」

「人です。姫さま」

「そうよね。はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」

「いえ、使い魔になったのは……」

ルイズも困惑気味で、どう説明したらいいのか、考えてもいなかったのであろう。
アンリエッタはため息をついた。

「姫さま、どうなさったのですか?」

「いえ、なんでもないわ。ごめんなさね……、いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに……、わたくしってば……」

「おっしゃってください。あんなに明るかった姫さまが、そんな風につくってことは、なにかとんでもないお悩みがおありなのでしょう」

ケヴィンから見ると、アンリエッタがわざわざ時間をつくって単純に昔の幼友達にあいにきたこととは思えない。
たとえ宮中に信頼できるものが、居ないとしてでもある。
結論はひとつ。

「横からすみませんが、姫殿下が抜けていられる時間は、限られてはいるのではないのですか? 幼馴染であるルイズに頼みごとがあるのならば、その時間を有効に使われるとよいかと」

ケヴィンとしては、これからくる話は把握しているつもりである。
ルイズからの視線は、貴方知っているのでは? という疑いと、これから何を伝えられるのかという期待感が微妙に入り混じっている。
意を決したようにアンリエッタが話を始める。
同盟のために、アンリエッタがゲルマニア皇室に嫁ぐことになったこと……。
アルビオンの貴族たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいないこと。
同盟さえなければ、1ヶ国ずつなら楽に攻略されること。
アルビオンの貴族たちは、アンリエッタの婚姻のさまたげるための材料を、血眼になって探していること。
その婚姻を妨げる材料は、アンリエッタ姫が以前したためた一通の手紙でありアルビオン王国ウェールズ皇太子がもっていること。
その手紙をゲルマニアの皇室が読めば、婚姻はつぶれトリステインとの同盟は反故で、トリステインは一国でアルビオンに立ち向かわなければいけないだろうとのこと。

「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは……」

「考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」

「何をおっしゃいます! たとえ、地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為(おんため)とあらば、何処なりと向かいますわ! 姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません! 『土くれ』のフーケのゴーレムを退治した、このわたくしめに、その一件、是非ともお任せくださいますよう」

「このわたくしの力になってくれるというの? ルイズ・フランソワーズ! 懐かしいおともだち!」

「もちろんですわ! 姫さま!」

「姫さま! このルイズ、いつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者でございます! 永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましょうか!」

「ああ、忠誠。これが誠の友情と忠誠です! 感激しました。わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません! ルイズ・フランソワーズ!」

ケヴィンは途中で、この2人につっこみをいれたくなってみたが、結局はあきらめた。

「アルビオンに赴(おもむ)きウェールズ皇太子を捜して、手紙を取り戻してくれば良いのですね? 姫さま」

「ええ、その通りです。『土くれ』のフーケのゴーレムを退治したあなたたちなら、きっとこの困難な任務をやり遂げてくれると思います」

「一命にかけても。急ぎの任務なのですか?」

「アルビオンの貴族たちは、王党派を国の隅っこまで追い詰めていると聞き及びます。敗北も時間の問題でしょう」

「早速明日の朝にでも、ここを出発いたします」

ちょっと間が空いてから

「頼もしい使い魔さん」

「俺ですか?」

「わたくしの大事なおともだちを、これからもよろしくお願いしますね」

そう言って、すっと、左手を差し出す。
ルイズは何かいいたげだが、だまっているので、その左手の甲に口をつけ忠誠をしめした。
そうするとギーシュが、自分もとばかりに扉を開けて入ってきた。

「きさまーッ! 姫殿下にーッ! うらやましいぞーッ!」

「ギーシュか」

「ギーシュ! 立ち聞きしてたの? 今の話を!」

「薔薇のように見目麗しい姫さまが、女子寮にむかってきたのでさがしてきてみればこんな所へ……、それでドアの鍵穴からまるで盗賊のように様子をうかがえば……」

ギーシュは薔薇の造花を振り回して叫びんでいる。
入ってきたギーシュを、ケヴィンが踏みつけながら、

「女子寮に潜り込めるのは暗黙の了解だが、夜の場合は窓からだろう?」

ケヴィンはギーシュを軽く首を締め上げていただけだったが、そこを抜け出すぐらいの技量はギーシュにあったようで、すばやく抜け出し、

「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」

ここでも、派手なポーズをいちいちきめながら話している。
これも天性なのだろう。

「グラモン? あの、グラモン元帥の?」

「息子でございます。姫殿下」

「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」

「その困難な任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」

とギーシュは返答し、その熱っぽい口調にアンリエッタは微笑んだ。

「ありがとう。あなたのお父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」

「姫殿下がぼくの名前を読んでくださった! 姫殿下が! トリステインの可憐な花、薔薇の微笑みの君がこのぼくに微笑んでくださった!」

ギーシュはそのまま後ろにのけぞって失神した。
ギーシュはおいといて、ルイズが真剣そうな声で、

「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発するといたします」

「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」

「了解しました。以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、地理には明るいと存じます」

「旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族たちは、あなたがたの目的を知ったら、ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」

アンリエッタは机に座ると、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、さらさらと手紙をしたため、その手紙を見つめているうちに悲しげに首を振った。

「姫さま? どうなさいました?」

怪訝そうな顔でルイズが声をかける。

「な、なんでもありません」

そのあと、手紙に一文を付け加えて、何やら小さくつぶやいていたが、アンリエッタは書いた手紙を巻いて、杖を振る。
すると、どこから現れたものか、巻いた手紙に封蝋(ふうろう)がなされ、花押(かおう)が押されていた。
そうしてアンリエッタが書いた手紙はルイズに渡される。

「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。すぐにくだんの手紙を返してくれるでしょう」

それからアンリエッタ姫は、右手の薬指から指輪を引き抜くと、ルイズに手渡しまた。

「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです。お金が必要なら、売り払って旅の資金にあててください」

ルイズが深々と頭を下げた。

「この任務にはトリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹くたけき風から、あなたがたを守りますように」

ケヴィンから、出発に際して学院に休暇願と馬の使用届提出が必要なことをアンリエッタ姫殿下に告げると、そこまでは考えていなかったのであろう。
アンリエッタは悩んではいたが、オスマン氏が王宮の要求さえはねのけることができるのを知っているのと、ケヴィンのカイザーを知らないので、馬が必要だろうというのは理解した。



翌朝、朝もやの中、ルイズとギーシュとケヴィンがあった早々の開口一番に、ギーシュが、

「使い魔をつれていきたい」

と言って、ヴェルダンデと名づけられたジャイアントモールを紹介される。

「わたしたち、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物なんて連れていくなんて、ダメよ」

ルイズがそう言うのも普通である。
空中に浮くアルビオンへ、地面を進む生き物を連れて行けないのが普通である。
そのうちにヴェルダンデが、ルイズに擦り寄って押し倒していた。
ケヴィンは、水のルビーの匂いを覚えてもらう必要になるかどうかで、どうしたものかと悩んでいたが、ヴェルダンデの下で暴れていたルイズに助けが入る。
ヴェルダンデを吹き飛ばすだけで、それほど強い衝撃も与えていないほどに精密な制御をしている一陣の風。
朝もやの中からは、一人の長身の貴族が現われ挨拶をしてきた。

「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね」

そう。ワルド子爵が現れてきた。
続けてワルド子爵は、ルイズをまるで子どものように抱え上げているのだが、ルイズは子ども扱いされていることに気がつかずに、頬を染めている。
ルイズがワルド子爵へ俺たちの紹介をしている。
人間が使い魔というのは、さすがに珍しいのだろうが。

「きみがルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったよ」

ワルド子爵は気さくな感じでケヴィンに近寄る。

「僕の婚約者がお世話になっているよ」

「お言葉ですが、ルイズの新しい婚約者になるのは俺ですよ」

ワルド子爵は一瞬絶句したようだったが、すぐに気分を切り替えたのか、

「そのことは、ヴァリエール公爵は知っているのかね?」

ケヴィンがルイズを見ると、首を横にふる。ケヴィンは確認しておけばよかったと思ったが、それではルイズの貴族としての考え方に対して疑問をだしてしまうことになる。
同時に見ていたワルド子爵は、

「それなら、僕にもチャンスは、まだある」

そう言って笑っていた。
ワルド子爵が、口笛を吹いた。
この間にグリフォンがくるのであろう。しかし、その時間を使ってケヴィンがワルド子爵に近寄って、告げた。
ルイズやギーシュにも聞こえるように、

「姫殿下より同行を申し付けられたと言われていたけど、マザリーニ枢機卿に断わらなくていいのですか?」

現状の体制では、マザリーニ枢機卿へ報告しておかないと脱走扱いになり、脱走は死罪だ。

「枢機卿の了承をとってあり、影武者もしっかりいる」

あっさりとワルド子爵は答えた。
影武者と言っているが、風の偏在だ。



ワルド子爵の動向は、ケヴィンにとって完全な予測外。
ワルドを追い返せると油断していたケヴィンは後悔したが、ワルドは純粋に護衛なのか、それともマザリーニ枢機卿の許可を得て何かをするのか、それともレコン・キスタにつくのか。


*****
枢機卿に了承をとってあるのは3巻でアンリエッタが「別行動をとっているのかしら?」というところからの、オリ解釈です。

2012.04.10:初出



[32231] 第9話 旅の途中
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:10
ワルドを追い返せると油断していたケヴィンは後悔したが、ワルドは純粋に護衛なのか、それともマザリーニ枢機卿の許可を得て何かをするのか、それともレコン・キスタにつくのか。
しかし、そのままでいるわけにはいかない。

「おいで、ルイズ」

というワルドのあとに、

「ルイズ。こっちにきてくれないか? 移動しながら話したいことがある」

この中で疑問がわいたのは、ルイズである。
ケヴィンが言うときは、いつも突然である。
それが今回は、話したいことがあるというのだ。
何かあるのだろうか?
もしかしたら、婚約のことを両親に知らせていなかったことを話したいのかもしれない、と思いついたところで、どうしようかとの迷いが生じた。

ルイズが迷っている最中に、そばによったのはケヴィンだった。

「話というのは、今後のことだから」

ルイズの困惑をある程度は、察しているようである。
この点は、ルイズとしばらく離れていたワルド子爵には無理な話だった。
そのまま、言葉にさそわれるようにルイズはケヴィンが乗っているカイザーに乗った。


結局、ワルドはそのまま、

「では諸君! 出撃だ!」

と魔法衛士隊での出撃の声をかけて出発をうながした。
ケヴィンは、後ろ向きになって、ルイズと対面する。

「ルイズ。これから、話すことは、すべてミスタ・ワルドに聞かれていると思って、聞いたり、話したりしてほしい」

ルイズが、ワルドの方を見ると、そのことを隠す気がないように手で合図していた。

ワルドにとっては、風のスクウェアともなれば、耳が良いのと、新しい婚約者という相手との会話が気にかからないというのを、隠すよりは堂々とさらした方が良い結果をもたらされるだろうと判断したまでである。

「ワルドさまも、聞こえていることを、堂々と認められましたわ」

ケヴィンとしては、ワルドは無視してくれるのを期待していたが、そうはいかなかった。

「彼は、貴女に新しい婚約者候補として俺がいることから、色々な手段で貴女の気を引こうとするだろう」

「……」

「だが、婚約の結果をだすのは、少なくとも任務をやりとげてから、直接、貴女の目や耳で聞いて確認してからにしてほしい」

ケヴィンとしては、エレオノールの婚約の現状を、無事進んでいるというのを言われた場合に、ルイズの気持ちがワルドに傾くのを警戒している。
いまだ、正式にワルド子爵との婚約破棄はされていないということをあわせて考えると、憧れと恋の違いを認識していないであろうルイズに、恋は盲目というのが心配の種だから。



港町ラ・ロシェールは王都トリステインから早馬で二日、魔法学院からならもう少し短くなる。
急ごうとするワルドに『スヴェル』の月夜の関係で、アルビオン行きの船などは出ないから急ぐ必要は無い、とのケヴィンの意見で、道中はそれほど速く無いが、ギーシュがのっている馬は、早足と並足を交互に繰り返している。

途中の街で食事をすることになり、馬や、グリフォンに、カイザーをやすませようとしたら、さらなる上空から風竜が降下してきた。
ルイズが驚いた声をあげる。

「シルフィード!」

「シルフィード? 知り合いの使い魔の名前かい? ルイズ」

そうして、風竜が地面につくと、赤い髪の少女が風竜からぴょんと飛び降りて、髪をかきあげた。

「お待たせ」

キュルケに向かって、ルイズが怒鳴る。

「お待たせじゃないわよッ! 何しにきたのよ!」

「朝がた、窓から見てたらあんたたちが幻獣にのって出かけようとしているもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」

キュルケが風竜の上にいるタバサを指差している。
タバサは、キュルケに寝込みをたたき起こされて、パジャマ姿のままだが、気にせずに本を読んでいる。

「ツェルプストー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」

「お忍び? だったら、そう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない。けれど、そのお忍びって言ってよいの?」

ニヤリとしたキュルケを、ルイズは腕を組んでにらみつけている。

「けど、勘違いしないで。あなたをつけてきたわけじゃないの。ねえ?」

キュルケがしなをつくって、ワルドの方へにじり寄っていく。

「おひげが素敵よ。あなた、情熱はご存知?」

ワルドは、ちらっとキュルケを見て、左手で押しやった。

「あらん?」

「すまないが、これ以上近づかないでくれたまえ」

「なんで? どうして? あたしが好きだって言っているのに!」

「婚約者が誤解するといけないのでね」

ワルドが見つめた先を、キュルケが見ると、ルイズの頬が染まっている。

「なあに? あんたの婚約者って、ケヴィンじゃなかったの?」

ツェルプストーはつまならそうに言う。
ルイズがこまったようにモジモジとしているので、ケヴィンが、

「ゲルマニアと違って、トリステインでは手続きが面倒でね」

実際には、ルイズがワルドとの婚約を断って、ケヴィンを両親に恋人と紹介し、両親も認めれば、実質上の婚約者とみなされる。
正式な婚約者となるには、互いの親同士の了承なども必要ではあるが。
ケヴィンとしては、実際にヴァリエール公爵と会う時期は、ルイズが夏休みに帰っていなかったように読めたので、ルイズの性格もあわせて考えると、戦争に会う直前ぐらいだろうと思っていた。
それで、のんびりとしていたが、手紙でさえもワルドとの婚約を断ることをしていなかったのは、計算はずれもよいところである。

そうしていると、キュルケはケヴィンに抱きついた。

「ほんとはね。ダーリンが心配だったからよ!」

ケヴィンとしては、キュルケとはつかず離れずの態度をとっていたが、今回ばかりはタイミングが悪い。
変に突き放すと、明晩におこる可能性の高い襲撃で必要な、キュルケとタバサがいなくなるのは戦力的に痛い。
逆に、キュルケをかまいすぎると、ルイズがワルドへ心をゆさぶられる。

「キュルケ、ちょっとまった。ルイズ、少し話を」

そんなケヴィンの内心の葛藤もむなしく、ここぞとばかりにワルドがルイズに近づいていた。

「ツェルプストーをはねのけられない彼よりも、きみにふさわしいのは、ぼくだよ」

やられたー、と感じたのはケヴィンだ。

ルイズは、ケヴィンからキュルケにつきまとわれるだろうと言われていたのを、すっかり忘れていた。
その後も、ワルドのそばで食事をして、ケヴィンを避ける
なぜ、そのような行動を自分自身でも気が付かずに。

ケヴィンもキュルケを変に突き放すわけにもいかず、食事の雰囲気は微妙だが、そんなことはおかまいなしなのが、キュルケを筆頭に、タバサは本の虫だし、ギーシュは場の雰囲気をよんでいない。
ケヴィンにとって、望ましくは無い状況だ。
この食事の最中に名前で呼ぶことにして、グラモンはギーシュに、ツェルプストーはキュルケに、フランドルはケヴィンにとなった。
その中で出てきたのは、ワルドからの、

「ケヴィン。土くれのフーケのゴーレムを倒した一員だというのは聞いていた。きみの実際の実力を見せてもらいたい」

「ワルド、そんな事をしている時じゃないでしょう?」

ルイズにしては冷静だったが、ケヴィンとしては、負けるとわかっている争い事はごめんだ。
そのためにギーシュをひきあいにだす。

「一緒にいるギーシュは?」

「ああ。ギーシュの実力も見ておきたい」

ケヴィンとしては、避けたかった場面だが、これを断るには相当な理由が必要だ。
無駄だと思いながらも聞いてみた。

「今は、作戦行動中では? その中で、ドット2人の実力をはかるのは避けるべきでは?」

「なに、たいしたことではない。きみたちの実力を知っておけば、いざというときの作戦を立てやすいからね」

ケヴィンは、それでもなんとか理由をつけて断りたかったが、

「誰もが憧れる魔法衛士隊の隊長じきじきに、実力を試してもらうとは、貴族として名誉です」

こういわれると、自分自身だけなら無視をするが、ことにルイズがからんでいるなら、不承不承ながらもケヴィンも承諾せざるをえない。
ギーシュがこのようなことにのるなんて、人間1人の予想など簡単にくつがえされるものである。

夕刻につく街もわかっていることだから、それなりの速度で移動するが、ルイズはワルドが乗っているグリフォンに移動していた。
キュルケがケヴィンの黄竜に、のってきたからというのも一因だ。
そうして、今晩泊まる予定の街へと、向かって行った。
今晩泊まる宿では、こまったことになった。
すでにフクロウ便で予約の依頼をしていたのは、3部屋。
4人で泊まるつもりだったワルドだが、キュルケとタバサがついてきている。
6人を3部屋だとすると、ルイズと一緒の部屋になるのはだれかということになる。
ワルドとしてはきまっている。

「今日の部屋は、キュルケとタバサが相部屋で、ギーシュとケヴィンが相部屋。そしてぼくとルイズは同室だ」

「そんな、ダメよ! ワルドは正式な婚約者だけど、まだ、わたしたち結婚しているわけじゃないじゃない!」

「俺からも言わせてもらう。ルイズとは毎晩一緒にいさせてもらっている。ルイズの嫌がることはしてない。そうだよな?」

ルイズは、ケヴィンが使い魔としてよりも、婚約者のように接しようとして、それを自ら拒絶して、それに従ったケヴィンを思い出した。
いかにも、もてそうで、グリフォンへ一緒に乗った時に身体を何回か触られているワルドに比べて、ケヴィンの方が安全パイだ。
ケヴィンがその心情を知ったら複雑だろう。
しかし、ルイズは、

「今日はケヴィンと一緒に過ごすわ。だって、彼は使い魔だし」

メイジと使い魔の関係は夫婦間よりも強いと言われている。
ブリミル教では離婚を認められているが、使い魔との絆を断ち切るのは、どちらかの死しかないためだ。

これで部屋はきまったが、ワルドには、夕食前に行うことがある。

「さて、昼間の話だが覚えているかな? ギーシュにケヴィン」

「実力を測ることかな?」

「そう。まだ、夕食までには時間があるから、今から行おう」

ワルドの記憶によると、この宿のそばの寺院の裏にも広場があったはずだ。
そこに到着すると、誰もいない。
他の皆はついてくるが、タバサだけ本を読んで興味は無いようだ。

「さて、実力を測るということで、きみら二人でこい」

「ワルド子爵。俺はブレード使いだ。なので、お互いの杖のぶつかりあうこともあるでしょう。なので、利き手には替わりに木剣を使用したいのだけど、かまわないかな?」

「ふむ。かまわない。全力でこい」

ケヴィンとしては、ギーシュとの連携は実質無駄だと思っているので考えていない。
ワルドがガンダールヴの情報にたどり着いたのは、フーケがつかまって、フーケからの情報で調べてたどりついたのであろうと推測している。
それにそもそも、ガンダールヴのルーンの力は自室内でしか、まともに試していないので、
外部に漏れる心配はほとんどない。
そして、このガンダールブの実力も隠しておく気だ。
たとえワルドに負けるであろうとも。
普通の貴族なら、それでも貴族の名誉にかけてまともな勝ちを望むであろうが、ケヴィンにその気持ちは無い。
このような貴族として非常識な考え方は、ワルド子爵や他の普通の貴族には理解できない。

「ギーシュ。じゃあいこうか。俺は、ワルキューレの間から攻撃をしかけるからよろしくな」

ケヴィンは錬金で作った木剣を右手に、杖は左手にもっている。
デルフリンガーは背中にせおっているが、あいかわらず使われないかわいそうな状態になっていた。
いつ出番があるんだ?

「勝手に作戦をきめるな」

「他に作戦はあるのか?」

「いや、ないけど」

「それじゃ。いいだろう。ワルキューレ全部だしたら、それでつっこむぞ」

「よし。ぼくの実力をみせよう」

ワルドに聞こえているが、ワルキューレと言ってもわからなかった。
青銅のゴーレムが7体でたところをみて、ドットにしてはやると思ったところに、その陰からケヴィンが木剣でつっこんできていたが、軍杖で受け止める。
ガキーンと、木剣と軍杖の間でなった。
風メイジとして人の気配を読み取れるワルドには、効かない攻撃方法だった。
さらに木剣の握りが甘ければそのまま跳ね飛ばすつもりだったが、自分からブレード使いだと名乗っただけはあり、にぎりが甘いということはなかった。
だが、うけた時にできた相手の隙に一旦まわりこんで、突きを放つ。
それをケヴィンが木剣で切り上げて払ったので、右斜め後方に飛び退り、構えを整えなおした。

たしかに、この青銅のゴーレムにまざって、攻撃をしかけてくれば並の魔法衛士隊隊員でも遅れをとるだろう。
そうみたワルドは、作戦を変える。
7体のワルキューレとケヴィンを相手にしながら、呪文を唱える。
呪文をとなえ終わり軍杖を振ると、エア・ハンマーで4体のワルキューレが吹き飛び、壁に当たって崩れ落ちた。
その瞬間を待ち望んでいたかのように、ケヴィンの左手の杖が振られた。

ケヴィンにとっては、純粋にメイジとしてワルドに勝てるかもしれない、ただひとつの手段である、小石にかわる青銅のブレッドもどきである。
実際にはコモンである念力を、ルーンで唱えているだけなので、普通のメイジだとわからないだけであるという、変則的な手段である。
その念力で、壊れたワルキューレの青銅を、小石の代わりにワルドへ飛ばす。
それ自体は、ワルドの二つ名である閃光にたがわず、ウィンドの魔法でよけられてしまったが、ケヴィン自身がワルドの目の死角から突きを放ったところ、逆に左わき腹と、左腕に痛みを感じて、杖を落としてしまった。

「ここまで、だ」

ワルドから宣言される。
先ほどのウィンドで他の3体のワルキューレも全滅していた。

「きみたちの実力はわかった。ギーシュのゴーレムはドットとして見どころがある。対してケヴィンは、その陰に隠れて戦うのと、仲間のゴーレムが壊れたところをつかうのは、貴族としてはいかがなものか」

ケヴィンには、戦い方は勝つための手段でしかないが、魔法衛士隊では、その戦い方にも貴族らしさをもとめている。
ゲルマニアなら、この戦い方でも何もいわれないが、ここはトリステインである。
何を言っても負け犬の遠吠えにしかならないだろう。

「ミスタ・ワルド。実力がわかったなら、このあとの戦い方とかの作戦は指示してくれ」

ケヴィンが左わき腹を抱えて、杖を拾いながらの声はまるで、投げやりな言葉だが、半分は本心である。
問題は、ルイズがこの戦いで、ワルド側に心情を動かしていないかであるが、

「やりすぎじゃないの? だってあなたはあの魔法衛士隊の隊長じゃない! 陛下を守る護衛隊。強くて当たり前じゃないの」

ルイズはかばってくれるが、ワルドは、

「そうだよ。でも、アルビオンに行っても敵を選ぶつもりかい? 強力な敵に囲まれたとき、きみはこう言うつもりかい? わたしたちは弱いです。だから、杖を収めてくださいって」

「……」

だまってしまったルイズに代わって、ケヴィンが言う。

「俺には、使い魔の黄竜がいる。俺がルイズの盾になって、彼女を守る。その間に黄竜で遠くへ逃がせばいい」

ワルドが、その言葉に対応しようとしたが、

「これは実力を見るものだったんだろう。あとは強い敵を相手として囲まれたときに実行できる作戦をたのみますよ」

そう言って、ケヴィンはルイズをつれて宿へ向かおうとしたが、キュルケに邪魔をされて、ルイズが怒ってそっぽを向かれた。

喧嘩両成敗か? と残念ながら密かに思ったケヴィンである。


*****
安全パイとみられているケヴィンですねぇ

2012.04.14:初出



[32231] 第10話 出航までの休日
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:10
夕食前にワルド子爵から、ギーシュとケヴィンの実力確認のあとは、すでに夕食だというのに、ケヴィンがルイズになかなか近寄れない。
キュルケがケヴィンにちょっかいをかけて、いるからである。
ケヴィンからしてみると、むげに断れない。
それがルイズの機嫌をそこねている根本で、そのおかげでルイズがワルドの口車にのりはじめている。

さすがにまずいと思いケヴィンは、夕食も適当に終わったところで、ルイズに声をかける。

「すまないけれど、2人きりで話をしたい。ほんの少しの時間でいいんだ」

「ああああんたはキュルケとサカッテいればいいんだわ」

ルイズが、可愛らしい顔を悪鬼のようにゆがめて答えていた。
ケヴィンが夕食前に同じことを言えば、ここまでこじれなかったであろうが、ルイズの気分は、もう最悪である。

「今日は、やっぱりワルドと一緒の部屋にいるわ」

話もないという風に、ルイズが自分に割り当てられた部屋に行く。
そこへ追い打ちをかけるように、

「ケヴィンくん、わるいね」

そういって、ワルドもルイズと部屋の中へ入って行った。



ルイズは、部屋の中でワルドと二人きりになったところでハッとした。
ワルドにせまられたら、最後まで赦しちゃうのではないかと。
そう思うと、なんとなく、身を固まってしまう。

ルイズが気分を落ち着かせようとテーブルにつくと、ワルドもテーブルにつき、店で用意してあるワインの栓を抜いて、2人の杯についだ。
ワルドがそのまま杯をかかげて、

「二人に」

ルイズはちょっとうつむいて、杯を合わせた。

「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」

今まで、ワルドやケヴィンに気をまわしすぎていたルイズは、ポケットの上から、アンリエッタから預かった手紙があることを確認して安心した。
魔法学院でのアンリエッタが最後に書き添えた一文の表情から、託された内容は予想できる気がした。
考え事をしている自分を、ワルドが興味深そうに覗きこんでいたので、

「……ええ」

「心配なのかい? 無事にアルビオンのウェールズ皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるのかどうか」

「そうね。心配だわ……」

「大丈夫だよ。きっとうまくいく。なにせ、僕がついているんだから」

ふとその時に、ケヴィンはこのあたりのことでも知っているのではないか、と思って考え始めて黙っていると、ワルドが小さいころの話を始めていたので、生返事をしていたら、

「……確かに、きみは不器用で、失敗ばかりしていたけれど……」

「意地悪ね」

「違うんだルイズ。きみは失敗ばかりしていたけれど、誰にもないオーラを放っていた。魅力といってもいい。それは、きみが、他人にはない特別な力をもっているからさ。僕だって並のメイジじゃない。だからそれがわかる」

「……」

特別な力というのは、虚無のことだろうと考えたが、始祖の祈祷書を手に入れなければならないことはわかっている。
それが手に入らなければ、今のままだ。
アンリエッタ姫殿下の挙式の詔として貸与されるとのことだったが、なぜそのようなことになるのかは、思い当らなかったが、この手紙の任務を取り返すことなんだろうとは、思いついていた。

「きみは偉大なメイジになるだろう。そう、始祖ブリミルのように、歴史に名を残すような、素晴らしいメイジになるに違いない。僕はそう予感している」

ワルドは熱っぽい口調で、ルイズを見つめた。

「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」

「え……」

「きみに悪い虫がつかないようにね」

ワルドにとって悪い虫とは、ケヴィンのことであったが、彼を使い魔とするにあたって、婚約の破棄を言われている。
誓約書では、そこまでかかれていなく簡易に婚約しとなっているが、一晩考えさせられたので覚えている。
ただ、ワルドとの婚約破棄について、どう説明しようかと1人で勝手に悩み続けていたルイズであった。
それをうまく表現する方法をみつけられなくて、

「あのねワルド。小さい頃、わたし思ったの。いつか、立派なメイジになって、皆に、父上や母上にほめてもらうんだって。まだ、わたし、それができてない」

小さい頃に思った話をだした。
ワルドは、ルイズの新しい婚約者になるケヴィンの話題を避けるためだろうと思い、

「わかった。この話は取り消そう。今、返事をくれとは言わないよ。でも、この旅が終わったら、きみの気持ちは、僕にかたむくはずさ」

ルイズはあいまいながらもうなずいた。

「それじゃあ、もう寝ようか。疲れただろう」



その頃、ケヴィンたちは1階でワインを飲みながら、ハルケギニア式トランプであるカードで、サンクスと呼ばれるポーカーと似た内容のゲームをしていた。
最初はタバサも加わっていたが、一人勝ちしたところで、「もういい」と言ってぬけてしまった。
タバサにとっては、10日ほど前の仕事でのイカサマ賭博で、調子がくるっていないかの確認行為だった。
タバサはそのまま、また本を読んでいるので、残りの3人でおこなっている。
ケヴィンとしては、ルイズが部屋からでてくることを祈っていたが、それはならなくて、ギーシュと一緒の部屋でねることになった。



翌朝、朝食前にルイズとワルドがでてきて1階のテーブルにつく前に、ケヴィンがルイズに声をかけた。

「ルイズ、2人きりで話をしたい。ほんの少しの時間でいいんだ」

「きみ。昨晩も断られたんじゃないのかね? 往生際が悪いんじゃないかね?」

「ケヴィン。いいわよ」

「なにっ?」

「ほんの少しで終わるが、まわりにきかせたくないので、ちょっと隅の方ではなさせてほしい」

ルイズが了承をした以上、ワルドも驚きながらも無理には止めることはできない。

ちょっと1階のつきあたりになるところで、ケヴィンがサイレントをかけて、まわりとの音をさえぎった後に、

「ルイズ。キュルケを突き放せないのは訳があるんだ」

「……いいわ。聞いてあげる」

少なくとも聞く耳をもってくれているルイズに多少は安心をして、

「多分だが、俺たちの行動はアルビオンの貴族派、レコン・キスタに察知されているだろう。そこで、キュルケ達の戦力をあてにしないといけないんだ。それが突き放せない理由なんだ」

「わかったわ。信用してあげる」

ルイズとしては、昨晩は冷静さを欠いていたとトリステイン貴族のプライドの高さから、ケヴィンから言ってくるのをまっていたのである。

「けど、なんで教えてくれなかったの?」

「すまなかった。『フリッグの舞踏会』のあとに、キュルケが必要なことを言うと約束していたのに遅れて」

「他には?」

「あるけれど、今言っても信用されるかどうか……」

「いいから言ってみてごらんなさい」

「少なくとも、この任務中のワルド子爵との結婚は無い」

昨晩、ワルドに言われた内容に類似していることに気が付いたルイズは、

「任務中ということは、その後は?」

「ルイズは、使い魔が7万人を1人で切り込むところまで、結婚はしていないよ」

「その後は?」

「悪いが、今はここまでにしてくれないか」

機嫌を損ねるとわかっていても、ワルドのことを悪しざまに言うと、ルイズのことだから顔にでてしまうか、逆に反発されてしまうだろうと予想している。
それはそれで、まずいだろうから、

「ふぅ。わかったわ。キュルケのことは見ないふりをしててあげるけど、だからといってキュルケの手にのったら承知しないんだからね」

「ありがとう。ルイズ」

ケヴィンとしては、失敗しかねない状況だとおもっていた中での言質である。
ルイズも自分が聞いていなかったのも少々悪かったなと思っていたが、これでケヴィンの上をいけたと、多少は満足げであった。



朝食は早めに済まして、港町ラ・ロシェールへ向かう。
ルイズはワルドといるが、ルイズにしては、考えているという感じがでていて、ワルドの言葉にも返答が、滞りがちだ。
キュルケはケヴィンにちょっかいをだしているが、ケヴィンもほどほどに相手をしている程度である。
港町ラ・ロシェールの入り口でもある狭い峡谷では、上空からタバサのシルフィードとケヴィンのカイザーがいるからなのか、あるいはまだ日が落ち切っていないからであるのか、山賊のたぐいはいなかった。

それで、今は、ラ・ロシュールで一番上等な宿『女神の杵(きね)』亭にそろっていた。
『桟橋』での城船交渉にはワルドとルイズで向かったが、やはりアルビオンにわたる船は月が重なりアルビオンが一番近くなるスヴェルの月夜の翌朝とのことだった。
金をつめば、風石を余計にのせていく船もさがせばあるだろうが、貴族向けの船には、そういうのは無い。

そして夕食後の夜、宿の1階の酒場で全員が飲むことになった。
アルビオンへは明日ということになっているので、それを酒の肴にしている。
多分、そろそろ、傭兵が襲ってきても良いはずだが、フーケがかかわっていない分、どのように時間がかわるかは、わからない。

出発は明朝ということで、飲めるだけ飲んでいるのはキュルケと、ギーシュだ。
少しずつ飲んでいるのがルイズとワルドにケヴィンで、タバサはアルコールを飲んでいない。
外から妙な気配を感じているのはあらかじめここが襲われると考えていた上に、実際の戦場にもたっているケヴィンだけのようだ。
ワルドは、この際あてにならないだろうし、後ろから打たれないように気を付けないといけない。
その妙な気配が現れてから、ほんの少しで、玄関から傭兵の一隊が現れたので、魔法で各自応戦して、第一波を撃退した。
その間に手早く、床と一体化したテーブルの脚を折り、それを立てて盾にする。

さらに傭兵隊の第二波がきたが、メイジとの戦いになれているようで、第一波の迎撃をみて、こちらの魔法の射程距離を把握したようだ。
こちらの射程外から弓矢を射掛けてくる。
ケヴィンは、おそってくるのは把握していたので、今後のために精神力を温存するためにも、第一波に対してはマジックアローの射程をわざと短くしているので、まだ射程距離内にいるものも多いが、ワルドの言葉を待っている。
この様子を観察していたのか、ワルドが低い声で言う。

「いいか諸君。このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」

こんな時でも、本を読んでいたタバサが本を閉じ、そして、ワルドの方を向いた。
自身とキュルケとギーシュを指して「オトリ」と呟いた。
それからワルドとルイズとケヴィンをさして「桟橋へ」と呟く。
その上で「今すぐ」と言い、それを受けてワルドが、

「聞いての通りだ。裏口にまわるぞ」

「悪いが、足止めをしていてくれ。帰ったら、タルブ産の古いワインでもおごる」

「ねえ、ヴァリエール。勘違いしないでね? あんたのためにオトリになるんじゃないんだからね」

「わ、わかっているわよ」

ルイズはそれでも、キュルケたちにぺこりと頭を下げた。



酒場から厨房に出て、通用口にたどりついたところで、酒場から派手な爆発音が聞こえてきた。

「……始まったみたいね」

ルイズが言った。
ワルドがぴたりとドアに身を寄せて、向こうの様子をさぐる様子をみせている。

「誰もいないようだ」

ケヴィンからみるとそれが、意図されたものかどうかは不明だが、訓練された者ほど、与えられた条件に対して同じパターンを繰り返すという心理状況について、前世の知識で覚えている。
フーケがいなくても近いことになるだろう。
ワルドがドアを開け、3人は外へ出た。

「桟橋はこっちだ」

ワルドを先頭に、ルイズ、ケヴィンが続いて、月が照らす中、桟橋のある山へ向かっていった。

しかし、ケヴィンは、ここで背中にあるデルフリンガーを出すかで悩んでいた。


*****

2012.04.21:初出



[32231] 第11話 アルビオンへ
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:11
『女神の杵』亭の襲撃から脱出後、桟橋に向かった。

ワルドが丘の上にある桟橋へ向かい、樹の根元に近寄る。
樹の根本にある、各枝に通じる階段にかかっている鉄のプレートで、目当ての階段を見つけたので、駆け上がり始めた。

ケヴィンは後ろからの足音を気にしながら駆け上がっていたが、後ろから足音が聞こえてくる。

「後ろから誰かが追ってきているようだ。先に行ってくれ」

「でも……」

「ルイズ、彼の言う通りだ。ケヴィンはしんがりの役目をはたしてくれたまえ」

そう言ってワルド、ルイズが階段を登っていくあいだに、ケヴィンはまわりの木壁の一部を錬金で、目立たないようにちらばせながら小石化をおこなっていた。

階下からきたのは、白い仮面の男だったが、暗視の魔法も行っているケヴィンには、黒いマントの紋章も見えている。
グリフォンの紋章だ。
ワルドも雑な仕事をするなと、ケヴィンは苦笑するが、元より疑われているとも思っていないであろうから、しかたがなかろう。
ケヴィンはワルドとルイズが順調に登っていることから、背中に背負っていたデルフリンガーを抜くことにした。

抜き出したデルフリンガーは、買い取った時のボロボロの状態ではなく、直前にとがれたような見事にきれいな状態である。
毎晩の室内の練習がてらに、初代ガンダールヴのサーシャのことや、エルフの技術によって作られたことであろうや、ブリミルの虚無の話やら、ヴァリヤーグの話やら。
そして、デルフリンガーが、ブリミルの胸を突き刺したというところで、本来の姿にもどったのだ。

右手にデルフリンガーに、左手の杖にはブレイドの魔法をかけて、後ろからきた人物に声をかける。

「相棒、ようやっとだしてくれたのかよ」

「お前の相手をしている暇はないぜ。白仮面のメイジ、上には行かせない。と言いたいところだが、狙いは俺なんだろう?」

それにはこたえず、白い仮面の男は、杖をかまえた。
黒塗りになっているが、ワルドと同じ軍杖の杖だ。
ワルドの目的は、元々知っている内容と同じなのだろう。
ケヴィンは、今までのうっ憤をはらすかように、

「大隆起とかの相手は、サイトがするはずなのに、なんで俺なんだよ。この行き場のない怒りをお前にたたきつけてやる!」

ガンダールブが心の震えで強さが増幅されるが、使い方を間違っていないかとは誰もつっこんではくれない。
そう言って、ケヴィンは、昨日の夕刻と同じように、小石を念力でとばして、相手につっこんでいった。

相手は、ワルドの風の偏在である。
その風の偏在は、方向こそ工夫された小石がとんできたことから、青銅のかわりだろうが、また昨日と同じかと油断をしていた。
軽くウィンドの魔法で、小石をけちらして、相手の剣にカウンターをあわせることにした。
昨日と違い両刀ではあるが、昨日はワルキューレがあったことからしてみると、陰にかくれたり、武器になるものも少ない。
しかし、ケヴィンの移動速度と、剣速が予測をはるかにこえていた。
ガンダールブのルーンの力である。
ケヴィンの一振りで、致命傷をあたえたが、さらにデルフリンガーの特性でもある、魔法を吸収する能力もあり、風の偏在は一瞬できえた。

「相棒、もう少し話し相手になってくれー」

「パス」

そう言って、デルフリンガーはあっさりと、背中のさやの中にしまいこまれてしまった。
フライで上にいるルイズとワルドのところまでに行く。



ワルドは風の偏在が消えた感覚を覚えた。
まさか、あのドットに後れをとったと?
ガンダールブの特性を知らないワルドにとって、ケヴィンが単なるドットでは無いと思わせたのは、何かフラグをまたたててしまったかもしれない。

合流したあとに、そのまま階段をかけあがった先の出口は、枝が伸びていて、一艘の船が停泊している。
その船は『マリー・ガラント』号だ。
船はワルド子爵が交渉して出航することになった。
その就航間際になって、グリフォンも口笛で呼ばれて飛んできたが、ケヴィンも同じように、口笛でカイザーを呼んで到着をした。

船のことはワルドが船長と交渉して、情報収集なども行っている。
ケヴィンとルイズは、ここでは横で聞いているだけだ。
情報としては、王党派がニューカッスル付近に軍を配置しているが、苦戦しているとのこと。
ウェールズ皇太子が死んだという情報は入っていないが、この船が到着するスカボローの港からニューカッスルまで、馬なら1日、グリフォンや、カイザーの今わかっている速度と持続力の範囲内なら、夜遅くにつくだろう。
ここでワルドが、

「確かに、ニューカッスルの王党派と接触できるかもしれないが、夜の闇を理由にトリステインの貴族だと気が付かなかったと攻撃される恐れがある。陣中突破をするにしても、朝をまってからが良いだろう」

ケヴィンとしては、その夜の間に襲ってくるのがワルドではないかとも思うのだが、今のところは、ニューカッスルに一番近い宿へ泊まるぐらいしか対策を思いつかない。
結局のところ、王党派がくるか、こないかは運任せでしかない。
ただ、いまのところは、ジョゼフのおこなっている一人遊びと称されている、サイコロを使ったシミュレーシィンウォーゲームをベースとしたアルビオンの戦争も、大きな変更が無いようだ。

アルビオンの最新の情報もわかったことだし、アルビオンへ着いた後の、基本的な方針もきまったことから、ルイズは眠りその横でケヴィンは眠った。
ルイズの横には、船の風石が足りない分を補うためにレビテーションの魔法をワルドがかけながらも、苦々しげにケヴィン見つめていたが。


翌朝、船員たちの「アルビオンがみえたぞー」との声で起こされたケヴィンは、知識ではわかっていた浮遊大陸であるアルビオンを見ていた。
その様子をおもしろがったのかルイズは、

「初めて見た?」

「ああ、噂には聞いていたが、きれいなものだな」

空中にういたアルビオン大陸から、水が空に落ち込んでいる。
その際、白い霧となって、大陸の下半分を包み込んでいた。
斬りは雲となり、大雨を広範囲にわたってハルケギニアの大陸に降らしている。
多分、前世のヨーロッパよりも雨の降る領が多いだろう。
初めて見るアルビオン大陸の幻想的な美しさにぼんやりとケヴィンが気を取られていると、見張りの船員が大声をあげた。

「右舷情報の雲中より、船が接近してきます!」

その接近してくる船は舷側から大砲が付き出ている。
それを見てルイズが、

「いやだわ。反乱勢……、貴族派の軍艦かしら」

このタイミングで黒くタールで塗られた軍艦らしきものが旗もあげずにいる。
ケヴィンは空賊であるか、空賊に偽装した王党派か、判断をつきかねたが、黄竜ならばいざという時に逃げることができると考えていた。
通常、ハルケギニアの竜に対して、人間の魔法など、よほど上位のメイジでない限りまともには効かない。
スリープクラウドも大丈夫だろう。

そうした中で、船長へは空賊からの停戦命令が、船員から伝えられた。
船長はワルドに向かって、助けを求めるように見つめるが、

「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」

ワルドとしては、最後の段階で、貴族派もといレコン・キスタに所属していると言えば、自分の身の安全は保障されている。

一報ケヴィンは判断をつきかねているが、ルイズを心配させないように、

「ルイズ。相手には王党派へのトリステイン王国大使としての、正当な待遇を要求すれば良いと思う」

「それって?」

「まだ、王党派が負けているわけでは無いから、貴族派か、貴族派と密接な関係にある空賊としても、あからさまなことはしないいであろう」

「貴族派と空賊が密接な関係?」

「空賊が自由に動けるほど、貴族派の戦力が少ないとは思えない。多分、この解釈で良いはずだと思う」

ルイズに解釈という単語で、この状態が予言書に書かれていることを匂わせる。

「先は?」

「押し通してみよう」

そんなやりとりを、精神力が切れたワルドは、それでうまくいくのかと思いながらみていた。

一方、空賊たちは、大砲を打ったあとに停戦したマリー・ガラント号に乗りこんできた。
船との間に張ったロープを伝ってわたり始めた。
その数は数十人で、それに気が付いた、グリフォンと黄竜が鳴き声を立て始めた。
そうすると、共にスリープクラウドの魔法による眠りの雲が頭に発生して、グリフォンはそのまま眠りについた。

カイザーには、スリープクラウドは効かないかと思っていたら、あっさりと眠りにつき、ケヴィンは内心焦り始めた。
東方の竜だが、竜なのに、たかだかメイジのそれほど強くは無いスリープクラウドで眠らされるとは計算外だったのである。
せめて、王党派であってくれと思った時に、派手な恰好の人物をみつけた。
ぼさぼさの長い黒髪を赤い布、無精ひげに片目の眼帯をして、まるで昔ながらの海賊のイメージそのものである。

その男が、船長に帽子を取り上げたところで、甲板にたたずむルイズとワルドとケヴィンに気づいた。

「おや、貴族の客まで乗せているのか」

その男がルイズの方にきたところで言う。

「わたしは王党派への使いよ。わたしはトリステインを代表としてそこに向かう貴族で、大使よ。だから大使としての扱いをあんたたちに要求するわ」

「王党派と言ったな?」

「言ったわ」

「なにしに行くんだ? あいつらは、明日にでもきえちまうよ」

「あんたらに言うことじゃないわ」

ケヴィンは、それに続いて言う。

「言ってもいいんだけどね。ウェールズ皇太子」

「この俺が、よりによって王党派のウェールズ皇太子? 笑わしちゃいけねぇなぁ」

「こんな時にまで始祖のルビーをなさっているからですよ。ルイズ、水のルビーを彼の指輪にちかづけてごらん」

ルイズが不思議そうにしながらも、水のルビーを、相手の男の指輪にちかづけると、二つの指輪についているルビーが共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。

「まいったね。そうやすやすとみやぶられるとわ。その通り、僕が、ウェールズ・テューダーだ」

「本物なんですか?」

「ああ、すまない」

そう言って、カツラや、眼帯に、作り物の髭をとると若い金髪の男性が現れた。

「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをうかがおうか」

ルイズはぼけっとして、ワルドはこれを興味深げにみていた。
代わりにケヴィンが、

「彼女が、アンリエッタ姫殿下より預かった物があります。ここで話すには、はばかれますので、場所を移動されてはいかがでしょうか?」

「そうだね。移動することにしよう」



そこには、空賊のふりをした軍艦『イーグル』号の船長室に移動した一向とウェールズ皇太子の側近であろう3人ばかりの人が一緒についた。

「さて、預かってきた物とは?」

「アンリエッタ姫殿下より、密書を預かってまいりました」

ルイズが、一礼をしていった。

「密書とな。名をきかせてもらえないだろうか。大使殿」

ルイズが緊張しているのか、なかなか次の言葉を出せないでいるとワルドが優雅に頭を下げて言う。

「こちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔の少年でございます。」

ケヴィンは、紹介で単に使い魔扱いとされたところで、このワルドめと思ったが言葉にするわけにもいかずにいた。

「それで、きみは?」

「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」

「なるほど! きみのように立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このようなみじめな今日を迎えることもなかったろうに!」

それ、勘違いですよ、と思うケヴィンだが、

「して、密書とやらは?」

ルイズが胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出し、ウェールズに手渡す。
ウェールズは、愛しそうにその手紙を見つめて、花押に接吻し、慎重に中の手紙を取り出して読み始めた。
真剣な顔で、手紙を読んでいたが、そのうち顔をあげた。

「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は」

ワルドが無言で頭を下げ、肯定の意を表した。
こういう場面は、ワルドがなれているので、しかたがなかろう。

ウェールズは笑いながら、

「姫の手紙は、ニューカッスルの城にある。多少、面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」


ケヴィンたちは、ニューカッスルに向かうことになったが、ケヴィンとしては、このあとのどうつじつまを、どうあわせようかと悩んでいた。


*****
7巻でジョゼフがおこなっている一人遊びは、特殊なタイプのシミュレーションウォーゲームと解釈しています。ここでは、結果として大まかな差が発生していないことにしています。

2012.04.27:初出



[32231] 第12話 ニューカッスルでの決戦前日
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/12 20:06
ケヴィンとしては、このあとのつじつまあわせを悩んでいたが、時間的制約もあり、まずは確実そうな線からおこなってみた。

「ミスタ・ワルド。2人きりで、お話をさせていただきたいのだが、よろしいでしょうか?」

「……よいだろう」

「まわりに聞かせたくは無いので、サイレントをかけさせてもらいたいのだが」

「うむ」

ワルドとしては、ルイズとの婚約の話だろうと思っていた。
自分の風の偏在を何らかの方法で対処したのはたしかだが、それは風の偏在の油断だろうと思っている。
ここで何かをおこされても、ドット1人が相手なら、油断さえしなければ、おくれは取らずに、周りの援護も受けられるだろうと考えていた。
しかし、そこで待ち受けていたのは、

「お話をさせていただきたいのは、『聖地』のことなんだが」

ワルドは、絶句した。
聖地は自分が殺してしまった、母親の日記に書いてあった行くべきだと思っている場所だ。
その日記や、母親の肖像があるペンダントも身に着けている。

ケヴィンも、ルイズやサイトの行く末が、持っている本の通りにいくのか、大隆起に対抗は不可能でも、他の情報は集めていた。
ワルドの母がその時期としては珍しくアカデミーにいたことや、それが突然やめたことやら、ワルド自身が異常なほどに聖地の情報を集めていることも。
ワルドの返答が無いことから、ワルド自身が母親を殺めたことや、母親の日記を見たことに確認をもったケヴィンはこう言った。

「聖地へ行く確実な方法があるのだけど、聞いてみないかい?」

ワルドにとっては、まさに悪魔のささやきである。
その後、ワルドはケヴィンの話を聞いて、ワルドが一時茫然としながらも、ワルド自身に損は無い判断としたワルドは、それにのることにした。

ケヴィンからしてみたら、ワルドの口約束だが、現状影響を与えている部分が少ないところでは、相変わらず本の内容は信用できると思っている。

そしてここから、本から明確に外れだしていく部分だ。
いかに、ウェールズ皇太子の対応をするかである。
ワルドを味方につけるだけならば問題は無いが、事はルイズの機嫌にもかかわってくる。
感情に支配されやすいルイズの性格を考慮すると、行動の予測が難しく、当初思っていたより考えなければいけないことに気が付いていたケヴィンだった。



アルビオン大陸の下部にある雲の中で、巧な操船でニューカッスルについたイーグル号とマリー・ガラント号の一向は、年老いた老メイジの歓迎を受けた。
老メイジは、

「ご報告なのですが、反徒どもは明日正午に、攻城するとの旨、伝えてまいりました。まったく、殿下が間に合って、よかったですわい」

「してみると間一髪とはまさにこのこと! 戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな」

老メイジがウェールズのそばにいるルイズ、ワルド、ケヴィンを見て、

「して、その方たちは?」

「トリステインからの大使殿だ。重要な要件で、王国に参られたのだ」

「これはこれは大使殿。殿下の侍従を仰せつかっておりまする、バリーでございます。遠路はるばるようこそこのアルビオン王国へいらっしゃいました。たいしたもてなしはできませぬが、今夜はささやかな祝宴が模様されます。是非ともご出席くださいませ」



ルイズたちは、ウェールズにつき従い、城内の彼の居室へと向かった。
城の一番高い天守は、王子の部屋には見えない、質素な部屋であった。
王子は、机の引き出しに入れてあった宝箱をとりだし、一通の手紙を取り出した。
それがアンリエッタの手紙であり、彼は改めて読み返し、そしてルイズに手渡した。

「これが姫からいただいた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」

「ありがとうございます」

ルイズは深々と頭を下げると、その手紙を受け取った。

「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号が、ここを出発する。それに乗って、トリステインにお帰りなさい」

ルイズは受け取った手紙をじっと見つめているので、ケヴィンが声を出す。

「僭越ながら、私の使い魔である黄竜で、トリステインへ戻った方が、移動速度も速く、安全に帰れるでしょう」

ルイズは、ハッとした。
ケヴィンはこの先を知っていて、自分が亡命をすすめることを。
しかも、くやしいことに、失敗するであろうと。
いつものごとく、なんで事前に知らせてくれないのかと思うのだが、言っても『7万人を一人で相手にするのは避けたい』になるから、それ以上は問い詰められないでいる。
イーグル号での話では、ここでさえ5万人が相手らしいのに、いったいどんな状況で、そのようなことになるのやら。

ウェールズは、水時計をみて、

「もうまもなく、パーティの時間だ。きみたちは、我らが王国が迎える最後の客だ。是非とも出席してほしい」

ルイズは部屋の外にでた。

ワルドとケヴィンは居残って、ウェールズに一礼した。

「まだ、何か御用がおありかな? 子爵殿」

ケヴィンは無視されているわけではないが、爵位を継承していない以上、この場での優先順位はワルドにある。

「恐れながら、殿下にお願いしたい議がございます」

「なんなりとうかがおう」

ワルドはウェールズに、自分の願いを語って、それを聞いたウェールズは、驚きながらも快諾した。
ワルドは部屋の外にでて、ケヴィンはまだ残って、ウェールズに一礼した。

「まだ、何か御用がおありかな? フランドル殿」

「恐れながら、殿下にお願いしたい議が2つばかりございます」

「なんなりとうかがおう」

「僭越ながら、1つ目の願いは、始祖の指輪と秘宝をトリステイン王国へお預け願えないですか? 運ぶのは私目でも、大使であるラ・ヴァリエール嬢でも、殿下の御心のままに」

「先ほどの姫からの手紙には、そのようなことは書いていなかったが?」

「私目の家は古く、各種の書物が残っております。その中に始祖の指輪や秘宝についてのっておりました。そして、始祖の指輪と秘宝は、王家の血筋に現れる虚無の担い手に残しておくものであり、決して貴族派に渡してはなりませぬ。アルビオン王国の王家あるいは虚無の担い手を継げる者へ渡せるまで、トリステイン王国へ預けていただけないでしょうか」

「……虚無の担い手? 古い家系ならば、そのようなことが残っていても不思議ではない。船での水のルビーと、風のルビーを近づけると虹をつくるのを知っていたならば、そうであろう。風のルビーは、望みの通りにトリステイン王国へ預けよう。しかし、始祖の秘宝というと、僕も今ある場所は知らない。父王に尋ねてみよう」

ウェールズより、風のルビーを預かったケヴィンは、

「まずは、風のルビーにつきましてありがとうございます。始祖の秘宝につきましては、殿下が直接お尋ねするのではなく、間にどなたかを通して、殿下に情報が入らないようにしていただけないでしょうか?」

ウェールズは、なぜ自身へ始祖の秘宝について聞かないよう、告げられぬかわからず、

「なぜ、僕が始祖の秘宝のありかについて、知らないようにしようとしているのだ?」

「ラグドリアン湖から、水の精霊が護っていた『アンドバリの指輪』が盗まれたようなのです」

ウェールズは、話の展開が読めずに黙って聞いている。

「その『アンドバリの指輪』は貴族派にわたっているようです。指輪の能力は、偽りの命を死体に与えることです。殿下は、王家として、名誉ある死をお望みでしょうが、偽りの命を与えられた時に、始祖の秘宝の場所の情報を知っていた場合には、早々と貴族派に始祖の秘宝をさぐりあてられてしまうでしょう。それをさけたいのです」

いっきに言ったので、ウェールズの反応をケヴィンは待つ。

「うむ。理由はわかった。そのように手配しよう。さて、議は2つあると申していたが、もう1つとは?」

「姫殿下の望み通りのトリステイン王国への亡命もしくは……」

「アンリエッタの望みとは知らぬが、もしくとは?」

「怒らないで聞いていただきたいのですが……爆死です」

「……爆死? なぜ、そのような不名誉な方法で、僕は死ななければならないのだ」

さすがのウェールズも先頭にたって死ぬつもりだったので、爆死など本来なら論外であった。

「先ほど言いました、偽りの命の問題です。これを使われた場合に、殿下がどこまで能動的に貴族派へ話すかはわかりませんが、始祖の秘宝のありかはともかく、風のルビーのありかが漏れてしまいます。これは、トリステイン王国へ早々と攻め入る口実となりえます」

予想外の情報に、ウェールズも唖然としている。

「貴族派が聖地奪還の理想を掲げているのに、聖戦を望んでいないのは、ある一定の範囲で、戦争を止めるつもりでいるのでしょう」

貴族派が聖戦を望んでいる、いないの情報はワルドに渡していない。
ただ、ワルドには聖戦が聖地へ行く一番の早道だと、船で話したのである。
幸いにして、ワルドには、護衛にあたってかなりの裁量権がわたされていた。
聖戦を行うためには、ロマリアから布告される必要がある。
ワルドにしても、ロマリアを動かさなければならないこの方法は、視野に入っていなかったのであろうから、聞いては来なかった。
貴族派であるレコン・キスタを裏で動かしているのが、ジョセフ王であるならば、ハルケギニアの滅亡を望んでいるであろうから、多分その方法を取らないともみていた。

「その範囲とは、多分我が国トリステインまで、広げてもゲルマニアまででしょう。遅かれ、早かれ、トリステイン王国と貴族派の争いはとめられません。トリステイン王国へ亡命して、再度アルビオンの復興をはかられることをお勧めいたします。明日までに熟慮されることをお願い致します」

「僕に名誉ある死の道は残されていないのかね?」

「私目には思いつきかねております」

「……そうか、明朝までに決めよう」

ケヴィンは、このような王家にとって非常識な話をきいてもらったことに対して一礼をし、部屋をでた。



パーティに出席する前に、今晩泊まる部屋へ案内される。
数は少ないがすでに預けてある荷物を確認しようとすると、扉からノックの音がする。

「どなたですか?」

「わたしよ」

ルイズの声だ。
ルイズから、何らかの形でも、こちらの部屋にくるのは、初めてだ。
扉に向かって行き開くと、ルイズがさっそくとばかりに、

「貴方、わたしが皇太子を説得しようとすることを知っていたわね! そのあと、皇太子と何を話していたのか、きっちりと説明しなさいよ!」

「せっかく呼ばれている、ここでの最後の晩餐だ。そのあとで、話せる限り話すよ。いつもの通り、泊まっている貴女の部屋でね」

ルイズは、感情が高ぶっていて、男性の部屋へ自分から訪れていたことに、はっと気が付いた。
それとなく、ケヴィンとの精神的な距離感が近づいているのだが、ルイズは気が付いていない。

「パーティに遅れるよ。一緒にいこう」

「……わかったわ」



パーティは、明日で滅びるとわかっている中で、残っている貴族たちは園遊会のように着飾り、最後のこの日のためにとってあった、様々なごちそうが並んでいた。
アルビオン王国の王であるジェームズ一世の言葉がこの大陸から離れてもよいとの声が響いたのに対して、残っている貴族たちからは、『全軍前へ!』との言葉から、明るくパーティがじゃ開催された。
ここの貴族にとって、こんなときにトリステインからきた客が珍しく、かわるがわるルイズたちの元へきて、明るく料理や酒を勧め、冗談を言っては、去っていく。
ルイズは、このような場所の雰囲気に耐えきれずに、顔を振ってホールの外へ向かって行く。
ケヴィンもそれにあわせて、ルイズの後を追う。

ちょうど、ホールの外で、ロウソクの燭台を受け取っていたルイズにケヴィンは追いついた。

「ルイズ。約束通りに、話せることは話そう。それでいいよね?」

ルイズは悲しげな雰囲気のまま、だまってうなずいた。
そして、ルイズの泊まる部屋へ入ると、ケヴィンはルイズにむかって話を始めた。



翌朝、アルビオンから離れる、風竜と黄竜の姿があった。
そこに乗っていたのは……


*****
『ワルドには、護衛にあたってかなりの裁量権がわたされていた』というのは、3巻でルイズたちが王宮に行った時、アンリエッタからワルドが見えないことに対して「別行動をとっているのかしら?」というところからの解釈です。

2012.05.09:初出



[32231] 第13話 脱出事情
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/12 20:06
貴族派からの攻撃を受ける予定のニューカッスル城を離れて、風竜と黄竜の姿があった。
黄竜の上には、ケヴィンとルイズの2人きりである。


時はさかのぼり、前日のパーティをぬけ出したあとでの、ルイズが宿泊する部屋での話しがあったのは、

「ルイズ。今日までのことや、この先も含めて、まとめて話せることはあらためて話そう」

「えっ? これからのことも?」

「そう。そうでなければ、途中で必要以上の疑問がわくだろし、それはルイズにとっても見過ごせない事態がおこるかもしれないからね」

「見過ごせない事?」

「ああ。たとえば、アンリエッタ姫殿下がウェールズ皇太子についていく決心をしてしまうとかね」

「ある意味よいことじゃないの?」

「その時にウェールズ皇太子が、貴族派に組していたとしても?」

「そんなことあるわけないじゃないの!」

「普通ならね。ただ、ウェールズ皇太子が操られることになっているんだよ。本ではね」

「……本といえば、今日、ウェールズ皇太子を説得しようとしたところ、わたしを目で制していたわよね?」

空気が読めないルイズとしては上出来な対応だっただろう。

「ああ。ルイズの直接的な説得では、ウェールズ皇太子は亡命しないだろう」

「……そうなの。それで貴方は部屋に残っていたようだけど、どうしたの?」

「亡命を勧めた。ただし、王家の名誉ある死では、彼が護りたかったアンリエッタ姫殿下を護ることはできないと言ってね」

「どういうこと?」

「爆死をすすめたのさ」

「……ななななんていう方法を進めているのよ。よく首がつながっていたわね」

「そうだね。ただ、これは、ラグドリアン湖で水の精霊が護っていた『アンドバリの指輪』
が関係するんだ。その指輪は、偽りの命を与える。そうすると、知識はそのままで、指輪を使った者の命令をきいてしまうようなんだ。しかも、主君が戦死した場合に、顔を焼くとか、傷をつける程度では『アンドバリーの指輪』は簡単に偽りの命を与えた上に、その傷も治してしまうのではないかと思われるんだ。だから、人体が残ったままで死んでもらっては困るとね」

「そそそそんな」

「とはいっても、ウェールズ皇太子には、風の指輪を預かったから、その行方がトリステインであることを話してもらってはこまるというだけというのと、貴族派が聖地を目的にしているのが、本気であろうが、なかろうが、わが小国であるトリステインは少なくとも狙われるだろうという話もした。しかし、それでさえウェールズ皇太子がどちらを選ぶかわからないけれどね」

「……」

ルイズの直接的な説得とは異なり、ケヴィンの王家の名誉ある死さえも否定してしまうような話は、貴族一般の中でも認めがたい。
ただ、そうしても、ウェールズ皇太子が動くかどうかはわからないという。
ルイズは、今から亡命を再度してみようかとも思っていたが、説得に行く気は失せた。

ケヴィンとしては、ウェールズ皇太子の話はここまでとして、次の話をしたいことがある。
そうワルドのことだ。

「ルイズ。ウェールズ皇太子のことはおいといて、ワルド子爵のことで話したいことがある」

ルイズが急にそわそわしだす。
婚約の破棄について、親に手紙を送っていなかったことをせめられるのかと思ったのだが、ケヴィンからでてきた言葉は意外だった。

「ワルド子爵からは、ヴァリエール公爵家より婚約の解消の意志の伝達があった場合、無条件で受け入れるとの確約書を預かっている」

「えっ!? なぜ?」

聖地との情報交換としての条件だったのだが、それを素直に伝えるわけにもいかず、

「ワルド子爵は、これから貴族派に間諜として、身を投じる。そのために一時的でも、ワルド家の城の紋章に不名誉印がつくかもしれないとわかっていてもだ」

「ワルドって、そんなことをしようとしているの?」

「ああ。ただし、まだ周りには秘密だ。たとえアンリエッタ姫殿下にたいしてもだ。姫殿下は今のところ、ゲルマニアに嫁ぐことになっているから、唯一言えるのはマザリーニ枢機卿に対してだろう」

「今のところ? それって、本に書いてあることなの?」

ケヴィンが正直に言うかどうかをしばらく考えた後に答えた。

「いいや。ここまで、ルイズがこの情報を知ったうえで動かなければ、本の内容は変わらないかもしれない。けれど、貴女は知ってしまった。だから、これからの状況は変わってくるかもしれない。話は戻るが、ワルド家は名誉を回復したとしても、この噂はいつまでもワルド家の名誉に響くだろう」

「それって、私から婚約の解消を申し出るの?」

「そうだね。ワルド子爵家も元をただせば、ヴァリエール公爵家とは遠いながらも血縁関係にあったよね。だが、彼自身が、公爵家へ婿入りする意志があるのなら、ルイズとより、長女であるエレオノール様との結婚が早道だろう。彼にそこまでの意志はなかったようだ」

「そうなの……」

ルイズは親へ、どのように手紙をかくのか悩んでいる。
ケヴィンは、ここまでの経過からルイズが親に婚約の破棄についてもちだすのを言い出すのを、出しづらいということに気がついてはいた。
しかし、戦争がおこるであろうから、その時に、正式にその話を持ち出せればそれでよいとも思っていた。

「それで、今までのことって?」

「大きな流れはかわっていないよ。細かいところは違うけどね。たとえば、ルイズの使い魔が平民だったから、寮では同じ部屋に泊めて、使用人代わりにしていたけど、俺の場合は、さすがにそういうわけにはいかないだろう?」

「……」

「フーケのゴーレムと戦ったり、姫殿下のお願いの元ここまできたり、その最中で傭兵と戦ったりするのは大きな違いはない。けれど……」

「けれど?」

「これからは少し、違った道を行くことになるかもしれない」

「どういうこと?」

「アルビオンの貴族派だよ。こみいっているので、あまり話せないのだけど、皇太子が亡命するのと、しないのとでは、大きな流れも少し変わるかもしれない」

「なんで?」

「悪いが、ここはまだ言えない。ただ、あとは親の力をあてにしないといけないかもな」

「親の力? フランドル家のこと?」

「ああ。フランドル家には空海軍が常駐している。逆にいえば、空海軍にはある程度、顔がきくんだ。今回、本の中では、初戦でアルビオン空軍がトリステイン空海軍を圧倒することになっているが、親から情報を流してもらえば、互角にもちこめるかもしれない」

「戦争がせまるのはわかるけど、くるとわかっていれば、トリステインだって、そんな最初から負けないでしょう?」

「戦争は多分おこるだろう。どのような形であっても。それを警告しておくことは悪くはない。そして、その前に、ルイズの虚無の力を目覚めさせるのに、少なくとも始祖の指輪と始祖の秘宝が必要なことだよ」

「それ以上、教えてくれないの?」

「今はね」



翌朝、ケヴィンは始祖の秘宝である始祖のオルゴールの場所についての場所を手紙とともに知らされたが、アルビオンの最北部付近にあるために、すぐに入手する算段は思いつかなかった。
折角の情報だが、ジョゼフ国王のエクスプロージョンを防げるかどうかは、戦端を早めにひらけるかどうかにかかりそうだ、とケヴィンは判断した。



そして今は、カイザーの上ではルイズとケヴィンの二人だが、となりといっても少しはなれているシルフィードには、タバサ、キュルケ、ギーシュに、ギーシュの使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンデと、ウェールズ皇太子がのっている。
カイザーが3人や荷物を乗せての飛行能力の限界ラインが現在のところ不明だとの理由で、いったんはラ・ロシュールへ向かっていたが、途中でキュルケたちにあったので、ウェールズ皇太子には、カイザーよりも航行速度が速いシルフィードに移ってもらった。

ニューカッスルから離れる前にウェールズは、自身が見えないことによる士気の心配をしていたが、そこは、ケヴィンが身代わりとなる魔法人形のスキルニルを使って、ウェールズ皇太子にそっくりな身代わりをたてた。
このウェールズ皇太子に化けたスキルニルが爆死する予定になっている。
そしてそれは、功をそうした。
真っ先に精神力を使い果たした、ウェールズに化けたスキルニルは、前線ではなく、城の中で爆死した。
それは、敵を巻き込んでの死であり、王党派の最後の抵抗を味方に印象づけるものであった。
そして、ここでの戦いは、20倍近くの敵を死なせたのであったが、元々の規模が異なるために、影響は軽微であった。
ただし、そのことから、王家との最後の戦いには、傭兵たちに印象づけるものであっただろう。



シルフィードとカイザーは当初のラ・ロシュールから、トリステイン王国の王都トリスタニアに向かっている。
一刻も早く、アルビオンから遠ざかるためであるが、その間にウェールズがキュルケの対応に困ったとか、困らなかったとか。



トリステインの王宮へ、上空から近寄ったところで、マンティコアにのった魔法衛士隊が大声で、ここが現在飛行禁止であることをつげたが、気にするメンバーではない。
そのまま、王宮の中庭に着陸した。
着陸したシルフィードとカイザーはから、それぞれのメンバーは降りたが、そこにマンティコアにまたがった隊員たちが、レイピアのような杖を向けて、

「杖を捨てろ!」

侵入したメンバーの一部にはむっとした表情を浮かべたが、ウェールズ皇太子が、

「ここは王宮だよ」

そういうと、全員が、杖を地面にすてた。
ケヴィンは、剣であるデルフリンガーを背負っているが、杖とはみなされなかったのであろう。
特に何も言われなかった。

「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ。ふれを知らんのか?」

ルイズが、そこで言い放つ。

「わたしは、ラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しいものじゃありません。姫殿下に取り次ぎ願いたいわ」

隊長であるド・ゼッサールが口ひげをひねって少女を見つめている。
ラ・ヴァリエール公爵夫人となった、元上司でもあう烈風カリンに目元が似ている。
ただ、それだけでは、姫殿下に取り次ぐわけにはいかない。

「して、要件をうかがおうか」

「それは言えません。密命なのです」

「では殿下に取り次ぐわけにはいかぬ。要件も尋ねずに取り次いだ日にはこちらの首が飛ぶからな」

こまったように隊長が言う。

「密命だもの。言えないのはしかたがないでしょう」

ルイズもこまったように言っているが、ケヴィンがここで助け舟をだした。

「魔法衛士隊ならば、ここにいらっしゃる方の顔を見覚えはあるのではないか? アルビオン王国のウェールズ皇太子だ。アンリエッタ姫殿下に亡命をすすめられてきた客人だ。必要以上待たせるのは、国の恥と思いますが」

そう言われて困ったのは、ド・ゼッサールである。
ウェールズ皇太子の亡命の話は聞いていないし、もし聞くとしても、マザリーニ枢機卿からであろう。
返答にこまったところで、宮殿の入り口から、鮮やかな紫のマントとローブを羽織った人物が、ひょっこりと顔を出した。
魔法衛士隊に囲まれた人物たちを見て、あわててかけよってくる。

「ウェールズさま!!」

ウェールズがかけよってくるアンリエッタを黙ってだき寄せた。
それ以上はまわりも、動きは無い。



ただ、ここでケヴィンが、

「思った通りに事態は動いてくれるのかな」

と小さくぼやいたが、周りにはきこえていたか、そうではないか、はなはだ不明である。


*****
『ワルド子爵家』と『ヴァリエール公爵家』が(遠いながらも)血縁関係にあるというのはオリ設定です。
『スキルニル』は血を吸った人物に化けることができる古代の魔法具の一種です。

2012.06.06:初出



[32231] 第14話 腹の探り合い?
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:13
ウェールズとアンリエッタがだきあっている中、魔法衛士隊隊長であるド・ゼッサールが、声をかけづらそうにしながらも、

「姫殿下!」

アンリエッタとウェールズは宮中だということを思い出し、互いに離れた。
その様子をみた隊長が引き続き話す。

「亡命とのお話は、マザリーニ枢機卿より、お知らせいただいていないのですが」

「そのことは、わたくしより、枢機卿にお話しいたします」

アンリエッタはまわりを見回し質問をする。

「……ところでワルド子爵は?」

ルイズが答える。

「今、この場でお話しは、できません」

「……そうですか。とにかく、わたしの部屋でお話ししましょう。他のかたがたは別室を用意いたします。そこでお休みになってください」



キュルケ、タバサ、そしてギーシュは謁見待合室に誘導されて、ウェールズ、ルイズにケヴィンはアンリエッタの居室に招かれた。
部屋へ入ったところで、先ほどのウェールズとの抱擁をごまかすかのように、尋ねる。

「ワルド子爵ですが、まさか……敵の手にかかって?」

ルイズが答えづらそうにしているが、事情を知っているウェールズからも切り出すわけにもいかず、ケヴィンが話す。

「ワルド子爵は、アルビオンの貴族派と内通していて、手紙をうばって、貴族派に向かいました」

「あの子爵が裏切りものだったなんて……。まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて……」

現状では、そうではないんだが、近々ゲルマニアに嫁ぐことになる予定のアンリエッタに、ルイズもウェールズも否定することはできない。
しかし、ルイズはアンリエッタを安心させるように、

「姫さま! 手紙は無事です。ワルドが持って行ったのは、こちらにもってくるということにしておいた返答の手紙です」

「えっ? どういうこと?」

「ケヴィン。詳しく説明できる?」

ルイズだと、正直すぎて、話の途中で顔に反対のことがでてしまうことがあるかもしれないので、あらかじめ黄竜の上で話してあったことだ。

「ええ。ワルド子爵は、読み古した感じで使った作った手紙を持っていきました。これは、アルビオンの貴族派がどこまで入り込んでいるか不明なためです。姫殿下よりの手紙は、ルイズが別なところにもっております」

そう言われて、ルイズは苦く思っていることをなんとか隠して、アンリエッタから最初にお願いがあった、手紙を渡した。
続けてケヴィンが、

「アルビオンの貴族版の件は、事実、俺の実家にもそれとはなしに、アルビオンからの誘いがあったと父から聞いておりましたので、魔法衛士隊のワルド子爵であっても、例え元帥格であっても我が家より、宮廷での席次も低いので誘いがあったのではと、疑問をもっておりました。我が家にも、アルビオンからの誘いがあったのはすでに、宮廷には報告しております」

「そうすると?」

「まことに申しにくいのですが、残念ながら、我がトリステイン王国の貴族に信用おける者が報告していない者の中に何人いるのかは疑問です」

「……なんてこと」

「それは、マザリーニ枢機卿にまかせるとして、一時的に預かっております風のルビーは、ウェールズ皇太子にお返しすべきでしょうか?」

「かよわいわたくしには、それさえも事前に発言することができませんが、枢機卿にはウェールズ皇太子に返却されるよう話をしてみましょう」

そして、ルイズからは、魔法学院出発から、宮廷にくるまでの道中のことを、簡単に話をした。
ルイズが話を終えたあとにケヴィンが、

「姫殿下。お願いの議がございます」

「なんでしょうか?」

「王族の結婚式では、貴族より選ばれし巫女が必要と聞き及んでいます」

ただ、この場でケヴィンが雰囲気も読まない発言をする。
アンリエッタが思いたくもない現実をつきつけて、さらに話を進める。

「ルイズをその巫女に選んであげていただけないでしょうか」

「……ええ、考えておきますわ」

「ありがとうございます」

ルイズには、始祖の祈祷書を入手しやすくするための話をすると、ケヴィンは言っていたが、宮廷行事にくわしいわけではない、ルイズが巫女になることと、始祖の祈祷書が手元にくることの関連性に気がつくのはまだ先の話である。


そしてアンリエッタとウェールズを残して、ルイズとケヴィンは退室し、魔法衛士隊の隊員にしたがって、キュルケたちがいる謁見待合室にむかった。

王宮から、魔法学院に向かう空の下、キュルケはどんな任務だったのか聞き出そうとし、ギーシュはアンリエッタが自分のことを気にかけてくれたことを聞き出そうとしていたが、いずれも、ケヴィンから「お忍び」と「一言も無し」と言うだけだった。

魔法学院に戻った一行は、すでに授業時間を終了していたので、各自の部屋でのんびりすることにした。

しかし、ケヴィンには行うことがあった。
まずはオスマン氏に会うことである。
学院長室に入ったケヴィンへかけられたオスマン氏からの言葉は、

「なんじゃ、お前かの」

「ミス・ロングビルではなくて、悪かったですね」

「そうじゃのー。彼女が戻ってくるのはいつくらいになりそうかの?」

「いったん、私の自領の孤児院についていくでしょうから、あと1週間ぐらい後かと」

そう、ロングビルことマチルダは、すでにアルビオンに向かって、アルビオンのモード大公の妾の子であり、なおかつハーフエルフであるティファニアを迎えにでかけていたのである。
時期的には、このあとでは、アルビオン貴族派の目を盗んで、行き来するのは難しいからであるが、ケヴィンのフランドル家につかえている、衛士にも特徴があった。
平民の身分にあるのではあるが、必ずメイジである者をやとっていたのである。
しかも裏事情に詳しい者をやとっている。
これはトリステインで、次男や三男が泥棒などにはしる場合もあるが、その場合は、裏の者と手をつなげなければ、単独行為でつかまりやすくなってしまう。
そうではなく、裏の者と手をつないで生き延びるすべを覚える程度には頭がきれるものを雇うのである。
ある意味フランドル家が裏の物とつながっているゆえに、その手の者がフランドル家領地内で犯罪行為をおかさなければ、フランドル家は他領でのことを見て見ぬふりをする傾向にあった。
このこともケヴィンのこの世界での新たな人生の性格形成に影響を与えたといえよう。

ゆえに、自領の地上軍で平民を比較的高い地位とするが、その場合はすべてメイジである。
これが、トリステインでの限界ラインと暗黙の了解事項であり、他領地では貴族であることにプライドをかけていることから、行う、行われないの差でもある。
これは、昔からアルビオンとの境の領地で伯爵家でありつつ、ここ数百年ではゲルマニアからの進行を食い止めつつも、侯爵の地位にあがらぬ理由でもあるのだが、北東の地にあるフランドル家領が古くもあり、宮廷での席次も比較的高いこともあり、他家から表だって批判をあびぬが、王宮の内部から見ると伯爵でとどまらせているのである。


「特に信頼のおける我が家の2名をつけましたので、ミス・ロングビルは無事にアルビオンまではもどってきますでしょう。ただ、ここまでもどってくるかどうかはしりませんけどね」

「なぬー」

「まあ、給与そのものは、魔法学院の方が高いはずですから、彼女の性格から、一回は魔法学院にもどってくるとおもいますけどね」

ケヴィン自身、マチルダの性格をすべて把握しきっていないが、お金をかせぐためにウェストウッドの村を離れるという選択をした彼女なら、そうして、ここでの秘書をやめるのならその手続きをきちんとするであろうと思っていた。

「…ほんとかのー、そうだとしたら、わし、さびしいのじゃが」

「そこまではわかりません」

「もし、やめるのであれば、次の秘書をやとわなければのー」

ケヴィンが知っている限り、新しい秘書はやとわれていないので、マチルダがどう判断するかは興味があるところであった。
このあたり、本からのかい離が始まった現在、それがどのように影響していくかを考慮していく必要がある。
オスマン氏は比較的出番が少なかったので、話をかなりしても問題は少ないであろうとケヴィンは考えていたが、本当にすべてを伝えるべきかは、悩みどころである。

「それで、今回の経過は別途だすとしまして、今回まで起こるはずだったところは、自室で、書いてありますので、お渡しいたしますね」

その書いてあった内容を渡すとともに、主に異なった点を説明する。
ケヴィン自身、行ったことに対してのすべてで自信があったわけではない。
本で書いてある内容は、実際に終わったことをルイズの部屋ではなく、自室に書き溜めてあるので、それをオスマン氏に渡すだけであるが、自身がおこなった変更で気が付いていなかった部分について、無意識的に評価をほしがっていたのである。

「しかし、大きいのは、ウェールズ皇太子の生存の可否じゃの」

「いえ、今わかっている範囲では、それよりもアンリエッタ姫殿下が、今後どのように動くのかが大きく変わる心配がございます」

アルビオン進行はアンリエッタが女王になって、その私心によっておこなったものであるようにみえるのに対して、今回は、ウェールズ皇太子をアルビオンへの正当な王家の跡継ぎとして動くというところが大きな違いであろう。
ただ、その場合、そのあとでのアンリエッタ自身の行動の根拠が変わってくる。
これはアルビオン戦後の、対ガリア戦での行動で大きな変化をともなうはずである。
単純な点をみれば、その通りであるのだが、ケヴィンにとって不幸なのはバタフライ効果ということを知らない事であろうが、それはまだ後の話である。

「ところで、もう一点あるのですが」

「うむ。ミスタ・コルベーヌのことであろう」

「その通りです」

「ならば、これからおこるであろう探検にミスタ・コルベールをつれていけばよかろう」

「はい?」

ケヴィンにとって、おもいがけない発想である。
なにせ、キュルケにこれ以上はかかわらずに、キュルケへコルベールの強さを認識させて、ほれさせようと思うところで悩んでいたのであるのだから。

「そうすれば、我が校は安心して、休学に入れるであろう?」

たしかにその通りである。
だいたい、銃士隊が発足されるかどうかは、いまだ未定である。
ならば、オスマン氏の発想もわからぬでもない。

「でも、どうやって?」

「最後に確実な『飛行機』というものに興味をもつであろう。その間に、ガンダールブの真の力を試す機会も必要なのではないかね?」

ケヴィンがかくしていた、ガンダールヴの力の一旦にオスマン氏は気が付いていたようである。
過去の経験を切り離して、新たな視野を持って考えたのであろう。
ケヴィンも部分的に気が付いて言葉を紡ぐ。

「それは、よいのですが。それだと、ルイズがへそをまげませんか?」

「ミス・ツェルプストーのことじゃな。そこは私にまかせておきなさい」

「わかりました」

ケヴィンもすべてを自身の力で解決できるとは、思っていない。
それに気が付くには少し時間がたち過ぎたのではあるが、このアルビオンでの行動である。
親の力をあてにしなければ、自身の考えのみでは全体をうごかせないのだ。
これは、単なる傍観者として入ったつもりであるケヴィンとして、気が付く点において遅いのか、早いのか、それとも適正なのかは後世の真実を伝えられたものにとっては興味深い議論の対象となるであろうが、後世にどこまで正確な情報が残るかは謎である。


そして、ケヴィンに興味をもちだしたキュルケが、親密になるためと宝探しを提案したところで、事態は、ほんのわずかながら、ななめ上に動き出す。


*****

2012.06.22:初出



[32231] 第15話 意図された宝探し
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/06 16:15
ケヴィンやルイズたちが、魔法学院に帰還してから3日後に、アンリエッタ王女と帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世との婚姻が正式に発表され、式は1ケ月後に行われる運びとなった。
同時にトリステイン王国と帝政ゲルマニアの軍事同盟締結も本格的に動きだし、両国軍事同盟締結の翌日に、アルビオンの新政府樹立の公布が行われるとともに、アルビオン帝国初代皇帝クロムウェルからの不可侵条約を打診から、両国軍事同盟は表向きの議論の末、受け入れることにした。
両国合わせての空軍力をあわせても、アルビオン艦隊に対抗しきれないのはわかりきっていることではあるが、形式上の手続きというものがある。


アルビオンでは、ウェールズ皇太子が自爆行為にいたったことで、王族がそのような不名誉な死を選択するかとの評議があった。
ワルド子爵から、トリステイン王国でもアルビオンのクロムウェルが死人を生き返らせることを知っている者がいたということで、その者が大使に付随してきていたことを知らせている。
もちろんケヴィンのことであり、ケヴィン自身はまだ魔法学院の生徒の身であることから、その裏には、フランドル家もからんでいるのではないかとの憶測もたてられた。
フランドル家に対しては、レコン・キスタへの参加をやんわりと伝えていたアルビオンにとって、明らかな敵対行為である。
ただし、フランドル家の立地がトリステインとゲルマニアの境界にあるというのが、アルビオンの方針にとって難点であった。
まずは、トリステイン王国を落としたいのであり、その間は、帝政ゲルマニアには干渉されたくないのである。
よって、アルビオンとしては、トリステインを落としたところで、フランドル家の対処を行うというところで方向はきまった。



そんな事とは思っていなかったケヴィンにとって、目先の部分で解決しなければならない問題がある。
ケヴィンに興味をもちだしたキュルケが、親密になるためにと宝探しを提案してきたのであった。
ケヴィンの実家は、軍に属する家系で、グラモン家と並ぶぐらいの名門ではあるが、ゲルマニアとの国境沿いにあるため紛争が日常茶飯事となっており、必要以上に見栄を張る必要もなかった。
以前、ケヴィンがキュルケに言った、「見栄を張る」と言うのについては半分のところでまかせだ。
とはいっても、上流貴族として裕福とまではいかないところが、微妙なところであったが。



最初の3箇所は、キュルケのもってきた地図を優先した。
そして、キュルケの持ってきた中の宝の地図で最後の『ブリーシンガメル』が不発に終わって、今度は、ケヴィンがもってきた2種類の地図の最初である。
ここでワイバーンの群れと対峙する場所と予想されている。



宝探しの探検参加者はキュルケ、タバサ、ギーシュ、シエスタ、ケヴィンに、それを監督するという名目でミスタ・コルベールもオスマン氏よりつかされている。
コルベールとしては、『竜の羽衣』という名の『ひこうき』を一刻もはやくみたかったのである。
ただ、そのための条件として、この宝探しの一行の監督をするということで不承不承ながら、ついてきている。


シエスタがいるのも、オスマン氏のはからいではある。
ケヴィンとしては一般兵士と同じ食事をすることになれてはいたが、保存食料だけというのはさすがにごめんであるので、これは多いに賛同した。

ルイズは、ケヴィンがキュルケと一緒にいるのは気に食わないが、キュルケが最終的に惚れるのはコルベールだと知らされたことにより毒気を抜かれて、ケヴィンが宝探しにでかけるのに承諾してしまった。
ルイズについて、あとはオスマン氏が対処している。



キュルケからしてみれば、ケヴィンはルイズの恋人とはいえなくとも、婚約者らしき人物であり、ラ・ヴァリエールからその恋人もしくは婚約者を奪うのはフォン・ツェルプストーの伝統であるし、暇つぶしとしてちょっかいをかけるのには十分な理由であった。
そこでキュルケから見て考えてみると、ケヴィンが自分に対してそれほどには、興味をもっていないのがしゃくにさわり、自分で落とせそうな金銭がらみの宝探しの話をしたのである。



ケヴィンとしては、キュルケにこれ以上はかかわらずに、コルベールの強さを認識させて、キュルケへほれさせようと思うところで悩んでいたので、

「ミスタ・コルベールは最後に確実な『飛行機』というものに興味をもつであろう。その間に、ガンダールブの真の力を試す機会も必要なのではないかね?」

っという、オスマン氏の提案はキュルケの件は除いた部分ではあるが、魅力的でそのままのった。


ケヴィンのもってきた地図の残り1箇所は、言わずと知れたタルブ村。
その前の地図であり、このワイバーンがいた箇所の近く『破壊の杖』以外で、まだ何かが残っているかもしれないということから選んだ場所でもある。

ただ、時期的にワイバーンの育児期であり、気が立っているワイバーンが多い。
これをどうするかというと、ギーシュの使い魔でジャイアントモールであるヴェルダンデを使って、近く付近を探索するという多少、消極的なものであった。
ギーシュは普通ならこの作戦にのることはなかったであろう。
しかし、ここにくる前での秘宝である『ブリーシンガメル』を探した時に、オーク鬼を落とし穴に落とすという作戦を失敗させた。
それを、本来はケヴィンが対応するつもりであったが、コルベールが見かねて『爆炎』と呼ばれる、巨大な火球によって、あたりを燃やし尽くし範囲内の生物から酸素を奪い、窒息死させるという残虐無比の攻撃魔法をさせた。

これをみたギーシュは、さすがのお気楽さがあったにしても、初めて実戦の危険性に気づかされた。
一方、キュルケは今まで馬鹿にしていたコルベールの評価をいっぺんさせて、それほど興味が強くなかったケヴィンから、コルベールに興味をいだいて、つきまといはじめた。

コルベールとしては、キュルケは詠唱は早いが、実践経験が少ないのか、多少の隙がある女生徒としてあつかっていたが、『ジャン』と呼ばれてとまどっている。
ケヴィンもこんなに早くにキュルケがコルベールに興味を持ち出すとは本気では思っていなかったので、予想外だった。
ただし、少なくとも、条件はそろったはずである。
キュルケの興味が、いつ他人に移るかという懸念さえなければだが。



コルベールからみた、ケヴィンはブレイドの使い手としてはかなり上位に入るのであろうが、純粋に魔法の力に関しては、ラインではない。
ただし、精神力をためておける量は多いのか、魔法を発動できる回数はラインの上位並であるが、ガンダールヴとしての力量は不明である。

タバサには、風メイジとして実践的であり、同じトライアングルでも短期戦なら負けるかもとは感じていた。

ギーシュは、7つの青銅のゴーレムを扱えるのは、非常に珍しいが、独りよがりな面が目立ち、チームプレイに向いていない。
なので、今回の消極的な作戦を指示することにしたのである。


ケヴィンから、コルベールを見ると現場での指揮官としての能力はケヴィンをうわまわっていた。
これは、コルベールの小隊長としての実践経験の差と、ケヴィンが領地を護る戦略を重視する経験の差と言えよう。
ガンダールヴの力を試す機会はなかったが、実践としてはワルドの風の偏在相手に、奇襲をかけられた感触は残っているのと、普段の訓練から、サイトよりはうまく扱えるだろうとさほど心配はしていなかった。



そして、今回の目標地点となるのは、ケヴィンの使い魔であるカイザーの眼を共有して、発見したものである。
該当の場所までの地下の指示は、ケヴィンとタバサが目標地点を、それぞれの使い魔から得た情報により、地中を進んでいった。
そして目的地についたときにあるものは、戦車であったが、草や蔦、コケに覆われ錆がめだっている。
主砲の口径は7~8サントほどで、機銃もある。
しかし、ケヴィンが、

「これは、使い物にならなそうだな」

ケヴィンのガンダールブのルーンが反応しないことから、そう判断した。
見た目にも、巨大な鉄の塊であり、これが動くものとは、コルベールを除いて思ってもいない。
逆に、コルベールは落胆したが、ここまで錆ついていたり、草やコケが生えているならばしかたがなかろうと納得することにした。

「そうだね」

キュルケは、“好事家”のことを思い浮かべていたが、さすがにこれだけの錆と、竜をどれだけ集めたら運べそうなのかを考えて、ゲルマニア式の手口をつかっても、これを好事家に売ってもうけるのは無理そうだと考えて、それを口に出すことはしなかった。



各自の理由をもってこの戦車をあきらめることにして、その場をさるためにシルフィードとカイザーにわかれて移動し、いったん夕食をとることにする。

夕食は、シエスタが用意するヨシェナベである。
平民であるシエスタも、最初はまわりが貴族だらけでかしこまっていたが、ケヴィンもコルベールも平民だからといって、特にどうのこうのいうタイプでなかったり、キュルケは、ゲルマニア出身だけあって、特定方向でも才能のある平民には、好意的な対応をしたり、ギーシュにしても、モンモランシーのご機嫌取りの件がなければ、暇つぶしに口説き始めかねない勢いであった。
タバサは、いつもの通りに無口であり、そこだけがシエスタにとって不気味なところであるが、おおむね、平均的な魔法学院の教師や生徒たちよりは好感がもてた。
ただし、あくまで平民と貴族との差を意識はしていたが。



夕食中にキュルケが、ケヴィンに質問をする。

「最後にするのはどこのつもりなの? もう次で最後にするつもりなんでしょうから、教えなさいよ!」

「そうだね。特に秘密にしておく必要もなかったのだけど、知っていそうな人間がいたから、だまっていただけさ」

「何よ! それ!」

「いいじゃないか。最後の地図では『竜の羽衣』を選んでいる」

そこで、思わず「ぶほっ」と口の中にあったものを吐き出した者がいた。

「おいおい、大丈夫かい?」

「貴族様の前で、すみませんでした」

シエスタがまわりにあやまっているが、直接の被害を誰もこうむっていないし、他で汚れたりもしていたが、それは『錬金』ですぐに落とせるので、このメンバーでは気にするものもいなかった。

ただ、その様子を周りには気づかれないように興味深げに見ているコルベールと、対照的にニヤニヤしながら尋ねてくるケヴィンがいる。

「シエスタはタルブ村の出身なんだろう? だから竜の羽衣のことはある程度知っているだろうと思ってだまっていただけだから、気にするなよ」

「そう言われましても……あれは、インチキなんです」

「インチキと聞いてはいるが、実際に確かめてみる価値は十分にあると俺は思っている」

「あれをですか?」

貴族を相手に困惑気なのを隠しきれずにシエスタが答えると、ケヴィンは

「実際に見てみれば、ある程度はわかるさ。魔法は無いが、誰でも使える技術が進んでいると言われている東方の物かもしれないって、聞いている。それが実際につかえるかどうかは、以前から興味はあったんだ」

サイトがくれば使えるはずと思っていたので素直にそれを口にだす。
シエスタは東の地から来たと聞かされて育ったので、それ以上は、この貴族にたいして口をはさむことはなかった。



そして翌日、タルブ村について、竜の羽衣を飾っている寺院にさっそく出向いた。
そしてケヴィンは、着艦フックがあるのは見たが、記憶にゼロ戦の形や、ゼロの使い魔3巻にのっていた『辰』の字が無いことをみて唖然としていた。

そう、そこにあるのはレシプロ機だが、ゼロ戦ではなく、別な機種であった。


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2012.08.12:初出



[32231] 第16話 竜の羽衣と飛ばすには
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/22 19:30
そして翌日、タルブ村について、竜の羽衣を飾っている寺院にさっそく出向いた。
そしてケヴィンは、着艦フックがあるのは見たが、記憶にゼロ戦の形や、ゼロの使い魔3巻にのっていた『辰』の字が無いことをみて唖然としていた。

そう、そこにあるのはレシプロ機だが、ゼロ戦ではなく、別な機種であった。

タイガー戦車の口径がたしか俺たちの世界と、口径が違うことがあったなと思いだし、これがきた世界も少し違う世界なのだろうと思う他にはなかった。

使えるかどうかを確認してみると『ガンダールブ』のルーンが光るとともに、中の構造や、操縦法が伝わってくる。

「自動空戦フラップ?」

前世の記憶によれば、日本のレシプロ機で、第二次世界大戦中で自動空戦フラップをもっていたのは『紫電改』のみ。空母に搭載されていたかは記憶にないが、着艦フックがあることから、空母にも搭載できるモデルなのだろう。

ただし、『ガンダールブ』のルーンからは自動空戦フラップを使うよりも、使わない方がよさそうな感じがする。

だまってみていた皆であるが、

「そういえば、これに対して何か残されたことは無いかな?」

「こちらにもってきたものと遺言があるそうです」

シエスタから渡されたのは、古ぼけたゴーグルだった。

「遺言は、あの墓石の碑を読めるものがあらわれたら、その者に『竜の羽衣』を渡すようにだそうです」

「墓石は?」

「共同墓地にあります」

「そこまでつれていってくれないか?」

「はい」

1個だけ違うかたちの墓があり、そこにつれていかれたがケヴィンは

「海軍少佐佐々木武雄、異界ニ眠ルっか」

「はい?」

シエスタは誰も読めない墓石の文字を読んだケヴィンに驚いた。

「ああ。俺は、東方の文字を研究しているからね。その文字と同じなんだよ」

「そうですか。先ほどは申しませんでしたが、この墓石の銘を読めるものがあらわれたら、その者に『竜の羽衣』を渡すようにって」

「そうするとゆずってもらえるのかな?」

「ええ。村のお荷物ですから」

少し間をおいてからシエスタは、

「それと厚かましいのですが、遺言の続きがあるので聞いていただけますでしょうか?」

「いいよ」

「何としてでも『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい、だそうです。けど無理ですよね」

「……」

ケヴィンとしても答えようのない話であった。

「今のは、聞かなかったことにしてください」

ケヴィンは無言で首をたてに振った。



泊まるのはタルブ村の宿であったが、『竜の羽衣』を譲り受けるのに一行はシエスタの家へ簡単に挨拶をしてきた。

ケヴィンはここしばらく宝探しでおこなっていなかった自室で行う訓練をすることにした。練金で平らな地面にランダムな間隔で土の上に小石を作り、ゴムボールを落としてからランダムに跳ね返るそれを木剣でたたき落とす、これを繰り返す。自室と異なるのは、土に硬化の魔法もかけているところぐらいだろうか。
傍目には遊んでいるようにしかみえないが、動体視力に身体の反応速度の維持・向上を目指す訓練の一種であり、純粋にケヴィンの実力である。
この様子を目撃したコルベールは、それが剣速などから見て如何に大変な訓練であるか気づいたが、ガンダールヴの力だと勘違いをした。そして『竜の羽衣』を早く魔法学院に持ち帰り調べたい願望から目撃したことを忘却するのであった。



翌日は、前日の内にギーシュの父のコネで、竜騎士隊と風竜を借り受けて、魔法学院まで運んだ。運び賃はコルベールがまってましたとばかりに払い、

「ミスタ・フランドル。さあ、使い方を教えてくれないか?」

「まずは燃料となる油が必要なんです。その油ですが、この竜の羽衣と同じ種類か近い性質の物が必要なので、それを錬金することからはじめなければいけません」

「そうか、それじゃ、その油というのは?」

燃料タンクの底にのこっていた油を、コルベールに研究室へ持ち帰ってさっそく調合するようだ。



さて、ルイズの方はオスマン氏がなんとかしてくれると言っていたがどうしているかなと思って、ルイズの部屋まで行きノックをするが返事はしないが中に人の気配はある。ドアは鍵がかかっていなくて開けると、ルイズは一冊の白紙の本を見ながらうんうんと唸っていた。

「やあ、ルイズ、ただいま。何をそんなにうなっているんだい?」

「ケヴィン! いつのまに入ってきたの!」

「ノックをしたけど返事もなかったし、ドアに鍵もかかっていなかったぞ」

「まあ、いいわ。それよりも読めなくて」

「水のルビーを指にはめて、それで始祖の祈祷書の最初のページを集中して読むんだ。虚無の担い手なら、それで読めるらしい」

「もっと早くに言ってよ」

そういうと早速、水のルビーを指にはめて集中し始めたルイズがいる。水のルビーが光っているので、始祖の祈祷書が読めているのだろう。
そして、ぽつりとルイズは言った。

「ねえ、始祖ブリミル。あんたヌケてんじゃないの? 注意書きも読み手に伝わらないんじゃ意味がないじゃないの」

「最初の方は読めたんだな?」

「そうねぇ。最初のページだけだけど、呪文は?」

「呪文は必要な時になったら、選択されて読めるようになるらしい。最初は、アルビオンとの交戦の時だと思うから、それまで魔法は使わない方がいい」

「えっー。まだ魔法が使えないの」

「注意書きをもう一度読んでみるんだな。確か命を削ることもあるようなことが書いてあるはずだぞ」

ルイズがもう一度始祖の祈祷書を読み直すと

「確かにそうだけど、ちょっとだけでも使えないかしら」

「やめておくんだ。予言書では目覚めの最初の魔法はとても強力で、小型の太陽のようにみえるほどの大きさに広がって数十隻のアルビオン船を沈めたほどなんだから。どうしても、使いたいというのなら、その水のルビーは預かるぞ」

「わかったわよ。せっかく魔法を使えると思ったのに」

「虚無は最初につかえれば、コモンなら多少は使えるようになるみたいだ。だけど、精神力を使いすぎないようにするんだな」

「うー」

「ところで、詔(みことのり)は考えているかい?」

「そっちは、気乗りしないの」

「そうか。無いとは思うが、アンリエッタ姫殿下とウェールズ皇太子が結婚するとでも考えてつくってみたらどうだ?」

「今さら、無理でしょう……」

ケヴィンはゲルマニア皇帝との結婚がなくなったら、ウェールズ皇太子との結婚というのもありえるんだよなぁ。まあ、今はどうしようもしかたがなかろうと考えていた。



そして、通常の魔法学院での生活にもどりつつも、残りの予言書の部分の翻訳やら起こったこととの差異をオスマン氏に報告したりしていた。そのオスマン氏からは

「ミス・ロングビルはもどってこないのぉ」

「まあ、本人の都合でしょう」

ロングビルことマチルダは、トリステイン魔法学院で金銭を少々多めにもらうよりも、フランドル領の孤児院で、テファの面倒も見ながら働く方にしたらしい。

そして魔法学院で、3日間たったところで、コルベールが授業も休みながら作っていた燃料を完成させた。量にしてワイン瓶で2本分だ。これでできるのは、地上での動作確認程度しかないのだが、ケヴィンもそのことを説明するのを忘れていたので、コルベールに謝罪をしながらも、試運転をしてみることにした。

コルベールがプロペラをウィンドの魔法でまわして、それでエンジンをかけることができた。あとはガンダールブのルーンで確認していくが、内部にいる限りは問題なさそうだが、ルイズの入れる空間でも作るかと考えていた。

実際に飛ばすのは樽も1本もあれば簡単な飛行はできるだろうが、戦闘を考えると満タンにしたい。とりあえず樽は5本分をつくってみて、燃料タンクへのたまり具合をみながらどれくらいで満タンになるかをさぐるぐらいだ。

コルベールは「乗りかかった船だ」と、作る気満々である。まだ見ぬこの『竜の羽衣』である紫電改の飛ぶ姿をみたかったのだ。


*****
紫電改なのは単に個人的な趣味です。
「小石を作ってのゴムボールの訓練」の趣旨の部分は少年マガジン系の野球漫画『Dreams (ドリームス)』36巻の他人がボールを砂利(砂利というほどひきつめられていないので、小石をある程度ばらけさせている感じでしょうか)の上でバウンドさせて、どこに球がくるのかわからないところでノックをするというシーンを参考にしています。

2013.10.06:初出



[32231] 第17話 いきなり最終話
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/10/23 15:15
ルイズ、ジョゼット、ヴィットーリオ、ティファニアの4人の虚無の担い手たちと、ジュリオにケヴィン、さらにワルド子爵や元素の四兄弟などもいる。ここはエルフのルクシャナに案内されてきたものだ。
ルクシャナに使ったのは掘れ薬で、惚れさせた相手はジャネット。強い魔力を持つ女性が好きだという変わった趣味の持ち主でもある。そして、岩の中へ通す管を通って、水韻竜である海母がいる、岩礁の一つに集まったのである。

そこでケヴィンが教皇であるヴィットーリオに

「ここが聖地だとしておこなえばいいんだな?」

「その通り。じゃあ、虚無の担い手である皆よ。手元にある生命の魔法をとなえよ」

4人の虚無の担い手が魔法を詠唱しているあいだに、ケヴィンは

「それじゃ、ワルド子爵。失敗したら、デルフリンガーを引き抜いてくれ」

「ふん。それくらいならな」

興味深げにみていたのはジュリオだが、これからおこることを知っているからであろう。
4人の虚無の担い手が生命の魔法の詠唱を完了させたところで一斉に杖を振った。

そのタイミングで自分に魔法が集中したのを感じたケヴィンは、羊皮紙で包んだデルフリンガーの刃の部分を持ち、自分へ突き刺した。

そのような行動を予想もしていなかったのは、ルイズとティファニアである。

「ケヴィン、なんでー」

ルイズはそう叫んだが、ティファニアは気を失ってしまった。



ケヴィンは気がつくと、あったのは岩の中の空間にできた扉であった。
そちらを皆はみていたので、ケヴィンに気がつくものは無く、

「何が起きたのかな?」

「えっ、死んじゃったんじゃないの?」

「いや、最悪それを避けるためにティファニアの指輪があったはずだけど、ジュリオは俺を見捨てるつもりだったのか?」

「そんなことは無いが、剣をさして死んだはずの君がなぜ生きてる?」

「はるか以前に習わされた剣術を使ってみただけど。成功するかはわからなかったがね」

ケヴィンが行ったのは前世での天心寺家の分家として育った中で、天心流抜刀術に伝わっていた仮死させるという奥義である『秘伝不殺剣』だった。



そして、魔法などに感度が高いものならば感じているのは、眼の前を通じて魔法の源となる精霊の力が扉を通っていくところである。

何がおこったかというならば、今までは聖地にある扉、あるいはエルフからはシャイターンの門と呼ばれていたところからガンダールブが使う武器や精霊の力も流れてきたのであるが、今度は精霊の力がわずかながら逆戻りをしているのである。

過去の地球にもあった精霊の力が、ブリミルがハルケギニアにきたために、元いた地球の精霊の力も流れこんできたのだが、それでは強すぎるとその精霊の力の流れを止めようとして失敗して起きたのが、かつての火山島を海に沈めたり、草原だった地を砂漠にした大災扼である。



ヴィットーリオとジュリオは、デルフリンガーにはブリミルの生命か意志が入ったのは、始祖の円鏡によりみていたが、おこることは別だと思っていた。
まさしく新しい門がつくられると想像していたのだったが、実際には殺された時点でのブリミルが現れて、虚無の担い手に分けた力を一身にしたところで、かつて自身が行った大災厄とは間逆の方向をおこなったのであった。

後の調査によってわかるのだが、地下の風石は減少をおこすことがわかった。ただその速度は遅く、1万年をこえるかもしれないとのことであったが実際にはそうはならないだろう。
門より流れていく精霊の力は元の地球にいくのであろうが、それは、新しい文明・文化を育てていくのかは不明である。



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エピローグ
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フランドル家の一室にいるのはケヴィンとルイズとおもいきやティファニアであった。

「本当にわたしでよかったの?」

「とはいわれても、残ったルーンはテファに刻まれた『リーヴスラシル』であって、『ガンダールブ』は消えたからね。ルイズとの婚約している必要性はまるっきりなくなった」




思い返してみれば、アルビオンがトリステイン王国に攻めてくるも、ルイズの虚無のエクスプローションにより、アルビオンの艦隊で降下してきたものは全滅であった。

その直後にガリア王国の国王ジョゼフは死去したが、それはジョゼフが杖を持っていない時に、モリエール夫人が神経毒のついたナイフで刺さしたものだ。
裏で行われていたのは、フランドル家から裏の者を経由して、モリエール夫人をみている医師に対してギアスを行い、その医師がモリエール夫人へギアスをかけさせたのだが、知っているものはごくわずかである。正々堂々という単語はフランドル家には無きにひとしい。

その後は、コルベール氏に協力をあおいだ。フランドル家ではロケット砲までを開発していたのに対して、『空飛ぶヘビくん』になる予定だったものを対象として風石に反応するようにしたものをつくり、アルビオンへの侵攻で使用して成功した。バックにガリア王国が無くなったアルビオン帝国は白旗を上げるしかなくなった。
その直後にケヴィンは行方不明になった。

一部ではヴァリエール家の暗殺だのという噂もあったが、ルイズとしてはそんなことも親にはまともに相談していないし、不機嫌気まわりないものだが『サモン・サーヴァント』の魔法が発動しないことからケヴィンは生きているのだろうが頭のなかでは『?』マークが飛んでいた。

一方、ケヴィンはどこにいたかというとフランドル領の孤児院で、マチルダと対面することになってしまった。本来の対面する相手はティファニアだが、その横にいるマチルダに忠告するのを忘れるという大ポカを、してしまったのである。

タバサは女王になる気はさらさらなかったので、ロマリアから持ちかけられたジョゼットが女王になることに対して、ただ一つだけ交換条件をだした。それは母親を正常に戻すことである。ロマリアも困ってはいたが、すぐに対応できるものではないのはタバサもわかっていたので、すぐには実行されはしなかった。



さて、人間界の争いが収まりつつあることに気がついていたエルフは、トリスタニアの郊外に屋敷を持つケヴィンだった。ケヴィンの方は、すでに予言書という名のゼロの使い魔の原作が手元にあったので、罠を仕掛けて待ち構えていた。使うのは延々と相手の魔法をジャミングする魔法装置である。

これにひっかかったエルフにグループだが、エルフの中にルクシャナがいたのは幸いというか、元々、そういう性格だったのだろう。

その間に、フランドル家は同盟国ともなったゲルマニアのキュルケの実家であるツェルプストー家にある依頼をする。
それは、後装式の砲にライフリングがほどこされたものを作ることである。これはトリステイン王国で作れる物ではなく、冶金技術にすぐれたゲルマニアでしか作ることができる物ではなかった。

この新型の大砲や風石追尾式のミサイルを各国の船に乗せエルフの首都アディールを攻撃している間に、聖地での行動をおこなっていたのだ。

これから6千年後に再び、ブリミルは現れて、この門そのものを閉めて、6千年前と同じぐらいの精霊の力とするのが目的らしい。



そして、フランドル家にいるケヴィンは、元々、前世でもモテた記憶もないし、ハーレムなんて面倒だと思っているので、好きになるにしろ、好かれるにしろ一番であるのは一人だけで良いと思っていた。それがたまたまこの世界では、ティファニアに呼び出されて、ルーンが残ってしまったことから今は一緒にいる。
『ガンダールブ』のルーンは先に仮死状態ゆえに消えたのであろうが、『リーヴスラシル』は生命に関するルーンでありだましきれなかったのであろう。


ルイズとは『ガンダールブ』のルーンが消えたことにより、婚約解消を申し出て。


おしまい。

*****
『秘伝不殺剣』は『コータローまかりとおる!』が元ネタです。
ハルケギニアにライフリングの技術が伝わっているのは原作20巻に記載があります。
タイトルが「?」だったのは、最後がオチということで。

勝訴(新しい人には謎)

さて、3年前の一時休止作品もこの作品の感想をもとに手直ししてみますか。

2013.10.22:初出


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