妖怪の山と呼ばれる妖怪と神の楽園。
その中の木々に囲まれた参道。
先に見えるのは山の神がおわす神社。
その神性なる参道で、剣を振り回しながら暴れる緑色の服を着た男がいた。
「くたばれー!」
相対するのはモンスター達。
白い毛玉のようなモンスターだ。
「ランスアタック!」
男が叫び、剣を振る。
辺り一帯を物凄い衝撃派が襲い、色い毛玉のモンスターはまとめて吹っ飛ばされた。
「がはははははは!
らくしょーだ!」
「凄いですね……。
外の世界にランスさんみたいな強い人が居るとは思いませんでした」
言いながら現れたのは上に見える神社の風祝、東風谷早苗。
そして剣を振り回していた青年の名はランス。
ランスは早苗に依頼さられて白い毛玉をぶっ飛ばしていたのだ。
「当然だ。
俺様は英雄だからな!」
「英雄ですかー」
霊夢さんみたいですねー、と早苗は言う。
「しかし毛玉とかいう奴は弱いな。
ハニー以下だぞ」
「まあ、ドラクエで言うところのスライム(青)みたいなものですからね」
「ドラクエ?」
不思議な顔をするランス。
それなりに興味を抱いたようだ。
「おっと、ランスさんは外国人でしたね。
私の故郷にあったゲームのことです」
「へー……。
それは面白いのか?」
「はい!
日本人のほとんどが知ってる代表的なゲームですよ!
ランスさんみたいな英雄さんが世界を救うんです!」
目を輝かせて語る早苗。
どうやらそのゲームが大好きなようだ。
「それは面白そうだな」
「(俺様みたいな英雄が出るということは女の子もたくさん出るはずだ。
後で香ちゃんにでも聞いてみるか……)」
同じ日本(ジャパン)人である香姫に聞こうと判断したランス。
謙信は分からないだろうから、妥当な判断と言えるだろう。
……まあ香姫が知ってるわけないのだが。
「……おっと、すいません雑談が過ぎましたね。
この調子で神社周囲の掃除をお願いします。
参拝者さんが安心して来られる神社の為にっ!」
拳を握りしめ、熱く語る早苗。
最近参拝者が減っているのだろう。切実な表情だ。
「がはははははは!
任せておけ!
俺様はここが気に入ったからな!
可愛い女の子多いし……」
「……え?」
「いや、なんでもないぞ」
「(グフフ……、
早苗ちゃんはもちろん、人里とかいう村から来る子も可愛い!
特に早苗ちゃんはSクラスの美少女だ。ぜひセックスしたい!)」
「……?」
ランスの卑猥な表情に早苗は首をかしげる。
「(しかし、今はこの神社に世話になっている身。
強引なことをして追い出されても面倒だ。
早苗ちゃんに手を出すのはもっと依頼をこなして稼いだ後だな)」
「ランスさん?」
早苗が声をかけるも、耳に入ってない様子のランス。
今後の(女の)ことを考えているようだ。
「(それに、無理矢理というのも悪くないが、
ここは俺様の印象を良くして何度もしたいから、是非とも和姦だな)」
「ラーンースーさーん?」
「(その為には依頼をどんどんこなして俺様のカッコイイところを魅せるしかない!)」
考えがまとまったのか、ランスは再び剣を振り上げ、
毛玉たちに向けて振り下す。
「がははは!
毛玉どもをカオスの錆にしてやるぜー!」
「錆にはならないんじゃないかなー。
むしろ儂に毛が絡みそう……」
すると、剣が不満げな声を上げた。
良く見るとランスの持っている剣は目のようなものがある。
どうやらインテリジェンスソードのようだ。
「黙れ役立たず!
お前は大人しく使われておればいいのだ!」
ランスは鬱陶しそうに剣をしかりつける。
剣の名前はカオス。
『魔人』という超越的存在を殺す為の剣だ。
「ひどっ!
この世界には魔人が居ないんだからしかたないじゃん。
あいでんてぃてぃーを失った儂は激萎えじゃ。
心のチンチンはびんびんじゃがの!」
「やかましいわ!
とりあえず貴様は黙っとれ!
喋るセクハラ剣とか女の子が近よらんだろーが!」
「えー」
しかし、その力も『この世界』ではまったくの無力だ。
何故なら、この世界には魔人が居ない。
ランスの居た世界とは別の世界なのだ。
「凄い……さすが英雄。
喋る剣まで持っているなんて……。
幻想郷はもとより、外の世界も常識に囚われていなかったのですね!」
一人の少女が勝手に勘違いしていたが、彼女の言う『外の世界』と『ランスの世界』が、
全くの別物だということを説明出来る人間は、ここには居なかった。
「がははははは!」
勿論この男も、そんな早苗の台詞に気づく素振りもなく、
ランスは毛玉を吹きとばし続けるのだった。
***********************************
時は少し進み、夕食の時間。
八坂神社の面々は異人を招き食事を開始した。
「いただきまーす!」
ガツガツ! といった擬音がぴったりの食べっぷりのランス。
それを小さな少女が嬉しそうに見ている。
「ランスは喰いっぷりがいいねー。
早苗に兄弟は居なかったから、こういう元気な男は久しぶりだよ」
少女の名前は洩矢諏訪子。
見た目は10歳前後だが、実年齢は1000歳を軽く超えている。
早苗の保護者その1。
「がはははははは!
早苗ちゃんの飯は美味いからな!」
「褒めても何も出ませんよー」
「あはは、
早苗お母さんみたい」
「もうっ、私はまだ若いですよ諏訪子様!」
家族団欒のような光景だ。
こういう関係のなかに溶け込むのもランスの長所の1つである。
「そういう台詞が年より臭いって意味だよ早苗……」
そして母親のような雰囲気を出しているこの女性の名は八坂神奈子。
見た目は20代後半強だが、実年齢は諏訪子同様1000を軽く超えている。
早苗の保護者その2。
「あー、うまがったー」
「お粗末様です」
食事を終え、一息つく守矢神社の面々。
ランスは満足そうに腹に手をやる。
「しっかし、あんたが来たときは吃驚したけど、初対面の印象より面白い奴で良かったよ」
「あー、あのときは俺様も余りの衝撃に動転していたからな。
許せ」
気まずそうに視線を逸らすランス。
どうやら幻想郷に来た時になにかやらかしたようだ。
「別に謝ることはないよ。
間違いは神にも人にも平等にあるもんさ」
神奈子は言った。
気にするなと、言外に。
ランスは回想する。
幻想郷に来たときの記憶を。
+++++++++++++++++++
「ヘルマンの女はいい女ー。
尻が大きくて締りがいいー。
ほっかほっかのいい女ー」
現代の日本だと確実に職務質問を受けそうな歌を歌いながらランスは旅をしていた。
行先はヘルマン。
ヘルマンの女たちを犯る為、美人と有名の王女を犯る為……、
そしてついでに奴隷の呪いを解く為。
ランスはまだ見ぬ大地を目指していた。
「しかし遠いな。
一人旅に飽きてきたぞ」
今まではシィルやかなみや鈴女など、なんだかんだ独りで旅することはなかったが、
今回は正真正銘の独り旅だ。退屈なのだろう。若干苛々した表情だ。
「かなみの奴は任務とかで居ないし志津香は逃げるし謙信ちゃんはジャパンに帰るし
クレインちゃんは危険が危ないとか言って引きこもるし……、
リセットでも連れて来れば良かったか?」
―いやいや、犯れん女を連れてどうする。娘は駄目だ娘は―
などとブツブツと呟きながら歩くランス。
そもそも、どうしてランスが一人で旅をしているかというと、
ヘルマンまでの道中に、町は愚か村や集落すらなかったことが主な原因だ。
道中でかわいい子が居たらつまみ食いをしようと思っていたランスは、当てが外れてしまったかたちになる。
「うーむ、流石にここまで人が居ないとは予想外だ。
リアに頼んでチルディちゃんでも派遣してもらうか?
いやマジックにリズナを来させろと言うのもアリか?
いやいや香ちゃんにお願いすれば沖田を呼べるかも?
いやいやいやコパンドンと交渉すればアタゴちゃんを寄越してくれるかも?
いやいやいやいやクルック―を頼ればヒカリちゃんが…………」
あーでもない、こーでもないと言いながら歩みを進めるランス。
完全に上の空だ。今ならサチコでもランスを殺れるかもしれない。
だからこそ、なのだろう。
突然足もとに現れた穴に、ランスは気づかなかった。
「いっそのことミルでも連れて…………、あ?」
最終手段を使うことすら検討したランスだが、その手段を講じる前に落下した。
穴に。
底の見えないくらい真っ暗な落とし穴に。
「のわー!?」
何時まで経っても終わらぬ落下にランスは絶叫する。
そして、5分ほど落下しただろうか。
ランスが結界というか、境界を超えるような感覚を感じた瞬間、久方ぶりに地面の感触を思い出すことになった。
「いたた……、
誰だー! 俺様を落とし穴なんぞに落としやがってー!
……あん?」
「ひゅい!?
に、にんげ……ん?」
そこは冒頭で表現したような山中だった。
冒険者であるランスにとって慣れ親しんだ光景だった。
しかし、今のランスにそんなことは関係ない。
もっとも渇望していたものが目の前に現れたのだ。
女だ。
青い髪をサイドで纏めたヘアスタイル。
水色の作業着のような服とリュックサック。
そして帽子。
服の上からでは分かりづらいが、スタイルは悪くないだろう。
何より顔がとても可愛らしい。
その娘を見たとき、ランスのハイパー兵器は臨戦態勢に入り、同時に女の子に向かって飛びかかったのだった。
「やらせろー!」
「きゃー!?」
+++++++++++++++++++
「河童が駆け込んできた時は何事かと思ったよ」
笑いながら神奈子が語る。
「……チッ、後もう少しだったのに」
ここでランスまさかの舌打ち。
どうやら幻想郷での最初のセックスは未遂に終わっていたようだ。
「え? 今なにか言ったかい?」
「別に、なんでもないぞ」
神奈子から目を逸らすランス。
今は事を荒立てるつもりはないようだ。
「そうそうランス、良い情報があるよ」
「行儀悪いですよ諏訪子様!」
まだ食事中だった諏訪子は、箸をランスの方に向け、話し始める。
その行儀の悪い行いを早苗が注意をするが、まったく気にせず言葉を進める。
「なんだ?
俺様に惚れたか?」
「ちがーう。
あんた元の世界に帰りたいんでしょ?
その方法が分かったってこと」
箸を振り回して否定する諏訪子。
実に行儀が悪い。
しかし、その次に出た言葉が行儀の悪さを打ち消している。
何故ならそれは、驚愕っぽい事実だったからだ。
「なに!?
無理っぽいんじゃなかったのか?」
驚きの声を上げるランス。
幻想郷に来てすぐのころに目の前の少女に『帰るのは無理っぽいねー』とか言われたのだ。
それが2,3日でひっくり返れば、ランスでなくても驚くだろう。
「うん。
さすがの霊夢でも別の世界線に道を渡すのは無理かなー、って思ったんだけどねぇ……、
いけ好かない自称賢者が協力してくれるらしいよ」
「賢者ぁ?」
訝しげな表情をするランス。
平行世界の嫌な記憶でも思い出したのだろうか、
顔が引きつり脂汗が浮かんでいる。
「そう、賢者。
若造がビックマウス吐きやがる様は実に失笑ものだけど、
あいつはこういうからめ手が得意だからね。
今回ばかりは頼りになるんじゃない?」
「もうっ、諏訪子様!」
口が汚いですよ!
という早苗の言葉もなんのその、私アレ嫌い、という態度を歪めない。
「よく分からんが、その賢者とかいう奴と仲が悪いのか?」
「別にー。
ただ私のfallout3が未だに稼働できないのはあいつのせいだと思うと沸々とね……」
「なんだそれは?」
「そいつが巫女を嗾けて地下で暴れたことがあってね……、
その時の揺れで諏訪子のゲーム機が調子悪いんだ。
それ以来あいつの話になるとふて腐れるんだよ」
どうやらちゃんとした理由があるようだ。
ニュウベガスやスカイリムでもプレゼントできればいいのだが、生憎手に入れる方法は無に等しい。
それこそ、例の賢者以外には不可能だろう。
「ふーん。
色々あるんだな」
ランスは興味なさそうにそう言って、立ち上がる。
そしてずーっと黙っていたカオスを手にして鎧を身につける。
「おや?
今から行くのかい。
夜の幻想郷は危険だよ。
明日にしたほうがいい」
「がはははは!
俺様に夜も昼も関係ない!
思い立ったらすぐ行動だ!」
神奈子は少し驚いたような顔をする。
しかしランスは意に介さず、そのまま出口へと向かう。
「そんなに早く帰りたいんですか?」
「いや、まだ帰るつもりはない。
今回は忘れ物を取りにいくのだ」
「忘れ物?」
早苗の質問に反応し、振り返る。
そして、目を逸らしながら何でもないことのように、言った。
「うむ。
そんなに重要というわけではないが今の俺様は暇だからな。
仕方なく取りに行ってやるというわけだ。
……諏訪子は呪いをつかさどる神なんだよな?」
「うーん、正確には坤……地をつかさどってるんだけど、
まあ元祟神だし、呪い関係は得意だよ」
ランスの質問に諏訪子が答える。
答えを聞いたランスはそっけなく、言った。
「そうか。
じゃあ俺様は行く」
それだけ言って今度こそ玄関を開ける。
ドアから覗く空は漆黒に染まっており、常人ならば外に出るという選択肢すら頭に浮かぶことはないだろう。
しかし、そこは自他ともに認める英雄ランス。
迷うことなく漆黒に足を踏み入れる。
「行ってらっしゃーい。
ランスのそういう人間っぽいとこ、私は好きだよー」
ランスはちらっと振り返って諏訪子を凝視する。
「…………3年?
いやでも見た目変らないんだよな……」
ロリコンが大嫌いなランスは(将来食べるつもりの青い果実を横からかっさらう下種野郎だから)熟考する。
ミル相手には何故か勃ったけど、諏訪子には反応しない。
しかも成長しないときた。
不細工以外でランスにとって将来的にも対象外な女第一号だった。
「気を付けて行ってきてくださいねー」
「何時でも戻ってきて良いからねー」
早苗と神奈子が一人息子を送る母親のようなことを言う。
「……お前らみたいなのを母ちゃんって言うんだろうな」
親の居ないランスは、若干鬱陶しそうな顔をしながら言った。
家族に対する憧れ等は別にないようだ。
同じくらい大切な存在が、既にこの男にはあるのだろう。
「では世話になったな。
さらばだ!」
そう言ってランスはマントを翻し、クールに去った。
一度も振り返ることなく、力強い足取りで。
「(ぐふふふ。
今の俺様は最高にかっこいいぞ!
これで早苗ちゃんも神奈子も俺様に惚れるに違いない!
帰ってきたらさっそくセックスだな!)」
ランスらしいことを考えながら、守矢神社を去って行った。
「……あとまあ、ついでに諏訪子にシィルの奴を見てもらおう。
運よく解呪できるかもしれんしな」
ルどラササウム大陸とジャパンの英雄は、今度は別世界の『幻想郷』を旅する。
果たしてランスの運命は?
シィルは元に戻れるのか? というか出番はあるのか?
ランスははた迷惑な外来人で終わるのか?
それとも今度も世界を救うのか?
幻想ランス、始まります。
単発ネタでした。
ランスクエスト評判悪いけどマグナムをあてると最高に面白いです。
ターン制限とか苦手だった私としては、今回のシステムは戦国ランス以上に良かったです。
キャラも多くて素敵(特にサテラ)。
この駄文を読んで頂いた皆様の中にランスクエスト未プレイの方がいらっしゃったら是非プレイしてみてください。
最高におもしろいです。
tips1 迷子の魔人
「…………うー、ここはどこだ?」
「……緑が多いな。
リーザスか?」
「いやしかし、ケイブリスの奴から逃げる途中で次元のはざまに落ちてしまったからなぁ。
もしかしたら別世界という可能性も……」
「シーザー!」
「…………やっぱり居ない。
もしかして本当に別世界?」
「取りあえず探索して早く魔人領に戻ろう!
さっさとケイブリス派を倒してランスに会いに…………じゃなくて!
殺しに行かないといけないしな!
そしてそのままサテラの使徒にしてやる!」
「待ってろよランス!
ハァーハッハッハッハッハ!」
tips2 任務再開
「ふぅ、やっとヘルマンの調査が終わったわ。
しっかし、リア様も心配性が過ぎるんじゃないかなー」
「はぁ……でもせっかく任務が終わったのに、次はまたランスの護衛……か。
鈴女さんみたいな優秀なくのいちが傍に居たせいで、ランスもリア様も注文がワンランク上になってるのよね。
そのくせ給料は変わらないし。
買いたい服とかいっぱいあるのになぁ……」
「まあいいや。
取りあえずランスを探そっと」