『名前を入力してください。』
混乱する私を他所に、私の目の前のネズミ達の頭上それぞれに「****」というホログラム? が、出現した。
な、なんだこいつら? デバイス? 名前を付けろ?
「可愛い~~~!! 千雨ちゃん、何この子達!?」
「なんだろう……デバイスにこんな機能を付けても意味が無いと思うんだけど。キャラクターデバイスとでも言うのかな?」
そしてなのははネズミ……まぁ、見方によっちゃハムスターと言っても良いかも知れないが……を見て喜び、スクライアはこいつらを見て考え込んでいる。
シャークティに助けを求めようと視線を向けても、肩を竦めて「取り合えず名前を付けて上げたら?」 と返された。わ、私に味方は居ないのか!?
大体こいつらが何なのかも判らずに、いきなり出てきて名前付けろって言われて、はいそうですかと付けれるわけないだろう!?
「おいスクライア! こいつ等どうすんだよ!?」
私は顔を伏せてぶつぶつと何やら思案しているスクライアに声をかける。こいつの持ち物なんだ、何で私に聞くんだよ? つーかご主人様って何だよ!?
「あ、取り合えず名前を付けてあげてください。そのデバイスは長谷川さんに差し上げます。高い物じゃありませんし、僕が持っていても意味が無いようですし。」
そのデバイスも長谷川さんを主と認めているみたいですしね。と、そう続けるスクライア。い、いらねぇ……。
しかしつき返そうにもまた顔を伏せて思考モードに入り込み、なのははキラキラとした目でネズミ達を見つめている。やり辛いことこの上ない。
そしてネズミ達は同じくキラキラとした目で私を見つめていて。なんだろう、なのはと違っていらっとするな。
「千雨ちゃん! なんて名前付けるの!?」
「ああああ でも、A,B,C,でも何でもいいよ。」
私がそう返事をすると、ネズミ達は『そんな!』『ひどい!』等と喚きだした。意外と感情豊かなのな。私としちゃレイジングハートみてーに、必要無い時は黙ってる奴が好みなんだが。
あ、いや、黙ってる変わりになのはのポケットの中ですげー点滅してるけどな。なのはの興味が完全にこいつらに移った所為か。で、きっとあれは抗議中だ。
「千雨ちゃん! 名前はとっても大切なんだからね、ちゃんと考えてあげないと可哀相だよ!」
そして案の定なのはも怒る、と。レイジングハートの点滅を気にしないあたり、大物だよな。
さて、こいつらの事を聞こうにも、とにかく名前を付けないと話が先へ進みそうにねーな。かといって変な名前付けると怒るんだろうし……うーん、どうするか……4文字だしな……
「トンヌラ」
『エッ!?』
「ペペペペ、は、ダメか……ケツバン、もダメ。メンドクセーな、うーん……ぬけさく、ターナー、もちかめ、かもかも、た5、って数字もダメか。後は……」
「ちょ、ちょっと千雨ちゃん!?」
もう、変な名前ばっかり付けるなら私が付けるよ!? そう言い私に近寄り怒るなのは。
それは良いんだ。名前を付けてくれるっつーなら私にとっちゃ渡りに船だしな。ただ近寄るな、レイジングハートが眩しい。
私は名前を付けさせてやるから向こうでやってくれといい、なのはから離れることに成功する。そしてなのはは嬉々としてネズミ達に名前を付けだした。
「えーっと、君はトンヌラで決定でー。」
『マジですか!?』
「右の子から順に、トンヌラ、ランド、クッキー、すけさん、アイリン、ナナ、サマンサ! これでどーお?」
『『『ステキな御名前ありがとうございます!』』』
『トンヌラ……』
そしてなのはの付けた名前は、トンヌラ以外好評のようだ。
……まぁ、なんだ。何も言うまい。
「で、お前達は何なんだよ? レイジングハートの同僚か?」
名前に関する騒動も一先ず終わり、やっとトンヌラ達に事情を聞ける状態になった。私の自己紹介をしたら『ちう様』とか言い出したのにはびびったが、まぁそれは別の話だ。
そして今は復活したスクライアを交え二人で事情を聞いている最中。ちなみにシャークティは話に入ってくる気は無いようでただ聞いているだけ、なのははレイジングハートの機嫌を取っている最中だ。
私の質問を聞き、トンヌラ達はそれぞれレイジングハートを見たり互いに相談したりし始める。そして7匹の中で話が纏まったのか、トンヌラが代表して喋りだした。
『この道具の名前は"力の王笏"。我ら電子精霊群千人長七部衆を始めとした、極めて大規模な電子精霊群の統制をする物であります。近年、コンピューターの発達が著しく、それに伴う弊害が増え……機械オンチの魔法使いでも電子精霊の力で簡単に凄い複雑なプログラムを使えるようにするインターフェースっぽいものであります!』
途中で飽きたな、こいつ。
それにしても魔法の杖かと思ったら、働きは酷く現代的だな。ってことは何だ、別に魔法の杖じゃねーのか? いや、魔法の杖ではあるんだけど、どうもイメージが違うというか……
機械の使用をサポートされた所で私には何のメリットも無いんじゃねーか? 別にオンチじゃねーし。
もっと、こう、あるだろう? 魔力を込めて杖を振れば、そこから魔法の玉が飛んでいく、とかよ。
そんなことを考えていると、スクライアがトンヌラ達へ質問をする。
「き、機械オンチを助けるデバイス? そもそも電子精霊が判らないけど、君達は魔法行使をサポートする訳じゃないの?」
『僕達人工精霊は、自然精霊を使役することは出来ません。よって、精霊魔法は使用出来ません。』
そう、シュンとして申し訳なさそうに言うトンヌラ達。まぁシャークティみてーに戦闘するわけじゃねーからな、それは別に良いんだが。
「精霊? いや、昔の物だしそもそも魔法体系が違うのかな? 今でも僻地なら精霊信仰が残っているところは結構有るけど。でも、人工精霊? 精霊を、作る?」
またも思考モードへ突入するスクライア。いちいち忙しいな。そして人工精霊と自然精霊、ね。精霊の中にもやっぱり派閥とかあるのかな。
スクライアの独り言を聞く限り、ミッドチルダとかいう場所では精霊魔法は使われてないらしい。ってことはさっきのジュエルシードも、なのはの持ってるレイジングハートも、精霊は関わっていねーのか。私はシャークティから教わった以外の魔法を知らんからどんな物か想像もつかねーけどよ。
「で、結局お前達は何が出来るんだ?」
『はい! ちう様が電脳空間へとダイブした状態なら、たとえどんなプログラムでも処理してみせます! あと今は何故か繋がりませんが、まほネットから様々なソフトをインストールしたり、開発したり――』
「ちょ、ちょっと待って!!」
な、なんだ?
それまで黙って聞いていたシャークティが、急に血相を変えてトンヌラの言葉に割り込んできた。
「貴方、いま"まほネット"と言ったのかしら!?」
『え? はい、プリインストールされているソフトもありますが、より多様な使い方をするにはまほネットより様々なソフトをダウンロードし――』
「貴方達は、何処で作られたの!?」
『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の、アリアドネーにある研究所ですよ?』
「ま、前の所有者の情報は!?」
『恐らく初期化されているため、不明です。過去に1ユーザー以上、としか。』
「ど、どういう事? これは、一体……?」
ここにも魔法世界が? いや、でも、まさか……ひょっとして……?
シャークティは顔を青くしながら何やらそんな事を呟いている。何にそんな驚いてるんだろうな?
良くわからんが、シャークティもスクライアも何やら色々と思案中のようで。なのははレイジングハートと喋ってるし、仕方ないから私はもう少しトンヌラ達と話そうかと、そう思ったんだが。
「千雨ちゃん。ちょっと、私とトンヌラ君とスクライア君で話をさせて頂戴!」
「え、あ? あぁ……。」
シャークティは顔を上げたかと思うと、そう宣言し返事も待たずにスクライアとトンヌラを引っつかんで公園の奥へと移動していった。
お互いに顔を見合わせるランド等他の電子精霊達と私。
何となく微妙な空気が流れたが、私は残りのネズミ達を引き連れてなのはの下へと行くことにした。
◇◆
「スクライア君、この道具はこことは全く関係ない場所で買ったのよね?」
「はい。過去にどのような経緯を経ているかは判りませんが、この世界、第97管理外世界とは無関係のはずです。」
「トンヌラ君、貴方は起動していない間のことは判らないの? 何年経過したとか!」
『魔力、電力共に切れると時計データが初期化されます。再設定が必要です。』
公園の隅。ベンチに座って話をする千雨達から隠れるように、シャークティは滑り台の裏へと移動してスクライアとトンヌラの話を聞いていた。
いや、顔色を悪くし汗を流しながら、眉を吊り上げて聞くその姿を見れば、問い詰める、もしくは詰問すると表現したほうが良いだろう。
そんなシャークティの様子を見て、スクライアとトンヌラは要領を得ないながらも聞かれたことには素直に答えている。
「この子は既に滅んだ文明の物だと言ったわね? それは確かなの!?」
「え、えっと……何分既に資料も殆ど無い文明が、それより更に昔に滅んだ文明の物を集めていた、そういう曰くだというだけなので……何が確かかと聞かれたら、何も確かではない、としか。」
「そ、そう……それなら、この子も何らかの理由で向こうから流れてきた……? いや、でも、千雨ちゃんを介さずに? 他に同じ境遇の子が居る? それとも、まさか、本当に……?」
ああ、もう、何も判らないわ! そう声を荒げるシャークティ。
「他に、他に似たような曰く物は無かったの!?」
「いえ、僕が行った場所にはこれだけです。」
「もう! 向こうと此方、両方で調べる必要があるわ! ああ、もう、エヴァンジェリンは次何時になったら来るのかしら……!!」
焦りからか、シャークティの体から魔力が湯気のように立ち上がる。その鬼気迫る様子を見てスクライアとトンヌラは互いに身を寄せ合い、ブルブルと震えている。
辺りに魔力を撒き散らしながらその場をウロウロと歩き回り考え込むシャークティ。2人はそんなシャークティの様子を、ただ混乱しながら見つめ続けるしかないのだった。
◆◇
「わ、私はレイジングハートのほうが好きだよ!? 綺麗だし、私に魔法の使い方を教えてくれたし!」
『thank you......』
……こっちはこっちでカオスだな、おい。
私はネズミ達を引き連れてなのはの下へと来たんだが、そこではなのはが赤く光る石に向かい一生懸命に謝りご機嫌を取る図があった。
せっかくなのはがレイジングハートと一緒にロストロギアを封印したっつーのに、その直後にレイジングハートをそっちのけで別のデバイスへ目移り、出てきたこいつらに釘付け、名前まで付けたんだもんな。そりゃ拗ねるか。
それにしてもこいつらといい、レイジングハートといい、結構しっかりした人格持ってるのな。自分の名前に文句を言うAIや、使用者が目移りしたら拗ねるAIか。トンヌラ達は人工とはいえ精霊らしいから兎も角としても、レイジングハートは結構凄いんじゃないか?
……って、茶々丸がいたか。あいつもAIだったな。いかんな、最近茶々丸がロボットだっつーことを忘れかけてる。
まぁ、どいつもこいつも魔法が絡んでるんだ。魔法なら仕方ない。まさしく魔法の言葉だな。
「ほ、ほら、レイジングハート、もう一回魔法を教えてよ! えーと、そう、あの怪獣から身を守るような、すっごいバリアとか!」
『.......protection』
レイジングハートが小さな声でそう呟き、少しだけ光ったと思うと。レイジングハートを中心としてなのはを包むように、半径1M程のピンク色の膜が出現した。
バリア、ね。これぞ正しくって奴だな。
「おおー! すごいすごーい! さっすがレイジングハート!」
『......』
「ち、千雨ちゃん! このバリアに何かやって見てよー!」
無言で点滅しているレイジングハートをみて、なのはは冷や汗を流しながら私にそう訴える。
なんだろう、ここはスカスカの魔法の射手を1本だけ撃ってレイジングハートを持ち上げてやるべきなんだろうか。
そう思い首から提げていた十字架を手に取り構えながら、横で見ていた精霊達に何気なく問いかける。
「お前らはあんな事できねーんだろ?」
『……ちょっと、詳しく見てみたいっす。』
ん? なんだ、様子が変だな?
私は掲げた腕を下げ、精霊達に向き直る。すると精霊達はバリアの表面に取り付き、つついたりメモったりし始めた。
「あれ? 千雨ちゃん、どうしたのー?」
「あー、なんだかこいつ等がそのバリアに興味あるんだとよー。もうちょっと展開しててくれ。」
しかし、私がそう言いなのはが頷くと、それとは対照的にレイジングハートが数度点滅、そしてバリアを消し去ってしまう。
なのはが戸惑ってレイジングハートの名前を呼ぶもただ点滅を返すのみ。
仕舞いにはクッキーが……うん、たぶんあいつはクッキー、だと思う。名札でもつけるか? が、レイジングハートへと近寄るも。
『もう一回! もう一回出してほしいっす!』
『No』
『ケチー! 調べさせてくれたっていいじゃないっすかー!』
『NO!』
あーあー、デバイス同士で喧嘩始めたよ。なのはの手の中にあるレイジングハートへ、精霊達がわらわらと近寄って文句を言う。けど……
『『『ヘブッ!?』』』
「れ、レイジングハート!?」
再度バリアが一瞬だけ張られて、精霊達は弾き飛ばされた、と。
あーあー、こいつらは仲良く出来そうにねーな。一体誰のせいか……相性の問題か?
私にへばり付いて泣く精霊達を見て、私は乾いた笑いを零すことしか出来なかった……。