――白騎士事件。
おそらく、今日の世界情勢を語るには、まずこの事件のことを説明しなければならないだろう。
それは、さかのぼること十年前、日本のとある科学者が一つの『パワードスーツ』を発表したことに起因する。
そのパワードスーツの名は、IS<インフィニット・ストラトス>。
当初、世界はこのISについて見向きもしなかった。
……当たり前だ。
当時、開発者の篠ノ之博士が提出した資料の内容は全て日本語で記述されており、しかも論文として最低限の体裁もなしていなかった。
他人が読むことにまったくの配慮がされていない文章であったのだ。
なにより、その内容が『現行兵器全てを凌駕する』という、アメコミの世界から抜け出してきたようなぶっ飛んだものだったのも理由の一つだ。
狂人が送りつけて来た荒唐無稽なホラ話。そう判断されたのだ。
そして、IS発表から一ヶ月後、事件が起きた。
世界各国の所有するミサイルの内の二三四一発。それらが全て日本を目標に発射されたのだ。
誰も撃った覚えのない核ミサイルが空を飛び交い、都市のネットワークは麻痺した。
人々はわけもわからぬままパニック状態に陥り、かつてない程の混乱の渦に飲まれることとなった。
そこに現れたのが、後に白騎士と呼ばれる白銀のISを纏った女性だ。
その、ヒーローアニメから抜け出して来たような出で立ちの騎士は超音速で空を飛び、剣を振るい、荷電粒子砲を召喚し、
――――二三四一発のミサイル全てを撃墜してみせたのだ
戦闘機を超える超音速。軍用ヘリを遥かに上回る旋回力。戦車を軽々と凌駕する火力。大質量の物質を粒子から構成する能力。さらにビーム兵器の実用化。ステルス性能。
これらのどれをとっても、匹敵する現行兵器は存在しなかった。
しかし、世界は突如現れた未知の脅威に対して愚鈍ではなかった。
各国は直ちに連携し、ある国は艦隊を派遣し、ある国は偵察機を飛ばし、そしてある国は監視衛星を動かした。
彼らの思惑は、一つだった。
――――そんなことよりデュエルしようぜ!
「…………こんな世界、滅んでしまえばいーいのにー」
不健康に淀んだ目をモニターに向けて、篠ノ之束はかなり物騒なことを呟いた。
「どうした束? これから一夏の初の公式IS決闘だというのに元気がないな」
束の真横から声がかかる。目線を右に動かせば、そこにいるのは彼女の昔からの親友だ。
黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身の美女。織斑千冬である。
彼女もまた、腕を組んだ直立不動の姿勢で、狼を思わせる鋭い釣り目をモニターに向けている。
常ならば見る者によっては冷たい印象を抱かせるであろうその顔は、しかし今はワクワクを思い出したのかどこか楽しそうだ。
だが、そんなことは束にはどうでもよかった。
もう決闘と言う単語に嫌な思いしかなかった。決闘という響きが束の中のナニカをガリガリと削っていた。
現に、彼女の目からはどんどん輝きが失せ、死んだ魚というよりはうち捨てられた産業廃棄物のような目になっている。
モニター映像には、空の蒼さをそのまま写し取ったかのようなカラーリングのISが、長大なスナイパーライフルを携えて浮遊している姿が映し出されている。
そして、それと対峙する純白の白いISもまた、右手に二メートルほどの刀剣を握り締めている。
『最後のチャンスをあげますわ』
「……チャンス、だと?」
『ふぅん、このイギリスで最強たる候補生のわたくしが勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒す前に、馬の骨は馬の骨らしくわたくしの前にひれ伏すと言うのなら……許してあげないこともなくってよ』
「それは、……チャンスとは言わないな」
一夏の返答に、セシリアは一瞬だけ目を細めて静かに笑った。
わずかな空白の時間。だが二機のISは弾かれたように瞬時に跳躍すると、互いに距離をとってISのモードを変更した。
『「デュエッ!!」』
『さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルーアイズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!』
「ならば狩らせてもらおう、お前の魂ごと!! デュエルモード、フォトン・チェンジ!」
その宣言と同時、ブルー・ティアーズの背部に浮かぶ縦長い非固定浮遊部位から左右二基合計四基のフィン状のパーツが飛び出す。
そのままスナイパーライフルと合体すると一枚の巨大な決闘板(デュエルディスク)を形成する。
さらに額に装着された虫眼鏡の様なレンズ型のハイパーセンサーが大きく広がり、フルフェイスのヘルメットのように頭部を覆った。
そして一夏の白式もまた、変化していた。
右手に握られた雪片弐型の展開装甲が稼働し、眩い光の粒子と共に左腕と一体化する。
輝きが消えた時、その左腕には三日月型のデュエルディスクが展開されている。
左目の周りには見慣れぬ紋章が浮かび上がり、ヴォーダン・オージェとはまた違った輝きを宿していた。
推奨BGMは迫りくるイリアステル。コーヒークレーコーヒークレーというコーラスがどこからともなく聞こえてくる。
『わたくしの、――――タァーンっ!』
その様子をモニターで見ていた束は顔を両手で覆って泣いていた。
何アレ、なんで私の作ったISでわざわざデュエルしてんの? オマエラどんだけデュエルが好きなんだよ。
そもそも白式の武装である雪片弐型にデュエルディスクに変形する機能なんて束はつけてない。目元に妙な紋章が浮かぶなんて、そんな機能ISにはない。
ぐるぐると負のスパイラル思考に陥っていた束は、ぽんと肩を叩かれたことで我に返る。
「束、お前の気持ちは分かる」
「……ちーちゃん」
千冬だった。
ああ、やっぱり彼女は私の親友だ。
私は間違ってなんかいない。私は狂ってなんかいない。おかしいのは世界の方だ。
何でもかんでもデュエルで解決しようとするこの決闘地獄が変なのだ。
束の顔に初めて笑みが浮かぶ。
「一夏があんなに立派に育ったのが嬉しいのだろう? だが、今はまだデュエル中だ。あいつの戦いを見守ってやろう」
「……………」
トラップカード発動! 奈落の落とし穴!!
違った。全然違った。
なんかもう、いい顔で笑う親友の姿がコザッキーに見える。
成功確率0%のような笑みを浮かべたコザッキーがちーちゃんの後ろで笑ってる。
『わたくしは手札よりセンジュ・ゴットを召喚! このカードは召喚成功時、デッキより儀式モンスターを手札に加えることができますわ! わたくしが選択するのは、白竜の聖騎士(ナイト・オブ・ホワイトドラゴン)!』
アリーナを縦横無尽に飛び回るセシリアの前方に、空中投影された映像でモンスターが現れる。
千手観音をモチーフにしたであろうモンスターの持つ能力は、儀式モンスターを主軸にするデッキにおいて協力なサポートとなる力。
『そして、手札より儀式魔法『白竜降臨』を発動! 場のレベル4モンスターセンジュ・ゴットを生贄に白竜の聖騎士を降臨させますわ!!』
現れたのは、レア・ゴールドアーマーを身にまとう白の竜騎士。
単なるビジョンとは思えぬほどのリアリティを持つそれは、翼をはためかせるとセシリアと並ぶように飛翔する。
「まさか、1ターン目で儀式召喚を行うとはな」
本物のデュエリストにとって、引き当てるカードは全て必然。
ならば彼女の手札には、勝利の方程式が完成しているということなのか。
『これで終わりではありませんわよ。――白竜の聖騎士の効果を発動! このカードをリリースすることで! わたくしのデッキから!! 最高にして最強のカードを呼び出しますわ!!』
「何だと、まさか――!?」
白竜の聖騎士が生贄の光に包まれ、そこから白い輝きを纏った一体のドラゴンが降誕する。
これこそデュエルモンスターズの歴史において最強と謡われたカード。
強さ、美しさ、希少性、そのどれをとっても最高ランクに位置する伝説のドラゴン
――青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)
「ふつくしい……」
宝玉のような静かな煌きを秘めた青い目。白式すらもかすんでしまいそうな高貴なる純白の体躯。
あまりの迫力に、一夏は思わずデュエルを忘れて見つめてしまう。
『ふぅん。白竜の聖騎士の効果で召喚したブルーアイズは、このターン攻撃ができませんの。
……ですが、先行1ターン目の今は関係のない話。わたくしはカードを一枚伏せてターンエンドですわ』
叩きつけるようにして一枚のカードを伏せ、セシリアは自らのターンの終了を宣言する。
それは挑戦だった。ここからどうやって逆転するのか、できるものならやってみろというセシリアからの挑戦。
「…くっ、舐めるな! 俺のターン!」
一夏はデッキからカードという名の剣を抜き放つ。
ドローしたカードを人差し指と中指で挟みこみ、優雅な動作で手札へと加えた。
「手札からフィールド魔法、光子圧力界(フォトン・プレッシャー・ワールド)を発動!
フォトンと名の付くモンスターを召喚・特殊召喚するたびに、召喚したモンスターのレベル×100のダメージをお前に与えることができる。
俺は手札からフォトン・リザードを召喚!」
現れたのは光で編まれたトカゲの姿のモンスター。そのレベルは3。つまり、300ポイントのダメージをセシリアは受けることになる。
ライフポイントが引かれ、シールドエネルギーの残量が減ったことをハイパーセンサーが伝えた。
セシリア LP3700
光子圧力界(フォトン・プレッシャー・ワールド)から放たれる衝撃にセシリアの顔が歪む。
だが、それは痛みによるものではなく、先にダメージを受けてしまったことの屈辱によるもののほうが大きい。
『くっ、猪口才な…!』
「そしてフォトン・リザードの効果を発動。このカードをリリースすることで、デッキからレベル4以下のフォトンを手札に加えることができる。
俺が加えるのはフォトン・スラッシャー。そして効果によりそのまま特殊召喚だ!」
フォトン・スラッシャーは自身のフィールドにモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚する効果を持つ。
そのレベルは4。つまり400ポイントのダメージだ。
さらなる光子圧力界の効果により、セシリアのエネルギーが減ってゆく。
セシリア LP3300
「……俺は手札を2枚伏せ、ターンエンドだ」
『ふっ、わたくしのブルーアイズに勝てないと知って姑息な真似を…!
わたくしにダメージを与えたことは褒めてあげてもよろしいですが、それもすぐに終わりですわ! わたくしのターン!』
セシリアはISに命令を送り、翼を広げるようにして大きく急上昇する。
それに忠実な騎士のように着き従う青眼の白龍が、太陽を背にその輝きを増した。
『手札より魔法カード、調和の宝札を発動! 伝説の白石(ホワイト・オブ・レジェンド)1枚をコストに、デッキからカードを2枚ドローしますわ』
「手札交換? いや、それだけじゃない……!」
この女が、ただそんなことのためだけにカードを発動するわけがない。ならば次にとる行動はすなわち……!
『この瞬間、調和の宝札の効果で伝説の白石が墓地に送られたことによりモンスター効果が発動。
デッキから青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)1体を手札に加えますわ!』
「ブルーアイズを、手札に呼び込んだのか……」
彼女の手札は、5枚。その内の1枚は2体目の青眼の白龍。
セシリアは一度手元のカードに目線を落とし、そして静かに一夏に語りかけて来た。
『あなたは運がいいですわ』
「…………?」
『このカードを、このブルーアイズたちの真の姿を目にして、敗北することができるのですから!!
魔法カード融合ッ! 手札と場、合計3体のブルーアイズを融合』
「……な…んだと……」
まさか、既に手札にはさらにもう1枚のブルーアイズが揃っていたというのか。
一夏の顔が驚愕に歪む。
アリーナ上空に現れた3体のドラゴンが混ざり合い、螺旋を描いて天に昇る。やがてその身を溶け合わせた白い龍が空間を割って召喚された。
「わたくしの元に集い、そして生まれ変わりなさい! 青眼の白龍たちよ!!
そう、これこそが最強を超えた唯一にして究極の力。
強靭! 華麗! 絶対無敵の――
――――青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)ですわ!」
三つ首となった青眼の白龍。その威圧感、その禍々しさ、その雄々しさ、そして――美しさ。
ソリッド・ビジョンであるはずのそれは、しかしまるで目の前に実在しているかのような息苦しさを伝えてくる。
操縦者の動揺がそのまま反映されたのか、一夏の白式はぐらりと揺れてアリーナ外壁に激突しかけてしまう。
その攻撃力、4500。今の一夏のモンスターでは逆立ちしても届かない。
『うふふふ。勝利はすでにわたくしの手中にありますわ。さあ、バトルのお時間よ!
究極竜(アルティメットドラゴン)の攻撃!! アルティメットバァーストォ!!』
ブルーアイズたちのそれぞれの首から吐き出される一撃。
滅びの炸裂疾風弾を遥かに超えるそのフィールに、フォトン・スラッシャーは抗うことすら許されずに飲み込まれてゆく。
「くっ、トラップ発動、フォトン・ショック! フォトンと名のつくモンスターとの戦闘で発生するダメージは相手も受ける!」
『それがどうしたというんですの!?』
フォトン・スラッシャーの攻撃力は2100。
それは、レベル4モンスターとして考えれば破格とも言える攻撃力の高さだ。
だが、それが今何の気休めになるというのか。どうすることもできない攻撃力の差は、一気に一夏のライフを、そして白式のシールドエネルギーを削っていく。
左肩の装甲。それに背部ウイングスラスターが半分持っていかれる。爆発によって各部のアーマーが変形し、絶対防御でも相殺しきれなかった衝撃が身体を貫く。
ソリッドビジョンなのになんでダメージ受けてるんですか? とか聞いてはいけない。
むしろこれはデュエルの常識! セシリア程のフィールの持ち主ならば、デュエルのダメージを現実のものとすることなど造作もない。
ISの絶対防御があって初めて安全にデュエルできるのだから。……これもまた、束の精神をガリガリと削っているのだが。
一夏 LP1600
セシリア LP900
「だが! まだ俺のライフは、そして光子圧力界の効果は残っている。
例えお前の究極竜を倒すことができなくとも、ライフを0にすることができれば……」
『まだ分かっていないようですわね。だから、こ れ で お 別 れ なんですわ』
「な――――」
一陣の風が吹いた。
青眼の究極竜、その攻撃の衝撃で巻き起こった砂煙と黒煙がゆっくりと晴れていく。
そして、そのフィールドに王者のごとく君臨しているのは、青眼の究極竜と―――――1体の青眼の白龍だった。
『―永続罠《正統なる血統》― 墓地に眠る通常モンスター1体を、現世に呼び戻すカードですわ』
そして、今はまだバトルフェイズ中だ。
攻撃は続行される。
『青眼の白龍の攻撃!! 滅びのバァースト・ストリィィーム!!』
「くうぅっ!? トラップカード、リビングデッドの呼び声!
この効果でフォトン・スラッシャーを蘇生! そして光子圧力界の効果で400ポイントのダメージを、」
『受けますわ! そしてバトル続行、その木偶の坊ごと粉砕しなさい!! ブルーアイズ!』
致命傷こそ避けたものの、かわしきれなかった左上半身が光の濁流に飲み込まれる。
「うわぁあああっ!!」
――バリアー貫通、ダメージ900。シールドエネルギー残量、700。実体ダメージ、損傷大。
一夏 LP700
セシリア LP500
『メインフェイズ2、手札より巨竜のはばたきを発動!
わたくしの場のブルーアイズを手札へ戻し、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊しますわ!』
セシリアの元へと優雅に舞い戻るブルーアイズの起こす突風が、光子圧力界を根底から粉砕していく。
これで、一夏には唯一の望みであったバーンダメージによる勝利の道も閉ざされたことになる。
『そしてトレード・インを発動。手札のレベル8モンスター、ブルーアイズを墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドロー。
…………そのまま2枚のカードを伏せてターンエンドですわ!!』
セシリアの場には攻撃力4500の青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)が1体と伏せカードが2枚。
対して、一夏の場にカードはなく、手札も2枚のみ。…………。
『ふぅん、どうしたのですの!? 早くデッキからカードをドローしなさい。……それとも、諦めてサレンダーでも、』
「……る…かよ……」
『? なんですって?』
「誰がッ、諦めるかよ! 俺は俺の家族を、千冬姉の名誉を守る! そのためには最後まで諦めるわけにはいかないんだ!!」
強さ。それは心の在処。己の拠所。自分がどうありたいかを常に思うこと。
強くなりたい。強くなって、誰かを守ってみたい。かつての姉のように。
そして何より、こんな今の自分に答えようとしてくれているデッキを信じたい。勝ちたいんだ。
強くなりたい――――いや、『強く生きたい』。
「俺のッ、タァーーーーンッ!!!!」
人差し指と中指で挟むようにしてドローしたカードを確認する。
一夏がデッキから引き抜いた一枚の剣を。
「………………ッ!! こ、れは……!?」
それは、確かに未来へと繋がる可能性だった。
(今更何をやろうとも、わたくしの勝利はもはや揺らぐことなどありえない。
わたくしの場に伏せられたカードは、攻撃してきたモンスターを除外する次元幽閉と、
魔法・罠カードの効果を無効にする魔宮の賄賂。
例えどんなカードを使おうとも、わたくしの勝利は確定済み、ですわ)
「………俺は、世界で最高の姉さんを持ったよ」
ぽつりと、何の脈絡もなく唐突に一夏が呟いた。
その音声をハイパーセンサーで拾ったセシリアは露骨に眉をしかめる。
『まあ、それはそれは良かったですわね。それで、あなたはいったい何を見せてくれるというんですの?』
「それを今から証明してやるさ! 手札からフォトン・ケルベロスを召喚!
このカードが召喚に成功したターン、このカードが存在する限り互いに罠カードは発動できない!」
『……ッ!?』
驚愕、これではどんな罠カードを伏せようとも無意味。
次元幽閉で万が一の戦闘破壊を、魔宮の賄賂で魔法・罠を封じたはずが、なんという……!
「そしてこれが答えさ! 魔法カード『一撃必殺!居合ドロー!』」
『そ、そのカードはッ!!??』
知っている。セシリアはそれを知っている。
かつて世界中のデュエリストが参戦した第一回ISデュエル世界大会『モンド・グロッソ』において、
初代ISデュエルクイーンの称号を勝ち取った女王、織斑千冬が使っていた伝説のカード!
それこそが、一撃必殺!居合ドロー……!
「一撃必殺!居合ドローの効果だ。
フィールド上のカードの枚数分だけ自分のデッキの上からカードを墓地に送り、その後カードを1枚ドローしてお互いに確認する。
そのカードが「一撃必殺!居合ドロー」だった場合、そのカードを墓地に送り、フィールド上のカードをすべて破壊する。
そして、破壊して墓地に送ったカード1枚につき、相手に1000ポイントのダメージを与える!」
(ば、馬鹿な。引き当てられるはずがありませんわ、しかもそのカードは今準制限のはず……)
デッキから墓地にカードが送られる。
1枚目、フォトン・ワイバーン
2枚目、デイ・ブレーカー
3枚目、死者蘇生
4枚目、フォトン・クラッシャー
そして、5枚目…………。
「俺がドローしたカードは……銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)だ!」
一撃必殺!居合ドローでは、ない。
『ふ、あっはははは!! やはり無駄なあがきでしたわね、結局はわたくしの、』
――それはどうかな?
「手札から魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動! これにより俺のフィールドに攻撃力2000の2体のフォトントークンを特殊召喚!
そして! 銀河眼の光子竜はフィールドの攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースすることで手札から特殊召喚することができる!!!」
一夏の、白式の周辺に赤い十字架を模したパーツが展開される。
それを掴むと、一夏は迷うことなく上空へカードごとぶん投げた。
「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ、銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!」
2体のフォトントークンを生贄に、銀河眼の光子竜が降臨する。
それは、まさに光の結晶で編まれた竜と形容するに相応しき姿だった。
闇をかき消す神々しさと、あらゆるモノを焼き尽くす破滅の色という、相反する力を合わせ持つドラゴン。
両翼から眩い閃光を迸らせるその雄々しき姿は、青眼の白龍と比べても決して見劣りしない。
決して口にこそ出さないが、セシリアは内心でそう感じた。感じてしまった。
「さあ、バトルだ! 銀河眼の光子竜で、青眼の究極竜を攻撃ぃ!!」
『攻撃力の劣るモンスターで攻撃!? 何を血迷って、……とんだプレイミスですわね!!』
青眼の究極竜の攻撃力は4500。
対して、銀河眼の光子竜の攻撃力は3000だ。
ブルーアイズと同等の攻撃力を持つ事は評価してやらないでもないが、それでも究極竜を倒すにはまだ足りない。
だが、一夏の顔には笑みが浮かんでいる。勝利を確信したものにだけ許される笑みが。
悪あがきのように究極竜に組みつきながらも、その圧倒的な力に押されていたはずの光子の竜が光の粒子に包まれる。
そう、これはアレと似ている。ISを待機状態に戻す時、量子状態へと変換する際の――、
「俺がプレイミス? セシリア、お前こそずいぶんとロマンチストじゃないか。
――銀河眼の光子竜の効果発動!
このカードとバトルを行うモンスターを、このターンのバトルフェイズ終了時まで共にゲームから除外する!」
『な、なんですって!?』
光がアリーナを満たし、やがて細やかな粒子となって消えていく。
そこにはもう、圧倒的な威圧感を放っていたはずの青眼の究極竜も、銀河眼の光子竜も存在しない。
そう、セシリアのフィールドにモンスターはいなくなったのだ。
「残るフォトン・ケルベロスで、プレイヤーにダイレクトアタック!!」
3つの頭を持つ光の番犬、フォトン・ケルベロスがセシリアに迫る。
その攻撃力は1300。セシリアのライフを削りきるには十分な攻撃力だった。
セシリア LP0
「……そん、な……わたくしが……負けるはず、……が………」
ダイレクトアタックが決まった瞬間、セシリアのISは絶対防御を発動させ強制解除された。
そしてセシリア自身も、相殺しきれなかった衝撃で意識を失いアリーナの地面に真っ逆さまに落下していく。
「おっと!」
落下するセシリアを優しく抱きとめて、一夏は先程まで感じていた緊張を解いた。流石に魂を奪い取るような真似はしないらしい。
セシリアは強かった。一瞬たりとも気を抜くことなどできない戦いだったのだ。
さすが、入学デュエルで実技担当責任者を倒し、入試主席であったというのは伊達ではない。
『試合終了。勝者――織斑一夏』
試合の終了を告げる放送がアリーナに響く。
しばらくの間、一夏はセシリアを俗に言う“お姫様だっこ”の状態で抱きかかえたまま、勝利を祝う歓声を受け止めていた。
――IS
正式名称『インフィニット・ストラトス』。
それは、宇宙空間での活動を想定して造られたマルチフォーム・スーツ。
しかし、製作者の意図したような宇宙進出は進まず、もっぱら宇宙空間でカードの石板の探索をするとか、宇宙の波動をカードに取り込むことに使われている。
そして、そのあまりのスペックの高さからISは戦争利用が禁じられ、現在ではISに乗ってデュエルする――ISデュエルが主流となった。
織斑一夏という例外を除けば女性にしか使えないそれは、バイクに乗ってデュエルするライディングデュエルと人気を2分する状態となっている。
世界は今、デュエル一色で染まっていた。デュエル万歳、デュエル万能デュエル最高。のデュエル脳。
ミサイルの防衛システムも、二人の人間が同時に発射装置に差し込まれた鍵を回さなければ発射できない……、
……などということもなく詰めデュエルセキュリティだったと知った時、束は全力で壁に頭を叩きつけたものだ。
「……ねえ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」
「ああ、楽しいぞ」
「……………」
ピット内では、束が本気で泣きそうになっていた。
離れ離れになっていた幼なじみとの再会。
一夏「そんな、箒……お前、それでもデュエリストか!」
箒 「リアリストだ」
セシリアとのデュエル。そして新たな展開。
一夏「これが俺の、銀河眼の光子竜だ」
セシリア「このカード全部と交換して欲しいのですわー」
フランスからやってきた転校生。
シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」
一夏 「よろしくな、シャルル。同じ男同士、仲良くやろうぜ」
シャル「………ふふふ。一夏ァ、そろそろ受け取ってもらえるかな? 僕の本当のファンサービスを」
新たなヒロインの登場?!
ラウラ「お、お前は私の嫁にすると言ったのだ! 恋する乙女を召喚! さらに手札から発動するのはハッピー・マリッジだ。
――――受けてもらうぞ、私の告白デュエル!」
立ちはだかるかつての親友。
弾 「いち↑かぁ↓ーデュ↑エルだあああ! ヒャーッハッハッハッハッハッ!!」
IS クラスメイトは全員デュエリスト。
こうご期待!! (続きません)
鈴 「いちかー、これレアカードじゃないわ。ゴキボール」