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[32356] 【完結】テンプレ通りに進めたい(転生・原作知識有り)
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/08/04 20:37



 皆様、はじめまして。
 嘴広鴻と申します。

 知っていらっしゃる方もいるかもしれませんが、今まで“にじファン”で投稿していたものが二次創作作成禁止物に引っ掛かってしまいましたので、こちらに移転して続きを書かせていただくことになりました。
 “Arcadia”のルールは遵守するよう気をつけるつもりですが、もし見落としたところがあった場合は直ちに修正いたしますので、ご指摘のほどをよろしくお願いします。


 なお、本作は「魔法先生ネギま!」の二次創作です。
 いわゆる“神様転生モノ”でネギに転生します。ちなみに原作知識は32巻まで持っている設定です。
 この作品が私の初めての作品なので至らない所が多々あると思いますので、どうかご意見・ご感想をよろしくお願いします。


 せっかくの移転なので全面見直しをしていますが、にじファンのときから極端には変えておらず、言い回しの修正や文の追加を若干行なっています。



 それでは皆様、これからこの作品をどうかよろしくお願いします。
 基本的に更新は週2回、木曜日と日曜日になります。






 2012.3.22   チラシの裏に投稿開始
 2012.4.8    赤松健板に移動




[32356] 第一章 魔法先生ネギま?編 プロローグ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:55



 それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。

 大きくぶ厚く重く、そして大雑把すぎた。

 それは正に鉄塊だった。







 目覚めたら真っ白い空間にいて、目の前に馬鹿デカイ剣があった。
 …………え? 何ですか、この状況?


「あなたには転生をしてもらいます」


 ちょっ、剣が喋った!? ますます何ですか、この状況!?
 それなりに二次創作とか見てるけど、この状況で出てくるなら“ゼウス”とか名乗る神様とかでしょう!?


「いや、テンプレ通りならつまらないと思って…………」


 そんな気遣い結構です。

 というか、その剣ってことは転生先はベルセルクの世界ですか?
 ごろごろ死亡フラグが転がっているからすぐ死にそうなんですが?


「いやいや、違うよ。この剣は私の趣味。ベルセルク関係はもう出てこないと思うよ。
 転生先世界は“魔法先生ネギま! ”の世界。
 しかも主人公の“ネギ・スプリングフィールド”になってもらいます」





 …………“ネギま”ですか。
 知っていますけどB○○K○FFの立ち読みでですし、就職してからは漫画から遠ざかっていたから、大まかな流れしか覚えてないですね。

 それよりあれですか?
 いわゆる“お約束”で転生するにあたって何か特殊能力とか貰えるんですか?


「それはもちろん。条件というか無理なこともあるけど」


 条件?


「自分はあまり力がないからね。
 強力すぎる力を与えられないってのがまず一つ」


 えーと、それはつまり“無限の魔力”とか“アカシックレコードへの接続”とかそんなのですかね?
 あとは“創造の力”とか?


「そんな感じで捉えてもらえば大丈夫」


 了解です。神様みたいなチートすぎる能力は無理なのか。
 まず一つってことはまだあるんですよね。


「うん、もう一つが先輩方が他の人たちに与えた能力は無理ということ。
 それとあなたがこの時点で知らない能力も駄目」





 …………先輩方? 他の人達?
 なんか嫌な予感がするんですが、一体どういうものですかね?


「そのままの通りの意味だけど?
 二次創作見てんならわかるでしょ?」


 すいません。思いっきり嫌な予感が増大したんですけど。
 具体的にいうとどういうのが駄目なんですかね?


「あなたの知っているものだけでいいかな?
 漫画でいうと“ドラえもん”と“ドラゴンボール”と……(省略)……ロボット系は“スパロボ”に出てくるのは全部駄目ということで」


 …………いや、「駄目ということで」じゃないでしょう?
 こんな縛りでどういう能力を貰えばいいんですか?


「他の人も使わないようなニッチな能力を知っとけば良かったのに。
 色んな本を読まないからだよ」


 …………何で自分のせいにされるんでしょうか?
 というかこの縛りで一体自分にどうしろと?


「だからテンプレ通りならつまらないと思って…………」


 そんな気遣い結構です。
 どんな能力ならOKなんですか?


「さっきから疑問符ばっかりだね、あなたは。しょうがないぁ。
 …………えーと、これなら先輩方も渡してないかな?」


 お、能力貰えるんですか。
 この際どんな能力でもいいから貰えるものは貰いましょう。


「“もやしもん”」


 ………………は?


「だから、“もやしもん”の能力。
 “菌やウィルスが肉眼で見え、指で掴んだり、会話することも出来るという不思議な能力”」



 ………………もう少し考えさせてください。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 ………………というわけで、能力は“ガンダムUC”のMSモビルスーツの再現ということでお願いします。
 あ、もちろんビームライフルとかの武器も使用できるようにしてくださいね。
 ニュータイプじゃないですけどファンネルも使用可能でお願いします。


「いやいや、それは駄目だよ。
 ガンダム使っている人いるよ」


 何を言ってるんですか。ロボット系はスパロボに出てくるのは駄目と言われただけですよ。
 ガンダムUCはまだスパロボに参戦していませんから、ルール違反してるわけじゃありません。
 それにガンダム“UC”を使っている人はいないでしょう。


「えー、確かにそうみたいだけど。
 あなたアニメ版でしか知らないでしょう?」


 いいんですよ、それで。
 じゃあオッケイということで。
 そういうことにしてくださいよっ!!!


「テンプレ通りならつまらないと思わない?」


 まったくもって思いません。“テンプレ通り”…………良いじゃないですか。王道こそが至高の道ですよ。
 というか、そういう茨の道は他の人に任せてください。


「…………面白くないなぁ」


 あなたを楽しませるためにいるんじゃありません!





「…………ま、いいか。
 あとはこっちでなんとかしましょう」


 …………え? あれ? 意外とあっさりOK貰えた?
 てっきり駄目だと言われると思ったのに。


「いや、ちゃんと私は駄目だと言ったよ。
 まあ、確かに私の説明ミスもあったからさ。
 テンプレ通りならつまらないと思うけど」





 …………ふう、何とかなったか。
 でも、よくよく考えたらもやしもんの能力でも良かったかな?
 魔法薬作るのに役立つかもしれなかったし………。

 いや、それでも初志貫徹だ。
 ベルセルクの世界よりはマシだとはいえ、死亡フラグは主人公なら赤松ワールドでも結構あるんだ。
 戦闘に役立つ能力でなければ…………。





「………確認するよ。
 転生先世界は“魔法先生ネギま! ”の並行世界。
 転生するのは“ネギ・スプリングフィールド”。
 与える能力は“ガンダムUCのMSモビルスーツの再現能力”でいいんだね。
 それとついでに“完全魔法無効化能力”もあげるよ。説明ミスのお詫びだね。
 ちゃんとモビルスーツの状態でもシールド限定にして違和感がなく使えるようにするから安心してちょうだい」


 いいんですか? 太っ腹ですねぇ、ありがたく頂戴しておきます。
 それで全部OKです。







「なら早速転生してもらいましょうか。
 それと最後に聞きたいことがあるんだけど」


 ? なんでしょうか?


「テンプレ通りならつまらないと思わない?」





 ………まったくもって思いません。
 あ、何か目の前が真っ暗になってきた。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 “ガンダムUCのMSモビルスーツの再現能力”

 …………ぶっちゃけあまり役に立ちません。特に第一章。
 ただミネバ様がかわいかったから使いたかっただけなのですが、後になればなるほど使う機会が無くなっていきました。
 やはりプロットはちゃんと作らないと駄目ですね。作らなかったらドンドン暴走していきます。
 2011年の2月後半ににじファンで投稿を開始したのですが、今となっては当初はどういう流れにしようとしていたのかよく思い出せません。

 それとせっかくのArcadia投稿なので最初に斜線と太字のフォントを使ってみましたが、次話以降はなるべく使わずに文章だけで勝負しようと思います。使うとしたらルビだけで。
 今後もし太字などを使うとしたら後書きなどの目印ぐらいです。

 それでは皆様、これからそこそこ長い話となると思いますが、どうかこの作品をよろしくお願いいたします。



[32356] 設定
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/22 21:04



 神さま?から貰った能力
 “「ガンダムUC」のMSモビルスーツの再現能力”


 再現といっても10m以上のモビルスーツを再現するのではなく、高音・D・グッドマンの影の使い魔のように体の周囲に魔力を纏って装甲を作って再現する。
 着ぐるみと思えば大体あってる。


 ビームライフルやビームランチャー、ファンネルは『魔法の射手サギタ・マギカ』を発射する銃。
 ビームマグナムは専用の“マグナム弾”に魔法を詰め、それを撃ちだす。要するに“魔弾銃”。
 クシャトリヤのファンネル、ユニコーンの“NT-Dニュータイプ・デストロイヤー”などの特殊武器・システム以外は全機共通に使用可能。

 なお、“NT-Dニュータイプ・デストロイヤー”は作中では“MM-Dマギステル・マギ・デストロイヤー”。
 ガンダムUCではニュータイプを感知しないと起動できないが、この作品では任意で可能。リミッターを外し、超高機動戦闘が可能になる。
 発動時には、相手の誘導弾・自動操縦式使い魔などのコントロールを奪える。

 自動操縦式使い魔のコントロールは高音・D・グッドマンの影の使い魔を例にとると
   高音本体と接触しているタイプ → コントロール奪取NG
   高音本体と接触してないタイプ → コントロール奪取OK


 この“「ガンダムUC」のMSモビルスーツの再現能力”のメリットしては、攻撃・防御・移動も全て無詠唱でモビルスーツでまかなえること。
 ただしデメリットとしてモビルスーツ展開中は他の魔法が使えなくなる。



再現できるMSモビルスーツ

 RGZ-95 リゼル
 NZ-666 クシャトリヤ
 MSN-06S シナンジュ
 RX-0 ユニコーンガンダム
 MSN-001A1 デルタプラス



 再現するには始動キーのあとにMSモビルスーツ名を入れる

『ラス・テル マ・スキル マギステル ○○○○○』





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





Fate風ステータス――――通常状態ネギをランクEとして基準(※ お遊びです)



リゼル
 筋力 D
 魔力 C
 耐久 D
 敏捷 C


リゼル(変形時)
 筋力 E
 魔力 C
 耐久 E
 敏捷 C+(直線運動のみ、細かい動きはランクE)

 特徴:下位変形可能機



クシャトリヤ
 筋力 B
 魔力 A
 耐久 A
 敏捷 D

 特徴:ファンネル使用可能



シナンジュ
 筋力 B
 魔力 B
 耐久 B
 敏捷 A

 特徴:単純に強い



ユニコーンガンダム
 筋力 B
 魔力 B
 耐久 B
 敏捷 B


ユニコーンガンダム(“MM-Dマギステル・マギ・デストロイヤー”発動時)
 筋力 B+
 魔力 EX
 耐久 B
 敏捷 EX

 特徴:“MM-Dマギステル・マギ・デストロイヤー”発動時のユニコーンの出力と推力が測定不能w




デルタプラス
 筋力 C
 魔力 C
 耐久 C
 敏捷 B


デルタプラス(変形時)
 筋力 D
 魔力 C
 耐久 D
 敏捷 B+(直線運動のみ、細かい動きはランクE)

 特徴:上位変形可能機





━━━━━ 後書き ━━━━━



 これらはウィキペディアと自身の妄想を参考に作りました。
 考えるのは楽しいですが、作り終わったら微妙な寂寥感に襲われるのは何故なんでしょう?
 きっと“祭りは前準備の時が一番楽しい”ってことですね。

 さて、次から本編に入ります。



[32356] 第1話 悪魔襲撃の日
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/22 21:10



 こんばんは。ネギ・スプリングフィールドに転生した×××××です。

 前世の自分なんて、今となってはもうどうでもいいですけどね。


 それと只今、現在進行形で悪魔に村を襲撃されています。
 ドカンドカンと音が響き、悪魔がどんどんと消し飛ばされています。余波の衝撃波とか飛んでくる石とか酷いです。物陰に隠れないと危険ですね。
 ちょうどいい石像が目の前にあるので、それの後ろに隠れますか。

 いやー、魔法ってのは凄いですねぇ。自分もそのうち使えるようになるかもしれないと思うだけでワクワクしてきます。



 さて、簡単に悪魔襲撃までのことをご報告しますと、原作との違いは自分がナギを強く求めていないってことぐらいでしょうか。
 もちろん会ってみたいとは思いますけどね。

 普通に遊んで、普通に魔法の勉強して、普通に暮らしていました。
 別に池で溺れたりしてません。


 スタン爺さんはいい人ですね、ぶっきらぼうだけど。
 悪魔に対する備えとかは特にしませんでした。
 自分の力はまだ把握できていませんですし、ここで原作と違う動きをすると未来がどう変わるかわかりませんでしたから。


 ただ、スタン爺さん達が石にされると思うと黙っていることに罪悪感が湧きました。
 だからスタン爺さんの肩を叩いたりして祖父孝行してました。

 只の自己満足でしかありませんけどね。



 …………さて、それではそろそろ現実逃避を止めて、どうしてこうなった!? のかを嘆きましょうか。

 それは悪魔襲撃の日。
 遂にスタン爺さんが自分を庇って石にされ、ヘルマン卿が自分を石にしようとしたところから始まります。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 マズった。原作とは流れが違う。
 原作だったらスタン爺さんが石になる前にナギが助けに来てくれたはずだったんですが、自分が原作のネギとは違う生活をしているせいか流れが変わってしまいました。
 ナギに助けられないまま、ヘルマン卿が目の前にいます。


「ネギッ!!!」


 この声はネカネ姉さん!?

 マズイッ! このままじゃ原作では助かったはずのネカネ姉さんまで完璧に石にされる。
 神さま?(というか結局あの剣誰なんだ?)に原作知識もくださいと頼んどけば良かった。そうすればこんな展開にならなかったのに。
 転生だぜ、ヒャッホイ! なんて浮かれてた自分が情けな「『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』ッ!!!」…………い?










 …………。

 ……………………。

 ………………………………え?


 ネカネ……姉さん? 貴女はいったい何してるんですか?
 いきなり無詠唱の『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』ですか? ヘルマン卿が吹っ飛ばされたんですが?

 あれ? ネカネ姉さんって回復系の白魔法使いじゃありませんでしたっけ?
 もしかしてそれは二次創作の設定だったかな?





「大丈夫っ!? ネギッ!?」


 え? …………いえ、大丈夫です。
 助けてくれてありがとうございます。スタン爺さんは石になってますけど。

 …………ではなくて、何でネカネ姉さんがあんな強力な魔法を? そもそも原作でもヘルマン卿吹っ飛ばすようなことしてなかったじゃないですかっ!?


 え? 本気で何ですか、この状況?





「安心して、私が守ってあげるから。
 二代目“千の呪文の女サウザンドマスター”の名は伊達じゃないわ」





 …………どうしてこうなった?
 待て待て待て、本当にどういうこと?









 …………。

 ……………………。

 ………………………………はっ!?

 思いだせ、あの神様?の発言を。
 確かアレはこんなことを言っていたハズ!





最初

> 「いやいや、違うよ。
>  この剣は私の趣味。ベルセルク関係はもう出てこないと思うよ。
>  転生先世界は“魔法先生ネギま! ”の世界。
>  しかも主人公の“ネギ・スプリングフィールド”になってもらいます」


最後

> 「………確認するよ。
>  転生先世界は“魔法先生ネギま! ”の並行世界。
>  転生するのは“ネギ・スプリングフィールド”。
>  与える能力は“「ガンダムUC」のモビルスーツの再現”」





最初

> 転生先世界は“魔法先生ネギま! ”の世界。


最後

> 転生先世界は“魔法先生ネギま! ”の並行●●世界。





 後になって“並行”が付け足されているじゃないかっ!?
 じゃあ何か? この世界は原作とは違うってことか?

 …………無理矢理“ガンダムUCのMSモビルスーツの再現能力”なんて貰ったせい?


 クッ、“完全魔法無効化能力”なんてものをタダでくれることに疑問を持つべきだった。
 オマケを貰った嬉しさに“並行”なんて言葉が付け足されていることに気付かなかった。
 そんなうまい話があるわけないのに………。


 嫌がらせのつもりか、あの神様?は。
 いや、面白くするためなんだろうなぁ。

 …………コレどうしよう?









「我がスプリングフィールドの魔法はァァァァァァァアアア、世界一ィィィイイイイ!!!」









 ………………ネカネ姉さんが壊れた。
 いや、自分が知らなかっただけで既に壊れていたのか。


 あ、音と光の発生源がもう一つ増えた。ナギが参戦したのか。

 うわぁ、悪魔が可哀想になってきたよ。
 戦闘が派手になった分、飛んでくる石つぶてが多くなってきたので、石になったスタン爺さんの陰に隠れます。





 …………これからどうしよう?





 どうしようってか…………どうしようもないな、ウン。
 後のことは流れに任せるしかない。









 ガンッ! ドサッ!!!


 ん? 一際デカイ音がして何か地面に落ちた音が…………って、ちょ、髭が折れてる!?
 石になったスタン爺さんの髭が折れてる!? 飛んで来た石つぶてがぶつかったのか!?

 もうやめて! ナギもネカネ姉さんももうやめて!
 スタン爺さんと悪魔のライフはもう0よ。もう勝負はついたのよ!!!



[32356] 第2話 メルディアナ魔法学校での日々
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/22 21:05



 こんにちは。ネギです。


 あの後ナギはネカネ姉さん達と二言三言の言葉を交わし、自分の使っていた杖を形見として置いて何処かにいきました。
 その間自分は折れたスタン爺さんの髭とネカネ姉さんの豹変振りにガタガタと震えているだけでした。

 …………大人達は悪魔のせいだと思ってましたけどね。


 それから注意深く見ていると、やっぱりこの世界は少しばかり違っているのがようやくわかってきました。

 ああ、それとネカネ姉さんの活躍もあって、アーニャのご両親は無事でした。
 それでもスタン爺さんを含め結構な犠牲者が出たみたいですので、避難も兼ねて僕の年齢には少し早いですが魔法学校に入学することになったのですよ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 そしてそれから6年後、原作通り2年の飛び級をして一応主席として頑張ってます。

 転生前は大人でしたし、このネギ・スプリングフィールドの体がチートみたいなものですからね。
 この年ぐらいで行なう勉強なら余裕です。
 魔法の勉強や練習はさすがに難しかったですけど、それでも前世では存在しなかった魔法を使うのは楽しかったのでハマってしまい、“好きなものこそ上手なれ”で魔法の腕を上達することが出来ました。

 優秀な体でよかった。前世の体ならついていけなかったですよ。
 そして今は魔法の実技練習中、ネカネ姉さんが見本を見せてくれています。





「スプリングフィールドは!!! 地上最強ォォ!!!」





 あ、相手役の先生吹っ飛んだ。
 いつものことですね。


 何だかネカネ姉さんは戦闘関係になると性格が変わるそうです。
 自分は悪魔襲撃の日まで自分は戦闘関係に関わっていなかったから気付かなかったんですね。

 ネカネ姉さんはメルディアナ魔法学校の非常勤教師兼NGOをして暮らしています。
 聞いたところによると何でも“千の呪文の女サウザンドマスター”として大活躍とか。
 テロリスト(多分“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”)をバッタバッタと薙ぎ倒しているそうです。


 ………もしかして、村襲われたのネカネ姉さんのせいなんじゃね?





 そうそう、罠にかかっていたアルベール・カモミールのカモ君なんですが、彼だけは原作と性格は違いませんでした。原作通りにエロオコジョだったんです。
 これで原作と変わらないのはスタン爺さんに続いて二人目?だ、と喜んでいたんですが、周りが違っているのを失念していました。

 具体的に言うとネカネ姉さん。


 度重なる下着ドロにぶちぎれたネカネ姉さんは、僕からカモ君を取り上げてどこかに連れて行きました。


 そして帰ってきたカモ君にはナニ●●が無くなっていたのです。
 …………去勢されたんだね。無茶しやがって。


 そして「今度からはカモ君ではなくアルちゃんと呼びなさい」とネカネ姉さんに厳命されました。
 おかげで僕の使い魔は原作と違ってアルちゃんなのです。





「ネギ、今日の授業はこれで終わりよ。帰りましょう」


 イエス、マムッ!!!
 お願いですから、その頬についた返り血を拭ってください。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「ネギ、今夜も石化治療薬の実験?
 あなたの気持ちもわかるけど、ほどほどにしないと駄目よ」


 大丈夫、無理なんてしてません。むしろ実験中はネカネ姉さんもイロイロ控えてくれるから逆に気が楽です。

 でも学校の禁書庫の本も全部読んだしなぁ。正直手詰まりです。
 こうなったからには麻帆良の図書館島に望みを託します。

 あ、禁書庫は見てみたい、とネカネ姉さんに相談したらその日のうちに許可をもらってきてくれました。
 しかし、もらってきてくれたのはいいのですが、何故か次の日から学校長が痔の手術とかの名目で一週間ほど入院したんですよね。
 そして復帰した学校長は何故か総入れ歯になってました。痔の手術じゃなかったようです。

 …………ま、些細なことでしょう。





「ネギ、ネカネ姉さん」





 あ、アーニャ……とアルちゃん。
 …………えーと、そのリボンかわいいね。アルちゃん。


「はい、ありがとうございます。お兄様」

「でしょー、アルちゃんに似合うと思って買ったのよ」


 ちなみに何故かこの一人と一匹は異様に仲が良いです。アルちゃんは一応自分の使い魔のはずなんですけどね。

 もちろんアーニャは最初、毛虫のごとくカモ君を嫌っていました。
 しかし、カモ君がアルちゃんになって、ネカネ姉さんの調教が終わってからは急に仲が良くなりました。


 何でしょう。この違和感を感じないはずの空気なのに感じてしまう違和感は?

 ああ、自分が原作を知っている転生者だからですね。
 スタン爺さんに逢いたいなぁ。すごく逢いたいなぁ。石化治療薬早く完成しないかなぁ。

 ちなみにアーニャは原作よりはお淑やかに育ってます。
 ご両親が無事だったせいですかね。ツンデレなのは相変わらず変わりませんが。





「もうすぐ卒業ね」


 そうだね、アーニャ。
 卒業試験はどうなるんだろうね。


 …………やっぱり麻帆良で先生するのかなぁ?
 原作キャラには興味があるけどキャラ崩壊がどうなっているのか不安だ。
 もし全員男だったりしたらどうしよう…………。


 いや、そんなことはあるまい。
 皆が少しずつ変だとはいえ、そこまで極端な原作との乖離はあるまい。
 この前ウェールズに来たタカミチ本人に確認したところ、タカミチが女子中学校の先生をしているのは確かなんだ。


 ああ、タカミチはタバコを吸っていないのが原作との違いでした。他にもあるかもしれないけど数回会っただけじゃわかりません。

 麻帆良の図書館島には行きたいけどキャラ崩壊を見るのは嫌です。
 ま、卒業試験内容を変えるなんて無理なんでしょうけど。


 …………ネカネ姉さんに頼めば出来るかもしれませんが。





 それはともかくとして、“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”対策に今からマグナム弾を貯めとかなきゃなぁ。
 学園結界があるなら、“MM-Dマギステル・マギ・デストロイヤーシステム”を使って『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』を撃ち込みまくれば勝機はあるでしょう。

 どんなキャラ崩壊が待っているかわからないから、とにかく万端の準備をしてから麻帆良に行かないと…………。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ちなみにカモ君は“アルベール”って名前なんですが、これはフランス風な名前なんですよね。
 イギリス風なら“アルバート”です。

 もしかしてカモ君はフランス出身?



[32356] 第3話 卒業 これからのこと
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/25 11:14



 こんにちは。ネギです。

 只今メルディアナ魔法学校卒業式の真っ最中。ちなみにちゃんと主席でした。
 それにしても学校長の話が長いです。お偉いさんの話が長いのは世界共通みたいですね。


 さて、ずっと校長の話を聞き流しているだけなのも暇なので、修行内容が“麻帆良学園本校女子中等学校で先生になる”ということを前提に、今まで考えていたこれからのことをもう一度まとめてましょうか。
 これから麻帆良に行ってから起きる大きな事件としては、

① 期末テスト
② 桜通りの吸血鬼事件
③ 京都修学旅行
④ ヘルマン卿襲撃事件
⑤ 麻帆良学園祭

 といったところです。


 その後の“魔法世界編”は最悪の場合、そもそも魔法世界に行かなきゃいいんですから、“⑤ 麻帆良学園祭”が終了してから考えましょう。
 それにそんな先のこと考えてもその前の事件で何かあるかもしれないし、なるべく情報を多く手に入れてから考えるべきです。





 最初の“① 期末テスト”は問題ないですね。
 ちゃんと2-Aの人達に勉強させておいて、期末テストで最下位だったら自分がクビになって新田先生が新しい担任になるかも? とか言っといたら勝手に頑張ってくれるでしょう。
 2-Aは真面目にやらないだけで潜在能力はありますからね。………………キャラ崩壊さえしていなければ。
 日本語の勉強は終了済みなので、原作より早く麻帆良に行って実際に2-Aの人達を見てから細かいことを決めましょうか。





 次の“② 桜通りの吸血鬼事件”はどうしましょうかねぇ?
 前世で読んだ二次創作のテンプレ通りならば、事前にエヴァさんと取引するなりして身の安全を保障してもらい、尚且つエヴァさんとの繋がりを作っておく、といった所でしょうか。
 もしくは学園長にチクるか。

 ああ、それとナギの情報をエヴァさんに売りますか。


 一応戦闘になる可能性を考えて、『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』等を込めた、ユニコーンガンダムのビーム・マグナムのマグナム弾を100個ほど、一日の最後に余った魔力を込めてシコシコと作製しておきました。
 この神様?からもらった能力で一番使えるのは、こうやってマグナム弾を作っておけることですね。


 もし戦闘になったら油断している内に“MM-Dマギステル・マギ・デストロイヤー”発動させて、速攻で最大火力を御見舞いしましょう。
 おそらくそれで何とかなるはず。

 まあ、エヴァさんの“女子供は殺さない”というポリシーからして死の危険はないですから。


 それとタカミチ辺りからエヴァさんとナギの関係を聞いておいて、

「タカミチから聞きました。女性にそんなことするなんて最低な駄目親父です。
 駄目親父がしたことの責任は僕がとります。
 どうぞ僕の血を吸って呪いを解いてください」

 とか土下座しながら謝れば、きっと命だけは助けてくれるでしょう。
 むしろ庇護対象としてみてくれるかもしれません。あの人なんだかんだいって甘いし。

 ネカネ姉さんという核地雷が近くにあるせいでフェミニストとして有名になりましたから、動機としては変に思われないはずです。
 これはタカミチも知ってることですからね。
 戦闘は最後の手段です。平和的な方法を考えましょう。





 “③ 京都修学旅行”は出来れば“② 桜通りの吸血鬼事件”の際に、エヴァさんの『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』と“学園結界”を解除して貸しを作っておき、その縁で手伝ってもらうのがいいんですが…………。

 でもこの旅行は死亡フラグ満載で嫌なんですよねぇ。エヴァさんいないと原作ではネギ死んじゃってたろうし…………。
 これは“② 桜通りの吸血鬼事件”の結果次第ですね。エヴァさんとの関係が良好なら原作通りで行きましょう。

 …………エヴァさんとの関係が悪かったら、木乃香さんには申し訳ありませんが病気にでもなってもらいましょうか。
 木乃香さんがいなければ危険度はガクっと下がるでしょう。

 魔法薬の成績はメルディアナ魔法学校史上最高の成績です。一週間ぐらい寝込ませる薬なんて簡単ですよ。
 いっそのことクラス全員を寝込ませて修学旅行を中止させますか。


 “テンプレ通りに進めたい”、そう考えていた時期が自分にもありました。
 木乃香さん、あなたはいい人なんでしょうが、あなたの父上と祖父上がいけないのですよ。





 “④ ヘルマン卿襲撃事件”は“③ 京都修学旅行”の結果次第ですね。
 というか、ヘルマン卿ってネカネ姉さんに吹っ飛ばされたあとに封印されたとは聞いてないんですが、その後どうなってるんでしょうか?
 魂ごと消滅させたとか言われても、ネカネ姉さんなら不思議じゃないんですけど………………。

 これはあとで確認しておきましょう。
 もしメルディアナで封印しているのなら、保管についてネカネ姉さんに注意しておいてもらいましょう。


 まあ、ヘルマン卿じゃないのが襲撃してくる可能性もありますけどね。
 とはいえ原作での目的はネギと明日菜さんの実力調査ですし、修学旅行のときに明日菜さんがフェイトに知られず、エヴァさん無双で自分の影が薄ければ来ない可能性のほうが高いですね。





 “⑤麻帆良学園祭”はどうしましょう?
 これも学園祭中は超さんと葉加瀬さんには入院してもらいますか。何かそれが一番手っ取り早い気がしてきたな。
 というか考えがドンドン物騒になってきてませんか、自分?

 オコジョにされるのも嫌ですしねぇ。
 まあ、①と③と⑤は日付が決まってますから、向こうで出来た生徒や先生達との関係を踏まえて考えましょう。
 それからでも遅くないです。







 まずは“② 桜通りの吸血鬼事件”解決に全力を注ぐことにしましょう。
 あの事件が今後どうなるかの山場です。



 …………あ、ようやく学校長の話終わった。


「メルディアナ魔法学校卒業生代表! ネギ・スプリングフィールド!」


 さて、卒業証書貰いに行きますか。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「卒業おめでとう、ネギ、アーニャ」

「おめでとうございます。お兄様、アーニャお姉様」


 ありがとうございます。ネカネ姉さん、…………アルちゃん。
 これからが大変ですけどね。

 さて、僕に課せられるのはどういう修行なんでしょう? 
 えーっと、なになに? …………“日本の学校で教師をやること”だそうです。



 …………やはり原作通りですか。
 最悪アリアドネーとかメガロメセンブリア逝きを考えていましたからね。
 それに比べたら問題ありませ「なんですってぇーーー!!!」って、うお!? ビックリした。


 アーニャ、そんな大きな声出さなくても。
 確かに子供の僕が教師をするってのは変だけどね。





「なんで私の修行が“日本の学校で生徒をやること”なのよーーー!!!」





 …………え、アーニャも来るの?



[32356] 第4話 麻帆良学園
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/22 21:26



 こんにちは。ネギです。

 前世もあわせて初めて飛行機に乗りました。
 耳鳴りが酷いです。


 結局あの後は暴れだしたアーニャを落ち着かせ、学校長に話を聞きにいったのですが、学校長は既に逃亡済みでした。
 それを知ったネカネ姉さんの笑顔が忘れられません。
 置手紙があったので見てみると、そこには今後お世話になる麻帆良学園への連絡先が書かれていました。


 自分の影響でアーニャは日本に興味はあったものの、日本語まで話せるなんてことは当然なかったので日本語のお勉強中です。
 そして自分は教師をするということなので、前準備のためにもアルちゃんをアーニャに預けて日本へ先に行きます。


 色々と手続きがありますし、アルちゃんを最初から連れて行くつもりなのでペット可の住居をお願いしたところ、

「なら早めに来て、自分で気に入ったところを探しなさい」

 と言われました。


 初っ端から原作と違ってきてます。
 麻帆良学園の学園長とも電話で話したのですが、自分を早く麻帆良に来させたいそうです。より詳しく言うならアーニャより先に来させたいそうです。

 …………なーんかありますねぇ。


 あ、そうそうヘルマン卿は封印されていませんでした。
 吹っ飛ばされた際に普通に消えたそうです。魂まで消滅してるわけじゃなさそうですね。
 まあ、知らない悪魔が来るよりも対策を立てやすいので悪くはありません。





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 そんなこんなで麻帆良学園に到着しました。ちなみに出迎えはタカミチです。
 まあ、平日の昼間ですからね。明日菜さんたちは普通に学校でしょう。

 平日の昼間になんで担任の先生であるお前がいるんだ、このデスメガネ?

 と聞きたいところですが自重します。僕って空気が読める10歳児ですから。


「どうも、ご無沙汰しています。久しぶりです、タカミチ」

「やあ、しばらく見ないうちにまた大きくなったね、ネギ君。
 それとそんなにかしこまらなくても大丈夫だよ」

「いえ、習った日本語がこういうものなので…………。
 逆に変えろと言われた方が困ってしまいます」

「HAHAHA、そうなのかい。それでは改めて。
 ようこそ、麻帆良学園へ。ネギ・スプリングフィールド君」


 などと会話しつつ、目的地に向かいます。
 初めて「」で台詞を喋った気がしますが置いておきましょう。

 それにしても…………久しぶりの日本だけど麻帆良だからですかね?
 前世の記憶にある日本とは違うなぁ…………。





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 そして学園長室に連れていかれ、学園長とご対面。
 …………うわぁ、やっぱりぬらりひょんだよ、この学園長は。


 二次創作のテンプレならここで

「うわっ!? ぬらりひょん!?」

 とか

「この学園は妖怪が学園長を務めているのですかっ!?」

 とでも叫ぶのでしょうが、自分はやめておきます。


 ここはもう麻帆良なんです。並行世界の麻帆良なんです。
 どんなキャラ崩壊が待ち受けているかわかりません。
 どこに地雷が埋まっているかわからない今、穏便に済ませることが出来るならそれに越したことはありません。

 ………………ウェールズ帰りたい…………けど、帰ったら帰ったでネカネ姉さんが…………。
 何この究極の選択?



 そして今後についての打ち合わせを学園長達としたところ、自分は教育実習生としてタカミチが担任をしている2-Aの担任補佐をするようです。
 …………原作からやっぱり違ってきてます。タカミチが出張ばかりなのは変わらないようですが。


 三学期開始と同時に担任補佐として赴任ですか。
 それまでは日本の学校のことや書類の書き方、麻帆良のことなどを勉強すると。

 アーニャが転校生として麻帆良にやってくるのもそのぐらいになるので、同時のタイミングで就任と転校ということになりそうです。
 …………勉強に時間かけすぎです。その間になーんかありますね。





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 タカミチが2-Aのホームルームのために退席した後、緑茶と和菓子をご馳走になりながら世間話をします。
 羊羹うめぇ。



「…………ところでネギ君や、ちょっと会ってほしい人がいるのだがいいかね?」

「は? 別に僕は構いませんが…………」


 来ましたよ。なーんかあると思ってたら、なーんか来ましたよ。
 誰だ? このタイミングで自分と会うような人なんかいるか?


「なに。君のお父さん。
 ナギ・スプリングフィールドの知り合いじゃよ………」


 ナギの知り合い? アルビレオ・イマとか? というかなんで学園長の声が暗いの?

 でも、あの人は図書館島の奥深くにいて、出て来れないはずですよね。学園祭のとき以外。
 それよりあの人原作でも変態っぽいから、キャラ崩壊の倍率ドンで更なる変態化してたらどうしましょう?


 …………やべ。
 カモ君のことアルちゃんって呼んでるけど、あの変態が“アルちゃん”という呼び名に反応したらどうしよう…………。





 そしてしばらく時間が経ったころ、学園長室の外に人の気配を感じました。それも複数。
 ノックのあとにガチャ、と扉が開けて入ってきたのは…………葛葉刀子先生とシスター・シャークティー? 案内役か?
 その2人の後から入ってきたのは、小柄で、金色の長い髪で、美しいというよりは愛らしい。だけど数年後には絶世の美女と呼ばれるであろう、麻帆良学園本校女子中等学校の制服に身を包んだ少女でした。


 …………もしかしなくてもエヴァさんじゃね?
 “闇の福音ダーク・エヴァンジェル”じゃね?
 やけに力の篭った目で自分を睨みつけてくるこの人って、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんじゃね?

 何ですか、この状況?
 エヴァさんがなんでこの時点でネギと会うんですか?
 しかも学園長の紹介で?





「この子はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。さっきも言った通りナギの知り合いじゃよ。
 高畑先生が担任をしておる2-Aの生徒でもある」

「そ、そうですか。初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。
 三学期からですが、2-Aの担任補佐として赴任することになりました。これからよろしくお願いします」





 …………。

 ……………………。

 ………………………………反応がありません。自分を睨みつけてくるだけです。

 え? これどうすんの?





「…………えーっと、父の知り合いということですが、一体どういうご関係なんでしょうってヒィッ!?」


 ちょ、地雷踏んだ。なんかよくわかんないけど地雷踏んだ。
 殺気混じった。自分を睨みつけてくる視線に殺気が混じってきました。
 なんか変なこと口にしましたか? 自分?


「そう睨みつけるのはやめなさい。ネギ君が怯えてしまっているじゃろうに。
 エヴァ、この子がナギの息子であるネギ・スプリングフィールド君じゃ」


 助けて! ぬらりひょん!(野比の○太風に)

 って、僕とは眼鏡しか共通点無いじゃないか!?

 いや、現実逃避はここまでにしましょう。
 やばいぞ、これは。エヴァさんに敵としてロックオンされてそうだ。





「………………れが」





 イエス、マムッ!!!
 何でございましょうかっ!?





「いったい!? 誰が!? ナギの息子だぁっ!?」





 ヒィッ! そんなこと仰られましてもミス・マグダウェル。子供は親を選べませんです。
 いったいナギはエヴァさんになにをやったんだぁっ!?





「私にとってこのぼーやは!!!
 どこの誰とも知らぬ泥棒猫の子供でしかないわっ!!!」





 ワーニンッ! ワーニンッ!! ワーニンッ!!!

 そっちなんですね! ナギのことじゃなくて、そのお相手のことなんですね!?

 キャラ崩壊来ました! よりにもよってエヴァさんですか!?
 しかも“泥棒猫”発言! もしかして“ヤンデレ”ですかぁっ!?


 何それ!?
 “ヤンデレな闇の福音ダーク・エヴァンジェル”なんて最悪の組み合わせじゃないかっ!!!



[32356] 第5話 闇の福音がこんなに○○○○わけがない
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/22 21:26



「…………一体、どういうことなのだ?」



 全然自分にもわかりません。何故、ゴゴゴゴゴ、と夜叉のオーラを放っているエヴァさんが目の前にいるのかわかりません。
 今すぐウェールズに帰りたいなぁ。



「15年前だぞ、15年前…………!」



 アーニャの買い物に付き合って荷物持ちにされたいなぁ。
 ネカネ姉さんの魔法実技授業で校庭の隅でガタガタふるえて命乞いしたいなぁ。
 アルちゃんの原作から思いっきり離れたしおらしさで微妙な気持ちになりたいなぁ。

 …………まだアルちゃんに“お兄様”って呼ばれるのは違和感があるんですよねぇ。



「私がナギに『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』をかけられたのが15年前。そのときに3年経ったら解きに来るといわれた。
 そしてこのぼーやは9歳だ」



 現実逃避してる場合じゃありませんね。いつでも逃げれる準備しないと。
 というか学園長たちは何を考えてるんだ?
 刀子先生とシスター・シャークティーは気の毒そうな顔してこちらを見てくるだけだし。



「私にかけた呪いを解く暇はなかったくせに、子供をつくる暇はあったというのか………っ!」



 タカミチ!? タカミチは何処に!?
 自分の担任している生徒なんだからなんとかしてくださいよ!



「………待ってたのに」




 はい、うちの駄目親父が申し訳ありませんでした。土下座して謝りますから許してください。
 まだあの駄目親父はコッソリ生きてるんです。ですので想いをぶつけるのはそちらにしてください。

 って、アレ? ………エヴァさん泣いてる?









「待ってたのに……待ってたのに待ってたのに待ってたのに。ずっとずっと待ってたのに。
 ちゃんとナギの言うとおりに学園の警備員としても頑張ったのに。
 …………どうしてナギは私に会いに来てくれなかったの?」



 …………きっと夏休みの宿題をしない男子中学生のごとく伸ばし伸ばしにしていて、遂にはいけなくなったんでしょう。
 いや、というか泣かないで。そんなボロボロという形容詞が似合う涙を流さないでください。



「来れないなら一言ぐらいあってもいいのに。
 電話でも、手紙でも、人伝でも、なんでもいいから……ぅぐっ、ぇぐっ」



 刀子先生とシスター・シャークティーがエヴァさんを宥めはじめました。
 だけどお願いですから自分のこの混乱具合も宥めて欲しいです。
 そしてタカミチ、いつの間に部屋に入ってきた?



「ぅぐっ、料理もできるように、ぇぐっ、なったのに。
 …………洗濯も、掃除もちゃんとできるようになったのに………う、うううぅぅぅ!!!」



 崩れ落ちるエヴァさんを刀子先生とシスター・シャークティーが支えて心配しています。
 だけどお願いですから自分のこの混乱具合も心配して欲しいです。

 ………………それにしてもエヴァさんが家事一般の勉強? キャラ崩壊しすぎじゃね?
 ヤンデレっぽい感じがなくなったのは助かりますが。





「すまんのぉ、ネギ君。我慢すると約束してたのじゃが…………。
 これでは君も何のことかわからんじゃろう。
 説明するから刀子先生とシスター・シャークティーはエヴァを別室に…………」

「い、いえ。僕が別の部屋に行きましょう。とにかく今はマグダウェルさんを落ち着かせてください。
 タカミチは事情をわかっているんですか? わかってるんなら説明をお願いします」





 とにかく今すぐ混沌としたこの部屋から脱出させてください。それだけが私の望みです。





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「すまなかったね、ネギ君」

「いえ、とにかく説明をお願いします、タカミチ。
 父さんが関わっているのはなんとなくわかりましたが………」

「ああ、実はエヴァはね………」





 タカミチから説明してもらいましたが、エヴァさんがこの学園に来るきっかけは原作と変わらないようです。
 ただし、原作と違うのはこっから。


 エヴァさんは見事に恋する乙女になったようです。
 「ナギに頼まれたから」の理由で学園の警備員として頑張り、「ナギにおいしい料理を食べさせたいから」の理由で料理を頑張り、etcetc。
 エヴァさんは見事に恋する乙女になったようです。

 …………どうしてこうなった?


 そして3年経って、呪いを解きにナギが来なくても「ナギにはなにか理由があったんだ」と健気に待ち続け、更にナギ死亡の噂が流れても「ナギが死ぬはずがない」と健気に待ち続けました。

 が、それもナギの息子である自分、ネギ・スプリングフィールドの存在を知るまで。
 自分の事を聞いたエヴァさんは理解するまで数分かかり、理解した瞬間気絶したそうです。
 よくよく考えてみればエヴァさんに対して酷い話ですよね。





“あ………ありのままに起こった事を話すぞ!

「私はナギに「待っていろ」と言われて待っていたら、
 いつのまにかナギは他の女と子供をつくっていた」

 な……何を言っているのかわからないと思うが、 
 私もどういうことなのかわからなかった。

 頭がどうにかなりそうだった………。
 “男の甲斐性”だとか“裏切り”とかそんなチャチなもんじゃあ、断じてない。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぞ…………”





 といった感じでしょうか?
 …………ハナっからそういう関係じゃなかったんじゃね? というツッコミはしない方がいいですね。


 あ、学園結界はちゃんとエヴァさんの能力を封じているそうです。
 といっても封印したのは攻撃力だけで、不死性に関しては封じてないそうです。

 え? なんで不死性に関しては封じてないのかって?



 …………自殺防止だそうです。 キャラ崩壊しすぎじゃね?





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「はあ、そういう事情だったんですか…………」



 麻帆良に来た初日でもうお腹一杯なんですが。



「そ、それでエヴァにかかっている『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』を解くためにネギ君に協力して欲しいんだ」

「協力ですか? 事情を聞いた以上それは構いません。
 というか是非とも協力させてください。血を提供すればいいんですか?」

「いいのかい? ありがとう、助かるよ。
 さっきも言ったとおり彼女は15年もの間、ずっと中学生を繰り返していてね。
 せめて『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』からだけでも解放してあげたいんだ。」


 …………うちの駄目親父が申し訳ありません。
 誠心誠意『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』解呪に協力させていただきます。





「高畑先生、ネギ君。エヴァンジェリンが落ち着いたそうです」


 ノックして部屋に入ってきたのは黒い肌でタラコ唇の長身男性。ガンドルフィーニ先生ですね。

 …………この人いわゆる“正義の魔法使い”志望で頭が固いんでしたっけ?
 そんな人がこの件で文句もなさそうに動いてるってことは、エヴァさんは麻帆良に受け入れられてるっぽいですねぇ。
 特に葛葉先生やシスター・シャークティーみたいな女性陣は完璧味方になっているでしょう。


 あ、ガンドルフィーニ先生にも幼い娘さんがいるんだったっけ?
 だったら他人事じゃないですね。そんな仕打ちを自分の娘にされたら怒るでしょうし。





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「さっきは済まなかったな、ぼーや…………」



 学園長室に戻ってきた自分たちを迎えたのは、泣き止んだエヴァさんでした。
 だけど目がまだ赤く、腫れぼっています。よっぽどナギのこと好きだったんでしょうねぇ。



「…………本当はわかっていたんだ。実際ナギと私は何もなかったんだからな。
 助けてもらったときに手を繋いだぐらいで、それ以外は頭を撫でてもらえるだけだった。
 でも…………それでも、私はナギのことが…………ぅぐっ」



 お願いですからもう泣かないでください。泣きたいのはこちらです。

 だけどその泣き顔にキュンと来た駄目人間な自分でした。
 なんでこんなに原作と違って可愛くなってるんだ? 闇の福音がこんなに可愛いわけがない。
 駄目だ、この人。早くなんとかしないと…………。





 待て、慌てるな。これはテンプレの通りだ。
 エヴァさんの呪いを解き、15年間もこの学園に縛りつけた駄目親父の所業を謝るのはテンプレ通りだ。
 そしてエヴァさんと良い関係を築き、京都修学旅行での事件を手伝ってもらうのもテンプレ通りだ。

 何も問題はありません。
 自分はテンプレ通りに進めています。





「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんっ!!!」





 キリッとした声を出し、エヴァさんの前に進んでしっかりと目と目を合わせます。
 そして自分は、





「タカミチから聞きました。女性にそんなことするなんて最低な駄目親父です。
 駄目親父がしたことの責任は僕がとります。
 どうぞ僕の血を吸って呪いを解いてください」





 と土下座して謝りました。









 …………。

 ……………………。

 ………………………………テンプレ通り、ですよね?



[32356] 第6話 家族
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/22 21:27



「…………ぅ、ふぁ、もうちょっと優しく…………」














 こんばんは。初めて血を吸われる感覚に戸惑って、変な声を上げてるネギです。

 エヴァさんの甘い声だと思いましたか? 残念。僕ですよ、僕。


 あの後、自分がしばらくホテル暮らしをして住居を探すことをエヴァさんに知られたところ、エヴァさんの家に居候させてもらえることになりました。
 アーニャとアルちゃんが麻帆良に来たら、彼女たちも一緒に住んでいいそうです。
 おそらく学園長たちはこれを狙っていたんでしょうね。何も言いませんでしたし。
 タカミチはすぐに出張しなければいけないらしく、自分の面倒はみていられないそうですから。

 それに加え、これから定期的にエヴァさんに血を提供しなければならないので、食生活を含めてエヴァさんが面倒見てくれることになりました。
 本当にエヴァさんは料理を習っていたみたいです。茶々丸さんの手を借りずに、とても美味しい料理をご馳走してくれました。


 …………本当にキャラ変わってるなぁ。
 むしろ、このエヴァさんが自分の好みに思いっきり直球でストライクだったので、一緒に生活できてラッキーなんですが。


 でもマズイです。エヴァさんが可愛くてクラクラしてきました。
 エヴァさんはソファーに座った自分と向かい合った状態から、首筋に歯を突き立てて血を吸っています。
 さっきから「エヴァさんの髪の毛サラサラしてるなぁ」とか、「エヴァさんは良い匂いするなぁ」とかしか考えられません。

 エヴァさんの背中に手を回して抱きしめたらあったかくて気持ちいいんだろうなぁ…………。



「んひゃっ!!!」



 うわ、血を吸い終わったエヴァさんに首筋舐められたら変な声出してしまいました。
 邪な考えを見抜かれたのでしょうか?



「ふう、美味しかったよ、ぼーや。ありがとう。
 だけど疲れてるんじゃないか? ちょっと血が濁っているぞ」



 確かに疲れてましたけど、この数分で更に疲れました。
 子供でよかった。大人だったら絶対エヴァさんに反応してしまいます。



「確かにちょっと疲れてます。
 初めて飛行機に乗って、初めてウェールズの外に出ましたから」

「そうか、すまないな。それなのに血を吸わせてもらって。
 ああ、血を失ったばかりなんだからあまり動くな。水分を摂ったほうがいい。
 茶々丸、ぼーやに飲み物を」

「了解しました。少々お待ちください」



 …………茶々丸さんは原作とは変わりがないようです。
 まあ、茶々丸さんは原作中に成長して、どんどん機械っぽさがなくなっていくというか、人間みたいになっていきますからね。これからどんな風に変化していくかまだわかりません。
 せっかく一緒に暮らせるんです。キャラ崩壊しないように気をつけて見守っていきましょう。





「さっきも言ったが血を提供してくれてありがとう。
 さすがに中学生を15年も続けていると飽きてしまったからな。
 この学園から出て行く気はないが『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』は解除しておきたい」

「そんなに気にしないでください。血でよかったらいくらでも提供しますよ。
 駄目親父の仕出かしたことの償いです。マグダウェルさん」



 自分の隣に腰を下ろしたエヴァさんにお礼を言われます。

 いえいえ、エヴァさんとは仲良くなりたいですからね。
 京都修学旅行のときにはよろしくお願いしますよ。



「顔色が悪いな。少し血を吸いすぎたかもしれん。
 …………ほら横になるといい」


 うおっ! エヴァさんの膝枕キタコレ!!!
 しかも頭も撫でられています。

 駄目だ。顔が赤くなるのが止められません。


「それと“マグダウェルさん”という呼び方はやめろ。
 これからは家族として一緒に生活していくんだ。家族を名字で呼ぶなんておかしいだろう」

「は、はい。ありがとうございます」


 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
 エヴァさんの優しい声と太ももの感触に引き込まれそうになります。
 マズイ、本気で惚れそうだ。


 何でナギはエヴァさんを振ったんだ!?
 勿体なさすぎる。惚れてまうやろー。

 チラとエヴァさんの顔を見上げると目が合い、ニッコリと笑いかけられました。
















「“お母さん”と呼んでくれてもいいんだぞ?」

「坊ちゃま。紅茶をお持ちしました。
 砂糖とミルクはどうしますか?」
















「………………いえ、さすがにそれはお断りします。エヴァさん。
 砂糖はいりません。ミルクたっぷりでお願いします。それと“坊ちゃま”は止めてください。茶々丸さん」



 そういうオチだと思ったよコンチクショウ!!!

 クソッ! なんて並行世界だ!
 ぜんぜんナギのこと諦めてないなぁ、この人は!!!



「な、何故だ!? 何故“お母さん”と呼んでくれないのだ!?」

「しかし坊ちゃま。
 坊ちゃまはマスターの御子息となられる御方ですので、“坊ちゃま”と呼ぶのは当然のことかと…………」

「この幼い姿がいけないのか!?
 確かに実年齢は600歳を超えているとはいえ、同じくらいの年齢に見える女性を母と呼ぶのは抵抗があるかもしれんな。
 だが安心しろ、ぼーや。そんなもの幻術を使えば何とでもなる!!!」

「いえいえいえいえいえ! そういうことじゃありません」

「ならばどういうことなのだ!? 私はぼーやの母に相応しくないとでもいうのか!?」



 ああ、もう。どうすりゃいいんだこの人は!?

 これから世話になること考えると機嫌損ねるのは後が怖いし。
 ていうか泣きそうにならないでください。お願いします。



「ぼ、僕は3学期から教育実習生として、エヴァさんたちのクラスの担任補佐をすることになっています。
 そんな僕が生徒のことを“お母さん”と呼んだり、生徒に“坊ちゃま”と呼ばれるのはおかしいと思います」

「た、確かにそうだが。…………く、それでも、せっかく…………」

「僕はここへ修行のためにやってきました。それなのにエヴァさんに甘えてしまったら修行になりません。
 僕のことを考えていただけるならお願いします、エヴァさん」

「む、むうううぅぅぅ…………。
 ぼーやがそこまでいうならしょうがない。ちゃんと学校では“ネギ先生”と呼んでやろう。
 茶々丸、お前もだ」

「了解しました。学校では坊ちゃまのことを“ネギ先生”とお呼びします」

「いえ…………坊ちゃまと呼ぶこと自体を止めて欲しいんですが」



 2-A連中にばれたら絶対大騒ぎになってしまいます。



「さて、今日はもうお開きだ。
 明日はぼーやの身の回りのものを買いにいかなければならないからな。忙しくなるぞ。
 風呂に入って早めに休むとしよう」



 無視ですか…………。
 いいですよ、もう。もう疲れました。好きにしてください。















「よし、では一緒に風呂に入ろうか?」

「お断りしますっ!!!」

「何故っ!? くっ、これが反抗期というやつなのか!?
 私は諦めんぞ。必ずぼーやに“お母さん”と呼ばれてみせる!!!」



 クソッ! なんて並行世界だ!!!





━━━━━ 後書き ━━━━━



 とりあえず今回の投稿はここまでです。
 Arcadiaでの本格的な投稿はこれが初めてですので、まずはここまでで様子見をします。

 行間の取り方などの書き方に問題ありましたらご指摘お願いします。



[32356] 第7話 麻帆良での生活①
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/25 11:41



 おはようございます。ネギです。

 朝起きたらエヴァさんがニコニコと微笑みながら自分を見ていました。
 寝顔を見られていたようです。勘弁してください。


 それでエヴァさん作の朝食を頂いた後、身の回りのものを買いに行くこととなりました。
 あ、茶々丸さんは紅茶を淹れてくれたんですけど美味しかったですよ。










「こんなに少なくていいのか? やはり私がお金を出すから、もうちょっと揃えたほうがいいのではないか?
 遠慮することはない。学園の警備員として15年間働いてきたから蓄えはある」

「いえいえいえいえいえ! 大丈夫です!
 そこまではご迷惑かけられませんです」



 …………ああ、もうこの人は。
 過保護ぶりはネカネ姉さん以上です。キャラ崩壊しすぎでしょう。

 ちなみに今エヴァさんは幻術を使って大人の姿になっています。
 平日の昼間なので子どもの姿で買い物をしていたら補導されてしまうから、と言われましたが、母親気分を味わいたいだけでしょうね。
 自分と手を繋いでニコニコとご機嫌ですから。



「ふむ、そうか。
 まあ、今日全て揃えなくてもいいからな。欲しいものや必要になったものがあったらいつでも言うがいい。今度また買いに来よう、一緒にな。
 それでは茶々丸、お前は家に買ったものを置いて来い。
 私達は少し休憩したら麻帆良を散策するとしよう。ぼーやの見たがっていた図書館島や世界樹でも見に行こうか」

「了解しました。マスター」

「わかりました。
 すいません。お願いしますね、茶々丸さん」



 …………ふう、ネカネ姉さんやアーニャで慣れてるとはいえ、着せ替え人形にされるのは疲れます。
 アルちゃんが使い魔になってからは、生贄が増えたので少しは楽になりましたが。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「…………もしかしてエヴァンジェリンか?
 何をやっているんだ、学校サボって?」



 おや? いつのまにか学校が終わる時間となっていたようです。
 オープンカフェで休憩していたら制服姿の背の高い、褐色の肌とストレートロングの黒髪と三白眼が特徴的な女子に話しかけられました。

 この人は……龍宮マナさん、ですね。
 おお、2-A生徒と会うことが出来ました。



「アルカナか。何、このぼーやの買い物だよ。
 説明されただろう。このぼーやがネギ・スプリングフィールドだ。」



 …………アルカナ? 龍宮じゃなくて?
 いや、本名は“マナ・アルカナ”だったはずだからいいのか。
 とはいえ原作と違いがありますね。



「今のエヴァさんのことがわかるということは関係者の方ですか?」


 今のエヴァさんは幻術使って大人になっていますからね。
 ということは原作通りに龍宮さん、じゃなかった。アルカナさんは魔法関係者ということです。


「ああ、マナ・アルカナという。エヴァンジェリンとはクラスメイトで、警備員としても働いているから同僚でもある。
 君がネギ・スプリングフィールドか。話は聞いている。3学期からよろしく頼む」

「はい、3学期から2-Aの担任補佐として赴任するネギ・スプリングフィールドです。
 こちらこそよろしくお願いします」

「アルカナは中学生ながら傭兵紛いのことをしていてな。普通の魔法先生よりも頼りになる。覚えておくといい。
 といっても、なにか頼むとなると依頼料が発生するから気をつけておけ」

「はは、酷い言い方だな。ま、初回は安くしておこう。
 何かあったら気軽に依頼をくれればいい」

「はい、そのときはお願いしますね」



 ふむ、エヴァさんがここまで言うなら原作通りアルカナさんは頼りになるということですね。
 是非とも仲良くなりたいところです。

 …………エヴァさん本気でナギのこと諦めてくれないかなぁ。マジで惚れそうなんですけど、どうしましょう?
 それともやはり新しい恋に生きるしかありませんかね?
 アルカナさんみたいなクールビューティーは好みの女性ですし、頑張ってみましょうか。
















「コウキと待ち合わせしていてな。同席しても構わないだろうか?」



 はい、新しい恋は5秒で終わりを告げました。コンチクショウ。
 …………恋人さん生きてたんですか、そうですか。



「そういえばおめでとう、エヴァンジェリン。“登校地獄”が解呪できるんだって?
 3年になったら修学旅行があるけど、それには行けるのかい?」

「ああ、ぼーやから血を分けてもらえることになってな。
 修学旅行か。まあ、半年近くあるなら多分大丈夫だろう」


 修学旅行でエヴァさんが参戦してくれる確率がアップしました。
 死亡確率がこれでグンッと減りましたね。久しぶりの嬉しい知らせです。


「それはよかった。私からも礼を言うよ、ネギ君」

「いえいえ、僕の駄目親父が仕出かしたことへの償いですよ。
 御礼を言われることではありません」



 何だかアルカナさんが原作よりも優しいというか柔らかいというか、少し感じが違うように思います。
 恋人さんが生きてるからでしょうかね? 何か幸せそうです。

 …………ネカネ姉さんみたいな極端なキャラ崩壊は嫌ですが、こういう風にキャラが幸せそうになっているのなら嬉しくなりますね。


 あ、そういえば住居が決まったことネカネ姉さんたちに知らせないとなぁ。
 一応“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”の家だし、一緒に住むアーニャへはネカネ姉さんから伝えてもらうことにしましょうか。
 ネカネ姉さんならおそらくエヴァさんの事情は知っているでしょうから。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 その後、アルカナさんと別れ、図書館島や世界樹を見に行き、麻帆良をブラブラと散策しました。
 当然一日では回りきれず、回れていないところはまたエヴァさんと出かけることとなりました。

 …………どうせ、大人姿のエヴァさんと一緒に行くことになるんだろうなぁ。
 まあ、子ども姿のときに2-A生徒と会うとどうなるかわかりませんから、丁度良いといえば丁度良いんですが。


 そして現在日本時間18:30。イギリスとの時差は9時間ですから、ネカネ姉さんに電話しても時間的に大丈夫でしょう。
 NGOとして世界中飛び回っているネカネ姉さんは携帯電話を持っているのでそれに掛けてみます。


 prrrrr……、prrrrr……、prrrrr……、prrrrr……。


 なかなか出ませんね。非常勤教師もやっているから今授業中でしょうか?

 …………お、繋がった。








「やあ、どうしたんだい? ネギ君?」








「……。

 …………。

 ………………ネカネ姉さんの携帯に掛けたんですけど、なんでタカミチがでるんですか?」



 昨日エヴァさんとの話し合いが終わった後、出張に出たはずのタカミチが何故?
 しかも、何か電話の後ろの方がうるさいし。ガヤガヤと騒いでる音がします。



「いや、ネカネさんなら今寝ていてね。
 ディスプレイ表示でネギ君からの電話とわかったけど、起きそうにないから代わりに僕がでたんだよ」

「寝ているってなんですか!?
 何でネカネ姉さんが寝ているところにタカミチがいるんですか!?」


 ちょ!? 何があった!?


「え? いやいやいやいやいや! 変な意味じゃないよ!
 昨日大きな仕事が終わってね。それでNGOの皆で宴会を始めたらしいんだ。
 遅れた僕は仕事が終わった後にこちらに着いたんだよ。
 だから、せめて後始末ぐらいはしようと思って、酔っている皆の世話をしているんだよ」


 …………焦った。
 タカミチを“兄さん”と呼ばなきゃいけなくなるかもしれないと本気で焦った。
 ヘタしたら明日菜さんがヤンデレとなってネカネ姉さんとガチンコバトルになるかもしれないし、自分に悪感情を持たれるかもしれませんから助かった。





「エヴァさんの家にお世話になることをネカネ姉さんに知らせようと思ったのですけど…………。
 それとアーニャにそのことをネカネ姉さんから伝えてもらおうかと思いまして」

「ああ、そういうことか。
 それじゃあ僕の方からも伝えておくけど、明日ぐらいにもう一度電話するといいよ。そのときならネカネさんも復活しているだろう。
 それとネカネさんはエヴァのことを知っている。大騒ぎになることはないから安心していいよ」



 やっぱり知っていましたか。
 NGOとしてタカミチと一緒に働いているネカネ姉さんなら知っていると思ってましたが。
 それならアーニャのフォローは任せることが出来そうですね。



「それにしてもウェールズはもう朝の9時でしょう。まだ宴会をしているんですか?」

「ああ、ここはウェールズではなくてトルコのイスタンブールだよ。現地時間では昼の11時になるかな。
 仕事が終わったのが夜で、その後始末が一段落着いたのが深夜でね。
 宴会が始まったのは今日の夜明け前からなんだ」

「そんなに朝早くから宴会って……。もう皆さんいい年した大人でしょうに」

「ハハハ……耳が痛いね。
 けど、今回だけは勘弁してくれないか。事後処理がまだ残っているけど、何年にもわたった仕事がようやく片付いてね。皆ハイテンションなんだよ。
 その事後処理というのも油断出来るわけじゃないけどね」


 電話の後ろの方から聞こえてくる声もなんだか弾んでますしね。
 …………なんだか吐いてる音も聞こえますけど。








「オエエエェェェーーー!!!」「おーい、こいつ吐いたぞ!」「タカミチ! バケツ持ってきて!」「相変わらず酒に弱いなぁ、ハハハハハ!」「いやぁ、私この仕事が終わったら恋人にプロポーズしようと思っていましてね」「おお! おめでとう」「アーウェルンクスの首、獲ったどーーー!!!」「酒なくなったぞ!?」「タカミチ! 酒買ってきて!」「これで終わりましたね」「ああ、早く子どもたちに逢いたいよ」「子どもが生まれたんでしたっけ?」「うん、男の子と女の子の双子だよ」「イスタンブール魔法協会の人来てるんだけどどうするー?」「タカミチ! 説明してきて!」








 ……。

 …………。

 ………………今、変なの聞こえませんでした?


「ああ、もう大変だ。
 それじゃあ、ネカネさんが起きたら伝えておくよ。エヴァと仲良くね」

「ちょ! ちょっとタカミチ!!! 待ってくだ「ブチッ!」さい…………」








 ……。

 …………。

 ………………えーと?


 死亡フラグを叩き潰した人がいて何よりです。うん。



[32356] 第8話 麻帆良での生活②
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/25 11:41



 こんにちは。ネギです。

 今日もエヴァさんは学校をサボって自分の面倒を見てくれようとしてましたが、

「ええっ!? エヴァさんって不良だったんですか!?」

 という言葉でようやく1人の時間を手に入れることが出来ました。
 現在、エヴァさんと茶々丸さんは学校に行ってます。


 …………あの人、悪い男に騙されるタイプの女性ですね。
 その悪い男というのが、自分の実の父親であることに心が折れそうになりますが。





「ケケケケケ。オ前ガ言エルコトカヨ」

「人聞きの悪いことを言わないでください、チャチャゼロさん。僕のどこがあの駄目親父と似てるんですか?
 僕はただエヴァさんに質問しただけですよ」


 1人の時間は手に入れましたが、残念ながら1人と1体の時間になってしまいました。エヴァさんより護衛役を命じられたチャチャゼロさんです。
 とはいえ“坊ちゃま”と呼んでくる茶々丸さんが付いてくるよりは、チャチャゼロさんの方が気楽に付き合えます。


「ムシロアノ男ヨリ悪インジャネーカ? ゴ主人ニモ呆レタモンダゼ」

「この件については実の父よりも、育ての姉の方に責任があるかもしれませんがね」

「…………“破壊ノ魔女”ニ育テラレタンダッタカ、オ前ハ?」

「何でいきなりそんな憐れんだ表情になるんですか?」


 ネカネ姉さんはいったい何をやっているんですか? “破壊の魔女”という名前は初めて聞きましたよ。
 身内に魔女が多いですね、自分には。


「午前は図書館島探索です。人前では喋らないでくださいよ」

「ワカッテルヨ。寝テルカラ何カアッタラ起コセ」

「……護衛の意味ないじゃないですか」



 なんでこんな人形で、原作と一緒だなぁ、とホッとしなきゃいかんのでしょうか?
 昨日は入り口から中を見渡したぐらいで、本格的な探索はこれからです。
 といっても、今日だけでは図書館島の一般人進入可能区域をぐるっと回るぐらいしか出来ないでしょうが。





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 昼になり、家に戻って茶々丸さんが用意しておいてくれた昼食をレンジでチンして食べます。

 午後は家の裏手で魔力制御の自主訓練です。日本に着てから訓練をサボっていましたから、基礎から訓練し直しです。
 ちゃんと修行をしていた自分ならくしゃみで武装解除発動なんてことはありませんが、それでも基礎は大事ですからね。


 そういえば近いうちにエヴァさんに弟子入りしなきゃいけませんが、弟子にしてくれますかね?
 何だか「ぼーやが戦う必要はない! 私が守ってやろう!」と断られるかもしれない気がしてきました。

 キャラ崩壊しすぎです、あの人は。


 となると、うまい言い訳を考えとかないといけませんね。
 でも「守りたい世界があるんです!」のようなことをヘタに言ったら、

「何と! ぼーやは私を守ってくれるのか!
 私を母と受け入れてくれたんだな!」

 とか誤変換して暴走される危険性がありますので注意しないと駄目っぽいです。

 本気でキャラ崩壊しすぎです、あの人は。





「地味ナ訓練シテンダナ。ソレジャ退屈ダロ。
 ヨシ、オレガ相手シテヤロウ、実戦形式デナ」

「お断りします。チャチャゼロさん。
 エヴァさんの『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』が解呪されるまでは血の無駄遣いは出来ませんから」



 その後2時間ほど訓練し、3時のお茶で休憩した後は魔法の勉強ですが、ボールペンのインクがきれていたのに気づきました。
 もちろん予備のボールペンぐらいは持っていますが、せっかくなので散歩がてら買いに行くことにします。
 1人で麻帆良を歩いてみたかったし、ちょうど下校時刻と重なっているので2-A生徒を見かけるかもしれませんしね。





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 ………………いました。

 いましたよ、多分。2-A生徒らしき人とすれ違いました。


 “せっちゃん”と“このちゃん”で呼びあっていましたから、近衛木乃香さんと桜咲刹那さんでしょうか?
 “このちゃん”が京都弁で喋っていたし、多分そうだと思うんですが…………。

 あ、何で疑問系なのかは、“せっちゃん”が日傘を差していたせいで2人の顔がうまく見えなかったからです。


 それであの2人が近衛木乃香さんと桜咲刹那さんだったとしたら。原作との違いはまず仲の良さなんですが…………。

 ふむ、“せっちゃん”は標準語で話してたことから、原作通りに中学からこっちに来たんですかね?
 小学生で一緒に来たんなら、おそらく2人とも京都弁を話してるでしょう。


 そして“せっちゃん”の髪の毛が白かったです。
 確か桜咲刹那さんは烏族と人間のハーフでアルビノなんでしたよね。原作でも染めてるようなこといってましたので。

 むう…………木乃香さんは刹那さん生まれのこと、ひいては魔法を知ってるんでしょうか?
 それともただアルビノということをバラしてるだけ?
 これは修学旅行に関わってくるかもしれないから、注意しておいた方がいいでしょう。





 それと“せっちゃん”はあきらかに関係者でしたね。
 “せっちゃん”が差している日傘が、その……なんというか…………長かったです。1m以上ありました。具体的にいうと野太刀ぐらいありました。

 しかもなんだか日傘の柄が妙に曲線を描いていました。





 ……仕込み傘?





 まあ、日光に弱いアルビノだから日傘を差すのは怪しまれないし、護衛方法としては悪くないんでしょうかね?









 微妙な気持ちになりながらもボールペンを買って家に帰って勉強していたところ、日が暮れた頃にエヴァさんたちが帰ってきました。
 …………帰ってきたのはいいんですが、


「お帰りなさい、エヴァさん」


 と玄関に出迎えたところ、何故かエヴァさんが悶絶しました。
 そしてその後何回か「お帰りなさい」を言わされました。何がしたいんでしょうか、この人は?



「遅くなってすまなかったな。
 ジジイに昨日学校をサボったことを注意されてな」

「学校サボっちゃ駄目ですよ、エヴァさん。
 僕の面倒を見てくれるのは嬉しいですが、そのせいでエヴァさんが不良になったら悲しいです」

「いやいやいやいやいや! 私は不良なんかじゃないぞ!
 ちゃんとこれからは学校に行くさ。
 ふふっ、ぼーやに「お帰りなさい」といわれるのも悪くないからな」



 …………それでさっき悶絶してたんですか。



「そうだ、ジジイから伝言があったぞ。
 タカミチが日曜日には帰ってくるらしくてな。月曜から本格的な先生になるための準備を始めるそうだ。
 それまでは麻帆良に慣れておけ、だとさ」



 ようやくきましたか。
 さーて、原作との剥離はどうなりますかねぇ?



「ぼーやが担任補佐か。悪くないな。
 しかし、3学期になったら担任補佐とはいえ、31人の生徒の面倒を見ることになるんだ。それは生徒の一生を左右することだからな。
 頑張るんだぞ」





 やっぱりキャラ崩壊しすぎです、この人。



[32356] 第9話 2-A生徒
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/25 11:53



 こんにちは、ネギです。

 先生になるための教育が始まろうとしています。
 教師役は帰ってきたタカミチです。



「すまないね。仕事が忙しくて、先週はネギ君を放っておいてしまった」

「いえ、エヴァさんには良くしてもらってましたから。
 でもなんというか、ネカネ姉さんが増えたみたいでしたけどね」

「ははは、大変だね」

「それと茶々丸さんが僕のことを“坊ちゃま”って呼ぶの何とかできませんかね?」

「…………僕の方からも少し自重するように言っておくよ」



 切に願います。いや、本当に。



「さて、おさらいだけど、ネギ君には3学期から2-Aの担任補佐をしてもらう。
 担任は僕だから、要するに僕の補佐だね」

「はい。しかし、9歳の僕が先生で、14歳の生徒にものを教えるというのはおかしな話ですね。
 しかも幼馴染で同級生だったアーニャまで2-Aに生徒として転校してきますし…………。
 麻帆良じゃなかったら、こんな修行できなかったですね」

「そ……そうだね。でも大丈夫だよネギ君。アーニャ君のことは君の方がよく知っているだろうし、2-A生徒も皆良い子だから。
 補佐とはいえ、君は3学期から31人もの生徒の指導をすることになる。大変だけど、とてもやりがいのある仕事だよ」



 …………そのやりがいのある仕事を出張ばっかでほったらかしてたのはどこのどいつだ? このデスメガネ。





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 それからタカミチに学校のことや教師の仕事、書類の書き方などを教わり、只今休憩中です。
 タカミチがコーヒーとクッキーを持ってきてくれました。

 原作ネギはコーヒー嫌いらしいですが、自分は好きです。
 ウェールズじゃ紅茶ばっかりだったから新鮮でいいですね。


「それにしても麻帆良は広いですね。先週だけじゃ半分も見て回れませんでしたよ」

「まあ、ここは広いからね。じゃあ、今度の休みにでも、僕と一緒に回ろうか。」

「それは嬉しいんですが、NGOの仕事は大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ、先週のでほとんど終わってね。
 事後処理を油断しなければ良いだけな段階まで来たんだ」


 …………本当に首を獲ったんでしょうか?
 だとしたら京都修学旅行のみならず、これ以降の死亡フラグが軒並み倒れたのですが…………。

 でも、絶対何かあるよなぁ。そんな甘い話があるわけがないはずです。


「まあ、向こうで出来ない仕事を、僕がここでするんだけどね」


 向こうで出来ない仕事? どういう意味でしょうか?


「でも正直、エヴァさんに「お母さんと呼んでくれてもいいんだぞ」と言われたときは参りましたよ。
 多分麻帆良を回るときに一緒についてきますね、あの人は」

「あはは、まったくエヴァは…………」

「まあ、嫌なことなら嫌と自分で言いますけどね。
 駄目親父がしでかしたことの贖罪と思えば、あんな美人に面倒みてもらうことなんてむしろ幸運なことです」

「…………嫌なことじゃないということは、エヴァに“お母さん”になって欲しいのかい?」


 ん? なんか空気が変わりましたよ?


「嫌じゃないというより慣れてるだけですよ。
 ネカネ姉さんと今まで一緒に暮らしてましたからね」

「ああ、そういうことか。ネギ君も大変だったねぇ。
 ネギ君は…………“本当のお母さん”に会ってみたいとは思わないのかい?
 エヴァの件があってから、ナギのことは“駄目親父”としか言ってないのはしょうがないとしても」


 タカミチから見捨てられたぞ、ナギ。というか同情すんな、タカミチ。
 どうせタカミチも昔はナギの無茶に巻き込まれたりしたんだろうし、エヴァさんのことを知っているのだからしょうがないんでしょうけどね。

 …………しかし“本当のお母さん”か。


「まあ、興味はありますね。どんな人だったのか?」

「……それだけなのかい?」

「今のところはそうですね。母親の話は聞けたことないんでどういう人かもわかりませんし。
 何らかの事情があって僕には言えないってことなんでしょうけど、会えるなら会ってみたいとは思いますけどね」


 美人ですしね、あの人。
 「お母さーん!」と抱きついて胸に顔をうずめたいです。


「まあ、それに今は先生になることで手一杯ですから。2-A生徒の方が興味あります」

「そうかい。2-A生徒は皆良い子だから大丈夫だよ。
 …………ネギ君?」

「はい?」

「楽しみにしていてくれ」



 ? そりゃ楽しみですけどね。





「ところで2-A生徒といえば、マナ・アルカナさんに先日お会いしましたよ。
 こちら側の関係者だそうですね。エヴァさんといいアルカナさんといい、2-Aには関係者が多いのですか?」

「ああ、他のクラスに比べれば多いね。まあ、関係者というかアクの強い娘たちが多いんだけど……。
 そうだ、クラス名簿を見てみるかい?」

「そうですね、ぜひお願いします」


 お、クラス名簿を見れるんですか。
 よし、これで2-A生徒のことが少しわかります。



 …………キャラ崩壊してなきゃいいなぁ。





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 ふうむ、一目見てわかる違いはやはり桜咲刹那さんですか。
 良く見れば、他にも何人か見た目でわかる違いがありますね。




出席番号2番:明石 祐奈

 巨乳。以上終わり。
 もう既に巨乳になっていますね。写真でもわかります。眼福です、はい。




出席番号8番:神楽坂 明日菜

 ツインテールじゃありません。
 あとなんだかキリッとしてます。 (`・ω・´)キリッと。
 バカレンジャーじゃないのでしょうか? それとも見た目だけ?
 バカレンジャーじゃなかったら期末テストが楽なのですが。




出席番号15番:桜咲 刹那

 やはり先日見たのは刹那さんでしたね。
 写真に写っている刹那さんの髪の毛が白いです。
 それに確か原作では剣道部に所属してたはずですが、図書館探検部になっていますね。護衛優先?




出席番号19番:長瀬 楓

 ………………書き込みの“バルタン”ってなにさ?
 宇宙忍者なのか? 生身で宇宙空間渡れるのか?




出席番号24番:長谷川 千雨

 …………その猫耳はナンデスカ?
 オタク趣味丸出し!? ちうたんがこんなになってるなんて!!!

 クソッ! なんて並行世界だ!




出席番号29番:四葉 五月

 あれ? この人が発するオーラって、コアラのオーラじゃありませんでしたっけ?
 何か写真でもわかるぐらいに、カンガルーのオーラを発してるんですが。
 まあ、どちらもオーストラリア原産の動物ですからそんな違いはないからいいのかな?

 でもこのカンガルー、この前図鑑で見たプロプレオプスに似てるような気がしますが………………ま、気のせいでしょう。
 …………気のせいですよね?





 なんだか出席番号29番の人でどっと疲れたんですが。
 一応出席番号1から30番まで見たんですが。
 でもまだなんか違和感があります。なんだろう?
 タカミチの書き込みも特には変わってないようなんですが。





出席番号13番:近衛 木乃香

 アレ? …………確か原作では占い研究部? 研究会?に入ってませんでしたっけ?
 でもこの世界では部活は図書館探検部だけですね。

 魔法のことは知らないのでしょうか? それとも知っているからこそ占い研究会?に入っていない?
 これは魔法を既に知っている可能性がありますね。




出席番号18番:龍宮 マナ

 龍宮? マナ・アルカナさんでは? 書き込みが龍宮神社養子?
 まあ、龍宮神社に世話になっているのは変わらないようですね。
 恋人さんが龍宮コウキさんなんだから、その関係で身寄りのないアルカナさんが養子に入ったということでしょうか?

 …………というより、同棲中? 恋人さんと結婚したら龍宮と名乗るようになったりして。
 むしろ結婚しないうちは龍宮と名乗らない意気込みのつもりかな?


 ケッ、世の中に存在するカップルなんて滅びればいいのに。




出席番号30番:ザジ・レイニーデイ

 この人は変わっていてもわからんなぁ……って、アレ?
 ん? んんん? これはおかしいぞ。
















「あの、タカミチ。
 3学期になったら31●●人の生徒の指導をするんですよね?」

「うん? そうだけど。どうかしたのかい?」



 出席番号30●●番:ザジ・レイニーデイ
 つまり出席番号の最後が30●●番。



「……この名簿には30●●人しか載っていないのですが?」



 そうだ、これがおかしいんだ。
 1人足りなくね?





























「え? やだなぁ、ネギ君。
 アーニャ君を入れて31●●人じゃないか」



 …………え? ………………ああ、そっか。
 うん、そうだね。そう考えると間違っていないね。
 だったら今は2-Aは30●●人しかいなくてもあっているね。


 ……。

 …………。

 ………………えーっと、相坂……明石……朝倉……綾瀬……………………………………え?





 出席番号18●●番:龍宮 マナ
 出席番号19●●番:長瀬 楓





 超鈴音いねぇじゃん。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 …………えーっと、何故こんなネタになったかご説明しますと、




 ハッピーエンドにしたいなぁ。

   ↓

 でも、超がいると未来は不幸になってるんだよなぁ。

   ↓

 ふむ、ならば超が過去に来る理由を変えよう。

   ↓

 ネカネが密かに企てていた“逆光源氏計画”が成功し、ネギはネカネと結婚してしまう羽目となった。
 だが、それでもハーレムを諦めることが出来なかったネギは、子孫として生まれる超に遺言を残すのであった。

 「僕をネカネ姉さんの魔の手から救え」…………と。

 そして残酷な過去を変えるために、超は過去へと向かう……。

   ↓

 それ、なんて「ドラ○もん」? 
 の○太=ネギ? ドラ○もん=超? 却下だ却下。

   ↓

 実はいいんちょ以上のショタコンであった超は、ご先祖であるネギの写真を一目見たときに心を奪われた。
 そしてネギと結婚するために、超は過去へと向かう…………。

   ↓

 何そのカオス? 却下だ却下。

   ↓

 むう………………ハッ!? そうだ、閃いたぞ!!!

   ↓

 なに嘴広鴻? 「超が未来から来ると誰かが不幸になる」?
 嘴広鴻、それは無理矢理超の出番を作ろうとするからだよ。逆に考えるんだ。

「超が未来から来なくてもいいさ」

 と考えるんだ。

   ↓

 ふむ。これで誰も不幸にならずに済む。
 こんな解決法を考えたのは自分以外に誰もいまい。HAHAHAHAHAHA。





 ……。

 …………。

 ………………麻帆良学園祭編、完っ!!!



[32356] 第10話 黒執事
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/25 11:42



 こんにちは。ネギです。

 まほネットを巡回していたらニュース速報が流れていました。何でもメガロメセンブリアで政変が起こったそうです。
 まほネットでは大騒ぎになっていましたよ。

 学園長やタカミチは何故かニヤついていましたが。





「その魔法式は違いますな、ネギ様」

「えーと、こうですかね? ヴィルさん」



 そして自分は今、ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン元伯爵に石化魔法を教わってます。
 というか、ヘルマン卿が教育されすぎです。自分をネギ様と呼ぶなんて………………。





 …………どうしてこうなった?





 いや、原因はわかってるんですけどね。
 自分の不用意な一言のせいなんですけどね。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「ぼーや、今日はもう休め。根を詰めすぎたら出来るものも出来ないぞ」

「はい、そうですね。もうこんな時間ですし」


 それは図書館島から本を借りて、石化魔法の勉強をしていたときでした。
 石化魔法を学んで、それを取っ掛かりに石化治療薬を作るつもりだったのです。
 しかし、悪魔の石化魔法なんてものは禁書にも載ってなく、自分で研究するしかありませんでした。


「役に立てなくてすまないな、ぼーや。治療魔法は苦手でな」

「いえ、大丈夫ですよ」

「そうか、悪魔によって石化された人間をを治すなんて一朝一夕ではいかないんだ。
 あせらずじっくりやるといい。明日はせっかくの休日なんだ。また麻帆良を一緒に見て回ろう。
 …………今度はタカミチ抜きでな」

「あはは、そうですね。気分転換も必要ですし。
 でも、やはり石化治癒魔法は難しいですね。麻帆良の図書館島にあった本でも、“今までの方法では出来ない”ということの証明しかできてません。
 間違いを減らすという意味では成功なんですけど、正解があるかどうかわからないのが痛いです」



 そして次の言葉がいけなかったのです。
 ごめんなさい、ヘルマン卿。










「いっそのこと、村の皆を石にした悪魔を召喚して、そいつに石化魔法を教わりましょうか」










「……。

 …………。

 ………………その手があったか。さすがだな、ぼーや。
 ふむ、せっかくの休日だが、明日の麻帆良巡りは中止することにしよう。
 村の人間を石にしたのは確か伯爵級の悪魔だったな。
 それなら私とタカミチとジジイ、あとガンドルフィーニと刀子がいれば問題あるまい。あと結界を作るために一応瀬流彦も呼んでおこうか」



 …………は? あなたは何を言ってるんですか?
 いや、そんだけいればオーバーキルでしょうけど。


「よし、ではちょっと連絡してくる。
 ぼーやはもう寝ろ。明日は忙しくなるからな」





 …………どうしてこうなった!?





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 そして、次の日。
 エヴァさんの別荘に、自分たちと5人の先生が集まってヘルマン卿を召喚しました。



「魂ごと消滅させられたくなかったら、この子に石化魔法を教えろ」

「何を言ってるんだ、君たちは?」



 短いやり取りの後、契約という名の拷問が開始されました。
 特にガンドルフィーニ先生が凄かったです。嫌なことでもあったんでしょうか?


 召喚→消滅→召喚→消滅→召喚→消滅→召喚→消滅→以下エンドレス


 ヘルマン卿が首を縦に振ってくれるまで、上記のような拷問がその後しばらく続きました。
 もちろん消滅といっても魂ごとの消滅ではないので、消滅させられても何度でも無理矢理召喚させられます。

 ごめんなさい、ヘルマン卿。





 このエンドレスエイトが1日続いたころ、ヘルマン卿が何も喋らなくなりました。
 別荘から出れる時間にもなったのですが、


「このままじゃ埒があかないな。ぼーやは一度外へ出ろ。
 これからは大人の時間だ」


 というエヴァさんの言葉によって、自分はガンドルフィーニ先生と刀子先生、瀬流彦先生と一緒に外に出ることになりました。


 …………多分自分が見ていることで少しは手加減してたんでしょうね。

 ごめんなさい、ヘルマン卿。
 別荘の外であなたの無事を祈ってます。
 エヴァさんとタカミチ、学園長という麻帆良三強をそこに残していく自分を許してください。





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 その後自分は3人の先生と休日を過ごしてました。


 そしてここで衝撃の事実が発覚。
 葛葉先生は離婚してないそうです。子どもはまだいないそうですが、仲睦まじいらしいです。夜には夕飯の準備があるので帰っていきました。
 原作では離婚したせいで、再婚焦っていましたからね。良いことです。


 葛葉先生と別れた後、自分とガンドルフィーニ先生と瀬流彦先生の男3人で夕食にいきました。
 ガンドルフィーニ先生は家に帰りづらいそうです。

 家族仲が悪いのか? と不安になりましたが、何でも幼稚園の娘さんに彼氏が出来たそうです。ませてますね。
 家に帰って娘さんと話しても、彼の話ばっかりでいたたまれなくなるそうです。強くもないのに酒を飲み、自分たちに愚痴をこぼしてました。
 それでもヘルマン卿に八つ当たりした結果、少しは気が晴れたようです。

 原作と違うのですが、これは良いことなんでしょうか? 悪いことなんでしょうか?

 そろそろ帰らないといけないので、と瀬流彦先生にガンドルフィーニ先生を任して帰りました。
 瀬流彦先生は縋るような目で自分を見てましたが無視です。


 頑張れ、瀬流彦先生。





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 そしてその次の日、朝起きたら目の前に黒い執事がいました。



「おはようございます、ネギ様」



 …………ごめんなさい、ヘルマン卿。
 自分はあなたを助けることが出来ませんでした。

 まあ、外で無事を祈っていただけなんですけどね。


 エヴァさんに聞いたところ、教育が終わったので執事として働くそうです。
 ダンディーなので執事姿が似合ってます。
 石化魔法も自分に教えてくれるみたいですから、一緒に住むのは全然構わないのですが…………。



「ネギ様。私めのことは“ヴィル”とお呼びください」

「…………はい、これからよろしくお願いします。ヴィルさん」





 ……。

 …………。

 ………………この流れって自分が悪いんでしょうか?

 これから発言するときは、もっとしっかりと考えてからすることにしますね。



[32356] 第11話 弟子入り
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/25 11:46



 こんにちは、ネギです。

 今日はエヴァさんやタカミチと休日恒例の麻帆良巡りです。
 いい時間になったので、昼食のために最近オープンした店に入ろうとしたところ、



「このスープを作ったのは誰だぁっ!!!」



 と厨房に殴り込む、カンガルーのオーラを背負った少女に遭遇しました。



 ……。

 …………。

 ………………嘘だっ!!!





「む、四葉先生があんなに怒るとは…………。
 この店はハズレか。なら別の店に行くとしよう」

「そうだね。四葉先生があんなに怒るなんて滅多にないことだよ」

「え!? あの人先生なんですか!?
 2-A生徒の名簿で見た覚えがあるんですけど!?」



 どうしてこうなった!?



「いや、確かに四葉五月は2-Aの生徒だが、あの方は私の料理の先生でな。
 この学園にきてから15年間料理の修行をしてきたが、14歳のあの方にまったくかなわん」

「あまり言いたくない話なんだけど…………。
 学生食堂の職員が食材のコストを黙って下げ、その差額をポケットに入れる事件があったんだよ。
 だけど四葉先生が一口食べただけでそれを見破ってね。そのおかげで発覚して解決に繋がったのさ。
 それ以来、僕達は四葉先生には頭が上がらなくてねぇ」

「私は四葉先生が部長をしている料理クラブに所属していてな。
 試食会ともなると参加者が抽選で選ばれるほど盛況になるよ」



 …………もしかしそのクラブ名って、“美○倶楽部”とかいいませんかね?
 いや、やっぱりなんでもないです。





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 しょうがないのでエヴァさん行き着けのオープンカフェで食事することにしました。
 エヴァさんが気に入るだけあって美味しかったです。

 それにしても原作と違ってきてしまいましたね。どうしましょう?
 メルディアナにいたときも考えましたけど、原作の大きな事件といえば以下の5つですね。



① 期末テスト
② 桜通りの吸血鬼事件
③ 京都修学旅行
④ ヘルマン卿襲撃事件
⑤ 麻帆良学園祭



 …………あれ? ①と③以外終わってね?

 いや、まだ“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が壊滅したとは限りません。
 だとすると、④はまだ発生する可能性がありますね。





 まあ、“② 桜通りの吸血鬼事件”はエヴァさんとの仲が良好ですし、起こるとしても命の危険はない訓練のようなものでしょう。
 もしかしたらエヴァさんが、

「どうして“お母さん”って呼んでくれないんだぁっ!!!」

 とかヤンデレになる可能性があるので、十分に気をつけておきますが。




 “③ 京都修学旅行”の事件は西と東の対立が原因ですから、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”がいなくても起こる可能性が高いです。
 やはりエヴァさんの封印を解いて、修学旅行に着いて来てもらわないといけません。

 あ、でもタカミチが担任のままなんだからタカミチも来ることになりますねぇ。
 エヴァさんが来れない場合、タカミチを頼ることにしましょうか。
 とはいえフェイトが本当にいないなら危険度は激減しましたね。




 “④ ヘルマン卿襲撃事件”は………………。

 まあ、ヴィルさんが執事になってしまったんですよね。
 とはいえ他の人が襲ってくる可能性があるから、京都修学旅行の結果次第なのは変わらずですか。


 ああ、そうだ。
 ヴィルさんから教わった石化魔法を発展させた石化治療魔法は、年明けまでには完成しそうです。
 完成したらアーニャやアルちゃんを迎えに行くのに合わせ、村の皆を治してしまいますか。冬休みには里帰りです。

 それにしても、他の転生者の皆さんはヘルマン卿を監禁したり、魔法を使うのを観察したりして、石化治療法を見つけるのがテンプレなんですが…………。

 何が悲しゅうて石化させた張本人に協力してもらってるんでしょうか、自分は?
 自分はただテンプレ通りに進めたいだけなのに。




 “⑤ 麻帆良学園祭”は超さんいないから普通に楽しめますかね?
 それとも別の人が超さんの役割を果たすんでしょうか?
 ま、それなりに気をつけておきましょう。





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 あ、そうそう忘れてた。原作が始まる前から武術を学ぼうと思ってたんですよ。
 今の自分はいわゆる後衛の“魔法使い”型の分類になります。
 ネカネ姉さんの魔法授業のおかげで、患者には事欠きませんでしたから治癒魔法も得意ですし、砲台として『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』なんかをぶっ放すことも出来ます。


 MSモビルスーツ再現能力による戦闘機さながらの高機動戦闘も出来るんですが、逆に屋内などの限定された空間ではその特性を生かせません。
 それにMSモビルスーツ形態になると生身より小回りが効かなくなる分、懐に入られると弱いのです。
 ですのでMSモビルスーツ形態では高機動戦闘に持ち込んで、ファンネルやビーム・マグナムを乱射しまくるのが良さそうですね。


 やはりそうなると接近戦の技術が欲しくなります。
 ビーム・サーベルを使用した剣術でもいいかな、とも思ったんですが、神鳴流に比べたらどうしても見劣りしてしまいます。
 原作と同じ中国拳法でも良いのですが、どうせなら原作オリジナルの技を学びたいと思ったのです。





「そういえばタカミチ。お願いがあるんですけど」

「ん? 何だい?」

「待て、ぼーや。何故タカミチに頼るんだ。
 何か願い事があるんなら私に言え」


 いえ、ただ単に『居合い拳』を学びたいだけです。
 『居合い拳』ってかっこよくね?

 それにMSモビルスーツや詠唱魔法と違って、『居合い拳』なら不意打ちにも対応出来そうですし。


「麻帆良に着てからは、教師になるための勉強と石化治療魔法の勉強で篭りっぱなしです。
 その2つも目処が付いてきたので、体力作りも兼ねて体を動かしたいんですよ。
 教師をするにも体力が必要でしょうし、エヴァさんにも「根を詰めすぎたら出来るものも出来ないぞ」と怒られてしまいましたしね」

「む、確かにそんなこと言った覚えがあるな……」

「それに昔、タカミチがパンチで滝を割るの見せてくれたことあったじゃないですか。
 実は結構あれに憧れていたんですよ。
 せっかくタカミチと一緒に仕事出来ることになったんだし、タカミチの時間の都合が良ければ僕に武術を教えてくれませんか?」

「あはは、そんなこと言われると嬉しくなっちゃうね。
 うん、いいよ。出張の予定も当分無いし、ネギ君に武術を教えてあげよう」


 “憧れていた”の一言で上機嫌になりましたね。ちょろいもんです。
 一方のエヴァさんは不機嫌になってます。ついでにエヴァさんへの弟子入りもお願いしてみますか。
 タカミチが側にいるなら、エヴァさんが暴走しても何とか止めてくれるでしょう。


「それとエヴァさんには、魔法を実際に運用する技術を教えて欲しいんです。
 基礎はみっちり勉強したので自信がありますが、如何せん実際に魔法を扱う経験が僕にはありません」

「! ああ、勿論構わんぞ。
 ぼーやは基礎がしっかりしてるからな。今更基礎勉強はいらんだろう。
 そーなると、ぼーやほど魔力に恵まれた者に魔法を教えることが出来るのは、学園の中では私かジジイくらいだろう」

「ありがとうございます。
 石化治療魔法の勉強がありますので、本格的な弟子入りは村の皆の治療が済んでからでいいですか?」





 よし、エヴァさんへの弟子入りOKです。
 これで武術はタカミチ、魔法はエヴァさんに弟子入りです。

 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”相手に警戒しすぎるに越したことはないですからね。
 それにこの肉体は修行すれば修行するだけ強くなっていきますから、修行のし甲斐があります。
 なんだか転生してから勉強や修行が楽しくなりましたよ。



[32356] 第12話 アスナ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/25 11:46



 おはようございます、ネギです。

 ついにヴィルさんの使う完全石化魔法を習得出来ました。
 ヴィルさんも必死になって自分にもわかるように教えてくれたおかげです。

 ありがとう、ヴィルさん。感謝します。
 ですので、ヴィルさんが遠い目で明後日の方向を見つめてボォーっとしているときはそっとしておいてあげます。
 きっと色々と執事の仕事も大変なんでしょうからね、ウン。


 あとは、この魔法を研究して石化治療魔法を完成させるだけですね。



 そして皆さん。
 ランニング中に神楽坂明日菜さんが煙草を自販機で買っているところを目撃したんですが、どうしたらいいんでしょう?

 …………そっか、この時代タスポなんてものはないですよね。
 だったら未成年の明日菜さんでも普通に買えますもんね。









 じゃなくて、どういうこと?

 えーと、原作のタカミチが煙草吸う切欠は、明日菜さんが望んだからなんですよね。ガトウさんの面影の為に。
 この世界のタカミチは煙草吸ってませんでしたけど。

 …………自分で吸うから別にタカミチは吸わなくてもいいや、ってことですか?
 クラス名簿の明日菜さんの写真は (`・ω・´)キリッ としてましたが、もしかして不良ですか?





「さっきから何こっち見てるのかしら?」


 やば、気付かれた。


「……あら? あなた、もしかして“ネギ・スプリングフィールド”?」

「は、はい。そうです」


 お? 馬鹿っぽくないですよ。
 記憶有りの状態なんでしょうか?


「そう。タカミチから聞いてるわ。
 2-Aの神楽坂明日菜よ。3学期からはよろしくね」

「あ、これはご丁寧にありがとうございます。
 3学期から2-Aの担任補佐として赴任することになりましたネギ・スプリングフィールドです。どうかよろしくお願いします」

「…………ナギとは随分違うのね。
 タカミチが武術を教えることになったと張り切ってたけど、ランニング中かしら」



 あれ? ナギ知ってるってことは記憶有りですね。なんというかクールな方です。

 “明日菜さん”というより“アスナさん”って感じです。
 やっぱり原作でバカレッドになったのって、記憶を消したからなんでしょうか? というかタカミチを呼び捨てですか。


 …………既にタカミチと恋人になってるとか言わないでしょうね。



「はい。ランニングです。
 神楽坂さんは、その、……何で煙草を?」


「え? ……ああ、そのことで見てたのね。先生になるんだから当たり前か。
 安心していいわよ。これはお父さんに頼まれただけだから」


 ……お父さん?


「そうなんですか、失礼しました。
 知らぬこととはいえ変な想像して申し訳ありません」

「かまわないわ。先生になるというなら、その方が良いと思うし」

「ありがとうございます。神楽坂さんはこちら側の関係者なんですね。
 その……神楽坂さんは自分の父と知り合いなんですか? タカミチのことも名前で呼んでるみたいですし…………」


「…………そうなんだけど、タカミチとかから何も聞いてないのかしら? だとしたら私からあまり言うべきことではないのだけれど。
 ああ、タカミチとは子供のころからの付き合いね。お父さんがタカミチの師匠だから。
 ちゃんと学校では“先生”と呼んでいるから安心しなさい」


 お父さんがタカミチの師匠?

 タカミチの師匠っていったら、“ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ”ですか。生きてたんですか、あの人。
 そうか、だからタカミチは煙草吸っていないのか。
 ガトウさんが生きてるなら、そりゃアスナさんがタカミチに煙草を吸うようにお願いしませんね。


「……そうなんですか。
 でしたら結構です。変なこと聞いて申し訳ありません。」

「そのうち全てわかるから、焦らずに待っていなさい。」

「はい、わかりました。むしろその方がありがたいです。
 正直、麻帆良に来てから色んなことがありすぎたので」


 ふむ、ガトウさんが生存ですか。
 イスタンブールで“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”らしきテロリストを潰したのも、ガトウさんが関係してるんですかね?
 元凄腕捜査官だったらしいですし。

 うむ、頼りになる人が増えたのはいいことです。





「ああ、あなたも大変みたいねぇ。
 そういえば悪魔狩るのには私も声がかかったけど、中間テスト前だから断ったわ。悪かったわね」

「…………え? 神楽坂さんも、ですか?」

「一応タカミチの妹弟子だからね。だからあなたは私の甥弟子になるのかしら?
 まあ、技術はタカミチのほうが上ね。だけど気と魔力量は私のほうが圧倒的に多いから、それを差し引けば互角。
 あと数年で私が上、といったところかしら」

「…………いえ。エヴァさんとタカミチと学園長でオーバーキルでしたのでお気遣いなく」

「そう、それじゃランニング頑張りなさいね。
 私はお父さんに煙草を届けに行かなきゃならないから」



 アスナさんがタカミチと互角?
 いや、ウェスペルタティア王家の血筋引いてるから才能はあるだろうし、麻帆良に来てから護身も兼ねてずっと修行してたとしたらおかしくはないですね。

 うわー、『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』持ったタカミチが殴りかかってくると考えたら最悪です。
 物理攻撃しか効かないからラカンさんぐらいしか勝てないのでは?











 ………………それにしても、“クールな明日菜さん”っていうのもアリですね。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 今回はここまでです。
 それと前回で書くのを忘れていたのですが、基本的に更新は週2回。木曜日と日曜日更新になります。
 仕事もありますので更新がズレることや出来ないことがあるかもしれませんが、週2回更新を目指します。



[32356] 第13話 学園長
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:44



 こんにちは、ネギです。

 もうすぐ2学期も終わりというとき、ようやく石化治療魔法が完成しました。
 ただ、消費魔力が多いので今すぐウェールズに帰って村の皆の治療というわけにはいきません。
 これから毎晩マグナム弾に石化治療魔法を詰め込む作業が始まります。

 年明けには数も揃うと思うので、アーニャとアルちゃんを迎えに行くときに村の皆の治療も行います。
 いや、良かった良かった。ヴィルさんには感謝してます。紅茶の淹れ方も上手になってきましたしね。







「それは良かったのぉ。
 伯爵級悪魔による石化の治療方法の確立なんて前代未聞じゃよ」

「はい、ありがとうございます。学園長。
 これも学園長がエヴァさんたちと一緒にヴィルさんと“お話し”してくれたおかげです」



 うんうん、あれはあくまで“お話し”です。
 けっして拷問とかじゃナイデスヨ。


 現在学園長室でお茶を飲みながらの経過を報告中。
 ウェールズに一時帰省する許可も貰わないといけませんし、ちょうどタカミチも緊急の出張とかで修行の時間が空いたのです。

 それにしてもさすが学園長室。
 以前の羊羹みたく、いいお茶といい和菓子。



「ほっほっほ、なあに。たやすいことじゃよ。
 ところでそのヴィルさんはどうかね? 何か悪さをしていないかね?」

「いえ、毎日一生懸命働いてくれてますよ。
 チャチャゼロさんも遊び相手が増えたと喜んでいます」


 ごめんなさい、ヴィルさん。
 自分はあなたを見捨ててます。


「しかし、その若さでたいしたものじゃ。ネギ君は治療魔法に適正があるのかの?
 今回のことはネギ君にもいい経験となったじゃろう。
 ナギのような英雄と憧れるのもいいが、治療魔法使いとして人々の役に立つのも“偉大な魔法使いマギステル・マギ”への道じゃ。
 今回のことを糧として、より自分に向いた道を探すとよかろう」

「そうですね。そちらの道もいいと思います。
 ただ今はやること全てが新鮮に感じるため、色々なことを経験してみたいという気持ちがあります」

「そうじゃろうな。
 まあ、若いのだから今のうちに色々なことを経験してみなさい。
 焦ることはないのじゃ。君はまだ10歳にもなってないのじゃからな」





 その後はエヴァさんのことやタカミチのこと、それに2人の修行でどんなことをしてるかも話しました。
 いいですね、この感じ。落ち着きます。

 …………何で学園長やヴィルさんみたいなジジイやオッサンの側が一番落ち着くのか? という疑問は心の奥深くに閉まっておきましょう。
 エヴァさんマジで“お母さん”って呼ばれること諦めてくれないかなぁ。茶々丸さんは“坊ちゃま”言うの止めてくれないかなぁ。


 ………………フゥ、マズイ。
 心が疲れてます。





「大丈夫かね、ネギ君?
 何だか疲れているようじゃが、修行がそんなに辛いのかね?
 君はまだまだ幼いんじゃから、過剰な修行は最終的な成長の妨げになるので程々にしなさい」

「いえ、修行で疲れている、というわけではないです。
 ただ気が抜けたといいますか…………正直、麻帆良に来てこんなに早く石化治療魔法が完成するなんて思ってもいませんでしたから。
 現実感があまり感じられませんね」

「ふむ、そうなのかね。まあ、あまり無理はしないようにお願いするぞい。
 今日がせっかくの休日なら、ゆっくり休むとしなさい。
 …………おお、そうじゃ。このあと何か予定はあるかの?」

「? いえ、特にありませんね。夕飯までに家に帰ればいいだけです。
 エヴァさんは料理クラブの集まりだし、茶々丸さんは定期メンテナンス。
 ヴィルさんは留守番で、チャチャゼロさんは僕のカバンで寝てますから、久しぶりにゆっくり一人で麻帆良でも巡ろうかと思ってました」

「麻帆良巡りか。それならワシの孫娘達と一緒にどうかね?
 今ちょうど見合い用の写真を撮っていてな。もうすぐこちらに顔を出すじゃろう」


 学園長の見合い好きは並行世界でも相変わらずなんですか…………。
 孫娘ということは刹那さんも一緒ですかね?



「学園長のお孫さんというと2-Aの近衛木乃香さんですか?
 僕自身としては構わないのですが、僕は担任補佐とはいえ3学期から教師となります。
 教師と生徒が遊びにいくというのは問題ないのですか?」

「フォフォフォ、大丈夫じゃよ。まだ教師になったわけじゃないし、9歳の君と遊びに行っても問題あるまい。
 まあ、さすがに特定の生徒を贔屓したように思われたら困るから赴任した後では困るがの。
 予行演習と思ってくれればよいのじゃ。
 木乃香達は騒がしい2-Aの中では比較的大人しいほうでの。もし木乃香達だけを相手するのでも駄目だとすると、3学期に2-A生徒全員相手するのは無理じゃろう。
 聞いたところによると、ネギ君は幼馴染の女の子ぐらいとしか女の子と過ごしたことはないそうじゃないか。
 ここは一つ練習と思って、木乃香達と麻帆良巡りを楽しんできなさい」

「アハハ、確かにそうかもしれませんね。
 では木乃香さん達が了承していただけたらお願いします」

「こちらからお願いするのじゃよ。
 木乃香は女子校育ちでの。男に慣れてしまっても困るが、無菌培養では将来が心配なのじゃよ。
 すまないが練習相手になってくれい」

「いえいえ、構いませんよ。
 僕も木乃香さん達に2-A生徒を相手取る練習台になってもらうのですから」





 木乃香さん達と会うことになりました。
 さて、木乃香さんと刹那さんはどう違っているのでしょうか?

 刹那さんはアルビノであることを隠してないようでしたが、それでも木乃香さんが魔法を知っているとは限りません。
 ここは慎重に行きましょう。
 このちゃんLOVEな刹那さんの前で変なことしたら斬られてしまうかもしれません。
 何も知らない子供を装っていきましょう。

























 コンコンとノックの音がしました。
 おお、木乃香さん達でしょうか? さーてどういう人達なのかなー?


「入りなさい」

「失礼します。学園長。本国でこの前の政変の続きが起こったようです。
 何でも大部分の元老院議員が拘束されたそうです」





 ………………ナンデスカ、ソレ?
 明石教授らしき人が言ってることがわかりません。






「これっ! 入ってきていきなりなんじゃ!?
 ここにはネギ君もおるのじゃぞ!」

「え? ネギ君が?
 ああ、すみません。椅子に隠れて見えませんでした」





 …………どうせ僕は小さいですよ。何も知らない子供ですから。



[32356] 第14話 木乃香と刹那
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:45



 こんにちは、ネギです。

 学園長室から退出して、木乃香さん達を待っています。


 退出する際に学園長たちが

「………ゲーデル議員が………」「………高畑先生がうまく………」「………これで………」

 とか話し合っていました。


 そういえば何でタカミチは緊急の出張なんかあったんでしょうか?
 前にNGOの仕事はほとんど終わったようなこと言ってたんですが………。


 ………まあ、気にしませんし、わかりません。
 自分は何も知らない子供ですから。アハハ………。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 そんなわけで学園長室から退出。
 あんな悪巧みしている場所にいられるか! 自分は清いままでいさせていただきます!

 そして世界樹前広場で木乃香さん達と待ち合わせです。
 木乃香さん達はどういう人達なんだろーなー?

 …………四葉さんみたいなことになってなきゃいいけど。





「君がネギ君?」



 …………ついに来ちゃったよ。
 ええい、覚悟完了! 当方に諦観の準備有り!


 呼ばれて振り返ってみると私服姿の木乃香さんと刹那さんが立っていました。
 相変わらず刹那さんは白い髪で、やけに柄が曲線を描いている長い日傘を差しています。

 木乃香さんは……………あれ?
 この前はすれ違っただけでしたから気づきませんでしたが、よくよく探ってみると魔力が感じられません。

 どういうこっちゃ?
 …………ま、いいか。それより挨拶挨拶。



「はい、ネギ・スプリングフィールドです。
 初めまして、近衛木乃香さんですか?」

「そうやよー。日本語うまいのやね。
 英語そんなにわからへんからドキドキしてたわー」

「大丈夫だと言ったでしょう、このちゃん。ネギ先生は教師になるために麻帆良に来られた方ですから。
 初めまして、私は桜咲刹那と申します」

「初めまして桜咲刹那さん。
 2-Aの担任補佐となることはご存知のようですね。3学期からよろしくお願いします。
 とはいえまだ教師ではありませんので、“先生”とつけなくても構いませんよ。僕の方が年下ですし」

「いえ、そういうわけには参りません」

「せっちゃんは固いんやからー。ネギ君が困っておるえ。
 それにしても大変やな、ネギ君も。そんなに小さいのに学校の先生になるなんて…………。
 お爺ちゃんから聞いたから、今日は麻帆良を案内してあげるえ。ネギ君はどこか行ってみたいところとかあるん?」





 刹那さんが裏の関係者っぽいのは立ち居振る舞いからして確定なんですが、木乃香さんの方がサッパリわかりません。
 自分のような子供が教師になることを聞いても動じてませんが、原作でも似たような感じでしたからねぇ。

 かといって、迂闊な発言をしたら刹那さんに斬られそうです。
 だってせっちゃん常に日傘の手元を握ってるから、常に臨戦態勢なんですもん。



 やばい。この傘なんかやばいです。
 よくよく見ると傘生地が妙に分厚いです。完璧に日光遮ってます。

 ………………防弾繊維ケブラー? どこの戦闘メイドですか?

 “お嬢様の名に誓い、すべての変態に白刃を”、ですか?


 ヘタに竹刀袋に真剣入れてるよりやばいです。





「はい、今日はよろしくお願いします。近衛さん、桜咲さん。
 …………そうですね。出来れば生徒の皆さんが普段遊ぶようなところをお願いします。
 タカミチやエヴァさんと何回か麻帆良巡りしてますけど、生徒の皆さんが行くようなところは行ったことないんですよ」



 エヴァさんの名前を出しても無反応ですか。



 まあ、いいです。自分は何も見てないですし想像してないです。
 自分はただの教師になるだけの子供なんですから…………。

 それに今まで麻帆良巡りはエヴァさんやタカミチとしかしてませんでしたから、他の女の子と麻帆良巡りするのは楽しみですしね。
 あの2人と一緒だと落ち着いたところしか回りませんから、若者が普段遊ぶようなところは全然行かないんですよ。

 木乃香さんや刹那さんのような美少女と麻帆良巡り出来るなんてラッキーです。





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 2人と一緒に色々なところに遊びにいきました。
 ボーリングしたりカラオケしたり、この刹那さんは原作と違ってこういう遊びも慣れているみたいです。
 “このちゃん”“せっちゃん”と呼び合って、まるで普通の女子中学生のようでした。


 2-A生徒のことも教えてくれました。
 “バカレンジャー”ならぬ“バカ四天王”がクラスにはいるそうです。
 神楽坂明日菜さんがバカ連中から外れています。
 会ったときにバカっぽくないと思ってましたが、やはりそうなんですね。

 ということは原作でバカレッドになったのって、無理矢理記憶を消したからですか。
 確かタカミチがアスナさんの記憶を消したはずですが、魔法が使えないタカミチは魔法符か何か使ったんでしょう。
 だけどおそらくアスナさんが持つ“完全魔法無効化マジックキャンセル能力”が変な風に働いて、頭がパーになってしまったということですかね?


 ………………タカミチめ。余計なことしやがって。
 というかあのクールなアスナ姫がバカレッドになるのって、そりゃなんか理由ありますよねぇ。



 ちなみに刹那さんも木乃香さんに勉強を教えてもらっているので、原作と違い中の上クラスらしいです。
 とはいえクラスのテスト成績が万年最下位なのは変わらないそうですが。


 まあ、ブービーとは数点の差なので、ちょっと頑張れば期末テストは最下位脱出できそうです。
 3学期からアーニャも来ますから、より平均点がアップするでしょう。
 よし、期末テストはこれで勝てます。







「今日はありがとうございました。
 ウェールズではこんな風に遊んだことなかったので楽しかったです」

「それはわかります。
 私も中学になるまで京都に住んでいたのですが、麻帆良に来てからこういう遊びをするようになりましたから」



 木乃香さんが御手洗いに行ってるので刹那さんと2人きりです。
 今のうちに木乃香さんが魔法関係者かどうか聞くことにしましょうか。

 ………………でも、どうやって聞こう?
 迂闊に聞くと地雷踏み抜きそうです。ここはやはり日傘にツッコミ入れて、そこから話を広げていくべきですかね。





「ところで聞いてもいいでしょうか?
 その日傘、何というか…………変わってますね? 柄が妙に曲がっていますし」

「ふふふ、聞かれると思ってました。
 何度かこの傘を見て、微妙な表情をしてましたものね」


 バレテーラ。

 いや、しかしセーフです。
 刹那さんの表情を見る限り、ツッコミ入れてなかったら逆に失望されてた感じです。


「多分、ネギ先生が想像されているのであっていると思います。
 誤解無いように伝えておきますが、私はこのかお嬢様の護衛なのです」

「桜咲さんはこちら側の関係者なのですか?」

「はい。警備員としては働いていませんが、魔法の関係者ではあります。
 このちゃん…………近衛木乃香様は、関東魔法協会の理事である学園長の孫であるだけはないのです。
 関東魔法協会に並ぶ日本の魔術団体、関西呪術協会の長の御息女でもあるのです」

「ええ、それは聞いたことがあります。
 確か関西呪術協会の長は近衛詠春さんで、僕の父とも知り合いだそうですね」

「そう聞いています。
 私はネギ先生の父君とはお会いしたことはありませんが、長が“紅き翼アラルブラ”時代のことを話しているのを聞いたことがあります」

「へぇ~、そうなんですか。それなら是非、機会があれば父の話を聞かせていただきたいですね。
 …………しかし、関西呪術協会の長の御息女というなら、何故麻帆良にいるのですか?
 それに近衛さんから魔力とかは感じられませんでしたが、魔法関係者ではないということなのでしょうか?」


 そうだ、そこが問題です。
 魔力が感じられないということは、原作ではナギ以上と言われた魔力がないということでしょうか?



「いえ、お嬢様は魔法のことはご存知ですよ。
 魔力が感じられないのは魔力を封印する魔法具を使っているからです。魔法の修行をなされるとき以外は常につけておられます」

「…………そう、なんですか。
 まったく気づきませんでした」

「魔力を封印しているのは、お嬢様の魔力が強大すぎるからです。
 話によると先生の父君である“千の呪文の男サウザンドマスター”よりも強大だとか。
 強すぎる力は災いを呼ぶ、とのことで一人前になるまでは必要なとき以外は魔力を封印なされているのです。
 そしてお嬢様が麻帆良にいる理由は東と西の友好のためです。長の御息女であるお嬢様が西洋魔術を習い、将来の東と西の友好の架け橋となるようにと。
 …………悪く言ってしまえば人質という表現になってしまいますが」


「そ、そうなんですか!? …………人質、ですか。
 近衛さんはそのことはご存知なのですか? それに近衛さんが西洋魔術師になったら、将来の関西呪術協会の長には誰が?」



 ……驚きました。こんなはっきり言うなんて。
 え? 大丈夫なの? 人質なんてとっちゃって?
 東と西の仲が悪いどころの話じゃないのでは?



「大丈夫ですよ。
 関西呪術協会の長にはお嬢様の弟君がつくことになるでしょう。
 弟君の北斗様はネギ先生と同い年ですね」







 ………………弟? 北斗?
 新キャラ登場ですか!?





「それに先ほどの理由は後付けなのですよ。
 長はその……子煩悩といいますか、お嬢様に非常に甘いといいますか」



 確かに原作でもそんな感じでしたよね。
 というか学園長も金槌で頭殴られても何も言わないし、あの2人は木乃香さんに対して甘すぎです。



「それを憂いた奥様が「これでは木乃香のためにならない」と仰られまして。
 お嬢様を学園長がいらっしゃる麻帆良に留学させることになされたのです」



 奥様ってことは、木乃香さんのお母さんご存命というわけですか。
 弟さんが生まれているということなら、そりゃお母さんも生きてますよねー。


 あれですか?
 学園長と長が原作で木乃香さんに駄々甘だったのは、娘と妻の忘れ形見だったからですか。



「それで長も落ち着かれまして、今は精力的に関西呪術協会の長の勤めを果たしておられます。
 といっても口が悪いものは奥様の方が長だと揶揄しますが……」



 詠春さんは元から婿養子でしたからねー。
 弟さんが自分と同い年ということは9歳。
 木乃香さんが小学生のときに麻帆良に来たということですから、その頃にはもう弟さんは生まれてますね。
 東のことが嫌いな西の強硬派も、男の子が西に残るならまあいいか、とでも思ったんでしょうか。


 確か原作で西と東の仲の悪さの原因の一つに、“西の長の一人娘である木乃香さんが東にいる”というのがあったはずです。
 でも弟さんがいて西に残っているということから、修学旅行で木乃香さんを取り戻そうとする強硬派がいない可能性がありますね。

 “千の呪文の男サウザンドマスター”よりも強大な魔力というのは惜しいでしょうが、古い組織なだけに長になるのは女性より男性優先なのでしょう。
 そもそも男性優先じゃなかったら婿養子なんて取らず、木乃香さんの母親が長になってます。


 弟さんの才能がどれほどのものなのかわかりませんが、西に木乃香さんが残っていたら、

   “実力重視の姉派 VS 慣習重視の弟派”

 なんて内部抗争に発展する恐れすらあります。


 そう考えると、木乃香さんを麻帆良に留学させるというのは長の親馬鹿だけが原因とは考えられませんね。
 これはあくまでも自分の想像の話ですが…………。







「お待たせー。次はどこに行く?」



 まあ、京都修学旅行の安全が高まったのは良いことです。
 せっかくの休日なんです。今は美少女2人とのデートを楽しむことにしましょう。













「そういえばエヴァちゃんが「ぼーやに“お母さん”と呼ばれてみせる!!!」って張り切ってたけど、呼んであげないの?」

「こ、このちゃん…………」

「…………その話題はマジで勘弁してください」



 エヴァさん、もしかして2-Aで自分のこと話してるんじゃないでしょうね?
 帰ったら問い詰めなければ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 別にせっちゃんは“ヤンデレ”とか“猟犬”だったりするわけではありません。
 “アルビノ”→“日光に弱い”→“日傘”→“仕込み傘”と思いついただけです。
 このちゃんのスキンシップに慣れている分、原作よりテンパったりすることが少ないぐらいでしょうか。



 弟の名前は

 “詠春”でググる→“詠春拳 - Wikipedia”がトップ→“ブルース・リー”が使ってた→“ホワタァー!”→“ケンシロウ”→“北斗神拳”→“北斗”

 といった感じで連想ゲームで決めました。
 特に意味はなく、今後の重要キャラとなるわけではありません。
 というか今後出る予定もありません。

 木乃香母の名前を知らないので、作中では“奥様”で通しました。
 作者なりに木乃香が麻帆良にいても問題ない理由を作ってみました。



[32356] 第15話 クリスマス
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:46



「今日は待ちに待ったクリスマスだぞっ、ぼーや!!!」



 吸血鬼がクリスマス祝うなよ。
 テンション高いですね、この人は。



「ちゃんとご馳走も用意したぞ!
 七面鳥のローストもクリスマス・プティングも用意した。
 味は四葉先生からのお墨付きだっ!!!」



 ちゃんとアーニャやネカネ姉さんにクリスマスカード届いたのかなぁ。
 とはいえウェールズはまだ朝の8時ですから、郵便はまだ配達されていないですかね?



「……こ、このクリスマス・プティングはぼーやが家に来てすぐに作ったものなんだ!
 熟成されていて美味しいぞ!!!」



 あとで電話しないと駄目ですね。考えてみれば手紙ばっかりで、2人の声を聞いてません。
 でも日本とイギリスの時差が9時間というのが中途半端なんですよねぇ。



「え、えと…………ク、クリスマスツリーも大きいのを用意したんだが、木が大きすぎてしまってな。家に入らなかったんだよ、ハッハッハ。
 家の外に置いてあるから見に行かないか?」



 そういえばアルちゃんどうしてるんでしょうか?
 いくらアーニャとの仲が良いといっても、アルちゃんは自分の使い魔ですからね。
 アーニャに任せっぱなしだと主人として駄目です。

 うん、電話したときに声を聞かせてもらいましょう。
 今の自分ならアルちゃんにも自然に接することが出来る気がします。





「…………タ、タカミチに採ってきてもらったんだが、タカミチは馬鹿だな。家の大きさがわかっておらん。
 どーせ、ぼーやに良いところを見せようと考えたんだろう」

「タカミチは張り切りすぎると空回りするらしいですからね。
 尤も「木乃香の弟は9歳か。そのぐらいの年頃の男の子から“お母さん”と呼ばれるにはどうしたらいいのだろう?」なんて、よりにもよって教室で相談する人よりはマシじゃないですか?」

「…………私が悪かった」







 絶望した!!!

 エヴァさんが自分の母の座を狙っているということが、既に2-Aに知られていることに絶望したっ!!!

 しかも、よりにもよって朝倉和美さんに得意満面に語るとは何事ですか!?





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「エヴァさん、僕は言いましたよね?
 担任補佐となる僕が生徒のことを“お母さん”と呼ぶのはおかしいって…………」

「…………う、うん」

「じゃあ、何でそんな相談を教室でするんですか?」

「い、いやな。木乃香が弟のこと話していてな。9歳という難しい年頃なんだそうだ。
 実家に電話をしても「恥ずかしい」といって電話に出てくれないとか…………。
 その話から色々と話が弾んでいって…………その、なんだな」



 どうしたらいいんでしょうか、この状況?
 木乃香さんと刹那さんと遊び終わった後、家に帰りエヴァさんを問い詰めたら目を逸らされました。
 やっぱり喋ってたようです。コンチクショウ。

 それからアスナさんや木乃香さん達と連絡を取って状況を調べたところ、エヴァさんは朝倉和美さんに色々と語っていたようです。
 それ以来、エヴァさんとはクリスマスの今日まで会話しませんでした。





「…………ハア、2-Aはお祭り好きと聞いてますけど、その相談の結果どうなったんですか?」

「ぼ、ぼーやの話題で持ちきりになったぞ。
 きっとクラスの皆は3学期からぼーやのことを暖かく迎えてくれるはずだ、ハッハッハ………………ごめんなさい」

「事態の沈静化をエヴァさんにお願いしたいのですが」

「……わかった。なんとかやってみる」



 おそらく今晩、幼女なサンタクロースが2-A生徒に暗示というプレゼントを振りまくことになるでしょう。
 それとアスナさんや木乃香さん達、アルカナさんに口止めしておかなければいけませんね。









「お願いしますね、エヴァさん。
 ではこれをどうぞ。一緒に住んでるので手渡しですがクリスマスカードです」

「! くれるのか!? ありがとう、ぼーや!!!」

「はい、エヴァさんにはお世話になってますからね。
 昼は簡単なものしか食べてないのでお腹がすきました。少し早いですけど夕飯にしましょうか」



 何だか最近自分が“まるで駄目な男の子”、略して“マダオ”になってきたような気がしますけど………………気のせいですよね?





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「…………そんな感じでさ。毎日色々大変だよ」

『ふーん。まさか“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”と一緒に暮らすことになるなんて夢にも思わなかったけど、優しそうな人でよかったわ』



 クリスマスパーティーを一時中座してアーニャに電話してます。
 ウェールズはようやく昼頃になったのでパーティーの時間ではありませんし、僕達魔法使いは教会にミサへ行ったりしませんからね。

 それにしてもアーニャの声を聞くのも久しぶりです。

 ………………ああ、何でこんなに望郷の念に駆られるのでしょうか?



「アハハ、まあエヴァさんの噂が噂だからね。
 アーニャのことはエヴァさんに話したけど、「ぼーやの妹のような子なら私にとって娘のようなものだ。ちゃんと面倒みてやろう」って言ってくれてるから大丈夫だよ」

『ちょっと! なんで私が妹なのよ!? あんたの方が年下でしょーが!?』

「ん? えーと、背丈からいくとそうなるかな?」

『くっ! ネギ本当に背が伸びたんでしょうね!?
 帰ってきたとき全然変ってなかったら怒るからね!?』

「いや、本当に日本に来てから急に伸びたんだよ。
 日本のご飯が美味しいせいかな? ウェールズにいるときよりたくさん食べるようになったし、武術も始めたからね。
 ウェールズにいたときより健康的な生活を送ってるよ」



 本当に背が伸びてます。この数ヶ月で5cmは伸びましたね。やはり日本のご飯が美味しいからです。
 メルディアナ魔法学院の食事は流石イギリスというか大味でしたから、前世が日本人の自分には合わなかったのです。





『まあいいわ。
 それより本当に村の皆を治せるようになったんでしょうね?』

「大丈夫だよ。ヴィルさんに手伝って貰ったおかげで無事に完成した。
 ねずみ相手の動物実験でも成功したよ」

『その“ヴィルさん”ってのが信用できないんでしょーが!
 村の皆を石にした張本人なんでしょう!?』





 アーニャの言うことは尤もです。
 尤もなんですが。



「…………アーニャ。
 もし“3人のネカネ姉さんにフルボッコにされた人が「何でもしますから許してください」と言った”ら信じるだろう?」

『…………ごめん。それは確かに信じるわ』

「大丈夫だよ。
 生まれ変わったヴィルさんは、毎日涙を流してエヴァさんの下で働いてるから」

『それって…………いや、なんでもないわ』

「うん。年明けにウェールズに帰るから待っててね。
 タカミチも一緒に着いてきてくれて、アーニャが麻帆良に来る準備も手伝ってくれるってさ」

『あら、そうなの?
 そういえばそのときにネギにお客様が来るらしいわよ。おじいちゃんが言ってたわ』



 お客様? 誰でしょう?
 まあ、向こうで会えばわかりますね

















『うん? ああ、ごめんね。
 アルちゃんもネギとお話したいわよね』

『お久しぶりです、お兄様。無理はなされていませんか?
 お兄様は自分のことを忘れるときがありますからお気を付けください』

「……。

 …………。

 ………………うん、大丈夫だよ。アル……ちゃん」





 さっき「今の自分ならアルちゃんにも自然に接することが出来る気がします」とキッパリ言ったばっかりだったのに、スミマセン。
 ありゃウソでした。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 次の日の朝、外に出たらサンタクロースの格好したタカミチが氷漬けになっていました。
 そういえば、確か24日はクラスのクリスマス・イヴ・パーティーに参加して、25日はこちらに顔を出すと言ってましたけど、結局顔を出しませんでしたね。

 思えば昨日の夕飯のときに魔法の発動らしきものを感じたなぁ。


 …………どうやらエヴァさんのトラップに引っかかってしまったようですね。
 エヴァさんとタカミチは仲が良いのか悪いのか未だによくわかりません。



 …………とりあえず家の中に運び込んでおきますか。



[32356] 第16話 おおみそか
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:46



 こんばんは、マダオです。…………じゃなくてネギです。


 エヴァさんは無事に2-A生徒に暗示をかけることが出来たそうです。

 といっても、アスナさん達のような魔法関係者は無理でしたけどね。
 おかげでアルカナさんとばったり会ったとき、ニヤニヤと笑いかけられてしまいましたよ。


 …………憎しみで世界を滅ぼすことが出来たらいいのに。
 アスナさんや木乃香さん達が慰めてくれたのが唯一の救いです。



 ……そういえば確か、春日美空さんも魔法生徒でしたか。
 3学期が始まる前に是非お話しないと駄目ですね。あの人悪戯好きですし。フフフフフ……。



 春日美空さん、あなた覚悟してる人ですよね?
 人に悪戯しようとするって事は、逆に悪戯されるかもしれないという危険を常に覚悟している人ってわけですよね?





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「フォッフォッフォ、大変じゃったのう、ネギ君」

「まったく、しょうがないなぁエヴァは」

「笑い事じゃないですよ、学園長、タカミチ」



 現在12月31日23時30分、学園長の家でコタツに入ってヌクヌクとしてます。
 考えてみると、日本に来てからコタツに入るのは初めてですね。エヴァさんの家の和室には囲炉裏がありましたけど。

 ちなみになんで学園長の家で年越しするのかというと、エヴァさんのトラップにはまって氷像としてクリスマスの夜を過ごすことになったタカミチのためです。
 『咸卦法』全開のタカミチと、自分が渡したクリスマスカードを誇らしげに見せびらかすエヴァさんの睨み合いはガクブルものでした。


 このままでは正月をどこで過ごすか決める麻帆良大戦が始まりそうだったので、

「せっかく日本に来たので、年越しは日本風に過ごしたいです」

 と自分がお願いして、学園長の家にお邪魔することとなりました。


 ………………何で子供の自分がこうまで神経磨り減らさなきゃならんのだ?
 自重してよ、エヴァさん。


 何というかもう…………何も知らない子供の振りをするの疲れてきました。コ○ン君の気持ちが良くわかります。
 エヴァさんとタカミチは喧嘩仲間というか何というか、仲悪いわけじゃないんですけどねぇ。元同級生の悪友って感じです。



 まあ、本人達がいいのならそれはそれでいいんですけど。







「しかし、エヴァンジェリンも本当に変わったなぁ。最初会ったときの“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”と呼ばれていた時代とは大違いだ。
 まさか彼女が作る年越し蕎麦を食べるなんて考えたこともなかったぞ」

「ハハハ、師匠は出張ばっかりで、たまにしかエヴァと会ってなかったスからね。
 僕は同級生でしたから、毎日のように見てたらアレが普通と思うようになったスよ」

「しかし、今のキティも大変可愛らしいのですが、昔のキティが懐かしいですね。
 ちょっとからかっただけで顔を真っ赤にして怒ったのに、今では逆に惚気てくる始末です。からかいがいがなくなってしまいました」

「からかうのは勘弁して欲しいの、アル。
 お主がからかった後始末に何度苦労したと思っている」



 それにしても何でガトウさんとアルさんが一緒に年越ししてるんでしょう?
 学園長の家で普通に紹介されて、普通に一緒に年越しすることになりました。

 原作を知っている身としては違和感しか感じられません。





 いや、自分もどういうことか聞きたかったですよ。でもね、


「始めまして、ネギ君。
 神楽坂ガトウだ。昔は“ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ”って名前で君のお父さんと一緒に働いていたんだ。
 娘のアスナとは会ったんだってな、よろしく頼む」

「こんばんは、ネギ君。
 アルビレオ・イマといいます。私も君のお父さんの仲間ですよ」

「……え? はい、ネギ・スプリングフィールドです」


 で会話が終わりましたよ。
 何をどう聞けっていうのです? 「何でここいるの?」とか聞けないですよ。





 そしてタカミチのガトウさんに対する口調にも違和感バリバリです。原作通りなんですけどね。
 若い頃のタカミチならともかく、今のタカミチの老け顔で「~ス~」とか正直似合わないッス。


 それにしてもこの部屋平均年齢高いですね。
 台所でソバ茹でてるエヴァさんも加われば文字通り1桁跳ね上がりますが。



 …………ミカン甘ぇ。







「ネギ君、どうしたんだい?」



 いきなり通常モード戻んな、タカミチ。
 それともアッチの口調が通常モードなんですかね?



「いや、ちょっと現実逃避を少しばかり。
 そんなにエヴァさんは今と昔で違うんですか?」

「ああ、昔のエヴァンジェリンを知らない君を置いてきぼりにしてたな、すまん」

「そうですねぇ。違うことは違うんですが、あまり本質的には変わってないでしょうね。
 今まで威嚇ばかりしてきた子猫が甘えてくれるようになった、という感じでしょうか」

「そんなところじゃろうな。
 それに今年はアスナ君や木乃香達といった事情を知っている子がクラスメイトに多い上、ネギ君の協力のおかげで『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』が解呪出来るからのぉ。
 それでより明るくなったわい」

「そうなんですか。
 そういえばアスナさん達は一緒じゃないんですね。クラスの人達と年越しをするのでしょうか?」

「ん? アスナは龍宮神社でアルバイトって言ってたぞ。
 何だ、ネギ君。アスナに興味あるのか?」

「いやいや、ネギ君が興味あるのは木乃香じゃな。大和撫子の言葉がピッタリじゃからの。この前デートもしたのじゃし。
 ちなみに木乃香もアルバイトじゃな。刹那君に巫女服を着せたいとか言っておったぞ」

「…………大和撫子は友人に巫女服を着せたいとか言わないと思いますよ、学園長」



 巫女服いいですね。特にクールなアスナさんの巫女服姿は見てみたいです。
 よし、初詣に龍宮神社に行くとしましょう。


「10歳にもなっていないのにそんなこと考えたことありませんよ。皆さん美人だと思いますけどね。
 僕よりもタカミチはどうなんですか? もう30じゃないですか」


 でもぼく萌えとかわかんなーい。9さいだもん。
 …………うん、無いですね、このキャラは。

 とりあえずタカミチを生贄に捧げておくことにします。





「お、そうだな。タカミチどうなんだ?
 確か同僚の女教師と茶飲んでるの見かけたこと何回かあったぞ」

「ちょ、何言ってんスか、師匠。ネギ君の前で…………」

「しずな先生のことじゃな。高畑君も隅に置けないのぉ」

「フフフ、あの小さかったタカミチ君にも春が来たのですか」


 よし、このメンバーだったらタカミチも弄られる側です。
 タカミチを生贄にして、自分は安全圏にいましょう。








「おーい、蕎麦運ぶの手伝ってくれー」



 あ、年越しソバだ。
 おおみそかということで学園長が雇っているお手伝いさんもいませんからね。6人分のソバを運ぶのはエヴァさん一人じゃ辛いでしょう。



「じゃ、僕が行ってきますのでお話しを続けていてください」

「おお、頼む。
 ホラ、キリキリ吐け。師匠命令だ」

「ちょ、ネギ君! マジで勘弁してくださいっス、師匠!」

「フフフ、ネギ君もちゃっかりしてますねぇ」

「高畑君はもうちょっと搦め手に強くなればいいのじゃがのう」



 これ以上狼の群れがいる部屋にいられますか!
 自分は台所に逃げさせてもらいます!





「お待たせしました。これを運べばいいんですか?」

「ああ、重いから気をつけてな」


 年越し天蕎麦ですか。海老の天麩羅がおいしそうです。
 そういえば蕎麦って日本に来て初めて食べるかな?

 エヴァさんの料理は洋食が多いからしょうがないんですが、今度エヴァさんに頼んで日本料理も作ってもらいましょうかね。
 寿司とか刺身はこの前学園長に食べさせてもらったから………………あー、湯豆腐とか食べたいなぁ。湯豆腐というか鍋。
 鳥の水炊きとか魚介類をふんだんに使った寄せ鍋とかいいなー。こう寒い冬にはピッタリです。
















「フフフ…………」

「? エヴァさん、どうしたんですか?」

「いやなに。こうやって手伝ってもらうところなんて“親子”っぽいなと思ってな。
 そう思わないか、ぼーや?」

「ア、アハハ…………どうなんでしょうか?」



 …………狼の群れから逃げれたと思ってたら虎穴に逃げてたでござる。コンチクショウ。





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「明けましておめでとうございます。
 今年からよろしくお願いします」

「明けましておめでとう。
 何、ぼーやならうまくやれるさ」

「明けましておめでとうございます。
 うん、大丈夫だよ。僕もフォローするからさ」

「明けましておめでとう。
 フォッフォッフォ、期待しておるぞ、ネギ君」

「明けましておめでとうございます。
 私は普段は図書館島の奥にいますので、たまに顔を出してくださいね。
 まだ療養中なのであまり役に立てませんが、相談くらいには乗れますよ」

「明けましておめでとう。
 アルにはあまり相談しない方がいいんじゃないのか?
 ネギ君がアルの影響を受けたらどうする?」



 除夜の鐘が鳴り終わり、2003年が始まりました。
 原作開始の年です。冬休みが終わるまでは時間があるとはいえ、ドキドキします。いよいよです。



「ネギ君は来週にウェールズに帰るんだったな」

「はい、村の皆の治療のために。
 それと3学期から修行で麻帆良中に通うことになった幼馴染の迎えです」

「僕もそれに着いていくっス、師匠」



 …………この口調のタカミチだと。春日美空さん出てきたときに困りますね。
 いや、メタな話はやめておきましょう。



「それにしても、伯爵級悪魔による石化すら治すことが出来る石化治療魔法ですか。
 興味深いですね」

「うむ、それだけのことで“偉大な魔法使いマギステル・マギ”と呼ばれても正直おかしくないぞい」

「いえいえ、ヴィルさんの手助けがあっての話ですよ。
 自分一人じゃこんなに早く出来ませんでした」



 それと学園長達によるヴィルさんへの“お話し”ですね。

 …………いや、思い出しちゃ駄目だ、自分。
 魔法球から出た後にヴィルさんに何があったのかなんて、自分は何も知らないんですから。



「ぼーやは謙虚だな。
 しかし、度が過ぎれば力が無い者にとっては嫌味にしか聞こえん。
 確かに私達の助けがあったとはいえ、“ヴィルから石化魔法を教わる”というそもそもの発想はぼーやのものなんだ。
 それは誇るべきだろう」



 いや、発想というより、ただの冗談のつもりだったんですが…………。
 でもそういうことにしておかないと、ヴィルさんが冗談のせいで無間地獄に落ちてしまったことになるので黙ってますけどね。



「ネギ君は柔軟な発想が出来るのですね。それは魔法使いとして良いことです。
 ナギのように何でもかんでも力技で済ませるというのは本当はいけないことですから」


「確かにそうだな。
 例のプラン●●●●●だって、ネギ君の発想からヒントを得たんだろう」



 …………例のプラン●●●●●



例のプラン●●●●●ってなんですか?」


「ん? …………ああ、そうか。ネギ君には話していなかったね。
 まだ詳しくは話せないんだけど、今“魔法世界”では問題があってね。それを解決するヒントを、昔ネギ君と話したときに貰ったんだよ。
 ヒントというより直球な答えだったんだけど」



 は? “魔法世界”の問題?
 それって、火星の魔力枯渇による“魔法世界の崩壊”のことですよね?

 え? 自分いったいタカミチに何言った? “魔法世界の崩壊”を食い止めるような話なんかしてませんよ?
 火星のテラフォーミングとか、そんなチートオリ主じゃないですよ。世界樹の力を使う能力なんかも持ってないですよ。自分は。



「それは初耳だな。
 というよりぼーや自身もなんのことかわかっていないぞ」

「ハハハ、まあ話せるときになったら話すよ。僕よりも説明に向いている人もいるし。
 大丈夫だよ。悪いどころか良い話だし、今は村の皆のことを考えていればいいよ」

「は、はあ…………そうですか。わかりました。
 その内話してくださいね」



 駄目だ、さっぱりわかりません。
 本気で自分いったいタカミチに何言ったっけ?

 でもいいんです。この並行世界は自分の知っている原作とは違うんですから、わからないことがあって当然でしょう。うん、そうです。
 今はタカミチの言うとおりに村の皆の治療を考えてましょう。諦めてもそこで人生終了ではありません。









「ま、なんにせよ。せっかくの里帰りだ。ゆっくりとしてくるがいいじゃろ。
 お姉さんや幼馴染にその伸びた背を見せてきなさい」

「はい、アーニャやアルちゃんにも久しぶりに会いますから楽しみです」

「…………“アルちゃん”、ですか?」



 !? …………やば、地雷踏んだ。
 “アルさん”が“アルちゃん”に反応した。



[32356] 第17話 元日
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:47



「明けましておめでとうございます。
 わあ、これが巫女服ですか。巫女服サイコーーー!きれいですね



 何かテンション上がってきた。



「明けましておめでとう。
 …………何か邪念を感じたんだが?」

「? マナちゃん、どうしたん?」

「明けましておめでとうございます、ネギ先生。
 早いですね、まだ7時前ですよ」

「明けましておめでとう。 お父さん達はどうしたの?
 一緒に年越しするって聞いていたけど」



 ん? ああ、タカミチ達なら、学園長から提供という名の強奪をされた秘蔵のお酒のせいで、アルさんを除いて全員夢の中です。
 吸血鬼であるエヴァさんすら二日酔いで動けないとか、いったいどんな酒を集めてたんですか、学園長?
 特にタカミチは尋問のため、次から次へと飲まされてグロッキーです。

 こんな有様ではおせちを食べることが出来そうにないので、台所を借りて適当に朝食を作ってアルさんと食べました。それとエヴァさん達用に雑炊も作っておいたので、起きたら勝手に食べてくれるでしょう。
 アルさんもかなり飲んでいたんですがケロッとしていました。やはり普通の人間ではないみたいです。

 ちなみにアルさんは朝食を食べ終わるとカメラを持ってニヤリと笑い、エヴァさんが二日酔いで苦しんでいる部屋に消えていきました。
 おそらくうんうん唸っている寝顔を撮られて、またからかう材料が増えることになるでしょう。


 そして自分は朝早くから龍宮神社へと参拝です。遅くなったら混むでしょうからね。







「皆さんまだ寝てますよ。今朝までずっと飲んでたみたいです。多分昼過ぎてからでないと起きないですね。僕は途中で寝ましたから大丈夫でしたけど。
 特にタカミチは随分とガトウさんに飲まされていたみたいです。
 僕は朝早くに目を覚ましたので、散歩がてら参拝です。皆さんがここでアルバイトしてるって聞きましたので…………」



 アルさんが写真を撮るのを止めなかったアリバイ作りじゃナイデスヨ。



「そうなの? まったく、いい年して何してるんだか。帰ったらキツク言っておかないと。
 まあいいわ、あなた日本初めてなんでしょう。参拝の仕方とかわかるのかしら?」


 そう言って、溜息ついたのはアスナさん。下ろしたオレンジの髪が巫女服の白に映えて似合ってます。
 原作の元気一杯な性格も良いですが、このクールな性格も良いですね。しかも微かに笑っているのが非常にディ・モールト非常にディ・モールト良いです。
 表情だけで「もう、しょうがないなぁ。お父さんは」と考えてるのがわかります。呆れるだけじゃない、隠しきれない親娘愛を感じますね。
 明石祐奈さんみたくベッタリじゃないみたいですけど、お父さん大好き人間みたいです。





「そういえばそうだな。
 神楽坂はこれから休憩だろう。案内してあげたらどうだ?
 この時間帯ならまだ参拝客も少ないだろうから、少しぐらい休憩を伸ばしても構わないよ」


 原作でも巫女服を着ていたアルカナさんは着慣れているようで、ビシッときまってます。まるで本当の巫女さんのようです。

 あ、いえ……本当に巫女さんです。
 巫女さんですから、その袂に入れた手を出してください。撃鉄が鳴る音なんか聞いてませんから。
 エキゾチックな美しさが、合わないと思われそうな巫女服に逆に合っています。体型が目立たない和服のはずなのに、中学生と思えないグラマラスなボディを隠しきれていません。やっぱりこの人年齢詐ゲフンゲフン!
 …………あれですね。やはり日本人女性とは発育速度が違うようですね。





「久しぶりやなー、ネギ君。また今度一緒に遊びにいこな。
 残念やけどさっき休憩終わったばかりやから、今は案内出来ひんわ」


 THE・正統派巫女さんの木乃香さん。やはり大和撫子はいいですね。
 和服を普段から着慣れているせいか、歩き方が他のアルバイト巫女さんとは違います。“しずしず”という擬音が似合う歩き方です。

 巫女服の紅白と絹のような長い黒髪のコントラストがいいです。
 というか関西呪術協会の長の娘が巫女やってる神社って凄くご利益ありそうです。よし、後で御神籤引きましょう。





「そういえばウェールズに一時帰郷なさるらしいですね。
 事情を聞きました。おめでとうございます、ネギ先生」


 いつものサイドポニーテールじゃなく、髪を下ろしている刹那さん。何だか髪を下ろしていると幼く見えます。
 アルビノなので肌も髪も雪のように白く、目がルビーのように赤いのですが、それがまた巫女服の白と赤に合っています。

 原作でのキリッとした表情も良いですが、この柔らかい表情も素敵です。原作では木乃香さんぐらいにしか見せないような笑顔を振りまいてくれます。
 この人も和服は剣道着などで着慣れているためか、本職の巫女さんのように見えます。
 烏族の女の子の巫女服に似た服は背中が開いているんでしたっけ? そっちも機会があるのなら是非とも見てみたいものです。



 でもアルバイトのときぐらいはその仕込み日傘は置いておきましょうよ。お願いですから。





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「はい、甘酒です。どうぞアスナさん」

「悪いわね。頂くわ」

「いえいえ、案内してくれるんですからこれぐらい。エヴァさんと学園長からお年玉も頂いたことですし。
 まあ、9歳とはいえ今年から社会人になるので、お年玉貰うのも変な話ですが」

「ウフフ、貰える間は貰っておきなさい。
 大人になったら貰いたくても貰えなくなるのだから」



 はい。勿論貰えるものはありがたく貰っておきます。
 グロッキーな状態でもお年玉をくれるためだけに起きてきたエヴァさんと学園長には感服します。

 …………タカミチとガトウさん? 誰でしたっけ、その人達?
 朝っぱらから二日酔いのせいで吐きまくっていたまるでダメなオッサン共なんか知りませんよ。





「そういえば、遅くなったけどおめでとう。故郷の人達を元に戻せるんですってね」

「ええ、ありがとうございます。
 来週にもウェールズに戻って、村の皆を元に戻すことになりました」

「9歳の身空で大したものだわ。若いって凄いわよねぇ。
 うちのクラスにも凄いのがいるけど、あなたもその一人なのかしらね」



 いや、あなたも若いでしょう? って言おうと思いましたけど、そういえばこのアスナさん記憶があるんでした。
 “黄昏の姫御子”として成長を阻害されていたためか、実年齢と見た目があってないんですよね。
 20年前の大戦時には既に子供の姿で、“自分と同じで実際の年齢と見た目が違うかもしれない”というようなことをアルさんが言ってましたし…………。



 むむ! となると、エヴァさんと同じロリババアというわけですね、わかります。







「…………何か不愉快なこと考えなかったかしら?」

「え!? いえいえいえいえいえ! クラスの凄い人って誰かな? と思っただけですよ。
 今年……じゃなくて去年のウルティマホラチャンピオンの古菲さんとか、茶々丸さんを作った葉加瀬さんとか色々いるみたいですし」

「ああ、そうね。確かにたくさん凄いのがいるわねぇ。
 というか、あなたが世話になっているエヴァンジェリンがその筆頭じゃないかしら?」


 …………そういえばそうでした。
 普段のエヴァさん見てると全然そう思えないんですよね。原作知っていると尚更です。


「んー。でも家でのエヴァさん見てると全然そう思えないのが困るんですよね」

「フフフ、そうかもしれないわね。あなたに“お母さん”と呼ばれるために四苦八苦している姿を見ていると、確かに凄い人と思うのは無理だわ。
 でも、ウェールズから帰ってきたら魔法使いとして弟子になるんでしょう。そうなったらそんなこと言えないわよ。エヴァンジェリンは魔法に関しては厳しいからね」



 頑張りなさい、と頭を撫でられました。ナデナデ、と。
















 ………………ポッ。
















 …………ハッ!? いけないいけない。危うく惚れるところでした。
 くそっ! アスナさんがナデポのスキルを持っているなんて、さすがは“黄昏の姫御子”ですね。



 まあ、冗談はともかく…………いいなぁ。こんな風に撫でられるのって。
 ネカネ姉さんは抱きしめながら撫でてくるし、エヴァさんは何だか目が血走ってるんですよね。

 タカミチ? 男に撫でられて喜ぶ趣味はないですよ。
 こんな風に穏やかに撫でてくれるのって、アーニャのお母さんぐらいでした。


 それにしても、魔法使いとしての弟子になるのもエヴァさん言いふらしているみたいですねぇ。
 帰ったらエヴァさんと少しお話しないといけないようです、フフフフフ。



「? どうしたの? いきなり笑っちゃって」

「え、いや、ありがとうございます。教師だけでなく魔法の修行も頑張ります
 こんな風に撫でられるのって久しぶりで。何だかアスナさんは“お姉さん”みたいだなぁ、って思いまして」

「…………そう。そう思ってくれるの。
 でも、教師になる人がそんなこと言っていいのかしら。それにエヴァンジェリンが聞いたら怒るわよ」



 確かにそうですね。

「アスナのことは“お姉さん”と思うのに、何で私のことは“お母さん”って思ってくれないんだーーー!!!」

 とか騒ぎそうです。
 でも、それより何かを思い出してるようなアスナさんが気になります。ナギやアリカ姫のことを思い出しているのでしょうか?



「ハハハ、そうですね。このことは秘密にしてください」

「わかってるわよ。あなたもエヴァンジェリンの前でそんなこと言わないでね。あの子が暴れると大変なんだから。
 …………もう少し撫でてあげるから」





 アスナさんに引き寄せられ、そのまま頭を撫でてもらいました。頭がちょうど胸に当たる位置なのが役得です。
 ネカネ姉さんやエヴァさんみたいな感じじゃなく、軽く触られるような感じが気持ちいいです。何だか“慈しむ”という言葉が浮かんできました。


 眠くなってきたなぁ。1時に寝て、6時前に起きましたからね。9歳の子供の体にはキツイです。





 …………原作と違ってガトウさん達は生きてるのに、原作通りにナギやアリカ姫はいませんでした。
 原作通りにメルディアナ魔法学院に入るまで自分は一人ぼっちでした。

 アーニャやアーニャの両親、スタン爺さんもいましたけど、アーニャに甘えるわけにはいかないし、アーニャの両親やスタン爺さんはやはりどこか自分に遠慮していたようでした。
 まあ、アーニャの両親をとるわけにもいかないし、スタン爺さんはツンデレでしたからしょうがないですけど。


 この世界が並行世界ということを知った後、キャラ崩壊していたことに気づいたネカネ姉さんにも甘えることが出来ませんでした。
 もちろんネカネ姉さんは自分のことを弟として愛してくれているということはわかります。
 それでも何だか戻れなくなりそうで怖くて、甘えることが出来ませんでした。

 それからは何が起こるかわからないこの並行世界に対処するために、勉強と修行の毎日でした。
 男に甘える趣味は無いのでタカミチには甘えませんでしたし、エヴァさんに甘えたら負けかな、と思ったので甘えませんでした。

 前世の最後が大人だったから甘えるのが恥ずかしいし、甘えなくても大人なんだから自分●●は大丈夫と思っていました。
 でも、子供の体に引きずられて、大人のときに食べられたものが食べられなくなったみたいに、甘えなくても大丈夫だったのが本当は甘えたい、と心の底では思っていたのかもしれません。
 
 いや、思っていたのでしょう。





 僕は今、アスナさんに甘えていたいです。





「アスナさん」


「なに?」


「もうちょっと、撫でてもらっていいですか?」


「……ええ、いいわよ」





 ナデナデ、と頭が撫でられます。
 …………眠い。参拝とかはまだだけど、このまま眠っちゃってもいいかなぁ?



[32356] 第18話 石化治療
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:47



 こんにちは、アスナさんによりかかって寝てたところをアルさんに激写されたネギです。コンチクショウ。

 アスナさんに甘えていたらいつの間にか寝ており、アルカナさんや木乃香さん達にニヤニヤと笑われながら見つめられていました。
 刹那さんはニヤニヤではなく、微笑ましいものを見るような目だったのが逆に恥ずかしかったです。
 そしてアルさんにはエヴァさんに見せないようにお願いしておきましたけど、どうなるかわかりません。朝倉和美さんでなかったことに感謝すべきでしょうか?


 これでしばらくからかわれるんでしょう。ま、アスナさんに甘えることが出来たのは役得だったからいいですけど。







「…………というわけで、村の皆を治しにウェールズに帰ってきました」

「だ、誰に向かって話しているのかな?
 それに最近何だかネギ君性格変わってないかい?」



 エヴァさんの家に住んで、2-A生徒や元“紅き翼アラルブラ”の人達と一緒に数ヶ月過ごしたら誰でもこうなりますよ、タカミチ。


 あ、そういえば、図書館島に行ったときに図書館探検部の人達を見かけました。まだ関わるのは早いと思って遠目から見ただけでしたけど、あまり原作と変わっていないようでした。
 のどかさんはやはり男性恐怖症みたいですが、あののどかな雰囲気は変わっていませんでした。
 夕映さんはトラップはずしたり理屈っぽかったりしてました。
 パルさん? やっぱりGKBRみたいな触覚持って、時折何か叫んでいましたよ。…………やば、アンサイクロペディアの“GKBR”の項目思い出しちゃったよ。

 のどかさんのあののどかな雰囲気はいいなぁ。原作ネギが好きになる気持ちもわかります。
 何で自分の周りにいるのはのどかさんの対極な雰囲気を持つ人ばかりなんでしょうか?





「そんなことはどうでもいいのですよ、タカミチ。
 アーニャが迎えに来てくれている筈なのですが………………あ、いましたね。
 一般人も多くいる空港の中で、あんなトンガリ帽子を被っているのはアーニャ以外の何者でもないでしょう。まったく…………一般人への秘匿はどうなっているんだか」

「…………やっぱり変わったよ、ネギ君。
 うん、今まで忙しすぎたんだよ。今日で石化治療も終わるんだ。麻帆良に帰ったらゆっくりと休もう。
 3学期からは先生をしなきゃいけないけど、冬休みの間ぐらい休んでもバチは当たらないさ。ゆっくり麻帆良散策でもして心を休めるんだ」



 何でそんな憐れんだ表情になるんですか、タカミチ?
 僕は何も変わっていませんよ。今なら浮遊術を使って空を飛ぶことが出来る気分なんですから。

 それに麻帆良散策しても心は休まりませんよ。エヴァさんとタカミチが何をするかわかりませんからね。


 ま、いいや。
 とりあえずアーニャと合流しよう。







「やあ、小さくなったね、アーニャ」

「誰が豆粒チビかぁっ!?」



 この怒りよう、やっぱりアーニャです。センスの悪い小さな錬金術師の幻影が見えた気がしますが気のせいでしょう。
 でも、本当に小さくなったなぁ、アーニャ。
 それとも自分の背が大きくなっただけですかね? ハッハッハ。



「そんなこと言ってないよ、アーニャ。それにしても日本語がうまくなったね。それなら日本に行っても大丈夫だよ。
 それから、ただいま。アーニャ。…………あれ? アルちゃんは?」

「久しぶりだね、アーニャ君」

「……お帰りなさい、ネギ。お久しぶりです、タカミチさん。アルちゃんは妹さんに挨拶しに実家に帰ったわ。日本に行ったらそう簡単に帰ってこれなくなるでしょうからね
 …………く、本当に背が伸びてるわね。その靴もしかしてシークレットブーツだったりしない?」

「あ、なるほどね。アルちゃんの妹さんも元気になったのかなぁ」

「ネカネ姉さんは急な出張が入ったから来てないわよ。多分帰りは再来週になるから会えないと思うわ。だから手紙か何か残しておきなさい。
 それとおじいちゃんに治療魔法かけてあげて。ネカネ姉さんに出張を伝えたせいでまた酷い目にあったみたい。学校の保険医ですら匙を投げたわ」



 …………おじいちゃん、無茶しやがって。
 それと、嫉妬は見苦しいよ、アーニャ。



「ふーん、そうなんだ。
 まあ、村の皆の石化治療が終わった後で余裕があったら治療魔法をかけるよ。いつものことで慣れてるから、数日ぐらい放っておいても大丈夫でしょ。
 多分持ってきたマグナム弾で大丈夫だと思うけどね」

「…………二人とも。それは本当にいつものことなのかい?」





 メルディアナ魔法学校では日常茶飯事だぜ! ………………イヤ、本当に。



 さて、それでは早速村の皆を元に戻すとしますか。
 スタン爺さん達と会うのは本当に久しぶりです。あちらからしてみたらそんなことないんでしょうが。





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 バキューーーン! バキューーーン!

 ビーム・マグナムを撃つ音がメルディアナ魔法学校の地下に響き渡る。



 マグナム弾は、もとは魔法を封じ込めるためにつくられた特殊な弾丸。石化治療の魔法が放たれる。

 このビーム・マグナムは味方には“治療魔法”を込めて撃ち、敵には“攻撃魔法”を込めて撃つ。撃つときの擬音は「バキューーーン!」。

 目標を狙い撃つように、無駄弾は撃たないように、ゆっくりと狙いをつけるのがここでのたしなみ。

 もちろん、射撃が苦手なのにガナーザ○ウォーリアに乗るなどといった、「必中」が使えるリアル系パイロットなど存在しない。といった具合に、正に絵に描いたような(OOダブルオー的な)“スナイパーらしさ”が求められている。









 バキューーーン! バキューーーン!


「…………ねぇ、ネギ。いくら治療魔法とはいえ、その銃で村の皆を撃つのやめてくれないかしら?
 というか説明も無しでいきなりぶっ放したときは本当に驚いたんだけど」

「石化を治してくれたのはありがたいんじゃがの。
 気づいたら、目の前にこちらにデカイ銃を向けた大きくなったぼーずがいる、という状況は理解出来んかったわい」



 はいはい、あと十数人で村の皆全員を治せるから待ってくださいね。アーニャ、スタン爺さん。
 そんな“マァムがダイに向かってキアリクを込めた魔弾銃を撃ったときのポップ”みたいな顔はやめてください、傷つきますから。

 タカミチもそんな orz みたいな体勢とってると服が汚れますよ。この地下室は埃が溜まっていますからね。
 それに何ブツブツと「……育て方間違った……」「……ネカネさんの馬鹿野郎……」「……様に似てると思ってたのに……」みたいな独り言してるんですか?
 あとでネカネ姉さんにチクリますよ。それに顔はともかく、性格は母親似だと思いますけど?





 バキューーーン! バキューーーン!


「便利なんだから良いじゃないですか。
 魔法符なんかより汎用性高いですよ。魔法込めればいいだけだからタダですし、遠距離の相手にも効果あるし」

「確かに便利そうじゃが、銃で治療魔法を撃たれる相手のことも考えてくれんかのぉ。生きた心地がせんわ」



 起きたばっかりのスタン爺さんの目が点になってましたもんね。
 スタン爺さんが無事に回復したのを確認した後、続けて他の村の皆に狙いを定めたら、『アーニャ・フレイム・ナックル』食らったのはビックリしましたけど。
 何もいきなり殴らなくてもいいでしょうに。





 バキューーーン! バキューーーン!


「…………はい、これで全員終わりました。
 改めて聞きますけど、村の皆は問題無いですね?」

「あ、ああ。治った人から上に待機している治療魔法使いに見てもらっているけど、特に異常は見られないそうだよ。
 ただ、悪魔との戦いで怪我をしたまま石化された人達がいるからその人達の治療があるけどね。
 おめでとう、ネギ君。君は村の皆を無事に治せたんだよ」

「そうですか。お待たせしました、スタンお爺ちゃん。
 遅くなりましたけど、ようやく皆を治すことが出来ました」



 …………あ、やば。何か涙でてきそうです。



「う、うむ。
 儂からしたら、あの日のことはつい先程のことにしか思えんのじゃがの。ぼーず達がこんなに大きくなっていると月日が流れているということがわかるわい。
 ありがとう、ぼーず。良く頑張ったな」



 えへへ、褒められました。
 スタン爺さんの顔が何故か引き攣りそうなのは気にしないことにしておきます。「やっぱりナギの子か」と小さな声で呟いているのも気にしないことにしておきます。



「それじゃ、上にいきましょうか。
 パーティーの一つもできればいいんですが、全員の怪我の治療が終わるまでお預けです」

「そうじゃの。ここにいてもしょうがない。
 腹が減ったから食事にでもしよう。そのときにぼーずが今までどんな風に暮らしていたか教えておくれ」





―――――――――――――――――――――――――――――





「終わったねー、アーニャ」

「そうね、ネギ。
 まあ、魔法使いとしての最終修行は始まってすらいないけどね」



 村の皆の石化治療が遂に終わりました。
 怪我してる人が完治するまで最長で2週間ということなので、冬休みが終わる前に麻帆良に帰らなければならないから、パーティーなどはまた次の機会になりそうです。夏休みに帰省したときでしょうか。
 今は用意された部屋でダラダラとしてます。



「村の皆が無事に治って良かったねー、アーニャ」

「そうね、ネギ。
 私のお母さんは石になってた知り合いに「老けたわね」って言われたせいで怒ってたけど」



 石になっているときは歳をとらないからねぇ。
 村には自分とアーニャの他に子供がいなかったから大丈夫だったけど、ドラクエⅤのように親と子供が10歳差になったりする可能性があったんだよなぁ。

 そういえば、この世界だったら石化魔法使えば、コールドスリープ技術なんかいらないんじゃね?



「明日はどうするの、ネギ?」

「うーん? 何だかお客様に会わなきゃ駄目らしいねぇ。
 アーニャは日本に行く準備は出来てるのー?」

「大丈夫よ。というかアンタだらけ過ぎよ。
 まあ、気持ちはわかるけどね」

「なーんか何にも考えられないし、動きたくないんだよねぇ。燃え尽き症候群ってやつかなー?」

「ちょっ!? アンタこれから学校の先生になるんでしょーが!?」





 だいじょーぶ、だいじょーぶ。明日になったら本気出すから。
 …………眠くなってきたなぁ。


 でも確かにこれから原作がいよいよ始まるんですよねぇ。麻帆良に帰ったら頑張らないと。
 …………それでも今日ぐらいはゆっくりと休むことにしましょう。



















 あ、おじいちゃんに治療魔法かけてあげるの忘れてた。
 …………ま、いっか。



[32356] 第19話 魔法世界
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:48



「久しぶりじゃの、ネギ。
 石化治療魔法で村の皆を治すとは見事じゃ。背もこんなに大きくなって。
 日本には“男子三日会わざれば刮目して見よ”ということわざがあるが、まさしくその通りじゃ」

「久しぶりも何も、今朝治療魔法かけてあげたでしょ?」

「ちょっ!? いいから話をあわせてあげなさい!
 おじいちゃんもいろいろ大変なんだから」

「そ、そうですよ、お兄様。
 学校長は毎日激務をこなしておられるのでお疲れなのです」



 ム、確かにそうですね。おそらく校長というのは激務なのでしょう。
 数ヶ月前に比べ、大分やつれているし髪の毛も薄くなっています。きっとどこかの英雄と同じ二つ名を持っている部下?との関係に悩んでいるのでしょう。
 それと昨日アルちゃんいないと思ってたら、妹さんに会いに行ってたそうです。数日後には自分と一緒に日本へ出発しますからね。家族水入らずで過ごせたそうで何よりです。

 そうだ。石化治療魔法の研究も終わったし、今度毛生え薬の研究でもしてみましょうか。
 完成したらおじいちゃんだけでなく近衛学園長にもプレゼントしましょうかね。あの人も頭頂部にしか髪の毛無いし。







 ………………オエ、学園長の頭が髪の毛に覆われるのを想像したら変なことになりました。
 あの頭で髪の毛フサフサってどこのエイリアンだよ!?



「どうしたの?
 顔色が急に悪くなったけど、治療魔法で疲れたの?」

「いや、何でもないよ、アーニャ。ちょっと変な想像が浮かんできただけだよ」



 でも怖いもの見たさで作ってみたい自分がいます。
 くそ、静まるんだ、自分の好奇心。たかが好奇心のために麻帆良にエイリアンを誕生させる気かぁっ!!!



「ア、アハハ……、
 お久しぶりです、学校長」

「うむ、高畑殿か。久しぶりですな。
 ネギがお世話になっているようでありがとうございます。コノエモンにも感謝しているとお伝えくだされ」

「はい。お伝えしておきます。
 それでですが…………」

「承知しておる。
 既に隣の部屋でお待ちになっておられる」



 …………いや、一応作っておくべきか。何かあったときの切り札となるかもしれません。
 いざというときは「僕の要求が受け入れられない場合、学園長の頭を髪の毛でフサフサにする!」とでも宣言したら、おそらく学園関係者は僕に屈服するでしょう。
 どこの誰が好き好んでエイリアンを見てみたいと思いますか。



「お、お客様?
 え、えと。私は席を外したほうがいいの?」

「ふむ、アーニャなら構わんと思うがの」

「大丈夫ですよ。別に秘密の話をするわけではないですから」



 あ、でも木乃香さんから泣いて止めさせられそうですね。
 そもそもいくらぬらりひょんとはいえ、木乃香さんの実?の祖父であるのですから木乃香さんにも害が及ぶ可能性があります。
 木乃香さん泣かせるのは本意じゃないし、やっぱりやめておきましょう。



「それではネギ君、君に会いたいという人がいてね」

「うむ、それでは呼んでくるとしよう。
 アーニャ、悪いが6人分お茶を用意してきてくれるかの」

「わかったわ、おじいちゃん」



 む、考え込んでいたらいつの間にか話が進んでいました。
 お客様ですか。誰でしょう? 正月にアルさんとガトウさんに会ったから、今度はラカンさんとか?





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 別室行きとなると思いましたが、おじいちゃんが茶を2つ持って隣の部屋に行き、入れ替わりにお客様が来ました。

 コード○アスのマオ!? マズイ、心が読まれるぞぉーーー!!! …………じゃなかった。





「はじめまして。ネギ・スプリングフィールド君。
 私はクルト・ゲーデルといいます。メガロメセンブリアの元老院議員をやっているものです」

「ちなみにクルトは元“紅き翼アラルブラ”でもあってね。僕達の仲間であるんだ。確か前に少し話したよね。
 もちろんナギとも知り合いだよ」


「はじめまして。ネギ・スプリングフィールドです」



 マオじゃなくてクルトさんでした。“紅き翼アラルブラ”関連と予想していたのは少し当たりましたね。
 ま、そもそもラカンさんがこんなところに来るわけないですか。





「は、はじめまして!
 ネギの幼馴染のアンナ・ユーリエウナ・ココロウァです」

「はじめまして。
 ネギお兄様の使い魔であるオコジョ妖精のアルです」

「ハハハ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、ミス・ココロウァ。
 オコジョ妖精の使い魔ですか。知り合いに同じ“アル”がいるのでアルちゃんとお呼びしましょう」


 さすがのアーニャも本国の元老院議員ともなると気後れしてる感じですね。
 というか、そもそもこの人何でここに来たんだ?


「フム、ネギ君は落ち着いていますね。10歳なのに立派なことです」


 顔は笑っていますが、探ってくるような感じですね。原作同様に腹黒で何か企んでいるんでしょうか?
 敵対するつもりはありませんが、舐められるのも困ります。駒にされる気はありませんから。
 というわけでちょっと牽制しておきましょう。



「ありがとうございます。
 ゲーデル議員のことは以前タカミチから話を聞かせていただきました。“紅き翼アラルブラ”の中でも年が近いから特に仲が良いそうですね。
 …………それとアルビレオ・イマ●●●●●●●●さんからもいろいろと聞いてマスヨ」



 ヒキッ! そんな擬音がしてクルトさんの顔が引き攣りました。アルさんから、ということが嫌だったんでしょう。

 フハハハハ! こんなこともあろうかと、正月のときに魔法世界編のためにといろいろアルさんから聞いてたんですよ。
 なにせアルさんは小さいときのクルトさんを知っていますからねぇ。いくらクルトさんが戦争孤児で天才児とはいえ、子供らしい微笑ましい出来事や失敗談が無いわけがありません。
 しかも悪戯好きなアルさんです。もちろん小さいときのクルトさんやタカミチもその悪戯の被害にあっています。



「ちなみにタカミチの小さいときの話もいろいろと聞いてます」



 タカミチの顔色も変わりました。アーニャは何のことかわかっていないようでハテナ顔ですが。



「……ア、アハハ。どんな話を聞いたのか気になりますね。ま、それは次回の話の種にでも。
 立ち話もなんですから座って話しましょう。短い話というわけじゃありませんので」



 ハッハッハ、顔が引き攣ったままですよ、クルトさん。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「しかし、元老院議員ともあろう方が僕に一体何の御用でしょう?
 別に特別なことはしていないと思うのですが」

「何を言ってるんですか、ネギ君は。
 昨日、伯爵級悪魔によって石化された人達を治療したばかりでしょうに」

「ええ、それは確かにそうなんですが。
 ウェールズに帰ったら来客があるとはクリスマスのころから聞いてました。もっともお客様がゲーデル議員とは知りませんでしたが」

「…………ま、確かに。私が来たのは石化治療とは別件です。別に悪い話というわけではありませんので安心してください。
 それとネギ君に会ってみたいというのはありました。タカミチからは聞いていたのですが、結局今になるまで会う機会がありませんでしたからね。
 ハハハ、何でも“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”から「お母さんと呼んでくれ」と言われて困っているらしいですね」



 タカミチ!? 何てことを言いふらしているのですか!?

 …………エヴァさんとの関係を把握することが目的ですかね?
 将来、自分を英雄として祭り上げるならエヴァさんは邪魔になってしまうでしょう。
 ましてや“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”をお母さん呼ばわりしてたら英雄になんかなれるわけありません。



「…………ええ、まあ。
 父との関係からお世話になっています」

「ネギ君も大変ですねぇ」

「ええ、まあ。でもさすがに見た目同い年のエヴァさんを母と呼ぶ気はないですよ。
 母ではなく、恋人としてなら話は別ですけどね」



 あの人、自分の好みにジャストミートしてます。今のところエヴァさんとアスナさんが好感度TOP2です。

 なんかアーニャが「ブフォッ!」と紅茶を噴き出しましたが無視です。
 アーニャの対面に座ってたタカミチが紅茶まみれになりましたが、それも無視です。



「! …………ほ、ほほう。
 ネギ君はもう人生のパートナー探しをしてるんですか。少し気が早くありませんか?」

「あら? お姉さまが増えるのですか?」

「ハハハ、そこまで深く考えているわけじゃありませんよ。それにエヴァさんは父一筋でしょうし。
 でも、ウチの駄目親父ながら、あそこまで深く想われるのはうらやましいと思いますけどね。自分もあんな風に女性から想われるような男になりたいと思います。
 はい、タカミチ。このハンカチ使っていいよ。アーニャもそんなはしたない事しないでよ」

「ア、アンタがいきなりとんでもないこと言うからでしょーがっ!!!
 アルちゃんも変なこと言わないの!!!」

「ハ、ハハハ…………。大人びていてネギ君は10歳とは思えませんね。
 まあ、何かあったら私にも言ってください。出来る限り力になりますよ」

「はい。そのときはよろしくお願いします」





「…………さて、そろそろ本題に入りましょうか。何故かやけに警戒されているようですし。
 私がネギ君と会うために現実世界までやってきたのは、ネギ君に渡すものがあるからなのですよ」

「渡すもの……ですか?」



 何でしょう? タカミチがニコニコ笑っているから変なものじゃないのでしょうが。
 クルトさんが持ってきた鞄から一枚の紙を取り出してますが…………ラカンさん持ってた『闇の魔法マギア・エレベア』習得用の巻物とかじゃないですね?



「それでは改めまして。ネギ・スプリングフィールド君!」

「はい」



 巻物じゃない、ただの一枚の分厚い紙ですね。いったいなんなんでしょう?























「君は“魔法世界崩壊を回避するための火星-水星間魔力輸送プロジェクト”に多大な貢献をしました。
 よってその栄誉をたたえ、ここに賞状を送り功績をたたえます。メガロメセンブリア元老院議員 クルト・ゲーデルより

 …………はい、おめでとうございます。これが表彰状です」















 …………。

 ……………………。

 ………………………………“魔法世界崩壊を回避するための火星-水星間魔力輸送プロジェクト”ォ?



「あ、ありがとうございます。
 と言いたいところなのですが、自分にはさっぱり事情がわかりません」


「そ、そうよ。
 魔法世界崩壊って何よ? ネギがいつそんな凄いことしたのよ」


「落ち着いてください。これから説明しますので。
 …………というよりタカミチから説明されてないのですか?」


 …………ああ、そういえば正月にそれらしきことを言われた気がしますね。


「しょうがないだろ。まだ一応機密だったんだ。
 公式発表されるまでネギ君に言うわけにはいかないだろう」

「いや、確かにそうだが。
 どうせ今日表彰するとわかってたんだから、前もって言っておいてもいいじゃないか」


 おまえたちは何言ってるんだタカミチにクルトさんーーッ!!!
 言い訳はともかく理由を言えーーーッ!!!


「いや、スイマセン。
 まず魔法世界崩壊についてから説明しますね。
 実は魔法世界崩壊は20年前の“大分烈戦争ベルム・スキスマティクム”にも関係してくるのですよ」





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 クルトさんとタカミチから説明してもらいました。
 魔法世界は火星にあること。その魔法世界は火星の魔力枯渇により、いずれ崩壊してしまうこと。“大分烈戦争ベルム・スキスマティクム”が起こった理由。“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”のことなどなど。

 もうネタバレのオンパレードです。





「…………それで魔法世界の崩壊は避けられないため、クルトはせめて幻想ではない人間だけでも生き延びさせようと対策を練っていたんだ」

「ええ。しかし、平和裏に現実世界に6700万人もの人間を移り住ませるなんてのは不可能です。そんなことしたら現実世界と戦争になるでしょう。
 また、いくら幻想とはいえ、他の10億以上いる人達を見捨てることもできませんでした」

「そのときだよ。5年前にネギ君が言ったことを覚えているかい?」

「いえ、そんな昔のことは良く憶えていないです」

「ハハハ、まだ4歳だったから無理もないね。
 ネギ君はね、「火星に住めなくなったら、水星か金星に住めばいいじゃない」って言ったんだよ」


 ………………ッ!? 確かにそんなこと言った覚えがあります!!!


「え、えーと、もしかして僕が宇宙についての本を読んでいたときのですか?」

「思い出したのかい? そのときだよ。ネギ君が火星のことについて書かれていたページを読んでいたね。
 そして“火星は地球が人でいっぱいになったときの移住先になりうる可能性を秘めている”と書かれていることから話が続いてね。
 僕が「地球が人でいっぱいになって、火星も人でいっぱいになって住むところがなくなったらどうする?」と聞いたんだよ」

「…………その答えが「水星か金星に住めばいいじゃない」?
 ネギ、アンタって大物なの? それともただの馬鹿なの?」

「で、でもアーニャお姉さま。
 それで魔法世界の崩壊は避けることができたのだから、凄いことだと思いますけど……」


 ありがとう、アルちゃん。
 でも、自分と目を合わせてその台詞を言って欲しかったな。というか馬鹿ということを否定して欲しいんだけど。


「まあ、実際に水星や金星に移り住むことは出来ませんけどね。いや、出来るかもしれませんが時間が足りません。
 しかし、私達はネギ君の言葉がキッカケで気づいたのです。“魔法世界が火星の魔力枯渇により崩壊してしまうのなら、火星に魔力を足せばいいではないか”…………と」


 凄い力技ですね。「パンが無ければ、パンを持ってくればいいじゃない」ぐらい力技です。
 そんなん出来たら誰も飢え死にしないんだよっ!!!


「そして研究を重ね、遂に火星-水星間で魔力輸送できるゲートを開発することができました。
 今はまだ魔法世界崩壊に対処できる規模ではありませんが、数を増やすなり、もっと大型ゲートにするなり手はあります。
 おそらくあと数年で魔法世界崩壊を防げるだけの魔力を確保できるでしょう」

「まあ、あくまで延命処置にすぎないけどね。
 しかし、水星の魔力を使えば多分千年単位で延命可能だ。他に金星もあるし、その間に抜本的な対策を考えるさ」



 千年あれば十分すぎるでしょうねー。



「というわけで、これがその表彰状です。
 ネギ君は歴史に残る事件を解決するキッカケを作ったんですよ。誇っていいことです」



 うわぁ…………魔法世界編もいつの間にか終わってたよ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「さて、ネギ君はこれで“魔法世界崩壊の阻止”と“伯爵級悪魔による石化の治療”という2つのことを成し遂げました」


 すいません。
 “魔法世界崩壊の阻止”は何でもない雑談で、“伯爵級悪魔による石化の治療”はただの冗談だったんですが。


「片方だけでも凄いのに、一気に2つの偉業を達成するなんてなんて前例がないよ。
 おそらく10歳という最年少の“偉大な魔法使いマギステル・マギ”の誕生となるね」


 まだ、“先生になる”という魔法使いとしての修行は始まってすらいないんですけど……。
 しかも“魔法世界崩壊の阻止”はアイディアだけで自分何もしてないですよね?





「ところで少し聞きたいのですが…………先ほどの説明に出てきた“アリカ・アナルキア・エンテオフュシア”という女性についてどう思いますか?」


「? どう思うか……ですか? それは具体的にどういう意味でしょうか?
 顔はまほネットで写真見たことあるから美人だと思いますけど」



 母親のことを聞く?
 アリカ姫のことは確か一人前になるまで話さない約束を“紅き翼アラルブラ”の間でしていたのでは?



「そういうことではなくて………………そうですねぇ。
 例えば“世界を救うために自らの国を滅ぼした”ということについてはどう思います?」

「? いや…………世界が滅びたら自らの国も結局滅びますよね。他に手がなかったのならしょうがないのでは?
 あくまでその空中都市オスティアの墜落の被害にあっていない人間の考えることですけど」

「それでは“災厄の魔女”と呼ばれていることについてはどう思います?」

「政情不安を鎮めるためのスケープゴートという役割を受け入れて処刑されたのは駄目だと思います。
 助かったウェスペルタティア王国の人達のことを考えるなら、何としても生き残るべきだったと思います。今でも難民として苦労している人達を助けるために何としても。
 メガロメセンブリア元老院に“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の黒幕として処刑されそうなら無実を証明し、むしろ冤罪をかけられそうになったのを逆手にとって難民の人達を保護させるよう、努力すべきだったと思います」

「……ネギ君は結構あくどいのですね。
 要するに“冤罪かけたのをばらされたくなかったら、難民を保護しろ”と元老院を脅迫すべきだったというのですか?」

「まあ、さっきの説明を聞いただけでの感想です。
 実際にはそんなうまくいかないとは思いますから、子供の戯言と聞き逃してください」

「いえ、なかなか興味深い話でしたよ。
 ネギ君は…………性格はあまりナギに似てないのですね」

「どうなんでしょう? 実際に会ったことは一度しかないから自分としてはわかりません。
 まあ、周りから聞いた話からすると、確かに似てないかもしれませんね」

「いや、僕からすると結構ナギに似てると思うよ……」



 何で黄昏ているんですか、タカミチ?
 自分のどこがあの駄目親父と似てるというんですか?





「しかし、何でそんなことを聞くんですか?
 もしかして「9を救うために1を切り捨てられるか?」という“偉大な魔法使いマギステル・マギ”になるための心構えですか?」

「い、いや、そういうわけじゃないんだけど………………クルト、もうはっきり言ってもいいだろう?」

「そうだな。ネギ君なら大丈夫だろう」



 え? えええ? バラすの? アリカ姫が母親ってことバラすの?
 どういうこと? まだ一人前になってないですよ?





「…………実は、ネギ君。
 君のお母さんは、先ほどから話に出ていた“アリカ・アナルキア・エンテオフュシア”という人なんだよ」



 バラしちゃったよ、タカミチ。
 ちょっと待って。どういうこと? 自分が一人前になるまで話さない約束でしょ?

 そんなんいきなり言われてもどう反応すればいいかわからないよ。
 隣のアーニャとアルちゃんも「何を言っているんだコイツは?」みたいな顔でタカミチ達を見てるし…………。


 …………えーっと。何て答えよう?
 どういう状況か全然わからない。………………とりあえず茶を濁しておきますか。























「そ、そうなんですか?
 あの“二股眉毛●●●●”の人が僕のお母さんなのですか?」







 って、何アホなことを言ってるんだ自分はーーーーーっ!?!?!?
 駄目だ。自分でもテンパリすぎているのがわかります。


 ああ! タカミチとクルトさんが崩れ落ちた!
 アーニャとアルちゃんはわけもわからずポカンとしている!


 駄目だこの混沌、早く何とかしないと!


























 …………と、その時、



「アリカ殿ーーーーー!!!!!」



 と、ガラスが「ガッシャーーーン!」と割れる音と共に、おじいちゃんの叫び声が隣の部屋から聞こえました。



 って、えええぇぇーーーーーっ!?!?!?





「な、何事ですか!? いったい!?」

「ネ、ネギ君っ!!!
 実は隣の部屋にそのアリカ様がいたんですよっ!!!」

「実はアリカ様は処刑されるときにナギさんに助けられて、それからナギさんと結婚して君が生まれたんだ!
 さっきの話にあった元老院と“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”のせいで君と離れ離れにならなければいけなかったんだけど、その元凶を先日叩き潰し終わったから君に会いに来たんだよっ!!!」





 やべぇっ!!! 母親の目の前で“二股眉毛●●●●”呼ばわりしちゃった!!!

 隣の部屋に踏み込むと割れた窓と、そこから外を見ているおじいちゃんがいました。外で土煙が舞っているのが見えます。
 窓ブチ破って外へ出たんですか!?


 あー、そうですよね。いくら一人前になるまで話さない約束してあっても、問題なく会えるようになったらそりゃ会いに来ますよね。
 元老院も“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”も既に叩き潰しましたもんね。もう障害は何も無いですよね。



 って、そんなこと考えている暇はありません。
 急いで追いかけないと!



[32356] 最終話 ハッピーエンド
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:50



「やあ、ネギ君久しぶりだね」


「どうも、久しぶりですタカミチ。2ヶ月振りぐらいですか」


「そのぐらいになるね。何の本を読んでいるんだい?」


「宇宙についての本ですよ。今は火星の項目を読んでます。
 火星は地球が人でいっぱいになったときの移住先になりうる可能性を秘めている、とか書かれててますね」


「…………4歳なのに難しい本読んでるんだねぇ」


「いえ、それほどでも。
 でも実際どうなんですかね? 本当に火星なんかに人が住めるようになるんでしょうか?」


「え? いや……ハハハ。どうなんだろうね?
 何百年後かには住めるようになってるかもしれないよ。
 それに気づかないだけで火星人がもう住んでるかもしれないさ」


「タコみたいな火星人ですか? 会ってみたいとは思えませんね。
 それに何百年後に住めるようになっても、どうせまた火星も人で一杯になっちゃうんじゃないでしょうか?」


「そうだね。人はどんどん増えていくから……。
 そうなったらどうする? 地球が人でいっぱいになって、火星も人でいっぱいになって住むところがなくなったら?」





















「火星に住めなくなったら、水星か金星に住めばいいじゃない」


「…………その発想はなかった」





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「………………我が子ながら突飛な発想をする子じゃの」


「ハハハ、確かにネギ君はときに誰も思いつかない発想をしますね。
 石化治療魔法の件も、石化させた当の悪魔を召喚して解呪法を教えてもらう、なんてことは他の誰も考え付きませんよ」


「なるほど、変わった発想だ、タカミチ。
 しかし、その変わった発想をキッカケとして、現実世界に迷惑をかけずに魔法世界の生き物全てを生き延びさせることが出来るんだ。ネギ君には感謝すべきだよ」


「まだじゃろう、クルト。
 まだ間に合うかどうかはわからぬ」


「は、確かに。しかし、ネギ君の発想からヒントを得ることができ、研究の結果、水星の魔力を使えば火星が延命可能なことがわかりました。
 ゲートを火星と水星との間で繋ぎ、魔力枯渇寸前の火星に水星の魔力を流し込む。言ってしまえばこれだけですからね。
 まあ、魔力のみ輸送可能なゲートを繋ぐのには苦労しましたが、それもあと2、3年あれば完成するでしょう。
 魔法使い人口6700万人のメガロメセンブリア連合は伊達じゃありませんし、アリアドネーのセラス総長の協力も確約してあります」


「そして水星の魔力を使いきるまでに地球に魔法世界のことを知ってもらい、魔力枯渇の心配がない現実世界の移住先を見つける。もしくは現実世界の人間と魔法世界の人間の婚姻政策をとり、純粋な魔法世界人をいなくする。
 まあ、水星の魔力を使い切るまでに千年単位の時間があるということなので大丈夫でしょう。…………他に金星もありますし。
 千年もあれば、その頃には人類は宇宙に進出しているでしょう」


「じゃが、のんびりすることは出来ぬ。水星をこの火星のように食い潰すことは断じてしてはならぬのじゃ。
 といっても、焦って現実世界と事を構えるようなことだけは避けなければいかないがの」


「ご安心ください、アリカ様。
 元老院の老害共はすべて牢に叩き込みましたし、ヘラス帝国もテオドラ皇女殿下のおかげでこのプロジェクトに賛成してくれています」


「ふむ、今度テオドラに礼を言わなければな」


「問題は魔法世界の皆がこの現実を受け入れることが出来るかどうかですか」


「焦ることはないぞ、タカミチ。そのためにも元老院を掃除したのだからな。
 もちろん“紅き翼アラルブラ”の面々にも手伝ってもらう。英雄が話せば受け入れる可能性も高まる。お前もしばらくは客寄せパンダになってもらうぞ」









「…………しかし、アリカ様の名誉挽回は本当に後回しにしてよろしいのですか?」


「くどいぞ、クルト。今は私のことなどよりオスティアの民を含めた魔法世界に生きるものを優先すべきだ。
 そのために余計な混乱は起こすべきではない」


「そうだぞ、クルト。
 それにアリカ様の気持ちも考えて差し上げろよ。ようやくネギ君に会えるんだぞ」


「…………そうじゃな。もしかしたら私は早くネギに会いたいだけかもしれんの。
 名誉回復などどうでもいい。ただネギ会いたいだけなのに、魔法世界のことを言い訳にしているだけじゃ」


「それは…………仕方がないではありませんか。
 ネギ君を危険なことから離すために、お産みになってすぐネギ君と離れなければいけなかったのです。母君として当然の気持ちでございましょう。
 反アリカ様の元老院議員や“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”がいなくなった今、もう何も憚ることはありません」


「そうです。せめてネギ君の麻帆良での修行が終わるまでは一緒にいてあげてください。
 それに“火星-水星間ゲート”が完成後、今までの真実とネギ君のおかげで魔法世界が救われることを発表すれば名誉挽回どころの騒ぎではなくなります。
 それからはむしろ、急がしすぎて母子としての時間がとれなくなるかもしれませんからね。ゆっくり出来るうちにゆっくりしてください」


「……母か。ずっと放っておいてしまった私に、ネギの母と名乗る資格はないというのに。
 麻帆良でネギの面倒を見てくれている“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”のほうがネギの母を名乗る資格があるじゃろうな」


「アリカ様っ!」


「そんなことありません!
 大人びた子だといえ、まだネギ君は9歳です。まだまだ母親が必要です。
 それに僕はネギ君の口から「母親に会ってみたい」という言葉を聞きました」


「…………それは母親が“災厄の魔女”と知らないからであろう。
 いや、わかっておる。まず何よりも先にネギに会わなければならぬ。そしてずっと放っておいたことは謝らなければ。
 もしかしたら許してくれぬかもしれぬし、“災厄の魔女”が母親だということを拒否するかもしれぬ。ネギにはその権利がある。
 だが、そうだとしても私のほうからネギを避けていいわけではない」


「大丈夫ですよ、アリカ様。ネギ君はそんな子じゃありません。
 もうすぐです。“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”相手の事後処理に追われていたナギだってもうすぐ余裕が出来るでしょう。そうすれば親子三人で暮らすことが出来ますよ。
 それに母親が“災厄の魔女”でも大丈夫です。従姉に“破壊の魔女”がいますから」


「…………タカミチ、それは慰めにならんぞ」







「…………まあネギのことはともかく、ナギのことについては“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”と決着をつけねばならぬがの。
 ネギについては何か言う資格は私になくとも、ナギのことについては何か言う資格は私にあるのじゃ」


「(…………タカミチ、麻帆良学園大丈夫か?)」


「(…………学園長に結界強化するように進言しておく)」







「えーっと、それでは明日、僕とクルトが隣の部屋でネギ君に会います。
 アリカ様はこの部屋で現在のネギ君をご覧ください。それとなくアリカ様の事情を説明して、アリカ様のことをどう思うかも聞き出しますので」


「それと表彰状も渡さなければいけませんね。ネギ君まで英雄として祭り上げるようなことにするのは不本意なのですが。
 まあ、本人が知らずとも、ネギ君が魔法世界崩壊の回避に多大な貢献をしたということは事実なのですし、今回の石化治療の件も別枠で何かしないといけませんね。
 正直、ここまでだと英雄に祭り上げるようなプロパガンダを行わなくても、有りのままの事実を発表するだけで十分な気がしますよ。
 ああ、それにしても楽しみです。タカミチと違って私はネギ君と直接会ったことはありませんでしたからね。私はこのために元老院議員の特権を使って、無理矢理地球まで来たのです」


「頼むぞ。
 …………もしもネギが私に会いたくないようだったら、私のことは死んだことにしておいてくれ。
 それとクルト。公私混同はやめるのじゃ」


「も、申し訳ありません」


「ハハハ、大丈夫ですって。アリカ様。
 それよりネギ君と会うための心構えをお願いしますよ。ネギ君のことは写真でご覧になったでしょうが、近くにいるとなるとまた別でしょう。
 御対面のときに、感動のあまり何も話せなくなる、なんてことのないようにお願いします」





「わかっておる。覚悟も出来ている。
 何で放っておいたのかと罵倒される覚悟も、“災厄の魔女”が母親ということを拒否される覚悟もな。

 …………だが、それでも許されるのなら、ネギの母としてありたいのじゃ」









 逢いたい。逢って抱きしめたい。
 もうあの子は10歳になるのか。手離したときはまだ小さな赤ん坊だったのに。


 私達のせいで寂しい思いをさせてしまった。辛い目にあわせてしまった。
 預けていた村が元老院の手によって襲撃され、ナギが間一髪のところで助け出したとき、あの子はただただ震えていたという。


 私のせいだ。
 “災厄の魔女”である私が生きていることを望まず、あの子が私の子であることを許容できなかった元老院が村を襲わせた。私の子であるということだけで、あの子は故郷を滅ぼされた。
 もし、あの子が事実を知ったらどう思うだろうか? 私のことを憎む? いや、タカミチの話から聞いたあの子の性格だと、自分自身を責めるだろう。

 「僕のせいで村の皆を巻き込んでしまった」と。

 そんなことはないというのに。全ては私達のせいだ。あの子に一切責任はない。





 幸せだった。
 ナギに救い出され、ナギと一緒になった。
 王家の人間としてではなく、一人の人間として。ナギと夫婦として穏やかというには騒がしい、それでも幸せな時を過ごすことが出来た。


 幸せだった。あの子を産むことが出来た。
 初めてあの子を抱き上げたときのことは今でも憶えてる。ナギに抱き締められながら、あの子を胸に抱いているときはもう何も他にいらなかった。
 私とナギとあの子の3人で幸せになれると思っていた。


 だが、その幸せも長くは続かなかった。





 英雄である“千の呪文の男サウザンドマスター”と呼ばれたナギに子供が出来れば、否が応でも注目の的になる。それと同時にあの子を産んだ私にも注目が集まるだろう。
 実際、あの子が生まれたのを知った、事情を知る元老院議員が不穏な動きを見せたらしい。


 当然だ。死んだはずの“災厄の魔女”がナギの子供を産んだことなど、彼奴らにとって衆目に知られてはいけないことなのだから。

 また、ちょうどその頃に、生き残っていた“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の残党が何か企んでいることも判明した。
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”との戦いになったとき、あの子はナギにとって効果的な人質となっただろう。


 魔法世界の崩壊が迫っていることもあった。
 崩壊の危機のときにはあの子は大人になっているだろう。
 下手をすればあの子は英雄として元老院に祭り上げられ、魔法世界の崩壊に立ち向かうことになるかもしれない。
 だが、これは私達の世代で解決すべきことなのだ。





 極めつけは、あの子が“完全魔法無効化マジックキャンセル”を持って生まれてきたことだった。
 ナギがあの子をあやそうとして浮遊術をあの子に使ったとき、魔法が無効化されてしまったのだ。


 あの子は私の子。つまりウェスペルタティア王家の血を引いている。
 だから王家の血筋にしばしば生じる“完全魔法無効化能力”を持つ特別な子供、“黄昏の姫御子”となる可能性はあったのだ。
 だが、私は自分の子供が“黄昏の姫御子”として生まれてくるなんて考えてもいなかった。


 絶望した。
 アスナがどんな扱いを受けていたか知っていた私は絶望の淵に立たされた。
 アスナのことを放っておいた罰だとでもいうのだろうか。あの子に何の罪があろうか。私を罰せればいいのに。


 ああ、これは私にとっての最大級の罰か。
 自分の子が不幸になるのが、母にとっての最大の不幸だ。


 このままではあの子は元老院に利用されるか、それともアスナのように“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の目的のために魔法世界を滅ぼす礎とされるかのどちらかだった。
 そんなことはさせない。あの子をそんな目にあわせてたまるものか。
 アスナのことは放っておいたのに、自分の子供がそういう目にあうのは嫌なのか。自分で自分の浅ましさに吐き気を感じた。それでも私はあの子を守る。私はあの子の母親なのだから。





 もう私もナギもあの子の側にはいれなかった。
 私が側にいると元老院からの干渉があるかもしれない。ナギが側にいると“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”との戦いに巻き込むかもしれない。
 ナギと相談した結果、ナギの故郷の村に預けるほかに手立てはなかった。


 それでもあの子が隠れていられるのは10年ぐらいだろう。
 ナギの息子だ。魔法に関わらせないなんてことは出来ない。そんなことを言ったらそれこそ元老院から干渉があるだろう。


 あの子が一人前になる前に、あの子が世に出てくる前に、あの子の“敵”を滅ぼさなければならない。

 私の子であるあの子を許容出来ない元老院と“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”を滅ぼさなければならない。





 ああ、何て可哀想な子なのだろうか。
 私達のせいで、私達の戦いに巻き込んでしまった。生きていくのに余計なものを背負わせてしまった。
 まだ私達の顔も憶えていないだろうに、独りにしてしまった。


 泣くのはまだ早い。
 あの子が私達のことをどう思うかはわからない。それでも私はあの子を守る。私はあの子の母親なのだから。

 恨まれるかもしれない。
 憎まれるかもしれない。

 それとも何とも想ってくれないのかもしれない。

 私達があの子の側にいないのは事実なのだから。捨てたと思われても仕方あるまい。







 世界を救うために自らの国を滅ぼした私だが、今は違う。
 今の私はあの子の母親だ。


 あの子を守るためなら何でもしよう。

 あの子を守るためならあの子に恨まれよう。

 あの子を守るためならあの子に憎まれよう。

 あの子を守るためならあの子に何とも想われなくとも構わない。

 あの子のためなら“本当の災厄の魔女”にさえなろう。



   あの子を守るためなら世界さえ滅ぼそう







 そして、遂に終わった。


 クルトやガトウ達のおかげで元老院の老害共を排除できた。
 ネギの故郷を襲わせた証拠も見つけた。とりあえず牢屋にぶち込んでおいたが、そのうち魔法世界全域に発表しようと思う。
 あの子に手を出すとは大それたことをしてくれたものだ。自分のしたことを思い知るがいい。


 “紅き翼アラルブラ”も再集結したので“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”を壊滅出来た。
 ナギとラカンの2人でフルボッコにしたらしい。だが卑怯とは言うまいな?
 あとはプチプチと残党を潰していくだけだった。


 何よりもあの子のおかげで“魔法世界の崩壊”すら回避できることになった。


 これであの子に逢うことができる。親子として過ごすことができる。あの子とナギと私の3人でまた暮らすことができる。
 けれど、あの子は私のことをどう思うのだろうか?





 タカミチから聞いたところによると、ナギのことはだらしのない駄目親父と思っているらしいが、別段嫌っているわけではないようだ。
 従姉であるネカネの影響か女性に優しいらしく、“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”に対するナギの所業を良く思っていないが、それでもナギのことはよく周りから話を聞いていたようだった。


 けれど、私のことは?
 母親のことも周りに聞いていたらしいが、私が母であることをばらせないために口止めするしかなかった。
 いくら聞いても言葉を濁されていたためか、そのうち聞くことをやめたらしい。


 恨んでいるのだろうか? 憎んでいるのだろうか? 何とも想ってすらくれないのだろうか?
 あの子の側にいなかったのは事実だ。あの子のためだといえ、独りぼっちにさせたのは事実なのだ。





 逢いたい。逢って抱きしめたい。
 でも、それ以上に拒絶されるのが怖い。


 それでもあの子に逢わなければならない。
 ナギは着いて来てくれると言ってくれたが、事後処理がまだ終わってないので断った。何より、母としての義務を放棄した私が一人で決着をつけなければならないことなのだ。


 落ち着け。
 今はあの子がどういう子なのか知るのが先決だ。クルトとタカミチが隣の部屋で話す。ただし、その結果次第では、私はあの子に逢えない。
 その覚悟はあるが、体の震えが止まらない。



   それでも許されるならあの子の母でありたい



 全てはあの子の心に任せよう。何で放っておいたのかと罵倒される覚悟も、“災厄の魔女”が母親ということを拒否される覚悟もした。



 ああ、願わくば、あの子が“お母さん”と呼んでくれますように…………。















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「それでも“二股眉毛●●●●”などと呼ばれる覚悟はしておらなかったのじゃーーーーーー!!!!!」







“あ……ありのままに起こった事を話します!

 「僕は「もうすぐ原作が始まる」と覚悟を決めていたら、
  いつのまにか原作が終わっていました」

 な……何を言っているのかわからないと思いますが、 
 僕もどういうことなのかわかりませんでした。

 頭がどうにかなりそうでした……。
 「テンプレ通り」だとか「原作ブレイク」とかそんなチャチなもんじゃあ、断じてありません。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わいました……”





 …………じゃなくて、



「待ってください!!! お母さーーーん!!!」



 あ、“お母さん”という言葉に少し反応しました。ってか足速すぎです。王家の魔力をフルに使って逃走されると追いつけません。
 くそっ、面倒臭いな。あの二股眉毛。



「ええい! しょうがない! ラス・テル・マ・スキル・マギステル 『ユニコーンガンダム』!
 そして“MM-Dマギステル・マギ・デストロイヤー”システム発動!!!」



 自分の体に魔力を纏って“ユニコーンガンダム”となり、一気に突撃します!!!
 “ガンダムUCのMSモビルスーツの再現能力”を作中で最初に使うのが母親との追いかけっこというのが情けないです。

 …………って、もしかして原作終了ってことは“ガンダムUCのMSモビルスーツの再現能力”を作内で使うのはこれが最初で最後ですか!?







「くるでない! こんな二股眉毛を追いかけてくるでない!!!」


「いいから待って下さい!!! 





 …………捕まえたーーーーー!!!!!」












 ガシッ! ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリーーーーーーーーー!!!












 もみじおろし!?



 やべ、捕まえたはいいけど止まれずに押し倒してしまいました。
 その際お母さんと地面で擦れる音が物凄い勢いで聞こえてきましたが、…………あ、魔力障壁で無事みたい。

 流石はウェスペルタティア王家の魔力。
 あやうくお母さんの顔が見れなくなるところでした。危ない危ない。








「ぅぐっ、見ないで、お願いだから見ないで…………。
 こんな二股眉毛なんて見ないで…………」


 顔を両手で覆って、泣きながら呟きつづけています。
 手を顔から剥がそうとしても王家の魔力を使ってブーストしているのか、全然剥がせません。今の自分は“MM-Dマギステル・マギ・デストロイヤー”発動で筋力B+なんですけど。

 …………王家の魔力マジパネェっす。


 このままずっとお母さんの顔が見れないかもしれません。
 はあ、何とか捕まえることが出来ましたけど、どうしましょ?







「ネギくーーーーん、アリカ様ーーー!!!」「アリカ様ーーーーーーーーー!!!」



 ようやくタカミチとクルトさんが追いついてきました。
 どうすればいいんだ、この状況?

 …………とりあえずお母さんを宥めますかね。



「『解除』。
 ………………ふぅ。えーっと、はじめまして? ネギです。
 とりあえず顔を見せてくださいよ、お母さん」















 …………。

 ……………………。

 ………………………………こっち見ろや。





 駄目だこの人、泣いてるばかりで全然こっち見てくれません。


 原作と剥離しすぎなんですけど、これから修正効きますかね?
 無理ですね、そうですね。全部終わってますもんね。


 これから学校戻って、アーニャ達に事情説明して、麻帆良に帰ってエヴァさんに事情説明して…………って、おい? お母さんとエヴァさんの間で麻帆良大戦始まらないだろうな?
 起こったらナギを生贄にして逃げよう。



 …………色々と忙しくなりそうです。教師もやんなくちゃいけないし。





 …………もう…………諦めちゃってもいい……かなァ…………。

 いいや、今考えるのよしましょう。
 今はお母さんの胸に顔をうずめましょう。

 うん、それがいいです。



 しかし、いくら並行世界とはいえ、ここまで違うとは思ってませんでしたよ。
 テンプレ通りに進めるとかそんな次元の話じゃないですね。
 自分なんかが主役になろうと考えたのが間違いなのです。
 まあ、これはこれでハッピーエンドなんでいいでしょう。



 この先は原作とは全然違うストーリーが続いていきますけど、自分の話はひとまずこれにて終了。



 それでは皆様、いつかまた会う日まで…………。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 これにて第一章は終了です。
 これ書いたのはまだ魔法世界人が地球に来れないことなどがわからなかったときですので、原作と違う部分が多々ありますが並行世界ということでご勘弁ください。

 つーか、原作でアリカは本気でどうなったの?



 ま、それはともかくとして、誤字脱字のチェックをしてみるとやはり結構ありました。もしかしたらまだあるかもしれません。
 改めて最初から見直すと「ああ、一年前はこういうの書いていたんだなぁ……」と懐かしい気持ちになってしまいましたねぇ。


 そし読み直して改めて気づいたのですが、この作品は

「こういう作品を書こう」 → 「それに合わせてネタで肉付けする」

 ではなく、

「こういうネタを思いついた」 → 「それに合わせて作品を考える」

 という、“ネタありき”の作品だったのです。特に第二章。“○○○○○○○○コズモ・エンテレケイア”とか○○さんとか超の末路とか…………。
 初めての作品ということで色々と突っ込みすぎてしまい、読み直すとゴチャゴチャしている感じです。


 ま、さすがに最初から上手い文章を書けるとは思っていません。
 せめて読者の皆様のお目汚しにならない程度の文章に仕上げ、経験を積むことによって上達していきたいと思います。
 こんな作品でよろしければ、もう少々お付き合いください。



[32356] その後の話・小ネタ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 18:49










昼ドラ注意報①



エヴァ「…………。

    ……………………。

    ………………………………」


アリカ「…………。

    ……………………。

    ………………………………」


ネギ「ネギですが家の空気が修羅場です」


アーニャ「ウェールズ帰りたい」










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その頃のナギ



ナギ「なあ、ジャック。昔に“ネギが一人前になるまではアリカのことは教えない”って約束したよな?」


ラカン「ん? それがどうしたよ?」


ナギ「いや、一人前になる前にアリカと会わせちまったけど、その約束どうしたらいいと思う?」


ラカン「ん? ああ……えーと…………んじゃ、俺たちで一人前にすりゃいいんじゃね?」










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これからがほんとうの地獄だ…………



ナギ「というわけで俺たちが鍛えてやるぜ。
   なーに、親子のスキンシップってやつだ」


アリカ「頑張るがいい、ナギ。
    失った父の威厳というものを取り戻すのじゃ」


ラカン「最近退屈してたからなぁ。
    いい暇つぶしになりそうだぜ」


タカミチ「参ったなぁ。ネギ君は僕の弟子なのに。
     これは皆さんに負けられない修行をしないと」


クルト「タカミチだけにネギ君を任せていられるか。
    戦闘だけでなく、立派な大人になれるように教育してあげましょう」


ガトウ「タカミチも弟子を取るようになったか。
    しょうがない、俺も孫弟子の面倒を見てやるかね」


アル「おやおや、ネギ君も大変ですねぇ。
   ああ、私も参加しましょう。フフフフフ…………」


エヴァ「何を言ってるお前たち。ぼーやは私の弟子だ。お前たちのような馬鹿者共に鍛えられたら、ぼーやの命がいくつあっても足りん。    
    ぼーやには私のオリジナル魔法、『闇の魔法マギア・エレベア』を教えてやろう」


アスナ「私は『咸卦法』ぐらいしか教えられないわよ」




ネギ「 \(^o^)/」










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期末テスト



ネギ「来週から期末テストかぁ。
   皆さん頑張ってくれるといいんですけど」


エヴァ「くくく、安心しろぼーや。手は打ってある」


ネギ「え? クラスの皆さんで勉強会か何かするんですか?」


エヴァ「いや、さっきクラス全員に夢の中で勉強する魔法をかけてきた。
    夢の中のテストで満点をとるまで決して目が覚めないやつをな」


ネギ「今すぐ解除してきてください」


エヴァ「な、何故だっ!?」










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修学旅行



ナギ「京都も久しぶりだなぁ」


アリカ「前来たのはいつだったかの?」


ネギ「…………何で一緒に来てるんですか?」










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昼ドラ注意報②



千草「奥様がいるから長が振り向いてくれないんどすっ!!!」


刹那「何だ!? 貴様はっ!!!」


木乃香「母さまになにするんやっ!!!」


ネギ「(キャラ崩壊しすぎじゃね?)」










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昼ドラ注意報③



月詠「このかお嬢様がいるから刹那先輩が振り向いてくれないんどすっ!!!」


木乃香「何や!? あんたは!!!」


刹那「このちゃんになにするんやっ!!!」


ネギ「(あんま変わってないですね)」










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犬上家



小太郎「……………………」


ナギ「ハッハッハッ。まさか京都で「“千の呪文の男サウザンドマスター”、勝負や!!!」と挑まれるとはなぁ。
   こういう無鉄砲なガキは嫌いじゃないぜ」


アリカ「もう少し手加減してやればよかろうに」


ネギ「とりあえず地面から引っこ抜いておきますね」










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羽毛布団



木乃香「新しい布団買ったらグッスリ眠れたわぁ」


アスナ「へぇ、そうなの」


木乃香「そういえばなぁ。ウチ、天狗の逸話を聞いたとき
    「天狗の羽で羽毛布団作ったらどうなるんやろ?」と思ったわ」


刹那「…………くっ!」


ネギ「決意固めたような表情しないでください」










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羽毛布団の羽毛は羽根じゃない



木乃香「まあ、羽毛布団は鳥の羽じゃなくて、鳥の胸元の毛使うんやけどな」


刹那「!!!」


アスナ「羽根を使った羽根布団というのもあるけど?」


刹那「! それですっ!」


ネギ「それじゃないです」










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闇の魔法マギア・エレベア”?



ネギ「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 汝がためにユピテル王の恩寵あれ、『治癒クーラ』!
   固定、掌握、魔力充填、術式兵装『自動治癒リジェネ』!!!」


エヴァ「治癒魔法を体内に取り込む?
    そんなことやったことなかったな」


アル「あなたはそんなことしなくても平気ですからね」


アスナ「でもこれって“闇”の魔法と言うのかしら?」










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所詮は浅知恵



アル「凄い回復力ですね。
   真祖の吸血鬼であるあなたとまではいきませんが」


エヴァ「…………まあ、そうなんだが」


アスナ「? どうしたの?」







ナギ「おい、お前殴ったら俺の方も回復するぞ」


ネギ「え?」


エヴァ「そりゃ、そうだろうな」










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抱き枕には丁度良い



アスナ「でもこの状態のネギを抱いて寝るのはいいわね」


アリカ「回復魔法を常時かけられているようなものじゃからのう。
    アスナ、明日は私じゃぞ」


エヴァ「明後日は私だ」


ネギ「…………………………反応しちゃ駄目だ反応しちゃ駄目だ
   反応しちゃ駄目だ反応しちゃ駄目だ反応しちゃ駄目だ
   反応しちゃ駄目だ反応しちゃ駄目だ…………………………」





アル「では明々後日は私で」










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ウルティマホラ(別名:“紅き翼アラルブラ”最強決定戦)



司会「それでは、1回戦の対戦組み合わせの発表です!


 第一試合 アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ VS 神楽坂ガトウ

 第二試合 タカミチ・T・高畑 VS ネギ・スプリングフィールド

 第三試合 神楽坂明日菜 VS 桜咲刹那

 第四試合 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル VS ネカネ・スプリングフィールド

 第五試合 長瀬楓 VS 近衛詠春

 第六試合 アルビレオ・イマ VS クルト・ゲーデル

 第七試合 ジャック・ラカン VS 犬上小太郎

 第八試合 ナギ・スプリングフィールド VS 古菲


   となります。第一試合開始は30分後です」




アーニャ「 \(^o^)/」


ネギ「 \(^o^)/」


刹那「 \(^o^)/」


小太郎「 \(^o^)/」


マナ「…………私はコウキと約束あるから」










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昼ドラ注意報④



エヴァ「…………。

    ……………………。

    ………………………………」


ネカネ「…………。

    ……………………。

    ………………………………」


ネギ「ネギですが会場の空気が修羅場です」


アリカ「(いつぞやの私らを見ているようじゃ)」










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無知とは罪



古菲「ネギ先生の父親らしいアルが、手加減しないアルヨ」


ネギ「(その人相手にするのはやばいです。古菲さん)」


楓「拙者は木乃香殿の父君が相手でござるか」


ネギ「(西の長が何で来てるんですか?)」




 結局、2回戦第四試合“ジャック・ラカン VS ナギ・スプリングフィールド”で会場が崩壊して大会中止になりました。










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紅き翼アラルブラ”同窓会



詠春「皆、久しぶりだな」


ナギ「詠春老けたなぁ」


ラカン「久しぶりじゃねえか」


アル「今皆でネギ君鍛えてるんですけど、あなたもやりません?」


ネカネ「あ、私も参加します」




ネギ「…………え?」










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父親越え



ネギ「つ、遂に勝てた…………」


アリカ「おお、凄いぞ、ネギ。
    早くも父親越えするとは。流石私の子じゃ」


ナギ「皆で色々教えすぎたぜ…………」


詠春「神鳴流の飲み込みも早かったよ」


タカミチ「やれやれ、まさか“無音拳”まで使えるようになるとはね」




アル「では次に
   “ネギ君パーティー(仮)” VS “紅き翼アラルブラ”のパーティー戦ですね」


ラカン「まあ、一人じゃ出来ること少なぇからな。
    早くパートナー見つけてこいや」




ネギ「………………え?」










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










僕と仮契約パクティオーして、“魔法使いの従者ミニステル・マギ”になってよ



ネギ「小太郎君、木乃香さん、刹那さん、楓さん、古菲さん、アーニャ。
   僕と仮契約しませんか?
   今なら“紅き翼アラルブラ”に修行をつけてもらえる特典付きですよ」


小太郎「ワリィ、流石に無理や」


木乃香「ウチ、将来西に戻るから、
    “魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になるなんて無理や!!!」


刹那「わ、私はこのちゃんの護衛ですので」


楓「したくないでござる!!!
  絶対に仮契約したくないでござる!!!」


古菲「ワタシ故郷に帰ろうと思ってるアルヨ!!!」


アーニャ「私もウェールズに帰るわっ!!!」









━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










契約とってこいって言ってんだろ! 出来なかったら自腹しろや!!!



ネギ「………………………………」


ナギ「おいおい、パートナーまだ見つかってないのかよ」


ラカン「じゃあ、とりあえず一対多の戦闘方法を教えておくか」


アル「“ネギ君パーティー(独り)” VS “紅き翼アラルブラ”ですね」










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










平穏



のどか「ネ、ネギ先生せんせー
    最近お疲れのようですけど大丈夫ですか?」


ネギ「フフフ、まだ大丈夫ですよ…………」


のどか「そ、そうなんですか。私に出来ることあったら言ってくださいね」


ネギ「(…………流石に巻き込めません)」










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大戦関係者同窓会



テオドラ「アリカ、久しぶりじゃの」


リカード「まったく。大戦の後始末がこんなに長く掛かるとはなぁ」


セラス「この面子が顔を合わせるのも何年振りでしょう」


ナギ「おう、あんたらか。世話を掛けたなぁ」


アル「今皆でネギ君鍛えてるんですけど、あなた方もやりません?」




ネギ「……………………え?」










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決意



ネギ「…………独りでやるしかないっ!」


アスナ「何だか追い込まれてる目してるけど、大丈夫かしら?」


アリカ「そろそろナギとアルを〆ておくか」










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色々ともう駄目かもしれない



ネギ「! そうだ!
  『咸卦法』と『闇の魔法マギア・エレベア』と『契約執行シム・イプセ・パルス』と『戦いの歌カントゥス・ベラークス』を同時に発動させれば!!!」


アリカ「…………『契約執行シム・イプセ・パルス』と『戦いの歌カントゥス・ベラークス』を同時発動させても意味ないと思うがの」


アスナ「…………もう休みなさいな」


茶々丸「最近、坊ちゃまの目が濁っているように見えます」










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仮契約



ネギ(霊体)「『仮契約パクティオー』っ!!!」


ネギ(肉体)「………………………………」




エヴァ「自分(霊体)と自分(肉体)で『仮契約パクティオー』しただと!?」


アル「しかも『闇の魔法マギア・エレベア』でわざと肉体を魔族化させてからですか。
   ここまでいくと、もう霊体と肉体で別人といっていいかもしれませんから、他人との契約扱いになるんでしょうかね?」


アリカ「そんなこと試した者は誰もおらんじゃろうな」




ナギ「なんでぇ、あいつパートナーも見つけれないのかよ」


アスナ「…………パートナー見つけられないのはナギたちのせいだと思うけど」










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仮契約カード



ネギ「称号は“一人ぼっちの一角獣”。

   アーティファクトは“白紙仮契約カードおためしけいやく”と“空飛ぶゲタサブフライトシステム”?

   徳性は“希望”。方位は“中央”。

   色調は“白”と“赤”。星辰性は“彗星”。



   …………“白”い“一人ぼっちの一角獣”で“赤”い“彗星”?
  
   色々混じってますね」










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白紙仮契約カードおためしけいやく



 契約主と従者の名前欄が空白で、他には何も書かれていない仮契約カード

 “契約者と従者のどちらかに、ネギ・スプリングフィールドの名前を入れること”と“名前欄に、自分の血で、自分の名前を、自分で書くこと”で契約成立

 契約者と従者を交換して、同じ人間で相互に主従となるのは不可能
 契約者と従者を交換する場合は一度契約を破棄すること
 ただし、“本当の仮契約カード”を使用して相互に主従となるのは可能
 何枚でも作成可能



 “従者への魔力供給”、“従者の召喚”、
 “念話”、“防御力アップ”は使用可能
 

 “潜在能力の発現”、“アーティファクトの召喚”
 “衣装の登録”は使用不可能




 
ネギ「……………………自分一人だけじゃ意味なくね?」










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空飛ぶゲタサブフライトシステム



 1機のみ発現可能
 ジェット噴射なので後進不可能
 大きさは縦長の約2㎡
 長谷川千雨が気づけない程度の認識阻害、微弱な魔法障壁が常時発動
 簡単な自立行動が可能
 仮契約した人間なら操縦可能
 “白紙仮契約カードおためしけいやく”の仮契約者も操縦可能





アスナ「あら、“空飛ぶゲタサブフライトシステム”は面白いわね」


アリカ「うむ、風を切って空を飛ぶのは気持ちいいの」


ネギ「対“紅き翼アラルブラ”には役に立ちませんけどね」










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卒業式



ネギ「ふう、3-Aの皆さんとも今日でお別れですか。
   魔法使いとしての修行も無事に終わりました。
   今となっては良い思い出です」


エヴァ「ふむ、最後の卒業式となると感慨深いものだな」


アスナ「初めてにしては良い教師だったわよ、ネギ」


アリカ「やっとネギの晴れ舞台を見ることが出来たのじゃ」






ナギ「よーし、じゃあこれからネギの卒業試験を始めるか」


ラカン「全力で来いよ、でなけりゃ死んじまうぜぇ」


アル「準備する期間はたっぷりありましたからね。
   どのような手を使ってくるのか楽しみです」


タカミチ「大丈夫。ネギ君なら僕達にだって負けないさ」


クルト「今日は何と良き日でしょうか。
    ネギ君が一人前となるためのお手伝いが出来るなんて…………」


詠春「木乃香も大学までこちらにいるからね。
   何かあったときのために、ネギ君には一人前になってもらわないと」


ガトウ「(……………………ここら辺一帯に何か仕掛けてあるな)」





ネギ「………………………………」










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










対“紅き翼アラルブラ



エヴァ「強制転移魔法で深海1000mへ全員転移させ、
    詠唱出来ない上、水圧で身動き取れないところを各個撃破か」


ヴィルさん「“MSモビルスーツ”というのは厄介ですな。
      水中でも息は出来るし、水圧にも耐えれる。魔法はマグナム弾とやらで代用可能ですか」





ネギ「それでも死人が出ない“紅き翼アラルブラ”ってマジパネェっす」



アリカ「(本気で殺す気だったのかの?)」


アスナ「(いや、勝つことしか考えてなかったんじゃない?)」


茶々丸「(坊ちゃまのお顔が、やけに晴れ晴れとしてます)」


チャチャゼロ「ケケケ、イイ感ジニ壊レテ来タナァ」









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ネギから見た関係



エヴァ   「本当に初恋だったかもしれない」

アスナ   「姉さん。でも、もしかしたら恋かもしれない」

アリカ   「二股眉毛、じゃなかった。妹とか欲しいです」

ネカネ   「戦闘さえしなければいい人なんだけど…………」

ナギ    「駄目親父死ね」

ラカン   「筋肉達磨死ね」

アル    「変態死ね」

タカミチ  「デスメガネ死ね」

クルト   「仕事しろや、元老院議員」

詠春    「仕事しろや、西の長」

ガトウ   「煙草吸いすぎで肺ガンになりやがれ」

テオドラ  「年考えろ、じゃじゃ馬皇女」

アーニャ  「僕と仮契約パクティオーして、“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になってよ」

小太郎   「僕と仮契約パクティオーして、“魔法使いの従者ミニステル・マギ”になってよ」

刹那    「僕と仮契約パクティオーして、“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になってよ」

木乃香   「僕と仮契約パクティオーして、“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になってよ」

楓     「僕と仮契約パクティオーして、“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になってよ」

古菲    「僕と仮契約パクティオーして、“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になってよ」

アルちゃん 「ノーコメントでお願いします」

ヴィルさん 「何でこの人の側が一番安心するんでしょう?」

茶々丸   「坊ちゃま言うな」

スタン   「治ってくれて良かったです」





のどか   「のどかさん、マジ天使。

       …………でも、だからこそ巻き込めない orz」










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相手から見た関係



エヴァ   「結局“お母さん”って呼んでくれなかった orz」

アスナ   「…………弟みたいなものよ」

アリカ   「結局あんまり甘えてくれなかった orz」

ネカネ   「良い子に育ってくれて嬉しいわ」

ナギ    「俺がガキの頃はもっと元気良かったんだけどなぁ」

ラカン   「面白いガキに育ったぜ」

アル    「この子は私が育てました。フフフフフ…………」

タカミチ  「この子は僕が育てた」

クルト   「この子は私が育てた」

詠春    「木乃香の婿にはまだ早いですね…………」

ガトウ   「アスナを嫁にやるにはまだ早いな…………」

テオドラ  「やけに冷めた目で見られるのぉ」

アーニャ  「こっち見んな」

小太郎   「こっち見んな」

木乃香   「こっち見んな」

刹那    「こっち見んな」

楓     「こっち見んな」

古菲    「こっち見んな」

アルちゃん 「何で微妙な目で見られるんでしょう?」

ヴィルさん 「ネギ様のおかげで私には被害が来ないので…………」

茶々丸   「…………私でよければ」

スタン   「会うたびに逞しくなっていくのぉ」←何も知らない人





のどか   「…………えへ、また逢えないかなぁ。ネギ先生せんせー










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━












━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










『咸卦法』と『闇の魔法マギア・エレベア』の同時発動は出来るようになりました



ネギ「遂に“偉大な魔法使いマギステル・マギ”と呼ばれることとなりました。
   悪魔による石化魔法の治療方法の確立が評価されたみたいです。

   それに“紅き翼アラルブラ”相手にガチンコ勝負しても、勝つとまではいかないでも逃げきれるようになりました。
   戦闘・治癒・その他諸々全部一流です。


   まさに人生勝ち組。テンプレ通りな転生人生ですねぇ。ハッハッハ。
   “転生チートうぜぇ”とか感想で書かれたらどうしましょう?」












   









ヴィルさん「…………涙をお拭きください。ネギ様」




ネギ「…………こんな人生勝ち組なテンプレ転生人生より、
   平穏が欲しかったです orz」










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










それに結局パートナーになってくれる人はいませんでしたとさ



アリカ「早く孫の顔が見たいのじゃがのぉ…………」


ネギ「11歳相手に無茶言わないでください。
   それか自分でもう一人作ってください。
   出来れば妹が欲しいです」


ナギ「パートナーになってくれるのがいないって、
   お前ハブられてんじゃねーのか?」


ネギ「パートナー出来ないのあんたらのせいでしょーがっ!!!」


アスナ「…………本屋ちゃんはあなたに気があるみたいだったけど」


ネギ「のどかさんみたいな天使を、
   こんなヤクザな世界に巻き込めるわけないじゃないですか!!!」


アスナ「………………………………」


茶々丸「………………………………」







ネギ「(原作ネギがうらやましいです)」





















???「その願い、叶えてあげましょう」

ネギ「………………………………え?」










[32356] 第二章 魔法先生ネギま!編 プロローグ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/03/29 19:02



 おはようございます。朝起きたら赤ん坊になってたネギです。

 いや~、夢の中で変な声が聞こえたんですよ。



「元気~? この前原作ネギがうらやましいって言ってたでしょ。私は優しいからその願いを叶えてあげるよ。今度は原作世界のネギに転生だ。
 あくまで今の君の魂をコピーして貼り付けるだけだから、さっきまで過ごしてた並行世界のことは気にしなくていいよ。
 能力は今まで同じ。といっても赤ん坊からやり直すから肉体は鍛えなおしてね。修行で拡張した魔力とかはそのまんまだよ。
 ま、わがまま言っちゃ駄目だということで。それじゃ頑張ってね♪」



 …………あれですか?
 やっぱり最初にわがまま言ったのがムカついていたんですね。余計なことしやがってコンチクショウ!


 ああ、もう!
 せっかく“紅き翼アラルブラ”による修行ごうもんから抜け出すことが出来たと思ったのに!
 またやり直しですか!? 最悪だ!


 しかも死亡フラグが何気にある原作世界。
 これだったら“紅き翼アラルブラ”による修行ごうもんの方が………………修行ごうもんの方が辛いな、これだったら。
 確かに魔力はそのまんまだし、鍛え直せば前世の経験がある分だけ原作が始まるころにはもっと強くなれるんだろうけどさ…………。


 …………ハア、しょうがない。グダグダ言ってもしょうがないし頑張りますか。
 とはいえ、やってられないですよ。あんなの神様じゃねえや。

















「ネギ~! 夕御飯出来たわよ~!」

「は~い! ネカネ姉さん!」



 神様ありがとう! 原作世界サイコーーーッ!!!
 やっぱりネカネ姉さんはこうでなきゃいけませんね。ウン。

 エヴァさんとガチンコバトルするネカネ姉さんなんてどこにも存在しないんや!





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 さて、序盤の山場の悪魔襲撃なのですが。原作より早くメルディアナ魔法学校に入学することで回避しました。



ネギ「僕も来年から魔法学校に通うんでしょ? 見学に行ってみたいよ~」
       ↓
ネカネ「あら、そうなの? じゃあ校長先生に頼んであげる」
       ↓
校長「よく来たの、ネギ。
   どれ、少し魔法を試してみるかね?」
       ↓
ネギ「プラクテ・ビギ・ナル 『(全力全開の)火よ灯れアールデスカット』!」
       ↓
ネカネ「キャンプファイヤー!?」
       ↓
校長「あ~あ~髭がぁ~髭がぁ~!!」
       ↓
アーニャ「覗きこんでいたおじいちゃんが黒焦げに!」


 ってなことをしたら「このガキ、ちゃんとした魔法を早く覚えさせないとヤベェ!」となり、早い入学を認められました。
 “紅き翼アラルブラ”の修行ごうもんのおかげで、魔力量は木乃香さんを超えてましたからね。そりゃ全力全開でやれば火柱も立つというものです。

 …………今思えばなんであの修行ごうもん生き延びられたんだろ?


 それとゴメンね、おじいちゃん。わざとだったんだよ。
 でも、おじいちゃんの尊い犠牲のおかげで村の皆が助かったんだから、笑って許してね。
 ちゃんとそのあと治癒魔法もかけてあげたから大丈夫でしょ。全力全開で『治癒クーラ』かけたら髭がとんでもなく伸びたけど、別に問題ないよね。





 まあ、元老院もさすがに魔法学校を襲わせるのはやめたらしく、それからも(僕的には)平穏な日々でした。
 それに初めての長期休暇で里帰りしたとき、スタン爺さんからナギの杖を“入学祝い”の名目でプレゼントされました。ナギはちゃんと来てたようです。

 自分は村にいませんでしたけどね。わざわざご苦労さんです。この杖は魔法媒体として優秀ですから、精々使わさせてもらいます。

 並行世界の詠春さんから習った神鳴流もこの杖で練習しましょう。
 神鳴流は武器を選びませんから杖で大丈夫です。ステッキ術も練習しておきますかね。



 それと“紅き翼アラルブラ”に関する映像をまほネットで取り寄せましょう。
 きっとドキュメンタリーか何かで、実際の“紅き翼アラルブラ”が戦闘している映像があるでしょうから、神鳴流はその映像を見て見様見真似の自己流で練習したことにしておきます。


 それとタカミチから『咸卦法』と『居合い拳』を見せてもらっておきましょう。となると腕輪型か指輪型の魔法媒体も用意しておかないといけませんね。
 あとは『闇の魔法マギア・エレベア』もエヴァさんのことをまほネットで調べておいて、そこから研究したことにしておけばいいでしょう。


 これでアリバイ作りは完璧です。
 なんとか原作開始前にはある程度並行世界のときの力を取り戻せるでしょう。おそらく、並行世界のときの自分が“10”だとしたら、“6”と“7”の中間ぐらいには取り戻せます。
 年齢不相応な戦闘力になりますが、バグキャラということで勘弁してください。







「ネギ、アンタまた山へ修行に行くの?」

「そうだけど。どうかしたの、アーニャ?」

「成績が良いからって調子に乗っちゃだめよ。アンタってば頭が良い割りに、変なところで抜けてるんだから」

「ずっと学校に入ると気が滅入るよ。たまには外で思いっきり羽根を伸ばしたい時だってあるんだよ。
 それに学校の中だったら派手なことできないし」

「…………くれぐれも山火事なんかには気をつけなさいよ。
 アンタはおじいちゃんをコンガリ焼いた前科があるんだからね」



 根に持ってますね、アーニャ。
 まあ、幼いアーニャにはあの光景は酷だったかもしれません。
 村を襲われないようにするためとはいえ、少しはアーニャのことも考えてあげるべきでした。


 …………アレのせいで原作より火炎魔法が苦手になったせいか、『アーニャ・フレイム・~』がまだ一度もされてないことは嬉しい誤算でしたけどね。
 自分が治癒魔法も得意なせいか、アーニャも張り合うように治癒魔法の練習をしています。多分これもおじいちゃんの尊い犠牲のおかげでしょう。



「わかってるよ。気をつけるから大丈夫だよ。
 お土産は何が良い? 多分ユリの花がそろそろ綺麗に咲いていると思うけど」

「す、好きにしなさいよ! …………気に入ったら貰ってあげるわ」

「ん。そんじゃイノシシでも狩ってくることにするよ」

「っ! こ、このバカァーーーッ!!!」



 アーニャは可愛いなぁ、ハッハッハ。



「冗談だよ。
 じゃ、行ってくるからネカネ姉さんと仲良くね。それともアーニャも一緒に行く?」

「フン! 行かないわよ! …………いってらっしゃい」




 はい。いってきます。


 とりあえず修行を始めて早数年。周りの大人達から隠れながらの修行でしたので時間かかったなぁ。
 それでも何とかヴィルさんクラスを相手に出来るような力をつけたので山篭りを行うことにしました。もしかしたら“元老院は自分殺すの諦めていないかなぁ~”なんて思ったので、諦めていなかったときに誘い出すためです。
 こうして山篭りするようになったのなら、魔法学校にいるときよりも山篭りしているときを狙うでしょうからね。いつ来るかわからない刺客より、いつ来るかわかる刺客の方が対処しやすいです。


 それに、自分のせいで魔法学校の関係者を巻き込んだらいけませんからね。
 ………………『千の雷キーリプル・アストラペー』に巻き込んだら大多数の人が死んじゃいますし。
 もちろん転移魔法は使えるし、転移魔法符も持ってきてありますので、逃げる準備も万端です。


 万端だったんですが、全然来ませんね。一応優秀な成績を修めているので、始末するより“英雄の息子”として利用することにしたんでしょうか?
 来ないなら来ないで全然構いませんし、来ないんだったら修行をするだけだからいいんですけどね。





 あ、ユリ発見。
 アーニャとネカネ姉さんへのお土産にしましょう。

 …………食べ切れなかったイノシシ肉もお土産にしましょうか。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 というわけで、原作世界への転生をもう一度。
 アイテムとかは全て失われたけど、肉体的にはともかく魔法的には強くてニューゲーム。

 少しはネギを活躍させたかったし、考えた技とかも出したかったのです。


 それでは皆様、第二章だけで100話ぐらいになりそうですがよろしくお願いします。
 年度末をもうすぐ乗り越えられそうですが、これから年度初めが待ってます。新入社員とかも入ってくるそうなので、もしかしたら更に忙しくなるかもしれません。
 しかし、何とかして遅くともゴールデンウィーク前には新規投稿を始めますので、もう少々お待ちください。



[32356] 第1話 メルディアナ魔法学校での日々
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/01 15:46



━━━━━ アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ ━━━━━



 私には幼馴染がいる。
 名前をネギ・スプリングフィールドといい、世界を救った英雄であるナギ・スプリングフィールドの息子だ。


 といっても、私はネギのお父さんであるナギさんと会ったことはないし、世界を救ったと言われてもピンと来ない。
 だから私にとっては結局、“英雄の息子のネギ”ではなく、“幼馴染のネギ”。
 ナギさんも“世界を救った英雄”ではなく、会ったこともない“ネギのお父さん”でしかない。


 そのネギだけど、変わった男の子だった。
 変わったというよりチグハグな感じな男の子というべきか…………なんだかアンバランスなのだ。

 興味のあることは力を尽くし、他のことはおろそかになる。


 学校の勉強だってそうだった。
 初めて使った魔法で火柱を立て、治療魔法を使っておじいちゃんの焼き切れた髭を伸ばした。普通、治療魔法で髭は伸びないハズなのに。

 まあ、治療魔法のことはともかく…………ネギのせいで魔法学校は大騒ぎになり、急遽ネギを魔法学校に入学させることになった。


 当然ね。あんなのを村で野放しにしてたら、村がいつ火事になるかわからない。
 上級魔法を試しに唱えてみて、アッサリそれが発動して村が破壊されることすら有り得るわ。


 ………………というか学校で実際あったし。
 空に向かって唱えていたから被害はなかったけどね。



 そんなことがあって、ネギは学校の教師の期待を一身に背負うことになった。
 背負うことになったのだけど、本人はまったく気にしていなかった…………というより気づいてさえいなかったのかもしれない。


 教師が難しい魔法を勉強させようとしても、

「知るかバカ! そんなことより治療魔法だ!」

 などとワケのわからないことをのたまって、治療魔法の練習ばっかりしていた。
 そして3ヶ月ほど練習したら誰も治療魔法はネギに敵わなくなっていた。


 きっとネギはおじいちゃんに火傷を負わせたことを、ずっと気にしていたんだと思う。
 私が風邪を引いて寝込んだときも、寝ずに看病してくれていたこともあったし。


 ………………お返しにネギが風邪で寝込んだとき、私も看病してあげようと思っているのは私だけの秘密だ。
 といっても今だにネギは風邪を引いたことがないのだけれど。







 その治癒魔法の勉強が終わった後は、

「便利そうだから」

 という理由で転移魔法の勉強を始めた。


 確かに転移魔法は便利で、長期休暇で村に戻るのも楽になった。
 というか長期休暇以外でもたまに村に帰っている。だって、1秒で着くんだもん。


 しかし、あとになって考えたら転移魔法を覚えさせたのは失敗だった。

 ネギの行動範囲がとんでもなく広くなってしまったのだ。おかげでネギは“山篭り”なんて妙な趣味に目覚めてしまった。
 そのせいでネギに会いにタカミチさんが初めて来たときは、山の中を探し回った挙句に先に学校に戻ってきて来客を知らされたネギに迎えに来られる、という踏んだり蹴ったりな目にあってしまった。
 ネギの転移魔法で一緒に帰ってきたタカミチさんの悄気た顔はしばらく忘れることが出来なかったわよ。


 ウチのネギがごめんなさい。





 おじいちゃんやネカネ姉さん、それに私がいくら言っても“山篭り”をやめようとしない。
 でも何故か、

「買い物に行くから、今度の休みは付き合って」

 とか頼むと、山篭りを休んで一緒に買い物に行ってくれる。それもアッサリと。


 でも教師なんかが適当な理由で山篭りに行かせないようにしても断ってしまう。
 山篭りをやめて付き合ってもらえるのは私とネカネ姉さん、それとたまにおじいちゃんの3人ぐらいだ。後輩に治療魔法を教えるとかの名目なら行かないときもある。


 ドネットさんが言うには、“ネギにはネギ独自の判断基準があって、それに忠実に動いている”、ということだった。
 他人が“是”とするものでもネギが“否”と思えば否定し、他人が“否”とするものでもネギが“是”と思えば肯定する。


 ネギ的には「危険だからやめなさい」は“否”で、「買い物に付き合って」は“是”らしいけど、私にはネギの判断基準がわからない。というか誰にもわからないと思う。
 常識をちゃんと持っていて普段は普通なのに、何故かときたまトンチンカンな答えを出すのだ。





 おじいちゃんが言うには
「違うように見えて、それでも根っこはナギ似」


 ネカネ姉さんが言うには
「もうちょっと落ち着いてくれるといいんだけど」


 ドネットさんが言うには
「何考えているかわからない猫みたいな子」


 スタンお爺ちゃんが言うには
「話が通じる分、ナギよりもある意味面倒」





 要するにネギはボケボケなのだ。
 やっぱりネギには私が付いていないとダメみたい。


 というか山篭りのお土産がバラの花束ってなんなのよ。
 結局「綺麗に咲いていたから」という理由で、特に深い意味はなかったらしいけどね。



 ………………ふ、深い意味って、別に変な事考えたわけじゃないんだからねっ!!!







 しかし、来週で私達は魔法学校を卒業することになる。
 私もネギも一年の飛び級、といってもネギは普通より11ヶ月早く入学して同級生だったので、同時に卒業することとなる。


 これから一人前になるための修行内容がお告げによって決まる。
 私は一人でも大丈夫だけど、ネギはどこか抜けているから心配だわ。アイツは一人でもやっていけるのかしら?



 この前なんか、『皇帝たる不死鳥インペラトル・フェニックス』とかいう、火の鳥を放つ魔法を開発して喜んでいたりしてたし…………。
 新魔法を開発するなんてのは凄いことだけど、“退屈だったから”という理由で開発するのはどうかと思うわ。











━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 今のは『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』ではありません。『奈落の業火インケンディウム・ゲヘエナ』です。


 ………………さすがに『魔法の射手サギタ・マギカ』で『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』以上の威力を出すのは無理でした。



 もうすぐメルディアナ魔法学校を卒業するのですが、だいたい前世の戦闘の勘を取り戻せました。
 麻帆良に行っても、全力状態のエヴァさんから逃げ切れるぐらいのことは出来ます。転移魔法もありますしね。
 まあ、エヴァさんに対しては『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の解呪に協力すれば悪くはされないでしょう。並行世界で解呪した知識もありますし。





「ほい、チェックメイト」 

「ぬお! 待つんじゃ、ぼーず!」



 そんなとき、気晴らしにスタン爺さんとチェスを打っています。

 いや~、それと親衛騎団の作成は無理でしたね~。頭数少ないのを何とかしたかったんですけど。
 やはり知能を持って、自律行動可能な駒なんてものは作れません。



「それにしてもぼーずもあと一週間で卒業か。月日が流れるのは早いもんじゃな。
 しかし、村にいていいのか? てっきり魔法の研究とかずっとしてるもんだと思っておったぞ」

「あと一週間で卒業だからだよ。一週間じゃ時間足りないからね。
 うっかり研究始めたせいで、研究に興が乗って卒業式サボることにもなりかねないし」

「…………あまりネカネに心配かけさせないようにするんじゃぞ」

「わかってるよ。だからここでゆっくり休暇とってるんじゃない。
 僕としても今まで急ぎすぎてた感があるのは思っていたからね。卒業までの一週間ぐらい、ゆっくり休暇とってもバチはあたらないでしょ」





 『カイザーフェニックス』の再現は難しかったですね。威力も『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』の方が強いから完璧なネタ技になりましたが。

 『天地魔闘の構え』も無理でした。一度に攻撃or魔法と防御の2手までなら出来ますが、攻撃と魔法と防御の3手になると一気に難しくなります。何とかしてやり遂げたいなぁ…………。
 ただその修行の過程で、魔法を術式固定状態で手に持っておいて、それを敵に叩きつける戦闘方法を開発出来ました。『風花・風障壁フランス・パリエース・アエリアーレス』を使えば『フェニックスウィング』もどきが使えます。
 悪戯心で『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』の固定状態をイノシシに飲み込ませたら、破裂して凄いスプラッタなことになりましたが。



 ………………ラカンさん相手でも通じるだろうなぁ。確実に死ぬでしょうけど。





「イノシシとか熊を狩ってくるのは、ゆっくりしてるうちに入らないと思うんじゃが」

「だったらスタンお爺ちゃんの腰の治療もしなくていいのかな?」

「ぐぬっ! …………まったく可愛げがなくなりおって。
 小さいときの純真なぼーずはいったいどこに行ったんじゃ?」





 ハイハイ、と生返事を返しながら駒を初期状態に戻します。


 もうすぐ卒業です。
 麻帆良に行ったら頑張りますか。


 並行世界と違って明日菜さんはバカレッドだし、刹那さんもポストバカレンジャーだから期末テストが面倒臭いですねぇ。
 早めにバカレンジャーの皆さんと刹那さんに勉強頑張ってもらうようにしましょうか。



[32356] 第2話 卒業
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/01 15:47



━━━━━ メルディアナ魔法学校校長 ━━━━━



 我が校には一人の天才児がいる。
 名前をネギ・スプリングフィールドといい、世界を救った英雄であるナギ・スプリングフィールドの息子じゃ。

 初めて唱えた魔法で大人すら出せそうにない火柱を立て、治療魔法を3ヶ月勉強しただけでワシを含めた教師の誰よりも上達した。
 魔力量もナギ・スプリングフィールド以上のものを持ち、それに驕ることなく貪欲に勉強を欠かさない。



 これだけ聞くと本当に天才児なのじゃが、同時にあの子は天災児でもあった。





 最初はあの子が3歳のとき。
 初めて唱えた魔法で火柱を立てたのはいいのじゃが、そのおかげでわしはコンガリと焼かれてしまった。


 いや、それはまあいい。誰もあんなことになるなんて思ってもいなかったし、それこそ初めて魔法を試したネギでは予想することは出来なかったじゃろう。
 事故が起こった責任はその場にいた大人、つまりわしにある。ナギの息子なんだから、同じようにとんでもないことを仕出かすかもしれないのを失念していたわしの責任じゃろう。


 英雄であるナギの息子でもあるということで、教師の期待も大きかった。
 じゃが、ネギはそんなこと全然気にしないでマイペースに日々を過ごしていった。

 ナギは狭苦しいのが嫌なのか魔法学校を中退して世界を巡った。それに比べたらネギはマシなのじゃが、それでも“我を貫き通す”ということについてはナギと一緒じゃ。
 やはりネギは“ナギの息子”なのだと思わされることが何度もあった。


 教師が何を言おうと、まず治療魔法を勉強し始めたのが良い例じゃ。おそらくわしを焼いたことを悪いと思ったのじゃろう。
 必死に勉強したため、わずか3歳のうちに治療魔法は学校の誰よりも上達し、教師を唖然とさせていた。
 おかげで治療魔法の教師が自信をなくし、実家へ帰ろうとしたのを説得しなければならなかった。

 別にネギが悪いわけではないのじゃがのぉ。





 だが、後輩へ治療魔法を実践して見せるためとはいえ、自分の腕を切り落とそうとするのはどうかと思うのじゃがなぁ…………。



「優れた治癒術者は千切れた腕を接合したり、欠損した部位を復活させたりすら出来るそうなんですけど、先輩は出来るんですか?」

「ん? やってみようか?」



 何でこの会話で自分の腕を切り落とそうとするんじゃ?


 あれじゃな。ネギ的には指に軽く切り傷つけるのと、腕を切り落とすのは同程度の事なんじゃろうな。「治せるから別にどっちでもいいや」ぐらいの。
 実際ネギの実力なら治せるじゃろうし。


 あの子は常識を持っているようなのじゃが、その尺度が違いすぎる。
 “治療魔法で治せる傷を自分に付けて、治療魔法の練習をする”、というのはよくある治療魔法の練習での常識なのじゃが。
 ネギと他人の間では、“治療魔法で治せる傷”という尺度が違うのじゃろう。


 慌てて止めたからよかったのじゃが、止めておらなかったら後輩がトラウマになるところじゃったぞ。
 10歳にもなっていない子供の目の前で腕を切り落とそうなんて、少しは考えて事を行なって欲しいのう。


 ………そういうネギもまだ10歳になっておらんのじゃがな。
 全員がネギのように肝っ玉が座っているというか、ズレているワケじゃないんじゃ。
 ここら辺が理由でアーニャに「どこか抜けてる」と言われているんじゃろうな。





 魔力量の多さは…………両親のおかげじゃろうな。
 父親がただでさえ出鱈目に魔力が大きかったナギで、母君がウェスペルタティア王家の御方。
 突然変異のバグキャラと脈々と魔法世界最古の血を受け継いできた血筋の御方の息子。サラブレッドと呼んでいいのかどうか…………。





 そしてそんなネギも遂に卒業することとなった。
 成績的には学校が始まって以来の好成績じゃから問題はなかったが、問題となったのは卒業後の一人前となるための修行場所じゃった。





 元老院は本国によこせ、と言ってくるがそんなことは出来ん。大方都合の良い英雄に祭り上げるつもりじゃろう。
 祭り上げられるだけならまだ良い。しかし、あのネギの性格では元老院すら相手にしないじゃろうな。
 元老院とは悪い関係しか築けないであろうから、元老院にとって都合の良い英雄として使い潰されるか、ブチ切れたネギが元老院を潰すか。
 いくらネギとはいえ元老院には勝てないじゃろうから、使い潰されるのがオチじゃ。

 ………………さすがに元老院には勝てない、じゃろうな?

 しかも、スタンの話では過去にネギの殺害計画があり、それを知ったナギがネギを助けるために村に来たということじゃ。
 あいにく、その頃にはネギは入学しておったがの。ネギの杖はそのときにナギが置いていったものだという。
 そんな企みがあったと知った以上、本国にネギはやれん。





 アリアドネーという手も考えた。
 “学ぶ意思があるもの”はたとえ魔物や犯罪者であっても捕らえることは禁止されている、というアリアドネーならばネギでも問題なかろう。それにナギと共に大戦を戦ったセラス総長がいるから安心じゃしな。
 しかし、問題なさ過ぎて逆に不安になってしまう。あの探求者の巣窟にネギを放り込んだらどうなるか?

 “混ぜるな危険”………そんな言葉が浮かび上がってきたわい。
 
 たとえ危険なことにならなくても、あの研究するのに環境の良いアリアドネーに行かせると研究に熱中して引き篭るのではなかろうか?





 となると、やはり日本の麻帆良しかなかった。
 あそこはナギの知り合いでもあるコノエモンが学園長を務めておるし、“紅き翼アラルブラ”のタカミチ殿もおる。あの2人ならネギに悪いようにせんじゃろう。
 コノエモンの悪フザケは心配じゃがの。

 ネギも麻帆良の図書館島に興味を持っていたので、ネギ自身は特に反対しないじゃろう。元から果たす義務は果たす性格じゃしな。
 “教師になる”というのは気になるが、後輩にモノを教えるのは上手じゃったから問題あるまい。
 というか“生徒になる”というのはあの性格だと無理じゃろうな。ネギの先生になる方が気の毒になるわい。

 ………決してコノエモンに押し付けようとは考えておらんぞ。
 他に選択肢がないだけじゃ。







 もう少しネギがシッカリしてくれていれば、こんな心配しなくて済んだんじゃがのう。

 思わずそんなことが心に浮かびながら、ネギに卒業証書を渡すわしじゃった。











━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 こんにちは。卒業証書を渡されたときのおじいちゃんがした憐れんだ目が気になるネギです。
 アレ? もしかして本国行き?

 時系列を乱さない卒業時期になるようにちゃんと調節したんですけど。
 まあ、卒業証書を見てみればわかりますね。



 そういえば、卒業式である今日の朝まで村にいたんですが、昨日の夜にスタン爺さんから

「実はナギは生きている。その杖はナギのものなんじゃ。
 ぼーずが魔法学校に入学したあとにナギがこの村に来たんじゃ」

 と、告白されました。


 そういえばそれを知っておかないと、エヴァさんと良好な関係を築けないかもしれませんね。
 原作でもナギが生きていることを知ったからこそ、ネギに協力しようと思ったかもしれないですし。まあ、それが全てではないですけど、少しは関係あるでしょう。

 ありがとう、スタン爺さん。





 さて、そろそろ浮かび上がってくるでしょう。
 ちゃんと原作通りでしょうか?



「ネギ何て書いてあった?
 私はロンドンで占い師よ」

「修行の地はどこだったの?」

「今浮かびあがるとこ」



 ハイハイ、…………えーと。お、よかったよかった。
 ちゃんと原作と一緒です。



「“日本で教師をすること”、だってさ」


「…………ハ? な、何よソレ!?」


「校長!
 “先生”ってどーゆーことですか!?」


「ほう…………“先生”か…………」


「何かのマチガイではないのですか!? 10歳で先生など無理です!」


「そうよ!
 ネギったらただでさえ治療魔法の実践で腕を切り落とそうとするボケで……!!!」


「しかし卒業証書にそう書いてあるなら、決まったことじゃ。
 確かにネギを外に出すのは心配じゃが、“偉大な魔法使いマギステル・マギ”になるためには、頑張って修行してくるしかないのう。
 ………………でも、あまり頑張りすぎるでないぞ」



 あれ? 原作とセリフ違わね?
 まあ、このくらいの乖離なら問題ないでしょうけど、何か自分変な事やりましたっけ?


 さーて、荷造りとかしないといけないし、日本語はもう話せますけど、出来れば原作開始時期と同じくらいに行きたいですねぇ。
 ま、それは麻帆良との話し合い次第ですか。とりあえずタカミチと連絡とってみましょう。


 …………あ、しまった。
 タカミチはもう自分が日本語話せるの知ってるんだった。となると原作より行くの早まりますかね。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ネギは“紅き翼アラルブラ”の修行ごうもんのおかげで、怪我に対する常識が失われています。

「腕がちぎれた? くっつければいいじゃん。
 腹に穴が開いた? 塞げばいいじゃん」

 ですが本人にとっては普通のつもりです。


 そんなこと“紅き翼アラルブラ”の修行ごうもんでは日常茶飯事だぜ!



 ちなみに校長のネギに対する感想はぶっちゃけると

「魔法に関しては天才だけど、アホの子」

 ぐらいに思われています。



[32356] 第3話 麻帆良学園到着
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/01 20:28



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 おはようございます。ネギです。

 麻帆良に到着しました。やはり耳鳴りがするので飛行機は慣れません。
 というか原作のネギは元気ありますよね。到着して直に授業をするって。


 それにしても懐かしいなぁ、麻帆良学園。
 何だかんだいって10年ぶりですか。








「高畑先生!
 高畑先生!
 高畑先生!
 高畑先生!
 高畑先生!
 高畑先生!
 高畑先生!
 高畑先生!
 高畑先生!
 高畑先生!

 ワンッ!!!」








 ………………それにしても懐かしいなぁ、アスナさん(NOT明日菜さん)。


 もう……あの人とは会えないんですね。やはり明日菜さんは明日菜さんということなんですね。
 タカミチめ、余計なことしやがって。


 それにしても、まさか寒波で一週間も空港が閉鎖されるとは思っていませんでした。
 冬休み中に麻帆良へ移動しておいて、いろいろ準備しようと思っていたのがパアになりましたよ。時期的に原作より早く来れはしましたけどね。



「えーと、次は逆立ちして開脚の上……」



 現実逃避してないでさっさと行きましょうか。
 放っておいたらどんどんエスカレートしていきそうです。












━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



 うううぅぅ~~~!
 木乃香ったら、騙してくれちゃって。何が「好きな人の名前を~」よ。もうっ! おかげで注目集めちゃったじゃない。



「ところで木乃香。
 今日こそは新任の先生って本当に来るんでしょうね?」

「大丈夫やよ、アスナ。今朝、ちゃんと日本に到着したっておじいちゃんに連絡あったみたいやし。
 しゃあないやん。ずっとイギリスの天気が悪くて飛行機が出なかったらしいやん。今日の3学期の始業式に間に合ったのは良かったけどなぁ」

「確かに飛行機が飛ばなかったのならしょうがないけどね。
 ま、おかげでそのことを伝えに来てくれた高畑先生と会えたから悪くなかったけど」



 ああ、冬休み中だったのに高畑先生に会えたのはラッキーだったわ。
 しかも空振りになったことを謝ってくれて、「ありがとう、スマナイね」と頭も撫でてくれたし。ウフフ。
 どうせだったら今日も来なくてもいいかしら。そしたら高畑先生がまた来てくれるかも。



「アスナー、顔が変になっておるえ。高畑先生のこと考えるのはええけど、ほどほどになー。
 ほら、あの子微妙な顔をしてこっち見てるえ」

「べ、別に変な顔なんかしてないわよっ!」



 何てこと言うのよ、木乃香ったら。
 ただ高畑先生のコト考えてただけなのに…………って、子供?





「失礼します。
 神楽坂明日菜さんと近衛木乃香さんですか?」

「は、はいっ! そうです」



 話しかけてきたのは変な長い杖を持って、バッグを載せた大きいキャリーケースをゴロゴロと引き摺っていた………………子供?

 …………子供、よね? 背がクラスのユエちゃんぐらいしかないし。
 でも何故か子供とは思えない感じがするわね。それに私達が待っていたのは新任の先生の筈…………。



「そ、そうやよ。えーと、ぼ、坊……アナタはどちらさん?」

「はい、ネギ・スプリングフィールドと申します。
 今日はわざわざ案内をしていただけるということで、御迷惑をお掛けします」

「あ、いえ。…………お安いご用ですえ」



 木乃香も戸惑っているわね。

 やっぱり、この子が新任の先生なのかしら?
 それともただ背が低くて童顔なだけ?
 留学生がクラスにいるといっても、あまり外国の人達の顔がわかるわけじゃないし。



「おひさしぶりでーす!! ネギ君!」



 高畑先生! こんな朝早くから会えるなんてラッキー……じゃなかった。
 丁度いいところに。



「おひさしぶりです、タカミチ。
 半年振りぐらいですね。これからよろしくお願いします」

「麻帆良学園にようこそ。
 いい所でしょう? “ネギ先生”?」

「えー? やっぱり新任の先生なん?」

「はい、それでは改めまして。
 この度この学校で英語の教師をやることになりました、ネギ・スプリングフィールドです」



 こ、この子が新任の先生!?
 やっぱり見た目より年食ってるのかしら?












━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



 ビックリしたわー。あんな小さい子が先生なんて。
 やっぱり外見通りの年やったみたいやね。それにしても10歳で先生になるなんて凄いなぁ。



「アハハ、自分が子供というのはわかっていますからね。
 別に“スプリングフィールド先生”なんて無理して呼ばなくても構いませんよ」

「ええの? じゃあ、“ネギ君”って呼ばせてもらうなー」

「え? …………い、いいんでしょうか、高畑先生?」

「ネギ君がそういうなら構わないさ。
 確かに元から無理があることなんだし、ネギ君が先生として立派に務めていると思ったら“ネギ先生”と呼んであげてくれないかい」

「は、はいっ! 高畑先生!!!」



 アスナは相変わらずやなー。もう全然ネギ君のことは目に入ってないわ。

 にしてもネギ君が担任補佐かー。
 確かに高畑先生は出張多くて、ホームルームが自習になることも多かったからなー。保護者からクレームでも来たんかも。



「最初はネギ君が担任になる話もあったんだけどね。
 流石にそれは無理があるということで僕が担任のままで、ネギ君が担任補佐となってくれることになったんだよ」

「そ、そんな話があったんですか!?
 ハァァァ~、よかったぁ~」

「話題に上っただけですよ。
 僕のような子供が担任になるのは無理がありますし。3学期からいきなり担任が変わるなんて、生徒の皆さんにとって良いこととは思えませんからね。
 学園長の冗談兼、僕が天狗になってないかを調べるための話だったみたいですよ」

「そ、そうみたいだね。
 学園長はたまにオフザケが過ぎるから困ったもんだよ。ハッハッハ…………」



 なーんか高畑先生の反応怪しいなぁー。
 もしかしておじいちゃん本気だったんやないかな?

 そんでネギ君に正論言われて、「実は君を試すつもりだったんじゃ!」で誤魔化したんやろ。

 …………まーたネギ君に“ウチと見合いせんか”とか聞くやろうから、とりあえず金槌用意しておこか。



「着いたえ。あの部屋が学園長室や」

「はい、ありがとうございます」



 この子緊張とかしてなさそうやね。
 大人っぽいと思ってたけど、本当に10歳なんかな?



「ネギ君、ところで気になってたんやけど?」

「? なんですか?」

「このバッグって中に何か居るん?
 たまにゴソゴソ動いてるけど」

「そういえば鳴き声らしきのも聞こえてくるわね」



 そうなんや。
 ネギ君が引き摺っているキャリーケースの上に載せてあるバッグ。
 ゴソゴソ動いて、鳴き声も聞こえるんや。



「ああ、僕がウェールズで飼ってたペットです。ホラ」



 ペラ、とネギ君がバッグをめくると、そこにはイタチみたいなちっちゃくて真っ白な動物がおった。

 やーん、かわえーなぁ。
 指近づけるとスンスンと匂い嗅いでる。ホレホレ。



「フェレット……かしら?
 TVでみたのより丸っこいわね」

「オコジョですよ。
 オコジョもフェレットもイタチ科ですので仲間ですね。ちなみにカワウソやラッコなんかも同じイタチ科の仲間です。
 昔、罠にかかっていたのを助けたのがキッカケで飼うことになりまして」



 あ、指舐められた。大人しいなぁ、この子。
 確かイタチ科の動物は、かわええ顔して実は凶暴なこともあるみたいやのに。



「この子の名前はなんてーの?
 オス? メス?」





「名前は“アルちゃん”といいます。

 男の子です」



 あら? 何かこの子ビクついたわ。
 ネギ君もさっきまでと同じ笑顔のはずなんやけど、ちょっと怖い雰囲気になったし…………どうかしたんかな?


 ま、かわえーからええか。
 よろしくなー、“アルちゃん”。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 本来、明日菜やネギは木乃香のことは“このか”と平仮名で名前を呼んでいますが、読みやすいようにこの作品では“木乃香”とさせていただきます。
 忠実に原作に沿った方が良いと思うのですが、読みやすさ優先にします。
 漫画だったら吹き出しの中のセリフ数が少ないので、平仮名でも十分読みやすいと思いますが、こういう形式ですと平仮名では読みにくいと思いますので。

 他にも読み方を変えることもあるかもしれませんが、なるべく変えないようにしたいと思います。

 さすがに“のどか”を“長閑”には出来ませんしねw




 それにしても、原作でネギはカモを逃がしたことを怒られていますが、オコジョ妖精って食べたりするんでしょうか?
 ただネギがオコジョ妖精だったことを伝えていないだけで、人語を話すオコジョ妖精を食べたりしませんよね?



[32356] 第4話 初日① 10年前に通過済
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/01 15:52



━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



「電話では何回か話したが、直接会うのはこれが初めてじゃの。儂がこの麻帆良学園の学園長である近衛近右衛門じゃ。
 君の事はメルディアナの校長からよく聞いておるよ。麻帆良にようこそ、ネギ・スプリングフィールド君」

「はい、はじめまして。近衛学園長。
 ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」



 僕の目の前に大きくなったネギ君がいる。半年見ないうちに、また大きくなったなぁ。
 やはりこの年頃の子供の成長は早いな。

 それにしても、ネギ君と同僚になるとはね。
 学園長とメルディアナの校長から事情を聞くまではそんなこと思いもしなかったな。


 よくよく思い返せば、ネギ君と初めて会ったのはもう6年も前になるのか。
 元老院によるネギ君の暗殺計画があったことを知った僕は、急ぎウェールズに向かった。
 その前からネギ君のことは聞いていたし、“とある事情”で通常より早く魔法学校に入学したことも聞き及んでいた。

 …………“とある事情”の中身を聞くまではネギ君の暗殺計画のせいだと思ったけど、まさかネギ君が校長を燃やしたせいだとは思わなかったな。ハハハ。
 まあ、ナギの息子らしいといえば息子らしいのかな。





「ところでネギ君には彼女はおるのか?
 どーじゃな? うちの孫娘このかなぞ」

「ややわ、じいちゃん」





 ガスッ! そんな音がして学園長の頭に金槌が突き刺さる。
 教師としてなら注意しなくてはいけないけど…………学園長だから別にいいか。



 まあ、そんなどうでもいいことは置いておくとして、ネギ君と友達になった僕は時間があればウェールズに行ってネギ君の顔を見るようになった。
 ナギとあの御方の忘れ形見が大きくなっていくのを見るのは楽しかったし、校長の話ではナギが生きているかもしれないということも聞けた。
 魔法を使えない僕には魔法を教えてあげることは出来なかったけど、少しばかり武術を教えることが出来た。

 …………まさか『咸卦法』を3ヵ月で習得するとは思っていなかったけどねぇ。


 ネギ君に『咸卦法』を見てみたいと言われたので見せてあげたら、3ヵ月後に次会ったときには既に習得してたなんてのは流石に予想外だった。
 思わず咥えてた煙草を落として、落ち葉を延焼させるとこだったよ。僕は覚えるのに苦労したのになぁ。

 それからもネギ君は綿が水を吸収するようにどんどん成長していった。
 …………ネギ君もナギと同じ、バグキャラかな。


 そういえば、ネギ君に麻帆良では魚釣りならともかく、狩りはしないように言っておかないといけないな。
 たくましいのはいいことだけど、ナイフ一本でイノシシを解体する4歳児ってのはインパクトがありすぎて、どうかと思ったよ。美味しかったけどね。
 まあ、ナギも魔法世界でトカゲ肉をサバイバルで料理していたっていうし、そんなところも似てるのかな?





「そうそう、もう一つ」



 しまった。
 昔を思い返していたらいつの間にか話が終わりそうだった。
 昔を懐かしむってコトは、僕もやっぱりもうトシなのかなぁ。ハハハ。



「木乃香、アスナちゃん。
 ネギ君をお前達の部屋に泊めてもらえんかの」

「え!? ど、どういうことですか、学園長先生!?」

「ウチは別にえーけど?」

「え? 学園長。いくらなんでも女子寮に僕が入るのはマズイのでは?
 独身者用の職員寮とかはないのですか?」

「確かにタカミチ君が入っているような独身者用の職員寮はあるし、空き部屋もあることはあるんじゃがのう。そこはペット禁止なのじゃよ。
 それにいくら先生といっても、10歳の君を独り暮らしさせるわけにはいかんじゃろ。
 タカミチ君は出張が多いから任せるわけにもいかんし、何より2人暮らしには狭いじゃろうからな」

「う、年齢を言われると僕には何も反論できません。
 僕としては家事能力はあるつもりですが、10歳の僕が独り暮らしをして火事でも起こしたら、責任問題どころの話じゃなくなりますからね」

「そういうことじゃ。フォフォフォ」



 …………ネギ君なら大丈夫だろうけど、ここは黙っておいた方がいいだろうな。
 というかネギ君なら野宿でも大丈夫なんだよね。よく僕とネギ君の2人でキャンプに行ったけど、弟や息子がいればあんな感じなのかな?



「ええやろ、アスナ。かわえーよ、この子」

「も、もう! しょうがないわね!」

「申し訳ありません。お世話になります。
 出来るだけ家事もお手伝いしますので」

「ありがとう、スマナイね。アスナ君、木乃香君。僕からも礼を言うよ」

「ハ、ハイッ! この子のことは私にお任せください、高畑先生!!!」



 ハハハ、相変わらずアスナ君は元気がいいなあ。
 この2人に任せておけばネギ君は大丈夫かな。





「へー、ネギ君料理出来るんや。
 どーゆーの作るん? イギリス料理? ……イギリス、料理?」

「イギリス料理といえばイギリス料理ですね。一応イギリスにも料理はありますよ。プティングとかパイとか。スコーンとかも焼けますけど、オーブンが無いと難しいですね。
 あとはキャンプなんかで作るサバイバル料理とかも出来ます」

「ちっちゃいのに凄いなぁ。
 アスナより出来るんちゃうか?」

「私だって少しは出来るわよ!」

「あとはハンティングで獲った獲物の解体ですかね。ウサギとかイノシシとかカモとか」

「へあ? …………へ、へ~? そう……なんや?」



 …………ウン、あとでキツク言っておかないといけないな。

 まあ、日本と外国だったら文化の違いもあって狩猟の認識が違うから、しょうがないといえばしょうがないのかもしれないけど。
 日本だったら20歳以上の狩猟免許を持った猟友会関係しか狩猟は出来ないけど、欧米だったら子供でも普通に狩猟する地域があるしね。



「魚料理はあんまり自信ないですね。
 釣った川魚を捌いて塩焼きか、フィッシュアンドチップスを作れるぐらいです」

「フィッシュアンドチップス?
 ああ、聞いたことあるえ。日本で知られてるイギリス料理の中でも一番有名やないかな」

「あと料理法知ってるのは“ウナギのゼリー寄せ”とかですかね」

「“ウナギのゼリー寄せ”? 何よソレ?」



 それはやめておくんだ、ネギ君。











━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



「神楽坂さん達は先に教室に戻っていなさい。それでは2-Aに私達も行きましょうか、ネギ先生。
 9:30から始業式のために順次体育館に移動開始します。それまでは教室待機なんだけど、質問時間でほとんど潰れるでしょうね。今のうちに自己紹介を考えておくいいわ」

「僕は用があるので先に体育館に行ってるよ。
 時間になったらしずな先生と一緒に、生徒達を体育館に連れてきてくれ」

「あ、神楽坂さん、近衛さん。案内ありがとうございました。これからよろしくお願いしますね」

「うん、よろしくなー」

「わかってるわよ。そ、それでは高畑先生! また後で!」



 原作通り、明日菜さんと木乃香さんの部屋に居候させてもらうことになりました。
 アルちゃんは他の荷物と一緒に学園長室に置いてきたままですけど大丈夫でしょう。



「ハイ、これがクラス名簿。
 早くみんなの顔と名前を覚えられるといいわね」



 ほうほう……………………よし! ちゃんと超鈴音さんが存在しています!
 前の世界では彼女がいなかったことが一番驚きましたからねぇ。

 あ、いや、一番驚いたのはさっちゃんでしたっけ。
 何であのコアラの人がべ○ータに並ぶツンデレキャラみたくなったんでしょうか?







「どうしたの? 緊張してるのかしら?」

「ちょっとしてますけど、大丈夫です」



 前の世界のトラウマが疼いてましたなんて言えません。
 って、いつの間にか2-Aに到着してましたね。

 さあ、これから再び子供先生の始まりです。
 前の世界ではエヴァさんがいつ暴走するかわからなかった分だけ気が休まりませんでしたけど、コッチ側ではそんなこともなく平穏に暮らせそうですね。
 ドアに仕掛けられている黒板消しとかが懐かしく感じてしまう違和感は放っておく事にしましょう。


 さて、それではノックしてドアを開けましょうか。ただし教室に入らず、開けるだけ●●●●●です。








 ガラッ! ボトッ!








 ドア開けたら目の前に黒板消しが落ちてきました。
 もちろんドア開けただけなんで僕の目の前に●●●●●●





「「「「「……………………」」」」」」






 パスッ! と足元に落ちた黒板消しを見つめ、






「「「「「……………………」」」」」」






 その先に仕掛けられていたロープやバケツを見つめ、






「「「「「……………………」」」」」」






 沈黙している2-A生徒を見つめ、






「「「「「……………………」」」」」」






 最後に後ろに振り返って、沈黙しているしずな先生を見つめて一言。





「引っかかった方が良かったですかね?」





「………………ど、どうかしらね?」

「じゃあ、やり直しますのでテイク2お願いします」



 仕方がない。少しばかり2-Aの皆さんに付き合って差し上げましょうか。
 教師と生徒のコミュニケーションというものはとても大事ですからね。

 それでは落ちた黒板消しをドアに挟みながらドアを閉めます。結構背の高いドアですけど、僕ならジャンプすれば十分にドアの上まで届きます。
 そしてドアを閉め終わると、後ろ側のドアへ瞬動を使って移動。





「…………え!? ちょっと待ってよ!!!」

「はい、何ですか?」



 話は聞かせて貰いました!
 あなた達皆図書館島送りですっ!!!



「!? 今度は後のドアから!? ってヘブッ!?」

「アララ。駄目じゃないですか、鳴滝風香さん。
 目の前で仕掛けた黒板消しトラップに引っかかるなんて」

「お、お姉ちゃん、大丈夫!? ってキャア!?」

「ふ、ふみかーーー!!!」



 うわぁ。
 風香さんを助けようとした史伽さんがロープに引っかかり、矢の掃射を受けてバケツが顔に嵌まったみたいです。かわいそうに。


 残念ですが2-Aの皆さん。
 あなた達が仕掛ける悪戯など、自分が既に10年前に通過した場所なのです!!!

 …………そういうところは並行世界では無くなっていて欲しかったんですけど、残念ながら前の並行世界でもありましたね、コンチクショウ。





「目に、目にチョークの粉入ったー!」「うえー、びしょ濡れですー」「ちょっと、二人とも大丈夫ー?」「衛生兵メディーック! 衛生兵メディーック!!!」「何やってんのよ、もう!」



 おっと。昔を懐かしむよりも事態を収拾しなきゃいけませんね。
 始業式の前にある程度の質問タイムも用意しておかないと、式の最中でも私語が止まらないかもしれないですし。

 まずはチョークの粉まみれになった風香さんと、バケツの水で濡れ鼠になった史伽さんを着替えさせますか。
 いや~、それにしてもアレですね。





「わぁ、大惨事」

「いや、お前のせいだろう」



 エヴァさんに突っ込まれた!?



[32356] 第5話 初日② なげやり
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/01 15:53



━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



「今日からこの学校で英語を教えることになりましたネギ・スプリングフィールドです。
 3学期の間だけですけど、よろしくお願いします」



 あのトラップ騒ぎの後、ネギ君の自己紹介になったんや。
 やっぱりネギ君しっかりしとるなー。テキパキとふーちゃんとふみちゃんをジャージに着替えさせてたし、クラスの皆を前にしても全然物怖じしてないわぁ。

 続いて始業式が始まるまでは質問タイムとなったんやけど。



「キャァァッ」「か、かわいいーーー!」「何歳なの~~~!?」「どっから来たの!?」「何人!?」「今どこに住んでるの!?」「ねえ、君ってば頭いいの」「あーん、カワイーーー!」



 いやぁ、ネギ君皆に揉みくちゃにされてて、全然質問タイムになってないわぁ。
 ネギ君大人気やなぁ。かわえーからわかるけど。



「大変ねぇ、あの子」

「あれ? アスナは混じらんの?」

「子供は好きじゃないの。それにあの中に突っ込んでいくのは疲れるわよ」



 まあ、そうやな。
 それにウチらは夜になったらゆっくり話せるしなぁ。



「ハイハイ! 歓迎していただけるのは有り難いのですが、このままだったら始業式の時間になってしまいます! 一度皆さん席に戻ってください!
 質問のある人はそれからです!」



 おんや? 揉みくちゃになってたネギ君がいつの間にか復活しておる。
 慣れてんかなぁ? 揉みくちゃにされていたときもニコニコと笑って表情崩しておらへんかったけど。
 あれが英国紳士って奴かいな?



「ハーイ! だったらまず2-A報道部の私、朝倉和美が進行させてもらうよー!
 それではネギ先生、まず簡単なプロフィールをお願いします」

「えーと、名前は先ほど言ったとおりネギ・スプリングフィールドです。イギリスのウェールズ出身で、今年で10歳になります。去年の7月に大学を卒業しました。
 特技はステッキ術です。護身を兼ねて修行してました。趣味はトレッキングです。住んでいたのが山奥だったので、山歩きをよくしていました」



 ハア、ネギ君凄いわぁ。本当に大学卒業してるんやねぇ。
 それにステッキ術? そういえば長い杖持ってたなぁ。アレ使うんやろか?



「ほほぉ、先生は杖術使いアルか。今度手合わせするアルよ」

「いえいえ。それなりに自信はありますけど、あくまで護身術の一環ですよ」

「謙遜するなアル。歩き方見ても結構な使い手とわかるアルよ」

「ハハハ、ありがとうございます。 古菲さんは中国武術研究会に所属してるんですよね?
 近いうちに部活巡りをしようと思ってますので、そのときにでも是非」

「よし、約束したアルよ。…………というかよく私の名前と部活わかたアルね?」

「クラス名簿を見たので名前と顔と所属部活ぐらいはわかります」



 そんな感じで質問タイムも順調に進んでった。
 えへへ、これからおもろくなりそうやなぁ。

 …………ん? 手紙回ってきた?
 えーと、ナニナニ?



「始業式後、ネギ先生歓迎会するよん!
 各自の分担は××××××(以下略)」



 おー、そうやね。せっかくやから歓迎会せなもったいないなぁ。ウチは買い出しやね。
 ほなら、アスナにも付き合ってもらおーか。











━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



 ハアア~~~……皆はしゃぎすぎよ。いくら新しい担任補佐にあんな小さい子供がきたからって。
 まあ、年のせいか、カワイイ顔してるから皆がはしゃぐのもわかるけど。

 といっても、私は高畑先生みたいな大人な男性が好きだから、あそこまで騒がないけどね。


 しかし、よかったぁ~。高畑先生が担任辞めなくて。
 木乃香には悪いけど、あの学園長ならあのネギって子でもアッサリ担任にしそうだから怖いわ。
 この事はあの子に感謝しておこうかしら。


 それにしても、たとえ10歳の子供とはいえ、男を女子寮に住まわせるって学園長は何考えてるのかしら。
 まあ、子供を独り暮らしさせるわけにはいかないってのはわかるし、学費とかの件でお世話になってるからしょうがないのかしら。

 これがあの子じゃなくて高畑先生と暮らせるんなら大歓迎なんだけどなぁ。





 …………無理ね。
 ちょっと想像しただけで顔が赤くなったのがわかるわ。


 そういえば、あの子は高畑先生のコト名前で呼んでたわね。高畑先生が独身用職員寮に住んでなければ、一緒に住まわせるようなことも言ってたし。
 もしかして昔からの知り合いなのかしら?





 ………………夜にでも少しあの子…………イヤ、ネギ先生にお話しを聞かせてもらおうかしら。

 居候させてあげるんだから、宿泊代の代わりに色々とお話しは聞かせてもらわないとねぇ。
 具体的には高畑先生の好みなんかを。ウフフフフ…………。















「あ」



 って、あら? ネギ先生じゃない。
 始業式終わったら職員室に挨拶しに行ってたみたいだけど終わったのかしら。なら、ついでに歓迎会に連れて行きましょうか。
 でも、何を見ているのかしら? 目線の先には………………本屋ちゃん? 

 …………危ないわね。たくさんの本持ってグラついてるのに、階段降りてるなんて……って、本屋ちゃんが足を捻ったのかバランス崩した!?
 あの高さで落ちたらケガじゃすまないわよ!

 ダメっ! ここからじゃ、受け止めるのは間に合わない!



「!!! やっぱし!」

「きゃあああああ!」




 それを見たネギ先生は、今日始めて会ったときから常に持ち歩いていた、自分の身長よりも長い杖を本屋ちゃんに向けて構え、



「ハァッ!」



 という掛け声と共に、











 ブン投げた! …………って、えええぇぇっーーーーー!?
 何やってんのよっ、あの子はーーーーーー!?







 ビュオン! そんな擬音が聞こえてきそうな勢いで投げられた杖はガスッ! と石垣の隙間に突き刺さった!

 そして丁度その上に本屋ちゃんが落ちてきて、杖を中心にしてクルリと一回転半。
 その隙に本屋ちゃんがあの杖を掴めたら良かったんだけど、それでも地面に落ちるまでの時間稼ぎは出来たみたい。

 投げると同時に駆け出していたネギ先生が先に本屋ちゃんの下に到着していて、落ちてきた本屋ちゃんを受け止めたわ。




 …………ふう~、間一髪だったわね。ネギ先生が杖投げたときは何かと思ったけど。
 ネギ先生ったら槍投げでもやってたのかしら?

 って、こうしちゃいられないわね。受け止めれたのは見たけど、一応無事を確認しなきゃ。
 少なくとも本屋ちゃんは目を回してそうね。





「ちょっと、2人とも大丈夫?」

「あ、神楽坂さん」

「…………う、せ、先生?」

「見てたわよ。大丈夫?
 2人ともケガとかしてない? 立てる?」

「僕は大丈夫です。宮崎さんは大丈夫ですか?」

「ハ、ハイ。大丈夫です。ありがとうございます。
 …………って、はううぅぅ~~~! お、降ろしてください~~~!」



 あら、テンパっちゃってるわ。よくよく考えてみれば、本屋ちゃんって今ネギ先生にお姫様抱っこされてるものね。
 恥ずかしがりやの本屋ちゃんならそりゃテンパるか。



「み、宮崎さん! 顔真っ赤ですよ!
 大丈夫ですか!? 保健室行きますか!?」

「い、いえ! 大丈夫ですぅ!」



 逆効果だから顔近づけるのはやめなさい。でも見た感じ大丈夫そうね。安心したわ。

 とりあえず2人共落ち着かせてから歓迎会に連れて行きましょうか。
 まったく、3学期初日だっていうのにドタバタな日になっちゃったわねぇ。

 本屋ちゃんにケガがなかったのは良かったけどね。







「それにしても凄いわね、ネギ先生。杖をあんな風に投げて本屋ちゃんを助けるなんて。
 槍投げでもやってたの?」

「ええ、イノシシとかウサギ狩るのにやってましたね」


 イノシシは槍ぐらいの大型のエモノじゃないと致命傷与えられないんですよねー、ハッハッハ、と朗らかに笑う10歳児。
 陸上競技じゃなくてハンティング? 何か間違ってないかしら?

 ………変な子。


「宮崎さん立てますか?
 神楽坂さん、申し訳ありませんけど本拾うの手伝ってあげていただけますか?」





 僕は杖をとってきますので、と垂直に立っている石垣をロッククライミングのように両手両足を使って登っていく10歳児(スーツ・革靴着用)。







 野生的なインテリ。

 …………いや、インテリな野生児。
 それがネギ先生に抱いた私の感想だった。



[32356] 第6話 初日③ 自業自得
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/01 15:57



━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



「ようこそ! ネギ先生ーーーっ!」



 ようやく歓迎会の始まりね。あの後、図書館島まで本屋ちゃんの本を運ぶの手伝ったら遅くなっちゃったわ。

 それにしてもネギ先生も大変ねぇ。あっという間に皆に囲まれちゃったわ。
 さて、お腹もすいたし。私は超包子特製肉まんでも食べてましょうか。



「あの……ネギせんせい……」

「あ、宮崎さん」

「あの……さっきはその…………危ない所を助けていただいて……その……あの………………これはお礼です。図書券…………」


 …………へえ? 本屋ちゃんが男性に積極的に話しかけるところなんて初めて見たわね。
 でもいくら助けられたからって、10歳の男の子に頬染めるなんて…………もしかしてもしかするのかしら?


「センセ。私からもコレを…………記念です」


 って、何やってんのよあのバカいんちょーーー!!!
 銅像をプレゼントするなんてバカじゃないの!?







「やあ、ネギ君。教師生活初日、おつかれさまだったね」

「あ、タカミチにしずな先生まで」



 た、高畑先生!?

 やっぱりあの子、高畑先生のコト名前で呼んでるのね。
 名前で呼ぶってことは、やっぱり昔からの知り合いで親しいのかしら!?



「え、えーと、ネギ先生? 高畑先生のコト名前で呼んでるけど、知り合いなの?」

「あ、神楽坂さん、先ほどはお疲れ様です。
 ええ、タカミチとは6年前から、僕が3歳のときからの知り合いです」

「ウン、ネギ君のお父さんは僕の先輩でね。それがキッカケでネギ君と友達になったんだよ」


 ろ、6年前からの知り合い!? しかも親が友人同士!?


「タカミチがウェールズに来たときは一緒にキャンプとかしたんですよ。
 日本のこともタカミチから聞いてて、前から興味を持ってました」

「そうだね。ウェールズの夜空は、麻帆良の夜空とまた違う感じがしてね。2人で夜空を見上げながら、夜通し話し込んだりしたもんだよ。
 おかげで翌朝つらくなっちゃって、ネギ君のお姉さんに「子供に徹夜させるな」って怒られたこともあったよ、ハハハ」

「僕にとってタカミチは“お兄さん”って感じですね。一人っ子でしたし。
 もっとも年からいくと“お兄さん”じゃなくて“おじさん”って感じですけど」

「おいおい。酷いな、ネギ君。僕はまだまだ若いさ」


 アハハ、と朗らかに笑いあう2人。



 夜通し話し込む仲!  それなら、私の知らない高畑先生のコトも知ってそうね!
 ウフフフフ、今夜は(尋問的な意味で)寝かせないわよ、ネギ先生!!!







「ちょっと、アスナさん!? どーゆーことですか!?
 ネギ先生と相部屋だなんて!?」



 …………うげっ、いんちょにロックオンされた。せっかく良い気分だったのに…………。
 だいたい知らないわよ~、そんなこと。私じゃなくて学園長先生に言ってよね。











━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 歓迎会終了後、今日からお世話になる明日菜さんと木乃香さんの部屋に移動しました。
 前世ではあまり寮には行きませんでしたけど、エヴァさんの家とはまた違った感じですよね。

 というか一部屋辺り2~3人のための寮にしては広すぎじゃないですかね? 一部屋毎にキッチンとか完備しているなんて…………。
 まあ、そこに住まわせてもらうんだから文句はないですけどね。


 …………で、早速明日菜さんにタカミチのことを問い詰められているんですが………………明日菜さんって本当にタカミチのこと好きなんだなぁ。





「実は神楽坂さんのコト、以前にタカミチから聞いたことがあるんですよ」

「え!? た、高畑先生は私のこと何て言ってたの!?
 キリキリ吐きなさい、ネギ!」

「“妹みたいな子”って言ってました!」

「グハッ! …………い、妹みたいな子」



 あ、死んだ。

 明日菜さんは元気良いですねぇ、何か良いことでもあったんでしょうか? タカミチについて話してたら、いつの間にか“ネギ先生”から“ネギ”に敬称がランクダウンしてたし。
 まあ、親愛度でいったらランクアップですかね?





「アスナのことは放っておいてえーよ。どーせいつものことやし」

「恋する乙女は大変ですねぇ」

「ちょっ!? 何言ってんのよネギ! 何でわかったのよ!?」

「神楽坂さん見てたらタカミチ以外の人は誰だってわかると思います」

「まあなぁ、高畑先生はアスナがずっと見てるコト気づいてる様子は全然あらへんな。
 高畑先生ちょっと鈍感すぎるんやないかな?」

「あ、やっぱり近衛さんから見てもそうなんですか?
 でも神楽坂さんには悪いですけど鈍感というより、神楽坂さんをそういう対象で見ていないんでしょうね」

「“近衛”って名字じゃなくて“木乃香”って名前で呼んで~な、ネギ君」

「わかりました、木乃香さん」

「…………アンタら、他人事だと思って好き勝手言ってくれるわねぇ。
 というか、そういう対象で見ていないってどーゆーことよっ!?」


 いや、でもねぇ。
 タカミチと話してる限り、ホントに脈ないんですよね。


「う~ん、タカミチは最初の印象引き摺るというか、あまりその人の印象を変えないトコロがあるんですよ。
 神楽坂さんは小学校の頃からタカミチと付き合いがあるんですよね? だからタカミチにはいつまで経っても小さいときの神楽坂さんの印象があるんだと思います」

「だったらどうすりゃいいのよーーー!?」


 諦めたら? 諦めて恋終了しちゃいなYO!
 どうせ無理なんだから。







「いや、家族の話で神楽坂さんの話に及んだんですけどね。
 神楽坂さんのこと語るタカミチは父性愛みたいなものに溢れていましたよ」

「あ、“愛”!? ……エヘヘ、そんな高畑先生ったら。
 って“愛”ということは喜ぶべきだけど、父親としての愛だったら私の気持ちはどうすればいいのよ!?」

「…………あ、そうだ。思い出しました。
 神楽坂さんの話をしているときに、僕がタカミチに「学校の長期休みにでも、神楽坂さんを一緒にウェールズに連れて来ればいいのに」って言ったんですよ」

「高畑先生と一緒にウェールズ旅行!?
 ナイスよ、ネギ! よくそんな提案してくれたわね!」

「でもアスナは外国なんか行ったことあらへんやん?」

「ええ、タカミチが言うには「アルバイトと補習があるから無理だね」ってことでした」

「グハァッッッ!!!」

「アルバイトはともかく、補習はアスナの自業自得やん」

「タカミチは後見人としていろいろな経験を積んで欲しかったみたいですけど、学費を自分で少しでも稼ぐという神楽坂さんの意思を尊重しているみたいですよ」



 タカミチは誇らしげに明日菜さんのことを語っていました。
 恋人ではなく、一生懸命頑張っている娘や妹を語るような感じでしたけどね。





「…………私のバカぁ………………もういいわ、もう寝る。明日もバイトあるし。
 いろいろ話してくれてありがとね、ネギ。
 それとネギ。私のことも名字じゃなくて名前で呼んでもいいわよ。一緒に暮らすんだから名字で呼ばれるのはわずらわしいわ」

「あ、はい。おやすみなさい、明日菜さん」

「そうやねー。もう遅いし、ネギ君も明日から授業があるんやからもう寝よか」

「そうですね。じゃ、ちょっと柔軟体操したら寝ます」


 …………ふむ、そういえば体が鈍らないうちに修行場所見つけないといけませんね。
 前の世界だったらエヴァさんの家の周りで修行できましたけど、女子寮に住むとなると難しいです。
 とりあえずしばらくは派手な修行は中止して、体操や筋力トレーニングみたいな一般人に見せても大丈夫なもので済ませるしかないですね。


「おお~、ネギ君体柔らかいんやなぁ。
 ぺったり地面にお腹くっついとるやん」

「ホントね。何? 体操でもやってるの?」

「いえ、昔からの習慣ですよ。体が硬かったら、運動するのに差し支えますからね」

「…………ハンティングといい本屋ちゃん助けたときの投げ槍といい…………ネギって多芸なのね」

「アハハ。僕が住んでいたところは娯楽施設とかなかったですし、子供も少なかったですからね。必然的に山で遊ぶのが多かったんですよ。
 …………あ、そうだ、明日菜さん。明日の授業前にお時間いただけますか?
 宮崎さんが落ちた階段の危険性を学園長に訴えますので、目撃者として証言お願いします」

「あー、その話のどかから聞いたえ。確かにあそこの階段って手摺とかなんもないからなー」

「別にいいわよ。またあんなこと起きたら困るからね」

「お願いします。ちなみにタカミチに事情を話したんですけど、タカミチも同行してくれるそうです」

「!? 私に任せなさい! シッカリ学園長に危険性を訴えるわ!」


 …………扱いやすいなぁ。
 まあ、こういう真っ直ぐな明日菜さんも逆に新鮮ですね。
 前の世界だったらクールなアスナさんでしたから。





「…………なぁ、ネギ君。ちょっと背中押してみてもええかな」

「え? 別に構いませんけど」

「お? おおおぉぉ~~~。凄いなぁ。ウチはそんなに体柔らないからうらやましいわぁ」

「毎日やってればこんな風にできますよ。継続は力なりです。
 ただし、柔軟体操するときは強く押したり引っ張ったりして関節に負担掛けちゃ駄目です。アレって要するに関節技かけてるのと一緒ですから、関節壊しちゃいます」

「へ~、そうなんや」

「え? そうだったの? なんかその方が良く伸びるような感じしてたんだけど」


 いや、本当にそうなんですよ。
 やりすぎると間接が逆に硬くなるそうです。


「……ネギ君。背中あったかいなぁ」

「は? …………ああ、僕は基礎体温が高いみたいなんです。
 だから寒い日なんかは従姉のお姉さんに、湯たんぽ代わりの抱き枕にされることが多かったですね」


 あと、たまにアーニャとも。

「さ、寒いから今日は一緒に寝るわよっ!!!
 変なコトしたら怒るからねっ!!!」

 とか赤い顔して言われました。ごっちゃんです。



「あ、ええなぁ、それ。確かにあったかそうや」

「イギリスは緯度でいうと北海道より北にありますからね。樺太ぐらいです。だから寒いんですよ。
 麻帆良に来て日本はあったかいと思いましたね」

「へ~、そうなんだ。………………ところで“いど”ってなんだっけ?」

「「……………………」」

「な、なによ!? そんな驚いた顔しないでよ!」



 ごめんなさい。バカレッド舐めてました。期末テストは思いっきり苦労しそうです。
 ああ、アスナさんが懐かしい…………。











「……えいやっ!」

「グエッ!」


 ギュム。と木乃香さんに圧し掛かられました。
 木乃香さんってたまに衝動的に変なコトしますね。


「あ~、ホントや。ネギ君あったか~い」

「何やってんのよ、木乃香」

「……あの、さすがに苦しいんですけど。いくらなんでも体操中はやめてください」

「え? 体操中やなかったらえーの?」

「え?」

「え?」


 何を言っているんですか、木乃香さん?


「それじゃ、ネギ君一緒に寝よっか。ソファーで寝るなんてやっぱアカンわ」

「木乃香、湯たんぽ代わりが欲しいだけじゃ…………イヤ、いいわ。好きにしなさいな」

「あの、僕一応先生なんですが」

「女子寮の女子生徒の部屋に泊まるんやから、今更そんなこと言うても無意味やで。
 いや~、ウチずっと弟とか欲しかったんやよ。ネギ君来てくれて嬉しいわぁ」



 返す言葉もございません。

 というか、胸当たってます。
 これで木乃香さんから「当ててんやよ」とか言われたら首吊りますけどね。



「…………明日菜さんから一言」

「諦めなさい。どうせ2、3日で木乃香も飽きるわよ」

「じゃ、布団に入ろうえ…………って、ネギ君結構重いんやねぇ。体もガッシリしてるし」

「え? ええ。身長が140cmで体重が39kgです。ちなみに体脂肪率は一ケタです。
 というか、引き摺らないでください、木乃香さん。わかりましたから。自分で歩きますから」



 こ、之は何事ぞ!?
 フラグですか? いつの間にか木乃香さんフラグ立ててたんですか?

 …………いや、違いますね。木乃香さんの目はそんな恋する乙女の目じゃありません。
 どちらかというと、“ペットの犬と一緒の布団で寝ようとする女の子”って感じです。


 あるェ~? 原作のネギより子供っぽくないはずなのに木乃香さんのこの反応はなんなんでしょうか?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 原作のネギより子供っぽくないネギ。ただし大人っぽいというわけではなく、むしろ愛玩動物っぽくなってます。
 そりゃ合計20年もコ○ン君みたいなエセ少年生活送っていたら、保護欲かきたてられそうな雰囲気が素で染み付いてしまいます。

 ちなみに寿命を100歳としたら、10歳という年齢は体感時間で人生の50%以上を占めているそうです。
 つまり10歳までを2回繰り返せば、体感時間的に100歳越しちゃってるんですよね。



 魔法使いってレベルじゃねーぞっ!!!



[32356] 第7話 母を訪ねて2550里
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/01 16:00



━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



 …………頭がボンヤリする。鼻が詰まっているから息がしづらい。完璧に風邪だな、これは。
 朝までは微熱があったぐらいだったのに、無理して学校来たせいか酷くなってきた。
 さっさと帰って寝るとしよう。





「やあ、エヴァ」


 ん? …………誰かと思えばタカミチか。何の用だ?
 よく見れば薄紙に包まれた酒瓶らしきものを数本持っているが、もしかしてそれは…………?


「それはジジイからか? この前の囲碁の?」

「そうだよ。学園長にこれをエヴァに渡すように頼まれてさ。
 あまり学園長から巻き上げないであげてくれよ」


 知らんな。賭け囲碁に乗るジジイが悪い。


「…………そういえば渡すのはいいけど、エヴァは持ち帰れるのか?
 1升瓶が4本あるから結構重いぞ」


 む、1升瓶が4本。となると10kg近いな。
 今の封印されている私では一苦労だ。しかも風邪引いているし。

 …………しょうがない。



「私の家まで運べ。タカミチ」

「言うと思った」

「やかましい。茶々丸に言って茶の一つでもくれてやる」


 お前は教師の癖に普段は出張ばっかりで職務放棄しているんだから、たまには生徒の面倒ぐらい見ろ。


 …………それにしても銘柄を確認したが良い酒だ。ウム。
 さすがジジイ秘蔵の酒なだけはある。

 今夜はこれで一杯。日本酒なら夕食は和食で……といきたいところだが、残念ながらこの酒はお預けだな。
 せっかくの良い酒なのだから、鼻が詰まった状態で飲むのは避けたい。





「ところでエヴァ。風邪の方は大丈夫かい?」

「微妙だな。昨日の夜から微熱が続いているが、経験的に少し酷くなりそうだ。
 本当なら今日だって、茶道部の学期初めのミーティングがなかったら休むつもりだったんだがな」


 くそぅ……この“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”と呼ばれた私が風邪を引くことになるとは。
 毎回毎回、風邪や花粉症になる度に憂鬱になってくる。それもこれも全部ナギのせいだ。

 ………………そういえばナギといえば。


「おい、タカミチ。あのぼーやは本当にナギの息子なのか?
 顔は確かにナギそっくりだが、性格が違いすぎるだろう?」


 3学期から2-Aの担任補佐として、ナギの息子であるネギ・スプリングフィールドが赴任してきた。
 最初はナギの息子だというからどんな破天荒な奴かと思えば、どこにでもいそうなただの子供だった。

 いや、10歳で教師の真似事をしているだけで、ただの子供というのは間違いなのだがな。
 まだ3日しか経っていないが、落ち着いて教師の仕事もこなせているし、ウチの騒がしい連中も上手に手懐けているようだ。



「ハハハ、言われると思った。でも大丈夫。ネギ君は確かにナギの息子だよ。
 ネギ君はメルディアナでも普通より早く入学した上に飛び級しているからね。年上に囲まれる生活には慣れているのさ。
 実際、向こうの学校でもネギ君より年下の子は、3つ4つ下の学年にならないといなかったらしいからね」

「フン。血のせいか才能もあるようだな。…………確か『咸卦法』も既に使えると聞いたが、本当なのか?」

「…………本当だよ。ネギ君に『咸卦法』を見せるようにせがまれたから見せたんだけど、3ヶ月後に次会ったときにはもう覚えていたよ。
 ………………何年もかかった僕はやっぱり才能無いのかなぁ?」


 大の大人が落ち込むな。うっとうしい。
 だいたい『咸卦法』は究極技法と言われるだけあって習得が難しい。もし『咸卦法』が出来るなら、それだけで凄い話なのだぞ。


「魔力の制御も完璧だ。
 事前にあのぼーやが関係者だと言われていなければ、おそらく普通の魔法使いでは気づけんぞ」

「ああ、ネギ君はよくハンティングするからね。獲物に気づかれないようにしていたら、自然とああなったらしい。
 本気でネギ君が気配を消すと、僕でもわからなくなる。昔、ウェールズでネギ君と2人でかくれんぼで遊んだこともあるけど、結局見つけれなかったよ」


 そこら辺は実にナギの息子っぽいな。
 というか、タカミチほどの熟練者から隠れきることの出来るなんて、あのぼーやはいったい何なんだ?


「ま、ネギ君がナギの息子だってことはそのうちわかるよ」

「ん? 何だ。あのぼーやは猫被っているのか?」


「いや、ネギ君のはただの天然。ナギはわざとやるけど、ネギ君は素でやる」



 …………やけに実感篭った声で言うのだな。なんか遠い目しているし。

 そんなに『咸卦法』をアッサリ覚えられたこと気にしているのか?
 タカミチの奴、出張多くて疲れているんじゃないのか?











「そういえば、酒4本とは多くないか? 確かジジイとの賭けでは2本の筈だったんだが?」

「ああ、2本は貢物だってさ。ちゃんと今夜の集まりには出てくれよ」



 今夜の集まり? はて? 何か今夜に予定があったか………………ああ、魔法関係者の顔合わせのことか。そういえば今日だったな。
 麻帆良にはあのぼーやのように、日本以外からも魔法関係者が先生や生徒としてやってくる。

 だが、日本と海外では1年のタイムスケジュールが違う。
 ぼーやのように3学期からの赴任となるようなのがいるから、こんな時期にも顔合わせをすることになってしまう。



「エヴァだって面倒臭いのは嫌だろう。
 前みたいに、勘違いした人がエヴァを闇討ちしようとするみたいなことは」

「確かに後片付けは面倒臭かったな。
 茶々丸もまだいなかったから、私が後片付けしなければならなかった」

「いや僕も手伝っただろう」

「お前が一番私の家を壊したんだろうが。
 いくらなんでも『豪殺・居合い拳』を家の近くで撃つんじゃない」

「いやぁ、あのときはついウッカリ。
 修行のおかげで、ようやくガトウさんに近づけたと実感してた日々だったから。

「フン。襲ってきた生徒は本国送りだったか?」

「本国送りというか、魔法世界の実家に戻ったって感じだね。
 まあ、魔法世界で育った人はエヴァの噂を聞いたせいでノイローゼになるのは仕方ないんじゃないのかな。
 気の弱そうな子だったし、「麻帆良が“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”に乗っ取られている」なんて勘違いして、“殺られる前に殺れ”って思ったらしいよ。
 流石は魔法世界のナマハゲ」

「泣きながら襲ってきたのはそういう理由だったのか。あと次ナマハゲ言ったら殺すぞ」



 むしろ、アレだぞ。“家族か何かを人質にとられていて、私を襲うように脅迫された”とかそんな感じだったぞ。
 家を壊された怒りよりも、泣きながら襲い掛かられるという困惑の方が大きかったな。子供だったから殺すわけにもいかなかったし…………。





「そんなわけで学園長も、エヴァのことも少しは情報公開にする気になったらしいよ」

「確かにわずらわしいのは減ったな。今日はあのぼーやも来るのか?」

「いや、ネギ君は来ない。
 教師としての仕事に合格してから魔法関係者に引き合わせるのが学園長の考えみたいだよ」



 フム、それは何よりだ。ぼーやの血を利用して『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の解呪を考えているが、ぼーやに仕掛けるのはまだ早い。
 麻帆良に来たばかりでぼーやも注目を集めているだろうし、ぼーやの力や性格なども把握しなければならない。やはり麻帆良の大停電になるまでは待つべきだな。

 今の段階で私が“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”と知られると、ぼーやが何をするかわからん。
 その意味ではまだぼーやとは裏では顔をあわせるべきではない。まだ大人しくしている時期だ。



 ………………ジジイは何か企んでいるかもしれんが。



 まあいい、ゆっくり計画を練ることにしよう。
 そんなこんなで家に着いたな。











「よし、地下のワインセラーに運べ。そしたら帰れ」

「茶の一杯ぐらい飲ませてくれよ」

「フン。…………茶々丸、今帰った。茶を2つ頼む」













「お帰りなさいませ。マスター。
 そして、いらっしゃいませ。高畑先生」


「お帰りなさい。マグダウェルさん。お邪魔してますね。
 タカミチ? どうしてここに?」







 …………。

 ……………………。

 ………………………………何でぼーやが家にいる?





「ネギ君どうしたんだい?
 …………あれ? ズボンは?」


 む、よく見ればぼーやはズボンを穿いておらず、バスタオルを腰に巻いている。
 そして茶々丸はというと、ぼーやのものらしきズボンにアイロンをかけている。

 …………いったい何があった?



「とりあえず事情を説明し……いや、その前にタカミチは酒を地下のワインセラーに運べ。ぼー……ネギ先生はズボンを穿け。
 話しはそれからだ」

「あ、ああ。わかったよ」

「ちょうどアイロンも終了いたしました」

「ありがとうございます。絡繰さん」











━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



「つまり…………

“川に流されていた猫を茶々丸が助けようとしたが、
 それをネギ先生が代わりに川へ入って助け、
 茶々丸がそのお礼にズボンの洗濯をした”

 ということか?」




「3行でまとめればそうです。この1月の寒い中に、川の中へ生徒を入らせるわけにはいきませんから」

「ネギ先生。私はガイノイドです。
 ですので、そのようなことは気になさらずとも………」


 ハハハ、ネギ君らしいや。
 最初は何事かと思ったけど、聞いてみれば単純な話だった


「…………フム。茶々丸が世話になったようだな。
 礼を言っておこう。ネギ先生」

「いえいえ、教師として当然のことです。
 それと申し訳ありません。家主の了解を得ずに家に入ってしまいました」

「いや、構わん。そのまま帰るわけにもいかなかっただろう。
 茶々丸が世話になっておいて、その借りを返さないわけにはいくまい」


 そこら辺の貸し借りのことはエヴァもしっかりしてるからな。
 最初はナギのかけた『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の件でエヴァがネギ君にどう対応するか心配だったけど、これなら大丈夫そうだ。





「さて、それではお暇させて頂きます。
 絡繰さん、お茶ご馳走様でした。日本に来て久々に美味しい紅茶が飲めました」

「いえ。こちらこそお世話になりました。ネギ先生」

「タカミチ。お前も茶を飲んだんだから、もう帰れ」

「ハイハイ。それじゃ、ネギ君。一緒に帰ろうか」


 ネギ君とエヴァがこんなに早く接触することになるとは思わなかったけど、悪い出会いではないから良かったかな。
 とりあえず学園長には一言伝えておくか。





「そういえばマグダウェルさん。
 その……失礼なことかもしれませんが、一つお聞きしたいことがあるのですが?」

「………………その質問の内容次第だな」


 ん? もしかしてエヴァが“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”であることの確認か? 気づいたのかな?
 まあ、ネギ君だからエヴァが“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”だということを知っても別に何もしなさそうだけど…………。

 エヴァも気にしてない振りをしているけど、茶を飲みながら居住まいを正して聞く体勢をとっている。



「言ってみろ。ネギ先生」



 さて、何が出てくるかな?
 あまり大きいことにならないといいけど。




















「マグダウェルさんって、“僕のお母さん”だったりしますか?」


「ブフォッッッ!!!」





 …………大きいことだった。あまりの突拍子の無さにエヴァも飲んでいた茶を吹き出すほどだった。
 というか、なんでそんな発想をするんだ。ネギ君?



「マ、マスター。大丈夫ですか?」

「ゲホッ、ゲホッ…………き、気管に茶が入った……」

「…………あー、大丈夫ですか?とりあえず今の反応でわかりましたので、もう結構です。
 失礼なこと聞いて申しわけありませんでした。それじゃ失礼しますね」



 いやいや。投げっぱなしにして帰ろうとするなよ、ネギ君。
 …………これでエヴァもネギ君の天然さがわかっただろうなぁ。



「待てっ! 変なこと口走っておいて、さっさと帰ろうとするな!
 何でそんなこと聞いたのか説明しろ! ぼーやっ!
 タカミチも呆れてないでぼーやを捕まえろっ!」



 いや、僕が呆れてるのはネギ君の天然さなんだが。
 ネギ君がどうやってあんな発想に到ったか興味があるから捕まえるけどね。





━━━━━ オマケ・没ネタ ━━━━━



ネギ「は、はじめまして。お母さん!
   僕ネギです。お母さんの子供のネギ・スプリングフィールドです。
   お母さんにようやく会えました……」

エヴァ「ブフォッッッ!!!
    …………な、何をほざいているんだお前は!?」

ネギ「え!? そんなっ!?お父さんからそうだって………」

エヴァ「え? …………ナ、ナギがだと」

ネギ「はい。これがお父さんの(筆跡を真似て捏造した)手紙です」

エヴァ「み、見せてみろっ!」



ナギ『エヴァへ

   呪いを解けに行けなくて悪い。
   ネギから話を聞いてワケがわからないと思うが、落ち着いて聞いてくれ。

   まずネギは俺の息子ではなくて、違法研究で作り出された俺のクローンだ。
   研究所を潰したときに保護したので俺の息子ということにした。

   エヴァには悪いが、ネギの面倒を見てやって欲しい。頼める相手が他にいないんだ。
   ネギにはエヴァのことを母と伝えてある。お前に会いにいけるのはいつになるかわからない。
   だが、もし次会えたときは、15年前に言えなかったコトを言うよ』



エヴァ「……………………」

ネギ「もしかして…………ぼ、僕のお母さんじゃないんですか?」

エヴァ「いや! 私がぼーやの母だ! 遠慮なく“お母さん”と呼ぶがいい!!!」

ネギ「(ニヤッ)お母さーーーん!!!」



※ しばらくは面白いことになりそうだけど、あとで構成に困ると思うので没にしました。



[32356] 第8話 その名は迷探偵ネギ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/01 16:01



━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



「さて、ぼーや。
 なんであんなこと聞いてきたのか答えてもらおうか?」

「いつの間にか“ネギ先生”から“ぼーや”に呼び方が変わっていますね」


 そんなことはどうでもいいっ!
 ええい、タカミチが言ってた“素でやる”というのはこの事か!?


「えーと、まず間違いないと思いますが、一応確認しておきます。
 マグダウェルさんは僕の父に倒されたといわれている、“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんですよね?」



 …………随分とアッサリと聞いてくるな。
 魔法使いとして育ったのなら“闇の福音”の噂ぐらい聞いたことがあるだろうに、恐れもせず震えもせず。

 馬鹿なのか大物なのか…………。





「…………そうだ。私が“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”と呼ばれたエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。
 しかし、ぼーやこそよくわかったな。今の私は封印されていて、一般人と変わりはないはずだぞ?」

「え? 隠す気あったんですか?」


 名前も変えていないのに? と本気で不思議がる顔をするぼーや。
 …………カワイらしい顔なのに、ムカつくのは何故だろう?


「そ、それでネギ君はどうしてエヴァがお母さんだなんて思ったんだい?」

「んー…………というより候補が数人しかいなくて、そのうちの一人がエヴァさんだったんですよ。
 理由としましては……」





 ぼーやの理由とはこうだ。


①ぼーやの母は表に出ることの出来ない人物ではないか?

②今まで聞いたナギの性格からして、ナギはそんなこと気にしなさそう?

③ぼーやが生まれる前にナギと関わりがあった女性で、表に出ることの出来ない人物は?

④ナギに倒されたという私がまだ生きている事実は?





 ①は確かにそうだろうな。ナギは良くも悪くも有名人だ。
 そのナギが結婚したとなると騒ぎになって、その相手も有名になるはず。

 しかし、まほネットにもそんな情報は無く、それどころか自分の情報すらあまり無かったという。
 まるで隠されているかのように。

 それと世話になっている村人や祖父に母親のことを聞いても一切教えてくれなかったらしい。
 そのことから考えると、確かにぼーやの母は表に出ることの出来ないのだろう。



 ②も当たっている。
 というか、ナギがそんなこと気にするような繊細な性格をしているわけがない。

 じゃあ、なんで私には靡かなかった?
 …………くそぅ、どうせその頃には相手がいたんだろうな。



 ③と④もわかる。
 私とナギが出会ったのは15年前だし、私は表に出ることが出来ない。
 それに私が生きているというのも事実なのだから。







「そんなわけで、もしかしたらマグダウェルさんは父と恋仲だったんじゃないかな? と思ったんですよ。
 まあ、恋仲とまではいかなくても、少なくともマグダウェルさんが封印された“だけ”ということはそこまで悪い関係ではなかったと思うんですよね」


 ほ、ほほう…………私とナギが恋仲か。
 別にぼーやはそのことに嫌悪感は抱いておらんようだな。

 …………マ、マズイ。紅茶のカップを持つ手が震えている。
 落ち着け。落ち着くんだ私の右腕。



「それに悪い関係だったら封印せずに、ブン殴って消滅させていたと思いますし」

「……ああ、ナギならそうするかもしれないね」


 …………ナギなら確かにそうだろうなぁ。
 思えば、よく1ヶ月も付き纏えたもんだ。


「で、もし父とマグダウェルさんの間に子供でも生まれていたとしたら、きっと世間から隠されると思うんですよ。僕みたいに。
 そしてその母のことは子供にも明かすことは出来ないでしょう。マグダウェルさんには失礼ですけど、“英雄”と“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”の子供なんて、他の大人にとっては危険な不確定要素ですから。
 その子供は最悪、殺されることだって有り得ます」



 …………確かにそうだろうな。
 もし、ナギが私を受け入れてくれてたとしても、世間からの迫害は収まることは無いだろう。

 突飛なぼーやの話ではあるが、ありえない話しではないと考えてもおかしくはない。





「ちなみにネカネ姉さんを母親候補と疑ったこともあります」

「ネ、ネカネさんは君の従姉! つまり、ナギにとって姪だろうっ!?」

「だからですよ。“英雄”が姪を孕ませたとなったら絶対に公には出来ないでしょう。
 それに、ネカネ姉さんって僕に激甘というか、ベッタリじゃないですか」

「た、確かにネカネさんは君に甘いが…………」

「大丈夫ですよ。“こともあります”と言ったじゃないですか。
 そもそもネカネ姉さんは処女ですよ。材料に処女の血が必要な魔法薬作るとき、自分の血を使ってましたから。それに僕を産むには年齢が足りないでしょうし、小さいときの馬鹿な考えですよ。
 まあ、僕の父なら血が繋がっていようと犯罪者だろうと、惚れた女性ならその気持ちを貫く気がしますけどね」

「…………え、えーと」

「? どうしました、タカミチ?」



 …………凄いことを考えるな、このぼーやは。10歳の考えることじゃないぞ。

 しかし私とナギが恋仲で、ぼーやの母親だと……?
 …………ぼ、ぼーやはなかなか悪くない考え方をするな。ウン。







「まあ、もしかしたらさっき言った事情なのではないかな、と1厘ぐらい思ってました。
 やっぱり違いましたけどね」



 1厘!? 0.1%!?



「何でそんなに低いんだっ!? 私がナギと恋仲だったらおかしいのかっ!?」

「お、落ち着くんだ、エヴァ!」

「え? いや、マグダウェルさんが僕の母だという可能性のほうです」

「何故だっ!?」

「僕を見るマグダウェルさんの目ですね。
 父のことで何か思うことがあって見られていたのでしょうが、少なくとも母が子を見るような目ではないことは確かです」



 う、視線に気づかれていたのか。
 確かにナギの息子ということで、何かと見てしまっていたのは確かだが。



「…………よくわかったな。確かに私はぼーやを見ていた」

「狩りをしていると視線に敏感になるんですよね。獣は人間より可視範囲が広いですし」

「別にそんなことは聞いておらん」









 …………どうしようか? このぼーやに搦め手は通じなさそうだな。
 何というか……天然さで搦め手に気づかずにそのまま突っ切りそうだ。

 いっそのこと、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』のことをバラすか…………。



「…………私がぼーやを見ていたのは、15年前にナギからかけられた『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』を解呪するためにいろいろと考えていたからだ」

「父がかけた『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』、ですか?
 ……なんかバグってそうですね?」

「な、何でそう思うんだい?」

「え? いや、15年前にかけられたのなら、今でも中学生やってるのは変でしょう?
 小学校1年生から始めたとしても、もう大学生になっているはずじゃないですか。
 …………というか僕の父がかけたものなんですよね? だったらバグっててもおかしくはないかなぁ……と」


 ぼーやはナギのことをどー思ってるんだ?
 “ナギの仕業=バグ”の方程式が成り立つなんて。


「アンチョコ見ないと魔法唱えられない人です」

「人の心を読むな。……間違ってはいないがな。
 そして『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の方もその通りだ。私は中学生を15年間ずっと繰り返している。
 ちなみに『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』のときも、確かにアンチョコ見ながら呪文を詠唱していたな」

「でしょうねぇ」

「……ネギ君はナギのことをそんな風に思っていたのか」

「いや、祖父や父の知り合いの村の人に聞くと僕の父ってそんな感じなんですよ。…………で、父と直接会ったことのない人達に聞くと“英雄”って言ってました。
 そのどちらを信じるかと聞かれれば、僕は前者を信じます」



 ……変わったぼーやだな。しかし、少なくともただの正義バカではなさそうだ。
 聞こえの良い他人の言葉ではなく、耳障りな知り合いの言葉を信じるのか。


 …………本当にどうしようか?
 当初の予定通りこのぼーやの血を頂くのはいいが、この感じなら協力してくれるかもしれんな。
 ぼーやを襲って敵対するよりも、素直に協力を要請するべきか?

 実戦経験もないぼーやと戦っても負けるとは思わん。
 しかし少し接してみてわかったが、このぼーやはいろんな意味で手強そうだ。







 …………私のことをどう思うか、少し探りを入れてみるか。



「それにしても落ち着いているのだな。
 この“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”が怖くないのか?」

「そうですねぇ。
 敵対したら怖そうですけど、敵対しなかったら怖そうじゃないですね」

「しかし、私は過去に何人もの人間を殺している。
 そんな私を放っておいていいのか?」

「えー? マグダウェルさんは少なくとも500年以上は生きてますよね? そんな昔の人だったら、現代の人間と倫理観が違って当然なんじゃないですか?
 今は人を殺していないのなら、別にいいと思いますよ。過去に人を食べたドラゴンがいたとしても、洞窟の中でジッとしてるなら手出ししようとは思いません」

「私をドラゴン扱いするか。間違っていそうで間違っていないな。
 だが私は賞金首だった。600万ドルという高額のだ。そしてその首を狙ってきた賞金稼ぎ達を何人も返り討ちにした」

「安いですよ。たったの600万ドルじゃないですか。600万ドルったら先進国の戦車1台の半分ぐらいですよ。マグダウェルさんならダースどころかグロス単位で戦車壊せるでしょうに。
 それに賞金稼ぎなら、返り討ちで殺される覚悟はしていたでしょう。友人だったのならともかく、獲物に返り討ちにされた狩人の仇討ちをしようとは思いません」






 おい、タカミチ。このぼーやはいったいどんな教育を受けてきたんだ?
 正義の魔法使いの考え方じゃないぞ。それこそ獲物の命を奪ってきた狩人の考え方だ。

 …………ああ、そういえば故郷ではよく動物を狩っていたそうだな。
 だからこんな考え方をするように育ったのか?



 しかし、敵対的ではないのが逆に困った。このぼーやの考え方だったら、自発的な協力を期待するというのは難しいかもしれん。
 私が“悪の魔法使い”であることを気にしないのなら、私が『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の呪いに苛まれていることも気にしなさそうだ。

「父親の仕出かしたことの責任を取れ。ナギは3年で解くと言っていたんだ」

 と迫っても、

「僕は父じゃありません」

 で終わらせそうだ。


 理由が有ったらどんなことでもするが、逆に理由が無かったらどんなことでもしないタイプだ。
 力尽くでいくのはタカミチが隣にいるから無理だし、対価を用意してから協力してもらうべきか?





「…………あの、ネギ先生」

「何ですか、絡繰さん?」

「私を助けて頂いたのは、マスターと接触するためなのですか?」

「そんなことありません。絡繰さんを冷たい川の中へ入らせたくなかったからです」


「…………あ、ありがとうございます。しかし、先ほども言った通り、私はガイノイドですので…………」


「ストップです。ガイノイドとか人間とか関係ありません。
 僕は助けようと思ったから助けただけです」



 …………茶々丸には優しいのだな。
 何か素直に頼めば、協力をしてくれそうな気がしてきた。















「…………ところで“ガイノイド”って“ロボット”のことですか?
 絡繰さんは何処となく確かにロボットっぽいですけど?」

「わかっていなかったのかっ!?」



 駄目だ、このぼーや。
 早く何とかしろ、タカミチ。



「ぼ、僕がかいっ!?」

「お前はこのぼーやの担任だろうが! ああ、お前の言った通り、このぼーやは確かにナギの息子だよ!
 いや、むしろナギより酷いわっ!」

「な、何てこと言うのですか、マグダウェルさん!
 僕は父より酷くなんかないですよ!」

「ふ、2人と落ち着いてくれ。それにネギ君は生徒じゃなくて教師だぞ。
 …………それでネギ君はどうするんだい?」

「? “どうする”とは?」

「エヴァのことだよ。
 確認するけど、エヴァが“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”であっても問題にする気はないんだよね?」

「それは勿論です。マグダウェルさんは2-Aの生徒ですよ」


 それは正直ありがたい。このぼーやの相手をするのは疲れる。
 どうしたらこんな子供に育つんだ?


「では『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』のことは?」

「? 別にどうもしないですよ?」

「え!? ネギ君はてっきり解呪するのに協力すると思っていたのだけど……」


 これしきのことで困惑するなタカミチ。
 お前はこのぼーやのことがわかっておらん。


「じゃあ、私が『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の解呪に協力してくれと頼んだら?」

「別に構いませんけど?
 ああ、解呪のために生贄が必要だとか、非人道的なことだったらお断りしますが」



 …………やはりな。
 そうか。ぼーやはそういう人間なのか。





「君が何を言っているのか分からないよ、ネギ君」


「要するにだ、タカミチ。このぼーやは“礼には礼を”、だということだ。
 ようやくこのぼーやの分からないところが分かるようになってきた。天然が混じっているから、分かり難い事この上ないがな。
 頼まれ事は“頼まれたら●●●●●する●●”。だが“頼まれなかったら●●●●●●●●しない●●●”。
 …………例え話になるが、2つの村があって、その2つとも盗賊の被害に悩まされているとする。“片方の村は助けを求めてきて、片方の村は泣き寝入りしている”。
 タカミチのような正義の魔法使いは両方助けるが、ぼーやは助けを求めてきている方しか助けん、ということだ」

「いやいや。他にすることなかったら、ちゃんと両方助けますよ」

「だが、優先順位はつけるだろう? 少なくともぼーやなら先に助けを求めている方を助けるはずだ。
 そもそも“他にすることなかったら”という言葉が出てくるだけでおかしい」

「…………まぁ。助けを求められているんならそうですね」



 助けられる側にも礼儀を求めているな。
 ただの甘ちゃんではないぞ、このぼーや。





「し、しかし、初日の宮崎君を助けたのは…………」

「アホ。階段から落ちるような咄嗟の事態で助けを求められるわけなかろう。宮崎のどかは歓迎会のときにぼーやへお礼をちゃんと言っていたが、もし言ってなかったとしたら…………。
 そうだな。もし、同じことがあっても助けることは助けるだろうが、他に危険な目にあっているのがいたらソッチ優先して助けるだろうな。
 そうだろう、ぼーや? 無礼者と礼儀者の二者択一だったら、礼儀者の方を助けるだろう?」

「それは確かにそうですね」



 フン、正義の魔法使いのジレンマを平気で無視するぼーやだ。
 たとえ思っていたとしても、普通の正義の魔法使いでは口に出せんぞ。



「では私は何故助けていただけたのですか?
 私はネギ先生に助けを求めておらず、むしろ一度は助けていただくことをお断りしたのですが」

「それはぼーやのワガママだ。ぼーやが茶々丸を助けたかったから助けた。それだけだ。
 ぼーや自身がさっき言っていただろう」


 私の『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の解呪についても同じことだ。
 緊急性がなく、大事なことならば、ちゃんと礼儀を弁えて協力を願い出るべきだというわけだな。

 “正義”だろうが“悪”だろうが、礼儀を持って接してくるものには礼儀を持って接し、礼儀を持たないで接してくるものには上辺だけの対応か。
 そして、自分のやりたいことは、やりたいようにやる。正義の魔法使いでもないが、私とはまた違ったタイプだな。


 …………アルの奴に近いのか? もう少し快楽主義者になったらそうなりそうだ。
 でも、とんでもないことをするのはナギや筋肉達磨ジャック・ラカンみたいだし、生真面目なところはタカミチや詠春に似ている。

 “紅き翼アラルブラ”の集大成みたいなぼーやだな。





「なら、ぼーや。
 さっきも言ったが、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の解呪に協力してくれ。頼む」

「さっきも言いましたけど、別に構いませんよ。
 ただし、非人道的なことでの解決はしませんし、担任補佐としての仕事の方を優先しますので、そこはご了承ください」

「…………エヴァが「頼む」なんて言うなんて…………。
 2人だけで分かり合えているのが不安だなぁ」



 安心しろ、タカミチ。
 このぼーやの根っこは正義の魔法使いと同じだ。



 ただ、正義の魔法使いオマエラ以上に“厳しい”だけだ。












━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



 正義の魔法使い以上に“厳しい”だけ。

 エヴァの言葉が心に残る。
 確かにネギ君は“正義”とか“悪”以前に、“生きる”ということに“厳しい”のかもしれないなぁ。


 それと母親についての推理も的外れというわけではない。ネギ君の頭が良いことは喜ばしいことだけど、ここまで来るとちょっと困ったな。
 片手間程度で探しているみたいだけど、どうしたらいいだろうか?





「そ、それではネギ先生をエヴァンジェリンの家に置いてきたままなのですか?」

「ええ、そうですけど…………大丈夫ですよ、ガンドルフィーニ先生。仲良くなったみたいですし、エヴァはネギ君を客人として扱っていました。
 むしろエヴァの方がネギ君を苦手としているかもしれませんね」


 僕は学園長に事態の報告をするために先に帰った。
 ネギ君は少し残って『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』について調べるようだった。


「待たせたの。皆揃っておるかな?」

「いえ、まだエヴァは来ていませんね」


 魔法関係者の集まりの時刻になったが、まだエヴァは来ていない。
 もしかして、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の解呪に熱中しているのかな?


「迎えに行ったほうがいいのではありませんか?
 ネギ先生を“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”の家に置いていくなんて、高畑先生はいったい何をお考えですの!?」

「まあ、待ちなさい。グッドマン君。タカミチ君から報告を受けた後に、メルディアナ魔法学校の校長に電話したんじゃがな」

「そ、それはマズイのではないのですか、学園長!?
 ネギ先生はメルディアナからの大事な預かりものですよ」

「いや、むしろ謝られてしもうたわい」

「………………は?」


 …………向こうの校長もネギ君には苦労していたからなぁ。
 というか、ネギ君の被害者第一号が向こうの校長だし。


「この件に関してはあちらとしても問題とする気はなく、麻帆良に一任させてもらえるそうじゃ」

「そ、それは何よりですが…………よろしいのですか?」

「よろしいも何も…………まずはネギ君と話してみないことには始まらんのぉ」

「ああ、それなら大丈夫です。今日診察して、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』を解呪出来るかどうか調べ、出来るようだったら学園長に相談しに行くって言ってました。
 出来なかったら話はそこで終わりですからね。許可を貰う前にまず解呪出来るか調べるそうです。解呪出来るにせよ出来ないにせよ、明日にでも学園長に会いに行くと思いますよ」

「フム。そうかの。何でもメルディアナ魔法学校の校長の話では、“納得は出来ないけど理解は出来る”ということをネギ君はよくするそうじゃ。“理解は出来るけど納得は出来ない”の方かの?
 明日、ネギ君とよく話し合ってみるとするとしよう」


 個人的には『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』は何とかしてあげたいんだけどね。

 さすがに中学生をずっと続けているのは気の毒だしなぁ。
 せめて、高校や大学に入ることが出来れば、少しはエヴァも学校に行くのに張り合いが持てるんだろうけど。





「ま、ネギ君の話を聞く前に、今夜のうちにエヴァと少し話してみるかの。
 …………ム。話しをしていたら到着したようじゃな」

















「失礼します。
 申し訳ありません。遅れてしまいました」



 絡繰君か。
 エヴァもようやく来てくれ………………は?



「ちわ~、ネギ屋で~す。
 エヴァさんお届けに上がりました~」





 ………………ネ、ネギ君?





「…………や、やぁ、ネギ君。こんな夜中に出歩いてどうしたんじゃね?」

「あ、学園長。ちょうどよかったです。明日少しお時間いただけますか?
 それとエヴァさんお届けに上がりました」


 よくよく見れば、ネギ君はエヴァをおんぶしている。…………それにいつの間にかエヴァのこと名前で呼んでるし。
 僕が帰った後、何があったんだろう?


 そしてそのおんぶされているエヴァはというと、

 ネギ君のスーツをシッカリと強く握り締め、
 ネギ君の肩に顎を乗せて幸せそうな顔で眠っており、

 ………………ネギ君のスーツの染みになるぐらい涎を垂らしている。







「「「「「……………………」」」」」







 誰も何も言えない。
 僕もこんなエヴァを見たのは初めてだった。



「…………あれ? もしかして、ここにいる皆さんって関係者の方ですか?」


「あ、ああ。その通りだ。ネギ先せ「コレッ! ガンドルフィーニ先生!」……あっ!? も、申し訳ありません!」



 バラしちゃったよ、ガンドルフィーニ先生。
 無理ないけど。



「……とりあえずエヴァを起こしてから、話しを聞かせてくれんかのう」



 ネギ君。
 今度はいったい何をしたんだ?



[32356] 第9話 あなたと合体したい
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/01 16:14



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 エヴァさんが気持ち良さそうに眠っていたのですが、茶々丸さんが言うにはエヴァさんは今夜、学園長との約束があったそうです。
 しかし起こすのは可哀想だと思ったので、エヴァさんを世界樹前広場に送っていったら魔法関係者が何故か勢揃いしてました。
 このままでは話が出来ないと思ったので、おんぶしていたエヴァさんを起こしたのですが、何故か起きたエヴァさんは顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまいました。


 なんでだろーなー?





「のわあああぁぁぁーーーっ!!!」

「ああ、マスターがあんなに元気そうに…………」


 さすが吸血鬼。夜になると元気になりますね。
 あんなに地面をゴロゴロと転がりまわる元気がでるなんて。


「…………そろそろ説明してくれんかの」

「ジ、ジジイ!? 違うんだ! 別に私はぼーやの背中が気持ち良くて寝てたわけじゃないんだ!
 ぼーやっ! さっきのアレ●●をコイツラに見せろ!」

「え? 嫌ですよ。アレ●●は未完成だからあまり見せたくないって言ったじゃないですか」

「ええい、ゴチャゴチャ言うな! いいからさっさと見せ……って冷たっ!?」


 痛いですよ。強く肩を掴まないでください。
 それに冷たいも何もそれは、


「エヴァさんの涎じゃないですか」


 スーツに涎の染みが…………スーツ2着しか持ってないんですけど。


「違うっ! 違うんだぁっ!」

「ああ、マスターがあんなに楽しそうに……」

「よかったですね。茶々丸さん」

「ウッサイ! このボケロボッ! 巻いてやる、巻いてやるぞっ!」

「マ、マスター。 そんなに強く巻かれたら…………」


 ああっ! 茶々丸さんがエヴァさんの八つ当たりに!
 わざと狙ってやってる僕ですけど、エヴァさんの茶々丸さんに対する処遇は酷いと思います。





「…………ネギ君。何があったか話してくれないかな?」

「簡単に言いますとエヴァさんおんぶしてたら眠っちゃっただけですよ、タカミチ」

「違うぞっ、タカミチ!
 ええいっ、ぼーやはスーツを脱げっ! 茶々丸はそれをクリーニングしてこい!」


 はいはい。 染みになって困るのは僕ですから素直に渡しますよ。


「それではよろしくお願いします。茶々丸さん」

「お任せください。ネギ先生。
 ネギ先生もマスターのことをよろしくお願いします」


 任せてください。茶々丸さん。
 それにしても一日でスーツの上下が駄目になるとは…………。


 いやあ、本当は茶々丸さんと仲良くなるだけのつもりだったのですけどねぇ。
 エヴァさんとの本格的な関係を持つのは、原作通りの3年になってからするつもりだったんですが、タカミチが側にいれば手荒なことにはならないと踏んで勝負に出たのは間違いではなかったようです。

 あの“僕のお母さんですか?”という爆弾発言で会話の主導権をとれたのが良かったですね。
 あとは“父と恋仲だったのでは?”発言ですか。


 あの人何だかんだいって、自分に向けられる好意に弱いですからね。
 僕がエヴァさんを悪く思ってないのが分かれば、手荒なことはしてこないと見て正解でした。仲良くなれて良かったです。









「ハァハァ……」

「大丈夫ですか、エヴァさん?」

「…………ぼーやのせいだろうがぁ……」


 あ、いけね。 苛めすぎた?


「もういいかの?」

「僕はいつでも構いませんよ」

「…………好きにしろ」


 拗ねないで下さいよ。今度ミスドでゴールデンチョコレート買ってきてあげますから。
 …………え? 吸血鬼違い?





「…………それでは始めるとしよう。ガンドルフィーニ先生がバラしてしまったので、もう言ってしまうとする。
 ネギ君。ここにいるのは魔法関係者の者達なんじゃ。もちろん全員が集まっているわけではないがの。
 今日の集まりは顔合わせじゃな。ネギ君のようにタイムスケジュールの関係で3学期から赴任や転校してくるものがおるので、こんな時期にも顔合わせをしておるんじゃよ」

「う、ううぅ…………。申し訳ありません」


 ガンドルフィーニ先生が縮こまっています。
 まあ、ほとんどの先生は呆気にとられて反応すら出来ませんでしたからねぇ。


「僕は呼ばれていなかったと思うのですが……」

「その通りじゃ。ネギ君にはまず、魔法使いの修行である“教師の仕事”に専念して欲しかったからの。
 慣れるまでしばらくは内緒にしておくつもりじゃったのじゃよ」


 ああ、成程ね。
 そういうことですか。


「…………それでなんじゃが、多分皆が気になっておるだろうからネギ君達の説明を先にしてもらおうかの」

「顔合わせはよろしいのですか?」

「あれだけ騒ぎを起こしておいて何を言うておるんじゃ。皆気になって顔合わせどころではないぞい」


 ウンウン、と皆さん頷いていますね。
 確かにあんなエヴァさん見たことないんでしょうねぇ。










「あ~、ジジイ。『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』はとりあえず、修学旅行のような学外活動が出来るのが判明した。
 ただし、ぼーやの協力があればの話だがな。
 完全な解呪は出来るかどうかはまだわからん。もう少し時間が欲しいそうだ」


 実を言うと方法は知ってるんですよね。前の世界の経験ありますから。
 ただ方法は知っていても、あの固結びになってるスパゲッティコードを解くのがメンドイのは変わらないだけで…………。


「はい。とりあえず4月にある修学旅行にはエヴァさんを連れて行くことが出来ると思います。
 聞けば今まで15年間の間ずっと、麻帆良から出ることが出来なかったとか…………。
 いくらなんでもそれは不憫なので完全解呪の研究の前に、ある程度呪いの修正をして学外活動を出来るようにします」

「ほほお! わしも解呪を試したことがあるのじゃが、修正すら出来んかったぞい。
 凄いのお、ネギ君」


 おお! と周りからも歓声が。

 解呪出来ることへの驚嘆7、エヴァさんの呪いを解くことへの不安3といったところですか。
 ガンドルフィーニ先生は…………まだ縮こまっていますね。


「そのことについては後日、ゆっくりと時間をとって聞くとするかの。今話すには時間が足りんわい。
 …………で、さっきのことは聞かんほうがええのかの? ネギ君は“未完成”と言うておったが」

「駄目だ。見せろ。アレをコイツラに見せろ。
 私が勘違いされるではないか!」

「エヴァ…………あまり強制しない方が」

「あー、いや。まあ、別にいいですよ」


 ちょっと苛めすぎちゃいましたし。
 少しは機嫌とっておきましょう。


「いいのかい、ネギ君?」

「未完成というか、もう少し別のものにも発展させられそうな感じなだけで。
 一応それ自体は完成しています」

「言っておくが本当に凄いぞ。私でも出来ん」


 エヴァさん必死ですね。


「む、エヴァがそこまで言うとは…………では見せてもらおうかの」

「わかりました。えーっと…………そうですね。誰か怪我してる人はいらっしゃいますか?
 直接的な治癒魔法ではないのですけど、その方がわかりやすいと思います」

「ふむ? 治癒魔法とな?
 …………まあ、見てからのほうが早いかの。誰かおらんか?」

「あ、なら私が…………今日の体育の授業で手をぶつけてしまいまして。
 私は聖ウルスラ女子高等学校1年の高音・D・グッドマンと申します。ネギ先生」


 あ、脱げ女さんだ。
 こうして見ると美人さんなんだけど、脱げちゃうのがなぁ。


「それでは患部を出しておいてください。
 直接グッドマンさんに魔法をかけるわけではないので、リラックスしていてください」









 さて、それではやりますか。
 皆に見えるよう、ゆっくりやっていくよ!








「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 汝がためにユピテル王の恩寵あれ 『治癒クーラ』! 術式固定!」


 まず、左手に『治癒クーラ』を固定状態で待機させておきます。


「むおっ!? それは『闇の魔法マギア・エレベア』!?
 どういうことじゃ、エヴァンジェリン!? 何故ネギ君が『闇の魔法マギア・エレベア』を使えるのじゃ!?」

「いや。私じゃないぞ。ぼーやが自分で勝手に覚えてたんだ。
 それより見てろ。これからだ」







 そして右手に“気”を集めて固定し、

「右手に“気”、左手に“魔法”」

 最後にこの2つを合わせ、

「“気”と“魔法”の合一、『闇の咸卦法』」







「…………あれは、『咸卦法』じゃないな?」

「そうだ。タカミチお前の使う『咸卦法』は“気”と“魔”を融合させて爆発的な力を得る究極技法だ。
 だがぼーやは『咸卦法』と『闇の魔法マギア・エレベア』を組み合わせ、“気”と“魔”を融合させたんだ」

「…………これが“納得は出来ないけど理解は出来る”かの? それとも“理解は出来るけど納得は出来ない”じゃろうか?
 確かに気と魔力を融合させることが出来るのなら、気と魔法も融合出来ておかしくはないかもしれんが…………」









「術式兵装『咸卦治癒マイティガード』!」


 …………はい、完成です。名前の通り、プロテスやらシェルやらリジェネっぽいのがこれでかかります。
 相手に触れれば、相手も回復します。


「お待たせしました、グッドマンさん。患部はどちらですか?」

「…………え? ハ、ハイ! 左手首です」


 それではちょっとお手を拝借。
 僕の手で脱……高音さんの少し腫れている左手首を優しく包み込みます。


「どうですか、グッドマンさん?」

「あ、温かいですわ、ネギ先生。痛みも引いてきました」

「ほほお…………こんなの初めて見たわい。
 気と魔法の両方での同時治療か」

「ああ、気と魔力は反発するから同時には使えない筈だがな。
 だがぼーやが融合させているから、反発せずに対象を回復させている。単体の治療よりも掛算的に効力がアップしているな」

「ちなみに風邪とかも治せますよ。
 治すというより、自己回復力を促進させた結果で治るみたいですけど」


 だから僕はこれ覚えてから風邪引いたことないんですよね。

 …………あれ? なんかフラグがベキベキと音を立てて倒れた気がするのは気のせいかな?






「おい、高音・D・グッドマン。ぼーやにおんぶしてもらえ」

「!? な、何を言われるんですか、貴女は!?」

「いいからやれ」

「しかし、こんな人前でなど。それにネギ先生の小柄の体では重いでしょうに」

「あ、僕は大丈夫ですよ。『咸卦法』の身体能力向上のおかげで、女性の1人や2人は楽に背負えます」

「ぼーやは大丈夫だそうだ。…………高校生にもなって10歳相手に照れるな」

「うっ! た、確かにネギ先生は10歳ですから……。
 わかりましたわ。それでは失礼いたします。ネギ先生」

「はいはい、どうぞ」



 ギュム、ポニュン! 擬音をつけるとしたらこんな感じです。アーニャとは比べ物になりません。
 やっぱり麻帆良の女子って発育が良い人が多いんでしょうかね?



「…………あ、これは……」

「!? お、お姉様!? どうしたんですか!?」

「どうだ、高音・D・グッドマン。ぼーやの身体は気持ちいいだろう。クックック」

「変な言い方はしないで下さい!
 …………で、ですが、確かに気持ちいいといいますか安心するといいますか、小さいときに親におんぶしてもらったのを思い出しますね」

「でしょうねぇ。この『咸卦治癒マイティガード』は、密着すればするほど効果が伝わりやすくなります。
 『咸卦法』の利点だけではなく怪我の治療、体力回復促進、魔力回復促進、気回復促進などがあります。
 それと戦闘関係だけでなく、美肌、シミ、ソバカス、肌荒れ、冷え性などにも効果があるらしいですね」

「そうか。だからエヴァはネギ君におんぶされていたのか」

「…………その通りだ。おかげで私の風邪もすっかり治った」



 これのおかげで元々美人だったネカネ姉さんがますます綺麗になりました。
 たまにドネットさんにもしたんですけど、あの人も20代前半に見えるぐらいに若くなりました。あの人アラフォーなのに、元々20代後半くらいには見えていましたがね。

 というか、葛葉先生達女性教師陣が凄い目でコッチ見てるんですけど!? メッチャ怖いんですけど!?
 高音さんの僕にしがみつく力も増したんですけど!? グエェッ!





「凄いのぉ。…………念のために聞いておくが、副作用とかはないんじゃろうな」


「こ、この出力だったら問題ありません。
 ただ、出力を上げすぎると問題があります。あまり水を上げすぎると草木が枯れるように、過度に出力を上げすぎると生体組織を破壊してしまうんです」



 これでダメージを与えると回復不能な傷となります。要するに『過剰回復呪文マホイミ』です。
 エヴァさんなら患部を切り落として根元から再生することも出来るのでしょうが、普通の人間だったら無理ですね。

 それとこの術の問題点はまだあります。それは出力弱いと相手を攻撃しても相手が回復しちゃうことです。
 だからいくら殴っても死なないので、ハッキリ言って拷問です。

 で、出力強いと『閃華裂光拳』が常時発動してしまいます。
 敵にしたらドッチにしても最悪ですよ。





 いやあ、実を言うと、カモ君はこれのせいでアルちゃんになってしまったんですよ。
 ネカネ姉さんの下着を盗んだおしおきにちょっとナニを握り潰してたら、うっかり出力間違って治せなくなっちゃいまして。

「あ、いけね。やっちゃった」

 って思いました。アハハ。


 ちなみに潰したときは「プチュギュッ!」って感じでした。







「この『闇の咸卦法』の利点は方向性を持って能力を強化させることが出来ることですね。
 『咸卦法』は全体的に能力強化しますけど、見ての通り『治癒クーラ』を合成したら見ての通り回復能力に特化、『戦いの歌カントゥス・ベラークス』を合成したら運動能力に特化出来ます」

「それにしても『闇の魔法マギア・エレベア』と『咸卦法』を組み合わせたから『闇の咸卦法』か…………。
 正直、安直すぎる名前だと思うぞ?」



 え? わかりやすいんだからいいじゃないですか。












━━━━━エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



 敵にしなくて良かった、と安心すればいいのだろうか?
 それとも味方となったせいで、コッチが振り回されそうなのを心配すればいいのだろうか?


「こんなの開発してみたんですけど、どう思います?」


 と、いきなり『闇の咸卦法』を見せられたときは、正直心底驚いた。
 『闇の魔法マギア・エレベア』は禁呪と言われるだけあって、人の身体で扱える技法ではない。ぼーやは私の逸話を聞いて自己流で覚えたらしいが…………。
 とりあえず「反動は大丈夫なのか」と聞いてみたが、返ってきた答えがまた予想外だった。



「え? 『闇の魔法マギア・エレベア』の反動?
 ………………何ですか、それ?」



 本気で馬鹿なのか、あのぼーやは?
 気づいてないのではなく、本気で扱いこなせているみたいだ。『闇の魔法マギア・エレベア』を使うには、善も悪も全てを飲み込む度量が必要なのだが、きっとあのぼーやは「細かいことはいいんですよ!」で終わらせたな。
 ああ、タカミチが疲れた感じで遠い目をしていた気持ちが良く分かる。『咸卦法』をアッサリ覚えられたタカミチもこんな気持ちだったんだろうなぁ。

 平気で『闇の魔法マギア・エレベア』扱っているので、ポテンシャルはナギより上かもしれんな。いくらナギでも10歳であそこまでは出来なかっただろう。
 それとも『咸卦法』を併用していることで良い影響を及ぼしているのか? 今度ジックリぼーやと魔法について話してみるとするか。





 そのぼーやはというと、魔法関係者に囲まれて大変そうだ。
 特に女の魔法先生が凄いな。『咸卦治癒マイティガード』の効能を狙ってぼーやに触りまくっている。
 ぼーやが少し引いているぐらいだ。

 奴らは“英雄の後継者”になれるように見えるぼーやの出現に大喜びのようだが、果たしてそう上手くいくかな? あのぼーやは一筋縄ではいかないぞ。
 現にタカミチは浮かない顔をしている。これから大変だということに気づいているんだろう。

 ま、私には麻帆良の教師共がどうなろうと関係ない。
 『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』が解かれるまでぼーやに何かあると大変だから、少しは様子を見るが…………ム、この反応は。





「オイ、ジジイ」

「? なんじゃ、エヴァンジ「「「「「ピリリリリッーーーー!」」」」」ぬお!? 何事じゃ!?」


 感じ取った反応のことをジジイに伝えようとすると同時に、ジジイたちが持っている携帯電話が一斉に鳴った。
 ちゃんと監視当番の奴らも気づいたか。


「エヴァッ!?」

「ああ、侵入者だ。数は…………2か3。
 まあ、数が少ないし反応も小さいからただのコソ泥だろうな」



 やれやれ。たまに麻帆良にはこういう奴らが沸いて出てくる。今回の狙いも図書館島か?

 東西の対立が激しい数十年前は直接西がちょっかいをかけてきたらしいが、科学文明が発達した現代ではそれも収まっている。
 こんな街中で魔法を隠せるわけないからな。“魔法の秘匿”は東西変わらずの共通認識だ。今の東西の対立はそれこそ冷戦さながらの静かなる戦争だ。

 そして残った侵入者は、要するに泥棒。
 まあ、麻帆良はいろいろと魔法関係でも貴重なものが保管されているからしょうがないのだろうが。

 あとは世界樹の魔力に引かれて集まってきた、人ならぬものたち。
 同じクラスの桜咲刹那は神鳴流を修めているため、たまにその対応を依頼されるらしい。魔を払うのは神鳴流の専売特許だからな。





「…………おかしい。重要な施設には向かっていないぞ。
 アッサリと見つかっているし、コッチは陽動か?」

「フム、陽動の可能性があるのなら、どんな事態にも対応出来るように戦力は残しつつ、尚且つ迅速に対応するために戦力をある程度ばらまく必要があるの」


 矛盾した言い方だがその通りだな。
 一箇所に固まっていたら咄嗟の対応が遅れるが、戦力を分散させたら戦力が足りなくなる可能性がある。


「それでは、タカミチ君はここにわしと残ってくれ。もしものときの予備戦力とする。
 そうじゃな……、ガンドルフィーニ先生! 君の班が侵入者の確保に当たっとくれ。
 残りの者はそれぞれの担当場所で待機。周辺を監視しつつ、いつでも動けるようにの」

「私も行こう。
 今日は良い気分なんだ。たまには自発的に協力してやるよ」


 フフフ、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』が解けると分かったら気が楽になった。
 それにぼーやにはみっともない姿を見せてしまったからな。少し見返してやろうではないか!


「では行くぞ。ついてこい、ガンドルフィーニ。
 ハァッ! って…………へぶっ!?」

「!? エヴァさん、どうしたんですかっ!?」



 くぉっ! 飛ぼうと思っても飛べなかった。顔面を思いっきり地面に打ち付けてしまった。

 …………しまった。今夜は三日月にも満たない月齢だ。力が全然使えん。
 茶々丸は…………ぼーやのスーツを洗濯に行かせてるんだった。



「…………だ、大丈夫か? エヴァンジェリン?」



 見るな。私をそんな憐れんだ目で見るんじゃない!
 ガンドルフィーニ。お前は私を凶悪犯だと思っているはずだろう! 高音・D・グッドマンも佐倉愛衣も信じられないようなものを見る目で私を見るな!


「エヴァさん、今治しますよ」


 ぼーやの『咸卦治癒マイティガード』で痛みが引いていく。
 直接顔を触られるのが少しくすぐったいが、今はそんなこと気にしておれん。


「くそぉっ!茶々丸がいれば…………」

「あー…………僕がエヴァさんを連れて行きますよ。
 僕のスーツを洗濯するために茶々丸さんはここにいないのですから、茶々丸さんの代わりぐらいは務めます。茶々丸さんにはエヴァさんのことをよろしくお願いされましたからね」

「お、おい。ネギ先生。いくらなんでも危険だ」

「大丈夫です。ラス・テル・マ・スキル・マギステル 『リゼル』!」


 ム!? ぼーやが魔法を唱えると、ぼーやの身体が紺青色の装甲に覆われ、茶々丸よりも更にロボットっぽい姿に変身した。
 『闇の咸卦法』だけでなく、こんなオリジナル魔法を使えるのか!?


「日本に来ることになってから急遽開発したオリジナル魔法です。
 認識阻害の魔法もかかっていますし、最悪これなら一般人に見られた場合でも魔法とは思われません!」



 確かにこの姿見て“魔法使い”を思いつくのはおらんだろうな。…………でも、何か根本的に間違ってないか?

 更にガションガション! とぼーやの身体が折りたたみ、今度は飛行機のような形に変形した。
 人1人位なら背中に乗れそうだ。実際背中に手で掴めるグリップがあるし。





「乗ってください。目的地までエスコートします」

「フン、いいだろう。ぼーやなら問題あるまい。さあ、私を戦場まで連れて行け!」

「待ちたまえ、ネギ先生! 何で、こんなのを…………?」

「日本といったらロボットアニメでしょう!」

「そういう意味じゃないっ!」



 …………ガンドルフィーニも大変だな。私もこのぼーやには苦労したからよくわかる。
 しかし、明らかにこのぼーやはお前達より強いぞ。



「よし、アッチの方向だ」

「はい。しっかり掴まっていてくださいよ。
 ネギ・スプリングフィールド、『リゼル』、行きまーす!」



 ギュオン! あっという間に加速して、世界樹前広場から抜け出る。
 ちゃんと認識阻害もかかっているし、障壁があるためか風圧がこない。相変わらず、よくわからんぼーやだ。

 さて、それではこのぼーやに“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”の力を見せてやろう。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 オリジナル技法出来ました。『闇の咸卦法』です。そのまんまですね。
 作中の説明通り、『咸卦法』が“気”と“魔力”の合成なら、『闇の咸卦法』は“気”と“魔法”の合成です。

 今までどこかで使われていそうな設定ですけど、多分使われていないと思います。少なくとも“闇の咸卦法”でググっても出てきませんでした。
 もし、被っているところがありましたら教えてください。

 ちなみに、第一章の“その後の話・小ネタ”の【闇の魔法マギア・エレベア”?】付近や【『咸卦法』と『闇の魔法マギア・エレベア』の同時発動は出来るようになりました】等が何気に伏線でした。
 出すことを予想してた人はいましたでしょうか?




 それと、西の術者が麻帆良に攻めてくるような設定はこの作品ではありません。
 というか、そんな事実があったらネギを西にやったりしないでしょう。
 そもそもあんな広大な麻帆良を数百人程度では守りきれない上、“昼のうちに麻帆良に一般人として入り込めばいいじゃん”とかいろいろ卑怯な事が思い浮かんできたので、東西の関係は冷戦と相なりました。

 もしかして私は腹黒いのでしょうか?



 ちなみに、せっちゃんも警備員としては働かずに、このちゃん護衛優先です。
 原作において、学園祭前のネギと魔法関係者との顔合わせの際に魔法先生がたくさん居たことを「私も知りませんでした」という発言を刹那がしているので、あまり魔法関係者との接点は無いのでは?
 龍宮隊長とは仕事を何度かする仲ということらしいので、学園長からの依頼があれば神鳴流を振るう傭兵のような感じでしょうか? ただし、無報酬。



 モビルスーツ紹介(Wikiから抜粋+個人的感想)

『リゼル』

 正式名称 “Re”fineリファイン “Z”etaゼータ Gundamガンダム “E”scortエスコート “L”eaderリーダー
 頭文字の略称からReZELリゼルと通称される。

 バックウェポンシステムによる準変形機構ではなく、メタスのような変形機構を持ち、その名が示すようにバックパックにジェガンを牽引できるグリップが設けられており、サブフライトシステムとしても運用できる。
 メガ・ビーム・ランチャーとスピードを抜けば「変形しなければただのジェガン、変形してもただのメタス」でしかないらしいが、作者としては好みのモビルスーツ。
 造形的にデルタプラスよりも好みです。量産機って燃えですよね。


 しかし、最近リゼルのマスターグレードのプラモデルを買ったのですが、変形が思ったより厄介なことに遅まきながら気づいてしまいました。
 ガンダムWのコミックの巻末にあった4コマの、ゼロシステムではなくモビルトレースシステムを積んだガンダムエピオンに乗ったヒイロのよう(90°ではなく180°背中を曲げたシャチホコみたい)になってしまいます。やっべぇ。


 …………。

 ……………………。

 ………………………………ネギが柔軟体操をしているのは、そのためだったんだよっ!!!



[32356] 第10話 高畑・T・タカミチの憂鬱
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:20



━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



「それでは昨日のことを話し合おうとするかの。皆忌憚のない意見を言っとくれ」


 昨日の騒ぎから一晩たった。無事に侵入者も捕まえたのだけど、ネギ君の処遇が問題になった。
 ハア、ネギ君は次から次へとまったくもう……。


「まず、昨日の侵入者騒ぎのことを改めて簡単に説明しますと、私達が駆けつけたときには既に終わっていました。
 ネギ君達、侵入者双方に怪我はありませんでした」

「フム、それはなによりじゃ。
 しかし、ネギ君のことは如何しようかのお……」

「学園長! まさかネギ先生を警備に参加させるおつもりではないでしょうな!?
 彼はまだ10歳ですよ!」

「待ってください、ガンドルフィーニ先生。ネギ先生は裏の事情を知ってしまいました。少なくとも私達の方からも説明した方がいいのではないでしょうか?
 10歳だからといって、蚊帳の外にするわけにはいかないでしょう。
 それに警備に参加させなくとも、治療チームとして働いてもらえばいいのではないですか?おそらく彼は麻帆良でもトップクラスの治癒術士ですよ」

「…………葛葉。顔がニヤついているぞ」


 いつになくご機嫌で肌が艶々としているなぁ、葛葉先生。
 ネギ君の『咸卦治癒マイティガード』がそんなに気に入ったのかな?

 まあ、とりあえず僕も意見を言っておこうか。





「僕は葛葉先生に賛成ですね。ネギ君は頭が良いし勘も鋭いですから、秘密にすべきもの以外は話した方がいいと思います。
 それに身を守るぐらいの実力はあるでしょうしね」


 というか、事情説明しておかないと、身を守るために過剰反応しそうなんだよね。
 へたしたら女子寮を気づかないうちに結界で覆っていたとかありえそうだし。


「よろしい。事情は説明することにしておこう。今日これからネギ君が来る予定なので、そのときに説明する。
 しかし、警備に参加させるのは早いじゃろ。教師としての仕事もちゃんと出来ていると報告は受けておるが、まだ始まったばかりだしの。
 …………そうじゃなぁ。我々の手で負えない怪我人が出たときはもちろん手伝ってもらうしかないが、基本的には治療チームにも不参加じゃ。
 確かにトップクラスどころか最高の治癒術士かもしれんが、昨日の様子では怪我人以外の患者が殺到しそうじゃからの。しばらくは様子見じゃ。教師の仕事に専念してもらう」

「そんなっ!?」


 絶望しないでくださいよ、葛葉先生。
 しかし、様子見か………………それだけだと何か不安だな。


「学園長。基本的にそれで大丈夫だと思いますが、ネギ君に首輪をつけた方がいいと思います」

「? どういうことじゃな、タカミチ君?」

「エヴァの手助けをしたようにネギ君の性格からして、彼の方から危険なコトに首を突っ込む可能性があると思います。
 危ない目にあっている人や困っている人がいたら、きっとネギ君はその人を助けるでしょう」

「…………フム、確かにそれはありそうじゃな」


「ですので…………そうですね。ネギ君には“女子寮の警備”を任せたらどうでしょうか?
 もし侵入者が女子寮に攻撃してきたら、どちらにせよ女子寮に住んでるネギ君は防衛のために戦わざるをえないでしょう。
 それならば最初から女子寮の警備を任せて、その場から動かさないようにした方がいいと思います」


 女子寮に攻めてくる敵なんかそもそもいないけどね。
 ネギ君に鎖に繋がっている首輪をつけるほうが大事だ。


「…………なるほど。それなら安全ではないでしょうか。
 侵入者などの異常事態が発生した場合はネギ先生にも連絡が伝わるようにしておいて、本人に警戒するようにしておいてもらえばいいでしょう」

「そうですね。それにネギ先生は木乃香お嬢さまと同室です。
 今まで危険なことはありませんでしたが、木乃香お嬢さまを守る人間が多いに越したことはありません」

「私もそれでいいと思う。何もないとは思うが、警戒しているのとしていないのでは大きな差があるからな」

「女子寮の警備か…………ウチの娘も寮に住んでるし、それなら安心出来るな」


 ガンドルフィーニ先生、葛葉先生、神多羅木先生、明石教授から賛成の声が上がる。
 他の先生方も特に反対は無いようだ。





「フム、よかろう。確かにデメリットはなさそうじゃから、ネギ君には女子寮の警備をお願いするとしよう。
 ただしあくまで異常事態が発生した場合のみであって、普段は教師の仕事のみとする。
 …………しかし、ネギ君は戦いの仕方を知っておるんじゃろうか? 女子寮を燃やされでもしたら大変じゃぞ」

「…………確かにそうですね。メルディアナでも今は戦闘方法なんかは力を入れて教えてはいないようですし」


 ネギ君のあの気配遮断からしてむしろ暗殺向き? 瞬動もおそろしく静かに出来るんだよね。
 でも、日本に来ることになってから開発したと言ってた昨日のモビルスーツというのも僕も初めて見たけど、あれなら真正面から戦えそうだ。



「昨日中断した顔合わせを今日やり直すのですよね?
 でしたら、そのときに誰かと模擬戦でもしてもらえばよいのでは?」

「それもそうじゃな。中断したとはいえ、昨日で顔合わせは大体終わっとるから問題ないじゃろ。こういうのに顔を出さない連中も、興味を持って出てくるかもしれんしの。
 よし、時間も経ったしこんなとこじゃろ。それではこれにて解散。模擬戦の話を皆に広めておいておくれ。そしたら皆興味を持って見にくるじゃろ。
 タカミチ君はネギ君を呼んどくれ。彼からも事情は聞いておきたいしの」


 …………ふう、何とか無事終わったな。
 まさかネギ君が来てから4日でこんな事態になるとは思ってもいなかった。
 別にネギ君自身が悪いことしたわけじゃないんだけど、ネギ君の運が悪いのかなぁ。













 コンコン、とドアがノックされた。ネギ君が来たのか。


「学園長、ネギ・スプリングフィールドです」

「おお、開いとるよ。入りたまえ。わざわざすまんの。聞きたいことがあるのでな」


 そういえば昨日は結構夜遅くまで残らせてしまったけど、大丈夫だったかな。
 ちゃんと授業の補佐はしてくれてたけど、無理をしていないといいが。


「いえ。僕の方からも学園長にお伝えすることがありまして」



 ? エヴァの件かな?
 『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』のコトで何かあったんだろうか?

















「ウチのクラスの相坂さんを成仏させようと思うんですけどいいですか?」


「フォッ!? 何を言っとるんじゃ、ネギ君!?」


「いや、調べてみたら60年ぐらい幽霊やってるみたいじゃないですか。
 早く成仏させてあげないと可哀想ですよ」



 …………ハア、ネギ君は次から次へとまったくもう……。











━━━━━ 龍宮真名 ━━━━━



「龍宮…………お前も来たのか?」

「刹那か、お前もこんな集まりに出るなんて珍しい。護衛はいいのか?」

「少しぐらいなら大丈夫だ。式神も置いてきている」


 元々麻帆良にいる限りは滅多なことはないだろうがな。
 それにしてもいつもはこういうのに顔を出さない刹那が出てくるとはね。さすがに近衛と一緒に暮らしているネギ先生のことは気になったのか。





「それにしても本当なのか?
 ネギ先生がもう裏の事情を知ってしまい、しかも女子寮の警備を担当するというのは…………」

「本当だ。昨日の顔合わせは私も出なかったが、大騒ぎだったらしい。
 女子寮の警備というのはあくまで建前の話だな。学園長達もネギ先生を危険な目には遭わせたくないようだ」

「確かに今まで女子寮が攻められたことなんかなかったからな。逆に安全といえば安全か」


 それにしても、あの小さなネギ先生がねぇ。
 確かに私の魔眼でも、魔力や気のゆらぎがまったく見えないほど落ち着いていたが、まさかエヴァンジェリンの『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』も解呪することが出来るとは。
 今日の模擬戦とやらで、ネギ先生の実力が少しはわかるといいが。


「聞いた話によると、ネギ先生の治療魔法は凄いらしいな。
 怪我だけでなく、風邪などの病気も治癒出来るらしい」

「ああ、高畑先生の使う『咸卦法』と、エヴァンジェリンの使う『闇の魔法マギア・エレベア』を組み合わせた技法らしいが、詳しいことは直接見てみないと何とも言えないな」

「問題無いならそれでいい。木乃香お嬢さまに何かあったときでも安心だ」



 やれやれ、相変わらず近衛命のようだな。
 近衛はお前が頑張っていることを知らないのに健気なものだ。











「何でもメルディアナの校長を魔法のコントロールに失敗したせいで大火傷を負わせてしまい、それから治療魔法の勉強に力をいれていたようだ」

「ちょっと学園長と話をしてくる」


 待て、落ち着け刹那。
 刀を握り締めるんじゃない。覚悟を決めた顔をするんじゃない。


「大丈夫だ。ネギ先生の魔力制御は私の眼から見ても完璧だ。
 それにさっきの話はネギ先生が3歳の頃の話だぞ。しかも、生まれて初めて使った魔法での話だ」

「…………3歳でか?」

「ああ、凄い魔力を秘めているらしい。それこそ近衛よりも多いらしいぞ。
 初めての魔法ということで、その魔力を力一杯振り切ったせいで事故が起こったんだ。初級魔法の『火よ灯れアールデスカット』がキャンプファイヤーのような火柱になったそうだ。
 ちなみに魔力総量は私が魔眼で見ても分からなかった」

「その上『咸卦法』も使えるというのか…………」

「体術もそれなりに出来るみたいだな。
 ホラ、初日にステッキ術を使うと言っていただろう」

「それが本当なら末恐ろしいな。確かにネギ先生の歩き方には隙が無かった」

「ナイフ一本で熊の解体を出来るらしい。もちろん気も魔法も使わずにな」

「…………別の意味で木乃香お嬢さまの近くにいるのが不安になってきた。ネギ先生って10歳なんだよな?」


 その気持ちは良く分かる。
 メルディアナ魔法学校長の言によると、

 “天災を引き起こす天才児”

 そんなものはただの大袈裟な噂じゃないかと2-A相手に教師をしているネギ先生を見てたら思っていたが、こんな騒ぎを引き起こすとなると噂ではなかったようだな。









「……皆揃っておるようじゃの」


 噂をすれば、学園長や高畑先生と一緒にネギ先生の御到着か。相変わらずの笑顔で、教壇に立っているときとなんら変わりない。
 違うのはオコジョを肩に乗せているぐらいか。これだけ見てると普通の子供なのに…………。

 あ、コッチに気づいたネギ先生が笑いながら小さく手を振ってきた。
 フフフ、ああいうところは子供らしくてカワイイな。


 それにしても、私達がいることには驚いていないな。もしかして既に気づかれていたのか?
 まあ、エヴァンジェリンのように魔法関係者がいるというのは予想していたかもしれんな。







 …………それにしても、学園長と高畑先生はやけに疲れた顔していないか?











━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



「…………というわけで、これからよろしくお願いします。普段の警備に参加出来ませんが、怪我人が出たら言ってください。大抵の怪我なら治癒出来ますので。
 それと、この子は僕の使い魔でオコジョ妖精のアルちゃんといいます。この子もよろしくお願いします」


 パチパチ、と拍手が鳴る。
 相変わらず物怖じしない子だ。何人もの魔法先生から強い視線を浴びているのに、まったくそれを気にしていない。多分ウチのクラスの大半よりは大人っぽいのではないのだろうか。
 …………それにしても、こんなに魔法関係者の顔を見るのは始めてだ。というか、瀬流彦先生も魔法先生だったんですか…………。





「ウム。といっても、怪我以外のことでネギ先生の手を煩わせてはいかんぞい」


 ん? 学園長の言葉で刀子さん達女性が数人崩れ落ちたがどうしたのだろうか?
 男性教師は微妙な顔して苦笑いしているし。


「刹那もあと10年程経てばわかるさ」

「何のことだ?」

「いや、何。とにかく崩れ落ちた人たちには事情は聞いてやるな。
 大人にはいろいろあるんだよ」


 …………確かに大人になればいろいろしがらみがあるのはわかるが、大人っぽい龍宮がそういうと説得力があるな。
 やっぱりこいつは年齢詐し「何か不愉快なことを思わなかったか?」思ってない思ってない。だからコメカミから銃をどけてくれ。









「さて、それではお待ちかねの模擬戦を始めるとしようか。
 ネギ先生の相手になってくれるのはいないかの?」


 いよいよか。この模擬戦の結果次第なら大分安心できるようになるんだが。
 一緒の部屋に暮らしているネギ先生が頼りになれば、護衛としても期待できる。

 …………10歳の子供に期待することではないのはわかっているけど。


 何にせよ、怪我のないようにだけはお願いしたいな。ネギ先生が怪我したら、お嬢さまが悲しまれる。
 弟が出来たみたいで、お嬢さまもたいそうお喜びのことだし。









「では私がやろう。昨日ぼーやには情けない姿も見せてしまったからな。
 ここで汚名返上しておこうか」


 エヴァンジェリンさんが!?
 あの人がこんなことに参加するなんて思ってもいなかったな。


「よろしいんですか? まだ封印は効いてますから、本来の実力を発揮できないのでは?
 しかも、今夜は三日月ですらないですよ」

「ぼーやに心配されるほど落ちぶれてはいないさ。確かに今の私の状態は、人間と吸血鬼の悪いところが重なっているような状態だがな。
 構わんだろう、ジジイ。…………言っておくが、私も金の卵を産む鶏を殺すほど馬鹿ではないぞ」

「……フム、ネギ君は構わないかね?」

「僕は問題ありません。ただし、さすがにエヴァさん相手なら手加減抜きでいかせていただきますよ。
 封印されている故の弱点を容赦なく突かせていただきます」

「構わんぞ。むしろ手加減するような甘っちょろいことは言うな。
 人生はいつも準備不足の連続だ。常に手持ちの材料で前に進む癖をつけておくがいい。
 フフ……私は自分の力で切り抜ける男が好きだぞ? ぼーや……♪」







 …………仲良いんだな、あの2人。
 エヴァンジェリンさんがあんな風に話すのを初めて見た。

 しかし、いくら封印されて本来の実力を発揮できないとはいえ、エヴァンジェリンさん相手ではネギ先生も辛いだろうな。
 どこまで食らいつけるのかが見所だ。



「…………それにしても“封印されている故の弱点”か。どんなのがあるかな?」


「私だったら魔力不足を突くかな。
 今のエヴァンジェリンは魔法薬を補助にして魔法を使っている。遠距離からネチネチと攻撃をして、魔法薬の枯渇を狙うとか」


 そんなところか。
 確かに迂闊に近寄るのは危険だな。









「ああ、茶々丸も参戦させる。
 別に問題ないだろう、ぼーや?」

「問題ありません。主人と従者でセットですからね」

「1対2かい? それはマズイんじゃないかい、エヴァ?」


 いくらなんでもそれは無理なのでは?
 子供ならではの無鉄砲さが出たのか?


「そのかわり準備の時間は与えてやる。『闇の咸卦法』やモビルスーツとやらを展開させるなら待つぞ。
 私としても純粋にぼーやの力を知りたいと思っているしな」

「いいんですか?それなら遠慮なく、術式兵装『咸卦治癒マイティガード』!
 並びにラス・テル・マ・スキル・マギステル 『シナンジュ』!」

「ほお!? 同時発動か!?」







 あれが『闇の咸卦法』か。術の展開速度がとても速いな。
 無詠唱魔法も使えるみたいだし、『闇の咸卦法』発動に1秒もかかっていないぞ。
 
 しかもネギ先生の後の詠唱が終わると、ネギ先生は赤い装甲に覆われてロボットっぽくなった。
 ふむ、確かに魔法の発動は恐ろしく洗練されているな。



「…………ウルスラのグッドマン先輩の操影術に似ているな」

「あれは…………魔力で編んでいるのか?」

「見た感じそのようだ。装甲を結構な魔力で構成している。生半可な攻撃では効かんだろう。
 体中にスラスターがつけられている。おそらくあそこから魔力を噴射して瞬動のように移動するのではないかな?
 攻撃方法は手に持っている銃を使うのだろう」



 へえ、普通の西洋魔術師とも違った戦い方をするのだな。
 武装は腰の裏側と右手に大型の銃を1丁ずつ。あとは左腕の盾か。
 でも、おそらく他にもあるだろうな。







「…………昨日の『リゼル』とやらとは違うな。ジジイ、結界を張らせろ」

「そうじゃな、瀬流彦君頼む」

「その間にルールを決めておこうか。ぼーや。
 制限時間は10分。結界を壊すような大技は無し。戦闘範囲は今から張られる結界の内部のみ」


 そんなところだろうな。長引いてもアレだし。

 しかし、それならエヴァンジェリンさんの魔法薬の枯渇を狙えなくなる。
 “結界を壊すような大技は無し”というのはエヴァンジェリンさんには関係ないので、少しネギ先生の行動を狭めたのか。
 このルール、エヴァンジェリンさんに少し有利だ。





「だから、ぼーや。“学園の外に出て、そこから対軍勢用魔法を打ち込む”とかは無しだぞ」

「………………わかりました」

「え? そんなことしないよね、ネギ君?」


 は? 「わかってます」じゃなくて「わかりました」?
 答えるまでの沈黙が長かったのは何故?

 というか、銃の弾を入れ替えないでください。何を考えていたんですか、ネギ先生!
 あ、今度はバズーカを出現させた。右手に持ってた銃を左手に持ち替えて、右手にバズーカを持った。





「クックック。そういうところが好きだぞ、ぼーや」

「煽らないでくれよ、エヴァ」

「いい加減その“ぼーや”ってのやめてくださいよー」

「フン、私に勝てたら名前で呼んでやるよ」

「あ、いいんですか?」

「構わんさ。むしろ私に勝てるようなやつをぼーやとは呼びたくない。
 …………で? それなら私が勝ったらぼーやは何をくれるんだ?」

「え? 僕が負けても血ぐらいしかあげられませんけど……」

「ほう? いいのか?」

「コ、コラ、ネギ君。大丈夫かい、そんな約束して?」

「大丈夫ですよ、タカミチ。ご飯をシッカリ食べて、『咸卦治癒マイティガード』が発動した状態で寝れば、1日1リットルぐらい吸われても平気です」

「「「「「………………」」」」」

「…………いや。さすがにそこまではいらんぞ」







 …………。

 ……………………。

 ………………………………本当にネギ先生が木乃香お嬢さまの近くにいて大丈夫なんだろうか?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 相坂さよを成仏させるネギって斬新じゃね!?
 と、思ってしまいましたが、流石に可哀想なのでやめておきましたw


 タカミチのネギに対する印象は

 “好奇心が強い、ドーベルマン並みの能力を持ったチワワ”

 のような感じです。甘噛みされただけで大惨事。






 ちなみにマナが言及したモビルスーツの耐久は

 ランクE:通常のネギの魔法抵抗力と同じくらい
 ランクD:『武装解除エクサルマティオー』級の魔法を防げる
 ランクC:『魔法の射手サギタ・マギカ』級の魔法を防げる
 ランクB:『白き雷フルグラティオー・アルビカンス』級の魔法を防げる
 ランクA:『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』級の魔法を防げる
 ランクEX:『『千の雷』キーリプル・アストラペー』級の魔法を防げる

 といった感じです。
 もちろん個人の魔力によって威力の差があるので、一概には同じではありません。

 また、モビルスーツの耐久力に関わらず、シールドの耐久力はランクA。
 『ユニコーンガンダム』の『Iフィールド発生装置付シールド』はランクEXです。


 ちなみに、高音の『黒衣の夜想曲ノクトウルナ・ニグレーディニス』は『魔法の射手サギタ・マギカ』を使った『風華崩拳』や『外門頂肘』を防いでましたので、ランクCの上位といったところでしょうか?



[32356] 第11話 模擬戦① 赤い彗星
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:21



━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



 結界などの準備が終わり、遂に模擬戦が始まる。
 思えばエヴァンジェリンさんが戦うところを見るのは初めてだ。

 麻帆良に入学する際に学園長から“お嬢様の事を考えるなら絶対にエヴァンジェリンさんには手出ししないように”と言いつけられていたので、エヴァンジェリンさんとは同じクラスでもあまり接点はなかった。
 “闇の福音ダーク・エヴァンジェル”と呼ばれた彼女とネギ先生はどう戦うのか?





「学園長。結界の準備が終わりました」

「ウム、それではお互い準備はいいかの?」

「構わんぞ」

「よろしくお願いします。ネギ先生」

「あ、いえいえ。こちらこそよろしくお願いします」


 …………ネギ先生と茶々丸さんはいつでも変わりないな。いつでも自然体というか緊張感がないというか。
 ロボットである茶々丸さんはわかるが、その茶々丸さんと同じなネギ先生っていったい…………。


 張られた結界は半径50mぐらいのドーム状。ネギ先生とエヴァンジェリンさん達は10mほど間合いをおいて対峙している。
 さて、ネギ先生の実力はどんなものなのだろうか?


「観客の皆は自己責任で怪我のないようにの。もし、怪我が怖いなら結界の外に出るとよかろう。遠くからこの模擬戦を見ることになってしまうが。
 …………よし、皆準備できたようじゃの。それでは…………始めいっ!!!」

「行きます! エヴァさん!」

「来い! ぼーや!」







 模擬戦が始まった。
 しかし、ネギ先生は「行きます!」の言葉とは裏腹に、後退して距離をとりつつ右手のバズーカを3発発射。

 縮地法とまではいかないが、後退するスピードは速い。
 あのバーニアによる移動は便利そうだな。直線的な動きしか出来ない瞬動とは違い、バーニアの向きを調整することによって細かな動きを出来るようだ。

 対するエヴァンジェリンさんはバズーカを『魔法の射手サギタ・マギカ』で迎撃。3本の氷の矢が砲弾3発を正確に射抜いた。
 やはり彼女の魔法の技量は凄いな。あんな高速で迫る砲弾を3発とも簡単に迎撃できるなんて。


 …………ム? 射抜かれた砲弾が爆発すると思ったら、どうやら3発とも爆発物ではなくて粉末のようなものが中に入っていたらしい。
 赤、青、緑の3色の粉煙が周りに撒き散らされた。

 何だアレは? 煙幕のようにも見えるが粉が細かく、色も薄いので視界はあまり悪くならない。


「…………魔力探知の妨害作用をするものだな。あの粉が撒き散らされたら、魔眼にノイズが見えるようになった。
 きっと念話の妨害もするんじゃないかな?」

「へえ、まずはエヴァンジェリンさんと茶々丸さんの連携を断つのか。
 10歳の子供らしくない戦い方だな。魔法使いより龍宮の戦い方に近いのか?」

「かもしれんな」



 冷静な戦い方だ。
 力押しだけではなく、搦め手も使って戦えるのか。
 その方がお嬢さまのためにも安心といえば安心だが。



















「花粉症の人やニンニクの匂いが嫌いな人は結界の外に出ていてくださいねー」

「ちょっ!? ぼ、ぼーやっ!?」



 …………は? ニ、ニンニク?


「逃げるぞ刹那っ!!!」


 え!? …………ま、待ってくれ、龍宮!!!












━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



「…………ハァ、やっと終わったぁ~~~」

「あ、今日のノルマ終わったん? じゃ、ご飯にしよか」

「お願い木乃香~。今は動きたくないの~」


 ネギ君来てからアスナは勉強頑張るよーなった。
 やっぱり10歳の外国人の子供のネギ君に英語を教わるならともかく、国語すら教わるのはマズイと思たんやろな。
 ネギ君ってやっぱり頭ええんやなぁ~。担当の英語だけでなくて5教科全部出来るって。


「今日ネギは先生方の集まりに出るんだっけ?」

「そうやよ。だから夕飯はいらないらしいわ」

「いいなぁ~。高畑先生もいるんだろうなぁ~。私も高畑先生と食事したいなぁ~」

「しかし、周り大人ばっかで大丈夫やろか? お酒とかも出るやろうし、酔っ払いに絡まれないといいけど…………」

「そこら辺は大丈夫でしょ。ネギはシッカリしているし」


 そうやな。ネギ君はシッカリしてるもんなぁ。
 アスナに勉強頑張らせたのも良い例や。



 アスナの成績や新聞配達のアルバイトのことを知ったネギ君は、笑顔で一言こう言った。

「高校には留年というものがありますよ」

 聞いたアスナは石になってたわ。


 確かになぁ。エスカレータ式で高校には上がれるとはいえ、高校でで留年したらどうしようもないわ。
 留年したら学費や生活費が余計にかかってまうしな。


 他にも日本の中学卒業、高校卒業、大学卒業で就職した場合のそれぞれ生涯賃金なんか挙げていって、このままではアカンということをアスナに教えていった。

「日本には“急がば回れ”という言葉があります。
 目先のことに囚われず、将来のことを見据えて考えてください」

 そないなことを言われたアスナは珍しく一晩中考え込んでたわ。



 結局、新聞配達のアルバイトは続けるけど、次の期末テストで最低でも500位以内に入らなかったら、アルバイトは考え直すということになってもうた。
 あのアスナの様子やったら、多分アルバイト辞めることにするんやろな。


 ネギ君は他のバカレンジャーの皆にも話をしたみたいやな。
 まきちゃんバカピンクは高校では赤点とったら部活の大会に出れんこと知ったら愕然としてたわ。新体操頑張ってるからなぁ。
 ゆえバカブラックは図書館探検部、くーへバカイエローも中国武術研究会って部活してるから他人事やないしな。赤点で部活出席停止にされたら困るやろうし。
 バカブルーはさんぽ部だから堪えてなかったみたいやけど、「保護者に連絡行くかも?」とネギ君がボソリと言うたら焦ってたわ。

「修行のために麻帆良に来ているので、そんなこと知られたら困るでござる」

「じゃあ、修行べんきょう頑張ってください」

 で撃沈されたけど。



 ま、皆が勉強頑張ってくれるならえーけどな。
 高校に入ったはいいけど、留年して違う学年になるのはさすがに嫌やわ。


 …………ネギ君はせっちゃんも問題あるようなことも言うてたなぁ。せっちゃん大丈夫なんやろか?
 剣道部とかで忙しいんやろうけど、せっちゃんが留年して後輩になったらもっと会えなくなってまう。ウチになんか出来ることないんやろか?


 それにしても、ネギ君は10歳とは思えんわ。
 あんな風に年上相手にも真正面から向かい合って、自分の意見を言えるなんて凄いなぁ。

 ネギ君のおかげでアスナも勉強頑張るようになったし、ウチもネギ君を見習って真正面からせっちゃんに立ち向かってみよかなぁ。











━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



 ネギ君は相変わらず卑怯だなぁ。
 …………卑怯というか手段を選ばないというか。


「エヴァンジェリンの負けですね」

「そうだね。龍宮君と刹那君もコッチに逃げてきたのかい」

「さすがにニンニク臭くなるのはちょっと…………というか、ネギ先生のあの動きは何なんですか?」


 どうやらあの3発の砲弾はそれぞれ魔力探知・念話妨害煙幕、ニンニク粉末、花粉の3つだったらしい。
 おかげでエヴァはニンニクの匂いと再発した花粉症に悩まされた上、絡繰君への指示を口で叫んでしなければならないために、ネギ君に先手を取られ続けている。

 絡繰君は逃げるネギ君を追って接近戦に持ち込もうとしているが、まったくネギ君を捕まえられない。
 エヴァはたまに絡繰君の援護射撃を試みているが、花粉とニンニク粉末でそれどころではないようだ。


 ネギ君は絡繰君を軽くあしらいながら、左手の銃でエヴァの魔法障壁を何度も撃ち抜いている。
 エヴァの魔法障壁をあんなに簡単に撃ち抜くなんて…………。

 魔法障壁を撃ち抜かれる度に、エヴァは花粉とニンニク粉末の被害を受ける。
 『氷盾』ならネギ君の銃を防げるんだろうけど、『氷盾』を唱える暇をネギ君は与えない。


 確かに真正面からエヴァと戦っても勝機は薄いからしょうがないんだろうけど、ここまでくるとエヴァが可哀想だ。





「くそっ! ぼーやっ! いつの間にこんなモノを用意したっ!?」

「この魔法を開発したときにですっ! ちなみにこれは本物じゃなくて、こういう匂いがする物質化した魔素です。あとには残らないから大丈夫ですよ!
 他にもワサビや唐辛子等の用意もしてますけど!?」

「ゲホッ、ゴホッ、いらんわっ! さっさと捕まえろ! 茶々丸!!!」

「は、はい! マスター!!!」


 …………絡繰君では無理だろう。2人には機動力に差がありすぎる。
 絡繰君は背中と足裏のスラスターでネギ君を追っているが、ネギ君は背中や脛、肩などの全身についているスラスターで逃げ回っている。
 傍から見ていると、ネギ君は物理法則をまるで無視したような動きをしているな。


「…………あんな動き、普通出来るわけないですよ。
 目に見えるということは縮地法よりは遅いんでしょうが、それ以上に動きが自由すぎます」

「ああ。というか、よくネギ先生はあんな動きをして平気だな。
 自由機動というより変態機動の域に達しているぞ。あんな機動をしては身体が持たないだろうに」

「多分、『咸卦治癒マイティガード』の効果だろうね。
 『咸卦治癒マイティガード』を発動していると、儀式魔法に匹敵するほどの回復魔法を常にかけられている状態になるらしいんだ。多少手荒な動きをしても大丈夫らしい」


 ダメージを受けても、片っ端からどんどん自動で治していくみたいだからねぇ。

 …………お? エヴァが虎の子の魔法薬を取り出した。
 大技で勝負に出るつもりか? 確かにこのままではジリ貧なんだけど…………。



「マズイぞ、エヴァンジェリン。それは誘いだ」

「? どういうことだ?」

「ああ、さっきからネギ君は絡繰君をあしらっているだけで、彼女には攻撃していない。おそらく怪我をさせないように手加減しているな。
 エヴァは花粉やニンニクのせいで冷静になれていない」

「…………いや、あんなことされたら誰だって冷静になれないと思いますよ」





「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 来たれ氷精 闇の精! 闇を従え 吹雪け 常夜の氷雪!」


 『闇の吹雪』か!
 今のエヴァの状態なら、ありったけの魔法薬を使ってあの魔法一発が精一杯だな。
 エヴァの詠唱に気づいたネギ君が、バズーカをエヴァに向かって連射するが間に合わない。






「『闇の吹雪ニウィス・テンペスタース・オブスクランス』ッ!!!」






 エヴァの魔法が放たれた。ネギ君が撃ったバズーカの弾を飲み込んで、真っ直ぐネギ君に迫る。
 飲み込まれた弾は爆発し、煙を撒き散らして視界を悪くする。

 今度こそ煙幕かっ!?

 そして直進した『闇の吹雪』を食らったネギ君は爆発した………………って、えええぇぇっ!?



「ちょ!? ネギ先生ぇっ!?」

「大丈夫だ2人とも。あの爆発はネギ先生のものじゃない。腰の裏に付いていた白い円柱を切り離して、先に『闇の吹雪ニウィス・テンペスタース・オブスクランス』にぶつけて爆発させたんだ。
 おそらく魔力タンクじゃないかな?」



 さすがは龍宮君。狙撃手だけあって目がいいな。少し焦っちゃったよ。

 こうなっては戦況はわからない。バズーカの煙幕とその魔力タンクらしきものの爆発で視界が悪い。
 聞こえてくる音も絡繰君のスラスター音のみだ。

 …………あ、それが狙いか!?












「茶々丸っ! 下だっ!!!」



 エヴァの叫びと同時に、絡繰君が身体の中心を撃ち抜かれた…………と思ったら、あれは『魔法の射手』の『戒めの風矢』か。
 絡繰君が捕まったな。

 煙の中から出てきたネギ君は既にバズーカを捨てていて、腰につけていた銃を持っていた。
 あれで『戒めの風矢』を撃ったのか?

 そのまま落ちてくる絡繰君を受け止め、もう一度零距離で射撃したけど空砲だったみたいだ。
 弾丸が撃発されたけど、何も起こらなかった。





「ハイ、これで茶々丸さん撃破です」

「…………くうぅっ!」

「も、申し訳ありません。マスター」

「あと4分ありますけど、茶々丸さんはこれで退場でいいですね。
 結界の外に運びますので、ちょっと待っててください」

「さっさとしろっ! …………コイツラは父子揃ってニンニクを……っ!」









 絡繰君がコッチに運ばれてくる。
 怪我はないようで何よりだ。





「大丈夫ですか、茶々丸さん? タカミチ、茶々丸さんのことお願いしますね」

「ああ、わかったよ。ネギ君」

「ありがとうございます。ネギ先生。
 お、重くないでしょうか、私…………」

「? 大丈夫ですけど?」


 絡繰君がやけに動揺しているな。こんな絡繰君は初めて見た。
 ネギ君にお姫様抱っこされているからかな?


「それじゃ、いってきますね」

「い、いってらっしゃいませ」

「頑張るんだよ、もう少しだ」

「頑張ってください。ネギ先生」

「いやあ、凄いね。ネギ先生」



 でも、あんまり頑張り過ぎないようにね。
 あとが大変だから。












「………………あ?」

「どうした、龍宮?」

「…………いや、エヴァンジェリンの背後から…………サングラスとガスマスクして手榴弾を持ったオコジョが接近している」

「「…………君(お前)は何を言っているんだ!?」」

「ほ、本当だっ!!!」



 って、よく見ると本当だったっ!?
 エヴァー、後ろ後ろーーー!!!












━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



 …………油断した。あのぼーやを相手にするのだから油断するつもりはなかったが、それでもまだあのぼーやを甘く見てた。

 ええいっ! 父子揃ってニンニクを使ってくるとはっ!
 花粉症で悩まされていることは昨日、『咸卦治癒マイティガード』の治療中にウッカリ言った覚えがあるが、ニンニクのことは一言も喋ってないぞ。

 やっぱり、あのぼーやはナギの息子だ。発想が同じじゃないかっ!
 クソッ! あの『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』をかけられたときの思い出がフラッシュバックしたせいで冷静になれず、茶々丸を撃破されてしまった。


 今の私が使える最大威力の『闇の吹雪ニウィス・テンペスタース・オブスクランス』が防がれた以上、魔法はもう通じん。
 となると、人形使いの技法である糸を使って何とかするしかあるまい。ぼーやがもう少し近づいてきて、隙が出来れば…………。



「お待たせしました、エヴァさん」

「なに、大丈夫だ。今来たところだよ」

「そうですか。お待たせしたようで申し訳ありません。
 デートの続きといきましょうか。美術館と遊園地のどちらがお好きですか?」

「さてな? 麻帆良内にある美術館には行ったことがあるが、遊園地には行ったことはないのでな」

「奇遇ですね。僕も遊園地に行ったことないです。一度ジェットコースターとやらに乗ってみたいものですね」



 ジェットコースターよりもお前のあの動きの方が面白いだろうよ。
 何なんだ!? あの変態機動は!?

 今のぼーやは慎重に少しずつ近寄ってきているが、『魔法の射手サギタ・マギカ』で仕掛けてもアッサリと避けるだろう。
 それに魔法薬の残りが少ないからそんな牽制程度に使うわけにはいかん。

 だから“糸”で罠を張った。罠といってもただぼーやを拘束するためだけのものだがな。
 せめてそれで一矢報いるしかない。今日ほど魔力を封印されていることを悔やむ日はそうそうないな。






「…………あれ? そういえば僕って美術館にも行ったことないぞ。
 というか、イギリス出身なのに大英博物館にすら行ったことない……」


 それは勿体無い。って、そうじゃないっ!
 駄目だ、あのぼーやはやっぱり天然だ……。


「そうか。それなら私に勝てたら、私がぼーやに美術館へエスコートされてやろう」

「あ、是非お願いします」

「フン、正直驚いたぞ。私の封印があるとはいえ、まさか2対1でここまでやられるとは。
 ぼーやを甘く見ていたつもりはなかったが、それでも警戒が足りなかったらしいな」


 …………あと、2m。
 ぼーやは気づいていないのか? フルフェイスだから表情もわからないし、声も普段と何の変わりもない。


「いえいえ。僕が不利なわけじゃないですよ。
 主人と従者●●がセットなのが当然なら、もちろん主人と使い魔●●●だってセットですから」



 …………何? 使い魔●●●? 確かぼーやには使い魔が…………。


 ピンッ! と、安全ピンを抜くような音が背後から聞こえた。
 しかしそれと同時にぼーやが突っ込んできたから、振り向こうにも振り向けないっ!
 魔力探知妨害煙幕で気づけなかった。ぼーやの使い魔のオコジョ妖精か!?


 そして自分の背後から頭の上を通り越して投げられた、手榴弾らしきものが落ちてくる。
 マズイっ!!! と思った瞬間には目の前が真っ白になった。



 これは閃光弾かっ!?



「クッ! 『氷盾レフレクシオー』!!!」





 目を閉じながら張っていた糸の罠を発動させ、同時に『氷盾レフレクシオー』を目の前に発現させる。
 しかし、糸の罠にぼーやが引っかかった感触はない。



 視力の戻った私の目に見えたのは、真っ二つに切り裂かれた『氷盾レフレクシオー』と、私の腹に銃口を押し付けているぼーやだった。
 次の瞬間、腹に魔法が当たる感触があり、『戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ』で私は捕縛されてしまった。



 くそっ、やられた。

 ハハッ、やっぱり、このぼーやはお前の息子だよ。
 なあ、ナギ…………。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 これが初バトルでした。擬音とか苦手なのであまり臨場感はない感じですね。相変わらずバトルというものは難しいです。
 なるべく戦闘状況がわかるように書いたつもりだったのですが……。
 もう少しバトルが続いていきますので、もう少しお付き合いください。


 …………え? 相変わらず、ここのネギは腹黒い?
 ハハハ、何を仰るウサギさん。
 ここのネギはアルちゃん用にちゃんとガスマスクとサングラスを用意しておくような、使い魔想いの主人でございますことよ?
 

 モビルスーツ紹介(Wikiから抜粋+個人的感想)

『シナンジュ』

 パイロットの脳波に反応する特殊構造材「サイコフレーム」を採用したニュータイプ専用機。
 ただし、ファンネルなどのサイコミュ兵器は搭載しておらず、それを代価にパイロットの操縦イメージをMSへダイレクトに反映出来る様、MS単体としての基本性能、機体制動を極限にまで突き詰めて設計されている。
 背面と脹脛側面の推力偏向スラスターの他、全身に多数のスラスターを装備し、いかなる姿勢においても高い機動性を発揮する。

 作者的にサザビーよりシナンジュのほうが好きです。
 特殊能力無しで機体性能に特化させるとかに燃えます。

 今回の戦闘は、ガンダムUC第二話の影響というかアイデアを頂いたところがあります。ガンダムUCを見たことがある人は簡単に分かるでしょうw
 気になった人は、レンタルビデオ屋にGO!!!



[32356] 第12話 模擬戦② 一角獣
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:24



━━━━━ ガンドルフィーニ ━━━━━



「先程の戦い方はいったいなんなのですか、ネギ先生!?
 もう少し正々堂々と真正面から戦うことは出来ないのですか!?」

「そ、そんなっ!? エヴァさん相手に真正面から戦って勝てるわけないじゃないですか。
 それにグッドマンさんは、こんな小さなアルちゃんに茶々丸さんとガチンコ勝負させろと言うんですか!? いくらなんでも酷いですっ!」

「………………えっ!? そ、そういう意味ではありませんわ」

「お姉様。それは無理だと思いますけど……」

「お兄様…………わ、私頑張ります!」

「大丈夫だよ、アルちゃん! そんなことさせないからねっ!
 アルちゃんは、アルちゃんが出来ることで僕を助けてくれればいいんだよ」

「ち、違いますっ! 愛衣もそんな目で私を見ないでっ…………」





 高音君がネギ先生に突っかかっているが、ネギ先生の純真な瞳に見つめられて困っている。
 確かに高音君からすると、ネギ先生の戦い方は魔法使いらしくなくて邪道に見えているんだろう。

 でも私は銃やナイフを多用するCQCで戦うからネギ先生と同じく正道的な魔法使いの戦い方とは言えないし、CQCの技術を磨くために警察の訓練などに参加したこともあるから、閃光弾などの利点を良く知っている。
 だから、あまりネギ先生を非難するようなことは言えないなぁ。


「それにしても、あんな負け方したのによくエヴァンジェリンは怒らないですねぇ」

「…………それもそうだな、瀬流彦君でも、黙ってネギ先生におんぶされたままってのも怖いぞ」

「大丈夫ですよ、ガンドルフィーニ先生。エヴァはプライド高いですから、負けた後でどうこう言ったりしません。
 それにネギ君の「真正面から戦って勝てるわけない」って言葉に反応してましたしね。それと、昔のことを思い出してるんじゃないですか?」


 昔? ネギ先生の父親の“千の呪文の男サウザンドマスター”のことか?
 それこそ父子2代に渡って負け越したのに平気なのか? 顔を赤く染めてネギ先生の服を握り締めているが、本当に大丈夫なのだろうか?

 それにしてもネギ先生には驚いた。まさか封印されている状態とはいえ、“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”に勝ってしまうとは。
 魔力がないために彼女の使った魔法はほとんどが初級魔法だけだったが、それでもその錬度は恐るべきものだった。

 昨日の『闇の咸卦法』も凄いものだったが、あのモビルスーツとやらも凄いな。さすがは“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子。
 彼はおそらく将来、優秀な“偉大な魔法使いマギステル・マギ”になるだろう。





「ネギ先生。すいません、ちょっと失礼します。
 エヴァンジェリンさんの最後の氷の盾を、いったい何で斬ったんですか?」

「…………そういえば私は目を閉じていたから見てないな。
 ぼー……ネギ。お前どうやって『氷盾レフレクシオー』を真っ二つに斬り裂いた? 
 残った魔法薬全部使って作ったから、けっこう堅いはずだったんだが…………」

「ああ、あれはこの剣で斬ったんですよ」


 ネギ先生がそういうと、手のひらに乗るぐらいの小さな棒が現れた。そしてそれを掴むと、ブォンという音と共に棒の先から光が伸び、光の剣となった。
 フム。銃だけでなく、接近戦用の武器もあるのか……。


「…………これは、『魔法の射手サギタ・マギカ』か?」

「さすがはエヴァさん。そうです。これは『魔法の射手サギタ・マギカ』を利用して剣にしてます。今のこれは光属性ですけど、火、水、氷、雷、その他様々な属性で剣を作れます。
 “ビームサーベル”って呼んでますけどね」

「銃も同じだったね、ネギ先生」

「その通りです、龍宮さん。あの銃も『魔法の射手サギタ・マギカ』を利用して弾を撃ちだしてます。いろいろと応用が利きますよ。
 最後に止めを刺すときに使った銃は、特殊な弾丸を使って魔法を撃ちだすことが出来るんです。威力を強めた『戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ』や『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』とか、いろいろな魔法を詰め込むことが出来ます」

「へぇ、それは便利そうだね」

「あ、あのっ! 確かにその剣も凄いのですが……」

「落ち着きなさい、刹那。
 ネギ先生。先程エヴァンジェリンの氷の盾を斬ったのは、京都神鳴流の『斬岩剣』ではありませんか?」

「あ、やっぱり京都神鳴流の方から見たらわかってしまいますか?
 桜咲さんはタカミチから京都神鳴流と伺っていましたが、葛葉先生もそうなんですね」

「やっぱり!? ネギ先生はどうして神鳴流を使えるのですか!?」



 京都神鳴流!? 何故そんなものをネギ先生が使える?
 振り向いて高畑先生を見るが、彼も困惑している様子だった。葛葉先生や桜咲君のように学園にも京都神鳴流を使えるものがいるから、必ずしも門外不出というわけではないだろうが…………。









「ビデオで見ました」

「「ハ?」」

「いや、だから…………ビデオで見ました」

「何を言っているんだお前は?」

「いや、ホントですよ。エヴァさん。父が所属していた“紅き翼アラルブラ”の映像を見たことがあるのですが、その中に京都神鳴流を使う方がいたんですよ。
 青山詠春さんという方で、おそらく葛葉先生や桜咲さんの方が詳しいと思いますけど…………」

「え、ええ」「それは、確かに……」

「で、その映像の中に戦闘のダイジェストシーン特集がありまして、それを見て自己流で練習しました」

「…………それで?」

「? それだけですけど?」

「ビデオ見ただけで覚えたんですかっ!?」


 …………ネギ先生は優秀なんだが、ちょっとなんかズレてるな。
 自分のことを大したことないとでも思っているのかもしれん。
 まあ、今までメルディアナ魔法学校から出てきたことがないらしいから、世間知らずなのはしょうがないのかもしれないな。







「人の話を聞いてくださいっ!!!」


 あ、ずっと放置されていた高音君がキレてしまった。


「ネギ先生! どうしてあんな戦い方をなさるのですかっ!?」

「“あんな”と言われましても…………僕は今のが初めての戦いだったんですけど」

「ほう…………ネギの初めての相手は私だったのか」

「初めてだったのに、あんなに強かったんですか!?」

「今まで修行は自己流でしてましたけどね」

「だったら何故もう少しマシな戦い方をなさらないんですか!?
 それこそ貴方の父上であるナギ・スプリングフィールドが所属した“紅き翼アラルブラ”の戦い方を見習うとか」

「いやいや、出来ませんよ。そんなこと。
 まあ、今だったらそれに近いことは出来るでしょうけど、修行を始めた3歳のときでは“紅き翼アラルブラ”みたいなバグキャラ連中の戦い方を見習ってもどうしようもないです。ちゃんと現実的な修行をしないと……」

「うっ…………確かに、それはそうなのですが」

「まあ、そうだろう。というか、3歳児があんなこと出来たら一般の魔法使いの出る幕がないな」

「そもそもメルディアナには魔法戦闘の授業とかはありませんし、図書館にも戦闘教本とかはあまり無かったですからねぇ。
 しょうがないから、警察や軍隊で使用する教育資料を参考にして修行しました」


 なるほど、だからあんな戦い方をするのか。道理で閃光弾とか催涙弾とかの利点を知ってるわけだ。
 でもどうやって手に入れたんだ、そんなもの?


「ネギ。それならあのモビルスーツはなんだ?
 あんなもの、どこの警察も軍隊も使ってないぞ」

「昨日言ったとおり、アレは日本に来ることになってから急遽開発、というか完成させたものです。それ以前から考えてはいたんですけどね。
 コンセプトとしては“魔法使いは最強になるのではなく、最強のものを生み出せばいい”ってところです。
 ホラ、魔法って便利ですけど、詠唱時間とか弱点があるじゃないですか」

「確かにそうですね。無詠唱魔法もありますけど、詠唱魔法に比べたら随分と落ちてしまいます。
 でも、そのためにお姉様にとっての私みたいな、“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”というものがいるんですけど…………」

「つまり、ネギ先生は一人で戦い抜くためにモビルスーツを開発したのですか?」

「いえ、そんなことありませんよ、桜咲さん。ただ単に、“攻撃も防御も移動も魔法一つで出来たら便利だなぁ”と思ったんです」

「…………メルディアナの校長先生が仰っていたことがよくわかりました」

「私としては“納得は出来ないけど理解は出来る”だな」

「龍宮、これは“理解は出来るけど納得は出来ない”の方じゃないのか?」

「…………“理解は出来ないし、納得も出来ません”っ!
 次は私達がお相手しますわっ! 魔法使いの戦い方というものを見せてご覧にいれましょう!」

「お、お姉様!? 私“達”って、私も入っているんですかぁっ!?」



 おいおい、高音君。
 それはいくらなんでも無理だろう…………。












━━━━━ 龍宮真名 ━━━━━



 結局、次はネギ先生とグッドマン先輩主従の模擬戦となった。
 従者の佐倉は最後まで渋っていたが、ネギ先生が

「怪我したらちゃんと治しますよ。
 むしろ明日に残らないよう『咸卦治癒マイティガード』で治します」

 と言ったら、アッサリOKした。


 ちなみにその次は葛葉先生が相手をすることになった。
 ネギ先生の「『咸卦治癒マイティガード』で治します」発言で凄いヤル気が出たらしい。

 大人の女性は大変だな。私にはその苦労はまだわからないが。







 …………本当だぞ。









「お姉様、いったいどうするんですか?
 さっきの戦いみたいな、ネギ先生のモビルスーツの動きは捕らえることはできませんよ」

「わかってます。私が『黒衣の夜想曲ノクトウルナ・ニグレーディニス』で仕掛け、『百の影槍ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ』でネギ先生をで追い込みます。
 愛衣は無詠唱の『魔法の射手サギタ・マギカ』を数を撃って牽制しつつ、タイミングを見計らって『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』を撃ちなさい」

「え? それは危険なのでは? 『紫炎の捕らえ手カプトゥス・フランメウス』の方が……」

「大丈夫よ。ネギ先生がわざと爆発を起こして身を隠したときのことを思い出しなさい。ネギ先生はあんな爆発の至近距離にいたのに、傷一つなく無事だったわ。それに先程のネギ先生のお話では、モビルスーツは“防御”も出来るということです。
 だから、『魔法の射手サギタ・マギカ』や『紫炎の捕らえ手カプトゥス・フランメウス』程度では効かないと思ったほうがいいわ」


 フム、妥当な判断だ。確かにあの爆発で平気なら、『魔法の射手サギタ・マギカ』で勝負をつけるのは無理だろう。
 さて、ネギ先生はどう戦うのかな?


「打ち合わせは終わりましたか? それとルールは先程と同じでいいですか?」

「ええ、構いませんわ。どうぞ、モビルスーツを展開なさってください」

「それではお言葉に甘えます。
 グッドマンさんも『黒衣の夜想曲ノクトウルナ・ニグレーディニス』とやらを展開してください。どうせ展開前に勝負を決めるなんてことはしないつもりですから。
 ラス・テル・マ・スキル・マギステル 『ユニコーンガンダム』!」


 へえ、先程の『シナンジュ』とは違うモビルスーツだ。所々灰色部分があるが、全身真っ白な装甲。そして“ユニコーン”の名前の通り、額に一本角が生えている。
 武器は腰の銃が1丁、あとは左手のシールドか。それとさっきのビームサーベルも持ってるだろうな。


「……ネギ先生は何種類のモビルスーツを使えるのですか?」

「5種類ですね。昨日の『リゼル』とさっきの『シナンジュ』、そしてこの『ユニコーンガンダム』。あとの2つはまた別の機会にでも。
 用途ごとによって使い分けます。あえて言うならそうですねぇ…………“輸送機”と“巡航機”と“戦闘機”と“戦闘爆撃機”、あとは……“特殊機”といった感じでしょうか」

「ちなみにそれはなんですの?」

「“特殊機”ですよ。どこが“特殊”なのかはまだ秘密です」


 …………“特殊機”というのがまた不安になってくる。どうせネギ先生のことだろうから、とんでもなく“特殊”なのだろうな。
 グッドマン先輩も微妙な顔をしているし。


「それではタカミチ、開始の合図をお願いします」

「わかったよ。お互いに怪我のないようにね。…………ネギ君はちゃんと手加減すること。
 それでは…………始めっ!」














「行きますわよっ!
 『黒衣の夜想曲ノクトウルナ・ニグレーディニス』ッ!」


 開始の合図と共に、使い魔を背後に展開したグッドマン先輩がネギ先生に突っ込んでいく。
 対するネギ先生は右手にビームサーベルを装備しつつ、突っ込んでくるグッドマン先輩ではなくその背後の佐倉さんに向けて、頭部から機関砲のように魔力弾を連続して撃った。
 あんなところにも武装があったのか。


「きゃあっ!?」


 撃った弾はあくまで牽制だったらしく、佐倉さんの魔法障壁にアッサリと弾かれていた。あの魔力弾は『魔法の射手サギタ・マギカ』よりも数段弱いな。
 だが、無詠唱の『魔法の射手サギタ・マギカ』を撃とうしていた佐倉さんには奇襲で、ネギ先生に突っ込むグッドマン先輩の援護を出来ないでいる。


「愛衣っ!? …………くっ、ハァッ!」


 ネギ先生に接近したグッドマン先輩が攻撃を仕掛けたために佐倉さんへの攻撃が止んだが、ネギ先生はその攻撃をヒョイッとかわす。
 さっきの『シナンジュ』よりは遅いが、それでもなかなか早い。

 グッドマン先輩が身体に纏っている使い魔のパンチなどは回避し、時折放たれる『影の槍』をビームサーベルで切り払っている。
 ネギ先生はやはり体術もできるようで、手加減しているのにグッドマン先輩を軽くあしらっている。生まれつき持っていた魔力量やモビルスーツにおんぶに抱っこされているわけではないようだ。


「お、お姉様!
 その位置だったら援護できません!」


 そして佐倉さんは、ずっとグッドマン先輩の援護を出来ないままになっている。ネギ先生が佐倉さんの射線上に、常にグッドマン先輩を置くように戦っているからだ。
 あの位置関係だったらネギ先生へ魔法を撃っても、グッドマン先輩に当たる恐れがある。
 それに気づいたグッドマン先輩がネギ先生から距離をとろうとしても、自らグッドマン先輩に接近するか、グッドマン先輩を佐倉さんへの盾に出来るような位置に移動する。









「…………随分と戦い慣れているように見えるな。本当にこの模擬戦が初めてなのか?」

「本当ですよ。お兄様の対人戦はコレが初めてです」

「おや、アルちゃん。ネギ先生の手伝いはいいのかな? それと“対人戦が初めて”ということは、“人以外”となら戦ったことがあるのかい?」

「ええ。今回は私がいなくとも平気だそうです。それと“対人戦”以外では、ウェールズで熊やイノシシなどと少々」

「そういえばそんなこと言ってましたっけ。…………木乃香お嬢さまに変な影響与えなければいいのだが」

「それだけではあるまい。ネギは獣相手だけではなく、ちゃんと対人戦の修行もちゃんとしていたんだろう。魔法使いとしてではなく、現代の人間としてな。
 そうだろう? …………えーと、アル……ちゃん?」

「はい。先程も言ったように、お兄様は軍隊や警察の資料で対人戦の勉強をいたしました。
 現代のそれらの戦い方は魔法戦にも役に立つようで、お兄様は「基本は皆同じなんだ」と言っていましたね」


 まあ、そうだな。
 となると、ネギ先生は魔法を絶対のものとして思っておらず、むしろ道具の一つとして思ってそうだな。







「………………」


「? どうかなさいましたか、エヴァンジェリン様?」


「…………イヤ、なんでもない。
(どうしよう…………ネギの使い魔だし、躾もちゃんとされていて礼儀正しいから、“小動物”とか“オコジョ”とかで呼ぶのは可哀想だ。
 でも“アル”と呼び捨てにすると、あの変態アルと被ってしまう。その方がもっと可哀想だ。
 となると、やはり“ちゃん”付け? しかし、それは私のキャラではないぞ?)」



 ? 何考えてるんだ、エヴァンジェリンは?











━━━━━ 高音・D・グッドマン ━━━━━



 …………この子、本当に強い。かれこれ5分以上攻撃を仕掛けていますが、まったく当たりません。
 ネギ先生は防御と回避するだけで攻撃してきません。明らかに手加減されていますわ。


「…………グッドマンさんって、体術に関しては素人ですか?」

「な、何ですか。いきなりっ!? 確かに専門的に習ったことはありませんが…………」

「ああ、やっぱり。その背後にいる使い魔がパンチをするとき、同時にグッドマンさんもパンチする動作なされていますけど。正直、素人のパンチでどこ狙っているか丸分かりなんですよ。
 だから簡単に避けることができます」


 くっ、そういうことですか。
 これは今後改善すべきですわねっ!


「サ、『魔法の射手サギタ・マギカ炎の三矢セリエス・イグニス』ッ!」


 なんとか援護できる位置に移動した愛衣の攻撃も、ビームサーベルで切り払われるか、頭から発射される魔力弾で迎撃されてしまいます。
 このまま時間切れを狙うつもりかしら?

 そうはいきません。例え敵わなくとも、せめて一矢報います!





「愛衣っ、仕掛けます。準備なさい! 『影よウンブラエ』!」

「はいっ! ネイプル・メイプル・アラモード!」

「お? 複数の使い魔の使役ですか?」


 影の使い魔を5体召喚します。
 あまり多かったら攻撃するのにお互い邪魔になるので、このぐらいでいいでしょう。


「『百の影槍ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ』!」

「ものみな焼き尽くす浄北の炎 破壊の王にして再生の徴よ 我が手に宿りて敵を喰らえ!」



 私も5体の使い魔と共に、『百の影槍ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ』で仕掛けます。
 ネギ先生は左手にもビームサーベルを持って二刀流で迎撃するようですが、それだけでは防げません!



「ハァッ!」



 クッ、しかし、さすがはネギ先生。
 こちらの攻撃は一撃も当たることなく、『百の影槍ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ』のほとんどが切り払われ、使い魔も2体斬り倒されました。
 しかし、残りは迎撃出来ないらしく、押さえ込まれることを防ぐために私がわざと空けておいた隙間から強引に突破するようです。



「愛衣っ!」

「ハイッ、お姉様! 『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』ッ!」



 だけどそこに待ち構えていた愛衣が、ネギ先生に向かって『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』を放ちました。
 直撃コース! これなら回避できない! ネギ先生は盾を構えますが、これでダメージを与えられるでしょう!














「おっと、危ない」バシュウウウッ!!!











 ………………ハア?


「ま、魔法がっ!?」

「かき消された!?」


 そんなっ!? 盾に当たった『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』がかき消された!?
 『魔法の射手サギタ・マギカ』ならともかく、中級魔法の『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』まで効かないのですかっ!?
 くっ、詠唱魔法での防御ならともかく、あらかじめ持っていた盾で防がれるとは思いませんでした。

 これでは愛衣の攻撃が何も通じないということに…………。



「『影よウンブラエ』!」



 愛衣と合流して出せるだけの使い魔を壁役として出しますが、正直打つ手がありません。
 愛衣の魔法は効かないし、私の『黒衣の夜想曲ノクトウルナ・ニグレーディニス』ではネギ先生を捕らえれません。
 …………いったいどうすれば?



「今のは良かったですよ。でも、『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』を撃って気を抜いたのは駄目ですね。
 グッドマンさんもそういうときは追撃してこないと。せっかくの遠隔操作式の使い魔で倒されてもグッドマンさんには被害はないのですから、使い魔を特攻させて僕の動きを封じるとかした方が良いと思いますよ」

「クッ…………何故攻撃してこないのですか、ネギ先生!?
 私達には攻撃する価値すらないということですか!?」

「え? いや、そういうわけじゃありません。
 ただ、ちょっと気になることが…………」

「何ですか、いったい!?」

「グッドマンさんは影で衣服を編んで防御力を上げていると思うんですが、気絶とかしたらどうなるんですか?」

「…………それは、編んでいる服は……なくなってしまいますわ」

「そうですよね。僕のモビルスーツもそういうのですし。
 で、服変わったら、肩とか露出するようになりましたけど、その下って何か着てますか?
 というか、なんで制服のときより露出が多く? 防御服なんだから全身を覆えばいいのに…………」



 …………う。私のこの魔法は通常で防御力3倍、肌に密着させれば7倍になりますので、最大の防御力を得るために今は肌に密着させています。
 つまり、この下は何も着けていません。
 気絶してしまったら、この模擬戦を見ている周りの大勢の魔法先生達に肌を見られることに…………。

 !! そのことに気づいた愛衣がカクカクと震えだしてしまいました。



「まあ、女の人と戦うのはイヤだと言うつもりはありませんが、さすがに女の人を裸に剥くというのは勘弁して欲しいんですけど…………」

「あ、ありがとうごじゃいましゅ。ネギ先生しぇんしぇい…………」



 め、愛衣が幼児退行してますわ!?
 ネギ先生が本気を出さなかったのは私のせいですか!?

 …………私の負けですわね。自分のことだけではなく、戦う相手のことすら考えることが出来るなんて。


 思えば、私は“頭が固い”と注意されたことがありますわ。もっと視野を広く持つべきですわね。
 自らの視点に凝り固まってしまうのは、確かに“偉大な魔法使いマギステル・マギ”としてふさわしくありません。


 これからは自分のことだけでなく、相手のことも考えて行動することにしましょう。
 フフ、まさか10歳のネギ先生に教わることになるとは。感謝しますわ、ネギ先生。













「ネギ先「というわけで、グッドマンさんを気絶させずに取り押さえようと思います」…………え?」



 続けるのですか?












━━━━━ 瀬流彦 ━━━━━――――――



 ネギ先生はやはり紳士だなぁ。コレが英国紳士って奴かな?
 でも高音君にはこの模擬戦が良い経験になったろうね。頭の固い方のガンドルフィーニ先生でさえも、たまに高音君に頭が固いことを注意するぐらいだったんだから。



「やっぱりネギ先生はズレているな」

「ああ、さっきのグッドマン先輩の顔からすると、もう少し待てば負けを認めていただろうな。
 なんか感動していたみたいだし…………」

「そうだな。ガキだからしょうがないが、ネギは女心がわからないタイプだろう」

「しょ、しょうがないんじゃないかな。ネギ君はまだ10歳なんだし…………、ハハハ……」


 …………まあ、10歳だからねぇ。10歳であんなに戦闘能力があるのは驚きだけど。
 僕じゃ絶対勝てそうにないな。









「さて、それではいきますよ。怪我はさせませんから、安心してください。
 “MM-D”システム発動」


 “MM-D”システム? ネギ先生がそう言った瞬間、モビルスーツが変形、イヤ、変身した。
 全身の装甲が展開し、顔を覆っていた白いのっぺらぼうなフェイスガードが上がり、その下から人の顔のように見えるフェイスガードがまた現れた。
 そして、ユニコーンの名の通り額に生えていた一本角がV字に割れて金色に、展開した装甲の露出部分が赤く光りだした。


 …………カッコ良いじゃないか!


 昨日もそれらしきこと言ってたけど、ネギ先生ってロボットアニメとか好きなのかな?
 10歳らしいところもあるね。ウン。





 
「この魔力は…………」

「ネギ先生が“特殊機”と言ったのはこのことか」

「イヤ、どうせネギのことだ。絶対まだ何か他にあるぞ」

「ネギ君だからねぇ……」



 …………最近、高畑先生っていろいろと諦めかけてない?











 ゾワッ!







 ネギ先生のフェイスガードの人の目に見える部分が光ったと思ったら、急に違和感…………というか悪寒が体中に走った。 
 何だ今の? どうやら感じたのは僕だけじゃないらしく、周りの皆もキョロキョロと辺りを見回している。



 そうこうしている間に、ネギ先生が動いた。高音君達を右手で指差した後、掌を上に向けて力強く握り締める。
 その瞬間、ネギ先生と対峙していた筈の15体の高音君の使い魔が、ゆっくり高音君達の方へと振り返り始めた。


「!? 『影よウンブラエ』ッ!?」

「お、お姉しゃま……!? なんでしゅか、いったい!?」


 高音君が動かしているわけではないのか!?
 …………まさかネギ先生が!? 他人の使い魔を操ることが出来るとでもいうのか!?



「『影よウンブラエ』ッ! ………………そ、そんな?」

「お姉しゃま……キャアッ!」


 影の使い魔が高音君達を襲い始めた。
 佐倉君は3体の使い魔に襲われた。1体に箒を奪われ、もう2体で身体を拘束された。


「め、愛衣っ!
 クッ、私がわからないのですかぁっ!!!」





 身に纏っている使い魔本体は未だ高音君のコントロール下にあるらしく、高音君は使い魔本体で襲い掛かってきた残り12体の使い魔へ応戦しているが、あまり持たないだろう。
 何よりネギ先生がそんな隙を見逃すはずがない。


 左腕に装備していた盾を捨て、両手でビームサーベルを構えたネギ先生がその場から忽然と姿を消したと思うと、赤い光が走って高音君の横を通り過ぎた。
 通り過ぎた後に残ったのは、上半身と下半身の2つに断たれた使い魔本体だった。


 ……瞬動、なのかな?


 高音君は使い魔本体を失ったので使い魔に取り押さえられている。佐倉君も既に取り押さえられているし、コレで勝負ありだろう。
 と、思ったら、10体の使い魔でグッドマン君達をグルリと囲んで壁を作った。これでグッドマン君達の様子が見えなくなってしまった。





「…………僕の勝ちです。
 大丈夫ですよね? グッドマンさん意識ありますよね? 服脱げたりしてないですよね?」

「……だ、大丈夫ですわ。ですから早く使い魔を退けてくださいまし」

「わかりました。とりあえず使い魔がお二人の周りに壁になってますので、落ち着いたら教えてください」

「あ、ありがとうごじゃいましゅ。ネギ先生しぇんしぇい…………」





 これが“特殊機”の力か……。
 他人の使い魔のコントロールを奪ったり、凄いことを出来るんだなぁ。ネギ先生は。


 ……それにしても、幼児退行気味の佐倉君は大丈夫かな?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 エヴァンジェリンが“逆光源氏計画”を企み始めたようです。

 ちなみに、ナギが生きているだろうということをエヴァに話していません。
 それどころか“学園結界”で力を封印されていることも話していませんw


 モビルスーツ紹介(Wikiから抜粋+個人的感想)

『ユニコーンガンダム』

 パイロットの精神波に反応する構造材“サイコフレーム”で、機体の駆動式内骨格“ムーバブルフレーム”全てを構築した史上初のフルサイコフレーム機であり、極めて高い機体追従性を発揮する。
 通常は、一角獣ユニコーンの名の由来である額のブレードアンテナである一本角とフェイスガードに覆われたゴーグル状のカメラアイが特徴の“ユニコーンモード”で運用される。
 限界稼動状態では、全身の装甲が展開し体格も一回り拡張、ブレードアンテナがV字型に割れガンダムタイプの顔が現れ、“デストロイモード”に変身する。
 この際、露出したサイコフレームが眩く発光するのが特徴である。

 インテンション・オートマチック・システムというパイロットの感応波を拾い上げ、行動に直結することができるシステムを搭載している。
 連動する機体のフル・サイコフレームに直接思考を反映させることで、実際に操縦するよりも速く機体を動かすことができ、パイロットは操縦をすることなく考えるだけで、その動作がダイレクトに機体に反応される。

 最初、雑誌で“ユニコーンモード”の画像を見たときは正直微妙な感じでしたけど、“デストロイモード”は格好良いのではないでしょうか。
 シナンジュのほうが好きですがねw
 この作品での“デストロイモード”は、常に“瞬動”クラスの速さで自由自在に動けるが、同時に『咸卦治癒マイティガード』を発動してないと3分でバタンキュー、といった感じです。

 詳しくはガンダムUCの第三話をご覧ください。



[32356] 第13話 模擬戦③ 四枚羽根
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:25



━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━



「…………皆、どう思うね?」


 今は模擬戦を小休止し、魔法先生を集めてネギ先生のことについての話し合いじゃ。
 さすがはナギの息子というか……まさか封印されているとはいえエヴァンジェリンにすら勝ってしまうとはのう。

 しかし、あまりにも我々とは違う戦い方をするのが困ってしまうわい。


「…………まあ、しょうがないのではないでしょうか。
 ネギ君は自己流で修行したらしいですし」


 …………タカミチ君や。君は以前からネギ先生と付き合いあったのじゃから、先にネギ先生の性格に気づいておいて欲しかったの。


「そうですね。結果的に模擬戦の相手は誰も怪我をしていません。言い方は悪いですが、ネギ先生は“目的のためには手段を選ばない”タイプのようです。
 しかしその“手段”は我々とは随分と違いますが、“目的”は我々と同じだと思います」

「その“手段”もおそらく、ネギ先生は卑怯などとは意識していないでしょう。ネギ先生が修行の参考にしたという警察や軍隊での常識なら、別に非難される戦い方ではありません。
 それに“目的”の方だって、むしろ我々より優しいのではないですか? 敵味方両方を怪我させずに模擬戦を終わらせたのですから」

「ウチの娘がネギ先生のことを“素直な子”と言ってたのがわかる気がしますね。
 良い意味でも悪い意味でも純真なんだと思います」


 ふうむ、特にネギ先生を非難する意見はないようじゃな。
 アチラで佐倉君をおんぶしているネギ先生を見ていると、性根はとても優しい子だとわかるしのう。









「ただ、ちょっとズレてますよね…………」

「悪い子なワケではなく、むしろ良い子なんでしょうけど…………」

「とっている行動も間違っているわけではないのですが…………」

「魔力探知・念話妨害煙幕ならともかく、ニンニク粉末と花粉はねぇ…………」

「でも警察では催涙弾なんかを実際に使ったりします。
 それを参考にしたと言われると、否定しにくいですなぁ…………」

「ですよねぇ。まさか「警察の方が間違っているんだ」なんて言えるワケないですし…………」

「なんか違うんですよねぇ…………」

「それに使い魔のオコジョ妖精を奇襲に使うのは…………」

「いや、ネギ先生が言った通り、主人と従者がセットなら主人と使い魔もセットでしょう。
 あの使い魔のことを隠していたならともかく、ネギ先生が自己紹介のときに一緒に紹介しておりましたし…………」

「確かに。エヴァンジェリンが従者と一緒に戦うのなら、自分も使い魔と一緒に戦っていいと思ってしまうのでは…………」



 …………困ったのう。皆もどう言えば良いかわからんようじゃ。
 才能がありすぎるというの困りものじゃの。

 この場にいる全員が、ネギ先生以上の結果で模擬戦を終わらすことは無理じゃろう。
 グッドマン君達ならともかく、エヴァンジェリンをお互いに無傷で取り押さえることなぞワシでも出来ん。だからネギ先生を非難できるというわけじゃないのじゃが…………。


 それでもなんか違うんじゃよなぁ。
 こんなことならメルディアナでちゃんと戦闘方法を教えておいて欲しかったわい。





「学園長。とりあえず話はここまでで良いのではないですか?
 ネギ君の性格のことは全員これで分かりました。ネギ君が麻帆良に来てまだ4日目ですので、時間はタップリあります。今急いで結論を出さなくてもいいでしょう」

「それもそうじゃの。次は葛葉先生がネギ君の相手をするんじゃったか。
 …………すまんが、神多羅木先生も一緒に相手してくれんかの?」

「魔法先生2人がかりですか!?」

「3戦目ですよ、次は。いくらなんでも無理なのでは?」

「問題なかろう。『咸卦治癒マイティガード』のおかげで元気一杯のようじゃし。
 今までの模擬戦はエヴァンジェリンやグッドマン君といった女性だけじゃった。じゃから、男性相手にはどう戦うか見ておきたいのじゃよ。タカミチ君の話では、ネギ先生はフェミニストらしいということじゃが?」

「そうですね。家族と呼べる人は従姉であるネカネさんぐらいで、他に親しくしていたのは幼馴染の女の子のアーニャ君だけみたいでした。
 そのせいか女性には優しく接していたと思います」

「まさか“男性相手だったら手加減せずに戦う”なんてことはないじゃろうが、一応の」

「………………ネギ君ですもんねぇ」












━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 葛葉先生がアップを始めたようです。
 ………………『咸卦治癒マイティガード』はやっぱり秘密にしておいたほうが良かったかなぁ? 葛葉先生はたまに牝ライオンの目で僕のことを見てくるときあるんですよね


 その他の先生方は僕の戦い方についてまだ話し合い中。

 “自己流ならしょうがないよ派” VS “そうだとしても外道すぎるよ派”

 の2つに別れてヒソヒソと議論中です。



「そんなに僕の戦い方って変わってるんですかね?」

「…………まあ、ネギの戦い方は“普通の魔法使いの戦い方”ではないのは確かだな」

「私はネギ先生のような戦い方をする人のデータを持っていません」

「自己流で修行して、そこまで戦えるのならいいんじゃないかな。
 これから“普通の魔法使いの戦い方”も教わっていけばいいんだし。なあ、刹那?」

「え!? …………わ、私は神鳴流の剣士であって、西洋魔術師ではないのでなんとも…………ねえ?」

「…………こ、今回のコトは良い勉強とさせていただきますわ」

「………………………………」


 こっち見ろや。

 …………まあ、ワザとそういう戦い方してるんですけどね。
 これで「ネギ君だからしょうがない」という認識が、魔法関係者に出来てくれると後で楽になります。
 “普段から挙動不審だったら、怪しいことしても誰も怪しまない”って水着で白衣のお医者さんも言ってましたし。


「難しいですねぇ。魔法バレのことを考えたら、『魔法の射手サギタ・マギカ』とかは見られたらアウトです。
 『戦いの歌カントゥス・ベラークス』使って肉弾戦すればいいですけど、僕みたいな子供が肉弾戦で凄すぎたら変ですから…………」

「一応いろいろと考えてはいるんだね。それでロボットみたくなったのかい?」

「茶々丸よりロボットらしいからなぁ」

「マスター。私は正確にはガイノイドです」

「ええ。モビルスーツを見て、“魔法”を思いつく人はいないでしょう。
 それに盾とか背中に“麻帆良大工学部”とか書いておけば、麻帆良のノリならモビルスーツすら見られても平気な気がします」

「…………否定出来ないのが怖いですね」

「私も去年の学園祭の際に使い魔を巡回に使いましたが、仮装と思われて大丈夫でしたわ」

「モビルスーツを展開するにも、魔法と思われない動作があった方がいいですかね?
 ベルトにカード挿し込んで、「変身!」と叫ぶとか」

「………………………………」


 それはそれで面白そうだな。
 でも、仮面ライダーはあまり知らないんですよねぇ。小太郎君と被る気がしますし。







「…………ところで、もしかして佐倉さん寝てません?」

「もしかしなくとも寝ているね」

「…………すー…………すー…………」

「め、愛衣っ! 起きなさい!」

「!? ひゃ、ひゃいっ!!!」

「…………そんなにネギ先生の背中は気持ち良いんですか?」

「何だ、興味あるのか?
 だったらおんぶしてもらえ」

「え? …………いや、それはさすがに恥ずかしいです」

「エヴァンジェリンも寝てしまったらしいね。道連れが欲しいのかい?」

「…………ぐぬ」

「あ、ありがとうございました! もう平気ですぅ!」

「いえいえ、どういたしまして。
 皆さんは気持ち良くなるみたいですけど、自分ではわからないんですよねぇ。『咸卦治癒マイティガード』発動中は、眠らなくても平気になるぐらい身体の調子が良くなるだけなので」


 そのおかげで、前世では都合の良い抱き枕にされていましたよ。
 役得だったから別にいいですけどね。


「そういえばネギ先生。さっきの“MM-D”システムとはどういう意味なんだい?」

「…………“マギステル・マギ-ドライブ”システムという意味ですよ。ぶっちゃけて言えば“リミッター外し”ですね。あのシステムが発動すると肉体のことを考えずに行動できます。
 『咸卦治癒マイティガード』を併用して使えば大丈夫ですけど、『咸卦治癒マイティガード』無しで発動したら3分が限界です」



 言えない…………。
 本当は“マギステル・マギ-デストロイヤー”だなんて、高音さん達の目の前ではさすがに言えません…………。











━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



 また模擬戦が始まる。これで三戦目だ。よくネギ先生は体力が持つものだ。
 …………そんなに『咸卦治癒マイティガード』とは凄いのだろうか?
 そういえば心なしか佐倉さんの肌ツヤが良くなった気が…………。


 しかし、次の相手は刀子さんと神多羅木先生の魔法先生のコンビだ。
 刀子さんは神鳴流の剣士。ネギ先生は接近戦はどこまで戦えるのだろう?

 それにいくら神鳴流の技を使えるからと言っても、映像を見ただけではそうそううまくはいかないだろうな。
 茶々丸さんのときもグッドマン先輩のときもうまい具合に攻撃を避けていたが、さすがに神鳴流剣士相手では逃げ切るのは無理だと思うが…………。





「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 『クシャトリヤ』」





 お? ネギ先生がさっきとはまた違うモビルスーツを展開した。
 緑と濃緑色で、両肩からそれぞれ前後に大きな羽根が生えているようなモビルスーツだ。今までのよりも大型だな。銃を今度は持っていないが、神鳴流相手に剣で戦うのだろうか?
 盾も持っていない。あの羽根が盾代わりなのかな?



「“戦闘爆撃機”…………かな?
 さきほどの『シナンジュ』や『ユニコーンガンダム』よりは動きは鈍そうだが、その分火力はありそうだ」

「…………スマン、龍宮。“巡航機”と“戦闘機”と“戦闘爆撃機”って何が違うんだ?
 “輸送機”は言葉通りだろうし、“特殊機”は戦いを見たからその特殊さがわかったんだが…………」

「ん? そうだな…………わかりやすくいうと、“巡航機”は長時間・長距離・好燃費で飛べる航空機といったところかな。“コンコルド”という旅客機を聞いたことないか? アレは音速で飛ぶためにあまり燃費は良くないがな。
 “戦闘機”は軍用機と言う意味もあるが、この場合だと対航空機用の航空機だ。おそらくエヴァンジェリンと戦ったときに使用した『シナンジュ』がそうだろう。
 “爆撃機”は対地・対艦攻撃を行なう航空機だ。敵の基地や軍艦、戦車などを攻撃目標とする航空機だ。
 で、“戦闘爆撃機”は“戦闘機”と“爆撃機”の中間、というか“爆撃も出来る戦闘機”だな」

「それなら昨日の『リゼル』が“輸送機”か。
 確かに誰かが上に載れるように背中にグリップが付いていたな。もちろんそれなりに戦闘能力もあったが、『シナンジュ』には遠く及ばなかった」

「へえ、飛行機にもいろいろあるんだな」

「私もそういうのは初めて聞きましたわ」

「私はアメリカにいたときによくTVのCMで飛行機とかは見ましたけど、そこまでは詳しくないです」


 ネギ先生とまではいかなくとも、少しはソッチ側の勉強もすべきかな? 閃光弾とかは確かに便利そうだし…………。
 しかし、私はあくまで神鳴流の剣士なのだから、あまりそういうのに触れたくないというのが本音だ。













「それでは参ります。ネギ先生」

「フ…………よろしく頼む」

「はい、よろしくお願いします。アルちゃんは今回も下がっていてね」

「はい。お兄様」

「よし、準備は出来たようじゃの。それでは………………始めいっ!!!」


 学園長の始めの合図と共に、刀子さんは刀を抜きつつネギ先生に接近。神多羅木先生は刀子さんの少し後ろについて注意深く接近している。
 流石に今までの戦いを見ていただけに、警戒しているようだった。
 

 対するネギ先生は右に移動しつつ、右手に持ったビームサーベルを大きく振りかぶったが、そこは間合いの外……って、ビームサーベルが伸びた!?

 伸びたビームサーベルは刀子さんと神多羅木先生の間に勢い良く振り下ろされた。
 この攻撃は2人とも予想外だったらしく、互いに大きく距離をとって回避した。これで2人は分断されてしまったな。


「ファンネルッ!」


 ネギ先生がそう叫んだ瞬間、背中側の2枚の羽根から12個の小さなナニカが飛び出した。
 何だアレは?





「凄いですね。ビームサーベルが一瞬で13mぐらいに伸びました」

「ビームサーベルは『魔法の射手サギタ・マギカ』を利用したと仰っていましたわ。
 だったら伸ばすのは容易なことでしょう」

「それにしても“ファンネル”ね。まあ、確かにあれはファンネルだ」

「そうだな。安直な名前すぎるがな」

「はい、アレはデータによると、ファンネルに形状が似ております」

「み、皆はアレがなにかわかるのか!?」


 今まであんなものは見たことはないが、龍宮が知っているということは近代兵器か?
 それとも西洋魔術師の武器だろうか? エヴァンジェリンさんやグッドマンさんが知っているということはソッチかもしれないな。
 








「………………桜咲刹那。“漏斗”のことを英語で“ファンネル”と言うんだよ」

「スペルは“funnel”です」

「ホラ、この前の理科の実験授業で使っただろ」

「そうですわね。ろ過の実験とかで使うと思いますわよ」

「あと、お料理でも使うことがありますね」







 ……ごめんなさい。しりませんでした。
 だからみんなしていわないでください。

 …………そんなの日常生活で使いませんよぅ。
 まあ、そう言われると確かに形は漏斗に似ているな。





 …………ム、12個のファンネルは刀子さんの周りに集まりだした。何をする気だ?

 そしてネギ先生は神多羅木先生に突進。せっかく分断させたのだから、まずは後衛を潰す気だろう。
 もちろん刀子さんがそんなことをみすみす見逃すはずはなく、神多羅木先生と合流しようとしたのだが、周りのファンネルから光線が発射されて足止めされてしまった。

 あれはまた厄介な。威力は『魔法の射手サギタ・マギカ』とあまり変わらないぐらいだが、ああまで自由自在に動く12個のファンネルから発射されるとなると対処が難しい。
 現に刀子さんは気を込めた刀で光線を弾くなどして対処しているが、神多羅木先生の援護に行けないでいる。行こうとしても出足を潰されてしまうのだ。

 あ、『斬空閃』でファンネルを1個落とした。でもなかなか次に続けることがで出来ない。
 まだ残っている11個が攻撃してくるし、なにより小さな的が高速で動くので当て難いのだ。


 ネギ先生に接近されている神多羅木先生は、フィンガースナップで多数のカマイタチを発生させて迎撃しようとしているが、盾代わりの羽根に全て弾かれている。
 無詠唱魔法ではあの防御力を突破できそうにない。





「神鳴流奥義! 『斬岩剣』!」

「『風花・風障壁フランス・パリエース・アエリアーレス』!」





 ネギ先生の『斬岩剣』と神多羅木先生の『風障壁』がぶつかりあった。やはりネギ先生の『斬岩剣』は完璧だ。映像を見ただけであそこまで再現できるとは…………。

 しかし、さすがに『風障壁』は突破できないようだ。刀子さんもファンネルをもう6つまで落としている。
 刀子さんの援護が間に合うか?





「…………駄目だな。『風花・風障壁フランス・パリエース・アエリアーレス』は10tトラックの衝撃すら防ぎきる優れた対物理防御魔法だ。
 しかし、効果は一瞬しかなく、連続使用も不可能と言う弱点がある」

「ですが、マスター。あの魔法でなければネギ先生の攻撃は防ぎきれなかったでしょう」

「ああ、そうだろう。だがネギにはまだ左手が残っている」


 そうなのだ。右手で放った『斬岩剣』は『風障壁』に防がれてしまったが、いつの間にかネギ先生は左手に新たなビームサーベルを装備していた。
 そして左手のビームサーベルが振るわれる。





「ハッ!」

「グゥッ!」





 ネギ先生の左手の剣が神多羅木先生に当たった瞬間、パチィッ! と放電するのが見えた。おそらく『魔法の射手』の『雷の矢』を利用したスタンガンのようなものだな。
 その電気ショックで神多羅木先生の動きが止まった。

 そして何故かネギ先生は動きの止まった神多羅木先生のサングラスを外してあさっての方向に投げ、一瞬でハンカチを神多羅木先生の顔に被せた。
 神多羅木先生は電気ショックのせいで強く抵抗出来ていない。


 でも……何でサングラスなんか外すんだ? しかも何故ハンカチを顔に被せたのだろう?
 


 …………そういえば神多羅木先生はどういう顔をしているんだろうか?
 神多羅木先生が刀子さんとチームを組んでいる関係から何度か面識はあったが、それでもサングラスを外したところは今まで見たことがない。

 くっ、結構気になる。しかしネギ先生が被せたハンカチのせいで顔が見えない。
 周りの人達も「惜しい!」とか「もうちょっとだったのに!」とかざわついている。…………学園長までもが目を見開いているし。


 もしかして誰も見たことなかったの? 学園長はさすがにありますよね?
 それこそサングラスの下にはつぶらな瞳があったり…………?



 ちなみにサングラスを投げた先には結界の外のアルちゃんが待っており、そしてアルちゃんはサングラスを見事にキャッチ。
 …………相変わらず多芸なオコジョだな。
 







「神多羅木さんっ!」

「スマン、やられた…………」

「映像以外の神鳴流剣士は初めてです!」






 刀子さんは今ファンネルを全て落とし終わったみたいだが、間に合わなかったみたいだ。神多羅木先生は多少痺れが残っているようだが、特に怪我らしい怪我はしていないようだな。
 もう戦えないらしいが刀子さんに片手を上げて謝っている…………ってあれで“やられた”の?

 …………もしかしてサングラスが魔法発動体だったのか!? だからネギ先生は神多羅木先生のサングラスを奪ったのか!?
 そういえば神多羅木先生は杖も持っていないし、指輪などの携帯用魔法発動体もつけていなかったのに魔法を使っていたな。


 …………え? 本気で?


 ま、まあそんなことはどうでもいい! 今は刀子さんとネギ先生の勝負を注目しなければ!!!
 ネギ先生は両手に再びビームサーベルを持ち、刀子さんに突進した。本気で神鳴流剣士と剣で競い合う気だ。





「「神鳴流奥義! 『斬岩剣』っ!!!」」





 ネギ先生と刀子さんの『斬岩剣』がぶつかり合う。両者ほぼ互角の威力だが、ネギ先生が片手持ちであるのに対し、刀子さんは両手持ちで『斬岩剣』を放っていた。
 それを考えるとネギ先生の方が威力は上のようだ。おそらく『咸卦法』の効果とモビルスーツで腕力を底上げしているのだろう。


「くぅっ! やりますね、ネギ先生!」

「ありがとうございます! もう少しお付き合いしてください!」


 刀子さんも負けておらず、1本の刀でネギ先生の2本のビームサーベルをしのいでいる。
 力はネギ先生が上だが、さすがに速さは刀子さんが上のようだ。

 2人の剣戟は互角。これは少し長引きそうだな。











━━━━━ 龍宮真名 ━━━━━



 いやはや、まさか剣で神鳴流剣士と互角に戦うとは…………。
 二刀流に慣れてきた葛葉先生が少し優勢になってきたが、それでも6対4ぐらいだ。なにかあればすぐにひっくり返るだろう。ネギ先生はいろいろと規格外だな。


「刹那、お前だったらネギ先生に勝てるか?」

「…………難しいな。剣だけだったらまだ勝負になるかもしれないが、あのファンネルを援護に使われたら無理だろう」

「何を言っている。剣だけでもお前では勝てんさ。茶々丸、ネギのビームサーベルの長さは如何ほどだ?」

「両手の2本とも、刀身が70cmでずっと固定されています」

「あ、ネギ先生は剣を伸縮させていらっしゃらないということですわね」


 そうか。それがあったな。

 しかし、刀身が伸縮自在とはまた厄介な。戦闘中に剣の長さが変わったら、間合いが全然わからないじゃないか。
 自己流の修行というのは面倒だな。何も知らない分、誰も考え付かないようなことを仕掛けてくる。


 ガキィン! と大きく剣が合わさる音がしたと思ったら、葛葉先生が大きく後退していた。
 息も少し上がっている。やはりあのレベルの立会いは消耗が激しいのだろう。

 しかし、ネギ先生は息切れ一つしていない。
 『咸卦治癒マイティガード』のおかげなのだろうが、持久戦では勝ち目がなさそうだ。





「お美事です、ネギ先生。10歳でその腕とは…………。
 本格的に神鳴流を習ってみませんか? ネギ先生なら当代随一の使い手になれるでしょう」

「…………はあ、ありがとうございます」


 ネギ先生の様子がおかしい? なにかあったのだろうか?
 何処か困惑しているような感じだな。





「…………あの、葛葉先生。ミニスカートで激しい動きはしないほうがいいと思います」

「!? い、いきなりなにを言うのですか!?」


 …………また始まったよ。今度の被害者は葛葉先生か。


「だって、そうじゃないですか! とても言いにくいですけど、下着が何度か目に入りましたよ!」

「大声で言わないでください!」

「見られるのが嫌ならズボンにすればいいじゃないですか。それか桜咲さんのように下にスパッツを穿くとか。
 というか神多羅木先生! 相棒なんだから気づいていたんじゃないですか? だったら言ってあげればよかったのに…………」

「ム? …………葛葉は組んだときからこの格好だったからな。そういうのは気にしないのだと思っていた」

「ちょ!? どういうことですか、神多羅木先生!?人をそんな風に思っていたのですか!?」

「2-Aの皆さんも結構そういうの気にしないし、グッドマンさんといい葛葉先生といい、何で皆さん気にしないんでしょう?
 あれ? もしかして日本の常識がこうなのか? 下着を男性に見られても平気なのか?」

「ち、違います! 見られて平気なんて思っていません!」


 違うぞ、ネギ先生。あくまで麻帆良の中だけだ。
 2-A連中は女子中だからだよ。
 それとネギ先生は子供だから気にされていないだけだ。





「良かった。私は変だと思われていない…………」

「私は違いますよっ!」

「愛衣! 裏切るのですか!?」

「やはりカオスになったな。…………私の服装は大丈夫だよな?」

「幻術を使用した大人のマスターの服装は、ネギ先生に拒否されるかと思います」


 エヴァンジェリンの大人の姿はどういう格好をしているのかは気になるが…………私は大丈夫だよな?
 それにしても「子供は残酷」という言葉をよく聞くが、その意味がようやくわかった気がする。ネギ先生に悪気はないんだろうけどなぁ…………。







「と、とにかく! 制限時間も残り少ないので、さっさと終わらさせていただきます」

「あ、もう残り1分強しかないですね。
 それでは再開しましょうか。そろそろ剣だけではなく、モビルスーツの能力も使わさせて頂きます。ファンネル」


 正面側の羽根から12個のファンネルが飛び出してきた。背中側の羽根に12個あったんだから、正面側の羽根にもあって当然だな。
 そして両手のビームサーベルも2m近くまで伸び、心なしか太くなって見える。勝負に出るつもりだろう。

 対する葛葉先生はファンネルに囲まれる前にネギ先生に瞬動で接近した。悠長に構えていたらジリ貧だからな。
 これでファンネルは使えまい、ネギ先生。





「神鳴流奥義! 『雷鳴剣』っ!!!」

「くぅっ!? ……この技は初めて見ましたよ!」



 葛葉先生の『雷鳴剣』をネギ先生が受け止める。電気として放電された気が辺りに撒き散らされるが、ネギ先生はモビルスーツのおかげで平気のようだ。
 『雷鳴剣』を知らなかったということは、ビデオで見ただけの神鳴流しか使えないということか。

 まぁ、それはしょうがないな。


 !? 放電が終わった葛葉先生の刀が、ビキビキと音を立てて凍っていく!?
 いつの間にかビームサーベルを氷属性にしていたらしい。実際に見てみると厄介すぎる武器だな。
 ちょ!? しかも羽根の先から腕が出てきたぞ!? あんなところに隠し腕があったのか!?


 2枚の羽根からそれぞれ出てきた2本の腕が凍った刀と葛葉先生の左腕を、ネギ先生の左腕が葛葉先生の右腕を掴んで動きを封じ、残ったネギ先生の右腕が刀身を消したビームサーベルの柄を葛葉先生の腹に押し当てた。
 しかも、戻ってきたファンネルが動きを封じられた葛葉先生に照準を当てるのオマケつきだ。

 勝負アリだ。




 …………それにしてもネギ先生はシビアだな。ファンネルの半分は脱落した筈の神多羅木先生に向いている。
 不意打ち防止なんだろうが、10歳の子供がすることではないぞ。
 
 
 


「チェックメイトです」

「…………参りました」

「ウム、其処までじゃ」


 終わってみれば、模擬戦はネギ先生の全勝だ。やれやれ、末恐ろしい子供だな。
 これからどうなってくることやら…………。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 模擬戦編はこれにて終了です。


【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学園長:燃やされた
 カモ:去勢された
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:初恋の人を成仏させると言われたせいで胃痛
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という困惑
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた


 モビルスーツ紹介(Wikiから抜粋+個人的感想)

『クシャトリヤ』
 ネオ・ジオンが開発した20m級のサイコミュ搭載型MS。
 NZ-000 クィン・マンサをもとに設計された機体だが、サイコフレームの使用と複数の機能を集約したバインダーの増設により、クィン・マンサの圧倒的火力と性能をほぼ維持したまま、小型化に成功している。

 本機の特徴は“四枚羽根”というコードネームの由縁となる四枚の大型バインダーにある。
 それ自体がIフィールドジェネレーター内蔵のシールドやAMBAC可動肢として機能するほか、内部にファンネル、メガ粒子砲といった武装を搭載している。
 スラスターとしての役割も備えており、ここに複数の機能を集中させることで機体本体の小型化に貢献している。
 また、「隠し腕」と呼ばれるサブアームを収納しており、それぞれがビームサーベルを装備している。そのため、背後から斬撃を受けた場合でも、機体を旋回させることなく、後方2枚のバインダー内に収納されたビームサーベルを用いての応戦が可能となっている。

 ガンダムUC第一話のスタークジェガンとの戦いが格好良かったです。
 というか重武装しすぎw 例えは“戦闘爆撃機”じゃなくて、“爆撃機”でよかったかもしれません。



[32356] 第14話 途中加入
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:28



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



「それっ!! 女子高生アタックーーー!!」

「蹴り足ハサミ殺し!」





 パァッーーーン!!!





 あ、いけね。
 バレーボール破裂させちゃった。





「ア、アレは“蹴り足ハサミ殺し”!?」

「知ってるの!? ゆーな!?」

「“蹴り足ハサミ殺し”とは、敵の打突を肘打ちと膝蹴りで挟み潰す高等技術よっ!!!」

「私も弟の漫画で見たことあるわ!」











━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━





「本当にごめんなさい」

「いえいえ、大丈夫ですよ。このボールも古くなってたみたいですからね」


 昼休みも終わる頃、職員室に戻って次の授業の準備をしようとしたらネギ君が体育の先生に謝っていた。
 何か問題でもあったのかな?


「やあ、ネギ君。何かあったのかい?」

「あ、タカミチ。昼休みに2-Aの皆さんとバレーボールしてたんですけど、僕がボールを受けとめたときに破裂しちゃいまして。
 体育の先生が言うにはもう古くなってたみたいですけど」

「そうかい。怪我はないみたいだね。それなら何よりだ」


 ネギ君が担任補佐として赴任して、今日でもう2週間が経った。2-Aの皆にも受け入れられているようで何よりだ。
 女の子の扱いも、ネカネさんやアーニャ君と過ごしていたから落ち着いて対応している。メルディアナでも年上の後輩に魔法を教えていたというから、年上相手にも授業もちゃんと出来ている。
 まるで教師の経験があるみたいだったな。


「ところでタカミチ。今日の居残り授業のことですけど」

「うん。前から言っていたように、僕は今日の授業が終わったらしばらく出張に行かなくちゃいけなくてね。
 ネギ君には悪いけど、居残り授業と明日からのホームルームをよろしく頼むよ」

「居残り授業は別に構いませんよ。明日菜さんの勉強を夜に少し見てますけど、それでは他の人に不公平でしたからね。
 明日からも、何かあったらしずな先生に相談しますから大丈夫です」

「はい。ネギ先生のことは任せてくださいな、高畑先生」

「ハハハ、よろしくお願いします」


 アスナ君か。今日の英語の小テストで良い点数を取ったのには正直驚いちゃったな。
 やっぱりアスナ君はやれば出来る子なんだよ。ウン。

 ネギ君とも良い関係が築けているようで何よりだ。
 いやぁ、何か職員室のコーヒーがいつもより美味しく感じられるなぁ。















「そういえば、タカミチって明日菜さんとデートとかしてるんですか?」

「ブフォッッッ!?!?」


 ………………コーヒー吹いた。まさか僕もエヴァと同じ目に遭うとは…………。

 というか職員室で何を言い出すんだ、ネギ君。
 周りの先生が見ているじゃないか。僕はアスナ君の後見人とはいえ一応教師なんだから、女子中学生とデートなんか出来るわけないだろう。。





「アラアラ、ネギ先生。
 いったいどこからそのようなお話が出てきたのですか?」


 しずな先生が何か怖い…………。
 よくネギ君は正面からあのプレッシャーを受け止められるな。よくわからないような顔をしてるけど、本当に気づいていないのか?


「? ウチのクラスの明石さんが「日本人の女の子の初恋はお父さんなんだよ!」って言ってましたよ?
 明石さんは休日に明石教授の部屋の掃除をしたり、デートをしたりして過ごしているそうです。
 タカミチは明日菜さんの後見人ですよね。だったらタカミチは、明日菜さんのお父さんみたいなものじゃないんですか?」


 …………ああ、なるほど。そういうことか。
 よかった。周りの先生からの視線も減って、しずな先生のプレッシャーも小さくなった。


「オホホホホ、そういうことでしたか。
 確かに明石さんは明石教授のことが大好きですからねぇ」

「そうですね。明石教授からも娘自慢を聞かされることもありますし、あの親娘は仲が良いですよね。
 ああ、でもそうだなぁ。アスナ君が小学生の頃はいろいろと遊びに連れて行ったけど、中学生になってからはほとんどないなぁ。
 ………………もしかして、アスナ君に何かあったのかい?」

「特に何かあったというわけじゃないんですけどね。まだ明日菜さんとも2週間しか付き合いがないですし。
 でも、学費を早く返すために新聞配達のアルバイトを頑張っているのを見ると、明日菜さんって責任感が強いというか、一人で頑張ろうとしているように見えてしまうんですよね。
 タカミチは明日菜さんから弱音とか聞いたことあります? 勉強関連以外で」



 ム、最初は何なのかと思ったけど、意外に真面目な話らしい。

 …………アスナ君の弱音か。小学生の頃は雪広君とのことをよく愚痴っていたけど、そういえば最近は個人的なそういうのは無かったな。
 そういえば僕はアスナ君の保護者なのに、被保護者から一度もそういう相談や弱音を聞いたことがないというのはマズイかな?


 確かにアスナ君は頑張り屋さんだから、最近はそれに甘えてアスナ君に気を払っていなかったかもしれない。
 アスナ君が普通の女の子として暮らしていることに喜んでいたけど、少し平和ボケし過ぎていたか…………。

 何をやっているんだ、僕は。
 彼女はガトウさんから託された大事な女の子なんだぞ。





「…………ありがとう、ネギ君。確かにアスナ君が何も言ってこないことに甘えていたかもしれない。これから注意してアスナ君を見てみるよ。
 といっても、しばらく出張に行かなきゃいけないから、悪いけどネギ君もアスナ君を見ていてくれないかい?」

「わかってます。明日菜さんにはお世話になっていますからね。
 まあ、男性には言えない悩みなんかを持ってた場合だと、しずな先生に力を借りることになると思いますけど。例えば、恋の悩みとか…………」

「ハハハ、その場合は僕でも一緒さ。しずな先生、そのときはよろしくお願いしますよ」

「ハイ。そのときはお任せくださいな」

「そういえば明日菜さんに彼氏でも出来たら、タカミチはどうします?
 やっぱり「ウチの娘が欲しかったら僕を倒してからにしろ!」とでも言うんですか?」

「おいおい、僕はそんなステレオタイプな厳格な父親じゃないよ。アスナ君が選んだ男ならグダグダ言ったりしないさ
 というか、いったい何処でそんなことを覚えたんだい、ネギ君?」

「アラ? 高畑先生は案外子煩悩なタイプだと思いますわよ?」



 ………………まあ、あんまり酷いようなら僕の『居合い拳』が唸ることになるかもしれないけどね。
 でも、きっとアスナ君が選んだ男ならおそらく大丈夫さ…………多分。


 しかし…………アスナ君に彼氏かぁ。

 もう中学生3年生にもなったのだから、そういう話が出てきても当たり前の話なのかな?
 でも僕にはそういう関係の話は出来ないから明石教授辺りに相談してみようか。あの人もアスナ君と同い年の娘さんを持っているのだし…………。







「明日菜さんは「大人の男性」がタイプって言ってましたけどねぇ。
 明石さんが言っていたことを置いといても、案外タカミチのこと好きなんじゃないですか? というか、明日菜さんと接する機会がある男性ってタカミチの他にいます?」


 え? …………えーっと、同僚の瀬流彦君みたいな男性教師と…………部活は麻帆良女子中ウチの学内の部活だから男性はいないな。それに顧問は僕だし。
 あ! アルバイト先の新聞販売店のお父さん…………って駄目じゃないか! 僕より年上だし、何より既婚者だろ!

 …………アレ? そう考えると、アスナ君は男性と接する機会って少ないな。
 女子中に通って女子寮暮らし、しかもアルバイトで忙しいとなるとしょうがないのかもしれないけど。


「アラ、ネギ先生の話が現実味を帯びてきましたわね」

「ちょ、からかわないでくださいよ、しずな先生。そんなことあるわけないじゃないですか。
 アスナ君は僕にとって、妹というか娘みたいな女の子ですよ」

「ハァ、駄目ですよ高畑先生。中学生をそう子供扱いしては。今のあの子たちは丁度大人と子供の中間で、とても不安定な年頃なのですから。
 それに大事なのは高畑先生の気持ちではなく、神楽坂さんの気持ちですわ」

「…………う、すいません」

「ア、アハハ…………ごめんなさい。変な話題振っちゃったみたいですね。
 明日菜さんがタカミチのことを男性として好きなのかどうかはわからないのですから、そこまで気にしなくていいのでは?」

「確かにそうですわね。
 でも、もし告白されてしまった場合は、子ども扱いをしないで一人の女性として相手を見て、お茶を濁さずにちゃんと返事をなされた方が良いと思いますよ」

「…………そうですね。そんなことがあるかどうかわからないですけど…………。
 もしその時が来たら、真剣に返事をしますよ」

「アラ? 受け入れるのですか?」

「いえいえ。さっきも言ったようにアスナ君は僕にとって、妹というか娘みたいな女の子です。
 アスナ君の気持ちは嬉しいですけど、受け入れることは出来ませんよ」

「イヤ、まだ告白されてもいないんだから、別に断ることに決めなくても良いんじゃないかなぁ…………なぁんて………………アハハ…………ハ?」



 そうだなぁ。アスナ君ももう中学生なんだ。そういうのに興味が出てきても当たり前なんだよなぁ。
 彼氏とかを連れてきたら正直言って微妙な気持ちになるだろうけど、アスナ君の見る目を信じることにしよう。アスナ君が選んだ男ならきっと大丈夫さ。


 …………おっと、いけない。もうこんな時間か。
 早く準備しないと次の授業に間に合わなくなるな。

 それと今回の出張から戻ったら、アスナ君と少しゆっくり話してみようかな。
 最近はあまり話し合いとかはしてなかったから、丁度良いだろう。






 ところで、何でネギ君は「やっちゃったよ…………」みたいな顔をしてるんだろう?












━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



 …………今日の英語の小テストでバカレンジャー全員に負けちゃった。

 最近あの5人は勉強を頑張っていたみたいだけど、負けたのは正直に言ってショックだった。
 ああ、この前のネギ先生の言葉が胸に突き刺さる。



 模擬戦からしばらく経った日、朝に夕凪で素振りをしていたらネギ先生がいきなりやってきた。

 …………一応夕凪を扱っていたので、護符で人払いはしておいたはずだったんだがな。
 それにネギ先生が近づいてきたことに全然気がつけなかった。ネギ先生は気配遮断が凄い上手みたいだ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「おはようございます、桜咲さん。
 朝の鍛錬中に申しわけありません。少しお話がしたかったものですから」


「お、おはようございます、ネギ先生」


「学園長から木乃香さんの護衛をしていることは聞きました。僕に手伝えることがあったら遠慮なく相談してくださいね。
 いやぁ、木乃香さんのお父さんが“青山詠春”さんだったとは思ってもいませんでしたよ。ああ、木乃香さんに魔法を秘密にしておきたいというのも聞いてますので大丈夫です。
 それでなんですが、桜咲さんの成績のことで少々お話が…………」


「ハ、ハア…………私の成績、ですか?」
 

「ええ。…………その、成績落ちきてますよね。
 麻帆良に入学当初は“中の上”ぐらいだったんですが、最近は“下の上”と“下の中”の中間ぐらいですよね」


「う!? た、確かに私は勉強があまり得意ではないですが…………。
 木乃香お嬢さまの護衛と腕を磨くための鍛錬もありまして、なかなか勉強する時間が取れないのです…………」


「ええ、それはわかります。僕も担任補佐の仕事だけで手一杯だから、他の人たちみたく“魔法先生”として働けていないです。だから二束の草鞋が大変なのはわかります。
 しかしですね、エスカレータ式で高校に入学出来ても、高校には“留年”というものがあるんですよ。桜咲さんは徐々に勉強に着いていけなくなったのかもしれませんけど、どんどん成績が下がっていってます。
 この調子で高校に入っても成績が下がるようなら、おそらく留年しちゃいますよ」


「…………りゅ、留年ですか?」


「ええ、そうです。実際問題、留年しちゃったらどうします? 木乃香さんの護衛のために同じクラスにいるんですよね? 留年して学年違うようになったら、護衛に支障が出るんじゃないですか?
 まさか学園長に、「このままでは留年してしまいます。木乃香お嬢さまの護衛のために、成績に下駄を履かしてください!」とでもお願いするわけにはいかないでしょう?」


「ま、まさか!? そのようなこと学園長に頼めるはずありません!!!」


「ですからね、授業はちゃんと受けましょうよ。あとで困るのは桜咲さんですよ。
 それに2-Aにはエヴァさんとか龍宮さんがいるじゃないですか。女子寮にいるときとかならともかく、授業中に何かあったらあの二人も対処してくれるから大丈夫ですよ。
 龍宮さんはあとで料金を請求されるかもしれませんが、きっと力を貸してくれます」


「ええ、まあ。確かに龍宮なら報酬を用意すれば力になってくれるでしょう。
 しかし、エヴァンジェリンさんが力を貸してくれるとは思えないのですが…………」


「何を言っているんですか?。
 もし教室にいるときに、エヴァさんの目の前で木乃香さんに危害が加わるようなことがあったら、犯人は「“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”なんぞ恐れるに足らず」と言っているのと同じです。そんなこと、あのプライドの高いエヴァさんが許すわけないでしょう。
 まあ、その場合は木乃香さんを守るためではなく、自分をコケにした奴を〆るという感じになるでしょうけどね」


「た、確かに…………」


「だから授業時間ぐらいは授業に集中してください。今でも木乃香さんのこと気にしてて、勉強に手が付いていないじゃないですか。今から勉強を頑張れば、高校に入ってからも安心できますよ。
 それに今はまだ赤点とって補習を受けることはないみたいですけど、もし補習を受けるようなことになったら護衛の方も大変ですよね」


「それはそうです。正直な話、今でも完璧に木乃香お嬢さまの安全を確保できているというわけではありません。
 補習なんかを受けるようになった場合は、もっと護衛出来なくなってしまいます」


「僕のお世話になっている木乃香さんの部屋には入りにくいでしょうから、まずは放課後に行なわれる居残り授業に参加してみてください。他のバカレンジャーの皆さんも参加予定です。
 剣道部に参加する時間を削れば大丈夫でしょう。
 きっと「勉強会に参加したい」と言えば、顧問の先生だって許してくれる筈です。むしろ喜んで送り出してくれる筈です」


「え? 何でそう思うんですか?」


「え? …………べ、別に顧問の先生に話を聞きに行ったわけじゃないデスヨ。
 そ、そうだ! 英語だけでなく他の4教科も僕は出来ますので、わからないところがあったら遠慮なく質問してくださいね。
 それでは朝の鍛錬中にお邪魔しました!」





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 ………………ネギ先生の逃げ足は速かったなぁ。
 というか、“他のバカレンジャー”ってことは、私もバカレンジャーと思われているのか?


 アハハ。バカレンジャーじゃないな。英語の小テストで負けたんだから、私が下だよなぁ。
 レンジャーじゃなくて悪の組織の下っ端戦闘員だな。


 それともアレか? 途中加入の6人目か?
 私は何色だ? 緑か? 白か? 銀色か?

 フフフフフ、きっと白やな。どーせウチは禁忌の忌み子なんや…………。







 結局、私は居残り授業に参加することにした。
 さすがに学園長に、「このままでは留年してしまいます。木乃香お嬢さまの護衛のために、成績に下駄を履かしてください!」なんか言えない。
 それにもし留年してしまったら、私を信じて木乃香お嬢さまの護衛にしてくれた長に何てお詫び申し上げればいいのだろうか?


 …………何だろう。木乃香お嬢様が私を見つめていらっしゃる。
 そんなとき、以前だったら申し訳なさで心が張り裂けそうになったのに、今は申し訳なさで心が萎みそうになる。私はどうしてしまったのだろう?
 ハハハ、これじゃ護衛失格だな。


 イヤ。まずは勉強を頑張らなければ。
 もし本当に護衛をクビになってしまったら、私は何をしていいかわからなくなる。


 ネギ先生には感謝しなければ。確かにこのまま高校に進んでいたら、確実に不味いことになっただろう。
 最悪なことになる前に解決出来るチャンスを手に入れることが出来た、と前向きに考えよう。

 神楽坂さん達だって勉強を頑張っているんだ。
 私だって頑張らなければ。







 アレ? そういえば何で神楽坂さんは落ち込んでいるんだろう?
 せっかくの居残り授業なのに。

 イヤホンで何かを聞くまでは元気だったのになぁ…………。











━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



 …………ああ、協力ありがとうね、ネギ。大丈夫よ、まだ生きているわ。
 テープレコーダー返すわね。こんなことに貸してくれてありがとう。

 …………ううん。別にネギが悪いわけじゃないわ。
 何となくわかっていたことなんだから…………。



 …………うん、大丈夫よ、木乃香。コレぐらいへっちゃらだって…………。




 ………………ゴメン、木乃香。今日はネギ貸して頂戴。
 え? 抱いて寝たら、暖かくて気持ち良いんでしょ?

 大丈夫大丈夫。明日も新聞配達のアルバイトあるから早めに寝なきゃね。















 …………。

 ……………………。

 ………………………………終わった。私の恋。










【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:初恋の人を成仏させると言われたせいで胃痛
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という困惑
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた ← new!
 タカミチ:コーヒー吹かされた ← new!
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任 ← new!
 明日菜:失恋 ← new!



[32356] 第15話 部活巡り
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/06 18:46




━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



「ただいまー。うー、寒い寒い」

「お帰りなさい、明日菜さん。休日の朝から新聞配達お疲れ様です」

「お帰り、アスナ。昨日今日と一段と冷えるなあ。何でもこの冬一番の寒さらしいやえ」

「どーりで寒いわけね。この寒さでミニスカートは辛かったわ。
 着替えるのが面倒とはいえ、ズボン穿いていけばよかったわね」


 明日菜さんが元気になってよかったなぁ。この前まで死人みたいになってたし。
 いくら頼まれたとはいえ、タカミチに明日菜さんのコトをどう思っているのか聞き出すなんて、やっぱり断ればよかった…………。
 原作知識で無理ってわかってたんだしなぁ。あの結果はさすがに罪悪感が沸きましたよ。


 …………やれやれ、面と向かって振られた原作はこれよか数段マシですね。
 告白する前に断られるのがわかってしまった方がダメージは大きいです。


 とりあえず“大切な女の子”みたいな言葉をタカミチから引き出そうと思ってたのに、しずな先生の参加で変な方向に持っていかれてしまいました。
 しずな先生に悪気は無かったんでしょうけどねぇ…………。


 …………? あれ?
 どこからか「お前が言うな」という声が…………?











「えいっ!」

「うわひゃっ!?!?」

「あ、コラ。湯たんぽは大人しくしてなさい。こっちはこの寒い中で新聞配達してきて、すっごい体が冷えてるんだから」


 そして失恋した明日菜さんはやけにくっつくようになってきました。人肌が恋しいんですかね?
 僕だけじゃなく、木乃香さんも何かあれば抱きつかれたりしてるので、まだ失恋のショックが尾を引いているようです。
 最近寝るときは明日菜さんの抱き枕にされてます。

 まあ、しばらくは明日菜さんの好きにさせましょう。
 この世の全てに絶望したような明日菜さん見てたら、反抗する気が失せました。


「ねー、今日はどうするの?
 先週の休みは授業の準備で忙しかったみたいだし、私の勉強も昼は休むんでしょ」

「そうですよ。最近明日菜さん頑張ってますからね。息抜きも必要です。夜の勉強はいつも通りしますけど、それまではゆっくりしてください。
 他の皆さんも頑張ってますからね。多分、2-Aは今度の期末テストで最下位脱出できますよ」

「よかったなー、アスナ。やっぱりアスナはやれば出来るんやよ」

「アハハ、私も最近ようやく勉強の仕方がわかってきた気がするのよね。
 ネギがこの部屋に住んでくれてありがたいわ。家庭教師をタダで雇っているみたいなんだもの」


 誉めてくれてありがとうございます。僕も明日菜さんの役に立てて嬉しいですよ。

 でもだからって、シャツの中に手を入れてサワサワとお腹を触るのやめてください。
 明日菜さんは暖かくて気持ちいいかもしれませんが、僕は普通に冷たくて何よりくすぐったいです。

 というか、完璧無意識でやってますよね。


 それと勉強頑張るのはいいですけど、失恋のショックで勉強にのめり込むのはマズイと思います。





「最近勉強ばっかりしてた気がするわね。今日はどうしようかしら?」

「そうやね。ネギ君は何か予定あるん?」

「今日は皆さんの部活を見て回ろうかと思ってます。担任補佐の仕事にも余裕が出来てきましたので、そろそろ麻帆良巡りをしてみようかなぁ、と。
 クラスの皆さんにも見学に来るよう誘われてますし」

「そういえばくーへとかとそういう約束してたもんなぁ。
 あー、今日は図書館探検部の活動はないから、見学して貰えなくて残念やなぁ」

「ええ、中武研は午前に集まりがあるらしいですから、それを覗いて他にも回ってみようと思います」


 今の古菲さん相手なら、素の僕でも負けはしないでしょう。
 古菲さんが意識的に気の扱いをするようになったら、さすがにコッチも魔力か気を使わないと勝てませんがね。

 あー、バイアスロン部って今日やってたかな?
 やってたらライフル撃たせて欲しいんだけど…………。

 剣道部…………はやめておきますか。
 木乃香さんと一緒に行ったら、刹那さんに何言われるかわかりませんし。


「じゃあ、私が案内してあげるわ。ネギには勉強を見てもらっているし、そのお礼に少しは面倒見てあげないとね」

「あ、ならウチも着いてくわ。たまにはそういうのも面白そうやし」

「ありがとうございます。地図片手に見学しようと思っていたので、案内していただけるのは助かります」

「あー、じゃお弁当作ろうかな。何かピクニックみたいで楽しいやん」


 お弁当かー。
 そういえばそういうのはまだ食べてなかったな。でもなぁ…………。





「それは別の機会でもいいですか?
 お昼には食べてみたい所があるんですけど」












━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━



 …………ダリィ、腹減った。昨日は休みの前日だからってうっかり夜更かししすぎた。寝たのが朝方だったからなぁ。
 腹が減って目が覚めたのに、買い置きのカロリーメイトとか切らしちまってたし…………。


 それにしても、麻帆良の変なことは遂に極まれりだな。
 何なんだよ、10歳の教師ってのは。労働基準法ってのは何処行ったんだよ…………。

 まあ、わざわざイギリスから麻帆良に教師になりに来たっていうぐらいだから、優秀なことは優秀なんだよなぁ。教え方もうまいし。
 ヘタしたら高畑より優秀なんじゃねーか?

 少なくともあのガキが来たおかげで、高畑が出張ばっかりなせいでホームルームが自習になりまくってた頃よりはマシにはなったんだよなぁ。


 あのいつもお祭り騒ぎ状態のクラスを纏め上げているし、バカレンジャーの連中が勉強を頑張るようになったのも凄い。
 身体が空いているときは、担当の教科以外のときでも授業補佐としてクラスにいる。

 おかげで英語だけでなくて、他の教科の成績も上がってるらしいな。


 というか、あのガキの担当は英語なのに、何で国語の成績が一番上がるんだよ?

 あのガキが言うには、

「僕が難しいと感じたところを重点的に教えているだけですよ。
 あと日本人の国語の先生は日頃から日本語に慣れ親しんでいる分、感覚的になってしまうところがありますからね。僕は逆に理論的に日本語を学んで、その通りに教えているのでわかりやすいんじゃないでしょうか」

 ってことらしいがな。


 …………まあ、理屈はわからんでもない。クラスの中でも留学生である古の国語の成績が一番上がってるらしいし。
 それといくらなんでも10歳の外国人のガキに国語を教わるのはマズイ! とクラスの連中が思ったのが国語の成績が特に上がった要因だろーな。


 くそっ! あのガキの中身はマトモそうなのに、あのガキの存在自体がマトモじゃないってのが余計に悔しい!













 と、思っていた時期が私にもあったよ。

 何であのガキが近衛をお姫様抱っこして、神楽坂と一緒にコッチに向かってダッシュしてくんだよ? 愛の逃避行かぁ?
 というか、よく近衛を抱っこしてあんな風に走れんな。


「こんにちは、長谷川さん! 丁度いいところに!
 古菲さんが来たら僕達はアッチに逃げたと言ってください!!!」

「こんにちは、ネギ先生……って、ちょっと!?」


 私の返事も聞かずに近くの茂みに隠れる3人。
 くそっ! やっぱりあのガキの中身もマトモじゃなかったんだ!
 それに古だと?

 いったい何なんだよ……って…………おお…………? 古の奴が凄い勢いでコッチに向かってくるぞ?


 ああ、厄介ごとに巻き込まれちまった。
 早く飯食ってブログの更新しなきゃいけねーのに…………。





「長谷川ーーーーー!!! 今ココをネギ坊主達が通っていかなかったアルか!?」

「…………あ、ああ。近衛をお姫様抱っこしてたのに、神楽坂と一緒に凄い速さでアッチに走ってったぞ。」

「教えてくれてありがとうアル! ネギ坊主! 勝ち逃げは許さないアルよ!!!」



 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨とすげぇ勢いで走っていく古。

 だから何で生身の人間があんなに早く走れるんだよ!?
 それに“勝ち逃げ”? あのガキが中武研部長のデタラメな古に勝ったってのか?









「すいません、長谷川さん。ご協力感謝します」

「…………あー、いえ。別に…………」


 古が立ち去ってからヒョッコリ出てくるこのガキ。
 いや、そのために隠れていたんだからしょうがないんだが、それでも何故かむかついてくる。

 相変わらずニコニコと、いつも変わらない表情しやがって。


「しかし、ええんかな? くーへ怒ってたで?」

「ネギの言ったことはわかるけど、はっきり言ってトンチの類よ」

「ま、大丈夫でしょう。古菲さんは勝ち逃げと認識されてるみたいですから、予定通りに次の目的地へ行けば古菲さんは怖くないです」


 トンチ? ああ、それならわかった。
 どーせこのガキが赴任初日に鳴滝姉妹を嵌めたように、単純な古を嵌めたんだろ。


「…………あー、もう行っていいですかね?」

「あ、ありがとうございます、長谷川さん。
 …………僕達これから昼食なんですけど、もしよろしかったら一緒にどうですか?」

「いえ、結構です」


 お前達なんかに付き合っていられるかよ!
 私はさっさと飯食って帰ってブログ更新すんだ。この理不尽さを社会に、大衆に訴えるんだよ!


「ちょうど臨時収入があったので奢りますよ。まだあまり長谷川さんとはお話出来てませんでしたし。
 どうせ明日菜さんと木乃香さんには案内のお礼にご馳走させていただこうと思っていましたので、助けていただいた長谷川さんもよろしかったら是非どうぞ」


 って、うお!? 食券200枚ぐらい持ってやがる、このガキ!?
 どうやってそんなに手に入れた!?



「うっわー、ネギ太っ腹ぁ。何でも頼んでいいの?」

「ありがとなー、ネギ君」

「こういうあぶく銭はパァーッと使った方がいいですからね。食べられるんなら構いませんよ。
 食べてみたいところがあるので先ずはそこへ行きますが、そのあとは甘味処巡りでも何でもお付き合いします。
 あ、ただし、食べきれない分まで頼むのはナシです。もったいないですからね」



 ………………ぐ。普段はカロリーメイトなんかで過ごしているが、旨いものが嫌いなわけじゃない。
 しかもこの前買ったコスプレ材料を奮発したせいで、最近はロクなもの食ってなかったしなぁ…………。

 てゆーか、本気で腹減った。飯食いに外に出てきたのに…………。





「グウゥ~~~」

「「「あ」」」



 ぐあ!?

 屈辱だ! こんな状況で腹を鳴かすなんて、どこの腹ペコキャラだよ!?
 くっ、消すしかない。もはやこいつらを殺るしか…………。



「どうですか、長谷川さん?
 古菲さんもまだ辺りを探し回っているでしょうから、一緒に安全な所に行きましょうよ」



 ……………………そうだな、まだ古の奴がうろついているかもしれんな。
 しかも私がこいつらの手助けをしたとバレたら、面倒なことになりそうだ。

 だったらしょうがない、よな。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「…………で、超包子ココですか?」

「ええ。茶々丸さんや四葉さん達に誘われていましたので」

「いらっしゃいませ、ネギ先生」


 よりにもよって超包子ココかよ!?
 確かに旨いものは食えるが、超包子(ココ)なのかよ!? そもそも中学生が何で屋台を経営出来るんだよ!?


 …………しかも、だ。



「…………あの、ネギ先生。古がずっとコッチを睨んでいるんですが?」

「大丈夫ですよ。元々古菲さんはここでウェイトレス兼用心棒としてアルバイトしてる上、四葉さんがいるのなら滅多なことになりません」


 なんでこのガキはこんなに平然としているんだよ!?
 古のあの目は明らかに殺る目してるだろ!?

 てゆーか、古に手招きすんな! 「一緒に昼食どうですか?」とか聞いてんじゃねえっ!


「…………これがネギ坊主の護身術アルか?」

「そうですよ~。護身術の基本は“危険なところに近寄らない”、“安全な場所にいる”ですからね」

「アハハ、そうネ。そういう意味では確かに超包子ココは最高に安全な場所アルよ」


 ハッハッハ、と笑いあう2人。
 …………やっぱり飯に釣られるんじゃなかった。





「ま、とりあえず注文しちゃいましょう。長谷川さんが「ワケがわからないよ」みたいな顔をしてますので、その間に説明しましょうか。
 古菲さんもお好きなものをどうぞ。たまにはアルバイト先の客になるのもいいのではないですか?」

「…………わかったアルよ。負けは負けネ。今更どうこう言ったりしないアル。
 でも、さすがにこれはどうかと思うアルよ、ネギ坊主」


 古が一枚の紙を差し出したが、そこに書かれていたのは

「護身術真髄“逃げるが勝ち”」

 だった。


 ……………………このガキ、逃げたんか?









「ネギ坊主は酷いアル。最初の試合は良かったけど、その次のは戦いとは呼べないアルよ」

「私から見たら、最初の試合もよくわかんなかったんだけどね。
 10分の間あんまり動きはなかったし、結局ほとんどが睨み合いだったでしょ? しかもネギは杖を使ってたけど、くーふぇは素手だったじゃない?」

「確かにそうアル。しかし、ネギ坊主の修めている技はあくまで“護身術”。
 私が仕掛けようとしても全て出足を潰されてしまっていたアル。あのまま続けていてもネギ坊主を捕まえられなかったアルね。
 一方のネギ坊主はこれが“試合”じゃなかったら、大声で助けを呼ぶだけで良いアルね」

「ふーん。くーへから見たらネギ君って強いん?」

「うーん…………10歳ということを考えたら凄いと思うアル。
 でも、あくまで10歳の男の子だから、女でも14歳の私の方が身体能力は上アルね。私が負けたのは相性の問題と武器の有無、あとは私がネギ坊主を甘く見てたことアルよ。
 私としてもあの戦いは良い勉強になったアルよ」


 このガキ結局は古に勝ってたのかよ!?
 …………まあ、ガチンコ勝負で勝ったのとは違うし、武器有りで古も甘く見てたらしいからありえなくはないのか?


「おかげで食券儲けさせて頂きました。
 古菲さんに賭けてた中武研の人達にもお礼を言っておいてください」

「それで食券をそんなに持ってたんですか。自分が勝つ方に賭けるなんて…………。
 それに教師が賭け事していいんですか?」

「アハハ、自分が負けるのに賭けて、わざと負けるとかじゃないからいいんですよ。というか、僕に賭ける人はいなかったので、賭けが不成立になるところでしたし。
 教師が賭け事云々は耳が痛いですが、期末テストで2-Aが1位をとることに一点買いするので多めに見てください。
 それに僕はイギリス人ですし」


 ああ? 日本人だろーがイギリス人だろーが関係無………………そっか。このガキってイギリス人だったな。
 イギリス人つったら“クリスマスに雪が降るかどうか?”すら賭けにするぐらいの賭け好きなんだった。“ブックメーカー”ってやつだったか?

 賭け事に嫌悪感抱かないのは国民性の違いかね?





「最初の試合は私の負けで納得済みアルよ。
 けど次のコレはどういうことアルか?」

「まぁなぁ。いきなりネギ君が「わかりました。そこまで言うなら護身術の真髄をお見せしましょう。準備があるので更衣室をお借りします。明日菜さんと木乃香さんは手伝ってください」なんて言うたのに。
 更衣室に行って置手紙用意したと思ったら、いきなり窓開けてそっから逃げだすんやもん。アレにはビックリしたわ」

「いやあ、身を守るための護身術ですからね。そもそも戦う必要がなかったのなら戦いませんよ。僕も身体を動かすのは好きですし、誰かと競い合うのは嫌いというワケじゃありませんけどね。
 でも、あそこで逃げておかないと、何試合もやる羽目になりそうでしたし」

「…………う」

「あー、確かにそうなったわね。くーふぇの目がキラッキラに輝いていたもん」

「むうぅーっ! わかったアルよ。
 ネギ坊主、また日を改めてなら戦ってくれるアルか?」

「程々にお願いしますよ。僕も仕事があるので」


 ………………やっぱり変なガキだ。
 こいつ年齢詐称してんじゃねーのか?





「…………あの、ネギ先生。前から聞きたかったんですけど、何で10歳なのに麻帆良で教師をやってるんですか?」

「ん? んー…………複雑なようで単純な話なんですがね。大人達の事情に巻き込まれたんですよ。
 僕の父も業界では結構な有名人でして、僕はその後継者と期待されているといいますか…………無理矢理にでも後継者にして自分達に都合のいい客寄せパンダにしそうな大人達がいるんですよ。
 で、その自分を引き込みたい大人とか、そういうことに巻き込みたくない僕の祖父でもある学校長とか、そもそも常識を勉強させなきゃマズイと思った大人とかの、いろんな大人達の事情と思惑が絡み合った結果ですね。
 まあ、引き受けたからには精一杯務めるつもりですけど」


 …………いきなりヘビーな話になりやがった。
 このガキはこのガキで結構苦労してんだな。


「元々僕も日本に興味があったから、特に文句もつけませんでしたけどね。
 父が京都に住んでいたことがあったらしいですし、タカミチからも日本の話を聞いて興味を持ってましたし、ジャパニメーションも見てましたからね。
 でも、麻帆良のようなアニメみたいな町に住むことになるとは思ってもいませんでしたよ」





 …………アニメみたいな●●●●●●●





「ネ、ネギ先生が予想してたような日本とは違ったんですかね?」

「予想していたといいますか、少なくとも茶々丸さんみたいなロボットと会えるなんて思いませんでしたねー。さすが日本です。僕の住んでいた田舎とは違いますね。
 麻帆良はまるでジャパニメーションに出てくる町のようです。まさかこんな町が現実にあるなんて思いませんでした」


 このガキ!? もしかしてアニメと現実がゴッチャになってやがるのか!?
 …………あ、このガキにしたらゴッチャじゃなくて、アニメみたいな現実が実際にあったということなのか?


「そ、そうなんですか。
 …………でも、日本の中では麻帆良も結構変わってる方ですよ。アハハ…………」

「まあ、日本も広いですからね。ところ変われば学校も変わってくるでしょうね。
 けど僕の住んでいたところに比べれば、麻帆良でも麻帆良以外でも大きく違っているということには変わりないですし」

「ネギ君住んでたトコってどんなんなの?」

「自然に囲まれたところ、と言えば聞こえはいいですが、実際は自然しかない田舎ですね。
 どのくらい田舎というと、そうですねぇ………………あ、僕が日本に来るためにロンドンのヒースロー空港から飛行機に乗ったんですけどね。そのとき初めて“エレベーター”に乗りました!」


 田舎モンだ! 間違いなくこのガキは田舎モンだ!!!

 ま……まさかこのガキ。
 元々はマトモで麻帆良に違和感を感じていたのに、「日本って凄いんだなぁ」で終わらしてたのか!? 「都会って凄いんだなぁ」で納得してたのか!?


 ………………有り得る。
 このシッカリしていそうだけど、根っこは素直すぎるこのガキなら有り得る。





「それとまさか本当に忍者がいるなんて思ってもいませんでしたよ。
 頼んだら“分身の術”とか教えてくれませんかねぇ?」

「あー、本人は否定しとるけどなぁ」

「え? 楓ってば本気で隠している気なの?」


 畜生! そうだよな! 忍者がまだいるって本気で信じている外国人もいるらしいからな!
 実際にそういうの見たら信じちまうよな! “分身の術”なんか出来るわけねーだろーがっ!!!





 マ、マズイ…………このままじゃ、このガキの中では麻帆良が普通に分類されちまうぞ。

 ヘビーな事情で日本に来た上、こんな異常な所を普通と思い込んじまうなんて、いくらなんでも不憫すぎる!
 このまま麻帆良で過ごしていたら、このガキの将来どうなっちまうんだよ!?





 …………駄目だ、このガキ。早く何とかしてやらないと。







「ネギ先生、お待たせしました。杏仁豆腐です」

「ありがとうございます、茶々丸さん」


 平然とロボットから杏仁豆腐を受け取ってるんじゃねえっ!
 あんなロボットがいるなんておかしいと思わねぇのかよ!?


 ………………無理だよなぁ。まだガキだもんなぁ。
 小さなガキに当たり前のように麻帆良を見せ続けていたら、麻帆良を普通と思い込んじまうよなぁ。

 
 ムキ~~~~~ッ! 私の普通の学園生活を返せっ!!!
 これ以上、このガキを理不尽に汚染するなぁっ!!!





━━━━━ 後書き ━━━━━



 やっべぇ、ちうたん書いてて楽しいw
 何だかんだ言ってちうたんは面倒見がいいので、理不尽なことに巻き込まれている純真な子供がいたら見て見ぬ振りは出来ないでしょうw

 しかし実際のところ、その純真な子供は理不尽に巻き込まれているどころか、逆に理不尽な権化とも言うべき存在なのが残念なのですが。


 ちうたんをどうしようかと迷ったのですが、放っておくことも、裏のことを教えるのもここのネギらしくありません。
 ということで、裏のことを教えないまま味方になってもらうことにしましたw



[32356] 第16話 恋する乙女
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:31



━━━━━ 綾瀬夕映 ━━━━━



「のどかには積極性が足りないのよっ!」

「え? ええ~? そ、そんなぁ~」

「ハルナ。のどかにはのどかのペースがあるのです」

「甘い、甘いよユエっ! ネギ君みたいな優良物件。そんじょそこらにいるわけないわ!
 気を抜いてると、他にとられちゃうわよ!」


 ハルナには困ったものです。
 どう考えてものどかの性格では、積極的にネギ先生にアタックするなんて無理ではないですか。


「いや~、でもね。本当にネギ君は人気あるよ。
 ショタコンのいいんちょはともかく、一緒の部屋に住んでる木乃香とアスナはもう家族といっていいぐらいの仲になっているしねぇ。
 他にも武道四天王であるくーちゃんや刹那さん、龍宮さんもネギ君には一目置いているし、あまり他のクラスメイトと関わらないエヴァちゃんや茶々ちんでさえネギ君とは話すんだよ」

「そういえば、ネギ先生はくーふぇさんに試合で勝ったらしいですね。
 次に戦ったらわからないとは言ってましたが…………」

「ネ、ネギ先生せんせーって強いんだぁ。
 私を助けてくれたときも凄かったし…………」


 確かにネギ先生は人気ありますね。
 木乃香さんはネギ先生を弟みたいに可愛がっていますし、アスナさんは凄く落ち込んだときにネギ先生に励ましてもらったらしく、元気になってからはネギ先生とはとても親密になっています。

 私は恋愛はまだよくわかりません。私にとってネギ先生は、妙にこましゃくれた子供という感じなのですけどね…………。



 確かにネギ先生が担任補佐となってから、私を含めて皆の成績が順調に上がっていってます。
 ネギ先生に勉強をすることとしないことについてのメリットとデメリットを一つずつ述べられ、それで最終的に勉強することを私は選びました。
 確かに補習や居残り授業で読書の時間や図書館探検部の時間を削られるぐらいなら、最初から勉強して補習や居残りを避けるようにしますよ。


 しかし、逃げ場を塞がれた後で各々の自主判断に任された、というような手法をとられた感じがするのです。
 もとから選択肢が一つしかなかった。でも、自分の判断でそれを選んだことにされた。そんな気分なのです。





「だから! のどかはもっとネギ君に積極的にアタックしないと、担任補佐しているクラスの生徒の一人としか見てくれないわよ!」

「い……いいよ~。私はネギ先生せんせーとお話出来る今のままで十分だよ」

「…………お話っていっても、一日に2、3分もお話出来てないじゃん」

「ハルナ。言っていることはわかりますが、のどかの性格からしてそのようなことが出来るとは思いません。焦った挙句に悪い結果が出るのがオチです。
 それともハルナには何か良い手があるのですか?」

「フッフッフ、よく聞いてくれました。ここだけの話なんだけどね、ネギ君が今夜いつも私達が使う時間の後に、大浴場の方でお風呂入るんだって。
 ネギ君て温泉とか銭湯にいったことがないらしくて、寮長に許可貰って大浴場で広いお風呂を体験するみたいだよっ!!!」

「…………ハルナ。もしかしてのどかにネギ先生と混浴しろと言っているのですか?」

「えっ!? えええぇぇ~~~っ!? そ、そんなこと出来ないよ!」

「大丈夫大丈夫、水着着て入れば平気でしょ。しかも寮長と話しているのを聞いてたときにいいんちょとかも一緒にいたからね。きっといいんちょも混浴狙ってるよ。
 ホラ、担任補佐との親睦会ってことでさ~」

「委員長さんもですか…………となると、ウチのクラスのことですから、きっと他にもネギ先生とお風呂に一緒に入ろうとするのはいるでしょうね」

「で、でも、混浴だなんて…………」

「私達も一緒に行ってあげるからさ~。
 じゃあ、とりあえず水着持って大浴場行ってさ、他にもお風呂入ろうとしてた人がいたら、のどかも入るってのはどう?」



 …………フム、そこら辺が落とし所ですかね。
 はしたないことをすればネギ先生に引かれる恐れがありますが、のどかの性格を知っているネギ先生なら、周りで騒いでいるクラスメートに引っ張ってこられたと思ってくれるでしょう。
 それにこの一件を見逃して、ネギ先生と他の人の親密さが更に上がってしまうと、のどかが入り込む隙間がなくなってしまいます。







「それなら大丈夫ではないですか?
 最悪の場合はハルナにせいにすればいいだけですし」

「ちょっ!? ユエ酷いっ!?」





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「(で? やっぱりいいんちょも来たんだ?)」

「な、何のことですか!?
 私はただお風呂の時間がいつもより遅くなってしまっただけですわよ!」

「(大声出すとネギ坊主に気づかれるでござるよ)」


 そんなわけで大浴場まで来たのですが…………やっぱり多いですね。委員長さんを始めとして、長谷川さん、鳴滝姉妹の2人、楓さんに千鶴さんとナツミさんがいました。
 私達3人を含めて10人ですか。クラスの三分の一がここにいますね。


「(それにしても、千雨さんがこんなことに参加するとは思っていませんでした)」

「(…………いや、いいんちょ見てたらネギ先生が心配になってな。鳴滝姉妹は長瀬が手綱を取ってくれそうだが、いいんちょが暴走しそうで…………)」

「(そのときは千鶴さんにお願いするしかないです)」

「(てゆーか、早乙女の面倒はお前がみとけよ!)」


 …………きっと大丈夫だと思います。
 ハルナはきっとのどかのために頑張ってくれているのだと思うのです。











「何をやっているんだ貴様ら?
 風呂で水着なんか着て?」





 エヴァンジェリンさん!? また増えたのですか!?
 これ以上増えないように“ネギ・スプリングフィールド入浴中”という張り紙を、“立ち入り禁止”と改竄しておいたのに…………。


「(え? なになに?
  エヴァちゃんもネギ君とお風呂入りに来たの!?)」

「? 何のことだ? ネギがここの風呂を使っているのか?」

「(と、とりあえず声を小さくしてください!)」


 知らないのに“立ち入り禁止”を無視して入ってきたのですか。水着を持ってきていないようですし、本当にただの偶然みたいですね。
 エヴァンジェリンさんは寮外に住んでいるのに、たまにこの大浴場を使いに来るんですよねぇ。





「(あ、ネギ先生の服を発見したよ! 丁寧に折り畳まれてるのがネギ先生らしいよね。
  …………ネギ先生ってトランクス派なんだ)」

「(お姉ちゃん! 駄目だよジロジロ見たら…………)」

「(ネ、ネギ先生の下着…………)」

「(ちょ! コラ、いいんちょ! 鼻を押さえながらネギ先生の脱衣カゴに近づくんじゃねぇ! さすがにそれはヤバイぞ!
  那波と村上もいいんちょ押さえるの手伝え! 長瀬は鳴滝姉妹を押さえとけ!)」

「(あいあい。ホラ、少し落ち着くでござるよ)」

「(アラアラ、あやかったら)」

「(ち、ちづ姉、いいんちょの目がヤバイよ~)」



 何ですか、この混沌は? 本当にこんな面子の中でのどかがネギ先生にアピール出来るのでしょうか?

 というか、委員長さんと楓さんと千鶴さんのビキニ姿がマズイです。あの3人はスタイルも良く、かなり露出が多いビキニを着ています。
 ネギ先生もやはり男の子なので、ああいう格好が好きかもしれません。


 というか、ハルナ! あなたも大胆なビキニ姿になってるんじゃありません!
 あなたはのどかの応援のはずでしょう!





「(や、やっぱり私なんかじゃ…………)」

「(大丈夫です、のどか! のどかの水着は委員長さん達とは違う魅力があります!)」


 のどかの水着はセパレーツタイプの水着です。
 露出が多いわけではありませんが、清純そうなのどかに似合う可愛らしい水着でしょう。

 さあ、勇気を出してネギ先生にアピールするのです!









「フン、まあいい。私は風呂に入りに来ただけなんだ。先に入らせて貰うぞ」

「って、少しお待ちを! エヴァンジェリンさん水着はどうなされたんですか!?」

「風呂に水着なんか持ってきてるわけなかろう。10歳のガキに裸を見られても、別に何とも思わんしな」


 全裸!? 更なる勇者が!? 風呂に水着を着ないで入るなんて、どんだけ凄い勇気をお持ちなんですか!?
 さすがにそれはマズイですよ!



「(べ、別にお風呂に水着を着ないで入るのは普通じゃないかな~?)」

「(そういう問題じゃないよ、のどか! ここはのどかもエヴァちゃんに負けないために全裸で…………)」

「(のどかに何を言ってるですか、ハルナ~~~!)」















「…………騒いでないで、入るならさっさと入ってきなさいよ。あんたら」

「あー、やっぱりネギ君の言うとおりに皆入ってきたな~」





 え、あれ? アスナさんに木乃香さん?

 …………まあ、あんだけ騒げば気づかれますか…………って、何で風呂場のほうから出てくるのですか!?




「ど、どういうことですか、お二人とも!? まさか既にネギ先生と入浴なされていたなんて…………。
 抜け駆けですか!?」

「抜け駆けも何も、ネギに頼まれたのよ。「おそらくクラスの人達が大浴場に乱入してくるでしょうから、抑えのために一緒に大浴場に来てくれませんか?」ってね。
 10人も入ってくるとは思ってなかったみたいだけど」

「ちなみにネギ君も水着をちゃんと着てるで」


 …………う。さすがはネギ先生。私達のことをよくわかっているのです。

 ちなみに明日菜さんと木乃香さんは私と同じ、学校指定のスクール水着でした。
 他にも千雨さんとナツミさんと鳴滝姉妹もスクール水着です。












━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



 …………おんぶされたときに身体を触ってわかっていたが、改めて見るとネギの身体はなかなかガッシリとしているな。
 もちろん子供特有の柔らかそうな身体も同時に持っており、大人と子供の身体両方の良い所を合わせたような身体だ。

 やれやれ。本当に広い風呂に入りに来ただけで他意はなかったが、良いものを見ることが出来た。
 くっくっく、ネギの数年後が楽しみだな。



「エヴァさんて、髪の毛本当に長いですよね。
 そんなに長いと洗うのも大変そうですね」

「まあな。いつものことだから慣れているが、それでも時間はかかるな」


 結局、茶々丸に水着を持ってこさせたが、それでよかったな。
 ネギは何だかんだで紳士だから、水着を着ていないとコッチを見ようともしなかっただろうから。


「…………よし。髪を洗うのを手伝え、ネギ」





 でも今日はせっかくだから、ネギに髪を洗わせてみよう。
 先日、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』解呪の研究のために家に来たネギに、「体育の時間に捻った」と言って足をさすらせたのは良かった。

 もちろん私は椅子に座って足を組んでネギに足を差し出し、ネギは私の前に跪いて足をさする体勢だ。
 他に足をさすらせるための良い体勢がなかったから仕方あるまい。


 正直言って、興奮した。

 『咸卦治癒マイティガード』を発動させ、跪いて私に奉仕するネギ。久々に至福な一時を過ごせた。思い返すだけで顔がニヤついてしまう。
 膝を擦りむいていたとしたら、「舐めて治せ」と言えたのに残念だ。何も知らない純真な子供にああいうことをさせるのは、背徳感で背筋がゾクゾクするな。

 そういえば、茶々丸はあのときの映像を録画してたかな? してたら映像を後で見せてもらうとするか。









 ああ、ネギを早く私のモノにしたい。


 といっても、ナギのときみたいに焦ったら駄目だ。
 今の時点でネギに「私のモノになれ」と言っても、おそらく反発するだけだろう。ネギは天邪鬼っぽいところがあるからな。


 だからネギの方から告白させる。
 ネギの性格だと、コレと決めた女には一途な想いを貫く。例え私のような忌避される存在だとしてもな。
 我侭な性格ゆえに、惚れた女を我侭に愛するだろう。


 ああいう我侭な猫みたいな子供を私好みの男に育て上げ、ネギの方から「貴女のモノにしてください」と言わせる。
 何ともやりがいのあるゲームではないか。
 しかもいろいろとやりすぎてしまったら、ナギのときは封印されるだけで済んだが、ネギの場合だと私の命が危なさそうだ。


 だが、それがいい。
 このゲーム、ナギを私のモノにするよりも難しそうだ。くっくっく。





「どうした、ネギ? 特別に私の髪に触らせてやろう」

「オホホホホ、何を仰るのですかエヴァンジェリンさん。
 髪が洗うのが大変だと仰るのなら、私が手伝って差し上げますわ。風香さんと史伽さんも手伝ってくださいな」

「はーい、いんちょ」

「手伝ってあげるね、エヴァちゃん」



 え? ちょっ、待て!? 貴様らには頼んでおらん!
 というか、お前の顔に夜叉が見えるぞ、雪広あやか!!!



「殺してでも かみをあらう」



 な なにをする きさまらー!





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 …………フゥ、やはり広い風呂は良いな。家の風呂はここまで大きくないし、広い風呂のために別荘へわざわざ行くのも億劫だ。
 だからたまにこの女子寮の大浴場を利用している。





「それにしても、ネギって風呂好きよね。ちゃんと朝晩2回シャワー浴びてるし」

「いや、実のところあそこまでしなくても平気なんですけどね。
 前はキャンプで2、3日お風呂に入らないとかよくありましたし」

「あー、外国人はそうだっていうやね」

「え? じゃあ、何であんなに頻繁にシャワー浴びるの?」

「日本人は清潔好きと伺っていたからですよ。しかも女子中学生の相手をするんですからね。そりゃあ清潔さには気をつけますよ。
 皆さんから「臭い」とか言われたらショックですし」


 そういうところは紳士なんだよなぁ。
 足をさすらせたときも私がミニスカートだったから、すぐさま着ていた上着を膝に掛けられたし。





「いやあ! それにしてもネギ君は幸運だね! こんな美少女達とお風呂に入れるんだから!」

「ハハハ、そうですね。水着も似合っていて、皆さん綺麗です」

「それじゃあさ! この中で一緒に海とかプールに行くとしたら、誰が良い?
 あーっと…………スクール水着の人は除いてね。誰の水着姿とデートしたい?」

「ハ、ハルナったら、いきなりネギ先生せんせーに何言ってるの…………」

「あや? やったらちゃんとした水着を着てくればよかったわぁ」





 ム? 妙なことが始まったな。
 となると、候補は私と宮崎のどか、雪広あやか、長瀬楓、那波千鶴、早乙女ハルナの6人か。


 ………………私の勝ちだな!
 宮崎のどかはともかく、後ろの4人のような露出が多い水着をネギは好まんはずだ。





「え? えーっと、そうですねぇ。
 …………皆さんお綺麗ですけど、エヴァさんか宮崎さんですかね」

「そ、そんな!? ネギ先生!?」

「アラアラ、残念ね。あやか」

「振られてしまったでござるよ」

「よかったですね、のどか」

「はわわわ…………ネギ先生せんせーぇ…………」


 フハハハハ、そうだろうそうだろう。宮崎のどかも選ばれたのは気になるが、先に名前を呼ばれたのは私の方だ!
 やはりネギは私のような女が好みのようだな!





「ありゃー、残念。でも、どうして? ネギ君てこういうビキニは嫌いなの?」

「いえ、別に嫌いというワケじゃないですよ。皆さん良くお似合いですし、他にどんな水着が良いかと聞かれれば困ってしまいます。
 でも、海やプールでデートってことは、他の男性にも見られてしまうことになってしまうじゃないですか。僕だったらデートする相手がいやらしい目で見られるのは嫌ですね。僕って結構独占欲強いので」

「そういうことでしたの!?
 ネギ先生ったら、オホホホホ…………」

「お! 言うねぇ、ネギ君! やっぱりネギ君も男の子だね」






 …………。

 ……………………。

 ………………………………肉体年齢は10歳のままなんだよっ!
 おのれっ! 幻術さえ使えばこのようなことには!!!









「…………つまり私のことは見られても構わないということか、ネギ?」

「そ、そうなんですか…………ネギ先生せんせーぇ……?」

「いえ、そういうことではないですよ。エヴァさんも宮崎さんもとても可愛らしいです。
 お2人ならむしろ一緒に歩いて周りの人達に自慢したいですね。「僕はこんな可愛い女の子とデートしているんだぞ」って」

「え!? えへへ…………そんなぁ、ネギ先生せんせーったら…………」



 …………なるほど、そういうことか。それなら許してやらんでもない。

 イイ女を侍らすのはイイ男の証だからな。ネギがそういう思いを抱いても仕方あるまい。
 そしてイイ女の全てを知っているのは自分だけでいいということか。


 くっくっく、やはりネギは将来、悪い男に育つだろうな。



「…………素でこれなのかよ。
 このガキは天然ジゴロか…………?」





 何をブツブツと言っている、長谷川千雨?


 まあ、いい。さて……これからどうやってネギを私好みの男に育てていこうかな?
 とりあえず『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』解呪の研究のために家に定期的にやってくるから、仕掛けるとしたらそのときだ。
 あとは私の別荘に招待しておいて、いつでも好きなように使っていいと言っておくか。名目は研究のためとしてな。そうすれば煮るなり焼くなり私の好きなように出来る。


 くっくっく、感謝するぞ、ナギよ。
 『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』を解かずに死んだと聞いたときは恨んだが、最高の置き土産を残していってくれた。
 お前がしてくれなかったことは、お前の息子にしてもらうことにしよう。


 恨むのならネギを置いて死んだ自分を恨むがいいさ。
 ハァーッハッハッハッハッハ!





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ちなみにエヴァの水着は単行本11巻のワンピースの水着です。


 そしてナギが生きているということはまだエヴァには言ってません。
 今でも十分良い関係を築けているし、そもそも原作のように直接会ったわけではないので説得力に欠けると思っているからです。


 作者的に、エヴァならこういうこと考えそうだなぁ、と思ったんですが、いかがでしたでしょうか?


 そして作者はトランクス派です。
 え? そんなことはどうでもいい?



[32356] 第17話 バレンタイン① 乙女達の想い
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:36



━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



 …………目が覚めた。もう朝か。
 ハァ……今日は新聞配達が休みの日だっていうのにいつもの時間に起きちゃったわ。習慣って怖いわね。どうせならバイトの日にこうやって自然に起きられればいいのに。





「…………ン…………」





 そして私の目の前にはネギの頭がある。私の腕はネギを抱き枕のようにガッチリと抱きしめている。

 …………あの日から、ずっとネギを抱き枕にしてるわね。
 いい加減にやめようと思うんだけど、ネギの温もりが気持ち良くてやめることが出来ない。

 ネギには迷惑かけちゃったわねぇ。最初の日なんて、私が寝付くまでずっと背中をポンポンと優しく叩き続けてくれちゃってさ。
 10歳児に甘えるなんて、やっぱりかなり参っちゃってたのよねぇ。
 ネギがいてくれて助かったわ。さすがに木乃香に一緒に寝てくれるように頼むなんて出来ないからね。



 そういえばネギのことなんだけど、少しわかったことがある。

 夜寝るときは私の方へ顔を向けている状態だったとしても、朝になると私に背中を向けている状態になっているのよね。
 コッチ向いて寝るのは恥ずかしいのかしら? 寝る場所を左右入れ替えても、いつの間にか背中を向けてるし。

 そしてこの状態でギューっと抱きしめると、寝苦しいのか腕の中から逃げ出そうとする。
 ここで抱きしめるのをやめると逃げ出そうとするのもやめるのだけど、このまま抱きしめ続ける。





「…………ン、ン~…………」





 しばらくすると諦めたのか、逃げ出そうとするのをやめる。
 そしてネギを抱きしめている私の腕に手を重ねてきて、逆に私の方へ頭を擦りつけてくる。





「…………ン…………」





 そしてまだギューっと抱きしめ続けていると、今度は私の方へ振り向いて甘えるように抱きついてくる。


 実を言うと、この甘えてくるような感じのネギの顔が可愛くて好きだ。
 いつもは教師をしているためかニコニコと笑っているような表情を変わらずにしているけど、この甘え顔を見ていると作っているような笑顔だったと感じちゃった。
 まあ、10歳で教師をするんだから、多少は表情を作るだろうけどね。


 だけどこのときばかりは、本当に年相応のあどけない顔をして甘えてくるのだ。
 エヘヘ、可愛いなぁ…………。










 …………いんちょみたく、ショタコンじゃないんだけどなぁ。
 私が好きなのは高畑先生みたく、大人の男性な筈なんだけど…………。





 …………高畑先生ぇ…………。





 私って、“大人の男性が好きだから高畑先生を好きになった”んじゃなくて、“高畑先生が好きだから大人の男性が好きだった”みたいね。
 渋いオジサマを見ても近頃は全然ドキドキしないし。

 きっと渋いオジサマに高畑先生を重ねて見ていたからドキドキしていたのね。



 ああ、もう! どうしたらいいのかしら!?





「…………ン、ン~…………」





 あら、いけない。
 ちょっと強く抱きしめすぎたかしら?
 ごめんね。よしよし…………。





「…………ン…………」





 …………うう、もうショタコンでもいいかなぁ。高畑先生はどうせもう無理なんだし。
 あんだけ喧嘩してたいんちょには激怒されるかもしれないけどね。

 いつまでもこのままじゃいけなのよねぇ。ずっとネギに甘えてるわけにはいかないし。それでも、もう少しばかりこの温もりを感じていたいわ。
 さすがにあの恋の終わり方はショックだったし…………。





 ……………………3年生、3年生になったら本気を出すわ。
 だから、もう少しこのままで…………。












━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



「それでは、これより臨時2-Aクラス会議を行ないますわ!」

「いきなりクラス会議って何なのよいいんちょ~?
 しかも高畑先生もネギ先生もいないじゃん」

「高畑先生にお願いして、2時間ほどネギ先生を教室に近づけないようにしていただいてます。
 今日の会議の議題は、間近に迫った“バレンタインデー”についてです!」


 確かにバレンタインデー近いなぁ。

 でもいきなり放課後に残るように言われたけど、そのバレンタインがどうしたんやろ?
 それと毎年高畑先生に渡すアスナのチョコ作りの手伝いしてたけど、今年はどないする気なんやろか?


「はーいっ! 私はお父さんとネギ君に渡しまーす!」

「あーっ! ゆーなズルーイ! 私もネギ先生に渡すーーーっ!」

「のどか、チャンス到来です。バレンタインで勝負に出るのです」

「は、はわわわわ…………」

「静粛に! 静粛に! そのバレンタインデーに対しての会議ですわ!!!
 長谷川さん! 説明をお願いします!!!」

「わ、私かよ!? いいんちょからしろよ…………」

「発案者は長谷川さんでございましょう」


 ? なんなんやろ?
 ウチもネギ君と一応おじいちゃんに渡して、他の皆にも配ろうかな~。

 そ、そしたらせっちゃんにもチョコを自然にあげれるし…………。





「あ~、わかったわかった。発端はいいんちょがバレンタインに企んでた企画だ。
 いいんちょはネギ先生のために麻帆良で一番有名な洋菓子店を貸切にして、ネギ先生をそこに招こうとしてたんだよ…………」

「え~~! いいんちょズルイよ。バレンタインデーにネギ先生を独り占めしようなんて…………」

「てゆーか、一番有名な洋菓子店ってどこなの? 私達も招待してよ~」

「わ、わかっておりますわ! ですからこの場で皆さんと会議をしているのでしょう!」


「…………話し続けていいか?
 いいんちょがそういうことを企んでいたとすると、クラス全員が何かしら企んでいるんじゃないかと思ってな。そうじゃなくてもネギ先生にチョコ渡すような奴が大半だろう。
 それでなんだが…………例えば日持ちしないチョコケーキなんかをクラスの皆からたくさん渡されたとしたら、その場合ネギ先生ならどうすると思う?」



 あ~、なるほどなぁ。
 そういうことかいな。



「きっとネギ君なら、無理してでも皆の分食べるやろうなぁ」

「だろうな。ネギ先生は生徒から貰ったモン捨てるようなことは出来ないだろうし。
 まあ、貰う量にもよるだろうが、ヘタしたら食いすぎで腹壊すだろうな」

「そんなことあってはなりませんわ!
 ですので! バレンタインデーは2-A全員で抜け駆け無しのチョコレートパーティーを開くことにいたします!」

「いいから落ち着け、いいんちょ。
 まあ、バレンタインデー当日はきっとこんないいんちょみたく、騒ぎが大きくなって収拾が収まらないようになるだろうな。
 しかもコトが大きくなればなるほど、ネギ先生のホワイトデーの負担がでかくなってくる」

「そうねぇ。ネギはそういうところは生真面目だから、ヘタしたら“3倍返し”をマトモに信じるかもしれないわね」

「さすがにそれは可哀想…………」

「そういうことならチョコレートパーティーに賛成~!」

「ム、せっかくのどかのアピールチャンスだったのですが、そういう事情ならば致し方ないと思うのです」

「そ、そうだね。ネギ先生せんせーがお腹壊したりしたら嫌だもん…………」


 そういうことならウチも賛成やわ。
 それにネギ君の歓迎パーティー以来、特にそういうのやっておらへんかったから丁度ええしな。





「というわけで、役割分担を決めるぞ。
 まあ、“当日のパーティーの準備をするグループ”、“2、3日は持つチョコを作るグループ”、“長期保管出来て、仕事中にもつまむことの出来るチョコを作るグループ”ぐらいでいいと思うが」

「そうですわね。せっかくのバレンタインですので、パーティーの他にもチョコレートを渡すべきでしょう」

「とりあえず、四葉とか超みたいに料理上手なのと、私みたいに料理に自信無いのに別れてくれ。
 それからくじ引きで料理上手がそれぞれにちゃんと入るようにしよう。全員が飯マズだったら悲劇だからな」

「人数はどうするの?」

「バレンタインデー当日のパーティー担当グループが20人、残りが5人ずつでいいと思う。
 パーティーは飾り付けとかもいるだろうし、パーティーでチョコだけってのも淋しいので、他にもクラス全員分の料理を作ったりするだろうから20人。
 送るチョコを作るグループはたくさん作りすぎても迷惑だろうからそれぞれ5人ずつ」

「そんなところでしょうね。それにしても長谷川さんには感謝いたしますわ!
 こう言ってはなんですが、長谷川さんはどこかクラスメートから一歩引いたところがありましたから、積極的にクラスのことを考えていただけるようになって何よりですわ!
 ネギ先生がいらしてからバカレンジャーの皆様の成績も上がっていますし、本当にネギ先生は2-Aの救世主で…………ま、まさか、長谷川さん! あなたもネギ先生のことを!?」


「ちげーよっ! ネギ先生のことになるといいんちょが暴走するからだろうが!!!
(…………クッ、落ち着け。これでいいんだ。どうせクラスの奴らに自重しろといっても聞くわけがない。だったらコントロール可能な範囲になるように誘導するまでだ。
 いくらなんでも、あのガキが腹壊して寝込んだら可哀想だしな)」



 ならウチは料理に自信があるグループやな。
 わー、これは楽しみや。…………パーティーの次の日の体重計が怖いことになりそうやけど。












 くじ引きの結果、ウチは“長期保管出来て、仕事中にもつまむことの出来るチョコを作るグループ”やったわ。
 えーっと、他のグループメンバーは、超りんとエヴァちゃんと千雨ちゃんと…………せっちゃん。



 !!! せっちゃん!?



 …………せっちゃんと同じグループになってもうた。
 チャンスや! ウチもネギ君見習って、せっちゃんに真正面から立ち向かうんや!













「よかったじゃないか。居残り授業で面倒かけている礼が出来るぞ。
 なぁ、桜咲刹那バカホワイト?」

「グハァッ!!!」

「オヤ、死んだネ」

「生真面目な奴ってメンドイな」



 せっちゃーーーんっ!?
 死んだらアカンーーーっ!!!





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「さて、打ち合わせを始めるネ。
 最初に改めて確認しておくけど、料理に自信があるのは私と木乃香サンでいいカナ?」

「私は調理実習レベルだな。寮でも自炊はしていないし」

「出来んわけではないが、菓子作りは自信があるわけではないな」

「ウチはいつも寮でアスナとネギ君のご飯作っておるえ。ネギ君も手伝ってくれるから、最近は楽になったわぁ。
 チョコ作りも去年まで毎年アスナに付き合っていたから、そこそこは出来るえ」

「……………………」

「…………返事がないヨ。ただのしかばねバカホワイトのようネ」


 …………せっちゃんが落ちこんどる。こんなとき何て言えばいいんやろ?


「ま、イイネ。なら私と木乃香サンが中心になて作るとして、どういうのを作るのかダヨ」

「やっぱり“仕事中にもつまむことの出来るチョコ”なら、食っても手が汚れたりしないほうがいいな」

「あー、そういうことやな。じゃあ、仕上げにココアパウダー振り掛けたりするのとかはアカンなぁ」

「となると、銀紙とかで包んだボンボン・ショコラとかだな。ウィスキーボンボンとかでいいんじゃないのか?」

「…………ネギ先生は未成年ですよ」


 あ、生き返ってくれたわ。
 よかったぁ。あのままだと話しかけることも出来ひんかったからなぁ。





「そういえば確認し忘れていたが、ネギ先生って好き嫌いあるのか? 超包子では出されたモン全部食ってたけどよ。
 他にもアレルギーとか大丈夫か?」

「好き嫌いはウチが知る限りあらへんわ。納豆とかもちゃんと食べるし、生卵も平気みたいやえ。アレルギーは…………どうやろ? そういえば確認し忘れてたわ。
 でも、ネギ君の性格なら最初に言っといてくれるちゃうんかな? 少なくともチョコレートは平気やで」

「確かにネギは几帳面というか、生真面目な性格をしているからな。あったら事前に言っているだろう。
 まあ、一応念のために確認しておいた方がいいな」

「そうやね。ウチが聞き出しておくわ。そしたら他のグループにも伝えなあかんな」


 今や、勇気を出すんや!
 ウチから動かなきゃ一生せっちゃんとはこのままになってまう。


「どんなのがええかな~………………せ、せっちゃんはどんなのがええと思う!?」

「え!? ………………わ、私にはわかりません」

「そ、そんな風に言わんと…………」


 ウチはただせっちゃんと仲良くしたいだけやのに…………。

 いや、諦めたら駄目や。
 せっちゃんがウチを避けても、もっと根気よくアタックするんや!





「あ、あー…………ウィスキーボンボンはともかく、ボンボン・ショコラというのはいいんじゃないか。まあ、手が汚れるトリュフは駄目だけど、ガナッシュとかプラリネとかならさ。
 なぁ、桜咲?」


「…………え? ト、トリュフ? ガナッシュ? プ、プラ……ナリア?
 トリュフというのはキノコなのでは?」




「「「「……………………」」」」




「…………え、えと……違っていましたか?」

「……せっちゃん」

「……違てはいないけどネ」

「……お前、本当にわからないのか」

「……トリュフは知っているんだな」

「そ、それぐらい知ってます! 世界三大珍味のキノコでしょう!?」

「ちなみに中華三大珍味は“アワビ”、“フカヒレ”、“ツバメの巣”ヨ。超包子のような普段向けの屋台では出せないけどネ♪

 …………。

 ……………………。

 ………………………………ゴメン、バカホワイト舐めてたヨ」

「まぁ、チョコレートのトリュフは、キノコのトリュフに形が似せているからトリュフと呼ばれているのは事実だがな」

「いや、それでも話の流れ的にわかって欲しかったぞ」


 アカン! ウチの話の振り方がおかしかったせいで、変なことになってもうた!


「まぁ、まだ時間もあるし、各々で少し考えてくれればいいヨ。明日また集まて考えよう。
 私はこれから当日パーティー担当の五月とかと一緒に、チョコとパーティーに必要な材料費についても調べてみるネ。超包子のツテを使えば畑違いの分野の食材でも安くなる手に入るヨ。
 木乃香サン達はお菓子作りの本で難易度を調べて欲しいネ。チョコ作りはさすがの私でも専門外ネ。
 それとバカせつな君は少しチョコレート専門店で買い食いしてくるとヨロシ。今日はコレにて解散ヨ」

「な…………バ…………?」

「ち、違うんや、超りん! えと……………………せっちゃんは和菓子派なんや!!!」

「…………………………」

「おい。桜咲が死にそうだからそこらでやめとけ。
 私はとりあえずネットで適当なチョコ作りの仕方を調べておく」

「せ、せっちゃん! ならウチと一緒に行こう! 美味しいチョコ売ってる店知ってるえ!」

「け、結構ですっ! 私に構わないでくださーーーいっ!!!」

「せ、せっちゃーーんっ!?」



 …………あ、行ってもうた。

 諦めへん! ウチはまだこんなんじゃ諦めへん!
 小さかったときみたいに、せっちゃんとまた仲良くなるんや!!!







「フン。私は帰るぞ。何だかチョコの話題をしていたらチョコを食べたくなってきたな」

「…………あー、大丈夫か、近衛?」

「う、うん。ありがとう、千雨ちゃん。ウチは諦めへんわ。ネギ君見習ってせっちゃんに真正面からぶつかってみるって決めたんや。
 今までみたいに避けられ続けても諦めへん!」

「詳しい事情はわからんから私からは何も言えないが…………。
 少なくとも今回のは、“今までみたいな避けられ方”じゃないことは確かだと思うぞ」

「じゃあ、今日みたいの続けていたらせっちゃんと仲良くなれるんかな!?」

「それはやめておいた方がいいヨ」

「お前、本当は桜咲を虐めたいのか?」



 え? …………やっぱりアカンのかなぁ?












━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



 …………最近調子がおかしい。
 きっとネギ先生に高校での留年の可能性を言われてからだ。

 あれから自分でも周りの環境を気にするようになったと思う。
 勉強にも力を入れるようになったし、居残り授業に出ているおかげで授業もより良く理解出来るようになった。


 護衛に力を入れるのは当たり前だが、他のことをおろそかにする言い訳にしてはならない。よくよく思えば、護衛を言い訳にして周りを拒絶していたところがあったんじゃないだろうか。
 しかし、それではいけないことにネギ先生のおかげで気づけた。留年みたく、護衛をしていく為の前提が根元から崩れるような事だってあるのだから。


 そして周りを気にするようになった分、自分と周りの違いがわかるようになってきた。
 それでわかったことが一つある。





 私は世間知らずだったのだ。





 クラスの皆が休み時間に話していることに聞き耳をコッソリ立てたとしても、半分も理解できない。
 今日のチョコレートについてだってそうだ。確かに和菓子の方が好きだからあまりチョコは食べたことはないが、お嬢さま達の反応を見る限りでは知らないほうがおかしいみたいだ。

 …………以前だったらこんなこと気にしなかったのに。





「………………ハァ、ネギ先生」



 ネギ先生が来てからこういうことを考えるようになった。それにしてもあの人は本当に10歳なんだろうか?

 模擬戦とはいえ、一人で魔法先生二人に勝てるほどの戦闘力。
 私達に勉強を教えられるほどの学力・知識も豊富に持っている。
 しかも私と違ってクラスの皆から好かれ、良い関係を築けている。

 特にエヴァンジェリンさんでさえもネギ先生を対等な存在と見なしている。学園長であろうと下に見ているであろうエヴァンジェリンさんでさえもだ。
 今までのエヴァンジェリンさんなら、こんなバレンタインの企画なんて参加しなかっただろうに。


 ネギ先生を見ていると、私なんかちっぽけな存在に思えてくる。何で10歳という年齢であんなに強くなれたんだろう。
 私にネギ先生ぐらいの才能があれば、今よりも木乃香お嬢さまをお守り出来るのに。











 ………………何を情けないことを考えているんだ、私は?

 それもこれも私の努力が足りないせいだろう。それを才能のせいにしてネギ先生を羨むとは…………我ながら恥知らずにも程がある!
 きっとネギ先生だって努力してあんなに強くなったんだ。私だってこれからもっと努力して、いっそう修行を励めばきっと………………きっと、そしたら留年しちゃうな。










 …………え!? ウ、ウチはどないしたらええんや!?


 “木乃香お嬢さまの護衛は遂行する”、“護衛に必要な修行もする”。“両方”やらなアカンのが“護衛”の辛いところや。
 でも、その二つをこなす覚悟ならあったんや。

 せやけど、“勉強”もせなアカンのはいくらなんでも無理やわ。
 今の“護衛”と“修行”だけでも大変やのに“勉強”もやなんて…………。



 …………アカン。やっぱりネギ先生の才能が欲しいわ。“強さ”の才能はええから、せめて“勉強”の才能だけでも欲しい。
 ああ、ウチはどないしたらええんや? た……助けて、ネギ先生…………。











「…………ハァ、ネギ先生」

「はい、何ですか?」

「ヒャアァッ!?」


 ビ、ビックリしたぁ。な、何でネギ先生がここに…………って、そうか。もう高畑先生の引止めが終わる時間なのか。


「悩み事ですか、桜咲さん?
 僕がここまで接近しても気づかれないということは、余程深い悩みのようですね。よかったら相談に乗りますよ?」

「そんなことは…………いえ、お願いしていいですか?
 正直、私一人ではどうしていいかわからなかったので…………」


 良い機会だ。一度ネギ先生と話をしてみよう。
 何か良い助言を頂けるかもしれないし、ネギ先生という変わった人の視点から見た意見も今後の参考になるだろう。


「構いませんよ。実を言うと、今日は何故か追い出されるように仕事が早く終わったので時間がとれるんですよ。
 前々から桜咲さんは悩みをお持ちのようでしたので、この機会に是非と思いましてね。
 立ち話もなんですから、どこか店に入りましょうか。やっぱり和菓子の店の方がいいですか?」

「……………………」

「? …………桜咲さん?」

「…………チョコレート」

「ハ?」





 チョコレートが食べたいです。ネギ先生。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 せっちゃんがちびせつな君より先に、バカせつなの二つ名を獲得しました。

 せっちゃんはチョコレートのこととか全然知らないと思います。
 というか、自分も今回の話を書くためにチョコレートについて調べるまで、ガナッシュとトリュフの違いがわかりませんでした。
 プラリネは存在は知っていましたが、名前は知りませんでした。

 外国土産のチョコレートを食べたら、甘すぎて歯が痛くなります。
 やっぱり日本製のお菓子の甘さが丁度いいです。


 明日菜はまだ恋愛感情を持っているわけではありません。
 失恋のショックで弱気になっていますし、気持ち的に木乃香と一緒で、まだペットを抱いて寝るような感じでしょうか。

 ちなみに寝ているときのネギは素です。
 大人ぶっていても、結局20年の子供生活で子供っぽさが身体に染み込んじゃっています。



[32356] 第18話 バレンタイン② そうだ 京都、行こう。
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:36



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 タカミチに最近明日菜さんに避けられていることを相談されたんですけど、コレっていったいどうしましょう?
 正直に言うべきなのでしょうか? 明日菜さんはタカミチに振られてしまったことで落ち込んでますよ…………って感じで。

 というか、進路相談室でそんなこと相談しないでくださいよ。


「チョコレートならコーヒーの方がいいですね」

「…………あ、お任せいたします」


 そんでトボトボと力なく歩いていた刹那さんを拾っちゃったんですけど、コレもいったいどうしましょう?
 とりあえず相談を兼ねてお茶に誘ってみたら、チョコレートを食べてみたいとのことでした。中武研から巻き上げた食券残ってますから構いませんけどね。


「え? この小さいチョコ一粒で百円?」

「和菓子だって似たようなものでしょう。老舗だと饅頭一個数百円とかするのありますし」

「…………あ、確かにそう言われると納得出来ますね」



 まぁ、一口で終わること考えたら高いですけどね。でも学生も来ることを踏まえた値段設定をしているこの店は、こういう専門店にしてはかなり安い方ですよ。
 それに各地のお土産のお菓子……饅頭でも何でもいいですが、そういうのは1箱1000円とか平気でしますけど、1個辺りで考えたら1個100円とかザラですよね。

 そう考えたらお菓子とかは自作するのが一番安いんだよなぁ。………………使う砂糖の量で怖くなるけど。


 そういえば前の世界ではエヴァさんに連れていってもらったことありますけど、僕もこっちの世界ではこういう専門店は始めてだなぁ。






「それで、いったい何があったんです?
 刹那さんがそこまで落ち込んでいるなんて?」

「……………………」

「…………木乃香さん……裏の関係のことですか?
 周りに聞こえないように結界張りますね」

「あ、すいません…………」



 こりゃ本気で落ち込んでいますね。何があったんでしょう?
 とりあえず、結界結界。

 …………前の世界のどこでも騒ぐ駄目親父共のせいで、結界の熟練度がこんなに上がるとは。
 再転生して鍛え直したときも、アッサリと勘を取り戻せたし…………。





「で? 何か悩み事でも?」

「…………その、ネギ先生はどうやってそこまで強くなれたんでしょうか?」

「? んー、僕って強いんですかね?」

「…………嫌味ですか?」

「あ、いえ。真面目に聞いてるんですよ。模擬戦のときも話しましたけど、戦闘と呼べるものはあの日が最初でした。ですから自分がどの位置にいるかわからないんですよ。
 あれ以来、模擬戦とかしていないですし。
 それにいくらエヴァさん達に勝ったとはいえ、あくまでアレは模擬戦ですからね。本当の殺し合いになったらまた違うでしょう。
 まあ、この前の模擬戦の結果からすると、少なくとも“中の上”か“上の下”ぐらいはあると思ってますけど」

「ああ、そういうことでしたか。
 …………申しわけありません。ヒネた言い方をしてしまいまして」

「別に構いません。桜咲さんは“強さ”について悩んでいるんですか?
 僕が言うのも何ですが、14歳なら仕方が無いところもありますよ。僕達では身体がまだ成長しきっていないのですから」

「それは…………私がまだまだ修行中の身であることは承知しています。そちらの“戦いにおける強さ”ではないのです。
 …………ネギ先生は何でも出来るじゃないですか。戦いでも教師の仕事でも。それに比べて私は護衛を満足にこなせていないだけでなく、勉強は出来ない上に一般常識まで欠けている始末です」


 一般常識に欠けているのは護衛ばっかりしているからじゃないですかね?
 あと、麻帆良にいれば自然にそうなっちゃうのでは?


「何でネギ先生は何でそんなに“強い”んですか? 何でそんなに何でも出来るんですか? 」


 強くならないと駄目親父達の修行ごうもんで死んでたからです。
 何でも出来るようになったのは駄目親父達のせいでパートナーになってくれる人がおらず、自分独りで全てやらなければいけなかったからです。

 って答えられたら楽なんですけど、駄目ですよねぇ。
 クソッ、あの駄目親父共めが。今度会ったらブン殴る。


 …………そういえば学園祭のときのまほら武道会って、合法的に駄目親父ボコれるチャンスじゃね?
 参加するつもりなかったですけど、それ考えたら美味しいですね。優勝賞金一千万円も美味しいし。


 エヴァさんの別荘借りて修行を本格的にしたおかげで、前の世界の強さをだいたい取り戻せました。
 肉体的にまだ完璧ではないですが、技術的な向上を含めたらむしろ強くなってますね。“紅き翼アラルブラ”メンバーを一人相手にするぐらいなら余裕です。

 ま、それはあとでゆっくり考えますか。


 さて、それでは何て答えましょうかね?
 刹那さんも本気で迷っているみたいだから、真剣に答えますか。









「一言で言えば、“楽しいから”ですね」

「“楽しいから”…………ですか?」

「ええ、桜咲さんは勉強が楽しいと思ったことはありませんか? 修行が楽しいと思ったことはありませんか?
 難しい問題を解いたとき達成感を感じることはありませんか? 練習を重ねて遂に技を習得できたときは嬉しくなりませんでしたか?」

「…………ええ、そういうのはわかります」

「娯楽がなかった田舎で育ったせいもありますけどね。僕にとって修行や勉強は遊びと同じなんです。“好きなものこそ上手なれ”って奴ですよ。
 …………僕が思いますに、桜咲さんには今まで他の事を考える余裕が無かったんじゃないでしょうか?
 そして高校という先のことを考え始めたせいで、今までの生活に発生していたけど気づかなかった綻びに気づいてしまい、こうして悩んでいる」

「…………そうかもしれません。今までは護衛ばかりに集中していたので考えもしませんでしたが、私は周りを見ていなかったような気がします。
 ネギ先生と高校のことについての話をしてから、いろいろ物事を考えるようになりました」


 カラオケやボーリングもしたことないですもんねぇ。
 前の世界のこのちゃんせっちゃん知っている分、この世界の木乃香さんと刹那さんのすれ違いにはちょっと心が痛みます。


「そのことに気づいたのなら大丈夫ですよ。人間とは“人の間”と書きます。独りでやれることは少ないです。他の人達との触れ合いは護衛には無意味かもしれないですけど、いつかは役に立つときが来ます。
 今は少し歩みを緩めて、辺りを見渡すといいですよ」

「…………はい。しかし今のままでは“護衛”、“修行”、“勉強”の3つをこなすには時間が足りません」

「確かにそれはキツイですねぇ」


 しかし、何でこんなこと思い始めたんでしょう?
 何だか普通の女子中学生みたいに弱々しいです。てっきり原作みたいに京都編が終わるまでは、仕事モードのせっちゃんしか見れないと思っていたんですが。


 今の刹那さんはまほら武道会でエヴァさんに虐められたときのような顔しています。
 エヴァさんの評した“触れれば切れる、抜き身の刀の様な佇まい”がないんですよねぇ。

 僕が高校の留年を注意したために周りのことを気にするようになり、エヴァさんの言う“小さな幸せ”に気づいてしまったんですかね?
 あとは10歳の僕があそこまで戦えたことによる自信喪失ですか。



 アレ? どっちにしろ僕のせい?



 まあ、独りぼっちで頑張ることに疑問を持ったのはいいことです。独りでやるしかなかったら、そのうち僕みたいになってしまいますからね。
 時間に関してはエヴァさんの別荘を借りればいいんですが、エヴァさんが刹那さんに別荘を貸す理由がないで…………あ、もしかしたら、うまくいくかな?



 それにしても、自信を失って不安そうなせっちゃんが可愛いです。

 でも、とりあえず原作終わるまでは恋愛関係は自重しようと思っているんですよね。
 そもそも僕は誰のことが好きなのかもよくわかっていませんし、のどかさんみたいな一般人を原作同様に危険なことに巻き込むのは気が引けます。
 ハーレムというものにも憧れますが、前の世界と合わせて彼女いない暦20年以上の僕が言っても妄想でしかありません。

 だから、僕は考えました。



 さっさと原作終わらそう、さっさと“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”ぶっ潰そう…………と。



 原作的にだいたい夏休み終了ぐらいには終わるみたいですからね。
 だったら焦る必要はありません。夏休みが終わってから、本当に好きな人を探せばいいのです。


 何で二次創作の主人公は、わざわざ大変なイベントがある原作時期に恋愛に頑張るんですかね?
 さっさとメンドイこと終わらせてから青春送った方が楽しめるでしょうに。






「そういえば、ネギ先生から見て木乃香お嬢さまの護衛についてはどう思います?
 ネギ先生が修行の参考にしたという、警察や軍隊の視点から見てです」

「…………桜咲さんには申し訳ないですけど、護衛対象を避ける護衛ってのはマズイと思いますね。それと、木乃香さんに護衛されている意識がないってのも危ないでしょう。
 護衛にとって一番厄介なことは、護衛対象の予期せぬ行動です。そして護衛されている人間の一番大切なことは“護衛されていることを意識して、普段通りの生活を送る”ことです。
 護衛対象が護衛されていることを知らない場合、護衛対象の好き勝手に動かれることになりますからね」

「…………わかって、おります。しかし、木乃香お嬢さまにはこちらのことには関わって頂きたくないというのが、学園長と西の長のお考えです。
 ですので木乃香お嬢さまに私が護衛しているのを知られるわけにはいけません」

「別に裏の事情まで教えなくてもいいじゃないですか。雪広さんはコチラの関係者じゃないですけど、護衛がコッソリついていますよ。雪広財閥の次女なら当然ですけどね。本人も承知済みでしょう。
 ですから雪広さんみたいに、表の世界の護衛をつけるだけでかなり違うと思いますよ。
 しかも木乃香さんは元華族である近衛家のお嬢さまです。護衛がついていても誰も不思議には思いません」

「な、なるほど…………」

「まあ、今から護衛をつけるとなると不自然になりますけどね。「何で今更?」という話になりますから。
 それと木乃香さんに発信機とかつけてるんですか?誘拐されたときにそういうのがあると、探し出すのが楽になるんですけど」

「は、発信機? …………いえ、そのようなものは持ち歩いておられないと思います」

「…………うーん。何と言いますか。正直に感想を言ってしまえば、“桜咲さんが満足するための護衛”のように思えてくるんですよね。
 桜咲さんは見守っているだけで満足なんでしょうけど、もうちょっとやりようがあると思いますし、やるべきこともあると思います。
 本人の安全の事を考えるなら、木乃香さんに秘密でもそういう準備しといた方がいいですよ。携帯電話とかベルトとか靴とかに仕込んでおくとか。
 僕でさえいつもつけてるネックレスに発信機仕込んでます。僕に何かあったらアルちゃんが周りの人に事情を説明してくれることになっています。
 しかも、この腕時計は実を言うと発信機付きの魔法発動体です。普段はこれ見よがしに父の形見の杖を持ち歩いている上に折りたたみ式の杖も携帯しておいて、更に腕輪型と指輪型の魔法発動体もしていますけどね。
 あ、他にこのこと知ってるのアルちゃんだけですから、他の人に言わないでくださいよ」

「…………ネギ先生はいったい何と戦っているのですか?」

「あくまで“念のため”ですよ」

「……………………ハァ」



 麻帆良に来てからの自分を知ってる刹那さんだから、こんな理由でも納得してくれますね。
 っていうか溜息つくなや。

 さすがに元老院対策とは言えませんので、仕方がないんですがね。





「まぁ、木乃香さんのような場合は良い護衛方法を検討するより、元となる原因を解決した方がいいと思います。
 原因がはっきりしているのですからね」

「…………原因ですか?」

「はい。木乃香さんが狙われる理由は“西の長の娘である木乃香さんが東にいる”ということなのでしょう。
 だったら“西に帰ればいい”のです」

「ハ? し、しかし、お嬢さまには麻帆良に友人もたくさんいます。
 いきなり帰れというのは酷なのでは?」

「いや、ずっと西にいるわけじゃないですよ。
 正月とか夏休みとかに実家に帰省すればいいんですよ。それこそ三連休ぐらいでも京都に帰ってゆっくり出来ますよね。麻帆良から京都の実家までなら数時間で到着できるでしょう。
 “いつでも自由に西に帰ってこれる”なら、わざわざ麻帆良に来てまで誘拐企む阿呆はいないです」

「…………ど、どうなんでしょうか?」

「木乃香さんに聞きましたけど、木乃香さんは麻帆良に来てからはあまり京都の実家に帰省はされていないんですよね?
 だったら西の人達はやきもきもするでしょうよ。これでは東が木乃香さんを掴んで離さないように思われるのは仕方がないのでは? とりあえず今度の春休みにでも帰省してみたらどうですか?
 不安でしたら僕も着いていきますよ。父が京都で住んでいた家とか、父の盟友である近衛詠春さんとか、僕が京都に行ってもおかしくない名目はたくさんあることですし」

 そしたら修学旅行でわざわざ京都に行かなくてすみますしね。例え襲われたとしても、クラスのことを考えなくていいから気が楽になります。修学旅行はハワイが良いなぁ。
 そういえばフェイトってもう西にいるのかな?


「わ、私の一存ではそこまでは何とも…………」

「譲れるところは譲っていかないと駄目ですよ。“お前が譲れば私も譲る”という姿勢ではいつまで経っても仲良くなれません。せめて“私が譲るからお前も譲ってくれ”でなければね。
 そもそも木乃香さんが実家に帰省することに、何か表向きに問題がありますか?」

「いえ、それはないと思います」

「むしろ西も巻き込んじゃえばいいんですよ。“木乃香お嬢さまが帰省するので護衛よこしてください”とか、ね。
 そこまで露骨に言わなくとも、木乃香さんが「京都駅まで迎えをよこして」と言えば自然に西も護衛出来るでしょう」

「し、しかしお嬢さまに危険なことがあっては…………」

「ですが、ずっとこのままというワケにはいかないでしょう。木乃香さんが大人になったらどうします? 木乃香さんが大人になってもずっと麻帆良に留めておくことなんて出来ないでしょう。
 今のままだったら木乃香さんに関してのことは西と東の仲が悪くなることはあっても、良くなることはないと思いますよ。
 学園長は木乃香さんを早めに結婚させて西との関係を無くそうとしているのでしょうが、なし崩しに終わらされる西としては納得できないと思います。
 言い方が適切かわかりませんが、僕は“臭い物に蓋”ってあまり好きじゃないんですよね。発酵して可燃物質が出来たとしたら始末が大変ですから。
 僕としては“臭い物は分解して肥料にして畑に撒く”方がいいと思ってます。…………別に木乃香さんを“臭い物”とおもっているわけじゃないですからね。言葉の綾です」

「え、ええ。わかっております…………」















「相変わらず“正義の魔法使い”とは程遠い考えをするんだな。なぁ、ネギ?」


 あれ? エヴァさん?
 何でこんなところに?


「担任補佐ともあろうものが、こんなところで生徒とデートか?
 いつになったら私を美術館にエスコートしてくれるんだ?」


 そういえば模擬戦のときにそんなこと言ってましたね。アレって本気だったんですか?
 てっきり、僕の気を引いて糸の罠にかけるための駆け引きだと思っていたんですが。

 そういうことなら喜んでお誘いするんですが、「本気だったんですか?」って言ったら怒られそうですねぇ。





「修学旅行に行かなくてもいいのなら、今週の休みにでもどうですか?」

「…………イヤ。やっぱりゆっくり待つことにする。
 お前もいろいろと大変そうだからな」

「多分…………そうですねぇ、春休みには呪いの修正が終わると思うので、春休みにお誘いします。
 それに今の時期はあまり面白い展示をしてないようですからね。きっと春休みには大きい展示をするんじゃないですか?」

「ム、それもそうだな。今の時期は客が入らんからな。
 わかった。春休みのデートを楽しみに待つとするよ」


 説得終了。
 『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』は便利です。
 まぁ、今やってる展示も春休みにやる展示も知りませんが。





「チョコレートが食べたくなってな。相席しても構わんだろう?」

「僕は構いませんが、桜咲さんは?」

「あ、大丈夫です」

「僕達と同じメニューでいいですか?」

「いいのか? なら馳走になろう」

「同じテーブルに座って、桜咲さんには奢るのにエヴァさんに奢らないっていうのはないですよ」

「え? わ、私は自分の分は自分で払います」

「僕教師。あなた達生徒。ついでにおかわりも注文してきます」


 そういことなら麻帆良内の美術館とかのサーチしとかないと。
 エヴァさん遊園地に行ったことないって言ってたから、ソチラも一応調べておきましょうか。
 きっと童心に戻って、外見相応にはしゃいで遊ぶエヴァさんが見れそうです。

 あ、でもさすがに美術館とか遊園地を教師と生徒の二人っきりで行くのはマズイですかね?


 年齢詐称薬をまほネットで注文しておきますか。
 アレあったら学園祭のときとかも使えそうですし、買っといて損はなさそうですね。












━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



「え? 刹那さんは『斬魔剣』を使えるんですか?」

「え? ネギ先生は『斬魔剣・弐の太刀』を使えるのに、『斬魔剣』は使えないんですか?」


 というか、宗家である青山家ゆかりの者にしか伝承されないはずの『斬魔剣・弐の太刀』を何故使えるのですか!?


「いや、ビデオに『斬魔剣・弐の太刀』は映っていたんですけど、普通の『斬魔剣』は映ってなかったんですよね。『弐の太刀』があるのだから『壱の太刀』もあるとは思っていましたが…………。
 この前の葛葉先生が使ってきた『雷鳴剣』も知りませんでしたし」

「…………そういうことですか」

「…………やっぱりネギはネギだな」


 そうですね、エヴァンジェリンさん。
 ネギ先生はネギ先生なんだから仕方がないんですね。


「是非とも『斬魔剣』と『雷鳴剣』を教えていただけませんか?
 それに神鳴流は他にも技があるでしょうから、それも是非」

「え? それはお世話になってますので構わないのですが、時間が取れなくて…………」

「あー、そうですね。“護衛”、“修行”、“勉強”としなきゃいけませんからねぇ。
 …………“修行”と“勉強”はエヴァさんの別荘を使えれば問題ないんですけどねぇ」

「? …………別荘、ですか?」


 “別荘”? 何のことだ?


「私が持っている魔法の別荘だよ。現実の1時間が別荘の中では24時間になる。
 とはいえその分老化が進むということでもあるから若い女にはすすめんがな。一度入ったら中で24時間過ごさないと外に出られんし」

「僕は背が急に伸びても、多少なら成長期ということで誤魔化せますからね。週に2、3回ですけど使用させて頂いてます。
 そこなら時間を気にしなくていいんですが桜咲さんはお嫌ですよね。木乃香さんの護衛もあるでしょうし…………。
 24時間ずっと修行しっぱなしというのもアレですから、お礼に勉強を教えることも出来るんですが」

「そういうことなら構いません!
 週に2、3回の1時間程度なら、お嬢さまの護衛は龍宮に依頼すれば問題ありません!」

「げ、元気良いですね? …………構いませんか、エヴァさん? 桜咲さんも一緒に別荘へ来ても。
 僕としては神鳴流の技に興味がありますし、剣の組み手を桜咲さんにお願いしたいのですが。もちろん『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』解呪は遅れたりしませんから」

「…………ムゥ。魔法ならともかく、私では神鳴流なんぞ教えることは出来んからな。
 まぁ、そういうことなら構わんぞ」

「ありがとうございます! エヴァさん!」

「な、何…………。このぐらいたやすいことだ」

「私からもお礼を申し上げます。エヴァンジェリンさん」


 やった! さっき相談したことを忘れられたのかと一瞬思ってしまったが、ネギ先生の狙いはこれだったんだ。
 ありがとうございます、ネギ先生!

 これで“修行”と“勉強”の目処が着いた。
 老化が早まるとか、修行中の身で神鳴流を教えるとかは少し気になるが、そんなことは大事の前の小事だ。

 ネギ先生の剣のお相手をするのは私にとっても修行となる。
 ずっと私に掛かりきりというのは無理だろうから自主錬の時間も多いだろうが、それでも修行の時間が増える。

 そして何よりネギ先生につきっきりで勉強を教えてもらえる。
 他のバカレンジャーの皆には申しわけないが、私が最初のバカレンジャー脱退者にならせてもらおう。


 負担は龍宮に対する報酬だが、週に2、3時間ならそう高くないだろう。あとで相談しなければな。
 これで当面の目処は着いた。


 あとはネギ先生の言ったとおりに木乃香お嬢さまに対する危険を根本的に取り除くことだが、それはまず学園長に相談してみよう。
 一介の護衛風情が口に出していいことではないが、他ならぬ木乃香お嬢さまのためだ。学園長だってその気があるのなら協力してくださるだろうし、ネギ先生のお力添えも期待できる。







「そういえばさっき面白そうな話をしていたな。春休みに京都へ行くのか?」

「あくまで僕の勝手な考えですよ。
 木乃香さんのことは今の状態で良いとは思えませんからね。最終的な判断は学園長がするでしょうが」

「フン。どうせジジイが否と答えても、それとなく近衛木乃香を誘導させて京都に帰省させるんだろう?」

「そんなことはしませんよ。まあ、僕自身京都に行ってみたいので、居候させてもらっている部屋で京都旅行のパンフレットを見るかもしれませんがね。
 …………エヴァさんも行きますか?」

「………………なん、だと?」

「もちろん木乃香さんのこととは関係無しにです。
 さっきも言ったとおり、春休みには呪いの修正は終わるとは思います」

「…………行く。絶対行く。
 だから春休みまでには絶対呪いの修正を終わらせろ」

「はいはい。努力いたしますよ。
 でも、もし木乃香さんの帰省があってそれと被る場合は、何あったらご助力お願いしますよ」

「そのぐらい構わん。
 …………京都か……………………15年振りの麻帆良の外か」


 嬉しそうだなー、エヴァンジェリンさん。
 そしてさすがネギ先生。着々と戦力を増やしていく。私も念のために龍宮へ話を通しておくかな。


「ああ、そういえばエヴァさん。
 ウチのクラスの相坂さんのコトですが」

「お? 材料揃ったのか?
 しかし、よくアイツのことがわかったな。多分、龍宮マナですら気づいていなかったぞ」

「いや、クラス名簿に名前が書いてある人がずっと来なかったら、そりゃ気になって調べますよ」

「…………何のお話ですか?」

「ウチのクラスの幽霊さんのコトです。
 そうだ。よかったら桜咲さんも念のために手伝ってくれますか?」

「え? ウチのクラスの幽霊?
 …………事情がわからないで何ともいえませんが」

「おいおい。私が言うのもなんだが、アイツは人畜無害な奴だぞ。
 それなのに退魔の神鳴流を連れていくのか?」

「あくまで“念のため”ですよ」


 ウチのクラスに地縛霊でもいるのか? 全然気づかなかったが…………。
 エヴァンジェリンさんが人畜無害というのなら安全なのだろうが、お嬢さまの安全のために私の目でも確認しておくべきだな。











━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



 …………せっちゃん、楽しそうや。
 ウチのことは避けるのに、ネギ君とはあんな風に笑えるんか…………。


 考えてみればウチは焦りすぎてたわ。せっちゃんがウチを避けるようになったのは、きっと何か理由があるはずなんや。
 その理由も知らずにせっちゃんに立ち向かっても、逆にせっちゃんを困らせるだけやった。
 まずはせっちゃんがウチを避けるようになった理由を調べんと。それと何でネギ君ならあんなにせっちゃんと仲良うなれるかも調べなアカンな。


 となると、和美ちゃんは…………大事になりそうやからアカンな。
 内密に調べてもらわなアカンから、楓に協力を頼もうか。忍者やからきっとこういうのに適任や。プリンで協力頼めへんかな?

 そのあいだにウチはネギ君と話して、どうやったらせっちゃんと仲良くなれるかアドバイスを貰おう。
 ネギ君は担任補佐でウチは生徒なんやから、そういう相談にも乗ってくれるやろ。


 …………そういえば、最近ずっと夜はアスナにネギ君貸してたなぁ。失恋のショックが大きかったことはわかるけど、ずっとネギ君独り占めというのはずるいわぁ。
 しかもネギ君が甘えてくる方法見っけたとか言って、そのときのことを惚気てくるし。ウチもネギ君に甘えられたい~。


 よし、今日はネギ君と一緒に寝よう。
 そんで朝はネギ君より早く起きて、ギューっと抱き締めるんや。





━━━━━ 後書き ━━━━━



「さっさと原作を終了させてから青春を謳歌する」

 そんな二次創作の根幹を引っ繰り返す発想をする、それがここのネギクオリティ。
 ま、そんなこと許すわけありませんがね。


 せっちゃんの強化フラグが立ちました。
 しかしせっちゃんは、24時間ずっとネギと二人っきりで修行と勉強になることの意味にまだ気づいていません。


 そして忍びという気配遮断のプロがせっちゃんをロックオンしました。
 せっちゃんの運命や如何に?



[32356] 第19話 バレンタイン③ 浮気?調査
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:38



━━━━━ 長瀬楓 ━━━━━



 …………プリンに釣られて変なことに巻き込まれてしまったでござる。
 それにコレって本当に木乃香殿にお伝えしていいのでござろうか?





「お待たせー、楓。これウチが作ったプリンや。あとで食べてなー。
 …………で、どうやったん?」

「食べながら話をしましょうよ。お昼休み終わっちゃうわよ」


 おや、アスナ殿まで。
 そんなにプリンを見つめても、食後のプリンは渡さないでござるよ。


「それにしてもありがとなー、楓。せっちゃんの後をつけるなんて大変やったろ」

「刹那に気づかれないように監視するのは確かに大変でござったが、拙者の良い修行にもなったでござるよ。
 昨日刹那に動きがあったので報告するでござる」


 “刹那の監視”……それが拙者の任務でござる。………………報酬はプリン。
 木乃香殿はいったい何をしたいのでござろうなあ?

 とはいえ、いいんちょがネギ先生を招こうとした洋菓子店のプリン詰め合わせを頂いたからには、その分シッカリと働くでござる。木乃香殿の手作りプリンも美味しいでござるしな。
 …………けど正直言って、止めておけばよかったと後悔しているでござるよ。





「さて、依頼された当日であるクラス会議の日、つまりおとといは特に何もなかったでござる。
 しかし、刹那は昨日の早朝の5時前にエヴァ殿の家を訪れたでござる」

「エヴァちゃんの家? 桜咲さんとエヴァちゃんって付き合いあったっけ?」

「そんな朝早くから悪いなぁ。またプリン作ってくるわ」

「お願いするでござる。実を言うと、頂いたプリンの詰め合わせは風香と史伽に半分取られてしまったので。
 …………ここからは少し言いにくいのでござるが、数分後にネギ坊主がエヴァ殿の家に入っていったのでござるよ」

「ネギ君がぁ?」

「はあ? 何でよ!? 昨日は確か、ネギは朝早くからランニングに行くって…………」


 そんなこと拙者に言われても困るでござる。
 ただ拙者は見たままのことを報告している故に…………。


「…………そういえばネギ君。紅茶を飲みにエヴァちゃんの家に何度か行ってたなぁ」

「ああ、そういえばそんなこと言ってたわね。さすがの木乃香も紅茶には詳しくなかったから。
 でもそんな朝早くから紅茶を飲みに行くわけないし、そもそもランニングと言ってネギは部屋を出てったのよ」

「それで? 2人はエヴァちゃんの家で何してたん?」

「さすがに家の中までは探れなかったでござる。
 …………ここからは更に言いにくいのでござるが、約一時間後に刹那がエヴァ殿の家から出てきたとき、耳まで真っ赤になるぐらい赤面していたでござる。
 しかも、そのときは遠目故にはっきりとは見えなかったが、学校で確認したら肌が物凄くツヤツヤになっていたでござる」

「「………………………………」」


 沈黙が怖いでござるよ!?
 というか無表情のアスナ殿が物凄く怖いでござる。拙者、こんなアスナ殿の顔は見たことござらん。









「………………ネギったら、エヴァちゃんの家で何をやっていたのかしらねぇ」

「………………エヴァちゃんて、この前のお風呂でネギ君に髪を洗うのを手伝うように言ってたなぁ」

「エ、エヴァ殿はそのときは起きていなかったようでござる! 刹那が凄い勢いで走り去った後にネギ坊主が出てきたのでござるが、見送りの茶々丸殿にエヴァ殿が寝坊しないようにと言っていたでござるよ!
 ちなみにネギ坊主はいつもと変わらない様子だったでござる」

「……………………ふーん。
 そう言われれば、確かに昨日のせっちゃんは様子が確かに違うていたなぁ」

「……………………ネギはあまり変わっていなかったわねぇ。
 変わったと言えば、おとといの夜は木乃香がネギと一緒に寝たぐらいかしら?」

「ええやん。アスナばっかりネギ君独り占めしてズルイわぁ。最初にネギ君と寝てたのはウチなんやで」


 本気で怖いでござる。
 今からでもこの依頼を取り消してもらうことは出来ないでござるか?


「そんで? その後はどうなったん?」


 …………無理でござるな。せめて依頼はちゃんと果たすから、拙者に何かしようとは思わないで欲しいでござる。


「そのあと刹那の後を追ったが、それからは普通でござる。
 寮に帰って時間になったら学校へ行き、放課後は拙者やアスナ殿と一緒に居残り授業。居残り授業終了後は剣道部。その後は寮に戻って食事、自主トレの素振り、入浴、勉強、就寝といった感じでござる。
 これが昨日の刹那の一日でござるな」

「最後は普通やなぁ」

「というか、楓ちゃんってば大丈夫なの?
 桜咲さんをずっと監視しているなんて」

「いやいや、これも修行の一つでござる。
 ただ、拙者はバレンタイン当日パーティー担当グループなので、パーティーが近くなるとソチラを優先させて頂くでござるよ」

「それはわかっとるわ。改めてありがとうな、楓」

「それにしてもランニングに行くなんて嘘ついてまで、朝早くからエヴァちゃんの家に行くなんて。
 ネギったらいったいどうしたのかしらねぇ?」


 拙者は何も知らないでござる。
 だからその滲み出る殺気はネギ坊主にぶつけて欲しいのでござるが…………。













「その話、詳しく聞かせて欲しいのです」


 ごっ、ござっ!? 夕映殿!? 千雨殿にのどか殿に古まで!?

 …………う、迂闊でござった。
 アスナ殿の殺気に気を取られて、接近する気配に気づかなかったでござる。


「あー、わりぃ。立ち聞きするつもりはなかったんだが、偶然飯食いに屋上まで来ててな。
 綾瀬達を押し留めることが出来なかった」

「ネ、ネギ先生せんせーがエヴァンジェリンさんと桜咲さんと……………………」

「シッカリするですよ、のどか。まだそうだと決まったわけじゃありません。
 錯乱しないでください。英語のノートを見ても解決策が載っているわけじゃありません」

「アイヤー、何だかとんでもないことを聞いてしまったみたいアル」



 の、のどか殿、目が…………。
 これ以上、コトが大きくなるのは勘弁して欲しいのござるが…………。












━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



「ふ、ふつつかものですが…………よろしくお願いします」

「刹那さんが嫌ならおんぶにしましょうよ」

「…………別に嫌という訳ではないのですが。その、恥ずかしくて…………」


 わ……私はどうしたらいいんだ?

 今、私はエヴァンジェリンさんの別荘にいる。
 現実の1時間がこの中では24時間となり、その分修行出来るのはありがたい。


 初めてここを使わせてもらった日は、修行、勉強、ネギ先生との手合わせを行なったのだが、最後のネギ先生との手合わせで力尽きて気絶してしまった。

 ネギ先生は本当に強い。身体能力は私のほうが上だが、剣の腕は私以上。
 それに身体能力も『咸卦法』を使われてしまったら、私が気を使った状態よりも上になる。そうでなくとも数年後にはネギ先生の素の状態で上になるだろう。
 しかし、まだまだ私も負けてはいられないし、中々良い手合わせが出来たと思う。少なくとも私は得るものがたくさんあった。


 そして、気づいたらネギ先生におんぶされていた。
 『咸卦治癒マイティガード』を使用して、私の疲労をとってくれていたらしい。それはいい。

 それはいいのだが、10歳の男の子におんぶされて涎を垂らして寝ていた、というのはさすがに恥ずかしすぎる。
 ネギ先生が前もって私の顎の下、つまりネギ先生の肩にタオルを置いていなかったら、ネギ先生のシャツがグッショリとなるぐらいの量の涎をだ。
 ネギ先生は気にしないと言ってくれたが、その日一日は恥ずかしくてネギ先生の顔をまともに見れなかった。


 確かに『咸卦治癒マイティガード』というものは凄い。あれだけの疲労を、たった2時間ほどの休憩で全快できるとは。
 しかし、あの気持ち良さは何とかならないだろうか? あんな気持ち良さだと、疲れた身体だったら絶対に寝てしまう。それに肌も何だかツヤツヤになるし。


 そして今日が2回目の別荘での修行の日で、別荘を出たこの後に学校があるので『咸卦治癒マイティガード』で回復させてもらうのだが、『咸卦治癒マイティガード』は接触しないと回復しない。
 その接触方法でネギ先生と言い争っているのだ。





「僕は別におんぶでも大丈夫ですよ。
 『咸卦治癒マイティガード』発動中なら寝なくても平気ですから」

「いえ! さすがにそこまでして頂いては申しわけありません!
 私の勉強と修行に付き合って頂き、その上私の体力回復のためにネギ先生が寝ないなんて…………」

「でも、僕と一緒に寝るのは嫌なんでしょう?」

「で、ですから! …………嫌という訳ではありません。ネギ先生に抱きつくというのが恥ずかしいのです。
 …………その、ネギ先生から私に抱きついてきてくれませんか?」

「え? “抱きつく”より“抱きつかれる”方が恥ずかしくないんですか?」


 どっちも恥ずかしいんです!!!
 10歳の男の子に“おんぶされる”、“抱きつく”、“抱きつかれる”なんて、どれを選べばいいんですか!?

 『咸卦治癒マイティガード』を使わないというのは出来ない。
 このまま学校へ行っても途中で力尽きて授業中に寝るだろうし、護衛に差支えがある。


 “おんぶされる”は却下! ネギ先生が休まずに私をおんぶするなんて、そこまで迷惑は掛けられない。
 そして残りは“抱きつく”と“抱きつかれる”なんだが、こんなものどっちを選べばいいんだ!?





「さすがの僕でも刹那さんに抱きつくのは恥ずかしいんですけど…………」

「ネ、ネギ先生だって“抱きつかれる”より“抱きつく”方が恥ずかしいのではないですか!?」

「いえいえ、僕は10歳の男の子。刹那さんは14歳の女の子という違いがあるじゃないですか。
 そもそも「体力を回復させてやるから抱きつかせろ」なんてセクハラじゃないですか!?」

「わ、私は別にセクハラだと思いません!」


 た、確かに10歳の男の子には恥ずかしいでしょうけど、14歳の女の子だって恥ずかしいんです!









「…………このままだったら休む時間がなくなります。
 ジャンケンで決めましょう。最初はグーの一回こっきり勝負」

「いいでしょう。負けた方が勝った方に抱きついて寝る。…………あいこは?」

「あいこはおんぶです」

「なっ!? それズルイです! あいこだったらやり直しです!」

「僕達だったらずっとあいこになる可能性もあります!」

「く、私達の身体能力なら確かに…………。
 なら、あいこだったらお互いに抱きつくのです! それだったら公平でしょう!?」

「…………いいでしょう。
 それでは、右手に“気”、左手に『戦いのカントゥス・ベラー「ちょっと待ったぁっ! それズル過ぎますよっ!!!」…………チェッ」


 ええい、ネギ先生にこんな子供っぽいところがあるとは…………。
 年相応のところがあるんだな。

 まあ、素のネギ先生を曝け出してくれるのは悪い気はしない。
 教師としてのネギ先生とは違った魅力があるし。







「…………わかりました。刹那さんも気で強化はなしですよ」

「そのつもりです」



 何で来る?
 とりあえず私はグーを作っておいて、ネギ先生が手を変化させてきたらチョキに変えよう。


 ゴクリ、と唾を飲み込む。緊張するな。


 それでは、いざ尋常に!!!










「「最初はグー! ジャンケンッ!!!」」





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「ズルイです。刹那さん後出し狙ってたでしょ?」

「ネギ先生だってそうじゃないですか…………」


 お互いグーでした。
 きっとネギ先生も同じこと考えていたんでしょうね。


「術式兵装『咸卦治癒マイティガード』…………えーっと、それじゃあ…………お休みなさい?」

「何で疑問系なんですか?」


 ネギ先生と一緒のベッドに入る…………。
 ………………ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳ネギ先生は10歳………………。
 だから何ともない!







「失礼します。…………嫌だったら言ってくださいよ。僕はおんぶでも構わないのですから」

「…………大丈夫ですよ」


 …………本当にネギ先生は10歳なんだなぁ。私の顔も赤いのだろうが、ネギ先生の顔はそれ以上に真っ赤だ。
 このネギ先生見たら、何か逆に落ち着いてきた。

 ネギ先生には苦手なものとかはないのかと思っていたが、こういうことは苦手なのか?
 でも、木乃香お嬢さまやアスナさんと一緒の布団で寝ているらしいのに。


 ギュ、とネギ先生が私の胸に顔をうずめる形で抱きついてくる。それと同時に『咸卦治癒マイティガード』の効果で身体がポカポカとしてくる。
 さすがに胸に抱きつかれるのは少し恥ずかしいけど……………………別に嫌じゃない。

 それでは私もネギ先生を抱きしめないといけないな。
 …………こういう場合だと、頭と背中に腕を回せばいいのかな? こ、こうかな?





「ヒャッ!!!」「うわっ!?」





 …………ビックリした。
 ネギ先生の頭の裏に腕を回したら、ビクリ! とネギ先生が跳ねた。



「抱きつかれるのは慣れているはずなのでは?」

「………………抱きつかれるのは慣れていても、抱きつきながら抱きしめられるのは慣れていません」


 ? その2つに何か違いがあるのだろうか?

 胸の中で喋られるのはこそばゆいな。しかも私に顔を見せたくないのか、ギュウっと抱きついてくる。
 この状態だと肌は耳しか見えないが、その耳は凄く真っ赤だ。


 ………………カワイイ。
 少し私が動くと、小動物みたいにビクつく。




 ネギ先生の髪の毛はサラサラしているな。良い匂いもする。
 …………手合わせ後にお互いにシャワーを浴びたが、私は大丈夫かな? 随分と汗をかいてしまったが、ちゃんと匂いが取れているだろうか?

 いや、そもそもこの寝巻きに使っているジャージはちゃんと洗濯できていたのだろうか?
 いつも洗濯機に放り込んで自動で洗濯していて、素材にあわせた洗濯などはしたことがない。それに結構長い間使っているから、私の匂いが染み込んでいるかも…………。


 …………マズイ、気になってきた。





「…………あの、私の体は変な匂いとかしていませんか?」

「え? こ、答えなきゃいけませんか?
 …………変な匂いとかは別にしません。良い匂いです。あったかくて柔らかくて………………気持ち良いです」

「え? あ、ありがとうございます…………」



 そ、そういう意味で聞いたワケじゃないのだけれど………………気持ち良いんだ。









 …………エヘヘ。









 ふあ…………眠くなってきた。エヴァンジェリンさんすら寝てしまったというのは本当だなぁ。これは誰だって寝てしまう。
 ネギ先生との手合わせは疲れた。起きたら学校なんだし、さっさと眠るか。

 これならアッサリと眠れそうだ。
 このちゃんがネギ先生を抱き枕にしているという気持ちがわかる気がする。





 …………このちゃん、ウチ頑張るからね。修行も勉強も頑張って、絶対このちゃんを守るから。
 だから、いつまでもこのちゃんは笑っていてね。

 このちゃんの笑顔は、絶対にウチが守るから…………。












━━━━━ 長瀬楓 ━━━━━



 ネ、ネギ坊主と刹那は拙者に恨みでもあるのでござるか?
 今日はネギ坊主が顔を赤くし、刹那はニコニコと笑って、二人で手を繋いでエヴァ殿の家から出てくるなんて…………。

 こんなこと、アスナ殿や木乃香殿にどのように報告すればいいのでござる?
 しかも今度からのどか殿たちにまで報告しなければいかぬとは…………。

 無表情のアスナ殿も怖いでござるが、笑っているだけのはずの木乃香殿も怖いのでござる。
 プリンに釣られて変なことに巻き込まれてしまったでござる。依頼の危険度を見誤るとは、拙者もまだまだ未熟でござる。


 …………こうなったら腹をくくって、最後まで付き合うしかないでござるな。何とかして木乃香殿達の狙いをネギ坊主達のままにしておかなければ。
 ネギ坊主と刹那には悪いが、拙者の身の安全を優先させてもらうでござるよ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ピコーーーン! 無表情明日菜というクールアスナ誕生フラグが立ちました。
 ただし、選択肢を間違えると明日菜ヤンデレルートに突入しますので注意しましょう。


 ピコーーーン! 「いつまでもこのちゃんは笑っていてね」という刹那の願いが(別の意味で)叶うフラグが立ちました。
 ただし、選択肢を間違えると木乃香ヤンデレルートに突入しますので注意しましょう。


 ピコーーーン! “空鍋をかき回す”ならぬ“白紙を読書”フラグが立ちました。
 ただし、選択肢を間違えるとのどかヤンデレルートに突入しますので注意しましょう。


 ピコーーーン! ネギのヘタレフラグが立ちました。
 今までこんな機会がなかったので気づきませんでしたが、子供と意識された上で攻めるのや攻められるのは平気でも、お互いに男女と意識した上で攻めるのや攻められるのは苦手なようです。
 体感時間年齢100歳の魔法使いは伊達じゃありません。今までは平気だったとしても、相手に意識された途端に恥ずかしくなることってありますよね。



[32356] 第20話 バレンタイン④ 贈り物
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:41



━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━



ちう > おハローーー(・▽・)p みんな元気ーーー!?

ちう > ちうは今日も元気だピョーーーン!!!

ちう > 今日も大変だったんだよー(><)i

ちうファンHIRO > また忍者信じてる外国人の子供?

通りすがりB > 10歳じゃしょうがないんじゃないw

ちう > その子自身は悪い子じゃないんだけどね

ちう > ただ周りの子達が常識知らずだから

ちう > その子に悪い影響与えないか、ちう心配なんだー

アイスワールド > さっすがちうタン

ちうファンHIRO > まるで天使のように優しいな

ちう > え~~~? そんなことないよ~~~♪

ちう > でもありがとみんなーーー(>▽<)/

ちう > 今日はお礼にニューコスチュームをお披露目するよ♪








 ああ、至福の時。何て気持ちいいの…………。
 あのガキのせいでささくれ立った心が癒される…………。


 何であのガキはホイホイと女に着いていくんだよ!? 警戒心てモノがねぇのかっ!?
 風呂場のときのマグダウェル見てたら、あのガキ狙いってのが一目でわかるだろうがっ!!!





 コンコン





 しかも今度は桜咲までもかよ。長瀬からの報告では、週3の割合であのガキと一緒にマグダウェルの家に通い詰めてるみたいだし…………。
 あいつはこういうのに興味ないと思っていたんだがなぁ。

 ああ、やっぱりクラスにマトモな奴はいないんだ。ショタコンがあんなに多いなんて……………………。





 コンコン!





 捻くれたガキは嫌いだが、ああまで人を疑うことを知らないような純真すぎるガキも苦手だ。
 田舎暮らしとはいえ、何であそこまで世間知らずに育ったのかね?





 ドンドン!





 …………いや、世間知らずじゃないな。一応物事は知っている。
 ただ疑うことを知らないのと、物分りが良過ぎるだけなんだ…………。





「長谷川さ~ん? いませんか~~~?」





 諦めちゃ駄目だ。あのガキをマトモな道にいさせることが出来るのは私だけなんだ。
 クラスの連中が暴れるにしても、何とか日本の普通がああじゃないことを認識させなきゃ…………。





「長谷川千雨さ~~~ん!?」





 って、さっきからうるせぇな?
 何であのガキが私を呼んでるんだよ?









ちう●●さ~~~ん? いませんか~~~?」









 …………。

 ……………………。

 ………………………………何でさっ!?







「あれぇ? さっき中から「ちうは今日も元気だピョーーーン!!!」って聞こえたのに…………」


 げぇっ!? 口に出してたっ!?
 キーボード打つときに同時に口に出す癖がっ!?


「んー? 寮長さんに聞いてみるかな?」


 ちょ!? おま!? 待て、このガキャ!!!


「ちょ、ちょっと待てっ!」

「何だ、居たんじゃない…………ですか。長谷川さん」


 うお!? 首が180度ぐらい回って後ろ向きやがった!? 気持ちワリィッ!!!
 何だよ? 何かおかしなモンでも…………って、ヤベェッ! コスプレ衣装のままだった!?


「と、とりあえず中へ入れっ!!!」

「え!? ちょ、ちょっと待ってください!?」


 ええい! 抵抗すんな!!!
 こんな姿誰かに見られたら、今後外に出られない。何とかこのガキを口止めしなきゃ…………。


「な、何で鍵をかけるんですかぁっ!?」

「いいから! い、今廊下に他に誰かいたのか!?」

「ヒィッ!? い、いませんでした、けど…………」


 よし、それならコイツの口止めをすれば大丈夫だ。


「鍵をかけて監禁なんて…………。
 長谷川さんなら雪広さんみたいなことはしないと思ってたのに…………」


 グハァッ!!! わ、私があの変人共と同レベル!?
 ていうか、いいんちょはこのガキを監禁したことあるのかよ!?


「い、いったい何の用なんだ? 何の用で私の部屋に来たんだ?」

「プ、プリントを届けに来ました。印刷機の調子がおかしくて、帰りのHRに少し間に合わなかったんです。
 長谷川さん以外はまだ教室に残っていたから渡せましたけど、長谷川さんは早めにお帰りになられていたので僕が届けに来ました。
 別に急ぎのプリントというわけじゃありませんけど、一人だけ渡していないというのはどうかと思って…………」

「ああ、そういえば帰りのHRにお前はいなかったな。
 …………別にそんな風に怯えんな。取って食うわけじゃないんだから。ちょっとお願いしたいことがあってな」

「そ、そうなんですか!?
 本当に酷いこととかしないんですか!?」



 ああ、もう! めんどくさいなぁ。
 ちょっとコスプレのことを秘密にしてもらいたいだけなのに。

 このガキから見たら確かにコスプレは変かもしれないけど、ここまで怯えることは……………………アレ?







 プリントを届けに部屋に来る
   ↓
 ノックしても返事がない
   ↓
「ちうは今日も元気だピョーーーン!!!」と奇声が聞こえる
   ↓
 更に呼びかけても返事がない
   ↓
 戻ろうとしたらコスプレ女が出てくる
   ↓
 目をそらした瞬間、部屋に連れ込まれる
   ↓
 ドアに鍵をかけられて監禁される
   ↓
「ちょっとお願いしたいことがあってな」 ← 今ココ
   ↓
「アッーーーーー!?」 ← 次ココ?







 どう見ても不審者です! 本当にありがとうございましたぁっ!!!



「…………ま、待ってください、ネギ先生。落ち着いて話を聞いてください」

「だ、大丈夫です。僕は落ち着いています。
 ですから、長谷川さんも落ち着いてください」


 怯えんな。ジリジリと後ずさんな。
 わかったから。私が悪かったのはわかったから。


 よし、良い子だからお姉さんの言うことは聞きなさい。大丈夫。別に酷いことしないから…………ね?
 ほーら、ネットアイドル女王のちうタンの笑顔だよ~♪



 だからそんなに怯えんな。コラ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「…………つまり、長谷川さんの趣味はコスプレで、“ちう”というハンドルネームでネットアイドルしてることは秘密にしろ、と?」

「い、いや、そんな命令形じゃなくてですね。
 恥ずかしいから秘密にして欲しいな~……なんて…………」

「別に…………構いませんけど」


 …………完璧に怯えられてる。小さい子供に怯えられるというのはさすがに精神的にキツイ…………。
 ああ、これで私もあの変人集団の仲間入りしちまった。


「…………フゥ。もう大丈夫です。本当に落ち着きました。誰だって人に秘密にしておきたいこともありますからね。コスプレ趣味を秘密にするのは了解しました。
 それと、別に無理して丁寧語を使わなくてもいいですよ」

「あ、別に無理してるわけじゃないんですけど…………」

「あと伊達メガネは視力が悪くなるかもしれませんので、あまりしないほうがいいと思います」

「う…………私はメガネつけずに人と会ったりするのは駄目なんです」

「綺麗な顔立ちなのにもったいないです。そのコスプレも最初見たときはビックリしましたけど、よくよく見れば可愛いらしい衣装ですね。
 似合っていて可愛いですよ、長谷川さん。その…………バニースーツ?」


 いや、確かにウサギをモチーフにした衣装だけど、バニースーツとは違うんじゃないか。
 というか、言いよどむってことは、このガキはバニースーツ知ってんのか!? とんだエロガキだな!?

 というか真顔で褒めんなっ!
 クソッ、外国人は日本人と違って、オブラートに包まないで直接的に女を褒めるってのは本当らしいな。





「いや、ウサギをモチーフにしたレオタードなどの身体の線が出る衣装がバニースーツの定義らしいので、長谷川さんのその服は定義からするとバニースーツです」

「細けぇんだよっ! っていうか、ガキがそんな知識持ってる必要はねぇ!
 どこのどいつだ!? お前にそんな知識植え付けたのは!?」

「ゲームとかアニメのキャラによくいるじゃないですか」

「子供がそんな不健全なもの見んなっ!
 …………おい? 何で目ェそらすんだ?」

「え? だって不健全なもの見ちゃ駄目だって長谷川さんが…………」

「私が不健全だってか!?」


 あ、いや…………確かに10歳の子供にこんな格好は目に毒だが。
 それに自分で自分の趣味全否定だよ、おい。



「冗談です。このぐらいは許してくださいよ。連れ込まれてドアに鍵をかけられたときは本当に怖かったんですから。
 …………雪広さんのときはお茶に付き合うだけで済みましたけど。」

「か、からかったのかよ、てめぇ………………あー、いや。私が悪かったです。この格好見られて慌ててしまいまして。
 それといいんちょのことは諦めてください。アレはもう病気の類です」

「はい、わかりました。この話はこれでお終いにしましょう。僕はわざわざ他の誰かに言い触らしたりしないので安心してください。
 それと長谷川さんはさっきの口調の方が、生き生きしていて魅力的ですよ。
 猫被りたいのはわかりますけど、事情を知った僕の前ぐらいでは素の長谷川さんを見せていただけると嬉しいです」

「ばっ!? 馬鹿かてめぇ!?
 教師が生徒を口説いて良いと思ってんのか!?」

「え? そういうつもりじゃありませんけど?
 ずっと猫被っているのはストレス溜まるでしょう。それに他人がいるならともかく、僕と二人っきりのときはもう取り繕っても無駄なんですから、無理しないで普段の口調を使ってもいいじゃないですか」

「べ、別にお前と二人っきりになんかならないよ…………」

「いや、今二人っきりじゃないですか。というか既に普段の口調じゃないですか。
 あとは何か相談とかあるときも、その口調で結構ですよ」

「…………わかったよ。考えとく。お前に相談することがあるかどうかはわからないけど…………」


 …………とんだ醜態晒しちまった。
 確かにこれ以上取り繕っても、もう無駄以外の何物でもねーんだが…………。





「授業に関係ないことでも大丈夫ですよ。部活や家庭、趣味のことでも何でも。
 まぁ、僕みたいな子供に相談しようと思っていただければですが。そのときは精一杯親身になって対応しますので」

「フン…………そんな機会があったらな」

「あ、それと長谷川さんはもうちょっと自信を持ってもいいと思いますよ。せっかく可愛いんですから」

「う、うるさいな。真顔で褒めるなよ…………」


 外国人で感性が違うから仕方がないとはいえ、このガキは…………。

 そもそもハイスペックなウチのクラスの中でも、群を抜いてハイスペックなんだよな、このガキ。
 10才なのに教師として優秀だし、女に囲まれてても紳士だし、風呂場でもいやらしい目で見てこなかったし、ガキの癖に結構いい肉体していたし…………。
 宮崎やマグダウェルが惚れるのもわかる気がする…………って、そうじゃねぇだろ! 何考えてんだ、私は!?


 …………う、マズイ。何だか急に恥ずかしくなってきた。私は何でこんな格好を二人っきりでガキに見せてんだ。









「どうしました? 急に顔が赤く…………?」

「べ、別に何でもねぇよ…………」

「? あ、もしかしてジロジロと見るの失礼でしたか?」

「た、確かに恥ずかしいことは恥ずかしいが…………」

「? んー…………? ああ、“綺麗な顔立ち”とか“生き生きして魅力的”とかは本心ですからね。
 別にお世辞とかで言ったつもりじゃないですよ」

「だ、だから真顔で褒めんなっつーの!」



 …………外国人で感性が違うから仕方がない外国人で感性が違うから仕方がない外国人で感性が違うから仕方がない外国人で感性が違うから仕方がない外国人で感性が違うから仕方がない…………。

 だ、駄目だ。考えれば考えるほど意識しちまう…………。
 10歳のガキ相手に何でこんなに照れてんだよ、私は?


「さて、名残惜しいですが、そろそろ僕はお暇しなきゃいけないです。
 このあと学園長と会わなきゃいけなくて…………」


 な、“名残惜しい”って何だよ!?
 もうちょっとここにいたいってのか!?

 そ、そうじゃない! これは世間知らずなガキの戯言だ!
 だから私が意識することじゃない!!!













「というわけで、ドアの鍵を開けてもいいでしょうか? そしてお暇させてもらってもいいでしょうか?
 いやぁ、ずっと長谷川さんの姿を拝見していたいのですが、学園長に用事がありまして。残念ですねぇ。名残惜しいですねぇ。
 …………コスプレのことは誰にも言いませんので」





 …………え? あれ? まだ怯えてる?

 そういえばドアに鍵かけて監禁中だったな。
 ってことはもしかして…………今までのは私の機嫌をとるための褒め殺し?





 ……………………べ、別に変な勘違いなんかしてねぇからなっ!!!











━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



「どうしたんじゃね、ネギ君? 何だか疲れてる顔をしとるが…………」

「あ、いえ…………ちょっと面白半分で首を突っ込んだら、思ったよりも大事になってしまって。
 まぁ、無事に解決できたので問題はありませんが」

「ふぅむ。それならよいがの」

「それと金曜日のバレンタインですね。日本のイベントはある程度勉強してきたので、バレンタインは2-Aの皆さんで大騒ぎになると思っていたんですが、何故かまったくと言っていいほどバレンタインの話題が出てこないんですよ。
 静かなのは結構なんですが、何だか嵐の前の静けさのような気がして、それが逆に恐ろしいというか…………。
 明日菜さんと木乃香さんが最近何だかやけにご機嫌なのが唯一の救いです」


「…………強く生きるんじゃぞ」


「アッサリと見捨てないでくださいよ。
 タカミチも出張から戻るのは14日の夕方で、それまで僕一人で2-Aの相手しなきゃいけないのに…………」


 ハッハッハ。バレンタインはカオスになるだろうから諦めろ。
 諦めたらいろいろと楽になるぞ。


「だから相坂さよのことはバレンタイン後に行なうのか?」

「そうですよ、エヴァさん。それに相坂さんが乗り移る用の人形は出来てますけど、まほネットに注文した年齢詐称薬がまだ届いていないですしね。
 相坂さんには人形に乗り移ってもらって、年齢詐称薬で見た目を誤魔化してもらえれば授業に出ることも出来ます。年齢詐称薬は結局のところ幻術ですから。
 しばらくの間はそれで過ごしてもらい、生活に問題なかったら常時幻術がかかる魔法具でもつけてもらいましょう。
 当日は桜咲さんに立会いをしてもらう予定ですが、念のために龍宮さんにも声をかけておきたいです」

「ウム。書類関係の準備は出来ておるよ。
 …………しかし、龍宮君はどうじゃろ? そこまで必要かの? ワシも立ち会うつもりじゃし、戦力が多すぎないかの?
 そもそも危険なコトはないと思うのじゃが…………」

「龍宮さんには護衛の他に、人形に乗り移った相坂さんを魔眼で見てもらって、問題がないかどうかを確認していただきたいんですよ。
 それといくら学園長の同級生だったからって、警戒しないでいいわけじゃありません。
 確かに60年地縛霊やって問題を起こしていないので、危険はないと思いますけどね。あくまで“念のため”です」

「まあ、龍宮マナの魔眼で見て、問題なければ安心は少しは出来るな。さすがの私も人形に幽霊を乗り移らせたことなんてのはないから、どうなるかはわからん。
 あ、もちろん私も立ち会うぞ」

「そういうことなら構わんぞい。ワシの方から依頼しておこう」

「予定としてはバレンタインの夜を考えています。
 バレンタインは皆さん祭りのように騒ぐことになるでしょうから、夜になったらわざわざ学校に来るような人はいないでしょう。
 しかも、金曜日の放課後なら尚更です」

「わかったぞい。ワシの方もそれで予定を空けておこう」


 うむ。これで相坂さよの話はお終いだ。
 ではこれからが本題だな。そのためにわざわざジジイの部屋まで来たんだから。









「茶々丸さんも入れた僕達6人なら、大抵のことは大丈夫でしょうね。
 学園長も何かあったらお手伝いをお願いします」

「ウム。わかっておるわい」

「それとは別に学園長にお聞きしたいことがあるんですけど」

「何かね? 何でも聞いてみなさい、フォッフォッフォ…………」


 ご機嫌だな、ジジイ。
 昔の同級生が救われるとあってはご機嫌にもなるか。







「エヴァさんの力を封印している“学園結界”のことなんですけど?」

「フォッフォッフォ…………フォワッ!?」

「どういうことなんだ、ジジイ?
 返答次第ではタダでは済まさんぞ…………」


 くそっ! 変だ変だと思っていたが、まさか電力を利用した“学園結界”で私の力を封じていたとは…………。
 てっきりナギの奴が強引に『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』をかけたせいで、私の力も封印されたのだと最近まで思っていた。

 ネギが解呪の研究の途中に気づいてくれなくても、茶々丸の調べでだいたい予想は出来ていたがな。
 しかし、改めて事実を確認すると腹が立ってくる…………。


「エヴァさん、気持ちはわかりますけど、そう怒らないでくださいよ。
 まず僕に任せていただける約束でしょう」

「わかってるよ、ネギ。
 ジジイ、キリキリと話せ。ネギのおかげでだいたい予想はついているんだ」

「…………あー、やっぱり気づいてしまったかの。
 ネギ君がエヴァの解呪に取り組んだときから予想はしておったが…………」

「エヴァさんは父のかけた『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』のせいだと思っていたみたいですけどね。僕もそう説明されたために気づくのに遅れてしまいました。僕もまだまだ未熟です。
 それで学園長に聞きたいことなんですが「“学園結界”は15年以上前からあったんですか?」、そして「“学園結界”は目標とした対象のみを封印できますか?」の2点です」

「ム…………それを聞くということは本当に事情が予想できているようじゃの。
 答えは「15年以上前からあった」、そして「そんな器用なことは出来ん」じゃよ」


 …………なるほどな。結局ネギの予想通りというわけか。
 だからといって、ムカつくことには変わらないのだが。





「でしょうねぇ。エヴァさんが麻帆良に来てから“学園結界”を張ったとしたら、エヴァさんはそのときから力を封じられることになります。
 そんなことならエヴァさんが気づかないわけないです」

「その通りじゃ。言い訳になってしまうが、エヴァに“学園結界”が効いてるとわかったのは12年前のことなんじゃよ。
 ナギが約束通りに3年経っても呪いを解きに来なかったので、ワシの方でも解呪の研究をしたのじゃが、そのときにようやく気づいての。
 エヴァがナギに麻帆良にいきなり連れて来られたときには既にこうじゃったので、てっきりナギが封印したのだと思い込んでおったんじゃ」

「学園長もエヴァさんと同じ勘違いしてたんですね。
 というか、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』かけただけなのに、そんな勘違いされる僕の父っていったい…………」

「い、いや、ナギのことだし…………なぁ、ジジイ?」

「ま、まぁ、そうじゃの。ナギだからしょうがないというか…………」

「…………ハァ、やっぱりデタラメな人なんですね、父は。僕とは随分違う人のようです」

「「………………………………」」

「え? 何です、その沈黙は?」


 突っ込まん。私は絶対突っ込まんぞ。ジジイ、お前が突っ込め!
 あ、目を逸らすな。上司たるお前の役目だろう!





「そ、それでじゃな! エヴァにそのことを言おうとも思ったのじゃが、その頃のエヴァはナギが約束通りに来なかったから荒れておっての。つい言い出せなかったのじゃよ。
 エヴァ自身だって、そんなこと言われたら当時の自分がどうしていたか予想つくじゃろ?」


 話も逸らすな。

 …………ま、言っていることはわかるがな。あの頃は確かにナギに裏切られたと思って荒れていたからな。





「それでズルズルと今の今まで言わなかったと?」

「言いにくいのじゃが、そういうことじゃのぉ。
 ま、勘弁しておくれ。コッチにも事情があったんじゃ」

「フン! まあいい…………どちらにしろ、今まで15年間気づけなかった私も間抜けだったんだからな。
 それよりも、やはり私を“学園結界”の対象外にすることは出来んのか?」

「無理じゃ。さっきも言ったが、そんな器用なことは出来ん。
 “学園結界”は結界内の高位の魔物・妖怪を動けなくするものじゃ。例えば学園地下に石化封印している無名の鬼神なんかのためにの。
 そもそも力が封印されているとはいえ、結界内でエヴァが五体満足に動けている方が不思議なんじゃよ。ましてや満月の日では吸血鬼の力を取り戻すなんてことはの。
 そのことが原因で、“学園結界”がエヴァに効いているということに気づくのが遅れてしまったのじゃが…………」

「やっぱりそういうことでしたか。
 ホラ、昨日僕が言った通りじゃないですか。エヴァさんが“強すぎる”のが駄目なんですよー」


 ハッハッハ。
 それは事実なのだが、そこまでハッキリと言うな、ネギ。
 しかし、“強すぎる”のがいけないとはな。

 フ、参ったな。まさか“強すぎる”せいで、こんな不利益があるとは。“強すぎる”というのも困ったものだ。
 最初にこの事実を知ったときは学園関係者を全員血祭りに上げようかと思ったが、そういう事情なら許してやろう。






「学園長としては、エヴァさんの力を取り戻すのに何か問題はありますか?」

「…………個人的にはない。この15年間でエヴァのことも信用しておるからの。
 しかし、この学園の責任者としては無理じゃ。
 エヴァ1人のために“学園結界”をやめるわけにはいかんし、エヴァのみを対象外とするような“学園結界”の改変には、エヴァの懸賞金が数十人分はおそらく必要じゃ。さすがにそんな大金は出せん」

「そこまで大事にはしないです。試してみたいことがあります」

「何じゃね?」

「エヴァさんを封印具で“学園結界”に反応しなくなるぐらいにわざと力を封印します。
 それならきっと、今より結果的には力を取り戻せるはずです」

「…………フム。実を言うと、そのことはワシも考えついていた。プライドの高いエヴァがそんなこと了承しないじゃろうと見送ったが。
 エヴァが構わないのならよいが、いいのかの?」

「構わん。力を1割でも取り戻せれば、花粉症とかに悩まされなくとも済むからな。
 ただしネギに封印具を用意させるのが条件だ。ネギなら信頼できるからな」

「既にまほネットで注文済です。年齢詐称薬と一緒に届きます。
 エヴァさんには僕の私用や相坂さんのことでも別荘を使わせていただいてるので、それのお礼も兼ねて僕から贈らせて頂きます。形状はエヴァさんのご希望で指輪型ですが」

「指輪? ネギ君からの贈り物?
 …………エヴァ、どの指に嵌めるつもりじゃ?」

「べ、別に左手の薬指に嵌めようとなんか思っておらんぞっ!」

「アハハ、やだなぁ。結婚指輪じゃあるまいし。
 左手の小指のサイズで注文しました。僕は知りませんでしたが、左手の小指の指輪には“変化の象徴”という意味があるらしいですね」





 …………“願いの成就”や“自分の魅力をアピールする”、“チャンスに恵まれる”などの意味もあるが黙っておこう。


 クソッ、桜咲刹那に別荘の使用を許可するんじゃなかった。
 最近奴のネギを見る目が怪しいぞ。

 あのネギが頼みごとをしてきたことに浮かれて、別荘内でネギと二人きりになることを忘れてた。
 とりあえず世話役の名目で茶々丸の姉を置いておいたが、いくら治療とはいえ、まさかネギと桜咲刹那が抱きしめあいながら寝ているとは。
 まだ変なコトはしていないらしいが、油断は出来ん。


 だから桜咲刹那には、ネギから贈られる指輪をジックリと見せてやることにしよう。くっくっく。
 ネギを狙ったのは私の方が先なんだからなぁ…………。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 千雨ってムッツリスケベなタイプだと思います。
 学園祭のときにネギと仮契約するシーンなんか特にw

 それと何で千雨ってコスプレ趣味ばれてなかったんですかね?
 キーボード打つときにあんなに大声で騒ぐのに。


 “学園結界”についてはオリジナル設定です。一応不自然ではないように出来たと思います。

 しかし、ヘルマンが麻帆良内で戦えた理由に困ってしまいます。
 高位の魔物・妖怪はNGだけど、高位の悪魔ならOK? んなわけないか。
 フェイトのツテでMM元老院から手に入れた、学園長さえ知らない“学園結界”をすり抜けれる裏コード的な護符でも持っていたことにしますか…………。


 そしてもちろん、せっちゃんに立ち会ってもらう=楓の監視付き、です。
 ネギ達の運命は如何に!?



[32356] 第21話 バレンタイン⑤ 女子中学生は見た
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:43



━━━━━ 宮崎のどか ━━━━━



『こちら楓、刹那と真名がエヴァ殿、茶々丸殿と正門玄関前で合流したでござる。
 拙者は約1km先から望遠鏡で監視しているでござるが、もう少し近寄ったら真名に気づかれるでござるよ』



「こちら木乃香、ウチラも学校に行くわ。20分ぐらいで着くから、それにあわせて合流してな。
 ありがとな楓。あとでウチの部屋に来てプリン食べてええで」

「…………何で1km離れてるのに気づかれるんだよ?」

「龍宮さんも…………というのはあまり考えられないですね。
 冷静になって考えれば、何か事情があるのでしょうか?」

「そ、そうだよね。ネギ先生せんせーが変なことするわけないもんね」

「…………甘いわよ、本屋ちゃん。ネギが変なこと考えてなくても、相手がそうじゃないとは限らないんだから」


 そ、そんなぁ? は、はわわわわ…………だとすればいったいどうしたら?

 せっかく今日のバレンタインパーティーを楽しく終わることが出来たのに…………。
 私は“2、3日は持つチョコを作るグループ”だったんだけど、他のメンバーの好意でネギ先生せんせーにチョコを渡す役を譲ってもらえた。
 皆で作ったチョコだけど、渡すときにネギ先生せんせーに「ありがとうございます、宮崎さん」ってお礼を言われちゃった。エヘヘ。



「しかし7時過ぎなのに、ネギ坊主は学校に何の用アルネ?」

「さぁ? 本人達に聞いてみないとわからないです。
 …………ところで何でくーふぇさんもいるのですか?」

「ネギ坊主はあれから全然手合わせしてくれないアル。
 ここは一つ弱みを握て、それをネタに手合わせをお願いしようと思たアルよ」

「くーへ、それ“お願い”やない。“脅迫”や」

「まぁ、ネギなら大丈夫でしょ。…………それに弱みになるようなことをネギがしていなければいいんだしねぇ」





 今私と一緒に居るのはユエ、アスナさん、木乃香さん、くーふぇ、千雨さんの5人。ハルナはあのときいなかったし、原稿が忙しいみたいだからハルナには秘密。
 あとは刹那さんを監視していた楓さんにも協力してもらっている。…………本当にクラスメイトを監視なんてしていいのかな?

 木乃香さんの話では、今日のパーティーが終わったあとにネギ先生せんせーは用事があるので夕飯はいらない、と言ったみたい。しかも帰りは遅くなって、泊まりになるかもしれないなんて…………。
 それにあわせて楓さんから刹那さんが外出するという報告があったことで、木乃香さんから全員集合がかかったの。





「で、でもいいのかな? こんなことして…………」

「大丈夫ですよ、のどか。
 こんなこともあろうかと、学校の机の中に英語の教科書を忘れておきました。何かあっても言い訳は出来ます」

「奇遇やね、ゆえ。ウチも実を言うと筆記用具忘れたんよ」

「…………怖いよ、お前ら」

「そもそも何で千雨ちゃんまでいるのよ? 確かに事情は知っているけどさ…………」

「あのときのお前等の顔見たら放っておけるわけないだろうが。
 …………おい、誰も刃物なんか持ってきてねぇだろうな?」

「え? 鞄の中にカッターは入ってますけど」


 それがどうかしたのかな?


「…………宮崎か。お前ならきっと大丈夫…………だよな?
 他の奴は危険物持ってるんなら置いてけよ。殺人事件なんか起こされちゃたまんねぇ」

「殺人事件て何よ? そもそも危険物なんか持ち歩いてないわよ。楓なら手裏剣とか持ってそうだけど」

「いや、アイツはいい。非常識な存在だが、ストッパー役が私一人なんて無理ゲーすぎる」


 ? どういうことだろ?








「皆さんそろそろお静かに。騒ぐと校舎内にいる人に気づかれる可能性があるです」

「楓はまだ来ておらんようやな。…………学校に着いたんはえーけど、夜の学校って不気味やわ」


 学校に着いた。…………着いたんだけど、何か怖い。
 夜の無人の学校がこんなに怖いなんて思わなかった。まだ校舎の中に入ったわけでもないのに。

 あ、あれ? 何か身体も震えてきた?





「な、何アルか? 身体が震えてくるアルよ」

「べべべ別に怖くないですよ。足が震えるのは武者震いというやつなのです…………」

「ゆ、ゆえ~、何か変だよ~」

「た、確かにいつもと学校の雰囲気違うとるなぁ…………」

「何か寒気も感じるわね…………」

「おかしいだろ、コレ。何で玄関にお札なんか貼ってるんだよ…………」


 皆もおかしく感じてるみたい。怖く感じるのは私だけじゃないんだ。あんなに強いくーふぇまで怖くなってるみたい。
 それに玄関にお札まで…………って、お札? 何処に?





「「「「「えっ?」」」」」

「? な、何だよ?」

「お札って…………どこにあんの?」

「私には見えないアル」

「すすすすすいません、私にも見えないです。こここここうまで暗いと…………」

「千雨ちゃん、眼鏡の度あってないんじゃないの?」

「視力は1.2だよ。これは伊達眼鏡だ。何処も何も…………目の前に貼られてんじゃねーかよ」


 千雨さんが目の前にあるガラス扉の真ん中を指差すけど…………見えない。他の皆も見えてないみたい。
 お知らせのプリントか何か貼ってあるのかとも思ったけど…………。


「遅くなったでござる。…………おや? 全員どうしたでござるか?」

「…………何で皆こんな怪しげなお札見えてねーんだよ。
 おい、長瀬。ここにお札貼られてるの見えるか?」

「そこにお札? 何のこ…………ム? …………見えるでござるな。
 確かに千雨殿の言われる通りにお札が貼られているでござる。しかしこれは…………」

「そうだよな見えるよな。私だけじゃねーよな。私は変じゃねーよな? …………って、忍者と同じモン見えてる私の方が明らかに変じゃねーかっ!?」

「落ち着くでござるよ、千雨殿。そんなに騒ぐと誰かに気づかれてしまうでござる。
 それに拙者は忍者ではござらん」

「えっ? 楓まで何言ってるのよ?
 いったいどこにお札なんて……………………あった」


 ええ? アスナさんがペタペタと千雨さんが指差したところを触っていたら、急にお札が見えるようになった。
 いったいどういうことなの?






「アレ? 急に震えが止またアル…………」

「あ、本当だ。怖い感じがなくなったね、ゆえ?」

「ほ、本当ですね。危うく漏ら…………何でもないです」

「何なんだよ、コレは? オカルトの類か…………?」

「あー…………オカルトというか何というか」


 何なんだろう、いったい?
 ただネギ先生せんせーに会いにきただけなのに、変なコトになっちゃった。


 いつもと違って、とても怖い感じがする学校。見えないお札が玄関に貼ってあって、それをアスナさんが剥がすと怖い感じがなくなった。
 そのお札が人払いをしていたみたいに…………。

 まるでこの前読んだライトノベルみたい。





「………………あれぇ?
 このお札の字、おじいちゃんの筆跡と似とるなぁ」


 え? おじいちゃん?
 木乃香さんのおじいちゃんといったら…………。


「学園長先生?」

「ウン。おじいちゃんの書を見たことあるけど、それに似とるんよ…………。
 そういえばチョコ渡したとき、おじいちゃんは今日遅くまで仕事でチョコを夜食に食べる言うてたなぁ」

「ということは、学園長も校舎内にいますよね…………」

「おいおい、学園長まで絡んでるのかよ?」

「どーするアル? 何かヤバイ感じアルよ」

「…………いや、ウチはいくで!」


 こ、木乃香さんの目が燃えちゃってる…………。

 大丈夫なのかな?
 こんなもの貼ってあったということは、学校の中に誰も入れたくなかったということだから、もしかしたら危険なことがあるんじゃ…………。


 あ、でもネギ先生せんせーがまだ校舎内にいるってことは、もしかしたらネギ先生せんせーが危険なことに巻き込まれているかも。
 は、はわわわわ…………そうだったらどうしよう?





「あくまでウチラは忘れ物を取りに来ただけや。別に疚しいことなんかあらへん。
 もしかしたら、忘れ物を取りに行く途中で変なもの見るかもしれへんけど、あくまでそれは偶然な不幸な事故や」

「おいおい、近衛。世の中には相手の事情なんか知ったこっちゃない人間なんか、お前が知らないだけでたくさんいてな…………」

「…………確かにそういう人達はいるかもしれませんが、そんな人達はわざわざ女子中学校を根城にするようなことはしないと思うです」

「それはそうね。というか、女子中学校を根城にするマフィアなんかいたら逆にお笑いなんだけど」

「そう言われると、確かに怖がる必要はないかもしれないアル」

「あー、確かにそうでござるが…………」


 そ、そうだよね。そんな人達がわざわざ麻帆良の女子中なんかに来ないよね。
 でも、それだったらこのお札はいったいなんなんだろう?


「ここまで付き合ってくれてありがとな、千雨ちゃん。とりあえず教室までは行ってみることにするわ。
 実を言うと、筆記用具忘れたのはわざとやないんよ」

「私も行きます。ここまで来たなら英語の教科書を取りに行きたいですし」

「ま、学校なら危険なことはないでしょ。このお札は気になるけどさ…………」

「あー…………わかったよ。私も行くよ。どうせオカルトみたいなものなんて現実にはないはずなんだ。別に怖がる必要なんかねーかんな」


 確かに私達が通っている学校に危険なんてないよね。ちょっとぐらいなら大丈夫だよね。
 幽霊とかいるわけないし、それに幽霊なんかより新田先生とかのほうが怖いし…………。












━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



『…………どういうことでしょうね、いったい?』

『な、何故木乃香お嬢さまが夜の学校なんかに…………』

『忘れ物、でしょうか…………?』

『おい、マズイぞ。楓がコッチを気にしてる。
 ネギ先生の認識阻害は大したものだが、即興のものじゃ楓に違和感をもたれるぞ』

『しかし、ネギ先生は現在認識阻害の魔法と私達の念話中継で精一杯です。
 今は息を殺して近衛さんたちが立ち去るのを待つしかないかと…………』

『あ、あの人達と本当に友達になれるんですね!?
 もうペンスピニングやコンビニの立ち読みで時間潰したりしなくていいんですね!?』


 上から僕、刹那さん、アルちゃん、龍宮さん、茶々丸さん、相坂さん。
 ちなみにアルちゃんと相坂さん(人形ver:身長約20cm)は僕の肩に乗り、他三人は僕の左右と後ろにいて僕の肩に手を乗せて、接触式念話で会話しています。
 接触式だと盗聴されなくていいんですけど、相坂さんのはしゃぎっぷりがうるさいです。


「…………パーティーのチョコの匂いがまだ染み付いてるね」

「あれ~? 何で教室の明かりついてたのに誰もいないんやろ?」

「この教室だけ消し忘れ、ということはないでしょう。誰かさっきまでこの教室にいたのは間違いないです」

「別に誰か隠れているわけじゃなさそうねぇ」

「(……………教室の隅に違和感を感じるでござる)」

「とりあえず近衛、綾瀬。筆記用具と英語の教科書を取ってこいよ。自分の机に忘れたんだろ」


 何だ、忘れ物ですか。焦った。
 てっきりエヴァさんとか学園長かと思って、気づくのに遅れちゃったし。


 相坂さんの人形への憑依などの作業がアッサリ終わったあと、エヴァさんは学園長と一緒に学園長室に行きました。僕が贈った指輪のおかげで少しは力を取り戻すことが出来たので、それを他の魔法先生に説明しに行ったみたいです。
 僕や茶々丸さんもついていこうかと提案しましたが、上機嫌なエヴァさんにそれには及ばないと断られました。

 きっと今日僕が贈った指輪を見せびらかしにいったんでしょうね。指輪を贈ってからはエヴァさん凄いご機嫌でしたし。
 あとは相坂さんに細かい諸注意や魔法の隠匿のことなどを教えればミッションコンプリートだったんですが…………。







『って、あれ? 刹那さん? 確か学園長から貰った魔法符で人払いしてたんじゃ?』

『…………え? あ、はい! 確かに正面玄関に貼りました。正面玄関に近寄った一般人は学校に入りたくなくなるようになります。
 夜はそれ以外の出入り口は封鎖されているはずですが…………』

『でも現にここにいるじゃないか。
 不良品か? ケチって学園長手製の魔法符で済ますからだ』

『あれじゃないですか? アスナ様が持っているのが、学園長から頂いた人払いの魔法符では?』


 あ、本当だ。よく見ればアスナさんがお札持ってる。

 …………ということは『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』のせいですか?
 いや、『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』は空間系とかの魔法は無効化できないので、魔法符自体に備わっている“一般人から見えなくなる”という認識阻害は効くから、明日菜さんには魔法符自体が見えないはず。
 ということは、適当にドアを触ってたら偶然触った?

 …………いや、そうか、長谷川さんか。長谷川さんの認識阻害が効きにくい体質がここに出たのか。
 長谷川さんが見つけて、アスナさんが剥がしちゃったのか?







『しかし、式神から何の連絡もなかったのは何故だ?
 何かあったら念話してくる手筈になってたのに…………』

『…………式神? 念話?
 あ、ごめんなさい。それきっと僕のせいです。相坂さんが人形に憑依する前に張った結界のせいです。憑依するときに他の浮遊霊とか思念波が偶然悪さしないように、教室の外からの人間外の干渉妨げてました』

『おいおい、ネギ先生。“過ぎたるは及ばざるが如し”って言葉知ってるかい?』


 いやいや、ちゃんと結界張る前に説明しましたよね!? 式神で木乃香さんの護衛してるって聞いてませんよね!?
 …………まぁ、ちょっと“念のため”にしてはやりすぎかな~、と思ってましたけど。

 それとちびせつなの存在忘れてました…………。






「それにしても、せっちゃんはどこにいるんやろなぁ?
 学校に入ったのは見たんやろ?」

「あい、それは確かに見たでござるよ。
 刹那と真名、エヴァ殿、茶々丸殿と一緒に校舎内に入っていくのを確認したでござる」

「気づかれてた、ってことはねーな…………。
 1km以上離れた監視だったんだろ。それで気づかれたら怖えーよ」

「そもそもこの2週間、木乃香さんの依頼でずっと監視していたのですよね。
 今日に限って気づかれるということはないと思います」


 は? 2週間の監視?


『…………刹那さん?』

『も、申しわけありません! 確かに最近見られているような気はしてましたが、てっきり木乃香お嬢さまの視線かと思って…………』

『さすがにこれは仕方がないよ、ネギ先生。私でも1km以上離れたところからの、殺気のない視線は感じ取れない』


 いや、僕も気づかなかったから仕方がないですけどね。
 殺気や悪意を含んだ気配の感知になら自信がありますけど、麻帆良に来てから注目を浴びることに慣れちゃったのかな。







「玄関前で私達が騒いじゃったから、それで気づかれちゃったのは…………」

「それだったら教室の明かりもちゃんと消すアルよ」

「そうよね。だったら職員室かしら?
 確か職員室も明かりついてたわよね」


 きっと、はしゃいでた相坂さんを落ち着かせていたときですね。
 人形状態で走り回る相坂さんを落ち着かせるのは大変でしたよ。

 というか、ずっと刹那さんは楓さんに監視されていたんですか。
 となると、朝エヴァさんの家に通っていたことも知られちゃってますかね?



「…………いったい職員室で何やっとるんやろなぁ?」

「…………まさか、朝にエヴァちゃんの家で刹那さんとしてることを、学校でもしてるわけなんかないわよねぇ」

「は、はわわわわ…………どうしよう~~~」

「お、落ち着くですよ、のどか。ネギ先生が破廉恥なことしているわけありません」

「でも、朝に逢引して赤い顔して別れて、日が経つごとに刹那の肌がツヤツヤになっていく、というのはどーゆうことアルか?」


 バレテーラ。
 しかもかなりヤバイ方向に勘違いされてます。


『…………刹那、10歳児に手を出すのはさすがにマズイと思うぞ』

『ええ!? ネギ先生と刹那さんって良い仲なんですか!?』

『ち、違う! ネギ先生に抱きつかれて寝るのが恥ずかしいだけだっ!』

『ちょ!? 僕は別におんぶでもいいって言ったじゃないですか!?』

『……………………』

『お兄様も恥ずかしがられていましたよね』


 いや、あんだけ意識されたら、コッチも意識しちゃうんだよ、アルちゃん。
 明日菜さんや木乃香さんは弟とかペットみたいな感じで接してくるから平気だけど、あそこまで恥ずかしがられたらコッチも恥ずかしいんだよ。





「じゃあ、職員室に行ってみようか」

「そうやね。それとおじいちゃんのとこにも行ってみよ」

「結局何もなかったな。そうだよな。オカルトなんて実在しているわけねーよな」


 はい。さっさと職員室に向かってください。
 当直の瀬流彦先生が居るはずですので、あの人ならうまく誤魔化してくれるでしょう。
 その隙に僕達は『ネギ先生、話が終わったのでマスターがコチラに戻られるそうです』って何ですと!?


 エヴァさんが教室に戻ってくる?
 明日菜さん達と鉢合わせしたらまずいじゃないですか。


『そのまま学園長室にいるように言ってください。
 それと学園長に木乃香さん達が学校に来てるこ『ネ、ネギ先生、影の転移魔法ゲートが目の前で開きそうなんだが』…………はい?』


 聞きたくなかったですよ、龍宮さん。

 エヴァさんですか。エヴァさんですよね。力を少し取り戻してから空を飛んだり幻術で大人の姿になったり、いろいろ魔法を使ってましたよね。力を少し取り戻せたのが嬉しくて、はしゃいじゃってるんですよね。
 学園長室から2-Aまで影の転移魔法ゲートで戻るなんて、何てモノグサな人なんですか。

 ああ、転移魔法ゲートが開いちゃった…………。













「待たせたな、ネギ! やれやれジジイの話は長くて敵わん。まぁ、お前から贈られた指輪のおかげで最高に良い気分だ。そのぐらいは我慢してやろう!
 くっくっく、最盛期に比べるとわずかなものだが、魔法を使えるというのはいいものだな。 改めて礼を言っておこう、ネギ!
 …………? そんな教室の隅で何やっている? 龍宮マナや桜咲刹那まで?
 さぁ、私の家で宴会だ! 今日のチョコレートパーティーも旨い菓子が食えたのでよかったが、やはりこういう日は旨い酒を飲みたい気分だ。茶々丸、この前ジジイからかっぱらった日本酒を用意しろ!
 今日は無礼講だ。相坂さよも龍宮マナも桜咲刹那もよかったら来るが…………どうしたんだ? そんな変な顔して?」



 こっち見んな。

 無理ですよね、思いっきり名指しされましたもんね。
 くそっ! 結界を解かずにいるか、エヴァさんにも効く認識阻害の魔法を使っていたらこんなことには…………。





「何事アルか!?」

「……………………ネ、ネギ先生せんせーからの指輪の贈り物?」

「ど、どういうトリックなのですか!? 今魔法といいませんでしたか!?」

「お、おい。今どうやって教室の中に急に現れた? ドアは開かれてないぞ、マグダウェル…………」

「…………やっぱりせっちゃんやネギ君がこの部屋にいるんやね?」

「あー…………やっぱりあの怪しい隅っこでござったか」

「ちょ!? 何なのよ、いったい!?
 ネギ!? ネギはどこにいるの、エヴァちゃん!?」

「なぁっ!? き、貴様ら何故ここにっ!?」


 うわぁ、どうしよう? 収拾が全然つきません。
 今僕達が認識阻害解いても火に油注ぐようなもんですし、静観するしかないんでしょうか?














「…………き…………」


 ちょ!? エヴァさん!? 何魔法を唱えようとしてるんですか!?
 そもそも目の前にいるのは明日菜さんだから魔法は…………。


「記憶を失えーーーっ!!!」


「キャアアアアアーーーーーッ!?」


 ちょ!? 明日菜さんの服が!? 何『武装解除エクサルマティオー』してるんですかぁーーーっ!?!?
 そもそもエヴァさん、それ原作のネギポジションですよ!!!


「何なのよ、コレーーー!?」

「はええぇぇっ!? アスナの服が吹っ飛んだぁ!?」

「馬鹿な!? 何故魔法が効かない!?」

「魔法!? 魔法って何なんだよ!?」

「魔法使いってやっぱりいたんでござるなー」

「何でそんなに落ち着いているのですか、楓さん!?」

「え? “やっぱり”って…………?」

「アスナ! とりあえずこれ着るアルよ!」





 わぁ、大惨事。
 今度ばかりはエヴァさんのせいですけどね。





『…………姿見せましょう、皆さん。エヴァさんに任せてたら収拾がつきません』

『こ、このちゃんに魔法がばれてもうた…………』

『いいんですか、ネギ先生? さっきのお話だとオコジョになっちゃうんじゃ……?』

『いや、もう無理でしょう。エヴァンジェリン様がしっかりネギお兄様の名前を呼んでましたし』

『というか紳士だね、ネギ先生。
 こういう事態でもちゃんと目を瞑っているなんて…………』

『…………ウチのマスターが申しわけありません』

『いいんですよ、茶々丸さん。とりあえず明日菜さんに服をお願いします。僕はそれまで目をつぶっていますので。
 刹那さんは携帯で学園長と連絡をつけてください』






 まさか、こんな形で魔法バレするとはなぁ…………。
 原作では魔法バレしても多めにみてもらえてたけど、このネギだったらどうなるんだろう?

 あれ? そういえば僕が魔法をばらしたら故郷クニへ強制送還だけど、麻帆良の関係者に僕が魔法使いってことをばらされた場合ってどうなるんだ?
 その場合も強制送還?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 原作通り、明日菜の脱がされる運命は変わりませんでした。
 脱がせた犯人は違いますけど。


 そして魔法バレです。
 考えてみれば、誰かのせいで魔法バレするのはあまりないのではないでしょうか?
 真面目な話、麻帆良の関係者のせいで魔法使いってことをばらされた場合ってどうなるんでしょうかね?



[32356] 第22話 魔法バレ① クビ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:45



━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



「エヴァさん、正座」

「……………………」


 学園長室に入るなりネギ君がエヴァちゃんに正座をするように言ったけど、教室での出来事といいエヴァちゃんの印象変わったわ。
 何だか学園長室には女子中では見たこともない先生方がたくさんおって、ウチラが入るなり注目されてもうた。おかげでのどかなんか涙目になってしもうてる。
 確かにちょっと怖いけど、ここはビクビクしたらアカン。強気で攻めな!





「おじいちゃん! これはいったいどういうことやの!?」

「お、落ち着いてくれんかの、木乃香。こうなってしまったからにはちゃんと説明する」

「せっちゃんやネギ君達はいったい何なんや!? …………というか、ネギ君の肩に乗ってる自分で動くお人形さんはホンマに何?」

「は、はい! 私は相坂さよといいます!!!」

「「「「「えええぇぇっ!?」」」」」


 お人形さんが喋った!?


「人形が喋ったアル!?」

「ネギ先生の腹話術ですか!?」

「いえいえ。違いますよ、綾瀬様。相坂様は人形に乗り移った幽霊です」

「ア、アルちゃんまで言葉をっ!?」

「おいおい、勘弁してくれよ。マジモンのオカルトかよ…………」


 うわぁ、お人形さんに元気一杯に手を挙げて自己紹介されてもうた。しかもアルちゃんも人の言葉喋ってるし。
 こんなときに何やけど、2人(?)ともカワイイなぁ…………。






「だから落ち着いてくれというに…………さて、どこから話そうかのぉ…………」

「…………僕達から説明しましょうか、学園長?」

「スマンの、お願いできるかの?
 ネギ君とアルちゃんからの方がわかってくれるじゃろ」

「かしこまりました、学園長先生」

「わかりました。僕は木乃香さん達の担任補佐ですからね。
 さて、それでは皆さん。単刀直入に言いますと、僕達は“魔法使い”です」


 ま、魔法…………?
 確かにあのエヴァちゃんが急に教室に現れたのや、アスナの服を吹き飛ばしたのは魔法みたいやった。

 …………あ、アスナがプルプルと震えとる。
 エヴァちゃんに裸にされたことを思い出してしもたんやろか?





「ほ、本当にネギ先生せんせーは魔法使いさんなんですか?」

「…………周りの大人の方々が口を挟まないということは、事実みたいですね」

「魔法使いでござるかー。やっぱりいたんでござるな」

「楓は気づいていたアルか!?」

「ハハハ…………もう笑うっきゃねーよ。何なんだよ、この三文小説みたいなストーリーは…………」

「…………つまりエヴァちゃんは、その魔法で私の服を吹き飛ばしたのね」


 マズイわ。アスナが殺意の波動に目覚めかけとる。男の人が教室にいたら血の雨が降ってたんやろなぁ。

 あ、ネギ君は除外やで。
 ちゃんと目つぶってたみたいやし、そもそも一緒に寝てるくらいやからな。


「百聞は一見に如かずです。ネギ先生、よろしければ目の前で魔法を見せてくれませんか?」

「別に構いませんが、どういうのがいいですか?
 初級魔法の火を灯す魔法とかありますけど、手品みたいに見えますからね」

「な、何でもいいです。現代の科学じゃ出来ないことを見せてください」

「うーん、じゃあ、僕の得意な回復魔法をお見せしますか。
 術式兵装『咸卦治癒マイティガード』」


 ネギ君が両手に光の球みたいのを出して、それを一つにあわせるとネギ君の様子が変わってもうた。
 別に怖いというわけやないんやけど…………。

 アレ? 女性の先生達が何かうらやましそうな顔でコッチみてくるんやけど、どうしたんやろ?





「怪我してる人はいませんから…………長谷川さん?」

「な、何ですか?」

「額に治りかけのニキビありますよね。治してみせましょうか?
 ちょっと額に触れさせてください」

「え? 回復魔法ってそんなことも出来るのですか?
 想像していたのと大分違うです」

「そうだね。てっきり怪我とかそういうのしか治せないと思ったけど…………」

「ああ、基本的にゲームやアニメに出てくる魔法を想像してもらっても構わんよ。
 ネギ君のアレはネギ君オリジナルでの。普通の回復魔法ではニキビとかは治せないんじゃが、ネギ君なら治せてしまうんじゃ。
 はっきり言って、回復魔法でネギ君に敵うものは麻帆良に一人もおらんよ」

「へぇ、ネギ君凄いんやなぁ」


「魔法使いにも向き不向きがあるんですよ。僕みたいに回復魔法が得意なのもいれば、ゲームやアニメに出てくるような攻撃魔法が得意な人もいます。
 それでは失礼しますね、長谷川さん」

「ちょ、ちょっと……………………あ」


 何やの!?
 その最後の「あ」って!?

 …………千雨ちゃんめっちゃ気持ち良さそうな顔しとる。





「…………凄い。よくわかんないけど凄い。
 うわ、何かあったかくてポワンとしてくる…………」

「これは怪我の治療、体力回復促進等の他に、美肌、シミ、ソバカス、肌荒れ、冷え性などにも効果があります。
 欠点としては直接触れないと効果がないのと、どうも患者の方がリラックスしすぎるみたいです。エヴァさんや刹那さんも寝てしまうぐらいなんですよ」

「女性教師陣がコチラをうらやましそうに見ているのはそういうことですか」

「せっちゃんも寝てもうたの? …………もしかして、せっちゃんが顔を赤くしてエヴァちゃんの家から出てきて、お肌がツヤツヤになってたのって…………」

「そ、そんなことまでご存知なのですか!?
 その…………正直に話しますと、ネギ先生の治療は気持ちよくてですね。気づいたらネギ先生におんぶされていて…………涎を垂らして寝ていまして。
 おかげでその日は恥ずかしくてネギ先生の顔が見れませんでした」

「そりゃあ確かに恥ずかしいアルな」

「だからあんなに慌てていたでござるな」

「なるほどねぇ、そういうことだったの。ネギと変なことしてなくてよかったわ」

「…………はい、終わりました。誰か鏡持ってませんか?」

「あ、ネギ先生せんせー、私持ってます」

「すまん、宮崎。貸してくれ。…………スゲェ、本当に治ってる」


 ふわー、凄いわぁ。
 魔法って本当にあるんやな。





「治りかけだったからこんなに早く治せたんですけどね。もうちょっと酷かったらそれなりに時間はかかります。
 とまぁ、こんな感じで魔法が存在することは信じていただけましたか?」

「…………信じます。こんなこと現代科学じゃ出来ないですよ。
 うわぁ、何か肌の感じも違ってるよ…………」

「いいなー、千雨ちゃん。ネギ、私にも後でお願い」

「ウチも信じるで。こんなもの見せられたら信じるしかあらへん。ネギ君、ウチもお願いな」

「ホ、ホラ、のどか! チャンスですよ!!!」

「え!? えええぇぇっ!?」

「(…………女性教師陣の視線が怖いでござる)」

「はいはい、それはまた後で。
 それでは僕達が“魔法使い”ということを納得していただけたものとして話を続けますよ」





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 それからのネギ君の説明は、ウチにとって衝撃的なものやった。まさか、麻帆良が魔法使いの町とはなぁ…………。

 それにせっちゃんがウチを影から守っていてくれたことなんか思いもせんかった。
 やっぱりせっちゃんはウチを嫌いになったわけやないんやね。よかったわぁ。



「…………でも何で? 何で言ってくれへんかったの?
 ウチを危ない目にあわせとうない気持ちは嬉しいけど、せっちゃんと離ればなれになってまでそんなことして欲しくあらへん…………」

「こ、木乃香お嬢さま…………」

「木乃香さん、学園長や木乃香さんのお父さんの気持ちもわかってあげてください。…………明石教授、構いませんか?」

「いや、僕から話そう。やぁ、皆。ゆーながお世話になってるね」

「…………誰ですか?」

「あ、裕奈さんのお父さん…………」

「ああ、明石のか…………ってことは、明石も魔法使い!?」

「ああ、違うよ。ゆーなは魔法関係者じゃない。
 妻が死ぬまでは魔法を教えたりしてたけど、今はまったく魔法とは関係していないさ」

「…………奥方殿が亡くなられるまで、ということは、もしかして魔法関係でお亡くなりになったでござるか?」


 あ、そういえば、裕奈のお父さん好きは知ってたけど、お母さんのことは裕奈の小さい頃に亡くなったしか聞いたことあらへんかった。
 …………そっか、そういうことなんやな。


「うん。僕達の仕事は危ないこともあるからね。
 だから、ゆーなには魔法とは関わって欲しくないと思っているんだ。ゆーなには魔法のことを秘密にしてくれるかい?」

「…………約束するアル」

「はい、絶対言いません」

「ありがとう。僕も木乃香さんのお父さんの気持ちが良くわかるんだ。
 黙っていられたことに怒るのはわかるけど、お父さんの気持ちもわかってあげて欲しい」

「…………はい」

「そのことについては、今度婿殿とゆっくり話し合ってみるとええ」

「うん、そうするわ」


 そうやな。まずはお父様と話し合ってみよう。電話じゃ何やし、久しぶりに里帰りでもしよかな?
 麻帆良に来てからあんまり帰ってヘんから、丁度ええかもしれんな。







「それでは次に、長谷川さん辺りが特に気になっているかもしれませんが、皆さんの今後についてです」

「やっぱりネギ先生はオコジョになって、皆さんは記憶を消されちゃうんですか?」

「ちょっと!? どーゆーことなの、それは!?」


 オコジョ!? 記憶を消す!?
 どういうことやの!?


「ちょ、ちょっと待っておくれ、さよちゃん。そんなことせんよ。
 君らが魔法を知ってしまったのは、ワシらのミスじゃ………………ワシらというか、エヴァのじゃがの」

「…………うぅぅ…………」

「マスター、そう気を落とさずに…………」

「…………コチラとしては何も見なかったことにしてくれればよいのじゃがな」

「え? それでいいんですか?」

「魔法をばらそうとしたりしなければ構わんよ。
 いや、例え魔法をばらそうとしてもワシらにはその専門の対策機関があるし、そもそも信じてくれないじゃろうしの。ちょっとはしゃぎたい年頃の女の子と思われるのがオチじゃろうて」

「あー、確かにそうアルな。
 魔法は実在しているなんて叫んでも、誰も相手にしてくれないアルよ」

「あ、あの、ネギ先生せんせーがオコジョになっちゃうってのは…………」

「あー、どうなんですかね、学園長?
 こういう場合って、僕はやっぱり故郷へ強制送還+オコジョですか?」

「安心しなさい、ネギ君は大丈夫じゃよ。さっきも言ったとおり、今回の件は麻帆良側ワシらのミスじゃ。
 …………ぶっちゃけた話になるが、さっきの説明にあったようにネギ君はメルディアナ魔法学校という他校からの大切な預かり物での。
 不用意に魔法をばらしたのがネギ君なら話は別じゃが、ネギ君がばらしたんじゃなくてエヴァがばらしてしまったからのう。麻帆良関係者のせいでネギ君をオコジョになろうものなら、メルディアナ魔法学校と喧嘩になってしまうわい。
 …………というか、魔法のことは本当に秘密にしといておくれ。真面目にワシらがピンチなんじゃ」

「だ、大丈夫なん?」

「君達が秘密にしとくれたら大丈夫じゃ。
 …………あー、もし逆に「こんなこと忘れてしまいたい」という子がおったら記憶を消すぞい」

「結構でござる」

「ちゃんと秘密にするから、大丈夫アルよ」

「私も結構です」

「わ、私もです」

「私もいいです。木乃香が覚えているのに、私だけ忘れるってわけにもいかないしね」

「…………私もいいです。忘れてしまい気持ちはありますが、それよりも記憶を弄られる方が嫌ですので」


 よかったぁ~。記憶消されたりしなくていいんや。ネギ君もいなくなったりしないみたいやし。
 それにせっちゃんのこともわかることが出来たし、お父様やおじいちゃんには悪いけど魔法のこと知れてよかったわぁ。





「じゃあ、ウチラは無罪放免ってことでいいんやね? ネギ君達も何か罰を受けたりしないんやね?」

「大丈夫だよ、木乃香君。
 ネギ君には引き続き2-Aの担任補佐を受け持ってもらうし、刹那君や龍宮君だって同じだ……………………エヴァは、どうだろ?」

「……………………」

「マスター、そう落ち込まずに…………」

「…………ぎゃ、逆に2-A生徒の面倒をみなければならんのが、ネギ君にとって罰かもしれんのぉ、フォッフォッフォ」

「何を言ってるんですか、学園長。2-Aの皆さんは良い人達ばかりですよ」

「ハッハッハ、否定できないのがつらいでござるな」

「居残り授業とかで迷惑かけてるからそう思われてもしょうがないアル」

「わ、私は最近ちゃんと勉強してるわよ!」

「アハハ、確かにアスナ君は最近頑張ってるみたいだね。僕も安心したよ」

「あ…………はい、ありがとうございます。…………高畑先生」


 アカン、アスナまだ失恋のショックが響いてるみたいや。
 もう大丈夫かと思ってたけど、さすがに面と向かって高畑先生と話すのはまだつらいみたいやね。





「…………えっと。ハハハハハ、駄目ですよ、学園長先生。
 そんなこと言ったら、3年になってネギ君が担任になったらどうするんですか?」

「フォッ!?」

「え? 高畑先生が担任辞めて、ネギ先生せんせーが担任になるんですか?」

「うん。僕の出張がかなり溜まっていてね。僕はNGOの団体にも所属していて、それで今までよく出張に行っていたのさ。ネギ君が来てからは本当に楽になったよ。
 ネギ君も立派に教師として頑張っているからね。正直、僕も教師とNGOの二重生活は大変だから、教師としての仕事はネギ君に頑張ってもらうことになったんだ。
 もちろんネギ君一人に任せるようなことはしないよ。僕もこれからは非常勤として皆に関わっていくから、担任と担任補佐が入れ替わると考えてくれたらいいよ」

「そ、そういうことなんじゃよ。
 といってもネギ君には修行としての最終課題があるがの。それが無事に済めば、3年からはネギ君が担任となるのじゃ」

「…………要するに、今とあんまり変わらないのですね」

「でござるな。今でも結局ネギ坊主が担任みたいなもんでござるし」

「そうアルね。高畑先生とは2週間振りくらいアルか」

「…………いや、古菲さん。確か月曜日に会った覚えがあります」

「あー、そうだったな。月曜の帰りのHRは高畑先生一人だったな」


「……………………」


 …………アスナ、言いたいことあったら言った方がええよ。


「…………え? 皆やけにアッサリしすぎてないかい?
 本当に出張しすぎたかな…………」

「…………フォッフォッフォ。出張行かせてばかりですまんかったの、タカミチ君」


 ………………怪しい。何かおじいちゃん隠しとる。
 ウチラに秘密にしておきたいことあるんやろか?









「…………おじいちゃん?」

「な、何かの、木乃香?」

「何隠しとるん?」

「べ、別に何も隠してなんかおらんぞい!」

「アハハ、何を言ってるんだい、木乃香君。別に隠してなんかいないよ。
 ねぇ、学園………………学園長、何をそんなに冷や汗をダラダラ流しているんですか?」

「き、気のせいじゃ!」

「おじいちゃん!?」


 何やろ? 高畑先生や他の先生方も不思議そうにしてる。どうやら他の人は知らんかったみたいやな。
 おじいちゃんが一人で何か企んでいたんやろか?


「学園長、その態度では何かあるといっているも同然ですよ。
 この際だから、言えないことがあるなら言ったほうがいいんじゃないですか? それとも、やっぱり僕は故郷へ強制送還+オコジョですか?」

「ち、違うぞい!」

「だったらおっしゃってください、学園長。他の先生方も不思議に思っているじゃないですか」

「…………まいったのぉ。あまりこの場で言いたくないんじゃが」

「どういうことですか、学園長? もしかしてネギ君について何かあるんですか?」

「まぁ、確かにネギ君についてなんじゃがの。…………他の生徒や保護者からクレームがきておるんじゃよ」


 なるほどなぁ。やっぱり10歳のネギ君が教師をすることに気分悪くする人もおるんやろな。
 あれ? でも、“他の生徒”ってどういうことや?





「おじいちゃん、保護者からクレームが来るのはわかるんやけど、“他の生徒”からのクレームって何やの?
 ネギ君は他のクラスでも人気者で、他のクラスの子から悪い噂聞いたことないで?」

「私もないですね。最初の頃はその奇特さからよく質問されましたが、今では逆に羨ましがられるぐらいです」

「そ、そうですよ! ネギ先生せんせーを悪く言う子なんかいません! 「2-Aが独り占めしてズルイ」とか言われるぐらいです!!!」

「うん。それじゃよ、まさにそれ。他の生徒からは宮崎君が言った通りに、「2-Aが独り占めしてズルイ」とクレームが来ておる。
 木乃香達だって、違うクラスでネギ君が担任補佐しとったらズルイと思うじゃろ?」


 え? ソッチ方向のクレームやの?
 …………まぁ、麻帆良のノリだったらしゃあないかなぁ。





「…………でも、保護者の人はそう思わないと思いますけど。
 正直に言いまして、10歳の子供が教師をするなんておかしいです」

「長谷川君の言う通りじゃ。保護者からのクレームは、あくまで“2-Aだけ”に担任補佐がいることについてじゃな。ネギ君を寄越せとは言ってきておらんよ。
 ホラ、昨今は少子高齢化で、生徒集めがどこも大変じゃろ?
 麻帆良でも生徒集めのためにいろいろと手を打っておるんじゃが、その中の一つが“教師の数を増やし、よりキメ細かい教育を行なう”という試みじゃよ。
 現在は1クラス30~40人を教師1人で担任しておるが、それだとどうしても教師の手の届かない生徒が出てきてしまう。それなら教師の数を増やせば生徒をもっと面倒みやすくなるからの」

「ネギ君が担任補佐をしているのは、それのテストケースとしてなんだ。
 ちなみに、女子中ウチでは“生徒31人を教師2人で担当する”というテストをしていて、男子中では“生徒15人を教師1人で担当する”というテストをしているよ。
 “生徒31人を教師2人で担当する”と“生徒15人を教師1人で担当する”は生徒と教師の比率は一緒でも、実際の指導方法は違うからね」

「そうじゃの。学園としては“生徒31人を教師2人で担当する”の方がありがたいわい。
 “生徒15人を教師で1人で担当する”だと、教室や備品が一気に2倍の量が必要になってしまうからの」

「学園の裏事情はわかったでござるよ。
 しかし、保護者からのクレームがわからないでござる。あくまでこれはテストケースなのでござろう?」

「…………自分達の成績の上がり方ぐらい考えてから言ってくれんかの。成績が万年最下位だった2-Aが、担任補佐を置いただけで成績があっという間に上位クラス並みになったんじゃぞ。
 その噂を聞いた保護者から、「2-Aだけ担任補佐がついてるのは他のクラスに不公平だ」とか、「むしろウチの娘のクラスにも担任補佐をおけ」とかクレームがうるさくての。
 教師の数を一気に2倍近くに増やすことなんか出来るわけないのに…………」

「そ、そんなに酷いことになってたんですか?
 出張ばっかり行ってて気づきませんでした」

「僕も聞いてませんでしたけど?」

「ああ、ネギ君は別に悪いことはしておらんわい。教師としての仕事に励んだだけじゃから、気にすることはない。
 ただ、3年になってもこのまま担任補佐でいるというのは無理じゃ。これ以上は他の子達と保護者の不公平感が抑えきれん。
 かといって、3年になって「ネギ君今までありがとう。テストは終了したからもういいよ」とネギ君を放り出すことは出来んしの。そんなことしたら2-A生徒が暴動を起こすわい」

「だから高畑先生を非常勤にして出張に行きやすくし、担任をネギ先生にお任せするということですか」

「ネ、ネギ先生せんせーが担任に…………エヘヘ……」


 ネギ君は人気者やなぁ。そういうクレームが来るなんて。
 アレ? でも何でおじいちゃんはコレを秘密にしておきたかったんやろ?

















「…………もしかして、高畑先生は担任クビなのアルか?」

「え!? な、何を言ってるんだい、古菲君」

「…………あー、ドッチが先なのかって話か?
 “高畑先生の出張が忙しいから、ネギ先生を担任にする”んじゃなくて、“ネギ先生を担任にしなきゃいけないから、高畑先生を非常勤にする”ってことか?」

「アハハ、そんなことあるわけないじゃないか。あくまで僕の教師とNGOの二重生活は大変だからだよ。
 ねぇ、学園………………学園長?」

「…………これは“適材適所”というものなんじゃ! タカミチ君!!!」

「学園長ぉっ!?」


 ゴメン、おじいちゃん。これは確かに秘密にしておきたいわ。
 高畑先生の前で言いたくあらへんやったろうな。


「そ、そもそもネギ君が麻帆良に来る際に、ネギ君を2-Aの担任にしようとしたことに異論はなかった筈じゃろうっ!?」

「それとこれとは話が違うでしょう!?
 ネギ君に担任を譲るならともかく、これでは本当に僕が担任クビみたいじゃないですか!?」

「じゃ、じゃったら2-Aの生徒に、どっちが担任になって欲しいか投票でもしてもらうかの!?
 それで多く投票された方が担任をするということで………………こ、木乃香はネギ君よりタカミチ君のほうがいいかのっ!?」


 ウチに振らんといてぇな!?
 アカン。高畑先生が縋るような目で見てくるけど、…………こ、答えられへん。

 他の皆も目ぇ逸らしとる。
 アスナもどう反応してええかわからんみたいや。





「…………えーっと?
 タカミチ、何というか…………ゴメン?」

「…………いや、ネギ君が悪いわけじゃないよ。僕は出張が多くて皆の面倒を見れなかったのは事実だからね。ネギ君なら僕よりもうまくやれるさ。
 ウン、ネギ君に2-Aの皆のことをお願いするよ。僕もネギ君を手伝うからさ。……………………ハハハ」


 た、高畑先生が真っ白に燃えつきとる。
 ネギ君がいなくならないのは嬉しいけど、この結果は胸が痛むわぁ。



━━━━━ 後書き ━━━━━



 ネギはそのまま担任補佐をすることになりました。3年からは担任です。
 この状況なら、別に甘いわけじゃないと思います。


「コノエモン、ネギは元気にやっとるかね?」

「あ、ごめん。麻帆良の関係者のせいで一般人に魔法バレしちゃった。
 ウェールズに送り返すからオコジョ刑よろしく」


 とかなったら、マジで戦争もんですからね。大人の事情により無罪放免です。

 明日菜達も記憶消去とかはされませんが、その理由も次話以降で詳しくします。



 そしてタカミチが2-A担任をクビとなることになりました。
 他の生徒と保護者からのクレーム処理が大変だったようです。


 ネギを担任補佐のままにしておく
   → クレームがもっと酷くなる。却下

 ネギをクビにする
   → 2-A生徒に殺される。却下

 タカミチを非常勤にして出張に行かせ、ネギを担任にする
   → みんなで幸せになろうよ。採用


 学園長はどこまでも本気です。タカミチに合掌。


【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:初恋の人を成仏させると言われたせいで胃痛
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という困惑
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+“担任クビ” ← new!
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋



[32356] 第23話 魔法バレ② 斜め下
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/05 19:49



━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━



「さて、まだ他に細かいこともあるが、だいたい話は終わりじゃの。
 先程も言ったとおり、魔法のことは言わないでもらいたい。例え、家族や友人でもじゃ。
 もし、不特定多数の人間にばらされてしまうなら、ワシらとしても対処せざるを得ん。ワシらだって生徒に記憶操作なんかしたくないからの。くれぐれも言わないでおくれ」


 言わねーよ、こんなこと。言ったって頭がおかしい女子中学生と思われるだけだ。

 やれやれ、最初はどうなることかと思ったが、何とか終わったな。
 まさかこんなコトになるとは思わなかったが…………。 





「今日はもう遅いですからね。
 まず一晩寝て、ゆっくり個人で考えてください。もし考えた結果、黙ってることに自信がなくて記憶を消したいなら言ってください。
 他に何か質問はありますか?」

「…………明石教授の話を聞いた後でこんなこと聞くのは、とても不謹慎だとわかっているのですが…………。
 私達も魔法を使うことが出来ますか?」

「ゆ、ゆえ?」

「フォッフォッフォ、やはり聞かれてしもうたか。気にすることはない。年頃の女の子なら仕方があるまいよ。
 それにそのようにハッキリと聞いてくれたほうがありがたい。内に疑問を秘めたまま帰られても困るからの」

「そうですね。それで答えとしては、一応ほとんどの人は魔法を使うことが出来ます。もちろん個人差はありますけど。
 たまにタカミチのように体質的に魔法を使えない人もいますが、そういう人はあまりいませんね」

「? 高畑先生は魔法を使えないアルか?」

「そうだよ、僕は魔法使いとしては落ちこぼれなんだ。教師みたくね。
 ………………ハハハッ」


 もうやめてやれ、古。高畑のライフは0だぞ。

 それにしても魔法ねぇ…………。
 あのニキビを治してくれるような回復魔法には興味あるが、それでもこれ以上は関わりたくねぇなぁ。
 それよりも早く帰って寝たいよ。今日はもう疲れた…………。


「ちなみに魔法だけじゃなくて、“気”を使う人達もいます。
 刹那さんや楓さん、それに古菲さんも無意識に気を扱っていますね」

「へぇ~、そういうのもあるんやなぁ」

「僕としては今から習うなら、魔法よりも気の方が良いと思いますけどね。気を扱えるようになると、老化が遅くなって体の調子も良くなり、いつまでも若々しくいられますよ。
 座学も多い魔法と違って、身体を動かすのが中心なので運動にもなりますからね」

「ぬぬ、それはまた魅力的な…………」

「むぅ、是非とも気について詳しく知りたいアルな。
 そうだ、ネギ坊主! 私魔法のこと黙てるから、また手合わせお願いするアルよ」

「だからくーへ、それ“お願い”やない。“脅迫”や」

「くーふぇ、先生方の目の前で脅迫しないでよ…………」

「…………どうします、学園長? 巻き込んだのはコチラですから、口止め料として何か1人につきお願いを1個聞くことにでもしますか?
 皆さんの心情的にもその方がいいと思います。魔法について黙っているだけだったらストレスが溜まりますけど、「お願いを聞いてもらったから黙ってる」の方が自分を納得させることが出来ると思いますよ。もちろんあまりに大きいことだったら駄目ですが。
 それに古菲さんだったら今日のことがなくても、いずれ自分でコッチ側に辿り着いていたかもしれないですからね。いっそのこと共犯にした方がいいかもしれません」

「そういうことなら拙者も是非お願いするでござるよ。
 刹那がその“別荘”とやらで修行を積んでいるのなら、拙者も参加させて欲しいでござる。競い合える相手がいるなら、より良い修行が出来そうでござる」

「ム、そうじゃの。麻帆良武道四天王のことはよく聞いておる。というか、この場に全員おるんじゃな。
 …………確かに彼女達なら放っておくよりも、身内に取り込んだ方が面倒がないかもしれんの。巻き込んだのはコチラのミスじゃし…………。
 しかし、“別荘”についてなら所有者のエヴァに許可をもらわんといかんが?」

「…………勝手にしろ」


 あー…………あいつ等は元々半分以上アッチ側みたいなもんだしなぁ。私もお願い1個聞いてもらえんのか?
 でも、アッチ側に関わる気はねぇから、古や長瀬みたいに頼むことないや。

 …………新型PCとか現金はさすがに駄目かなぁ?





「ネギ君は構わんかね? 古菲君は君との手合わせを望んでおるようじゃが」

「まあ、そんなに頻繁に挑まれても困りますが、たまになら構いません。中国拳法の使い手と手合わせするのは僕としても修行となりますし、刹那さんとしている修行も長瀬さんや古菲さんが参加するなら良い刺激になります。
 …………ああ、ただし今度の期末テストで合計点が平均を下回った場合は、勉強の方を優先してもらいます。魔法を習いたいという人も同じです。
 学生の本業はあくまで勉強ですので」

「そのくらい構わないアル。よし、約束アルよ!」

「わ、私達もいいのですか!?」

「まぁ、少し落ち着いてください、古菲さん、綾瀬さん。
 ゆっくり考えたほうがいいですよ。1人につき1個限りですから。何も今日決めなきゃいけない訳ではありません。
 それと木乃香さんは魔法を習いたいとしても、一度お父さんと話し合ってからの方がいいと思います」

「え? 何でやの?」

「ええと、先程も説明したように、木乃香さんのお父さんは“関西呪術協会”というところの長でして、麻帆良が所属している関東魔法協会とその関西呪術協会は昔から仲が悪いんですよ。
 簡単に説明しますと…………」





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 ふーん、オカルト側はオカルト側で大変なんだな。
 古くからの西と、新たに住み着いた東。仲が悪くなるのは当然だな。しかし近衛がお嬢さまだとはねぇ…………。

 って、アレ? でも今の説明おかしくねぇか?



「すいません。ちょっとわからないことがあるんですが?」

「何ですか、長谷川さん?」

「東と西の仲が悪いのなら、何故学園長は東にいるんですか? 学園長だって“近衛”じゃないですか。
 そもそも東と西両方の偉い人の子供である近衛がいること自体変じゃないですか?」

「ああ、そういうことか。ワシは確かに西の出身なのじゃが、若い頃に先々代の長であるワシの父から西洋魔法を学ぶようにと言われたのじゃよ。これからは否が応にも日本の中だけに閉じこもっていることは出来ん、と父が考えての。
 東としても、昔から日本に住んでいた西と誼を持ちたかったから受け入れられたんじゃ。要するにお互いのパイプ役じゃな。そのおかげで関東魔法協会の理事にまでなれたのかもしれんが…………。
 関西呪術協会の方はワシの兄が継いだんじゃが、子供が出来ないまま亡くなってしまっての。
 近衛の家の分家もあるが、その当時は長になれる適当な年齢の人物がいなかったのでな。亡くなった長の姪であるワシの娘が西に嫁ぎ、その相手が新たな長になるということになったのじゃよ」

「…………政略結婚ってやつですか? 現代でもあるんですね」

「勘違いしないでおくれ。娘と婿殿は確かに見合いから始まったが、ちゃんと2人は愛し合っていたよ。
 結婚するにあたって娘が出した条件は、“結婚相手は自分が決める”という条件じゃったからの。長になれるような家柄と実力を兼ね備えた若者20人以上と見合いして、最後に婿殿を選んだのじゃ。
 何でも「浮気しそうにないから良い」と言っておったがの…………」


 贅沢な話だな。選ばれる側じゃなくて、選ぶ側に回ったのかよ。
 20人以上の中から選ぶなんて選り取り見取りじゃねーか。

 っていうか、そんな理由でいいのかよ?





「あー…………神鳴流である青山詠春さんが長になったのって、そういう理由だったんですか?」

「まぁ、あくまで中継ぎの長という感じじゃからの」

「…………もしかして、お父様の一人娘のウチが次の長にならんとアカン、というわけやの?」

「そんなことはないぞい。先代の長が亡くなった頃ならともかく、今なら近衛の分家の人材も育っておる。次代の長はその者達が継ぐことが出来るからの。
 じゃから、木乃香が無理して継がないといけないというわけではない…………はずじゃったのじゃがなぁ。
 …………問題となったのは、木乃香の才能なんじゃよ。祖父であるワシが言うのはなんじゃが、木乃香の才能は飛び抜けていての。
 “関西呪術協会を建て直すためには先々代の長の曾孫であり、才能豊かな木乃香が次の長となるべきだ”と考える輩もおっての。そんな輩が木乃香が西洋魔術師となると聞いたら、何を仕出かすかわからんのじゃ。
 木乃香が婿殿から離れて麻帆良に来たのは、そういう政争に巻き込まれないためなんじゃよ。婿殿は木乃香をそういうことに巻き込みたくはないのじゃよ」

「…………何なの、それ? 木乃香のことを勝手に決めちゃって。そいつらは何様のつもりなのよ…………」

「怒らんでくれ、アスナちゃん。西でもそういう考えをしているのは少数じゃ。
 しかし、そういう考えを持つ人間が出てくるほど、木乃香は凄まじい魔力を秘めているんじゃよ」

「…………そんな、ウチ…………」


 うわぁ、まさに“事実は小説よりも奇なり”だな。
 まさかそんなお話が現実にあるとは思ってなかった。

 …………ところで、何でネギ先生は不思議そうな顔をしているんだ?







「どうしたんですか、ネギ先生?
 そんな不思議そうな顔をして?」

「え!? …………いや、何でもないですよ、長谷川さん」

「フォ? 何か不思議なことでもあったのかね、ネギ君?
 聞きたいことがあるならこの際じゃ。何でも聞いてみるとええ」

「…………えーっと、木乃香さんって魔力の制御とか学んでないんですよね? 魔力を封じる魔法具なんかつけてないですよね?」

「え? ウチそういう修行なんてした覚えないで? 魔法具ってゆーもんは知らへんけど」

「そうじゃよ。木乃香は魔法関係の修行なんかしたことはないぞい。魔力封じの魔法具も持たしておらん。
 …………それがどうかしたのかね?」

「ですよねー。だったら木乃香さんの魔力は、今の状態で感じ取れる魔力で全部なんですよね?」


 “感じ取れる魔力”かぁ。本当にゲームやアニメの世界の言葉だなぁ。
 全然私には理解出来ねーや。









「そうじゃよ。ネギ君だって感じ取れるじゃろ。
 木乃香の内に秘められた凄まじい魔力を」

「…………木乃香さんから感じ取れる魔力って、“僕の半分ちょっと”ぐらいしか感じ取れないんですけど?
 僕を“10”とすると、木乃香さんは“5強”ですか」


 へぇ、普通の魔法使いよりも才能がある近衛よりも、ネギ先生の方がMPは2倍近く多いんだ。スゲェなぁ。
 …………でも何で周りの先生方が驚いているんだ?









「…………。

 ……………………。

 ………………………………フォッ!?」

「え?」

「なにそれこわい」

「えっ!?」



 えっ? 何なの、この流れ?












━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



 一難去ってまた一難。さて、ネギ君はいったい何を言い出すのかな?
 …………慣れてきてしまった自分が悲しいよ。


「…………スマン、ちょっと待っておくれ、ネギ君。
 木乃香の魔力が君の半分ちょっとしかないとは、どういうことかね?」

「え? そのままの意味ですが…………」

「素人が口を挟んで申しわけありません。それはただ、ネギ先生の魔力が更に大きいだけなのではないのですか?」

「いや、綾瀬君。確かにネギ君の魔力は木乃香より大きいが、タカミチ君の見立てでは木乃香よりほんの少し上ぐらいと聞いておったんじゃよ。
 …………ネギ君。君の魔力を“10”とすると、他の人はどの位なのかね?」

「えーっと、僕を“10”としますと感じ取れる●●●●●魔力量は、木乃香さんが“5強”、学園長が“3強”、タカミチが“2弱”、今のエヴァさんが“1弱”ってところですかね?」

「ネ、ネギ? それは…………」

「ああ、わかってますよ。今のエヴァさんは封印されている状態ですからね。きっと元の状態の数%しか発揮できないんでしょう?」

「はあっ!? すっ、数%っ!? いや、それは…………その…………」


 いや、さすがにそれはない。いくら元のエヴァの魔力量が大きくても、今の10倍以上なんてのはさすがにありえない。
 今の数値からいくと、きっとナギの魔力量は“5”ぐらいになるな。きっと全力のエヴァが“5弱”ぐらいだと思う。

 でもいくら何でもネギ君はナギの2倍も魔力はないだろう。
 ネギ君の魔力の制御が完璧になったら魔力がまったく感じ取れなくなったけど、初めて会ったときは“5.5”ってところだったはずだ。





「それがいったい何なのよ?
 ネギの魔力が凄く大きいってことでしょう?」

「いやいや、違いますよ、明日菜さん。今言ったのは、あくまで僕が感じ取れる●●●●●魔力量です。
 熟練の魔法使いは、僕のような見習い魔法使いが感じ取れる魔力の数倍の魔力を実は隠しているんです」

「フォッ!?」


 はあっ!?!? 何を言っているんだネギ君は!?
 もしかしてネギ君ってば、何だか凄い勘違いをしていないかいっ!?





「えっ? 僕、何か変なこと言いました? 魔法学校でそう習いましたよ?
 “魔力の制御を学んでいくと、相手に己の実力を悟らせないことが出来るようになる。熟練の魔法使いになると、見習い魔法使いが感じ取れる数倍の魔力を隠している”って」

「魔法使いの世界でもやはりそういうものなのアルか。
 私が故郷で拳法を教えてくれた老師も、見た目はただの優しそうなお爺ちゃんだたアルよ」

「そうでござるな。熟練者ほど己の実力を相手に悟らせないものでござるよ。どこの世界でも一緒でござるな。
 となると数倍というぐらいだから、学園長の魔力は最低でも3倍の“10”以上はあるということでござるな?」

「…………あー、漫画やアニメでそういうのよくあるよな。筋骨隆々の若者を、小柄で今にも折れてしまいそうな老人が倒すとかって」

「へぇ~、おじいちゃんって凄いんやねぇ」

「…………あの、ネギ先生。
 さっき言った魔力量が全てだということはないのですか?」

「やだなぁ、綾瀬さん。僕はまだ10歳の見習い魔法使いで、学園長は麻帆良最強の魔法使いですよ。
 学園長の魔力量が僕の半分以下しかないなんてありえないじゃないですか。常識的に考えて●●●●●●●


 お、お願いだから、ネギ君が常識を語らないでくれっ!!!





「そうよねぇ。大人っぽいって言っても、ネギはまだ10歳だもんね」

「しかし、変な勘違いせずに真面目に修行に勤しむ、というのは良いことアルよ」

「ネギ坊主は真面目でござるからなぁ」

「す、凄いです。ネギ先生せんせー!」

「ええ~? おじいちゃんって麻帆良で一番強いんか。凄いなぁ」

「…………おい、何だか先生方が死にそうな目をしているぞ?」

「…………ネギ先生、もしかして…………?」


 多分、僕も死にそうな目をしてると思う。
 ガンドルフィーニ先生なんか頭を抱えて蹲っちゃってるし…………。





「…………ネギ君、スマンがちょっと席を…………ああ、いや……ちょっと自動販売機で適当にこの子達の飲み物を買ってきてくれないかの。
 考えてみれば、休憩なしの飲み物なしは辛かろうて…………」

「え? もうだいたい話は終わりなんじゃ?」

「いや、もうちょっと話すことがあっての。年のせいか言い忘れていたことがあったんじゃよ…………」


「…………? よくわかりませんが、とりあえず行ってきます。
 どうせなら他の先生方の分も適当に買ってきますよ」


「ウン、頼んだぞい。フォッフォッフォ…………。

 …………。

 ……………………。

 ………………………………全員集合っ!!!
 あ、悪いのじゃが、木乃香達はソッチのソファーにでも座って少し待ってておくれ。ちょっと関係者で話し合いたいことがあっての」

「わ、わかったえ」


 どうしてこうなったんだろう?
 ネギ君は真面目な良い子だったはずなのになぁ…………。






 魔法関係者全員で円陣を組んで話し合う。
 この中にエヴァが普通に混じっているのに違和感を感じてしまうけど、ガンドルフィーニ先生すらそれについて気にしていない。

 そんな余裕なんかないからね。



「…………タカミチ君?」

「ネギ君の目は本気マジでした。確かにネギ君は自分の魔力量を鼻にかけることはないと思っていましたが、本気でああいう考えをしているみたいです」

「…………エヴァ?」

「あってる。ネギの言う通りだ。近衛木乃香を“5強”で今の私を“1弱”とすると、ジジイが“3強”、タカミチが“2弱”であってる。ただし、ジジイとタカミチは力を隠してなんかいないがな…………。
 ちなみに魔法先生の平均は“1.5”ぐらいで、魔法生徒の平均が“1”ぐらいだ。あくまで魔力量だから、実際の戦闘力とは違うんだが…………」

「…………刹那君?」

「ネ、ネギ先生と行なっている修行はほとんどが基礎と剣の組み手でしたので、ネギ先生の魔力量が如何ほどなのかはちょっと…………」

「…………龍宮君?」

「刹那に以前言った覚えがあるが、魔力総量は私が魔眼で見ても分からなかった」

「…………アルちゃん?」

「も、申しわけありません。私もネギお兄様の全力を見たことはないのです。『千の雷キーリプル・アストラペー』を平気で唱えていたので、てっきりそれぐらいかと…………」

「…………一度まとめてみるぞい。

1.ネギ君の魔力は木乃香の約2倍
2.ネギ君はその自分の魔力量がすごいとは思っておらん
3.ネギ君は他の魔法使いの隠している実力も見抜ける
4.ネギ君はその実力を“見せるための魔力”と思っている
5.他の魔法使いはその数倍の魔力を隠していると勘違いしている

 …………。

 ……………………。

 ………………………………何でじゃ?」


「「「「「……………………」」」」」



 誰も何も言えない。当然だ、僕も何を言っていいかわからない。
 何でだ? 何でネギ君はそんな考えをしているんだ?







「隠している実力を見抜けるのはまだいい。ソッチ方面の感覚がかなり鋭い奴なら、実在していてもおかしくはない。あの年齢でそこまで出来るのは珍しいだろうが、珍しいだけでいないわけではない。
 しかし、魔力量について何故あんな勘違い…………あっ!? おい、タカミチ。ネギの魔力は近衛木乃香よりほんの少し上ぐらいと感じたのはいつの話だ!?」

「何か思いついたのかね、エヴァ?
 …………確かタカミチ君がネギ君と初めて会ったときじゃったな。帰ってきたときにそう報告された覚えがあるぞい」

「ええ、そうです。初めて会ったときのネギ君は、確かにその位の魔力量でした。
 さきほどの数値でいくと、“5.5”ぐらいだったはずです」

「以前、ウェールズでネギと2人でかくれんぼで遊んで、結局見つけることが出来なかったと言っていたな。それはいつの話だ?」

「え? 確か…………初めて会ってから半年後ぐらいだったと思う。
 ネギ君は会うたびに魔力の制御が上達していって、半年経った頃には魔法とは関係ない普通の子供のように思えるまで制御出来ていたよ」

「向こうの校長の話では、ネギ君は魔力の制御に失敗したせいで向こうの校長に大火傷を負わせてから、治癒魔法に力を入れて勉強していたと聞いた。
 当然、基礎である魔力の制御にも力をいれて勉強もしておったじゃろうな」

「つまりネギは、タカミチが感知可能な魔力を半年で“5.5”から“0”にしたんだな?
 …………もう一度聞く。ネギの魔力は近衛木乃香よりほんの少し上ぐらいと感じたのはいつの話だ?ネギが魔法学校●●●●に入学してから●●●●●●●どれくらい後の話だ!?」

「え? 確かネギ君がメルディアナ魔法学校に入学してから半年ぐら…………い?」

「…………まさか、タカミチ君に出会う前の半年で、感知可能な魔力を既に“10”から“5.5”にしていたということかの?
 更にそれからの半年で“5.5”から“0”にしたと…………?」

「そして魔力の感知も他人の実力を見抜けるぐらい優れていたけど、魔法学校で習ったことを鵜呑みにして“見せるための魔力”と勘違いしていたのか?
 ネギ君の魔力が“10”とすると、他の大人は“1~2”ぐらい。その数値を数倍にしてもネギ君より下だけど、ネギ君自身の魔力が大きいことは校長から聞いていたはずだから、今まで違和感を感じずに過ごしていた…………?」

「…………ネギだったらありえそう、と思うのは私だけか?」

「「「「「………………………………」」」」」



 ネギ君ホントにどうしよう?


 …………一度、ネギ君にシッカリと現実を教えた方がいいようだね。
 何だか“現実を教える”という言葉の使い方を間違っている気がするけど、気のせいということにしておこう…………。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「お待たせしました、皆さん。
 ハイ、好きなのをどうぞ」 

「うわぁ~、缶ジュースが宙に浮いとる。ホンマに魔法って凄いなぁ…………」

「さすがに20人以上の缶ジュースを手で持ってくるのは大変ですからね」

「ウム。ありがとう、ネギ君。
 さて、ネギ君がジュースを買いに行っている間に話し合って決まったんじゃが、今回魔法を知ってしまった生徒達へのお願いは、基本的にエヴァが責任を持って叶えることとなった。
 一番ドジ踏んだのはエヴァじゃからの。妥当なところじゃろうて。それに古菲君や長瀬君のお願いはどちらにしろエヴァの協力が必要じゃからの。もちろんワシらにしか叶えられないお願いの場合はワシらが聞くから、ネギ君もそのつもりでいておくれ」

「わかりました。それがエヴァさんへのペナルティということですね」

「この後エヴァの別荘に赴いて詳しい説明をするそうじゃ。あの中でなら時間がかかってもせっかくの明日の休日に響かんし、何より目で見て納得しやすいじゃろ」

「そうですね、皆さん驚きますよ。映画に出てくるようなお城ですから。
 よし、それなら行きましょうか。僕も一緒に行きます」

「ま、待っておくれ、ネギ君。ちょっと君に話したいことがあっての…………」

「え? でも僕も行った方がいいのでは? 僕への話は後日では駄目なのですか?」

「いや、話を聞いておけ、ネギ。魔法についての説明だが、女の私から説明した方がいいこともあってな。いくら子供とはいえ、男であるネギは遠慮しておけ。
(…………まったくの嘘だがな)」

「そ、そういうのがあるんですか!? そういうことならわかりました…………」

「よし、良い子だ。では全員行くぞ」


 そういえば、アスナ君にこんな形で魔法がばれてしまうとはなぁ。
 何だか最近避けられていて話し合うことが出来ていないけど、本気で話し合いの機会を持った方がいいな。





『頼むぞ、タカミチ。ネギに現実というものを教えてやってくれ。
 封印されている私が言っても、おそらく信じてくれないだろうからな』

『わかってるよ、エヴァ。エヴァもアスナ君たちのことを頼むよ。
 正直、ソッチまでフォロー出来るかわからないから…………』

『大丈夫だ。自分の仕出かした不始末は自分で始末するさ。
 気をつけろ、ネギは手強いぞ…………』

『…………わかってるよ』


 ネギ君の説得か…………うまく出来るかな?

 何でネギ君は、考え方と実力がアンバランスなんだろう?
 自分の実力を過大評価するのも困りものだけど、過小評価しすぎるというのも困りものだよ…………。





━━━━━ 後書き ━━━━━



「(“紅き翼アラルブラ”の修行ごうもんで)魔力容量が増えたよ!!」


「やったねネギ君!」





 さて、今回もオリジナル設定がかなり入りました。

 “近右衛門が“近衛”なのに関東魔法協会の理事であること”
 “刹那が裏切り者とされるのに、近右衛門にはそういう描写がないこと”
 “東に敵対する行動まで起こす人間は、あくまで少数であること”
 “関東魔法協会の理事近右衛門の娘が西の長の妻だったこと”
 “神鳴流の青山詠春が西の長であること”
 “木乃香が麻帆良に行くことが出来たこと”
 “木乃香が将来の西の長にならなくてもよさそうなこと”
 “むしろ木乃香が西洋魔術師になってもよさそうなこと”

 という疑問がたくさんあったのですが、これなら不自然ではないと思います。
 “近衛”みたいな古い家なら、分家とかたくさんありそうですしね。


 他の方のお話では、「近右衛門が西を裏切って東についた」ということでよく描写されます。
 しかし、この作品では、

「逆に考えるんだ。
 “近右衛門が西を裏切って東についた”ではなく、“西の人間である近右衛門が東の要職についた”と考えるんだ」

 という発想ですね。
 まぁ、近右衛門も大人ですから、公私混同はあまりせずに東の人間として生きていますが。


 まとめますと、

 “近右衛門が東にいるのは西も納得済み、むしろ偉くなって便宜図れ”
 “詠春は中継ぎの長、そのために近右衛門の娘と結婚”
 “近衛の分家としては、自分の家から長を輩出するチャンス!”
 “一番楽なのは、木乃香と結婚して近衛本家に婿入り”
 “でも、それだと神鳴流詠春とか近右衛門とのしがらみも一緒についてきそう”
 “だから木乃香を西に戻したいのは少数派、むしろ木乃香は東にいろ”

 という、感じです。
 これだったら近右衛門は西に対して貸しはあっても借りはなく、詠春に対して手厳しいことを言ってもおかしくはないのかなぁ、と。


 例えるなら、

「父である社長の命令で、冷戦している相手とのパイプ役になるために相手の会社に入社したのに、父の跡を継いだ兄は後継者いない状況で死んじゃって、実家でお家騒動起きそうだったから娘を差し出したんだけどさぁ。
 実家の下っ端は孫娘に対して良からぬ企みするわ、兄の跡を継いだ婿殿はその下っ端押さえつけられないわで最悪なんだけど。
 文句言ってもバチ当たらんよね?」

 って感じでしょうか?


 ちなみに右大臣と左大臣だったら、左大臣の方が地位的には上です。
 “近右衛門このえもん”に対して、“近左衛門このざえもん”って名前は変でしょうか?


 ネギは近右衛門のことを“東の長”と言ってましたが、あくまで近右衛門は関東魔法協会の“理事”であって、“理事”ではないんですよねぇ。
 同格の理事が他にも数人いておかしくはないと思うのですが…………。

 “理事”というのは普通の会社だったら“取締役”のようなもので、社長である“代表取締役”に相当するのは“理事”です。
 




 それと魔力量の数値もオリジナルです。
 だいたいこんな感じということにしておいてください。
 もし、新たな事実が判明したら、その度に修正していきます。

 とりあえず、ネギの魔力は木乃香の魔力の2倍弱、としておいてください。
 魔力容量は“トレーニングなどで強化しにくい天賦の才”ということですので、あくまで“しにくい”だけみたいで増やせないわけじゃないみたいですね。
 “紅き翼アラルブラ”の修行ごうもんで元の倍以上に増えてたみたいです。


 やったねネギ君!





 そして遂にネギは、これから麻帆良関係者の前でも本当の実力を出してもよくなりました。
 今まで打っていた数々の布石が見事に効果を発揮したようです。

 麻帆良関係者はネギの実力を見たとしても、変に思わずに納得してくれ…………納得? 変に思わず?


 …………。

 ……………………。

 ………………………………「ネギ君だからしょうがないんだよっ!!!」と、無理矢理にでも納得してくれるでしょう。


 エヴァも魔法バレ連中の面倒を見なければいけませんが、基本的に無罪放免です。
 学園長達からすると、

「エヴァの責任どころの話じゃねぇ!!!」

 って状況ですので。





 タイトルの“斜め下”は、皆様もご存知の“斜め上”とは少し違うものという感じでつけました。

 “斜め上”が予想を裏切り全く予期できない、ありえない方向への発想ならば、
 “斜め下”は予想を裏切り全く予期できない、だけどありえてもおかしくない方向への発想、という感じでしょうか。

 何となくニュアンスはわかっていただけると思います。
 予想よりは下回ったけど、それでも斜めな発想です。

 言葉の上だけを考えるなら、別にネギは変なことを言っているわけじゃないんですがね…………。







※ 木乃香の魔力が“5強”で魔法先生の魔力が“1.5”について


 もしかしたら「木乃香の魔力はもっと高いのではないか?」という感想を抱かれるかもしれません。
 確かにもっと多くても良さそうかな、とは思ったのですが、それですと青天井になりそうだったので止めておきました。
 魔法を使うことについて“魔力容量”の他に、“精神力の強化”、“術の効率化”など様々な要因がありますし、量だけではなく質も重要だと思いまして…………。

 それと詠春は木乃香の力について「魔力を操る力●●●●●●が眠っています」と表現しました。「魔力が眠っています」ではなくです。
 ですので木乃香は魔力も多いのでしょうが、むしろ“精神力”の方が大きいのではないでしょうか?

 車で例えるなら、

“魔力容量”=ガソリンタンク容量
“精神力”=馬力
“術の効率”=燃費

 といった感じです。
 “術の難易度”を坂道とすると、難易度が高くなるほど傾斜が上がっていきます。
 それですとガソリンタンクの容量がどんなに大きくても、馬力がないと坂道を登ることは出来ません。


 そしてスクナの召喚ですが、例えますと、

 “100kgのバーベル”を持ち上げれる人が“5人”いても、“500kgのバーベル”を持ち上げられるかはわかりません。
 何故なら、“500kgのバーベル”を持ち上げるには5人全員がバランス良く、全力を発揮しなければならないからです。
 バーベルが小さくて3人しか持てなかったら? 5人の息が合ってなくてバラバラに力を入れたら? 持つところがバラバラで、バランスがとれなかったら?
 きっとバーベルを持ち上げることは出来ないでしょう。

 それと、“100m10秒”で走れる人が“5人”集まったとしても、“100m9秒”で走れる人“1人”相手では、どう頑張っても100m走で勝つことは出来ない、という感じです。
 リレー式にして専用の訓練をしたら、もしかしたら勝てるかもしれませんが、それでも5人の息を合わせるための訓練が物凄く必要になるはずです。

 千草はスクナのことについて、「お嬢さまの力で制御可能」と言っていました。
 “召喚”に必要なのは“魔力”なのでしょうが、“制御”について必要なのは“精神力”ではないでしょうか?


 自分としましては6作目以降のドラクエの賢者みたく、LVが上がると“魔力効率”が上がり、魔法発動に必要な消費魔力もドンドン減っていくと考えています。
 そうでなければ、ネギは修学旅行からラカン戦までの間で、魔力が最低でも10倍以上に増えてなきゃ駄目なように思います。
 魔力容量は“トレーニングなどで強化しにくい天賦の才”ということなので、いくら何でもそこまで魔力が急激に増えることはないでしょう。


 以上の理由から、木乃香の魔力が“5強”、魔法先生の魔力が“1.5”としました。



[32356] 第24話 好感度ランキング ネギ→乙女達
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:04



━━━━━ ガンドルフィーニ ━━━━━



「…………というわけでネギ君の魔力量は、ワシらの数倍もあるんじゃよ」

「またまたご冗談を」


 …………おかしい、何だかさっきからネギ先生の後ろに猫の幻影が見えてきた。
 それにしても、何で猫先…………じゃなかった、ネギ先生は全然信じてくれないのだろうか?

「君は10歳の見習い魔法使いだけど、熟練の魔法使いの数倍の魔力を持っていて、尚且つ魔力の制御や効率化も完璧で、身体能力も神鳴流とガチでやりあえる位優れていて、ぶっちゃけこの学園のトップクラスに強いんだよ」

 と言っているだけなのに。



 …………。

 ……………………。

 ………………………………すまない、普通は信じれないな。





「冗談はやめてくださいよ、学園長。
 さっきから何度も言ってますけど、僕はまだ10歳の見習い魔法使いですよ」

「だ、だからじゃなぁ、ネギ君は…………ぬ…………?」

「ど、どうしました、学園長? 急にお腹を押さえたりして…………」

「何だか急に胃が痛くなってきおった。せ、瀬流彦君。ワシの机に胃薬があるの…………ぬぅぅ…………」

「が、学園長、大丈夫ですか!? 治癒魔法いりますか!?」

「そ、そんなことよりネギ君は現実を知っておく…………ガハァッ!!!」

「学園長っ!? 救急車だ! 救急車を早く!!!」


 学園長ーーーーーっ!?
 吐血した!? マズイぞ。ストレスで急性胃潰瘍にでもなったのか!?












━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



「…………って感じになっていることに餡蜜10杯」

「賭けにならん。…………そうなると思ったから龍宮まで来たのか」

「誰が好き好んであそこにいたいと思うんだ?
 お前こそ、ちゃんと近衛と話は出来たんだろうな? 何せ同じ部屋で寝たんだからな」

「ま、まぁな…………」


 そんなに頬を赤く染めるな。変な方向に勘違いされるぞ。

 私達はエヴァンジェリンの別荘に移動したあと、エヴァンジェリンの人形の従者から夕食が振る舞われ、部屋を与えられて各自就寝となった。
 もう別荘の外の時間では夜だったから、体内時計を合わせるためだ。

 …………というのは口実で、おそらくエヴァンジェリンが精神的に疲れ果てていたからだろうな。無理あるまい。


 刹那は近衛と一緒の部屋に泊まり、夜通し話していたそうだ。
 朝食のときに見た近衛は嬉しそうだったし、刹那もスッカリと晴れ晴れとした顔をしている。もう2人のわだかまりは解けたのだろう。





「それで? 近衛はどうするつもりなんだ?」

「まずは長と話し合ってみるらしい。魔法を学ぶのも学ばないのもそれから決めると。
 …………ただ、魔法を使ってみたいという気持ちは少なからずお持ちのようだな」

「ふむ、そうか。つまり古と楓はネギ先生やお前との修行。綾瀬と宮崎は魔法を習うこと。神楽坂、長谷川はまだ未定ということか。
 そういえば、エヴァンジェリンが叶えてくれるお願いってのは私もアリなのかな?」

「エヴァンジェリンさんに言えるものなら言えばいいさ。
 …………長谷川さんはさっき、「新しいノートパソコンが欲しいんだけど、それはやっぱ駄目かなぁ?」って言っていたな」

「堅実な考えだな。魔法を習おうとするよりはマトモだろう」

「中学生の女の子なら仕方があるまい。
 …………しかし、本当にいいのだろうか? 一般人に魔法を教えたりして…………」

「今回のことは明らかに学園のミスだからな。しかも近衛も一緒に目撃してしまった。近衛がいなかったら記憶消去という手もあったろうが、そんなことしたと知られたら近衛が許すとは思えん。
 学園長も孫の記憶を消したり、嫌われたりするのは避けたいのだろう」

「まあ、そうだろうな」

「それとネギ先生のことで精一杯ということもあって、彼女達には手が回らないんだろうさ」

「……………………ネギ先生かぁ」







 …………あの子は何であんなにアホの子なんだろうか?
 模擬戦の頃からどこかズレているとは思っていたが、あそこまでズレているとは思わなかった。教師やっているのを見ていると普通に見えていたんだがなぁ…………。

 文武両道、成績優秀、品行方正など、修飾語をいくら付け足しても足りないぐらいの天才なんだが、それでもあのアホさ加減で台無しになっている。
 それともあのアホさ加減のおかげで、嫌みったらしく見えないというのもあるのだろうか?


 “嫌みったらしい天才”と“アホな天才”。
 これはどっちが良いのだろう?





「そうそう、昼食のあとに皆で集まって話し合いをするそうだ。いつまでも水着姿で日光浴していないで龍宮も来てくれ」

「わかったよ。それにしても外の季節は冬なのに、日光浴というのは悪くないな」

「だったら夏になったら雪山に行ってみればいいさ。摂氏マイナス40℃だそうだがな」


 さすがにそれは御免だよ。
 もう40℃ほど気温を上げてくれれば考えるがな。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「…………というわけで、来週から相坂さよが2-Aに入ることとなった。病気でずっと入院していたという筋書きらしい。各自覚えて置くように。
 わかっていると思うが、見ての通り相坂さよは人形の身体に入っている。何か不都合があったりした場合は私かネギに言え」

「よ、よろしくお願いします。皆さん!」

「よろしくね、さよちゃん」

「よろしくなー、何かあったら遠慮なく言うてな」

「よろしくお願いします」

「(…………冷静になって考えてみると、幽霊がクラスメイトって…………。まぁ、担任と担任補佐が魔法使いで、吸血鬼やロボットもいるんだから今さらか)」


 それにしても、相坂のことは私も全然気づかなかったな。私の魔眼でも見えないなんて、まったく影の薄い幽霊だ。
 ネギ先生はクラス名簿に載っている生徒が、いつまでも経っても登校しないことを気にしたのがキッカケとして気づいたらしいが…………。


「それと改めて紹介しておくが、この子はネギの使い魔であるオコジョ妖精のアルちゃんだ。
 この子に言えばネギにも伝わるから、緊急時にはそうするといい」

「よろしくお願いします、皆様。それと今まで黙っていて申しわけありません、アスナ様、木乃香様」

「本当にアルちゃん喋ってるわねぇ。さよちゃんにはビックリしたけど、アルちゃんにもビックリしたわ」

「気にせんでええよ~。魔法のことは秘密にしとかなアカンかったんやろ。
 それにしても凄いなぁ。まるでディ○ニーみたいや」

「オコジョ妖精ですか。
 失礼ですが、あまり聞いたことはありませんね。アルちゃんも魔法を使えるのですか?」

「はい、人間の魔法使いが使う魔法とは違いますが、オコジョ妖精も魔法を使えますね」

「へぇ~、アルちゃんも凄いんだねぇ」

「(こいつの声帯どうなってるんだろう?ってツッコミしちゃ、いくら何でも空気読めてねぇよなぁ…………)」

「ねぇねぇ、人間とは違う魔法ってどんな魔法が使えるの?」

「そうですねぇ。変わったところでは『仮契約パクティオー』の儀式、人間関係の感知などが出来ます」

「『仮契約ぱくておー』?  …………って、人間関係の感知ってどういうのなん!?」

「そのままの意味だぞ。人が他人に抱いてる好意を測る超能力があるんだ。オコジョ“妖精”と名乗るだけあって、特殊なことが出来るんだよ。
 …………そういえば、ネギが私のことをどう思っているとかも出来るんだよな?」

「え? 出来ることは出来ますけど…………」


 …………空気が変わった。
 神楽坂や近衛、宮崎、エヴァンジェリンの目が輝きだした。

 それにしても、あの“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”がここまで熱を上げるとはなぁ。





「…………ヘ、へぇ~?」

「うわー、ウチってネギ君にどう思われてるんやろ?」

「は、はわわわわ…………」

「…………アルちゃん。ちょっと見せてくれてもいいか?」

「皆様の目が怖いです。…………ネギお兄様はまだ10歳の子供ですので、おそらく皆様が期待するようなものは出てこないかと思いますが…………。
 ち、ちなみにこれが参考例の好感度ランキングですね!」







        友 親 恋 愛 色  計
 ネカネ.    1 10  1 10  0  22
 アーニャ.  7  9  1  9  0  26
 ドネット   3  3  2  3  0  11







「各10点満点のパラメータ5種類に分かれていまして、それぞれが“友愛”、“親愛”、“恋愛”、“愛情”、…………“色欲”を表しています。
 数値はニュアンス的に…………そうですね、0=無関心、1~3=嫌いじゃない、4~6=普通に好き、7~9=かなり好き、10=大好き、といった感じです。
 “友愛”は友人として、“親愛”は親兄弟…………要するに家族として、“恋愛”は恋人として、“愛情”はどのぐらい愛しているか、“色欲”…………は0だから関係ありませんね。
 合計値も表していますが、ネカネお姉様とアーニャお姉様を見ていただければわかるように、一番合計値が高ければ一番愛されているというわけではありませんね」


 おいおい、勝手に見せていいのかい? …………と思ったが、これなら問題ないか。
 この表を見る限り、やっぱりネギ先生は10歳の子供だなぁ。


「えーっと、確かネカネさんってネギの従姉のお姉さんで、アーニャちゃんは幼馴染の妹みたいな女の子だったわね。
 …………ネカネさんへの“親愛”と“愛情”が10点ってのは凄いわねぇ」

「え? アーニャお姉様の方がネギお兄様より年上ですけど…………」

「やっぱり家族で母親代わりってのは強いんやなぁ…………。
 でも“友愛”と“恋愛”が1点ってことは、完璧に家族としか見ておらへんなぁ」

「全体的に“恋愛”と“色欲”の数値が低いですね。
 …………“色欲”って要するに、…………いやらしいことですよね?」

「その“色欲”が見事に0点でござるなぁ」

「“恋愛”の1点と2点も似たようなものアルよ」

「10歳じゃ仕方がないだろ。むしろ私はこの表見て安心したけどな」

「そうか? 10歳にもなってそういうことに全く興味がないというのは、逆にネギの将来が不安だがな」

「ムゥ…………ネギ先生が紳士ということはいいのですが、恋愛に興味を持たれていないというのは困りものですね」

「ド、ドネットさんって誰なんだろう? この人は“恋愛”が2点あるけど…………」

「ドネット様はメルディアナ魔法学校の職員でして、ネギお兄様の祖父である校長の秘書のような方です。校長を通じて少し付き合いがありまして、ネギお兄様が言うには“年上の綺麗なお姉さん”だそうです。
 そして現在の皆様への想いはというと……………………あ、あら?」


 な、何があった!? おそらくネギ先生が私達をどう思っているか書かれているであろう巻物を見たアルちゃんが、慌てて巻物を閉じたぞ?





「ア、アルちゃん、どうしたの?」

「い、いえ、ちょっとこれは予想外というか…………」

「…………予想外? もしかして、ウチラのこと何とも思ってへんのかなぁ?」

「そ、そんなことはあるまい…………アルちゃん、見せてくれ!」

「ちょっと待ってください。これはさすがに「茶々丸っ!」って駄目です! 離して下さい!」

「失礼します、アルちゃん」


 おいおい、いいのかこれは? といっても止める奴がいないな。誰もがバツが悪そうな顔をしている中に、隠し切れない興味が混じっている。
 まあ、私もあのネギ先生が他人をどう想っているかということなら、少しは興味あるのだがな。

 ゴクリ、と生唾を飲み込む音が複数聞こえた。
 …………全員の目がマジだな。






「…………よ、よし、開くぞ」

「待ってください、エヴァンジェリン様! 見ないでください!!!
 アスナ様達もその巻物を見ないでください!」

「いいや! 限界だ、見るねっ!!!」





 止める間もなく、バッ、っと開かれた巻物に書かれている内容へ釘付けになる私達。
 そこに書かれていたのは……………………。







        友 親 恋 愛 色  計
 明日菜   4  7  6  7  0  24
 木乃香   3  8  5  7  0  23
 エヴァ .    6  3  7  6  0  22
 刹那     6  3  4  5  1  19
 茶々丸   5  4  3  6  0  18
 のどか.    5  4  4  5  0  18
 千雨     4  4  4  4  0  16
 マナ..    4  2  3  3  0  12
 古菲     4  2  2  3  0  11
 夕映     3  2  2  3  0  10
 楓.      3  2  1  2  0   8
 さよ.     1  1  1  1  0   4







「…………フッ、フハハハハハハハハッ……。私が“恋愛”においてトップだ! やはりネギも私のことをそういう目で見ていたんだな!!!
 “色欲”こそ0点だが、それでも私が…………あ?」

「ちょ、ちょっと待ってよ、エヴァちゃん! 合計点は私の方が上でしょ!?
 それに“愛情”が高い私の方がネギに愛されているんじゃな…………い?」

「あや~、“親愛”が8点でこの中では一番高いわぁ。
 ネギ君はウチのことを一番家族と想ってくれているんやなぁ、エヘヘ…………え?」

「…………違うんです。これは違うんです。誤解なんです…………」

「(マスターと同じくらい私に“愛情”を感じてくださっているのですか…………)」

「は、はわわわわ…………い、意外と高い? 同じ魔法使いのエヴァンジェリンさん達や、一緒に暮らしているアスナさん達を除いたら私がトップ…………そ、そんな、ネギ先生せんせー…………」

「た、高くはないが低くもないな。全体的に“普通に好き”なのか。べ、別に嫌ってわけでも嬉しいってわけでもねぇけど…………って、おい?」

「“親愛”と“恋愛”が2点アルかぁ。居残り授業で迷惑かけてばかりだったからアルかね?」

「の、のどか…………嬉しがるのはいいのですが、衝撃的なことが書かれているですよ……………………」

「…………拙者は“恋愛”が1点でござるな。さよ殿は会ったばかりらしいから仕方がないとはいえ、拙者は恋愛対象外なのでござろうか?」

「はううぅぅ~~~。最低点です。でも、月曜日からは生徒としてネギ先生と過ごせるので、これから仲良くなっていけるんです!」



 私は…………こんなものだろうな。
 魔法関係で話をしたことは何度かあるが、特別に何かあったわけじゃない。それに別に成績のことで迷惑掛けているわけじゃないからな。

 “年上の綺麗なお姉さん”であるドネットという人より“恋愛”が1高いのか。
 フフフ、悪い気分ではないな。…………まぁ、エヴァンジェリンの半分以下だがな。


 それにしても、ネギ先生は見事に“色欲”が…………“色欲”が?









「…………せ、刹那、10歳児に手を出すのはさすがにマズイと思うぞ?」





 刹那への“色欲”が1点あるよ、おい?





「…………おい、桜咲刹那?」

「…………桜咲さん?」

「ち、違います! エヴァンジェリンさん、神楽坂さん! 私は何もしていないんですっ!!!」


 いや、その言い訳は通らないだろう。
 他の人は見事に“色欲”が0なのに、刹那だけが1点ある。

 …………アレか? 刹那がネギ先生をソッチ方面に目覚めさせちゃったのか?
 刹那はネギ先生にいったい何をしたんだ?





「…………せっちゃん?」

「嘘ではありません、木乃香お嬢さま! わ、私は…………」

「ほ、本当です。ネギお兄様と刹那様が修行するときは私も一緒にいましたから証言できます。
 おそらくネギお兄様が刹那様を意識してしまっただけで、2人は別に変なことしたりしていないですよ!」

「…………そうかえ。何にせよとりあえず、ちょっと“ O H A N A S H I ”しようか、せ っ ち ゃ ん ?」

「…………は、はいぃ…………」


 笑顔のはずの近衛が怖い。というか、無表情の神楽坂が特に怖い。いつもバカっぽく朗らかな神楽坂があんな無表情になるとは…………。
 ああ、コッチにも来ないでさっさと帰ればよかった。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 好感度ランキングはズレていないでしょうか?
 自分のPCではちゃんと見れるのですが、もしかしたら見にくい方もいらっしゃるかもしれませんが、何卒御容赦ください。


 そしてこの好感度ランキングは実際の数値です。アルちゃんにお願いして、数値を捏造したりはしていません。
 原作では“親”のパラメータは「ネギに対して“親心”を感じているか?」という項目ですが、この作品では「“家族”として愛しているか?」という設定ですので、ネカネのことを娘と思っているわけではありません。

 やはり前世のエヴァへの初恋が残っているためか、“恋愛”はエヴァが多めです。
 せっちゃんへの“色欲”については、せっちゃんに思いっきり恥ずかしがられたせいでネギも意識しちゃっただけです。

 ちなみにこのネギの根っこは、仙人と幼児を足して2で割ったような感じです。


 せっちゃんはまだ自分が半妖であることは言えてません。
 というか、ネギの起こしたことのショックが大きすぎて、自分が半妖であること自体忘れてます。



【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血 ← rank up!
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という困惑
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋



[32356] 第25話 弟子入れられ(強制)
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:05



━━━━━ ガンドルフィーニ ━━━━━



「…………本当なんですか? 本当に皆さんは実力を隠したりしていなかったのですか?」

「そうなんだよ、ネギ君。
 だけど、例え君より魔力を持っていない魔法先生だとしても、その魔法先生の今まで培ってきた経験は見習うべきだと思うよ」

「え、ええ…………それは承知しています」


 ………………よかった、やっとネギ先生が信じてくれた。

 危なかった。他の先生は既に力尽きてしまい、もう私と高畑先生しか残っていなかった。
 残った私達も疲労困憊していて、これ以上の抗戦は不可能だったろう。





「…………タカミチの言うことはわかりました。
 もう少し時間を貰ってもいいですか? ちょっと今までのことを思い出しながら考えたいので…………」

「ああ、それは構わないよ。今まで思っていたことが間違っていたんだから、少し昔のことを思い出すのもいいさ」

「そうだな。今日はネギ先生の生徒に魔法がばれてしまうなど色々あったからな。
 明日と明後日の休日を使ってゆっくり考えてみるといい」

「わかりました、そうします。…………そういえばエヴァさんはもう説明し終わった頃ですかね?」

「ん? いや、まだじゃないかな? 電車も動いてないから、エヴァの家に行くのも時間がかかるだろうからね」


 …………冷静になって考えてみれば、“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”に生徒を任せてよかったのだろうか?
 まあ、学園長が復帰してから相談しよう。ネギ先生がついていれば差し迫った危険はないだろうし、それに生徒には悪いけど今日はもう疲れた…………。


「…………ところで話は変わりますが、人払いをしていたはずの校舎に明日菜さん達が入ってきたのはいったい?」

「ああ、秘密にしておいて欲しいんだけど、実を言うとアスナ君には特別な力があってね。
 おそらくそれが作用してしまったと思うんだけど…………」


 …………ふぅ、これでようやく家に帰れる。
 娘はもう寝てしまっただろうか? でも、寝ててもいいから顔を一目見たいな…………。











━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



「…………というわけで、ネギお兄様は刹那様を意識してしまったのです」

「そうなのです。私がネギ先生のことをとても恥ずかしがってしまい、ネギ先生もそれに影響されただけなんですよ」

「アスナ様や木乃香様だって、寝ているときにネギお兄様が身体を触ってきたら意識してしまいますでしょう?」

「ネ、ネギはそんなことしないわよ!」

「そうやなぁ。ネギ君って、自分からはくっついてこないんよ」


 そうなのよね。私が落ち込んでいた最初の頃は背中を優しくポンポン叩いて慰めてくれたけど、最近は全然そういうことないのよねぇ。
 恥ずかしがりやというか何というか…………無意識状態でないと甘えてくれないし。

 紳士なのは良いことなんだけどさ。本音を言うと、もうちょっと甘えてきてほしかったりして…………。





「“色欲”の1という数値は、相手に異性を感じてしまったらそれだけで出てしまう数値です。
 ですので、あまり気になされる必要はないかと」

「ちょっと待って、アルちゃん。それって要するに、ネギって桜咲さん以外は女の子と意識していないってこと?」

「…………なん、やて?」

「ち、違うのです、お嬢さま…………」

「いえ。意識していないというより、まだそういうことがわからないのだと思います。アスナ様や木乃香様のことは、家族で“姉”のようには認識していても、“女性”とは認識出来ていないのかもしれません。
 実際、私もネギお兄様の“色欲”が0点以外の数値が出たのは初めて見ましたし」

「あー、10歳ならしょうがないアルよ」

「そうでござるな」

「…………しかし逆に言えば、ネギはそういうことに興味が出始めてきたということか?
 それこそ10歳なら仕方がないな」

「ネ、ネギが!?」

「そ、そうなん!?」

「え!? …………私は今後ネギ先生とどうやって接すれば? もしかしてネギ先生は私のことを…………」


 や、やだ。そんなこと言われたらコッチも意識しちゃうじゃない。桜咲さんと寝たときのネギもこういう気持ちだったのかしら?

 …………う、私の顔赤くなってるわね。
 こ、今度から一緒に寝るときどうしましょうか?








「というか、私的にはアスナさん達がネギ先生と一緒に寝てることのほうが驚きなんですが」

「ネ、ネギ先生せんせーと一緒の布団で…………」

「べ、別にいいじゃない! 一緒の部屋で暮らしている家族みたいなものなんだし。
 ネギは弟みたいなものよ。だったら一緒に寝てもいいじゃない!」

「そうやで~。ネギ君抱きしめて寝ると、あったかくて気持ちええんよな~」


 そうなのよねぇ。子供の体温は高いって言うけど、ネギってかなり高いのよね。
 だから寒い日でも、ネギが一緒に寝るだけで全然平気だし。

 …………ああ、そうだ。


「今度からは刹那さんみたく、あの『咸卦治癒まいてぃがーど』を使ってもらってからネギと一緒に寝ようかしら。
 私はエヴァちゃんへのお願い決まってなかったのよねぇ。魔法とか習いたいとも思わないし、学費とか生活費を払ってもらうというのはいくらなんでも悪いしね。ネギしか叶えられないお願いは、ネギが叶えてくれるらしいし」

「あ! それええなぁ! ウチは魔法習うのをエヴァちゃんへのお願いじゃなくて、おじいちゃんに別口で頼めばええし」

「な、何だと貴様ら!? それはずるいぞ!」

「そ、そうですよ! ただでさえネギ先生と一緒に寝ているというのに、更にこれ以上ネギ先生へお願いするのはずるいのです!」

「そ、それだったら魔法を習うのはやめて、私もネギ先生せんせーと一緒に……………………で、でもそれはいくらなんでも無理だよぉ…………」


 へっへーん! これはネギと一緒に暮らしてる人だけの特権だもんねぇ~。


「ま、待て! 綾瀬夕映、宮崎のどか! 貴様達の“魔法を習いたい”という願いはもう決定済みだ! 今更変更するなど許さん!!!
 我が弟子として、貴様達2人は私が直々に鍛え上げてやろう!
 我が配下に連なる化け物モンスターにふさわしい魔法使い……………………悪の小ボスにな!!!」

「ええぇっ!?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいエヴァンジェリンさん!? そんなの聞いてませんです! 弟子って!?」

「もう遅い! 中途半端は認めん!!! やるならとことんまでだ!!!
 ついでにネギと一緒に寝るなんかも認めん! 私だってそんなことしていないんだぞ!!!」

「私情入りまくりじゃないですか!?」

「あ、悪の小ボスなんて嫌ですよ~~~」

「尚、修行中貴様らの服は常に黒! ゴスロリ服とす…………いや、やっぱり服はいい。ネギは私のゴスロリ姿を可愛いと言っていたからな」

「ネ、ネギ先生せんせーはゴスロリ服がお好きなんですか!?」

「フン! 違うな、ゴスロリ服を着ていた私にそう言ったんだ。 私の金髪が黒のゴスロリ服で映えて、それがとても可愛いそうだ」

「な、ならのどかは白系のゴスロリで攻めるのです。のどかの黒い髪が白いゴスロリに映えて、きっと可愛いと言ってくれるはずです!」

「誰がそんなこと許すかぁっ! 貴様らはジャージで修行しろ!!!」

「そ、そんなぁっ!?」

「…………私はいつも寝巻きにジャージを使っていて、ネギ先生と寝るときもジャージなんですが…………。
 そんなにジャージは駄目なんでしょうか?」

「駄目やよ、せっちゃん。女の子なんだからちゃんとお洒落せんとな。
 そうや! 今度一緒に服を買いに行こうえ!!!」

「え!? …………は、はい、木乃香お嬢さま!」

「(PCとかは無理そうだし、私はどうしようかな? …………あのガキと一緒に寝るのは恥ずかしいけど、あの回復魔法は惜しい。アレさえあれば、もうフォトショップを使わなくてよくなるかも…………)」


 考えてみれば別にお願いを使わなくても、ネギだったら普通に頼めばやってくれそうよねぇ。
 やっぱりお願いはとっておいて、何かあったときのための保険にしておこうかしら?


 それにしても、ネギがあんなに私のことを…………その…………す、好きなんてねー。
 やっぱりまだまだ10歳っていう誰かと一緒にいたい年頃なんだから、一緒に住んでる私のことを好きになるのはしょうがないわよね。ウン。
 まぁ、木乃香のことも同じくらい好きみたいだし、ネカネさんやアーニャちゃん達には“親愛”と“愛情”は負けてるけど、“恋愛”は私の方が勝ってるもんね。


 …………エヴァちゃんには“恋愛”が1負けてるけどね。ムゥ。
 それでも“愛情”は勝ってるし、“親愛”は私が4も上だから良いけどさ。

 それにしてもネギったら、他にもたくさんの女の子のこと好きになっちゃって。まったくもう。
 帰ったらネギとお話しなきゃ。







「フン! この指輪を見てみろ!
 これはネギが私に贈った指輪だ!!!」

「ネギ先生せんせーからの贈り物!?」

「そういえば教室でそんなこと言ってましたね!?」

「な、何やて!? 2人はそこまで進んどったんかい!?」

「いや、エヴァンジェリンさん。その指輪は…………」



 …………それにしてもネギったら、エヴァちゃんに指輪のプレゼントなんかしちゃって。まったくもう。
 帰ったらネギと“ O H A N A S H I ”しなきゃ。





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 ふぅ、落ち着いたわ。茶々丸さんの紅茶は美味しいわね。お菓子も美味しいし。
 …………ここにいたら太っちゃいそうで怖いわね。
 
 とりあえず、ネギとはどうせ寮に帰ったら一緒に寝るんだから、そのときにいろいろとお話することにしましょう。



「ところで話は変わるのでござるが、ネギ坊主はどの位強いのでござるか?」

「うん? …………そうだな、とりあえず剣の腕や体術は私以上だ。10歳ということもあって身体能力ではさすがにまだ私達の方が上だが、『咸卦法』などの技法を使われれば私達を上回るだろう。
 魔法については本気で使っているのを見たことないからわからないな」

「ええ~? ネギ君て、せっちゃんより強いんか?」


 桜咲さんは剣道部でも強い方だったはずなのに…………そういえばネギはくーふぇにも勝ったわよね。
 ネギったら、強いのねぇ。


「私との試合は本気でなかたということアルか?」

「あー…………ネギ先生の実力は本当にわからん。アルちゃんが言うには雷系最強呪文の『千の雷キーリプル・アストラペー』を使えるらしいな。
 それと古、ネギ先生の本気と戦おうとするのはやめておけ。ネギ先生は武人というより軍人の類だ」

「…………何でネギはあんな子供に育ったんだろうか?
 やはりネギはナギより酷いぞ」

「ネ、ネギお兄様は素直で純真なんです」


 まぁ、確かにネギは素直で純真よねぇ。
 いつもニコニコ笑ってて、何か面白いことあるとコロコロ笑って、無意識に甘えてくるときは本当に幸せそうな顔をするし。


「おい、綾瀬夕映、宮崎のどか。魔法を教える前に予め言っておくが、ネギのような魔法使いになれるとは絶対に思うな。
 アレはバグキャラの類だ」

「そ、そんなにネギ先生は凄いのですか?
 確かに学園長室での一件から魔力はたくさん持っておられるのはわかったのですが、600年も生きておられるエヴァンジェリンさんにそこまで言われるとは…………」

「へぇ~、ネギ先生せんせーって凄いんですねぇ」

「いくら模擬戦に負けたとはいえ、封印さえ解ければネギに負けはしないと思っていたがなぁ…………。
 何だかネギと戦うこと真面目に考えたら嫌になってきた。アイツ絶対、モビルスーツや『闇の咸卦法』以外にも隠し玉持っているぞ。
 ネギとは戦いたくないな。何を仕掛けてくるか全然わからん。まあ、どういうことを仕掛けてくるかには興味はあるんだが…………」


「そうだろうな。ネギ先生には底知れない何かを感じるときがある。
 ルール無しなら武道四天王と呼ばれている私達全員が相手をしても負けるだろう。ルール有りの試合形式ならもしかしたら何とか、といったところか。
 ちなみに古。お前が本気のネギ先生と戦おうと思ったら、空を飛ぶことが出来るか射程数kmの飛び道具がないと絶対勝てないからな。きっと始まると同時に空に逃げて、遠距離からプチプチと攻撃してくるぞ」

「それだたら私絶対に勝てないアルよ!?」

「そうなったら真名頼みでござるなぁ」

「“プチプチ”ィ? ありえんな。
 ネギだったら、それこそマグナム弾を使って『千の雷キーリプル・アストラペー』を“ブチブチ”と虫を踏み潰すように連射してくるだろうよ」

「ネギ先生だったらそうでしょうねぇ…………」


 み、皆ネギに対してに言いたい放題言っているわね。普段見ているネギとはギャップがありすぎて違和感を感じちゃうわ。
 ネギったら、エヴァちゃん達にいったい何をしたのかしら?





「ところでマグダウェルがさっき言ってた、『闇の咸卦法』って何なんだ?
 何だか名前からして物騒な感じがするんだけど…………」

「ん? ネギ先生が開発したオリジナル技法だよ。オリジナルといっても既存の技法を2つ組み合わせたものなんだが、その2つの技法は『闇の魔法マギア・エレベア』と『咸卦法』という究極技法アルテマアートと呼ばれるほど難易度の高い技法でな。
 その2つを組み合わせるなんて、おそらくネギ先生にしか出来ないだろう」

「さっき学園長室で長谷川さんのニキビを治したのがそれですよ。
 『咸卦法』は私達のような武人が使う“気”と、魔法使いが使う“魔力”という2つの相反する力を融合させ、爆発的な力を得ることが出来るものです」

「『闇の魔法マギア・エレベア』は私が以前に開発したものだ。ネギは言い伝えに残っている私の逸話から自己流で再現したらしい。
 簡単に言えば、攻撃魔法を自らの肉体に取り込むことによってのブーストといったところだ。ネギは主に回復魔法を肉体に取り込んでいるがな。
 その2つを組み合わせた『闇の咸卦法』は、“気”と“魔法”を融合させて、自らの肉体に取り込むものだ」

「“気”と“魔力”ではなく、“気”と“魔法”ですか……? いろんなものがあるのですね」

「それは追々教えてやる。ただ、確かに長谷川千雨の言うように、“闇”と名がつくだけあって扱いが難しい。
 私のような人外の闇の眷属でないと闇に飲まれてしまい、私と同じ人外の闇の眷属になってしまう可能性もあるな」

「ちょっと!? そんなの使ってネギは大丈夫なの!?」


 その“闇の眷属”っていうのがどういうものかはわからないけど、人間じゃなくなっちゃうって…………。
 ネギったら大丈夫なのかしら?


「安心しろ。取り込むのが回復魔法なためか、『咸卦法』を併用しているためかもしれんが、ネギ本人は至って健康だ。侵食されたような気配は欠片もない。
 『闇の魔法マギア・エレベア』を扱うためには善も悪も全てを飲み込む度量が必要なのだが、ネギにはそういう度量はあるみたいだしな」

「ふーん、確かにネギ先生は度量というか度胸というか、悠然としている感じはあるな。
 というか、ネギ先生は本当に10歳なのか? 年齢詐称してるんじゃないかと思うときがあるんだが…………」

「私もそれは不思議に思ったことあるが、正真正銘の10歳だよ。しかも数えでな。
 要するに、実年齢は今のところまだ9歳だ」

「アヤ? それ本当アルか?」

「9歳でそこまでとは…………ネギ坊主は凄いでござるな」

「おいおい、前から思っていたけど、ネギ先生ってマジでチートだなぁ。何か欠点はないのかよ?」


 大丈夫ならそれでいいけどさ…………。
 でもやっぱり心配ねぇ。ネギに確認しておきましょうか。

 …………それにしても、ネギの欠点か。そういえば思いつかないわね。
 私達に勉強教えれる位頭が良くて、桜咲さん達に勝てるぐらい運動神経が良くて、2-Aの皆に好かれる位人当たりが良くて、料理も出来るし、裁縫も洗濯も…………。

 アレ? 私って、ネギに勝ってるところなくない?







「ネギ先生の欠点は、魔法関係者なのに魔法関係の常識を持っていないことだな」

「いや、一応常識は持っているだろう。勘違いしていることが多そうだが…………」

「やはり一度、ネギとは常識というものについて話し合った方が良いみたいだな」

「なら、そのときは拙者も同席させて欲しいでござるよ。
 拙者は山奥で育った故に、裏の世界の常識には疎いのでござる」

「ん、そうだな。今度ネギを含めて、全員まとめて魔法の世界についての講義をするか。
 記憶を消さないというのなら、関わる気がなくても知っておいたほうがいいこともあるからな」

「…………私もかよ。裏の世界について聞いたら、もう戻れなくなるなんてことはないだろうな?」

「そんなことはない。騒ぎ立てずに知らん振りしていれば平気だ。
 裏の世界といってもピンキリでな。タカミチのようにNGOに所属して軍人紛いのことをやっているのもいれば、魔法薬の原料に使う薬草栽培なんかで表の世界の農家とほとんど同じ生活をしているのもいる。
 確か、ガンドルフィーニ…………学園長室にいた背の高い黒人の男のことだが、奴の妻は一般人のはずだ。結婚するときに事情は話しているだろうがな」

「魔法使いの人でも一般人と結婚することがあるのですか?」

「そ、それだったら、ネギ先生せんせーも一般人と結婚する可能性も…………?」

「…………あるにはある。 まあ、どうしても最初は事情が話せないから、隠し事しているのと同じだからな。そのせいで浮気とか、変な風に勘繰られて喧嘩になりやすいらしい。黙っているのも罪悪感が沸くだろうし。
 そのために、なかなか結婚まで辿り着けないらしいな」

「(…………刀子さんは今のところうまくいってるみたいだけどなぁ)」

「それと、拒絶されるというのが怖いのかもしれないな。
 もし、結婚するに当たって事情を話し、その結果拒絶されたり魔法使いの存在をばらされそうになったら、相手の記憶を処置しなければならん。
 誰だって惚れた相手の記憶を弄りたくはないだろう? 結婚という最後の一歩を踏み出せずに別れることも多いらしい」

「…………それは、悲しいです」

「そうやねぇ。ウチだったら耐えられないわ」

「…………あとは、そうだな。葛葉刀子が西の出身だから、西洋魔術師とは違った視点から…………いや、近衛木乃香。
 確かお前は春休みに里帰りするな?」

「うん、そうやで。お父様とこれからのことについて直接会って話してみたいと思うんや。
 せっちゃんが言うには、ネギ君とエヴァちゃんも一緒に来てくれるらしいけど、本当なん?」

「私は観光目的でお前の護衛はついでだがな。それならコイツラ全員も連れていくか。西洋魔術師の視点でだけではなく、日本古来からの呪術師の視点からの意見も聞いたほうがいいだろう」

「大丈夫なのですか? 東西の仲は悪いのでは?」

「お前達は西洋魔術師からの被害者だからな。

「ひょんなことから裏の世界の事情を知ってしまったのですが、記憶を消されるのは嫌ですし、関東魔法協会の説明だけではそれが本当かどうかわかりません。
 もしかしたら関東魔法協会にとって都合の悪いことは隠されて説明され、私達は騙されているかもしれません。
 そこで関東魔法協会と仲の悪い関西呪術協会からも話を聞いて、本当かどうか確認したいと思います」

 とでも言えば、むしろ嬉々として教えてくれるだろうよ。
 へたしたら、逆に勧誘されるんじゃないか?」


 主な加害者はエヴァちゃんだけどねぇ~。
 服を弁償してもらわなきゃいけないわね。

 それに京都かぁ~。この前、ネギが京都旅行のパンフレット見てたっけ。





「…………それは、確かにそうだな。別にネギ先生を疑うわけじゃないけど、ネギ先生はまだ子供だからな。もしかしたらネギ先生も騙されているかもしれないし。
 学園長達だけでなく、中立…………というには敵対的だが、外部からの話も聞いておきたいな」

「ウム。冷静な考えだ、長谷川千雨。旅費についてはジジイに頼めばいいだろう。嫌とは言うまいよ。
 難しいことは考えずに、ただの京都旅行と割り切って楽しむのもいいさ」

「むしろその話を学園長にして、駄目だと言われたら学園長達は何か隠していると思ってもいいな。何にせよ、学園長達が私達をどう思っているのか測る試金石になりそうだ。
 …………タダで京都旅行出来るのも美味しいし」

「よし、そのときは私も護衛として着いていってやろう。
 なぁに、依頼料は学園長に請求するから安心しろ」

「龍宮、便乗しようとするな。
(…………元から、里帰りのときのお嬢さまの護衛の手伝いを頼むつもりだったから丁度いいけど)」

「京都ですか。神社仏閣巡りとか出来ますかね?」

「ゆえはそういうの好きだもんね~」

「日本人なんだから、西洋魔術ではなくて日本の呪術を学びたいと思っても構わん。どうせ春休みまでは基礎中の基礎だけで精一杯だからな。取り返しがつかなくなるということはないだろう。
 神楽坂明日菜や長谷川千雨も、願い事はそれまで待ってからの方が良いかもしれんな」

「じゃあ、春休みはここにいる皆とネギ君で京都旅行やな!?
 うわ~、何か今から楽しみや」

「ネ、ネギ先生せんせーと旅行!?」

「(…………これは、のどかとネギ先生の仲を進展させるチャンスですね)」


 京都旅行かぁ。うん、いいわねぇ。
 新聞配達の当番を休めるようにお願いしておかないと。

 …………それと、いいんちょ達にばれないようにしないといけないわね。
 ネギも一緒に行くなんて聞いたら、絶対着いてくるだろうし。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 テレレレッレッテッテー!(ドラクエ風に)
 ネギは現実を知ることが出来た(フリをした)。

 もちろん、今までのことはわざとで、最初から知ってましたけどね。


 本屋とゆえっちの強化フラグが立ちました。
 明日菜よりは才能はないと思われるので、あくまでも小ボスクラスです。


 京都旅行フラグが立ちました。フェイトが西に来る前に終わらせる、というわけではありませんのでご安心を。




【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という“諦観” ← rank up!
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋



[32356] 第26話 好感度ランキング 乙女達→ネギ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:06



━━━━━ ガンドルフィーニ ━━━━━



「…………なるほど、『完全魔法無効化マジックキャンセル』とはこういうものですか」





 凄いよ、このネギ先生! さすが“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子さん!!!





「何でネギ君が『完全魔法無効化マジックキャンセル』を使えるのさっ!?」

「…………えーっと……“何となく”?
 でも、僕の『完全魔法無効化マジックキャンセル』は、昔に本で読んだ『完全魔法無効化マジックキャンセル』とは何だか違いますね。効果が薄いみたいですし、意識しないと魔法を無効化出来ません。もうちょっと練習すればうまくいくかもしれませんが。
 …………モビルスーツの装甲や盾は、無意識に『完全魔法無効化マジックキャンセル』を応用していたのかな?」

「“何となく”で魔法世界でも数少ないレアスキルを使わないでくれっ!
(…………あれ? でも血筋的にはおかしくないのか?)」







 すまない、娘よ。お父さんはここまでのようだ。小学校にも上がっていないお前を残して逝ってしまうのを許して欲しい。
 妻よ、私達の娘のことを頼んだぞ。

 私は君達のことを愛していたよ。



「…………グハァッ!!!」

「ガ、ガンドルフィーニ先生まで!? 僕を残して逝かないでください! ネギ君の相手は僕一人じゃ無理ですよ!!!」


 高畑先生、君も疲れたろう? 私も疲れたんだ。
 何だかとても眠いんだ、高畑先生……………………。





「ガンドルフィーニ先生、こんなところで寝ると風邪引いちゃいますよ。
 他の皆さんも床に突っ伏して寝てますけど、お疲れなんですかね?」

「…………ネギ君。お願いだから君はもう黙っていてくれ…………」



 ゴメン、もう無理。












━━━━━ 綾瀬夕映 ━━━━━



「ぶっちゃけた話、ネギ先生はどう凄いのですか? 素人の私達にはよくわからないのですが…………」

「んー、あれだ。“片足が沈む前に片足を出すの繰り返してたら水の上歩けました”ぐらい凄いな」


 その例えではよくわかりませんです。


「あー、そんな感じだな」

「ネギ先生は三段論法で物事を考えるところがありますからね。『闇の咸卦法』を開発した時だって、

 『咸卦法』は“気”と“魔力”の合成
   ↓
 『闇の魔法マギア・エレベア』は“魔法”を体内に取り込む
   ↓
 じゃあ、その二つを組み合わせたらどうなるんだろう?

 という感じで開発したらしいですから」

「何でそれで「じゃあ~」という発想が生まれるんだ、ネギは? というか、何でそれで『闇の咸卦法』を開発出来たんだ?」

「ネギ先生だからだろう。私は理解するのは諦めた」

「…………まあ、柔軟な発想が出来るという点は、間違いなくネギの長所なのだがな。『闇の咸卦法』は私にも出来ないし、特に『咸卦治癒マイティガード』は直接触れなければならないという制限があるとはいえ、治癒魔法としては最上級だろう。
 お前達がどんな魔法使いになりたいのかは知らんが、治癒魔法だったらネギに習った方がいいな。私は不死身なせいで治癒魔法使わないから得意じゃないんだ。適性もあるから、好みの魔法を使えるようになるかはわからんが…………」


 フム、治癒魔法ですか。
 ファンタジーのような魔法も使ってみたいとは思いますが、実生活に役立つのは明らかに治癒魔法の方ですね。

 それにのどかの性格なら、誰かを傷付ける攻撃魔法というものは使いたがらないはずです。
 治癒魔法を勉強するということは、ネギ先生から魔法を教えてもらえて、のどかの性格にあった魔法を学べる。まさに一石二鳥。

 ハッ!? 治癒魔法を自らにかければ、睡眠時間を減らして読書の時間を増やせるのでは!?





「不死身……ねぇ。
 それにしても、エヴァちゃんが吸血鬼ってどういうことなん? 何で吸血鬼が麻帆良におるんや?」

「そういえばそうだな。何だかネギ先生のせいで忘れてたけど、マグダウェルは吸血鬼なんだったか。
 さっきの話で“封印”とか何とか言ってた気がするが…………」

 エヴァンジェリンさん。
 ネギ先生の説明では600年を生きた吸血鬼の魔法使いで、ネギ先生が足元にも及ばない凄腕らしいのですが…………あくまでネギ先生の説明なのですよねぇ。


「まぁ、いろいろあってな。簡単に言えば、15年前にネギの父親にこの麻帆良に封印されたんだよ。
 『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』という、学校に強制的に登校させられる呪いをかけられてな。
 3年経ったら解きに来る、とは言われていたが、結局解きに来ないで奴は死んだ。それ以来ずっと中学生を繰り返している…………」

「うわぁ、15年前ってことはウチらが生まれる前から。それは辛いなぁ…………」

「…………エヴァちゃんも苦労しているのねぇ。私だったら耐えられないわ」

「ネギ先生せんせーのお父さんに?
 でも、エヴァンジェリンさんはネギ先生せんせーと仲が良いみたいですけど…………?」

「ああ、ネギの父親……ナギがかけた呪いは誰も解くことが出来ず、ずっとこのまま中学生をしていなきゃならんのかと思っていたんだが、ネギが私の呪いを解いてくれることになっているんだよ。
 さっきまでネギのことを悪く言ったかもしれんが、ネギには感謝しているよ。麻帆良の外には出られず、警備員として飼い殺しになっていた私を助けてくれるんだからな。
 完全解呪にはまだ時間がかかるみたいだが、春休みには京都旅行に行けるぐらいには改善できるみたいだし」


 …………なるほど、それをきっかけにネギ先生を狙うようになっていたのですか。
 大浴場のときといい指輪のことといい、アスナさんに匹敵するのどかの障害になる人です。

 く、ネギ先生は本当に人気がありますね。
 確かにのどか達の気持ちはわかるのですが、ネギ先生はまだ10歳なのですよ。

 というか、アスナさんは高畑先生のことが好きだったのでは…………?





「それからはネギにこの別荘を貸してやったり、茶を飲みながら魔法について話し合ったりするような友人付き合いをしている。
 …………もっともネギは友人だけとは思っていないようだがな、フフフ…………」

「…………どういう意味かしら、エヴァちゃん?」

「さっきアルちゃんが見せてくれた、ネギが私に抱いてる想いを思い出せばいいさ」

「…………ネギ坊主はもてるでござるなぁ」

「お前らなぁ…………、ネギ先生は10歳にもなっていないんだろ?
 宮崎みたいな奥手には丁度いいのかもしれないけどさ…………」

「え!? わ、私はその…………」

「そんなこと言われてもな、長谷川千雨。私にとっては学園長のジジイでさえ、500歳以上年下なんだぞ」

「それでも10歳相手にマジになるのはおかしいだろ。40歳と25歳のカップルならおかしくなくても、25歳と10歳のカップルなら犯罪なのと一緒だろ」

「別に今のネギをどうこうしようとは思っておらん。それにネギが食べ頃に熟すまで、最低でもあと5年は…………」

「食べ頃言うな! 生々しすぎて笑えねーよ! 逆光源氏計画立ててんじゃねーよ!!!」


 た、食べ頃!?
 確かに5年もすれば、ネギ先生は今よりも格好良くなっているのでしょうが!?


「まぁ、その前にネギが私を求めてきたら、答えてやるのもやぶさかではないがな」

「アハハ、ややわぁ、エヴァちゃん。コッチにはネギ君から女の子と意識されてるせっちゃんがおるんやで?」

「お、お嬢さまっ!?」


 木乃香さんまで参戦するのですか!? しかも桜咲さんと共同戦線!?

 の、のどかはどうすれば…………。
 いくらのどかが可愛い女の子でも、木乃香さん&桜咲さんのタッグに勝てる確率は低いと言わざるをえないです。
 こ、こうなったら私がのどかと組んで…………って、何を考えているのですか、私はっ!?





「おいおい、近衛も本気なのかよ?
 というか桜咲を巻き込んでやるな」

「こ、木乃香お嬢さまがお望みならば、私は…………」

「え? いやいや、冗談やって、せっちゃん。そんな本気にせんでもええよ。
 でもそうやなぁ…………ネギ君はやっぱりまだ弟って感じやわ。優しいしカッコええからネギ君のことは好きやけど、ウチもまだ恋愛についてはようわかっとらんからなぁ。
 近くにいる男の子がネギ君だけやから、ネギ君に対する気持ちが恋愛感情かと聞かれても比べる人がおらへんし………………でも、ネギ君を誰かにとられちゃうのは嫌ってところやな。
 …………せっちゃんはネギ君どう思ってるん? 何か満更でもなさそうやけど?」

「ええ!? わ、私ですか…………?
 しょ、正直に申し上げますと、ネギ先生のことは嫌いではありません。一緒に寝ることが出来るぐらいには…………す、好きです。
 しかし、恋愛感情かと聞かれると、それはわかりません。私もお嬢さまと同じく、他の男性との付き合いはあまりないですから…………」

「…………あー、そうだったな。
 ネギ先生は10歳の子供だけど、考えてみれば私達も14歳の子供なんだよな。しかも女子中育ち」

「ま、お前らぐらいの年頃ならそうだろう。お前ら全員ネギに対して多かれ少なかれ好意を抱いているのだろうが、それを“恋愛感情ではない”とハッキリと断言できるのは龍宮マナと長瀬楓ぐらいじゃないか?
 大浴場でネギと風呂に入ったとき、お前らネギの裸を見てドキッとしただろ?」

「…………えーっと…………」

「それは、まぁ…………凄かったやね。ネギ君の裸見たの初めてやったし…………」

「ネ、ネギ先生せんせーの裸…………」

「…………ネギって顔は本当に子供っぽいのに、身体は筋肉質で大人っぽくてギャップが凄いのよねぇ」

「な、何アルか!? ネギ坊主と一緒に風呂!?」

「水着着用で、でござるよ、古。確かにネギ坊主の肉体は、磨き上げられたガッシリとした筋肉をしていたでござるなぁ」


 …………い、いや、私も正直ドキッとしてしまいましたが…………。

 あくまで水着着用でしたので、海に行ったのと同じようなものなのです。
 それに裸といっても上半身だけでしたので、その………………う、うぅぅ…………。





「ネギもそうだが、お前らの年頃では“友愛”と“親愛”と“恋愛”の区別は厳格には出来んだろう。
 …………フム、アルちゃんの出番だな」

「え? 今度は皆様からネギお兄様への好感度ランキングですか?」

「そうだ。今のお前達は自分の気持ちがわからない状態だ。
 アルちゃんの好感度ランキングは、あくまで無理矢理に数値化したものだからそれで全てというわけではないが、それでも自分の気持ちを理解するキッカケにはなるだろう」

「そういうことでしたら構いませんが…………」

「面白そうアルな」

「まあ、ネギ坊主の拙者達への想いを一方的に知るだけではなんでござるからな」

「うむ。今のお前達は丁度、大人と子供の中間ぐらいの年齢だ。
 そんなお前達が自分の気持ちを知るのは良い経験になるだろう」

「…………良いこと言ってるみたいやけど、ライバル見極めるためとはちゃうよね?」

「………………そんなことはない」


 こっち見てください。

 し、しかし、私もなのですか!?
 別に私はネギ先生のことを恋愛対象とは思っていないので、わざわざそんな…………。





「…………はい、出ました。
 えーっと、皆様のネギお兄様への好感度は………………ハァ、エヴァンジェリン様?」

「えっ!? 今度は私なのか!?」

「見たらわかります、どうぞ」







        友 親 恋 愛 色  計
 明日菜   6  9  7  9  6  37
 茶々丸   8  6  7  8  7  36
 エヴァ..    7  4  8  6  9  34
 木乃香   7  8  5  8  5  33
 のどか.    6  3  8  8  6  31
 刹那     8  4  5  4  8  29
 千雨     4  7  4  6  5  26
 夕映     5  3  5  4  5  22
 古菲     6  3  3  3  2  17
 さよ      4  4  3  4  1  16
 楓.      5  4  1  3  2  15
 マナ..    5  3  2  1  1  12








 こ、これは…………皆さんやけに“色欲”が高くないですか? エヴァンジェリンさんの9点って!?
 というか、私も“色欲”が5点!? しかも、“恋愛”も5点!?

 ち、違うのです、のどか。私は別にネギ先生のことは恋愛対象とは思っていないのです!


「やったー! 私いっちばーーーん!
 この中だったらネギは私のことを一番好きで、私がネギのことを一番好きなのよ!!!」

「グ、グヌヌヌヌ…………“親愛”が低いの仇となったか。まあ、私はネギのことを弟として想いたいわけじゃないしな。
 …………おい、茶々丸? お前やけにネギへの好感度高くないか?」

「………………いえ、大丈夫です。マスターは“色欲”では一位となっております」

「というか、10歳のネギお兄様に“色欲”が9点って…………」

「あー、ウチは確かにこんなもんかなぁ。友達みたいに料理について話し合ったりするし、ネギ君のこと弟みたいに想ってるし…………。
 で、でもウチもやけど……確かに皆やけにネギ君に比べて“色欲”が高いんやな。やっぱり一緒に風呂に入ってドキッとしたせいなんかな。
 エヴァちゃんの9点とか…………せっちゃんの8点とか? ………………せっちゃんお風呂一緒に入ってへんかったよね?」

「5位だけど…………“親愛”を抜かしたら、家族として一緒に暮らしているアスナさんと合計点は同点。私、負けてないよね」

「…………違うんです。これは違うんです。誤解なんです…………」

「いや、桜咲。その言い訳は通らないだろう。ネギ先生みたいな子供に対して“色欲”8点て…………、本気でマズくねぇか、お前?
(…………う、私が意外と高い。別にあのガキのことは嫌いってワケじゃねぇし、2-Aの連中に滅茶苦茶にされるのは見てられなかったから、いろいろ手助けしてたのが数値に出たのか。
 …………確かに風呂で見たあの裸にはドキッとしちゃったけどさ)」

「そ、そうです! “恋愛”と“色欲”に5点もあるのは、大浴場でネギ先生の裸を見てしまって意識してしまっただけなのです!
 他の皆さんも“色欲”が高いから、私が高くてもしょうがないのです!!!」

「楓も一緒に風呂に入ったのではないアルか?
 私は…………まぁ、こんなものアルかね。ネギ坊主のことは普通に好きアルし」

「確かに拙者も一緒に風呂に入ったでござるが、故郷の里には筋肉質の子供はたくさんいて慣れていたので平気でござったよ」

「私にとってネギ先生は恩人ですからー」

「…………まぁ、妥当なところだろう」





 …………それにしてもアスナさんが本当に高いですね。
 ネギ先生からの好感度も一番高かったですし、やはり一番の障害はアスナさんですか…………。

 しかし、何故アスナさんはここまでネギ先生のことを? アスナさんの好みは“渋いダンディーなオジサマ”で、高畑先生のことが好きだったはずでは?
 それに何故あそこまでネギ先生への好意を隠さないのでしょう?


 いくら一緒に暮らしていて、アスナさんが落ち込んだときにネギ先生が慰めてくれて仲良くなったとはいえ、今までの意地っ張りなアスナさんだったら、

「わ、私がこんなにネギのこと好きなわけないじゃない!!!」

 とか言いそうなのに…………。
 それとも委員長さんのように、ショタコンに宗旨替えしたのでしょうか?











「…………アスナさん、何があったのですか?
 アスナさんは高畑先生のような大人の男性が好きだったはずではないのですか?」

「え!? べ、別に何もないわよ!」

「そういえばそうだよな。神楽坂は子供が好きじゃないとか言ってなかったか?
 ネギ先生と一緒に暮らして情が移ったか? それとも高畑先生に振られてネギ先生に走ったのか?」

「フン! ありそうな話だな!
 大方あの朴念仁に相手にもされずに振ら……れ……て…………おい? 神楽坂明日菜?」


 …………ア、アスナさん? 急に動きを止められてどうしたのですか?
 な、何故だか寒気もしてきたのですが…………。


「ア、アスナさん…………? か、顔が……能面みたく…………」

「(だからその無表情はやめてほしいでござる!)」

「……………………」

「ア、アカンよ! 皆!!!」


 …………え? マジですか? 高畑先生に振られてしまったのですか?
 そういえばアスナさんが一時落ち込んでいたのは知っていましたが、どうして落ち込んだかは知りませんでしたね。

 ネ、ネギ先生の性格なら、落ち込んだアスナさんを一生懸命励ますはずです。
 もしかしてそれがキッカケで、ショタの道に走ったのですか!?







「ア、アスナ~? 大丈夫……アルか?」

「ワ、ワリィ。冗談のつもりだったんだが…………」

「し、知らなかったんだ! そんなことになっていたとは…………」

「アスナ! 気にしたらアカンよ!!! 皆悪気はなかったんやし…………」

「…………。

 ……………………。

 ………………………………う、うわあああぁぁーーーんっ!!!」



 ア、アスナさーーーんっ!?
 どこに行くのですかーーー!?

 マズイです。アスナさんが泣いて明後日の方向に走り去っていきました!? ってか足早っ!?
 さすがは春日さんと毎回短距離走で1、2位を争っているだけありますね!









「ア、アスナぁーーー!?
 せっちゃん! 楓! アスナを捕まえてーーーっ!!!」

「わ、わかりました!」

「あいあい、承知したでござるよ」

「足止めはまかせろー」パァッーーーーーン!


 何故に発砲音!? 龍宮さんはライフル銃を構えて何をしているのですかっ!?


「安心しろ、ただのエアガンだ」

「あ、アスナさんが転んだ」


 何だか発砲音がエアガンらしくなかったと思うのですがっ!?
 いや、別にエアガンとかの音を良く知ってるわけじゃないのですが…………。

 というか、転んだアスナさんが動かないんですけど!?


「ん!? (弾種を)まちがったかな…………」


 そんな冷静に!? と、とりあえず急いでアスナさんを助けないと…………。



 転んだままのアスナさんに近寄ってみると、ちゃんとアスナさんの泣き声がします。
 …………よかった。(精神的にはともかく身体的には)無事だったんですね。

 まあ、ふくらはぎに弾が当たったような赤い跡がありますけど…………。











「……ヒック……ヒック………………いいもん。私にはネギがいるもん。ネギは私に優しくしてくれたもん…………」


 …………うわぁ。アスナさんマジ泣きです。
 どんだけ高畑先生からこっ酷い振られ方をされたんですか?


「…………こうなったらネギのお嫁さんにしてもらうもん。ネギは私のこと魅力的って言ってくれたもん…………。
 だから…………だから、高畑先生なんて…………高畑先生なんて…………ヒック…………う、うわあああぁぁーーーんっ!!!」

「はいはい、辛かったやねぇ。大丈夫やよ。ネギ君ならきっとアスナをお嫁さんにしてくれるで。
 だから、ホラ。もう泣かんとき…………」

「ご、木乃香ごのがぁ~~~!!!」

「アスナさん! 大丈夫です!!! アスナさんは魅力的な女の子です!!!」

「…………うん。やっぱり今は思いっきり泣いてええよ。考えてみたら、この失恋でアスナが泣くの初めてやね」

「…………変な話題振って申しわけありませんです」

「マジで悪かった。…………本当にごめん」

「あ、あ~…………泣きたくなったらこの別荘を使ってもいいぞ。
 いつでも遊びに来い。だから元気出せ、な?」





 堰き止めていた想いが溢れ出したのか、アスナさんは全然泣き止む様子はなく、むしろどんどん酷くなっていきます。
 いや、本当にごめんなさいです。

 …………こ、こんなアスナさんを見ていたら、のどかの応援をしづらくなりますね。
 のどかもアスナさんを見て思うところがあるのか、涙ぐんで木乃香さんと一緒に慰めていますし…………。


 ああ、恨みますよ高畑先生。こんなのどうしろというのですか?
 ネギ先生に担任の座を奪われるぐらい出張行ってたり、魔法使いなのに魔法を使えなかったり、アスナさんをここまで泣かせたり…………もう高畑先生はまるで駄目なオッサンでしかありませんね!

 略して“マダオ”ですよ!












━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



「それじゃあ、僕はエヴァさんの家に行ってみますね」

「…………うん。アスナ君たちによろしく言っておいてね。土日は忙しいから、何か質問があったら月曜日に聞いてくれ、と伝えておいてくれ。
 それと『完全魔法無効化マジックキャンセル』のことは他の人には秘密にしておいてほしい。魔法世界でも確認されているのが少ないレアスキルだからね。よからぬことを考える人がいるかもしれない」

「わかりました。まずは僕が自分で一通り調べてみてから、『完全魔法無効化マジックキャンセル』の詳細を明日菜さんに教えますね。
 それじゃあ、おやすみなさい。タカミチ」

「…………うん、おやすみ。ネギ君」



 …………ようやく終わった。

 家に帰ろう。そして土日は寝て過ごそう。出張明けで土日は休みを貰っているから、ゆっくりと過ごせるはずだ。
 僕だって、たまには自堕落な時間を過ごしてもいいはずだ。うん、そうしよう。


 …………これからは、胃薬を家と学校の机に常備しておこうかな。とりあえず今は学園長の胃薬を貰っとこうか。

 えーっと…………あったあった。これか“徳用胃薬”。大容量な入れ物だな。学園長も苦労しているんだなぁ…………。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 何か勘違いしていた人もいらっしゃるかもしれませんが、まだネギのバトルフェイズは終了していなかったぜ!
 そして誰も覚えていられないかもしれませんが、一応ネギも『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を神様?から貰っています。


 タカミチは自分が知らないところでマダオとなりました。
 タカミチの株価は現在、ロープレスバンジージャンプ中です。


 ちなみにアスナは失恋していなければ、“友愛”以外の点数はそれぞれ2~4点は低かったです。


【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という“絶望” ← rank up!
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+“マダオ就任” ← new!
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋



[32356] 第27話 一段落
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:06



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



「ネギ~。早く寝ましょう」

「むぅ~。明日はうちの番やからな、アスナ。
 …………ウチもせっちゃん呼んで一緒に寝ようかなぁ」


 はいはい、わかりましたよ。大人しくベッドの中で待っててくださいね、明日菜さん。


 あの後エヴァさんの家に向かったら、明日菜さん達が寮に戻るところに出くわしました。
 別荘の中で2日ほど過ごしていたそうです。何を話していたかまでは、女の子同士の秘密らしいです。

 そして口止め料のお願いは、やはり宮崎さんと綾瀬さんは魔法を習うこと。長瀬さんと古菲さんは僕達との修行。
 明日菜さん、木乃香さん、長谷川さんはまだ保留。春休みに僕達と一緒に京都に行き、関西呪術協会からも話を聞いた後で決めるそうです。





「術式兵装『咸卦治癒マイティガード』」

「へぇ、この前も見たけど、やっぱり凄いわねぇ」

「この前言うても、実際には4時間ぐらい前なのがおかしいやね。魔法って本当に凄いなぁ」

「…………わかっていると思いますけど、他の人には言わないでくださいよ」

「わかってるわかってる。ホラ、おいで。ネギ」

「大丈夫や、エヴァちゃんにもキツク言われたしなぁ」


 明日菜さんやけに嬉しそうですねぇ。何か良いことでもあったんでしょうか?
 それとも『咸卦治癒マイティガード』の効能が目的?


「それじゃ、電気消すで。おやすみ、アスナ、ネギ君」

「おやすみ、木乃香」

「おやすみなさい、木乃香さん」


 今日はいろいろなことがあって、僕も精神的に疲れましたね。まさか、こんな風に魔法バレするとは…………。
 宮崎さんみたいな人には、あまり危ないことに関わって欲しくないんですけどねぇ。

 まあ、これでもう猫被る必要なくなったから、これからは楽っちゃ楽なんですけど。
 学園長達も僕のことを受け入れあきらめてくれましたし、京都編に向けて修行を頑張りますか。
 今から鍛えれば、古菲さんも十分すぎるほど戦力になりますしね。









「エヘヘ~~~♪」


 そして明日菜さんがご機嫌良すぎです。抱きしめられて頬ずりされてます。
 本気でどういうこと?


「アスナ~。ご機嫌なのはええけど、騒がれるとウチ眠れんよ」

「…………ちょっとぐらいいいじゃない」

「明日菜さん、どうしたんですか? 何かいつもと違うんですけど…………」

「あ~、エヴァちゃんの別荘でいろいろあってなぁ…………。
(アルちゃんから好感度ランキング見せてもらったのは、絶対に秘密にしとかなアカンなぁ)」

「う~ん、『咸卦治癒まいてぃがーど』って本当に気持ち良いわねぇ。
 桜咲さんやエヴァちゃんが寝ちゃうっていうのもわかる気がするわ」

「…………そうですか」

「アスナぁ~」

「…………とりあえず、木乃香さんに迷惑でしょうから、音が漏れないようにベッドに結界張りますよ。
 それだったら木乃香さんも眠れるでしょう」

「え? それだとアスナがネギ君に何するかわから


 内外の音を遮断する結界を展開。
 これで木乃香さんはゆっくり出来るでしょう。


「…………あれ? 本当に木乃香の声が聞こえなくなったわね」

「振動は伝わりますから、暴れたりすると迷惑になりますけどね。ところで明日菜さん、何かあったんですか?」

「別にぃ~。ただ『咸卦治癒まいてぃがーど』ってのが気持ち良いだけよ。
 ホラ、『咸卦治癒まいてぃがーど』はくっつけばくっつくほど効果が上がるんでしょ? ネギも私に抱きついてきなさいよ」

「え? でもさすがに女性に抱きつくのは…………」

「…………桜咲さんには抱きつけるのに、私には抱きつけないのかしら?」

「喜んで抱きつかさせて頂きます」


 殺気感じました。

 アレ? 何で刹那さんと抱きしめあって寝てるの知ってるの?
 刹那さん話しちゃったんですか?

 というか、何で明日菜さんがそれで怒るの?









「ねぇ、ネギ?」

「何ですか?」

「私のこと好き?」

「…………は?」

「だから…………私のこと好き?」

「…………えっと、明日菜さんのことは好きです。
 というか、嫌いな人と一緒に寝れるほど人間出来てませんし…………」


 これは本当。アスナさんのことが好きでしたが、明日菜さんのことも好きです。
 クールで知的なアスナさんと、明るくて生き生きとしている明日菜さん。
 2人ともそれぞれ違った魅力があって、どちらかなんて選べないぐらいに好きです。

 アスナさんの微笑も明日菜さんのカラッとした笑いも、頭を優しく撫でてくれるアスナさんも頭を強く撫でてくれる明日菜さんも。
 僕は2人の明日菜アスナさんのことが大好きです。







「そう? ありがとう、私もネギのこと好きよ」

「…………はぁ、ありがとうございます」


 タカミチとの一件から弟のように可愛がってくれるのはいいですけど、明日菜さん最近ブラコンの境地に達してきていますね。
 かいぐりかいぐり、と頭を撫でられて抱きしめられて頬ずりされて、何というか揉みくちゃです。


「…………明日菜さん、ちょっと苦しいです」

「あ、ゴメンね。でもネギの方からもちゃんと抱きついてきてよ。恥ずかしがらないでいいからさ」

「わかりました」

「…………恥ずかしがらなくてもいいけど、別に恥ずかしがってもいいのよ?」

「明日菜さんが何を言ってるのか本気でわからないんですけど?」

「別にぃ~。桜咲さんに抱きつくときは顔が真っ赤になるぐらい恥ずかしがるのに、私に抱きつくときはそうじゃないんだなぁ、と思っただけよ」

「…………初めて明日菜さんと一緒に寝たときって、そういうことを気に出来る状況じゃなかったと思いますけど。
 それから最近までずっと一緒に寝てましたからね。もう慣れちゃいましたよ」

「う~…………それはそうなんだけどさぁ」


 やっぱり刹那さん話しちゃったみたいですね。これが女の子同士の秘密の話って奴ですか…………。

 怖いなぁ。女の子同士の秘密の話って。
 女子中の教師やるときから覚悟は決めてましたけどねぇ。





「刹那さんが僕と寝ることで真っ赤になっちゃって、それにつられて僕も意識しちゃっただけですよ。
 故郷の従姉とか明日菜さんとか木乃香さんはそういうのなかったですからね。あそこまで恥ずかしがられるなんて慣れていませんでしたから」

「ふ~ん。そんなこと言うってことは、ネギにとって桜咲さんは特別なのかしら?」

「特別、ですか? そういうつもりはありませんけど?
 むしろ2-Aの皆さんは僕にとって全員特別です」

「…………そういう意味じゃなくて、桜咲さんに意識されちゃったからネギも意識しちゃったんでしょう?
 やっぱりネギも男の子なんだから、桜咲さんのことを…………えっちな目で見たりしたんじゃないの?」

「そんなことはないですよ。抱きしめられるのは慣れていても、抱きつくのには慣れていませんでしたからね。正直、刹那さんに恥ずかしいと言う気持ちを抱いたのは確かですし、抱きついたときに“気持ち良いなぁ”、ぐらいは思いましたけど。
 でも最近はもう慣れてきました」

「ふ~ん。だったら、私に抱きついたら気持ち良い?」

「え? それはまぁ…………そうですけど」

「ちゃんとハッキリ言いなさい」

「…………えと、明日菜さんに抱きついたら気持ち良いです。
 明日菜さんに抱きついたら柔らかくてあったかいです。良い匂いもします」

「そ、そう!? …………じゃあ、もっと強く抱きついてきてもいいわよ」



 はあ…………本当に明日菜さんに何があったんでしょう?

 とりあえず、言われた通りに強く抱きつきますか。
 …………そういえば、抱き枕には良くされていたけど、僕から明日菜さんには抱きついたことなかったなぁ。












━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



 …………嘘ついてる様子はないわね。もしかして、元々は桜咲さんに対する“色欲”は1以上あったのに、慣れてきたせいで1まで下がっていたのかしら?
 それなら少し安心できるんだけど…………。

 私に抱きついてきても顔を赤くしたりしないし、やっぱりアルちゃんが言うようにそういうことにまだ興味がないのかしら?


「…………エヴァさんの指輪ですか?
 確かにアレは僕が贈ったものですね。エヴァさんには別荘の件でお世話になってますし、春になったら花粉で悩まされるみたいですからね。
 あの指輪で魔力を少しでも出せるようになれば、花粉症とかに悩まされなくても済むはずです」

「でも何でわざわざ指輪なのよ? 魔法具って指輪しかないの?」

「いえ、腕輪型とかイヤリング型とかもありますよ。
 でもそれらだと校則違反になるかもしれませんし、そもそも選んだのはエヴァさんですよ」

「…………桜咲さんの言ってたことは本当だったのね」

「?」

「何でもないわよ」


 エヴァちゃんたら自分からリクエストしたものなのに、あたかもネギが自分から選んでプレゼントしたような言い方しちゃって。
 それに比べて私は毎日のように勉強見てもらってるし、こんな風に一緒に寝れるもんね。





「そういえばネギ。ドネットさんてどういう人なの?
 アルちゃんに聞いたらネギのお祖父さんの秘書みたいな人で、“年上の綺麗なお姉さん”らしいけど?」

「ドネットさんですか? そうですね、そんな感じの人です。
 ドネットさんは出張で麻帆良に何回か来たことがあって、僕が麻帆良に来ることになったときに麻帆良のことを聞かせてもらったりしました。
 明石教授の亡くなられた奥様とは友人だったらしく、裕奈さんが小さい頃に会ったこともあるらしいですね。裕奈さんが憶えているかどうかは知りませんけど」

「え? ゆーなのお母さんの友達?
 ドネットさんっていくつなの?」

「…………直接聞いたことはないから正確な年齢はわかりませんけど、40前後だったと思います。
 僕の『咸卦治癒マイティガード』でアンチエイジングしたこともあって、20代前半と言っても信じれますけどね」

「40歳なのに“年上の綺麗なお姉さん”なの?」

「…………明日菜さんは僕に死ねというのですか?
 よくしてもらっていて若く見える女性に向かって、“おばさん”なんて言えるわけないですよ…………」


 なーんだ、ただのお世辞なのね。よかったよかった。
 ネギってフェミニストだから、女性に悪い言葉は使わないからねぇ。



 っていうか、『咸卦治癒まいてぃがーど』って本当に凄いのね。
 40歳の女性を20代前半に見せれるなんて…………。


 それに気持ち良いし。いいなぁ、これ。あったかーい。

 ギュゥーっと、ネギを抱きしめれば抱きしめるほどネギの心地良さが伝わってくる。
 それにネギも私に抱きついてくるから、もっともっと心地良い。
 ネギが自分で抱きついてくるのって、これが初めてよねぇ。

 無意識に抱きついてくるときもあるけど、擦り寄ってくる感じであまり強く抱きついてこないし…………。


 皆も言ってたけど、ネギの身体ってガッシリしてるわよねぇ。
 プニプニと柔らかくて頼りない感じじゃなくて、弾力があるけど固くなくて感触がシッカリとわかる身体。


 しかも、肌も荒れてなくて触ると気持ち良いのよね。ツルツルの卵肌というわけじゃないんだけど、シットリしてるというか。うらやましいなー。
 特にこの脇腹辺りの感触が良いのよねぇ。筋肉の弾力と肌のシットリさとか一辺に味わえて。何気にお腹が割れているのもわかるし。
 いいないいなー。

 …………あっ、コラ。身体を捩らないの。





 身体の方は筋肉質でガッシリしてるけど、顔はプニプニして柔らかいのよねぇ。
 頬ずりしたら気持ち良いし、シャンプーの良い匂いもする。
 ああ、もう絶対に手放さない。ネギはずっと私の抱き枕にする。


 …………でも、明日は木乃香に貸さなきゃいけないのよね。
 まぁ、エヴァちゃんの別荘では木乃香に迷惑掛けちゃったし、しょうがないか。むぅ~。



 だから、今日の内にネギの感触を精一杯感じておきましょう。
 あったかいなー。良い匂いするなー。気持ち良いなー。
 ああ、もう大好き!




 …………いいもん。もうショタコンでいいもん。
 ああ、いんちょの気持ちが今ならわかるわ。
 私はあそこまで見境無しじゃなくて、ネギ一筋だけど。


 ネギも私のこと好きって言ってくれたしね。
 まぁ、“姉”とかそういう感じでしか見てくれてないのかもしれないけど、一緒にいれるならそれでいいもん。













━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



 prrrrr……、prrrrr……、prrrrr……、prrrrr……。


 なかなか繋がらんな。何をしているのだ、タカミチは。
 …………お、繋がった。



「…………何だい、エヴァ。こんな朝っぱらから」

「朝っぱらって、もう10時だぞ。吸血鬼である私より遅く起きてどうする。
 昨日のネギの説得がうまくいったかどうか学園長室までジジイに聞きに来たんだが、ジジイがいなくてな。どこにいるか知ってるか?」

「出張明けであんなことがあったんだ。寝坊ぐらい勘弁してくれ。
 それとネギ君の説得なら成功したよ。学園長は途中で血を吐いてリタイヤしたけどね。今頃病院じゃないかな?」


 …………カーペットの血を拭いた跡はそれのせいか。
 ストレスで胃に穴でも開いたのか?


「そうか、結局あの後ネギとは会わなかったからな。どうなったのか心配だったんだ。
 説得が成功したのなら何よりだ」

「…………そうかい。ネギ君はエヴァの家まで行くようなこと言っていたけどね。途中でアスナ君たちに会ったのかな?
 何にせよ疲れてるんだ。今日ぐらいは休ませてくれ…………」


 本当に死にそうな声しているな。説得に苦労したんだろう。
 月曜の放課後から出張して、戻ってきた直後にアレだからな。無理もあるまい。





「わかった。説得に成功したなら良いさ。
 ただ、もう一つ聞きたいことがあるんだが…………」

「手短に頼むよ…………ファ…………」

「電話の最中に欠伸をするな。
 …………聞きたいこととは、学園長室に倒れ伏している魔法先生のことなんだが?」


 ガンドルフィーニとか葛葉刀子とか…………あのとき揃っていた魔法先生が学園長室で倒れこんで寝ている。
 いったい何があった?


「魔法先生? ………………あー、いけない。忘れてた。
 皆、説得の途中でバタバタと力尽きていったんだよ」

「“忘れてた”、ってお前…………説得終わったら、途中で力尽きたコイツラを放って帰ったのか?」

「ゴメン、あのときはもう意識朦朧としていたから。
 悪いけど、エヴァ。皆を起こしてやってくれ、頼むよ。それじゃ」

「お、おい! ちょっと待「ブチッ!」て…………」


 …………タカミチの奴、電話を切りおった。あのタカミチがあんなに疲労するなんて、どれだけ説得が大変だったんだ?
 それにしても今の頼み方はないだろう、マダオ風情が…………。





「如何しますか? マスター?」

「…………茶々丸はお茶かコーヒーでも淹れて来い。私はその間にコイツラを起こしておく」

「わかりました」


 さすがにこのまま放っておくのは目覚めが悪いしな。
 まったく、何で私がこんなことを…………。

 ホラ、起きろ。ガンドルフィーニ。
 起きて他の起こすの手伝え。







「立った。娘が立った。
 …………まだ1歳なのに、もう立ち上がれるなんて凄いなぁ…………フフフフフ…………」


 …………気色悪い。寝ながらニヤニヤと笑ってるぞ、コイツ。
 昔の夢でも見てるのか?

 何か触るのは嫌だから、水でもぶっ掛けるか。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 …………明日菜が壊れた?
 (・3・)アルェー? 何でこうなったんだろ?
 何か止まりませんでした。


 これにて一連の魔法バレについてのお話は終了です。
 まだちょこっと期末テストとかありますけど、それが終わり次第に京都編に突入します。あと数話です。
 それとエヴァとのデートは京都旅行後の予定です。





 前回のネギに対しての好感度ランキングの“色欲”は、

 “短パン、ランニングシャツ(裾捲くれてヘソ見え状態)のネギと昼寝させたら、いったいどういう行動をとるか?”

 というシミュレートしたところこうなりましたw

 “色欲”5点の人達:興味深々にネギが起きない程度に身体を触る
 “色欲”6点の人達:興味深々にネギが起きない程度に身体をまさぐる
 “色欲”7点の茶々丸:“ネギと触れ合いたい”、“ネギを感じたい”という気持ちが強い
 “色欲”8点のせっちゃん:鼻血でネギを赤く染める
 “色欲”9点のエヴァ:「エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル、吶喊します!!!」


 こんな感じですw
 せっちゃんもムッツリスケベタイプだと思います。
 明日菜は“色欲”よりも人肌恋しの気持ちの方が強いですから、まだ暴走はしませんね。


 ちなみにネギが逆の立場だったとしたら、

「何やってんだか、この女子中学生は?」

 と呆れる気持ちの方が強いですね。



[32356] 第28話 立入禁止
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:07



━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━



 久しぶりにネギ君の顔を見る気がするの。まあ、半月ぐらい入院していたから当たり前じゃが。
 もうワシも年かのぉ…………。


「お久しぶりです、学園長。お体の具合はよくなったのですか?
 何でしたら『咸卦治癒マイティガード』で治療しますけど?」

「フォッフォッフォ、もう平気じゃよ。
 先日はスマンかったの。みっともない姿を見せてしもうて」

「いえいえ、ご迷惑掛けたのは僕の方みたいですし、お気になされることはありません。
 むしろ今まですっと勘違いしていた僕の方が謝らなければ…………」

「構わん構わん。10歳の君が思い違いしたとしても誰も責められんよ。今の時点で思い違いを正せたことを喜ぶべきじゃろ」


 …………本当にのぉ。いやぁ、あのときは本気で死ぬかと思ったぞい。
 目の前が真っ暗になって、気づいたら病院のベッドの上じゃったからな。

 曾孫の顔を見るまでは死ねんというのに。


「エヴァさんが裏の世界についての常識を木乃香さん達に講義するのにも参加して、現実というものをようやく理解できたと思います。
 “幻想空間ファンタズマゴリア”での全力のエヴァさんと手合わせで、僕の強さというのも理解できましたし………………僕って強かったんですね」

「ああ、確かに“幻想空間ファンタズマゴリア”なら、今の封印されているエヴァでも全力を発揮出来るからの。
 …………そして現実を理解してくれて何よりじゃ。いや、ホントに」





 …………先日エヴァから愚痴られたアレか。モビルスーツ禁止での戦い。
 まぁ、愚痴3:惚気7といった感じじゃったがの。


 接近戦に持ち込んだら『神鳴流』の技で互角以上に戦われるわ、
 中距離で落ち着いて戦おうとしたら『居合い拳』飛んでくるわ、
 遠距離で魔法合戦したら『千の雷キーリプル・アストラペー』を釣瓶打ちされるわ、
 障壁張っても『斬魔剣・弐の太刀』で障壁無視されるわ、
 糸を使っても重力魔法で妨害されるわ、
 苦労して良い一撃入れても『咸卦治癒マイティガード』であっという間に回復されるわ…………

 等々、踏んだり蹴ったりな目に遭ったというアレか。


 結局、決着がつかずに引き分けに終わったというが、エヴァの話ではネギ君は全力を出していなかったらしいの。
 無意識なのかエヴァの顔を狙わなかったらしいし、何よりもずっとカウンターを狙われている感じがして勝負に出られず、数十時間戦った挙句に最後にはエヴァの方から引き分けを提案したらしい。

 豊富な魔力量と『咸卦治癒マイティガード』のおかげで、そのまま消耗戦を続けていたとしてもエヴァは負けるとこだったらしいしの。
 やはりあの『咸卦治癒マイティガード』は反則じゃ。



 というか、全体的に反則。
 何で映像見ただけで、『神鳴流婿殿の真似』とか『居合い拳タカミチの真似』とか『重力魔法アルの真似』とか出来るんじゃ?

 というか“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”と互角以上に戦う?
 何なの、この“1人紅き翼アラルブラ”? 何なの、この10歳児?


 まあ、初見だったからネギ君にいいようにやられてしもうたが、次の機会までにはエヴァも何かしらの対策をしておるじゃろうな。
 エヴァは負けず嫌いじゃし。







「綾瀬君達はどうかね?」

「今はまだまだ基礎の基礎ですよ。魔力を感じることから始めなきゃいけないですからね。来週に迫った期末テストの準備もありますし、初歩魔法をちゃんと使えるようになるのは春休みぐらい、という感じらしいです。
 古菲さんと長瀬さんの修行は進み方が早いです。長瀬さんは元から知っているみたいでしたし、古菲さんは無意識といえど以前から気を扱えてましたからね。少し教えたらドンドン上達していきました。瞬動も使えるようになりましたし。
 刹那さんもいれた3人でかかってこられたら、僕でもちょっとヒヤッとするときが何度かありますね」

「(え? あの3人がかりを“ヒヤッと”で終わらすの?)
 そうかそうか。とはいえ魔法の練習や修行に熱中するのは構わんが、学生の本分である勉強もちゃんとするように監督をお願いするぞい。
 それと婿殿と話したのがの。春休みの京都旅行は歓迎してくれるそうじゃ。費用はワシが出すから、ネギ君も木乃香達と一緒に京都を楽しんできなさい。
 婿殿もネギ君と会えるのを楽しみにしておるよ」

「いいんですか? 考えてみたら僕は西洋魔術師だから、僕が一緒に行くと木乃香さん達が危険なのでは?
 “巨○VS阪○の直接対決で○神が3連敗してるときに、○人のユニフォーム着た人と一緒に道頓堀歩く”ぐらいに危険だと思うんですが?」

「…………ネギ君も随分と日本に馴染んできたの。
 麻帆良来てから、まだ2ヶ月ぐらいしか経っておらんよね?」


 イギリスって野球はメジャーじゃなかったと思うんじゃが? 
 それにその比喩はいくら何でも違うん………………いや、そんなに的外れじゃないかもしれん。

 アレ? むしろソッチの方が危険度は高いんじゃ?
 というかネギ君大阪行ったことないよね? 京都と大阪はかなり違うけど。


「まぁ、大丈夫じゃろ。今回はちゃんと理由があって行くのじゃし、西だって西洋魔術師全てを嫌っているわけじゃない。
 アッチが気に食わないのは“関東が伝統を忘れて西洋魔術に染まった”ということが原因でもあって、そもそも最初から西洋魔術師である外国人までにはそんなに敵愾心は抱いておらんよ。
 …………まあ、“巨○が優勝して阪○がびりっけつになったシーズンの、○人の助っ人外国人選手に対する○神ファンぐらいの敵愾心”は抱いておるかもしれんがの」

「え? それどう考えてもアウトでは?」

「大丈夫大丈夫。確か西では今月から、イスタンブールの魔法協会から研修生を受け入れることになっておったからの。西洋魔術師と敵対する気があったらそんなことはせんよ。
 内心では気に食わんのもおるのじゃろうが、それでも実際に行動に移すようなのはおらんじゃろ」

「…………だったらいいのですが。
 木乃香さんが麻帆良にいることを良く思っていない人もいるらしいですし」

「まあのぉ、確かにそれは心配じゃが、今回の旅行の結果次第では木乃香が西に戻る可能性があるからの。
 婿殿もワシと同意見なのじゃが、もうこうなったからには木乃香が魔法に携わりたいと言えば止める気はないし、それこそ西洋魔術ではなく日本の呪術を学びたいと言うたらそれでもよい。それだと必然的に西に戻ることになるからの。
 まさか、木乃香が自発的に西に戻りそうな状況で、無理矢理にでも西に戻そうとする馬鹿はおらんて。そんなことしたら木乃香の西に対する心象は最悪になるからの」

「そう言われればそうですね。まさかそんなお馬鹿さんはいないですよねー」


 フォッフォッフォ、と笑うワシ。
 アッハッハ、と笑うネギ君。

 …………大丈夫じゃよね?
 いくら何でも、実家がそんなお馬鹿さんの巣窟になっているのは勘弁してほしいのじゃが。






「それと、何か近衛詠春さんに伝えることはありますか?
 今回の旅行はあくまで、“魔法を知ってしまった麻帆良の生徒を関西呪術協会に案内する”という形になるので、公式に「生徒達のことをよろしくお願いします」ぐらいのことは言っておいた方が良いと思いますけど?
 それでも他の内容は私信という形なら大丈夫ではないでしょうか?」

「そうじゃの。旅行の日までに手紙を用意しておくことにしよう」


 フム、親書とかは無理じゃの。
 今回は麻帆良のミスに西を巻き込んでしまう形になるし。

 それでもこういう貸し借りを頻繁にしていけば、きっと東西の仲は進展していくじゃろ。
 今度は向こうのミスをコチラが助ければよいのじゃからの。


 今のような冷戦状態よりも、どんなことでも東西のやり取りがある状態の方がよかろう。





「そうそう、それともう一つ。
 実を言うと図書館島のことなんじゃが…………」

「図書館島……ですか?」

「ホラ、木乃香達は図書館探検部じゃろ。
 もし木乃香達に中学生が行くのが禁止されているような地下階層に行きたいと言われても、行かせないでほしいんじゃ」

「それはもちろんです。魔法のことがばれてなくても、ルールを破ったりなんてさせませんよ」

「ウン、それならばよい。
 それと図書館島の管理人がドラゴンを門番に飼っておるのじゃがな。そのドラゴンと出会ったとしても、退治しないでほしいんじゃよ」

「…………ドラゴン、ですか? 物騒な門番ですねぇ。
 もちろん正当防衛と緊急避難は除いてもいいですよね? それならば承りますが…………」

「それはもちろんじゃよ。生徒があの地下まで迷い込むなんてないと思うがの…………。
 ああ、許可証がないとネギ君も入れない場所におるから、ネギ君も駄目じゃぞ」

「はい、わかりました」


 …………とりあえずは成功。
 ネギ君の実力ならアッサリとアルのところまで行きそうじゃからな。先に行っちゃ駄目なこと言うとかんと。

 ネギ君は交わした約束はシッカリと守るから、一度約束したら安心じゃしの。
 予め立入禁止のことを伝えておけばアルのところまで行ったりせんじゃろ。

 …………約束を守るところは信頼できるんじゃが、それでも何かウッカリやらかしそうで怖いんじゃよなぁ。



 そういえば“紅き翼アラルブラ”では、母君のことはネギ君が一人前になるまでは言わない約束をしておるが、この子明らかにタカミチ君より強いよね?
 この場合どうすんじゃろ?





「ああ、忘れてました。
 僕達が京都に行ってる間の相坂さんのことなんですが…………」


 ム、確かに今のさよちゃんでは、遠出はまだ不安じゃの。
 ネギ君達が京都に行っている間は、葛葉先生あたりにでも頼んでおこうか…………。












━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



「おやすみー。せっちゃん、ネギ君」

「はい、おやすみなさい。木乃香さん、刹那さん」

「はい、おやすみなさいませ木乃香お嬢さま、ネギ先生」


 現在、私は木乃香お嬢さまたちの部屋にいる。
 そして、ネギ先生を挟んで川の字になって就寝。
 最初の頃は木乃香お嬢さまを挟んで川の字になっていたが、それでは私が『咸卦治癒マイティガード』の恩恵に与れないのでネギ先生を真ん中に挟むようになった。

 ベッドはあくまで1人用のシングルタイプだから、もうほとんど3人ともくっついている状態だ。
 むしろ朝起きたら、ネギ先生が私と木乃香お嬢さまに潰されていたことが何度か。

 …………まぁ、ネギ先生も木乃香お嬢さまの身体に潰されるのなら本望でしょう。



 ネギ先生に変わった様子はない。私に対して“色欲”が1点あったのは気になっていたけど、特に今まで変なことはない。

 …………わ、私の“色欲”8点は何かの間違いだ!
 確かにネギ先生の身体にドキッとしたことはあるけど…………。







「ギリギリギリギリ…………」

「アスナぁー、歯軋りうるさいで。ネギ君、結界で遮音してーな」

「…………わかりました」

「え!? それだと木乃香がネギに何するかわから


 ネギ先生の結界術は相変わらず見事だな。結界が今張られたのだろうが、全然気づけない。
 遮音結界という難易度がそれほど高くはない結界とはいえ、これほどとは…………。

 というか、神楽坂さんはキャラ変わりすぎじゃないか?





「…………最近、明日菜さんが精神的に不安定みたいなんですが、木乃香さんは心当たりあります?
 タカミチの一件からようやく立ち直ってきたと思っていたんですが…………」

「う、うーん。アスナはちょっといろいろあってなぁ。
 ネギ君には悪いけど、アスナのことは邪険にしないで受け入れてほしいんやけど…………」

「それはもちろんです。でも、明日菜さんが心配で…………。
 明日菜さんは本当に大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫大丈夫。明日菜はネギ君のことは信頼しとるから、ネギ君が明日菜に応えてくれれば大丈夫なんや」

「そうですよ。神楽坂さんは今でも勉強を頑張っているじゃないですか。
 きっと神楽坂さんなら立ち直れますよ」

「それならいいのですけど…………」


 魔法バレした後、よくこの部屋を訪れてネギ先生に勉強を教えてもらっているけど、一緒に教えてもらっている神楽坂さんの勉強の進み具合が凄い。
 来週の期末テストではバカレンジャーの称号を返上しそうな勢いだ。
 私も負けていられないな。何としてもバカレンジャーから脱退しなければ。

 それに何だか最近は勉強自体が楽しくなってきた。
 以前、ネギ先生の言っていたことがよくわかった気がする。確かに難しい問題を解いたときに達成感を感じることが出来た。
 このまま勉強を続けていれば高校は大丈夫だろうし、もしかしたら大学も木乃香お嬢さまと同じところに行けるかもしれない。




 …………でも、本当に今の幸せな生活を続けることが出来るのだろうか?
 エヴァンジェリンさんの別荘で木乃香お嬢さまと話し合った夜、私が半妖であり、禁忌の忌み子であることは言えなかった。

 木乃香お嬢さまから「全部話して」と言われたのに!



 ………………というか、ネギ先生のことや魔法のことを説明するので精一杯で、私が半妖であること自体忘れてた。
 魔法がバレたときはもう全てをお話し、木乃香お嬢さまの目の前から消える覚悟もしていたのだが、ネギ先生の“魔力云々”の話の衝撃が大きすぎて忘れてしまっていた。
 なんかそれ以来、言い出すタイミングがなくてズルズルと言えないでいる。


 本当にどうしよう?







「ええなぁ~。こうやって皆でくっついて寝るんわ。
 京都に帰ったときも、皆で一緒に寝よな」

「はい、木乃香お嬢さまがお望みでしたら」

「せっちゃん。またお嬢さまって言うてる~」

「…………あ、申しわけありません」



 …………幸せすぎる。
 こんな日が来るなんて思っていなかった。

 長の木乃香お嬢さまを裏の世界に関わらせたくない気持ちは承知していたし、私も木乃香お嬢さまのような優しい人は危険なことには関わってほしくないと思う。
 だけど、今のこの幸せは否定できない…………。

 …………ああ、こんな日が来るなんて。木乃香お嬢さま、刹那はどうかなってしまいそうです。







「ネギ君はもちろん京都初めてやよね」

「はい。何でも死んだ父が京都に住んでいたことがあるらしいのですが、僕が生まれる前のことでしたからね。
 刹那さんが修行したという、本場の神鳴流の道場も気になりますし」


 …………いくら何でも、看板持ってかれたりしないよな?
 私ではネギ先生に敵わないけど、道場の師範代級ならネギ先生にも勝てるよな?


「ふーん、そっかあ。
 …………ネギ君が最近ずっと浮かない顔しとるんは、ウチのことを狙ってる人がいるからなん?」

「…………う。まぁ、少し不安ですね」

「それは大丈夫なのではないですか?
 学園長からお話を伺いましたが、長との話し合い次第では木乃香お嬢さまが西に戻る可能性もあるのですから」

「ウチは麻帆良から離れたくないけどなぁ。
 でも、一度まっさらな状態でお父様と話して、今後のことを決めようとは思ってるんよ」

「はい。それは確かにそうなのですが。
 しかしそれでは逆に、木乃香さんに西に戻ってきてほしくない人達が動く可能性があります。具体的に言えば、関西呪術協会の次代の長候補として修行を積んでる人達ですね」


 …………ああ、なるほど。
 確かに次代の長候補として修行を積んでる人からすると、木乃香お嬢さまが戻ってくるというのは面白くない話になるな。
 今まで散々厳しい修行をしてきたのに、ロクに修行もしていない木乃香お嬢さまが戻ってきただけで次代の長となられたりしたら、彼らにとっては面白くないだろう。


「もしかしたら、そういう人達から妨害を受ける可能性もありますね。むしろソッチの方が厄介ですよ。
 木乃香さんを次代の長にしたい人達は木乃香さんを誘拐とかしてそれを成功させる必要がありますが、木乃香さんを戻したくない人達は僕達を襲撃すればそれだけで成功ですからね」

「…………う~。それだったらウチは無理して西に戻らんでも…………」

「それでは木乃香さんを西に戻したい人たちが収まりません。
 何にせよ、準備だけはシッカリとしていった方が良さそうです。期末テストが終わったら京都旅行についての話し合いをしましょう。僕も装備とか道具を整えておきます」


 ……………………程々にしてくださいよ。
 何かネギ先生だったら、洒落にならないものを用意してくる気が…………。

 しかし、ネギ先生の考えは的外れというわけではないだろう。
 私や学園長も、木乃香お嬢さまを西に戻したい者のことは考えていても、西に戻したくない者のことは考えていなかった。

 この幸せに浸っているだけでは駄目だ。
 京都に赴く際は、ネギ先生のように常在戦場の心構えで行かなければ。



 それとネギ先生が10歳ということは、もう考えないことにしよう。

「何でこんな考え方するんだ、この10歳児は?」何て考えない。

 うん、私の精神安定上その方が良いや。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 明日菜がまだ壊れてる。
 (・3・)アルェー? 

 まぁ、京都旅行編が終わる頃には落ち着きますので、もうしばらくお待ちください。
 そしてもちろん“そんなお馬鹿さん”はいます。4人ほど。



[32356] 第29話 惚れ薬
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:07



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 期末テストは無事2-Aがトップをとって無事終了。食券大量ゲットでウハウハです。
 終了式の日にでも、僕の奢りでパァーッと打ち上げでもしましょうかね。

 あ、その前にホワイトデーがあるな。それだったらホワイトデーにパーティーですかね。
 それとバレンタインにはせっかく手作りの物を貰ったんだから、僕もジンジャークッキーでも作って皆さんに配るとしますか。










「ネギ先生、ちょっといいですか?」

「はい? 何でしょうか、長谷川さん?」


 ? どうしたんでしょう?
 何だか妙に神妙そうな顔してますね?


「私も神楽坂達にやってる勉強会に参加させてほしいんですけど…………いいですか?」

「それは構いませんけど。
 …………もしかして後ろに隠れている龍宮さんも一緒にですか?」

「え? 龍宮?」

「…………相変わらず鋭いね、ネギ先生は。
 私も同じ用件だったんだが、構わないだろうか?」

「げ……いつの間に? というか何故気づけるんですか? …………これだから非常識人間共は」


 まぁ、気配の察知には自信ありますからね。

 しかし、何でまた長谷川さんと龍宮さんが? あまり勉強に興味がないタイプの二人だったのに、何でこんなことを言い出すんですかね?
 別に期末テストが悪かったわけではなかったのに…………。









「ご存知の通り、放課後の居残り以外にもエヴァさんの別荘でやるときもありますので、事情を知っている長谷川さん達でしたらソチラの参加も歓迎します。年をとってもいいというならですけどね。
 …………そんなに明日菜さん達バカレンジャーに負けたのが悔しかったんですか?」


 特に明日菜さんは200前半の順位でしたね。バカレンジャーの平均は300後半でした。
 佐々木さんは別荘での授業に参加していなかったのでそこまで上がってはいませんが、それでも500前半に上がってましたしね。

 エヴァさんも茶々丸さんも今回の期末テストは本気を出したのか、順位を大きく上げていました。
 皆さん頑張っていましたからねぇ。


「…………アイツラを馬鹿にするわけじゃないですし、アイツラが頑張っていたことも知ってはいたんですが…………。
 さすがに私も少し勉強頑張らなきゃって思いまして…………」

「…………刹那のあの勝ち誇った顔が…………。
 あやうくあの広いデコにエアガンをブチ込むところだった…………」


 オーケイ、そういうことなら歓迎しましょう。これで正式に教師にもなれましたし、最近は良いことが続きます。
 バカレンジャーに負けた釘宮さんや柿崎さんなんかは絶望していましたけどね。ハッハッハ。

 あとは京都旅行の準備しないとなぁ。フェイトはもういるだろうし、シッカリと準備しないといけませんね。






 そうそう。そういえば“頭の良くなる魔法の本”の噂は流れませんでした。

 おかしいなー。なにかげんさくとはちがうことしちゃったかなー?
 がくえんちょうのごーれむとかついすたーげーむたのしみだったのになー。





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 そしてエヴァさんと今後についての打ち合わせ、という名目で放課後ティータイム。
 うん。コーヒーも好きだけど、紅茶の方がやっぱり好きです。


「宮崎さんと綾瀬さんの修行の調子はどうですか?」

「まぁまぁだな。やはり基礎から始めるので時間がかかる。熱意はあるが、それでもやはりな…………」

「それは仕方ありませんよ。焦らずにジックリと教えてあげてください。
 僕も手伝えることがあったら手伝いますので、遠慮なく言ってくださいね」


 僕が教えることは何故か学園長には止められましたけどね。土下座までされて。
 僕が見習い魔法使いだということが理由でしたが、宮崎さん達が僕の影響を受けないようにでしょう。

 …………やりすぎたかな?





「何かあったらそのときは頼む。まあ、今は基礎の段階だからあまりないし、お前を参考に修行されても困るしな。
 …………いや、一つあったな。綾瀬と宮崎だけでなく魔法バレした連中全員になんだが、少し魔法の怖さを教えてやろうと考えていてな」

「魔法の怖さ、ですか? ああ、特に綾瀬さんなんかはファンタジーの魔法に憧れているみたく、あまり魔法の怖さを理解できていないみたいですからね。確かにそういうのも必要かもしれません。
 しかし、具体的にはどうするのですか? 魔法バレ全員ということは明日菜さんや木乃香さん達もなんでしょうが、まさか模擬戦というわけにもいかないでしょう」

「そんなことはわかっている。私が考えているのは、アイツ等が14歳の年頃の少女だということだ。
 現に神楽坂明日菜なんかは、錬金術や惚れ薬が実在するのかどうか聞いてきたしな」

「錬金術と惚れ薬ですか。錬金術は一応出来ないことはないんですけどね。ただ、例えば1万円分の金を作るのに、費用が数百倍かかってしまうだけで。
 惚れ薬は効果が高すぎるのは違法ですけど、確かに14歳の女の子は興味を持ちそうですね」

「だろう? だから、先手を打って人の心を操るというのはどれほど恐ろしいものかをわかってもらうことにする。
 具体的には、惚れ薬を実際に飲ませてジジイに惚れさせる」


 鬼ですか、あなたは?


「私は吸血鬼だ。 安心しろ。実際に惚れさせるのは、幻術をかけてジジイの真似をさせた相坂さよだ。
 いくら私でも、実際にジジイに惚れさせるほど酷くはないぞ」

「相坂さんですか。そういうことなら安心ですね。
 相坂さんも2-Aに馴染んできたみたいですし、いろんなことをし始めてもいい頃ですね」

「人の心を操ることがどれだけ酷いことなのかを知れば、惚れ薬を作ってみようとは思わなくなるだろうからな。
 そこでネギに頼みたいのは惚れ薬の効果の確認だ。一応作ってみたのはいいが、何分初めて作ったからな。実際の効果はわからん。
 多分、大丈夫だと思うんだが……………………」


 つまり僕に惚れ薬を飲めと?
 そこはかとなく不安になるのですが…………。まぁ、エヴァさんのお手製なら大丈夫かな?

 それに、今まで惚れ薬って飲んだことないんですよねぇ。惚れ薬飲んだ自分がどうなるのか、ということには少し興味あります。
 何か問題あったら『咸卦治癒マイティガード』で治療すればいいですしね。





「そういうことなら構いませんよ。
 エヴァさんの腕を疑うわけではありませんが、安全を期するのに越したことはないですからね」


「そ、そうか!? …………なら、これを飲んでもらおうか。効果は約30分。惚れ薬を飲んだあとに初めて見た異性を好きになってしまうタイプだ。
 あ、だから当日は来ない方がいいぞ。アイツ等全員に惚れられたら大変だろうからな。それに生徒に惚れ薬で惚れられるというのは嫌だろう?」

「それは勘弁して欲しいですね。
 今ですと、僕が惚れてしまうのはエヴァさんしかいないですけど良いんですか?」

「別に構わん。若さが暴走して襲われそうになったら反撃するからな。それに効果の程をこの目で見ないと落ち着かん。
 まぁ、無理を言っているのはコチラなのだから、多少のことなら許すがな。
 それと、お前はアイツ等と違って魔法抵抗力が高いんだからあまり我慢するなよ。効果が見れないとアイツ等に飲ませていいのかわからんからな」

「わかりました。それでは頂きます。………………甘。かなり甘いですね、コレ?」

「子供に飲ませるものだからなぁ」


 カキ氷のシロップを薄めたような味です。
 うわ、口の中に残る。紅茶飲んで口直し。

 …………駄目だ、舌に残った甘ったるさが全然取れません。






「……………………で、どうなんだ?」

「もうちょっと待ってくださいよ。
 こういう薬系は、体内に吸収されるまでどうしてもタイムラグが生じますからね」


 フム、まだあまり実感はありませんねぇ。
 エヴァさん見てもドキドキしませんし。

 いや、実を言うとやっぱりドキドキはするんですよね。前世の関係上。
 正直な話、前世ではエヴァさんに惚れられてた駄目親父に嫉妬したこともあります。

 もちろん前世のエヴァさんも好きでしたが、今僕の目の前にいるエヴァさんのことも好きです。
 何だか獲物を狙う獣の目で見られること以外は関係は良好ですし、何よりエヴァさんは可愛らしい人ですからね。

 以前、エヴァさんが体育の時間に足を捻ったらしいので、『咸卦治癒マイティガード』で足をさすって治療しましたが、そのとき心臓ドキドキしましたもん。
 気の応用で血流を操作して、すぐに落ち着きましたけどね。




 気とかマジ便利です。
 普段から心拍数とか血流とか交感神経とか諸々を一定に保っているおかげで、2-Aの突飛な行動にも冷静に対処することが出来ます。

 さすがに限度はあって、動悸が少し落ち着かなくなったり、顔が赤くなったりするぐらいはありますけどね。
 エヴァさんの綺麗なおみ足を前にしたときなんかも。 

 エヴァさんの足ってスベスベしてるんですよね。
 余分な贅肉がなくてスラっとしていて、雪のように白い肌で、触るとヒンヤリと少し気持ち良い冷たさを感じられるようなおみ足でした………………って、何を考えているんだ、自分は?







 え、あれ? ……………マズイ、惚れ薬が効いてる。エヴァさんを見るとドキドキしてくる。
 顔が赤い。僕自身でも顔が真っ赤になっているのがわかります。
 顔が熱い。まるで熱中症にかかっているみたいです。体が溶けてるみてー…………ではないですけどね。


「ど、どうした、ネギ? 顔が赤いぞ?
 そろそろ惚れ薬が効いてきたのか」

「…………はい。効いてます。エヴァさんを見るとドキドキします。
 僕は今、エヴァさんのことが好きになっています」

「そ、そうなのか? 私は、惚れ薬を飲んだことないからわからないが…………ど、どういう風に私のことが好きなんだ?
 正直に答えろよ。…………コ、コレはあくまで実験なんだからな」

「全部好きです。好きじゃないところはないです」


「…………え? …………あ、あぅ…………」


 エヴァさんも混乱してるな。安心してください。僕も内心では混乱中です。
 マズイ、本気でエヴァさんのことが好きだ。
 惚れ薬がこんなに凄いとは思わなかった。これは惚れ薬が違法になるわけだ。











━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



 落ち着け。落ち着くんだ私。これはあくまで惚れ薬を飲んだから言っているだけなんだ。
 とりあえず、今のところ計画通りだ。

 惚れ薬を飲ませて私のことを意識させる。
 もちろん、これで既成事実を作ったりはしない。あくまでも私を意識させるだけだ。

 アルちゃんが見せてくれた好感度ランキングから考えるに、ネギは色恋方面のことは興味がないわけではなく、ただ単にまだ知らないか理解出来てないだけのようだ。
 だったらまずはソチラ側のことを理解させなければなるまい。


 飲ませた惚れ薬は効果が切れても、効いていた間のことは覚えているタイプのものだから、ネギの記憶には私に惚れたということが残る。
 どうせ直ぐに消えてしまうものだが、ネギが“恋愛”というものを理解できる切欠にはなるだろう。
 それを突破口にして、今度からは薬無しで私に惚れさせなければならない。





「もう一度言います。全部好きです。好きじゃないところはないです。
 …………エヴァさんに触れてもいいですか?」

「………………あ、あうぅぅぅ…………」



 だから落ち着け! 落ち着くんだ私!!!
 これはあくまで惚れ薬を飲んだから言っているだけなんだ!!!

 だがこれは予想外だった。真っ直ぐに攻めてくるネギがこんなに厄介だったとは…………っ。


 しかし、ここで許すわけにはいかない。
 惚れ薬で既成事実を作ったなどと思われるのは、私としても納得がいかん!









「…………ふ、触れるだけなら……………………」


 って、そうじゃないだろ、私!? 何を口走っているんだ!?


「…………それじゃ、失礼しますね」

「…………あ…………」


 ネギの手が私の髪の毛を撫でる。
 優しく、壊れ物を扱うかのように。


「好きです。このサラサラと流れるような金髪も」


 ネギの手が私の手を握り締める。
 相変わらずネギの手は温かい。厳しい修行をしているはずなのに、柔らかさを失わない掌。
 足をさすられたときも、温かく気持ち良かった。


「この白く細い、たやすく手折れそうな手足も」


 ネギに抱きしめられる。
 おんぶなんかで私から抱きつくことはあっても、ネギに抱きしめられるのは初めてだ。
 ネギに抱きついてネギの温かさを感じるのとは、また違う気がする。


「強く抱きしめたら、壊れてしまいそうな身体も全部です」


 やめろ、これ以上はやめてくれ。戻れなくなる。このままでも良いかと思ってしまう。
 これはあくまで惚れ薬を飲んだから言っているだけなんだ。こんなので愛されるのは嫌だ。人形みたいなネギは嫌だ。

 私はありのままの私を見てくれる人が欲しいんだ。
 薬でおかしくなったネギでは嫌なんだよ…………。









「ネ、ネギ、これ以上は…………」

「大丈夫です。これ以上はしません。
 したいという気持ちはありますけど、十分抑えられます」

「そ、そうか…………」

「明日菜さん達に使う場合は、少し薄めるなどして効果を落としたほうがいいかもしれませんね。
 魔法使いの僕でも結構我慢してますから、明日菜さん達には辛いかもしれません」

「…………そうだな、そうしようか」

「効果が切れるまで、あと20分以上ありますね。
 それまでずっと立ってるというわけにもいきませんから、一度座りませんか?」

「う、うん…………」


 よかった。あのまま進んでいたら、キスぐらいは許しそうになるところだった。
 さすがに初めてのキスが惚れ薬のせいなんてのは嫌すぎる。


「それじゃ、コッチに…………」

「…………あ…………」


 そう言って、私が座らせられたのはネギの膝の上だった。
 ソファーの上にネギが座り。そして私が横座りでネギの膝の上に座る。しかも、ネギが抱きしめてくる。

 …………許すのはここまでだ。絶対にこれ以上は許さん…………と、思う。







「…………ってはいないんだな」

「え? 座ってますけど?」

「な、何でもない。忘れろ」

「? …………まぁ、いいですけど。 もうちょっと強く抱きしめてもいいですか?」

「…………や、優しくなら」


 やはりまだソッチ側は目覚めていないのか。
 10歳だから仕方がないかもしれんが。

 でも、もし既に目覚められていたら、私はどうすればよかったのだろう?





「…………あ…………」


 ギュッ、と先程より強く抱きしめられる。
 私がネギの膝の上に乗っているために、私の顔の近くにネギの頭が、ネギの顔が私の首の辺りに当たる。


「ネ、ネギ。一度腕を解いてくれ。…………私もネギを抱きしめる…………から…………」

「ここまでしておいて言うのもなんですが、惚れ薬飲んでるとはいえいいんですか?」

「べ、別にこのぐらいなら構わない。あくまでコレは実験なんだからな。
 …………どうだ? 何かおかしなところはないか?」

「エヴァさんを好きになったこと以外はありませんね。お腹が痛くなるなんてこともないですし。
 ああ、これが“惚れる”ということなんですね。惚れ薬が違法になる理由がわかります」

「そ、そうか…………」

「好きです、エヴァさん。愛しています、エヴァさん
 エヴァさんの事をもっと知りたいです。エヴァさんの事はみんな、全部知っておきたいです。
 もっと力強く、潰しちゃうくらい抱きしめたいです。出来るならキスもしたいです」

「キ、キスは許さんぞ!」

「わかってます。そんなことはしません。
 エヴァさんをもっと感じたいですけど、それ以上にエヴァさんのことが愛おしいです。エヴァさんを傷付けたくないです。
 エヴァさんには僕だけを見て欲しいし、僕だけのものになって欲しいですけど、それ以上に今の気高いエヴァさんのことが好きです。エヴァさんに変わって欲しくないです。
 ああ、いろんな感情がごちゃ混ぜになってます」

「わ、我侭なんだな…………」

「大浴場でも言ったじゃないですか。僕は独占欲が強いんですよ。
 でも、エヴァさんを独り占めしたい気持ちも、今のエヴァさんから変わって欲しくない気持ちも全部本当です」


 …………本当にちょっと効果が強すぎたかな? 本の通りに作ったし、わざと効果を強めたりは別にしていないんだがなぁ。
 まあ、地下室にあった昔の本だったからなぁ。


「エヴァさんが麻帆良の外に素っ裸で出ろというのなら、やってもみせます!」

「それはやめてくれ」


 …………うん。アイツラに飲ませるときは、半分ぐらいの薄さに調整してから飲ませよう。
 当日はネギは来ないから、アイツ等の面倒を私一人で見なきゃならん。

 説明も無しでジジイの姿をした小夜さよに惚れさせようと思っていたが、ちゃんと説明してからにしよう。
 そうじゃなきゃ後始末が大変そうだ。








「エヴァさんって、良い匂いしますね…………」


 く、首に鼻を擦り付けて匂いを嗅ぐな。ちゃんと事前にシャワーを浴びたから大丈夫だけど。
 …………惚れ薬の効果が切れるまで、まだ時間はあるな。


 惚れ薬は金輪際作らん。
 本気で抜け出せれなくなりそうだ。こんなことはこれっきりにしよう。

 私が欲しいのは自らの意思で抱きしめてくれるネギなんだ。多分、今でも惚れ薬を使わなくても頼めば抱きしめてくれるんだろうがな。
 しかし、ネギに頼んで抱きしめてもらうなんて、まるで私の方がネギに惚れているみたいではないか?

 …………まあ、惚れ薬を使うのはこれっきりなんだから、今はこの時間を有効に使おう。少しでもネギを感じておきたい。
 正面からネギを抱きしめるのは初めてだな。



 ギュッ、と私からネギを抱きしめる。
 ネギの温もりを感じる。『咸卦治癒マイティガード』を使った状態でくっつくのとは違う。ネギだけの温もりを感じることが出来る。
 神楽坂明日菜や近衛木乃香は毎晩このようなことをしているというのか? オノレ。


 ギュッ、とネギからも抱きしめられる。
 トクトクトク、とネギの心臓の鼓動が伝わってくる。
 トクトクトクトクトク、と私の心臓の鼓動がネギに伝わっている。

 心臓の鼓動が心地良くて落ち着くけど、心臓の鼓動を意識しすぎて落ち着けない。
 ネギの温もりが気持ち良くて眠たくなるけど、ネギの温もりを感じるせいで目が冴えて眠れない。


 …………ナギとは助けてもらったときに手を握られたのと、最後に頭を撫でで貰っただけだったな。
 こんなことは結局したことなかった。





 失いたくない。今度はもう失いたくない。
 もう一人になるのは嫌だ。この温もりと光は失いたくない。
 一度知ってしまえば、これはもう手放せなくなる。


 ナギの馬鹿者め。
「光に生きてみろ」なんて言っておき…………ああ、そういえばナギが最後に言ってたのは「光に生きてみろ。そしたらその時お前の呪いも解いてやる」だったか。


 ネギという光を手に入れると同時に、ネギが私の呪いをもうすぐ解いてくれるとはな。
 まったく、どういう因果なんだか?

 …………フン、ナギはこうなることなんか、予想してなんかいなかったろうがな。



 ありがとう、ナギ。
 『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』を解かずに死んだと聞いたときは恨んだけど、最高の置き土産を残していってくれて。
 お前がしてくれなかったことは、お前の息子にしてもらうことにするよ。


 その代わりネギは私が守ってやるし、ネギは私が最高の男に育ててやるよ。
 天国か地獄のドッチにいるが知らんが、安心して寝ているといいさ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



「(惚れ薬を飲ませるなんて)大人の…………やることかぁッ!?」

「大人だからやれるんだよッ!!!」


 やっぱりネギはナギの生存をエヴァに言ってません。
 っていうか、もう既にナギが生存してること自体忘れてるかも?

 ちなみに期末テストの成績はマナは400前半、ちうたんや釘みー達は400後半です。



 そしてネギの“色欲”が低い、最大の要因が明らかとなりました。
 気の応用で心拍数とか血流とか交感神経とか諸々を一定に保っているため、“色欲”がわきません。
 心拍数とか諸々を一定に保つキャラは結構いそうですけど、小さい頃からやっていたらこうなっちゃうのではないでしょうか?

 そして、本人は全然このことに気づいてません。普通に気の扱い方の訓練してたら、副作用でこうなっただけです。たつみーですら完璧と言わしめた、気の制御技術が仇となりました。
 気の扱い方のカンを取り戻せた7歳ぐらいの身体が標準となってますので、たせようとしても無理です。
 このことに気づかない限り、ネギは魔法使いをマジで卒業できません。

 気による身体制御の他、20年にわたる子供生活、“紅き翼アラルブラ”の修行ごうもんで恋愛する暇がなかったこと…………などの様々な要因から、“色欲”がほぼなくなりました。
 もう数年程このままの状態で過ごすと、おそらく“植物のような心”を手に入れることとなるでしょう。
 そうすれば、激しい“喜び”も、深い“絶望”もない、“平穏な生活”を送れます。


 ……………………独りでしたらね。
 将来的に苦労することになりそうです。


 バレンタインデーの出来事から約3週間。
 ちなみに刹那への“色欲”はもう0点に戻ってます。




 それと明日菜の質問はあくまで興味本位デスヨ。イヤ、ホントホント。
 原作デモ聞イテマシタシネ。



[32356] 第30話 QB3分コントラクティング
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/09 18:45



━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━



 …………最近、木乃香達から冷たい目で見られるんじゃけど、ワシ何かしたっけ?
 お見合いも今後はしたくないって言われたし…………。


 …………やっぱり、魔法のことを黙っとったのが悪かったのかのぉ。
 特にアスナちゃんからは虫ケラを見るような目つきで見られるし、ワシ泣いちゃいそう…………。












━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



「さて、来週には終了式。そして春休みには待ちに待った京都旅行です。皆さん、準備は出来ましたか?
 あ、そういえば一昨日のジンジャークッキーどうでした? 味見もちゃんとしましたから大丈夫だと思うのですが」


 美味しかったで~。クッキーに生姜ってのもオツなもんやな。ココアとかバニラとか色んな種類あって楽しめたし。
 それにしても、31人分のクッキーを用意したのは大変と思ったけど、やっぱりエヴァちゃんの別荘って便利やなぁ。
 ネギ君からホワイトデー当日朝のエヴァちゃん別荘使用禁止言われたときは意味わからへんかったけどね。







「それではその京都旅行について、二つほどお願いがあります。
 別にこのお願いを聞いてくれなくても問題はないと思いますが、念のために安全のために危険を避けるために出来れば承知してほしいです。デメリットも心情上以外はありませんし。
 危険というのは、以前説明した関西呪術協会と木乃香さんの関係上の話ですので省きますね」


 …………何か皆を危険な目に遭わせてしまいそうなんは悪いなぁ。
 ウチとしても、そんなこと起きてほしゅうないんやけど、コレばっかりは相手さん次第やからな。



「まず一つは今から皆さんに渡す、このボールペンとシャーペンを肌身離さず持っていてほしいということです。
 ボールペンには科学的な発信機がついており、シャーペンには魔法的にマーキングしてまして、これを持ってさえいれば誘拐されたときでも居場所がわかります。
 あ、二つのお願いとは別に、携帯電話持ってる人達はそれぞれ電話番号とか交換しておいてくださいね」

「…………発信機なんてどこで手に入れたんですか、ネギ先生?」

「………………秋葉原って凄いですよね」

「(イギリスにいるときから持ってたはずでしょう、ネギ先生)」


 …………せっちゃんから聞いとったけど、ネギ君はやっぱり用心深いんやなぁ。
 ウチを脅迫する目的で誰かを誘拐なんてされとうないから、ウチからは何も言えないんやけど…………。


「監視されているみたいで嫌だ、って人は持たなくても結構ですが、念のために持っていてほしいです。迷子のときでも大丈夫ですしね。
 なお、京都は僕達が旅行に行く3月から観光客が増え始め、3~5月の間は一ヶ月につき400万人の観光客が訪れるそうです。真面目な話、関西呪術協会の件がなくても持っていてほしいのですけど…………」


 はえぇ~、それは知らんかったなぁ。400万人も来るんか。確かに観光には丁度いい季節やもんな。
 そういえば旅行のときって、桜は咲いとるかなぁ。


「それは凄いです。観光するのにも一苦労になりそうです」

「一日当たり10万人以上かぁ。ゆえは神社仏閣に熱中して、周りのこと忘れないようにね」

「まあ、そういうことなら拒否する理由はないわね」

「迷子防止のためにGPS持っていると思えばいいか。
 …………それはそれで逆に嫌だな」

「ネギ、私は携帯電話を持っていないんだが…………」

「え? …………えーっと、それじゃあこの携帯を使ってください。僕はプライベート用と仕事用の二つ持ってますので、一つお貸ししますよ。
 使い方はわかりますか、エヴァさん?」

「ム、馬鹿にする…………いや、わからん。
 だから後で教えてくれ」

「わかりました。これが終わった後にでも」

「グギギギギ…………」

「………………はっ!? ネ、ネギ先生せんせー! 私と携帯電話の番号交換してください!」


 アスナぁー、そう睨むのはやめとき。
 それにしてもエヴァちゃんは細かいところから攻めていくんやなぁ。

 ムゥ~、アスナやないけど、ウチもあんまりええ気分せんなぁ…………。





「…………皆さんに行き渡りましたね。これで一つのお願いは終了です。旅行のときに忘れないで持ってきてくださいね。
 そしてもう一つのお願いなんですけど、もう一度言いますが、これは断っていただいても全然構いませんのであしからず。
 そのお願いとは、僕と“お試し契約”をして、一時的に“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”というものになってほしいんです」


 “魔法使いの従者ミニストラ・マギ”?

 それってエヴァちゃんとアルちゃんから聞いたことあるなぁ。
 確か、魔法使いの戦闘のパートナーのことやけど、現在では戦ったりすることはないから恋人がなるのが一般的なんやってね。

 “魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になるためには『仮契約パクティオー』という儀式をするんやったっけ。
 で、その儀式っちゅうのが、魔法陣上で魔法使いの人と…………その、キスをするんやよねぇ。












 …………。

 ……………………。

 ………………………………って、えええぇぇっ!?



「な、何言ってるのよ、ネギ!? そういうのはちゃんとお互いを知ってからじゃないと…………。
 で、でもネギがどうしてもと言うならしょうがないわねっ!!!」

「ちょ!? 待てぇっ! そんなことは許さんぞ!!!
 それだったら私がネギのパートナーになる!!!」

「ネ、ネギ先生せんせーのパートナーに…………。
 よ、喜んでパートナーになりましゅっ!!! ……………………噛んじゃった」


 うわぁ。アスナとエヴァちゃんとのどかが凄い剣幕や。


「え? 皆さん“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”については知ってるんですか?
 あ~、だったら説明の仕方間違いましたねぇ。ごめんなさい。
 落ち着いてください。別に僕と『仮契約パクティオー』をして貰おうというわけではないですから。
 説明しますので落ち着いてください、というかジリジリと寄って来ないでください。いや、ホントにマジで…………」


 ん? そんならどういうことなんかな?

 ホラ、落ち着き、アスナ。
 ウチもビックリしたけど、そこまで興奮することないやろ。



「えーっと、どこまで皆さんご存知かわかりませんので、最初から説明することにしますか。
 まず、“ミニストラ・マギ”とは日本語で“魔法使いの従者”という意味です。ちなみに“ミニストラ”は女性の場合の呼び方で、男性の場合は“ミニステル”となります。
 元来、魔法使いは呪文詠唱中は全くの無防備でして、その間に攻撃されてしまうと魔法は完成出来ません。魔法詠唱中の魔法使いを守る従者が“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”です。
 今では戦うことはほとんど無いので、恋愛対象がそのパートナーという感じですけどね。
 “魔法使いの従者ミニストラ・マギ”は魔法使いの魔力により身体能力を強化出来たり、に対して念話、召喚などをすることが出来ます。
 それと魔法使いの能力によっては、各従者毎に潜在能力をさらに引き出すことができる固有のアーティファクトが発現出来る事もあります。ここまでは良いですか?」


 うん、ええよ。ここまではだいたいエヴァちゃんとアルちゃんの説明通りやな。


「仮契約を行うと、契約者が描かれた“仮契約パクティオーカード”が出現し、そのカードに従者の“称号”、“徳性”などが書かれています。
 えーっと、ちなみにこれが僕の“仮契約パクティオーカード”ですね」


 ゴソゴソとネギ君がポケットから取り出したのは1枚のカード。白と赤の2色のカードで、中心にネギ君の姿が描かれとる。
 ええなぁ~、これ。カッコエエわ。

 『仮契約パクティオー』したらこのカードが手に入るんか。
 なーんかこのカード欲しさで『仮契約パクティオー』しちゃいそうやわ。アッハッハ…………。











 …………。

 ……………………。

 ………………………………何、やて?



「ネ「まずは裏に書かれている契約主の名前をを見てくださいっ!!!」…………わ、わかったえ」

「…………ネ、ネギ先生せんせーには既にパートナーが…………?」

「そ、そんな。ネギったら、私という者がありながら…………。ギリギリギリギリ…………」

「だ、誰なんだ!? ネギと仮契約してい…………って、おい、ネギ?
 何で契約主と従者の名前が両方とも“ネギ・スプリングフィールド”なんだ?」


 …………あ、ホンマや。裏面に書かれてる名前と表面に書かれてる名前が一緒やん。
 これが契約主と従者の名前のとこなんよね? あれ? 何でその二つが一緒なん?





「というか本気で何なんだ、この仮契約カード!?
 契約主と従者が同一人物なんて聞いたことないぞっ!?」

「は? エヴァンジェリン、ちょっと見せてくれ?
 ………………本当だ。ネギ先生、これはどういうことだい?
 私もこの業界に長くいて『仮契約パクティオー』も過去にしたこともあるが、こんなこと出来るなんて聞いたことないぞ」

「裏技使いました」

「「……………………ハァ?」」

「裏技? 魔法にもそういうのもあるんだな」


 ほぇ~。ゲームとかにもそういう裏技とか隠し技あるもんなぁ。
 でもエヴァちゃんが知らないってことは、よっぽど隠れてたやり方なんやろうな。





「…………まあ、裏技というか力技というか、技ですらないというか…………。
 やった当時は大丈夫と思ったからやったんですけど、多分その内容をタカミチとかに話したら怒られると思います」

「またか? また何かやったのか、ネギ?」

「聞かない方がいい、エヴァンジェリン。どうせまた微妙な気分になるぞ」

「…………ム。それはそうなんだが…………」

「こういっては何ですが、僕以外には出来ないと思いますね。
 もし出来るとしたら、エヴァさんぐらいですか。『闇の魔法マギア・エレベア』的に」

「何だそれは!? 何で『闇の魔法マギア・エレベア』が『仮契約パクティオー』と関係が………………やっぱりいい。
 確かに微妙な気分になりそうだ。というか、もう既に微妙な気分だ」

「キーワードとしては“『闇の魔法マギア・エレベア』”、“ワザと肉体を魔族化して別人判定”、“霊体と変化した肉体間で無理矢「言うなっ! それ以上言うんじゃない!!!」…………ま、そんなわけです」

「…………何か今物騒な発言があったような」

「やめろ、刹那。これ以上掘り返すんじゃない。忘れるんだ。
 大事なのはネギ先生が『仮契約パクティオー』を自分と自分の間でしてることだけだ。
 それ以外のことは考えるな」

「ちなみにこのカードを見るのは、アルちゃん以外では皆さんが初めてです」



 …………え、ええんかな? 本当に突っ込まないで…………。
 というか、アルちゃんが何かを思い出したのか、神さまにお祈りしながら部屋の隅でガタガタ震えて命乞いしとるんやけど?





「…………儀式を手伝ってくれたアルちゃんには、ちょっと刺激が強すぎたみたいでしたので…………。
 とりあえずこの『仮契約パクティオー』によって、僕もアーティファクトを持つことが出来ました。
 『来れアデアット』、“空飛ぶゲタサブフライトシステム”、“白紙仮契約カードおためしけいやく”」


 ポン! と出てきたのは、仮契約カードと同じ大きさの真っ白な紙、それと人が数人乗れそうなぐらい大きくて平べったいフヨフヨ浮いとる板。
 何やのコレ? UFO?


「コッチの“空飛ぶゲタサブフライトシステム”は名前の通りというか見ての通りというか、簡単に言うと乗って空を飛べます。
 簡易的な認識阻害、微弱な魔法障壁も常時発動しています」

「…………これはモビルスーツと同じ飛び方なのかい?」

「そうですね。魔力をジェット噴射のように噴出してます。出力上げれば瞬動のように移動出来ますし、出力弱めれば柔らかい機動が可能です。
 モビルスーツのスラスターはこの“空飛ぶゲタサブフライトシステム”を参考にしてますね」

「面白そうね~」

「話が終わったら乗ってみますか?
 風を切って空を飛ぶのは気持ちいいですよ」


 あ、ええなぁ。ウチも空飛んでみたいわ。
 飛行機とかも乗ったことあらへんし、空飛ぶなんて初めてやわ。







「で、コッチが本命なのですが、僕のもう一つのアーティファクト、“白紙仮契約カードおためしけいやく”です。
 見ての通り、契約主と従者の名前欄が空白である以外は、真っ白で何も書かれていない仮契約カードです。

 “契約者と従者のどちらかに、ネギ・スプリングフィールドの名前を入れること”、
 “名前欄に、自分の血で、自分の名前を、自分で書くこと”で契約成立です。

 なお、“契約者と従者を交換して、同じ人間で相互に主従となるのは不可能”、“契約者と従者を交換する場合は一度契約を破棄すること”、等の制約があります。
 ただし、“この“白紙仮契約カードおためしけいやく”と“本当の仮契約”を使用して相互に主従となるのは可能”で、しかも“何枚でも作成可能”という利点があります。

 詳しい効果としましては、
 “従者への魔力供給”、“従者の召喚”、“念話”、“防御力アップ”は使用可能。
 “潜在能力の発現”、“アーティファクトの召喚”“衣装の登録”は使用不可能です。

 アーティファクトの召喚こそ出来ませんが、それでも十分使える能力です」

「…………何ともまぁ、変則的なアーティファクトだな。つまりネギの狙いは“従者の召喚”“念話”機能か」

「確かにその二つがあったら、何か事態が起きても楽になるな」

「それもありますけど、一番の狙いは“防御力アップ”ですね。“従者への魔力供給”による身体強化も大きいですが。
 本来の仮契約なら、『来れアデアット』でアーティファクトを出すことまでしなければ“防御力アップ”は出来ないんですが、これならカードを手に持つだけでOKです。
 僕の魔力容量なら長時間、ここにいる全員に魔力供給して身体強化しても支障はないですし。
 まぁ、実際にどれだけ魔力供給で身体能力が上がるのかを見てもらいましょうか。
 行くよ、アルちゃん。『契約執行シム・イプセ・パルス 60秒 ネギの従者ミニストラ?・ネギィ アルベール・カモミール』」





 あや? アルちゃんもネギ君と“お試し契約”しとるんやな。
 何かアルちゃんがうっすら光って見えとる。これが魔力なんやろか?

 そんでネギ君は空手の試し割りで使われそうな木の板取り出して、アルちゃんの前に差し出した。
 木の板を前にしたアルちゃんは後ろの2本足で立って、ボクシングのファイティングポーズをとった。


 …………やっぱ、カワエエなぁ。




「ハァッ!!!」





 おお! アルちゃんの掛け声と共に繰り出した拳が、木の板をバキィッ! っと真っ二つに割りよった。
 アルちゃん凄いなぁ。これが魔力供給による身体強化なんか~。


「と、このように非力なアルちゃんでも、こんな木の板を割るぐらいに身体能力を強化できます。防御力も車に撥ねられたとしても、悪くて骨折で済むようになるぐらいに上がりますね。
 契約を破棄する際はカードを破くだけでいいですし、破棄しても再び契約することはもちろん可能です。
 それと“空飛ぶゲタサブフライトシステム”も“白紙仮契約カードおためしけいやく”で契約したら操縦可能になります」

 便利そうやねぇ~。
 でも、これがあったら確かに皆安全やなぁ。


「…………危険はなさそうだし、いつでも辞めれるなら京都旅行の間だけなら問題ないかな。
 血文字を書くってのオカルトっぽくて嫌だけど、傷は先生が治してくれるんだろ?」

「それはもちろんです。指先にちょっと切り傷つけるぐらいでいいですし、傷跡が残るようなことはないように念入りに治癒魔法をかけます。
 安心してくださって結構ですよ、長谷川さん」

「本当に“お試し”契約なんだなぁ。
 『本契約』の劣化版である『仮契約』とは、本当に違う意味での“お試し”だ」

「…………スマナイが、私は断らせてもらうよ、ネギ先生。
 確かに私は護衛だが、例え“お試し”といえどネギ先生と契約するのは依頼のうちには入っていない」

「わかりました。龍宮さんの実力ならお試し契約をしなくても問題ないでしょう。
 あ、それと木乃香さんは立場上、僕の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になるのは止めておいた方がいいと思います」

「え? ウチだけネギ君と契約出来ひんの?」

「同感です、ネギ先生。
 木乃香お嬢さま、お嬢さまが東西どちらの道を歩まれるかわからない現時点で、“お試し”とはいえ西洋魔術師の従者になるのはマズイかと…………」


 う~、確かにそうやけど…………。
 ウチだけ仲間ハズレみたいで嫌やなぁ。








 …………そうや! 逆に考えるんや。
 ウチは立場的な問題で、ネギ君の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になるのが駄目なんなら…………、


「ネギ君がウチの“魔法使いの従者ミニステル・マギ”になればいいんや!!!
 …………っ!? ウチがネギ君のご主人様っ!?」

「え? ソッチですか、お嬢さま?」

「…………それなら問題ない…………んですかねぇ? 黙っていればいいのかな?」

「問題ありまくりだ、近衛木乃香」

「そうよ~、そんなの駄目に決まってるじゃない、木乃香ったら」

「だ、駄目ですよ! 木乃香さん!」


 ええ~、ええやん。それやったらウチがネギ君呼べるからなぁ。
 それに皆だけネギ君と契約するのはズルイわぁ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 フェイトは修学旅行の前の月に研修で来たらしいので、今回の旅行のときにはちゃんと京都にいます。


 もちろん、『闇の魔法マギア・エレベア』を利用して自分と自分の間で『仮契約パクティオー』するのはオリジナルです。
 それと茶々丸が『仮契約パクティオー』出来るのなら、アルちゃんも出来ますよね。アーティファクトは選ばれた者にしか与えられないらしいので、アーティファクトまでは無理でしょうが。


 そして学園長は出番無かったほうが幸せだったかもしれませんね。
 まぁ、これはネギの被害者というわけではないので…………。


【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+“『仮契約パクティオー』儀式の手伝い” ← new!
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋



[32356] 第31話 京都編① 新幹線
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:08



━━━━━ 絡繰茶々丸 ━━━━━



「おはようございます、エヴァさん、茶々丸さん。2人とも早いですね」

「おはよう、ネギ」

「おはようございます、ネギ先生」


 はい。マスターのご意向で、新幹線発車2時間前には到着していましたので。
 駅を発着する新幹線を、ワクワクした顔で眺められるマスターはとても可愛らしいお姿でした。

 ネギ先生のご尽力もあり、無事にマスターが麻帆良の外に出ることが出来て何よりです。
 ただ、指輪による魔力封印が効いており、マスターは全力が出せない状態です。もしも何かコトが起こった場合には、ネギ先生の魔力をお借りする予定になっています。
 マスターの2倍以上の魔力を持たれるネギ先生なら平気でしょう。


「他の皆さんはまだ来ていないですよね」

「仕方ないだろ。事情を知らない他の奴らについて来られないように、時間差をつけてバラバラに来るのだからな」

「新幹線発車まで後一時間。皆さんの位置関係は発信機で把握しております。あと30分以内には皆さん到着されるでしょう」

「そうですか。今のところ順調のようで何よりですね
 それにしても、今日が晴れて良かったです。天気予報見ましたけど、京都も今日は晴れみたいですよ。昨日は雨が降ったみたいですけど、雨雲はもう過ぎ去ったようですし」


 危険なことがある可能性もあり、他の2-Aの方々について来られるのは好ましくないので、大宮駅に現地集合といたしました。
 名目も、長瀬さんや古菲さんは泊りがけの修行、木乃香さんは里帰りでアスナさんと桜咲さんはその付き合い等々、他の方々に感づかれないようにバラバラです。
 ネギ先生も学園長の依頼でお使いという名目を、2-Aの皆さんに予め説明しております。

 …………目的地はデタラメなことを言っていましたが。


 ある程度情報を開示しておき、自分達の意思でついて来られないようにしてもらうのがネギ先生のやり方だそうです。

「コントロール出来ない平和よりも、コントロール出来る騒乱の方が好みです」

 とはネギ先生のお言葉。
 この言葉を聞いた桜咲さんや龍宮さんは顔が引き攣っておられ、マスターは「もう何も言うまい」と黄昏ていました。



 …………ちなみに私達は特に名目などは作っておりません。元から他の方々とはそんなにお付き合いがありませんでしたので…………。

 超鈴音や葉加瀬の他は、超包子のシフトを変更するぐらいでしょうか。
 猫さん達のことはハカセ達にお願いしておきましたので、きっと大丈夫でしょう。





「茶々丸さん、認識阻害の方は問題ありませんか?」

「はい、問題ありません。一般人から奇異の視線で見られることもありませんし」

「スマンな、ネギ。茶々丸に認識阻害の魔法具をくれて」

「問題ないなら何よりです。
 茶々丸さんには美味しい紅茶をいつも御馳走していただいてますので、そのお礼ですよ」


 認識阻害の魔法具である髪留め。ガイノイドである私が目立たないようにするために、ネギ先生から頂きました。
 麻帆良以外の場所では私のようなガイノイドは存在しておりませんので、京都に行ったら私は目立ってしまうでしょう。そのためには認識阻害が必要です。

 アスナさんの反応からすると、ネギ先生からアクセサリーのようなプレゼントを頂いたのは、マスターと私だけのようです。
 さよさんに贈られる予定の幻術がかかる魔法具は、春休みの終わり頃に届くそうですし。
 


 …………ネギ先生からの、プレゼント…………。







「…………あ。木乃香さん、アスナさん、桜咲さんが駅構内に入られました。
 尾行護衛をされている龍宮さんもその100m後方に、長瀬さんは違う入り口から3人より先回りして入り、前方の安全を確保するようです」

「了解です。今のところは予定通りですね。このまま問題なく進めばいのですが…………。
(やはり見られてます。木乃香さんが西に戻るのに賛成な方か反対な方かまではわかりませんが、少なくとも殺気は感じませんね)」

「…………やはりネギは何か起こると考えているのか? 正直、考えすぎだと思うのだがな…………。
(そうだな。…………近衛詠春からの派遣された護衛ということはないよな?)」

「考えるだけならタダなのでいいんですよ。対抗手段は最悪の2、3歩手前までしか用意してませんし。
(学園長からはそんな話は伺っていません)」

「…………ちなみにその“最悪”とは?
(どうする? 始末するのか?)」

「東西全面抗争で「やっぱりもういい」…………そうですか? ちなみに最悪の2、3歩手前は、木乃香さんを長にしたくない人達による“木乃香さん暗殺計画”です。
 西だって組織的に最悪なことはしないでしょうけど、個人的にはどうかまではわかりませんからね。個人がどう考えるのかまでは、その個人を知らない限り予想がつきません。
(まだ放置しておきましょう。もし駅構内で仕掛けられても、エヴァさんの家に準備させてもらった転移陣へ瞬時に転移できます。新幹線での移動中ではさすがに無理ですが)」

「…………まぁ、確かにそれはそうだな。
(仕掛けてくるなら観光が終わった後にして欲しいものだ。…………というか、始末する可能性は否定せんのか)」



 人の心とは難しいです。
 クラスメイトとして少しは知っていたアスナさんが、何故あのように変わったかすら理由がわからない私なら尚更です。
 ネギ先生はまるで私のことをニンゲンのように扱ってくださいますが、それでも私は魂を持っていないただの機械です。

 …………だから、私はネギ先生と“お試し契約”を結ぶことが出来なかったのでしょうね。












━━━━━ 天ヶ崎千草 ━━━━━



 あれが木乃香お嬢様…………確かに極東一の魔力と噂されるだけのことはあるなぁ。
 こうやって見るだけでお嬢様の凄さがわかるわ。

 …………お嬢様が西に戻ってきてくれさえすれば、東にいる裏切り者達にデカイ面させないですむというのに…………。



 そりゃあウチかて明治、大正、昭和という、激動の時代を甘く見るつもりはあらへん。
 一歩間違えば日本の呪術どころか、日本という国そのものが亡くなっていたかもしれんということは重々承知してる。
 それにこの国際化の時代、一般人が西洋の生活習慣に変わったように、ウチら日本の呪術集団もある程度は西洋との妥協をせなアカンのもわかっとる。

 こないだ研修で来た新入りも西洋魔術師やしな。

 しかしそれでも、伝統を忘れて西洋魔術に染まり、外国人を日本に呼び込み、我が物顔で関東で好き勝手するのは気に食わんなぁ。




 それにしても、まだ修行をしとらんというのに木乃香お嬢様のあの力。
 今回の旅行は麻帆良で裏のことを知ってしまい、今後のことについて父親である長と話し合うために里帰りなさるということやけど、是非とも西で日本呪術を学んで頂きたいものやわ。





 それにしても話では、木乃香お嬢様と一緒に裏のことを知ってしまったご学友も来はるということやったけど…………アレで全部かいな? 随分と外国人が多くあらへんか?


 赤毛でスーツを着た大人びた坊やと西洋人形みたいな金髪のお嬢ちゃん。中華服来た子は…………中国人? それともファッション?
 そして背の高い褐色の肌の女………………引率の麻帆良の魔法先生やろか? 魔法先生が1人来ることになっとるらしいし。

 加えて気をつけておくのは木乃香お嬢さまの護衛の神鳴流剣士と、あの背の高い目の細い女やな。アレも魔法先生かいな?




 …………アレ? 魔法先生は1人のはず。どちらかがお嬢様のご学友?


 …………んなわけないか。あの背といいスタイルといい、どう考えても大人の女や。




 ……………………というか、あのロボットみたいな女の子は何なんや?
 麻帆良では魔法と科学の融合ということをしているらしいから、それ関係かいな?

 それにそもそもあの坊やは何なんやろ?
 木乃香お嬢様は女子中に通っておられるから、男の同級生はいるはずがないし、何よりどう見たって小学生くらいやろ。ウチの小太郎や新入りと同じくらいやし。
 でもそんなこと言うたら、金髪のお嬢ちゃんもどう見たって小学生やなぁ…………。



 …………あ! もしかして赤毛の坊やと金髪のお嬢ちゃんは、引率の魔法先生が担当している魔法生徒かいな?
 観光も兼ねてるという話やし、京都を観光するために連れて来たのかもしれへんな。今の時期の京都は観光の外国人で一杯やし、まだ小さい子供で学校は春休み。それなら連れて来てもおかしくないかも。


 というか、金髪のお嬢ちゃんは新幹線をキラッキラした目で見とったからなぁ。
 アレはどう見ても完璧に観光に来た外国人の子供やった。

 やっぱり外国人の目から見ても、新幹線は凄いものに写るんやろうなぁ。




 他の子達は木乃香お嬢様のご学友やろ。お嬢様と楽しそうにお喋りしとるし。

 よし、そろそろ発車時刻やな。お嬢様達は乗車位置からして…………グリーン車か。

 …………ウチは普通席なのに。まあええ。さっさと乗ろか。





 さて、これからどないしようかなぁ?
 木乃香お嬢様を西に戻すためにいろいろ企んでいたけど、この旅行で自発的に戻ってこられるかもしれないというのなら、ウチがここでチョッカイかけるのは逆効果やしなぁ…………。


 とりあえず、式神を使うて情報収集といこか。
 魔法先生らしき人も2人いるみたいやし、新幹線の中での会話から、お嬢様が今後どのような道を選ばれるおつもりなのかわかるかもしれん。
 魔法先生が良からぬことを企んでいるとすれば当初の予定通り、無理矢理にでも木乃香お嬢様は西に戻ってきてもらうことにしましょ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





『…………おおおぉぉーーー! 凄いぞ、ネギ! 外の景色を見てみろ!!!』

『はいはい、落ち着いてください、エヴァさん。周りのお客様のご迷惑になりますから、少し静かに…………』


 感度良好や。小ザル式神がうまく潜り込めたようやな。西洋魔術師なんていうても大したことあらへん。
 …………それにしても、子供は元気あってうらやましいなぁ~。


『それにしても、京都に帰るんは久しぶりやなぁ。中学生になってからは帰っとらんかったし』

『木乃香と刹那さん以外は京都初めてなんじゃない? 楽しみね~』

『今日は真っ直ぐ木乃香さんの実家に向かう予定でしたね。
 アチラから話を伺うこともあって、観光に出られるのは最低でも明後日以降となりそうですね』

『何だと!? せっかくの京都なのに、明後日まで観光はお預けだというのか!?
 話を聞くのはお前達だけでいいだろう!? 私は明日から神社仏閣巡りをするぞ!!!』

『だからエヴァさん落ち着いて…………ああ、もう…………』



 …………ザザァッ!…………ザァッ!…………

 結界を張られた!? 式神に気づかれたんか!?



 ………………んなわけないか。
 あのお嬢ちゃんがうるさかったから、周りの客に迷惑掛けないように結界張ったんやろ。


 えーっと、もうちょい出力上げて…………。





『…………りましたから。皆さんには僕がついていますから、エヴァさんはどうぞ明日から観光してください』

『ム、ネギは来ないのか? だったら…………でも、せっかくの京都…………』


 繋がった繋がった。さて、せっかく結界を張って秘密の話を出来るようになったんやから、いろんな話をしてくれへんかなぁ。
 木乃香お嬢様が今後どうするのかとか。


 あ、販売員のおねーさん。
 お茶…………えーっと、そのペットボトルのやつおくれやす。





『それにしても関西呪術協会ですか。いったいどんなところなんですか、桜咲さん?』

『そうですね、炫昆神社という古い神社が関西呪術協会の本拠地です。
 京都だから大きい神社は観光地にされてしまいそうですけど、さすがにそこは観光地にはなってないですね』

『神社アルかぁ。まさしく日本の呪術集団の本拠地、って感じアルな』

『ところで本屋ちゃん達は結局魔法を習うみたいだけど、西洋魔術か東洋呪術にするか決めたの?』

『いえ、まだです。ネギ先生せんせーの言う通り、やはり関西呪術協会の方からもお話を伺ってからと思って…………』

『私ものどかと同じです。でも、東洋呪術を習うとすると、麻帆良から引っ越さなきゃいけなくなるかもしれないのがネックなのです。
 麻帆良から離れたくないというのが正直な気持ちですね』


 あら、残念。若い子が入ってくるなら大歓迎やったのに…………。
 ウチらは先祖代々続いての呪術集団な分、新規の若手がぜんぜん入って来ないからなぁ。


『それに私は使うとするなら攻撃魔法とかじゃなく、治癒魔法の方がいいですし…………』

『そうですね。一通りのことは勉強するつもりですが、今の時代では攻撃魔法を使う機会があるとは思えません。
 日常生活でも使える治癒魔法の方が私達にあっていると思うのです』

『そうやなぁ。ウチも魔法を習うことにするんなら、危ないのよりはネギ君みたいな治癒魔法とかの方がええわ』

『僕の使うような治癒魔法とは違いますけど、ちゃんと東洋の呪術にも回復系の術がありますよ。僕が少し調べた感じでは、西洋の“外科”に対して、東洋は“内科”という印象を受けました。えーっと、日本に漢方とかありますけど、それに近いニュアンスを感じましたね。身体の芯から治すような感じです。
 僕の『咸卦治癒マイティガード』でも似たようなことは出来ますけど、東洋呪術の方が専門的だと思いますよ。いつまでも健康に長生きしたいと思うなら、東洋呪術の方がいいかもしれませんね』


『ふーん、そういうのもあるんやなぁ。…………でも、ゆえの言う通り、西を選ぶことになったら皆と離れ離れになってまうのが嫌やなぁ。
 せめて中学は麻帆良で卒業したいわぁ』


 へぇ~、あの坊やは治癒術師か。なかなか勉強しとるみたいやし、坊やは木乃香お嬢様を西洋魔術に引っ張り込もうとは思っておらんようやな。
 素直そうな坊やみたいやし、幸せに育った甘ちゃんかな?

 そして木乃香お嬢様は治癒術師志望か。
 まあ、今まで裏のことを知らなかった女の子ならしゃーないな。おっとりしてそうな御方やし。





『そういうのも含めて、今回の旅行でお父さんと話し合ってみればいいですよ。
 ぼくはちょっとトイレに行ってきます。ついでに新幹線の中を見回りしてきますね』

『うん、気をつけてね』

『迷子にならんようにな~』

『アハハ、新幹線の中でどう迷子になれと?』

『いってらっしゃい、ネギ先生せんせー

『お土産よろしくお願いアル』

『ああ、悪いけど、ネギ先生。帰りでいいから缶コーヒーお願いしていいかな、無糖の奴』

『わかりました。他に何か買ってくるようなものはあります?
 …………ないなら行ってきます。10~20分で戻ってきますので』







 …………。

 ……………………。

 ………………………………あの坊やが“先生”?

 え? どういうことなんや? どー見たって10歳くらいの子供やないかい!?
 というか、あの背の高い女達はホンマに中学生なんか!?









『…………そういえばくーふぇと楓って、ネギ君と修行してるんやよね。どんな感じなん?』

『どんな感じといわれても…………自らの力不足を恥じるばかりでござるよ』

『…………まだ一本も取れたことないアル。というか、ネギ坊主は酷いアルよ。

「椅子に座ったままでも古菲さんに勝てますよ」

 なんて言われて試合してみたら、ネギ坊主は椅子に座ったまま空に飛んで逃げたアル。それからは手の届かない空から魔法で滅多打ちだたアルよ…………』

『…………嘘は別についてねーな』


 …………それはまた、けったいな戦い方する坊ややなぁ。


『だから前に言っただろう、古。ネギ先生に勝とうとするなら、空を飛ぶことが出来るか射程数kmの飛び道具がないと絶対勝てないとな。
 こんなジョークがある。

「イギリスでは“法で禁止されてなければやってもよい”
 ドイツでは“法で許可されていなければやってはいけない”
 フランスでは“法で禁止されていてもやってよい”
 ソビエトでは“法で許可されていてもやってはいけない”」

 …………とな。古のときは狙ってやったんだろうが、このジョークはイギリス人のネギ先生らしく感じないか?』

『…………わかる、龍宮。何かわかるぞ、それ。
 そうか。国民性の違いというものもあるのかなぁ…………』

『…………話の流れ的に魔法無しと思ていたアルよ。
 まあ、そのあとに虚空瞬動とか実演して見せてもらたので、今はそれを練習中アル。瞬動はなかなかうまくいくようになてきたけど、虚空瞬動の方はまだまだアルね』

『ネギ坊主は瞬動とか、そういう力の制御が凄くうまいでござるよ。ずっと1人で修行していたせいで、基礎訓練ばっかりやっていたらしいでござるから。
 何でもない、普通のはずの動作がコチラに対して必殺の一撃になるでござるし』

『さすがは“スプリングフィールド”ということか。“蛙の子は蛙”とはよく言ったものだ』

『…………いや、ナギもあそこまで出鱈目じゃなかったと思うぞ…………』


 !? “スプリングフィールド”!? “ナギ”!? 大戦の英雄!?

 あの坊やは“千の呪文の男サウザンドマスター”とやらの息子かいな!?
 “先生”やってるのも、それと何か関係あるかもしれへんな。


『しかし改めてアスナ殿や木乃香殿たちを見ると、やはりネギ坊主の本領は癒しだと思うでござる。
 最近ますます肌ツヤが良くなったでござるなぁ』

『あ、やっぱりわかっちゃうわよねぇ。クラスでも他の皆に聞かれちゃうしさ~』

『アレやなぁ。若さにかまけて、お肌のお手入れとかは特別な事とかはしておらへんかったからなぁ。
 そりゃ洗顔とかはちゃんとしとったけど、まさかネギ君のおかげでここまでお肌が綺麗になると思っとらんかったわぁ』

『それについては同感だな。口止め料の代わりというわけじゃないが、私も何度かやってもらったけどさ。本当に肌の感じが違ってくるんだよ。
 魔法とかには関わりたくないと思っていたけど、アレをしてもらうためなら関わってもいいような気になってきた。
(おかげで最近はフォトショップ使わないで済むようになったしな)』


 …………何か、随分とうらやましい話をしとるなぁ。あの坊やの治癒魔法はそんなに凄いんか?

 それにしても治癒魔法が得意ってのは英雄らしくないなぁ。
 まあ、英雄の息子といっても親と子は別モンだから、坊やが英雄らしくなくてもしゃーないか。


『あれ? でも楓達はネギにしてもらってないの?』

『普通の治癒魔法はしてもらったことはあるでござるが、『咸卦治癒マイティガード』での治癒はないでござるな。
 ネギ坊主はそこら辺のところ、シッカリしてるでござるし』

『? そこら辺って?』

『アスナ殿や木乃香殿は普段から世話になってるから、刹那は神鳴流の手ほどき等、ネギ坊主はお礼として3人に『咸卦治癒マイティガード』をしているでござる。千雨殿は…………おそらく関西呪術協会から話を聞くまで何も無しというのは不公平だからでござろう。
 この旅行が終わってお願いを聞いてもらったら、多分もうしてくれないと思うでござるよ。
 拙者達は既に、魔法を黙っている代わりに一緒に修行してもらうというお願いを決めたでござる。要するに、もう貸し借りはない状態でござるよ。
 頼めばしてくれると思うが、頼まなかったらしてくれないでござろう。もちろん『咸卦治癒マイティガード』でしか治癒出来ない傷などは別でござるが…………』

『く…………アレをしてもらえなくなるのは辛いな。こうなったらお願いを使ってでもやってもらおうかな…………』

『…………で、では私達も駄目だということに…………』

『う~、でも元々ネギ先生せんせーと一緒に寝ることなんか出来そうにないから…………』

『別にウチはネギ君と寝るぐらいは気にせんけどなぁ。湯たんぽ代わりに丁度ええし。なぁ、せっちゃん?』



 は? あの坊やは木乃香お嬢様と一緒に寝てるんかい?
 …………まさか東の連中、坊やを餌に木乃香お嬢様を東に留めて置くつもりやないやろうな?

 それに長と“千の呪文の男サウザンドマスター”は盟友だったはずや。
 だったら坊やと木乃香お嬢様が許婚だとかの話があってもおかしくあらへん。







『え、ええ…………最初は意識してしまいましたけど、今はもう平気になりました。
 でも、たまにネギ先生が木乃香お嬢さまと私に潰されていることとかありますし、やはりあのベッドに3人はキツイのでは?』

『そうやなぁ。でも新しいベッドを部屋に入れるわけにもいかんしなぁ』

『…………言っておくが、私はネギ先生と一緒に寝てないぞ。前のときみたく、手でしてもらってるからな。
 というか、昨日もしてもらったんだけどネギ先生が愚痴ってたぞ。

「何かたまに明日菜さん達の目が怖いときがあるんですよ」

 って…………お前ら少しは自重しろよ』

『…………別に変なことしてないわよ』

『目ぇ逸らすな、神楽坂』

『え? “達”ってことはウチも?』

『…………きっと旅行の準備の買い物のときに、ネギ先生を着せ替え人形にして遊んだのがマズかったのでは?』

『な、何だそれは!? ネギを着せ替え人形にだと!? 何故私を呼ばなかった!?』

『…………やっぱりスカートはマズかったんかなぁ』

『ネギ先生せんせーにスカート!?』

『何ですか、ソレはっ!?』



 …………あの坊やは坊やで大変みたいやなぁ。話みたいな治癒魔法が使えるなら、引っ張りだこになってもそりゃしゃーないわ。
 しかも女子中の教師みたいやし、きっと学校でもオモチャにされとるんやろ。

 ………………不憫な。


 しかし、木乃香お嬢様はどうやら、西洋魔術の方に心が傾いておられるようやな。
 正確には、魔術についてはこだわりは持っておられへんようやけど、ご友人達や今までの生活が気に入っておられるみたいや。

 これだと自発的に西に戻ってもらうのは厳しいかもしれんなぁ。やはり強硬手段に出るしかないか。
 元からそのつもりやったから、計画を変更しないでもいいんやし。


 …………さっきまでの会話を聞いとったら、お嬢様とご友人の仲を裂くのは悪い気がするけど、生まれのせいだと思って諦めてもらうしかありまへんな。



 …………あ、販売員のおねーさん。駅弁一つおくれやす。



 ま、ええわ。どーせウチはもう止まれんのや。京都駅では人目があって無理やし、本山に入られたら手が出せん。
 となると、本山に着く前に仕掛けるしかないな。腹ごしらえしたら、小太郎達に予定通りに決行することを連絡せんとな。


 …………あ、しもた。お茶全部飲んでしもたんや。
 さっきの販売員のおねーさんに一緒に頼めばよかったわ。
 このミルクティーじゃ駅弁とあわへんし、ウチはやっぱり緑茶の方が好………………ってミルクティー?











 …………ウチ、ミルクティーなんか買った覚えあらへんけど?
 ? ミルクティーの缶にメモ紙が貼り付けられとる?






「お勤めご苦労様です。
 ペットボトルは空ですので捨てておきますね。
 このミルクティーはプレゼントです。

                 ネギ・スプリングフィールド」




 …………。

 ……………………。

 ………………………………いつの間に?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 原作でも茶々丸との『仮契約パクティオー』は力技で無理矢理成功させていたので、力技が無理な“白紙仮契約カードおためしけいやく”による契約は不可能です。
 さすがにレンズ洗浄液で“お試し契約”を結ぶのは無理でした。


 そしてネギはもちろんわざとです。ネギとしては

「コントロール出来ない平和よりも、コントロール出来る騒乱の方が好みです」

 ので、京都で一連の事件は旅行中に全部終わらせます。放っておくと、麻帆良に来られるかもしれませんからね。
 ネギは夏休みの宿題はさっさと終わらせるタイプです。



[32356] 第32話 京都編② 賭け
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:14



━━━━━ 犬上小太郎 ━━━━━



「…………というわけで、当初の予定通りに仕掛けるで!」

「? 何怒っとんのや、千草姉ちゃん?」

「何でもあらへんわ!!!」


 おー、怖。そんなにコケにされたのが気に食わんのか?
 それに知らないうちにミルクティーをプレゼントされて、お茶のペットボトルを捨ててもらってたっちゅーことは、おそらく千草姉ちゃんの顔は見られてるやろうからな。
 それやったら今更引けんのやろ。上からの命令無視して監視してたなんてこと知られたら、後でどんな罰食らうかわからへんしな。

 ま、俺としては戦えりゃそれでいーんやけどな。でも話からすると、半分は素人で男は1人だけかいな。

 しかもその男は俺と同じくらいの年らしいけど、治癒術師らしいやん。
 千草姉ちゃんを出し抜けるぐらいやし、瞬動とか使えるらしいからそれなりに出来るかもしれんけどなぁ…………。





「…………で? どこで仕掛けるんだい?」

「街中で仕掛けたら邪魔が入るかもしれへんし、本山の麓で仕掛けるわ。本山の侵入者防止の仕掛けを利用させてもらうで。
 本山の中には手出せんけど、外側の仕掛けならウチでもいじれるやさかい。『無間方処の咒法』で閉じ込めて、そこで木乃香お嬢様を頂戴するんや」

「本山の間近で仕掛けて大丈夫なん?」

「危険なのはわかっとるけど、そこでしか勝負するところがあらへん。本山の術者相手でも、20~30分ぐらいなら入れないようにしてみせるわ」

「千草さんの見立てで邪魔になりそうなのは、背の高い女性2人とウチと同じ神鳴流剣士がお1人。それと“大戦の英雄”の息子さんと魔法生徒のお嬢ちゃんがお1人。あとは中華服の拳法使いらしきお嬢さん、ですかー。そんで残りは皆素人さん。…………ロボットの女の子はどうなんやろ?
 …………まあ、ウチとしては是非とも神鳴流の剣士さんとやりあいたいですー」

「あー、それだったら俺は英雄の息子っちゅーのをやるわ。女殴るは趣味やないからな」

「だったら、僕と千草さんで残りかい?」

「…………うーん、それはちとキツイかもしれなぁ。
 相手にするのは出来ても、木乃香お嬢様を攫うには人が足りん。かといって、式神に命令させて木乃香お嬢様を攫うのは危ないし…………」

「…………なら、最初に千草さん達3人に出て彼らの目を引き付けてもらって、隙を突いて僕がお姫様を攫おうか?
 千草さんの負担が大きいけど、式神を大量に使えば何とかなるだろう?」

「…………それしかあらへんかなぁ。小太郎は女殴れへんから、女の護衛のついとるお嬢様を攫わせるのは無理やろうし…………」


 ほっといてくれんか。嫌なモンは嫌やっちゅーねん。


「かといって、月詠はんにお嬢様を任せるのは危ないしなぁ」

「えー、ウチは斬りたいですー」


「わかっとるわ。しゃーない。それでいこか。
 …………新入り、わかっとると思うけど、木乃香お嬢様に怪我させたらあかんで」

「…………わかってるよ」


 …………コイツもわからん奴やなぁ。
 何でもイスタンブールっちゅーところから研修に来た西洋魔術師らしいけど、何でこんなのに参加してんだか?
 いつも無表情で人形みたいやし。


 ま、ええ。頭脳労働は千草姉ちゃんの仕事や。
 何か妙な真似したらブン殴ればいいやろ。

 さーて、英雄の息子っちゅーのに、少しは骨があればいいんやけどなぁ。







「あ、小太郎。あの坊やには、“空を飛ぶことが出来るか射程数kmの飛び道具がないと勝てない”らしいで」



 …………。

 ……………………。

 ………………………………何、やて?



「距離を置いての魔法戦が得意みたいやな。空飛びながら、魔法をバンバン撃ってくるらしいわ。西洋魔術師の定石やな。
 今回は『無間方処の咒法』で閉じ込めるし、木乃香お嬢様を置いて逃げたりはしなさそうな子やったから、そんなに気にしなくてもいいかもしれへんけどな。いつも通りに距離を詰めて、魔法を詠唱する暇をあたえんようにな。
 体術もそれなり…………というか、ウチに感づかれずに近寄れるぐらいのことは出来るみたいや。アンタは油断する癖あるから気ぃつけなアカンよ」

「お、おう! 任せてや!!!」


 あ、あれ? 確か本山の仕掛けの『無間方処の咒法』って、半径500mぐらい範囲あらへんかったっけ?
 あんまり空中戦はやったことないんやけど、大丈夫やろか?












━━━━━ 古菲 ━━━━━



 …………これが京都アルかぁ。京都駅は麻帆良みたいに都会だたのに、電車とバスでちょっと移動しただけでこんな山になるとは…………。
 私の故郷をどこか思い出すアルね。あそこも古さだけだったら京都にも負けないアルし。


「ここが炫昆神社ですか。伏見稲荷大社に似てるですね」

「千本鳥居だね~」

「ここから境内まで少し歩きます。上り坂ですが一応舗装されていますし、途中で休憩所もありますので大丈夫ですよ」

「…………そりゃありがたい。今日は新幹線に電車にバスと、乗り物に乗りっぱなしで疲れてるからな」

「長谷川は運動不足アルね」

「お前らと一緒にすんな」


 いや、確かに私達は鍛えてるし、本屋達も図書館探検部の活動で平気みたいだけど、長谷川の運動不足は致命的アルよ。
 というか運動不足よりも、座りぱなしによる腰痛の方が辛そうアルね?


「大丈夫ですか、長谷川さん? 何でしたらおんぶしましょうか?」

「…………いくら魔法使いといっても、さすがに10歳の子供におんぶしてもらうような真似は出来ないです」

「ネ、ネギ! 私は疲れてしまったぞ!!!」

「ちょっと、エヴァちゃん抜け駆け!? ネギ! 私も!!!」

「え!? えええっ!? ネギ先生せんせー、私も…………その…………」

「え? …………この状況で僕にどうしろと?」


 …………ネギ坊主も大変アルねぇ。

 アスナとエヴァにゃんも変わったし、本屋も好感度ランキング見てから積極的になてきた気がするアルよ。
 おそらくネギ坊主からは嫌われていないことがわかたし、むしろ好かれている方だとわかたから積極的になたアルね。





「というか、エヴァさんは戦力の1人なんですから、僕がおんぶするのはちょっと…………」

「…………そういえば、そんな話もあったな」

「忘れてたんですか?
 エヴァンジェリンさんも一応、木乃香お嬢さまの護衛ということで学園長から旅費が出ていますので、仕事はしていただかないと困るんですが…………」

「でもここまで安全に来れたんやから、もう平気とちゃうんかな?」

「そうですか? 僕的にここら辺が一番危険な場所だと思うんですけど?
 人目につかず、派手なことをしても関西呪術協会が揉み消してくれる。確かに関西呪術協会本山の近くですから、何かあっても本山から5分もあれば駆けつけてくれるでしょうが、逆に言えば5分で終わらせれば問題ありません。
 本来、誘拐などは時間をかけずにサッと終わらせるものです。それこそ車で擦れ違いざまに誘拐すれば一瞬で終わりますから」

「…………相変わらず子供らしくない考え方をするね、ネギ先生は。私達の横を通り過ぎる車を警戒していたのはそのためか」

「だから、何でネギ坊主はそんな考え方をするアルね? というか、何で誘拐の手口について知ってるネ?」

「ええ。しかも見た感じここからは脇道等は無い狭い一本道。これだと前後で挟まれたら逃げれません。僕だったらココで仕掛けますね。
 それと誘拐の手口については、ボディーガード派遣会社の教育資料でです」

「…………ふむ。確かにそう言われればそうでござるな。
 少しは用心した方がいいみたいでござる。せっかくここまで何も無しで来たんだから、最後まで気を抜かない方がいいでござるよ。
 そして古。もういろいろと諦めた方がいいでござるよ…………」

「フォーメーションを決めましょう。まず非戦闘員の明日菜さん、木乃香さん、宮崎さん、綾瀬さん、長谷川さんの5人を中心とします。
 もちろん刹那さんは木乃香さんの護衛を最優先。古菲さん、茶々丸さんは非戦闘員の皆さんの守りを優先して離れないように。
 そして僕が前衛、龍宮さんが中衛、エヴァさんは後衛で前を進みます。長瀬さんは最後尾について、後方を警戒してください。
 もし敵らしき人が来たら、明日菜さん達を囲んで障壁を張りますので、明日菜さん達はその場から動かないようにお願いします。
 それと神鳴流が敵にまわっている可能性があります。『斬魔剣・弐の太刀』使ってくる人の場合、龍宮さんは最優先でその人を妨害してください。その隙を突いて僕が速攻で潰します。
 あ、それと明日菜さん達は『契約執行シム・イプセ・パルス』は相手が手を出してくるまでしないでくださいね。手は相手側から出させますので」

「…………そこまで警戒する必要ないんじゃないかな~、と思うんだけどさ、ネギ?」

「念のためにです」


 やはりネギ坊主はどこかおかしいアルよ!?
 言てることは決して間違ていないはずのに、違和感しか感じないのはどういうことネ!?


「それに新幹線の中でも関西呪術協会らしき人がコチラの様子を伺っていたみたいですし…………」


 …………新幹線でのアレか。いきなりネギ坊主が中空に魔法で文字書いたから何かと思えば、どうやら監視がついているということだたアル。

 そういうことなら用心するのはわかるケド、それなら何故その人にミルクティーをプレゼントしたアルか?
 というより、その場で何とかした方が良かたのではないアルか?


 ……………………ああ、どうせ正当防衛ということにしときたいアルね。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「…………あ、アレが休憩所ですね。いったんここで休憩しましょう。自動販売機とかお手洗いもあるみたいですし。
 休憩所周辺に結界張りますけど、目の届かないところには行かないでくださいね。龍宮さん、長瀬さん、2人でまずお手洗いの中を調べてください。他の皆さんは安全を確認したあとにお願いします」

「了解」「承知したでござる」

「………………ようやく休憩所か。助かった…………」

「…………木乃香が小さい頃、山奥で育って刹那さん以外の友達がいなかったということがよくわかるわ」

「…………実を言うと、木乃香さんのお父さんが木乃香さんの面倒を学園長に丸投げしていたことをあまり良く思っていなかったのですが、これで納得出来たです。
 私が木乃香さんのお父さんの立場なら、次代の長云々という事情がなくても麻帆良に送るですよ」


 30分ぐらい歩いたけど、休憩所があることからこれで半分ぐらいアルかね? となると全部で5~6kmぐらい?
 確かにこんな山奥で子供独りは寂しいアルね。

 自動車は狭い石畳の上に鳥居が邪魔するから通れないし、そもそも入り口の階段で駄目ネ。
 自転車で坂道降りたら面白そうアルけど、登りが地獄ヨ。そもそも石畳のせいで上手く走れないだろうし、結局歩きしかないアル。





「到着予定時刻を遅めに関西呪術協会に伝えておいて正解でした。
 えーっと、それでは15分後に出発としましょうか。それでもさっきよりペースを少し落としても間に合いますから、ゆっくり休んでください。…………あ、もしかして自動販売機の缶にも何か仕込んでたり…………?
 飲む前にちょっと僕に貸してください。魔法で毒とか入っていないか調べます」


「……あの、ネギ先生。いくら何でも「刹那、もう気にするな」…………そうだな。やっぱりいいです。それでネギ先生の気が済むのなら……」

「自販機は120円か。こういうところなら、ぼったくり価格があると思ってたのに…………」

「あ~、富士山の自動販売機とか有名やね」

「あれは違うだろ。山に登って自販機の中身補充するための人件費が高いから、ああやって値段に反映にされるんだろ。
 ぼったくる気持ちも少なからずあるんだろうけどさ」

「…………ここの自動販売機の中身の補充って、誰やってるんだろ?」

「業者の人…………はここまで来たりしませんよね。…………もしかして関西呪術協会の人が?」

「…………イメージと大分かけ離れてるでござるなぁ」


 トイレも綺麗だし、人の手がちゃんと定期的に入っていそうネ。
 巫女さんが自動販売機の中身を補充する絵を想像したら変アルけど。

 しかしこの調子だったら、どうやって食料とか必要なものを本山に運び入れているアルかね?









「…………しかし、ここまで過剰に警戒しておいて、結局「何もありませんでした」となったら、とんだ骨折り損のくたびれ儲けだな。
 左右は竹林で見るところがないから別に構わんが…………」

「警戒するのは悪いことじゃないと思いますけど」

「それはそうなんだがなぁ。せっかくの京都旅行なのに…………」

「明日から京都観光出来るんだからいいじゃないですか」

「だけど、明日はネギは木乃香達についてるんだろ?
 …………そうだ、ネギ。あとで血を吸わせてくれ。明日の観光中に襲われたら困るからな。一応このネギがくれた指輪で力は少し取り戻してるが、それでも万全ではないからな」

「…………僕としては、少なくとも初日の今日だけは万全の状態でいたいんですけどね。夜襲でもされたりしたらコトですし。
 いくら『咸卦治癒マイティガード』で回復するといっても、一時的に弱体化するのは間違いないですから」

「うーん、ネギが言ってることはわかるんだが………………な、なら賭けをしないか?」

「? 賭けですか?」

「そうだ。私は“これから本山に着くまでに敵が襲ってこない”方に賭ける。つまり“これから本山に着くまでに敵が襲ってこなかったら”、血を吸わせろ。
 明日はどうせ本山に詰めっぱなしなんだろ。それなら本山の連中がいることだし、多少ネギの力が弱まっても平気なはずだ。
 それよりも私が観光に出たときに、魔力不足のせいで捕まって人質にでもされたら大変じゃないか?」


 …………観光に出なきゃいいのでは? と思うのは気のせいアルか?
 それに、“幻想空間ファンタズマゴリア”とやらでエヴァにゃんがネギ坊主と戦うのを観戦したガ、いくらそれより弱体化してるとはいえエヴァにゃんを人質にするのは無理だと思うアルよ。

 というか、ネギ坊主はホントに何なのアルか?
 あの戦い見たら、私が1000人いても勝てないアルよ。


「ハァ…………それですと、“これから本山に着くまでに敵が襲ってきたとしたら”どうするんですか?」

「フム、何が欲しい?」

「いや、特にないですけど」

「そうか。ならどーしよーかなー。……………………うん、そうだ。それなら“これからほんざんにつくまでにてきがおそってきたら”、きすしてやろう。
 …………正確には、“これから本山に着くまでに敵が襲ってきてそれを撃退したら”、キスしてやる」







 ガタタッ!!!


 ヒィッ!? ビックリしたアルよ!?
 アスナとコノカと本屋が急に立ち上がったアル!?





「…………エヴァちゃん、ちょっとトイレまで来てくれない?」


 だから、アスナのその無表情は怖いアルよ!!!


「フン! これは私とネギとの賭けだ。関係ない奴は黙ってろ」

「…………そもそも僕とエヴァさんがその賭けをする意味がないんですけど?」

「いやいや、違うぞ。“これから本山に着くまでに敵が襲ってこなかったら”、さっき言った通り私に危険がある。だが血を吸えば対抗策になる上に、私の食欲も満足出来る。
 そして“これから本山に着くまでに敵が襲ってきてそれを撃退したら”、初めての実戦を潜り抜けたネギへの褒美だ。お前はまだ模擬戦以外したことないだろう?
 お前の実力なら襲われてもやすやすと退けられるだろうが、褒美があった方が気合が出るだろう。
 私が賭けに勝ったら私が嬉しい。ネギが賭けに勝ったらネギが嬉しい。実に公平な賭けではないか。
 …………それとも何か? 私からの褒美のキスは嬉しくないとでも言うのか?」

「いえ、それは嬉しいですけど…………何か根本的に間違っていませんか?」

「べつにまちがっていないぞ。…………よし、これで賭けは成立だな!」

「…………そうなのかなぁ?」


 ソレってドッチに転んでも、結局はエヴァにゃんの勝ちアルよ。
 やはりネギ坊主はまだまだ子供アル。全然エヴァにゃんの思惑に気づいてなさそうヨ。


 …………しかし、エヴァにゃんの印象がこの1ヵ月でとても変わたアル。
 以前までは人間嫌いの気難しい女の子と思ていたガ、今のエヴァにゃんは同性の私から見ても、ただの可愛い恋する乙女アルよ。







「ちょ…………ちょっと待ったぁっ!!!」

「そ、そうですよ! ネギ先生せんせーは教師なんだから、生徒とキスなんて駄目ですよぉっ!」

「ムゥ~、エヴァちゃんそれはずるっこやで………………ネ、ネギ君てキスしたことあるん?」

「え? まあ、従姉に頬とか額にされたことならありますけど…………」


「ネ、ネギはファーストキスはまだなのか…………。いやぁ、私も最初は頬とか額にしてやろうかと思ったが、そういうことなら口にしてやろうかなぁ?」



 …………恋か。どういうものなのアルかね?
 私はまだ経験してないからわからないアル。

 結婚するなら私より強い男と決めていたから、考えてみればネギ坊主はその候補に相応しいアル。ネギ坊主のように強い男は初めてだし、その強さも腕力などの身体能力ではなく、技術で裏打ちされた強さアル。
 将来的に筋力で男には負けてしまうであろう、女の私が目指すに相応しい強さネ。

 精神的に年上のはずの私達より落ち着いているし、“心技体”のうち“心”と“技”の2つは、既に完成されていると言ても過言ではないアルよ。
 それに“体”の方は10歳だから仕方ないアル。おそらくもう数年もすれば素晴らしい身体になるアルよ。



「だ、駄目っ! だったら私も賭ける! …………本屋ちゃんは、教師と生徒だからしないのよね?」

「ええぇっ!? そんなぁ!?」

「負けちゃ駄目です、のどか!」

「あ~、やったらウチも賭けに参加するわ」

「…………あの、僕の意見は?」





 コノカまでも参加するアルか。コノカはいつもはネギ坊主に普通に接してるけど、誰かが抜け駆けしようとすると参加するアルな。
 前に言てた“誰かにとられちゃうのは嫌”という気持ちからアルかね?


 …………最近は中武研なんかで組み手しても、組み手相手をネギ坊主と比較してしまうようになたし、正直ネギ坊主のことは嫌いじゃないアル。

 でも、あの中に入るのは大変そうだし、そもそも古家の婿には来てくれなさそうネ。
 それにアルちゃんの好感度ランキングじゃないけど、ネギ坊主への私の想いは“恋愛”という感じじゃないアルよ。


 ………………真名や楓達もそうだろうガ、“諦め”とか“呆れ”とかの項目が好感度ランキングにあたら、多分8点以上はいくアルね。

 恋とはどういうものなのアルかねぇ? そして私はネギ坊主のことをどう思てるネ?





「んじゃ、ウチが勝ったら“ネギ君に和食の作り方を教えてあげる”え。
 あくまで家事の手伝いをしてもらうためやからな。ウチにメリットはちゃんとあるで」

「わ、私は“ネギ先生せんせーのオススメ恋愛小説のベスト10”を教えて下さい!」

「うーん、私はそうねぇ………………こ、今度“2人っきりの付きっ切りで勉強教えて”! 負けの場合は、全員エヴァちゃんと一緒の奴ね!!!」

「そうやなぁ。ウチを襲ってきた人たちから守ってくれるんやから、お礼するんは当然やね」

「は、はい! ネギ先生せんせーが頼りです!」

「…………僕の、意見…………」





 …………やはり、ネギ坊主は何だかんだ言ても子供アルね。あんな風に皆にオモチャにされるネギ坊主も新鮮アル。いつもは手玉に取ている方だから、あんなネギ坊主は初めて見たアルよ。
 ネギ坊主も年相応に子供っぽいところもあるネ。



「…………しかし、ネギ坊主があんなにタジタジになるのは初めて見たでござるな」

「初めて私と一緒に寝たときはあれより混乱してたけどなぁ」

「あー…………私の感じた印象だと、ネギ先生はちゃんと理性で計算して物事を進めるタイプだからな。あんな風にわけがわからないまま力押しされると弱いんじゃないか?
 理解出来ることには滅法強いけど、理解出来ないことにはとことん弱いタイプだと思う」

「…………随分とネギ先生のことをわかってるですね、長谷川さん」



 そう言われれば、確かにネギ坊主はそんな感じアルね。やはりネギ坊主も“心”の修行はまだまだアルか。
 それといつも手合わせでは“技”で挑んどいたガ、今度は力押しも試してみるアルかね?

 『咸卦法』とか使われたら駄目アルけど。











━━━━━ 天ヶ崎千草 ━━━━━



 …………何とか間に合った。本山の侵入者防止の仕掛けをいじって、展開しても本山に様子が伝わるのも遅くしたで。
 小太郎や月詠はんはこういう作業に向いとらんから、ウチ独りでやらなアカンかったわ。


「で、木乃香お嬢様達はどうや?」

「まだ休憩所で休憩中や。結界張られたから何喋ってるかまではわからんかったけど、今荷物まとめてるとこやから、もうすぐ出発するんやないかな」

「そか。『無間方処の咒法』は休憩所から300mほど進んだところの広場を中心に仕掛けたわ。
 …………新入りは?」

「フェイトはんなら木乃香お嬢様達の後ろ側に移動しました。計画通りに行動するらしいですー」

「…………あ、動いたで」

「よし、ならウチらも行くで。『無間方処の咒法』を仕掛けた広場で勝負や。
 それと最初は攻撃したりしたらアカンよ。新入りが木乃香お嬢様を攫うチャンスを作るんや」


 小太郎があの坊や、月詠はんが木乃香お嬢様の護衛の相手をする。
 つまりウチが残りを相手するんやけど、背の高い女2人と金髪のお嬢ちゃんとロボットの女の子と中華服の女の子の5人も相手にせなアカン。

 熊鬼と猿鬼を手強そうな背の高い女2人にあてて、残りを子ザル式神使って数で攻めるしかあらへんな。
 さすがにキツイと思うんで、新入りには早めに勝負してほしいわ。 



 木乃香お嬢様達がコッチに近づいてくる。もうすぐや。もうすぐ東の裏切り者共に一泡吹かせてやれるで。

 …………先頭を歩いてる坊やと目あっとるの気のせいかな?
 もしかして気づかれとる? 隠れてるのに?




 ………………あ! よ、よし、『無間方処の咒法』の範囲内には入ったわ。これでいつでも木乃香お嬢様達を閉じ込めれる。
 いくら気づかれないように術式をいじったとはいえ、展開した瞬間に本山の連中に気づかれる可能性はあるから、『無間方処の咒法』を展開するのは戦闘になる直前やな。


 …………それと、やっぱり坊やと目あっとるんやけど?





 ええい! 構わへん!!!
 今更こんなところで引けるかいな!!!



「行くで」

「おうよ!」

「了解ですー」



 隠れていた崖の上から3人で飛び降りる!
 新入りに気づかれないよう、ウチらは派手にいかんとな!!! 









「おおーっと、ちょっと待「「「「キターーーーーーッ!!!」」」」…………な!? 何なんやっ!?」


「……………………皆さん、何で賭けに負けて喜ぶんですか?」



 え!? 何でこの子達、襲われて喜んどるの!?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 原作でもネギ達が30分ぐらい走ってから、ようやくちびせつなが罠にかかったことを確信してましたので、実際に入り口から境内までは結構距離があると思います。
 関西呪術協会の本山というからには侵入者防止の仕掛けなどは当然あると思いますので、それを利用したことにします。
 そして『無間方処の咒法』は、原作では出ることは無理でも入ることは可能みたいですが、ココでは千草がいじったために出入りの両方とも不可能という術式にしています。
 ここら辺はオリジナル設定ですのであしからず。

 さて、ついに千草達がネギあくまと対峙します。
 千草達の運命は如何に!?


 そしてネギは前世も含めて20年間、ファーストキスはまだでした。



[32356] 第33話 京都編③ 直訴
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:09



━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



「「「………………………………」」」

「「「「「………………………………」」」」」

「「「………………………………」」」

「「「「「………………………………」」」」」

「…………お、おおーっと、ちょっと待っていただけますか?
 木乃香お嬢様にお目通りお願いしたいと思いまして…………」

「何者だ、貴様らっ!?」

「いや、もう無理だから」

「「うぐっ!?」」





 冷静なツッコミだ、長谷川。そして恥ずかしがるな、刹那。
 まあ、相手の気勢を削げたのは悪くないんだがな。

 敵は3人。変わった着物を着てる女が1人。中心に立っていることから彼女がリーダーだろう。そしてネギ先生ぐらいの男の子と私達ぐらいの女の子が1人。女の子は刀を持っていることから神鳴流か?
 数ではコチラが有利だが、コチラには守らなきゃいけない素人がいるからな。


 …………ってアレ? いつの間に近衛達の周りに障壁が?







『コチラからは手を出さないでくださいね。戦闘になるにしてもアチラから出させます。それと真ん中の人は新幹線で僕達の様子を探っていた人です。
 敵対意思はありそうですが、殺気までは感じません。あくまで予想ですが、無理矢理にでも木乃香さんを西に連れ戻したい人でしょう。残りの2人は傭兵みたいな感じですね。
 茶々丸さん、録画の方は大丈夫ですか?』

『問題ありません。ハイクオリティな映像をお約束します』

『数がコチラよりも少ないのに仕掛けてきたということは、腕に自信があるか彼女達は陽動の可能性があります。というか、僕達の後ろにもう1人隠れてますね。
 エヴァさんは障壁の周囲で警戒を、茶々丸さんは障壁内部で映像を撮りつつ木乃香さん達の護衛。無茶はしないでくださいね。この映像は重要な証拠になるのですから。
 他の人はまだ動かないでください』


 ネギ先生なのか…………障壁が張られたことに気づけなかった。
 しかも魔力の糸を使った有線念話?  相変わらずネギ先生は多芸だな。どうせ“便利そうだから”ということで開発したんだろうが…………。

 それに私達の後ろにもう一人? 私にも全然わからないんだが…………?

 そして、汚いなさすがネギ先生きたない。
 映像という証拠をバッチリ残しておいて、関西呪術協会との交渉材料にするつもりか?


『ええ、その通りです。これで木乃香さんは東西どちらでも選べることになるでしょうね~。
 東を選びたいときは「こんな人達がいる西になんか行きたくあらへん!」って言えばいいですし、西を選びたいときは「直訴してでもウチを西に戻したい人達の心意気に打たれたわ!」って言えばいいですから。
 ドッチにしても関西呪術協会の弱みをゲットです』


 …………人の心を読まないでくれ。そしてモノは言いようだな。







「「「………………………………」」」

「「「「「………………………………」」」」」

「…………つ、続けてええですか?」

「「「「「どうぞどうぞ」」」」」

「コホンッ! …………で、では改めまして、関西呪術協会の天ヶ崎千草と申します。この度は木乃香お嬢様にお願いがありまして、お目通りを願ったのです。
 危害を加えるつもりはありませんので、どうぞその障壁を解いていただけないですか?」

『…………木乃香さん。残りの2人も名乗るように言っていただけませんか。そうすれば障壁を解くと。
 解いたとしても、コンマ秒で再び張れますので安心してください』

『了解や』


 ああ、着々と証拠が集まっていく…………。
 どうしてこう腹黒いんだ、ネギ先生は?


「……………天ヶ崎千草さん、ですか。変わった着物やなぁ…………。
 それで他の2人はドチラさん? 名前も知らない人とは仲良くは出来ないえ」

「これは失礼しました。ホラ、2人も名乗りぃな」

「…………犬上小太郎や」

「私は神鳴流の月詠いいます~。よろしゅうに~」


 残り2人の名前もゲット。
 偽名の可能性もあるが、私達を侮っているようだし、おそらく本名なんだろうなぁ。







『●REC』

『…………あの着物って、京都では普通なんですかね?
 露出も多いし、何だか日本の女性のイメージが崩れていきます…………』

『ち、違いますよ、ネギ先生! 勘違いしちゃ駄目です!!!』

『そうやで、ネギ君! 天ヶ崎って人が変わった趣味を持ってるだけなんや!!!』

『…………もしかして、アレが関西呪術協会の正式な制服だったり?』

『ええぇっ!? それやったらウチ絶対西に戻らんわ!!!』


 刹那と近衛も大変だな。
 生まれ故郷が変な風に思われるのは嫌なんだろうが…………。

 それにネギ先生のせいで、近衛の中では関西呪術協会が変態集団になっていくぞ。











━━━━━ 天ヶ崎千草 ━━━━━



 やばいわ。お嬢様達の反応に呆気にとられてしもうたわ。障壁も張られてしもうたし、これだとアッチのペースやんか。
 何とかして新入りが木乃香お嬢様を攫う隙を作らな…………。



「(何か変な感じになってしもたな…………やっぱ千草姉ちゃんの着物って変だよな?)」

「(実を言うとウチもずっと変だと思ってましたわ~…………雇い主さんの趣味やから言わへんかったけど)」


 …………アンタラは黙っとき!
 特に月詠はん! アンタのゴスロリだって変やろ!?





「…………年の問題じゃないのかなぁ? それで木乃香さん、障壁どうします?」

「? 年がどうしたん、ネギ君?
 …………まあ、ちゃんと名乗ってくれたんだし、一度解いてええよ。それで? 天ヶ崎さんはウチに何の用?」

「お目通りを許していただきまして、おおきに。まずはお礼を言わせていただきます。
 聞くところによると、木乃香お嬢様は関西呪術協会や関東魔法協会など裏のことを知ってしまい、この旅行で東西ドチラを選ぶかをお決めになるとか…………。
 そこでウチは、是非とも関西呪術協会を選んでいただきたいと思って参上したんです」

「…………アンタと一緒のトコは選びたくないわ」



 えっ!? 思いっきり木乃香お嬢様の目が冷たいんやけど!? ウチ何かした!?
 それにあの坊や。ウチの心読んだ!? っていうか、誰が年やっ!?






「な、何か失礼をしましたでしょうか?」

「いや、失礼も何も…………何なん? 何なん、その着物?
 思いっきりネギ君に日本のこと勘違いされるやろ。日本の伝統壊してるのアンタやろ。それとも何? 関西呪術協会の人は皆、アンタと同じ格好してるん?」

「やっぱりあの着物って何か違いますよねー?
 それと表情と目線を見てたら、考えてることはだいたい予想はつきますよ」

「ネギ君は見たらアカン!
 勘違いしたらアカンで。普通の着物は前にウチが着てたような服で、あの変なお姉さんが着てるのは着物やないで!!!」

「そもそも木乃香お嬢様の前に出てくるのに、その露出は何なんだ、貴様!? 肩や胸元をそんなに曝け出して恥ずかしくないのか!?
 おい! 犬上小太郎といったな! スマンが学ランの上着を天ヶ崎千草に貸してやってくれ。その女は木乃香お嬢様やネギ先生の目に毒だ!!!」

「うえっ!? わ、わかったで………………ホレ、千草姉ちゃん」

「お、おおきに…………」


 …………アカン。何か泣きそうになってきてしもた。小太郎達にもボロクソに言われるし、坊やには簡単に考えてること予想されるし…………。
 ウチのファッションセンスってそんなに変なんか?

 完璧に木乃香お嬢様に嫌われてしもうたみたいやし、ホントどないしよ?









「まあ、落ち着いてください、木乃香さん。天ヶ崎さんがせっかく直訴に来たのだから、話ぐらいは聞いてあげていいんじゃないですか?
 …………でもアレ? 天ヶ崎さんは竹の棒とか持ってらっしゃいませんね?」


 ハ? 竹の棒?


「? 日本の直訴ってそうなんじゃないですか?

「直訴でござる! 直訴でござる!」

 って、竹の棒の先に直訴状を挟みこんでお殿様に差し出すのでは? いやぁ、天ヶ崎さんは凄いですねぇ。死を覚悟してまで直訴するなんて…………」

「はぁっ!? “死”!? 千草姉ちゃん死ぬんか!?」

「え? 違うんですか? 直訴する人は死罪を覚悟して行なうようなことTVの時代劇でやってましたけど?
 だから天ヶ崎さんは、この直訴に勝っても負けても死ぬしかないんじゃ…………?」

「そ、そういえばそんな話聞いた覚えあるわ。
 …………千草姉ちゃん、そこまで覚悟を決めてたんか」


「…………そうなんか。だったらウチも話ぐらいは聞いてあげなアカンな。
 死を覚悟してまで直訴するなんて、生半可な覚悟やないわ」


 何かどんどん大げさになっていっとる!?
 いや、確かに長の娘を誘拐なんかしたら死罪になってもおかしくはあらへんけど、この子達が言うとるのは絶対どこか間違うとるわ!!!

 っていうか、小太郎も信じてるんじゃないわ!!!







「………………でもなぁ、そもそもウチに関西呪術協会を選んでほしいと本当に思ってるかどうかわからんしなぁ。
 もしかしたら実は西に戻ってほしくない人で、ウチに危害を加えに来たのかもしれんし」

「そ、そんなことありません!
 ウチは木乃香お嬢様に、是非とも次代の長になってほしいと思っております!」

「………………修行も何もしてないウチが次代の長て…………他の次代の長候補の人達って、修行も何もしていないウチよりも駄目なんか?」

「え!? …………駄目、というワケやありまへんが、力不足は否めませんな。
 正直な話、最近の関西呪術協会は東に比べて落ち目です。関西呪術協会を立て直すためには、やはり木乃香お嬢様のお力が必要なんどす」

「………………ウチのような素人が長になっただけで、関西呪術協会を立て直せるとは思えへん。それこそ長となるための修行を積んできた人達の方が立派に組織をまとめれるんやないの?
 ウチは今まで普通の女子中学生やったから、帝王学なんか学んだことないで」

「いえいえ、細かいコトはウチら下々の者にお任せくださいませ。
 木乃香お嬢様は今は眠っているそのお力をウチらに貸していただければ、それだけで結構ですえ」

「…………黙って聞いていれば、天ヶ崎千草! どう考えても木乃香お嬢様を操り人形にする気ではないか!?」


 ちっ! うるさい小娘やな………………まあ、ウチもどう考えても、今の理由は苦しかったからしゃあないか。

 しかし、木乃香お嬢様はおっとりしてそうな方と思ってたのに、実際に話してみると頭が回るな。
 残念や。自発的に西に戻ってきてくれたら、素晴らしい長になれたやろうに…………。







「あの~、天ヶ崎千草さん。危害を加えるつもりは無いと言うのなら、僕達の後ろに隠れている人は誰ですか?
 伏兵を置くなんて、どう考えても危害を加えるつもり満々だと思うのですが?」

「な、何のことですか!?」


 新入りのことがバレとる!?
 新入りが隠れていることを知っているウチでさえも、新入りがどこに隠れているかわからへんのに!?


「だから表情と目線でわかりますって。僕達の後ろを探るように見たことが何度かありましたし、そもそも今の焦り方は自白しているのと同じです。
 というわけで、障壁を再び張らさせていただきます。そんな人の前に木乃香さんを無防備で立たせて置くわけにはいきません。
 そして茶々丸さん、学園長を通じて関西呪術協会に連絡を」

「うぐっ!?」

「へぇ~、お前、ネギって言ったな。やるやんか! 治癒術師と聞いてたから期待してへんかったけど、結構楽しめそうや!」

「千草はんは駄目どすなぁ~」



 …………もう、ウチ泣いてもええよね?
 どうせウチなんか……………………くそっ! もうこうなったら力ずくでいくしかないわ! 本山に連絡をされたらマズイ。

 …………よし! 『無間方処の咒法』発動や。これでもう逃げられへんで、坊や達!!!
 






「ええいっ! こうなったら力ずくで木乃香お嬢様を頂戴いたします!」

「大丈夫かい、千草さん?
 …………僕にはファッションセンスというものはわからないから、何とも言えないけど…………」

「気にせんといて…………って、何でコッチに来るんや、新入り!?」


 水たまりを媒体にした転移術で、コッチに新入りが来よった!?
 『無間方処の咒法』で閉じ込めてるし、素人が5人もいるから後ろに逃げられる心配はあらへんけど、ここはどう考えても挟み撃ちにするところやろ!?


「…………無理だよ。彼は僕のことに気づいていたから不意打ちは無理だし、お姫様達を守っている障壁は後方部がとても厚くなっている。前方部は薄いからワザとだろうね。
 千草さんと話している間にも、彼らの影で千草さん達から死角になっている障壁後方にトラップがどんどん仕掛けられていってたし…………。
 あそこまでやられると面倒だ。それならコッチから攻めた方がいい」

「気づかれちゃったか。魔法の隠蔽には自信があったんだけどなぁ。
 …………? ………………ッ!?」


 可愛い顔してホンマにけったいなことしまんなぁ、あの坊や。
 アレ? 新入りの顔みて驚いてるけど、何かあったんやろか? もしかして知り合いか?









「…………ちょっと聞いていいかな? 何で君がここにいる?」

「…………何で、とはどういうことだい、ネギ・スプリングフィールド君?
 僕は今まで君と会った覚えはないけど」

「ああ、僕も君と会ったことはないね。しかし、多分君は僕が知っている人…………イヤ、違うな。年齢があわない。少なくとも子供ではなかったから、弟とか息子?
 …………君は“アーウェルンクス”だろう?」


 た、確かに新入りの名前は“フェイト・アーウェルンクス”のはずや。
 何でこの坊やが新入りの名字を知ってるんや?


「天ヶ崎さんの表情を見る限り、当たりのようだね。もう一度聞く。何で君がここにいる?」


「…………君が僕の何を知っているか知らないけど、まぁ教えてあげよう。僕の名前はフェイト・アーウェルンクス。
 ここにいる理由は研修だよ。イスタンブールの魔法協会から日本の関西呪術協会へ、日本の呪術を学びにね」

「戯言をよくも。…………天ヶ崎さん! あなたは彼が何者か知っているんですか!?」

「な、何のことや!?」
















「彼は……………………アーウェルンクスは、


 


 見た目5~6歳の女の子誘拐して、その女の子を怪しげな儀式生贄にして世界を滅ぼそうとした、魔法世界全土に指名手配されている秘密結社の一員ですよ!!!


 今度は木乃香さんを何かの儀式の生贄にする気かっ!? そんなことはさせない! 木乃香さんは僕が守るっ!!!」
















 …………。

 ……………………。

 ………………………………な、





「「「「「「「「何ってーーーっ!?」」」」」」」」


「…………人聞きの悪い言い方をしないでくれないかい」


 女の子を生贄に!? 新入りも否定せんし!?
 何で新入りがこんなことに参加したのか不思議やったけど、木乃香お嬢様を生贄として狙っていたんか!?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 別ニ嘘ツイテナイデスヨ。
 チャント本当ノコトダケ言ッテマスヨ。

 部活巡りでのちうたんとのときを思い出していただければわかりますけど、ネギはなるべく嘘つかないようにしてますし、嘘をつくにしても必要なこと以外は嘘つかない、キルアみたいな嘘のつき方しますよ。
 そもそも本当のことだけ言ってるので、ネギが悪いわけじゃないですよ。



 …………ネギは悪くない。
 だって、ネギは悪くないんだからっ!



 木乃香の長い沈黙部分では、ネギからの念話を聞いています。
 これでいろいろと関西呪術協会にチクることを確保しました。



 それと“直訴”についてですが、実際は“直訴したから死刑”、ということは少なかったそうです。
 ちゃんと正当な理由があったら、もしくはその直訴に勝訴したら無罪放免だったらしいですね。詳しくはWikiで。

 …………もちろんネギは知っててやってますがね。
 ネギ君絶好調。



【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+『仮契約パクティオー』儀式の手伝い
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋
 関西呪術協会:変態集団疑惑 ← new!
 天ヶ崎千草:勝っても負けても“死”? ← new!
  “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”:“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア” ← new!



[32356] 第34話 京都編④ 正正堂堂!
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:09



━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━



 ついさっきネギ君達から連絡があった。茶々丸君経由であらかじめ決めておいた暗号が送られてきたのじゃ。

 “敵襲アリ”
 “敵は4名”
 “関西呪術協会に連絡求む”
 “場所は本山麓”
 “待ち伏せされた”
 “結界で隔離される可能性アリ”
 “今のところ怪我人ナシ”
 “戦闘の可能性大”
 “犯人はおそらく木乃香を無理矢理にでも西へ連れ戻したい一派”
 “殺気までは感じず”

 暗号を解読するとこんなところじゃな。
 解読といっても、数字とアルファベットの羅列を旅行前に渡された暗号表で照らし合わせるだけじゃったがの。

 …………ネギ君から念話傍受などの可能性があるからと暗号表を渡されたときは大袈裟と思ったが、実際に必要になるとは…………。
 ワシの見通しが甘かったということか。まさかこんな馬鹿なことを仕出かす奴らが実際におるとはの。







「ガンドルフィーニ君、君は用意しておいた長距離通信用の魔法符でネギ君との連絡を試み続けてくれ。ただし、戦闘中の可能性があるので邪魔にならないような出力で頼む。
 ワシは関西呪術協会にこのことを伝える」

「ハッ!」


 どうやらネギ君達は結界に閉じ込められたらしく、連絡がとれなくなってしもうた。
 やれやれ。ガンドルフィーニ君に無理言って学園長室に詰めてもらっていて助かったわい。ワシ1人じゃ手が足りんからの。



 prrrrr…………、prrrrr…………、prrrrr…………、prrrrr…………。



 …………何をしとるんじゃ、詠春は? せっかく詠春個人の携帯にかけているというのに。
 本来なら公式回線で関西呪術協会へ連絡しないといかんが、緊急事態だから仕方あるまい。今は一分一秒を争うのじゃ。

 ………………イヤ、向こうでも本山麓で結界を張られたとなると、気づかぬわけあるまい。それの対応に手間取っておるのか?







「…………心配ですね」

「なぁに、ネギ君なら大丈夫じゃろ。エヴァもついておることじゃしの。あの子達に勝てる者など、麻帆良でも数えるぐらい…………というか誰も勝てんよね?」

「た、確かにそうですが…………」

「…………フォ、フォッフォッフォ、安心せい。ネギ君ならきっとうまくやってくれる。
 あの子なら、むしろうまくやりすぎることの方が心配じゃな。フォッフォッ…………アレ? これってマジでやばいんじゃないかの!?」

「…………っ!? ソッチの方が心配ですねっ!?」


 マズイ! ネギ君が何を仕出かすか全然わからんぞ!?

 “正当防衛”という名目が十分すぎるほどにある!
 ネギ君なら木乃香達の安全を最優先として、尚且つ関西呪術協会に怒られないぐらいで事態を収めてくれるじゃろうが、ネギ君はその収め方の判断基準がギリギリ●●●●すぎる!
 きっとネギ君のことだから、関西呪術協会にとって“文句を言いたいけど、理由があるから文句は言えない”ギリギリレベルまでのことを仕出かすぞい!!!

 婿殿! 詠春! 早く電話に出ておくれ!!!
 本山が! 京都がピンチなんじゃ!!!








 お!? 繋がった!?







「お待たせしました、お義父さん」

「おお、詠春か!? ソチラでは事情を把握しとるかの!? 木乃香達が本山の麓付近で襲われているらしいのじゃ!」

「…………やはりそうでしたか。先ほど侵入者防止用の『無間方処の咒法』が勝手に発動したらしいです。おそらく邪魔が入らぬように犯人が利用したのでしょう」

「うむ! 実は少し前にネギ君達から連絡があっての。敵は4名。待ち伏せされていたらしく、連絡が来たときは怪我人はいないらしいが、今ではどうなのかわからん。おそらく『無間方処の咒法』のせいなのじゃろうが、ネギ君達と連絡がとれなくなっているのじゃ!
 そして犯人はおそらく木乃香を無理矢理にでも西へ連れ戻したい一派らしいが、殺気までは感じなかったらしいぞい!」

「詳細な情報をいただき、感謝します。
 今部下がありったけの結界破りの装備を用意しているところです」

「悠長にしている時間はないぞい!ネギ君が、ナギの息子が『無間方処の咒法』に閉じ込められておるのじゃ!!!」

「落ち着いてください、お義父さんっ!
 確かにネギ君のことは心配ですが、話に聞いているネギ君なら私達が到着するまでは持ちこたえてくれるでしょう。
 他に刹那君もいますし、お義父さんが依頼してくれた護衛がいるのでしょう? 逸る気持ちはわかりますが、こんなときだからこそ落ち着いて行動しないと…………」

「これが落ち着いていられるか!
 考えてもみい! ナギが『無間方処の咒法』に閉じ込められたとしたらどうする!?」

「は? ナギがですか?
 …………そうですね。あの単純馬鹿のことですから、力ずくで無理矢理破ろ………………お義父さん?」


 そうじゃろうなぁ。ナギなら力ずくで無理矢理破ろうとするじゃろうなぁ…………。
 そしてネギ君は、そのナギの…………


「…………ネギ君はやっぱりナギの息子なんじゃよ」

「…………いやいや、仮にも関西呪術協会本山の侵入者防止用の『無間方処の咒法』ですよ?
 そんな簡単に、10歳の子供が力ずくで破るなん「ドォーーーーーンッ!!!」……………………え?」







 ………………何、今の音?
 電話の向こうから爆発音が聞こえたんじゃけど?







「…………が、学園長、今ネギ先生と一瞬だけ連絡が取れました。
 “全員無事。ただし犯人除く。まだ手が離せない。コチラから連絡し直す”…………だそうです」





 ………………間に、合わなかった?
 え? 犯人生きてるよね? いくら何でも木乃香達の前では殺人は犯さないよね?







「…………詠春?」


「すいません。今すぐ私も現場に向かいます。
 ネギ君達の無事を確認し次第、コチラからあらためてかけ直「ピーポー!ピーポー!ピーポー!」って、何で本山でパトカーのサイレン音が!?」

「………………明らかにネギ君じゃなぁ」


「はぁっ!? …………と、とりあえず現場に向かいます! それでは失礼!!!」





 ………………どーせ、アレじゃろ? 一般人に聞かれたとしても、問題ない警戒音だからじゃろ?
 あんなもん本山の麓で鳴り響かせたら、本山から術者がすっ飛んでくるじゃろうからな。

 …………う、また胃が痛くなってきた。胃薬を飲まんと。





「学園長、水を持ってきます…………それと私にも胃薬をください」

「…………すまんの。好きなだけ飲むとええ」


 …………明日はガンドルフィーニ君を休ませんといかんな。代わりに他の先生を呼ばんと。

 念のため、明日は2~3人来てもらおうか。
 ………………道連れは多い方がええしのぉ。フォッフォッフォ。












━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



「生きている人、いますかー?」





 ………………さ、参道が…………鳥居が…………ネギ先生、いくら何でも今のはオーバーキルでしょう?


 ネギ先生がとった行動はこうだ。

 まず、アーウェルンクスという白髪の少年に敵味方全員の注目が集まった瞬間、ネギ先生を含めた私達全員を障壁で防御する。
 そして次に鳥居もスッポリ覆うぐらいの回廊状の結界で、『無間方処の咒法』範囲内の参道を全て覆う。これは敵を逃がさないためだ。

 ここで奴らもネギ先生のしていることに気づいた。
 しかし障壁があった上、ネギ先生得意の高速詠唱による魔法の前に妨害が間に合うはずもなく、私達を防御している障壁の外、つまり奴らを閉じ込めている結界内でネギ先生の攻撃魔法が放たれた。

 奴らに向かって放たれた『雷の暴風』は『無間方処の咒法』のせいで、威力がなくなるまでに10周はループしてたぞ。
 しかもネギ先生が張った障壁と『雷の暴風』はおそらく特殊な術式にしていたんだろうなぁ。私達を守っていた障壁にぶつかって『雷の暴風』の威力が減衰するようなこともなかったし。


 …………あ、向こうの空間に光の亀裂が見えてる。『無間方処の咒法』の術の基点は、壊れた鳥居のどれかにあったのかな?



 っ!? じゃあ、威力がなくなって攻撃魔法が消滅したんじゃなくて、『無間方処の咒法』の外に飛んでいったのか!?
 …………ハハハ。長になんて言おう、この惨状。


 っていうか、何? このさっきから「ピーポー!ピーポー!ピーポー!」と鳴ってるパトカーのサイレン音は?







「ふむ、さすがはアーウェルンクス。こんなんじゃ倒せないか。犬上小太郎君も無事か。
 けど、これで残り2人だ」

「…………やってくれたね、ネギ・スプリングフィールド君。
 有無を言わずに先制攻撃か。そんなところは君の父親に似てるね」

「ムッ、取り消してくれ。僕はあんな出鱈目でバグキャラな父親と似てるわけないじゃないか」

「ないない。それはない。っていうか、ナギよりお前の方が酷いわっ!!!」


 生きてる!? 良かった、無事だったんだな!
 敵の心配をしなきゃならないのが意味不明だが、木乃香お嬢様の前で死人を出すわけにはいかないからな!!!

 しかしアーウェルンクスという少年は無傷か。障壁で防御したらしいが…………何だ? あの曼荼羅のような障壁は? あれでネギ先生の攻撃を防いだのか?
 犬上小太郎はところどころ焦げているが、そこまで大きなダメージはないようだな。でも、もう疲れ果ててヘロヘロになってる。気を使い果たしたようだな…………あ、ボロボロになった護符を捨ててる。


 …………天ヶ崎千草と月詠は……焦げてる。真っ黒に。何か痙攣もしているぞ? 大丈夫か、アレ!?
 天ヶ崎千草は後衛の術者だし、月詠は速度重視の剣士で防御力が低そうだったからああなったみたいだな。

 天ヶ崎千草は咄嗟に式神で防御したようだったけど、3週目ぐらいのループで式神が全部やられてた。
 何というか見てて切なかった。前にテレビで見た、雪崩に飲み込まれる瞬間の人を見てる気分だった…………。

 月詠はいくら速度重視でも、閉じ込められて逃げ場がどこにもない状態だったらどうしようもなかったみたいだ。
 天ヶ崎千草の後ろに隠れたみたいだったけど、天ヶ崎千草が倒れたあとは為す術もなく攻撃魔法に飲み込まれた。





「ガンドルフィーニ先生と連絡がとれたことから、『無間方処の咒法』もちゃんと破れた。これで本山からの応援も直ぐに到着する。
 鳥居も随分壊したけど…………ま、しょうがなかったということで」

「明らかに駄目じゃねーかっ!?
 どーすんだよ、この惨状!?」

「お、落ち着いてください、長谷川さん!」


 それは私が一番突っ込みたかったですから…………。


「正当防衛、正当防衛。『無間方処の咒法』を破るにはこれが効果的だったんですよ。どうやら『無間方処の咒法』の術式の基点を鳥居に仕掛けていたみたいですから。
 それにあのアーウェルンクスは危険です。最低でも全力のエヴァさんと同等クラスと思って相手してください」


 やめて! そんな人達が本山の近くで戦わないで!!!
 本山が消滅しちゃうでしょう!!!


「…………ま、犯人をちゃんと確保して、言い訳出来るようにしときましょうか。
 僕1人でいいです。皆さんは防衛に専念してく…………早いな、もう応援が来た」

「…………逃げるよ、小太郎君」

「ま、待てや! ここまでコケにされておいて、このまま帰れっちゅーのか!?」

「無理だよ。君も限界だし、このままだと本山の応援と挟み撃ちにされる。
 僕が千草さんと月詠さんを「させないよ」…………転移魔法?」


 あ、天ヶ崎千草と月詠の下に魔法陣が現れたと思ったら、2人の姿が消えた。ネギ先生の転移魔法か。
 それに本山の方向からこちらに向かってくる人影が見える。

 …………さすがにあんなことしたら本山の術者も気づくか。











「ネ、ネギっ!? 2人をどこやったんや!?」

「ランダム転送だから知らない。転移先とかの指定すると時間かかるからね。この場から半径5km以内にはいるだろうから、運が良ければ逃げるときに会えるんじゃない?
 彼女達は、君達が逃げたあとにゆっくりと回収させてもらうよ」

「…………ということは、逃げてもいいということかな?」

「うん。いいよ」

「ちょっ!? ネギ先生!?」

「言いたいことはわかってます、刹那さん。しかし、さっきも言った通りアーウェルンクスは危険です。これ以上、木乃香さん達非戦闘員がいる状況で戦うのは避けたいです。追撃は関西呪術協会の人達にお任せしましょう。
 “ょぅι゛ょ誘拐犯”を野に放すのは心苦しいですが、ここは安全策をとるべきです」

「…………お言葉に甘えさせてもらうよ。行こう、小太郎君。
 それとその“幼女誘拐犯”というのはやめてくれないかい」

「チィッ…………ネギっ!!! この借りは絶対返すからなっ!!!」







 …………とりあえず危険は去った、のか?

 あの2人(しかも1人は“幼女誘拐犯”らしい)を逃がすのは不安だが、確かにこれ以上木乃香お嬢様を危険な目に晒すのは避けたい。
 しかもネギ先生が言った通り、あのアーウェルンクスとやらがエヴァンジェリンさんと同等クラスの力を持っていたとしたら、これ以上ここで戦うのはマズイ。
 いくらネギ先生でも木乃香お嬢様達を守りつつ戦うというのは難しいだろうし、引いてもらえるのなら引いてもらった方が良かっただろう。


 ………………でもこの惨状、本当に長に何て言おうか…………。





 …………まあ、過ぎ去ったことは仕方がない。
 とにかく今は木乃香お嬢様達を安全な本山にお連れするのを優先しよう。そのためにはまずこちらに向かってきてる本山からの応援と合流して…………。















「……………………追撃ついげきは関西呪術協会にお任せしますけど、ちぐらいはしておきますか。
 ラス・テル・マ・スキル・マギステル…………」




 っ!? やめてぇーーーっ! 本当にもうやめてください!!!
 これ以上、本山を滅茶苦茶にしないでぇーーーっ!!!




「…………走れよ 稲あっ!? ……………………チッ! 水たまりから転移された。昨日降った雨が仇となったか」


 …………よかった。あやうく『千の雷』が本山間近で放たれるところだった。
 さすがにあんな魔法撃たれたら、隠蔽工作が更に大変になったろうし…………。

 ああ、もう! 少しは自重してください、ネギ先生!!!












━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━



 いや、困ったね。まさかこんなことになるとは…………。



 僕が関西呪術協会に潜り込んだ目的は2つ。

 “麻帆良に封じられているであろう、の詳細な情報の入手”
 “東西の対立激化による、麻帆良のダメージ”

 …………だったんだけど、まさか“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子が邪魔するとは。
 千草さんからネギ君の名前を聞いたときはそれほど重要視していなかったけど、こうなったからにはネギ君に対する認識を改める必要があるみたいだ。



 が麻帆良に封印されていることは確実。
 それでも詳細な情報が手に入れれるなら手に入れたいから、近衛詠春あたりから情報を手に入れたかったのに…………。

 近衛詠春がのことを知らないということはないだろう。
 近衛詠春は“千の呪文の男サウザンドマスター”の盟友で、麻帆良のトップである近衛近右衛門の娘婿であり、関西呪術協会の長。
 何かあったときのために、少なからず事情は聞いているはずだ。


 それと麻帆良に封印されているを復活させるとき、麻帆良の力が強いとイレギュラーが発生するかもしれない。そのためにも出来うる限り、麻帆良の力は今のうちに削いでおきたかった。
 だから日本の東西の組織を争わせてみようかと思って、千草さんに協力をしたんだけど…………。



 …………いや、本当に困ったね。
 まさかネギ君が“完全なる世界ぼくたち”のことを知っていたなんて…………。






 さて、これからどうしようか?
 このまま尻尾を巻いて逃げる、というわけにもいかないね。


 これで“完全なる世界ぼくたち”がこの件に関わっていたことが知られたから、東西の対立激化は無理だ。もしかしたら逆に東西が融和して、麻帆良の力が増すかもしれない。
 そうなったらわざわざ僕が来た意味がなくなる。
 ここは一つ、もう少しばかり引っ掻き回すべきだね。

 最低でも西にダメージを与えて、麻帆良に味方出来る余裕をなくすぐらいは必要だ。
 となると、やはり千草さん達を助け、内紛扱いで西にダメージを与えた方がいいか。


 それとネギ・スプリングフィールド君についても、少し調べる必要がありそうだ。
 少し対峙したぐらいだけど、もしかしたら彼はイレギュラーになるかもしれない。
 せめてネギ君の実力がどのようなものかぐらいは調べよう。







 それにしても、




 見た目5~6歳の女の子誘拐して、その女の子を怪しげな儀式生贄にして世界を滅ぼそうとした、魔法世界全土に指名手配されている秘密結社の一員、か。




 …………別に嘘は言われてないけどさ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 フン! くだらんなあ~~。一対一の決闘なんてなあ~~~~っ。
 このネギの目的はあくまでも“平穏”! あくまでも“平穏”に生きること!!!

 小太郎君のような戦士になるつもりもなければ、ロマンチストでもない…………。
 どんな手をつかおうが…………最終的に…………勝てばよかろうなのだァァァァッ!!!





 ょぅι゛ょ誘拐についての反論? させるわけないじゃないですか。
 こういうのはレッテルを貼ったモン勝ちなんですよ。


 前哨戦はネギの勝ち。
 もちろんまだまだ終わりじゃないです。
 もう一波乱か二波乱はあります。

 というか、戦闘にすらなっていないですね。


 そしてフェイトが関西呪術協会に潜り込んだ理由はこのように致しました。
 他に理由が思いつきません…………。



 それと今回のことでの被害者リスト入りはありません。
 一応は戦闘という状況でしたので、被害者加害者の関係ではないからです………………ないですよね?



[32356] 第35話 京都編⑤ はじめてのチュウ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:10



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



「アーウェルンクスじゃと!?」

「はい、ネギ君からいただいた映像を確認したところと、私達が20年前に戦った本人ではないようですが…………確かに似ています。
 本人も否定していませんでしたし、おそらく間違いないかと…………」


 現在、詠春さんと一緒に学園長に報告中です。何とか一段落つきました。
 無事に本山に到着出来ましたし、天ヶ崎千草と月詠もちゃんと回収出来ました。まだ座敷牢で寝てますけどね。


 え? 2人はランダム転送だから場所わからなかったはずなんじゃって?


 別に嘘ついてませんよ。転移させる前に、彼女達の衣服に発信機を転移させておいたんです。そうすれば茶々丸さんが居場所を特定出来ますからね。
 まあ、衣服も大部分焼け焦げて、ちょっとあられもない姿になってましたけど。




「…………ムゥ、しかし何故に奴が関西呪術協会に…………」

「そこまではまだ…………主犯である天ヶ崎千草の目が覚めたら事情を聞くつもりなのですが…………」

「えーっと、僕の見立てでは明日までは起きれないでしょうねぇ。怪我は治しておきましたけど…………」


 ごめんなさい、ちょっとやりすぎました。
 『無間方処の咒法』で『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』があそこまでループしたのは予想外でした。
 小太郎君たちのことを考えて威力を弱めにしたのが逆に仇となったようです。

 それにフェイトも悪いんですよ。
 フェイトの曼荼羅障壁で『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』が減衰してましたし、もしかしたらそのフェイトの後ろに『無間方処の咒法』の基点があったのかもしれないのです。

 だいたい、あの『無間方処の咒法』を準備したのアッチですからね。
 僕はただ『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』を放っただけです。ループについては僕の責任じゃありません。


 だから、僕は悪くない。





「だ、大丈夫なのかね?
 スマンの、ネギ君が迷惑掛けたんじゃ…………?」

「ハハハ、確かに物損被害はかなりありましたし、ネギ君から先制攻撃を仕掛けたみたいですが、アーウェルンクス相手では仕方がないでしょう。
 しかも『無間方処の咒法』で閉じ込められ、戦闘が避けられない状況でしたから尚更です。何より木乃香を守るための行動でしたしね。犯人が力ずくで木乃香を攫おうとしていたのも確認出来てますし」

「そ、それなら良いのじゃが…………本当に何か問題はないのかね?」

「……………………まあ、あると言えばあるのですが…………」

「な、何がじゃ!?」

「いえ、映像で天ヶ崎千草が、

 “次代の長候補は修行も何もしていない木乃香よりも駄目”とか
 “次代の長候補は力不足”とか
 “最近の関西呪術協会は落ち目”とか、

 散々言いたいこと言ってまして。しかも“木乃香を次代の長にする目的”で行動していたことまでシッカリ言ってました。
 おかげで一緒に映像を見てた次代の長候補の身内達が激怒しちゃって、彼女が起きたら大変だなぁ…………と」

「ああ、確かにビキビキと青筋立ててらっしゃいましたよねぇ」

「………………うわぁ…………」

「逆に木乃香の株は上がりましたね。
 天ヶ崎千草とのやり取りも冷静にこなし、現在の自らの立場をちゃんと理解していることなど、それこそ一緒に見てた次代の長候補の身内達からも称賛の声が上がりましたよ」


 すいません。裏で糸引いてたの自分です。
 木乃香さんは腹黒くなってないですから安心してください。


「フォッフォッフォ、それは不幸中の幸いじゃの」

「ええ。これで木乃香が東西どちらを選んでも、特に問題は起きなさそうです。
 西を選んでも家督争いが起きなさそうなことが周知出来ましたし、東を選んでもこの件のおかげで文句は言われないでしょう。
 さすがにこんなことがあって“それでも西に来い”なんて言える人はいないはずです」

「おお! それは何よりじゃ!」

「今のところはこれぐらいですね。何かわかり次第、あらためて連絡します」

「ウム。それではネギ君やウチの生徒のことをよろしく頼むぞい。
 ネギ君もシッカリとな」

「はい、学園長」

「お任せください。それでは………………うん、改めてありがとうございます、ネギ君。木乃香を守ってくれて」

「いえいえ、コチラこそやむを得なかったとはいえ、参道とか鳥居とか壊してしまいまして申しわけありません」


 原作でも小太郎君とか結構壊してましたし、別に問題にされないと思いますがね。
 まぁ、社交辞令ということで謝っておきましょう。







「ハハハ、気にしなくていいですよ。
 君達に怪我がなくて何よりです」

「ありがとうございます。
 それではこれからしばらくの間、生徒と一緒にお世話になります」

「歓迎させていただきますよ。予定では、今日1日はゆっくりする予定でしたね。
 関西呪術協会の視点から見た裏についての説明は明日に。説明が長引かなければ明後日以降は京都観光と聞いていましたが…………」

「ええ…………しかし、アーウェルンクスが捕まっていない以上、迂闊にここから出るのは危険だと思います。
 かといって、これから麻帆良に戻ろうとしたら途中で襲撃されるかもしれませんし、何より皆さん移動で疲れています。せめて今日1日は休ませてあげたいですね」

「その方が良いでしょう。その間に何としてもアーウェルンクスを捕まえます…………と言いたいところなのですが、奴は強敵です。生半可な追っ手では返り討ちにあってしまうでしょう。
 奴に対抗出来そうな使い手は、関西呪術協会にも数えるぐらいしか…………」


 そうでしょうねぇ。
 僕は前世で結局会わなかったから今日で初めて会ったんですけど、確かに強いですね。今の僕ほどじゃありませんが、駄目親父クラスの力は確かに持ってます。
 それに僕なら勝てるとはいえ、それはあくまでタイマンでの話であって、素人5人を守りながらというのはつらいです。
 前世で僕がした修行は1対1か1対多ばっかりで、多対多は修行しませんでしたしねぇ。













 …………“ぼっち”とか言うなっ!!!













 あれ? 何か変な電波が…………?

 ま、最悪の場合は転移魔法で帰ればいいだけです。
 京都-麻帆良間を10人ぐらいで転移するのは疲れますが、出来ないわけじゃありません。
 エヴァさんの家に転移先となる魔法陣も用意してますしね。





「今日は休んで、明日は予定通り説明をしていただきながら様子を伺い、アーウェルンクスの出方を待つのがいいですかね。
 諦めて京都から逃げてくれれば、それに越したことはないですし」

「そうですね。まずは身体を休めることでしょう。
 …………生徒の皆さんは大丈夫ですか?」

「今のところは特に問題はなさそうです。
 心配してた人ちうたんは戦闘が怖かったというより、僕への突っ込みに疲れてたみたいですし…………というか、全員が僕のとった行動に疲れてたみたいです。特に刹那さん」

「ハ、ハハハ…………彼女にもお礼を言わなければなりませんね。よくぞ今まで木乃香を守り続けていてくれました。
 それでは私はこれから部下から現在までの状況の報告を受け、新たな指示を出さなければいけません。それが済み次第、皆さんに改めて挨拶に行きますので、もうしばらく休憩していてください。
 ネギ君は木乃香達のことをよろしくお願いします」

「はい、わかりました。確か木乃香さんが昔使っていた部屋でしたね。僕もそこに行きます」

「ええ、場所は部屋の外に待機している者に聞いてください。
 …………それにしても、ネギ君を見ているとナギを思い出しますね」

「そうなんですか? 確かに顔は父親似と言われますが…………」

「フフフ、顔は似ているけど、性格はナギと正反対…………のように感じますが、やはり根っこはナギと同じですよ」


 ゲェッ!? あの駄目親父と同じ!?
 勘弁してくださいよ、詠春さん…………。


「(え? 何で微妙そうな顔するの?)
 それにしても、よくアーウェルンクスのこと知っていましたね。魔法世界の雑誌なんかはコチラに持ち込めないはずになってますが…………」

「ま、そこは蛇の道は蛇、と言いますか。祖父にいろいろお願いしまして…………。
 “紅き翼アラルブラ”の資料を手に入れたとき、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”についてのことも載ってましたから」

「(…………何か変な感じが?)
 ああ、確かにそうですね。“紅き翼アラルブラ”と“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”は切っても切れない関係ですから、“紅き翼アラルブラ”について調べれると自然に彼らにも辿り着きますか。
 そういえばネギ君は、私の映っている映像を見て神鳴流を習得したと聞きましたが…………」

「え? …………えーっと何と言いますか。技を盗むような形になってしまいまして…………」

「ハハハ、まぁ、そういう形でなら仕方がないでしょう。こう言っては何ですが、盗まれた私の方が悪いわけですから。
 しかし、いったい誰がそんな映像を? “紅き翼アラルブラ”の映画や映像が魔法世界で出回っているのは知ってますが、技を盗めるほどの詳細な映像を誰が?」

「え? 誰も何も、“紅き翼アラルブラ”のジャック・ラカンさんですよ?」

「!? あの筋肉馬鹿ですかっ!?」

「え?」

「あっ!? いや、ゴホン! 失礼しました。…………そうか、あの馬鹿かぁ。あいつだったらあり得るな。
 それに“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”を見た目5~6歳の女の子誘拐して、その女の子を怪しげな儀式生贄にして世界を滅ぼそうとした、魔法世界全土に指名手配されている秘密結社なんて言うのはあの馬鹿ぐらいだな…………」


 ゴメン、筋肉達磨ラカンさん
 あなたのこと言い訳に利用させもらいました。

 …………ま、納得されるのも、自らの日頃の行いが悪かったということで。


 それと技の映像を撮ったのがラカンさんとは言いましたが、“幼女誘拐犯”云々についてはラカンさんの映像とは言ってませんけどね。
 別に勘違いされても構わないことですから放置しますけど。







「…………えーっと、それでは僕は木乃香さん達のところに行きますので」

「え? ええ、お願いします。後で顔を出しますし、夕食は皆さんとご一緒しましょう。
 それでは君、ネギ君を木乃香達のところへ…………」

「かしこまりました」







 さーて、本当にこれからどうしましょうねぇ。?

 これでフェイトがこれで諦めて帰ってくれるならそれで良いですし、本山を攻めてきたとしても関西呪術協会の人達に任せればいいですよね。
 僕が動くのは関西呪術協会の人達が全滅した後。それまでは木乃香さん達の護衛を最優先です。
完全なる世界コズモ・エンテレケイア”は人死にをなるべく出さないようにしてますから、気休め程度には安心できますしね。


 …………原作で、エヴァさんには平気で殺す攻撃してたようですが。
 ま、腹を貫かれるぐらいなら僕でも平気です。頭と心臓さえ無事なら『咸卦治癒マイティガード』で大丈夫ですし。


 ………………というか、『咸卦治癒マイティガード』発動中なら心臓潰されても平気かな? さすがに試したことないけど?
 というか、今回の転生ではまだ大怪我したことないですからね。せいぜいが腕を切り落とすぐらいで…………。
 腹を貫かれるまではしたことありませんから、どうなるかわかりませんね。



 …………だけどなーんかまだ忘れてることがあるような気がします。
 何だったかなぁ…………?











「ネギ先生、こちらが木乃香お嬢様のお部屋です」

「あ、ありがとうございます」

「はい。それではネギ先生の分のお茶をお持ちいたします」

「お願いします」



 …………改めて見ると、ここにいる人達って本当に巫女さんなんだよなぁ。前世のアスナさん、木乃香さん、刹那さん、マナさんの巫女服姿を思い出します。
 あれは眼福でした…………。

 まあ、いいや。
 過去を思い出すには、僕はまだ若いでしょう。









「失礼します。お待たせしました、皆さん。
 学園長への報告は無事に終わ………………おや、長谷川さん?」

「お帰り、ネギ君。
 そうなんや、千雨ちゃん寝てもうてな。疲れてたみたいやから、そっとしといてあげて」


 あらあら、長谷川さん横になって寝ちゃってます。移動の疲れがあるでしょうし、魔法の戦闘なんか見てしまったら精神的にも疲れるでしょうね。
 ファンタジーが嫌いな長谷川さんなら尚更です。

 …………でも、思ったより僕に対しては忌避感とか抱かれてないようなんですよねぇ。何ででしょ?
 魔法バレの仕方が仕方でしたから、原作と違って嫌われると思ってましたのに、意外と普通に付き合ってくれてます。
 仲良くしてくれるには越したことはないんですがね。





「お父様やおじいちゃんとの話し合いはどうやったの?」

「とりあえずは予定通りに日程を進めることにしますが、皆さんの意見を聞いてから最終的に判断します。
 逃げた“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”の足取りがわからない以上、麻帆良に帰るために今から本山の外へ出るのは危険です。
 関西呪術協会の人達が“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”を捕まえてくれるのを期待しましょう」

「確かにそうでしょうね。この関西呪術協会の本山なら安全でしょう」

「そっかぁ。せっかく里帰りしたのに、とんぼ返りになるんわ嫌やからそれがええわ。
 …………それじゃあ、ネギ君。一段楽したところで、約束守ろーか」





 ハ? 約束?
 僕、何か木乃香さんと約束してましたっけ?

 あれ? 何で明日菜さんと宮崎さんとエヴァさんが僕にジリジリ寄ってくるんですか?
 あれ? 何で綾瀬さんが襖を閉めて、茶々丸さんと刹那さんが僕の肩を押さえて、僕が逃げられないようにしてるんですか?












━━━━━ 近衛詠春 ━━━━━



 筋肉馬鹿ジャックの馬鹿野郎。
 ネギ君がどこかズレていることはお義父さんから聞いてましたが、まさかジャックの映像が原因じゃないだろうな?


 しかし、木乃香が魔法を知ってしまったと言われたときには、こんなことになるとは思いもしなかったですね。
 木乃香が襲われたことはよくありませんが、これで木乃香の自由にさせられることが出来る。瓢箪から駒です。

 それにしてもネギ君とはまだ少し話しただけですけど、本当に顔はナギの面影が強いですね。まぁ、性格はナギに似ずに礼儀正しくて真面目みたいですが。
 でも、根っこはナギに似ている。やはり親子なんですね。

 …………根っこもあまり似ててほしくなかったなぁ。




 さて、あの子達に改めて挨拶をしておきましょうか。
 夕食の時間にはまだ少し早いから、顔を出すぐらいですが。

 先ほどは事後処理があったので、ほとんど事務的なことしかネギ君とは話せませんでしたし、何より木乃香ともあまり話せてません。
 それと木乃香がお世話になっていることに対して、木乃香のお友達にお礼を言わねば。うん、父親らしいこともようやく出来ますね。

 それにしてもあの年頃の子供の成長は早い。小さかった木乃香があんなに大きくなって…………。
 お友達もたくさん出来ているようですし、やはり木乃香を麻帆良に送って正解でした。
 魔法バレしたせいで刹那君とも再び仲良くなれたらしいですし、良いタイミングで魔法のことを知ってもらえたようです。




 ………………考えてみれば、木乃香のお友達に挨拶するなんて初めてですね。
 刹那君のことは木乃香の友達になってくれる前から知ってましたし。

 参りました。何だか緊張してきましたね。木乃香に恥をかかせないようにビシッと。だけどお友達を怖がらせてもいけない。これは匙加減が難しい。
 世の中のお父さんは娘のお友達にどんな風に接しているのでしょうか?
 しかし木乃香の面倒を今まであまり見れなかったとはいえ、これでも私は木乃香の父。挨拶もしないままではいきません。


 さて、木乃香の部屋はここですね。久しぶりにこの部屋から人の気配が感じられます。
 木乃香が麻帆良に行ってからもこの部屋はちゃんといつでも使えるようにしておきましたが、ようやくそのことが実りましたね。





 ………………しかし、人の気配はしますが、やけに静かですね?


















「フハハハハハハハ!
 お前達がキスした場所は神楽坂明日菜が額、近衛木乃香が左頬、宮崎のどかが右頬だったよなぁ。
 だが、ネギの初めての唇をもらったのはお前達ではないッ! このエヴァンジェリンだーーーッ!!!」

「「「アアアァァーーーッ!?」」」

「さすがマスター。皆さんが出来ないことを平然とやってのけられます。
 そこに痺れませんし、憧れません」





 …………何事?
 今の叫びには木乃香の声も混じっていましたね?









「…………ロマンチックとはかけ離れたファーストキスでした。
 というか、エヴァさんいきなり何するんですか?」

「…………エ、エヴァちゃん、何してくれやがるのかしら?」

「ウチは頬にだったのに…………」

「ネ、ネギ先生せんせーの初めてが…………」

「…………フアァ…………うるさいなぁ。
 いったい何なんだよ?」

「…………い、いやぁ。エヴァにゃんが“ズキュゥゥゥン!!!”という感じで、ネギ坊主の唇を奪たアルよ」

「順番を最後にしたのはこういう狙いがあったんでござるなぁ…………」

「ネ、ネギ先生! この墨汁で口をすすぐです!!!」

「あ、ソレ木乃香お嬢様が習字の練習に使ってた8年ぐらい前の墨汁ですけど…………」

「もう固形化してるんじゃないのか?」



 え? 本当に何ですか、この状況?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 この嘴広鴻が、甘酸っぱくて思い出に残るようなはじめてのチュウなんぞネギにさせると思っていたのかァーーーーーッ!!!

 私は『読者を笑わせるため』にこの話を書いている!

 『読者に笑わせるため』、ただそれだけのためだ !
 単純なただひとつの理由だが それ以外はどうでもいいのだ!!!





 …………まぁ、このネタを予想してた人いたでしょうねぇ。特にDIO=エヴァは。


 ネギは参道とか鳥居とか壊しましたけど、別に文句は言われません。

「関西呪術協会の人が襲ってこなかったら、僕もモノ壊したりしなくてすんだんですけどねぇ」

 って言われたら反論できませんからね。
 まぁ、心の中では言われているかもしれませんが、これぐらいなら“文句を言いたいけど、理由があるから文句は言えない”レベルでしょう。


 そしてネギの中では、“腕を切り落とす”=“大怪我じゃない”となっているようです。
 やっぱりネギはどこかズレてます。




 あと木乃香みたいなお嬢様だったら、習字の練習は墨から磨りますかね?
 小学校の頃、一度墨から磨って墨汁作ったことありますけど、ああいうのって何故か磨っただけで何かもう満足しちゃうんですよねw
 良い墨と良い硯を使えば違うらしいですが、もう10年以上書道なんてやってないなぁ…………。



[32356] 第36話 京都編⑥ 地獄への扉
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:09



━━━━━ 犬上小太郎 ━━━━━



 くそっ! まんまとやられてしもうた!
 何とか俺らは逃げることが出来たけど、千草姉ちゃんと月詠は捕まってしもうてるやろな。

 今は隠れ家の一つで潜伏中や。
 どうせ追っ手が出てるやろうし、このまま計画を続けるか京都の外に逃げるか決めなアカンけど…………。






「これでしばらくは大丈夫だろう。周りを確認してきたけど追っ手の気配はないよ。
 …………これからどうする、犬上小太郎君?」

「決まってんやろ! 千草姉ちゃん達を助けてネギに一泡吹かせるんや! あそこまでコケにされて、このまま引き下がれるかい! それに千草姉ちゃんが処刑されるのを黙ってみているわけにはいかんやろ!!!
 …………新入り、お前はどうすんや? というか、ネギの言ってたことはホンマなんか? お前が日本に来た理由は、あの木乃香って姉ちゃんを手に入れるためなんか?」

「…………まあ、嘘はついてないね、彼は。とはいえ詳しくは話せないけど僕達にも言い分があるし、何より意味もなくそんなことを企んだわけじゃない。
 そして日本に来た理由は探し物があったからだよ。今回のことに乗ったのは麻帆良に対してダメージを与えるため。西洋魔術師側も一枚岩じゃないってことさ。別に僕達は女の子の誘拐を目的としているわけじゃない。別にあのお姫様が目的じゃないさ。
 …………いや、もちろん誘拐する必要があるなら誘拐するけど、それはあくまで手段であって目的じゃない。
 というわけで、もう少しの間協力させてもらうよ。僕は僕の目的のために君を利用する。君は君の目的のために僕を利用すればいいさ」


 敵の敵は味方っちゅーわけか。
 個人的にはコイツのことは気に食わんけど、俺1人で千草姉ちゃん達を助けれるとは思えへん。
 今は猫の手でも借りたい状況や。コイツが何企んでるかはわからへんけど、贅沢いってる場合やあらへん!









「ところで君は動けるのかい?
 ネギ君の攻撃から身を守るために、かなり力を消耗したようだけど…………」

「こんなん何ともあらへん…………って言いたいところやが、正直ヘトヘトや。
 治癒術師って聞いとったから油断したわ」

「そうかい…………なら千草さんの奪還は明日以降にしよう。今日はもう休むんだ京都中に網を張られているだろうし、本山も警戒しているだろうから今動くのはマズイ。
 それに明日以降なら、逃げた僕達を探すために人手を使うために逆に本山の守りは薄くなるかもしれない。いくら何でも僕達が本山に攻め入るなんか考えてないだろうからね。その隙をつかせてもらおう。
 それに千草さん達は重傷だった。今助けたとしても、逃げる途中で怪我が悪化して死んでしまったりしたら本末転倒だ。
 取調べのためにもある程度治療はされるだろうから、本山の人達に治療を任せよう」

「…………確かに今すぐ動くっちゅーのは無理やな。しかし、本山に攻め入るなんか出来るんか?」

「大丈夫。僕に任せてくれ」





 …………コイツ、無表情やけど何か怒ってへんか?
 “幼女誘拐犯”呼ばわりされたらしゃーないかもしれんけど、そんなん自業自得やない…………あ、そういえばネギが「弟とか息子?」っちゅーてたな。

 もしかしてコイツ自身が誘拐犯やなくて、親兄弟が誘拐犯やったんかな?
 親兄弟がそんなこと仕出かしたもんやから、結局コイツ自身もその一味と思われてしもうて迫害されてきたんやろか?
 迫害されたことから世の中全てを恨んでもうて、そして遂にはテロリストになったんか?


 …………そう考えれば、西洋魔術師に敵対しとる理由がわかるな。
 何せ自分を迫害してきた連中や。麻帆良にダメージを与えたいってのは復讐のためかい…………。



 くぅっ! きっとコイツも苦労してきたんやな!







「よし! わかったで! 一緒に千草姉ちゃん達を助けて、西洋魔術師に一泡吹かせてやろうやないかい!!!
 …………あ、でも千草姉ちゃん達は大丈夫やろか? 直訴に失敗してもうたし、もしかしたら即刻処刑なんてことにならへんかな?」

「僕が事前に勉強インストールしてきた日本の歴…………いや、何でもない。即刻処刑ということはないだろう。少なくとも背後関係を確認するために取り調べは行なうはずさ。
 千草さん達の怪我もあるし、治療や取調べで2~3日は大丈夫じゃないかな。
(そして無性に君を殴りたくなったのは何故だろう?)」

「…………そっか。そうやな。なら、今は身体を休めなアカンな」

「そうした方がいいよ。…………そういえば周囲を見てきたときに飲み物を買ったんだけど、君もいるかい?」

「おお、スマンな」





 結構気が利くやないか。
 無表情で何考えてるかわからんから不気味に思ってたけど、考えを改めなアカンな。










 え~と、何あるんやろ?
 これはコーヒー(無糖)でこれはコーヒー(微糖)、これもコーヒー(加糖)でこれがコーヒー(低糖)…………って、全部コーヒーやないかいっ!?













━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



「ハハハ、しかし木乃香も本当に大きくなりましたね。
 どうです? 今日は私の部屋で一緒に寝て、麻帆良での暮らしのことを聞かせてくれないですか?」

「ゴメン、お父様。皆と一緒の部屋で寝るわ。エヴァちゃんがネギ君に何仕出かすかわからんから見張っとかんと」

「…………そうですか」

「こ、木乃香お嬢様…………」





 ちっ、競争相手が減ると思ったのに…………。

 大きな部屋を一つ借りることが出来たから、皆で一緒に寝ようってことになったけど、ネギの隣に誰が寝るかはまだ決まっていない。木乃香がお父さんと一緒に寝てくれれば、その分ネギの横で寝れる確立が上がるのに…………。
 せっかく里帰りしたんだから、今日ぐらいお父さんと寝ればいいじゃない。


 え? 私はいつもネギと一緒に寝てるじゃないかって?


 細かいことはいいのよ!
 とりあえず、エヴァちゃんだけは絶対ネギの隣で寝させられないわ。何仕出かすかわかったもんじゃないもの!



 …………っていうか、ああ、もう!
 ネギのファーストキッスがぁぁ~~~っ!!!

 こんなことだったら寮のベッドで一緒に寝てる間にコッソリしておけばよかった…………。
 うう~、せっかくじゃんけんで勝って、おでこにだけど一番手でネギにキスしたのに、最後の最後でエヴァちゃんに引っ繰り返されたわ。


 ああ、もう! 飲まなきゃやってられないわよ!!!
 …………っていうか、これ本当にお酒?







「話には聞いていましたが、本当に日本の関東と関西では味付けが違いますね。
 特にこの野菜の炊き合わせなんかは麻帆良で食べれそうにない味です」

「はっはっは、そうかそうか。ネギはこういう味付けが好きなのか。なら今度ウチに来たときに作ってやろう、茶々丸がな。
 …………しかし、なんだな。無理矢理キスした私が言うのもアレだが、随分と平然としているな。ネギはファーストキスだったんじゃないのか?」

「いやぁ、確かに唇にキスされたときは驚きましたけどね。今は何だか自分でも不思議なくらいに落ち着いてます。突飛過ぎて現実感がない、というわけなんでしょうか? 自分でもよくわからないです。
(何だか最近は心が乱れることが本気でなくなってきたなぁ)」


「…………そ、そうなのか。
(くっ、失敗した! 惚れ薬の件でそろそろ目覚める頃合だと思っていたのだが、ネギはまだ色恋についてわかっていなかったみたいだな。やはり焦らずにもう少し待てばよかったか…………)」


 むぅ~、ネギはネギでキスされたことに全然動じていないみたいだし…………。
 10歳の子供ならそういうことがわからなくても仕方がないのかもしれないけど、キスしたんだから少しは私達のことを意識してくれてもいいのに。



 はぁ~~~、それにしてもネギの言った通りに本当に襲われるなんて思わなかったわ。やっぱりコッチの世界には危険なことがたくさんあるのね。
 ネギが大袈裟すぎるだけと思ってたけど、アレがコッチの世界での普通なのかしら?

 でも龍宮さん達も大袈裟に思ってたみたいだし、やっぱりネギが変わってるっぽいわね。



 …………そういえば、木乃香のお父さんの詠春さん。どこかで会ったことある気がするのは気のせいかしら?

 前に皆と一緒に魔法の世界についての説明をしてもらってから変なのよねぇ…………。
 ネギのお父さん達のことが書かれてる雑誌をネギに貸してもらったけど、写真で見たネギのお父さん達ともどこかで会った気がしたし、今日詠春さんの顔を実際に見たらますます会った気がしてきたのよね。

 夢で麻帆良じゃない風景を見たこともあるし…………。
 なーんか最近変なのよねぇ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 あ~、美味しかった。ネギも言ってたけど、確かに関西の味付けは関東の味付けとは違ったわね。
 関東の味付けもそれはそれで好きだけど、関西の味付けもいいわね。


「さて、皆さん。とりあえず今日はもう寝るだけなのですが、寝る前にこれからのことを話しあっておきましょうか」

「これからのこと? ネギ君の隣で寝るのは、ウチとのどかの2人やで?」

「ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いします。ネギ先生せんせー…………」

「頑張るですよ、のどか…………」

「…………いえ、そういうことではなくてですね…………」


 くっ、あのときチョキを出しておけば…………。
 でもいいわ。まだ明日があるもの。







「お前ら、少しは真面目にやれ。
 ネギ先生が言ってることは昼間に私達を…………というより、近衛を襲ってきた連中についてだろ?」

「その通りです、長谷川さん。襲ってきた4名のうち2名は既に捕縛済み。残りの2名も関西呪術協会の人達が追っているはずですが、正直捕まるとは思えません。
 犬上小太郎君の方は問題ないのですが、もう1人の白髪の少年。アーウェルンクスが強敵です。
 以前の魔法関係についての講義のときに話したと思いますが、僕の父であるナギ・スプリングフィールドは世界を救った英雄といわれています。
 で、何故世界を救ったと言われているかというと、アーウェルンクスが所属している“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”の企てを阻止したからなのです」


 そういえば、そんな話も聞いたわね。
 まさかそんな相手が木乃香を狙っているなんて…………。


「し、しかしネギ先生。何故その“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”とやらが関西呪術協会に?
 長である詠春様はネギ先生のお父上の盟友であり、“紅き翼アラルブラ”として“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”と戦った関係です。
 そんな詠春様がおられる関西呪術協会に、何故奴らは潜り込んできたのでしょう?」

「さあ? それは本人に聞いてみないとわからないです。
 …………龍宮さん、長瀬さん。外からこの部屋の様子を伺っている人はいませんよね?」

「? 何だい急に? …………特に怪しい気配はしないが」

「そうでござるな。この部屋は別に監視とかはされていないでござる」

「わかりました。ちょっと結界張って内緒話にしましょう。
 ああ、詠春さんから魔法の使用許可をいただいていますので問題はありません。…………アーウェルンクス対策の名目でですけど」


 …………ネギってそういうところちゃっかりしてるのよねぇ。“バレなきゃ犯罪じゃない”的な考え。
 カワイイ顔して意外とエグイ考えをするのよ。









「…………はい、結界張りましたので、好き勝手に喋っても大丈夫です。
 それでなんですけど、あの変な着物着ていたお姉さん。天ヶ崎千草はアーウェルンクスのこと…………名前はフェイトというらしいですが、フェイト・アーウェルンクスのことを本当にただの研修生と思っていたようです。それと彼女がこんな暴挙に出た訳は、彼女の両親が20年前の大戦で亡くなったのが大きな要因みたいです。
 実はフェイト・アーウェルンクスが所属している、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”があの大戦引き起こした原因なんですけどねぇ」

「………………おい、ネギ。確認するのも嫌なんだが、確認しておかなければならんことがある。
 “何故お前がそれを知っている?”」

「彼女達の怪我治すとき、ついでにコッソリと記憶を読んでおきました」

「やっぱりかっ!?」

「ちなみに千草って人は関西呪術協会の構成員だけあって、関西呪術協会の内部情報についての記憶も一緒に読んじゃいましたね。
 このことは関西呪術協会の人に言わないでくださいよ。いくらソッチの情報が主目的でなかったとはいえ、結果的に“巨○の選手が阪○球団の内部情報盗んだ”ようなものですから、バレたら流石にマズイです」

「ネ、ネギ先生…………何ということを…………」

「あ~…………だから結界張って内緒話にしたアルね」


 うわ、それは確かにマズイわ。
 木乃香のお父さんには絶対話せないわね。





「バレなきゃいいんですよ。バレなきゃ。
 僕の勘ですけど、多分アーウェルンクス…………名字長いですね。フェイトでいいや。フェイトはここに攻めてくると思います。少なくとも僕はフェイトが攻めてくるという前提で物事を進めようと思います。
 関西呪術協会の人も警戒してますから、今日のところは大丈夫だと思いますけどね。
 それでなんですが、あんな戦闘に巻き込まれるのは怖いから麻帆良に帰りたいっていう人はいますか? いたら転移魔法で麻帆良まで送りますけど」

「私としてはネギ先生の物の考え方が怖いんですけど…………まあ、いいや。
 ネギ先生個人としてはどうしたらいいと思うんですか? ネギ先生お得意の大袈裟すぎる危機管理意識で考えた意見をまず聞きたいんですが?」

「え? 僕の考え方のどこが怖いんですか、長谷川さん?
 それに結局襲われたんだから、僕の考えがあってたんじゃ…………」

「考え方があってたとしても、ネギ坊主の考え方は10歳の男の子の考え方じゃないからでござるよ…………」

「私の感じるネギ先生の考え方って、
 “石橋を叩いて確認して強度がOKでも、その隣に更に頑丈な鉄橋を架ける”って感じなんですが」

「え? ソレって石橋叩く意味ないんじゃ? 僕はそんな無駄なことしな…………アレ? …………まあ、いいです。僕の意見としましては、

 ① このまま今すぐ転移魔法で麻帆良に帰る。
 ② 明日の裏についての説明を受けてから麻帆良に帰る。
 ③ 予定通りに観光まで終わらせてから麻帆良に帰る。

 の大まかな3通りの選択肢があると思います」





 …………そうね、そんなところね。
 その3つだと、それぞれメリットデメリットがあるわね。


 ①のメリットは確実に安全なこと。
 デメリットはせっかく京都に来たのに夕飯だけ食べて帰らなきゃいけないこと。
 安全を考えたら間違いなく①だけど、いくら何でもそれだと勿体無いわねぇ。

 ②のメリットはこの旅行の一番の目的は達成できること。元々そのために来たんだしね。
 デメリットは今日、それと明日の説明が終わるまでは危険があること。この本山から出なければ安全とはいわれているけど、ネギの考えでは本山も襲われるかもしれないみたいだし。

 ③のメリットは観光ね。せっかく京都に来たんだから、少しぐらいは観光してみたいわ。
 デメリットは①~③の中では危険が一番あること。さすがに襲われる可能性があるのに観光なんかしている場合じゃないし。


 簡単にまとめるとこんな感じかしら?










「………………何よ、皆して私の顔見つめて?」

「…………神楽坂、お前本当にバカレンジャーじゃなくなったんだな?」

「どういう意味かしら、龍宮さん?」

「いや、だって…………なぁ?」

「(これでネギ先生に熱を上げていなければ、まともなクラスメイトが増えたのに…………)」

「…………まあ、明日菜さんは今まで勉強……というか脳みそを使うことをサボってましたからね。
 人間の身体構造上、筋肉だろうが脳みそだろうが使わなければサビ付いていくものですから」

「ネギ、あとで話があるから」

「うぅ……アスナが立派になって…………ウチもこれで安心出来るわ」

「よかったですね、木乃香お嬢様」


 何で木乃香が涙ぐんで喜ぶのよっ!? そんなに今までの私は酷かったわけ!?
 …………確かに酷かったかもしれないわね。





「そ、それでネギ先生としてはどれが良いと思うのですか!?」

「え? ああ、はい。そうですね。②と③の組み合わせが良いかと思います。
 具体的に言うと、明日の関西呪術協会からの説明は予定通りに受けます。せっかく京都に来たのですし、説明はコチラからお願いしたことですからね。
 関西呪術協会の構成員に襲われたので、僕達が帰ると言ったとしても問題はないと思いますが、あまりアチラも良い気分はしないでしょう。
 そして観光する予定の明後日の朝までに、関西呪術協会の人達がフェイト達を捕まえられなかった場合は観光を止めて麻帆良に帰り、捕まえることが出来た場合は予定通りに観光する、という感じです」

「…………ふむ、確かにそんなところでござるな」

「だな。せっかく京都まで来たんだから、このまま帰るのは勿体無い。かといって、あの連中が捕まっていないのに京都観光っていうのも不安だからな。
 …………うん、私はネギ先生の意見で良いと思うぞ」


 そうね。私もそれがいいと思うわ。
 あの人達が捕まってくれれば、それで安全になるんだし。





「…………反対意見はないようですね。じゃあ、これで行きましょう。今日はもう遅いので、明日の朝に詠春さんにそう伝えることにします。
 もし、それまでに気が変わって麻帆良に帰りたいという人がいたら、遠慮なく言ってくださいね」

「フン! なら私は明日から京都観光に出るぞ!!!
 せっかく京都に来たのに観光も出来ずに帰るなんてなったら、わざわざ京都に来た意味がないからな!!!」

「うーん、まぁエヴァさんなら大丈夫ですか。ちゃんと茶々丸さんも連れて行ってくださいよ。何かあったら携帯で僕を呼んでください。多分、僕が本山にいると念話は通じないでしょうから。
 …………それと観光に行くというなら、ちょっとエヴァさんにお願いがあるのですが…………」

「………………お前のお願いなら聞いてやろう、と言いたいところだが、まず内容を話せ。
 というか、その前に何か企んでいるようなその笑顔を止めてくれ」

「え? 別に僕はいつもこんな顔だと思いますけど?
 それでお願いというのは、天ヶ崎千草の記憶を読んだときに彼女が立てた今回の計画について読んだのですが、それに対する対策です。彼女を捕まえたとはいえ、フェイトがその計画を実行する可能性があるので、“念のため”にですが用意しておいた方がいいかな、と思いまして。
 お願いというのは、ある場所●●●●ある物●●●を用意しておいて欲しいんですよ」



 簡単なことです、お手は煩わせませんよ。と、ニコニコと笑いながらエヴァちゃんにお願いするネギ。 

 …………まーた何か企んでいるのね。
 ネギの笑顔は好きだけど、このちょっと怖い感じのときの笑顔はちょっと嫌だわ。





━━━━━ 後書き ━━━━━
 


 千草のための“天国への扉ヘブンズ・ドアー”ならぬ“地獄への扉ヘルズ・ドアー”が開かれるようです。
 記憶を読めるって便利ですよね。

 あと小太郎のフェイトへの好感度が上昇中。
 しかし、フェイトは何故か小太郎を殴りたくなったようですw


 そしてネギパーティーの中では“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”は“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”として認識されました。南無。



[32356] 第37話 京都編⑦ 逆効果
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:10



━━━━━ 瀬流彦 ━━━━━



 昨日の夜にいきなり学園長から連絡が来て、今日の朝から急な仕事があるということで学園長室に来たんだけど…………。



「…………現在の状況はこんなところじゃ。
 スマンが今日一日この部屋に詰めてもらうぞい。もちろん休日手当てはちゃんと出すからの」

「わ、私は今日、彼との約束が…………」

「フォッフォッフォ、すまないのぉ。やはり西に関することなら葛葉先生は外せないのじゃ。
 それに君が剣の稽古をつけた刹那君も京都に行っているのじゃぞ。心配じゃないのかね?」

「…………うぅ…………」

「ぼ、僕もせっかく春休みなんで、娘と出かける約束がありまして…………」

「フォッフォッフォ、明石教授の娘さんというと、ネギ君のクラスの明石裕奈君じゃったの。
 ネギ君に何かあったら娘さんも悲しむじゃろうなぁ…………」

「…………“ネギ君に何かあったら”じゃなくて、絶対に“ネギ君が何かしたら”ですよねぇ」




 …………まーたネギ先生が何か仕出かしたのか。

 いや、別にネギ先生から仕出かしたわけじゃないらしいんだけどね。でも一度お払い受けた方がいいんじゃないかな、あの子?
 麻帆良に来てからまだ2ヶ月ちょっとのはずなのに、何でこうまで騒動に巻き込まれるのかな?


 わかってるよ。別にネギ先生が悪いことしてるわけじゃないんだよ。

 ネギ先生に秘密にしておくはずの魔法関係者のことがバレたときだって、あれはエヴァンジェリンがおんぶされてるうちに寝ちゃったせいで、ネギ先生が彼女を集合場所に送り届けに来たからバレちゃったんだ。
 今一緒に京都に行っている生徒達への魔法バレだって、エヴァンジェリンが転移魔法で転移したところを目撃されて、記憶を消そうとして消せなかったからバレちゃったんだ。


 …………アレ? 両方ともエヴァンジェリンのせい?







 ま……まあ、今回の京都旅行でも最初は関西呪術協会のお家騒動に巻き込まれたのかと思ったら、実は魔法世界の指名手配犯が関わっているということだからね。

 別にネギ先生から積極的に騒動を起こしてるわけじゃないし、ネギ先生自体は真面目な良い子なんだよ。
 特に個性的な子が多い2-Aでちゃんと先生もやっていけてるし、万年学年最下位だった2-Aを学年トップにするという偉業まで達成しているぐらいなんだ。

 真面目で良い子なだけでなく、大人顔負けの能力持っているんだ。





 …………それでもあんまり関わりたくないなぁ。
 学園長みたく胃潰瘍で入院することになりかねないし、そもそもネギ先生なら1人でも大丈夫じゃない?









「というわけで、学園長。
 僕も彼女との約束があ「瀬流彦君、彼女いないじゃろ」……………………そうですよ、その通りですよ」


 やっぱり無理だよね、ハハハ…………。


 ま、冗談だけど。ネギ先生は大丈夫かもしれないけど、一緒にいる生徒達は大丈夫とは限らないからね。さすがにここで帰るわけにはいかないさ。
 遠く離れた麻帆良から出来ることはそんなにないだろうけど、それでも出来ることがあるならやらなきゃ…………。









「大丈夫じゃ。ネギ君ならシッカリやってくれるだろうて。ワシらはもしものときに備えておくだけじゃ。
 それに…………ちゃんと胃薬はたくさん用意してある。持ち帰りもOKじゃ」

「「「………………………………」」」





 …………やっぱり帰ったら駄目かな?
 くそ、高畑先生さえ出張中じゃなければ…………。












━━━━━ 宮崎のどか ━━━━━



 身体が軽い。
 こんな幸せな気持ちで目覚めるなんて初めて。
 もう何も怖くない。





「…………のどか。いくらネギ先生と手を繋いで寝れたからといって、妙なフラグを立てるのはやめるです」

「フラグ? 何のこと?」

「あれ? …………すいませんです。何か時空を超えて電波が届いたというか…………?」


 変なゆえ?
 どうかしたのかな?



 それと身体が軽いのは本当だよ。ネギ先生せんせーがせっかくだからということで、『咸卦治癒マイティガード』を発動した状態で手を繋いで寝てくれたから、本当に体の調子が良いの。
 こんなにスッキリとして目が覚めたのは久しぶり。長谷川さんや桜咲さんが凄いって言ってたのがよくわかった。

 でも残念だったのは、ネギ先生せんせーの手が心地良くてあっという間に寝ちゃったこと。
 布団に入ってネギ先生せんせーと手を繋げたときは、もう心臓がバクバク鳴って落ち着かなくなっちゃって、こんなんじゃ絶対眠れないと思ってたんだけど…………。
 ネギ先生せんせーの手から伝わってきた温もりで落ち着いて、いつの間にか寝ちゃってたの。


 もう少しネギ先生せんせーの手を繋いでいたかったなぁ。
 スッキリして目が覚めたら、ネギ先生せんせーは朝の運動しにいったらしくて布団にはいなかったし…………。

 でも、まだこの手にはネギ先生せんせーの手の感触が残っている。
 木乃香さんやアスナさんが“弾力があるけど固くなくて感触がシッカリとわかる身体”、って言ってたのがわかる手の感触。
 私がネギ先生せんせーの手をギュッと握り締めたら、ネギ先生せんせーも私の手を握り返してくれた…………。


 エヘヘ、ネギ先生せんせー…………。


 ネギ先生せんせーと手を繋ぐなんて初めて。
 初めて会った日にお姫様抱っこされたけど、あれは緊急事態だったし。





 …………いいなぁ、木乃香さんやアスナさん。毎日あんなことしてるなんて。
 しかもアスナさんは手を繋ぐだけじゃなくて、ネギ先生せんせーを抱きしめながら寝ているらしいし…………。


 ネ、ネギ先生せんせーを抱きしめて…………。
 ううぅ…………うらやましいけど、私には無理だよぉ。手を繋いで寝るだけでもいっぱいいっぱいだったのに、ネギ先生せんせーを抱きしめて寝るなんて、考えただけで恥ずかしくて死んじゃいそう。













「…………のどか、もうすぐ朝食です。
 いつまでも“頬に手を当ててイヤンイヤン”としていないで、お風呂に入りに行きましょう」

「え!? う、うん、そうだね」



 や、やだ、私ったら…………そうだね、朝食の前にお風呂に入って身支度を整えなきゃ。
 髪の毛を触ってみるとちょっと寝癖がついてるし、ネギ先生せんせーに会う前に何とかしなきゃ。




 …………あれ? よくよく考えると、私が起きる前にネギ先生せんせーが起きてたんだから、私の寝顔とかもネギ先生せんせーに見られちゃってたってこと?

 私、変な顔して寝たりしてないよね?





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「それではエヴァさん、いってらっしゃい。何かあったら連絡してくださいよ。
 …………それと昨夜お願いしたこと、よろしくお願いします」

「…………あのぐらいなら構わないがな。魔法が使える今の状態なら、大して手間ではないし。
 でも正直、そこまで準備する必要はないと思うぞ」

「あくまで“念のため”ですよ。無駄になったら無駄になったで、それは平和だったということなんですからいいんです」

「そういう慎重すぎる性格を褒めればいいのか、それとも大袈裟すぎると怒ればいいのか…………。
 …………まあ、今回の旅行ではネギの予想が尽く当たってたからな。最後までネギの直感を信じるのも良いだろう。
 じゃあ、行ってくる。行くぞ、茶々丸」

「はい、マスター。夕食は食べてから戻ることになると思いますので、マスターの分の夕食は結構です」


 エヴァさんが京都観光に行った。
 私達と違って、襲われたとしても対抗することが出来るらしいから大丈夫だとは思うんだけど、それでも心配だな…………。

 だってあの襲ってきた人って、過去に小さい女の子を誘拐した人なんだよね。それでこの私たちが住んでいる現実世界とは違うところの、魔法世界ってところで指名手配されている。

 エヴァさん本人の前で言ったら怒られるけど、エヴァさんはまるで絵本に出てくるようなお姫様みたいに小さくて可愛いから、あの誘拐犯さん達が狙うには絶好のターゲットなんじゃ…………。
 ネギ先生せんせーやくーふぇの話では、エヴァさんも凄く強いらしいんだけど、それでも心配なものは心配だなぁ。





「それでは僕はちょっと詠春さんと今後について話をしてきます。
 10時から予定通りに、関西呪術協会から見た裏の世界についての説明がありますので忘れないでくださいね」


 …………やっぱりネギ先生せんせーも、エヴァさんみたいに可愛らしい人が好きなのかな?
 アルちゃんが見せてくれた、ネギ先生せんせーからの好感度ランキングでもエヴァさんが一番“恋愛”が高かったし、エヴァさんの家でよくお話しているし。

 何よりネギ先生せんせーのファーストキスがエヴァさんに奪われちゃったし。
 私だって、ネギ先生せんせーの右頬にキスしたけど、さすがに唇になんか出来なかったよぉ…………。

 ネギ先生せんせーの好みのタイプって誰なんだろう?









 あ、そうだ!







「…………ね、ねぇ、アルちゃん?
 ネギ先生せんせーが私達のことどう思っているかの好感度ランキング、見せてもらってもいいかな?」

「え? 宮崎様、いきなり何ですか?」

「いいわね、それ。昨日のキスで、ネギが私達のことをどう思ったのか知りたいわ」

「あー、面白そうやなぁ。バレンタインのときに1回見たっきりやったから、この1ヶ月でどんな風にウチらへの想いが変わったか見てみたいわ」

「…………エヴァンジェリンさんがいないのですが、いいのでしょうか?」

「むしろ好都合なのです。不意打ちでネギ先生の唇を奪うような人は脅威なのです」

「お前ら、少しは自重しろ。
(…………くそ、何で私は昨日寝ちゃったんだよ。ネギ先生も可哀想に。年上の女の子に囲まれた状態で無理矢理唇を奪われたりして…………)」


 ごめんなさい、長谷川さん。
 こんな方法でネギ先生せんせーの気持ちを知るなんて、本当は悪いことだってわかってます。
 けど、それでもネギ先生せんせーの気持ちが知りたいんです!


「3月の初めに私が確認したときは、以前のものとそう違いはありませんでしたし…………まあ、問題ないですかね。昨日の皆さんからのキスのせいで、ネギお兄様が心の中では実は悩んでたりしてるかもしれませんし。
 ここにはいませんけど、エヴァンジェリン様の分もお出ししますか。えーっと……………はい、出ました。皆さんどうぞ」



 うぅ…………ネ、ネギ先生せんせーの気持ちは誰に向いてるんだろう?













        友 親 恋 愛 色  計
 明日菜   5  8  2  9  0  24
 木乃香   4  9  2  8  0  23
 エヴァ .    7  5  2  8  0  22
 刹那     7  5  3  7  0  22
 茶々丸   6  7  2  6  0  21
 のどか.    5  6  2  7  0  20
 千雨     5  6  3  6  0  20
 古菲     6  3  1  5  0  15
 楓.      6  5  0  4  0  15
 夕映     4  4  1  5  0  14
 マナ..    5  4  1  4  0  14











 …………。

 ……………………。

 ………………………………え?





「あれ? 私への“色欲”が0点になってる?」

「ああ、刹那様への“色欲”なら、3月の初めに見たときには0点になってましたよ。
 もう慣れてしまわれたんじゃないでしょうか?」

「それは喜んでいいのかな? 女としての魅力がないと言われているも同然では?
 …………いや、ネギ先生は10歳なのだからしょうがないのか?」

「そうですよ、ネギお兄様は10歳ですからね。
 でも、私が3月の初めに確認したときより大分変わってますね…………っていうか、あら?」





 うん、刹那さんの“色欲”が0点。これはいいの。
 …………これはいいんだけど。





「…………ちょっ!? ちょっとこれはど「落ち着け! ここは麻帆良じゃないから騒ぐな! 素数でも数えて心を落ち着かせろっ!!!」…………ごめんなさい。
 1、2、3、5、7…………」

「うん、ごめんな。千雨ちゃん。ウチもアスナみたいに叫びそうになったわ…………」

「…………いや、私も大声出して悪かった。とりあえず順番に考えていくぞ。
 宮崎、フリーズすんな。再起動しろ…………それと神楽坂、“1”は素数じゃないぞ」

「…………ハッ!?」





 ア、アレ? いけない、何してたんだっけ?
 …………そうそう、ネギ先生せんせーからの好感度ランキングを見てたんだよね。







「まずは一番簡単な“色欲”からだな。見事に全員が0点」

「それはそれで問題なんやけど、ネギ君が10歳ということ考えたらしょうがないなぁ」

「うん、それはいいのよ。ネギはそういうことがわからないだけなんだから、前のときに刹那さんに1点でもあった方がおかしいのよ」

「ネギ先生は“恥ずかしがられる”ということに慣れていなかったみたいですからね。
 故郷の従姉のお姉さんはもちろん、アスナさんや木乃香さんはネギ先生に対して恥ずかしがられていなかったようですし」

「慣れてしまたらこんなものアルか」

「アーニャお姉様は恥ずかしがられてましたけど、それは最初からでしたからね。
 ネギお兄様にとって、あのアーニャお姉様がデフォルトでしたし…………」


 うん。刹那さんだけを女の子として見てるわけじゃないことがわかった。
 むしろ全員がそういう風に女の子として見られていない、というのはショックだけど、ネギ先生せんせーは10歳だからしょうがないよね。

 それにキスのせいで、エヴァさんに対しての“色欲”が増えるなんてことはないみたい。
 それは良かったんだけど…………。





「あー…………次は“友愛”、“親愛”、“愛情”か? 全員増えてるといえば増えてるな」

「ふむ、見たかぎり“友愛”は拙者達、修行仲間が増えているでござるな」

「“親愛”、“愛情”は全員そこそこ増えているな。まあ、元から関係者だった私や刹那、エヴァンジェリン以外の全員と、隠し事しないで付き合えるというのが良かったのかな?
 いくら大人びているとはいえ、やはりネギ先生はまだ子供だ。秘密にしているということで、知らないうちにストレスが溜まってたんじゃないか?」

「そういえばネギが最近は伸び伸びとしてる感じがするわ。
 麻帆良に慣れてきたからだと思ってたけど、そういうこともあるのもしれないわね」

「確かに学校でのネギ先生と魔法関係でのネギ先生は違う感じがしますね。学校でのネギ先生はどこか“教師”という役柄を演じているような気がしますし…………」

「……だな。いくら修行とはいえ、考えてみりゃ10歳の子供には大変すぎだろ。
 私達に魔法バレしなくてもしばらく大丈夫だったかもしれないけど、数ヵ月後にはネギ先生が参ってたかもしれないな。そう考えたら私達に魔法バレしたのは、ネギ先生にとっては良かったんじゃないかな。
 …………それで“恋愛”…………なんだが…………」







 そうなの。何で“恋愛”が減ってるの?
 前のときは確かに私への“恋愛”が4点あったはずなのに、今は2点しかない。

 …………アスナさんや木乃香さん、エヴァさんも2点だし。





「な、何でなの!? 何で前のときより下がってるのよ!? 私は前のときは6点あったはずよ!!!」

「ウチは確か5点で、エヴァちゃんが一番高くて7点やったはずや。そんでのどかは4点。その“恋愛”の点数が高かったウチら4人が何で2点まで下がっとるん?
 …………それに何でせっちゃんと千雨ちゃんが3点って一番高いん?」

「ご、誤解です、木乃香お嬢様! 私はネギ先生と何もしておりません!!!」

「あー…………あれじゃないか? 昨日のキスが原因なんじゃないか?
 それと私と桜咲は“何もしてない”から、点数の下がり方が少なかったんじゃないのか?」


 え? 昨日のキスが原因?
 どういうこと? キスしたおかげで“恋愛”が上がるっていうのならわかるけど、下がるってどういうこと?





「いや、ネギ先生が「キスは従姉に頬とか額にされたことならある」ようなこと言ってただろ。そしてお前らが昨日キスした場所はその額と頬だったんだよな?
 お前らにキスされても従姉のお姉さんと同じように想われて、“恋愛”が上がらずにむしろ下がったんじゃねーのか?」

「…………ああ、それはありえるかもな。刹那への“色欲”がなくなったことからも言われていたように、ネギ先生はソッチ方面がまだ理解出来ていない。だったらキスされたとしても、“恋愛”ではなく“親愛”の方が上がるかもしれん。
 そもそも欧米人にとって、キスや抱擁は挨拶の一種でもあるからな。
 …………しかし、キスを唇にしたエヴァンジェリンも同様なのか?」

「な、何よそれ? キスは逆効果だったの? …………だ、だったら一緒にお風呂に入るぐらいしないと…………」

「アスナさん、それこそ駄目なのでは? きっと従姉のお姉さんとお風呂に入ったことを思い出されますよ」

「うわ、何やそれ? つまりスキンシップしたら“恋愛”がどんどん減ってくってことなんか?
 ううぅぅ…………“恋愛”が減るのは嫌やけど、スキンシップ出来ないっていうのはもっと嫌やなぁ」

「こ。こうなったら、のどか! ハルナが描いていた漫画に載っていた、し、しししし、しし舌を絡ませるキ「落ち着けぇっ!」あぶっ!?」


 スパーーーーーンッ! と良い音がしてゆえが千雨さんに叩かれた。

 っていうか、もしかして舌を絡ませるってディープでフレンチなキ、キキキ、キスのこと!?
 そんなこと出来るわけないよぉっ!!!







「そこまですりゃ確かに効果はあるかもしれないが、10歳児にそんなことしようとすんな。これでわかっただろう。ネギ先生はまだ子供なんだ。
 お前らの基準で進めようとしても、逆効果になることだってあるんだ。だからこれからはもう少し深く考えてから行動しろ」

「…………わかったわよ」

「そうやなぁ。ウチもそうやけど、特にアスナは最近ネギ君に依存してたからなぁ…………。
 やっぱりネギ君のこともちゃんと考えんとアカンわ」

「エヴァにゃんがいなくて良かったアルね。いたら絶対もっと凄い騒ぎになってたアル」

「確かにそうですね。エヴァンジェリンさんもネギ先生のことを露骨に狙っているですし、あの結果見てたらネギ先生に問い詰めに行きかねなかったです」





 ううぅ…………ネギ先生せんせーにまだ好きな人が出来ていないってことがわかったのはいいんだけど、これだと自信なくしちゃうなぁ。
 …………元から自信あるわけじゃないんだけど。

 で、でも大丈夫! まだ時間はあるんだし、この旅行を通してもっとネギ先生せんせーと仲良くなればいいんだから!!!





「しかし、千雨。アスナやコノカ達以外の面々も“恋愛”の点数が下がってるのはどういうことアルかね?」

「うーん、そうだなぁ…………“恋愛”が下がっただけと考えず、“友愛”、“親愛”、“愛情”に置き換わったと考えれば良いんじゃないか?
 総合点で見ると極端に下がったりしてないだろ」

「ああ、なるほど。そういう考えもあるですね」

「“恋愛”が別の想いへと変わったんか。
 女の子というよりも、家族や友達として強く想ってもらっとるということかな? それだったら悪い気はせぇへんけど」

「(木乃香お嬢様の道のりは険しそうだなぁ…………というか、木乃香お嬢様はネギ先生の事は本気なのだろうか?)」



















「というか、拙者への“恋愛”が0点ってどういうことでござるか? 拙者は完璧に“恋愛”対象外ということでござるか?
 …………何で皆目を逸らすのでござる? 別に参戦する気はござらんが、ここまで意識されていないというのは癪でござるな」





 …………えーっと……ネギ先生せんせーは10歳なんだからしょうがないんじゃないかな?
 それか“仲間”として強く想われるようになった…………とか?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 別にのどかがマミったりする予定はありませんのでご安心を。ただのネタです。…………ホントにネタですよ。いや、ホントホント。


 そしてネギは仙人への道を順調に歩んでいるようです。
 せっちゃんとの同衾、惚れ薬、はじめてのチュウなど、麻帆良に来てから心が乱れることがたくさんありましたが、それらさえも乗り越えてしまったのがまずかったみたいです。
 “色欲”も“恋愛”も昇華されて、“アガペー”へと到達しそうです。


 それとのどかが原作の修学旅行時期に比べて、大分積極的というかハッチャケてる感じがします。
 原作のどかの影響を受けちゃったのか…………というか原作ののどかって最初と最後で変わりすぎですよねw


 明日菜はいくらバカレンジャーを卒業したとはいえ、まだまだ勉強が足りません。
 期末テストは範囲が決まっていたので大躍進出来ましたが、さすがに1ヶ月ぐらいで平均的な中学生レベルまで学力を戻すのは無理です。









 …………本当にマミったりしませんからね。
 大事なことなので3回言いました。



[32356] 第38話 京都編⑧ 襲撃開始
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:11



━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━



「ホンマにお前の予想通りになったようやな。本山の守りは薄くなっとる。
 やっぱり俺らが逃げてると思って、街中に人数散らしてるようやな」

「しょうがないよ。残った僕達2人だけで本山に攻め入るなんて、普通の人なら考えもしないだろうからね」


 僕達は今、関西呪術協会本山の屋敷が見える位置まで接近している。周りが木だらけだから隠れる場所には困らない。
 屋敷の敷地内には警備が少しいるみたいだが障害にならない程度だ。僕がアーウェルンクスとわかっている以上、近衛詠春も生半可な追っ手では返り討ちに遭うとわかっているだろうからね。動かせる手錬の全員を追っ手に回したようだ。
 おかげで本山の守りは薄い。

 ま、逃げているはずの僕はこんな本山間近にいるわけだけどね。
 確か日本ではこういうことを、“灯台下暗し”って言うんだったかな?





「…………小太郎君、体調は大丈夫かい?」

「んー、7割ってとこやな。夜には全快になるで。狗族の治癒力なめんなや」

「そうかい。日没は18時頃。
 …………攻め入るのは21時にしようか。あちら側も夕食が終わって一息ついている頃だから、きっと気が緩んでいるだろう…………特にネギ・スプリングフィールド君」

「あ~、そやな。警備担当とかはプロやからそんな油断はせぇへんと思うけど、ネギは別にプロってわけやないからな。
 夕飯はどうせ一緒に来た姉ちゃん達と食うんやろうから、俺らを待ち構えてるなんてことはないやろ…………たぶん」


 それはそうだろう。彼は関西呪術協会の人間ではなく客人のようなものだから、本山内部で積極的な防衛体勢をとるなんてことは出来ないだろう。
 そんなことしたら、“関西呪術協会は信頼出来ない”と言っているようなものだ。
 今の彼の立場ではそのようなことは出来ないだろう。麻帆良の一員として西に来ているのだから、関西呪術協会というアウェイでは勝手なことはしないはずだ。



 …………きっとね。





「それよりどうやって千草姉ちゃん達を助けるんや?
 居場所は座敷牢やろうからわかるけど、気づかれないように千草姉ちゃん達を助け出すのは無理やで。どうすんのや?」

「大丈夫だよ。ちゃんと手は考えてある。
 本山に潜り込んだら君は千草さん達の救出に向かってくれ。その際にはこの護符を肌身離さず持っておいてほしい」

「護符?  …………何か変わった護符やな。お前の手作りか?
 いったい何する気なんや?」

「なに、大したことじゃないよ」







 ちょっとばかり、ネギ君の真似をしてみるだけだから。












━━━━━ 綾瀬夕映 ━━━━━



 …………疲れたです。
 学校の勉強よりも興味深い内容で純粋に楽しむことも出来ましたが、さすがに朝からぶっ通しで行なわれた関西呪術協会から見た裏の世界についての説明は疲れたです。
 大まかには麻帆良でネギ先生やエヴァさんから受けた説明と同じでしたが、それでも細かいところは違いましたね。

 さて、東西ドチラの道を選ぶかなんですが、やはり西洋魔術になるですね。というか、麻帆良から離れてまで東洋呪術を学ぶ理由がないと言ったところですか。
 のどかも同じく西洋魔術を選ぶようですし、離れ離れになることがなくて何よりなのです。


 …………まあ、のどかはネギ先生と離れたくないというのが一番なのでしょうが。








「ふぃ~、やっぱり寮の大浴場みたいな南国的なお風呂もいいけど、こういう木で出来てる和風のお風呂も新鮮で良いわよねぇ~」

「アハハ。オジサン臭いでぇ、アスナ」

「寮のお風呂も凄いけど、ここのお風呂も凄いよね~。
 昨日入ったときはホントにビックリしちゃった」

「さすがは関西呪術協会の本山といったところですか」

「…………いや、こんなところで関西呪術協会の本山であることを感心されても困るのですが」


 確かに良いお湯です。アスナさんの言う通り、この木の芳しい香りもリラックス出来ていいですね。麻帆良は全体的に洋風建築が多いですので、こういう和風の建物自体が新鮮です。
 今日の夕食も美味しかったですし、麻帆良では体験出来ないことを体験出来ました。

 …………これで京都観光も出来るのなら満点なのですが。





「残念ながらそれは無理でござるよ、夕映殿」

「そりゃそうだろ。あの“幼女誘拐犯”がまだ捕まってないんだからな。
 アイツラが京都から逃げたってことが判明すれば観光も出来るけど、さすがに京都の街中に潜伏されてたら観光なんて暢気に出来ないだろ」

「ま、明日の朝までに捕まるのを期待するんだな。私としてもせっかく京都に来れたので、有名処の甘味を食べてみたいとは思っていたのだが。
 …………せっかく下調べもして来たというのに」


 今日から観光に出ているエヴァさんがうらやましいです。このまま京都観光出来ずに帰ることになりそうですね。
 エヴァさんは夕食も何処かの料亭で食べてくるらしく、20時を過ぎた今でも戻ってきてません。
 おかげでネギ先生が私達に付きっ切りになってくれたので、むしろ観光に出てくれてありがとうございます、という感じなのですが。


 それにしても、ネギ先生には困ったです。
 あそこまで恋愛に興味がないというか、恋愛を理解出来ていなかったとは思ってもいなかったです。
 のどかのキスも逆効果になってしまったし、これからどうやってネギ先生を攻めればいいのでしょうか?


 当初、のどかはこの旅行でネギ先生に告白するつもりだったらしいのですが、朝にアルちゃんから見せてもらった好感度ランキングを見る限り、時期尚早と言わざるをえないです。
 となると、やはりまだ待つしかないですね。

 ネギ先生は10歳ですし、中学卒業までは丸一年あります。中学を卒業してからも魔法に関わっていればネギ先生との関わりも無くならないでしょうから、まだ時間はたくさんあるのです。
 焦らずにゆっくりとコトを進めていくほうがいいでしょう。







「ふっふっふ、今日は私がネギの隣で寝るもんね」

「むぅ~、せっかく2日連続でジャンケンに勝てたのに、今日はお父様と一緒に寝なきゃいけないやなんて…………。
 せっちゃん。せっちゃんがウチの代わりにネギ君の隣に寝て、アスナが変なことせんように見張っといてな」

「お任せください、木乃香お嬢様。
 …………それとせっかく里帰りなされたのですから、少しは親子の語らいを長となさった方がよろしいかと…………」

「お前らは麻帆良に帰ったらネギ先生といつでも寝れるだろう。旅行中ぐらい自重出来ないのか?
 というか、その話聞いたら親父さん泣くぞ、近衛」





 むぅ、のどかのライバルはアスナさん、木乃香さん、エヴァさんの3人。
 残念ながらのどかは他の人より一歩出遅れている感があります。

 家族として同じ部屋で暮らしているアスナさんと木乃香さん。同じ魔法使いとして関係を持っているエヴァさん。
 対するのどかのネギ先生との関係は、まだ教師と生徒という関係でしかありません。それにその教師と生徒という関係は、アスナさん達も同じなのです。
 このままではアスナさん達にリードを許し続けてしまうことになるですね。早く何とかしないと…………。


 やはりのどかがネギ先生の“特別”となるには、『仮契約パクティオー』ぐらいしないと駄目なのかもしれません。
 しかし、『仮契約パクティオー』するにはネギ先生と親密にならないといけないという問題もあります。



 …………あれ? ネギ先生と仲良くなるためには『仮契約パクティオー』が必要で、ネギ先生と『仮契約パクティオー』するにはネギ先生と仲良くならなければいけない?
 駄目じゃないですか、それ。





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 お風呂から上がってネギ先生を探してみると、どうやらネギ先生はお茶を片手に夜桜を見ているようでした。
 これはなかなか絵になる光景ですね。

 外国人の子供が浴衣をピシッと着て、お茶を片手に夜桜を見上げている。
 これでネギ先生の頭上に満月でも浮かんでいれば更に絵になったのでしょうが、残念ながら今日は三日月なのです。





「お帰りなさい、皆さん。夜になると一段と寒いですから、身体を冷やさないでくださいよ。残念ですが、このままですと明日は麻帆良に戻らなければいけなくなりそうです。
 …………新学期早々の修学旅行の行き先が京都でしたら、近いうちにまた来れたのですがね。
 さすがにいくら何でも、修学旅行の日まで“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”が京都に潜伏し続けているなんてことはないでしょうから」

「あー、そういえば修学旅行は結局ハワイになったのよね」

「ハワイはハワイで面白そうアル。
 京都ならいつでも来れるだろうから、夏休みにでもまた旅行に来ればいいアルよ」

「それもいいでござるな。
 せっかくの旅行が“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”のせいで台無しになったゆえに、夏休みにでもまたこの面子で旅行に行きたいでござるな」

「アハハ、それもいいですね」


 グッジョブです。くーふぇさん、楓さん。
 これで夏休みに再びネギ先生と旅行することが出来るです。


「木乃香さんは詠春さんのところに?
 それと刹那さんは僕達と一緒の部屋で寝るんですよね?」

「はい。いくら私が木乃香お嬢様の護衛とはいえ、さすがに久しぶりの親子水入らずの場面に立ち入る気はありません。
 長がいらっしゃるなら私が護衛する必要もないでしょうし」

「そうですか。それでは部屋に行きましょうか。皆さんがお風呂から上がったばかりなのに、いつまでも外にいるわけにもいきませんから」

「そうね、部屋に戻ってトランプでもして遊びましょう。それと今日は私がネギの隣で寝るからね~」

「…………あ、逆隣には私が寝ます。
 本来なら、ジャンケンで勝った木乃香お嬢様が寝る予定だったのですけど…………」

「はいはい、どうぞご自由に」


 …………しかし、ネギ先生は隣に女性が寝ても全然気にしないですね。今もアスナさんに抱きしめられていますけど平気にしているです。
 “10歳だから”といわれたらそれまでなのですが…………。



 それによく考えてみたら、刹那さんものどかのライバルになるのでしょうか?
 今は0点になったといえ、ネギ先生が刹那さんに対して“色欲”が1点あったことは事実です。それに寮でも木乃香さんと一緒に、ネギ先生を挟んで川の字で寝ている関係です。

 木乃香さんがネギ先生のことが好きなのはほぼ確実。
 といっても、まだ“男女”としてではなくて“家族”や“姉弟”としての“好き”の方が大きそうですが、それでも恋愛感情を抱いていないというわけじゃないはずです。それはキスの件からもわかります。

 そして刹那さんは木乃香さんのことをとても大切に思っているです。
 もし木乃香さんがネギ先生のことを本気で好きだということになれば、刹那さんは全力で木乃香さんのことを応援するでしょう。



 そこで怖いのが、木乃香さんも刹那さんのことをとても大切に思っているということです。刹那さんもネギ先生のことが好きだったとしたら…………。
 というか、実際に刹那さんのネギ先生を見る目が満更ではなさそうなのが怖いです。


 もし木乃香さんがネギ先生のことが本気で好きで、刹那さんもネギ先生のことが好きだということになったら、木乃香さんはいったいどういう反応をするでしょうか?

 “刹那さんにネギ先生のことを諦めるようにお願いする”?
 “刹那さんのことを考えて、木乃香さんがネギ先生のことを諦める”?

 ……………………それとも、“ネギ先生を2人で分け合いっこする”?




 木乃香さんの性格なら、“分け合いっこする”の可能性が一番高いのは私の気のせいなのでしょうか?

 そうすれば木乃香さんは、ネギ先生と刹那さんの2人といつまでも一緒にいることが出来るのです。
 木乃香さんは独占欲とかはあまりなさそうですし、“皆でいつまでも一緒にいれるならそれでええよ”みたいな考えに落ち着きそうなのです。
 刹那さんも木乃香さんのお願いなら、“分け合いっこ”を受け入れそうなのです…………むしろ望むところ?


 そ、そうなったら、木乃香さん&刹那さんタッグという強敵にのどか1人で立ち向かわなければいけなくなるです。
 …………マズイです。ピンチです。勝率は極めて低いと言わざるをえないです。



 よくよく考えれば、エヴァさんにも茶々丸さんという従者がいるのでした。
 茶々丸さんがガイノイドとはいえ、ネギ先生はそんなこと気にしなさそうですし、最近の茶々丸さんは本当に人間のようになってきているです。
 ネギ先生が来る前に比べたら、それこそ“アナタ誰?”と思うぐらいに…………。



 …………こ、こうなったら、私がのどかについてネギ先生を一緒に…………って、何考えているですか、私は!?
 私は別にネギ先生のことなんて…………。











「それでは何して遊びます?
 “ポーカー”? “大富豪”? “ダウト”? “七並べ”?」


 くっ! いつもニコニコと平然としているネギ先生の笑顔が今は憎いです。
 私がどれだけネギ先生の鈍感さで苦労していると思うんですか!?


「昨日やったときはネギの1人勝ちだったわよね。
 …………魔法なんて使ってないわよね? 前に見せてくれた幻術とか?」

「いや、私も疑いを持ったので魔眼で監視してたが、ネギ先生が幻術を使っていたということはなかった。
 身体強化の魔法で視力を強化していたということもなかったはずだ、が…………正直言って、ネギ先生のことだから何かズルしていたと思っている」

「…………結局“大富豪”でも平民以下にはなりませんでしたよね」

「っていうか、“ダウト”で2を最後まで残しておいて、前の人でダウトコールするのやめにするアルよ。
 それやられたら、簡単に勝たれて面白くないアル」

「ハッハッハ、バレなきゃイカサマじゃナイデス…………あれ?」

「…………ネギ先生?」



 ? おや、ネギ先生?
 いきなり部屋の外の方を向いてどうしたのですか?









「…………っ!?
 『契約執行システィス・メアエ・パルテース』 時間無制限 ネギの従者ミニストラ・ネギィ 全員!!!」

「ネギ先生、何をっ!?」



 くうっ!? ネ、ネギ先生の魔力が全身に!?
 旅行前に何度かこの魔力供給を練習したことがありますけど、このこそばゆい感じは慣れないです。

 それ以前にいきなり何を!?
 外に何か……………………って、障子の隙間から白い煙が!? 敵襲ですか!? まさか“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”が!?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 フェイト襲撃開始です。


 ちなみにネギはカードゲームのとき別にイカサマしていません。
 単純にカードをガンパイしていただけです。チートの身体能力マジパネェ。


 それと修学旅行はハワイになりましたが、描写することはないです。

 だって作者がハワイ行ったことないんだもん!!!
 …………というか、パスポートすら作ったことないや。作ったら会社の出張で中国とか韓国に逝かされるかもしれないんだよなぁ。



[32356] 第39話 京都編⑨ 本山壊滅
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:12



━━━━━ 犬上小太郎 ━━━━━



 …………フェイトも無茶しやがんなぁ。本山全体を石化させる煙で覆わせるなんて大胆なことしやがって。ネギの真似ってのはこのことかい。
 でもこれなら逃げ場もないし、本山にいた連中のほとんどを石に出来てるやろうな。というか、チラホラと石になってる奴らが見えとるし。

 暢気にしとる場合やあらへん。早う千草姉ちゃん達を助けださんとな。
 本山の外にいる連中が異変に気づいて駆けつけるまで、長く見積もっても30分。どうせ異常があったことは本山の連中が連絡してるやろうし、それまでに2人をつれて逃げ出さんと。

 お、ここが座敷牢や!







「助けに来たでっ!
 千草姉ちゃん、月詠! 無事…………じゃあらへんな、全然」







 2人とも座敷牢の中にちゃんといた。まだ処刑とかされてなくて何よりや。
 でも生きてるのなら何とかなるはずやけど…………2人とも石になっとるから本当に無事なのかはわからんな。

 さすがにフェイトだって、千草姉ちゃん達だけを石にしないなんて器用なことは出来んだろうから仕方ないか。
 詳しいことは石化治療してからじゃないとわからんが、パッと見た感じは怪我も治されてる。



 ま、ええわ。2人を回収できたらこんな所に用はあらへん。
 さっさと逃げ出さんとアカンけど…………千草姉ちゃん達が重いなぁ。石になってるからこれも仕方ないんやけど。

 俺じゃこの石化治せんし、このまま担いでいくしかあらへん。



 フェイトは陽動も兼ねて、遠距離からの魔法ではレジストしてそうな長や、まだ本山に残っているかもしれない腕利き連中を至近距離から石にしてくるみたいやけど、大丈夫やろか? 
 それとネギは俺の手でブン殴りたいから、出来れば残しておいて欲しいもんやで。


 それも千草姉ちゃん達を安全なところまで運んでからの話やな。
 とりあえずフェイトとの合流地点まで急ぐか。












━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



「全員無事ですね!? 僕と刹那さんで木乃香さんのところにいきます。皆さんはこの部屋から出ないでください! 龍宮さん達は明日菜さん達の護衛、それとエヴァさんと麻帆良に連絡を!
 『来れアデアット』! 龍宮さん、緊急事態ですので“白紙仮契約カードこれ”で今だけでいいので契約してください!」

「“お試し契約”か…………わかった、事態が事態だ。すまない、余計な手間をかけさせた。
 ネギ先生が私の周りに結界を張ってくれなければ私も石になっていたな」

「刹那さん、気を抑えて僕の魔力で身体強化してください。『咸卦法』が使えなければ気と魔力が反発します。
 皆さんに供給する魔力で対石化耐性をエンチャントしてますので、この煙の中でも石になったりしません」

「わ、わかりました、『契約執行シム・イプセ・パルス』!」


 まさかネギ先生の言った通り、本当に“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”が攻めてくるとは…………。
 外を見渡す限り、この石化させる煙が本山内に充満している。私達はネギ先生の魔力供給と結界で石になることは防げたが、本山の術者達は大多数が石化してしまっただろう。
 …………こんな大胆な手段で攻めてくるなんて。

 それにしても『仮契約パクティオー』の機能というのは本当に便利そうだ。ネギ先生の服が浴衣から一瞬でいつもの戦闘用の服に変わった。こういうときは楽で良さそうだなぁ。
 私がネギ先生と交わしている“お試し契約”では、『仮契約パクティオー』の機能である“衣装の登録”がないから、私は風呂上りの浴衣のままだ。
 それでもネギ先生が襲撃を警戒していたために、私もいつでも戦えるようにと下にサラシとスパッツをしていたので着替えなくても戦える。
 …………それでも動きづらいのは確かだが、今は着替える時間がない。


 そんなことより木乃香お嬢様を助けに行かないと!
 いくら長でもこの石化させる煙を自らと木乃香お嬢様2人分のレジストをしながら、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”を相手にするのは難しいだろう。
 あのフェイトがネギ先生やエヴァンジェリンさんと同等の力を持っていたとしたら尚更だ。早く援軍に行かないと。

 ネギ先生が皆を守る結界を部屋の中心に張る。これで皆のことは一安心だ。
 ここに置いていくのは心配だけど龍宮達がいるなら大丈夫だろうし、何よりこれから行くところの方が危険だ。







「気をつけてください、ネギ先生せんせー!」

「木乃香のことをよろしくお願いね!」

「はい、皆さんも気をつけて、勝手な行動をとらないように! 龍宮さん、長瀬さん、古菲さん、明日菜さん達をよろしくお願いします!
 行きますよ、刹那さん!」

「ネギ先生、長の部屋はコッチです!」

「了解でござる」

「アスナ達のことは任せるアルよ」











 私達が泊まっていた部屋から出て、長の部屋まで急ぐ。時折、石になった本山の術者がチラホラと目に付く。
 この様子だと、無事な者はほとんどいないだろう。

 …………くっ! 木乃香お嬢様は絶対に攫わせない!
 “ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”なんかに攫わせて、何かの儀式の生贄になんか絶対にさせるもんか!
 木乃香お嬢様は…………このちゃんは私が守る!!!





「次はドッチに!?」

「コチラです! この角を曲がれば長の部屋が…………長っ!?」

「ネ、ネギ君、刹那君…………」


 長の部屋まであと一歩といったところで長と廊下で出くわした。長も身体の半分近くが石化しており、その石化もどんどん広がっていっている。
 長が1人でここに居られるということは、木乃香お嬢様は…………。





「も、申し訳ない、2人とも。本山の守護結界をいささか過信していたようですね。平和な時代が長く続いたせいでしょうか。不意を食らってこの様です。
 襲撃されるかもしれないことをネギ君から指摘されていたというのに…………情けない」

「長っ! 木乃香お嬢様はっ!?」

「アーウェルンクスに連れ去られました。それほど上級ではないですが、彼は使い魔として悪魔を連れています。
 それと他にも犬上小太郎が来ているはずです。別行動で座敷牢の天ヶ崎千草達を助け出すようなことを言っていました。気をつけて…………。
 ネギ君なら、“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子である君なら何とか出来るかもしれません。学園長には…………君のことだからきっと連絡済ですね。
 すまない。木乃香を頼み……ます……」

「長…………」

「……………………?」







 ピシピシ、と音を立てて、長が完全に石化してしまった。不意をつかれたとはいえ、まさか長がこんなにたやすく破られるなんて…………。
 ネギ先生が言った通り、あの少年が全力のエヴァンジェリンさんと同等クラスの力を持っているというのは本当らしい。


 おのれ、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”!!!
 貴様らの思い通りなどさせるものか。木乃香お嬢様は絶対に助け出「刹那さん危ない!!!」って、何っ!?


 フェイト!? いつの間に私達の背後に!?
 クッ! ネギ先生が気づいて迎撃してくれなければ、今ので終わっていた!







「…………今のは高畑・T・タカミチの『居合い拳』?
 そういえば君は高畑・T・タカミチと同じく、麻帆良で教師をしているんだったね。その関係で『居合い拳』を教わったのかな?
 『居合い拳』といい今の僕のことに気づいたといい、やはりどうやら君はただの魔法使いじゃないようだ」

「いや、タカミチが見せてくれたのを自己流で修行しただけだよ。
 …………刹那さんは詠春さんを守ってください。石になってる状態で戦闘の巻き添えになったら、治せるものも治せなくなります」


 そうだ。ここには石化された長がいる。
 石化されているから当然動けないし、石になった身体は戦闘の余波でたやすく壊れてしまうかもしれない。石になってるだけなら後で治せるが、この状態で身体が壊れてしまうと“死”すらありえる。

 長だけじゃない。
 今の本山には石になった人達が他にも大勢いる以上、本山内で激しい戦闘は出来ない…………。







「それにしてもよく僕に気づいたね。気配は完璧に殺していたと思ったけど…………」

「詠春さんから得られた情報が多すぎる。君が悪魔を連れていたことだけならともかく、別行動の犬上小太郎君のことまで言っていたのは変だ。どう考えても君が故意にバラしたとしか考えられない。
 故意にバラしたとなると、君の行動がだいたい予想出来る。偽情報で混乱させようとしているか…………もしくは今のように情報を囮として不意打ちするか」

「…………君が本当に10歳なのか疑問に思うね」


 …………それは私も常々疑問に思っているけど、その10歳らしくないネギ先生のおかげで助かった。
 っていうか、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”でもやっぱりそう思うんだな。


「…………木乃香さんは君の悪魔が連れて逃げていて、君はその足止めか。
 それに詠春さんに言ったことが正しいなら、犬上小太郎君が座敷牢の2人を回収するための時間稼ぎでもあるのかな」

「まあね。隠してもわかるだろうから言うけどね。
 君もわかっているだろう。ここでは派手なことを出来ないということを。人質をとるようで卑怯だけど、君を甘く見る気はない」

「しかし、君だっていつまでもここにいるわけにはいかないだろう。
 既に麻帆良へは連絡済だ。それに本山の外に出て君達の捜索をしているはずの術者もこの事態に気づく」

「そんなことはわかってるよ。あくまで今の僕の目的は君の足止めだ。
 昨日のことといい今の反応といい、ハッキリ言って関西呪術協会の術者全員よりも君の方が警戒に値する」

「それはそれは。
 高く評価してくれてありがとう」





 …………駄目だ、動けない。この状態では少しでもどちらかに動きがあれば、そこから戦闘が始まる。
 戦闘が始まったら、私は長を担いで戦場から離れるしかない。
 悔しいことに私はフェイトの眼中にないようだ。彼はネギ先生のみを見ている。


 実際そうなのだろう。私はネギ先生との修行の際でも、ネギ先生に全力を出させたことはない。
 エヴァンジェリンさんと同等の力を持っているかもしれないフェイトにとって、私は塵に等しく警戒するにも値しないのだろう。

 だがそれなら逆に、私が長を連れて逃げても追撃はされないはずだ。もし追撃されたとしても、ネギ先生が何とかしてくれるはず…………。
 それにうまくいけば、ネギ先生がフェイトを抑えてくれているうちに私は木乃香お嬢様を連れ去ったという悪魔を追い、木乃香お嬢様を助け出すことも出来る。

 今私がしなければならないことを間違えるな。
 私は一人じゃない。私にはネギ先生がいる。




 ネギ先生との今までの修行のおかげで、お互いの動きや考えはだいたい把握出来ている。
 だからネギ先生が次に取る行動は…………と、そのとき、タァーーーンッ! という銃声が響き渡った。



 



「なっ!?」

「刹那さん!」

「はいっ、ネギ先生!」



 龍宮か!?
 ネギ先生のことだから、電話線ならぬ念話線を部屋に置いてきた皆と繋げたまま行動していたと思っていたけど、やはりその通りだったみたいだ。龍宮が援軍なら頼もしい。

 龍宮の放った銃弾は、フェイトが咄嗟に張った曼荼羅のような障壁に防がれてしまったが、それでもネギ先生しか見ていなかったフェイトにとっては不意打ちだったらしい。
 おかげでフェイトに隙が出来た。
 その隙をついて私は長を担いでこの場から離脱し、ネギ先生はフェイトに向かって突撃。 


 そしてキュキュキュン! と『居合い拳』が放たれる独特の音。
 対するフェイトは曼荼羅障壁を全開にしてネギ先生の『居合い拳』を受け止めようとするが、ネギ先生の『居合い拳』はその障壁をすり抜けて●●●●●フェイトの身体を撃つ! 





「…………クッ、馬鹿な? 僕の障壁をすり抜けて?」

「『居合い拳 弐の拳』ってとこかな。けんで出来るならけんでも出来るさ。僕相手に硬いだけの障壁なんか役に立たない!
 『断罪の剣エンシス・エクセクエンス』! 神鳴流奥義、『斬岩剣 弐の太刀』!」


 詠唱魔法もモビルスーツも使わないときの、ネギ先生得意の接近時での戦い方。
 威力は小さいけど障壁をすり抜け、弾速が速くて数が撃てる『居合い拳 弐の拳』を左手で放って相手の体勢を崩し、攻撃力を重視した右手の魔法の剣で大技を放つ。
 単純だが、障壁頼りの西洋魔術師には効果的な戦い方だ。

 …………私も何度あの戦い方に苦しめられたことやら。
 神鳴流は対妖怪用の大きい野太刀を扱う分、ああいう小回りの効く相手は苦手だ。


 ザンッ! とネギ先生の剣がフェイトの身体を真っ二つにする…………が、あれは幻像?
 本体じゃないのか!? いつの間に入れ替わっていた!?





「…………なるほど。これで君の力を少しは知ることが出来た。『居合い拳』に加えて『神鳴流』まで使うなんて、やはり君は危険だね。
 もう少し戦ってみたいところだけど、これで時間稼ぎも十分だし失礼させてもらうよ」

「待てっ!」



 真っ二つになったフェイトが水の塊となってパシャァ! っと地面に飛び散る。

 …………くそっ、逃げられた!
 確かに最初から時間稼ぎが目的だったらしいが…………。







「…………大丈夫かい、ネギ先生、刹那」

「大丈夫です。援護ありがとうございます、龍宮さん。
 刹那さん、詠春さんは?」

「…………無事です。相変わらず石になってますけど、肉体に欠損などはありません」

「それはよかったな。まさか念話線を結界と繋げていたとはな。説明する時間がなかったからしょうがないとはいえ、いきなり結界内にネギ先生の声が響いたときは驚いたよ。
 …………さて、これからどうする?」

「決まっている! 木乃香お嬢様を救い出す!」

「落ち着いてください、刹那さん。そんなに焦らなくても大丈夫です。奴らは木乃香さんを攫っていきましたが、そのまま木乃香さんを連れて雲隠れするということはないはずです。
 そうすると体勢を立て直した関西呪術協会と、理事の孫娘が旅行中に攫われた関東魔法協会の2つの組織から追われることになります。そんな最終的にジリ貧になることはしないでしょう。
 …………まあ、天ヶ崎千草の記憶を読んだおかげで、だいたい奴らの次の行動は予想出来てます。木乃香さんを攫った理由も。
 それに天ヶ崎千草と月詠の衣服に発信機を仕込んだ上に魔力マーキングもしておきましたので、居場所もだいたいわかります」

「…………そ、そうなんですか」

「…………よ、用意周到で何よりだ」


 …………ツッコミたい。フェイトと同じようにツッコミたい。
 もう気にしないでおくと決めたはずなのに、どうしても気になってしまう…………。





「何にせよ、奴らを倒すだけでなく、木乃香さんも無事に救出するということなら僕達3人だけでは手が足りません。
 他の人達にも手伝ってもらいましょう」

「そうだな。しかし、いくら奴らが逃げたからもう危険はないかもしれないといっても、神楽坂達のような非戦闘員を彼女達だけで今の本山に放っておくのはマズイ。煙は術者がいなくなったせいかどんどん薄れてきているが…………。
 古か楓のどちらか、いや…………古にはここに残ってもらって、念のために彼女達の護衛してもらった方がいいと思う」

「…………それは、確かに。
 となると私達4人。それともうすぐ応援に来てくれるエヴァンジェリンさんと茶々丸さんの6人で何とかしなければ…………」


 敵は4人。フェイト・アーウェルンクス、犬上小太郎、月詠、天ヶ崎千草。
 …………これなら何とかなるか?

 強敵のフェイトはネギ先生に抑えてもらい、犬上小太郎は楓。
 月詠は…………私だな。自分の手で木乃香お嬢様を救い出したいとは思うけど、それよりもまずは木乃香お嬢様の救出が最優先だ。
 神鳴流の相手は私がした方がいいだろう。

 天ヶ崎千草は龍宮に任せる。
 式神使いの天ヶ崎千草はもしかしたら切り札となりうる式神を用意しているかもしれないが、龍宮なら簡単には負けないだろう。
 そしてエヴァンジェリンさん達もそちらに回ってくれれば、誰か1人は手が空いて木乃香お嬢様を助け出すことが出来る!


 それにしても、こんなことになるなら体面なんか気にしないで、ネギ先生と木乃香お嬢様に“お試し契約”をしてもらっておけばよかったな。
 とはいえ、今更うだうだと考えている暇はない。まずは楓と合流して、それから奴らの追撃を…………。
























「え? アハハ、やだなぁ。
 他の人って言ったじゃないですか」





 …………え? ネギ先生?
 あの……ビーム・マグナムを取り出して何やってるんですか?

 え? 何で長に銃口を向けるんです?


 え? え!? えええぇぇっっっ!?
 ちょ、ちょっと待ってください!?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 おいッ!
 どこ狙ってやがんだよ、敵は“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”だぞッ!!

 おいッ!!


 やめろオォ~~~ッ!!!


 …………以上、せっちゃんの心の叫びでした。



 今回、オリジナル技が出ました。

 『居合い拳 弐の拳』

 そのまんまですね。単純ですが、普通になかなか厄介な技だと思います。



[32356] 第40話 京都編⑩ 追撃
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:12



━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━



 ぬ、ぬおおおぉぉっ…………今日はもう無事に終われると思っていたのに…………。
 瀬流彦君も葛葉先生も帰してしまったぞい。

 よりにもよって、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”のせいで関西呪術協会の本山が壊滅じゃと?
 しかも木乃香まで攫われてしもうている。


 急いで応援の手配をしないといかんな。こんなことだったらタカミチの出張を何としても延期させておけばよかったの。
 麻帆良から直接西洋魔術師を応援に向かわせるのは後々面倒なことになってしまうが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
 それと本山以外の関西呪術協会支部の連中にこのことを伝えねばならんの。

 まったく、年寄りをこんな遅くまで働かせるものじゃないぞい。







『学園長、聞こえますか!?』

「む、ネギ君かの?
 聞こえとるよ。大変なことになってしもうたの。何か状況に変化は?
 あいにく応援が到着するのは早くても明日になってからじゃぞ!」

『応援については了解しました。今から“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”の追撃に入ります。
 僕らが勝つにしろ負けるにしろ、明日には決着がついていると思います。もし明日になっても僕からの連絡がなかった場合、僕達が負けたと判断なさってください』

「…………相変わらずシビアじゃのぉ。
 そういうことは考えたくないが、責任者としてはそう判断せざるをえないじゃろうな。気をつけるんじゃぞ」

『はい! それとなんですが…………どこまでやっていいんですか●●●●●●●●●●●●●?』







 …………うわぁ…………。

 このセリフ、本来なら「10歳の子供が調子に乗るんじゃない!」とでも叱らんと駄目じゃが、ネギ君が調子に乗るわけないしの。
 わかってて言ってるのが末恐ろしい…………いや、末恐ろしいんじゃなくて、既に恐ろしいの…………。

 というか、何でこの子はこんな状況でも冷静なんじゃろ?





「………………程々にの。細かいところはネギ君を信じて任せるが、くれぐれも程々にの。
 もちろん君達の身の安全を最優先なのは当たり前じゃが、出来れば人死にや環境破壊は程々に抑えてくれるとありがたい」

『了解です! それでは失礼します!』





 …………ネギ君なら大丈夫じゃな。

 というかまだ無事に終わるとは限らないのに、木乃香やネギ君達の身の心配より後始末に対しての心配の方が大きいのは何故じゃろう?
 いかんの。責任者としては最悪な事態になることも考えておかんといかなければならんのに。



 だから、もしネギ君が負けたときの………………ネギ君が……負け…………?





 …………。

 ……………………。

 ………………………………何でネギ君が負けるところを想像出来ないんじゃろ?

 おかしい。あの子はまだ10歳のはずなのに。



 ……………………応援の手配が終わったら、まずは勝ったときの後始末の準備をしておくかの。
 とりあえず、手の空いている魔法先生みちづれを呼び出さなければ…………。












━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 皆と手早くこれからについての打ち合わせをした後、まず僕がデルタプラスで先行して時間稼ぎをすることに。刹那さん達は着替えとかもありますしね。
 それと本山に置いてきた明日菜さん達にもちょっとしたお願いをしておきました。

 デルタプラスはさすが“巡航機”。速い速い。
 瞬動やMM-D発動時ユニコーンガンダムの瞬間的な速度には負けるとはいえ、変形した状態での飛行は杖で飛ぶより数段速いです。



 …………あんまりフェイト達は本山から離れていないなぁ。5分ぐらい前から移動してないし。

 天ヶ崎千草にしておいた魔力マーキングは生きていたけど、さっきまでは衣服に仕込んでおいた発信機の反応がありませんでした。
 本山を壊滅させたフェイトの『石の息吹プノエー・ぺトラス』で、発信機ごと天ヶ崎千草達も石になってたのかな?

 となると、さっきから動いていないのは石化回復するためでしょう。
 その結果として発信機の反応も生き返ったんだからコチラにしてもありがたい話です。





 …………あ、今度は魔力マーキングが消えた。フェイトに気づかれたか。
 わかりにくいようにしていたとはいえ、さすがにフェイトは気づくか。

 でも発信機はまだ生きてるもんね。
 仕込んだ発信機は衣服の生地の間に挟みこめるぐらい薄い奴だから、いくらフェイトでも気づけないはずです。僕と違って電波を計測する魔法なんか開発しているわけないだろうし。
 まぁ、服を変えられると駄目だけど、今はそんなことしてる場合じゃないですからね。


 文明の利器バンザイ。









 おー、見えてきた見えてきた。
 ちゃんとフェイト達4人全員いますね。それと木乃香さんはフェイトの使い魔に捕まってます。
 口はテープで塞がれてるみたいですけど、身じろぎしているから意識はあるみたいですね。

 っていうか、コラ! 木乃香さんをお姫様抱っこしてんじゃない! それと木乃香さんを持つならお尻じゃなくて、膝の裏で持て!!!
 とんだエロ悪魔ですね! フェイトも原作でアスナさんを裸に剥いてくすぐり攻めにするエロ坊主だったから、きっと使い魔も主人に似たんでしょう。



 あ、フェイトが僕に気づいた。さすがにここまで接近すればわかるか。スラスター音が静かな夜空に響き渡ってますし。

 フェイトが使い魔に僕の迎撃を命じたみたいですね。迎撃というより時間稼ぎみたいなもんでしょうが。
 天ヶ崎千草の猿の着ぐるみのような式神が木乃香さんを受け取りました。よし、あんな人型の悪魔よりファンシーな着ぐるみの方が木乃香さんも怖がらなくて済むでしょう。

 そして自由になった…………えーっと、スカルミリョーネ……でしたっけ? 使い魔が空を飛んで僕に向かって突撃してきました。







 フン、無駄なことを。





 まずはカイナッツォ?が持ってる鉈みたいな剣を、モビルスーツの羽根に取り付けているビームライフルで撃って真っ二つに折る。そして初っ端から武器を失って驚いている目前で変形を解除。
 それと同時にビームサーベルを左手に装備して、今度はカルコブリーナ?の身体自体を真っ二つにぶった斬る!



 それで言い訳つくだろ! 還っちまえ!



 1秒も持たせられなかったルビカンテ?は地面に落ちる間もなく、風に溶けていくように消えていきました。阿呆め、勝てると思ったか!
 時間稼ぎが目的ならせめて12体は用意すべきだったのに、たった独りで僕に突っ込まされるとは…………ああ、なんて可哀想なバルバリシア……でしたっけ?
 マレブランケの悪魔の名前のどれかだったのは覚えてるんですけど。


 …………ま、いいか。そんなことはどうでも。


 さて、僕の目的は時間稼ぎ。刹那さん達が“空飛ぶゲタサブフライトシステム”で追いついてくるまで、ちょっと時間がかかりますね。
 まずは O H A N A S H I からしてみましょうか。とりあえずモビルスーツを解除して、彼らの目の前に降り立ちます。
 “和平の使者なら槍を持たない”って言いますしね。それに加えて親しげに呼びかけ、話し合いの余地があることをアピールしましょうか。


























「フェ~イっト君っ! あっそびっましょっ!」

「…………………………」


 うわ!? 心底嫌な顔されました!

 “憎悪”とかじゃなくて、本気で“嫌悪”している顔ですよ。具体的に言うなら最近のアスナさんが学園長を見る目をしてます。
 フェイトの売りは、笑っているときでも無表情を貫き通すという感情表現の無さでしょう!

 それがどうしてこうなった!?


 誰なんですか!?
 フェイトがここまで感情を表すようになってしまうほどの嫌がらせした人間は!?








 …………イヤ、僕なんですけどね。
 少しやりすぎたか。


 …………っていうか、何で僕がこんなにイラついているんだろ?
 僕ってこんな風に直接的に嫌がらせするような人間でしたっけ?

 何か落ち着かないなぁ。ちゃんと気で身体制御してるはずなのに。
 本当の意味での初めての殺し合いのせいで落ち着いていないのかな?









「冗談だからそこまで嫌な顔しないでよ」

「…………追ってくるとは思っていたけど、随分と早かったね。
 千草さん達から妙な魔力の反応があったからさっき消したけど、それを目印に追ってきてたのか」

「まあね。“こんなこともあろうかと”と思って、いろいろと用意しておいて良かったよ」



 発信機のことは秘密。わざわざバラす必要ありませんからね。

 木乃香さんが僕の姿を確認できてホッとしてますね。良かった良かった。
 それとやっぱりさっさとフェイト達を潰しておけばよかったかな? 木乃香さん達に不安を与えてしまったことに、今更ながら罪悪感が…………。

 木乃香さんに声掛けて、少しでも安心させておきますか。



「安心してください、木乃香さん。怖いでしょうが、絶対に助け出しますのでもう少し待っていてください。
 刹那さん達ももうすぐ来ますし、詠春さんや明日菜さん達も無事ですよ」

「ン~、ンン!」


 木乃香さんが安心したように頷いてくれました。
 皆が無事だということもわかったのが大きいのでしょう。あとせっちゃんが来ることがわかったからでしょうね。


「さて、フェイト並びに天ヶ崎千草さん達一同に勧告します。降伏してください。
 確かにフェイトによって本山にいた術者はほとんど石化させられて壊滅状態になってしまいましたが、腕利きの人達はフェイト達捜索のために元から本山から出ていましたので無事です。
 その人達には既に連絡済ですので、1時間以内に援軍に駆けつけてくれるでしょう。
 麻帆良にも連絡済ですので、明日になったらありったけの西洋魔術師が応援にやってきます」


「…………は? 本山壊滅っ!?
 小太郎、新入り! あんたら何やったんや!?」


 あれ? 天ヶ崎千草が驚いている?

 …………ああ、そうか。石化から回復したばっかりで、詳しい事情はまだわかっていなかったのか。彼女達は昨日捕まってから一度も目を覚ましてなかったから、状況がわからなくて当然か。
 月詠は何だか目の焦点が合ってないような感じがしてるし、まだ本調子じゃないんだろうなぁ。





「えーっと、フェイトに小太郎君。
 天ヶ崎さん達に今までのことの説明してもいいよ。コチラとしても時間稼ぎになるから助かるし」

「時間稼ぎって…………随分とハッキリ言うね。強さ云々よりも君は考え方が厄介すぎるな。
 とはいえ説明しないわけにもいかないか。時間をかけるとネギ君の思い通りになるから簡単に説明するけど、

・本山の参道でネギ君達と相対したのは昨日のこと
・ネギ君の魔法で千草さんと月詠さんは気を失って捕まった
・僕と小太郎君は逃げることが出来た
・今日になって僕達が本山を襲撃、壊滅させた
・そして千草さん達を連れてここまで逃げてきた

 以上、わからないことは?」

「え? ちょい待ち。…………うん、昨日のことは覚えとる。
 …………よし、だいたい状況がわかったわ…………って、あんたら無茶しよんなぁっ!?」

「状況がわかったのなら結構です。
 改めて言いますが、降伏してください。1時間以内に援軍が…………お?」


 キィーーーーン! と“空飛ぶゲタサブフライトシステム”の飛行音が聞こえます。
 ようやく刹那さん達が到着したようですね。







「木乃香お嬢様ぁっ、御無事ですかっ!?」

「待たせたね、ネギ先生」

「どうやら戦闘はまだ始まっていないようでござるな」

「さぁ、木乃香を助けるアルよ!」

「良いタイミングです、皆さん」


 これでコッチは僕、刹那さん、龍宮さん、楓さん、古菲さんの5人。
 数の上ではこちらが有利です。


「援軍がこのように1時間以内に到着します。
 あなた達に勝ち目はありませんので、どうか降伏してください」

「貴様らぁっ! 今すぐ木乃香お嬢「刹那さん! 今は僕が話をしています!」…………も、申しわけありません」

「落ち着け、刹那。ここはネギ先生に任せるんだ。今のお前よりはうまく進めてくれるさ」

「…………失礼。あなた達の勝ち目はないです。ですので降伏してください。
 降伏していただけるなら、命だけは助けてもらえるように詠春さんへの口添えはします」

「何言うてんのや!
 直訴に失敗した以上、降伏しても処刑されるだけやないか!」

「あ、あ~~~…………あのな、小太郎。
 直訴に失敗したら処刑云々というのはあの坊やが間違ってるだけで、実際にそうなるとは…………」

「でも千草さん。僕と小太郎君で本山を壊滅させてしまったよ」

「…………あ。もう無理やな。今更降伏しても許してくれるとは思えへん」


 ですよねー。
 これで降伏したら命だけは許してあげるなんて言っても信じてくれるわけないですよねー。

 …………天ヶ崎千草も可哀想に。あのまま座敷牢にいたら、そこまで重罪にはならなかったのに…………。





「となると千草さん。
 計画通りにお姫様の力を借りて何とかするしかないと思うけど?」

「…………ク、こうなったら行くとこまで行くしかないか。
 小太郎達は悪いけど、あの坊や達の足止めお願いな。ウチはあの場所までお嬢様を連れていくわ」

「(それでいいよ、千草さん。とりあえずこれで目的は達成か。まだ少し付き合って、ネギ君の力を詳しく調べるけどね)」

「交渉は決裂、ということでしょうか?」

「そういうことや。坊やがどんなに強くたって、あの場所まで行きさえすれば…………。
 召喚も1時間あれば充分やしな。

 …………とはいえ、あの坊やは厄介やな。ここは一つ、お嬢様のお力をお借りします。小太郎達がウチのお札さんを持ってきてくれて助かったわ。
 お嬢様、失礼を。『オン キリ キリ ヴァジャラ ウーン「猿飛佐助!?」ンブフォッ!?」

「ど、どうしたんや!? 千草姉ちゃん!?」





 あ、呪文途中で止めちゃった。どうやら不意打ちだったみたいです。

 というより、何で意味わかるの?
 20年以上前のですよね。天ヶ崎千草ってやっぱり結構年食ってるのかな?


 考えてみれば、20年前の大戦で両親をなくしたのをキッカケでこんなことを仕出かしたというなら、20年前には既に物心がついていなきゃ駄目ですよね。
 ということは、どんなに小さくても5歳以降、普通に考えたら10歳くらい? それが20年前?

 つまり天ヶ崎千草はもうアラサーということに…………30歳であの服に露出度?



 ………………ハッ、ねぇわ。











「ち、違うんや! 昔、ああいう風に漫画やアニメで真言を軽々しく扱うのに対しての抗議をしようっちゅー話が出たんや! そのときのことを聞いたことあるから知ってるだけや! 別にウチが見てたというワケやあらへん!
 …………そ、そんな生暖かい目で見んなぁっ!!!」

「…………ア、アカン。千草姉ちゃんとネギが言ってること全然わからん」

「ネ、ネギ先生。いったい何を言ってるんですか?」

「っていうか、それこそ何で外人の坊やが知ってんのやぁっ!?」

「千草さん、落ち着いて。時間稼ぎを目論んでる彼の手だ。早く千草さんはあの場所へお姫「火遁の術とか使わないんですかぁ?」「うっさいわっ!!!」…………頼むからネギ君は黙れ」

「ハァッ、ハァッ、ハァッ! …………いや、落ち着け。落ち着くんや、ウチ」


 やっべ、この人からかうの面白すぎだ。
 打てば響く鐘のような人ですね、天ヶ崎千草って。


 …………あ、木乃香さんの魔力で鬼が大量に召喚された。
 150体ぐらい召喚されましたけど、このメンバーなら楽勝ですね。









「…………交渉決裂ですか。ま、いいです。実力で木乃香さんを取り戻すことにしましょう。
 フェイトの相手は僕がします。楓さんは小太郎君。龍宮さんと古菲さんは鬼の相手をしてください」

「承知でござる」

「了解。弾代は全額学園長持ちだからな。気楽なもんだよ」

「わかったアル。ネギ坊主との修行の成果、存分に見せ付けるアルよ」

「刹那さんは月詠さんの相手を。10秒●●●で終わらしてください。その後は鬼の始末を手伝い、鬼の掃討完了次第に木乃香さんの奪還へ。
 僕はフェイトの相手で手一杯になるかもしれませんので、その場合でも僕に構わず木乃香さんを」

「はいっ! …………って、10秒●●●ですか!?
 さ、さすがにそれは無理っぽいのですが…………」

「大丈夫です。今なら勝てます●●●●●●●●

「な、舐めとんのか、坊や! その木乃香お嬢様の護衛が神鳴流だからって、月詠ハンだって同じ神鳴流や。たやすく勝てるなんて思うとるのか!?
 月詠ハン! ここは月詠ハンの力をあの坊やに…………月詠ハン? さっきからやけに静かやけど…………」

「い、いえ。…………あのー、小太郎はん。





















 ……………………ウチのメガネ持ってないですかー?」











「「「「「……………………え?」」」」」

「メ、メガネ!? 隠れ家にそんなもんあらへんかったぞ!? 座敷牢にも見当たんなかったし…………」

「…………いえ、ウチも隠れ家に用意した記憶はないから仕方ないんですけどー」





 …………だから言ったでしょう。今なら勝てます●●●●●●●●、って。
 月詠を治療したのは僕ですよ。治療のときにメガネを没収するなんて簡単なことです。普段メガネかけてる人がいきなりメガネなくすと、目の焦点とか上手く合わなくなりますよね。

 本当に原作知識って便利ですねぇ。原作知識さえあれば、月詠の無力化なんて簡単です。
 ま、『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』のせいで元からフレーム歪んじゃってますから、かけてても戦闘できなかったでしょうけどね。このメガネ●●●●●













「探し物はコレですか?」

「…………それは、もしかして月詠のメガネ?
 ネギ先生が持ってらしたのですか?」

「えー、坊やがウチのメガネ持っとるんですかー?
 返してくだ「ミシィッ! ミシミシミシィッ! パリィーーーンッ!」…………な、何の音ですーーー!?」


 …………脆いなぁ、このメガネ。身体強化してないのに簡単に握りつぶせましたよ。
 せめて超強化プラスチックで作った方が良いんじゃないですかね。神鳴流みたく接近戦で戦うなら尚更です。それと外れないようにゴーグルタイプにするとか…………。







「…………というわけで、もう一度言います、刹那さん。
 10秒で終わらしてください」

「わ、わかりました、ネギ先生」

「言っておきますが、情けは無用です。
 敵は倒せるときに倒してください。あなたが見逃した敵が木乃香さんを、あなた自身を殺すことになるかもしれません」

「…………わかりましたから堪忍してくださいぃ…………」



 いや、別に刹那さんを怒ってるわけじゃないんですよ。
 だからそんな萎縮しないでくださいよ。



「天ヶ崎さんも行っていいですよ。というか行ってください。木乃香さんを戦闘に巻き込んでしまうわけにはいきませんからね。安全なところに避難してください。
 木乃香さんはもうちょっと待っててくださいね。この人達をすぐ片付けてから後を追いますので」

「…………ち、千草姉ちゃん、急ぎぃっ!!!」

「わ、わかったわ!」


 あーあ、急いじゃって。転んで木乃香さんを落とさないでくださいよ。


 さて、それでは狐狩りならぬ、猿狩りの開始です。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 …………おかしい。なんか本気でネギが悪魔になってきた。
 せっちゃんにも怯えられてるし。


 ただ普通に原作知識を活用してるだけのはずなのに、どうしてこうなった!? やってること自体はそんなに大袈裟なことじゃないのに!?
 “月詠のメガネを没収”しておくなんて、別に大袈裟なことじゃないですよね!?


 
 ちなみに、ネギの「猿飛佐助!?」発言についてわからない人は“まんが猿飛佐助”を調べてください。それと千草が鬼の召喚に使った呪文を。



【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+『仮契約パクティオー』儀式の手伝い
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋
 関西呪術協会:変態集団疑惑
 天ヶ崎千草:勝っても負けても“死”?
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”:“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア
 ルビガンテ:名前忘れられた ← new!
 月詠:メガネ壊された ← new!



 モビルスーツ紹介(Wikiから抜粋+個人的感想)

 非変形タイプの百式改系列の量産機とは異なり、設計をΔ(デルタ)計画案本来の可変タイプ(デルタガンダム)まで差し戻し、量産を前提に再設計した試作機。
 Ζ系列で培われたTMS技術をフィードバックさせることにより、初志を実現し完成させた機体。

 デルタガンダムと同様に巡航形態(ウェイブライダー)への変形が可能となっている。この巡航形態では単独での大気圏突入と1G重力下での飛行が可能。
 メインスラスターが背中にないMSとしては珍しい設計で、未だ試作品ゆえに編成の組み込みづらい規格外の機体。


 これで全部一回はモビルスーツ使ったぞー。



[32356] 第41話 京都編⑪ 猿狩り
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:12



━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



「ハァッ、ハァッ、ハァッ…………!」


 …………このお姉さんも大変やなぁ。
 昨日、ネギ君の魔法で酷い目に遭ったり石になったばっかりで疲れてるんやろうに、こんな夜中に山道を全力で走るなんて…………。

 ウチはお猿さんに抱っこされて、自分の足で走ってないから平気やけど。


 せっちゃんとネギ君早く来ないかなぁ。誘拐されたときは怖かったけど、さっきのネギ君達見てたら安心したわ。お父様やアスナ達も無事みたいやし。
 ネギ君達なら、ちゃんとウチのこと助け出してくれるって信じられる。

 …………むしろさっきのネギ君見てたら、このお姉さん達が可哀想に思えてきてしもうた。






「ハァッ、ハァッ、ハァッ…………。
 お嬢様、何でそんな憐れむような目でウチを見られるんですか? …………ウプッ!」


 走りながら喋るのは辛そうやから止めた方がええと思うけど。
 いくらネギ君が治療したとはいえ、一度はネギ君の魔法で瀕死になったのは変わりないんやから。


「こ……これから向かうところには、危な過ぎて今や誰も召喚出来ないという巨躯の大鬼が眠っています。
 じゅ……18年ぐらい前に一度暴れたときは、お嬢様のお父上とあの坊やの父親のサウザンドマスターが封じたらしいです。
 でもそれも…………お嬢様のお力をお借りすれば制御可能となります。その召喚に成功すれば応援部隊はもちろん、あの坊やだってものの数やありません………………ウプッ!」


 …………別にわざわざウチに説明せんでもええのに。
 顔色悪くなって吐きそうになってるやん。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ…………! そうや、ウプッ! あの力さえあればいよいよ東に巣食う西洋魔術師達に一泡吹かせてやるんや!!! …………ウプッ!」


 …………このお姉さんも本当に大変やなぁ。
 っていうか、お姉さんのこの状態でその召喚なんか出来るんやろか?


 あ、森抜けたみたいや。大きな池があって、その真ん中に祭壇みたいのがある。
 そんでその祭壇のところに…………。



















「オー、ヤット間抜ケガ来タミタイゼ、御主人」

「ん? ようやく来たのか。随分と待たせおって…………」





 エヴァちゃんとチャチャゼロちゃんがおった。
 っていうか、他にも本山で見た人がたくさんおるな。何かビキビキと青筋立てて怒ってるけど。

 あれ? 本山の人達って石になったとちゃうん?






「…………え? な……何で? 応援が来るまで1時間って…………?
 まだ30分以上は余裕があるはず…………」

「敵ノ言ウコト信ジテンジャネーヨ、コノ阿呆」

「いや、ネギが言うには“5分だろうと55分だろうと1時間以内”ということらしいぞ?」

「自分デモ信ジテナイコトハ言ワナイホーガイイゼ、御主人」

「いや、そうなんだがなぁ…………それにしても今回の旅行ではネギの予想が本当に尽く当たるな。ネギの頼みでこの場所に用意しておいた転移陣を本当に使う羽目になるとは思わなかった。
 ネギの魔力を使ったとはいえ、本山とここを何往復もして術者を運ぶのは面倒だったぞ。
(ネギの奴、あの女の記憶を読むときに“ネギは嘘はつかない”という暗示もかけていたらしいからなぁ。ネギの言葉を信じて1人でのこのこと来てもしょうがないか。
 …………それでも一応嘘をついていないというのが嫌らしいが)」


 そういえばネギ君が昨日の夜、エヴァちゃんにそんなこと頼んでたなぁ。

「彼女は最悪の場合、リョウメンスクナノカミという鬼神を呼び出すつもりみたいでした。
 “念のため”そのリョウメンスクナノカミが封じられている祭壇へ直行出来る様に、祭壇近くに転移陣を用意しておいてください」

 ……って。だからウチらより先にここへ来てたんか。記憶を読めるって本当に便利やねぇ。





「…………ほ、本山の術者達は石になったはずじゃあ…………?」

「ネギのことを“治癒術師”と言ったのはお前らだろう。あんな石化、ネギの手に掛かれば簡単に治せるらしいぞ」

「いやはや、ネギ君は凄いですね。まだ10歳にもなっていないというのに。
 …………石化から回復してみたら、私に銃口を向けていたネギ君がいたときは驚きましたがね」


 あれ? この声って?


「ウキャッ!?」「ンンッ!?」


 うわっ!? ビ、ビックリしたぁ。
 ウチを抱っこしていたお猿さんが急に消えてもうて、地面に落ちると思ったら中空でキャッチされた…………って、やっぱりお父様やー。
 良かった、無事やったんやなぁ。









「お、長ぁっーーー!?」

「おや? 何を驚いているんですか、天ヶ崎千草?
 先ほどネギ君が「詠春さんや明日菜さん達も無事ですよ」と、ちゃんと言っていた筈ですが?」


 あー、そういえば一字一句同じこと言うてたな。
 …………絶対ネギ君、わざと言ったんやろうなぁ。


「ハハハ、木乃香。怖い思いをさせてしまいましたね。もう大丈夫ですよ。
 …………そして天ヶ崎千草。ウチの娘が随分お世話になったようですねぇ」

「ア、アハハハハハ………………終わった。ウチ終わってもうた」

「ああ、天ヶ崎千草。ネギからの伝言があってな。「狐狩りはまず狐が巣穴に逃げ込まないように、狐の巣穴を塞ぐことから始めます」だそうだ。
 …………まあ、相手が悪かったと思って諦めろ」


 お姉さん終了のお知らせ。 
 …………このお姉さんも心底大変やなぁ。









「…………それにしても、何で私達までここに来なきゃいけねーんだよ」

「しょうがないでしょ、千雨ちゃん。
 あの広いお屋敷に私達だけでいるってのは不安だし」

「さすがにそれは怖いですよ~」

「申しわけありません。
 私ではネギお兄様のように皆様の護衛が出来るわけではないので…………」

「アルちゃんは気にしなくていいですよ。
 っていうか、いくら石化治癒魔法が入っていたとはいえ、ネギ先生のビーム・マグナムとやらを人様に向けてぶっ放す方が抵抗があったです」

「ハハハ。お嬢様方のお手伝いに、関西呪術協会の長として感謝いたしますよ」

「オイ、御主人。全然暴レレネージャネーカ。
 今カラアノ坊主ドモニ混ジッテキテイイカ?」

「私だって転移魔法使っただけで出番が終わりそうなんだ。ワガママ言うな」



 あ、アスナ達もおるんやね。皆無事でよかったわぁ。
 これであとはせっちゃんやネギ君達が無事に戻ってきてくれれば終わりやね。





「あ、木乃香。ネギから“白紙仮契約カードおためしけいやく”預かってるわよ。もうネギが従者の方にサインしてあるから、木乃香は主人の方にお願いね。
 そのうちネギが連絡してくるから、そのときにネギを召喚してだってさ」


 おお~、ウチもようやく出来るんか。
 しかもウチがネギ君のご主人様や~。












━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━



 …………手強い。

 それが僕のネギ君に抱いた感想だった。


「クッ、『万象貫く黒杭の円環キルクルス・ピーロールム・ニグロールム』!」

「散弾ではなぁっ!!!」





 硬い。あの4枚羽根の魔力装甲を突破するには『障壁突破ト・ティコス・ディエルクサストー 石の槍ドリュ・ペトラス』クラスが必要みたいだ。
 だけど、常に空中をそこそこ速い速度で飛び回っているから、地面から伸ばす『石の槍ドリュ・ペトラス』が当てれない。かといって、中空から出す『石の槍ドリュ・ペトラス』では威力が足りない。
 そしてもう一つ厄介なのはあの火力だ。

 胸の部分と4枚羽根からのシャワー状の光線と、その4枚羽根の先にあるそれぞれの腕に持たれたガトリングガンから大量の弾がビュンビュンと飛んでくる。
 威力的には僕の障壁なら充分耐えれる攻撃…………なんだけど、


「いいぞ、ベイべー!
 逃げる奴は“召喚された鬼”だ!! 逃げない奴はよく訓練された“召喚された鬼”だ!!
 ホント日本は地獄だぜ! フゥハハハーハァーッ !!!」

「ヌワァーーーッ!」

「た、助けて、オヤビーンっ!」


 召喚された鬼にとっては致命的な攻撃だ。
 一発一発の攻撃力は高くないとはいえ、ああまで大量に浴びせられてしまうと、そこそこ強い鬼でないと耐えることが出来ない。
 鬼の数も150体はいたのが、もう30体ぐらいにまで減らされている。戦闘が始まってからまだ10分も経っていないのに。

 何よりも厄介なのは彼の戦い方だ。
 僕を相手にしつつ、流れ弾で確実に鬼を減らすように戦っている。流れ弾といってもむしろ全方位攻撃で自分の仲間達に当てないようにしているだけの弾幕の張り様だ。
 そして僕自身相手には負けないように戦っているだけとしか思えない。まずは鬼を掃討し、自分の仲間達に千草さんを追わせるつもりだろう。


 マズイ。これ以上鬼を減らされたら、あっという間に押し切られて鬼が全滅する。そして彼の仲間達が千草さんの後を追うだろう。
 幸い、まだ召喚された中でも別格の力を持つ鬼がまだ残っている。…………あの弾幕の嵐を生き残ったんだから当然だけどね。
 僕がネギ君さえ完璧に抑えれば、ネギ君の仲間相手でもリョウメンスクナノカミ召喚までの時間稼ぎぐらいは出来る筈…………なんだけど。


 僕が接近戦で攻撃している間はネギ君もあの大火力は発揮出来ない。
 だから僕がネギ君に接近戦を挑んで彼の注意を引きつけようとするんだけど、それも両腕に持った魔力剣2本を使った神鳴流で防がれてしまう。この防御が崩せない。

 …………というか、本気で『弐の太刀』が厄介すぎる。
 僕にとってここでの戦いはあくまでオマケに過ぎないので、こんなところで万が一にも致命傷を負うわけにはいかない。
 そのためにネギ君に届かせるための後一歩を踏み込めないでいる。

 しかも大火力は発揮できないとはいえ、





「ファンネルっ!!!」

「ええいっ! またこの小っこいのが!?
 ちょこまかと鬱陶し「隙アリぃっ!!!」グハァッ!? や、やるやないかっ、神鳴流の嬢ちゃん!」

「いや、楽だね。この仕事」

「っていうか、ネギ坊主の豹変振りは突っ込まなくていいアルか?」

「え? 銃を乱射するときってこのセリフを言わなきゃ駄目なんじゃないんですか?
 映画でこういうシーン見たんですけど…………」

「ネ、ネギ先生ぇーーーっ!? 子供が変な映画見ちゃ駄目ですよっ!!! っていうかどんな映画なんですか、それはっ!?」


 あの“ファンネル”と呼んでいるものが彼女達のフォローにまわり、着実に鬼達を減らしていく。
 かといって僕が彼女達を襲おうかという素振りを少しでも見せると、ネギ君は僕に猛然と攻撃を仕掛けてくる。

 …………マズイ、手詰まりだ。ネギ君を抑えきれない。









「強いなっ! 糸目の姉ちゃん!」

「お主もなかなか見所あるでござる。
 まだ何か力を隠しているようでござるが、ネギ坊主が怖いので本気を出す前に倒させていただくでござるよ」

「へっ! 女に本気が出せるかよぉっ!!!
(ってか、マジで変身する暇すら与えてくれんわ、この姉ちゃん)」



 小太郎君も完璧に抑えられてる。
 例え小太郎君が自由でも、ネギ君に立ち向かったら5秒で落とされそうだけど。


 月詠さん? 開始2秒で落とされたよ。しかもネギ君の手によってね。

 開始直後、ネギ君はいきなり『七条大槍無音拳』とかいう強力な『居合い拳』を撃ってきた。
 鬼は薄く広くネギ君達を包囲する位置にいたから被害は威力の割りに少なかったけど、アレで鬼が30体は喰われたよ。月詠さんもそれでノックアウト。
 ちなみに今は『凍てつく氷柩ゲリドゥスカプルス』で氷の中に封じられている。ネギ君は氷系魔法まで使えるみたいだね。

 そのときの桜咲刹那のしょぼくれた顔は同情に値したよ。
 気を取り直して鬼退治で鬱憤を晴らしているみたいだけど。


 しかし参ったね。
 ここまでワンサイドゲームになるとは思わなかった。

 ここは一つ、仕切り直しするしかないか。このままではあと5分も持たないだろう。
 そうと決めたら空へ大きく跳んで、ネギ君から距離をとる。







「小太郎君! 月詠さんを連れて離れるんだ!
 ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト!」

「むっ!? 大きい魔法が来ます! 僕を中心に円陣防御を!!!
 『解除』! ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」



 ネギ君が僕の意図に気づいたのか、魔力装甲を解除して仲間達を集合させる。小太郎君はその隙に離脱。
 残った鬼がネギ君達に攻撃を仕掛けるが、ネギ君を中心とした円陣を組んだ彼の仲間達がそれを防ぐ。
 魔力装甲を解除したのは、解除しなければ詠唱魔法が使えないということなのだろう。魔力装甲を纏ってから彼は一度も詠唱魔法を使ってこなかったから。

 死人を出すわけにもいかないけど、おそらくネギ君によって防がれるだろうから全力で行く。
 …………鬼も巻き添えになりそうだけど、還るだけだから気にしないでおこう。それに手加減できる状況じゃないし。





「おお 地の底に眠る死者の宮殿よ
 我らの下に姿を現せ」

「契約により我に従え高殿の王!
 来れ巨神を滅ぼす燃ゆる立つ雷霆!
 百重千重と重なりて走れよ稲妻!」





 ネギ君の詠唱が早い。僕より後に唱え始めたのに同時に詠唱が終わった。
 しかも雷系最大呪文の『千の雷キーリプル・アストラペー』?

 『冥府の石柱ホ・モノリートス・キオーン・トゥ・ハイドゥ』はその特性上、巨岩を呼び出してから攻撃することになるので『千の雷キーリプル・アストラペー』より更に一呼吸攻撃が遅れる。
 間に合うか?





「『冥府の石柱ホ・モノリートス・キオーン・トゥ・ハイドゥ』!」

「左腕固定! 『千の雷キーリプル・アストラペー』!
 右腕固定! 『断罪の剣エンシス・エクセクエンス』!
 術式統合! 『雷の剣エンシス・フルグラリース』!!!」





 ? 『千の雷キーリプル・アストラペー』を直接放たずに雷の剣へ変化させた?
 いったい何をする気だ?





「並びに神鳴流決戦奥義、『真・雷光剣』! 相乗!!!」





 右腕の『千の雷キーリプル・アストラペー』で作った剣に、気が注ぎ込まれていく。
 普通なら気と魔力は反発するのに、まるで『咸卦法』のように2つが融合していく。ネギ君は『咸卦法』まで使えるのか?

 …………あれはマズイ。とてつもなく嫌な予感がする。

 緊急転移で離脱しよう。
 もう『冥府の石柱ホ・モノリートス・キオーン・トゥ・ハイドゥ』は呼び出した。あとは放っておいても勝手に落ちてくれるから問題はない。











「『闇の咸卦技法 神鳴ノ剣かみなりのつるぎ』」












━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



 圧巻。

 まさにその一言に尽きる。先ほどまで空に浮かんでいたいくつもの巨大な岩が、ネギ先生の一振りによって塵と消えた。
 空に向かって放たれたから良かったものの、もし地上に向けて放たれたとしたら、想像したくないぐらいの破壊を生み出すだろう。

 …………10歳の身空でよくぞここまで。
 何がこの子をこんなにも強くしたのだろう?





「…………逃げられました。『神鳴ノ剣かみなりのつるぎ』が当たる前に転移魔法で逃げたようです」

「そうかい、残念だね」

「私達も鬼を全て片付けたアルよ」

「ネギ先生、あんな大技を放って疲れてるでしょうが、今すぐ木乃香お嬢様の奪還へ」

「大丈夫です。さっきエヴァさんからの念話がありまして、木乃香さんは無事に助け出されたそうです。
 のこのこと天ヶ崎千草がリョウメンスクナノカミ封印の祭壇へ来たらしいですよ」


 それは何よりだ。
 今回はネギ先生のおかげで楽が出来て良かったな。


「すまないでござる。
 犬上小太郎とやらには逃げられたでござるよ」

「問題ないですよ。どうせ天ヶ崎千草のところ、祭壇で待っていればやってくるでしょうからね。
 …………皆さん大きな怪我はないですよね? 今から木乃香さんに僕を祭壇へ召喚してもらい、その後に僕が皆さんを召喚します。祭壇の状況を少し調べてから召喚しますので、2~3分ぐらいでしょうがそのまま休んでいてください。
 フェイトが戻ってくることはないと思いますが、一応は油断しないでくださいよ」

「はい、ネギ先生」

「了解。召喚する前に念話よろしく」

「では少しの間、待っていてください。
 では木乃香さん、お願いします。…………え? 呪文? 『召喚エウオケム・テー 木乃香の従者ミニステル・コノカ ネギ・スプリングフィールド』と唱えてくれれば。
 …………いや『しょーかんえーけむ・てー』じゃなくて『召喚エウオケム・テー』です………………え? …………あの、エヴァさんとかアルちゃんそこにいますよね?
 ええ、はい。…………はい、それではよろし



 …………セリフの途中で消えちゃった。
 この旅行で東西どちらを選ぶか決めるまでは教えれなかったとはいえ、こんなことになるなら近衛に呪文を教えておけばよかったな。
 あくまで結果論でしかないが。

 それにしても、戦闘のときの魔法使いとしてのネギ先生と、2-Aの生徒を相手にしているときの教師としてのネギ先生。
 どちらも同じネギ先生なんだが、やはりどうもチグハグな感じだな。









「…………ネギ先生は凄いな」

「そういえば龍宮は別荘に来ても勉強会に参加するだけで、修行には参加してないから知らなかったのか。
 …………私達もあそこまでの大技を見るのは初めてだけどな」

「………………本物の戦場をくぐり抜けてる真名に聞きたいアルけど、西洋魔術師って皆ネギ坊主みたいなのカ?」

「いやいやいや! それは違うぞ、古! …………って、そうか。古はこちらに来てからそんなに経っていないし、近くにいるのがネギ先生だけだからな…………。
 私も今までいろんな強者を見てきたが、ネギ先生はその中でも5本の指…………いや、もしかしたら一番強いかもしれないな」

「やっぱりそうアルか。
 西洋魔術師が皆ネギ坊主みたいだったら自信なくすアルヨ」


 普段からああいうバグキャラ見てたら、古に悪影響が出るんじゃなかろうか?


「ネギ先生のおかげで木乃香お嬢様が無事に助かったのはいいけど、それにしてもネギ先生には困ったものだ。
 何か最近、ネギ先生はワザとやってるんじゃないかと思えてきた…………」

「ネギ坊主はいつもワザとだと思うでござるよ。
 …………いや、言いたいことはわかるでござるが」

「私もわかる。しかしこういう言い方はアレなんだが、ネギ先生に嘘をつく頭があるとは思えないな」





 別にネギ先生の頭が悪いと思っているわけではない。
 むしろ天才と言っていいだろう………………アホの子でもあるが。

 何というか…………普通の人間ならば“嘘をつかなければ切り抜けられない状況”になったとしても、ネギ先生なら別に“嘘をつかなくてもその状況を切り抜けられる”のだろう。
 つまりネギ先生は“嘘をつく必要がない”。
 だからそれ故に、ネギ先生は“嘘をつくという発想がなくなった”のように思える。


 前々から思っていたが、ネギ先生はアンバランスだ。
 間違ったことをしているわけでもないし言っているわけでもない。だがそれでも何かが違っているとしか思えないことをする。

 確か以前、何かの本で、

“天才と一般人とでトータルすれば能力量に差は無いが、天才の場合は一般人であれば誰でも出来ることが出来ない反面、一般人には困難なことをた易くこなしてしまう”

 というような記述を読んだ記憶がある。
 ネギ先生にも当てはまりそうだな。“好感度ランキング”なんか見てもそうだったし…………。



 “学園祭”に関係してくるので、障害になりうるネギ先生のことは超が更に詳しく調査した。

 メルディアナでも似たような感じだったらしいな。
 メルディアナで生活していたときのことの調査でも、“チグハグ”や“アンバランス”のような言葉が報告書に多く載っていたように感じられた。

 …………メルディアナの人達も可哀想に。


 あの『神鳴ノ剣かみなりのつるぎ』とやらを放ったとき、もしフェイトに逃げられていなかったとしたら、フェイトを殺していたことになるのをネギ先生は気づいているのだろうか?

 気づいていなかった? その場合、もしフェイトを殺していたとしたら、ネギ先生はどういう反応をとるのだろうか?
 それとも気づいていた? その場合、ネギ先生は“人を殺す”ということをどのように捉えているのだろうか?



 …………心配だな、あの子の将来が。
 今はその天才性で何かコトが起きても凌いでいるが、もし自分の手に負えない状況に陥ったらどうするのだろう?



『皆さん、聞こえますか?
 今から皆さんを召喚しますけど、大丈夫ですか?』


「はい、全員大丈夫です」



 ネギ先生からの念話か。
 フゥ、もう少しでこの仕事も終わりだな。





 そういえば超の奴、“学園祭”のときはどうするつもりだ?
 正直、私ではネギ先生に勝てないぞ。

 一応今までの戦闘の映像は出来る限り撮影しておいたが、映像を見たとき超の反応が面白いことになりそうだな。


 …………というより、もしかして“学園祭”の時には私がネギ先生の相手をしなければならないのか?









 …………。

 ……………………。

 ………………………………超の仲間から抜けたら駄目かな?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 気分は『約束された勝利の剣エクスカリバー』!!!
 魔法世界人は魔法世界にいれば良かったんだよ!


 またオリジナル技が出ました。
 うん、中二病が擽られる。

 …………ルビあってますかね? 『雷の剣エンシス・フルグラリース』。“エンシス”=“剣”はあっているはずですが、“雷の”=“フルグラリース”が微妙です。
 いや、コレに近い感じの名前なのは確実なのですが…………。

 『雷の投擲ヤクラーティオー・フルゴーリス』の“フルゴーリス”とか、『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』の“フルグリエンス”とかいろいろありますよね。
 今回は『魔法の射手サギタ・マギカ 雷の一矢ウナ・フルグラリース』の“フルグラリース”を使いましたが、ハッキリ言って勘です。いくら調べても、正しいのがわかりませんでした。
 一番これが近いかな? と思って使っただけなので、もし正しい使い方がわかる人がいたら教えてください。



 あと千草終了のお知らせ。
 “天国への扉ヘヴンズ・ドアー”には“記憶を読む”以外のもう一つの能力があります。“記憶を書き込むことによって相手の行動・記憶を制御することが出来る”っていう能力が。
 記憶を読めるのは便利ですけど、記憶を書き込めるのはもっと便利ですよね。ウン。


 今回の旅行で原作知識からネギのしたことは

“石化治療魔法のマグナム弾を予め大量作成”
“月詠のメガネ没収・破壊”
“リョウメンスクナノカミが封印されている大岩近くの祭壇に転移陣用意”
“天ヶ崎千草の記憶の読み込み・書き込み”

 …………おかしいなぁ。
 一個一個は大袈裟なことじゃないのに、全部合わさると本気で悪魔の所業になったのは何ででしょう?


 それとビーム・マグナムは“お試し契約”を結んでたりしていない人でも、引き金を引けば誰でも使えます。



 あとフェイトは『石の槍ドリュ・ペトラス』を、京都でエヴァの腹をぶっ刺したときみたいに地面から出してる場面と、単行本25巻にてネギと戦っているときに中空から出してる場面があります。
 地面から出さなくとも中空から出せるならそっちの方が使い勝手が良さそうですが、わざわざ地面から出してるとなると理由があると思われます。
 そのためこの作品では地面から出す方が威力が高い、という設定です。





 一応のオリジナル技解説。
 これらはあくまでこの作品のオリジナルです。ご了承ください。


『居合い拳 弐の拳』
 神鳴流の『弐の太刀』と『居合い拳』を組み合わせた技。障壁をすり抜けてボコれる。
 こう螺子ネジりこむように打つべし! 打つべし! 打つべし!


雷の剣エンシス・フルグラリース
 その名の通り、雷系魔法で構成された剣。
 別に『千の雷キーリプル・アストラペー』でなくても構成可能。
 構成魔法にもよるが、中級魔法の『白き雷フルグラティオー・アルビカンス』だけで構成しても、『魔法の射手サギタ・マギカ』を利用しているビームサーベルより威力は数段上。

 今回は『断罪の剣エンシス・エクセクエンス』と“術式統合”をして更に威力を上昇させているが、威力が下がっていいなら『断罪の剣エンシス・エクセクエンス』を使わずに“形状変化”のみで可能。
 今回の『雷の剣エンシス・フルグラリース』は気体に相転移どころか、物質の第4の状態である“プラズマ”に相転移させる威力を持つ、が…………物理学的に正しいかは突っ込まないでください。いや、マジで。


神鳴ノ剣かみなりのつるぎ
 『雷鳴剣』や『雷光剣』などの雷系神鳴流奥義と、『千の雷キーリプル・アストラペー』や『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』などの雷系西洋魔術を組み合わせた技。
 気と魔法の相乗効果により、爆発的な威力を得られる。

 ちなみに“第九話 あなたと合体したい”で

> 「未完成というか、もう少し別のものにも発展させられそうな感じなだけで。
>  一応それ自体は完成しています」

 とネギが言ってた、『闇の咸卦法』を別のものに発展させたものがこれら、『闇の咸卦技法』のこと。
 一応は伏線張っていましたよ。エヴァの別荘での修行で完成済みです。


『闇の咸卦技法』
 『闇の咸卦法』は『闇の魔法マギア・エレベア』と同じく、早い話がただのドーピング。
 しかし『闇の咸卦技法』は“気”と“魔法”を融合させたものを“放出”する技法の総称。

 “ダイの大冒険”で例えると、“竜闘気ドラゴニックオーラ”と『竜闘気砲呪文ドルオーラ』の違い…………のようなものですかね?
 『竜闘気砲呪文ドルオーラ』よりも『ギガストラッシュ』の方が適当かもしれませんが、とりあえずそんな感じです。
 最初は『闇の神鳴流』とかで考えていましたが、別に『神鳴流』に限定せずに使えるだろうから『闇の咸卦技法』と相成りました。



[32356] 第42話 京都編⑫ 虚空を駆ける
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:12



━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━



「ああ……大きな火が点いたり消えたりしている。ハハッ、大きい…………大文字焼きか?
 違う、違うな。大文字焼きはもっとこう……“大”って文字やもんな。
 …………暑っ苦しいわ、ここ。…………出られないんやろか。お~い、出してくれへんか~! ねぇ?」





「…………詠春さん。いくら木乃香さんを誘拐した一味の主犯といっても、少しやりすぎじゃないですか?」

「私ですかっ!?」

「いや、お前ネギのせいだから。
 確かにトドメを刺したのは近衛詠春かも知れないが、明らかにお前ネギが一番の原因だから」


 ネギーん、とワケがわからないよ的な顔をするネギ先生。スモチでも食ってろよ。

 つーか、あの天ヶ崎千草って人マジで大丈夫か? 目が虚ろだぞ。
 捕まえたときはビキビキ青筋立てて睨んでいた関西呪術協会の人達も、何だかどんどん憐れみの表情になってきてるし…………。





「ま、そんなことはどうでもいいです。それよりフェイト達迎撃の準備をしましょうよ。彼女は終わったら『咸卦治癒マイティガード』で治しますから。
 茶々丸さん、フェイト達の動きはどうですか?」

「先ほどとペースは変わりません。慎重にこちらに向かってきています。
 このペースですと、接触まであと5分ほどです」

「了解です。詠春さん、陣と召喚のお札の準備は?」

「陣は既に構築済みです。召喚のお札はこれになります。
 …………しかし、魔力は大丈夫なのですか、ネギ君? 先ほどの空に向かって放った一撃はここからでも見えましたが、魔力を結構使ったのでは? 本山でも生徒の皆さんにずっと魔力供給していたらしいですし…………」

「今までに消費したのは1割ちょっとです。別段問題ありません。
 それでは術者の皆さん、召喚をお願いします」

「…………え? 1割?」





 近衛の親父さんから渡された数枚のお札を持って、祭壇に続く橋の中心当たりに立つネギ先生。
 ちなみに周りの湖はネギ先生の魔法によって凍らされていて、湖上に立つことが出来る状態になっている。

 …………凍った湖ってのは変な光景だな。
 北国のワカサギ釣りとかの光景をTVで見たことあるけど、まさか京都で同じものを見ることになるとは…………。









「「「「「オン キリ キリ ヴァジュラ ウーン ハッタ」」」」」





 関西呪術協会の人達が呪文を唱えたと思ったら、凍った湖の上に化け物達が大勢現れた。ネギ先生の魔力を使って呼び出したらしい。
 うわ、すげぇ…………何体いるんだ? 私達がいる祭壇の周りをグルっと囲むぐらい出てきたぞ。

 ちなみに私達は祭壇の上にいて、その周りに龍宮や桜咲みたいな私達の中でも戦闘出来る奴らがいる。そして一段下がったところに関西呪術協会の人達が30人ぐらいで囲んでいて、私達を守ってくれるらしい。
 そんで化け物達が更にその周りの湖の上に出てきたわけだ。

 残った敵はあと3人なんだろ。しかも1人は戦闘不能。要するに実質2人。
 対するコッチは、ネギ先生や桜咲達で7人。関西呪術協会の人達が約30人。化け物が数百。



 …………コッチが数百で向こうは2か。明らかにイジメレベルの戦いだよな、コレ。





「んー、500ちょっと、というところですか。
 鬼の皆さんの中で空を飛べない人達はその場所で壁役になってください。烏族みたいに空飛べたり遠距離武器持ってる人達は、今から来る人達を逃がさないようにしてくださいねー」



「鬼遣い荒いのぉ。さっきボコられて還ったばっかりだったちゅーのに、また召喚するんか…………って、さっきワシらをボコった坊ちゃん達やないか?
 今度は坊ちゃんが召喚主かいな」

「うわぁ、先ほど某はあの坊主に鴨撃ちにされたんだが…………」

「いや、あんた鴨やなくて烏やろ」

「ワシなんか開始2秒で終わったで…………」

「あの坊ちゃん、絶対ワシらより鬼や」

「まー、喚ばれたからには命令には従うけどなー」

「つーかこの坊主。ワシら全部をたった1人で呼んだんか、凄いのぉ」





 …………なんか、想像してたのより人間臭い化け物達だな。


「ネギ君、魔力の方は…………」


「大丈夫ですって。木乃香さん、お願いします!」

「わかったでー。『契約執行シム・イプセ・パルス 木乃香の従者ミニステル・コノカ ネギ・スプリングフィールド』!」

「はい、それでは魔力を頂きますね。『魔力吸収マジックドレイン』開始。

 …………。

 ……………………。

 ………………………………うん。もういいですよ、木乃香さん!

 木乃香さんの魔力の半分近くを頂きました。僕にとっての20%ぐらいですね。
 さっきの召喚でも少し使いましたが、これで魔力をほぼ回復出来ましたよ」

「…………え? じゃあ、この鬼の召喚に使ったのはネギ君の全魔力の1割ぐらいなんですか?」

「そのぐらいですねぇ」

「「「「「………………………………」」」」」


 関西呪術協会の人達、もう全員諦めた顔をしているぞ。私達が魔法のことを知った日に見た麻帆良の先生達の顔と一緒だ。
 ネギ先生は麻帆良でも京都でも変人ということなんだな、やっぱり。


「木乃香お嬢様、大丈夫ですか?」

「平気やよ、せっちゃん。ちょっと疲れた気がするけど大したことないわ。今日の夜、ネギ君が一緒に寝てくれればスッカリ元通りになるぐらいやね」

「ちょっと待って木乃香。今日はお父さんと寝るんでしょ!?
 …………って、刹那さんが場所を譲るのよね。本当は木乃香が隣で寝るはずだったんだから、それならいいか」

「えー、誘拐されて怖い目にあったんやから、せっちゃんも一緒に寝てほしいわー」


 お前ら少し自重しろ。









「…………あ、ネギ先生。来ます」


「了解。この湖の周りに結界がありますので、僕達が待ち受けていることは気づかれていないはずです。
 では、改めてこれからのことを言います。
 関西呪術協会の方々は僕の生徒がいる祭壇の防衛、並びに天ヶ崎千草の確保をお願いします。
 エヴァさんは、もしここに来るのがフェイト、小太郎、月詠の3人だったら、明日菜さん達を連れて本山に避難してください。しかし、もしフェイトが来ないで、小太郎、月詠の2人だけが来たのだったりしたら、本山に行かずにここで待っていてください。
 刹那さんは木乃香さんの護衛優先。龍宮さん達は明日菜さん達の護衛を。
 鬼の皆さんはさっきも言った通り、空を飛べない人達はその場所で壁役。烏族みたいに空飛べたり遠距離武器持ってる人達は、今から来る人達を逃がさないように行動してください。
 彼らを迎え撃つのは僕がします。以上です」

「…………別に本山に避難しなくてもいいと思うがな。ろくな戦闘にもならんだろう。
 確かにフェイトというのがここに来なかったとするなら、本山に避難させるのは逆に危険かもしれないが…………」

「オレニモ参加サセテクレヨー」

「これ以上ネギ君のお世話になるのは関西呪術協会としても心苦しいのですが、一番犠牲を出さないのは確かにこのやり方なのでしょうね。
(…………さも当然のようにネギ君が仕切っていますが口は出せませんね。ネギ君がいなかったら私達は全滅していたのですから、今更私達が仕切るなんてのはもう無理です)」


 あー、私達もここに来るようにしたのはそういうことか。
 確かにもし私達が本山にいたままで、フェイトって奴がこれから本山にまた来て私達のことを人質にしたりしたら、今までのことが引っ繰り返るもんな。

 それと近衛の親父さん。別に気にしないでいいと思うぞ。
 というか、気にしないほうがいいと思うぞ、ネギ先生のことは。


 私としても、確かにこんな戦闘が起きそうなところにいるのは不安だけど、ネギ先生が近くにいるならここにいても大丈夫だろうしな。
 逆にネギ先生と離れてる方が不安になる。








「…………光が……広がっていく」


 でも、天ヶ崎千草この人の側にはこれ以上いたくねぇよ。
 それこそ天ヶ崎千草この人を本山に運んでくれよ。虚空を見つめながら笑うなんて怖すぎなんだよ…………。

















「着いたでっ! って、何やこの鬼どもは!?」

「千草さんが護衛のためにまたお姫様の力で呼んだのかな?
 しかし湖が凍っているのは…………?」

「小太郎! 新入り! 来たんか!?」


 うえっ!? 天ヶ崎千草この人の声!? 天ヶ崎千草この人はまだ私の目の前でブツブツ呟いて………………って、ネギ先生か。
 そういえば昨日のパトカーのサイレン音もネギ先生が出してたんだったな。

「音というのは所詮はただの空気の振動です。
 それだったら風魔法の応用をすれば、サイレン音や声真似なんか簡単ですよ」

 とか言って、私達の声真似も実演してみせたし…………。


 遂に“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”が来たのか。
 私らからは鬼が壁になって邪魔して見えないけど…………それって要するに、奴らからも私達のことは見えないってコトだよな。









「2人だけか!?
 月詠ハンはどうしたんや!?」

「ここにいるでー! ………………ネギのせいで凍っとるけど。っつうか、背負ってるから背中が冷たいわ」

「こう言ってはなんだけど、今の彼女じゃ足手まといだ。
 だけど今の状態なら、ネギ君達にも無視されるぐらい無害の存在になってるからね。月詠さんの安全のためにも今のままの方がいいだろう」


 ネギ先生は何やったんだーーーっ!? 戦闘不能ってコトは聞いていたけど、凍ってるって何なんだよっ!?
 生きてんのか、それ!?


「状況が良く掴めんけど、来たんならウチの近くで護衛をしてや!
 一番外の守りは鬼達に任せとけばええ!」

「おう! 今いくで!
 …………月詠は木乃香の姉ちゃんの近くに置いとくか?」

「いいんじゃないかな。それなら安全だろう。ネギ君もお姫様の近くでは無茶はしないはずだ。
 急ごう、きっとネギ君ならあと数分もしないうちにやってくる」





 ………………もういるよ。


 ああもう! 逃げろ! お前ら敵だけど逃げろ!
 近衛を誘拐したり幼女を誘拐したりする極悪犯らしいけど超逃げろ!!!

 敵とかそういう以前に、ここまできたら同情しか浮かばねーよ!!!












━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 ギシッ、ギシッ、ギシッと音が鳴る。フェイトと小太郎君が橋を踏んでいる音が。

 …………んー、もうちょい右かな?





「しかしまいったわ。アイツラ強すぎや。
 ネギだけもアカンのに、あの姉ちゃん達も凄腕やで」

「うん。こうなったら、千草さんの召喚に賭けるしかないね。
(…………何かズルズルと付き合ってしまっているな。とりあえずネギ君が要注意ということがよくわかった。頃合を見て失礼するとしよう)」





 ギシッ、ギシッ、ギシッとドンドン近づいてくる。

 背中が冷たいなぁ。2人とも早く来ーい。





「チクショウ。せめてネギの顔に一発でもいいから決めたいもんや」

「…………止めといた方がいいと思うけど」







 ギシッ、ギシッ、ギシッという音が僕のいる直上●●に遂に来た。

 おー、来た来た。待ちくたびれちゃったよ。

 というわけで、お空に向かって手を伸ばします。…………ただし、バキバキィッッッ! っと思いっきり橋板を突き破りながら。
 それと同時に僕の上にいる小太郎君とフェイトの足を掴みました。











「ん?」「え?」



 両腕開放、『白き雷フルグラティオー・アルビカンス』!!!



 バチバチバチバチバチィッッッ!!!



「ンギャアアァッッッ!?」「ウワアアァッッッ!?」







 フム、このように接触した状態ならば、フェイトの曼荼羅障壁も役に立たないでしょうねぇ。 
 さすがに湖を全部凍らしたら水面も上がりました。おかげで橋までギリギリの高さで寝転ぶことが出来ましたよ。
 明日菜さん達や術者の皆さんがいるところは防寒結界があるから寒くないでしょうけど、僕は背中が冷たいから橋の下から早く出ようっと。


 メリメリッ、メリメリメリィッ! と橋板を剥がしながら橋の上に出ると…………あれ? 2人ともまだ生きて……じゃなかった。2人ともまだ意識がある? 月詠さんは相変わらず凍ってますけど。
 あれ~? いくらフェイトだろうと気絶するぐらいの強さで電気流したんだけどなぁ?


「鬼や。絶対あの坊主は鬼や」

「おぼこい顔してよくもまぁ…………」

「いや、あれが西洋にいる悪魔っちゅーもんなんじゃ?」

「西洋魔術ってのは、わびさびだけじゃなくて情けもないんかい」

「…………悪いな、狗の坊主と白髪の坊主。ソッチの赤毛の坊主に喚ばれたからには今度は味方やないんや。恨まんといてな」


 うるさいなぁ。
 鬼さん達は壁になってるだけでいいから、騒がないでくださいよ。







「…………で? 何でまだ意識あるの?
 結構強く流したから、いくらフェイトでも「ガアアァッ!」…………っと、小太郎君も元気あるねぇ」


「ハァッ……ハァッ……! フェイト! 月詠を連れて逃げいっ!!!」


 あれれ~~~? 意識があるだけでなく、反撃まで? しかも小太郎君が?

 変だ。いくら何でもそれは変だ。
 フェイトだけならともかく、小太郎君までここまで無事なのは………………あ、そっか。


「護符かな?」

「そうや! お前が雷使うのは昨日でわかったからな! ちゃんと対雷専用の護符を用意しておいたんや!!! …………って、この護符を突き破って俺らにダメージを?
 ええいっ! そんなことは今はええ! フェイト! ここは俺が引き受けるからさっさと逃げろやっ!!!」

「クッ…………すまない、小太郎君!」


 あれ? 何か僕の方が悪役じゃね?
 これだと小太郎君がその身を張って味方を逃がすヒーローじゃん。


 …………ま、フェイトは逃がしてもいいか。鬼さん達から弓矢とかでバンバン狙われてるけど。
 ここで捕まえて関西呪術協会に引き渡したとしても、その後がどうなるかわかりませんからね。あまりにも原作と乖離したことは慎んだ方がいいでしょう。………………いや、ホントホント。

 原作みたいに逃げたと見せてまた襲ってきたとしても、そのときは別のことに利用させていただきましょう。





「こ、こっから先は通さへん!!!
 …………そうやっ! 千草姉ちゃんはどうしたんや!?」

「いや、フェイトにはもう逃げられちゃったよ。鬼の皆さんの追撃も簡単にかわされたみたいだしね。天ヶ崎さんは…………うん、もうすぐ会えるからそのときに確認しなよ。
 フゥ、さっきので終わると思い込んでいた僕のミスか。『白き雷フルグラティオー・アルビカンス』じゃなくて、『戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ』とかで動きを止めればよかったか。
 …………僕もまだまだ未熟だなぁ」


 油断大敵。いくら強くなったからといって、相手を甘く見ちゃ駄目ということですね。例え僕がどれだけ強くなろうとも、それで相手が弱くなるわけじゃないのですから。
 敵を侮っているつもりはなかったですけど、強くなったせいで僕の心にも驕りが生まれていたようですね。

 やはりこれからは油断せずに、ハエに核兵器を使うぐらいの覚悟で戦いに挑みましょう。


「…………っ! 無視すんなや、ゴラァッ!!!」





 ま、これは油断●●じゃなくて余裕●●というものですが。

 小太郎君の大きく振りかぶった右ストレート。
 小太郎君も消耗していて思いっきりテレフォンパンチなんで簡単に避けられるんですけど、わざわざ避ける必要もないですね。

 バキィッ! と良い音がして僕の額に小太郎君の拳が叩き込まれましたけど、全然痛くないです。





「ぐぁっ! て、てめぇ…………」

「あーあ、折れちゃったよ、大丈夫?
 額で拳を受けるのはベアナックル時代には基本的な防御だったんだよ。肉弾戦やるならそのぐらい覚えておきなよ。
 ま、いいや。とりあえずお休み。『白き雷フルグラティオー・アルビカンス』」


 バチバチバチバチバチィッッッ!!!


「ギャンッ!?」


 君はつまらん…………じゃなかった。まだまだ修行が足りないですね。
 気絶した小太郎君の拳を診察してみると、中手骨が真ん中の3本折れちゃってます。あー、痛そう。治しておきますか。

 小太郎君は我流で修行していたみたいですから、どうしても基礎がちゃんと育っていないんですよね。拳に体重乗せるのも上手いとはいえないですし。
 才能はあるんだけど荒削りでもったいないです。


 さて、これでだいたい終わりです。鬼さん達を喚んだはいいけど、あまり意味なかったかな?
 いつまでも喚んだままはかわいそうだから、さっさと還してあげないといけませんね。








「終わりました、詠春さん。大きいこと言っていたのに申しわけありません。フェイトを逃がしちゃいました。
 鬼さん達もご苦労様です」

「…………いえ、ネギ君に怪我が無くて何よりです」

「…………一言でいいから言ってやりたいが、結果的にうまくいってるから何も言えん。
 何でネギは基本的にアホなのに、応用的には頭が良いんだ…………」


 アホってどういうことですか、エヴァさん?


「何や、もう終わりか」

「ワイら何もしてないんやけど」

「…………ぐ、結局あの白髪坊主を逃がしてしまった」

「やばいで、坊ちゃんに怒られるんやないか?」

「うわ、ご愁傷様や。ワイらは壁役って言われてたから平気やけどな」


 人を悪魔みたいに言わないでくださいよ。
 ちゃんと祭壇を大きなその身体で隠す役割をしてもらったし、元からフェイトを捕まえることなんか無理だってわかってましたから別に怒ったりしませんよ。


 ズルズルと小太郎君を引き摺って祭壇のところへ。
 これで小太郎君を引き渡したら僕達の役目は終わりですね。

 いやぁ、最初はどうなるかと思いましたけど、無事に終わってよかったです。
 早く本山に戻って明日菜さん達を安心させて上げましょう。





 …………ズ…………





 ん、魔力反応? やっぱり原作通りにフェイトが来たのか?
 狙いは…………僕か。うん、いらっしゃ~い。待ってたヨ。









【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+『仮契約パクティオー』儀式の手伝い
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋
 関西呪術協会:変態集団疑惑
 天ヶ崎千草:勝っても負けても“死”?+“心を連れていかれた” ← new!
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”:“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア
 ルビガンテ:名前忘れられた
 月詠:メガネ壊された



[32356] 第43話 京都編⑬ 爆誕
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:13



━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━



 最初から最後までしてやられた。
 関西呪術協会の本山を壊滅させたとはいえ、結局はネギ君に最後で全て引っ繰り返された。

 今回の目的は全て果たしたし、偶然だけどネギ君が危険だということがよくわかったのはいい。
 ネギ君は麻帆良で教師をしている。ネギ君は明らかにの復活に対する障害になりうる。

 …………いや、なりうるじゃなくて確実になる。絶対になる。
 今の時点で気づけてよかったのが不幸中の幸いだ。


 しかし、目的を果したというのに全然気が晴れない。
 むしろあそこまで良いようにやられてしまって悔し…………悔しい。そうか、これが“悔しい”という気持ちか。





「…………月詠さん。悪いけど、ここで少し待っていてくれ」





 返事も出来ない、凍らされたままの月詠さんに声をかける。
 今までの僕ならこんな無駄なことはしなかっただろうね。

 …………気づかなかったけど、月詠さんを封印している氷に矢が結構突き刺さっている。月詠さんを背負って逃げたのは不味かったかな?
 まあ、そんなことはどうでもいい。
 



 しかし、このまま尻尾を巻いて逃げるなんてのは、いくら僕でも我慢できそうにもないんだよ。
 小太郎君には逃がしてくれた借りがあるからね。せめてネギ君に一撃だけでもいれさせてもらおう。

 人間を殺しちゃいけないことになっているけど、あのネギ君なら話は別だ。
 確実に障害になる彼は、排除出来るならココで排除しておいた方がいい。少なくとも死んでも構わない攻撃をさせてもらおう。













 水の転移魔法ゲートを使い、祭壇近くに移動する。
 隠れて様子を伺ってみると、どうやらもう終わっているようだ。 

 小太郎君は…………いた。ネギ君に襟首つかまれてズルズルと引き摺られている。
 反応がないことから気絶しているみたいだね。
 召喚されていた鬼達も徐々に消えていっているし、どうやらネギ君は終わったと判断したようだ。


 …………今ならいけるか?
 彼らは完全に油断している。今さら僕が戻ってくるなんて考えてもいないだろう。

 転移魔法でネギ君に接近して『障壁突破ト・ティコス・ディエルクサストー 石の槍ドリュ・ペトラス』で攻撃後、攻撃の成否に関わらずに直ちに転移魔法で撤退。これでいく。
 小太郎君は…………諦めるしかないね。ネギ君は複数の目的を持ったまま戦える相手じゃない。

 仕掛けるなら今しかない。
 術者の集団の中に入られたら、撤退出来るものも出来なくなる。







 認めよう。君は僕が本気で殺意を抱くに値する。







 …………ズ…………





 転移完了。位置はネギ君の真後ろ。
 しかしネギ君は左手を後ろ手にして、小太郎君の襟首を掴んで引き摺っている。そのためネギ君の左半身への攻撃は小太郎君に当たる可能性がある。
 だから狙うは右半身中央部、肝臓付近!

 しかし気づかれたのか、ネギ君が足を止めて反応している。まさかこの転移だけで気づかれるとは…………。





「『障壁突破ト・ティコス・ディエルクサストー……」





 しかしもう遅い。
 首だけで振り返ってこちらを見るけど、いくら何でもこれは避わせない。





「……石の槍ドリュ・ペトラス』っ!?」







 なっ!? 僕の方にバックステップで踏み込んできた!? 『石の槍ドリュ・ペトラス』を避わそうともせずに!?


 橋板から生み出された『石の槍ドリュ・ペトラス』はネギ君に向かって猛然と突き刺さろうと伸びた。
 しかしネギ君は、左手に持っていた小太郎君を湖に投げ捨てると同時に、そのまま右から振り返りながらも僕の方に踏み込んできた。

 相打ち覚悟か!?





 ドスッッッ!!! っとネギ君の右腹を『石の槍ドリュ・ペトラス』が大きく抉るが、それでもネギ君は止まらない。
 そのまま振り返ったネギ君の左拳で魔力と気が急速に高まる。

 転移が間に合わないっ!





「『閃華裂光拳』!!!」





 迫り来るネギ君の左拳を咄嗟に両腕で防御するが突破され、僕の鳩尾にネギ君の拳が突き刺さり、メキメキメキィッ! と骨が折れる音がした。
 そして僕の身体が向こう岸まで吹っ飛ばされる。

 咄嗟のパンチでこの威力!? 障壁も力任せに突き破って!? 













「クゥッ!!!」


 …………吹っ飛ばされたけど、何とか木にぶつかりながらも止まれた。

 両腕? 駄目だ、折れてる。 アバラ? わからない。グチャグチャになっていて感覚がない。
 駄目だ、もう戦えない。やはり撤退するしかない。月詠さんを回収して早く撤退しよう。


 でもこれで一矢報いた。
 小太郎君、君の望み通りにネギ君へ一発いれてあげたよ。




 …………まるで人間みたいな感想を抱くんだな、僕は。












━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



 ドスッッッ!!!



 そんな音がしてネギのお腹に大きな穴が開いたのが、消えていく鬼達の隙間から見えてしまった。

 …………ウソ?







 何で? もう終わったんじゃなかったの?
 何で? どうしてネギのお腹に大きな穴が開いているの?
 何で? どうしてガトウさんみたいにネギのお腹からたくさん血が出ているの?


 …………やだよ。ナギやガトーさんもいなくなったのに…………ネギまでいなくなっちゃうなんてやだよ。









 …………ナギ? ガトーさん?

 え? ナギってネギのお父さんよね?
 ネギの持ってる雑誌で顔は見たことある。見たことはあるけど…………何でその人が私の頭を撫でているの?

 ガトーさん? 誰この人? 高畑先生みたいなスーツを着て、高畑先生みたいに煙草を吸っているおじさん。
 でも今着てるスーツは血で赤く染まって、今より若い高畑先生が煙草に火をつけている。私はこんな人と麻帆良で会ったことないのに。


 何なのこの光景?
 何でこんなことを思い出してるの?









 …………思い出してる?


 思い出すってことは、この光景は実際に今までにあったこと。私が実際に体験してきたこと。
 でも私にはその記憶なんかない。











 …………頭が痛い。
 目の前がチラつく。



 頭を振るとチリンと鈴の音がする。
 タカミチがくれたプレゼントの髪飾り。

 …………タカミチ?



 そうだ。私は高畑先生のことを小さいときは「タカミチ」と呼んでいたんだ。
 小さいときにタカミチと一緒に麻帆良に来た。それでいいんちょと会って、木乃香と会って、クラスの皆と会って、ネギと会った。

 だったら麻帆良に来る前は?









 麻帆良に来る前は…………雪が降っていた。雪が降っていて、タカミチと一緒に歩いていた。
 それでタカミチにこれからどうするのか聞いたら「日本へ行く」って言われた。
 日本に行ってどうするの?と聞いたら、タカミチはこう言ったんだ。

「幸せに暮らすのです、お姫様。
 全てを忘れて…………ね」

 って。





 …………私は何を忘れたの?
 思い出せ。私は何を忘れた? そしてさっきは何を思い出した?



 さっき思い出したのはナギのこと。
 ナギは私を助けてくれて、しばらくの間一緒に旅をしていた。

 けれどもいつの間にかいなくなってしまった。


 そしてガトーさんのこと。ガトーさんは私を守ってくれて…………守ってくれて?
 守ってくれて、その後ガトーさんはどうなった?



 思い出せ。思い出すな。
 今なら思い出せる。今なら思い出してしまう。















「………………ケホッ!」


「ネギ君っ!?」「ネギッ!?」





 …………そうだ、今はそんなことをしている暇はないのよ。ネギを助けなきゃ。ネギはお腹からたくさん血が出ていて、口からたくさん血を吐いている。
 ガトーさんみたいに血だらけになっているネギを助けなきゃ。ネギもナギやガトーさんみたいにいなくなっちゃったら………………いなくなった?









『幸せになりな、嬢ちゃん。
 あんたにはその権利がある』











 …………。

 ……………………。

 ………………………………思い、出した。

 全部…………全部思い出した。
 全部思い出したけど、何でこんなときに思い出したの?


 ガトーさんのときと同じだから?
 ガトーさんみたくネギもいなくなっちゃうから?


 やだ、ダメ。そんなのやだ。そんなのダメ。
 せっかく思い出したのに。せっかくわかったのに。










「…………ダメッ、ネギ!
 いなくなっちゃやだっっっ!!!」































「ん? ああ、大丈夫ですよ、明日菜さん。腹に穴が開いたぐらいじゃ僕は死にませんから。
 …………ケホッ、ペッ! 血の味がするな。相変わらずこの味は慣れないや」





「「「「「……………………え?」」」」」





 …………え? 何で平気そうな顔して返事するの?
 どう見たってガトーさんのときより重症だし、血も吐いて…………あれ? 最初は血がたくさんお腹から出ていて。血をたくさん口から吐いていたんだけど………………もう血が止まってる?






「…………って、あれ? そういえば何で明日菜さん達がまだここにいるんですか?
 本山に連れて行ってくださるようお願いしたじゃないですか、エヴァさん」

「ぅえっ!? …………あ、ああ、スマン。
 いや、あまりにも早く終わったので転移させる暇がなくてな」

「暇がなかったって…………あ、明日菜さん達が僕の方を見たら駄目ですよ。女子中学生は見てはいけない状態になっていますから」





 …………心底無事そうね。
 あれ? もしかして私の今の叫びは無意味?





「ネ、ネギ君、大丈夫なんですか?」

「大丈夫といえば大丈夫です。
 僕は戦闘のときは常に微弱な『咸卦治癒マイティガード』を発動させていますからね。さすがにこのぐらいの怪我になると現状維持が精一杯ですが、それでも死んだりしませんよ。
 それに怪我を完治させるためには、改めて全力全開の『咸卦治癒マイティガード』を発動しないと駄目ですけどね」

「………………そう、なんですか」

「というわけで、僕は大丈夫ですので皆さん結界の中に入っていてください。魔力と気を全開にしますので、ちょっと余波で周りが騒がしくなります。
 申しわけありませんが、出来れば関西呪術協会の人達は僕と明日菜さん達の間に入って、僕の姿が見えないようにしてください。あまり女子中学生に見せるものじゃありませんから。
 さて、それでは…………

 ラス・テル・マ・スキル・マギステル  
 汝がためにユピテル王の恩寵あれ、『治癒(クーラ)』! 術式固定!
 右手に“気”、左手に“魔法”! “気”と“魔法”の合一、『闇の咸卦法』!
 術式兵装『咸卦治癒マイティガード』全開!!!」





 ネギの全身が光って唸り、突風が辺りに吹き荒れる。私達は結界内にいるから平気だけど。

 …………あ、結界の外にいた犬上って子が突風で飛ばされた。凍った湖の上をカーリングみたいに滑ってく。あーあー………………え? 止まんないの?



 ちょ、あ! ああ!? あああっっっ!?



 ヒィッッッ!?





 ………………私は何も見てないし、聞いてもいないもんね。


 え、えと…………ネギが無事で良かったわ。ウン。
 記憶が戻ったことは………………どうしよう? 何か言いだせる雰囲気じゃないわよね。
 本山に戻って落ち着いたら話しましょうか。









 バキィッ! ピシピシピシピシィッ!!!






 え? 何の音?
 私達の後ろにある大岩の方から聞こえてきたような? …………って、大岩に何かヒビらしきものがっ!?









「お、長っ! リョウメンスクナノカミの封印がっ!?」

「何ですってっ!?
 まさかネギ君が発している魔力と気の余波だけで封印が解けるとでも言うんですか!?」


 え? 今度はホントに何なのよ!?

 それに結界の外がどんどん台風みたくなっていくんだけど!?
 というか、私達の結界にもヒビがっ!?


「ネ、ネギ君! ちょっと待って…………いや、ここで止めたらネギ君の身体が………………と、とりあえず術者全員で結界を強化します!
 刹那君は木乃香とお嬢様方をもっと奥へ!」

「ば、馬鹿な!? 何だこの馬鹿げた魔力と気の量は!?
 まさか『闇の魔法マギア・エレベア』…………いや、『闇の咸卦法』の暴走か!?」

「皆さん、下がってください!」

「ま、待って、せっちゃん! ネギ君が…………」


 ネ、ネギは大丈夫なの? 『闇の咸卦法』の暴走って?
 確か前にエヴァちゃんが、暴走させてしまったら人外の闇の眷属になってしまう可能性もあるって言ってたような…………。

 あっ!? 刹那さんが私達を危ないからって祭壇の奥に追いやろうとする。
 ど、どいてよ。ネギが…………。














「オオオォォーーーッッッ!!!」ボッッッッッ!!!!!










 …………え? ネ、ネギの雄叫びと共に、赤いナニカ●●●●●が一瞬で立ち上ったんだけど…………?
 何アレ? 術者の人達が壁になって赤いナニカ●●●●●の下は見えない。



「…………お兄様?」

「…………ネ、ネギ先生せんせーの髪の毛、かなぁ?」

「…………“怒髪天を衝く”……というものでしょうか?」

「ネ、ネギ先生は大丈夫なのか? …………いや、ネギ先生のことだから終わったらどうせケロッとしているんだろうけど。
 というかこれが『闇の咸卦法』の暴走? 髪の毛が伸びるのが? …………どういうこっちゃ?」


 え、やっぱり髪の毛…………なの?
 確かにネギの髪の色と同じだけどさ。

 それより3人とも冷静ね。

 エヘヘヘヘヘ、と笑っている本屋ちゃん。
 フフフフフフ、と笑っている夕映ちゃん。
 心配と諦観と疑問が3分割になってる千雨ちゃん。


 ………………いや、違うか。真っ白になってるもんね。アルちゃんも“ワケがわからないよ”みたいな顔してるし。



















「ヌゥウゥンッッッ!!!」ビリビリビリビリィッ!!!





 って今度は何っ!? 何なの今の音っ!?
 何かが破けるような音がしたんだけど!?



「ネ、ネギ君っ!? 膨れ上がった筋肉で服が!?」

「ちょっと待てぇい!? 何だその筋肉馬鹿ラカン以上の筋肉はっ!?」

「マスター! マスターも後ろへ!」

「スゲェナ、ガキ。ソノ筋肉ヲ切リ刻ミテェ」


 筋肉馬鹿以上の筋肉っ!? 筋肉馬鹿ってラカンのことよね!?
 詠春もエヴァちゃんも何を見てるのよっ!? 本気で何が起きてるのよぉっ!?

 …………あ、何だかネギの髪がどんどん高くなっていく。
 でも髪の毛が伸びてるんじゃなくて、根っこからどんどん高くなっていっているような?


















「ガアアアァァッッ!!!」バキィッッッッッ!!! ドンッッッッッ!!!!!








 一瞬、術者さん達の頭の上にネギの頭が見えそうになったけど、木の板が破れる音がしたと思ったら急にガクッと低くなって見えなくなった。
 そしてそれと同時に祭壇全体が揺れた。

 …………何、地震? 本当に何が起こってるのよ。



「…………きっと足が橋板を突き破って、湖の上に立ったから低くなったんでござろうなぁ」

「…………凍ってる湖に亀裂が入ったアルよ」

「…………クッ、駄目だ。見えてしまう巨大な魔力が暴れすぎてて、魔眼が痛くなってきた」

「大丈夫か、龍宮? お嬢様、皆さん。もっと近寄ってください。この結界の内側に更に結界を張ります!
 『四天結界独鈷錬殻』!!!」

「…………ネ、ネギ君は大丈夫なんか?」


 多分私達の方が大丈夫じゃないと思うわよ、木乃香。
 …………いろんな意味でね。


















「け、結界が!? だ、駄目です。全員伏せなさい!!!」


「ハアアアァァッッッーーー!!!」



 結界の外に嵐が吹き荒れ…………遂に結界が壊れた!? って詠春達が吹っ飛んだーーー!?
 私達は刹那さんの結界がまだあるから大丈夫だけど。

 …………あ、いつの間にかコッチに来てたエヴァちゃんが、更に結界を重ね張りして私達を守ってくれてる。



「ウワァアアアァァーーー!?」

「お父様ーーーっ!?」「長ぁーーーっ!?」

「「「「「キャアアアァァーーー!」」」」」

「馬鹿刹那っ! 嘆くより結界を強化しろ! 死んだものに囚われるな!!!」

「いや、吹っ飛ばされただけだから、まだ死んでねーだろ…………多分」

「…………あ、風が収まってきたです」






 あ、本当だ。ようやく終わったのね。
 っ!? そうだ、ネギは!? ネギはどうなった…………え? ネギ?










「フウウゥゥーーー…………無事に治すことが出来ました。

 …………あれ? 詠春さん達は? というか、明日菜さん達の背が低くなってませんか?」




 そこにいたのはネギだった。確かにそこにいたのはネギのはずよ。
 …………何か違うけど。



 違っているのはまず身長。

 私達は祭壇の一段高くなっているところに立っている。
 でもネギは足が橋板を突き破った状態で立っていることから、おそらく湖の上に立っている。
 その状態でネギの顔が、私達の顔と同じぐらいの高さにある。

 えと…………私の身長が160cmぐらいで、湖からこの祭壇の高さまできっと1mぐらいはあるだろうから、ネギの身長は…………最低でも250cm?

 ………………おっきくなれて良かったわね、ネギ。
 早くもっと大きくなりたいです、って言ってたもんね。



 あと髪の毛。
 もうスッカリ長くなっちゃって、何mも空に向かって箒みたく真っ直ぐ伸びている。
 あとで切ってあげなきゃ駄目ね。



 そして身体。身体というか筋肉。
 エヴァちゃんが言っていたように、マッチョのラカン以上の筋肉になってる。

 両手足が丸太のように太くなっているおかげで、上着の袖やズボンの裾が筋肉の増量に耐えられなくてビリビリと破けてしまっている。
 そのせいで半袖短パン状態だわ。

 服の右のお腹のところに大きな穴が開いている。これはフェイトによって空けられたからしょうがない。…………いや、しょうがなくはないけど。
 でもネギのお腹も傷一つなく見えているから、ちゃんと怪我は治せたようね。それは良かったわ。

 …………でも筋肉で服がパッツンパッツンになってるけどね。
 しかも背が伸びた分、穴の開いた部分が右のお腹辺りじゃなくて胸の辺りまで上がってるけどね。っていうか、腹筋スゴ。


 ………………ムキムキになれて良かったわね、ネギ。
 毎日ちゃんと筋トレとか柔軟体操してたもんね。

 いやぁ、ネギが無事で本当に良かったわ。















 …………。

 ……………………。

 ………………………………どうしてこうなったっっっ!?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 この作品で一番自信があるネタ。…………もちろん“これは酷い”的な意味で。


 ゴンさ……じゃなかった。ネギさん爆誕。
 多分こんなネタ使ったの自分が初めてだったと思うんですよねー。多分こんなネタ予想していた人もいなかったと思うんですよねー。

 でもホラ、2人って似てるところあるじゃないですか。
 父親探してたり、髪の毛伸びたり、周りから危ういと思われていたり、天才だったり、天然だったりとかいろいろと。
 だから、このネタもよく考えたら別に変というわけじゃないと思うんデスヨ。





 これでネギは“悪魔”から“魔人”にランクアップしました。

「オレ魔人ネギさん。今後トモヨロシク」

 あ、ちゃんと元に戻れますよ。
 これからずっとネギさんモードでいるってわけじゃないですよ。

 …………ソッチの方が面白そうですけどねっ!!!
 とはいえ、さすがに少し自重します。




 そして明日菜がアスナになりました。
 重傷のネギを見て、ガトウの最後をフラッシュバックしたようです。

 …………本人以外は気づいていませんけどね。幸いというか何というか、記憶復活に伴う鬱モードは回避できたようです。
 まぁ、ネギのインパクト強すぎたから、他の事なんかどうでも良くなりますよね。





【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+『仮契約パクティオー』儀式の手伝い
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋
 関西呪術協会:変態集団疑惑
 天ヶ崎千草:勝っても負けても“死”?+心を連れていかれた
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”:“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア
 ルビガンテ:名前忘れられた
 月詠:メガネ壊された
 フェイト:○○化?まだ秘密 ← new!



[32356] 第44話 京都編⑭ 戦闘終了
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/08 15:13



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 フハハハハハ!
 来た、来た。この感じです。力が満ちてきます!


 僕の狙いは『闇の魔法マギア・エレベア』…………いや、『闇の咸卦法』による魔力容量の拡大。
 わざわざ痛い思いをしてまでフェイトの一撃を食らっただけのことはあります。さすがにあの怪我なら『闇の咸卦法』を全力全開にする言い訳になりますからね。

 前世では修行ごうもんと『闇の咸卦法』による影響で、魔力容量が倍ぐらいに増えました。
 その後に再転生したときは神様?が言っていた通り、魔力容量は増えたままで肉体は0からやり直しになったのです。それは肉体が『闇の咸卦法』による影響を受ける前に戻ったということも意味します。


 要するに、もう一度『闇の咸卦法』による魔力容量の拡大が可能になったということなのです。





 しかし、ただでさえ最初から子供にしたら大きすぎる魔力を持っていたのに、麻帆良に行く前に魔力容量の拡大をしたら、更に魔力容量がとんでもないことになります。
 それだとさすがに不審に思われるでしょうし、何よりあれ以上向こうで無茶してネカネ姉さんに叱られるのは避けたかったです。


 それを避けるために

「麻帆良に来てからすればいいじゃん!」

 という結論に達しました。
 そのため麻帆良に来た最初は魔法関係者の皆さんに年齢不相応な実力を持っていることを見せ、尚且つ「ネギ君ならしょうがない」という雰囲気を蔓延させるなど、僕のことをとても良く理解してもらいしました。


 多分、これで更に魔力容量が増えても

「またネギ君か!?」

「あの子の担当は高畑先生でしょ!」

「いや、あの子を麻帆良に呼んだのは学園長らしいですよ」

「だったら学園長に投げましょうよ」

 とかで終わらしてくれるでしょう。

 …………学園長はまた入院するかもしれないですけど。



 そして『闇の咸卦法』を全力全開出来るチャンスが遂に来ました。
 それがこの京都旅行でのフェイトによる『石の槍ドリュ・ペトラス』での攻撃です。


 フハハハ、わざわざご苦労さん、フェイト。
 お礼に両腕とアバラ数本だけで勘弁してあげる。『閃華裂光拳』での怪我だから、もう治せないけどな!

 まあ、原作のエヴァさんがフェイトのことを“人形”とか言っていましたので、腕とか取り替えれば復帰できるんじゃないですかね? 時間はかかるでしょうけど。
 それに京都に来るのが時期的に原作より早まってしまいましたからね。それに伴ってヘルマン卿襲撃の時期なども変わってくるかもしれません。
 そのためにフェイトがしばらく治療に時間を費やすようにしておきました。治療を諦めるにしても、身体を取り替えるにしても、一月ぐらいの時間は延ばせるでしょう。

 でも別にフェイトが脱落しても僕的に問題ないですけどね!





 …………フム、治癒もだいたい終わったかな。
 ざっと魔力容量が更に倍になった感じです。以前の表現で現すなら魔力容量約20。木乃香さんやエヴァさんクラスの約4倍。一般の人の約10倍の魔力容量ってところですね。


 これが転生し直した特典。
 『闇の咸卦法』による影響を繰り返すことで、魔力容量を増やすことが出来る。



 つまり、転生する程強くなる!!!


















 …………いや、転生するのはこれで最後でいいですけどね。

 いいか! 再々転生させるなよ! 絶対再々転生させるなよ!
 ネタ振りなんかじゃないからな!!! マジで3回目とかやめてくれよ!!!














「…………ネ、ネギ? 大丈夫……なの?」


「ん? ああ、大丈夫ですよ、明日菜さん。すっかり全開です。むしろ今までより調子がいいぐらいですね。
 ところで何で皆さんの背が縮んでるんで…………あれ?」


 明日菜さん達が小さくなっているんじゃなくて、もしかして僕の視点が高くなっている?

 って、おわっ!? 何この身体は!? ラカンさん以上のマッチョになってる!? 『闇の咸卦法』の影響でこうなったの?
 さすがにこれは予想GUYでした。





「…………でも、これはこれでアリかな?」





 大人の身体になるなんて、幻術以外では20年振りです。マジで前世は大人になる前に赤ん坊に戻りましたからね。

 うわー、何か本当に久しぶりだ。もう子供の身体に慣れていたつもりでしたが、やはり背がおっきくなるのはいいですね。
 視点が高いと見える風景も違ってくるなぁ。





「ちょ、ちょっと待て、ネギ!? お前は何を言っているんだ!?」

「本気ですか、お兄様!?」

「正気に戻りなさい、ネギっ!」

「いやいやないやろっ! さすがにそれはないやろっ!」

「ネ、ネギ先生はそれで平気なんですか!?
(え? ちょっと待って? 私は今度からあのネギ先生と修行後に一緒に寝るの?)」

「…………聞いたことがあります。日本人がカッコいいと思うような男性は、欧米人によると貧弱なぼーやにしか見えないらしいです」

「わ、私もその話聞いたことあるな。そのせいでジャ○ーズとかの日本男性アイドルは欧米人に人気がないとか…………」

「え? もしかして…………あ、あの姿がネギ先生せんせーの理想の姿…………?」

「おい、そのことも確かに重要だが…………私達の後ろで頭が出始めているリョウメンスクナノカミはどうするんだ?」

「それと吹っ飛ばされた術者達を回収しなければならぬでござるな。拙者が術者の回収を引き受けるので、ネギ坊主とリョウメンスクナノカミは皆に任せるでござる。ニンニン!」

「か、楓ーーー!? 逃げるアルか!?」





 いや、さすがにここまでマッチョなのは嫌ですけど。
 あ、それにちゃんと元に戻れるみたいですよ。

 でもせっかくここまでマッチョになったのですから、この戦いはこのカッコのままで行きますか。
 といっても、今はパワーはとても強いですが、膨れ上がった筋肉のせいでスピードが劇的に落ちちゃってます

 要するに「おまえを殺すぞ、セル……!」のときのトランクス状態ですね。




 でも動けないスクナ相手なら楽勝です……というかカモです。

 …………原作のカモ君じゃないですよ。












「ではリョウメンスクナノカミは僕がやります。皆さんはここで待っていてください。刹那さんとエヴァさんは念のためにもう一度結界を張っておいてくださいね。
 ハッ!」


 うを! 凄いジャンプ力。 1回のジャンプで、スクナ封印の大岩まで跳べました。100mぐらい?
 別にまだ意識的に身体強化とかしてないんですけどね。

 …………そういえば何でスクナの封印が解けそうになってるんだろ? 何かあったのかな?


 ま、いいか。
 とりあえず一発スクナの頭にブチかましましょう。







「ハァッ!!!」


 メメタァッッッ!!!





 …………あれ? この擬音だったらスクナ無事じゃね?












━━━━━ 犬上小太郎 ━━━━━



 …………うっ……く………………。
 お、俺は…………?







 ドゴォオオオォォンッッッ!!!







 !? な、何の音や!? それに俺は…………そうやっ!?

 ネ、ネギ!? ネギはどこ行ったんや!?



 ここは…………座敷牢なんかじゃないな。というかスクナ封印の祭壇やん。時間も月の位置見る限りそんなに時間経ってないな。
 いったいあれからどうなったんや? それになんで俺は無事なんや? 俺は確かネギに…………。

 くそっ、ネギの顔面に一発ぶち込めたのはええけど、遊ばれてただけや。結局魔法の1発で気絶させられたし。
 それに手が治ってる? 確かに骨が折れてたはずやのに?


 ネギが治したんか?
 …………要するに、ネギにとって俺は敵ですらないということなんか。





 …………あ、祭壇の上に木乃香の姉ちゃん達がおるな。…………何か変な赤い柱も立っとるけど?
 あそこにいけばネギの居場所もわかるやろ。


 …………もうええ。どうやらせっかく助かった命みたいやけど、ここまで舐められては男がすたるわ。
 ネギには絶対かなわへんけど、こうなったら死んででも俺の覚悟をネギに見せたる。いくらブン殴られようが死ぬまで食らいついてやるで!















「おーう、姉ちゃん達。ネギはどこや?」

「!? お嬢様、私の後ろへ…………って、犬上小太郎か、よく生きてたな? ………………いや、本当に。
 うん、よく無事だったな。良かったじゃないか」

「大丈夫なん? 氷の上をカーリングみたいに滑って、向こう岸に頭から激突してたけど?」

「頭がやけに痛いのはそのせいかいっ!? …………ってスマンな。俺は別に大丈夫や。
 それよりネギはどこや? それと俺はもう木乃香の姉ちゃんを狙わんし、他の姉ちゃん達にも手出しせえへん。そもそも女を殴るんは趣味やないからな。
 目的はネギだけや、誓ってもええ。だから邪魔せんといてくれ。俺はネギに一矢報いたいだけなんや」

「…………ネギ君ならそこにおるえ」


 は? そこって…………何か赤い柱があるだけやん?
 姉ちゃん達がネギを危ない目にあわせたくないのはわかるけど、俺よりネギの方が強いから大丈夫やで。
 …………悔しいけどな。

 だから、ネギの居所を教えてく…………あれ? 











「…………ネ、ネギ……さん?」

「そうだよ、小太郎君」



 何で俺はネギに“さん”付けしとるんや!?
 っていうか、マジでこのデカイのがネギかいっ!? 赤い柱だと思ってたのはネギの髪の毛!?

 え? 何でマジでこうなっとるの? 髪の毛がとんでもなく伸びてたり、筋肉ムキムキになってたり!?





「小太郎君は今、「僕に一矢報いたい」と言ったね。本当に出来ると思っているのかい?」

「…………で、出来る出来ないやない! やるんやっ!!!
 例え死ぬことになったとしても、俺はこの生き方を変えたりせえへん!!!」

「…………フゥ。わかった。こっちに来なよ。明日菜さん達を巻き込みたくない。
 こっちだTHIS WAYついてくるんだFOLLOW ME


 悠然と俺の死線を横切って、姉ちゃん達からネギが離れていく。…………あの巨体なのに全然反応出来んかった。

 いや、そりゃ姉ちゃん達を巻き込むのは俺としても嫌やけど…………やっぱり、ついていかなアカンかな?
 何かもう止めておきたい気が…………俺馬鹿やから英語わからんしな。



 …………何でそんな憐憫の目で見るんや、姉ちゃん達?

 姉ちゃん達の目。育ちきったせいで買われていくことのないペットショップの犬でもみるかのように憐憫の目やん。
 残酷な目や。「かわいそうだけど○○○○自主規制にかけられて、明日の朝には他の犬の○○リサイクルになる運命なのね」ってかんじの!


 ………………もしかしなくとも早まった?





「小太郎君。同年代の男の子の僕の経験からみて、今の君に足りないものがある」

「な、何なんや、それは!? っていうか、“同年代の男の子”!?」


 どう見たって今のネギ……さんは同年代の男の子見えへんって!!!
 アカン。何故か“さん”付けしなきゃいけない雰囲気に呑まれてしまう。

 …………ま、まぁ…………それに確かまだガキの俺に足りないもんはにたくさんあるな。単純な力やったり経験やったり…………。


























「違う。“危機感”だよ」ボッッッ!!!

「ガッハァッッッ!!!」メキメキメキメキィッ!!!









 一瞬で間合いを詰められて、腹への蹴りで上空に吹っ飛ばされた!?

 ぐっ、アバラは何ぼ…………折れていない!? 何でやっ!?
 確かに今、俺のアバラが折れる音が聞こえたはず!? 痛みもある。幻術なんかやあらへん。何がどうなってるんや!?

 いや、そんなことはどうでもええ! 今は体勢を立て直さんと。空中で立て直しにくいけど、下で待ち受けてるネギに反撃を何とか!
 大丈夫や。ネギは俺がもう戦えないと思って大振りの一撃を準備してる。ソレを避けて反撃を!!!



 いけるで!!! このタイミングなら確実に2発、いや3発!!!
 ネギの顔面に渾身の拳をぶち込んで、ネギの攻撃前に回避できる!!!


 くらえネギ!!!
 まずはフェイトの分!!! 次は千草姉ちゃんの分!!! その次が月詠の分や!!!


 しかしおかしいな俺。フェイトのことは別に仲間とか思っておらへんかったのに。
 いや、むしろいけ好かない奴とか思ってたのに、いつの間に俺の中で親友までランク上がって、なんでこんなムキになって仇討とーとしてんやろ?


 仇っつーかフェイトまだ死んでおらんけど(多分)。
 ま、やっぱ一緒に死線くぐったのがデカイわ。命懸けで何かを共に行なう奴なんて、無条件で親友やしな。


 なのにこのクソッたれのネギ! そんな俺らの覚悟を足蹴にしやがって!
 死ぬ気で戦って、殺される事すら覚悟している相手に手加減!?
 武士の情けもあらへんのか!!! この野郎!!!


 うぉぉぉマジ増々むかついて来たわ!!
 俺の分も含めて4発入れる!!!
 って俺すげぇな。今人生で一番頭回転してるやろ?



 ……まだ身体が動かせない? おそらく300文字以上考えてっけど!?
 あれ? これって…………アレじゃね?

 時間がゆっくり…………周りが凄いスローになるって…………死ぬ前の…………。





 …………身体が、動かん? な、何で動かせんのや!?

 今の一撃がそんなに重かったんか?
 怪我はない。それなのに動けない? いったい何がどうなっとるんや!?


 動け! 動け動け動け動いてやっ!!!
 今動かなきゃ何にもならないんや! 今動かなきゃ、今やらなきゃネギに一泡吹かせられないんや!
 もうそんなのは嫌なんや………………だから、動いてやっ!!!











「君もしかしてまだ、自分が死なないとでも思ってるんじゃないかい?」









 皆……悪い。失敗しくった…………。













━━━━━ 近衛詠春 ━━━━━



 …………終わった。ようやく終わりました…………いろいろと。

 え? スクナの再封印が終了? 術者全員の無事の確認も終わった?
 ならそろそろ撤収しましょうか。





「うーん、こんな感じでどうでしょう?」


 天ヶ崎千草と犬上小太郎、そして木乃香や木乃香の友人のお嬢様方、それに目の前で身体を伸び縮みさせていろいろと試しているネギ君も連れてね。
 あ、ちゃんと犬上小太郎は生きてましたよ。さすがにネギ君も木乃香達の前では、汚い花火を咲かせることはしませんでしたからね。


「…………いや、雰囲気は違うが本当にナギに似ているな。むしろナギより大人っぽいぞ」

「そうですね。ナギは大人になっても悪ガキのような雰囲気が抜けませんでしたが、ネギ君にはそれがありませんね」

「へぇー、そうなんですか。どうです、皆さん? 大人になった僕は?
 今の僕の肉体年齢は20歳くらいだと思いますけど」


 …………いや、本当に凄いですね。
 さっきのラカン以上のマッチョから一転して、確かにネギ君が大きくなったらこうなるであろう姿なんですが、本当にナギに似ています。

 あ、破けた服は転移魔法ゲートに手を突っ込んだと思えば、新しい服を取り出してました。転移魔法ゲートはネギ君の鞄に直結していたらしいです。
 戦闘で服が駄目になることや幻術で大人になることを想定して、“こんなこともあろうかと”複数の衣服を用意してあったそうです。

 …………“こんなこともあろうかと”と言ったときは、何故かやけに嬉しそうでしたが。


「ネギ君、ロボットアニメとか好きやからなぁ」


 そうなんですか、木乃香?
 年齢相応のところもあるようで少し気が楽になりますね。

 大人になったネギ君の雰囲気はアリカ様に似てますが、アリカ様のような冷たい感じだけではなく、ナギのような人懐っこい感じもあります。
 ナギとアリカ様の良いとこ取りといった感じですね。木乃香達も赤い顔して見惚れちゃっていますよ。


 …………まだ木乃香に恋愛は早いと思うのですが。







「…………い、いいんじゃないかしら?」

「う、うん……ホンマにカッコエエよ、ネギ君」

「は、はい。その…………見違えました。普段のネギ先生は可愛い感じなのですが、大人のネギ先生はカッコいいです……って私は何を口走って!?
(え? ちょっと待って? 私は今度からあのネギ先生と修行後に一緒に寝るの? ………………ゴクリ)」

「は、はわわわわ…………」

「の、のどかシッカリするです。気持ちはわかりますが、心を強く持ってください…………でも、これは本当に……私は…………」

「いや、これはマズイだろ。うわぁ……子供が学校の先生やるなんて駄目だと思っていたけど、この顔で女子中の先生やる方が駄目だ。ネギ先生が子供で良かったわ。
 この大人のネギ先生がウチの担任だったら、学校で昼ドラ並みの騒動が起きるぞ」

「せ……戦闘も終わったので、“お試し契約”は破棄させてもらうぞ…………」


「…………………………」

「古、ボォーっとしてどうしたでござるか? いや、気持ちはわかるでござるけど。
 …………ネギ坊主は将来、拙者や真名より背が大きくなるでござるか。…………でもあの姿だとネギ“坊主”と呼ぶのは…………」

「…………やはり待てそうにないな。ネギがああなるまであと10年。こうなったらネギを別荘に現実時間で150日間ほど監禁して…………」

「落ち着いてください、マスター」

「オレトシテハサッキノ筋肉ノ方ガ良カッタンダケドナァ」


 何か1人ほど危ないことを口走っているのがいましたが、ネギ君なら大丈夫でしょう。
 それに…………確かに木乃香達は大人のネギ君に夢中になっていますが、それはまるで何かを無理矢理にでも忘れようとしているようにしか見えません。無理ないですね。

 しかし、大丈夫といえばネギ君は本当に大丈夫なんでしょうか?
 怪我自体はもうないようですが、『闇の咸卦法』とやらの影響は…………?





「ネギ君、これから本山に戻りますが、ネギ君の身体は本当に大丈夫ですか?
 怪我は完治しているようですが、『闇の魔法マギア・エレベア』を暴走させると魔族化してしまうようなことを聞いたことがあります。
 とても言いにくいことですが、本山にそのまま入ろうとして結界に反応するようなことは?」

「あ、大丈夫ですよ。魔族になったわけじゃありません。
 身体が変化したときも、別に人外の怪物になったわけじゃなかったですからね」

「………………ソウデスネ」

「確かにちょっと変わりましたが、人間をやめたわけじゃないです。
 そうですねぇ…………。“狐”が“白面金毛九尾の狐”に一足飛びにレベル…………ランク? いや、ステージアップしたみたいな感じです。ホラ、“白面金毛九尾の狐”も狐であることには変わりませんよね。
 だから僕も人間のままデスヨ?」


 ソッチの方がやばくないですか!?
 それに一足飛びどころか九足飛びしてますよね、それ!?

 それになんでまだ疑問系?


「いや、肉体年齢を自由に操作できるってことは、もしかして不老と同じことではないかと思って…………。
 いつの間にやら人類の夢が叶っちゃったのかな? まぁ、あとで詳しく調べます」

「もうただの人間じゃなくて神クラスにいってるんじゃないか? いわゆる一神教のGODじゃなくて、多神教のDEITYの方だが。
 ネギならDEITYにだって勝てるだろ。…………というか、一撃でスクナを倒しただろ。魔力と気を込めただけのパンチ1発で」

「え、いや? どうなんでしょう? 戦ったことないから何ともいえません。スクナは確かにリョウメンスクナノカミ●●だから神様で鬼神ですけど、封印されていたから何とも…………。
 …………でもDEITYって宇宙空間でも生きてられるんですかね?
 もし宇宙空間で生きられないなら、転移魔法で宇宙に転移させれば勝機があるか「さあっ、本山に帰りましょう! お嬢様方をいつまでもこんなところに置いておくわけにはいきません!」……? ええ、そうですね」





 …………もうネギ君は喋らないでくれ、お願いだから。





 やれやれ、それにしても後始末が大変そうです。
 本山は一時的に壊滅近くまでいくわ、それを救ったのは見習い?西洋魔術師だったりするわ、リョウメンスクナノカミが復活しそうになるわ、関西呪術協会を救ってくれた見習い?西洋魔術師が大怪我するわ。
 しかも下手人がウチの構成員と“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”。


 東に対する落とし所が厄介になりそうです。
 何しろ私達が助かったのはネギ君の、関東魔法協会から派遣されていた西洋魔術師のおかげですからね。
 そういうつもりで派遣されていたというワケではないのですが…………。

 とはいえ、ネギ君はあくまで関東魔法協会には修行のために所属しているだけで、いわばメルディアナ魔法学校からの留学生。
 ですので東に貸しを作るのではなく、ネギ君個人に貸しを作る形にすれば少しはマシですね。それにあそこまでの大怪我したからには、私達の方からもメルディアナに伝えた方がいいでしょう
 幸い私とナギの関係は世間が知っています。難しいでしょうが東西の間の話ではなく、“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子と盟友の間の話に持っていければ何とか…………。

 あとここでネギ君個人に対し、個人相手とするなら過剰ともいえるような御礼をすれば、東としてもそれ以上は言い難くなるでしょう。
 まさか留学生の手柄を取り上げるなんてことは出来ないでしょうからね。
 お義父さんとも連絡をとってそのように取り計らいますか。これ以上東西の仲が悪くなるのはお義父さんとしても望むところではありませんでしょうし。


 ネギ君を英雄のように祭り上げるのは不本意ですが、他に良い手がありません。
 …………というかネギ君なら気にしなさそうですし。



 しかし、ネギ君がああなってしまった責任はどうやって取れば…………って、そうか。一時的とはいえ今のネギ君は東の所属になっているから、ネギ君のことはお義父さんに丸投げすればいいのか。
 確かにネギ君がああなった責任の一端はこちらにありますが、それに対することは関東魔法協会との話し合いで決めることにしましょう。
 さっきと言ってることが180°違うかもしれませんが、コレはコレ、ソレはソレ、ということで…………。



 頑張ってください、お義父さん。
 ネギ君のことはお義父さんにお任せします。



 東に必要以上に貸しを作るのは好ましくありませんが、ネギ君がああなった責任をネギ君個人に対して取るのと、東に任せて東に貸しを作るのだったら、後者の方がまだマシです。
 他の者も反対したりしないでしょう。…………ここに一緒に来た、今でも信じられないものを見るような目でネギ君を見ている腕利きの術者達は特に。ウン。

 もし反対する人がいたら、その人にネギ君との交渉役を任せることにしましょう。




 …………いや、本気で何であんな子になったんだ?
 私はナギがまだ小さい頃、とはいっても今のネギ君よりも少し年上ですが、その頃からナギとの付き合いがあります。
 当時のナギの年齢に合わない戦闘力に驚いたものですが、ネギ君はナギ以上ですね。


 しかし、それこそネギ君に対する御礼はどうしましょうか?
 関東魔法協会から物言いが出ないようなものとなると……………………うーん?







「ネ、ネギ君! そのな…………魔力をネギ君に分けたから疲れたんよ。
 だから……その……『咸卦治癒マイティガード』で治療してくれへん?」

「ん? ええ、構いませんよ。
 魔力を分けてもらったのもありますし、何より木乃香さんは誘拐されてお疲れでしょうからね」

「ホ、ホンマ?
 それじゃあお願いするわ…………って、ヒャアッ! お姫様抱っこ!?」

「あ、嫌でした? 前に部活巡りの時にしたことありますし、やってみたかったんですよね。こういうの」

「ええよ! バッチ来いや!
 …………そうや、せっちゃんも一緒に! ウチは右腕で抱っこして、せっちゃんは左腕で抱っこ!!!」

「うえぇっ!? お、お嬢様!?」

「ちょ、ちょっと待って! 抜け駆けはズルイわよ、木乃香!!」

「早い者勝ちか!? ならばネギの背中は私が貰った!!!」





 …………いや、木乃香にはまだ早いですよね。
 確かにそれならば御礼としては十分でしょうし、“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子と盟友の間の話にも持っていきやすいですが…………。

 まさか……そんな…………ねぇ?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 僕は…………スーパーネギです。
 ネギの魔力容量が更に倍率ドン!




 …………お前どこの蟻の王だよ?





 そもそも『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』があるから食らわないことも出来ましたが、このような理由でわざと食らいました。
 ちなみに不老にはなってません。また長くなるので、それに関しては次回以降で詳しい説明をば。
 身体の変化方法は超野菜人式でもなくゴンさん式でもなくビスケ式でもなく、幽々白書の幻海と同じ方法です。…………ホントだよ。


 …………3回目の転生どうしましょうかね? とりあえず完結させてから考えますか。




 そしてスクナ退場のお知らせ。マジで出番ネェっす。
 これで京都編での戦闘ぎゃくさつは終了です。


 小太郎をブン殴ったときは、『咸卦治癒マイティガード』は『過剰回復呪文マホイミ』にならないぐらいで発動中でしたので、攻撃と同時に怪我が治っています。痛みとかは当然ありますが。
 もうこれマジ拷問です。

 でも、あくまで男同士の対等の戦いの結果なので、ネギの被害者リストには入りません。


 ○○○○自主規制とか○○リサイクルは興味がない限り調べようとしないでください。ジョジョ元ネタのセリフより酷いですので。
 ヒントとしては、サンデーでやってた“ワイルドライフ”でそういう描写がありました。


【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+『仮契約パクティオー』儀式の手伝い
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋
 関西呪術協会:変態集団疑惑
 天ヶ崎千草:勝っても負けても“死”?+心を連れていかれた
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”:“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア
 ルビガンテ:名前忘れられた
 月詠:メガネ壊された
 フェイト:○○化?まだ秘密
 リョウメンスクナノカミ:出番無し ← new!



[32356] 第45話 京都編⑮ 京都旅行終了
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/09 18:48



━━━━━ 長瀬楓 ━━━━━



「皆さん、休めましたか?
 もう安心していただいて大丈夫ですよ。フェイト・アーウェルンクス、月詠の2人は未だ逃亡中ですが、ネギ君の話では戦える状態ではないとのことですので。
 天ヶ崎千草、犬上小太郎は捕縛済み。主犯の天ヶ崎千草にはそれなりの処罰があると思いますが…………」

「死刑ね」

「死刑やね」

「死刑だ」

「お前ら…………ネギ先生が治療のために天ヶ崎千草にずっと付きっ切りだからってそこまで怒るな」

「…………天ヶ崎千草は心神喪失状態なので、もしかしたら病院行きになるかもしれません。むしろネギ君が今してくれている治療が成功しなければ、介護人すら必要な感じです。
 犬上小太郎の方は年齢もありますし、ネギ君からの言葉もあります。彼にもあまり大きな罰はないかもしれません。ネギ君の要望で、これからひたすら表と裏両方の勉強三昧になりそうですがね。具体的に言うと“偏差値60ぐらいまで”がネギ君の要望です。
(“死刑”って…………木乃香を麻帆良にやったのは失敗だったか?)」


 まあ、天ヶ崎千草はあそこまでしたら、もう何も出来ないでござろうな。
 犬上小太郎の方もあの性格を考えたら、普通の罰より勉強漬けのほうが効果的そうでござる。拙者でもイヤでござるよ、そんなの。
 フェイトはかなりの怪我、月詠も新たなメガネが出来るまではどうせ戦えないだろうから、とりあえずこの旅行での危険は去ったということでござる。

 …………ネギ坊主はそれでも油断しないのでござろうけど。





「昨日の事件…………終わったのは今日に入ってからですから、今日の事件とも言うべきかもしれないですが、事件のせいで皆さんお疲れでしょう。少しは寝れましたか?
 もうすぐ食事の準備が出来ます。中途半端な時間ですが、朝食兼昼食として召し上がってください」

「…………ネギはまだなの?
 私達には休めって言ってそれっきりだったけど?」

「ええ。ネギ君はまだ天ヶ崎千草の治療です。それと麻帆良に送る報告書作成と自分の身体の診断もしていましたね。
 もうすぐ終わる頃だと思いますよ」

「ネギ君が一緒にいてくれれば、こんな疲れは吹き飛ぶんやけどなぁ」

「木乃香さん達はいいじゃないですか。本山に戻るまでとはいえ、『咸卦治癒マイティガード』で少しは治療してもらえたのですから。
 のどかや私はネギ先生に触れてすらいないのですよ」

「そうやけどなぁ…………それにしてもあのネギ君は反則やわ。ネギ君が大人になったらあんなになるんやなぁ。
 一度体験してもらえればわかると思うけど、あんまりネギ君にあの姿になってもらわない方がええかもしれんわ。なぁ、せっちゃん?」

「…………はい。抱っこされたと思ったら、次に気づいたときは本山にいました…………」

「うう…………お姫様抱っこしてもらった木乃香さんは羨ましいけど、確かにあのネギ先生せんせーはカッコ良すぎるよね。
 お姫様抱っこされたら、私だったら気絶しちゃいそう…………」

「…………………………」


 大丈夫でござるか、古? 時折思い出したようにボォーっとするでござるな。
 まあ、気持ちはわかるでござる。まさかネギ坊主があのように成長するとは…………。


 それにしてもお姫様抱っこでござるか。
 拙者が小さいときは、修行で疲れ果てた拙者を親があのように抱っこして家に連れて帰ってくれた覚えはあるが、大きくなってからはスッカリないでござるな。
 麻帆良に来る前には親より大きくなっていたでござるし。

 あのネギ坊主なら、拙者でもお姫様抱っこ出来そうでござるなぁ…………。





「ネギ君はあの肉体年齢を操作出来るようになったことを詳しく調べるとも言っていました
 ネギ君はおそらく大丈夫だろうとは言っていましたが、あれはネギ君の負担が大きいかもしれませんので、程々にしておいた方がよろしいでしょう」

「それはそうですね。とりあえずお前らもネギ先生が来てから聞けよ。
 それと観光は結局どうする? さすがに今日これからってのはなんだけど、もう安全みたいだし明日から観光に行くか?」

「良いでござるな。せっかく京都に来たのだから、少しは観光してみたいでござるよ」

「そのときは私達の方から案内兼護衛として数人出しましょう。このままお帰りになられたら私達の立つ瀬がなくなってしまいます。それもネギ君が来てから話し合うとよろしいでしょう。
 …………おや、丁度ネギ君も来たようですし」


 お、そうでござるな。
 パタパタと軽い足音が聞こえるでござる。

 …………足音がやけに軽すぎでござらんか?












「あ、みなさんここにいたん「ネギが小っちゃい!?」…………ですね」


 いつも小さなネギ坊主が更に小っちゃくなってるでござる!?
 …………身長90cmぐらいでござるな。あの肉体操作は大きくなるだけでなく、小さくなることも出来るのでござるか…………。


「…………ええ、今はまりょくの回ふくをゆう先するために、3才ぐらいのからだになってます。
 とりあえずぼくにしゃべらせてください。ジリジリとよってこないでください。手をワキャワキャとうねらせないでください。
 …………コホン。天ヶ崎千草のちりょうはおわりました。心の方もひとまずは大丈夫でしょうが、もう術者としてはふっき出来ないと思います。
 まほらへのほうこくもおわりました。なんかほうこくを受けとった学園長が血をはいちゃいましたけど、ガンドルフィーニ先生たちがかわりにちゃんと引きついでくれました。
 それとぼくのからだはもんだいなさそうです。むしろもっとべんりになりましたので安心してください………………それではちょっとからだを元にもどしてきムグゥッ!?」


 あ、逃げようとしたけどアスナ殿達に捕まったでござる。
 そんな姿でここに来るから…………。


「ちょ、ちょっと待って! 抱っこさせて!!!」

「何コレ!? ネギ君が小っちゃいやん!?
 アスナ、次はウチに貸してぇな!」

「ネ、ネギ先生が3歳のときはこんなに可愛かったのですか…………」

「う、うわー、ネギ先生せんせー可愛いですぅ!」

「待てぇっ! 私にも貸すんだ!!!」

「ムゥーーー!? ムグゥーーーッ!?」

「(あれだけ滅茶苦茶やったネギ君を揉みくちゃにするなんて、木乃香といいこの子達って怖いもの知らずだなぁ…………)」




 ネギ坊主も大変でござるなぁ。

 …………おや、巫女殿。何でござるか?
 食事の準備が出来た? なら腹も空いたし、食事にするでござるよ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「で、ネギ先生。結局どうなんだ? 大丈夫なのか?」


 食事も終わり、お菓子とお茶で一服中。
 あ、この金つば美味しいでござる。


 ちなみにネギ坊主は食事前に元の10歳の姿に戻っているでござる。
 何かあの子供の姿を久しぶりに見る気がするのは気のせいでござろうか?

 …………きっと昨日のネギさん●●とネギ殿のインパクトが大きすぎたせいでござるな。


「ええ、大丈夫です。本質が変わって魔族になったというわけじゃありません。僕は今までと同じ、ネギ・スプリングフィールドのままですよ。
 どうやら『咸卦治癒マイティガード』の力を最大限使うとき、細胞が活性化して肉体が変化するみたいです。ですがあくまで『咸卦治癒マイティガード』を利用して変化しているだけであって、元の僕自体が変わったわけではないようですね。
 変化の具合もいろいろと内容も変えられるみたいで、それぞれ特徴があるみたいです。最初になったマッチョな身体だったら、パワーは極端に強いけどスピードが極端に落ちる。次になった20歳くらいの身体だったら、成長した分元の身体よりも平均的に強くなる。さっきの3歳ぐらいの身体だったら、パラメータはかなり弱体化するけど省エネ、といった感じです」

「へぇ~。凄いアルな………………もしかして本気で不老になったアルか?」

「いえ、そういうわけではありません。
 肉体を変化するのに魔力と気を消費する上、変化する具合が大きければ大きいほど消費は激しくなります。それに変化を継続させるには常に魔力と気が必要です。
 今は変化継続の消費量より自然回復量の方が多いので、肉体をずっと変化させていても問題ありません。しかし、何十年後かには回復よりも消費の方が多くなるでしょう。
 そうなったら『咸卦治癒マイティガード』が切れて元の年齢に戻りますので、結局は老いて死ぬことに変わりませんね」

「なるほど、そういうことだったのか…………私のように闇の眷属になったわけではないのか。
(逆に言えば、魔力と気があれば永遠に生きていけるということか…………その手段さえあれば、ネギは私と一緒に永遠を…………)」


 それは何よりでござる。
 さすがにネギ坊主が闇の眷属になってしまったら夢身が悪い。

 …………いくら元からあまり違いはないように感じられるとしても。


 それに闇の眷属になって暴走したら京都が壊滅するでござるしな。
 少し目にしただけでござるが、あのリョウメンスクナノカミよりネギ坊主の方が明らかに強いでござる。

 …………本気でネギ坊主が暴走しなくてよかったでござるなぁ。





「…………別に闇の眷属になったとしても気にしませんけどね。エヴァさんみたいになるだけみたいですし。
 あ、でもなるとしても大人になってからの方がありがたいですね。さすがにずっと子供の姿のままというのは…………」

「むぐ…………前半の言葉は嬉しいが後半の言葉は余計だな。
(もしかして、ネギの協力さえあれば私の身体も成長できるかも? さすがにネギが大人になったら、相手するのは大人の身体の方がいいだろうし、麻帆良に帰ったら本格的に研究してみるか。
 『闇の咸卦法』で? …………あれは私には無理だな)」

「ネ、ネギ先生はそれで平気なんですか!?
 人間じゃなくなったとしてもいいんですか!?」

「? どうしたんですか、刹那さん? 急にいきなり?
 …………別に平気ですよ。僕がどう変わろうと自分のことを“ネギ・スプリングフィールド”と認識出来るのならば、僕は何があっても“ネギ・スプリングフィールド”です。
 とはいえ、肉体が変わると精神もそれに引っ張られるように変わってしまう気がするので、大人にならないうちはあまり年齢を変えたりしない方がいいかもしれません。
 戦闘でやむを得ず、という場合は是非もありませんが、それ以外でしたら幻術もあります。だから今度から年齢を変える必要があったら幻術を使おうと思います」

「…………いろいろあるみたいだけど、ネギが何ともなくて良かったわ。
(記憶戻ったことどうしましょ? 言い出す機会がないわね。やっぱり麻帆良に戻ってから一応タカミチと相談して…………って記憶封印したのはタカミチなのよね。
 また封印されることはないとは思うけど、不安だからまずネギに話してから、ネギと一緒にタカミチや学園長に話すことにしましょうか。
 …………不安だからネギに話すだけよ、ホントよ)」

「それなら一安心です。
 お預かりしたネギ君が取り返しのつかないことになったとしたら、いったいナギやお義父さんにどうお詫びすればいいのかと…………」

「ちっ、あの姿はお預けか。
 しょうがない。10年後を楽しみに待つことにしよう」


 いや、その方がいいでござるよ。
 普段がネギ殿バージョンだったら、絶対に教師的にマズイことになるでござる。

 しかも明日菜殿と木乃香殿は同室で一緒の布団で寝るという間柄。
 ヘタしたら襲われるでござるな。…………ネギ坊主が。









「それで明日の観光ですか?
 いいんじゃないでしょうか。もうフェイト達の危険はなさそうです。もちろん僕も一緒に行きますし、関西呪術協会からも数人出してくれるそうですからね。それなら大丈夫でしょう。
 とはいっても、個人行動は厳禁ですよ」

「…………フム、ではそのようにしましょうか。
 となると今日は時間が空いてますね。実はネギ君を案内したいところがあるのです。近くですから夕方までには戻れますので。その案内したいところというのは、ナギが京都に住んでいたときの家なんですよ」

「…………ナギの、だと? いや、私にはネギが…………しかし、でも…………」



 おや? 顔が赤いでござるな、エヴァ殿。
 やっぱりまだネギ坊主の父君のことを忘れられないのでござるかな?











━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



「ここです。10年の間に草木が茂ってしまいましたが、中はキレイなものですよ」


 天文台……なのかな?
 3階建ての細長い建物で屋根が丸くなっている

 家の中に入ってみると、壁一面本棚に本がギッシリと詰まっている。
 梯子があるにはあるけど、もしかしてあれで本をとるのか?
 何か少し危険そうな感じが…………。





「へぇ~、ウチの父って本読むんですか?
 アンチョコ読んで魔法唱えていたらしいし、そもそも魔法学校中退だから勉強とか嫌いなんだと思ってましたけど?」

「…………ア、アハハ、ナギは確かに若いころはヤンチャでしたが、大人になってからは少し落ち着きましたので…………」

「考えてみれば、京都に住んでいたってことは詠春さんのお世話になっていたということですよね。
 ウチの父のことですから御迷惑お掛けしたんじゃないですか?」

「だからお前はナギのことをどう思っているのかと小一時間…………」


 辛辣ですね、ネギ先生。

 でも逆に言えば、父親だからこそ辛辣に言えるのでしょうね。
 物心ついたころには既にいなかったらしいから、どんな風に接したり表現したらいいかわからないのかな?

 ネギ先生は他人への悪口は言わない。
 ネギ先生がそういう風に他人を辛辣に言ったり悪口を言うのは、それこそ御自分の父親ぐらいのことに関してのことしか私は聞いたことはない。

 私達が勉強会でいくらバカさ加減を発揮したとしても根気強く教えてくれたし…………って、今さらながら10歳の子供に勉強を教わる私達っていったい?


 …………ネギ先生だからしょうがないな。ウン。





「詠春さんから話を聞いたとき、もしかしたらフェイト達はここを目的にしていたのかとも思いましたが、そういうわけじゃないようですね。
 最近誰か入った形跡はありませんし、無くなっている物もないようです」

「ふむ、そう言われればそうですね。
 …………あと巻き込まれてしまった皆さんにも、色々話しておいた方がいいでしょう。“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が今だ暗躍していることがわかった以上、今後のことについては麻帆良に帰ってからお義父さんと相談していただく必要があります。
 お義父さんからの話では、ネギ君はもう大部分は理解しているようですが、念のためにナギや“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”については当時の関係者であった私からも話すべきでしょうね」


 そう言って長が取り出したのは一葉の写真が入った写真立て。それにはネギ先生の父親や若い長達、“紅き翼アラルブラ”の人達が写っていた。
 以前、ネギ先生が以前見せてくれた“紅き翼アラルブラ”関連の雑誌では見たことない写真だな。おそらく仲間内で撮ったプライベートの写真なんだろう。

 夜に長が言っていたけど、ネギ先生の父親であるナギ殿は確かにどこか悪ガキのような雰囲気を持っている。正直言って10歳のネギ先生の方が大人っぽい。
 ましてや成長したネギ先生に至っては…………いや、変な想像をするな、私。





「へぇ~、この写真は初めて見ました」

「20年前の写真です。ナギはこのとき15歳でした」

「(懐かしいわねー。あ、ゼクトも写ってるのね。私は結局ゼクトとはほとんど喋らなかったけど)」

「ネギ君達も知ってのとおり、私はかつての大戦でまだ少年だったナギと共に戦った戦友でした。
 そして20年前に平和が戻った時、彼は既に数々の活躍から英雄…………“千の呪文の男サウザンドマスター”と呼ばれていたのです」

「でもそれって元々は自称だったんですよね?」

「え? …………ええ、そうです」

「しかも“千の呪文”とか言ってる割には、10種類も魔法を覚えていなかったんですよね?」

「…………その通りですが、今はあまり関係ないのでそのことについてはまた今度に。
(自業自得です、ナギ。恨むなら若いころの自分を恨んでください)」


 そ、そうだったんですか?
 てっきり“千の呪文の男サウザンドマスター”というぐらいだから、ネギ先生みたいに数々の魔法を使いこなすことが出来る人だと思っていたのに…………。
 “千の呪文”というのはあくまでも自称だったのか。

 …………ネギ先生なら実際に千種類ぐらい使えても不思議じゃないけど。







「オホン。以来、彼と私は無二の友であったと思います。しかし……彼は10年前、突然姿を消す。
 彼の最後の足取り、彼がどうなったかを知る者はいません。ただし、公式の記録では1993年死亡。
 それ以上のことは私にも…………すいません、ネギ君」

「いえ、別に気になさらなくとも。
 もし本当に生きているのなら、そのうちひょっこり会えるかもしれませんし」

「何を言ってる、ネギ? 奴は確かに10年前に死んだはずだ?」

「あれ? エヴァさんに言ってませんでしたっけ?
 僕の知り合いに、6年前に父と会ったという人がいるんですよ。僕がいつも持ってるこの杖も、そのときに父から僕宛に贈られたものらしいですし」

「そんな……奴が…………“千の呪文の男サウザンドマスター”が生きているだと?」

「でもその知り合いって、昼間っから酒飲んで管を巻いてるようなおじいちゃんですけどね。
 父が迷惑をかけたみたいで、子供だった僕にもよく愚痴を零してましたよ」

「はぁっ!? それじゃ駄目じゃないかっ!?」

「いやぁ、僕が直接会ったわけじゃないので何とも言えないです」


 …………それ、もしかして酔っ払ったおじいさんが見た幻影なんじゃ?
 あ、でも杖っていう証拠があるからなぁ。





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「それでは鍵をお渡ししておきますので、いつでも好きなときに来てください」

「ありがとうございます。とはいっても、麻帆良-京都だと気軽に来れないですけどね。
 …………転移魔法陣を家の中に…………イヤ、駄目だな。霊脈としては良いわけじゃないから、これだと陣の維持が大変だし…………」


 フム、転移魔法陣を設置してくれたら、木乃香お嬢様もこれからは気軽に里帰りすることが出来るな。
 幸い今回の一件で、木乃香お嬢様が実家に里帰りするための障害は全てなくなったので、これからは気軽に里帰りを出来るようになった。

 昨日の夜……というより今日の夜明け前、興奮して眠れない木乃香お嬢様と私の2人で今後のことについての話をしたが、やはり木乃香お嬢様は西洋魔術師の道を選ばれることをお決めになったようだった。
 木乃香お嬢様は西洋魔術を選ぶことにお決めになったけど、それでも木乃香お嬢様と長は親子なのだし、今回の事件で東西も融和の道を徐々に歩んでいくだろうから里帰りに問題はないだろう。

 木乃香お嬢様は麻帆良や友人から離れたくないと仰られているし、それに…………その、ネギ先生とも離れたくないらしい。



 うん。木乃香お嬢様がネギ先生のことを本気になったみたいだ。

 今まではネギ先生のことは“弟”としての想いが一番強かったらしいけど、今回の旅行で頼りになるネギ先生を見てたら、その想いが少しずつ変わっていったらしい。
 極めつけは大人になったネギ先生。あのネギ先生を見てから、“男性”としてのネギ先生意識してしまったみたいだ。

 …………確かにアレは反則ですよね。



 何というか…………大人のネギ先生には甘えたくなる雰囲気があるというか、本当にカッコよくて大人の男性という感じがする。普段から紳士的だし。
 お……お姫様抱っこされたときなんか、あの大人のネギ先生の顔が近くにあるだけでパニクってしまった。アレは反則です。意識することを強いられてしまいます。

 それに幼児のネギ先生も抱き締めて頬擦りしたいぐらいに愛らしかった。
 普段のネギ先生も可愛くて抱き締めたいとか思ったことも正直あるけど、そんなことは恥ずかしくて出来ない。しかし、あの幼児のネギ先生なら恥ずかしがらずに素直に愛でられそうだ。

 あの2人のネギ先生には、あまり普通の女の子として過ごしてこなかった私でも正直言ってクラッときました。


 ………………え? 筋肉?









 …………。

 ……………………。

 ………………………………何ノコトデスカ?

 私達ガ見タノハ大人ノネギ先生ト幼児ノネギ先生ダケデスヨ?
 コノチャンモソウ言ッテイマシタシネ…………。







 …………エヴァンジェリンさんやアスナさん、宮崎さんといったライバルがいるが、こうなったからには木乃香お嬢様も引く気はないようだ。
 頑張ってください、木乃香お嬢様。
 私もお嬢様の恋を応援いたします。





「(せっちゃん、せっちゃん。今日のお風呂、何とかしてネギ君を大浴場じゃなくて内風呂の方に連れて来れんかなぁ?)」

「(え? それはさすがに無理だと思いますが…………)」

「(ええ~、ええやん。ウチとせっちゃんとネギ君の3人で一緒にお風呂入ろ)」


 屋敷内には前に入ったような大浴場だけでなく、協会の者が入る小さな内風呂もある。普段はともかく、さすがに客人が来られたときは大浴場で協会の者も一緒に入るわけにはいかないからだ。
 確かにその内風呂だったらネギ先生とゆっくり…………じゃなくて。

 …………わ、私は一緒に入らなくとも結構です!
 木乃香お嬢様とネギ先生のことは応援いたしますが、私は別にネギ先生のことは…………。


「(もう、満更でもないくせに~。せっちゃんだってネギ君のこと好きなんやろ?
 ええやん、それやったらいつまでもせっちゃんとも一緒にいれるやん。ライバルが多いんやから、ウチらは2人で協力してネギ君をゲットするんや)」

「(そのようなことなさらなくとも、これからはずっとお傍におります!
 …………それにネギ先生だって、私の本当のことを知ったら…………)」

「(そんなことない! ネギ君はせっちゃんに翼があることなんて気にするわけあらへん!!!)」



 …………木乃香お嬢様、ありがとうございます。

 今後についての話をしたとき、私は木乃香お嬢様に今までズルズルと言えなかったことを全てを打ち明けた。

 秘密をバラすのは怖かったけど、私の白い翼を見た木乃香お嬢様は「綺麗」と言ってくれた。一族の掟なんか気にすることはないとも言ってくれた。
 これからもずっと一緒にいようって、このちゃんは言ってくれた。



 そうですね、ネギ先生だったら気にしないでしょうね。
 木乃香お嬢様を守るという誓いも果たせたし、神鳴流に拾われた私を育ててくれた近衛家への御恩も返すことが出来た。
 だからこれからは、友達としてこのちゃんと昔みたいに…………。


 …………そもそもネギ先生の方がイロイロとぶっ飛んでるし、確かに気にするわけないだろうなぁ。それらは追々と。









「(木乃香お嬢様、皆さんにいいですか?)」

「(…………ええの? 皆のことだから大丈夫だと思うけど、せっちゃんが嫌なら無理しない方が…………)」

「大丈夫。ありがとう、このちゃん。
 …………すいません、皆さん。聞いていただきたいことがあります。私は皆さんに秘密にしていたことがあるのです」

「刹那君?」

「大丈夫です、長。これは私の願いです。
 皆さんにはこのことを知って欲しい」









 バサァッ! と背中から翼を出す。
 今までの私……2学期までの私だったら、こんなことはしなかっただろう。

 これもネギ先生のおかげかな?
 あの人は良くも悪くも他人を動かしてしまう。ネギ先生との修行と勉強で私も変わることが出来た。
 昔の私なら今の私のことを“軟弱”とでも思うかもしれないが、今の私は今の私のことが好きでいられる。








「…………これが、私の正体です。
 昨夜、ネギ先生が召喚した中に烏族という妖怪がいましたが、私はその烏族と人のハーフなのです。この白い翼は烏族の中では禁忌とされており、いろいろとありまして私は神鳴流にお世話になることとなりました」

「…………エヘヘ、寝る前にも見せてくれたけど、やっぱりキレーなハネやなぁ」

「…………立派になりましたね、刹那君」

「ふぅーん、カッコイイじゃん」

「天使みたいですねー」

「烏族というとカラスですか?」

「はぁー、何か刹那さんに隠し事があるとは思っていましたけど、こういうことだったんですか。
 翼ですかぁ。便利そうですね。…………僕でも出来るかな?」

「へぇー………………ま、今さらだな。吸血鬼とかロボットとかネギ先生とかが既にいるんだし」

「…………長谷川、何故その中にネギ先生が同列で入っているんだ?」

「千雨さん、私は正確にはガイノイドです」

「私は間違っていないと思うアルけど?」

「むしろネギ坊主の方が人間離れしてるでござるな」

「というか誰でもいいから今のネギの発言にツッコミいれろ」








 ありがとう、皆さん。皆さんみたいな友人を持てて私は嬉しいです。
 それと私は絶対にツッコミません!!!

 誰か! 他の人がネギ先生にツッコミをし…………え? 何で『咸卦治癒マイティガード』発動させてるんですか?
 何でネギ先生の背中がうねり始めて、筋肉や骨が動いている音がするんですか?







「…………いけるな。ハァッ!」






 メリメリメリメリィッ! そんな音がして、ネギ先生の背中から翼が生えてきた。
 ただし私のような鳥の翼ではなく、コウモリのような肉と皮と骨で出来たような翼だけど。

 …………本当にやっちゃった。“悪魔の翼”って言葉が思い浮かんだのは気のせいかな?





「わぁー、意外と出来るもんですね」

「「「「「………………………………」」」」」

「ちょっと飛んでみます。
 杖や浮遊術で空を飛んだことはありますけど、翼で空を飛ぶのは初めてですよ」



 …………え? ちょ!? 初めてなのにそんな勢いよく羽ばたくと…………あ、ネギ先生が飛ぶ方向を間違ってナギさんの家に突っ込んだ。
 壁に穴が開き、ネギ先生はそのままその穴の中に入り込んでいってしまった。…………あそこは天文望遠鏡があったところじゃ…………?














「…………練習が必要ですね」

「「「「………………………………」」」」」





 …………うん、無理。





「…………実は他人にこの姿を見せたら、その人の前から姿を消さなければならないっていう一族の掟がアルンデスヨ」

「せっちゃん!? 何を言うてるの!?」

「イエイエ、ヤハリ一族ノ掟ニハ従ワナイト。………………じゃ、そういうわけで!」


 明日に向かって飛び去らさせていただきまグェッ!?
 …………こ、このちゃん! 飛ぼうとしてたウチにいきなり飛び掛るなんて危ないでしょ!!!


「ずっと一緒にいてくれるって言ったやん!
 大丈夫や。ネギ君はまだ子供だから、(別の意味で)やって良い事と悪い事の区別がつかんだけや! ウチとせっちゃんの2人でちゃんと教えていけばええんやよ!!!」

「いやいやいやいや!
 無理やって! アレはどう頑張っても絶対無理やよ、このちゃん!!!」

「ハッハッハ、木乃香が不穏当なことを口走った気もするが…………とりあえず逃がさんぞ、刹那」

「木乃香さんと刹那さんはやっぱりそうなんだー。
 …………ねぇ、夕映? 私達も一緒に…………」

「そ、それでいいのですか、のどか!?」

「…………いっそのこと、一度皆で同盟組んだ方がいいかもしれないわねぇ。
 まずは皆でネギをちゃんとした男の子に育て上げてから…………」


 確かにネギ先生のことは好きやけど、いくら何でもアレは無理やって!!!
 ああ、もう! 何でネギ先生は人の気持ちも知らずに…………。


 ぎゃいぎゃいわいわい、と辺りが騒がしくなる。
 本当に、今までだったら考えられない私がいる。

 良くも悪くもネギ先生のおかげで私は変われた。
 とりあえずそのことはネギ先生に感謝しよう。

















「…………む、腕も増やせるかな?」



 だから私は何も聞いていないっ!!!





━━━━━ 後書き ━━━━━



 …………何かユピー混じった。
 でも、幻海式を突き詰めたら遺伝子操作とかもきっと出来そうですよね?


 とりあえず、これにて京都旅行編は終了です。

 ショタネギは文字打つのメンドイのでもう出さないと思います。
 大人ネギとネギさんは出番あるかも?

 ……………………特にネギさん。


 それと別にネギは『霊光○動拳』を継承しているわけではありませんよ。



【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+『仮契約パクティオー』儀式の手伝い
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血(2度目) ← new!
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋
 関西呪術協会:変態集団疑惑+吹っ飛ばされた
 天ヶ崎千草:勝っても負けても“死”?+心を連れていかれた
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”:“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア
 ルビガンテ:名前忘れられた
 月詠:メガネ壊された
 フェイト:○○化?まだ秘密
 リョウメンスクナノカミ:出番無し
 ナギの家:半壊 ← new!



[32356] 第46話 夢
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:03



━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



 夢を見ている。昔の夢だ。
 そう……ナギと初めて出会った頃の夢。

 風邪を引いて具合が悪いときや、何か嫌なことがあったら良く見る夢。
 前に見たのはいつだったか? ネギが来てからは見なくなっていたというのに…………。





「危なかったなー、ガキ」





 そう言って、ナギは崖からウッカリ落ちた私を助けた。

 …………別に助けられなくとも平気だったんだがな。
 ホントにウッカリだったんだ! 足場が崩れたのが悪かったんだ。空も飛べるから別に助けてくれなくとも平気だったんだぞ!


 …………オホン! 変な男だった。“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”と恐れられている私を助けるなんて。
 最初は私が“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”だということを知らないからだと思った。
 私のことをガキ呼ばわりしてたし、そもそも私は人前に出るときは幻術を使用して大人の姿になっているので、世間一般には“闇の福音わたし”が本当は子供だということは知られていないはずだったからな。

 …………私の異名の一つに“童姿の闇の魔王”というものがあるが、それは幻術を使い始める前の私につけられた異名だ。
 そして幻術を覚えてからは、人前に姿を現すときは子供の姿のままのときもあったし大人の姿のときもあった。おそらくこのことから私の本当の姿が世間にはわからなくなっていったのだろう。





「お前は誰だ? なぜ助けた?」

「さあな。まあ食えよ、うまいぜ」





 実際にナギは私のような子供が“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”とは知らなかったみたいだし、そもそも私も英雄であるはずのナギのことは知らなかった。
 あの頃は拠点も持たずにずっと放浪していたから、世間の事情には疎かったしな。

 だけど、私の正体を明かしても、ナギは相変わらず私への態度を変えなかった。
 “闇の福音ダーク・エヴァンジェル”を知らないわけでもない。怖がっているわけでもない。かといって甘く見ているわけでもなくて、ただ“それがどうした”という感じだった。


 初めてだった。
 私の正体を知っても私を恐れず、私を嫌悪せず、ただの見た目通りの子供のように扱う人間は。
(古本や脳味噌筋肉は除く。アレらは人という分類カテゴリーではない)

 ナギに興味が沸いて、少しの間ばかりナギの後をついて行ったが、それでも相変わらずナギの態度は変わらなかった。
 そしていつしか私はナギのことが欲しくなっていた。





「もう一ヶ月になるぜ。
 俺について来たって何もイイこたねーぞ。どっか行けって」

「やだ。お前がうんと言うまで、たとえ逃げても地の果てまで追ってやるぞ」





 私のモノにならないかと聞いても、ただあしらわれるだけだった。
 やはり“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”が怖いのかと思ったし、“偉大な魔法使いマギステル・マギ”であるナギが私のモノになりたくないと思うのは当然のことかもしれないと思った。

 しかし、私のモノにならない理由は

「ガキに興味ない」

 からだった。


 …………そういう理由で断るか、普通?
 まあ、ナギっぽいと言ったらナギっぽいのだろうが。それにあの頃には既に相手がいたんだろうな。

 結局ナギの相手は誰なんだろう?
 ネギは予想がついているらしいが、あくまで予想だということで教えてはくれなかった。





「まあ、心配すんなって。お前が卒業する頃にはまた帰ってきてやるからさ。
 光に生きてみろ。そしたらその時お前の呪いも解いてやる」

「…………本当だな?」





 待った。3年待った。
 最初はそこそこ悪くはなかった。

 学校というのは新鮮だったし、追われる心配がないというのはそれだけでも安心出来た。
 部活も入ったりして日本の学生生活を満喫した。麻帆良のお気楽な女子中学生どもには呆れたが、それでも最初はあの騒がしさは気に入っていた。


 けどそんな風にお気楽に過ごしていれたのも、初めて中学校を卒業するまでだった。
 卒業するまでに来るといったはずのナギは結局来ず、しかもナギが力任せに適当にかけた『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』のせいで再び中学一年生からやり直すハメになった。

 それからの一年は、約束を守らずに遅れてやってきたナギにどう落とし前をつけてやろうかと考えながら過ごした。
 次の一年になると、ナギに忘れられたんじゃないかと不安に思い、ナギが来てくれるのをひたすら待った。


 そしてあるとき、ナギが死んだと突然聞かされた。

 最初は何の冗談だと不機嫌になりながらも、ナギの情報が少しでも手に入ったことに喜んだ。
 私を麻帆良に封印してから5年もの間、一度も顔を見せずに約束まですっぽかしたんだぞ。普通、少しは気になって様子を見にくるとかしないか?
 ナギみたいなバグキャラが死ぬわけないだろうし、生きてることがわかったならいつかは私に会いに来ると信じた。

 けど、その後に入ってくる情報も全てナギが死んだことばかりだった。





 …………うそつき。
 




 それからはただ変わらない退屈な日々を過ごすだけだった。
 授業を受けても結局は卒業出来ないし、ナギの馬鹿げた魔力でかけられた『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』は解くことも出来ない。
 このまま麻帆良で警備員として飼い殺しのような生活がずっと続くのかと思った。


 でもそんなとき、ナギの息子がいることを知り、しかもその息子が麻帆良に教師としてやってくることを知った。
 ナギの血縁たるネギの血があれば『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』も解くことが出来るかもしれない。この知らせでようやく私にも希望が持てた。

 相手は魔法学校を卒業したばかりのひよっこ魔法使い。そんな奴なら簡単に血をいただくことが出来る。
 しかし、私も魔力を極限まで封じられていた。
 満月の夜以外はただの人間で、満月の夜ですらかつての私の一割も力を発揮できない状態だったが、私には“魔法使いの従者ミニステル・マギ”である茶々丸がいた。一般の“魔法使いの従者ミニステル・マギ”と茶々丸は若干違うけど。


 “魔法使いの従者ミニステル・マギ”とは戦いのための道具。
 我々魔法使いは呪文詠唱中、完全に無防備となり、攻撃を受ければ呪文は完成できない。そこを盾となり、剣となって守護するのが“従者ミニステル”。

 いくらナギの息子とはいえ、ひよっこな上にパートナーすらおらず、実戦経験皆無な魔法使い。
 そんな坊や相手だったら、封印されている私とはいえ茶々丸さえいれば恐れるに足らん。

 とはいえ、学園からの妨害があるかもしれないので、生徒から血を集めて私の力も少しは取り戻すことにした。
 それでも遅くとも、3年生になった頃には行動に移せるはずだった。本当はすぐにでも襲って封印を解きたいところだが、焦って元をなくしたらどうしようもないから我慢をした。







 ………………今から考えると、焦らなくて本当に良かったな。
 封印されている私だったら、茶々丸がいようと絶対勝てないぞ、アレ。

 しかも敵には容赦をしないネギのことだ。
 私は最初の出会いが悪いものではなかったから良かったが、もしウチのクラスの誰かを襲っていたところを目撃でもされたりしていたら…………。





 あ、何か涙出てきた。夢の中なのに。





 というか、封印がなかったとしても勝てたかどうか…………。
 まあ、麻帆良に来たばかりのネギならともかく、少なくとも今のネギには勝てんな。魔力容量が真祖である私の4倍って何なんだ? ネギは本当に人間なのか?
 しかも魔力容量以上に戦闘技術がとんでもなさすぎる。『闇の咸卦法』といい『神鳴流』といい『居合い拳』といい『闇の咸卦技法』といい、アレは本当に10歳なのか?






 …………『烈破風陣拳』コワイ。






 “幻想空間ファンタズマゴリア”だろうと痛いものは痛いし、何より魔法使いとしてのネギの相手は精神的に疲れるんだよ!
 何が「必殺技出来ましたー。ちょっと相手してください」だよ!!!















 ………………話が逸れた。


 まあ、ナギの息子ということで興味もいくらかあったから、しばらくの間あの坊やを見ていた。観察してわかったが、麻帆良にやってきたネギはナギの息子とは思えなかった。もちろん良い意味で。
 10歳のはずなのに教師としても出来てたし、何より10歳のはずなのにナギより大人っぽい。後からよく見てみると、根っこはやはり子供だったがな。
 魔力の制御も完璧だったし、襲撃計画を変更しなければならないかとも思った。

 そんなことをツラツラと考えていたら、ネギが私の家に何故かいた。
 茶々丸が世話になったらしく、そのお礼ということだったがな。





「マグダウェルさんって、“僕のお母さん”だったりしますか?」

「ブフォッ!!!」





 アレは紅茶吹いた。
 いきなり何を言い出すんだ、このぼーやは…………と焦ったが、理由を聞いてみたらありえなくはない可能性だった。

 私がネギの母親、要するにナギの妻か。
 確かに私が生きてて麻帆良で平穏に暮らしているとなると、そういう突拍子もない考えに至るのもしょうがないかもしれんな。



 …………私が子供を産む、か。
 この小さな身体では無理だろうから、やはり何とかして身体を成長させねば。
 ネギだって子供は将来欲しいだろうし。


 でも、ネギだったら明日にでも「いやぁ、何か不老になっちゃいましたよ」とかひょっこり言ってきそうなんだよなぁ。
 私は少なくとも驚きはするだろうが、逆に納得もするだろう。


 …………だってネギだし。何やっても不思議じゃないし。
 それなら子供は惜しいが、未来永劫2人きりでずっと過ごしていくのも悪くない。










 ………………また話が逸れた。


 しかし、私の内心の葛藤を他所に、その後はトントン拍子に進んだ。
 ネギのおかげで『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』も解けることになり、それからはネギと魔法について議論したり紅茶を飲みながら談話したりなどの友人付き合いをしている。…………今はまだな。
 『闇の咸卦法』に驚かされたりいろいろあったが、ネギと付き合っていくうちに、いつの間にか私はネギが欲しくなっていた。

 だってそうだろう。
 今まで散々ナギに待たされたんだ。しかもいつの間にか子供を作っていたオマケ付きだ。
 だったらその借りはナギの息子に返してもらってもいいじゃないか。


 ネギはまだまだ子供だが、将来的にはイイ男に育つだろう。
 イヤ、私がイイ男に育てる。

 既に戦闘能力はナギよりも上だろうし、ナギと違って紳士的だしチャランポランじゃないし頭は良いし真面目だし…………って、ナギがネギに勝ってるトコなくないか?

 まぁ、いくら能力が高くても、男はそれだけではないからな。
 ネギもナギのように大きな男に…………でもネギがナギみたいないい加減な男に育っても困る。


 …………ウン、ネギはネギらしく育ってくれればいいんだ。





 とはいえ、ネギが麻帆良で過ごしていくうちに、やはりネギに目をつけるガキ共がワラワラと沸いてきおった。
 くっ、ネギに一番最初に目をつけたのは私…………じゃないか、宮崎のどかが一番最初なのか? しかし、その次は私だ。

 だが、あいつらはあくまで表の世界の人間であって、魔法に関係ないのなら無視していいだろうと思っていた。
 ネギが将来どういう道に歩むはわからんが、魔法使いであることを止めるとは思えんかったからな。パートナーは魔法関係者を選んで当然だろう。それなら焦ることはないと思っていた。


 …………が、そいつ等に私のせいで魔法がばれてしまい、私が面倒を見るハメになってしまった。私としたことが、魔法を使えるようになったことに浮かれすぎていた。
 面倒を見るのは嫌だったが、ネギがあいつらの面倒を見て、そのせいで仲が深まったとしたら洒落にならん。

 ………………綾瀬達の才能はともかく、やる気と根性はあるから教えてても苦にはならないがな。









 そして先日の京都旅行。
 木乃香の里帰りに護衛として付き合ったが、15年振りの麻帆良の外は新鮮だった。

 やはり京都は素晴らしかった。神社仏閣巡りは出来たし、料亭の味も麻帆良では味わえない美味を堪能出来た。
 また是非とも行きたいものだ。今度は紅葉の時期にでも行きたいな。


 だが、そんなせっかくの京都旅行を無粋にも邪魔したのは、ナギの敵でもあった魔法世界全土に指名手配されている犯罪者集団。

 “ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”だった。

 ま、そんな奴らもネギに蹴散らされたがな。見てたら可哀想に思うぐらいボコボコにされていた。
 いくらネギが強いことを知らなかったとはいえ、随分と無謀をなことをしたものだ。


 しかし、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”も伊達で魔法世界全土に指名手配されている犯罪者集団ではなかった。
 決死の最後の一撃で、ネギに重傷を負わせたのだ。

 …………あっという間にネギは完全回復していたけどな。というか、ネギならその気になれば最後の攻撃も回避できたんだろうなぁ。
 食らっても平気だから、敵に攻撃するのを優先したんだろう。

 相手のフェイトとかいう奴は、もう治らない怪我で両腕とアバラを数本折られている。もうテロリストとしては再起不能だろう。
 “人形っぽい”とネギが言っていたから、もしかしたら身体を取り替えるなりして再びやってくるかもしれんが。




 そんなこんなで無事に襲撃を撃退したのだが、ちょっとした副作用が起きた。
 『咸卦治癒マイティガード』で『闇の咸卦法』を暴走させたためか、無事に戻ったネギは肉体年齢を自由に操れるようになったのだ。

 20歳くらいの大人のネギ。
 ナギのように悪ガキのような雰囲気はなく、まさに“大人の男”という形容がピッタリなネギ。木乃香と刹那をお姫様抱っこしていたが、私も是非とも体験したかった。
 ああ、早く実年齢も大人になってほしいものだ。やはり現実時間で150日間ほど私の別荘に監きゲフゲフンッ!

 3歳ぐらいの小さなネギ。
 あれもたまらん。10歳のネギでさえまだ子供特有の可愛さが残っているのに、幼児のネギはまた格別だった。
 是非とも一緒に風呂に入ったり、抱き枕にして眠るなどして愛でたい。クラスの雪広あやかの気持ちが良くわかる気がした。



 しかし、どうやらあの肉体年齢操作は今後控えるようだった。肉体に精神も引っ張られるらしく、まだ身体も精神も発達中の今では悪影響があるかもしれないということらしいな。
 それならばしょうがいない。ネギが大人になるまではお預けだ。大人になるまで外見を変える必要が会った場合、幻術を使うらしい。

 …………よし、年齢詐称薬を大量に用意しておくか!









 フフフ、何としてもネギを立派なイイ男に育て上げ、そして私を選ばさせてやろう。

 ネギにふさわしいのもこの私だ。
 他のやつらと違って魔法の話も出来るし、不老でいつまでも生きていけるし、何より足手まといにはならん。
 ネギは英雄の息子なんて生まれのせいで、将来的に苦難の道を歩むことになるだろう。私ならそんなネギを助けてやることが出来る。
 まぁ、私の“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”という立場がネギの障害になることもあるかもしれんが、そんな障害などモノともしないような男に育てえ上げる。

 ネギなら出来るはずだ…………っていうか今でも出来るだろ。






 いやー、数年後が本当に楽しみだなぁ。
 木乃香達は同盟を結ぶなんてアホなことを言っていたが、私にはそんな必要はない。私の実力でネギを勝ち取って見せよう。


 実は後でネギと模擬戦をする約束もしてあるしな。
 京都旅行での怪我は完治したが、問題がないかを模擬戦で確かめたいそうだ。

 麻帆良の中でネギの相手になるのは私ぐらいだろうし、これはそれこそ木乃香達には出来んことだ。
 こうやってネギを私に夢中にさせていく。せめてネギの麻帆良での修行が終わる前に、私を女と意識させなければな。


 …………ナギが生きているかもしれないということは気にかかるのだがな。
 しかしナギにはもう相手がいることだし、ナギの息子ということを差し引いてもネギのことは欲しい。

 というか、むしろナギとネギの両方とも欲しい。
 ナギに抱きしめられながらネギに足のマッサージをしてもらうとか、ネギに髪を洗わせながらナギに体を洗わせるとかしてみたい。ナギとネギ両方とも私の傍に侍らしたい。
 こういうのを父子どゲフゲフンッッッ!!! ……………………少し下品だったな。

 だから何にせよ、ネギを手に入れることには結局変わりはないのだ。
 ま、木乃香達はネギの従者になるようだが、私は遠慮しておくことにしよう。




 ネギを従者にするなら良いのだが、あくまでネギが下で私が上なんだ!

 …………戦闘能力的なことはともかく、精神的にのことだがな。
















「エヴァさーん、模擬戦お願いします」



 お、ネギか。アルちゃんもネギの肩に乗せて一緒に来ている。
 はて? しばらくの間、アルちゃんは木乃香につけておくようなことを言っていたような………………ム、だいたい今は夢の中だろうに。

 ま、いいか。
 たとえ夢の中だろうと、ネギのお願いなら聞いてやろう。





「いやぁ、京都旅行での『闇の咸卦法』暴走の影響ですかね?
 僕と使い魔の契約を結んでいるせいか、アルちゃんがちょっと変わった能力が使えるようになったんですよ」





 ほほお、アルちゃんに新しい能力か。模擬戦に連れてくるというからには、おそらく戦闘に関する能力なんだろうな。
 フム、日頃からアルちゃんは戦闘の役に立てないことを気にやんでいたから、よかったじゃないか。

 面白い。是非とも私に見せてみ……………………って、おい? 何でアルちゃんの身体が変形していくんだ?







「アルちゃんは身体を武器化できるようになったんですよ。“武態”といいまして。
 その威力は使う者の能力次第…………」







 ゴキゴキゴキゴキ!
 メキョメキョメキョメキョ!





 そんな音を立てて、アルちゃんの身体が変形していく。
 肉が、骨が、間接がありえない方向に曲がっていき、ついには…………剣に変わったァーーーっ!?
 っていうか体積も増えてないかっ!? 明らかにオカシイだろコレっ!?














「そしてェェーーーェ!!」ボンッ!!!







 ネギの背丈が急に伸びて大人の…………いや、巨人の背丈へと変わり、それに伴って筋肉が膨れ上がった!
 凄い魔力と気だ! 10mはネギと離れているのに、威圧感だけで押しつぶされてしまいそう!

 というかお願い! 思い出させないで!!!
 せっかくあのマッチョなネギのことは記憶の底に封印していたのに!!!






「僕はアルちゃんの力を最大限発揮する筋力を持ちます!!
 僕達主従は1人と1匹でひとつ!!」






 ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!
 コレおかしい! どこかおかしい! 絶対おかしい!
 コレどこか絶対おかしいからっ!!!

 お願いだから、夢なら覚めてくれぇっ!!!












━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



「…………神楽坂明日菜。同盟の件、組んでやろうではないか。
 何とかしてネギをマトモな大人に育て上げていこう」

「同盟組んでくれるのはいいけど…………顔色悪いわよ、エヴァちゃん。何かあったの?」

「何、夢見が悪かっただけだ…………。
 そうだ、アルちゃん。ネギは京都での一件で肉体に変化があったが、アルちゃんには何もないよな? 使い魔のパスが繋がっているとはいえ、あのネギに引き摺られて何か症状が出たりとか特殊能力が発現したりとかないよな?」

「え? そういうことは特にありませんが」

「ならいい。…………もし何かあったなら、すぐ私に言うんだぞ」

「は、はあ…………?」


 いったいどんな夢を見たんだ、エヴァンジェリンは?
 どういう夢なのかは興味はあるが、とんでもないのを想像させられそうだから聞くのは恐ろしいな。どうせネギ先生の夢なんだろうが…………。


「というか、何で私までここにいるんだよ?
 ネギ先生攻略会議なら当事者だけでやれよ」

「その通りだな。刹那が無理矢理連れてくるから何かと思えば、ネギ先生についての話し合いとは…………」

「…………2人とも、大人のネギ君見て顔赤くなってたくせに何言うてんの?」

「「…………う」」


 …………いや、いつものネギ先生とのギャップが凄かったものだからな。
 思わず見惚れてしまったことは否定しないが、別に私はネギ先生を男として見ているわけじゃないぞ。長谷川だってそう…………おや? 顔を見る限り、満更でもなさそうだな。

 ネギ先生はモテるなぁ。
 改めて言うが私は違うぞ。





「とりあえず、さすがにこれ以上増えたらマズイと思うのよ」

「ネギ先生と特別な関係になるには、まず魔法関係者である必要がありますからね。
 私達が魔法バレしない限り、おそらくもう増えるということはないでしょう」

「ということで、魔法バレしてネギ君に近づく女の子を増やしたキッカケを作った人はバツゲームやな」


「バツゲーム? …………木乃香さん、もしかしてエヴァさんが以前言っていた“マジで学園長に惚れさせる”って奴ですか?」

「あ、悪夢が…………あの日の悪夢が。いくら中身はさよちゃんだったとはいえ、ネギ先生せんせーじゃなくて学園長を好きになるなんて…………」

「…………あれは勘弁して欲しいアル」

「うわぁ…………思い出しちまうから、あのことについて話すのはやめようぜ。
 アレのおかげで余計に魔法に関わりたくなくなったんだよなぁ…………」

「ニンニン! 心頭滅却すれば、あのようなことでも平気に…………ならんでござるな」


 ハハハ それは大変だったな。
 刹那が以前言ってたやつか。惚れ薬を使って魔法の怖さを体験させるという悪夢の一時。

 …………私がそんなことになったら自害するな。









「…………ハルナには絶対秘密にしておかないといきませんね」

「だね。秘密にするのは悪いけど、いくらなんでもあの悪夢をもう一度体験するのはイヤだよ。
 しかも今度は実際になんでしょう」

「つまり、同盟はこれ以上の新規参入を防ぐのを第一とするのだな?
(…………もしかして、私もバツゲームアリなのか?)」

「そうよ、エヴァちゃん。後は、お互いのことを否定しないこと、ネギが誰か1人を選んだらスッパリ諦めること、みたいなルールを決めておきましょう。それと“誰が選ばれるにしても、その女の子が困難な状況に陥った場合には、全員がその女の子を助ける”というのも入れましょうか。
 他にも抜け駆けはナシとか襲うのはナシとか襲われるのはアリとか…………」

「おい、“イリアス”混じってねーか?」


 ネギ先生がヘレネー?
 ヘラクレスとかソッチ系だろ、常識的に考えて。

 ………………10歳の子供をヘラクレスと形容するのもオカシイな。
 ネギ先生と関わるようになってから、私の常識がドンドン崩れていく気がする。


「ちなみに同盟の中での同盟もアリ。ウチとせっちゃんみたいにな」

「私とユエもですー」

「わ、私は…………そのですね…………」

「個人的葛藤は後で1人でね。
 今、京都の件のことで魔法先生達が会議をしてるんだけど、ネギが言うにはおそらくネギが正式に魔法先生になって、木乃香と刹那さんがネギ担当の魔法生徒になるんだって。
 私とか本屋ちゃん達、それに古菲達には、魔法生徒となってネギと一緒にいるか、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”と関わるのが嫌ならネギから離れるかを選んでもらうんだって」

「その理由は?」

「ネギ先生は木乃香お嬢様の護衛兼魔法の先生となられます。治癒魔法ならやはりネギ先生ですからね。
 京都では“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”を退けることが出来ましたが、もしかしたら木乃香お嬢様を狙って麻帆良までやってくるかもしれません。それにネギ先生御自身が狙われる可能性が高いです。
 それに警戒するために、このような処置をとることになりました」

「ネギ君、女子寮の警備を自由にしていいって言われたみたいでな。「やっべ。僕、何だかワクワクしてきましたよ」って言ってたで」


 おい、ソレ大丈夫か?
 ネギ先生のことだから、うちの女子寮を要塞にしそうだぞ。





「そんでなぁ…………ウチらネギ君の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”にしてもらおうと思ってるんよ。もちろん一緒に告白もする」

「ウ、ウチってことは…………や、やっぱり私もですよね、木乃香お嬢様?」

「もうすぐ、京都に一緒にいったのを集めて今後のことについての話があるみたいなのよ。そのときにね。
 でも、ネギのことだからいきなり女の子達に告白された上で、その中の誰か1人を選ぶなんてことは出来ないと思うけどね」

「そりゃそうだろうな。ネギ先生は10歳なんだし」

「うん。だからそのときは“お友達から始めましょう”で終わらせるつもり。
 私達がネギのことが好きということを伝えたら、ネギだってこれ以上女の子に期待させるような行動は意識してしなくなるでしょ。少なくとも私達に返事をするまでは。
 後は正々堂々、皆で女の勝負」

「千雨ちゃん達はまだ参加しないみたいやけど、もし参加するならルールは守ってな。
 参加しないなら、まあ…………立会人ということで」

「へいへい、参加する気はないけど立会人なら構わないよ。いきなり何人もの女の子に告白されるネギ先生も心配だしな。
 …………それにしてもネギ先生と離れるかどうか決めなきゃいけないのか。でも、ネギ先生から離れただけで安全になるのか?
 魔法を習う気にはなれないが、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”とやらが気になるんだよなぁ…………」


 面倒見のいいことで。
 長谷川も変わったものだ。ネギ先生が来るまではクラスに関わらないようにしていたのにな。

 私も参加するつもりなんてないよ。見ていて面白そうだから、立会人という名の傍観者ではいさせてもらうがな。
 それに勉強会は続けていきたいし、学園祭のためにネギ先生の手札を少しでも見させてもらおうか。


 …………フフフ、今度のテストでは負けんぞ、刹那。






「古菲達も、告白するのか“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になるか。そもそもネギ先生から離れるかを今のうちに決めておいた方がいい。言っておくが、ネギ先生から離れるなら別荘での修行には参加出来なくなるからな。
 いきなりで悪いとは思うが、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”の脅威がある以上、既に遊びの範囲を超えてしまったことは覚えておいてくれ。こちら側に来るなら、覚悟を決めてから来てくれ」

「了解でござるよ」

「それは問題ないアルが…………告白、“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”。
 ど、どうしよう。ネギ坊主のことは嫌いじゃないアルけど」

「別に私達と一緒に告白しなくてもいいわよ。
 “魔法使いの従者ミニストラ・マギ”だけでもいいし、それかネギ担当の魔法生徒になるだけでもいいんだし」

「ネギ先生に特に好きな人がいない場合、ネギ先生だったら全員断るか全員受け入れるかのどっちかになりそうだな。
 でもお前らが断られても納得するわけないし、だったらお前ら全員と付き合うことになりそうだ。
 …………あの年でハーレムを築くことになるのかぁ」

「そ、それはあくまで千雨さんの予想なのではないですか?」

「えー、ネギ君やったらそうなりそうやけどね。
 それでもええんとちゃう? 少なくともネギ君がウチら全員を受け入れることになってもウチはそれでええで」

「ま、ネギの考え次第でしょ。
 とはいえ、ハーレムとまではいかなくても、私達全員がお友達から始めることになるとは思うけどね」


 やれやれ、ネギ先生も大変だ。
 まさか10歳の身空で人生の一大事になるとはな。

 ま、複数の女の子から言い寄られるなんて、男冥利に尽きるだろう。
 ありがたく受け取っておくんだな、ネギ先生。















「…………それにしても、よくエヴァンジェリンが同盟に参加する気になったんだな?」

「何、お前ら人間の寿命はたかだか100年。しかし私はいつまでも不老でいられる。
 どーせネギのことだから、そのうちひょっこりと「いやぁ、何か不老になっちゃいましたよ」なんて言ってくるに決まってるさ。
 それならばお前らの力を借りてネギをマトモな人間に育て上げ、100年後からは私がネギを独り占めさせてもらうことにするよ」

「…………そう、なのか……」





 …………どうしよう。
 エヴァンジェリンの言ってることは明らかにおかしすぎるのに、少し納得してしまった私がいる。確かにネギ先生だったら、そんなこといきなり言い出しても不思議ではない気がしてしまう。

 イヤ、オカシイだろ。
 そういうことを言い出しそうなネギ先生もオカシイが、ソレを当然と思っているエヴァンジェリンも、あり得そうと思ってしまった私もオカシイだろ。

 ネギ先生と関わるようになってから、本気で私の常識がドンドン崩れていく気がするな。





━━━━━ 後書き ━━━━━


 ヘルマン卿終了のお知らせ。
 飛んで火にいる夏の悪魔です。南無。


 そして乙女達の告白決定。
 『仮契約パクティオー』もする予定です。

 エヴァ達やちうたんはまだしません。特にエヴァ。
 アーティファクトが決まるまで、エヴァは『仮契約パクティオー』出来ないんだ。諦めてくれ。

 それと茶々丸は学園祭編が終わってからですね。今回はマスターであるエヴァにならったということで。
 実際は“学園結界”を落とそうとしているときに、『従者召喚』でネギに強制召喚されたらどうしようもないからですね。
 ウチのネギなら絶対やります。

 ちなみに嘴広鴻のジャンプで好きな3大敵キャラは“大魔王バーン”、“戸愚呂(弟)”、“フリーザ”です。



『烈破風陣拳』
 『春の嵐ウエリース・テンペスタース・フローレンス』+『斬空掌』。
 『闇の咸卦技法』の一つで、敵を切り刻む竜巻が発生する。
 元ネタは幽々白書の仙水の技です。



[32356] 第47話 将来設計
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:04



━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



「やぁ、京都では大変だったみたいだね。皆が無事に帰ってこられて何よりだよ」

「あれ? おじいちゃんはやっぱり無理なんですか?」

「…………うん、そうみたいだよ」


 ネギ君からの報告を受け取ったら吐血して、また入院したからねぇ。
 おかげで出張から急遽戻った僕が学園長の代わりに、今後のことについて皆と話し合うことになったんだよ。他の先生は皆して逃げちゃったし。

 それにしても、まさか“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が京都にいたとは…………。
 しかもアスナ君の記憶も戻ったらしいし、電話で聞いたときにはビックリしたよ。

 でもとりあえず皆が無事で良かった。



 …………まあ、アスナ君の記憶はね。
 フツーの女の子として幸せに暮らして欲しいという気持ちもあるけど、文字通り命懸けでアスナ君を守った師匠のことだけでも思い出して欲しいという気持ちの両方が今までにずっとあった。
 だから記憶が戻ったと聞いても「ああ、そうなのか」で終わらしてしまった僕がいる。

 むしろアスナ君から「ガトーさんの墓参りをしたい」なんて電話で言われたからには、嬉しい気持ちの方が大きいぐらいだ。
 師匠の墓は魔法世界にあるからすぐにというわけにはいかないけど、それでもそうしてくれたら師匠も浮かばれる。

 もちろん記憶が戻ったことによる障害なんかがあった場合は別だけど、再び記憶を消すなんてことはもうしたくない。
 師匠は「幸せになる権利がある」といって記憶を消すように言ったけど、今のアスナ君なら記憶があったとしても幸せになれるだろう。


 いや、もともと記憶を消さなくても幸せになれたんだろうな。
 あれは僕達のエゴだったかもしれない…………。







「さて、今後のことについてなんだけど、改めて確認をさせて欲しいし、何より京都での一件で少し事情が変わってしまった。それについても皆と話し合わなきゃいけなくなってね。
 貴重の春休みの一日だけど、少し話をさせてくれ」

「“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”のことですよね?」


 …………そうなんだけど、長谷川君と僕との間でニュアンスがちょっと違っていないかい?


「まあね。“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が生き残っていた上に何かを企んでいると判明した以上、ちょっと予定を変えなくちゃいけなくなった。
 そもそもネギ君が京都でやりすぎたというかなんというか…………過去にネギ君のお父さんのナギが彼らの企みを阻止して、今回の京都ではネギ君が彼らの企みを阻止したからねぇ。さすがにここまでいくと、ネギ君が彼らに狙われる可能性が否定出来ないんだ」

「そして木乃香お嬢様です。阻止したとはいえ、もう狙われることがないとは限りません」

「うん。もう既に聞いているとは思うけど、今のところ決まっているのは“ネギ君を正式に魔法先生扱いにし、木乃香君と刹那君をネギ君担当の魔法生徒とする”ということだね。
 ネギ君は麻帆良の中でもトップクラスに強いし、狙われる可能性がある木乃香君と同室。しかもネギ君自身が筆頭テロ対象者だ。言い方はアレだけど、狙われる可能性がある子は一纏めにした方が守りやすい。
 ネギ君の魔法先生としての主な仕事は“木乃香君達を守ること”。そして“木乃香君達を鍛えること”。幸いネギ君の教師としての修行は順調だから、魔法先生としての活動が増えても問題はないだろう。
 まあ、今までとあまり生活に変わりはないから安心してくれていいよ。基本的に今までの修行に木乃香君を混ぜてくれればいいだけだから。後は“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に警戒してくれればいい。
 それと長瀬君や古菲君には悪いが、もし“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”にこれ以上関わりたくないのなら、別荘での修行も遠慮してもらってネギ君が来る前の生活に戻って欲しいんだけど…………。
 その顔を見るとその気は無さそうだね。それだと君達も木乃香君達と同じく、ネギ君担当の魔法生徒扱いにさせてもらうけどいいかな?」

「あい。もちろんでござるよ」

「私も同じアル。友達を見捨てたりはしないネ」

「わかった。そのように手続きをしておくよ。
 それとエヴァから魔法を習っている夕映君と宮崎君も、ネギ君担当の魔法生徒になるか、それとも別の魔法先生から魔法を習「「ネギ先生でお願いしますっ!!!」」…………わかったよ。宮崎君、最近性格が変わったね。
 それと木乃香君と同室のアスナ君。君はどうする? 予想はついているけど、改めて聞いておきたいんだ」

「もう忘れるのはイヤよ。ネギや木乃香達を見捨てるのもイヤ。
 それに私も自分の身を守れるようになった方が良いと思うもの」

「そもそもアスナさんはタカミチの被保護者ですからね。
 木乃香さんや僕が狙われるなら、アスナさんだって狙われてもおかしくありません」


 …………そうだね。記憶が戻った以上、それしかないか。
 京都ではアスナ君が“黄昏の姫巫女”だということはバレなかったみたいだし、ネギ君もいるから大丈夫だとは思うけど、それでもこうなったからには魔法に関わらずにすむなんてことはもう無理か。
 ネギ君にはアスナ君から事情を話したみたいだけど、やはりアスナ君のことはネギ君に任せるしかないか。僕は出張に行かなきゃいけないし………………何よりネギ君、僕より強いし。

 それと他の子達にはアスナ君の詳しい事情はまだ話していないみたいだけど、いつ話すかはアスナ君達に任せよう。
 …………そういえばネギ君も『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を持ってるけど、ネギ君の場合は“黄昏の御子”とでもなるのかな?





「…………私はどうしようかな?
 あれからいろいろ考えたんだが。魔法関連に関わりたくは無いという気持ちはあるけど、聞いた話を総合的に考えてみると“関わりを持たなかったら平気なのか?”という疑問が残る。
 テロリストが私の都合を考えてくれるわきゃねーし、魔法世界とやら全てを敵にまわしている“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”相手なら、麻帆良に住んでるというだけでも危険性がある。
 それならいっそのこと積極的に身を守る手段を手に入れた方がいい………………というよりもネギ先生に「“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”潰してきて☆」とかお願いすれば、それで全て終わる気が…………」

「いや、さすがにそれは時間がかかると思いますよ。片手間で出来ることじゃありません。
 “ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”は魔法世界にいるでしょうし、僕にも麻帆良での修行がありますので…………」


 時間がかかっていいなら出来るってことだよね、それ?
 でもネギ君なら本当に出来そうなのが怖い。


「とりあえずネギ先生の近くが一番安全そうだよな。“台風の目”的な意味で考えて。
 …………むしろネギ先生の側から離れて、ネギ先生が何をしてるかわからなくなる方が逆に怖い。魔法を習うかどうかとかはまた今度決めます。別に今すぐ決めなきゃ駄目ってわけでもないでしょう」

「その場合の台風は“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”じゃなくてネギということね」

「ネギ君の周りが滅茶苦茶になるのを特等席で観覧することになりそうやね」

「でも一番安全なのは確かですね。精神的にはともかく…………肉体的に限ってのことですが」

「否定出来なさそうなのが一番怖いな。
 ああ、私は今まで通り傭兵扱いのままでいい。自分の身ぐらい自分で守れるさ」


 ネギ君、京都で本当に何をやった?
 報告書に書かれていたこと以上のことしてるだろ、絶対…………。


「ではそれでいこうか。もちろん後になってやめたいと言っても問題ないから、その場合はいつでも言ってくれ。
 ネギ君、責任は重大だよ。彼女達を身体的にだけでなく精神的にも守るようにね。京都のときみたいに“自分が怪我しても彼女達は怪我してないからいいや”みたいな考えは慎むこと」

「わかってます。僕だってわざわざ痛い思いをしたいとは思いません。
 それに京都での戦いで魔力容量が更に大きくなりましたからね。あのような無様な目には二度となりませんよ」


 …………また強くなったのか。この子ホントにどうしよう?























「今の僕なら、ジャック・ラカンさんにだって勝てます!」

「イヤ、京都行く前から勝てたと思うが…………」

「少なくとも僕には絶対勝てるよね」


 というか、エヴァを含めた麻帆良の全戦力相手でもネギ君なら勝ちそうなんだけど…………。












━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



 んふふ。これでウチもせっちゃんもネギ君の魔法生徒やー。
 皆がネギ君と修行してるのはよく見てたけど、ようやくウチも参加出来るんやね。

 しかもウチが重点的に習うのは、ネギ君お得意の治癒魔法。手取り足取りネギ君に魔法を教えてもらえるかも…………。


 とはいえ、京都のときみたく命がかかってるんだから、そんな甘いことばかりは言ってられないわ。せめて皆の足手まといにはならないように気をつけないとアカンな。
 どうせお父様や実家の関係でこの魔法に関わらずにはいられないんやから、出来ることはやった方がええよねー。


「…………というわけで、ウチらはネギ君と『仮契約パクティオー』をしたいんですけど問題ないですよね?」

「え? “というわけ”って、何がというわけなんですか、木乃香さん?」


 え? だって“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”に狙われている以上、出来る限りのことはした方がええやん。
 それにこれからはネギ君を中心に修行とかしていくし、“お試し契約”を使った相互主従になってお互いに召喚出来るようにとかしといた方がいろいろ便利やし…………。


「え? いや、確かにネギ君と『仮契約パクティオー』してくれたら、君達にも強力なアーティファクトが手に入るかもしれない分、君達の安全にも繋がるんだけど…………いいのかい?
 それに“お試し契約”? 何だい、それは?」

「そういえばタカミ…………高畑先生は、ネギが『仮契約パクティオー』を自分と自分の間でしていたこと知らないんだっけ?」

「聞いた話によると、生徒間での『仮契約パクティオー』は問題ないようですが、教師と生徒の間の『仮契約パクティオー』はどうなんでしょう?」

「ウルスラのグッドマンさんと麻帆良中ウチの佐倉さんだっけ? しかも同姓間での『仮契約パクティオー』みたいだしね。
 わ、私達やネギ先生せんせーみたいな異性間の教師と生徒の間の『仮契約パクティオー』はしても大丈夫なんですか?」

「確かに『仮契約パクティオー』によるアーティファクトは魅力的ですが、僕のアーティファクトで“お試し契約”を既にしてあるのでそこまですることはないのでは?
 そもそも異性間の『仮契約パクティオー』は恋人とか夫婦とかそういう関係でするのが一般的です。『仮契約パクティオー』したら僕とそういう関係にあるということに他人から見られてしまいますけど…………」


 バッチこいや!
 お父様からもネギ君の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になってもいいという許可はもぎと…………貰ってるし、そもそもウチらの命がかかってるんやしねー。





「…………ネギ君はウチらと恋人になるのは嫌なん?
 ウチはネギ君のこと好きやで」

「いや、それは光栄です…………っていうか、『仮契約パクティオー』するって本気でソッチの意味での『仮契約パクティオー』なんですか?」

「だ、駄目かしら?
 私もネギのこと好きよ。だからそういう意味で『仮契約パクティオー』して欲しいんだけど…………」

「言っておくが、私はしないぞー。
 するのは神楽坂、近衛、桜咲、宮崎、綾瀬の5人か? 長瀬達はどうするんだ?」

「え? 長谷川さんまでスルー?
 てっきり長谷川さんなら、僕が複数の女性と『仮契約パクティオー』するなんて反対なされると思っていたのですが…………」

「イヤ、京都旅行でハッキリとわかった。ネギ先生の相手は1人じゃ無理だろ。というか、もう好きにしろよ。
 それにネギ先生がはっきり断らないってことは、どうせ心情的以外ではデメリットよりメリットの方が大きいってことなんだろ?
 そこら辺の判断はネギ先生はシビアだからな」

「イヤ、それは確かにそうなんですけどね。木乃香さんとアスナさんは特に。
 2人とも僕がいなくとも狙われる可能性が高いのですから、『仮契約パクティオー』によるアーティファクトと、“お試し契約”を併用した相互主従は強力な力になるとは思います。それに刹那さんは木乃香さんの護衛で、木乃香さんから離れないでしょうし…………。
 でも僕はまだ修行中の身で、そもそも10歳にもなってないんですよ。それなのに人生のパートナーにもなるかもしれない人が最低5人って…………。
 しかも木乃香さんとアスナさんはしょうがないにしても、宮崎さん達は危険に巻き込まれるかもしれないんですよ」

「修行中の身がリョウメンスクナノカミを一撃で葬るなんてしないだろ、常識的に考えて。
 それとアホなこと言うな。のどか達はお前といることを覚悟して一歩踏み出したんだ。踏み出した者がより多くのリスクを負うのは当然だ。
 だが、それが何だ? 安全圏で惰眠を貪る腐った豚よりよほどマシ。掴むに値するものはリスクの先にあるさ」

「僕は安全圏で惰眠を貪るのも好きですけど…………」

「ネギの場合は“周りの腐った豚を皆殺して安全圏を確保してから惰眠を貪る狼”だろうが。
 しかも安全圏は移動式。さきほど千雨がお前の近くを“台風の目”と言ったが、実に的確な表現だな。安全圏で惰眠を貪る腐った豚よりよほど質が悪い」


 わかるわ、その例え。
 ネギ君の場合、“とりあえず”という理由で自分の敵を殲滅しそうやな。自分の敵にならなさそうな人は放置するんやろうけど。





「…………わ、私も『仮契約パクティオー』お願いしようアルかな~、なんて…………」

「まあ、ネギ坊主が主君というのも悪くないでござるな」

「7人目!? …………タカミチ、魔法先生として一言」

「ぼ、僕に振るのかい!?
 …………うーん、僕は『仮契約パクティオー』したことないからアレだけど、とりあえず麻帆良から『仮契約パクティオー』の相手に文句を言うということはないね。
 『仮契約パクティオー』は“個人と個人による神聖な儀式”という意識が強いから、それに対して組織が口を出すなんてことは出来ないよ。あくまで個人と個人の関係だから、役職云々という問題は通常は出ない。
 とはいえ、表の世界でもその感覚でいられるのは困るね。表の世界の教師と生徒という関係はもう確立しちゃっているんだからね。…………まあ、その辺の心配はネギ君だからしていないけど」


 節度を守れば良いってことなんかな?
 もともと一気に勝負を決めようなんて思ってなかったからええけど。ネギ君はそんなことしたら反発しそうやしね。

 …………でも、寮の部屋の中では今までよりくっついてもええよね?





「だから、この場合ならネギ君の気持ちが優先だと思うよ。
 彼女達はむしろ君と『仮契約パクティオー』したい気持ちの方が強いみたいだから、是非もないみたいだけど」

「…………いや、まあ。その……自惚れというわけじゃないですが、姉弟や家族として以外の…………男女の関係としても皆さんに好かれているんだろうとは思っていましたけど」

「や、やっぱりわかってたん?」

「それは…………京都旅行ではキスまでされたんですし、アレを姉弟や家族としてのスキンシップと言うには無理があるかと。
 もちろん皆さんのことは好きですけど、僕はまだ恋愛とかよくわからなくて…………。そもそも皆さんは自分以外の人とも僕が『仮契約パクティオー』しても平気なんですか?」


 …………う、やっぱり焦りすぎたんかな?

 そりゃあ、確かにウチとせっちゃんだけ見てくれたらそれに越したことはないんやけど、でもこれ以上このままだとネギ君のこと好きな子がどんどん増えてきそうなんやもん。
 せめてここにいる皆だけにしてほしいんや。


「むしろウチとせっちゃんはいつまでも一緒にいたいから、2人でネギ君のお嫁さんになりたいなぁ~、って」

「そ、そこまで深く考えなくてもよろしいのではないですか、ネギ先生?
 確かに人生の一大事でしょうけど、こういってはなんですが『仮契約パクティオー』してようとしなかろうと別れる人達は別れてしまいます。……………………刀子さんとか。
 ネギ先生が私達のことを少しでも好きでいてくれるなら、これから『仮契約パクティオー』を通してゆっくり私達の仲を深めていけたら良いかと…………」

「形から入っていくのも悪くないわよ。
 実際、木乃香のお母さんは見合い結婚みたいだけど幸せだったみたいだし、そもそも私達はネギのこともう好きになってるしね」

「わ、私もネギ先生せんせーのことが好きです!
 もし良かったら、せめてお友達からでも始めて頂けたら…………」

「そうです。ネギ先生は確かに10歳ですが、私達だってまだ14歳です。
 ですから結論を急がなくてもいいと思うのです」

「え、えと…………それでしたらお友達からよろしくお願いします」


 うんうん。
 最初はお友達からでええんよ。それから少しずつ私達のことを女の子と見てくれればええんやから…………。












━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 なんかトントン拍子に『仮契約パクティオー』しちゃった。しかも7人同時に。3年になってないのに7人って、明らかに原作よりハイペースですよね。
 ドサクサに紛れて告白もされちゃったし、これからどうしよう?
 告白されるなんて前世も含めて20年生きてて初めてです。前世では原作みたいに、のどかさんを助けるような最初のキッカケがなかったので、のどかさんとは“目と目で見詰め合う”ような感じで終わっちゃいましたし。


 …………。

 ……………………。

 ………………………………ゴメンナサイ。嘘言いました。
 告白されたのは前々世も含めて初めてです。告白されたのは40年以上生きてて初めてです。






 …………本当にどうしよう?
 ハーレムなんて関係、うまくやっていく自信ないですよ。元々はただの一般人の会社員だったんですから。


 “恋愛は原作が終わってから”にしようなんて思っていましたが、皆さんから告白されたときに頭の中が真っ白になりました。それで思わずOKしてしまいましたけど、よくよく考えてみたら危険なのでは?
 フェイトにはアスナさんのことは気づかれていませんけど、多分僕はフェイトの殺すリストのトップランカーを爆走中でしょう。そんな僕の側にいると皆さんが危険な目に遭ってしまうかも…………。
 初志貫徹して“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”を絶滅させてからにすればよかったのに、今となってはもう後の祭りです。

 あ、マズイ。ヴィルさん…………ヘルマン卿が次に来る。
 原作みたいにヘルマンなんぞに皆さんの裸体を晒すわけにはいきませんし、見つけ次第に速攻で始末しなきゃ。
 


 …………そりゃ、いつかはこうなるかとは思ってましたよ、原作的に考えて。
 でもいきなり告白まで来るとは考えていませんでしたよ。そもそも何で皆で一斉に『仮契約パクティオー』と告白を?



 もしかして全員で結託済み?



 うわぁ~、今考えると“恋愛は原作が終わってから”なんて思っていたのは、もしかしたらただ恋愛に自信がなかったために後回しにしていただけかもしれません。
 マジで皆さんとこれからどんな風に付き合っていけばいいかわかりません。
 長瀬…………違った。楓さんはいいですよ。男女の関係ではなくて、本来の意味での主従の関係が強いみたいですから。…………でもたまに目を開けて僕をジッと見詰めてるのは何でだろう?

 まあ、もちろん別に焦らなくてもいいとは思いますけどね。
 原作と同様にまだ二次性徴が来ていないですから、それこそ大人の付き合いなんてまだ無理なわけですし。
 皆さんが僕のこと好いていてくれたのはわかりますよ。エヴァさんは駄目親父のことがあるから、今回は『仮契約パクティオー』しなかったみたいです。






 そういえばアーニャやネカネ姉さんに何て言おう? 原作みたいにアーニャに怒られるのかなぁ? 原作みたいにネカネ姉さんに…………あれ?


 原作ではネカネ姉さんに

「彼女達が僕の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”だよ」

 とか紹介してなくね?
 もしかして、原作ではパートナー出来たことをネカネ姉さんにはまだ言ってないのか?



 アーニャには宮崎さんと綾…………じゃなかった、のどかさんと夕映さんが言って怒られてたけど、何だかんだで有耶無耶になってましたよね。
 僕の場合は何て説明すれば怒られなくてすむんでしょう?



 ネカネ姉さんはこの前来た手紙でも「修行の期間中に素敵なパートナーが見つかることを祈ってるわ♪」とか言ってたから、

「ネカネ姉さんに言われた通り、ちゃんと素敵なパートナーを見つけたよ。しかも7人も♪」

 とか言えばなんとか…………ならないですよね。絶対泣かれますよね、というか気絶されますよね。
 …………ヤバイ。コレ本気でどうやって説明しよう?






 それに将来どうしよう?
 ヘタしたらまだ増えますよね。可能性としては長谷川さんと茶々丸さん、もしかしたらエヴァさんも。…………え? ヘタしたら10人?
 アーニャは…………どうなんだろ?

 でも原作と違って、早乙女さんや朝倉さん、佐々木さん達は僕の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”にはならないでしょうね。
 原作みたいにカモ君じゃなくてアルちゃんですし、魔法バレするキッカケ作ったら“マジで学園長に惚れさせる”ってエヴァさんが前に脅していましたから、これ以上魔法バレは増えないはずです。
 それに僕も皆さんでもう一杯一杯です。


 …………罰ゲームの内容聞いた皆さんは慄き、学園長は「ワシが罰ゲーム?」と拗ねてましたけど。
 まあ、そんなことはどうでもよろしい。



 しかし、それでも最低7人。増えたら10人以上養わなきゃ駄目なんですよね。どうやって生活費稼ごう?
 『咸卦治癒マイティガード』使って医者に? …………イヤ、『咸卦治癒マイティガード』は対象と接触しなきゃいけないから、皆さんに対する不義理に…………。男相手に接触するのもやだし。
 拳闘士にでもなるか? …………イヤ、実力的に大丈夫かもしれなくても、それだと魔法世界に移住しなくちゃならない。何とかして地球でも出来る職業に…………。

 となると、『咸卦治癒マイティガード』を『闇の咸卦技法』に発展させるか? そうすれば接触しなくても対象を治療出来ますからね。
 攻撃と違って回復は出力調整難しいんですけどね。『咸卦治癒マイティガード』で他の人を治すのは、あくまで僕の身体を治す効果を副次的に利用しているだけですから。
 でも、それしかないか…………。


 原作のネギはそこら辺のこと、どう考えていたんだろう? …………って、考えてないですよね、10歳ですもんね。
 マズイ、本気でどうしたらいいんだろう? 原作でのどかさんに告られたネギが知恵熱出してぶっ倒れたり、いろいろと悩んだりしていましたが、当事者になると本気でどうしていいかわかりません。



 …………それとも誰か一人に選ぶ?



 でもヘタレな自分では女性を振るなんてこと自体出来そうにないです。女性に泣かれるのは困る。どうしていいかわからなくなる。本気で困る。焦って頭の中が真っ白になる。
 アスナさんがタカミチ相手に失恋したときもそうでした。夜、ベッドの中で僕を抱きしめてずっと泣いていたのに、僕は優しくあやすように背中を叩くしか出来ませんでした。
 女性を姉や女子生徒として扱うやり方はわかるけど、男女間としての付き合い方なんかわかんないです。覚えてないです
 こちとら20年間ずっと彼女無しだったんですよ。




 …………こうなったからには、本気でさっさと“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”潰しますか。原作みたいに皆さんを危険な目に遭わせるわけにはいきません。
 ある程度は原作沿いに進めるとはいえ、原作知識が役に立たなくなるところまでいったら、速攻で潰して後顧の憂いを立ちましょう。

 とりあえずはヘルマン卿迎撃の準備を今のうちにしておきましょう。“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”対策の名目で、女子寮要塞化の許可は貰いましたからね。
 ヴィルさんには大変お世話になりましたが、気絶したアスナさんを下着姿に着替えさせるようなエロ悪魔は許して置けません。
 もしもそんなことしやがりくさったら、ヴィルさんと同じように無間地獄に落ちてもらいましょう。となるとヘルマン召喚の方法を考えておかないといけませんね。



 …………随分と物騒な考えしてますね、自分。
 落ち着け、落ち着くんだ。気による身体制御で心を落ち着けるんだ。

 ………………そもそもヘルマン卿自体ちゃんと来るのかな? 村の壊滅なんか起こってないし………………ま、いっか。準備しておいて、来なかったら来なかったで別にいいし、来たら来たで殺ればいいか。








 
 …………フゥ、焦ってもしょうがないから、気長にやっていくしかないんですかねぇ?



 あ、そうそう。皆さんのアーティファクトは原作通りでした。
 あえて言うなら、アスナさんの“破魔の剣エンシス・エクソルキザンス”が最初から大剣バージョンだったぐらいです。
 記憶が戻ったせいなんですかね? もう『咸卦法』も使いこなせていましたし。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ネギ、齢10歳にして人生の墓場へ片足を突っ込む、の巻。
 とはいえ元々ヘタレなネギですので、どうしていいかわからなくて混乱中です。


 混乱する
   ↓
 気を使って沈静化
   ↓
 混乱に対する耐性強化
   ↓
 反応しないネギにいらつく乙女達
   ↓
 乙女達の攻勢激化
   ↓
 混乱する
   ↓
 気を使って沈静化
   ↓
 以下エンドレス


 ネギが根本的な原因に気づくのが先か、業を煮やした乙女達に襲われるのが先か。ネギの方が先に無間地獄に落ちるようです。
 とはいえ18禁にはしないから大丈夫ですよ。…………15禁にもしないですからね。



[32356] 第48話 家庭訪問
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:12



━━━━━ 古菲 ━━━━━



「左腕固定! 『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』!
 右腕固定! 『永遠の氷河ハイオーニエ・クリュスタレ』!
 双腕掌握! 術式兵装! 『氷炎将軍フレイザード』!!!」






 ネギ坊主の『闇の魔法マギア・エレベア』が発動された。
 左腕には炎、右腕には氷の魔法を取り込んだようで、左足を踏み出せば地面が焦げて右足を踏み出せば地面が凍っていくアル。

 ………………あんなことも出来るアルかぁ。



「…………どーするでござるか、アレ? エヴァ殿を入れた4人がかりでも難しそうでござるよ」

「左右の手で相反する魔法を取り込む…………だと? 相変わらずネギは無茶をするな」

「皆、素手での攻撃は止めた方がよさそうだ。
 おそらく左半身では火傷をして、右半身では凍傷をすることになるぞ」


 私はどうすればいいアルか、それ?
 エヴァにゃんは魔法。楓は分身攻撃とか巨大手裏剣があるし、刹那は神鳴流で遠距離攻撃があるけど、私は基本的に素手での攻撃アルよ。
 そうだ、真名! せめて真名が遠距離攻撃をしてくれれば! …………え? 参加するの勉強会だけアルか?

 ………………ハッ!? そうだ!
 こういうときこそ私のアーティファクト、“神珍鉄自在棍シンチンテツジザイコン”で攻撃を!





「せめて力を完全に取り戻せてたらなぁ…………」

「エヴァにゃんが諦めるってどういうことアルか!?」

「諦めないでください、エヴァンジェリンさんっ!」

「力が完全じゃなくてもエヴァ殿がこの中で一番強いでござるよ。
 そのエヴァ殿に諦められると拙者たちはどうすればいいのでござるか?」



 こんなことならネギ坊主に本気で相手をしてくれるように頼まなければ良かったアル。

 うう…………本気で私も素手以外の攻撃の修行をした方が良いアルね。考えてみたら魔法使い相手となると、今のネギ坊主みたいに素手で触れることが出来ない時があるかもしれないアル。
 とりあえず棍術を重点的に修行するヨ。長さ、太さが自由自在な“神珍鉄自在棍シンチンテツジザイコン”なら面白い戦い方が出来そうアルし、アーティファクトの使い方に慣れる事が第一アルね

 勝てないでもまずは挑んでみるアルか。





 あ、ネギ坊主が口から火吹いたアル。さすがにそれには驚いた楓の分身が迎撃されたアルよ。
 …………最近、本気で人間離れしていくアルね、ネギ坊主は。
 












━━━━━ 雪広あやか ━━━━━



「…………つまり、記憶が戻ったということですの?」

「そうよ。ちょっとワケアリだから詳しいことは言えないけど、京都旅行で記憶が戻ったわ」

「それは…………おめでとうございます、でよろしいのよね?」

「うん。昔の私にはイロイロあったことも思い出したけど、それでも記憶が戻って良かったと思ってる」

「それなら改めて、おめでとうございますと言わせてもらいますわ」


 今日はせっかくの春休みの一日。
 実家に戻ってゆっくりしていたのに、アスナさんから私の家に来たいと連絡があったときは何事かと思いましたけど、まさかアスナさんの記憶がお戻りになったなんて…………。

 確かに今までのアスナさんとは、どこか雰囲気が違ってらっしゃいます。
 何だか小学校の頃の、転校してきたばかりのアスナさんを思い出しますわ。生意気というかクールというか、どこか達観している感じがしますわね。

 …………思い返せば、何であのクールだったアスナさんがバカレンジャーになったのでしょうか?





「さっきも言ったけどイロイロとワケアリだから、詳しい詮索はしないでね。少なくともしばらくの間は」

「ええ。そういうことなら構いませんわ。
 …………しかし、詮索して欲しくないというのなら、何故私に記憶を戻ったことを話すのですか?」

「…………別に。深い理由はないわよ」

「アハハ、アスナも意地っ張りやなぁ。
 いんちょが大事な友達だムグゥ!「勝手なこと言わないで頂戴、木乃香」…………アスナは照れ屋さんやなぁ」


 な、何でそんなわかったような顔をされてるんですか、木乃香さん!
 私だってアスナさんの記憶が戻ったこと教えられたからといっても、別に嬉しいわけじゃありませんよ!


「…………コホン。アスナさんが記憶が戻ったことで、少しばかり性格も変わられているようですから、もしかしたらクラスの皆さんに疑問を抱かれるかもしれませんわね。
 そのときは私も少しばかりはフォローしてあげますわ」

「…………ありがと、委員長」

「別に大したことじゃありませんわ。
 アスナさんも記憶が戻られたばかりで大変でしょうから、クラスメイトのフォローをするのは委員長としての役目です。
 でもそうですね。…………もしお礼をして頂けるというなら…………
















 膝の上のネギ先生を私に渡してください」





 アスナさんの膝の上でクッキーをモグモグと可愛らしくお食べになられているネギ先生を私にプリィィィーズっ!
 っていうか、アスナさんはオジコンで、ネギ先生みたいな可愛らしい方は好みじゃなかったはずでしょう! それが何故こんなに仲良くなっているのです!?





「イヤよ。さっきも言ったけど、実は私とネギは血が繋がっていたのよ。天涯孤独だと思っていた私に血の繋がった親戚がいたのよ。だったら仲良くしてもいいじゃない。あ、このことも秘密にしておいてね。
 …………親戚といっても、結婚出来るぐらいには離れているけどね。ねえ、ネギ?」

「え? ええ、そうですね。そもそも日本の法律では6親等離れていると親族扱いになりませんから、正確に言うと親戚というわけじゃありませんけど。
 でも祖先をさかのぼっていくと、僕とアスナさんは確かに同じ人の血を引いているみたいです」

「け、結婚っ!? アスナさん、あなたまさか本気で言っているのですか!?」

「いやいや、ネギ君のお嫁さんになるのはウチとせっちゃんやで。
 それにしてもネギ君のお父さんとウチのお父様が“親友”だったなんてなぁ。運命感じちゃうわぁ~」


 ここここ、木乃香さんまで!?
 しかも“せっちゃん”って、桜咲さんもなのですかっ!? いつの間に木乃香さんと桜咲さんはそこまで仲良くなられたのですか!?

 それよりアスナさん! 膝に乗せたネギ先生を抱きしめながら、ネギ先生の頭にグリグリと頬擦りするのはお止めなさい!
 ネギ先生が嫌がられて…………はないですね。擽ったそうな顔をなされていますが、何だかむしろ嬉しそうにアスナさんに頭を擦り付けるかのように…………。
 くっ! ネギ先生の嬉しそうな顔を拝見できるのは何よりですが、アスナさんは何と羨ましいことをっ!


 京都に皆さんで一緒に旅行に行ったとお聞きしましたが、いったい京都で何があったんですの!?
 そもそもネギ先生と一緒に旅行に行くなんて、何て妬ましい…………。

 しかも木乃香さんはお父上にネギ先生をご紹介済みとのこと。
 確かにネギ先生と木乃香さんのお父様同士がご友人ということでしたら納得は出来るのですが、どう考えても木乃香さんがネギ先生を違う意味で御自分のお父様に紹介しに行ったとしか思えませんわ!

 …………こ、こうなったら修学旅行では、何としてもアスナさん達よりネギ先生との仲を深めなければ!
 今のうちに修学旅行先のハワイを調べ上げ、ネギ先生との熱い一時を過ごせるような手配をしておきましょう!!!





「ネ、ネギ先生。
 我が家にはプールもございますのよ。せっかくいらしたのですから、是非一泳ぎなされてはどうですか?」


 それよりもまずは、目の前の女からネギ先生を取り戻さなければいけませんわねっ!


「…………ま、いいでしょ。少しぐらいは委員長に貸してあげるわよ」

「ほんじゃその次はウチなー」

「僕、水着持ってきていないんですけど」


 オホホホホ! 大丈夫ですわ、ネギ先生!
 ネギ先生にピッタリの水着はもちろんのこと、スーツから着物でも何でもご用意しておりますわ!

 …………え? 個人情報? 何のことですか?

 これはあくまで私のネギ先生への愛ですわよ! 





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 ネギ先生! ネギ先生! ネギ先生! ネギ先生ぃぃいいい「雪広さんって、お菓子作りが御上手なんですね」…………はっ!?
 いけないいけない。危うく私のネギ先生への愛が天元突破するところでしたわ。

 ああ、何て至福な一時。
 まさかネギ先生を私の膝にお載せした状態で、一緒にお茶を楽しめるなんて思ってもいませんでしたわ。

 それにしても私の手作りクッキーをモグモグとお口に入れられるネギ先生は何て愛らしいこと…………。
 しかもプールに泳ぎに来たのでお互いに水着! ネギ先生の肌と私の肌が触れ合い、ネギ先生の体温が直に私に伝わってきて………………ハァハァ、ネギ先生…………。





「…………雪広さん?」

「え? …………ええっ! お菓子作りに限らず、料理は得意ですのよ!
 オホホホホホ…………」

「…………委員長、その危ない目をいい加減にしとかないとネギを返してもらうわよ」

「うん、今のいんちょの目はさすがにマズイわ。
 ネギ君じゃなくても隔離する必要があるえ」


 だ、誰が危ない目をしているのですか!? というか“隔離”って何ですの!?
 ただ私はネギ先生を弟のように可愛がろうと、アスナさんのように抱きしめてあげようと思っただけですわ。

 …………ああ、前に回した私の手がネギ先生のお腹に触れています。
 以前、寮のお風呂でご一緒したときも思いましたが、なかなかにネギ先生は筋肉質ですわね。小さいときから野山を駆け回っていたとのことですから、自然に筋肉がついたのでしょうか?
 フフフ、可愛らしい顔をされていらっしゃるのに、男の子らしいところもありますのね。

 …………ああ、私の目の前にネギ先生の頭が。
 頬に当たるネギ先生の髪の毛の感触が。ネギ先生の髪の毛から香る匂いが。
 ネギ先生はキレイ好きということで朝晩シャワーを浴びていられるということですが、私と同じ部屋に住んでくださったら毎回背中をお流ししますのに。


 くっ! アスナさん達は毎晩この感触を味わっているというのですか? 何とも憎らしい!


 いけませんわ。ますますネギ先生への愛が増えていきます。
 この溢れんばかりの私のネギ先生への愛をどうにかしてネギ先生にお伝えすることは出来ないものでしょうか? 少しでもこの熱い愛を外に出さないと本気で熱い愛が溢れてしまいそうですわ。
 …………心なしか本気で鼻の奥が熱いような?









「…………あ?」

「「ちょっ!?」」

「? どうしたんですか、皆さん?」



 本当に鼻から熱い愛が溢れそうに!?
 いけません! このままではネギ先生の頭に私の熱い愛が零れ落「ネギ君一緒にプール入ろー!」「委員長トイレどこだっけーっ!?」…………あ、木乃香さんがネギ先生をプールへ引っ張っていってくださいました。


「ア、アスナさん!
 お手洗いはこちらですわ!」


 た、助かりました。
 さすがにネギ先生を私の熱い愛で染め上げるわけにはいけませんからね。

 …………でもそれはそれでアリなので「落ち着け!」あぶっ!?





「委員長、洒落にならないわよ」

「か、感謝します、アスナさん。
 ネギ先生への愛が暴走して、思わず暗黒面に落ちてしまうところでした…………」

「…………もうとっくに暗黒面に落ちていて、爪先立ちで顔だけ出してるって感じがするんだけど」


 フフフ、ネギ先生のためならばたとえ暗黒騎士に落ちてしまおうと、山篭りで自らと向き合って聖騎士にクラスチェンジしてみますわ。

 …………フゥ、大分落ち着けました。ネギ先生は前を向かれてましたので、私の愛が溢れる瞬間が目撃されませんでしたのは幸いです。
 さすがにあんなはしたない姿をネギ先生にお見せするわけにはいきませんからね。


「…………まったく。勘弁してよね。せっかくネギを連れてきてあげたのに、ネギにトラウマ作りそうになってどうするのよ?
(まあ、ネギなら全然気にしないんでしょうけど)」

「さすがに今のは申しわけありませんでしたわ。
 …………しかし、何故ネギ先生を連れて来てくださったのですか?」

「別に…………深い意味はないわよ。
 落ち着いたのなら戻りましょう。木乃香がネギに何かしてないか心配だわ」


 …………なら、そういうことにしておきましょうか。


 それにしても、木乃香さんまでネギ先生のことは本気なのですか。私も負けてはいられませんわね。
 もうすぐで春休みも終わります。そうすれば学校でネギ先生と会える時間も増えますわ。修学旅行もありますし、ネギ先生との仲を深めるチャンスはいくらでもあります。

 今日はネギ先生に私の料理の腕を知っていただけましたし、まだまだ他にもネギ先生に知っていただきたいことはたくさんあります。
 こうなったからには残りの春休みは自らの研鑽に務めるべきですわね。私の全てをいつでもネギ先生に披露出来るように。

 この雪広あやか!
 必ずやネギ先生の目に留まるようなレディに成って魅せますわ!











「さあ! ネギ先生がお待ちになっているプールに急ぎますわよ、アスナさん!」

「(…………委員長、弟さんの誕生日のこと本気で忘れてるんじゃないでしょうね?)」












━━━━━ アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ ━━━━━



『…………というわけで、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”に腹に穴を空けられたりしたこともあったけど、僕は元気です』



「…………ああっ」

「ネカネお姉ちゃーん!?」





 ネカネお姉ちゃんが倒れたっ!?
 衛生兵メディーックーーーっ! 衛生兵メディーックーーーっ!

 何暢気なこと言ってんのよ、ネギはっ! 相変わらずボケボケなんだからっ!
 だからネギを外に出すのは反対だったのよ!

 手紙の最初に“アーニャと一緒に読むように”って注意があったのはこのためだったのね! ネギからの手紙が来たってネカネお姉ちゃんから聞いたから、わざわざウェールズまで戻ってきたのにぃ~!
 ネカネお姉ちゃんが倒れることを予想してたから、私にネカネお姉ちゃんの介抱をさせるつもりなんでしょ! ネギの奴ぅ~~~!





『不幸中の幸いで、その事件で魔力容量もウェールズにいた頃の倍になったし』





 はあっ!? 何よそれっ!? ネギはいったい日本で何やってるの!? ただでさえ大きかったネギの魔法容量が更に倍!?
 いったいどんなことしたらそんなこと出来るのよ!?

 …………そうだ! アルちゃん!
 何とかアルちゃんに連絡をとって詳しい情報を!





『課題としての教師の仕事も順調だよ。教師としても新学期からは正式に担任になることが決まったんだから。…………タカミチには悪いけどね。
 でもまあ、しょうがないんじゃないかな。“悠久の風”と教師の二重生活なんて、タカミチでも大変だろうし』





 …………それはまあ、そうよねぇ。タカミチさんも昔からネギのことが心配だったみたいだけど、仕事が忙しくて数ヶ月に1回ぐらいしか来なかったしね。

 わ、私だって負けないわよ。
 最初の1ヶ月は全然お客様が来なかったけど、今はもう街の人とも仲良くなれたし、“リージェント通り裏の占い師アーニャ”と言えば、もー結構有名なんだから! …………極一部でだけど。





『“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”対策に魔法先生としての活動もすることになったし、いろいろやらなきゃいけないことが増えて大変だよ。
 あ、それとネカネ姉さんに言われた通り、ちゃんとパートナーを見つけたよ。『仮契約パクティオー』もした』





 ……………………何、ですって?





『全部で7人。
 魔法先生になった僕の担当の魔法生徒なんだけどさ、担任しているクラスの人達でもあるんだよね』





 ブフォッ!!! し、7人も!?
 ネギは何やってんのよぉっ!?

 ………………イヤ、落ち着きなさい、私。担当の魔法生徒って言ってるから、もしかしたら麻帆良じゃ魔法先生は担当の魔法生徒と『仮契約パクティオー』する習慣があるのかもしれないわ。
 同じ西洋魔術師っていっても、ウェールズと田舎の麻帆良では習慣が違うのかもしれないじゃない。

 それに『仮契約パクティオー』はネギのお父さんとジャック・ラカンって人みたいに、アッチの意味じゃなくて“友情”という意味ですることもあるわ。さすがにあの2人はキスはしてないだろうし。
 “姉妹スール制度”とか“トーエンの誓い”とか、そういうのに近い意味ですることもあるって聞いたこともあるし、もしかしたら“師弟”という間柄で『仮契約パクティオー』したのかもしれないわね。

 気に食わないけど、だったらしょうがないわね。ウン!







『しかもそのうちの1人は“紅き翼アラルブラ”の近衛詠春さんの娘さんで、麻帆良学園長のお孫さんでもあるんだよ。
 近衛木乃香さんっていうんだけど、居候もさせてもらってるし、最近木乃香さんから日本料理を教わっているんだ』





 …………え? 何ソレ? “サウザンドマスター”と“サムライマスター”の子供がパートナー? しかも麻帆良学園長の孫? 居候先?

 ソレってどう考えても“許婚”とかそういう言葉が浮かんでくるんだけど?





『教師になったばかりだし、春休みは短かったから帰らなかったけど、7月の夏休みにはウェールズに帰省するよ。そのときには習った日本料理を作ってあげるから楽しみにしていて。
 もしかしたら、僕の従者の人達も一緒に来るかもしれないよ。ネカネ姉さんに挨拶したいんだってさ』





 ど、どう考えてもアッチの意味での『仮契約パクティオー』じゃないっ!? しかもネギの親代わりのネカネお姉ちゃんに挨拶ってまさか…………婚約とか結婚の挨拶!?
 ネギのお父さんの仲間の“サムライマスター”の子供がパートナー………………か、勝てない。


 
 あ~~~っ! もうっ!!!
 に、日本に行ってから、まだ2ヶ月ぐらいしか経ってないのに、7人の女の子とキ、キキキ…………キスしちゃうなんて。
 ネギのスケベッ! エロネギッ! 女性の敵ーーーッ!

 こんなネギなんて、私の知ってるネギじゃないわよーーーっ!!!
















『それと麻帆良に“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”のエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさんがいて、模擬戦の相手をしてもらっているんだけどね。
 先日、ようやくエヴァさんに勝つことが出来たよ』








 …………。

 ……………………。

 ………………………………どう考えても私の知ってるネギだったわ。



 え? 今度は何?
 “闇の福音ダーク・エヴァンジェル”? “不死の魔法使いマガ・ノスフェラトウ”の?

 ネギはそんな伝説の大悪党相手に勝ったの?
 ネギのお父さんがようやくやっつけたっていう、究極の悪の大魔法使いに? というか、何でそんなのが麻帆良にいるの?



 …………でもどうしよう。

「ネギならしょうがない」

 って考えている私がいるわ。




 ああ、もう!
 ネギはいったい何やってるのよ!

 ウェールズに帰ってきたらしょうちしないんだからぁっ!!!
 こうなったら私も魔法戦闘の修行がんばって、今度こそ強さで追い抜いてやるんだからぁっ!!!



 ……………………無理だと思うケド。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 “クンカクンカジェネレーター”であのコピペ改変をチャレンジしましたが、最後まで載せる気力はありませんでした。
 一行目でお腹もういっぱいです。SAN値がガリガリと削られていきました。何やってるんだ自分は? と自己嫌悪すらしました。

 本当のところアスナとネギはどれくらい血縁離れてるんですかね?
 とりあえず直系じゃなくて傍系で、アスナが生まれたのが100年以上前ということを考えたら、6親等以上離れていてもおかしくはないと思います。


 それとアーニャが久しぶりの登場です。
 ここら辺で出しとかないと、本気で出番がなさそうですしね。ちなみにアーニャはネギの本当の実力を知りません。

 あとはデートして超りん少し出したら、ちょっと時系列飛ばします。
 具体的にはヘルマン卿が麻帆良にやってくるぐらいまでですね。…………女子寮要塞化が完了した後とも言いますが。









































※ “クンカクンカジェネレーター”であのコピペ改変。
  以下、キャラ崩壊注意。












 ネギ先生! ネギ先生! ネギ先生! ネギ先生ぃぃいいいいぁああああああああああああああああああああああん!!!
 あぁああああ…ああ…あっあっー! あぁああああああ!!! ネギ先生ネギ先生ネギ先生ぃいいいぃわぁああああ!!!
 あぁクンカクンカ! クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー! いい匂いですわぁ…くんくん
 んはぁっ! ネギ先生の赤毛の髪をクンカクンカしたいですわ! クンカクンカ! あぁあ!!
 間違えました! モフモフしたいですわ! モフモフ! モフモフ! 髪髪モフモフ! カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
 教師姿のネギ先生かわいかったですぅ!! あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
 担任決定決まって良かったですわねネギ先生! あぁあああああ! かわいい! ネギ先生! かわいい! あっああぁああ!
 プールで水着姿も見れて嬉し…いやぁああああああ!!! にゃああああああああん!! ぎゃああああああああ!!
 ぐあああああああああああ!!! プールで水着姿なん(※ もう無理さすがに無理これ以上は無理)









 …………あれ、崩壊? むしろいいんちょの平常運転じゃ?



[32356] 第49話 デート
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:05



━━━━━ 春日美空 ━━━━━



 明日から新学期、3年生の開始ッスか。
 ああ、この怠惰な日々ももう終わりなんスね。

 …………春休みも夏休みぐらい長ければいいのに。


 それにしても学期初めが近くなった分、皆さんイロイロ活動再開してるみたいッスね~。
 この前なんか、いいんちょが寮で作った料理を皆で食べさせてもらったし………………アレってやっぱりネギ君に食べさせる練習台だよね?

 …………まったくあのショタコンは。
 美味いモン食えたからいいけどさ。





「ミソラ…………アイス溶けそう」

「お、ゴメンゴメン。ちょっと考え事してたッスよ」


 今日は最後の休みの日ということで、ココネを連れてブラブラと散策中。
 学校が始まると、今までみたくココネに構って上げられなくなるッスからね。
 ま、学校があったらあったで教会の手伝いをしなくてよくなるのはいいんだけど、最近はシスターシャークティがやけに疲れてるらしく、私を怒ることが少なくなってきたんだよね。


 ネギ君が来てからかな? 一時期はネギ君を見習えって五月蝿かったんだけど、最近はそうでもないんだよ。

「美空もネギ先生を見習って…………イヤ、あそこまで到達されると逆に…………。
 ああ、主よ。どうやって幼子を導けばいいのでしょう?」

 とか、よく1人で祈ってるし。何かあったのかな?


 それにしてもネギ君は凄いッスね~。
 何でも聞いた話によると春休みに京都に旅行に行ったとき、関西呪術協会が壊滅するのを阻止したらしいじゃん。やっぱ天才ってのは違うんスね。
 …………何故かシスターシャークティは後始末に追われて凄く大変だったみたいだけど。

 しかもその京都旅行が原因で、アスナや木乃香、ゆえ吉や本屋までコッチ側関係者になるらしいじゃないッスか。何でもテロリストに狙われる可能性があるから、ネギ先生が主になって護衛チームを作るとか。
 10歳でそんな大それた仕事を任されるなんて…………。

 っていうか、ウチのクラス関係者ばっかりになったんじゃない?
 私は平和に過ごしたいんで出来れば関わりあいたくないッスね~。テロリストに狙われるなんて真っ平ゴメンだよ。

 普通に平和に。それが学生ってもんでしょ。







「さて、次はどうしようか、ココネ?」

「ミソラ…………アレ、ミソラのクラスの人達じゃナイ?」


 ん? …………あー、本当だ。アスナ達じゃん。何やってんだろ?
 私らみたく、休み最終日なんだから遊びに来たのかな。

 それにしてもアスナも本当に変わったよねぇ。高畑先生LOVEがネギ君LOVEに変わってきてるし、何より期末テストで私より順位が上だったんだもん。
 私はガリ勉ってわけじゃないけどシスターシャークティの小言を避けるために、平均点は取るように頑張って300位台はキープしてたけど、まさかあのアスナが200位台に入るなんて…………。
 他のバカレンジャーもまき絵以外は私と同じくらいの点数だったし、ネギ君が来てから皆の成績が本当に上がったよねぇ。

 ………………こりゃ高畑先生が担任クビになるわけだ。
 高畑先生が担任クビになることは、シスターシャークティから新学期始まるまでは口外するなって言われてるけどさ。









「お~い! 皆して何やってんの?」


 アスナ、木乃香、桜咲さん、本屋にゆえ吉、くーちゃんに楓さん。それに茶々丸さんもいるね。何か茶々丸さんは頭に茶々丸さんに似てる人形乗せてるけど。
 ………………あと何か二十歳ぐらいのカッコイー兄ちゃんがいるんだけど、この人誰?





「…………あ、春日さんにココネ・ファティマ・ロザさんですね。
 シスターシャークティからよく聞いてます」

「ネ、ネギ先生! 今のネギ先生の姿では…………って、シスターシャークティ?
 ネギ先生がこういうミスするとは思えないし…………もしかして春日さんも魔法生徒なんですか?」

「えー、そうなん?」


 ブフォッ!? もしかしてこのカッコイー兄ちゃんってネギ君!? しかもシスターシャークティったら私のこと話してたんスか!?

 それに何でネギ君がいきなりこんなに急成長したの…………あ、そうか。幻術かぁ。
 うわー、やっばいじゃん。ネギ君大人になったらこんなにカッコ良くなるのかぁ。イケメンで頭も良くて性格も良いなんて、相変わらずチートッスね。

 いや、本当に焦ったわ。
 よくよく見てみると、ここにいる皆は新しくネギ君担当になった魔法生徒の皆じゃん。





「…………う、うん。まあね。私の場合は親に言われてって感じで、、あまり真面目にやってるわけじゃないんだけどさ。
 それより皆してどうしたの? 幻術で大人になったネギ君まで一緒に? もしかしてデートッスかぁ~?」

「ええ、そうよ。せっかくの春休み最終日なんだから、ネギと一緒にデートしようってことになったのよ」

「本当はエヴァさんがネギ先生せんせーと約束してたみたいなんだけどね」

「“抜け駆けはナシ”という同盟を組んだため、私達もデートに参加することになりました」

「デートといっても美術館デートでござるがな。ま、たまにはそういうのもいいでござる」

「私は美術館とかそういうところは初めてアル」


 …………え? マジでデートなの?

 確かに服装を見る限り、落ち着いた感じの服というか上品な余所行きの服って感じするけど、マジでデートなの?
 それに“同盟”って何さ? 本気でこの人達ネギ君狙ってんの? いいんちょみたいなショタコンが増殖してるっ!?


 いや、でもこの大人ネギ君見てたらしょうがないのか? 確かにカッコイイし。
 でも中身も大人っぽいんだよね、この子。ココネと同じくらいの年とは思えないぐらい、というか私達よりむしろ年上って感じ?





「へ~、そうなんだ。でもエヴァちゃんもなの?
 確かにいつも一緒にいる茶々丸さんがここにいるけど、当のエヴァちゃんがここにいないじゃん?」

「ああ、それはなー…………最初はここで待ち合わせしてたんだけど、先に来て待ってた大人ネギ君見るなり、茶々丸さん置いて急にどっか行ってもうてなぁ」

「マスターはきっと服を変えにいかれたのだと思います。
 今日はネギ先生とのせっかくのデートということで、とても可愛らしい服を着ておいでだったのですが、おそらく大人のネギ先生に釣り合うような服装に変えてこられるかと」

「“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”も恋する乙女なのですねぇ。修行をつけてくれるときのエヴァンジェリンさんとは大違いなのです」

「でもあのエヴァさんも可愛かったねー。本当にお人形さんみたいでとっても似合っていたのに…………」

「この姿で来るのを予め伝えておけば良かったですね。
 ちょっとビックリさせようという気持ちもあったのですが、どうも余計な気を使わせてしまったようで」


 へー、あの金髪ちび無口留学生のエヴァちゃんがねぇ。

 そういえば最近のエヴァちゃんは居眠りとかサボりが少なくなってたみたいだけど、そういうことなんだ。
 エヴァちゃんもネギ君のこと好きなんだ。いやぁ、ネギ君はモテるねぇ、ハッハッハ!


 …………あれ? でも気のせいかな?
 今なんかとてつもないことが耳に入ってきたような?






「…………“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”ってナニ?」





 あ、それだよ! ナイス、ココネ。
 何か気になってたのは“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”って言葉だよ。
 魔法界では寝ない子に「“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”がさらいにくるぞー」とか言って、ナマハゲ扱いされている伝説の有名極悪人が何で話しに出てくるの?

 確かにエヴァちゃんとは同姓同名だけど、そんなんが同級生にいるわけねぇーッスからね。







「あれ? 春日殿達は魔法生徒なのに知らないんでござるか?」

「そういえばまだお2人とも、魔法生徒としてはあまり本格的に活動されていないのでしたよね。だったら知らなくても仕方がないですかね?
 クラスメイトのエヴァさんは“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”その人ですよ。
 …………あ、でも教えてよかったのかな? シスターシャークティはエヴァさんのことを知ってるはずだから、何らかの理由があって教えてなかったのかも」





 ンブオフォッッッ!?!?

 えっ? ちょっ? 何スかソレっ!? 伝説の有名極悪人がマジで同級生!?
 シスターシャークティも知ってたんなら教えてよっ!!!


 …………あ、繋いでるココネの手が震えてる!? 魔法世界アッチ育ちのココネにはショッキングすぎるッスか!?







「あ、エヴァさん」







 ウヒィイイイッ!? ナマハゲが来たぁーーーっ!? ネギ君も何普通に呼びかけてんスか!?
 何かいつものちびっこいエヴァちゃんじゃなくて、モデルかと勘違いしてしまいそうなおねーさんが来たッスけど、エヴァちゃんが大きくなったらまさしくああなりそう!
 エヴァちゃんはプライベートではゴスロリみたいな可愛い服を着てるみたいだけど、このおねーさんはシックで落ち着いた感じの大人の服をお召しになってるッスね!


「ま……待たせたな、ネギ。それではデートを始めようか」

「はい、エヴァさん。…………うん、先ほどの可愛らしい服も似合ってますけど、大人の姿のエヴァさんにはそういう服の方が似合ってますね」

「そ、そうか!? …………ならいい。それなら行くとし「ナマハゲェーーーッ!?」な、何だいきなりっ!?
 麻帆良祭の時期でもあるまいし、どこかに仮装した連中でもいるのか!?」





 ナマハゲはアンタッスよ! アンタ!
 ええいっ、こんなところにいれるか! 私達は逃げさせてもらうッスよ! ココネ、掴まって!

 うりゃっ! かそくそーーーちっ!!!












━━━━━ 絡繰茶々丸 ━━━━━



「…………何だったんだ? アレは同じクラスの春日美空だよな?」

「さあ? 盗んだバイクならぬ、発現させたアーティファクトで走り出したいお年頃なのでは?」


 おそらくマスターが“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”であることに驚いて逃げられたのだと思いますが…………言わぬが花ですね。
 それとネギ先生、おそらく他の方はそのネタはわからないと思います。年齢的に考えて。
 私はデータとして古今東西の曲をダウンロード出来るので知っていますが。


「いつもと服の感じが違うですね、エヴァンジェリンさん」

「うん? まあ、せっかくネギが大人の姿で来たのだから、私もそれに合わせた服装をと思ってな。
 スマンな。着替えのせいで待ち合わせの時刻に遅れたようだ」

「あー、ええなぁ、エヴァちゃん」

「そういう大人っぽいカッコもしてみたいねー」


 最近、マスターの服の趣味が変わってきました。
 子供のとき、本来の姿の場合は相変わらずにゴスロリといいますか、外見年齢相応にとても似合った可愛らしい服装を好まれます。
 しかし、幻術で大人の姿になったときの服装が違うのです。今までの大人の姿の場合、どちらかというと露出が多いといいますか、“妖艶”と形容されるような服を好まれていました。 

 ところが最近は落ち着いた感じの服装をお召しになられています。


 ネギ先生はどうも露出が多い服は好まれず…………というより、「人前でそんな格好したら駄目」とよくマスターに言っておられました。
 別荘内などの他人が入り込まない空間ですと構わないらしいのですが、露出が多い服で外に出ようとすると難色を示します。

 …………マスターは「ネギがデレてきた」と言ってお喜びでしたが。

 思えばクラスの皆さんのスカート丈も長くなってきてるようですね。常日頃からネギ先生が露出が多いのは苦手と言っているせいでしょうか?







「それなら皆さんも大人の服を着てみます? これから美術館に行く予定ですがそれ以外の予定はありません。まずショッピングしてから大人の姿で美術館に行きましょうか?
 服を選ぶなんてデートらしくていいですし、皆さんもこれから年齢詐称薬を使って大人の姿になるときがあるかもしれません。それなら前もって用意しておいた方がいいかもしれませんからね。
 僕も皆さんの大人の姿を見てみたいと思いますし」

「…………拙者は?」

「…………大人用の服装だけじゃなくて、子供用の服も準備しておきましょう。ウン。
 年齢詐称薬を使えば子供にもなれますから」

「それはいいけど…………私はそこまで持ち合わせがないアル」

「そのぐらいなら僕が出しますよ。そもそも僕から誘ったデートなんですしね。
 先日、詠春さんから石化治療弾の代金を頂きましたので懐が暖かいんです」

「え? そんなの悪いですよ、ネギ先生せんせー…………」

「…………あ、でも確か5発入りカートリッジを10個ほど、50人ぐらいに石化治療弾を使いましたね。
 エヴァンジェリンさん、石化治療薬っていくらぐらいするんですか?」

「ん? そりゃあ…………中学生のお前らがそう簡単に出せる金額じゃないのは確かだな」

「別に僕から請求したわけじゃないんですけどね。フェイトに直接石にされた詠春さん達ならともかく、煙で石になったぐらいなら関西呪術教会にも治すことが出来る人はいたでしょうし。
 ま、関西呪術教会にも面子があるということでしょう」





 日常に使うような解毒薬ではなく、石化治療という特殊な分類となるとその分割高になります。
 魔法世界最高級の魔法薬“イクシール”が魔法世界通貨単位で100万ドラクマ。イクシールのように万能薬ではないので安くなるでしょうが、それでも魔法世界で売ったら最低1万ドラクマはするでしょう。
 魔法薬自体の物価やそもそもの経済が大きく違うので一概に換算出来ませんが、おそらく日本円では最低でも1発10万円以上…………100万円には届かないでしょうか?
 それが50個分となると結構な金額となりますね。

 原価がタダであるのなら尚更です。
 使うのはネギ先生の魔力ぐらいですからね。
 




「僕が壊した父の家の修理代金で結構使いましたけどね。…………天体望遠鏡は高かったです。あれが若さゆえの過ちという奴ですか。個人で持つには大きな天体望遠鏡なんですよねぇ、アレ。
 それでも皆さんに服を買うぐらいは余裕で残っていますので気になされなくて結構ですよ。石化治療にはアスナさん達にも手伝ってもらいましたからそのお礼ということで」

「調子に乗って羽根なんか生やすからアルよ」

「ネギ先生、千雨さんや龍宮さんはいいのですか?」

「龍宮さんはいいでしょう。あの人はちゃんと学園長から報酬を貰っていましたから。
 長谷川さんは…………また今度の機会に何かプレゼントしますよ。長谷川さんの趣味的に考えて、年齢詐称薬でもプレゼントしましょうかね」

「ふーん、そういうことなら買ってもらおうかな。
 ところで千雨ちゃんの趣味っていったい何な「スイマセン、聞き逃してください。そういえば口止めされてました」…………そうなの?」

「え、えと…………本当に買ってもらっていいんでしょうか?」

「こういうときは遠慮する方がネギ君に対して悪いで、せっちゃん」

「そ、それなら後で買ってもらった服でファッションショーをするというのはどうでしょうか。
 観客はネギ先生せんせー1人で…………」

「のどか…………立派になったですね。
 なら2人でお揃いの服でも選ぶです。…………ゴスロリでもチャレンジしてみましょうか?」

「ハハハ、ありがとうございます。エヴァさんも欲しいのがあったら言ってくださいね。
 茶々丸さんもせっかくのデートなんですし、たまには制服やメイド服だけじゃなくて違う服も試してみたらどうです?」

「っ!? 私もですか!?」





 し、しかしネギ先生。私はマスターの従者です。従者たる私が着飾る必要はあまりないと思います。
 私は皆さんのように綺麗ではありませんし、間接部分が目立つガイノイドですから、皆さんが着るような服は似合わないかと。
 そ、それに後でネギ先生にファッションショーして見せるなんてハズカシイことは………………マスター? 何故ニヤニヤと笑われておいでなのですか?


 え? あっ!? ちょ…………ちょっと待って!?
 待ってください、マスター! 引き摺らないで! 木乃香さん達も一緒になって引き摺らないでください! 笑って見てないで助けてください、ネギ先生!
 歩きます! せめて自分の足で歩きますから!





「何、茶々丸にはこれからもずっと私とネギの面倒を見て貰わねばならんからな。たまにはこんなのもいいだろう。
 それに100年後には独り占め出来るとはいえ、それまでアスナ達に獲られてていいというわけではない。刹那と木乃香、のどかと夕映が同盟をそれぞれ結ぶらしいから、茶々丸は私と同盟を結べ。
 ネギはお前のことを気に入っているからな」



 ソレどういう意味ですか、マスターっ!?





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 見られてます。皆さんから見られています。
 皆さんはやはり綺麗です。元から可愛いらしい方達でしたが、今の皆さんはいつもの学生服や中学生らしい服装ではなく、まるで那波さんや龍宮さんのような服装です。


 ………………もしかして表現が変でしょうか?
 それと長瀬さんは5~6歳ぐらいの子供の姿です。





「う……うううぅぅ…………?」

「可愛ええよー、茶々丸さん」

「フム、今まで茶々丸を着飾らせることはなかったが、これは勿体無かったな。
 それと超や葉加瀬に茶々丸のニューボディー開発を急がせるか。戦闘データが足りないということで開発が滞っていると言っていたが、茶々丸も刹那達の修行に参加させれば問題あるまい」

「おー、“超包子”でのウエイトレスでチャイナ服は見たことあるけど、こういう茶々丸も新鮮アルね」





 そ、そんなにジロジロと見ないでください。私がこんな服装をしても…………。
 いくら長袖とはいえ、薄手の生地ですので間接部分がこんなに目立っていますし。

 ううぅ……そんなに皆さんに見つめられると…………特にネギ先生に見つめられると何か奇妙な感覚です。
 胸の主機関部辺りがドキドキして、顔が熱いような…………。

 先ほど“ハズカシイ”と思わず言いましたが、確かにこの感覚は“ハズカシイ”というのが妥当かと…………。









「あー、茶々丸が可愛い服を着てるぞーーー」

「茶々丸のくせにーーーっ」

「お姉ちゃんキレーーー」


 子供達までっ!?
 …………え? 本当に何故ここに子供達がいるのですか!?


「拙者が子供服を選んでたときに知り合ったでござるよ。
 いや~、こんな子供の姿になるなんて新鮮でござる。目線も低くなったせいか、見えている世界が全然違うでござるなぁ」

「空飛んでよー、茶々丸ー」

「乗せてよー」

「はいはい、他の人達の迷惑になるからまた今度ね。君達は他のところで遊んできなさい。
 …………いや、でも本当に可愛いですよ、茶々丸さん。僕としては間接部分とかは別に気になりませんけど、もし茶々丸さんがそんなに気にされるのなら、幻術で人間の身体のようにしましょうか?」

「え? そそそそそ、それはありがとうございます。
 …………ネギ先生が気になさらないというのなら……別にいいです。それに以前頂いた髪留めがありますから…………」

「よし、それでは美術館に…………行く前に昼食をとるか。
 もう2時になるのか。興が乗ってスッカリ遅くなってしまったな。まぁ、昼食をとるなら逆に店が混んでなくていいかもしれんな」

「そうですね。
 ああ、店員さん。今皆さんが着ている以外の買った服は、この住所に送ってください」

「かしこまりました。
 是非ともまたお越しくださいませ~」





 上機嫌な店員に見送られて店を出ます。9人分の数着分の服となると結構な金額となりますので、店としては大変な上客だったのでしょう。
 さすがにあの量の服を女子寮に持ち込むわけにはいきませんし、そもそも普段の皆さんのサイズとは明らかに違う服ですので、クラスの他の人に見られたら不審に思われてしまいます。

 …………特に早乙女さんと同室の宮崎さんと綾瀬さんが。
 そのため一度マスターの家に送っていただき、そのまま別荘に保管するとのことです。


 うううぅぅ…………ほ、本当にファッションショーをしなければいけないのでしょうか?
 今着ている服以外にも数着買っていただきましたが、それらを着てネギ先生のためにファッションショーを。

 …………皆さんは乗り気のようですし。



 そういえば店員のネギ先生を凄い人を見るような目で見てましたが、9…………7人もの妙齢の女性(長瀬さんは子供姿でした)を連れているネギ先生はやはりそういう風に見られてしまうのでしょうか?
 ネギ先生は全然気になされていないようですが、それは子供だから気になされていないのでしょうか? それともわかってて気になされていないのでしょうか?
 
 うう…………それにこの服装で本当に外を出歩かなければいけないのでしょうか?
 そもそも私のようなロボットの身体を見て、ネギ先生は本当に可愛いと思ってくださっているのでしょうか?





 駄目です。
 どんどん疑問が溢れてきて、思考にエラーが発生しそうです。グルグルと堂々巡り。空回り。袋小路。

 いや、それ以前に何故ガイノイドの私が、こういうことに疑問をを抱いているのでしょうか?
 根本的な考えについての疑問。疑問を抱くということに対しての疑問。こんなことは今まで考えたこともなかったのに。




 私の目の前には、腕を組んで歩くマスターとネギ先生がいます。
 本来、今日のデートはネギ先生とマスターお2人のデートのはずでしたので、さすがに他の皆さんも今日はマスターを尊重されて、邪魔をする様子はありません。
 というより、もう完璧に“盟友”として認識されているのでしょうか。特に最近のアスナさんは随分と穏やかな性格になられた感じがします。

 …………京都旅行で本当に何があったのでしょう?




 嬉しそうなマスター。幸せそうなマスター。
 私がマスターの従者になってもうすぐ2年になります。最初のマスターは不機嫌なときが多く、私はただ側で控えているぐらいしか…………身の回りのお世話をすることぐらいしか出来ませんでした。

 しかし、ネギ先生が麻帆良に来られてから、マスターは嬉しそうに、幸せそうに笑われることが多くなりました。…………たまに頭を抱えているときもありましたが。
 それでもネギ先生がマスターを変えた。私には出来なかったのに…………。




 幸せそうに、恋人のように腕を組んで歩くマスターとネギ先生。
 そしてその周りには、ネギ先生と『仮契約パクティオー』して“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”となった皆さんがいます。
 昔の意味での“戦友ミニストラ・マギ”はなく、現代の変わってしまった意味での“恋人ミニストラ・マギ”となった皆さん。

 普通に考えるなら、ネギ先生を欲しがっているマスターと対立してネギ先生を奪い合いそうなのですが、むしろ皆さんとマスターの仲は良好です。
 先日も別荘にて“ドキッ☆ 女だらけのネギ先生への愚痴大会”を開いて親睦を深めていらっしゃいました。…………そういえば中学生が飲酒をしても良かったのでしょうか?
 今まで友人らしい友人もいなかったマスターも皆さん相手になら愚痴を言えるらしく、皆さんと一緒に楽しげな一時を過ごされたようです。



 …………私だけが、皆さんとは違う。

 私には出来ませんでした。
 マスターを変えることも、マスターを嬉しそうにすることも、マスターを幸せそうにすることも、マスターと一緒に楽しむことも。


 でも、そんなことは従者たる私には過ぎたこと。
 そもそも私のようなニンゲンじゃないガイノイドでは、マスターを変えることなんか出来なかったでしょう。それ以前にそんなことは思いつきもしませんでした。

 それでも…………何だか主機関部ムネが痛いです。



 それでも私がガイノイドじゃなかったら、私がロボットじゃなかったら、もしも私がニンゲンだったら出来たのでしょうか?
 マスターを変えることも、マスターを嬉しそうにすることも、マスターを幸せそうにすることも、マスターと一緒に楽しむことも、ネギ先生と『仮契約パクティオー』することも、ネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になることも。















 ……………………スイマセン。後半間違えました。
 やはり思考にエラーが混じっているようです。

 落ち着きましょう。デフラグを、エラーチェックをしましょう。
 何か記憶ドライブから映像を再生して落ち着きましょう。猫さん達に餌をあげているところとか、困っていたおばあさんのお手伝いをしたところとか、ネギ先生に紅茶を喜んでいただいたところとか…………じゃなくて。


 イヤ、違うんです。これは違うんです。
 ネギ先生と『仮契約パクティオー』したいとは思っていません。ネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になりたいとは思っていません。私はマスターの従者です。

 …………でも、もしマスターとネギ先生が一緒になられたら、それはネギ先生も私の主人になるということでは?
 私とマスターはドール契約にて主従の契りを交わしていますが、それならネギ先生とは『仮契約パクティオー』しても問題ないのでは?


 いえ、違います。そもそも『仮契約パクティオー』をする方向で考えが進んでいるのがおかしいです。
 だいたい私はガイノイド。動力は魔力、身体自体は科学の産物の魂を持っていないただの機械人形。だから私は皆さんみたくなりたくても、『仮契約パクティオー』なんて出来るわけありません。


 …………それも違います。ネギ先生と『仮契約パクティオー』したいとは思っていません。ネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になりたいとは思っていません。違いますちがいますチガイマス。
 チガ…………違うンデす。チガチガガガガガ「茶々丸さん!?」∬㌍з‰ёゞ㍍★Щーーーーーッ!





「大丈夫ですか、茶々丸さん?」

「どうした? 道の真ん中でボォーッと突っ立ったままで?
 早くついて来ないと置いていくぞ」

「…………何でもありません。申しわけありませんでした。少し考えことを…………」


 …………危なかったです。
 今のは本気で危なかった。思考回路に負荷がかかり過ぎました。ネギ先生に話しかけられていなければ、本気で暴走をしていたでしょう。
 考えるのは止しましょう。せっかく皆さんとのデートなのですか「じゃ、行きましょうか」Ю▼£㌦И㊥㌫Дーーーーーッッッ!!!

 ネ、ネギ先生!? いきなり私の手を握るなんて…………!?





「皆さん待ってますよ。行きましょう、茶々丸さん」

「そうだな。いい加減私も腹が減った」


 え? え? えええぇぇっ!?
 いいのですか? このままでいいんですか? ネギ先生は左腕でマスターと腕を組んで、右手で私と手を繋いで歩くなんて状態でいいんですか?

 あっ……引っ張られる。ネギ先生と繋いだ手を引っ張られて、ネギ先生とマスターと一緒に並んで歩く。
 …………いいんですか? 一緒に並んで歩いてもいいんですか?




 チャリ


 ポケットから音が鳴る。
 京都旅行の際にネギ先生から頂いた髪留め。
 戦闘のときは壊れてしまうかもしれないから外して、麻帆良に帰ってきてからは私のガイノイドの身体を見ても不思議に思う人はいないので、あれ以来なかなかつける機会がありません。
 それでも家に置いておく事なんて出来ず、使いもしないのに何故かいつも持ち歩いてしまっているネギ先生からのプレゼント。

 …………わたしのたからもの…………。





 繋いだ手から、ネギ先生の温もりが感じられます。
 あくまで私の手のセンサーが認識したことを私も認識しているだけですが、それでもこの温もりは他の温かさとは違う気がします。
 それこそずっと手を繋いでこの温もりを感じていたいぐらいに。


 …………お願いです、ネギ先生。ワガママは言いません。ネギ先生のお役にも立ちます。
 ヒトの心がよく理解することが出来ない機械人形ですけど。『仮契約パクティオー』することも出来ない魂のない機械人形ですけど…………。

 今だけは手を繋いでいてください。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 そしてエヴァとのデートのはずが茶々丸の回でした。
 だってエヴァ主体のデートだったら、最後にホテルに連れ込むことしか思いつかないんですもん。



[32356] 第50話 超鈴音の憂鬱
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:06



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 さて、遂に明日から新学期の始まりです。

 原作では“桜通りの吸血鬼事件”の時期ですが、もちろんそんなもの起こっていません。
 エヴァさんとは良好な仲ですし、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』も解けるのが分かっていますからね。
 エヴァさんが佐々木さんやのどかさんを襲ったり、エヴァさんが僕を襲ったり、僕が茶々丸さんを襲ったりする事件なんか起こるはずがないのです。





「…………で、茶々丸にナニしたネ? ネギ坊主、エヴァンジェリン?」

「いきなりネギが「茶々丸さんに魔力じゃなくて、『咸卦法』で気と魔力を合成したのを供給したらどうなるんですか?」とか言い出した」

「そしたらエヴァさんに「面白そうだから『咸卦法』じゃなくて『闇の咸卦法』で試してみろ」って言われました」

「茶々丸…………大丈夫?」

「も、問題あり……ません…………ハカセ……。
 ……い、今は触らないで……ください…………」


 僕とエヴァさんが別の意味で茶々丸さん襲っちゃいましたけどね。
 いやあ、知的好奇心が疼いちゃいまして。アハハハハ…………。


「…………ふぅ。いきなり電話で「茶々丸さんが大変なんですっ!」と言われたときは驚いたヨ」

「いや、本当にお騒がせしました。ありがとうございます、超さん」

「駆けつけたら悶えてた茶々丸がいたのにはもっと驚きましたけどね」

「迅速な対応すまなかったな」

「2人とも全然反省してないネ。というか、謝るならエヴァンジェリンはネギ坊主の膝の上から退いてから謝て欲しいヨ」





 原作でも似たようなシーンがあったので、魔力供給で茶々丸さんが悶え始めても平気だと思ったらあんまり平気じゃありませんでした。
 何だか痙攣し始めるし、ブツブツと機械語みたいなことをループして口走ってましたし…………。



 うん、やりすぎた。



 ちなみに現在、僕は大人の姿のままですがエヴァさんは元の子供の姿に戻っています。
 美術館デートが終わった後、アスナさん達が“夕食ぐらいはエヴァさんと一緒に”と言ってくれましたので、エヴァさんの家に移動して茶々丸さんが作ってくれたディナーを楽しみました。
 その後はチーズなんかを肴にして、ワインを飲みながらゆっくりと談笑していました。

 …………え、僕は未成年だろって?


 大丈夫ですよ。気の身体制御で肝臓機能強化すればアルコールなんかすぐに分解できますので、急性アルコール中毒になったりなんかしません。気とかマジで便利です
 それにイギリスでは未成年者飲酒禁止法なんてないですので、向こうでも少し飲んでましたので慣れています。イギリスではお酒を買えるのは18歳になってからですが、5歳以上で親の同意さえあれば家で飲めるんですよ。
 僕が飲んでいたのは強い蒸留酒じゃなくて、主にワインとかサイダーでしたけどね。よくスタン爺さん秘蔵のワインをこっそり拝借とかしてました。


 それと茶々丸さんが魔力だけでなく、気も使えることになったらすごくありません?
 魔法の進歩のためには少々の非人道的行為もむしろやむなしです。ねえ、葉加瀬さん?





「え!? …………いや、いくら私でもそこまではしませんよ!」

「「嘘だっ!!!」」

「…………最近やけにネギ坊主とエヴァンジェリンは仲が良くなてないカ」

「………………ネ、ネギ先生」

「おお、茶々丸。もう大丈夫カ?」

「今日は家事をしなくていいからもう休め、茶々丸」
























「ネギ先生…………もう一度……さっきのことをして頂けませんか?」




















「「「「……………………ハ?」」」」





 …………今なんと仰いましたでしょうか、茶々丸さん?
 明らかに茶々丸さんのキャラとは違うことを仰られませんでしたか?





「もう一度っ! もう一度だけお願いしますっ!!!」

「ちゃ、茶々丸!? 何言てるネ!?」

「ネ、ネジを回してください、ネギ先生っ! ネジの先っぽだけでも良いんです!!!」

「お、落ち着きなさい、茶々丸!
 …………って、モーターの回転数がさっきよりもトンデモないことになってます!!!」

「先っぽだけっ! 先っぽだけで我慢しますからぁっ!!!」

「正気に戻れ! 茶々丸っ!!!」







 ……………………やっべ、茶々丸さん壊しちゃった。












━━━━━ 超鈴音 ━━━━━



 ネギ坊主。私のご先祖様。
 予想してた人物像かなり違うガ、今のところ一つを除いて大きなイレギュラーはないネ。
 予想していた過去とは違うところもある。けど私が過去に来たことにより歴史自体が変わるなどの、計画の根底自体を揺るがすとんでもないイレギュラーが発生するかもしれないと思ていたが、まだ想定の範囲内ネ。


 …………ネギ坊主の強さだけは物凄いイレギュラーだけど。



 イヤ、ホント。アレどうしたらいいネ?
 そりゃ私のご先祖様で天才魔法使いということだし、超家に残ていた記録からもある程度強いとは思ていたヨ。

 それでも“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”より強いてどういうことネ? 学園祭のときどうしたらいいのヨ?
 龍宮さんにも「正面きって戦わなければならないのなら、計画抜ける」とまで言われるし…………。


 しかし、それは“正面”からではなくて“側面”か“背面”からなら戦てくれる、ということでもあるネ。現にまだ龍宮さんは計画から完全には抜けていない。
 龍宮さんに抜けられると計画に支障が出る。さすがに田中さんや茶々丸達だけで魔法関係者を抑えることはできないからネ。
 ここは何としても龍宮さんを繋ぎとめておくために、早急にネギ坊主攻略のプランを立てなければならないネ。

 …………ソレ、どうしたらいいのヨ?









『“強制時間跳躍弾B・C・T・L”による不意打ち』

 NON.
 絶対回避される。そして狙撃者が反撃されて終わる。例え狙撃者が龍宮さんでも同じネ。
 それに“強制時間跳躍弾B・C・T・L”による時間跳躍は精々3時間程度ヨ。これだと儀式完了の3時間前以降にネギ坊主を未来に跳ばせば勝ちだけど、逆に言えば3時間より前のとき未来に跳ばしても、それだと儀式完了の前に戻ってくるということヨ。
 要するに儀式完了の3時間前まではネギ坊主には手を出せないということでもある。それはいくら何でも危険すぎるヨ。
 しかも未来に跳ばすなんてことしたら、絶対にネギ坊主に敵としてロックオンされるネ。戻てきたブチ切れネギ坊主が事態を把握して、私を探して捕らえる。…………さて、これに必要な所要時間は何分カネ?

 とりあえず戦闘でネギ坊主に勝つのは諦めた方がいいヨ。






『アスナさん達を人質にとる』

 NON!
 そこまでして計画を完遂したくない…………わけでもないが、そんなことしたら絶対死ぬ。ネギ坊主に絶対殺される。それも学園祭が終わた後で。
 アスナさん達を取り戻せたら、ネギ坊主は遠慮する必要なくなるからネ。

 自分に厳しく敵には容赦なく、味方に優しく守る人には激甘。それが私の抱いたネギ坊主の感想ヨ。アスナさん達はネギ坊主の従者だけど、今のところ“共に戦う仲間”ではなくて“庇護対象者”として皆を見ているネ。
 しかも恋人候補でもあるということで、最近のネギ坊主はガラにもなく浮かれているヨ。デートでチョッカイかけてきた男を手荒くあしらてたし、独占欲カネ? …………まあ、年齢を考えたら仕方がないガ。
 とにかく、そんな彼女達を互いに了承済みでの戦いならともかく、不意打ちで危害を加えようものなら烈火の如く…………いや、絶対零度の冷酷さで敵対される。
 全世界に魔法をバラすのを成功しても、その後でネギ坊主に殺されたら本末転倒ヨ。

 私にとて大事なのはその後なのダカラ、あくまで学園祭のことは“目的”ではなくて“手段”なんだヨ。






『プレゼントする“航時機カシオペア”による時間跳躍にて学園祭一週間後の未来に送る』

 …………NON.
 自販機の缶ジュースですら毒物検査をするぐらいのネギ坊主の慎重さだと、タイムマシンなんて貰ったら徹底的に調べるヨ。
 ヘタしたら細工を見つけられて私が事情を聞かれるネ。そんなことなったら逃げ場はないヨ。

 …………それでもネギ坊主の根底はお人好しだし、私が事前に怪しまれたりしてなければ成功するかもしれないネ。
 となると、これからは学園に睨まれないような行動をとて、むしろ学園に協力をして信用を勝ち取るべきネ。エヴァンジェリンの要望にあった茶々丸ボディの開発も行なて、点数稼ぎをしておくカ。
 このプランは一応進めておいた方がいいネ。






『ネギ坊主を味方につける』

 ………………NON.
 思想的には私の考えに賛同してくれる…………カナ? どうダロ?
 ていうか、素直にネギ坊主に私の事情を話して協力を求めたら、ネギ坊主特有のとんでもない考え方で私の案より良いものを出してくれそうなのは気のせいカ? だてネギ坊主だし。

 …………イヤ、思考放棄しちゃ駄目ヨ。
 学園長達みたく“だてネギ坊主だから”で終わらせちゃ駄目ヨ。科学に魂を売った狂科学者マッドサイエンティストとして、不確定なことに希望を託しちゃ駄目ヨ。

 でもネギ坊主と戦うよりも成功の可能性がありそうなのが怖いヨ…………。






『学園祭の時期だけ麻帆良から離れてもらう』

 NO…………アレ? これいいんじゃないのカ?
 日本国内ならすぐさま戻ってこられそうだけど、例えばウェールズの生まれ故郷なんかに何らかの理由で一時帰省してもら………………やはり駄目ネ。
 そういえばこの前、エヴァンジェリンの家に凄い大仰な転移陣を用意してたヨ。ヘタしたら地球の裏側からでも転移で帰て来れそうなヤツ。
 何か女子寮にもいろんな侵入者防止のトラップとか仕掛けてたし、ネギ坊主は女子寮をどうする気ネ?








 結論は、魔法先生にもネギ坊主に邪魔されず、学園祭後もネギ坊主と敵対しないで済む。そんな方法ルールヨ。


 …………それ何て無理ゲー?







 ………………ホントにあの子どうしよう?
 あの強さもイレギュラーだし、そもそも想像していたご先祖様の性格と思いきり違うヨ。

 そりゃネギ坊主の父親であるナギ・スプリングフィールドも“千の呪文の男サウザンドマスター”と呼ばれているガ、実際は魔法を10個も覚えてない人らしいネ。
 それと同じようにネギ坊主の強さや性格も間違って未来に伝わていたのかもしれないヨ。



 ネギ坊主に関してわかていることで、今のところ関係あるのは

 “6年前に住んでいた村を襲われ、メルディアナ魔法学校に入学すること”
 “3学期に2-Aに教師として赴任してくること”
 “京都にて“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”と接触すること”





 残念ながら、住んでいた村を襲われたという証拠は見つけることができなかたネ。ネギ坊主自体の情報が徹底的に隠蔽されているので仕方ないガ。
 しかし、ネギ坊主が通常より早く魔法学校に入学したところから、おそらく実際にあたことと考えていいネ。表向きは“才能溢れる少年が道を誤ることを防ぐため”とかなていたガ、そんなとてつけたような理由にされてもコチラが困るヨ。


 あとちゃんと2-Aに教師として来てくれてよかたネ。
 ネギ坊主は教え方がうまいおかげで古の成績が良くなてきたヨ。古に勉強を教えるのは私でも苦労したのだが、さすがは私のご先祖様ネ。


 気になるのは京都で“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”と接触したのは確かだけど、まさか“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”扱いとは思わなかたネ。
 しかもボコボコにして返り討ちにするし…………。



 何だか過去じゃなくて平行世界に来たって言われた方がシックリする感じヨ。本当にあのネギ坊主は魔法世界の崩壊を防げなかたのカ?
 むしろ防“げ”なかたじゃなくて、防“が”なかたじゃないかと思てしまうネ。“自分達のことは自分達でやれ”って感じで………………あのネギ坊主だったら有り得るヨ。


 しかしネギ坊主があんなに強いなんてのは本当に記録になかたヨ。魔法世界崩壊時の混乱で資料が失われたのかもしれないけどネ。他にもあのモビルスーツというのは記録になかたヨ。
 でも、神楽坂サンの『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』でモビルスーツを一撃で消されてからドンドン使用頻度が減たのデ、これからは使わなくなるのかもしれないネ。
 ネギ坊主はそこらのことがドライで、今までしてきた努力を簡単に捨てることが出来るタイプだからネ。そのせいで未来に伝わっていなかったかもしれないヨ。



 …………大まかにこの時代のことがわかているというのは、逆にあまり良くないことかもしれないネ。
 ご先祖様であるネギ坊主に直接会て話を聞いたわけでもないし、超家に残てた記録から判断するしかないのが辛いヨ。


 世界樹の発光が1年早まるが良い例ね。アレにはさすがに焦たヨ。
 記録を残したご先祖様は、こういうことも記録しておいて欲しかたネ。

 何とか田中さん達の配備も学園祭までには間に合いそうだが、出来ればもう一年準備期間が欲しかたヨ。
 学園祭まで2ヵ月半。それまでに田中さん達の配備を行うのはもちろん、ネギ坊主対策も考えなければいけないのが辛いヨ。





 本気でコレどうしたらいいネ?









「超さん、考えことですか?」

「ム? …………悪いネ。何の話をしてたかナ?」

「いえ、エヴァンジェリンさん家を出てから一言も喋らなかったので気になって…………。
 ネギ先生のことですか? それとも茶々丸の?」

「ま、ネギ坊主のことだがネ。
 …………でも考えてみれば茶々丸も、今日見た様子だとマズイんじゃないのカ? 完璧にネギ坊主に惚れているネ。まさか茶々丸が“恋”をするなんて思てもいなかたヨ」

「はあっ!? 茶々丸がネギ先生にですか!?
 そんな…………エヴァさんの人形みたく魔法使いが魂を吹き込んだ訳じゃないんですよ!? ああっ“魂を吹き込む”だなんて、何て非科学的な!
 それにしても“恋”とは!! それは喜怒哀楽の感情と性愛を含めた“心”、つまり“主観”の問いじゃないですか! これは科学史哲学上最大のナゾに踏み入れてしまったということになりますよ!?」



 …………ハカセのスイッチが入てしまたネ。
 でもこんなことはそもそもアルちゃんの“好感度ランキング”で、“恋愛”の点数が高かったことから予想は出来ていたことヨ。
 ネギ坊主は本当にイロイロとやてくれるネ。あれで無意識というか本能のままというのがおかしいヨ。

 とりあえずは『プレゼントする“航時機カシオペア”による時間跳躍にて、学園祭一週間後の未来に送る』方法でいくとするとしようカ。
 最初に使い方とかちゃんと説明して、精密機器だから分解とかしたりしないように言ておけば、素直なネギ坊主の性格なら案外うまくいくかもしれないヨ。
 ハカセや龍宮さんにも相談して、より良い策が見つかたらソレに切り替えるけどネ。












━━━━━ 神楽坂アスナ ━━━━━



「ただいま帰りましたー」

「ネギ君お帰り~」

「お帰りなさいませ、ネギ先生」


 …………朝帰りにならなくて良かったわ。
 エヴァちゃんを信じてはいるし、同盟で“抜け駆け無し”って決めといたけど、それでもエヴァちゃんは京都旅行のキスの件とかで前科があるから不安だったもの。

 一緒に寝るぐらいなら私達もしてるから何も言えないんだけど、エヴァちゃんはもっとアダルトなことするかもしれないのよねぇ。
 ま、せっかくネギが今日帰ってきたんだし、順番通りに私が抱き枕にして寝ましょうか。





「お帰り、ネギ。
 …………もしかして、エヴァちゃんに付き合ってお酒飲んだ?」

「あ、匂いますか? これからシャワー浴びて肝臓機能の強化もしておきますので、明日の新学期初日に残るなんてことはないですよ。
 アスナさん達はちゃんと明日の準備出来てますよね。といっても明日は始業式だけですが」

「大丈夫よ。ちゃんと春休みの宿題も終わったし、予習もバッチリ。
 もうクラスの誰にもバカレンジャーなんて言わせないんだから。ねえ、刹那さん?」

「はい、5月にある中間テストをお楽しみにお待ちください。
 それとネギ先生。ここは日本なんですから、子供がお酒を飲んじゃ駄目ですよ」

「はいはい、今度から気をつけます」


 …………全然応えてないわねぇ。
 ネギって基本的に生真面目なんだけど、それでもどこか不真面目なところがあるわ。


 最近……というより魔法を知った日から刹那さんがよく私達の部屋に来るようになった。木乃香がネギと一緒に寝る日なんかは、木乃香、ネギ、刹那さんの3人で川の字になって部屋に泊まってくし。
 事情を知らないときに木乃香に刹那さんのことを相談されたときはこんな風になるなんて思わなかったわねぇ。
 でも木乃香と刹那さんが昔みたいに戻れたのは良かったわ。私としてもバカレンジャー脱退のために一緒に勉強した仲で、剣の師匠になってくれている刹那さんと仲良くなれて嬉しい。

 今のところ、私は剣と咸卦法の制御に重点を置いて修行をしている。
 剣といっても、当然ながら神鳴流は教えてくれないけどね。今はまだ基礎の段階。剣を振ることにまず慣れなきゃ。他にも受け身とか身体の動かし方の基礎から始めている。
 記憶が戻ったおかげか、咸卦法は使えるから身体能力は充分だけど、それでもネギの『咸卦法』に比べたら制御が甘いし、今まで専門的に武術を習ってきたわけじゃないからね。
 でも修行すれば修行するだけ伸びていくのが実感出来るから、修行は苦にならないわ。


 あ、そうそう。
 新聞配達のバイトはもう辞めることにしたわ。今までお世話になったところだから、引き継ぎとかがちゃんと終わるまでは辞めないけど。
 ネギが関西呪術教会から貰ったお金で学費を払ってくれるって言ってたけど、そもそも私を麻帆良につれてきたのはタカミチなんだから、タカミチが払うってのがスジじゃない?

 …………ま、実際は新聞配達のアルバイトするよりも、ちゃんと修行をして身を守るようになるためだけどね。
 事情が事情だから学費とか諸々は免除になったし、生活費もちゃんと学園長が出してくれることになったしさ。

 ああ、これで将来についての希望が持てるわ。
 勉強も順調、修行も順調、それにそもそも私はネギのお嫁さんになるんだし。







「シャワー浴びるんだ。
 じゃあ私も一緒に浴び「駄目です」…………ネギのケチ」


 …………手強いわねぇ。無理とはわかっていたけどさ。
 私達が告白してからネギとの距離はますます近くなったと思うけど、それでもこういうところはキッチリしてるのよねぇ。スキンシップはOKだけど、一緒のお風呂とかキスはNG。水着着てのお風呂ならOKだけど。
 一緒の布団で寝てるからお風呂もいいかなぁ? なんて思ったけど、ネギの中では駄目みたい。キスも結局『仮契約パクティオー』のときだけで、普段からしたりはしないし。
 エヴァちゃんがネギの判断基準がよくわからないって言ってたけど、私も正直よくわからないのよね。


 ま、いいわ。私と木乃香はネギと一緒に暮らしている分、本屋ちゃん達に比べたらネギとスキンシップが格段にとれるもんね。
 というか、本屋ちゃん達は可哀想だわ。よりにもよってパルと同じ部屋だから、魔法バレのバツゲームのこと考えたら迂闊なことは絶対出来ないもの…………。

 アルちゃんにお願いして、ネギが私達のことをどう思っているのか“好感度ランキング”を見たい気もするけど、皆との約束でそれはナシということにもしたしね。
 時間はたっぷりあるんだし、ゆっくりとネギとの仲を深めていくことにしましょうか。



 それにしてもネギったら、ナギやアリカのことは本当にいいのかしら?
 私も2人の行方を知っているわけじゃないから、聞かれても逆に困るんだけどさ。

 私のことを話してもネギは全然気にしなかった…………というか、

「ああ、やっぱりそうなんですか」

 で終わった。ちなみにナギのことも「ふーん」で終わったし、アリカのことも「へぇ~」で終わった。
 私のことは『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』と“アスナ”という名前のせいで、前々から予想はしていたみたい。アリカのことも他に母親候補がいなくて、十中八九そうだろうと予想していたみたい。
 勘が鋭いというか何というか…………。

 それどころか「せめて名前も変えろよ、タカミチ」とか「幻術使って姿を常時変えさせとけばいいのに」って感じでタカミチに駄目出ししてたわ。



 それにしてもまさかネギも『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』持っているなんて…………。
 『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』調べてる過程で“アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア”のことを知ったらしいわね。
 ま、別にいいけど。私のことを話し終わったら、ネギは「アスナさんのことは僕が守ります」って言ってくれたもん。


 でもやっぱりこれって運命じゃない?
 何しろ私とネギは『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を持っている。この能力は魔法世界の人達や“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”にとても重要なものだから、私達2人は彼らにずっと狙われることになる。そう、ずっと●●●ね。
 それなのにネギが私のことを守ってくれるということは、これからずっと一緒にいてくれるということじゃない。

 もうネギったら、10歳の癖にプロポーズなんて早いじゃない。


 ム、シャワーの音が止まったわ。
 ネギが出てくるわね。だったらドライヤーで髪を乾かしてあげて、乾かし終わったら終わったらネギと一緒に寝ましょうか。
 明日から新学期だから、早めに寝ないといけないもんね。





━━━━━ 後書き ━━━━━

 

 前話で茶々丸関連終わりと思った人、手挙げて。

 …………そんなわけないじゃないですか。この話を書いているのは嘴広鴻ですよ。ハッハッハ。
 ま、学園祭で茶々丸が『咸卦治癒マイティガード』供給のために裏切るなんてことはないので、その辺はご安心ください。


 次の話は時間が跳びます。ヘルマンが来るころですね。 

 超は詳しい過去のことを知らなかった、ということでお願いします。
 原作でも世界樹発光の時期を間違っていたりとかイロイロと不備があるようなので、ネギの性格と強さが大きく違っていても受け入れるしかない、という感じでしょうか。
 まあ、ネギの中身が違うから、超の冗談通りに平行世界ということは間違っていないんですがねw



[32356] 第51話 レイニーデビル① 侵入
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:23



━━━━━ 犬上小太郎 ━━━━━



 …………やっと今日の勉強のノルマが終わった。

 あのネギ達との事件からもう2ヶ月ぐらい経つ。
 それからというもの座敷牢での勉強地獄に落ちている。ネギが余計なことを言ったせいで…………。

 駄目だ。もう疲れた。顔洗って歯磨いてさっさと寝『犬上小太郎君』…………? あれ、今フェイトっぽい声が? 





『ここだよ、犬上小太郎君』





 あ? 洗面器に張った水にフェイトの顔が映っている?

 水を媒介にした通信魔法か。
 …………でも何か変だな。水に映ったフェイトの顔が以前と違って線が細い感じがするし、フェイトの声も少し高いような感じがする。
 まあ、水もゆれてるし、通信魔法に不具合でもあるのかしれないな。…………いや、今はそんなことはどうでもいい。















「やあ、久しぶりだな、フェイト。
 何でもネギに両腕とアバラを数本折られたということだったけど大丈夫かい?」

『…………誰だよキミは?』









 ハハハハハ、何を言っているんだフェイト。どこからどう見ても俺は犬上小太郎じゃないか。
 そもそも君の方から連絡してきたんだろうに。





『それはそうだけど…………明らかに性格違っているだろう』

「ニンゲン変われば変わるもんさ。
 それよりどうしたんだ? 俺に何か用か?」

『洗脳でもされたのか…………?
 まあいい。君に頼みがあってね。君だっていつまでも座敷牢にいるのはゴメンだろう。脱走を手伝うから仕事を手伝って欲しいんだ』





 そりゃあなぁ…………。
 ようやく偏差値が50近くになったところだから、このままのペースでいくとネギが言った偏差値60以上までは1年以上はかかる気がする。
 1年以上この勉強地獄にいるぐらいなら、多少の危険は覚悟して脱走した方が良いかもしれないなぁ…………。



 うん、そうしよう。














『ちょっと麻帆良まで行ってきて欲しいんだよ』

「待てやコラ! お前は俺に死ねっちゅーんかっ!?
 麻帆良ったらアレやろ!? ネギがおるところやないかいっ!?」



 あ、やべ。話し方戻っちまった。
 苦労して標準語に直させられたっちゅーのに、話し方っちゅーもんはなかなか直らんもんやな。

 って、そんなことはどーでもええ! 何が悲しゅうてまたネギと戦わなあかんのや!
 アレやぞ。俺はネギとの一件で怪我も無いはずなのに一週間寝込んだんやぞ。フェイトだって両腕とアバラを折られたみたいやのに、何でそんな自殺志願みたいなことするんや!?


『いや、別に小太郎君はネギ君と戦わなくてもいいんだよ。それは他がやる。
 頼みたいのは麻帆良の調査なんだけどね。君は鼻も利くし、隠密行動も出来るだろうから向いているんじゃないかと思うんだけど…………』

「…………でもアレやん。麻帆良ったらネギの庭みたいなもん何やろ?
 進入した途端にネギが湧いて出てきても俺は驚かんで。アイツ転移魔法も得意らしいからな」

『…………君もやっぱりそう思うのか?
 僕も動けるようになったし、ネギ君が脅威になることがわかったから、麻帆良とネギ君のことについて詳しく調査しようと思っているんだよ。京都でヘマしたからグチグチ言われてるし』

「やめとけやめとけ。ネギとやり合って五体満足の精神的に無事だった俺らは儲けモンやで。千草姉ちゃんなんか魔法や術見るとトラウマ蘇るらしくて、術者としては完璧に再起不能になったらしいんやから。
 …………あ、そういえば月詠はどうしたんや? 無事か?」

『…………千草さんも可哀想にね。
 月詠さんは無事だよ。何だか今は視力回復トレーニングというものをやってるね。ネギ君に眼鏡を壊されたのが結構応えたらしい。
 コンタクトにすればいいじゃないかとも言ったんだが、どうやら目に物をを入れることなんか怖くて出来ないみたいだね』

「そうか。無事ならええんや」


 月詠も可哀想になぁ。
 アレはさすがに酷かった。まさか眼鏡取り上げて戦えなくするなんて、ネギはホンマに外道やで。

 …………でも斬り合いは平気でコンタクトが怖いってズレとらんか?







『仕方がない。諦めるよ。麻帆良のことは僕で何とかする。
 それじゃあ小太郎君。もう会うことがないかもしれないけど元気でね』

「えっ!? ちょい待てやっ!
 いくらお前でもネギは絶対に手ぇ出したらアカンぞ…………って、切りやがった」


 おいおいおいおい。マジか? フェイトのヤツ、自殺志願の気でもあるんか?
 って、こうしちゃおられん。俺も麻帆良に行かんと…………。


 いくら何でもフェイトを見殺しになんか出来るかい! 何とかしてフェイトを止めて、ネギから逃げ出さんとアカンな。
 座敷牢の中でも訓練を欠かさずに行なっておいて良かったわ。

 …………まあ、あまり本格的な訓練は出来んかったし、出来てたとしてもネギに勝てるわけないと思うけどな。
 でも、フェイトと力を合わせれば、ネギ相手でも逃げることなら多分出来る! ………………はずだと思う。


 あー…………やっぱ行くの止めようかな? 前のときは助かったけど、次ネギにチョッカイかけたら容赦ナシで殺されそうな予感が…………。
 ええいっ! そんなこと女々しいこと言ってられるかい! 後のことは後で考える! 少なくともフェイトを見殺しになんか出来ないのは確定なんやから!!!












━━━━━ 宮崎のどか ━━━━━



「はーい、怪我治すえ~」

「よろしくお願いします、木乃香お嬢様」

「今日もハードでござったな…………」

「早くシャワー浴びたいわね」

「夕映~、本屋~。私にも回復魔法お願いアル」





 はいはい、今かけるよ、くーふぇ。

 京都旅行から帰ってきてからの本格的な修行を始めてもう2ヶ月になった。まだまだ未熟だし、私にはあまり魔法の才能がないらしく、魔法の修行は順調とは言い難い。
 むしろネギ先生せんせーとの『仮契約パクティオー』で手に入れた私のアーティファクトを使いこなすことを、そして私一人で戦うんじゃなくて皆と一緒に戦うことを前提とした修行を重点的に行なっている。
 ネギ先生せんせーからもバランスは悪くないと言ってもらえたし、皆でなら高畑先生にも負けないと太鼓判を貰えちゃった。

 …………7対1なんだし、元々刹那さんだけでもかなり良いところまで食い込めるらしいんだけどね。




 私達のパーティーは全員で7人。アスナさん、木乃香さん、刹那さん、楓さん、くーふぇ、ユエ、それに私。ネギ先生せんせーは実力に差がありすぎるので別扱い。
 その7人で更に前衛、遊撃、後衛の3つに分かれている。


 前衛はアスナさんとくーふぇ。
 くーふぇは中国拳法とアーティファクト“神珍鉄自在棍”を使って、アスナさんは『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』と『咸卦法』で相手を攻撃して、そして私達後衛を守ってくれる。
 特にアスナさんの『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』は凄いよねぇ。壁役のいない後衛と前衛の一対一ということもあるけど、ユエだったらアスナさんに絶対勝てないもん。

 遊撃は刹那さんと楓さん。
 2人は足も速いし、接近戦の方が得意とはいえ、遠近両方に対応出来るオールラウンダー。状況に応じて私達の護衛や相手への攻撃をしてくれる。この2人は元々強かったし、ネギ先生との修行で更に強くなれたみたい。
 特に刹那さんはネギ先生せんせーから教わった『弐の太刀』で障壁をすり抜けて攻撃出来るし、刹那さんが皆の中じゃ一番強いんじゃないかな?

 後衛は木乃香さんとユエと私の3人。
 木乃香さんは回復魔法重視の後衛魔法使いだけど、それでも私よりも攻撃魔法は得意。
 ユエは攻撃・回復・サポート魔法をバランス良く使える。そして何かあったらユエのアーティファクト“世界図絵オルビス・センスアリウム・ピクトゥス”で情報収集に務めてくれる。
 ユエのアーティファクトは凄い。敵がしてきたことをリアルタイムで検索して、その全容から対応策までもわかるんだもの。まるで教科書見ながらテストを受けるみたいだよね。

 そして私はこう言ってはなんだけど…………皆の司令塔。
 アーティファクト“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”と、ネギ先生がプレゼントしてくれた魔法具“鬼神の童謡コンプティーナ・ダエモニア”と“読み上げ耳アウリス・レキタンス”で相手の名前を暴いて考えを読み、それを皆に伝える。
 魔法の方は身体強化と念話、それと念話妨害があったときのためにネギ先生が風魔法をアレンジして作った声量強化を特に重点的に修行している。あと回復魔法も少しは出来るよ。
 あと翻訳魔法。コレが一番大事。


 私達の基本的な戦い方は、まず私が相手の思考やら攻撃方法を読んで、ユエがその対応策を“世界図絵オルビス・センスアリウム・ピクトゥス”で検索。その間は前衛が私達を守って、遊撃が牽制と逃走防止のために攻撃。
 そして対応策が出来たら、それを皆で実行してフルボッコ………………なんだけど、この戦い方を考えたのはネギ先生せんせーだよっ! 私じゃないよっ!

 …………模擬戦で戦った魔法先生に「エグイ」って言われちゃった。
 一度嵌ったらもうワンサイドゲームになるんだよねぇ、この戦い方…………。





 それでもネギ先生せんせーには勝てないんだよね。しかもネギ先生せんせーは魔法禁止・咸卦法禁止の条件でも…………。

 もちろん『闇の咸卦法』は使えないし、魔力か気での身体強化のみなのに、私達7人を合わせたより強いの。
 さすがネギ先生せんせーだと思うけど、刹那さんやくーふぇ達は悔しいみたい。


 …………ネギ先生せんせーって、私のアーティファクトが効かないんだよね。
 “読み上げ耳アウリス・レキタンス”で考えていることを聞こうとしても、思考速度が速すぎて何考えているのかわからない。早回しのテープを聴いているみたいで私が把握出来ない。
 それに“考えていること”と“実際の行動”を別々にも出来るみたい。“右に避ける”と考えながら、実際には“左に避ける”みたいなことも出来るし、それで逆に罠にかけられてしまうこともあった。


 極めつけは、ネギ先生せんせーは一度に何個も別々なことを考えることが出来る、つまり並列思考が出来るということ。

「頭の中に仕切りを作って、それぞれの中で別々に考えればいいんですよ。
 暇つぶしにチェスなんか自分1人で出来るから面白いですよ」

 と言ってたけど、そんなこと簡単に出来るのはネギ先生せんせーぐらいだと思います。

 そしてその中でも特に問題なのは、並列思考それぞれに名前があるということ。要するに“ネギ①”、“ネギ②”、“ネギ③”…………って感じで。
 考えを読むにはその並列思考の名前をまず見破らなきゃいけないんだけど名前は日替わりで、最悪の場合は戦闘中に変わっちゃうんだよね。“ネギ①”→“ネギA”みたいに。
 そしたら考えが読めなくなって、また名前を見破るところから始めないといけなくなる。

 私のアーティファクトでは、本人が間違って覚えてることや思い込んでることを相手にすると弱い。それと相手と言葉が通じなかったりしても駄目。
 ネギ先生せんせーが自分に暗示をかけて日本語を一時的に理解出来ないようにしたことがあったけど、そしたら私の質問の意味がわからなくなったから質問してもその質問の答えを考えてくれなくなっちゃった。
 それと同じで暗示を使えば“ネギ①”→“ネギA”みたいに、自分の名前を変えることも簡単に出来るみたい………………ネギ先生に限っての話だろうけど。

 マスターピースと称されるぐらい強力な私の“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”だけど、やっぱり弱点はあるみたいだね。









 あと戦闘中にホラー小説を頭の中で朗読するのはやめてください。他にもパニック小説とかスリラー小説とかもやめてください。
 地味にあれは辛いんです。





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「お疲れ様でした、皆さん。
 いつも通り茶々丸さんが軽食を用意してくれましたので一緒に食べましょう。紅茶でいいですよね?」





 あんなに辛い修行だったけどネギ先生せんせーはまだまだ平気みたい。
 むしろ私達が休んでいるときでも一人で修行していることがあるみたいだし、今の私達ではネギ先生せんせーの足を引っ張ることしか出来ていない。
 ネギ先生せんせーはそんなこと全然気にしてないみたいだけど、私達としてはもっとネギ先生せんせーのお役に立ちたいです。

 それに私達が本格的に魔法に関わることになってから、ネギ先生せんせーの事情も更に詳しく話してくれた。ネギ先生せんせーのお父さんの“千の呪文の男サウザンドマスター”のこととかいろいろ。
 ネギ先生せんせーはそのことで私達が危険なことに巻き込まれないか心配して、嫌になったらいつでも辞めてくれていいって言われたけど、私はそんなつもりありません。


 確かに魔法に関わっていると危ないことがあるかもしれないということは、この修行をしていて良くわかった。
 ネギ先生せんせーが召喚した鬼さん達と戦ったり、ネギ先生せんせーが自分の腕を切り落としてそれを使って回復魔法の練習をしたり、ネギ先生せんせーの幻術でゴキブリの集団に襲われたりとか、いろいろあったから。

 …………本当に辛かったです。



 何で西洋魔術師のはずのネギ先生せんせーが東洋の鬼を召喚出来るんだろ?
 京都旅行の際に関西呪術協会の術者が使ってたのを見て、それから自己流で練習していたらしいけど、刹那さんとかはもうイロイロと諦めちゃってた。
 ネギ先生せんせーの豊富な魔力量で呼び出される鬼さん達相手に戦うのは大変です。そのおかげで個人戦から集団戦まで練習することが出来たのは良かったけど…………。

 あと回復魔法の練習にネギ先生せんせーが自分の腕を切り落とすのはやめてください。最初見たとき気絶しちゃいました。
 酷い怪我を見てもパニックにならないようにする訓練も兼ねているから仕方がないんだけどね。自分の指を傷付けるなりしてやればいいと思ったけど、気絶しちゃった私や木乃香さんには確かに必要なことだった。
 おかげで今なら多少の怪我や血を見ても平気で回復魔法をかけられるようになった………………でもホラー小説とかはまだ苦手なんだけどね。

 ゴキブリに集られる幻術は本当に怖かった。…………イヤ、それよりも大人数の学園長がわらわらと湧いて襲ってくる幻術の方が怖かったな。
 幻術だからアスナさんの『無極而太極斬トメー・アルケース・カイ・アナルキアース』で消せるんだけど、それでも消しても消しても全方位から沸いて出てきて襲ってくる学園長。
 当然アスナさんだけじゃ間に合わず、私達も身を守るのに必死になった。おかげで戦いが終わった頃には全員ヘトヘトになったけど、それでも魔法の怖さが更によくわかった修行だった。


 絶対に魔法を私欲のために使ったりしません。ですからあんな修行はもうやめてください。本当にお願いします。特に最後の。
 他の魔法生徒のグッドマンさん達とも話す機会が何度もあったけど、修行の内容を話したら本気で同情されちゃった。
 でもいいんだもん! ネギ先生せんせーが私達のことを思ってあんなに厳しい修行をしてくれるんだから、私達はネギ先生せんせーの期待に応えるだけだよ!





 それに学園長達には

「お願いっ! 君達がネギ君のストッパーになってくれいっ!」

 って泣きながら頼まれちゃってるしね。
 …………最近、学園長の少ない髪の毛が更に少なくなってきた気がする。高畑先生のタバコの本数も増えてるみたいだし。









「あら? 気づかなかったけど、いつの間にか雨が降ってたみたいね」

「あ、本当や。ネギ君の結界で雨を通さんからわからんかったわ」

「ああ、さっき寮に戻って皆さんの分の傘を持ってきたので大丈夫ですよ。
 一休みしたら寮に戻りましょうか」


 ちなみに最近の修行はエヴァさんの別荘じゃなくて、屋外のネギ先生せんせーが張った結界内で行なっている。
 魔法の感覚を掴むまでは魔力に満ちているエヴァさんの別荘内での修行の方が良かったけど、実際に何かあるとしたら別荘じゃなくてこういう外なので、あまり魔力の満ちている別荘に慣れすぎないためみたい。

 それに別荘は便利だけど、他の人より早く年をとっちゃうからね。だから別荘を使うのは周りに影響を及ぼすような激しい修行をするときぐらいになった。
 皆の成績が上がったので別荘での勉強会も頻度が少なくなって、今では放課後の教室や寮での勉強会に変わってきたし。
 確かに他のクラスの皆や魔法生徒は別荘を使えるわけじゃないから、私達だけ別荘を使ってたら不公平だもんね。


「それにしても皆さん上達してきましたね。
 そろそろ僕も『闇の魔法マギア・エレベア』ぐらい使って相手しようかなぁ…………」

「ゴメン、本気でヤメテ」

「ネギ先生。さすがに私達ではそれはまだ無理です。以前ので懲りました。
 エヴァンジェリンさんがいるならともかく、せめてあと龍宮と茶々丸さんがいないと…………」

「エヴァちゃん相手でも無理なのに、ネギ君相手なんて無理やよ」


 そうそう、エヴァさんの『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』の呪いは正常化することが出来ました。
 ちゃんと学校に通ってさえいれば魔力が封印されることもなくなったし、放課後でも好きに外に遊びに行けます。この前は皆で原宿に遊びに行きました。途中で釘宮さん達にバッタリ会ったけどね。
 おかげでエヴァさんも全力を出せるようにはなった…………んだけど、それでもやっぱりネギ先生せんせーの方がエヴァさんより強いみたい。





「…………ん?」

「どうしました、ネギ先生?」

「いえ、どうやらネズミが入り込もうと企んでいるようです」



 …………ネズミ?
 この結界内に…………じゃないですよね。もしかして麻帆良に“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”が?












━━━━━ ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン ━━━━━



 ここが麻帆良……か。
 本当にこの呪符でちゃんと気づかれずに入り込めるのかね?

 この呪符のおかげでこの大結界の中でも、私達が十全に力が発揮出来るというのありがたいことだが…………。
 やれやれ、助っ人は来ないことになったみたいだし、それでは私とあめ子達で何とかするとしようじゃないか。





「ヘルマンのおっさん。まずは何から始めるんダ?」

「フム、クライアントの依頼は“学園の調査”と“ネギ・スプリングフィールドが今後どの程度の脅威となるかの調査”なのだがね、先に“学園の調査”を終わらせるように言われている。
 そしてその報告をしてからネギ君とやらの調査をしろとのことだ。まあ、ネギ君の調査は戦闘も含まれているから、もしかしたら私が情報を持ち帰れないかもしれないということを考えているのだろうよ」

「そうデスカー。確か生死問わずでいいんデスヨネ?」

「うむ、むしろ殺せるなら殺してもいいとすら言われているよ。
 しかし依頼内容からすると、そう簡単にはいかないのだろうな」

「相手は10歳の子供なんデスガ…………」


 クライアントの目は本気だったんだよ、ぷりん。
 要するに“お前じゃ勝てないから最低でも情報だけは送れ。殺せるもんなら殺してもいいけど”と言われているようなものだからな。


 やれやれ、妙な依頼なことだ。
 それにしても“ネギ・スプリングフィール”か…………。あの“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子ということだから、これは期待出来るだろうね。

 さて、それでは学園の調査を始めるとするか。
 まずは世界樹の魔力溜まりでも調査してみるとするかね。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 生贄…………じゃなかった、悪魔が襲来しました。
 小太郎も再登場ですが、正直言って原作より出番はないです。


 ネギパーティーの強さは、刹那がネギと早いうちから修行を積んでいた分、原作より若干強くなっています。『弐の太刀』も使えますし。
 他の子は原作の魔法世界編の始め、エヴァの修行が終わったぐらいの強さです。

 まぁ、その前にネギが敵を蹴散らしたほうが早いぐらいの強さですがね。


 そして“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”対策はこのようにしました。
 知られて不味いものはネギ本体が考える別のところで圧縮・格納しています。パソコンのハードディスクをパーテンション分けして、ドライブ数を増やしてると思っていただければ良いです。
 必要になった場合はダウンロード・解凍すればOKです。

 ま、元々のどかが勝手に人の考えを読むようなことはしないと信頼してますので大丈夫ですがね。
 ちなみに隠しドライブ名は“くぁwせdrftgyふじこlp”です。

 …………誰もわからんっちゅーねん。
 というか「“くぁwせdrftgyふじこlp”さん、あなたの考えを教えてください!」なんて発音出来ないっちゅーねん。

 そして「『我 汝の真名を問うアナタノオナマエナンデスカ』」と“鬼神の童謡コンプティーナ・ダエモニア”を使われても、ドライブ数が常時100個以上…………そのうち9割以上は名前だけのダミードライブがあるので平気です。
 “鬼神の童謡コンプティーナ・ダエモニア”は「『我 汝の真名を問うアナタノオナマエナンデスカ』」と聞いた後、“鬼神の童謡コンプティーナ・ダエモニア”をつけた指で相手の真名を中空に書くという動作をしないといけないようですので、100個の名前を書いているうちにドライブ名を新たに書き換えます。



[32356] 第52話 レイニーデビル② 迎撃…いや、出撃
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:06



━━━━━ 近衛詠春 ━━━━━



『小太郎君が脱走…………ですか?』

「…………え、ええ。申しわけありません。今朝、座敷牢を覗いたらいなくなっていたそうです。おそらく昨日の夜のうちに脱走したのだと思います。
 付近一帯を捜索しましたが見つからず、もう遠くに逃げてしまったかと…………」


 …………すっごく言いづらい。
 明らかな関西呪術協会コチラのミスで、おそらくネギ君に恨みを持っているであろう者の脱走を許してしまったのですから。
 最近の犬上小太郎君は大変大人しくなっていて、勉強も真面目にやっていたということですので見張りの者も油断していました。





『…………小太郎君は僕のことについて普段から何か言ってましたか?』

「最初は…………そうですね。特に勉強することになった理由がネギ君だったので、そのことについてはよく愚痴を言ってました。
 しかし最近は勉強で手一杯になってあまり喋らなくなっていたらしく、そろそろカウンセラーに相談しようかという話が出ていたぐらいでしたので…………」


 小太郎君の勉強はわざわざネギ君が管理してくれていました。
 関西呪術協会は麻帆良みたく教師が在籍しているなんてことはさすがにないですのでね。中学生レベルの勉強なら教えることは出来なくもないですが、それでも専門の教師に任せた方がいいですから。
 その甲斐もあって、小太郎君は順調に成績を伸ばしていきました。とはいえ元々が酷かったので、ようやく平均ぐらいですがね。

 …………まあ、その専門の教師が10歳というところには目をつぶっておくとしましょう。
 私達がしていたのは週一でネギ君から送られてくる大量のプリントを小太郎君に渡し、ちゃんとやっているか見張り、わからないところがあったら答え、そのわからないところをネギ君に報告する、ぐらいでした。


 しかし順調に成績を伸ばしていったのはいいのですが、どうやら時が経つにつれてどんどん送られてくるプリントが多くなっていったそうです。小太郎君がかなり頑張れば終わるぐらいの。
 でも“ちょっと”でもなく“すごく”でもなく“かなり”頑張ればなので、小太郎君はどんどん憔悴していったらしいのです。

 微妙ですよね、“かなり”って。
 多いんだけど多すぎでもないというか…………“すごく”だったらもうとっくに倒れていて、“ちょっと”だったら今でも楽に勉強していたんでしょうに…………。





「それとなんですが、洗面器に残っていた水から妙な魔力の痕跡があったそうです。
 水を媒介にした通信魔法か何かをしていた可能性があります」

『水を媒介にした…………ですか、フェイトを思い出しますね。彼は水を媒介にした転移魔法を使っていましたから。
 わかりました。こちらでも気をつけておきます。木乃香さんのことは僕が守りますので、どうか安心してください。』

「…………木乃香のことをよろしくお願いします。
 ネギ君に御迷惑をかけて申しわけありません。木乃香がワガママを言っておりませんか?」

『いえいえ、とんでもない。普段お世話になっているのは僕の方ですので、木乃香さんのワガママは大歓迎ですよ』


 それならいいんですがね。
 あの事件以来、木乃香とは以前よりも頻繁に連絡をとるようになりました。連絡手段は電話だったり手紙だったりしますが、立場のことを考えてあまり連絡のとれなかったときに比べたら、木乃香との距離はずいぶんと近くなったと思います。
 これもネギ君のおかげですね。

 ネギ君なら木乃香を任せられるでしょう。
 例え将来、関西呪術協会と関東魔法協会が争うようなことがあったとしてもネギ君なら木乃香を守ってくれるでしょうし、もしかしたらそのときにはネギ君と一緒にウェールズに永住してるかもしれませんしね。
 そもそもネギ君なら東西両方を一度に相手取っても負けなさそうなのが怖いです。


 …………本当はまだ木乃香には恋愛は早いと思いますが、今まで木乃香の面倒を見てあげることの出来なかった私が口を出せることじゃありません。
 まあ、ネギ君はナギと違って真面目な良い子ですし、関東と関西の確執のことを考えなくてもネギ君なら問題ありませんね。

 











『小太郎君かぁ…………。
 女子寮の警備に番犬でも飼おうかなと思ってたから丁度良いかな?』



 …………それって比喩的な表現なんでしょうか? それとも直接的な表現なんでしょうか?
 確か小太郎君は狗族のハーフでしたよね?

 こういうところは不安なんだよなぁ…………。












━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━



「…………というわけですので、しばらくの間は皆さんと一緒にいてください。ちびちうさん」

「ふーん、侵入者……ねぇ。それは確かなのか?」



 …………侵入者か。

 京都の一件以来、今までは特に何もなかったけど、ついに“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”が動き出したってことなのかね?
 やれやれ、せっかくの放課後だってのに変なことになっちまったな。撮影に良い感じにノッてたって言うのにめんどくさい。
 そりゃあ身の安全に変えられるわけないけどさ。

 …………私も変わったもんだよなぁ。
 いつの間にかネギ先生に敬語使わなくなってきたし、以前までなら侵入者とか言われたら焦ってたんだろうけど、今では別に「ふーん」で終わらせてるし。
 こいつらの修行とかたまに見てたらそうなっちゃったんだよなぁ…………っていうか本気で死にたいのか、その侵入者とやらは?





「ええ。“学園結界”内部に異物が数体、そこそこ大きいのが1つ、小さいのが3つばかりの計4つが入り込んだのを確認しています。
 どうやって“学園結界”をすり抜けたのかまでは不明ですが、僕が“学園結界”に重ねて張った探知結界には気づかなかったようです。
 まあ、“学園結界”が別系統で二重になっているなんて思いもしなかったんでしょうけどね。学園長にすら黙って張っておいた甲斐があったというものです。
 侵入者については学園長には報告済ですが、あいにくタカミチがいない上に中々の実力者らしいので迎撃はまだ見合わせています。
 一般人が巻き込まれないように手配してますので、それが終わり次第に…………幸い今日は雨で元々外に出てる人が少ないですからね。人気の少ないところに入り込んだら僕が潰します」

「ん? ネギ先生の担当はこの女子寮の警備なんだろ? それなのにネギ先生が出るのか?
 ネギ先生の強さだったら問題ないんだろうけど、もしかして侵入者ってネギ先生が出ないといけないぐらい強いのか?
 というか探知結界張ったの秘密にしてたのに侵入者のこと報告して良かったのか?」

「いえ、魔法先生数人がかりなら問題ないでしょうね。僕や封印を解いたエヴァさん1人で楽勝。今の皆さん+龍宮さん+茶々丸さんなら余裕。龍宮さんと茶々丸さん抜きでも問題なく勝てる程度です。
 問題なのは、その侵入者が少数で秘密裏に侵入しているということです。この場合だと侵入者の目的は“戦闘”や“破壊”ではなく、おそらく“調査”や“陽動”、あとは“誘拐”などだと思われます。もちろん威力偵察や鉄砲玉の可能性はありますがね。
 しかし動きからすると、おそらく侵入者の目的は麻帆良についての“調査”でしょう。さっきから世界樹の魔力吹き溜まりなどの重要地点に移動してますから。
 先ほど探知結界に念話妨害機能を加えましたので、麻帆良の情報が流出しているということは今のところないです。だから情報の流出を避けるためにも、僕が出て速攻で潰した方が良いと学園長に提言しました。
 それと魔法先生方には他に侵入者がいないかを手分けして調べてもらう予定です。アスナさん達に女子寮の警備を任せても大丈夫なぐらい強くなってますし、ちびちうさんは念のためにここで待っていてくれればいいです。
 あと学園長に侵入者の報告をしたときは「まあ、ネギ君じゃしなぁ……」で終わりましたよ。…………何ででしょうね?」


 慎重というか臆病というか大袈裟というか…………ネギ先生らしい発想だな。
 “戦力の逐次投入は厳禁”とかアスナ達の修行でよく言っているし、やっぱり魔法使いっていうより“魔法を使える軍人や警察官”って感じなんだよな、ネギ先生は。
 本人が言うには“夏休みの宿題は夏休み開始3日で全て終わらせるタイプ”ってことらしいけど、私にはよくわからん。

 あと学園長ってネギ先生のこと本気で諦めてないか?





「了解。そういうことならさっさと終わらせてくれ。
 それと…………木乃香を何とかしろ。正直言ってうざってぇ」

「自分で言ってくださいな。
 それに万が一抱えて逃げるようなことがあったら、今の子供の姿の方が楽なんですけどね」

「え~、ええやん。千雨ちゃんかわえーんやし」

「この頃の千雨ちゃんは今と違って目つきが可愛いわね~」

「フム。…………おい、千雨。今度はコッチの服を着てみないか?」


 …………ああ、そうだよ。少し前にコスプレ趣味がバレたんだよ。よりにもよってネギ先生が私のHPを見て、その後に履歴を消さなかったことからバレちまったんだよ。
 くそっ、やっぱり変なところで抜けてやがる、このガキ。

 …………いや、コスプレ趣味がバレても別に変な目で見られることはなかったし、こんな風にむしろチヤホヤされるのは悪くねーんだが…………何つーか、うざったい。
 楓以外は年齢詐称薬を使うときは大人になる奴らばっかりなんで、今の私みたいに子供の姿になってるのが珍しいんだろうな。こういう風に子供扱いされて可愛がられることが多くなった。
 今の私は木乃香の膝の上にいる。頭撫でてきたり抱きしめてくるのがうざったい。


 そしてエヴァンジェリンが差し出してきたのは、リボンやフリルをふんだんに使った白ゴスロリか…………。
 エヴァンジェリンとは服の趣味が少し違うけど、それでも服について話し合ったり、エヴァンジェリンをコスプレデビューさせてやろうとしたら学園長に泣いて止められるぐらいに仲良くなった。
 やっぱり600年を生きた人形師ってのは伊達じゃねーな。服について興味深い意見を聞くことが出来たぜ。





「しかし、ネギ先生が1人で出て本当に大丈夫なのですか?
 もちろん皆の中でも…………いえ、この麻帆良の中でもネギ先生が一番強いのでしょうし、木乃香お嬢様や皆さんはもちろん、女子寮も私達が絶対守り抜きますが…………」

「うーん、普通なら他の魔法先生にお任せしますけどね。
 さっきも話したように関西呪術協会から小太郎君が脱走したらしいんです。これはいくら何でもタイミングが良すぎます。となると狙いはほぼ僕関連でしょう。
 それなら他の魔法先生を巻き込むのは避けたいですし、僕が出てさっさと終わらせた方が早いですし、新しく開発した技も試してみたいですし、そもそも最近は実戦してないから丁度いいかなぁ、と思いまして。…………甘く見るつもりはありませんけどね。
 ま、侵入する方が悪いので問題ないでしょう」





 逃げろ、侵入者。今すぐ逃げろ。





「…………冗談はともかく、倒すだけなら他の魔法先生達で全然問題ないんですよ。しかし、逃げられて情報の流出を避けるためならそうですね。例えば

 “気配を遮断して出来るだけ接近して”
 “封鎖結界で逃げられないようにして”
 “念話妨害で連絡とられないようにして”
 “余計なことをされないように速攻で倒す”

 などのイロイロなことが必要です。他の魔法先生方…………龍宮さんもそうですが、そのうちのいくつかは出来る人はいますけど、さすがにそれら全部を出来る人はいないですね。
 かといって大勢だと察知されてしまい、戦闘になる前に逃げられるかもしれないですので駄目です。超遠距離から極大魔法での攻撃出来たら楽に殲滅出来ますけど、それだと麻帆良が壊れちゃいますし。
 それに僕は女子寮の警備を任されていますけど、そもそも女子寮を攻撃された時点で負けだと思うので、こういう場合は積極的自衛権を行使させてもらいます」

「…………倒すだけじゃ駄目というわけですか」

「確かにな。その話でなら私が出来るのはせいぜい気配遮断ぐらいで、結界や念話妨害などは呪符を使わんと駄目だろう。それだとあまり強力なものは出来ないだろうな。
 狙撃で仕留められるのならそれでもいいが、敵が4人いるのなら逃げられる可能性はある」

「そういうことです。敵の目的が情報収集なら、例え自分が死んだとしても情報を盗み出せればそれで彼らの勝ちです。僕達と敵では勝利条件が違うことがあるかもしれないというのは、常に頭の中に入れておいたほうが良いと思いますよ。
 さて、それでは行ってきますので、皆さんはここで警戒しつつ待っててください。エヴァさんもよろしくお願いしますね。アルちゃんも皆さんの側にいてね。
 携帯は電源を切っておきますので繋がりません。もし何かあるときは念話でお願いしますが、それでも緊急のとき以外は控えてください。それでは…………」

「わかってる。さっさと片付けて戻って来い」

「はい。いってらっしゃいませ、お兄様」


 鏡に潜り込んでどこかに行くネギ先生。鏡……光を使った転移魔法だったか? 撮影してたときに念話が来て「今は大丈夫だ」つったら、いきなり鏡からネギ先生が出てきたのには驚いたな。あんな魔法もあるんだ…………。
 それにしても考え方が相変わらずシビアだ。発想が10歳のガキじゃねーよ。

 …………いきなり“お試し契約カード”の念話で呼びかけられたときは久しぶりで焦ったが、ついにこういうときが来たのか。
 魔法について忘れるなりすればこんなところにいなくても済んだんだろうけど、逆に忘れていたらこんなことが起こっていたなんてわからなかったんだよな。
 ネギ先生がいるんなら結局どっちでも大丈夫なんだろうけど、それでも知らないところで知らないうちに何かが起こっていたなんてのは嫌だ…………。



 …………ちゃんと全員無事に終われるのかな?











「…………さて、せっかく時間が空いたんだからガールズトークでもするか。こうして全員が集まるのは久しぶりだな。
 茶々丸、茶を入れて来い」

「はい。木乃香さん、台所をお借りします」

「あ、ウチも手伝うよ」

「お菓子何かあったかしら?
 ネギがこの前作ったクッキー残ってたと思うけど…………」


 …………余裕だな、こいつらは。無事に終わることを確信しているというか何というか…………。
 ネギ先生の実力なら問題ない…………というより、むしろ侵入者に同情した方がいいぐらいだから当然なんだろうな。
 それでも刹那はお札を部屋の隅に置いたり、楓や古菲が戸締りを改めて確認したりとかのやることはやっている。こいつらも完璧に普通の女子中学生じゃなくなったよなぁ。

 あと私も一度着替えた方がいいかもしれんな。
 いつまでもちびちうで狐耳セーラー服のまんまじゃ駄目だろ。いらないとは思うけど、一応動きやすいようにズボンに履き替えておくか。





「なあ、一度部屋に戻って動きやすい服装に着替えてこようと思うんだけど構わないか?」


「え? …………念のために止めておいた方がいいでしょう。
 いや、十中八九は大丈夫ですが、こういうのは神経質になるだけ損はありませんから」

「でも確かにその格好は何かあったときだと危ないわねぇ。
 ズボンならネギのやつがあるからそれで我慢してちょうだい。ベルトで留めて、裾を捲くれば今の千雨ちゃんの背丈でも大丈夫でしょ」

「わかった。それでいいから貸してくれ。
 お前ら全員が戦闘態勢なのに私だけ一人コスプレ状態ってのは、さすがに浮いていて嫌なんだよ」


 …………ネギ先生のクッキーを勝手に取り出したときからわかってたけど、ネギ先生のズボンを勝手に拝借するなんて本当に家族になってんだよな、コイツラ。
 悪いことじゃなさそうだからいいんだけどさ。


 魔法を知ってからもう2ヶ月。いろんなことがあった。
 年齢詐称薬で小さくなってちうの妹としてもコスプレデビューしたり、ネギ先生をガンダムコスプレデビューさせたりとかな。コイツラとの勉強会で今度の中間テストで良い点も取れそうだし、いつの間にか普通の学園生活を送っているようになった。

 …………リア充ってこんな感じなのかな? その……コイツラとも…………“友達”みたくなってるし…………。

 別に嫌ってワケじゃあ…………ないけどさ。





 …………コ、コスプレデビューは何気にネギ先生が乗り気だったんだよ。ノリノリでポーズ決めてるネギ先生見てたら、やっぱりネギ先生にも10歳の男の子っぽいところもあるんだなぁ、って少し安心した。
 そのおかげでネットアイドルランキングで2位にトリプルスコアで勝てたのも儲けモンだったけどさ。

 いや~、ネギ先生のガンダムで既存の私のファン以外の関心を持たせることが出来たのが最大の勝因だったな。
 コミケなんかでロボットのコスプレしてる奴らなんか目じゃないぐらいリアルなロボットが、このネットアイドルの女王であるちう様と一緒に写ってる写真なんてファンの皆も予想だにしてなかったろうに。

 フフフ、ネットアイドルブログ史上稀に見るヒット数を稼がせてもらったぜ。



 …………でもアレも一応魔法なんだよな? ネットで公開しても良かったのか?
 まあ、見た人の反応に“魔法”なんて単語は一つも出てなかったから、アレが魔法だなんて思われていないだろうけどさ。

 普通は思わねーか。
 あんなロボット見せられて「コレは魔法なんです!」って言われても信じる奴なんかいねーよな。リアルを追求するために細かなネジまでちゃんと再現してあるし、あのガンダム。

 そういうところも狙ってやってるんだろうなぁ、ネギ先生って…………。
 あくまでネギ先生にとって魔法は“手段”って感じなんだよな。



 ………………そういえばずっと不思議に思ってたんだけど、“ガンダム”って何なんだろ?
 “ユニコーン”はわかるけど、その後ろのガンダムってどういう意味なんだ?







「はーい、お茶淹れてきたえ。
 もう少し詰めて座ってーな」

「ありがとうございます、木乃香お嬢様。
 この部屋の防備も完璧にしました。それに女子寮の警備システムの起動も問題なく出来ています。これで他の生徒の皆さんはよほどのことがない限り部屋から出ようとは思わなくなりますし、もし誰かが部屋から出たり入ったりしてもわかります。
 綾瀬さんとのどかさん、初めての本番ですが警備システムの使い方は大丈夫ですね?」

「ネギ先生にちゃんと教わっているので大丈夫です。
 私とのどかと木乃香さんのうち、念のために常時2人で警備システムをコントロールしますので、アスナさん達はいつでも動けるようにしておいてくださいです」

「そうだね。30分交替ぐらいでいいかな?」

「ウチまで回ってくる前にネギ君が終わらせてまうのにネギ君添い寝権1日分」

「賭けにならないわよ、木乃香」

「…………緊張感無いな、お前ら。
 刹那も言ってたけどネギ先生を1人で行かせて本当に良かったのか? お前らの性格だったらネギ先生を1人になんかしないで、一緒に戦うとか言い出しそうって思ってたんだけど?
 そのために今まで散々修行をしてきたんじゃないのか?」


 それがさっきから不思議だった。
 コイツラの性格だったら何としてもネギ先生の力になろうとするだろう。コイツラは良くも悪くもお人好しだし、何よりネギ先生に惚れているんだしな。
 それなのにネギ先生を1人で行かせるなんて本当に良かったのか、お前ら?





「アハハ、そうなんだけどね。
 足手まといになるかもしれないし、何よりネギが1人で良いって言ったからね」

「ネギ君はウチらの手が必要なときはちゃんと言ってくれるからなー」

「そうですね。京都旅行のときは確かにそうでした。
 あの頃の私達は今より数段弱かったのに、ネギ先生はそんな私達に協力を求めてくださいましたし」

「それにネギ先生せんせー私達のことを信じてくれていなかったら、女子寮の警備すらも任せてもらえなかったと思います」

「ええ。もし私達が自分達の身を守れないほど弱かったとしたら、おそらくエヴァンジェリンさんの家にでも避難させられていたですね」

「ネギ坊主は拙者達のことを大事にしてくれるでござるが、それでも過保護ということではないでござる。
 ネギ坊主だけで九割九分、そして拙者達の手も借りれば十割の安全を確保できる場合だと、ネギ坊主は迷うことなく後者を選ぶでござるな」

「修行のときでもそうアルよね。多少の怪我は治すから構わないというか…………」

「もし命の危険がかなりの確率であって、私達がいても変わらないとしたらネギは1人で行くだろう。
 ただし、私達が追いかけてこないように拘束して安全なところに避難させてからのことだがな。それをしないということは今回はネギ1人で本当に大丈夫なんだろ。
 …………まあ、せっかくネギが“学園結界”の術式を解析して私を“学園結界”の対象外にしてくれたから、少しばかり外で暴れたい気はするんだがな。
 だが面倒を避けるためにジジイやタカミチ以外の関係者には、一応はまだ“学園結界”の対象になっている設定だからな。今回は我慢することにしよう」

「…………あれは本当にやってよかったのでしょうか?
 マスターが力を取り戻せたのは幸いですが、ネギ先生がマズイことになるのでは?」

「大丈夫ですよ、茶々丸さん。
 お兄様は「バレるようなヘマはしてない!」って自信たっぷりに言ってましたから、外では今まで通りに指輪で力を封印していただければバレませんよ」



 あー、確かにな。
 ネギ先生は確かにそんな感じだ。消極的に身を守るんじゃなくて、積極的に身を守るタイプだからな。

 それとネギ先生は基本的に1人で物事を進めるタイプだ。ソッチの方が早いから。
 そしてアスナ達が危険な目に遭い、傷つくことは許容出来ないだろう。ただし、取り返しのつかないほどのという前提が、“危険な目”や“怪我”の前につくが。
 多少の怪我をしてでも、より確実に安全を手に入れる方法を選ぶんだろう。


 やれやれ、全くネギ先生は相変わらず子供じゃねーや。
 基本的には子供じゃないのに、応用的には子供って言ったらいいのかな? 普通は逆だと思うんだが…………。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ガンダムコスプレ見て“魔法”って想像した人いたら凄いですよね。一応ネギも考え無しではなく、いろんなことを考えた結果でコスプレデビューしました。
 学園祭とか学園祭とか学園祭とかいろいろです。

 そしてちうたんリア充まっしぐら。
 さすがにエヴァをコスプレデビューさせようとしたら、学園長に泣いて止められましたが…………。
 エヴァは着飾ったりコスプレとかしたらネギが喜ぶので満更ではありませんでした。


 ネギはアスナ達からは基本的に信頼されてはいます。むしろ大袈裟すぎるので別の意味で心配されてます。
 ですので、ネギにもし手伝うようにお願いされたとしたら

「今日もまた弱いもの虐めする仕事が始まるわ(涙)」
「もうやめて! 標的のライフは0やで!」

 とかなります。


 さて、次話でいよいよ虐さ…………実験開始です。
 ヘルマンの運命はいかに!?



[32356] 第53話 レイニーデビル③ カミナリグモ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:07



━━━━━ ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン ━━━━━



「…………やはり静か過ぎマス」

「いくら何でもオカシイゼ」

「はい、いくら雨が降っているとはいえ、ここまで人がいないノハ…………」


 わかっているよ。どうやら既に気づかれていたようだな。クライアントに今まで調べた調査結果を送ろうとしても、どうやら念話妨害などがされているようで送ることが出来ない。

 いったい何時から気づかれていた? 参ったね。クライアントから貰った呪符が役に立たなかったということかね?
 それに何故私達を放っておくんだ? …………いや、ここまで人がいないということは、一般人を避難させるために様子を見ていたのかな?





「どうすんダヨ、ヘルマンの旦那?」

「どうもこうもないよ。ここからでは調査結果も送れないから、最低でも一度は学園の外に出なければならないようだ。
 もちろんアチラが素直に出してくれたらの話だがね」


 …………多分、無理だろう。
 私達が侵入して数時間。一般人の避難はとっくに終わっているだろうから、いつでもコチラを襲える状況のはずだ。
 学園の外に出ようとしたならばあっという間に襲われる。もしかしたら学園の外に出るまでの道にトラップでも仕掛けられているかもしれないな。そのために私達を放っておいたのかもしれんよ。


 さて、どうするか? 素直にクライアントの命令に従うか? それともせっかくの現世なので楽しませてもらうか?
 いやぁ、私もクライアントとの契約を果たせないのかもしれないのは残念だけどね。ここまでは表向き順調だが、いくら何でも明らかに順調すぎる。どう考えても絶対気づかれているよ、コレ。
 ここまで詰んでそうだったら、自分の楽しみを優先させてもいいんじゃないかね?


 それにさっき送ろうとした調査結果は完全じゃない。6つ魔力溜まりのうち1つがまだ未調査のままだ。今向かっている世界樹前広場のことだが。
 クライアントとの契約では、

『学園の調査を終わらせて報告して“から”、
 ネギ・スプリングフィールドが今後どの程度の脅威となるかの調査にかかれ』

 ということだから、調査が終わっていない今なら別に報告の義務があるわけじゃないしね。


 しかし本当にどうするか?
 まずは世界樹前広場に行ってみるかな。調査が終わってないのは事実だし、トラップがあるかもしれない帰り道よりも世界樹前広場のような広い場所の方が私としては戦いやすい。戦闘のことを考えるなら世界樹前広場だな。
 いくら何でも外に出ようとしたらトラップにかかってバッドエンドでした、というのは避けたい。
 せっかくの現世なんだからね。どうせなら力一杯戦ってみたいじゃないか。

 それにネギ・スプリングフィールドという少年にも興味がある。
 私は才能がある少年が好きだ。あの“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子というのならネギ君も期待が持てるだろう。



 “千の呪文の男サウザンドマスター”…………か。前回の召喚は酷かった。
 せっかく召喚されて、早速どこぞの村を襲おうとしたのにアクシデントがあったらしく、召喚主が

「え、ちょっと待って? 何で目標が村にいないの?
 …………ハア!? 先日メルディアナ魔法学校に見学に行ってそのまま入学した!? まだ3歳のはずじゃなかったか!? 何をどうしたらそうなるんだ!?」

 と混乱していたよ。ちなみに彼の言葉はコレが最後だった。その後にいきなり魔法をブチ込まれていたからね。
 そして襲ってきたのが“千の呪文の男サウザンドマスター”だった。おそらく息子の危機を知り、急いで駆けつけてきたのだろう。
 私はそのまま一緒に召喚された他の者達と共に“千の呪文の男サウザンドマスター”に戦いを挑んだが、アッサリと返り討ちにされてしまったよ。

 そんな“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子だ。期待を持つなと言われる方が酷じゃないかね?
 どうせならトラップにかかって還るよりも、戦って還りたいものだね。6年前の戦いのせいで今までずっと休眠をせざるえなかったが、ようやく現世に戻ってこれたのだから…………。








「決めたよ、調査を続けるとしよう。どちらにしろ選択肢は他にない。逃げ帰るなんて出来るわけないんだからね。
 最後の世界樹前広場だ。急ぐとしようじゃないか」

「確かにそうデスネー」

「せっかくのシャバなの二ー」



 さてさて、ネギ君はどれほど出来るのかね?
 クライアントからは“強い”としか聞いていないがとても楽しみだよ。





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 フム、世界樹前広場にも誰もいないな。てっきり待ち構えているかとも思っていたのに。
 一応契約は契約なのだし調査はしようとは思うのだが…………しかし、空気が違う。視線も感じる。
 ここで仕掛けてくるのは間違いないな。

 やれやれ、直径3kmの円状にある魔力溜まりをグルッと回るのも面倒臭いものだよ。
 休憩がてら、ここで待ち受けるとしようか。
 




「調査は…………どうすんダ?」

「する必要ないと思いますケドネー」

「規模の大きさはあれど、基本的は普通の魔力溜まりデス」

「やはり麻帆良の特異点はあの世界樹か。
 まあ、見ればわかるがね」


 調査と言われてもあまりすることはなかったね。バレないように移動する方が面倒だったよ。
 結局はバレてはいるだろうがこれで調査も終わりだ。となるからには麻帆良の外に一度出てクライアントに報告するんだが…………どうやら来たようだな。


「…………旦那、結界ダ」

「ああ、君達も気をつけたまえ」







 世界樹前広場全体が結界で覆われた。特に私達の身体に弱体化などの影響はないが、おそらく結界から出ることは出来ないだろう。
 念話妨害も酷くなった。隣にいるはずのあめ子達にすら念話を送ることが出来ない。
 あとは…………雨がやんだ? いや、結界の外の遠くを見たら雨が降っていることは確認出来る。となるとこの結界内だけか。何故そんなことを?

 …………もしかしてこちらにスライムであるあめ子達がいることがわかっているのか?
 スライムは水系の魔物なだけあって、水があるところのほうが有利だ。こちらのアドヴァンテージを塞ぐつもりか…………。





 そう思った瞬間、私達の後ろから悪寒が襲った。





 回り込まれたか!? と、思ったが違う。
 何故なら私達の正面から光が走ってきて、その光が通り過ぎたと思ったら私の左腕が消し飛んでいたからだ。







「ぐおっっっ!?!?」

「旦那っ!?」

「速いデスっ!?」

「向こうから雷が発生してマシタ!
 それがソッチから来た光と合流したデスヨ!」


 …………危なかった。後ろからの悪寒おかげで、咄嗟に身を捻ったのが良かった。
 身を捻らなかったとしたら、今の正面から来た光は私の左腕ではなく私の胴体を消し飛ばしていただろう。

 しかし、今の光は…………ん? 消し飛んだ左腕の断面が焼け焦げている。背後から来たというのは雷らしいから、あの光は同じ雷なのか?
 となると背後からの雷は先行放電ストリーマー? 





「くっ! 全員動けっ!
 止まっているとタダの的だ!」

「雷なんか避けれないデスヨー」

「やつの攻撃の前に先行放電ストリーマーが発生する。
 それを感じ取って何とか避けろっ!」


 さっき攻撃を避けた後に一瞬だけ見えた。
 雷がそのまま地面にぶつからず着地してから、また再びとてつもないスピードで建物の裏に入って身を隠したのを。そしてその着地した雷は人間の子供の姿をしていた。
 おそらく彼が“ネギ・スプリングフィールド”だろう。自らの身体を雷化したとでもいうのか?

 悪魔の身という私の出身上、普通の人間よりも炎の精霊やら雷の精霊などの人外との面識の方があるが、まさかネギ君がそんなこと出来るとは思わなかったな。
 随分と人間離れしているね、彼は。クライアントが言った通りじゃないか。

 さて、どうする?
 いくら先行放電ストリーマーが発生するといっても、発生してから攻撃するまでの時間は1秒…………いや、0.1秒にも満たない。
 その間に先行放電ストリーマーを認識して、それに向かって飛んでくるネギ君を避ける? どんな冗談だね、これは?








「ガッ!?」

「「ぷりんっ!!!」」






 ぷりんが掴まった!? いくらランダムに飛び跳ねていても雷から逃げることは出来なかったか。
 ネギ君がその姿を現し、正面から左右の手の貫手でそれぞれぷりんの口と腹を突き破っている。動きを止めている今ならハッキリと見えるが、あれはまさしく雷の精霊だ。

 それにしてもいくらスライムとはいえ、少女の姿相手に情け容赦無いな!?
 スライムだからまだしも、生物にやったらとてつもないスプラッタな光景になるぞ!


 そしてぷりんの身体がみるみると縮まっていく。体中の水分が無くなっていくようだ。
 蒸発…………ではない? いったい彼は何をやっているんだ!?





「テメェッ、ぷりんを離セ!」

「させまセン!」


 ぷりんを助けようとあめ子とすらむぃがネギ君に挑むが間に合わない。ぷりんはそのまま言葉を残すことも出来ずに消えていった。
 それでもそのまま2人がネギ君に襲い掛かるが、ネギ君の指から火花が走ったと思ったら、爆発とともに辺り一帯が水浸しになった。


「大丈夫かっ、2人とも!?」

「クッ、ワリぃっ!」

「…………ぷりんがぁ…………」



 爆発で吹っ飛ばされた2人を受け止めるが彼女達に異常はない。爆発の影響はないようだ。
 それに辺り一面が水浸し? 確かに雨は降っていたので地面は濡れているが、今の爆発で明らかに地面の水の量は増えた。

 …………そうか、電気分解か。
 ぷりんの身体の水分を水素と酸素に分解してぷりんを消滅させ、その発生した水素と酸素を目くらましに爆発させた結果で水が発生したのか。
 おそらくネギ君は雷化させたその身体を活かし、ぷりんを貫いた両手を陽極と陰極の代わりにして水を電気分解させたのだろう。
 物理攻撃の効かないスライムを倒すためにこんな攻撃を…………。








「どうすんダヨ、アレ!?」



 それは私が聞きたいよ、すらむぃ! 私ではあの速度は捉えきれない。
 弱点があるとするならば、攻撃が始まる前の先行放電ストリーマー先行放電ストリーマーを捉えれればカウンターを狙えるかもしれん。

 しかし、あの威力ではカウンターを仕掛けても迎撃出来ないかもしれない。
 危険すぎる賭けだが、考え付く手は他にない。これでいくとしよ…………う?








「…………ゲ」

「何デスカ、コレハ?」


 牽制するように私達の周りを飛び回っていたネギ君から何十個もの光の球が放たれた。その光の球は中空に留まり…………えーと、何だったか?

 …………ああ、そうだ。まるで人間が作ったプラズマボールのように放電している。
 そしてプラズマボールとプラズマボールが放電で結び付き、結界の中をまるで立体的な蜘蛛の巣のように覆い尽くした。放電は最終的に結界で止まっているようだな。

 放電は…………いや、雷の糸と言っていいだろう。
 雷の糸と糸の隙間は大きく離れていても数m。プラズマボールが中継地点となって糸と糸が絡み合い、縦横無尽に糸が張り巡らされている。まるで本当に蜘蛛の巣の中に居るようだ。
 そして糸が不規則に動いているので、必ず私達の身体に何本か当たっている。

 おいおい、先行放電ストリーマー潰しか、これは?

 時折、その雷の糸が太く輝くことがある。おそらくネギ君がそこを通っているのだろう。
 あらかじめ雷の糸で道を作り、その道を雷の速さで立体的に移動する。これで先行放電ストリーマーが発生する弱点を潰された。
 考えているな、少年。

 私の身体に当たっている糸に警戒すればいいかとも思うが、その当たっている糸が数本もあったらどれは警戒すればいいのかね?
 ネギ君は辺り一帯に張り巡らされた糸を使い、縦横無尽に駆け回る。まさしく電光石火の速さだ。いくら道筋が見えると言っても、こんなのを捉えられるわけがない…………また来たっ!?






「ガッ!?」

「旦那!? あめ子!?」





 クッ、今度は右腕を持っていかれた! しかも右腕に掴まっていたあめ子ごと。
 あめ子は…………駄目だ、もう気配が無い。また電気分解で水素と酸素にでも変えられてしまったか?

 相手は無傷。一度も反撃をすることすら出来なかった。
 私は両腕を失い、3体いたスライムはすらむぃを残すのみ。
 ハハハッ、完敗だな。

 私は才能がある子供が好きだ。こんなに才能溢れる子供と出合ったのは今まで長く生きてて初めてだよ。
 私は没落したとはいえ爵位持ちの悪魔だが、ネギ君はまだ10歳の少年。私と彼とのこの力の差。ドチラが悪魔かわからんな。



 …………って、おおっ!? 雷の糸が変化した!?
 今までのようにただ道ではなくて拘束用の糸に変わったようだね。いろいろと考え付くものだ。
 ただでさえ両腕を失っているのにこれでは逃げられないね。この糸の拘束も強力だ。しかも張り巡らされていた糸全てが私を拘束しようと収束してくる。






「逃げたまえ、すらむぃ!」

「ヘルマンの旦那っ!?」





 私の足に掴まっていたすらむぃを蹴り飛ばす。身体が小さい彼女なら、収束してくる糸をすり抜けて逃げられるだろう。

 私は例え倒されたとしても、幾ばくかの休眠を経て復活出来るかもしれない。
 だが、彼女達では無理だろう。特にあそこまで跡形も無く消滅させられたぷりんとあめ子は…………彼女達には悪いことをしたね。
 とりあえず、何とかして調査結果をクライアントのところに届けてくれたまえ。さすがにやられっぱなしじゃ面白くな「アアッ!!!」って、すらむぃーーーっ!?


 ちょっ!? すらむぃもやられた!?
 ネギ君が雷となってすらむぃに突撃したら、すらむぃが一瞬で霧のように細かくなって消し飛ばされた!? 一撃であそこまで出来るのか!?
 電気分解とかする必要なかったんじゃないのかね!? 本当に情け容赦無いな、ネギ君は!!!





 …………あ、駄目だね、これは。


 収束して私の身体に巻きついた糸が爆発する最後の瞬間、思ったことはソレだけだった。












━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 我は雷糸を巣と張る蜘蛛。
 ようこそ、素晴らしきこの惨殺空間へ……。













 …………。

 ……………………。

 ………………………………僕のキャラじゃないですね。僕はセリフを喋る暇があったら殴りにいくタイプですから。


 …………っていうか何だか恥ずかしい! 何でこういうセリフを真面目に本気で喋れるんだ!?








 そして所要時間は30秒。

 ま、こんなところでしょう。いろいろと実験してみましたし。
 原作で使用されていた『雷天大壮』の欠点を僕なりに改良してみたつもりですが、なかなか使えますね。

 『雷天大壮』には先行放電ストリーマーが発生するという欠点があり、原作ではそれをヒットアンドアウェイではなくインファイトで戦うことによって補っていました。
 しかしこの使い方なら攻める場所は限定されてしまいますが、原作のように攻撃箇所が1個所のみなんてことはないのでカウンターを食らう可能性は低いでしょう。
 雷糸を拘束用に変えるなりすれば相手の虚を突けますし、雷糸が相手に触れるとソナーの役割も果たしてくれるので相手の居場所も把握出来ます。中継地点の糸が絡み合っているプラズマボールはちょっと魔力込めれば爆発させることなんかも出来ます。

 まあ、欠点といえば雷糸を外に出さないようにするための結界を張らないといけないってことでしょうか? あとは雷糸の維持に魔力が常に必要なことですかね。
 とはいえそれでも防衛戦には充分使えますし、広さにもよりますけど結界とプラズマボール用意するのに数秒ですからね。ヘタな詠唱魔法よりは早いでしょう。





「…………う、うぅ…………」





 あ、ヴィルさんまだ生きてる。まぁ、建物や敷地に被害を出さないように爆発の威力を絞ったから仕方がないか。
 それにしても来たのは本当にヴィルさんだったんですね。今回は別に村を襲われたりしていないのにヴィルさんが来るなんて、偶然って本当に怖いですねぇ。原作と一緒じゃないですか。

 さて、それでは解剖…………じゃなくて拷問…………じゃなくて尋問をして、依頼主とかについてのことを聞き出しましょうか。
 のどかさんを呼んできて“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”を使えば尋問をしなくて済むんで楽でいいんですけど、このスプラッタな状態のヴィルさんをのどかさんに見せるのは避けたいな。

 仕方がない。僕がやるか。









「…………フ、フフフ。君がネギ・スプリングフィールドか。クライアントが言ったように恐ろしい少年だよ、君は。
 さすがはあの“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子ということかね」

「? まだ喋れるんですか? …………じゃなかった。僕の父を知ってるんですか?」

「昔ちょっとあってね。それと正直言って限界だ。もうすぐ消えるから安心していいよ」


 いや、別にヴィルさんクラスなら、周りを気にしなくていいならグロス単位で襲ってこられても平気ですから別にいいですけどね。僕の一番得意なことはエヴァさんと同じく広範囲殲滅魔法ですから。
 それに“昔”? 僕の知らないところで、原作の描写外で何かあったのかな?

 ま、いいや。そんなことはどうでも。
 前世では世話になったヴィルさんですが、アスナさん達に危害を加えそうな存在を許しておくわけにはいきません。







「…………ネギ君。君は何のために戦ってい「静かに」ゲハッ!?」


 喋るな。質問するのはコッチです。
 次喋ったらまた喉に踵落としますよ。グリグリとヴィルさんの喉を踏み躙りながら睨みつけます。

 あ、でもその前に還っちゃわないように少しだけ治療しますか。その治療の間だけは喋っていいですよ。


「何か言いました? つか、アンタ誰ですか?」

「…………こ、これは失礼した。まだ名乗っていなかったね。…………名乗る前に終わったとも言うが。
 私はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。伯爵などと言ってるが没落貴族でね。今はしがない雇われの身だよ」

「ふーん、そのヴィルさんとやらが麻帆良に何の用です?
 というよりさっきの質問は?」

「ヴィ、ヴィルさん? 初めての呼ばれ方だね、それは。
 …………いや、特に深い意味はない。私は才能のある少年は好きでね。幼さの割に君は非常に強すぎる。そんな君が何でそこまで強くなったか、何のために戦っているか疑問に思っただけだよ」





 …………え? そういえば何でだろ?

 前世では死亡フラグを折るために必死に修行して、死亡フラグが折れたと思ったら駄目親父達の修行ごうもんで必死になって、再転生して原作世界に来たら…………何が目的で修行したんだっけ?
 別に強くなって「俺強ぇーーー!」とか「ハーレム築きてぇーーー!」とかは思っていなかったし…………というか思い浮かばなかったし。





 だって生きるのに必死過ぎたから。





 …………もしかして修行がライフワークになってたのではなかろうか?
 身体はイギリス人でも中身は日本人だからなぁ。社畜のようにルーチンワークをするのに慣れていたのかもしれない。











「? どうしたのかね?」

「イエ、別ニ…………。
 まあ、アレですよ…………趣味ですよ」


 うん、そう。趣味です、趣味。

 決して“習慣”とか“慣れ”とかで、修行が骨の髄まで染み込んでいるわけじゃないですよ。
 それと他にあるとしたら、あの駄目親父共をボコりたい一心で修行しただけですよ。


「趣味かね?
 こう…………“強くなる喜び”とか“戦うのが楽しい”とかはないかね?」

「いえ、そういうのもあります。それらを全部ひっくるめての“趣味”です。趣味は楽しむためにやるものですから。
 …………ウン。趣味の結果、僕は強くなりました。まぁ、今の戦い? 駆除? …………はつまらなかったですけど」

「…………弱くてすまなかったね。
 というか“駆除”って…………私はゴキブリか?」

「いや、色的に」


 だって真っ黒だし。


「…………情け容赦無いな、君は」

「何で敵に対して情けかけたり容赦したりしないといけないんですか?」

「それはそうなんだが…………では何のために戦うのかね?
 戦うこと自体は“趣味”ではないんだろう」

「…………まあ、わざわざ戦ったりはしません。新技試すとか実戦経験積むため以外では戦おうとは思いませんし。
 “何のため”…………と言われたら、“身にかかる火の粉を振り払うため”ですかね。わざわざ僕から仕掛けたりはしませんよ。正当防衛正当防衛」

「君は“過剰防衛”という言葉を知っているかね? まぁ、今回のことでは当てはまらないだろうがな。
 …………それにしても“身にかかる火の粉を振り払うため”か。本当にそうなのかね?」

「…………何でです?」

「いや、別に。私のように長く生きているとそれなりに経験を積んでいるものでね。
 そうかそうか、“身にかかる火の粉を振り払うため”か。どうにも違う感じがしたんだが、どうやら私の思い違いだったようだ。
 君の顔が何というか…………雛を守る親鳥のような顔をしている気がしてね」


 ククッ、と笑うヴィルさん。
 口では“違う”とは言ってるけど、顔がまるで“コイツ気づいてねーでやんの”って表情してます。

 僕は“身にかかる火の粉を振り払うため”に戦っていない? どういうことだ?
 確かにこれといった理由は無くて、惰性で生きるために戦っているように自分でも思ってますけど、それだったら“身にかかる火の粉を振り払うため”で間違ってはいないんじゃないの?

 …………ニヤケ顔がムカつくな。











「さて、それではもうそろそろお別れの「あ、治療は完了したから還ったり出来ませんよ」…………え?」

「ヴィルさんにはもう少し聞くことありますし、聞くこと終わっても還らないで“封魔の瓶”の中に入ってもらいます」

「いつの間に!? それに両腕どころか両足もなくなっていないかね!?」

「ああ、さっきの雷糸には麻痺効果もつけましたからね。話の最中に切り取ってたのに気づかなかったんでしょう。
 それに両足もいらんでしょう。もう使うこともないんですから」


 実を言いますと、最近は西洋魔術の修行が上手くいってないんです。
 頭打ちになったというか…………レベルがカンストしちゃったのかもしれませんが、最近どうにも伸び悩んでます。なので別方向にも手を広げることにしました。
 それともし将来、医者とかになる場合は『治癒クーラ』や『自動治癒リジェネ』、『咸卦治癒マイティガード』だけでなくて、東洋医術なんかも出来たら治療の選択肢も広がっていいかなぁ、と思ったんですよね。

 というわけで、近頃は西洋魔術の修行の他に東洋医術や霊媒治療なんかも勉強してるんですよ。
 せっかくなので尋問にもそれらが使えるか、Let's Challenge!

 とりあえずその帽子は邪魔ですからとっちゃいましょうね。





「ま、待ちたまえ! 君はいったい何をする気だ!?」

「大丈夫、痛くしませんから…………というかもう痛くないでしょうから」

「君は本当に情け容赦無いなぁっ!!!」

「何で敵に対して情けかけたり容赦したりしないといけないんですか?
 さて、いろいろ聞かせてもらいますよ」


 それでは手術を始めます。
 人間が生き物の生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思いますけど…………ま、それが人間ってことなんですよね。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 救えねぇ。

 しかしヴィルさん達の末路はあくまでも戦闘の結果なので、ネギの被害者ではないですよね。
 なのでまだ被害者ではありません………………まだ。


 とりあえず『雷天大壮』のバージョンアップを自分なりにしてみました。あくまでも技の実験であり、ヘルマン自身を実験体にして何かするということではまだありませんでした。
 名前をつけるなら単純に『雷蜘蛛カミナリグモ』です。コガネグモを地方によってはカミナリグモと呼ぶところがあるらしいですが…………。

 それとスライム達の電気分解などについての科学的なツッコミは御遠慮ください。それ以外では普通に“熱で蒸発”とか“凍らせる”とか、今回のすらむぃみたいに“殴って消し飛ばす”ぐらいしか思いつきませんでした。
 あとプラズマボールを知っているなんて、ヴィルさんが人間世界のことをわかりすぎでしょうか。



 そして小太郎の出番がないままにヴィルさんがリタイアすることにw
 京都-埼玉間で500km以上。前日の夜に出た小太郎は時速25km以上の休み無しで走れば間に合ったんですがね…………。
 というか原作でもどうやって麻帆良まで行ったんでしょう? 小太郎は金とか持ってなさそうなので、本気で京都-埼玉間を走り抜いたんでしょうか?



[32356] 第54話 レイニーデビル④ ひざまくら
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:07



━━━━━ 犬上小太郎 ━━━━━



「あっ あっ あっ」

「麻帆良の“学園結界”を無効化した方法は?」

「クライアントからあっ 貰った呪符を使ってあっ 入り込んだらあっあっ 簡単だった」



 …………何やあれ?

 必死こいて走って麻帆良に到着して、フェイトを探すために張ってあった結界の中に忍び込んだら、ネギが変なオッサンに質問…………質問?をしていた。
 …………ネギが自分の膝にオッサンの頭を乗せて、オッサンの頭の中に指を突っ込んでなければ普通に質問と思えたんやけどな。
 明らかに脳みそまで指突っ込んでるやん。


 あれ? でもオッサンの頭から血とかそういうんは出とらんな。
 クチュクチュと嫌な音がしとるけど、何だか指が肉も頭蓋骨もすり抜けているような感じが…………。





「聞けるのはこれぐらいか。あなたは情報をクライアントからあまり渡されていなかったみたいですね。
 知らないことは喋れないから、情報秘匿の観点からすると貴方のクライアントは間違ってはいないか。
 アナタはもういらない。今すぐこの“封魔の瓶”で封印してあげますよ………………って、もう聞こえてませんね」

「あっ あっ あ」



 あーあ、オッサンがちっちゃな瓶に封印された。人間やなかったな、あのオッサン。
 もういなくなったから関係あらへんけど。


 あれ~? フェイトはおらへんのかな? あのオッサンはフェイトが用意したんかな?
 そういえばフェイトは自分が麻帆良に忍び込むようなことは言ってなかったな。もしかしてこれだったら俺が最初っから来る必要なかったんとちゃうか?


 よくよく考えてみればそうやな。いくら何でもフェイトだってまたネギに直接喧嘩売るようなマネせえへんよな。
 いや~、よかったよかった。ネギに挑む奴なんかおらへんかったんや。ついわざわざ麻帆良にまで来てしもうだけど、結局俺はいらへんかったな。
 うん。それならさっさと京都に戻るか。勝手に座敷牢から抜け出してしもうたけど、ちゃんと謝れば許してくれるやろうし、今日さぼった分の勉強もせなアカンしな。

 さて、それじゃあ俺はこの辺で失礼をば…………。













「ところで…………何で小太郎君が麻帆良にいるのかな?」


 ヒィッ!? バレてるっ!?
 俺はネギの斜め後ろに居て完璧に死角になってた上に、気配をちゃんと殺しておいたんやぞ。最初っから最後まで振り向きもせずに何でわかるんや!?

 マズイマズイマズイマズイ! ネギがコッチ来る! ロックオンされとる!
 ど、どないすればええんや!? きっと俺が脱走したことはネギにも伝わっているはず。コレだとどう考えてもあのオッサンの仲間としか思われへん!













 …………。

 ……………………。

 ………………………………! そうやっ!



「…………た、助けに来たんやけど、どうやら遅かったようやな、ネギッ!」


「…………………………」



 嘘ついてあらへんよっ!
 “助けに来た”って言っただけやから嘘はついてないで!
 別に“誰を”助けに来たなんて言ってないからな!












━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━



「…………報告は以上です。コチラがそのヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマンを封印してある“封魔の瓶”です。
 ただ“学園結界”をすり抜けるのに使ったという呪符とやらは燃えてしまったので、現物は手に入れられませんでした」

「ウム。ご苦労じゃったな。爵位級の悪魔を30秒で片付けるとはさすがじゃのぉ。その瓶は厳重に閉まっておくことにしよう。ああ、使った分の“封魔の瓶”は新しいのをあげるからの。
 それと他に侵入者はおらんかったようじゃよ。どうせネギ君のことだから確認しておるじゃろうが女子寮も木乃香達も無事じゃよ。安心しなさい」


 いや、よかったよかった。何とか無事に終われたの。
 木乃香達が襲われることもなかったし、他に侵入者がいたわけでもなく、あっという間にネギ君が侵入者を封印してくれた。

 …………というか、“封魔の瓶”を念のために用意しておいたとはのぉ。
 相変わらずネギ君は用意がいいというか慎重すぎるというか…………ネギ君らしいの。


 それにしても“学園結界”をすり抜けるための呪符か。確かにそういうものが存在しないのか? と聞かれれば存在する可能性はあるとしか言えんの。
 “学園結界”はあくまで人の作ったものじゃし、何よりネギ君がエヴァンジェリンを“学園結界”の対象外にするなんてことをしたんじゃしの。
 しかし、術式を知らなければそんなことは出来ないじゃろうし麻帆良、もしくは本国の情報が流出しているということになるか…………。


 …………そういえば、その“学園結界”の対象外にする術式のレポートをネギ君に提出してもらったがまだ読んでなかったの。あの数百ページに渡るレポートを読むのは骨じゃし、どうせネギ君のやることに疑問を抱いた時点で負けじゃからの。
 ようやっとネギ君との付き合い方がわかってきたわい。

 “イロイロと諦める”

 ウン。これに尽きるの。






「…………それで、その犬上小太郎君はどうなんじゃ?
 まさかネギ君が彼の言うことをそのまま信じたわけじゃないんじゃろ?」

「ええ、それはそうです。でも殺気は感じませんでしたし、戦意もありませんでしたね。何より上下関係はシッカリと理解していたようです。無意識なんでしょうが尻尾丸めて股に挟んでましたから。
 少なくとも暴れるということはないと思いますよ。何でしたらのどかさんの“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”を使いましょうか?」


 …………心が折れたか。
 ネギ君と一対一で対峙して気絶しなかっただけマシじゃな。きっと犬上小太郎君もこれからは真面目になるじゃろうて。

 彼の処分は…………どうしようかの?
 別に心を読むまではせんでもええじゃろうが。


「ふむ、嘘だろうとはいえ、曲がりなりにも“助けに来た”と言ってきた小太郎君の処分はどうしようかの?
 ネギ君に何か腹案でもあるかね?」

「…………関西呪術協会の面子の問題になりますね。
 関西呪術協会としては逃げ出した小太郎君を罰しなければ示しがつきませんが、関東魔法協会としてはそれを黙って見過ごすわけにはいかなくなるでしょう。
 一応、小太郎君は僕を助けに来たらしいですからね…………一応は」


 そうなんじゃよなぁ。関西呪術協会は示しのために犬上君を罰しなければならない。
 関東魔法協会としてもこれに関しては別に構わん。

 だが犬上君の“助けに来た”という言葉を信じることにしたとしよう。
 それだと関東魔法協会としては犬上君を無碍に扱えんから、関西呪術協会の罰するという方針から犬上君を守らなければならん。西としても自らの失点は自らで始末したいじゃろう。
 これは東と西のケンカの火種となり得るじゃろうな。まぁ、アチラには貸しもあるから大丈夫だと思うがの。

 それなら犬上君の“助けに来た”という言葉を信じずに、侵入者として彼をそのまま西に引き渡すことにしよう。
 しかしそれでは先の京都の事件に続き、またもや西が東に借りを作ることになってしまう。関東魔法協会の理事としては借りを作ることに問題ないのじゃが、それも度が過ぎれば毒となってしまう。
 関東魔法協会からは関西呪術協会を甘く見下すような輩が出てくるかもしれんし、関西呪術協会としてもこんな不祥事が続けば婿殿への不満がどんどん溜まっていくじゃろう。
 せっかく先の京都の事件以降は東西の融和が順調に進んでいたのに、こんなことでそれが躓いてしまうのかもしれないのは避けたい。



 ぶっちゃけ犬上君なんかどうでもいいから、“ただの不幸な出来事だった”で終わらしたいんじゃよ。







「そういえばその犬上君は今どうしておるんじゃ?
 …………それと婿殿から聞いたが、何でも女子寮の警備に番犬を飼おうと考えているとか?」

「え? 小太郎君なら昨日の夜から何も食べていなかったようなので食事をしているはずです。ガンドルフィーニ先生と神多羅木先生と葛葉先生が一緒にいてくれているので何かあっても大丈夫ですよ。女子寮にも近づけていません。
 女子寮の番犬は考えたことありましたけど、よくよく考えたらウチの生徒達に揉みくちゃにされて番をするどころじゃなくなってしまうんじゃないかと思いましたので見送ります」


 それなら安心じゃな。
 というか、その面子だったら犬上君も食事しづらいじゃろうに…………。

 それと本当に犬上君を番犬代わりに飼おうとか考えてなかったよね!?


「それにウチの生徒なら番犬でも構わずにお風呂に入れたりしそうですからね。皆さんの身体を小太郎君なんぞに見せるわけにはいきません。
 ああ、それと食事が終わったらサボった今日の分の勉強をするようにテキストを渡しておきましたので、今日のところはそれで精一杯でしょう。監督は神多羅木先生とガンドルフィーニ先生の強面コンビにお願いしておきました。
 あとせっかく麻帆良に来たんだから、ついでに今の学力がどんなものか実力テストでもやってもらいましょうか。それの結果次第では勉強をもうちょっと頑張ってもらわなければいけないですね」


 もうやめてあげて! 犬上君のライフは0じゃよ!
 というか、そんなことそもそも思いついたりしないで!!!

 …………もうええ。とりあえず婿殿と話し合ってみるかの。
 アチラの反応次第でもコチラの対応を変えねばならんし、何よりネギ君が直々に勉強を見ることになったと言えばそっちの方が重い罰になってアチラとしても文句はないじゃろ。








 それにしても、何だか最近ネギ君の性格が変わってきてるような気がするわい。
 新学期が始まってから…………というより木乃香達から告白されてからじゃ。

 木乃香達のことを過保護…………ではないの。修行では平気で気絶させてるみたいじゃし、独占欲というのかな? 木乃香達に近づく男性にやけに警戒しているっぽいの。
 以前とは木乃香達との距離の取り方が違う気がするわい。


 ワシは入院してて告白の場にはいなかったが、タカミチ君が言うにはネギ君も混乱していたらしいからのぉ。
 まだ男女の関係の距離感がわからんみたいとタカミチ君は言っていたが…………。

 木乃香達の気持ちも知っていたし、ネギ君なら木乃香を任せても安心出来るから特に何も言わんかったが、どうやらネギ君にはまだ早かったみたいじゃの。
 まあ、年齢を考えればそれは仕方がないことなのじゃが。
 ネギ君のことだから自分で何とか出来るじゃろうが、如何せん流石のネギ君も恋愛方面にはまだ慣れてはおらんのじゃろう。ワシとしてもこれからはなるべく注意しておく必要があるみたいじゃの。





「うむ、それでは犬上君のことは関西呪術協会と話し合ってみることにしよう。
 ご苦労じゃったな、ネギ君。もう帰ってくれても構わんよ。ネギ君も今度の中間テストの準備が忙しいじゃろう」

「はい、わかりました。
 それでは寮に戻りますが、念のために今日は待機してますので何かあったら呼んでください」


 ネギ君は真面目なええ子じゃの。これで一般的な常識を持ってくれたらもっとええのじゃが…………。
 ネギ君の突飛な発想で京都では助かったから大きい声では言えんがの。

 さて、それでは婿殿に連絡するか。





 …………あ、ネギ君に学園祭のときの世界樹伝説を実行しようとする生徒達の告白阻止の効率のいい方法を考えてもらうのを頼まなきゃいかんかったの忘れてた。
 魔法先生や魔法生徒の皆にパトロールしてもらおうと思っていたが、せっかくの学園祭なのにそういうことで四六時中働いてもらうのは心苦しいからの。
 ネギ君なら何か良い考えが浮かぶかもしれん。

 やれやれ、今年はいろいろと厄介ごとが重なるわい。
 ネギ君のことといい、異常気象で世界樹発光が早まることといい。


 …………そういえば、ネギ君のクラスの超鈴音はどうなっていたかの?
 要注意人物としてマークはしてあったが、最近はとんと動きは見せてない。以前は警告を無視してまでワシらの事を探ったりしておったのが、最近はやけに大人しすぎるのが逆に不安じゃな。

 …………どうせなら彼女のこともネギ君に任せるか? 


 ま、ええわい。
 とりあえず今回のことを片付けよう。









『お待たせしました、お義父さん』

「おお、詠春か。こちらは無事に終わったよ。侵入者は爵位急の悪魔じゃったが、木乃香やネギ君達も怪我一つしておらん。
 詳しいことは後ほど文書で渡すが“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が関係しているみたいじゃな。犬上君もやはり麻帆良に来おったよ。
 どうやら彼奴らもまだ何か企んでいるらしいの」

『ム、そうですか。木乃香達が無事で何よりです。
 それで……その…………犬上小太郎君はまだ生きてますか?』



 ………………いや、生きておるよ。
 お主はネギ君のことをいったいどんな風に思っておるんじゃ?












━━━━━ 綾瀬夕映 ━━━━━



「ただいま帰りました…………あれ? 他の皆さんは?」

「お帰りなさいです、ネギ先生。無事に終わったみたいで何よりです。
 エヴァンジェリンさん達と長谷川さんは帰られました。アスナさん達は念のために寮内を再確認しにいっています。私達はここで警備システムの再チェックです。
 初めて本番で使いましたからね。何事もありませんでしたが、それでも一応と思いまして」

「お帰りなさい、ネギ先生せんせー
 木乃香さんがミルクティー淹れておいてくれましたよ」

「あ、それはありがとうございます。手洗って着替えてきますね」


 ネギ先生が帰ってきましたけど、傷一つ負ってなくて服が雨に少し濡れている程度です。
 結局、学園長への報告も含めて1時間もかからなかったみたいです。相変わらずネギ先生は凄いのですね。


 …………そして偶然にもネギ先生とのどかと私の3人だけです。
 そして丁度システムの再チェックも終わったところです。

 チラッとのどかとアイコンタクト。そしたらのどかもわかってくれてのどかがネギ先生の左、私がネギ先生の右に座ります。
 アスナさん達と抜け駆けはナシという同盟を組んでいる私達ですが、別にコレぐらいなら抜け駆けにはなりません。そんなこと言ったら一緒に寝てるアスナさん達はどうなるんだ、という話しになりますからね。





「私も頂くです…………それでどうだったのですか?」

「ちゃんと無事に終わりましたよ。
 詳しくは学園長に正式な文書を作成して報告しますので、それを皆さんで見てください。当面の危険性はありませんので焦る必要はないですよ。
 簡単に言っちゃえば、侵入者は封印済み。あと何か京都で会った犬上小太郎君が麻帆良に来てましたけど、今頃は神多羅木先生とガンドルフィーニ先生に勉強を教わっていることでしょう。
 きっと彼も麻帆良で暮らすことになると思いますが、女子寮には近づけないつもりですので安心してください」

「ネギ先生せんせーが無事でよかったです」





 そう言ってネギ先生の手を握るのどか。いいですね、それ。
 私もそれではネギ先生の右手を握らさせて…………あ、しまった。ネギ先生は右手でミルクティーのカップを持っています。これではネギ先生の手を握れません。
 くっ、右側に陣取ったのは失敗でした。

 ええいっ! それならば私はネギ先生の膝をお借りします。
 警備システムの運用で疲れてしまいましたからね。少し横にならせてもらうです。

 ポテッ、と胡座かいて座っているネギ先生の膝…………というか太ももを枕にして寝転がって、スリスリと頬擦り。
 なかなか寝心地が良いですね。





 こういうとき、私達の間にあまり会話はありません。
 最初に3人だけでこういう感じになったとき…………といっても手を繋いだだけですが、そのときは私ものどかも緊張してしまってガチガチになってしまいました。
 ネギ先生に話しかけようにも何を話していいかわからず、ただただ時間だけが過ぎていきました。
 こんなんじゃネギ先生に嫌われてしまうかも? と怖くなってしまいましたが、ネギ先生は

「アハハ、こういうときってどんな話をすればいいんですかね?
 でも、のどかさんと夕映さんとこんな風に過ごすのは好きなので、もう少しこのままでいませんか?
 別に無理しなくても構いませんから」

 と、言ってくださいました。
 ………………10歳児にフォローされる自分達に呆れもしましたが、それでもどこか気が楽になったです。



 それからというものは、こんな風に会話もあまりせずに体温を感じあうだけのような時間をよく3人で過ごしています。
 このときの私達を見たエヴァンジェリンさんからは

「3匹の子犬がくっついて昼寝をしているようだ」

 と表現されましたが、なかなか正鵠を得ている表現だと思います。
 私達は平均より小さいですし、いつの間にかネギ先生によりかかって寝てしまっていたことなんかもありましたしね。

 ちなみに目線もあまり合わせません。
 私とのどかは大抵ネギ先生の両隣に陣取るので、それだとネギ先生がどちらかを見るときはもう1人から目を背けている状態になってしまいますので。



 でも、逆にそれがよかったのかもしれないです。
 私ものどかも恋愛についてはまったくの素人。そんな私達がいきなり恋人のような振る舞いをすることは出来ませんし、気の利いた会話なんかもすることは出来ません。
 のどかはもちろんのこと、私も哲学などのこと以外では雄弁ではありませんから。

 しかし、ネギ先生のおかげで無理をすることなく、私達の出来ることからスタート出来ました。
 会話もなく、目線も合わせず、ただ手を繋いだりして体温を感じあうだけの時間ですが、それでも私達にとっては幸せな時間です。
 これでも緊張しなくなるまで結構かかりましたので、会話などのハードルがあったら今でも緊張してガチガチになっていたのかもしれないです。
 ちょっとずつですが、私達は私達のペースで進めていけたらいいのです。



 …………あ、ネギ先生の手が私の髪を梳いて…………。
 別にミルクティーを飲み終えるのを急かしたわけじゃないのですが、それでもこうしてくれるのは心地良いです………………でもおでこはペチペチと叩かなくていいのですよ!

 ムッとしてネギ先生の手をとってからネギ先生を見上げると、どこか子供っぽい笑いをしているネギ先生の顔が見れます。いつもの“ネギ先生”としてではない、“ネギ・スプリングフィールド”としての笑顔。
 会話とかはあまりないこの時間ですが、ネギ先生がこんな風にちょっかいをかけてくることがあるんですよね。

 まったく子供っぽいんですから、ネギ先生は。
 ネギ先生の手の甲をちょっと抓ってお仕置きです。





 それにしても無事に終わって本当によかったです。
 まあ、ネギ先生が負けるようなことは、麻帆良が灰燼に帰すぐらいにあり得ないことですから大丈夫だとは思っていましたけど、それでも心配なものは心配なのです。
 それといつかネギ先生が“ついウッカリ”で取り返しのつかないことを仕出かさないかも心配なのですが。

 無事に終われたならそれでいいです。



 …………2手に分かれて寮を上と下から再確認しているアスナさん達が戻ってくるまであと5分ぐらい。
 それまではこうしてゆっくりさせてもらうです。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ひざまくらって良いですよね。
 女の子が男の子にするのも良いですけど、逆に男の子が女の子にひざまくらするシチュエーションも良いと思います。

 でも男が男にしたら良くないですけどね。


 あとピトーも混じった。



 のどかと夕映はさすがにエヴァンジェリンのようにまでは積極的になれません。
 でもこの2人だったらこのぐらいの進展度が丁度良いかなぁ、と思います。


 それと夏美のアーティファクトの“孤独な黒子アディウトル・ソリタリウス”の出番はないと思います。
 だってネギが利用したら凶悪すぎるんですもん。

 だから小太郎と夏美の出会いは無くなるでしょうネ。



【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+『仮契約パクティオー』儀式の手伝い
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血(2度目)
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋
 関西呪術協会:変態集団疑惑+吹っ飛ばされた
 天ヶ崎千草:勝っても負けても“死”?+心を連れていかれた
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”:“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア
 ルビガンテ:名前忘れられた
 月詠:メガネ壊された
 フェイト:○○化?まだ秘密
 リョウメンスクナノカミ:出番無し
 ナギの家:半壊
 ヴィルさん:情報引き出された ← new!
 小太郎:フラグ壊された ← new!



[32356] 第55話 学園祭準備
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/12 19:34



━━━━━ 犬上小太郎 ━━━━━



「おー、ネギに木乃香の姉ちゃん達オッス」

「ああ、小太郎君おはよう」

「コタ君おはよー」

「おはよう。挨拶ぐらいちゃんしなさいよ、コタロ君」

「固いこと言うなや。
 ほれ、ノルマのテキスト終わらせたで」


 麻帆良に来てから半月。何とかまだ生き延びとる。
 …………よかった。ホンマによかった。


 俺の「助けに来た」っちゅー言い訳が一応認められて、京都での一件をチャラにしてくれたんやけどな。
 何か東西の話し合いで本格的に麻帆良に転校して、麻帆良の警備員としても働かなアカン。

 まあ、西の長はんと電話で話したときに「強く生きなさい」って応援されたときは正直間違ったと思ったわ。ヘタしたら京都にいた方がええかとも思った。
 生きてるだけでも儲けモンなのはわかっとるけどな。

 それに麻帆良に来てからの方が京都に居たときよりも絶対勉強しているで。
 何しろ毎日、朝に前日にネギから出された宿題提出したらその日の分の宿題渡されて、それから学校行って勉強して、学校終わったら警備員として仕事して、仕事終わったらネギから出された宿題をする、って感じやからな。
 仕事が多い日は宿題を免除したりしてくれるけど、それでもこの半月でもう疲れてきたわ。





「…………うん、ちゃんと終わらせてるね。特に間違いもないし。
 じゃ、これが今日の分の宿題。もうすぐ小太郎君が入った学校の授業にも追いつくよ。そしたら宿題の量を減らすからもう少し頑張ってね」

「おっ、マジか!? そりゃありがたいわ。正直言って勉強と仕事の両立はキツかったんや。
 …………っていうか、よくそんなパラパラと流し読みしただけでわかんのな」

「慣れれば大丈夫だよ」


 慣れてもそんなん出来ひんって。

 それにしても戦闘のとき以外のネギって案外普通なんやな。
 同い年なのに教師出来るぐらい頭がええんわ凄いけど、思ってたより変な奴やあらへんかったわ。

 俺が麻帆良で生活するに当たって一人暮らしできるところを探してくれたり、こんな風に学校の勉強についていけるように勉強の面倒を見てくれたりして、何だかんだいってネギには世話になっとる。
 最初はネギが俺の担当の魔法先生になったことに絶望したけどな。


 だってそれを聞いた神多羅木とかガンドルフィーニのおっちゃん達が憐れみの表情で俺を見るんやぞ。しかも何か豪華な夕飯奢ってくれたしな。

 …………最後の晩餐?

 やっぱりネギは麻帆良でもネギなんやな。麻帆良の人達も絶対苦労してるで。
 この前も勉強の気分転換にお互い魔法ナシ気ナシの条件で戦ってみたけど、体術だけでボコボコにされたし。


 うん。フェイトには悪いけど、俺もう無理や。









「…………そういえば、何か最近麻帆良がどんどん騒がしくなってきとらんか?」

「ん? ああ、麻帆良祭…………学園祭が近いからね。生徒の皆さんも気合が入ってるんだよ。部活の人達も部費を稼ぐために頑張ってるしね。
 僕も魔法先生として学園長に仕事頼まれてるから結構忙しいんだよ」

「そういえばネギ君、最近よく1人で考え事しとったねぇ」


 あー、確かに被り物着た連中が走ってたり、先週までなかったデッカイ門がいつの間にか建ってたりしとるわ。
 学園祭がこんなに派手なことになるんか。こんなの前のちっちゃな学校では考えられへんわ。

 へぇ、格闘大会もあるんか。しかも賞金も出るみたいやん。
 勉強ばっかりで生活費あんまり稼げんからなぁ。10万円も手に入ったら生活も楽になるやろ。
 …………ネギは先生の仕事で忙しいだろうし、これやったら俺でもいけっかな?





「おはようございます」

「おはよー、せっちゃん」


 む、刹那とかも参加したらヤバイな。
 ネギパーティーの中でも刹那とか楓姉ちゃんとか菲部長には俺でも勝てへんからなぁ。












━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



「「「「「というわけで、3-Aの出し物はメイドカフェ“白い国アルビオーニス”に決定!」」」」」

「はいはい。決定したのはいいですが、あまり騒いで他のクラスの迷惑にならないようにしてくださいね。
 ちなみに隣の3-Bの1時間目は新田先生の授業です」

「「「「「!? 今すぐ制服に着替えます!!!」」」」」

「はい、それで結構です。では僕は一度廊下に出ますので、早めに着替えてくださいね。
 あ、四葉さん。出て行く前にシャーリーテンプルください」

「え、ええ!? …………シャーリーテンプルってお酒じゃあらへんの!?」

「違いますよ、和泉さん。シャーリーテンプルはジンジャーエールにシロップとレモンピールを足したものです。
 でも確かに日本の関西ではカシスのリキュールを炭酸で割ったものを、独自にシャーリーテンプルって呼んでいるらしいですね」


 …………何でそんなにお酒に詳しいんですか、ネギ先生?
 いや、エヴァンジェリンさんの家とか別荘内ではよくワインを飲んだりしてましたけどね。外国人だからアルコールに対する感覚が違うので、仕方がないのかもしれないのかな。

 それにしても四葉さんは中華料理だけでなく、カクテルなんかも作れるのか。
 凄いなぁ。私もいつまでも木乃香お嬢様やネギ先生に頼っていないで、少しでも自分で料理できるようなった方が良いのだろうか。
 エヴァンジェリンさんもいつの間にかカクテル飲んでるし………………それってノンアルコールカクテルですよね?


 それとメイドカフェと言っている割には、バニースーツとかナース服とか巫女服とかその他の衣装も用意してあるのは何故なんでしょう?
 メイド服は雪広さんが用意してくれたそうだけど、これらの衣装はいったい誰が用意したんですか?

 …………お願いですから、それを着て接客しなければならないとか言わないでくださいよ。





「えー、だって色んな服着たいし、お金も儲かって一石二鳥じゃない」

「いや、とりあえずシスター服とかナース服なんかは止めておいた方がいいですよ、明石さん。
 ネギ先生はそういう服をコスプレで着るのは、本職の人に対する侮辱だと思ってあまり良い顔しませんから」

「マジでっ!? …………あー、そっか。ネギ君ってばイギリス人だからキリスト教なのか。
 そりゃシスター服で遊んでたら良い顔はしないかぁ」

「へー、そうなんだ。私はそういう服は元から着ないから知らなかったな。でも確かにネギ先生は真面目だからそんな感じのことは思いそうだ。
 アニメとかのコスプレなんか平気みたいだけどな」


 ネギ先生自体は神様は信じていないようですけどね。
 むしろ「神様? いつか神殺しをしてみたいものですね」とか言っていたぐらいですよ。中身は絶対キリスト教徒じゃありません。

 それでも真面目にその生き方をしている人達の侮辱になるようなことは、ネギ先生はあまり良い顔なされません。
 春日さんみたいに不真面目なシスターは別に良いらしいですけどね。

 ネギ先生はどちらかというと着飾ったドレスとか、エヴァンジェリンさんが普段着ているようなゴスロリとかがお好きみたいです。
 着飾る目的のために作られた衣装なら好き、という感じでしょうか。それと本職の人が着た衣装なら、似合っていれば素直に褒めますけどね。
 あとは千雨さんが言ったようにアニメや漫画のコスプレなんかは平気らしいです。


 …………ところで本当に神殺しはしないですよね?







「そういうことならそれらの服は仕舞っておこう。
 でもその馬車道服なんかはいいんじゃないか? ほとんどが洋装だけの中に、そういう袴姿の和装がいたらアクセントになっていいだろう。刹那なんかが似合うんじゃないのか?
 それと超や菲のチャイナ服っぽいのも問題ないだろ? 何しろ2人とも中国からの留学生だからな」

「ほほお、その意見良いね。千雨ちゃん!」


 え!? もしかして私があの馬車道服というのを着るのですか!?
 確かにメイド服なんかよりもああいう袴みたいな和装の方が個人的にはいいのですが…………というかノリノリですね、千雨さん。
 私が言っていいことではありませんが、クラスの皆から一歩引いていた去年までとは大違いですよ。もしかしてバニースーツとかは千雨さん提供なんですか!?
 まぁ、さすがにバニースーツは着ることはなさそうだから別にいいけど。


 それにしても学園祭か。木乃香お嬢様と一緒に見て回る約束をしてるけどそんなの初めてだ。
 本当に去年まででは考えられないな。去年までは楽しんでいる木乃香お嬢様を尾行して何か危険が迫らないか見張っていただけだし。
 でも今年の学園祭では良い思い出が作れることになりそうだ。ネギ先生とも一緒に回れるみたいだし。




 …………ん? 学園長からのメール?
 えーっと…………“魔法関係者は放課後に世界樹前広場に集合”か。

 周りを見れば、木乃香お嬢様やアスナさん達も同じように携帯を見ているから、魔法関係者に一斉送信されたみたいだな。
 何かあったのだろうか?


 …………最近のネギ先生は特にマズイことは何もしていないはずだけど。





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 放課後、世界樹前広場。大勢の魔法関係者が勢揃いしている。
 ここまで一度に魔法関係者の顔を見るのはネギ先生の模擬戦以来だ。エヴァンジェリンさんは今回はここにいないけど。




 集合した理由は、学園祭のときに6つの世界樹の魔力溜まりで行なわれるであろう生徒の告白行為を阻止することについての打ち合わせだった。
 というのも、強力な魔力を内に秘めている世界樹、正式名称“神木・蟠桃”の膨大な魔力は人の心に作用し、世界征服やお金などの即物的な願いは叶わないが、こと告白に関する限りは成就率120%で願いが叶うという。
 要するに魔力溜まりで告白すると絶対成功するということか。

 世界樹の魔力は22年周期で極大に達して樹の外に溢れ出すはずだが、周期でいくと本当は来年のはずだが異常気象の影響か何かわからないが、1年早まって今年になってしまったらしい。





「…………というわけで、諸君達には学祭期間中、特に最終日の日没以降。
 生徒による世界樹伝説の実行、つまり告白行為を阻止してもらいたい」


 はあ…………よくある迷信ではなかったんですね。
 確かに最近は世界樹伝説が噂になっていましたけど、本当に叶ってしまうなんて。

 告白については呪い級の成就率…………でもネギ先生には効かないんだろうな、きっと。
 いや、根拠は何もないけど感覚的にそう思う。むしろ魔力溜まりの魔力全部食らい尽くすことも出来るんじゃないかな?





「たかが告白と思うことなかれ! コトは生徒達の青春に関わる大問題じゃ。
 …………ま、そんなに気張る必要はない。実を言うと対策は既に練ってあっての。もちろん不測の事態も考えられるので、諸君達にはそのフォローをお願いしたいのじゃ。
 さて、今この世界樹前広場に来たときに何か違和感を感じた者はおらんかね?」


 違和感?
 学祭間近なのに広場に人が1人もいないのはおかしいとは思ったけど、それは人払いの魔法のためのはずだし…………。

 周りを見渡しても困惑している顔しかない。わからないのは私だけではないようだ。ただし、ネギ先生を除いて。
 …………やっぱりネギ先生が絡んでいるのか。





「…………うむ。皆がわからないとなると、生徒達にも気づかれないはずじゃな。
 ああ、気を悪くせんでくれ。先入観なしに体験して欲しかったんでの。ワシも言われるまで全然気づけなかったので同じじゃしな。
 それではネギ君、頼むよ」

「はい、学園長。
 えーっと、…………それでは皆さんちょっと身構えてください。特に危険らしい危険はないですけど、大きく風景が変わりますので。
 『ほどけよセー・ディソルウアント 偽りの世界キルクムスタンティア ファルサ』」





 ネギ先生の詠唱が終わった途端、周りの風景がガラスにヒビが入るように音を立てて割れて崩れ去っていく。


 馬鹿な!? さっきまでは遠くに見えていた風景は世界樹や麻帆良の街並みだったはず。
 しかし今では周りは鬱蒼と繁る森。どうやら森の中のある程度開けた場所にいるようだ。周りには今までの町並みの面影が少しもない。
 そして立っている場所は明らかに世界樹前広場と同じなのだが、世界樹前広場の端の方からドンドン薄れて消えていき、何もない原っぱが姿を現していく。

 …………あ、かなり遠くに世界樹が見える。
 いつの間にやら世界樹前広場から離れた場所に転移していたようだ。

 状況を把握しているうちに、私達の立っているところも消え去っていく。
 ドンドン薄れていくところにいつまでも立っているつもりはないので、もう消えてしまったところから地面に降り立ってみるが、足に感じる感触は世界樹前広場のコンクリートのタイル床ではなくて普通の土の感触。
 この感触は間違いなく本物だ。

 …………ということは、今までいた世界樹前広場は幻術ということか。







「ネギ君が一晩でやってくれたんじゃよ。まだ世界樹前広場だけで、他の5つの場所の準備はまだ出来ておらんがな。
 要するに、今までのいたところは幻術で世界樹前広場に見えていただけで、実際はこういう森の中に転移していたというワケじゃよ。転移と幻術の組み合わせじゃな。
 もちろんここら辺なら告白危険区域から大きく外れておる。ここでならいくらでも生徒達に告白してもらっても構わんぞい」

「はい。改めて簡単に説明しますと、幻術で告白の危険区域と同じ場所を作成しておいて、実際の危険区域に入ろうとしたらコッチの幻術側に転移するように転移魔法ゲートで危険区域をスッポリと覆ってます。
 そうすればこのように危険区域ではない場所に誘導できるというワケです。ちなみに今、世界樹前広場を監視している人がいたとしても、ただ世間話をしているようにしか見えないはずです。
 本物と幻術のリンクはしっかりしていますので、目的の場所に入れない、出れないなんてことはありませんので大丈夫ですよ。
 それで皆さんにお願いしたいことですが、転移魔法ゲートを無視して危険区域に入り込める呪符を用意しますので、当日にウッカリと本当の危険区域に入り込むような人がいないかを見張っていて欲しいんです。
 もし入り込んだとしても幻術で違和感がないようにしていますし、そもそも入り込む人なんかいないとは思うんですがね、一応は念のためにお願いします。
 あとは転移空間や幻術の維持をしている要石の監視でしょうか。
 この魔法は世界樹の魔力溜まりの魔力で維持しています。維持には特に手間も必要ないですが、要石に何かあったらその限りではありませんので」


 これは何とも…………最近ネギ先生がよく考え事をしていたように見えていたのは、この魔法を作っていたからなのですか。
 でもこれなら確かに普通にパトロールするよりは楽ですね。魔力溜まりの広場にいる全員を見張る必要もなく、ただ間違って入り込むかもしれない人だけに注意すればいい。
 問題があるとすれば転移空間や幻術が切れてしまうことですが、それこそ要石をしっかり守っていれば問題ないでしょう。


「せっかくの学園祭じゃからの。皆に仕事を増やすのは心苦しいと思ってネギ君に相談したんじゃが、これなら当初の予定よりは人手が少なくて済みそうじゃ。ネギ君には残り5箇所の準備もお願いするよ。
 ありがとうのぉ、ネギ君。お礼にネギ君はパトロールは免除してあげるからの。ネギ君は最初で最後になるかもしれん学園祭なんじゃから思いっきり楽しみなさい。
 ただ、転移空間や幻術に不具合があったときはその限りではないので、そのときはよろしくの」

「はい、ありがとうございます」


 パトロール免除。ということはネギ先生の自由時間が増えるということか。
 それなら一緒に学園祭を回る時間も増えるかな。
 それにしてもやはりネギ先生の本領は戦闘ではなく、こういう時間をかけて準備する縁の下の力持ち的なことに向いて発揮されるのかな。









「シフトの詳細などは後ほど伝えるからの。よろしくお願いするぞい。
 それでは解散…………なのじゃが、ネギ君? 転移空間とか解除してしまったみたいじゃけど、ワシらどうやって戻るんじゃ?」


「…………え? ………………転移魔法で戻りましょうか。エヴァさんの家の近くなら人通りも少ないから目撃されないでしょうし」



 …………ネギ先生ェ。












━━━━━ 葉加瀬聡美 ━━━━━



「……………………」

「………………どうします、超さん?」


 これは明らかにおかしいですよ。
 せっかく魔法関係者が集まることを聞いたから覗き見してても、何で学園長達が世間話しかしてないなんて。


「…………幻術か何かを使ているノカ?」

「で……でもネギ先生達を一度も見失わずにずっと尾行してきたんですよ?
 それなのにいつの間に幻術にかかったというのですか?」

「…………ネギ坊主だたらあり得るヨ」


 おそらくは世界樹発光が1年早まったことの対策会議だと思うんですが、彼らがしているのはただの世間話。
 わざわざ学園祭間近の今の時期にする話ではありません。

 まあ、学園祭当日の天気については仕事の話とも言えなくはないですけど。





「もしかしたら暗号か何かで彼らだけでわかる会話をしているのカ?
 いや、覗かれているのは気づかれていないはずダカラ、わざわざそんなことする必要はないヨ。
 …………しょうがない。監視ロボットだけ置いて私達は帰るとするネ。もしこれが罠だとしたらマズイヨ」

「そうですね。もうかれこれ1時間ぐらいずっと世間話しているだけですし…………」


 うう~、学園長の話長すぎです。

 学園祭まであと2週間を切りましたが、既に田中さん達の準備は完了しました。
 魔法バレのワンクッションのための武道会のM&Aの準備も完了してますのでもう大丈夫だとは思うのですが、それでも学園の動きがわからないのは不安です。
 最近の超さんは怪しまれるようなことはしていないはずですから、おそらく学園からのマークも薄くなっていると思いたいです。





「こうなたからには、少しネギ坊主に接触して情報を集めるしかないネ。
 どうせ“航時機カシオペア”も渡さなきゃいけなかたし丁度良いカ。学園祭が始まるまではまだ少し時間があるから、何とか理由を作てネギ坊主に接触してみるヨ」


 …………本気ですか、超さん?
 そんなわざわざ虎穴に入らなくてもいいのではないんでしょうか?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 超、ひたすら待ちぼうけを食らうでござる、の巻。
 ネギまの幻術とかって便利ですよね。幻術なのにリーチが伸びたりしますし。他にも盗み聞きしている人達にはたわいもない会話に聞こえるようにする魔法なんかもありますしね。

 次回から学園祭編に入ります。
 なお、超の末路…………じゃなかった、運命はもう決めています。



[32356] 第56話 学園祭① カシオペア
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/15 11:03



━━━━━ 古菲 ━━━━━



 待ちに待った学園祭、麻帆良祭当日。
 私はクラスのメイドカフェの当番と中武研の出し物の演舞を予定しているぐらいで、他には特にどこか行く予定はないアル。
 麻帆良祭には面白そうな格闘大会とかないアルしね。

 それにネギ坊主のおかげで私達は告白阻止のパトロールも免除されているしから、ネギ坊主について学園祭を回ってみようと思っていたのアルけど…………。





「…………というわけでネギ坊主。
 アスナさん達やクラスの皆の部活の出し物にいかなきゃならなくて時間が足りないみたいネ。そんなネギ坊主にタイムマシンをプレゼントするヨ」





 超が壊れたアル。

 何だかやけに超の後ろを走り去っていく着ぐるみさん達を遠くに感じるアルよ。
 皆楽しそうアルね~。

 ………………常日頃から科学に魂を売ったマッドサイエンティストと自称していたけど、ついにタイムマシンを作ったなんてまでアホなこと言い出すなんて…………きっと疲れてるアルね。


 今すぐ超を保健室に連れて行かなければ。
 せっかくの学園祭だけど、超が元に戻るまで私が看病するアルよ。親友がここまで壊れてしまったのに気づかなかった私にも責任があるネ。
 アスナ達は予定通りに学園祭を見て回ると良いアル。





「…………超、きっと疲れてるアルよ。
 ホラ、ちょっと保健室に行って休むと良いアル。私も付き添うヨ」
 
「ちょ!? その憐れみの目で見るのはやめるネ、古! それに皆まで!?
 私は正気ヨ!!!」

「大丈夫アル。ネギ坊主の治癒は凄いから、少し心と身体を休めてリラックスすると良いアル。
 ネギ坊主、お願いできるアルか?」

「…………えーっと、とりあえず話だけなら聞いてあげてもいいんじゃないですか?
(菲さん、その間に葉加瀬さんを呼びましょう。葉加瀬さんならきっと何とかしてくれます)」

「聞こえてるヨ! 本当にコレはタイムマシンなんだヨ!
 お願いだから真面目に話だけでも聞いて欲しいネ!」


 うん、わかったアルよ。
 聞いてあげるから少し落ち着くアル。

 古にこんな目で見られるなんて、超鈴音一生の不覚ネ。とブツブツ呟きながら超が取り出したのは…………懐中時計?
 これがタイムマシンなのカ? いくら何でも冗談きついアルよ、超。
 それに私は既にバカレンジャーを卒業したネ。





「これは懐中時計型航時機“カシオペア”。使用者とそれに密着した同行者を時間跳躍させる脅威の超科学アイテムヨ。
 …………と言っても、実はこの航時機タイムマシン。駆動エネルギーに使用者の魔力を使てるネ。だから私1人では動かせないのヨ。
 実際に動かしたのは1回だけ。しかも2年半ぐらい前の話ネ」

「超りん、それ大丈夫なん?
 それに何で今まで1回しか動かしたことないん?」

「いや、実は動かすのに物凄い魔力が必要なのヨ。24時間の時間移動するだけでも普通の魔法使い5人分くらいの魔力が必要ネ。
 しかも複数の人間の魔力が混じてしまうと不具合出てくるから、絶対に1人だけの魔力で動かさなきゃいけないのヨ。
 だから作たはいいけど誰も使えなかたのでお蔵入りになてた発明ネ。あ、コレ説明書ヨ」

「えーっと…………普通の魔法使い5人分ってことは、木乃香お嬢様でもそうそう扱うことが出来ないということですか。
 確かにそれでは使える人はなかなかいないでしょうね」


 そうアルね。
 確か普通の魔法使いの魔力量が1~2だとすると、木乃香が5強、ネギ坊主が10だったけど京都で更に増えて20。
 それだったらネギ坊主ぐらいしか使える人いないアルね。


「しかもこの世界樹の魔力充ちる今年の学園祭でしか使えないネ。
 これを逃したら使えるのは22年後ヨ」

「…………はあ、そうなんですか」

「? ネギ先生せんせー?」

「何でこんなの作ったのよ、超さん?
 これ明らかに使えないじゃない? たまたまネギの魔力量が大きかったから使えるみたいだけどさ」

「マッドサイエンティストの血が騒いだネ…………というのは冗談だヨ。まあ、どうしても必要に駆られてネ。
 …………で、このタイムマシンをあげるかわりに、ちょとネギ坊主にお願いがあるヨ」

「…………お願い、ですか?」

「難しいことじゃないネ。しかもネギ坊主にとても良いことヨ。単純にそれを使て、私を10時間前まで連れて行て欲しいネ。
 ネギ坊主だて本当に時間移動出来るかわからないのに、自分1人だけで跳んだりアスナさん達を一緒に連れて跳ぶのは不安ダロ? それなら作た私が最初の1回目を一緒に跳べば、何か装置に不安があたりしないことがわかるよネ?
 ちゃんとコンピューター上のシミュレーションではバチリ跳べるヨ。必要なのは膨大な魔力だけネ」

「それはそうですけど、何で10時間前に戻りたいんですか?」


 そうアルよ。何で超は過去に戻りたいアルか?
 それに過去に跳んだりしたらタイムパラドックスというものが起こる可能性があるヨ。ヘタしたら取り返しのつかないことになるアルよ。
 頭の良い超が何でその危険を冒してまで過去に跳びたいネ?









「…………私がいろんな研究会に参加していることは知ているカナ? その中の一つに量子力学研究会という大学のサークルがあるネ。
 もちろん量子力学研究会もこの学園祭で研究結果を発表することになており、私も長い時間をかけて論文を用意してあたネ。
 まあ、最近はロボット研究会の研究室のパソコンでその論文を書いていたのだヨ」

「………………超さん、もしかして?」


 うん、アスナ。私もすっごく嫌な予感がするアル。
 あの頻繁に爆発事故が起こるというロボット研究会の研究室アルか。


「お察しの通りヨ。爆発じゃないけどネ。
 今朝研究室に顔を出したら作りかけのロボットが夜の内に倒れていたらしく、パソコンがロボットの下敷きになて昇天されていたのヨ。
 ハードディスクも完璧に破壊されてたからサルベージも不可能ネ。アハハハハ…………ハハハ…………。

 …………。

 ……………………。

 ………………………………本気でお願いヨ、ネギ坊主っ!
 アレは私1人の論文じゃなくて研究会の皆で作た輪読論文ネ! 作た皆のデータを持ち寄ればある程度データの復旧は可能だが、それでも今日の発表までには時間が足りなさ過ぎるネ!!!」

「お、落ち着くアル、超!」

「ちゃんとタイムパラドックスが起きないようにするヨ!
 10時間前に戻てロボットが倒れるのを防止するのではなく、データを抜き出した後は今の時間になるまで人目のつかないところでジとして隠れているヨ!
 そしてこれから過去に戻るこの私を過去戻った私が引き継ぐネ!!!」

「わ、わかりましたから落ち着いてください、超さん!」


 うわぁ、ここまで取り乱した超を見るのは初めてアル。よっぽど切羽詰ってるアルね。
 確かに皆で作った論文を自分のミスで駄目にしたら焦るのは仕方がないアル。

 これは…………どうしたら良いアル?
 私としては超が困っているなら助けてあげたいけど、それでもネギ坊主がタイムマシンなんて胡散臭い物を使うのはやめて欲しいアル。
 もしどことも知れぬ異空間にハマり込んで永遠に漂流でもされたらどうすればいいアルね。ネギ坊主が額に指を当てて考え込んでいるけど、危ないことはやめて欲しいアル。



 ………………でも、ネギ坊主だったら普通に次元の壁も打ち破って戻って来れそう?



 って駄目ネ。何て考えをしているのか私は…………。
 “ネギ坊主だったら大丈夫”なんて、そんな簡単に考えたら駄目アルよ。
 ネギ坊主だって所詮は人間。いくらネギ坊主が凄くたって、何か不測の事態がないとは限らないアルよ。それにネギ坊主が大丈夫でも、一緒に行く超はアウトだし…………。



 …………あれ? 何か違う?









「…………あ、本当に大丈夫だ。もう1人の僕がいる。
 今、僕自身と念話が通じました。ちゃんとタイムトラベル出来たらしいです」


 え? それ本当アルか?
 ネギ坊主は考えことをしていたんじゃなくて、念話をしていたということアルか。


「ってーことはもう未来のネギ君が過去に戻っていて、どっかに隠れてるってことなん?
 ん? 過去? 未来? …………過去と未来の関係がややこしいわぁ」

「大丈夫です。言いたいことはわかりますよ、木乃香さん。
 もし本当にこれがタイムマシンで僕が超さんと過去に戻っていたのだとしたら、今の時間には僕が2人存在することになると思ってもう1人の僕に念話してみましたけど本当にいました。
 超さんが言った通りに昨日の夜へタイムトラベルしてデータを抜き出した後、学園祭のせいで誰も来ない大学の地下の部屋に隠れているそうです」

「ほ、本当カ!? お願いヨ、ネギ坊主! 私を過去に連れて行て欲しいネ! さきも言た通りタイムマシンはあげるし……………………そうだ! この“超包子”専用食券もあげるヨ!
 それにネギ坊主が過去に跳ばないと、ずとネギ坊主と私が存在し続けることになるネ!」

「そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ。危険はないみたいですから、ちゃんと過去に連れて行ってあげます。
 それではアスナさん達は…………うん、世界樹前広場のカフェ“イグドラシル”で待っててください。僕がそこに行きますので、そこで合流しましょう」

「え? 本当に大丈夫なの、ネ『大丈夫ですよ、アスナさん』うわひゃっ!?」


 おお! ネギ坊主から念話がきたアル!
 でも目の前のネギ坊主はカードを額に当ててないみたいだから、大学の地下に隠れているというもう1人のネギ坊主が送ってきたということアルね。

 本当にネギ坊主がもう1人いるのカ。確かにそれだったらネギ坊主は安全に過去に跳べたという証拠になるアルね。
 どうせネギ坊主のことだから、もう1人のネギ坊主が本物かどうかの確認は何らかの方法でしているだろうから安全だろうアルし、それなら過去に跳んで困っている超を助けてあげて欲しいアルよ。












━━━━━ 超鈴音 ━━━━━



 計画通り…………っ!



 …………おとイカン。思わず顔がニヤケてしまたヨ。
 でもこれでネギ坊主に疑われずに“航時機カシオペア”を渡すことが出来たネ。

 しかも元の時間になるまで隠れている間に、説明書を使て懇切丁寧に“航時機カシオペア”の使い方をレクチャーしておいたヨ。
 これならネギ坊主が“航時機カシオペア”を調べたりする確率は低くなるネ。
 精密機械だからバラさないないようにも念を押しておいたし、学園祭期間は忙しいので疑問があたら学園祭後にまとめて聞くということにしておいたヨ。


 ネギ坊主の人の良さにつけこんで悪い気もするけどネ。
 だが確かにネギ坊主はエヴァンジェリンが表現したように、礼儀正しくお願いして、なおかつ本当に困ていて、そしてネギ坊主でしか解決出来なくて、でもそれはネギ坊主ならあまり手間にならないのなら、大抵のお願いごとは聞いてくれるみたいだヨ。
 さすがに全世界への魔法バレの手伝いは無理だろうけどネ。とりあえずはこの結果で満足しておくヨ。



 これで学園祭最終日になたとき、“航時機カシオペア”を持ているネギ坊主は1週間後の未来に跳ばされる。
 それに“航時機カシオペア”に細工してタイムトラベルに必要な魔力を無駄に多くしておいたから、少しでもネギ坊主の力を削ぐことが出来るヨ。本当は魔法使い5人分の魔力なんかいらないネ。
 もし最悪の事態になて、ネギ坊主と戦うことになてもそれが有利に働くヨ…………それでも勝てるとは思えないガ。


 それにしても暇ネ。
 大学の地下に隠れてから7時間。最初は“航時機カシオペア”のレクチャーなどで時間を潰したが、それでも10時間ともなるとすることはないヨ。私達が過去に飛ぶまであと3時間もあるネ。

 まあ、最近は計画の準備に忙しくてロクに休めなかたから、丁度良い休息になたけどネ。



 ネギ坊主も私の目の前で寝てる。
 スースーと寝息を立て、丸まて横になているネギ坊主は本当に年相応の子供に見えるヨ。

 …………寝ているネギ坊主は素直に可愛いと思えるのだがネ。


 今いる大学の地下は埃ぽくて薄暗くて肌寒い所だたが、ネギ坊主の結界のおかげで快適な空間になている。
 埃ぽいどころかどこかの工場のクリーンルームみたいに空気が澄んでいるし、温かみのある明るさの上に眠くなりそうな室温に保たれている。
 ネギ坊主は本当に魔法への考え方が普通の人とは違うネ。何この生活に便利な魔法?









 しかし、こうまで無防備に寝ているように見えるネギ坊主を目の前にしていると、今ここでネギ坊主に仕掛けてしまいたい気持ちが湧き上がるネ。
 でもそれは駄目。何故なら


「…………ん? 超さん、今何か不穏当なこと考えませんでしたか?」

「考えてないヨ。別に寝ているネギ坊主の顔に落書きしようとか、寝顔の写真を撮ていいんちょに売りつけようとか考えていないネ」

「本気でやめてください」


 こんな風に私が仕掛けようとか考えると、それを察知するようにネギ坊主が目を覚ましてしまうからヨ。

 …………というか、何で気づけるネ? 何で起きれるネ?
 これでネギ坊主が起きるのは3回目。偶然とかじゃなくて、絶対に私の僅かな心情の揺れに反応して起きてるヨ。まるで熟練した戦士のようネ。
 ネギ坊主は今までどんな生活をしてきたのヨ?


「何か変な夢見ました。龍宮さんが

『やぁ、ネギ先生。君のお父さん達に頼まれてね。これから昼夜問わずの四六時中、例え授業中であろうが就寝中であろうがネギ先生に隙があったら不意打ちを仕掛けることになった。
 何でも常在戦場の心構えを養うための特訓らしい。私の不意打ちを防げなかったらその日の修行は3倍だそうだよ。
 私としても不意打ちが成功したらボーナスが出るので手加減はしないよ。ハッハッハ』

 って通告してくる夢です」

「…………ネギ坊主の父親は行方不明だたのじゃないカ?」

「そうなんですけど、所詮は夢ですし。
 でもやけにリアルな夢でした。もしかしたらどっかの平行世界では実際に行なわれたことかもしれません………………っていうか実際に行なわれたことです。
 …………あー、駄目親父達ブン殴りたいなぁ…………」





 …………ネギ坊主、疲れているんじゃないのカ?
 何だか平行世界とか支離滅裂なことを口走てるヨ。1km先からのライフルの狙撃はさすがに辛いんだよなぁ、とか言てるヨ。学生なんだからもっとマシなバイトしてくれ、とか言てるヨ。

 …………平行世界云々はタイムマシンを持ている私が言えることではないガ。


 生徒の告白阻止の仕事が忙しかたのかもしれないヨ。
 学園祭をアスナさんや古達と一緒に回る時間をとれるように、準備の方に力を入れてパトロール免除を勝ち取たらしいからネ。

 いや、本当に先日は驚いたヨ。
 学園長達が世界樹前広場に集まていたと思たら、いきなりエヴァンジェリンの家の近くに出現するんダカラ。
 どうやら世界樹前広場の学園長達は幻術だたらしいネ。あとで古から事情を聞いたときは素直に“してやられた”と思たヨ。


 でも私にとても別に悪いことじゃないネ。
 最終日に世界樹の魔力溜まり6ヶ所を占拠しなければならないが、告白のための人がたくさんいたら怪我人が出る恐れがある。
 だけど学園の方で人払いを済ませてくれているのなら、私としても遠慮なく田中さん達を侵攻させられるヨ。これは不幸中の幸いネ。







「…………眠気が覚めたな。あと何時間ですか?」

「3時間。何か暇つぶしを持てくれば良かたネ」

「そうですねぇ」

「そんなに暇なら話でもしようカ。
 …………ネギ坊主。現実が一つの物語だと仮定して、君は自分を正義の味方だと思うかネ? 自分のことを…………悪者ではないかと思たことは?
 世には正義も悪もなく、ただ百の正義があるのみ…………とまでは言わないが、思いを通すはいつも力ある者のみ。
 正義だろうが悪だろうがネ」

「いきなり哲学ですか? …………まあ、暇だからいいですけど。
 “正義の味方”と“悪者”…………ですか。別にあんまりそういうことは考えたことないですね。あくまで僕の主体は“僕”であって、“正義の味方”と“悪者”なんかは副次的なものです。
 それと“思いを通すはいつも力ある者のみ”というのはよくわかります。本当によくわかります。ウン。………………コンチクショウ」


 後半はやけに実感篭てるネ?
 この子昔に何かあたのか…………って、そうか。住んでいた村の壊滅があたヨ。
 そのせいでこんな性格になたのかもしれないネ。





「それと僕の個人的な考えですけど、“正義”の反対は“悪”ではないと思うんですよ。
 日本の漫画なんかでは何故か“正義 VS 悪”って感じになってますけどね」

「ん? それは私が今言た百の正義と同じで、“正義は一つではなくて人によて変わていくものだ”、ということカ?
 悪にも悪なりの正義があると?」

「いえ、それは確かにそうなんですが、言っていることはもっと単純なことです。言葉の意味でのことですよ。
 “正義”に対するのは“不義”。もしくは“正しい”に対するは“間違い”か“誤り”。そして“悪”に対するのは“善”であるということです。
 だってそうじゃないですか。日本語では“善悪”や“正誤”とは言います。しかし“正悪”とか“善誤”とかは言いませんよね? まぁ、“正邪”とは言いますがね。
 例えばテストの答えが“間違っていた”としても、テストの答えが“悪い”なんて表現しません」


 …………それは確かにそうだネ。
 ネギ坊主の言う通り、言葉の上では“善悪”と“正誤”だヨ。


「基本的にこの世の中は

くて、正しいこと”
“悪いけど、正しいこと”
“善いけど、間違っていること”
“悪くて、間違っていること”

 の4種類に分かれているんじゃないかと考えてます。
 数学のX軸とY軸で構成されている直交座標系を思い浮かべていただければわかりやすいですかね。X軸が“善悪”で、Y軸が“正誤”。
 物事はその2次元の座標のどこかの場所にある、と…………」

「なるほどネ」

「例えば“嘘をつく”ということで考えてみましょう。“嘘をつく”というのは世間一般的に“悪いこと”です。
 しかしどうでしょう? “嘘をつく”というのは“間違っていること”なんでしょうか?」

「ネギ坊主的には違うのかナ?」

「状況によりけりです。

 例えば貴方が医者だったとしましょう。貴方が担当している患者はとても心が弱く、流されやすい人です。
 癌になったと言われたらそのショックで死んでしまうような人です。しかし逆に癌になったとしても“治る病気だから大丈夫”と言えば、それを信じて活力が湧いてきて癌すらも治せるような人です。

 さて、その人が実際に癌になっていまいました。
 貴方は正直に“貴方は癌です”と嘘をつきませんか? それとも“治る病気だから大丈夫”と嘘をつきますか?」

「…………要するに、その場合だと“嘘をつく”=“悪いけど、正しいこと”。
 “嘘をつかない”=“善いけど、間違っていること”ということだと言いたいのかナ?」

「正直でいるということは美徳ではあります。ですがそのせいで人が死んだら、それは間違っていることではないでしょうか。
 いや、それ以前に“人を死なせること”は“嘘をつくこと”より数段悪いことだと思うので、むしろ相対的に考えれば“悪くて、間違っていること”だとすら思ってしまいますね。
 ま、あくまでも僕個人の考えです。更に言うなら“善悪”も“正義不義”も、それぞれ人の考え方、価値観、宗教観などで変わってきます。陳腐な言い方ですが、“この世には絶対の善も悪も正義も不義もない”のだと思っています」





 …………それで言うと、私の計画は何なんだろうネ?
 “くて、正しいこと”ではないとは思う。何だかんだで私の計画では世界に混乱を招くことになるのだカラ。
 でも“悪いけど、正しいこと”と“善いけど、間違っていること”のどちらかと言えば、“悪いけど、正しいこと”だと思いたいヨ。

 私の目的である強制認識魔法による全世界への魔法バレで、魔法使いは今までよりも大手を振って人助けを出来るようになるし、何より魔法世界の崩壊を防ぐことが出来るヨ。
 だが一度世界に魔法の存在が知れれば、相応の混乱が世界を覆うことになてしまう。もちろん今後十数年の混乱に伴って、それでも起こり得る政治的軍事的に致命的な不足な事態については私が監視し調整するが…………ネギ坊主はそれでは納得しないだろうネ。


 …………やはりこれではネギ坊主を仲間に引き入れるのは難しい…………かナ?


 今のがネギ坊主の考え方ならば、協力してくれる可能性はある。
 しかし、それでも私のやり方ではネギ坊主を味方につけるのには何かが足りないとしか思えないヨ。

 ここはヘタに情報を開示せずに、このまま1週間後の未来に跳んでいてもらた方がいいネ。
 少しでも色気を出してネギ坊主を引き込もうとしたら、そこから私の計画に辿り着いてしまいそうな怖さがあるヨ。







「相変わらずネギ坊主は物事を考えているネ。10歳とは思えないヨ。
 そうだ。突然話は変わるが、“まほら武道会”というのは知ているカナ?」

「うん? 本当に突然ですね。知ってますよ。25年ぐらい前までは麻帆良祭の目玉だった格闘大会ですよね。
 最近は秋の体育会の大格闘大会みたいには盛況じゃないみたいですが…………」

「知ているなら話は早い。実は私はその“まほら武道会”を復活させようと思ているネ。
 麻帆良祭で開かれる格闘大会はいくつもあるが、どれもショボイものばかり。そのいくつものショボイ大会をM&Aでまとめて、一つの大きい大会にしようと思ているのヨ。
 ネギ坊主も出てみないカ? 今日の夜に受付・予選で、明日の8時から本戦開始ヨ」

「何でまたそんなことを?
 超さん、あんまり派手なことはしないほうがいいんじゃないですか? 超さんは学園長達に目をつけられてるんですよ?
 僕も超さん達には注意しておくように言われてますし」





 え? 最近は大人しくしてたはずヨ。





「月一でロボット研究会の入っている大学棟で爆発事故起こしてたら当然でしょうに。あとロボットの暴走事故とかもです。
 そもそも試作実験機が暴走したときのために捕獲部隊が用意されてるってどういうことなんですか?」

「…………ゴメンナサイ」


 しまた。素で目つけられることしてしまてたヨ。
 でもそれは私だけでなく、むしろ他の研究会員が原因のときの方が多いんだヨ。私だけのせいじゃないネ。












「明日の8時からとなると…………だったらちょうど良いかな」

「ん? 何かあるのかナ?」

「…………柿崎さんが僕用のメイド服用意してるようなこと言ってたんですよ。
 ですから柿崎さんが当番の明日の午前にクラスへ顔を出したら、僕もメイド服で接客させられそうなんですよね」





 さすがは3-Aのエロ番長、柿崎サンネ。
 ネギ坊主に苦手意識を持たせるなんて只者じゃないヨ。

 渋るようだたらナギ・スプリングフィールドのことを話題にして“まほら武道会”に出てもらおうと思ていたが、これならそんなことしなくても出てもらえそうヨ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 正義やら悪云々は自分の勝手な考えですので、あまり深くは突っ込まないでください。


 あと第一章での没ネタみたく、2人きりになった超がショタに目覚めるとか思いついてしまったけど一応自重しました。



[32356] 第57話 学園祭② まほら武道会予選
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/22 10:06



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 遂に来たという感じですね。原作との大きな乖離が…………。

 “航時機カシオペア”で過去に跳んだとき、魔力の消費がかなり大きかったです。
 跳ぶ時間にもよりますが、10時間の跳躍だけで僕の全魔力量の1割ぐらい。戦闘に使うような極短時間の跳躍なら、1回につき『千の雷キーリプル・アストラペー』1発分ぐらいの消費量でしょうか。
 説明書では一度に跳べるのは24時間となっていましたので、24時間跳ぶにはそれこそ超さんが言った通りに普通の魔法使い5人分ぐらいの魔力量、僕の全魔力量の2割ほどが必要みたいでした。
 さすがにこれだと戦闘で頻繁には使えませんね。


 どうやら“航時機カシオペア”が細工されているようです。
 タイムトラベルに必要な魔力量なんて誰も知らないでしょうから、多く吹っかけられてもこちらとしては信じるしか出来ませんから文句は言えません。

 さすがに原作よりもネギに対しては明らかに警戒しているようですねぇ。僕の力を削ぐためにこんな小さいところから仕掛けてくるなんて…………。
 まぁ、今までいろいろと僕がハッチャケてましたから仕方がないですが。





 それにしてもタイムマシンって…………本当にタイムマシンなんですねぇ。





 …………言葉的にはおかしいですが、突っ込まないでください。
 いや、でも時間移動出来るなんて本気で驚きましたよ。知識では知っていましたが、前世では超さんいなかったから体験しませんでしたから。


 さて、それではどうしようか?
 とりあえず学園長に超さんが何か企んでいるということを伝えたら、監視の意味でも“まほら武道会”にも出ることの了解をもらえました。

 原作と違ってグッドマンさん達は出ないみたいです。あとはアスナさんや刹那さん、エヴァさんも出ないです。
 今のアスナさんは別にお金に困っていませんし、刹那さんには原作通りにちびせつなさんで一緒に武道会会場の裏を探ってもらうようにお願いしましたからね。
 エヴァさんは単純にめんどいそうです。原作と違って僕の力のことはよく知ってるでしょうし、ディナーなら頻繁に付き合っているのでわざわざこの大会で賭ける必要はないみたいです。

 原作通り出場するのは菲さんと楓さん、それと小太郎達君。主に力試しとか娯楽的な意味で。
 小太郎君は賞金オワタとか言ってましたけど…………ま、諦めてちょうだい。
 僕だってのどかさんに贈った“鬼神の童謡”とかで貯金を結構使っちゃったから1000万円は惜しいんだよ。


 それと超さんの目的についてですが、僕としてはもちろん全世界への魔法バレなんかはさせるつもりはありません。そんなことしたら麻帆良に居られなくなりますからね。
 そのためにも超さんの計画を潰すためには以下のことをしておけば大丈夫でしょう。

① 今のうちに飛行船を故障させておく
② 今のうちに鬼神を破壊しておく
③ 今のうちに超さん達に病気になってもらう
④ 今のうちに魔力溜まりの魔力を吸い取っておく
⑤ 今のうちに世界樹自体を破kゲフゲフンッ!

 …………失礼。最後は変な電波を受信しました。いくら何でもそこまではしないです。
 それにヘタに未来を変えて、わざわざ原作を知っているというアドバンテージをなくす必要はありません。そこまでしなくても普通に勝てますからね。



 それとあまりげんさくとはなれていることはしたくないですしー。



 でもなんだ、勝つのは簡単じゃないか。
 とりあえずまほら武道会に優勝することを目指しましょう。













「へぇー、龍宮神社で試合を行なうんやね」

「頑張りなさいよ。応援しているからね。
 えーっと、ユニコーンガンダム●●●●●●●●●…………でいいのかしら?」

「なぁ、本気でそれで出るつもりなんか? ネg『今の僕はネギじゃないってば』むぐぅっ!?」


 さっき注意したのに、駄目だなぁ小太郎君は。
 そんなお喋りの口はずっと塞いでおいちゃうよー、と念話で小太郎君にお願いをします。




 というわけでやってきました、まほら武道会予選会会場の龍宮神社へ。
 初日の今日はクラスのメイドカフェに顔出した後はアスナさん達と一緒に学園祭を回りました。
 原作みたく保健室で一日寝過ごすことはありませんでしたが、普通に皆さんの部活の出し物を回ったり、麻帆良祭マル秘コスプレコンテストにちうさんと一緒に参加したりして、普通に楽しい時間をすごすことが出来ました。


 そして今の僕は、コスプレコンテストのときと同じく、年齢詐称薬で大人になった上でユニコーンガンダムになってます。ちなみに小太郎君も同じく大人Verです。
 これなら誰も今の僕を見て普段の僕を連想したりしないでしょう。終わった後でマスコミに囲まれるのは面倒臭いですから。


 そしてガンダムになった利点はもう一つ。
 田中さんのレーザーがOKなら、僕のビーム・マグナムとかもOKってことですよ。


 きっと多分おそらくそのはずです。


 …………そうですよね? 田中さんはOKで僕はNGってことはないはずですよね?
 一応は田中さんがレーザー撃ったら僕も使い始めるようにしますが、それなら超さんから文句出たりしないでしょう。いえ、出させません。
 まさかそんな主催者が贔屓したりはしないですよねー?



 うわーい。魔法バレのための大会のはずが、何故かオーバーテクノロジーのロボット大会になっちゃうぞー。
 これで明日明後日の話題はロボットで持ち切りになるでしょうねー。










「や、やあ…………何しているんだい、君達は?
 というか小太郎君の顔が青くなっているから、口を塞いでいる手を放してあげたほうが良いと思うけど…………」

『アレ? タカミチがどうしてここに?』

「学園長に言われて、僕も超君を調べるためにこの大会に出ることになったんだけどね。先ほどの超君の挨拶を聞いた限りではそれで正解だったようだよ。
 …………君はもしかしてその格好で出るのかい?」

『ええ、そのつもりです。だから僕のことはネギって呼ばないでくださいね』


 へー、やっぱりタカミチも出るのか。
 あ、いつの間にかアルさんも会場に出現していたよ。

 ここら辺は原作通りですね。


 さて、それでは予選が始まりますので移動しましょうか。
 アスナさん達は見ててくださいね。

 ホラ、行くよ小太郎君。
 いつまでも寝てちゃ駄目だよ。





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「ロ、ロボット!?」「コスプレコンテストで見たぞ、アレ!?」「ロボット研究会か?」「ロケットパンチか? ロケットパンチ撃てんのか?」「ロケットパンチ見てみてぇ!」「ドリルは!? ドリルはないのか?!」「あの姿ではドリルはなさそうだな」


 …………ノリいいですね。さすがは麻帆良の住人達です。
 つーか本気でロボットと思われて受け入れられるのは、逆に麻帆良のことが不安になってきます。

 それと予選ですがやはり全員散らばってますね。別に予選で潰しあったりはしないで済むようです。
 僕はアルさんと同じ組ですけど……………………ここでアルさん潰したら今後の展開的にどうなるんだろ?



 …………やっべ、ちょっとやってみたい。



 アルさんも僕を見つめてるだけで、戦いに参加しないで高みの見物気取ってるのがちょっとむかつく…………あ、何かアルさんが他の参加者を凄い勢いでブチのめし始めた。
 いかん。殺気が少し漏れたか…………。


 そして何故か僕に襲いかかってくる人がいないという不思議現象が起きてます。
 戦いながらもチラチラと横目で見てくる人がいなかったら、まるでシカトされているようで寂しいです。このロボットの外見のせいなのか、今の僕にはそんなに手を出しにくいんでしょうか?





『おおーっと、強い!! 麻帆中、中武研部長古菲選手!!
 さすが前年度“ウルティマホラ”優勝者!! 体重差2倍以上の男達が宙を舞うーーーーーッ!!』





 あ、朝倉さんだ。はじめまして…………ではないか、一応は3-Aクラスで毎日会っていたんですから。
 でもこの人が登場するのはメタ的な意味では初めてですね。

 朝倉さんはただの司会兼進行役かな?
 この世界では朝倉さんにに魔法がバレているわけでもないはずです。それに今日までの僕への対応に何も変化がなかったことから、超さんから魔法バレのことを教えられている様子もないですからね。



 フム、このまま勝ち上がっていくと、

 D組は原作通りに菲さんと龍宮さん。
 E組も原作通りに楓さんと小太郎君。
 F組はタカミチと僕の知らない人。要するにタカミチに狙われるのが最後になっただけという幸運な人。
 そしてB組は僕とアルさんになりますね。

 他の組は皆知らない人が予選を通過です。アスナさん達が参加していない分、原作とは顔触れが違いますね。
 大豪院ポチさんっていう個性的な名前の人は覚えてましたけど、中村達也さんとか鈴木一郎さんとか山下慶一さんとか佐藤太郎さんって原作キャラでしたっけ?
 現実にもいそうな普通の名前だからわかりません。




 …………げ、ということは田中さんと戦うのは、グッドマンさんの代わりに本戦に出場する原作では名前も出ずに予選落ちだった男の人ということになりますね。
 うわぁ、男が脱げビーム食らうなんて誰得だよ?







 あ、そんなこと考えている間に、いつの間にかB組の残りが僕とアルさん。それと原作では本戦の解説役として頑張っていたリーゼント学ランの豪徳寺薫さんを残すのみになってました。
 アルさん無双でいつの間にかほとんどの人が場外に吹っ飛ばされたようです。

 あの、僕何もしてないんですけど? ここまで無視されると悲しいものがあるんですけど?
 …………せめて豪徳寺さんぐらいは僕が倒すとしましょう。



『さあ! B組も残り3人! …………2人と1体? とりあえず3人でいいや!!!
 本戦に出場するのはこの3人の内の誰なのか!?』



 はい。とりあえず“人”で数えてくださって結構ですよ、朝倉さん。“2人と1体”なんて言いにくいでしょうしね。

 アルさんはもうすっかりと観戦モード。1人で10人以上を場外にふっ飛ばしてたらもう充分なんでしょう。
 そして豪徳寺さんは僕にロックオンしたようです。絶対に勝てないであろうアルさんよりも、ジッと立っているだけで何もしなかった僕の方を狙うのは当然ですね。

 豪徳寺さん! 無視しないでくれてありがとう! 
 これで僕を無視してアルさんに吶喊されてたら僕泣いてしまいますよ!





「え、えーっと…………この豪徳寺薫! 本気で行くぜ! 覚悟しな!!!
 ………………言葉通じてるよね?」


 そりゃもちろん。
 通じてますよー、と目をギュオンと光らせて返事します。


「反応した!? やっぱり置き物じゃなくて出場者でよかったんだな!
 なら受けてみろ! 喧嘩殺法未羅苦流究極闘技『超必殺・漢魂』!!!」


 え!? 置き物と思われてたんですか!?

 …………あー、そっか。会場に上がってから動かずに周りを見てただけだったからか。
 モビルスーツ状態のときは動いたりしない限り本当にロボットですからね。そりゃ置き物と思われても仕方がないか。最近モビルスーツ使ってなかったから忘れてた。


 まあ、それはそれとして。前腕部に装備されているビームサーベル……腕部についたままですからビームトンファーを展開して、飛んでくる『漢魂』を切り払います。
 威力は『魔法の射手サギタ・マギカ』ぐらいですね。
 小太郎君が表現したように“ストレートパンチ1発分位の威力”ですけど、原作のネギは無防備で側頭部にモロ直撃してよく無事だったなぁ。


 あ、ビームトンファーは幻術を使ってただの金属の棒のように見せてますから、これで反則を取られることはないですよ。





 さあ! 無視しないでいてくれたお礼に、豪徳寺さんには必殺技を披露してあげましょう!
 両腕にビームトンファーを展開してから力を抜いてブランと腕を下ろし、右足を後ろに、左足を前に出しながら腰を下ろして構えます。

 中の人がバレないように風魔法の応用で声を変え、必殺技名を叫びながら豪徳寺さんに吶喊!
 行くぞ、豪徳寺さん! 必殺!!!
























「『Tonfaトンファー Kickキック』!!!」

「がぼぉっ!?」















 一瞬で間合いを詰め、豪徳寺さんの腹に右足で蹴りをドゴォォォ! って感じでブチ込む!!!
 トンファーを使って体のバランスをとり、より強力なキックとより早い体勢のたてなおしを実現した技デスヨ。





『全然トンファーじゃないっ!?
 それより中の人って女性!? っていうか新幹線アナウンスのあの人っ!?』





 中に人などいませんっ!!!












━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



「ネギ君、楽しそうやねー」

「フフフ、何だかんだいってもネギ先生は子どもっぽいところありますよね」


 フェイスマスクに隠れてて顔は見えへんけど、絶対にクスクスと笑ってるのがわかるわぁ。
 ネギ君はああいう悪戯っ子ぽいところがあるんやよねぇ。

 何というか…………ネギ君は好奇心旺盛な猫みたいなんやよ。ネギ君自身は自分のことを犬に近いと思ってるみたいやけど、ウチはむしろ猫に近いと思うなぁ。
 こういうことには興味ない振りしてるけど始まったら始まったで率先して楽しんでるし、本人は顔に出してないつもりでも興味深々なのは丸分かりなんやもん。
 そういうところも可愛いんやけどね。


 …………引き攣った笑顔で予選会の閉会を宣言している超りんも可哀想に。ネギ君自身は悪気ないんやけどね。
 ネギ君の見立てではあのおっきな田中さんて人が超りんの作ったロボットらしいから、ロボットとしての話題を掻っ攫ってしもうたネギ君をやるせない目で見とるんやろか?


 それにしてもネギ君が言った通り、超りんってば本当に何か企んでいるかなぁ?
 せっちゃんに明日の本戦のときに会場の裏を一緒に探って欲しいって頼んでたし、どうやらネギ君は超りんのこと本当に怪しんでるようやね。

 といっても、悪意を持って何か企んでいるかもしれないのが半分、素で何かとんでもないことを企んでいるかもしれないのが半分ってネギ君は言うてたけど、超りんの性格とロボット研究会の過去の所業から警戒しておくのは仕方がないかぁ。
 まあ、せっかくの麻帆良祭なのに爆発事故なんか起こされたらかなわんから、ウチらも気をつけて見ておくことにしよか。





「すげぇっ! 空飛んでるぞ、あのロボット!」「ちうたんのサインをくれ!」「さすが麻帆良驚異のメカニズム!」「ロケットパンチ見せてくれ!」「ビームは!? 目からビームとかは出せないのか!?」「麻帆良の科学は世界一ィーーー!!!」





 ズドド、と空を飛んでいくネギ君。
 あの格好でウチらと合流したらあとで大変なことになりそうやしな。ネギ君とは中夜祭で合流や。

 …………千雨ちゃんのファンの人って結構いるんやね。





「それでは私達も行きましょうか。………………アスナさん?」

「ん? ああ、ゴメン。昔の知り合いがいたから気になってね。後で話すわ」


 ん? 昔の知り合い? 誰のことやろ?
 ま、後で話してくれるんならええか。

 さーて、それじゃあ中夜祭に行こうか。
 ウチらだけでネギ君を独占しているのも悪いから、クラスの皆にも分けてあげなきゃいかんなぁ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 …………ちょっと遊びすぎましたかね?
 でも、ユニコーンガンダムの腕についているビームサーベルがビームトンファーということを知ってから、ずっとこのネタを使いたかったのです。
 でも形状からいって、ユニコーンガンダムのアレはそもそもトンファーじゃない…………。

 それと超対策に①~⑤はしませんからね。
 ちゃんと別ネタを用意してありますヨ。



[32356] 第58話 学園祭③ まほら武道会本戦開始
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/15 11:04



━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



 麻帆良祭初日が終了した。
 私だって麻帆良に来たばかりのころは、今まで体験したことがなかった麻帆良祭を楽しむことが出来ていたが、それでも4年目以降は苦痛になっていた。
 しかし今年はネギもいるし、アスナ達と一緒に回ったのは正直言って悪くない。久しぶりに楽しい学園祭となった。

 …………中夜祭で朝の4時まで騒いでるウチのクラスの連中には付き合いきれんかったがな。
 精神は肉体に影響を受けるから、子供の姿のまま不死となった私はそれなりに若いつもりだったんだが、あいつらといると本当に歳を実感してしまう。

 あれが若さか。
 凄いとは思うが、今更ああなりたいとは思わんな。


 そして狂乱の中夜祭も終わり、疲れたので私の別荘で休むことになったんだが…………。







「アルが…………予選に参加していただと?
 それは本当なのか、ネギ?」

「僕と一緒の組にいたクウネル・サンダースって人がそうですよ。
 顔も力も隠してたみたいですし、何かの仮装と思われても仕方がない格好してましたけどね」

「もしネギと同じ組じゃなかったら、私も気づけなかったかもしれないわねぇ」


 スマン、私はまったく気づかなかった。
 どうせネギが無双して終わるだろうと思ってロクに見てなかったからなぁ。

 アスナはアルのことは“紅き翼アラルブラ”関連で知っているんだったな。
 私はアスナの事情のことを一応聞いてはいるが、まさかアスナが“黄昏の姫巫女”だったとは…………。

 タカミチが後見人をしていることから何かあるとは思ってはいたが、随分と大きな事が出てきたものだ。



 それにしてもこんなお遊びに参加するなんて、あの古本は何を考えてているんだ?
 まあ、アレはおふざけが好きな奴だから、どうせろくでもないことを企んでいるのだろう。そもそもクウネル・サンダースという名前からしてふざけているじゃないか。





「あの人って僕の父と『仮契約パクティオー』してるんですよね。
 “仮契約パクティオーカード”を見せてもらえば、僕の父が存命かどうかぐらいはわかるんじゃないですか、エヴァさん?」

「ああ、そうだな。
 …………ネギはナギが生きてるかどうか知りたくないのか? それにアル自体に興味ないのか?」

「いえ、別に。今の僕は修業中の身ですので。生きてたとしても修行投げ出してまでは探す気はありませんし、死んでたらそれまでですしね。だから生死が判明したとしても、今のところは何かしようとは思いません。
 アルビレオ・イマさん自体には…………そうですねぇ、アルビレオ・イマさんに僕の重力魔法が通じるかどうか試してみたいぐらいですかね。ユニコーンガンダムで出場するのやめておけばよかったかな」

「そういえばネギはアルの重力魔法も使えるものな。
 出来ないのはアーティファクト関連ぐらいか?」」

「“紅き翼アラルブラ”の映像に残ってたのならだいたいは出来ますね。多分、父が出来ることは全部出来ると思いますよ。
 それに今まで話に聞いた感じでは、アルビレオ・イマさんは随分と天邪鬼な性格をしてそうですからね。こちらから会いに行ってもはぐらかされるんじゃないですか?
 予選のときにアルビレオ・イマさんから視線を感じましたから、たまたま偶然にも僕と同じ大会に出ただけということではなく、おそらく理由があって大会に出ているのでしょう。
 まあ、十中八九は僕関係なんでしょうがね。何を企んでいるか知りませんが、用があるなら向こうから接触してくるでしょう。それまではこちらも勝手に行動させてもらいますよ」


 確かにネギのアルに対する感想は間違っておらんな。
 奴の性格を一言で表わすとしたら、“天邪鬼な愉快犯”というところか。

 別にそれでいいだろ。アルの奴が何を企んでいるかはわからんが、どうせなら奴もネギの被害者になってみればいいんだ。
 会う度に人のことをからかいおって。一度でいいから、あの澄ました顔が変わるのを見てみたかったんだよな。







「超さんも何か企んでるみたいですし、学園祭を単純に楽しむだけというわけにはいかないみたいですねぇ。武道会での超さんの挨拶からして、魔法に関して何か企んでいるみたいですし。
 僕はパトロール免除されてて自由時間多いから、少しばかり超さんのことは気をつけて見ておきます。最悪の場合はタイムマシン使いますけどね。
 エヴァさんは茶々丸さん関連で事情を少し知ってますよね? というか超さんは未来人なんじゃないですか?」

「? そうなの、エヴァちゃん?」

「…………何故そう思う?」

「今の時代…………その中でも特殊な麻帆良の技術と比べても茶々丸さんはオーバーテクノロジー過ぎます。それは茶々丸さんと他のロボット研究会の作品を見れば一目瞭然です。現代の技術では造れるとは思えず、未来の技術を使っているとしか思えません。
 それと超さんは2年半前に1回だけ、“航時機カシオペア”を使ったことがあると言ってました。しかし、この“航時機カシオペア”は22年に一度の世界樹の大発光の時期にしか使えないはずです。
 そしてその22年に一度の世界樹大発光は今年ですので、2年半前に使うことが出来ないはずです。
 となると考えられるのは、超さんは2年半前に“航時機カシオペア”を使って現代に来た、ということですね。そして過去から来たら茶々丸さんは作れないでしょうから、必然的に未来からということになります」

「…………なるほどねぇ。
 そう言われれば確かにそうだわ」


 …………超鈴音か。奴は本当にこの学園祭で何かを仕出かすつもりなのか?
 ネギがいるだけで無理ゲーなのは確定だろうに。

 というか、茶々丸を造るときにある程度の事情は聞いていたが、本当にタイムマシンなんか持っていたんだなぁ。
 ネギが持っていた“航時機カシオペア”というタイムマシンをチラリと見せてもらったが、見ただけではよくわからんな。
 タイムマシンと言うものにも興味があるし、後で時間があったら貸してもらうとするか。





 そういえば先日、ネギがいないときを見計らって超鈴音が改めて私の意志を確認しに来たな。さすがにネギのことは警戒するか。 
 私としては超の目的なんか知らないし興味ない。でもせっかくの祭りだから、何かあるなら酒の肴に見物しようと思う程度だった。


 だから当初の約定通り、私は手を出さないし、手も貸さない。
 茶々丸は貸してやるがな。

 ネギに敵対して困らすことになるかもしれない……とも言われた。
 しかし、それを聞いてもネギの心配より自殺志願の気でもあるのかと超鈴音の方が少し心配になった。それか研究のし過ぎでついに壊れたかだな。


 あのマッドめ。





 超鈴音は私とは違うタイプの悪人だ。頭も切れるし、ネギに対してもそこそこは食い下がれるかもしれない。
 それぐらいまでは評価してやってもいいだろう。

 だが、ネギはそれ以上の存在だ。

 ネギと最初に会った頃、ネギは私のことを“ドラゴン”と表現したが、ネギだってそれに似たようなものだろう。
 それよりもむしろ千雨が表現した“台風”の方に近いだろうな。

 正義もなく悪もなく、ただその存在しているだけで周りに影響を及ぼすような現象…………とまですら言ってもいいだろう。


 …………どうしてああなった?
 いや、もちろんネギが誰からも一目置かれる存在だということは誇らしいのだが、それでも限度というものが…………。







「否定はせん。しかし詳しくは知らん。私が知っていたのは超鈴音が未来から来たということと、学園祭で何か企んでいるということだけだ。目的までは知らんよ。
 それと茶々丸を造ったときの約定で、今回のことに私はノータッチということになっている。超鈴音に手を貸すことはないが、学園の連中に手を貸すこともないぞ。
 ああ、その約定で茶々丸は貸してあるがな」

「それならそれで構いませんよ。エヴァさんが超さんにつかないことがわかっただけで楽になりますので。
 茶々丸さんは…………ちゃんと手加減しますので大丈夫です。安心してください」


 …………茶々丸が敵としてロックオンされてしまったか。
 やはりそこら辺の判断はシビアだな。まぁ、実際に敵対行動に移るまでは何もしないだろうが…………。

 あれか? “撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ”ということか?


 まあ、手加減はしてくれるらしいから取り返しのつかないことにはなるまい。何とかして生き延びろ、茶々丸。
 私は知らん。超にもちゃんと警告はしておいたからな。







「さて、それではそろそろ休みますか。
 他の人はもう休んでいるみたいですし」

「そうね。ネギは明日は武道会があるんだものね。
 エヴァちゃんの別荘があって助かったわ。さすがに4時まで騒いでたらツライわ」

「そういえばネギ。何であの犬もこの中に連れてきたんだ?」

「いや、小太郎君も武道会に出ますからね。どうせなら万全の体調で挑んで欲しいじゃないですか。
 それに今日の分の勉強ノルマもありますしね」


 学園祭真っ只中なのに勉強させるのか?
 そういえば別荘に連れて来たとき、犬にプリント束を渡してたな。

 …………あの犬も可哀想に。
 後で夜食でも届けさせてやるか。












━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



 まほら武道会本戦がもうすぐ開会する。
 観客も多く入っているようだし、この武道会はかなり注目されているようだ。

 超君が何を考えているかはわからないが、これだけ観客を集めているということは、何か知らしめたいものか見せたいものがあるということなのだろう。
 おそらくは予選開始前に言った“呪文詠唱の禁止”が関係しているはずだ。まったく何を企んでいるのやら。


 しかし、幸いにも出場者には魔法使いらしい魔法使いはいないので、魔法自体が使われることはないだろう。
 関係者といえば僕、ネギ君、古菲君、楓君、龍宮君、小太郎君、そしてネギ君が言ってたようにアルが出場している。
 まさか本当にアルが出場していたなんて…………今まで彼は何をしていたんだ? というか、クウネル・サンダースって名前は何なんだ?

 まあ、アルだって魔法をワザとバラすようなことはしないだろう。詳しい話はこの大会が終わって、時間が出来たときに聞けばいい。
 そして僕は生まれつき呪文詠唱を出来ない体質だし、古菲君達だって使うのは気だから問題はないだろう。

 他にも何名か気も扱えそうな出場者がいるが、おそらく我流で修行をして気に目覚めた一般人みたいだ。
 錬度的には昨日の遠当てを使える人と同じくらいだから、これなら麻帆良内では許容範囲で済む。

 ネギ君はモビルスーツとして出場しているから魔法を使ってこないし、科学の産物として見せているから魔法がバレることはないだろう。
 しかし本当にアレは効果的だね。昨日の予選の他の出場者からもネギ君はロボットだと思われてたみたいだし、魔法バレを避けるためにモビルスーツを開発したというネギ君は間違っていなかった。
 アレ見て魔法を思いつく人はいない。さすがはネギ君…………と思っていたけど、



『手加減しませんよ、高畑・T・タカミチさん』



 お願いだから、手加減はしなくてもいいから自重はしてくれ、ネギ君。心の底からそう思う。

 …………いや、出来れば手加減もしてくれ。
 フェイスマスクで顔は見えないけど明らかに楽しんでいる雰囲気なんだよね。



 僕の一回戦の相手はネギ君になった。モビルスーツ状態のネギ君の正体をバラすわけにはいかないので初対面の振りをしている。
 昨日までは念話で会話していたけど、それでは僕達関係者以外には意思疎通出来ないので、今のネギ君は電光掲示板に似せた魔法具らしきものに字を表示して他の人達と意思疎通をしている。
 アレもネギ君が作ったのかなぁ…………?



 いやしかし、本当にどうしよう?
 僕でネギ君に勝てるのかな?



 この武道会では、ネギ君はモビルスーツで戦う。
 モビルスーツを発現させているときは他の魔法を使えなくなるから、魔法に関しては警戒しなくていい。
 警戒するとなるとモビルスーツ自体の性能と武器、特にあのマグナム弾とやらの魔法を込めた弾を警戒すべきだけど、それでも観客に被害を及ぼすようなことはネギ君はしないだろう。
 そこら辺のことについてはネギ君は信頼出来る。

 けどそれだけで勝てるのかな。
 最初っから『咸卦法』フルパワーでいくしかないなぁ。さすがに鎧袖一触されたら、いくら何でも情けなさすぎる。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 そうこうしているうちに本戦が始まった。最初の一試合目は犬上小太郎君の試合だ。
 相手は筋骨隆々な男性だが、我流で気を扱えるようになっただけの一般人のようだから小太郎君でも問題ないだろう。

 それにしても小太郎君が麻帆良に来てくれてよかったと思う。ネギ君には同世代の男の子の知り合いがいなかったからね。
 僕もネギ君の友達のつもりだけど、やはり年齢差があるから気心の知れた間柄というわけにはいかない。
 その点、小太郎君は同年代だし真っ直ぐな心意気をした少年だ。学園長が言っていたようにネギ君にとってのいい生贄…………じゃなかった、友達になってくれるだろう。

 …………小太郎君ならネギ君と一緒でもやっていけるさ。
 彼は元気もいいし、真面目なネギ君とは性格的にあうかもしれないしね。ウン。


 お、小太郎君の一撃が顎に決まった。
 相手はもう立てないみたいだな。これで小太郎君は2回戦進出か。





 第二試合はアルと大豪院ポチという人の試合か。
 大豪院って人は…………大学生かな? 何か随分と濃い顔をしているけど。それと親は何を考えて“ポチ”って命名したんだ? それともただのリングネームなのかな?

 これも問題なくアルの勝ちで終わるだろう。アルは後衛型の魔法使い寄りだけど、体術も十分出来るからね。




 第三試合は楓君と中村達也という人の試合。
 これも問題なく楓君の勝ちで終わるだろう。楓君もネギ君と一緒に修行するようになってから、ますます強くなってきているし。
 刹那君と楓君の2人がかりでは、ヘタしたら僕でも勝てないかもしれないな。




 第四試合は龍宮君と古菲君の試合か。
 …………改めてこうして見ると、3-A関係者の出場者が多いなぁ。

 それにしてもこの試合は見所がある。
 “四音階の組み鈴カンパヌラエ・テトラコルドネス”の一員として数々の紛争地域を渡り歩いた龍宮君と、ネギ君の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”で昨年度のウルティマホラのチャンピオンの古菲君。
 実戦ならおそらく龍宮君のほうが有利だろうけど、銃火器使用禁止のこの大会ならどうなるかはわからない。古菲君もネギ君との修行でドンドン強くなっているみたいだからね。




 第五試合が絡繰さんの弟?の田中さんの試合。
 ネギ君が言うには、田中さんは超君達が作った大学工学部で実験中の新型ロボット兵器で絡繰さんの弟ということだけど、絡繰君とは随分と趣が違うロボットだな。
 絡繰君はエヴァの人形の流れを汲んだ造形をしているから、きっと田中さんは超君達の趣味ということなんだろう。

 …………ああいうのが趣味なのか、超君達は?
 最近の若い女の子の趣味はわからないなぁ。







 それにしても、超君はいったい何を考えてこの大会を開いたんだか?

 彼女に関してはナゾだらけだ。
 僕達、魔法使いの力を持ってしても2年前にこの学園に入学する以前の足取りは、いったいどこの何者なのかが全く追えない。
 何かを企んでいるようだけど目的はさっぱりわからない。今は監視するぐらいしか出来ないな。

 まあ、ネギ君が注意してみてるらしいし、刹那君が会場の裏を探ってくれているらしいから、僕はネギ君との試合の方に集中するかな。
 集中しないとあっという間に僕の負けで終わりそうだしね。


 …………うん、第六試合は僕とネギ君の試合だ。
 やるだけやるしかないだろう。


 第七と第八試合は一般人同士の戦い。
 この2つは問題ないな。



 さて、少しばかり準備運動しておくかな。考えてみればネギ君と戦うのは初めてだ。
 初めて会ったばかりのネギ君は小さかったけど、あれからもう6年。まさか僕より強くなるなんてあの時は思いもしなかったよ。

 フフフ、ネギ君と戦えるのがこんなに嬉しいなんてね。
 ネギ君との試合は怖さもあるけど、それでも嬉しさの方が勝っている。
 勝てないまでも“男同士の戦い”に恥じない戦いをしたいね。少しぐらいは年上として良いところは見せたいよ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 次回は 古菲 VS たつみー です。
 基本的に流れは原作とは変えないつもりですが、それでもネギの存在だけでどんどん狂っていく感じがします。
 まいったなぁ。

 そして小太郎が無罪放免で麻帆良に住むことになった最大の理由が発覚。
 頑張れ、小太郎。生きていればきっといつかは良いことがあるさ。



[32356] 第59話 学園祭④ 世界初は何気に日本らしい
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/15 11:04



━━━━━ 古菲 ━━━━━



『お待たせしました! お聞きください、この歓声!!
 本日の大本命、前年度“ウルティマホラ”チャンピオン! 古菲選手!!
 そして対するはここ龍宮神社の一人娘! 龍宮真名選手!!』







 はてさて、いったい私はどこまで戦えるアルかね?

 真名は銃使いとはいえ本物の戦場をくぐり抜けてきてる。実戦経験に大きく差があるが、私がネギ坊主との修行でどれほど強くなったかで決まるアルね。
 ネギ坊主の見た感じでは、気も扱えるようになった今の私なら、この大会ルール上においては真名にも勝てる確率はあるとのこと。

 真名は私達との修行には参加せず、たまに見学だけはしているので私の手の内の半分以上は知られているはず。
 しかし、逆に真名の手の内はわからないアルね。知っている銃はこの大会では使えないはずアルし。


 前の試合で楓が無事に2回戦に進出した。
 私も勝ち上がっていってネギ坊主と戦いたいものアル。

 でも私ってもしかしたらクジ運が悪すぎじゃないアルか?
 この試合で真名に勝てても次の試合は楓、そしてその次は小太郎かクウネル・サンダースのどちらかになるとは思うけど……そのクウネル・サンダースはネギ坊主の父親の友人、“紅き翼アラルブラ”のアルビレオ・イマということアルよ。
 そして決勝は絶対にネギ坊主。

 …………全試合で裏の関係者との戦いになるなんて、どう考えても優勝は無理アルよ。
 それに比べると誰も関係者がいない左下の第4ブロックがうらやましいアル………………ネギ坊主が出場しているということだけで最初っから無理っぽいけどネ。



 とはいえ、我只要和強者闘私が望むのはただ強者との戦いのみ



 それでいくとこのトーナメント表は望むところアル。何しろ全ての試合で強者と戦えるのだから。
 私は嬉しいアル。この学園にくるまで私が本気で戦える相手はいなかったけど、麻帆良にはネギ坊主を始めとした強者がゴロゴロいるアル。


 さて、基本ルールは15m×15mの能舞台で行なわれる15分一本勝負。
 でも実際のリングは13m×13mといったところ。リング外に出てしまうと10秒カウントで負けになる。


 これは池に落ちないように注意すべきアルね。
 池に落ちたら舞台に上がるのに時間がかかる。真名は確実に遠距離攻撃手段を持っているであろうし、ヘタに池に落ちたら飛び道具で攻撃され続けて舞台に上がれずに“リングアウト10秒”で負けになるアル。
 舞台に柵はついているけど高さは胸元ぐらいまで。しかもこの高さはリング外の床の高さから見てでの話。リング内の床の高さから見ると膝ぐらいまでしかないから、吹っ飛ばされでもしたら柵は無いも同然の高さアル。

 足元は木の板張り。踏ん張りは問題ないアル。
 気をつけるとしたら、板に穴が開くことによって足をとられるかもしれないことアルね。


 真名は手ぶらだけど、長袖のロングコートを着ているので暗器の類の所持は否定出来ない…………というより、絶対持っているはず。

 対する私はアーティファクト“神珍鉄自在棍シンチンテツジザイコン”のみ。
 ただし観客の前では大っぴらに伸縮とかは出来ないので、扱いやすい1mぐらいの短棍で固定。


 それにしても我ながら注意深くなったものアルね。
 …………ネギ坊主に良いように足元掬われて転ばされ続けたらこうなるアルけど。

 ネギ坊主は日本の剣道でいう“一眼二足三胆四力”を重視していて、“観の目”を強く見ることで複数の相手を同時に相手に出来るらしいアル。
 そのせいで私達全員で攻撃を仕掛けても仕掛けても、私達の思考や動作を見破られているようでなかなか有効打を与えることが出来ないアル。

「右を見るときは左も見てください。そして上を見るときは下も見てください」 

 なんてネギ坊主は言っていたけど、そんなことを平気で出来るのはネギ坊主くらいアルよ。










「古と戦うのはこれが初めてだな。
 ネギ先生との修行でどれくらい強くなったか見させてもらうぞ」

「そうアルね。私も真名と戦うのは楽しみアル。手加減などするでナイヨ」


「無論だ。というより、むしろ今のお前相手なら手加減なんぞする余裕などないだろう」


 戦いが始まる。
 2人でリングの中央に立ち、真名までの距離は約5m。

 …………これはちょっと嫌な距離アルね。













『それでは第4試合Fight!!!』



 朝倉の開始合図とともに瞬動で後ろに跳ぶ。
 私は近距離しか攻撃手段は持たないが、対する真名は遠距離攻撃手段を十中八九持っているアル。これでは接近するまでに真名のいいようにやられてしまう可能性がある。

 それならいっそのこと、超遠距離まで離れればいい●●●●●●●●●●●●。どうせ銃火器は禁止だから、一撃で倒されるようなことはないアル。
 真名相手に距離をとるのは後で大変になるけど、真名の武器も知らずに接近戦を挑むことは出来ないアル。

 そう判断した瞬間、私の額めがけて真名の右手から何か小さなものが凄いスピードで発射された。
 しかし私が後ろに跳んだ分、いくらか余裕を持って対処出来る!





「破ッ!」





 “神珍鉄自在棍シンチンテツジザイコン”で飛んできた何かを弾く。
 落ちてきたその何かを見てみると…………500円玉?

 これは……ネギ坊主の“中の人繋がりレールガン”みたいに、コインをとてつもない速さで弾いたアルか。
 魔力か気を込めたのかもしれないが、弾いたときの衝撃はただの500円玉とは思えない重さだったアル。

 だけどネギ坊主の“中の人繋がりレールガン”よりは格段に遅いし、電撃の副次効果なんかもついてないアル。しかもネギ坊主のアレは特注で作ったタングステン製だから、真名の500円玉の倍ぐらいに重いアルよ。
 …………値段からいくと500円玉の方がずっと高いんだろうけど。

 真名の遠距離攻撃手段がこれなら、私でも十分対処可能アルね!












━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



 …………マズい。冗談抜きで勝てないかもしれん。
 随分とクレバーな戦い方をするようになったな、古。


 私の今のコインによる攻撃…………名前なんて特に付けていなかったが、解説が“羅漢銭”と呼んでいるからそれでいこうか。

 羅漢銭は銃と違って空気抵抗が大きい分、距離が離れれば離れるほど威力の減衰が激しい。
 攻撃に適している距離は拳銃よりも更に短くて、いいところ5mまでといったところだろう。速度も鉄砲の弾よりは格段に遅く、肉眼でも十分視認出来る速度でしかない。
 だから今みたいに7~8mも距離をとられてしまうと当てるのは難しい。

 今のお互いの立ち位置は、私は開始当初から変わらずリング中央部。対する古は先ほど後ろに下がったときよりも更にリング端ギリギリまで下がっている。
 さすがにリング隅には行かないようにしているが、それでもこれだけ離れられると羅漢銭が当たらない。全て避けられるか棍で弾かれている。


 とりあえず40発ほどコインを撃ってみたが…………これで2万円の出費か。
 しかも古へのダメージは0ときた。やってられないな。他のコインじゃ重さが足りないから、500円玉を使うのは仕方がないのだが。
 ………………今度から500ウォン硬貨でも使うか? あれは50円ぐらいしか価値がないくせに、500円玉と同じくらいの重さだからな。


 しかも古の奴、最後の一発を弾いたときは狙ってやったのかわからないが、観客の方…………ネギ先生が立っているところに向かって弾かれてしまった。そしてネギ先生もその500円玉をキャッチしてた。
 やっぱり狙ってやっただろう。

 …………後で返してくれよ。
 ネコババしないでくれよ。





 今は睨み合いの真っ最中。
 私はコインを撃ってもこの距離なら有効打は無理だし、古もこの距離では攻撃出来ない。膠着状態になっている。
 古はどうやって私の懐に入ろうかと考えているのだろう。細かく左右に動きながら私の動きを伺っている。


 …………あ、舞台に落ちてた500円玉を棍で払って、またネギ先生のほうに跳ばした。
 絶対わざとやってるな。


 さて、どうしようか。

 接近すれば今よりは当たりやすくなるだろうが、古相手にこちらから接近するのは愚策だ。
 かといってこのままではお互いに決め手に欠け、タイムアップでメール投票で勝敗が決まってしまう。
 超からの依頼では、ウルティマホラチャンピオンの古が1回戦で負けては盛り上がりに欠けるので古を勝たせることになっているが、このままではどうなるかわからないな。

 かといって私から仕掛けて手痛いカウンターを食らうのは避けたい。
 明日の本命もあることだしな。







『おおーっと、試合開始直後は激しい展開でしたが、今はお互い距離を置いて睨み合っています!』

『どう見ますか、解説の豪徳寺薫さん?』

『はい。龍宮選手の羅漢銭は確かに驚異的でしたが、さすがにあそこまで離れるとクリーンヒットは望めないでしょう。
 しかし接近して羅漢銭を撃とうとしても、おそらく古選手がそれにあわせて接近戦を挑むと思われます。一方の古選手もあの弾丸のような羅漢銭に飛び込むのは至難のはず。
 警戒して両者とも動くことが出来ないのでしょう』


 まったくもってその通りだよ。
 あの解説は変な髪型しているのに、言ってることは普通だな。



 …………ム、古が構えた。
 左手は棍の真ん中を、右手は棍の私から見て奥側を持ち、先端を真っ直ぐ私に向けている

 “突き”の体勢だ。



 多少の被弾は覚悟で強行突破するつもりか。
 確かに私の羅漢銭の一撃よりも、古の棍の一撃の方が攻撃力は上だ。それならそういう考えが浮かんでも仕方があるまい。

 ただし、それは一撃●●だけに限っての話なのだがな。









 …………来る。







 ドンッ! という踏み込む音と同時に古が凄まじい勢いの突きを放つ。8mの距離を一歩で踏み込んでくる。
 おそらく八極拳の活歩と瞬動を組み合わせたものか。
 数ヶ月前までは気については無自覚に扱っていたというのに、ネギ先生との修行でよほど鍛えたのだろう。基本的な瞬動なら既に楓と遜色ない。虚空瞬動となるとまた違ってくるのだろうがな。


 だが、古の踏み込みよりも私がコインを撃ったのが一瞬早かった。
 もちろん1発だけではなく、一息に撃てる最大発射数の5発だ。

 あまり私の魔眼を舐めないでほしいな、古。瞬動のために足に気を集中させたのが見えたんだよ。
 そのおかげで古が瞬動をする瞬間、もう進路変更出来なくなる瞬間を狙って羅漢銭を撃つことが出来た。



 古の棍が私の身体の中心、鳩尾を狙っている。
 だが古の棍が私を突くよりも早く、私のコインが古の額を打つ!





「クッ!?」





 カウンター気味に撃たれたコインに驚いた古が目標を変え、私の鳩尾ではなく一直線に重なって飛んでくるコインに合わせるために突きの高さを上げる。
 一息に5発撃ったせいで全て弾の軌道はほぼ同じだ。棍の一突きで全ての弾が弾かれる。


 しかし、5発ものコインを一度に弾いたせいで古の突きの威力が格段に下がり、私はそのおかげで古の一撃を楽にかわせる。
 その上、瞬動中なので止まることも出来ずに、そのまま身を横にずらした私の目の前まで来る。
 瞬動は急には止まれないぞ。

 私の目の前には突きの体勢で動きを止めた古。対する私は自由に動けるとはいえ、一度に放てる羅漢銭を全て使い切っている。
 このままでは体勢を立て直した古に接近戦を挑まれて追い詰められるだろう。



 だが、私にはまだ左手●●が残っている。



 すまないな、古。私は両利きなんだよ。
 開始直後から右手でしか撃っていないから知らなかっただろうがな。


 私の目の前で半身を曝け出している古が体勢を立て直そうとするがもう遅い。

 バチュン! とコインを弾く。この至近距離から5発も当てれば、いくら古でもつらいだろう
 すまないが、いくら負けることになっていても今のお前相手に手加減は出来ないのでな。


 そしてパススッ! と寸分違わず、コインが古に当た……………………“パススッ!”?
 え? やけに音が軽くはないか?









「何の!」





 ズシン! と鈍い音がしたと思ったら、棍から放した古の右手が私の腹に当てられていた。
 それと同時に私の腹の中で衝撃が暴れまわる。これは…………、



「なるほど。浸透勁という奴か………………それよりその服は何だ、古?」

私達のマスターネギ坊主がオーダーメイドで作ってくれた防弾防刃戦闘服アルよ。
 この服がなかったら危なかったアルね」



 ああ、なるほど。それで羅漢銭の威力が半減したのか。


 …………やっぱりネギ先生なのか。
 ああもう。本気でアレを敵にまわすのは止めておいた方がいいと思うぞ、超。







『ダウン! 龍宮選手ダウンです!
 カウントを取ります』







 縛りがあったとはいえ、本気で古と戦って負けるとはなぁ。しかも古は無傷に近いし。

 まあ、いくら武道四天王とは言われていても、最近のあの3人の修行は凄かったからな。いつの間にか追いつかれていたとしても不思議ではないか。
 それにネギ先生の性格を忘れていた私にも非がある。ネギ先生の性格だったら、自らの従者には最高の装備を渡すのはわかりきっていただろうに。

 それでもこんな風に負けたのは、正直言って悔しいな。

 刹那や楓とは一度ヤッてみたいとは思っていたが、これだともし戦ってもアッサリと負けてしまいそうだ。
 麻帆良に来てからでも鍛錬を欠かしたことはないが、それでも強くなるという向上心においては刹那達には遠く及ばないのだろう。






 …………私、この学園祭が終わったらネギ先生たちの修行に混ざって鍛え直すんだ。












━━━━━ ちびせつな ━━━━━



 何気に初めての出番ですー。

 それにしても本体は楽でいいですね。
 調査は式神の私に任せておきながら、自分は悠々とネギ先生の試合を観戦ですか…………。



「ちびせつなさーん、ここから入れそうですよー」

「はーい、ちびネギ先生。………………ここは、下水道でしょうか?」



 ま、それならちびネギ先生は私が独り占めさせてもらいますけどねー。


 只今私はちびネギ先生と一緒にふよふよと浮かんで会場裏を探索中です。


 ネギ先生は本当に凄いですぅ。
 東洋呪術に触れてからまだ半年も経っていないのに、補助目的で本腰を入れていなかったとはいえ長年修行を積んでいた本体よりも上手になるなんて、関西呪術協会の術者でもそんな簡単にはいきません。
 おかげでちびせつなと一緒に行動してくれる“ちびネギ先生”が誕生しました。


 ネギ先生の本体は木乃香お嬢様や私の本体達の相手で精一杯で私に構ってくれる時間はありませんでしたけど、ちびネギ先生は私が独占です。

 ネギ先生から探索のお願いをされたのでわざわざこんな地下に潜ることになりましたけど、ちびネギ先生が一緒なら嬉しいです。まるでデートみたいですぅ。
 しかも不用意に念話で連絡を取ると相手に察知される危険があるので、私達2人ともスタンドアローンで行動中です。
 これって本体達からの邪魔が入らないってことでもありますよね。


 それにちびネギ先生は『千の雷キーリプル・アストラペー』1発分放てるぐらいの魔力は内蔵しているらしいので、何かに襲われたとしても安心です。
 本体は木乃香お嬢様を守る騎士ナイトの立場に誇りを持っていますが、私としてはちびネギ先生に守られるお姫様にも憧れるんですよねー。






「あ、何か奥に扉ありますね。
 行ってみましょうか」





 あ、待って下さい、ちびネギ先生。
 こんなところに1人で置いてかないでくださいー。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 遺産分配やっとけやゴルァァァ!

 …………ま、使い古されたネタですかね。“中の人繋がりレールガン”。
 ちなみに500円玉の素材であるニッケル黄銅は、同じ体積のタングステンに比べたら半分ぐらいしか質量はありません。


 もちろんバーリトゥードゥだったらたつみーの勝ちです。
 だが、今回の試合ルール上では古の勝ち。防弾防刃戦闘服がなくても古が勝っていたでしょう。
 ネギが用意した防弾防刃戦闘服は二回戦への影響がないぐらいの役割です。気による防御力アップとこの服の防御力が合わされば、小口径の銃弾ぐらいならへっちゃらでしょう。
 でも世界で最初の防弾チョッキは、中世の日本において絹で作られていたものというのは調べてビックリしました。


 そしてちびネギはちびせつなみたく普通に魔法が使えますし、何より最終奥義“自爆”が使えます。威力は内蔵魔力次第です。
 それに加えて、ちびネギは108体までいます。

 しかもまだ増える可能性アリ。
 魔力が余ったら式神符を内職してましたので。



[32356] 第60話 学園祭⑤ 打撃技など花拳繍腿
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/16 19:07



━━━━━ 超鈴音 ━━━━━



「ありがとう、龍宮サン。上手く負けてくれたネ。
 人気No.1の優勝候補が1回戦で負けてしまてはアレだからネ。おかげで会場は非常な盛り上がりネ」

「……………………」





 あ、何だか本当に悔しそうヨ。
 いくら古に対して有利なルールだったはいえ、本気でやって古に負けたのがそんなにショックだたのかネ?

 古と龍宮サンの試合が終わた後、報酬を渡すために私の部屋まで来てもらたけど、こんな龍宮サン初めて見るヨ。


 モニタには次の試合、田中さんと佐藤選手の試合。
 佐藤て人は今まで噂には聞いたことないから、おそらく気に目覚めただけの一般人のようネ。実力も関係者より劣るようで、田中さんのただのパンチが佐藤選手に突き刺さている。

 フフフ、未来人の名に懸けて、ネギ坊主のユニコーンガンダムには負けられないヨ。
 何せあの田中さんはこの武道会のためにハカセが改造に改造を重ねた一品。いくらネギ坊主には勝てなくても、結構いいところまで善戦してくれなければ困るヨ。そのためにもこの試合ではその全てを発揮していないのだからネ。
 この大会で良い結果を出さなければ明日の本番が不安になるシ…………。





「これが報酬ネ」

「遠慮なく頂いておこう」





 どうゾ。
 羅漢銭で結構500円玉を使ていたし、古の浸透勁でコートも破れてしまたみたいだからネ。
 少し色をつけておいたヨ。


 しかし、古は本当に強くなたネ。
 まさか本気で龍宮サンに勝てるとは思わなかたヨ。

 古自身の努力もあるが、やはり勝てた根本的な要因はネギ坊主カ。いくら古が勝つのが予定通りとはいえ、筋書き通りではないのが怖いヨ。
 でも確かにネギ坊主の性格なら、ああいう防具にも気を払うのは当然のことネ。予想していなかた私達が悪いヨ。

 またくネギ坊主はいろいろとしてくれるヨ。
 モビルスーツで出場するといい、古のことといい…………。



 それにしても本当に参たヨ。魔法バレのための武道会なのに、魔法を使てくれるような人が全然いないヨ。
 あるとしたらネギ坊主か、あの魔法使いのコスプレをしているクウネル・サンダースぐらいのものだけど、そもそもクウネル・サンダースは魔法使いかどうかわからないヨ。

 もしかしたら…………というより、普通にタダの一般人?
 予選を見る限りでは相当な手練なことはわかたガ…………ん? 出場希望用紙に書かれた所属が図書館島の図書館司書?

 …………調べておいた方がよさそうだネ。
 計画に不確定要素イレギュラーはつきものとはいえネ。



 それ以外の出場者は、自然に気に目覚めただけの一般人か、楓サンや古のように気を使える関係者だヨ。
 せかくネットに試合内容を流出させる準備をしていたのに、これじゃ魔法バレ武道会じゃなくて“気が使えるビックリ人間大集合”で終わてしまうネ。
 何とかしないといけないヨ。









「…………超、まだ続けるつもりか?」

「当然ヨ。そのために今まで準備してきたのだからネ」

「やはりネギ先生に全て打ち明けるというのは駄目なのか?」

「…………駄目ヨ。不確定要素が大きすぎるネ。
 ネギ坊主なら私達より良い手段を思いつくかもしれないというのは同感だけれど、そもそも協力してくれない可能性があるネ。
 いや…………それだけならまだいいが、もし全て話した結果で積極的に敵対されてしまたら更に無理ゲーになてしまうヨ」


 そう、素直にネギ坊主に事情を話してそれをネギ坊主が信じてくれたとしても、ネギ坊主が私達に協力してくれる…………いや、ネギ坊主に私達が協力するのでもいいが、ネギ坊主が魔法世界を救うために動いてくれる確率は半々。
 ヘタしたらそれ以下だと思うヨ。


 ネギ坊主は確かに私以上の天才だヨ。だけどそれ以上に子供なのだヨ。ここ最近のネギ坊主を見てよくわかたネ。
 超家の家系図にネギ坊主の母親のことは載ていたから、私もネギ坊主の裏の事情はわかている。そしておそらくネギ坊主の頭なら、自分の母親のこととそれに付随する問題のことも既にわかているのだろう。

 そんなネギ坊主が、自分の母親を生贄として平和を成立させた魔法世界を救うなんてしてくれるのかネ?

「人の母親を生贄にした人達を助けろ? ああいう恥知らずな人達は僕嫌いなんです。
 魔法世界の何も知らない一般人? 恨むのなら僕ではなく、自分達が選挙で選んだ元老院を恨んでもらってください。民主主義っていうものはそういうものでしょう。
 僕は魔法世界の人達に対して何の義理も情も持ち合わせていません。自分達のことは自分達でやってください」

 という感じで終わらせる確率の方が高いヨ。

 アスナさん達に対するネギ坊主の扱いからするとそう思うネ。自分に厳しく敵には容赦なく、味方に優しく守る人には激甘。





「…………超の言っていることはわかるのだがな。確かにネギ先生の性格では協力してくれるとは考えにくい。
 それでも現状では成功率は限りなく低いと言わざるを得ないぞ」

「わかてるヨ。こうなてはネギ坊主が明日の朝に、1週間後の未来へ跳ばされることを祈るしかないネ」


 やれやれ、ネギ坊主は扱いにくいにも程があるヨ。学園長達の気持ちがよくわかるネ。
 大人なのに子供。子供なのに大人。
 いろいろとアンバランスな感じダヨ。年齢的には仕方がないのだけどネ。









『おおーっと!? 佐藤選手に田中選手のビームが直撃!!!
 大丈夫か佐藤……選……手?

 …………。

 ……………………。

 ………………………………へ、変態だーーーーーっ!?』

「目が腐る」





 ピッ! と龍宮サンがモニタを消した。
 …………よく見えなかたけど、田中さんのビームで全裸になたムキムキマッチョがいたような…………。
 開発した私が言うのもアレだけど、田中さんの装備はもうちょと考えた方が良かたね。あのビームもこの試合では封印しておけばよかたヨ。

 さて、次はネギ坊主と高畑先生の試合カ。
 ネギ坊主がどんな戦い方をするのか楽しみだヨ。












━━━━━ 絡繰茶々丸 ━━━━━



 このとき解説役を務めていた豪徳寺薫さんは、戦いの様子をこう語られました。





「ユニコーンガンダム選手が高畑選手を倒すのに要した所要時間ですか?
 いや…………もうホント10秒ぐらいで、ええ」





 それは試合開始の合図からということでしょうか?





「はい。ですからユニコーンガンダム選手が高畑選手の後ろを取るための時間を含めて10秒になります」





 そうですね。
 …………あ、只今VTRが届いたので確認しましたが、全試合時間は27秒となっております。

 ネg…………ユニコーンガンダム選手は試合開始の合図がかかると同時に一瞬にして高畑選手の後ろに回りこみ、高畑選手の背後から首に右腕を回し、左腕でその右腕をを抑えるという絞め技を仕掛けました。
 そしてユニコーンガンダム選手が高畑選手の首を絞めて失神させるまでで11秒。アッサリと高畑選手が失神してしまったことに驚いたのか、審判がカウントを取るまでそこから6秒かかっていますね。そして10カウントで試合終了となっています。
 その後ろに回ったときなのですが、静止画で確認するとユニコーンガンダム選手の身体のアチラコチラで赤く発光しており、額の一本角が2本の金色の角に分離しています。高畑選手の後ろに回ったときは既に最初の白い姿に戻っていましたが…………。

 それと高畑選手の後ろに回ったユニコーンガンダム選手が仕掛けた技は“裸締め”という技とのことですが、高畑選手は逃げることも出来ず、そのまま失神して負けてしまいました。
 高畑選手はあの技を外すことは出来なかったのでしょうか?





「え? 裸締めを外せないのですかって? 高畑選手がですか?

 …………ん~、やはりわかっていませんね。私らも喧嘩をやっている身ですので、これだけはワカります。
 完全にキマった裸締めは絶対に逃げられない。

 ちなみに裸締めというのは、相手の背後から両掌を合わせる形で両手を組んで手首や前腕を相手の喉にあて絞め上げる技です。
 他にも首に片腕を回してもう一方の片腕の肘の裏もしくは上腕のあたりを掴み、もう一方の手で相手の後頭部を押してそのまま絞めるタイプなんかもあります」





 英語ではチョークスリーパー、もしくはスリーパーホールドと呼称されている技ですね。
 気管を絞める技であるチョークと、頸動脈を絞めるスリーパーホールドとは本来別のものを指す言葉なのですが、現在では混同されているようです。

 そして今回のユニコーンガンダム選手が仕掛けた技は頸動脈を絞めるスリーパーホールドに当たると思われます。





「そうです。先ほど絡繰さんが仰られたように、高畑選手は裸締めを仕掛けられてから10秒ほどで失神してますね。
 気管を絞めるチョークでは呼吸が出来なくなりますが、それでも人間は無呼吸で1分以上は生きられます。しかも急所である気管や喉仏を強力に圧迫されたら、もがき苦しむことになりますね。
 それに比べて、スリーパーホールドで喉仏や気管を絞めずに綺麗に頚動脈洞だけを圧迫した場合だと苦痛はほとんどありません。そして頚動脈洞反射が起こるため、約7秒で失神して戦闘不能状態に陥ってしまうのです。

 ああ、先ほど「完全にキマった裸締めは絶対に逃げられない」と言いましたが、もっと厳密に言うと逃げられる返し技がないというべきですかね。
 アハハハ…………ここであえて“技”という言葉を使ったのはですね、“あれは技じゃない”からです」





 はい。失神した高畑選手はそのまま後ろに倒れこみました。
 その際に背後から裸締めを仕掛けていたユニコーンガンダム選手は、床と高畑選手の間に挟まれてしまいましたね。





「ええ。しかもその挟まれたときの衝撃が強かったのか、裸締めが解かれてしまいましたね。
 とはいえ反撃も許さずに、実質10秒で終わらせるなんて素晴らしい勝ち方です」





 …………高畑選手は、最初っから最後までずっとポケットに手を入れたままでしたね。





「はい。何を考えてたんですかね、高畑選手は? 余裕のつもりだったのでしょうか?
 予選のときも高畑選手は近づく敵が片っ端から倒れていくというナゾの技を使っていましたが、まさかポケットに手を入れなければ使えない技というわけじゃあるまいし…………。
 おそらく余裕のつもりだったのではないかと思います」





 油断大敵、ということですね。

 …………あ、ユニコーンガンダム選手からのコメントが届きました。試合終了後、高畑選手の介護をする救急班の邪魔にならないようにと控え室に移動したユニコーンガンダム選手ですが、審判が控え室で勝利コメントを貰ってきたようです。

 えー…………『煙草臭かった』? ユニコーンガンダム選手のコメントは『煙草臭かった』でした。
 それと「長くて呼びづらかったら“ガンダム”だけでいいですよ」ともコメントが…………。





「あー、高畑選手はヘビースモーカーでも有名ですからね。
 あれだけ密着したら、そりゃあ煙草臭いでしょ…………ってあれ? ガンダム選手はロボットなんじゃ?」





 …………臭いセンサーでも搭載しているのではないでしょうか。

 さて、次の試合の準備が出来たようですね。
 それでは次の試合に参りましょう。












━━━━━ 神楽坂アスナ ━━━━━



「…………タカミチ、格好悪かったわね」


 本当は言っちゃ駄目だけどね。
 さすがにアレは無理だろうから…………。


「せっちゃんなら大丈夫?」

「無理です。あそこまで完璧に入られたら、私も高畑先生と同じく落とされて終わりでしょう。高畑先生の後ろをとるときの動きも完璧です。初見では私達でも絶対無理ですよ。
 それこそ全力状態のエヴァンジェリンさんクラスでないと無理ではないでしょうか」





 …………かなり落ち込んでたけど、タカミチったら大丈夫かしら?
 まあ、技の一発、咸卦法の一つも出すことが出来ずに負けちゃったら、気を落とすのも仕方がないけど。

 試合後、すぐに起きることが出来たタカミチだけど、さすがにあの結果はショックだったみたい。
 しばらく頭抱えて呆然としていたわ。


 そこにちびネギとちびせつなちゃんが戻ってきて、会場の裏に怪しいものを見つけたって報告をしてくれたんだけど、調査に行こうにもネギはこれから試合が続くから、ネギの代わりに負けて試合がなくなったタカミチが1人で行ってくれることになった。
 戻ってきたばかりでちびネギとちびせつなちゃんも疲れているだろうから、ってことで2人の案内もいらないって言ってたわね。


 …………というか、むしろ1人になりたかったみたいね。


 私達はさすがに何も言えなかったわ。
 これからのネギの試合の応援もしたかったから丁度良かったとはいえねぇ…………。









 でもこれで一回戦も終わり。二回戦は



 第九試合が アル VS 小太郎君
 …………小太郎君も可哀想に。
 でも良い体験にはなるだろうから、この試合を糧に成長できたらいいわねぇ。



 第十試合が くーちゃん VS 楓
 これは…………楓がまだ有利かしら?



 第十一試合が ネギ VS 田中さん
 ロボット対決か。
 …………別に田中さんを壊しても、ネギに修理代とか請求来たりはしないわよね?



 第十二試合が…………知らない人達。
 別にどうでもいいわ。どうせ準決勝ではネギと戦って終わりなんだから。



 …………これだと決勝はネギとアルの試合になりそうかな。
 でも、普段のネギならアルにも余裕で勝てるんでしょうけど、今のネギはユニコーンガンダムオンリーだからどうなのかしらね?
 決勝は(ある意味で)面白くなりそうだわ。


 でも超さんもやっぱり何か企んでいるみたいだし、このまま素直に麻帆良際を終わることが出来なさそうなのが嫌ねぇ。













「フフ…………、タカミチ君も大変ですね」

「あら? アルじゃない」


 いきなり私達の後ろに気配が出現したと思ったら、いつの間にかアルが転移していた。久しぶりね。
 エヴァちゃーん、ネギの言った通りにやっぱりアルが来たわよ。


「何をやっているんだお前は? 選手控え室に居なくていいのか?」

「あなたも元気そうで何よりです、エヴァンジェリン…………というか、驚いてくれなくて残念です。
 アスナさんは随分と変わりましたね。このように改めて間近で見ても信じられませんよ、アスナさん。
 人形のようだったあなたが、こんな元気で快活な女の子に成長してしまうとは…………」

「まあね。昔とは大きく変わったという自覚はあるわ」

「はい。友人にも恵まれているようですし、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグがあなたをタカミチ君に託したのは正解だったようですね。
 京都であなたの記憶が戻ってしまったということを聞いたときは心配しましたが、もうあなたは大丈夫のようですね」


 ええ、私はもう大丈夫。
 ネギがいる。木乃香や刹那さん、エヴァちゃん達もいる。もう昔みたいに空っぽで何も無い私じゃないもの。


「良い顔です。恋する乙女は強いということでしょうか?
 フフフ…………ナギのパートナーになると言っていたあなたが、まさかネギ君のパートナーになるとは思いもしませんでしたよ。それにまさかキティまでもがネギ君に熱を上げるなんてのは、さすがの私でも本当に予想外でしたねぇ。
 …………というか、本当に驚いてくれませんね。エヴァンジェリンやアスナさんはともかく、木乃香さん達も私を見て驚かないなんて………………あの、刹那さん。
 盟友である詠春の娘の木乃香さんに危害を加えようなんて思っていませんから、木乃香さんを庇いつつ不審者を見るような目で見るのはやめてください」

「…………失礼しました」


 あらかじめネギがアルについて話してあったからね。ついでに私とエヴァちゃんで、アルの性格について皆に話しておいたわ。
 恨むんなら今までの自分の仕出かしたことを恨みなさいな。

 それに私がナギのパートナーになるって言ってたのは昔の話よ。







「やれやれ…………どうやら本当にネギ君は規格外のようですね。そんなところもナギに似ています。皆さんで行なっている修行のときも、ネギ君の結界のせいで何をしているかわかりませんし…………。
 ああ、そういえば挨拶が遅れましたね。
 我が名はアルビレオ・イマ。“千の呪文の男サウザンドマスター”……ナギ・スプリングフィールドの友人です。あなた達には“ネギ君のお父さんの友人”の方がわかりやすいでしょうか。
 それとさっきも言った通り、木乃香さんのお父さんである詠春の盟友でもあります。
 まあ、トーナメント表どおりに“クウネル・サンダース”とお呼びください。気に入ってますので」


 へぇ~、私達の修行はネギの張った結界内で行うし、ネギは本気で模擬戦を行なうのは“幻想空間ファンタズマゴリア”でしかしてないから、やっぱりアルはネギの本当の実力を知らないみたい。
 さすがのアルでもネギやエヴァちゃんに気づかれないように“幻想空間ファンタズマゴリア”に入り込むなんてことまでは出来ないでしょうし…………。

 横にいるエヴァちゃんもそのことを確信したようで、とても凄いイイ笑顔をしている。
 どうせ決勝でアルがネギにボコボコにされるのを見て大笑いしてやろうなんて思ってるんでしょうね。


「…………あの、本当に何も聞かれないのですか? 質問とかないのですか?
 特にキティ。ナギのことついてとか、何で私がこの大会に出たのかとか…………」

「うん? 聞きたいことはあるにはあるが、今はせっかくの学園祭だからな。学園祭が終わってからでいいだろう。
 それにこの大会に出た目的も予想がついている。お前のアーティファクトが関係しているのだろう。ちなみにネギもお前のことはもちろん、お前のアーティファクトのことについても知っているぞ。
 ああ、そろそろ菲と楓の試合が始まるな。お前も選手控え室に戻れ、アル」

「…………はい、わかりました。
 あと出来ればクウネル・サンダースとお呼びください」


 …………アルががっかりしてる。
 やっぱりアルって天邪鬼なところがあるから押されたら引くけど、逆に引かれたらつまらなくなっちゃうのかしら。
 ネギったら会ったこともないアルの性格をどうしてこうまで理解出来てたのかしらね。おかげでエヴァちゃんはアルをやり込めてご満悦だけどさ。


 今の内に予言しておくわ、アル。
 ネギは絶対にあなたの思い通りには動かない。

 ただし、ネギ的にはそれが当然のことだから、罪悪感とかは感じずに息を吸うようにソレを行なうわよ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 “まるで駄目なオッサン”っていうか……チョット軽蔑しちゃいますね。
 そこはホラ……男の本能っていうか……ハハ。

 ネギは日頃の行いの悪さのせいで超達に信用されてません。
 あんだけ散々ハッチャケてたら仕方がありませんが。



[32356] 第61話 学園祭⑥ ラストシューティング
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/16 19:12



━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



 水が水路を流れる音とコンクリートで出来たトンネルの中を通り抜ける風の音の中、コツン……コツン……と高畑先生の革靴で歩く音が響き渡る。

 やれやれ、ここがバレてしまったか。


 どうやら私と古との試合の最中に、ネギ先生と刹那の式神が忍び込んでいたらしい。監視カメラの録画映像でそれらが確認出来た。今となっては後の祭りの話だがな。
 高畑先生の目的はここの調査と、あわよくば超の拘束といったところだろう。

 しかし少なくとも武道会が終わるまで超は姿を隠せない。授賞式と閉会の挨拶があるから結局は最低でも一度は皆の前に姿を現さなければならないからな。
 だからこんなところで拘束されるわけにはいかないのさ。







「やれやれ、こんな所まで来てしまたカ」

「ネギ先生にもらったダメージは大丈夫ですか、高畑先生?」


 ま、頚動脈絞められてうまく落とされただけなら、起きた後も普通に動けるから大丈夫だろうがな。

 超と私で高畑先生を挟み撃ちにする。
 道幅1mほどの狭い通路。空間的にはまだそれより広がっているが、水路があるので思うようには動けないだろう。
 とはいえ、甘く見ることをせずに超との2人がかりで無力化することにしよう。





「君達は…………どういうことだい?」

「仕事です」

「元担任に対し申し訳ないが、私には時間がないネ。明日、学祭が終わるまでの少しの間おとなしくしていてもらうヨ。
 手荒な真似をする気はなかたのだが…………何しろ時間がなくてネ。急遽この大会も開いた。本来なら一年かけて準備する予定だたヨ」


 …………そう簡単にはいかないんだろうがなぁ。ここのことはネギ先生にもバレているみたいだし。
 むしろ来たのがネギ先生でなくてよかったと喜ぶべきなのだろう。


「…………異常気象で世界樹大発光が早まったからかな?
 やはり君達は何か企んでいたのか。それならちょっと話しを聞かせてもらわないといけないようだね」

「…………何、たいしたコトではないネ。世界に散らばる“魔法使い”の人数は私の調べたところによると、東京圏の人口の約2倍。全世界の華僑の人口よりも多い…………。
 これはかなりの人数ネ」

「…………?」

「それにこの時代、彼らはは我々の世界とはわずかに位相を異にする“異界”と呼ばれる場所に、いくつかの“国”まで持っている」

「………………それで?」


「心配しなくても大丈夫ヨ、高畑先生。一般人に迷惑をかけるようなことはしない………………つもり。
 私の目的は―――」







 そう、私達の目的は―――







「彼ら“魔法使い”総人口6700万人。その存在を全世界に対し公表バラす。それだけネ。
 …………ネ? たいしたことではないヨ」













「魔法使いの存在を…………全世界に公表する?
 …………そんなことをして、君に何の利益が?」

「フフ…………もう少し話をしてもいいけど武道会で忙しいのでネ。悪いけど拘束させてもらうヨ、高畑先生。
 不自由な思いをさせるけど、拘束している間の食事は超包子ウチの美味しいのを差し入れるから楽しみにしていて欲しいヨ」

「ハハハ、あいにくそういうわけにはいかないな。
 さっきの試合ではみっともないところを見せてしまったけど、これでもこういうのは君達より慣れてるんだ」


 それはそうだろう。
 最近は(ネギ先生のせいで)マダオとしての感じが強くなってきてはいるが、“悠久の風AAA”に所属して数々の危険な仕事を引き受けている。戦闘能力の格付けはAA+。
 私も幼い頃から紛争地域を渡り歩いていたとはいえ、私と超の経験と足しても高畑先生1人には届かない。それらの実績に裏付けられた自信は理解出来るんだが………………高畑先生からやけに殺気を感じるのは何故だろう?





「…………元担当生徒達に対しては申し訳ないけど、僕にも事情があってね。何を企んでいるか聞かせてもらうよ。
 右手に“気”、左手に“魔力”。気と魔力の合一シュンタクシス・アンティケイメノイン





 『咸卦法』か。高畑先生の気と魔力が合わさり、その余波で強風が辺りに吹きまわる。
 ってか、おい。…………やっぱり何だか高畑先生の方が殺る気マンマンじゃないか?









「あの…………もしかして八つ当たり入てないカ?」


 …………喋っている暇はない、超。私が時間を稼ぐから、超は田中さん達を100体ぐらい連れて来い。
 どうやらアレは2人がかりでも無理っぽいぞ。












「一撃目はサービスだ。避けろ、龍宮君」



 あ、これ本気でマズイ。

 …………これもネギ先生のせいだと思うのは、私の被害妄想なのだろうか?












━━━━━ 長瀬楓 ━━━━━



 ズシィン! と鈍い音と同時に舞台が揺れる。これは…………地下で何かあったでござるな。
 しかし今は古との試合中。こちらを優先させてもらうでござる。





「隙アリでござる!」

「しまっ…………!?」





 舞台が振動した瞬間、拙者は古の蹴りを跳んで避けて、中空で虚空瞬動に入る直前だったので驚きはしたが直接な影響はなかった。しかし一方の古は蹴りを出した直後で、左足一本で不自然な体勢で立っていたでござる。
 古もすぐさま体勢を立て直して、構えようとしたときの予想外なイレギュラーな振動。この振動でさすがの古も虚を突かれたらしく、体勢を立て直すのに一瞬遅れてしまったようでござる。

 しかし、その一瞬があれば十分!





「くっ!?」





 虚空瞬動で古に突進して転ばせ、そのまま寝技に移る。こういう寝技だと拙者のように身体が大きい方が有利でござるからな。
 おお! 拙者の大きな身体がこんなところで良い方向に発揮するとは!

 …………組み付いたから特によくわかるでござるけど、古は本当に小さいでござるなぁ。
 いや、年齢的に考えると古の方が適正でござるし、刹那も確か古と同じ身長だったはず。

 むしろ古の方が刹那よりもスタイルは良いでござるな。






『……7! ……8! ……9! ……10! 試合終了!!!
 長瀬選手! 前年度ウルティマホラチャンピオンの古菲選手を降し、準決勝進出です!!!』



「…………拙者の勝ちでござるな」

「いや~、まいったアル。
 あの揺れに驚いてしまったアルよ。私もまだまだ精神修練が足りないアルな」





 フム。ネギ坊主の話によると、地下に怪しいものが見つかったので高畑殿がそれの調査に向かったとのことでござるが、それが何か関係あるのでござろうか?
 どうやら超殿は何かよからぬことを企んでいる様子。何かあってもおかしくはないでござるな。

 ま、拙者はとりあえずこの武道会を考えることにしよう。何かあればネギ坊主が言ってくるはず。
 何より次の試合はコタローをアッサリと倒したクウネル・サンダースという御仁との試合。

 しかも話によると、以前聞いたネギ坊主の父親が所属していた“紅き翼アラルブラ”のアルビレオ・イマと同一人物だとか。
 ネギ坊主が見せてくれた映像にも映っていたし、実際にネギ坊主に使われて体験したこともあるが、あの重力魔法は厄介でござるな。それに予選を見る限り体術も出来るようでござる。

 ネギ坊主からは胸を借りるつもりで挑めばいいと言われたからには、おそらくクウネル殿の実力は今の拙者よりも数段上なのでござろう。
 …………まあ、それはそれで楽しみなので構わないでござるが、ネギ坊主から負けると思われているのも癪でござる。せめて一本でいいからとりたいでござるな。



 そしてこの次はネギ坊主と田中さんとやらのロボット対決でござるか。
 今回ばかりはネギ坊主も一瞬で試合を終わらせたりしないでござろう。高畑殿との試合は酷かったでござるからなぁ。
 しかしアレはネギ坊主が高畑殿を買っている証でもあるでござる。もし高畑殿が弱かったりしたら一瞬で終わらせることもなく、自分と観客を楽しませるのに時間を使って戦っていたでござろう。


 …………残念ながら拙者達と戦う場合では高畑殿とのときとは違い、おそらく時間をかけてゆっくりと試合を行なうでござる。
 拙者達の修行具合を見るのとネギ坊主が楽しむために。

 ま……まあ、高畑殿は強かったからああなったでござる。だから高畑殿は気を病むことないのでござるよ。逆にエヴァ殿クラスを相手にする場合は時間をかけてゆっくりと攻め込むでござろうな。
 持久戦というか長期戦覚悟で。

 ネギ坊主が他者に勝っている優位点の一つは圧倒的な魔力量。しかも『咸卦治癒マイティガード』もあるから、この2つを持って持久戦を挑まれてしまったらネギ坊主に勝てる者などいないのではござろうか?
 …………いや、別に短期決戦ならどうにかなるというワケではないでござるが。


 それはともかくとして、拙者もそのぐらいネギ坊主に力を出させるぐらいの高みまで登りつめたいでござるな。





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『さあ! 続きまして二回戦第三試合、ユニコーンガンダム選手 VS 田中選手の試合です!
 あのデスメガネ、高畑選手をアッサリと絞め落としたユニコーンガンダム選手! しかし田中さんも同じロボットだから絞め技は効かないぞ!
 そして対するは、一回戦でムキムキマッチョだった佐藤選手を脱げビームで全裸に剥き、会場中の観客の皆様を阿鼻叫喚に陥れた田中選手! あのユニコーンガンダム選手の素早い動きを捕まえることが出来るのか!?
 なお、解説席には田中さんの開発者の1人である、葉加瀬聡美さんにお越しいただいております』

『よ……よろしくお願いします』



 …………よりにもよって、葉加瀬殿もわざわざ田中さんが壊されるところを特等席で見なくてもいいでござろうに。
 でももしかしたらネギ坊主対策に何か策があるのかも? ネギ坊主をこの武道会に誘ったのは超殿だし、超殿たちなら核バズーカぐらい用意しててもおかしくないでござるからな。


 …………あれ? もしかしてさっきの古との試合中に起きた振動ってソレでござるか?
 超殿が麻帆良地下で核を製造しており、それが調査しにいった高畑殿との戦闘中に暴発とか…………。

 だとしたら超殿達を止めねばならないでござるな。
 いくら何でも核は洒落にならないでござるな、ハッハッハ………………コレ、本気でマズくないでござるか?


 常日頃から科学に魂を売った狂科学者マッドサイエンティストと自称している超殿なら、核を用意してても本気でおかしくないでござるよ。
 マズイでござる。冗談抜きで麻帆良の危機かもしれないでござるよ。









『ところで葉加瀬さん。
 ユニコーンガンダム選手の持っている盾に“麻帆良大工学部”と書いてありますが、ユニコーンガンダム選手を作ったのは誰なんですか?』

『え? い、いや~、豪徳寺さん。実は私も知らないんですよね、アハハ…………。
(もしかして私に説明丸投げですか、ネギ先生っ!? 一回戦ではそんな盾持ってなかったじゃないですか!
 知ってるですよね!? 私が超さん一味で、解説役としてここに座っているのを知っててわざとその盾持ってきたんですよね!!!)』





 確かにあのネギ坊主は説明に困るのでござろうなぁ。

「あのロボットを作ったのはネギ先生です!」

 なんて言ったとしても、誰も信じてくれるわけないでござるし…………。


 ネギ坊主はその特異さゆえに麻帆良の表と裏の両方で知られてはいるが、さすがにロボットを作ったなどと言っても信じられるわけないでござる。
 魔法関係者以外にはあのモビルスーツは見せたことござらんし。

 かといって、

「実はアレはロボットではなく、中にネギ先生が入っているんです!」

 と本当のことを言ったとしても、今のユニコーンガンダムネギ坊主の背丈は普段のネギ坊主とは明らかに違うのでこれも信じてくれるわけないでござる。どうせ幻術なんかで何かの弾みで装甲が壊れたとしても大丈夫にしているでござろうしな。
 しかも今の時間はアリバイ作りのため、学園長の頼みでネギ坊主は麻帆良祭を見学に来た外国の客人の案内をしていることになっているので、ネギ坊主はここにいないことになっているでござる。


 それに加えて

『そういうことは秘密です』

 と、解説席に預けてあるネギ坊主が持っていた電光掲示板に表示されているし…………。
 完璧に遊んでいるでござるな、ネギ坊主は。

 葉加瀬殿はユニコーンガンダムとネギ坊主を結び付けるだけの説得力を持っていない。だから何も言えないんでござろうなぁ。











『それでは第十一試合ファイト!!』


 開始の合図とともに、田中さんの口が開かれてビームが発射される。一回戦では対戦者を裸に剥いた脱げビームでござるな。
 しかも前のは手加減していたのか、今回放たれた脱げビームは一回戦のビームよりも見るからに強力でござった…………が。


『おおーっと!? ユニコーンガンダム選手、田中選手のビームを左腕に装備していた盾でアッサリと防いでしまいました!
 むしろ脱げビームがユニコーンガンダム選手の盾の寸前で拡散されて弾かれてしまい、周りの観客の皆様の方が危なさそうだぁっ! なお、替えの下着だけなら左右会場門脇売店で売ってまーーす!!
 …………っていうか私が一番危なっ!?』


 ちなみにネギ坊主のあの盾は、“I‐フィールド”という魔力や気を斥力によって偏向させるバリヤーを発生することが出来るとのことでござる。
 『千の雷キーリプル・アストラペー』などの上級魔法クラスを食らっても中の人は無傷で済むぐらいの対魔力を誇るでござる。あの脱げビームは『武装解除エクサルマティオー』ぐらいだろうから、簡単にあのように無効化出来るのでござるな。
 弱点といえば燃費はあまりよくないことでらしいでござるが、それもネギ坊主の豊富な魔力量にとっては誤差の範囲でござろう。


 一方、脱げビームがまったく効かないとわかると、田中さんは接近戦を挑むようにしたでござる。その大きな身体に似合わずになかなか素早い動きで接近し、茶々丸殿と似た格闘技にてネギ坊主に挑む。
 田中殿は茶々丸殿の弟に当たるらしいので、技が似てても当然でござるな。
 田中さんの繰り出す技は肘や足裏などに取り付けられているバーニアからのジェット噴射で、人間には不可能な急加速、急停止を織り交ぜた技となっている。あれは初見だと虚を突かれるかもしれないでござるな。


 だがそれもネギ坊主には当たらない。
 盾で防ぎ、腕でいなし、時には大きく離れて田中さんの攻撃を捌いていく。体術だけでも古より上だから当然でござろう。

 …………ところで、ロボット同士の戦いにはまったくもって見えないのはいいのでござろうか?
 いくら何でもこんな戦いでは不審に思う観客が出てくるのでは…………。




 しかし田中さんはこれで終わりかな?

 確かに田中さんの動きは凄いとは思うが、これではネギ坊主には全然届かないでござるよ。
 ネギ坊主が攻撃を仕掛けていないからまだ終わっていないだけで、ネギ坊主が攻勢に転じたらあっという間に終わるでござる。



 お、そろそろネギ坊主も攻撃するようでござるな。

 田中さんが大振りのハイキックを仕掛けてきたのに対し、ネギ坊主も真っ向からハイキックで田中さんの足を迎撃した。
 その結果、アッサリと田中さんの右足は脛から折られ、蹴りの衝撃でバランスが崩れる。そこにネギ坊主のヤクザキックが田中さんの腹にぶち込まれる。
 吹っ飛んだ田中さんは何とか左足だけで立ったままでいようとするが、ネギ坊主がそんな隙を見逃すはずもなく、背中に装着していたビームライフルの銃口を田中さんに向ける。

 これで終わったでござるな。やはりネギ坊主には敵わな…………って何ぃーーーっ!?





『おおっ!? 何と田中選手! 空に飛び上がってユニコーンガンダム選手のビームを避けたっ!?
 っていうかコレ本気で何なの葉加瀬!?』

『足なんて飾りです!
 偉い人にはそれがわからないんですよ、朝倉さん!!!』

『え? この人なんか怖いんですけど。
 あとユニコーンガンダム選手のあの銃はいいんですか?』

『豪徳寺さん、ハカセは科学に魂を売った狂科学者マッドサイエンティストを自認しておりますので…………。
 そしてユニコーンガンダム選手のあの銃ですが事前に協議を行ないましたところ、禁止されている“火薬”を使った銃火器ではありませんし、田中選手のビームに似ているものでしたのでOKということです』





 田中さんの足の付け根から両足が外れ、ズゴゴ! と、そこからのジェット噴射で飛び上がったでござる!
 しかもネギ坊主に向けて両腕を向けたと思ったら、腕の肘から先がロケットパンチのように発射されたでござるよ!

 あ、でも有線だからロケットパンチではなくてワイヤードフィストでござるかな?





「おおーーー!? ロケットパンチだぜ!?」「スゲーーー!」「やっぱロボっつったらこーこないと!」「やるなーーー! 工学部!」





 田中さん大人気。

 しかしその大人気のロケットパンチは狙いがずれてしまったのか、ネギ坊主の両脇を外れてそのまま通り過ぎていっ…………たと思ったら、いきなりパンチがジェット噴射で方向転換し、ネギ坊主に再度向かっていったでござる。
 ネギ坊主も負けじと空に飛び上がってロケットパンチを避けたのでござるが、今度はロケットパンチの握り込まれていた拳が開かれ、ネギ坊主に対して指先を向ける。

 次の瞬間、その指先からビームが発射されたでござる!





『今度は指先から脱げビーム!?』

『逆方向から!?』





 …………何、この有線制御式5連装脱げビーム砲?

 足という重りを捨て去り、背中、肘などの間接部、そして足の付け根のバーニアで飛び回る田中さんはこれまたなかなかに早い。
 両腕の有線制御式5連装脱げビーム砲が自由自在に動き回り、ネギ坊主に向かって絶え間なく脱げビームを発射しているでござる。それに加えて田中さん本体も口から脱げビームを発射しているので、ネギ坊主は3方向からのオールレンジ攻撃にさらされている。
 ほほお、さすがにアレだけでは終わらなかったでござるか。葉加瀬殿達もなかなかやるでござるな。


 一方のネギ坊主は回避に専念している。口から発射される強力な脱げビームは盾で弾いているが、指から発射される脱げビームは何発か身体に当たってしまっているござる。
 ネギ坊主が全力で動けないのが痛いでござるな。全力で動いたら、ソニックブームが発生して観客席が大惨事になってしまうでござるからなぁ。

 だが、それでもネギ坊主には勝てないでござるよ。
 指からの脱げビームの威力は弱いらしく、身体に当たっても装甲で弾いているから問題なさそうでござる。盾に頼らずとも、『白き雷フルグラティオー・アルビカンス』までなら装甲だけで耐えれるでござるし。
 今は盾で弾いているけど、実際のところ口から発射される強力な脱げビームでもネギ坊主の装甲には傷一つ付けれないのでござるよ。
 要するに何やってもネギ坊主の装甲は突破出来ない。その上に…………、





『こう近付けば四方からの攻撃は無理ですね!』





 と、電光掲示板に新たな文が表示されたと思ったら、ネギ坊主は突進して田中さんとの距離を詰めていた。これで田中さんは自らに脱げビームが当たる恐れがあるので、手からのビーム攻撃は出来なくなったでござる。
 戦闘技能もネギ坊主の方が上でござるからなぁ。

 そしてネギ坊主は近づきながらいきなり振り向いてビームライフルを発射。銃口から奔った光は、見事にネギ坊主の後ろに回りながら脱げビームを撃とうとしていた田中さんの右手に直撃した。ビームに貫かれた右手は爆散したでござるな。
 右手を失った田中さんは口から脱げビームを発射し、無事な左手をロケットパンチとしてネギ坊主の後ろから攻撃させる。脱げビームが効かない以上、それぐらいしか出来ないでござるな。


 対するネギ坊主は口からの脱げビームは盾で弾き、後ろから飛んできたロケットパンチをぶつかる瞬間に前転するように避けた。
 そしてネギ坊主の上を通り過ぎていくロケットパンチに対し、オマケとばかりに身体を一捻りしながらオーバーヘッドキックで田中さんの方に蹴りつける。
 おかげで田中さんは自らの左手を身体の中心にぶつけられ、バランスを崩した。

 その隙をついてネギ坊主はビームライフルを発射し、田中さんは左手ごと身体の中心を貫かれた。しかも背中から伸びていた電力供給ケーブルも一緒に撃ち貫かれたから、エネルギー切れになってこれで終わりでござるな。
 いやー、なかなか面白い試合でござったな。葉加瀬殿たちの科学力も侮れないでござ…………って、今度は田中さんの首が分離した!?

 ビームライフルによって撃ち貫かれた田中さんはそのまま地面に落ちていくと思ったら、田中さんの首から上だけが分離して飛び上がっていくでござる!
 まだ続けるのでござるか!?
 しかもまたもや口からビーム…………いや、アレは違う?





『まだです! たかがメインカメラをやられただけです!!!』





 ネギ坊主は盾で防いだが、ただのペイント弾だったのが逆に仇となってしまったようでござる。
 胸の中心付近に直撃するはずだった弾を盾で防御したのはよかったが、盾にぶち当たった弾が蛍光ピンクの液体としてぶちまけられてしまって、それが顔にも付着してしまいピンク色に染まってしまったでござる。
 フム、確かにアレならネギ坊主の視界を奪うことが出来るでござるか。参考になるでござる。

 …………それでも届きはしないのが残念でござるがな。



 発射するのをペイント弾から脱げビームに切り換えた田中さんは、ネギ坊主の真上を飛び続けながら脱げビームを発射。
 しかし、それもネギ坊主が地面に降り立ち、天に向けてビームライフルを撃つまでの僅かな時間だけでござった。

 顔だけにもなって田中さんは諦めずに戦い続けたが、最後は顔をビームライフルで撃たれて爆散。

 田中さん、無茶しやがってでござる…………。





『イヤァッ! 私の田中さんがぁっ!?』

『うわっ! 何か本気でグロいんだけど!?』





 …………葉加瀬殿も可哀想に。

 ネギ坊主もネギ坊主でござるよ。
 これでますます葉加瀬殿達のマッド具合が激しくなったらどうするつもりでござるか?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 待ちに待った時が来たんだ!

 多くの修行ごうもんが無駄で無かったことの証の為に…………。

 再び“平穏に生きる”という理想を掲げる為に! 駄目親父共の粛清成就のために!

 麻帆良よ! 僕は帰ってきた!!!



 口からビームとワイヤードフィストってジオングみたいじゃね?

 そう思ってしまいましたのでこのネタです。

 1st原理主義者というわけではありませんし、実を言うと1stはアニメではあまり見たことがないのですよね。一応、劇場版三部作は持っているのですが。
 “THE ORIGIN”のアニメ化が発表されましたが、どうなっているのでしょう? 楽しみにしているのに。



 それと4/15に61話が投稿出来なかった理由は、朝倉の「~ムキムキマッチョだった佐藤選手~」というセリフは、最初は“だった”の部分が“の”だったのですが、それが原因のようでした。
 “の”を“だった”に変えたら普通に投稿できました。

 本気で何故?



[32356] 第62話 学園祭⑦ ビームは英語でサーベルは蘭語
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/16 19:06



━━━━━ 超鈴音 ━━━━━



「…………何とか戻ってこれたぞ、超」

「無事でよかたヨ、龍宮サン」



 いや、ホントに。
 正直言て、高畑先生があそこまで凄いとは思てなかたヨ。


 ちなみにあの後の流れを簡単に説明すると、

 私が離脱、龍宮サンが足止め
   ↓
 田中さん100体投入して龍宮サンが離脱
   ↓
 田中さん100体アサリ撃破されて私達絶望
   ↓
 気を取り直して私が罠の準備を始める
   ↓
 龍宮サンが高畑先生を罠の地点へ誘導

 て、感じネ。


 ちなみに仕掛けた罠は高畑先生でも脱出・破壊出来ないような広めの部屋に、今動かせるだけの田中さんとBUCHIANAを置いておいただけネ。そこに高畑先生を誘導し、部屋に閉じ込めて出れないようにしたのヨ。
 念話妨害もしてあるし、これで高畑先生はこの武道会が終わるまでは足止め出来るはずヨ。

 あの部屋に睡眠ガスでも使うことが出来たら良かったけど、あいにくそんな設備は用意してなかたネ。







「どのくらい戦力を用意したんだ?」

「田中さんを400体、それとBUCHIANAを10体ネ。
 高畑先生の撃破ではなく、時間稼ぎを最優先にしているから少なくとも2時間は持つ…………と思うヨ」

「…………まあ、そのぐらいなら何とかなるだろう…………きっと」



 明日の本番前に戦力の約2割を消費するのはマズイけど、そうでもしなければ本気で今日で終わてたかもしれないヨ。
 少しばかり高畑先生を甘く見ていたネ。監視カメラで今行なわれている戦いの様子を見ていると、ヘタしたら1時間ぐらいで終わらせるペースで田中さん達を壊しているし。

 ………………コレ、後でちゃんと息切れしてくれるよネ? ペース落ちてくれるよネ?



 それとBUCHIANAを置いたのは失敗だたかナ?
 BUCHIANAは田中さんより火力がデカイ分、身体が大きくて鈍重ネ。
 だから高畑先生相手では…………多対一の戦いではその長所を生かせない。BUCHIANAは高畑先生のような強者1人ではなく、普通の魔法先生数人に当てた方が戦果が期待出来たようネ。

 それに一番最初にあの狭い通路で仕掛けたのがそもそもの間違いネ。
 逃げ場がないぐらいに通路一杯に居合い拳を撃たれてしまい、反撃する間もなく100体の田中さんを失てしまたヨ。





「私はこれから田中さん達の移設作業に移るヨ。その後、閉会式に出て〆の挨拶をしたら身を隠す。
 龍宮サンはここから離れて、学園の動きを探て欲しいヨ。これが高畑先生の独断で、学園が本格的に動いているかどうかをネ」

「了解。…………言っておくがネギ先生には手を出すなよ。これ以上面倒事を増やされても困るぞ」



 わかてるヨ。
 武道会でネギ坊主の生い立ちとかを明かそうとも考えていたけど、そもそも“ネギ坊主”は参加していないことになているから無理ヨ。
 身元を隠すのは本人的に当たり前のことなんだろうけど、少しはコチラのことも考えて欲しいものネ。












━━━━━ アルビレオ・イマ ━━━━━



 二回戦も全て無事に終了。
 どうやらキティが言っていたように、ネギ君は私のことを知っているようですね。さっき戦ったコタロー君が私のことを知っていたのも、ネギ君が教えたからなのでしょう。

 コタロー君は実力的にはまだまだですが、勝てないまでも一矢報おうとする気概は心地良いものです。後の試合のことを考えないような激しい攻めでしたけどね。
 ネギ君という強者を既に知っているせいなのか、負けたことは認めることは出来る上に向上心を失わないという真っ直ぐな心意気で持っているようです。
 あのタイプは自分が弱いということを知ってしまったら心が折れてしまうこともありますが、ネギ君とのいざこざで“敗北”を知っているということなので、コタロー君はこれからもまだまだ伸びていくでしょう。


 次の試合は私と、ネギ君の従者であるナガセカエデさんとの試合。
 あいにくネギ君達がどのような修行をしているかはネギ君の結界で把握出来てませんが、学園長の話では皆さんなかなか腕が立つとのこと。面白い試合になりそうです。

 それにネギ君の強さはいったいどれほどなのでしょうか?
 学園長はに言葉を濁されてしまいましたし、ネギ君が京都での一件について出した報告書を拝見させてもらったところ、“アーウェルンクス”と互角以上に戦ったらしいじゃないですか。
 いやはや、まだ10歳だというのに末恐ろしいですね。

 しかし、これなら我が友からの10年来の頼み…………いえ、約束を果たすことが出来そうです。













「こんにちは、ネギ君」

「……………………」



 …………え、反応ナシ?



「…………こ、こんにちは、ネギ君」

「……………………」

「……あの~、もしもし?」

「……………………」



 あ、あれ? 完璧に無視されてしまうんですけど?
 せっかく準決勝が始まるまでの10分間の休憩で、ナギと戦えることを伝えようと思ったのに…………あ、もしかして?







『…………ネ、ネギ君? 聞こえてますか?』

『はい、何でしょうか。アルビレオ・イマさん?』



 …………なるほど。念話でなら反応アリですか。
 少しばかりネギ君と話しをしてみようと思ったのに無視されるというのは予想外でしたが、考えてみれば変装のためにこの格好をしているんだろうから、“ネギ君”と呼びかけても反応してくれないのは仕方がないですかね。

 …………念話で反応してくれればいいんじゃないかとは思ってしまいますが。



『ああ、私のことはクウネル・サンダースとお呼びください、ネギ君』

『…………はあ、それで何の御用でしょうか、アルビレオ・イマさん?』

『いえ、ですからネギ君。私のことはクウネル・サンダースと『何の御用でしょうか、アルビレオ・イマさん?』………………私のことはクウネル・サンダースとお呼びください、ユニコーンガンダム君』

『はい、わかりました。クウネル・サンダースさん』



 …………“ネギ君”じゃ駄目ですか。
 念話なのに徹底しますねぇ。



『ところでもうすぐクウネルさんのの試合が始まるみたいですけど?』

『…………そうですね。それでは話はまた後ほどということで…………』






 誰もいない控え室なら“ネギ君”として話してくれると思ったのですが、どうやらこの大会中はユニコーンガンダムで通すつもりのようですね。
 まあ、私もクウネル・サンダースという偽名を使ってますので何も言えませんけど。

 やれやれ。少しネギ君と話してみたかったのに、変なところで時間を無駄にしてしまいました。変装しているのにネギ君と呼びかけたので、意固地になってしまったのですかね?
 ま、ネギ君は私のアーティファクトのことを知っているみたいですので、別にわざわざナギと戦えることを伝えなくても構いませんか。





『あ、それと派手な魔法は使わないでくださいね。
 どうやら何か企んでいる生徒がいるらしいんですよ』

『…………わかりました』



 …………自分勝手なところはナギに似てますね。
 それともアリカ様似でしょうか? あの方もマイペースなところをお持ちのようでしたし…………。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





『クウネル・サンダース選手対…………長瀬楓選手ーーー!
 一回戦では中村達也選手を一撃で沈め、二回戦では前年度ウルティマホラチャンピオンの古菲選手をカウント負けに追い込んだ長瀬選手。しかし、その実力はまだ全てわかってはおりません!
 片や底知れぬ強さを見せ付けるクウネル選手。こちらもまだ実力の程はわかっておりません。
 両者いったいどういう試合を行なうのでしょうか!?』


 今年は本当に豊作ですね。
 このカエデさんもかなりの実力を持っているのが舞台で対峙しただけでわかります。


「クウネル殿、貴殿の目的はエヴァ殿から聞いているでござる。しかし拙者、長瀬楓。本気で当たらせてもらうでござる。
 むしろネギ坊主拙者のマスターからは「何やっても死なないから、殺す気でいってもOKデスヨ」と言われているので、胸を借りるつもりの本気の全力の遠慮無しで挑まさせていただくでござる」




 …………いや、確かにこの身体は本体ではありませんし、元からカエデさんに負けるつもりは毛頭ありませんでしたが、ネギ君の言うことは随分と過激ではありませんか?

 もしかして私ってネギ君に嫌われてますかね? さっきも無視されましたし…………。
 “紅き翼アラルブラ”のことをよく調べていたらしいですが、ネギ君自身には別に何かしたというわけじゃないんですけどねぇ。


 キティに何か吹き込まれたのでしょうか?
 しかしキティがそんなことをする心当たりなんて………………結構ありますね。いや、これは失敗失敗。


 …………まあ、でも問題ないでしょう。
 私としてもネギ君の従者の力を見てみたいと思っていましたしね。従者のカエデさんの力がわかれば、主人のネギ君がどれだけ育っているかもわかるというものです。










「…………いいでしょう。お相手致しますよ」

『それでは準決勝第十三試合…………Fight!!!』





 審判の開始の合図が響きましたけど、カエデさんは動きませんね。ジワリジワリと慎重に距離を詰めてきます。
 小太郎君のように特攻してくることはさすがにありませんか。





「ふっ…………!」


 かと思えば、瞬動でいきなり接近戦ですか。しかも一瞬で影分身を3体繰り出して
 これはビックリ。瞬動に入るまでの気配がまったく感じれませんでした。


『おおーっと! 長瀬選手、一瞬で間合いを詰めたと思ったら、そのまま4人に分裂してクウネル選手に襲い掛かる! 二回戦で犬上選手も使っていた分身攻撃!
 いつから麻帆良はビックリ人間大集合の街になったんだーーーっ!』


 元からですよ、審判のお嬢さん。


『しかし、クウネル選手も落ち着いて対応していますね』

『はい、素晴らしい身のこなしですね』




 これほどの密度の影分身を見るのは20年ぶりですし、カエデさんのその長い手足を活かしての体術もなかなかです。
 主人であるネギ君はカエデさん以上なのでしょうかね。ま、それは決勝を楽しみにすることにしましょう。

 …………私が戦うわけではないのがとても残念ですが。


 それなら今の心躍るこの戦いを楽しまさせて頂きます。

 確かにカエデさんは年齢にそぐわない力をお持ちですが、この私もナギ達と一緒に戦場を駆け回った身です。
 若い者達にはまだまだ負けられないところを見せてあげましょう。





「むっ!? 消え…………?」





 ちょっと卑怯ですが、転移で距離をとらせていただきますよ。そして重力魔法で牽制を…………。
 フフフ、楽しくなってきました。





『クウネル選手が瞬間移動!?
 しかも何だか黒い球を生み出して長瀬選手に攻撃をしています! あれはいったい何なんでしょうか!?』





 ネギ君からは魔法をあまり使わないようにと言われましたが、カメラとかは使えないようなので別に問題ないでしょう。
 カエデさんが放ってきた気弾を魔法障壁で弾きながら、こちらも続けて重力魔法で攻撃………………お、虚空瞬動ですか? その年齢でいよいよ素晴らしい。

 さて、それではドンドンいきますよ。





「くっ! …………『契約執行シム・トゥア・パルス』!」



 む、カエデさんから魔力の気配がしたと思えば、いつの間にかカエデさんが両手に持っていた棒から光の剣が伸びていました。
 アレは……ネギ君が使っている“ビームサーベル”とやらですね。ネギ君が麻帆良に来たばかりの頃に行なわれた魔法先生との模擬戦で見たことがあります。

 『契約執行シム・トゥア・パルス』でネギ君から魔力を供給してもらったのでしょう。カエデさんのようにネギ君の従者ならば、魔力を供給してもらうことによってネギ君と同じようにビームサーベルが使えるみたいですね。
 しかも咸卦法が使えなければ気と魔力は反発するものですが、供給された魔力は全てビームサーベルに使われているみたいなので平気のようです。随分と器用ですねぇ。


 しかし、ビームサーベルでは接近しない限り、私に攻撃することは出来ないですよ。
 対する私は今までのように重力魔法を放っていれば近寄らせないことが出来ま「ハッ!」…………って、アレ?





 ビームサーベルで魔法が斬られた?
 今のはいったい…………?





「まさかこんなアッサリとコレを使う羽目になるとは…………。
 もう少し拙者だけでも戦えると思ったのでござるがなぁ」

「いえいえ。カエデさんも良い動きをしてますよ。逃げに徹されたら苦労しそうです。
 …………ところで、手に持たれているのは何なのでしょうか?ネギ君のビームサーベルのように見えますが、それでも重力魔法を斬るなんてことは出来なかったはずですが…………」

「よく知っているでござるな。もちろんその通りでなのでござる。術式研究の結果、ビームサーベルに『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を付与することに成功したらしいでござるよ。
 言ってしまえばアスナ殿の“破魔の剣エンシス・エクソルキザンス”の劣化版でござるな」





 なるほどなるほど、そういうことですか。
 ネギ君が『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を持っていたことは学園長から聞いていましたが、まさかそこまで扱いこなせるようになっているとは思っていませんでしたよ。

 そういえば告白阻止のための対策を考えて、ソレを実行可能にしたのもネギ君の研究があってのことと聞きました。
 どうやらネギ君はナギのように戦闘だけしか出来ないのではなく、そういう魔法研究の適正もあるようですね。

 アスナさんの“破魔の剣エンシス・エクソルキザンス”は見たことはないですが、おそらくカエデさんの言い方からしてアレと同じく『完全魔法無効化マジックキャンセル』の効果を持つ剣ということなんでしょう。
 彼女の能力から考えて、そういうアーティファクトが発現するのは当然ですか…………。


 しかし参りましたね。
 となると、さきほど魔法を斬られてしまったように、魔法はもう効かないと考えた方が良さそうです。





「いや、それどころか今のクウネル殿の身体も消せるらしいでござるよ。
 その身体は魔力で作った分身なのでござろう?」





 …………え? ちょっとばかりソレは洒落にならないんですけど。
 もしかして、その剣に当たったら一撃死ですか?





「さすがに死にはしないと思うでござるが、それでもその身体を構成している魔力をゴッソリと削ることは出来るらしいでござるな。
 クウネル殿が派手に魔法を使ったりしたら拙者もコレを使っていいと言われていたので、遠慮ナシに使わさせていただくでござるよ」





 …………いやはや、少しばかりネギ君の従者の力を見ようと思っただけなのに、少し困ったことになってしまいましたね。
 まさかネギ君がそんなものを用意していたとは…………。

 カエデさんに負けるとは思ってはいませんが、まさか祭りで本気を出すわけにもいきませんので、一撃も食らわずにカエデさんを倒すのは少し難しそうです。
 倒せないこともないですが、決勝で戦う力が残るかわかりません。本体でないのが今になって響くとは…………。

 参りましたね。
 我が友の頼みを叶えるために、何としても決勝に勝ち進まなければいけません。





 …………ここは一つ、私のアーティファクトを試してみることにしましょうか。












━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 うーむむむ…………。

 楓さんに渡したビームサーベル(完全魔法無効化マジックキャンセルver)があったら十分に勝機があると思ったのですが、どうやらそんな簡単にはいかないようですね。
 ちなみにユニコーンガンダムの背中についているビームサーベルを貸しました。

 しかしアルさんのアーティファクト。“イノチノシヘンハイ・ビュブロイ・ハイ・ビオグラフィカイ”相手ではあのビームサーベルは効果がないようです。


 詳しく言いますと、“イノチノシヘンハイ・ビュブロイ・ハイ・ビオグラフィカイ”の能力である、特定人物の身体能力と外見的特長の再生を行なっているときは効かないみたいです。
 楓さんも何とかガトウアルさんに何とか一撃入れましたが、それでアルさんに戻ったり身体が分解されたりすることはありませんでした。
 分身体のアルさんなら致命傷を与えることが出来たはずですが、やはりアーティファクトともなると勝手が違うようですね。

 思い返せばあのビームサーベルを改造したときの実験の過程で菲さんの“神珍鉄自在棍シンチンテツジザイコン”と打ち合ったことがあるのですが、普通に打ち合えてましたね。
 きっとそれと同じことなんでしょう。

 アスナさんの“破魔の剣エンシス・エクソルキザンス”とか、それこそ『リライト』でしたらキャンセル出来るのかもしれませんが、あのビームサーベル程度では無理のようです。
 楓さんも言った通り、アレはあくまで“破魔の剣エンシス・エクソルキザンス”の劣化版ぐらいの性能しか持ち合わせていないので出来ないようですね。

 …………“破魔の剣エンシス・エクソルキザンス”も無理かな?





 …………お、今度は詠春さんに変化した。





 ちぇっ、楓さんがアルさんに勝ったら、それはそれで面白い展開になると思ったのに…………。
 せっかくのお祭りです。楽しまなければ損というものですよ、アッハッハ。

 しかし、楓さんも本当に強くなりましたねぇ。
 ガトウさんや全盛期の詠春さん相手でも十分に戦えてますよ。やはりウチのパーティーでは楓さんと刹那さんがツートップですね。
 ま、さすがに勝つまでは無理でしょうが、これも楓さんにとっては良い経験になるでしょう。



 あー…………徐々に押されてきましたねぇ。
 楓さんにはアーティファクトを使わせないようにも助言しておきましたが、さすがにアルさん相手なら仕方がないです。

 お、やはり最後は駄目親父ですか。原作と一緒ですね。
 あーあ、原作と一緒に最後には楓さんを舞台に叩きつけて………………よし、駄目親父殺す。

 原作見たときから思っていましたが、アレは14歳の女の子相手にはちょっとやりすぎじゃありませんかね?
 真面目な話、死んでもおかしくない攻撃ですよ。楓さんが舞台への激突の瞬間に技を外したから無事だったものの…………。





『おおーーーっ、長瀬選手ギブアップ! しかし無理もありません! ボロボロだ!
 ここでクウネル選手の決勝進出が決定ーーーーーっ!!!』





 むぅ、やはり勝てませんでしたか。アーティファクトが反則ですよねー。
 でもよくよく見てみれば、アルさんのローブの裾部分が少し斬れてます。

 どうやらビームサーベルで一撃入れることは出来てたようですね。
 楓さんも何だか晴れ晴れとした顔をしてますし、思った通り楓さんにとっては良い経験になったのでしょう。


 よし、それに免じて半殺しですましてあげ………………む、待てよ。
 今のは“イノチノシヘンハイ・ビュブロイ・ハイ・ビオグラフィカイ”でも“全人格の完全再生リプレイ”の方の能力じゃないから、駄目親父じゃなくてアルさんがやったことなのか。
 なら駄目親父は許してあげましょう。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ちなみにタカミチが田中さん100体を殲滅したのは幽々白書の“幽助&桑原 VS 陰魔鬼”を想像していただければわかりやすいと思います。
 数撃ちゃ当たるわ。
 さすがにあの下水道通路の中で『千条閃鏃無音拳』とかやられたら、いくらたつみーでも逃げることは出来ませんよね。

 ネギの“紅き翼アラルブラ”殺すリスト上位3名は、ナギ、ラカン、アルです。
 そして次話はいよいよ決勝です。



[32356] 第63話 学園祭⑧ バトル・ミリオネア達成
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/16 19:06



━━━━━ 犬上小太郎 ━━━━━



 …………凄い久しぶりな気がするな、出番。

 それにしても、やっぱり優勝は無理やったか…………1000万円が。
 まあ、ネギが出ることになってた時点で半分以上は諦めとったけど…………。





「ここにいたか。
 まだ決勝は始まってないみたいでござるな」

「おー、残念やったな、楓姉ちゃん。試合はまだ始まってないでー」

「おお、楓。怪我は大丈夫アルか?」


 楓姉ちゃんが戻ってきた。
 やっぱり楓姉ちゃんの戦いは凄かったなぁ。あのクウネルっちゅーのにあそこまで食い下がれるなんて…………。

 今の俺では楓姉ちゃんにも敵わんわ。






「大丈夫でござるよ。
 さきほどネギ坊主が治してくれたでござる…………トイレで」

「………………は? トイレっ!? ど、どーゆーことアルか!?」

「モビルスーツ状態ではネギ坊主は魔法が使えないでござるからな。
 それとモビルスーツの中の人がネギ坊主だということがバレるわけにはいかないから、トイレでコッソリと『咸卦治癒マイティガード』をしてくれたのでござるよ」

「ほ、ほほぉ…………そういうことなら仕方がないアル…………ね」


 え? 何か変な話になってきとらん?
 俺を挟んで女の戦い勃発?


「いやぁ……ネギ坊主は幻術で大人の姿になっていたから、そんな大人のネギ坊主……ネギ殿とトイレの個室で2人っきりになるというのはドキドキしたでござるな。何というか背徳感がビシビシと…………。
 しかも『咸卦治癒マイティガード』のために触れ合ったでござるし」

「……………………」

「拙者はネギ坊主に恋愛感情を持っているつもりではなかったが、ネギ坊主に夢中になっているアスナ殿達の気持ちが少しわかったような気がするでござるよ。
 頬の怪我を治すために、ネギ殿に頬を優しく撫でられながら「良い試合でしたよ、楓さん」って耳元で囁かれたときは、正直言ってキュンと来たでござる」

「…………ち、ちなみに男子トイレだったアルか? 女子トイレだったアルか?」

「秘密でござる…………と言いたいが、普通に男女兼用のトイレでござったよ」

「そ、それならまだいいカ………………というか楓だけなんてずるいアルよ!」

「だって古は怪我らしい怪我はしてないでござる」

「クッ! こんなときはネギ坊主の過保護振りが憎いアル!!! 防弾服さえ装備してなかったら!!!
 …………いや、最後に真名からやられた脇腹が内出血で少し青くなっているから…………」


 お願い! 俺の頭の上でそんな話せんといて!
 こんなときってどういうリアクションをとればいいんや、俺は!?




 

「ク、クウネルの奴が舞台に出て来たで!!!」


 もうさっさと試合始めてくれや…………。

 それにしてもネギはクウネルとどうやって戦うんやろうな?
 ビームサーベルがあるからクウネル自身には楽に勝てるんやろうけど、どうやらあのアーティファクトを使われると効かないみたいやし…………。

 楓姉ちゃんがビームサーベルを前の試合で使わなければ、虚を突いておそらくあっという間にビームサーベルで勝てたんやろうけど、多分クウネルの奴も何かしらビームサーベル対策を考えているはずや。


「コタロー、よく見ていると良いでござるよ。
 この試合でネギ坊主とお主の違いが良くわかるはずでござる」

「ん? ネギがどうやって戦うんかわかるんか?」

「ネギ坊主からは聞いてはいないアル。でも、ネギ坊主の性格からすると簡単に予想出来るアルよ」



 …………まあ、楓姉ちゃんも菲部長も俺よりはネギとの付き合い長いからな。しかもネギの従者やし。
 それならわかるんやろ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





『出ました! クウネル・サンダース選手!
 口元には余裕の笑みを浮かべているーーー!! 確かにここに至るまで傷らしい傷も負っていないようだ!!
 先ほどの準決勝ではフードを脱ぐたびに顔がコロコロと変わっていましたが、それと同時に使う技も変化していきました!
 まさに正体不明の謎の無敵魔人だ!!』


 相変わらずニヤニヤと笑っててムカつく奴やなぁ。
 奴の正体は“紅き翼アラルブラ”のアルビレオ・イマ。

 でも強かった。
 俺は手も足も出なかったし、楓姉ちゃんも結局負けたしな。


『さあ、対するは!
 麻帆良驚異の超科学で作られたらしいロボット!! ASIMOやAIBOなんか目じゃねーよと言わんばかりの高性能!!
 一回戦ではデスメガネの高畑選手を絞め技で落とし、二回戦では同じロボットの田中選手を完膚なきまでに破壊せしめたユニコーンガンダム選手ーーーっ!!!』


 白い何かがズドド、と背中のバーニアから火を噴いて飛んでくる。
 舞台に降り立つは一本の角を生やした真っ白なロボット。

 そういえばアレは京都で見た2種類とは違うよな。
 ネギのやつはいったいどれだけの種類のモビルスーツを使えるんやろ?


 そしてネギと俺はいったいどれくらい力の差があるんやろう?

 京都ではアッサリとネギ達に負けた。
 最初は魔法でヘロヘロにされ、楓姉ちゃんに完封され、電撃で気絶させられて、最後にはネギさんにブン殴られた。

 ………………本当によく生き残れたよなぁ…………。













『それでは決勝戦―――』


 いよいよ始まる。
 決勝戦だから観客の声援が凄い。

 クウネルは審判の姉ちゃんが試合開始合図をし始めると同時に手にアーティファクトカードを持って、いつでもアーティファクトを使用出来るように準備した。
 対するネギは全身の装甲が展開して赤く光り始め、額の一本角もV字に割れて金色に光った。タカミチさんとの試合のときに一瞬見せたあの変身verや。

 ………………変身出来るってカッコエエなぁ。










『―――Fight!!!』









 遂に始まった!
 開始合図とともにクウネルのアーティファクトが発現され、たくさんの本がクウネルの周りを取り巻『アーティファクトは使わせません!!!』…………こうとした瞬間、ネギの念話が辺り一帯に響く。

 そしてネギが一瞬で間合いを詰め、クウネルの顔にパンチをブチ込んだ。
 パンチをブチ込まれたクウネルは舞台に叩きつけられ、そのままネギはクウネルの上に馬乗りになってオラオララッシュを連打している。








 …………。

 ……………………。

 ………………………………あっれぇ~? タカミチさんのときと同じ展開なの?





「そうでござるよねぇ~」「そうアルよねぇ~」


 えっ!? それでええんかい、楓姉ちゃん!? 菲部長も!?
 アレは試合じゃないで! リンチか何かの別物やで!


「? 何かネギ坊主の行動は間違っているでござるか?」


 え? 間違い?

 …………そう言われると……どうなんやろ?
 確かにアーティファクトが強力なら、使わせなければいいだけなんやけど………………それでもどっか間違ってあらへん!?







『ちょ!? ちょっと待って下さい、ネギ君!!!』


 クウネルの念話も聞こえた。
 どうやらクウネルもこの展開は予想外やったみたいやなぁ。

 …………あ、観客席にいるエヴァンジェリンがクウネルを指差しながら笑い転げている。
 今のクウネルの慌てた感じの念話………………むしろ悲鳴がツボに入ったみたいや。


 転移して一度逃げればいいんやないかと思ったけど、よく見たらクウネルのローブにいつの間にかビームサーベルが刺さっていて、それで舞台に縫い付けられている。
 ローブが消えていないことから見ると、完全魔法無効化マジックキャンセルverやないみたいや。きっと影縫いみたく、転移魔法とかの妨害しつつ動きを封じる術式なんやろ。
 ネギはそのまま馬乗り状態でオラオララッシュを続けながら、たまに発現し直すクウネルのアーティファクトを殴って弾き飛ばす。


 解説席に置かれているネギの電光掲示板には、

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄カウントまだ?』

 って表示されてる。そういえばクウネルは倒れているのにカウントされてないわ。
 あー、審判の姉ちゃんはポカーンとした顔でクウネルがボコられているところを見てるわ。

 ……………………無理ないな。









「そうでござるよなぁ。
 別に実戦じゃなくてルールのある試合なんだから、カウント負けを狙っても良かったのでござるよ。大会ルールがあるからこそ、逆にクウネル殿に勝つ手立てがあるということでござるな」

「でも楓にはつらくないカ?
 私達ではあのネギ坊主みたく圧倒的な攻撃で動きを封じることは出来ないし、転移を妨害することも出来ないアルよ」

「それは確かに。でもアレならアーティファクトを使わせないことが出来るし、クウネル殿をビームサーベルで消去して武道会が中止になるやもしれない事態を避けることが出来るでござるな」

「ああ、それはそうアルね。考えてみればクウネルをビームサーベルで消滅させたら、武道会どころじゃなくなるアルね」


 アッハッハ、と朗らかに笑っている2人。

 変なのは俺か!? 違和感を感じている俺が変なんか!?
 言ってることはわかるで! 言ってることはわかるけど、それでも絶対どこかおかしいやん!


「見たらわかるでござろう、コタロー。ネギ坊主は“勝つために戦う”という目的を明確に立てているでござる。
 対するコタローは“楽しむために戦う”のが多いでござるな。まぁ、拙者達にもそういうところはあるから悪くは言えないでござるが…………」

「ネギ坊主の思い切りの良さは凄まじいものアルよ。その思い切りの良さが、戦いにおける瞬時の判断力に繋がっているアル。
 一言で言って“覚悟をしている”アルよ」

「コタローも覚悟をしているように見えて実はそうではない。ハッキリ言ってあまり物事を深く考えていないでござろう?
 深く考え込んでからした“覚悟”と、あまり考えずにした“覚悟”。どちらの覚悟の方が強いのかはわかるはずでござる」


 急に話変えんといて。

 …………それにしても“覚悟”、か。“意思”っちゅーてもええか。

 確かにそれはネギの方が持っているかもしれんな。
 考えてみれば俺は京都の時だって“いけ好かない西洋魔術師と戦いたい”なんていう、今考えるとしょうもない理由でネギ達と戦った。
 そのためには他の事なんかどうでもええって考えていたけど、今から思えばそもそも考えてなかったんや…………。

 …………うわぁ、メッチャ俺ガキやったやん。





「くさるでないゾ、コタロよ。
 ネギ坊主が特殊なだけで、コタロの年なら間違いがあって当然アル。反省したのならそれを糧にして、これからへ繋げていけばいいアルよ」

「偉そうなことを言っている拙者達もまだまだ修行中の身でござるしな」


 わかっとるわい。
 別に慰めなんていらへんよ。

 俺が弱いっちゅーのは京都で十分わかっとる。
 これから修行を積んでいって、いつかはネギに一泡拭かせたるわ。負けは認めたけど、諦めたりせえへんからな。







『………………あっ!? 失礼しました!
 カウントを数えますっ!!!』



 いや、もう確実に10秒以上経ってるで、審判の姉ちゃん。

 ネギのオラオララッシュはまだ続いている。
 クウネルは転移も出来ず、あまりの圧倒的なオラオララッシュのために反撃も出来ない。もう詰んだやんか。






『ネギ君、話を! 少しでいいから話を聞いてください!
 実は10年前にナギから頼みを承っていてっ!』

『あなたは何を言っているんですか?

「パワーアップするからちょっと待って」

 と言われて待つ馬鹿が何処にいます!?』


 そりゃそうやなぁ。
 カウントも7……8……9……10。あーあ、終わってもうた。

 試合終了の判定の声が響き渡る。


 クウネルの奴は何か戦う以外に目的があったみたいやけど、結局ネギのせいでそれは出来んかったみたいや。
 まさかこんな力押しで勝つとは…………ネギも酷い奴やな。


 舞台には“WRYYYYYーーー!”って感じでクウネルを踏みつけ、吠えるかのように立ち上がるネギ。
 そしてローブに穴は開けられたけど、分身体のおかげで怪我一つない状態で判定負けを下された、どこか寂しそうな雰囲気を漂わせているクウネルが横たわっている。
 ダメージはないはずなのにピクリとも動かんわ。


 …………。

 ……………………。

 ………………………………うん、しょうがないわな。


 だって、ネギなんやしな。












━━━━━ 瀬流彦 ━━━━━



「ネギ君、優勝出来たみたいですねぇ」

「そりゃあそうだろう。いくらルール縛りがあるとはいえ、ネギ先生が負けるところなんて想像がつかないさ。
 それより高畑先生はまだ来な…………お、来たか。授賞式が終わったみたいだから良いタイミングだな」


 そうみたいですねぇ。
 空を見上げるとユニコーンガンダムネギ君が空を飛んでどこかへ去っていくのが見えてますので、授賞式もちょうど終わったのでしょう。

 優勝賞金は1000万円か。凄いなぁ。
 まあ、どうせネギ君のことだから、自分の従者のために使うんだろうけどさ。

 若い…………というより幼いって微笑ましいね。
 何度かネギ君の従者へのプレゼント選びに付き合ったことあるけど、真剣にプレゼント選んでいるネギ君の顔を見るとそのときばかりは年相応の顔になっているんだよねぇ。





「ネギ君は呼ばなくていいんですか?」

「…………呼んだ方が心強いのは確かだが、何でもかんでもネギ先生に頼るわけにはいかないさ。高畑先生も来てくれたし、私達でまず何とかしてみようじゃないか。
 それにせっかくの麻帆良祭だ。ネギ先生には少しでも良い思い出を作って欲しいからね」


 それは確かにそうですけど、相変わらずネギ君に甘いですね、ガンドルフィーニ先生は。


 でも確かにネギ君はいつも教師の仕事から魔法先生の仕事まで一生懸命やってくれているから、こういうお祭りのときぐらいは楽しませてあげたいな。

 …………それにしても今回の学園祭は告白阻止という大仕事がネギ君のおかげで楽になったのに、ネギ君のクラスの子のおかげで別の手間が増えちゃったよ。
 超君の調査をしていた高畑先生が罠に嵌って監禁されたらしいけど、無事に脱出することが出来たので僕達に連絡が回ってきた。

 どうやら超君は“魔法の存在を世界に公表する”ということを企んでいるらしいねぇ。


 この大会はそのために開かれたのかもしれないけど、あまり大きな成果はなかったようだね。
 ネットでもこの大会のことは話題になっていたけど、“魔法”なんて単語が出てきたのは準決勝の第一試合。長瀬君 VS クウネル選手のときだけだった。あとは気が使える人が少し話題に上ったぐらいかな。
 最終的にネットの反応は“麻帆良の科学力マジパネェ!”で終わってた。これもネギ君がモビルスーツで出てくれたおかげかな。

 ま、それでも見過ごすわけにはいかないから、とりあえず超君を捕まえてから事情を聞くことになったけど…………。





「お待たせしました、ガンドルフィーニ先生」

「ああ、まだ超鈴音は来ていないですよ。
 それと高畑先生は大丈夫ですか? 超鈴音に監禁されたと聞いたし、そもそも武道会でネギ君に負けてしまったと聞きましたが、怪我はないですか?」

「…………はい、大丈夫ですよ」


 …………アレ? 何でだろう?
 笑顔のはずの高畑先生が怖いよ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「待ちなさい、超君」


 授賞式が終わり、会場を出てきた超君を魔法先生達で取り囲む。
 僕はあまり攻撃は得意な魔法使いじゃないけど、それでも女の子1人取り押さえるぐらいなら出来るしね。


「やあ、高畑先生。これはこれは皆さんもおそろいで………………え? アレからまだ1時間も経てないヨ?」

「職員室まで来てもらおう、超君。君にいくつか話を聞きたい」

「…………な、何の罪でカナ?」


 …………余裕がある子だなぁ。ちょっと高畑先生には及び腰だけど。
 だいたい君が高畑先生を監禁したんだろうに、よくその当事者を目の前にしてシラを切れるもんだね。


「罪じゃないよ。ただ話を聞きたいだけさ」

「高畑先生! 何を甘いことを言っているんです。要注意生徒どころではない。この子は危険です!!
 魔法使いの存在を狂評するなんて…………とんでもないことです!!」


 わかったから落ち着いてください、ガンドルフィーニ先生。





「(お、落ち着くネ、私。高畑先生がいるのは予想外だたガ…………)
 …………フフ、古今東西。児童小説、漫画でも魔法使いはその存在を世間に対し秘密にしている…………という話は多いネ。何故カナ?
 私から逆に聞こう。何故君達はその存在を世界に対し隠しているのカナ? 例えば…………今大会のように強力な力を持つ人間が存在することを秘密にしておくことは、人間社会にとって危険ではないカ?

 ……………………そう、例えばネギ坊主●●●●のような存在は!!!」

「「「「「………………………………」」」」」









 …………。

 ……………………。

 ………………………………いや、反論しましょうよ、皆さん。

 ホラ、ガンドルフィーニ先生。“痛いところ突かれちゃった!”みたいな顔しないでくださいよ。
 高畑先生も頭を抱えてしゃがみこんでないで、何か言ってくださいよ。ネギ君は高畑先生と学園長の担当じゃないですか。
 神多羅木先生も明後日の方向を見詰めて煙草吸わないでください。
 明石教授も何か言ってくださいよ。娘さんはネギ君のクラスの子でしょう。ネギ先生が信頼出来ないんだったら、そんな娘さんを預けるなんてこと出来ませんよね。

 え? 僕?

 …………だからネギ君は……ネギ君は………………えーっと…………?









「…………ネギ君はホラ。
 何ていうか………………良い子だし?」


「…………本気で言ているのカ、瀬流彦先生? ブチャケたことを聞きたいのだけど、もし“ネギ坊主がグレたら”あなた達はどうするのカナ?
 いや、ホントに真面目な話でだヨ…………」





 …………あの子だったら、例え魔法封印して独房に突っ込んでも絶対出てこれるよね。
 それこそ超凶悪犯みたいな扱いしないと抑えきれない……………………というか、そもそも僕達じゃネギ君を捕まえること自体が出来ないじゃないかっ!!!




 …………。

 ……………………。

 ………………………………そうなったら全部、高畑先生と学園長に任せよっかな。





━━━━━ 後書き ━━━━━



【ネギの“紅き翼アラルブラ”粛清リスト】

 ナギ・スプリングフィールド
 ジャック・ラカン
 アルビレオ・イマ ← 済

 アルのアーティファクトは一粒で二度美味しい。駄目親父抹殺は学園祭終了後ですね。
 …………アレ? もしかしてラカンの“半生の書”もあるんじゃね? 一粒で三度美味しい?



[32356] 第64話 学園祭⑨ ネギノ・トリガー
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/19 19:00



━━━━━ 佐倉愛衣 ━━━━━



「いや~、あの武道会凄かったね。あまりの人気振りに観戦チケットがプラチナチケットになったみたいじゃん。超りんの誘いで司会兼審判やって良かったよ。
 え? 超りんが何であの大会開いたかって?
 …………いや、別に聞いてないけど、やっぱり宣伝とかそういう目的だったんじゃないの?
 超包子が出してた出店とかも繁盛してたみたいだったし…………」





 …………超さんの大会で司会兼審判をしていたネギ先生のクラスの朝倉さん。
 どうやら彼女は何も知らないみたいですね。

 超さんが魔法先生から逃げ切ったらしいので、少しでも情報が欲しかったのですが…………。





「お、くーちゃんに楓も凄かったよ~…………って、あれ? くーちゃんどうしたの?」

「……………………」

「何でもないでござるよ。大会が終わって気が抜けたのでござろう。
(…………恥ずかしさのあまりに上の空になるぐらいだったら、ネギ坊主に『咸卦治癒マイティガード』を頼まなければよかったのに…………)」

「(おい、ネギ先生は古にいったい何やったんだよ?)」

「(ネギ坊主……いや、大人verのネギ殿が、古を膝の上に載せて後ろから抱きしめたそうでござるよ。それに加えて真名からイイのを食らった脇腹の治療のために、服の中に手を入れられて直接患部をそっと優しく撫でられたとか…………)」

「(…………それなんてエロゲ?)」

「(しかもトイレの個室で2人っきり、という背徳空間ででござる)」

「2人して何コソコソしてんの、千雨ちゃんに楓?
 ま、いいや。私はこれから武道会で優勝したユニコーンガンダムってのが、いったいどこで作られたのか調査しなきゃいけないからね。
 コーヒー奢ってくれてアリガト。じゃあねん!」






 学園祭2日目、午後1:30。告白阻止の当番が終わったので、少し遅いですけどカフェで昼食をとることになりました。でも他のお客が少ないのでちょうど良かったかもしれないです。
 入った店には偶然にもネギ先生の従者の方たちがいらっしゃいました。まほら武道会も終わったので昼食をとりに来ていたみたいで、せっかくなので同席です。
 ネギ先生は一度魔力溜まりを回って、結界や要石などの確認をするらしいので今はいませんけどね。


 ううぅ…………告白阻止の警備は暇でした。それこそネットに上がっていたまほら武道会の映像を見るぐらいしかやることありませんでしたよ。
 だって、ネギ先生の張った結界のおかげで告白阻止ポイントには誰も入ってきませんでしたし、間違って入ってくる人を見張るシステムも完備されていたので動き回る必要がなかったんですもん。
 ちなみにそのシステムは、立入許可魔法符を持ってない人が入ってきたら警報が鳴ったり、結界内の様子をまるでミニチュアのジオラマのように立体映像で表示させることが出来たりするんですよ。ちなみに作ったのは全部ネギ先生です。

 最初のうちはお姉さまが張り切っていたので実際に歩き回って警備していましたが、人っ子一人いない空間を歩き回っているうちにいつの間にか元気を失くしていきました。
 あとは立体映像で監視しながら本を読んだり、まほら武道会の映像を見たりしての時間潰しです。


 もちろん忙しいよりは良いんですが

「せっかくの学園祭なのに、私達はいったい何をやっているんだろう?」

 という疑問が湧いて出てくるのは止められませんでした。





「いいなー、神楽坂さん達。
 好きな人と学祭デートかぁ。憧れちゃうなー」

「何を言っているのですか、メイ。私達にはまだそういうことは早いです」


 この後、神楽坂さん達はネギ先生と一緒に学園祭を回るようです。
 ネギ先生はあの告白阻止警備システムを作ったので警備当番は免除されてますし、まほら武道会で超さんの企てを阻止するなどの大活躍ですから、そのぐらい息抜きをするのは当然ですよね。


 …………お姉さまなら

「教師と生徒の関係でそんな不純異性交遊はいけませんっ!」

 なんて言うと思ったけど、どうやらそんな気はないようです。
 そもそもネギ先生達の関係は見ていて微笑ましい感じですしね。フフフ…………。


 ネギ先生が麻帆良に来てから、お姉さまは少し変わったと思います。
 昔のお姉さまなら“崇高な使命があるから、恋愛などの些事にかまけている暇はありません!”って感じだったんですけど、ネギ先生を見てたら

「“偉大な魔法使いマギステル・マギ”になるためには魔法の力を磨くだけでなく、人としての成熟も必要」

 という考えに至ったようです。
 実際、ネギ先生見てたら私もそう思います。


 …………何というか、ネギ先生の力も心意気も“偉大な魔法使いマギステル・マギ”に値する立派なものですが、それでもやっぱりどこか違うと思うんですよね。
 凄いとは思いますけど、ああなりたいと思わないというか憧れることが出来ないというか…………。

 いや、ネギ先生は凄いんですよ。
 私やお姉さまも魔法についてアドバイスをもらったりしたことありますし、そもそも今回の告白阻止警備システムの構築などの実績もたくさん持ってます。

 …………それでも何というか…………ねぇ?









「お待たせしました。結界の方は大丈夫でしたから、これからも遊びに行けますよ。
 6時からの“でこぴんロケット”のライブに誘われている以外は予定らしい予定はありませんので、どこか行きたいところがあったら言ってください」


 あ、お帰りなさい、ネギ先生。

 いいなー、神楽坂さん達。ネギ先生と一緒にいれて。
 ネギ先生みたいになりたいとは思いませんけど、神楽坂さん達みたいにネギ先生からああいう風に想われるのはうらやましいんですよね。

 あ、別にネギ先生のことが好きってわけじゃないですよ。
 でも、ああいうプラトニックな関係は憧れちゃいます。


 まあ、たくさんの女の子と付き合っているのはどうかと思いますけど、ネギ先生の幼さだとそれ以前の問題ですからね。
 二股とか三股とかじゃなくて、幼稚園ぐらいの男の子が「皆大好き!」って無邪気に言っている感じです。お姉さまも言ってましたけど、別に嫌悪感はないんですよね。
 むしろ微笑ましいです。

 それに…………どちらかというと、表現的には“二股をかけている”じゃなくて“二股に裂かれている”って感じなんですよねぇ。
 たまに学生生協で着せ替え人形にされるネギ先生を見かけちゃうとそう思います。


 ………………私達も参加したことありますけどね。
 ネギ先生のどこか諦めた顔が可愛かったです。







「その前に少し失礼。……ネギ先生、超鈴音のことについて何かわかりましたか?」

「ああ、グッドマンさん。お疲れ様です。
 動ける魔法先生総出で探しているみたいですが、まだ見つかってないみたいですね。僕も手伝おうかと申し出たのですが、学園祭を楽しむようにと言われまして。
 とりあえずお料理研究会とか量子力学研究会とかの、超さんが行きそうなところを教えておきましたけど…………」

「それは当然ですわ、ネギ先生。
 何でもかんでもネギ先生に頼っていたら私達のためになりませんもの」

「…………それはわかるんですけどねぇ。でもさっさと超さんから詳しい事情を聞きたいとは思うんですよ。このタイムマシンのことを含めて…………。
 ああ、魔法先生から超さんが逃げたときって、もしかしたらタイムマシンを使って過去か未来に行ったと思うんですよ。ですから、逃がしてしまった場所に誰か張り込ませておくか、最低でも監視カメラを仕掛けておくことは言っておきました」


 タイムマシン、ですか…………。
 本当なんでしょうかね?

 あ、ネギ先生が嘘をついているってわけじゃないですよ。ただ本当にタイムマシンなんてものが存在するのが信じられないだけで。
 まあ、この学園祭期間しか使えなかったり、消費魔力がとんでもないような欠点があるみたいですけど…………。







 それにしても、超さんは何で“魔法をバラす”なんてことをしようとするのでしょうか?
 ガンドルフィーニ先生の話だと、“強力な力を持つ人間が存在することを秘密にしておくことは、人間社会にとって危険ではないか?”と言っていたらしいですが…………。


 それに“魔法をバラす”なんて出来るのでしょうか?
 私達魔法使いには魔法バレへの対応策は幾つもありますし、専門の対策機関だってあります。例えば

「魔法使いが存在する!」

 なんて、テレビのニュース番組で叫んだとしても、事態の収拾は可能なはずです。
 そもそもイタズラと思われて終了でしょうね。魔法を実際にテレビで使われたとしても、トリックか何かと思われるだけでしょう。それなのにどうやって魔法を世界中の人達に信じさせることが出来るのでしょうか?





「ネギ先生はそこら辺のことわかりますか?」

「…………あくまで予想ですけど、方法としては“世界樹の魔力”を使うんじゃないでしょうか。
 それこそ世界樹の魔力……だけじゃ足りないから、儀式魔法で他の麻帆良と同等の聖地と共振・増幅させれば、世界中の人間全てに魔法を信じさせるような『強制認識魔法』をかけることだって可能でしょう。
 というか、こんなわざわざ世界樹の魔力が溢れ出す学園祭にあわせてこんなことを企むとしたら、それ以外には考えられないですよ。
 だって今は告白阻止とかのために警備が増強されているんですよ。そんな時期にわざわざ実行するということは、この時期じゃないと出来ない理由があるということなんでしょう」

「…………そう言われればそうですね」

「それと何故“魔法をバラす”なんてことをしようとするのかは…………未来人が過去に来てやる事といったら“歴史の改変”がお約束じゃないでしょうか」


 …………未来人、ですかぁ。
 でも確かに絡繰さんや武道会に出てた田中さんみたいなロボットは、現代の科学力では作れませんよねぇ。


「“歴史の改変”…………ですか。
 しかし、何故“歴史の改変”なんかしようと考えて…………いや、そもそも“魔法をバラす”ということで歴史は変わるのですか?」

「桜咲さん。今まで何百年と秘密にしてきたものを世界にバラすとなると、歴史の一つや二つは変わってもおかしくありませんよ」

「メイの言う通りです! 歴史的な大事件…………ヘタしたら魔女狩りの再来ですわ!
 超鈴音は何を考えているのかしら!?」

「落ち着いてください、グッドマンさん。…………魔法をバラすことにもメリットはあります。それは魔法の力をおおっぴらに使えるようになることですね。
 隠匿のために使っている労力を人助けのための力に回せば、もっと多くの人を助けることが出来るようになります。それに魔法使い自体の数も増えるでしょうね。簡単な治癒魔法を病院関係者に教えるだけでも、怪我で亡くなる人は少なくなるかもしれません。
 …………しかし魔法を少し習っただけの俄か魔法使いによる、魔法を使った犯罪も激発するでしょうね」

「それでは混乱の方が大きすぎることになりませんか?
 魔法で助けることが出来る人が増えるより、混乱で犠牲になる人の方が多くなってしまう気がしますし、ネギ先生の言った通り魔法による犯罪が増えることになりそうですよ。
 それに超さんがそのようなことを考えていないとは思えませんが…………」

「えー、やったら“地球の滅亡を回避するため!”とかやないの」

「え!? それじゃ大変じゃないの!
 超さん捕まえちゃっていいの!?」


 地球の滅亡!?

 うわー、ますます映画みたいな話になってきちゃいました。
 でも確かにわざわざ未来から来るとなると、そういう事情なんでしょうか?


「まあ、地球滅亡は言い過ぎかもしれませんが、超さんは“魔法を秘密にし続ける”よりも、“魔法をバラす”方がより良い未来になると考えているのではないでしょうか。
 …………いや、超さんの性格なら違うか。世界が多少悪かったとしても、彼女なら自分の力でより良い世界に変えていこうとするでしょう」

「それはそうアルね。超の性格ならきっとそうするアル。
 でもそれをしないで過去に来たってことは、自分の力では出来なかったってことじゃないカ」

「…………より良い世界にするために来たんじゃなく、よりマシな世界にするために来たってことかしら?
 だったら地球の滅亡は言い過ぎかもしれないけど、何らかの悲劇が未来で起こるってことになるかもしれないわね」


 …………何だかドンドン難しい話になってきちゃいました。
 超さんにも何か事情があるということみたいです。確かに意味もなく、魔法をバラすことなんてしないですよね。

 そういう事情あったとしたら、超さんを捕まえていいんでしょうか?
 それで例えば地球の滅亡なんてことになったらどうすれば…………。












━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



「…………で、アルの奴はどうしたんだ?」

「僕に何か用があるみたいでしたけど、今はせっかくの学園祭ですからね。
 ですので学園祭後に会うことになりました。図書館島の地下にお住まいになっているようですよ」


 アハハハハ! アルの奴め、ザマーミロ!

 ネギがアルをボコボコにするのを見てたら笑いが止まらなかったぞ。しかも情けない悲鳴も出してたしなぁ! オマケに終わった後は随分とションボリしてたけど、あんなアルは初めて見れたよ!
 いやー、今日の酒はなんだか美味しいなぁ。ハッハッハ。


 それにしてもアルはやっぱりネギのことがわかっていなかったようだな。

 基本的にネギは“目には目を、歯には歯を”だ。
 だからネギはあの反則のような分身体で出場したアル相手だからこそ、同じく反則ではないぐらいの戦い方をしたのだろう。せめてあの分身体で戦わなければマトモに相手をしてくれたのだろうに。

 ナギの遺言? そんなもの気にするわけなかろう。
 いくら理由があったとはいえ、真面目に出場している人間が他にいるにも関わらず、自分のために反則を使って勝ち上がろうなんて奴にネギが手加減するわけがない。
 つまりアイツは出場した瞬間にネギにボコられることが確定していたわけだよ。


 …………それにしてもアルの奴が図書館島の住んでいたとはな。
 私がナギに封印されて中学生を繰り返していたということも知ってて放っておいたのだろう、あの古本めが。

 ネギがアルに会いに行くときは私もついていって、アルの奴とたっぷりと話し合うことにしよう。





「それと超鈴音はどうするのだ?
 お前のことだからさっさと捕まえて、残りの学園祭を楽しむと思っていたのだが…………」

「せっかく他の魔法先生方がやってくれるというので、今回は皆さんにお任せしようかと。もちろん取り返しのつかないことになりそうだったら僕も出ますけどね。
 何というか…………知らなかったとはいえ、僕って麻帆良に来てからイロイロと滅茶苦茶やってしまったじゃないですか。ですので少しは自重しようと思います。麻帆良の魔法先生方にも面子があるでしょうからね。
 …………そういえば、茶々丸さんはもう超さんの方にいったのですかね? 茶道部の野点に誘われていたのですが、大会が終わってすぐに中止の連絡がありまして…………」


 ネギが遂に正しい意味で他人を慮れるようになったのか。
 よかった。本当によかったよ…………。

 これもタカミチ達がその身を犠牲にしてネギに常識を教えてくれたおかげだな。アイツラには感謝しなければならないなぁ。
 …………考えてみれば私も丸くなったものだな。アイツラに感謝しようと思うなんて。

 でも、ネギ見てたら“自分はああなるまい!”って思ってしまうんだよなぁ…………。


 悪の魔法使いである私だが、

「お前はネギより酷い」

 とか言われてしまったら、さすがに泣いてしまう自信がある。



 ああ、それと茶々丸がいなくなったのは、タカミチが無双をやったせいらしいぞ。
 結局、タカミチは武道会が行なわれている裏で、武道会にも出てきた田中とかいうロボットを500体ほど壊してきたらしい。
 いくら超鈴音でも500体ものロボットを用意するのは手間だったろうからな。本番であろう明日の前に500体も戦力を失ってしまい、プランの練り直しでもしているのだろうよ。
 それと同じくこれ以上の戦力低下は避けたいがために、茶々丸とネギの接触を断たせたのだろう。

 だって超鈴音はもう宣戦布告同然のことしてるから、ネギだってそれに対応して有無を言わずに茶々丸を拘束してもおかしくないからなぁ。
 …………いや、絶対やるだろ。

 さっき終わった学園祭2日目終了のクラス打ち上げにも超鈴音、茶々丸、ハカセ、龍宮の4人は参加しなかったのもそれのせいだろう。


 というか何でアイツラはあんなに元気なんだろうか。2日連続で夜中まで騒いでいるなんて…………。
 まあ、さすがに朝にはもう力尽きていたようだがな。私達は今みたいに“別荘”で休めば問題ないが、あれが若さか…………。


 バンドやった奴らもいるし、青春を謳歌していて何よりだ。
 ネギ達と一緒に見に行ったが、たまにはああいうのもいいものだな。

 和泉がライブの前に物凄く緊張していたのはマズイと思ったが、ネギを膝の上に載せて頭撫でたり頬をいじったり抱き締めてたりしたら、いつの間にか落ち着いたらしい。
 …………別にネギは『咸卦治癒マイティガード』は使っていなかったらしいが、一応気持ちはわかる気がする。









「まったくもって難しい…………めんどくさい話になってきましたねぇ。素直に学園祭を楽しめれれば良かったのですが…………。
 まぁ、この“航時機カシオペア”は興味深いものですけどね」

「フム、さすがの私もタイムマシンなんぞ見るのは初めてだから、やはり興味はあるな」

「…………よかったら見てみますか?」

「いいのか? それも超鈴音に繋がる証拠品なのだろう?」

「分解したり、壊したりしなければ大丈夫ですよ。そういうのは学園祭の後でしましょう。
 今日の学園祭が開始されるときには返してくださいね」

「ん、わかった。どうせ手にとって軽く見るつもりのだけだったからな…………まだな」

「それと調べるのは別荘の外に出てからの方がいいかもしれません。
 もし現実とは違う時間の流れの“異界”である別荘内で誤動作した場合、どうなるかわかりませんからね」

「それもそうだな」


 それなら丁度いいな。
 ネギは別荘に入る前にもう一度告白阻止ポイントの要石のチェックに行ったから、私達より別荘に入るのは現実時間で30分ぐらい遅かった。だから私達が別荘を出れる頃になってもネギは出ることが出来ない。
 それなら外に出て、タイムマシンを少し弄ってれば適当な時間潰しになるだろう。


「それじゃあこの式神符も持っててください。これ1枚に僕の全魔力量の半分ぐらいを篭めてます。
 もし“航時機カシオペア”が誤動作してしまったときは、式神に“航時機カシオペア”を使わせて元の時間に戻ってください。
 ああ、式神でも“航時機カシオペア”を使うことが出来るのは確認済みですよ」


 全部で5枚か。なら10回以上は跳べるな。
 それなら何かあっても大丈夫だろう。


「というか、跳んでみちゃ駄目か?」

「うーん、不安ですから出来れば僕と一緒の方がいいんですけど…………。
 そのタイムマシンは超さんから渡されたものですからね。わざわざ僕に渡されたということは、何らかの罠が仕掛けられているかもしれません。
 …………その式神符は残り20枚ぐらい残ってますから、使われても別に構いませんよ」

「…………20枚? よくそんなに作ったな。お前の全魔力量の半分なんだろう?」

「『咸卦治癒マイティガード』さえ使った状態で休めば、一晩で8割以上の魔力が回復しますからね。逆に使わなければもったいないんですよ。
 あ、『千の雷キーリプル・アストラペー』クラスの魔力量の式神符なら80枚ぐらいありますから、これも持ってきますか?」


 さすがにそこまではいらんわ。
 ちびネギハーレムには心惹かれるものがあるが、それをしたらちびネギ達と戯れている間にネギ本人をアスナ達にとられてしまうしな。

 そして相変わらず『咸卦治癒マイティガード』が便利過ぎる。ネギの8割っていったら、私の全魔力量の約3倍だぞ。それを一晩で回復出来るのは明らかに反則過ぎる。
 …………というか、この式神符1枚で私の全魔力量の2倍なのか。このバグめが。

 まあ、『咸卦治癒マイティガード』があればこそ、教師の仕事も魔法先生としての仕事も、自主鍛錬もアスナ達の修行の面倒などの全てをこなすことが出来るのだろうがなぁ。








「…………しかし、お前にしては柄にもなく不安そうだな。
 超鈴音のことがそんなに気になるのか?」

「ん? …………当たらずも遠からずというか…………。
 それに超さんが敵だとしたら、いったいどこまでやっていいのかがわからないのが不安ですね。正直言いまして、常識を知ってしまったから逆に最近“加減具合”というのがわからなくなってきていて…………」

「と、とりあえず殺すなよ…………?」

「そのぐらいはわかってますよ。
 この前に来たヴィルさんみたいな人なら別に気にならないんですが、さすがに自分の生徒相手だと後味悪いですからねぇ…………」


 まるで“潰さないように蟻を踏むのは力の加減が難しいんだ”とでも言いたいような顔はヤメロ。
 洒落にならんから。


「私は約定で助けることは出来んが、何かあるのならアスナ達にも助力を頼め。
 お前ならちゃんとわかってはいるだろうがな」


 別に止めを刺すときだけに私達の力を借りるだけじゃなく、普段から私達を頼りにして欲しいものだな。
 でも、結局ネギは1人でやりたいのだろうな。ネギは私達が危険な目に遭い、傷つくことに耐えられない………………わけでもないか。傷ついてもいいけど、自分の目の届かない場所には行かないで欲しい、って感じだろうか?
 それ以前にネギ1人で本当に大抵のことはこなせてしまうことで話を終わらせてしまうんだよなぁ…………。


 やっぱりネギの一番厄介なところは戦闘力でもなく魔力量でもなく、この性格というか考え方だ。

「僕ってRPGゲームでは、その町で手に入る最強装備を手に入れてから次の町に行くタイプなんですよねぇ」

 と以前言っていたが、むしろ“最初の町の周りでLV99まで上げてから旅に出発しそう”と思ってしまうのは私だけだろうか?
 ネギならきっと“泥にまみれるのが嫌だから、泥地を炎で乾かすか氷で凍らしてから前に進む”ぞ。
 “泥にまみれるのを恐れるな”と言いたいが、ネギはそれ以上に前準備をシッカリし過ぎるから何も言えんわ。


 少しでいいから弱いところも見せてくれ。頼むから。
 大切に思ってくれているのは嬉しいが、過保護過ぎるのはあまり好かんのだ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ちゃんとエヴァのことはたよりにしてますよー。
 いやぁ、エヴァはじつにたよりになるなー。

 …………別に会話でオカシイ所なんかありませんでしたよね?


 そして超のネギの魔力消費を激しくするという罠が全然役に立っていませんでした。
 別に超がああすることを予想していたわけではなく、本当に単純に魔力がもったいないから式神符を作っていただけです。


 あと嘴広鴻はRPGはさっさと進めていくタイプです。



[32356] 第65話 学園祭⑩ Dメール
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/19 19:01



━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━



 ………………コノエモンですが、ネギ君の機嫌が最悪です。









「……………………」

「エヴァちゃんなら大丈夫よ。ちびネギもついているんでしょ」

「そうですよ、ネギ先生せんせー
 エヴァンジェリンさんならきっと大丈夫ですよ」


 結局、動ける魔法先生を動員しての夜を徹した捜索でも、超君を見つけることは出来んかった。

 夜も明けたので情報を整理しようと思い、一度魔法関係者を学園長室に集合させて超君対策会議を開いたんじゃが、学園長室に来たネギ君からエヴァが行方不明になったと聞かされたときは驚いたわい。
 どうやらエヴァが別荘の外に出てから、連絡がつかなくなったらしい。ネギ君が超君からもらったタイムマシンを持っていたということなので、おそらくこれも超君が関係しているのじゃろうな。


 超君がタイムマシンを持っていることは確定しておる。
 ネギ君の助言通りに、超君を逃がしてしまった場所に監視カメラを仕掛けておいたのじゃが、昨日の19時ごろに超君が再びその場所に現れた。そのときの超君の発言からしてタイムマシンを持っていることが本当だとわかったのじゃ。
 さすがにあの言葉が我々を騙す流言ということはあるまい。監視カメラには気づいていなかったからの。





「ネギ君、ミルクティー作ってきたんやけど飲む?」

「…………あ、ありがとうございます」

「私も欲しいアル」

「そういえば朝食をとっていなかったですね」


 木乃香達が居てくれて助かった…………。
 ネギ君は英国紳士じゃから、木乃香達の相手するときだけはこの剣呑な空気が和らぐ。

 …………まいったのぉ。絶対怒っておるぞ。
 この部屋に来た直後はそんなに機嫌が悪いようには見えんかったのに、時間が経つにつれてドンドンとネギ君の機嫌が悪くなっていった。


 せっかくネギ君が超君の捜索の手伝いを申し出てくれたのに、それを断ったのはワシらじゃ。
 何でもかんでもネギ君に頼りきりというのは良くないし、学園祭を楽しんで欲しかったからの。それについては間違いとは思っておらん。

 しかしネギ君の力を借りてさっさと超君を捕まえておれば、エヴァが行方不明になるのを避けれたのも間違いじゃないじゃろう。


 これはワシのミスじゃ。
 そもそもネギ君の言う通りに、超君が逃げた場所に監視カメラを仕掛けるだけではなくて、魔法先生を張り込ませておけば…………。

 まあ、ワシらがやるということにはネギ君も了承してくれていたのだし、第一エヴァにタイムマシンを渡したのはネギ君じゃからの。
 それでネギ君は自分を責めてしまっておるのじゃろうな。不機嫌でもワシに何も言わないでいてくれるのはそのせいじゃろう。

 …………悪いことしてしまったのぉ。責められるより、我慢しているネギ君を見ているほうが辛いわい。
 いや、エヴァのことじゃから無事だとは思うが…………。





「ネ、ネギ先生。それならクッキーはいかがですか?
 そこの棚にありました。……………………よろしいですわよね、学園長?」

「お、お饅頭もありましたよっ、ネギ先生!」

「…………いや、ミルクティーに饅頭はあわないんじゃないのか?」

「饅頭なら緑茶でござるかな」

「あ、じゃあ私が淹れてきます」


 もちろんじゃよ。グッドマン君、佐倉君! 何でも好きなものを食べておくれ!
 いやー、君らも居てくれて助かったわい。


 今、学園長室にいるのはワシとネギ君、それにネギ君の従者の皆と長谷川君、それにグッドマン君と佐倉君。
 長谷川君はネギ君の従者ではないが、それでも魔法のことは知っている上にネギ君やエヴァ達とも仲が良いのでここに来てもらった。グッドマン君と佐倉君は………………まあ、ワシ1人じゃ何かあったら手が足りないから、その手伝いじゃな。

 だって、魔法先生達が皆この部屋から逃げ出したんじゃもん。


 最初はガンドルフィーニ君とか瀬流彦君とかたくさんいたんじゃけど、ネギ君の機嫌が悪くなっていくにつれて“超君の捜索”やら“エヴァの捜索”にかこつけて、皆してここから逃げ出しおった。
 グッドマン君達は魔法生徒なので昨日の捜索も早めに切り上げて休んでもらったが、その後の経過が知りたくなって朝早くに学園長室に来たのが運の尽きじゃったの。とりあえずここから逃がさんぞい。
 ちなみにグッドマン君達の担当であるガンドルフィーニ君は、どうやら携帯電話の電源を落としたようじゃった………………オノレ。そこまでこの部屋と関わりたくないのか。

 ガンドルフィーニ君はちょっくら魔法世界にでも出張したいみたいじゃな。
 小学校に上がったばかりの娘さんがおるようじゃが、仕事なら仕方がないよね?


 タカミチ君? ああ、元より彼は超君捜索をしてくれておったよ。
 何だかやけに張り切っておったが………………ま、別にいいか。











「ん? …………あ、エヴァさんだ。
 エヴァさん、聞こえますか?」


 フォ? いきなりネギ君が白いカードを額に当てながら話し始めた。
 …………“仮契約パクティオーカード”じゃないよね? それにおそらくエヴァの魔力を察知したのじゃろうが、エヴァがいたんじゃろうか?


「…………ええ、はい。では学園長室に召喚しますね。
 『召喚エウオケム・テー ネギの従者ミニストラ・ネギィ エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル』


 え? やっぱり“仮契約パクティオーカード”? 
 でも何で白紙なんじゃ? いや、そもそもいつの間にネギ君とエヴァは『仮契約パクティオー』しておったのか?

 そんなことを考えているうちに床に魔法陣が描かれ、激怒した顔のエヴァが召喚された。


 …………やっぱり怒っておるよね。
 ネギ君にも一応気をつけておくように注意されたのに、まんまと超君の罠に嵌ってしまったんじゃからなぁ…………。





「ネギっ!!! このタイムマシンを作った奴は何処だぁ「エヴァさん! 無事で良かったです」って、おおおっ!?
 …………ネ、ネギ。心配してくれたのは嬉しいが、あまり人前では抱きつくな…………」


 おやおや、エヴァが無事で良かったわい。そして怒りを鎮めてくれてよかったわい。
 しかしエヴァよ。口では抱きつくなとか言っておるが、そういうセリフはネギ君をしっかりと抱き締めているその腕を外してから言っておくれ。

 いや、今はそんなことに突っ込んでいる場合じゃないの。


「あー、ちょっとええかの?
 エヴァ、いったい何があったのじゃ?」

「…………いきなり未来に跳ばされたんだよ。跳ばされた先は学園祭終了一週間後だ。
 超鈴音はネギを警戒していたらしいからな。この“航時機カシオペア”には細工がしてあって、学園祭最終日になると自動的に一週間先の未来に跳ばされてしまうトラップが仕掛けられていたみたいだ。
 しかも魔力の消費は無しでだ。どうやら“航時機カシオペア”を使うのに、魔法使い5人分の魔力が必要というのは嘘みたいだな」

「え? 学園祭終了一週間後に跳ばされたってエヴァちゃん。その“航時機カシオペア”って学園祭の期間でしか使えないんやなかったの?
 どうやって戻ってこれたんや?」

「ああ、本来“航時機カシオペア”は世界樹の魔力が充ちる学園祭の期間にしか使えないが、世界樹大発光の年なら学園祭終了一週間後でもわずかに発光が残っているらしいな。
 だから世界樹最深部に残っていた魔力を使って戻ってきたというわけだ。それでもさすがに目標の時間とは少しズレが生じてしまったようで、キッカリと元の時間には戻れなかったようだ。
 …………あ、ネギ。そんなわけで魔力が足りなくて帰れないなんてことがないように、式神符は全部使ってしまったぞ」

「それは全然構いませんよ。エヴァさんが無事で何よりです」


 ネギ君の機嫌も直ったようじゃな。明らかに部屋の空気が違っている。
 あの様子じゃと多分、本人は自分の機嫌が悪くなっているとは気づいておらんかったようじゃが、明らかに部屋の空気が軽くなっているわい。











「…………とりあえず順を追って簡単に話すぞ。
 私が別荘から出たとき、目の前にはネギともう1人の私がいた。そして何があったのかを簡単に説明された後、世界樹最深部に移動してちびネギに“航時機カシオペア”を使ってもらって今の時間に帰ってきたというわけだ。
 未来にいた時間は、実質1時間にも満たないな」

「フゥム…………未来はどうなっていたのじゃな?」


「聞いとらん…………というか、言われなかった。詳しく言うと未来がどうなるかわからないらしいからな。
 とりあえず“超鈴音を除いておおむねハッピーエンド?”……になったらしいが…………」


 その“?”はなんじゃ? その“?”は?
 そもそも超君を除いてって、こういうときのハッピーエンドじゃったら敵も味方も皆助かるとかそういう感じじゃないのかの?

 …………ああ、どうせネギ君じゃな。
 それにネギ君がこっちについているという時点でこっちの勝ちは確定なんじゃから、“勝利出来た”こと自体は言っても構わんかったのじゃろうなぁ。





「…………それと、未来のネギからこの手紙を預かった」


 エヴァがそう言って懐から取り出したのは、“正”の文字がビッシリと書き込まれた便箋。
 おそらくその中に未来のネギ君からの手紙が入っているのじゃろうが…………その“正”の文字はいったいなんじゃね?

 エヴァから便箋を受け取ったネギ君が開き、手紙を取り出して再生ボタンをポチッと押す。
 別に封はされておらんかったようじゃな。





『この手紙を誰が見ているかわからないし、何時見ているのかもわからないけど、とりあえず最低でも過去の僕は見ているという前提で話を進めさせてもらうよ。
 元気だろうね、過去の僕?』


 手紙の立体映像に浮かんだのはネギ君。やはりここにいるネギ君とは見分けがつかんの。
 一週間ぐらいの違いなら仕方がないが。


『さて、最初に言っておくけど“未来の僕から見た過去”、“過去の僕から見た未来”について、全て話すつもりはない。
 僕ならわかるとは思うけど、他にも見ている人がいるかもしれないので一応言っておく。理由としてはもちろん“タイムパラドックス”が怖いからだよ。実際にどうなるか試すわけにもいかないからね。
 まあ、超さんがいったい学園祭最終日に何をしようとしているのか、どうやってこの僕がそれに対応したのかを、大雑把に言うぐらいは問題はないと思うので言うよ。
 ちなみに超さんが何故こんなことを仕出かそうとしたという動機についてもわかっているけど、これについては不特定多数に見られる可能性があるこの手紙では言わない。
 まぁ、超さんの動機の源泉は龍宮さんの言葉を借りるなら、“今現在もこの世界のどこかで起こっているありふれた悲劇と変わりはない”…………かな。あとは君が超さん本人から聞いてくれ。
 メモの準備はいいかな? それでは説明を始めよう―――』





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 …………。

 ……………………。

 ………………………………なるほどのぉ。


 彼女の目標は“全世界に対する強制認識魔法”か…………そこはネギ君の予想通りじゃな。
 戦力は超君の他に葉加瀬君、茶々丸君、それに龍宮君もか。龍宮君は特に厄介じゃの。そして“強制時間跳躍弾B・C・T・L”とな? 厄介な代物じゃの。
 それに2500体…………タカミチ君がもう500体ほど壊したらしいから2000体の超君製のロボット。それに学園地下に石化封印されている無名の鬼神か。まさか鬼神を科学の力で制御するとはのぉ。巨大魔方陣生成のための魔力増幅装置として使おうというのか。
 確かにこの計画じゃったら、“全世界に対する強制認識魔法”も出来るじゃろうな。

 それに対してワシらは本国のクラウナダ異界国境魔法騎士団の第17倉庫に大量に死蔵されているという、対非生命型魔力駆動体特殊魔装具を最終日イベントの名目で生徒に使わせてロボットに対抗する。
 魔法関係者はヒーローユニットとしてそれを助け、超君達の捕縛を目指す…………か。
 となると、雪広の娘に助力を頼まねばならんが、それはネギ君からお願いしてもらうかのぉ。







『…………以上が、超さんが計画していた内容だ。
 とはいっても、もしかしたら実際は時間移動ではなくて、平行世界を移動しているのかもしれないので、僕と君の世界では違うことを計画しているかもしれない。だから相手の手の内や対応方法がわかったからといって、油断しないことを薦めるよ。
 もしかしたら僕と同じことが出来るかどうかわからなくて不安になっているかもしれないけど、きっと大丈夫。君が僕だったのなら簡単なはずだ。気休めかもしれないけどね。
 むしろ終わった後に「手加減しろ」とか言われるかもしれないけど、それは別に気にしないでいいよ………………どうせ罰則は何もなかったし』


 手加減してあげてよ!
 それに罰則はなかったということは、未来のネギ君も“手加減しろ”って言われたってことじゃろうに…………。


『この手紙は別に返さなくてもいい。超さんの計画がこの手紙通りで、それに対する対応策も同じにしたのなら、学園祭終了一週間後に跳んでくるエヴァさんに渡せばいいよ。新たに手紙を作るのはめんどくさいでしょ。
 あ、渡す前に便箋に“正”の字に一画足しておいて、何回この手紙が繰り返すのかを試してみて。特に意味はないけどさ』


 え? 便箋に書かれた“正”の字は500字どころじゃないぞ。
 この手紙は何千回過去と未来をループしているんじゃ?


『便箋に書くところがなくなったら、新しい便箋を用意してね。今のそれが何回ループしてるか知らないけど。
 さて、まだ伝えなきゃいけないことはあるけど、超さん関連はひとまずこれで終了だ。ここで他の人と相談したいなら、一時停止を押してくれ』


 …………よくよく見たら、再生ボタンに手の垢が付いているのが見える。
 この手紙は何万回過去と未来をループしているんじゃ?

 まぁええわい。それよりも超君の対策についての打ち合わせをしよう。
 確かにタイムトラベルについてはワシらは何もわかっておらんから、手紙のネギ君の言った通りにもしかしたら過去と未来が違っている可能性や平行世界の可能性もあるが、これは決して無視出来ない情報じゃ。












━━━━━ 綾瀬夕映 ━━━━━



「ネギ先生。確かにクラウナダ異界国境魔法騎士団の第17倉庫に対非生命型魔力駆動体特殊魔装具が死蔵されているのが確認出来ました。
 ただ、私の“世界図絵オルビス・センスアリウム・ピクトゥス”はまほネットを通じた情報でしかありませんので、もしコッソリと横流しが行なわれて無くなっていたりとか、死蔵による劣化などのことはわかりません」


 横流しされていてもデータ上では存在していることになっていたら、“世界図絵オルビス・センスアリウム・ピクトゥス”ではわかりません。
 まあ、ここまで未来のネギ先生が言っていたのと同じなら、そういう事態はないのでしょうがね。


「…………でも、超さん捕まえて本当にいいのかしら?
 昨日も話し合ったときに出たけど、未来でマズイことが起こるんでしょ?」





 それは…………確かにそうですね。未来のネギ先生は超さん達を捕まえたようですけど、それが実際に正しいことなのかはわかりません。
 かといって、“未来の私達がそうしたから、今の私達もそうする”なんて思考停止して物事を進めていくのはいけないことだと思います。
 超さんを止めるというのなら、まず私達が納得する理由を持ってして超さんの相対しないといけないです。

 超さんのやろうとしていることは、テロなんてものではなく強いて言うなれば“革命”です。それも今までに類を見ない、世界中の人々の意識を根底から覆す“世界革命”とまで言えるかもしれません。

 この革命によって“現に今、世界各地で苦しんでいる人々を、この“魔法”という新たな力によって助けられるかもしれない”こと、“未来人である超さんはこの革命の帰結として、不幸な未来を回避しようとしている”こと。
 こういうメリットがあるのかもしれないのは確かなのですから…………。 


「だから、ネギ先生は…………そのことについてどう思いますか?」





















「え? 別にそんなの気にしなくていいんじゃないですか?」















 …………。

 ……………………。

 ………………………………いや、そんなアッサリと。


 ちょっと待ってください。お願いだから待ってください。
 ネギ先生独特で特有な考えを言われる前に、せめて心の準備をさせてください。


 いや、わかりますよ。わかってるんですよ。
 地球、あるいは人類の滅亡という究極的事態ということでしたら、私達も全力で協力せねばならぬことは明白です。
 しかし“今現在もこの世界のどこかで起こっているありふれた悲劇”という理由では歴史の改変を認めることは出来ないと思うです………………けど、そんなアッサリと。
 超さんだってこの計画は真剣に考えて実行したのですから、もう少し超さんの気持ちを考えてあげてもいいじゃないですか! 超さんが可哀想ですよ!








「いや、そんな難しいことじゃないと思いますけど。
 さっき未来の僕が言っていましたけど、超さんが魔法を世界にバラしたら、それに相応するだけの混乱が世界を覆うこととなります」

「た、確かにそうですが、それでもそのデメリットと魔法がバレた故のメリットは天秤にかけられるものではないと思います」

「ええ、そうです。どっちがより多くの人々を救うことが出来るか、もしくは多くの人々の人生を狂わすのかは、今の段階では僕にはわかりません。
 そして今後十数年の混乱に伴って、それでも起こり得る政治的軍事的に致命的フェイタルな不測の事態については、超さんが監視して調整するつもりだったと言っていました。そのための技術と財力は用意していたとも…………。
 けど逆に考えてみましょう。そこまでの力を持っているとするなら、僕にも勝てて●●●●●●当然ですよね●●●●●●?」





 ………………………………え?





「簡単な話ですよ。夕映さん、僕に勝つのと世界をコントロールするのだったら、どっちが難しいと思います? それは当然世界をコントロールする方でしょう。
 僕に勝てないようでしたら世界をコントロールすることなんて出来ないでしょうし、世界をコントロールをしようというのなら最低でも僕に勝てる力がないと駄目じゃないですか。
 もしこの計画で僕に敗れるようでしたら、どちらにしろ世界をコントロールなんか出来ません。いずれ世界は超さんの手に負えなくなって結局混乱します。そんな世界は魔法をバラすことによるデメリットの方が大きいでしょう。
 だから未来の悲劇のこともありますので、超さんが勝ったら僕らが超さんに協力して、超さんが負けたら僕らに協力させればいいじゃないか、ぐらいのノリでいいと思いますよ」


 …………そういう考えもある……のでしょうか?
 でも確かにこの計画を遂行出来ない程度の人では、世界の全てをコントロールすることなんて夢のまた夢です。そういう意味ではネギ先生の言っていることは間違いではないですね。
 それに未来に起こりうる悲劇も、超さんに協力してもらって対処すればいいだけですし…………。

 それ以前に言ってはいけないかもしれませんが、ネギ先生に勝つのと世界をコントロールするのでは、本当に世界をコントロールする方が難しいのでしょうか?
 …………いや、考えては駄目です、私。深く考えたらパンドラの箱を開けてしまう気がするのです。





「超さんだって「思いを通すは、いつも力ある者のみ」言っていましたので、存分に超さんの力を見せてもらいましょうか。
 もちろんその力を確かめるためにも、全力で超さんを迎え撃ちますけどね」


 超さんバッドエンド確定です。ご愁傷様でした。
 でも、コレも超さん自身が望んだ結果なのでしょうから、私達のことを恨んだりしないでくださいね。

 むしろ終わった後には恨む気力すら無くなってそうですけど。


「わーい、何だかワクワクしてきたなぁ。
 どうやって超さん達を迎え撃と「ネ、ネギ先生! 手紙にはまだ続きがあるようでしたが!」…………ああ、そういえばそうですね」


 どうしましょう? 超さんに麻帆良から逃亡するように言った方がいいのでしょうか?
 お互いのため…………というより超さんのためにこそ、その方がいいような気がしてきました。












『…………さて、超さん関連はさっきで終了だったんだけど、個人的に僕へ言いたいことがある。
 別にこれを聞くのは学園祭後でもいいけど…………個人的には早めに聞いて欲しい。後に回すとそれだけ後悔するから。
 といっても、何かしら麻帆良に悪いことが起こるというわけじゃないから安心していい…………と思う』

「? 何を言っているんだ、未来の僕は?」


 ネギ先生にしてはやけにもったいぶった言い方をするですね。
 いったい何があるのでしょうか?





『えーっと、聞く準備は出来たかな?
 それでは質問するけど、“エヴァさんが行方不明になった後、どうして不機嫌になったのか?”…………ということは自分で疑問に思わなかったかな?』

「…………え? もしかしてさっきの僕って不機嫌でした?」



 それはもう物凄く。
 エヴァさんが心配だったからでしょうが、学園長のただでさえ少ない髪の毛が更にストレスで減りそうな感じでした。 
 私達にはいつもどおり優しかったので大丈夫でしたけど、他の魔法先生方が学園長室から逃げたことからもそれがよくわかります。

 …………というか、自分で気づかれてなかったのですか?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 オカエリナサλ。
 戻ってくる時間が12000年もズレずにすんだようです。

 …………無事に戻ってこれてよかったですねぇ。
 まったく。せっかくネギが指摘していたのに、あんな罠に引っかかるなんてエヴァは何を考えていたんでしょうか?


 ちなみにネギが不機嫌だったのは素です。
 ようやくネギがあることに気づくようです。


 それとネギは学園長達には“白紙仮契約カードおためしけいやく”などについては話してません。
 自分自身と『仮契約パクティオー』したときの詳細を話したら、また血を吐いて入院するかもしれませんからね。それぐらいのことはネギだって慮れます。

 ……………………まあ、慮るだけなので、実際に行動に移すかどうかまではその時次第ですがね。



[32356] 第66話 学園祭⑪ 世界樹が綺麗ですね
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/19 19:02



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



『えーっと、聞く準備は出来たかな?
 それでは質問するけど、“エヴァさんが行方不明になった後、どうして不機嫌になったのか?”…………ということは自分で疑問に思わなかったかな?』

「…………え? もしかしてさっきの僕って不機嫌でした?」


 はて、不機嫌?
 自分としては予想通りの結果でしたから、特に問題はないと思っていたのですが…………。


『…………多分、今の君ならわからないよね。うん、僕もそうだった。
 それなら順を追って話そう。最初は京都旅行のときだ。
 木乃香さんが“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”に攫われたら、自分にしてはやけに落ち着かなくてイライラして、フェイト達に八つ当たり気味になったのを覚えているかい?
 何であんなことをしたんだい?』


 …………そういえばそんなことありましたねぇ。
 でもアレは、本当に初めての意味での殺し合いだったから気分が高揚していただけなのではないですかね? 


『次はヴィルさんが麻帆良に来たときだ。
 彼には「雛を守る親鳥のような顔をしている」と言われたり、実験とはいえ明らかにヴィルさん相手だったらオーバーキルだったよね?
 しかも情報を引き出すだけならのどかさんに頼めばよかったのに、あんなことしてまで自分でヴィルさんの頭から情報を引き出した。
 何であんなことしたんだい?』


 いや、それは実験だったし、だいたいオーバーキルっていってもヴィルさんはまだ死んでませんよ。きっと今でも“封魔の瓶”の中で元気に過ごしていると思いますよ。
 …………両手足無いダルマ状態でだけどね。

 それにあんな状態のヴィルさんをのどかさんに見せるわけにはいかないじゃないですか。


『そしてまほら武道会決勝。
 “イノチノシヘンハイ・ビュブロイ・ハイ・ビオグラフィカイ”で僕と駄目親父と戦わせることが、アルビレオ・イマさんの目的だったということは予想していたのにそれを無視した。
 何であんなことしたんだい?』


 …………だって、アルさんは楓さんに酷いことしたし…………。

 だいたいあの反則みたいな分身体で出ること自体がおかしいんですよ。
 食っちゃ寝の休養中だというのなら、素直に図書館島地下に引き篭もっていればいいんです。わざわざ真面目に大会出る人の邪魔なんてする必要はありません。
 それなのに武道会にまで出てくるなんて…………。


『皆さんとのデートのとき、チョッカイかけてきた男を手荒くあしらったのは?
 瀬流彦先生に付き合ってもらってまで、皆さんのプレゼント選びにあんなに必死になっていたのは?
 皆さんのためにお菓子を作ったり、皆さんのために麻帆良の山で採ってきた花を部屋に飾ったりするのは?
 皆さんに着せ替え人形にされても何も言わなかったのは?』





 …………いい加減、いったい何を言いたいのさ?

 そりゃデートしている女性達に近づくような不埒な男を許すわけにはいかないじゃないですか。
 日頃お世話になっている人達に贈るプレゼントなんだから、良い物を贈りたいと考えるのは当然でしょう。女性へのプレゼントってのは前世ではあまりしませんでしたから、瀬流彦先生にも手伝ってもらいましたけどね。
 お菓子作りや花を飾ったりするなんてそんな大したことではないでしょう。僕が住まわせてもらっている部屋にはのどかさん達だけでなく、他の3-A生徒もよく訪れてきますからね。
 …………着せ替え人形は…………うん、何というかもう慣れちゃった。そもそも前世のエヴァさんがあんな感じでしたしねぇ。

 だから、別におかしいことなんてしているわけじゃないですよ。
 …………というか何でアスナさん達はやけに期待している目で見ているんですか?


 それにしても未来の僕のニュアンスじゃ、まるで僕アスナさん達に惚れてるみたいじゃないですか。
 いや、もちろんアスナさん達のことは好きですよ。それは胸を張って言えます。それだけには嘘は言いません。

 けど僕はまだ10歳ですし、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”とか魔法世界のこととか終わっていません。
 この状態で恋愛関係になってしまうと、ますます皆さんを危ない目にあわせてしまうかもしれません。ですので夏休みにウェールズから魔法世界行って、さっさと墓守の宮殿に特攻してこようと思ってるんですよね。
 原作知識が無くなってしまう頃ですが、今の僕なら多分勝てます。
 そうすればもう危険なことはないでしょうから、アスナさん達のことを真剣に考えることが出来ます。恋愛関係になるのはそれからでしょう。



 僕は今、とても幸せです。
 麻帆良に来て、アスナさん達と会えたからとても幸せです。
 ずっとこのままでいたいぐらいに。


 もちろん前世でも幸せだったと思います。…………いや、幸せでした。
 エヴァさんや茶々丸さんがいましたし、今はいない母もいました。3-Aの生徒の皆さんも今とは微妙に違うけど、それでも教師としての仕事を楽しくすることが出来ました。
 駄目親父たちの修行ごうもんは辛かったですけど、それがあったからこそ今の強さがあるのだから感謝していないわけじゃないです。
 死ぬギリギリまでを見事に見極めての修行ごうもんは辛かったですけど…………辛かったですけど………………うん、やっぱり殺そう。あの駄目親父共めが。


 でも、別にわざわざ急いで今の生活を変えようとは思っていませんよ。
 今の僕はとても幸せなんですから。






























『…………多分、今いろいろと考えているのだろうけど、それらを頭の中に残した上で更に考えて欲しい。
 もしアスナさん達に「他の人のことを好きになった●●●●●●●●●●●●●」と言われたら、君はどう思う?』









 ………………えあ?



 アスナさん達が……他の人のことを…………? それは……それこそタカミチとか瀬流彦先生とか?

 いや…………でもアスナさん達は僕が答えを出すまでちゃんと待ってくれるって言ってくれたし、僕も皆さんのことをちゃんと大切にしていると思うし…………。
 ちゃんと皆さんの勉強見たりするし、お話もたくさんするし、修行もつけてるし、プレゼントとか贈るし、スキンシップもしてるし、着せ替え人形みたいに玩具にもされているし…………。

 だから、そんなことは……そんな、ことは…………。





 …………。

 ……………………。

 ………………………………嫌だ。




 マズイ。今までそんなこと考えたことなかった。でも考えてみたらそれは凄く嫌だ。
 アスナさん達の隣に、僕以外の男が立っていること想像したらそれだけで凄く嫌だ。独占欲強すぎだろ、僕。



 何で今までそのことを思いつかなかったんだろ?


 原作の印象で? …………いや、前世のせいで原作の印象なんて木っ端微塵に吹っ飛んでます。ただ読んだだけの原作よりも、実際に体験した前世の方が心に焼き付いてますので違うでしょう。
 前世の印象で? …………そっちの方が有り得ません。前世では皆さんに告白されたりなんかしませんでしたから。


 …………ってことはやっぱり今世で麻帆良に来てからの日々でですよね。
 ぐあ! アスナさん達の好意におんぶに抱っこされてたなんて、僕はいったい今まで何をやっていたんだ!?





 …………待て、慌てるな。これは未来の僕の罠だ。
 考えろ。確かにアスナさん達がタカミチとか他の男のことを好きになったとしたら嫌だけど、アスナさん達ではなくて他の3-A生徒に置き換えてみよう。


 その場合は…………あれ? 微妙だなぁ。それだと他の男を好きになるのが嫌とかじゃなくて、中学生と付き合うタカミチが嫌になってきた。
 それこそもし鳴滝さんと付き合うようにでもなったとしたら、タカミチは始末した方が世の中のためになりますよね。
 でもこれがもし那波さんだったら…………あれ? 違和感ないぞ。というか那波さんって10代じゃなくて20dゲフゲフンッ! ………………なんか寒気した。これについては考えないでおこう。

 あー…………でも確かにアスナさん達とは感じ方が違うなぁ。
 ってことは…………やっぱり……そうなのかなぁ?



 今考えてみたら、エヴァさんが無事に戻ってこれない可能性あったんだよな。
 ちびネギも5体連れてってもらっていたから十中八九は大丈夫だと思ったけど、エヴァさんが戻ってこれなかったときのことを想像したらマジで血の気が引いてくる。
 
 京都旅行やヴィルさんのときもそうか。
 もしかしたら木乃香さんは天ヶ崎さん達に危害を加えられるかもしれなかったし、ヴィルさんにいたっては下着姿に着替えさせられる可能性があったりと…………。

 そういうので無意識のうちに不安になっていて、八つ当たりとかしてたのかな?















『エヴァさんの惚れ薬を実験台として飲んだことあるだろう。
 そのときの感覚を思い出した状態で、アスナさん達のことを見れるかい?』



 …………。

 ……………………。

 ………………………………ぐあっ!!!


 マズイ! それはマズイ!
 ちょっと待って! 今は別に惚れ薬とか飲んでないのに、アスナさん達の顔を見るだけで何で恥ずかしくなってくるの!?



 お願い、もうやめて!

 アスナさん達はハイタッチなんかしてないで! グッドマンさん達は不思議そうな顔で僕を見ないで!
 わかりましたから。僕がアスナさん達に惚れちゃってるってことは自覚しましたから!


 顔が熱い。絶対耳まで赤くなってる。
 本気で恥ずかしくなってきた。アスナさん達の顔を見れない。

 やばい。僕ってアスナさん達のこと本気で大好きじゃんか…………。
 しかも全員のこと大好きだ。1人選べって言われても絶対無理じゃんか。













「…………ネ、ネギ君。
 悶絶しておるとこを悪いのじゃが、スーツのポケットが光っておるぞ?」


 いったい何ですか、ぬらりひょん!?
 僕は今考え事で忙しい………………あれ? “仮契約パクティオーカード”が?

 スーツのポケットに入れていたのは“仮契約パクティオーカード”。
 その中のうちの、僕が僕自身と作成した“仮契約パクティオーカード”が光ってます。

 之は何事ぞ?





「…………『来れアデアット』?」





 『来れアデアット』で発現したアーティファクトは“白紙仮契約カードおためしけいやく”、“空飛ぶゲタサブフライトシステム”、それと少し大きめな革のパスケース…………って、これは“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”?
 これって原作でのネギのアーティファクトじゃないか?

 え? これ本物? アーティファクトが増えた? そんなことあるのか?

 と、とりあえず誰かの“仮契約パクティオーカード”を挿し込んで………………あれ、違うぞ? 何ページもある?
 原作の“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”は確か、パスケースを開いたら左側に発現させたいカードを挿し込む部分があって、右側にその他のカードを保管するポケットがあったはず。
 けど、これは開くとカードを挿し込む革のページがたくさんある。これだとパスケースというより、むしろ革で出来たカードホルダーみたいだ。





「………………『来れアデアット』!」





 うを!? 全部出た!?

 皆のカードをそれぞれのページに挿し込んで、皆のアーティファクトを出すように念じて『来れアデアット』したら、皆のアーティファクトが一度に全部出た!?
 確か原作の“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”は一度に1人分のアーティファクトしか出せなかったはず…………。


 アーティファクトが新たに発現するってこと有り得るのか?
 …………アレか? 神さま?の仕業か!?


 いや、“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”が原作と違うのは、もしかしてアスナさん達皆のことが大好きって自覚したから? ハーレムエンドを目指せとでもいうのか?
 …………でも、確かにアスナさん達が僕以外の人のことを好きになったりするのは嫌だし…………。





 って、ああ~~~もうっ! ワケわかんない!!!
 未来の僕はどうしてこんな手紙を………………いや、そもそも未来の僕はどうしてこのことを理解出来たんだ?

 それ以前に時系列的にどうなってるの?
 エヴァさんが未来に跳んで…………あれ? でも式神あるから絶対戻ってこれるよな。それに未来の僕もエヴァさんが跳んでくるのを知っているはずだから、会わないってことはないだろう。
 だからエヴァさんに手紙を渡すのも確定だろうけど、一番初めの僕がどうやって自分の想いに気づいたんだ?

 …………何か未来じゃなくてパラレルワールドっぽいなぁ。


 まあ、確かに今考えるとさっきの僕は不機嫌だったし、自分で気づけたのかな?
 しかしそれをわざわざ今の僕に伝えるということは、自分で気づくのを待っていたのでは何かしら不都合なことがあったということだろう。



 …………アスナさん達の内の誰かが他の人を好きになってしまって後悔でもしたのか?
 いや、これからの1週間でそういうことが起こるのは考えにくい。
 だとしたら…………逆にアスナさん達に襲われでもしたか? …………いや、そんなことないよね。アッハッハ……………………ないよね?

  










━━━━━ 高音・D・グッドマン ━━━━━



 …………ようやく止まりましたわね。


 未来のネギ先生の手紙のせいでネギ先生は随分と混乱したようで、顔が赤くなった状態で考え事をしていたかと思えば、いきなり頭を抱え込んで倒れこみながら床をゴロゴロと転がっていきました。そして壁にぶつかって沈黙。
 …………コレ、どうしたらいいのでしょう?

 神楽坂さん達は喜んでいますね。ハイタッチしたり、ニコニコと笑ってネギ先生を見詰めていたり、顔を赤くしていたり…………など、個人で違うようですが。
 学園長も「フォッフォッフォ」と笑っておられるだけのようですし、メイにいたってはネギ先生達をキラキラした目で見ている始末。


 …………超鈴音への対応はいいのでしょうか?
 確かにまだ朝の8時ですので超鈴音が動き出すまでは時間がありますが、それでも無駄にする時間はないはずです。







「…………ネギ先生。いろいろあって大変なのはわかりますが、今は超鈴音への対応を…………」


「…………グッドマンさん。いや、大丈夫です。少し落ち着きました。ああ…………でも本当に衝撃的でした。僕がこんなにアスナさん達のことを好きだなんて思ってもいませんでした。
 まいったなぁ。僕は教師なのに…………」

「…………何を今更。私としては、ネギ先生が御自身の気持ちに気づかれてなかった方が驚きなんですが」


 子供だから仕方がないといえば仕方がないのですが。


「………………え?」

「いや、そこで「その発想はなかった」という顔をされても困ります」

「えと…………もしかしてバレバレでした?」

「それはもう。魔法関係者でそう考えていない人はいなかったと思いますよ。
 もちろん神楽坂さん達も含めてですけど」





 ネギ先生を見てたら簡単にわかります…………とまでは言えませんが、それでも雰囲気でわかります。
 そこら辺のことはネギ先生は実にわかりやすかったですわね。

 私達に対するのと神楽坂さん達に対する態度や対応が特に違うというわけではないのですが、何というか…………神楽坂さん達と一緒にいるネギ先生は“この子、もし犬だったら絶対尻尾を振ってますわよねぇ?”という雰囲気を漂わせているのですわ。
 慣れないとわからないぐらいですが、それでもわかる人にはわかるぐらいですね。

 まあ、ああいう微笑ましい感じだったからこそ、ネギ先生達の関係に何か言おうとは思わなかったのですが…………。
 神楽坂さん達だってネギ先生にああいう脈があると思うからこそ、あそこまで積極的になっていたのでしょうに。



 そしてまるで“ギギギ…………”とでも擬音がつきそうな感じで神楽坂さん達を見るネギ先生ですが、はにかむような…………可愛らしいものを見るような神楽坂さん達の目によって再び撃沈。
 また顔が真っ赤になり、そしてまた床をゴロゴロと………………神楽坂さん達はそんなネギ先生を見て、何故ジャンケンを始めるのです?


 …………それにしてもこの子、本当に自分の気持ちがわかっていなかったのですね。
 まったく…………どうしてこうネギ先生はチグハグなんでしょうか。魔法関係などに関してはまさしく天才と言ってもいいのに、人としてはやはり未熟のようですわね。
 “偉大な魔法使いマギステル・マギ”になるためには魔法だけでなく、人としての成熟が必要だということがネギ先生を見てよくわかりましたわ。













「ネ~ギ君?」

「…………何でしょうか、木乃香さん?」


 ジャンケンに勝利した近衛さんがネギ先生に話し掛けます。それもとてもイイ笑顔で。
 対するネギ先生は顔が赤いままツイ、と近衛さんから眼を逸らしての受け答え。もう完璧にネギ先生達の力関係は決まったようなものですわね。





「ウチらのこと…………好き?」

「………………好きです」

「どれくらい、ウチらのこと好き?」

「…………他の人には渡したくないぐらいに」

「そっかぁ……………………エヘヘ。ウチらもネギ君のこと大好きやで~」

「ありがとう…………ございます」

「いえいえ、どうってことないで。
 ……………………やほーーーいっ! ネギ君がウチらのこと「好き」って言ってくれるの初めてやーーー!!!」





 そう言ってネギ先生を抱き締めながらグリグリと頬擦りして、更に揉みくちゃに撫で回す近衛さん。そして順番待ちなのか、ソワソワした状態で近衛さんの後ろに並ぶ神楽坂さん達。
 嬉しいのはわかりますが、少しは落ち着いたらどうですか。
 古さんや長瀬さん、長谷川さんは並んでいませんが、それでも顔が赤くなっていますね。…………というか古さんが赤くなりすぎてオーバーヒート寸前みたいなんですけど。

 あれ? そういえば長谷川さんはネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”ではなかったのでは?


 …………それにしてもネギ先生は神楽坂さん達に「好き」だと言ったことはないのですか。
 しかしネギ先生本人が好きだということに気づいていなかったようなので、それも仕方がないことですわね。











「フォッフォッフォ、何やらネギ君は大変のようじゃの。
 どれ、ワシらは超君の対策に入ろうか。グッドマン君達は魔法関係者に連絡をとって、そうじゃな…………講堂にでも集まるように伝えておくれ。一度全員を集めて説明しなければならんからの。その間にワシは魔装具の手配をしよう。
 ネギ君達は…………ここでしばらく休んでなさい。イベントでは存分に働いてもらうからの」


 かしこまりました、学園長先生。
 まぁ、確かにこの部屋には居辛いですわね。

 …………部屋を出る私達を、揉みくちゃにされているネギ先生が“助けてください”というような目で見つめてきましたが………………これについては御自分で頑張ってくださいな。










「…………いいなぁ、神楽坂さん達。
 これで両想いになれたんですねぇ」

「何を言っているのです。あの人達はこれからが大変ですわよ。
 何しろネギ先生に対してアレだけの女性が想いを寄せているのですから」

「それはわかりますけど………………とにかくハッピーエンドになってほしいです」


「お喋りはそこまでです。さ、魔法関係者に連絡をとりますよ」


 気を切り換えてシャンとしなさい、メイ。
 もし超鈴音の企てを阻止出来なかったら、ネギ先生達はそれこそハッピーエンドではなくてバッドエンドになってしまいますわ。
 あの人達を応援したいというのなら、ちゃんと仕事をなさいな。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ネギがようやく“恋愛”に目覚めました。
 “色欲”についてはまだですが。





 “鶏が先か、卵が先か”ではありませんが、一番初めのネギがどういうルートを辿ったのかは書いている嘴広鴻でも決められませんでした。

1.ネギがエヴァを未来に送る
     ↓
2.未来のネギがエヴァに手紙を渡して送り返す
     ↓
3.過去のネギがその手紙を参考にして超を打倒
     ↓
4.過去から跳んできたエヴァに手紙を渡す
     ↓
5.その結果、2に戻る

 とループします。
 これですと、ネギは未来のネギから絶対手紙を受け取れるのですよね。

 けど未来のネギから手紙を受け取るということは、その未来のネギが更に未来のネギから手紙を受け取っているというわけで…………。

 自分で書いてて、もうワケわからなくなりましたw
 もうパラレルワールドになっていると思うしかないですね。



 ちなみにそのパラレルワールドの手紙を書いたネギは、別にアスナ達に襲われたりしてませんよ。
 イヤ、ホントホント。自分で気づいただけですよ………………うん、そう。油断してたせいで“超鈴音最強最大の一撃”が炸裂したとかじゃナイデスヨ。


 それと“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”強化は、これぐらいしないと出番がなさそうだからです。
 やっぱりネギ強化しすぎましたねぇ。これだけの強化でも、更にネギさんになればまったくもって必要ないのが恐ろしい…………。



[32356] 第67話 学園祭⑫ 覚悟完了
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/19 19:02



━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━



「…………ホラ、あんまり不貞腐れるなよ」

「………………別に不貞腐れてなんかいませんよ」


 …………神楽坂達の野郎、ネギ先生を愛でるだけ愛でて行っちまいやがった。

 神楽坂達は最終日イベント変更の告知と超達の捜索。超が捕まるなんてことはないだろうが、それでも超の行動を狭める事が出来るかもしれないからな。
 エヴァンジェリンはニヤニヤと笑いを隠せない状態でどっか行った。少し頭を冷やしてくるらしい。あとついでにイベント鑑賞時の酒も持ってくるらしい。戻ってきたときの不機嫌が嘘のようにご機嫌だった。
 そんなこんなであいつらが忙しいのはわかるけど………………どうすんだよ、このネギ先生?

 ああ、ちなみに最終日イベントの変更は、委員長に「ネギが「かくれんぼって地味ですよねー」って言ってたわよ」と神楽坂が言うだけでOKだったらしい。チョロイな。
 本当はネギ先生が委員長に言うはずだったんだけど、この通りに不貞腐れてばっかなんだよなぁ…………。


 ハァ…………こんなネギ先生初めて見たぞ。









「……………………」

「…………何だよ?」

「…………何でもないです」


 そんなチラチラ見んなよ。どう反応していいのかわからないじゃないか。
 好きだと言われた神楽坂達にあれだけ揉みくちゃにされたら、女性に対してどうしていいかわからなくなるのは仕方がないけどさ。…………女性恐怖症とかなってないよな?

 いや、それよりも私は……ネギ先生に対してどういう態度をとったらいいんだ…………?


「な、なあ…………?」

「…………何ですか?」

「ネギ先生って、さっきは“皆”のこと好きって言ってたよな?」

「! ……そ……そうですけど…………」


「……あー……その…………なんだ? “皆”の中に……“私”も入ってんのか?」

「………………えあっ!?」

「変な声出すな! 顔赤くすんな!」

「は、長谷川さんだって赤いじゃないですか!」

「うっさい! …………で、どうなんだ?」





 いや、ホント。私どうしたらいいの?
 私はもしかして“皆”の中に入ってんのか?


 私は別にネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”じゃない。

 …………だ、だから別にキスしたわけじゃねーし、そもそも神楽坂達みたいにネギ先生に告白したわけじゃない。
 そういった意味からでは、私は“皆”の中には入ってはない…………はず。

 けど、それでも私は他の3-Aの奴らとは違って裏の事情を知ってるし、実際に京都旅行とか侵入者騒ぎのときとかは一緒に行動してきた。
 だから私の立ち位置としては“神楽坂達未満、他の3-Aの奴ら以上”ってところだろう。私としても神楽坂達とは仲良くやってきたと思ってるし、と……友達だとも思っている。…………改めて言うとなんか恥ずかしーな。
 そういう意味では…………“皆”の中に入っていても…………おかしくはない、と思う。



 かなり微妙な位置だ。







 …………いや、マジでどうしたらいいの!?
 私のことも好きって言われたら、私はマジでどうすればいいんだよ!?

 私は女子中だし、今まで告白されたことなんてない。真面目な話、今の私に一番近い男はネギ先生だ。
 まあ、ネギ先生は10歳…………なんだけど、それでも年齢詐称してんじゃねーかと思うぐらいに大人びているところもある。そんなネギ先生にもしこ……告白されたとしたら、私はどうすればいいんだ…………?

 ちうのホームページのことは皆に知られてるから

「10歳の男の子に告白されそうなんだけどどうしたらいいと思う?」

 なんて相談なんてできるわけねーし…………。





「う……うううぅぅ…………」

「ハ、ハッキリ言えよ…………」


 だから顔赤くすんな。耳まで真っ赤にすんな。
 脈アリって思っちまうじゃねーか!


 …………で、でも今のうちにハッキリさせておかねーと…………。

 今の学園長室には私とネギ先生以外は誰もいない。
 まさか神楽坂達がいる場所でこんなこと聞けねーし、“このまま一緒に行動してたらいつの間にか既成事実作られてました”なんてことになったらジョーダンじゃねーぞ!





「…………その、あれからよく考えてみたんですけど。
 皆さんのことが“好き”っていっても、やっぱり一人一人への気持ちは種類…………というか質? まあ、同じ想いじゃないと思うんですよ。
 例えば…………“女性”として一番好きなのはエヴァさんで、“人”として一番好きなのはアスナさんで、“お嫁さん”として一番好きなのは木乃香さん…………って感じに。皆さんのことが好きっていうのは変わらないんですけどね。
 それに今言ったのも、あくまで今の僕の気持ちを無理矢理言葉で表現しているだけなので、人によっては捉え方が違うのかもしれませんし」

「…………それはそうだろうな。
 あいつらは一人一人違うんだから、抱く想いがそれぞれ変わるのも当たり前だ」

「はい。…………で、長谷川さんのことなんですけど、“好きかどうか?”と聞かれればもちろん“好き”だと答えます」


 うぐっ!?

 ………………いや、まあわかってる。そういう意味での答えは予想出来てた。
 まだ大丈夫大丈夫。

 そりゃ私だってネギ先生のことは、“好きかどうか?”と聞かれればもちろん“好き”だと答えるだろう。
 勉強教わったり、『咸卦治癒マイティガード』してもらったり、一緒にコスプレ写真撮ったり、プレゼント貰ったりとかで何だかんだいって世話になってるしな。
 そもそも“嫌い”だったらこんな風に一緒にいねーよ。

 …………あれ? もしかしてそれ以前に、私ってネギ先生に世話になりすぎじゃねーか?





「それで…………“好き”の種類なんですけど、大雑把に言うと3種類に分けられます。
 アスナさん達みたいな“恋愛”として好きな人と、ネカネ姉さんみたいな“親愛”として好きな人と、他の3-Aの皆さんみたいな“友愛”として好きな人。
 長谷川さんは………………それらの“中間”です」


「ちゅ、中間? あー…………やっぱり“神楽坂達未満、他の3-Aの奴ら以上”ってとこなのか?」


 まだ“色欲”はないみたいで何よりだ。
 それがあったら神楽坂達がマズイことを仕出かしそうな気がするからな。


「…………そんな感じ……でしょうか。まあ、少なくとも“恋愛”についてはそうだと思います。
 魔法のことも知ってることからも話しやすいですし、アスナさん達みたく僕を玩具にもしないですので、長谷川さんは一緒にいて安心出来ます。
 そこらへんはネカネ姉さんみたいなんですけど、その……もし長谷川さんがタカミチとかと付き合うようになったことを想像したら、それはそれで他の3-Aの皆さんのときと違って……その、嫌なんです…………。
 け、けど今の僕には、僕に告白してくれたアスナさん達がいますので………………あ! でも長谷川さんがアスナさん達より大切じゃないってわけじゃないですよ! ただ“好き”というベクトルが違うだけで、その……う……うううぅぅ…………。
 …………でもアスナさん達の方を大切にしないと、告白してくれたアスナさん達に対して不義理になるんじゃ…………?」

「オーケイオーケイ、落ち着け」


 無理矢理言わせた私が悪かったから。
 でもアレか。自分以外の男と仲良くしていたら嫌なのか。

 それって……まあ、えーと…………そうアレだ!
 神楽坂達のことがなかったら“近所に住んでる憧れのお姉さん”ってポジションっぽいな。自分で言うのもなんだけど。



 でも、そういうことなら安心だな。
 やっぱり神楽坂達が言っていたように、ネギ先生は告白されたからには誠実にそれに答えるまでは他の女に対しては遠慮するみたいだ。

 なら私は今のままでいいや。これ以上何かしようとすると、薮蛇を突っつくことになりかねない。
 例えば今の時点でネギ先生から距離を置こうとしても、心が不安定なネギ先生がどう思うかわからないからな。ヘタしたら“私に嫌われた”と思ってしまうかもしれない。
 さすがに神楽坂達のことで大変なのに、これ以上ネギ先生の悩み事を増やすのはマズイだろう。

 だから今の時点でネギ先生から距離を置いたりするのはマズイよな。うん。



 ………………今はこれで、いいよな?










「…………長谷川さん、僕っていったいどうしたらいいんでしょう?
 正直言って、昨日までの僕を殴り殺したいぐらいに自己嫌悪中なんですけど…………」

「気にしなくていいんじゃねーか。
 少なくとも神楽坂達は逆に喜んでるだろ」

「でもアスナさん達の告白について、どこか軽く考えていた気がするんですよ。
 何人もの女性に告白されてたのに…………僕って奴は…………」

「…………10歳児がそこまで気を遣うな。
 ネギ先生だってこういうことは初めてだったんだろ。それじゃ仕方がないよ」

「確かに戸籍上は10歳ですけど、それでも事情があってそれよりも人生経験を積んでいるんですよ。それなのに自分の気持ちに全然気がつかなかったとか…………。
 …………人生経験の9割以上が修行ですけど」


 あー、“別荘”とかで過ごしてるもんな。
 そりゃ確かにそれなら他の10歳児よりは人生経験積んでいるんだろうけど、人生経験の9割が修行だったら逆に他のことわからなくなるんじゃねーのか?

 つか、ネギ先生が魔法関係の常識を勘違いしてたのってそれが原因なんじゃ…………。





「とりあえず学園祭終わってから色々考えればいいだろ。今は超達のことを優先したらどうなんだ?
 超達の企みが成功したらネギ先生はオコジョになるかもしれないんだろ?
 そんなことになったら神楽坂達の思いに応えるどころの話じゃなくなるんだしさ」

「…………それもそうですね。焦って結論を出してもアスナさん達に失礼ですし、そもそも焦っても結論が出なさそうです。
 だったら長谷川さんが言われるように、超さん達の企みをストレス解消がてら潰した方が建設的ですね」



 サラッと怖いこと言うな、馬鹿ガキ。

 …………ハァ、まったくもう。ネギ先生はしょうがないんだから…………。












━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



 “火星ロボ軍団 VS 学園防衛魔法騎士団”…………か。
 どうやら完璧にコチラの作戦を読まれているようだな、超?





 …………。

 ……………………。

 ………………………………おい、超? どうかしたのか?





『…………今、エヴァンジェリンからメール来たのヨ。

「お前のせいで恥をかいた。約定があるから学園祭では手出しせんが、学園祭終わったら覚えていろ。
 しかしお前のおかげでネギがようやく“恋愛”について目覚めたから、仕方がないので命だけは助けてやる。ありがたく思え」

 て…………。
 コレどうしたらいいのヨ? もしかして未来に跳んだのネギ坊主じゃなくてエヴァンジェリンだたのカナ?』





 おい、どうするんだそれ? 
 エヴァンジェリンが未来に行って帰ってきたということは、私達の作戦を全部知られているということじゃないのか?

 そんな状況でどうやって勝てと言うんだ…………。





『私に言われてもわからないヨ。…………とりあえず詳しい状況を知りたいネ。
 世界樹広場で“火星ロボ軍団 VS 学園防衛魔法騎士団”イベントの案内をしているネギ坊主が偽者だというのは本当なのカナ?』

「ああ、それは間違いない。私の魔眼で確認しなければわからないぐらい上出来の式神だがな。
 それと佐々木達が配っていたパンフレットを入手したが、どうやらイベントの途中でお助けキャラクターヒーローユニットが現れるらしい。おそらく魔法先生達がこの名目で参加するのだろう。
 まあ、ネギ先生がそれに出てもおかしいだろうから、ユニコーンガンダムの方で出てくるのかもしれん。それならアリバイ作りにもなって一石二鳥だからな」

『そうカ。…………それと告白阻止のための転移結界が撤去されているというのは?』

「ソッチも魔眼で確認済みだ。結界はもう無い。
 田中さんや鬼神の侵攻で要石が壊された場合、いきなり転移結界が消えてしまうからな。それだとヘタしたら一般人が転移先の森の中で放置されかねない事態となる。それを避けるためだろう。
 それにこんな周りにイベント参加者がたくさんいる状況なら、告白禁止地域で告白しようなんてするカップルもいないだろうしな」



 もしかしたら、

「先輩! もし僕が撃破数ランキングで一位になったら…………僕と付き合ってください!!!」

 とか、いらんフラグを立てるアホはいるかもしれんがな。
 いや…………それよりもだ。









「超、私はこの計画を抜けて『駄目ヨ。というか無駄ヨ』…………せめて最後まで言わせろ」


 どうせ現実逃避だってわかっているんだから。


『龍宮サンは私と一緒に高畑先生と戦たからネ。もうネギ坊主的には既に敵として認識しているヨ。私達は一蓮托生ネ。
 しかもネギ坊主の性格なら、“とりあえず確保してから話を聞けばいいや”とか考えているに違いないヨ』


 ネギ先生なら確かにそうだろうな。
 …………認めたくない現実を突きつけるなよ。


 ネギ先生は基本的にめんどくさがりやさんだからなぁ。
 ネギ先生は時間制限が長かったり無かったりするものや、それをやっておけば次も楽になるというのなら、それこそ過剰とも思えるぐらいに前準備をする。
 しかし時間制限が短かったり一回限りのことならば、さっさとやってさっさと終わらしてしまう。

 このイベントなら後者なんだろう。
 “楽をするためには苦労を惜しまない性格”というか何というか…………。


 さて、しかし本当にどうするか?
 イベントに乗る形で勝負をしても勝ち目は薄い…………というか無い。イベントスルーしても結局捕まる。麻帆良から逃げ出そうとしてもきっと捕まる。だけど降伏は許されない。

 …………玉砕しかなくないか、コレ?







『いそのこと、私が過去に戻ってやり直すカ?』

「…………それで勝てるようになるのか?」

『…………無理だヨ。わかてるんだヨ』


 というか、“これ以上過去に戻ることはしない”とか言ってただろ。
 いや、今のは冗談…………というか現実逃避なんだろうけどな。


 理論上は何回でもやり直すことの出来る超だが、“未来の技術を持っており、ある程度未来のことを知っている”というアドバンテージがあるのにも関わらずこれで負けてしまうのなら、それは超鈴音に“思いを通すだけの力がない”ということだ。
 まあ、何回かやり直せばいつかは勝てるようになるのだろうが、そんな有様だと結局は魔法がバレた後の世界をコントロールすることなんかも出来そうにないからな。
 そんな世界は超のいた未来よりも酷くなるだろう。

 それに何回も何十回も何百回も何千回もやり直すことが出来たなら、いつかは“超の望む未来”を導くことが出来るだろう。
 だがやり直せばやり直すだけ、“失敗した未来”が増えていくことになる。


 失敗したらその時間軸には見切りをつけ、また過去へと戻ってやり直すということは、

 “未来を救うために、失敗した未来を量産する”

 と同じこと。


 これでは本末転倒だ。
 超は未来を救うために、この時間軸の世界に来たんだから。


 だから超は決めた。
 “過去を変えるのはこの時間軸だけ”と。

 これが超の人生最大の1回きりの勝負。





 …………ネギ先生という、あんな大きな落とし穴が有るとは思っていなかったがな。
 何万回とやり直してもネギ先生に勝てなさそうなのが怖い。

 むしろネギ先生に勝つのなら、ネギ先生が生まれた直後…………は“千の呪文の男サウザンドマスター”が近くにいるだろうから駄目か。
 なら1、2歳のころに暗殺するしかないのではなかろうか? もしくは誘拐して育て上げて、こちらの戦力にする。
 きっとそれぐらいしないと勝てないと思う。

 …………というか、それぐらいすれば勝てるよな? 勝てなきゃおかしいよな?
 いくらネギ先生でも1、2歳のころからあんなバグキャラだったわけないよな?





 …………多分、そうだよな?











『…………こうなたら、交渉に持ち込むしかないネ。交渉といても私達が負けた後での話しダガ。
 少なくとも“魔法世界の崩壊”だけはネギ坊主に何とか防いでもらおう』

「…………だな。幸いにもネギ先生は“良き敗者グッドルーザー”には寛容だ。むしろそういう人物こそ好んでいると言ってもいい。
 私達が真剣に全力でやれるだけやり切った上でネギ先生が事情を知ったら、きっと超に手を貸してくれるさ。他の魔法関係者のことだって、ネギ先生ならきっと抑えてくれるだろう」

『ま、いいヨ。これで大分気が楽になた。ここまで来たらもう腹をくくるヨ。私達が勝つにしろ負けるにしろ、どちらでも私の望みは達せられたも同然ヨ。我が計画を潰える。だが私は絶対生き残る。
 ならば私はこの戦いが終われば、私の戦いの場未来へと戻ろう。きとこの世界は大丈夫ヨ。
 だからこの世界のことは、この世界の住人であるハカセや龍宮サンに任せるヨ。…………具体的にはネギ坊主のことをネ』


 待て! 逃げる気か、超!?
 本気で裏切ってネギ先生に引き渡すぞ! …………というか、逃げ切れると思っているのか?

 …………それなら別にいいか。
 そう思っているのならここは黙っておくことにしよう。フフフ…………。


『く、暗い笑みが怖いヨ、龍宮サン?』

「何でもない。気にするな。超の言うことはもっともだな。もう後には引けないし、ネギ先生なら私達のことを悪いようにはしないだろうさ。
 …………ネギ先生の天然さで被害を被ることは間違いないだろうが、そこは我慢しよう。というか正直言ってネギ先生にもう全部任しちゃいたい」

『気持ちはわかるけど、そんな実も蓋もないこと言ちゃ駄目ヨ、龍宮サン。
 それにそんなことしたらネギ坊主は協力してくれなくなるヨ』

「わかっている。言ってみただけ…………本音が漏れただけだ。
 ネギ先生は優しいが、甘くはないからな。私達はネギ先生が感心してくれるような“覚悟”を示さない限り、手伝ってくれないだろう」


 神楽坂達にだってそうだ。
 神楽坂達と団欒しているときや神楽坂達を狙っている敵がいるときのネギ先生は、神楽坂達に対して甘いという激甘というか過保護過ぎるぐらいだ。
 しかし修行のときはそうじゃない。むしろスパルタ。出来るギリギリの線を見極めて追い込む。もちろん修行後のアフターケアは欠かさないがな。

 むしろそれのせいでネギ先生の期待に応えようと、神楽坂達の決意がますます固まっていく。
 くそ、天然の女誑しめ。


 …………そういえばエヴァンジェリンのメールで、ネギ先生が“恋愛”について目覚めたとかあったみたいだけど、それはどういうことなんだろうな?





『それでは龍宮サンは当初の予定通り、魔法先生達の排除をお願いするヨ。
 といってもまだ昼前だから“強制時間跳躍弾B・C・T・L”で撃ても、強制認識魔法発動が終了する前に帰てきてしまうネ。
 だから4時30分…………いやギリギリすぎるとアレだから、5時くらいまでは情報収集をお願いするヨ。特に本物のネギ坊主の居場所をネ』

「だな。ネギ先生を野放しにしておくのは流石にマズイ。
 ネギ先生に近づかないためにも、せめて居場所は把握しておこう」


 ネギ先生とは正面切って戦わない。それだけは絶対だ。だからネギ先生に近づかない。近づいて来たら逃げる。
 まあ、機会があれば狙撃はチャレンジするつもりだがな。


 “強制時間跳躍弾B・C・T・L”。
 着弾した瞬間、周囲の空間ごと3時間後へと送り飛ばす、超鈴音曰く“最強の銃弾”。尤も、22年に一度、数時間しか使えない期間限定品だがな。
 魔法障壁も、剣での防御も無駄。大きく回避するか、遠距離で打ち落とす他ない。ひとたびこの銃弾を喰らったが最後、あの“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”ですら脱出不可能…………だそうなんだが。



 …………本当にネギ先生にも効くのか、コレ?



 とはいえ、私がネギ先生に勝つ見込みがある手段はそれしかない。用意した銃弾以上の威力は出せないのが銃使いの限界でもあるな。
 神鳴流剣士や西洋魔法使いなら気合と根性で何とかなる場合もあるが、あいにく鉄砲の弾は気合を篭めても威力は変わらん。


 しかし何だな。どうやら私も楓や古菲のことを笑えんようだな。
 絶望的なまでの力の差なのに、ここまで来たら逆にワクワクしてくるよ。フフフ…………。



 …………どうせ負けてもともとだしなー。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 覚悟完了! 超達に玉砕の用意あり!

 半分以上諦めてますが、それが故に逆にイロイロと吹っ切れました。
 ネギは日頃の行いの悪さのせいで超達に信用されてませんが、逆にネギに任せれば悪いようにはしないだろう、ぐらいの信頼はされてます。

 …………ただ、それ以上にネギのぶっ飛び具合への警戒が強いですがね。



[32356] 第68話 学園祭⑬ 強制時間跳躍弾
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/19 19:03



━━━━━ ちびネギ ━━━━━



 “ちび”っていっても式神なだけで、本体の僕と同じ10歳の姿してますけどねー。
 とりあえず本体は自己嫌悪の真っ最中なので、僕が代わりに……原作の朝倉さんの代わりに最終日イベントの司会をします。

 せっかく武道会にはネギ・スプリングフィールドは出ていないことになってますので、このイベントで驚異的な身体能力を発揮しちゃって目立つのは避けておきたいです。
 原作みたいに学園祭後もマスコミに追い掛け回されたくないですから。
 それに魔法バレとか考えたらアレですし、さすがにCGですって苦しい言い訳はしたくないですからね。


 そんなわけでイベントは司会するだけで直接参加する気はありませんが、もしかしたら龍宮さんとか田中さん達が襲ってくるかもしれません。
 けどいくら僕が式神とはいえ、本体の全魔力量の半分ぐらいは持っていますから大丈夫です。

 例えるなら本体がセルだとすると、僕はセルジュニアぐらいの戦闘力ですね。


 そもそも龍宮さんなら僕が式神と気づけるでしょうから、ワザワザ喧嘩売ってきたりはしないでしょう。
 ですから流れ弾を気をつけていればいいだけです。





『さあ! 大変なことになってしまいました!
 開始の鐘を待たず、敵・火星ロボ軍団が奇襲をかけてきたのです! 麻帆良湖湖岸では既に戦端が開かれている模様!
 魔法使いの皆さん! 準備はいいですか!?』

「「あ、ネギ先生だーーー!」」

「ネギ君、司会なんだ…………」

「その魔法使いの格好似合ってるよー」

「ああいうコスプレしてると、イギリス人だから本物の魔法使いみたいやね~」


 ああ、ありがとうございます。
 鳴滝さん達、大河内さん、明石さん、和泉さんも頑張ってくださいね。怪我はしないように気をつけてくださいよ。


 現在5時20分。
 やはり原作通りに超さんは計画を早めてきたみたいですね。タカミチが壊したせいで数が減ってますが、それでも2000体以上の田中さんやBUCHIANAが麻帆良湖湖岸が侵攻してきました。
 脱げビームのせいで阿鼻叫喚になってます。男にとっては桃色空間みたいですがね。

 僕はこの桃色空間見ても…………やはり何も感じませんねぇ。
 まあ、この僕は式神ですので、そもそも食欲とか睡眠欲すらありませんから仕方がないですけどね。
 本体はどう思うんだろうなぁ?



 ん? …………おお、ついに世界樹広場にも田中さんが向かってきました。
 武道会のときのようなジオングみたいな田中さんはいないみたいですね。あれは武道会用の特別仕様だったみたいです。
 アレがもし出てきた場合は最優先で潰すように本体がアスナさん達に言ってましたので、少数配備されていたとしても大丈夫だと思いますが。


 ………………というか、タカミチがすげぇ。
 1人で麻帆良湖湖岸のど真ん中陣取って、そこから一体も通してないです。さすがに広い湖岸全てをカバーできるわけじゃないので、その脇からドンドン侵入されてますけどね。
 張り切ってるなぁ。

 やっぱり原作で超さんに負けたのって、全力を出せなかったせいなんですかね?
 さすがに麻帆良の街中で『千条閃鏃無音拳』とか『七条大槍無音拳』をぶっ放すわけにはいきませんからねぇ。









「「「「「『敵を撃てヤクレートウル』っ!!!」」」」」









 お、下で迎撃が始まった。
 明石さん達頑張っているなぁ。

 頑張れー。僕はここで司会しながら応援していますから。
 賞金は奮発するから期待しててくださいよー。


 さて、本体はどう動くんだろう?
 本体がどう動くか決める前に喚ばれたので、どう動くかはわからないんですよねー。



 …………あ、それに“学園結界”も落とされた。
 さすがに“学園結界”は本体でも本業ではないので、茶々丸さんに落とされることがわかっててても対応出来ないんですよ。

 でも逆に言えば、これで僕も“学園結界”に影響されずに自由に動けるってことなんですがね…………。



 それでは僕が今いるここを含めた6つの魔力溜まり。
 世界樹前広場、女子普通科付属礼拝堂、麻帆良大学工学部キャンパス中央公園、フィアテル・アム・ゼー広場、龍宮神社、麻帆良国際大学附属高等学校の6ヶ所に配置されている式神全てと同調リンク開始。


 …………同調リンク確認。
 続いて魔力溜まりの魔力を用いて術式展開。

 …………術式展開確認。
 本体が事前登録した魔力波長パターン、つまり麻帆良魔法関係者以外の念話妨害結界。及び対無線、携帯電話などの電波障害結界。そして対龍宮さん用の魔力ジャミング結界の発動開始。
 
 …………結界発動確認。
 超さん側の連絡手段を遮断終了。龍宮さんの魔眼封じ込め終了。

 なお結界は魔力溜りが占拠されても維持できるように結界自身に魔力貯蔵開始………………貯蔵完了。これで何もなければ、放っておいても5時間は結界を維持出来ます。




 さぁ、狩りの時間です。
 降りるのは場所代の損だと思わせ、相手が有利だと思わせ、引くのは掛け金の損だと思わせて、横合いから殴りつけるのではなくて、自ら落とし穴に落ちてしまうように逃げられないようにジックリと。


 ……………………本体はマジでどうすんですかねぇ?
 僕はここでゆっくりと観戦させて頂きますけど。












━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



 ネギ先生を発見した…………というか発見してしまった。
 もちろん戦略的には発見出来た方がよかったのだが、個人的には発見出来ない方がよかったと思ってしまうのは仕方がないと思うんだ。


 現在の状況としては、“学園結界”が落ちて鬼神の復活までは上手くいったが、お助けキャラクターヒーローユニットである魔法関係者の出撃で田中さん達が押し返され始めた。
 だから私がお助けキャラクターヒーローユニットを狙撃して相手の戦力削ごうと思ったのだが、よりにもよってそんなときにネギ先生が杖に乗って上空をフワフワと浮いているのを発見してしまった。
 もちろん式神ではない本物で、ちなみにユニコーンガンダムでもない状態だ。認識阻害などを使用して、一般人には認識されないようにはしているみたいだがな。



 さて、どうするか?
 当初の目的通り魔法関係者の狙撃を優先するか? それともネギ先生の排除を優先するか?



 …………これは後者だな。

 一件無防備に飛んでいるネギ先生だが、もしかしたら私を探すために空を飛んでいる可能性がある…………というか、あれだけ無防備に飛んでいるということは実際そうなのだろう。
 おそらく魔法関係者が田中さん達を迎撃して、ネギ先生が私達を捜索するという分担のはずだ。キョロキョロと辺りを見渡しているしな。

 私達の中の主要人物は超、葉加瀬、絡繰、そして私の4人。
 この4人さえ拘束出来れば、いくら田中さん達が暴れようとも最後には学園側の勝ちとなる。
 そのために魔法関係者が田中さん達の足止め及び排除を担当して、担任でもあるネギ先生が私達4人の排除を担当しているのだろうな。

 しかしここで魔法先生を狙撃したら、その狙撃によってネギ先生に私の位置がバレるかもしれない。
 その結果で私を拘束出来たのなら、数人の魔法関係者の損害など微々たるものだ。



 だが逆に言えば、ここでネギ先生を排除出来れば私達の勝利が現実的なものとなる。
 ネギ先生さえ排除出来たら、怖いものはもうあまりない。



 それに麻帆良全体に妨害結界でも張られたのか、念話符でも携帯電話でも超達と連絡がとれなくなってしまった。
 こうなると私個人で最善を判断しながら行動するのを強いられてしまう。

 まぁ、どちらにしろネギ先生とは戦わざるを得ない。
 それこそネギ先生を野放しにしていたら、コチラの戦力をドンドン削っていくだろう。一般生徒がイベントに参加したために、戦力比でいくとコッチが不利なんだ。
 結局、今戦うか後で戦うかの違いだ。

 それならば、もし排除出来たのなら後々有利に進められる今のうちに仕掛ける。







 …………ネギ先生標的まで約1km。高度500mの上空を時速4km程の微速で前進している。
 結界のせいで魔眼でもノイズが入るようになってしまったので、ネギ先生が魔法障壁が張っているかどうかはわからない。
 だがコッチはまだ気づかれてはいない…………と思う。

 仕掛けるなら今だ…………というか他にない。
 さすがに魔法障壁は張られているのだろうが、この“強制時間跳躍弾B・C・T・L”なら魔法障壁ごと未来に飛ばすことが出来る………………ハズ。

 ネギ先生さえ未来に…………強制認識魔法が発動された後までに跳ばせれば私達の勝ちだ。





 跳ばせられなかったら超のせいだ。うん。





 私の銃はボルトアクション。
 この一撃を外したら次弾装填までに僅かな隙が出来てしまう。ネギ先生ならその隙をついて、1kmの距離をものともせずに私を無力化出来るだろう。
 私も接近戦が出来ないことはないとはいえ、それでもネギ先生に勝てると思うほど調子には乗っていない。

 だから、この一撃で仕留める。
 上空を飛んでいるネギ先生に狙いをつける。









 …………。

 ……………………。

 ………………………………いくぞ。











 タァンッ! と銃声が響くと同時に、ネギ先生とスコープ越しに目が合う。コレに気づくとはさすがネギ先生。
 とはいえ弾は音速より速く飛んでいるから銃声で気づいたわけではなく、私の僅かな殺気に気づいて反応したのだろう。

 だが、どちらにしろ今からの回避は間に合わない。


 どうやら魔法障壁はちゃんと張っていたらしく、ネギ先生の足元で“強制時間跳躍弾B・C・T・L”が着弾した。
 それと同時に“強制時間跳躍弾B・C・T・L”がネギ先生の周囲の空間を包み込もうとして………………包み込もうとして…………霧散した?





 バカなっ!?
 今のは…………今の空間の包み込もうとした広がり方は…………?





 そしてスコープの中のネギ先生の口が動く。

“見ーつけた”

 と。


 …………見つけられちゃったよ、おい。

 しかもネギ先生が携帯電話を手にとってどこかにかけたと思ったら、私の懐の携帯電話が鳴りだした。
 結界のせいで電波が届かなかったはずなんだが…………コレ、明らかにネギ先生だよな?

 …………出たくないなぁ。
 でも出ないわけにもいかないよな。出なかったら問答無用で瞬殺されてしまう。









「……………………も、もしもし?」

『もしもし、ネギです。お元気そうで何よりです、龍宮さん。
 今のが“強制時間跳躍弾B・C・T・L”ですか?』

「…………そうだよ。今のには驚いたよ。何をしたんだ、ネギ先生?」

『企業秘密…………と言いたいところですが、龍宮さんなら予想がついているんじゃないですか?』

「まあね。…………確認のために聞いておくが、ネギ先生はどのくらいの大きさの障壁を張っていたんだい?」

『直径3kmです。ただし、僕を中心としてではない●●●●●●●●●●●ですがね』


 …………やはりそうか。

 ネギ先生の足元の障壁に“強制時間跳躍弾B・C・T・L”が着弾したとき、魔法障壁ごと飲み込むために広がった空間が、どんなに広がっても魔法障壁を包み込めないまま上空へと広がっていき、終いには霧散してしまった。

 おそらくネギ先生は魔法障壁を自分を中心としてではなく、自分を球底に位置するように魔法障壁を展開したんだ。
 直径3kmもの巨大な障壁を。

 その結果、魔法障壁ごと飲み込むはずの“強制時間跳躍弾B・C・T・L”が大きすぎる障壁のせいで霧散してしまった。
 上空500mを飛んでいたのもそのためか。





『ただの強制転移魔法なら弾丸に魔力を込めても転送距離はせいぜい3km。だけど“強制時間跳躍弾B・C・T・L”なら3時間先に飛ばすことの出来る。
 …………しかしいくら弾丸に魔力を込めても、さすがに約14立方kmの空間は包み込むことは出来なかったようですね。空間ごと包み込むなら質量●●は関係ないと思っていましたが、やはり体積●●は関係ありましたか。
 これで“強制時間跳躍弾B・C・T・L”は怖くないのがわかりました』





 …………そんなこと想定しているわけないだろう。

 この弾丸に込められた魔力量では、おそらく今暴れている鬼神サイズの大きさでも無理なハズだ。
 それなのに直径3kmの球状の空間なんか転移させることなど出来るはずがない。


 マズイ。これで私に打つ手はなくなった。





『………………ま、龍宮さんはいいか。このままだとどうやらワンサイドゲームになってしまいそうだしね…………。
 対処方法がわかった以上、魔法関係者ならその弾は怖くはありません。しかしそれでも一般生徒相手なら充分に効果的でしょう。せいぜいイベントを盛り上げるために頑張ってください。
 となると、次は茶々丸さんだなー』


 ぐあっ! 何その上から目線!?
 私は当て馬か!?

 でも確かに戦況はコチラ側が押されている。
 田中さん達も“強制時間跳躍弾B・C・T・L”で攻撃を仕掛けているが、ただ弾をバラ撒くだけでは一般生徒には効果があってもお助けキャラクターヒーローユニットに当てることは出来ず、逆にドンドン破壊されていっている。
 それを突破口として一般生徒が盛り返して駆逐されてしまう。

 要するにネギ先生は私に一般生徒を狙撃させて、このワンサイドゲームのバランスを調整させようというのか。
 完璧に遊ばれているぞ。







「…………気のせいかもしれないが、随分と機嫌が悪くないかい、ネギ先生?」

『“気のせい”? …………今回の件で、いったい何処に僕の機嫌が良くなる要素があるんですか?』


 ごもっとも。
 悪かった。調子に乗って悪かったから、そんなに怒らないでくれ。


 電話が切られ、ネギ先生がフッと消える。転移魔法か。
 おそらく茶々丸を探しにいったのだろう。

 …………とりあえず私は一般生徒への狙撃に入るか。
 あんな“強制時間跳躍弾B・C・T・L”の対処方法があった以上、魔法関係者への狙撃は無意味だろう。
 だったら一般生徒…………目立っている明石や武道会参加者辺りを排除するぐらいしか出来ない。



 ………………ネギ先生の思惑通りというのが癪だがな。



 いや、待てよ。それなら高畑先生を狙ったほうがいいか。
 湖から出てきた鬼神6体を相手して、今だ鬼神を湖から出していない高畑先生を排除。もしくは意識を逸らすことが出来れば、鬼神が内陸への侵攻することが出来るだろう。

 それに高畑先生は魔法が使えない。
 高畑先生では直径3kmの障壁なんか張れないだろうから、“強制時間跳躍弾B・C・T・L”への対処は居合い拳で打ち落とすぐらいしか出来ないだろう。
 それなら高畑先生相手には私でも勝機があ……………………あ、あれ? 直径3kmの障壁?

 高畑先生に限らず、普通の魔法使いじゃそんな巨大な障壁を張れるわけが…………。






















「いやー、まいりました。学園長にさっきの対処方法教えたら、「そんなん出来るワケないじゃろぉっ!!!」って怒られちゃいましたよ」


 ネ、ネギ先生っ!?
 後ろ!? いつの間に!?


「遅いです。『魔法の射手サギタ・マギカ 戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ』」


 しまったっ!?
 私の腹に当てられたネギ先生の手から、『戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ』が解放されて私の身体を拘束する。
 『戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ』を喰らった以上、生半可なことでは抜けられん。


 というか、いつの間にか私もネギ先生に毒され過ぎてたよっ!

 直径3kmの障壁なんて簡単に張れるもんじゃない。何より地上では建物が邪魔してそんな広範囲の障壁なんか展開出来るわけがない!
 だから魔法関係者への狙撃も充分に効果があったはずなんだ。

 ネギ先生の近くにいたせいで、私も魔法関係の常識が狂ってきてたのか………………なんか本気で泣けてきそうだ。





「そんなわけでして、龍宮さんはここで脱落してもらいます」

「…………ワンサイドゲームへの梃入れはいいのかな?」

「ある程度になったら魔法関係者には手を抜いてもらいますよ。
 アスナさん達も予備戦力として待機してもらってますので、何かあっても大丈夫でしょうしね」



 …………余裕だな、ネギ先生。もう勝ったつもりか?
 私にだって“覚悟”はあるんだ。ネギ先生にとっては障害にもならない、一山いくらの存在かもしれないが、それでも“覚悟”はしていたんだ。
 あまり私を甘く見るのはやめてもらおうか。


 掌の中には“強制時間跳躍弾B・C・T・L”。別に銃で撃たなければ発動出来ないわけじゃない。
 さきほどは巨大な障壁で“強制時間跳躍弾B・C・T・L”を防いだようだが、この近距離ではどうすることも出来まい。
 私一人の犠牲でネギ先生を相打ちに持ち込めるなら、充分すぎるほどの戦果だ。












 さようなら、超達。どうか死なないd「ツプっとな」ってキャアアアアッッッ!?!?







「“キャア”? 龍宮さんにしてはやけに可愛い悲鳴ですね?」

「そそそそそそんなことより! いったい何をするんだっ!?」

「? 何って、ヘソ●●に指突っ込んだだけですけど…………」


 “だけですけど”じゃない! いったい何のつもりだっ!?
 …………ちょ、やめてくれ! 指動かさないで! というか何でよりにもよってヘソなんだ!?


「いや、龍宮さん今自爆しようとしたでしょう。案の定、掌から“強制時間跳躍弾B・C・T・L”が零れ落ちましたし。
 それに目の前に無防備にあって丁度良い位置でしたからね。ヘソは人体の正中線に位置する急所ですからビックリしたでしょう?
 といっても『咸卦治癒マイティガード』発動してますから、痛くはないと思いますけど?」


 痛くはない! 確かに痛くはないけど何この新感覚!?
 お腹の中を弄られるような感覚!

 …………あ! やめて! お願いだからやめてくれ!
 指をクニクニと動かさないで!





「…………気持ち良いんですか?」

「そ、そんなことはないぞっ!」

「あー…………龍宮さんはちゃんと健康に気を遣ってます?
 ヘソは内臓器官を支配する自律神経が集まっていますから、そこまで効き目があるようでしたら内臓が弱っているんじゃないですかね?」


 そういう問題じゃない!
 これはまったくもって別の問題だよ!

 マズイ。『咸卦治癒マイティガード』のせいか身体が熱くなってきてる。

 ちょっ! やめっ! 何か変になる! 変になっちゃう!
 『咸卦治癒マイティガード』を体験するのは初めてだが、これはマズすぎる! 刹那達が顔を赤くして体験談を話す理由がわかってしまう!

 というか『戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ』のせいで動けないから逃げられない!
 身体を拘束されて10歳の男の子にヘソを弄られるなんて、いったいどんなシチュエーションなんだ!?


 …………あ。くてっとなる。くてってなっちゃう。
 やめてやめてやめてやめて。お願いだから。


「…………フム、せっかくだからマッサージでもしましょうか?
 龍宮さんに『咸卦治癒マイティガード』するのは初めてですよね。どうせ刹那さんが龍宮さんを引き取りにくるまで数分かかりますし」


 え!? いらない! そんなのいらないから普通に拘束してくれ!
 …………というか刹那がここに来るのか!? こ、こんな姿を見られたら…………。





 ちょ、あ……………………アッーーーーー!!





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「…………あ、あのネギ先生?」

「あ、刹那さん。どうしたんですか? せっかく後方100mぐらいまで近づいてきたのに、そこで10分ぐらい立ち止まっていたなんて…………。
 何かあったんですか?」

「い、いえ。…………ちょっと近づけない雰囲気だったので……というか気づいていたんですね。
 気づいててやってたんですね?」

「は?」



 …………み、見てたのか、刹那。だったら助けてくれよ…………。

 もう汗でびっしょりだ。顔が真っ赤になっているのもわかる。
 15分にも満たない時間だったはずなのに、それこそ倍以上の時間に感じられた。

 うううぅぅ…………ネギ先生にその気がないのはわかってはいるが、それでもこんな状態で見られてしまうと気恥ずかしいのには変わりない。


 …………それよりか刹那。
 何でそんな冷たい目で見るんだ…………?





「それでは刹那さん。龍宮さんの拘束をお願いします。僕は茶々丸さんの確保に向かいますので。
 ………………居場所は龍宮さんの頭の中から読ませて頂きましたから」


 げっ!?

 そういえば「気持ち良いですか?」とか「ここが良いんですか?」みたいな質問の中に紛れて、そんな質問が混じっていたような気が…………。
 私の口からは答えていないはずだが、いつの間にか読心術でその質問の答えを読んでいたのか…………。


「ああ、なるほど。それが目的で龍宮をこうしたのですか。
 でも“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”を使えば良かったのでは? ネギ先生のアー「いや、それはまだ秘密にしておいてください」…………そういうことですか。相変わらず慎重ですね」


 …………何があったんだよ?

 いや、それより最初から最後までネギ先生に弄ばれた。
 もうお嫁にいけない………………元からいく気はなんてなかったが…………。

 だが、このままでは終わらん! もう恥も外聞もないが、それでもこのまま終わるなんて悔しすぎる!
 せめてネギ先生に…………刹那にでもいいから一泡吹かせたい! 八つ当たりでもいいから!

 何か…………何かないか!?















「フフフ…………、私の負けだよ」

「結構余裕だな、龍宮。
 まあいい。とりあえず皆のところに連れて行くから、ちょっと“話し合い”でもしようか」


 嫉妬か、刹那?
 というか目が洒落にならんのだが。


「いや、何。ここまで全力でやって敗れたのなら言うことがないだけさ。
 それとネギ先生。さっき私にしていたことなのだが、気持ち良かったから後で刹那にも同じことをしてあげればいいぞ」

「な、なぁっ!? 何を言うんだ龍宮っ!?」

「ああ、やっぱり気持ち良かったんですね」

「ああ、気持ち良かったから、是非とも刹那を含めた全員にしてあげるといい。
 きっと皆喜ぶぞ」


 私だけがこんな目に遭うなんて認められるか!
 どうせなら刹那達も同じ目に遭えばいいんだ!

 刹那よ! 私と同じく悶絶して…………って、何余裕そうな顔をしているんだ?
 いつものお前だったら、ネギ先生のことでからかえばすぐ顔を赤くしていただろうに…………。












「…………触りたいんですか?」

「? え、何をですか? 僕はただ…………」

「いや、その…………オヘソの辺りをマッサージするということは、私達のお腹を触りたいんですか?
 今までネギ先生に腕とか肩とか足をマッサージしてもらったことはありましたけど、ついにネギ先生もソッチ側方面に興味が…………」

「? ……………………! へあっ!?!?
 そ、そういう意味じゃありません! ただ龍宮さんが気持ち良かったっていったから、刹那さん達も喜んでくれるかと思って…………。
 別に刹那さん達の肌を見たいとか触りたいとか、そういう意味で言ったんじゃないですよ!」

「あ、そういえば武道会終了後…………古のお腹を直接撫でたそうですね?」

「…………。

 ……………………。

 ………………………………ぐあっ!? よ……よく考えれば僕は何てことを…………」

「ネ、ネギ先生がそこまで言われるのでしたら、私達だって肌を晒すのは吝かではありませんが…………。
(フフフ、このちゃんの言った通りですね。ネギ先生は自分のすることの重大性に気づけないから、それを指摘することが弱点になると…………)」


 バカなっ! 刹那がネギ先生に勝つだと!?
 いったい何があったんだ!?





「え……えと…………それでは龍宮さんのことお願いしますっ!」

「ハイハイ。いってらっしゃい、ネギ先生。
 …………ウフフ、ネギ先生は可愛いなぁ…………」


 顔を真っ赤にして逃げ出すネギ先生なんて初めて見るぞ。
 それに刹那がなんというか…………“女”の顔をしている。


「せ、刹那? いったい何があったんだ?」

「秘密だ…………と言いたいが、皆のところにいったら話してやる。
 というかエヴァンジェリンさん辺りが嬉々として話すだろうから、それを黙って聞いていればいいさ」

「そ、そうなのか…………」

「お前にも聞きたいことはあるが後にしよう。イロイロとお前も大変だったみたいだしな。
 でも、ヘソに指を突っ込まれてたのは見てたが、アレはそんな格好でネギ先生に挑むお前が悪いぞ。ネギ先生はそういうことが全然わからないんだから、やっちゃいけないこともわからないというのはお前も知っていただろう」

「…………身に染みてわかったよ」

「だいたいその格好は何なんだ?
 動きやすいようにそうなったのかもしれないが、前から見るとまるでパンツ丸出しじゃないか。それで恥ずかしくないのか?」





 パ、パンツじゃないから恥ずかしくないぞ!
 それに楓だって似たような格好だろう!

 というかコラ! そんな乱暴に俵のように背負うな!
 コッチは『戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ』で身動きが取れないんだぞ!


 ………………ああ、それにしても負けたな。
 やっぱり素直に計画から抜けておけばよかったなぁ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ストパンは見てないんですよね。
 ですからネタとして使う気はなかったのですが、“魔法少女プリティ☆ベル”の4巻の特集を見てしまって衝動的に…………。


 あと楓やたつみーのああいう太ももが見えるズボンみたいのはエロイと思います。
 というか楓ってあの下、もしかして褌?

 あ、それと“強制時間跳躍弾B・C・T・L”の対処方法はオリジナルですのであしからず。
 というか、科学の力を使っているとはいえ、結局は魔力も使っているので『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』で無効化出来るんじゃないでしょうかね?



[32356] 第69話 学園祭⑭ 追撃のネギ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/19 19:03



━━━━━ 夏目萌 ━━━━━



「∬㌍з‰ёゞ㍍★Щーーーーーッ!」

「いやぁ、僕だって本当は茶々丸さんとは敵対したくないんですよ」

「Ю▼£㌦И㊥㌫Д¢ーーーーーッ!」

「それでも茶々丸さんを確保しなきゃいけないのは避けられないんですが、それでも暴力を振るうのは気が咎めますのでね。
 こういう形で申しわけありませんが、茶々丸さんはしばらく休んでいてください。起きたら色々とスッキリしているでしょうから、安心してくださいね」







 だからといって、絡繰さんを魔力供給で悶絶させるのはいいんでしょうか、ネギ先生?
 ああ、絡繰さんがあんなに真っ赤に悶えてしまって…………正確には魔力じゃなくて、『咸卦治癒マイティガード』を供給しているらしいんですが。

 というか、本当にコレいいんでしょうか?
 絡繰さんがあまりの悶え具合で、もう気絶してしまいそうです。絡繰さんの確保が私達の目的ですので、丁度良いといえば丁度良いんですが。
 うう…………何だか私もアレ見てたら変な気持ちというか…………恥ずかしくなってきちゃった。


 …………あ、ついに絡繰さんが倒れた。
 ビクンビクン! 痙攣してますけど、大丈夫なんでしょうか?





「それでは夏目さん?」

「ひゃいっ!? な、ななななな何でしょうか、ネギ先生!?」

「茶々丸さんの確保が終了しましたので、予定通りここの設備を使えなくしてから明石教授と一緒に“学園結界”復活の準備をしてください。
 といっても、復活出来るようになったとしてもまだ復活させちゃ駄目ですよ」

「了解です! 復活させるのは、強制認識魔法発動儀式の最終段階…………最後の呪文詠唱が始まってから10分後ですね!」


 仕上げの呪文詠唱には11分6秒かかるらしいので、最後の最後で超鈴音さんの足を引っ掛けて転ばせるんですね、わかります。 

 それと超鈴音さんの居場所をもう見つけたのに、“イベントがまだ盛り上がっているから”という理由で確保しないのはいいのでしょうか?
 いや、ただ傍観しているのではなく、このように絡繰さんを確保するなどして着々と超鈴音さんの手足をもいでいってますので、慎重を期していると言われればそれまでなのですが…………。



 むしろ外道。



 まあ、そんなわけで今のところ作戦は順調です。
 敵ロボット撃破数はさっきまでで1000体を越えています。

 6体の鬼神はそのまま抑えきることも出来ましたが、イベントの盛り上げのためにわざと5つまで魔力溜まりを占拠させました。それにちびネギ先生が鬼神1体につき15人ほどステルスモードで取り憑いてますので、いつでも破壊可能です。自爆で。
 敵主要人物の2人である龍宮マナさん、そして絡繰茶々丸さんをこれで確保出来ました。残りは超鈴音さんと葉加瀬聡美さんの2人のみ。

 でも逆にここまでうまくいきすぎると、イベントとしてはワンサイドゲームになりすぎる危険性が出てきてしまったので、一度お助けキャラクターヒーローユニットを下げるみたいです。
 一応、敵ロボットの“強制時間跳躍弾B・C・T・L”で未来に跳ばされた一般生徒もいますし、魔法関係者もそこそこの数が跳ばされてしまってます。
 しかし魔法関係者の中でも、神多羅木先生とか葛葉先生みたいな特に凄腕な先生はまだ生き残っていますので、まだまだ許容範囲内みたいです。

 というか、ほぼパーフェクトゲームです。







「では僕は超さん確保の準備をしますので、ここのことをよろしくお願いしますね」

「はい! いってらっしゃいませ!!!」



 うううぅぅ…………緊張しちゃいましたよぉ。
 ネギ先生自身は怖くはないんですが、絡繰さんにああいうことを無自覚でしてしまうネギ先生の天然さが怖いです。












━━━━━ 超鈴音 ━━━━━



「さあ……いよいよ最終段階ネ。どうした、こないのカ。ネギ坊主?」



 …………本気でこないで欲しいヨ。



「…………やはり茶々丸、龍宮さんとは連絡がつきません。
 イベント開始直後に張られた妨害結界がずっと維持されたままですので、そのせいだと思います………………いえ、そのせいだと思いたいですが…………」

「そうカ…………しかしポツポツと魔法関係者が減てきているから、本当に龍宮さんが1人で頑張てくれているのかもしれないネ。
 茶々丸の方は…………“学園結界”が落ちたままならそれでいいヨ」


 眼下には眩いばかりに発光している世界樹が見える。
 こういうときじゃなかたら、茶でも飲みながらゆくりとこの美しさを見ていたいネ。

 空戦タイプの田中さんや茶々丸姉妹を使て奇襲したのが幸いして、魔力溜まりを5つまで落とすことが出来た。残るは世界樹前広場のみ。
 だがその世界樹前広場は魔法関係者が集結して防衛しているため、なかなか落とすことは出来ない。だが時間の問題だろう。
 ネギ坊主のパーティーや高畑先生がいたら更に無理なのだろうけど、おそらく彼らは私の捜索をしているのだろう。その姿はどこにも見ることは出来ない。


 …………ネギ坊主達に見つからなければいいガ。
 魔力溜まりを落とすために予備戦力の全てを投入したのは仕方がないが、これで私達は丸裸となた。
 しかも無線封鎖されているから、もう田中さん達を呼び戻すことは出来ない。元から麻帆良側の連絡手段は封じるつもりだたけど、まさかコチラもやられるとはネ…………。


 この状態でネギ坊主達に挑まれたら、自分の身はともかくハカセを守ることは出来ないだろう。
 そしてハカセが呪文を詠唱出来なければ、強制認識魔法は発動させることが出来ない。

 要するに見つかると負けヨ。
 ネギ坊主はもちろんのこと、高畑先生にも勝てないと思うネ。


 だからこのまま何も起こらずに終わて欲しいのだけど、ネギ坊主達の姿が全然見えないのが逆に怖すぎるヨ。
 龍宮さんが勝たと思うのは希望観測に過ぎないと思うし…………。





「地球上12箇所の聖地、及び月との同期完了です。後は残る世界樹前広場の占拠を待つのみ…………。
 いよいよですね…………」

「よし…………ハカセは儀式の最終段階、最後の呪文詠唱に入るネ」

「仕上げの呪文は11分6秒です。大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ヨ。始めてクレ」


 むしろ1分1秒を争うヨ。
 ネギ坊主たちに見つかたら、取り押さえられるまで10分なんてかからないだろうしネ。


 眼下には今にも落とせそうになている世界樹前広場が見える。
 そしてモニタには麻帆良側がわざと流してる映像。世界樹前広場で式神であろうネギ先生が実況をし、明石さんや大河内さんが奮戦している姿も見えてくる。



 みんな、楽しそうネ。クラスの……みんな。
 …………お別れの挨拶をしておけばよかたネ。量子力学研究会とか超包子とかロボット研究会とかも魔法先生に監視されていたから挨拶出来なかたシ。
 イベントのラスボスキャラとして私からも少し挨拶をしたが、みんなが楽しんでくれて何よりだヨ。


 私は勝ても負けても、この時代からは去る。だからみんなとはもう会えない。

 …………まいたな。これも計算違いネ。
 驚いたことにこの2年間は…………とても楽しい2年間はだたヨ。

 だが、それも私にとては儚い夢のようなモノ。


 ………………一番の計算違いはネギ坊主だたがネ。







 けど、もうすぐこの楽しいイベントも終わってしまう。みんなとは別れることになる。あの騒がしかた3-Aの喧騒も、思い返せばみな懐かしいヨ…………。
 挨拶もナシにいなくなたらみんな怒りそうだけど、騒がしいみんななら直ぐに慣れるだろう。私がいなくなても超包子は四葉に任せておけば安心だし、ロボット研究会や量子力学研究会もハカセに任せておけばいい。。

 だから大丈夫。

 私の眼下に見える世界樹前広場が落ちた後、強制認識魔法が発動し………………ん? あれ?


 えーっと、何か…………何かおかしくないカ?
 …………何か違和感があるヨ…………。

















 …………。

 ……………………。

 ………………………………あれ? 眼下に見える世界樹前広場●●●●●●●●●●●●




 え? …………何で、何で世界樹前広場が眼下●●にあるんダっ!?










「…………っハカセ! 機関逆進一杯! 飛行船を全速力で後退サセロ!!!」

「は? 超さん、いったい何を…………こ、これはっ!?
 いつの間に世界樹前広場の上空に!? さっきまで世界樹付近の上空にいたはずです!」

「いいから早くっ! このままでは強制認識魔法を発動出来ないヨっ!!!」


 強制認識魔法を発動させるには、6つの魔力溜まりを利用した直径3kmの魔法陣上のどこかで発動させなければならない。
 だから最初、飛行船は世界樹が眼下に見下ろせることの出来る魔方陣の中心近くに配置していたハズ。
 しかしいつの間にか、飛行船が魔方陣外周の世界樹前広場上空まで移動していたネ。このままじゃ飛行船ごと魔法陣の外側に押し出されるヨ!


「だ、駄目です! 後退出来ません!
 強い風なんか吹いていないのにどうして…………」

「…………ネギ坊主かっ!? ハカセはここにいて詠唱を続けてクレ!
 無線封鎖は…………解除されてる!? なら世界樹前広場の占拠は諦めて、全戦力をこの飛行船に集結させロ! 田中さん達で飛行船を押すんだヨっ!!!」

「む、無茶言わんでください!?」


 他に方法はないヨ!

 浮遊アンチグラビティシステム起動!
 くそっ! いつの間にネギ坊主に気づかれた? いや、その前にどうやてこの飛行船まで来たのカ!?
 監視体制は完璧だたヨ。飛んでくるものなんか一つもなかたはずなのに…………。

 悔やんでいる暇はない。
 急いで船尾に…………ネギ坊主がいるであろうところに行かなければ! ハカセを1人にすることは不安だが、飛行船を魔法陣上から退かされたら元も子もないヨ!











 …………。

 ……………………。

 ………………………………いた! ネギ坊主っ!









『お? あーあ、やっぱり見つかりましたか。まぁ、ここまで来たなら大丈夫でしょう。
 それでは…………具体的に言うとここから直径3kmの魔法陣上ここから出て行けぇーーーっ!!!』


 念話が聞こえると同時に、ネギ坊主…………ユニコーンガンダムが船尾に張り付き、バーニアを全開にして飛行船を押しているのが見えた。更に飛行船が押し出されるスピードが上がる。
 マズイヨ。これ以上押されたら…………。





『たかが飛行船一つ、ガンダムで押し出してやる!
 ユニコーンガンダムは…………伊達じゃない!』

「やらせないヨ、ネギ坊主! それ以前にいたい何処に隠れてたのヨ!?」

『えー、1時間ほど前に転移魔法で飛行船の中に移動して、アスナさん達と一緒に30分ほど茶しばいてました。
 で、その後飛行船ゴンドラ部の床を切り取って、上にいる超さん達に気づかれないように飛行船の影に隠れながら船尾ココまで移動して、これまた超さん達に気づかれないようにゆっくりと飛行船を押してましたよ。
 いやー、お手洗いも眺めが最高でしたねぇ。家々の明かりと世界樹の発光が入り混じって…………』


 ちょっ、コイツっ!? 私が胃をキリキリさせながら計画を進めていたのを、悠々と茶飲みながら観戦していたのカ!?
 しかし転移魔法で飛行船の中に移動されたんじゃ気づけないわけだヨ!

 …………それに“アスナさん達と一緒”て………………まさか!?





『ちゃ、超さん! 助けてください!
 って、キャアアアァァーーー!?』


 ハ、ハカセーーーーーっ!?

 神楽坂さん達か!?
 イカン! 呪文詠唱をしてくれるハカセがいなかたら、強制認識魔法が発動させられないヨ!







『…………ふむ、せっかくのお祭りです。
 どうせなら超さんの相手もして、完全な勝利でこのイベントを終わらせましょうか』


 ユニコーンガンダムネギ坊主が“空飛ぶゲタサブフライトシステム”を発現し、その“空飛ぶゲタサブフライトシステム”が飛行船を押させるようにしてから、ハカセ救援のために戻ろうとした私の行く手を阻んだ。
 …………よくよく見てみたら、その重武装はいたい何ヨ?

 ユニコーンガンダムネギ坊主は武道会のときに見たシールドとサーベルだけなんて軽装備ではなく、とんでもないほどの火力を満載した装備となている。

 両腕部にはシールドが取り付けられており、更にそのシールド一枚につきガトリングガンが2丁ずつシールドの内側に取り付けられている。
 そして右手には斧の柄に更にジャベリンが取り付けられたものを握て、左手にはもう1丁ガトリングガン。
 でも左手のガトリングガンはかなりの大型で、他のガトリングガンと少し違うようネ。魔力弾ではなく実弾らしくバレットベルトが取り付けられていて、それが背部のタンクと直結しているヨ。

 脚部には1セット3発のハンド・グレネードが片足に2セットずつで、両足で計4セット。

 そして背部にはガトリングガンが更に2丁。それに脚部にもついていた同じハンド・グレネードが2セットと1セット3発のミサイルランチャーが1セットがそれぞれ取り付けられているバズーカが2丁。それとビーム・マグナムも1丁持ているネ。
 あと何か増えた重量をカバーするためか、大型のバーニアも増えてる。


 ………………何このフルアーマーユニコーンガンダム?
 一つ一つの装備は茶々丸の録画映像から見たことあるような気がするけど、こんなにも一度に重装備をしたのは初めて見るヨ!







「さがれヨ! さがてくれないと、ハカセが…………っ!」

『何を今更…………。
 この計画を進めたくば、僕を力で倒してください。完膚なきまでに。僕の子孫なんでしょう…………』


 何故それをっ!? そのことはネギ坊主には伝えていないはず…………。

 くっ! やはりエヴァンジェリンか誰かはわからないが、未来に行て戻てきたのは間違いないようネ。
 だがそれも今は詮無きこと!


 ここまで来たらネギ坊主がそうであるように、私も話すことはもう何もない!
 私はこのためだけにこの時代へやて来た! 2年の歳月と全ての労力をこれに注いだのダ!
 この計画は今の私の全てだ!!!

 いくら負けるのを覚悟していたとはいえ、このような終わり方では死んでも死に切れないヨ、ネギ坊主っ!!!



 ………………いや、ホントにマジで。



 だからせめてネギ坊主に一泡吹かせる! 私にだて、プライドはあるのヨ!









「では、私も私の思いを通すために、持てる力の全てを揮うとするネ!
 行くヨ!!!」


 最初から全力全開で行く!
 出し惜しみなんかしていられない!

 とはいえユニコーンガンダムネギ坊主が持ている盾には魔法が効かないので、“呪紋回路”は解放しない。
 勝てる見込みがあるとしたら、“航時機カシオペア”と“強制時間跳躍弾B・C・T・L”のみ!
 そして神楽坂さん達も排除してから、改めて強制認識魔法を発動させるヨ! ………………無理だと思うケド。というか無理ゲー過ぎるヨ。



 ビット射出。ユニコーンガンダムネギ坊主の防御力は突破出来ないだろうけど、威嚇でいい。撃てっ!
 そして“強制時間跳躍弾B・C・T・L”を目の前にズラリと並べて一斉に斉射。これで点ではなく面で制圧するヨ!


『へぇ…………そういえば銃を相手にするのは初めてだなぁ』


 対するネギ坊主は両腕、背部についている6丁のガトリングガンで迎撃。
 弾幕厚すぎるヨ、何やてんの!?


 圧倒的なガトリングガンの斉射によってビットが破壊される。“強制時間跳躍弾B・C・T・L”が圧誘爆される。
 だがコレで視界は塞がた。



 “航時機カシオペア”参号機起動。
 時間跳躍並びに空間跳躍でユニコーンガンダムネギ坊主の背後にまわ…………って、おわっ!?

 跳んだ先の目の前にビーム・ジャベリンの切っ先が!? 


「くうっ!!!」


 急いで距離を再びとる。

 …………あ、危なかたネ。
 あのまま拳に握り込んだ“強制時間跳躍弾B・C・T・L”をユニコーンガンダムネギ坊主に叩きつけようとしてたら、自らあのビーム・ジャベリンの切っ先に突込むところだたヨ。

 くっ、私の行動が予想されていたのカ。
 ネギ坊主がしたことは、私が消えた瞬間にビーム・ジャベリンを自分の背後に向けて振り回す。ただそれだけだた。
 確かにこの状況なら、私が後ろから仕掛けるのが当たり前とはいえ、これだけのことで…………。

 エヴァンジェリンが言ていたが、確かにネギ坊主の一番厄介なところは魔力量でも強力な魔法でもなく、ただ単純な戦闘技量のようネ。
 本当に10歳なのカ、ネギ坊主は…………。







『良い反応です。
 では次はコチラから行きますよ』






 ネギ坊主がそう言た瞬間、MM-Dが発動される。
 あれだけの重装備なのに、各所に取り付けられた武器が邪魔をすることもなくユニコーンガンダムネギ坊主の装甲が展開され、そこから赤い光が漏れ出す。
 そしてユニコーンの名の如くに額に生えていた一本の角が割れて左右に開き、金色に光り輝く。

 ユニコーンガンダムネギ坊主の本気カ。
 しかしいくら高音さんとの模擬戦のときに見せたような高速機動が可能でも、この時間跳躍による絶対回避に避けられないものはない。
 攻撃を避けた後に“強制時間跳躍弾B・C・T・L”をカウンターで食らわ…………? 赤い、光が…………っ!?





「…………かっ…………がはぁ…………っ!!!」





 馬鹿ナ!? 赤い光が目に入たと思た瞬間に終わてた!?

 音がしなかた!
 見えなかた!
 消えた!!!

 気がついたらふ飛ばされていた!
 気がついたらぶ飛ばされていた!!!


 じ、時間を止める間もなく攻撃されたのカ!?










『超さん。“航時機カシオペア”の時間跳躍を利用した回避行動は確かに優れています。
 …………しかし、あくまでも“航時機カシオペア”を扱うのは、“航時機カシオペア”を発動させるのは超さん自身というのは忘れてはいけませんよ。
 人間の反射神経は0.1秒が限界といわれています。要するに、攻撃を始めてから0.1秒以内に攻撃を当てることが出来るのなら、どんな人間でも回避することは出来ないんですよ』


 そ、そういうことカ…………。
 おそらく今のはネギ坊主が私のすぐ横を、音速で越えた速度で通過したことで発生した衝撃波ソニックブームでの攻撃。

 人間が認識している世界は0.1秒前の世界だというヨ。
 つまり目で何かを見たとしても、その目に入た映像を脳が認識して処理するまでに0.1秒かかるということ。それに加えて、脳がその認識した情報を処理してから肉体に指令を出して行動するまでにもう0.1秒が必要と言われているヨ。

 ネギ坊主ほどの実力者なら、攻撃するのには0.2秒あれば充分ということなのカ…………。
 く、先ほどの一撃で…………衝撃波ソニックブームの攻撃だけで浮遊アンチグラビティシステムが少し不調。“航時機カシオペア”は…………よし、まだ生きてる。

 私はまだ戦える…………けど、マズイよ、これは。












『さあ、どうしました?
 まだ時間跳躍による回避方法が失敗しただけですよ。かかってきてください』





 !!!





『時間を跳んでみてください。時間を止めてみてください。
 浮遊アンチグラビティシステムを再起動して浮かんでください。“強制時間跳躍弾B・C・T・L”を使って反撃してください。
 さあ、お祭りはこれからです。お楽しみはこれからです。

 早くハリー
 早くハリー早くハリー!!
 早くハリー早くハリー早くハリー!!!』




 ばっ…………化物め!
 ネギ坊主に戦いを挑んだ私がそもそも間違ていたとでも言うのカ!?

 …………いや、そうなんだろうけどサ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 『一角獣ユニコーンファントム』! ← なんだその名前


 その通りだよ、超りん。
 それと飛行船ごと落とすのはさすがに自重しました。

 正直、調子に乗りすぎてネギを強化しまくったので困ってきているところがあるのですが、それ以前にまず自分の考え方を何とかしないと駄目な気がしてきたのは気のせいなのでしょうか?



[32356] 第70話 学園祭⑮ 超鈴音の消め…沈
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/19 19:21



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



『さあ、どうします!?
 どうするんですか超鈴音未来人!!!』





 …………この程度か。少し残念ですね。
 力押しだけじゃなくてありとあらゆる手段を持って向かってくる、超さんみたいな人が相手なら久しぶりに本気を出せると思ったのに…………。


 時間跳躍による回避行動は結局のところ、ただの瞬間移動と変わりません。
 攻撃に利用しようとしたとしても超さんが人間である以上、跳躍してから攻撃に移るまでには僅かなタイムラグがあります。
 だから実のところあんまり怖くないんですよね。

 ほぼ同時間・同空間への超高速連続時間跳躍を行なうことによる擬似時間停止は少し厄介ですが、それもあくまで擬似的なものにしか過ぎません。
 攻撃してくる進路にちょっとビーム・ジャベリンとかを置いておくだけで、勝手に超さんが驚いて止まってくれます。
 超さんの体感時間で2.68秒ほど擬似時間停止出来るみたいですが、超さんが攻撃してくる攻撃は何となく読めます。ちょっとそれを狂わせたら“航時機カシオペア”を精密に動作させることなんて出来なくなりますので、これも怖くないです。


 こう言っては何ですが、僕と超さんでは戦いのキャリアが違います。 
 その結果として、簡単に超さんの攻撃を捌く事は出来るんですけど………………む、逃げに徹されたら厄介ですね。

 思えば襲い掛かってくる敵には慣れていても、逃げる敵というものにはあまり慣れていませんでした。







「ハァッ……ハァッ…………」

『超さ~ん。どうするんですか?
 このままじゃ時間切れで僕達の勝ちにな……………………お?』


 レーダーに100ほどの反応。これは…………空戦タイプの田中さん達か。
 攻めあぐねていただけかと思ってたけど、救援を待っていたんですね。

 うん。やっぱり超さんみたいに冷静に戦いをする人はいいですね。
 駄目親父達みたいに力押しだけで何とかしようとしないだけで好感が持てます。



 超さんが“強制時間跳躍弾B・C・T・L”を撃ちながら距離をとる。
 飛行船から離れ、田中さん達と合流。田中さん達の影に隠れて僕の隙を狙うつもりでしょう。


 そうこうしているうちに接近してきた田中さん達からの攻撃が開始される。

 しかしユニコーンガンダムの機動力を活用して、縦横無尽に移動しながらコッチもガトリングガンで反撃します。
 “強制時間跳躍弾B・C・T・L”なぞ、当たらなければどうということはありません。MM-D発動時の僕に鉄砲の弾なんか当てれるとは思わないことです。

 田中さん達の数が多いのでミサイルとか使いたくなるけど、一度使ってしまったらモビルスーツを再展開するなどしないと補充出来ないので我慢。
 だからビーム・ガトリングガンで攻撃します。これは魔力さえあれば無限に弾がありますからね。


 ガトリングは漢の浪漫!!!


 6丁のガトリングガンによる弾幕で次々と落ちていく田中さん達。
 “マリアナの七面鳥撃ち”ならぬ、“麻帆良のカトンボ撃ち”だぜ、ヒャッハーーーッ!
 戦いは火力ですよ、超さん!

 …………って、そういえば。本当に田中さん達って撃ち落として良かったのでしょうか?
 原作でもバンバン落としてましたけど、下に居る人達が落ちて来た田中さんに潰されたりしないんでしょうかね?

 まあ、ここは一つ魔法関係者にフォローをお願いしましょうか。
 落石注意ならぬ落雪注意ならぬ、落田中さん注意。





 …………あ、田中さん達の中に茶々丸さんの妹が数人混じってる。
 まいったな。さすがに茶々丸さんと同じ顔している妹さん達には手荒なことはしたくないですねぇ。

 超さんの狙いはコレかっ!?



 ………………ま、別に大丈夫ですけどね。
 別に壊さなきゃいいだけですし。


 というわけで、左手に持っていたガトリングガンを使って茶々丸さんの妹さん達を攻撃します。
 ただし、弾は“強制時間跳躍弾B・C・T・L”。

 ブルルルルルッ!!! という何かが震えるような弱い音とは裏腹に、背負ったタンクからの供給を受けてあっという間に大量の弾を吐き出す左手に持ったガトリングガン。
 やはり実弾と魔力弾は撃つ感覚が違いますねぇ。

 そしてその弾に当たった茶々丸さんの妹さん達が、黒い空間に包まれて未来へと跳ばされます。





「ちょっ、ネギ坊主! そ、それは…………っ!?」

『ああ、超さん。あなた方の武器をお借りしてますヨ』





 いやー、“強制時間跳躍弾B・C・T・L”は便利だなぁ。
 銃弾に当たると即失格なのは、超さん側も同じなんですよねー。

 ちなみにこのガトリングガン。
 田中さん達が“強制時間跳躍弾B・C・T・L”を使い始めたころ、気づかれないようにそっと転移魔法ゲートを使ってガトリングガンを持っていた田中さんを1体拉致ってお借りしたんですよ。
 でもこれは別にルール違反じゃないですよねー?

 ハッハァーーー! 逃げろ逃げろ!







 …………よし、これで全ての田中さんは撃ち落とし、茶々丸さんの妹さん達は全員未来へと跳ばしました。



 え? 田中さんと茶々丸さんの妹さんとでは扱いが違いすぎる?

 嫌ですよ。茶々丸さんと同じ顔した妹さんに酷いことするのは。
 え? 魔力供給による悶絶はいいのかって? 酷いことするのは嫌ですけど、イジワル程度なら許されますよね。

 田中さん? 野郎型のロボットなんてどうでもいいです。









『ネギ先生、アスナさんが飛行船に描かれた強制認識魔法の発動魔法陣を消去しました。
 葉加瀬さんも確保しましたし、これで強制認識魔法は発動しないです』


 了解です、夕映さん。はい、時間切れです。
 これで僕達の勝ちが確定しました。いくら何でもこれから強制認識魔法の発動魔法陣を描き直す時間はありませんからね。

 強制認識魔法発動はこれで発動出来ない。
 茶々丸さん、龍宮さん、葉加瀬さんは確保出来た。
 世界樹前広場の占拠を阻止出来た。
 ロボ軍団もほぼ壊滅状態。
 鬼神の破壊は…………いいか。超さんの負けと同時に“学園結界”を復活させれば消えるから、イベント終了の合図に丁度いいでしょうしね、


 うん、僕達の勝ちです。
 あとは涙目になっている超さんにトドメを刺すだけですね。

 ………………って、あれ? 本気で泣いてる?
 やり過ぎた!? さすがにマジ泣きされるのは困る!!!





『…………え、え~と、超さん? 僕達の勝ちとなりました。
 けど、超さんだって理由がこんなことをしたんでしょうから、学園長達への口添えはしますし、もちろん超さんがやりたかったことは手伝いますよ。
 あくまでも麻帆良としても納得出来る形での話ですけど…………』

「…………ヒック………………ほ、本当カ?
 エグッ……本当に、手伝てくれるのカ…………?」


 すいません。マジ泣きされるのには弱いんです。
 イベントのクライマックスでまだ超さんにトドメ刺さなきゃいけないですけど、それ以外はしないですから泣き止んでください。お願いします。


『え、ええ…………未来の僕からは超さんのしたいこと自体は聞いていないのですから、後でちゃんと教えてくださいね。こういう言い方はあまり好きじゃないですが…………僕だったら大抵のことは何とかできると思います。
 あくまでも“イベントが盛り上がっただけ”という結果になる予定ですので、超さんが捕まることはないです…………いえ、僕がさせないです。まあ、こんな騒ぎを仕出かしたからには、一応ペナルティはありますけどね。
 ですから、超さんも僕に協力してくださいよ』


「か、考えておくヨ、でも私はこの時代の人間じゃないからネ…………。
(…………もう未来帰りたいヨ。例えどんなに酷い未来でも、ネギ坊主の相手をするよりは幸せな気がするネ)」


 そういえば原作でも帰ってましたね。
 でも超さんいればイロイロ便利そうですから、是非とも残って欲しいんですけど…………。





『ま、そういう話は学園祭が終わってからにしましょう。
 とりあえずこのイベントを学園防衛魔法騎士団の勝利にて終わらさせて頂きます』

「うん、そうしよう。もうイロイロと無理ヨ。
 だからささと終わらそう………………と言いたいけど、何故にミサイルとかバズーカで私を狙ているのかナ?」

『いや、だってペナルティだし。さっきも言った通りいくら本国に言わないとはいえ、こんな騒ぎを仕出かしたからにはお仕置きしないと駄目ですからね。
 それに超さんのコトを良く思っていない人は麻帆良の中にたくさんいますので、そういう人達に対する示しをつけなきゃいけないでしょう』

「む、むしろ同情されることになりそうネ。
 ………………聞くけど、本気で逃げていいカナ?」

『逃げれるものなら。
 あ、でも超さんのしたかったことは超さんの口から教えてくれないと手伝いませんよ』

「(絶対に未来へ帰るヨ! 何としてもコレを逃げきて、生き延びてやるヨ!!!)」














 それではお仕置きです。これだけのことをしたのですから、ケジメのために。
 脚部のハンド・グレネード12発、バズーカに取り付けていたハンド・グレネード12発とミサイル6発をバズーカと共に一斉発射。





「まだダ! まだ終わらんヨ!!!」





 吹っ切れたのかヤケになったのか、随分と高いテンションとなった超さんに時間跳躍で回避されます。
 まあ、ハンド・グレネードとかは遅いですから避けれても不思議じゃないんですが、その手は悪手ですよ、超さん。

 だってね、ハンド・グレネードとかミサイルは爆発するんですよ。
 まあ、破片とかが降ったら下にいる人達が危ないから、破片とか飛び散らないように全てが爆発力に変わる爆弾にしてますけどね。
 でも銃弾とかなら一度避けさえすれば勝手に銃弾が明後日の方向に飛んでいってくれますけど、今回のグレネード達は時間差で爆発するようにセットしてあります。

 アッチが4次元的に攻撃を避けるのなら、コッチも4次元的に攻撃すればいいじゃない。



 というわけで、たーまやー。



 ドカン…………ドカン……ドカン! と時間差で爆発音が響き渡る中、超さんが運悪く爆発している真っ只中に時間跳躍してきてしまったようです。
 そして爆発に巻き込まれる超さん。4次元殺法が決まりました。

 どうせなら10分後とかに跳んでくれば良かったのに…………。








 良い子の諸君!
 時間跳躍で回避すれば
 どんな攻撃でも助かると思っているかもしれないが、
 その攻撃で地球が消滅したら結局助からないぞ!








 って感じでしょうか。

 …………よく元気玉でナメック星壊れなかったよなぁ。
 どう考えてもフリーザ様のデスボールより威力ありそうなのに…………。



 まあ、それはそれとして、爆発が終わった後に超さんが落ちて行くのが見えます。
 さすがに衝撃波でボロボロですね。


 よし、トドメを刺すか。


 ここでやり過ぎぐらいにしておかないと、ガンドルフィーニ先生を初めとする魔法先生が超さんに悪い感情を持ったままになるでしょうからね。
 お互いに僕の被害者だったら、きっと共感同情して優しくしてくれるでしょう。

 ビーム・マグナムの弾を脱げビーム武装解除にしてバキューーーン! と発射。


 撃っ脱がしていいのは、撃た脱がされる覚悟のある奴だけなのですよ、超さん!
 あれだけ田中さん達を使って他人を脱がしてきたのだから、自分だって脱がされる覚悟は持っていたはずです!


 …………ま、自業自得ですよね。
 ついでに隠し持っているであろう超家家系図も処分出来るでしょうから一石二鳥です。













━━━━━ 葉加瀬聡美 ━━━━━



「じゃ、この頂いた“航時機カシオペア”は壊しますからね。いくら学園祭期間しか使えないとはいえ、ここまでのオーバーテクノロジーは洒落になりませんから。
 設計図とかは残していませんね?」

「…………大丈夫ヨ。設計図とかはちゃんと消去してあるし特殊な部品もたくさん必要だから、例え私が今から作ろうと思ても完成までに最低1年はかかるヨ。
 ハカセには理論は教えたガ、“航時機カシオペア”の製造方法は教えていない。私が未来に帰れば、もうこの時代では作ることは出来ないネ」


 ボンッ! とネギ先生の手の中の“航時機カシオペア”が爆発した。
 ああ、一度分解してみたかったのに…………。


 結局、イベントは学園防衛魔法騎士団の勝利の勝利で終わり、今は後夜祭の時間です。
 クラスの皆さんが後夜祭を楽しんでいる裏で、私達は後始末の真っ最中。

 アレだけのことを仕出かした私達ですから、魔法関係者からは白い目で見られるとは思っていたのですが………………ネギ先生、容赦無さ過ぎですよぉ。
 周りの魔法関係者は私達のことを同情と憐憫の目で見ているじゃないですか…………。


 特に超さんのコトを。


 まあ、ユニコーンガンダムネギ先生の撃ったビーム・マグナムのせいで、麻帆良全域に全裸姿を放映されたせいでしょうけどね。
 そりゃあ私達だって田中さんに脱げビームを使わせてたので逆恨みかもしれないですが、それでも麻帆良全域に全裸を放映するなんてのはしませんでしたよぉ…………。

 










「…………それで、本当に残ってはくれないんですか、超さん?」

「うん、そうヨ!」


 やけに嬉しそうですね、超さん!
 何だかスッキリとした顔をしてますよ!


「やはり私はこの時代の人間ではない。そんな異分子が混じり込んでいるわけにはいかないヨ。
 それに過去を変えれなかた以上、現在《未来》を努力で変えることにするヨ。長く険しく、辿り着けるかどうかわからない道だが、それでもあそこが私の時代ネ。
 だから後は…………この時代のことはネギ坊主に任せるヨ」

「超さんがこの時代でやりたかったことはいいんですか?
 もちろん超さんがいなくなったとしても、ちゃんと僕が引き継ぎますけど…………」

「…………詳しいことはハカセに聞いてネ。
 私の代わりにハカセが協力してくれることになてるヨ♪」


 どう考えてもネギ先生から逃げるだけですよね!?

 …………いや、もちろん協力はしますよ。
 ネギ先生に協力はしますけど…………超さんも手伝ってくれていいじゃないですかぁ。


「せめてクラスの皆さんに挨拶だけでも…………」

「…………いや、せっかくの後夜祭で楽しんでいるときに水を差すわけにはいかないヨ。振り替え休日が終わた後にでも、ネギ坊主から皆に話してクレ。
 退学届けはハカセに預けてあるから、後で受け取て欲しい。私が所属していたクラブへの挨拶もハカセに頼んであるヨ。
 クラスの皆に……………………「今まで楽しかた」と、伝えてくれないカ」


 …………私、超さんに色々と頼まれすぎではないでしょうか?
 確かに計画の前にたくさんのことを超さんから頼まれましたけど、確かに最後だからと思ってOKしましたけど…………。

 何で私、超さんの仲間になったんでしょうか?
 今更ながら後悔し始めています。


 …………今更っていうか、もう既に終わってしまったことというのが悲しいです。







「いやー、ゴメンね、超さん。
 ネギには後でキツク言っておくからさ」

「なんかネギ君がノリノリでなぁ。あんな楽しそうなネギ君見てたら、止めるのが可哀想に思えてなぁ」

「まあ、命は無事だったわけですし、超さんも覚悟していたのでしょう」

「この時代のことは私達にお任せください」

「み、未来に帰っても元気でいてくださいね!」

「…………ネギ坊主のことも任せるでござる。
 これでも最近少しはマシになってきた方だから、もうちょっとで更正出来るでござるよ」



「…………超」


 …………あ、古菲さん。

 何というか…………古菲さんとは顔をあわせづらいですね。 
 私、超さん、茶々丸という超包子関係の3人で計画を遂行しようとして、四葉さんも全てとはいえませんが計画のことを知っていました。

 だけど古菲さんだけは何も知りませんでした。
 まあ、古菲さんはネギ先生の従者でしたし、そもそも隠し事を出来ない性格ですので重要なことは話せなかったのですが、それでも仲間外れのようにしてしまいましたからね。





「私から餞別プレゼントがあるネ。
 コレ…………わが師からもらた双剣ネ。超にやるアル」

「何ト? そんな大切なモノは頂けないネ…………古」

「超が未来に行てしまうと、もう会うのは難しいネ。
 だから超にもらてほしいアル」

「そうか…………わかたネ。自分でも意外だが…………嬉しいヨ。ありがとう、古」


 …………ん、何だかしんみりしてきちゃいました。
 本当に超さんとはこれでお別れなんですね。







「もしかしたらネギ坊主がアッサリと航時機タイムマシンを作って未来に会いに行くかもしれないけどネ。
 そのときは観光案内よろしくお願いするアル」


「実も蓋もないこと言わないでほしいヨ!
 …………でも、本当にまたいつか会えるかもしれないネ。そのときはまた手合わせするネ!」


「…………ッ、うむ! 必ず!!」


「ありがとう、皆。
 この2年間は思いの他楽しかたネ。今ちょと感動してしまたヨ。
 私はここでこの時代を去るが…………皆は元気でいてほしいネ」


 超さんと出会ってから2年。色々なことを教わり、色々なものを一緒に作りました。
 私にとっても超さんとの思い出は大切なものです。

 その内の一つが茶々丸を作ったことなんですが……………………そういえば茶々丸は何処にいるんでしょうか?
 ネギ先生のことですから茶々丸に酷いことはしていないと思いますが、ヒドイことはしてそうな気がします。







「チッ! 未来に帰るのか。
 仕方がない。お仕置きは茶々丸とハカセにするか」

「ほどほどにの、エヴァ」


 ヒィッ!? 何で私なんですか、エヴァンジェリンさん!?
 ガンドルフィーニ先生達がますます私のことを憐憫の目で見るようになったじゃないですか!!!


「学園長達にも迷惑かけたネ。謝てすむことではないが…………」

「…………今更何か言うても仕方ないしの。
 イベントも盛り上がったし、お主を除いておおむねハッピーエンドになったから構わんよ」

「出来ればネギ坊主に力を貸してやてほしい。
 ネギ坊主の力は誰よりも強力だけど、政治や経済の話になるとまた違うからネ」

「わかっとるわい。ネギ君一人に任せることはせんよ。
 まあ麻帆良の仕事もあるし、あまり未来のことを言い触らすのはアレじゃから、ワシとタカミチ君がネギ君を手伝おう」

「ハッハッハ、大丈夫だよ。任せてくれ、超君。
 それより汚名返上するには暴れ足りなくて残念だったよ」


 あんだけ田中さん達を壊しておいて何を言ってるんですか、高畑先生?
 というかメガネ光らせて物騒なこと言わないでください! 怖すぎますよ!














「では…………そろそろ私は行くとするネ。
 楽しい別れになたヨ。礼を言う、ネギ坊主。私には上々ネ」

「その前に…………気になってたことがあるんですが、聞いてもいいですか?」

「ん? 何カナ? 航時法違反でタイムパトロールに捕まるから未来のことは話せないが、答えられるものなら答えるよ」

「いや、そういうことじゃないんですが…………」

「?」


 どうしたんでしょう、ネギ先生?
 何だか“やっちまったZE、コンチクショウ!”みたいなバツの悪い顔をしているんですけど、ネギ先生らしくないですね?





































「…………あの、超さん。
 いったいどうやって未来に帰るんですか?」

「ハ? いや、それはもちろん“航時機カシオペア”弐号機で…………」



 そうそう。何を当然のことを聞いているんですか?
 超さんが持っている“航時機カシオペア”弐ご……………………え? アレ? 超さんが、持っていた●●航時機カシオペア”弐号機…………で……?


 …………。

 ……………………。

 ………………………………あ、あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁーーーっ!?!?!?




















「ちゃ、超さん! ネギ先生の武装解除弾を喰らったとき、“航時機カシオペア”弐号機は……何処に…………ちゃ、超さん?」

「……………………」


 …………駄目です。真っ白になってます。
 私は戦闘に入る前に預かったりしていないので、“航時機カシオペア”弐号機は超さんが持っていたはずです。

 となると武装解除されたときに、“航時機カシオペア”参号機と一緒に破壊されて…………。





「「「「「………………………………」」」」」





 沈黙。
 神楽坂さん達も、学園長達も、私達も…………何も言えません。

 …………あ、あれ? ネギ先生が消えた?
 沈黙した皆さんを見渡しているうちに、いったい何処へ行ったんですか?

 っていうか逃げた!?









「『クラスの皆に…………「今まで楽しかた」と、伝えてくれないカ』」

「…………エ、エヴァンジェリン?」

「『…………でも、本当にまたいつか会えるかもしれないネ。そのときはまた手合わせするネ!』」

「…………あ…………」





 もうやめてください、エヴァンジェリンさん!
 超さんのライフはもう0ですよ!!!





「『この2年間は思いの他楽しかたネ。今ちょと感動してしまたヨ』」

「…………や、やめ…………」

「『私はここでこの時代を去るが…………みんなは元気でいてほしいネ』」

「……………………」

「『楽しい別れになたヨ。礼を言う、ネギ坊主。私には上々ネ』」

「………………う、うわあ゛あ゛あ゛ああぁぁぁーーーーーっ!!!」





 超さーーーん!?
 ちょ、湖に向かって走っていかないで! 入水自殺は止めてくださーーーい!!!
 皆さんも超さんを捕まえてください!!!





━━━━━ 後書き ━━━━━



 やっちまいました、ネギ君。
 素です。ウッカリです。悪意はなかったんです。ワザとじゃなかったんです。

 でもやっちまいました。



 いやー、それに原作だってよく『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』で“航時機カシオペア”弐号機壊れませんでしたよねー。
 アレ絶対肌身離さず持ってましたよね。

 というか、本気で“航時機カシオペア”弐号機壊れてたら、原作の超はどうしたんでしょうか?



「さらばだ、ネギ坊主!
 また会お「ボンッッッ!!!」…………う?」



 ってな感じで…………。
 そしたら感動の場面台無しになりますなぁ。

 まあ、そんな疑問が浮かんでしまったせいで、超はこんな末路を迎えてしまったのですが……………………自業自得でいいですよね。

 多分、“帰ろうと思ったけど帰れなくなった超”というのは珍しいんじゃないかなぁ、と思います。



【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+『仮契約パクティオー』儀式の手伝い
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血(2度目)
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋
 関西呪術協会:変態集団疑惑+吹っ飛ばされた
 天ヶ崎千草:勝っても負けても“死”?+心を連れていかれた
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”:“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア
 ルビガンテ:名前忘れられた
 月詠:メガネ壊された
 フェイト:○○化?まだ秘密
 リョウメンスクナノカミ:出番無し
 ナギの家:半壊
 ヴィルさん:情報引き出された
 小太郎:フラグ壊された
 超鈴音:未来に帰れませんでした ← new!



[32356] 第71話 振り替え休日出勤
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/29 12:21



━━━━━ ガンドルフィーニ ━━━━━



「おはよう、ネギ先生。振り替え休日だというのに悪いね。
 …………超鈴音の様子はどうだい?」

「おはようございます、ガンドルフィーニ先生。
 とりあえず自殺は思いとどまってくれるようになったから大丈夫ですよ。まあ、エヴァさんがチョッカイかけたときとかは、さすがにまだ無理ですけどね」

「…………ソウカイ。ソレハ何ヨリダネ」





 …………イカン。思わず日本語を習い始めた頃の発音になってしまった。


 今日は6/24の火曜日。土日に行なわれた学園祭の振り替え休日2日目。
 とはいえ、明日から通常授業が始まるというのに、学園祭で終わったことの後始末がまだ済んでいない。


 あの後、超鈴音は拘束…………というか保護することは出来たのはいいが、彼女は精神的に不安定だったために魔法で無理矢理に眠らせた。眠った後もうわ言をブツブツと呟いていたしな。
 それに魔法関係者もそれぞれの受け持ちのクラスのことなどの表の仕事を放っておくわけにはいかないので、ネギ先生の式神に超鈴音達のことは任せてその場は一時解散となった。

 そして次の日にでも集合をかけられると思ったが、次の日になっても超鈴音は目覚めず、ずっと眠り続けながら魘されていたらしい。
 なのでエヴァンジェリンが持っている1時間が1日になる別荘に連れて行き、時間が彼女の心を癒すのを待たなくてはいけなくなった。
 そんなわけで昨日も普通に麻帆良祭の後始末をしただけで終わった。一応学園長やネギ先生が集まって話し合いはしたらしいが…………。


 …………まあ、アレは仕方がないけどな。
 超鈴音も可哀想に…………。


 それで今日、改めて魔法関係者で集まって今後のことを話し合うことになっていたのだが…………。





「…………昨日聞いた時点ではまだ精神的に不安定だということじゃったが?」

「はい。でもさすがに別荘の中で半月以上も時間を置いたら落ち着けてきたようです。
 今は木乃香さん達が様子を見てくれていますので大丈夫ですよ」

「それならよろしい。それでは関係者も皆集まったので始めようかの。
 まず今回の一件なんじゃが、あくまでも“例年より派手なイベントがあっただけ”とする。既に記録上は存在しないことになっておるので、皆もそのように合わせてくれ。時間移動などという大事が関わっている以上、今回の件を公に晒してしまうと大混乱が引き起こされる可能性があるからの。
 …………まあ、どうせ言っても信じてくれないじゃろうし。メルディアナの校長に時間移動が可能かどうか怪しまれないように聞いてみたら、ワシがボケたのかと心配されちゃったし…………」


 それは仕方がないですよ、学園長。
 私達だって、実際に関わっていなかったら信じることなんて出来ませんしね。

 それにこんな事件のことを信じてくれないというのもわかりますし、混乱を引き起こす可能性があるというのも理解出来ます。
 ですから無闇に言い触らしたりしてはいけないのはわかるんですが…………。





「…………フム。おそらく皆が気になっているのは、“超鈴音が回避しようとした未来の悲劇”のことじゃな?」


 そうだ。それだけは見過ごすわけにはいかない。
 確かに未来のことを知るというのは便利だが、現代を生きている人間としてそのような反則をしてはいけないだろう。
 未来のことを知っているということに胡座をかいたりせず、自分達が出来ることをやってより良い未来を築き上げていくのが人間として正しいと思う。

 しかし、だからといって超鈴音がわざわざ過去に来てまで回避しようとした悲劇を放っておくというのは、さすがに不安になってしまう。
 彼女だって理由があってこんなことを仕出かしたのだろう。それを無視するわけにはいかない。

 私にも小学校に上がったばかりの娘がいる。
 前言を翻すようだが、その娘が生きていく未来に悲劇があってほしくないと思うのは、親としてのワガママなんだろうがそこは譲ることは出来ない。



「ウム。“超鈴音が回避しようとした未来の悲劇”なのじゃが、既にネギ君が超君から聞き出しておる。
 そしてこれについてはワシとタカミチ君とネギ君の3人で話し合ったんじゃが………………確かに悲劇じゃ。超君がこの時代に来たのもわかってしまうほどにの。
 しかしこれを公表すれば世界が混乱するじゃろう。ヘタをすると戦争さえ引き起こしかねない大事件じゃ。じゃから、基本的に君達にも秘密とする。
 なお、“超鈴音が回避しようとした未来の悲劇”が存在すること自体も、みだりに口外しないようにの」

「し、しかし学園長!
 確かに混乱を招きかねないのでみだりに口外しないのはわかりますが、たった3人でその悲劇は避けられるのですか!?」

「わかっとるわい、ガンドルフィーニ君。もし君達の手を借りるときにはもちろん話す。
 じゃが、今はまずその悲劇が本当に起こるかどうかの確認をせねばならん。ネギ君がこの夏休みにやってくれることになっておっての。
 もちろん今言ったのも確定というわけじゃない。君達の手が借りることや、最悪の場合はそれ自体を公表することも考えておる。とりあえず君達は学園祭の後始末に全力を注いでくれ」



 …………まあ、確かにそうか。
 私達が“悲劇”があるということを知ったのがこの学園祭でだったからな。まずは本当かどうかを調べる調査には時間が必要か。
 それにこんな事件があったのだから、学園祭の後始末や情報の秘匿なども念入りにしないといけないし…………。

 しかし、それにしても…………またネギ先生なのか。
 確かにネギ先生にはそれだけの力があるし、超鈴音ともその約束をしていたから適任なのだろうけど、やはりネギ先生に頼りきりというのは大人として不甲斐ないものを感じてしまうな。
 彼にはこんな事件に関わらず、無事に修行を全うして欲しいものなのだが…………。











「………………というか残念なお知らせなのじゃが、ネギ君のおかげで既に解決の算段がついておるから君達の助けはいらんかもしれんわい」

「いや、僕はただ“こうしたらいいんじゃないか”とアイディアを出しただけなんですけどね。開発していた魔法がちょうど良い具合に使えそうでしたし。
 でも、それを超さんに言ったら「そんな単純なことでぇーーーっ!?!?」って泣き出して、エヴァさんの城から投身自殺しようとしたのには焦りましたけど…………」

「(…………そもそも“火星の魔力が足りないのなら、水星から魔力を持ってくればいいじゃない”という発想自体がおかしいよ、ネギ君)」


 …………またネギ先生なのかっ!?
 それ以前に超鈴音は本当に大丈夫なのか!?


「いや、エヴァさんがたまに

『クラスの皆に……………………「今まで楽しかた」と、伝えてくれないカ』

 とか、

『…………でも、本当にまたいつか会えるかもしれないネ。そのときはまた手合わせするネ!』

 とか、

『この2年間は思いの他楽しかたネ。今ちょと感動してしまたヨ』

 とかのセリフで超さんをからかうことがあるんですけど…………。
 そういうときは発作的にどこかに向かって逃げ出そうとしますね」


 超鈴音には監視が必要だな。
 再犯じゃなくて自殺防止のための監視が…………。

 というか“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”もそんな大人気ないことするなよ。
 もう600歳を越えているいい歳なんだろうに…………。







「…………ま、そういうわけじゃ。皆に望むのは不必要に騒ぎ立てず、今回のことを明るみに出さないことじゃ。それ以外は日々の仕事や活動に精を出すように。
 “悲劇”については手伝ってもらうときには言うので、そのときはよろしくの。
 …………まあ、ネギ君が主に対処してくれるのじゃが………………うん、アレじゃ。“もうイロイロと諦めなさい”」

「え? 学園長?
 僕ちゃんと対処しますよ。大丈夫ですよ」


 …………ソッチの意味じゃないよ、ネギ先生。

 ああ、もういいや。
 素直にネギ先生に任しておいて、私は普段の仕事を頑張ろう。
 うん、そうしよう。












━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



「…………アレで本当によかったのかい。ネギ君?」


 アレで納得されてしまうネギ君もネギ君なんだけどねぇ。

 魔法関係者を集めての会議の後、残ったのは僕とネギ君と学園長の3人。
 それにしても超君があんなことを仕出かした動機に、まさか“魔法世界の崩壊”が関係してくるとは思いもしなかったな。

 僕だって魔法世界の人達が幻想だということは知っていた。
 だが、あと10年ほどで魔法世界が崩壊するなんてことはさすがに思いもよらなかった。もう少しは余裕があるとばかり…………。


 しかしネギ君の言った“火星の魔力が足りないのなら、水星から魔力を持ってくればいいじゃない”というのは、案外いけるのかもしれない。
 夏休みには長めの休暇も取れるだろうから、魔法世界に行ってクルトやラカンさん、テオドラ皇女に話してみるかな…………。





「問題ありません。別に嘘はついていませんし、これで超さんが必要以上に敵視されることもないでしょう。
 さすがにあの結果は僕としても予想外過ぎて、超さんに悪いと思ってますからね。
 超さんがこの時代で暮らしていく上に必要なことは、出来るだけ協力するつもりです」


 え? 投身自殺云々も嘘じゃないの?
 超君本当にマズくないかい?


 …………ま、アスナ君や木乃香君達が言ってた通りだなぁ。

 ネギ君は一見容赦ないように見えるし実際に容赦しないけど、ネギ君自身が決めたルール…………もしくは一線は明確に守るようにしているらしい。
 だけど、その一線を間違って越えてしまったら、途端に罪悪感を感じてしまうとのことだった。

 今回の件で言うなら、イベントに扮して超君の計画を潰したのはネギ君的に問題ないけど、超君のタイムマシンを壊してしまったせいで超君が未来に帰れなくなったのには罪悪感を感じる、ということらしい。


 超君はもう未来に帰れない。
 22年後にある次の世界樹大発光のときまで待てば話は別だけど…………。

 一応、犬上君に頼んでタイムマシンが麻帆良のどこかに落ちていないか探してもらったらしいけど、コタロー君の鼻で探しても見つかったのはおそらくタイムマシンの部品であろうと思われるものが数個だけだった。
 きっと『武装解除エクサルマティオー』で本当にバラバラに壊れてしまったんだろうな。

 超君が新たにタイムマシンを作るのには一年はかかってしまうらしいので、例え別荘を利用しても世界樹の魔力が残っているうちに完成させるのは無理だ。
 というか超君の今の精神状態ならもっと無理だろう。


 そんなわけでさすがのネギ君も、今の超君には甘い対応をせざるを得ないようだった。





「6/30に過去から跳んでくるエヴァさんが持っているはずの“航時機カシオペア”を使えば、超さんも未来に帰れる可能性はあるんですけどね。
 しかし1週間程度の時間跳躍ならともかく、何十年もの時間を跳ぶのにはやはり世界樹の魔力が減少しているのが心許ないです。
 それにそれをしたらエヴァさんが過去に帰れなくなってしまうので、そのせいで過去が変わってしまう可能性があります。
 ここは特に変なことはせず、素直にエヴァさんには過去に帰ってもらったほうがいいでしょう。もちろん手紙も改変したりせずに」

「そうじゃろうな。ワシらの行いで過去が変わった場合、今のワシらにどんな影響があるのかがわからん。平行世界のになるのか、それとも古い世界が新たな世界に上書きされるのか…………。
 世界がどうなるかわからん以上、超君には悪いがワシらの安全を優先させてもらおう」



 …………これが“超君を除いておおむねハッピーエンド?”かぁ。
 確かに超君以外は特に問題なく終わることが出来たな。超君以外は。


 あ、でもコタロー君はどうなんだろうか?
 エヴァが罠にかかって未来に跳んだ後だが、コタロー君はエヴァが戻ってくるかもしれないとのことでネギ君に言われて、エヴァの家の前でずっと番犬をしていたそうだ。

 しかも学園祭終了するまでずっと。


 どうやらコタロー君のことをネギ君は忘れていたらしい。
 エヴァが無事に戻ってこれたことと、詳しくは知らないけど未来のネギ君からの手紙で大変になってしまって忘れたらしいけど…………あのイベントに参加出来ずにずっと番犬をしていたのっての可哀想だなぁ。
 せっかくの学園祭最終日だったのに、コタロー君のことを思い出したのは後夜祭が終わって家に帰ったときというからまた可哀想だよ。

 …………律儀に番犬をしていたコタロー君もコタロー君なんだけどねぇ。
 彼はもう少しわがままな性格だと思っていたんだけど…………。





「それでは学園長。僕は夏休みにウェールズに帰省するついでに魔法世界に行って調査してきますので、魔法世界へのゲートの手配をお願いします。
 名目は…………超さんはもちろんアスナさん達も一緒に行くことになるでしょうから、観光とかでいいでしょう。
 …………エヴァさんをゲートで連れて行くことは難しいでしょうかね? それでしたら今のうちに、魔法世界まで行ける転移魔法陣の作成を今からしますけど…………」

「エヴァは…………難しいじゃろうなぁ。同姓同名という言い訳は通じんじゃろうし。
 素直にその転移魔法陣とやらで行った方が良かろう」

「…………というか、魔法世界まで行ける転移魔法陣なんて作れるのかい?」

「理論上は可能です。
 さすがに地球-火星間を跳ぶような転移魔法は魔力の消費量が大きいでしょうから、僕でも一日一回とかそんな頻度でしか使えないでしょうけどね」


 …………それだけ出来れば凄いと思うんだけどなぁ。
 僕は魔法理論とかのことはからきしだから、それがどれだけ凄いことなのかよくわからないけどさ。


「今回の旅行では実地調査で本当に魔法世界が崩壊するかどうか。それと僕のアイディアで本当にその魔法世界の崩壊を防げるのかどうかなどを調査します。
 まあ、1週間もあれば充分ですかね。火星はそんなに広くないですし、今回は超さんの言っていることが正しいかだけか調べればいいでしょう。
 本格的な調査は火星に式神を100体ほど置いていくので、その式神に任せます。そして冬休みにでも式神の回収にもう一度行きますよ。
 一年や二年程度で終わることではないでしょうから、本格的に動くのは僕の修行が終わってからになるでしょうね」

「そうじゃろうな。ワシやタカミチ君も信頼出来て頼りにもなる人物を見繕っておく。
 その者達を納得させるような調査結果をお願いするぞい」


 それなら僕は…………どうしようかな?
 そういう調査ならネギ君や超君に僕が勝てるわけないし、護衛としてもネギ君がいるなら必要ないだろう。
 込める魔力にもよるけど、ちびネギ君だって僕より強いのがいるし…………。

 だったら僕の伝手で頼りになる人を探した方が、後々のためにはいいかもしれないな。





「ま、詳しくはネギ君の調査待ちじゃな。かなりの大事ゆえに、ちゃんとした情報がなければワシらとしても動きにくいわい。
 幸い、ネギ君のアイディアが使えるようだったら、数年で魔法世界の崩壊は防げるじゃろう。ボンヤリしている暇はないが、焦っても事を仕損じるだけじゃ。
 …………ところでネギ君。アルのことはどうするんじゃ? アルのところに行くならこの通行許可証を持っていっておくれ」

「………………アル? …………っ! ああ、クウネルさんですか。アルちゃんじゃなくて。
 まあ、そのうち図書館島地下にいきますよ。今は超さんのコトで手一杯ですし、もうすぐ期末テストもありますからね」


 …………そういえば、アルが麻帆良に住んでいたんだったっけか。
 僕は全然知らなかったよ。

 というかネギ君、今アルのこと忘れてただろ?


 …………どうやら学園長は知っていたみたいだけどね。
 学園長は僕がナギの行方を気にしていたことは知っていたはずなのに、ナギと『仮契約パクティオー』しているアルのことを黙っているなんて…………。
 後でちょっと学園長とも話し合わないといけないみたいだな。







「…………それにしても、超さん自身のことはあまり言われませんでしたね。
 悲劇に対処するにしても、超さんをオコジョにして何も個人で出来なくしてから協力させるぐらいのことは言われると思っていたのですが…………」

「み、皆も事の重大性がわかっておるのじゃろう」


 さすがに死人に鞭打つようなことは出来ないだろう。
 あ、でもオコジョにしたら自殺もしにくくなるだろうから、逆に今の超君には丁度いいのかもしれないな。

 それにあくまで学園祭でのことはないことになっているから、理由を新たにでっち上げてまで彼女を拘束する必要はないだろう。
 今の超君ならよからぬことを考えるような気力がないだろうからね。







「さて、それではそろそろ僕は失礼します。超さんを何時までも放って置いていくわけにはいかないですからね。
 それに半月後の期末テストの準備もしないといけないですし…………」

「それもそうだね。でも今度の期末テストも期待できるんじゃないかい。皆も勉強を頑張っているし。
 僕も担任を退いて副担任になったとはいえ、手伝えることがあったら言ってくれ。出来るだけ力になるからさ」


 イヤ、本当。僕に手伝えることがあったら言ってよ。
 ハハハ、ネギ君には負けるかもしれないけど、僕だって教師の仕事はやれるんだよ。
 僕はマダオなんかじゃないよ。


「大丈夫ですよ。タカミチも出張で忙しいのでしょう。
 クラスのことは僕に任せて、存分に出張でその力を発揮してください」


 いやいや! 僕は戦闘だけしか出来ないわけじゃないんだよ!
 というか本気で手伝わせてください。お願いします。

 最近アスナ君達の目が何というか…………生暖かいんだよ。
 本当にまるで駄目なオッサンになった気になっちゃうんだよ!





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ま、今回も第一章と同じ方法で最初は行きます。…………そこに至るまでの過程が大分違うと思いますが。


 それとタカミチが人生について悩み始めたようです。



[32356] 第72話 ドキドキ★懺悔タイム
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/22 10:17



━━━━━ 春日美空 ━━━━━



 チッス、おひさ~。
 いやー、学祭の後は授業もお勤めもかったるいっスね。

 ま、その学祭もいろいろあったけど、超りん以外は無事に終われてよかったよ。
 その超りんもどうなるかわからなかったけど、結局麻帆良に残れるようにはなったからね。


 それにしてもネギ君は凄いねぇ。10歳とはやっぱり思えねー。
 超りん事件を解決したのはほぼネギ君の手柄ってんだし、事後処理のために学園長から密命を受けているって話しだし。
 シスターシャークティから興味本位で首を突っ込むなと言われているけど、もとからそんなつもりないっスよ。


 でもさすがの超りんもあの結末には参ったみたいだねぇ。クラスの皆には同情されるわ魔法関係者からは憐憫の目で見られるわで、最近落ち込んでいるみたいだしさ。
 まあ、来ないとは思うけど、一応ウチの神父さんに相談してみないかとは言っておいたよ…………。
 ウチの神父さんはクリスチャンとかどーとかは気にしない人だし、超りん相手でも真摯に相談に乗ってくれると思うしね。




 …………いや、いくら何でもあの結末は酷いっスよ。
 さすがの私でもあの超りんには同情してしまうっスよ。


 ま、それこそどーでもいいか。
 一応助言はしたんだし、後は超りんが選べばいいんだもんね。

 それより私はお勤めのおそーじしなきゃ。
 さーて、それでは懺悔室の掃除は終わったから次は……………………って、アレ? 誰か懺悔室に入ってきた?








「あのー…………いいですか?」


 な!? アスナが何で懺悔室に!?
 …………あ、私が今日超りんに教室でテキトーなこと言ったからか。


 アスナ達も学祭終わってから変なんだよねぇ。
 何だか前にもましてネギ君のことを熱い目で見ちゃったりしてさ。

 って、コレどーしよ!?
 面白そうだけどシスターシャークティにバレたら殺されそう……………………ま、いっか。





『ゴホンッ!
 いえ、どうぞ。何か懺悔したいことがあるのでしょう』


 練習してて良かったボイスチェンジ魔法!


「私、その…………弟のような子と一緒に暮らしているんですが…………」


『ほうほう』


 やっぱりネギ君のことっスか!?
 ああ、何だか惚気話になる予感が…………。

 しかし、なかなか踏み込んだプライベートの話をしてくれないネギ君のことを知るチャンス!
 面白い情報手に入れたら朝倉にでも売るか?





「その…………最近になってその子が夜一緒に寝てくれなくなっちゃったんです。
 私と同じ部屋の子とも寝なくなったので、私だけじゃないんですが…………」


 マジでっ!?

 とゆーかネギ君とアスナって今まで一緒に寝てたの!?
 それにアスナの同じ部屋ったら………………木乃香か。まあ、木乃香ならネギ君と一緒に寝てそうな感じは普通にありそうだなー。
 抱き枕に丁度良さそうだしね。

 ってか、やべぇっ! いいんちょがこのこと知ったら血の雨が降るじゃんか!
 くそ、これじゃ朝倉に売れないなぁ。





『フム、何か思い当たることはあるのですかな?
 ちなみにその弟のような子とはおいくつですか?』

「ええ、それはまぁ。その…………理由は「恥づかしいから」ってことでした。
 あ、年は10歳です」


 ネギ君が思春期に突入!? コレって大スクープじゃん!?
 ウチのクラスの皆が抱きついたり、皆の下着姿を見てしまっても平然としていたネギ君だけど、遂に目覚めたっスか!

 ウェヘヘヘヘ…………これは面白くなってきたぞ。


「別に意識されるということ自体は悪くない…………というか、むしろ嬉しいんですけど、それでも今まではくっついてくれてたのに急に離れていくと寂しくなっちゃって…………」

『10歳といえば年頃ですからなぁ。その子にも色々あるのでしょう』

「それはわかるんですけど………………やっぱりもうちょっと甘えてくれたら、と思っちゃうんです」


 ラブラブっスなぁ。
 デートしてたときの感じからわかっていたけど…………。


『なる程、これはまたよほど…………その少年のコトをお好きなんですなぁ』

「うぐっ!? ………………いや、否定はしませんけど。
 それにやっぱりまだ子供なんで心配なんです。頭はいいし勉強も出来るし運動も出来る完璧超人なんですけど、どこか抜けているっていうか…………“本人はわかってやっているつもりでも、実はやっぱりわかっていなかった”みたいなこともありましたし…………。
 なまじ1人で何でも出来る分、私達に頼ってくるということがあまりないんです」

『ふむふむ』

「それに…………その子には“夢”がないんです。普通の10歳の子供なら野球選手とかパイロットとかの色んな将来の夢を持っていてもいいと思うんですけど、その子にはなりたい“将来の夢”がないんです。
 哲学好きな友達の言葉を借りるなら、“歩くことが簡単すぎて、歩くことがわからなくなりかけている”って感じです。
 毎日を楽しく過ごせてはいるみたいですけど、“何でも出来るが故に、逆に何かしようとは思えない”みたいで…………」

『…………なかなか贅沢な悩みですなぁ』

「その子が私達の面倒を見てくれるのも、そのせいじゃないかなと思うんです。私達は迷惑をかけているばっかりなのに、その子は全然嫌な顔一つしないでいてくれるんですけど…………。
 それに将来のことを考えたら、やっぱりその子自身の道というものを考えて欲しいんですよね。
 その子が麻帆良に来ることになった理由も他の人に言われてからであって、自分から何かを新しいことをしようとは思わないらしいんですよ。
 そのおかげでその子とも会えたのだし、今が幸せだからそれはそれでいいんですけど、あまりにも落ち着いちゃってて何だか仙人みたいになっていくような…………」





 …………ありゃ、ちょっと真面目な話になってきたかな?

 でも最近になってシスターシャークティも話してくれたんだけど、ネギ君ってば魔法関係ではかなりズレてる子らしいんだよね。
 私と混ぜて半分にしたら丁度良いかも、なんてことも言われたし…………。

 ネギ君みたいに頭の良い子でも大変みたいだねぇ。
 いや、これは頭が良いから逆に大変なのかな?





「あと不安なのが、一緒に暮らせるのが来年の3月までで、それ以降がどうなるのかがわからないんですよね。
 あくまで家庭の事情での居候ですし、私も高校に上がるので今住んでる寮から出て行かなければいけませんから…………。
 それで…………もしも離れ離れになってしまうのなら、私はいったいどうしようかと悩むんです」

『ああ、それは確かに残念ですなぁ。せっかく仲良くなれたというのに…………』

「ま、まあ…………別に故郷に帰るのというのなら、私もその子についていけばいいだけなんですけどねっ!」

『!? そ、それは…………その少年が貴女のことを受け入れてくれるかどうかは不安じゃないのですか?』

「え? …………ああ、それはないです。大丈夫です。あの子が私達のことを好きなのは確定しましたから」


 やけに自信満々っスね。つーか、マジでイギリスについていく気かいな?
 ん? それに確定“しました”って?





『…………その少年に告白でもされたのですかな?』

「えっと…………どちらかというと告白さたって感じでしょうか?」


 は? 10歳児に何やらせてんスか?


「そのときのネ…………じゃなかった、その子は真っ赤になっちゃって私達のことを好きって言ってくれて…………。
 けどそれからなんですよ。一緒に寝てくれなくなったのは…………。他にも色々あって…………」


 それ自業自得じゃないっスかね?
 それじゃあネギ君だって恥ずかしくなって一緒に寝たり出来ないわ。


 つーか、やばいっス。
 本格的に惚気話になってきた。
 興味本位でこんなイタズラするもんじゃないっスね。彼氏もいない中学生がこんな惚気話聞くなんて嫌がらせにしかならんわ。
 だいたい最初は“弟のような子”って言ってたのに、いつの間にか恋人との話になってきたんスけど…………。










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










 でも面白そうだから、続けるのが美空クオリティ。
 アスナが今日、教室で皆に昨日の懺悔のことを話してたから、ウチのクラスの子が来るかもしんないしね。

 昨日の惚気話を聞いただけで終わるようじゃツマラン!
 さあ、迷える子羊達よ! この私が真摯に対応するんで笑える懺悔をしてちょうだい!


 ………………お、来た来た。
 さーて、今日はいったいどんなご相談ですかー?















「“貧乳はステータス”というのは本当なのだろうか?」





 …………何やってんスか、ナマハゲさん?










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










「その……“妻妾同衾”というのは本当にモラル的にしてもいいのかと…………。
 “妻”の方が思いっきり乗り気でして…………」


 何ィーーー!? 妻妾同衾!?
 マジスか桜咲さん!?!?
 相手は!? “妻”は誰!? …………って、ネギ君と木乃香だよね~。

 しかしこれまた大物GET! GOOOOOOD!!





『何よりもまず大事なのはあなたの心だと思いますね。
 “妻”に強制されてるなどで嫌ならば、キッパリと断ったほうがいいでしょう』


 で、そこんとこどうなん?
 何気にネギ君へ熱い視線を送っている桜咲さんはネギ君のことどう思ってんの?


「えっ!? い、嫌というわけでは決してありません!
 え、えと…………“妻”とは親しくさせてもらっていますし、その…………親友だと思っています。“妻妾同衾”すればいつまでも一緒にいることが出来るので、むしろ悪くないというか…………」

『ふむ、それなら相手の男性のことが嫌なのですかな?』

「そ…………それもないです。その人には恩義を感じていますし、もちろんこ…………好意も持っています。
 彼は大人になったらとても素敵な男性になりますし…………」


 おうおう、ラブラブっスね~。
 だったらもう好きにしろやぁ!










『ならOKです! むしろバンバンやりなさい!
 1対1に拘るとは古いですヨ! ホッホッホ!』

「なっ、なんとっ!?」



 でひゃひゃひゃひゃっ! コレおもしれぇーーーっ!!!










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










「主君より弱い忍者に価値があるのでござろうか?」

『…………アレ? 結構深刻そうですね?』

「拙者の主君が1人で何でも出来る御仁で…………拙者がいても役に立たないのではないかと不安になるときがあるのでござる。
 拙者の力でも役に立っていることは立っているのだが、拙者の力がなくとも平気なのは事実でござるよ。
 修行しても簡単に追いつけるわけでないのはわかっていても、ここまで差が開いていると少し自信を失いかけそうで…………」


 確かにネギ君は何でも出来る完璧超人だからねー。
 楓さんが自信失うのも仕方がないんじゃないかなぁ。










『しかし何でも出来るといっても、知らないことや苦手なことがないわけではないでしょう?
 人間は得手不得手というものもありますし、主君さんが苦手なことをフォローするようにしてみたらどうでしょう?』

「ふむ、主君ネギ坊主が知らないこと………………“女体の神秘”でござるかな?
 拙者もソッチ方面は知識として知っているだけで、実践はしたことはないでござるが…………」





 待てや、おいいいいぃぃーーーっ!
 10歳児に何しようとするんスか!?





「いや、でも知っておいた方が良いと思うでござるなぁ。
 近いうちにでも皆に襲われることになるから、そのときになってから慌てないように…………」



 え? もしかしてネギ君そこまでヤバイの?










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










「「“貧乳は希少価値”というのは本当なのでしょうか?」」

『大切なのはバランスです』



 本屋にゆえ吉、お前達もっスか。


 それにネギ君はあんまりオッパイ気にしないみたいだよー。
 というか、むしろ大きすぎたら駄目なんじゃなかったっけ?
 確か即席ホルスタインが急に胸が大きくなったことを相談していたときに、ネギ君はギネスブックに載ってたバストが世界で一番大きな女性の写真見たら「気持ち悪い」としか思えなかったとか言ってたような気が…………。

 っていうか、本屋は私と同じくらいあるじゃん。
 そりゃー、長瀬さんには叶わないだろうけど、まだ将来性があるからだいじょうぶだって。











 ………………え? ゆえ吉?

 うん…………まあ頑張れ。まだ可能性はゼロになったわけじゃないよ。



「…………何だか憐れむような雰囲気が」



 何でもないっス。










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










「わ、私は自らに課した掟があるアル。
 格闘家として…………武道の名門“古家”の跡取りとして、私よりも強い者を婿とするという…………」


 そういえばくーちゃんってば、実はイイ所のお嬢様なんだよね。
 お嬢様といってもいいんちょみたいな金持ちじゃなくて、古くから続いている家みたい。
 バカレンジャーの1人だったこともあるけど、何だかんだいって書とかは上手だし、礼儀作法もバッチリなところが何気にお嬢様っぽい。





「さ、幸い私よりも強い者は見つかったのは良いけど、どう考えても婿に来てくれない気がするアル。
 というのも、いくら武道の名門“古家”とはいえ、逆に彼にしたら小さすぎるアルね。
 せっかく婿に相応しい漢を見つけたというのに、その漢が凄すぎる場合はどうしたらいいアルか?」

『それなら自分の家にあった男性を再び探せばいいだけなのでは?』

「え? …………いや、でもネギ坊主以上の漢はそうそういるものではないし…………」





 名前出すな。もじもじすんな。
 だったら素直に嫁に行け。










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










「…………じゅ、10歳の男の子に“好き”だと言われたら、どんな反応をしたらいいんでしょうか?
 いや、直接的に告白されたわけじゃないないんですけど…………」

『普通に「お姉さんも君のこと好きだよ」とかで流せばいいんじゃないですか?』

「う、それやると…………“好き”という言葉を口にすると、何だかドツボに嵌りそうな感じがして…………」


 …………満更じゃなさそーっスね、千雨ちゃん。
 フム、もうちょい突っついてみるか。





『そもそもあなたはその少年のことをどう思っているのですかな?
 嫌いなのか恋愛の対象外なのか…………』


「き、嫌いってわけじゃないです。恋愛対象という点では…………正直言ってわかりません。
 女子中で部活もやってないから男子との接点はないですので、教師とかを除くと一番…………というか、唯一付き合いがあるのがその男の子なんです。
 よくよく考えてみたら、本気でその子以外の男とは付き合いがなくて…………」



 あー…………、そうだよね。
 ネギ君はクラスの皆にモテモテだけど、これがもし共学だったらここまではいかないかもしんないわ。

 いや、その場合だったらむしろ、ネギ君は男子とばっかり一緒に遊んでそうかな?

 可愛い顔して結構イタズラ好きみたいだし。










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










「…………人生て、何なんだろうネ?」







 超りーーーーーんっ!?!?

 教室にいたときより顔色悪くなってない!?
 もしかして教室では無理してたの!?





「何なんだろうネ、私の人生て?
 ある目的のためにこんな遠くまで来たはいいが、結局失敗してしまうわ、私の考えたのよりも簡単な解決方法をアサリ提示されるわ、何より帰れなくなるわで…………。
 ハキリ言て、自分のことは道化としか思えないヨ」





 マズイって! これはマズイって!
 今にも自殺しそうじゃんか!

 超りんには常時ちびネギ君が張り付いてるそうだけど、これも何とかしてよ!










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










 いや~、超りんとかを除いたらウチのクラスは能天気ばっかりだね!

 木乃香とか龍宮さんは来なかったけど、あの2人はわざわざ相談しに来るタイプじゃないしね。
 茶々丸さんの話も聞いてみたかったけど、何だか今は入院中らしいし………………何があったんだろうね?


 さて、そろそろシスターシャークティが帰ってくる時間だな。撤収撤収。
 いや~、面白かったね。色んな話も聞けたし。

 出来ればネギ君自身の話も聞いてみたかったけど、仕事が忙しいみたいだからしょうがないか!
 今度はいつやろうかな~。







「おや、春日君。こんにちは」

「アレ? 高畑先生?
 最近見なかったから出張に行ったんだと思ってましたよ」

「…………普通に学園祭にも出てたんだけど」


 あー、そういえばそうでしたね。
 忘れてました。サーセン。


「シスターシャークティに御用ですか?
 ちょっと出かけているんですけど…………」

「いや、シスターシャークティじゃなくて………………神父様はいるかな?
 ちょっと相談に乗ってほしくて…………」





 …………あんたもっスか、マダオさん。

 どーしよ、コレ?
 聞いたら愉快な話じゃなくて、マジで絶望的な話を聞かされそうなんだけど。


 …………。

 ……………………。

 ………………………………うん、やめておこう。オッサンの愚痴なんか聞いてもつまんないもんね。


 それに正直、放って置いてあげた方が良いというか、今の高畑先生にイタズラするのは気が咎めるというか…………。
 今度の日曜日にでも来てもらって、本当の神父様紹介してあげた方が良いっスね。うん。

 さすがにこれ以上は可哀想だわ。












━━━━━ 絡繰茶々丸 ━━━━━



「…………ハカセ、いったい学園祭最終日に何があったのでしょうか?
 やはり学園祭最終日の記憶ドライブを読み込もうとすると、何故かシステムエラー出てしまうんです」

「いいから。そっとしておきなさい。
 私達は負けて、超さんは未来に帰ってない。だけどネギ先生の手伝いをすればより良い未来が得られそう。それで全てよ。
 学園祭最終日のことは忘れなさい…………というか忘れたいから話題にしないで、ホントに…………」





 …………何があったのでしょうか?

 超もハカセも学園祭が終了してから忙しそうです。
 騒ぎを起こしたペナルティとして、2人はネギ先生の手伝いをすることになったらしいのですが、それは最終的な超の目的に合致するので問題ないとのことです。
 そして龍宮さんのペナルティは、ネギ先生が夏休みに魔法世界に行くときの護衛です。経費は超持ちで。


 ちなみに私にはペナルティはありませんでした。
 そもそもデフラグが終わって再起動出来たのが振り替え休日2日目でしたので、関係者への事情聴取とかにも参加していません。
 気づいたら全て終わってました。ネギ先生へ野点中止の連絡してからの記憶が定かではありません。

 私がガイノイドだから、人間じゃないからペナルティがないと最初は考えたのですが、どうやら会ったこともないはずの魔法生徒の夏目さんが私の弁護をしてくださったということでした。
 何でも私を取り押さえるときのネギ先生のやり方に問題があった…………むしろやりすぎだったらしく、十分罰を受けていると判断されたようです。
 それに何を言わずとも、私もネギ先生と一緒に魔法世界に行くと思われているので、龍宮さんと同じく護衛がペナルティ代わりなのでしょう。



 …………本当に学園祭最終日に何があったのでしょうか?

 ハカセに聞いても答えてくれませんし、龍宮さんに聞いても赤い顔をして茶を濁され、超にいたっては何故か窓から飛び降りようとする始末。
 マスターやアスナさん達に聞いてもニヤニヤとされるだけです。千雨さんは龍宮さんみたく顔を赤くして話を逸らされますし…………。


 ネギ先生には…………聞けません。何故か聞こうと考えられません。
 聞こうと考えるだけでモーターの回転数が上がって胸がドキドキとし、顔が熱くなっていきます。
 ネギ先生はいったい私に何をしたのでしょうか?





 …………ハア、ネギ先生。相変わらずネギ先生は凄いです。

 断片的に集めた情報を総合すると、やはり学園祭最終日の私達の企てはネギ先生によって阻止されたようですね。
 もともと勝率は低いと思っていましたが、こうまでアッサリ負けてしまうとは…………。

 超も何故か未来に帰らなかったのも、ネギ先生の下でならより良い未来を作り上げていけると考えたからなのでしょうか。
 私もそのお手伝いをさせていただきます。











「…………ところでハカセ。
 私はガイノイドですが、ネギ先生との子供は作れないのでしょうか?」


「ん? んー、子供ね子供。
 さすがにそれは無理かもねぇ~…………って、いきなり何を言い出すのぉっ!?!?」



 ア、アラ?
 本当になんでこんなことを口走ったのでしょうか?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 タカミチが人生について悩んでいるようです。
 それと“ドキドキ★懺悔タイム”の★が黒いのは仕様ですね。


 大きすぎる胸には違和感しか感じられないのは私だけでしょうか?
 巨乳より美乳の方が希少価値でステータスだと思います。

 貧乳? …………背が小さければ似合うんじゃないでしょうか。



[32356] 第73話 10年来の約束①
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/22 10:36



━━━━━ ナギ・スプリングフィールド ━━━━━



 ここは…………麻帆良の地下か?
 確かアルの奴が根城にしようとしてた所だな。
 相変わらず地下だっていうのに、やけに明るかったり滝があったり木が生えてたり不思議なところだぜ。

 辺りを見回すとどうやら茶会の真っ最中だったらしく、側にあるテーブルの上にはティースタンドやらティーポッドとかのアフタヌーンティーのセットが置かれている。………………もう結構食べられているな。
 アルがこういうの好きだったんだよなぁ。俺はあんまり気取ったのは好きじゃなかったけど。


 そして…………目の前には赤毛のガキ。何だか俺が鏡を見たときに限って見る顔にソックリだ。
 ガキにしてはやけに大人びていて、茶色のスーツがこれまたやけに似合っている。

 …………どうやら外見は俺にソックリみたいだけど、雰囲気はアリカに似たのかな?



 それとその後ろには女の子が10人ぐらい興味深々な目で俺達を見ている。
 …………って、この子達は誰なんだ?

 アレ? それに5年ぐらい前に見たような気がする金髪な女の子がやけに怖い目で俺を見ているんだが…………。



 …………ま、今のこの俺はあくまで幻みたいなもんだからな。
 めんどくさそうなことは本体に任せよう。生きてるかどうか知らんけど。


 それよりアルのアーティファクトは10分しか使えないから、さっさと目的を果たさないとな。













「よぉ、お前がネ「駄目親父、僕の目を見ろ」…………は?」

「いいから見ろ、駄目親父」



 え? ちょ、ちょっと待てっ!?





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 …………う、いきなり視界が変わったと思ったら、ここは俺の故郷の村?
 確かネギが生まれたらここに預けることになっていたけど………………あ、これは“幻想空間ファンタズマゴリア”か。





「その通り。ここは“幻想空間ファンタズマゴリア”です。
 今のここは体感時間を現実時間の72倍に伸ばしているので、クウネルさんのアーティファクトが例え10分間しか効力がなくても、ここでならその10分間を12時間まで伸ばせることが出来ます。
 …………それでは一応挨拶からいきましょうか。『ハジメマシテ、オトウサン』」

「お……おう。はじめまして…………だな。
 俺の意識上でもお前はまだ生まれていなかったから、今までにお前が俺に会ってなかったら本当に“はじめまして”だ
 んー…………ここでこうやって話してるってことは、俺は死んだっつーことだな」


 …………12時間か。

 や、やべぇ、何を話したらいいんだ?
 改めて喋ったりするのは苦手だし、10分間しかないからネギに稽古をつけて終わりだと思っていたから、話すことは何も考えてなかったぞ。

 マズイ。さすがに12時間ずっと稽古しっぱなしってわけにはいかないよな?





「確かに僕は会ったことないですねぇ。物心つく前はわかりませんけど。
 でもスタン爺さんが6年前に会ったらしいですよ」

「え? そうなのか?」

「ええ、そのときにこの杖を僕宛に受け取ったそうです。
 それにクウネルさん…………アルビレオ・イマさんの“仮契約パクティオーカード”は生きてましたから、実際にまだ生きてるみたいですよ」


 そう言ってネギが見せたのは、間違いなく俺がずっと使ってきた杖だった。
 ああ、確かにこれを見れば一目瞭然だな。

 つか、俺の生死はどうでもよさそうだな、オイ?
 むしろ何だか不機嫌じゃねーか? 俺何かしたのかよ?





「何もしていないのが悪いんだろーが、この育児放棄者めが」




 お、おう…………やっぱエヴァンジェリンか。お前も随分と不機嫌だな?
 それと耳の痛いこと言わないでくれよ。自分でもわかってるんだからよ。


「どっちかって言うと、エヴァさんの呪いを解くという約束を放っておいたことの方がムカつきますけどね。
 でも約束を守ってたら僕はエヴァさんに会えなかったわけだから、それを考えると複雑な気分なんです」

「…………呪い?
 あぁーーーーーっ、呪いな! あれなぁーーー…………スゴク気になってたんだけどよ。解きに行ってないのか俺?」

「どーせ忘れてたんだろーが、バカが。
 …………フン、お前の呪いはネギが解いてくれたよ。後始末をしてくれたネギに礼を言っておくんだな」

「え? マジで? そりゃ悪かったな、ネギ」

「…………やっぱりムカつくな。
 えっと…………エヴァさんに言いたいことがあるのなら先にどうぞ。僕は後でいいです」


 プイッ、とそっぽを向いて、スタスタと他の女の子達のところに歩いていくネギ。
 やっぱり不機嫌だな。むしろ嫌われてるのか?

 …………今まで何もしてやれなかったから無理もねーけどよ。


 でも俺のことはどう思ってもいいけど、母親のこと…………アリカのことはどう思ってんのかな?
 一応アリカのことは秘密にする約束を皆としていたけど…………。






 そして目の前には俯いて目は見えていないけど、プルプルと震えているエヴァンジェリンがいる。
 怒りを堪えているようで顔も赤い。こいつも怒ってるよなぁ。

 おそらくネギが呪いを解いたのは最近のことだろう。
 えっと、5年間約束守らず放っておいて、さっきのネギは10歳ぐらいだったから………………だいたい15年間ぐらいか。エヴァンジェリンが麻帆良にいたのって。
 あー…………そりゃあ怒るよなぁ。



 って、ネギがあの呪いを解いたのか?
 かなり適当に力任せでかけたもんだから解くの大変だと思ってたんだけど、それを10歳くらいのガキが解くなんてすげぇな。
 さすが俺の息子。


 …………現実逃避はこんぐらいにしといて、まずはエヴァンジェリンを何とかしなきゃならんよな。
 しゃあない。一発ぐらいは殴られてやるか。………………一発で済むかな?
 ま、“幻想空間ファンタズマゴリア”だから死にはしないと思うけど。



 よっし、バッチ来いや!



















「あぁ…………ネギは可愛いなぁ…………」

「…………は?」


 お前は何を言っているんだ?

 アレ? 何だかすっげぇイイ笑顔をしているけど、笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点であるってやつじゃなかったのか?
 顔が赤くなっていたのは喜んでいたから?





「いや、だってアレ見たか。明らかに“嫉妬”をしていたぞ。
 独占欲が強いとはネギ本人が言っていたが、嫉妬されるなんて女冥利に尽きるじゃないか」

「…………えっと、スマン。
 話が全然わからねーんだが?」

「ム? なら説明してやろう。私とネギの関係を。
 簡単に言ってしまえば“恋人”…………とまではまだいかんが、互いに好き合っているぞ。他にも同じようなのがあそこにいるのも含めて10人近くいるがな。
 最初は私がお前のかけた呪いを解いてくれたことの関係と、ネギがお前の息子でだったことからネギが欲しくなったのだったが…………いつの間にかお前のことは関係なく、本気でネギ自身が欲しくなっていた。
 お前と違って頭も良いから魔法の話も通じるし、お前と違って女性に優しいし、何よりお前より強いし…………まあ、そんなわけだ。
 『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』を解かずに死んだと聞いたときは恨んだが、最高の置き土産を残していってくれたことには感謝するぞ、ナギ」

「え? ちょい待ち。
 ………………マジで? アイツまだ10歳くらいだろ? お前600歳ぐらいだろ?」

「確かに今年で10歳だな。だがネギは将来絶対イイ男になるぞ。むしろ私がそう育ててやるから安心しろ。
 それと年のことは言うな。
 私から見ればお前もネギも大差はないし、どうせネギのことだからそのうち不老不死になるだろうさ」


 え? 俺の息子っていったい何なわけ?
 恋人が10人近く? 不老不死になる?


 ………………くっ、俺が側にいてやらなかったばっかりに、ネギの奴は不良になっちまったのか…………。

 わりぃな。お前には何もしてやれなくて。
 こんなこと言えた義理じゃねえが…………元気に育ちすぎだろう。





「安心しろ。お前よりは品行方正だ。
 ネギの方から言い寄ったりはしないし、ただ単に女にモテるだけだよ。
 まあ…………元気が良すぎるというのはあっているかもしれんが」

「いや、でもショックだわ。
 俺の意識上ではあいつはまだ生まれていなかったから、いきなり息子に恋人が10人いるとか言われても、正直どう反応すればいいのか困る。
 …………それに、俺より強いってマジか?」

「マジだ。実際に試したわけではないが、少なくとも私とお前とジャック・ラカンの3人掛かりでも今のネギには勝てんだろうさ。
 京都に行ったときにはお前が封印したというリョウメンスクナノカミを一撃で倒したし、お前の大戦のときの敵であるアーウェルンクスも倒している。
 お遊びの大会とはいえアルの奴にも勝ったことあるし、多分私とか学園長のジジイとか“紅き翼アラルブラ”…………その他に知ってる腕の立つ奴ら、敵味方合わせた全員の総掛かりでなら何とか…………といったところだろう」

「オイオイ、冗談キツイぜ」

「ついでに言うと、ネギはアスナと同じく『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』も持っているぞ。しかも能力のON/OFF切り換えが自由でな。
 ああ、腕の立つ奴ら全員の総掛かりでならというのは、『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』OFF状態での話でだ。『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』アリだったら本気で無理だな。戦力激減し過ぎる。
 しかも最近は『太陰道』でコッチの魔法吸収するようになったから、余計に手に負えなくなってきた。
 それに加えて『神鳴流』や『居合い拳』、『咸卦法』、私の『闇の魔法マギア・エレベア』も使える上に、『咸卦法』と『闇の魔法マギア・エレベア』組み合わせた『闇の咸卦法』をオリジナルで開発しているぞ。
 それでも多分、手の内の全てを明かしたわけではないだろうな。隠し玉がまだあると見た。
 ………………改めて考えてみると、本当にネギは理不尽だな」





 …………わりぃ。マジでわけわからねーんだけど。

 それに“アスナ”って、あのアスナのことか? 姫子ちゃん?
 あ、よくよく見れば、不貞腐れているっぽいネギを抱き締めている女の子のってアスナっぽいな。アスナが大きくなったらあんな感じになってそうだ。

 …………そうか。アスナも元気にやっているみたいだな。


 って、ネギの恋人の1人がアスナなのか!?
 …………喜んで良いのか悪いのかわかんねー。




 それとネギって“黄昏の姫巫女”なのか? アリカの血か?
 男だから“姫”はつかねーだろうけどよ…………。







「ま、そんなわけでお前や母親がいなくても、ネギは立派に育っているから安心しろ」

「こんなの聞いたら逆に心配になってきたよ。
 何でそんなガキに育ったんだ?」

「深く考えるな。ネギの強さに関してなら私は既に諦めた。
 ………………で、だ。その……ケジメというか何というか、お前に言わなきゃいけないことがあるんだが…………」

「お、おう…………」


 あー…………『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』のこと…………じゃないよなぁ。
















「…………なあ、ナギ。私はお前が好きだったよ。それに今でも好きなんだと思う。
 けど…………今の私にはネギがいる」

「…………そんなこと言ってたな。
 まあ…………正直言って、お前とネギがくっつくことになるなんて考えもしなかったけどよ」

「私もネギが来たころは考えもしなかったさ。
 それでなんだが…………さっきまで、お前を目にするまでは不安だった。お前とネギのどちらかしか選べない場合は、私はネギを選ぶことが出来るかどうかがな」

「あー…………俺はもう子供もいる身だし…………」

「わかってる。本来ならお前のことはスッパリ諦めて、ネギ一筋に絞るべきということぐらいは。
 しかし“恋”というものはそんな単純なものじゃないだろう。お前を諦めきれるかどうかがわからなかったんだよ」

「…………ま、そうだな」

「本音を言えばお前とネギの2人とも手に入れられれば一番良いのだがな。
 でもそれやったらネギが拗ねてしまって、それどころじゃなくなるだろうから諦める」

「ハッ、アホなこと言うな」


 ま、気持ちはわかる。好いた惚れたっていうのは理屈じゃねーからな。
 俺だってアリカと結婚するまでは、一悶着どころじゃない騒ぎがあったしよ。


「…………で、お前とこうやって会って話して、嫉妬して拗ねるネギを見たら、心に思い浮かぶのはネギの方だった。
 15年振りに会えたお前のことよりも、お前に私をとられるんじゃないかと嫉妬して拗ねるネギの方が愛おしかった。
 どうやら本気でお前よりもネギの方が好きみたいだよ」

「…………そっか」

「ああ、そうだ。本気で可愛いだろ、アレ。
 何ていうか…………撫でさせてはくれるけど本気で甘えてはこない猫が、他の猫と仲良くしていたら嫉妬して拗ねたって感じだ。
 ネギが自分の気持ちを理解してからは更にその傾向が強くなってきたな。何せタカミチや犬にも嫉妬するぐらいだ。
 しかもネギが大人になった姿を見たことあるが、悪ガキっぽさが抜けないお前よりもイイ男になるし、そのうち不老不死になるだろうから永遠に一緒にいられるだろうし…………」

「ケッ、ほっとけ。
 …………つーか、何でネギが不老不死になるんだ? そんな予定あるのか?」

「いや、根拠はないがネギなら有り得る。少なくとも私はネギが不老不死になっても驚かん。
 …………フン、呪いのこととか、約束破ったこととか、ネギの母親のこととか山程言いたいことや聞きたいことはあったが、今となってはもういい。
 だから…………頭を撫でろ。心を込めてな。それで私のお前への恋は終わりだ」


 …………あいよ。

 エヴァンジェリンも光の中で生きられるようになったんだな。
 ま、約束破っちまったみたいけど、結果オーライってことでいいだろ。





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 少しの時間エヴァンジェリンの頭を撫でたら気が済んだらしく、吹っ切れた顔でネギに抱きつきに行った。
 泣かしちまったけど、何だかんだで幸せそうだから何よりだな。
 その後はエヴァンジェリンやアスナや他の女の子達がネギにくっつこうとしてメチャクチャだった。

 でも…………これで安心した。安心出来た。
 俺はネギに何もしてやれなかったけど、それでもネギは幸せそうだ。
 良い顔で笑っているし、ネギの味方になってくれる子もたくさんいるみたいだ。











「…………だからって、1時間以上このお父様をほったらかしにするのはどうかと思うんだがなぁ」


 父ちゃん寂しかったぞ。
 何が悲しくて息子が複数の女の子とイチャイチャしてる風景を延々と1時間も見せ付けられなきゃならねーんだよ。


 それにしても、この“幻想空間ファンタズマゴリア”は本当に便利だな。
 ネギが呪文を呟いたらあっという間にお茶会の準備がされたぞ。いくら術者の思い通りに出来る“幻想空間ファンタズマゴリア”とはいえ、お茶や菓子はちゃんと再現出来てて美味いし。

 女の子達は女の子達でケーキとかの甘いものを、見てるコッチが胸焼けするぐらい存分に食ってる。
 …………ここでならいくら食べても太んねーからだろうな。そう考えたら本当に便利だ。





「は? 何か文句あるんですか?
 それとここでのお茶会は頻繁にはやらないですよ。いくら実際に食べたりしないとはいえ、脳は甘いものを食べたって認識してしまいますからね。
 でも実際には糖分を摂っていないので、脳が混乱しちゃうんですよ。ゼロカロリー飲料を飲んで太るのと一緒です」

「男女の語らいを邪魔するとは無粋だぞ、ナギ」

「アハハ、ゴメンね。それと久しぶり。私も大きくなったでしょ、お義父さん」

「はじめましてー。近衛詠春の娘の木乃香といいますー。
 ネギ君にはいつもお世話になってます、お義父さま」

「さ、桜咲刹那と申します、お義父さま!
 私もネギ先生にはお世話になっております!」

「宮崎のどかです、お義父さま。
 ネギ先生が担任をしているクラスの生徒で、魔法もネギ先生から教わってます」

「同じく綾瀬夕映です、お義父さま。
 私達は全員ともネギ先生のクラスでして、1人を除いてネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”をやっています」

「長瀬楓でござる。
 拙者は魔法使いではござらんが、ネギ坊主を主君と仰いでいるのでござるよ。義父上殿」

「ク、クククク古菲アル!
 えっと…………お、お義父さまに会えて光栄アル…………」

「…………長谷川千雨、魔法のことは知っているだけの一般人です。
 私はネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”じゃありませんし…………恋人でもありません。
 ネギ先生とは…………まあ趣味コスプレ仲間で、あとは面倒ごとに巻き込まれてからネギ先生に面倒見てもらっている…………という感じでしょうか」





 わりぃ。
 本気でこんなとき、いったいどんな顔すればいいのかわからねーよ。

 アレだぞ、俺の意識上じゃネギは生まれていなかったんだぞ。
 それなのにこんなたくさんの女の子から“お義父さま”なんて呼ばれるなんて思ってもいなかったってーの。

 …………ここにアリカがいたらパニクるだろうなぁ。


 あー、でもアイツは一応元王族だからな。
 一夫多妻には理解あるかもしれないし、何よりこの子達に“お義母さま”って呼ばれる嬉しさの方が勝つかもしんねーか。










「…………で、何でこんなことになったのか聞いてもいいか?
 正直な話、さすがにこれは予想してなかったわ」


 最初は稽古つけてやろうと思っていただけなのに、本気でどうしてこうなったんだよ?

 ってか、木乃香ちゃんは詠春の娘さんかよ。
 それこそ生真面目な詠春がよくこんなこと許したなぁ…………。


「別にネギは悪いことしていないわよ。
 私達がネギのこと好きになって、アタックしてただけ。………………私達で同盟組んだりしたけどね」

「そうしてたらネギ君もウチらのこと好いてくれるようになったんですよ。
 さすがに10歳のネギ君じゃ、ウチらのうちの誰かを選ぶか、ウチら全員をお嫁さんにするかはまだ決められていないみたいですけど」

「ですので、責められるとしたら私達の方なのです。
 …………10歳の男の子に対して、複数の14歳の女の子の方から言い寄ったのですから」

「私はネギ先生に危ない所を助けられてからネギ先生のことを好きになって…………」

「わ、私は最初はそんな気がなく、のどかの応援のつもりだったのですが…………争奪戦の模様が激しくなったり、魔法を教えてもらっているうちに何だかズルズルと…………。
 最初はネギ先生のことは“妙にこましゃくれた子供”という感じだったのですけど…………」

「まあ、ネギ坊主が主君となるなら別にいいかと思って…………。
 それにネギ坊主以上の男はなかなかいるものではないでござるからな」

「い、いや…………私は武道の名門である“古家”の人間として、跡を継ぐのに相応しい漢を見つけなくちゃいけなかったりして…………」

「…………私は違いますよ」

「へぇー、ネギってモテるんだな。
 で? お前はこの子達のことどう思ってんだよ?」

「うるさいなぁ。髪の毛メチャクチャにしないでくださいよ」


 うりうり、とネギの頭を撫でたら手を払いのけられた。
 ケケケ、いっちょまえに顔を赤くしやがって。

 確かにエヴァンジェリンが言ったみたく、ネギは猫みたいだなー。
 文句は言ってくるし目もあわせてくんねーけど、こんな風にチョッカイかけても何だかんだで俺の隣の席から離れたりしねーんだもん。
 女の子達はそんなネギを見てニヤニヤ笑ってるし、どうやらネギは将来尻に敷かれることになりそーだぜ。


 こんなたくさんの恋人いたらお前も大変だなー、うりうり。
 ホレホレ、どうしたどうした~~~?


















「フシャァアアアーーーーッ!!!」







 って、痛ってぇーーーっ!
 魔力込めた手で払いのけるなよぉ……………………って、やべ。思いっきり睨んできた。
 ちょっと弄り過ぎたか。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 何だか最近、ウチのネギがツンデレ…………デレツン?になっていく感じがします。むしろ子供っぽくなってきました。
 最初はクールキャラにしようと思っていたのに、何故か勝手にドンドン変わっていきました。

 ま、キャラが変わっていくのはよくあることですよね。


 あと皆さんお気づきだと思いますが、別にネギはナギのことを嫌っているわけではありません。…………ムカついてますが。
 前世の影響で日頃からブン殴りたいとか殺したいとか言ってますが、何だかんだ言いながら“駄目親父●●”呼ばわりしているので、父親だとは思っていますし認めてもいます。……………………ムカついてますが。


 ちなみに茶々丸は不参加です…………というか、ガイノイドだから“幻想空間ファンタズマゴリア”に入れませんよね?
 眠っている肉体を念のために守っているということにしておいてください。

 たつみーや超達はそもそも来る理由がありません。
 小太郎は久しぶりの休日を満喫中です。やったね、コタ君!




 それと実を言うと最後のネギのセリフは

「ギャフベロハギャベバブジョハバ」

 にしようかと最初は思ってたのですが、これだけだと意味がわからないと思うので止めました。

 でも例のコピペじゃないですけど、猫のケンカってホントに「マーオ」って感じで鳴きますよね。「ナーオ」というか「アーウ」というかそんな感じで…………。
 昔の話ですが、2匹の猫が威嚇しあっていて、もう1匹がそれをジッとそれを観戦していた場面に出くわしたことがあります。
 その時の猫の鳴き声は、まるで人間の子供が泣いているような声だったのをよく憶えてます。というか本気で人間の子供が泣いているんだと猫達を見るまで思ってましたね。
 スーパーとかでたまに見かけるような泣いている子供の声みたいな感じです。



[32356] 第74話 10年来の約束②
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/22 10:44



━━━━━ 宮崎のどか ━━━━━



「いやー、それにしてもアスナもでかくなったな。
 ガトウと一緒に旅してたころは今のネギよりも小さかったのに、もうこんなに大き「フシャァアアアーーーーッ!!!」って何だあっ!? アスナの頭撫でようとしただけじゃねーか!?」

「あらあら…………ごめんね、お義父さん。
 ほーら大丈夫よ。私が好きなのはネギなんだから、そんなにお義父さんを威嚇しないの」

「…………何か最近ネギ君の性格が変わってきたなぁ」

「そうですね、木乃香お嬢様。
 夜も一人で寝るようになっちゃいましたけど、私達に別の男性が近づくと嫌な顔されるんですよね」


 そうなんだよね。だから最近小太郎君とは一緒に修行をしていないんだ。
 むしろ小太郎君の方がネギ先生のプレッシャーから逃げるために、私達を避けるようになったというか…………。

 ネギ先生せんせーってば…………嫉妬してくれているのかな? ウフフフフ。





「そう思うんだったら、ネギ先生に「私のこと好き?」と聞いて「好きです」と強制的に言わさせるのを止めろ。しかも最低一人一日一回、ちゃんと目を合わせた状態を強制させてなんて…………。
 毎回毎回、顔真っ赤なネギ先生がもういっぱいいっぱいな状態で、お前達と目を合わせて「好きです」って言うの見てたら可哀想になってくる。10歳児相手に羞恥プレイを強制すんなよ」

「拙者はしていないでござるよ」

「わ、私もそんなことしていない…………というか出来ないアルよ。そんなこと」

「ム、そう言われればちょっとやり過ぎかもしれんな。
 だが反省もしていないし後悔もしていない」

「でもネギ先生は慣れてくれないですよね。むしろ私達が「好きです」とネギ先生に言うだけで、顔が赤くなってしまうようになってしまいましたし。
 学園祭前までは私達が「好きです」と言ったとしても、平然として「ありがとうございます」とか「僕も好きです」って返してくれていたのですが…………」

「…………オイオイ、嬢ちゃん達…………」


 ご、ごめんなさい。確かに最近浮かれ過ぎてました。
 ネギ先生せんせーに「好き」って言ってもらえるのが嬉しいし、何よりネギ先生せんせーに「好き」って言えるのが嬉しくて…………。


 でも学園祭が終わってもうすぐ一週間経つんだから、そろそろ学園祭気分から切り換えなきゃ駄目ですね。
 それにもうすぐ期末テストもあることですし。

 次の期末テストでも良い点数取れば、ネギ先生せんせー喜んでくれるかなぁ。
 やっぱりユエやアスナさん達が勉強を頑張り始めたのが良かったのかな。
 こう言っては何だけど、他の皆も“バカレンジャーには負けたくない!”って気持ちが生まれたみたいで勉強を頑張るようになったから、それで全員の成績が底上げされるようになったし…………。







「はいはい、大丈夫大丈夫。
 ネギも教師モードだったら平気なのにねぇ」

「…………何だかネギのことが心配になってきた。
 おい、ネギ。本気でこの嬢ちゃん達との将来はどうするつもりなんだよ?」

「マーーーオッ!!!」

「威嚇してくんな!」

「マーー「ネギ君、ウチらのことは将来的にどう考えてんの?」…………い、いや……色々と考えてはいるんですけどね」

「…………なぁ、エヴァンジェリン。俺の扱い軽すぎね?」

「お前、自分が何かネギに尊敬されるようなことしたと思っているのか?
 魔法学校中退の“千の呪文の男サウザンドマスター”(笑)よ」

「…………ああ、そういえば実のところお義父さまって、魔法は10種類ぐらいしか使えないんでしたっけ?」

「え? そう言われればそうなんだけど……………………やべぇ。
 別に今まで隠さずに言い放っていたことでも、息子の恋人に改めてそう言われると存外にダメージ来るわ」

「いや…………まだ恋人までは進んでいないと思うんですけど…………」


 ネギ先生せんせーは東洋呪術も含めればきっと千種類ぐらい使えそうだなぁ。
 そもそも『闇の魔法マギア・エレベア』と『闇の咸卦技法』を別カウントにすれば単純計算で3倍になっちゃうし、『闇の魔法マギア・エレベア』で複数の魔法を取り込むときの組み合わせを変えればもっと増えるちゃうし。


 そ、それにしても、ネギ先生せんせーはちゃんと私達との将来のこと考えてくれてるんだぁ。

 アスナさんから言われたように、ネギ先生せんせーが麻帆良にいることが決まっているのは私達が中学を卒業するまででしかない。
 それからは麻帆良に残るのか、それともイギリスに帰ってしまうのかはわからない。

 出来ればこれからも…………せめて私達が大人になるまでは麻帆良で一緒に暮らしたいけど、ネギ先生せんせーにも立場があるし、イギリスにいるネギ先生せんせーの従姉のお姉さんのこととかも放っておくわけにはいかない。
 アスナさんや木乃香さん達は別にイギリスについていっても構わないらしいけど、私やユエなんかは家族のことがある。

 …………そういえばネギ先生せんせーとのことって、本気でお父さん達にどうやって説明したらいいんだろう?


 いや、そもそもネギ先生せんせーは私達のことをどうするのかな?
 お互いに想いあえているとは思っているけど、真面目なネギ先生せんせーが私達のうちの一人を選んだりとか、全員を選ぶことを出来るかはわからない…………。

 …………というか、そもそもネギ先生せんせーはまだ10歳なんだけどね。







「…………その、正直な話をすれば……まだ決めかねているんですよ。皆さんのことは他の人に渡したくないぐらい好きですけど、好きだけじゃどうにもならないのが世の中ですから…………。
 いくら“本当の魔法はわずかな勇気”という言葉があるとはいえ、複数の女性と同時に付き合うというのは明らかに“わずかな勇気”とは思えませんし…………。
 ネカネ姉さん達に紹介するための予行演習として父さんにこうやって皆さんと一緒に会いに来ましたけど、それでも結局まだ決めかねています…………」

「ま、10歳じゃしゃーねーだろ。
 …………というか、お前そんな理由で俺に会いに来たのか?」

「は? 他にどんな理由があるとでも? 稽古をつけに貰いに来たとでも思ったんですか?
 いいですよ。時間はもう8時間ぐらい残ってますから、この話が終わった後にでもやりましょうか?」

「おーし、いいだろ。この若くして英雄ともなった偉大かつ超クールな天才&最強無敵なお父様の力を生意気なガキに見せてやるぜ。
 エヴァンジェリンが言ったお前の力が本当かどうか確かめてやる」

「うっさい。ボコボコにした後、転移魔法で宇宙空間に放り出すぞ」

「おい、このナギは幻で、本当はアルだぞ。
 …………まあ、アルなら宇宙空間に放り出しても別に構わんか」

「(…………こんな感じのネギは初めて見るわね)」

「(でも何か楽しんでそうやない?)」

「(何だかんだでネギ先生も嬉しいんじゃないですか?)」

「(初めて会ったお義父さまに対して、どんな風に接すればいいかわからないだけっぽいですよねぇ)」


 ウフフ、ネギ先生せんせー可愛いなぁ…………。
 まるで必死に威嚇している子猫みたい。

 私達のことを話しているときのネギ先生せんせーはモジモジしてて、また別の可愛さがあったけどね。





「…………ま、そんなどうでもいいことは置いといて…………」

「待てやコラ」

「何ですか? 魔法学校中退の“千の呪文の男サウザンドマスター”(笑)殿?」

「ケンカ売ってんだな? 買うぞ。父ちゃんそのケンカ買っちゃうぞ」

「なら、プロポーズに2年もかけたヘタレ(笑)…………の方が良かったですか?」

「っ!? …………ちょ、お前っ!? 何で知ってんだ!?
 つーかア…………母親のことも知ってるのか?」

「アルビレオ・イマさんから詳しく聞き出しました。母のこととか、“墓守の宮殿”での最終決戦のこととか、魔法世界ムンドゥス・マギクスの秘密のこととかイロイロと…………。
 のどかさんのアーティファクト、“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”使って無理矢理ですけどね。
 今日のために時間をとる交換条件で、アルビレオ・イマさんに“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”を使った状態で質問を1つさせてもらったんですよ。
 まあ、母のことは前から予想はついてましたし、アスナさんからも聞いてましたので別に驚いたりしませんでしたけど」

「そ、そうか………………確かによく考えてみれば、アスナがいるんなら知ってて当たり前か。
 …………って、ネカネに紹介するときの予行演習で会いに来たんじゃなかったのか? 何でアルにそんな条件飲ませたんだよ?」

「いや、貰えるモノは貰っておく性質なんで。そして巻き上げられるモノは巻き上げておく性質なんですよ。別にクウネルさんには容赦する必然性は感じられませんでしたからね。
 ああ、それと僕以外の人はまだ知らないから大丈夫ですよ。誰彼構わず言い触らしたりはしないから、そこは安心してください。色々と衝撃的なこともわかっちゃいましたし、公表するにしてもちゃんと考えてから公表しますので」


 …………ネギ先生せんせーのお母さまって誰なんだろう?
 出来るなら一度でいいから会ってみたいと思うんだけど、お義父さまと違って生きているかどうかもわからないし。

 アスナさんは知っているみたいだけど、さすがにこれについては私達にも教えてくれない。
 “黄昏の姫巫女”であるアスナさんにも関係しているらしいので、別に意地悪のためじゃないから仕方がないけど。







「……………………な、なぁ?」

「…………言っておきますけど、別に責める気とかはないですからね。
 父さん達の力不足や、プロポーズに2年もかけたヘタレ具合(笑)をなじる気はあっても…………」

「…………わりぃな。お前には何もしてやれなくて。
 それと他に方法がなかったんだから…………仕方がねぇだろ」

「“魔法世界ムンドゥス・マギクス全てが敵になるのなら、魔法世界ムンドゥス・マギクス全てを滅ぼせばいいじゃない”」

「いや、そのりくつはおかしい!!!」

「でも僕はアスナさんを守るためなら、そのぐらいの覚悟はありますよ。守るのが木乃香さん達でも同じですけど。
 まあ、『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』持ってる上にその他にもイロイロと準備したおかげで魔法世界ムンドゥス・マギクス人相手なら無敵な僕が言うのと、父さん達では条件が違うのはわかっていますけどね。
 それでも真面目な話、僕は魔法世界ムンドゥス・マギクスが戦場だったら、本気で魔法世界ムンドゥス・マギクス全てを相手にしても負ける気しないですし。
 …………最悪な場合は父さん達の功績を全て無駄にすることになっちゃいますけど…………」

「やめろ。洒落になってないから本気でやめろ。
 …………お前、もしかしてアレと同じこと出来んのか?」

「おそらくは。『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』がありますのでね。
 実際に魔法世界ムンドゥス・マギクスの空気を感じないと断言出来ないですけど、他にも切り札は用意してあります。
 ま、相手が手出ししてこなければ、僕から仕掛けることはないので安心してください」

「余計安心出来ねーよっ!
 …………ハァ、お前相手にすると疲れてくるぜ」

「…………別に『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を使わなくても、転移魔法ゲート魔法世界ムンドゥス・マギクスと宇宙空間の間で繋げて、それを開けっ放しにすればいいだけなんですけどね。
 そうすれば魔法世界ムンドゥス・マギクスの大気が全て宇宙空間に流れ出しますから…………」

「やめろって言ってんだろーがっ!!!」


 …………ネギ先生せんせー、本当に楽しそうだなぁ。
 何だかんだで人をからかうの好きだし、お義父さまって打てば響くような鐘みたいな人なんだねぇ。

 っていうか、転移魔法ゲートを宇宙空間と繋げて開けっ放しにするのは、地球で行なってもマズイと思います。





「…………ま、そんなどうでもいいことは置いといて…………。
 少なくとも来年の皆さんの卒業までには結論を出すように頑張りますので、申しわけありませんがもう少々待ってください」

「だ、大丈夫ですよ、ネギ先生せんせー
 ただ私達が焦っているだけなので、ネギ先生せんせーのペースで考えていただければそれでいいんです!」


 大丈夫です。
 ネギ先生せんせーが答えを出してくれるまで待ちます。
 そもそも10歳のネギ先生せんせーにそんな急に結論を急かすつもりはありません。

 ネギ先生せんせーが私達のことを選んでくれたらそれはすごく嬉しいことですけど、一番大事なのはネギ先生せんせーのお気持ちです。
 私は…………ネギ先生せんせーのことが好きでいられるだけで十分に幸せなんです。





 …………それに私達のことを必死で考えてくれるネギ先生せんせーも可愛いので、もうちょっとこのままでもいいかもしれないし。

 何というか…………ネギ先生せんせーって大人っぽいのに可愛いんだよね。
 グッドマンさんや佐倉さん、葛葉先生とか女子…………女子?だけで話しをすることもあるんだけど、そういうこと言ったら「貴女達はマダオ好きな気がする」って言われちゃったんだけど…………。

















「…………まあ、お前らもまだまだ若いんだから、そんな急いで答えを出す必要もねえだろ。悔いの残らないように、ちゃんと色々と考えてから答えを出せよ。こういうのは一生モンだからな。
 俺の経験談だから参考にしていいぜ。それがお前に教えてやれる唯一のことだ」

「………………フン。
 まあ、せいぜい参考にさせてもらいますよ」

「………………ヘッ!
 あ、ところで話は変わるんだけどよ。アルにいったいどういう質問の仕方をしたんだ? アルと約束したのは、1回だけの質問なんだろ? それなのに何で色んなことを知ってたんだ?」

「え? どういう質問って言われても…………、

 “何を隠してるか?”

 という質問をしただけですよ」


 アレはいい質問でしたね、ネギ先生せんせー
 あの質問なら、一度に色んなことを聞け出せますもんね。

 “いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”を見たネギ先生せんせーも驚いてましたし、きっと大人の人がネギ先生せんせーに隠していたことを知ることが出来たんでしょう。
 かなりの大事らしくて、私達にも秘密になってしまったのは残念ですけど。












━━━━━ ナギ・スプリングフィールド ━━━━━



「よーし、そんじゃ始めるか。
 稽古をつけてやるぜ、ネギ」

「いいですよ。ルールはどうします? ハンデは?」

「はっ! 何でもアリに決まってんだろ。
 それにハンデなんているわけねーよ。あんまり大人を舐めんなよ」


 むしろ俺がハンデつけてやろーか?
 英雄とまで言われたこのお父様を舐めんじゃねーぞ。





「駄目に決まっとるだろ、ナギ。何でもアリだったら、タカミチ級の強さの式神が数百体規模で襲ってくることになるんだぞ。ナギは自由にやれ。
 ネギは式神使用無し、『完全魔法無効化マジックキャンセル』無し、肉体変化無し、転移魔法でナギをどこかに飛ばすのは無し。それとハンデとして私達の周りに結界を張って維持しろ。どうせ派手になるんだろうから必要だ」

「『居合い拳』は燃費が良くていいですよね。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスに行ったときのために、あれから急いで式神の量産に入りましたし」


 …………え? 式神ったら、日本の関西呪術協会の連中が使ってたやつだよな?
 ネギは東洋呪術まで使えんのか?


「…………って、お前らタカミチのこと知ってんのか?
 エヴァンジェリンもさっきタカミチのことを話題に出してたけど…………」

「ん? ああ、知ってますよ。
 僕がメルディアナ魔法学校に入学してからは何度も訪ねに来てくれました。どっかの誰かさんのせいでエヴァさんとは同級生だったこともあるみたいですし。
 それとダイオラマ魔法球に篭って修行に励んだ結果、アルビレオ・イマさんが言うにはガトウさんという方よりも既に強くなっているそうです………………その分、老けましたけど」

「ついでに言うなら、ネギが私達のクラスの担任になる前はタカミチが担任だった。
 今は…………アレだ。“悠久の風AAA”の仕事が忙しくなったから、ネギに担任を任せて世界を飛び回っている………………ウン、そんな感じだ」


 へー、ガトウよりも強くなったんか。タカミチも頑張ってるんだなぁ。
 でも何で最後は目を逸らして言葉を濁したんだ?

 それにガトウより強いタカミチ級の強さの式神が数百体?
 …………さすがにそれは俺でも無理だわ。





「『闇の咸卦法』と『闇の咸卦技法』は?
 それと『太陰道』は?」

「…………ま、それはいいだろ。ただし試合開始前に準備しておくのは駄目だ」

「了解です。…………あ、父さんのアンチョコは? アンチョコ見ないと魔法を唱えられないんじゃ?」

「それは昔の話だっ! 今は『千の雷キーリプル・アストラペー』だろうとそらで詠唱出来るわっ!!!」

「何っ!? そうなのか!?」


 エヴァンジェリンまでそう思っていたのかよっ!?
 確かに魔法は10個も使えねーけど、十何年もそれらばっかり使ってたら俺でも覚えられるわっ!!!


「いや、だって…………お前、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』かけるときってアンチョコ見てただろ?」

「『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』なんて使ったのはアレが初めてだからな。
 さすがにそんなのまでは覚えられねーよ」

「……………………」

「文句あるなら言ってみろ、このガキャ」

「べっつにぃ~?」


 うわ、ムカつく。
 いったい誰に似たんだこいつは?


「どう考えてもお前だろうが。
 もういいからさっさと始めろ。私達は離れて観戦しているから」





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 おっし、じゃ始めるか。
 親の真似事一つ出来ていない俺が言ったらいけねーことなんだろうけど、俺にも父親としてのプライドがあんだよ。
 あそこまで散々言われっ放しってのは我慢出来ねーな。


 それに…………本当に俺に勝つぐらいネギが強かったんなら、きっとこれからもネギは大丈夫だろうからな。
 父親として何にもしてやれねー俺が出来るのはこんのぐらいしかねえだろ。


 …………ま、“楽しんでいる”ってのは否定出来ないけどよ。
 それじゃ、最初っから全開でいくぜっ!






「契約により我に従え高殿の王!
 来れ巨神を滅ぼす燃ゆる立つ雷霆!
 百重千重と重なりて走れよ稲妻!」

「『千の雷キーリプル・アストラペー』か…………本当にアンチョコ要らないんだ。
 じゃ、こっちは“魔力糸”展開」


 ネギがそう呟くと同時に、ネギの掌から糸が湧き出てくる。
 そしてその糸は地面に広がり、幾何学的な模様を描き始めた。

 魔法陣だな。
 しかし展開速度がめっちゃ早い。あの巨大な魔法陣書くのに1秒もかかってないぞ。





「行くぜ、オラァッ!
 『千の雷キーリプル・アストラペー』!!!」


 俺の放てる最大威力の魔法。『千の雷キーリプル・アストラペー』。
 鬼神兵くらいなら楽に一撃で倒せる威力を誇る。
 『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を使わないんなら、さすがにこれでならダメージを与えることが出来るはずだ!











「残念、『敵弾吸収陣キルクリ・アブソルプティオーニス』」

「げっ!?」


 ネギが突き出した右手で『千の雷キーリプル・アストラペー』を受け止めたと思ったら、展開された魔法陣が発動して『千の雷キーリプル・アストラペー』を吸収しちまった。
 アレがもしかしてエヴァンジェリンが言ってた『太陰道』かよ!? コッチの魔法を吸収するなんて反則じゃねーか!

 しかも魔法陣は一秒もかからずに展開できる速度。
 これだと無詠唱魔法ぐらいしか通じねーんじゃねえのか?






「固定、掌握、右腕装填! …………と。
 これが『太陰道』と『闇の魔法マギア・エレベア』です。
 『闇の魔法マギア・エレベア』は5歳のころには出来てました。取り込むのは治癒魔法でしたけどね。
 『太陰道』はさすがに難しかったので出来るようになったのは最近ですけど、魔力糸による瞬時魔法陣構築を出来るようになってからは大分簡単に出来るようになりました」

「へ、へぇー………………そうなんか」



 やべぇ、エヴァンジェリンが言ってたのって本気でマジだったんだな。
 強く育ってくれたことは嬉しいけど、この微妙な寂寥感は何なんだろう?
















「…………どうしよう。最初はエヴァさんのこととかでボコるつもりだったけど、クウネルさんから情報聞きだしたせいで冷めちゃったな。
 幻相手に八つ当たりするのはみっともないし、本体が生きているのならソッチにした方がいいし。それにあまりアスナさん達にグロいのは見せたくないし…………」

「…………なーに言ってやがんだ。
 もう勝ったつもりなのか?」

「強がるのはやめてくださいよ。
 いかに父さんが従者を必要としないぐらい強い魔法剣士タイプでも、魔法を使えなかったら戦力は半減です。
 対する僕は自由に魔法を使うことが出来ますけどね」


 …………ぐ、それを言われると確かに辛い。
 雑魚相手にならそれでも問題ないけど、例えばジャックと魔法無しでやれって言われたらさすがに無理だと思う。
 俺とジャックは魔法有りで互角なんだからよ。





「ま、そんなわけなので、せっかくだから開発中の技を確かめてみることにしましょうか。“幻想空間ファンタズマゴリア”だから死ぬことはないので安心してください。
 補助魔法陣、右腕に展開。『千の雷キーリプル・アストラペー』の全てを光に変換。
 光波長、周波数を同じに変換……変換完了。右前腕部全魔力を人差し指末節に収束、圧力を臨界まで加圧。3……2……臨界圧!」


 そういって、ネギは右手の人差し指で俺を指差し、魔力糸が今度はネギの右腕に巻きつきながらとても小さな魔法陣を右腕に展開し始めた。
 そして俺の放った『千の雷キーリプル・アストラペー』の全てが人差し指の先端に収束されていく。

 …………何つー魔力密度なんだよ。

 ただでさえ『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』の10倍以上とも言われる、対軍に使われる電撃系最大呪文『千の雷キーリプル・アストラペー』なんだぞ。
 それをあそこまで圧縮させるなんて洒落にならねーぞ。アレが相手なら、どんな障壁を展開してもブチ抜かれちまう。






「腹のど真ん中を狙います。避けるのなら横に。
 下手に動いて心臓や頭を貫いたらどうなるかわかりませんからね」


 ちょっ!? マジで洒落になってねー!
 だけどなぁ…………意地があんだよ! 父親にはなぁ!!!













「ケッ! ビビってんじゃねぇぞ!
 そんな様であの子達を守れんのかよ!?」

「拘束解除、全魔力解放。
 …………なまいきだよ、おまえ」





 親に向かって生意気とは何だっ! って………………あ、あれ?  
 何だか腹が熱い。下半身の力が抜けて立っていられなくなる。

 …………もしかしてもう攻撃終わってたのか?




 み……みえなかった。
 た……ただなにかが光ったとだけしか…………。
 バ、バカな…………。





「銃弾の速度が400m/s。ライフル銃でも1000m/s。そして雷の速度は150km/sと桁が違うんですが、光は30万km/sと更に桁が違います。
 この魔力レーザー砲デスビームを避けれる人なんてこの世にいませんよ。避けるなら弾道を見切って、打たれる前に避けないとね。ましてや片手だけで弾ける人なんかいるはずがありません。
 ………………てかマズイ。脊椎貫いちゃった。少しは反応してよ。本当に腹のど真ん中当てちゃったじゃんか」


 …………ああ、そっか。そりゃ立てなくもなるわな。
 つか、そのガッカリした顔やめてくんね?

 本気で父ちゃん傷つくから。


「クウネルさんに戻れば、ちゃんと怪我も治ってるはず…………だよね?
 …………ま、いいや。とりあえず父さんの状態でも治しとこう」





 ……………………何でこんな子供に育ったんだ?
 今更だけど、側にいてやれなかったことが本気で悔やまれる。

 アリカぁ、悪い。
 俺達のガキは元気に育っているけど、ちょっと元気が良過ぎるみたいだわ。
 もう、あのお嬢ちゃん達がネギの手綱を握ってくれることを祈るしかないようだぜ。
 ネギのことは別の意味で心配だけど、心配しなくても良さそうなのがせめてもの救いだな。


 …………いや、本当に何でこんな子供に育ったんだ?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ついにネギがドラゴンボールの技にも手を出し始めたようです。


 そしてネギが原作の裏事情を全部知ってしまったようです。
 本当に“何を隠してるか?”という質問は便利ですね。

 でもそれのせいでナギは助かったようです。
 本当はボコろうと思ってたけど、ナギが世界樹の下で生きてることが判明したのでそっちをボコることにしました。
 それにこのネギの原作知識では“ナギが何者かと相討ち”となったことしか知りませんでしたので、ナギが死んだと思っていました。なので会えて結構嬉しかったみたいです。



 え? 裏事情を知ったネギの反応?

「とりあえず、予定通りに“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”壊滅させてから考えようか」

 デスヨ。



 ちょっと夏休みを満喫したら、いよいよ魔法世界ムンドゥス・マギクス編です。
 あとナギは6年前のときはアンチョコ無しで『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』唱えてましたので、多分もうアンチョコは要らなくなっている…………ハズ。

 …………造物主ライフメイカーが憑いていたせいだったらどうしよう?









 ちなみに羞恥プレイがもう1週間続いてたらネギは家出してました。



[32356] 第75話 浮気調査
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/22 10:18



━━━━━ 大河内アキラ ━━━━━



「ええーーーっ!?」

「お父さんが浮気ーーーッ!?」


 待ちに待った夏休み。
 期末テストも無事に学年一位で終わることが出来た。


 これもきっとネギ君のおかげだね。
 私が去年の期末テストで神楽坂さんや夕映ちゃんに負けてから勉強に力を入れるようになったように、クラスの他の子達も真面目に勉強し始めたから全員の成績が上がっているみたい。

 …………まあ、超さんは今回の期末テストで初めてオール満点を逃がしちゃったけど、やっぱり学園祭のことが響いているのかな?
 それでも私達なんかよりはよっぽど点数いいんだけどね。





「アレ? でもゆーなのお父さんて…………」

「うん、確か独身…………」

「とにかく浮気ッ! いろんな意味で浮気なの、浮気ーーーっ!!!」


 …………そのせっかくの夏休みなんだけど、いきなりゆーなに呼び出されたと思ったら何故かゆーなのお父さんのことを尾行することになっちゃった。
 ゆーなは相変わらずお父さんのことが大好きなんだね。

 でもちょっと度が過ぎていると思うんだけどなぁ。














「しっ! …………来たッ」


 あ、ホントだ。
 オープンカフェでコーヒーを飲んでいたゆーなのお父さんのテーブルに、20代半ばぐらいの金髪の女の人が座った。

 綺麗な人。
 大人の女性って感じがする人みたい。





「キャーーーッ! ホントに来たーーー!?」

「スッゴイ綺麗な人だね~」

「ぬぬぬぬ~~~ッ! この…………女狐がッ!!!」


 女狐っ!?
 というより顔が怖いよ、ゆーな。


「ええやんか。お父さん、せっかくあんな綺麗な人と付き合ってるんなら応援したらな」

「うんうん、カッコイイ女の人じゃん。いいと思うよ~」

「えっ!? だだだだって……………………!」

「うーん、でもちょっと若すぎない? どう見ても20代半ばぐらいでしょ?
 私達と10歳ぐらいしか離れていないんじゃないかな」

「!? よく言った、アキラっ!!!
 それにイキナリポッと出てきたあんな金髪に獲られるなんてくやしいじゃん~~~ッ!」


 い、いや…………ただ思ったことを言っただけで、別に反対しているわけじゃ…………。
 まあ、10歳ぐらいしか離れていないお母さんが新しく出来るとなると、私でも遠慮したいところがあるけどさ。

 でもゆーなのそのお父さん好きは何とかした方が良いと思うよ。
 …………って、アレ?







「アレ、ネギ君じゃない?」

「「「え?」」」





 話をしているゆーなのお父さん達のところへネギ君が合流した。
 白いワイシャツに白に限りなく近いクリーム色のジャケット、そして灰色のスラックスに黒の革靴姿。さすがにネクタイまではしていないみたいだけど、ネギ君て休日でもキッチリした格好してるよね。
 今日は暑くて長袖はどうかと思うけど、強い日差しを避けるためにあの白い服を着てるのかな?

 まあ、長谷川が言うには「ネギ先生はただのめんどくさがり屋」ってことらしくて、服装を考えるのが面倒だからああいう格好をしているらみたいだけど、似合ってるからそれでいいと思うな。


 そしてそんなネギ君が、ゆーなのお父さん達と同じテーブルに座ろうとした………………と思ったら、金髪の女の人がネギ君を自分の膝の上に座らせちゃった!?
 えっ!? 何それ!?





「ちょっ!? ゆーな何なんアレ!?」

「わ、私に言われてもわかんないよっ!」

「あーっ! ズルイ~~~ッ! 私もネギ君抱っこしたい~~~ッ!」


 そ、そんなに騒ぐと見つかっちゃうよ!

 でもあの女の人は本当にネギ君と親しそう。
 女の人は膝の上のネギ君を抱き締めたり頬擦りしたりして、ネギ君はそれを当たり前のように受け入れてるし、ゆーなのお父さんはそれを見て微笑んでいる。
 まるで傍から見てたら親子の団欒にしか見えな………………って、まさか?





「…………もしかして、あの人ってネギ君のお母さん?」

「えっ!? ホント、アキラ!?」

「あー…………でも年齢的にあってそうやない?
 ちょっとネギ君とはタイプが違うけど、ネギ君はお父さん似らしいって高畑先生と話してるの聞いたことあるし」

「な、夏休みだからネギ君に会いに来たのかな?
 だったら挨拶しなきゃ…………って、ゆーなのお父さんの相手がネギ君のお母さんっ!?」


 ど、どうなんだろう?
 でも確かにネギ君のお父さんは行方不明って話は聞いたことあるけど、お母さんの話は聞いたことないよね?


「ネ、ネギ君が私の弟に…………?
 お父さんを獲られるのは嫌だけど、ネギ君が弟になるのなら…………でもあのツリ目が怪しいし…………」

「ゆーな、それズルイっ! 私の弟と交換してよ!」

「あ、ええな~。ネギ君に“亜子お姉ちゃん”とか言われてみたいな~」


 …………それいいかも。
 ネギ君みたいな弟なら確かに欲しいなぁ。

 私達が騒いでいる間にも、ネギ君達の話は盛り上がっているみたい。
 凄い楽しそう…………だけど、本当にすごく微妙そうな顔でそれを見てるね、ゆーなは。

 












「…………あ、バレてもうた」

「え?」


 バレたって…………私達のこと?
 …………あれだけ騒げばしょうがないとは思うけど…………。


「うん。これ絶対バレてる
 ネギ君が手招きしてるし、今ウェイターさんが飲み物を7つ持ってきた」


 飲み物7つって…………ゆーなのお父さん、女の人、ネギ君、それに加えて私、ゆーな、亜子、まき絵の7人分?
 相変わらずネギ君は鋭いね。


 ほら、ゆーな。
 とりあえず話を聞いてみればいいんじゃない?

 確かに見た感じは仲の良い親子みたいに見えるけど、ネギ君の性格なら再婚とかの大事のことはちゃんと予め根回ししてから話し進めてくれると思うよ。
 ネギ君が今までそんなこと言ってなかったのなら違うんじゃないかな?





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「よろしくね、お嬢さん達。ドネット・マクギネスよ」


 ゆーなが明らかにホッとしている。
 どうやらドネットさんはゆーなのお父さんとそういう関係じゃないみたい。

 というより年齢がもう40近いってことの方が私は驚いた。どう見ても20代にしか見えないのに、ゆーなのお母さんとお友達だなんて…………。
 外国人だから、私達には年齢の見分けがつかないだけなのかな?





「フフフ、ありがとう。私もまだまだ捨てたものじゃないわね。
 それでどうかしら? この子はちゃんと先生としてやっていけているのかしら?」


 ネギ君の頭を撫でながらのドネットさんの質問。

 やっぱり仲良さそうだけど、ドネットさんはネギ君のお母さんじゃなかった。
 何でもマクギネスさんはネギ君の通っていた学校の職員で、校長もしているネギ君のお爺ちゃんの秘書の人だった関係でネギ君と知り合いだったみたい。


「この子、こう言ったらなんだけど天才…………というか天然というか、かなり変わっているでしょう。
 飛び級とかしてこの幼さで独り立ちしたのはいいけど、ちゃんとやっていけるか皆心配していたのよ。
 この子の従姉からも、今回の出張のついででいいからそれとなく様子を見てくるように頼まれたしね」

「大丈夫ですよー」

「ネギ君のおかげでウチらは皆成績上がって、期末テストで学年一位になれたんですよ」

「はい。他の先生より教え方が上手です」

「でもそのせいで高畑先生が担任クb「ゆーなストップ! あくまで高畑先生が別件で忙しくなったから、ネギ君が代わりに担任になっただけだよっ!!!」…………え? そうなの、ネギ君?」

「…………ノーコメントです」

「(…………高畑さん。これは彼に謝るべきなのかしら)」


 あ……あはは…………。
 きっと大人の世界には色々あるんだよ。





「ま、まあ…………10歳で教師をするなんて不安だったけど、生徒のあなた達がそう言ってくれるなら安心だわ。
 ネギ君のことは小さい頃から知っているから私にとっても息子みたいなものだし、何を仕出かすかわからないヤンチャな子だったから尚更ね」

「えー、ネギ君の小さい時ってどんなんだったんですか?
 それにヤンチャって…………?」

「多分、今とそんなに変わらないわよ。私のネギ君への感想は“何考えているかわからない猫みたいな子”だったわ。
 野山をアチコチ駆け巡って2、3日戻ってこないとかはザラにあったけど、定期連絡とかはシッカリしてたから注意しづらかったしね。
 危ないこともするんだけど、ちゃんと安全を確保してから行なうというか…………」

「アハハ、ネギ君らしいや」

「そのお土産に花とか肉とか鉱石とか色んな物を持って帰ってくるし…………。
 そういえば蜂の巣…………コムハニーを採ってきて、おやつにムシャムシャと食べていたこともあったわ。しかも学校の中でね。かなりシュールな光景だったわよ。
 アフタヌーンティーのお茶請けに出してくれたこともあったけど美味しかったわ」

「みつばちたちが働くのはね、ぼくにみつを食べさせるためさ!」


 ネギ君、ワイルドすぎ。それにいったいどこのくまのプー太郎なのさ?
 らしいといえば、確かにネギ君らしいんだけど。


 でもよく考えてみればネギ君って本当に変わってるよね。
 10歳で教師をするのもそうだけど、頭が良いのに運動とかも凄く出来る完璧超人。

 でも嫌な感じはしない。
 頭でっかちというわけじゃないし、私達にも上手に勉強を教えてくれる。
 ネギ君ぐらいの歳なら女の子に興味が出てきても良さそうなのに、私達を全然そういう目で見てくることはない紳士でもあるし。





「…………そうね。昔からこの子はそうだったわ。
 年上の後輩にもちゃんと勉強を教えたりして面倒見も良かったわね………………その分、プライベートではかなり好き勝手してたけど。
 だからネギ君を麻帆良に行かせたのよ。こういっては何だけど、ウェールズでのネギ君の生活はあまり一般的とはいえなかったから“普通”の生活も過ごしてみて欲しかったのよ。
 あのままウェールズに置いておくと、平日は研究三昧で休日は野山三昧、みたいな生活をずっと1人で過ごしそうだったわ。ネギ君にはもっと人との関わりを持って欲しかった。もちろんそれだけじゃなくて、複雑な大人の事情もあるけどね。
 でもさすがに年齢相応に小学校に入れるのはネギ君のためにも…………何より同い年の子供達のためにもならないと思ったわ。ネギ君は良い意味でも悪い意味でも他の子とは違いすぎるもの。
 それだったらいっそのこと教師をやらせてみるか、ということになったの。ネギ君なら頭もいいし、女性の扱いにも慣れてるから安心だったわ。少なくとも能力的には心配していなかったわね。
 それに…………あなた達には麻帆良の学園長も手を焼いていたらしいしね…………」

「…………え? ウチらのこと、イギリスでも知られてたんですか?」

「ウチの校長と麻帆良の学園長は知り合いなのよ。その線でね。
 麻帆良の学園長が言うには、あなた達は上から押さえつけて矯正するよりも、自ら変わっていこうとする気持ちを呼び起こすやり方があっている、ということだったわね。
 事実、子供のネギ君に勉強を教わることになったら皆頑張り始めたでしょ?
 麻帆良とメルディアナの思惑が一致したのよ。さすがにこんな反則手を常用するわけにはいかないけどね」

「さ、さすがに10歳の外国人の子供に国語まで教わるのはみっともないというか…………」

「だねぇ…………」


 大人の人はいろいろ考えているんだなぁ。
 でも、そのおかげでネギ君がウチのクラスの担任になってくれて皆の成績も上がったし、ネギ君自身も麻帆良の生活を楽しめてるならそれでいいよね。













「そういえばネギ君。いつウェールズに帰省するのか決まったのしら?
 春休みは仕方がなかったけど、夏休みぐらいはネカネさんやアーニャちゃんに顔を見せた方がいいわよ」

「はい。今のところ8/12…………Glorious Twelfthに戻る予定です」

「…………ほどほどにしておきなさいよ。
 それと例の話は校長に通しておいたわよ。許可は問題なく出ると思うわ」


 グロリアス・トウェルフス? 素晴らしい12日?
 どういう意味だろ? それに例の話って?





「ネギ君、イギリスに帰省するの?」

「はい。手紙はよく送っていますけど、やはり一度は顔を見せないといけないですからね。
 それにちょっと向こうの学校にも用事があるので1週間ほど…………」

「あー、それはそうやな。もうネギ君が麻帆良に来てからもう半年経っているんやから、お姉さんも心配してるやろうね」

「そういえば木乃香ちゃんも京都の実家に帰省するって言ってたなぁ。
 くーちゃんや楓さんも帰省するそうだし、超りんにいたっては心を休めるために旅行をするって言ってたもんね。
 …………ネギく~ん、私もイギリス連れてってぇ~~~ん」

「こら、ゆーな」

「まあ冗談はともかく、いんちょ辺りはマズくない?
 本気でネギ君についていきそうだけど…………」

「アハハ、いくら雪広さんとはいえ、さすがに僕の帰省についてくるなんてことは………………ない、のかな?」



 …………ゴメン。ちょっと不安になってきた。
 いくら何でもそれはやめたほうがいいよね。
 それとなく委員長に聞いてみた方がいいかもしれない。














━━━━━ ドネット・マクギネス ━━━━━



「それでは近衛学園長。
 こちらがメルディアナ魔法学校長からの親書です」

「うむ、確かに頂戴した。
 …………すまなかったの、マクギネス殿。どうしても外せない表側の用事があったので、会うのが遅くなってしまった」

「いえ、構いません。
 おかげで久しぶりにネギ君の顔を見ることも出来ましたし、元より明石教授とも話す予定がありましたので…………」


 久しぶりに『咸卦治癒マイティガード』の恩恵に与ることも出来たしね。

 ああ、本当に久しぶりだったわ。
 ウェールズにいた頃もそんなに頻繁にしてくれていたわけじゃないけど、ネギ君が麻帆良に行ってからは無理だったもの。……………………去年ぐらいまでは20代前半に見られていたっていうのに。

 フフフ、まあユーナ達に20代半ばに見てもらえるなんて、私もまだまだ捨てたものじゃないわね。
 『咸卦治癒マイティガード』のおかげで、ユーコが生きてた頃よりも若返っていると思えるし。



 それにしてもユーナはユーコにソックリね。あわてんぼうな所まで。
 私と明石教授が再婚するなんて考えるなんて…………

 でもユーナはユーコに似た美人に育つわね。友人にも恵まれているようだし。
 久しぶりに日本に来たのだから、この後にでもユーコの墓参りに行かなきゃ。







「…………フム、メルディアナもネギ君に協力してくださるということか」

「もちろんです。ネギ君が関わっているとなると他人事ではありませんし、何よりここまでの大事です。
 ただ麻帆良と同じく混乱を避けるために、まだ詳しい事情は校長と私しか知りません。
 出来るだけ便宜を図りはしますが、“周りにバレないように”という前提が付きます。本格的な協力は今回のネギ君の調査次第となりますね」

「わかっておる。こんなことを公にすることには出来んからの。
 麻帆良としても同じじゃ。知っておるのはワシとタカミチ君と明石教授。それにネギ君関係者だけじゃからの。明石教授にはマクギネス殿を通じてメルディアナとの連絡係を務めてもらおうと思っておる。
 …………ああ、それとまだ本人達には教えていないが、今度麻帆良の魔法生徒を魔法世界ムンドゥス・マギクスに短期交換留学生の形で送ることになっておっての。
 しかしこんなことが判明したので引率の魔法先生をつけることになったのじゃ。その引率となるガンドルフィーニ先生には後日に詳しい事情を話すことになるじゃろう」

「高畑さんや明石教授なら大丈夫でしょうし、ネギ君が選んだ子供なら大丈夫でしょう。あの子は昔から他人を見る目が鋭いですからね。
 ガンドルフィーニ先生のことは存じませんが、確かに生徒を魔法世界ムンドゥス・マギクスに送るとなると、事情を知っている魔法先生が同行なされた方が良いでしょうね」

「まさか中止にするわけにはいかんからのぉ。
 そんなことしたらある程度事情を知っている関係者に、魔法世界ムンドゥス・マギクスに何かがあると教えるようなものじゃ」


 学園長にも立場がおありでしょうしね。


「イギリス現地時間の8/14に魔法世界ムンドゥス・マギクスゲートが開くのじゃったな。
 麻帆良生徒のメガロ滞在予定は8/9~14で、使用するゲートもメルディアナではないから入れ違いになると思うが、もし万が一何かあったらよろしく頼みますわい」

「わかりました。お任せください。
 ネギ君達は8/13にウェールズに帰省して、従姉や校長と会って一日ゆっくりする予定です。そして8/14に魔法世界ムンドゥス・マギクスに移動ですね」

「ウム。ネギ君もたまにはゆっくりするのがよいじゃろう。彼には世話になっておるからの。
 いやはや、それにしてもネギ君は凄いですな。あのような立派な子供を育てられるとは、メルディアナの教育方針を見習いたいものですぞい。
 いったいネギ君にどのような教育を施したのですかな?」

「フフフ、恥ずかしながら、ネギ君に関しては本人の努力と才能が大きいでしょう。
 私達がしたのは基礎を教えるのと、ネギ君が自由に学べる環境を作り上げただけです。それをあそこまで磨き上げたのはネギ君自身です。
 私達は特に何もしてません。褒められるべきはネギ君ですわ」

「……………………やっぱりそうなのかね」


 ア、アラ? 近衛学園長が何故か一気に疲れた顔に…………?

 もしかしてネギ君たら、麻帆良でもご迷惑かけているのかしら。
 あの子、天然だものねぇ…………。


 まあ、関西呪術協会の内紛を治めるのに貢献したりなど、年齢不相応の活躍をしているらしいものね。
 近衛学園長達が驚くのは無理もないかしら。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「…………という感じだったわ。
 ネギ君も元気だったし心配することはないわよ、ネカネさん。アーニャちゃん」

「……………………」

「まあ…………ありがとうございます。マクギネスさん。
 わざわざネギの様子を見て来て頂いてもらって…………」

「構わないわ。私も心配だったし、役得マイティガードもあったしね」


 …………『咸卦治癒マイティガード』が“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”の使っていたという『闇の魔法マギア・エレベア』と『咸卦法』を組み合わせたものだっていうのは今回初めて知ったけどね。
 確かにネギ君が新たに開発したオリジナル魔法とは聞いていたけど、そんな代物だと思っていなかったわ。近衛学園長から言われて本当に驚いたわよ。
 きっとこのことはネカネさんも校長も知らないのでしょうねぇ。

 それにしてもアーニャちゃんどうしたのかしら?
 せっかく出張が終わってメルディアナに戻ってきたから、ネギ君の近況を教えたのに不機嫌になるなんて?
 てっきりネギ君の近況を聞けば喜ぶと思ったんだけど…………?


「ネギがご迷惑お掛けしていないか心配でしたけど、一般の生徒の皆さんがそう言ってくれたならとりあえず安心出来ます。
 ネギがお世話になっているコノカさんから何度か電話で様子を伺ったことありますけど、10歳の子供が先生だなんていまだに信じられなくて…………」

「大丈夫よ。ネギ君はうまくやっているようだったわ。
 生徒の皆さんからも好かれているみたいだったし」

「…………ッ!?」

「それはなによりです。
 コチラでもネギは後輩の人に勉強を教えてたりしてましたけど、それが役に立ったようですね」


 ええ、まさか成績万年最下位のクラスを学年トップにするまでとは思っていなかったけど。
 …………そういえば高畑さんは出張中だったから結局会えなかったけど、校長からネギ君がお世話になっていることについてお礼を言ってもらった方がいいかもしれないわね。ウン。





「それにしても魔法の国に行くなんて…………。
 いったい何をしに行くのかしら?」

「…………麻帆良の学園長のお使いよ。私もメガロまでは一緒に行くから心配することないわ。
 ネギ君達の強さも心配しなくてもいいぐらいのものみたいだしね」

「えっ!? …………ネギ達の強さって…………どれくらい?」

「そうねぇ。麻帆良の学園長が言うには、ネギ君の従者になった子達だけでも、全員でかかれば高畑さんに勝てるぐらい。
 ネギ君に至っては“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”に勝てるぐらい…………という感じらしいわ。
 …………学園長はやけに言葉を濁してた…………というか言いたいけど言えない顔をしていたのが気になったのだけどね」

「ネ、ネギの従者の人…………“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”……………………くっ!」

「まあ、ネギったら凄いのね。
 私が見たことあるのは治癒魔法と転移魔法ぐらいだったけど…………」

「あの子はメルディアナでは授業は真面目に受けてたけど、それ以上に山篭りで好き勝手してたときに色々と自己流で修行していたらしいからね。そもそも力をひけらかすような子じゃないし、やっぱり相変わらず名声とかには興味ないみたいよ。
 従者の子達に魔法も教えているみたいだし、もうすっかり“先生”ね。その従者の子達とも会ったけど、皆良い子だったわよ。ネギ君とも互いに分かり合えていたみたいだs「つまりイチャイチャしてるってことネ!!!」キャアッ!?」



 い、いきなりどうしたの、アーニャちゃ…………って、アラ?
 もしかして嫉妬かしら?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ドネット達はネギの実力は知りません。

 そしてガンドルフィーニの魔法世界行きが確定しました。学園長の八つ当たり乙。
 でも生徒だけで送るっていうのはもともと変ですよね。



[32356] 第76話 アーニャ襲来
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/22 10:19



━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



「…………というわけで、何故かアーニャが日本に来ることになったそうです」



「…………何でまた? ネギが8/12にウェールズへ帰るってわかったんでしょ?」

「さあ? “せっかく帰ってくるのに、ウェールズにいるのは一日だけなんて許せない!”とかネカネ姉さんに言ってたらしいですけど…………」




 あー…………やっぱりアーニャちゃんもネギ君のこと好きやからなんやろうなー。

 ネギ君の従姉のネカネさんとは何度か電話で話して情報収集してたけど、アルちゃんとネカネさんから見てもアーニャちゃんはネギ君のこと好きなように見えてたらしいし…………。
 きっとウチらのこととかでテンパってるんやろ。

 何しろ好きな男の子が修行で日本に行ったと思ったら、女子中の教師になって女の子に囲まれている生活を送るようになって、更には“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”を7人も作ったんやからなぁ。
 そりゃアーニャちゃんからしたら気が気じゃないはずや。



 …………これはネカネさんに実際に会って挨拶する前の前哨戦やな。
 アーニャちゃんの方がウチらよりネギ君との付き合い長いんやから、ウチらの中に混ざるんいうなら歓迎するんやけど、ネカネさんから聞いたアーニャちゃんの性格からしてそんなことはしなさそうやもんなぁ。
 素直じゃない性格のせいでネギ君に好きとは言えないやろうし、きっとネギ君を分け合いっこするっていうのにも反対するやろ。

 まあ、ネギ君の性格なら告白していないアーニャちゃんよりも、告白したウチらの方を優先してくれるやろうけど、それでも周りの人達皆にウチらのこと受け入れて欲しいからなぁ。
 何とかしてアーニャちゃんとも仲良くしないと…………。









 え? ネカネさんとの電話?

 …………アレやよ。ネギ君の好き嫌いとかアレルギーとかの確認するために電話しただけやよ。
 電話番号はおじいちゃんに聞けば教えてくれたし、ネカネさんからもネギ君の麻帆良での生活振りを教えてくれるように頼まれたから、それからも何度か電話で話しただけやよ。

 ………………アスナ達はこのこと知らんけどなぁ。









「…………まあ、アーニャのことはアーニャが日本に来てから話をしましょう。
 ちょうどクラスの皆さんと海に泊まりで遊びに行く日に来るみたいなので、僕は空港にアーニャを迎えにいってから合流します。
 それでは次なんですが…………こういうのを超さん達に作ってもらいました」


 そういってネギ君が見せてくれたのは白いユニコーンの頭を模したバッジ。
 あー、コレかわええしかっこええなぁ。


「今までに渡した発信機の代わりになるものです。超さんの持ってる技術を全て叩き込んで作ってもらったので性能はいいですよ。
 それと僕達の団体の対外的な名前がないと魔法世界ムンドゥス・マギクスでは不便みたいなので、“CORNUコルヌ ALBAアルバ”…………“白き角”って名乗ろうと思います。
 父の関係上、魔法世界ムンドゥス・マギクスで“スプリングフィールド”の名前を出すとめんどくさいことになりそうですし、いちいち“スプリングフィールド御一行様”と呼ばれるのもアレですしね」

「“白き角コルヌアルバ”…………?」

「うん! ええと思う!」


 白き角…………ネギ君のユニコーンガンダム由来やな。

 “白き角コルヌアルバ”のメンバーはネギ君とネギ君の従者であるウチら。それと超りんとハカセちゃん、龍宮さん、茶々丸さんの学園祭でのペナルティ組に、エヴァちゃんと千雨ちゃん。あとコタ君。
 そして“白き角コルヌアルバ”の目的は、魔力減少に伴う魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の阻止!

 とはいえ今回はそのための調査だけやけどね。



 その今回の調査も大部分は魔法世界ムンドゥス・マギクスに置いてくるちびネギ君達に任せるし、実質ウチらは魔法世界ムンドゥス・マギクスの空気を感じるためにいくみたいなものやな。
 さすがに1週間足らずじゃ出来ることは限られているし、ハカセちゃんは麻帆良に残って魔力輸送扉ゲートの製造に専念するんやし。


 …………千雨ちゃんもついて来ることになったんは予想してたけど………………やっぱり千雨ちゃんもそうなんやろなぁ?
 最近のネギ君のことを見る目が前とは違ってるし、お義父さまに会いに行くときも一緒に来たし…………。
 ま、千雨ちゃんなら知らない仲やないから、ちゃんと同盟規約守ってくれるんなら別にいいんやけどね。

 “白き角コルヌアルバ”の中でも、ネギ君に怯えてるハカセちゃんとネギ君の子孫の超りんは入らないと思うけど、茶々丸さんは入るやろうし………………龍宮さんはどうなんやろうなぁ? 明らかに学園祭からネギ君のこと意識し始めた感じがするんやけど?
 ネギ君とばったり会ったときなんか、何故か顔赤くしながらビクついておヘソを手で隠して後ずさるようになったし。

 もし更にアーニャちゃんも入るとなると、えーっと…………12人?
 さすがにこれ以上は増えて欲しくないんやけどなぁ。





 …………アルちゃん、とりあえずアーニャちゃんのことについて、もう一度詳しく教えてくれへんかな。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 そしてアーニャちゃんが日本にやってくることになった日、何とかジャンケンで勝利して、朝早くからアーニャちゃんを空港まで迎えに行くネギ君についていけることになった。
 何人もついてったら邪魔になるし、交通費もバカにならんしね。

 せっちゃんもついて来たかったみたいやけど、アスナの護衛もあるからなぁ。
 ウチはネギ君が側にいれば怖いもんはないから安全やしね。アスナの方もエヴァちゃんいれば大丈夫だと思うけど。

 アスナ達は…………今頃麻帆良を出発した頃やろうな。
 アーニャちゃんの飛行機に遅れもなかったみたいやし、これなら予定通りに海で合流出来そうやな。





「久しぶりね! チビでボケボケなところは相変わらずみたいね、ネギ!!!」

「久しぶりだね、アーニャ。色々話したいことや聞きたいこともあるけど、まず最初にそのトンガリ帽子とローブを脱ぐんだ。明らかに目立ってる。ここは日本なんだよ、アーニャ。
 ローブを脱いで…………ローブの下も微妙だなぁ。仕方がない、服買うか。木乃香さん、アーニャの服のコーディネイトお願いします。僕は切符とかお弁当とか買ってきますので」

「了解や。アーニャちゃん、近衛木乃香やよ。よろしくね」

「…………え? ちょ、ちょっと待ってよっ!?」


 あーん、アーニャちゃんは写真で見たのよりかわええなぁ。
 お姉ちゃんがアーニャちゃんに似合う服選んであげるからなー。



 さて、それじゃアーニャちゃんの服はどうしようかな~。
 空港にはブランドショップとか免税店がたくさんあって便利やわぁ。

 …………フム、ここは単純に白のワンピースというのはどうやろか。
 これなら今から行く海でも変じゃないし、アーニャちゃんの白い肌と赤い髪の毛に良く映えそうやね。
 うん、これに決定! それと日焼け止めも忘れないように塗っとかないと駄目やな。





「え? あ…………お、お金…………」

「ええって、ええって。ネギ君から預かっとるお金があるから平気や。アーニャちゃんが持ってきたお金はネカネさん達へのお土産買うのに使ったらええよ」

「あ、ありがとう…………」


 いえいえ、どういたしまして。
 時間があったらもうちょっと色んな服着せてみたかったけど、それは麻帆良に行ってからにしようなぁ。
 ウチとしてもアーニャちゃんとは是非とも仲良くしたいんやしね。


「え……えと、木乃香…………でいいのよね?」

「そうやよ。よろしくね、アーニャちゃん。
 ついでに言うなら魔法関係者でもあるんやけど、これから海で合流する子達の半分以上は魔法関係者やないから、向こうではあまり変なこと言わんといてね。
 今は第三者にはたわいのない会話に聞こえるようにする認識阻害使ってるから平気やけど」

「わ、わかったわ。その……木乃香はネギの“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”…………なのよね?」

「うん、その通りや。関係者になったのは今年の3月の終わりからやからまだまだ新米やけどな。
 ネギ君やエヴァちゃんに色々教わっとるんよ。特にネギ君からは治癒魔法を教わってるんや」

「そして“紅き翼アラルブラ”の…………ネギのお父さんの友人の近衛詠春の娘さん」

「そうやよ~。よく知ってたなぁ。ネギ君から聞いたん?」

「…………くっ、ヤマトナデシコ…………キョウトビジン……勝ち目が…………ネギの馬鹿…………」





 アハハ、アーニャちゃんたら何ブツブツ言うてんの?
 別にケンカなんかするつもりはないんやから仲良くしようや。
 アーニャちゃんのことならせっちゃんやアスナ達も歓迎してくれるからな~。


 そうこうしてるうちにネギ君がビニール袋を片手に提げて合流してきた。
 よし、それなら海に向かって出発やな。とりあえずアスナ達にメール送って、予定通りでええこと伝えておこか。







「お待たせしました。次の電車はまだ少し余裕はありますから、走らなくても大丈夫そうです。
 それにしても………………小さくなったね、アーニャ」

「誰が豆粒チビかぁっ!?」

「ゴメン、僕が大きくなったんだった。でもちゃんと日本語も出来るようになったなんて凄いじゃないか。
 あと可愛くなったね、アーニャ」

「フフン! ちゃんと日本語の勉強したんだからね…………って、いきなりいったい何言ってんのよ!?」

「さ、電車はアッチだよ。とりあえずホームについてから話をしようか」

「え、ちょっ! 待ちなさいよ、このボケネギッ!!!」


 フフフ、2人とも仲ええなぁ。きっとイギリスでもいつもこんな感じやったんやろな。
 ネギ君がからかって、アーニャちゃんがそれに反応する。

 こういう幼馴染の形もええなぁ。
 せっちゃんはからかったら顔真っ赤になって恥ずかしがるから、あまり良い反応してくれないんやもん。
 いや、もちろん顔真っ赤なせっちゃんも可愛いけどね。


 それにしてもアーニャちゃんが良い子でよかった。
 でもやっぱりアーニャちゃんは予想通りの性格みたいやから、慎重にことを進めていかんとなぁ。














━━━━━ アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ ━━━━━




 な…………なななどーなってるのこのクラスは?
 皆15歳くらいなんじゃなかったっけ?





「この子がネギ君の幼馴染のアーニャちゃんかぁ。
 マクギネスさんから聞いてたよぉー」

「へぇ、小っちゃくて可愛いねー。
 あとでネギ君の昔について取材させてくれない?」

「アラアラ」





 何よ…………コレ? このクラスってば巨乳の巣窟じゃない!?
 こんなところにいたらネギは駄目になっちゃうわ!

 ユエやノドカ達とは友達になれそうだけど、この人なんか…………っていうか、この人って本当に中学生?
 見た感じ一番の巨乳みたいだけど、どう見ても中学生じゃなくて20代にしか見えn「オホホホホ」ってヒィッ!? 殺気!?!?


「あら? どうかしたのかしら、アーニャちゃん?」

「何でもないです、マムッ!!!」





 …………くっ、でも本当に大人っぽい人が多いわね。
 皆ビキニとかが似合っていて、ネギが買ってくれた私のワンピースの水着はどう見ても子供用だし…………。
 いや、ネギが似合うって選んでくれたのはいいんだけどね。

 私と同じくらいの背丈の人は、あの双子姉妹と金髪の女の子ぐらいじゃない。
 あの人達が15歳ってのもおかしいように感じるけど、仲間だからそれは別に気にしn「殺すぞ、小娘」ってヒィッ!? またもや殺気!?!?


「(エヴァちゃんはしょうがないんやよ。10歳のときに吸血鬼になってから肉体年齢は変わってないらしいから)」

「(くそ、他のクラスメイトがいるから幻術も使えんし…………)」





 ブフォッァア!?!?
 何で“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”が海に遊びに来てんのよぉーーーっ!?

 “闇の福音ダーク・エヴァンジェル”が麻帆良にいるってのは聞いていたけど吸血鬼でしょおおぉっ!
 それが何で流れる水があるところに来てんのよ!?

 た、食べられるぅーーーっ!?!?







「…………ハァ、わかったわかった。少し落ち着きなよ、アーニャ。
 すいません、皆さん。ちょっと休憩兼ねてアーニャと少し話をします。どうやら知らない人がたくさんいるせいでテンパッちゃってるみたいで…………」

「あははー、わかったよー。
 アーニャちゃんもせっかく日本まで来たんだからネギ君とお話したいよねぇ」

「よーし、じゃ私らはビーチバレーでもやるかぁ!」


 何アンタはそんなに平然としてんのよーーーっ!?
 電車の中じゃ私のロンドンでの暮らしぶりを聞かれただけで終わっちゃったし、いったいネギは麻帆良で何をやっているのよ!?
 ああ、もうこのボケネギッ!!!





「はいはい、こっちこっち」









 ネギに手を引っ張られて“海の家”っていう店に移動する。
 “海の家”って砂浜にたくさんあったけどチェーン店かしら…………? “月極”って駐車場みたいに。
 近い場所に密集して建てても利益上がるものなのかしらね?


 木乃香とかユエとかが一緒についてきたんだけど、よくよく皆の水着を見るとユニコーンのバッジをつけている。
 しかもそのバッジ自体には一般人が気づかないような認識阻害がかかっているのがわかるわ。関係者ならすぐにわかる簡易的なものでしかないけど。
 ネギも同じバッジをつけてる。

 …………ということは?





「…………ネギ、この人達って関係者なの?」

「そうだよ。皆さん関係者。そして僕の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”の人達。こっちのエヴァさんと茶々丸さん、長谷川さんは“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”じゃないし、長谷川さんは魔法とかも使えないけどね。
 今度“白き角コルヌアルバ”って団体を作ることになってさ。バッジつけてる人はその団員」

「…………っ、何で女の人ばっかりなのよ!?」

「僕以外の男もいるよ。今頃麻帆良で宿題しているだろうけど。
 ああ、その彼とは『仮契約パクティオー』なんかしていないから勘違いしないでね」


 さすがに男もなんてのは嫌よっ!
 『仮契約パクティオー』するとしてもキスでじゃないと思うけど…………。





 それにしても、こんな人達がネギの“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”になってるなんて…………。



 1人はネギと一緒に迎えに来てくれた木乃香。確かネギが木乃香の部屋に居候しているはず…………。
 流れるような黒絹の髪をしていて、体つきは年相応で凄いとはいえないけど、それでも日本美人なのは間違いないわね。日本のお嬢様って感じがするわ。
 今は絶滅したといわれているヤマトナデシコが、まさか麻帆良にまだ生息していたなんて…………。



 そしてアスナ。この人もネギと一緒に住んでいるのよね。
 ネギから送られてきた写真の中では一番写ってたし、さっきから見ててもネギとのスキンシップを一番とっているのがこのアスナだったわ。何故かクールさとバカっぽさという相反する属性が混在している感じがするわね。
 くっ、それになんてバディなの! 敵ねッ!!! 一番の要注意人物だわッ!!!



 次にセツナ。
 この人もヤマトナデシコって感じね。肌がとても白いし、キモノを着てコノカと並んだらとても綺麗になりそう。
 体つきはスレンダーだけど痩せていてガリガリというわけじゃなくて、うっすらと筋肉がついているのがわかるわね。
 逆にこのスレンダーな体が綺麗に見えるわ。



 ノドカ。大人しそうな子ね。…………男ってのはこういう大人しい子の方が好きなのかしら?
 セツナより体つきはいいんだけど、何だかセツナが細いせいでノドカは逆に丸っこく見えちゃう。
 でも太っているわけでもないし可愛いわ。大人しく本を読んでいたら絵になりそうな子ね。



 ユエは………………仲間ねッ!!!



 次にカエ「ちょっと待つです! 何故私を見て嬉しそうな顔をしたのですか!?」大丈夫、私達には未来がまだあるもの! 年下の私には特に!!!「そのグッジョブは何ですかっ!?」…………次にカエデ。
 な…………なんてワガママバディ!? 身長も6フィート以上ありそうだし、何よりもこのムネッ!!! アスナなんか目がないじゃいぐらい大きいじゃない!!!
 え? この人本当に中学生? 15歳?



 最後にクーフェイ…………チャイニーズね。名前はフェイか。
 何というか…………健康的な美しさっていうのかしら。芸術品のような磨きぬかれた身体をしてるわね。
 ノドカとそんなにムネの大きさとかは変わらないのに、フェイの方がスレンダーに感じるわ。





 こ…………この人達がネギの“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”。
 く、皆可愛い子ばっかり。この人達のせいでネギは帰ってこなかったという訳?





 それに“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”じゃないとはいえ、チサメも可愛いわね。
 確かチサメはネギと一緒にコスプレ写真撮ったりしてるはずの人じゃない。
 く…………ネギがジャパニメーションに興味を持ってることからネギの気を引くなんて…………しかもこの人もスタイルいいわね。美乳だわ!



 そして“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”。エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。
 …………さっきは驚いちゃったけど、どう見ても10歳くらい。私と同じくらいの年齢よね? 本当にこの人が“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”?
 木乃香が言うには肉体年齢が10歳で止まっているからみたいだけど…………金で出来たような流れる髪の毛に雪のような白い肌。くっ、美少女だわ。同年齢だとしても負けているような感じがする。オノレ…………金髪なの!? 金髪がいいの!?
 ネカネお姉ちゃんが金髪だし、やっぱりネギの女の人の基準はネカネお姉ちゃんなのかしら?



 …………それとこのチャチャマルって人、頭にアクセサリつけてるけど何なのかしら? 何だか違和感感じるんだけど…………認識阻害?
 この人も綺麗だしワガママバディをしてるみたいだけど、どうもおかしいわね。ニセモノ?





 それにしても全く何なのよ、ここは?
 皆綺麗な人たちばっかりだし、皆ネギのことを熱い目で見ちゃってるし…………。
 こんなところにいたらネギは駄目になっちゃうわ! さっさとネギをウェールズに連れて帰らないと!!!





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ユニコーンの語源はラテン語の“unus一つ”と“cornu”の合成語だそうです。
 ラテン語ではこれらを合わせて“Unicornisユニコーン”です。

 原作通りに“白き翼アラアルバ”ってのも捻りがないと思ったので、出番が少ないとはいえせっかくガンダムUCを使っていることから“白き角コルヌアルバ”に変更しました。“白い”が“ALBAアルバ”ですね。
 バッジはバナージのパイロットスーツについているエンブレムを想像していただけるとわかりやすいと思います。


 …………ちなみにバッジ内には極小の式神符が仕込まれていて、何かあったときはちびネギが発現します。
 顕微鏡を使って米粒に文字を書くような作業をせっせと頑張りました。内蔵魔力は『千の雷キーリプル・アストラペー』程度です。



[32356] 第77話 ウェールズ帰郷
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/22 10:19



━━━━━ アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ ━━━━━



 ウェールズよっ! 私は帰ってきた!!!







 …………帰ってきたんだけどね。
 帰ってきたのはいいんだけど、どーしていきなりメルディアナ魔法学校の校長室に到着して、どーしていきなり目の前におじいちゃんがいるのかしらねー?








「…………というわけで帰ってきました、ウェールズ。
 所要時間は1秒。転移魔法って本当に便利ですよね~」

「待たんか、この不法帰国者共」

「あ、おじいちゃんおひさー。ネカネ姉さんいるかな?」


 ちょっと待ってーーーっ!?!?

 わざわざ飛行機に乗って迎えに行った私が馬鹿みたいじゃない! 飛行機代だって安くないんだからねっ!
 転移魔法で帰ってこれるんだったら、もっと頻繁に帰ってきなさいよぉーーーっ!!!





「そんなこと言われてもなぁ…………。
 アーニャだって僕が転移魔法使えること知ってたはずでしょ。よくそれで故郷の村に帰ってたんだから。今回だって日本に遊びに来たかったのなら、電話してくれれば迎えに行ったのに…………」

「日本とウェールズを行き来出来るまでとは思っていなかったわよ!
 そんなこと出来るんなら手紙出すだけじゃなくて、少しは顔見せに帰ってきなさいよ!」

「あのねぇ、アーニャ。僕は修行で麻帆良に行ったんだよ。それなのに転移魔法で頻繁にウェールズに帰るっていうのはどうかと思うけどね。
 それだったらわざわざ遠い麻帆良まで行く必要なんかなかったでしょ。ねぇ、おじいちゃん?」

「…………間違ってはおらんが、ネギが言うと間違っているとしか思えんのは何故なんじゃろうか?」

 
 た、正しいことを間違っている人から言われるのが、こんなに気障りなものだとは思わなかったわ。


 航空チケット代……往復で1000ポンド近くしたのに…………日本円で20万円ぐらい。
 で、でもこれで帰りの分のチケットはいらなくなるわね! だったら払い戻しすれば、いくらかお金が戻ってくるし…………。


「却下。それやったらアーニャは書類上帰国していないことになっちゃうよ。日本に来たときはちゃんとパスポートとか使って正規の手段で来たんだからさ。
 だから僕も一度日本に戻って、予定通りに8/12に改めて飛行機で来ることになるからね。アーニャもその時に一緒に帰ってこようよ。
 …………まあ、空港内部の入国管理の前に転移すれば大丈夫かもしれないけど…………」

「こんなところでそんなこと言わんでおくれ。さすがにそれはワシも認められんからのぉ」


 キィィィーーーッ!!!

 日本なんて行くんじゃなかったわ!
 サシミ、テンプラは美味しかったし、露天風呂とかは凄かったんだけど!!!
 あんな乳軍団はいるし、ネギの“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”はたくさんいるしで最悪だったわよーーーっ!!!









「え、えーと…………もういいのかな、ネギ? お、お邪魔しまーす」

「へぇ~、ここがネギ君の通ってた学校なんか~。せっかく来たんだからネカネさんに挨拶せなアカンなぁ」

「え? ここって校長室ですか?」

「さ、さすがはネギ先生。故郷の村に設置してあった転移魔法陣を経由したとはいえ、麻帆良とメルディアナ魔法学校を繋げるとは…………」

「ネギ先生せんせーは治癒魔法に次いで転移魔法が得意だからねー」

「修学旅行のハワイに引き続いて2回目の海外旅行がイギリス。しかも不法入国するとは思っていなかったでござるなぁ」

「麻帆良よりは小さいアルね~」

「学園都市と学校一つを比べるのはさすがに可哀想だと思うぞ…………」

「ほほぉ、ここがメルディアナか。ブリテンに来るのはいつ以来だったかな。次はネギとナギの生まれ故郷という村も見てみたいものだが…………」


 アスナ達まで!? やっぱりネカネお姉ちゃんに挨拶するつもりなの!?
 っていうか“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”までメルディアナに連れて来て大丈夫なの!?


「…………やれやれ。ドネットから聞いておったがお主は変わらんのお。
 とりあえずネカネを呼ぶから大人しく待っておれ。お嬢さん達の紹介はそれからお願いする。
 ああ、ついでに人数分のお茶でも淹れておいてくれ。どうせ11時のお茶イレブンジィズを見計らってきたのじゃろう」

「まあね。お土産に日本のお菓子持ってきたよ」


 夕飯が終わってしばらくしてから、ネギが場所を変えて一服しようと言って転移魔法を使ったと思ったら、まさかこんなことになるなんて…………。

 ううぅ…………私の馬鹿。
 ネギがわけのわからないことを考えているのはいつものことだってわかってたのに。


 くっ! 勝手知ったる校長室といわんばかりに手早くお茶の準備をするネギが恨めしい。
 麻帆良に行ったせいで木乃香達に誘惑されてネギの性格が変わったんじゃないかと心配していたから、ネギが全然変わってなかったのは嬉しいけど…………。
 それでも全然変わっていなかったのは別の意味で悲しいわ。

 少しはマシになってくれていたら良かったのに…………。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 …………お土産はヨーカンか。
 アンコを固めた和菓子だったわね。

 最初は豆を甘く煮るっていうのは戸惑ったけど、食べてみると爽やかな甘さで美味しくて、おとといの海の家で食べた宇治金時ってカキ氷も新鮮だったわ。
 日本の食べ物が美味しいってのは本当ね。このヨーカンもサッパリしていて美味しいし。
 でも、紅茶にはやっぱりスコーンとクロテッドクリームみたいな濃厚な味わいの方があっていると思うわ。


 …………旅館でサシミとテンプラは食べたから、今度はスシを食べてみたい。





「ん、了解。学園長に良い店聞いておくよ。麻帆良戻ったら食べに行こうか」

「あら、そう。じゃあお願いね…………って、違うわよ!!!」

「コラ、アーニャ。お客様の前でなんですか」


 ご、ごめんなさい、ネカネお姉ちゃん。


「でも安心しました。
 “魔法使いの従者ミニストラ・マギ”が7人も出来たなんて聞いたときは驚きましたけど、あなた達みたいな元気で可愛い人達に支えられて…………。
 これからもネギのこと、よろしくお願いします」

「「「「「それはもう是非とも!」」」」」

「任せろ。ネギは私が最高の男に育て上げてやる」

「…………私は違います」「私も違うな」


 ネ、ネカネお姉ちゃんまでも懐柔されちゃった。
 そんな簡単に“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”のことを流しちゃっていいの? そもそも“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”のことは…………?


 それにしても麻帆良に帰ったら、また“白き角コルヌアルバ”の人が増えるなんて…………。
 あのマナって人も本当に15歳なの!? カエデみたいなワガママバディじゃないっ!?

 いくら麻帆良の学園長のお使いとはいえ、この人達と一緒に魔法世界ムンドゥス・マギクスに行くなんて…………。
 そもそもいったい何しに魔法世界ムンドゥス・マギクスまで行くのよ?





「おじいちゃん。麻帆良の学園長から例の話は聞いてるの?」

「ん? おお、聞いとるよ。面倒なことになったようじゃな。
 メルディアナにある魔法世界ムンドゥス・マギクスへのゲートは8/14の早朝に開くことになっておる。手続きとかは済ませておいたので安心せい。
 ナギの友人も向こうで待っていてくれることになっておる」

「ありがと…………父さんの友人ってことはジャック・ラカンさんかな?
 あ、それこそ父さんといえば、麻帆良でアルビレオ・イマさんがアーティファクト使ってだけど父さんと会ったんだよねー…………」







 …………楽しそうに麻帆良での出来事を話すネギ。
 本当にメルディアナにいたころと変わっていないわね。確かに背は伸びたみたいだけど、相変わらずボケボケだし…………。





「…………そんでフェイトってのにお腹に穴空けられちゃってさー」

「そ……そうか…………相変わらずじゃのぉ」

「(お、落ち着くのよ、私。大丈夫ってわかってたんだから、お客様の前で気を失っちゃ駄目…………ッ!)」


 ………………本当に相変わらずねー。

 治癒魔法の実習で自分の腕切り落とそうとしたことを思い出すわ。
 あのときはおじいちゃんが必死に止めてくれたから助かったけど…………。







「ネギも頑張っているようじゃの。コノエモンから話は聞いていたが、先生をするという修行も順調に進んで何よりじゃ。
 …………タカミチ殿にはワシからお礼を言っておくからな」

「…………うん、お願い」

「ウム、任せなさい。
 さて、それではワシは仕事があるのでそろそろで失礼するよ。お嬢さん方、これからもネギのことをよろしくお願いしますぞ」

「あ、もうこんな時間か。僕達もそろそろお暇しましょうか。
 ネカネ姉さん、次は事前に連絡をとっておいて、もう少し長居出来るようにするからね」

「ええ、楽しみにしているわ」

「それじゃあ帰る…………前に、皆さんはちょっとここで待っていていただけますか。
 一度故郷の村に戻って、あそこに設置してある転移魔法陣の様子を見てきます。あそこの魔法陣を魔法世界ムンドゥス・マギクス往来用に改造もしなきゃいけないですしね。
 20分もかかりませんので」


 そう言って、校長室に置かれていた大きな姿見に入り込んでいくネギ。
 鏡を使った転移魔法か。ますます魔法の腕も上がっているようね。
 “闇の福音ダーク・エヴァンジェル”に勝てることから魔法戦闘の修行もシッカリやっているのだろうし、何より普通の魔法使いの10倍もある魔力量が…………。
 というかいったいどんだけ強いのよ、ネギはっ!?!?


 昔から何でも知ってて何でも出来るような底の知れなさのあったネギだけど、麻帆良に行ってから底知れなさが更に深くなった気がする。
 私だって占い師の修行の傍らで戦いの修行も頑張って、今度こそ強さで追い抜いたと思ったのに…………。


 キレイなお姉さんたちに囲まれてヘラヘラしちゃってさ…………。
 いつも先に行っちゃうんだから…………バカ。










「…………ネギ君のいない今なら丁度ええな」


「そうね。だったら私が代表して言うからね。
 …………あ、あの、ネカネさん。私達……ネギのことについて、ネカネさんに言わなきゃいけないことがあるんですけど…………」

「あら? 何でしょうか、アスナさん? ネギが何かしたのでしょうか?」

「いえ、どちらかというとしたのは私達の方です。
 どうか怒らないで最後まで話しを聞いてください………………気絶もしないでください」


 …………何よ。何なのよ? いきなりアスナ達が真剣な顔になるなんて…………。
 何でチサメとマナはお茶を持って遠く離れた席に移動するのよ? しかもチサメ達も微妙に顔赤くない?

 いったい何が起こるのよ?














━━━━━ ネカネ・スプリングフィールド ━━━━━



「……………………」

「え……えと、アスナさん…………本気で仰られているのですか?」

「はい、私達はネギのことが好きです!
 …………といっても告白したのは私達からですのでネギは悪くありません! ですので気絶はしないでください!」


 お、驚きましたけど、気絶はしませんよ。
 ネギは私のことを何て皆さんに説明したのかしら?

 …………それにしても、こんなたくさんのお嬢さんが“恋愛”という意味でネギのことを好きだなんて…………。
 ネギがそんな風に女性に想われるような男の子に育ってくれたのは嬉しいけど、それでもこれは育ち過ぎな感じがしてくるわ。





「ネギは…………ネギはどうするつもりなのか言ってましたか?」

「ええ、アスナがさっきもチラッと言ったけどまだ保留中です。
 まだ10歳だし、修行中の身だし、教師と生徒だし、ちょっと片付けないといけないこともあるし………………何より本心でまだ決められてないようです。
 まあ、ネギ君もウチらのことは好きだと…………いや、ウチらのことが好きだ言ってくれました。けどそれでも将来のことを考えたら、迂闊には答えは出せないみたいです。ウチなんかは全員を選んでもいいみたいに思ってますけど、さすがにそれをする勇気はないみたいです。
 具体的に言うなら、ネギ君の修行が終わるとき…………ウチらの卒業までに答えを出してくれるそうです」

「…………ッ!」

「…………そう。ちゃんと考えているのならいいのだけど」


 いつの間にかネギも大人になってたのね。
 少し寂しい気もするけど、でもそれ以上に嬉しいわ。

 お互いに納得済みで慎重に答えを出そうと言うのなら、私から言えることはないわね。
 麻帆良での修行中だから「ウェールズに帰ってきなさい」とは言えないし、何よりネギの性格ならアスナさん達から無理矢理引き離すのは反発して逆効果になるもの。

 それにアスナさん達もちゃんとこうやって私に話を通してくれて、ネギのことを真剣に考えていてくれているのがわかるわ。
 “闇の福音ダーク・エヴァンジェル”さんにすら好かれてしまうネギの将来が気になってしまうけど、それでもきっとネギなら大丈夫だと思うし…………。





「そこまでお互いに考えているのなら、私から言うことはありません。
 …………ネギのことをこれからもよろしくお願いします」

「………………ッ!」


 あの小さかったネギがここまで大きくなっちゃったなんて…………。
 さすがにこんなことになるとは麻帆良に行かせる前は考えもしなかったけど、ネギ達がそれでいいのな「ちょっと待ってよっ!!!」…………あ、あらアーニャ?


「あ……あなた達、本気なわけ!? ネギは10歳なのよ!!!」

「大丈夫よ。ネギは確かに肉体年齢的には10歳だけど、“ダイオラマ魔法球”や“幻想空間ファンタズマゴリア”で修行していた分、精神年齢的には私達より年上よ。
 というかメルディアナにいた頃は、夜寝るときによく“幻想空間ファンタズマゴリア”の中で体感時間を72倍にして修行していたらしいから」


 え? な、何ですかソレは!?
 私知りませんでしたよ!!!

 …………1日に8時間睡眠とったとするなら、それだけで24日間分?


「なっ!? …………で、でもネギは教師だし!!!」

「だからネギ先生せんせー先生せんせーでなくなったら答えを出してもらうんだよ、アーニャちゃん。
 それまでは私達も待ってるし」

「で、でもっ……いや……だから…………っ!」

「アーニャちゃん、何でそんな必死になるん?」

「え? な、何言ってるのよ木乃香!?」

「アーニャちゃん…………アーニャちゃんもネギ君のこと好きなん?」

「はぁあっ!? なっ…………なな何よソレ、木乃香!? 何でそうなるの!?」


 アーニャったら顔が真っ赤よ。やっぱりアーニャもネギのこと好きなのね。
 といってもアーニャはまだ子供だから、アスナさん達みたいな“恋愛”までいくかどうかは微妙なのでしょうけど。

 そういえばてっきりネギはアーニャとくっつくと思ってたけど、こうなったら事情は変わってくるわねぇ。
 私にとってもアーニャは妹のような子だから、アーニャが悲しむような結果にはなってほしくないのだけれど…………。





「わ、私がネギのことを好きなわけないじゃないっ!!!」

「え~、じゃウチらがネギ君と付き合っても、アーニャちゃん的には問題ないわけやね?」

「…………ッ! ~~~~~ッ!!!」

「コ、コノカさん。アーニャはまだ小さいですし、素直になれない性格なので…………」

「ネ、ネカネお姉ちゃんまで何言ってるのよっ!?」


 ア、アラアラ…………どうしましょう、怒らせちゃったわ。
 でもコノカさんもアーニャを挑発しないで…………。





「アハハ、ごめんなぁ。アーニャちゃん。ちょっと意地悪してもうたな。
 でも……ウチらの話も落ち着いて聞いてほしいんや」

「な…………何よ?」

「まずなんやけど、もしアーニャちゃんがネギ君のことが好きだとしたら、ちゃんとそれをはっきり言葉に出して正々堂々とウチらとネギ君を取り合ってほしいんやよ。
 そうやないとネギ君がウチらの誰かのことを選んでくれたとしても、もしアーニャちゃんが自分のことを好きなことを気づけなかったことに気づいたら、ネギ君はそれを気にすると思うんや。ネギ君の性格的に。
 アーニャちゃんもわかるやろ。ネギ君ってかなり複雑というか…………独特な考えをしてるやんか。
 例えばアーニャちゃんじゃなくて、ウチらの知らない他の同級生でもええ。ある程度親しい子がネギ君のことをずっと想っていて、ネギ君がそれに気づかなかったとするやん。
 そしてネギ君がそのことにようやく気づいたとしたら、ネギ君は気づけなかったこと●●●●●●●を気にするんやないかな?
 千雨ちゃんの表現では“理解出来ることには滅法強いけど、理解出来ないことにはとことん弱いタイプ”ってことなんやけど」

「…………う、私がネギのことを好きということはともかくとして、確かにネギならそういうこと気にしそうね。
 チサメの表現もあっていると思うわ」

「(言葉には出してなくても態度でバレバレですけどねー)」

「(ユ、ユエ。アーニャちゃんはまだ11歳なんだし…………)」


 …………そうねぇ。確かにあの子はそんな感じだわ。

 何というかあの子はやることは大胆でも、性格は細かくて神経質な方だもの。
 あの子は“知ってて無視する”ことは平気でも、“知らずに無視してしまった”ことは平気ではいられないわ。原因がわかっている失敗は気にも留めないけど、原因のわからない失敗のことは凄く気にするし…………。
 もし親しい人のことをわかっていられなかったとしたら、ネギは絶対そのことを気にするわね。


「そんなわけで、ウチらとしては全員が納得した上でネギ君に答えを出してほしいんや。
 それにネギ君のことは別に好きじゃないって言ってるけど、アーニャちゃんは他に好きな人がおるのかな? それ以前に男の子のこと好きになったことあるん?」

「べ、別に好きな人がいるわけじゃないわよ。
 今までに男の子のことを好きになったこともないし…………」

「やっぱそうやよなぁ~。じゃあ、“恋愛”についてはまだわからないってことやね。
 実はネギ君もつい最近までそうやったんよ。具体的には先月まで」

「…………だから何? まずはネギのことが好きかどうかをちゃんと考えてから答えを出せってこと?」

「その通り。アーニャちゃんはネギ君のことどう想ってるの?
 友達? 家族? 弟? 兄? 好きな人?」

「っ! 少なくとも“兄”じゃないわよ!?」

「え~? だってよくネギ君のベッドに入り込んでたんやろ?
 ネギ君そのことからアーニャちゃんを妹みたいな子って言ってたで?」

「ち、違うわよ! ウェールズは日本よりも寒いし、エアコンとかもないから…………っ!」

「はいはい。でも一緒に寝れるってことは、少なくともそれぐらいは“好き”ってことやろ。
 それが“親愛”か“友愛”か“恋愛”か“愛情”か…………アーニャちゃんは厳密に区別がつく?」

「………………つかない」

「だったらそのことについて自覚することが大事やないかな。
 何だったら魔法世界ムンドゥス・マギクスにアーニャちゃんもついてきて、旅行という今までとは違う環境でネギ君のことを改めて考えてもいいし…………」

「で、でも…………」

「ウチらもね。皆が納得した上で決着をつけたいんやよ。
 ネギ君もアーニャちゃんへの想いはよくわからないって言ってたから、もしかしたらアーニャちゃんのことも好きなのかもしれへんし…………」

「え゛っ!?!? …………そ、そうなの?」

「いや~、少なくとも「アーニャやネカネ姉さんを嫁にするのなら、僕に勝つぐらいの男でないと」って言ってたで。
 ネギ君はアーニャちゃんのことを親代わりのネカネさんと同じくらい大事に思ってるんや…………」

「(“恋愛”っていうより“兄バカ”っぽいけどね)」

「(というか、それだとネカネさんとアーニャさんが一生独身になってしまうんですけど…………)」


 アラアラ、アーニャも魔法の国へ行くのかしら?
 まあ、ネギがついているのなら安心でしょうね。

 それにしてもアーニャが落ち着いてくれてよかったわ。コノカさんの言葉でネギのことをちゃんと深く考えているようだし…………。
 今までは条件反射で照れ隠しにネギに突っかかっていたものね。
 あんなことしてネギがアーニャのことを嫌いにならないか心配だったけど、ネギはネギで「アーニャはツンデレだから気にしない」って言ってたから大丈夫みたいだったけど。

 …………そういえば“ツンデレ”ってどういうことなのかしら?


 でもこれでアーニャも大丈夫ね。
 確かにネギがアーニャの知らないうちにコノカさん達の誰かと恋人になったとしたらショックを受けるでしょうけど、コノカさん達に任せておけばアーニャにも悪いようにはしないで、なるべくお互いに納得するような方向に持っていってくれるでしょう。

 コノカさん達に任せておけば安心ね。
 ネギのこともアーニャのことも。


 ネギのことを好きになってくれた子達が、こんな優しい人達で良かったわ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ………………なんか木乃香が黒い?

 それにどうも自分は“恋愛”を書くのには向いていないんじゃないかと思ってきました。
 “恋愛”読むのは好きだけど、書くのは何だか変な感じがしてきます。

 ウム、勉強になった。


 よーし、100話ほど書いたら自分が書きやすい方向とかわかってきたので、おじさんこれからどんどんハッチャケていくぞー。
 まあ、この作品ではフラグ回収するためにまだまだ“恋愛”頑張ります。



[32356] 第78話 夏祭り
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/22 11:02



━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



 今日は夏祭り。
 おそらくクラスの皆さんもこの祭り会場に来ているのでしょうね。

 ネギ先生は8/12に帰省することになっていますが、クラスの皆さんについてこられたりしたらさすがにマズイです。
 ですので先日の海や今日のお祭りでクラスの皆さんと一緒に遊べばきっと満足して、イギリスについてくるようなことはないでしょう。
 私達もネギ先生についていくことは言わず、私や木乃香お嬢様は京都への帰省、楓や古菲は修行のための山篭りなどの言い訳を用意してありますから、これで怪しまれることはないはずですし…………。





「おじさーん! ダンゴの型抜き出来ました!
 一万円ください。それとダンゴあるだけください」

「ダ、ダンゴをたったの1分で!? 勘弁してくれ坊主!!!」


 それにしてもネギ先生絶好調。気も魔力も使ってないというのに、これだからネギ先生は恐ろしいです。
 っていうかクラスの皆さんを納得させる云々以前に、ネギ先生がこのお祭りを一番楽しんでらっしゃいますね。

 …………あ、木乃香お嬢様達が来ましたか。


「ネギ先生、木乃香お嬢様達が…………」

「ん? …………ああ、そうですね。じゃあ行きましょうか。型抜きもいい暇つぶしになりましたし」

「…………もう来ないでください。お願いします」


 って、ネギ先生ェーーーッ!?
 型抜き屋の店主が泣いているじゃないですか! たった10分でどれだけ成功させたんですか!?

 …………まあ、暇つぶしだったから結局お金は受け取っていないみたいなので、店の経営的には問題ないだろから気にしないでおこう。……………………店主の精神的にはともかくとして。









「へぇ~。浴衣似合っているよ、アーニャ」

「………………あ、ありがと」

「…………随分と最近しおらしいね。ウェールズに帰ってから、アーニャ変じゃない?
 やけにアスナさん達とも仲良くなっているみたいだし…………」

「べ、別になんでもないわよ」

「そうよ~、ただ私達もアーニャちゃんと仲良くしたいと思っているだけなんだから」

「………………はあ」


 アーニャさんも木乃香お嬢様達とよく話しあった結果、ネギ先生のことをちゃんと落ち着いて考えることになりました。
 …………何だか小さい子供を良い様に言い包めているみたいで罪悪感が少し湧きましたが、それでもアーニャさんのことを考えないでネギ先生とこのまま付き合っていくのよりはマシでしょう。

 まあ、他に良い方法がなかったら仕方がないですが。


 きっとアーニャさんだって、もしネギ先生が私達のことを選んだらショックを受けるでしょうし、そのショックを受けたアーニャさんのことでネギ先生も悩んでしまいます。
 それなら今のうちに正々堂々と宣戦布告しておくのは、お互いにとって悪いことではないでしょう。

 アーニャさんも私達に心を開いてくれたようでよかった。
 ネギ先生の愚痴を皆で話し合ったおかげなのかもしれないけど、親近感を抱かせるのには十分だったみたい。





「おー、ネギ君じゃんか!」

「ネギ君とアーニャちゃん、それにエヴァちゃんも浴衣なんだぁ。似合ってるよー」


 そうこうしているうちに明石さんや和泉さん達も合流してくる。
 さすがに20人以上でまとまって歩くのは祭りに参加している他の人達に迷惑なので、あまり大きな集団にはなれない。
 私もある程度ネギ先生と一緒に過ごしたら、他のクラスメイトにネギ先生を譲って木乃香お嬢様と一緒に祭りを回るつもりだ。

 フフフ…………木乃香お嬢様とまたお祭りに来れるなんて…………。
 浴衣も良くお似合いです、木乃香お嬢様。



 それにしてもお祭り自体が久しぶりだな。
 京都にいたときは修行でそれどころじゃなかったし、麻帆良に来てからも木乃香お嬢様を陰ながら護衛するために木乃香お嬢様が祭りに行かれるときは祭り会場についていったけど、楽しんで参加するような気分でもないし状況でもなかった。
 落ち着いて楽しむために参加するのは何年振りだろうか。

 金魚掬い、ワタアメ、焼きそば、お好み焼き、たこ焼き…………いろんな種類の出店が出ている。
 それ以外にも何だかよくわからない店も出ているな。
 
 ………………“ドネルケバブ”? 何の店なんだろう?


 ネギ先生も初めての日本のお祭りを楽しんでそうだ。
 いろんな食べ物を買って皆と少しずつ食べている。こういうところで食べるものは、何故か普段食べているものより美味しく感じられる。
 私もたまにはこういうものを食べてみようかな。










「おお! 射的だ! ネギ君、勝負しようぜ~!」

「いいですよ。…………あ、プレ○テ2がある」

「アハハ、アレは取れへんやろ~」


 次に皆で向かったのは射的。
 明石さんがこういうのを好きみたいだ。

 人形、お菓子、小物などが棚に並べられている中、一番上の棚の中央にデン! と何年か前に発売されたゲーム機の箱が置かれている。
 しかしアレは客寄せのための展示品だろう。
 中身が入っていないならともかく、あんな重いものをコルク栓を使った銃では打ち倒すことは出来ない。例え龍宮であろうと無理なはずだ。

 ネタで狙う人は絶対出てくるだろうけど。





「お~、そこまで言うなら狙ってみせましょうか!」

「ネギ君オットコ前~~~!」

「うっし、じゃあ私からね!」


 そしてそんなネタが大好物なのがネギ先生。
 やはりあのゲーム機を狙うようだった。

 佐々木さん達はそんなネギ先生を持て囃すが…………しかし、私達は知っている。
 そんなネタが大好物なネギ先生だが、それ以上にネギ先生は勝算のない勝負はしないということを。



 ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! と順調に景品を落としていく明石さん。
 あまりにも簡単に落としていくが、私達が集まって騒ぐことによって見学する客が増えてきた。次にやろうとしている人達もチラホラと出ているようだ。
 客集めに役立ってくれたからだろうが、景品を獲られたとしても店主は苦笑いしている。





「よっし! 全弾命中!」

「おう、おめでとさん。はい、持って帰りな。次はソッチのぼーやかい?」

「はい。…………あ、二丁撃ちはアリですか?」

「ん? 本気で狙うつもりかい? ハハハ、好きにしな」


 笑っている場合じゃありません、店主。
 けど、これも商売だから仕方がないですよね。


 2丁の空気銃を両手に持ったネギ先生は普通の人がやるように景品の近くギリギリによることはせず、逆に一歩後ろに下がってから腰を浅く下ろした。
 和やかな祭りの中、射的屋の前だけに緊張した空気が流れる。
 その空気を感じ取ったのか店主の顔色も変わった。

 だがもう遅い。



 確かにコルク栓だけであの重い箱を倒すのは難しい。
 しかしコルク栓だけではなく…………腕の動きなどもそれに足し合わせたらいったいどうなるだろうか?

 ネギ先生の両腕が後ろに引かれ、力を溜め込む。




「『牙突』ッ!!!」




 その叫びとともにネギ先生が右足を踏み出し、踏み込めるギリギリまで景品に近づく。
 そして両腕を一気に突き出し、腕が伸びきると同時に2丁の銃を発砲! これなら速度が増す分、ただ普通にコルク栓を撃つだけよりも威力は数段上がる。
 パパァーーーンッ! とゲーム機の箱にコルク栓が当たるが、威力が強すぎたせいかコルク栓が砕けて飛び散る! ………………身体強化していないのでマッハ越えてないのがせめてもの救いだ。

 ゲーム機は………………まだ落ちない。
 グラグラと揺れるほどの衝撃を食らわせ、明らかに置いてあった位置より後退しているがまだ落ちない。

 やはり無理なのか?
 しかしそう思う人はネギ先生について素人だ。


 ネギ先生が払ったのは500円。
 100円だったら1回なのだが、500円だったら6回出来る値段設定だったのだから。

 つまり、あと4発残っている●●●●●●●●●


 ネギ先生は撃ち終わった銃を素早く台に置き、あらかじめ弾を込めておいた銃2丁を両手に持ちかえる。
 そして今度は足を使わずに上半身のバネだけを使って、またもや2発の銃弾を撃つ!





「『牙突・零式』ッ!!!」





 グラグラと揺れていた箱が、後ろに倒れ掛かったときを狙っての2発の銃弾。
 今度はコルク栓が砕けて飛び散ったりせず、ゲーム機の箱にブチ当たって上に跳ね返る。

 ………………これにはさすがのゲーム機の箱も耐えられなかった。
 見事に地面に落ちるゲーム機。それを信じられないような目で見ている射的屋の店主。

 私達は苦笑いだけどな。


 …………というか地面に落ちた衝撃で壊れていないだろうか?







「4発で取れたかぁ。最初の2発のときにもっと助走をつけられたら2発でいけたかな。
 あと弾が2発残っているけど、アーニャは何か欲しいのある? とってあげるよ」

「え? じゃあ、あのコイン持ってる猫の人形…………」

「了~解…………って、招き猫でいいの?」

「あれ招き猫っていうの?」


 固まった店主とは裏腹に、微笑ましい雰囲気を漂わせているネギ先生とアーニャさん。
 日本の祭りについて知らないアーニャさんだから大人しくしているけど、祭りの常識について知ったら激怒するでしょうね。


 …………さ、そんなことより私も何か食べようかなぁ~。





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 祭りも終わり、クラスへの皆さんへの挨拶も終わった。
 話した感じだと雪広さんはイギリスについてこようとしている様子はなかったので一安心だ。
 これで憂いなく魔法世界に行くことが出来る。





「…………このプ○ステ2、5月に発売されたSCPH-5000○じゃなくて一昨年発売のSCPH-300○0か。
 SCPH-50○00だったらDVDプレイヤーとしても遜色無しに使えるらしいんですけどねぇ」


 コルク栓を勢いよくブチ当てたせいかゲーム機の箱が凹んでますけど…………。


「へぇ、ゲーム機本体にもいろいろあるのねぇ」

「おー、せっかく手に入れたんやから、何かソフトも買ってみようかぁ」

「人生ゲームとかド○ポンとか桃○とか皆で出来るのがいいわね」

「(…………アスナさん達がそういう友情破壊ゲームでエキサイトしたら、寮の被害が洒落にならない気がするなぁ。…………ま、いいや。今度買ってくるか)」


 ネギ先生ってゲームとかにも詳しいですよね。
 ゲーム機自体持ってないんですけどよく雑誌とかは読んでるみたいですし、たまにエヴァンジェリンさんの家でエヴァンジェリンさんとテトリスとかしてますし。

 寮では居候ということから遠慮していたのでしょうか?


 でもあの高速テトリスは目と指の訓練になりそうだったなぁ。それと一瞬の判断力を養う訓練。
 何であんなの出来るんだか…………。

 私も木乃香お嬢様と一緒に携帯ゲーム機をこの前買ったから、少し練習してみようかな。
 イギリスに行くときの飛行機の時間つぶしにはちょうどいいだろう。











「もうすぐイギリス旅行かー」

「? 先日もイギリスに行ったじゃないですか、長谷川さん?」

「あんなもん旅行のうちには入らないだろ。
 結局あの校長室の外すら出ないで終わったじゃねーか」

「…………ま、そう言われると確かに。それに校長もネカネさんも日本語がお上手でしたものね」

「修学旅行で行ったハワイも日本語のガイドもいたし、何だかんだで日本人観光客が多いところだから不便はなかったな。
 それが魔法世界となるといったいどうなることやら…………」

「翻訳魔法があるのがせめてもの救いですね」


 いくらバカレンジャーを返上したとはいえ、さすがに翻訳魔法がなかったらキツイ。
 翻訳魔法がないと向こうでは話が通じないので、魔法を覚えようとしなかった長谷川さんもさすがに翻訳魔法だけは必死に覚えた。

 何だかんだで長谷川さんもドンドンこちらの世界に入り込んでくるなぁ。


「…………それにしても、長谷川さんも結局魔法世界に来るんですね?」

「? 悪いかよ?」

「いえ、そんなことはなく………………ただ、変わったなぁと思いまして」

「私から見たら、変わったのはお前の方だと思うけどな。
 異世界ってのも興味はあるっちゃあるし、ネギ先生がいれば身の危険はないだろうし…………ネギ先生をほったらかすのは不安だからな。
 ………………イヤ、本当に」

「…………何かあったときはお願いしますよ。
 こんな言い方何ですが…………ネギ先生には足手纏いが必要です」

「わかってる。そういうのがいなきゃ、ネギ先生は周りのこと気にせずに暴走するかもしれないからな」





 要するに長谷川さんはネギ先生の首輪だ。
 何というか…………私達がある程度強くなってしまったのが裏目に出た。

「皆さん強くなりましたね。力と経験にバラつきはありますが、これだけの人材は本国騎士団にもあまりいないでしょう。
 これならそこいらの盗賊団や魔獣の群れ程度に後れを取ることはないと思います。エヴァさんがいればそもそもフェイトにだって勝てるでしょうしね。
 でも…………これなら何か起こったときでも、僕は自由に動いても平気ですね!」

 とネギ先生に言われたとき、街中でトラを解き放ってしまったような気分に襲われたのは仕方がないだろう。
 確かに今の私達でもよっぽどのことない限り負けはしないし、しかもエヴァンジェリンさんもいるのでネギ先生がいなくとも大丈夫だろう。
 だがソレが裏目に出てしまい、ネギ先生を野に解き放ってしまうことになった。



 本気で魔法世界崩壊の危機だ。



 でも長谷川さんみたいにまったくの素人がいたのなら、ネギ先生も長谷川さんの身を守るために慎重に行動をする…………ハズ。
 もしかしたら逆に長谷川さんの身を守るために敵対勢力をあっという間に殲滅するかもしれないけど、それでもいないよりはマシだ。

 だから長谷川さんには今の弱い一般人のままでいてほしい。
 ネギ先生が慎重になるぐらいの弱いままでいてほしい。

 本来ならそんなこと思ってはいけないのだが、ネギ先生が全てを台無しにするから仕方がない。


 とりあえず自重してください、ネギ先生。
 本当にお願いします。












━━━━━ 葉加瀬聡美 ━━━━━



「もうすぐ出発ですね、超さん」

「ああ、崩壊する前の魔法世界を見ることが出来るなんて楽しみだヨ。この時代に残ることになて生まれた思わぬ利点だネ。
 …………ハカセはやぱりついてこないのカ?」

「ええ。私は麻帆良に残って魔力輸送扉ゲートの製造に専念しますけど、ちびネギ先生を麻帆良に数十体残しておくらしいので麻帆良のことは大丈夫ですよ。
 超さんは皆さんと一緒に魔法世界旅行楽しんできてください………………ネギ先生の手綱をシッカリと握れたらの話ですけど」

「く…………想像させないでほしいヨ。
 でもアスナさん達を通してお願いすれば大丈夫ヨ。ネギ坊主はアスナさん達には絶対服従…………という感じではないが、アスナさん達のお願いなら滅多に断らないからネ。
 アスナさん達さえ納得させることが出来たら私の勝ちヨ………………学園祭のときにこれに気づけていたら」


 確かに。
 神楽坂さん達を説得して、ネギ先生に私達に協力してもらうように頼めばよかったです。

 …………ハア、もう少しその神楽坂さん達に向ける優しさを私達に分け与えてほしいんですけどねぇ。
 もうネギ先生は私達の味方になったので、ネギ先生を頼ることが出来るようになったのはいいんですけど。





「エヴァンジェリンは“楽しみなただの観光旅行”と言ってるが、私にはどうもそれで終わるとは思えないヨ。
 それにエヴァンジェリンは自分が被害を被らない限り、ネギ坊主のする無茶を何だかんだで楽しんでいるフシがあるからネ」

「学園祭のときとかそうでしたよねー。
 ………………よし、アーニャさんの分も含めた予備バッジ完成です」


 予備が10個あれば、旅行中は足りるでしょう。
 向こうで一緒に行動する人が出てくるかもしれないですからね。


「おお、すまないネ、ハカセ。急遽彼女も連れて行くことになたのでネ。何も危険はないとは思うが、ネギ坊主に頼まれたから仕方がないヨ。
 まったく…………ネギ坊主には困たものネ。バッジを作らされたり私の知ってる技術根こそぎ奪われたり、いいように働かされているヨ。
 それにまさかあんなこと●●●●●するなんて思ていなかたヨ」

「“備えあれば憂い無し”ですか。
 ネギ先生だったら“敵殲滅すれば憂い無し”っぽい性格なんですが、さすがに魔法世界というアウェーではそんなことしないようですね。
 それともう諦めましょうよ、ネギ先生のことは。」


 ま、このバッジに仕込まれてる式神符のちびネギ先生だけで麻帆良の魔法先生数人を楽に相手取れる力を持ってますので、確かに持っていかれた方が安心ですよね。
 ちゃんと発信機などの機能も搭載しておきましたし。





「そういえばそのアーニャさん、実力的にどうなんでしょうか?
 魔法世界に行っても大丈夫なくらいなんですか?」

「フム…………先日エヴァンジェリンの別荘で色々修行をやってたのを覗いた感じでは、夕映サンとドッコイというところカナ。やはり一日の長がある分だけ魔法の腕はアーニャサンの方が上だが、夕映サンが実践的な修行を積んできた分で差し引き0。
 搦め手有りなら夕映サン。真っ向勝負ならアーニャサンという感じだネ。少なくとも麻帆良の魔法生徒に混じても十分活躍出来るぐらいの力は持てるヨ。
 ま、ネギ坊主が側にいるなら平気ダロ」


 へぇ…………11歳でそれは凄いとは思うんですけど、ネギ先生のせいで感覚が変になったのか“微妙”と思ってしまうのが悲しいです。
 まあ、エヴァさんは言うに及ばず、桜咲さんや長瀬さんクラスがいる“白き角コルヌアルバ”では守られる側になってしまうのでしょうね。



 ああ、やだやだ。
 私は絶対魔法世界には行きませんよ。

 魔法世界という異界に興味がないことはないですが、何が悲しくて核ミサイルに守られながら旅行に行かなきゃいけないんですか。
 いつ私を巻き込んで爆発するかわからないから、気が休まるわけありませんよ。


 私はせっせと麻帆良で魔力輸送扉ゲートの製造に専念してますから、ネギ先生のことは超さんが何とかしてください。
 とりあえず実地試験を行なうためにも、試作品を出発前に仕上げないと駄目ですね。
 まだ時間はあるから大丈夫だけど、間に合いそうもなかったらエヴァさんの別荘使わせてもらおうかなぁ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ちょっと原作とは海と順番が違うけど夏祭りでした。


 はい、次回から魔法世界に出発です。
 このままですと第二章だけで全百話ぐらいになるでしょうか。

 ………………変なネタさえ思いつかなければ。


 それとプレステ2が発売されてからもう12年になるんですねぇ。SCPH-10000の発売が2000年3月4日。
 初期型のSCPH-10000を持ってたんですけど、それだとペルソナ3が出来なかったのでSCPH-70000を買う羽目になったのはいい思い出です。

 だってすぐフリーズしたんですもん。
 まあ、DVDプレイヤーとしても使ってるのでいいですけどね。

 最近はゲームもあまりやらなくなってきたし、これが大人になるってことなんでしょうか…………。


 あと自分は北海道出身でして、新年に北海道神宮に初詣で行くときにドネルケバブを食べたくなります。
 良い匂い漂わせてるんですよねぇ、あの屋台。


 あ、それとテキ屋のおっちゃん達はあくまで商売ですので、ネギの被害者リストには入りませんヨ。



 そして今回で移転作業は終了です。
 次回からはにじファンにも投稿していない新話になります。



[32356] 第79話 魔法世界出発
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/29 12:26



━━━━━ 神楽坂アスナ ━━━━━



「かつてケルトの民はこのようなメンヒルの立ち並ぶ丘の地底や湖の底や海の彼方に妖精や死者達の住まう美しい世界…………“異界”があると信じていたです。
 いわゆる極楽浄土や天国などの“あの世の楽園”と違い、ケルト神話において特筆すべきなのは“あちら側”でも使者は生者同様に肉体を持ち、“こちら側”と同じ姿で同じように生き続け、時には生者もまた生身の肉体を持ったまま出入り可能な場所として“異界”を捉えていたということです。
 言わばそれはもう一つの世界アナザーワールド
 またこれは中国の桃源郷や浦島太郎の竜宮城のような“異界”=“この世と地続きの楽園・理想郷”といったイメージにも近いです。
 楽園伝説は他にも日本の常世や琉球のニライカナイ、ギリシアのアルカディア・アガルタ・ジパング・エルドラド・ケルトのアヴァロン・ティルナノーグ等々多数あり、その性格や意味合いも様々で非常に面白いのですが、今は置いとくです。
 …………で、我々が今から向かう“魔法世界ムンドゥス・マギクス”ですが、このような意味での“異界”に最も近く、またその起源も…………」

「ゆえゆえー、聞いてないよー」

「何ですと!? 未知の場所の事前知識は重要…………っ!」





 作者が“「(前略)…………(中略)…………(後略)」で端折っときゃよかった”と後悔した長文お疲れさま。
 “途中で諦めたら負け”という考えが既に負け犬の発想よね。


 それにしてもこれがストーンヘンジかぁ。
 写真では見たことあるけど、実際に近くで見ると凄いわ。

 ま、ユエちゃんがしっかり勉強してるのはわかったから、そんなことより朝御飯食べちゃいましょうよ。


「はい。“異界”についてはネギ先生がかなり力を入れて教えてくれたですから」

「ネギ先生も小さいときにダイオラマ魔法球を作ってみようかと思ったらしいですからね。
 当時はお金がなかったから諦めたんでしだっけ?」

「ええ。修行の場所には丁度いいかと思ったんですが、さすがに5歳ぐらいの時分じゃ無理ですよ。
 ですので小さいときは、学校がある日は“幻想空間ファンタズマゴリア”で主に修行をして、休日の山篭りで“幻想空間ファンタズマゴリア”での経験を肉体に反映させる修行をしてましたね。ずっと独りで」

「あー、だからネギは基礎ばっかりやってたちゅうわけやな。
 …………俺も一度基礎からやり直した方がええんかなぁ?」

「あんなにしょっちゅう山篭りなんかに行ってたのはそういう理由があったからなのね。ネギがあんなに強くなったわけがわかったわ。
 そもそもの修行に使った時間が違うということね」


 コタロ君もこの旅行に来れてよかったわね。
 夏休み前半で学校の宿題とネギが出したとんでもない量の課題を無事に終わらせたようなんだけど、その分だけ体は鈍ってしまったみたいで、宿題を終わらせた直後は私でもコタロ君に勝ててしまうぐらいだった。
 その時は結構凹んでたわね。





「何だったら旅行が終わったら、エヴァさんの別荘借りて数ヶ月かけて鍛え直したら?
 それかエヴァさんは別荘も魔法世界ムンドゥス・マギクスに持ってくるみたいだから、皆が寝てる夜に別荘へ入ってもいいし」

「それもそうやなぁ…………って、そのエヴァンジェリンさんはどうしたんや? ここにいないやん?」

「“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”が正規の手続きで入国出来るわけないでしょ。僕の故郷の村で待機中…………というか、おそらく睡眠中。まだ朝早いし。
 僕が故郷の村に居た頃に書いたそこそこ大きな転移魔法陣を改造して、魔法世界ムンドゥス・マギクスまでいけるようにしたんだよ。向こうに着いたら呼ぶさ。
 別荘のおかげで荷物が少なくなったから楽だよ」


 確かにあの大量の式神符を手で運ぶのは大変よねぇ。


「…………マスターはちゃんと一人で起きられるでしょうか?
 やはり私も残った方がよかったのでは…………」

「子供じゃないんですから大丈夫でしょう。
 スタン爺さんにもお願いしておきましたし」


 …………そのスタン爺さんが大丈夫なのかしら。確か昼間っから酒飲んで管巻いてるおじいちゃんなんでしょう?
 寝過ごしたりしなければいいけど。

 それ以前に“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”が村に滞在することについてのパニックは起きなかったのかしら?
 アーニャちゃんの御両親も住んでいる村らしいけど、何か事件が起こってなきゃいいけど。



 それにしても魔法世界ムンドゥス・マギクスかぁ。
 10年振り位ね。今の向こうはどんな感じなのかしら?

 今回の旅行の予定では、まずメガロメセンブリアに到着後にナギの友人と合流。多分、ジャックだと思う。
 メガロの外に出たらちびネギ達を発現させて、魔法世界ムンドゥス・マギクス各地へ転送して調査させる。回収は冬休みに再び魔法世界ムンドゥス・マギクスに訪れたとき。


 その間の私達は近場の観光地を巡って異界を満喫する。
 10/1には“大分烈戦争ベルム・スキスマティクム”の終戦20年を記念した“オスティア終戦記念祭”開催されるらしいんだけど、さすがにそこまで残るのは無理ね。
 夏休みが終わっちゃうわ。

 …………というか完璧に観光旅行ね。
 まあ、元から皆で夏休みにでも京都にもう一回行こうって前に約束してたから、京都が魔法世界ムンドゥス・マギクスになったと思えばいいか。
 私も前に魔法世界ムンドゥス・マギクスに居たときは観光とかしたことなかったし、時間があったらガトウさんの墓参りも行きたいもの。



 それとネギとの仲をもっと進展させたい。具体的にはまた一緒の布団で寝れるぐらいまで。
 ネギの恥ずかしがる気持ちもわかるんだけど、もうかれこれ一ヶ月以上もネギの温もりと遠ざかっているのよ。

 そりゃあネギを抱き締めたり頭撫でたりとかのスキンシップはしてるわよ。ネギも『咸卦治癒マイティガード』使ってくれたりとか髪の毛梳いたりとかしてくれるわよ。
 でも、ネギを抱き枕にしてネギの温もりを感じながら眠るというのは、それらとはまた別の気持ち良さがあるのよ。


 …………そういえば、向こうで泊まることになってるホテルはどうなってるのかしら?









「時間です」


 …………と、ツラツラ考えてたら、いつの間にかそんな時間になってたみたい。
 カラーーーン! という鐘の音が聞こえて、地面の次元跳躍大型転移魔法陣が光りだす。

 って、アレ? ネギったら変な顔してどうしたの?


「…………いえ、何か知ってる気配を感じたのですが、よくよく探ってみたら違う人だったみたいなんですけど…………でも何だか気になるんですよねぇ。
(アレ、フェイトいないの? もしかして本当に殺っちゃった? …………一応、似たような気配はあるんだけど、京都のときに感じた気配とは違う気がする?)」



 ふーん、向こうに着いたら探してみればいいんじゃない?

 さて、それでは久しぶりの魔法世界ムンドゥス・マギクスはどうなっているのかなー?














━━━━━ デュナミス ━━━━━



「ご苦労だったな、テルティウム(改)。
 ………………何をしているんだ、お前は?」


 何故かフードも被ったままでテルティウム(改)が柱の陰に隠れ、何やらあるところの様子を窺っている。
 事前に入手した見取り図によるとあそこは確か展望台だな。入国審査の前でも街の様子を展望出来るところだったはずだ。

 …………見に行きたいのか、テルティウム(改)?


 だがそんな悠長な暇はない。
 悪の秘密組織である私達が何故こんなところに来ているのかというと、私達の目的は地球と魔法世界を繋ぐゲートの破壊だ。
 そのためにテルティウム(改)には地球からゲートに潜り込んでもらうことにした。魔法世界に到着すると同時に転移魔法を使って私達の侵入の手引きしてもらったのだ。
 私は地球にはいけんからな。





「デュナミスか。…………暦君と環君も連れてきたのかい?」

「こいつらが勝手について来たのだ」

「フェイト様お一人では心配でしたので!」

「足手纏いにはなりません」

「いや、それはいいから。少し静かに…………。
 厄介なのが今回の転移に混じってた」


 自分の従者ならシッカリ手綱を握っておけ。
 まあ、こやつらのアーティファクトはなかなか使い勝手がいいので連れて来たがな…………。

 まったく…………この小娘どもは京都でテルティウムがヘマをしてから、ヤケにテルティウム(改)に対して過保護になりおって。
 あの件の後始末は大変だったぞ。
 それにテルティウム(改)を心配して常時小娘1人はかならずついていることになっているが、貴様らなんぞ比べ物にならぬぐらいにテルティウム(改)は強いんだぞ。

 さて、それよりもゲートの破壊だ。
 世界各地にある他のゲートは私達が出なくても問題ないだろうが、さすがにメガロメセンブリア本国のお膝元のゲートであるここはそういうわけにはいかないだろう。
 そのためにわざわざ私やテルティウム(改)が出張ったのだ。


 ………………いちいち(改)をつけるのは面倒だな。







「それで厄介なのとは何だ、テルティウム?」

「ネギ・スプリングフィールド君だよ」

「何っ!?!?」


 ネギ・スプリングフィールドといえば“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子であり、京都でお前を倒した相手ではないか!?

 京都で我が主の情報を近衛詠春から奪取するという目的を無事に果たしたテルティウムだが、その時の怪我が元でしばらくの間はまったく動けなかった。
 というか傷がいつまで経っても治らなかったので、調整中だった別のアーウェルンクスシリーズの肉体を利用してようやく復活させることが出来たのだ。



 しかし何故その少年が魔法世界に来たのだ?

 テルティウムを倒した少年だということで、ネギ・スプリングフィールドについても調査しようとした。
 しかし爵位級の悪魔を麻帆良に派遣したときもそうだったが、麻帆良の人間共はネギ少年についての安全と情報管理を気を配っているらしく、ネギ少年の情報はほとんど手に入らなかった。
 手に入ったわずかな情報も、「麻帆良で一番強い」とか「“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”より強い」とか「むしろ父親より強い」などのガセネタばかりだった。


 いくら何でもそれはないだろう。常識的に考えて。
 確かに父親である“千の呪文の男サウザンドマスター”、ナギ・スプリングフィールドもまだ年端もいかぬころ戦場に出ていたらしいが、まだ10歳の若さで英雄と謳われた父親より強いなんてことはあるまい。
 メガロメセンブリアはネギ・スプリングフィールドを“偉大な魔法使いマギステル・マギ”の広告塔に使おうと画策しているらしいので、おそらくその一環なのだろうな。

 しかし…………嘘をつくならもっとマシな嘘をつけばいいものを。







「しかしちょうどいい!
 ここでネギ・スプリングフィールドに一泡ふかせてやろうではないか!」

「…………僕達の目的はゲートの破壊だろう。
 そちらを優先したほうがいいんじゃないかい?」


 臆したか、テルティウム!?
 確かにお前は一度は敗れたが、それは京都では足手纏いがいたからだろう。お前1人だったらあんな無様なことにはならんかったはずだ。


 私達の今の戦力は私、テルティウム、月詠、暦に環。そして墓所の主の6名。
 対する奴らは10人以上いるが、そのほとんどがまだ子供ではないか。しかも明らかな素人までいる始末。
 周りにはゲートポートの警備兵もいるが、そんな奴らはいくらいても私達の敵ではあるまい。

 もちろんテルティウムに勝ったことからネギ・スプリングフィールドは注意しておいたほうがいいかもしれんが、最悪の場合は私とテルティウムの2人がかりで挑めばいい。
 もちろん本来の目的を忘れるわけにはいかないので、墓所の主にゲートの要石の破壊を頼もう。
 あとは月詠達が残りを牽制しておけばいい。







「しかし現実的な話、今はまたとない好機だぞ。
 入国手続き上、彼らは武器となるものを全て封印箱の中に入れており、ゲートポートを出るまで丸腰のはずだ。しかも彼らは荷物の受け取りもしていないのだろう。
 携帯杖などは持っているかもしれんが、それでも戦力が落ちているのには変わりあるまい」

「…………それを言われると確かに。
 どうせ今回のことでゲートを全て破壊するんだから、ネギ君達は魔法世界に残ることになる。そうなれば後で万全な状態のネギ君達と対峙することも有り得る。
 それなら今仕掛けたほうがいいかもしれないね」

「そうです、フェイト様!」

「フェイト様をあんな目にあわせた連中に鉄槌を」

「ウチはセンパイと一度斬り合いたいですー。
 前回は結局何もせんで終わってしまいましたからー」

「しかし騒ぎを起こす以上、長居出来ないのは確かだ。
 墓所の主にはゲートの要石の破壊をお願いする。それが済み次第、襲撃の結果がどうあれ転移魔法で撤退するぞ」

「そのぐらいなら構わん」


 よろしい、ならば始めるぞ。
 フフフ、まさか計画を実行しようとした矢先にこんな機会に恵まれるとはな。

 20年前に我らの悲願を邪魔をした英雄の息子に神罰の鉄槌を振り下ろす機会をな!
 そしてネギ少年を弟のように可愛がっているタカミチや、ネギ少年の母親のことから彼に複雑な想いを抱いているであろうゲーデルに一泡ふかす!!!



 そのために武器を持っていない丸腰の少年達に不意打ちかまして、用が済んだらさっさと逃げるのだ!!!





 ………………何だか悪の秘密組織というより小物臭の方が強くなってきた気がするが、死んだ振りをして敵の目を欺くなどを今まで散々やってきたのだ。
 今更どうこう言うまい。





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 少年達は景観を存分に楽しんだらしく、展望台から出てきて入国受付の方へ進んでいく。
 他にも数十人ほど同じ転移で魔法世界に来た連中もいたが、それらはもう入国手続きを済ませていなくなっている。少年達が景観を楽しんでいたのも、おそらく手続きの混雑を避けるためだろう。
 これで邪魔者は数人の警備兵だけになった。



 まずはテルティウムが遠距離から仕掛ける。
 ネギ少年は気配に敏感らしく、少しでも近づいたらバレてしまうかららしい。

 出来るならここでネギ少年を生きたまま確保しておきたい。
 麻帆良に封じられている我が主の封印を解くためには、器の肉親の魂と血肉があった方がいいからな。


 人間は殺してはいけないので他の少年少女達はそれからだ。むしろテルティウムの攻撃が効いたら、他の少年少女達は放置してもいいだろう。
 あくまで今回の目的はゲートの要石の破壊であり、ネギ少年はついでだ。その仲間など更についでのオマケにしか過ぎん。


 それに向こうにいる犬上小太郎という少年は、テルティウムと月詠と知らん仲ではないらしいのでな。
 というより、京都ではテルティウムと一緒にネギ少年と敵対したというのに、何故彼はネギ少年の側にいるのだ?



 …………ま、いいか。
 彼にも事情があるのだろう。








 さて、それでは仕掛けるとしようではないか。
 テルティウムが『石の槍ドリュ・ペトラス』を準備する。殺してはいけないので頭や心臓は狙わずに肩を狙う。
 肩なら即死はしないだろうし、『永久石化アイオーニオン・ペトローシス』で石にすればその状態で生かしておくことも可能だろう。


 さあ、やるがよい。テルティウム!
 あの少年に神罰の鉄槌を!!!


 ネギ少年はまだ我々に気づいてすらいないようだ。
 しかも真後ろから撃たれる高速の『石の槍ドリュ・ペトラス』を避けることなど出来まい。



 やるのだ、テルティウムよ!!!


















 そしてテルティウムの『石の槍ドリュ・ペトラス』が放たれ、ドスッ!!! とネギ少年の右肩に突き刺さる!
 突き刺さった『石の槍ドリュ・ペトラス』は背中から胸にかけて貫通している。即死はしないだろうが明らかに致命傷だ。




 フハハハハ、ネギ・スプリングフィールドよ!
 君の生まれの不幸を呪うがいい。君自身は悪くはなかったが、君の父上がいけないのだよ…………フフフフ……ハハハハハハ!



 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に栄光あれえェェェ!!!








 これでタカミチやゲーデルに一泡ふかすことが出来たぞ!
 次に『石の槍ドリュ・ペトラス』を食らっても何事もなかったようにスタスタと歩いていくネギ少年を確保して………………確保、して…………え? 何で無事なのだ?








 …………。

 ……………………。

 ………………………………少し待つ。







 …………少し待つが、やはり何事もなかったようにスタスタと歩いていく。
 しかも『石の槍ドリュ・ペトラス』は刺さったままだ。何故!?

 明らかにアレは致命傷だぞ。それなのに何故あのように平然としている!?
 周りの警備兵が突然ネギ少年に『石の槍ドリュ・ペトラス』が突き刺さったことに驚いているが、肝心の少年達はそんなのは気にも留めていない。


 いや、それよりもこのままでは普通に少年達が立ち去ってしまう!
 不意打ちかますだけならまだしも、不意打ちかましたのに気づかれなかったなんてのは悪の秘密組織としての矜持が許さん!!!














「待てぃっ! 少年達よ!

 …………。

 ……………………。

 ………………………………ま、待ってくれっ! ネギ・スプリングフィールドよ!!!」


「「「「「ん?」」」」」


 ようやく気づいてくれたっ!!!





「…………ネ、ネギ? 右肩……大丈夫なの?」

「ん? これぐらい大丈夫だよ、アーニャ」


 だから何故そんなに平然としているのだ!?
 致命傷を食らっても平然としている10歳の少年と、それを見ても眉一つ動かさない少女達。いったい彼らは何の集団なのだ!?

 …………その中でも赤毛の少女と犬上小太郎は、ネギ少年の肩に突き刺さった『石の槍ドリュ・ペトラス』を見て顔を引き攣らせている。
 よかった。少しはマトモな感性を持った子供もいたのか。


 ズリュ…………とそんな音を立たせてネギ少年が『石の槍ドリュ・ペトラス』を、自らの肩から無理矢理引っこ抜く。
 『石の槍ドリュ・ペトラス』が血に濡れていることからも、ダメージを与えたことには間違いないハズなのに、たちまちのうちに傷が塞がっていくのが遠目からでも見える。
 まるで吸血鬼のような驚異的な再生速度だ。





















「槍が小さすぎるぜ。なあ、ジェフ…………じゃなかった、ジャック。
 ………………あれ? ジャックでもなかった?」

「ジャックって誰だよっ!?」


 テルティウムが叫ぶところなんて初めて見たな。…………調整ミスったか?
 それ以前にジェフも誰だ? どこの米の国の不良警官だ?


「その声はもしかしてフェイトか。…………でも声が前より甲高くなってないかい?
 ああ、ジャックは君たちも知っているはずのジャック・ラカンさんだよ。今日、僕達を迎えに来てくれているはずなんだけど………………すっぽかされたのかな?」

「フェイト!? お前フェイトなんか!?」

「…………何で迎えに来てくれる人間が攻撃してきたと思ったんだ、君は?
 それと久しぶりだね、小太郎君。元気そうで何よりだよ」

「え? あの人ならやりそうじゃない?
 ナギの息子である僕の力を見るために、初対面で攻撃してくるかAAクラスの拳闘士差し向けるぐらいのことはすると思うけど?」


 “紅き翼アラルブラ”の千の刃のジャック・ラカン。
 まだ生きているのか。厄介だな。

 そして友人の息子にもそう言われるだけの破天荒な性格も厄介だろう。
 確かに実際にやりそうだし。


「それにしても攻撃してきたのは君だったのか。
 せっかくラカンさんをビックリさせようと思って、攻撃を受けても無視して皆で立ち去っていこうとするドッキリを準備してたのに…………」

「いいじゃない、結局引っかかってくれた人達がいたんだから」

「先ほどの黒ローブの

『……………………ま、待ってくれっ! ネギ・スプリングフィールドよ!!!』

 という叫びはバッチリ録音出来ました」


 や、やめてくれっ!
 リピート再生しないでくれっ!!!

 おのれジャック・ラカン! 奴の破天荒な性格のせいでこんな目に!









「…………それにしても、何でフェイトがここにいるんだい?
 まあ、狙いは僕達じゃなくてこのゲートポートっぽいけど…………」

「…………その通りだよ。僕達の目的はゲートポートここだ。
 君達にここで出会ったのは全くの偶然だよ」

「ふーん、そのついでにたまたま居合わせた僕に攻撃してきたってことか。…………ま、別にいいけどね。
 君達をわざわざ探してまで消すつもりはなかったけど、こうやって目の前に出てこられて不意打ちまでされたんだ。正当防衛という意味でも丁度いい。
 過去の遺物には舞台から退場してもらおうかな」


 フム、なかなかの殺気。テルティウムが危険視したのも無理はないというわけか。

 しかし悪の秘密組織の大幹部を甘く見ないでもらおう。
 テルティウムがローブを脱ぎ去り身構える。私も戦闘態勢になるために服を脱g「ちょっと待って!!!」…………ぬふぅん。
 せっかくテンション上がって良いところだったのに、何だ少年?

















「…………えと、髪の毛伸びたんだね、フェイト。
 それに少し顔も変わっているみたいだし…………」












「おかげさまで…………京都で君に負わされた怪我が原因でね」

「ア……アハハハハ…………似合って、いるんじゃないか…………な?
 ねぇ、小太郎君?」

「はあっ!?!? ………………そ、そうやな。ハハハハハ…………」

「? 何を慌てているんだい、君達は?」

「いやいやいやいや! 別に慌ててなんかいないよ!!!
 ………………服装の趣味も変わったね」



















「そ、そうやな! 元から中性的な顔やったけど、ミニスカートも似合っているで!!!
 …………詰め物でもしているせいか、胸も膨らんでいるように見えるし…………」




























「いや、これは本物だよ。京都での怪我が治せなかったら、体ごと取り替える羽目になってね」





「「「「「…………ええ゛え゛えええぇぇっ!!!」」」」」





 …………そういえばテルティウムのローブの下は、暦達と同じ服だったな。

 あの服装だと肉弾戦をしにくいと思うが、何故か暦達が強く自分達と同じ服を着ることを勧めていた。
 調整中だったセクストゥムの身体を流用してテルティウムを復活させたときは、あんなに落ち込んだり激怒していたのに、何故かたまに喜んでいたときもあったな。


 小娘達の考えることはよくわからん。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 はい。今回から初めて投稿する話となります。


 そしてミニスカフェイト爆誕。もちろん編み上げブーツも完備。
 姿は暦達と同じ服装をしたセクストゥムを想像していただけるとわかりやすいです。
 

 ……………………アリですよね?


 あ、環と違ってパンツはちゃんと穿いてますよ。しかも女物です。
 暦達がフェイトが女の子になったのには絶望したけど、ペアルック出来るのは満更でもないという複雑な心境で服装一式を用意しました。

 まあ、フェイトは元々服装には頓着しなさそうですからね。


 あとデュナミス書いてて楽しいw
 けどデュミナスと間違いそうになるのが困ります。



[32356] 第80話 ゲートポート破壊事件
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/04/29 12:51



━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━



「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!
 ゴメン! 本気で混乱してるからちょっと待って!!!」

「ネギィッ! お前どうすんのや!?
 フェイトがあんなんなったのはどう考えてもお前のせいやでっ!!!」

「僕なのっ!?!?
 …………いや、確かにそうなんだろうだけど、さすがにこんな展開になるなんてこの僕の目をもってしても見抜けなかった…………」

「「「「「………………………………」」」」」





 ネギ・スプリングフィールド達は混乱している。

 そんな一文が頭によぎった。
 ネギ君と小太郎君は混乱して叫びあっているし、後ろの女性陣は口を開けてポカンとしている。

 さすがに僕の性別が変わったというのは驚くのかな?










「少年達よ、我々を無視しないでもらおうか!
 ぬぅんっ!!!」


 そしてデュナミスがその混乱の隙をついて影槍で攻撃を仕掛ける。

 …………もう止めておいた方がいいと思うけどね。
 だってあの『石の槍ドリュ・ペトラス』で致命傷を与えたにも関わらず平然としているなら、ネギ君を無力化するにはもっと大規模な攻撃をしなければならないのだろう。

 しかし、それは今の状況じゃ無理だ。もうすぐ墓所の主による要石の破壊も終わるし、既にゲートポートの外の連中が騒ぎを気づいているはずだ。
 いくら内と外を完璧に隔離しているとはいえ、長居出来る状況ではない。現にネギ君の近くにいる警備兵が必死に外と連絡をとろうとしているし。





「いいから少し黙ってろって!」


 そもそもあんな攻撃じゃネギ君に通らないだろうしさ。

 デュナミスのチョッカイに苛立ったネギ君は、手に持っていた『石の槍ドリュ・ペトラス』に魔力を通して強化し、それをデュナミスに投げつけた。
 僕が放つ以上の速度で投げられた『石の槍ドリュ・ペトラス』は、デュナミスの障壁を容易く突き破ってデュナミスの身体を串刺しにする。

 …………アレは僕が作った『石の槍ドリュ・ペトラス』なんだけど、どうして他人が作ったものを強化出来るのかな?
 それに今のはデュナミスの障壁を突き破った●●●●●のではなく、障壁を霧散させた…………いや、無効化させた●●●●●●ような気が…………。


「ぐおっ…………まだまだ! ふんッ!!!」


 しかしデュナミスも『石の槍ドリュ・ペトラス』で身体を貫通させられながらも、影槍のコントロールを維持している。
 そのままネギ君に影槍が…………何っ!?
 ネギ君に迫った影槍がまるでチョコレートのように溶けて無効化された!?

 ネギ君は掌を影槍に翳して何かのフィールドを一帯に展開しただけだったが、明らかにあのフィールドは普通の障壁などとは違っている。
 アレはまさか…………?









「ほな、行ってきます~」


 次に止める間もなく月詠さんが襲い掛かる。
 正面はデュナミスの影槍がまだ残っているので瞬動でネギ君の側面側に移動し、中空で虚空瞬動を使って襲い掛か…………ろうとしたら、虚空瞬動の足場をうまく構成出来ずに落ちていった。
 思いっきりバランス崩してたけど大丈夫かな? ここ結構深いけど…………。





「あ~~~れ~~~?」





 …………意外と大丈夫そうだね。

 しかしここまで来ると本気でおかしい。 
 月詠さんが虚空瞬動の足場を作ったところ、強度が足りなかったようで月詠さんがその足場を踏み抜いていた。足場に篭める気の量が足りなかったりした場合にこんなことが起きることがあるが、月詠さんがそんな失敗をするとは思えない。
 虚空瞬動はそこそこ難しい技とはいえ、月詠さんも戦闘に関しては強者だ。












「…………暦君、環君。君達のアーティファクトをネギ君に」

「は、はいっ! 『来れアデアット』、“時の回廊ホーラリア・ポルティクス”!」

「『来れアデアット』、“無限抱擁エンコンパンデンティア・インフィニータ”!」


 小太郎君と言い争っている…………というか、小太郎君に問い詰められているネギ君を中心に、暦さんと環さんのアーティファクトが展開される。
 “時の回廊ホーラリア・ポルティクス”でネギ君のいる空間の時間を遅延させ、“無限抱擁エンコンパンデンティア・インフィニータ”で無限の拡がりを持つ閉鎖結界空間を発生させて閉じ込めるいつものコンボだ。
 不意打ちでなら僕やデュナミスであろうと閉じ込めることが出来るのけれど…………、


「ば、馬鹿なっ!?」

「アーティファクトが発動しない?」


 …………いや、発動はしている。
 発動はしているけど、発動すると同時に無効化されている。

 アーティファクトまで無効化するいうことは…………もしかしてこれは『完全魔法無効化マジックキャンセル』か?
 まさかネギ君が…………。


「わかった。君達はもういい。
 暦君は月詠さんを回収、環君は墓所の主の作業を早めてくれるように伝えてくれ。その後は2人とも墓所の主の側で待機。
 無いとは思うけど墓所の主の護衛を…………」

「え!?」「は、はい…………」


 しかしよく考えてみれば、ネギ君の母親はアリカ・アナルキア・エンテオフュシア。
 ウェスペルタティア王国最後の王女であり、“黄昏の姫巫女”であるアスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアと同じオスティア王家の血を引いている。
 つまりそのアリカ王女の息子であるネギ君も同様に、オスティア王家の血を引いていることになる。

 ネギ君が“黄昏の姫巫女”…………“黄昏の御子?”になるには十分な理由だ。







「お前どーすんのやっ!? どーやってフェイトに責任とるんや!?」

「“責任”っ!?
 …………いやいや、ちょっと待とうか。そもそも京都で仕掛けてきたのは君達なんだから、僕が責任を取る必要はないっていうか…………」

「じゃあ何で目を逸らすんや!?
 木乃香姉ちゃん達に聞いてるでっ! ネギは自分が悪いと思ったときとか、都合の悪くなったときは目逸らす癖があるってな!!!
 自分すら騙せない嘘に意味はないでっ!!!」

「な、何で小太郎君が僕の知らない間に木乃香さん達と話してるんだよっ!?」

「愚痴と惚気を聞かされてるだけや! むしろコッチの身にもなってみい!」

「(…………ネギがフェイトに罪悪感を抱いてる)」

「(これはマズイで…………)」

「(ネギ先生せんせーの性格だったら、フェイトを消し飛ばしてなかったことにしようとは思わないはずです)」

「(もし消し飛ばすにしても、まずフェイトに責任とってから…………男に戻すなりをしてからでしょうね)」

「(…………それって男に戻すの無駄なんじゃね?)」

「(いえ。ネギ先生が自分で納得されるかどうかが問題ですので…………)」

「(…………ソッチの責任アルよね? “男”として責任を取るとかじゃないアルよね?)」

「「「「「(……………………)」」」」」





 これは思いもよらぬ収穫だ。
 まさか“黄昏の御子”が見つかるなんて…………。


 当初の僕達の計画は、まず世界各地にあるゲートを破壊して、魔法世界ムンドゥス・マギクス…………火星と地球の魔力の繋がりを廃都オスティアのゲートのみに絞る。
 これによって火星の魔力の流れは全て廃都オスティアのゲートに向かい、膨大な魔力が集まることになるだろう。そしてその魔力はオスティアのゲートを通して麻帆良に流れ込むことになる。
 この魔力を持って、の復活を遂げる。

 まずはそれだ。
 魔法世界ムンドゥス・マギクス全ての住人を“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に誘うのは、が復活してからになる。


 というのも、“紅き翼アラルブラ”によって“黄昏の姫巫女”を連れ去られて、居場所が掴めないからなんだけどね。
 もしかしたら高畑・T・タカミチの関係で麻帆良にいるかもしれないので、が復活した後にでも探すつもりではあった。

 しかし“黄昏の姫巫女”は儀式に必要だが、それが“アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア”でなければならない理由はない。
 ネギ君がその代わりになることが出来る“黄昏の御子”ならば、彼を確保するだけで器の肉親の魂と“黄昏の御子”という僕達の目的に必要なものは全て………………彼を、確保……?












「だーかーらっ! 少し黙ってろって言ってるでしょーがっ!!!」

「ぬおおおっ!?!?」



 遠距離攻撃では埒が明かないことに気づいたデュナミスが接近戦を仕掛けようとしたが、逆に携帯杖を使用しての『雷の投擲ヤクラーティオー・フルゴーリス』で迎撃された。
 あの無効化フィールド内でも、ネギ君だけは魔法を使えることが出来るのか。ソレって反則過ぎないかい?

 しかも『雷の投擲ヤクラーティオー・フルゴーリス』を無詠唱で7本も出すなんて、魔法戦においてもネギ君は侮れないようだ。


 …………コレ、ネギ君を確保なんて出来るのかな?









「………………ハッ!? そうか、わかったぞ! きっとあの黒ローブがフェイトを女の子に変えてしまった元凶なんですよっ!!!
 そうじゃないんですか!? フェイトの傷を治したのは貴方なんでしょう!?」


 しかもまたネギ君が何かを言い出し始めた。
 どうやら今回の標的はデュナミスらしいけど…………。


「ぬうっ…………え?
 た、確かにテルティウムを治したのはこの私だが…………」

「やはりそうか…………くっ、まさかフェイトの怪我の治療を名目にこんなことをするなんて…………。
 よく考えてみてください、皆さん。あの黒ローブはフェイト達女の子を数人引き連れてテロりに来たようです。しかも面識のあるフェイトを差し置いて僕達に話しかけてきたことから、おそらく彼らの中でも上位に当たる人物だと思われます。
 つまり…………“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”とは黒ローブがハーレムを築くための組織だったんだよっ!!!
 まさか誘拐するだけに飽き足らず、遂には女の子を自ら作り出そうとするとは…………彼はなんて外道な人なんだ!!!」

「「「「「な、なんだってーーーっ!?」」」」」

「しょうねーーーんっ!? その不名誉な言い掛かりは何なんだぁーーーっ!?!?」

「(…………ネギ必死過ぎ。“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”について詳しいことを話していないコタロ君や木乃香達は信じちゃうかもしれないけど…………)」


 …………また始まったよ。

 まあ、が“ょぅι゛ょ誘拐犯”の主犯と思われるより、デュナミスが主犯と思われたほうが“完全なる世界ぼくら”の名誉のためにもいいから放っておくけどね。
 世界を滅ぼすテロリストと呼ばれるのは構わないけど、さすがにが“ょぅι゛ょ誘拐犯”として認識されるのは勘弁してほしい。


 …………ホラ、僕っての忠実な人形だし。









『フェイト様、要石の破壊が終わりました』


 ん? 暦君か。
 わかった。それなら引き上げるとしようか。





「だから小太郎君! フェイトをあんな風にしたのはあの黒ローブのせいなんだよ!
 そもそもフェイトをわざわざ女の子にするってこと自体がおかしいだろっ! あの黒ローブが趣味でやったとしか思えないじゃないか!!!
 元男のフェイトに他にもいた女の子と同じミニスカート履かせたり、月詠さんのあのゴスロリを用意したのもきっとあの黒ローブなんだよっ!!!」

「なっ!? …………フェイトっ、目ぇ覚ませ! そこはお前が居ていい場所やないんやっ!!!」

「いい加減にしろ、少年っ! 私達は“ょぅι゛ょ誘kコズモ・エンテレ”「そこまでだよ、デュナミス。要石の破壊が終了したから撤退しよう」せめて否定させろっ!!!」


 要石の破壊という目的を果たし、ネギ君が“黄昏の御子”であることがわかるというオマケもあった。ここにいる必要はもうないだろう。
 それに要石を破壊したからにはゲートを繋ぎ止めていた魔力が暴走する。ここにいては危険だ。


「残念だけどそろそろ時間だ。今回はこれでお別れだよ。君達も避難した方がいい。
 要石を破壊したことによってもうすぐゲートを繋ぎ止めていた魔力が暴走するだろう。ネギ君達は大丈夫でも、後ろの警備兵達はどうかな?」

「え、帰るの? …………そっか。元気でね。
 それじゃ僕はその暴走する魔力の対処しよっかなー…………うん、そうしよう!」

「ネギ、目逸らし続けながら言うもんやないで…………」


 追撃はされないか。
 それは何よりだ。

 今のままではネギ君を確保するには準備が足りない…………以前に、何か作戦を考えなきゃいけないな。
 とりあえず今回はこれで引くことにしよう。デュナミスに突き刺さっている『石の槍ドリュ・ペトラス』でネギ君の血は手に入ったしね。


 だがネギ君が“黄昏の御子”であるのがわかった以上、ネギ君本人も何とかして手に入れなければならない。
 ネギ君達はこのまま魔法世界ムンドゥス・マギクスに残ることになるので、の復活までになんとかしてネギ君の確保を試みることにしようか。












































「じゃあね。王子様●●●





「ッ!!!」

「(…………フェイト、お前はもう身も心も女になったんか?)」

「「「「(これはマズイッ!!!)」」」」

「「「「(いろんな意味でッ!!!)」」」」

「(…………ネギ先生が顔真っ青にするところなんて初めて見た)」

「(さすがにこれだと無理ないな…………)」



 ? 何をビクついてるんだ、ネギ君は?

 王子様●●●という言葉に反応するということは、もしかしてネギ君は自分の母親のことを知っているのかな?

 ネギ君を力ずくで確保するのは難しそうだし、だとしたらヘタに敵対するよりも同志になってもらう方法を考えてみた方がいいかもしれない。
 生贄にされたアリカ王女のことからあまりメガロメセンブリアなどには良い感情を抱いてないだろうし、元老院の一部が過去にネギ君の暗殺計画が企んだことなんかを話してみようか。


 ま、今までの経緯や“千の呪文の男サウザンドマスター”のことからあまり信用されないかもしれないけどね。














━━━━━ ドネット・マクギネス ━━━━━



 ゲートを覆っていた結界が解除され、ようやく中に入ることが出来た。

 いったい何があったの!?
 重力波・電磁波・魔法力・精霊力等全てが遮断され、中の様子がまったくわからなかった。こんな強力な結界聞いたこともない。

 こうも簡単に侵入を許すなんて…………まさか魔法世界内部に糸を引く者が!?


 いや、今はそんなことよりネギ君達を………………あ、ちゃんと皆いる。
 どうやら無事だったみたいね。





「ネギ君っ! いったい何が…………その血は!?
 いったい何があったの!?」


 よく見るとネギ君の右肩が血に濡れている。服にも穴が開いているし、どうやら何かしらの事件があったのは間違いないわ。
 でも、幸いネギ君の怪我は既に塞がっているみたいだし、アーニャちゃん達や警備兵達には怪我はないみたい。


「あ、ドネットさん。“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”です。ゲートの要石を破壊されました。
 怪我はもう治したから大丈夫です。他に怪我人もいませんよ。詳しいことは茶々丸さんが映像を記録しているでしょうから、それを見てください」


 なっ!? “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が…………。
 被害はゲートの要石。ネギ君が怪我したけど治癒済み。

 …………まあ、ネギ君が大丈夫というからには、とりあえず危険はもう去ったと考えていいわね。


 とはいえ、ネギ君の顔が真っ青なのが気になるわ。怪我をしたせいだと思うけど…………。
 完全治癒呪文に近い治癒呪文を使えるネギ君だけど、それでも出血から見る限りかなり大きな怪我だったみたいだから、医者に見せたほうがいいわね。
 他の子達も怪我はないみたいだけど混乱しているみたいだし、とにかく別室に連れて行って一度落ち着かせないと。
 


 ………………それと、ネギ君が手に持っている掌サイズの球は何かしら?
 特に魔力とかを感じたりしないはずなのに、何だかとても嫌な予感が…………。





「あとゲートの要石が壊されたことで魔力が暴走しそうだったので、結界でその暴走する魔力を閉じ込めました。それを収縮したのがこの球です。
 …………これどうしましょ? 魔力圧力がかなり高いから、このまま解放したら爆発しちゃいますけど…………」

「え……暴走する魔力を? …………その割にはそれからは何も感知出来ないけど?」

「そりゃ結界で封印してますからね」

「…………ちなみに解放したらどのくらいの被害になるのかしら?」

「ここでなら死人が出ます。この魔力を再利用とかしないんなら、僕の方で処分しますけど?」

「再利用なんて出来るわけないでしょう…………いいわ。
 安全に処分出来るなら、ネギ君が処分して頂戴…………って、何その球を食べようとしているのっ!? 何でもかんでも口にしちゃ駄目って前から言ってるでしょう!!!」

「え? 怪我治すのに魔力使ったから、これで補給しようと思っただけなんですけど………………駄目?」


 ああもう、この子はっ!
 メルディアナにいたときから、解毒呪文の効果を確かめるために自ら毒草を食べて確認するなんてことをやった前科があるし…………。

 だいたい魔力の塊を食べて魔力の回復なんて出来るわけ…………そういえばこの子、近衛学園長が言うには『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を持っているのだったわね。
 その能力を応用すればもしかしたら出来るのかしら?
 そういうアレンジはこの子の一番得意とするところだし…………。


 …………ま、いいか。
 この子のすることは気にしないでおきましょう。









「とりあえず、あなた達は別室に。
 医者の手配もするから、ネギ君は診察を受けてね」

「…………ケフッ、ご馳走様でした。了解です、皆さん行きましょうか」



 まいったわねぇ。まさかこんなことになるなんて…………。

 校長が言っていたナギ・スプリングフィールドさんの友人も何故か到着していなかったし、予定が狂いっぱなしだわ。
 それにゲートが壊れちゃったから、ネギ君を麻帆良に帰すことは…………出来るわね。

 というかネギ君なら勝手に帰れるわね。


 予定は狂ったけど、あまりネギ君達については心配しなくていいのが不幸中の幸いか。
 まずはこの騒ぎを収めることにしましょう。














━━━━━ ガンドルフィーニ ━━━━━



 フフフ、今日が出張最終日だ。ようやく家に帰ることが出来る。
 早く娘の顔を見たいものだよ。…………あ、もちろん妻の顔もね。


 まったく…………何で私がわざわざ魔法世界ムンドゥス・マギクスまで来なければいけなかったんだ。学園長め。
 せっかく娘が小学校に上がってから初めての夏休みだから、色んなところへ連れて行って良い思い出を作ってあげようと思っていたのに…………。

 魔法世界ムンドゥス・マギクスの決まりでお土産を買って帰ってあげられないことが残念だな。



 まあ、学園長から聞いた話だと魔法世界ムンドゥス・マギクスには崩壊の危機があるということなので、高音君達生徒だけでこちらに来させるわけにはいかなかったから仕方がないか。
 とはいっても、実際に崩壊し始めたら私がいても何かの役に立てるとは思えないけどな。


 ネギ先生も今日から一週間ほど、例の件について魔法世界ムンドゥス・マギクスに滞在するようだ。とはいえ大部分の調査は式神に任せて、従者の皆と魔法世界ムンドゥス・マギクスを観光するらしい。
 私達とは入れ違いになってしまうけど、ネギ先生も魔法世界ムンドゥス・マギクスは初めてらしいからこれも良い経験になるだろう。


 是非ともこの魔法世界ムンドゥス・マギクスを楽し「って帰れねええ~~~ッ!?」…………ん? 今のは春日君か?

 そんなに大きい声で叫んだりして…………何かあったのかね?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 はい。さすがのネギもこれには焦りました。
 おかげでゲートも破壊されてしまい、フェイト達に嫌がらせすることが出来ませんでした。
 自業自得ですね。

 そしてデュナミスが“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”の主犯となりました。南無。


 あと『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』がチートすぎて困ってきました。まさかアーティファクトまで弱体化させるなんて…………。
 無くても勝てるんですけどね。


【ネギの被害者リスト】

 メルディアナ学校長:燃やされた
 カモ:去勢された+『仮契約パクティオー』儀式の手伝い
 鳴滝姉妹:悪戯し掛けて返り討ち
 エヴァンジェリン:紅茶吹かされた
 バカレンジャー:勉強地獄
 学園長:ストレスによる急性胃潰瘍にて吐血(2度目)
 さよ:知らないうちに成仏させられるところだった
 魔法先生一同:「この子ホントにどうしよう?」という絶望
 愛衣:幼児退行させられた
 高音:露出狂の嫌疑かけられた
 刀子:露出狂の嫌疑かけられた
 バレーボール:破裂させられた
 タカミチ:コーヒー吹かされた+担任クビ+マダオ就任
 刹那:勉強地獄+バカホワイト就任
 明日菜:失恋
 関西呪術協会:変態集団疑惑+吹っ飛ばされた
 天ヶ崎千草:勝っても負けても“死”?+心を連れていかれた
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”:“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア
 ルビガンテ:名前忘れられた
 月詠:メガネ壊された
 フェイト:女体化 ← new!
 リョウメンスクナノカミ:出番無し
 ナギの家:半壊
 ヴィルさん:情報引き出された
 小太郎:フラグ壊された
 超鈴音:未来に帰れませんでした
 デュナミス:このロリコンめ! ← new!



[32356] 第81話 別行動
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/05/03 18:35



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 …………王子様●●●って…………王子様●●●って何なわけ?



 目覚めたの? 女の身体になったせいでソッチ●●●の方に目覚めたの、あの人形?
 やけに原作でもネギに執着していた気があるから、もしかしてソッチ●●●なんじゃないかと思ったこともあったけど…………。

 女になって溜め込んでいたナニカを我慢出来なくなったのかなぁ。
 ヤバイ。今すぐ魔法世界ムンドゥス・マギクスから逃げ出してぇ…………。


 しかもよく考えたら僕が『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』持ってるのバレちゃったよね。
 思いっきりデュナミスの影槍を無効化していたし、フェイトの従者の女の子達もアーティファクトを発動させてたのを無効化していたみたいだし。

 マズイな。僕が“黄昏の御子”であることバレちゃったよ。
 せっかくアスナさんのことは隠し通せていたのに………………でも、逆に考えればこれでアスナさんは益々安全になったってことか。
 それこそ僕に対する人質ぐらいとしてでしか狙われないでしょう。ウン、不幸中の幸いだ。





 “不幸”が大きすぎて、その中に“幸い”があったとしても誤差の範囲なのが悲しい。…………というかただの現実逃避だ。





 あー、でもフェイトのこと本当にどうしよう? 今度出会ったら有無を言わさずに消すか?

 でもさすがになぁ…………さすがに女になるなんてことは予想していなかった。
 フェイトの従者の暦と環って女の子がやけに僕を睨んでいたんだよなぁ。普通に怒っているだろうなぁ。恩人で恋心っぽいものを抱いてもいる男がいきなり女の子になってしまったもんなぁ。

 罪悪感が…………さすがの僕でもこれには罪悪感が…………。


 でもフェイト達を放っておいてアスナさん達に危害加えられても困るし、何かしら対応は取らなきゃいけないんだけど…………。
 本気でどうしよう?












『もしもし、ネギ先生? 高音君達に話したよ』

「う? ああ……どうでした、ガンドルフィーニ先生?」


 そして只今ガンドルフィーニ先生と電話中。

 とりあえずゲートポートでの騒ぎは収まり、事情聴取なども終わってドネットさんに紹介されたホテルに到着してエヴァさん召喚したら今日はお休みです。女性陣は1つの部屋に篭って何か相談事をしているみたいですけどね。
 それであらかじめ教えてもらっていたガンドルフィーニ先生達が宿泊していたホテルに電話して、詳しい事情と今後のことについてをガンドルフィーニ先生に教えました。





『高音君達も麻帆良に帰ることが出来るのがわかったのでホッとしていたよ。それと君達の用事が終わるまでは帰ることが出来ないというのも納得してくれた。
 これからどうするかはまだ決めていないが、ネギ先生達は当初の君達の予定通りに動いてくれていい。君達が帰るときに一緒に麻帆良に帰らしてもらう。麻帆良にはそう伝えてくれ。
 …………それと高音君達の家族と僕の妻子にも事情を説明してくれたら助かると学園長に…………』

「了解です。麻帆良にいるちびネギ経由で伝言しておきます。
 ………………娘さん、大丈夫なんですか? もし何だったらガンドルフィーニ先生だけでも麻帆良に…………」

『…………クッ、帰ったら妻の実家に帰省する約束をしていたのに………………こりゃ離婚かな?
 ハハハハハ…………』


 いや、職務上の都合だから仕方がないと思いますけど…………。
 それにやけにやさぐれていませんか?


『まあ、それをともかくとして…………やはり君達の都合を優先してくれればいいさ。魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の危機に私情を挟んではいられない。
 何より私達は麻帆良の代表として正規の手段でコチラに来てるんだ。いきなり行方不明になったとしたら騒ぎになるだろうし、事情を説明したらネギ先生に旧世界ムンドゥス・ウェトゥスへ帰りたい人達が殺到することになるだろう。
 そんなことになったら君達の魔法世界ムンドゥス・マギクスの調査にも支障が出てしまう。君が言った通り、調査が終わってから“新たに帰還方法を開発した”ということにして公表した方がいいだろうね。ソッチの方が混乱は少ない。
 帰れなくて不安になっている人達には悪いとは思うが…………』

「ちびネギ達はもう調査に出したので調査自体は終了といえば終了なんですがね。
 それに一応は今でも帰れることは帰れるらしいですよ。思いっきり転移陣が不安定みたいですが…………」

『おいおい、やめてくれ。いくら何でも生徒達をそんなもので帰らせるわけにはいかないだろう。
 いつ完全に壊れるかわからない状態なんだ。もし私達が帰るときに運悪く完全に壊れたとしたら、私達はヘタしたら深海や土の中に放り出されるかもしれないんだよ』


 もしくは宇宙空間や亜空間ですね。
 僕としてもあの壊れかけの転移陣を使うのは御免被りたいところですし。





「了解です。それでは明日にでも一度合流しましょうか。僕達がそちらのホテルに向かいます。
 あとは観光を楽しむだけ…………だったのですが、よく考えたら“新たに帰還方法を開発した”ってことを公表しても皆さん信じてくれますかね?」

『…………ム、確かにそれはあるな。
 私達は君のことを知っているから信じられるが、いくら“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子の君といえど、君はコチラではまったく知られていないだろう』





 フム、それなら原作通りに拳闘大会……“ナギ・スプリングフィールド杯”にでも出るかな?
 そうすれば金稼ぎにもなるだろうし顔も売れるだろうから“魔力輸送扉ゲートによる魔法世界ムンドゥス・マギクス救済”事業を公表するときも楽にことが進むだろうし。

 ま、いいや。アスナさん達の意見も聞いて明日皆で考えよう。
 今日はホントに衝撃的すぎることが起きて疲れた。さっさと寝よう。



 …………あ、ちなみに部屋は全員個室でしたよ。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「…………別行動、ですか?」

「そうだ。別行動だ」


 それは何でまた?

 次の日、ガンドルフィーニ先生達の泊まっている豪華なホテルに到着したと思ったら、何故か僕だけ1人だけでガンドルフィーニ先生の部屋に閉じ込められ、残りの皆さんで春日さん達が泊まっていた部屋で話し合いを始められました。当たり前ですが男女別の部屋だったようです。
 いったい何の話をしているのかな~? と思っていたら、話し合いが終わったエヴァさん達に、僕とはしばらく別行動を取ると言われてしまいましたよ。


「理由を聞いてもいいですか?」

「ウム、アスナ達の腕試しの良い機会だし、ネギは拳闘大会に出るつもりみたいだがその間私達は暇だからな。
 今まで厳しい修行を課してきたが、それはあくまで“ネギの監督下”という安全な状況においてのみだった。しかし、そろそろアスナ達も自分達の力のみで何処まで出来るかというのを試してみてもいいだろう。
 他にも賞金稼ぎとか素材集めとか……自分達で金を稼ぐなどの経験も将来の良い糧になるだろうしな」

「…………そういわれると確かに良い機会ですが…………。
 細かいところは計算しなければわかりませんが、おそらくゲートポートが壊されたことによって地球と魔法世界ムンドゥス・マギクスの時間の流れが変わるでしょう。夏休みが終わるまでがこちらの時間で約2ヶ月間ぐらいに伸びることになると思います。
 それならば“オスティア終戦記念祭”が終わる頃に帰ればいいかと思っていましたが…………」

「それに普段はお前や私が魔法を皆に教えているが、少しばかり正規の魔法授業を経験しておくのもいいだろう。
 夕映やグッドマン達にはアリアドネーを体験してもらうつもりだ」

「グッドマンさん達もですか?」

「ええ。私達ではネギ先生のお手伝いは出来ませんし、賞金稼ぎなどはさすがに危険そうですしね。かといって帰れるまでの時間を無為に過ごすわけには参りません。
 それに魔法世界最大の学術研究都市というものには興味はありますわ」

「えー、いいじゃん。帰るまで遊んで暮らそーよ」

「…………ミソラ、それだとシスターシャークティに怒られると思ウ」


 春日さんは相変わらずぶれませんねぇ。
 まあ、そういうところが逆に安心出来るんですけど。


 でも別にお金は気にしなくていいんですけどね。
 拳闘大会に僕が出るつもりですから、皆さんは僕に全試合で全財産賭けてくれればそれだけで一財産築くことが出来ますよ。






 それでエヴァさんの話をまとめると、3つのグループに別れるそうです。



 力試しチームはエヴァさん、アスナさん、木乃香さん、刹那さん、楓さん、菲さん、のどかさんの計7人。

 かなりの武闘派揃いになってますが、このメンバーなら“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”に襲われても最低でも逃げ切ることは出来るでしょうね。何しろエヴァさんがいるんですから。
 それにエヴァさんが言う通り、僕が“黄昏の御子”ということが“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”にバレた可能性が高い以上、僕の側の方が逆に皆さんにとっては危険かもしれませんね。
 様子を見るためにも、確かに別行動を取った方がいいかもしれないなぁ。特にアスナさん。



 それとアリアドネー短期留学チームは夕映さん、アーニャ、超さん。それとガンドルフィーニ先生御一行。

 アリアドネーなら危険はないでしょうからこのメンバーでも大丈夫でしょう。ちびネギもついていますし。
 夕映さん達は純粋にアリアドネーに興味があるそうです。まあ、これも良い経験になるかもしれませんね。僕やエヴァさんみたいなバグキャラを基準に考えられるようになったらマズイですから、ここで夕映さんに“普通の魔法使い”というものを知ってもらうのもいいでしょう。
 ちなみに超さんは、良い機会だからアリアドネーの資料を手当たり次第漁ってみるとのこと。確かにあそこには魔法世界ムンドゥス・マギクスについての資料はたくさんありそうですね。地理なんかを調べるだけでも効率的な魔力輸送扉ゲートの配置場所の計算にも役立ちそうですし。
 …………念のために、アーニャに“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”貸しとくかな。アレあったらいろんなことに使えて便利だし、護衛にも使えるだろうし。



 て、残りは僕と一緒に行動する人達。千雨さん、龍宮さん、茶々丸さんの3人とアルちゃん。

 千雨さんは力試しは出来ないし、アリアドネーにも興味ないですので、僕が拳闘大会に出たときに僕に全財産を賭ける役をやってもらおうと思います。
 龍宮さんは千雨さんの護衛…………というか消去法で選んだみたいです。この人も力試しとかアリアドネーには興味ないでしょうからね。
 茶々丸さんは僕のお世話役。まあ、力試しに参加してもしボディが壊れたら修理で困るし、アリアドネーに行ったら興味持たれてヘタしたら分解されちゃうかもしれませんよね。


 ………………アスナさん達全員とは別行動か。
 距離が離れるから『従者の召喚』とかで咄嗟に呼び出したり呼び出されることは無理だから、何かあったときはちびネギが転移陣展開しなきゃ無理だな。

 その展開するためのわずかな時間ぐらいなら皆さんだけでも大丈夫だと思うけど…………。






「…………なに不機嫌になってるんだ?」

「別に不機嫌じゃないですよ」


 ただ心配なだけです。

 皆さんのためになるのなら、仕方がないから認めますけどね………………ムゥ。



















「…………で、小太郎君はどうするの?
 今のチームには何処にも入っていなかったみたいだけど?」

「ん? ああ…………ちょっとエヴァさんの別荘借りて、一から鍛えなおそうと思ってな。
 それでちびネギを1人だけコーチとして借りたいんやけど…………ええか?」

「…………それは別に構わないけど」

「ム…………別荘は私の影にしまっておくから、そういうことなら犬がもし外に出たくなったときのために連絡手段が必要だな」



 それは別に構わないけど…………やけにあのフェイト見てから随分と決意を固めたような表情をしているね。
 京都での一件でフェイトと原作より仲良くなったみたいだから、あのフェイト見たらさすがに思うところがあるんだろうな。


 …………もしかして、本気でデュナミス倒してフェイトを解放しようとか思ってない?
 アレはあくまで僕が適当に嘘八百並べただけなんだけど…………残念ながら今の僕には否定する材料がないんだよなぁ。

 調子に乗って戯言を言い過ぎたか。反省反省。












━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



「よし、何としても性転換薬を作るぞ!」

「ええ、それでフェイトを男に戻しましょう!」

「賛成や!」

「フェイトを男にさえ戻せば、ネギ先生はフェイトのことを気にしなくてすむようになるでしょう」





 これで別行動についてのネギの了解はもぎ取った。
 私達腕試しチームは片っ端から性転換薬に必要そうな材料をあらかじめ集めておき、夕映達アリアドネーチームが性転換薬について調べることが出来る。

 あ、ガンドルフィーニ達に事情を話したら、苦笑いだったかが協力を約束してくれたぞ。
 もちろん真面目にアリアドネーで勉強をするつもりらしいので、時間に余裕があればの話らしいがな。ガンドルフィーニもアリアドネーの教育現場には興味があるらしいし。

 そして何としてもこの旅行中の間に性転換薬を作成し、フェイトに飲ませて男に戻さなければならん。
 ゲートポートでの一件のあらましを聞いたときは、さすがの私でも開いた口が塞がらなかったぞ。


 しかし…………こう息巻いておいてなんだが、本当に性転換薬なんて作れるのだろうか?

 少なくとも私は知らん。以前、惚れ薬を作るために別荘の中の魔法資料を探したときもそういうのは無かったしなぁ。
 これについては夕映達アリアドネーチームに頼るしかあるまい。いくらアリアドネーが“学ぶ意思があるものはたとえ魔物や犯罪者であっても捕らえることは禁止されている”といえど、さすがに私がアリアドネーに行ったら騒ぎになって資料集めどころではなくなってしまう。
 夕映の“世界図絵オルビス・センスアリウム・ピクトゥス”がこんなときこそ役に立つな。しかもアーニャが“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”をネギから借りるようだから、効率は更に2倍だ。超鈴音もこういうことには役立つだろう。




 さすがのネギでも性転換薬については知らんだろう。
 アイツは関係ないことには手出ししない性質だから、“女の子になってみたい”という思いを抱いていない限り調べようともせんだろうからな。


 …………女の子になったネギ。少し見てみたい……イジメてみたい気がするな。
 もし性転換薬が出来たら試してみるか。

 よし、楽しみが増えた! 何としても性転換薬を作るぞ!!!





















「…………でも、別行動になるのはネギにとっても良い機会だったかもしれないわね」

「そうやねぇ。最近のネギ君はウチらにベッタリやったもんね」

「ベッタリの割にはスキンシップは全然してくれませんでしたけどね。
 私達の方から近づいたら逃げるのに、私達の方から離れると近づいてくるというか…………」

「あのネギ先生せんせーってやっぱり警戒心の高い猫みたいですよねー」

「学園祭のときに自分の気持ちに気づいたせいなんでござろうな」

「そのせいで私達とはどういう距離をとっていいかわからないようになったみたいアルね」


 確かにな。あのネギはあのネギで可愛くて好きなんだが、将来的なことを考えるならネギにはもっと立派な男になってもらいたい。

 今のネギなら無理矢理迫れば押し倒せそうだが、やはり最後はネギの方から私達へと告白してほしい。愛すのも良いが愛されるの方が良い。
 だからネギと会えなくなるのは寂しいが、これもネギを良い男に育て上げるための一歩なのだ。

 それにきっとネギの方も私達に会えなくなることによって、私達がどれだけ大事だったかを再認識するはずだ。
 そして私達への想いがさらに深まることになるだろう。


 今度会ったときのネギはどうなっているかが楽しみだな。そしてネギに纏わりつくかもしれない毒虫排除の準備を何とかせねば。
 その間、私達全員がネギから離れてしまうので、しばらくは千雨や茶々丸にネギを見張っておいてもらうことにしよう。

 知らん仲ではないので千雨や茶々丸になら手を出しても認めてやるから、フェイトだけはやめてくれ。
 いくら何でも元男が言い寄ってくるのは生理的に無理だ。




 しかしネギに黙って事を進めなければならんのが面倒臭い。
 アスナの言う通り、ネギが私達のしようとしている事を知ったら「そんなことは必要ない」というだろうから仕方がないがな。

 どうせネギのことだ。私達に自分の尻拭いをさせるのは嫌がるだろう。
 だが今回のことは私達、女のプライドの問題でもある。ここは黙ってでも進めさせてもらうぞ、ネギ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 逃げろ、ネギ。超逃げろ。

 エヴァがよからぬ事を企んでいるようです。
 ネギ的には“女装ならまだともかく、性転換はマジ勘弁してください”です。



[32356] 第82話 拳闘デビュー
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/05/06 09:46



━━━━━ 綾瀬夕映 ━━━━━



 魔法世界ムンドゥス・マギクスに来てから約1週間が経ちました。
 ネギ先生達とは別行動をとり、アーニャさん達と一緒にアリアドネーに短期留学中という名目で性転換薬資料集めをしている私ですが、なかなか資料集めは捗りません。
 普通に紙媒体のの資料ばっかりなので、私の“世界図絵オルビス・センスアリウム・ピクトゥス”が役に立たないのです。

 これはもう禁書庫に忍び込むしかないのでしょうか?


 もちろんアリアドネーの授業もキチンと受けています。
 私達は魔法騎士団候補生の授業を体験させてもらっていますが、超さんは通常状態では魔法を使えないので資料室や図書館に篭りっぱなしです。
 魔法騎士団候補生の授業は私達が今まで受けていた地獄の修行よりも数段ヌルい内容だとは思いますが、それでも今までと違った授業なのでタメになりますね。


 あ、ガンドルフィーニ先生も私達と同じ授業に参加したりアリアドネーの先生方と教育について話し合ったり、現実世界ムンドゥス・ウェトゥスのことについて聞かれたりして、結構充実しているそうです。
 …………たまに奥さんと娘さんの写真をずっと見詰めているときがありますが。











「なーーーに見てるのユエとアーニャちゃん!?
 …………あ、拳闘大会の中継? “グラニクス夏季大会ミネルヴァ杯”かぁ」

「あ、コレット」

「ええ、そうです。現実世界ムンドゥス・ウェトゥスではこういう拳闘大会などはありませんでしたからね」


 広場でアーニャさんと一緒にお茶をしつつ、小型テレビを見ていたら声をかけられました。

 この人はコレット・ファランドール。私が入った魔法騎士団候補生のクラスの同級生で、私のルームメイトでもあります。
 亜人なので人間とは違う耳を持っているのですが、小太郎さんとは違って長く垂れ下がった耳でした。ダックスフンドとかビーグルとかそんな感じの………………ちなみに小太郎さんは黒い柴犬。
 突然ルームメイトになった私でも仲良くしてくれるような良い人ですし、クラスの成績が最下位でもめげずに授業に励む頑張り屋さんでもあります。


 …………コレットみたいな亜人は魔法世界ムンドゥス・マギクスと同じく幻想。魔法世界ムンドゥス・マギクスが崩壊するのと同時にコレット達も消えてしまうことになります。
 正直、コレットと仲良くなるまでは身構えていたところもあるのですが、付き合ってみると私達と同じ人間としか思えないので、次第に気にならなくなりました。
 そもそも茶々丸さんが仲間にいる時点で、幻想とか現実とかは細かいことなんですよね。

 しかし、せっかくこちらでコレット以外の知己も得たことから、魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊を阻止するための意志を固めることが出来ました。
 私も性転換薬の資料集めばかりに勤しむのではなく、超さんのお手伝いもシッカリしていきましょう。







「ふーん…………新米拳闘士かぁ。相方はオコジョ妖精?
 相手はベテランみたいだし、どういう試合になる…………アレ? この顔、ナギ……?」


 すいません。それネギ先生です。
 ネギ先生の試合を見たかったのでどこでも見れるように小型の携帯テレビを買ったのですが、ちょうど今日が拳闘士デビュー戦なのです。
 せっかくなのでアーニャさんと一緒にテレビ越しに観戦します。


 それとネギ先生は10歳の子供では拳闘大会に出してくれそうにないので、最初の一試合は幻術で大人verになって出場し、勝ってから正体をバラすとの事でした。

 ちなみにネギ先生の相方はアルちゃんです。
 相方として出ることが決まったとき、アルちゃんは「これでようやく出番が……」と感動していたそうです。メタなことを言っては駄目ですよ。

 “ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”とかメガロメセンブリアの元老院とかのことはいいのかな? とも思いましたが、“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”なら返り討ちにすればいいだけですし、元老院も直接的に仕掛けてくる理由はまだないので問題ないみたいです。



 そしてコレットなのですが、お義父さま……ネギ先生の父であるナギ・スプリングフィールドの大ファンなのです。
 初めてコレットの部屋に泊まったとき、飾ってあるナギグッズについて質問したら凄い勢いでお義父さまについて語られました。

 …………私がネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”であるということがバレたらどうしましょう?
 何かとんでもないことになりそうなのですが…………。


 私だけではなくアーニャさんや佐倉さん達も、ネギ先生の知り合いであるということは隠すように注意されています。
 “ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”のこともありますし、お義父さま達に関する面倒事に巻き込まれるのを避けるためなのですが………………一番面倒臭そうなのがお義父さま達の熱烈なファンということが悲しいです。

 バレたら絶対騒ぎになるでしょうねぇ。







 …………あ、ネギ先生が重力魔法で対戦相手を潰した。妖精さんがまるで蚊トンボのように落とされました。
 でもちゃんと手加減したらしく、ナニカが飛び散ったりとかはしていないようです。


「うわ、凄い。重力魔法じゃん……」

「(これでもネギは手加減しているっていうんだから反則よねー)」


 あっという間に勝ってしまいました。
 相変わらずネギ先生はさすがです。










『どうもー☆ 勝利者インタビューデス。ランキングでも常に上位に位置するラオ・ランコンビ!! そのベテランを下しての見事なデビュー戦おめでとデス!!
 新人さんお名前は!?』

『あ、ネギ・スプリングフィールドです。こっちは使い魔でオコジョ妖精のアルちゃん』


 そしてポン!と幻術を解き、子供の姿に戻ってインタビューに答えるネギ先生。

 相変わらず重大事をあたかも何でもないように言い放つネギ先生! ある意味でさすがです!
 ですがそこに痺れませんし憧れません!!!

 魔法世界ムンドゥス・マギクスでは“スプリングフィールド”という名前が爆弾になり得るといったのはネギ先生でしょう!
 もっと周りの迷惑のことを考えてく「えええ「“スプリングフィールド”ですってぇーーーっ!?」っておわぁっ!? 委員長!?!?」…………み、耳が……。
 そんな耳元で叫ばれても困ります、委員長。いったい何事ですか?





『はー、子供だったんデスかー………………って、え? “スプリングフィールド”と今言ったデスか!?
 それはかの“千の呪文の男サウザンドマスター”と同性…………もしや血縁者!?
 そういえばどこか面影が……てゆーかソックリデス!?』

『はい。ナギ・スプリングフィールドは僕の父です』

『な「ちょっ!? ナギ様の息子ぉっ!?!?」

「ああっ、委員長! テレビ見えないじゃん!」


 そして私達が見ていたテレビを奪い去る委員長、エミリィ・セブンシープさん。
 この反応からすると委員長も凄いナギファンのようですが…………この人ってこんなキャラでしたっけ?

 私が知っていた委員長はもっとクールで落ち着いた感じの麻帆良の委員長さんみたいな…………ああ、なるほど。納得しました。
 ネギ先生を前にした麻帆良の委員長さんにソックリなんですね。そんなところまでは似ないで欲しかったのですが。





「どーゆーことなんですか、ユエさんっ!? ナギ様の息子が拳闘大会に出場!?!?」

「…………それよりテレビ返してくださいです」

「お嬢様、テレビの続きを見ればわかるのではないでしょうか?」


 そんな悠長としてないで委員長を止めてください、ベアトリクス・モンローさん。
 …………むしろ貴女もテレビの続きの方が気になっていませんか? 地味にナギファン?

 というか本当にテレビ返してください。
 ネギ先生を見れないじゃないですか。





『ほ、本当にナギ・スプリングフィールドの息子さんなんデスかっ!? え、何歳なんデスか!?』

『そうですよ。少なくとも“紅き翼アラルブラ”の高畑・T・タカミチとアルビレオ・イマからはそう聞いてます。それにこの杖は父が残したものですし、“動く遺言”も受け取りました。
 それと僕は今年で10歳です』

『高畑・T・タカミチとアルビレオ・イマ…………。
 確かにさっきの重力魔法はアルビレオ・イマが使っていたものにそっくり…………ハッ!? もしやコチラのアルちゃんの名前はアルビレオ・イマから取ったのデスか!?』

『いや、ソレはただの偶然です。
 この子の本名が“アルベール・カモミール”なのでアルちゃんと呼んでいるだけですよ』

『…………え? この子って男の子?
 そ、それより何故ナギ・スプリングフィールドの息子さんが拳闘大会なんかに!?』

『いやー、僕って普段は現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに住んでいるんですけど、たまたまこっちに来てたら今回のゲートポート破壊事件で帰れなくなっちゃいましてね。
 現在帰る手段を研究中なのですが、帰れるようになるまで研究ばっかりで過ごすのも不健康ですので、運動と修行がてら出場することにしたんですよ。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスを案内してくれるはずだったジャック・ラカンにはすっぽかされましたし…………』

旧世界ムンドゥス・ウェトゥスにっ!?
 …………そういえば確か高畑・T・タカミチは旧世界ムンドゥス・ウェトゥスで活動をしていると聞いたことが………………だから今までそんな情報が一切なかったのデスか。
 あっ、もしかして拳闘大会出場の目標は、オスティア終戦記念祭で行なわれる“ナギ・スプリングフィールド杯”デスか!?』

『そうですねぇ。せっかくそういう大会があるのだから目標にしようと思います。………………父の名がついた大会ってのは少し恥ずかしいですけど。
 父の名に恥じぬ戦いをしてみせますので、応援よろしくお願いしますね。それと修行も兼ねてますので、自分に自信がある強敵の人を闘技場で待ってます。ガンガンかかって来てください』





 そう言い残し、手を振りながら退場していくネギ先生。

 英雄の息子の突然の出現ということで、観客の人達は大盛り上がりです。
 おそらく明日にはネギ先生のことが魔法世界ムンドゥス・マギクス中に知れ渡ることになるでしょうね。



 そして私の周りも大盛り上がりです。







「きゃあああぁぁーーーっ! 10歳であの強さ! 本物だよ、本物! 絶対に本物のナギの息子だよーーーっ!!!
 重力魔法といい、もしかして“紅き翼アラルブラ”の人達に教わったのかな!?」

「ナギが行方不明になったというニュースが流れたのが10年前で彼は10歳。おかしい話ではないですね」

「ナギ様御本人がいなくなってしまって久しい今…………このネギ様は迷える私達のために天が遣わしてくださったのですね!!! …………って、ナギ様の息子ということは、ナギ様は結婚なされていたというのですか!?
 ああ……ナギ様は皆のモノだというのに…………でも結婚なされてなかったらネギ様がいなかったわけで………………くっ、ネギ様の母親はいったい何処の誰なのですかっ!?」




 …………委員長達の目が怖いです。何だか周りにドンドン他の人が集まってきましたし…………。

 隣に座っているアーニャさんと目を合わせると、アーニャさんもわかっているように頷いてくれました。
 これは絶対に私がネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”であることは言えないですね。












━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



 ネギ先生から預かっていた全財産でネギ先生一点買いしておいたら、勝ち金がとんでもないことになった。今日は新人として出たためにオッズが高かったからな。
 実はコッソリと自分でも身銭切ってネギ先生に賭けておいた。ネギ先生が負けることは有り得ないだろうから、絶対勝てる賭けをしているようなものだ。
 換金した後に勝ち金のいくらかを神楽坂達や綾瀬達に生活費として送金して、更に当座の私達の生活費を残しておいたら、明日から再び全財産をネギ先生に賭ける仕事が始まる。

 しかもネギ先生がオッズが圧倒的にならない程度に手加減する予定なので、これからは今日のような高倍率はなくとも、そう簡単にはオッズが急激に下がるということはないだろう。
 実力がバレないように魔力や気の大半を封印すらしている始末だし。


 最終的にはいったい何万……何百万ドラクマになるんだ、コレ? 明日からは1日で何試合も組むらしいし。
 こうなったからには私も魔法世界ムンドゥス・マギクスに隠してあるいざという時のための財産引き出してきて、ネギ先生に賭けて儲けさせてもらうとするか。











「ん? あれは…………トサカだったか? 何やってんだあの人?」

「どうしたんでしょう?」


 試合が終わり、長谷川と茶々丸と一緒にネギ先生を控え室まで迎えにいったら、今回ネギ先生が所属することになった“グラニキス・フォルテース”に所属しているトサカという男が何故かネギ先生の控え室の前にいた。
 しかも何だか“信じられないようなものを見た”という顔をして遠くを見詰めているが…………何があったんだ?







「やあ、トサカさん。ネギ先生に何か用なのかな?」

「…………おう、アイツの連れの嬢ちゃん達か。
 いやな…………幻術使っていたことに対して文句を言おうと思って控え室に殴りこんだんだが、何故か控え室にいたのがスカした男でもなくガキでもなくて、身長が3m近くある筋肉ムキムキのマッチョでな。
 ………………おかしいな。俺って最近疲れてんのかな?」


 微妙な小ネタするんじゃない。
 どうしてあの子はこういうどうでもいいところで人をからかったりするのかな?

 それに今の表現って京都のときの………………いや、思い出すな。思い出すんじゃない、私。
 女の子としての生き方なんて捨てた私だが、さすがにアレを許容出来るほど達観出来ているわけじゃない。


「…………いや、それも幻術なんだろう」

「そうだよな。アレも幻術だったんだよな。睨まれた瞬間チビっちまいそうな凄え迫力持ってたけど、アレも幻術だったんだよなぁ。
 ………………って、テメェラ! よくも幻術なんか使って騙しやがったな!!!」

「別に騙してませんよ。本当のことを言わなかっただけです」


 おや、ネギ先生。お疲れ様。
 …………ちゃんと子供verみたいだね。





「おわっ!? 急に出てくんな!!!
 …………って、あー……ボウズ? マジでそのガキの姿が本当なのか? それに“千の呪文の男サウザンドマスター”の息子って…………」

「さっきインタビューで答えたことは本当ですよ。
 まあ、結果的に騙したみたいになってしまいましたが、この姿だったらそもそも入団テストすら受けさせてくれなかったでしょう」

「そりゃあそうだがな…………その姿だったら門前払いしてただろーよ。
 …………でも未だに俺は信じられねーよ。まさかそんな大物がウチの拳闘団に入ってくるなんて…………」

「正直な話、拳闘団はどこでもいいので辞めろと言われたら辞めますよ。
 今なら何処の拳闘団でも拾ってくれるでしょうからね」

「馬鹿野郎! そんなことしちまったらウチの拳闘団が笑いモンにされるじゃねーか!
 …………あーー、もうっ! お前わかってやってんだろ! 歳の割りにシッカリしてやがんなぁ。大人の姿のときは血も涙もないヤバイ奴って感じだったが、ガキの姿でも本質は変わんねーみたいだぜ」

「辞めろと言われないのなら精々頑張りますよ。とはいえ今度の“ナギ・スプリングフィールド杯”までになるでしょうけどね。
 でもその間にこの拳闘団の宣伝はシッカリしますから、トサカさん達も僕達にそれなりの便宜をお願いします。ギブアンドテイクでいきましょうよ」

「…………けっ! こうなった以上それしかねぇのはわかってんだよ。
 オラ、座長のとこ行くぞ。一度テメェの口から直接説明しておけ。これから客の対応が忙しくなりそうだからよ」

「了解です。
 …………というわけで千雨さん達はアスナさん達への送金とかをよろしくお願いします。アルちゃんも一緒に」

「わかりました。お兄様」





 了解。それが終わったら先にホテルへ戻っているよ。

 今日から泊まるホテルはグラニクスで一番高級なホテルで、泊まる部屋は寝室やリビングなどの複数の部屋を使えるいわゆるスイートルームだ。これからはそこを拠点として活動していくことになる。
 ちなみに長谷川名義で泊まることになっていて、ネギ先生の名前は使っていない。

 宿泊費はこれからのネギ先生の拳闘士としての活躍で問題ないし、何だかんだで良いホテルというものはセキュリティもその分シッカリしているからな。
 荒くれ者達が大勢いる魔法世界ムンドゥス・マギクスだが、その分荒くれ者の対応も慣れているだろう。

 長谷川のような完璧な素人がいるのなら普通のホテルよりも安心出来る。



 そして何よりネギ先生のファンへの対応が楽になりそうだ。高級ホテルなら従業員がそういうのはある程度弾いてくれるからな。
 そもそもネギ先生の名前を使っていないからファンが押しかけてくるなんてことはないと思うが、それでも念を入れておくことに越したことはないだろう。

 いやぁ、正直言って魔法世界ムンドゥス・マギクスでのナギ・スプリングフィールドの知名度を舐めていた。
 ネギ先生が自分の正体をバラしてからはもう大騒ぎだ。

 それこそ普通のホテルなんかに泊まっていたら、ナギファンの連中がそのホテルに押しかけてきそうな勢いだったよ。
 それを考えたら宿泊費は高くとも安心出来る場所に滞在すべきだ、というネギ先生の考えは間違っていない。


 …………少し気にかかるのが、寝室がいくつもある部屋を取ったので、名義上は私達全員が同じ部屋に泊まることになっているということだな。
 まあ、ネギ先生が襲ってくるなんてことは思いつかないので私は別に同じ部屋でも構わないのだが、神楽坂辺りがこのことを知ったらどういう反応を示すのだろうか?
 嫉妬されたりしなければいいのだが…………。











「…………相方として出場したのはいいのですが、結局は何の役にも立てませんでした」

「いや、それは仕方がないだろう…………」

「気にすんなよ、アルちゃん」

「私達が相方として出場するわけにはいきませんし、このままアルちゃんに頑張ってもらうしかありません」

「それはわかっているのですが…………」


 私の肩に乗り移ったアルちゃんが沈んだ声でそう言うが、例え私が相方だったとしても同じだろうさ。

 それに茶々丸が言う通り、他に相方として出場出来るのがいない。
 長谷川は言わずもがな実力的に駄目だし、私はまほら武道会のような一地域でならともかく世界規模で見世物になる趣味はない。茶々丸はエヴァンジェリン関係で駄目だしな。
 だいたいネギ先生の相方が女だったら、熱烈なナギファンから余計なやっかみを買いそうだ。

 それと長谷川の護衛もある。
 私か茶々丸のどちらかが相方として出場するとなると、長谷川の護衛は1人になってしまう。これだと何かあったときに対応出来かねない事態になり得る可能性がある。
 だからこの組み合わせが長谷川的に一番安全…………じゃないか、一番安全なのはネギ先生の相方として試合に出場することだな。うん。


 …………まあ、それはともかくとして、アルちゃんにはネギ先生の側に居てもらわなければならない理由が別にある。





「…………で、ネギ先生の機嫌はどうなんだ? 試合で少しはストレス発散出来たのか?」

「駄目ですね。歯ごたえがなかったせいか余計にストレスが溜まってしまいました」

「一撃で終わっちまったらしょーがねーだろうな」

「ネギ先生は大丈夫なのでしょうか?」


 神楽坂達と別行動をし始めてから約1週間。日に日にネギ先生の機嫌が悪くなっていく。
 特にここ2、3日が酷い。夜に飲む酒の量もドンドン増えてきてるし…………。

 やっぱり神楽坂達が側にいないのが心配なんだろうなぁ。


 とりあえずアルちゃんを常時ネギ先生に貼り付けておいて、オコジョ妖精得意の人間の感情を感知する魔法でネギ先生の機嫌を調べてもらっている。
 ネギ先生の機嫌が最悪になってもし爆発でもしそうになったなら、何とかして神楽坂達と電話で会話させるなりしてストレス発散させるなどしなければならない。

 ちなみにその旨は念報で既に神楽坂達に伝えておいた。
 まだイエローゾーンに入ったばかりなのでそこまでする必要はないが、オレンジゾーンに入りそうになったら準備しなければ。
 神楽坂達は神楽坂達で竜退治したり賞金首を捕まえたりして楽しんでいるそうだが、少しは私達の苦労を理解してほしいものだ。


 まあ、ネギ先生の機嫌が悪かったおかげで、拳闘団にも楽に入ることが出来たのはよかったがな。
 何しろネギ先生が入団するために拳闘団を訪れたら、ネギ先生の纏っている雰囲気だけで入団テストが免除になったぐらいだ。拳闘士という職業柄、他人の強さには敏感なのだろう。
 それからトントン拍子で今日の出場が決まったよ。





 それと“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”のために、ネギ先生の身元をバラすことになったのが上手い具合に働いてくれるといいが…………。

 魔法世界救済のために“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリー”を魔法世界に設置するとなると秘密裡に行なうことは出来ないだろうし、何よりネギ先生としては自分達のことなんだからと無理矢理にでも魔法世界の住人に協力させたいらしい。
 なのでネギ先生が魔法世界の話題を掻っ攫って注目され、誰もがネギ先生の言うことを無視出来なくなったときに全てをバラすことにするそうだ。


 それまではただの年齢の割りに強い純真な子供(笑)を演じるらしい。



 もちろん混乱は起きるだろうが既に対応策を構築している以上、致命的な問題にはなるまい。
 だが魔法世界の協力を得られるのならそれに越したことはない。具体的に言うとメガロメセンブリアとヘラス帝国、それにアリアドネー辺りのな。
 そのためにも父親の威光を利用してでもネギ先生の発言力や影響力を大きくするようだ。


 …………まあ、そんなわけでネギ先生の身元をバラしたが、それを知った各地の猛者がネギ先生に挑んでくることになるだろう。
 出来るならネギ先生のストレス発散になるぐらいの生贄……じゃなかった、強敵が挑んできてほしいものだな。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 カゲタロウ逃げろーーーっ!!!



 それといちいち魔法世界救済案の説明をするのはメンドイので、“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”という名前をつけて一言で済むようにしました。別に宝具が飛び出してきたりはしません。

 ちなみに地球や火星に一番近い“金星”ではなくて“水星”の魔力を使うのには理由があります。
 ヒントとしては“ネギの原作知識は32巻まで”です。



[32356] 第83話 “千の刃”登場
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/05/10 20:45



━━━━━ ジャック・ラカン ━━━━━



 ククッ…………なるほどなるほど。
 まだまだガキだが、筋は悪かねぇようだな。



 ナギの息子……ネギ・スプリングフィールドが拳闘士デビューして1週間が経った。
 ぼーずは1日に何試合も試合を組んで、このデビュー1週間で30連勝をしている。しかも相方のオコジョ妖精には手出しさせていないで。


 使う技も最初の試合に見せたアルの重力魔法の他に、タカミチの居合い拳やら詠春の神鳴流みたいな“紅き翼おれたち”の技を使っていやがった。

 俺は前に送られてきたタカミチの手紙で教えられていたからそのことについて知っていたけど、戦闘に関してはなかなかやるみてーだな。
 ナギの息子の割りに魔力量が少ないみたいだけど、それをカバー出来る技術を持ってやがる。ナギとは違ったタイプみたいだぜ。

 俺的強さ表でいくと1200ってところだな。
 でも居合い拳とか神鳴流みたいに色んな技を使えるから、相性が良ければ2000ぐらいの相手でも負けない戦いは出来そうだ。


 カゲちゃんに頼んでチョッカイかけてもらうことになっているけど、これならそこそこ良いところまで食らいつけるかもしんねーな。
 それにタカミチから聞いてるあのぼーずオリジナル魔法の“モビルスーツ”って奴は一度も見ていねぇから、それがどんだけ使えるかで決まるだろう。
 半年ぐらい前のタカミチの手紙によるとかなりのスピードで動けるみたいで、実際に見たらしいタカミチが“厄介”と表現していたからな。カゲちゃん相手にどこまで戦えるのかが楽しみだぜ。



 ぼーずが魔法世界に来ることが決まってから送られてきたタカミチの手紙には「見ればわかる」って書いてあったが、これから面白くなりそうだ。





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 …………って思ってたんだけどなぁ。





「おっと、すみません。
 くっくっく…………やはりどうもパワーがありすぎて、自分をうまくコントロールできなかったようです」

「……あ…………ぐ…………」

「フム、こちらに来てから3分以上僕と戦えた人がいなかったので、少し興が乗ってしまいましたね」




 カゲちゃんがぼーずの角に腹を突き破られているのが見える。
 ゴメン、カゲちゃん。そのぼーずの戦闘力って1200じゃなくて、5000オーバーくらいだったわ。


 カゲちゃんに仕掛けてもらってからの始めの方はまだ良かった。
 カゲちゃんもさすがAAクラスといえる実力を見せていたし、ぼーずはカゲちゃんに力も魔力も速さも全て負けていたのに技術だけで互角に渡り合っていた。10歳にしたら十分だといえるな。

 しかし、それが一変したのはぼーずがモビルスーツ…………“ユニコーンガンダム”とやらに変身してからだった。
 変身が終わった後のぼーずはその前とはまったくの別物。縦横無尽に高速度で動き回ってカゲちゃんを翻弄しやがった。そして最後には2つに分かれた額の金色の角でカゲちゃんの腹をぶっ刺した。
 よくもまあ、あんな動きをして平気なもんだな。



 ブン! とカゲちゃんが振り払われて地面に落ち、ぼーずがモビルスーツを解除してカゲちゃんの目の前に降り立つ。
 いや~、当初の予想とは違うことになったけど、これはこれで面白くなりそうだからいいな。
















「カゲタロウさん…………あなた、“覚悟して来てる人”……ですよね。
 人を“殺そう”とするって事は、逆に“殺される”かもしれないという危険を常に“覚悟して来ている人”ってわけですよね…………」


 え、ちょっと待て? さすがにその台詞は予想外だぞ10歳児?


「…………まだだっ! まだこの程度ではっ!」


 とはいえカゲちゃんは腹に穴開いたぐらいじゃまだ終わんねぇみたいだ。再びぼーずに影槍で仕掛けるが…………やはり腹の傷が響いているのか動きが少し鈍っているな。太い血管を傷付けたせいか、出血の量も多いし。
 しかしぼーずは今までの戦いでカゲちゃんの動きを見切ったのか、楽々とカゲちゃんの攻撃を避けている。

 左手で放つ居合い拳で放ち、右手のナギの杖で魔法障壁では受け止められない『斬魔剣・弐の太刀』で放ちながら虚空瞬動で接近する。
 カゲちゃんは『斬魔剣・弐の太刀』を避けながらも影槍で攻撃を続けているが、それは全て避けられるか居合い拳で弾かれる。それに一度テンポが崩れたせいで不利な状況を覆せねーでいる。

 こりゃあ決まったな。後はカゲちゃんがこのまま追い詰められて終わりだ。



 どれ、そろそろカゲちゃん助けるか。ぼーずの力を見るために仕組んだけど、これでもう十分だろう。
 それにしても…………あんな戦い見てたら俺もぼーずと戦いたくなってきたぜ。

 ぼーずは“ナギ・スプリングフィールド杯”に出るみたいだから、俺もそれに出場してみるかな。
 ナギとぼーずが一人前になるまでは裏のことを教えない約束していたから、その一人前になったのかどうかを確かめるのにもちょうどいい。何より面白そうだ。
 幸い大会に出資してるから顔は利くし、相方はこの戦いのリベンジしたいだろうカゲちゃんにすれば問題ねぇ。

 よし、決めた決めた。





「『斬魔剣・弐の太刀 百花繚乱』!!!」

「くぅっ!?」


 お、そんなこと言ってる暇はねぇな。急いで止めないと。

 ぼーずが放った『斬魔剣・弐の太刀 百花繚乱』をカゲちゃんが大きく上空に跳んで避けたが、圧倒的な剣戟のせいで周りの建物が崩れて土煙が舞い上がってしまい視界が悪くなる。
 その土煙の中からぼーずが飛び出してきて、上空に逃れたカゲちゃんに突撃する。カゲちゃんはまだ体勢を立て直せていない。

 マズイな。これで決まっちまう。
 ここでカゲちゃんを殺させるわけにはいかねぇ。















「ま、なかなかイイ見世物だったが…………この勝負、俺に預からせろや」







 2人の間に割って入り、ぼーずが振り下ろそうとしていた『斬岩剣』を掴み止める。

 …………それにしても、マジでカゲちゃん殺すつもりだった?
 今の受け止めなかったらカゲちゃんが右と左に分かれちまってたぞ。

 まあ、思ったより威力がなかったので、カゲちゃんならガード出来てたかもしんねーがな。


 とりあえずこれで終わりにして、決着は正式な拳闘試合で……って、ぼーずの様子がおかしいぞ。俺を見ても驚かないというか、むしろ俺を見ないでカゲちゃんだけを見続けているというか………………って、違ぇっ!?
 これぼーずじゃなくて精霊囮デコイじゃねえか!? 杖だけ本物!?





「『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』っ!!!」





 俺達の下からぼーずの声がした。
 どーやらぼーず自身は土煙に隠れたまま詠唱をしていて、その代わりに本物の杖を持たせた精霊囮デコイをカゲちゃんに突っ込ませたみたいだ。
 俺としたことがまんまと引っ掛かっちまったぜ!

 って、そんなこと言っている場合じゃねーな。このままじゃ俺ごと巻き込まれちまう。
 というわけで『気合防御』!!!


 ドカーンと『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』が直撃するが…………やっぱり魔力はあんまり高くねぇな。このくらいならで屁でもねぇ。
 そしてそのままカゲちゃんを庇いつつ地面に降り立って、ナギの杖をぼーずにブン投げて返したが難なく受け取りやがった。


「クッ…………すまぬな、ラカン殿」

「いや、気にすんな。ありゃ俺の見立て違いだったよ」


 カゲちゃんは悪くねぇよ。俺もここまでぼーずが出来るなんて思っていなかったからよ。
 でも楽しくなってきた。10年も隠居してたら退屈だったからなぁ。












「…………“紅き翼アラルブラ”のジャック・ラカンですか。“千の刃”の…………」

「“アラるぶら”~? 何だそりゃ、知らねぇな。
 俺がそのアラ何とかの面子ならどうだってんだ?」

「いえ、別に。特に何かあるというわけではありません。
 そんなことよりその人コッチに寄越してくださいよ。まだ戦いは終わってないんですから…………ねぇ、カゲタロウさん?」

「ぐ……ぬぅ…………」


 …………“そんなこと”呼ばわりされた。
 アレ? もしかしてぼーずって俺達のこと嫌いなの?


「いえ、確かに約束を守らないのは人としてどうかと思いますが、今はそんなことよりそのカゲタロウさんなんですよ。
 こんな街中で不意打ち仕掛けてくるなんて舐めた事を仕出かす人を放置しておいたんじゃ、これからも面倒くさいことになりそうですからね。ここは一つ見せしめのためにも、キッチリとケジメはつけさせてもらわないと…………」


 ナギィーーーっ!? お前はぼーずをどんな風に育てたんだ…………って、そういえばナギはこのぼーずを育てたりしていないな。
 それにナギの故郷の村に預けてたって聞いてたが、考えてみればそこはあのナギが生まれ育った村なんだ。多少おかしくても不思議じゃねえ。

 ってか、約束すっぽかしたこと根に持ってんのかよ。
 いや、ホラ。メガロメセンブリアって遠いし、だりーじゃん。名前もなげーし。





「…………ム、しかし私はあくまでお前の呼びかけに応じて参上したまで。
 その上で貴様に尋常の勝負を申し込んだのだから、非難される謂れは…………」

「何を勘違いしているんですか? 僕が呼びかけた内容は『自分に自信がある強敵の人を闘技場で●●●●待ってます。ガンガンかかって来てください』ですよ。
 あくまで闘技場で●●●●です。こんな街中で待っているなんて言ってません。勝手に自分の都合の良いように改竄しないでください。
 だいたい“尋常の勝負を申し込んだ”って言っても、有無を言わさずに無理矢理だったじゃないですか。ああいうのは“申し込む”とは言いません」


 あ、あれ? そういえばそんな風に言ってたっけか?
 カゲちゃんを見ても“あー、そういえばそうだったな”って感じになってる。

 だからぼーずは怒ってんのか。


「これでカゲタロウさんを放置したら、僕を倒して顔を売ろうとする馬鹿が湧いてきて街中どころか泊まっているホテルにも襲い掛かってくるかもしれないじゃないですか。
 僕1人なら大抵の相手は如何様にも出来るでしょうが、僕には連れもいるものでしてね。しかも一般人の素人です。その人を危険に晒さないためにも、闘技場以外で仕掛けてきた人は酷い目に遭うって実例を作っておかないと不安なんですよ。もちろん闘技場ならいくらでもお付き合いしますがね。
 そこら辺のことについてはあなた達の方が経験を持っていると思いますが…………」

「…………10歳の割にはちゃんと世間のことを知っているのだな。確かに貴様の言うことは間違っていないのだが…………」

「へぇ、言いたいことはわかったけどよー、ぼーず。
 じゃあカゲちゃんのことはどう始末をつけるつもりだったんだ? まさか殺すまではしねーだろ?」

「え? “死んでも恨みっこなし”が拳闘士の掟って聞きましたけど?」

「「え?」」


 なにこの子、こわい。





「え、駄目なの? えーっと…………うーん………………じゃあ『石化』ではどうでしょう?
 助けてくれる人がいない限り死んだも同然ですし、助けるにしても石化治療で少なくないお金がかかりますからね。それかもしくは腕一本か…………」

「…………ドッチがいい、カゲちゃん?」

「ラカン殿ぉっ!?」


 そういえばタカミチの手紙で“変わった子”って表現されてたなぁ、このぼーず。
 つーか朗らかにそんな2択を提示されても困るわ。





「ジャック・ラカンさんがこの試合を収めるというのなら構いませんが、それでもいきなり襲ってきたことに対してのケジメはつけさせてください。それが済んだら石化治しても文句は言いませんよ。
 ………………でもどうやら黒幕はそのジャック・ラカンさんのようですけどねぇ。
 あ、それと街を壊した分の修理費を請求されたときは、カゲタロウさんが全額払ってくださいよ。実際街を壊したのはカゲタロウさんがほとんどですし」

「おいおい、ぼーずはホントに10歳なのかよ?」

旧世界ムンドゥス・ウェトゥスの子供とは全てこういうものなのだろうか? それとも父親似?
 しかし、そう言われても………………いや、そうすれば少年の気は済むのか?」

「カゲちゃんマジで言ってんのか!? さっきのは冗談のつもりだったんだが…………」

「石にされてもラカン殿が治癒術師に運んでくれれば問題ないし、あの少年を納得させるためなら仕方があるまい。
 それに何より…………腹の傷がマズイ。このまま押し問答していたら本気で死にそうだ。むしろ石化してもらって、そのまま治癒術師のところに運んでもらった方が良いかもしれぬ。
 ………………というか目が霞んできた」


 え、そんなにマズイの?
 顔色とかは仮面で隠れて見れねーんだけど、そういえば出血がますます酷くなっているな。場所からして肝臓でもやられたか?












━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━



「…………ん? おお、起きたのか、ネギ先生」

「ふあい…………おはようございます、千雨さん…………ふああぁぁ~~~……」


 おーおー、大きな欠伸しちゃって。
 この1週間、ずっと休み無しで拳闘大会に出っぱなしだったから疲れがあるんだろう。それとせっかくの休日なのに、街で何かの騒ぎに巻き込まれたらしいしな。
 昼寝の割りにはグッスリ眠ってたし。

 …………寝顔は素直に可愛いと思えるんだけどなぁ。





「そ…………ういえばさっきネギ先生宛にジャック・ラカンって人から電話あったぞ。
 “敵襲以外起こさないで”って言われてたから、伝言と連絡先だけ聞いといたけど…………」

「ラカンさんが? 何て言ってました?」

「えーっと、何でも「カゲちゃんの石化治してくんねえか?」って言ってた。コレが連絡先」

「へー…………やっぱりヴィルさん直伝の石化魔法は治せなかったか。
 ありがとうございます。ちょっと電話してきますね」



 何かあったのか? やけに楽しそうな顔しているけど?
 ………………ま、ストレス解消になるなら良いか。





 今日は久しぶりの休日。
 今日までの1週間、ネギ先生はずっと拳闘大会に出場しっぱなしで、実に“1週間で30連勝”という拳闘団最短記録を更新した。そして明日からも更新し続けるんだろう。

 それに伴って私達の財布の中身がとんでもないことになっていった。
 さすがに倍々ゲームとまではいかないけど、暇だったから計算してみたら30連勝もしたら凄いことになるのがわかったんだよ。
 例えばオッズ1.1倍の賭けを30連勝したら元の値の17.5倍なるんだけど、これがオッズ1.2倍の30連勝なら一気に元の値の237倍まで跳ね上がる。更にオッズ1.5倍なら191751倍だし、オッズ2倍だったら1073741824倍という色々とオカシイ数字になっちまうんだよ。

 しかも賭けにも色々あって“K.O.勝ち”とか“判定勝ち”とか、オプションをつけることによって更に賭けの倍率が上がっていく。私達は“ネギ・スプリングフィールドが3分以内にK.O.勝ち”にずっと賭けてた
 賭けのやり方が“ブックメーカー方式”ではなくて、“総額の再配分”だったらこんなに儲けることは出来なかっただろうなぁ。

 まあ、一回の掛け金には上限があったらしく、途中からは全財産を賭けることは出来なくなったんだけど、それでもかなりの金額を儲けることが出来た。



 そのおかげで金には困らない生活を送らせてもらっている。
 ホテルの部屋もスイートから最上階のロイヤルスイートに変更したが、これはネギ先生の「金持ちの仕事は金を使うこと」という考えからだった。
 こういうところで金を使っていたら巡り巡って、散々毟り取った賭けの元締めにも金が回るようになるからという理屈だな。

 そういえばスイートルームの“スイート”って、“一式”とか“一組”って意味だったんだな。“甘い”という意味の“sweet”じゃなくて、スーツとかの語源の“suite”。
 寝室とかリビングルームとか応接間とか、色んな部屋が一式あるからのスイートルーム。泊まるようになって初めて知った。こんな体験今までしたことなかったからなぁ。




 でも正直に言おう。この生活は暇で退屈だ。

 朝起きてシャワー浴びて朝飯食ってネギ先生に賭けて昼飯食ってまたネギ先生に賭けて3時のお茶とお菓子を堪能してもう一回ネギ先生に賭けて更にもう一回ネギ先生に賭けて晩飯食ってシャワー浴びて…………なんて生活は暇で退屈だ。
 他にもホテルのマッサージ受けたり、太らないように(部屋の)備え付けのプールで泳いだりもしているが、ハッキリ言って飽きてきた。
 手伝えることがあったら手伝いたい、とネギ先生と龍宮に言うぐらいこの生活に飽きてきた。

 ちなみに龍宮も龍宮で、今まで傭兵として働いてきたことが馬鹿らしくなってくるくらい儲けたらしく、まるで燃え尽き症候群のような状態になっている。


 …………私ってこんなに勤労精神豊かだったかなぁ?
 まあ、そんな私が手伝える仕事はないみたいなんだけどさ。

 アルちゃんは帰ってきたネギ先生にジャック・ラカンって人のことを調べるように頼まれたから、意気揚々として出かけていった。でも私はそんな探偵みたいな仕事は出来ないから、アルちゃんの手伝いは無理だ。
 龍宮は私の護衛だし、茶々丸さんも私の護衛兼メイドという設定だし、そもそも能力的に私にはその手伝い自体が出来ない。それに私は旅行中の金持ちのお嬢様ってことになっているから、元から2人の手伝いは出来ないんだよな。


 本当にコレどうしよう?


 …………ネギ先生に相談してみるか。
 どうせ「ゆっくりしてくれていていいですよ」とかで終わるかもしれないけど、相談すること自体が暇潰しになりそうだ。















「はい。明日もちょっと休みたくて…………いえ、ジャック・ラカンさんに呼ばれたんですよ。…………ええ、“紅き翼アラルブラ”のです。………………はあ、トサカさんってラカンさんのファンなんですか?
 …………へぇ~、そうなんですかぁ。何だったらトサカさん宛にサインとかお願いしてきましょうか………………って…………いや、そんなに必死になってお願いされなくても、それぐらいなら別に構いませんよ。
 じゃあ、明日の休みもよろしくお願いしますね」


 ん? 連絡先はトサカで…………明日も休むのか?





「どうしたんだ、ネギ先生?
 ジャック・ラカンて人に呼ばれたって…………面倒事か?」

「ああ、千雨さん。面倒事はもう終わったので大丈夫ですよ。
 さっきカゲタロウさんって人に襲われたのでその仕返しに石にしたんですけど…………どうやらグラニクスの治癒術師には石化治療が出来なかったみたいで、石化させた僕にお鉢が回ってきただけですよ」


 お前は街中でいったい何をやってきたんだ?


「それの何処が面倒事じゃないってほざいてんだ?」

「大丈夫ですって。もともとラカンさん…………父の友人が僕の力を見るために、知り合いに頼んでチョッカイかけてきただけなので、そこまで深刻なことじゃないです。
 とはいえラカンさんから面白いものを見る目で見られたので、またチョッカイかけて来そうですけどね。
 僕が菲さんに試合挑まれているときの状況を思い出してくれたら、それに近いですよ」

「ああ、なるほど。それなら確かに面倒だけど、命の危険とかはないな。
 それで明日、ラカンさんとやらのとこに行くのか。………………病院か?」

「いえ、ラカンさんが隠遁しているところです。地図で見ると…………そこそこですね。歩いて数時間です。
 今は石になったカゲタロウさんと一緒に病院にいるみたいですが、ラカンさんも有名人なせいでグラニクスに留まっていると騒がれてしまうのから、今日のうちに家に戻るそうです。
 さっき病院まで来てくれって言われましたけど、今から働くのは億劫だから断りました。まだ眠いし」


 “眠い”と理由で人を石のまんまにさせとくのか、お前は。





「ふーん…………となると、安全のためにも私達も一緒に行った方がいいな。
 むしろ危険がないようなら一緒に連れてけ。ここの生活飽きてきた」

「え? ………………うーん、ラカンさんは遊びのつもりでも洒落にならないことをしそうな人なんですけど…………ま、いいか。
 千雨さん達に何か仕出かしたら『幻想殺しイマジンブレイカー』使ってこの世から消せば…………。
 それに隠遁しているところは古い遺跡があるところで、オアシスにもなっているから自然を楽しむにはいいかもしれませんね」

「真ん中のところは聞かなかったことにしてやる。
 …………うっし、それなら動きやすい服を準備しとくか。金持ちのお嬢様設定だったから、最近ずっとドレスばっかり着ていたからな。調子が狂ってしょうがねぇ。
 このホテルといいドレスといい最初の頃は感動していたけど、やっぱり私は小市民だわ。もう普段の生活と服装が懐かしくなってきやがった」

「別に部屋の中なら服は普段通りでもいいと思いますけどねぇ。僕としては綺麗な千雨さんが見れたので眼福でしたけど。
 でもホテルの部屋は勘弁してください。セキュリティとか考えるとこういうホテルが一番なんですから」


 別にネギ先生に文句を言っているわけじゃねーよ。。
 変な安宿だったら、そういうところなりの不満が出てくるわけだからな。

 美味い飯食えて、好きなときにシャワー浴びれて、冷暖房完備でプール付き。自分が金を出したわけでもねーのに、こんな部屋に泊まれたことについて文句を言ったらバチが当たるぜ。
 こんな凄い部屋はこんな機会でもない限り、一生泊まることなんかなかっただろーからな。そういう意味では良い体験が出来た。


 ネギ先生と一緒にコッチの世界に来て良かったな。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 とりあえず、魔法世界の賭け方式は“ブックメーカー方式”にしておきました。
 実際はどうなっているかわかりません。

 それとカゲちゃん南無。






幻想殺しイマジンブレイカー


                       ヘ(^o^)ヘ 『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を
                         |∧  
                     /  /
                 (^o^)/ 手に入れてから
                /(  )    前世をあわせて20年
       (^o^) 三  / / >
 \     (\\ 三
 (/o^)  < \ 三  修行の結果、直接触れる必要はあるけれど
 ( /
 / く  とりあえず幻想をぶち殺せるようになりました
       これで魔法世界人相手なら無敵





 …………ダメだこいつ。もう何とも出来ない…………。
 でも『リライト』は『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を応用・強化したようなものみたいですので、普通に『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』持ってれば使えそうですよね。

 あ、作中で実際には使いませんよ。そもそも『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』自体は服が脱げるのでネギは積極的に使いません。
 使うとしたら『無極而太極斬トメー・アルケース・カイ・アナルキアース』とか無効化フィールドとかの応用の類です。



[32356] 第84話 突撃! ラカンさんちの全財産
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/05/13 10:55



━━━━━ 絡繰茶々丸 ━━━━━



 ネギ先生は今日も拳闘試合を休みにして、ジャック・ラカン氏の元を訪れるするようです。
 昨日いきなり決まったようですが、私としてもネギ先生は1週間に30戦というハードスケジュールをこなしていましたので、休みが増えることなら大歓迎です。せっかくの昨日の休みは騒ぎに巻き込まれてしまったそうですし。

 ジャック・ラカン氏の元へは千雨さんもついて行くようでしたし、私と龍宮さんもグラニクスに残っても特にすることはありませんでしたので同行させていただきました。







「…………はい。お腹の傷もこれで完治です。
 痛みが残ってたり、筋肉が突っ張ったりするところはありませんか?」

「……うん…………いや、ないな。治癒に感謝する、ネギ殿。
 それにしても見事な治癒だった。ネギ殿は戦士としても優れていたが、治癒術師としての方が一流を名乗れると思うぞ。なあ、ラカン殿」

「ああ、俺も正直言って驚いたわ。
 昨日の『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』からするとあんまり魔法は得意じゃねーのかと思ったけど、この治癒魔法だったらアルの奴よりも上だぜ」

「それはそれは…………評価していただきありがとうございます。
 僕の得意な魔法は一に治癒、二に転移、三に補助、四に結界、そして五に攻撃って感じです。…………あ、それより前に、零に研究ですかね」

「ふむ、研究とな?」

「(そういえば昔貰ったタカミチの手紙には“顔はナギ似だけど性格はアリカ寄り”って書いてたなぁ……)」




 …………まさかジャック・ラカン氏の元を訪れる理由が、石化と傷の治療だとは思っていませんでしたが。
 あの人が昨日ネギ先生を襲った犯人、カゲタロウさんとやらですか。


 まあ、ネギ先生襲ったとはいえ、元はと言えばネギ先生のお父上の友人であるジャック・ラカン氏に頼まれたことだったみたいですので、ネギ先生が納得している以上は私達から何も言うことはありません。
 そもそもネギ先生の返り討ちにあい、重傷状態で石化された上で一日放置されていたのなればもう十分でしょう。

 それに今朝の時点でグラニクスでは“名を上げるためにネギ先生に街中で仕掛けた阿呆が返り討ちに遭い、石化された上で放置された”という噂が流れていましたので、ネギ先生の目的は果たされたのです。
 これで拳闘試合以外でネギ先生に突っかかってくるような人間はいなくなるでしょう。






「それでは改めて自己紹介をさせてもらおう。私はボスポラスのカゲタロウ。
 昨日はラカン殿に頼まれたからとはいえ突っかかったりして悪かった。その詫びに今の石化と傷の治療の礼を受け取ってほしい」

「げ、まるで俺が悪者じゃねーか、カゲちゃん」

「悪者かどうかはともかく、原因はラカンさんですよね。
 まあ、カゲタロウさんはもういいですよ。詫びと礼は受け取ります」

「かたじけない。約束通りこれ以上野試合を挑んだりしないし、そちらのお嬢さん達と他にもいるという連れのお嬢さん達には何があっても絶対手出ししないと誓おう。
 …………とはいえ、私も拳闘士の端くれ。昨日の借りはいつか正式な拳闘試合で返させていただきたい」

「はい、そういうことでしたら喜んで。僕もカゲタロウさんとの戦いは心躍るものでしたからね。正式な試合というのなら断る理由はありません。
 しかし、あいにく僕は“ナギ・スプリングフィールド杯”が終わったら現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰るつもりなので…………」

「あ? 旧世界ムンドゥス・ウェトゥスへのゲートポートは全部壊れたって聞いたぜ。…………オスティアのか?
 ま、カゲちゃんのリベンジに関しては大丈夫だろ。何しろ俺達もその“ナギ・スプリングフィールド杯”に出るからなっ!」

「え? “俺達も”ってことは…………ラカンさんもなんですか?」

「私もその話は初めて聞いたのだが…………」

「そりゃカゲちゃん石になってたからよ。でも別に文句はねぇだろ?
 俺はぼーずの実力に興味があってな。拳闘試合もカゲちゃんのときも結局は本気出してなかったろ。本気っつーか、ぼーずは力を抑えている…………封印しているって感じっぽいな。
 それにあのユニコーンガンダムとやら以上の切り札を隠していると見た」


 おや、さすがは“紅き翼アラルブラ”のジャック・ラカン氏ですね。
 ネギ先生が魔力と気を1/10に封印していることに気づきましたか。


「へー、やっぱりラカンさんクラスならわかってしまいますか」

「…………私は戦ったら何となく、といったところだな。
 力と技術がアンバランスというか…………力を持たないものには持たないものなりの戦い方があるのだが、ネギ殿の戦い方はそれではなかった。
 手加減されていたというわけではないのだが…………」

「実を言うと、魔力も気も半分以下に封印しているんですよ。
 僕は普通の人よりも魔力と気の総量は多いので、大抵の相手は力押しだけで何とかなってしまうんです。しかしそれですと戦闘技術の効率的な向上は見込めないですし、この状態なら消耗しているときの戦い方の修行になりますからね。
 これも言ったと思いますが、拳闘試合は運動と修行を兼ねていますので…………」

「おいおい、カゲちゃんの面目丸潰れじゃねーか、ハッハッハ!」

「ムゥ…………“ナギ・スプリングフィールド杯”までに何としても鍛え直さなければ…………」


 1/10を半分以下と仰られるのですか、ネギ先生は?

 …………まあ、嘘はついておられないのでそれは置いておくとして、ジャック・ラカン氏が“ナギ・スプリングフィールド杯”出場ですか………………別に問題ありませんね。
 むしろ話題が盛り上がるのでネギ先生の顔を売るのに都合がいいでしょうし、ネギ先生は強者と戦いたがっていますので、その点ジャック・ラカン氏はうってつけの人物です。





 それと“紅き翼アラルブラ”の人の技を使えるネギ先生ですが、さすがにジャック・ラカン氏の技だけはネギ先生は使うことは出来ません。

「相変わらず『気合防御』ってなんなんだよ…………」

 みたいなことを“紅き翼アラルブラ”の記録映像を見て呟いていたこともありました。
 理論的にモノを考えるネギ先生的には難しく…………いえ、ちゃんとラカン氏の技もよく考察すると理に適っているらしいのですが、ネギ先生的には頭が拒否してしまうそうなのです。
 私としても「『気合防御』!!!」とか「『ネギカイザー』!!!」とか叫んでいるネギ先生は想像出来ないですし…………したくないです。

 他にジャック・ラカン氏のアーティファクト、如何なる武具にも変幻自在・無敵無類と名高き“千の顔を持つ英雄ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポーン”には興味を持っており、正面から戦ってみたいと思っていたそうです。
 これはそれの良い機会です。





「それなら“ナギ・スプリングフィールド杯”を楽しみにしてますよ。
 僕も明日からまた拳闘試合を再開して、出場の切符を手に入れなければいけませんね」

「おう、頑張れやぼーず。お前なら問題ないだろうけどよ」

「それなら私もボスポラスへ戻り、出場切符を手に入れるために拳闘試合に出場しなければならんな。
 ラカン殿はどうする? ラカン殿が地方大会に出るとなると騒ぎになるだろうから、“ナギ・スプリングフィールド杯”までは私1人でも構わないが…………」

「お、頼めるか。カゲちゃん?」

「是非もない。鈍った体を鍛え直すには足りないぐらいだ」

「それではオスティアでまたお会いしましょうか」


 思わぬところで重大事が決まりましたね。
 ネギ先生の出現だけでお祭り騒ぎになっていたのに、隠遁して行方不明になっていたジャック・ラカン氏が出場するとなると“ナギ・スプリングフィールド杯”の盛り上がりはかつてないものとなるでしょう。

 ネギ先生も楽しそうで何よりです。







































「あ、その前にカゲタロウさんの石化と傷の治療費しめて200万ドラクマ。耳を揃えて払ってくださいね」

「「え?」」

「…………え? もしかしてタダだと思っていたんですか?」



 ネギ先生も楽しそうで本当に何よりです。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「“アルテミシアの葉”があったぞ、ネギ先生。
 治癒魔法が得意なネギ先生がいれば必要ないかもしれんが、薬草としては最上級品だから売れば結構な金になる」

「いえ、貰える物は貰っておきましょう。それに僕や木乃香さんがいないときでも使える回復手段を持っておくのは重要です。
 …………“イクシール”とかないのかなぁ?」

「何だこれ? “RAKAN FILM”…………自主制作映画? あのオッサンの趣味か? とりあえずこれも入れとくか。
 …………これは伊達メガネか?」

「それは認識阻害効果があるメガネですね。それをかけているだけで違う人物に認識されるようになります」

「ネギ先生、ラカン氏所有の飛行船の鍵を見つけました。グラニクスの停船場に泊めてあるみたいです。
 型式としては10年以上前の古いものですが、一緒にファイルされていた整備記録によると定期的に整備をされているようなので、今でも十分使えると思います」

「へぇ~…………この書類を見る限り、使いもしないのに一年に一度はちゃんと整備してたんですか。足があるのはいいですね。これも貰っておきましょう。
 …………家の中見ても思いましたけど、ラカンさんって顔に似合わずシッカリしてますよね。むしろタカミチの方がだらしないですよ」

「お兄様お兄様! 隠し金庫を見つけました!!!」

「おっ、よくやったねアルちゃん! えーと鍵は…………いいや、斬っちゃえ。
 …………おー、結構入ってますね。これを合わせると現金が30万ドラクマか。飛行船は…………スペック見る限り結構高性能ですから、中古で40万ドラクマにしときましょうか。“アルテミシアの葉”とか認識阻害メガネとかの小物は…………キリ良くオマケしてこれも30万ドラクマにしておきましょう。これで合計100万ドラクマ。



 ラカンさん、あと100万」



「…………いい加減勘弁してくれねーか、ぼーず達。
 あ、これ……トサカって奴宛のサイン出来たんだけどよ……」

「だが断る。
 そのサインは小物に含めますね」

「(…………ネギ殿はいったいどういう育ち方をしたのだろうか?)」


 思わぬ臨時収入ゲットです。お金が払えないカゲタロウさんを再び石にするのを止める代わりに、ラカン氏が快く?財産を譲っていただけることになりました。

 しかしラカン氏手持ちの現金も足りなかったために、家にあった現物を差し押さえさせていただくことになりました。
 魔法世界には流通量が少ないのでお金を出しても手に入らない品物が多いのですが、さすがはジャック・ラカン氏です。そんな品物がたくさんお持ちのようです。

 しかしこれぐらいなら、伝説の傭兵として活躍してきたラカン氏にとっては極一部の財産にしか過ぎないのでしょう。







「もう一回カゲタロウさんを石にさせてもらえるんなら、別にそれでもいいって言ったじゃないですか。
 まあ、その場合でも腹の治療費で5万ドラクマは貰いますけどね。それすら貰えないならもう一回腹も刺す」

「それではラカン殿。私はボスポラスに帰る!」

「逃げんなカゲちゃん! 
 …………いや、あの石化魔法は並みの治癒術師じゃ治せないらしいから、カゲちゃん石にされたらもう治せなくなっちまうだろ…………つーか石化治癒代金が195万って、そのことわかっててやってるだろ、ぼーず。
 あんな石化魔法を何処で覚えたんだ?」

「少し前に麻帆良にやってきた爵位級の悪魔、ヴィルさんから(無理矢理)教えてもらいました。
 さーて残り100万ドラクマなら今日じゃなくて、また次の機会のときでもいいんですが………………お? この巻物スクロールからエヴァさんの魔力感じますね?」

「マスターのですか?」


 ネギ先生が手に持っているのは古びた巻物スクロール
 私から見ればただの呪文の巻物スクロールでしかありませんが、何故ラカン氏がマスターの魔力が宿った巻物スクロールを持っているのでしょうか?





「“マスター”? …………そういえばその嬢ちゃんは、エヴァンジェリンの従者のチャチャゼロに似てんなぁ」

「はい、私はエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルに使える従者、茶々丸と申します。
 私がネギ先生に同行しているのは、マスターからネギ先生のお世話役とお目付け役を命じられたからです」

「そうか、あいつもこっちに来てんだったか。
 …………あれ? でもナギに封印されて、麻帆良に縛り付けられてるって昔聞いたぞ?」

「ああ、『登校地獄インフェルヌス・スコラスティクス』なら僕が解きましたよ」

「お、そうなの? ナギの馬鹿が力任せにかけたから誰にも解くことが出来ないってタカミチから聞いていたが、それすら解くってことはやっぱりぼーずは治癒とか解呪方面に適正があんのかね。
 …………どうだ? その巻物スクロールを100万ドラクマで。それはエヴァンジェリンがその昔記した『闇の魔法マギア・エレベア』の巻物スクロールだ。
 『闇の魔法マギア・エレベア』はまだ弱っちかったエヴァが編み出した禁呪でな、ポテンシャリティは『咸卦法』にも匹敵する」

「『闇の魔法マギア・エレベア』? それだったらネギ先生ってもう使える奴だよな?」

「ええ、使えますよ。
 使えますけど…………千雨さん、ラカンさんとは“ナギ・スプリングフィールド杯”で戦うことになるので、あまり僕の手の内を明かすような発言は避けてください」

「…………あ、ごめんな。ネギ先生」

「いえいえ、次から気をつけてくれればいいんですよ」


 そういえば…………マスターがネギ先生から頂いた“紅き翼アラルブラ”の記録資料を見ていたときに、そんな話を聞いたことがありますね。
 大抵見ていたのはナギ・スプリングフィールドの記事や映像だったのですが、ジャック・ラカン氏やアルビレオ・イマさんのも暇つぶし程度にご覧になっていたこともあります。そのジャック・ラカン氏の資料を見ているときに「…………こすいイカサマしおって…………」「…………そういえばあの巻物スクロールどうなったんだろ?」と、独り言を呟いていたことがありますね。

 …………賭けでもして負けたのでしょうか?




「…………いや、そんなことよりぼーずって『闇の魔法マギア・エレベア』使えんのか?
 あれは適性がない人間にはリスクがデカイだろ。さすがの俺もアレは使いこなすことは出来ねーし」

「え? 僕は5歳の頃にはもう出来てましたよ。取り込むのは治癒魔法でしたけどね」

「治癒魔法!? …………へ~、その発想はなかったわ。
 普通の『闇の魔法マギア・エレベア』は敵に仇なす攻撃魔法を取り込むもんだが、逆に味方を癒す治癒魔法を取り込むか。…………なるほどねぇ。
 …………それ以前に何やってんだ、5歳児?」

「もちろん今なら攻撃魔法とかも取り込めますよ。
 …………うん。じゃあ残りの100万ドラクマはこの巻物スクロールで結構です」

「いいのか? ネギ先生はもう『闇の魔法マギア・エレベア』を使うことが出来るんだろ?」

「構いません。使うことが出来ると言っても、アレは僕の自己流ですからね。…………まあ、アレに自己流も他者流もないとは思いますが、エヴァさんが書いた巻物スクロールには興味があります。
 それにこの巻物スクロールをエヴァさんに返してあげるのもいいでしょうしね。
 じゃあ、ラカンさん。これで差し押さえは終了でいいですよ」

「終了…………と言われても、手元にあったものは粗方持ってかれてるよな。これ以上出せっていわれてもさすがにもう無理だぜ。そりゃあ銀行とか他の隠し拠点行けば他のもあるけどよ。
 つーか、本気でお前はいったいどういう育て方をされたんだよ?」

「極々一般的な育て方をされたと思いますよ。
 さーて、この巻物スクロールはどういうのなのかな~?」

「あっ、馬鹿っ! 不用意に開けんな!」

「大丈夫大丈夫。大抵のことなら何とかなりますって」


 ネギ先生が巻物スクロールを開くと、そこには呪文や複雑な魔法陣が書かれていました。
 呪文の筆跡は確かにマスターのものですので、あの巻物スクロールを書いたのはマスターであることに間違いないのでしょう。




















『言ッタナ餓鬼ガ』

「ん?」


 開いた巻物スクロールがいきなり発光し始めました。書かれていた魔法陣に魔力が流れるたのも確認出来ます。
 それに今の声はマスター…………あ、巻物スクロールからマスターが!?
















『闇ガソレホド容易イもオブッッッ!?!?』





 …………巻物スクロールからマスターが出てこようとしたのですが、胸のあたりまで出てきたところでネギ先生に頭を抑えられて再び巻物スクロールの中に戻されました…………というより突っ込まれました。

 あのマスターは…………人造霊でしょうか?
 あの巻物スクロールは『闇の魔法マギア・エレベア』を習得するためのものらしいので、マスターのコピーであるあの人造霊がその役目を果たすということなのでしょう。


「お……おい、ぼーず?」

「…………おかしいな。裸のエヴァさんが湧き出てこようとしたように見えた。ここ1週間で拳闘試合30戦したから疲れてるのかな?
 とりあえずラカンさんは後ろ向いててもらってもいいですか。あまりエヴァさんの身体を他の人には見てほしくないので。
 ………………あの、茶々丸さん。以前から思ってたんですけど、エヴァさんてもしかして露出狂の気が…………?」

「違いますネギ先生! マスターは決して露出狂などではありません!!!
 家であられもない姿で過ごしていることはありますが、それはマスターがモノグサだからです! それにマスターは生まれたのが数百年前ですので、現代の方達とは違う価値観を持っているだけなのです!!!」


 お願いですからマスターの目の前でそのようなことは口走らないでください!
 ネギ先生に露出狂かと思われていたと知ったら、マスターがショックで泣いてしまいます。





「…………なあ、ネギ先生の腕が巻物に突っ込んだままだけど大丈夫なのか?
 何か黒い雷みたいなものがバチバチ鳴って…………おい、今度は腕が出てきたぞ?」


 巻物スクロールからおそらくマスターの腕と思われるものが出てきて、突っ込んでいるネギ先生の腕をガリガリと引っ掻き始めました。
 まるで水の中に顔を突っ込まれて抵抗している人のようです。


「ああ、エヴァさんがまだ出てこようと頑張っているみたいなので…………。
 すいません。このままじゃ埒が明かないので、ちょっと巻物スクロールの中に入ってこのエヴァさんと話をしてきます」


 そう言ってネギ先生は巻物スクロールを頭から被られました。
 そしてそのまま地面に落ちた巻物スクロール以外は何もなく、巻物スクロールに肉体ごと入られたのでしょう。
 まるで長瀬さんのアーティファクト“天狗の隠れ蓑”を使用したときの消え方みたいですね。





「おいおい、大丈夫なのかぼーずは?
 肉体ごと中に入るとなると、ぼーずが体験するであろう“幻想空間ファンタズマゴリア”の現実との時間差は何十倍にもなるぞ。
 俺も似たのを喰らったことがあるが…………まさに無間地獄だぜ。フツーは自我がもた「ただいま帰りました。『断罪の剣エンシス・エクセクエンス』見てから『天地魔闘の構え』余裕でした」………………オーケイ、ようやくわかった。


 このぼーずははフツーじゃねぇんだな」





 ご理解していただけたようで何よりです。












━━━━━ ベアトリクス・モンロー ━━━━━



「ビー! まだ再生出来ないんですの!?」

「もう少々お待ちください、お嬢様」





 私も見たいですから、全力で用意致しますって……。


 それにしても、お嬢様はすっかりネギ・スプリングフィールドに夢中ですね。

 まあ、お嬢様は母娘2代に渡るナギ・スプリングフィールドのファンですし、その息子のネギさんも10歳という若さで拳闘試合に出場して、1週間のうちに30連勝という前代未聞の記録を打ち立てるという、まさにナギの再来ともいえる方です。
 そんなネギさんに熱を上げるのは仕方がないですね。きっと今頃は奥様も実家で大騒ぎしていることでしょう。



「それにしても、一昨日と昨日の2日連続で試合を休まれたときは心配しましたが、まさかラカン様に会いに行っていたとは…………。
 やはりあのネギ様はナギ様の息子! ああ、是非ともネギ様の勇姿を見に“ナギ・スプリングフィールド杯”に行きたいですわ!!!」

「それはさすがに無理ではないでしょうか?
 祭りに行くという理由で外出許可が出るとは思えません」

「わかっていますわよ!
 …………しかし、この機会を逃がすといつネギ様を見れることになるやら。どうやら旧世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰る方法を研究中とのことですから、もしかしたらこれが最初の最後の機会かもしれません!!!」


 それは…………どうでしょうか?
 いくらあのネギ・スプリングフィールドさんといえどそんなことが出来るのでしょうかね?


 …………再生準備出来ました。
 今日の授業中に予約録画しておいた拳闘試合を再生しますよ、お嬢様。


「よし! さあ、ネギ様の勇姿を見ますよ!!!」


 はいはい、再生が始まりましたよ。最初は今日の午前に行なわれた拳闘試合ですね。
 どうやら試合前のネギさんのインタビューから始まるようです。












『おはようございますデス、ネギ選手! この2日間でゆっくり休むことは出来たデスか!?』

『ハハハ、ちょっとトラブルに巻き込まれましたけどね』

『昨日は何でもあのジャック・ラカンに会いに行ったとか!? いったい何の話をされたのデスか!?』

『んー…………まだ秘密です。今の時点でのネタ晴らしは止めておきます。
 もうしばらくしたら皆さんビックリしますので、とりあえず楽しみにしていてください、とだけ言っておきます』





 おお…………いったい何があるのでしょうか? もしかしてジャック・ラカンがネギさんと戦うために“ナギ・スプリングフィールド杯”に出場するとかでしょうか?
 友人の息子の力を確かめるために同じ試合に出る。まるで英雄譚の一幕のような話ですね。

 …………あれ? そういえば、ネギさんの肩の上にアルちゃんがいません。しかもネギさんの隣にはネギさんより少し幼い金髪の少女が立っています。
 もしかしてパートナーの交換!? この少女がネギさんのパートナーなのですか!?


「だ……誰なのですか。ネギ様の隣に立っている小娘は…………」


 あ、どうやらお嬢様もそのことに思いついたらしく呆然としています。
 インタビュアーの人! 早くその少女について聞いてください!!!






『さて…………ところで先日までのパートナーのアルちゃんの姿が見えないということは、コチラの女の子がネギ選手の新たなるパートナーということなのデスか?』

『ええ、ここまでやってしまうとそろそろ広範囲殲滅魔法を使ってこられそうなので、もしものことがあった場合はアルちゃんでは自分の身を守るのに不安がありますからね。
 元より僕独りだけで戦うつもりですが、それでも念のために自分の身を守れる人の当てがついたのでアルちゃんには交代してもらいました』

『……………………』

『ほほお、そういうことデスか。確かに今まで全ての試合でネギ選手独りで戦っていたデスからね。
 しかしそちらの少女は誰なのデスか。ネギ選手の言葉では自分の身を守れるぐらいの実力をお持ちのようデスが…………』

『この人はエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさんですよ、“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”の。
 …………と言っても本人じゃなくて、そのコピーですけどね』

『え?』

『…………だからとんでもないことをそんな簡単に言うのは止めろというのに…………』







 …………。

 ……………………。

 ………………………………は? エ……エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル? “闇の福音ダーク・エヴァンジェル”?


 …………音がありません。
 私達の部屋の中も、何千人と観客がいるはずのテレビの向こうの拳闘場にもまったくと言っていいほど音がありません。さっきまで騒いでいたはずの観客も静まり返ったということは、私の聞き間違いではなかったようですね。

 お嬢様は今の言葉が衝撃的だったらしく、脳がフリーズしているみたいです。






『…………ピ、ピギャアアアアアァァァーーーーーーッッッ!? な、何でそんなバケモノがいるデスかぁーーーっ!?!?』

『(殺すか、この女?)』

『マイク持ったまま叫ばないでくださいよ。
 大丈夫ですよ。このエヴァさんが言うには本体の数分の一の力しか持っていないらしいから僕よりも弱いですよ。
 そもそも僕がエヴァさんに勝ったから、こうしてパートナーとして出場してもらっているわけで、現状では僕の式神……使い魔みたいなものです。僕が魔力供給してますし』

『それ以前に何故“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”のコピーなんぞと一緒にいるのデス!? 何処で知り合ったというのデスか!?
 ネギ選手が住んでいた旧世界ムンドゥス・ウェトゥスの通貨で600万ドルという大金をかけられた賞金首デスよ!!!』

『何故って言われても…………ジャック・ラカンさんですよ。ラカンさんはその昔にエヴァさんの本体が書いた巻物スクロールを持っていましてね。それから出てきたのがこのエヴァさんです。
 …………あれ? 賞金ってエヴァさん本人じゃなくてコピーでも有効なんですか? でもこのエヴァさんが宿っている巻物スクロールの解析は終了してますから、1日1枚のペースで量産出来ますよ。
 凄い…………日給600万ドルじゃん』

『え? …………嘘だよな? 私の解析が終了して量産出来るってのは嘘だよな!?
 …………やめろ。絶対やめるんだ、ネギ! 例え出来るとしても絶対やめ「ピッ!」





 ちょっと休憩。再生を一時停止して休憩です。



 ………………どうしてこうなった?


 そういえば今日はヤケにネギさんの話題をクラスの人達がしていましたね。
 私達はお嬢様が映像を見るまではネタバレを聞きたくないということで話には混じりませんでしたが…………。


 …………とりあえずお茶でも淹れてきましょうか。私も頭を少し落ち着かせたいし、何よりフリーズしっぱなしのお嬢様を再起動させなければいけません。
 ああ、甘いものも食べたいですね。この精神的疲労が和らぎそうです。夜中に甘いものを食べると体重的に怖いことになってしまいますが、今夜ぐらいはそれらを忘れてもいいでしょう。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 というわけで、拳闘試合のパートナーがエヴァコピーに変更になりました。戦いませんけど。
 そのうち本体とコピーが秘密裡に入れ替わって、賞金首のことをなかったことにします。



[32356] 第85話 一方その頃
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/06/17 09:59



━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



 …………よし、無事に魔法世界への転移完了だ。
 何度も来たことがある魔法世界だけど、壊れかけの転移陣で訪れるのは初めてだ。さすがに転移するときは緊張したよ。

 さて、まずは魔法世界がどういう状況になっているのかを確認しないと。
 ネギ君が麻帆良に置いていったちびネギ君からある程度の情報は受け取っているけど、地球-火星間だと光を利用したのだとしてもリアルタイムでは通信出来ないからね。しかも自転や月の影響で更に通信がしづらくなる。
 さすがのネギ君でも、これでは二昔前ぐらいの電報みたいな限定的な情報しか送ってくることは出来なかった。だからコチラで改めて情報を集めないと………………お、マクギネスさんがいる。




「高畑さん、お久しぶりです。無事に到着出来たようで何よりです」

「ああ、マクギネスさん。ネギ君達の状況はどうなっているんですか?」

「…………ある意味で大変なことになっています。
 どうぞ別室へ。そちらで説明しますわ」




 マクギネスさんが随分と疲れている顔をしているなぁ。

 それから移動した後に現在の状況を聞いたけど…………やっぱりネギ君のせいなんだね。
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”とゲートポートで出くわしたり拳闘試合に出たり、アスナ君達とは別行動をとっていることは聞いていたけど、まさかここまで大事になっていたとは。


 とはいえネギ君の行動は完全に間違っているというワケではないか。

 どうせネギ君がナギの息子ということは知っている人は知っているし、それがもし民衆に知られたらパニックになる。それなら自分で事情を明かして、主導権を自らの手に握っていた方がいいかもしれない。
 ネギ君なら多少の荒事は平気だし、そもそも元老院はネギ君自身に「自らの出生のことは明かさないように」なんて言っているわけはないので、こんな行動に出たとしても誰からも文句はつけられない。むしろ元老院の方が対応に追われて大変なんじゃないかな。

 相変わらずネギ君らしいというか何というか…………。





「状況はわかりました。ネギ君は今グラニクスにいるんですか…………」

「ええ。先日にはジャック・ラカンと会ったそうですよ」


 ああ、それも聞いたなぁ。ラカンさんたらネギ君が魔法世界に来るときに出迎える約束をすっぽかしたんだって?
 これも相変わらずラカンさんらしいといえばラカンさんらしいけどね。


「しかし、今はネギ君が拳闘試合に出場していることによってグラニクスは凄い盛り上がりになっているそうです。“紅き翼アラルブラ”ファンが世界各地から押し寄せているとか。
 高畑さんもグラニクスに行ったらそれに巻き込まれるかもしれません」

「それは勘弁して欲しいですねぇ。
 まあ、ネギ君が偽者と思われていたりしていたのなら行かなければなりませんでしたが、そういうことなら今は行かない方がいいかもしれませんね。
 それなら今のうちに“ナギ・スプリングフィールド杯”が行なわれるオスティアに行って、オスティアの情勢を探った方がいいかもしれない」

「オスティアに…………なるほど。よろしいのではないでしょうか。
 今回のオスティアのお祭りでは式典の名目で世界の軍隊が集まりますので、キナ臭いことも起こりうる可能性があります。あらかじめオスティアを調べて、安心出来る拠点を作るなり掃除をするなりは必要かもしれません。
 それと私はここを拠点として、期的に3つのグループ全てと連絡を取り合っていますので、明後日までコチラに滞在なさるならネギ君と電話で直接話すことも出来ますが…………」

「明後日ですか…………いや、それでは時間がかかりすぎますね。祭りの日にちまでもうそれほど余裕はありませんし、今はオスティアの状況を探ることが優先でしょう。
 向こうに着いて拠点を確保したらマクギネスさんに連絡しますので、それまでにネギ君と連絡を取り合うようでしたらその旨をネギ君に伝えてください」

「アラ…………ネギ君と話さなくてよろしいのですか?
 ホテルに電話すればもしかしたら今でも話せるかもしれませんよ」

「いえいえ。もちろん話したい気持ちはありますが、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が関わっているとわかっている以上は出来るだけ急がなければなりません。
 それにネギ君達なら、彼らだけでも大丈夫でしょう。そのぐらいの信頼はしてますよ」

「(…………私としては高畑さんにネギ君のお目付け役になって欲しかったのだけど)」





 ハッハッハ、それに今からネギ君と合流しても僕の良いところを見せることが出来ないだろうからね。
 それなら先にオスティアへ行ってネギ君達を受け入れる準備をしておく様なやり方で、ネギ君達の手助けをしたほうがいいだろう。

 僕だって皆の役に立てるんだよ。マダオなんかじゃないんだよ。
 エヴァがネギ君が用意した転移陣で魔法世界に行ったように、最初は僕も同じ方法で魔法世界に来ようと思ったんだけど、何故かちびネギ君が

「え、タカミチも?
 …………あの転移陣は受け入れ先にいる僕本体の魔力もかなり消費するんですけど、タカミチを喚ぶんだったらその魔力を使ってちびネギぼくを数枚作った方が…………」

 なんて言っていたけど、僕にしか出来ないことだってあるのさ。ハッハッハ。












━━━━━ アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ ━━━━━



「お願い、ユエっ! 私と一緒に選抜試験に出てっ!!!」

「…………いえ、私は元より観光客としてオスティアに行くつもりなので、警備隊になるわけにはいかないのですが…………」

「大丈夫っ! グッドマンさんとサクラさんもゲストとして参加するけど、あくまでゲスト参加だから優勝しても警備隊にはならないらしいから!
 カスガさんには断られたしアーニャちゃんやココネちゃんじゃ年齢が足りないから、落ちこぼれの私と組んでくれるような人はもうユエしかいないの!!!」





 え、グッドマンさん達も参加するの? あの脱がし合いレースと評判の百キロ箒ラリーに?
 …………大丈夫なのかしら、それ?

 それにしてもコレットにも困ったものねー。
 いくらネギのファンだからといっても、ネギ見たさのためにオスティアまで行こうとするなんて…………。

 まあ、コレットには何かと世話になったから私が参加出来るんなら手伝ってもよかったけど、さすがに年齢制限に引っ掛かったから無理なのよね。
 一応メルディアナ魔法学校を次席で卒業した私は、飛び級扱いでユエ達の同級生になってるとはいえねぇ…………。



 それにしてもネギのお父さん、ナギ・スプリングフィールドって魔法世界ムンドゥス・マギクスでは本当に有名だわ。
 まさか授業でナギさんや“紅き翼アラルブラ”の名前が出てくるとは思ってもいなかったわよ。まるでスターとかそんな扱いじゃない。

 そしてそれにつられてネギまでもがスターになるなんてねぇー。
 拳闘試合での圧倒的な戦い方や年相応の可愛い顔のおかげで女性ファンを急激に獲得中らしいんだけど…………ネギの本性を知ったらいったいどうなるのかしら?
 最近の盛り上がりを見ていると、ネギがチヤホヤされてムカつくとかじゃなくてソッチの心配の方が大きくなってきたわ。

 でも…………だからなのかしら。ネギとナギさんへの感じ方は私の中では何も変わっていないわね。
 私にとってネギは“英雄の息子のネギ”ではなく、“幼馴染のネギ”。ナギさんも“世界を救った英雄”ではなく、会ったこともない“ネギのお父さん”。


 …………最初の試合で見せた、大人になった姿のネギは確かにカッコイイと思っちゃったけどさ。





「っていうかいいなーーー! ユエ達は学校休んでオスティアに観光に行けるなんて!」

「まあ、私達はあくまで短期の留学生という立場ですからね。現実世界ムンドゥス・ウェトゥス人ですのでゲートが直り次第に向こうへ帰るから、こちらで単位をとってもあまり意味はないのです。
 先生にも良い体験になるだろうから是非行ってみなさいと言われたので、ガンドルフィーニ先生に引率してもらっていく予定なのです。
 未だ調査中のゲートの被害状況次第では直ぐには帰れないということになるかもしれないですが、その結果が出るのにもうしばらく時間がかかりそうです。もし帰れなくなって魔法世界ムンドゥス・マギクスで過ごすことになるにしても、身の振り方を考えるのは調査結果が出てからでいいはずです」

旧世界ムンドゥス・ウェトゥスかぁ。いったいどういうところなのかな~?
 いつか私もそっちに行ってみたいよ」

「…………ええ。そのときは歓迎するですよ。
 わかりました。選抜試験の相棒になることを了承するです。私が“力試しのために出場したかったのでコレットに相棒を頼んだ”とすれば大丈夫でしょう」

「ホント!? ありがとうユエ!!!」

「ただし! コレットが無様な姿を晒したら私のオマケと見られるだけで選抜されない可能性は十分あります!
 ですからコレットにも立派に活躍してもらわなければなりません。早速今日から特訓に入りますよ」

「わかってる! ユエばっかりに頼るようなことはしないよ!
 生ネギ君に会えるかもしれないのなら、どんな厳しい修行にだって耐えてみせるよ!!!」


 あらら? 急に了承するなんて、ユエったらどうしちゃったのかしら?
 ま、やる気になったのなら、それはそれでいいんだけどね。

 それにオスティアのお祭りが終わったら、ネギが研究の結果地球に帰る方法を見つけたからそのまま便乗して帰る設定だもんね。
 コレットがアリアドネーにいたら手紙か電話ぐらいでしかお別れの挨拶出来ないけど、オスティアに警備隊という名目でもいいから来てくれたら会う機会はいくらでも出来るかもしれないわ。
 せっかく仲良くなったんだから、どうせなら挨拶をしてから帰りたいもの。








「ふふん、そんなに簡単にうまくいくでしょうか?」

「!? 委員長!?」


 あ、委員長さんだ。


「いくらユエさんの助力があろうとも、あなたのような落ちこぼれがこのような名誉ある任務に選ばれるとお思いですか?
 甘いですね!」

「うげ…………や、やっぱ委員長も志願……?」

「当然です」


 …………相変わらずキツイこと言うのね、あの委員長さんは。
 確かにコレットの成績はクラス最下位だけど、あそこまで面と向かって言わなくてもいいじゃない。

 やっぱりああいう人は苦手だわ。
 ユエは何故か私がもっとキツくなったら委員長さんみたいになる、なんて言ってたけどあんな風になるわけないじゃない。


 それに…………ユエに付き合って夜中に禁書庫に忍び込んだ帰りのときだったんだけど、委員長さんの部屋の前を通ったときに変な幻聴が聞こえて以来、顔を合わせづらいのよ。

































「ネギ様!ネギ様!ネギ様!ネギ様ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
 あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ネギ様ネギ様ネギ様ぅううぁわぁああああ!!!
 あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いですわぁ…くんくん
 んはぁっ!ネギ・スプリングフィールドたんの赤毛の髪をクンカクンカしたいですわ!クンカクンカ!あぁあ!!
 間違えた!モフモフですわ!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
 大人の姿のネギ様カッコ良かったですぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
 “グラニクス夏季大会ミネルヴァ杯”優勝決まって良かったですわねネギ様!あぁあああああ!かわいい!ネギ様!かわいい!あっああぁああ!
 “ナギ・スプリングフィールド杯”出場も決定されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
 ぐあああああああああああ!!!“ナギ・スプリングフィールド杯”なんて現実じゃない!!!!あ…大人も“グラニクス夏季大会ミネルヴァ杯”もよく考えたら…
 ネ ギ 様 は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
 そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!旧世界ムンドゥス・ウェトゥスぅうううう!!
 この!ちきしょー!やめてやる!!ファンなんかやめ…て…え!?見…てる?ポスターのネギ様が私を見てる?
 ポスターのネギ様が私を見てる!ネギ様が私を見てます!映像のネギ様が私を見てますわ!!
 映像のネギ様が私に話しかけてますわよ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないですわねっ!
 いやっほぉおおおおおおお!!!私にはネギ様がいる!!やったですわナギ様!!ひとりでできるもん!!!
 あ、映像のネギ様ああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
 あっあんああっああんあラカン様ぁあ!!え、詠春様!!アルビレオ様ぁああああああ!!!ガトウ様ぁあああ!!
 ううっうぅうう!!私の想いよネギ様へ届け!!グラニクスのネギ様へ届け!」







 って幻聴。………………きっと、私は疲れてたのね。
 警備員に見つからないように禁書庫に行って、鍵を開けた履歴が残らないように注意を払って禁書庫の扉を開いて、それから数時間も禁書庫に篭りっぱなしだったもの。
 疲れて当然よね、ウン。

 ………………何故かユエも同じ幻聴を聞いたみたいだけど。



 それにしてもネギに借りたこの“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”は便利だわ。
 ネギの従者のアーティファクトを全て使うことが出来るんだもの。

 警備員に見つからないように禁書庫まで行くのには“天狗の隠れ蓑”が役に立ったし、鍵を開けるのはユエのアーティファクトでもある“世界図絵オルビス・センスアリウム・ピクトゥス”が役に立ったわ。
 こんなの使ってたら、私もアーティファクトに興味を持ってきちゃったわよ。



 ………………べ、別にネギと『仮契約パクティオー』しようとだなんて思ってないわよ!!!
 ネギは裏技を使って自分自身と『仮契約パクティオー』したっていってたけど、私もそのやり方を教えてもらってアーティファクトを手に入れてみようかしら。












━━━━━ 墓所の主 ━━━━━



「廃都オスティア…………いや、旧ウェスペルタティア王国王都跡……か」

「魔力の対流は狙い通り時満ちるまで約3週間。順調だ。
 ………………1つの気がかりを残して」

「当然だね。ネギ君は現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰る方法を探しているらしい。
 …………でも、ここに攻め込んで来たら本当にどうしよう…………かな?」


 現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰る方法といったら…………やはり最後に1つ残った休止中のこのオスティアのゲートしかあるまいなぁ。
 今はまだあの我が末裔は拳闘試合に興じているから安心だが、全国試合の決勝である“ナギ・スプリングフィールド杯”が終わったら帰るための行動に移すかもしれぬ。

 しかもテレビで語ったところによれば千の刃のジャック・ラカンと接触し、コピーとはいえ“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”を自らの式神としている始末。
 ゲートポートで見た実力といい『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』といい、一筋縄ではいかぬようじゃ。





「ど、どぉも~~~。フェイトはん御報告ですぅ」


 剣士の小娘か………………やけにボロボロじゃな?


「どうしたんだい、ツクヨミさん?
 ネギ君の連れの少女達、お姫様達の動向は掴めたのかい?」

「何か黒竜を解体しとはりました。竜の角とか肝とかを採取した後はトカゲ肉で鍋パーティーを…………」

「…………わかった。監視を続けて」

「いや…………それが申し訳ないんですけど、ウチが監視していたことがセンパイ達にバレてしまいまして…………。
 金髪の嬢ちゃんに捕まったあと「ちょうどいいから実戦訓練の相手役やれ。終わったら帰してやる」って言われて、さっきまでずっとセンパイ達と戦わされてました。
 そりゃセンパイ達と戦えたんは満足ですけど…………1人で4人を相手にするんは無理ゲー過ぎてつまんなかったわぁ~。途中で1対1になったけど、それもウチ1人で変わりばんこに4人をずっと相手にさせられたし…………。
 でも視力矯正してなかったら、最初の嬢ちゃんに氷漬けされた時点でメガネ壊れて終わってましたねー」


 だからそんなにボロボロなのか?

 しかし金髪の少女? ゲートポートにそんな髪の色をした少女はいなかったはずだが、コチラで合流したのか?
 …………金髪といえば“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”もそうだが…………まさかな。


「それでよく無事だったね?」

「いえ、それがフェイトはんへの伝言役として解放されまして。
 フェイトはんに「男に戻りたくないか?」と伝えたら、その後は自由にしていいってお姫様達に言われたんです…………」

「は? 男に?
 …………よくわからないな。何でネギ君の仲間が僕にそんなことを言うんだ?」

「さあ? それはお姫様達に聞いてほしいですー。
 でも魔法理論上は変わった性別を元に戻す方法をめっけたらしいですから、男に戻りたいんならちょうどええんとちゃいますかー?」

「別にどっちでもいいよ。性別が変わったことでさして不自由しているわけではないし」


 この人形にそんな余分な感情はあるまい。
 その少女達はいったい何が目的なのじゃ?







「…………そもそもな話、テルティウムが男に“戻る”なんてことは無理だぞ。
 今のテルティウムの身体は、調整中だったセクストゥムの身体を使用したので“最初から女”だ。
 もしテルティウムが男の身体になりたいなら新たな男の身体に取り替えるか、それこそ“女から男に性別を変える”かだ」

「あらら、残念ですねー。お姫様達はこのことに随分と力を入れていたみたいでしたのにー」


 …………まあ、他の少女達のことは放っておこう。何だかあの少女達の中に昔見たような気がする顔があったのは気になるがの。
 今大事なことは我が末裔、ネギ・スプリングフィールドのことじゃ。アレはいったい本気でどうすべきなのじゃろうか?

 先日のアレ以来、一応旧知の間柄にも助力を頼んでおいたがネギ・スプリングフィールドを抑えるのは彼女でも無理じゃろう。
 『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』でアーティファクトを無効化したことから、彼女のアーティファクトを使って“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に落とすことは不可能じゃろうしな。

 テルティウムによれば肉弾戦の能力はテルティウム以上なので、魔法無しでネギ・スプリングフィールドを無力化するのは難しい。何しろアチラは自由に魔法を使える。
 拳闘試合を見てみると“紅き翼アラルブラ”の技を使用するなど、魔法以外でも隙はなさそうじゃ。







「やはり、ネギ君を味方に引き入れるしかないかな? お姫様達が僕に何か用があるのならお姫様達を窓口にして交渉を…………。
 “ナギ・スプリングフィールド杯”が終わったら話をしてみようか。拳闘試合自体はネギ君の手の内がわかるかもしれないから、それはそれで確認しておこう。
 ………………だからゲートポートで仕掛けるのは止めておこうと言ったのに」

「…………好きにするがいい。それが出来れば全ての問題がクリアされる。私はクゥァルトゥムとクゥィントゥムの調整を急ぐ。交渉が成功するにしても失敗するにしても人手が足りていないことは事実なのだからな。
 それと今更言うな。お前だって最終的には賛成しただろう」

「ネギ君と戦っても面白そうじゃないんですよねー。
 何だか水面に映った月に戦いを挑むような気がするんですよー」


 確かにな。彼奴を味方に引き込めれば全て解決されるが…………先日不意打ちかましたばかりなのにそんなこと出来ると思っているのか?


 やれやれ。このまま魔法世界の崩壊を座して見ているだけというわけにはいかんからこやつ等に協力しているが、このままでは計画自体が失敗に終わりそうじゃな。
 何とかせねばなるまいが…………どうしようか?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 …………やっちまった。ついにやっちまったです。
 ゴメン、委員長。せっかく作ったからには使いたかったんだ…………。


 しかもアスナ達が逞しくなり過ぎました。
 でも黒竜はアスナ達が肉の一片残さずに食べたり売っぱらったりしたので無駄にはなりませんでしたよ。

 それとアスナ達無駄な努力乙。



[32356] 第86話 箒レース
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/05/20 10:17



━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━



 いつも通りにネギ先生の試合をテレビで見つつお菓子を摘んでいたら、長谷川がいきなりこんなことを言い出した。





「マジでこの生活飽きてきた」





 …………気持ちはわかる。私もこの生活には退屈を感じているところだ。
 でもその台詞を1日1回聞かされるのにも私は飽きてきたぞ。


「持ってきたゲームはどうした?」

「もうとっくに全クリしたよ。それどころか3週ぐらいしてる。もっと色んなゲーム持ってくればよかった。
 …………何かやることないかな?」

「それなら茶々丸達について行けば良かったじゃないか」

「いや、私にはコッチの世界の調べ物なんか出来ないから足手まといになっちゃ悪いし、何よりネギ先生を放っておくわけにはいかないからな。
 …………つーか、神楽坂達はいったい何をやっているんだ? 賞金稼ぎ結社と抗争した上にその結社を潰すなんて…………」

「“抗争”といっても、ただ獲物がかち合ってしまったせいで争いになっただけらしいがな。それに潰したのは結社の内の1部隊だけだ。
 それでも賞金首奪い合いに勝って独占したことから、少しばかり“白き角コルヌアルバ”の名前が世間に知られてきたようだが…………」


 あいつらも着々とネギ先生に毒されてきたなぁ。
 まさかシルチス亜大陸で名を挙げている賞金稼ぎ結社“黒い猟犬カニス・ニゲル”を1部隊とはいえ潰すとは…………。

 まあ、実力的には十分なんだろうけどな。エヴァンジェリンとネギ先生の修行は伊達ではあるまい。
 あのメンバーなら例えエヴァンジェリン無しだとしても、そんじょそこらの魔法使いは相手にならない。

 それでもコッチの世界に染まりすぎだろう。





「…………それよりもネギ先生だ。予定では神楽坂達と合流するまで残り10日間。
 長谷川、それまでネギ先生が爆発しないで済むと思うか?」

「いや…………無理だろ。
 この前のラカンさんやカゲタロウさんとの一件でいくらかストレス解消出来たとはいえ、今回の神楽坂達が賞金稼ぎ結社とガチンコしたって話を聞いてからはネギ先生の機嫌は急降下中だぞ。酒の量もますます増えて、一日にウィスキー1瓶は空けてるし。
 …………なあ、ネギ先生が茶々丸とアルちゃんにその賞金稼ぎ結社について調べるように言ってたのって、いったい何が目的をしてだと思う?」


 ニコニコと笑いながら頼んでたよなぁ。ただし笑いは笑いでも、肉食獣が獲物を見つけたときに浮かべる笑いだったけど。
 おかげで茶々丸達は“黒い猟犬カニス・ニゲル”情報収集のために出かけることになったし。


 それと理由としてまず考えられるのは、“黒い猟犬カニス・ニゲル”が報復を考えていたときの場合の対処のためだな。

 アチラさんにも面子があるだろうし、もしかしたら“獲物を奪われる”なんて恥をかかせた“白き角コルヌアルバ”に対して報復を考えているかもしれない。
 潰した部隊自体とは手打ちが済んでいるようだが、これは“黒い猟犬カニス・ニゲル”全体がどう考えるかだからな。アチラさんの動向を探るのは間違っていないだろう。

 で…………最悪の場合は、神楽坂達に攻撃してきたらしい“黒い猟犬カニス・ニゲル”を潰すためだよな。抗争も向こうから手を出してきたらしいし。
 “黒い猟犬カニス・ニゲル”の本拠地も調べるようにも言ってたからなぁ。
 まあ、ネギ先生のことだから向こうがこれ以上手出ししてこなければネギ先生の方からは手出しすまい。

 ………………と思うんだが、最近のネギ先生の機嫌次第ではわからない。
 それぐらいネギ先生の機嫌が最悪だ。試合でも強者がなかなかやってこないのでつまらないみたいだし。





「長谷川、そんなに暇ならネギ先生のストレス解消でも付き合ってみたらどうだ?」

「“つき合う”ったって…………何すりゃいいんだよ? 私は戦いなんて出来ないぞ」

「そんなことはわかってる。
 酒の量が増えているってことは、酒でストレス解消しているんだろ。だったら酌の一つでもしてやったらどうだ? それか一緒に酒を飲むとか…………」

「おいおい、酒に付き合うって私は未成年だぞ………………ネギ先生もだけど。
 それに今まで酒は飲んだことがないからどこまで飲めるかはわからないけど、少なくともウィスキー1瓶空けて平然としているネギ先生に付き合えるとは思えん。そもそもネギ先生はあんなに飲んでよく拳闘試合に響かないよな。
 …………まあ、あんだけ目の前で飲まれていると、酒自体に興味を持ってきたんだけどな。ネギ先生があそこまで飲むのなら、少し興味が出てきた。
 そのくせ私がネギ先生が酒を飲んでいるところを見てたら「未成年が飲んじゃ駄目ですよ」とか言いやがるし…………」


 ネギ先生って「ソレはソレ、コレはコレ」ってダブルスタンダートをよくやるんだよな。
 長谷川は14歳で学生で未成年者飲酒禁止法がある日本人だから駄目で、ネギ先生自身は10歳だけど独り立ちしている教師で未成年者飲酒禁止法なんてないイギリス人だからOKって感じで。
 あれだけ飲んで拳闘試合に響かないのは、気による身体制御で肝臓機能の強化して………………ん? 考えてみたら、ネギ先生が気による身体制御をしなかったらどうなるんだろう?

 ネギ先生は常に気で身体制御をしており、なおかつ他人に気づかれないぐらいの微弱な『咸卦治癒マイティガード』を発動しているはずだ。
 だったら素のネギ先生は案外酒に弱かったりするんじゃないか?

 というか、もしかしてネギ先生はその事に気づいていないんじゃ…………?
 酒に酔いたかったら酒の量を増やさずに、気とか『咸卦治癒マイティガード』をOFFにすればいいんだし。







「どう思う、長谷川? ネギ先生はどこか抜けている…………アホの子なところがあるから、ありえない話ではないと思うんだが」

「…………すっげぇありそう。確かに気づいてなくてもおかしくないわ。
 なるほどねぇ…………試してみるか。どうせ今のままでいったらジリ貧のまま進んで爆発しそうだからな。酒で酔っ払ったらストレス解消になるかもしれないし」

「どうせ明日は拳闘試合も休みだ。もしネギ先生が二日酔いとかになっても大丈夫だろう。
 二日酔いになってもそれこそ改めて『咸卦治癒マイティガード』を発動させればいいんだしな」

「…………ついでに私も酒を飲んでみるかな。酒の話をしてたら飲んでみたくなったし、何より暇つぶしになりそうだ。
 初めてでウィスキーはきつそうだから…………よし、フロントに電話して、高そうなワインを何本か見繕ってもらうか。私達の飲酒についてネギ先生は良い顔しないだろうけど、引き返せないところまで進めたら結局は許してくれるだろ」

「だな。ネギ先生は私達に何だかんだで甘いし。
 …………私も飲んでみるとするか」

「? 龍宮は飲んだことないのか?」


 お前は私のことをなんだと思っている。
 いくら大人っぽい外見とはいえ、酒を飲むほど不良ではないぞ。












━━━━━ 綾瀬夕映 ━━━━━



 そして遂に選抜試験当日です。


 念のために私とコレットがコンビを組んで出場してもいいかどうか確認しておきましたが、お祭り中のオスティアは物騒になるので即戦力が欲しいらしく、優秀な候補生は何人いても困らないらしいので大丈夫そうです。
 もちろんコレットがそれなりの力を見せつけないと駄目みたいですが、エヴァさん直伝の地獄の特訓を行なった結果、コレットの実力もメキメキと上がっていきましたので問題ないでしょう。

 …………たまにコレットが遠くを見詰めるような目をするようになったり、「旧世界ムンドゥス・ウェトゥス怖い」と呟くようになったのは問題あるかもしれませんがね。
 別に現実世界ムンドゥス・ウェトゥスの魔法関係者の全員があんな修行をしているわけではありませんよ。

 まあ、ネギ先生に会いに行くためにあの地獄の特訓を生き延びたのですから、コレットもやるときはやるのです。正直言って見直しました。


 これなら選抜試験も良いところまで食らいつけると思っていたのですが…………。











「オホホホホッ! やってしまいなさい、愛衣!!!」

「『全体 武装解除アド・スンマム エクサルマティオー』!!!」


 グッドマンさんと佐倉さんコンビが地味に強敵でした!
 この2人は以前ネギ先生と模擬戦を行ったことがあるらしく、それが縁でネギ先生にアドバイスを何度か貰っていたようですが…………。





『クロイス&ヴァンアイク組、高度30m以上飛行で失格です!』

「「しまったぁーーーっ!?」」




 佐倉さんの『全体 武装解除アド・スンマム エクサルマティオー』がこんなに厄介だったとは予想外でした。

 グッドマンさん組の戦闘方法は、まず佐倉さんは『全体 武装解除アド・スンマム エクサルマティオー』妨害役に徹します。
 生徒間での直接攻撃魔法は厳禁ですので『武装解除エクサルマティオー』の撃ち合いになるこの競技では、アーティファクト“オソウジダイスキフアウオル・プールガンデイ”による『全体 武装解除アド・スンマム エクサルマティオー』がとてつもない威力を発揮します。

 何しろ無詠唱のくせに広範囲の『武装解除エクサルマティオー』を撃てるのです。
 避けるには範囲が広すぎることに加え、佐倉さんは私達が上へ逃げるように誘導して撃ってきますので、無理に避けようとしたらクロイス&ヴァンアイク組みたいに“高度30m以上の飛行は反則”というルールで失格になってしまいます。
 障壁で防ごうにも専門のアーティファクトから放たれる『武装解除エクサルマティオー』は、防ぐにも一苦労ですのでコチラの魔力消費だけが増えていきます。


 そしてグッドマンさんもまた厄介なのです。…………いや、むしろグッドマンさんが厄介ですね。
 佐倉さんが妨害に徹している分、グッドマンさんの役目は移動なのですが、よりにもよってグッドマンさん自身は箒に乗った上で『百の影槍ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ』で佐倉さんを引っ張って移動しているのです。生徒間での直接攻撃魔法は厳禁ですが、この使い方なら確かに反則ではないはずです。
 おかげで佐倉さんは“オソウジダイスキフアウオル・プールガンデイ”で『全体 武装解除アド・スンマム エクサルマティオー』を撃ち放題です。

 それに加えてグッドマンさんはカーブを曲がるときも減速しないで突っ込み、電灯などに『百の影槍ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ』で掴まって無理矢理軌道を変えるなんて無茶な飛行をしているのです。あ、電灯ひん曲がった。
 これではいくらグッドマンさんの速度が佐倉さん1人を抱えている分だけ遅いとはいえ、カーブである程度減速しなけばいけない私達は直線で追いつけてもカーブを曲がるときに大きく引き離されることになってしまいます。………………引っ張られている佐倉さんは大変そうですけどね。むしろ顔が青くなってる?

 要するに、直線とカーブの差し引きで速度ではほぼ互角…………一応私達が少し勝っているのですが、向こうは一方的にコチラへ攻撃し放題なので障壁で魔力を消費するわ足留めされるわ、というとても厳しい状態なのです。
 ネギ先生ぇ…………グッドマンさん達には魔法を教えるのではなくて、魔法を使っていかに効率的に目的を果たすかについてを教えたらしいのですが、これは色々と教えすぎですよ。








「ユエーーーっ、どうすんの!?
 脱落者を除いたら私達ずっと最下位だよ!?」

「大丈夫です! 最下位といってもグッドマンさん達が少し先行しているだけで、残りは全員そのすぐ後ろでダンゴ状態です。この程度の後れならいくらでも取り返せます。ですので私達はこのままのペースを維持して、魔力の温存をしておきましょう。
 このペースなら約1分で都市外壁から出ます。平野に出ればあの『全体 武装解除アド・スンマム エクサルマティオー』から逃げるスペースはいくらでもありますし、何よりグッドマンさんの何かに掴まって無理矢理軌道を曲げるなんていうアクロバティック飛行は出来なくなります。
 私達はこのまま魔力を温存しておき、平野部で勝負に出ます!」

「わかった! ………………けど“ダンゴ”って何?」


 そういえば魔法世界ムンドゥス・マギクス人に“ダンゴ状態”って言ってもわかりませんね。スイマセンです。
 あれ? でもコレットが通販で“ナギまん”という饅頭を買っていた用な気が………………ま、いいです。

 しかし、周りが消耗してくれるなら悪くありません。まだレース序盤の市街地内であるにも関わらず、最初からクライマックスだぜ! と言わんばかりに皆さんデッドヒートしているのですが、このままでは最後には息切れしてしまうでしょう。
 グッドマンさん達も他の全組を相手にして互角以上に戦っているとはいえ、さすがに2人だけで他全員を相手するのには消耗が激しいはずです。

 対する私達は早々に首位争いを諦めて後方に下がり、悠々と他の皆さんのデッドヒートを観戦していたので魔力は有り余っています。グッドマンさんとの距離は時間的に換算するならわずか30秒ほどですので、いつでも挽回することが出来るでしょう。
 それにアーニャさんからネギ先生の“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”を借りてますから、“天狗の隠れ蓑”に入っているビーム・マグナムを使えば魔力を温存して攻撃することも出来ますしね。
 でもマグナム弾が攻撃系が多いのでこのレースでは使える種類が少ない上、例えルール的に使えたとしても心情的に反則過ぎて使いたくないのばっかりなのが困ります。ネギ先生は『武装解除エクサルマティオー』系はあまり好まれないんですよね。
 一応はコレットと一緒にこのレースに備えていくつか策は用意してきたのですが…………。


「そろそろ都市外壁を出ます! 準備はいいですか、コレット!?」

「オッケイッ! いつでもいいよ!!!」


 街中で2組脱落したので私達を入れて残り5チーム。その中でも強敵はグッドマンさん達と、今でもグッドマンさん達に食らいついている委員長達の2組です。
 しかしその2組とも消耗が激しいので私達にも付け入る隙があるはず…………。





「外が見えたよ!」

「…………よし、行きますよ!」

「「『加速アクケレレット』!!!」」


 都市外壁を出た直後に一気に加速して、息切れして遅れ気味になっていたフォン・カッツェ&デュ・シャ組とド・ノワール&ド・ブラン組をあっという間に追い抜きました。
 今までずっと最下位にいた私達には注意を払っていなかったらしく、あまりの加速具合に反応が遅れたせいで妨害をすることに出来ない2組。


「いくですコレット!!! フォア・ゾ・クラディカ・ソクラティカ…………」

「合点ユエ!!! アネット・ティ・ネット・ガーネット…………」


 ですが追撃されても面倒なのでここで落としておくです。





「「『風楯デフレクシオ』!!!」」


 ただし置き障壁風味!





「待て、落ちこぼゲフォッ!?!?」「ちょッ!? いったい何が!?」


 あ、私達に追いつこうと加速し始めたフォン・カッツェとド・ブランが、私達のバラ撒いた『置き風楯デフレクシオ』にぶつかって墜落したです。
 残りの2人も見えない妨害物警戒のために急停止したですので、これでこの2組は気にしなくてもいいでしょう。

 …………別に構いませんよね。攻撃魔法を使ったわけじゃないですし。


 ネギ先生はこういうことよくやってくるんですよねぇ。

「今日の修行では攻撃魔法を使いません」
   ↓
「『ディストーションアタック』!!!」

 てな感じで障壁纏って突っ込んできたりとか…………。
 あの攻撃法は単純がゆえに、ヘタな攻撃魔法よりも対処が難しいんですよ。しかもネギ先生の身のこなしで突撃してますから回避するのも一苦労です。


 ま、それはともかくとして、残りは2組。魔獣の森というところで前の方を飛んでいる人影が見えてきました。
 順調にいけばもうすぐ追いつけるはず…………おや? グッドマンさん達は見えるのに、委員長達が見えませんね。
 もしかして委員長達がトップになって先に進んだのでしょうか?

 ム…………しかしグッドマンさん達がスピードを落として私達を見ている?
 いくら消耗が激しいとはいえスピードがあそこまで落ちるとは考えにくいですし、第一佐倉さんはまだ魔力の消耗はそんなにしていないはずです。
 何かあったのでしょうか?





「グッドマンさんと佐倉さん! 何かあったのですか!?」

「そ、それがセブンシープさん達が近道しようとしたらしくて、魔獣の森に入っていってしまったんですぅ!
 やっぱり私達がやりすぎたんですよぉ、お姉様!!!」

「わ、私達のせいですかっ!?
 …………コレットさん! ここの森は入っても大丈夫なんでしょうか!?」

「ええぇっっ!? 委員長ったら何やってんのさ!?
 ヤバイのに出会っちゃったら命がマズイよっ!」


 そりゃ“魔獣”ってつくぐらいなんですから、魔獣はたくさんいるでしょうね。
 確か事前に調べたところでは、森には竜種もいるはずですが…………。


「『来れアデアット』!」

「ユエ、それってアーティファクト!? 『仮契約パクティオー』してたの!?」


 私のアーティファクト“世界図絵オルビス・センスアリウム・ピクトゥス”で検索したところ………………うわ、マズイじゃないですか。
 魔獣の森に生息している鷹竜グリフィン・ドラゴンなんかは今の時期だと大変凶暴になっているみたいですよ。そんなのと出くわしたりしていなければいいのですが…………。


「あの…………森の方から悲鳴と木が倒れるような音がしてません?」


 …………はい。儚い願いでしたね。確かに「助けてー」とか「メキメキッ!」とか聞きたくない音が聞こえてきました。
 これでは箒レースどころの話じゃなくなったですよ。

 そして木々の倒れる音と共に森から出てきたのは委員長達と鷹竜グリフィン・ドラゴン。どうやら最悪の予想は当たってしまったようです。
 ですが鷹竜グリフィン・ドラゴンは委員長達に気を取られているらしく、まだ私達にはまったく気づいていません。

 ならばっ!





「フォア・ゾ・クラディカ・ソクラティカ!
 逆巻け夏の嵐 彼の者等に竜巻く牢獄を! 『風花旋風 風牢壁フランス・カルカル・ウェンティ・ウェルテンティス』!!!」


 『風花旋風 風牢壁フランス・カルカル・ウェンティ・ウェルテンティス』でまずは隔離を!
 とはいえ鷹竜グリフィン・ドラゴンは下位種ですが歴とした竜種。おそらく閉じ込めるのが出来るのは30秒が精一杯でしょう。

 しかし、それだけあれば委員長達を保護することが出来ます。


「…………グッドマンさん!」

「わかってますわ、綾瀬さん!」


 そして私の意を悟ったグッドマンさんが影槍で委員長達をフィーッシュッ! ………………あれ? ちょっと釣り上げすぎじゃないですか?
 まあ、鷹竜グリフィン・ドラゴンの側にいるよりはマシでしょうし、失格となる30mまでは釣り上げていないので問題ないでしょう。





「コレット。あなたは委員長達の保護をお願いします。
 もし怪我をしているようでしたら治癒して遠くに避難を、この場で治せないような大怪我でしたら急いで街に戻って治癒術師に連れて行ってください!」

「そ、そんなこと出来ないよ! 役立たずかもしれないけど、ユエ達を置いて私だけ逃げるなんて出来ない!!!」

「大丈夫ですわ、コレットさん!
 とにかく委員長さん達とやらの確認をお願いします。もし無事なようでしたら遠くから魔法で牽制してください」

「コレット早く! 『風花旋風 風牢壁フランス・カルカル・ウェンティ・ウェルテンティス』が破られます!!!」

「…………う~、わかった! 委員長達の介抱をしたら戻ってくるからね!!!
 それまで無事でいてよ!!!」


 いえ、正直言って足手まといというか何というか…………。
 それにグッドマンさんにブン投げられた委員長達が本気で心配なのですが…………大丈夫でしょうかね?

 障壁をちゃんと張ってあったのなら地面に激突したときもそんなに衝撃は来ていないと思うのですが…………。






「やれやれ。それにしてもまさか私達ものどか達のように魔獣退治をすることになるとは思いませんでしたよ。
 箒レースどころじゃなくなりましたけど、仕方がないですね」

「そうですわね。しかし私達は選抜試験自体には関係ないゲストですので、こういう事情ならレースを降りても大丈夫でしょう。
 それに麻帆良の名を背負っていることから恥ずかしいことは出来ませんが、それならむしろレースに勝つより魔獣を倒す方がいいかもしれませんわ。愛衣、あなたも大丈夫ですね?」

「は、はい! 大丈夫です!」


 『風花旋風 風牢壁フランス・カルカル・ウェンティ・ウェルテンティス』が破られ、鷹竜グリフィン・ドラゴンが姿を現しました。
 横槍を入れたのが私達と知っているのか、それとも目に付くもの全てに攻撃してくるのかはわかりませんが、どうやら標的を私達に定めたようです。


 さて、コチラの戦力は3名。それぞれ平均的な見習い魔法使い以上の力は持っていますが、それでも竜種相手となると微妙。

 何より火力が足りません。
 鷹竜グリフィン・ドラゴンの特殊攻撃はあのカマイタチのブレスのみですが、問題は奴が常に身に纏う風の障壁。
 正面からでは私の最大火力の『白き雷フルグラティオー・アルビカンス』や佐倉さんの『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』では突破出来ないでしょう。グッドマンさんの影槍や影の使い魔でもそれは同じです。
 幸い障壁は奴が意識した一方向にしか防御出来ないので、二手に分かれてクロスファイヤを行なえばドチラかの攻撃は当たるのですが………………ビーム・マグナムは使えませんね。ネギ先生の魔法が篭められていますので『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』であろうと周りの被害が大きすぎます。
 せめて上から下、もしくは下から上に向けて撃たないと、撃つ向きによっては街にまで被害が及びます。









「『黒衣の夜想曲ノクトウルナ・ニグレーディニス(西のリフルVer)』!!!」


 おお、グッドマンさんがその身を何重もの影槍で包み込みこみました。そしてまるで影槍の集合体で出来たような身体になり、人型の上半身から無数の影槍が生えてそれで地面に立っています。
 ネギ先生のアドバイスでバージョンアップした『黒衣の夜想曲ノクトウルナ・ニグレーディニス(西のリフルVer)』ですね。これで攻撃・防御・移動の全てを詠唱無しで行うことが出来るようです。

 このバージョンは今までの『黒衣の夜想曲ノクトウルナ・ニグレーディニス』とは違い、影の使い魔を失くして全ての魔力を影槍につぎ込んだものです。
 今までのバージョンで使用していた影の使い魔は確かに手数が増えて便利なのですが、例えばネギ先生のような圧倒的な単騎勢力には烏合の衆と成り果ててしまう弱点がありますので、それを克服するためのバージョンですね。状況によって今までのものと使い分けるそうです。
 影の使い魔が役に立つのは多対多か、自分と同じくらいの実力の持ち主だけなのでしょう。このことについてアドバイスしたネギ先生は「昼食は超包子で天津飯にしようかな」と、何故か関係ない話もしていましたが………………ところで“西のリフル”ってどういう意味なのでしょうか?


「綾瀬さん、大きいのを用意しますので牽制を頼めますか?」

鷹竜グリフィン・ドラゴンには風の障壁があるですよ。“大きいの”とはそれも突破出来るのですか?」

「ネギ先生から威力についてはお墨付きを貰っています。15秒ほどください。
 『風花・風障壁フランス・パリエース・アエリアーレス』クラスの障壁なら無理ですが、並みの『風楯デフレクシオ』なら10枚単位で突き破ってみせますわ。
 ただし愛衣の協力も必要ですし、障壁が無い方がいいのは否定しませんが…………」

「オーケイです。それで行きましょう。気を逸らすのと障壁は何とかします。
 どうやらアッチも我慢の限界のようですからね」


 クルオオーーーン! と叫びながらカマイタチブレスを溜める鷹竜グリフィン・ドラゴン
 しかし、“溜め”をこんな私達の目の前でするなんて甘すぎますよ、ヘビトカゲ!


「私は左から攻めます!」

「わかりましたわ! 『影よウンブラエ』!」

「私は準備を! ネイプル・メイプル・アラモード……!」


 放たれたカマイタチブレスをグッドマンさんが影槍で柵を林立させて防ぎ、私はその間に左から瞬動で出て攻撃を仕掛けます。無詠唱の『魔法の射手サギタ・マギカ』が数本ですので、あくまで牽制ですが。
 こんなことなら体内に箒レースということで障壁とか武装解除ばかりではなく、攻撃呪文を遅延呪文ディレイスペルで埋め込んでおけば良かったです。

 ヘビトカゲは柵で姿が見えなくなったグッドマンさん達ではなくて私に狙いを定めてきたようですが…………人間を舐めるなです、ヘビトカゲ!
 戦い方についてはネギ先生にみっちり教わっているですよ!





「『光よルークス』ッ!」


 ヘビトカゲの目前にただ強い光を発生させるだけの初心者用魔法を放ちます。
 初心者用魔法ですが、戦いにおいてこれほど簡単で効果的な魔法はないです。

 グルアァッ! と苦しむヘビトカゲ。そりゃあんな強い光を目の前で見せられたらどんな動物でも苦しむです。
 これが火や風を起こすだけの初心者魔法では効果はないですけどね。


 そして『光よルークス』を連発しながら瞬動で上空に移動。
 一瞬遅れて私がいたところにカマイタチブレスが炸裂しました。目が見えないので当てずっぽうで撃ったみたいですが無駄です。

 上空に逃れた私ですが虚空瞬動はまだ出来ないので、そこから箒を使ってヘビトカゲの直上に移動。
 続いて遅延呪文ディレイスペル解放エーミッタム


「『風よウェンテ最大出力マーキシム』!!!」


 私の直下にいるヘビトカゲに向かって突風を起こします。
 障壁を上に向けて用意してなかったヘビトカゲが一度は地面に叩きつけられますが、すぐさま障壁を上に向けて展開。風を防いだようです。

 しかしこれで障壁は上方向に展開済みの上、障壁ごと風で押さえつけられているので動きを封じることが出来ました。





「グッドマンさん、今です!!!」

「了解ですわ! 愛衣、やりなさい!!!」

「離れてください綾瀬さん! 『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』ッ!」


 そのまま箒に乗って飛び去ろうとして、ふとグッドマンさん達のほうへ目をやったところ………………何ですか、アレ?


 そこにあったのはまるで大砲。
 どうやら影槍を使って組んだ私がスッポリ入れそうなぐらいの黒い円筒形の物体があり、その中からこれまた影槍で組んだ大型の鏃がヘビトカゲへ向いていました。
 そして鏃が入っている反対側の円筒へ向かって、佐倉さんが爆炎を放つ『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』を………………って、洒落にならないですよコレは!!!

 退避するんでもうちょっと待ってくださいーーーっ!





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 …………結果として、綺麗な赤い花が咲きました。弱点の角を折るどころの話ではありませんでした。
 しかも赤い水を噴き出す噴水も出来たです。

 どうするんですか、このオブジェ?





「これで一件落着ですわね。無事に終わって何よりですわ」

「…………いえ、私が退避するのがもう少し遅かったら、あの赤い噴水を頭から被っていたのですが…………」

「(ここまでやって良かったのかなぁ?)」


 苦し紛れで虚空瞬動やってみたら出来ましたので、それについては儲け物ですけどね。

 それにしてもグッドマンさん達の性格が最初に会ったときと比べて変わってしまっている気がします。やっぱりこれもネギ先生のせいですかね。今の合体技もネギ先生がアドバイスした結果完成させたようですし。
 高畑先生達が言うには、ネギ先生に一番影響されているのは私達ということですけどね。

 まあ、今までの修行のせいか、別にあの赤い噴水を見ても特に感慨深いものは浮かんでこないので、何かを反論出来るわけではありませんが…………。


 グッドマンさん達も普通に賞金稼ぎとか出来たっぽいですよね。





「ユエーーーっ、大丈b……って何じゃこりゃあーーー!?」

「…………こ、これはいったい? まさか下位種とはいえ竜種を…………」

旧世界ムンドゥス・ウェトゥスの魔法使いって…………」


 おや、コレットに委員長にベアトリクス。
 委員長達に大きな怪我もなさそうですし、これで本当に無事に終わったですね。

 さ、それでは街に戻りましょうか。
 一応チェックポイントは通っていきますが、この状態で新たに箒レースを再開するという気分ではないですので、もう順位についてはどうでもいいですね。
 ゆっくりと戻ることにしましょうか。


 そんなに私達を怯えたような目で見ていないで行きますよ、3人とも。


















 ちなみに後日談としては、無事にコレットと委員長とベアトリクスは警備兵として選抜されることが決まりました。

 というのも、他の4組のうち2組はグッドマンさん達のせいで高度30m以上飛行の反則をとられて失格。
 残りの2組、フォン・カッツェ&デュ・シャ組とド・ノワール&ド・ブラン組なのですが、私達が仕掛けた置き障壁にフォン・カッツェとド・ブランが激突した際にどうやら気絶したらしく、飛行不能となってこれまた失格となりました。

 つまりは私達ゲストを除いて無事だったのはコレットと委員長とベアトリクスしかいなかったのです。
 順位なんてもう有って無いようなものでしたし、委員長達は助け出された側でコレット組にすると1人しかいない。ですので人手が足りないので3人とも警備兵として選ばれたのです。

 しかしセラス総長がその事を告げたとき、皆さんが疲れた顔をしていたのは何故でしょう?





「でもオスティアに行けることになって良かったじゃないですか。
 ねぇ、コレット?」

「っ!?!? う……うん、そうだね、ユエッ!!!」



 何ビクついているんですか、コレットは?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 残った鷹竜グリフィン・ドラゴンアリアドネーの研究者スタッフが(研究素材として)美味しくいただきました。

 フォン・カッツェ&デュ・シャ組は脱落です。
 どうせ原作でも出番ないから問題なゲフゲフンッ!!!



[32356] 第87話 朝チュン
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/05/24 21:46



━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━



 朝起きたらパンツ一丁だった。










 …………。

 ……………………。

 ………………………………待て。待て待て待て待て待てちょっと待って! 昨日何があった!?!?

 落ち着け、落ち着くんだ千雨。KOOLになるんだ。
 まずは昨日のことを思い出すんだ。


 ………………喉渇いた。その前に水飲もう。
 喉渇いたせいで起きたみたいだし。

 昨日は生まれて初めて酒飲んだからなぁ。
 アルコールを分解するために水分を使うから、酒を飲んだら喉が渇くってネギ先生に聞いたし。

 確か水差しがサイドテーブルに………………龍宮一緒のベッドで寝てたのか。
 おい、起きろ。お前も起きてこの状況がどうなっているか考えろ。





「…………ん、もう朝か。……今何時だ?」

「あーっと…………朝の4時だな」

「…………何でそんな時間に起こすんだ。朝食の時間にはまだ早いだ………………ん? 何で長谷川が私のベッドに?」

「いいからちょっと隣見てみろ」

「何なんだいった………………おい、何でネギ先生も一緒に寝てるんだ? しかもパンツ一丁で?
 っ!? 私は…………普通に服を着てるな。とりあえずセーフだ」


 うん。パンツ一丁なのはネギ先生なんだわ。私達はちゃんと服着てる。
 私達は服を着てるけど、寝巻きじゃなくて普段着を着て寝てたのがオカシイといえばオカシイが…………。


「おい、昨日何があったか覚えているか?」

「ちょっと待て。今思い出す………………その前に私にも水をくれ。喉が渇いた。
 いや、それより部屋を移動しようか。ネギ先生が起きたらどうすればいいか困る」

「それもそうだな。じゃあリビングで…………」












 リビングに移動して、冷蔵庫から冷たい水を取り出して飲む。
 冷たい水が気持ち良い。体中に水分が行き渡るような気がする。

 500mlのペットボトルを一気飲みしたが、何だかまだ足りない。


「長谷川、私にももう一本くれ」

「おう………………で、思い出したか?」

「急かすな。順に思い出していくから。
 …………確か昨日はネギ先生が帰ってきた後、食事が終わったら3人で酒を飲み始めたんだよな。茶々丸とアルちゃんは“黒い猟犬カニス・ニゲル”の調査で泊り」

「エヴァンジェリンのコピーはネギ先生に負けたのが悔しいのか、滅多なことじゃ外に出てこないからな。
 ネギ先生にああいう態度をとるってことは、やっぱり私達の知ってるエヴァンジェリンとは別人ってのが良くわかる反応なんだけど…………」

「ああ、昨日の夜はそれで私達とネギ先生の3人だった。
 それでネギ先生に気による身体制御と『咸卦治癒マイティガード』をOFFにしてから酒を飲むように言って…………」

「そんでワインを飲み始めたんだよ。貴腐ワインだったっけ。
 初めて飲んだけど、甘くて飲みやすくて美味しかったのは覚えてる」

「酒の論評はともかく………………それからどうしたんだったか?」


 えーっと、どうしたんだっけ?
 ワインが飲みやすくて1本目を飲みきって…………それから……。










━━━━━ 6時間前 ━━━━━










「僕だってね……僕だってね! 本当は早く答えを出して、皆さんに返事をしたいんですよっ!」

「…………ああ…………」「…………そうなんだ…………」

「でもね! それでも皆さんのこと大好きですから、誰か1人選べって言われても無理なんですよぉっ!」

「いや、あいつら待つって言ってたろ」「そうそう。全員を選んでくれても良いとも言ってたな」

「そうですけどっ! そうですけど僕が返事を出せていないのには変わらないじゃないですか!
 今の僕は皆さんの好意に甘えているだけな、タカミチ以下のまるで駄目な男の子マダオなんですぅー!」

「………………」「………………」


 …………うぜぇ。泣き上戸かよ。
 酒に対する耐性OFFにしたらここまで酒に弱くなって泣き上戸になるんかよ…………。

 それにまだワインを1杯しか飲んでいないぞ。それなのに今までにないぐらい酔うなんて、ネギ先生ってば本当はアルコールに弱かったんだなー。





「女の人と交際するのなんて僕は初めてだし…………」

「(おい、コレどうすんだ?)」「(…………まあ、ストレス解消になると思えばいいんじゃないか)」


 …………そう言われるとそうだな。
 ここまで腹の中ブチ撒けたら、明日から少しは楽になれるだろ。


「前のところでも女の人と付き合ったことなんかなかったし…………」

「(前のところ?)」「(メルディアナ魔法学校のことだろ)」


「…………ごめんなさい。見栄張りました。前の前でも女性と付き合ったことありません」

「(前の前?)」「(生まれ故郷の村のことか? でもアーニャしか近い年齢の子供はいなかったと聞いたが…………)」


「漫画とかアニメとかで複数の女性に好意を持たれるハーレム物なんてありますけどね!
 そんなの一般人の僕には対処なんか出来ないですよ! 何て反応すればいいんですか!」

「(鈍感系主人公だったら平気なんだろうけど、ネギ先生はシッカリと意識しちゃってるからなぁ)」「(私はアニメ見ないから知らん)」


「そもそも今考えみたら7人もの女性に告白されるってどういうことですか!? エヴァさんとアーニャも入れたら9人ですよ! あと1人で10人になるんですよ!
 何で今までの僕はそんな状況で平然としていられたんですか!?」

「(別に平然とはしていなかったような……)」

「(…………おい、それよりも今言った感じだと、もしかしてネギ先生って酒と一緒で“恋愛”みたいな心の揺れについても、気とかで知らないうちに耐性つけてたんじゃ……?)」


 …………あ。

 もしかして今まで大人っぽいと思ってたのもそのせい? エヴァンジェリンとかにキスされても平然としてたのはそのせいなのか!?
 気による身体制御とかのせいで、“恋愛”でドキドキしてもあっという間に落ち着いていたのか?

 ちょっ!? とんでもないことに気づいちまったんじゃねーか、コレ!?
 ヘタしたら今の神楽坂達との関係がひっくり返るぞ!


「だからねっ! だからねっ………………う~、トイレ行ってきます…………」


 散々愚痴を言ってたと思ったら、急にテンションが駄々下がりになった。
 酔っ払いってのはこういうものなんだろうかね?







「…………それにしても、アレどうする?」

「…………とりあえず今日のところはこのまま楽しませよう。
 どうせ今の状態で何か言っても明日になったら忘れているかもしれないし、何よりこんなネギ先生は初めてだ。ヘタに突っついて暴走しだしたら目も当てられん。
 今日のところはストレス解消ということで割り切ろうじゃないか」


 …………そうだな。そうしようか。これだけ騒げばネギ先生もスッキリするだろうしな。

 それに確かにヘタなことを言って「アスナさん達に会いに行くぅーーーっ!!!」なんて言い出したら私達では止められない。
 だから何とかもう少し落ち着かせて、これからのことは明日にまわそう。今日はこのまま宴会を楽しむってことで良いや。

 よし、それならもう1本ワインを開けようぜ。
 いやー、酒は初めて飲んだけど美味しいな。これは女性でも飲みやすい甘口の貴腐ワインって奴らしいけど、麻帆良でも買えんのかな?
 まあ、麻帆良に帰ったら未成年だから飲めなくなるから、今のうちに飲めるだけ飲んでおこうっと。 ← 少し酔ってる










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










「僕だって男ですからね! アスナさん達とスキンシップとりたいなぁー、って思うこともあるんですよ!
 でもねっ! 僕からスキンシップとろうとするのは恥ずかしいんですよ! 抱きついたりとかなんて出来ないですよ! しかも1人にしたら他の皆さんにもしなきゃいけないじゃないですかっ!
 そしたらズルズルと落ちていきそうなんですよ!」 ←かなり酔ってる

「アハハハハ、ネギ先生はエッチだなぁー。
 でもネギ先生は10歳の男の子だからしょーがねーもんな!」 ← 酔ってる

「へぇ~? だったらネギ先生は私達ともスキンシップとりたいと思ったりするのかなー?」 ← こいつも酔ってる


 おーし、じゃあスキンシップとってやろーじゃねーか! おりゃあっ!


「おー、神楽坂達言ってたみたいに、確かにネギ先生の抱き心地は良いなー」

「おいおい、それこそ神楽坂達に怒られるぞー」

「はーなーしーてー」


 暴れてんじゃねーよ、嬉しいくせに。アハハハハ!


 あー、でも本当にコレ良いわ。
 あったかいし柔らかいし、シャワー浴びた後だから良い匂いもする。
 子供の体温高いって本当なんだなー。ネギ先生に『咸卦治癒マイティガード』されたときとかマッサージされたときにわかってたけどさ。

 うわ、本当にほっぺもプニプニだ。頬擦りしたら気持ち良いー。
 あと神楽坂達が言ってたのは…………。


「げ、ネギ先生の肌って本当に綺麗だなー。脇腹のところなんてもちもちしてスベスベだ。これが赤ちゃん肌ってやつか。
 『咸卦治癒マイティガード』か? これも『咸卦治癒マイティガード』の効果なんかー?」

「ほほう、どれどれ? 私にも触らせてくれ」

「くすぐったいー」










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━










「たつみやさん、いたいですー」 ← 頭グルグルしてる

「ハハハハハ、何だい。ヘソに指突っ込むのは前にネギ先生が私にしたことじゃないか。
 自分がやられるのは嫌なのかなー?」 ← かなり酔ってる

「おー、古菲が言ってたけど筋肉の感じもいいなー。
 この細っこい身体に引き締まった筋肉が薄くのってて、贅肉とかねーじゃんか。つか、全然肉が掴めねー」 ← かなり酔ってる


 …………私もそろそろダイエットとかした方がいいかな。

 あんまり太ってた方じゃなかったけど、魔法世界に来てからの自堕落の日々で少し太ったかもしれん。
 そういえば食事は高級レストランで食べるようなのばっかりだから、野菜とかはあんまり摂ってねーし脂っこいものが多いような気がする。
 一応プールで泳いだりはしてるけど、それ以外はお菓子摘みながらネギ先生の試合見たりしてるだけだから、きっと運動量自体が少ないんだろうなぁ。


 それににしても気持ち良いー。何だか一日中触っていても飽きなさそうだな、ネギ先生って。
 …………あ、コラ逃げんな。パジャマ脱がせられねーだろうが。





「…………さむい…………」 ← パンツ一丁

「ん? どした?」

「寒い? マズイな、急アル…………の一歩手前ぐらいか?
 水飲ませてから身体暖めろ。吐き気は?」


 おいおい、本当に素のネギ先生って酒に弱いんだな。結局ワインはグラスで3杯しか飲んでいないぞ。
 今までウィスキーを1晩で1瓶空けてたりしてたのに、酒耐性OFFにしたらあっという間にコレかよ。


「はきけは…………ないです。あとねむい」

「あー、もう12時か。そろそろ寝るか」

「だな。これ以上ネギ先生に飲ませるのはマズイし、今日はお開きにしよう。
 …………ネギ先生はどうする? もしものことを考えたら1人で寝かせるのは止めておいた方がいいと思うが…………」


 あー、そっか。確か保険の授業でやったけど、吐いたりして喉詰まらせる危険があるんだったよな。
 だったら1人で寝かせるのは危険だな。

 しゃーねー。私のベッドに連れて行くか。
 それと神楽坂達が言ってた抱き枕やってみよう。ネギ先生の身体温めるのにも丁度良いだろうし


「襲うなよー」

「アホ。むしろ龍宮も来い。何かあったときは私だけじゃ不安だ」

「…………まあ、構わないか。
 どの部屋のベッドも私達3人が一緒に寝れるぐらいの大きさはあるし」

「ふあああぁぁ~~~…………もうねるー……」


 おい、1人が勝手にどっか行くな。寝る前にトイレ行っとけ。
 まったく…………しょーがねーな、ネギ先生は。










━━━━━ 現在に戻る ━━━━━










 …………しょーがねーのは私自身だろ、コレ。
 見れば龍宮も昨日のことを思い出したのか頭抱えてる。





「…………。

 ……………………。

 ………………………………」

「…………。

 ……………………。

 ………………………………」










「「この変態」」





 ちょっ!? 誰が変態だゴラァッ!?





「お前だお前! 10歳の男の子のパジャマ脱がせて、抱き締めたり頬擦りしたりサワサワと全身触りまくる女の何処が変態じゃないっていうんだ!?」

「そんなこと言ったら龍宮なんかヘソ責めてたじゃねーか! 10歳の男の子にそんなことするなんてマニアック過ぎだろーが!!!
 学園祭でネギ先生にヘソ責められてから、ソッチの性癖に目覚めたんじゃねーのか!?」

「性へっ……!? …………だいたい先にネギ先生に手を出し始めたのは長谷川だろう!」

「ぐっ……! 私は…………アレだよ。姉が弟を可愛がるような感じでしただけだよ。極一般的なスキンシップだ。
 お前がヘソ責めるなんてマニアックなことしなければ、普通のスキンシップで終われてたんだよ! それにお前も脇腹とか触ってたじゃねーか!」

「キッカケを作ったのはお前だろうが!!!!
 長谷川があんなスキンシップとったりしなかったら、私はそんなことしなかったんだよ!」

「流されたんなら結局はお前も一緒だろーが!
 それなら私は神楽坂達が言ってたことを確かめ………………か、神楽坂達……?」

「…………あ…………」


 げ、アイツラにバレたらどうしよう?


「…………オーケイ、落ち着こう。私達2人が今更言い合っても遅い」

「…………そうだな」





 どうする? 土下座して謝ったら許してくれるか?
 最近ネギ先生とのスキンシップを取れなくて悶々としてた神楽坂達に、ネギ先生を酔わせて無理矢理抱きついたりイロイロしたことを言っても許してくれるか?

 …………無理だよなぁ。


 いや、ネギ先生のストレス解消にはアレが最適だったんだし、何よりネギ先生が知らないうちに酒耐性どころか“恋愛”耐性すらONにしてたらしいことがわかった。
 今までネギ先生との仲をなかなか進展させられなかった神楽坂達にそのことを教えれば、まだ生き残れる可能性はある。

 それに別行動する際に、エヴァンジェリンから「お前達の身体を使ってでもフェイトとの接触を回避しろ」と厳命されている。
 そもそも普段から盟約に同意するんならネギ先生を好きになっても良いと言われているから、私達がネギ先生に手出すこと自体は問題されないだろう。………………酔わせて無理矢理ということを除けば。


 って、それ以前に明日から…………じゃなくて今日からネギ先生とどんな顔して過ごせばいいんだよ!?
 あんだけネギ先生を滅茶苦茶にしといて、今まで通りに付き合っていけるか?

 少なくとも私は無理だ。絶対ネギ先生のこと意識しちまう。
 いや、別にネギ先生のことが嫌いってわけじゃないよ。でも10歳の男の子に無理矢理あんなことしといて、どういう反応すればいいんだ!? ヘタしたら変態だと思われてんじゃねーか!?

 …………さすがに変態と思われるのは嫌だな。





「とりあえず…………ネギ先生が起きるのを待つか」

「…………まあ、今回の件の主導権を持っているのはネギ先生だな。ネギ先生が私達にどういう対応をするかで私達の未来が決まる」


 結構酷いことしちまったからな。ネギ先生が神楽坂達に泣きついたら私達の生命は終わる。
 けど…………ネギ先生だったらそんなことしねーよな。











「…………起きた瞬間に土下座されるに一票」

「賭けにならん。ネギ先生の性格なら十中八九そうだろう」


 ですよねー。どうせ私達がしたことを拒否出来なかったからって謝ってくるよな。
 ネギ先生が悪くないとしても…………というか今回ばかりは私達が悪いけど、それでもネギ先生なら謝ってくるだろうな。

 あー…………本気でどうしよう。謝られてもコッチが困る。


「…………なあ、長谷川。この際だから率直に聞くが、お前はネギ先生のことをどう思っているんだ?」

「う……今まで考えたことない…………というより、考えないようにしてたんだろーけど、改めて聞かれると正直返答に困るな。
 まあ…………ぶっちゃけるけど、好きか嫌いかって聞かれたら好き。けどネギ先生には神楽坂達がいるから…………そうだなぁ。“もしネギ先生に告白されたら悩んだ末にOKを出す”ぐらいかな。
 龍宮は?」

「私? そうだな…………私はそれこそ“もしネギ先生に告白されたら悩んだ末にNOを出す”ぐらいだよ。
 もちろんネギ先生のことが気にならないとは言えんが、あいにく私の将来はもう最後まで予定が詰まっている。皆みたいにネギ先生さえいればそれでいいって境地までは達せられないさ」

「ふーん………………もし今回の件で「責任を取れ」と言われたら?」

「うぐっ! …………さすがに取らざるを得ないぐらいの罪悪感は抱いてる。酔った勢いとはいえ何であんなことを…………。
 でも正直な話、ネギ先生に「貴女の理想は僕が叶えますから、貴女は僕の側にいてください」という感じで告白されたら、NOと言えるかわからんな。ネギ先生なら私の理想を叶える手伝いもしてくれそうだし、束縛もしないで私の自由にさせてくれそうだ。しかし結婚する私なんて想像出来ないから…………まあ、愛人ならいいかな?
 …………というか何でこんな話してるんだ、私達は?」





 言いだしっぺはお前だろうが。
 でも、確かにネギ先生なら私達にしたいことや夢があるのなら、それを叶えるのに力になってくれそうだ。

 つーか愛人? 確かに龍宮が主婦やってる姿なんてのは想像出来ないけどさ。



 それにしても何でこんなに頭が冷静なんだろう。
 そんなこと聞かれたら、今までだったら恥ずかしがって反発してたんだろうけど、何の気負いもなく答えることが出来た。

 ………………ゴメン、理由はわかってる。
 あんなとんでもないこと仕出かしちゃったからだよな。




 あー、もういいや。とりあえずシャワー浴びてサッパリしよう。そんで残りの詳しいことはネギ先生が起きてからだ。
 もうどうとでもなりやがれ、コンチクショウ。












━━━━━ 神楽坂明日菜 ━━━━━



「…………で、ネギは大丈夫なのかしら?」

『頼むからそんな冷たい声出さないでくれ。ネギ先生にしたことは謝るから』


 まあ、テレビで拳闘試合の様子を見る限り何ともなさそうだけどね。
 むしろ晴れやかな顔をしているから、千雨ちゃんの言う通りにストレス解消になったみたいなのは良かったけど………………千雨ちゃん達がねぇ。


「結局、千雨ちゃん達はどうするの?
 前にも言った通り、ルールさえ守ってくれるなら同盟に参加してもらってもいいけど」

『いや、最初はネギ先生に任せようと思ったんだよ。まあ…………ネギ先生なら悪くないし。
 でも起きたネギ先生は予想と違って土下座してこなくてさ。私達に向かって「軽くなった気がします。…………引きずりすぎて磨り減ったかな?」って、ヤケにスッキリした顔で言いだしてな。
 その姿に私も龍宮も何もツッコめなかったわ』

「…………大丈夫なの、ソレ?」

『大丈夫だと思うぞ。それから「答えは出た。大丈夫ですよ千雨さん。僕はこれから頑張っていきますから」って言われたからな。
 私が言うにはオカシイかもしれないけど………………おめでとう。これが最初に言った“良いお知らせ”だ』


 マジでっ!? ネギったら答え出たのっ!?
 しかも千雨ちゃんが言う感じだったらOKな感じでっ!?


『というわけで神楽坂。多分、合流したらネギ先生から話があると思うから、心の準備をしておくように皆に言っといてくれ。
 その辺の事情を含めてエヴァンジェリン達にも話して、何とか情状酌量の余地があるということしてくれると大変ありがたいんだが…………』


 …………キタ、キタキタキタキタキターーーーーッ!!!

 エヴァちゃんが言ったみたいに、わざわざネギから離れて寂しい想いをした甲斐があったわ!
 この旅行でネギとの仲を深めようとは思っていたけど、まさか卒業の遥か前にネギが答えを出してくれるなんて…………。


『…………神楽坂ー?』


 これで…………これでまたネギとくっつける。

 千雨ちゃん達が参加するのは予想通りとはいえ思うところがないわけではないけど、これはそんなのも吹っ飛ぶ知らせだわ! エヴァちゃん達も喜んでくれる!
 千雨ちゃん達ありがとう! 最後までいってたらこんなんじゃ済ませられなかったけどね!

 ああ、早くネギと会いたいわ。


『もしもーし?』


 って、こうしちゃいられないわね。皆にもこのこと教えなきゃ。
 ウフフフフ、今夜は宴会ね。

 ああ、魔法世界に来て良かったわ!!!









『…………おーい、まだ話さなきゃいけないことがあるんだけどよー?』

「ア……アラ、ごめんなさい。少しばかりトリップしてたわ。
 それで話さなきゃいけないことって、最初に言ってた“悪いかもしれないお知らせ”のことかしら?
 …………出来れば“良いお知らせ”だけの方が良かったんだけど」

『そういうのは私じゃなくてネギ先生に言ってくれ。
 それでなんだが…………正直、それについては私じゃ判断つかないこともあって、お前らの意見も聞きたいってのもあるんだよ』

「もったいつけちゃって何よ? ネギがまた何か仕出かしたの?」

『それなんだが…………今回の件から拳闘試合が終わってホテルに戻ってくると部屋に篭るようになったんだ。
 それで何してるのか様子を伺ったんだけど…………

「オスティアは滅びない! 何度でも蘇るさ!!!」

 って叫びながら、何やら青い正八面体の魔力結晶ってモンを作っててさぁ…………』



 オスティア復活!? 何をする気!?



『龍宮から見てその魔力結晶はとんでもない魔力を持っているみたいなんだよ。
 それ使ってネギ先生が何しようとしているのか心配で心配で…………』

「オーケイ! 予定を切り上げて私達は早めにオスティアに行くようにするから、千雨ちゃん達もネギが“ナギ・スプリングフィールド杯”の出場権ゲットしたら直ぐにオスティアに来るようにして!
 最悪の場合は私が壊すから安心していいわよ!!!」


 ああもう! ネギったらいったい何をする気なの!?!?
 お願いだから変なこと考えたりしないでよ!!!





━━━━━ 後書き ━━━━━



 朝チュンを望んでいる人がいたようなので…………。
 でも火星にスズメはいないからチュンじゃないかもしれませんね。


 ネギ君が遂にイロイロな事に気づいたようです。
 基本的にネギは基礎の魔力や修行の結果以外は原作ネギと同じですので、当然ながら体質的に酒には弱いです。気とかマジ便利。



 それと急性アルコール中毒は大変危険です。
 自分は一度だけ、酒飲んでて夏なのにとても寒くなったことがあります。これが急アルの一歩手前です。

 お酒はほどほどにしましょう。一気飲みとかはもってのほかです。
 酒を飲むなら水分も一緒に摂り、アルコールを分解するために使う糖分も一緒に摂りましょう。


 一番いいのは酒自体を飲まないことですけどね。



[32356] 第88話 オスティア終戦記念祭
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/05/27 18:09



━━━━━ 宮崎のどか ━━━━━



 正確にはまだオスティア終戦記念祭は始まっていないけどねー。
 お祭りは10/1からだからまだ始まるのに1週間あるんだけど、街の様子はもうお祭り一色。既に始まっているって言われても信じちゃうぐらい。


「やっぱり中心市街は人多かったな。人ごみが鬱陶しかったぞ」

「“ナギまん”とか売ってたのは笑ったわねー。
 本当に“紅き翼アラルブラ”って大人気だわ」

「でもこのリゾートホテルエリアはそれほどでもないなぁ」

「そうですね、木乃香お嬢様。もちろんそれなりに人はいますが、どこか落ち着いた雰囲気がある場所です」

「パンフレットによると、ここら辺はオスティアでも指折りの高級ホテルエリアでもあるからでござるな。
 それに観光客は皆中心街に遊びに行ってるのでござろう」

「それにしてもこんな立派なホテルに泊まるのは久しぶりアルな。今までは野宿ばっかりだったし。
 ネギ坊主達はもう到着しているアルか?」

「夕映達は昨日のうちに到着しているはずですし、ネギ先生せんせーも午前中に到着の予定です。
 ですから問題がない限り私達が最後のはずですね」


 ネギ先生せんせーと会うのも久しぶりだなぁ。
 別行動を始めたのが8/16で今日が9/26だから、もう40日間も経っている。そんなにネギ先生せんせーと離れていたのかぁ。賞金稼ぎとか遺跡潜りとか魔獣退治とかであっという間の40日間だったなぁ。

 でも魔法世界ムンドゥス・マギクスでのこの40日間は、現実世界ムンドゥス・ウェトゥス…………地球ではまだ半月も経っていないんだよね。
 ダイオラマ魔法球で少しは慣れているけど、ここまで長期間のズレがあるのは初めてだから何だか不思議な感じ。

 でもこの40日間の間に夕映達がアリアドネーで頑張ってくれたおかげで性転換薬も完成したし、“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”の調査・資料集めも順調みたい。
 これで魔法世界ムンドゥス・マギクスに来た目標はクリア出来た。



 …………それに加えてどうやら長谷川さん達の話だと、ネギ先生は私達に対する答えを出すことが出来たみたい。
 しかもOKな方向の感じで…………。


 や、やっぱりそういうことならネギ先生は私達全員を選ぶのかな?

 もちろんその答えが出るかもしれないことを皆覚悟してたし、全員が断られたりすることに比べれば皆が悲しまない答えだと思う。
 それにもちろん別に嫌じゃない…………というか、ネギ先生のことがなくても皆とは一緒にいたいと思う。

 だって皆もう仲間だもん。
 この40日間の間の旅で…………それ以前のネギ先生せんせーへの同盟を組んだりしたことで、皆と仲良くなれた。
 もしこれで誰か1人選ばれてこのパーティーが解散することになったとしたら、失恋だけじゃなくて解散するということ自体にも悲しいと思ってしまう。

 だから私1人選ばれたりするよりも、全員選ばれてこれからも皆一緒にいられた方が良い。
 宴会のときに話し合ったけど、皆も私と同じ気持ちみたい。

 ………………エヴァンジェリンさんは不老不死な分、更に余裕があるみたいだけどね。
 全員選ばれるのはいいけど、たまにはネギ先生と2人っきり…………もしくは夕映も入れて3人っきりの時間も欲しいなぁ。


 ま、これについては後で皆と話し合おう。
 というよりまずネギ先生せんせーと会わなきゃ。会ってネギ先生せんせーの答えを聞いてからだよね。



 待っててください、ネギ先生せんせー
 いま、逢いにゆきます。






「おや…………やあ、君達! オスティアに到着したのかい!」

「…………ん? おお、タカミチか」


 あ、高畑先生。マクギネスさんから聞いてましたけど、本当に高畑先生も魔法世界ムンドゥス・マギクスに来てたんですね。
 それとこのホテルの手配とかありがとうございますー。


「元気そうで何よりだね。君達の活躍は噂になってるよ。
 まあ、エヴァのことは話題に出ていなくて何よりだけど」

「さすがに私は表に顔を出せんからなー。
 アスナ達の実力テストも兼ねてほとんど任せておいたが、特に問題もなく終わることが出来たぞ」

「そうかい。皆たくましくなったね。見違えたよ。
 これならきっとネギ君も喜んでくれるさ」

「ありがとう、タカミチ。
 …………そ、それでネギは?」

「ん? ああ、ネギ君ならホテルにいるよ。
 僕はちょっと祭り会場に行って、食べ物を色々と買ってきたんだよ。さすがにネギ君が祭りに顔を出して大騒ぎになったら困るから、それならせめて食べ物ぐらいはと思ってね。
 ガンドルフィーニ先生達も祭りの見学に行ってるよ」

「え? 幻術使っても駄目なんですか?」

「うーん…………大丈夫だとは思うけど、念のためね。
 少し祭りを覗いたら、幻術を見破る魔法具を持って探し物をしているような人達がいたから…………しかもその人達って巷に出回り始めたネギ君グッズを持ってたんだよね。
 むしろネギ君はそういう人達を見たくないから祭りに行かないみたいでさ…………」

「…………そこまで騒ぎになっているのでござるか」

「というか、ネギ坊主が世に出てからまだ1ヵ月なのにそんなグッズが出てることが驚きアルよ」


 きっとネギ先生せんせーは引いているんだろうなぁ。
 いいんちょさんみたいな、そういう熱狂的なファンとか苦手みたいだし。




「ま、いいさ。君達が来たんならネギ君も喜ぶだろう。ホテルに行こうか。
 それとアスナ君には懐かしい人が会いに来てるよ。エヴァにとっても懐かしいかな?」

「誰? …………ってジャックよね。私とエヴァちゃんの知っている人となると」

「ネギに財産を根こそぎ奪われた筋肉達磨か。よし、顔見たら指差して笑ってやろう」


 “ジャック”さん…………というと“紅き翼アラルブラ”のジャック・ラカンさんで確かコピーエヴァさんの巻物を持ってた人でしたっけ。
 拳闘試合にエヴァさんが出てたのは驚いたなぁ。


 それよりも遂にネギ先生せんせーと…………。
 あ、私の格好変じゃないよね? どこか汚れたりとかしてないよね?

 …………会う前にちょっとお手洗いで身だしなみを……。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





「ただいま帰りました、ラカンさん。はい、これが頼まれた屋台の食べ物です。
 あれ? …………ネギ君は?」

「おお、帰ったかタカミチ。サンキューな。
 ぼーずなら隣の部屋にいるぜ…………って、その嬢ちゃん達は……?」

「神楽坂様達? 到着なされたのですか?」

「ええ、以前に話した長谷川君や夕映君達と同じ、ネギ君の生徒ですよ。
 それでこの子が…………」

「久しぶりね、ジャック。あなたは変わらないわねぇ」

「おお…………いよーはっはぁ! お前がアスナかぁ。
 それに本当にエヴァンジェリンもいるんだな。嬢ちゃん達のことはぼーずやタカミチから聞いてるぜ」


 実際に見るとおっきい人だなぁ。ラカンさんって。
 でも以前見た“紅き翼アラルブラ”の映像と何も変わっていないみたい。10年以上前のことなのに。

 それにアルちゃん! 久しぶりだねー。
 拳闘試合でネギ先生せんせーの相方役お疲れ様。ケガもしてないようでよかったよ。











「なるほど。こいつぁデカくなっ「ベキィッ!!!」ったぁーーーって何しやがんだ、ぼーず!?!?
 つーかいつの間に現れた!?」

「黙れ。何ナチュラルにセクハラかまそうとしてんですか」

「ただの軽いジョークじゃねえか!!!
 ひ、ひどいやつだッ……! 指を折るなんて……!」

「いいや慈悲深いですよ。指を切断しなかっただけね…………。
 ま、そんなどうでもいいことは置いといて…………お久しぶりですね、皆さん。会いたかったですよ。
 ああ、この大きいのは“紅き翼アラルブラ”のジャック・ラカンさん。僕達を迎えに来るのをすっぽかした人です」

「ネ、ネギィッ! 会いたかったよぉーーー!!!」


 あ、ああ! アスナさんズルイですぅ!!
 抜け駆けは無しって約束だったのにネギ先生に抱きつくなんて…………。


「アハハ…………久しぶりですね、アスナさん」

「人の指折った直後に変わらぬ顔して女の子を抱き締めるか、フツー?
 タカミチ…………絶対このぼーずの育て方間違ってるって……」

「ノーコメントでお願いします」

「ネギ先生、いきなり姿を消されて…………ってのどか!? オスティアに到着したのですか!?」

「え? なになに? のどか達が到着したの?」

「お久しぶりです、マスター」

「これで全員集合か」

「(何とかネギ先生が爆発しないで済んだなぁ)」

「久しぶりネ、皆。皆の活躍はアリアドネーでもチラホラと聞いていたヨ」


 ネギ先生せんせー…………お久しぶりですぅ。
 いつの間にこの部屋に来たのかは突っ込まないです。それと扉を開ける音もしなかったのも気にしないでおきます。

 でも元気そうで良かった。ネギ先生せんせーに変わりがないようで………………あれ? でも何か違う?
 変な意味での違い方じゃなくて…………あ、ネギ先生せんせーの背が伸びてるのかな?

 40日間も離れてたらやっぱり大きくなったんだぁ。
 今までは毎日見てたから、背が伸びても気づかなかったのかな。


 それに夕映達も元気そうで良かったよ。夕映は別に背は変わっていないけど…………むしろ縮んだ? もしかして私の背も伸びたのかな?
 アーニャちゃんも茶々丸さんも長谷川さんも龍宮さんも超さんも元気そうで良かった。





「あー、“紅き翼アラルブラ”のジャック・ラカンさんということならウチのお父様ともお友達やな」

「ほおぉ? そいじゃ、あんたが木乃香ちゃんかい。
 こりゃ驚きだ。あの堅物からどーやってこんなカワイイのが生ま「ベキィッ!!!」れぇ!?!? って今度は何もしてもしてねー…………お?」

「いや、さっき折った指を治しただけですよ。
 いったい人を何だと思っているんですか?」

「指を折った張本人が行って良い台詞じゃねえよ!」

「? なら元に戻した方がいいですか?
 今ならIEYASU方式で元に戻しますよ」

「それはドッチの意味なんだ!? 折る前か!? それとも治す前か!?」

「っていうかラカンさんうるさい。少し静かにしてください。んーと…………皆さんに話したいことあるんですけど、それはラカンさんが帰ってからにしましょうか。
 まずは現状を話し合いましょう。どうせならタカミチの買ってきてくれた食べ物もいただきましょうか。茶々丸さん、お茶をお願いします。
 それと“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”に関して皆さんに教えておきたいことがありますので、ちょっとラカンさんから貰ったビデオも見てください」


 そ、そうですね! ラカンさんがいるようなところで話し合うことじゃないですよね!
 …………ど、どうなんだろう? どういう答えを出してくれるのかな?

 うわー、なんか今からドキドキしてきちゃった。
 とりあえず落ち着こう。これから話し合いもするんだからその間に落ち着いて、ネギ先生の答えを聞く準備しておかなきゃ。




























「これでぼーずの仲間も全員揃ったんだな………………あれ? そういえば小太郎ってのはいねぇのか?
 “白き角コルヌアルバ”でぼーず以外の唯一の男の小太郎って奴」

「…………あ、そういえばそうですね。
 小太郎君はもしかして別荘の中ですか? 修行熱心で何よりです」


 え? 小太…………え…………誰……?












━━━━━ チャチャゼロ ━━━━━



 犬上小太郎、10歳。

 己の肉体と武術に限界を感じ悩みに悩み抜いた結果、彼がたどり着いた結果さきは感謝であった。
 自分自身と共に今までの人生を歩んでくれた狗神への限りなく大きな恩。自分なりに少しでも返そうと思い立ったのが一日千回、感謝の狗族獣化!!!

 気を整え、拝み、祈り、構えて、獣化。
 一連の動作を一回こなすのに当初は50~60秒。千回終えるまでに初日は18時間以上を費やした。
 獣化し終えれば倒れる様に寝る。起きてはまた獣化を繰り返「何やってんのーーーっ!?!?」…………オ、ネギジャネーカ。スッゲェ久シブリダナ。

 イイトコロナンダカラ邪魔スンジャネーヨ。
 セッカクコノ犬モイイ感ジニ育ッテキタンダカラナ。





「おー、ネギやんか。随分と久しぶり…………あれ? やけに背縮んどらんか?」

「いやいやいやいや! ちょっと待ってよ小太……ってコジロー君になってるじゃんか!!!
 いたの!? もしかして今までずっと別荘の中にいたの!? いつでも外に出れるように外のエヴァさんと連絡取れる手段ちゃんと教えておいたよね!?」

「え、コジローって誰やねん?
 …………そういえば俺ってどんくらい別荘に篭ってたんやろか? 最初の二月ぐらいは数えてたんやけど、それからは数えてないんや」

「別行動始めてから40日間過ぎてるよ!
 ずっと別荘の中にいたんだったら960日間だよ! 何でそんなに長期間篭ってんのさ!!!」


 ヘェ、イツノ間ニカ結構篭ッテタナ。
 デモ惜シイナァ。モウチョイデ千ノ大台ニイッタジャネーカ。


「っていうかちびネギぼくは!? ちびネギはいったいどうしたの!?」

「アア、アイツナラ1年グライ前ニ力尽キタゼ。
 オカゲデ話シ相手がイナクテ暇ニナッチマッタ。セッカクコノ犬ヲドコマデ鍛エ上ゲルカ一緒ニ計画シテタノニヨー」

「1年前…………くっ、『『千の雷』キーリプル・アストラペー』クラスの魔力程度の式神なら、500日も持ったのを褒めるべきか…………。
 …………まあいい。とりあえず一度出るよ、小太郎君。それと小太郎君の面倒見てくれてありがとうございます、チャチャゼロさん」


 オイオイ、モシカシテオレノ出番コレダケカヨ。
 最近ノ御主人ハアノ小娘達トツルンデバッカデ、オレハ暇シテタンダゾ。

 モット出番ヨコセヨ。





「チャチャゼロさんの一人称は書きづらいし見づらいんですよ。
 言わせんな、恥ずかしい」












━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



「ほおぉ~~~、20年前の大戦にはそんな裏話があったんかぁ。
 しかもネギの母ちゃんが“災厄の魔女”ねぇ。フェイトがネギのことを王子様って言ったのは、きっとこれのことやったんやな」

「「「「「……………………」」」」」





 …………本当に大きくなったなぁ、小太郎君。皆も驚いちゃってるよ。

 小太郎君が出てきてから全員揃ってラカンさんが作った“紅の翼戦記”という自主制作映画を見た。EP1“旅経ちのラカン”からEP2“災厄の魔女”まで全て。若い頃の僕も映っていたから何だか気恥ずかしい気がするな。
 アスナ君やエヴァはある程度まで知っていたけど、木乃香君達も含めてこれで裏のことを全て知ってしまった。
 さすがにアスナ君が魔法世界ムンドゥス・マギクスのお姫様だということや、ネギ君の母親が女王だということには驚いていたけどね。

 …………ところでアリカ様がネギ君の母親というのことがわかってから、アスナ君達が「……王政復古……」「……一夫多妻やね……」「……し、しかし私のような者が……」「……妻妾同衾よりいいよね……」「……第○夫人とかですか……」って呟いているんだけど、彼女達はいったい何を企んでいるのだろうか?
 ネギ君もネギ君で凄い大きな魔力結晶を作って何か企んでいるみたいだし…………。


 それにしても…………説明が全部終わったのに、ネギ君も含めて誰も口を開けないよ。
 口を開けない理由が“大分烈戦争ベルム・スキスマティクム”の真実のせいじゃなくて、14歳くらいに成長した小太郎君がいるせいというのはどうかと思うけどね。

 いくら小太郎君自身が「修行に専念したいから声をかけないでくれ」って言ってたとはいえ、さすがに40日間も放っておくのはマズイよなぁ。





「悪くない。私は悪くないぞ……っ!」

「そうやでー。俺が好きで修行してたんやから、エヴァさん達を責めるのはお門違いやで」

「…………いや、そこまであっけらかんとされると逆に罪悪感が湧いてくるんだが…………」


 まあ、小太郎君がそれで良いのならそれで良いけど。

 でも麻帆良に帰ったらどうしよう。小太郎君も学校に通っているんだから、あの格好で登校させるわけにはいかないな。
 少し前の相坂君みたいに幻術がかかる魔法具でも用意しなきゃ駄目か…………。


「(…………で、ネギ君から見たらあの小太郎君はどんな感じなんだい?)」

「(基礎能力ならタカミチと互角に近い。戦ったら7:3…………いや、6:4ぐらいでタカミチ有利。もし小太郎君に隠し札あるなら1回は負けるかも)」


 げ、そこまで強くなってるの?
 確かに気の流れとかが凄くスムーズになっているのがわかるけど、千日近くもいったいどういう修行をしてたんだろうか?





「まず狗神を鍛えようとしてからはイメージ修行やな。最初は実際の狗神を一日中いじくってたわ。とにかく四六時中や。目をつぶって触感を確認したり、何百何千枚と狗神を写生したり、ずーっとただ眺めてみたり、舐めてみたり、音を立てたり、嗅いでみたり。
 狗神で遊ぶ以外何もするなとちびネギに言われたからな。
 しばらくしたら毎晩狗神の夢を見るようになって、その時点で実際の狗神を取り上げられたわ。そうすると今度は幻覚で狗神が見えてくるんや。更に日が経つと幻覚の狗神がリアルに感じられるんや。重さも歩く足音も聞こえてくる。いつの間にか幻覚じゃなく自然と召喚した狗神が出ていたんや。
 それ以外は今まで同じやで。とにかく毎日毎日基礎修練とチャチャゼロ相手に戦闘訓練や」

「「「「「そんなの絶対おかしいよっ!」」」」」

「…………というか何やってたんだちびネギぼくは?」

「チャチャゼロ…………そういえば別荘の中に仕舞ったままだったな」

「え、変か? 自分としてはかなり上達したと思うとるんやけど。
 …………ま、ええやん。別に困ったことが起こったわけでもないし。
 それよりこれからのことを話し合った方がええんやないか。とりあえず昔のことは今見たビデオでわかったけど、問題はこれからどうするかやろ」

「う……うん、そうだね」


 ネギ君が小太郎君に苦手意識を持つようになってる。というか全員がそうみたいだ。無理ないけどさ。
 とはいえ、確かに小太郎君のことを忘れていたのはアレだけど、今はこれからのことを話し合った方がいいね。

 それにしても…………アリカ様のこととかも教えちゃって良かったのかな。ナギがアリカ様にプロポーズする場面の映像も流すなんて、いったいあの映像は何処で手に入れ………………ラカンさん? 何故冷や汗を流しているんですか?
 この映像ってもしかしてラカンさんが?
 まあ、ネギ君が一人前になってからアリカ様のことを話すという約束自体は、別にもうネギ君は一人前以上ですから問題ないですけどね。

 それでもこの自主制作映画は悪乗りしすぎだと思いますよ。
 しかもEP2“災厄の魔女”はクルトまで制作に関与していたみたいだし…………アイツはアリカ様が関わると途端に人間が変わるからなぁ…………。













「…………それでこれからのことなんですが、まずは“ナギ・スプリングフィールド杯”ですね。
 ラカンさんに頼んで皆さんの分のVIP席を用意してもらいましたので、そこで観戦を楽しんでください」

「つってもVIP席は他の客も入るから、貸切ってわけじゃねーからな」

「ええ、それはわかってます。ですので皆さんお行儀良くしてくださいね。
 そしてその後なんですが、旧王都オスティアにある現実世界ムンドゥス・ウェトゥスへのゲートを探すという名目でオスティア首都に行こうと思います。
 僕の転移魔法でも現実世界ムンドゥス・ウェトゥスにも帰ることは出来るのですが、よくよく考えたらそれを公表すると僕が現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰りたい人たち全てを帰さなきゃいけなくなりそうなので、さすがにそれは面倒臭そうです。
 だったらゲートを復活させて、他の人も帰れるようにした方が結果的には労力は少なくて済むでしょう」

「あー、確かに。
 現実世界ムンドゥス・ウェトゥス魔法世界ムンドゥス・マギクスを行き来出来るのがネギだけだったら忙しくなりそうだもんね」

「それを逆手にとって、現実世界ムンドゥス・ウェトゥス魔法世界ムンドゥス・マギクス往来を独占商売にしようかとも思いましたけど…………まあ、止めておきます」


 それはやめなさい。


「…………でもアレですよねー。今のオスティアは魔獣蠢く複雑怪奇なダンジョンと化しているみたいなので、まずはそれを何とかしないといけませんよねー。
 もしかしたら僕がそれをやる過程でオスティアが復活して再び空に浮かび上がったりするかもしれないですけど、それは不可抗力というものですよねー」

「…………そうやね。そんでネギ君がナギさんとアリカ様の息子ということや、20年前の真実が何処からか世間に流れたりするかもしれないんやねー」

「…………そ、そしたら大変ですね。ネギ先生せんせーはもしかしたら王様になるように魔法世界ムンドゥス・マギクスの皆さんから頼まれたりするかもしれませんねー。
 何しろ英雄の息子であり、濡れ衣を着せられた世界を救った女王の息子ですもんねー」

「そうでござるなー。でもそれは確かにネギ坊主が言う通りに不可抗力というものでござるよ」

「「「「「アハハハハハ」」」」」

「(皆が何言っているかよくわからないアル。映画も難しかったアルし…………)」


 …………な、何なのかな? そのお互いに探り合うような会話は?
 この子達はいったい何を考えているのかな?



 それにしても…………ネギ君とラカンさんが戦うのか。いったいどういう試合になるのやら。
 ラカンさんはナギやエヴァとも違った感じの強者だから、ネギ君にも戦い方次第では良いところまで喰らいつけるかもしれない………………普通逆だな。ネギ君がラカンさんに良いところまで喰らいつけるかもしれないなんだよな。
 でもネギ君のことだからまたとんでもないことを仕出かしそうで、試合を見るのが楽しみ半分怖さ半分だよ。

 しかもネギ君がナギの息子であることは衆目にバラしちゃっているから、今度の“ナギ・スプリングフィールド杯”はかつてないほどの盛り上がりを見せるだろう。
 でもネギ君のことだから、そのど真ん中でアリカ様の息子であることをバラしたりしそうだ。他にも色々と隠されていたことをバラして、もう引き返せないところまで無理矢理事態を進めさせそうな気がするな。

 ま、ネギ君のことだから、その後のこともちゃんと考えているだろう。
 考えてなくても力尽くで何とかなるだろうし。


 …………そういえば、ラカンさんには“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”について話したのかな? それか“ナギ・スプリングフィールド杯”が終わった後に話すのかな?
 今回のオスティア終戦記念祭は20周年の節目とあって、ヘラスのテオドラ皇女とアリアドネーのセラス総長、それにメガロメセンブリア元老院議員のリカードさんも参加するしクルトも来るだろう。
 その皆が集まったときに説明すれば、その方が手間がかからなくて済んでいいか。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 コタロウ×コタロウ 始まるよー。
 あまりの衝撃に、これからの関係についての話が流れましたw
 隠し札はまだありません。


 …………やっぱり前話の感想が多かったですねw
 それとネタ的には普通にラピュタですね。量産型エヴァは別にちびネギで代用出来ます………………というかそっちの方が楽です。
 日産1体の量産型エヴァに比べて、日産50体(千の雷キーリプル・アストラペークラス)のちびネギですから。


 次の次くらいでラカン戦ですね。
 さすがにこの状況でフェイト達が襲ってくるようなことはありません。来ても返り討ちですし。


 …………それよりアリカのことどうしましょう。結局アリカは原作でどうなったんでしょう? やっぱり10年前の戦いで死亡?
 でもそれだと産後直ぐに戦いに参加したことに…………。



 あ、それとガンダムUCの5話見てきました。
 感想としては“ローゼン・ズール強ええぇぇっ!”でした。後はリディとアルベルトがカッコ悪いというかみっともないというか…………。
 でもオットー艦長はアレで良いと思います。ウン。



[32356] 第89話 じゃじゃ馬皇女
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/05/31 21:03



━━━━━ テオドラ ━━━━━



「これはこれは……拳闘大会陰の出資者が顔を見せるとは珍しい…………」

「おお、久しぶりだな! じゃじゃ馬第三皇女じゃねーか、オイ!」

「なっ!? 貴様!」「殿下に無礼であろう!」

「良いのです、下がりなさい」

「し、しかしテオドラ殿下!」

「命令です」

「ハ……ハッ!」


 アハハハハ、相変わらずじゃな。この筋肉ダルマは。
 まったく何故顔を見せ…………ん? 何じゃその娘達は?

 おお、それにタカミチまでいるではないか! 久しぶりに顔を見るの。
 しかし、やはり人間ヒューマンのタカミチは成長するのが早い。20年前は妾と同じくらいの子供だったのに、今ではどう見てもオッサンじゃな。
 その娘達はタカミチの連れか?

 仕方がない。人目があるならジャックに飛びつくのは止めておくか。





「久しぶりですね、ジャック」

「なぁに猫被ってんだよ、気色悪い。
 この嬢ちゃん達なら大丈夫だから、いつものじゃじゃ馬皇女を曝け出しても問題ねーぜ」

「グヌッ! …………やっぱりヌシは変わらんのぉ」

「アハハ…………お久しぶりです、テオドラ皇女」

「ウム、タカミチも元気そうじゃの。
 しかし主がここに居るという事は…………例の“ゲートポート破壊事件”で旧世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰れなくなったのか?」

「まあ、似たようなものです。
 それとネギ君のことが心配でしたので」


 ああ、そういえばタカミチは旧世界ムンドゥス・ウェトゥスの麻帆良で教師をしておって、ネギはその同僚なんじゃったな。
 インタビューでネギがそう言っていたのを聞いたぞ。

 それにしてもナギの息子…………ネギには驚いたわ。
 まさか拳闘試合に出場するや1週間で30連勝という記録を打ちたて、未だに無敗でこの“ナギ・スプリングフィールド杯”の参加権を得おった。
 しかもコピーとはいえあの“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”を自らの使い魔としておるなんて…………あの子もバグなのかの。

 メンコイ顔してなかなかの実力者じゃ。


 現に闘技場でネギが予選を戦っているが、対戦相手は手も足も出せていない。
 コピーエヴァはネギの後ろでふんぞり返って手助けする素振りも見せんが、助けなど要らなくてもネギは勝てるじゃろう。
 他の出場者も似たり寄ったりの実力なので、これでは優勝はネギに決まったようなものではないか。

 つまらんのぉ。



「やれやれ、妾は大変じゃったんじゃぞ。
 昨日の開催記念式典の最中に何故か古龍・龍樹エインシェントドラゴン・ヴリクショ・ナーガシャがいきなり逃げ出して、せっかくの式典だったのに恥をかいてしまったんじゃ。
 古龍・龍樹エインシェントドラゴン・ヴリクショ・ナーガシャにいったい何があったのやら…………」

「ああ、アレ見てたぜ。大騒ぎだったじゃねぇか。
 あいつ本当にどうしたんだ? 何か怯えてるっぽい感じだったが…………」

「(…………スイマセン、それネギ君のせいです。何故か古龍・龍樹エインシェントドラゴン・ヴリクショ・ナーガシャを見て殺意を覚えたらしくて…………)」


 それがわかれば苦労せんよ。
 後始末が大変だわ父上から直接文句がくるわで、昨日は休む暇無しじゃったんじゃぞ。











「おお、揃ってやがるな」

「久しぶりね…………あら? 貴女は綾瀬さん? それにガンドルフィーニさんやグッドマンさん達まで…………」

「お久しぶりです、セラス総長。その節はお世話になりました」

「はい、おかげでアリアドネーでは得難い体験をすることが出来ました」

「いえいえ、ガンドルフィーニさん。貴方から旧世界ムンドゥス・ウェトゥスのことについて伺えましたので、アリアドネー教育者にも良い体験をさせることが出来ました。
 それにしても何故ここに? この終戦記念祭に遊びに来ることは聞いていましたが…………ああ、そういえば高畑さんと同じ、麻帆良の関係者でしたものね。となると、ここの子達は皆、旧世界ムンドゥス・ウェトゥスの子達なのかしら」


 おお、セラス達まで。リカードは相変わらず暑苦しいオッサンじゃな。
 そしてあのガンドルフィーニというのはタカミチと同じく麻帆良の教師か。となると娘達は麻帆良の魔法生徒かの。

 要するに彼らも“ゲートポート破壊事件”の被害者か。


 ゲートポートの復旧には数年かかるらしいが、早いとこ何とかせねばならんのぉ。
 ましてやメガロメセンブリアのゲートポートを襲った犯人は“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の残党ということではないか。
 となるとヘラスを含め、世界各地のゲートポートを襲った犯人も“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”と見て間違いないじゃろう。

 タカミチやクルトが残党を潰したと聞いておったが、まだ生き残っておったんじゃな。
 ただの事故ならまだしも、彼奴らが関わっておるとなると座してみているだけというわけにはいかん。





「お、ネギの試合やってんじゃねーか。もうあちこちで話題になってるぜ。ウチでもエヴァンジェリンのコピーの処遇をどうしようか議論したしな。
 もちろん“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”とは認められないって結論になったぜ。本気で量産されて持ってこられたらマズイからよ。賞金的に考えて。
 しっかし人気だなぁ。ネギのファンクラブも…………うわ、観客席の1/3ぐらいはファンクラブっぽい女で埋まってんな。10歳のガキによくあそこまで熱狂出来るもんだ」

「(…………スイマセン。試合に出てるのは本物のエヴァなんです)
 ハハハ、おかげでネギ君が女性恐怖症になりそうで怖いですよ。
 どうも熱狂的…………というか、ああいう狂信的な女性は苦手みたいですからね」

「ハッハッハ、仕方がねーだろ。
 それにしてもまさか10歳でこの大会に出て、未だ敵無しとはなぁ。一応世界各地の猛者が集まるはずの大会なんだが」

「しかしここまで圧倒的だと逆につまらんぞ。これでも拳闘に詳しいからわかるが、他の出場者でネギに勝てる者はおるまい。
 何というか“全力を出しているけど本気ではない”というか“本気だけど全力ではない”みたいな…………とにかく説明に困るが、圧倒的な試合でもどこか力を隠しているような感じなんじゃ。
 まあ、優勝はネギで決まりのようなものじゃな」

「…………ふふ、そうだな。結構イイ線いってるな。
 それに…………優勝がアイツで決まりってのもどうかな? わかんねぇぞ」

「ん? なんでじゃ?」

「なんつーか…………俺もちょっと本気でアイツに興味があってな。
 ホラ、予選Dブロックのカゲタロウっているだろ」


 ああ、タッグ戦をずっと1人で勝ち抜いている勝ち進んできている選手じゃろ。
 タッグ戦であるこの大会を1人で勝ち抜いているだけあってなかなかの強者じゃが、ネギにはどこか劣る…………って、まさか!?


「ジャック…………主、もしかしてカゲタロウのパートナーというわけじゃあるまいな?」

「その通りだぜ」

「お、おいおい! いくら何でも無理じゃねぇか!?
 確かに10歳にしてはやるようだが、お前を相手にするには………………あ、お前まさかこれを“例の約束”のための試験にするつもりか?」

「…………ん? …………ああ……まぁな。前にカゲちゃんに頼んでチョッカイ出してもらったけど、試すだけの価値はありそうだぜ。
 ちなみに今は魔力も気も半分以下に封印したままらしいぞ」

「(1/10を半分以下と言い張るネギ君に一言言いたい…………)」


 何じゃと!? 魔力と気を半分以下に封印してここまで勝ち上がってきたのか!?
 妾の感じた違和感は間違っておらんかったみたいじゃが、アレで半分以下の力とは末恐ろしい子供じゃの。

 それなら確かにジャックとも戦えるかもしれんが…………“例の約束”?


「ジャック、“例の約束”とは何じゃ?」

「あん? 何だテオドラは知らなかったのか?」

「ム、リカードは知っておるのか?」

「“アリカ”のことだよ。“紅き翼おれたち”の間で決めてたんだ。
 “ネギが一人前の男になるまで、魔法世界ムンドゥス・マギクスでのコトは話さない”ってな…………」

「あら、それは私も知らなかったわね」


 セラスも知らんかったのか。
 知らんかったのは妾だけじゃないようじゃが…………そんな約束を主らだけで決めておるなんて、妾にも教えんか。
 妾もナギとアリカの友人で、大戦の関係者じゃぞ。

 まあ、妾も戦後のアリカのことは詳しく知らぬから、アリカのことをどう話せばいいかわからんが…………。


 しかしそういうことならネギの応援をしてやろうではないか!

 妾は戦い方を教えてやれるというわけではないが、確か妾の船に1日を10日にするダイオラマ魔法球が積んであったはずじゃ。それを貸してやるなり、他にサポートしてやれることがあるなら手伝ってやろう!
 フム、どうせならリカードとセラスも誘ってみるか。コイツラもネギには興味あるじゃろうからな。

 いや~、何だか楽しみになってきたの!!!









「(…………やべぇ。実はぼーずがもう全部の事情を知ってるなんて今更言えねぇ…………)」

「(…………まさかあの自主制作映画をネギ君に渡した理由が借金の形だったなんて…………)」












「あー、ネギ君ようやく勝ったなぁ」

「居合い拳オンリーなんて…………ネギったら遊びすぎね」

「そ、そうですね、アスナ殿…………様」

「次の試合は神鳴流オンリーでござろうか?」

「ネギ先生せんせーもそろそろ魔法を使うと思いますけど」

「…………そういえば拳闘試合では重力魔法以外の魔法は使ったことありませんね」

「確かにそうアルな。
 使うのは居合い拳か神鳴流か重力魔法。“紅き翼アラルブラ”のメンバーの技だけアル」









「…………のう、タカミチ。あの娘達はネギと親しいのか?
 それにネギを先生と呼んでいるということは…………」

「ええ、彼女達はネギ君が担当している麻帆良の魔法生徒です。
 ちなみにあの中に詠春さんの娘さんもいますよ」

「ほお、詠春の娘か。…………確か木乃香とかいったかの。
 詠春の娘がナギの息子の世話になっているとは、親の関係とは逆ではないか。ハッハッハ」






「あー、ちなみにその木乃香ちゃんはぼーずの“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”だぜ。
 つーかぼーずの“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”はあの中の7人だそうだ」

「(…………他にも数人増えそうだけどね)」


 何ぃっ!? 7人もの娘を“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”に!?
 ナギはアリカ一筋じゃったというのに、まさかネギがそのような好色だったとは! いろいろ驚いた今日の中で、コレが一番驚いたぞ!!!












━━━━━ 長瀬楓 ━━━━━



「ワーハッハッハッハッハ!!!
 いよぉッ! お前がネ「ノックしてから入れ」オブロファッッッ!?!?」

「リカードォーーーッ!?!?」

「リカードを一瞬で!?!?」


 …………何か暑苦しいオッサンがホテルに殴りこんで来たでござる。
 ネギ坊主に鎧袖一触されたけど。

 そして何故かジャック・ラカン氏との戦いについての手助けを申し出られたのでござるが…………。
















「え、1日が10日になるダイオラマ魔法球? 1日が24日になるのありますけど…………。
 はあ、戦闘魔法ですか? 『『千の雷』キーリプル・アストラペー』クラスの大呪文なら全種類使えますけど。さすがに土系の『引き裂く大地テッラ・フィンデース』は相性の問題上、少し苦手ですけどね…………。
 あ、きたないからかたづけておいてくださいよ、そのボロクズを」





 ネギ坊主は相変わらず男に対しては厳しいでござるなぁ………………あ、お帰りはアチラでござる。
 いやー、それにしてもリカード殿のあの変な髪形も随分とサッパリしたでござるな。それと血を失ったせいで血の気も引けて、あの暑苦しいのも少しは収まるでござろう。

 …………でもあんなに軽くあしらってよかったのでござろうか?
 あの人達は魔法世界ムンドゥス・マギクスではかなりのVIPのようでござるが。





「いいんですよ。後々のことを考えるのなら、あの人達に借りを作るのは好ましくありません。
 むしろ対等の立場…………出来るなら一目置かれるような位置に立てた方が、“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”を実施するときに面倒が少なくていいです。
 どうせもう少ししたらあの人達も協力をせざるを得ない状況に追い込みますから、今のうちに僕の値段を吊り上げておいた方がいいでしょう」


 拙者は何も聞いていないでござる。


「だいたい女性もいる部屋にノックもせずに入ってくる男に手加減する義理なんてありませんしね。
 まったく………………せっかく予選が終わって皆さんとゆっくりしようとホテルに戻ってくるなり、あんな暑苦しいオッサンの襲撃を受けるなんて…………」

「ま、ラカンに勝ったらその立場もますます強化出来るだろう。
 せいぜい派手な技でラカンに勝つことだな」

「あー、ラカンさんが出場することがわかってから、街は大騒ぎになってたですね。
 しかもネギ先生との戦いは決勝。コレットが興奮して知らせてきたですよ」

「コレットさんというと…………夕映さんとアーニャがアリアドネーでお世話になったという人でしたっけ。
 試合は見に来られるんですか?」

「いえ、クジ運が悪かったらしく、当日は会場外の警備シフトになったらしいです。
 …………それでなんですが。後日コレット達と会う約束をしているのですけど、出来るならネギ先生にも会っていただきたいのです。
 彼女達は熱烈なネギ先生とお義父さまのファンなのですが…………彼女達には世話になったにも関わらず、私がネギ先生の“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”であることをずっと秘密にしてしまっているので、そろそろ本当のことを言いたくて…………」

「…………ああ、なるほど。そういうことなら構いませんよ。
 そうですね…………確か決勝の次の日は午後まで予定が空いていますから、コレットさん達の都合がよければ昼食でもご一緒しましょうか。
 何しろ夕映さんに僕のことを秘密にしてもらうように頼んだのは僕自身ですからね。そのぐらいの埋め合わせはしませんと…………」

「あ、ありがとうございます! 早速コレット達に…………伝えたら大騒ぎになりそうですね。特に委員長。
 ネギ先生のことは伏せて約束をしておきます」


 ネギ坊主も熱狂的なファンが苦手とはいえ、少人数なら大丈夫でござるからな。


 それにしても、余裕にしているがネギ坊主はジャック・ラカン殿に勝てるのでござろうか?
 もちろんネギ坊主の実力を信じていないわけではないが、それでもラカン殿はおそらく魔法世界ムンドゥス・マギクスで5本の指に入るであろう実力者。
 戦いに絶対ということはないので、もしかしたらネギ坊主だって足を掬われることがあるかもしれないでござる。

 …………まあ、ネギ坊主が油断するなんてことは有り得ないので、心配するだけ無駄かもしれないでござるが。


 いやぁ~、それにしてもネギ坊主とラカン殿という強者2人のぶつかり合いが見れるなんて決勝戦が楽しみでござるなぁ。
 

 拙者も魔法世界ムンドゥス・マギクスに来てからの修行の日々で、少しは強くなった気がするでござる。
 さすがに今はそんな暇はないであろうから諦めるが、麻帆良に帰ったらネギ坊主に一戦をお願いしてみるでござるか。

 もちろん拙者1人じゃ相手にならないだろうから、刹那や古を誘ってでござるがな。
 なあ、刹那?





















「お勤めお疲れ様でございました、ネギ王子殿下!!!」





 …………刹那は変わったでござるなぁ……。
 裏の事情についての説明でネギ坊主がアリカ女王の息子ということを知ってから、刹那のネギ坊主に対する態度が思いっきり変わったでござるよ。
 ネギ坊主と同じく、王族とわかったアスナ殿への接し方も変わったでござるし。


「…………ですから刹那さん。いくら王族の血を引いているとはいえ、別に僕自身は王族というわけではありませんってば…………。
 というか、それよりどっかのヤーさんじゃないんですから“お勤め”は止めてください」

「いえ! ネギ王子殿下にあらせられましてはかの神代に連なる王国を受け継ぎ、その御力を持って魔法世界ムンドゥス・マギクスに生きるもの全てを御救いになろうとされる慈悲深き尊き御方!
 本来ならば私のような者とは口をきくのも勿体無き御身であります!!!」

「……………………」

「知らぬこととはいえ数々のこれまでの無礼な振る舞い、平に平にご容赦を!
 その上でなお、この不肖桜咲刹那! ネギ殿下の薫陶を受ける身として内外世間に恥じること無きよう、全力をつくす所存であります!!!」

「…………木乃香さん」

「あー、ネギ君ごめんなぁ。昨日の夜とかも少し話してみたんやけど…………。
 せっちゃんは由緒正しき伝統ある権威とか これと見出した主君に仕えることに至上の喜びを見出す生き物なんや」

「ネギ殿下、紅茶の用意が出来ました!」


 …………拙者も忍びとして修行を重ねた身。
 “これと見出した主君に仕えることに至上の喜びを見出す”という気持ちは共感出来るが…………いくらなんでも刹那は大袈裟すぎると思うでござるがなぁ。
 

 まあ、確かに“由緒正しき伝統ある権威”となると、ネギ坊主やアスナ殿に勝てる人物はそうそういないから仕方がないところもあるでござるか。
 何しろ魔法世界ムンドゥス・マギクスの創造神の娘ともいわれる最古の血筋に連なる王族にして、その王族の中でも稀にしか現れない“完全魔法無効化マジックキャンセル能力”を持った2人。
 まさにサラブレッド中のサラブレッドでござるからな。先ほど訪れたヘラスの皇女も血筋的にはネギ坊主達に敵わぬでござろう。

 とはいえ、いくら血筋が良くても万人が認めなければそれは権威とはならないでござる。
 その点においてだけは、一般人に知られていない2人よりもヘラスの皇女が勝っているが………………来月になったらそれがいったいどう変化しているのでござろうか?


 …………想像するだけで少し怖いでござる。

 いったい何時ネギ坊主が魔法世界ムンドゥス・マギクス全土に全てをバラすことになるやら…………。
 そしてどんな風にそれらをバラすのやら…………。









「…………ハア。あのですね刹那さん。
 確かに色々と計画を練っている僕ですが、クラスの皆さんを放り出すような真似はしませんよ。最低でも3-Aの皆さんが卒業するまでは絶対麻帆良にいます。
 だから麻帆良に帰ったらどうするつもりなんですか? 麻帆良でもそんな言葉使いを続けるつもりですか?
 刹那さんは生真面目なんですから、麻帆良に帰ったら言葉使いを怪しまれないように今までのように戻すなんて器用なことは出来ないでしょう。それだったら早いうちに今までの言葉使いに戻してくださいよ」

「そ……そんな無礼なことは出来ません! 今までの言葉使いが間違っていたのです!」

「(麻帆良でもネギ先生せんせーに対してその言葉使いを続けるつもりなの!?)」

「(そんなことになったらまたクラスで大騒ぎになるですよ)」

「(というか、ネギ先生はいったいどんな計画を練ってるんだ?)」

「(…………いや、やっぱアレだろ。魔力結晶使ってのオスティア再興)」


 …………刹那にも困ったものでござるな。


「…………あー、ならアレです。
 言葉使いを今までに戻してください。命令●●です」

命令●●!? そ……それだけはご容赦を。
 ただでさえ今までの自らの行いを悔いているというのに、これ以上無礼な振る舞いを続けるわけには参りませぬ。
 もし私めのことを考えていただけるのなら、どうか…………どうかその儀についてはご容赦の程を…………」

「(…………遂に泣き落としに入ったアル)」

「(しかし刹那さんの性格的には「今まで通りに振る舞え」と言う方が酷だと思います。私もネギ先生を呼び捨てするようになんて言われたら困りますし)」

「(茶々丸…………お前は結構柔軟に対応出来そうな気がするぞ)」

「(というか私にも様付けするの止めてほしいんだけどなー)」


 やれやれ。刹那の長所は真面目なところでござるが、短所も同じく真面目なところなのでござる。
 この状況、引いても駄目で押しても駄目ならネギ坊主はいったいどのように収拾をつけるのでござろうか。







「引いても駄目で押しても駄目なら…………押し倒すしかないんじゃないですか。
 コピーエヴァさん。ちょっと巻物スクロールの中を貸してください」


 そう言ってネギ坊主はエヴァ殿の巻物スクロールに手を突っ込み、コピーエヴァ殿を引っ張り出したでござる。
 …………って、押し倒す●●●●●


「おわっ!?!?
 …………きゅ、急に引っ張り出すな! というか何で巻物スクロールの中の私に干渉出来るんだ!?」

「そんなもん“ネギだから”に決まってるだろう。相変わらず私の分身の癖に諦めるのが遅い奴だな」

「ネギ君どうするつもりやの?」

「いえ、刹那さんの説得にはちょっと時間がかかりそうなので、この巻物スクロールでOHANASHIをしようと思います。
 最大で72倍の時間差ですから…………木乃香さん、5分経ったらこの中に入ってきてくれませんか」


 6時間も2人っきりで何する気でござるか!?


「だから普通にOHANASHIするだけです。
 というわけで、この巻物スクロール借りますね」

「お……お待ちください、ネギ殿下!!!」

「…………汚すなよ」

「汚すようなことはしませんし、そもそもまだ出来ません。決意的にも肉体的にも。
 それじゃあ木乃香さん、5分後にお願いしますね」

「う…………うん」


 そう言って刹那をお姫様抱っこして巻物スクロールの中に入っていくネギ坊主。
 …………い、いったいあの中で何をする気でござろうか?


 再会してからのネギ坊主はやけに落ち着いていて、アスナ殿達とも今までのようにスキンシップをとるようになった。
 といってもベタベタするような関係じゃなくて、前よりはどこか落ち着いた雰囲気のある関係でござった。

 しかし変わったこともある。ネギ坊主も素直に好意を示すようになったことでござる。
 例えば、今までみたいに「好きです」と言われても顔を真っ赤にして返事していたのが、目を合わせて「僕も好きです」と返事するようになった。もちろん一番最初の何もわかっていなかったときとは違う感じで。
 抱き締められたら普通に抱き締め返すし………………ほ、頬などにならキスをしてくるようにもなった。

 もう完璧吹っ切れたみたいでござるな。
 それでも唇にキスしたりしないのは、ケジメを大事にするネギ坊主らしいでござるが。


 その………………まあ、正直言って悪くないでござるかな。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ネギは前世の夏休み、ナギ達に魔法世界ムンドゥス・マギクスに連行されて古龍・龍樹エインシェントドラゴン・ヴリクショ・ナーガシャとガチタイマンをやらされて死に掛けました。当時のネギでは“負けに近い引き分け”が精一杯。
 そしてナギに勝てるようになった以降の冬休みには、帝都守護聖獣オールスターで再び死に掛けました。

 もちろん立案者は筋肉ダルマです。いつか殺す。


 その光景を見たヘラスの皇帝が優しくしてくれたのが唯一の救いです。
 …………テオドラ? 楽しそうに観戦してましたよ。



[32356] 第90話 VSラカン① 切り札その一
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/06/03 21:58



━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━



「いや、もう…………最初の3時間はひたすらネギ先生に甘えられました。
 おでこや頬にキスされたり、抱きしめられながら髪の毛を手櫛で梳かれたり、抱きつかれて胸に顔を埋められながら「刹那さんはやっぱり良い匂いしますね」って言われたり、耳や首筋を唇で甘噛みされたり…………。
 何というか天国でした………………事前に「命令です。動かないでください」って言われたりしていなければっ!

 …………だってアレですよ。動けないんですよ。
 ネギ先生に抱きつかれても抱きしめ返したりとか出来ないんですよ。頭撫でて髪の毛のサラサラ感味わったりとか出来ないんですよ。コッチからキスとか出来ないんですよ。
 生殺しでしたよ、もう…………。



 で、3時間ほど経ったら今度はネギ先生が大人verになりました。そして今度は私が甘えさせられましたよ。
 …………いや、まだ“動くな”の命令が有効でしたので、私をまるで壊れ物を扱うように…………丁寧に繊細に触れられて、色んな言葉を囁かれました。
 膝の上に載せられて抱きしめられたり、お菓子をアーンで食べさせられたり、猫のように喉の下を撫でられたりもしましたし…………烏族の服を着せられていたんですけど、アレって羽根を出すときの邪魔にならないように背中が開いているんですよ。
 私は背中が裸の状態でネギ先生はTシャツ一枚の状態だったので、背中にネギ先生の体温が布一枚越しに感じられました。

 次に脇腹から手を服の中に入れられて直接肌を触れられ、徐々に手が胸の方へ上がっていったときは「遂に卒業しちゃうのかも?」なんて思ってしまいましたよ。
 …………触れるか触れないかで手が再びお腹へ下がっていきましたけどね。しかも背中にキスされたりとかもあったし…………。

 ………………ああ、中でも大人のネギ先生に耳元で「可愛いね、刹那」って名前を呼び捨てされたときは、背筋がゾクゾクとしました。
 マズイです。アレは中毒になります。呼び捨てにされるだけで大ダメージです。



 そしてもう3時間ほど経ったら、今度はこのちゃんが巻物スクロールの中に入ってきました。
 今度は2人がかりです。ええ、今度はこのちゃんとネギ先生の2人がかりです。

 …………はい。もちろんまだ“動くな”の命令は有効ですよ。まだまだ生殺しの時間が続きました。
 あ、これこのちゃんとの“仮契約パクティオーカード”です。ネギ先生が契約陣を書いてくださいましたので、このちゃんと『仮契約パクティオー』しました。前々からそういう話しはしてましたので。
 あの巻物スクロールの中でも『仮契約パクティオー』出来るものなんですねぇ。 



 そして最後の3時間………………今度はこのちゃんが大人verになりました。この頃には感覚がおかしいを通り越して、もう頭の中が溶けていました。
 “動くな”という命令はかろうじて守っていましたが、普段言わないような私の本心を2人に言ったり…………言わされたりとか、もう思い出すだけで恥ずかしいです。
 イヤ…………どういうこと言ったかは勘弁してください。

 でも、アレはアレでやはり快感というかクセになるというか…………正直に言いますと、もう次は何をされるのか期待しちゃってました。
 目の前にいるのは大人になったこのちゃんとネギ先生。2人でだけ何やら話し合って、私を見てニッコリと笑いかけられたときは特にっ! もう私の進むべき未来が見えていましたよっ!

 ………………その後に、私を放って目の前で2人にイチャつかれたらワケがわからなくなりましたけどね。
 ええ…………ネギ先生に手間をかけさせているお仕置きだそうです。


 最初のうちは我慢してました。このちゃんとネギ先生がそういう関係になるのは私としても喜ばしいことですので。
 でも………………やはりイチャついている2人を見ているのは辛かったです。
 まあ、イチャついているの見ているのというより、2人の目に私が映っていなかったのが辛かったのかもしれませんが。

 2人を見てたら何だか頭の中がグルグルと回り始めて、今までのことを思い浮かんできたりして…………いつの間にか泣いちゃっていましたね。5分ぐらいで。
 あの焦燥感は言葉に出来ないです。本気で世界に1人だけ取り残されたような気になりました。
 そしたら「お願いだから1人にしないで」って、このちゃんとネギ先生に泣いて頼んでましたよ。ネギ先生への言葉使いも元に戻っていましたし…………」





 5分しかもたなかったのか!? 完璧に色ボケしているな、この駄鳥!

 それとネギも吹っ切れすぎだ! 少しは自重しろ。私にはしなくてもいいけど。
 それにそこまでしておいて最後までしないなんて、生殺しにも程があるわ!



「ウチは役得やったわ~」

「このちゃんはいいじゃないですか! ネギ先生とあれだけイチャついておきながら、それからも普通通りにネギ先生に接してもらえているのですから!
 私なんて他の人とのバランスをとるために、あの日から5日間もずっとネギ先生に触れていないんですよ!!!」


 いいなぁ~、私もそういうのをネギとやりたいが………………この場合だと刹那のポジションは非常にヤキモキさせられそうだな。
 よし、茶々丸! お前が刹那ポジで私が木乃香ポジな!!!


「お断りいたします。
 それよりもマスター、もう直ぐ決勝戦が始まりますので解説席に移動した方がよろしいのではないでしょうか?」


 ム、もうそんな時間か。
 まあ、VIP席も悪くないが、解説席という最も試合場に近い席でネギとラカンの試合を見れるのなら悪くないか。

 さぁて、それならそろそろ行くとしよう。










「(…………な、何なのじゃこの娘達は。最近の若者はここまで積極的だというのか……っ?)」

「(そろそろネギ君に注意したほうが良いのかなぁ)」

「(ネギの野郎、ナギ以上の漢になりそうだぜ…………)」

「(リカードの暑苦しい髪型がサッパリしたのは悪くないけど、性格自体が変わらないとどうしようもないわね)」





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『さあ! いよいよ“ナギ・スプリングフィールド杯”決勝戦、ネギ・スプリングフィールド VS ジャック・ラカン&カゲタロウ の試合が始まります!
 なお、解説席にはネギ選手のパートナーであるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(コピー)さんにお越しいただいておりますが………………あの、マクダウェルさんは試合に出なくてよかったのですか?』

『ウム、持病の癪が疼いてな』

『はい、仮病ということですね。
 しかしネギ選手が1人で戦うことになってしまいますが、やはりこれはネギ選手が望んだことなのでしょうか?』


 何か“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”としての威厳もヘッタクレもなくなった気がする。
 周りの観客は私が本物の“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”であることを知らないから仕方がないとはいえ………………どうせネギのことだから、そのうちヒョッコリと「ん? ああ、このエヴァさんは本物ですよ」とか言ってバラすことになるんだろうがなぁ。


『………………まあ、そういうことだ。ネギが1人だけでやりたいということなので、私は病気を理由に出ないことになった。
 それにネギのするであろう戦い方は、ネギの戦い方の事前知識が無い人間にはワケがわからないものとなるからな。観客にとってはつまらない戦いになるかもしれないことをネギが憂慮したので私が解説をする。
 私もネギの切り札を全て知っているわけではないが、それでもいくらかは解説出来るぞ』

『わかりました! そのときはよろしくお願いします!
 …………しかし“切り札”ですか。ネギ選手には“切り札”があるというわけですね。これは大変楽しみな試合になりそうです!
 あ…………今3時になりました! 選手入場です!!!』



 その言葉をキッカケに、観客の歓声がますます強くなる。
 そして割れんばかりの歓声の中、ネギ達が姿を現した。


 一方にはネギ。いつも通りの黒いズボンと黒いシャツ。それに白いローブを着て背中には自分の背丈ほどもある杖をつけている。
 10歳の少年の小柄な身体。何も知らない人間が見れば、何故こんな闘技場に子供がいるのかと不思議に思うだろう。
 しかしこの会場にいる人間で、そのようなことを思うものはいない。ナギの息子であるということも関係しているだろうが、これまでの拳闘試合からネギの実力は魔法世界ムンドゥス・マギクス全土に知れ渡っている。
 結局、1ヵ月ほどの日程で見事100連勝をするという記録を打ち立てたネギの実力を疑う者はいまい。


 そしてもう一方にはジャック・ラカン…………と、ついでにカゲタロウとやら。死ぬなよ。
 “千の刃のラカン”の異名を持つ伝説の傭兵剣士で、世界を救った英雄の1人。
 そのラカンの顔には隠しきれぬ笑みが浮かんでいる。ナギの息子であるネギと、こういう舞台とはいえ全力で戦えるのが嬉しいのだろう。

 …………何も知らないのって幸せだよな。





「よく来たな、ぼーず。いっちょやるか?
 …………でも本当にエヴァの力を借りなくてもいいのか?」

「構いませんよ。僕1人でやりたいですからね。
 カゲタロウさんと戦うのもアレ以来ですね」

「ああ、久しいな、ネギ殿。
 いつぞやの借り、今日ここで返させてもらう」



『それでは…………試合開始です!!!』



 審判兼実況担当の娘のその言葉を合図に、ネギが左手の五指にそれぞれ魔法を固定し始めた。そして右手の五指にもそれぞれ気を収束し始める。『闇の咸卦法』の準備だ。
 ラカンはその様子をジッと見ているが、これは試合の前に“最初の準備だけはお互い邪魔しない”という取り決めをしたからだ。


 ちなみに先日、ネギとラカンの間でこんな会話が交わされていた。

「ラカンさんにカゲタロウさん。
 試合前から『闇の魔法マギア・エレベア』を装填しておいたり、遅延呪文ディレイスペルを体内にたくさん埋め込んでおくのって、試合のルール的には大丈夫ですよね?」

「…………フム、確かにルール的には問題ないだろうが…………」

「…………“たくさん”って…………どのくらいなんだ、ぼーず?」

「どれくらいって………………“いっぱい”?」

「「……………………」」

 この会話の後にその取り決めと事前準備無しが決まったが、お互いに納得しているのならそれでいいだろう。
 ネギは数えてたときに指を4本立てていたが、おそらく4じゃなくて4なんだろうなぁ…………。


 ま、それではそろそろ解説に入ろうか。










「術式兵装『固有時制御タイムアルター』!!!」





 ネギの『闇の咸卦法』が完成するが、特に肉体的には変化は見られない。
 そして完成と同時にちびネギがネギの肩に出現する。


 これがネギの切り札その一、『固有時制御タイムアルター』。
 この『固有時制御タイムアルター』は簡単に言ってしまえば“固有結界”…………じゃなかった、“幻想空間ファンタズマゴリア”の範囲を自らの体内に設定したものだ。

 一般的に“幻想空間ファンタズマゴリア”は現実との時間差を作ることが出来る。
 例えば私の巻物スクロールでは肉体も取り込めば最大72倍もの時間差だ。


 ではその状態で…………精神だけが72倍加速している状態で、現実の様子を認識出来て、尚且つ肉体すらも動かせて魔法も使えるのならいったいどうなるのだろうか?

 もちろん肉体的に無理なものは無理だから元の72倍で動けるなんてことはないだろうが、それでも元の状態よりは早く、そして速く動けて考えることが出来るようになるだろう。
 そして『固有時制御タイムアルター』とは肉体の加速ではなく、思考の加速を突き詰めた技だ。

 今のネギの思考速度は通常の何百倍にもなっていて、周りの世界はまるで止まっているように見えているはずだ。
 幼い頃から“幻想空間ファンタズマゴリア”を多用していたネギにとって、これを戦闘に応用する考えに至るのは当然だったのだろう。


 ちなみに使った5つの魔法のうち、1つはもちろん“幻想空間ファンタズマゴリア”に入り込むための魔法。
 もう1つは『戦いの旋律メローディア・ベラークス』。これで徹底的に脳機能を強化する。
 残り3つは『治癒クーラ』で『咸卦治癒マイティガード』も発動させている。高速思考で脳が焼き切れたら洒落にならんからな。

 上級魔法とはいえない3種類の魔法だが、組み合わせ次第では極悪と化す。






「…………お待たせしました。それでは始めましょうか。最初はどちらから? ラカンさん? それともカゲタロウさん?
 僕としてはラカンさんの“千の顔を持つ英雄ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポーン”と戦ってみたいんですけど…………」

「お、俺をご指名か。おもしれぇ。
 いいよな、カゲちゃん?」

「フム、さしものネギ殿もラカン殿のアーティファクトには興味があるか。
 よかろう。初手はラカン殿にお譲りする………………が、何故式神で会話を?」

「ああ、今の本体ぼくは喋れないし聞こえないんですよ。ですので式神ぼくが中継してます」


 これが『固有時制御タイムアルター』のデメリット。
 要するに今のネギにとって、現実は何百分の一の速度に遅くしたビデオを見ているような状態だ。その状態では耳で音を拾ったとしても、何百倍に伸ばされた音は元の音に聞こえない。
 そして元の速度にあわせた声を出すことも出来ない。話そうとしてもビデオの早回しのときのような音声で、私達では何を言っているかはわからないだろう。

 だからちびネギが代わりに聞いて、それを念話でネギにもわかるように伝えている。
 まあ、他には目はちゃんと見えているので視覚、それと魔法のソナーのようなものを使って周りの状況を認識しているはずだ。









「おーし、じゃあやるか。
 今日は見料特別サービス。これが“千の顔を持つ英雄ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポーン”だ!!!」

「……………………」





 ラカンがアーティファクトを発現し、様々な武具にその形を変化させる。
 これが如何なる武具にも変幻自在・無敵無類の宝具、“千の顔を持つ英雄ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポーン”。
 私も見るのは初めてだが…………確かにこれは圧巻だな。そんじょそこらのアーティファクトとは比較にならん。


 対するネギは詠唱もせずに一秒にも満たない時間で自らの周りに数十の魔力球を生み出し、その魔力球が炎に、水に、雷に、風に、砂に、光に、氷に、石に、影に、闇に、ありとあらゆる属性へと変化していく。
 そしてそれらが剣を、槍を、矢を、斧を、短剣を、棍を、弾丸を、刀を、槌を、盾を、ありとあらゆる古今東西の武具を形作っていく。

 様々な属性で作られた様々な武具がネギの後ろに浮かんでいて、獲物に喰らいつけるのを今か今かと待っている。
 これらの武具を揃えたのは5秒にも満たない時間………………が、本当はもっと早い。あの程度の量なら本当なら1秒もかかるまい。
 どうせラカン達に見せるためにゆっくり準備したんだろう。





「…………おいおい。それはいったいなんだよ、ぼーず?
 今って詠唱はしていないよな?」

「大したことではないですよ。一人前の魔法使いなら展開速度はともかく、これらのうちの1つを無詠唱で作り出すことぐらいは出来るでしょう。
 僕は1つ作り終わったら、また次のものをドンドン作り上げていっているだけですよ。

 …………いくぞ、千の顔を持つ英雄――――武具の種類は充分か」




 そして武具の撃ち合いが始まった。

 ネギは魔法で出来た武具。ラカンはアーティファクトの武具。それをお互いに撃ち合っている。
 互いの武具がぶつかり合って壊れ、また新たな武具を用意して撃ち合う。
 一見互角の戦いだが、ラカンの武具は発現させる端から撃ちまくっているのに対し、ネギはラカンに匹敵するだけの武具を撃ちまくると同時に周りに浮かぶ魔力球をドンドンと数を増やしていく。

 これではそのうちネギが押し切るだろう。





『マ、マグダウェルさん!? ネギ選手のアレはいったい何なのですか!?
 詠唱もせずに、あんなたくさんの種類の魔法を一度に使うなんて…………?』

『あれがネギの切り札その一、『固有時制御タイムアルター』の効果だ。
 簡単に言ってしまえば『固有時制御タイムアルター』は思考速度を加速させる魔法でな。その加速速度にあわせただけ無詠唱魔法を扱えることになる。
 おそらく今のネギの思考速度は通常の数百倍…………要するに無詠唱魔法も通常の数百倍の数を扱えるんだ』


 ちなみにネギはこの『固有時制御タイムアルター』と『咸卦治癒マイティガード』の微弱なものを常に発動させている。のどかの“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”対策も、この『固有時制御タイムアルター』だ。
 数百倍の思考速度加速なんてのはさすがのネギも『咸卦治癒マイティガード』の補助無しに行なうことは出来ないが、数倍程度の思考加速なら素のネギでも十分出来るからな。

 ネギは中級魔法までなら無詠唱で使えるから、『白き雷フルグラティオー・アルビカンス』や『雷の投擲ヤクラーティオー・フルゴーリス』クラスの魔法が数百の規模で襲ってくることになる。
 これが上級魔法…………『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』クラスを無詠唱で使えるようになったらマジで洒落にならん。


 お、今度はネギが直径300mの中央アリーナ全体に魔法陣を敷いたか。





『あの魔法陣は『魔力吸収陣』だな。
 お互いに武具を撃ち合って散々壊れているが、その壊れた武具を構成していた魔力をあの魔法陣で吸収している。しかもラカンの分も含めてだ。
 あれだけの数の魔法を放っているネギだが、あの『魔力吸収陣』を併用すれば燃費の効率は恐ろしく良くなる。多分7~8割は回収出来るだろうし、ラカンの分を含めればヘタしたら収支はプラスかもしれん』

『え、何ですか。その反則は?』


 それは私が一番言いたい。『魔力吸収陣』は消されたりしても魔力糸で1秒未満で再構成出来るし。

 何、この『無限の武具製アンリミテッド・ウェポン・ワークス』。
 これでは戦闘ではなくて戦争だ。


 ちなみに2人をチェスで例えるなら、

 ラカンが“1ターンの間に2回行動出来て、100回攻撃しないと倒せない城兵ルーク”だとすると、
 ネギは“1ターンの間に配下駒の全てを動かせるキング。しかも駒の量は常人の10~20倍+駒の再利用アリ”…………だ。

 どちらの相手をするのも厄介だろうが、ネギに相手にするのは無理ゲーにも程がある。一人で軍隊に勝てと言われるのと同じようなものなのだからな。
 “魔法使い”は従者に前衛を任せ、自らは後方で砲台の役目をするのが一般的だが、今のネギはそれに当てはまらんな。一応は“魔法使い”タイプなのに。

 現にラカンは攻撃ではなく防御に徹しなければならないところまで押されている。
 まあ、アレだけの数の魔法を撃ちこまれば仕方がない。





「あ~~~っ! もう、ウゼェっ!!!」


 あ、ラカンがアーティファクトをやめて素手で迎撃し始めた。
 これでネギは変幻自在・無敵無類の宝具、“千の顔を持つ英雄ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポーン”に打ち勝ったことになるな。

 とはいえ、ラカンはアーティファクトを使うより素手で戦った方が強いから、まだ勝負はどうなるかわからない。…………観客的には。


「ラカン殿! 私も参加させてもらおう!」


 おー、カゲタロウも参戦か。本気で死ぬなよ。

 …………と思ったが、やはりカゲタロウも中々の実力者のようだ。
 自分は影槍でネギの攻撃を弾くことに専念し、ラカンに体勢を立て直す隙を与えた。

 これで1対2。
 2人がかりでネギを相手するなら、あの絶対的な物量にも立ち向かえるのかもしれないが………………残念ながら、ネギの駒は昇格プロモーションも出来るんだよなぁ。しかも何度でも。





「うおおっ!?」


 雷槍を迎撃しようとしたラカンだが、迎撃する直前に雷槍が魔力球に戻り、そして今度は氷槍になった。
 氷槍はラカンの拳に迎撃された瞬間、砕け散ることなくラカンの腕にそのまま蛇のように巻き付いていく。

 今のように“魔力球 → 雷槍 → 魔力球 → 氷槍”といった感じで、刻一刻と魔法の状態を変化させることも出来るのも『固有時制御タイムアルター』のメリットだ。
 何しろネギは数百倍は思考速度を加速させているので、そういう変化は簡単だ。

 これが厄介なんだよなぁ。
 散弾を弾こうとして広範囲障壁を張ったら、障壁に当たる前に散弾を1つに収束されて障壁をぶち破られたりしたことがあったし、その逆に特大の一発を弾こうとして一方向に分厚い障壁を張ったら、今度は障壁にぶち当たる前に分散されて範囲攻撃をされてしまったことなんかもある。


 常に先出しジャンケンをしつつ、
 相手がそれに対応した手を出してきたら、
 その手に合わせて後出しし直せる、とか卑怯すぎるわ。
 




「ぬんっ! カゲちゃん、援護頼む!!!」

「心得た!!!」


 ラカンが気を腕に篭めて絡み付いた氷を吹き飛ばし、そしてネギに向かって突撃する。
 このままやっていてもジリ貧になるだけだろうからその選択は間違っていないが、ネギがそう簡単にラカンを近づけさせるわけがない。
 カゲタロウも援護しているが、自らの身を守るのですら難しい状況なので効果的な援護も行なえていないな。

 さーて、ラカンよ。英雄の名に恥じぬ戦いをしてみせろよ。
 まだ『固有時制御タイムアルター』の全容を明かしたわけではないし、私の理解出来ていない切り札もまだ残っているが、何処まで戦えるやら。

 ネギに攻撃を一発も当てられなかったら、後で思いっきり笑ってやるからな。



 私? …………私はちゃんと当てたぞ。

 『永遠の氷河ハイオーニエ・クリュスタレ』で私自身を巻き込んでだけどな!
 でも直ぐに抜け出されたけどな! しかもそのせいで対応策を考え付かれて、益々手に負えなくなってしまったけどな!!!



 ………………ラカン、本当にスマン。












━━━━━ ジャック・ラカン ━━━━━



「オラァッ! 『斬艦剣』!!!」

「甘いです」


 数十mの長さを誇る『斬艦剣』が『風花・風障壁フランス・パリエース・アエリアーレス』に弾かれる。
 これも効かねえのかよ!?


 まったくもって厄介な戦い方だ。これだとナギとのケンカじゃなくて、大戦時に軍隊相手に戦ったときのような感覚に陥るぜ。
 最強を誇った俺達“紅き翼アラルブラ”だが苦戦したことがなかったわけでもなく、普通に数に押し切られてマズイ事態になったこともあった。
 あんときはナギと二手に分かれて戦ったけど、今度はカゲちゃんと別れて戦ったら真っ先にカゲちゃんが落とされ、カゲちゃんの援護を受けている俺もその次に落とされる。


 くそっ! マジでどうする。ぼーずの戦い方はけれんみがなくて、ただ単に物量が圧倒的なだけの基本に忠実すぎる戦い方だから隙がねぇ。
 ぼーずを甘く見てたつもりはねーが、ここまで強いのは予想外だ。エヴァ達のあの笑いの意味がようやくわかったぜ。

 それにぼーずは力の使い方が上手い。
 今の『風花・風障壁フランス・パリエース・アエリアーレス』だって正面から受け止めることはせずに、斜めに逸らすやり方で防御している。
 俺が100の力を使って攻撃してたとしたら、ぼーずは30ぐらいの力しか防御に使っていない。消耗戦では俺の方が明らかに不利だ。


 解説のエヴァの話からすると、魔力消費も俺に比べたら全然マシみてーだしな。
 そもそも俺の使った力さえも回収してるなんて反則じゃねーか!

 “1ターンの間に配下駒の全てを動かせるキング。しかも駒の量は常人の10~20倍+駒の再利用アリ”とはよく言ったもんだぜ!
 確かにぼーずはナギよりはアリカ似かもしれねぇなぁ!!!


 まあ、ぼーずの攻撃は激しいが1発1発はそう大したことはねぇ。あくまで無詠唱魔法だから、俺の致命傷になるような上級魔法は撃てねぇと考えていいだろう。
 とはいえ豆鉄砲ってわけじゃないから無視は出来ん。
 被弾を覚悟しておけば耐えられるが、無防備のところに食らえばダメージになるぐらいの攻撃が秒間何十発も降ってくるんだからよ。

 しかも試合場に浮かんでいる魔力球がアチラコチラに散らばり、どれが襲ってくるかがわかんねぇ。
 数も軽く数百は浮かんでいるぞ。









「ラカン殿、後ろだっ!!!」





 何ぃっ!? …………って何もねぇぞカゲちゃブペッ!?!?
 いっつー…………ドタマに『石の槍ドリュ・ペトラス』食らっちまった。





「い……今のは私ではないぞ! 魔力球のどれかから私の声がしていた!!!」

「声真似は風魔法の応用で簡単に出来ますよー。
 つーか『石の槍ドリュ・ペトラス』当たっても平然としているラカンさんがやっぱ凄ぇ。『石の槍ドリュ・ペトラス』の方が砕けちゃった」


 このぼーず、完璧に俺達をおちょくってやがる!?


『そりゃー、ネギが本気で勝つつもりになったらもっと酷いからな。
 光魔法で大光量の光を出してコッチの視覚を潰してくるわ、風魔法で大音量の騒音撒き散らしてコッチの聴覚塞いでくるわ、唐辛子とかニンニクとかワサビみたいな刺激物の匂いと味がする魔素を撒き散らしてコッチの味覚と臭覚奪ってくるわで最悪だぞ。
 もし更に毒も使ってきたとしたら極悪だ。軽いものなら幻覚作用や麻酔作用によって触覚を麻痺する程度ですむが、酷いものだと本気で死ねる。…………いや、マジに冗談抜きで。
 開発していつでも使える準備をしているとはいえ、まだ一度も使ったことがないらしいのがせめてもの救いだ。
 でも少なくとも五感全て潰された上でのフルボッコになることは間違いない』

『な…………何ですか、その外道戦法?』

現実世界ムンドゥス・ウェトゥスの警察や軍隊の暴徒鎮圧方法を参考にした結果だ。
 具体的に言うと、閃光弾とか音響兵器とか催涙弾とか嘔吐剤とかの非致死性兵器のことなんだが………………非致死性だからって何やっても良いわけじゃないんだがなぁ。
 非殺傷設定だからってバカスカ撃ちまくる魔砲少女じゃあるまいし』

『ム…………旧世界ムンドゥス・ウェトゥスっていったい…………?』


 何なんだ、その戦い方は!? やっぱりこのぼーずはフツーじゃねぇよっ!
 ぼーずが生まれ育ったナギの生まれ故郷の村って、マジでどんだけ人外魔境なんだよ!?!?

 くそっ、マジで打つ手がねぇ。
 カゲちゃん…………まだなのかよ。カゲちゃんを庇いながら戦うのは、さすがの俺も疲れてきたぞ。


「(くっ…………ラカン殿。ようやく準備が出来たぞ)」

「(お、だったらそろそろ仕掛けるか)」


 おーし、なら反撃開始だ。
 さっきカゲちゃんに時間をくれって念話で伝えられてから大分経っていたけど、カゲちゃんの策はぼーずに通じるのかね?
 さすがに俺も今までの攻撃を凌ぐのに精一杯で、良い策なんて思いつかなかったからカゲちゃんに任せるけど、いったいどういう方法でぼーずに挑むんだ?





「(先ほどの『斬艦剣』のような大きくて派手なものを頼む。それをキッカケに私が隙を作るから、ラカン殿はそのまま攻撃を)」

「(オッケー、楽しみにしているぜ。あの生意気なガキに一泡吹かせようや)」

「…………“生意気”って酷くないですか? 少なくともラカンさんみたいな不良中年じゃないだけマシだと思いますよ」


 即時念話リアルタイムテレパシー盗聴!? ぼーずはどんだけ引き出しの数が多いんだ!?

 …………いや、例え俺達の念話を盗聴していたとしても、俺すらカゲちゃんが何をするのかわからないんだから、ぼーずがカゲちゃんの考えを読んでいるわけがねぇ。
 ぼーずが知ってるのは今の会話と俺達が何かを企んでいるってことだけだ。


 だったらこのまま突き進む!





「オラァッ! 『斬艦剣』!!!」


 多数の大小様々な武具と共に『斬艦剣』を放つが、また『風花・風障壁フランス・パリエース・アエリアーレス』で弾かれる。
 だが、『斬艦剣』の巨大さでぼーずまでの道は開けた。

 カゲちゃん、頼むぜ!





「ヌンッ!!!」


 カゲちゃんが何かに命令を下すように腕を振り上げる。
 その瞬間、ぼーずの足元の地面が膨れ上がり、地面から影槍が飛び出してきた!

 地面を通しての攻撃か!
 ぼーずは魔法のソナーで周りを認識しているらしいが、おそらくはそれは空気中だけの備えであって足元の地面への備えを怠ったんだろう。
 影槍が地面から出てきた瞬間には気づいたんだろうが、明らかに事前の迎撃や防御の準備をしていなかった。

 ならこの隙は逃がさねぇ!!!



 ぼーずが足元に新たに魔力球を生み出し、影槍への防御をする。それと同時に試合場に浮かんでいた魔力球が俺やカゲちゃんに殺到してくる。
 カゲちゃんはぼーずに気づかれないように自分の靴の裏から慎重に影槍を地面に通していて、ネギに攻撃を仕掛けている影槍をコントロールするためにも動けないようだが、俺にはそんなことは関係ねぇ!
 ぼーずの攻撃は数は多くても、1発1発は威力も速度もそれほどでもねぇからな!!!



「ぬぅ…………ぐっ!」


 殺到してくる武具を切り払って前に進む。
 服が破けて身体のあちこちに傷が出来るが、俺を止めるにはこの程度じゃ足りねぇ!



「『零距離・全開……」



 ぼーずの目の前に辿り着く。カゲちゃんの地面からの影槍は既に防がれている。

 カゲちゃんの作ってくれた隙を無駄には出来ねぇ。悪いが小細工無しの真っ向肉弾勝負に付き合ってもらうぜ、ぼーず!
 迎撃しようと新たな魔力球が俺の拳の前に飛んでくるが、俺の全力を無詠唱魔法なんかで止められるわけねーだろーが! 『風花・風障壁フランス・パリエース・アエリアーレス』で防御しようとそれごと貫く!!!
 
 シメだ! ネギ・スプリングフィールド!!!





「……ラカン・インパクト』ォォォッッ!!!」

「グハアァァッッッ!?!?」





 俺の全力全開の一撃が魔力球を貫いてぼーずのドタマにブチ当たり、骨を折って肉を貫いた感触が伝わってくる。
 あー…………ちっとガキ相手にマジになりすぎたかな。


 そして、俺が一撃を放ったと同時にカゲちゃんの悲鳴が後ろから聞こえた。
 さすがのカゲちゃんもあの数の魔力球の総攻撃を喰らったら一溜まりもなかっただろう。

 …………けどよ、この一撃は確かにカゲちゃんのおかげだぜ。


 いやー、それにしてもぼーずもやるもんだな。きっと俺1人じゃ封殺されて終わってた。カゲちゃんがいなかったら負けてたのは俺だっただろう。
 それぐらい圧倒的な攻撃だった。ここまで出来るんならぼーずを一人前と認めてやるよ。
 だがこれはタッグ戦なんだから、相棒の力を借りて勝つことは悪いことじゃねぇ。ぼーずも味方をつれてくるんだったな。



 この勝負…………俺達の勝ちだ!











 ………………って、そんなこと言ってる場合じゃねぇな。早くぼーずとカゲちゃんの手当てしねぇと。
 アレだけの総攻撃を食らったカゲちゃんがどんな状態になっているのかを見るのは少し怖いが、ヘタしたら命に関わるからな。

 とりあえずカゲちゃんに応急処置だけでも………………アレ?





 …………。

 ……………………。

 ………………………………何で、何で俺の腕がカゲちゃんの身体をブチ破っている●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●んだ?








「あの囲みを突き破り、僕の眼前に立ちましたか。さすがですね。
 さすがは“千の刃”。さすがはジャック・ラカン」


 ぼーずの声…………俺の全力の一撃を全然応えていねぇ。
 …………いや、俺の攻撃が当たっていない!?


『まったく持って残念だ、ジャック・ラカン。
 あの状態のネギは、入城キャスリングすら駒の種類も敵味方も関係なく出来るんだよ』

「以前言ったと思いますが、僕の得意な魔法は一に治癒、二に転移●●●●、三に補助、四に結界、そして五に攻撃って感じなんですよ」


 こ……これはっ!?
 『風花・風障壁フランス・パリエース・アエリアーレス』辺りに変化すると思っていた魔力球が、ゲートになっている!?

 そしてその転移先がカゲちゃんの近く…………背中に位置している魔力球で作られているゲートになっていて、そこから出てきた俺の腕がカゲちゃんの腹をブチ破っている。
 お……俺が攻撃したのはぼーずじゃなくてカゲちゃんだった…………だと?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ネギィはさ、どんな大人になりたいの?
 お父さんの英雄の称号を引き継いだら、どんな風にそれを使ってみたい?





「嫁さん達貰っての平穏な生活。テメェラのケツはテメェラで拭いてください。
 …………え? “200人乗ってる船”と“300人乗ってる船”のどちらを選ぶって?

 大切な人達が乗っている方です







固有時制御タイムアルター

 はい、これがネギの切り札その一です。要するに格闘ゲームを1/100の速度でやっているようなものですね。
 格闘ゲームに慣れた人はむしろやりにくいでしょうが、キーコマンド入力し放題で、フェイントも効かなくなるので敵の攻撃見てから回避余裕です。

 “幻想空間ファンタズマゴリア”で72倍もの時間差を簡単につけられるのなら、それを戦闘に応用すればいいんじゃね? という発想から生まれました。
 別におかしくはないと思います。
 

 ネギは『皇帝たる不死鳥インペラトル・フェニックス』とか『魔力レーザー砲デスビーム』みたいな必殺技を考えるのは楽しんでやってますが、これらはあくまで趣味の範囲内での話です。
 戦闘に使うのはこういう“能力の全容がバレても対応されにくい能力”を好んでいます。

 そしてこういう切り札はまだ残っています。
 『魔力吸収陣』は切り札とまではいかないかな?





 よし! 読者の皆様にはラカンより先に絶望感をあたえておいて差し上げましょう。どうしようもない絶望感をね。
 ネギは切り札をきるたびに戦闘能力がはるかに増す………………その切り札をあと2枚もネギは残しています。

 …………その意味がわかりますね?



[32356] 第91話 VSラカン② 切り札その二
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/06/07 20:25



━━━━━ 超鈴音 ━━━━━



 …………アスナさん達がネギ坊主に毒され過ぎヨ。
 腹をブチ破られたカゲタロウ選手を見ても眉一つしかめないなんて………………少しは顔を青くしているアーニャさんを見習て欲しいヨ。

 本当に彼女達は麻帆良に戻っても今まで通りの生活を送ることが出来るのかネ?



 ちなみに腹をブチ破られたカゲタロウ選手はリタイヤになたヨ。

「…………あ、カゲタロウさんの心臓止まってる」

 というネギ坊主の発言でドクターストップになたネ。
 ネギ坊主の『魔法の射手サギタ・マギカ 治癒の矢セリエス・クーラ』を何十本も刺されたハリネズミ状態で、先ほど担架で医務室に運ばれていたヨ。

 …………『治癒の矢セリエス・クーラ』でハリネズミにしなかたらカゲタロウ選手が死んでたとはいえ、明らかにアレは何か間違ているヨ。
 治癒をするときはネ。敵に邪魔されず全力で、なんというか患者が救われなきゃあ駄目なんだ。皆で協力しておごそかで…………。


 とにかく…………これでネギ坊主とジャック・ラカンの一騎討ちネ。
 あんな試合の中断の仕方で微妙な空気が拳闘場に流れているけど、まだ試合は続いていくみたいダヨ。





「何か微妙な空気になっちゃいましたね。
 …………ラカンさんが“味方殺し”なんてするから」

「俺か!? アレは俺が悪いのかっ!?!?
 それにカゲちゃんはまだ死んでねぇよっ!!!」

「“ナギ・スプリングフィールド杯”の決勝に相応しい魔法世界ムンドゥス・マギクス最大規模の大闘技場とやらがカゲタロウさんの血で舗装されちゃって…………。
 英雄って言われているぐらいなんだから、あの一瞬でゲートを察知して技を止めるぐらいの芸当をして欲しかったですね」

「さすがにアレは無理だって!
 …………つーか、ぼーずはあの『固有時制御タイムアルター』ってのを切って良かったのか?」

「別に構いませんよ。あのまま続けるとただのハメゲーになりそうでしたからね。
 どうせなら観客をもうちょっと驚かせたいじゃないですか」


 …………“喜ばす”とか“楽しませる”じゃなくて、あくまでも“驚かせる”なんだネ。
 となると…………もう一枚の切り札を出す気カナ?

 アレさえ発動すればジャック・ラカン相手にも真正面から渡り合えるようになるのだろうしネ。
















「それではいきますよ。

 コード“|||||||||| |||||||||||||| |||||| |||||||||||||||||||||||||”。

 “呪紋回路”解放。封印解除」



 ネギ坊主の解放キー詠唱が終わると、ネギ坊主の身体に呪紋が浮かび上がる。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスの住人にはおそらく理解出来ないであろう、魔法とはまったく別の未来科学様式で刻まれた呪紋。


 これがネギ坊主の切り札その二、“呪紋回路”。


 ネギ坊主に未来技術を分捕られたときについでに分捕られた技術だったんだけど、まさか自分自身にこの呪紋処理を施すなんて思ていなかたヨ。
 いったいどこの黒男ネ?

 あれの効果は術者の肉体と魂を喰らて、それを代償に力を得る狂気の技。その効果は魔法を使えない人間でも無理矢理魔力を行使することが出来る程ダ。
 もちろん術者の肉体と魂を喰らうというだけあて、呪文を唱えるだけで凄まじい痛みが全身を襲うという、正道的な魔法使いが使てはいけないような邪法ダヨ。



 ………………ネギ坊主は『咸卦治癒マイティガード』があるから、喰らわせた肉体と魂を即座に回復させることが出来るから問題ないけどネ。
 まあ、『咸卦治癒マイティガード』の維持にも魔力を消費するから、簡単に言えばネギ坊主にとっては“出力を2倍に出来る代わりに消費魔力が4倍になる”みたいなブーストでしかないヨ。

 ただし…………出力アップの上限は2倍どころじゃないヨ。本当に魔力を篭めれば篭めるだけ出力が上がていくネ。
 これを一般魔法使いの10~20倍の魔力量を誇るネギ坊主が扱うと、本当に凄いことになるんだヨ。





 …………。

 ……………………。

 ………………………………とんでもない技術をネギ坊主に渡してしまたネ。
 全世界の皆、本当にスマナイヨ。




 だて“呪紋回路”解放状態なら『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』クラスの上級魔法も無詠唱で使えるようになるから、『固有時制御タイムアルター』のときの火力がますます凄いことになるのヨ。
 “呪紋回路”で出力を上げ、『固有時制御タイムアルター』で手数を増やし、『魔力吸収陣』で魔力を節約する。単純がゆえに撃ち破るのは難しい戦法になてしまたネ。
 これでもう一つ残っている最後の切り札も切れば、本気で魔法世界ムンドゥス・マギクス全てとケンカ出来るヨ。


 というより『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』有りだったら、本気で魔法世界ムンドゥス・マギクス滅ぼせるヨ。
 何しろ『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』で人造異界を構成している魔力を分解して『魔力吸収陣』で吸い取っていくから、魔法世界ムンドゥス・マギクスが滅びるまで戦い続けることが出来るのヨ!
 そしてその吸い上げた魔力を“呪紋回路”の出力と『固有時制御タイムアルター』の手数で使えば、洒落抜きで1人軍隊ワンマンアーミーの完成ヨ!

 …………世界から力を吸い上げるて、いたいどこのあーぱー吸血鬼ネ!?


 ネギ坊主はもう完璧に誰の手にも負えなくなてしまたネ! この子ホントにもうヤダヨッ!!!
 アスナさん達の言うことなら聞いてくれることだけがせめてもの救いヨ!!!





『オイィィィーーーーーッ!?!?
 何なんだそれは!? そんなもの私も知らんぞっ!!!』

『マ……マグダウェルさんが知らない? アレはいったい何なんですか!?』


 エヴァンジェリンが叫んでる。どうやらエヴァンジェリンは『固有時制御タイムアルター』は知っていても、“呪紋回路”のことは知らなかたみたいだネ。
 味方にすら切り札隠すのがネギ坊主らしいが…………。


 ネギ坊主が右手にラカンに向ける。そしてその右手に『固有時制御タイムアルター』が切れていても水が流れるように滑らかに魔力が収束していく。
 収束される魔力の量を見たジャック・ラカンもマジな顔つきになて、自らも構えて右手に気を収束させた。ジャック・ラカンはフルもなるまでに3秒もかかっていない。
 お互いとんでもない収束速度だヨ。

 このまま真っ向勝負をする気かっ!?



「小太郎君、VIP席を防御」

「『ラカン・インパクト』ォォォッッ!!!」





 ネギ坊主の放った無詠唱の炎弾とラカンの放った気弾が試合場のど真ん中でぶつかり合………………って、この2つの威力だと観客席のシールドが壊れるヨっ!?
 少しは自分達の力を省みて欲しいネ!





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「…………おーい、姉ちゃん達大丈夫か?」

「千雨殿が椅子から転げ落ちそうになっただけで、他の皆は無事でござるよ」

「サ……サンキュー、楓。受け止めてくれて助かった」


 …………私達は何とか無事ネ。忠犬コタ公がVIP席の前に障壁を張ってくれたおかげで、直接的な被害はないヨ。
 それでもあまりの衝撃に闘技場が揺れたので転びそうになてしまたけど。

 まるで地震が起こたみたいに凄く揺れたヨ。
 現にセラス総長とかテオドラ皇女は転んでしまているしネ。


 それにしても凄い威力。
 余波で観客席のシールドが一度壊れてしまたのか、観客席に土埃が入り込んでいる。今はもう直ているみたいだけど。
 見た感じ観客席で破壊されているような場所はないし、観客に大怪我した人がいないようなのがせめてもの救いネ。せいぜいがテオドラ皇女たちと同じく転んでしまたぐらいみたいヨ。





「…………おったまげたぜ。まさか無詠唱魔法で俺の全力と互角なんてな。さっきのはもしかして『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』か?
 その呪紋が浮かび上がってからお前の魔力が桁違いに跳ね上がった。そんなものを自分の身体に施すなんて…………どーかしてるぜ、ぼーず。
 最大呪文の中では難易度が難しくない方の『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』とはいえ、無詠唱で使えるようになるなんて随分と反則みてーな真似すんじゃねーか」






 おお、ネギ坊主とジャック・ラカンも無事のようネ。土埃で汚れてはいるけどお互い無傷ヨ。


 それにしてもやはり2人とも凄いヨ。ネギ坊主の凄さはわかてたつもりだけど、あそこまでの出力を出すのは初めて見たヨ。しかも無詠唱で。
 私と戦た学園祭のときはどう考えてもお遊びだたし、ネギ坊主は日が経つごとにつれてドンドン手に負えなくなていくヨ。

 ネギ坊主の強さ…………本分は戦闘などではなくて、やはり研究なのかもしれないネ。
 『闇の咸卦法』といい『固有時制御タイムアルター』といい『魔力吸収陣』といい、ちょっと考えれば誰でも思いついてもおかしくないものヨ。………………実際に出来るかどうかは置いておくとして。
 ネギ坊主の素の強さは既にほぼカンストしていて一流といえるが、それでもそれらは超一流ではないネ。『闇の咸卦法』などの切り札を抜きにしたらジャック・ラカンやエヴァンジェリンには勝てないのはもちろんのこと、ヘタしたら高畑先生にも負けてしまうんじゃないのカナ?


 まあ、『闇の咸卦法』を抜きにするということ自体がネギ坊主にとては縛りになてしまうので、こういう言い方はおかしいがネ。
 ネギ坊主は総合的には強いが、局所的には普通に強いだけ。それこそ超一流なのは魔法だけだろう。『闇の咸卦法』などの切り札で倍々ゲームで強くなていくから気づきにくいけどネ。

 子供なんだから必殺技の練習とかしていれば可愛げが………………そういえば普通にしてたネ。『Tonfaトンファー Kickキック』とか。
 ネタ技はネタ技で好きみたいなのに、戦闘のための技は遊びが一切ないガチ技を作るていうアンバランスさが理解出来ないのヨ。


 あの子、ホントは全部わかててやてるんじゃないかと思うときがあるヨ。
 何だかんだでより良い方向に向かているから誰も気にしていないけど、何も知らない子供の振りをして大人達を操ているじゃないかネ?

 …………それでもアホの子ということには変わりはないんだろうけどサ。
 アスナさん達が言てたみたいに“本人はわかってやっているつもりでも、実はやっぱりわかっていなかった”がやはり一番合ているのカナ。
 頼りになるのは間違いないから、もう細かいコトは気にしないことにするけどネ。それがネギ坊主と上手く付き合ていくコツだということがよくわかたヨ。




 とはいえ、そんなガチのネギ坊主と互角の気弾を放ったジャック・ラカンもやはり規格外。
 英雄の名は伊達じゃないネ。それでもネギ坊主の価値は揺るがないのだろうけどサ。

 さて、ネギ坊主が遊んでいるので今までは試合が続いていたとはいえ、そろそろネギ坊主も勝負を決めそうだヨ。
 何しろ切り札を2つも切たからネ。

 これ以上の手札を晒すのは今後のことを考えたらよろしくない。
 まあ、切り札がまだ残ているなんて誰も思てもいないだろうけどネ。

























「今のは『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』ではありません。『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』です」






 ………………その言い方だと誤解されるヨ。
 いや、わざとそういう言い方をしているのカナ?












━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



「な、何っ!? 『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』だと!?」

「…………同じ呪文といえども、その魔法に篭める魔力の絶対量によってその威力は大きく異なります。
 つまり僕の『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』とラカンさんの最大の一撃は互角ということです…………」





 そもそも『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』は“呪紋回路”モードでも、さすがに無詠唱では使えませんからねー。
 まあ、簡単にカラクリを説明しますと、この“呪紋回路”モードなら『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』でも『奈落の業火インケンディウム・ゲヘエナ』でも、威力は結局は篭める魔力量次第なんですよね。


 大雑把に例えますと通常モードでは

 『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』:威力1、消費MP1
 『奈落の業火インケンディウム・ゲヘエナ』:威力10、消費MP4
 『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』:威力100、消費MP20

 だったのが、“呪紋回路”モードなら

 『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』:威力100、消費MP100
 『奈落の業火インケンディウム・ゲヘエナ』:威力100、消費MP40
 『燃える天空ウーラニア・フロゴーシス』:威力100、消費MP20

 になるだけ…………というか、こういう風にも出来るだけです。普通に魔力を篭めれば比例して威力も上がっていきます。
 でも今回はネタのために『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』を使いましたが、ぶっちゃけ『奈落の業火インケンディウム・ゲヘエナ』の方が効率は良いです。

 でも遊び心って大事ですよね?
 そのせいで僕のことを勘違いする人もいるかもしれませんが戦いにハッタリは付きものですし、何より騙される人…………じゃない、勝手に勘違いする人が悪いのです。


 だから、僕は悪くない。





「そ、そんな……っ!!!」

「仕方の無いことです。桁が違うのですから。
 しかし…………ここまで差があるとはね。20年前の大戦で活躍し、英雄と呼ばれたからにはもう少しレベルが高い人だと思っていたのですが…………」


 嘘はついていないですよー。
 今の僕の戦闘力は瞬間的になら6桁までいけますし普段は4桁ですから、戦闘力5桁のラカンさんとは桁が違います。

 …………まあ、本当にスカウターでも拾え切れないぐらい瞬間的になんですけどね。それかあのマッチョ状態でなら素で6桁。


「ああ、ラカンさんが弱いって言ってるわけじゃないですよ。予想していたレベルに届いていなかっただけで…………。
 それでもラカンさんは十分に強いです。タイプが違うとはいえ、全力のエヴァさんと同クラスなのは間違いないでしょう」


 例えるならラカンさんが雷禅でエヴァさんが軀ですかね。バンダナ的にも。
 やっぱりガチンコではラカンさんが最強か。


「しかし、正直なところ『固有時制御タイムアルター』だけでもハメゲーにせずに勝てると試合前まで思っていました。
 カゲタロウさんと2人がかりだったといえ、その予想を覆すとはやはり流石は英雄。何か餞を差し上げませんとね」


 “呪紋回路”全力解放。全魔力を臨界まで加圧開始。


「英雄の名に違わぬ勇猛な戦い振り見事でした。
 だが悲しいかな。その戦い振りのせいで僕は本気を出さなければいけなくなります。
 …………ラカンさんにはせめて“ぼくのかんがえたさいきょうのひっさつわざ(笑)”でトドメを刺してあげましょう」


 『固有時制御タイムアルター』を“呪紋回路”モードにて全力起動………………『固有時制御タイムアルター∞倍速インフィニット・アクセル』!

 無詠唱魔法にて体内に魔法埋め込み開始………………埋め込み完了。
 体内に埋め込んだ遅延呪文ディレイスペル解放エーミッタム
 そして体内にて気と魔法の合一、『闇の咸卦法』各種発動!





 これが“ぼくのかんがえたさいきょうのひっさつわざ(笑)”!














「『星の白金の世界スタープラチナ・ザ・ワールド』!!!」







 最初は、まばたきほどの一瞬しか時間を止められぬ技でした。
 しかし……この“呪紋回路”がなじんでくるにつれ、2秒……3秒と長くとめられるようになりました。今では5秒は止めていられます。

 時が止まっているのに5秒とはおかしいかもしれないですが、とにかく5秒ほどです。
 いずれは1分……10分……1時間と思いのまま止められるようになってあげましょう。



 …………個人的にはDIOの世界ザ・ワールドが一番好きなんですよね。
 でも“「時間の束縛から自由になりたい」という潜在意識の発露される世界ザ・ワールド”じゃなくて、“卓越したスピードが『光を越える』または『時を越える』と世界はその動きを止め、時間が止まる星の白金スタープラチナ”の方が内容的に合ってるのでコッチに。

 ああ、この『星の白金の世界スタープラチナ・ザ・ワールド』の効果は簡単ですよ。
 普通に時を止めるだけです。正確には脳内時間をほぼ無限倍速まで上げた結果、周りの動きが止まるよう感じているだけです。
 ちなみに“呪紋回路”全力解放状態じゃないと出来ません。



 うむむむ~~~んんんんんん…………予想どおり“呪紋回路”はなじむ。
 この肉体に実にしっくりなじんで、魔力を今まで以上に行使出来ます。
 なじむ…………実に! なじむぞ! フハハハハハ……フフフフ…………フハフハフハフハ!



 だがこの『星の白金の世界スタープラチナ・ザ・ワールド』の真骨頂はここから。
 さきほど体内に埋め込んでから気と合一させた『戦いの旋律メローディア・ベラークス』みたいなありったけの補助魔法と組み合わせることにより、この止まった時の中でも動けるのです!



 ンッン~~♪ 実に! スガスガしい気分だッ! 
 歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ~~フフフフハハハハ!!!

 10年前に転生をしましたが…………これほどまでにッ! 絶好調のハレバレとした気分はなかったなァ……。
 フッフッフッフッフッ、超さんの未来技術のおかげだ! 本当によくなじむッ!!!

 最高に“ハイ!”ってやつだアアアアアアアハハハハハハハハハハハハーッ!!!






 …………と、マルチタスクでツラツラと考えながら、右手に『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』を固定状態で出してラカンさんに近づきます。


 ゴメンナサイ。余裕そうに振る舞ってますけど、実は辛いです。
 辛いというか後で辛くなります。

 何しろ他の人達が止まって見えるようなぐらいな速度に自らを加速させているので、その反動がハンパナイです。
 今はそれこそ時が止まっていますので平気ですが、時が動き出した瞬間に『咸卦治癒マイティガード』ONにしてなかったら反動だけでマジ死にます。

 これ一回やるだけで僕の全魔力の5割、更に1秒につき1割の魔力が必要です。…………時が止まっているのに1秒というのは本当におかしいですが。
 今は隠し持ってた式神符の魔力で代用してますけど、それでもキツイものはキツイです。

 ………………事前の遅延呪文ディレイスペルや『闇の咸卦法』は禁止されてましたけど、別に式神は禁止されていないもんね!


 というわけで、さっさと終わらせましょう。
 ラカンさん、『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』を食らえ●●●ぃ!

 そして文字通りにラカンさんに食らわせた後、元の位置に戻ってポーズも同じに戻します。





 そして時は動き出す。













「げぽぁっ!!!」







 時が動き出すと同時に、ラカンさんが爆炎を噴きました。もちろん口から。
 流石のラカンさんでも腹の中からの奇襲攻撃には一溜まりもなかったようで、バタリと倒れます。

 いくら鋼の肉体でも、胃までもが鋼とは限りませんからね。
 しかも胃とかに気を通して防御するようなこともしていなかったでしょうし、内蔵関係ボロボロになってるはずです。

 まあ、『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』クラスの魔法は自重しておきましたんで、死にはしないでしょう。きっと。


 ………………“東風の檜扇コチノヒオウギ”いるよね?



『ジャ、ジャック・ラカン選手ダウンーーーッッ!!!
 マグダウェルさん、いったい何があったのですか!? いきなりラカン選手が火を噴いて倒れたように見えたのですが、ネギ選手は何もしていなかったようでしたよ!?』

『…………わからん。
 ありのままに起こったことを言えば、ネギが「『星の白金の世界スタープラチナ・ザ・ワールド』!!!」と叫んだらラカンが火を噴いていた。
 何を言っているのかわからないと思うが、私もネギが何をしたのかわからなかった。幻術とか超スピードとかそんなチャチなものじゃ断じてない。
 もっと恐ろしいものの片鱗を見たような気がするぞ…………』



 いやぁ、流石のエヴァさんも見ただけでは…………いや、見れていないからわからないでしょうね。僕が何をしたのかは。



 …………っていうか体中がイテェーーーッ!!!

 マジ痛いマジ痛いマジ痛いマジ痛いマジ痛い!
 ここまで完璧に時を止めるとマジ負担がデカ過ぎる!!!


 『咸卦治癒マイティガード』! 『咸卦治癒マイティガード』をありったけ発動!!!
 ついでに気による身体制御で脳内麻薬を分泌させて痛みを感じなくさせる!

 くそっ! ネタ技にしてはペナルティが多すぎる! これならまだ普通に『雷天双壮』使った方が強いって!
 魔力も殆ど空になっちゃったし、何よりすぐには身体が動かせない! 口の奥で血の味がする! 不適に笑っているような顔をするしか出来ない! 式神符の魔力食べて回復を!
 “東風の檜扇コチノヒオウギ”を使いたいけど、そしたら僕が無理してることバレるから出来ない! それにラカンさんに使って僕が何をしたのかの証拠隠滅しなきゃ!

 こういうお遊びの場でしか使えないなぁ、この技は本気で!!!





 だが後悔はしていないし反省もしていません(キリッ





━━━━━ 後書き ━━━━━



 これにてラカン戦は終了! いろんな意味で遊びすぎた!!!
 でもメルディアナにいたときから試したかった戦法を試せたのでネギは満足じゃ。

 ………………ラカンさんマジで死ぬかも、とビクビクしながらやったのは秘密。


 でも普通に“呪紋回路”は使えますよねー。
 ちなみに78話で超が言った“あんなこと●●●●●”がこれのことです。

 ネギが使ったら『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』クラスの上級魔法を撃ち放題になりますけど。
 『固有時制御タイムアルター』と合わせて使えば、エヴァの『氷の女王クリュスタネー・バシレイア』より酷いことになりますけど。


 残った最後の切り札は最終決戦時にて。



[32356] 第92話 オスティア総督
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/06/28 21:42



━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━



「……………………」

「フェイト様、試合はもう終わったのですか?
 ネギ・スプリングフィールドとジャック・ラカンのどちらが勝ったの………………フェイト様?」



 …………ネギ君アレを本気でどうしろと?

 駄目だ強すぎる。やはり京都のときでもゲートポートのときでもネギ君は本気を出していなかったらしい。
 ジャック・ラカンというバグに対してあそこまで一方的に勝つなんて…………。





『お……おめでとうございます、スプリングフィールド選手! 見事“ナギ・スプリングフィールド杯”優勝です!
 自らの父親の名前を冠した大会で、しかも父の戦友を押し退けて優勝するという偉業を達成されました!』

『ありがとうございます。いやぁ、ラカンさんは強敵でしたねぇ。
 ああ、別に僕のことは“ネギ”で構いませんよ。“スプリングフィールド”では父と被るでしょう』

『はい、ネギ選手!
 それでは優勝者インタビューに移りましょう!』





 僕で…………僕達“アーウェルンクス”シリーズでネギ君に勝てるか?
 戦えるのは3番テルティウムである僕と、調整完了間近の4番クゥァルトゥム5番クゥィントゥムの3人。
 僕の新しい身体に流用してしまったので、6番セクストゥムは身体の用意が間に合わない。

 それでも僕達3人がかりなら、ナギ・スプリングフィールドであろうとジャック・ラカンであろうと勝てる………………はずだと思う。
 しかしネギ君はジャック・ラカン以上の強者であり、他にも“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”のコピーが共に行動しているし、従者の女の子達の実力も月詠さんの話からすると侮れない。

 ネギ君を相手にするのは僕達“アーウェルンクス”シリーズと、よくてデュナミスぐらいだろう。他の皆や召喚魔獣は露払いで精一杯になるはずだ。
 あのネギ君を相手に4人がかりでなら………………普通ならどんな相手でも勝てると思えるのだろうに、何故か勝てるとは思えない。


 いや、それ以前にネギ君相手に複数で挑んでも勝てるようになるのか? あの攻撃の嵐に対して数が増えただけで有利になるのか?
 あの『固有時制御タイムアルター』に『魔力吸収陣』、そして“呪紋回路”とやらに加えて『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』まで持っている。

 そもそもジャック・ラカンの“千の顔を持つ英雄ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポーン”は『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』で無効化出来たはずだ。
 この試合でそれをしなかったということは、ハッキリ言ってネギ君にとってはこの試合はただの遊戯ゲームに過ぎなかったんだろう。

 それと同じく僕達の魔法も通じなくなる。僕達は体術も使えるとはいえ、戦力半減であることは間違いない。
 だけどネギ君は魔法を使い放題で、あの軍隊の一個師団に勝てそうな無詠唱魔法を乱射してくる。


 ………………え? もしかして無効化フィールドでコッチの障壁も消してくる?
 というか『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を矢や槍にして撃ち込んできそう?





『それにしても…………最後はいったい何をしたのですか?
 ラカン選手がいきなり口から爆炎を噴いて倒れましたが、いったいどういうことなんでしょうか?』

『それはヒミツです。アッサリばらしても面白くありませんからね。もしかしたらこの試合の録画映像を詳しく調べたらわかるかもしれませんので、とりあえず頑張ってみてください。
 それといくら完全治癒呪文とはいえ今日一日ぐらいは安静にしておいた方が良いと、医務室に運ばれたラカンさんに伝えて置いてください』





 特にあの『魔力吸収陣』がマズイ。
 アレは普通の状況なら、使った魔力の回収と周囲に元々満ちていた魔力を吸収するだけだ。
 それでも厄介なことには変わらないが、僕達がゲートポートを破壊したことが最悪に繋がる。

 それというのも、もうすぐ廃都オスティアには魔法世界ムンドゥス・マギクス全土の魔力が集まるせいで魔力飽和状態になるはずだ。
 そんな状態のオスティアでネギ君に戦いを挑まれたら、僕達が集めた魔力全てが敵になる。
 それこそ攻撃魔法を『固有時制御タイムアルター』で秒間何十発も、“呪紋回路”で威力を増して、魔法世界ムンドゥス・マギクス全土の魔力を使って放ってくるだろう。

 ………………魔法世界ムンドゥス・マギクス再編を行なえるほどの魔力を利用した攻撃?
 想像しただけで嫌になってくる。


 ネギ君の戦い方は単純がゆえに対処が難しい。
 どれか一つだけだったらまだ希望はあった。

 『固有時制御タイムアルター』や“呪紋回路”だけだったら、それこそ長期戦を挑んで魔力の枯渇を狙えばいい。アレだけの攻撃なら消費魔力もとんでもない量になるはず。
 だが『魔力吸収陣』があるために、長期戦を仕掛けたらコチラが先に力尽きる。

 『魔力吸収陣』だけだったら召喚魔を大量に呼び寄せて物量で押せばいい。いくら魔力を回復出来るとはいえ、物量で押せばその魔力を発揮する前に倒せるだろう。
 だが『固有時制御タイムアルター』や“呪紋回路”があるから、圧倒的な火力でなぎ払われるだけだ。


 本気でどうしろというんだ…………。






『ところでネギ選手はこのお祭りが終わったらどうなされるのですか?
 旧世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰る手段を調べているということでしたが…………』

『ええ、帰れる方法はわかりました。新オスティアの西にある廃都オスティアにまだ壊れていない休止中のゲートがあるみたいなので、そこから現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰れます。
 今の廃都オスティアは魔獣蠢く巨大で複雑怪奇なダンジョンと化していて、許可を受けた熟練の冒険者以外の立入禁止という魔法世界ムンドゥス・マギクスの危険地域になっているそうですが、僕なら大丈夫ですからね。タカミチもいますし。
 まあ、この大会で優勝したんですから、危ないから許可が出ないなんてことはないでしょう。廃都オスティアに行って、ゲートを探し出して、魔獣などの掃除をする………………実に簡単なお仕事です。
 これを見ている現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰れなくて困っている皆さん。もうすぐ帰れるようになりますので安心してくださいね』





 詰んだ。ネギ君が廃都にやって来る。



 祭りが終わってからといっているが、廃都を注目していることは間違いない。だったら廃都に何かあればやってくるだろう。
 具体的には廃都に魔力が集まって、昔落ちた廃都が浮かび上がったりなんかしたら…………。


 どうしよう? 何か方法は…………人質?
 そうだ! 人質を取れば………………しかし、取るといっても誰を人質にする?
 ネギ君の従者を? それともこの祭りに参加している大勢の罪もない一般市民を?

 …………前者は駄目だ。
 ネギ君とは常に一緒に行動している上に、彼女達もなかなかの実力者だ。もし手間取って人質にするのに失敗するなりネギ君の介入を許すなりしたら、その瞬間からネギ君を敵にまわす。
 京都やゲートポートでのこと、それにこの試合から見る限り敵に対して容赦が無い。敵対された瞬間に終わる。
 何でもグラニクスでは“街や市民への被害も省みずにネギ君に野試合を挑んだ愚か者が、身体を石にされてその身体が砂になるまで砕かれて川にバラ撒かれた”なんて噂が流れているぐらいだ。

 後者は…………そもそもそんな余剰戦力は無い。
 現状で動けるのは僕と調さん達、それと月詠さんだけ。そもそもデュナミスは例の事●●●に付きっ切りなんだ。戦闘に参加出来るような状況ではない。


 というか、そもそもあのジャック・ラカンを仕留めた謎の技がある時点で敵対的な交渉は無理だね。
 交渉しようと彼の前に出た瞬間にコチラが仕留められる羽目になりかねない。

 …………アレはいったいなにをやったんだろうか? 僕でもわからなかった…………。





『え? タカミチというと…………高畑・T・タカミチですか?』

『そうですよ。
 ホラ、あそこのVIP席のところに…………』

『あ、本当だ!? この会場に“紅き翼アラルブラ”が2人もいたんですね!
 …………アレ? ネギ選手の前パートナーだったアルちゃんを肩に乗せている女の子達はお知り合いですか?』

『彼女達は僕の連れです…………というか“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”です』

『え?』





 高畑・T・タカミチまで一緒にいるのかっ!?
 月詠さん…………じゃ彼の相手は無理だろうから、僕達かデュナミスの誰か1人が抑えにまわなければ…………。


 …………いや、やはりこれではネギ君を敵にまわすわけにはいかないな。
 何とか友好的に会話をして、戦いを回避する方向でいかないと本気でマズイ。












━━━━━ クルト・ゲーデル ━━━━━



 …………いやはや、何とも表現しがたい少年ですね。ネギ君は。
 まさかあのバグキャラ、ジャック・ラカンに勝ってしまうとは…………。





『ネギ選手って“魔法使いの従者ミニストラ・マギ”いたんですかっ!?』

『え? そりゃ普通にいますけど…………ちゃんと『仮契約パクティオー』していますよ。
 ホラ、これが“仮契約パクティオーカード”』

『ホ、ホントだ!? 主人が“ネギ・スプリングフィールド”で従者が“コノカ・コノエ”と………………“コノエ”?
 というか“仮契約パクティオーカード”何枚持ってんですか?』

『今のところは7枚です。…………まあ、どういう人達なのかは秘密で。
 とはいえ気づいたみたいですから1人だけ言っちゃいますけど、このカードの近衛木乃香さんというのは“紅き翼アラルブラ”の近衛詠春さんの娘さんですよ』





 おや、師匠マスターの御息女と?
 その情報は知りませんでしたね………………というかネギ君の情報はどれが正しいのかサッパリわかりません。滅茶苦茶すぎます。
 どうやら明らかに嘘っぽかったネギ君の強さのことに関してだけは本当だったみたいですが…………。

 まあ、師匠マスターが御息女を通して関西呪術協会へのネギ君取り込みを図る………………ということはないでしょう。
 確か10年以上も前に師匠マスターから貰った手紙には、“娘には魔法に関わってほしくない”ということが書かれていましたし…………。
 祖父である麻帆良の学園長の差し金ですかね? 狸で有名ですし。

 でもこれは考えようによってはラッキーですね。
 ナギの盟友である師匠マスターの御息女がネギ君の相手ならば、元老院が政略結婚などのコスイ真似をするような余地がありません。


 しかし…………ここまでくると危険ですね。
 ここまでネギ君が有名になってくると、老害共がいったい何を企むやら…………。

 やはり現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに戻られる前に一度ネギ君と接触した方が良いでしょう。それこそ明日にでも。
 明日に開かれる総督府主催の舞踏会に“ナギ・スプリングフィールド杯”優勝者を招くということなら不自然ではないでしょうし、ネギ君には廃都オスティアに降りる手続きの相談に乗るといえば悪くはないでしょう。

 どうやら調べた感じでは、ネギ君もナギとは違うベクトルのおバカさんらしいですからね。
 元老院に何かされる前に…………それこそネギ君が大戦の全てを知る前に会って、世界を救うための協力をお願いをしなければいけません。


 ジャック・ラカンに勝ったということは、もしかしたら“ネギ君が一人前になるまでは真実は教えない”という約束が果たされるかもしれません。
 その前に私から真実を話して、ネギ君とはより良い関係を築き上げたいものです。





『それにしてもネギ選手は強いですね。まさかあのラカン選手に勝てるとは…………。
 その若さでそこまで強くなれたのには、何か秘訣とかあるんですか?』

『日々の鍛錬です………………と言いたいところですが、そうですねぇ…………。
 夜寝るときに“幻想空間ファンタズマゴリア”の中に入り込んで精神だけで一晩で半月ぐらい修行して、起きたらその経験を肉体に反映させる修行を数年続けてみてください。
 きっと強くなれますよ』

『え?』





 ………………頭の良い脳筋って面倒ですよね。この子も結局バグキャラですか。
 テレビに映ったネギ君の顔は確かにナギにソックリです。

 …………顔がナギに似ている分、せめて性格と頭はアリカ様に似てくれても良かったのに。


 タカミチも何でネギ君のことを“中身はアリカ様似”なんて手紙に書いてたんだ?
 確かに礼儀正しそうではあるから、傍若無人なナギよりはアリカ様の方に近いかもしれないけど…………。
 まあ、お母上のことについても色々と話すことにしましょう。それと連れのお嬢さんがあんなにいるとなると、ドレスの用意などもした方がいいでしょうね。


 とはいえ、このネギ君は神輿としては最高の逸材ですね。
 今日の時点で既に有名になってはいましたが、この試合の詳細が知られることで明日には魔法世界ムンドゥス・マギクスははネギ君の話題一色になるでしょう。

 10歳の若さで父の永遠のライバルを倒すほどの実力を持っており、これから“現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰れなくて困っている人達を助ける”という実績さえ作り出そうとしています。
 そして両親の後を継いで世界を救おうとするとなると、ネギ君の民への影響力はそれこそナギ以上になるでしょう。

 彼の名を更に高めるためにもちょうど良いですので、是非とも廃都探索は頑張っていただきましょうか…………というか許可を出さざるをえませんね。
 魔法世界ムンドゥス・マギクス全土が注目しているであろうこの中継で先程のようなことを言われてしまった以上、ネギ君に廃都探索許可を出さなければ“現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに帰れなくて困っている人達”から苦情がきます。
 まあ、これには元老院だって文句は表立って言ってこないでしょうから別に問題ないでしょう。


 さて、何にせよネギ君と話してみてからですか。
 明日が楽しみです。




































『と……ところでネギ選手のファンのみならず、魔法世界ムンドゥス・マギクス全土の人々が気になっているであろうことを聞いても良いでしょうか?
 …………ズバリ! ネギ選手の母親…………ナギ・スプリングフィールドと結婚したのはいったい誰なんですかっ!?』



『二股眉毛』



『え?』



 え?






━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 何だか聞き捨てならない言葉を聞いた翌日、私は街中でネギ君と接触を図りました。
 ネギ君の後ろには従者のお嬢さん方とタカミチ。

 …………タカミチが余計なことを言わなければいいのですがね。





「おや…………?
 君はどこかで見たような覚えがありますが…………ああ! そうか、思い出しました! なんと君は世界を救ったかの大英雄の御子息ではございませんか!
 いや、今はこう言い換えた方がいいでしょうか…………その大英雄の親友でもあるもう1人の大英雄、ジャック・ラカンを見事倒した少年と「スイマセン。昨日の試合に関しての取材とかなら、僕が所属している拳闘団を通してにしてください」…………え?」

「あと道一杯に広がって歩かないでください。邪魔です。
 総督という市民への模範とならなければいけない立場にいるのですから、常日頃から他人に自分がどう見られているか考えて行動した方がいいですよ。クルト・ゲーデル総督」

「(…………クルト、ネギ君に口であろうと勝てると思っているのか?)」


 …………アレ? こういう子なんですか?
 でも形式などに拘るところは、アリカ様似と言われればそうかもしれないですね。

 というか、いったいなんだタカミチ? その憐れむような顔は?





「いやなに…………私は虚弱体質でしてねぇ。恥ずかしながら何人かの部下を連れなければ外出もままならないという有様りで…………。
 ごくごく私的なボディーガードのようなものです。お気になさらないでください」

「別にあなたが虚弱体質だろうとラカンさん並のマッチョであろうと、それはどうでもいいんです。道一杯に広がって歩くな、と言っているんです。
 それに虚弱体質…………ねぇ?

 …………。

 ……………………。

 ………………………………うん、タカミチ。今のタカミチなら10回やったら9回は勝てますよ」

「お、本当かい?
 いやー、常日頃から鍛えている甲斐があるね」

「な…………何のことですかね?」

「いえ別に。ただの評価です。
 詠春さんから聞いて想像していたのよりは………………まあ、オスティア総督というお仕事が忙しいんでしょうね。
 立場上、関西呪術協会の長である詠春さんと連絡をとりにくいのは理解してますけど、師匠なんですから少しは近況報告ぐらいした方がいいですよ」

「え? そ、そうですか…………」

「でも安心しました。詠春さんに魔法世界ムンドゥス・マギクスに来ることになったのを電話で話したとき、ゲーデルさんの話題も出たんですよ。
 ゲーデルさんが元気そうでいることは、現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに戻ったら詠春さんに伝えておきますね」

「あ、ありがとうございます…………」

「ついでに“鈍っているようだったら鍛え直してやってくれ”と頼まれているんですけど…………どうします?」

「仕事が忙しいので遠慮させていただきます」


 師匠マスタァーーーッ!?
 ジャック・ラカンに勝てるような相手と戦えなんて無茶言わないでください!





「冗談です。いくら何でもお互いの立場の関係上、そういうことは言えないですよ。
 それにタカミチの方が強そうとはいえ鍛錬を怠っているというわけじゃなさそうですし、そこまで極端な差があるわけじゃなさそうですからね。
 タカミチとの差は自由度の違いでしょう。さすがにオスティア総督と麻帆良の教師だったら、総督の方が忙しいでしょうからね」

「…………ホッとしました。
 ええ、もちろん日々の鍛錬は欠かしておりませんよ。師匠マスターに会いましたらそうお伝えください。
 いや実は“廃都に下りて休止中のゲートを探す”と昨日ネギ君が言ってたことについて相談しに来たのですが、少しお時間をいただいてもよろしいですかね?」


 何というか…………実際に会ったら違う感じですね。
 しかし、ネギ君のこのマイペースなところがどことなくアリカ様を思い出させます。

 なるほどなるほど。
 こうやって会ってみると、確かにネギ君はナギよりはアリカ様に似ている感じはしますね。

 というより、ナギに似ていないだけなのかな?





「アポぐらいは取ってほしかったんですが…………今からじゃないと駄目ですか?
 これからレストランに行く予定なのですが…………」

「昼食ですか? だがまだ10時…………いえ、それでしたら私も昼食をご一緒させてください。
 もちろん皆さんの御代は私が持たせていただきます」

「おい、クルト。いったい何を企んでいる?」

「別に。私もネギ君と話をしてみたいだけだよ、タカミチ」

「…………話自体は構いません。
 どうせ廃都に下りる許可の関係など●●で一度役所には行こうと思っていましたので、オスティア総督であるゲーデルさんと直接話せるならそれで済みますからね。
 しかし…………実は先約がありまして」

「先約ですか?」

「ええ、この祭りに警備として来ているアリアドネーの戦乙女騎士団の人達です。
 僕の従者が魔法世界ムンドゥス・マギクスに来てからアリアドネーで少し学んでいまして、その時にお世話になった人達です。他にもコチラで知り合った人達が何人か。
 騒ぎにならないように僕のことは秘密にしてもらっていたんですが、その人達は僕のファンということらしいんですよ。
 それでお世話になった人達にずっと黙っているのもアレだし、お礼も兼ねてこれからお茶をしてそのまま昼食をご一緒することになりました。
 まあ、彼女達も今日は休みとはいえ、ずっと遊んではいられるわけではないので13:00までの予定です。その後でいいならお話に付き合いますが…………」


 …………フム、いきなり押しかけたのはコチラですから、それぐらいは仕方がないですかね。
 今夜の舞踏会のこともあるから早めに終わらしたいという気持ちはありますが、コチラを優先するように強制させたらネギ君の機嫌が最悪になるような気が…………。
 きっとアリカ様でも同じことをしたら気分を害されるでしょうし。





「ええ、それで構いません。ご一緒させてください」

「わかりました………………と言いたいですが、さすがに後ろの人達まではレストランには入れませんよ。人数的に考えて。
 入れるのはゲーデルさんと…………まあ、その少年ぐらいならいいでしょう」

「それは承知しています。彼らにはレストランの周りで警備でもしてもらいますよ。
 何でしたらそのレストランを貸切にしましょうか。ネギ君がいることがバレたら一般客が押し寄せてきそうですから」

「そこら辺はお任せします。その人達が店の前にいるなら目立って仕方がないですからね。
 ヘタしたらそうなるかもしれません………………ハア」


 おや、浮かない顔ですね。熱狂的なファンは苦手ということでしたが、平気でそういうのをあしらっていたナギとは違いますね。
 少し神経質というか、ナギと違って人並みの神経を持っているというか…………。

 しかし、そんな有様ではこれから大変ですよ。
 ネギ君にはこれから大々的な社交デビューが待ってるんですからね。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 これからがほんとうの(クルトにとっての)地獄だ…………。


 今のうちに余裕ぶっているがいい。
 でもお仕事の話ですから、被害者になるわけではありません。

 …………このペースだと100話越えるかも。
 まあ、一話一話の量が1万字程度と少な目ですので、総量としては多すぎるというワケではないと思います。しかもルビのタグを含めての1万字ですからね。



 それと次の木曜更新は所用のために休みとさせて頂きます。
 次回更新は6/17の予定です。



[32356] 第93話 話し合い
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/06/17 10:47



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



「ありがとうございますっ! 一生の宝物にしますっ!!!」

「サ……サインを直接頂戴出来ただけではなく、こうやって握手までしてもらえたなんて………………握手してくださったこの手は一生もう洗いませんわ!!!」

「洗ってください、お嬢様。
 でも…………本当にありがとうございます。大切にします」


 喜んでいただけたようで何よりです。
 
 …………黒委員長さんみたいな喜び方されると、逆に引くようになってきたんですけどね、最近。
 グラニクスにいたときからそれなりにファンの人にサインとかしてたんですけど、日が経つにつれてドンドン凄い勢いになっていったんですよ。
 アレでファンが怖くなってしまって…………。

 コレットさんのような単純な喜び方や、ベアトリクスさんの隠そうとしても隠し切れない喜び方は素直にコッチとしても嬉しいですけどね。
 こういう人達にはサービスをしようって気になります。



 だけど控え室まで押しかけてくるようなお姉さん方は無理です。
 本当にああいうのは無理です。目が怖いです。








「タダ飯食わせてくれるって聞いたから来たんだが…………これはどういう状況なんだ、ネギ?
 ああ、兄貴は昨日の決勝の余波で仕事が増えてな。来れなくなったわ」

「「ゴチになりまーす!」」

「おや、あの方はオスティアの総督様じゃないかい!
 ネギ君は色んな知り合いがいるんだねぇ!」


 あ、トサカさんにチン&ピラさん、それとママさんまでよく来てくれました。
 控え室に押しかけてくる女性ファンを身体を張って止めてもらうなど、特にトサカさんとチン&ピラさんには大変お世話になりましたからね。
 それらに対してのお礼ですので、好きなだけ飲み食いしてください。

 それとバルガスさんはお仕事ですか。
 1人だけ来れないのは可哀想なので、トサカさんにお土産でも持っていってもらいましょうか。


 どうせオスティア総督がケツ持ってくれてんですから。


「それにしてもネギ君はやっぱり凄いねぇ!
 こんなにちっこいのにあのジャック・ラカンに勝っちまうなんて、私も元拳闘士として尊敬しちゃうよ、ハッハッハ!」


 頭撫でられるのはいいけど毛がくすぐったいです、ママさん。


「(…………ネギ先生って何だかんだでクママさんに懐いてんだよなぁ)」

「(確かに。普通に“ママさん”って呼んでいますしね…………)」

「(あー、お兄様はいわゆる“オカン”みたいな人には結構心を開くんですよね)」

「(…………母親がいなかったせいかな? マザコン…………とまではいかないと思うが)」








「うーす、タダ飯食いに来たぞー」


 ラカンさんもお疲れさまー。いやー、昨日の試合はいい試合でしたねぇ。
 また今度遊びましょう。僕のストレス解消的に。

 というかトサカさんと言ってること同じじゃんか。


「ラ、ラララカンさんっ!?
 ラカンさんまで来るなんて聞いてねぇぞ、ネギっ!」

「ジャック・ラカンまでーーーっ!?
 お願いです! サインください!」

「…………な、何という桃源郷。
 ネギ様だけでなくラカン様まで昼食をご一緒出来るなんて…………」

「わ……私にもサインを…………」

「うおっ!? 元気のいい嬢ちゃん達だな。いーぜー。
 …………って、おお。懐かしい顔があるじゃねーか。久しぶりだなぁ、クルト」

「え……ええ、お久しぶりですね」


 とりあえず昨日の怪我は問題ないみたいでよかったよかった。
 実は結構ドキドキもんでした。何しろウェールズでイノシシに『雷の暴風ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス』でやったときは木っ端微塵になりましたからね。

 弱めの『紅き焔フラグランティア・ルビカンス』だから大丈夫だと思ってたけど、本当に大丈夫でよかったよかった。
 まあ、頭さえ無事だったら“東風の檜扇コチノヒオウギ”でおそらく治せたから、結局は多分大丈夫だったんでしょう。きっと。


 ラカンさんがしつこいくたばりぞこないで本当に助かりました。
 でもまたアスナさん達にセクハラしようとしたら、こんどはこっぱみじんにしますからね。あのイノシシのように。


 それと誘われるであろう今夜の舞踏会に出ればもっとタダ飯食べれますよー。








「アラ、随分と変わった面子が集まったのね。
 まさか候補生の子達までいるなんて…………」

「セ……セラス総長!? 何故ここに!?」

「おー、ラカンじゃねぇか!
 ハッハハァッ! ネギのぼーずに負けた感想はどうよ!?」

「…………え、お前さん誰?」

「リカードじゃリカード。ネギのホテルに押しかけた際、ノックもせずに部屋に入ったせいでネギに排除されてしもうての。
 その時に髪の毛や髭がああまでバッサリと…………」

「テ……テオドラ皇女殿下ですか? 貴女までいらしたのですか…………?」


 セラス総長にテオドラ皇女もお元気そうで何よりです。
 この前は邪険にしてしまって申しわけありませんでした。何しろいきなりノックもせずにホテルの部屋に入り込んできたものだから、ついつい気が昂ぶっちゃって。

 でもオッサンは呼んでねーぞ。


 しかし、本当に来てくれたんですね。
 一応、誘いはしましたが、忙しいから無理だと思ったのですが…………。


「確かに私はお祭りの警備を担当しているから忙しいけど、ここまでの面子が集まるとなると見張っていないと不安なのよ」

「確かにの。今このレストランでテロでもあったら、本気でお祭りが吹っ飛ぶじゃろうて。
(妾はジャックが来ると聞いたからなのじゃが…………昨日のことは気にしていないようじゃな。てっきりネギに負けたのを気にしているかと思ったが…………。
 まあ、ジャックらしいといえばジャックらしいか)」

「こんな面白そうな場面を逃がせるかよ!」


 アンタには聞いてない。















「僕達もご馳走になるよ。ああ、飲み物は珈琲で」

「お、お邪魔しまーす」

「フェ……フェイト様ぁ、本当に大丈夫なんですか?」

「こんな敵地のド真ん中に…………」

「あ、ウチは緑茶があったら緑茶お願いしますー。
 いやー、魔法世界コッチ来てから和の物が全然食べれなくて…………」


 ハッハッハ、フェイト達まで来たのか。
 払いはクルトさんなんだから遠慮することはないよ。何でも好きなの頼んでいいから………………え?



「「アー「「「「「ちょっと隣の部屋まで来い!」」」」」……ウェ…………ルンクス?」」



 フェイトを見たタカミチとクルトさんが凄い勢いで立ち上がったけど、エヴァさん達の剣幕の前に沈黙しちゃった。
 僕も僕で思わず『固有時制御タイムアルター』とかONしたけど…………え? エヴァさん達何やる気?



「…………僕はネギ君に話しがあって来たんだけど」

「いいから来い! 月詠から聞いているんだろう!?」

「な……何なんですか!? フェイト様にいったい何の用があると「フェイトを男に戻したくない?」………………失礼、詳しく教えていただけますか?」

「…………あのー、皆さん何する気ですか?」

「大したことじゃないえ。ここには他にたくさん人がいるから、隣の部屋に行って話し合おうな。
 ネギ君、そんなわけでウチらちょっとこの子達とお話してくるわ。ネギ君はここでコレットさん達とお話しててーな」


 と言いつつ、調さん達と一緒にフェイトを引き摺っていくエヴァさん達。
 …………そりゃエヴァさんがいればフェイトだって変な真似は出来ないだろうけど…………ちびネギもいるし、大丈夫か。





「ネギ君…………アレどうしようか?」

「…………今すぐ戦闘を始めるわけにはいかないでしょう。
 ゲーデル総督。外にいる兵達に付近の住民を避難させるように言ってくれませんか。どうやらフェイト達は戦いに来たわけではなさそうですが、それでも何が起こるかわかりませんし」

「わ……わかりました。すぐ手配します。
 それと応援も呼んでおきましょう、セラス総長」

「わかったわ」

「妾は…………どうしようかの?
 ジャックやネギ達の側にいた方が、これから避難するより安全だと思うのじゃが…………」


 ええ、お願いします。でもテオドラ皇女は帰った方がいいと思いますよ。
 戦うのは僕1人で十分なので、兵隊達には住民の避難、タカミチ達は伏兵への警戒をお願いします。

 まあ、戦闘にはならないと思いますけどね。話があるから来たみたいですし。





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 そして10分後、ションボリした顔のエヴァさん達とガッカリした顔した調さん達、それに相変わらず無表情なフェイトが戻ってきました。
 叫び声が聞こえたりもしてたんですけど、本当に大丈夫だったんでしょうか?


「くそっ! 何故だ!?
 理論的には完璧だったのに…………」


 本当に何しようとしてたのさ、エヴァさん?


 それにしても随分と大勢集まったなぁ。

 僕達“白き角コルヌアルバ”に加えてタカミチやガンドルフィーニ先生一行の麻帆良関係者。それにトサカさん達拳闘団関係者にコレットさん達アリアドネー関係者。
 そしてラカンさんやテオドラ皇女にセラス総長などの魔法世界ムンドゥス・マギクスのVIPまで勢揃いだったのに、ここへフェイト達までもが合流してきたんですから。
 しかもレストランの周りは、クルトさんの私兵やアリアドネーの戦乙女騎士団の人達が囲もうとしているはずです。

 楽しいお茶会のはずが、一気にキナ臭い雰囲気になってきました。





「…………で、何しに来たのさ?」

「少なくとも戦いに来たわけじゃないよ。
 …………だからアチラコチラに潜ませた式神を何とかしてくれないかな。君と戦っても勝ち目がないということはわかっているから、コチラから手を出したりしないよ」


 お、ちびネギに気づいたのか。
 だったら安心かな。この包囲網の中でなら、そんな良からぬ事を考える余裕もないだろうし。


「さっきも言ったけどネギ君に話があって来たんだ。決して戦闘が目的ではない。
 でもあなた達が仕掛けてくるというのなら、僕としても周囲への被害も考えずに抵抗するしかないね」

「「「クッ…………」」」

「落ち着いてください、タカミチ、ゲーデル総督、セラス総長。…………何にせよ話があるのなら聞いてみようじゃないですか。
 話を聞いてる間に住民の避難や応援の要請をして戦闘の準備をしておけばいいでしょう。時間が経てば経つほど有利になるのはコチラなんです。
 …………それとフェイト。僕なら周囲への被害を出さずに君達7人を無力化する自信があるんだけど、そのことについてはどう思っているのかな?」

「…………その時は諦めるしかないね。
 僕達を取り押さえるというのなら、どうぞ御随意に」


 …………ム、少し面白くないな。僕の性格が知られているかも。
 僕のことをだいぶ調べたみたいだ。そういう言い方されたら手出ししにくい。

 グラニクスにいたとき、調子に乗ってインタビューとかでサービスしすぎたか。


 でも本当に何故僕の目の前に現れたんだ?

 僕相手に戦闘では勝ち目がないことはフェイトだってわかっているはず。フェイトにフェイトガールズ、それに月詠さんを合わせた7人相手でも、僕なら周りへの被害を出さずに一瞬で勝てる。
 というか敵に値するのは実質フェイト1人で、他の6人は物の数にもならない。月詠さんは数年後ならわからないけど、今はまだ無理。

 …………そういえばゲートポートのときは気づかなかったけど、月詠さんってメガネつけてないや。
 コンタクトレンズにでもしたのかな?





「ま、いきなり押しかけたのはコッチだからね。当初の予定通りに歓談を続けるといいよ。
 僕の話はクルト・ゲーデルのときと一緒でいい」


 …………そうやって下手に出られると逆に困る。僕から手を出す理由が見つからないじゃないか。
 僕は相手に手を出させてから反撃するようにしているから、“正当防衛”などの明らかな敵対理由がないと戦い難い。
 今までの経緯からして先手を打っても別に問題ないだろうけど、何考えてるかわからないのが不安だ。

 それにクルトさんとの会話を聞いてたみたいってことは、僕達がホテルを出てからずっと監視していたのか。
 殺気には敏感に反応出来る自信あるけど、殺気がなければ逆に気配察知は普通なんだよなぁ。

 でもエヴァさんやタカミチ、ラカンさんまでもが気付かなかったってことは、本当に戦いに来たわけじゃわけじゃないんだろう。


 それに時間が経てば僕達の方が有利になるのは間違いないからね。
 時間をくれると言うのなら素直に甘えましょう。

 このレストランの周りにはドンドン警備兵が集まっているだろうし、ラカンさんからもらった飛行船に積んである大量の式神符を遠隔操作で起動して街に放ったので、デュナミス辺りが別行動で何か企んでいても大丈夫。


 ちなみにちびネギへの命令オーダー唯ひとつオンリーワン、“見敵必殺サーチアンドデストロイ”。以上オーバー







「…………わかった。それなら好きに飲み食いして時間潰してて。
 払いはコッチのゲーデル総督持ちだから、遠慮しなくていいよ」

「ありがとう、ご馳走になるよ。クルト・ゲーデル総督」

「………………クッ!」


 悔しそうな顔をしないでくださいよ、クルトさん。
 コレットさんやトサカさん達みたいな一般人がいるここで戦闘を始めるのが好ましくないのは事実なのですから。

 それと今のうちにちびネギでレストランをスッポリ覆うような『魔力吸収陣』とか『念話妨害結界』とかの準備しておきますので、戦闘の準備はバッチリですよ。
 それと体内に遅延呪文ディレイスペルの埋め込み開始とかもしておきますので、いつでも『闇の咸卦法』を発動可能です。

 僕は前準備があればあるほど戦闘力を上げれますので、安心してもらって良いですよ。












━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━



 …………なかなかの珈琲を出すね、このレストランは。
 オスティアでは紅茶の方が有名だからあまり美味しい珈琲を味わえなかったけど、このレストランの珈琲は美味しい。
 暦君達が雑誌で見たことがあるという結構有名なレストランだけはある。





「さて、コレットさんやトサカさん達一般人は帰ったから話を始めましょうか。
 ゲーデル総督とフェイト、どちらから先に話をします?」

「…………私は彼女の……アーウェルンクスの話が終わってからで構いません」

「わかった。それじゃあ僕から話をしよう………………あ、その前に珈琲をもう一杯」

「…………次で4杯目でしょ。飲みすぎじゃない?
 よくそんなに飲めるねぇ。僕も珈琲は好きだけど、一度に2杯も飲んだら胃もたれするんだよ。
(『咸卦治癒マイティガード』使えば平気だけど)」


 へぇ、ネギ君は英国人ブリティッシュなのに珈琲も飲むのか。
 てっきり紅茶ばっかり飲んでいると思ってたけど…………。

 僕は逆に珈琲党だね。紅茶が嫌いなわけじゃないけどさ。

 それにしてもこの店は紅茶をブランジャーポット…………フレンチプレスで淹れているけど、普通はプランジャーポットって珈琲を淹れるのに使う器具じゃないかな?
 確か日本ではこういう使い方をするって聞いたこともあるけど、これだと紅茶が押し潰されるせいで苦味や渋みが出るんだよね。


 ま、そんなどうでもいいことは置いておこう。
 …………上手くネギ君を説得出来るかな?

 説得出来なかったら僕達は終わる。
 どうせ抵抗は無駄だし、誠意を見せるためにもネギ君に戦闘の準備の時間をあげたんだけど、本気で容赦なく戦闘の準備をされてしまった。
 レストランの周りには警備兵らしき気配が多数あるし、何よりレストランがスッポリといつでも結界で覆われるような準備がされている。結界が発動したら魔法が使えなくなるんだろうな。

 それにこの部屋の上の階にも足元の地面からも式神らしき気配がする。戦闘が始まったら一瞬で終わりだ。
 こんなことなら調さん達を連れてこなければよかったな。









「今日、君の前に姿を現したのは戦いに来た訳じゃない。
 平和的に話し合いと取引をしようと思ってね」

「降伏の申し出? それだったら自首後の口利きをしないでもないけど?」



 …………それが出来たら楽になれるんだろうけどね。
 さすがにそういう話をしに来た訳じゃないよ。



「そういう話じゃないよ。君は僕達が何者なのか……何を目的としているのかを知らず、状況に流されるままに僕達と敵対…………というか僕達を返り討ちにしているだけにすぎない。
 一度僕達の話を聞いて………………いや、単刀直入に言おう。僕達の仲間にならないかい?」

「ゴメン。僕の好みは年上の女性だし、誘拐してでも女性を手に入れようとは思わ「そういう話でもない」…………えー、だって君達は“ょぅι゛ょ誘拐犯コズモ・エンテレケイア”でしょ?」



 …………そこから説明しないと駄目なのか。
 高畑・T・タカミチやジャック・ラカンは今まで何をやっていたんだ。君達は本気で“ょぅι゛ょ誘拐犯”と命を懸けて戦ってたとでも言うのか?



「…………ネギ君、彼らは“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”。20年前の大戦を引き起こした原因です。
 その目的は“世界を終わらせること”でした」

「…………前から言いたかったんだけどさ。
 確かに彼らは年端もいかない少女を誘拐したことがあるけど、決して“ょぅι゛ょ誘拐犯”というわけじゃ…………」

「いや、知ってましたけど。
 さすがにアレを本気にしているわけではないですって。んなもんフェイト達を挑発するための冗談に決まってるでしょう」

「え?」「え?」「え?」



 …………ありがとう、クルト・ゲーデルに高畑・T・タカミチ。
 今だけは素直に君達に感謝することが出来るよ。

 というよりネギ君はわざとだったのかっ!?
 ネギ君はいつも表情が笑顔から変わらないから、本気なのか冗談なのかの区別がつき難い。僕とはまた違ったポーカーフェイスだ。



「そうだね。彼らの言っていることは間違ってはいない。
 そして君の母親…………アリカ・アナルキア・エンテオフュシアは“完全なる世界ぼくたち”の黒幕として処刑されたんだったね」

「ッ!? アーウェルンクスっ!!!
 違います、ネギ君! アリカ様は“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の黒幕などではありません!!!
 アリカ様はMMメガロメセンブリア元老院の手によって、不毛な戦争に疲れ果てていた不満と憎しみを押し付けられるための生贄にされたのです。
 本当に世界を救ったのは彼女だというのに…………っ!」

「いや、それも知ってましたけど。
 例の映画も見ましたし」


 怒らないでくれよ、クルト・ゲーデル。僕は別に嘘をついているわけじゃないんだからさ。
 むしろ喜んでもらってもいいんじゃないかな。元老院がひた隠しにして、この世界の誰もが知らなかったことをネギ君に教えてあげたんだからね。


 ネギ君に勝つのは無理だ。だったらネギ君を仲間にいれるしかない。
 “黄昏の御子”であるネギ君が仲間になってくれたら、魔法世界ムンドゥス・マギクスの再編などに関する問題も一気に片付く。

 そして彼の母親…………アリカ・アナルキア・エンテオフュシアは元老院によって生贄にされた。
 この件に関しては“完全なる世界ぼくたち”はノータッチだったから、僕から話しても別に問題ない。

 問題があるとするならクルト・ゲーデルの方だろう。彼は曲がりなりにも元老院議員でもある。
 どうやらクルト・ゲーデルもネギ君を仲間に…………良いように利用しようと思っていたみたいだけど、母親の件を知ったネギ君が素直に仲間になってくれるかな?
 クルト・ゲーデルの方からバラされていたらわからなかったが、既に僕がバラしたので今からではもう遅い。クルト・ゲーデルが何を言っても、言い訳のようにしか受け取れないだろう。


 …………ネギ君は既に知っていたみたいだけどね。
 それと何でジャック・ラカンは明後日の方向を向いて口笛を吹いているんだ?


「だったらわかるだろう。確かに以前は“完全なる世界ぼくたち”は敵だったかもしれないが、今の君の敵はむしろMM元老院なんじゃないかな。
 何しろ君の母親に汚名を着せて処刑をしようとし、それを助けた君の父親を反逆者として扱った。クルト・ゲーデルが言うように、彼らこそが世界を救った立役者だというのに…………。
 ネギ君…………君は恩を仇で返すようなMMのために働くつもりなのかい?」

「いや、働くつもりないけど」

「え?」「え?」「(ネギ君ならそうだろうなぁ…………)」



 …………随分とアッサリしているね。
 まあ、ネギ君が地位や名声を求めてるなんてのは思えないし、組織のために命をかけて動くような人間には思えないのは確かだけど。





「…………今のネギ君は子供だからまだいい。しかし君がもう少し大きくなれば、元老院は君を政治的に利用しようとするだろうね。
 母親のことは衆目に明かせないにしても、英雄ナギ・スプリングフィールドの実の息子だ。ましてや10歳という幼さで父のライバルであるジャック・ラカンに勝ってしまったんだ。英雄の後継として、元老院にとって都合のいい神輿にされるだろう。
 そしてその逆に君の事を危険視している元老院議員もいる。君は元老院にとっては神輿だけなのではなく爆弾でもあるからね。
 君は知らないかもしれないが、現に君が3歳の頃には君を暗殺しようと刺客を送られたこともあるんだよ。つまり元老院とはそういう連中の集まりさ」

「いや、それも知ってるけど」

「え?」「え?」「(…………多分、実際に襲われたとしても返り討ちにしてたんだろうなぁ)」

「そこら辺の事は、君達が麻帆良に送ってきたヴィルさんから聞き出したよ。
 ヴィルさんってその時に父さんに返り討ちにあったんだってねぇ」


 ヴィルさん? ………………ああ、ヘルマン卿のことか。確か彼の名前が“ヴィルヘルム”だったはずだ。
 そういえば彼はナギ・スプリングフィールドに会ったことがあるらしくて、その息子であるネギ君に会えることを随分と楽しみにしていたね。
 結局は情報も持って帰れずに、ネギ君に返り討ちにされたみたいだけど。

 そうか。ネギ君は彼から情報を聞き出していたのか。
 僕達に関しての情報はあまり与えていなかったから、僕達の目的などがバレているということはないと思うけど…………。





「…………そして君は気づいているかどうかはわからないが………………まあ、どうせ気づいているんだろうけど、君は『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を持つ“黄昏の御子”だ。
 この世界の創造神の娘の末裔の証である“黄昏の御子”には神代の魔法が宿る。
 元老院はオスティアの地と“黄昏の姫巫女”を手に入れるためにアリカ女王を陥れた。もし君がその“黄昏の御子”であることに気づいたら…………」

「いや、それも知ってるけど。
 あまり言い触らしていいことではないから黙ってるけどさ。
 だから昨日のラカンさんとの試合では『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を使わなかったんだよ。ゲートポート事件で提出した茶々丸さんの記録映像もちゃんと編集しておいたしね」


 …………そういう意味で昨日の試合では『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を使わなかったのか。
 てっきり楽しむために使わなかったのだと思ってたけど、ネギ君もちゃんと考えて行動しているのか。

 …………いや、ネギ君は常に考えて行動していることはしているな。
 天然さでわかりにくいだけかもしれないけど…………。


「…………だったら話は早い。悪逆非道なMM元老院に対抗するためにも、僕達の仲間にならないかい?
 “完全なる世界ぼくたち”は世界を終わらせるつもりだけど、それには理由がある。
 この魔法世界ムンドゥス・マギクスはね………………実はもうすぐ滅びの時を迎える。これは避けられない現実だよ」

「いや、それも知ってるけど。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスは火星に築かれた人造異界で、その異界を構成している火星の魔力がもうすぐ尽きるんだよね。このままのペースだと10年弱でこの幻想まぼろしが終わる。
 そして亜人みたいな魔法世界ムンドゥス・マギクス人も同じ幻想まぼろしなので、地球への脱出は不可能。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスが崩壊したら、生き延びられる可能性があるのはメガロメセンブリアの純粋な人間6700万人のみ」

「え?」「え?」「(…………マズイ。さっきからのクルトとアーウェルンクスの驚いた顔で噴きそう)」



 …………これも知っているのか。
 ネギ君は何でも知っているんだね。







「何でもは知らないよ。知ってることだけしか知らないさ。
 …………で、次は?」

「なぜ君がそのことを……っ!?
 この件についてはほとんど誰も…………まさかアルビレオ・イマが!?」

「いや、アルビレオ・イマさんからも聞きだしましたけど、その前から知ってましたよ。
 それに知らなかったとしても、魔法世界ムンドゥス・マギクスに来た時点で理解できたと思いますね」



 そう言ってネギ君はケーキの最後の一切れを、フォークで刺して口に運ぶ。
 そしてフォークを口から出したときにはフォークの先端が存在しなかった。

 …………フォークを魔力に分解して食べた? 
 確かにこういう食器なんかも魔法世界ムンドゥス・マギクスの存在で出来ているので同じく幻想まぼろしだ。

 『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』………………いや、もしかして既に『リライト』すら使えるのか? “黄昏の御子”の力を十全に扱えるとでも? 
 さっきからネギ君が予想外過ぎるんだけど。



「…………うん。えーっと…………そんなわけで僕達は滅びゆくこの世界を何とかしようと思っていたんだ。
 まず地球に移民するのは無理だ。幻想まぼろしである魔法世界ムンドゥス・マギクス人は元より、メガロメセンブリア6700万人の受け入れすら地球の今の情勢では無理だろう。
 そこら辺のことはわかっててもらえるだろう。ネギ君もクルト・ゲーデルも」

「まあ、そうだろうね。6700万人もの難民を受け入れる余裕は地球にはない。
 無理矢理にでも移民しようとしたら、地球の国家とメガロメセンブリアの間で泥沼の戦争になるだろうね」

「そういうこと。だったら残った方法は一つだ。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスに住む全ての存在は、例外なく世界から消えてもらう。君の力で魔法世界ムンドゥス・マギクスを書き換え、封ずることによってね。
 もちろん消えてもらうといっても殺す訳じゃない。書き換えられた世界=“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に移り住んでもらうだけさ。
 そこは永遠の園。あらゆる理不尽、アンフェアな不幸のない“楽園”と聞いている。

 …………。

 ……………………。

 ………………………………これは知ってた?」

「いや、想像はしてたけど確証は持ってなかったね
 ふーん………………“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”ねぇ?」



 よかった。ようやくネギ君の知らなかったことを教えることが出来た。
 さっきまでのことは全部ネギ君は知っていたみたいだから、情報を渡して仲間になってもらうという狙いが外れるところだった。

 でも知っていたということは、現状についてネギ君は肯定しているということかな?







「まあ、まずは魔法世界ムンドゥス・マギクスやそこに住んでいる人たちが幻想まぼろしであるということに対して、僕がいったいどう思っているかを言うけど………………ぶっちゃけ気にしない。
 そんなことは僕の仲間に茶々丸さんがいる時点で「ふーん……で、それが?」で終わらせることだからね」

「…………ネギ君ならそうなんだろうね」

「だいたい僕達との違いは、肉で出来てるか魔力で出来てるかの違いだけでしょ。
 この世界の魔力が尽きたら消え去るって言ってるけど、地球に住んでいる人達だって空気や水が無くなったら死ぬって。
 たいした違いじゃないじゃん」

「いや、地球の空気や水は無くなったりしないと思うけど…………」

「は? 何言ってんの?
 太陽風によって地球から1秒当たり水素は3kg、ヘリウムは50gずつ宇宙へ散逸しているんだよ。30億年後には北極と南極ぐらいにしか水は残らないとも言われているね」

「…………気の長い話だ」

「それで“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”なんだけど………………“殺人快楽者にとってはどういう世界になるのか?”みたいな疑問はとりあえず置いておこう。
 要するに現在の火星では生成される魔力より消費する魔力の方が大きい。だから省エネの“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に全員移動させよう、ってことでしょ。簡単に言えば」


 簡単に言えばね。
 ………………というか本当に簡単すぎるよ。


「確かに火星が生成する魔力は地球に比べて格段に少ない。これは生命活動が行なわれていないからで、生成というより太陽から降り注ぐ魔力ぐらいしか増える要素が無い。
 火星が出来てから約46億年。魔法世界ムンドゥス・マギクスが出来てからは約2600年。
 この2600年程で太陽から46億年分降り注いだ魔力を使い果たしかけているというのだから、現状のままでは確かに滅びは避けられないね」

「うん。だからこその“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”なんだよ。“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”ならその太陽から降り注ぐ魔力のみでも構成可能だ。
 この世界を滅びから救うには他に方法は無い」

「…………“地球人類が火星に殖民し始めたらどうすんの?”とも聞きたいけど、もっと根本的な疑問がある。
 というか…………さっき“永遠の園”って言ってたけど、“永遠”はさすがに無理だと思うけどなぁ。













































 だって…………太陽は123億年後には白色矮星になって光るの止めるんだよ。
 そしたら火星に魔力が降り注いでこないから“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”を構成し続けるのは無理になるけど、その時の対策法は考えているの?」













 は? 123億年後? 白色矮星?
 話のスケールが大きくなりすぎて、ネギ君が何を言っているのサッパリわからない。

 調さん達もあの太陽が光るのを止めるなんて理解出来ないみたいだ。
 確かにそれだと“永遠”というのは無理なのかもしれないけど………………アレ? そういう問題なのか?



「実を言うと僕でもこのことに関しては解決策を用意してたんだよ。今回の旅行はその解決策を実行出来るかどうかを調べるためでさ。
 これその計画書ね。とりあえずこれ読んでみてくれない。あ、ゲーデルさんもどうぞ」



 …………“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”?
 ちょっと待って。よく読んでみるからちょっと待って。

 もしかしたら僕達の今までの苦労を台無しにされるかもしれないけど、よく読んでみるからちょっと待ってくれ。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 斜め上過ぎる回答のせいで困るフェイトでござる、の巻。


 …………まあ、生命活動の無い火星に魔力が存在していた理由が、太陽のおかげなのかどうかはわかりませんが。

 そういえば自分が子供の頃は、“太陽が膨張してしまって最終的に地球すら飲み込むほど大きくなる”って聞いたことがあるのですが、現在の研究では地球は飲み込まれないそうですね。
 何でも太陽が膨れ上がると太陽の重力がそれにつれて弱まるので、地球が太陽からドンドン離れていくそうです。ですので太陽が膨張しても地球は飲み込まれずに済むそうです。
 つっても、そんなことになったら地球に住むことなんて出来なくなるのは変わらないですけどね。


 鎌倉幕府成立が1192年じゃなくなったりで、今の小・中学生の教科書がどんなになっているかに興味が出てきます。
 機会があったら読んでみたいですね。



[32356] 第94話 決裂
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/06/21 19:44



━━━━━ クルト・ゲーデル ━━━━━



「…………何というかさー、君達って中途半端だよね。
 そもそも魔法世界の住人が幻想だというなら、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に移住させずにそのまま消滅させちゃえばいいのに」

「「「「「は!?」」」」」

「魔法世界の住人が何も知らない木偶でこの現実に存在する必要が無いというのなら、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に移住させるなんてメンドイことはせずに消滅させちゃえ、って言ってるんだよ。
 君達は矛盾している。魔法世界の住人が何も知らない木偶人形だと言っているくせに、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に移住させて幸せにしようとしている。
 何で人形を幸せにする必要があるの?
 もういらなくなった人形ならタンスに閉まって場所塞ぎにするより、ゴミの日に出してスッキリさせればいい。幸せな世界に連れて行くという事自体が、彼らを人形と思っていない証拠だろうに。
 君達は中途半端なんだよ。相手を木偶人形と思っているなら全て捨てろ。相手を人間だと思っているなら崩壊を防ぐ方法を探すのを最後まで足掻けよ」



 もうやめてあげてください。アーウェルンクスのライフはゼロです。

 そんな言葉が浮かんでくるほどネギ君の言葉は辛辣ですね。
 アリカ様も厳しいところが御有りでしたが、そんなところに似ているのでしょうか?



 いや、しかし…………この“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”とやらは…………え? これ本気で出来るのですか?
 この計画を実行出来たのなら根本的な解決にはならないまでも、計算上では再び千年単位の延命が出来るみたいですね。

 何しろ魔力の供給元は太陽に尤も近い水星です。
 いくら水星が火星より小さいとはいえ、太陽から降り注ぐ魔力の量は距離の関係からして火星より多いのは明白。
 何しろ水星の大きさが火星の2/3だとしても、水星から太陽までの距離は火星-太陽間の1/4程度ですからね。

 それにこれが出来るなら、水星だけではなく他の惑星からも魔力を供給出来ることにでしょう。
 そうすればますます延命をすることが出来ますね。


 問題としては根本的な解決にはなっておらず、あくまでも延命策であるということですが、それも千年単位で延命出来るなら別に問題ありません。
 その千年の間に根本的な解決策を見つければいいだけですからね。

 先ほどのネギ君の話ではこの魔法世界ムンドゥス・マギクスが崩壊するまで10年弱とのことでした。
 そこまで短いというのは予想外でしたが、それもこのプロジェクトが実行されるの問題ありません。

 ましてや既に試作品で実地試験が完了しており、麻帆良では既に量産体制が整えつつあるとのことです。
 10年といわずに、プロジェクトを実行してから1~2年で効果が出始めるでしょう。


 製作担当者は…………麻帆良学園の葉加瀬聡美さんですか。
 是非とも一度お会いして、これからのことについて相談させて頂きたいですね。







「ん? …………何だか取り返しのつかないことを計画書に書いた気がする。
 具体的には“このロリコンめ!”と将来叫ばなきゃいけなくなるような…………?」

「は? …………そんなことより、ネギ君は“偉大な魔法使いマギステル・マギ”を目指しているんじゃないのかい?
 そんな人間が何故そんなことを言うんだ?」

「いや、別に僕は“偉大な魔法使いマギステル・マギ”を目指しているわけじゃないよ。
 魔法の勉強とか修行自体はただの僕の趣味」

「…………何故だ? 何故ただの趣味なんかでそこまで強くなれる!? 人間というものはそんなものじゃないだろう!
 君がそこまで戦う力を得ることが出来たのは、皆を守るという誇りがあったからじゃないのか!?」

「別にそこまで考えていなかったね。“守る”って言われても、僕が住んでいたところは平穏そのものだったからさ。
 …………ああ、でも父さん達のことを知ってからは、確かに“皆”ではなくて“僕の周りにいる親しい人”は何をしてでも守ろうとは思ったよ。
 でも母さんみたく、自らを生贄にしてまで見ず知らずの世界の人達を助けようとは思わない」

「ネ、ネギ君! 確かにアリカ様のことは私としても納得出来ておりません!
 ですので是非とも私と一緒に元老院と戦い、アリカ様のの汚名を晴らすべきなのです!」

「……………………」

「ネギ君! 君の力は本物だ! 力だけでなくこのプロジェクトのような発想も! 全く以て空前絶後で前代未聞です。
 正直、実際にこの場所にいる私でも、どこか現実感がないところもあります。何しろ解決不能と思っていた問題をアッサリと解決させてしまったのですから。
 だけどネギ君、その力があれば君は世界を救える!!!」



 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”残党を今度こそ滅ぼし、元老院を打ち倒して世界に20年前の真実を告げる。
 そうすればアリカ様の汚名も晴れ、この未だ各地で戦争の火種が燻る魔法世界ムンドゥス・マギクスに平穏が訪れる道筋を作れます。

 もちろんヘラス帝国やアリアドネーからの協力も必要ですが、魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊危機の事実を明らかにすれば、ネギ君の“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”に対しての協力は惜しまないはずです。
 何しろヘラスもアリアドネーも住民のほとんどが亜人。魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊と共に消え去ってしまう人達なのですから、まさか邪魔をするような馬鹿はいないでしょう。


 …………とはいえ、このプロジェクトまでもが成功したら、ネギ君の影響力が些か強くなり過ぎますかね。
 アリカ様の息子であるネギ君の影響力が強くなるのは、私としてはまったくもって構わないのですが、ヘラス帝国などには主導権を握られることに対しての警戒心が生まれるかもしれません。
 プロジェクト自体に対して協力を惜しむことは無いでしょうが、ネギ君が危険視されることは避けたいですね。


 くっ! こうなってはテオドラ皇女やセラス総長がこの場にいないのが残念です。
 流石にオスティア終戦記念祭代表であるリカード議員やテオドラ皇女は避難していただかないと困りましたし、セラス総長はレストランの外で警備隊の指揮を取っています。

 もしこの場にいたらネギ君への協力を確約してくれたのでしょうに…………。





「ネギ君、その強大な力を持っている君は一体ナニをすると言うのです? 平和な国の学園に戻って平穏に暮らす?
 いやいや小さすぎる。君はそんな小さな男ではないはずだ。力を持つものは世界を救うべきなのです!」

「…………おい、クルト。そこまでにしておけ」

「黙っていろ、タカミチ! ネギ君の力があれば本当に世界が救えるんだ!
 …………ネギ君。君の父君は戦の後の10年間、身を粉にして尽力しましたが、まだまだ世界に理不尽は満ちています。
 大英雄の息子であり、自らも拳闘士として勇名を馳せ、世界最古の王国の血を引く最後の末裔の一人ですらある。
 この世界の始祖の末裔。その血はこの世界の正当な所有者の証で、尚且つそれは君の『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』で証明可能です」

「……………………」

「例の映画を見たと言うのならMM元老院の悪逆非道、君の父と母がいかに世界のために尽力したかおわかり頂けたでしょう!
 さあ、ネギ君。我々と共に闘いましょう。父と母の意志を継ぎ世界を救う。これこそが君の今回の旅の結論のハズです!」




































「さっきから聞いてれば随分と勝手なことを言いますね、ゲーデル総督。
 僕は母のように自らを生贄にしてまで見ず知らずの世界の人達を助けようとは思わない、と言ったばかりの筈ですが?」









 殺気っ!? …………ネ……ネギ君?
 何で私を“この男……何勝手なことほざいているんだよ。殺すぞ!”みたいな目で見るんですか?


 ネギ君から発せられた殺気で思わず立ち上がってしまいましたが、明らかに気分を害してしまっているようです。
 私だけではなくタカミチやアーウェルンクス、それにジャック・ラカンまでもが立ち上がってネギ君を警戒しています。アーウェルンクスの従者のお嬢さん達に至っては眼鏡の一人を除いて怯えてしまっている始末。

 …………対するネギ君の従者、師匠マスターの御息女方はただただ苦笑いを浮かべているだけです。
 このお嬢さん方はどれだけ肝が据わっているのですか!?



「…………だいたい10歳の僕にそこまで何でもかんでも頼らないでくださいよ。
 既に世界を救う方法は教えました。ですのでそこから先はあなた方の仕事です」

「し……しかしネギ君! 確かにこのプロジェクトを行なえば魔法世界ムンドゥス・マギクスの危機は防げる!
 だがそれでも世界各地にはまだ戦争の火種が燻っており、理不尽なことで命を落とす人々はたくさんいます。ネギ君が協力してくれるのなら、その理不尽で命を落とす人達を救うことが出来るでしょう!
 君にはそれだけの力がある!!!」

「そして僕は母と同じ末路を辿るんですか?」

「……なっ!?」



 …………しまった。そういうことですか。
 私としたことが思わぬ展開に、ネギ君のことを考えないで急ぎすぎてしまったようですね。
 例えネギ君が世界を救ったとしても、アリカ様のように罪をでっち上げられて功績を横取りでもされるとしたら…………。

 ネギ君は、自分がアリカ様と同じ目に遭わないかを警戒しているのですか。


 確かに全ての事情を知っているとなると、そういう考えに至ってもおかしくはありません。

 アリカ様は致し方なかったとはいえ、世界を救うために自らの国を滅ぼすという辛い選択をなされました。
 しかしそのアリカ様に待っていたのは、戦争を引き起こした“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の黒幕の汚名と、戦争で疲れ果てていた不満と憎しみをぶつけられる生贄としての末路です。
 ナギがアリカ様を助け出さなかったら、アリカ様は本当に悔恨と諦観の念を持ったまま亡くなられていたでしょう。


 そんな末路を辿る寸前だったアリカ様を知っているネギ君が、この魔法世界ムンドゥス・マギクスを救うなどという選択をするのでしょうか?


 むしろネギ君は魔法世界ムンドゥス・マギクスという存在を憎んでいてもおかしくはない。
 ヘタをしたら本気で“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”と手を組んで、アリカ様に汚名を着せたこの魔法世界ムンドゥス・マギクスに復讐してもおかしくはないでしょう。


 …………むしろソチラの方が普通なのかもしれませんね。

 ましてや私は“紅き翼アラルブラ”と袂を分かれて元老院議員になった男です。
 ネギ君が私に警戒しない方が逆におかしいです。魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の危機から免れる計画を教えてくれただけでもかなりの譲歩なのでしょう。





魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊は現実世界ムンドゥス・ウェトゥスにも悪影響を及ぼす可能性が大きい。だからその崩壊を防ぐのには協力します。
 ですがそれ以降のことについては、僕が何かしなければならない義務はありません。母だってもう既に王族でもなくなっているので、その息子である僕はオスティアの民への責任を果たす義務も無いですからね。
 そもそも僕には母の想い出すら無いっていうのに…………」

「しかし…………この世界はアリカ様やナギが命を懸けて救った世界で…………」

「世界を救ったのが母ならば、その母を生贄にしたのがこの世界なんですよ。労いの言葉一つ無く、汚名を着せて処刑しようとしましたよね。
 そんな世界のために僕が働かなければいけない義務があるとでも?」



 マ……マズイです。ネギ君がこのように思っていたとは…………。
 今までの拳闘士として受けていたインタビューからは想像もつきませんでした。

 しかし、これはこのような事態になりうる可能性を考えていなかった私の落ち度です。
 少し考えれば想像がついたことだったのに…………。


 心の何処かでアリカ様とナギの息子ならば、世界を救うことに対して異論は持っていないのだと思い込んでいたのかもしれません。

 だがネギ君は大人びているとはいえ、まだ10歳。
 10歳の少年がアリカ様が受けた仕打ちを知れば、このような考えに至るのも無理ありません。
 急ぎすぎずに丁寧にネギ君を説得していればまた違った結果になったかもしれませんが、今となってはもう後の祭り。


 申しわけありません、アリカ様。私の考えが足りなかったばかりに、ネギ君の信頼を得ることが出来ませんでした。
 ネギ君の協力さえ得られれば元老院の虚偽と不正を暴いて、アリカ様の汚名を晴らす事など簡単だったのに…………。

 …………そもそもネギ君を操ろうと思っていた私が言えることではないのかもしれませんが。




































「…………可哀想やから、少しは手伝ってあげてもええんちゃう?

「え? …………まあ、木乃香さんがそう言うのなら…………」



 何で師匠マスターの御息女の言葉でならそんなアッサリとっ!?!?












━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━



「それに何やかんや言ってるけど、ネギ君だってトサカさんみたいな人達なら助けたいって思ってるんやろ?」

「…………まあ、確かにトサカさん達にはお世話になりましたしからね。
 それに未だにあれほど母を慕ってくれている人達ですから、何かあったなら力を貸すことは吝かではないですが…………」

「え? ト……トサカというと、先ほどまでいた人のことですか?」

「そうやよー。トサカさんはオスティア出身でなぁ。
 元老院の嘘に騙されたりせず、“災厄の女王”にされてしまったお義母さまのことを今でも慕ってくれている人なんよ」

「そ……そうなのですか。それは嬉しいですね。
 …………っ!? ならネギ君! そのトサカのような、各国に流出したオスティア難民には未だに苦しい生活を送っているのもいます!
 せめて…………せめてそういう者達を救うことだけにでも協力してください! これに関してばかりは、アリカ様も絶対に望まれるであろうと断言出来ます!!! ……………………って“お義母さま”?」

「…………救うと言っても…………僕に一体どうしろと?
 オスティア墜落で発生した難民は百万単位でいるんです。そんな大勢の人達を救うとなると、廃都となったオスティアを復活させて再び生活の場を与えるぐらいしないと駄目ですよ。
 ですが廃都となったオスティアを復活させるなんて……………………いや、魔力消失現象はもうすぐ消えるから…………うん、それぐらいなら出来るかな」

「出来るんですかっ!?」

「出来ると言ってもガワだけです。
 元老院の影響力も排除しなければ結局は元の木阿弥ですし、ヘラス帝国などとのパワーバランスがどう変化するかわかりません。ヘタをしたら、オスティア復活させたのはいいけどMMとヘラスの両方と敵対する羽目にもなりかねませんよ。
 そこら辺の政治関係のことは、まだ僕も詳しくは把握していないので何とも…………」

「でしたら私がお手伝いします! 私にお任せください!
 私が“紅き翼アラルブラ”と袂を分かち、元老院議員となって権力を求めたのはこのときのためだったのですから!!!」





 あー…………ゲーデルはん、詐欺に引っ掛かったりしなければいいんやけど。
 やっぱりゲーデルはんの根っこは映画で見た、小さいときのゲーデルはんと変わっていないようやなぁ。
 徹底的に攻め立ててから一転して優しくするなんて、ありきたりな脅しの手口やと思うんやけどね。

 でもこれでネギ君とゲーデルはんの間の主導権は、明らかにネギ君のものになったわぁ。



 …………え? 別にウチは別にあらかじめネギ君と打ち合わせとかしてたワケやあらへんよ。
 ネギ君がさっき言った、どういう感じに魔法世界ムンドゥス・マギクスのことを思っているかを聞いたことはあるけどなー。

 さっき言ったことはネギ君の本心やし、もちろんトサカさんみたいな人達なら助けたいというのもネギ君の本心や。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスを助けるのは別に構わないけど大人のええように使われるのは嫌やし、何よりウチらのことをほっぽいてまでは助けたくないんやって。
 もうネギ君たら、甘えんぼさんなんやからぁ。

 とはいえ、そのウチらが“手伝ってあげれば?”と言うならネギ君だって断る理由はないみたいや。
 ウチらだって世界に平和が訪れるのならその方がええし、何よりオスティアを復活させて一夫多sゲフゲフンッ!



 …………ネギ君としては助けるのはいいけど、明確な理由がなければ助けたくない。
 だけど魔法世界ムンドゥス・マギクスの人々を救うため、というのはお義母さまのことから理由にしたくない。
 でもウチらが言うんやったら別に構わない。


 …………まあ、一言で言えばネギ君は“ツンデレ”ということや。

「か……勘違いしないでくださいよねっ!
 これは木乃香さん達の為であって、別にあなた達の為じゃないんですからねっ!」

 って感じのなぁ。それによって生じるゲーデルはんとの力関係はあくまで副次的なものやね。
 とりあえずいいように使い捨てにされるのが嫌みたいやから、こういう反応をしておけばそんなこと企む人も減るやろ。







「…………わかったわかった。わかりましたよ。
 とりあえずその辺の話はまた今度にしましょう。この場での話はまだ終わっていないんですから」

「そ……そうですね。失礼。少し興奮してしまったようです。
 しかしネギ君がそれをお望みになられるのなら、私は全身全霊を以ってネギ君の手伝いをさせて頂きます。それだけはお忘れなきよう…………」

「ええ。その時になったら期待してますよ。
 さて、フェイト。話が中断してしまったね。話を再開しようか」

「…………いや、もういい。
 君とは分かり合えないことが今のでようやくわかった」


 そう言って席を立つフェイトちゃん。
 おや? ネギ君を仲間にすることは諦めるん?


「ネギ君、確かにこのプロジェクトなら魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊の危機を食い止め、その間に根本的な対策を考えるだけの時間を得ることが出来るかもしれない。
 しかし…………それでは今までと何も変わらない。クルト・ゲーデルが言った通り、世界に理不尽が満ちたままだ」

「え? …………もしかして、君達の目的って救済の方が主目的なのかな?
 君達は魔法世界ムンドゥス・マギクスが崩壊してしまうから次善の策として“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に連れて行くんじゃなくて、魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の危機とは関係なしに人々を救うために“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に連れて行こうとしているのかい?」

「そうだよ。君みたいな強者にはわからないかもしれないけどね、今もこの世界は紛争が続いていて踏み躙られている人々がたくさんいる。
 君が選んだその道ではそういう人々がずっと増え続けていくだろう。…………いや、そもそも君はそういう人達を救おうとすら思っていないから、もうそれ以前の問題だよ」

「ああ、そうだったんだ。
 …………少しばかり予想とは違ったな。てっきり魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の危機を防げば、君達も納得してくれると思っていたんだけど…………。
 そうか、“世界の救済”の方が主目的なのか………………うん。じゃあ、こうしよう。希望者だけは“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”は連れて行ってもいいよ。君の後ろの子達とか。
 だけど世界丸ごとは駄目。それなら問題ないだろう?」


 あってそうで、それでもやっぱりどこか間違ってそうな答えやな。
 ネギ君もわかってて答えているんやろうけど。


「…………そういう問題じゃない。
 君ってさ他の人…………自分の大切な人以外のことなんてどうでもいいんじゃないかい?
 そんな他人のことなんかどうでもいい人間達のせいで、今もこの世界の何処かで不幸が起きているんだよ」

「やだなぁ。他人のことなんかどうでもいいなんて思っているわけないじゃないか。
 大切な人を守るためにも、他人のことを良い意味でも悪い意味でも気にかけておかないと駄目だろう。
 何しろ木乃香さんを誘拐しようとしたり、不意討ちで『石の槍ドリュ・ペトラス』で刺してくるような人達がいるご時勢だしね」

「…………いや、そこら辺については悪かったよ。謝る」

「はいはい。それじゃあ、君が女の子になってしまったこととでチャラね。
 うん。これでもう気にしなく済むようになった」


 やった! これで“責任”についてはもうチャラや!
 あの性転換薬が効かなかったときは絶望したけど、これで憂いはなくなったわぁ。







「まあ、フェイトの言っていることもわかるよ。僕だって自分はワガママだと思うし。
 …………けどね、フェイト。僕は彼女達のことが大切で、守りたいと思っている。父さんが母さんを救ったみたいに」

「……………………」

「僕は確かに強いさ。多分、魔法世界ムンドゥス・マギクスで僕に勝てる人はいないだろう。
 けどそれはあくまで個人の力だ。僕一人ではMMやヘラス帝国みたいな国には勝てないだろう」

「「「「「……………………」」」」」

「…………え? 何その沈黙? 明らかにその前の沈黙とは感じが違うんだけど?
 ………………何故目を逸らす?」

「いいから話しを続けてくれ」

「こっち見て話せや。…………うん? MM……ヘラス…………国………………うん、クニニハカテナイトオモウヨ。
 …………ま、そんなことはともかく、まだ10歳の子供でしかない僕の手は身近な人を守るぐらいが精一杯なぐらいに短い。それなのに守るべきものをそうポンポン増やしてたら、守れるものも守れなくなっちゃうよ。
 つーか仕事しろや、元老院議員」

「…………全力でこのプロジェクトの支援をさせて頂きます」

「要するに、君は世界よりも彼女達の方が大切だと…………?」

「ん? んー…………“大切”という言葉は適切じゃないかな?
 世界がなければ彼女たちとも一緒にいられないのは確かなんだから………………ああ、アレだ。「仕事と私のドッチが大切なのよ!?」って質問と同じだね、それは。
 もしくは「剣を握らなければお前を守れない。剣を握ったままではお前を抱き締められない」ってオサレ風に言ってもいいけど。
 だからそれに対する僕の答えは「彼女達を守るために世界を救う」…………かな? まあ、世界を救うのは約束してもいいけど、世界中の人全てを個人レベルで救うなんてことはさすがに無理だね。
 …………というか、幸せぐらい自分達の力で掴み取って欲しいな。口開けて親鳥から餌を与えられるだけを待ってる雛鳥じゃあるまいし」

「だが“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”なら全ての人達に幸福を与えられる。
 それを無視してまで君は僕達と敵対するのかい?」

「そういうやり方で幸福になりたいなら麻薬でも打ってろよ。打ち続けたら死ぬまで幸福の中にいられるよ」

「…………“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が麻薬と一緒だと?」

「他人を巻き込むから余計にたちが悪いけどね。
 別に“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に逃げ込むのはいいけど、他人を強制的に巻き込まないでよ。
 この理不尽な世界でも幸せに生きている人は確かにいるんだ「あなたなんかに何がわかるんですかっ!!!」…………ん?」

「フェイト様は仰いました! 「世界を変えよう」って!!!
 あなたは確かにこの世界の崩壊の危機から救うかもしれない! けど…………それでもあなたのやり方では世界は変わらない! そもそも変えようと思っていないじゃないですか!!!
 神々に祝福されて生まれたあなたのように人間には! 名もなき敗者の気持ちなんてわかりません!!!」

「し……調、殺されるぞっ!」

「…………このぼーずを祝福してるのは神じゃなくて悪魔の側だと思うんだけどなぁ…………」


 アカン。ゲーデルはんへの殺気のせいで、完璧ネギ君が勘違いされとる。
 ネギ君が女の子を殺したりするわけないやん。

 あとラカンはんの呟きは無視で。


「僕は他人の気持ちがわかる、なんて傲慢なことを考えたことはないですよ。
 …………ハッキリ言って、僕は俗人です。欲しいものは欲しいし、背負いたくもない責任は背負いたくない。それこそMM元老院議員のような人達と同じかもしれませんね。
 まあ、敵ならともかく、中立の他人を蹴落としてまではしないですけど」

「…………それだけの力があって、どうしてそこまで彼女達のことを?」

「え? いや、だって…………そういう仲になった女性達がいるとなると、その女性達のことを一番に考えないと不義理じゃないですか。…………そもそも女性って時点でかなり不義理なんですから。
 だいたい女性とそういう仲になるのは初めてだっていうのにいきなり複数の女性と付き合うなんて難易度の高すぎることをやってるなぁと自分でも少しあきれてるところがあったりでも一人だけを選べないヘタレな僕にはそんなこと言う資格がないんだし将来を本気でどうしようと今から悩んでいるから他の事まで手が回らないのは確かだしそれに僕が大人になるまでに皆さんに他に好きな男が出来たらどうしようとか不安だからせめて僕が皆さんだけを見るようにして皆さんを優先にしないと申しわけないというか捨てられたら怖いというかとにかく僕が皆さんに出来ることは全部しなきゃ…………」

「ネギ君! 落ち着いて!」


 紅茶のカップを持ってる手が震えとる!
 『咸卦治癒マイティガード』でも発動して心を落ちつかせ………………え? 既に発動済み?
 発動済みでコレ!?


 あー…………ネギ君がウチらのことを受け入れてくれたのは嬉しいんやけど、最近のネギ君は少しテンパリすぎやなぁ。
 色々なことに対しては吹っ切れたみたいやけど、どうも“私達のことを大事にしなければならない!”って気持ちが多すぎるような気がするんやよ。

 ちょっと気持ちが空回りしすぎているというか…………。





「…………もういいよ。これ以上は話すだけ無駄だ。
 まあ、君が一人の人間として間違っているとは思わない。“幸せになりたい”というのは正しい願いだからね。他人を押し退けても幸せになりたいというのなら別だけど、君は降りかかる火の粉以外はどうでもいいと思っているみたいだし。
 けど僕達の目的が間違っているとも思わない。だからこれ以上話しても、お互いにずっと平行線のままだろう。
 …………というか、何で調さんには敬語なの?」

「え? だって調さんって人の方が僕より年上だろう。
 ああ、それと言っておくけど、彼女達に危害加えようとしたら本気で容赦無く殺すからね」

「…………君はやっぱり変な人だな。
 変というか非常識の中にポツンと常識があるから、その常識さが異様に思えるというか…………」

「よく言われるよ。
 フェイト…………って、そういえばゲートポートでデュナミスって人が君の事をテルティウムって呼んでいたっけ。そっちが本名なのかな?
 テルティウム、これから一体どうするつもりだい?」

「…………ああ、確かにテルティウムが本名だけど、フェイトって呼んでくれ。本名は嫌いなんだ。
 僕達は何も変わらないさ。これからも目的を果たすだけだ」

「…………そうか。僕が言うのもなんだけど頑張ってね。
 とりあえずこの場は穏やかに交渉決裂とするつもりだから、大人しく帰るなら僕は邪魔しないよ。外のセラス総長率いる戦乙女騎士団は知らないけど。
 ああ、暴れてコッチに被害が来るようだったら、同じく容赦しないで殲滅するから」

「警備兵ぐらいなら問題ないよ。
 それとこの場は穏やかに別れるというのは賛成だ」

「そうかい。…………多分、こんな風に穏やかに話すのはこれが最初で最後だろうね。
 というか勝ち目あると思ってるの? こう言っちゃなんだけど僕は強いよ。切り札でもあるのかわからないけど、どうやって僕相手に君達の目的を果たそうとするんだい?」

「そんなこと言えるわけないじゃないか。…………でも、確かにこんな風に話すのはこれが最初で最後だろうね。
 ご馳走様。それじゃあ今度会うときは敵同士だ」

「うん、そうだね」

「さようなら、ネギ君。
 有意義な時間だったよ。僕達が勝つにしろ君達が勝つにしろ、少なくともこの世界は崩壊しないことがわかったんだから。
 その点については礼を言っておくよ」

「わかった。今度会ったら容赦しないよ」

「…………少しは容赦してくれたら助かる」

「だが断る」



 そう言って帰っていくフェイトちゃん達。
 …………まあ、この場で戦闘にならなくて何よりや。ネギ君はどうやって対処するつもりなんやろか?


 でもなぁ、ネギ君もちょっと落ち着いてもらわなきゃアカンなぁ。
 この前もアスナにセクハラしようとしたラカンさんの指折っちゃうし。………………ん? それは別に正当防衛なんやからええのかな?

 ウチらのことを想ってくれるのは嬉しいんやけど、義務とか義理とかで想われるのは嫌や。
 まあ、いきなり何人もの女の子と付き合うようになったら、色々と焦ってしまうのはしょうがないけどな。

 きっともう少ししたらネギ君も落ちついて、元のネギ君に戻ってくれるやろ。
 ネギ君なら大丈夫や。













































「…………まあ、他人の“気持ち”はわからなくても、他人の“考えていること”ならわかるんだけどね」





 そしてそう言って背中に隠していた“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”を服の中から取り出し、新たに書きこまれたことを確認するネギ君。
 きっとウチらがフェイトちゃんを別室に連れて行ったときに用意したんやろね。

 “今度会ったら容赦しない”って言ってたけど、もう今から既に容赦してないやん。



 …………うん。ネギ君なら大丈夫やな。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 アスナさん達を一瞬たりとも痛め泣かせるような事があったら、我魂魄百万回生まれ変わっても怨み晴らすからなぁぁあああっ!!!



 …………最近のネギ君はちょっとテンパリ気味です。
 まあ、いきなり複数の女性と付き合うことになった魔法使いですから仕方がありません。



[32356] 第95話 メメント・モリ
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/06/24 09:18



━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━



 夜空に花火が上がり、中空に浮遊している戦艦を照らす。
 そして眼下には舞踏会に参加するために煌びやかな衣装を纏った大勢の人達がいる。

 …………人達っていっても、あの中のどれくらいが本当の人間なのかな?
 残りは何も知らない哀れで儚い木偶人形達。

 人の自我など錯覚による幻想に過ぎない…………などと言ったところで、この場合は慰めにもならないね。



 …………いや、余計なことを考えるのはよそう。
 とにかく今はこの陽動を成功させることだけを考えなければ。

 もう一日もすれば4番クゥァルトゥム5番クゥィントゥムも起動出来るだろう。
 だが、それと同じくらいにゲートポートに魔力が充分に集まり、魔力枯渇地域だったはずのゲートポート周辺に浮遊岩が現れるなどの変化が現れもする。

 そしてネギ君がそれを嗅ぎ付けたら、何らかのアクションを起こす可能性は充分にある。
 その前にネギ君を足止めしなければ。


 …………まあ、簡単に言ってしまえばただのテロなんだけどね。

 世界中のVIPが集まるこの舞踏会を引っ掻き回し、最後には墓守り人の宮殿の反対方向に逃げるのをネギ君に見せつける。

 VIPに被害が出れば騒ぎになって時間稼ぎに出来るだろうし、少なくともクルト・ゲーデルなどは後始末に追われることになるだろう。
 下手に凝ってもネギ君に引っ繰り返されるだけだろうから、あえて単純な策でいく。


 幸いゲートポートで手に入れたネギ君の血を利用することによって、主の力…………“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”は扱えるようになった。
 デュナミスがこの一ヶ月頑張ってくれた甲斐があるよ。クゥァルトゥムとクゥィントゥムの調整もあったろうに…………。

 ネギ君には効かないだろうが、これでジャック・ラカンみたいな人形達には絶対的なアドバンテージを持てる。
 ネギ君一人でもいっぱいいっぱいなのに、さすがに“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”無しでジャック・ラカン達まで相手にするのは大変だからね。

 それに“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”を使えば召喚魔獣なども楽に呼び出せる。
 これでネギ君以外の連中は問題ないだろう。


 …………そのネギ君一人をどうすればいいかはまだわからないんだけどさ。













「せっかくの舞踏会なのにドレス姿じゃなくてもいいのか?
 それと招待状はあんのかよ?」


 …………ジャック・ラカン。何故ここに?
 いや、それより彼に気づかれたということは、ネギ君にも気づかれているということか?


「…………あなたが出てくるとは意外だな。
 世界のコトなどどーでもいい人だと思っていたけど」

「なぁに……世界はまぁ、どーでもいいんだが、ダチの息子に説教されてなあ。
 “いいから少し警備員としてでも働け、このごく潰し”ってな!!! ………………オジサン世代としては、少しはいいところ見せないといけないしよぉ」


 マズイ。彼と戦闘になったとしても“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”がある限り負けはしないだろうけど、戦闘が派手になることは間違いないだろう。
 時間をかけたらネギ君までも現れるかもしれない。


 こんなことなら環君を連れてくればよかった。ネギ君に発見された瞬間に瞬殺されそうだったから、月詠さんも含めて全員置いてきたけど。
 環君の“無限抱擁エンコンパンデンティア・インフィニータ”ならば、一度展開させて異空間に移動さえすればさしものネギ君も戦闘に介入出来ないだろう。

 それを使ってジャック・ラカンなどの強者を各個撃破していってもよかったな。
 ここに来たのは僕と調整が終わって手の空いたデュナミスだけだ。残りの戦力はデュナミスの召喚魔で補う予定だった。

 少数精鋭で来たのが裏目に出たか。
 しかしジャック・ラカンは無視しておくことは出来ない。テロの実行はデュナミスに任せて、僕はジャック・ラカン撃破に専念することにしよう。





「フム、この少女が“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”とな。
 …………最近は変わった子供が多いのかもしれぬなぁ」


 ? …………ポスポラスのカゲタロウ? 彼まで何故ここに?
 そもそも昨日の試合の怪我は大丈夫なのか? 派手に腹を突き破られていたけど…………。

 彼もネギ君に言われて僕の撃退に来たのか?
 昨日の試合で見た感じでは腕が立つし、ジャック・ラカンとの二人がかりなら僕を確実に仕留められると思ったのかな?
 確かに前までの僕だったら、この二人相手には勝てる可能性は少なかっただろう。

 だが所詮彼も“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”の前ではただの人形。
 “造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”を知らないせいとはいえ、ネギ君も選択を間違ったね。この二人では今の僕には勝てない。

 でもこれでネギ君に一泡吹かすことが出来るかな。
 彼ら相手に使用するのは反則とも言えるかもしれないが、これは純粋にお互いの願いをかけた戦いなんだ。

 卑怯とは言うまいね。






「やれやれ。あなたは何年経っても変わらないですねぇ、ラカンさん」

「ラカンさん、出るの早いですよ。
 準備が整うまで待ってくださいよ」


 !? …………高畑・T・タカミチにクルト・ゲーデル。彼らまで来たのか。
 マズイな。彼らは正真正銘の人間だから、“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”が効かない。
 それに彼らは実力的にも侮れない。一対一ならまず負けることはないとはいえ、二人いるうえにジャック・ラカン達までいる。

 やれやれ、これは大変な仕事になりそうだ。





「…………よぉ、フェイト。
 なぁ、もう終わりにせぇへんか? お前らじゃネギには絶対勝てないで」


 犬神小太郎君まで!?
 どんな修行をしたのかわからないけど、小太郎君はゲートポートのときよりも明らかにレベルが上がっている。高畑・T・タカミチやクルト・ゲーデルクラスとまではいかなくても、それに準じるぐらいまでは強いだろう。
 しかも小太郎君にも“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”は効かない。

 …………参ったね、これは。





「ハッハァーーーッ!
 近衛軍団プラエトリアニで白兵戦の鬼教官と言われた実力を見せてやるぜぇーーーっ!
 …………いや、本当に俺結構強いはずなんだぜ」

「本格的な戦闘は本当に久しぶりね。勘が鈍ってなければいいけど。
(でも少しは活躍してアリアドネーの力をネギ君に見せないと。さすがに警備の子達では足手纏いになってしまうでしょうし…………)」


 …………元老院議員リカードにアリアドネー総長のセラス。
 彼らも魔法世界人だとはいえ、ここまで増えられると正直言って…………。





「…………何だか物凄く久し振りの出番な気がするな。
(本体が近くにいるのだから仕方がないが…………)」


 エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル(コピー)までいるのか!?
 彼女はコピーだから本人までとはいかないだろうけど、どう見ても高畑・T・タカミチやクルト・ゲーデル級の力は持っている。

 いくら何でもこれは無理すぎるよ!










「それじゃあ、僕と小太郎君、それにラカンさんが前衛。
 そしてクルトとカゲタロウさんは中衛でセラス総長とエヴァは後衛です。
 リカードさんはセラス総長とエヴァの護衛をお願いしますね」

「うーっす。りょーかいりょーかい」

「承知した」


 結局八対一かっ!?
 僕一人にこんな戦力を集めて、もし他に襲撃者がいたとしたら………………って、ネギ君がいるから大丈夫なのか。

 そうだよね。調さん達が出てきてもネギ君の従者が相手にすればいいし、デュナミスはネギ君が相手にすればいいんだよね。
 むしろネギ君がデュナミスを相手にすること自体が戦力過多なので、僕一人にこれだけ集めても逆に戦力振り分けのバランスは取れている。
 墓所の主が手伝ってくれれば…………いや、ネギ君がいるのなら無理か。決勝で見せたあの不明の技を使って、デュナミスか墓所の主のどちらかを速攻で倒せばいいんだし。


 …………この八人を相手にしてもネギ君なら勝てるんだろうなぁ。



「それとラカンさんやセラス総長達は気を付けて下さいよ。どうやら彼らはこの世界の秘密に繋がる力を手に入れた可能性もあるのですから。
 何か不穏なことがあるようでしたら、現実世界人である私とタカミチ、それと小太郎君が矢面に立ちます」

「!?!? 何でそれをっ!?」

「任しといてやー」

「ええ、その時はお願いね」

「私は…………人造霊だから念のためにやめておいた方がよさそうだな。
 素直に後衛を務めよう」

「いやいや! 何で君達がそのことを知っているんだ!?」

「「「「「「「「ネギ(君)ぼーずが言ってた(わよ)」」」」」」」」

「だから何でネギ君がそれを知っているんだよっ!?」

「「「「「「「「だってネギ(君)ぼーずだから」」」」」」」」



 何その納得出来ないはずなのに何故か納得してしまう言い訳?

 僕の混乱のことなど知ったこっちゃないと言わんばかりに、ジリジリと間合いを詰めてくる小太郎君達。
 八対一なのに油断もする様子もなく、ただ僕の首を獲ろうと隙を窺っている。





「「「「「「「「卑怯とは言うまいね」」」」」」」」







 …………。

 ……………………

 ………………………………これはもう駄目かもわからないね。












━━━━━ テオドラ ━━━━━



「タカミチ達が戦闘に入りました。今のところは予定通りです。
 …………いやぁ、のどかさんの“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”は本当に便利ですねぇ」

「はい! ありがとうございます、ネギ先生せんせー!」



 …………悪魔か、こ奴は?


 昼のネギとアーウェルンクスの話し合いが終わった後、急遽妾も合流して対応策を練ることになった。
 もちろんアーウェルンクスの企みはネギが“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”で読み取っていたから、それに合わせた対応をするだけじゃったので楽じゃった。


 …………それにしてもネギが“黄昏の御子”とはの。
 その力を完璧に使えておるようだし、これからもネギのことは注視せねばなるまい。この子は良くも悪くも今後の世界への影響を与えていく事になるじゃろう。


 ましてや魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の危機を回避する方法まで提示してくる始末。
 この祭りが終わったら父上にも話を通して、このプロジェクトの参加への表明せねばなるまいが………………これからのことを考えると気が重いのぉ。

 対応策を練るときにこの世界の秘密を教えてもらったが、まさかこんな秘密が隠されておったとは…………妾は知らなんだが、父上は知っておるのかの?
 何にせよ準備もせずにこれを公表したらパニックになるじゃろう。慎重に事を進めなければならぬの。





「それにしても…………セラス総長とかリカードさんまで参加してよかったんですかね、立場的に考えて?」



 仕方なかろう。全てネギに任せてこの事件を終わらせたら、ネギに今後頭が上がらなくなってしまう。
 ただでさえ魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の危機回避の方法を教えてもらったというのに、大戦の残党処理すらネギに取られてしまうとなると妾達の示しがつかん。


 まあ、妾達の中でも一番頭を抱えておるのはリカードじゃろうな。
 クルトはネギにつくことを決めたようじゃし。

 この舞踏会まで時間がなかったから、ネギの持ってたダイオラマ魔法球の中に入って話し合いのときに起こったことを聞かせてもらったが、明らかにネギはMMの味方にはなりそうもない。
 それどころか敵対してもおかしくはなく、ネギが知っていることや事情の全てを公表されたら今のMMが引っくり返ることになるじゃろうて。
 力でネギを抑えつけようにも、ヘタしたらMMの全兵力でも適わない始末………………というか、魔法世界ムンドゥス・マギクスの事を考えなくてもいいのなら、本気でMMとヘラスの兵力を合わせてもネギには勝てないらしい。ジャックのお墨付きじゃ。

 …………きっと自分の出生の秘密を知ってから、こんなこともあろうかと準備をしておったんじゃな。
 アリカ達のことから妾達への不信感が芽生えても仕方がないとは思うが、10歳のネギが歩んできた今までの道を考えると気が重くなってくる。
 どういう気持ちであそこまで強くなるための修行を重ねてきたのじゃろうか…………。


 そしてMM元老院のこれからを考えると気持ちがスーッと晴れてくる。きっとネギとクルトの手によって散々な目に合わされるじゃろうて。
 今のネギが民衆の前で真実を語れば、光の速さでそれが魔法世界ムンドゥス・マギクス中に巡るじゃろう。それに対抗しようにも実力でネギを排除出来るわけでもないしの。
 業突く張りの老害共め、ザマーミロじゃ。アリカを無実の罪で陥れたりするからこうなるんじゃ。


 妾達はそれに比べたらまだ気楽じゃ。
 アリカのことを助けることは出来なかったとはいえ、所詮妾達は他国の者。ネギとしては思うところもあるじゃろうが、それでも妾達に責任を取るように迫ってくることなどあるまい。
 ネギならむしろそれに触れずに知らない振りをして、ヘラスとは友好関係を望んでくるじゃろう。

 ネギは世界征服なんぞには興味ないようで、身の回りの人間さえ無事ならそれで良いようじゃからな。
 win-winの関係を望むならネギとしても誠実な対応をしてくれるそうじゃし、これからのことでネギとの友好関係を築き上げていくことにしよう。

 さしあたって、何とか大戦の後始末とも言えるこの一件を無事に解決したいところなのじゃが…………。




「…………さすがにあの八対一は辛いよなぁ。
 そもそもラカンが入っているだけで苦戦は必至だし…………」


 何故か妾達と同じテーブルには、ジャック達と一緒に戦っているはずの“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”がもう一人いる。

 …………量産か? ネギは本気で量産したというのか?
 あまりにも自然に最初から二人いたので、さすがの妾でも何も突っ込めなかったぞ。

 この一件を無事に解決出来たとしても、ネギのことで更に頭を抱える羽目になりそうじゃ。









「…………本当に僕の血で世界の秘密に繋がる力なんか手に入れることが出来たのかな?
 “いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”には「~ネギ君の血を利用して~」としか書かれていないし………………もっと詳しく聞いておくべきだったか」

「さすがに無理ですよ、ネギ先生せんせー
 アレ以上何か聞いてたらフェイトもきっと不審がるでしょうし、“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”のことを隠せたままで情報を引き出せただけで満足すべきですよ」

「ええ、欲張り過ぎましたら元も子もないですからね。それとラカンさん達が調子に乗ってネタバレしなければいいんですが。
 まあ、次の機会があったら…………ん? 会場中に大量の敵が…………外にもデカブツが現れましたね。夕映さん」

「はい。“世界図絵オルビス・センスアリウム・ピクトゥス”で調べます」

「お願いします。それではコチラも予定通りに迎撃します。
 …………妙な鍵のようなものを持っている個体がいますね」


 ネギの言葉と共に舞踏会出席者達がポン! と紙型に変わっていく。
 そして会場の上空で待機していた船舶も幻術が解かれて霧散し、それを攻撃しようとしたデカブツの腕が空を切った。

 襲撃があるとわかっていたので舞踏会は中止することになったが、せっかくなので敵を誘き寄せる罠として有効活用することになったが………………本気で悪魔じゃな。


 招待客には事前に会場を変更することを伝えておいたので、今頃は事情を説明されながら警備兵によって守られているじゃろう。
 ここにやってきた招待客は全て幻術をかけたネギの式神じゃ。

 今この総督府にいるのは妾達と現実世界ムンドゥス・ウェトゥス人で構成された警備兵のみ。
 ヘラスとアリアドネーの兵は役に立てないどころか足手纏いになりかねなかったので、招待客警備とオスティア住民の避難に回しておる。むろんMMの兵の大部分もこっちじゃな。
 アチラが襲われたら困るが、ちびネギの一体がビーム・マグナムとやらを持って警備に混じっているから大丈夫らしい。だが妾には嫌な予感しかしない。
 ちなみに戦艦などは見つからないように雲の中に隠しておる。

 妾もここにいても役に立てることはないのじゃが、ここにいるということ自体が重要じゃ。
 それこそ他の招待客と一緒に避難して、ネギが全て終わらした後に「終わりましたよー」なんて報告されたら妾の立つ瀬がない。
 せめて一緒の場所にいて、妾もこの事件解決に噛んでいるという証拠を作らなければ…………。





解放エーミッタム、『万象貫く黒杭の円環キルクルス・ピーロールム・ニグロールム』………………石化魔法は便利だなぁ。フェイトが多用する理由がよくわかる。
 刹那さん、楓さん、菲さん…………魔物が持っているあの妙な鍵のようなものを回収してください。少し気になります」

『わかりました』

『承知』

『わかったアルよ』


 だがそんな妾の悩みなんか知ったこっちゃねぇ! と言わんばかりに敵を殲滅していくネギ。

 やっていることといえば片手間に魔力球を生み出し、その魔力球を『万象貫く黒杭の円環キルクルス・ピーロールム・ニグロールム』に変化させて敵に攻撃。
 もちろん妾と同じテーブルに座ったままでなのじゃが…………何故あそこまで正確に敵だけを狙える?

 総督府の中を複数の映像で確認しているのじゃが、その映像にはハリネズミになって石化していく敵しか映っておらん。
 ここは総督府なので建物に被害の及ぶような派手な攻撃が出来ないから、こうやって敵を石化しているのじゃろうが………………妾と同じテーブルについていながら片手間で敵を殲滅されると、妾が完璧に役立たずにしか思えなくなってくるから困る。


「フム、さすがにあのデカブツには効かないか。…………お、第一デュナミス発見。
 ちょっとデカブツの始末とデュナミスさんの相手しに行ってきます。エヴァさん、アスナさん、ここはよろしくお願いしますね」

「ん。行ってこい」

「任せて。ああいうの相手には私は無敵なんだから」


 スマン。役立たずにしか思えないんじゃなくて、本気でただの役立たずじゃった。
 ネギの従者のセツナとカエデとフェイみたいに戦闘で働いてもいないし、ユエやノドカみたいにサポートにも回っておらんからの。
 そもそも世界の秘密に繋がる力相手には妾は無力で、どう頑張っても守られる側じゃからな。

 というか、従者と話しながらも『万象貫く黒杭の円環キルクルス・ピーロールム・ニグロールム』撃ちまくるのやめて欲しいのじゃが…………。


「『無極而太極斬トメー・アルケース・カイ・アナルキアース』」


 あ、バルコニーに出たネギが剣を一振りしただけで、外にいたデカブツが縦に真っ二つにされた。



 ………………マズイ。本気でマズイ。
 このままではネギに本気で頭が上がらなくなってしまうぞ。

 むろんナギとアリカの息子であるネギのことを最大限慮りたいが、それでも妾はヘラスの皇族じゃ。
 もしネギがヘラスに仇なすのなら、ネギを敵としなければならん。


 じゃが、ネギを敵とするのはマズイ。
 ヘラスの軍隊全てを相手に出来そうな実力的にも、英雄の息子でありながら本人も新たな英雄となるであろうことから生じる民への影響力的にもじゃ。

 前者だけでもどうしようもないが、後者においても更にどうしようもない。
 先ほどは妾達はリカードに比べれば気が楽とは言ったが、それでもアリカが生贄にされるのを黙って見ていたのには変わりはない。
 しかもそれがネギの口から…………10歳の少年の口から全世界に暴かれたら、ヘラスの汚点となることは間違いないじゃろう。
 これに関してはジャック達も、確認のために聞かれたら真実を語ってネギの味方になってしまうじゃろう。嘘をつく理由はないからの。


 妾としてもアリカの汚名を雪ぐことには何の異論はないが、それでもネギというイレギュラーでかなりの大事になってしまいそうじゃ。
 もちろん妾個人としてもナギとアリカの息子であるネギと争いたいなどとは思っておらん………………思っておらんが、それだけではどうにもならないのが国というものじゃ。
 それはアリカのときのことでよくわかっている。

 セラスやリカード、クルトと連絡を密にし、何とかより良い着地点を探さなければならないの…………。








『いただきィイイイイ!
 キャハハハハハハハ! こいつは大事に貰っておくよーーーーーー!!!』

『えっ!? あ……ちょっ…………!』


 お、アーウェルンクスが何やら鍵のようなものを取り出したが、コタロウのつけてたバッジからちびネギがいきなり現れて、鍵を奪い去って行ったぞ。
 さすがのアーウェルンクスもあの八人を相手にしている最中だったので、新手の不意打ちは防げんかったようじゃな





『やあ、これで会うのは二回目になりますね、デュナミスさん』

『ぬぅっ!? ネギ・スプリングフィールド…………』


 そして別のモニタにはネギが“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の幹部、デュナミスとやらの真っ正面に立っていた。

 デュナミスの手には同じく鍵のようなものがある。
 やはりあれが世界の秘密に繋がる力を行使する魔法具のようじゃの。


『どうしたんですか、デュナミスさん。そんなに焦った声を出して…………。
 それよりどうしたんですか、舞踏会に来るなんて? 招待状はお持ちですか? 今日はどちらからおいでですか? 何をしにいらしたんですか? ゲートポート事件以来何をしていたんですか? その鍵は何なんですか? 何に使うんですか? どうやって使うんですか?
 そういえば“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”残党はタカミチとゲーデルさんによって全滅させられたと聞いていたんですけど、まだ生きてたんですね。今まで何処に隠れてたんですか? 今はどこを本拠地としているんですか? お仲間は何人いるんですか? その人達はどういう人達なんですか? 協力者とかも何人いるんですか? その人達はどういう人達なんですか?
 こうやってテロりに来たようですけど、僕に勝てると思っているんですか? 勝てると思っているのならどうやって勝とうとしているんですか? 隠し札とかあるんですか? 切り札とかあるんですか? 鬼札とかあるんですか? それらはいったいどういうものですか?』

『!』


 そしてネギは怒涛の質問ラッシュをしながら、ゆっくりと一歩ずつ一見無防備に近づいていく。もちろん背中には“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”隠してある。
 どうやらギリギリまで“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”の存在は隠しておくつもりのようじゃ。
 相手が“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”の存在を知らなかったら、かなりのアドバンテージになるからのぉ。
 それにまだアーウェルンクスの従者などが残っているはずなので、今度こそ完璧に終わらせるためにも彼奴らのアジトなどを聞き出す必要があったからの。





「あ、今回はネギ先生せんせーに“読み上げ耳アウリス・レキタンス”渡してますので、リアルタイムでデュナミスさんの考えていることがわかり『なん……だと……?』…………ネギ先生せんせー?」


 …………やはり悪魔じゃな。確かに耳に魔法具をつけておるの。
 ある程度の情報を聞き出し次第にデュナミスを始末すると思ったが………………ネギの動きが止まったぞ? ビックリしたような顔もしておる。

 質問で何かとんでもないことでもわかったのかの?





━━━━━ 後書き ━━━━━


 プフも混じったし、ネギってばマジ悪魔ベルゼブブ

 いくらフェイトが“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”を持ってても、さすがにあの八人がかりは無理でした。
 しかもちびネギに鍵奪われるわで、もう涙目です。





 それと前話が以外にも不評じゃなかったのがビックリです。
 ネギの性格的にはこういう考えをするのですが、ワガママ過ぎてあまり受け入れられないかなぁ? と思っていましたので。


 ちなみに作者としてのフェイト達の目的への感想は“種死のデスティニープランの超強化版”です。

 まあ、ネギは拒否しましたけど、ああいう考え方も悪くはないと思います。魔法世界の崩壊を考えなくても、アレで救われる人は確かにいるのですから。
 理不尽な目に…………それこそ死にそうな目にあってる人が「自由よりも幸せが欲しい」と思うことは仕方がないと思います。
 しかも現実と何ら遜色のない“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”ですから、逃げ込みたいと思っても責められません。

 種死のコミックボンボン版のシンの台詞である「戦争のない世界以上に幸せな世界なんて…………あるはずがないっ!!!」って言葉は一つの真理だと思います。“平和なのが当たり前”の日本に生まれたら実感出来ないですけどね。
 もちろん絶対の真理ではないですし、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”まで突き進むのはやりすぎだと思ってますが。
 ちなみに更に行き過ぎると“メルブラのオシリスの砂”になるんじゃないでしょうか。アレは本格的に本末転倒ですけど。

 力の無い人にとって“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が箱庭の幸せだとしたら、現実はご都合主義の存在しない残酷なまでのサバイバルゲームです。
 人間はその残酷なサバイゲルゲームを勝ち抜くために“国”という集合体をつくり、“国”は個人の権利をある程度制限する代わりに権利の保護もしています。そして“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”は自由意志を剥奪する代わりに幸福を与えます。


 そういう意味では“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”はただ単に、

 “度が過ぎる”

 の一言で終わるかもしれません。



 …………ところで話は変わりますが、種死はコミックボンボン版をアニメ化すべきだったと思います。




 それにしても自分は恋愛モノを読むのは好きなのに、書くのは苦手だということが書けば書くほどわかってきます。

 西尾維新先生、一度でいいから西尾節無しでまっとうな恋愛モノ書いてくれないかなぁ。
 西尾先生の恋愛関係の言葉遊びとか韻の踏み方が好きなんですよね。恋愛に限らず好きですけど。


「嫌ってほど好きで――――憎たらしいほど愛してる」


「本当に好きだったよ。
 初めて会ったときからずっと。
 初めて会ったときよりずっと」



 みたいなのが。ありふれた言葉なのに、組み合わせることで効果倍増です。
 ガハラさんみたいなツンドラも好きです。現実にいたら嫌ですけど。





 あ、ちなみに“memento moriメメント・モリ”とはラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味の警句で、芸術作品のモチーフとして広く使われています。
 そしてその“メメント・モリ”の最も知られているテーマは“死の舞踏”だそうです。

 ………………この総督府主催舞踏会が、いったい誰にとっての死の舞踏になるかはわかりませんがね。



[32356] 第96話 イレギュラー
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/06/28 20:44



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 …………ミスった。久しぶりに取り返しのつかないミスをした。
 これだけのミスはこの世界で生まれてからでは、アルちゃん爆誕と超さん帰還不可能以来の3つめだ。



 デュナミスの野郎、僕の血を利用してホムンクルス作りやがった●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●……っ!



 …………ホムンクルス? コピー? クローン?
 適当なのがわからないけど、とりあえずホムンクルスで。





「ぬぅっ!? きゅ……急に殺気が膨れ上がった!?
 私が何かしたのか、少年っ!?」

「…………テロりに来てるってだけでアウトだと思いますけどね。
 いや、それよりも時間をかけるつもりはありませんでしたが気が変わりました。“僕の血を利用した作ったホムンクルス”とやらの詳細を教えてもらいましょうか。
 そうか…………そのホムンクルスを使って“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”とやらを………………“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”の仕組みと使い方も教えてください」

「!? なっ……何故それを!?」



 ム、これだけのことをすると思考を読んでることに思い当たるか。
 まあ、“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”みたいに思考を読む魔法具を使っているのか、僕が何か特殊な魔法を使っているかまでは断定出来ないみたいだけどね。

 今までの僕の打ってきた布石が生きてきたな!
 僕なら何をしてもおかしくないと思われているから、記憶を読んでいることに対して驚かれても、従者のアーティファクトを使っているとまでは考えが及んでいない。
 これならのどかさんが狙われることはないな!


 …………それはともかくとして………………なるほど。
 ゲートポートのときにデュナミスに投げ返した『石の槍ドリュ・ペトラス』に付着していた僕の血を使ったのか。マズったなぁ。

 元々麻帆良に封じられている造物主ライフメイカーを復活させるために、その器であるナギ・スプリングフィールドの肉親である僕の血肉を必要としていた。
 魂があれば尚良し。

 道理でフェイトが僕をあんな風に勧誘してくるわけだ。
 ナギの息子で“黄昏の御子”である僕が仲間になったら、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”にとって必要なものは全て揃うじゃないか。
 そういえば確か原作でも、フェイトが「ネギぼくに死なれては困る」みたいなことを言っていたなぁ。


 とはいえ、僕の血を利用して作ったホムンクルスが“黄昏の御子”の力を持っていたのは全くの偶然で、力を持っていること自体わかったのがつい最近だったらしい。
 『石の槍ドリュ・ペトラス』に付着していた僕の血だけでは造物主ライフメイカー復活には足りなさそうだったので、血肉を増やすためにホムンクルスを作ったら偶然持っていたみたい。
 しかし、ホムンクルスとして生まれたのが原因だったのか、それとも僕の“黄昏の御子”としての力が貰い物だったのが原因なのかはわからないけど、とにかくそのホムンクルスの“黄昏の御子”としての力は不十分だったのが幸いだ。

 それでも時間をかけた調整次第では、魔法世界再編の礎に出来るぐらいの力を持たせることが出来るかもしれなかったけど、そんなときに僕が“ナギ・スプリングフィールド杯”決勝戦終了後に「廃都に行く」と言ったから、さあ大変。
 僕相手では勝てるとは思えず、かといって廃都……墓守り人の宮殿から撤退したら造物主ライフメイカー復活の準備が無駄になり、僕がその場の異常に気づいて対策を採られるかもしれない。

 だったら進むしかないじゃないか! …………ってな感じで、このテロを実行したみたいだけど………………僕のことを悪魔か何かと勘違いしてんじゃないのかな?


 ………………ま、いっか。
 そんなことを考えるよりやることがある。







「タイムリミットは!?
 僕のホムンクルスで魔法世界ムンドゥス・マギクスを再編出来るようになるまでは、いったいどれくらいかかる!? それと造物主ライフメイカーが復活するまでは!?
 あなた達は戦力は!?
 仲間の数は!? 名前は!? 能力は!? 弱点「くっ!? 『リロケート』ッ!!!」………………チッ」


 逃げられたか。でも大体わかったから良しとしよう。

 ホムンクルスでの魔法世界ムンドゥス・マギクス再編までどれくらいかかるかはまだ不明。少なくとも数日で出来るってわけじゃなさそう。
 ただし造物主ライフメイカー復活はもうすぐ…………あと一日もかからない。


 …………あれ? 僕にチョッカイかけてこなかったら、普通に造物主ライフメイカー復活は出来たんじゃ?

 確かに原作通りに進めるために廃都が再び浮上したとかわかりやすい異変があったら、それを口実に廃都に行ってフェイト達を倒そうとは思っていたけど、そんなことフェイト達は知らないはず。
 いくら“ナギ・スプリングフィールド杯”決勝戦終了後に「廃都に行く」って言ったからって、わざわざこんな風にテロりに来るか、普通?

 いったい僕のことを何だと思っているんだ!?





 …………。

 ……………………。

 ………………………………ま、そんなことも置いておこう。


 敵の戦力はデュナミスにフェイト、フェイトガールズ+月詠さん、それに加えてアーウェルンクスシリーズとやらの4番クゥァルトゥム5番クゥィントゥム
 まあ、フェイトのテルティウムってのが“3番”って意味だから、4番や5番がいてもおかしくはないか。
 ラカンさんの映画に映っていたのが1番かな? 2番は何処に?

 墓所の主って人は…………ゲートポートで要石を壊した人かな?
 それと確かザジさんにそっくりな人が出てきたはずだけど、デュナミスは何も知らないみたいだ。



 …………ついに場面が原作知識を追い越したかぁ。
 今まで鍛えたこの力があれば何とかなると思うけど…………さて、どうなることやら。



 とりあえず、当面の目標は造物主ライフメイカーの復活阻止、もしくは殲滅だな。
 デュナミスやフェイト…………アーウェルンクスシリーズはそう問題じゃない。今の僕が魔力溜まりである廃都で戦うなら、フェイトや駄目親父をグロス単位で相手にしても勝てる。
 僕には『リライト』効かないから安心だしね。

 それにフェイトから“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”のグランドマスターキーを一本手に入れたし、刹那さん達が雑魚召喚魔からマスターキーを十本以上手に入れているはず。
 それらをラカンさんとかに渡せば、ラカンさん達も戦力になる。

 造物主ライフメイカー自体は駄目親父が勝ったということから、多分僕でも勝てるだろう。
 ただし器が駄目親父だから、素直に消滅させたりとかは………………したら駄目だよね?


 …………チッ、めんどくせぇな。





「夕映さん、状況はどうなっていますか?」

『敵召喚魔はほぼ全滅。あとは残敵掃討ですが、その鍵を持っている個体は全て倒しましたので、残りは警備兵に任せてもいいと思うです。
 フェイトの方は逃げられました。しかしラカンさんのデカイ一撃が直撃してましたので、しばらくは動けないと思います』

「了解です。それでは僕もそちらに戻りますが、テオドラ皇女達に艦隊出動の準備をお願いしておいてください。
 ちょっと急いで終わらせないと、後で面倒なことになりそうです。準備出来次第に墓守の宮殿に出発します。
 テオドラ皇女達が行かないなら、僕だけでも行くと言っておいてください」


 やれやれ、結局原作通りに最終決戦は墓守り人の宮殿か。
 まあ、アスナさんやアーニャが攫われているなんてことはないから、敵を全滅させればいいだけなんで気が楽だな。

 まずは戻って皆に詳しい事情を説明するか。





 …………その前にちょっと気分を落ち着けよう。乱暴な言葉使いになってたし、このままの状態で行ったらアスナさん達に心配される。
 最近はどうも心がざわつくことが多い………………酒に酔ってあんな醜態晒してからだな。

 原作知識も役に立たないところまで来たし、さすがに政治関係のことは経験ないからなぁ。
 クルトさんとよく相談して、MMやヘラスとかへの対応を良く考えないと…………。


 何というか…………ようやくの人生が始まる気がする。

 前世は周りのオカシサにそれどころじゃなかったし、前々世の僕がまだかなり残っていた。
 だからどうもネギという役者を演じていたような気がする。

 今世の僕はもう“自分がネギである”という認識を持っていたので、役者を演じているつもりはなかった。
 それでも原作の流れが大きく変わるようなことをして、せっかくの原作知識を無駄にすることはしたくなかったので、原作に沿う流れを極力乱すことはしなかった。
 前世みたいに無理をしていたつもりはないし、むしろ楽しんでやっていたけどこれからはそうはいかない。
 これからはまったくの未知の未来。怖さ半分興味半分。


 それでも今の僕ならアスナさん達を守るぐらいの力はある。
 だから精々頑張るとしましょうか。












━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━



 …………ネギ先生が不機嫌だなぁ。

 しかめっ面をして、“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”のグランドマスターキーとやらをいじっている。
 そして何故か黄金のような光る金属とか、凄い力を持った魔法具みたいのを生み出してますけど………………本物?
 もしかしてその鍵を使えば魔法世界のものなら何でも生み出せるのでしょうか?

 あの鍵はこの世界を造った造物主の力を持っているモノ。
 それなら出来てもおかしくはないですが、これってマズイんじゃ……?



「そうですね。やりすぎたら魔法世界ムンドゥス・マギクスの経済が崩壊します。誰でも簡単に扱えるというわけじゃありませんが、それでも一流の魔法使いなら扱えるでしょう。
 …………これは世に出せませんね。全部回収して………………でもMMやヘラスに渡すわけにもいかないし、僕が保管しておくしかないかな。それが一番混乱が少なさそうです。
 ゲーデルさんはどう思います?」

「…………世に出せないというのは賛成です。
 MMとヘラスに渡すわけにはいかないというのは………………まあ、少なくともどちらか片方だけに渡すのだけは絶対駄目ですね。戦争になります。
 特に元老院には絶対渡せません。これは地球の核兵器以上に厄介なものですよ」

「そうじゃな。
 特にヘラスは敵対するものがそれを一本でも持っていたら降伏するしかなくなる。魔法世界人である妾達はその鍵相手には為す術がないからの。
 それこそMMに渡されたら“殺られる前に殺れ”と言わんばかりに、20年前の大戦の再現が起きるかもしれん。
 それを考えたら“黄昏の御子”であり、魔法世界ムンドゥス・マギクスのどの勢力からも実質的に独立しているネギが保管するというのが、落としどころとしては無難なのじゃが………………そもそもネギよ。
 もしかして主はこれも量産出来るとか言わぬよな?」

「研究次第ですけど出来ると思います………………というか出来るはずです。
 何しろこの鍵は僕の血を利用して作ったホムンクルスを使って造ったものらしいですからね。そのホムンクルスの元である僕なら出来るでしょう」

「なら決まりじゃな。ネギがこれを作れるとするなら、ネギから没収しても何の意味もない。
 ヘラスとしてはネギが全ての“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”の回収・保管を行なって、尚且つ魔法世界ムンドゥス・マギクスのどの勢力の味方をしないことを要求する。
 …………そしてその“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”を悪用せず………………魔法世界ムンドゥス・マギクスを無に還すようなことはしないことも要求する」

「しませんよ。んなこと」

「絶対じゃぞ。

 …………。

 ……………………。

 ………………………………というか本気でコレどうするのじゃっ!? ネギ一人のせいで魔法世界ムンドゥス・マギクスのパワーバランスが滅茶苦茶になったぞ!!!
 先日の拳闘大会のときまでのネギならまだしも、この“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”まで持たれたら本気でどうしようもないわ!!!」

「MMとヘラス、それにアリアドネーなどの既存国家間の国力比率は変わっていませんけどね。
 今まで魔法世界ムンドゥス・マギクス全ての国の国力合計“100”だったのが、ネギ君一人が入ることによって国力合計“10100”になったようなものです」

「増えたのが“10000”で済むわけなかろうがっ!!!
 ネギが“10000”だったらヘラスは“0”じゃ、“0”っ! 亜人の国であるヘラスは、“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”を持ったネギ相手に本気で為す術がないぞ!!!」

「…………アリアドネーも同じね」

「MMだって似たようなもんだぜ。いくら6700万人の人間がいるからって、このぼーず相手には何の役にも立たねぇよ。
 そもそもこのぼーずは魔法世界ムンドゥス・マギクスを滅ぼすことだって出来るって…………」

「本人の目の前でそういう話はやめて欲しいのですが………………仕方がないですかね。何だか僕のすることがドンドン増えてきそうな感じがしますよ。
 “黄昏の御子”っていう立場のは厄介ですねぇ。さすがはこの世界の造物主の力を持っていると言われているわけです。
 …………ここは「僕は新世界ムンドゥス・マギクスの神になる(キリッ」…………とでも言えばいいんでしょうか?
 人生って面白いなぁ」

「「「洒落になってないわ!!!」」」

「(…………皆さん大変ですねぇ。私はもうネギ君につくことを決めてますから気が楽ですけど)」


 オスティアの王様候補から、一気に魔法世界の神候補へ。

 …………一体どんなステップアップなんですか?


「まあ、その辺のことは後で話しましょう。少なくとも世界征服には興味ないし、むしろ自分達のことは自分達でやって欲しいというスタンスなので、僕にチョッカイかけてこないのなら悪いようにはしませんから安心してください。
 今はそれよりも目先の“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”のことを考えましょう。アチラさんの方が明確に敵対している分だけ、僕よりも優先すべきでしょう?
 ちょっと彼我の戦力や状況をまとめてみましょうか」

「(…………胃が痛くなってきた)」

「(なまじ敵対的じゃないから対処に困るわ)」

「(何で俺、主席外交官なんかになったんだろう?)」

「(ネギ君について良かったです)」







 …………さて、私達の戦力はまず今私達が乗っているヘラス帝国のインペリアルシップ、テオドラ皇女の御座艦。
 皇族を乗せたり、他国のVIPを乗せたりもする船だけあって生活設備も充実している。貴人用の食堂から風呂、トイレなど完備で古龍・龍樹エインシェントドラゴン・ヴリクショ・ナーガシャ付き。
 この設備があるから私達はこの船に乗ることになった。

 そしてもう一隻がMM主力艦隊旗艦、スヴァンフヴィート。
 この船にはMMの人間で構成された“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”相手でも戦うことの出来る兵が乗っている…………が、テオドラ皇女や船自体の護衛ぐらいと思っておいたほうがいいだろう。

 実質、この二隻と私達が全戦力だ。
 魔法世界人は足手纏いになりかねないということで置いてきている。



 敵の目的は彼らの主、造物主ライフメイカーの復活。

 造物主ライフメイカーは10年前に麻帆良に封印されている。封印先の肉体ははお義父さまだ。
 世界各地のゲートポートを破壊したのは造物主ライフメイカー復活に必要な魔力を集めるためで、復活には器の肉体であるお義父さまの血縁のネギ先生の血肉や魂が必要だったが、それはネギ先生のホムンクルスを作成することで解決している。

 しかもそのホムンクルスは不完全ながらも『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を持っており、“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”はそれを利用して作り上げた。
 “造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”を敵にしたら魔法世界人は戦力にならないが、こちらも“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”のグランドマスターキーが一本、マスターキーが十五本ある。
 グランドマスターキーはネギ先生が持って無双するとして、魔法世界人であるラカン殿やセラス総長にマスターキーを渡せば彼らも戦力になる。


 一方、廃都の状況はというと、大量の魔力が大気と反応して肉眼でも見えるぐらいに魔力が集まっている。
 それにネギ先生がデュナミスから読み取った情報によると、造物主ライフメイカー復活までの時間はそう残されているわけでない。

 敵戦力は多く見積もって、フェイトやラカン殿クラスが4人。私や楓クラスが6人。不明が1人。
 後は召喚魔やゴーレムが山程いるらしい。

 フェイトクラスの4人は、デュナミスとフェイトを含むアーウェルンクスシリーズの3人。そしてフェイトはおそらく先ほどの戦いで重傷。
 私クラスは月詠とフェイトの従者の5人の女の子。従者の五人はネギ先生の見立てでは、思いっきり甘く採点して私クラスだから、実質は夕映さんぐらいらしい。
 戦力不明はゲートポート破壊のときにいた墓所の主という人物。この人はデュナミスの仲間というよりも協力者で、デュナミスも全てを知っているわけではないようだ。


 あとはネギ先生のホムンクルスがどういう状況かだな。
 下手にフェイトのように戦う人形に調整されてたら、かなり厄介なことになりそうだ。

 …………というか、それこそ量産されたネギ先生が襲って来たらどうしよう?
 いかにホムンクルスといえど、ネギ先生の顔をした存在を傷付けるのは気が進まな「そのときは僕が全て消滅させるから問題ないですよ」………………おや、ネギ先生がまたもや不機嫌に。



 …………。

 ……………………。

 ………………………………皆、ネギ先生を見てニヤニヤしてるなぁ。私もだけど(テオドラ皇女達除く)。





「…………それにしても、ネギの血を利用して造ったホムンクルスかぁ」

「……………………」

「やっぱりネギ君の顔にソックリなんやろなぁ」

「……………………」

「ネギ先生せんせーの顔をした人を傷付けるのは嫌ですね」

「……………………」

「ハッハッハ、そうは言ってもお前達。敵なら倒さねばならないぞ。
 …………でもまあ、確かにお前達の言うことは尤もだから、生け捕りでも目指すか?
 ネギの顔をしてるのなら、ホムンクルスを愛でるのをネギが構ってくれないときの暇潰しにしても面白いしな」

「ッ! ……………………」



 ああ、ますますネギ先生が不機嫌に。

 そりゃあ私達がちびネギを可愛がるだけでもムッスリするネギ先生ですから、他の人を可愛がるとなると不機嫌になるでしょう。
 いくらネギ先生の血を利用して造ったホムンクルスとはいえ、ネギ先生からしたら自分と同じ顔した別人ですからね。


 嫉妬かぁ…………可愛いなぁ。テオドラ皇女達はネギ先生の不機嫌さに顔色を悪くしているけど。
 でも最近はこのネギ先生の嫉妬しているような顔がクセになってきたというか、この状態のネギ先生が発している空気が肌を刺す感じが気持ち良いというか…………どうもチョッカイかけたくなるんですよね。何だかゾクゾクしてきます。

 ネギ先生ってわかりやすい反応してくれますし、このちゃん達もこのネギ先生が可愛く感じているみたいですし。
 ネギ先生が私達に対しては絶対…………とまではいかないけど、あまり強く言ってこないってことに甘えちゃっているのはわかるんですけど、それでも止められないんですよね。


 …………むしろネギ先生の限界点をちょっとだけ越えて、先日のようにお仕置きされtゲフゲフンッ! …………おっと、ヨダレが。





「廃都までは後どれくらいですか? 時間でいいです」

「ん? …………あと3時間ってところだな、ぼーず。
 魔力が廃都に集まりすぎたせいで、浮遊石が再び20年前のように浮かんできやがった。それらに激突しないように慎重に進まざるをえないから、どうしても時間はかかるぜ」

「ふむ…………新オスティアでもテロによる混乱を沈静させるのに時間がかかりましたからね。
 …………まあ、大丈夫でしょう。それでは作戦会議はこれぐらいにして、各自休憩にしましょうか。
 とはいえ、もしかしたら襲撃があるかもしれませんから、僕達と他の皆さんに別れて警備をして、休憩は別荘でとることにしましょう」


 それもそうですね。
 私達はあまり疲れていませんが、ネギ先生は総督府で魔力をかなり消費したはず………………割合で言ったら全魔力の二割も使っていないんでしょうけど、絶対値で言ったら一般の魔法使い数人分は使っているでしょう。

 次が決戦となるならば、その二割が勝敗を分けることになりかねません。
 ネギ先生には全快状態で最終決戦に挑んでもらうべきでしょう。


 …………次のネギ先生と一緒に寝る人って誰でしたっけ?





━━━━━ 後書き ━━━━━



 計画通り……じゃないっ!


 やはりこの展開は予想はされていましたねぇ。

 久しぶりにネギ君ミスりました。デュナミスが一月でやってくれたみたいです。
 ゲートポートで調子に乗った報いですね。敵側にも補正を入れないとアレですし。



[32356] 第97話 墓守り人の宮殿
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/07/02 08:03



━━━━━ ジャック・ラカン ━━━━━



 おうおう、随分と綺麗に光ってやがんなぁ。
 あれが膨大な魔力で編まれた超大規模積層魔力障壁か。確かにあれを突破するのは面倒臭そうだ。


 ようやく“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の拠点、墓守り人の宮殿を肉眼で確認できる地点まで近づいた。
 リカードの奴が言っていたように、魔力の奔流の影響で20年前に墜落した島があらかた浮かび上がってしまっている。

 歴史と伝統のウェスペルタティア王国、麗しき千塔の都、空中王都オスティア。
 まあ、魔法の使うことの出来ない不毛の大地になってからもう20年間経っているんで、魔法はそろそろ使えるようになる頃だったんだが………………まさかこうやって再びオスティアが浮かんでいるところを見れるなんてなぁ。


 墓守り人の宮殿までは、このままのペースで行けば残り30分ってところだが…………。





「魔力レーダーに感アリ。召喚痕多数。前方に極大規模の魔力震です」

「数はわかるか、茶々丸?」

「敵集団…………総数計測不能です。概算で50万を越えています。主に“動く石像”タイプのようです」


 早速スゲェ数の出迎えがきやがった。20年前の“宮殿上空の戦い”に匹敵しやがる。
 あのときはセラス達、帝国・連合・アリアドネー混成部隊に召喚魔を抑えてもらって、俺達“紅き翼アラルブラ”が本丸に突入したんだったな。

 奴らの狙いは造物主ライフメイカーを復活させるまでの足止めか?
 自分達ではぼーずには勝てないってことはわかっているだろうから、それこそ逆転を狙うとしたら造物主ライフメイカーを復活させるぐらいしか手はねぇだろうよ。


 しっかしこの数は厄介だな。全部相手にしてたら造物主ライフメイカー復活阻止には間に合わないぜ。
 20年前のように他の奴らにアレの相手を任せて、俺達で本丸に突入するって方法は味方の数が少ないから無理だしよ。全部で二隻だぜ。もう少し時間をかければ五十隻ぐらいは用意出来たらしいけど。

 …………とは言っても、魔法世界人の部隊を連れてきてたとしても、“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”相手には戦力にはならないからいっそのこと置いていこう、っていうぼーずの考えは間違っているわけじゃねーんだよな。
 俺やセラスは“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”の簡易版を持っているから鍵持ち相手にしても戦えるけど、ぼーずの使うグランドマスターキーを含めても全部で16本しかねぇからなぁ。


 ぼーずはどうやって攻める気なんだか?







「とりあえずアレらを全滅させてから考えます」


 …………身も蓋も無い返答をありがとな。


「色々と調べてみた結果、いくら“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”とはいえ万能というワケじゃないことがわかっています。グランドマスターキーを含めて所詮は簡易タイプですしね。
 とりあえずアレらを全滅させて敵が沈黙したら良し。性懲りもなく再召喚してきたら………………墓守り人の宮殿ごと吹き飛ばしましょうか?」

「やめてください、ネギ君。あの宮殿にはオスティア王家初代女王の墓など、ネギ君のご先祖の墓があります。
 今後のことを考えましたら、なるべく壊さないようにしていただけた方がありがたいのですが…………」

「冗談ですよ、冗談。いくら何でもそこまで乱暴なことはしません。
 まあ、再召喚された場合は僕もこのグランドマスターキーで召喚魔を大量に呼び出して、召喚魔同士で戦わせたらいいんじゃないですか?
 向こうがやってきてることですから、別に同じことを仕返しても問題ないでしょう。そしてその間に墓守り人の宮殿に突入します。
 ………………怪獣大決戦か。胸が熱くなってきますね」

「「「……………………」」」



 …………テオドラやリカード、セラスの顔色が悪くなってやがる。

 要するに今のぼーずの台詞って、ぼーずは50万に匹敵する戦力を簡単に呼び出せるってことだもんな。
 ぼーず一人でも手に負えないっていうのに、そのぼーずが軍隊をも手に入れたら、そりゃあ焦りもするか。



「じゃ、ちょっと甲板に出ます。
 僕が砲台役をやりますので小太郎君、ラカンさんは僕の壁役をお願いしますね。あ、それとそのコピー紙束も持ってきてください
 アスナさん達はまだ待機していてください。タカミチとゲーデルさんはアスナさんの護衛。
 残りの魔法世界人組はスヴァンフヴィートに移動。全員マスターキーは忘れずに持っていって、艦を守ることに集中してください」

「わかったで」「おうよ」

「頑張ってね~、ネギ」「いってらっしゃい、ネギ先生せんせー

「…………私が来た意味はあるのだろうか?」「お前さんはまだマシじゃ、カゲタロウ」「本気でこれからどうすればいいのかしら……」


 遂に最終決戦の始まりか。本当に20年前を思い出すぜ。
 隣にいるのがナギのヤローじゃなくて、ナギの息子ってのが変な感じするんだけどよ。

 ま、ずっとイイ所見せられなかったし、大人の責任ってのもあるから精々頑張るとしますかね。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 




「ごめん、フェイト。僕は君の配下を倒さなきゃいけない。
 それが罪というかもしれないけど、そもそも敵同士なんだからその責任を背負う必要なんかないよね」


 甲板に出てみたが、敵召喚魔達はまだ遠い位置にいる。まだ豆粒ぐらいにしか見えねぇな。
 そしてア~イ、キャ~ン、フラ~~~イ! と叫びそうなまでの真剣な顔を見せているぼーずだが………………言ってることはヒデェ。



 …………やっぱり変なガキだよなぁ、このぼーずって。
 俺に試合で勝っても俺に対する態度変わんなかったけど、普通のガキだったらもうちょっと調子に乗ったりすんじゃねぇのかね?

 まあ、元々俺への態度はセメントだったんだけどよ。
 羞恥心とは程遠い俺だが、さすがにナギの息子に軽蔑されたりすんのは勘弁して欲しいぜ。



 パッと見はナギにホントそっくり。
 でもちょっと注意して見ると、性格はナギよりはアリカ似。
 そしてもっと観察してみると、結局は二人共に似てるんだよな。

 あいつらに育てられたわけじゃないっていうのに、ここまでくると血なのかねぇ?


 頭が良いところはアリカに似てるし、逆に馬鹿っぽいところはナギに似ている。
 10歳なのにあれだけ強いってのはマジで驚いたが、ナギはもちろんのこと、世界最古の王家の血を受け継いでいるせいかアリカも結構強かったからなぁ。
 あの二人の血がうまい具合に掛け合わさって、ぼーずはあんな風になったんかね?


 それとぼーずのアスナやコノカちゃん達に対する執着はちょっと違和感を感じたが、よくよく考えたらそこはアリカに似てんだろうな。
 それこそナギがエヴァンジェリン相手に浮気したりしてたら、アリカはぼーずみたいな反応をするだろうぜ。

 ………………むしろもっと酷いことになりそうか? アリカはアリカでナギにベタ惚れだったからよ。
 それ考えたらぼーずはアリカの息子だなぁ…………って思っちまうんだよなぁ。




 しっかし…………このぼーずは将来どうするんだろうな?

 ここまでやっちまったんならもう今までの生活に戻れねーぞ。
 MMもヘラスもアリアドネーも“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”もこれからはぼーずの行動に注視するだろう………………けど、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の命運は今日で終わるだろうから、奴らのことは考えなくていいな。

 …………いや、それ考えたらMMもヘラスもぼーずに手を出せねーか。
 特にヘラスは亜人の国だし、ぼーずと敵対しても勝ち目はゼロだ。
 MMも6700万人の人間はいるが、その中でもぼーずに対抗出来るのは………………いねぇよなぁ。つかマジで“紅き翼おれたち”全員でかかっても勝てそうにねーし。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスにはぼーずに勝てる国はないから、ぼーずに喧嘩売るってことはないだろう。
 ぼーずがアリカのようなことにならなくても済みそうなのは幸いだ。


 もし魔法世界ムンドゥス・マギクスとぼーずが争うようになるとしたら、それこそ魔法世界ムンドゥス・マギクスの全てがぼーずを危険視したときぐらいか。

 リカードもテオドラもセラスも戦々恐々としてぼーずの行動を見守っている。
 今はまだ“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”のことがあるし、ぼーず自体が敵というわけじゃないから問題になってない………………わけじゃないが、ぼーずのことは後回しになっている。
 ぼーずのことを調査しなければならねーだろーし、何より手を出したら破滅するとわかっているから迂闊にぼーずへ手を出したりはしないだろう。

 …………けど、ぼーずの力はハッキリ言って異常だ。いつでも自分達を滅ぼせるという状況で、MMもヘラスも冷静な判断をし続けることが出来るか?
 ヘタしたら暴走することも有り得るからなぁ。


 暴走してぼーずに挑んで、その結果ぼーずがキレて魔法世界ムンドゥス・マギクスを滅ぼしました…………なんて結末は勘弁して欲しいんだけどよ。

 何というか…………ぼーずは強さの割には心が不安定というか、そもそも年齢的に考えたら当たり前に不安定というか………………まあ、何をするかわからないぐらいには不安なんだよな。
 ぼーずの年齢を考えたら責めることは出来ないってのはわかってるんだけどよ。

 せっかくぼーずのやり方次第では全てが上手い具合に収まりそうだっていうのに、一歩間違えば魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊に繋がりそうってのはマズイよなぁ。


 
 ここまで関わっておいて放っておくのはさすがに………………俺が引退するのには、もうちっと時間が必要かねぇ。






















「とりあえず『リライト』」


 あ、始まった。












━━━━━ 長谷川千雨 ━━━━━



 ネギ先生無双…………っていうか“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”とやら無双。
 50万いた敵があっという間に塵に還っていったぞ…………。


「ネギ君がビーム撃ったら、射線上には何も残らんかったなぁ……」

「しかも最初の一射目は威力調整を失敗したのかわからないけど、明らかに射線の先が荒れ果てた荒野になってたわね。
 元に戻ったからまだ良いけど、もしかして魔法世界の依代の火星がむき出しになったんじゃないのかしら?」

「ネギが持っているのはグランドマスターキー。そして敵召喚魔が持っていたのは更に簡易版のマスターキーだろうから、この結果は当然なんだろうな。
 しかもネギは“黄昏の御子”だから、あの“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”の力を最大限に引き出せるんだろう」

「…………ネギ先生はいったいどこまで逝くんだろうか?」

「初めて会った頃のネギ君が懐かしい。
 ………………超君、6年……いや、10年前に戻れるタイムマシン作ってくれないかい?
 過去を改竄するのは駄目だとわかっているけど、常識的なネギ君を見てみたいと思ってしまうのは仕方がないと思うんだ。ネギ君をあんな風にしないためには、もう生まれた頃から教育しなきゃ駄目だと思うんだよ」

「無茶言わないで欲しいヨ」





 ガンドルフィーニ先生も高畑先生も遠い眼をしないでくれよ。
 何だかんだいってネギ先生は二人のことを目上の人と見なしているんだから、これから頑張ってネギ先生を矯正してくれよ。


 ネギ先生は公的と私的のどちらの付き合いが強いかで、その人に対する態度が全然違うんだよなぁ。
 私達とは………………まあ、そういう私的な付き合いなんだけど、それと同時に教師と生徒という公的な付き合いでもある。
 しかし、もちろん私達の付き合いは私的な関係の方が強い。9:1ぐらいにはな。

 そういう私的な関係の方が強い人に対しては、ネギ先生は極々普通の一般人のような付き合い方をする。
 目上の人や年上の人には礼儀を弁えた態度をとるだろうし、例えネギ先生の方が圧倒的に優れていても“そんなのは友人付き合いには関係ねぇ”と言わんばかりに普通に付き合う。


 ネギ先生は高畑先生やガンドルフィーニ先生達のことも私的な付き合いと見なしている。
 同じ麻帆良の先生同士という関係だから普通は公的な付き合いになるかもしれないけど、二人とはプライベートでも付き合いがある。
 だからネギ先生は二人に対しては公的な付き合いより、私的な付き合いの方が強いんだろう。

 高畑先生に至っては昔からの付き合いだ。
 逆に昔からの付き合いのせいで、高畑先生に対する遠慮がないから苦労しているけどな。

 要するに“同僚”というより“仲間”って認識だ。
 ガンドルフィーニ先生が一身上の都合で教師を辞めたとしても、ネギ先生のガンドルフィーニ先生への態度は変わらない。そういう関係だな。


 私達(そういう関係)>(越えられない壁)>高畑先生や学園長(遠慮じちょうナシの関係)>ガンドルフィーニ先生(目上の関係)>瀬流彦先生(対等な関係)>クラスの皆(何だかんだでバカ騒ぎする関係)


 私的な付き合いが強いのはこんな順だろう。
 クラスの他の皆が低いかもしれないが、私達が私的な付き合いが強すぎるのに対して、クラスの他の皆は“あくまでも生徒だから”むしろ公的な付き合いが強いって感じだな。
 教師としての責任を果たすためだろう。




 そして逆に公的な関係が強い場合、要するにゲーデルさんみたいな人に対する態度なんだが………………“ドライ”の一言に尽きる。


 例えば付き合うこと、付き合わないことで利益不利益があるんなら、相手がどういう人間なのかは関係ない。
 
 付き合って利益があるんなら付き合うし、付き合って不利益があるなら付き合わない。
 付き合わないで利益があるなら付き合わないし、付き合わないで不利益があるなら付き合う。


 そして付き合うにしても、これまた相手がどういう人間なのかは関係ない。

 友好的に付き合って利益があるんなら友好的に付き合うし、友好的に付き合って不利益があるなら友好的に付き合わない。
 敵対的に付き合って利益があるんなら敵対的に付き合うし、敵対的に付き合って不利益があるなら敵対的に付き合わない。


 …………今まで狭い村で育ってきたのが原因なのかはわからないが、そんな感じに公私で線引きを強くするところがネギ先生にはある。村社会って奴か?
 まあ、大抵の人々は敵対的に付き合っても利益があるわけじゃないから、普通に友好的に付き合っているのでわかりにくいんだけどな。

 でもネギ先生はどこか人を信用していない………………いや、“知らない人”を信用していないところがあるな。
 まあ、“知らない人”を信用するってのは元から難しいんだろうけど、“知らない”という理由だけでその人のことを他人●●と認識するというか…………言葉にしにくいな。


 ネギ先生が大人になるまでに少し矯正して欲しいところでもあるんだが………………アスナ辺りに言わせると“ツンデレ”の一言で終わっちまうのが悲しい。
 確かに気を許した人にはトコトン気を許すところがあるから間違っちゃいないけどさ。









「墓守り人の宮殿から召喚魔が出てきました。
 数は…………約5千です」

「? やけに少ないな。それは確かか、茶々丸?」

「やはりネギ先生の言った通り“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”も万能ではないということなのでしょう。
 少なくとも出力に制限はあるようですね」

「でも5千で少ないってのが、感覚が麻痺している証拠でござるな」


 今度の召喚魔はさっきみたく固まって一直線に進んでくるのではなく、低空から分散してバラバラにこちらに向かってきている。
 さっきみたいに『リライト』の掃射で終わるのを防ぐためだろう。

 この位置関係なら敵に向かって『リライト』を撃ってしまえば、撃った『リライト』が召喚魔を消滅させた後に地表に当たってしまう。
 そうすればさっきみたく火星がむき出しになってしまい、ヘタしたらそれをキッカケに魔法世界が滅びるかもしれないからな。


 …………世界を救うと言ってる奴らが魔法世界を人質にとってんじゃねーよ。



『…………メンドクサイな。
 小太郎君、持って来た紙束の袋開けて取り出して』

『ええけど…………コレ、ただのA4のコピー用紙やん。1000枚包みの。
 印刷前の何も書かれてない奴やけど、何に使うんや?』

『紙で作ることなんて決まっているだろう。式神ちびネギを作るんだよ』

『は? ………………お前が式神作れるんは知ってるけど、魔力どうすんのや?
 あの召喚魔の後はフェイトとかの相手もせなアカンのやで。お前の魔力が大きいのはわかっとるけど、ある程度の力を持った1000体分の式神を作るぐらいの魔力を使ったら、フェイト達の相手はどうすんのや?』

『またあの『魔力吸収陣』とやらか、ぼーず?
 確かにここら辺は自然魔力量が凄いことになってるけど、一度にそんな大きな魔力を集めるには時間がかかるんじゃねーのか?』

『大丈夫大丈夫。先日のラカンさんとの試合では見せなかった切り札その三を使いますから。あの試合場は狭くて使えなかったんですよね。
 それではいきます。『固有時制御タイムアルター』発動………………魔力糸展開、『魔力吸収陣』敷設………………並びに“僕-金星間魔法輸送扉ゲート・オブ・ヴィーナス”開放っ!
 さあ、火星と金星よ! 僕に魔力をわけてくれっ! ………………ただし拒否権は無い!!!』

『『ちょっと待て』』


 ネギ先生が魔力の糸を使って複雑な魔法陣を中空に描いていく。
 魔法陣と言っても平面的ではなくて立体的で、あっという間に魔力糸が私達が乗っている船の上空に広がっていった。

 直径が1kmぐらいありそうだな。これは前の試合では出せなかったわ。
 確か前の試合のときの闘技場の広さが直径300mだったはずだし。


 それにしても“ゲート・オブ・ヴィーナス”って、金星にまで手を出しやがったのか?
 いい加減に自重というものを覚えろよ、ネギ先生。

 そう思ったのも束の間、ネギ先生と魔法陣を繋げている魔力糸が光り出す。
 アレで魔力とか吸収してんのかなー。なーんかその光が魔法陣からネギ先生の方へ流れ込んでいくように見えるんだよなー。


 ネギ先生が置いた紙束に向かって二回手を振ると、紙束が四等分にされる。
 そしてその紙に向かって手を翳すと紙に複雑な文字…………お札に書かれているようなグニャグニャな文字が染み込んでいき、そしてその紙がちびネギに変わる。
 文字が書かれた紙がちびネギとなり、出現したちびネギは中空に浮かんで整列し、その下の紙がまたちびネギになっていく…………というのがドンドン続いていく。



「…………本当にネギ先生はいったいどこまで逝くんだろうか?」

「もう諦めてもいいよね?」

「…………紅茶でもいかがですか? ガンドルフィーニ先生、高畑先生」


 諦めんな二人とも。


『火星と金星の二つの惑星の魔力ともなると…………さすがの僕でもこれは食い切れるかわかりませんね。
 …………アレ? 今“僕-金星間魔法輸送扉ゲート・オブ・ヴィーナス”から「助けてっー!」って悲鳴が聞こえませんでした?
 初めて使ったから、どこか別の場所と混線しているのかな?』

『…………俺にもそんなの聞こえたで』『(…………今は関係ないけど、魔界はどっか違う星にあるって話し聞いたことあるなぁ)』


 そうこうしている間に4千のちびネギが誕生した。
 ネギ先生が召喚魔と墓守り人の宮殿に向かって手を振り下ろすと、ちびネギ達が半々に分かれて召喚魔と墓守り人の宮殿に殺到していく。

 そして召喚魔に接近したちびネギ達が笑い声を上げながら自爆していく。
 墓守り人の宮殿の中に入っていったちびネギ達もいたが、しばらくすると宮殿の一部で爆発が起こるのが見える。









「…………昔のパソコンゲームでさぁ。“レミングス”ってゲームがあったんだよ。
 “集団自殺”をするレミングっていうネズミの生態をモチーフにしたゲーム」

「…………ああ、知ってるよ。瀬流彦君が暇潰しに遊んでいたのを見たことがある。
 今ではブラウザゲームでもあるみたいだね」

「そうなんですよ。あれって時間忘れて熱中しちゃうんですよね。
 ………………あのちびネギ達を見てたら、何だかそれを思い出しました」

「ちなみにレミングっていうネズミ…………旅鼠は集団自殺する習性があるなんて言われているけど、実際はそんなことしないみたいだね。
 周期的に大増殖と激減を繰り返したり、崖から海に落ちる個体がいたりとか、そういう描写をした映画とかが原因でそんな説が広まったらしいけど…………」


 でも私達が見ているレミングスがやっているのは“自殺”じゃなくて“自爆”だ。しかも敵を巻き込んでのな。
 何て嫌な習性を持っているんだよ、あのレミングスは。

 ドッカンドッカンと花火が爆発し、召喚魔が塵へと還っていく。
 そりゃ追尾機能を持った素早い自爆鼠からあんな鈍重そうな召喚魔が逃げられるわけないよなぁ。


 スヴァンフヴィートに移動していたセラスさんとかリカードさんが別モニタに映っているけど………………もうイロイロと諦めた目をしているな。
 無理もない。





『終わったかな? ………………お、ちびネギがデュナミス達発見。
 それではこれから弱い者虐めに行ってきますけど…………アスナさん達も行きますか?』

『『『『『行かない』』』』』


 異口同音に答えるアスナ達。あんなもん見せられても一緒に行こうなんて思うわきゃねーよな。
 弱い者虐めしているところ見て楽しむ趣味もないしさ。


『了解です。
 それじゃあ………………行きますよ、野郎共』

「……えっ!? もしかして私もかね!?」

『ん? …………ああ、ガンドルフィーニ先生はアスナさん達の側にいてください。
 僕が言ったのは小太郎君、ラカンさん、タカミチ、ゲーデルさん、カゲタロウさんですよ。リカードさんはどっちでも良いです』

「相変わらず俺の扱い酷くね?
 …………ところで超大規模積層魔力障壁はどうすんだ、ぼーず?」

『? 『リライト』があるじゃないですか』


 ネギ先生の言葉に絶望する小太郎やラカンさん達。
 まあ、精々頑張ってくれや。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 Q.何故ネギは火星への魔力供給に一番近い金星ではなく水星を使ったのでしょうか?

 A.金星の魔力はネギが使うから。




 『リライト』が強過ぎる。そしてポヨが涙目過ぎる


 久々にブラウザゲームのレミングスをやったら面白かったです。
 失敗したと思ったら全自爆させてやり直すのはデフォ。


 そしてネギの切り札その三、“僕-金星間魔法輸送扉ゲート・オブ・ヴィーナス”です。
 ネギの原作知識は32巻までですので、もちろん魔界が金星にあることなんて知りません。
 それと決して拘束制御術式クロムウェル零号ではありません。あえて言うなら元気玉です。

 ………………元気玉です。拘束制御術式クロムウェル零号ではありません。
 大事なことですから二回言いました。



[32356] 第98話 リライト
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/07/05 20:13



━━━━━ デュナm「『リロケート』――――――『リライト』」


















































━━━━━ 墓所の主 ━━━━━



「「「「「デュナミス様ぁーーーーーーっ!?」」」」」

「「何だとぉっ!?」」

「クックック、“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー最後の鍵グレートグランドマスターキー”…………」





 いきなり『リロケート』で“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー最後の鍵グレートグランドマスターキー”の側に現れたネギ・スプリングフィールドは。何も言わずに『リライト』をたまたまその一番近くにいたデュナミスに向かって放った。
 不意を突かれたデュナミスは『リライト』を避けることが出来ずに消え去ってしまった。
 如何にデュナミスも“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”を持っていたとはいえ、所詮は造物主ライフメイカーによって作られた人形。『リライト』を受けたらさすがになす術はない。

 というか我が末裔が心底容赦なさすぎるんだが、本気でいったいどうすればいいのだろうか?
 しかも何だか隕石を降らせそうな黒い笑みを浮かべておるし…………。


 それにしても…………初っ端から“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー最後の鍵グレートグランドマスターキー”を奪われ、戦力の一つを失ってしまったぞ。
 3番テルティウムは結局昨日の総督府襲撃のときに負った怪我で戦うことの出来ない状態になっている上に、デュナミスがこれで消えた。
 残った戦力はテルティウムの従者を除いたら、4番クゥァルトゥム5番クゥィントゥムしかおらん。

 しかもどうやらネギ・スプリングフィールドは本当に“黄昏の御子”の力を十全に使えているようなので、『リライト』を使って攻撃されたら魔法世界人であるテルティウムの従者は言うに及ばず、クゥァルトゥムやクゥィントゥムまでもが一撃死になってしまう。
 対抗出来るのは現実世界人である剣士の小娘と………………私は奴らの仲間というわけじゃないから違うな、ウン。


 対するネギ・スプリングフィールド側は、ジャック・ラカンや高畑・T・タカミチ、クルト・ゲーデル、犬上小太郎、カゲタロウ、ジャン・ジャック・リカードと腕利きが勢揃いしている。
 しかも全員“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”持ちじゃ。
 いくら簡易版のマスターキーとはいえ、これで彼奴らに弱点は無くなっ………………あ、ネギ・スプリングフィールドが“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー最後の鍵グレートグランドマスターキー”を自分が装備して、今まで持ってたグランドマスターキーをジャック・ラカンに渡したぞ。

 それにしても彼奴らは男ばっかりじゃな。
 テルティウムの話によるとネギ・スプリングフィールドは自らの従者を溺愛しているということなので、彼女達を危ない目に遭わせたくないと思っているのか………………そもそも必要ないということか。
 ネギ・スプリングフィールド一人でも手に負えないのに、ジャック・ラカンなどが加われば他に必要ないということじゃろう。


 これではネギ・スプリングフィールドに勝つことは出来んな。
 まあ、私は魔法世界が崩壊しないのならそれ「ちょっと待つポヨーーーーーッ!!!」…………ぬ、そういえば援軍を呼んでいたんじゃった。

 彼女なら『リライト』が効かないから………………効かない?
 例え『リライト』が効かないからといって、それで何か戦況を引っ繰り返せるとでもいうのか?





「ちょっと待つポヨ、ネギ・スプリングフィールド!!! 先ほど上空で展開した“ゲート・オブ・ヴィ「『リライト』」ってポヨッ!?
 …………ひ、人の話を聞くポヨ!」

「ん? 『リライト』が効かない? …………これなら幻術とかでも消去出来るはずなのに。
 となると、ザジさんに似てて魔法世界人じゃないってことは…………“我 汝の真名を問うアナタノオナマエナンデスカ”」

「お願いだから話しを聞いてほしいポヨ!
 魔法世界が崩壊しないということがわかった以上、私は君と争う気はないポヨよっ!!!」

「本名が“ザジ・レイニーデイ”? 本物?
 でもキャラが明らかに違うし………………『来れアデアット』、“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”。
 えー、ザジ・レイニーデイさん。僕の知っている麻帆良学園3-A生徒であるザジ・レイニーデイさんとの関係を簡潔に教えてください。それと貴女の素性、立ち位置、能力も教えてくださいね」


 何というマイペース。


「…………ふーん、同姓同名の双子のお姉さんですか。そして…………魔族の王女様?
 へぇ~、それで“ゲート・オブ・ヴィーナス”…………“僕-金星間魔法輸送扉”がどうかしましたか?」

「やはり本物ポヨかっ!?
 …………と、とにかく今も展開し続けているあのゲートをすぐに閉じて欲しいポヨ!
 君は知らないのかもしれないが、我ら魔族が住んでいる“魔界”という異界はこの魔法世界ムンドゥス・マギクスと同じように、現実の金星を依代にして構成されているポヨ!
 その金星から魔力を奪われたら、魔法世界ムンドゥス・マギクスみたいに魔界が滅びてしまうかもしれないポヨよっ!!!」

「は? …………嘘はついていないみたいですね。魔界が金星…………ですか。
 でも“力ある者の責務”って…………余所者が余計なことを。“余計なお世話”って言葉知ってます?
 そもそもこんな簡単なことを解決するのを諦めて、楽な手段に逃げようってのが面白くないんですけど…………」

「あんな方法を思いつくのは君ぐらいポヨよっ!
 というか何で妹から聞いていた性格と全然違うポヨ! 麻帆良では猫被っていたポヨか!?」

「? 貴女は自分にとってどうでもいい人に対して、自分にとって大切な人と同じように接するんですか?」


 目が本気じゃ。相変わらず性格がシビア過ぎる。
 ネギ・スプリングフィールドのように“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”を使っていなくても、アレが心の底からの本音だということが理解出来るぞ。

 オスティアを受け継いでいた我が末裔達は、さながら魑魅魍魎が跋扈するような陰謀渦巻く宮廷で暮らしていたというが、ネギ・スプリングフィールドはオスティア王家とは関わりを持たずに一般家庭で育ったはず。
 それなのにこんな性格に育つとは………………血なのか?



 …………何かもう始祖の血筋も駄目かもしれないの。

 考えてみればこの魔法世界ムンドゥス・マギクスが成立してから2600年。
 その始祖の末裔とはいえ、もう何百世代も世代を重ねている。如何に始祖の血脈が強大であったとしても、それだけ世代を重ねればおかしくもなろう。

 始祖の血を受け継ぐウェスペルタティア王家が小国の王に成り下がり、MMやヘラスのような者共がこの世界を牛耳っている。
 それと同じように、始祖の血脈もいつかは変わっていくのじゃろう。


 ………………じゃから私はネギ・スプリングフィールドとは似ておらんぞ。
 ネギ・スプリングフィールドが我が末裔とはいえ、私はあんな滅茶苦茶ではないぞ。
 






「そもそも“僕-金星間”ってところが………………と、とにかくあのゲートを閉じて欲しいポヨっ!
 魔法世界ムンドゥス・マギクスが崩壊しないとわかった以上、アレを閉じてさえしてくれれば私は敵対する理由は無「ネギ・スプリングフィールドっ!!!」ポヨっ!?」


 お、クゥァルトゥムがネギ・スプリングフィールドに魔法を放った。
 火で出来た蜂の大群がネギ・スプリングフィールドに襲い掛かる………………が、そんなもの効くわけなかろうに。

 火のアーウェルンクスであるクゥァルトゥムの火力は、確かにアーウェルンクスシリーズでも最強じゃろう。
 しかしネギ・スプリングフィールドは『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を持っているんじゃぞ。

 現にそのネギ・スプリングフィールドが蜂の大群に向かって手をかざし、自分の周り一帯にフィールドのようなものを張った。
 そして火の蜂達はそのフィールドにぶつかり、サラサラと魔力に霧散してしまう。これでは魔力の無駄遣いじゃな。


 次にクゥァルトゥムは“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”のグランドマスターキーで『リライト』を放ちながら再び魔法も放った。
 『リライト』でネギ・スプリングフィールドの魔法無効化フィールドを消してから魔法を届かせようというつもりなのじゃろうが、あいにくネギ・スプリングフィールドが持っているのは“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー最後の鍵グレートグランドマスターキー”。
 更にはネギ・スプリングフィールドは“黄昏の御子”であることから鍵の力を最大限に扱えるためか、クゥァルトゥムの『リライト』がネギ・スプリングフィールドの無効化フィールドを突破出来ていない。

 …………魔法無効化魔法と魔法無効化魔法のぶつかり合いって変じゃの。



「…………ザジさん?」

「っ!? わ、私は別に彼らと組んで君の注意を引くなんて考えていなかったポヨよっ!
 あのアーウェルンクスが勝手にやっているだけポヨっ!!!」

「………………いいでしょう。“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”を信じるなら嘘はついていないようですし。
 とはいえ“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”も対応策があるので、妄信するのは危険ですから…………武装解除して小太郎君達のところで大人しくしててください。
 しかし“僕-金星間魔法輸送扉ゲート・オブ・ヴィーナス”を閉じるのはこの戦闘が終わったらにします」

「えっ!? …………い、今すぐ閉じるのは駄目ポヨか?
 君とゲートを繋げている魔力糸から、現在進行形で君に魔力を供給しているのがわかるポヨが…………」

「大丈夫ですよ。金星の魔力を全部使うわけでもありません。
 別に僕とて魔族とわざわざ本格的なケンカをしたいとは思っていませんので、この戦闘が終わったら未来志向で話し合いをするつもりはありますけど………………如何せん、貴女は“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”の協力者だったようですからね。
 少しは信用出来るというところを見せて欲しいのですが?」

「………………クッ、わかったポヨ。君を敵にまわすのは得策ではないし、協力する相手を間違った私達の判断ミスでもあるポヨ。
 どうせ力づくで止めるのは無理だし…………でも無駄遣いはしないで欲しいポヨ」

「それ以前に個人で扱える魔力なんて、金星の魔力総量に比べたら微々たるものですよ。安心してください」


 さすがのレイニーデイもネギ・スプリングフィールドを敵にまわすのは避けたか。無理もあるまい。
 私としてもそのつもりだしの。

 私もレイニーデイも“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に協力していたのは、魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊が不可避だと思っていたからじゃ。
 しかしネギ・スプリングフィールドの策で魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊を避けられるのならそれでよかろう。

 確かに生きるもの全てを“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に誘えば、この世界から理不尽によって起こる悲しみは存在しなくなるじゃろう。
 だが、ネギ・スプリングフィールドのように「幸せになりたいなら勝手になれ」という極論とまではいかないが、理不尽なことが起こる残酷な現実もまた人の世の常。
 残酷な現実を悲しいとも寂しいとも哀れだとも思わないでもないが、それを否定してもどうにもならぬ。

 そもそもそれが人が二本足で立つ前からの自然の摂理じゃ。


 それをどうにか出来るのが“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”じゃったがの。
 しかし正直言って、私みたいにここまで長く生き過ぎると、残酷な現実であろうと“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”であろうとどっちでもよくなるのじゃ。

 造物主ライフメイカーは逆に長く生き過ぎたせいでこんなことを企んだようじゃがの。
 自らが作り上げた世界ということもあって“何とかしなければならない”という強迫観念を持ってしまったのかもしれんが、アレは下手したらとっくに亡霊の類にまで成り下がっているかもしれんな。








「私を無視するなぁっ!!!」


 そして無駄なことをし続けているクゥァルトゥム。
 今のネギ・スプリングフィールドとレイニーデイの会話中もずっと魔法を撃ち続けていたが、何故そんな無駄なことを?
 せめてクゥィントゥムと連携して………………ム? そういえばクゥィントゥムはどうした?

 確かデュナミスが消されたときまではいたはずだが、その後から姿が見えない。
 かといって造物主ライフメイカーの使徒たるアーウェルンクスシリーズが逃げるとは思えん。
 だから姿が見えないとなると…………。





「クゥィントゥムッ!!!」





 魔法を撃ち続けたいたクゥァルトゥムが叫ぶと同時に、視界のはるか奥から一瞬で光が走った。
 その光はネギ・スプリングフィールドが展開しているフィールドにぶつかり、パシュッ! とデュナミスのように霧散した………………え?





 …………えっと………………なるほど。これが二人の作戦か。

 あの光が姿の見えなかったクゥィントゥムだったのじゃろう。
 クゥィントゥムは風のアーウェルンクス。その特性からおそらく自らの身体を雷化したのじゃ。

 そしてクゥァルトゥムが正面から挑んで気を引いているうちにネギ・スプリングフィールドの気配察知範囲外に逃れ、そこから一気に雷の速度で不意打ちを行なう。
 例え1km離れたところからの不意打ちでも、雷の速度ならば0.01秒未満で攻撃に入れる。

 無効化フィールド内では雷化が解かれるかもしれないが、加速した速度が緩まることはないから150km/sの速度でネギ・スプリングフィールドとクゥィントゥムが激突することになるじゃろう。
 そんなことをしたらお互いに無事では済まずに木っ端微塵になってしまいそうじゃが、それでもネギ・スプリングフィールドは仕留められる。

 クゥィントゥムの犠牲でネギ・スプリングフィールドを仕留められるのなら釣りが有り余る。
 その後のジャック・ラカンなどの相手がつらくなるが、そもそもネギ・スプリングフィールドを仕留めなければ勝機はないから仕方がないのじゃろう。

 いや、考えも無しにクゥァルトゥムが突っ込んでいったように見えたが、あの一瞬でお互いの役割を判断して阿吽の呼吸で実行するとは、さすがはアーウェルンクスシリーズじゃな。




 …………でも何であんな風に霧散した!?















「ク……クゥィントゥムッ!?」

「ん? 何かぶつかった?
 …………ま、いいや。『リライトフィールド』って便利だなぁ」








  \(^o^)/







 …………イカン。思わず私のキャラに合わないことをしてしまった。

 しかしそれは反則じゃろう。
 『リライトフィールド』ということは、おそらく自分の周りに『リライト』の効果を常時展開しているのだと思うが、そんなことをされたら打つ手が本気で無くなったぞ。
 『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』のせいで魔法による遠距離戦が出来なかったのに、更にこれで近距離戦すら出来なくなった。

 本格的に魔法世界人や造物主ライフメイカーの使徒では勝てない。
 勝てる可能性を持っているとしたら…………月詠のみか。他は全滅じゃな。





「それにしてもアーウェルンクスシリーズ…………か。
 確かに量産されたら少し危険なことになるな。消しておこう」

「…………い、いったい何なんだ貴様はっ!? 何故そのような力を!?」

「ただの“ラスボスって何で勇者が強くなる前にやっつけに来ないの?”を実践してみようと思い立っただけのラスボスだよ。
 現実はゲームじゃないんだから、別につまらなくても文句を言われる筋合いは無いからね。
 それじゃあ、さようなら。『リライト』」


 だから一人だけで戦っているのか。
 ジャック・ラカン達は戦闘態勢を崩していないが、どちらかというと私達の逃走防止のためにいるようじゃ。
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”は死んだフリをして残党狩りから何とか生き延び、雌伏のときを経て今のように再起したので、今度こそ根こそぎに殲滅して再起不能にするつもりなのじゃろう。


 そして遂にクゥァルトゥムも消されてしまった。これでアーウェルンクスシリーズは全滅じゃ。
 この場に残っているのは…………テルティウムの従者達と私のみ。


 詰んだ………………というかこっち向いた。







「……………………」

「……………………」

「……………………フム?」

「っ!?」


 ネギ・スプリングフィールドがこっちを向いて、不思議そうに首を傾げただけなのに何故か身構えてしまった。
 マズイ。私の中の何かがネギ・スプリングフィールドに対して怯えを感じている。

 …………というか元からネギ・スプリングフィールドを敵にまわすつもりはないし、素直に降伏するとしよう。
 降伏したなら危害は加えてこないはず。
 私が何故“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に協力していたのかを説明しようとしても「話は後で聞きます」で終わるじゃろうし、ネギ・スプリングフィールドの先祖であることを教えても「それが?」で終わって無駄じゃろうな。

 私としてはこの魔法世界ムンドゥス・マギクスが滅びなければそれでいい。
 だから戦おうとは思っておらんのじゃ。


 …………。

 ……………………。

 ………………………………とりあえず両手を上げて、戦闘の意思がないことを伝えてみよう。







「……………………」

「……………………」

「……………………あっちに」


 …………ホッ、助かった。
 ジャック・ラカンの方へ向けて指を差したので、レイニーデイのように武装解除して大人しくしておけ、ということじゃろうな。


「ぼ……墓所の主……っ」


 ジャック・ラカンの方へ行こうとした私を縋るような目でテルティウムの従者が私を見てくるが、そんな目で見られても困る。
 元々私は彼女達の仲間であったつもりはないから………………別に私は悪くないと思うのじゃ。





「おはようございます。皆さん。
 …………そういえばフェイトはどちらに? ラカンさんのデカイ一撃を喰らったとは聞きましたが?」

「「ヒッ!?」」

「あ……貴方に言うことなどありません……」

「…………大丈夫。貴女達はここで死ぬ訳じゃありません。先に消えた彼らと同じ、永遠の園へと移り住むだけ。
 安心して身を委ねて良いですよ。フェイトとも愛する者とも、いずれあちらで会えるでしょう」

「な……何を勝手なことを……っ!」

「? 元々貴女達だって、それをこの世界の人々にやろうとしていたのでしょう?
 だったらその貴女達が目指した幸せな夢を永遠に見続けると良いです。
 灰は灰に。塵は塵に。夢は夢に。幻は幻に。望む者には永遠の安らぎを…………」

「つ……月詠さん……っ!」

「ウチですかぁっ!?」





 どう考えても本物のラスボスじゃな。
 何で10歳の子供があんな風に育ったのじゃろうか?












━━━━━ トサカ ━━━━━



「いつまで寝てんだい、トサカ!
 さっさと起きて仕事やんなさい!」


 うえっ!? …………もう朝か。勘弁してくれよ、ママ。
 寝たのは今日になってからだったんだぜ。

 …………まったくネギの野郎。舞踏会出席者避難の手伝いなんてめんどくせー仕事を押し付けやがって。
 いくら主体が総督府の警備隊達だからって、下っ端の俺達に押しかかる雑用の量は半端じゃなかったぜ。





「おう。起きたか、トサカ。
 ちょうど良かった。ネギの連絡先知らねーか?」

「ああ、おはよう。兄貴。
 ネギの連絡先? 確か昨日の夕方、出立の挨拶に来たときに“ゲーデル総督を通して連絡してくれ”って言われなかったっけ?」



 顔を洗っていたらバルガスの兄貴が来た。
 …………目の下にクマが出来てるな。

 最近はネギのことで忙しかったし、何より“ナギ・スプリングフィールド杯”が終わってネギがウチの拳闘団から出て行ったから、これからの方針を決めるのが大変なんだろう。
 今でもネギのファンから問い合わせが来るけど、「もう辞めました」って言ったら何でかウチの拳闘団が責められるんだよな。「ネギに対して何か不義理をしたんじゃないか?」って…………。

 もちろん事情を説明したら大抵のファンはわかってくれるけど、熱狂的なファン(特に女)はそうもいかねぇ。
 女共があんなに厄介だったとは…………ネギがやけに女を苦手にしていた理由がわかったぜ。あいつも苦労してんなぁ。

 それに確かに忙しくてとんでもないことになってるけど、その分以上に利益は上がっているから文句は言えねぇし…………何よりラカンさんの直筆サイン!
 ネギがラカンさんに会いに行ったときに貰ってきてくれたけど、これはもう一生の宝にするしかねーな!!!

 こんなもの貰えるだなんて、ネギ様様だぜ!!!



「出来たら直通で連絡出来たらいいんだが…………ホラ、ネギに貸していた部屋があるだろ。
 ネギが出て行ったんで片付けを始めたんだが、片付けしていた奴がネギの忘れ物を見つけてな」

「それこそゲーデル総督に言えばいいんじゃねーの?」

「…………いや、その見つかったものってのがこんなんでよ。
 あんまり表に出していい物かどうか不安で…………」



 ? 何なんだよ…………って、 “RAKAN FILM”……“紅の翼戦記”のエピソード1、“旅経ちのラカン”!?
 いったい何なんだこの映画は!?



「あ……兄貴、これはいったい?」

「いや、俺もわからねぇ。
 でもこのタイトルの文字って、お前がネギから貰ったラカンさんのサインにソックリじゃねぇか?」



 …………言われて見れば確かに。
 それに“RAKAN FILM”ってことは、もしかしてこれってラカンさん公認映画か何かなのか!?

 やべぇっ! すげぇ見てみてぇ!!!



「見るか? タイトルは書かれてないけどエピソード2もあるぞ。
 …………っていうか、一緒に見て共犯になろうぜ!」

「い、いいのかよっ!? ネギは怒ったら怖えぞ!」

「馬鹿野郎! ネギが怖くてラカンさんのファンをやってられっかよ!
 そもそも何でお前だけラカンさんのサイン貰ってんだよ! しかも昨日は俺に仕事押し付けてネギの奢りでたらふく食ってきやがって!」

「オーケイオーケイ! わかったから落ち着いて兄貴!」





 俺だってネギの担当で苦労してたんだけどなぁ…………。

 ま、いいや。黙ってればわからねーだろうし、そもそもネギはこんな小さなことで怒ったりはしねーだろ。
 アイツは本当に大事にしているもの以外にはあまり執着心とか持ってないからな。
 忘れていったってこと自体が、ネギにとってこの映画はそんなに大事じゃないってことだろしな。


 何よりも俺がこの映画を見たいんだよ! 
 あとでネギに怒られようが、知ったことかぁっ!!!



 …………あ、せっかくだからチンとかピラ達も呼んでやるか。
 共犯は多い方が良いしな。





━━━━━ 後書き ━━━━━



 デュナミスゥゥゥーーーーーっ!!!


 …………このネタは第二章が始まったときから場面展開を━━━━━ 人名 ━━━━━でやり始めたときから決めてました。
 そしてとりあえず『リライトフィールド』で魔法世界ムンドゥス・マギクス人による暗殺防止はバッチリです。その内本拠地を作ったら、丸ごとフィールドで覆います。



 それにしても忘れ物をするなんて、ネギったらうっかり屋さんだなぁ。もちろん忘れたのはコピーですけどね。
 しかもドンドンと順調にラスボスと化していくし…………。



[32356] 第99話 フェイト
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/07/08 10:38



━━━━━ 近衛近右衛門 ━━━━━



「3……2……1…………六ヶ所の魔力溜まりに待機中の新しいちびネギぼく達とのリンク確認。
 魔力供給開始。…………新しい僕達への幻術を使用しての世界樹発光の隠蔽結界の制御権委譲を確認しました。
 保有魔力が減少した古い僕達はそのままスリープモードに移行し、魔力溜まりの魔力を用いての魔力回復を試みます」





 …………ふむ、何とか間に合うようじゃの。

 昨日、いきなり世界樹が発光し始めたときは驚いたが、ちびネギ君達が幻術でいつもの世界樹に見えるようしてくれた。
 幻術を使う前から多少は光ってはいたが昼の明るい時間だったから、一般人には気づかれなくてすんだようじゃな。

 とはいえ発光が始まってからもう丸一日。
 ちびネギ君達の消耗が激しくなってきたので、そろそろ何とかせんといかんが…………。


「これで動けるちびネギ君達は残り何人かね?」

「現在、稼動可能のちびネギぼくは僕を含めて52体。48体がスリープモードで魔力回復中です。
 それとやはり世界樹から漏れ出る魔力のせいで幻術に乱れが生じます。それを防止するためにも大規模な幻術を展開していますが、やはり魔力消費量が大きすぎますね。
 しかも魔力溜まりの魔力は学園祭のときに散らしてしまいましたので、魔力回復の具合があまり芳しくありません」

「かといって生徒達に気づかせるわけにはいかんしの。
 麻帆良には勘が鋭い生徒が多いから、アレほど大量の魔力ならば何か不審に思うかもしれん。少なくとも違和感は感じるておるじゃろう。
 さっきはこのままのペースならまだ丸一日は持つと言っておったが、何か変化はあったかの?」

「いえ、今のところは計算通りに進んでいます。
 6人の僕で大体2時間は維持出来ますので、スリープモードで魔力回復中の僕も考えたらそれぐらいでしょう」



 丸一日…………か。それぐらい持てば大丈夫かの。
 昨日から明石教授達が対応策を練ってくれているから、今頃何らかの策は出来ているじゃろう。

 それに何より、ネギ君が魔法世界ムンドゥス・マギクスの方で始末をつけてくれるじゃろうしな。


「ウム、今はそのまま幻術の維持に努めておいてくれんかの。
 ワシは他の先生達から一度報告を受けて現状を再確認する。時間に余裕があるのなら、どうするかを決めるのはそれからでも遅くはあるまい。
 …………それと、あれから魔法世界ムンドゥス・マギクスのネギ君からの連絡はあったかね?」

「10分前の“墓守り人の宮殿への突入開始”という通信が最後です。
 ………………といっても、地球と火星は光の速さでも5分はかかりますし、今の現実世界ムンドゥス・ウェトゥス魔法世界ムンドゥス・マギクスでは時間差がありますので、今頃どうなっているかはわかりません」

「いや、大丈夫じゃよ。それは仕方があるまい。それではちょっと席を外すがよろしく頼むよ。
 ああ、お菓子とかは好きに食べていいからの」

「はーい」





 やれやれ、わざわざムコ殿がこっちに顔を出しているときにこんな事件が起こらなくてもいいじゃろうに。

 ま、今のところは特に問題は表面化しておらん。
 麻帆良はいつもどおりの日常を過ごしているのじゃが…………表面化しておらんだけもしれんな。
 麻帆良とオスティアのゲートがある以上、膨大な魔力が強引に向こうとこちらを繋げてしまう可能性も否定出来ん。

 ちびネギ君のおかげで混乱は起きていないが、逆に取り返しのつかないことになってから問題が表面化するかもしれん。
 あまりにもちびネギ君に頼りきりというのも、あまりよくない状況じゃの。
 かといって取れる手を取らないということは出来んし、こういうことの匙加減は難しいわい。





「お義父さん」

「学園長」


 おや? 婿殿に…………それにアルまで? それと婿殿の肩にはちびネギ君が1人。
 アルが上に出てくるなんて珍しい。上でも活動出来るなんて、やはり世界樹のあの膨大な魔力のおかげかの?


「ちびネギ君がいるということは、2人とも状況はわかっているんじゃよな?」

「ええ、このちびネギ君から聞いています。大変なことになりましたね」

「フフフ…………どちらかというと、この事態よりもネギ君自身の方が大変になっていると思いますけどね」


 …………せっかく目を背けていたことなのに、どうしてお主はそうやって思い出させるんじゃ、アル。
 ネギ君が魔法世界ムンドゥス・マギクスに行くときが決まったときには、こんな状況になるなんて思ってもおらんかったぞ。


 拳闘大会で活躍したのはいい。
 拳闘大会で活躍したことでネギ君が知名度が上がったので、“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”を実施するときの大きな助けとなるじゃろう。
 ネギ君もそれを狙って拳闘大会に出場したのだから、まさにネギ君の狙い通りじゃな。

 ジャック・ラカンと戦ったのも別に構わん。
 やはり“ナギ・スプリングフィールド杯”でジャック・ラカンと戦ったおかげで、ネギ君の知名度が更に凄いことになったしの。
 それにジャック・ラカンもナギの息子であるネギ君には興味があったのじゃろうし、ネギ君がナギの知り合いと伝手が出来るのは今後のためにもなるじゃろう。
 ジャック・ラカンからも“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”協力の約束を取り付けたようじゃしの。彼ならネギ君の力になってくれるじゃろう。
 ………………MMのゲートポートまで迎えに来るのはサボったらしいがの。

 それと元老院議員でもあるクルト・ゲーデル総督の協力を得られたことはよかった。
 ゲーデル総督ならば“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”のみならず、対元老院でもネギ君の助けになってくれるじゃろう。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊を救うことが出来ても、元老院がチョッカイをかけた結果で魔法世界ムンドゥス・マギクスが滅んでは元も子もない。
 ゲーデル総督はアリカ様のこともあるので、それこそ嬉々として全面的に協力してくれるそうじゃな。

 MMのリカード議員、ヘラスのテオドラ皇女、アリアドネーのセラス総長とも面識が出来た上に、彼らの目の前で“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”のテロを未然に防ぐという功績も立てもした。
 これならいずれの国もネギ君のことを粗末には出来んし、“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”実施のときの貸しにもなるじゃろう。
 ネギ君はアリカ様のように、いい様に使われて最期はポイ捨てされてしまうのを警戒しているらしいが、この状況ならその心配はあるまい。
 というか元老院が相手でも………………むしろ元老院の方がピンチじゃな。彼らはいったいどうなるんじゃろうか?

 何より魔法世界ムンドゥス・マギクスの秘密に繋がる力…………造物主ライフメイカーの力を手に入れたことは決め手じゃな。
 これでネギ君に魔法世界ムンドゥス・マギクスで敵う者はいなくなった。
 ゲートポートでのテロや、木乃香がネギ君と離れて行動していたというのは心配じゃったが、これで木乃香の身の安全は保障されたも同然じゃ。



 …………。

 ……………………。

 ………………………………一つ一つは問題ないのに、全部合わさっただけでどうしてこんなことになったんじゃろう?
 今回のことはネギ君のせいで、本気で魔法世界ムンドゥス・マギクスの歴史の大転換点になってしまったぞい。

 マジであの子これからどうすんじゃろうか……?




「そんなに気にされなくても良いと思いますけどね。
 ネギ君は他人からチョッカイかけられない限りは、基本的に人畜無害の性格ですし…………」

「性格が人畜無害でも、行動が人畜有害ならどうしようもないわい。
 …………いや、ネギ君が真面目な良い子だということはわかっておるのじゃがな。
 でもそのネギ君のせいで、お主だって痛い目を見たんじゃろうに…………」

「フフフ、確かにまほら武道会のときは驚きましたよ。その後に招待したお茶会の時も驚きましたけどね。
 でもネギ君は確かにナギの息子ですよ。捻くれているように見えて、実は誰よりも真っ直ぐですからね」

「ああ、話は聞きましたよ、アル。
 まさかネギ君がナギに勝つとは………………まあ、驚きもしますけど、どこか納得もしてしまうのが不思議です。
 ネギ君はエヴァンジェリンをドラゴンと形容したらしいけど、ネギ君自身がドラゴンみたいなものですよね」

「それはわかるんじゃがのぉ。
 確かにネギ君は真っ直ぐに進み過ぎるせいで、誰もが回り道をするはずの道を気にせずに突っ切ってしまうだけじゃからな。
 それが逆に他人の目には変な風に見えるだけじゃろう」

「それに学園長が恐れているのはネギ君が何を仕出かすかではなくて、ネギ君にチョッカイをかけた誰かのせいでネギ君がどういう反応を示すかでしょう。
 元老院がネギ君に…………ネギ君の従者に何かするなら魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊も有り得るでしょうが、何もしなかったらネギ君も何もしないということはわかっているはずです」

「…………そうじゃの。ネギ君自身は普段の平穏な生活のみで満足出来る性格じゃ。それ以上のことはむしろ面倒臭いと思うじゃろうて。
 そういう意味では安心しておるのじゃが…………」

「何だか本体ぼくがえらい言われような気が…………」

「ハハハ…………まあ、ネギ君がまだ子供なのは確かですし、これからまだまだ勉強していこうという向上心を持っています。
 10歳ですし、長い目で見ていけば良いではありませんか、お義父さん」


 いや、わかっておるんじゃよ。ネギ君が良い子だということはわかっておるんじゃよ。
 ただネギ君のやっていることが“子供のすること”の範疇に収まっていないのが問題なんじゃよ。

 ネギ君のすることは納得出来ることでもあるし、何よりワシら大人の後始末という点が大きいからの。
 決してワシらがネギ君を非難出来る立場じゃないのはわかっておるが………………もうちょっと上手くやってくれんかのぉ。












━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━



 祭壇に赤毛の小さな子供…………初めて会った頃のネギ君の姿が見える。
 アレがネギ君の血を利用して造られたホムンクルスか。本当にネギ君ソックリだ。
 騒ぎが起こっても中空を焦点の合っていない目で見つめているだけで特に動きはないけど、もしかしたら彼はまだ意思が出来るほど成長していないのかもしれない。


 …………あの頃のネギ君は僕に「タカミチは『咸卦法』を使えるんですよね!? 見せてください!」ってせがんできたりして、素直で純真だったんだけどなぁ。
 いや、今でも素直で純真なんだけどね。むしろ素直過ぎて純真過ぎるんだけどね。


 でもよくよく考えたら、ネギ君があそこまで強くなるきっかけを作ったのってもしかして僕なのか?
 『咸卦法』を見せたりしなければ『闇の咸卦法』を開発したりしなかっただろうし、“紅き翼アラルブラ”の話をしなかったらネギ君が“紅き翼アラルブラ”のことを調べて技を自習しなかったかもしれない。

 そう考えたら僕が困っているのは自業自得ということなのか…………。





「やめてくださいよね。本気で戦ったら、月詠さんが僕に敵うはずないでしょう」

「…………いや、スイマセン。ホント無理ですわ。
 というか首刎ねても一瞬で治る人を倒すとかって絶対無理ですって……」

「刀で今の僕を殺したければ、一瞬で全身を細切れにするぐらいしないと無理ですよ。
 “僕-金星間魔法輸送扉ゲート・オブ・ヴィーナス”のおかげで魔力使い放題ですからね。一瞬で殺されなければ強引に治癒可能です。
 手っ取り早く僕を殺したければ…………そうですね。核ミサイルでも持ってきてください。肉体ごと蒸発させられたら、さすがに復活は無理だと思います。
 ………………本当に持ってこられたら転移魔法で逃げますけどね」

「あいにくそういうのは趣味じゃないんです………………というか、そんなの手に入れられるとお思いで?」

「無理でしょうね………………うん? …………ムリデスネ。
 …………フム、これが妖刀“ひな”ですか。神鳴流を調べたときにこの名前を見たことありますけど、まさか実際に手に取る機会があるとは………………刀は持ってなかったからちょうど良いかな。
 いつまでも杖で神鳴流の技を振るうのは何ですし……」





 でもあそこまで極端に強くならなくても良いと思うんだけどなぁ……。
 それ以前に核ミサイル手に入れる方法を真面目に考えないでくれ。


 それにしてもネギ君の右手には妖刀、左手には“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー最後の鍵グレートグランドマスターキー”。背中にはナギの杖。
 しかも月詠という女の子の一太刀で首を刎ねられたけど、刀が通り過ぎた端から首が繋がっていったので、首を刎ねられはしたけど首が刎ね飛ばされたりはしなかった。

 ………………ネギ君が順調にラスボスへと化していく。明らかに良くない気を発している妖刀を持っても平然としているし…………。
 本当にコレどうするんだろうか?



 ネギ君は、戦闘が始まったと思ったら有無を言わずにデュナミスを消滅させ、アーウェルンクスシリーズの二人もあっという間に消滅させた。まあ、一人は自滅だけど。
 アーウェルンクスシリーズの一人であるフェイトがいないのは気になるけど、昨日ラカン・インパクトが直撃していたから動けないのかもしれない。
 これで敵の主力は撃破出来た。
 
 それとレイニーデイ君の双子のお姉さんという魔族の子と、墓所の主という人がこちらに投降した。
 レイニーデイさんが魔族だということには驚いたけど、墓所の主を含めてネギ君のプロジェクトが実行されるのなら敵対する理由はないらしいから問題はないだろう。


 …………で、残ったのがフェイトの従者の女の子達なんだけど…………どうしよう。滅茶苦茶怯えているよ。
 しかもどう見ても怯えている理由は『リライト』で消えることではなく、ネギ君の存在自体に対して怯えているようにしか見えない。
 それは無理はないと思うんだけど………………ネギ君がしているのは弱い者虐めにしか見えないのが困る。

 いや、確かにここに来る前にネギ君は「弱い者虐めに行ってきます」って言ってたけどさ、ここまで一方的になるとは思わなかったんだよ。
 少しぐらい僕達にも出番があると思っていたんだけど…………やっぱりあの『リライト』がなぁ……。


 テオドラ皇女達があの力を警戒している理由がよくわかる。
 ネギ君だけでなく、そんじょそこらの魔法使いが“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”を持っただけでも、魔法世界人ではあの力に対抗する方法がない。
 あの力は魔法世界人にとってはまさしく天敵だ。



「避けりゃどおってこたねぇんじゃね?」

「そのりくつはおかしいです」

「ラカンさんの感覚で言わないでください」



 幸いネギ君が“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”の全てを回収することになったし、あの力が一般に出回ることは無いだろう。
 MMやヘラス、アリアドネーなんかは他の国を出し抜いて調べたがるだろうけど、ネギ君のことだから

「別に(僕達には害はないので)良いですけど、とりあえず皆さんで話し合って研究してくださいね」

 とか言うだろう。興味のないことは丸投げするからね。
 そうなれば結局はお互いに牽制しあって、話は立ち消えになるんじゃないかな。

 そこまで上手くいかなくとも、クルトの方で何らかの手を打つだろう。
 ネギ君の味方をすると言ったときのクルトは本心だったろうし、アリカ様が関わっていることでならクルトが変なことをすることもないだろう。
 政治関係のことならクルトに任せておけばいい………………けど、アレ? そしたら僕は何を手伝えばいいんだろうか?







「月詠さんはどうします? “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に行きますか?
 どうせ貴女のことですから戦うためだけにこんなことに関わっていると思うんですけど、“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に行けばいつまでも戦い続ける夢を見れますよ」

「あ……相変わらずみたいですねぇ、ネギ君。
 他人をゴミのようにしか見ていないであろうその目………………私は自分のことを異端だとわかっていますけど、ネギ君は私以上の異端ですなぁ」

「ハッハッハ、僕が異端な訳ないじゃないですか。異端や極端なんかじゃなくて、僕はど真ん中に位置していますよ。
 …………ただし横方向ではなくて、上下方向に突っ切ってる感は否めないですけどね」


 あ、それわかる気がする。
 ネギ君が取っている行動は変だとしても、決して間違っているわけじゃないのが困りものなんだよね。


「それにしても貴女も難儀な性格をしていますね、月詠さん。
 ヤンデレ風味な戦闘中毒バトルジャンキーなんて今時流行らないですよ」

「ハッ! ネギ君に言われたくはありませんよ。
 私が求めるのが血と戦のみだとしたら、ネギ君はお嬢様達のこと以外はホンマにどうでもええんでしょう」

「まあ、否定はしませんね。“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”や貴女にとって重要な局面であるこの今は、僕にとって昼下がりのティータイムと何ら変わらない平穏なものでしかありませんから。
 でも僕と月詠さんでは決定的に違うところがありますよ。月詠さんは斬る相手のことなんて考えていないでしょうけど、僕は叩き潰す相手のことを考えた上で相手の事情を無視して叩き潰します。
 相手のことを考えている分、僕の方が優しいです!」

「ネギ君は何を言うてはるんですか?」

「ま、いいです。それに考えてみれば貴女は神鳴流の一員ですからね。
 僕が始末するのは西の人にとっては面白くないことかもしれませんから、素直に西に引き渡すことにしましょう。
 …………詠春さんに挨拶しに行くときの土産になるでしょうし」

「ちょっ!? 私は結納品ですか!?」

「ハハハ、自分がそんな縁起の良いものだと思われているんですか?」


 ネギ君のその言葉と共にバチバチィッ! っと電撃が流され、月詠君が気絶する。
 そして転移魔法ゲートが開かれて月詠君がどこかに送られた。きっとエヴァ達のところだろう。
 あそこなら例え月詠君が目覚めたとしても、エヴァ達で取り押さえることが出来るからね。

 これでネギ君に勝ち目がある人間はいなくなった。
 残るは怯えているフェイトの従者達だけなんだけど…………何だか怯えて震えている彼女達を見ると、どっちがテロリストなのかわからなくなってくるから困る。

 コレ、どうしようか?





「? “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に送るのじゃ駄目なんですか?
 彼女達はこの魔法世界ムンドゥス・マギクスで起こっている理不尽な出来事を無くすために頑張っているみたいですが、それも“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に行けばもう気にしなくていいわけですし」

「ネギ君、わかってて言ってるだろ?」

「…………まあ、そうですけどね。しかしこれは僕達と彼女達の戦争だったんです。それで彼女達が負けてしまったんだから仕方がないでしょう。
 それに逮捕して法の裁きを受けさせる手もありますけど、そっちの方が彼女達にとっては辛いんじゃないですか?」


 ああ、なるほど。一応ネギ君も色々考えてはいたんだね。

 確かにこのまま捕まえてもいいけど、そうしたら彼女達はテロリストとして扱われる。
 デュナミスやアーウェルンクスがいなくなって彼女達しか残っていない以上、騒ぎの責任を全て彼女達に押し付けることになってしまうかもしれない。
 それだけのことだと彼女達もわかっててやっていたんだろうけど、必要以上に彼女達が貶められる可能性もあると考えているんだろう。………………アリカ様みたいに。


 それならいっそ“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に送って楽にしてあげるというのも間違っては………………アレ?
 本当にそれでいいのかな? 何だか僕もネギ君の影響で感覚がおかしくなっているような気が……?

 そう思った瞬間……




















「まつんだ!」











 !? 馬鹿なっ!?
 祭壇にいたネギ君のホムンクルスが喋った!?





「まにあった…………ようやくインストールがしゅうりょうした…………」

「……………………」

「クゥァルトゥムとクゥィントゥムもやられたか。
 だけどまだぼくがのこっている…………」

「……………………」

「ネギくん、きみはたしかにつよい。しかも“ぞうぶつしゅのおきてこーど・おぶ・ざ・らいふめいかー”までもたれたらぼくらにかちめはなかっただろう。
 でも…………いまのぼくなら『リライト』はきかない。これでじょうけんはごぶだ」


 …………えっと、これは……。


「君…………フェイトだろ」

「? よくわかったね?
 かおはまったくきみとおなじのはずだけど…………」



 わかるって。確かに顔は小さい頃のネギくんだけど、明らかに別人だよ。
 幼い可愛らしい顔してるのにフェイトのような無表情なんだけど、どこかキリッ!とした顔がジョークにしか思えない雰囲気を醸し出している。

 こういう場合はいったいどんな反応をすればいいんだろうか?



「(か……顔はネギ・スプリングフィールドなのに……)」

「(表情でフェイト様ってことがわかる……)」

「(何か可愛い……)」

「(舌っ足らずなフェイト様……)」

「(持って帰りたい……)」


 フェイトの従者の子達がネギくんを前にしたときのアスナ君や木乃香君みたいな顔をしているな。

 ネギ君はネギ君でこんな展開は予想していなかったらしくて、どうしたらいいかわからないみたいだ。
 いくらあのフェイトが敵とはいえ、さすがのネギ君も見た目3~4歳の子供に攻撃するのは躊躇うんだね。少し安心したよ。








「…………え、なに? 僕のホムンクルスにフェイトがインストールされたの?
 確かにそれなら『リライト』は効かないかもしれないけど………………とりあえずその舌っ足らずをやめてくんないかな」

「む、きこえづらいかな? ちしきやぎじゅつはインストールできたけど、からだじたいはまだうまくそうさできていないか。
 あー……アー……阿ー…………これでいいかな、ネギ君?」

「うん…………聞こえやすくなったよ。
(…………アスナさん達から見た僕ってあんな感じだったんだろうか?
 ヤバイ。何だかやけに恥ずかしくなってくるんだけど…………今度からちょっと自重しよう)」





━━━━━ 後書き ━━━━━



 ネギを染めたければ妖刀“ひな”を300本は持ってきてください。


 もうすぐこの作品も完結です。
 第二章をやけに長くしすぎた気がしましたが、もうしばらくお付き合いください。



[32356] 第100話 造物主
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/07/12 23:56



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



「…………そうだよね。普通に勝てないよね」

「やめてよね。本気で戦ったら(以下略」



 タカミチ以上、ラカンさん未満。

 それが今のフェイトの強さでした。
 未満ではなくてラカンさん以下だった前の身体のときより弱くなっていますけど、要するに悟空の身体のギニュー状態ですね。

 この人形故に身体の成長具合と戦闘能力があっていないのは仕方がないのですが…………幼児の身体にこの戦闘能力では違和感が凄すぎる。
 周りの人達が僕をどんな風に思っていたのがようやく実感出来ました。皆、ゴメン。


 まあ、技のキレとかは技術のインストールで一流のものになってはいましたけど、そもそものリーチが短すぎるから対処は簡単です。
 身体が僕のホムンクルスだからなのか『咸卦法』とか『闇の咸卦法』も出来るみたいですけど、そんなものは僕だって出来ますし今まで培ってきた錬度が違います。
 色々チートをしてある僕ですが、真面目に修行してきた時間に関してだけは本物です。チート能力だけに頼ったりしていません。


 技術や知識がいくらでもインストール可能だとはいえ、そんなインスタントな付け焼刃で僕に勝てるとは思わないことだね、フェイト。





「使っていてわかった。この身体は底無しだ。
 僕では君の力を汲めて三割といったぐらいのようだよ」

「何年か身体を慣らせばまた違っただろうけどね。だけどそんな時間は与える必要を感じない。
 君が動いたのには驚いたけど…………それにいくら自分のホムンクルスの身体とはいえ、3~4歳ぐらいの子供を甚振るのは気が咎めるけど、時間稼ぎにしかならなかったね」

「…………そんなことはわかっていたよ」



 さて…………このフェイトどうしよう。『リライト』が効かないから“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”には送れない。
 かといって素直に魔法世界ムンドゥス・マギクスに引き渡すわけにはいかないな。
 
 何しろ僕の血を利用して作られたホムンクルスの身体を持っている。
 そのことから不完全とはいえ“黄昏の御子”であり、『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を備えているんだからなぁ。

 それに数年もすれば、少なくともラカンさん以上の力をつけることになるだろう。
 下手をすれば僕と同じぐらいにまで強くなるかもしれない。
 そんなフェイトを放置したり引き渡すわけにはいかないけど…………殺すのもなぁ。


 僕と同じ顔をしているし、何より3~4歳ぐらいの幼児姿。
 いくら僕が敵に容赦しないとはいえ…………そしていくら中身がフェイトだとはいえ、さすがにコレを殺すのは気が引ける。

 フェイトの従者の女の子達も僕の足元にいる倒れ伏しているフェイトを見て涙ぐんでいるし、僕を非難するような目つきで睨んでくる。
 敵同士なんだからそんな目で睨まれても気にする必要はないんだけど、3~4歳ぐらいの幼児を踏み付けているという事実が僕に罪悪感を抱かせる。
 さすがにこれでフェイト殺したら人でなしだよなぁ……。

 それに何だかんだで僕だって人を殺したことないんだよね。さっきのデュナミス達は“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に送っただけだからノーカン。
 人を殺すのは避けるべきだとは思っているけど、別に理由があるのなら容赦はしないんだけど…………さすがにこんな幼児を殺すのはちょっと。


 本当にどうしよう、コレ。
 とりあえず幻術かけて、元のフェイトの顔にしてみようか。
 そうすれば罪悪感も少しは薄まるかも…………。




「(ちっちゃなフェイト様っ!?)」

「(か……可愛い……)」

「(ネギ・スプリングフィールドォ……)」

「(あんな小さなフェイト様を足蹴に……)」

「(……殺す。敵わなくても絶対に殺すっ!)」




 殺気が増大しました。

 すいません。僕が悪かったです。そんなに睨まないでください。
 それに自分の顔した幼児虐めるより、フェイトとはいえ他人の顔した幼児虐める方がキツイです。


 やっべぇ。この始末、本当にどうしよう……。
 アーウェルンクスシリーズの身体を作り直して、それにフェイト入れてから『リライト』で消そうか?
 面倒だけど、このままこのフェイトを殺したりするのは嫌だし。









「…………まあ、君の好きにすると良いよ。
 僕の役目は終わったんだから…………」

「ん? やけにアッサリしているね?
 それに君の役目が終わったって『ネギッ! テオドラじゃ、空を見てみろ!』…………うん?」


 空? いったい何が………………って、ゲェッ!? あれは麻帆良!?

 ちびネギを外に出して空を見てみたところ、空に地面が見える!
 魔力が溜まり過ぎてゲートが現実世界ムンドゥス・ウェトゥス魔法世界ムンドゥス・マギクスを繋げちゃったのか!?

 しまった! 気づくのが遅れた!
 フェイト達逃走阻止のためにちびネギ達を全部この広場に集めたのが仇となった!


「テオドラ皇女! 麻帆良が見えるようになったのはい『式神ぼくより本体ぼくへ。魔力頂戴』つ…………よくやったちびネギ達!!!」


 もしもの時を考えて麻帆良に置いていったちびネギ達か。
 まさか本当に必要になるとは…………“備えあれば憂いなし”とはよく言ったものだな。


 “僕-金星間魔法輸送扉ゲート・オブ・ヴィーナス”から供給された魔力をそのままちびネギ達へ転送。
 幻術か何かでいいから、麻帆良の人達からコッチを見えないようにしろ!
 それと今ここにいるちびネギ達の半分は直ちに麻帆良へ直行! 浮遊岩などが麻帆良への落下するのを阻止しろ!


 …………しかし何でまたこんなに早く?
 向こうとコチラが繋がるまでの魔力が溜まるには、戦いの前にした計算ではまだ時間的には余裕があったはずなのに…………。
 計算より早すぎる。




「いや、それは君のせいだろ。
 あの“僕-金星間魔法輸送扉ゲート・オブ・ヴィーナス”とやらから湧き出る魔力のせいで、この付近に集まる魔力の量が多くなったんだよ。
 …………というか、あのゲートから本気で魔力が漏れ出てないかい?」


 え、マジで? これって初めて使うから、どこかにバグでもあるんかな?
 でも“僕-金星間魔法輸送扉ゲート・オブ・ヴィーナス”を構成している魔法式をリアルタイムで監視しているけど、今のところ特に問題は出ていない。
 コッチで問題がないということは、ゲートの向こう側で何かあった………………アレ?


「ポヨッ!? …………何で私を見るポヨか?
 私はちゃんと大人しくしているポヨよ!」

「いえ…………何でもないです」


 …………そういえば金星には魔界があるんでしたね。
 魔族の人がゲートに何らかの干渉をして、そのせいでゲートから魔力が漏れ出ているということか。
 やっべ。一度閉じよう。

 そんで“僕-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリー”を新規展開。
 一応、前の二つの術式を造ったときに念のためと思ってこの術式も作っておいたけど、まさか本当に必要になるとは…………“備えあれば憂いなし”とはよく言ったものだね。ウン。





「そっか…………それなら確かに君の役目は終わってたね、フェイト。
 あーあ、完璧にコレは僕のミスだわ。最後だからって調子に乗りすぎた」

「そうだよ。これでの復活はなされる。
 ネギ君はさっき「時間稼ぎにしかならなかった」と言ったけど、元より僕達の目的はそれだったんだ。だからこんな風にお喋りにも付き合っていたんだよ。
 ………………あの“僕-金星間魔法輸送扉ゲート・オブ・ヴィーナス”には驚いたけどね」







【その通りだ】






 …………その声を聴いた瞬間、ゾクリとした。
 久しぶりに僕の敵となりうるかもしれない存在。久しぶりに僕を殺せるかもしれない存在と出会った気がする。

 これが…………造物主ライフメイカー
 前の世界では結局会わなかったけど、確かにラスボスの貫禄を感じる。










【見事な魔法陣だ。我が末え「『リライト』ッ!!!」いっ!?】



 だから先手必勝ぉっ!!!



「…………君、ホントに空気読まないよね」

「うっさい。従者の人達と一緒に大人しくしてろ」



 フェイト達を『戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ』でグルグル巻きにして、転移魔法で月詠さんと同じくエヴァさん達のところへ転送。
 ついでに足手纏いになりかねないからラカンさん達も転送。一緒にフェイト達の監視お願いします。

 さて、遂にラスボスである造物主ライフメイカーとの戦いか。
 でも“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー最後の鍵グレートグランドマスターキー”は僕が持っているし、クウネルさんの考えを読んで、ラカンさんの映画を見てからこんなこともあろうかと対策方法は練っておいた!



「魔力糸展開! 『封鎖領域カルチェレ・マギウス』構築!
 『来れアデアット』 “破魔の剣エンシス・エクソルキザンス”!」



 まずは魔力を欠片も通さない結界を構築。もちろん転移魔法ゲートなんかも無駄。
 これでもう造物主ライフメイカーは僕を倒さない限り、外に出ることは出来ない。
 一応造物主ライフメイカーもグランドマスターキーらしきものを持っているので『リライト』を使われたらこの結界も破られるかもしれないけど、そしたらコンマ秒で再構成してやる。


 確かに今まで会った人の中で一番強いのかもしれない。確かに父さんの身体やゼクトって人の身体を乗っ取ったように不滅なのかもしれない。
 だけど所詮今のアンタは『凍れる時の秘法』がかかっていないミストバーンに過ぎないんだよっ!

 現にさっきの『リライト』は避けた。
 いくら不滅と言われていたとしても、それは肉体を持たずに他人を依り代として魂だけで生き続けていただけのこと。
 魔法を魔力に分解する『リライト』で魂ごと魔力に分解してやれば、さすがに復活することなんて二度と出来まい。


 僕に勝ちたければ、せめてワラキアの夜ぐらいにまでレベルアップしてから来い!
 ワラキアの夜になったとしても、集まった霊子全部喰って二度と発現しないようにするけどな!



「『リライト』ッ!!!」

【………………】



 …………あ、父さんの中に入りやがった。これじゃあ『リライト』が効かん。
 本気でミストバーンだな、この人。

 しゃあない。父さんの身体ごとボコるか。












━━━━━ ナギ・スプリングフィールド ━━━━━



 ネギが…………俺の息子が目の前にいる。

 けど目の前にいるのに俺は何もしてやれない。
 俺の身体を使って造物主ライフメイカーが戦っているのを見ているだけだ。


「ハァッ!!!」ベキィッ!


 …………容赦無くアバラ折られた………………ア、アレ? 折られていない?
 感覚がおかしなってやがんのかな? 痛みは感じるんだけど……?


 しっかしネギって本当に強いんだなぁ。
 造物主ライフメイカーが手も足も出せていないぞ。

 最初のうちは造物主ライフメイカーも魔法を使ったりしてネギに反撃していたが、その魔法の尽くをネギは打ち消した。
 ネギが『完全魔法無効化マジックキャンセル能力』を持っていることを…………“黄昏の御子”であることを知ったときは驚いたけど、少なくともアスナのように大人に良いように利用されるようなタマじゃねーってのがこの短い時間でよくわかった。
 そしてネギは最初『リライト』で攻撃していたけど、造物主ライフメイカーが俺の中に入り込んでいる状態では効果が無く、その後は魔法らしき光を拳に纏わせての肉弾戦を挑んできている。


 俺は10年前の決戦直前に生まれたばかりのネギしか見ていない。
 6年前に元老院がネギの暗殺を企んでいるという情報を掴んだとき、造物主ライフメイカーの支配を強引に打ち破って助けに行ったことがあった。
 でもそのときは結局ネギが普通より早くメルディアナ魔法学校に入学していたらしく、村を訪れたはいいけどネギに会うことは出来なかった。
 まあ、悪魔を召喚していた暗殺者みたいな奴はぶっ飛ばしたし、スタンの爺に俺の形見として杖をネギに渡すように頼んだから、骨折り損の草臥れ儲けにならなかったのは不幸中の幸いだったけどよ。

 …………無理矢理に造物主ライフメイカーの支配を打ち破ったのが悪かったのか、造物主ライフメイカーの支配率が更に進んだのは不幸中の不幸だったけどな。


「フンッ!!!」メキョッ!


 元気に育ってくれたみたいでよかった。

 アルには遺言を託したりもしたけど、俺は結局何もネギにしてやれなかったからな。
 さっきまでここにいたタカミチとかも、それとなくネギの面倒を見てくれたんだろう。わりぃな、手間かけさせて。

 でも今のままじゃ俺には…………造物主ライフメイカーには勝てない。
 互角以上に戦っているネギには本当に驚くけど、そういう次元の問題じゃないんだ。


「オラァッ!!!」グシャッ!


 さっきまでのように、ローブみたいな形で俺の身体の外で物質化していたのなら、ネギの思惑通りに『リライト』で消すことも出来ただろう。

 誰かの身体に取り憑き、その身体が造物主ライフメイカーとする。
 そしてその身体が滅びても、また新たな身体に取り憑いて造物主ライフメイカーを続けていく。
 
 しかしそうやって生き続けてきた造物主ライフメイカーだが、不滅とはいえハッキリ言ってしまえばゴーストと本質的には同じだ。
 物体を原子分解魔法ディスインテグレイトで原子を分解するように、『リライト』で魔力まで分解してやればさすがの造物主ライフメイカーも倒すことが出来るはずだ。

 だが今の造物主ライフメイカーは完璧に俺の中に入り込んでしまっている。
 だからこれでは造物主ライフメイカーに『リライト』が届かない…………んだけどよぉ……、


「WRYYYY!!!」ゴキゴキィッ!

「さっきからマジで痛ぇーんだよっ!!!」

「『星の白金の世界スタープラチナ・ザ・ワールド』!!!」


 人が大人しくていればこのガキャァッ!
 とーちゃんはお前をそんな子に育てた覚えねーぞゴラァッッッ!!!

 …………って、あれ? ネギの容赦の無い攻撃に思わず反撃しちまったけど、造物主ライフメイカーから支配取り戻せた?

 つかネギが消えた!? 転移魔法とかの発動はしていなかったはず!?
 いったい何処行きやがった!


「そして時は動き出す」


 後ろっ!? と思った瞬間に、詠春が使っていた日本刀みたいな短刀が身体中にグサグサと突き刺さった!
 いつの間に俺の後ろを取ったんだよ!? というかネギの奴マジで強すぎるんだけど!?





「やめて(以下略
 『去れアベアット』 “匕首・十六串呂シーカ・シシクシロ”。
 それにしてもしつこいな。やはりこのままじゃ駄目か。
(“僕-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリー”って本当に便利だなぁ。魔力使い放題だから『星の白金の世界スタープラチナ・ザ・ワールド』も簡単に使える)」


 …………自分の親ぶん殴りまくってんのに顔色一つ変えていねぇ。
 元気に育ち過ぎじゃねぇか?


「一応、『リライト』を纏わせた拳の攻撃によって、直接『リライト』を体内にぶち込むことで造物主ライフメイカー自体を削ることは出来ている………………出来てはいるけど時間がかかりすぎるな」


 あん? 造物主ライフメイカーの支配力が弱まったのはそのせいか?


「…………手数が足りない。
 『封鎖領域カルチェレ・マギウス』の制御で容量メモリをかなり使っているからなぁ。逃げられたら困るから弱めるわけにはいかないし。
 でもこれ以上『固有時制御タイムアルター』の倍率を上げたら身体を動かせなくなる。そしたら直接攻撃が出来なくなるので、効果のある攻撃が出来ない。
 このままだと何万発もぶん殴んないと駄目っぽいし、何より周囲の魔力を吸収して微妙に回復しているっぽい」


 …………何万発もぶん殴られるのは勘弁して欲しいんだけどよ。
 何だかんだで痛覚とは残っているんで、ぶん殴られ続けたせいで身体中が痛ぇんだけど。


「応援を呼ぼうにもこの状況ではラカンさん達じゃ役に立たないし、ちびネギの数で圧倒しようにもちびネギには『リライト』が効いちゃう。
 せめて『封鎖領域カルチェレ・マギウス』の制御を他人に任せることが出来たんならあっという間に片をつけられるのに………………父さんごともう一回封印しようかな? 麻帆良に運んでそれからゆっくりと……。
 それかもういっそのこと綺麗サッパリと…………もしくは太陽に突っ込ませるか」


 綺麗サッパリって何だよっ!?
 ってか太陽に突っ込ませるって………………そこまでしたら、さすがの造物主ライフメイカーもどうしようもないと思うけど、この父ちゃんだって死んじまうぞ!

 …………そりゃあさ。造物主ライフメイカーを自分の身体の中に封印することを決めたときから、いつかこういうことが起きるのは覚悟していたんだけどよ。
 せめてもうちょっと悲壮な決意を固めたような顔をして言ってくんね?


「麻帆良に持っていくのは却下だな。一般人がたくさんいるところに持っていくのは、もしものときのことを考えたら危険過ぎる。
 かといって時間をかけて攻略するのも駄目だ。何しろもうすぐ二学期が始まっちゃうから、早く麻帆良に戻って二学期の準備をしないといけないし………………となると別荘かなぁ。
 でもメンドイなぁ。サクッとやっちゃいたいなぁ…………」


 死んでも死に切れねぇ。

 俺の中の造物主ゴーストの囁きと、俺の意見が始めて一致した。
 なーんでこんな子供に育っちまったのかなぁ?






【…………解せぬ。
 何故そこまで利己的になれる? 何故その力で皆を救おうとしない?】


 あ、また身体の支配奪われた。


「…………そもそもの考え方が違うんだよ。僕は永遠なんて信じていない。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスどころか地球も太陽も…………それこそ宇宙にだっていつか終わりは来る。
 それなのに皆を“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に連れて行って永遠の安らぎを与える?
 世界を一つ造った程度で神様にでもなったつもりか? 思い上がるなよ、人間●●
 それに“全てを満たす解は無い”…………貴方自身が言っていたことだ」

【だが私の語る”永遠”こそが“全ての魂”を救い得る唯一の次善解であることには間違いない。
 例えいつかは滅び行くのだとしても、現在のように理不尽な目に遭う者達を救済し、平穏を与えることが出来る】

「利己的なのは貴方の方だ。幸せとか平穏というものは他人から恵んでもらうものじゃない。
 それなのに“与えることが出来る”? さっきも言ったが付け上がるなよ、人間●●
 結局貴方はただのワガママなんだよ。自分の造った世界が自分の思う通りにいかなくて、もうどうにもならなくなったから無理矢理にでも自分の考えた幸せを押し付けようとする。
 まるで自分の子供が不良になったって嘆いて、遅れて子供を自分の理想通りの性格に矯正させようとしているバカ親みたいだ。
 そもそも放ったからしにしておきながら今頃そんなこと言い出すぐらいなら、最初っから面倒見てろよ。この育児放棄者が」


 …………育児放棄者ってソレ、俺に言ってんじゃないよな?


「それに何より、本当は貴方自身が“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”をそんなに良いものだと思っていないんだろう。
 それなのに他人には強制しようとするのは駄目だと思う」

【そんなことはない】

「だったら何故、楽園だというのなら貴方自身がさっさと“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に行かないの?」

【…………やるべきことがあるからだ。
 この世界に生きるもの全てに平穏を与えるという、この世界を造った者として果たすべき責任がな…………】

「はい、駄目。論理破綻。
 “完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に行けばそんなこと気にしなくて済むようになるはずでしょう?」

【だから私にはやるべきことが…………】

「つまり“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”はこの現実以下ということですね。わかります。
 だって何しろ“この現実には完全なる世界コズモ・エンテレケイアに行くより大切なことがある”ってことだからね」

【しかしそれでは皆が…………】

「ハッキリ言っていい? 僕にとって貴方達は“絶対にギャンブルで勝てる方法を特別に教えます”みたいなこと言ってくる詐欺師にしか見えないんだよ。
 そして思うことは“何でその方法を自分で試さないんだ?”ってことだ。
 そんなに素晴らしいものなら他人に構わずにさっさと自分で入るだろう。常識的に考えて」
 


 えーと…………“全能のパラドックス”って感じか?
 “神様は自分が持ち上げることの出来ないぐらいの重い石を作れるか?”って奴。


 確かに“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が全てのものにとっての楽園になるはずなら、もちろん造物主ライフメイカーにとっても楽園になるはず。
 そして造物主ライフメイカーはこの魔法世界ムンドゥス・マギクスに生きるものを救済するために“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”へ入らない。

 それって要するに楽園に入るよりも、この現実で生きる方が造物主ライフメイカーにとっては重要ってことだもんな。
 だけど“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”が全てのものの魂を救済出来るなら、造物主ライフメイカーは別に救済なんかしなくても良くなるはず。
 しかし造物主ライフメイカーはこの現実でやることがあるので“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”には行かない。


 それっておかしくね?
 だってそもそも“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に行けばそんなこと気にしなくて済むようになるはずじゃん。


 ってことをネギは言いたいんだろう。

 …………随分と変わった考え方すんなぁ。
 いや、考え方は変わっていないのかもしれないけど、明らかにそれを考える状況が間違っていると思うぞ。



「要するに“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”は貴方が何を置いてでも入りたいと思わない程度の楽園でしかないんだ。
 そんな欠陥品に突き落とされるなんて、僕だったらゴメンだね。だったら魔法世界ムンドゥス・マギクスが崩壊しない以上、今まで通りの現実を過ごせばいい。
 他にも理不尽とか何とか甘っちょろいことを言ってもいるけどさ、人間だって所詮は動物。そういう日常が当たり前なんだよ。
 それなのに人間は完璧だと思い込んで“完全平和”なんかを模索するバカがたまにいる。
 でも人間が他の生き物より優れていた所で、別に人間が完璧な訳じゃねぇだろォがよ。あァ!?」


 息子が現実的な思考し過ぎていて、とーちゃん困っちゃうなー。
 その脇道なんか存在しないような一方通行な考え方されたら、とーちゃん困っちゃうなー


「貴方は“井の中の蛙”じゃなくて“大海の白長須鯨”かもしれないけど、それでも所詮は地球レベルでの話だ。
 驕れるなよ、人間●●
 貴方は力を持っていても結局は人間●●しか過ぎないんだよ。僕と同じようにね」

【………………お前が人間?】


 気持ちはわかるけど疑問系にすんな。


「当然だろう。僕は人間だ。
 どこかの少佐のように“化け物みたいな人間”なのかもしれないけど、それでも僕は僕である限りは人間だ。
 貴方のように夢を見過ぎることがないぐらいには身の程を弁えているさ」


 …………もうちょっと夢を見てくれ、と思うのは親のワガママなんだろうか?
 でもきっと俺の息子ってことで苦労したこともあっただろうから、今まで放っておいた俺が言えることじゃねーし……。


「それにコソコソとネズミの様に陰で企むのがおかしい。
 皆のためになるという自信があるのなら、全ての事情を皆に明かして計画を進めなよ。賛同してくれる人は半分もいないだろうけどさ。
 貴方も賛同されないということはわかっていたから、コソコソと陰で動いていたんだろう。根性無しの誤用じゃない方の確信犯め。
 お前それ皆の前でも同じ事言えんの?」

【……………………】

「そんな訳で、貴方の独り善がりな妄想には付き合っていられません。
 ………………よし、じゃあお終いにしましょうか。今のお喋りで時間稼ぎは充分。
 これで条件は全てクリアされた!」


 何かコイツ随分とはっちゃけてね?

 やけに自信満々なネギがそう言うと、急に煙幕を出し始めた。
 あっという間に煙は結界内に充満し視界がゼロになる。

 煙に紛れて不意打ちするつもりか?
 この煙は魔力探知妨害の役目もするらしく周りの状況が全くつかめないが、不意打ちしたってどうにかなるわけじゃないだろう。











 ………………少し待つが特に変化は見られない。
 このまま煙を充満させていてもどうにもならないとでも思ったのか、造物主ライフメイカーは突風で煙を散らした。

 煙は問題なく吹き飛び、ネギが姿を見せる。
 …………やっぱり特にネギに変化は見られない。


 いったい何をしたいんだ、ネギは……って!? これは重力魔法!?
 地面に重力で押し付けられる。しかし、造物主ライフメイカーはすぐさま『リライト』を上空に放って重力魔法をかき消した。

 これはアルが使っていたのと同じ奴だな。
 ネギは詠春の神鳴流を使っていたが、アルの重力魔法も使えるのか。

 しかし重力魔法を使えたとしても、この戦いでは根本的な解決にはならない。
 ネギは手の平を握ったり開いたりしているみたいだけど、いったいどうするつもりなんだ?



「…………やれやれ。まさかここまで威力があるとは思いませんでしたよ」



 は? 今の重力魔法のことか?
 確かにアルの重力魔法より威力が数段上だったけど、そもそも重力魔法じゃ何の役にも………………ってオイ、ちょっと待て。

 ネギが指と指の間に挟んでいるはいったい何だ?


「一応、私もそれなりの使い手のつもりですが、まさか10歳の少年がそれ以上の使い手になるとは……。
 やはり貴方の息子である…………ということですかね、ナギ?」


 …………うん、明らかに今目の前にいるネギはネギじゃねーな。


「いきなり転移魔法で引っ張り出されたときは焦りましたが、みっともないところを晒した学園祭などとは違ってネギ君の役に立てるようで何よりです。
 それではナギは知っているでしょうが造物主ライフメイカーは知らないかもしれませんので、改めて紹介しておきましょうか。
 私のアーティファクト“イノチノシヘンハイ・ビュブロイ・ハイ・ビオグラフィカイ”の能力は、まず一つは特定人物の身体能力と外見的特徴の再生です。
 しかし、自分より優れた人物の再生は数分しか出来ず、あまり使える能力ではありません………………と今まで思っていたのですがね。
 自分よりも圧倒的に強い人間がいるとなると、話は変わるということに今更ながらも気づいてしまいました」


 指に挟んでいる栞が燃えると同時に、ネギが姿を詠春に。詠春からジャックに。
 そしてまたジャックからネギへと姿を変える。

 なーんだ。ネギじゃなくてアルだったのかー。懐かしいなー。


「そしてもう一つはこの“半生の書”を作成した時点での、特定人物の性格、記憶、感情、全てを含めての“全人格の完全再生リプレイ”。
 ………………もちろん“強さ”においても完全再生リプレイ出来ますよ。
 今回は出し惜しみしないのでコチラを使用させていただきます」


 うわーい。
 ネギ一人でもボコボコにされていたのに、ネギが二人になっちまうぞー。


「それにしても…………ネギ君は恥かしがり屋さんですねぇ。
 せっかくネギ君の半生が記されている魔法書が手に入ったのに、半分以上が黒く塗り潰されています。どうやら魔法で自らの記憶を封印したみたいですね。
 一時間後に封印が自動的に解かれるようになっていますが、あくまでこの書に記されたことしか知ることが出来ない私にはわかりません」


 あー、そっか。
 さっきまでのお喋りは何の目的かと思えば、記憶を封印するための時間稼ぎだったんだなー。


「興味は尽きないですが自重すべきでしょうね。ネギ君に不機嫌になられても困りますし、何より無理矢理見ようとしたら本気で殺されそうです。
 おそらくはお嬢さん達との蜜月や、お嬢さん達の可愛らしい姿を私には見せたくないのでしょうからね。
 それと小さいときのことも塗り潰されていますが………………ああ、ネカネさんやアーニャさんと一緒にお風呂に入ろうとした直前からなどが特に重点的に塗り潰されていますね。………………本当にキティは私のことを何てネギ君に説明したんでしょうか?
 ま、時間を掛けすぎてもアレですし、さっさと終わらせましょうか………………心の準備はよろしいですか?」




 …………よくねーよっ!!!





「僕になった後のクウネルさんは『封鎖領域カルチェレ・マギウス』の維持をお願いします。
 僕は父さんの中から造物主ライフメイカーを引きずり出しますので」


 っ!? 後ろっ!? 後ろにネギがいやがった!!!

 両腕の袖を捲り上げ、肘から先が外に出ているが………………何だか腕が半透明だ。
 何だかまるで腕が魔力で出来ているような……?


「僕は最近、霊媒治療なんかも勉強していまして。
 見ての通り、腕をこのように霊体化することによって、肉体をすり抜けて取り憑いている幽霊を引き剥がす除霊なんかも出来るんですよ。
 東洋呪術も勉強してて良かったなぁ。それにヴィルさんでイロイロ実験しておいて良かったなぁ。
 さすがに造物主ライフメイカー相手には難しそうですけど、クウネルさんが『封鎖領域カルチェレ・マギウス』の制御をしてくれるなら、容量メモリに余裕が出来るから大丈夫です。
 …………あ、父さんの身体から逃げ出そうとしたら『リライト』で消すから」


 俺の身体の中に篭城しても無理矢理に引っ張り出され、身体の外に出た瞬間に『リライト』で消滅させられる。
 もう詰んだ。造物主ライフメイカー終了のお知らせ。





































「………………ところで突然に話は変わりますが。
 その人の脳み○を食べるという方法でその人の知識を手に入れることが出来るとか、天使の○みそはだだ甘で不味いとかって話は本当なんですかねぇ?」





━━━━━ 後書き ━━━━━



 脳○そおいしいねん。



 やべぇ、本気でラスボスになっちゃった。

 ………………いや、本当に脳み○食べたりしないですよ。造物主ライフメイカーに脳み○はないでしょうから。






 とりあえず最終決戦…………造物主ライフメイカー戦はこれにて終了!
 次が最終話となります。やっぱり全100話を越えましたねw

 ネギを助けに来たナギは造物主ライフメイカーではありませんでしたが、造物主ライフメイカーに取り憑かれていたことは間違いないと思います。
 もしかしたら封印の場所を一時的に変えたなんてこともありそうですが、そんなことは簡単に出来ないでしょうので気合で造物主ライフメイカーの支配に抗ったんじゃないでしょうか。



[32356] 最終話 ただいま
Name: 嘴広鴻◆3550cb77 ID:9ca4420d
Date: 2012/07/15 14:07



━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━



 時は流れてあれから一ヶ月。
 僕達はあの後直ぐに無事に麻帆良に帰還することが出来ました。



「あ、墓守り人の宮殿は『リライトフィールド』と通常の魔法障壁を何層にも重ねて包んでおきましたから。一番外側は『リライトフィールド』。
 もちろん転移魔法も無理です」

「調査団スタァァァァァップッッッ!!!」

「無断で入り込もうとするなら、対価はその身体で支払ってもらいましょう!
 …………それじゃ僕は麻帆良に帰りますね。あとはクルトさんの良い様に計らってください」



 帰る前にはクルトさんとこんな会話しましたけどね。

 “造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”は簡易版も含めて全て回収しましたし、墓守り人の宮殿さえ抑えておけば僕的には大丈夫です。
 片付けのためと、もしものときの防衛のためにちびネギを墓守り人の宮殿内部に数千体放っておきましたので、トレジャーハンターにとっては以前の魔物の巣窟よりも危険になってしまいましたけどね。
 まあ、そもそも入り込めないでしょうから大丈夫でしょう。

 墓所の主さんも宮殿に相変わらず住んでいますが、あの人は“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に拘ってはいないようなので、放っておいてもただ墓守りとしての責務を果たすだけでしょうから安全みたいです。


 そして政治的なことはクルトさんにお任せです。
 でもあの決戦の前後に何故かまほネットで“紅き翼戦記”が丸ごとうpされて魔法世界ムンドゥス・マギクス中が大騒ぎになったりしているようですけど、クルトさんならうまくやってくれるでしょう。

 それにしてもなんで“紅き翼戦記”がうpされたりしたんだろーなー? ふしぎだなー?
 誰かが大勢集めて上映会でもしたせいで流出しちゃったのかなー? ネットってこわいなー?


 …………ちなみに父さんはやはり10年も封印されていたせいか、まだ本調子ではないみたいですね。
 僕がボコったせいじゃないですよ。無理矢理造物主ライフメイカー引き剥がしたせいじゃないですよ。

 今はアルビレオ・イマさんと一緒に魔力の満ちている図書館島最奥部で療養中です。
 別荘で休むことも考えましたが、今更急ぐ必要なんかありませんのでゆっくりと休むそうです。母さんも一緒に●●●●●●●







「ネ……ネギよ。ケーキの味はどうじゃ? コノカと一緒に作ったのじゃが……」

「ええ、美味しいですよ。甘さ控えめで僕の好みです。
 母さんも一緒に食べましょうよ。木乃香さんもありがとうございます」

「う、うむ!」

「ええよ~。ウチもお義母さまと一緒に料理出来て嬉しかったわぁ」





 僕の「美味しい」という言葉と「一緒に食べよう」という言葉にパァァァッ! と花開くように笑みを浮かべる××歳。
 何だかアスナさんや木乃香さん達より大人びているとはいえ、どう見ても親子とかよりは姉妹みたいな感じなんですよね。


 それにしても…………ネカネ姉さんが母さん●●●●●●●●●●だったとは、アルさんから隠し事を暴いて知ったときは本当に驚きました。


 幻術で見た目だけを変えたとかそんなチャチなものじゃなくて、魔法で身体自体を根本的に作り変えていたそうです。
 しかも暗示で自分をネカネ・スプリングフィールドと思い込んでいたせいで、母さん自体も今までは眠っていたみたいな感じらしいんですけどね。
 見た映画を思い出す感じで今までのことを思い出せるそうですが、実感はないそうです。

 前世のことや原作知識もあって、そんなこと考えもしませんでしたよ。
 身体を作り変えたことでまさか処○にまでなっているとは……。



 道理でネカネ姉さんとアスナさんが似ているわけだ。
 道理で父さんと伯父さんが似ていないわけだ。
 道理で父さんがネカネ姉さんのことをハッキリと知っていたわけだ。
 道理で一個大隊にも勝てるような村人があんな辺鄙な村に集まっていたわけだ。
 道理で原作の村襲撃時において、見習い白魔導士であるはずのネカネ姉さんが最後まで石化されずに生き残れたわけだ。



 あの村は僕を守るための村ではなく、母さんを守るための村●●●●●●●●●●だったということですね。
 僕という目立つ標的がいれば、カラクリがバレなければ母さんは安心だ。どうせ僕は隠せるわけもないし、それなら母さんから目を逸らすことに使っても特に問題は増えない。
 というか元から問題だらけだけだし。

 そしてその母さんが…………ネカネ姉さんが僕を守れば、結局僕も守れる。一石二鳥というワケか。



 ネカネ姉さんとアスナさんが似ているわけは、二人に血の繋がりがあったから。
 いくら身体自体を作り変えていたとはいえ、元の身体の影響を完璧に無くすことは出来ないからですね。

 父さんと伯父さんが似ていないわけは、そもそも二人に血の繋がりがなかったから。
 あくまであの伯父さんはネカネ姉さんの父親役ですからね。
 父さんの実家は数代遡ってもあくまで特筆すべきこともない一般人の家庭なので、注目されていない分だけ細工は簡単です。

 父さんがネカネ姉さんのことをハッキリと知っていたわけは、そもそもこれは僕を産んだ母さんが身を隠すための計画だったから。
 世界中を飛び回っていてろくすっぽ里帰りもしない父さん。しかも10年前からは麻帆良の地下でずっと封印されていた。
 普通だったらネカネ姉さんのコトなんか覚えていないですよね。というか下手したら会ったことすらないのが普通ですよね。

 一個大隊にも勝てるような村人があんな辺鄙な村に集まっていたわけは、母さんを守るために事情を知っている旧オスティアの現実世界ムンドゥス・ウェトゥスにこれる現実の人間が集まったから。
 トサカさんも言っていたように、オスティアの人間で元老院の話を信じていた人は少なかった。裏の事情を察していた人はたくさんいたはずです。
 ましてや母さんは元女王。忠誠心溢れる騎士なんかの当てはいくらでもあります。まあ、現実世界人は少なかったでしょうけど。
 父さんを慕って集まったという理由にしたのは、本当のことを言えるわけないからなんでしょう。

 原作の村襲撃時において白魔導士であるはずのネカネ姉さんが最後まで石化されずに生き残れたわけは、村の皆が母さんを最後まで守ったから。
 結局父さんが来るまでの時間稼ぎは出来たんだから、護衛としての面目躍如というところですね。
 おかげで母さんは助かりました。村の皆、ありがとう。



 まあ、僕が村の皆から放って置かれていた感がありますが、それは如何に主君の息子とはいえ、僕にどう接して良いかが村の皆はわからなかったんでしょう。
 本来ならウェスペルタティアの正当な王位継承者な僕ですけど、その王という位のせいで母さんは濡れ衣を着せられて殺されかけた。
 だから母さんの話はしづらいし、亡国の王子として育て上げるのは気が引ける。何より王子として育てるのには母さんが難色を示したんでしょうね。
 危ないことをして不安だけど、なるべくネギの好きなようにさせるように言われたので、どこまで過保護にしいいかわからない。
 何より母さんが身を隠すために僕と一緒にいるのを我慢しているのに、そんな母さんを差し置いて僕と仲良くすることなんて出来ない。

 そうして迷っているうちに村の襲撃で全てがご破算。
 見事に原作のネギぼくは捻くれて成長してしまいましたとさ。


 ………………考えてみれば原作で村の襲撃がなかったら、ネギぼくはただのワガママぼーやに育っていたんじゃないですかね?
 何しても注意されないんですから。いや、原作でも普通にワガママっぽいですけど、更に。



 ま、全てが終わった今ではもう隠す必要はないですので、こうやって親子三人+お嫁さん候補十二人で堂々とお茶なんかしているわけです。

 …………結局お嫁さん候補増えました。エヴァさんと茶々丸さんとアーニャ。
 これでアスナさん、木乃香さん、刹那さん、のどかさん、夕映さん、エヴァさん、茶々丸さん、楓さん、菲さん、千雨さん、マナさん、アーニャという大所帯になりました。

 ここまで来たら、もうどうとでもなれですね。
 でも十二人か………………大丈夫なんだろうか、僕?

 アーニャも魔法使いの修行辞めて麻帆良に来ましたけど、ネカネ姉さんのことには本気で驚いていました。
 あ、アーニャの両親は普通に昔から村に住んでいた父さんの友人だそうです。



 それとフェイト達ですが…………とりあえず身体は元のアーウェルンクスシリーズに戻しました。
 その際にパラメータを一般人程度まで下げておいたので、もう何か出来るような力は残っていません。従者の人達の方が強いぐらいです。

 戦闘が終了してテンション下がっちゃったので、殺したり“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”のも何だと思い、六人を人里離れた自然溢れる山中に放置しました。
 結界も張って閉じ込めたんでもうそこから離れることは出来ませんが、家も畑も造ってあげたので家族六人自給自足の生活をしながら幸せに暮らしているでしょう。“造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”マジ便利。
 まあ、別にフェイト達のために頭をこれ以上使うのもアレですし、考えてみればこれ以上無いってぐらいな温情な措置なのでもう放っておけばいいや。

 逃げ出そうとしたら始末すればいいだけですからね。
 ついでに従者の人達にフェイトをいつでも幼児化と女体化出来るような魔法具あげましたけどね。
 “造物主の掟コード・オブ・ザ・ライフメイカー”マジ便利。


 …………え、デュナミス? クゥァルトゥム? クゥィントゥム?
 誰でしたっけ、それ?



 ザジさん(姉)は魔界に帰りました。
 とりあえずお互いに未来志向でOHANASHIする予定なので、悪いようにはならないでしょう。
 ザジさん(妹)は変わらず麻帆良で生徒やってます。
 



 ま、そんなわけで魔法世界ムンドゥス・マギクスから戻った後は普通に過ごしています。
 平日は学校で授業をして、休日はこうやって皆でお茶会したりなどの平穏な生活です。

 ………………タカミチがあれから出張行きっぱなしで、顔を全然見ていないのが気になりますがね。
 今日は久しぶりに麻帆良に帰ってくるのですが、何故かクルトさんやテオドラ皇女達も一緒に来るそうです。

 いったい何の用なんでしょうかね?












━━━━━ アリカ・スプリングフィールド ━━━━━



「い、今…………何と言ったのだ、クルト?」

「申しわけありません、アリカ様。
 …………魔法世界ムンドゥス・マギクスが成立してから2600年。如何に造物主ライフメイカーが造り上げた異界とはいえ、それだけの年数が経てば綻びが出ていたことがわかりました。
 何十億年分の魔力が堆積していた火星の魔力が、たった2600年で底を尽きそうになったのはそのためです。おそらく造物主ライフメイカーが“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に全ての者を誘おうとしたのは、それも理由だったのでしょう。
 ですので、ただ単純に“火星-水星間魔法輸送扉ゲート・オブ・マーキュリープロジェクト”を進めるだけでは、魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊が避けられないことがわかったのです。
 造物主ライフメイカーに代わる存在、“黄昏の御子”の力で持って魔法世界ムンドゥス・マギクスの安定をさせないと、如何に水星の魔力を火星に供給しようと再び魔法世界ムンドゥス・マギクスが再び崩壊の危機に…………魔界がある金星が無事なのは、おそらく綻びが生じていないからでしょうね。
 それを防ぐためにネギ君には…………魔法世界救済計画の礎である“黄昏の御子”のネギ君には、言葉通りの“礎”として墓守り人の宮殿にて百年の眠りについていただきます。
 残念ですが…………これは手伝っていただいた超さんと聡美さんも同じ結論を出しています」

「…………それ以前に、何で葉加瀬さんのことを名前で呼んでるんですか?」

「え!? …………べ、別に私とクルトさんは変な関係じゃないですよ、ネギ先生!」

「(…………調査のための出張に葉加瀬君達にも一緒に来てもらったけど、本気で何があったんだ?)」





 目の前が真っ暗になる。
 椅子に座っていなかったら膝から崩れ落ちていたじゃろう。

 どうして…………どうしてネギだけがそんな目に?
 ようやく会えたのに。ようやく親子三人+義娘十二人と平穏に暮らせると思っていたのに………………義娘が十二人もいるということだけで平穏というのはおかしいかもしれんが。


 ネギは私とナギが側にいなくても立派に育ってくれた。
 ましてや“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”との長きに渡る因縁に終止符を打ち、魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊の危機を救うという私達以上の偉業を達成してくれた。

 先日、テオドラと電話で話したときにそれに付随する後始末の大変さを愚痴られたが、ネギがいなければ愚痴すら言えないような状況になっていたからネギが責められるわけではない。
 むろんテオドラもそれがわかっているので、愚痴という形で発散しておるのじゃろうがな。



 …………まあ、以前の大戦の真実が衆目に晒されたせいで、魔法世界ムンドゥス・マギクスが大混乱に陥って大変なのは同情するがの。

 でもそのキッカケとなったのが“紅き翼戦記”ということが恥ずかしい。
 ナギと一緒になれたことが嬉しくて、エピソード2製作のときはクルトの取材にノリノリでナギと一緒に応じてしまったから、今から見るとかなり恥ずかしい作品になってしまっているのじゃ。
 おかげで魔法世界ムンドゥス・マギクスにはナギやネギのファンクラブだけでなく、私のファンクラブまで出来てしまったというのがまた………………ナギとのことを祝福してくれるのは嬉しいのじゃがな。



 しかし、うってかわって大変なのがメガロメセンブリアの元老院。自らの悪事がバレたので当然じゃな。
 このときのためにクルトが用意しておいた数々の証拠もついでにと言わんばかりにブチ撒けられたし、何よりネギやナギ、“紅き翼アラルブラ”が揃って真実を証言したことで彼らの命運は尽きた。

 極めつけなのは、やはりネギじゃな。
 クルトに貸したネギのアーティファクト“千の絆ミッレ・ヴィンクラ”でノドカの“いどの絵日記ディアーリウム・エーユス”がその猛威を振るい、元老院議員は嘘をつくことも出来なかった。


 それでも往生際の悪い議員も多かった。
 ネギの力なども全て公表したのじゃが、そのネギの魔法世界ムンドゥス・マギクスの運命を握れる力を危険視するなどの抵抗を示したが、

「ふーん。母さんを陥れた元老院議員がですか? …………ま、そちらのことはそちらでやってください。僕はそちらにこれ以上関わろうとは思っていませんので。
 え? オスティア再興? …………うーん。親子三人でこれから幸せに暮らしていくつもりだったんですが。
 というか、何で僕がこれ以上あんたらの関わらなきゃいけないんですか? 魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊を阻止しただけで充分でしょう。これ以上何でもかんでも僕に頼らないでくださいよ。
 …………は? MMを滅ぼして魔法世界ムンドゥス・マギクスの王様になるんじゃないか?
 あの…………オスティアの人達ならともかく、あんたらみたいな恥知らずの人達の王様になって何か僕にメリットがあるとでも?」

 というネギのインタビューを聞いたMM市民から総スカンを食らって終わった。


 まあ、ネギのそんな言葉を聞いたら、恥を知っているような人間は耐えられないじゃろう。特にまほネットの“魔女板”が大騒ぎになっておったそうじゃしな。
 何しろ自分達の代表が私に濡れ衣を着せ、全ての原因の黒幕として処刑しようとしたんじゃ。そんな人間と一緒にされたくはなかった市民が蜂起した。
 毎日のようにデモを行なうなどの抗議行動をし、終いにはクルトの手によって終焉。全員が裁判を待つ身になったそうじゃ。

 ましてやネギは幼くして英雄となった身。
 そのネギから「お前達には支配する価値すらねぇ!」と言われてしまったら、メガロ市民が世界中から軽蔑される。

 あのときのネギの目付きは、まるで虫ケラを見るような目付きじゃったからな。
 ネギに“濡れ衣を着せてまで他人を生贄にして、幸せを謳歌している恥知らず達”などと認識されたくなかったのじゃろう。


 というか、インタビューに同席していたナギを始めとした“紅き翼アラルブラ”がネギの言葉に何も言わなかったからの。
 過去の英雄にも未来の英雄にも見捨てられるとなると……。





「それと言い難いことですが、ネギ君がやり過ぎたということもあります。
 先日の事件の詳細を魔法世界ムンドゥス・マギクスに公表したのですが、それを知った潔白だった元老院議員を始め、ヘラス帝国などの他国までネギ君を危険視しております。
 といっても真っ正面から争ってもネギ君に勝てるわけがないので、この件を利用してネギ君の排除を企んでいるということですね。
 …………まあ、無理ありませんがね」

「でもよー、クルト。
 そいつらはネギがブチ切れて魔法世界ムンドゥス・マギクスを滅ぼす…………なんてことは考えつかなかったのか?
 我が息子ながら実際にやりそーだぞ、こいつなら」

「ええ。皆、それを心配しておりました。
 しかしどちらにしろネギ君に頼る以外に手はありませんので、大義名分としては充分だと思ったのでしょう。
 おかげで私とテオドラ皇女がこうやってお願いに参上したわけでして……」

「そうじゃな。妾も一応反対をしたのじゃが、放っておけば魔法世界ムンドゥス・マギクスが滅びてしまうのじゃ。
 じゃから妾の立場としてはネギにお願いするしか道はない。
 まさか今のように人形の中に入って、民を見捨てて現実世界ムンドゥス・ウェトゥスに逃げるというワケにはいかんからの」


 …………ム、そういうことを言われたら、テオドラ達の立場もわかってやらねばならんの。

 私としてもオスティアの民がいる魔法世界ムンドゥス・マギクスが滅びるのは避けたい。
 せっかく再びオスティアが浮き上がり、難民として苦労していた者達がオスティアに帰ってきておるのじゃ。
 しかもその者達はMMから独立して、ネギを王として招こうとしているようじゃしな。


 だけど、そのためにネギを犠牲にするなんてことは…………ようやく会えたのに。
 かといってネギの性格なら、アスナを代わりに行かせるなんてことはするまい。

 …………そういえばアスナに“お義母さま”と呼ばれたときは心底驚いてしまったのぉ。
 アスナの性格が変わったのもあるが、見た目はともかく実年齢はアスナの方が私の数倍は上なのじゃが“お義母さま”。
 というか600歳の“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”も義娘になるなんて思いもせんかった。


 しかし…………どちらにしろネギが百年も礎となるか、それとも魔法世界ムンドゥス・マギクスの崩壊を黙って見ているかの二択。
 こんなものいったいどうすればいいのじゃ?







「ま、いいですけど。
 せっかく救った魔法世界ムンドゥス・マギクスが崩壊するのは避けたいですし」


 え?


「あ、いいんですか。
 いやぁ、これで肩の荷が下りましたよ」

「うむ、よろしく頼むぞ、ネギ」


 …………え、何それ? …………アスナ! アスナ達はこれで良いのか!?


「ネギも大変ねぇ。休む暇もないじゃない」


 軽っ!? そんな軽く決めてしまって良いのか、アスナ!?
 百年もネギは眠りにつくのじゃぞ! もう二度とネギと会えなくなってしまうではないか!!!


「じゃあ、ちょっと行ってきます」

「「「「「いってらっしゃい」」」」」


 だからちょっと待てというに!!!


 しかし止める間もなく転移魔法で行ってしまうネギ。

 何故じゃ!? 何故ネギがそこまで自らを犠牲にしなければならないのじゃ!?
 というかクルト達もアスナ達も何故そんな平然としておるのじゃ!?
































「ただいま」






「「「「「おかえりなさい」」」」」


 え? 戻ってきた?
 ………………忘れ物…………かの?

「いや、ちゃんと魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の危機を防いできましたけど」

「だからさっきからどういうことなんじゃあっ!?」

「落ち着いてください、アリカ様。
 ネギ君の場合に限って常に最良のケースを想定してください。ネギ君は必ずそのかなり斜め上を行きますので」

「はい、お義母さま。お水」


 ハァ……ハァ…………すまないの、チサメ。
 そうじゃの。まずは落ち着くべきじゃろうな。

 考えてみればアスナ達は私よりもネギとの付き合いが深い。
 そのアスナ達が落ち着いていたということは、クルトの言っていたようにネギが最良の結果を出すことを信じていたのじゃろう。
 アスナ達が信じておったのじゃから、ネギの母である私がネギを信じなくてどうするというのじゃ!


 最良の結果。
 それは考えてみるまでもなく“ネギが魔法世界ムンドゥス・マギクス救済の礎にならずに済み、なおかつ魔法世界ムンドゥス・マギクスが崩壊しない”、ということじゃろう。


 …………しかし、それはいったいどうやって?








「時間移動魔法で百年後から戻ってきました。時間は…………行ったときとそんなにズレていないみたいですね。
 ちなみに時間移動魔法は寝てる間に“幻想空間ファンタズマゴリア”の中で作りました。
(術式は“航時機カシオペア”を参考に)」




 斜め上過ぎた。
 “かなり”どころじゃなくて、とてつもなく斜め上過ぎる。




「ああ、そういう直接的な方法だったんですか。
 私はてっきりアーウェルンクスを再びネギ君のホムンクルスの身体に入れて、そいつを礎にすると思っていましたよ」

「僕は式神かなー。
 礎になれるぐらいの高性能の式神を造れば万事解決だったからね」

「妾は魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の綻びを一晩で何とかすると思っていたぞ」


 クルトもタカミチもテオドラも、お主達は何を言っておるんじゃ?
 いくらネギでもそんな非常識なこと…………非常識なこと………………時間移動魔法を使う方が非常識じゃな、ウン。


「私は綻びを直すどころか、一度皆さんを“完全なる世界コズモ・エンテレケイア”に誘ってから、魔法世界ムンドゥス・マギクスを最初から造り直すのかと思いました」

「何にせよこれで問題が解決して何よりだねー」


 ユエもノドカまでもっ!?
 お主達はこれでいいのか!?


「諦めるでござるよ、義母上殿」

「そうよ。お……お義母さん」

「ネギ坊主のすることに対してイチイチ驚いていたら身が持たないアル」

「何だかんだでネギ先生のやり方でうまくいくからな。
 …………学園長達の胃を除いて」

「最近の学園長も大分慣れてきたんじゃないか?
 何だか髪の毛の量が夏休み前より増えてきた感じが…………」


 カエデ、アーニャ、フェイ、マナ、セツナ…………お主達まで。
 お主達はこうなることを予想していたというのか!?


「いや、方法までは見当つかなかったが、とりあえずネギの余裕さから見て問題ないと思っただけだ。
 問題があったらネギもまた違った反応を示しただろうし………………まあ、素直にあきらめろ、お義母さま」


 私か!? 納得出来ていない私が変なのかっ!?
 というか“闇の福音ダーク・エヴァンジェル”にお義母さまって呼ばれるのは違和感しか感じないのじゃがっ!!!





「…………ム、さすがに百年も経つと少し臭うか。お腹も空いたし。
 ちょっとお風呂入ってきます。茶々丸さん、その間に何か軽く食べれるものをお願いします」

「了解しました、ネギ先生」

「でも、アレだな。これで魔法世界ムンドゥス・マギクスの連中もぼーずにチョッカイ掛けたらどうなるかわかっただろうから、今後は楽になるだろうぜ。
 何しろ無理難題を押し付けても斜め上の方法で解決される上、更にはぼーずがドンドン手に負えなくなっていくんだからよ」

「そうじゃな。これで妾も父上の説得が楽に出来そうじゃ」

「またネギ君の魔法世界ムンドゥス・マギクスに対する貸しが増えましたね。
 この件はまだ関係者以外には秘密だったのですが、解決したからにはマスコミに発表しましょうか。もちろんネギ君を礎にしようとした連中の実名もですけど。
 …………でも、これマスコミに言っても信じてくれますかねぇ?」



 そりゃ「魔法世界ムンドゥス・マギクス崩壊の危機を救うための礎になりましたけど時間移動魔法で帰ってきました」なんて言われたら、どうしていいかわからなくなるじゃろうよ!
 これを知ったら二度とネギに手出ししないじゃろうよ!

 クルトやテオドラが平然としていたのはこのためじゃったのか……。
 どうやって解決するかまではわからなかったが、どうせネギのことだから何らかの方法で解決はすると信じておったのじゃな。



 …………信じていなかった私がおかしいのか?

 何故皆は…………ナギまでもがそんな平然としておるのじゃ。
 こんな小さな頃からこのような感じでは、いったいネギはどんな大人になってしまうのか…………。







「大丈夫ですよ、お母さま」


 おお、アルちゃん!
 ネギが3歳の頃からの使い魔として仕えてきたアルちゃんならば、きっとネギをまともな大人に育て上げる腹案があるのじゃろう!


「しばらくしたら慣れますから」


 絶望した! 息子の更正が使い魔にも見放されたことに絶望した!!!


「…………まあ、どちらにしろ心配だったら直接言えばいいのですよ。
 お兄さまは鈍感というか変わったところがありますので直接言わないと察してくれないことがありますが、逆に直接言えばそのことについてはキッチリと気にかけてくださいます」


 …………ム、そう言われれば確かにネギはそういう性格じゃな。
 まだネギに逢えてから半月も経っておらんが、この短い間でネギが素直な子だというのはよくわかっておる。
 だから逆に素直過ぎてああいう感じなのかもしれんの。


 そうじゃな。突然のことに驚いてしまったが、私達にはこれから時間がたくさんある。
 ネギは平日は女子寮で今まで通りの生活をしているが、休日になったら私達の元に来て一緒に過ごしている。義娘と一緒に。
 そうして親子としてゆっくりとわかりあえていけばいいのじゃ。焦ることはない。

 アスナ達と結婚して家を出て行くかもしれんが、それにはまだ時間がある。
 というかオスティア王家を再興させるようなことも言っておったしの。


 じゃから………………ム?


「のう、アルちゃん。アスナ達は何処に行ったのじゃ?」


 はて? つい今まで同じテーブルで茶を楽しんでいたはずなのじゃが……?





「先ほど風呂場に突撃されていきましたが?」


 …………なぬっ!?


 ム……ムゥ。年齢的にあのぐらいの男女が一緒に風呂に入るのは正しいのじゃろうか?
 ネギ達は結婚を前提に付き合っているので、そう不適切なことは………………むしろその方が不適切なことになる?


 …………。

 ……………………。

 ………………………………よし、なら私も入りにいこう!


 二次性徴も始まっていない10歳のネギなら、母子で一緒に風呂に入るのは問題あるまい。
 何よりネカネであったときも最近まで別に問題なく入っておったが、再会してからネギと一緒に風呂に入ったことはないしの。

 どうせならナギも一緒に入っ…………たら死ぬな、ナギが。
 アスナ達が一緒に入るんじゃし。


 まあ、今回は母子と義娘達のコミュニケーションの場とするかの。
 待っておれ、ネギ! せっかくだから背中の流し合いでもしようではないか!!!





━━━━━ 後書き ━━━━━



 アスナ達はもうイロイロと悟ってます。



 それとこの後、水着着用で風呂に入っていたネギ達の中に、独り全裸で突撃してパニクるアリカでした。
 まあ、今後も皆で仲良くやっていくんじゃないでしょうか。

 これで敵を除いてハッピーエンドということで…………。



 それとアリカがどうなっていたのかは、作者的にはこれぐらいで精一杯です。
 第二章の第8話を書いていたときに

「いくらなんでもこの物語が終盤に行くころには原作も終了してるだろ。
 だったらアリカがどうなったかは原作で真実を確認してからにすればいいだろ、二次創作的に考えて」

 なんて考えていた自分が悪いのです。こんちくしょう。

 しかも書いておいてなんですが、これは絶対に公式のものとは違うと思います。
 だってそもそもアスナが未来でタイムカプセルに入っていた写真を見たときに、アーニャやスタンと一緒にネカネも写っていたっぽいですからね。

 でも他に考え付きませんでしたorz





 これにて“テンプレ通りに進めたい”は完結でございます。

 最初はにじファンで書き始め、途中でこちらに移動するなどありましたが、完結までに約一年半。初めての作品にしては長すぎましたね。
 第一章で使わなかったネタを使いたいがために第二章を書き始めましたが、もうちょっとスッキリと書ければよかったです。
 ここまで長くなるとは思いませんでした。

 とはいえ本当に初めての作品でしたので、こういう言い方はアレですが良い練習となりました。


 最終的にはよくある主人公最強的なものになったかもしれませんが、少なくともネタ的には他の作者様と被らないようなネタを書けたと思っています。作者の頭がオカシイ的に。
 どうやらネギのホムンクルスみたいに似てるのもあったようでしたが、皆様からは問題にされませんでしたのでOKということで……。


 次回作についてはまだ決めておりません。
 オリジナル作品をとも考えていますが、その前に三人称で書くための練習作品を書こうかなと思っています。

 中編の“ISインフィニット・ストラトス少女 プリティ☆モッピー”か短編の“銀河従卒伝説”か…………まあ、これが完結したのでゆっくりと考えます。積んである本やゲームやアニメも消化しないといけませんし。
 それもこちらで書くか“小説家になろう”で書くかはわかりませんが、もし次回作品を見る機会がありましたら、そのときは応援よろしくお願いいたします。



 それでは皆様、拙作を読んで頂きありがとうございました。


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